モンスターハンター Re:ストーリーズ (皇我リキ)
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プロローグ 始まりとこの世界のお話

 人と竜は相容れない。

 

 

 そこに絆なんて存在しない。

 モンスターと心を通わせる事など、ありえない。

 

「……よしよし。ご苦労さん、ありがとうな───」

 だからこれは、絆ではない。

 

 強いて言うなら共存関係。友好な関係を築けただけ。

 目の前に居る海の王が俺に従ってくれたのも、その場では共存関係が成り立っていたからだ。

 

 

「グォォォォッ!」

 鼓膜が破れそうな程の大きな声を上げ、竜は自らの住処に帰っていく。

 

 それは当たり前の事。俺とその竜に絆なんて物はないのだから。

 

 

「───次会う時は、敵かもな」

 そう言葉を落としてから、辿り着いた島を眺める。

 

 緑豊かな大自然。海から来る風はとても居心地が良く、このままその場で寝られそうだ。この世界でそれは自殺行為な訳だが。

 しかし夜は遅いし、あの入り江で一晩過ごすか。少し広くて、モンスターの巣とかになっていそうだが。

 

 

 ───狩れば良い。

 

 

 

 人と竜は相容れない。

 そこに絆なんて物は存在しない。

 

 

 

「───殺せば良い」

 人は竜とは相容れない。

 

 

 初めから分かっていた。

 

 なのに、俺は道を間違えていた。

 

 

 

「……っと」

「クックルルル……ギィッ!」

 やはりと言うべきか、その入江には何匹かのジャギィやジャギィノスが群れをなしていた。

 

「…………殺す」

 しか、ない。

 

 人と竜は相容れない。こいつらがここに居たんじゃ俺は眠るどころかここから立ち去る事だって困難なのだから。

 そうでないなら、永遠に眠る事くらいは出来るが。

 

 

「悪いな……」

 左手で、割れた『絆石(こころ)』を握りながら。

 右手で、狩人の『得物(ちかい)』を握り締める。

 

 

 彼等が憎い訳ではない。

 

 

「ギャィッ!」

 

 

 ただ、俺達に今共存関係は望めないんだ。

 

 

「俺はもう、乗り人(ライダー)じゃなくて───狩り人(ハンター)だから」

 

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「いやぁぁぁぁああああっ!!」

「ぎにゃぁぁぁああああっ!!」

 孤島に広がる二つの悲鳴。お昼過ぎ、生物が最も活発に活動する時間帯。

 

 

 それは、小さな川の浅瀬付近を走り回る私達二人の悲鳴だった。

 視界に広がる大自然は、川こそあれど隠れる場所一つも無い平原。綺麗な草原も、今ばかりは視界には映らない。

 

 

「やっぱ無理だったんだよぉ……っ!」

「一時間前のあの気迫は何処へいったニャ!!」

 私の弱音に、前方を走りながら喝を入れて来るのは一匹のメラルーだ。

 

 彼と私は相棒? 兄妹? 小さな頃から一緒に居るから関係を一口にする事は難しいけど、強いて言うなら今はオトモアイルーだろうか。

 そんな彼、普段は二足歩行をする獣人族のアイルーの亜種であるメラルー。名前はムツキ。

 

 

「ロアルドロスくらいなら上位でも楽勝ってアイシャさん言ってたもん……っ!!」

「あの適当女の言う事なんか真に受けるからこんな事になってるニャ!!」

 黒色の毛を風に靡かせ、先が少し白い尻尾を立たせて四足歩行で走りながら。

 彼は振り返りもせずにそう言うのだ。む……アイシャさんの悪口は頂けない。

 

 

「キェェェッ!!」

 そんな私達二人を追って来るのはロアルドロスという海竜種のモンスター。後頭部から身体の半分まで黄色い鬣が広がっている。

 このモンスター、比較的水辺を好むんだけど……私達が狩ろうとした所為でこんな浅瀬まで追い掛けて来たのだ。

 

 私達はもう本当にヘトヘトなのに、ロアルドロスは疲れを一切見せない。このスタミナこそ狂走エキスによる物ってアイシャさんは言っていたけど……本当に狂ったようなスタミナだと思う。

 

 

「も、もう無理……追い付かれる……っ! 助けてよぉ、ムツキぃ!!」

「ハンターなら自分で何とかするニャ!」

 うぅ……それはそうなんだけどさぁ。

 

 実はこの相棒のムツキ、私なんかよりとっても頭が良くてアイテムの調合はおろか人間には考えられないような発明品まで作っている天才ネコさんだったりする。

 アイシャさんは彼をムツえもんと呼んだりします。そんなムツキだから、こんな状態を打開出来る手を持っているかもって期待したんだけど……やっぱり無理だよねぇ。

 

 

「っ、こうなったらぁ!」

「ミズキ?! 何する気ニャ?!」

 覚悟を決めて、私は文字通り踵を返す。ロアルドロスに向き直って、彼にこう伝えたのだ。

 

 

「私は敵じゃないから安心して! 私達友達だよ!!」

「さっきまで片手剣振り回してロアルドロスを狩ろうとしてたその身で何言ってんだニャぁぁ!!」

 

「キェェェェッ!!」

「ですよねぇ!! むぁぁ助けてムツえも───」

 ムツキの言う通り、私はついさっきこのロアルドロスに片手剣を叩き付け───怒られて逃げているのが今の状況。

 それでも話せば分かるなんて思った私はバカだったのだろうか。いや、どう考えてもバカだったのだろうけど。

 

 人とモンスターは分かり合えないのだから。

 

 

「───んきゃっ」

 私のふざけた言動が気に障ったのか、ロアルドロスは身体の水分をブレスとして吐き出す。

 それに直撃した私は無様にも地面を転がり、防具諸共泥塗れ。布が水分を吸って身体が重い……これではスタミナが続かなくてもっと走れなくなってしまう。

 

 

「キェェェェッ!!」

「……っ」

 そんな事を考えている間に、目の前にお怒りのロアルドロスが立ち塞がった。

 

「ったく、誰がムツえもんニャ!」

 次の瞬間視界が真っ白になる。いや、別に私がロアルドロスに踏み殺されて天国へ旅立ったという訳では無いのだけど。

 

 

 瞼をも貫く閃光は、直接眼に文字通り焼き付いて視力を奪ってしまう。私はおろか、ロアルドロスも。

 閃光玉はハンターが使うそんなアイテム。ムツキはそんなアイテムを作ったり使ったりするのが、ハンターである私より得意だったりするのだ。

 

 

 また、ムツキに助けられちゃったな……。

 

 

「今の内に行くニャ。ほら、手掴んで上げるニャ」

 未だに戻らない視界の中、ムツキに手を引っ張られてその場を後にする。

 視界が戻る頃にはロアルドロスから離れていて、ロアルドロスも同じだからか。背後から彼の苛立ちの混じった声が聞こえた気がした。

 

 やっぱり、モンスターとは分かり合えないのかな……。

 

 

 

 

 

 

「……ったぁ」

 村に戻った私はアイシャさんにクエストをリタイアした事を告げて、直ぐ近くに隣接する私の住居に戻って来ていた。

 ロアルドロスの攻撃を受けて身体も防具もボロボロ。鏡を見ればそれはもう年頃の女子とは思え無い格好をしている。

 

 ハンターになるために短くした、せっかくのブロンドヘアは泥で汚れてグチャグチャに。

 新調したばかりのアシラ装備も汚れだらけ……。

 

 ついでに脚を少し擦りむいていた。

 あまり気にする物じゃ無いと思うけど、普通に痛い。

 

 

「ニャ?! ミズキ、怪我してるニャ?!」

「あっはは……大丈夫だよこのくらい。ツバつけとけば治るって」

 しかし大失敗だったなぁ……。

 

 

 

 この孤島地域に今常駐しているハンターは私しか居ない。

 昔は結構頻繁にモンスターが現れたりしていたんだけど、今はあまり変な動きがないから私一人で大丈夫だったって理由がきちんとあるから文句は言えないんだけど。

 

 それで、珍しく上位クエストに指定されたクエストが出て来たのが昨日の夜だった。

 孤島一帯でルドロスの群れが縄張り以外にも脚を運んで生態系が崩れそうだから、群れのボスであるロアルドロスを倒そうというクエスト。

 

 

 結果は知っての通り、惨敗。

 元々遠くまでハンターを呼ぶのが難しいし時間がかかるこの村だから、下位ハンターの私がクエストを受けてはみたんだけど。

 

 無理だったよね……。

 そもそも私はどれだけ大きくてもアオアシラをやっと倒したばかりのハンター。

 ロアルドロスなんてアオアシラの倍は大きいし、そもそも強さが違う……。

 

 

「───ひゃっ?!」

 なんて、弱気な事を考えていると。

 痛みというか痒みというかこそばゆい感覚が、私の体を駆け巡った。思わず変な声も出る。

 何かと思って感覚のする足を見てみれば、ムツキが私の傷を舐めてくれていた。

 

 

「しょ、しょうがないからボクのツバを付けておいてやるニャ」

「んっ、もぅ、くすぐったいよぅ。あっはは」

「バイ菌は全部ボクの所に来るニャぁ」

 ムツキは優しいなぁ。

 

「ありがと、ムツキ。ごめんね……」

 ムツキはいつもは厳しいけど、私が本当に参ってる時はこうやって優しくしてくれる。

 ちょっと素直じゃ無いのが、また可愛いのだ。

 

「べ、別に謝る事じゃ無いニャ! そもそも今回は相手が悪いというか……アイシャが悪いニャ」

「他人の悪口はダメだよ……?」

 悪いのは私だ。

 

 アオアシラをやっと倒したばかりと言っても、正式にハンターになってからもう三年は経っているのだから。

 成長しない。せっかくハンターになったのに、村の為に私はきちんとハンターをやれていないと思う。

 

 

「うーん……思い悩んでても仕方無いよね。防具、加工屋さんに渡してこよっか」

「半分持つニャ」

「良いって良いって……。重いし」

 そう言いながら、水浸しで泥だらけの防具に手を掛ける。

 

「……っと」

 しかし、疲れからか膝が落ちてしまった。

 それが情けなくて、また溜息が出る。

 

「はぁ……」

「しょうが無いニャ。今回は特別にボクが全部加工屋さんに持ってくニャ。だから、ミズキはお風呂でも入ってれば良いニャ」

「うぅ……。ごめんね?」

「良いから休むニャ」

 こうなるとムツキは何も聞いてくれない。

 

 本当に、とても優しいお兄さんだ。

 

 

「それじゃ……お言葉に甘えるね。一緒に入る?」

「ば、バカ言うニャ!」

 なんでそんなに照れるのかな? 昔はよく一緒に入っていたのに。

 私はムツキなら全然良いけど。も、勿論隠すところは隠すよ? 年頃の女子なので。

 

「んニャ、行ってくるニャ!」

 どこにそんな腕力があるのか。小さな身体で私一人分の防具を全部抱えて家を出ていくムツキ。

 そんな彼を見送ってから、私は言葉に甘えてお風呂に入る事にした。

 

 

 

 

「……はぁ」

 一人は嫌いだ。

 

 罪悪感や劣等感を誤魔化す相手がいない。

 私は自分が好きじゃないからから。他の誰かと話していないと、色々と嫌になる。

 

 

「ハンターになってからもう三年は経ったのかぁ……」

 なんて、独り言を引き金に色々な事を思い出すのであった。

 

 

 

 私がこの村に来たのは、いつだったか。

 覚えていないのは私が十歳にも満たない頃だったから。

 

 小さな頃、どうやら私は海に捨てられていたようで。簡単に沈みそうな木の船に一人で眠っていたらしいです。

 曖昧だけど、その時の記憶はある。ただ、どうしてあの広い海にポツンと捨てられていたかは……分からない。

 

 そんな私を見付けてくれたのは、船酔いで船の外にゲロを吐いていた一匹のアイルーでした。

 名前はスパイスと言って、世界の味を自分で確かめたいという目標でこの村の交流船に乗っていた元シー・タンジニャという高級レストランのコックさん。

 

 そんなアイルーさんと一緒に辿り着いたこの村。

 彼は壮絶な船酔いを経験してもう二度と船には乗れないと悟り、このモガの村に定住を決めると共に食事場『ビストロ・モガ』を開設。

 しかも、身寄りの無い私を引き取ってくれたのだった。私は敬意を持って、彼をお父さん(・・・・)と呼んでいる。

 

 

 話を戻して。

 私とお父さんがこの村に辿り着いたちょうどその頃、この村はとある大自然の異変に悩まされていた。

 

 それは、地震。

 単純に地震と言えば地震なんだけど、その原因がその時は分かってなかったみたい。

 同時に現れた海の王、ラギアクルスのせいとその時は思われてたみたいだけど。

 

 そして私達より前にギルドから派遣されてこの村に来ていた、ハンターさん。

 その人こそ私の前任者であり、私のハンターとしての師でもある人だった。

 

 その人も、当時は駆け出しハンターで。ラギアクルスと運悪く出会う事はあってもまだ倒す事は出来なかった。

 多分、今のあの人なら簡単に倒して見せるんだろうけど。人間、誰しも駆け出しの頃はあるんだよね。

 

 それでも前任者のあの人は、私とは違って少しずつ成長していって。

 ついにラギアクルスを退治する事に成功。

 でも、原因不明の地震は終わる事は無かった。

 

 

 その頃の事は私も良く覚えている。

 ラギアクルスを倒したあの人を村を上げて祝っていた時に、これまでより大きな地震があったんだ。

 

 

 少し経って、地震の正体はラギアクルスよりも巨大な竜。俗に言う古龍(・・)であるナバルデウスの所為だったって分かるんだけど。

 ナバルデウスは本当に物凄く大きくて、とてもじゃないけど人間が戦う様な相手じゃない。

 

 それでも。あの人はナバルデウスを撃退して見せた。

 本当にギリギリだったみたい。あの人があんなにボロボロになってた所なんて見た事が無いから。

 

 でもあの人は勝ってみせた。

 

 

 そんな前任者を称えて、今度こそ平和になったモガの村。

 あの人の力量が必要無いというか勿体無いくらい平和になってしまったこの地に、ギルドは凄腕ハンターをずっと止まらせている訳もなく。

 

 街へ出ていく事になって。この村の常駐ハンターを私があの人から引き継いてから三年が経った。

 

 

 

 

「あの人ならもうラギアクルスは倒してる頃だよねぇ……」

 私は今十五歳で、あの時のハンターさんよりも若い訳だけど。

 それでも私の成長速度は酷いものだ。身体も大きくならないし、胸も……いやそこは良いとして。

 

「……はぁ」

 やっぱり、一人は嫌いだ。

 モンスターでも良いから、誰かと一緒に居たい。

 

 

「お父さーん。ちょっと出掛けて来るね」

 お風呂から出て、ズボンとシャツに着替えてから厨房の奥で仕事をしているお父さんにそう話しかける。

 クエストをリタイアしておいて、家でのんびりしてられるほど私の神経は太くないのだ。

 

「ニャ、晩飯までには帰って来るニャよ。ムツキに聞いたけど怪我してるんなら、無理しない事ですニャ」

 いつもの板前帽子を被ったお父さんはそう言って、また料理に戻っていく。

 今日のご飯はなんだろうな?

 

 私は狩りはダメでも料理はお父さんのおかげで得意だ。

 それでも、やっぱりお父さんの料理は最高だから毎日のご飯がとても楽しみ。

 

 

「行ってきまーす」

「うニャー」

 挨拶をして、家の外へ。

 村が海に接していて家も海に近いからか、潮風がとても気持ちが良い。

 

 

 

 孤島地方。

 都会から離れた島々の集まりの総称で、私が住むこのモガの村(・・・・)もその孤島地方の一部だ。

 

 海に囲まれたこの村は資源が豊富で、交流船での物々交換で生活を豊かにしている。

 あのナバルデウスの事件からもう何年も経っていて、当時とは少し違った雰囲気になっているけど。

 

 それでもやっぱり、このモガの村はとても素敵な場所だと思う。

 風は気持ち良いし心地よい。お魚は美味しいし、農場も凄い。

 

 あの頃と変わったと言えば、私を含めあの頃小さかった子供達が少しずつ大きくなってきている事かな。

 村を出ていったり、仕事についたりで、あの頃より少し、賑やかさは減った気がする。

 

 

 

「お、ミズキ! さっきムツキがエラい防具を抱えて行ったな。聞けばクエストをリタイアしたようじゃないか、大丈夫かの?」

 家を出て直ぐに目が合い、そう話し掛けてくれたのはこの村の村長さんだった。

 

 私と同じ人間で、あのハンターさんが来る前からこの村の村長をやっていたらしい。

 ズボンと羽織っただけの上着の姿は、少し歳かなと思う彼を若々しく見せる格好だった。

 

 しかし、あの頃よりちょっと髪が少なくなってきている気がする。

 

 

「あ、いえ……その…………すみません」

「カッハハハハハ! 何を謝っておる。むしろ謝るのはわしだ、無理をさせて悪かったのう」

 私の謝罪を笑い飛ばした後、今度は村長が親身になって謝罪をしてくれた。

 

 確かに、私には少し───いや、かなり身が重いクエストだったけど。

 それでも、私はこの村のハンターなのだ。こなさなければいけなかった筈だ。

 

 

「ニャ、ミズキ! もう良いのかニャ?」

「む、ミズキは怪我でもしたのかの?」

「な、な、な、何でも無いですよぉ!」

「フニャ?!」

 無用な心配を掛ける訳にはいかない。私は背後で口走ったムツキの口を塞ぎながら村長に笑顔で言葉を返す。

 村長はそんな私達を見ながら少し不思議そうな表情をするが、少ししてから「うんむ」と頷いてこう言葉を続けた。

 

 

「所でミズキや、クエストから戻って来た所悪いんだが少し頼まれ事を聞いてはくれんかのう」

 頭を少し掻きながら、言いにくそうにそう告げる村長。

 

 村長は申し訳なく思っているのだろうが、こちらとしては前の失敗の責任を取る上でも願ったり叶ったり。

 

「全然良いですよ! 私にやれる事なら何なりとお申し付け下さい!」

「まーた無茶を聞く。……学習しないニャ」

「だぁまっててぇ」

 私は必死なのだ。きっとムツキは優しさで言ってくれてるんだけど、あまり人前では優しくしてくれないので俗に言うツンデレなんだと思う。

 

 

「カッハハハハハ! 何、難しい事を頼むつもりは無い。ただ、ちと人を探して来て欲しくての?」

「……人?」

 もしかして、モガの森に誰かが入って帰って来ないとか?

 そうだとしたら大変だ。こんなにのんびりしている暇は無い。

 

 だと言うのに、村長は余裕の表情で。それでも少し困った口調でこう続けた。

 

 

「実はギルドに新しいハンターの募集をしていての───」

「私はクビですか?!」

「……ニャ」

 村長のそんな言葉に私は彼に詰め寄ってそう聞いた。確かに、私の活躍は大した事が無いかもしれない。

 でも、それなりに頑張ってきたし。前任者のあの人に近付こうと努力してきたし。

 

 もう用済みだと言われた気がして必死になってしまった。

 

 

「おぅおぅ、そんな訳が無かろう。お前さんは良くやってくれとる」

「なら……なぜ」

 明らかに気が落ちているのが、自分で分かっていても制御出来なかった。

 うぅ……私はわがままだろうか。

 

「最近、またモガの森の生態系が荒れておるのは身に染みて来たんじゃないか?」

 私に落ち着くように肩を叩いて諭してから、村長はそう告げた。

 

 

 確かに、言われてみればここ最近クエストに出掛ける回数も増えていた。

 ジャギィ達にアオアシラ、今回はロアルドロス。頻繁にモガの村の生態が入れ変わったりおかしくなったりしている感じが、ここ最近の生活で伺える。

 

 

「そんな状況でお前さんだけにクエストを任せるというのは苦という物だ。だから、村で金を出し合って助っ人をギルドに要請したって訳だな」

「お、お金……」

 私が一人前なら……。

 

「カッハハハハハ! お前さんが気にする事ではないわい。もしあいつが村に残っておっても、多分あの(むすめ)ならそうしたろうさ」

 あの娘? あの娘というと、村長が言うあの娘といえば。

 

 

「それって、アイシャさん?」

 彼女しかいない。

 この村でギルドとハンターである私を繋いでくれている受付娘の彼女。

 

「うんむ。あの娘、わしが資金はどうしようかと悩んでおると村中駆け回って一人で集めてきおったからのう。それだけお前さんの事を大切にしておるのだろう」

「上位級のロアルドロスを狩って来いとか言うのにニャー?」

「む? ロアルドロスは下位のクエストのハズだったがのう」

「まーたアイシャの適当かニャ?!」

 あ、私下位のロアルドロス失敗したんだぁ……。

 

 

「そんな訳で、あの娘が駆け回って集めた金で雇ったハンターが───」

「アーーーーーーッ!!!!」

 村長が言いかけた瞬間、聞き慣れたハイテンションな声が村中に響き渡った。

 

「あ、アイシャさん?!」

「村長!! それは内緒の約束ですよね?!」

 突然背後から現れ村長に詰め寄る彼女こそ、この村のギルドの受付嬢のアイシャさん。

 赤い色をしたギルドの制服を身に着け、流した黒髪がとても綺麗な大人の女性。

 

 ちょっとふざけた所がたまにあるのが、またお茶目なこの村の看板娘だ。

 

 

「カッハハハハハ! もう全部言ってもうたわ!」

「村長ぉぉぉおおお?!」

「ありがとう、アイシャさん!」

 私は精一杯のお礼をアイシャさんに伝える。

 いつも迷惑ばかりかけているのに、本当にありがとう。

 

「うぅ……ミズキちゃんには内緒って言ったじゃないですか」

「カッハハハハハ! わしも歳だな、忘れとったわ!」

「嘘だ」

「嘘だニャ」

 アイシャとムツキがタイミング良くツッコム。仲良いなぁ。

 

「しかしあのアイシャがそんなに頑張るなんてニャー」

「ムツさーん、私も実は怒ると怖いんですよー?」

「ボクに手を出すと今日のまかない飯は抜きになるニャ」

「ふがーーー!」

 仲、良いなぁ……。

 

 

「そ、それで……その雇ってくれたハンターさんがどうかしたんですか?」

 いつもの和む風景だが、黙って見ている訳にもいかないので話を進める為に村長に質問を投げかける。

 人を探して来て欲しいと、彼はそう言っていた筈だけど。

 

 

「うんむ、そうだそうだ。そのハンターさんなんだがの、昨日の夜には着くと連絡があったのに未だに姿を見せんのだ。交流船が島の周りを探索してくれた所、そこには無い筈の不自然な筏が島の裏側に置いてあったそうな」

「それが、もしかしたら雇ったハンターさんかもしれないって事ですね! 分かりました、探して来ます」

「ボクもしょうがないから着いてくニャ」

 ありがとう、ムツキ。

 

 

「あー……アシラ防具加工屋に出しちゃったなぁ」

「ん、お任せあれ! ロアルドロスも撤退してくれたので、安全ルートをちょちょいと調べますからね! 軽装備でも安全楽々で! ミズキちゃーん、しゅっぱーつ!」

「アイシャのルートは信用ならんニャ……」

「何か言いましたかね?」

「なんもニャ」

「あっはは……」

「うんむ、では頼んだぞミズキ!」

 そう頼まれては、頑張るしかない。

 

 ロアルドロスの失敗で本当にクビにならない為にも、ここで頑張ろうではないか!

 

 

 人を探すだけなんだけどね……。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 村長とアイシャさんに、件のハンターさんの特徴を聞いてから私はアシラ装備の前に使っていたジャギー装備一式で今日二度目のモガの森へ出発。

 

 

「髪は銀色で、背が高くて目付きが悪い……。ふむふむ、それで……安全ルートは、と」

 特徴を確認しながら、アイシャさんの描いてくれたルートのメモを元に森を進んで───

 

「これじゃ……分からないかなぁ」

「信じるも何も理解すら出来なかったニャ。ボクが甘かったニャ」

 アイシャさんのメモ、もう滅茶苦茶で何が何だか分からない。

 この木を右にって何。この木って何。右ってどこから見て右?!

 

 

「とりあえず、島の反対側だもんね。行ってみようか」

「モンスターに見つからないようにニャ」

「うん、分かってる。でも、私はこれでもハンターなんだからね!」

「無理は禁物、って意味ニャ」

 

 

 

 

 この世界は、モンスターの世界だ。

 

 世界中至る所に、彼等は存在する。空に陸に海に、火山に森に洞窟に、至る所に生きて住んでいる。

 

 

 モンスターとは何か?

 

 彼等はこの世の理だ。私達人間より遥かに巨大な身体を持ち、遥かに強大な力を持つ。

 生物のくくりの中でも頂点に立つ生き物達、それがモンスター。

 

 私達人間は彼等より弱いから。一致団結して、時には知恵を縛り、彼等と戦わなければならない。そうしないと、生き残れないから。

 

 

 彼等と戦うとは?

 

 ハンターは、この世の理と戦う事が仕事。知恵と勇気と時々お金を振り絞って、彼等と戦うのだ。

 かくいう私も、そのハンターであったりする。まだ駆け出しなんだけどね。

 

 

 なぜ戦わなければならないのか?

 

 モンスターは生き物だ。私達とは違う生き物だから、生きているだけで当然すれ違いが起きてしまう。

 住む場所が重なったり、食べる物が重なったりすると、生き物は相手を倒して自分の得るべき物を得るのがこの世の理。

 

 

 

 話し合いが通じる相手ではない。

 

 

 分かり合える相手では無い。

 

 

 私達がどれだけ語ろうと、触れようとしても、彼等は、モンスターは人間と分かり合える存在ではない。

 

 

 本当は私、モンスターを殺したいなんて思ってない。

 言ってしまえば、ムツキ達獣人族もモンスターだ。彼等と人は、お互いに理解し合って共存している。

 

 他の生き物だって、私は出来ればそうしたい。

 だって、生きているってとても大切な事で。殺すって事は、とても嫌な事だって、私はそうおもうから。

 

 

 でも、私が───私達人間がどれだけそう思っても思わなくても。

 きっと人間とモンスターは分かり合えないんだと思う。仕方ないんだと思う。

 

 

 

 それが、私の中では当たり前の事だった。

 

 この世界の常識だと思っていた。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

 ───そう思っていた。

 

 

 

「───嘘……でしょ?」

「───な、ニャ……ニャぁ?!」

 

「……こんな所に人が来るなんてな。もしかして俺を探しに来たのか?」

 私がその時見た光景は、とても口に出して説明して良いのか分からない光景だった。

 

 

 この世の理を無視する光景。

 

 常識を覆す。この世界のルールを破る。

 そんな、ありえない光景だ。

 

 

「と、なるとお前がこの村の今のハンターか」

 立ち上がって、振り向く銀色の髪の青年。

 

 長身で目付きが悪い。間違いなく村長とアイシャさんが探していた彼に間違い無い。

 そんな当たり前の光景の中で、異様に光る瞳が私を捉えて鳴いた。

 

「ギャィッ!」

 彼の隣に座っていた(・・・・・)、ジャギィノス。───モンスターが。

 

 

「大丈夫だ。あいつは今、お前に敵意は無い。……そうだろ?」

「ぇ、ぁ、え、えぇ……?」

 

 この世の理を、ルールを、常識を、全てを覆すその光景。

 

 

 

 背後には、同じようにリラックスして座っている数体のジャギィの群れ。

 

 

 こんな事はありえない。

 

 

 だって、人と竜は相容れない。

 

 それがこの世界のルールのハズだから。でなければ、人はモンスターと戦う必要なんて無いのだから。

 

 

「どうした?」

 

 それは、ここから始まる物語の初めだったのかもしれない。

 

 

 

 こんなありえない光景の中での、彼との出会い。

 それこそが、私の物語の初めだったのかもしれない。

 

 

 

 ようこそ、モンスターハンターの世界へ。

 

 

 これは、竜と絆の物語。




ここまで読了、ありがとうございます。

この度また懲りもせず、モンスターハンターの二次創作をやり始めた皇我リキです。
実は三作目になります。前から二作を蔑ろにするつもりは無いですが、こちらもゆっぬりと更新する予定です(´−ω−`)


さて、今回のお話について。
この物語を書くきっかけになった作品が二つあります。

一つはとあるモンハンの二次創作なんですが、その作品も人と竜の物語でありまして。とても綺麗で素敵な作品で、影響を受けたんですね。
このお話の舞台がモガの村なのは、その名残だったりします。モンハンのお話を良くハーメルンで読む方は分かっちゃうかも知れません。怒られるかな……?

もう一つ。本日発売のモンスターハンターのゲームがありますね?
そうです、この作品のタイトルのネタになっているモンスターハンターストーリーズです。皆さんはもう買いましたか?
私は買う気がありません←
私が書きたい物語に、このストーリーズの乗り人なる職業は何か丁度良いなとか思って書き始めた次第ですね。
なので、初投稿日もストーリーズの発売日に合わせてみました。ストーリーズと噛み合うかは分かりませんが、ね。


今回、三作目にしてやっとなのですが。ゲームの世界観の時間軸からあまりズレの無い世界観で書こうと思いました。
しかし、オリキャラでない残存のキャラって喋らせるの難しいですね。皆の人気者、アイシャのイメージダウンにならなければ良いですが……。


さて、長々と話してしまいましたが今回はここまでで!
多分始めの辺りはそこそこ早く更新していくと思うので……。基本は月一、かな。

それでは、またお会い出来たら嬉しいです。


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狩り人と乗り人の物語 ーChild of the devilー 出会いと最初のクエスト

前後編の前編です。


 事の始まりは、私が村で受けた一つのクエスト。

 

 

 大陸の方ではもう覚えている人の方が少ないかもしれない、あのナバルデウスを巡る事件から数年。

 ここ、モガの村はナバルデウスを倒したあの人が居なくても問題がなくなってしまう程平和になっていた。

 

 そんな所にギルドも凄腕ハンターを置いておく訳にもいかず、私がこの村のハンターを受け継いで三年程の月日が経つ。

 

 ただ最近、あの頃と同じくらいモガの森の生態系がおかしくなって来ていた。

 私も「おかしいなぁ」なんて思っていたし。実際私なんかでは手が付けられない程、森は騒めいている気がする。

 

 

 そんな中で、村長さんやアイシャさんが村に助っ人のハンターさんを呼んでくれたんだって。

 それなのに、到着予定から半日経ってもそのハンターさんは現れなかったの。

 

 手掛かりが島の反対側で見つかって。だから私は島の反対側まで人探しをしてくるクエストを、村長さんから頼まれたのだった。

 

 

 

「この木って……これかなぁ?」

「もうアイシャのメモは捨てるニャ……。そんなもの、草食獣の餌にもならないニャ」

「そんなもの捨てたら環境破壊だってギルドに怒られちゃうよ?」

「……帰ったらアイシャの口の中に突っ込むニャ」

 それは酷い。

 

 仮にもギルドの受付嬢である彼女に、ハンター側の私達が取って良い態度ではないと思う。

 でも、まぁ……多分彼女ならそんな事は気にしないと思うけど。

 

 

 そして、島の反対側。海に面した入江で、私はとんでもない光景を眼にしたのだった。

 

 

 

 モンスターが巣を作って、小さな群れが住まう入江。

 その中央にポツンと。一人の銀髪の青年が座っているのが見える。

 

 この時点で、とんでもない光景だというのは誰が見ても分かってしまうだろう。

 

 

 モンスターはこの世の理だ。

 人と分かり合う事なんて決して無くて、モンスターにとって人は食べ物か邪魔者かでしかない。

 

 私達は弱くて脆くて、彼等からしてみれば格好の餌でしか無いのだ。

 

 

 

 それなのに───

 

 

 

「───嘘……でしょ?」

「───な、ニャ……ニャぁ?!」

 

「……こんな所に人が来るなんてな。もしかして俺を探しに来たのか?」

彼は、ジャギィやジャギィノスに囲まれながらも何も気にしてないかのように立ち上がりこう口を開いたのだ。

 

 

「と、なるとお前がこの村の今のハンターか」

 いや、そんな呑気に自己紹介してる場合じゃ無いから!

 

 え? なんで? どうしてそんな事になってるの? 寝ぼけてるの?!

 いや、もしかして私が寝ぼけてるの?!

 

 

「ギャィッ!」

 彼の隣に座っていた、ジャギィノスが瞳を光らせながら小さく声をあげる。

 危ない危ない危ない! 逃げてハンターさん!!

 

「大丈夫だ。あいつは今、お前に敵意は無い。……そうだろ?」

 しかし私のそんな心の声は届かなくて。

 あろう事か、彼はそんなジャギィノスの頭に手を乗せる。

 

「ぇ、ぁ、え、えぇ……?」

 私は夢でも見ているのだろうか……?

 

 

 人とモンスターが、仲良くしているように見える。

 

 

 

 全くあり得ない話ではない。私の相棒、メラルーのムツキだって言ってしまえばモンスター。

 農場で畑仕事を手伝って貰っているアプトノスのジェニーだってモンスターだ。

 

 でも彼等は比較的というか人に害のあるモンスターではないし、大人しいし可愛いし襲っては来ない。

 でも大概のモンスターは違うんだ。人と竜は相容れない。そんな常識が、目の前の光景で壊れていく。

 

 

「どうした?」

「どうした?! じゃ、なくてぇ! 周り見えてるの?!」

 ごちそうさま五分前だよ、こんなの!

 

 

 ジャギィは比較的小さなモンスターだけど、群れを作り大勢で襲い掛かってくるモンスターだ。

 薄紫色の身体に扇のような耳が特徴。

 

 ジャギィノスは同種の雌の事で、耳が垂れ下がっていてジャギィより体格が大きい。

 

 そんなモンスター達がこの入江には何匹か居て、そのど真ん中に彼───ハンターさんは平気な顔で立っていた。

 

 

 

「……確かにこれは普通に考えたら不味いな」

 普通に考えなくても不味いよ……。

 しかも彼、腰に武器を背負ってはいるけど格好は私服なのか防具ではないみたい。

 小型のジャギィといえど、噛まれたら大怪我は避けられない格好だ。

 

「おいお前、俺の命が惜しければ武器だけは抜くなよ?」

 彼はそんな意味不明な事を言うと、周りを気にしながらゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

 

 座っているジャギィ達の間をゆっくりと。

 そんな光景は見ているだけで血の気が引いていくような恐ろしい光景。

 

 今この瞬間にも、ジャギィの一匹が彼に襲い掛かったって何もおかしくはない。

 

 

「さっきまで何もしなかっただろ? 心配するな。今は、敵じゃない」

 しかし、私が彼に感じたのは無茶だとか頭がおかしいだとかそんな事ではなかった。

 

 きちんと、周りを見渡して警戒している。

 この状況で彼はきちんと自分の安全を考えている?

 

 だから、そんな彼を信じて私は武器を抜かなかった。

 

 

 

「……よし。良いか? 奴等から目を離さずに、背を向けずにここから離れるぞ」

 そしてジャギィ達の間を抜けて、私の目の前まで歩いて来た彼はそう口を開く。

 

 

「……あなた、モンスターと友達になってたの?」

「んな訳あるか。……話は後だ。今は行くぞ」

「……ニャぁ」

 そんな彼に連れられて、私はそんな夢のような体験をした場所を後にしたのだった。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「さっきはよく武器を抜かなかったな。おかげで助かった」

 入り江を離れてモガの森を歩く私達。

 先頭を歩く私に、彼はそう口を開く。

 

 

 銀髪で長身。目付きが悪くて、腰に片手剣だけは背負っているけど、盾は無くて。

 この狩場で私服姿のその胸には、半分だけ欠けてる綺麗な宝石がペンダントみたいにぶら下がっていた。

 

 

「あなたは……何者? 村長さん達が呼んでくれたハンターさんなの?」

「村長さんってのがあのじいさんなら、そうだな。タンジアギルドから派遣されて来たハンターってのは俺だろう」

「どうしてあんな所であんな事になってたの?! もしかしてあそこで寝てたの?! なんでジャギィ達に襲われなかったの?!」

 淡々と答える彼に、私はついに質問の渦が爆発してしまう。

 

「……そんなにいっぺんに聞かれても答えられる訳がないだろ。そもそも、まずは初対面なんだ。自己紹介をしするのが先だ」

 む、それはそうか。

 

「ごめんなさい……私はミズキ。こっちは、相棒のムツキだよ」

「宜しくニャ」

「……ん、宜しく。俺はアランだ」

「んにっ」

 振り向く前に、彼───アランは私の頭に手を乗せてくる。

 まるで小さな子供にするような仕草に、ちょっと不服だ。

 

 私はこれでも十五歳で、もうハンター生活三年目の大人なんだから。

 

 

「んぅ……」

「どうかしたか……?」

 

「何でもないですぅ……」

「ん……?」

「女心の分からん奴はモテないニャ」

「……そうか」

 顔が良いからだろうか。あまり女性に興味がないのか、ムツキの言葉を聞き流すアラン。

 彼はそのまま私を追い越して歩きながら、私のさっきの質問の答えにこう口を開いたのだった。

 

 

「俺はただあそこで寝ていただけだ」

「そ、それって……起きたらあの状況だったって事?!」

 普通パニックだよ。

 

「いや、俺が寝る前からあそこには群れが居た」

 私がパニックだよ。

 

「意味分かんないよ?!」

 なんで襲われなかったの? どうしてあそこで寝ようと思ったの?

 頭に疑問がこれでもかという程浮かんで来る。

 

 この人が正気でないのか、私が正気でないのか。

 前者のハズなのに、彼の動じない態度を見てしまうと私がおかしいのかと勘違いしてしまいそうだ。

 

 

「そうだな……説明不足か。ミズキ、だっけか?」

「え、あ、はい」

 表情を変えない彼に呼ばれ、私は良く分からずも返事をする。

 その後、彼はポーチから少量の生き物の肉を出してこう口を開いた。

 

「食べてみろ」

「シビレ生肉……?」

「……焼いてあるから」

 いきなりお肉を食べてみろなんて言われて、私の頭に一番に浮かんだのはシビレ生肉だった。

 シビレ生肉は生肉にマヒダケと呼ばれる協力な麻痺毒を有するキノコを混ぜて、食べた者を文字通りシビレさせる罠肉だ。

 

 ハンターはモンスターにこれを食べさせて動きを封じるという戦法を取る事もある。勿論私も使った事あるよ。

 だから、それをジャギィ達に食べさせたのかな? なんて思ったけど違うみたい。

 

 

「ほむ……ふむふむ。上手に焼けてますー」

 促されるまま食べてみると、普通にこんがりと焼けた肉の歯応えが絶妙なこんがり肉だった。

 スタミナが回復して、もう当分食べなくても良さそう。

 

「腹はいっぱいか?」

「うん、ごちそうさ───じゃなくて! これなんの意味があるの?」

「あー、なるほどニャ」

 私が彼にツッコム横で、ムツキは自分だけ理解してその肉球を叩く。

 え、何? どういう事?!

 

 

「腹いっぱいの状態で、ミズキ……またこれを食べる気になるか?」

 そう言ってアランがまた取り出したのは、さっきと同じくこんがり肉だった。

 美味しそうだけど、さっき食べたばかりなのにまた食べられる訳が───あ、そういう事?!

 

「ジャギィ達はお腹いっぱいだったからアランを食べようとしなかったって事?」

「あぁ……丁度アプトノスを一匹丸ごとあの入り江で食ってた時に出くわしてな。俺を見てもよだれ一つ落とさなかったぞ」

 だとしても、そんな危険な場所でよく平然と眠れた物だ。

 

 

 正気じゃないのか、バカなのか。

 

 

「そんな事って……」

「モンスターだって生き物だ。そこに共存関係が出来るか興味を失えば、何もかもを襲って来たりする生き物の方が少ないだろう? そもそもあの群れにはボスのドスジャギィが居なかったからな、ジャギィ達は元々闘争心が強いモンスターでもない。これは、ハンターなら覚えておいて損はない」

 彼がそう言い切ったところで、丁度村が見えて来た。

 

 そんな事を考えて、平然とこのモンスターの世界で生きられる彼は相当な実力を持つハンターなんだってこの時点で私は分かってしまう。

 アランが居るからあなたはもう用済みですって、ギルドに言われたらどうしよう……。

 

 

「良い村だな」

「ふふん、そうでしょ!」

 

 モガの村。ここは、孤島地方にある比較的小さな村だ。

 小さいけど、自然に恵まれていて生活には困らないしとっても素敵な村だと私は思う。

 

 

「村長さんに挨拶をしたいんだが……案内して貰えるか?」

「う、うん! こっちだよ」

 どうかこれが私の最後の仕事になりませんように。

 

 

 

 

「おぅ! 良く見つけて来てくれたのぅ、ミズキ」

 村長の所にアランを案内すると、村長は私の肩を優しく叩いてそう言ってくれた。

 そのまま「今日までお疲れさん」とか言われなくて良かったよ……。

 

「そしてよく来てくれたの、アラン。時に島の反対側におったようだが、どうしてそんな所に?」

 そして村長はアランに、私も聞きたかった事を率直に質問する。

 

 村長の話では、本当はアランは昨日の夜には到着予定のハズだったらしく。

 でもアランを乗せた交流船は村に来なくて半日経って島の反対に不自然な筏を見つけたのが、私がアランを迎えにいくクエストの始まりでもあった。

 

 

「お前さんを乗せた交流船はどうしたのかの?」

「船はラギアクルスに襲われて中破して、近くの島で修理中です」

「ほぅ……で、お前さんは?」

 興味ありげにアランに話し掛ける村長。

 

 ラギアクルスと言えば海の王とも呼ばれるとても危険なモンスターだ。

 そんなモンスターに襲われて、船は中破で済んで彼だけが平然とこの島に居るのはなんとも不思議な話だと思う。

 

 

「ラギアクルスの奇襲を受けて直ぐに撃退の為に船を降りて、交流船を逃した後……船の残骸で筏を作って島まで来ました」

 表情を変えずに村長にそう返すアラン。

 

 あのラギアクルスを海の上で撃退して、その上一人で海を渡って島まで来た?!

 

 

「カッハハハハ! そうかそうか、わしの見立て通りお前さんやりおるな!」

「凄いんだね! アラン!」

「こりゃミズキはクビだニャ」

「そうなったら私達失業だよムツキ……」

「ニャぁ……」

 

「カッハハハハ! まだまだミズキには働いて貰うから安心せい!」

 そんな、普段のような明るい会話。アランは不慣れなのか、ちょっとどうしたら良いか分からないこれまでに無い表情をしていた。

 

「……所で、借家か何かあったりしますか? 村長。荷物は殆ど交流船に置いてきてしまったのであまり無いですが、寝床だけは確保したいので」

「うんむ、それに関しては少し準備に手間取ってての。少しばかりミズキに街を案内して貰っていてくれんか?」

「なるほど、分かりました。……頼んでも良いか? ミズキ」

「うん! 私に出来る事なら何でも言ってね!」

 少し無愛想な人だけど、実力は聞けば凄いみたいだしなんだか安心。

 

 そうだ、この人の弟子にして貰って私も力を付けるってのは凄く良い考えなんじゃない?

 

 

「じゃぁ、着いてきて!」

 なんて事を考えながら、彼の手を引いてまずはアイシャさんの居るギルド受付に。

 反対側は食事場ビストロ・モガになってて私の家でもあるし丁度良いかななんて思った。

 

 そんな風に計画を立てながら歩き出したその時だった。

 

 

「ミズキちゃんにハンターさん!!」

 向かうギルド受付で、いつもは寝たり歌を歌ってたり文字を書いて仕事をしているギルドガールのアイシャさん。

 彼女の姿は受付には無く、その声は村長さんと話していた背後から聞こえる。

 

 

「アイシャさん? もぅ、またサボりですか?」

「アイシャ、なんなんニャあの地図は……」

 

「え? 私的には完璧な地図だったんですけど……」

 急いで走って来たかと思えば、赤色のギルド受付嬢の制服を着た女性はキョトンとした顔でムツキにそう答えるのであった。

 アレが完璧とは、いかに。

 

 

 彼女こそ、この村のギルドの受付嬢のアイシャさん。

 少し抜けた所があるけれど、素敵な大人の女性なので私の憧れでもある。

 

 

「あの、急いでた感じだったんですけど。どうしたんですか?」

 そんなアイシャさんだから、さっきまでの用事をムツキの言葉で忘れちゃったんじゃないかって私は彼女に再確認。

 

「あ、そうでしたそうでした。まずはアランさん、この村に来て下さって感謝感激です!」

 やはり忘れていた……。

 

「あ、あぁ……」

 そしてやはりアランは彼女のテンションに着いていけなかったみたい。

 それでは今後苦労するぞぉ。

 

 

「そして急用なんですよ! ぶっちゃけヤバイです」

「え? 何かあったんですか?」

 あのアイシャさんが焦ったような口振りでそう言うので、私も真剣な面持ちで彼女の言葉に耳を傾ける事にした。

 慌てるほどの事と言うと、モガの森の事を思い出す。私が倒し損ねてしまった一匹のモンスターの事を。

 

 

「あのロアルドロスが村に近付いて来ているって情報が流れて来たんですよ!」

 そして、嫌な予感は見事な的中した。

 

 私が倒せなかった、逃してしまったモンスターが村に襲い掛かってくる。

 そんな事を考えると、自分の軽率な行動に伸し掛る責任で心が潰れそうだった。

 

 

 私のせいだ。私があのロアルドロスを倒せなかったから。

 

 

「……大丈夫だ」

 そんな事を考えて俯いていた私に声をかけてくれたのは、アランだった。

 

「……ぇ、アラン?」

「ニャ、僕の役目が?!」

 ムツキの役目って何?!

 

「受付嬢さん。避難勧告は無しで大丈夫です。……俺がロアルドロスを何とかします」

「ハンターさんが? え、えーと、任せて大丈夫なんですかね?」

「どちらにせよこの村の人達を全員避難させる程の時間は残されていないでしょう? 交流船も一台足りない状態だ。なら、無駄にパニックになるような事態を起こさない方が良い筈」

「えーあー、それは……確かにですね!」

 アイシャさん頭回ってなくない? 大丈夫?!

 

「分かりました、ハンターさんを信じます!」

「……任せて下さい」

 アランの真剣な表情は、彼を信じるには充分過ぎる程で。

 彼は胸の宝石を握りながら、踵を返してモガの森に歩いていこうとする。

 

 ……一人で行く気なんだ。

 

 

「待って!」

 それは、勝手に口から出た言葉だった。

 

 

「ミズキ……相手はロアルドロスだ。お前のその駆け出しハンター丸出しジャギィ装備じゃ餌になるだけだぞ」

 厳しい言葉。でもそれは、彼が決して私を見下して言っている訳じゃないって事はなんとなく分かった。

 

 当たり前の事だ。ハンターをやっていた年月なんて関係ない。

 本当はアオアシラくらいなら最近やっと倒した事あるけど、そんなのは駆け出し丸出しジャギィ装備の域から外れない事も分かっている。

 

 

 でも───

 

 

「私もこの村のハンターだもん! 村の危機に何も出来ないなんて、絶対に嫌。アランを信じてない訳じゃないけど…………私もこの村の力になりたい」

「……お前」

 アランは少し驚いたような表情をするけど、少しだけして直ぐに首を横に振った。

 

「うぅ……」

「……ダメだ、まだお前には早い」

 分かってる。力不足だって分かってる。

 

 でも、私はもう一人にされたくない。置いていかれたくない。誰かを一人で行かせたくない。

 

 

「あのぉ……ハンターさんハンターさん」

 俯いて何も出来ないでいる私を置いて森に行こうとするアランを止めたのは、他でもないアイシャさんだった。

 申し訳なさそうに彼の肩を叩くアイシャさんは、少し意地悪そうな表情を作ってこう続ける。

 

「ハンターさんの技量は確かに凄いのかもしれません。しかし、モガの森に関してはうちのミズキちゃんの方が遥かに詳しいです。この通り、私の地図はきっとハンターさんには解読不可能なので!」

 そう言ってアイシャさんがアランに見せたのは、簡易的なクエスト内容が書かれた受付用紙だった。

 普段はクエスト毎にモンスターの大体の居場所とかが書いてあるんだけど、急な事だったからかアイシャさんによる謎の暗号のみが書かれた受付用紙。

 

「この木を左……? いや、これじゃモンスターが何処にいるのか……」

「うーん、私としてはきちんと伝えられると思って書いてるんですけどねー? はい、そこでこの用紙で分からないのなら私からミズキちゃんにクエストです」

「あのなぁ……」

 アイシャさんが何を言おうとしているのか分かったのだろう。アランは頭を掻きながら、やれやれと言いたげな表情で私を見ていた。

 

「彼をロアルドロスの居る場所まで案内してあげて下さい。必要ならば、加勢も許可しちゃいます!」

「アイシャさん……」

「たまには良い事言うニャ!」

 

「ムツさん…………。こほん。ミズキちゃん、でも無理はしないで下さいね。私は彼をきちんと知っている訳ではありませんが、きっと彼の狩りはあなたの勉強にもなる筈です!」

「はい! アイシャさん!」

 

「と、いう訳で! 宜しくお願いしますよ、ハンターさん」

 不敵な笑みでアランに微笑むアイシャさんは、いつもよりとても素敵に見えた。

 

「はぁ…………分かった」

「宜しく、アラン」

「アランさん、だろ……?」

 そんなに歳、違うかな?

 

 

「カッハハハハ! どうするか決まったようだな!」

「村長さん……」

 一部始終を見ていたのか、満足そうな表情の村長がアランの肩を叩く。

 アラン自身は少し不機嫌そうだけど、私嫌われてないかな大丈夫かな……。

 

「確かにお前さんを雇いはしたがの、わしらはミズキも頼りにしとるんだ。二人には協力してもらわないかん。……分かるな?」

「……はい」

「うんむ。宜しく頼むぞ!」

 村長……私の事頼りにしてるなんて。嘘でも少し嬉しい。

 

 

「私、頑張る!」

「ボクは応援するニャ」

「ありがとぅ、ムツキ」

「ニャー」

 

「……ほら何してる行くぞ? 案内してくれるんだろ?」

「ほぇっ……あ、うん! 任せて!」

「ボクも行くニャ!」

 これはきっと、私にとってとても大切な狩りになる。

 

 なんだか、心がそうやって確信していた。

 

 

 

「ほいほーい! ではでは、村に近付いてくるロアルドロスの撃退! お二人に村の命運を託しましたよー!!」

 なんて、村をそのまま出る私達を大声で送り届けてくれるアイシャさん。

 

 い、いやいやいや! そんな事大声で言ったらダメでしょ?!

 

 

「え?! ロアルドロスが?」

「村に来るって?!」

「避難しなきゃ!」

「うちにはミズキちゃんが居るじゃない」

「相手はロアルドロスだぞ!」

「避難だーーー!」

 村、大パニック。

 

「あわわわわわわ、み、皆さん落ち着いてーーー!」

「カッハハハハ! 頼んだぞ、三人共!」

 

 

「……この村、大丈夫か」

「あ、あはは……。賑やかでしょ」

「あのバカ今日はまかない無しニャ。お父さんに言い付けるニャ」

 お父さん、もう聞いてると思う。

 

「……行くぞ」

「うん!」

 こうして、本日三度目のモガの森へ私は足を運ぶのだった。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 モガの森。

 村の人達はそう言うんだけど、外のハンターさん達からは孤島というフィールド名で親しまれているみたい。

 

 

 モガの村もあるこの島。実はモンスターも多く生息する、自然が良く残された島だ。

 小さな山みたいな物もあったり森もあったり水辺があったり、色々なモンスターが生活出来る環境だから本当に色々なモンスターが住んでいたりする。

 

 でもモンスターごとにちゃんと縄張りがあったり触れずに生きているから、あの地震が無くなってからは比較的生態系は安定していたの。

 なのにここ最近は、今回のロアルドロスみたいに村に近付いて来るモンスターまで出始めたんだよね。

 

 何か、この島に起きているのかな……?

 

 

「綺麗な石だね。お守りなの?」

 モガの森に入ってちょっと経ってから、アランの横を歩きながらそうやって話し掛ける。

 

 ロアルドロスが縄張りから村に向かってくるとすれば私を追い掛けていたあの川沿い。

 その川を沿っていけば向こうからロアルドロスが現れる筈なので、私は少し気を抜いて彼に世間話をと、そんな風に話し掛けた。

 

 

「ん……あぁ、これか」

 彼の胸には、綺麗な宝石のような物がネックレスのように掛かっている。

 半円に欠けているけど、青くて透き通っている本当にとても綺麗な石。

 

「…………戒め、だな」

「戒め……?」

 そう言う彼は、なんだか遠い所を見ている気がした。

 

 

「……一度誤った道を、忘れない為の戒めだ。お守りなんかじゃないさ」

「そ、そうなんだ……」

 もしかして、聞いてはいけない事を聞いちゃったのかもしれない。

 

「まぁ、確かに綺麗かもな……」

「うん、綺麗だよ」

 とっても綺麗な石だと思う。

 

 

「……ニャっ」

 ふと、後ろを歩くムツキの髭がピンと伸びた。

 途端に彼の表情は緊張感を持って、周りを見渡す。

 

「感じるのか、ネコ」

「ムツキだニャ。……来るニャ!」

 ムツキを見ていて振り向いていたからか、進む先の川から頭を出す一匹のモンスターに気がつくのが遅れてしまった。

 

 

「キェェェェッ!!」

 気が付いた所で、ロアルドロスは水中での機動力を生かして一瞬で私達に接近し飛びかかってくる。

 後頭部から身体の半分まで伸びる黄色い鬣。細長い胴体は海竜種らしく、見た目通り水中での行動に長けていた。

 

 

「……下がれミズキ!」

「ふぇっ?!」

 その一瞬で、彼は私を屈ませながら腰の片手剣を抜く。

 

 真っ黒な剣。なんの素材かは分からないけど、手入れが行き届いていて光沢がその切れ味を表しているようだった。

 飛び掛かるロアルドロスの攻撃を彼自身も交わしながら、片手剣をその身体に当てがう。

 

 

「……思ったよりは硬いな。本当に下位個体か?」

「キェェッ?!」

 瞬き一回分のその時間で、重なり合ったアランとロアルドロス。

 

 私もアランも無傷で、ロアルドロスはというと飛びかかった勢いそのまま血を周りに撒き散らしながら地面を横倒しに転がった。

 

 

「倒した?!」

 い、今ので?!

 

「す、凄いニャ! やるニャ!」

「……いや、あんなの奴にとっては擦り傷だ」

 え、そうなの。

 

 

「グゥゥ…………キェェェェッ!!」

 アランの言う通り、ロアルドロスは傷を負いながらも表情一つ変えずに立ち上がって咆哮を上げる。

 

 

「嘘ぉ?!」

 そんなに甘くはないようだ。

 

 

「に、ニャぁ?!」

 私が驚きを連発していると、またムツキが何かを感じたようで身を振るせながら背後を確認する。

 

 私も、ロアルドロスから目を逸らしてムツキの視線を追うとそこには───

 

 

「「「キェェッ」」」

 ルドロスの群れが居た。

 

「ひーふーみーニャー……ヤバいニャ。食われるニャ」

「挟まれた?!」

 ルドロスはロアルドロスを小さくして鬣を無くした様な小型モンスター。

 ロアルドロスはそんな群れのボスで、水獣(すいじゅう)とも呼ばれている。

 

 そんなルドロス十数体の群れに背後を取られて挟まれてしまった。

 これは……危ないかも。

 

 

 

「キェェェェッ!!」

 親分のそんな鳴き声が合図だったかのように、周りのルドロスは私達との距離を縮めて来る。

 

「……く、来るなら来い!」

 私だってハンターなんだ……ッ!

 

 

「……ふっ」

「ぇ?」

 背後で、こんな状態なのに彼が笑ったような気がして。私は少しだけ彼の顔を覗いてみた。

 銀髪に長身。左手は胸の石を握り、右手は片手剣を握っている。

 

 そんなアランの表情は───憎しみの篭ったような、怖い表情だった。

 笑ったかと思ったけど、気のせいだったのかな……?

 

 

「……アラン?」

「お前も、なんの罪もない生き物を襲う化け物か…………?」

 モンスターでなく、彼は化け物と、そう言う。

 目の色を変えた彼の目には、ロアルドロスがどう映っているんだろう。

 

 なんだか少し、怖い。

 

 

「……お前を───殺す」

 彼は胸の石から手を離して、そう言った。




第一話でした。
色々悩んで考えて、大切に進めていこうと思います。
読者さんのニーズに応えられると、幸いです。


では、またお会い出来ると嬉しいです。


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狩人と怪物の物語

前後編の後編です。


「……ふっ」

 思い出していた。

 

 

 ──俺をハンターにしてくれ……っ!──

 ハンターになった時の事。

 

 ──ライダーなんて……全部嘘だ──

 ライダーを辞めた時の事。

 

 ──お前が……俺のオトモン、相棒か。……宜しくな──

 ライダーになった時の事。

 

 

 ────止めろぉぉぉおおおお!!────

アイツ(・・・)に三度、全てを奪われた事。

 

 

「……アラン?」

 少女の声は、まるで怯えているようだった。

 今の俺は酷い顔をしているのだろう。

 

 でも悪いが、治せるものじゃないんだ。

 

 

「お前も……なんの罪もない生き物を襲う化け物か…………?」

 全てのモンスターが憎い訳じゃない。こいつに恨みがある訳じゃない。

 むしろ、俺は多分モンスターが好きなんだ。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 それは当たり前の事だ。ライダーのそれなんて、刷り込みとこの石が作っている偽りの絆。

 人と竜の間に絆なんて物は出来ない。

 

 

 モンスターと分かりあう事なんて出来ない。

 あるのは共存。それだけだ。

 

 

 だから、守りたいなら狩れ。

 

 

 その為にハンターになった。

 

 もう何も、失わない為に。

 

 

 いつかアイツ(・・・)を殺す為に。

 

 

「……お前を───殺す」

 戒めを握るのを止めて、俺はその決意を言葉にした。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「───殺す」

 彼は、きちんとそう言った。

 

 

 その表情はさっきまでの無愛想や無関心とか無表情の目付きの悪さじゃなくて、憎むべき何かを心に見据えた殺意の表情。

 

 黒い片手剣を握る手には力が入り、いつその刃を振るおうかとその眼が光る。

 

 

 何か、違う気がした。

 何もおかしくないハズ。それなのに、何かが頭に引っ掛かった。

 

 確かに私達ハンターは、モンスターを狩ってる。殺している。

 でも、殺す(・・)っていうその言葉がなんだかモヤモヤした。

 

 

 そんな事を考えている場合じゃない。

 いくら一人でラギアクルスと戦った彼でもこの状況は難しいハズだ。

 

 

「私も数を減らさなきゃ……。行こう、ムツキ!」

「み、ミズキがその気ならボクも頑張るニャ!」

 頼りにしてます。

 

 

「キェェェェッ!!」

 先に仕掛けて来たのはロアルドロス。

 

 全身をしならせて、大きさに似合わない速さのタックルを仕掛けて来た。私達はそれを散り散りになって躱す。

 

 

「小さいのは任せたぞ……っ!」

「う、うん!」

 任されてしまった。なら、頑張らないと!

 

 

「……はぁぁっ!」

 彼は躱した次の手で、黒い剣をロアルドロスの鬣に叩き付けた。

 そこに蓄えられた水分が血液の代わりに周りに散らばり、ロアルドロスは小さく唸り声を上る。

 

 

「可哀想だけど!」

 その真横で、私は近場に居た比較的小さな個体に的を絞って片手剣を抜いた。

 ソルジャーダガーはジャギィの素材を使った片手剣。ロアルドロス相手には少し不安が残るけどルドロスなら!

 

「えぇぃっ!」

 そう思いながら、ソルジャーダガーを振り下───

 

「しまっ───避けろミズキ!!」

「危ないニャ、ミズキ!」

「───ふぇ?!」

 ロアルドロスから目を逸らしたのは一瞬だった。それこそ、アランが一太刀入れてロアルドロスが怯んだその時に片手剣を振り上げたくらい。

 

 それなのに、ロアルドロスはその一瞬で私とルドロスの間に入り込んでその細い尻尾を私に向ける。

 

 

 ───薙ぎ払いが来る……ッ!

 

 そう思った時には既に片手剣に体重が乗っていて、足を動かしてロアルドロスの尻尾を避けようと行動が出来なかった。

 確実に自分を襲う衝撃と痛みに眼を閉じそうになる次の瞬間、私の身体は少し浮く。

 

「ぇ?!」

 その次に聞こえたのは、防具にモンスターの尾が叩き込まれて装備や身体が軋む音じゃなくて───

 

「ニャ……っ」

 ───鈍い音と、そんな短い悲鳴。

 

 

 私を助けて、代わりにロアルドロスの攻撃を受けた大切な相棒が地面を転がる。

 

「そんな…………ムツキぃ!」

「くっそ……っ!」

 私の前に割って入るアラン。私は、といえば何も出来なかったその手をムツキに向けるだけ。

 

 

「グルルルルルル……キェェェェッ!!!」

 鬼の様な形相だった。咆哮に身体が強張って、振り向けばさっきのアランより怖い表情のロアルドロスが、武器を伸ばせば届く距離で私達を睨み付けている。

 

 

「……なるほどな」

 そんな私とロアルドロスの間で、そんなアランの落ち着いた声が聞こえた。

 

 

「……あ、アラン?」

「……お前達、繁殖期か」

 繁殖期?

 

「キェェェェッ!!!」

 尚も威嚇の為か、アランの眼と鼻の先で大きく鳴くロアルドロス。

 その内にムツキを視界で探す。倒れていて顔は見えない。出血は無いけどあの大きさの尻尾を叩き付けられて無事だとは思えなかった。

 本当は私があそこに倒れたいる筈なのに、ムツキ……。

 

 

 ──んニャー、美味しいご飯作るニャ。しょうがないからボクの妹にして上げるニャ──

 

 なんでか、ムツキと初めて会った時の事を思い出す。

 

 

 嫌だよ…………そんなの。ムツキ……ッ!

 

 

「───お、おい待て!!」

「ムツキ……ッ!」

 立ち上がって、ロアルドロスには眼もくれないでムツキの元に駆け寄ろうと走った。

 距離にして十メートル強。そんな所まで飛ばされて、私の為に、私が弱いか───

 

「───っぁ?!」

 ムツキの所に着く前に、何かが私の背中に叩き付けられてその勢いのまま地面を転がる。

 硬いものではない。ただ、圧縮されたそれ(水の塊)は私くらいなら容易吹き飛ばした。

 

 

「……っ、水ブレス…………」

 本日二回目の水ブレス。何も学習しない、相棒に迷惑を掛けてアランにも迷惑を掛けて。

 そんな何も出来ない自分が、無様にも地面に倒れていた。

 

 

「ムツキ……」

 それでも、もう少しで手が届く。

 

「ごめんね……ムツキ……」

 大切な家族に。私が守らなきゃいけない家族に。

 

「……っニャぁ。……ったく、ミズキはしょうがないニャ……」

 彼の肉球に触れた瞬間、少し辛そうな表情をしながらムツキは手に小さな球体を持っていた。

 閃光玉。ここは一旦離脱して体勢を整えた方が良い。

 

 ……私はまた、ムツキに助けられちゃうんだね。

 

 

「キェェェェッ!!」

「閃光玉か……。よし」

 アランもこちらをチラッと見てムツキの意図に気が付いたのか頷いた。

 ムツキはそれを確認してからその手にある球体を、振り絞った力で空に投げる。

 

 閉じ込められた光蟲が球体から脱出する。その時に放つ光を特殊な加工が施された球体が反射し、強い光がこの場を埋め尽くした。

 その光は瞼すら貫通する程で、直接見てしまうと眼を焼かれて数秒間視界を閉ざす事が出来る。

 

 

「「「キェェッ?!」」」

「キェェェェッ?!」

 ロアルドロス達は視界がいきなり焼かれて混乱し、辺りをキョロキョロと見渡したりその場で回ったりし出した。

 今の内にこの場から離れないと。そう思って水で濡れて重くなった身体を持ち上げる。

 

「ムツキ、大丈夫? ムツキ!」

 でも、その言葉に返事はなくて。

 さっきの閃光玉を投げるのに力を使い果たしたのか、ムツキはぐったりとその場で眼を閉じていた。

 

「大丈夫か? 歩けるな。一旦ベースキャンプまでネコを運ぶぞ」

「う、うん! ムツキ、ちょっと我慢してね……」

 骨が折れてたりしたら抱き抱えたりするのは本当は危ないんだけど。

 このままここに居る訳にはいかない。私は自分の唇を噛みながら、ぐったりと重くなった身体を抱えてアランに着いていく。

 

 

「キェェェェッ!!」

 本日二度目の、敗走だった。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「うニャ…………エビフライ」

 ベッドで寝言を言うムツキの容体は、思ったより悪くなかったみたい。

 

 

 でも、私のせいで無理をさせちゃった。

 ムツキには助けられてばかりだ。迷惑を掛けてばかりだ……。

 

 

「ごめんね……」

「謝るくらいなら、次に活かせ」

 座り込む私に、そんな厳しい言葉を掛けてくるアラン。

 そうだよね、アランにも迷惑掛けたもんね……。

 

「そうやって俯いていても、次には繋がらない。仕方ない事もあるし、お前のミスだった事もある。勿論、俺のミスもある」

「アラン……?」

 そう言う彼の表情は無愛想でも無表情でもなくて、あの怖い顔でもなくて。

 優しい表情。まるで家族に見せる様な、私をきちんと見て話してくれている。

 

「あ、アランは悪くないよ! 悪いのは全部私……」

 私は何も出来てなかった。あの場で大型モンスターから何度も注意を逸らして、挙げ句の果てには頼まれたルドロスの一匹にすら攻撃を与えられていない。

 

「俺があいつの事をちゃんと、二重の意味で見ていなかったから、お前に攻撃が及んだんだ。お前は悪くない。……自分が全て悪いと思うのは簡単だ。でもな、それは逃げだ」

「逃げ……?」

 私の頭に手を乗せて、アランはこう続ける。

 

 

「全て自分で背負って仕舞えば、他の何かに負の感情を感じなくて済む。でもそれは、考える事から逃げているだけだ。自分だけが全て悪いなんて思ってる奴は、本当の意味で成長する事なんてない……これは、覚えておいて損はない」

「どういう事……?」

 私には少し、分からなかった。難しい話かな?

 

 だって、私以外にこうなった原因が分からない。

 

 

「場所や環境、相手の事や他人の事は、自分が何をしようがそう簡単に変えられる物じゃない。特に今回お前はロアルドロス達やネコ、俺と大勢に囲まれていた」

「……ふぇ???」

 ダメだ、アランが何言ってるか分からない。止めて、難しい話止めて!

 

「ミズキ、ネコがお前の事を庇って倒れるってお前はあの時想像していたか? 俺がロアルドロスを止められないと想像していたか?」

「え、ぇっと…………」

 そんなの、分かる訳がない。

 

 あの時はただ必死に役に立とうと思っていたから。

 

「そうだ、分からない事だってある。そしてその分からないのは自分の所為じゃない。当たり前だ、他人の事なんてそうそう分かる事じゃないからな」

「そ、そうだけど……」

 でも、私にも何か出来る事があった筈だ。

 

「それでも自分が悪いと思っているんだろう?」

「う、うん……」

 だって、状況を悪化させたのは私だし。

 

「そうだ、お前も悪い」

「……も?」

「大型モンスターに正面を取られているのに背を向けるのは自殺行為だ……。アレがロアルドロスでなくもし飛竜だったらお前はもう生きていないかもしれない」

「う……」

 厳しい言葉に、身が固まる。

 

 

「そうやって、きちんと自分が悪い所だけ(・・)を見据えて直していけ。それが一番の早道だ」

 その言葉で締め括って、彼は頭の上に乗せた手でゆっくりと私を撫でてくれる。

 子供扱いされているようで、嫌だけど。なんだか、防具越しなのに温もりを感じるようだった。

 

「私が悪い所……だけ。あ、アラン教えて! 私が悪い所……全部。私、バカだから……分かんなくて」

「そうだな……これから一緒にやってくんだ。少しずつ教えるさ」

「い、今教えて欲しいんだけど……」

「焦っても良い結果は出ない。急いでも、焦ったりはするな……これは、覚えておいて損は無い」

 何かを思い出すように目を閉じながらそう言ったアランは、一度頷いてからまたこう口を開く。

 

 

「とりあえず、今は俺の悪かった所を考える」

「アランの悪かった所……?」

 そんなの、あったかな?

 

「あのロアルドロスは繁殖期だ。卵を抱えている雌達を攻撃しようとすれば、怒るのは当然。それを見抜けなかった俺が悪い」

「お腹に赤ちゃん達が居たの?! だ、だったらそうだよね……。私、普通に最低な事しようとしてたのかも……」

「でもお前はそれを知らなかった。何度も言うが、相手の事を知るのは難しい」

「でも、だったらアランだって悪くないんじゃ……?」

 私がそう言うと、彼は胸の石を握ってから少し間を空けて答える。

 

「俺は良く考えれば分かった筈なんだ。ロアルドロスは普段水辺で暮らすモンスター。それが、浅瀬に出て来る理由なんてそうはない」

「それが、繁殖期と関係あるの?」

 率直な疑問をぶつける。凄い、アランってモンスター博士みたい……。

 

 

「ルドロスは卵を陸の上で砂の中に生み落とす。村を目指していたのは川沿いに向かえば島の端に着いて砂場があると本能的に分かっているからだろう」

「ほぇぇ……」

 この人、なんでハンターをやっているんだろう?

 

 いや、もしかしてハンターになるならこのくらいの知識は知っていて当たり前なのかな?

 お勉強は少しだけ苦手なんだよね……。少しだけだよ?

 

 

「最低な事……か。ミズキ、一つだけ聞いて良いか?」

「えーと、難しくない事なら!」

「……そうか」

「あ! あ! 答えるから! 難しくても頑張って答えるからぁ!」

 なぜかアランの表情が暗くなるので、私は申し訳なくなって訂正する。

 こういう軽率な言動が私の悪い所なんだろうなぁ……。

 

 

「……お前はあのロアルドロスを、殺した方が良いと思うか?」

 そして、彼が口にした質問はそんな───この世界の理に触れるような事だった。

 

 ──殺す──

 彼のそんな言葉が、一瞬頭に浮かぶ。

 

 

「え……。えと、群れの繁殖のために頑張ってて……それを倒しちゃうのは可哀想だけど…………で、でもそれは私達ハンターが考えちゃいけない事だと思うっていうか。ロアルドロスの為に私達が退く訳にもいかないし、ロアルドロス達もきっと、退く訳にはいかない」

 それが、私の知る限りのこの世界の理だ。

 

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 私達は分かり合えないから。

 戦って、狩って、狩られて、そんな風にバランス良く生きている。

 

 

 お互いが納得いくような結末になるなんて、本当に稀な事の筈だ。

 

 

 それなのに彼は───

 

 

「俺はお前の気持ちを聞きたいんだ」

 真剣な表情で私にそう聞いて来る。

 

 まるでその方法がある事を知っているかのように。

 どちらの答えにも、彼は答えてくれると思わせる表情。

 

 

 人と竜は相容れない。

 そこに絆は生まれないのかもしれない。

 

 

 でも、彼は言っていた。共存関係、無関心、そんな状況が整えば、私達は争わなくても済むんだって。

 

 

 

「私、子育て中の親を倒すなんて……したくないよ」

 だから、私はハッキリとそう答えた。

 

 夢なのかもしれない。

 私のわがままなのかもしれない。

 

 ムツキが聞いたら、怒るかな。応援してくれるかな?

 きっと、ムツキは起きてても……私に付いて来てくれると思う。

 

 

「お前がそう言うなら……ロアルドロスを狩るのは止めよう」

 そして彼は、真剣な表情でそんな言葉を口にする。

 

「え、えぇええ?! でも……それじゃ村は」

「村は守る。ハンターなら当然だ」

 いや、でもどうやって?

 そんな疑問の答えは直ぐにアランの口から出て来た。

 

 

「あのロアルドロスの群れはきっと、元の縄張りの砂浜をなんらかの理由で使えなくなったんだろう。群れ全体の大幅な移動はその為だ」

「だから、砂場を目指して川を下ってるんだよね?」

 その川の向こうにモガの村がある訳だけど……。

 

「あぁ……だから、あのロアルドロス達が納得いく様な砂浜を群れに与えれば良い」

「そっか、別にロアルドロスは村の人達を襲いたい訳じゃないんだもんね! 縄張りが作れればそれで良い!」

「そうだ。ミズキ、島の地図はあるか?」

「ベースキャンプだから、えーと……」

 アランに言われて、私は周りを見渡す。

 

 

「この箱の中…………にぃっと」

 立ち上がって、ムツキを寝かしているテントの横にある赤い箱。そのもう一つ横にある青い箱を開けて中に身体ごと手を入れる。

 大人用で大きいから蓋は重いし底が深いんだよね……っとぉ?!

 

「───うわぁっ?!」

「ミズキ?!」

 思っていたら、そのまま支給品ボックスに身体どころか足まで入ってしまった。おかげで地図は取れたけど。

 

 

「……大丈夫か?」

「う、うん。いつもだから平気」

 この箱変えて下さい。

 

「……そ、そうか」

 引かないでよ。

 

 

「んーと、どれどれぇ」

「ここは?」

 私達は支給品ボックスの蓋を閉めて、その上に地図を置いてアランと話し合う。

 ロアルドロス達が気に入ってくれて村には来なくなるような、素敵な縄張りをプレゼントしてあげなくちゃ!

 

「ここは確か別のロアルドロスの縄張りだし、喧嘩になっちゃうよ」

 

 

「ここは?」

「そこは砂浜じゃなくなっちゃってて」

 

 

「ここはどうだ?」

「ちょっと遠いけど……うん、丁度良さそう! 岩場もあって隠れられる場所もあるんだよ!」

 アランが選んだのは島の西側。エリアとしては分布されてない場所だけど、綺麗な砂浜がある場所だ。

 

 

「決まりだな」

「でも、どうやってロアルドロス達をそこまで連れていくの? 麻痺とか眠らせてとかでもとてもじゃないけど無理じゃない?」

 人間にそんな腕力は無い。うーん、最大の難関に当たってしまった気がする。

 

 

「……簡単だ」

「え? そうなの?」

「あぁ……その代わり、防具は脱いで貰う」

「………………ほぇ?」

「セクハラは許さんニャー!!」

「───なっ?! くふっ」

 起き上がって来たムツキに顔を蹴られるアラン。ちょ、ムツキぃ?! てか超元気ぃ?!

 

 

「復活ニャ!」

「……や、やってくれたなネコ」

「それはこっちのセリフニャ。ボクの寝ている間にミズキにセクハラしようてして、ボクは許さんニャ!」

「うわぁぁんムツキぃ! 良かったよぉぉ!」

「ニャぁぁ?! だ、抱き着くニャ! 今はそれどころじゃないニャー!」

 ムツキが元気で安心して、そのモフモフな身体に抱き付く。良かった、本当に良かった。

 

 

「……仲が良いな」

「んニャ?! べ、別にボクは……お兄さんとして当然だニャ」

「えへへー、いつもありがとうねムツキ」

 

 

「……ふっ、本題に戻るぞ。さて、ロアルドロスを連れていく方法だが───」

「ニャ?!」

「えぇ?!」

 そ、そんなぁ……。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「いやぁぁぁぁああああっ!!」

「ぎにゃぁぁぁああああっ!!」

 孤島に広がる二つの悲鳴。夕方、この孤島では沈んでいく太陽の光を海が反射してとても綺麗な風景が拝める時間帯。

 

 

 それは、小さな川の浅瀬付近を走り回る私達二人の悲鳴だった。

 視界に広がる大自然は、川こそあれぞ隠れる場所一つもない平原。綺麗な草原も、今ばかりは視界には映らない。

 

 

「無理無理無理無理無理……っ!」

「食べられるニァ!!」

 防具無しで、インナーの上に毛布を羽織っただけの姿で全力疾走する私。その横で一緒に走る相棒のムツキ。

 

「無理とだけは言うな、それは自分の可能性を殺す言葉だ……これも覚えておいて損はない」

 そんな私の前を、平然と表情を変えないで走るのはアイシャさん達が呼んでくれたタンジアギルドからの助っ人ハンター。アラン。

 私の新しい仲間、相棒? んーと、何なんだろう?

 

「キェェェェッ!!」

 そして、私達を追ってくるのは海竜種───ロアルドロスとその群れのルドロス達。

 今日三度目の逃げ足。つくづく私は逃げてばかりかなぁ、なんて思うけど今回はまた別。

 

 

 どうやってロアルドロスを砂浜まで連れていくの? 私のそんな質問に対するアランの答えはこんな内容だった。

「さて、ロアルドロスを連れていく方法だが───また攻撃を仕掛けて俺達を追い掛けて貰う。そして砂浜まで、逃げる」

 そんな事を真面目に言ってしまうアランはきっと、モンスターの事が大好きなんじゃないかな? なんて思ってしまった。

 

 ──殺す──

 まるで、あの言葉は嘘のようで。

 

 

 逃げる。ただそれだけだから、私は全力で走る為に片手剣と防具をベースキャンプに置いてきた。

 それでも、ここまで来て足は重くて。防具を着てたらどうなっていたかは簡単に想像が付いた。

 

「……もう少しだ!」

 走り続けて二十分くらい。息がし辛いし、足はガタガタ。それでもようやく見えたゴールに少しだけ足が軽くなった気がする。

 

「ブレス来るニャ!」

 でも、ようやくという所でムツキのそんな声。

 全力疾走を続けてて足が重くて回避どころじゃない。でも今は防具が無くて、水ブレスと言えどタダでは済まない。

 

 

 どうする? そう考える前に、その水ブレスを黒い剣が切り裂いた。

 

「……着くぞ、砂に足を取られるなよ」

 そう言いながら腰に剣を戻すアラン。走りながら水ブレスを斬撃で打ち消したの?!

 驚きの中で、砂浜に到着。ここは何回か来た事あるけど、モンスターの縄張りにはやっぱりなってないみたい。

 

 

 綺麗な砂浜。私達は波が足に当たる所まで走って、振り向いた。

 

 

 

 問題は、ここからだ。

 

 

 

「キェェェェッ!!」

 私達から少しだけ遅れて、ロアルドロスとその群れが砂浜にやって来る。

 群れのルドロス達はこの場所に着いて何か感じたのか、まわりを見渡す素振りを見せたけどロアルドロスだけは私達を睨みつけていた。

 

 ただ、私達が急に止まったのが気になるのか?

 ロアルドロスも立ち止まって、様子を見るように咆哮を上げた。

 

 

 少しだけ、静かな時間が流れる。

 

 

「聞いて! 私達敵じゃないよ! はら、素敵な場所でしょ? その、えと、ここを貴方達の住処にしたらどうかなって……」

「ここは良い所ニャー!」

「無駄だ……」

「ぇ……アラン?」

 アランが言い出したんだよ?!

 

「人と竜は相容れない。そこにあるのは共存関係か無関心だ……ロアルドロスにとって俺達は今、何だと思う?」

「群を襲った…………敵?」

 私達にその気がなくても、彼等から見ればそうでしかない。

 

 人と竜は分かり合えない。

 

 

「だから、俺達に敵意がない事を伝えるのは難しい」

「な、ならどうしたら良いの?」

「武器を構えずに…………歩く」

「そんなバカニャ……」

 それは、自殺行為みたいな物だと思った。

 

 

 モンスターはこの世の理だ。人は弱くて、そのモンスターの腕の一振りだけで簡単に命を落としてしまいかねない。

 だからそれは、無茶で無謀で正気じゃなくて。

 

 

 それでも、私は……昼の事を思い出していた。

 

 

 ──大丈夫だ。あいつは今、お前に敵意は無い。……そうだろ?──

 それは、分かり合えている……とかではないのかもしれない。

 

 

 でも、もしそこにほんの少しでも気持ちを───絆を結べる道があるのなら。

 

 

「行こう……アラン」

 少しずつでも良い。

 

「……あぁ」

 私は、進んで見たい。

 

「に、ニャ……正気じゃないニャ……」

 その道に。

 

 

 

「……頼む」

 小さく聞こえる、アランの声。

 振り向くと、彼は左手で胸の石を握りながら右手で背中に手を伸ばしていた。

 

 見えないけど、きっとその先には今は手にとってはいけない物がある。

 いや、手に取りたくない物があるんだって。アランはそんな表情をしていた。

 

 

「…………殺させないでくれ」

「グルルルルルル……」

 一定の距離を保ちながら、私達はロアルドロスの周りを回るように砂浜を離れていく。

 ロアルドロスは私達から目を離さないけど、襲って来ようとはして来なかった。

 

 

「お願い……」

 私も、思わず口にする。

 

 

 

 

 人と竜は分かり合えない。相容れない。

 

 

 そんな、世界の常識を。理屈を。

 私は今この瞬間───

 

「───っぁ」

 緊張のせいか、私は砂に足を取られて転んでしまう。

 ロアルドロスにそれがどう見えてたかは分からないけど。私ならこう思うな。

 

 

 

 急に動き出して、何をする気だって。

 

 

 

「キェェェェッ!!」

 鳴き声が、咆哮が轟いた。アランの表情が変わって、ロアルドロスの表情が変わる。

 その手が、触れたくない筈の物に添えられる。

 

 

「待って! 違───これは!!」

 私のせいだ……私が───

 

 

「グルゥ……」

 でも、唐突に聞こえるその鳴き声は、その場の緊張感を削ぐのに最適な物だった。

 

 鳴き声の主は、ルドロス。

 余程気に入ったのか、ロアルドロスを信用しているのか。一匹のルドロスがこんな状況の中で産卵を始めていて。

 

 

「グルルゥ……」

「グゥゥッ」

 それに釣られてか、他のルドロス達もリラックスしたような表情で砂を掘り出したり卵を産み落としたり。

 

 

「グルルルルルル……」

 それを見たロアルドロスも、落ち着いたのか目を細めてそんなルドロス達を見守る体制を取った。

 

 

「こんな……事って」

「ニャぁ……ボク達の事見向きもしないニャ……」

 

「…………届いた、のか……?」

 私もだけど、この時アランが一番驚いた表情をしていたのを私は覚えている。

 

 

 こんな事もあるんだ、こんな道もあるんだって。

 

 私は今日この日、思ったんだ。

 

 

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「エビフライニャー!!」

 夜ご飯はエビフライ。我等がお父さん、ビストロ・モガのさすらいのコックことスパイスさん特製のね!

 

 

 私もムツキもこのエビフライが一番の大好物なんだけど、一つだけ分かり合えない……相容れない事があるのだ。

 

「やっぱりエビフライはソースニャ」

「何言ってるの?! タルタルソースに決まってるじゃん!」

 ムツキと私は、エビフライに掛けるソースだけは譲れずに分かり合えないのだ。絶対にタルタルソースの方が美味しいのに!

 

 

「アランはどっち!」

「どっちニャ!」

「ぇ、いや……俺は……」

 アランの住処なんだけど、前任者のあのハンターさんもいつ帰って来るか分からないしあの貸家はそのままにしておくみたい。

 

 それで、アランは私と一緒にこのビストロ・モガの裏に住む事になったんだ。

 

 村長曰く「カッハハハハ! セクハラはするなよ!」との事。んー、でもアランってなんだか女性に興味なさげなんだよね……。

 むしろ、モンスターに恋してる感じがする。なんて、流石に違うか。

 

 

「こ、コックさん……オススメは?」

「ニャ、ミーのオススメはタルタルですニャー。しかし、食とは己の欲求……自らの舌に合う食べ方が一番ですニャ」

「ふふん、ならやっぱりタルタルだよね!」

「ソースニャ!」

 

「…………食材の味をそのままに、生で」

「「えぇ?!」」

「それもまた、一興ですニャ」

 

 

 

 

 そうそう、あのアイシャさんからのクエスト。ロアルドロスを対峙じゃなくて撃退だから、なんとクリアした事になってたの。

 子育て中のロアルドロスを殺さずに、モガの村を救う事が出来た。

 

 こんな素敵な事があるんだなって。こんな素敵な経験が出来たんだって。そう思えて。

 

 

 本当に、素敵な一日でした。

 

 

 

 

「あの!! 私もまかないご飯は?!」

「受付嬢ちゃんは今日やらかしたから無しですニャ」

「そんなぁぁ!」

 アイシャさん……。

 

 騒がしい毎日が始まりそうです。

 

 

 

 

 ようこそ、モンスターハンターの世界へ。

 

 

 

 これは、竜と絆の物語。




ここで読了、ありがとうございました。
大体、どんな物語になるのか。ここまでのお話で伝えられたかなと自分は思います。
勿論、まだまだだななんて思っても居ますが、これが私の今の全力でしょう。

ここまで読んで頂けたなら好き嫌いがハッキリするのかな……。
そこで、もし気に入って頂ける方が居ましたら……最後まで付き合って下さると嬉しい限りです。



作品についての補足。
アランが片手剣の剣だけで防具も何も無しだったのは、ラギアクルス戦が急だった為です。
本来の彼の装備は次のお話で明らかになりますので、是非!←


でわ、またお会い出来ると嬉しいです。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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狩る者と狗竜のボス

 真っ直ぐ。水平に空中で黒い線を描く。

 右手に握られた短剣は、目の前のモンスターの下顎を切り落とした。

 

 

「グォィ?!」

 下顎が地面に落ちる音と共に、モンスターはそんな悲鳴を上げる。

 

 扇のような耳が特徴的な鳥竜種、ジャギィ。

 そのモンスターの無くなった下顎に、俺は左手で構えたライトボウガンを突き付けた。

 

 

 蒼火竜砲【三日月(ミカヅキ)】───アイツ(・・・)が俺に残してくれた素材を使った一品。

 世間一般に知られている蒼火竜砲と違って大幅な軽量化と小型化がされているのは、俺がこの武器を作った時まだ年端もいかない子供だったからだ。

 

 あの頃は両手で持つのが精一杯だったのに、今は片手で持ててしまう。

 ただ、それはそれで俺の戦い方にあっているのだと思っていた。

 

 

「……殺す」

 躊躇無く、トリガーを引く。

 火薬が弾薬を弾き、下顎という盾を失ったジャギィの頭を火炎弾が吹き飛ばした。

 

「「ウォゥッ!」」

 次は二体。左右から飛びかかってくる二匹のジャギィ。

 

 

「…………チッ」

 右から飛び掛かるジャギィの腹部に短剣を突き刺し、その勢いを殺さずに左から来るジャギィに流して二匹を地面に叩き付ける。

 返り血が飛び散るが、これが最後だから気にする事もないだろう。

 

「…………殺す」

 地面に倒れて身動きが取れない二匹にライトボウガンを向けた。

 

 

「や、辞めて! もう充分……じゃない? ね、ねぇ?」

 アオアシラの装備を着た金髪の少女が、もう終わりだというのに俺と奴等の間に入って来てそんな事を言う。

 

 

 その言葉を聞いて、俺の身体は少し固まった。

 

 

 周りを見てみる。

 綺麗な草原に染み付く赤色。所々に散らばる肉塊は、その全てが自分で作った物だった。

 

「……どけ、ミズキ」

 でも、これは当たり前の事だ。仕方がない事だ。

 

 

 人と竜は相容れない。今このジャギィ達を見逃せば、いつか誰かを傷付けられるかもしれない。

 だから、殺すしかないんだ。

 

 

「アラン……」

 少女はその純粋な瞳で俺を確りと見ている。

 お前にも、もう少しで分かるさ。

 

 

「ニャ! ミズキ後ろニャ!」

「───ぇ?!」

「「ウォゥッ!」」

 人と竜は、本当に分かりあう事なんて出来ないって事がな。

 

 

「……人と竜は相容れないんだ」

 孤島に響く銃声は、そのクエストの終わりを告げる鐘の音にも聞こえた。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「……ね、ねぇ、アラン。……殺すしかなかったの?」

 クエストの帰り。少しベースキャンプで休んでいくって事になった私達。

 

 

 蒼い装備を頭以外に身に纏い、黒い剣と蒼いボウガンを背負うアラン。

 初めて会った時とは違って本当にハンターって格好をしている彼に、私はそう質問したの。

 

 

 私ね、昨日とっても不思議な体験をしたんだ。

 

 群れごと村に向かって来るロアルドロスをね、退治せずに撃退したんだよ。凄いでしょ?

 アランはね、ロアルドロスの事凄く分かってあげて。それでロアルドロスが村に来ないようにまでしてあげた。

 

 そんな、夢みたいな体験を私は昨日の夜ずっと思い返してたの。

 

 

 でね、今日は村にジャギィの群れが近付いて来てたんだって。

 そんなジャギィを追い払う為に今日も私達はクエストに。

 

 ラギアクルスに襲われて修理していた交流船も帰って来て、アランの装備もしっかりして出発する時、私は内心すっごいドキドキしてた。

 また、昨日見たいな素敵な体験が出来るのかなって。モンスターと繋がれるのかなって、思ってしまっていた。

 

 

「アイツらはただ餌を探していた……そんな奴等がこのベースキャンプを出た直ぐ先にまで来ていたんだぞ? ……殺すしかない」

 防具を着ても外さなかった、胸のペンダントを左手で握り締めながらそう言うアラン。

 

 確かに、ジャギィが居たのはモガの村が見えてしまう位村に近いエリア。

 普段はそこに居るケルビ達も隠れてしまう程の量のジャギィを、アランは一人で全部倒して見せた。

 

 

 本当に強かった。凄いって思った。

 右手の剣は確実に相手の弱点を突き、左手のボウガンは無駄のない動きで命を穿つ。

 

 片手剣の盾を捨ててライトボウガンを背負うハンター。そんな人、私は初めて見たんだけど武器に振り回される事なく完璧に使いこなしていたって私は思った。

 

 

 でも……でもさ───

 

「本当にアランは殺したかったの……?」

「は?」

 戦っていた時のアランの表情を思い出す。

 

 

 初めは、ロアルドロスと対面した時のようなとっても怖い表情だった。

 でもジャギィを一匹でも狩る度に、彼の表情は少しだけど歪んで。それを鎮める為に「殺す」「殺す」って呟いていたようにも見えたの。

 

 

「ねぇ……アランは本当は殺したくなんかなかったんじゃないの……?」

「…………そんな事があるか」

「アラン……?」

 胸の華麗な青い石を握るのを辞めながら、彼は立ち上がってこう続ける。

 

 

「……昨日のあんなのは本当にただの偶然だ。ハンターなら殺して当たり前だろう……?」

「そ、そうだけど……」

 うん。それが私達ハンターだって、私だって分かってる。分かってるつもりなんだけどな。

 

「帰るぞ。午後から鍛錬に付き合うんだろ?」

「あ、う、うん!」

 背を向けてそう言うアランの声は、少し苛立っているようにも聞こえた。

 怒らせちゃったのかな……。

 

 

「あ、待ってニャ! まだ生焼けだニャ、せめてこんがり焼きたいニャ…………ニャー! 置いてかにゃいでー!」

 私は、勘違いしてるだけなのかな……?

 

 

 

 

「お腹壊すよぉ……?」

「勿体にゃいもん」

 どう見ても生焼けのサシミウオを食べながら歩くムツキに、私はそうやって注意する。

 美味しそうに食べる彼の尻尾は先っぽの白い所だけ小刻みに揺らしていて、とても嬉しそう。

 

「それに、ボク達メラルーはアイルーと違って丈夫ニャ!」

 って、よくムツキはメラルーである事を誇りに言うんだけど。アイルーとメラルーってなにが違うんだろう……?

 

 

「はーい、お二人方お疲れ様です! 今回は早かったですね! クエストは無事に完了しましたか?」

 村に戻って最初に話し掛けてくれたのはギルドの受付嬢アイシャさん。

 赤い制服を身に纏い、黒い髪を下ろした彼女はというと───ビストロ・モガでまかない飯を食べていた。

 

「……あ、はい」

 流石のアランもドン引きである。

 

 

「アイシャさん……仕事中だよね?」

「え?! いや、あー! そうでした! でも皆が美味しそうに食べてるし……昨日みたいに二人ともモンスターを狩らずにクエストクリアして来るんじゃないかって思ってそしたら時間が掛かる訳じゃないですか? そしたらお腹が減る訳じゃないですか?」

 淡々と言い訳を述べるアイシャさん。頰っぺたに着いたお米が何とも可愛いが、こんな態度でお仕事してたら偉い人に怒られちゃうよ……?

 

 

「……クエストを無事クリアして来たので、報告を。これが証明の素材です」

 そう言うとアランは、慌てふためきながら食事を片付けるアイシャさんにさっき狩ったジャギィの牙を見せる。

 その素材もそうだけど、アランの防具は血塗れでジャギィを倒したと照明するにはそこまで見せなくても良い気もした。

 

 

「はい、確認しました。クエストクリアです! お二人共、お疲れ様!」

「……ボクも居るニャ」

「あれ、居たんですか」

「ニャー!」

 二人は仲が良いなぁ。

 

 

「ムツさん小さくて見えませんでしたー!」

「許さんニャ。喰らえ必殺ネコパンチ!」

「届きませんねぇ!!」

「ニャー!」

「喧嘩そこまでー」

 カウンターに登ってアイシャさんに肉球を押し付けるムツキ。

 本気じゃないんだろうけど見兼ねてムツキを抱っこして止める事にした。

 

「にゃうん……」

「もー、仲良くしなさい」

 本当は仲良いの知ってるけどね。

 

 

「もう孤島の生態は大丈夫なんですか?」

「はい! 今日の所はジャギィのお話しか聞いてないから大丈夫ですよ! お二人はごゆっぬりとお休みしてて下さいねー。いつ、村に凶暴なモンスターが来るか分かりませんから! それでは!」

 そう言うアイシャさんに別れを告げて私達は直ぐ隣の家、ビストロ・モガに帰宅。

 アランが返り血を浴びた防具を洗っている間に私も着替えて、私はソルジャーダガーだけを残して防具を押し入れに片付ける。

 

 

「アランに素振りを見て貰うんだっけかニャ?」

「うん、そうだよ。私も強くならないとクビになっちゃうからね!」

 少しモヤモヤするけど、やっぱりハンターはモンスターを狩らなきゃいけない。

 その為には、私はまだまだ未熟過ぎると思う。良くアオアシラを倒せたなぁ。

 

「ま、ボクはミズキがハンターだろうが農民だろうが料理人になろうがどこまでも着いていくニャ」

「ありがとう、ムツキ」

 うん、ムツキとなら私もどこまでも行ける気がするな。

 

 

「準備は出来たか……?」

「う───ふみぇっ」

 声を掛けられたから振り向いて返事をしようとしたんだけど、なぜかチョップを貰った。

 

 え? なんで? え?

 

 

「武器を振る時は防具を付けろ。怪我をしたらどうする……」

「……あ、うん。ごめん」

「……ごめんなさい、だ」

「えー」

「……昼飯を食べて少ししたら始めるぞ」

 ただ分かったのは、アランは本当はとっても優しい人なんだって事。

 

 

 

 

「もっと腰を使え。腕だけで振るな」

「何言ってるか分かんない!」

 昨日の夜、私はアランに鍛錬して欲しいって頼んで。

 今朝突然ジャギィの話が来てクエストに向かったんだけど、アランは覚えてくれてたみたいでこうして付き合ってくれていた。

 

 でも、アランが何を言ってるのか分からない。

 腰を使うって何? 腕以外でどう振るの?

 

 

「……力を抜け」

「う、うん」

 言われた通りにすると、アランは私の背中に立って後ろから手を回してくる。

 両手に握るソルジャーダガーを上から握って、アランがゆっくりと私に動作を教えてくれた。

 

「振り下ろす時はここに力を入れろ。剣は叩き付けるだけでなく、引くように振れ」

 何度か動きを確認。アランの手、大きいなぁ。

 

 

「分かったか? 一回振ってみろ。ちゃんとやれば音が変わる」

「音が……?」

 言われた通りにソルジャーダガーを振ってみると、本当に風を切る音が変わっていた。

 

 さっきまではブンブン音がなっていたのに、今度はヒュンッて音がして。

 なんだろう、これまでは振っていただけなのに本当に空気を切っているような感覚を覚えた。

 

 

「……飲み込みは良いじゃないか」

「えっへへぇ。そうかなぁ?」

 褒められたのかな? 褒められたのなら嬉しいな。

 

「ニャ! 気を抜いたらダメニャ! 怪我したらどうするニャ!」

 なぜかちょっとプンスカしてるムツキに諭されて、私はアランの指示の元その日は日が沈むまで片手剣を振り続けた。

 

 

 

 

「頑張った後のご飯からお風呂は最高だねぇ」

 風呂上がりの牛乳を腰に手を置きながら一気飲み。

 運動、牛乳、後は睡眠を取れば身長が伸びるのでは? なんて事考えていると、お風呂場の扉をコツコツと叩く音が聞こえた。

 

「ムツキー?」

「うニャ。開けても良いニャ?」

「バスタオルあるから大丈夫だよぉ」

 ムツキだし。

 

「着替え忘れてるニャ。アランも居るんだから気を付けるニャ」

 そうとだけ言い残して、ムツキは私のパジャマを投げ捨てると早々に扉を閉めた。

 

「あーそっかぁ……」

 アランは男の人だもんね。

 反省しながら着替えて、お風呂場を後に。

 

 なぜか部屋には、アランの眼を後ろから手で塞ぐアイシャさんの姿が。

 扉の前にはムツキが腕組んで立ってるし、どうなってるの……?

 

 

「ミズキちゃんの事は私が守りますからね!」

「……俺は興味がないと何度───」

「守りますからね!」

 えーと、これはどういう状況なのか。

 

 

「どうしたの……? 皆」

「……分からん」

 アランはそう言うし、アイシャさんは親身な表情だし、ムツキは何か怒ってるし、お父さんはやれやれといった感じ。

 

 不思議な光景だねぇ……?

 

 

 

 

「それで……話ってのは?」

 やっと解放されたアランはアイシャさんに向き直ってそう言った。

 まかないも食べ終わったのにまだ家に居るって事は、アランの言うそのお話があるって事なのかな?

 

「もしかして緊急クエストですか?」

 昨日のロアルドロスのような、直ぐにでも被害が出る可能性のある標的は緊急クエストとして処理される事が多い。

 重要性が高いから、ギルドとしてもハンターには有益な報酬を出すんだって。ハンターランクの昇格とか、多額の金銭とか。

 

 

「いや、そういう訳ではありません。ただ、個人的に気になるので明日にでも行って来て欲しいんですよね」

 そう控えめに言うアイシャさん。なんだか複雑そうな表情。

 

「……構わない。ミズキも良いな?」

「うん、私は大丈夫だよ」

 ちょっと鍛錬で疲れちゃったけど、多分大丈夫。

 

「それはそれは大変助かります! そいでは、クエストの内容なんですけどね?」

 そう言うアイシャさんに聞き耳を立てる。

 大型モンスターとかだったらどうしよう……。

 

 

「今朝は村のほんの近くまでジャギィが来てましたよね? あのジャギィ達は本来ココの群れのジャギィ達だと調査の結果分かりました」

 食卓の上に広げられていた、地図のある一点を指差しながら言うアイシャさん。

 その場所は、私も知っているジャギィの群れが居るエリアだ。

 

「……遠いな」

 アランが小さく呟いた。

 うん、遠い。そこは孤島でも中心くらいに位置するエリアで村からはとっても離れている。

 そんな所に居るジャギィ達が、村の直ぐそばまで来ているのはおかしいよね?

 

 

「はい、遠いんです。なので私も、うーん? なんて思い、お二人に調査をお願いしたいのですが良いですか? もしかしたら、最近の生態の乱れに大きく関係しているのかもなんて思いまして」

 ここ最近、モガの森はあのナバルデウスを巡る事件の時のように生態が不安定になってるの。

 その原因かもしれないなら、調査しに行くしかないよね!

 

「私行きます!」

「ボクも行くニャ」

「流石ミズキちゃん! ついでにムツさん」

「あニャ?」

 怒らなーい。

 

 

「一つ良いか?」

「ほい?」

 そんな所で、アランは真剣な表情でアイシャさんに質問。何か気になる事があったのかな?

 

「孤島の生態がおかしくなってきたのはざっとこの二、三ヶ月だと聞いているが。……その二、三ヶ月で特段変わった事はあったか?」

 なんて、そんな質問をしてくる。あ、難しい話?

 

 

「変わった事……ですか。何かありました?」

 二、三ヶ月前……。あ、そうだ……。

 

「アイシャさん忘れてちゃダメだよ……。あのねアラン、あんまり良い事じゃないんだけど」

「何でもいい、教えてくれ」

 真剣な表情で私を向くアラン。ハンターとして当たり前かもしれないけど、モガの森の生態をこんなに真剣に考えてくれるのは少し嬉しい。

 

「……モガの森に採取クエストをしに来たハンターさんが、亡くなったって事があったかな」

「あ、あれ……まだ二、三ヶ月前の話でしたっけ?」

「うん、丁度三ヶ月位前だったと思うよ」

 私、それ聞いた時ムツキに「今直ぐハンターなんて辞めるニャ」って凄い説得されたもん。覚えてる。

 

 

「……採取クエストで、ハンターが?」

「凄い大きなモンスターに食べられちゃったみたいな遺体があったんだって……」

 今思い出しても、怖いお話。直接見ていたら、私もハンター続けていられたか分からない。

 

 ……今でも、怖いし。

 

 

「屈強で強そうなハンターさんだったのを、ミーは覚えていますニャ」

 そのハンターさんはビストロ・モガで食事を取っていてお父さんは顔を覚えてるみたい。

 そんなハンターさんでも、死んじゃうんだ……。

 

 

「場所は……?」

「海岸沿いのエリアでした」

 と、難しい顔で答えるアイシャさん。

 アイシャさんだって、ギルドの受付嬢としてあの事は忘れられない思いがあるんだと思う。

 

 

「ラギアクルス……いや、なら死体は残らないか」

 小さく呟くアラン。彼は今、何を考えているんだろう。

 

「そうですね。皆同じ見解で、結局の所正体は不明でした。ギルドはラギアクルスと決めて報告書を作成していましたけど……ね」

「……海岸沿い、か。その場所もついでに調査して来ても良いか?」

「あ、はい! 構いませんが、気を着けて下さいね。えーと場所は───」

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 島の中央を水平に西側。

 先日のロアルドロスを誘導した新しい縄張りからちょっと離れた海岸沿い。

 

 

 岩場とかも無くて見渡す限りの砂場。

 こんな視界の良い所でハンターさんは逃げる事も出来ずに殺されてしまった……。

 

 

 

「ここは船が止めれたりするか?」

 ちょっと周りを見渡してから昨日と同じ片手剣とボウガン、それに頭以外の蒼色の装備を着たアランがそう聞いて来る。

 ちなみに私はいつも通りのアシラ装備。可愛い帽子がお気に入りです。

 

「うん、海中に大きな岩も無いし船も来られる場所だよ。それが、どうかしたの?」

「……いや、これはなんだと思ってな」

 そう言いながら、アランは小さな波が揺れる場所まで歩いて何かを拾い上げる。

 

「そ、それって……」

「……明らかな人工物。だな?」

 アランが拾い上げたのは、結構長めの鉄の丸棒だった。

 所々破れた布が付いているそれは、まるで───

 

 

「船の帆を付ける奴みたいニャ」

 答えを、ムツキが口にする。

 

 うん、海を渡る船が帆を付ける為の材料に見える。

 敗れている布も、帆だったんじゃないかな?

 

 

「なんで……こんな所にそんな物が?」

「ギルドが調査した時は見落としたか、その時より後に波で運ばれて来たんだろう。恐らく後者だが」

「いや、こんな所に船の破片があるってのがおかしいニャ。それに、これ見たら僕でも分かるニャ……この船、多分沈んでるニャ」

 うん、ムツキの言う通り。

 

「それに……船が沈んだりしたら村に連絡が来る筈だもん。私が知らないだけかも知れないけど……少なくとも私は知らないよ?」

「そうか……と、なると」

 言いながらアランは鉄の丸棒を持ったまま歩き出す。あれ? もう良いの?

 

 

「ギルドに連絡が行ってないなら、非公式の船かもしれない。なら、その船やこの場に居たハンターはなんだと思う?」

「え、えーと……」

 分かりません。

 

「……密猟者、かニャ」

 私と一緒にアランに付いて歩きながら、ムツキはそんな言葉を落とす。

 

 

 え、密猟?!

 

 

「……その可能性がある。とりあえず、船の事はギルドに伝えなければならないからこの棒とメモをベースキャンプに置いてから次の調査をしに行くぞ」

「えー、ついでじゃダメなの? なんで戻らなきゃダメなの?」

 結構歩くんだよ……?

 

 

「……調査中に俺達が死んだらどうする」

「こ、怖い事言わないでよ……。そんな、調査なんかで───」

「狩場を甘く見るな。素材ツアーでもハンターは死ぬ」

「ぅ……」

 厳しい言葉に、私は言葉も出なかった。

 

 

 私、場違いなのかな……。

 

 

「これから覚えていけば良い。厳しい言葉が嫌なら俺は言い方を少し変えても良い。ただ俺は……ハンターとして、覚えておいても損はない事をお前に教えてやるつもりだ」

「アラン……。わ、私色々覚えるから……そのまま厳しくで良いよ!」

「そうか……」

「ミズキに覚えられるかニャ?」

 ムーツーキー……。

 

 

「……頑張れ」

「うん、頑張るよアラン!」

「アラン、さんだ」

「もう敬語は諦めた方が良いニャ」

「はぁ……」

 そんなに敬語じゃないとダメなのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく感じたのは、静かだなって事だった。

 

 島の中央に位置するエリア。

 周りは岩とかで囲まれていて、端にはちょっとした池と中央には私の三倍くらい大きな岩がある。そんなエリア。

 

 

 おかしい。

 前来た時は、ジャギィの群れでいっぱいでこんなに静かじゃなかったのに。

 

 今はなんだか、寂しい。

 

 

「あ、あれ……?」

「何も居ないニャ?」

「……いや、居る。良く耳を澄ませ」

 んえ?

 

「えーと……」

 言われた通りに聴力に集中。すると、何だか呻き声のような鳴き声が聞こえた来たの。

 

「ヴゥ……」

 野太く、苦しそうな声。

 

 

「あの岩の裏か?」

 そんな事を言いながらアランは躊躇なく大きな岩に向かって歩いていく。

 え、いや、アラン?! 危ないよ?!

 

「付いていかないニャ?」

「うぅ……」

 絶対あの裏にモンスター居るよね? 大丈夫かなぁ?

 

 

 迷ってても仕方ないか。

 

 ──素材ツアーでもハンターは死ぬ──

 唐突に、そんな言葉が頭を過る。

 

 

「私は、何があっても良いように武器を直ぐ構えれるようにして行こっかな……」

「ん、それが良いニャ」

 私も、少しずつ成長しないとね。

 

 

 でも、なんでアランはあんな無警戒なんだろう……?

 

 

 

「……やっぱりか」

「どうしたのアラ───っぁ?!」

 アランに追い付いて岩陰を覗いてみると、そこには目を塞ぎたくなるような光景が広がっていた。

 

 

「ヴ……ヴゥ……ッ」

 そこには、まるで背中を何かに食い千切られたような姿のモンスターが倒れていて。

 そのモンスターを守るようにジャギィやジャギィノスが周りを囲んでいた。

 

 特徴的な襟巻のように広がる耳と、ジャギィの数倍の体格を持ったこのモンスター。

 ジャギィ達の群れのボスでドスジャギィって呼ばれている。実は雌より小柄な雄が成長した姿なんだって。

 

 

 そんなドスジャギィが岩陰で横になって、背中の大きな怪我に呻き声を上げていた。

 これだけ近付いたのに、ドスジャギィは立ち上がる事もなく。ジャギィ達は私達を睨み付ける。

 

 それだけ傷が辛いのかな……。

 

 

 

「……なるほどな」

「あ、アラン……これ」

「ひ、酷いニャ……」

 こんな酷い怪我、ドスジャギィ同士の縄張り争いじゃありえないよね……。

 

「ジャギィ達が村まで近付いて来たのは、この群れが崩壊の危機にあるからだろう……。流石に理由は分からないが」

「群れが……?」

 どういう事かな?

 

「モンスターの回復力ならこの傷でも助かる可能性はあるが、この状況で他のドスジャギィやモンスターに襲われれば確実に群れは終わる」

「そんなの、可哀想だよ……」

 なんて思ってしまうのは、ハンターとしてダメなのかな?

 

 

「ふっ……」

 え、なんで笑うの。

 

「ジャギィ達が村まで近付いて来たのはこのボスを見限ったか、ボスの為に餌を探しに行っていたか……そんな所だろう」

「前者かニャ? 普通に考えるなら」

「この子の事が心配でご飯を探してたんだって思いたいなぁ……。アランはどう思う?」

「……そのジャギィ達を俺は皆殺しにしたんだぞ。……俺に聞くな」

 ぅ……。

 

「ご、ごめんなさ───」

「後者だ」

「ニャ?」

「ほぇ?」

 確かな、そして決意の籠った声でアランはそう言った。

 

 

「見てみろ、このジャギィ達。ボスを守ろうと俺達から目を離さない……」

 アランに言われるがまま、ジャギィ達を見る。

 

 ボスから離れずに、ただ私達を見ているジャギィ達。まるでこっちに来ると容赦しないぞって言ってるみたいだった。

 

 

「……きっとこのボスは良い奴なんだろうさ。それこそ、群れを守って怪我をするほどのな」

「た、助けてあげられないの?!」

 こんなの、ハンターなのにおかしいって思うかもしれない。

 

 

 私はハンターで、この子はモンスターなのに。

 こんな感情を抱いてるのは、助けようと思ってしまうのは、変なのかな。

 

 

「……ふっ」

 それを聞いたアランは、笑った。

 

 変……だよね。

 

 

「助けるか」

「───ぇ」

 本当に?

 

「そ、そんな事出来るの?!」

「ま、また走るのニャ?!」

「今回は簡単だ。ただ、俺の武器と防具をお前らに持ってもらう」

 えーと、どういう事かな?

 

 全く何を言ってるか分からないままに、アランは自分の防具を取り外し出した。

 ボウガンと片手剣も私に預けて、防具をムツキに預けて、彼は胸の石を握りながら深呼吸する。

 

 

「二人共、俺を信じて…………絶対に武器を抜くな」

 そうとだけ言うと、アランはドスジャギィに向かってゆっくりと歩いていく。

 

 ちょ、ぇ、危ないよ?!

 

 

「ウォゥッ」

 一匹が、威嚇した。そこでアランは止まる。

 

「……お前達のボスを助けたいんだ。通してくれ」

「グゥゥ」

「あ、危な───」

「絶対に抜くな」

 私が足を前に出した所で、アランはもう一度念を押してきた。

 

 いや、だって……もしジャギィが噛み付いてきたらアランだって大怪我じゃ済まないんだよ?!

 

 

「大丈夫、俺は丸腰だ……お前らのボスに悪い事はしない。……な?」

 アランはジャギィ達に語り掛ける。その言葉がどこまで通じているか分からない。

 でも、ジャギィ達は何故か動きを止めてくれた。

 

「この傷なら普通は二、三日もすれば完治するハズだ。それが出来ないという事は……」

「ヴゥ゛ォ゛ッ」

 そこで、なんとアランはドスジャギィの傷口に手を入れ始める。

 勿論ドスジャギィは悲鳴のような声を上げて泣き叫んだ。周りのジャギィ達は困惑してお互いで見合ってどうするか考えてるみたい。

 

 

「あ、アラン!」

「大丈夫だ。今楽にしてやる……っ!」

「ヴォ゛ォ゛ッ、ォ゛ォ゛ッ」

 大きな、鳴き声。同時にアランの手は傷口から出て、一緒に鮮血が飛び散る。え、何したの?!

 

「ウォゥッ! ウォゥッ!」

「大丈夫だ……っ。大丈夫だから……」

 アランはそう言いながら、今度はジャギィ達を確りと見て後ろ向きに歩いて来る。

 

 まるで、先日初めて会った時の事を思い出させるような光景だった。

 

 

「もう、後は寝てれば治る。大丈夫だ……大丈夫」

 語り掛けるように戻って来るアラン。

 

 

「す、凄い……っ。なんで襲われなかったの?!」

「生き物ってのは、本来殺意とかに敏感なんだ。相手の姿や行動でそれが自分にとって脅威で有るか無いか、ちゃんと見てるのさ。防具や武器を持ったハンターなんて脅威でしかないから襲われるのは当たり前で……ハンターは多分勘違いしている」

 まるで、自分がハンターではないみたいにそう言うアラン。勘違い……?

 

「ジャギィは元々、そんなに好戦的な生き物じゃないんだ。全てのモンスターがとは言わないが、武器を持って近付くから反撃するしかなくて襲われる。勿論、餌にしようとしてる時はまた別の話だがな」

 ジャギィ達を見ながらそう言うアランの表情はとても優しい物で。まるで友達を見るような表情だった。

 そっか……だから、あの時ジャギィ達の真ん中で寝られてたの……? いや、でも……そんな事を確信を持ってするなんて。

 

「アランって……凄いね」

「……そんな事はない。さて、奴等から目を離さずに背を向けずにここから離れるぞ」

 そして、あの時のような言葉を言いながらアランは戻って来たんだ。

 

 手に、何か大きな牙みたいな物を持って。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「それは……?」

 クエストの帰り道。ベースキャンプであの丸棒を回収してから私は、アランが手に持った真っ赤な物が気になって声を掛けた。

 

 

 まるでそれは生き物の牙みたいな形をしてて。でも、それってドスジャギィの傷口から出て来た物だよね?

 も、もしかして内臓?!

 

 

「あいつを襲った奴の、牙だな」

「そ、その大きさで?!」

 もしかして、ラギアクルスなのかな……?

 

「あぁ……。どのモンスターの物か、までは分からないが」

「それ、ドスジャギィの傷口から出て来たんだよね……?」

 アランはそれを取り出して、もう良いって言ってあの場を離れちゃったけど。ドスジャギィは大丈夫なのかな……。

 

 

「あぁ、これがあいつの治癒を邪魔してたんだろうな」

「治癒の……?」

「モンスターは人間なんかよりよっぽど回復力が高い。それこそ、あの傷でも自力で治せるくらいにはな」

 な、何それ凄い。生命の神秘。

 

 

「けど、それをこいつが邪魔してた。だから治りが遅くて、ジャギィ達も直ぐそこまで餌を調達しなければならない程にドスジャギィは衰弱してたんだろう」

「そ、そうなんだ……。アランって凄いね。───って、事はもうあのドスジャギィは大丈夫なの?!」

「あぁ、数日で完治するし。ジャギィ達も縄張りを離れて遠くまで餌を取りに行くこともなくなるだろう」

「ほ、本当に?!」

「……あぁ。まぁ、後はあいつ次第って所だけどな」

 まるで、とっても不思議な体験。

 

 

 人と竜は相容れないって、彼は言うのに。

 

 彼はまるで竜と繋がっているみたいで、彼等の事を分かってあげてるんだって思った。

 でも、昨日の光景が一瞬だけ脳裏に映る。あの時のアランは、まるで別人みたいだったな……。

 

 

「ねぇ、アラン……」

「なんだ?」

 だから、聞きたい。

 

「どうして……ドスジャギィの事を助けてあげたの?」

 私は、貴方の心が知りたい。

 

 

「……今回は狩猟クエストじゃないからな。それにあそこでドスジャギィが死んだら、行き場を失った群れがまた生態系を狂わせるかもしれない。ドスジャギィが回復すれば、昨日みたいにジャギィがここまで来る事もなくなるだろう?」

 言葉を選んで話しているみたいに、ゆっくりとそう話すアラン。

 

 だから、多分それは嘘なんじゃないかなって思った。

 

 

「……だから別に、助けたくて助けた訳じゃ───」

「アランってさ」

「……?」

「優しいね」

「は?」

 不思議そうな顔をしてるアランを置いて、目に見えてきた村に向けてちょっと早歩きで歩き出す。

 

 勘違いかも知れないけど。検討違いかも知れないけど。

 

 

 少しだけ、アランの事が分かった気がする。

 

 

 

 

「いつまでボクに防具を持たしておく気ニャー!!」

「あ、すまん」

「わっ、ご、ごめんねムツキ!!」

 

 だから、これから始まる生活が───私はちょっと楽しみに感じたんだ。




読了ありがとうございましたm(_ _)m
こんな感じのお話の短編を書きながら、少しずつお話を進めていく気です。

独自解釈が少し厳しめかもしれませんね……。
一応、モンスターも生き物です。獰猛と思われているクマやイノシシなども、出会ってしまっても襲われない方法があるみたい。
人に慣れていない生き物は物凄く警戒するけど、何か決定的な事があるまで自分から襲う事は少ないとも聞きます。勿論、彼の言う通り餌だと思われればそれまでなのですが……。

だから、比較的小柄なジャギィならそんな事もあるのかな……なんて妄想しながら書きました。やはり、独自解釈なのですが……。

アニメの話になるのですが、ストーリーズライドオン四話のシモーヌさんの「人間もモンスターも同じ生き物。大切なのは素直な思いを伝える事だ」という台詞。
モンスター……いえ、生き物と絆を深める、分かり合うのにこれ以上に必要な物は無いとも、思ったり。ストーリーズ、個人的に好きです。


さて、不定期更新なのでモチベーション次第で更新速度が変わってくるのですが……ゆっぬりとお付き合いして下さると幸せに思います。
でわ、またお会いできると嬉しいです。


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彼と彼女の事

前後編の前編です。


 ──アランって、優しいんですね──

 そんな言葉を思い返していた。

 

 

「……俺は、狩り人になりきれてないのかもな」

 モガの村。孤島地方にある小さな村で一人。

 夜遅くだから当たり前なのだが、まるで誰もいないかのような静かな空間でふと空を見上げる。

 

 真っ暗な世界に点々と。まるで黒いキャンバスに無造作に開けられた小さな穴から差し込む光。

 その中に、一つだけ大きな違和感が浮かんでいた。

 

 円とも半円とも言い難い形の、周りの穴と比べても大きな穴。

 しかし、ハッキリと形が分かる。

 

 

 今日はあの日と同じ三日月だった。

 

 月がこの形をしている時は、やはりあの頃を思い出してしまう。

 

 

「なぁ、ミカヅキ……」

 視線を落とした先には、もう話す事はない大切な相棒の姿があった。

 蒼火竜砲。ライトボウガンに話し掛ける俺は、端から見たらどう映るだろうか。

 

「ここに来てからなんだかおかしいんだよ。……俺はハンターのハズなのに、お前と過ごしていた時みたいな事をしてる。もしかしたら、あの時よりお人好しになってるかもしれない」

 いくら話し掛けたって、ライトボウガンから返事が来る事はない。

 

 

 当たり前だ。

 

 あいつはもう、居ない。

 

 

「……どうしてだろうな」

 思い当たる節は、あった。

 

 ボウガンの反対側に置いておいた片手剣を握り、夜空に掲げる。

 

 

「多分、お前に似てるんだよ。ヨゾラ」

 勿論この剣だって、返事はくれない。

 

 

「……優しい所とか、少し抜けてる所とか。なんか、似てるんだよ」

 

 

 なぁ、お前ら聞いてるか?

 

 返事をしてくれたって良いじゃないか。

 

 

 だって今日は、夜空(ヨゾラ)三日月(ミカヅキ)もこんなに綺麗なんだ。

 

 

「…………」

 我ながら、バカみたいだな。

 

 

「カッハハハハハ! なにをしょぼくれとる、若いの」

「っぁ?! そ、村長?!」

 バカみたいな事を考えていて、人が近付いていたのに気が付かなかった。

 

 話し掛けてきたのは、このモガの村の村長。

 肌寒いこの時間にもズボンと羽織っただけの上着姿で居る彼は、全く歳を感じさせない姿だった。

 

 

「き、聞いてましたか……?」

「いんや? 何か喋っておったか?」

 あ、危なかった。なんでこの時間に起きてるんだこの人。三時だぞ。

 

 

「カッハハハハ! 若いとつい、格好良い事を夜空に向かって語りたくなる事もある。わしもそうだった」

 おい聞いてたんじゃねーかこの糞ジジイ。

 

「な、なぜこんな時間に起きてるんですか……」

「歳を取るとな、人間寝る時間が短くなる。うんむ、しかしお前さんはまだ若いのぅ。はよ寝んか」

「明日は何も予定がないので」

 そう告げてから、足元に置いておいた物を持ち上げる。

 

 

 水で一度洗ったがまだ血の跡が残る、何かの牙のような物。

 昨日ドスジャギィの背中の傷から取り出したそれだ。

 

 当日に見付けた船の残骸らしき物はギルドや村長に報告して渡したが、これは報告していなかった。

 

「ほぅ、それは?」

 だからか、村長は興味深そうに覗き込みながらそう聞いてくる。

 

「ドスジャギィの傷口から取り出しました。今回の件の犯人かもしれない……」

「ギルドには報告してなかったようだが」

「不確定要素ですからね……それに───」

「それに?」

「───ハンターの俺がモンスターの傷の面倒を見た、なんて報告出来ませんよ」

「カッハハハハハ! それはそうか!」

 嘲笑気味に言うと、村長は大きな声で笑った。

 

 

 三時だぞ。

 

 

「ミズキから色々聞いたぞ。ロアルドロスを狩らずに撃退し、ドスジャギィの傷の手当をしたらしいじゃないか」

 手当まではしてない。

 

「……おかしいですかね、俺は」

 分かってる。そんなのはおかしい。

 

 俺は、狩り人なのに。

 

 

「遠く、離れた地方に……モンスターと絆を交わす事が出来る人達が居るらしい」

 村長は星空を見ながらそう口にする。それは……。

 

 

「へ、へぇ……」

「この世界は広くて、わしは長生きしたからの。色々知っておる。確かにモンスターと心を通わすハンターなんぞ珍しいのかもしれないのう」

 だって、それはハンターじゃないから。

 

 

「でもな、わしは良いと思っとる。モンスターだって、生き物で……心を通わす事が出来るんじゃないかの? それが出来るなんて素敵な事と、ミズキは思っとるようだ」

「理想ですよ、そんなのは」

 モンスターと本当に心を通わすなんて、無理だ。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

「そうか?」

「そうですよ……」

 ボウガンに目を落とす。

 

 ミカヅキ、お前とだって……。

 

 

「うんむ、なんにせよこの村の異変の事に関しては頼りにしておるぞ。ミズキはまだ成長過程で危なっかしいからのぅ」

「はい、この孤島の異変は必ず解決してみせます。……だから、あの約束は守って下さいね」

 その為に、態々この村に来たんだからな。

 

「カッハハハハハ! 心配せんでも、情報は譲る。なんなら今話しても良いんだがの?」

「ハンターとして受けた仕事は最後まで責任を持って取り組みたいので、遠慮します」

「うんむ、そうか。なら、わしが忘れんうちに頼むぞ? カッハハハハハ!」

 この時間に元気な人だ……全く。

 

 

 

「お前さん、なぜそこまで()に拘る? その為にハンターになったのか?」

「なぜ……?」

 そんなのは、簡単だ。

 

 

 俺は奴に大切な物を何度も奪われた。だからあいつがまだ生きているなら、俺は───

 

 

 ボウガンに左手を置きながら、片手剣を夜空に向けて口を開く。

 

 

「───そいつを殺す為ですよ」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「タルタルソース掛けちゃおうよお父さん!」

 お昼前。私は厨房でエビフライを揚げるお父さんにそう提案する。

 

 

 むふふ、ムツキが準備している間にタルタルソースを先に掛けちゃう。なんて頭の良い作戦だろうか。

 エビフライにはタルタルソース。それをムツキやアランに今日こそ分からせる必要があるもんね!

 

 

「ミズキ」

「何? お父さん」

「食とは自らの欲求ですニャ。それを強要するのは暴君に違わないですニャ」

 そう言いながらお父さんは私の頬っぺたをその柔らかい肉球でペチペチと叩いてくる。

 お叱りを受けてしまった……。

 

「うぅ……ごめんなさい」

「分かれば良いのですニャ」

 むーん……。

 

「何してるんだ……?」

 お父さんと話していると、お寝坊さんのアランがやっと起きて来たみたい。もうお昼なんだよ?

 

 

「おはよー、アラン。えっへへ、今日はピクニックに行きます!」

「……は?」

 私の提案に、寝起き特有の不機嫌が混ざった表情を見せるアラン。この人目付きが悪いから、そんな表情すると物凄く怒ってる様に見える。

 

 でも、私は知っています。あなたはとっても優しい人だって。

 

 

「今日は何にも予定ないでしょ? だからモガの森の素材ツアーと称してお出掛けだよ!」

「……お前は狩場を舐めてるのか」

「そんなに奥まで行きませんー。川がとっても綺麗な場所があって、私は結構そこでピクニックするよ? たまにジャギィ達に囲まれてご飯置いて逃げてるけど……あっはは」

 勿論、ハンターとしての経験の為ってちゃんとした理由もあるのです。

 

 立派なハンターになったら、大変なクエストも私が引き受けるかもしれない。

 そんな時きちんとサバイバル知識がないと、きっと大変だから。

 

 

 それに、今回はアランの歓迎って理由も兼ねて! ピクニックピクニック!

 

 

「行ってきたら良いじゃないですか、アランさん。あ、コックさんコックさん私の今日のまかないは?」

 厨房の裏から聞こえるそんな声。

 

 赤いギルド受付嬢の制服を着こなして、今日も今日とてまかない飯を食べ来たのはアイシャさん。

 うーん、まだお昼にはちょっと早い気がするけどなー。

 

 

「エビフライですニャー」

「おっ、良いですねー。今日も新鮮なの頂きます!」

 今日もアイシャさんは元気です。

 

 

「暇なら暇で孤島の調査に行けば良いだろう……? また何か生態系に異変が起きてるかも知らないんだぞ」

「あちゃー、頭固いですねアランさん。ボルボロスの親戚だったり?」

「…………」

 ダメだ、アランがアイシャさんのノリに着いていけてない!

 

「あ、ぇ、えーと、ごめん……ね。もしかして、迷惑だった……?」

 私としては、せっかくアランに来てもらったんだし歓迎したかったんだけど。

 アランが楽しめないなら意味ないよね。だから、謝ります。

 

 

「いや……迷惑って訳じゃ」

「なら、ピクニック……どうかな?」

「…………」

 アランは少し考えてから、お弁当箱に詰められたエビフライを見て口を開く。

 

「……行くか」

「エビフライに釣られましたね?」

「……ギルドの人は仕事をして下さい。素材ツアー、二人で」

 アランって素直じゃない……?

 

「ほいほーい、素材ツアー二人ですね。受付しておきます! 後で!」

 エビフライとご飯を食べながら元気に返事をするアイシャさん。後でって、また怒られるよ……?

 ちなみにアイシャさんもタルタル派だから私と仲間なのだ。

 

 

「ボクも行くニャ! 三人ニャー!」

 ムツキも準備終わったみたいだし、こっちもあとタコさんウインナーを焼いて準備終わらせなきゃ。

 ん、そうだアランにも手伝って貰おうかな。働かざる者食うべからずだよ!

 

「それじゃ、もう少しで準備終わるから。アランはタコさん焼いててくれる?」

「……お前、タコさんって」

「タコさんにした方がピクニックって感じになるもん! もしかしてタコさんやれないのー?」

 ふっふっふ、料理に関しては私はそこら辺の人より出来るのだ。なんたってお父さんの娘だからね!

 

「……バカにするな。よし、やっといてやるから、後の準備は任せたぞ?」

「うん。了解!」

 ならアランがタコさん焼いてる間にお弁当詰めようかな。

 

 

 勿論、現地調達でお魚とかも焼くから肉焼きセットも忘れずに。

 

 

「はい、ムツキのお弁当箱。ソース付けておく?」

「後で掛かるから自分で持ってくニャ。ミズキのもボクが掛けてあげるニャー!」

「それ、タルタルじゃなくなる」

「バレたニャー」

 もぅ。

 

 

「それじゃえーっと、後は───」

 忘れ物がないかだけチェックしようと厨房をくるりと見渡す。さて、そこで問題を一つ発見。

 

 背後でアランのフライパンが燃え上がっていた。

 

 

「なんでぇ?!」

「か、火事ですかニャ?! ミーのお店が!」

「ムツえもんさん消火ですよ! ほら! 早く!」

「誰がムツえも───なんで燃えてるニャー?!」

 モガの村は昼前から大賑やかです。

 

「……火加減を間違えたか」

 間違えたなんて話じゃないと思うよ……?

 

 

 もしかしてアランって、不器用?

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 お天道様は景気良く空を照らし、雲も丁度良いくらいに空を飾っている。

 

 

 ピクニック日和。その一言に尽きるね!

 

 

 

「生肉じゃないんだから、そりゃあんな火加減で焼いたら焦げちゃうよ」

「……焦がしてない。こんがり焼きたかっただけだ」

 強情にもそう言い張るアランは、真っ黒になってしまったタコさんをバリバリとかカリカリと音を鳴らしながら噛んでいた。

 お腹壊すよ……?

 

「タコさん勿体無いニャー」

「……た、食べたから」

 ふふ、アランの事がまた少し分かったし。良しとしようかなぁ。

 

 

「所で、まだなのか? 飯を食う場所は。川ってのはこの川のことだろう?」

 私達の左手には小さな川が流れている。この川、お魚が良く泳いでて水も綺麗でとっても素敵なの。

 

「もう少しだよ? 手頃な岩があって座れるんだよねぇ」

「……そうか」

 タコさんのせいかな? なんだか具合が悪そう。

 

「もしかして疲れたのかニャ?」

「え、そうなの? アラン、大丈夫?」

「……ハンターとして、覚えておいても損は無い事を一つ教えてやる」

 ここで……?

 

 

「……コゲ肉を食べるとスタミナが減る」

「やっぱり焦げてたニャ」

 不器用だねぇ、ふふ。

 

 

 

 

「はい! お弁当タイムでーす!」

「ニャー! エビフライー!」

 モガの森のベースキャンプを出て少し歩くと小さな川がある。

 その川を下っていくと海と川が合わさり合う、とても素敵な光景が見られる場所に着くんだ。

 

 丁度良い感じの岩があって、ここは私がピクニックに丁度良いなって思ってる特別スポットなんだよね。

 ジャギィやルドロスが稀にご飯を取りに来ちゃうのが問題だけど。私はとても素敵な場所だと思ってる。

 

 

「俺のもあるのか?」

「勿論!」

 スタミナ切れで調子の出なさそうなアランにお弁当を渡す。

 アランは片手剣とボウガンを地面に下ろすと、それを受け取るや否や直ぐに蓋を開けた。

 

 ふふ、お腹減ってたんだねぇ。

 

 

「私のお手製なんだから、味わって食べてね!」

「ミズキは料理が出来るのか」

「ふふーん、これでもお父さんの娘だから!」

 正直ハンターより料理人になった方が良いとは、村の皆の言葉です……。

 

 

「いや、お前アイルーじゃないだろ」

「ほぇ?」

 えーと、どういう事?

 

「ニャ! 少しは考えて発言するニャ!」

「……ん?」

 エビフライを食べながら首を傾げるアラン。美味しそうに食べてくれて嬉しいです。

 

 

「まさか……お前」

「えと、何?」

 急にアランが親身な表情になる物だから、ちょっと戸惑ってしまう。

 

「……両親は?」

 あ、その事か。

 

 

 うーん。この生活が長い物だから、忘れたとは言えないけど───覚えてないから仕方無いよね。

 

 

「私、物心着いた時からお父さん───スパイスさんに育てられてたんだ」

 自分の弁当を広げて、川に釣り糸を落としながら口を開く。

 

 私の言葉を聞くとアランはお弁当に伸ばす箸を止めてしまった。

 うーん、せっかくのピクニックなのにこんな話しして良いのかな……?

 

「食べながらで良いよ……? そんなに真剣な話じゃないし!」

「……そうか」

「ニャー……」

 ムツキは心配してくれてるんだろうけど、私は全然平気だよ。だって、貴方が居るんだから。

 

 

「なんかね、物心着く手前くらいの私はなぜか一人で海を……漂流? してたんだって。それを見付けて助けてくれたのが、お父さんなんだ」

「なんで、一人で海を漂流なんかしてたんだ……?」

「私も分からないかな、あんまり覚えてないし。ただ、ミズキって呼ばれてたのは覚えてる」

 きっと私をミズキって呼んでいたのが本当の両親なんだと思う。

 つまり、私は簡単に考えちゃうと捨て子なんだよね。考えちゃうと、悲しいけど。

 

 

「……そうか」

「うん。それで、この村にお父さんと住み始めた頃から島を変な地震が襲ってて。なんだか色々大変だったのは覚えてるかな」

 あのハンターさんは私にハンターの基礎を教えてから村を出ていってしまったけど、私はその頃から物心着き始めたからよーく覚えてるんだ。

 

 

 生きる伝説、古龍をその体一つで撃退した英雄。それが、あのハンターさん。

 

 

「ニャー……」

 話していると、ソースの着いたエビフライをそっと持ち上げながらムツキが私の防具を突っついていた。

 心配するような表情のムツキ。優しいなぁ、もぅ。

 

 でも、ソースは頂けない。

 

 

「タルタルが良いなぁ」

「ニャ?!」

 ふふっ、いつもありがとうムツキ。

 

 

「だから、私の家族はお父さんとムツキみたいに思っちゃってるんだよね。うん、でも私は人間だよ!」

 海の民でもなさそうだし、なんで私は海を漂流してたんだろうね? いくら考えたって答えは見つからないんだけど。

 

「……なるほどな。悪い、辛い事を話させたか?」

「ううん。だって、私にはお父さんとムツキも居るし。アイシャさんや村長、村の皆は優しいから! 何不自由、ありません!」

 心配掛けないように笑いながらそう言ってみる。

 

 

 本当は、ちょっとだけ寂しいよ。

 

 同じ年代の子供達が本当の両親と話してるのを見てると、少しだけ胸が苦しくなるの。

 羨ましいって、思っちゃう。

 

 

「ミズキはボクの大切な妹だからニャ! 手を出したら承知しないニャ!」

 悪い子だなぁ、私は。こんなに思ってくれてる大切な家族が居るのに。

 

「ふふっ、ありがとぅ」

「ニャー!」

 鳴きながらムツキは後ろからギュってしてくれる。モフモフで気持ちが良い。

 

 

「仲が良いな。……?」

「でしょー」

 お弁当を食べ終わってそう言うアランは、なぜか周りを見渡し出す。

 どうしたのかな?

 

「どうしたの? 大丈夫だよ、今は周りにジャギィ達も居ないし」

「……なら、この気配はなんだ?」

 気配?

 

「お化けでも見えてるのかニャー?」

「変な事言わないでよ……。んー、でもおかしいなぁ……釣れない」

 いつもなら直ぐにお魚さんが食い付いて来るのに、今日はなんだか釣れない。

 

 

「釣りフィーバエ、使うかニャ?」

「流石ムツえもーん」

「誰がムツえも───」

「伏せろ二人共!!」

「「ふにゃぁ?!」」

 突然のアランの声と共に身体が押される感覚がした。

 なぜか、アランが私達を川の方に押し倒したみたい。

 

 なんで? どうして? なんて考えてると、さっきまで私達が居た空間を巨大な角が突き上げた。

 

 

 堅牢な頭蓋から伸びる一本の巨大な角。骨みたいな見た目をしているその生き物は地面から頭だけを出していて、その頭だけでもロアルドロスと同じ位の大きさがあった。

 な、何このモンスター?! 眼だと思うところは大きく穴が空いてるし、頭だけだけど骨みたいな姿をしている。こんなモンスター見た事ない。

 

 もしかして、このモンスターが現れたからモガの森の生態がおかしくなっちゃったの?!

 なんて事を考えながら、私は川に水没。目の前の危機に慌てて頭を上げる。

 

 

「クカァァ」

 モンスターが鳴いた。

 

 頭の割に細過ぎる四本の脚。背中には翼なのかな? 赤い、これまた頭の割に小さな何かが一対備わっている。

 

 

「こ、古龍?!」

 一対の翼に四本の脚ともなれば一番初めに頭に浮かんだのはそんな言葉だった。

 で、でもこんな姿の生き物アイシャさんが貸してくれた本にも載ってなかった。もしかして、新種───

 

「ダイミョウザザミだな」

 ほぇ?

 

「カニさんニャ」

 ……ふぇ?

 

 

「え、えーと……」

 二人の言葉に、焦りに焦っていた私の頭が冷える。うん、よく見なくてもこの頭、生きている生き物の頭じゃない。

 

「クカァァカァ」

 私に正面(・・)を向けてくれたのは、古龍でも何でもない甲殻種のモンスター。ダイミョウザザミでした。

 

 

 赤と白の綺麗な身体に四本の脚と一対の巨大な鋏。この鋏は盾のように頑丈で、守りにも使われるんだって。

 翼に見えたのはその鋏。頭に見えたのはダイミョウザザミがヤドとして背負っているモンスターの頭蓋でした。

 

 

 とても恥ずかしい事を思っていたし、言ってしまった。

 

 

「…………ぁ、焼肉セットが……」

 そんなダイミョウザザミさん。私達が眼に入ってないのか、ピクニックの為のお弁当や焼肉セットを破壊だけして川にその大きな鋏を沈めていた。

 

 

「あ、アラン……なんで私達襲われたのに今度は無視されてるの?」

 せっかくのピクニックが……。もぅ、怒るぞ!

 

 

「元々襲った気すらないんだろうな。地面を潜っていて、たまたまこの下から出て来ただけだ。そもそもダイミョウザザミは大人しいモンスターだから、自分から襲って来る事は滅多にない」

「ピクニック台無しニャ……」

「うーん……ごめんね、アラン」

 そんな空気の中、私達には目もくれる事なくせっせかと川の水を鋏で掬っては口に入れるダイミョウザザミ。

 何してるんだろう? お水飲んでるのかな?

 

 大人しいモンスターなんだね。ん、良い事思いついちゃったかも!

 

 

「まぁ……狩り場だからな。これを機に狩り場で遊ぶなんて馬鹿な真似は───」

「ねぇ、アラン! ダイミョウザザミって大人しいモンスターなんだよね?」

「は? いや……それは、見れば分かる通り……」

「お友達になれるかな?」

「…………」

 何言ってるだこいつ、みたいな眼で見られました。だ、だよね、変な事言ってるよね……。

 

 

 でも、こんなに間近に居るのに襲って来ないモンスターなんて初めてで。

 これまでの素敵な体験がフラッシュバックしてしまったのです。

 

 だから、ダイミョウザザミと分かり合ってお友達になれたら嬉しいなって。そんな事を思ってしまった。

 

 

「ミズキってたまにバカなんだニャ」

「いや、たまにじゃないだろ」

 二人共酷くない?!

 

「だ、だって可愛いじゃんこの子! そりゃ、お弁当と焼肉セットの仇だけど……。せっかくなら一緒に遊んでみたいなって……ダメ?」

「危ないからダメに決まって───」

「良いぞ」

「ふニャ?!」

 アランのそんな言葉にムツキは驚いて、私は嬉しくて笑みが零れる。

 本当に良いの? モンスターと遊べるの?

 

 

「お前の馬鹿らしさを見てたら危ないだとか思えなくなった……。ダイミョウザザミは確かに大人しいモンスターだ。こっちから襲わなければ攻撃してこない。まぁ……仲良く出来るかはお前次第だけどな」

「本当?!」

「嘘は言ってない。だから、武器だけ俺に渡して後はやってみろ」

「う、うん!」

「ニャ?! 本気かニャ?! 止めないのかニャ?!」

 アランの言葉が嬉しくて、私は直ぐに片手剣を背中から外して盾と一緒にアランに渡す。

 

 そのまま、文字通り踵を返してダイミョウザザミに向き直った。

 

 

「襲われなくても、まぁ……小突かれる程度はするかもな。そしたらあいつも甘い考えをなくすだろ」

「は、はニャ……騙したニャ?! い、今なら間に合うニャ。止めるニャー!」

 

 

 

「ダイミョウザザミさんダイミョウザザミさん」

 ゆっくりと、先日のアランを思い出しながら歩いた。

 

「クカァァ」

 こっちに気が付いて、鋏を動かすのを辞めるダイミョウザザミ。

 その鋏を、威嚇のために振り上げる。

 

 あの鋏で叩かれたら、きっとひとたまりもない。

 

 

「あ、危ないニャー!」

「……やっぱり怪我する前に狩るか」

 

 

 

「一緒に遊びましょ?」

 あの時みたいな素敵な体験を、私もしたい。

 

 アランみたいに、モンスターと分かり合いたい。

 だから、答えて欲しい。私の想いに、あなたの気持ちを教えて欲しい。

 

 

「クカァァ……」

 答えは───

 

「…………チッ。……殺───」

 

 

「カァァ」

「……ほぇ?」

 その大きな鋏は、振り下ろされる事なく地面に向けられた。

 私を見るそのつぶらな瞳は、私を確りと見てはいるけど警戒しているようには見えない。

 

 

「……ニャ、どうなったのニャ?」

「そんな……」

 

 

「良いの……?」

「クカァァ……」

 遊んでくれるの? あなたは私の事、敵だと思わないの?

 

 まるで、不思議な物を見ているような感覚だった。

 それは、ダイミョウザザミも同じなのかな? 私が近付いても、私をじっと見てるだけで何もしてこない。

 

 

 とうとうその赤い甲殻に触れても、ダイミョウザザミはピクリとも動かなかった。

 

 

 

「はニャニャ……うぁぁどうしようニャどうしようニャ」

「……凄いな、あいつ」

「のんきな事言ってる場合かニャ?!」

「……ふっ」

「笑い事じゃないニャー!」

 

 

「私、あなたと繋がれてるかな?」

「クカァァ……」

 きっと、繋がれてるよね。

 

 

 

 

 少しだけ、時間が経った。

 私は相変わらずダイミョウザザミに触れていて、ダイミョウザザミはそれでも動こうとしない。

 

 だから、もう一歩だけ進んでみる。

 

 

「背中に、乗っても良いですか?」

「これ以上は危ないニャ……」

 隣に来ていたムツキはそんな事を言うんだけど、こんなに大人しいんだよ? ダイミョウザザミって。

 

「クカァァ」

「良いって」

「嘘ニャん?!」

「ほらムツキも乗ってみよ!」

「ニャー?!」

 ムツキの手を引いて、ダイミョウザザミのヤドに登ってみる。

 確りとした生き物の頭蓋はダイミョウザザミの身体をちゃんと守ってるんだなぁって思った。

 

 

「の、乗ってるニャ……」

「うーん! 高い! 見て見てアラン! 私モンスターに乗ってるよ!」

 とっても高い位置からアランに手を振る。凄いよ私! モンスターの背中に乗っちゃってる!

 こんな事してる人、世界にそうも居ないんじゃないかな?

 

「……ふっ。…………ライドオン、か」

 小さく何かを呟いたアランが、どんな事を思ってるかは分からないけど。

 なんだか嬉しそうな表情をしている気がした。

 

 

「クカァァカァァ」

「おぉっとと、進んでる?」

「ニャ?! 拉致られるニャー!」

「遊んでくれてるんだって!」

 少しずつ歩くダイミョウザザミ。私は彼と目線を合わせて、景色を眺めてみる。

 

 

 色々な物が小さく見えた。川も岩も木も、この子から見たらこんなに小さいんだ。

 

 

「あなた、凄いね」

「クカァァカァァ」

 何を思ってるかは分からないけど。

 

 こうやって目線を合わせてると、少しだけあなたの気持ちが分かる気がするの。

 夢を見ているみたいな感覚。とっても不思議で、素敵な感覚。

 

 

 

 とても素敵な時間。

 

 

 

 もう少し、もう少しだけでも良いからあなたと過ごしたい。

 

 

 そう、思っていた───

 

 

「ヴォァァアアアッ!!」

「……っ?! 逃げろ二人共!!」

 焦ったような、アランの大きな声。

 

 

「ほぇ……───っ?!」

 そんな声に振り向けば、視界を大きな炎の塊が覆い隠していた。

 

「ミズキ……ッ!!」

「───ぇ」

 炎が、熱が───広がった。

 

 

 

 

 To be continued……




モンスターハンターXXの発表でモチベが上がりまくってます、作者です。
ディアボ復活が一番嬉しいですね。ただ、HNがちょっと気にくわない模様。

こんな作品を書いてあるので、ストーリーズも購入を決定しました。モンハン日和が確立しそうです。


今回の言い訳。
ダイミョウザザミは比較的大人しいモンスターとして知られていますね。生態ムーピーには大量のアイルー達を全く気にする事のないサザミさんの映像があったりします。


申し訳ありません、前後編に別れてしまいました……。私の文章力不足です。
では、またお会いできると嬉しく思います。

厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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私と貴方のこころ


【挿絵表示】


前後編の後半です。


 素直に、凄いなと思った。

 

 

 相手は野生で成体のモンスター。

 それなのに、彼女はモンスターと触れ合ってみせた。

 

 それどころか、背中に乗るなんて馬鹿な真似を平気でやってみせる。

 

 

 ───あの頃を思い出さずには居られない。

 

「…………ライドオン、か」

 絆石を握る。

 

 

 そうだな、モンスターと心を通わせて背に乗る。

 ミズキは乗り人の素質があるのかもしれない、なんてバカな事を考える。

 

 人と竜は相容れない。

 分かっている、筈なのにな。

 

 

 ふと、空を見上げてみる。天気は良く、丁度いい量の雲が青い空をを飾っていた。

 その風景に、一つだけ違和感を感じる。

 

「…………なんだ?」

 黒い、小さな点が見えた。

 

 

 小さな点だと思ったそれは、次の瞬間には瞬く間にその影が大きくなる。

 その形が視界にしっかりと入るまで、物の数秒もなかっただろう。

 

 

 一対の巨大な翼に、赤と黒の甲殻。飛竜種の代表ともされるような特徴的な姿。

 正しく竜と呼ぶに相応しいその姿を、俺が見間違える訳がない。あいつの同類を、見間違える訳がない。

 

 

「───リオレウス?!」

 空の王、リオレウス。その姿を視界に確認した次の瞬間には、もう遅かった。

 

 

「ヴォァァアアアッ!!」

「……っ?! 逃げろ二人共!!」

 遥か上空から滑空しダイミョウザザミの背後を取った空の王は、体内の火炎袋で圧縮した炎をブレスとして吐き出す。

 

 

「ミズキ……ッ!」

 俺の声が届いたと同時だったか。その炎は何か(・・)に当たって弾けた。

 広がる熱と爆煙。視界に少女は映らない。

 

 

 ──生き物って、簡単に……死んじゃうんですね。…………ごめんなさい、アラン──

 

 誰かの言葉を思い出す。

 

 

 

「ふざけるなよ……っ!」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 熱い。

 

 

 ただ、そんな事を思った。

 まるで熱加減を間違えたお風呂に入っている感覚。真夏の砂浜にいるようなその程度(・・・・)の感覚。

 

 最後に見えたのは劫火だった。

 その後視界が真っ暗になったかと思えば、その程度の熱さを感じる。

 

 むしろ、直前の恐怖が抜けた今となっては何か温かい。

 

 

 何が起こったか?

 うーん、分からない。ただ考えてみると死んじゃったのかな、なんて思って少し身震いした。

 けど、隣で震えてるムツキが見えて(・・・)そんな心配は杞憂に終わる。

 

 

 突然、視界が開けた。

 同時に何か重い物が地面に落ちる音がして、私は条件反射でそれを見る。

 

 

「クカァァァッ」

 それは、盾のように頑丈なダイミョウザザミの鋏。

 何かの衝撃に耐えられなくて身体から千切れてしまった鋏が、独特な色の体液を噴き出しながら地面に落ちていた。

 

「ダイミョウザザミ……さん?」

 視界に火球の主(・・・・)は見えない。そもそも、さっきと明らかに風景が変わっている。

 

 

 そしてダイミョウザザミの視界の先を見れば、一匹の竜が滞空しているのが確認出来た。

 

 

 

 赤と黒の甲殻に、一対の翼。きっとこの世界で一番有名なモンスター。

 生息地域は世界中至る所。それこそ彼の種が優れている証でもある。

 

 だから、この孤島にも住んでいる事だけは私も知っていた。

 

 

 でも、なんで、こんな、村に近い所まで───

 

 

「───リオレウス」

 空の王、リオレウス。それが、今私の視界に映るこの島の()の王者だった。

 

 

 

「ミズキ! 無事か!!」

「アラン?!」

 その声に我に返る。

 

 私はダイミョウザザミさんと遊んでいて、アランの声に振り向けば視界には炎が映っていた。

 もう絶対に助からないと思ったそんな状態から私を救ったのは———ダイミョウザザミさん、なの?

 

 その鋏で私を助けてくれたの……?

 

 

「飛び降りろ!」

「う、うん!」

 言われて、隣で震えているムツキを抱き抱えてダイミョウザザミさんから飛び降りる。

 

 

「クカァァァッ」

 アランと少し走ってから振り向くと、ダイミョウザザミさんは私が降りたのを確認する様に私に正面を向けていた。

 いや、ヤドをリオレウスに向けたと表現するのが当たり前かもしれない。あのヤドは、とても頑丈でちょっとやそっとじゃ傷付かない物だから。

 

 

 

「なんで……」

 ねぇ、なんで火球を態々鋏で受けたの?

 

 火球が来たのはあなたの背後。私が乗っていたヤド側。

 

 

「ヴォァァアアアッ!!」

 二度目の火球が放たれる。

 

「クカァァァッ」

 でも、その堅牢なヤドはあの火球でも傷一つ付かなかった。

 

 

 なんで……? なんで態々身を翻して、不安定な格好をしてまで鋏で火球を受けたの?

 そのせいで、あなたの鋏は千切れてしまったんだよ……?

 

 

 ヤドを───私を庇う必要なんて、あなたにあったの?

 

 前の火球も、そのヤドで受け止めればあなたにダメージはなかった筈なのに。

 

 

「ヴォォゥ、ヴォァァアアアッ!!」

 リオレウスはダイミョウザザミさんにダメージを与えられなかったと悟ると、その空中での機動力を生かして正面に回り込む。

 そのまま三度目の火球を、盾を一つ失ったダイミョウザザミさんの正面に叩き込んだ。

 

 

 焦げ臭い匂い。

 ダイミョウザザミさんは勿論その大きな鋏でしっかりガードするんだけど、片方の鋏じゃ守り切れなくてダメージを負ってしまう。

 

 

「ダイミョウザザミさん!」

「バカ! 大きな声を出すな!」

「だ、だって!」

「あ、アランの言う通りニャ……っ。飛竜はヤバいニャ……っ!」

 飛び出しそうな私を引き止める二人。ムツキは私の足にしがみ付いて離れようとしない。

 

「で、でも……」

 今ダイミョウザザミさんがピンチなのは私の所為なんだよ……?

 

「……あいつはお前を守った」

「そんな事って……」

「……俺だって信じられないさ」

 ダイミョウザザミさん……。

 

 

「クカァァカァァ」

 再びリオレウスにヤドを向けるダイミョウザザミさん。

 その巨大な竜の頭蓋を向け威嚇すると、リオレウスも滞空したまま様子を見るようにダイミョウザザミさんを睨み付けた。

 

「クカァァァッカァァッ!」

 次の瞬間、ダイミョウザザミさんはその細い脚でジャンプする。

 それは上空にいるリオレウスまで届いて、背負ったヤドの鼻先から延びる角がリオレウスに真っ直ぐ向けられていた。

 

「ヴォォゥ?!」

 驚いたような声を上げるリオレウスだけど、翼を翻してその攻撃は直撃せずに終わってしまう。

 翼を掠るだけに終わった攻撃だったけど、あの巨体があんなに高くジャンプ出来るんだと感心してしまった。

 

 

 そして、まだ終わらない。

 

「クシュィィィッ!!」

 回避でバランスを崩したリオレウスに、ジャンプから着地したダイミョウザザミさんは鋏を大きく広げて口から何かを吹き出した。

 

「ヴォォゥ?!?!」

 水? かな? 圧縮されたその何かはリオレウスに直撃して、その身体を地面に叩き落とす。

 

 

「あのカニさんやるニャ! 今の内に逃げた方が良いニャ」

「で、でも……」

「……逃げるのは後だ。それか、お前達だけで逃げろ」

 そう言うアランはリオレウスを真っ直ぐ見詰めていた。どうしたの……?

 

「ニャ?!」

「アラン……?」

「あのリオレウス、おかしな所がある事に気が付かないか?」

 おかしな所?

 

 

「ヴォォゥ……ヴォァア!!」

 地面に叩き落とされただけでリオレウスが倒れる事もなく、立ち上がってダイミョウザザミさんに火球を吐く。

 アランが言うおかしな所。それは注意して見てみれば確かに分かる、リオレウスの身体の事。

 

 

 所々鱗は剥がれ、噛まれた後があったり、極め付けは尻尾の先が何かに食い千切られたかのような歪な形をしていた。

 少なくとも私が図鑑で見たリオレウスの尻尾はあんなに短くはない。

 

 

「クカァァァッ!」

 火球のブレスを正面から鋏で受け止めるダイミョウザザミさん。

 確り受け止めてるからダメージは少なそうだけど、やっぱり片方の鋏じゃガードに限界がある……。

 

 

 

 私の……せいで。

 

 

 

「ね、ねぇ……アラン」

「ダメだ」

 私、何も言ってないのに……。

 

「あ、危ないニャ……ミズキ」

「ごめんね……ムツキ。でも、私───」

「ダメだ」

 リオレウスだけを見ながらそう言うアラン。

 あなたは何を見ているの……?

 

 

「だって!」

「あれはモンスター同士の戦いだ。……俺達は関係ない」

「でもダイミョウザザミさんは私を助けてくれたんだよ?!」

「……っ。たまたま、だ。モンスターが人を助ける訳がない!」

 声を上げるアラン。なんで? なんであなたはそんなに風に思っちゃうの?

 

 あなたが一番、モンスターと分かり合えているのに。

 

 

「アランの分からず屋!!」

「お前はリオレウスが悪だと言うのか?」

 ぇ、それは……。

 

「それは……」

 言われて、アランの言いたい事はなんとなく分かった。

 

 リオレウスだって、生きている生き物で。

 何の理由もなしにダイミョウザザミさんを襲っている訳じゃない。

 ご飯が食べたいのかも知れないし、何か他の理由があるのかも知れない。

 

 

「で、でも……」

 言い返す事が出来ない。だって、それは当たり前の事だから。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 私とダイミョウザザミさんはハンターとモンスターで、友達じゃ───

 

 ───無い?

 

 

 違う。

 

 

 

 

「ヴォァァアアアッ!!」

「グガァァ……ッ」

 ブレスの影響で動きを止めたダイミョウザザミさんに、もう一度ブレスを叩き込むリオレウス。

 耐え切れずにダイミョウザザミさんは脚で体を支えられなくなって、倒れこんでしまう。

 

 そこに、リオレウスは突進。巨体がぶつかり合い、嫌な音がモガの森に響いた。

 

 

 

「そんなの違うよ……アラン」

「……?」

 だって、私とダイミョウザザミさんは友達なんだ……っ!

 

 

「友達を助けるのに理由なんてない!! だからダイミョウザザミさんも私を助けてくれたんだよ? モンスターでもダイミョウザザミさんは友達だもん! 助けてくれた……友達だもん!!」

「ミズキ?!」

 アランから、預けていた盾と片手剣を奪うように取って走る。

 

「ニャ?! ミズキ!!」

「おいミズキ!!」

 分かってくれないならアランには頼らない。

 

 

 私だってハンターなんだ。

 

 

 アオアシラしか倒したことないけれど、ダイミョウザザミさんの手伝いなら出来る筈……っ。

 

 

「グガァァ……ッ」

「ヴォォゥ!」

 倒れこんだダイミョウザザミさんに噛み付いたり、脚で踏んだりするリオレウス。

 その足には毒爪もあって、リオレウスは決めにかかってるんじゃないかなって思った。

 

 あの至近距離でまたブレスを喰らったら今度こそ持たない……っ!

 

 

「間に合って……っ!」

 走る。

 

 視界に映る、リオレウスの大きな口。

 

 

 私の体と同じくらいある大きな頭から、少量の炎が漏れるのが見えた気がした。

 

 

「やぁぁっ!」

 リオレウスに私を認識させようと大きく声を張り上げて、片手剣を振り上げる。

 ソルジャーダガーはそんなに切れ味が良い訳ではない。

 

 でも、アランに教わった。

 腰を使って、引くように……っ!

 

 

 リオレウスに接近、足と腰をバネに走って来た力も使ってソルジャーダガーをリオレウスに叩き付け───引く。

 風と、肉を切る感覚が手に伝わった。確かな感触。

 

 丁度ダメージを負っていたリオレウスの身体を切り裂いたソルジャーダガーは、綺麗な鮮血を弾きながらリオレウスの身体を切り裂いた。

 

 

「ヴォォゥ?!」

「クカァァァッ!!」

 私の思惑通りに、リオレウスは視界をダイミョウザザミさんから外す。

 ダイミョウザザミさんはその好機を逃さずに、巨大な鋏を上からリオレウスの頭に叩き付けた。

 

「ヴォォゥ───ガッ!」

 やった!

 

 

「無茶し過ぎニャ!」

「ミズキ!」

 へへん、アランに頼らなくたって私もやれば出来るんだもん!

 

 

「バカ! 早く離れろ!!」

「───ふぇ?」

 

 

「ヴォァァァァアアアアアッ!!」

 アランに怒られたかと思えば、突然背後から鼓膜が破れるんじゃないかって程の大きな咆哮が響いた。

 アランが耳を塞いでくれたんだけど、それでも身を屈まずにはいられないような咆哮。いや、多分音だけじゃない───

 

 

「ヴォォゥ……ヴォァアアッ!」

 振り向けば、口から炎を絶やさず漏らすリオレウスの姿があった。

 まるで私を睨み付けているかのように、その視線は私に真っ直ぐ向いていて───

 

 ───いや、多分私を見ているんだと思う。

 

 

「怒って……るの?」

 恐怖。本能的に感じたその感覚が、私の身体を固める。

 

 

「チッ……やはりこっちに向いたか。やはり、餌だな」

「ニャ?! 食べられるニャ?!」

「えと……アラン?」

「俺達は小さいからな、眼中になかった筈がお前の攻撃で標的が移ったって事だ」

 私の……攻撃で。

 

 

 で、でも……私はダイミョウザザミさんを助けたくて、それで……。

 

 

「クカァァァッ!」

 もう一度その大きな鋏を振り上げるダイミョウザザミさん。

 

「ヴォァァアアアッ!!」

 だけど、リオレウスは後ろに飛んで距離を作りながらダイミョウザザミさんにブレスを叩き付ける。

 ダイミョウザザミさんはそれでまた倒れてしまって、もう身体もボロボロで立ち上がるのも難しそうだった。

 

 

 助けなきゃ……。

 

 

 そう思うのに、身体は動かない。

 

 

 

 蛇に睨まれた蛙って言うのかな。距離を置いた筈のリオレウスが凄く近くに感じて、怖い。

 直ぐにお前を殺してやる。そんな感情が伝わって来るみたいで、こんな感覚初めてで。

 

 あぁ……そうか、モンスターって───怖いんだ(・・・・)

 

 

「……逃げきれる物じゃないだろうな。なら……殺す」

 武器を構えるアラン。

 

「ニャ、ニャ! ミズキはボクが守るニャ!」

 私の前に立つムツキ。

 

 

 私が巻き込んだ。

 

 ダイミョウザザミさんだって、私がいなければこんな事にならなかった。

 

 

 

 私が居なければ───

 

 

「ヴォォゥ───」

 大きく頭を振り上げるリオレウス。

 

 今日何度も見た、とてつもない威力のブレス。

 

 

 今度はそれが、私を狙って放たれる。

 体が動かない。

 

 

 ごめんなさい。

 

 

「ミズキ! ブレスが来るぞ避けろ!」

 

 ごめんなさい。

 

 

 

「ニャー!」

 

 ごめんなさい。

 

 

「───ヴォァァアアアッ!!」

 

「ミズ───」

 ごめんなさ───

 

 

 

 

 炎が、熱が、広がった。

 

 

 ───熱い。

 ただ、そんな事を思う。

 まるで熱加減を間違えたお風呂に入っている感覚。真夏の砂浜に居るようなその程度(・・・・)の感覚。

 

 とっても、暖かい感覚。

 

 

「───嘘」

 なんで……? ねぇ……なんで?

 

 

「カァァ……ッ」

 崩れ落ちる、巨体。

 

 力なく地面に落ちる身体。その背中は、とっても温かい。

 ただの無機質な骨なのに。その背中に感じるのは温かさ。

 

 

「なん……で」

「カニさんが助けてくれた……ニャ?」

 

 

 リオレウスの攻撃でもうボロボロになって、動くのも大変そうだったのに。

 私のせいで、片方の鋏を失ってしまったのに。

 

 それなのに、どうして……助けてくれたの?

 

 

「グガァ゛ァ゛……ッ!」

 身体も起こせないまま、ダイミョウザザミはさっき空にいるリオレウスを落としたあの圧縮された水分を吐き出した。

 それはブレスを吐いて硬直していたリオレウスに直撃して、リオレウスも地面に倒れ込む。

 

 

 でも、リオレウスはまだ全然動けそうだ。

 その証拠に、今にでも立ち上がって次の攻撃をしようとしている。

 

 

 

 私は、動けなかった。

 

 ダイミョウザザミさんに申し訳ない気持ちでいっぱいで。

 皆を巻き込んだ罪悪感でいっぱいで。

 

 何も出来ない自分が───嫌いだ。

 

 

 

「…………殺す」

 隣で小さく呟くアラン。

 

 左手のボウガンが火を吹いて、リオレウスに銃弾を叩き付ける。

 突き刺さった銃弾は、リオレウスが立ち上がる前に爆発して更にダメージを与えた。

 

 徹甲榴弾という弾。

 

 

 

「───ヴォァァアアアッ!!」

「…………これ以上やるなら俺はお前を、殺す」

「ヴォォゥ……ッ!」

 リオレウスはダイミョウザザミさんとの戦いもあったし、始めから傷も付いてた。

 そこにアランの攻撃で限界を感じたのか、大きな翼を使って大空に飛び上がる。

 

 ……逃げてくれたのかな。

 

 

「に、ニャ……助かったニャ?」

「とりあえずはな」

 

 

「…………カァァ……」

 残ったのは、所々弱く燃える草、私達三人、弱って倒れてしまったダイミョウザザミさん。

 

 

「ごめん……ね」

 ダイミョウザザミさんの正面に向かってから、声を掛ける。

 

 謝らなくちゃ……。

 

 

 謝ったら許してくれるなんて、思ってない。

 

 

 許される事をしたなんて、思ってない。

 

 

 全部私のせいだって、そんな事は分かってる。

 

 

 

 だけど、どうしたら良いか分からない。

 

 私はアランみたいにモンスターの事詳しくないし、強くもない。

 

 

 あなたを助けられなかった、邪魔になった。

 

 

 

「ごめん……ね。ごめんなさい……私…………私……」

 あなたに何もしてあげられない。

 

 謝る事しか出来ない。

 

 

「……ク……カ……ァァ…………」

 まだ生きている身体。まだ生きているだけで、もうその身体は限界なんだって私でも分かってしまう。

 

 

 涙が止まらない。

 

 

 泣いてるだけじゃ何も変わらないって、分かってるのに。

 

 

 泣いたって謝ったって、この子が救われないって分かってるのに。

 

 

 

「ニャ……ミズキ。ダイミョウザザミさん、多分……だけど、ニャ。謝って欲しい訳じゃないニャ……だから、泣いちゃダメニャ」

 隣に立って、優しく諭してくれるムツキ。

 

「でも……私、何も出来ないもん……っ!」

 私は何も───私じゃないなら……アランなら……っ!

 

 

「アラン……っ! ダイミョウザザミさんを助けて!!」

「お前……」

 目を細めて、歩いてくるアラン。

 

 その表情は厳しい物で、怒っているような、そんな表情で。

 

 

「アラン……? あ、アランなら助けられるよね?! ドスジャギィも助けてくれたアランなら助けられるよね?! アランならダイミョウザザミさ───アラン?!」

 私が頼む横に来て、アランは突然剥ぎ取り用のナイフを取り出した。

 

 それを、動かないダイミョウザザミの甲殻に突き刺す。

 流れ落ちる体液。浅い傷だからか、弱ってそんな力もないのか、ダイミョウザザミさんは反応もしない。

 

 

「な、何してるの?! 可哀想だよ……っ!」

「…………もう毒が回ってるな。……ダメだ」

 その体液を手の防具に着けて、少し舐めてからアランはそう言った。

 

 

 毒……が? ダメ…………?

 

 

「ごめん、アラン…………私、バカだからさ。何言ってるか、分かんないよ」

 ただ、信じたくないだけだった。

 

 事実から目を背けたいだけだった。

 

 

「リオレウスの足に毒爪があるのは知っているだろう? 弱った身体にもう毒が回りきっている。…………こいつは、助からない」

 はっきりとそう言うアラン。そんな、だって……アランなら───

 

 

「嘘だよ……アランなら…………アランなら出来るよね? だって、アランは凄いじゃん…………私なんかと違って───」

「お前はこいつを侮辱するのか? 俺に頼む暇があるなら、お前がやる事があるんじゃないのか?!」

 腕を掴んで頼み込む私に、アランは声を上げてそう言ってきた。

 

「そ、そこまで言う事ないニャ!」

「事実だ……」

「ニャ……」

 私がやる事…………? 分からないよ。そんなの、分からないよ。

 

 

 

 私はこの子と遊んじゃいけなかった。友達になっちゃいけなかった。

 

 人と竜は相容れない。アランはそう言っていたのに、私は夢見て無茶をして……結果ダイミョウザザミさんを傷付けた。

 

 

 私が居なければダイミョウザザミさんは───

 

「クカァァ……」

 鋏が、少しだけ動く。残っている鋏が持ち上げられて、私の方に伸ばされた。

 

「ダイミョウザザミ……さん? ど、毒が辛いんだよね……っ! 待ってて、今解毒剤を作って───」

「お前はどこまでこいつを虚仮にすれば気がすむ」

「こけって何?! 侮辱って何?! 私はダイミョウザザミさんを助けたいだけなのに!!」

 なんで? なんでアランは分かってくれないの?

 

 

 モンスターを助ける事がそんなにいけない事なの……?

 

 

「……ダイミョウザザミはな、お前を助けたんだよ」

 そんな事を、アランは言った。

 

 そんな事は、頭では分かってた。

 

 

 でも、信じられなくて。なんで助けてくれたのか分からなくて。

 

 

「謝るんじゃなくて、礼を言え……」

「……っ」

 それは……認めるって事で。

 

 ダイミョウザザミさんはもう助からないって事を、認めるって事で。

 

 

 私を助けてくれてありがとう。

 そんな簡単な言葉を私は言えなかった。

 

 

「だって…………だって私、せっかく友達になれたのに……何も……してあげれて…………ない」

 遊んでもらって、命を賭けてまで助けてくれたダイミョウザザミさん。

 

 

 なんで……そこまでしてくれたのかな。

 

 

 

「……信じたくないが、こいつにお前の純粋な気持ちが伝わったんだろ。…………でなきゃ、助けないさ」

 何かを疑うような表情でダイミョウザザミを見ながらそう言うアラン。

 私の気持ちが伝わった……?

 

 

 お友達になれたの……かな。

 

 

 

「……チッ。やっぱり来たか」

 私が俯いていると、アランはまた武器を構えながらそう言った。

 アランの視線の先には、何匹もの生き物が見える。

 

 

「ウォゥッウォゥッ!」

 ジャギィ達。数え切れない数のジャギィの群れがこの場を囲んでいた。

 

 ここは、あのドスジャギィ(・・・・・・・・)の縄張りの近く。だから、このジャギィ達はあの子の仲間。

 きっと回復しかけているボスの為にご飯を探してる───そのご飯って……?

 

 

「クカァァ……カァァ」

「に、逃げないと……っ! ダイミョウザザミさん、ここから逃げないと……食べられちゃうよ!」

「その前にボク達が食べられるニャ……。ミズキ、ダイミョウザザミさんの気持ち……分かってあげるニャ……」

「分かんないよ!! モンスターの気持ちなんて分かんないよ!! いくら友達だって私が言ったって、ダイミョウザザミさんが本当にそう思ってるかどうかなんて、私には分かん───」

 私の言葉を塞いだのは、ムツキでもアランでもなかった。

 

 

 大きな鋏。

 その鋏で攻撃するでも守るでもなく。ダイミョウザザミさんは私を自らの身体に寄せてくる。

 力が強くて逆らえないけど、それはやっぱり攻撃なんかじゃなくて……暖かい温もりを感じた。

 

 

「ダイミョウザザミ……さん?」

「…………ク……カァ……ァ」

 私達……友達になれたのかな……。

 

 

 こんな私でもあなたは……守ってくれたんだね。助けてくれたんだね。

 

 

 

 

 あなたの方が辛いのに、励ましてくれるんだね。

 

 

 

 

「…………っ、ぅっ…………ひっ……ぅぁ…………ぁ、っ……ありがとう、助けてくれて。ありがとう、友達になってくれて。ありがとう…………助けてあげれなくて、ごめんね」

「クカァァ……」

 

「ニャ……ミズキ……」

 皆、優しいね。

 

 

 

「ミズキ……このままだとこいつは生きたままジャギィ達に食い散らかされる」

 ジャギィ達から目を離さずに、アランはそう言う。

 

 それを聞いて、アランが次に言う言葉はなんとなく分かっていた。

 

 

 それはきっと、私に出来る事。

 

 それはきっと、私がやらなきゃいけない事。

 

 

 私の、責任。

 

 

 

 

「…………殺してやれ」

 もう、ダイミョウザザミさんは助からない。

 

 リオレウスのブレスを何度も受けて、毒は全身に回っていて、放っておいてもダイミョウザザミさんは死んじゃうんだと思う。

 でも、だから、ジャギィはきっとダイミョウザザミさんを襲おうとしてる。

 

 

 生きたまま、その身体を蝕まれる。

 それがどんなに辛い事か、想像なんて出来ない。

 

 

「ニャ?! ミズキ……本当に、するのかニャ?!」

 無言でソルジャーダガーを逆手に持つ私に、ムツキは驚いた声でそう言った。

 

 このまま、ダイミョウザザミさんを放っておいて逃げたって。きっと誰も文句は言わない。

 アランもそれがハンターとして正しいって多分言う。でも、きっとそんな事は思ってない。

 

 

 

 これは私の責任だ。

 

 

 

「……ク……カァ……ァ」

「今、楽にしてあげるからね───」

 振り上げる。

 

 

 遊んだのは、ほんの少しだった。

 

 

 

 身体に触って、背中に乗って、一緒に散歩しただけ。

 

 ねぇ、私達……友達になれたのかな。

 

 

 あなたの気持ち、分かってあげれてるかな。

 私の気持ち……伝わってるかな。

 

 

 ありがとう、ごめんなさい。

 

 

 

 大丈夫、頭が一瞬チクっとするだけだから。

 

「……クカ───」

「───うぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!」

 

 

    ☆ ☆ ☆

 

 お腹が減った。

 

 

 ただ、そう思った。

 

 

 確か上には川があったかな。

 

 

 土を掘り上げて、登ってみる。うん、川があった。

 

 

 川の水の中の微生物を水ごと食べる。

 

 

 何か、居る。

 

 

 見た事のない生き物が、自分に迫って来ていた。

 

 小さな生き物だけど、一応威嚇しておこう。

 

 

 でも、その生き物は威嚇に応じなくて。

 

 それどころか、近付いてくる。

 

 

 襲ってくる気配はないから、友好的な生き物なのだろうか?

 

 

 自分に触って来るその生き物はなんだか嬉しそうだ。

 

 

 その生き物が何か鳴き声を出した。

 

 意味は分からないけど、自分も一応返事をする。

 

 

 そしたら、今度はもっと小さな生き物と自分の背中に登ってきた。

 

 

 遊びたいのかな?

 

 背中に乗った生き物は、なんだかとても嬉しそうだ。

 

 

 自分が小さかった頃を少し思い出した。

 もう、記憶は薄れてしまったけど。他の生き物とこうやって遊んでいた事もあった気がする。

 

 こうしてみると、可愛い生き物だ。

 友好的な意思が伝わって来る。なら自分も、遊んであげよう。

 

 

 歩くだけで、その生き物はとっても嬉しそうだった。

 

 

 

 ふと、嫌な気配を感じる。

 

 この気配は……あの生き物だな。逃げないと大変だけど、この小さな生き物も大変だ。

 

 そんな事を考えていたら、あの生き物がお得意の火を口から吐いてきた。

 火は嫌いだ。けど、背中に乗っている小さな生き物にあの火が当たったら無事じゃ済まない。

 

 

 なんでか、反射的にその火をガードする。

 

 耐え切れなくて、外れてしまった。

 

 

 小さな生き物は無事のようで、自分から降りて距離を取る。

 

 あの生き物が逃げるだけの隙くらいは作ってもバチは当たらないんじゃないだろうか。

 

 

 攻撃してみる。あの生き物は恐ろしいけど、やってみる。

 

 でも、やっぱりダメだった。

 

 

 あの生き物はとっても強い。このままでは、自分の命も危ないかもしれない。

 

 身体の調子も悪い。

 

 

 

 でも、なぜか小さな生き物はまだこの場に残ってた。

 

 怖くて、動けなかったの?

 それとも、心配してくれてるの?

 

 

 でも、危ないよ。そこにいたら、あの生き物はとっても強いんだ───

 

 

 

 気が付いたら、身体が動いていた。

 

 

 熱い。

 

 全身、ボロボロだ。

 

 なんだか身体の中も辛い。

 

 

 辛い。

 

 

 辛い。

 

 

 

 その後、少ししてあの生き物は去っていった。

 

 

 小さな生き物は、自分を見ながら目から水を流している。

 

 あれは、なんだろう。

 

 痛い目にあった時に、流れる物だっけ?

 

 どこか、痛い目にあったのかな?

 

 

 なんで、自分を見ているのかな?

 

 

 

 辛そうだね。自分と、同じだ。

 

 

 その小さな身体を、寄せてみる。

 この生き物、とっても温かい。

 

 

 

 でも……苦しいな。

 

 

 終わるのかな。

 

 

 何が、終わるんだろう。

 

 

 でも、早く終わって欲しい。

 

 とっても、苦しいんだ。

 

 

 小さな生き物は、目からさっきよりいっぱい水を出す。

 

 

 

 アレは……ナイテイルンダ。

 

 ナンで……ナイテイルンダ?

 

「───うぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!」

 自分が……死───

 

 

 

 懐かしい感覚だった。

 

 この生き物と遊んでいるのは、昔小さな頃に仲間と遊んでいる感覚だった。

 楽しかった。だから、この生き物が自分は大切な仲間だと感じたんだと思う。

 

 良かった、助けられて。

 

 

 ───アリガトウ、ヤサシイイキモノ。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

「ねぇ、アラン……」

 あの後の事、全然覚えてない。

 

 

 ダイミョウザザミさんをこの手で殺して。そこから、どうしたんだっけ。

 家に着いたんだけど、ご飯を食べる気にもならなくて。

 

 お父さんやアイシャさんの言葉も全然耳に聞こえて来なかった。

 

 

「……なんだ?」

「私……強くなりたい。稽古して欲しい」

「……明日な」

「今から」

「……は?」

「今から」

「…………分かった」

 

 

 強くならなきゃ。

 

 

 

 

 そして、アイツ(・・・)を倒すんだ。




ダイミョウザザミは自分自身結構好きなモンスターで、こんな活躍をさせてみました。ちょっと補正が入ってるかなと思いますが、ご愛嬌という事で。

さてさてこの流れは後一話だけ続きそうです。
成功ばかりが、物語ではない……のです。


今回の言い訳。
終盤の地の文は完全に作者の妄想ですね。独自解釈ですね。

モンスターが何考えてるかなんて分かんないよ。
彼女のセリフですが、これはこの世の理だと思います……。

分かんないんですよ。だから、これは一つの解釈という……事で。


不定期なので、また次の更新は分からないです。……いつになる、かなぁ?
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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火竜とこの世界の理

 ただ、甘いだけだと思っていた。

 

 

 可哀想だから、助けたい。

 友達だから、助けたい。

 

 そんな甘い考えで、振り回される生き物の気持ちにもなってみろ……。内心イラついてもいた。

 

 

 ──…………殺してやれ──

 きっと、甘い考えだから。可哀想だとか、助けたいとか、そんな事を言うだろうと思っていた。

 

 

 勘違いしていたのかもしれない。

 

 

 ──うぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!──

 甘いだけじゃない。

 

 ただ、優しいんだ。

 ミズキは自分が辛い思いをしても、相手に優しく出来る奴なんだ。

 相手の気持ちを汲み取ってやれる奴なんだ。

 

 それは、自己犠牲。

 

 

 ……やっぱり、お前はあいつに似ている。

 

 

 

 それなのに、気付いてやれなかった。

 

 

 

「ニャ、アラン……ミズキ知らないかニャ? 今朝から見当たらないニャ……」

「……何?」

 あいつが何を思っていたのか、考えれば分かったハズだ。

 

 

 ──稽古して欲しい──

 

 

 昨日強引にそう言ってきたのが何の為か。

 

 

「まさか……」

「ニャ、心当たりがあるのかニャ?」

 結局俺は昨日、日が昇るまでミズキに稽古を付けていた。

 どれだけ叩き伏せて「辞めるか?」と説いてもあいつは立ち上がってみせた。

 

 

 俺が眠ると言うまで、あいつは何度でも向かってきた。

 

 

 それが何の為か、考えなかった。

 

 

「……どこかで寝てるんじゃ、ないのか? あいつ昨日、日が昇るまで起きてたんだぞ?」

「ニャ?! ミズキがかニャ?!」

 答えは、一つだろう。

 

 

 あいつは、優しいんだ。

 自分を犠牲に出来る程、優しい。

 

 

「ほいほーい、ミズキちゃんなら私何処に居るか知ってますよ!」

「何処だ……っ!」

 通り掛かったギルドの受付嬢に詰め寄って答えを求める。

 

 

 分かっている。

 

 だが信じられなかった。

 

 

「け、血相変えてどうしたんですかハンターさん?! ミズキちゃんなら、笑顔でハチミツ採取に行くってモガの森に行きましたよ?」

「ニャ?! ボクを置いて?!」

「え、なんでムツさんが居るんですか……?」

 あいつは、そこまで思い詰める程に優しかったんだな……。

 

 

「おいネコ、リオレウスの臭いは辿れるか?」

「なんでリオレウスニャ?! ボクならミズキの匂いだって嗅ぎ分けれるニャ!!」

「あいつが何をしようとしてるか、分かるだろ?」

 あのバカ……。

 

「あのリオレウスを倒そうって……ニャ?! 嘘ぉ」

「え、えぇ?! 私聞いてませんよ?!」

 受付嬢には何も感じられないように上手く誤魔化したのか。

 

 

 あいつ、本気になったら良い行動力をしてるな。なら───

 

 

「そうだ、ネコ」

「ムツキだニャ」

 そうだったな。

 

「ムツキ、リオレウスの所に先回りするぞ。理由は行きながら話す」

「わ、分かったニャ! 準備だけするニャー!」

「ついでにミズキのアイテムボックスも確認してこい」

「よく分からないけど分かったニャ!」

 急いで家に戻っていくムツキ。

 

 間に合うか……? いや、ミズキならムツキが追ってくると分かってる筈だ。

 受付嬢を騙したあいつが他に何もしていないとは考えられない。

 

 

「ミズキが森に入ったのはどのくらいだ?」

「け、結構前だったと思いますよ……。二時間くらい……前でしょうか」

 間に合うか……? いや、間に合わせる。

 

 

 

「…………誰も死なせるものか」

 ヨゾラ……。

 

 

「防具も武器も無かったニャー! 後、ボクの調合したシビレ罠とか回復薬も……みゃぅ……。それに消臭剤とかこやし玉とか何に使うか分からない物まで無くなってたニャ。あと何でか……ジャギィ防具も無いニャ」

 心配そうな表情で戻ってくるムツキ。

 

 必ず助ける、心配するな。

 

 

 しかし、あいつがそこまで考えられる奴だったとはな。将来良いハンターになるかもしれない。

 バカで抜けている奴だと思ったが、根はしっかりしているようだ。

 

 計算外だったのは、俺が居る事だろうが。

 

「ミズキはハッキリ言ってバカニャ」

 酷い評価を聞いた。……否定はしないが。

 

「でも……本当にたまに、何かスイッチが入ったように考えるようになるニャ。アオアシラの時みたいに……ニャ。あの時は本当に無茶をしたニャ…………心配……みゃぅ……」

 アオアシラの時……?

 

 

「……お前の鼻が頼りだ。ミズキは多分お前に罠を張ってる。あいつの匂いがしてもそっちは無視しろ」

「ニャ……信じて良いかニャ? ミズキは……ミズキはボクの大切な妹ニャ。何かあったらボク……ボク…………」

「絶対に助ける。だから力を貸してくれ……ムツキ」

「ニャ、分かったニャ! アランを信じるニャ!」

 頼りにしている。

 

 

「な、何だかよく分かりませんが……っ! 孤島の素材ツアーというクエストにお二人は行くっていう事で宜しいですね?」

「あぁ、それで頼む」

「ほいっ、では受け付けしておきます! えと……ミズキちゃんの事、宜しくお願いします……っ!」

 あいつは皆に好かれてるんだな。

 

 

 だから、早まるなよ……。

 

 

「間に合わせるぞ……ムツキ」

「ガッテンニャ!」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 私は、わがままだ。

 

 

 良く無理を言ってはムツキを困らせる。

 それでいて、諦めが悪いから結局ムツキは頼みを聞いてくれたりする。

 

 今回は……そんな性格が引き起こした最低な事。

 

 

 私はただ、ダイミョウザザミさんと遊びたいだけだった。

 でも、そんなのはおかしい事。いけない事。

 

 私はハンターで、ダイミョウザザミさんはモンスターなんだ。

 友達になんてなれない。なっちゃいけない筈だった。

 

 

 私のせいなんだ。

 

 

 だから、責任を取らなくちゃいけない。

 

 

 

「……これで、よしと」

 不思議な感覚。

 

 今日は寝ていないのに、随分と頭が回る。

 

 

 きっと、ムツキは追ってくる。

 だから私の匂いが着いた防具と大量のマタタビで、島の反対側に誘き寄せよう。

 周りに消臭玉とこやし玉を蒔けば、此処からの足取りは掴めないハズ。

 

 ムツキまで、巻き込みたくないしね。

 

 

「随分と遠回りしちゃったけど。……待っててね」

 リオレウスの居場所は分かってる。

 

 私の前任者のハンターさんが、絶対に近付いてはいけないと言っていたあの場所。

 島で一番高い場所。その丘の付近が、アイツの縄張り。

 

 

「…………殺してやる」

 背負う片手剣を強く握りながら、私は私自身が発した言葉を理解してなかった。

 無意識に、私が怖がっていた()と同じような事を言っていたんだと思う。

 

 

 

 

 随分と登った。

 知らなかったな、モガの森にこんな高い所があるなんて。

 

 地平線の向こうまで広がる海は、天気が悪いからか少し暗く見える。

 

 

「……雨、降るのかな?」

 空を見渡せば、黒い雲が島を覆い尽くそうとしていた。

 多分雨は降ると思う。

 

 でも、今はアイツを倒す事を考えなきゃ。

 

 

 

 何が理由か分からない。

 けど、最近のモガの森の生態系のバランスを崩していたのは、きっとあのリオレウスなんだと思う。

 

 縄張りを荒らしてロアルドロスを追いやったのも、ドスジャギィを傷付けたのも、きっとリオレウスの所為。

 

 

「私が───っ」

 私がアイツを、倒さなきゃいけない。

 そう決意を込めて言葉にしようとしたその時、急に風向きが変わったような気がした。

 

 それは比喩表現なんかじゃなくて。

 さっきまでの心地良い海風の反対から吹く、自然ではない風圧。

 

 

 ───そうか、自分から来たんだね。

 

 

 また誰かを、傷付けに来たんだね。

 

 

 今度は私を、殺す気なんだね。

 

 

 

 私が悪いのは分かってる。

 

 だからこそ、私があなたを倒さなきゃいけない。

 

 

「ヴォゥゥッ!」

「……リオレウス!」

 私を見つけ、上空から地面に降り立つ空の王者(リオレウス)

 

 赤と黒の甲殻と、一対の翼は見間違える事はない。

 人の身体程もある巨大な頭を私に向け、その眼でしっかりと獲物を見据えた。

 

 

 地面に着地するリオレウス。その巨体を支えていた翼が起こす風圧は、立っていれば小さな私の身体なんて飛ばされて地面を転がるだろう。

 

 だから私は、その風圧が一番強くなる瞬間に姿勢を低くして前方に転がった。

 出来るだけ風圧を受ける面積を減らして、地面を転がりながらリオレウスに肉薄する。

 

 

 地面を蹴って立ち上がり、身体を持ち上げる動作も利用してソルジャーダガーをリオレウスの下腹に叩き付けた。

 

 

「ヴォゥゥッ?!」

 背後で聞こえる悲鳴。構わずに剣を引く動作を利用して、片足を軸にその場で回る。

 

 水平に薙ぎ払われたソルジャーダガーは、刃を毀しながらもその剣先に鮮血を引かせた。

 

 

 アランに教えて貰った方法なら、リオレウスにダメージを与えられる。

 私でもリオレウスに勝てる見込みがあるかもしれない。

 

 そう思った時、私の視界から色は消え失せた。

 

 

 

 

 ただ眼に映るのは、攻撃すれば良い目標となる黒い影。頭が認識出来るだけの、周囲の地理。

 白と黒だけの世界で、戦いに必要な物だけが視界に映る。

 

 まるで眠っているかのように静かな空間。聞こえるのは相手の声と脈動、剣が何かを斬る音だけだ。

 

 

 何だか不思議な感覚。

 心臓は激しく動いているハズなのに、その音は聞こえない。

 

 でも、嫌な感覚じゃない。

 

 

 何だか懐かしい感覚。

 

 

 いつだったか、同じ感覚に襲われた事があった気がする。

 

 いつだったかな。確か、アオアシラと戦った時? それより、もっと前……?

 

 

 

「■■■■■■■■■!!」

 鼓膜が破れそうな程の音が周囲に鳴り響く。

 

 ただ、特に耳を塞ごうとは思わない。

 構わずに剣先を黒い線に当てがって、引く。

 

 

 黒い線が千切れて何かがそこから溢れ出た。

 

 

 黒い影は翼を大きく動かして自分との距離を取る。

 私は身を屈めて地面を蹴りながらその影を追った。逃がしはしない。

 

 次の瞬間背中を熱が通り過ぎる。

 それが何なのかは、今はどうでも良かった。

 

 

 ジャンプして距離を取った影に再び肉薄。

 火を吐いたばかりのその頭にソルジャーダガーを叩き付け───弾かれた。

 

 どうやら切れ味が限界のよう。

 リオレウス相手に持って来る武器ではない。そんな事は百も承知。

 

 

「■■■■■ッ!」

 私を上から覆う黒い影を盾で受け流しながら、地面を転がってまた真下を取る。

 その間にポーチから取り出した瓶を、立ち上がると同時にソルジャーダガーで叩き割った。

 

 

 割れた瓶の音は聞こえない。

 割れた瓶だと思う黒い斑点が白色に溶けていって、ソルジャーダガーには瓶に入っていた液体が付着する。

 

 心眼の刃薬。

 程よく滑る液体を刃に塗ることで、武器が弾かれるのを防ぐアイテムだ。

 本当はゆっくり刃の全部に塗るのが良いのだけど、今はそんな暇がない。

 

 液体が染みている刃は刃毀れしていても滑ってくれるから、硬い甲殻にも弾かれずにダメージを与えることが出来る。

 

 

 切り上げ、切り下ろし、切り払い。

 自分の思う通りに線を描くソルジャーダガーはその肉を削ぎ取り、千切り、切り落としていく。

 

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 影は悲痛の叫びを上げた。

 

 

 大丈夫、今楽にしてあげる───か、ら? あれ?

 

 

 

 

 私は何と戦っていたんだっけ?

 

 

 私は何で戦っていたんだっけ?

 

 

 あれ、分からないや。

 

 

 

 ただ、目の前の黒い標的を斬り続ける。

 当たったらいけない攻撃だけは避けて、後は盾で受け流す。

 

 

 良いかな、多分。

 今、とっても心地が良いから。普段より頭が良くなったみたいに思考が回る。

 シビレ罠も使うタイミングは見えてきた。刃薬もそろそろ切れるから、罠を使って砥石と新しい刃薬を使う。

 

 次に一気に畳み掛けて、倒す。

 

 

 何を倒すんだっけ?

 

 

 この黒い影は、何だっけ?

 

 

 

「■■■■───」

 あの攻撃は、何だっけ?

 

 盾で受け流して、また近付かないと。

 

 

「───■■■■■ァァァッ!」

 なんだか、不思議な感覚だった気がした。

 

 

「■■■! ■■■!!」

 

 物が良く見える。

 

「■ヅ■!!」

 

 匂いも良く匂う。

 

「ミ■■ッ!」

 音が聞こえる。

 

「■ヅキッ!!」

 

 

 白と黒は剥がれ落ちていき、視界に色が塗りたくられていく。

 

 

「ヴォゥゥ……ッ」

 目の前で空を見上げるように立っているのは、リオレウス。

 多分、私が戦っていた相手。

 

 その身体は何処もかしこも傷だらけ。切り傷に何かに噛まれた後、鱗は剥がれて隙間から見える肉は真っ赤に染まっていた。

 

 

 酷い。第一印象はそれ。

 

 次に、力が入って手から離れない片手剣を見て私は理解する。

 私が傷付けた。あのリオレウスを。

 

 

 

「ミズキ! ミズキぃ! しっかりするニャ!!」

 耳元で私を呼ぶムツキに気が付いた瞬間、私の───どこか別の所にあった意識が引き寄せられた。

 

 ハッキリする意識。

 今さっきまで自分がしていた事が脳裏にフラッシュバックする。

 

 

 そうしてやっと、雨が降っていた事に気が付いた。

 盾がバラバラに砕けている事に気が付いた。

 

 防具が泥だらけな事に気が付いた。

 返り血だらけな事に気が付いた。

 

 

 自分が横に倒れている事に気が付いた。

 

 

 

「ヴォゥゥッ!!」

「ま、待て……っ!」

 力弱く、その翼を広げる火竜。今しかないと言わんばかりにその身体を浮かせるリオレウスを追うために立ち上がろうとするけど、ムツキがそれを許してくれなかった。

 

 

「は、離してよ……っ! もう……少しで、倒せるんだよ?!」

「落ち着くニャ!! 今のミズキは変ニャ!! そのまま……あの時みたいに何処かへ行ってしまうニャ…………行かないで……みゃぅ」

「ムツ……キ……?」

 ムツキにそうやって言われて、やっとハッキリした意識が状況を理解し始める。

 

 

 

 あのリオレウスを傷付けたのは……私?

 雨が降ってる事も気が付かないで戦っていたのは……私?

 

「───私……何してたの?」

 上半身を起こしてから私はそう口にした。まるで、現状を確認するかのように。

 

 ダイミョウサザミさんを殺して、その後アランに無理無理鍛錬に付き合ってもらって。

 その後……私、リオレウスと戦ってた?

 

 

 嘘ぉ……。

 

 

 

「私ってもしかして強い?」

「ニャ、いつものバカミズキが戻ってきたニャ。アオアシラ倒すのに三日掛かったミズキが強い訳がないニャ」

「アレは違うから! アオアシラさん物凄く強かったから!! ていうかバカミズキって酷くない?!」

 違うとは言っても……本当に三日掛かってたし。あの時もなんだか同じ様な感覚を感じてた事を覚えてる。

 その時も、確か記憶が曖昧だった。私なんかがアオアシラを倒せたんだって、まるで他人事の様だったし。

 

 

 

「……あのリオレウスはお前が弱らせたのか?」

 背後から聞こえてくるのは男性の声。

 振り向くとそこには、防具無しで武器だけ背負ったアランの姿があった。

 

「アラン……? ん、えーと……分からない」

「分からない……?」

 うん、分からない。

 

 

 昨日から寝てない気がするから、頭がどうにかしちゃってるんだと思う。

 だから、分からない、

 

 

「……そ、そうか」

 唖然とした表情のアラン。まるで信じられないと言いたげな表情だけど───ごめん、私も信じられない。

 

「そういえば……私、ムツキが来れないようにって罠を貼っておいた気がするんだけど……なぁ」

「そうすると思ってムツキにはリオレウスの匂いを嗅がせた。……まぁ、まさか本当にするのとは思ってなかったがな……」

 ありゃ……アランには筒抜けだったらしい。

 

 

 なんて、誤算だったかなとか思うんだけど。

 なんだか他人事のような気がして、頭がぼーっとする。

 

 

「えっへへぇ……私もしかして二重人格だったり?」

「何バカな事言ってるニャ……」

 バカバカ酷い。

 

「お前……一体───」

「あ、そうだ……リオレウスを追わなきゃ! なんだか分からないけど弱らせれたみたいだし!」

 アランの言葉を遮って、私はそんな提案をした。

 

 どちらにせよ、ここまで来てしまったのならリオレウスを倒してしまった方が良いと思う。

 今の私が向かっても返り討ちになりそうだけど、アランが居れば勝てるんじゃないかな……?

 

 

 きっとあのリオレウスはモガの森の生態系を崩している犯人だと思う。

 だから……倒さないと。

 

 きっと私はその理念で動いていた、筈。

 

 

 

「……立てるか?」

 私の言葉にそう返事をしたアランは、手を伸ばしながらそう聞いて来た。

 

「う、うん」

 その手を取って立ち上がる。なんだか身体中痛くて、重い。

 

 

「……あいつは多分、違うぞ」

「……ぇ?」

 そして、雨の中リオレウスが飛び去った方向を見ながらアランはそう口を開いたんだ。

 え? どういう事?

 

 

 

「リオレウスが憎いか?」

「そ、それは……」

 突然のアランの質問に、私は口籠ってしまう。

 

 

 私はリオレウスが異変の犯人だと思っているし、ダイミョウサザミさんの仇でもある。

 いや、違う。私は責任をリオレウスに押し付けているだけ。

 

 ダイミョウサザミさんの仇は、私自身なんだから。

 

 

 そんな事、分かってるのにな……。

 

 

「……リオレウスを殺したいか?」

 そして、確信を突くようなそんな質問。

 

「……っ」

 私……どうしたかったのかな。

 

 

 

 リオレウスに全ての責任を押し付けて、逃げようとしてたのかな。

 私が悪いって事実から、逃げようとしてたのかな。

 

 アランは、怒るんだろうな。

 

 

 

「……」

 彼の手が挙げられる。

 

 叩かれたり、もしかしたら殴られるかも。

 それだけ私は酷い事をした。ダイミョウサザミさんにも、リオレウスにも。

 

 

「───ふぇ?」

 でも、その手は勢い良く降られる事はなく。

 ゆっくりと私の頭に乗せられて、防具の上から優しく摩られる。

 

 

「お前は優し過ぎる。ダイミョウサザミが死んだのはお前のせいなんかじゃない。……それをお前は自分のせいにして、したくもない戦いをしていたんじゃないのか?」

「そんな事ない……。私が、ダイミョウサザミさんと遊んでたから……そんな事いけない事なのに。私はハンターで───」

「モンスターと絆を結ぶ。それがいけない事だと、誰が決めた?」

 誰が……?

 

 

 いや、そんなのは……この世界の理だ。

 

 人と竜は、相容れない。

 そうでしょ……? そうなんでしょ……?

 

 

「……まぁ、信じたくないがお前の純粋な気持ちが伝わったんだろうな。お前は凄いよ」

「なに……それ。そんな事言ったって、ダイミョウサザミさんは───」

「あいつは運が悪かった。お前が居ても居なくても、火に弱いダイミョウサザミはリオレウスに勝てなかっただろうさ」

「で、でも……」

 あれ、おかしいな。

 

 

 なんで、涙が出てくるの。

 

 誰の為に、流してる涙なの?

 

 

「自分以外の為に泣けるお前は、優しいんだよ。……それで気負って、リオレウスを倒そうとしたんだろ?」

「それって……ただの八つ当たりだよね。…………私、最低じゃん」

「そうだな」

 そこで肯定されちゃうと、どうしようもない。

 

 

「お前は優し過ぎて、その罪悪感から逃げる術が無かった。だからと自分の意思にも反いてリオレウスを傷付けた……同時にお前自身も傷付けた」

「私、自身?」

「お前はリオレウスを傷付けたくなんてなかったハズだ」

「そ、そんな事ないよ……。私、多分そのまま殺そうとしてた……」

「自分の心に嘘を付いて……な」

 決め付けたようにそう言うアランは、未だに降り続ける雨の中でリオレウスが飛び去った方向へと足を進める。

 

 

「まだ殺したいか?」

「分からない……」

「付いて来い。お前の気持ちは多分、昔の俺と同じだ」

 昔の……アラン?

 

 

「ニャ、身体は大丈夫かニャ? 歩けるかニャ?」

「ありがと、ムツキ。平気だよ…………行こっか」

 ねぇ、私に何を見せる気なの……? アラン。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 雨は降り続ける。

 

 

 生き物の体温を例外なく持っていくその水滴は弱くなったり強くなったり。

 

 

「……ゥゥッ」

 そんな中リオレウスは、自らの巣と思われる所で姿勢を低くして丸まっていた。

 まるで身体を温める為に眠るムツキみたいに。

 

 

「……今なら殺せるぞ」

「……ぇ、えっと…………今は、良いかな」

 試すようなアランの言葉に私はそう答える。

 

 

 おかしいな、さっきまであんなに倒そうと思っていたのにな。

 

 

 まるで引っ込んでいた物が出て来て、それに何かが引っかかっている感じ。

 

 

「あいつがなんであんな格好をしているか、理由は分かるか?」

「わ、私が傷付けたから……回復の為?」

「それともう一つある」

 もう一つ……?

 

 

「あの下に多分、幼体が居る」

「ぇ……」

 その言葉を聞いて、それがどういう意味か考える。

 

 

 幼体……?

 

 子供……?

 

 リオレウス……の?

 

 

「来い」

「う、うん」

「うニャ?!」

 言われるがままに、アランに付いて眠っているリオレウスに近付く。

 

 所々にある傷の中には、私が付けた物もある。

 なら、他の傷は何か? 昨日からあったこの傷は何に与えられた物か。

 

 

「ギィ……」

「ヴィ……」

 翼で覆っていたその下、骨とかで丁寧に作られたその巣には二匹の生き物が居たの。

 

 小さな小さな飛竜。

 なんだか気のせいかもしれないけど、凄く弱って見える。

 赤と緑のその子供達は父親(リオレウス)に助けを求めるように鳴いた。

 

 

 

 子供が……居たんだ。

 

 

 私……何をしようとしてたんだろう。

 

 

 

 自分勝手な、そんな判断と考えだけで───この子達を殺そうとしていた。

 その考えも、自分勝手なんだってその次に思う。

 

 私は本当に勝手だ。

 自分の勝手でモンスターと仲良くしようと思って、自分の勝手でモンスターを殺そうとする。

 本当に、最低に、勝手だ。

 

 

「……ヴォゥゥ……ヴォァァッ!」

 子供達の声に目を覚ますリオレウス。

 

 雨から子供達を守っていた翼を広げ、立ち上がる姿は格好良くすら見えた。

 

 

 

「人がモンスターと関わるっていうのはな、悪い事じゃない。俺は認めやしないが……モンスターと絆を結ぶのも、悪い事ではないのかもしれない」

「モンスターと……絆を結ぶ?」

 それは、ダイミョウサザミさんと友達になったのは悪い事じゃないって言いたいの……?

 

 

「でもな……ダイミョウサザミにはダイミョウサザミの、リオレウスにはリオレウスの生きる道がある。リオレウスはただ、この子供達の餌を探していただけなんだ」

「……っ」

 自分の勘違いに、身勝手に、取り返しの付かない間違いに、私は言葉が出なかった。

 

 

 モガの森の異変。私はその犯人をこのリオレウスだと勝手に決め付けて……酷い事をした。

 

 

「お前はダイミョウサザミにお礼を言ったな」

「……うん」

「なら、リオレウスにするべき事も分かるな?」

「…………うん」

 アランは、凄いな。

 

 

「ニャ?! ミズキ……まさかっ! や、辞めるニャ……リオレウスはダイミョウサザミみたいに優しいモンスターじゃないニャ!」

「それでも……これは私の間違い、だから」

 私の身勝手で、彼を傷付けた。

 

 

 ダイミョウサザミさんは、助けてくれた。

 だから、お礼を言った。

 

 

 リオレウスを、傷付けた。

 だから私は───

 

 

 

「───ごめんなさい」

 許してもらえるか、分からない。

 

 普通なら、許してくれない。

 でも、目一杯の気持ちを詰め込んで。私は頭を下げる。

 

 

 雨が弱くなっていくのを感じた。

 今なら得意のブレスも勢いを弱める事はないと思う。

 

「……ヴォァゥゥッ」

 何かをしようとして、でも力が出なくてその場に倒れこんでしまうリオレウス。

 小さな子供達は心配そうにお父さんを見つめると、巣から出てきて私を威嚇した。

 それを見てリオレウスは立ち上がろうとするけど、どうにも力が入らないみたい。

 

 そして、その子供達もなんだか動きが弱々しい。

 

 

「リオレウス……っ!」

 こんなの、おかしいよね。

 

 さっきまで……私はリオレウスを殺そうとしてたのに。

 この子達を見て、私はリオレウスを助けたいなんて思ってしまった。

 

 こんなのやっぱり、おかしいよね。最低だよね。

 

 

 でも───

 

 

「アラン……」

「お前は俺が言った事を充分に理解したか? それでもお前は、俺にその先を言うんだな?」

 間違ってる。貴方はそういうのかな。

 

 

「……うん。私、リオレウスを───この子達を助けたい」

「お前は、優しいな……。一つだけ約束してくれ」

 約束?

 

「その優しさで、自分を殺すなよ」

 私の頭に手を乗せてそう言うアラン。

 

 その足でリオレウスに近付きながら、彼はこう続ける。

 

 

「お前も来い」

「私……も?」

「ま、またかニャ……」

 言われた通りにアランに付いていく。

 

「……俺は敵じゃない。だから、変な気は起こさないでくれよ?」

 彼は、動けないリオレウスの横を通り過ぎながらそう言って、そのままリオレウスの反対側へ。

 

 

「ここまでとは……な」

「……っ」

 その反対側には生き物の死体が二つあった。

 

 

 一匹は、殆ど手が付けられてないアプトノス。リオレウスがご飯に狩って来たのかな?

 

 もう一匹は───分からなかった。

 緑色の甲殻。ただそれだけで、原形が分からない程に何かに捕食された跡がある。

 

 

 リオレウスが食べたのかな……?

 

 

 

「これって……?」

「リオレイアだ」

「っぇ?!」

 その言葉を聞いて、背後の三匹に視線を移す。

 

 

「お母さんを……」

「アイツ等じゃない。……見ろ」

 そう言いながら、アランはリオレイアの残骸に何かを当てる。

 その何かはリオレイアに出来た傷にまるでパズルみたいにピッタシハマった。

 

「それって……?」

「この前ドスジャギィから取り出した物だ」

 と、いう事は……。

 

 

「リオレイアをこんな目に合わせたのが……森の異変の正体?!」

「そうなるな……」

 リオレイアと言えばリオレウスの種の雌。飛竜の中でもその強さは上位に位置するモンスター。

 そのリオレイアを……こんなに酷い目に合わせられるモンスターがこの島に居る……?

 

 

「知ってるか? リオス種は雌が子育てをする。リオレイアの下顎には咀嚼した肉を幼体に与える為の器官があるからな」

「って……事は。あの子達───ご飯食べてないの?!」

「まだあの小ささだと牙も生えてないんだろう。だからリオレウスはアプトノスに手を付けずにダイミョウサザミを狙った」

「ダイミョウサザミのお肉なら食べられたって事かニャ」

 

 

 複雑な気持ちになってしまう。

 

 

「気負うな。……助けるんだろ?」

「で、でも……どうやって?」

 私の質問に答える前に、アランはアプトノスの死体の前に歩いていく。

 

「ヴァァッ」

 そして、横取りするなと言わんばかりに力を振り絞ってリオレウスは立ち上がった。

 

「お前もちゃんと見てろ。一回しかやらない」

 それを確認してから、アランはリオレウスにそんな事を言う。

 

 

 リオレウスがその意味を捉えられているかは、分からない。

 ただ、きっと届いている。そんな気がした。

 

 

「お前もやるんだよ、ミズキ」

 そしてそう言うと、アランはリオレウスが食べた痕跡がある血の付いたアプトノスの腹に顔を埋めて───肉を食べた。

 

「えぇっ?! お腹壊すよ?!」

「口の中で噛み砕け……」

 そうとだけ言ってアランは目を瞑って口を動かす。

 

 う、嘘ぉ……。

 

 

「辞めとくが吉ニャ……」

「むぅ……ぇぃっ」

「ニャ?!」

 私も、アランみたいにアプトノスの肉を噛む。生肉だからぜんぜん噛み切れないし、血の味が本当に酷い。

 でも、何とかしてみる。

 

 

「ほ、ほひたら……?」

「子供達の前に吐き出してやれ」

 そう言い終わるアランは既に小さな小さな飛竜の頭を撫でていた。

 まるで自分の子供を見るような眼で。まだ、そんな歳じゃないだろうに。

 

 

「ギィ!」

 あなたも欲しいよね。

 そんな子供の目の前に、噛み砕いたお肉を吐き出す。

 

「女の子がはしたないニャ」

「ぅっ……」

 それは、そうだけど……。

 

「ギィッ! ギィッ!」

 私の吐き出したそれを、無我夢中で口の中に放り込む小さな飛竜。

 その姿がなんだか愛らしくて、自分の恥ずかしさなんてどうでも良くなった。

 

 ……か、可愛い。

 

 

 

「ヴァァゥッ!!」

 そんな事をしていたら、やっぱり怒ったのかリオレウスが鳴き声を上げた。

 その声で美味しそうにご飯を食べていた二匹もヨテヨテとリオレウスの元に戻っていく。

 

 

「わ、私達……貴方を助けたいの」

 リオレウスと、目が合った。

 

 今はこれで良かったのかもしれない。

 でも、育ち盛りの子供達がアレだけでちゃんと自分で肉を嚙めるまで成長出来るとは思えない。

 

 

「ミズキ、もう良い」

「で、でもアラン!」

「ちゃんと見ろ」

 そう言うアランの表情は、本当に優しい表情。

 普段目付き悪いのに、そんな表情もするんだね……貴方は。

 

 

「ヴァァゥ……ッ」

 そして、言われた通りにリオレウスを見る。

 

 大きく口を開いて、アプトノスの肉を噛み千切るリオレウス。

 少ししてその口から、何かが吐き出されるのが視界に映った。

 

 

「ぇ……」

「どうやら俺達の行動をちゃんと理解して学習したようだな。これ以上はここに居ると俺達はただの侵略者だ……行くぞ」

 凄いって、そう思った。

 

 

 こんな事があるんだって、不思議に思った。

 

 

 こんなに近くにいるのに、私達は敵対してない。

 

 

 こんなに夢の様な光景が……また見られるなんて。

 

 

 

 人と竜は相容れない。

 確かに、そうなのかもしれ無い。

 

 それはきっと間違いじゃない。でも、それは答えではないのかもって───私はアランを見てそう思った。

 

 

 

 とってもとっても、素敵な体験。

 

 

 

 

「行くニャ、ミズキ。これ以上居ると怒られるニャ」

「そ、そうだね。行こっ───」

 アレ……? 身体が動かな───

 

「ニャ?! ミズキ?! ミズキぃ!!」

「ミズキ?!」

 真っ暗になる感覚の中で、私の名前を呼ぶ声だけが聞こえた。

 

 

 あぁ……また迷惑掛けちゃうな。

 

 でもね、今ね、なんだかとても……安心して、心地が良いんだ。

 ごめんなさい……ちょっと、疲れちゃった。




主人公だし、このくらいはね←
ようやく話が落ち着いて安心している作者です。


この流れのお話はこの作品の中でも大切なお話だったのでゆっくりやりたかったのです……。
しかし、早過ぎた感。もう少し後に回せば良かったなぁ……?


今回の言い訳。
巣に戻ったリオレウスはもうゲームなら蹴りで死ぬ体力でした(ぅゎょぅι゙ょっょぃ)。
なので、威嚇が精一杯で攻撃する事が出来なかったんです。攻撃する気は、ありました。

ただ目の前の生き物が自分達に都合が良い行動を取っていたので……取り敢えずは野放しにした、なんて解釈。
餌やりをリオレウスが出来なかったのは完全に自己解釈です。そもそもレイアが居なくなってレウスが子育てをするのかすら自己解釈です。
この作品はそんな自己解釈の塊で出来てます←


さてさて、レイアの損傷具合で孤島の生態系に影響を出している生き物がそろそろ分かってきた方もいるかもしれませんね……。

そいでは、次回また会えると嬉しく思います。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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熊さんとハチミツのお粥

「もう……丸一日寝てるニャ。みゃぅ……心配ニャ心配ニャ」

「そう言うお前も殆ど寝てないだろ」

 目の前のネコが泣き顔で俺にしがみ付いてくるので、適当にあしらって寝ているミズキの上に投げる。

 

 

「ニャ?! せっかくスヤスヤ寝てるミズキを起こしちゃったらどうする気ニャ!!」

 どっちだ。

 

「痛くなかったかニャ?! 早く起きるニャ……みゃぅ」

 どっちだ。

 

 

 

 しかし、本当にグッスリと寝ている。

 

 静かに目を瞑る金髪の幼い少女。こんな奴が丸一日起きてリオレウスをあそこまで痛め付けたというのだから、信じられない。

 だから、これだけ眠っているのも仕方がないのかもしれない。ただ、これ以上は確かに心配になるのも分かる。

 

 

「エビフライ揚げたら匂いで起きないかニャー」

 お前はこいつをなんだと思ってるんだ。

 

「お父さんに言って揚げてみるニャ!」

 なんだと思ってるんだ。

 

 

「ミズキ……」

 ムツキが厨房に向かうのを確認してから、彼女の頭を撫でる。

 こんなに小さな身体で、あれだけ無理をしたんだ。仕方ないか……。

 

 たが、本当にアレをやったのはお前か……?

 

 

「ん……ぅう…………?」

 そう思っていると、突然苦しそうな声を出すミズキ。

 表情を伺って見れば微量ながらも眼を開けていて、少しだけ安心させられた。

 

「…………エビフライの匂いがする」

 そして、そんな言葉を落とした。

 

「……そんなバカな」

 人の心配を返せ。

 

 

「やっぱり起きたニャー!」

「良く眠る子は育ちますニャ」

 お前ら本当に心配してたのか。

 

「……はぁ、全く」

「…………えとー、どしたの? アラン」

「心配させやがって」

「痛ぁ?!」

 まぁ、今は難しく考える必要はないか。

 

 

 

 

 

「……頭が痛い」

 昨日の昼過ぎから今日の昼までほぼ一日寝ていたのだから、当たり前といえば当たり前だ。

 ただ、昨日はずっと雨に打たれていた訳だし念の為に熱を測ろうと額に手をやる。

 

「セクハラニャ」

 なんでだ。

 

 

「……ほぇ?」

 明らかに常温ではない体温。いつも以上にぼけーっとしてる物だから、まさかとは思っていたが。

 ……風邪引いてるな。風邪だけで済んでるんだが。

 

「……風邪だな」

「バカって風邪引くニャ? 引かないんじゃなかったかニャ?」

「…………ムツキが酷いよぉ」

 さっきまでミズキを心配していたあのネコは何処へ行ったのか。

 

「バカは風邪を引かないのではなく、バカは風邪引いても気付かないのですニャ」

「あ、なるほどニャ」

「…………二人……共?」

 ミズキは泣いて良いと思う。

 

 

「しかし困りましたニャー。せっかくエビフライを揚げたのに、病人に食べさせる物ではないですニャ」

「あ、私エビフライ食べたら元気になれそ───」

 ミズキはそう言いながらエビフライに手を伸ばす。それを防いだのはムツキと───俺の手。

 ムツキと俺で揚げられたエビを平らげ、彼女の分はなくなった。

 

 

 やはり、美味いな。

 

 

 

「……ぐすっ」

 泣いた。

 

「ニャ?! ミズキ?! ご、ごめんニャ! そんなに食べたかったニャ?! し、尻尾だけなら体に良さそうだし吐き出すから食べるニャ?」

 吐き出した奴は食べないだろ。

 

「ありがと……」

 嘘だろ。

 

 

「今日はお粥でも用意しますニャ」

「……お粥ぅ? ハチミツ粥が良いよ」

「ハチミツありませんニャ」

「うぅ……お粥嫌だぁ……」

 その歳でわがままを言うな。

 

 

 昨日の疲れがまだ取れてなかったのか、ミズキは直ぐにまた眠りに着いた。

 寝る子は育つと言うが───嘘かもしれない。

 

 

 

「困りましたニャー」

 その後少しして、厨房からそんな声が聞こえる。

 さて、何が困ったのか。

 

「どうかしましたか……?」

「ハチミツが無いとあの子はお粥食べませんニャ」

 甘やかし過ぎじゃないだろうか。

 

 

「して、ハンターさん」

 この次に自身が何を言われるか。ハンターとしての直感で分かるような気がした。

 

「ハチミツ、取ってきて欲しいニャ」

 

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

「ほいっ、コックさんの依頼。モガの森のハチミツ採取ですね! 受付完了致しました!」

「なぜ、森に行く必要がある」

 ギルドの受付嬢が依頼書に判子を押すのを眺めながら、俺はそう口にした。

 

 

 モガの村でハチミツと言えば、数年前モガハニーという特産品を目にした事がある。

 しかもこのモガハニー。人気が出過ぎて生産が追い付かずに一時期、純金と同じ様な値段で取引されていたのを目撃した。

 

 

 そんなモガハニーは村の農場で作っている筈。なら態々森に入らなくても農場に行けば良いのではないのか?

 

 

「あー、ハンターさんは知りませんでしたっけ?」

「どういう事だ」

「農場、行くかニャ?」

 

 

 そう言うムツキに着いて行って、俺は森に行く前に農場に出向く。

 緑に囲まれた農場は機能性に優れていて、一匹のアプトノスと二匹のアイルーがせっせかと働いていた。

 

 そんな中で、一つ違和感を覚える。

 

 

 

「ハチミツの箱が……壊されてるな」

 それは一目で使えないと分かる程に損傷した蜂の巣箱。

 何かに叩き壊されているようで、自然になったようには見えない。

 

「少し前に、アオアシラにここを荒らされたんだニャ。まさかこんな所にまでアオアシラが来るなんて……村はパニックだったニャ」

 そう言うムツキは辛そうな表情をしていて、何かを思い出しているようだった。

 

 

「ミャミャーン! ムツキちゃんですミャー! それとー、この目付きの悪いハンターさんは誰ミャ?」

「モモナ、ハンターさんに失礼みゃ」

 ムツキを見るや、仕事を中断して向かってくる二匹のアイルー。

 

 

「あ、紹介するニャ。村長さんが助っ人として呼んでくれたハンターのアランだニャ! えーとアラン、こっちのテンション高いのがモモナで大人しいのがミミナさんニャ」

 どっちも同じ様なピンクの毛並みをしていて、多分雌だ。

 アイルーでもやはり顔付きや体格に個人差は出る物だが、この二匹はそれがあまり感じられない。

 

 紹介されても多分どちらがどちらか分からなくなるだろう。

 

 

「二人は双子なんだニャ」

 なるほど。

 

 

「ちなみにあそこのアプトノスはジェニー。雌ニャ」

 なんだその名前は。

 

 

 

「そのアオアシラに蜂の巣箱を壊された訳か……」

 蜂の巣箱以外は至って無事なのにも納得は行く。しかし───

 

「そのアオアシラはどうしたんだ?」

 こんな所までアオアシラが来るのもおかしい事だが、特に蜂の巣箱以外の被害が見当たらないのもおかしな話だ。

 頭に浮かぶのは、昨日のミズキの姿。俺達が追いつく頃には戦いは終盤でリオレウスは瀕死だった。

 

 

「…………ミズキと三日掛けて倒したニャ」

 言い難そうにムツキはそう口にする。

 

「思い出したくなさそうだな……」

「みゃぅ……必死だったニャ。ボクも、ミズキも……」

「あのミズキがアオアシラをやっつけられるなんて思ってもみなかったミャー! 良くやったミャー!」

「……アホモモナ」

 ミズキを賞賛するモモナを後ろから叩くミミナ。

 

 

 ……何となく分かるのは、その時はきっと昨日と同じ状況だったという事だろう。

 

 

「みゃ、所でハンターさんは農場に用? 蜂の巣箱以外は使えるみゃ」

「むむっ、その眼はハチミツが欲しいって顔ミャ! 残念ながら蜂の巣箱は昨日の雨で更にダメにな───痛いミャ!」

「……モモナが昨日雨避けをしなかったせいみゃ」

「…………ミャーン───痛っ」

 可愛らしい仕草で誤魔化そうとするが、また頭を叩かれるモモナ。きっと、こういう奴なんだろう。

 

 

「そう言う事ニャ」

「……まぁ、ハチミツを取りに行くだけなら苦でもないから問題はない」

 村長にミズキの面倒も任されているからな、これも報酬の為か。

 

 

「しかしハチミツ、か。ムツキはミズキの面倒を見るんだな?」

「んニャ、アランに着いて行くニャ」

 その返事は意外だった。こいつならミズキの側に居ると思っていたからだ。

 

 俺としては、助かるがな。

 

 

「……そうか。なら、音爆弾を持ってきてくれないか?」

 もしアレに出会った時、それが有れば狩らずに済───いや、何を言ってるんだか俺は。

 

 

 

 ……殺せば良い。相手はモンスターなんだから。

 

 

「んニャ、何に使うか分からないけど了解ニャ!」

 そう言うとムツキは一足先に家に戻っていく。

 

「…………俺は、ハンターなのにな」

「ミャー、ハンターさんハンターさん。怖い顔してどうしたミャー? 暇なら手伝───痛い!」

「……最近森が変みゃ。……行くなら、気を付けて」

「……お前達も、此処にモンスターが来た時は逃げろよ」

「ミャー」

「みゃー」

 そんな二匹に別れを告げて、俺もムツキを追い掛ける。

 

 

 さて、ハチミツハントと行くか。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

「ハチミツ粥ニャー、ミズキに初めて会った時の事を思い出すニャ」

「そういや、俺はお前達の事を全く知らないな。……どんな、出会い方をしたんだ?」

 ハチミツを探す為に、孤島の狩猟エリアに俺達は足を踏み入れる。

 

 

 これで何度目かだからか、流石に地形は分かってきたがハチミツの位置までは把握していない。

 だから、ムツキに案内を頼んで俺はその後ろを着いていく事にした。

 

 ムツキが居なければ俺はハチミツを探すだけで捜索に無駄に時間を掛けていただろう。

 そして、ハチミツといえばあのモンスターだ。農場の事もあり、この島にも奴が生息しているのは分かる。

 

 ソレが出て来た時は、ムツキだけでは心細いだろう。ニャンター登録まではしてないようだからな。

 

 

 ……もしソイツが出てきて音爆弾で逃げなければ、殺せば良い。

 

 

 

「んニャ、ミズキとの出会い?」

「……あぁ」

 聞いてくるとムツキは思い出すような仕草をした後、呼吸を整えてから口を開く。

 

「……ボク、実を言うとメラルーなんだニャ」

「いや、知ってる」

 見た目で分かる。

 

「ニャ?!」

 なぜ驚く。

 

 

「……本来メラルーは、アイルーと違って人間さん達に関わる事は少ないニャ。勿論、メラルーが人間を嫌いって訳じゃにゃいけど」

 それは一般的な考えだった。

 

 確かに、メラルーはアイルー程人間に友好的ではない。

 むしろアイルーに化けて町や村で盗人をやっている連中すら居る、人間からしたらちょっと困った奴等だ。

 

 

「で、お前はなんでミズキのオトモになってるんだ?」

「ボク、盗むの得意ニャ」

 そう言うムツキの手には、いつの間にか俺の背中にあった筈の片手剣が握られている。

 

「……か、返せ」

「うニャ」

 素直に返してくれたムツキは、申し訳無さそうな表情で頭を下げてからこう続けた。

 

 

「ちょーっと、出来ちゃうメラルーだったボクは……やり過ぎてこわーいハンターさんに捕まってしまったニャ」

 この手際なら、嘸かしやった事だろう。

 ハンターのアイテムを使いこなす理由も分かった気がした。

 

 

「そしてそのハンターさんに…………筏一枚で海に流されたニャ」

 鬼かそのハンター。

 

「良く生き残ったな……」

「命辛々だったニャ。それで、海辺に打ち上げられて弱っていたボクを助けてくれたのがミズキなんだニャ!」

 それがどの位前かは、分からない。

 ただ、ムツキがミズキを大切にする理由も何となく分かってしまう。勿論、それだけの事じゃないんだろうが。

 

 

「……成る程な。その時にハチミツ粥を貰ったと」

「ミズキは村のハンターの制止も聞かずに、森にハチミツを取りに行ってくれたんだニャー。ミズキはボクの命の恩人なんだニャ」

 あいつは本当に優しいな。というか、ただのバカなのか?

 しかし、一つだけ疑問が残る。

 

 

「ならなんで、お前が兄貴分でミズキを見てやってるんだ?」

「…………知っての通りミズキはバカニャ」

 さっき命の恩人だと言った相手に対して言う言葉とは、とても思えない辛辣な言葉だ。

 

 

「お父さんに、家に住む事を許して貰う代わりにミズキの事を頼まれたニャ……。ミズキは調合すら出来ないバカなのにハンターをやるとか言い出すし、ボクが見ててあげないと本当にダメニャ」

 ここまで納得の行く話もそうはない……と、思う。

 

 

「ニャ、ハチミツの匂い」

 そうこう話している間に、ハチミツの在処に辿り着いたようだ。

 木々が生い茂る森の中。やはりと言うべきかそこには先客が居座っている。

 

 

「ゲ、アオアシラニャ……」

 木陰から覗くハチミツの在処には、ムツキの言う通りアオアシラというモンスターが堂々と座っていた。

 

 アオアシラは青い色彩の毛皮に、背中を守る甲殻が特徴的な牙獣種。

 今蜂の巣を握っているミズキの胴体と同じ位の太さの腕は分厚い甲殻に覆われ、その強度と腕力を強力な武器とする。

 その腕の一撃は人の頭を簡単に持って行く威力だが、そこまで動きが早いモンスターでもなく対処は容易だ。

 

 勿論、ミズキみたいな駆け出しハンターからすれば危険なモンスターである事には変わらないが。

 

 

 

「グォゥ」

 幸せそうにハチミツを口に運ぶアオアシラ。

 食事の邪魔をして悪いが、こちらも暇ではない。

 

 

「ムツキ、音爆弾は持ってきたな?」

「ほいニャ。こんなのどうするニャ?」

「投げろ」

「き、気付かれるニャ……」

「音爆弾程の大きさの音を聞いたらアオアシラは逃げていく。見た目より臆病だからな、奴は。……これは、覚えておいて損はない」

「あ、あの顔で臆病なのかニャ……」

 勿論、人間が相手だと分かれば大きな音にもそこまで敏感ではなくなるが。

 この自然で大きな音はアオアシラより強大な何かと考えるのが、生き残る為の頭の良い考え方なのだろう。

 

 

「よし、投げろ」

「ガッテンニャ!」

 馴れた手つきで放り投げられた球体は、綺麗な弧を描いてアオアシラの背後へ。

 地面に落ちる一歩手前。内部の火薬が爆発し、モンスターの鳴き袋が空気振動を拡張して甲高い音が辺りに広がる。

 

 

 単純だが、人間に出せない高音を出す。これが音爆弾の効果だ。

 

 

「グォゥッ?!」

 その音を聞いたアオアシラは、突然背中から突かれたように身体を強張らせ周りをキョロキョロと見渡す。

 勿論、他に生き物は見当たらないのだが。どうにも落ち着かないのかアオアシラはハチミツを貪るのを断念して、その場を急いで離れていった。

 

 

「アランって本当にハンターかニャ……? モンスター博士とかじゃにゃい?」

「……ただのハンターだ。ハチミツが欲しいんだろ? 取りにいくぞ」

 元ライダーの、な。

 

 

 

「これでミズキも元気満タンニャー!」

 あらかじめ用意して置いた瓶にハチミツを詰め込むムツキ。

 

 巣をなくした蜂達が行き場を失って周りを飛んでいるが、また少ししたら同じ場所に巣を作るのだろう。

 この生き物達は、そういう生き物なんだ。俺達ハンターやアオアシラに文句を言う事もなく、ただ巣を作り蜜を集める。

 

 農場の巣箱で暮らした方が幸せかもしれない……と、いうのはこいつらには伝わらないのだろう。

 ただ、ハチミツに混ざっている虫の死骸に多少の感謝をしながら俺は───ポーチに入れずに捨てた。

 

 

「このくらいで良いだろう」

「んニャ。美味しいハチミツ粥作るニャ」

「手伝う事はあるか?」

「アランは焦がすから良いニャ」

 こいつ。

 

 

「……アレは加減を間違えただけだと───」

「アラン後ろニャ!」

 何?!

 

 

「グォォォォッ!」

 殺気。それとムツキの言葉で背後のソイツに何とか反応して、ムツキを抱え地面を転がる。

 直ぐに体勢を立て直し、視界に襲って来た犯人を捕らえた。

 

 

 青い色彩の甲殻に、子供の体程もある甲殻で武装された腕。

 その腕の攻撃が当たっただろう地面は抉られていて、クンチュウが入りそうな穴が一つ出来上がっている。

 

 

「逃げてったんじゃなかったのかニャ?!」

「別の個体だな……ハチミツに眼もくれずに俺達を釣って殺ろうとしてた訳か」

 何時から居た? あの音爆弾の音を気にせず、それもハチミツでなく俺達を狙うのか。

 

 

 ……考えても仕方がないな。

 

 

「…………殺す」

 戒めを握り締め、無駄な感情を奥へと押し込む。

 

「狩るのかニャ?!」

「お前は安全な木の上に登って、俺に何かあったら全力で逃げろ」

 アオアシラに負ける気はないがな。

 

 

「ニャ、ここは任せるが吉な気がするニャ!」

 そう言うとムツキはハチミツが入った瓶を大事そうに抱えながら器用に木を登っていった。

 

 

「グォォォォッ!」

 身体を持ち上げ、両手を広げて威嚇行動を取るアオアシラ。

 他の生き物にはその威嚇は有効かもしれないが、生憎俺達人間にはその行動は意味がない。

 

 

 左手に蒼火竜砲【三日月(ミカヅキ)】を構え、予め装填しておいた火炎弾を威嚇行動中のアオアシラに叩き込む。

 最後の弾の反応を受け流して蒼火竜砲を背に戻しながら、背中の剣を抜いて火炎弾に怯むアオアシラに肉薄した。

 

 

「……はぁぁっ!」

 息を吐くと同時に、アオアシラの左足に剣を叩き付ける。

 背や腕と違い皮のみに守られた足は、切れ味も相まって簡単に肉まで刃が届いた。

 

「グォォォォッ!!」

 吹き出す鮮血も気にせず、アオアシラは右腕を大きく振り上げて前方を切り裂く。

 斬りつけた後直ぐに背後に回ったが、背後まで届く風圧がその威力を物語っていた。

 

 

 首が飛ぶ訳だ。

 

 

 

 アオアシラが目標を失って背後を振り向く間に、蒼火竜砲に火炎弾を装填する。

 振り向いたその顔に火炎弾を一発だけ残し叩き込めば、アオアシラはまた大きく怯んだ。

 

 

「……はぁぁっ!」

 その隙に肉薄。さっき斬りつけた左足にもう一度片手剣を叩き込む。

 

 

 斬り下げ、切り上げ、斬り払い───その動作の最後に残して置いた火炎弾を叩き込み、その反動を殺さず利用し右足を軸に回転切り。

 

「グォォォォッ?!?!」

 血の匂いと肉が焼ける匂いと共に悲痛の鳴き声を上げるアオアシラは、痛みに耐え切れずに地面を転がった。

 

 

 

「あ、圧倒的過ぎニャ……」

 

 

 

 集中的に同じ場所を攻撃したんだ、立ち上がるのにも時間が掛かるだろう。

 俺はその間に剣に会心の刃薬を塗り、アオアシラを始末する準備を整えた。

 

 元は双剣だが、もう一本しか無いんだ。片手剣として使ったって問題はないだろう。

 

 

「…………殺す」

 蒼火竜砲を背負い、戒めを握って呪いの様に口にする。

 

 そうでもしなければ、俺は狩り人になれない。

 俺はもう乗り人じゃないんだ。モンスターは、殺さなきゃいけない。

 

 

 

 人と竜は、相容れない。

 

 

 

「…………殺───っ?!」

 しかし、決意に時間が掛かって。その結果は良かったのか、悪かったのか。

 

「クモォォ」

「クウォォ」

 倒れるアオアシラを庇うように、その場には小さなアオアシラが二匹立っていた。

 

 

 小さなとは言うが、体長はざっと二メートル程だろう。成体の半分程とはいえ、油断出来る相手ではない。

 

 

「…………退け」

 だから、二匹を睨み付けてそう口にする。

 立ち上がろうと体長は二メートル。頭にこの剣が届けは、幼い幼体は簡単にその命を落とすだろう。

 

 

 …………殺せば良い。

 

 ギルドに許される限り、狩り人はモンスターを殺す。

 殺さなければならない。

 

 

「クウォォ!」

「クモォォ!」

「……グ、ォォゥオオ」

 二匹のアオアシラに、まるで逃げろと言うように必死に鳴き声を上げるアオアシラ。

 親子なのか、仲間なのか。とにかくその三匹には絆が存在するのだろう。

 

 

 それを切り裂く権利が……俺にあるだろうか。

 

 

 アイツの事を思い出す。

 

 

 

 どんな絆だって、自然は切り裂く。

 俺達だって自然だ。

 

 

「ニャ、もう良いんじゃないかニャー?」

 安全だと判断したのか、降りて来て隣に立つムツキはそう言う。

 

 

「……次はこいつ達が村の農場を襲うかもしれないぞ」

「ニャ……みゃぅ」

 そうだ、これは命のやり取りなんだ。

 

 

 殺らなければ、殺られる。

 

 

「ニャ…………ミズキだったら、きっと見逃すニャ」

「…………そうか」

「そうニャ」

「……俺はあいつみたいに、バカじゃない」

「ニャ……」

 

 

 弾を込め、狙いを定める。

 

 

 

 三匹か───三発で良いな。

 

 

 

 

 密林に鳴り響いた銃声は、きっと周りのモンスターにも聞こえただろう。

 大きな音が三回、この島の森に鳴り響いた。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 

 よく洗った米を、鍋へ。

 強火で沸騰させ米を煮たら、弱火で三十分。

 

 これが普通のお粥の作り方らしい。

 

 

 クエストから帰って来てスパイスさんにハチミツを渡すと、ムツキがそうやってお粥の準備をし出した。

 ミズキはというと、風邪が辛いのかまた眠っている。

 

 

「……手伝う事は? 火を見ておいてやろうか?」

「アランは触るにゃ。鍋ごと燃やされてたまるかニャ」

 こいつ。

 

 

「この時にちょーっとだけ塩を入れておくとちょっとした味付けになるんですニャー」

「ニャー!」

 そう言いながら厨房に入ってきたスパイスさん。

 

 俺だけ何もしないのも悪いだろう、彼に何か仕事があるか聞いてみよう。

 

 

「俺は何をすれば良い?」

「……ニャ、えーと、ですニャ」

 なぜ口籠る。

 

 

「ほいほーい! コックさん、今日のまかないはなんですかー!」

 仕事を貰おうとしていると、お店の方からそんな声が聞こえた。

 このハイテンションな声は、聞き慣れたあの受付嬢だろう。

 

「あー、えーと、あの子のまかない様にエビフライ揚げておいて欲しいですニャ。フライヤーの油、さっき火を消したばかりだからまだそのまま行けると思いますニャ」

「……分かった」

 簡単な仕事だが、請け負ったからには働こう。

 

「温度が低そうだったら、油に火を付けて上げれば良いですニャー」

 そう言うとスパイスさんはハチミツの処理に取り掛かった。

 食用にするには、外で取ってきたハチミツは不純物が多いからな。

 

 純金と同じ値段で取引されるモガハニー、どんな味がするのだろうか。

 

 

 さてと、そんなことより俺の仕事は揚げ物だ。火を付けた油にエビを入れるだけだが。

 

 辺りを見渡すと、油らしき液体が詰まった箱が視界に入る。用意してあったエビをその油に沈めると、音と泡を立てながらその肉が調理されるのが眼に映った。

 

 

 

「ふっ……これくらいは朝飯前だ」

「ところでこれは晩飯。晩飯前ですニャ」

「…………」

 

 

 さて、エビが揚がって来るまで時間がある。

 ここで俺は一つの疑問に思い当たった。この肉厚のエビが冷めかかった油でしっかり調理出来るのか?

 

 導き出した答えは否だった。

 ならば、火の温度を上げるしかない。丁度良いところに松明があって、俺はそれを手に取る。

 

 

 温度を上げるには油に火をつけろと言っていたな。

 

「…………熱いな」

 目の前の油は、燃え上がった。

 まるで怪鳥の吐くブレスの様に立ち上がる火柱。天井にまで届きそうなその火を見れば火力が足りている事は一目瞭然だった。

 

 

 

「……完璧だな」

「ハンターさん何してるんですかぁぁ?! ちょ、スタッフ! スタッフーーー!」

「「ニャーーー?!」」

 今日の俺の晩飯が黒焦げの何かになったのは……言う必要はないだろう。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 甘い香りで眼が覚めた。

 

 

 お日様と間違いそうな程部屋の明かりが眩しいのは、私がずっと寝ていたからかな。

 外はもう星空が出ていて、自分がどれだけ寝ていたのか納得するのに少し時間が掛かってしまった。

 

 

「おはよぉ?」

「寝過ぎニャ。そんなに寝るくらいだったらもう少し大きくなるニャ」

 酷い。

 

「おはようですニャ。さっそく、ご飯の時間ですニャ。昨日から何も食べてないですからニャー」

 そう言うお父さんの手にはお粥が握られている。

 

 

 ぅ……私お粥嫌いなんだってぇ。

 味薄いし、噛み応えがない。病人だからお粥なのは分かるんだけど……エビフライが食べたい。

 

 そう思うとふと変な匂いがして、辺りを見渡す。うーん───焦げ臭い?

 部屋の隅っこで、何故かアランは悲しい目をしながら何かを食べていた。

 

 アラン、もしかしてまたやったの……?

 

 

「……こっちを見るな」

 酷い。

 

 

 

「うー……私お粥嫌い」

 せめてハチミツを混ぜたりしたら、食べられるんだけどね。

 今農場の巣箱はアオアシラさんに壊されて使えないから、そんな贅沢は言えないみたい。

 

「そう言うと思ったニャ」

「?」

 私の嘆きを聞くと、待ってましたと言わんばかりにムツキは後ろに隠していた瓶を持ち上げる。

 透き通った黄金色の液体は、揺れる瓶の中で必要以上に揺さ振られる事もなくトロリとした食感が見た目だけでも伝わってきた。

 

 

 まさしく、ハチミツ。モガの村の特産品でもあるモガハニー。

 

 

「ハチミツ粥!」

 懐かしいなぁ。子供の頃大好きで、ムツキに初めて会った時も弱っていたムツキにハチミツ粥を作ってあげたんだっけ。

 今はその逆なんだね。ふふっ、なんだか不思議な感じ。

 

「ほら、あーんしてあげるから待ってるニャ」

 そう言いながらムツキは、お粥にハチミツをスプーンで垂らす。

 その後少しだけ混ぜてから、そのスプーンでお粥を掬った。

 

 混ぜ過ぎると、ハチミツがお米を絡めちゃって食感が悪くなるの。ムツキは覚えてたんだね。

 

 

「あ、あーんは良いよぉ……。この歳で、恥ずかしい……」

 私、一応十五歳です。十五歳なんです。

 

「黙って口開けるニャ。バカのくせに風邪なんて引いて、もぅ」

「酷い」

 でも、言われてしまっては逆らえません。

 

 

 だって優しい優しいお兄さんのムツキの命令だからね。

 

 

「お願いします」

「うニャ。ふー、ふー」

 スプーンの上のお粥を息で冷ましてくれるムツキ。

 

「ほら、あーんニャ」

 言われるがままに、目を瞑って口を開く。

 

 そして口にスプーンが入ったのを感触で確かめてから、口を閉じた。

 

 

 途端に広がるハチミツの匂いを感じながら、私はハチミツ粥を口の中で転がす。

 瞬間、お米本来の味を邪魔しないハチミツの風味が広がって、柔らかいお米の食感は体調が悪い今の私でも苦もなく噛むことが出来た。

 

 噛む度に広がるお米の味とハチミツの風味。優しい食感が喉を通る度に、重かった身体が少しずつ軽くなって行く気がする。

 

 

 

「美味しいニャ?」

「うん、ありがとぅムツキ」

 本当に優しいムツキ。ハチミツ粥も美味しいし、私は幸せ者です。

 

 しかし、一つだけ疑問が。

 

 

「そういえば、このハチミツどうしたの? 農場の巣箱はまだ使えないんだよね?」

「ハチミツはアランと取りに行ったニャ」

「取りに?!」

 森のハチミツがある場所には、あのモンスターが居たりする。

 

 

 見た目はちょっと可愛いんだけど、とっても危ないあのモンスター。

 

 

「くまー! って襲われなかった?」

「いや、くまーってなんだニャ。言いたい事は分かるけどそんな可愛い鳴き方する生き物この世に居ないニャ」

 あれ、そうだっけ。

 

 

「勿論、居たニャ。でもアランがやっつけたニャ」

「アランもハチミツ取りに行ってくれたの?!」

「……まぁ、な」

 焦げた何かを食べながら、悲しい表情で返事をするアラン。

 ねぇ、あなたはなんでそんな物を食べてるの……。

 

 

「……やっつけた?」

 って、事は。狩ったんだよね。

 きっとアランはあの怖い時みたいになって、アオアシラを殺したんだと思う。

 

 悪い事じゃないし、ハンターとしても普通の事。

 

 私はアランの事を勘違いしてるだけなのかもしれないけど……。

 アランは、本当はモンスターを殺したくなんてないんだと思う。

 

 じゃないと、あんな表情はしないと思うから。

 

 

 だからね、私……アランにはモンスターを殺して欲しくない。

 けどやっぱり、それは私の思い込みかもしれないし勘違いかもしれないよね。

 

 

「凄かったニャ。アオアシラ相手に危なげもなく全く時間も掛からずに倒したニャ。流石に二匹増えた時はどうしようかと思ったけどニャー」

 二匹増えた……?

 

 もしかして、アオアシラの家族の事かな。

 私が知っているアオアシラの個体が、最近子供を連れてるのを見かけたんだよね……。

 

 

 その子供達も、倒しちゃったのかな。倒した、よね。

 

 

 

「三匹にペイント弾を射ってその場は逃がしてやったんだけどニャー。ペイント弾があるから当分は村に近付いても丸分かりニャ!」

 ───へ、ペイント弾? 逃がした。

 

「あ、アラン……?」

「三匹も相手してられないだろ。……勘違いするな、俺はお前みたいな甘い考えで見逃した訳じゃない」

 もぅ、そんな事言われなくても分かってますよーだ。

 

 

 ふふっ。

 

 

「ムツキ、アランも…………ありがとね」

 二人にお礼を言います。

 

 なんだか分からないけど、今とっても気分が良いんだよね。

 うん、風邪も治ったし。明日から頑張ろう!

 

 

「明日からまた特訓するぞー!」

「「病人は寝てろ」ニャ」

 え、息ピッタシ?!

 

 

 

 なんて、私が寝てる間に色々あったみたいです。

 

 明日は私も、そんな素敵な体験に立ち会いたいなって。そう思ったんだ。




謎 の 飯 テ ロ 要 素 。
モガの村に居る間にやっておきたかったんですよね。

アランのボウガンですが、装填数と反動が普通の蒼火竜砲と違ったりします。
おいおい装備の事も後書きで説明する時が……来るかもしれません。

今回の言い訳。
熊は子育てします←
モンハンの世界の蜂ですが、なんで攻撃してこないのでしょうね。ハンターが屈強過ぎて気にしてないだけなのか? ならオトモはどうなるって話ですが。
なので、こんな謎の解釈に。都合の良い蜂さん達ですが、一匹が一生の内に集める蜜はスプーン一杯分らしいです。そこ、虫の死骸捨てない。


不定期なので、またお会い出来る日がいつかは分かりませんがまたお付き合い頂けると幸せに思います。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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新しい武器と森の異変

「やってるかい?」

 朝早く、お店の方から聞こえる聞きなれない声。

 村の人じゃない? そんな事を思いながら、魚を釣ってくる為に留守にしているお父さんの代わりに私が出ます。

 

 

「はい! ちょっとコックさんお出掛け中なんで、時間かかっちゃうんですけど……お待ち頂けますか?」

「お、可愛い看板娘ちゃんが出てきたな。お店の子かな?」

 可愛いだなんて、えへへ。お世辞でも嬉しいです。

 

 お店に来ていたのは、体格の良い大きな大人の人だった。

 着込んでいるのは服ではなく、生き物の甲殻等を使った防具。

 

 背中に背負った身の丈程の大きな剣を見れば、彼がハンターだという事は一目瞭然だ。

 

 

「しっかし、コックさん居ないのか。……時間に間に合わなくなっちまうなぁ、飯は諦めるか」

 時間に間に合わなく?

 

 ただ、言い振りからして彼が少し急いでいる事は分かった。

 

 仕込みの為しょうがないとはいえ、お客さんを待たせるのは良くない。

 そんな時に、お父さんとこのビストロ・モガの名誉を守る義務が私にはあるのだ。

 

 

「ありがとな、嬢ちゃん。また帰りに食わせ───」

「私が作りますよ!」

「ぇ」

 私の言葉に目を丸くするハンターさん。

 そんなハンターさんに私は間髪入れずにメニュー表を渡します。

 

 

「作れるの? 嬢ちゃんが?」

「これでもお父さんの娘ですから。勿論、味が気に食わなかったらお代は要りません!」

 胸を張って答える。

 こればかりは、私の唯一の取り柄なのだ。これだけは胸を張って出来ると言える。

 村の人達から、ハンターじゃなくて料理人になれば良いのにとまで言われる実力をお見せしましょう!

 

 

「んーと、じゃぁ。スネークサーモン定食を食べたいな」

「スネークサーモンの定食ですね! かしこまりました!」

 大きく返事をして、直ぐに準備に取り掛かる。

 

 スネークサーモンは長いお魚さんです。手頃な大きさに捌いたら、塩焼きにします。

 その間に産地特産ふたごキノコとワカメクラゲでの味噌汁を作りながら、卵焼きを作って漬物をお皿に盛る。

 

 

 焼き上がったスネークサーモンを綺麗に並べて最後に炊いたお米を盛れば、ビストロ・モガ特製スネークサーモン定食の完成です!

 

 

「おー、凄いな嬢ちゃん。若いのに偉いもんだ」

 えへへー、褒められてしまった。お店の名誉も守れたのではないだろうか。

 

「ふっふっふ、褒めるのは食べてからにして下さいね!」

 そう言ってから、定食をお客さんに渡す。スネークサーモンの美味しく焼けた匂いが残って、私もお腹が減ってしまいそう。

 

 

「それじゃ、頂こうか」

 備え付けの箸を取って、ハンターさんは迷わずにスネークサーモンに箸を伸ばしました。

 

 緊張の一瞬。

 

 

「……美味い!」

 と、一言だけ言うとハンターさんはお米に箸を伸ばして漢気良く口にお米を放り込む。

 気に入って貰えたなら、作った側としては嬉しいなぁ。そうだ、今度はアランにも使ってあげようかな?

 

 

 

 

「へい、お駄賃。お釣りは要らねーぞ!」

「まいどあ───って、こんなに貰えませんよ!」

 食べ終わったハンターさんが財布から取り出したのは、千ゼニー。

 ビストロ・モガの定食は基本定額三百ゼニーだから約三倍のお金。

 

 私は直ぐにお釣りを用意して、ハンターさんに渡そうとするんだけど。

 ハンターさんはそれを手で押しのけて、受け取ってくれない。

 

 

「美味い飯を食えたんだ、それなりの対価を払うのは当然だろ?」

 その対価、お店では三百ゼニーなんだけだなぁ。

 

「ハッハッハ! まぁ、アレだ。頑張るお嬢ちゃんに俺からの気持ちとして受け取ってくれや。その代わり、帰りも美味いものを頼むぜ!」

「そ、そう言われると……。夕御飯はサービスしますので、また寄って下さいね!」

「そりゃ、楽しみだ。ごちそうさん」

 手を合わせてそう言ってくれるハンターさん。

 

 

 食器を片付けながら、私は世間話にと口を開く。

 

 

「今日はどんなクエストへ?」

「ん? あー、悪いモンスターを捕獲しに」

 悪いモンスター? 捕獲?

 森の異変に何か関係があるのかな?

 

「そのモンスターって、どんなモンスター何ですか?」

 あのリオレウスって言われたらどうしよう……。

 

 こんな事を考えてしまう私は、やっぱり変なのだろうか。

 

 

「そりゃ、イビ───っと……あぶねぇ。お嬢ちゃんはこの村の子か?」

「え? あ、はい」

 ハンターさんは言いかけて、口を閉じたと思ったら別の話題を振ってきた。

 イビ? そんな名前のモンスター、モガの森に居たかな?

 

「それじゃぁ、クエストの参考までに最近孤島で何か異変があったら教えてくれないか?」

「異変、ですか。えーとですね」

「お、助かる助かる」

 異変があったらと言うけど、最近は異変しかない。

 

 

 アオアシラの事やロアルドロスの事をハンターさんにお話すると、ハンターさんは私の頭を撫でてお礼を言ってくれた。

 

 

 そして、気付いたのだ。

 

 私、物凄く子供扱いされていた気がする。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「ねぇ……モモナ」

「どったミャ、ミズキ。お姉さんに相談かミャ」

「……モモナに相談するくらいなら海に向かって叫んだ方が良いみゃ」

「「酷い」」

 

 

 少しだけ時間が経って、場所は農場。

 お父さんも帰って来たので、する事もなかったから農場の手伝いをしに来たの。

 

 蜂の巣箱、早く治せると良いんだけどね。

 

 

「私って子供っぽいかな?」

「ぽいんじゃなくて、子供にしか見───痛いミャ!!」

「……ミズキはまだ成長過程。きっと、直ぐに魅力的な女性になると思うみゃ」

 素直に言ってくれるモモナも、希望を与えてくれるミミナも私は大好きだ。

 

「ありがとう、二人共」

 そんな感謝の気持ちを込めて、私は桃色の二人のアイルーをギュッと抱く。モフモフ、モフモフ。

 

「ミャー」

「みゃー」

 

 

「…………何してるんだ、お前」

「ふぇ?! あ、アラン?!」

 気持ち良く双子をモフっていると、突然後ろから声を掛けられてビックリ。

 

 振り向けば装備を着て武器まで持ったアランと、私の防具を持ったムツキの姿があった。

 えーと、クエストでも行くのかな?

 

 

 んー、でも私……その…………武器がね?

 

 

「森に行くぞ、暇なら来い」

「私のソルジャーダガー、まだ修理中なんじゃないかな?」

 あのリオレウスと私が戦ってから、数日だけ経った。

 

 あの時、私はかなり無茶な使い方をしていたらしく……盾はバラバラに砕けて剣はもうボロボロ。

 風邪で一日寝込んで、その後武器を加工屋さんに持って行ったのがつい先日の事。

 

 治るか分からないとまで言われてしまったし、色々怒られてしまった……。

 

 

「その……ソルジャーダガーなんだけど、ニャ」

 そう言うムツキは防具を地面に下ろすと、混じっていた片手剣とバラバラになった盾を持ち上げてこう続ける。

 

「もう……治らないらしいニャ」

 ガーン。

 

 

 ソルジャーダガーは、私がハンターになって初めて倒したジャギィの素材を使って作った武器。

 もう何年も使い続けて来たし、それなりの思い入れがあるんです。

 

 うぅ……まさか壊してしまうなんて。

 

 

 んー、となると。アランが私を森に誘う理由は何となく分かった気がする。

 

 

「ソルジャーダガーの素材集めかな?」

「武器無しのまま、いきなり緊急でクエストが来たら困るだろ?」

 アランの言う通り。このままではハンター家業を失業してビストロ・モガを継ぐ事になってしまう。

 それが嫌な訳ではないけど、でもやっぱり私はハンターでありたいって思うんだ。

 

 それが何故かは、分からないんだけどね。

 

 

「またソルジャーダガーを作り直せば良いかな?」

 と、なるとジャギィ達を狩らないといけないんだよね?

 あんまり、村の脅威以外のモンスターは狩りたくないって言ったらまた怒られるかな……。

 

 

「お前は狩りたくないとか言うんだろ」

 どうしよう、言ってないのに怒られそうだ。

 

「そ、そういう訳じゃ……」

「今回は狩る必要はない」

 え、それって───

 

「生きたまま素材を剥ぐって事?」

「…………どうしてそうなる」

「ミズキがバカだからニャ」

 酷い。

 

 

「素材なら転がっている場所を知ってる。お前の友達、のな」

 私の……友達?

 

 

「ま、まさかジェニーを?!」

 農場の力仕事を手伝ってくれている、アプトノスのジェニー。

 前任者のハンターさんが居た頃からここで働いてくれているジェニーは、私が幼い頃からモモナ達と一緒に遊んでいたお友達。

 そんなジェニーを解体されてしまうのかと心配して私はジェニーを護るようにアランの前に立ち塞がった。

 

「ジェニーはやらせないミャー!」

「……ムツキ、バラすならモモナにしてあげて。きっと、粗末なにゃんにゃん棒が完成するみゃ」

「辞めてくれミャ!!」

 

 

「……な訳あるか」

 もう呆れて声も出ないといった感じのアラン。

 うーん、アランが何を企んでいるのかイマイチ掴めない。

 

 

「とにかく行くぞ。これはお前の仕事だ」

「う、うん……分かった! それじゃ、モモナ、ミミナ、ジェニー、またね?」

 農場の皆に挨拶をしてから、先に行ってしまったアランを追い掛ける。

 

「またミャー!」

「またみゃー」

 きっとアランの事だから、何か考えがあるんだろうけど。

 どうやって私の武器作る気なんだろうね?

 

 行ってみれば、分かるかな。

 

 

 

 

 

 場所は変わってモガの森。

 左手に見える川を、私達は上流へ向かって歩く。

 

 

「あ、アラン……何処に行く気なの?」

 この先には行きたくない。

 そんな事を心で思っては、私は足を止めたくてアランにそんな質問をした。

 

 

 きっと、もうそこには何も無いと思う。

 けれどもその場所に行く事が嫌で、何だか体が重かった。

 

 

 

「俺は言ったハズだぞ?」

 言った……?

 

 アランが言った事を思い出す。

 ──素材なら転がっている場所を知ってる。お前の友達、のな──

 

 

 そう。この先は、あのダイミョウサザミさんを私が殺した場所だった。

 

 アレから数日しか経ってないから、燃えた草木はまだ生え変わってない。

 そして周りには、バラバラになった赤と白の甲殻(ダイミョウサザミの素材)が散らばっている。

 

 

 

「……ニャ、やっぱり……辛いかニャ?」

「ううん……。アランは私に、これを拾わさせたかったんだよね……?」

 この素材で、武器を作れって事だよね?

 

 

 ダイミョウサザミさんの命を、私は背負わないといけない。

 私にはその責任が、ある。

 

 

「お前が嫌だというなら、この素材達は自然に返せば良い。……別にこの素材でなければまたソルジャーダガーを作れば良いだけだ」

「アラン……」

 赤と白の甲殻を一つ拾いながら、私は顔を上げる。

 

 

「……辛いか?」

「ううん……あのね、ありがとう。アラン」

 その甲殻を、私は優しく抱いてアランにお礼を言った。

 

 

 きっと、アランに連れて来て貰わなかったら私はずっと先までこの場所には来なかったと思う。

 そしたら、もう二度とダイミョウサザミさんに会えなかったと思うんだ。

 

 だから───

「……ありがとう?」

「うん。アランが連れて来てくれなかったら、私は逃げてたと思うから。ありがとう」

 ───だから、厳しいけど優しいアランに私はお礼を言う。

 

 

 

「ダイミョウサザミさん、助けてくれてありがとう。助けられなくて、ごめんね。私、もっと強くなりたい。色んな物を守れるくらい、強くなりたい。……だから───」

 唯一原型の残ったとある骨の前に立って私はそう言います。

 

 厳密にはダイミョウサザミさんの身体ではないんだけど。それでも、ダイミョウサザミさんの一部として残ってくれたこのヤドに向けて。

 

 

「───力を貸して下さい」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「てやんでぇ! ダイミョウサザミの素材たぁ、たまげたもんだなミズキ!」

「ど、どうもぉ……あはは」

 お昼過ぎには村に戻ってこれたから、私は加工屋さんにダイミョウサザミさんの素材を持っていきました。

 

 

 一応アランに使えるかもと言われて、ヤドの角も先端をポキっと貰ったんだけど。使うかなぁ?

 

 

「べらぼうめ! 今ある素材で作れそうなもんのカタログはこれくらいでい! 好きなもんを選びやがりな!」

 そう言うと加工屋さんは何個かカタログを投げてくれます。

 

 竜人族の加工屋さん。ちょっと口は悪いけど、厳しくて優しい人なんです。

 

 

 さてさて、カタログを見てみる。

 私は片手剣しか使った事が無いから、出来れば片手剣が良い所。

 でも、せっかくだからダイミョウサザミさんの素材をちゃんと使いたいのが本心かな。

 

 

 これは……ランスだね。重そうだし、私には無理かなぁ。

 

 これは……大剣? うん、無理です。

 

 ボウガンもあるんだ、アランとお揃いになるね。

 うん、でもこの前使わせて貰ったんだけど難しそうだから却下です。

 

 

 うーん、これといって使えそうな武器が無いなぁ。

 どうしよう?

 

「おろ、なんだミズキ! モノブロスの角もちゃっかり持ってんじゃねーか! ならこれも作れるな!」

 私が悩んでいると、加工屋さんはそう言いながらもう一つカタログを投げてきました。

 頭に当たったそれをなんとかキャッチ。痛いです。

 

 

「これ……」

 そして、そのカタログに目を通す。

 

 まず見た目を図で確認。

 ダイミョウサザミさんの如く堅牢な盾を一つと、ヤドの角を使った一振りの剣。

 

 

 これは、間違いなく、片手剣!

 

 

「加工屋さん! これ! これにします!」

「お、良いチョイスだぜ! 新しい武器でも頑張んな! 朝までには徹夜で完成させるぜ!」

「て、徹夜なんてしなくて良いですって! えーと、代金だけ払っておきますね」

 武器防具って高いんだよね。軽く十食分くらいしたりする。

 

 

 高い物は家と同じくらいの値段がするらしいです。

 でも、武器防具はハンターにとって命を預ける大切な物。だからお金を掛けるのは当たり前。

 

 

「てやんでぇ! こんにゃろうめ! 頼まれた仕事は意地でもやるのが職人ってもんだい!」

「でも、身体には気をつけて下さいね。皆心配するんですから」

 元気な加工屋さんに限って身体を壊す事はないと思うけど。この村には貴方が必要なのです、無理だけはしないで欲しい。

 

 

 

 

 さてさて、武器も頼んで私はお家に帰宅します。

 いつも通りお店を手伝ったり、暇になったらアランに稽古を付けてもらったりしていたら日が沈む時間。

 

 

「……はっ! やぁっ!」

 アランの黒い剣を借りて、素振り。

 

 地味だけど、日々の鍛錬が重要らしい。

 

 

「今日はこのくらいで良いだろう、休むか」

「うん、そろそろハンターさんも帰ってくるかもしれないし」

「……ハンターさん?」

 私が言うと、アランは不機嫌そうな表情で聞き返してきた。どうしたのだろう?

 

 アランもご飯作って欲しかったのかな?

 

 

「アランの分も夜ご飯私が作ろうか?」

 お父さんには負けるんだけど、ね。

 

「……いや、それはどうでも良い」

 傷付きました。

 

 

「…………え、えーと、どうしたの?」

「……いや、何でもない。そいつは何のクエストを受けたか分かるか?」

「悪いモンスターを捕獲しにって言ってたけど……そういえば、何をって言っていたっけ?」

 なんだっけ? イビだとかエビだとか言ってた気がするけど。

 

 

「受付嬢に聞いた方が早いか……」

 そんな事を言うアランの背後に、これでもかというタイミングでアイシャさんが近寄ってきた。

 

 そして───

 

 

「呼びましたかー!」

「……っぉ?!」

 アランの耳元に大声で挨拶するのは、赤いギルド受付嬢の制服を着たこの村の看板娘アイシャさん。

 いつもの通りの破天荒な行動にアランが初めて見せる表情で驚いて、私は思わず声を出して笑ってしまった。

 

 

「…………受付嬢」

「は、はいぃぃっ?! すみませんすみません! 出来心だったんです!! 食べないでーーー!!」

 振り向いてアイシャさんに詰め寄るアランが今どんな表情をしていたのか、非常に気になる。

 

 

「…………まぁ、良い。今朝外のハンターが来てクエストに出掛けたらしいが、どんなクエストだ?」

「え、あ、えーと、孤島の素材ツアーですよ? ところであの……えーと、許し───」

「ミズキ、ムツキは?」

 アイシャさんを無視して私に話し掛けるアランは、なんだか焦ったような表情。

 

「え? ムツキ? 今日はマタタビ集めに疲れたから寝るって───」

「叩き起こして連れてこい」

 え?! なんで?!

 

「ど、どうしたの?!」

「素材ツアーに今朝から戻らないなんておかしいと思わないのか? それにそのハンターは捕獲と言っていたが、実際は素材ツアーに行ってるんだぞ」

 それは、確かに考えてみれば……いや考えなくてもおかしな事なんだよね。

 

 

 私はバカだから、アランの言っている事に気付くのに少し時間が掛かってしまった。

 

 

「す、直ぐに呼んでくる……っ!」

 あのハンターさんは、素材ツアーからまだ戻っていない。

 もしかしたら、森で何かあったのかも。

 

 今朝見た、優しいハンターさんの顔が脳裏に映る。

 

 

 同時に、三ヶ月前森で起きた悲劇も───なぜか私の脳裏に浮かんで離れなかった。

 

 

 

 お願いします。どうにか間に合って……っ!!

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「匂いはどうだ?」

「酷い血の匂いがするニャ……。あんまりこの先には進みたくないニャ……」

 ムツキを起こして、私達は直ぐにモガの森へ。

 

 

 せっかくお昼寝してたのに、ごめんねムツキ。

 でも今は緊急事態。ムツキの力が必要なの。

 

 

 ムツキに普段感じない匂いを嗅ぎ分けて貰って森を進んで行くと、島の西側の海岸に近付いてきた。

 

 この辺りといえば、私とアランがロアルドロスを誘導して新しい縄張りに移ってもらった海岸の近く。

 なんだか嫌な予感がするし、感じがする。身体がこの先に行くのを拒んでる。

 

 それでも、進まないといけない。そんな気がした。

 

 

 

「…………嘘」

「……ニャぁ」

 海岸まで進んで、視界に入ったのは赤。

 

 辺りに散らばる赤い何か。砂を赤く染めるその液体は、大きな身体から一頻りに流れ落ちる。

 

 

「…………グ……ゥ……ェ」

 後頭部から身体の半分まで伸びる黄色い鬣。海竜らしい長い胴体。

 

 その、至る所から赤い液体が流れ落ちていた。

 

 

 

「ロアルドロス……さん」

 全身何かに食い千切られたような傷を負った、瀕死のロアルドロスがそこには倒れている。

 この子は、アランが殺さずに新しい縄張りに誘導してくれたあのロアルドロス……だよね。

 

 そのロアルドロスが、そんな姿で倒れていた。

 

 

「そんなのって……」

 明らかにもう助からないその命に、足を近付ける。

 

 あのハンターさんがやったようにはどうしても見えない。

 思い出すのは、先日のリオレイアの死体。

 

 

「酷いニャ……」

「……やはり、奴なのか」

 奴……?

 

 

「ロアルドロスさん……」

 そういえば、周りのルドロス達はどうなったの?

 

 卵を産んで、これから子育てだっていう皆は……?

 

 

「グルルゥ!」

「グゥゥゥ!」

 そんな事を考えながらロアルドロスに近付こうとすると、海の中から数匹のルドロス達が私の前に立ち塞がった。

 

 良かった、この子達は無事だったんだ。

 

 

「ま、待って! 私はロアルドロスさんを助けたいだ───」

 私がそう言うと、後ろからアランに肩を叩かれる。

 また、怒られるかな。でも私───

 

「……もう、助からない」

 アランが口にしたのはそんな言葉だった。

 

 

「……分かるな?」

 怒る訳でも、飽きられる訳でもなく、ただ優しい声で、辛そうな声で、アランは私にそう諭す。

 

「そんな……」

 受け容れるのは、辛い事。

 

 

 私はまたダイミノウサザミさんの時みたいに、助けられない。

 

 ───いや、私に出来る事はある。

 

 

 

「ルドロス達……お前らの夫はお前達を命を懸けて護ったんだ。もう、楽にしてやれ」

「グルルゥ……グゥ」

 ルドロス達も、辛いんだよね。

 

 

 アランの言葉が通じたかのように、ルドロス達はロアルドロスから離れていく。

 でも、それは見捨てたとかじゃなくて私達を囲むように見守る感じで。

 

 

「……良く、皆を護ったな。安心しろ、もう子供も生まれる時期だ。…………それに、アイツは俺が殺す」

 そう言いながら、アランは片手剣を背中から抜く。

 

 ダメだよ、アラン。

 

 

「グゥ……ォ…………ェ……」

「……安らかに眠───」

「待ってアラン!」

 私は、アランのその剣を止める。

 

「……ミズキ」

「ミズキ、ロアルドロスが苦しそうなの分かってあげるニャ……」

 うん、分かってるよ。

 

「アランは、殺しちゃダメ」

 そう言いながら、私はアランの片手剣を取り上げた。

 アランは……本当は殺したくないんだ。その戒めを握る手で分かる。

 

 

「だから、私がするね」

「ミズキ……お前」

 

 

「…………グゥ……ェ……」

 苦しいよね。私が今───

 

 

「ミズキ───……っ、よせ!」

 

 

 ───楽にしてあげるから。

 

 

 

 

「グルォォォォオオオオオオ!!!」

 ロアルドロスの額から吹き出す鮮血。それと同時に、背後の遥か遠い所でとてつもなく大きな鳴き声がこの島に轟く。

 

 木々は揺れ、波が立ち、風は嫌な気配をピリピリと感じさせた。

 な、何……っ!?

 

 

「ニャ?! なんかヤバいニャ……」

「この鳴き声は…………っ!!」

 アランはそう口にするが早いか、私に片手剣持たせたまま鳴き声のした方向へ走って行ってしまう。

 

 え、ちょ、アラン?!

 

 

「ま、待ってよアラン!」

 私も追い掛けるんだけど、アランが速くて全然追いつけそうにない。

 

 

 何をそんなに急いでいるの……?

 

 その先に何があるの……?

 

 

「お前は来るな! 村に戻っていろ!」

「そんな事言ったって! それに片手剣!!」

「なんでボクも走ってるのかニャ。戻った方が良いと分かってるのにニャ……」

 そこからアランは岩陰に隠れてしまって見えなくなる。この先は確か、この前アランと行ったあの場所。

 

 

 岩場を超えると、見渡しの良い砂浜が見えて来る。アランもそこに居て、彼の足元には真っ赤な何かが見えたんだ。

 その赤が視界に入ると、私の身体はまた止まってしまう。

 

「……あれって」

 その赤い何かは、今朝見た何かに似ていた。

 

 

 ハンターが使う防具。それに()が背負っていた大剣は二つに折れて彼からとても離れた砂浜に突き刺さっている。

 

 

 

「……ニャ?! か、帰ろうニャ。見ない方が良いニャ!」

「ハンター……さん?」

 

 ──まぁ、アレだ。頑張るお嬢ちゃんに俺からの気持ちとして受け取ってくれや。その代わり、帰りも美味いものを頼むぜ!──

 優しい、今朝お店にご飯を食べに来てくれたあのハンターさんが脳裏に映った。

 

 

 嘘だよね。

 

 見間違いだよね。

 

 

 

「こんなの……って」

「ニャ、ミズキ?!」

 アランの下に駆け寄る。はっきりと目に映るのは、防具ごと右半身を何かに食い千切られた……男の人。

 

 

「…………もう少しの間は生きてるか」

 アランのその言葉は、まだ生きてるけどもう直ぐ死ぬって言う意味。

 

 ハンターさんは真っ赤に充血した焦点の定まらない眼で私達を見ていた。

 まるで、自分の末路を悟ったかのような。諦めた人の表情。

 

 

「ハンターさん……」

「…………ま……さか。嬢ちゃんが…………ハンターだったとは、な。俺も口が…………滑った、か」

 何を……言っているの?

 

 

「……話せ、全部。お前は何者だ。何を捕獲しようとした。仲間はどうした。…………お前はもう死ぬ、全部話せ」

 冷たく言うアラン。なんで? なんでそんなに酷く言うの……?

 

「アラン?! なんでそんなに冷たい事言うの?! この人は───」

「密猟者、だ」

 ……ぇ?

 

 

「…………嬢ちゃん、ありが……な。でも、そいつの言う通り、さ」

 密猟者……? え? この人は……ハンターさんだよ?

 

「そ、それでも……だって……」

 この人は……あんなに優しい人だった。なのに、なんで? どうして?

 

「……まさ、か。こんな事になるとは……思わなかったのさ。三ヶ月前()の餌やりの為にこの島に寄った…………あいつはその時点で、俺達の……手の、追えない存───ゴフッ」

 言いながら口から血を吐き出すハンターさん。

 

 

「も、もう喋らなくて良いから! ハンターさん死ん───」

「話せ」

「アラン!!」

 アランに詰め寄るけど、彼は私の事なんて見ないでハンターさんを睨み付ける。

 

 

 どうして……? どうして……優しくしてあげないの?

 

 

「………………良いんだよ、嬢ちゃん」

「ハンターさん……」

 なんで……。

 

「……俺は、悪人だ。んなこた、分かってるさ……だから、嬢ちゃん見たいな子を巻き添えにしない為に…………来たってのに、このザマだ」

「この島にソイツを連れて来たのはお前の仲間という事だな?」

「あぁ……そうだな。…………でも、悪気があった訳じゃ……ねぇ。俺達は人々の為に───」

「そんな事は聞いてない」

「…………ハハッ、そう、か。お前は俺達と同じ眼をしてる……だから、分かると……思ったんだがな。なんか、……違うのか、ね」

 同じ眼……?

 

 

「ソイツは、イビルジョーだな?」

「…………ご名答」

 そう答えると、ハンターさんは静かに眼を閉じる。

 まるで責任は果たしたとでも言うように、満足気な表情で。

 

「…………お前、強いな? なら…………後の事、頼んだ……ぜ。その嬢ちゃん……の…………事も」

「……言われなくてもそうするつもりだ。勝手な事を言うな」

 アラン……。

 

 

「………………嬢ちゃん」

「ハンターさん……?」

 

 

 

「……………………飯、美味かった…………ぜ」

 動かなくなる彼の身体に吹き付ける風は、とても冷たかった。




はい、ジョーさんでした←
設定として現状この作品での孤島にはイビルジョーは生態系に含まれておりません。
なら、なぜイビルジョーが孤島に居るような発言が為されているのか。進んで行く物語の中ではっきりとしていく……筈です。


今回の言い訳。
現実世界でハーレムを作る所がロアルドロスと一致しているライオン。
このライオン。ハーレムな上に餌は自分で取らずに雌に取らせます。なんて幸せな人生かヒモかよと思われがちですが、他のオスや侵入者から縄張りを守るのはオスの役目だそうです。

ロアルドロスもそんな感じなのかなー、と。まぁ、勿論独自解釈な訳ですが。


なんと、この様な作品にファンアートを描いて下さる方が……っ!!
とても嬉しかったです。せっかくなので、ここで紹介させて頂きます。

【挿絵表示】

アランさんは格好良いしミズキもムツキも可愛らしくてとっても素敵な絵を頂きました><
しかも描いてくださったのはあのモンハン飯のしばりんぐさんです。私の人生がこんなに優遇されてて良いのだろうか……。天罰が来る気がする。


さて、不定期なのですがそろそろモンスターハンターXXの発売日も近いので更新が遅くなるかもしれません。
また次回お会い出来たら幸いに思いますm(_ _)m

厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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旧友と大海の王者

 ──辞めろぉぉぉおおおお!!──

 思い返す。

 

 

 アイツに全てを奪われた時の事を。

 

 

 

「……アイツと同種の化け物が、この島に居る」

 もしかしたら、この時を待っていたのかもしれない。

 

 俺が探しているアイツ(・・・)ではないだろう。

 だが、だとしても、ソイツはアイツと同じ存在だ。

 

 

 この世に存在して良い生き物じゃない。

 

 

「なら、俺はお前を…………殺す」

 

 

 何処に居る。

 

 ミズキ達は村に居てもらっている。

 着いてくると煩かったが、流石に連れて来る訳には行かなかった。

 

 

 アイツの恐ろしさは良く知っている。

 

 

 剣を、ボウガンを握る手が勝手に強くなった。

 

 

 

「何処に居る……」

 早く探し出して、始末する。

 

 そうすれば、道は開かれる。

 

 

 アイツを殺す為の道が。

 

 

 

「…………早く出てこい───殺してやる」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「ねーモモナぁ」

「まーたどったミャ、ミズキ」

 防具を着て、完成した新しい武器を背負ってから農場に立ち寄る。

 

 

 ロアルドロス、それにあのハンターさんが亡くなってからもう一週間が経っていた。

 

 あの後ギルド関係の人が来て状況の説明だとか、事情聴取だとかでとても忙しかったの。

 気球船なんて初めて見たし、つい二日前まではその気球船が島の上をずっと飛んでいた。

 

 

 それでも、そのイビルジョーっていうモンスターは見つからなくってギルドの人達は撤退。

 ずっと探していたのに見付からないなんて、なんだか変だよね?

 

 それで、当面は島に滞在している上位ハンターのアランがこの事に関して責任を持つ様に言われたらしい。

 

 そんなの大変な筈なのに、アランは二つ返事で請け負ったみたいで。

 

 ここ一週間はとっても忙しかった。

 島のアプトノスも凄く減っていて、私は彼らを村の近くに避難させる為にずっと追いかけたり後ろから押したり。

 だけど、村を囲うバリケードの中に避難させたし。これで孤島の生態系は少しの間でも護られるのかな……?

 

 

 そうやって私も働き詰めだったし、皆それぞれ忙しそうにしてたから、ハンターさんが亡くなったっていう実感はなんだか薄くなってしまった。

 私はなんだか嫌だけど。村の皆がまた暗くなるよりは、良いのかな……?

 

 

「……モモナに話し掛けるくらいだったら毒キノコに話し掛けた方が良いみゃ」

「「酷い」」

 それで、私が農場に来たのには理由があります。

 

 

 それは完成した武器の事。

 加工屋さんも忙しくてつい先日完成したばかりの、出来立てホヤホヤ。

 

 

「……うみゃ、新しい武器出来たんだ」

 その事に気が付いてくれたミミナ。うん、そうなんだけどね。

 

 その武器が問題なんです。

 

 

 

「どう?」

 ダイミョウサザミさんの素材を使ったいかにも如くな盾、それとヤドの角を使った一振りの剣を構えて私はモモナとミミナに新しい武器を披露した。

 

「格好良い片手剣ミャー!」

「……良い盾と剣、みゃ」

 デスヨネー。ソウオモウヨネー。

 

「これ、双剣らしいんだよね」

「「は?」」

 二人とも、語尾忘れてるよ。

 

 

「加工屋さんから出来た武器を貰う時にね? 片手剣と双剣じゃ似ててもちげーが、うまくやんな! って」

「あのジジイついにボケたミャ?」

 酷い。

 

「……それで、聞いたのみゃ?」

「勿論。私はこれ、片手剣ですよね? って。そしたら加工屋さん。ばかやろう、立派な双剣に出来上がってるじゃねーかこんにゃろうめって」

「「あのジジイボケたわ」」

 語尾、忘れてるよ。

 

 

 武器の名前はクラブホーン。カタログを見せて貰えばそこには本当に双剣って書いてあったんだよね。

 その事を二人に伝えると「ギルドがボケてるわ」とまた語尾を忘れて仲良く声を重ねていた。

 

 確かに、盾の先には申し訳程度に鋭い爪が伸びていて一応何かを斬る事は出来そう。

 だとして、どう考えても、これは、盾。盾だよ。

 

 

 双剣って盾を捨てて剣を持ったんじゃないの? 盾捨てきれてないよ?

 

 

 

「……もう片手剣として使った方が良いみゃ」

 なんて愚痴っていると、ミミナからそんな提案を頂きました。

 

 うーん、それで良いのかな?

 双剣を双剣として使う必要が絶対ある訳じゃないし。

 

 

「クラブホーンは片手剣」

 暗示を掛けながら、私は農場のお手伝いに専念。

 

 本当は、アランのお手伝いをして一刻も早く森の異変を解決したいけど……。

 もう、あんな事を起こさない為に。

 

 

 

「ミズキー、お客さんニャ!」

 でも私は何も出来ないから農場のお手伝いをしていると、村の方からムツキが走ってきてお客さんだと声を掛けてきた。

 お客さん? 私に? お父さんはちゃんとお店に居るのに?

 

 疑問には思ったけど、呼ばれた訳だし行かないとね。

 だから私は二人とジェニーに挨拶をして、村に戻った。

 

 

 

 

「君が、この村のハンターのミズキちゃんだね。私は見た通りギルドナイトをやっている、カルラ・ディートリヒだ。よろしく」

 そう言って私に手を出してくるのは、赤い服のような装備を着たハンターさん。

 

 この服みたいな装備は、ギルドナイトというギルド直属のハンターさん?(私はよく分かってない)に支給される防具。

 

 ギルド直属で働いて、危険なモンスターの討伐に先陣を切ったり、今回のような異常事態を調べたり、時にはハンターさんの違反についても取りしまう役割を持った大変なお仕事。

 それが、ギルドナイトらしいです。

 

 

 そんなギルドナイトのカルラさん。

 整った金髪は私より綺麗で一瞬女性かと思ったけど、声とか身体つきを見るに男性みたい。

 でも女として、劣等感を感じる綺麗な顔をしています。

 

 

「よ、宜しくお願いします!」

「うん。宜しく」

 そんな彼の手の甲には、綺麗な赤い宝石のついた物が付いていた。

 なんだろう? これ。……うーん、アランが戒めだとペンダントにしてる石に似てる気がする。

 

 

「綺麗な石ですね」

 そんな石はアランの物とは違って欠けてなくて、何やら装飾品になっているみたい。

 でもギルドナイトの装備って感じではないし。何か特別な意味でもあるのかな?

 

「あぁ……これかい? そうだね、綺麗だろう? お守りなんだ」

 アランとは違って、お守りと言った彼の目は───でも何処となくアランに似ている気がした。

 

 

 気のせいかな?

 

 

「え、えーと。ところでギルドナイトさんが私に何か用なんですか?」

 私はリオレウスを許可なしに狩ろうとした事がある。ま、まさか私、捕まっちゃうのかな……?

 

「森の異変の原因、イビルジョーの退治をしようと来たんだけど。森に詳しい君に手伝って貰いたくてね」

 爽やかな笑顔でそう言う彼の言葉に私は内心ホッとしたのも束の間、アランに言われていた事を一つ思い出します。

 

 

 ──俺がアイツを殺すまで、絶対に森には行くな──

 

 

 アランはきっと、私の事を心配して言ってくれたんだと思う。

 未熟な私が、ロアルドロスやハンターさんを喰い殺したその生き物に会って同じ眼に合わないようにって。

 

 でも私は、アランにモンスターを殺して欲しくないって思っちゃってる。

 おかしい事だっていうのは、分かってるんだけどなぁ。

 

 

「ごめんなさい……私、アランに森に入るなって言われてて」

 それでも、私はギルドナイトの人にはそう言って断る事にした。

 

 私が勝手な事をして、誰かに迷惑を掛けるのは……もう嫌だから。

 

 

 

「アラン……本当に此処に居たのか」

 あれ? アランのお知り合い?

 

 ギルドナイトに知り合いが居るんだ……アラン、凄いな。

 

「知り合いなんですか?」

「え、あ、まぁ……ね。うーん、なるほど…………ならアランには私が上手く言おう。大丈夫だ、私はこれでも見た通りギルドナイト。腕は確かだよ」

 試してみるかい? と、背中の太刀をチラッと見せる彼の表情は含みのある笑顔で大人っぽい。

 

 

「え、えーと……」

 確かに、ギルドナイトをやっている人なら腕は立つはず。

 

 そんなギルドナイトさんを連れて行けば、もしイビルジョーっていうモンスターが現れても……アランと彼なら楽に倒せるんじゃないかな?

 私が彼を連れて行けば、この村の───アランの手助けにもなるんじゃないかな?

 

 

 ───私なんかでも役に立てる。

 

 私は、そう思って大きく息を吸ってからこう答えた。

 

「手伝わせて下さい!」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 場所は変わってモガの森。

 

 

「ラギアクルスの……子供ですか?」

「ギルドも完璧にはその生態を把握してはいないんだけど、イビルジョーに効果のある属性として電気が一つ挙げられているんだ」

「だからってなんで、子供なんだニャ?」

 着いてきてくれたムツキと共に、私はギルドナイトのカルラさんを連れて島の反対側に向かっていた。

 

 

「子供のラギアクルスなら安全に陸地に誘導出来る。そして、子供と言えどラギアクルスならイビルジョーにも有利が取れるだろ? だから二匹には争って貰う」

「それで弱ったイビルジョーを倒すって魂胆かニャ? アランもギルドナイトさんもモンスターに馴れ馴れしいのはなんか似てるニャ」

 それなら、安全だとは思うんだけど。ラギアクルスの子供はどうなるのかな……?

 

「それで、ここ最近小さなラギアクルスが現れるようになった場所があるだろう? そこへ案内して欲しい」

 彼はそう言って私に道を譲る。この先は君の方が詳しいだろう? と、頼られるのは村のハンターとしては嬉しかった。

 

 

 ただ、少しだけ気になる事が。

 ムツキはアランと似てるって言ったけど、私は何か違う気がするんだよね。

 

 きっとアランは……モンスターを自分の為に利用しようとしない。

 これだってまた、私の勝手な思い込みかもしれないんだけど。

 

 

 でも、カルラさんの言っている事は正しい。

 やっぱり私はおかしいのかな? なんて思うんだ。

 

 

 

「この付近……だと思います」

 私がカルラさんを案内したのは、村から反対側に位置する所。

 

 丁度、初めてアランと会ったあの入江の近く。

 その入江には確かジャギィの群れが居るんだよね。近付かないようにしなきゃ。

 

 

 ここ最近、と言うには少し昔なんだけど。

 この付近でラギアクルスの小さな個体がよく見つかるようになったの。一年くらい前かな?

 ラギアクルスってこれまで幼体が確認された事がなくて、その幼体は研究の為に要観察対象だったんだよね。

 

 そんなラギアクルスの子供に今回は協力して貰う……のかな?

 

 

 

「子ラギアは……あぁ、居た居た」

 不敵に笑う彼は、海岸沿いを目線に捉えて背中の太刀に手を伸ばす。

 

「ありがとう、ミズキちゃんにムツキ君。君達は下がっていてね」

 そして、私達に注意だけ促すと彼はその太刀を抜いて海岸に向かっていく。

 

 彼は子供のラギアクルスに悟られない速さで近付くと、青と桃色の合わさった太刀を───その足に叩き付けた。

 

 

「グォォォゥ?!」

 子供と言っても、産まれて一年も経てばとても身体は大きくなる。

 

 まだまだラギアクルスとしては小さな身体だけど、その全長は優に十メートルを越していた。

 大きくなったねぇ、なんて感心してる場合じゃない。

 

 え、攻撃したの?! 協力して貰うんじゃないの?!

 

 

「待つニャ!」

「え、でも、止めなきゃ!」

 出そうになった私の足を、抑えて止めるムツキ。

 

 だって、あんなの可哀想だよ……っ!

 

 

「さぁ、大人しくなるんだ!」

「グォォォゥ!!」

 自らをいきなり攻撃して来た敵を前に、身体を捻って距離を置こうとするラギアクルス。

 

 大きな顎を持った頭の後頭部に伸びる角と、海みたいに綺麗な蒼い甲殻。背中にはとても綺麗な赤い突起が並んでいる。

 大海の王の名に相応しく、水中での生活に主を置く事に適した身体付きは流線型で巨大な身体にもしなやかさを感じさせた。

 

 

 こんなに立派なのに、まだ子供だと言われているそのラギアクルスを彼は逃さない。

 

 

 

 距離を置いたはずのラギアクルスに一瞬で詰め寄り、踏み込んで切り上げ、そのまま上げた太刀を振り下ろす。

 

 

 

「グォォォゥ!!」

「そら! どうした!」

 一方的に攻撃されるラギアクルスの、怯んで下がった頭にカルラさんは太刀を叩き付けた。

 

 

「クォォォゥッ!」

 

 

 

「あ、あんなの……可哀想だよ」

「ニャ、でも……ギルドナイトさんには考えがあるんじゃないかニャ……?」

 で、でも……。

 

 間違っているのは……私?

 そう、それは考えたら簡単に分かる事。

 

 当たり前の事。

 

 

 竜が人に簡単に協力してくれる訳がない。

 

 

 人と竜は───相容れない。

 

 

 

「もう少し大人しくして貰おうかな!」

「クォォォゥッ!」

 その太刀が、ラギアクルスの左眼を斬り付ける。

 

 吹き出る鮮血と、焦げ臭い匂いがその眼はもう二度と開かない事を悟らせた。

 

 

 

 ───こんなのはおかしい。

 

 

 ───おかしいのは、私なの?

 

 

 

「よーし、良い子だ! こっちこっち!」

「グルォォォオオオオ!!」

 そうやって考えている間に、怒ったラギアクルスを引き連れてカルラさんは島の中心に走って行く。

 怒らせて、イビルジョーの居る陸地まで連れて行くのがカルラさんの目的だったんだ……。

 

「お、置いてかれちゃった?」

「追い掛けるニャ!」

「う、うん!」

 私も、ラギアクルスを追いかけるようにしてその場を去るんだけど。

 

 

 ───なんだか、背後から嫌な視線を感じたんだよね。

 

 なんだったんだろう……?

 

 

 

 

「これって……」

 砂浜を抜けて、川を少し登った所。

 

 私がそこで見たのは、横たわって眠る子供のラギアクルスの姿だった。

 

 

 こんな所でラギアクルスが寝てるなんて……凄く不思議。

 ただ、それはアランが見せてくれた光景とはまるで違う。

 

 ラギアクルスは全身ボロボロで、苦しそうに目を閉じて、眠らされている。

 

 

 足元で起動しているのはシビレ罠。だから、多分カルラさんは捕獲用麻酔玉を使ったんじゃないかな?

 弱ったモンスターを眠らせて捕獲する為のアイテムなんだけど。こんな事に使って良いのだろうか……?

 

 

「カルラさん!」

「お、ミズキちゃん。うん、君のおかげでラギアクルスは無事に使えそうだ」

「使う……っ」

「え? あー、言い方を間違えたかな? 協力、して貰うのさ」

「こんなの……」

「ニャ……」

 ねぇ、間違ってるのは……私なの?

 

 

 隣で苦しそうに目を閉じるラギアクルスを見ながら、私はそんな事を考えていた。

 

 確かに、森の異変は解決しなきゃいけない。

 でもそれは私達ハンターの仕事で、この子達は関係ない。そうだよね?

 

 

 私がおかしいの……?

 

 

 私が間違ってるの……?

 

 

 

「……さてと、後はイビルジョーを待つだけかな」

 何でだろう。

 

 

「さ、ミ■キちゃ■。後■私に■■■君■■■■■■■■■■■■」

 この人が何言ってるのか、分からない。

 

 視界が真っ白になる。黒い線だけが見える。

 

 

 

 するべき事だけが分かる。

 

 

 

「ムツキ、閃光玉」

「ニャ?!」

「閃光玉!!」

「ニャ!!」

「ぇ、ミ■■ちゃ■?!」

 閃光玉を投げたムツキを抱いて、私は全速力で走った。森の中へ、彼の眼の届かない所まで。

 

 

 

「……っぁ…………な、なんだったんだ……? ふ、まぁ……良いかな。僕はアイツを回収できれば……それでね。ラギアクルスもゲットで一石二鳥───いや一石二竜ってね。アッハハ」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 なんでか全速力で走っていたので疲れてしまった。息が荒い。

 

 

 身体が痛くなるくらい、とにかく全速力で走ったみたい。

 なんでだろう……。何がしたいんだろう、私。

 

 

「い、いきなりどうしたんだニャ……?」

「分からない……」

「どーいう事ニャ。……そんなに、嫌だったかニャ?」

「ぅ、うーん……」

 多分、そうなんじゃないかな。

 

 私は自分が間違ってるって、分かってるのに。

 それでも嫌だった。だから、逃げ出したんじゃないかな。

 

 

 ……バカだな、私。

 

 

 何も出来ない癖に。

 人の力になりたいとか思いながら。

 

 こんな事すら出来ないなんて。

 

 

 そう思ったら無性に悔しくて、悲しくて、涙が出てくる。

 

 泣いたって何も変わりはしない。

 そんな事すら、私は受け容れられない。

 

 

「……っぐ、ぅ……ひっく…………っ」

「よーしよし。ミズキは優し過ぎるニャ。そんな優しいミズキだから、そうやって思っちゃうのも仕方ないニャ」

 言いながら、ムツキは座り込む私をギュッと抱いて頭を撫でてくれた。

 

 ありがとう、ごめんね、ムツキ。

 

 

「だから、とりあえず今日は帰ろうニャ。大丈夫ニャ、あのラギアクルスは要観察対象で、ギルドの人が易々と殺させる訳ないニャ」

 うん、そうだよね……。

 

 

 そうだよね……?

 

 

「だから、きっと終わったら無事に───」

「ギルドナイトの人が子供のラギアクルスをあんなに痛め付けるのって……おかしくない?」

 ムツキの言葉を遮って、私はそんな事を口にする。

 

「そ、それはそうだけど……ニャ?」

「あの人本当に……ギルドナイトなのかな?」

「そ、それを疑うのは野蛮ニャ。ギルドナイトを嘘で語るなんて犯罪以外の何物でもな───ぁ」

 ムツキもおかしい事に気が付いたみたい。

 

 ただ、カルラさんはアランの知り合い。

 だから……悪い人じゃないと思うんだけど。

 

 それでも何か、引っかかる事が多過ぎる。

 

 

「ぅ……これ以上考えたって何も分かんないよぉ……」

 珍しく回転してくれた私の頭だけどもうダメみたい。パンクしそう。

 

「バカなのに変な事考えるからニャ」

 酷い。

 

「……っぅ…………ひっ……っ」

「わ、わぁっ?! ごめんニャ! 言い過ぎたニャ……」

「う、ううん……。私……結局何も出来───」

「誰だ!!」

「「っぁ?!」」

 俯く私の背後から聞こえる大きな声。

 

 振り向くと、そこにはもう見慣れた蒼い防具を着た男の人が怖い顔で立っていた。

 

 

「あ、アラン……っ?!」

「……お前達か。……アレだけ森に入るなと言っただ───」

「アラン!!」

「……っぉ?!」

 アランが何か言っているけど、無視してその懐に飛び込んだ。

 

 固い防具を大きく揺すっては、私は口を開く。

 

 

「助けて!!」

「……は?」

 呆れとか、困ったとか、そんな表情でアランは私を見ていた。

 でも、ちょっとだけ考えてから「どうした?」と返してくれるアラン。

 

 私は何も出来ない。

 でも、アランならこの現状を変えてくれるかもしれない。

 

 

「ニャ、とりあえず落ち着くニャ。森であんまり大声を出すのも、ニャ?」

「あ、ぇ……そ、そうだね。ごめん……」

 落ち着いて、深呼吸。

 

 私が焦ったって、何も出来ないのだから。

 

 

「今朝ね、カルラってギルドナイトの人が村に来たの。それで……イビルジョーをなんとかする為に力を貸してくれって」

「……カルラ? ギルドナイト?」

 あれ? 知り合いじゃなかったのかな?

 

 私の話を聞くアランは、なんだか不思議そうな表情をしている。

 

 

「いや、カルラが生きてる訳がないか。人違いだろ」

「え、人違い? いや、でも、多分。えと、カルラさんはアランの事知ってたよ……?」

「……そいつは、金髪か?」

「うん、私と同じ色」

「…………。まぁ、良いか。で、どうしたんだ?」

 そう答えるとアランは、不機嫌そうな表情で少し考え込んでから口を開く。

 二人はどういう関係なんだろう……?

 

 

 それから私は、カルラさんがラギアクルスの子供を利用しようとしてる事、カルラさんに頼まれてラギアクルスの居場所に案内した事。

 それと、カルラさんがラギアクルスにした事をアランに伝えた。

 

 

「ギルドナイトがそんな事をする程、イビルジョーを危険視している……。それとも───」

 そこまで言って、アランは歩き出す。

 

「あ、アラン? 何処に行くの……?」

 私、また置いてかれるのかな。

 

 また、何も出来ないのかな。

 

 

「……何をしてる、早く案内しろ」

「ぇ……」

「ほらミズキ、早くするニャ」

「ぇ、ぇと……」

 うん、このくらいなら。このくらいなら私にも出来るよね。

 

 

「止めるんだろ? そのバカを」

「うん……っ!」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「以外と早かったね。閃光玉で私を止めてその間にアランを連れてくるなんて……私は中々君を見くびっていたらしい」

 さっきの場所に戻ると、何故か起きているラギアクルスの子供を背に彼は私達に向かってそう口を開いたの。

 

 

 ラギアクルスに背を向けるなんて危ないと思ったんだけど、目覚めている筈のラギアクルスはさっきまで自分を攻撃していたカルラさんに攻撃しようとはしなかった。

 何が……起きてるの? アランみたいに、モンスターと仲良くなれる……の?

 

 

 でも、彼にはアランに近いけど全然違う物を感じる。分からない。私には彼が分からない。

 

 

「ただ、ちょっとだけ遅かったかな。こいつはもう、私の部下だ」

 カルラさんはラギアクルスの前脚を蹴りながら、そう言った。

 そんな事をされたのに、ラギアクルスは気にも止めないで私達を睨み付ける。

 

 なんで……? どうして?

 

 

「不思議そうな顔をしているね、うん。やっぱり初めて見る人の顔は新鮮だ、忘れられない」

 そう言うと、彼はあの赤い宝石がある左手を空へ掲げる。

 

「なら、これも見せてあげなきゃね。───ライドオン! ラギアクルス!!」

 そう言った瞬間、彼の宝石が光ってそれと同時にラギアクルスが動き出した。

 

 飛び上がった彼の下にラギアクルスが入り込んで、危ない───って思ったのも束の間。

 カルラさんはラギアクルスの背中に飛び乗って、その場で堂々と立ち上がったの。

 

 

 あの凶暴なラギアクルスを手懐けて……背中に乗った?!

 

 

「儀式は無しだけど、まぁ……ちょっと大人しくさせれば後はこいつが何とかしてくれる」

 そう言いながら赤い宝石を私達に向けるカルラさん。

 あの石に……何か秘密でもあるの?

 

 え? もう、何が、何だか、分からない。

 

 

「まさか……本当にカルラ、お前だったのか」

「やぁ、アラン。何年ぶりだ? ヨゾラはどうした? その剣、ヨゾラのだろ?」

 アランは武器を構えて、そう言って話し合う二人。

 

「あ、アラン! 人に武器を向けたらダメなんだよ?!」

 しかも、相手はギルドナイトの人。捕まっちゃうよ……?

 ていうかアランは驚かないの?! モンスターに乗っちゃってるけど?!

 

 

「俺はラギアクルスに向けているだけだ」

「へ、屁理屈ニャ……」

 そうとだけ言って、アランは足を進める。

 え、えと、争い事はダメだよ……?

 

 

「ヨゾラなら死んだ───俺が殺した」

 そして、アランはそう言ったの。

 

 

 ぇ───殺した……?

 

 

「お前……何を言ってる?」

 その言葉に驚いたのは私だけじゃなくて。

 ラギアクルスに乗ったままのカルラさんも目を丸くして、そう答えた。

 

 

「お前も、村の皆も……ミカヅキもヨゾラも俺が殺したような物だ。お前が生きていたのは……驚いたけどな」

「あ……あぁ…………そう、だね。そうだ」

 目を閉じて、カルラさんはそう返事をする。

 

 アランは……何を言ってるの?

 

 

「全部お前が悪い。あの卵を持ち帰ってあの親を呼んだ……お前が悪い。村の皆を殺したのはお前だ、ヨゾラと二人だけで逃げたお前の仕業だ……ッ!! ミカヅキの事すら……お前は見捨てたんだ」

「違───それは……っ!」

 

「黙れクズが……。名残惜しげに首に絆石をぶら下げやがって。お前に…………絆を捨てたお前にそれを持つ権利なんて無いんだよ!!」

「…………っ。……なら、お前はどうなんだ?」

「……何?」

 ボウガンの銃口を向けて、アランはこう続ける。

 

 

「儀式も無しにモンスターを絆石で無理矢理操る。……そんな物が、ライダーか? そんな物が……お前の目指していた物か?」

「何を言うかと思えば。僕はライダーとしてお前の知らない高みに居るんだ! ちゃんと絆はあるさ、僕はラギアクルスに協力を得ている。……僕には目的がある、その為に───」

 その言葉を遮ったのは、アランのボウガンから放たれる銃声だった。

 

 

「ちょ、おま───」

 また、発砲。

 

 

「あ、アラン?! お話の最中じゃなかったの?!」

「そうだぞお前! 昔からそうだよな?! その最低な性格直せよ!!」

 カルラさん怒ってるよ?!

 

「……なんで態々お前の話を聞いてやらなきゃいけないんだ」

「外道ニャ、この人外道ニャ」

 さっきまでの空気は何処に行ったのか。

 

 

「グォォォォッ!!!」

 一方で、アランが撃った弾は全部何にも当たらずに空へと消える。

 ただ、目の前を通るそれにビックリしたのかラギアクルスは大きな声を挙げて暴れ出した。

 

「っぉ、なぁっ?! お、落ち着けラギアクル───っぁ?!」

 バランスも取れなくて、カルラさんは地面に落ちてしまう。

 アランの狙いは、これ……?

 

 

「グォォォォッ!!」

「お、落ち着けラギアクルス! 私の声が聞こえないのか!」

 そう言うカルラさんには見えていない。

 

 

 

 子供を助けに来た、親の姿が。

 

 

 

「カルラ……」

「なんだよ!」

「絆なんて、無いんだ。……人と竜は、相容れない」

「お前───」

「グォォォオオオオオッ!!!」

 轟く咆哮、振り向くカルラさんはラギアクルスが二匹に増えているのを見て腰を抜かして倒れてしまう。

 私も、怖い。だって、子供を痛めつけられた親のラギアクルスの表情は……とっても恐ろしく感じたから。

 

 子供の倍はあるその巨体が、カルラさんを睨み付ける。

 

 

「……っ、こいつ親か?! なんでこんな陸地まで───がぁぁ……っ!」

 立ち上がって太刀を抜こうとするカルラさんだけど、何かが青く光ってカルラさんの動きを止めてしまった。

 

「くっそが……っ! モンスター風情が! 殺してやるぞ、お前達なんていつか全滅させて───ひっ」

「グォォォオオオオオッ!!!」

 あ、危ない!

 

 

「そこまでに、してくれないか」

 カルラさんが、大きな顎に噛み付かれる寸前の所でラギアクルスを止めたのは……アランだった。

 

「グォォォ……」

 あのラギアクルスが……大人しく止まってる?

 

 

「もう、俺の顔は忘れたか……?」

「グゥゥゥ……グォォォ!」

「グォォォォッ!」

 アランの言葉で? ラギアクルスは子供も一緒に連れて海の方へと帰っていった。

 本当に不思議な光景。さっきまでとは、また別の……素敵な光景。

 

 ど、どういう……事? 何が起こってるの?

 

 

「アラン……お前……」

「勘違いするな。お前には聞きたい事が山程ある……だから、助けただけだ」

「いや、でも……そもそもなんで親が。なんでお前がラギアクルスを手懐けられる…………お前はもうライダーじゃないだろ!」

 さっきから偶に聴こえる、ライダーって何なのかな?

 

 

 それに私、また何も出来なかった……ね。

 

 

「ラギアクルスの子供は鳴き声で親を呼ぶんだよ。あの親子はお前が交わした偽りの絆なんかよりよっぽど固い絆で結ばれているんだ」

「……っ。ライダーの事を馬鹿にする気か、お前は」

「俺はもう、ライダーじゃないからな。……さて、全部吐いて貰おうか」

 カルラさんは、今回の事を色々と知っているのかな?

 

 

 密猟者の事とか、イビルジョーの事とか。

 

 

「…………するな───」

「……カルラ?」

「───ライダーを……馬鹿にするな!」

 そう言って、立ち上がって。またあの赤い石を天に掲げるカルラさん。

 

 そして、こう叫ぶ。

 

「ライドオン! サクラ!!」

「ヴゥゥァァアアアッ!!」

 瞬間、何処から飛んできたか分からない一匹の飛竜にカルラさんは連れ去られてしまった。

 

「え、えぇ?!」

 アレは……リオレウス? それにしては赤というより桃色の身体をしている。

 

「……リオレイア亜種。サクラ、生きていたのか……」

 リオレイア亜種?!

 

 

「僕は人間の味方だ。答えられる所だけ答えようか」

 リオレイア亜種の背中に、さっきみたいに乗って私達を見降ろしながら彼はこう口を開いた。

 いや、本当、どうなってるの。

 

 

「この村にイビルジョーを連れてきてしまったのは僕の仲間達だ。僕には黙っていたようだが……連れ戻そうとした仲間が死んでやっと耳に入ったんだよ」

 仲間? もしかして……あのハンターさんの、事?

 

「そしてそのイビルジョーは……アラン、お前の孵化させたアイツ(・・・)だよ」

「な……」

 アランが……孵化させた?

 

 

「あいつは私の計画に必要だからね、こっそりと育てていた訳だけど。こんな所で逃げてしまって、回収しようと思ったんだ。だからラギアクルスに力を借りようとしたのに……お前達は邪魔をした」

 で、でも……それは。

 

「……お前のやり方は間違っている」

「そうか、なら自分の力でなんとかしてくれ。ただ……私も鬼じゃない。村人の避難には全力で協力させて貰う。……誰も、死なせない為にね。行くぞ、サクラ」

「ヴゥゥァァアアアッ!!」

 方向を変えて、飛び去っていくリオレイア亜種。なんで……言う事を聞いてるの? どういう事?

 

 

「待て……カルラ!!」

「言っておくが、ギルドに私の事を言ったって無駄だぞ。僕が何のためにこの服を着ているか、考えるんだな」

ギルドナイトなのは本当……なのかな?

ギルドナイトで、密猟者の仲間なのかな……? カルラさんは。

 

 

「自らの産み落とした悪に喰われ、滅びろ───裏切り者」

 リオレイアの飛行速度はとても速くて、カルラさんは一瞬で視界から消えてしまう。

 

 

 立ち尽くすアランに私が気になっている事を聞いても、彼は何も答えてくれなくて。

 

 ただ、沈んで行く夕日を見ながら村に帰るだけだった。




ついに十話まで書き上げる事が出来ました……。皆様の応援のお陰でございますm(_ _)m
十話まで書いてやっとモンスターハンターストーリーズらしい要素が出て来ましたね。

ライドオン、初めて行ったのはなんと新キャラでした。
カルラを簡単に説明すると、現役ライダーのハンターでギルドナイトで密猟者です。もう滅茶苦茶ですが、ギルドナイトである事で全てを揉み消してる感じ。アランとは幼馴染。


今回の言い訳。
公式設定ではラギアクルスは幼体が確認されていません。なので、今回も全力独自解釈。
近しい現実の生物であるワニは爬虫類で唯一子育てをする種らしいです。鳴き声で異性や親へのコミュニケーションも取るらしく、今回は鳴いて親を呼んで貰いました。

アランの言う事を聞いて素直に帰った理由ですが……文字(ry
アランが村に来る時、既にラギアクルスと接触していたのです。プロローグ参照。
その時に何かあったんだよ。きっとそうだよ()
これに関してはもう、なんか、ごめんなさい……。


さて、物語も動き始めました。一章はそろそろクライマックスです。


また、次のお話でお会い出来ると嬉しく思います。ではでは。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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恐暴竜と鮮血の始まり

 ──アラン、なんだ? その卵は──

 

 ──あ? これか……。なんでも無い──

 ──アランがカルラに誕生日プレゼントって、二匹目のオトモンの卵を探して来たんですよ。その為に、私に頭を下げたんですから──

 ──……っ、おいヨゾラ……余計な事を!──

 ──あっはは、仲良し二人組には妬けます──

 

 ──僕の……為に?──

 ──お前、言ってたろ……サクラ以外にも色んなモンスターと絆を結ぶんだって──

 ──アラン!!──

 

 ──二人で?──

 ──うん、この卵は……僕とアランの友情のオトモンにしよう!──

 

 

 ——こいつはモンスターなんかじゃない! ……殺す…………殺してやる……っ——

 ──止めて下さい! その子が可哀想です!──

 ──あ、アラン! 止めてよ! 僕達の──

 ──黙れ! こいつは!!──

 

 

 

 あの時の、アイツが───アイツの卵から孵ったイビルジョーが……この島に居るのか。

 

 それをカルラが七年も甲斐甲斐しく育てていたなんてな。

 

 

 もう、村が無くなってから七年か。

 

 

 

 アイツを殺したら、皆許してくれるかな。

 

 

 ヨゾラも、笑って迎えてくれるかな。

 

 

 ミカヅキは…………怒るかもな。

 

 そんな訳、無いか。

 

 

 

「…………殺す」

 悪いな、カルラ。俺はまだ死ねない。

 

 アイツを殺すまでは。

 

 

 何処だ。

 

 

 何処にいる。

 

 

 何故見付からない。

 

 

「何処───そこか?!」

 木々の中に物音を感じて、銃弾を放つ。手応えは、無し。

 

「グォゥ!」

 ただ、小さなジャギィが一匹出てきただけだった。

 アイツに撃ったつもりだったからか、背の小さなジャギィには当たらなかった様だ。

 

「グォゥ……」

「……今お前に構ってる暇はない。…………死にたくなかったら消えろ」

「グォゥ!」

 なんだこいつ……。

 

「……殺すぞ?」

 俺を少し見つめた後、ジャギィは振り向いてゆっくりと歩いてからまた此方を向く。

 まるで、付いてこいと言ったいるようだ。そんな訳が、あるか。

 

 

 群れの方に俺を誘って喰らう気なのか?

 

 

 …………だとしたら、全員殺せばいい。

 

 

 そしたら血の匂いに誘われてアイツも出てくるかも知れない。

 

 

 

 だから、俺は誘いに乗ってやった。

 

 

 

 島の中心付近の丘。

 

 ジャギィに着いて行くと、案の定ドスジャギィが率いた群れが其処には居座っている。

 

 

 

 大きく食い千切られたアプトノスの大量の死骸の周りに、な。

 

 

 

「なんだ……これは」

 まるで、島中のアプトノスを集めたような量の死体の山。

 

 ジャギィがどれだけの群れだろうと、この量のアプトノスを餌にするなんておかしい。

 

 

「グルォォッ」

「お前、あの時のドスジャギィか……?」

 その群れの長は、背中に治りかけの傷を負っていた。

 

 なら、なんだ?

 

 

 こいつ達は俺を喰おうとしている───違うのか?

 

 

「俺をここに呼んだのか……? 島のアプトノスが激減していたのはイビルジョーの所為だけじゃないのか……? いや、これは全部イビルジョーが喰い散らかした死体……」

 そのイビルジョーは、何処だ?

 

「グォゥ!」

 まるで、ここまで来いとでも言うようにドスジャギィが鳴く。

 

 

 俺の足は、勝手に動いていた。

 

 全く、甘ちゃんだ。

 

 

「な……」

 そして、アプトノスに下半身を隠していたドスジャギィが視界に映る。

 

 いや、ドスジャギィはどうでも良かった。

 

 

 アプトノスで視界から隠れていたその地面には───大型モンスターが地面を掘り起こした跡のような大穴が開いていたんだ。

 

 

 その穴を見て、やっと、理解する。

 

 

 何故これまでイビルジョーを見付けられなかったのか。

 

 

「地面に……潜っていたのか?」

 そして捉えたアプトノスはここで捕食していた。アプトノスでは物足りずにリオレイアやドスジャギィ、ロアルドロスにまで襲い掛かったイビルジョー。

 

 

 ───なら次に襲うのは、なんだ?

 

 

 

「グォゥ!」

 

 島のアプトノスの味を匂いを覚えたアイツが、人里を恐れて村に居る生き残ったアプトノスを捕食しに行かないなんて事があるのか……?

 

 

 村の周りのバリケードは意味がない。こいつは地面を移動する。

 

 

 そして目の前のアプトノスの死体は、ついさっきまで生きていたのか……暖かかった。

 

 

 

 イビルジョーは、生きる為に捕食を続けなければならない。

 

 食べる物が無くなったアイツが向かう先なんて、考えなくても分かる。

 

 

 ここは島の中心部。

 

 

 

「───間に合わない」

 もう、どう考えても遅かった。

 

 例えこのアプトノスを食べ終わったのが三十分前だとしても。

 

 

 人間の足で間に合う訳がない。

 

 

 俺が付く頃には、村は───

 

 

「……くっ……そ…………っ!!」

 悪夢が、蘇る。

 

 何も出来ないのか……?

 

 

「グォゥ」

「ドスジャギィ……?」

 

「グォィ!」

「グィゥ!」

 ジャギィ達……?

 

 

「そうか…………。お前達も、奴が居ると困るんだな」

 人と竜は相容れない。

 

 

 だから、これは───共存関係だ。

 

 

「少しだけ、力を貸してくれドスジャギィ!」

 目を瞑って、ありもしない絆をその手に握る。

 

 ライドオン、か。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「ねぇ……アラン」

「ダメだ」

 カルラさんがリオレイアに乗って飛び去っていった次の日。

 

 

 今日も森に入るアランに向かって、私はお願いしたの。

 着いて行って良い? って。助けになりたいって。

 

 

 でも、結果はこの通り。

 

 アランは冷たい顔で、また森に入って行った。

 最近、アランはずっとそんな顔をしてる……。私はなんか、嫌だな。

 

 

 

「───えぇ、ですから村の皆様には避難をと」

 村を歩いていると、そんな声が聞こえて振り返る。

 

 其処には、どうやらギルドの人と話している村長さんが居たの。

 

 

「カッハハハハ! だから何度も言わせるな。避難はせんで良い」

「いえ、ですがこれはギルドの命令で───」

「あの大海龍の時すらワシらは島に残った。なんでか分かるかの?」

「え、いや、だから、ですね?」

「あの時、ワシはあのハンターを信じ切れなかった。心の中では信用していた奴を、信用してやれなかった。奴を置いて、何人かを避難させようとした。人命第一、当たり前の事だがの……?」

「そうです、村人の命は大切でしょう?」

「だが、奴は大海龍を本当に一人で倒してしまった───いや、実際には皆の……村の皆の力だと奴は言ったがの。それでも、奴はボロボロになってでも、数日掛けてでも……この村を守ってくれたのだ」

「は、はぁ……」

 この人は何が言いたいんだ。多分、ギルドの人はそう思ってるんだと思う。

 

 でも、私はあの時……あのハンターさんを見ていたから。

 村長の言いたい事は分かるような気がした。

 

 

「ワシは、村のハンターを信じとるよ。確かに奴ではないが、アランもミズキも……この村の信用たるハンターだからのう」

「だからと言って───」

「二人のハンターが諦めるまで、ワシは避難するつもりはない。あの時と同じで、村人達も同意見だ。なぜか分かるか? 加工屋も、雑貨屋も、ビストロ・モガのコックも、居なくなったらハンターの二人が困るだろう。村の皆でハンターを支えたいのさ」

 村長……。

 

 

 そんな話を盗み聞きしてしまったのは、ちょっと罪悪感があるけれど。

 私は実際、何も出来てない。

 

 ……何か、しなきゃ。

 

 

 そう思って、私は農場に足を運んだ。

 

 森に住むアプトノスも農場近くに避難させているから、村のバリケードもあるし安心。

 だけど、バリケードが破られてないか確認して来ようかな。

 

 

 私には、それくらいしか出来ないから。

 

 

「っと、ミズキちゃん。農場へ行くんですか?」

 その途中で、何やら上機嫌のアイシャさんに出会いました。

 

 その手には何やら手紙の様な物を抱えていて、とっても嬉しそう。

 

 

「バリケード、ちゃんとなってるか見てこようかなって思って。アイシャさんはどうしたんですか? なんだか嬉しそう」

「ミズキちゃんは偉いですね! 私ですか? 私はですねー!」

 そう言いながら、彼女は持っていた手紙を開く。

 

 手紙は、懐かしい文字で短文が書かれていた。

 

 

「私、実は一週間前にあのハンターさんに手紙を出したんですよ。相談程度にですけど。そしたらあの人、心配だから自分も様子を見に来てくれるって…………なんやかんやで、あの人もこの村の人ですよね!」

 あのハンターさんが?!

 

 それは、とっても心強い。

 アランとあのハンターさんなら、イビルジョーだって。

 

 

 うん、ハンターさんが来るまで私も頑張らなくっちゃ!

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「ミズキは暇なのかミャ?」

 場所は変わって農場。

 

 

「……たぁっ、えぃっ!」

 ちょっと空いた場所を使って、私は新しい武器───クラブホーンで素振りをしていた。

 

 片手剣のように。

 

 実はこれ双剣なんだけど。

 

 片手剣として。振る。

 

 

 いや、双剣とは思えないよやっぱりこれ。

 

 

 

「暇……なのかな。あっはは……私、何も出来ないから」

「暇ならお茶するミ───痛い!」

「……ミズキは村の為に自分に出来る事をしてる。邪魔しないみゃ」

「ぶーぶー! ミミナはいつもそうやって叩くミャ! 嫌ーい!」

 そう言うと、モモナはジェニーの方まで走って行ってジェニーと遊びだした。

 喧嘩は良くないよ……?

 

 

「ミミナ、叩いたらめー、だよ?」

「……みゃぅ」

 よしよし。一緒に謝りにいこっか。

 

 

 村のバリケードは見てきたけど、大丈夫そうだった。

 

 後、私に出来る事があるとすればバリケードの近くでバリケードが壊されないか見ているくらい。

 だから、この農場に居るのが一番なのかな。

 

 

「モモナー、ミミナが謝りたいってー」

「みゃぅ……」

「知らんミャ。すぐ叩くミミナなんて嫌いミャ! ジェニーの方が優しいしミャー」

「ウォォゥ」

 あちゃ、これは冷戦かな。

 

 

「喧嘩してるニャ……?」

 そこへ救世主、ムツキ参上。

 

「ムツえもーん、何か良いアイテムない? 二人を仲直りさせるアイテム」

「誰がムツえもんニャ。そんなアイテムはにゃい」

 ですよねー。

 

 

「ほらモモナ……機嫌直して? ミミナも謝ろうとしてるよ?」

「……別に謝る気なんてない」

 あちゃ……。

 

「べー、べー、ミミナのアホミャー!」

「……かちん」

「ちょ、二人共ぉ!」

「ほっとけばモモナから折れるニャ」

 そうかもだけど……ね?

 

 

「今村は大変なんだから、喧嘩は───」

 ダメ。そう言おうとした私の声を止めたのは地面の大きな揺れだった。

 

「ニャ?!」

「みゃ?!」

「ミャ?!」

 

「ウモォォゥ?!」

 

 

 何この、揺れ。

 

 あの時の───ナバルデウスの時とは違う。

 

 直接地面が揺れている。そんな感覚がした。

 

 

 この下に……何か居る?!

 

 

 そう思った時には既にソレ(・・)は地表へと顔を出していた。

 

 

 私達から僅か十メートルも離れてない場所で。

 

 モモナ達の背後の地面が盛り上がる。

 

 

 身体を覆うのは暗緑色の鱗。

 あの子供のラギアクルスと同等の全長。私が四人並ぶ程の高さ。

 

 そんな巨体に不釣り合いな細い足、身体と同じ位太い尻尾。首元まで大きく裂けた口。

 トゲトゲしい表面と不気味なまでの体色、その巨体は私達の恐怖を駆り立てるには充分過ぎた。

 

 

「何……これ。…………誰?」

 この生き物は……何?

 

「グォォォアアアアアッ!!!」

 そしてその生き物は、自らを主張するように高らかに咆哮をあげる。

 

 

 身体が……動かなかった。

 

 この生き物は危険。そうやって本能で分かっている筈なのに。

 抜けた腰が上がらない。足も手も動かなければ、身体はただ逃げようと後ずさろうとする。

 

 情けない物が身体から漏れて、身体の穴という穴から嫌な水分が溢れ出す。

 

 

 怖い。それが、この状況でハンターになって三年目の私が感じた唯一の感情だった。

 

 

 情けない。

 

 私は何も出来ない。

 

 

「ミャ?! ミャ?!」

「ウモォォゥ!!」

 あの生き物の直ぐ側には、モモナとジェニー。

 

 固まって動けないモモナの前で、ジェニーが明らかに体格の違う生き物を威嚇している。

 今この場に居る、一番勇敢なのはハンターの私じゃなくてモンスターのジェニーだった。

 

 

「ウモォォゥ! ウォォゥ!」

「グルルル……」

 さも、どうでも良いものを眺める目で威嚇するジェニーを見下ろすその生き物。

 

 この生き物は何?

 

 何なの?

 

 

 バリケードはちゃんとしてあった───何で?

 

 地面を進んで来たの……?!

 村の周りの固い岩盤を物ともせずに。

 

 この生き物は───何?!

 

 

 

「グラァァァッ!」

 そんな事を考えている間に、その生き物は動き出した。

 

 私が情けないから、何も出来ないでいる間に。

 

 

「ウモォォゥ?!」

 威嚇を続けていたジェニーの背中に、その巨大な尻尾が叩き付けられる。

 

 一撃で地面に潰れて、身体を痙攣させるジェニー。

 

 

 助け……なきゃ。

 

 

 なのに、身体は動いてくれない。

 

 

 なんで……私は…………何の為に、ハンターに、なった?

 

 

「じぇ、ジェニーはやらせないミャ!」

 も、モモナ……っ! ダメだよ!! 逃げて!!

 

 その小さな体でジェニーの前に立って、両手を大きく広げるモモナ。

 

 

 その小さな体に襲い掛かる巨体に、私の手はもう……届かない。

 

 

 その鋭い牙が、モモナを───

 

「……モモナっ!!」

「───ぇ」

 鮮血が、赤色が、辺りに散らばった。

 

 

 モモナは、ジェニーの横に倒れている。無事。

 

 そのモモナを押し倒して、鋭い牙の犠牲になった彼女(・・)は高く飛ばされてから、辺り一面に赤を塗りたくりながら。

 

 

 力無く、地面に落ちた。

 

 

「ミミ……ナ……?」

 嘘……だよね?

 

「…………」

 嘘だよね?

 

 

「ミミナ……? え、ミャ……なん、で……ミャ。なんで?! なんで!!!」

 横たわる赤い身体に駆け寄るモモナ。

 

 私は……何をしているんだろう。

 

 

 本当に、何をしているんだろう。

 

 

 

「グォォォアアアアアッ!!!」

 

「ミミナ! ミミナぁ! しっかりしてミャ……私が悪かった……私が悪かったから……ミミナが本当は優しいの、知ってるミャ…………だから、だからごめんなさい。お願い……嫌ミャ……ミミナが居なくなるなんて……嫌ミャぁ……っ!!」

 

 

 

 立ち上がる。

 

「ニャ、ミズキ! に、逃げるニャ。ここはボク■時■■■ぐ■■!!」

「ミミナとモモナをお願い」

「ニャ?! ■■キ?! ダ■■■戦■たら! あ■つ■危■■■■!」

 何でだろ。なんで今更なんだろう。

 

 

 やるべき事がハッキリと分かる。

 

 

 もう少し早ければ……ミミナは───

 

 

「■■■っ!!」

 

 

 武器を構えて、走る。

 

 

「グ■ォ■■■アア■ッ!!!」

 その生き物に近付いて、細くて脆そうな脚に剣を叩き付けた。

 

 

「■■■っ!」

 声が、音が、ハッキリと聞こえる。

 

 

 不謹慎に、気分が良い。

 

 やれば良い事が脳裏に映る。

 

 

 そう思った瞬間、私の視界から色は消えた。

 あるのは黒と白。必要最低限の情報量。

 

 するべき事。

 

 

 しなきゃいけない事がはっきりと分かる。

 

 

 

 私がするべき事。

 

 

 コイツを───

 

 

「───…………殺す」

 言葉にすれば、簡単な事だった。

 

 初めから、そうすれば良かった。

 

 

 もう……遅い。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 大きな音は、小さな生き物を止める為の物。

 

 恐怖を駆り立て、身体を強張らせて、動きを止める為の物。

 それが分かっていれば、態々屈んで耳を防ぐ事もない。

 

 私はその音を無視して、黒くて細い線に剣を叩きつける。

 白くなる黒かった線を攻撃すれば、何度も同じ場所に攻撃を与えられた。

 

 

「■■■■ッ!!」

 唐突に黒い線が上に上がる。

 

 足元でチョロチョロと煩い虫を踏み潰そうとしているんだろう。

 何が……? 私は何と戦ってるんだっけ……?

 

 

 盾で受け流す? いや、これは剣なんだっけ?

 盾なんて、要らない。

 

 今はこの生き物を一回でも多く切り刻みたい。

 

 

 殺す。殺す。殺す殺す……殺す殺す殺す殺す!!

 

 

 ただ単純なそんな答えの為に、私は二本の剣を構えた。

 

 上から降って来る黒い何かを避けて、揺れる地面に足を踏ん張ってその場で黒い何かを斬りつける。

 両手の剣を振って、振って、振って、振る。千切れる黒い線。吹き出る黒い液体。

 

 

「……死■」

 ただ無心に、執拗に同じ場所を斬りつけて、やっと黒い影が横に倒れる。

 

 やっと手の届く位置に、私が斬りたい物が降りて来た。

 

 

 その黒い突起なの?

 

 ■■■を傷付けたのは、ソレ?

 

 

 へし折って、叩き割って、それでお前も同じ目に合わせてやる。

 

 殺してやる。

 

 

 近付いて、斬りつける。

 両手の剣はなんの為にある?

 

 殺す為だ。この黒い奴の息を止める為だ。

 

 

 

 なんで……殺すんだっけ。

 

 分からない。

 

 

 けど───

 

 

「───■ね!! 死■ぇ!! 死ねぇええ!!」

 

「■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 立ち上がる黒い影。殺せなかった、黒い影。

 

 

 なら、また、攻撃すれば良い?

 

 

 死ぬまで、殺すまで、斬れば良い。

 

 

 

「■■■■■■ッ!!」

 迫って来る黒い影を、寸前で避ける。最小限の動きで、例え黒い棘に身体を引っ掛けられて、肉を持って行かれても。

 

 最小限の動きで避ければ、直ぐに攻撃出来る。

 

 黒い影に剣を叩きつける。黒い液体を巻き上げる二本の剣。

 

 

 鋭い突起を避けて、太くて長い何かを避けて、巨体が迫れば回り込んで、その全ての所で剣を振る。

 

 

 痛み? 身体の限界?

 どうでも良い。

 

 今はただ、目の前の■■■を殺せればそれで良い。

 

 

「■■■■■■■■■■■ッ!!」

 距離を取って、大声を上げる何か。

 

 それは、意味が無いんだよ。

 

 

 この黒いのは、物理的な攻撃しかして来ない。

 どれだけ距離を取った所で、意味はない。

 

 また近付けば良い。

 

 

 それが死ぬまで、斬り続ければ良い。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■ッ!!」

 何かが、黒い何かに集まって行く。

 

 密集して、濃くなる黒色。

 ■■■は何かを大きく振り、その黒い何かを───放出する。

 

 

 それは……何?

 

 黒い靄が、近付いてくる。

 

 物理的な何かではない。

 水? 電気? 炎? とにかく、防がないといけない。避けないと、死ぬ。

 

 物事を良く理解する頭が、それは危険だと知らせていた。

 でも、身体は動かない。近付こうと走り出した足は、急には止まらない。

 

 

 手には盾が無い。あるのは二つの剣。

 

 

 

 それが分かった瞬間、私の視界に色が塗りたくられる。

 

 

 真っ赤な視界は、血を被っているからで。

 

 全身痛いのは無理な運動と付けられた傷。

 

 私も、モンスターもボロボロで。

 

 

 そのモンスターは黒い何かを口から放ちながら、その首を曲げて黒い何かをこちらへと向ける。

 それは、何? これは、何? 雷? 黒い、何?

 

 私───なんで?

 

 

 分からない分からない分からない。

 

 

 私───死ぬの?

 

 

 

「───っぁ」

 そんな……。

 

 

「ミズキぃ……っ!」

 やけにゆっくり聞こえる、ムツキの声。

 

 ごめんね……。やっぱり私は……何も───

 

 

 

「屈めミズキ……ッ!!」

 そして聞こえたのは、男の人の声。

 

 それでも動かない私の身体を、ムツキが押し倒す。

 

 

 視界に映るのは───ドスジャギィ。

 薄紫の、ジャギィのボス。

 

 黒いあのモンスターとは体格が全然違うドスジャギィだけど、走ってきた勢いに任せたタックルが巨体を揺らした。

 そのおかげで黒い何かは斜線がズレて、私の頭上を通り過ぎて行く。

 

 

 身体のあちこちが痛い。

 

 動かない。

 

 

 そんな私の前に、彼は立った。

 

 

「……良くやった。…………と、いうよりはやり過ぎだ」

「…………ア……ラン……?」

 動かない口を何とか開けて、彼の名前を呼ぶ。

 

 

 ……私、何か出来たのかな。

 何が出来たのかすら、分からない。

 

 

「ミズキ! ミズキ! 大丈夫かニャ……? みゃぅ……」

「ムツキ……ごめん、心配掛けたかな?」

「バカ! 心配なんて……そんな……そんな軽い気持ちじゃないニャ…………ミズキ……ミズキ……」

 そう言いながら、私の身体の傷を舐めてくれるムツキ。不思議と、傷から感じる痛みは無い。

 

「……あニャ?」

 そう思ってると、ムツキはそんな抜けた声を出した。どうしたのかな……?

 

 

「血は出てるのに……怪我はしてない…………どうなってるニャ???」

 何それ、どゆこと。

 

「……っぅ…………ぁ、あれ?」

 座り込んで、手とか足だとかを確認してみる。

 確かに……血はいっぱい付いているのに何処も怪我してない。どうなってるの……?

 

 

「お前……どんな戦───」

「グォォォラァァァアアアアッ!!!」

「───チッ」

 アランも不思議そうに私を見ていたけど、あのモンスターの咆哮を聞いて舌を鳴らしながら武器を構える。

 

「お前は村に戻っていろ、後は俺がやる!」

 そして、そう言ってモンスターの所に向かって行くアラン。

 

 

 そのモンスターを見れば、とっても不思議な光景が目に映ったの。

 

 ドスジャギィや、ジャギィ達が、モンスターに襲い掛かっている。

 体格は全然小さな彼等が……ボスのドスジャギィの命令でモンスターを囲み、ジャギィ達は隙を突いてそのモンスターに飛び付いて攻撃していた。

 

 

「も、モンスター同士で争ってるニャ?!」

「ま、待ってアラン! 私も───っ」

 立ち上がって、アランを追いかけようとするんだけど。

 

 声が聞こえて、思い出して、その足は動かなかった。

 

 

「───ミナ! ミミナ! お願いミャ……眼を開けてよ! ミミナ!!」

 悲痛な、モモナのそんな声。

 

 私が守れなかった、何も出来なかった、私が殺した───

 

 

「ミミ……ナ……?」

 嘘……だよね?

 

 そっちに向かって、倒れ込む。

 桃色の毛は真っ赤に染まって、閉じた瞼が痙攣しているミミナの姿。

 

 

 生きてる……?

 

 まだ、生きてるの……?

 

 

「ミミナ!」

 でも、どうしたら良いか分からない。

 

 ねぇ……助けてよ。助けてよ……誰か───

 

 

「………………耳元で……みみ、みみ……っ。うるさい……みゃ」

 ミミナ……っ!!

 

 眼を閉じたまま、苦しそうな表情で口を開けるミミナ。

 

 

「ミャぁぁぁ!! ミミナぁ! ミミナぁ!」

「……うっさい」

 酷い。

 

 

「み、ミミナ……大丈夫? 待っててね……直ぐに村に───」

「……ミズキは行って」

 行って……? どこに……?

 

「…………ミズキは……村のハンター、でしょ? アラン一人に……任せるの、みゃ?」

「で、でも……ミミナが……っ!」

 そんな怪我してるミミナを放ってなんて行ける訳がない。

 

「……後悔……するよ?」

 それなのに、ミミナはそんな事を言ったの。

 

 

「……きっと…………ミズキの力が必要な時が来るから。……その時、アランを助けられるのは……あなたしか、居ない……みゃ」

 何言ってるの……?

 

 

 私は何も出来ない。私なんかが居た所で誰かが傷付くだけ……。……私なんて───

 

「……アランの事、止めてあげなきゃ……止められるのは…………あなたしか、居ないみゃ。……きっと後悔する。あなたも、アランも…………私は、そう思う、みゃ」

 アランを……止める?

 

 

 アラン……そういえばまた、あの怖い顔してた。

 

 でも、あのモンスターは倒さないといけなくて。でも……アランは───

 

 

「私が……」

「……うん。ミズキは……良い子、だか、ら……出来るみゃ?」

「で、でも……ミミナが……」

「大丈夫……私には、っが───っい、る」

 咳をしながら、そう言うミミナ。

 

 

 きっと、ミミナは痩せ我慢してる。

 

 でも、私を送ってくれようとしてるんだよね。

 

 

「うん、ミミナには私が居るミャ!」

 そうだよね、モモナと二人は仲良しだもんね。

 

「……私には、下僕が居る」

「ちょっとぉ?! どういう事ミャ?!」

「……モモナ」

「ミャ……?」

「怪我……して、無いね? 良かっ……た…………みゃ」

 そう言うと、ミミナは力無くグッタリとしてしまう。

 

「大丈夫ニャ、直ぐ手当すれば大丈夫ニャ!」

 そんなミミナに駆け寄って、ムツキはそう言った。

 

 良かった……。本当に、良かった。

 

 

「ムツキ、ミミナの事よろしくね……。後、村の皆にも伝えて……」

「行くなって行っても……ミズキはどうせ行くニャ」

 ムツキにはバレバレだね。

 

 

「ボクが行くまで、絶対に無理しない事。……分かったニャ?」

「うん。モモナも、宜しくね」

 私はそう言って、立ち上がって振り返る。

 

 

 私のしなきゃいけない事。

 

 

「グォォォラァァァアアアアッ!!!」

 あのモンスターは、ジャギィ達の援護もあってアランが押している。

 

 モンスターと一緒に……戦ってるの?

 

 

 アランって本当に、凄いね。

 

 

 

 でも、それなのに、アランはあの怖い顔をしているの。

 

 

 きっと、彼は冷静じゃない。

 

 

 私が、するべき事───

 

 

 

 

「アラン!」

「ミズキ?! お前なん───」

「あのモンスターが、イビルジョーなの?」

 考えなかったけど、多分そうなんだよね?

 

 

 あのモンスターが、森の異変の原因。

 

 あのモンスターを、どうにかしなきゃいけない。

 

 

「……そうだ。危ないからお前は下がってろ」

「確かに……私は要らないかもしれない」

「……ミズキ?」

 でも、こんな所で戦ったらダメだ。

 

 

「ドスジャギィ達は、アランが連れてきたの?」

「そ、それは……」

「そうなんだよね?」

「……あぁ」

 やっぱ、アランは凄い。

 

 

「バリケードは何処か壊されてたの……?」

「いや、奴は地面を進んで此処に来た」

「アランは門から……?」

「あぁ……俺が開けて、ドスジャギィ達を通した」

 門を開けるのは手動だけど、後は勝手に閉まる仕組みになっている。

 なら、私のするべき事は───

 

「アラン。ここは村の近くだから……その、ここで戦って欲しくない。私の我が儘だって分かってる……けど」

「……っ」

 私がそう言うと、アランは思い出したように辛そうな顔をしたの。

 本当に、嫌な事を思い出すような顔をした。

 

 

「…………悪かった。……あいつを、殺す事に必死で……」

「あ、アランは悪くないよ!」

 だから、村の皆の事を考えるなら戦うにしてもあのモンスターを……イビルジョーをせめてバリケードの外に追い出したい。

 

 

「それで、私はその近くのアプトノスを避難させるから……アランはイビルジョーを誘導出来───」

「出来ない」

「む、無理なお願いだって分かってる。でも……お願い…………村の人達を危険に合わせたく───」

「俺一人じゃ、無理だ」

 一人じゃ……?

 

「戦闘に入って興奮状態のアイツを門の外に追い出すのは難しい。だから、アイツを誘導する」

「ど、どうやって……?」

 考えが……あるのかな?

 

「……アプトノスを一匹、囮にする。イビルジョーは常に何かを捕食しなければ自らの活動を維持出来ない、そんな化け物だからな」

「そ、それじゃアプトノスが可哀想だよ!」

 反射的に、そう言ってしまう。

 

 

 それが私の甘さだって、いけない事だって分かってるのに。

 

 

「なら、お前が守れ」

 そう言うアランは、あのペンダントを私の首に掛けて私の頭を撫でた。

 私が……?

 

「ぇ……ぇと、ぇ?」

「アプトノスを門の所まで連れて来たら、門を開けて欲しい。周りのアプトノスは遠くに逃せ……出来るな?」

 で、出来るなって。いや、無理だよ!?

 

 

 私はそんな事───

 

 

「俺はお前を信じる。ダイミョウサザミと心を交わしたお前を、優しいお前を。だから、お前は俺を信じろ。アプトノスもお前も、村の皆も……俺が絶対に誰も死なせない」

 アラン……。

 

「私……何も出来ない役立たずでさ。アランは甘いって言うと思う。出来ない事をしようとして、皆に迷惑を掛けてるのかもしれない……でも───」

 私、村の為に何かしたいんだ。

 

 

 お荷物で、役立たずで、甘くて、皆に迷惑しか掛けられない私だけど。

 そんな私でも役に立てるなら───

 

 

「───やらせて欲しい」

 ───私に出来る事を。

 

 

 To be continued……




やっと、文体に登場したイビルジョー。
いきなりクライマックスってどうなんだよ……。


さてさて、実は先日ついにこの作品にも評価に色が着きまして。
評価を下さった方々ありがとうございます。どんな評価でも、きちんと受け止めて今後も精進していきたいと思います!

第一章もクライマックスです。最後まで見届けて頂くと幸いですm(_ _)m
あ、ちなみにこの作品続きます。結構長くなる予定です……。


また次回もお会い出来ると嬉しいです!
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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捕食者とこの島の王

「ウォォゥ……」

 足に力を入れては、身体を支えきれなくて地面に崩れ落ちる一匹のアプトノス。

 

 

「私の力になろうとしてくれてるんだよね……?」

 私は彼女の頭を撫でながら、そう言う。

 

 さっきイビルジョーに攻撃された農場のアプトノス、ジェニーとはずっと友達だったから。

 あなたは私の心配をしてくれるんだよね。でもね、大丈夫。

 

 

「あなたは後でムツキが手当てしてくれるから、そこで待っててね。私は大丈夫……他のアプトノスに協力して貰うから」

 アランはイビルジョーをバリケードの外に出す作戦を頼んでから、ジャギィ達と戦っているイビルジョーの下に行ってしまった。

 

 数ではジャギィ達が多いし、アランも居てきっとイビルジョーは倒せると思う。

 でも、イビルジョーが村の方まで逃げたり暴れたりしたら村が無くなってしまう。

 

 

 だから、私はバリケードの門に走った。

 

 手動式の門は、ロープを引っ張って開ける物。

 辺りには運が良いのか悪いのか、アプトノスの姿が無い。

 

 

「一匹……ここに連れて来ないといけないんだよね」

 ここ一週間、野生のアプトノスをこのバリケードの中に入れた時は臆病なアプトノスを追いやる感じで門を潜らせたんだよね。

 その時は村の人に門を開けて貰ったから私は剣を持ってアプトノスを追い掛けるだけだった。

 

 ただ、今回は違う。

 アプトノスをここに連れてきて、門を私が開けて、アプトノスをそこに留めておかないといけない。

 

 

 アプトノスに、私の言葉は通じない。

 

 捕食者を見たらアプトノスは何処かに逃げてしまうと思う。

 辺りにアプトノスが居ないのも、ここから目に見える所にイビルジョーが居るからだろうし……。

 

 

 

「どうしたら……」

 

 やらせて欲しい。そんな事を私は言ったのに、全く良い案なんてなかった。

 アランは出来るなんて言っていたけど、私はアプトノスの生態なんてそんなに知らないし、それを生かせる頭脳もない。

 

 

「どうしたら良いか……分からないよ」

 

 

 もしも、気の知れたジェニーだったらいう事を聞いてくれたかも知れないけど。

 

 人と竜は相容れない。

 アプトノスだって、モンスター。

 

 

 私達は分かり合えない。

 

 

 

「───そんな事、ない」

 

 

 ロアルドロスは私達を無害だと認めてくれた。

 

 

 ジャギィ達は私達にボスを委ねてくれた。

 

 

 リオレウスは私達の行動を学んでくれた。

 

 

 

 ダイミョウサザミさんと私は───友達になれた。

 

 

 

 私は、気が付いたら走っていた。

 理屈は分からない。どうしたらどうなるとか、私は分からない。

 

 私は気持ちを伝える事しか出来ない。

 

 だから、それをする。

 

 

 

「アプトノスさん!」

 少し走って、木々の陰で座っているアプトノスを見付けて話し掛ける。

 

 この言葉が通じてるかなんて分からない。

 それでも、この気持ちを伝えないといけないと思って息を吐いた。

 

 

「お願い、力を貸して欲しいの。あのイビルジョーをあそこの門から外に出したい」

「ウォォゥ」

 私の言葉に、声に、音には反応して首を上げるアプトノス。

 

 この子には、メリットの無い話だと思う。

 力を貸したって、この子が危険な目に会うだけ。

 

 

「あなたをここに無理矢理連れて来たのに……本当に勝手でごめんなさい」

 アランに掛けてもらったペンダントを握りながら、私は話し掛ける。

 

「私の勝手だって、私の我が儘だって……分かってる。でも、力を貸して欲しいの…………お願い」

「ウォォゥ」

 私からそっぽを向けて、地面の草を食べ始めるアプトノス。

 

 

 

 そう……だよね。

 

 人と竜は───

 

 

「ウォォゥ!」

「───ふぇ?!」

 かと、思ったら。アプトノスに首根っこの防具を掴まれて持ち上げられた。

 襲われてるのかと思ったけど、私はそのままアプトノスの背中に乗せられる。

 

 

 ど、どういう事……?

 

 

「あ、アプトノスさん……?」

 私……モンスターに乗ってる?!

 

「ウォォゥ……っ」

「協力して……くれるの? だって、あなたには何───ぅぁっ」

 私が言おうとする前にアプトノスは走り出す。

 

 辿り着いた場所は、バリケードの門。

 

 

「アプトノス……さん?」

「ウォォゥ」

 私が降りても、アプトノスさんはその場に立って動かない。

 

 真っ直ぐに私を映すその瞳は、早くしろとでも言っているよう。

 

 

「手伝って…………くれるの?」

「ウォォゥ」

 こんな……事って。

 

 こんな…………素敵な事って。

 

 

「……っ」

 感心してる、場合じゃないよね。

 本当は、もっともっとお話したい。仲良くなりたい。

 

「あなたは私が守るから……力を貸してね」

 そうとだけ言って、私は門を開ける為のロープを引っ張る。

 

 

 よいしょっと、ふいしょっと…………あれ?

 

 

「んんんんん……っ!」

 ろ、ロープが動かない……。

 

 重い。私、力無さ過ぎ……っ?!

 

 

「私……こんな事すら出来ないなんて……」

 か、考えて。バカだって分かってるけどこんな時くらい考えて……っ!

 

「ウォォゥ」

「アプトノスさ───わ……っ!」

 鳴き声に振り向けば、アプトノスさんがロープを噛んでいてそのまま引っ張ってくれる。

 そのままロープを固定木に繋げば、その間は門は開いたまま。

 

 

 これで後は、イビルジョーをこの門の外に追い出すだけ。

 その為にアプトノスさんは門の外側にいて貰う。ここから先はあなたの世界。

 

 私を置いて逃げたって、誰も文句は言わない。

 

 

 

「ウォォゥ」

 私の身体に、頭を擦り付けてくるアプトノスさん。

 私のしようとしてる事……分かってるのかな?

 

 なんで、いう事を聞いてくれるのかな……。

 

 

 

 とっても不思議な体験。とっても不思議な感覚。

 この子は野生のアプトノス。それなのに、まるで私の心が伝わったかのよう。

 

 

「後は……アランがイビルジョーを近くにおびき寄せるから。私達はイビルジョーを引き連れて外に出なきゃね」

「ウォォゥ」

 力を貸して下さい。

 

 

「あなたは、私が守るから」

 そう言ってから、私はアランに準備が出来たら使うように言われた打ち上げタル爆弾を使用した。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 合図の爆発。

 モンスター達の声にかき消されそうな音だが、俺はそれを聞き逃さなかった。

 

 

 ミズキ……本当にやり遂げるとはな。

 

 

 後は、俺の仕事だ。

 

 

 

「ジャギィは……」

 後は、どうやってイビルジョーを門に向かわせてアプトノスを狙わせるか。

 

 ジャギィ達に囲まれたイビルジョーは、小柄で俊敏なジャギィ達に狙いが定まらずに押されている。

 だが、それもコイツがあのままの状態でいる間だけだ。

 

 

 アイツが本気を出せば、ジャギィ達が幾ら束になって掛かろうが形成はひっくり返る。

 そうなれば俺が何をしようがアイツの気紛れで村やバリケード内の生き物を巻き込んで暴れるだろう。

 

 例え倒せたとしても、俺にそれを止めるまでの力は無い。

 

 

 

 だから、今やるしかない。

 今押しているこの時に、奴をバリケードから追い出す。

 

 その為には───

 

 

「お前の群れの力を貸して貰う……」

 ボウガンを構えて、俺は門の方向に走る。

 

 イビルジョーは纏わり付くジャギィから距離を置こうと足を動かしているが、四方から囲まれて動けない状況。

 なら、その包囲網に穴を開ければイビルジョーは自然とその穴を突破してくる筈だ。

 

 

 門の方向を背に、イビルジョーの側面に通常弾を打ち込む。

 かなり遠くから何発も、打ち切ってはリロードしてその横腹に弾丸を叩き込んだ。

 

「クォゥッ」

「ウォゥッ」

「グゥッ」

「ウォォオオゥッ!」

 ジャギィにとっては、仲間ではない俺からの攻撃は不安要素でしかないだろう。

 誤射だろうが背後から撃たれたらたまらないと、イビルジョーを囲う包囲網に穴が空いた。

 

 

 ドスジャギィからすれば面白くない話かも知れないが、悪いがここでは戦っていられないんだ。

 

 

「グォォォラァァァアアアアッ!!!」

 隙を見付けたイビルジョーは、俺が作った穴を抜けて向かってくる。

 

「あぁ……そうだ。こっちに来い!」

 それを確認してから、俺は武器をしまって走った。

 

 

 俺に狙いを定めたのか、追いかけてくるイビルジョー。

 

 それを追うジャギィ達。

 

 

 全部引き連れて、ミズキが待つ門に走る。

 

 直ぐに彼女は視界に入った。この距離ならイビルジョーに抜かれる事もないだろう。

 門は開閉済み、ミズキは良くやった。

 

 

「グォォォラァァァアアアアッ!!!」

 美味そうなアプトノスを見付けたからか。イビルジョーは俺から視線を門の方へとズラす。

 

 コイツを門の外へ出してしまえば、後はミズキには逃げて貰えば良い。

 だから、此処だけは頑張ってくれ。

 

 

 俺が必ず守───

 

 

「───な……っ!」

 俺が武器に手を伸ばした、その瞬間だった。

 

「グォォォラァァァアアアアッ!!!」

 イビルジョーは急に加速し、俺の真横に並んだかと思えば次の瞬間には抜き去って行く。

 その巨体でそこまで走れるのかコイツは……っ!

 

 

「させるか……っ!!」

 約束したからな。アプトノスもミズキも、俺が守ると。

 

 

「……っ。き、来たぁ?! あ、アプトノスさんは私が守るから……っ!!」

「ウォォゥッ」

「グォァァァッ!!」

 イビルジョーは門を抜ける。急停止し、目の前に立っていたアプトノスに狙いを定めたのだろう。

 

 

 その大顎が開き、振り下ろすのはイビルジョーにとって簡単な話だ。

 目の前の生き物を喰う。その為に生きている、生きる為にそうするだけ。

 

 

「……っ。アプトノスさん……っ!」

 震えながらアプトノスの前に立つ彼女を見ては、似ても似つかない誰かが脳裏に浮かび上がった。

 

 その小さな身体に襲いかかろうとするイビルジョー。

 

 

 このままでは間に合わない。

 

 

「グォゥッ!」

「悪いが力を借りるぞ、ドスジャギィ!」

 人間の俺より早く走れるドスジャギィが、俺の真横を通り過ぎる。

 その瞬間、俺はドスジャギィの首に腕を回してその身体にしがみ付いた。

 

 加速する身体。振り落とされないように、速度を上げるドスジャギィの背中にしっかりと肩を掛ける。

 人の足では到底ありえない速度で、俺達はイビルジョーに近付いていた。

 

 

 通常弾を放ちながら、片手剣を抜く。

 

 イビルジョーまで五メートル。

 

 

 その大顎が開き、振り下ろされた。

 

 

「グォァァァッ!」

「……っ」

「はぁぁぁぁ……っ!!」

 間に合わせる。ドスジャギィの腹を踏み場にして跳躍し、背面にボウガンを射った反動で加速。

 ミズキとの距離一メートルに迫るソイツの頭に、跳びながら片手剣を叩き付けた。

 

 

「グルォォォア?!」

 勢いの乗った剣撃、そしてドスジャギィのタックルでその巨体は遂に横に倒れる。

 だが、それだけでイビルジョーは朽ちはしないだろう。

 

 それでも、奴をバリケードの外に出す事は出来た。

 

 

「あ、アラン……っ。怖かった…………あ、ありがとね!」

「ウモォォゥ」

「何とか……なったか。ドスジャギィのおかげだな」

「ドスジャギィの?」

 ドスジャギィが居なかったら……。……考えるのは野暮か。

 

 

「ミズキ、良くやった。後は門を閉めて中で待ってろ」

 ジャギィ達が出て来たのを確認してから、俺はミズキにそう言う。

 

 その間にもイビルジョーは体勢を立ち直し、しかし周りを囲むジャギィ達には見向きもしていなかった。

 その眼光は真っ直ぐと……ドスジャギィと俺を睨み付けているようにも見える。

 

 

 お前は何を見ている。

 

 

 門が閉まる音がした。

 

 

 これなら、お前が本気を出そうと何も考えずに戦うだけだ。

 

 

 

「…………来い、殺してや───」

「ねぇ、アラン」

 は?

 

 居る筈のない。そんな彼女の声が聞こえた。

 

 

「私はどうしたら良いかな?」

 短い金髪。蒼色の純粋な瞳は俺にそう問いかけてくる。

 

 アオアシラの素材を使った防具はボロボロで、それでもダイミョウサザミの素材を使った武器を構えて、彼女は俺の背後に立っていた。

 

 

「門の中で待っていろと言っただろ……っ!!」

「……っ、ぁ、ぇと…………で、でも!! 私は……この村のハンターだし。…………ちゃんとアプトノスさんはバリケードの中に避難させたよ?」

 お前が避難しろ……。

 

 

「まぁ、アレニャ。ミズキは言い出したら聞かないニャ……」

「お前、こいつの事が大切なんだろ……? なら早く連れ帰れ」

 何故か隣にムツキまで居るから、俺はそう言って念を押す。

 お前だってミズキが危険な目に会うのは嫌だろ。

 

 

「出来たらそうしてるニャ……。ボクだって本当はあんな化け物の近くに居るなんてごめんニャ……」

「だったら……っ!」

「でも、ミズキの守りたい物はボクが守りたい物でもあるニャ。それにこんなバカな妹、ボクが居てあげなきゃ……ニャ?」

 そう言うネコは、ポーチから砥石を二つ取り出して俺とミズキに渡してからこう続ける。

 

 

「剣磨けニャ。サポートなら、ボクにお任せ」

「絶対に───」

「「?」」

 こいつら……本当に村の事が大切なんだな。いや、俺や島の生き物の事も大切なんだろう。

 

 

 本当に、甘い奴だ。

 

 

「───絶対に死ぬな」

「うん!」

「うニャ!」

 

 

 

「グォォォオオオラァァァァォアアアアアアッ!!!」

 これまでで、一番大きな咆哮を上げるイビルジョー。

 

 それと同時に、奴の姿は変貌する。

 興奮状態になり膨れ上がった血管が浮き出て、全身の筋肉が赤く膨れ上がった。

 ミズキやジャギィ達が着けた傷、さらに過去に負った傷までもがその影響で開き、体液を滲ませる。

 

 

 

「……っ、何?! 怒ってるの……?」

「……そうだな」

 懸念していた、バリケードの中で奴がこの状態になる事だけは避ける事が出来た。

 

 ここからが奴の本気。こうなった奴を止めるのは容易ではない。

 その証拠に周りを囲むジャギィ達を無視して、イビルジョーはその大顎を大きく持ち上げる。

 

 

 狙いは数メートル離れた俺かドスジャギィか。

 

 ならば───

 

 

「───ブレスか……っ!」

「わっ?!」

「ニャ?!」

「グルォゥッ! ウォゥッウォゥッ!!」

 二人を抱えて、後ろに跳ぶ。何かを察知したのかドスジャギィもイビルジョーから距離を取って、群れに知らせるように鳴いた。

 

 だが……それは遅い。

 

 

 次の瞬間、イビルジョーは何もない空間へとその大顎を下す。それと同時に口外へ放たれる赤黒いエネルギー。

 それは火でも、雷でもない。

 

 イビルジョーは自らの首を振り、赤黒い煙のような何かで前方を薙ぎ払う。

 

 

 数匹のジャギィはドスジャギィの命令で射線から離れていたようだが、二匹がそのエネルギーに巻き込まれる姿が眼に映った。

 

 赤黒いソレに振れた瞬間、身体の中から弾けるように身体を四散させるジャギィ二匹。

 それを見てミズキは身体を強張らせた。あの時、間に合わなかったら彼女も同じ目にあっていたかもしれないからだろう。

 

 

「な、なんなんニャあれは!」

「龍属性エネルギーのブレスだ」

「りゅう……属性?」

「他の属性を喰う程のエネルギーで、当たると身体中の力を喰われてあのジャギィみたいになる」

 ジャギィ自体龍属性には強い耐性があるが、イビルジョーのブレスにはその耐性以上の力があって耐え切れなくなった身体が四散したんだろう。

 

 

「あ、アラン……助けてくれてありがとう」

「絶対にアレには当たるな」

 念を押してから、立ち上がる。

 

 ボウガンに徹甲榴弾を装填。片手剣に会心の刃薬を塗り、ミズキにも刃薬を渡した。

 

 

「ウオァッゥ! ウオァッゥ! グルォォゥッ!!」

 仲間を葬られた怒りからか。地面を蹴り、ドスジャギィは息を荒げる。

 こちらも準備は万端。後はイビルジョーがどう動くかだ。

 

 

 ……焦るな。…………だが、確実に殺せ。

 

 

「グルォォァァァアアア!!!」

 大技に期待した結果が出なかったからか、それとも関係なしにただの怒りからか。

 大きな咆哮は空気を揺らして、木々をしならせる。

 

 無造作に振られた尻尾が地面を抉った。

 それが合図だったかのように、ドスジャギィの鳴き声と共にジャギィ達は再びイビルジョーを囲い始める。

 

 

「ウォィッ!」

「ウォゥッ!」

 周りから囲み、数で攻めるのがジャギィ達の戦い方だ。その牙で、その爪で、飛び掛かってイビルジョーに攻撃を───

 

「グラァァッ!」

 ───攻撃を仕掛けようとした飛び掛かるジャギィを、イビルジョーは一匹その大顎で嚙み砕く。

 つい先程まではジャギィの俊敏さに反応出来ていなかったイビルジョーだが、ここに来て反応速度も上がったらしい。

 

 膨れ上がった筋肉が、あの巨体の俊敏さを支えているのか。

 

 

「ギャィァッ?!」

「ギャィ?!」

 一匹、二匹と、イビルジョーは自らの周りを囲むジャギィ達を嚙み砕き飲み込んでいく。

 お前達はそうやって、いつもいつも喰らう。それしか知らないかのように、化け物が……っ!!

 

 

「ギィァッ?!」

「……っ」

 またもその大顎に噛み付かれたジャギィの頭に、俺は徹甲榴弾を打ち込んだ。

 絶命し、これ以上苦しむ事はないジャギィの脳天に刺さった弾丸はその身体を飲み込もうとするイビルジョーの口内で炸裂する。

 

 

「グラァァォォァッ?!」

「ウオァッゥ!!」

 怯んだ隙を見て、速度を活かしたタックルをイビルジョーに仕掛けるドスジャギィ。

 それに続くジャギィ達がイビルジョーに飛び掛かる。

 

「す、凄い……」

「本当にモンスター同士で戦ってるニャ。しかも押してる? 勝てるニャ?」

 そうかもな。

 

 

 見た目だけは、押している様に見える。

 

 

「ミズキ、まずはあいつの動きを掴め」

 俺はそう言ってから、ボウガンに弾をリロードして背負い直す。

 

 ジャギィ達は畳み掛けるなら今だと思っているのだろう。だから、ドスジャギィも前に出た。

 だが、このままではジャギィ達はおろかドスジャギィも殺られる。

 

 

 確かに、ドスジャギィ達との共闘で戦況はこちらに理があると言って間違いはない。

 だが、だからこそ形成が一気に傾くのだけは避けなければならない。

 

 

「とりあえずミズキは木陰で待機だ。ムツキも、状況を見極めろ良いな?」

「う、うん!」

「ガッテンニャ!」

 二人に言い聞かせて、俺は走る。

 

 

「ウォゥッ」

「ウゥッ」

「クォゥッ」

 

「グラァァッ!」

 一斉攻撃に、傷を増やしながら立ち止まるイビルジョー。

 

 これまでより暴れ回らないその姿は、まるで弱っているかのようにも見える。だが、違うな。

 

 

「ウオァッゥ!!」

 ドスジャギィのタックル。厳しい環境で鍛え上げやられたジャギィ達のボスの力が、今イビルジョーに叩き付けられる寸前。

 イビルジョーは突然大顎を上げて、振り下ろす。狙いはドスジャギィ。

 

 やはり、大物を釣り上げるためにジャギィ達を無視したか。

 

 

 アイツの子供というだけはあるのかもしれないな。

 

 

 ───だが、そうはさせない。

 

 

「ウオァ?!」

「はぁぁぁぁっ!!」

 ドスジャギィとイビルジョーの間に入り、片手剣を抜く。

 

 勿論、無策でそんな事をすればドスジャギィの代わりに俺がこいつの餌になるだけだ。

 だが悪いな、俺はそこまで甘くない。

 

 

 突進しようとしていたドスジャギィの横腹を踏み台にして、跳び上がる。

 振り下ろされる大顎を通り抜けては、イビルジョーの後頭部に剣撃を叩き付けた。

 

「グラァァッ!!」

 奴の興味が俺に映る。そして俺は、今飛び上がって空中。

 

 

 格好の餌だとでも思ったのか、大顎を開けて俺に向けるイビルジョー。

 そうも容易く、弱い所を俺に向けるとはな。

 

 

 なぁ、お前はその顎で何を喰らってきた。

 

 人を殺した事はあるか? そうでなくても、家族を殺して引き離した事もあるんじゃないか?

 

 

 空中で銃口をイビルジョーの口内に向ける。

 

 

「───死ね」

 言いながら、トリガーを引いた。

 

 弾ける弾丸は迷いなくイビルジョーの口内に吸い込まれて行く。

 

 徹甲榴弾の発射の反動で、後方にズレる俺の身体。

 その身体を追いかけようと口を開いたイビルジョーの口内で、弾丸は炸裂した。

 

 

「グォォラァァッ?!」

 喉を爆破され、悲痛の声を上げるイビルジョー。その巨体が大きく揺れて、しまいには横に倒れた。

 

 

「す、凄っ」

「飛んだニャ……あいつ本当に人間かニャ」

 失礼だな……。

 

 

「グルォゥ! ウォゥッウォゥッウォォォゥ!」

 身体を崩したイビルジョーに、統率の取れたジャギィ達の攻撃が降り掛かる。

 数で勝るジャギィ達に囲まれ、その鋭い爪で、牙で、ジャギィ達はイビルジョーの肉を割いた。

 

 

「…………ふっ」

 思わず笑みが溢れた。

 

 なぁ、どんな気分だ?

 

 

「グラァァ……ッ! ガァァァァッ!!」

 肉を裂かれる気分は。命を喰われる気分は。

 

 

 お前が他の生き物にして来た事だ。

 苦しいか? 辛いか?

 

 

 

 お前達はそういう生き物だ。例え同族だろうと、相手に恨みがなかろうと、お前達は無差別に命を喰らうんだ。

 

 これは、その罰だ。

 

 

「…………くっくっ」

 あぁ……清々しいな。───早く、アイツも殺したい。

 

「……あ、アラン……?」

「……ニャ」

 

 

「俺が殺す……」

 片手剣を抜いて、倒れもがくしないイビルジョーに近付いていく。

 このままジャギィ達に少しずつ殺されるのも悪くはない。

 

 だけどな、やっぱり俺の手でお前は殺さないとな。

 

 

「グォォラァァァァ……ッッ」

 全身をジャギィ達に裂かれるイビルジョー。

 もう、動けないだろう。逃げられないだろう。

 

 

 お前の親はな、そんな状態の奴も餌としか見てなかったんだ。

 

 女の子も、子供も年老いも、怪我で動けなくなった奴だって、餌としか見てなかったんだよ。

 

 

「───死ね」

 まずはお前からだ。

 

 

「───って!」

 背後から何かを言いながら、手を回して俺を止めたのはミズキだった。

 

「待って!」

「……なんだ。邪魔するな……っ!」

「落ち着いて! まだあの子、諦めてない!」

 ……は?

 

 

 なんで、分かったような事を───

 

 

「グォォォオオオラァァァァォアアアアアアッ!!!」

「───な?!」

 俺が振り返ってミズキを見ていると、背後から辺りのジャギィ達を薙ぎ倒す音と共に咆哮が響く。

 

 

 立ち上がったイビルジョーは手頃なところに倒れていたジャギィを口の中へ入れると、焦点の合わない瞳で辺りを見渡した。

 開き切った古傷や口、身体の穴という穴から龍属性エネルギーが漏れ、その姿は悍ましくさらに変貌している。

 

 眼は無機質に赤く光り、何を見ているか分からない。

 まるで、生き物では無い何かのようにそれは立ち上がっていた。

 

 

 

 イビルジョーは、何らかの理由で食欲の箍が外れて飢餓が暴走状態になる事があると聞いた事がある。

 ただそれは長く生き過ぎたりしたイビルジョーが陥る状態で、コイツに関してはカルラの言っていた事が正しければ七年しか生きていない。

 

 

 コイツがその状態になるなんて事が……あるのか?

 

 

「グォォラァァッ!!」

「ウォゥッ?!」

 その太い尻尾で、手近に居たドスジャギィを地面に叩き付けるイビルジョー。

 その足でドスジャギィを押さえ込み、大顎を開く。

 

 

「ウォゥッ!」

「グォゥッ!」

 しかし、ボスを殺らせまいと飛び掛かるジャギィ達を───イビルジョーは開けた口で嚙み砕く。

 

「ヴォ゛ゥ゛ッ!!」

「グルォォァァ……」

 化け物め……。

 

 

 ドスジャギィを失うのは戦力的に厳しい。

 

 だが、今あいつを助けようとするのは自殺行為だ。ジャギィと同じ眼を見るだけだ。

 

 

 逆にドスジャギィを捕食するイビルジョーに隙が生まれる。

 なぜあのイビルジョーが暴走状態に陥ったかは分からないが、これはチャンスだ。

 

 

 だから、ドスジャギィは見捨てろ。

 

 

 ドスジャギィはモンスターだ。仲間じゃない。

 俺達は共闘していただけだ。

 

 

 見捨てろ。

 

 

「グルォォァァ……ッ」

 

 

 見捨てろ……。

 

 

「グォ゛ゥ゛……ッ!」

 

 

 見捨てろ……ッ!

 

 

 

「ドスジャギィさん……ッ!」

 少女は走った。

 

「ニャ?! 辞めるニャ! ミズキぃ!!」

 

 

 

 忘れていた。

 

 

 彼女は、本当に優しい。

 

 

 自分を犠牲に出来るくらい、優しいって事を。

 

 

 本当に、ヨゾラに似ているって事を。

 

 

 

「グルォ……ククク、グルォォァァ……ッ!!」

 首を振り上げるイビルジョー。

 

 無策で向かっていくミズキに、ブレスを吐くのは簡単な事だ。

 

 

 

 嫌な風が吹く。

 

 

 ムツキの悲鳴は、声にならない。

 

 

 俺の手は、届かない。

 

 

 

 視界が黒くなる───その瞬間。

 

 

 広がった黒は、爆煙。

 

「ヴォァァアアアッ!!」

 圧倒的な熱が、炎が、辺りを覆い尽くした。

 

 

 

To be continued……




さてさて、本当に長くなってしまって申し訳ありません……。
まさかの三部構成。うーん、長いかな?

ここに来てアランの本領発揮です。エリアルガンナーって格好良いよね←
戦闘シーンは苦手なので、上手く伝えられているかは別として……。


今回の言い訳
龍属性って良く分からないですけど、自分なりの解釈がこれでした。
龍やられ状態になると武器の属性が封印されたりするらしいです。
他の属性を喰う、そんなイメージがありました。とりあえず強力なエネルギー、みたいな。


さてさて長く書いてきましたが、このお話も終盤ですね。
自分でも悩みながら、これで良いのか?と、書いています。読者様の期待に応えられていれば……なぁ。

また次回お会いしましょう。(もしかしたら閑話で番外編を投稿するかもしれません)。


厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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狩人と捕食者の■■■

 助けようって、そう思った。

 

 

 身体は勝手に動く。アランが言うように、私は甘ちゃんだから。

 助けてくれたドスジャギィさんを、私は助けたい。

 

 

「グルォ……ククク、グルォォァァ……ッ!!」

 首を振り上げるイビルジョー。

 あの動き、どこかで見た事がある気がする。

 

 背後から聞こえるのは、ムツキの声。

 悲鳴染みたその声を聞いて、やっと私は自分の状態を理解したの。

 

 

 ───誘われた?

 

 

 さっきの黒い何かをまた吐くつもりだ。

 また、さっきと同じ状態。───避けられない。助けもない。

 

 

 

 思わず目を伏せた。

 やって来るだろう、未知の衝撃に構えたんだと思う。

 

 そのせいで閉ざされた視界の代わりに脳裏に映るのは、あの黒い煙に当たって四散するジャギィの姿。

 い、嫌だ……助け───

 

 

「ヴォァァアアアッ!!」

 突然聞こえた鳴き声は、イビルジョーの物でも───ましてやドスジャギィの物でもなかった。

 

 

 次の瞬間、開いた眼に映ったのは劫火。

 イビルジョーの頭に降り注ぐ火球(火のブレス)

 

 

「グラァァッ?!」

「ヴォァァァゥッ!!」

 大気を扇ぐ大きな一対の翼。

 

 自らを主張する赤と黒の甲殻は、その威厳を辺りに見せびらかせるように自身の領域を滑空した。

 鋭い牙、翼爪。脚には毒を有する爪を持って、何かに食い千切られた形の尻尾。

 

 

 飛竜。

 世界の頂点に立つ生物達。

 

 空の───いや、この島の王の姿がそこにはあった。

 

 

「ヴォァァァゥッ!!」

「グラァァァァアアアア!!!」

 

 

「……リオレウス」

 空から舞い降りて、地上に君臨する姿はまるで───

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 突如地に降り立つ火竜、リオレウス。

 

 

 自らの縄張りを侵された事への怒りか、リオレイアを喰われた事への復讐か。そんな所だろう。

 

 今この島で、一番頼もしい存在がイビルジョーに怒りの矛先を向けていた。

 

 

「……リオレウス」

「ミズキ!」

「痛ぁ?!」

 飛び出て行ったミズキに寄って、頭を剣の柄で殴っておく。

 

「死にたいのか……」

「……っ。ご、ごめんなさい」

 分かってるのかこいつは……。

 

 

 

「グラァァァァアアアア!!!」

 突然の火竜の乱入に、イビルジョーの興味はリオレウスに移ったらしい。

 

 自らと同等の体格を持つ火竜を睨み付け、口からは腐食性の涎を垂らす。

 強大な力を持つ飛竜でさえ、奴には捕食の対象でしかないらしい。

 

 

 

「グラァァァァッ!!」

「ヴォァァァゥ!」

 見境なくリオレウスに食らいつこうと大顎を振り下ろすイビルジョー。

 だがリオレウスは翼を羽ばたかせ、後方にそれを交わす。

 

 同時に放たれた火球がイビルジョーの背中を焼いた。

 

 

「グラァァァァアアアア!!!」

 もう、お前に勝ち目はないぞ。

 

 

 さっきまではドスジャギィとその群れ、それに俺だけがお前の敵だった。

 戦力としては……不安が残る。

 

 短期決戦を仕掛けるしか、俺に勝ち目はなかった。

 その中で少しでも隙が生まれればお前が俺を殺す事も容易かったかもしれない。

 

 

 だが、リオレウスの介入で俺が無理をする必要もなくなった。

 ここからはどれだけ慎重に行こうが、お前には回復させる暇もない。

 

 

 

 リオレウスがどういうつもりかは知らないが、ここにはお前の味方はいないんだよ。

 

 

 

「グルォゥッ! グォゥッグォゥッ!」

 体勢を立ち直したドスジャギィが群れに向かって吠える。

 ボスの鳴き声でバラバラだったジャギィ達にまた統率力が復活した。

 

「ウォゥッ!」

「ルォゥッ!」

 イビルジョーを囲むジャギィ達。

 リオレウスに標的を移していたイビルジョーは簡単にジャギィ達に包囲される。

 

 

 目の前にはリオレウス。周りにはジャギィ達。

 一斉に飛び掛かるジャギィ達から逃げる事も出来ずに、リオレウスは動きの止まったそんなイビルジョーにブレスを構える。

 

 

「ヴォァァァゥッ!!」

「ガァ゛ァ゛!!」

 お前の負けだ。

 

 

 

「アラン……。……私、おかしいのかな」

 イビルジョーが他のモンスターに襲われる様を眺めていると、唐突にミズキがそんな事を口にし出す。

 こんな時になんだ……?

 

 

「イビルジョーが……可哀想だって思っちゃうの」

「……お前はおかしい」

 こいつ……。

 

「で、でも───」

「ミズキは優し過ぎニャ。もう忘れたニャ? あいつのせいでミミナが大怪我したニャ」

 ムツキのそんな言葉を聞いて、俯くミズキ。

 

 

 だが、何か希望を見付けたような表情で俺の眼を彼女は見た。

 

 

「アランなら……あの子を助けられる?」

 お前は…………何を言っているんだ。

 

 

 

 ミズキは優しい。本当に優しい。

 それは分かっている。

 

 ただ、あの化け物を助ける。そんな言葉に俺はイラつきを隠せなかった。

 

 

 アイツは───コイツは生かして良い生き物じゃない。

 

 

「ふざけるな……」

「アラン…………ご、ごめんなさい」

 俯くミズキの手を取って、木陰にまで連れて行く。

 

 

 お前は本当に頑張った。

 村に近い場所まで現れたイビルジョーを足止めして、イビルジョーの誘導にまで力を尽くした。

 それだけでも、お前はそこら辺のハンターより充分村の為に尽くした。だから、もう休め。

 

 

「お前は隠れていろ。……後は俺がやる。ムツキ、このバカをちゃんと見張ってろ」

「言われなくてもそのつもりニャ。ガッテンニャ」

 そう言いながらミズキの防具を掴むムツキ。その手を離すなよ。

 

「ムツキ……アラン…………」

 不満そうだな。

 

 

「……これが、ハンターだ。お前の甘い考えは……いつか自分を殺す。だから、ハンターをやるならその優しさにもブレーキを掛けろ。これは……覚えておいて損はない」

 ミズキの頭に手を置きながらそうとだけ告げて、イビルジョーに向き直る。

 

 

 リオレウスに相当てこずっているようだな。

 

 

 だがな、お前は…………俺が殺す。

 

 

 

「グルォォォ……ッ」

 翼を使って自由に空を舞うリオレウスを捉える事が出来ずに、苛立ちを見せるイビルジョー。

 だが、黙ってやられているばかりがこのモンスターではない。

 

 ……待っているな。射程距離にリオレウスが入るのを。

 

 

「グラァァァァアアアア!!!」

 ジャギィ達の攻撃を全て無視し、イビルジョーはただ一点を睨み付けていた。

 

「ヴォァァ!」

 自らの領域を自由に舞う餌が、自分の領域に入るのを待つために。

 

 

「ヴォァァァゥッ!!」

「焦るなよ……」

 リオレウスが仕掛けるタイミングで、俺は駈け出す。

 

 空中からの、毒爪を使った奇襲。空の王とまで呼ばれるリオレウスに相応しい攻撃だろう。

 だが、イビルジョーはそれを待っていたかのようにその大顎を開いた。

 

 

 何も、飛翔してくるリオレウスに喰らいつこうという訳ではあるまい。

 おそらく奴はこのタイミングをずっと待っていたのだろう。

 

 リオレウスが直線的に自らに向かってくる、この時を。

 

 

「グオラァァァァアアアア!!!」

 吐き出される龍属性エネルギー。いくら空の王とはいえ、自らの加速を止める事は出来ない。

 このまま急降下してくるリオレウスをブレスで迎え撃つのが、こいつの算段だ。

 

 

「させるか……っ!」

 俺は、手近にいたジャギィを一匹踏み台にして跳躍する。

 

 持ち上がる身体。イビルジョーの上を取るために、片手剣をイビルジョーに叩き付けて身体を浮かせた。

 そこで真上から通常弾を叩き付け、ボウガンの反動でさらに身体を浮かせる。

 

 

 地面から、人が跳ぶには高い位置へ身体が浮く。上昇が最大に達した時、俺の体はイビルジョーの頭上四メートルまで到達していた。

 

 だが、人は跳べても飛ぶ事は出来ない。

 重力に逆らう術はなく身体は引かれ、真下の地面に───イビルジョーに引き寄せられて行く。

 それで良い。前の二撃は、イビルジョーへの攻撃というよりは高く跳び上がるための物だ。

 

 

 落下スピードを、上空に向けたボウガンの反動でさらに加速させる。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 リオレウス急降下とまでは行かないが、イビルジョーの頭上を取って落下スピードに任せてその頭蓋に片手剣を叩き付けた。

 重力の乗った剣撃が、ブレスでリオレウスを待ち構える為に俺を気にしていないイビルジョーの頭を地面に押し付ける。

 

 

「グォァ───グォラァァァアアアア?!」

 その結果、リオレウスの急降下をブレスで迎え撃とうとするイビルジョーの目論見は失敗した。

 

 俺の片手剣に頭を地面に叩きつけられ、さらに遅れてリオレウスの毒爪がその背中を抉る。

 悲痛の叫び声が空気を震わせ、リオレウスに負わされた傷口は鮮血を吹き出した。

 

 

「グァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 それでもイビルジョーは倒れない。痛みを叫び声で紛らわし、立ち上がる姿は執念をも感じさせる。

 

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 とにかく、餌を。

 

 身体の糧を。

 

 

 まるでそうとでも叫ぶように、イビルジョーは周りにいる食べられそうな物を探す。

 そうして奴は、近くに居たジャギィにその狂ったような無機質な赤い光を向けた。

 

 

「う、ウォゥッ?!」

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 大顎を開き、小さな生き物を飲み込もうと振り下ろすイビルジョー。

 

 やらせるか……っ!

 

 

「はぁぁっ!」

 そのジャギィの元に駆けつけ、跳び蹴りで蹴り飛ばす。

 

 いきなり蹴られて反応出来なかったジャギィはかなり遠くまで飛んでいった。

 背中から地面に叩き付けられたが、イビルジョーの餌になるよりはマシだろう。

 

 

 そして、ジャギィを助ける形になった俺は跳び蹴りの反動でイビルジョーの目の前にその身体を晒す事になる。

 大きく開かれた口内に、俺はボウガンの銃口を向けた。

 

 

「バカの一つ覚えには、バカの一つ覚えで十分だな」

 トリガーを引けば、奴の口内を通常弾が抉る。

 

 

 三発。骨を、牙を、肉を砕く通常弾。

 その反動でイビルジョーの大顎から逃れ、イビルジョー自身は体内の激痛に声にならない叫び声を上げた。

 

 

 

「ここからお前にはもう……何も喰わせはしない」

 そうしてその箍が外れた食欲で自分の命を喰らうんだな。

 

 

 

 お前の負けだ、イビルジョー。

 

 

 

「グァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 叫び声が、島の空気を揺らす。

 

 悔しいか? 苦しいか?

 

 

 赤く無機質に光る眼が探すのは最早獲物ではない。

 

 生物の三大欲求の一つでもある食欲。だが、生物にはそれを上回る欲がある。

 生への欲求。生きる事、生きる者全てが生きる為に欲を満たす。

 

 

 イビルジョーが探しているのは、生き残る為の道だった。

 

 

 

「グァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 首を振り上げ、自分の最後の力を振り絞り───放つ。

 

 赤黒いエネルギーは俺達やリオレウス、ジャギィ達でもない木々の集まりに向けて放たれ、それらを薙ぎ倒した。

 開けた道に、イビルジョーは足を引きずる。生きる為に。生き残る為に。

 

 

 

「……逃げられると思っているのか」

 いや、違うか。逃げるしかない。

 

 このまま朽ちるより、足を引きずってでもこの場から逃げる事が……奴が生き残る為の唯一の道だ。

 

 

「アラン、待って!」

 ミズキの言葉を無視して、自らが作った道を進むイビルジョーを追い掛ける。

 続くジャギィ達に、空を旋回しイビルジョーが視界に現れるのを待つリオレウス。

 

 

 お前に逃げ場はない。

 

 この先は海で、行き止まりだ。

 進めば進むほど逃げ場がなくなる。

 

 

 …………終わりだな。

 

 

 

 

 木々を抜け、開けた海岸に出る。

 そこに辿り着いてしまえば背後は岩場、その先は海だ。泳ぐ能力のないイビルジョーにとってこの場所は崖と言っても過言ではない。

 もし水中で行動できるのなら、ここに逃げ込んだのは正解だっただろう。しかし、お前にそれは出来ない。

 

 それが分かってしまったのか、イビルジョーは無機質に光る赤黒い目で俺達を睨み付けていた。

 

 

 周りを囲むジャギィ達。正面に俺とドスジャギィ。

 背後には空を舞うリオレウス。

 

 絶体絶命、だな。

 

 

 

 お前の敗因は、誰一人仲間が───共に戦う者が居なかった事だろう。

 自分以外は何もかも獲物でしかない、お前達の弱点だ。

 

 

「……終わりだ」

「グルォゥッ!」

 ボウガンの銃口をイビルジョーに向ける。

 同時にドスジャギィも小さく鳴き、ジャギィ達に奴を仕留めるよう命令を掛けた。

 

 

「グ……ゥゥァァ……ァ゛ァ゛ァ゛!!」

「……死───」

「ヤメテ」

 

 

 

 ───なんだ……?

 

 

 突然、視界からイビルジョーが消えた。

 

 それと同時に腹部に走る激痛。まるで何か細い物を叩きつけられたかのような衝撃が、防具の下まで伝わってくる。

 視界に映るのは───青空。

 

 背には地面があり、俺は横たわっていた。

 

 

「……は?」

 思わず間抜けな声が漏れる。

 何が起こった? イビルジョーと俺はそれなりの距離があった。あいつが何を仕掛けてきても対応出来る距離があった。

 

 ドスジャギィか?

 一つの答えに辿り着き、軋む体を持ち上げる。

 

 

 此処に来て用済みになった俺を先に仕留めておく。なるほど、確かに悪くない。

 イビルジョーはお前達の飯には不味いのだろうか。手伝ってやったからお前の肉を寄越せという事だろうか。

 

 だが、そんな答えは俺が姿勢を上げた時に崩れ去る。……なぜか?

 ドスジャギィも俺と同じく地面に横たわっていたからだ。何が起きたか分からないといった表情で。

 

 

 そして、俺の前に立っていたのはドスジャギィでもジャギィでもリオレウスでもない。

 

 

 

「……ヤメ……テ」

 アイツだった。

 

 いや、違う。

 

 

 無機質に赤黒く光る右目が俺を見る。

 

 

「……お前は…………なんだ……?」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 無機質な赤い目、その対となる瞳は青色。

 短い金髪。小柄な身体を護るアシラ装備。

 

 ───俺に叩きつけられただろう、クラブホーンの片割れ。

 

 

 その姿だけはミズキその物だ。

 だが、違う。お前は誰だ? お前は何だ?!

 

 その無機質な赤に見下ろされ、俺の身体は動かなくなっていた。

 まるで蛇に睨まれた蛙のように。

 

 

 脳裏に映るのは、あの化け物(・・・)の姿。

 

 なぜだ。なんだ。

 これじゃ、まるでアイツじゃないか。

 

 

「……ヤメテ」

 なんでアイツが此処に居る……?

 

「…………っ。お前は何だ?!」

「…………ヤメ───」

「ミズキ?!」

 ソレは、口を開いたかと思えば不意に何かが抜けたかの様に力をなくして足から崩れる。

 反射的にその身体を支えた瞬間、注意を逸らしていたイビルジョーは大きく息を吸っていた。

 

 

「まだブレスを吐く力が残ってるのか……っ?!」

 まるで何かに鼓吹され、気力を取り戻したかのようなイビルジョー。

 

 どれだけ食ったら、それほどの体力が出来上がる。

 

 

 

「グォ゛ォ゛ァ゛ァ゛───」

「ヴォァァァゥ……ッ!!!」

 しかし、エネルギーは吐き出される事なかった。空中から急降下して来たリオレウスの強靭な脚に押されて、イビルジョーは地面を横に転がる。

 

 

 

「グォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ア゛───」

 倒れても、倒れても、倒れても、ジャギィに囲まれドスジャギィに死に体を曝そうと、地に脚を着けたリオレウスに睨まれようと、イビルジョーは立ち上がった。

 まだ死なない。まだ食い足りないと、まるで餌を定めるかのように眼前の生き物たちを睨み付ける。無機質に光る瞳が、次の餌に狙いを定めた次の瞬間───

 

「グォォォオオオオオッ!!」

「───ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛?!」

 ───背後の海岸から突如水飛沫が上がった。それと同時に現れる蒼色の竜。

 

 

 リオレウスが空の王なら、その竜は海の王だろう。

 

 

「グォォォオオオオッ!!!」

 大海の王者───ラギアクルスが、背後からイビルジョーを海中に引きずり込む。

 

 

 

「グォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛?!」

 声にならない悲鳴を上げるイビルジョー。引きずり込まれるかと抗うも、その弱った体ではラギアクルスの力には敵わなかった。

 

 

 そして、何度も何度も岩場を引っ掻きながらイビルジョーは海中に引きずり込まれていく。

 最後には海面を血で濡らし、ついにこの島からイビルジョーは姿を消した。

 

 

 

「…………終わったか」

 散々この島を掻き回したイビルジョー。

 

 アレでは間違って逃げたとしても、生き延びる事は不可能だろう。

 

 

 

 それよりも───

 

「おい、ミズキ。……ミズキ。…………ミズキ!」

「───ふぇ?! うぇ?! え? あれ?」

 腕の中でぐったりしていたミズキの肩を揺らして目を覚まさせる。

 

 開いた眼は、いつもの純粋な蒼色。

 

 

 さっきのお前は一体なんだったんだ……?

 

 

「……ここ、どこ?」

「お前……覚えてないのか? ムツキはどうした?」

 あいつに見張っておけと言った筈だが……。

 

「わ、分かんない。私……アランがイビルジョーと戦ってるの見てて…………それで───っ」

 言いかけて、頭を自分で抑えるミズキ。そのまま苦しいのか、表情を歪ませる。

 

 

「お、おいミズキ! ミズキ!」

「───っぁ……ぅぁ゛っ…………何、これ……何……っ?」

 強く俺の防具を掴むのは、それだけ苦しいという事だろうか?

 

 イビルジョーのブレスの影響か?

 いや、違う。明らかに何かがおかしい。

 

 

 虚ろに開く瞳は───右側だけが赤く光る。

 

 

「ミズキ……?」

 お前は……一体───

 

 

「グルルォァッ!」

「グォゥッ」

「ウォゥッ」

 そうこうしている内に、俺は失念していたらしい。

 ここが狩場だという事を。ここは人間の世界ではないという事を。

 

 イビルジョーという共通の敵を失い、ドスジャギィ達の興味は次に何に移るか。

 そんな物は決まっていた。当たり前の事だ。

 

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

 

「……っ」

 ミズキがこの状態でこのジャギィ達を相手にするのは……。

 

「グルルォァッ! ウォゥッウォゥッ!」

 ボスが、命令を下す。

 

 

 クソッ、こいつら───

 

「ウォゥッ」

「───は?」

 飛び掛かってくるだろうドスジャギィに身構えるが、視界に映るのは殺気のこもった爪ではなかった。

 鍛え上げられ、イビルジョーの攻撃を耐え抜いたジャギィ達の逞しいボスの背中がミズキに向けられる。

 

 

「…………乗せろ……とでも?」

「ウォゥッ!」

 なんだ……これは。

 

「ア……ラン」

 苦しそうなミズキが、俺の手を取る。

 

 

「凄い……ね。アランって…………素敵………………だ……」

「……俺じゃないさ」

 彼女に渡しておいた絆石を握って、俺は彼女の頭を撫でてやった。

 こいつらが俺やお前の面倒を見てくれたのは、あの時お前がこのドスジャギィを助けようと言ったからだ。

 

 イビルジョーから村を救ったのも、お前だ。

 

 

「疲れただろ、少し休め」

 だから、今は少し休め。

 

 

 

 そして、俺に考える時間をくれ。

 

 

「……うん」

「ウォゥッ」

 

 

 なぁ、お前は──────なんだ?

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 あの日から、数日が経ちました。

 

 

 イビルジョー討伐の確認のため、村はまたギルドの人で賑わっています。

 私は忙しそうなお父さんを手伝って、ビストロ・モガの売り上げに貢献するの!

 

 

 

「ふーっ、ひと段落したニャ。ミズキはもう休んで良いですニャ」

「大丈夫なの? お父さん」

「村の新しい英雄をこうも働かせては立つ瀬がないですニャ」

 英雄だなんて……。私は何もしてないし。

 

 

 うん。でも、お店は私が見ても大丈夫そうだしお言葉に甘えようかな。

 

 

「ミズキ、お手伝い終わったニャ?」

「うん。今日も大盛況大儲けだよー」

「夜ご飯が豪華になるニャ」

 そうだねぇ。

 

 

 

「ねぇ、ムツキ」

「んニャ? どしたニャ?」

 部屋で、私はムツキの隣に座って彼に話し掛ける。

 ここ最近また忙しかったら、ゆっくり話す時間がなかったんだよね。

 

 

「あの時…………ううん、私ってたまに……身体がいう事聞かなくなるの」

 あの時───アランがイビルジョーと戦っている時。

 

 アランは本当に凄いし、強くて優しいって思った。

 人と竜は相容れないって言うのに、彼はリオレウスやジャギィと助け合いながらイビルジョーを圧倒したの。

 

 

 本当に素敵な光景だと思ったし、それは間違ってない事だって心では分かっていた。

 

 

 

 でもね、ジャギィを助けるアランを見て───イビルジョーの事は助けられないのかな? なんて思ってしまった。

 その後の事はなんでか、殆ど覚えてないんだよね。

 

 

 話によれば、私は引き止めるムツキをクラブホーンの盾で殴って気絶させて。

 挙句イビルジョーにトドメを刺そうとしたアランに剣で攻撃したみたいなの。

 

 薄っすらと記憶はあるんだけど、なんでそんな事をしたのか自分でも分からない。

 

 

 ムツキもアランも気にするなって言ってくれたし、この事は黙っててくれるみたいなんだけど。

 

 

「私って……なんか変なのかな?」

「変ニャ」

「うぇ?!」

 いや、自分で変だと思ったから聞いたんだけど肯定されてしまうと悲しい。

 

「バカだし、頭は悪いし、容量が悪いニャ」

「物凄くバカにされた」

 泣いていいですか。

 

「でも……明る過ぎるし、優し過ぎる、困った妹ニャ」

「ムツキ……」

 ムツキの方が、優しいと思うな。

 

 

「ミズキはミズキニャ。ボクはどんな変な妹でも面倒見るニャー」

 頭を擦り付けてくれるムツキがモフモフ。不安もこれで拭えてしまう、モフモフ。

 

「えっへへ。ありがと、ムツキ」

 私は……私、か。

 

 

 イビルジョーと戦っていた時や、その後……。私は……本当に私だったのかな?

 

 

 

 

「お、ミズキ! もう頭痛は良いのかの?」

 同日の夕方。買い出しのために外に出ると村長さんに話し掛けられました。

 

「こ、この度はご迷惑をお掛け致しました……。村長さんは忙しかったですか?」

「カッハハハハ! なに、歳を取るとあまり人と話さんくなるでの。この位の刺激はちょうど良い」

 そう言ってくれる村長の優しさに感謝しかない。

 

 

 イビルジョーの討伐に関して、ギルドから色々と調査が入ったの。

 

 理由は、死体が見つからなかったから。

 見つかったのは、腐敗したイビルジョーの尻尾のような物だけ。

 

 私は薄っすらとしか覚えてないんだけど、イビルジョーはラギアクルスによって海の中に引きずり込まれている。

 死体が見つからないのが当たり前といえば当たり前なんだけど、万全を期してここ数日は厳戒態勢で島一帯をギルドの人が調査してた。

 

 

 アランはイビルジョーとの戦闘を聴取されてたし、酷い頭痛で起き上がれなかった私の代わりに村長がギルドの人に色々聞かれたみたい。

 本当にご迷惑をお掛けしてしまったのです。

 

 

「ごめんなさい……」

 はぁ、結局何もしてない私。

 

「ったく、ミズキのそういう所は汚点だな。そういえば、ミミナも大分良くなったそうじゃないか」

「あ、はい! 本当……無事で良かった」

「会いには行ったのかの?」

「え、えと……」

 行ける訳がなかった。

 

 

 忙しかったとか、身体の調子が良くなかったとか。

 そんな事は言い訳にしか過ぎなくて。

 

 私は、私が動かなかったせいで傷付けたミミナに会う資格なんてない。

 

 

「会いたがっとったぞ」

「ミミナが……?」

「今の話の流れで他の誰になる。ワシもそこまでボケてはおらん」

 カッハハハハと笑い飛ばすと、力強く肩を掴まれて私は農場に身体を向けられる。

 

「もう仕事を再開しておる。労いの言葉を掛けてやっても、バチは当たらんと思うがの」

 そうだよね……。私は逃げてるだけだ。

 

「い、行ってきます」

「うんむ。行って来い」

 

 

 

 

 蜂の巣箱が治ってる。

 私が農場に着いて、間抜けにも最初の感想はそれだった。

 

「ミズキぃぃぃぃミャ!」

「ぅ゛っ?!」

 私が蜂の巣を眺めていると、そんな元気な声と共に腹部に衝撃が走った。

 普通に───痛い……っ!

 

 

「も、モモナ……元気だね」

「私はいつも元気ミャ! ミズキはなんだかお腹の調子が悪い? もしかして女の子の───痛い!」

 よく分からない事を言うモモナの頭を、同じ毛並みの手が張り倒す。

 勿論、モモナがそんな器用な事を出来る訳がなくて。

 

「……モモナはデリカシーなさ過ぎ、みゃ」

 いつも通り。いつもみたいに、いつものように、彼女はモモナに話し掛けた。

 私が失ったと思っていた平和な光景が、そこにはあって。

 

 

 普段と変わらない二人が、私を待っててくれた。

 

 

「ミミナ…………怪我、大丈夫?」

「みゃ、大丈夫だから。……私達は案外丈夫。だから、泣いちゃダメ」

「ギュってして良い?」

「……え、えーと」

 ダメって言われてもします。

 

「───みゃ?!」

「ごめんね……。ごめんね…………ミミナ」

「…………もぅ。ミズキは頑張った。ムツキやアランが言ってた。ミズキは頑張った。よしよし、みゃ」

「…………っぅ。ぅ……ぁっ…………ぅぅっ……ひっつ」

「……よーし、よーし」

 良かった……。本当に、良かった。

 

 

「むむむ……ミャー! 私もギュってするミャーーー!」

「うわぁ?!」

 あっはは、モモナもミミナを看病してくれたもんね。ありがとぅ。

 

 

 

 

「……ぇ、蜂の巣箱モモナが直したの?!」

 その後、少し話し込んでたんだけど唐突なミミナからのお話。

 直されてた蜂の巣箱だけど、あのモモナが一人で直したみたいなんだ。

 

 ミミナが大変で、モモナの農場ネコ魂に火が着いたみたい。

 正直疑ってしまったけど、ミミナがモモナの得する嘘を言う筈がないし……うーん。

 

 

「ジェニーに手伝って貰ったミャ!」

「ウモォゥ」

 イビルジョーの攻撃を受けてしまったジェニーだけど、彼女も大丈夫みたい。

 情けないけど……。本当に良かったって思ってる。

 

「あのモモナが……ねぇ」

「……その日は雪が降るかと思ったみゃ」

「酷いミャ」

 ふふっ、こんな言い合いも懐かしく感じてしまう。

 

 

「これで色々元通りだねぇ」

「平和だミャー! ミズキはこれからも村で半人前ハンター、続けるミャん?」

 は、半人前……。ほ、本当の事だけど……。うん。

 

「そ、そうだね……」

 でも、島も平和に戻った筈。

 バリケードの外に返したアプトノス達が、異様な減り方をしていない事からも島の異変が治った事が証明されていた。

 

 確かにイビルジョーは倒された。

 

 

 これで、良かったのかな。

 

 

 良かったんだよね。

 

 

 

 イビルジョーを助ける事は……出来なかった。

 

 それが、当たり前なんだよね。

 

 

 私が、おかしいんだよね。きっと。

 

 

 

「私、もっとアランに色々教えて貰わなきゃ」

 アランは本当に凄い。

 

 強くて優しい、モンスターにも詳しくて……不思議で素敵。

 そんな彼が来てくれて、私は本当に嬉しいんだ。

 

 これからは、ゆっくりとこの島で彼に色々教えて貰えるのかな。

 また、素敵な体験が出来るかもしれない。

 

 

 そう考えると、これからがとっても楽しみ。

 

 

 ───って、思っていた。

 

 

 

「……アランなら、あと一週間で島を出て行くけど? ……知らないのみゃ?」

「…………ぇ?」

 ぇ?

 

 

 えーと……ぇ?

 

 

 

「ふえぇぇえええ?!?!」




読了、ありがとうございました。
一章の山場終了でございます。後三話後日談と番外編をやって、第一章も終わりです。短かったような長かったような。


こんな終わりで良かったのかな?なんて思いながら書いていたお話ですが、作者が伝えたい事はミズキが代弁してくれました。
この物語は始まったばかりです。これからも楽しんで頂ければ……嬉しいです。

初めて挿絵に挑戦してみました(`・ω・´)
反響が良ければまたやってみようかなとか思ってたり。


そして、少し前になるのですが『モンハン商人の日常』の四十三さんからファンアートを頂きました! こちらになります。

【挿絵表示】

なんという画力か。せっかくの私の挿絵が薄れて見える()。
本当にありがとうございました!とっても嬉しいです><


いつも読んで下さる読者の皆様に感謝を。
モンスターハンターRe:ストーリーズは読者の皆様に支えられておりますm(_ _)m

でわ、また次回お会い出来ると嬉しいです。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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従える者と彼の事

ちょっとした番外編のような物
サボっていたからこんな話にするしかなかった訳ではなく話数調整です()


鬱表現、グロテスクなシーンあり。


 何でもない、そんな人生だった。

 

 

 普通の家に生まれて、普通に育って。

 

 普通に恋をして。

 

 その人に見られたくて、ハンターの仕事を選んで。

 

 

 ハンターの仕事は、そりゃ普通って訳には行かなかったが。

 

 どうやら俺には多少なりともの適性があったらしい。

 小さい村だったが、その村では一番のハンターになった。

 

 

 

 頼られるのは嬉しい、命を賭けて護りたい物を護れる。

 

 そんな護りたい人を、なんの変哲もない口説き方で口説いて。

 普通の幸せな家庭を築いた。

 

 

 娘も産まれた。

 

 物凄く、可愛いんだ。

 母親似の金髪の女の子。

 

 

 子供が五歳になった。

 

 ハンターになるとか言い出した。

 多分、俺のせいなんだろうが……。

 

 

 勿論、反対した。ハンターは危ない。モンスターは危険だ。

 この歳までハンターを続けていた俺だから、余計に分かってしまう。

 

 

 同業者が何人も死ぬ所を見てきた。

 

 

 モンスターは、恐ろしい。

 あの化け物は俺達を餌だとしか思ってない。

 

 

 

 そんな五歳の娘と、愛すべき嫁を連れ、村の外に出掛ける事になった。

 なんでも、大きな街で祭があるから行きたいだとか。

 

 娘が言い出したのか、嫁が言い出したのか。

 俺は、止めるように言ったんだがな。ははっ、こいつら聞いちゃくれない。

 

 

 

 まぁ、大丈夫だろう。遠い街ではないし、そこまで商人を護衛するクエストだって何回もこなして来た。

 

 ───そう、思っていた。

 

 

 

 

 街までは竜車で二日。

 

 一日目の夜を、俺達は川辺で過ごしていた。

 

 川で釣った魚を焼いたり、火を焚いて暖を取ったり。

 普段切り身にして食べるスネークサーモンを丸焼きにすると、嫁は驚いた。

 まるで狩り仲間とするような事を家族としているのは、なんだかおかしくも感じる。

 

 

 そんな中で、娘がトイレに行きたいと言い出した。

 一人で出来ると言うのだが、いつモンスターが現れるか分かったものじゃない。俺が付いていく事にした。娘を一人に出来る訳がない。

 

 

 ───それが、間違っていたんだ。

 

 娘を一人に? 違う、嫁だって一人にして良い訳がなかった。

 

 

 ほんの少しだ。ほんの少し目を離した瞬間に、嫁の悲鳴が聞こえた。

 

 

 首から下半身まで伸びる、黄色い鬣。

 海竜種に見られる流線型の身体。水獣───ロアルドロスの群れに、嫁は囲まれていた。

 

 

 娘を連れて逃げてと、嫁は言った。

 そう言う間にも、ルドロスが嫁の腕を噛み砕く。

 

 止めろ、よせ。

 俺の身体は勝手に動き出していた。

 

 

 まだ間に合う。背中の大剣に手を伸ばし、駆け寄って嫁の腕を喰い千切ったルドロスを叩き殺した。

 

 良かった、助けられた。

 命はある。腕が……クソ……っ。

 

 

 焦りからか、俺はそんな事しか考えられなかった。

 

 

 嫁が、痛みで動かない口で何かを訴えていた。

 そんなに泣かないでくれ、もう大丈夫だ。こいつら全員追っ払ってやる。

 

 一人にしてすまないかった。ごめん、本当にごめ───

 

 

 嫁は泣きながら、無くなった腕を俺の背後に伸ばす。

 それで、やっと自分の誤ちに気が付いたんだ。

 

 

 

「止め───」

 娘が、三匹のルドロスに囲まれていた。

 

 間に合わなかった。

 

 

 何も分からない娘は、突然の激痛に泣き叫ぶ。

 

 助けを呼ぶその声に反射的に身体が動くも、その時点で既に手遅れだった。

 

 

 吹き出る鮮血、倒れる娘の腸をルドロスは喰いちぎる。

 

 

 そのルドロスを殺しても、もう一匹が娘の頭を持って行く。

 

 そのルドロスを殺しても、もう一匹が娘の脚を持って行く。

 

 

 止めてくれ、頼むから止めてくれ。

 

 

 もうどうしようもない状態になってから、やっと俺は誤ちに気が付いたんだ。

 

 

 

 誰とも離れたらダメだった。

 二人共護らなければ、ダメだった。

 

 

「グルルォ……」

「よ、よせ……止───」

「キェェェェエエエッ!!!」

 ルドロス達のボス。ロアルドロスが、嫁の頭をその太い腕で撫でる。

 地面に叩き潰された頭は、原形を留めずにピンクと赤を辺りに撒き散らした。

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 そこからの事は、覚えていない。

 

 気が付いたら辺りにはモンスターの死体の山が出来上がっていた。

 俺は嫁と娘だった物を持って、竜車で村に帰る。

 

 

 

 何でもない、普通の人生だった筈だ。

 

 俺が悪いのか?

 

 

 なぁ? 俺が悪いのか?

 

 

 違う。全部モンスターが悪い。

 

 あの化け物達が悪い。

 

 

 何日も、何日も塞ぎ込んで考えて。

 

 

 俺はやっと、自分がなんの為にハンターになったのかを思い出した。

 

 

 

 あの化け物達を殺す為だ。

 

 

 俺は積極的に、周りには狂ってると言われる程狩りに出掛けた。

 

 依頼が無ければ採取クエストで近くに居たモンスターを狩り殺した。

 依頼があっても、依頼に関係ないモンスターを殺し尽くした。

 

 

 これで平和になる。俺がモンスターを狩れば、あんな事が起る前にモンスターを狩れば───

 

 

「ギルドナイトです」

 アレから何年経っただろうか。

 

 遂にその日がやって来た。

 分かってはいた。俺がギルドに違反している事なんて。

 

 

 でもな、俺は間違ってなんてない。

 

 俺はおかしい事なんてしてない。

 

 モンスターは悪だ。殺して何が悪い。

 

 

 金髪の、整った顔をしたギルドナイトは俺に手を伸ばす。

 ギルドの方針に背いて無闇な殺戮をした罪の代償くらい、分かっている。

 

 

 もっと、殺さなければならなかった。

 

 もっと、もっともっとモンスターを狩らないと。誰かが犠牲になるかもしれない。

 

 

 でも、ここまでのようだ。

 

 

 天国の嫁と娘は……俺を許してくれるだろうか。

 

 許してくれる訳ないか。

 今から、行くよ。

 

 

「貴方の思想、そして腕は素晴らしい。私の理想───いえ、あなたの理想の為に……力を貸して頂けないかな?」

「…………は?」

 それが二年前の事だっただろうか。

 

 俺が、とある密猟団の組織に加わったその日は。

 

 

 

    ★ ★ ★

 

「そろそろ着くゼヨ! ハンターさんやい!」

 快活な声で目が醒める。

 

 

 辺りを囲む、水と波。

 どうやらまたあの夢を見ていたらしい。

 

 

「っとぉ、寝てたか。ワシの船の乗り心地は最高ゼヨ! 仕方無い仕方無い」

「態々乗せてもらったのに悪いな。いや、でも良い船だよ本当に」

 お陰様で夢まで見てしまった。

 

「なぁに、島を世界と繋げるのがワシの仕事ゼヨ! また、気軽に声を掛けてくれれば良い!」

 全く、こんな悪人に優しくしてくれちゃって。

 

 

「ところでおやっさん、腹減っちまったんだ。島は見えてるけどまだ少し掛かるだろう? 何か船にあったりしないかな? あ、ちゃんと金は出すからさ」

「んん、あるにはあるゼヨ」

「お、頼むよ」

 それは良かった。腹が減ってたからな。

 

 

 空腹でスタミナがないと、モンスターを殺すのが難しくなる。

 

 

 

 二年前のあの日以降、俺は密猟者としてあの方の組織で働いていた。

 勿論、表ではハンターとして活動している。

 

 今回、気前の良い船乗りに乗せて貰って出向くのは孤島地方───モガの村だ。

 

 そこに組織が保有していた一匹のモンスターを事故で逃してしまったらしい。

 船で運んでいたモンスターの餌補充のために着けた島で逃げられて船も仲間も犠牲になった。

 

 大喰らいのその生き物は、島という密閉空間で生き物を食い荒らして島にある村まで危険に晒されているようだ。

 

 今回の俺の仕事はそのモンスターの捕獲。

 何せ、あの方が保有していたモンスターらしく……殺す事は許されないらしい。

 

 

 まったく、よく分からんが。あの方の考える事だ……俺の理想に辿り着く為にはそのモンスターが必要なんだろう。

 なにせそのモンスターは同族すら喰らう、生態系を自然と壊す化け物なんだからな。

 

 

「しかし、やらんゼヨ」

 考えごとをしていると、船長はそんな言葉で返してきた。

 

 え、なんで。あんなに気前の良かった船長なのに。

 

 

「ど、どうしてだよ。俺もう腹が減ってヤバいんだって」

「モガの村にはビストロ・モガっていう飯屋の名店があるゼヨ。モガに来たなら是非によって貰わねば」

 へぇ、そこまで言われたなら足を運ぶしかないか。

 

 

 別方向から船で来てる仲間が来るのにも、少しだけ時間はあるしな。

 

 

 

 そんな訳で、俺はもう少しだけ船に揺られてモガの村に辿り着いた。

 

 島の端に木組みが多く作られたのどかな村。

 小さいが、活気がある。数年前超大型モンスターに襲われた村とは思え無いな。

 

 

「ビストロ・モガはギルドのカウンターの直ぐ横ゼヨ! 腹一杯食うが良い!!」

 そう言う船長に見送られ、俺は看板の立つ店に顔を出した。

 

 

 

「やってるかい?」

 そう声を掛けるも、店には誰も居ない。

 おいおいまさかやってないなんて事ないだろうな?

 

「はい! ちょっとコックさんお出掛け中なんで、時間かかっちゃうんですけど……お待ち頂けますか?」

 俺の心配は、直ぐに発せられたそんな返事で杞憂に終わる。

 奥から店に出て来た少女は、短い金髪碧眼の少女で───

 

「お、可愛い看板娘ちゃんが出て来たな。お店の子かな?」

 ───娘が生きていたら、もしかしたらこんな風に成長していたかもしれない。そんな事を考えてしまった。

 

「しっかし、コックさん居ないのか。……時間に間に合わなくなっちまうなぁ、飯は諦めるか」

 困ったなぁ。まぁ、飯は現地調達かこりゃ。

 

 モンスターを殺して食べるのは、それはそれで良いんだけどな。

 

 

「ありがとな、嬢ちゃん。また帰りに食わせ───」

「私が作りますよ!」

「ぇ」

 諦めて席を立とうとした俺に、少女はメニュー表を渡してくる。

 何? こんな小さな子が?

 

 

 もしかしたら、娘が生きてたら作ってくれてたのかも知れない……な。

 

 

「作れるの? 嬢ちゃんが?」

「これでもお父さんの娘ですから。勿論、味が気に食わなかったらお代は要りません!」

 少女は胸を張って答える。

 なるほど相当自信があると見た。

 

 

 そんな少女に期待して、俺はメニュー表を見渡す。色々あるな。ギィギのハンバーグってなんだよ。

 

 

「んーと、じゃぁ。スネークサーモン定食を食べたいな」

 そんな中でも、俺は無意識のうちにあの日の事を思い出してそんな定食を頼んでいた。

 スネークサーモンは嫁の好物だった。今じゃ、俺も食べ過ぎて好きになってるがな……。

 

 

「スネークサーモンの定食ですね! かしこまりました!」

 大きく返事をして、直ぐに準備に取り掛かる少女。

 元気の良い、可愛い女の子だ。

 

 

 こんな子や、気前の良い船乗りが暮らすこの村に……島に放置されたあの化け物が襲い掛かってきたらひとたまりもない。

 

 

 あの時の光景が蘇る。

 

 

 一刻も早く、この件にケリを付けなきゃな。

 

 

 そんな事を考えていると、料理が完成して目の前に出される。

 

 心なしかいつか嫁が作ってくれた朝飯に似ていて、なんとも懐かしい感じだ。

 

 

「おー、凄いな嬢ちゃん。若いのに偉いもんだ」

「ふっふっふ、褒めるのは食べてからにして下さいね!」

 ほぉ、相当自信があるようだ。

 

 

「それじゃ、頂こうか」

 備え付けの箸を取って、俺はスネークサーモンにそれを伸ばす。

 

 良く焼かれたそれは軽く力を入れただけで形を崩して、箸で手頃な大きさの物を掴んだ。

 それを口の中に放り込めば、丁度良い塩加減が広がり柔らかい歯ごたえはスネークサーモンの食感を楽しめる焼き加減。

 

「……美味い!」

 ただ一言のその感想を言うと、俺は口にお米を放り込んだ。

 流石に嫁のとは比べられないが、このスネークサーモンも美味く調理されてる。

 

 

 なるほどな、船の船長があそこまで頑なだった理由も分かった。

 

 

「へい、お駄賃。お釣りは要らねーぞ!」

「まいどあ───って、こんなに貰えませんよ!」

 飯を食べ終わってから、俺は千ゼニーを置いて店を後にしようとする。

 しかし、少女はしっかりとした性格のようでお釣りを俺に渡そうとしてきた。

 

 そんな物は俺には必要ない。

 俺の人生は、この少女の様な幼い子供達がモンスターに襲われない様にする事の為にあるのだから。

 

 

「美味い飯を食えたんだ、それなりの対価を払うのは当然だろ?」

 それに、娘に似ててな。なんか甘やかしたくなるんだよ。

 

「ハッハッハ! まぁ、アレだ。頑張るお嬢ちゃんに俺からの気持ちとして受け取ってくれや。その代わり、帰りも美味いものを頼むぜ」

「そ、そう言われると……。夕御飯はサービスしますので、また寄って行って下さいね!」

「そりゃ、楽しみだ。ごちそうさん」

 だから、また来るとしよう。

 

 

 

 それから他愛もない会話をしてから、俺は直ぐ隣のギルド受付嬢に話を着けて孤島の素材ツアーという名目で狩場に足を踏み入れた。

 

 

 

 さて、あの子から聞いた話だとやはり奴が上陸した砂浜が怪しい。

 

 俺は気を引き締めて海岸沿いを歩いて行く。

 すると、これがビンゴって奴か。デカい鳴き声が二つ聞こえた。

 

 

 

「グラァァァァアアアア!!!」

 一つは、今回の標的の物だろう。

 

「キェェェェエエエッ!!!」

 もう一つは、忘れたくても忘れられないないあのモンスターの鳴き声。

 

 

「近い……っ!」

 ったく、都合が良いな。モンスター同士で交戦中か。

 

 

 

 なら、標的をあいつと一緒に弱らせれば良い。

 

 あの生き物と共闘なんてヘドが出るが……仕方がないか。

 

 

 そう思いながら鳴き声の方へと向かう。

 

 鳴き声からして戦いが始まったばかりか?

 そう思っていたのだが———思わぬ光景に俺は絶句した。

 

 

「ギェェェ……ッゲェェッ」

 俺が辿り着く間に、ロアルドロスは瀕死の重傷を負っていたのだ。

 身体のあちこちを食い千切られ、群れのボスの威厳はない。

 

 

「グォォ」

「グルゥ」

 そんなボスを尻目に、ルドロス達が背後で鳴き声を上げている。

 ボスを心配しているのだろうか。あの化け物にも家族愛があるとでも言うのか。

 

 

「グラァァァァアアアア!!!」

「ギェェェ……ッ!!」

 きっと、それが最後の力だったのだろう。

 ロアルドロスは後ろにいる群れに鳴き声を放つと、俺の標的に突進を仕掛ける。

 

 獣竜種。恐暴竜───イビルジョーに。

 

 

「グルァァ?!」

 そんな力は残っていないと油断したのか、ロアルドロスの突進を受け倒れるイビルジョー。

 今加勢に入れば、簡単にイビルジョーを弱らせる事が出来るかもしれない。

 

 

「……」

 だが、身体は動かなかった。

 

 

「ギェェェエエエエエ!!!」

 アイツが憎い。

 

 ……負けるなよ、おい。

 

 

「おぉぉぉらぁぁ!!」

 走り出し、手に取った大剣が切り裂いたのは───ロアルドロスだった。

 

 

「ギェェェ?!」

「グラァァァァアアアア!!!」

 俺の攻撃に、弱っていたからか簡単に怯むロアルドロス。

 その隙を逃さなまいと、イビルジョーはその大顎でロアルドロスを噛み砕く。

 

 

「ギェェェエエエエエ!!! グルルォォァァォォァァァ?!?! ギェェェエエエエエ!!!」

 何を叫んでいるのか。

 

 

 死にたくないのか?

 

 ……ざまぁ見ろ。

 

 

「ギェェェエエエエエ!!!」

 ……何を叫んでいる。?

 

 その視線の先を見てみる。

 そこには、ボスを助けようと動くが……ボスの言葉で止まっていたルドロス達の姿があった。

 

 

「家族を…………守っていたのか……?」

「ギェェェエエエエエ!!!」

 その叫びに、遂にルドロス達は動き出す。

 

 海水に入り、イビルジョーの手に届かない所まで。

 

 

 

 大切な物を…………護っていたのか?

 

 

 

「ギェェェエエエエエ!!!」

「グラァァァァアアアア!!!」

「……っ」

 俺は……何を…………したんだ……?

 

 

「……っらぁぁぁ!」

 大剣を振るう。イビルジョーに向けて。

 

「グルァァ!」

 体型の割に細い足から鮮血が走り、イビルジョーはそこでやっと俺を認識したのだろう。

 瀕死のロアルドロスとはいえ、さらに敵が増えたのを懸念したのか? イビルジョーは海岸沿いを逃げて行く。

 

 

 あの方向は……確かイビルジョーを乗せた船が止まった所だったか?

 

 餌やりのためにこの島に来て、そのまま逃げちまう程のモンスターを捕獲ねぇ……。骨が折れそうだ。

 

 

 ただ、負ける気はしない。

 

 これでも生まれ故郷では一番のハンターだった。

 組織でも信用されている。腕に自信はある。

 

 だから、この仕事は俺が受けたんだ。

 

 

「ギェェェ……」

 背後で、ロアルドロスが鳴いた。

 

 生きているのが不思議な程に身体中を噛み砕かれ、それでも生きようとしてもがいている。

 

 

「…………お前らにも、護るべき物があるんだな」

 この手を染めた俺の罪は、何だろうな。

 

 俺がこれまでして来たことは、こいつらに俺がやられた事と同じだったのかも知れない。

 

 

 

 今は、そんな事を考えている場合じゃないか。

 

 

 脳裏に映るのは、あの少女や気前の良い船長。受付嬢の娘はなんか……アレだ、面白かった。

 

 あの村をあんな化け物に襲わせてたまるか。

 

 

 

 瀕死のロアルドロスを少しの間見つめてから、俺はイビルジョーが向かった方角へと歩いた。

 

 

 

 

 

「……居ない?」

 だが、奴は居ない。

 

 岩場を抜けると奴の姿は消えていて、砂浜にのこる足跡は海に向かっている。

 まさか……海を泳いで何処かに行ったなんて訳ないよな?

 

 

「ったく……何処に行きやがった」

 仲間の船が来る時間までに奴を弱らせなきゃならんのに。

 

 

「はぁ……。ロアルドロスか……」

 あの時俺が私情に囚われずに動いていれば、こんな面倒な事にはならなかったのかもしれないが。

 もう考えても遅いか。

 

 

 ───そう、遅かった。

 

 この時既に。

 

 

 

「っ?! なんだ?!」

 突然地面が揺れる。

 

 ここは砂浜だ、ヤオザミの一匹二匹居ても確かにおかしくはない。

 

 

 だが、そんなちっぽけな生き物とは到底思えなかった。

 

 ───真下に居るのか?!

 

 

「グラァァァァアアアア!!!」

「うぁ゛ぁっ?!」

 気が付いた時には、そいつに右腕を肩ごと持っていかれていた。

 

 砕かれた肉が、骨が、そいつの口の中に入って行く。

 

 

「う゛ぁ゛ぁ゛っがぁ゛っ!!」

 まさか、地中で待ち伏せしていたのか?!

 

 足跡を波で消して……?!

 

 

 ふざけるなよ……俺はモンスターと戦ってるんだぞ。

 そんな下らない芸当で…………糞が!! ふざけるな、ふざけるなぁ!!

 

 

「うぉ゛お゛お゛!!」

 残った左腕で大剣を握り、身体を回転させて振るう。

 これだけ至近距離で、お前は俺をもう殺ったと思って油断してるんだろ?

 

 ───甘いんだよ。

 

 

 

 俺はな、執念だけは誰にも負けない自信がある。

 

 悪いがお前にはまた組織で飼われて貰う。

 

 

 こんな小さな島でお前みたいな化け物を野放しに出来ないからな。

 

 

 俺を見くびった事を後悔しやがれ。

 

 一撃で喰い殺さなかった事を後悔しやがれ。

 

 

 この命に代えても、この島の人達は俺───

 

 

「……ッァアアアッ!!」

「───へ」

 俺の最後の力の回転斬りは、奴に届く事はなかった。

 

 いや、届きはした。ただ、俺の大剣はイビルジョーの顎に噛み砕かれて二つに割れる。

 そのままの噛み砕いた大剣ごとイビルジョーは俺を砂浜に捨てた。

 

 

 

 ははっ……ははははっ。

 

 終わった。

 

 

 何も……出来なかった。

 

 

 化け物じゃねーか。畜生。

 

 

 

 身体が動かねぇ。

 

 死ぬのか……。

 

 

 もう、本当に娘達に会いに行けるかもしれない。

 

 いや……会えないだろうな。俺はいっぱい殺してきた。天国へは行けない。

 

 

「グラァァァァアアアア!!!」

 クソ……どんな気持ちだよ。

 

 早く、思い通りにやれよ。

 

 

 そんな願いを叶えてくれる相手は、俺から離れて行く。

 

 村を襲うかもしれない。

 もう、死ぬってのに。思い浮かぶのは少女の顔だった。

 

 飯…………美味かったな。

 

 

 

 

 

 

「…………もう少しの間は生きてるか」

 それからどれだけの時間が経ったか分からない。

 

 離れていく意識。もう少しで楽になれるという状態で、視界に一人の男が映ったのが見えた。

 

 ったく。なんだよ……。

 

 

「ハンターさん……」

 そして、もう一人。

 聞き覚えのある声だ。……うっすらと視界に映る少女は防具を着ている。ハンター……なのか?

 

 まさか、あの少女…………なのか?

 

 

「…………ま……さか。嬢ちゃんが…………ハンターだったとは、な。俺も口が…………滑った、か」

 だとしたら、この男は島のもう一人のハンターだろう。口が滑ったとはよく言った物だった。

 まさかこの少女がハンターだったなんて、思いもしなかったからな。

 

 

「……話せ、全部。お前は何者だ。何を捕獲しようとした。仲間はどうした。…………お前はもう死ぬ、全部話せ」

 だから、この男は俺が何者か分かっていたのだろう。俺に全て吐けと強要してくる。

 

 全く……死にゆく人間になんて厳しい男だよ。

 

 

「アラン?! なんでそんなに冷たい事言うの?! この人は───」

「密猟者、だ」

 確信を突かれる。こりゃ、逃げられないな。

 しらを切っても良いが。俺にも少女にも何の得もない。

 

「…………嬢ちゃん、ありが……な。でも、そいつの言う通り、さ」

「そ、それでも……だって……」

 涙を浮かべる少女。優しい子なんだな……。

 

「……まさ、か。こんな事になるとは……思わなかったのさ。三ヶ月前奴の餌やりの為にこの島に寄った…………あいつはその時点で、俺達の……手の、追えない存在に───ゴフッ」

 だから俺は、知っている事をあらかた口にする事にした。

 

「も、もう喋らなくて良いから! ハンターさん死ん───」

「話せ」

「アラン!!」

「………………良いんだよ、嬢ちゃん」

「ハンターさん……」

 涙を浮かべる少女の姿が、娘と重なる。

 

 

 朦朧とする意識。

 

 

 そろそろ…………だな。

 

 

「……俺は、悪人だ。んなこた、分かってるさ……だから、嬢ちゃん見たいな子を巻き添えにしない為に…………来たってのに、このザマだ」

「この島にソイツを連れて来たのはお前の仲間という事だな?」

「あぁ……そうだな。…………でも、悪気があった訳じゃ……ねぇ。俺達は人々の為に———」

「そんな事は聞いてない」

 俺の言い訳を、キッパリと切り捨てる男。

 

 アラン……とか呼ばれてたな。

 なるほど、多分…………こいつも俺と同じだ。

 

 

 目で分かるのさ。俺の同類と、そうでない奴の差って奴は。

 だが、不思議だな。こいつは……俺達とは考えが違うのかもしれない。

 

 

「…………ハハッ、そう、か。お前は俺達と同じ眼をしてる……だから、分かると……思ったんだがな。なんか、……違うのか、ね」

 不思議な……奴だな。

 

 

「ソイツは、イビルジョーだな?」

「…………ご名答」

 これ以上……もう口を動かすのも辛い。

 そろそろ眠りたいんだ。嫁や娘に会いたいんだ。

 

 

 なぁ……もう、良いだろう?

 

 

「…………お前、強いな? なら…………後の事、頼んだ……ぜ。その嬢ちゃん……の…………事も」

「……言われなくてもそうするつもりだ。勝手な事を言うな」

 ふっ……勝手な事か。悪いな。俺は、悪人なんだよ。

 

 

「………………嬢ちゃん」

「ハンターさん……?」

 

 

 

「……………………飯、美味かった…………ぜ」

 

 

 視界が黒くなって行く。

 

 

 死ぬって……どういう事なんだろうか。

 

 

 クソ…………今更怖くなってきた。

 

 クソ……クソ…………クソ……嫌だ…………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 

 俺はまだ……俺はま───

 

 

 ──あなた──

 

 ──お父さん──

 

 

    ★ ★ ★

 

「グォォォォッ!」

「グゥゥッ」

「コゥゥッ」

 

 

 

「これはまた、滑稽な姿だな」

 ここはとある島の海岸沿い。

 

 僕は乗って来たサクラから降りて、視界に映る光景を見るなりそう呟いた。

 言葉が漏れたと言う方が正しいかもしれない。

 

 

「サクラはここで待っていてくれ。何、大丈夫さ……今のアレにはもう何かをどうこうする力すら残っていない」

 心配そうに僕を眺める彼女の頭を撫でてから、僕はアレに向かって歩いていく。

 

 

 本当に、滑稽な風景だ。

 

 

 

「…………グ…………ォ……ァァ……」

 暗緑色の体色は血に塗られ、弱々しい姿からは同種を思わせるあの禍々しいオーラが一切感じられない。

 一匹の瀕死の獣竜種の姿がそこにはあった。

 

 名はイビルジョー。

 

 

「ラギアクルスに引きずり込まれて、それでも陸まで上がって来たのだけは……本当に凄いと思うけどね。流石はあの化け物の子供って所かな」

 でもな……。七年間、甲斐甲斐しく育ててきたのに……アランが居たとはいえドスジャギィもリオレウスも殺せないなんて。

 

 

 ───お前にはガッカリだよ。

 

 

 

「グォォォォッ!」

 そのポンコツの周りを囲むのは、海に流れる血に集められたモンスター達だった。

 

 ルドロスが何体かと、あの子供のラギアクルスまで居る。

 

 

「散れ……死にたくなかったらな」

 背中の太刀を抜いて、バカでも分かる殺気を出してやる。

 ラギアクルスは僕の事を覚えていたのか、すぐにイビルジョーから興味を離して海に引き返して行った。

 それを見たルドロス達も、何故かイビルジョーと僕を交互に見てから海に帰って行く。

 

 その光景を眺めてから。

 ルドロスに喰われる程弱かったソレに、僕は太刀を抜いたまま近付いた。

 

 

 

「滑稽だな」

「…………ァ゛ァ゛ァァ……」

「腹が減ったか? そろそろ限界だろう。だが、お前にはもう獲物を殺す力も残っていない。ちっぽけな僕にすら、手も足も出ない」

 こんな所でゴミ共の餌にするためにお前を育てた訳じゃないぞ。

 

 

「お前には、もっと……もっともっと喰って貰わなきゃ困るんだ。いつかアイツも殺す為にさ───だから」

 構えた太刀を、振り下ろす。

 

 既にボロボロで腐敗したイビルジョーの尻尾は簡単に切り落とす事が出来た。

 まだ神経が通っていたのか、切り離した瞬間イビルジョーは音にならない悲痛の叫びを上げる。

 

 

「ほら、喰えよ」

「グォォァァ……ッ」

「肉だぞ。お前の大好きな、肉だ」

「グォォァ…………ッ」

 恐る恐る、自らの尻尾に大顎を運ぶイビルジョー。

 

 

 胴体と同等の太さを誇る自らの尻尾をイビルジョーは口に運んだ。

 

 

 

「グォォァアアア!!」

 二口、三口と、勢いと共にイビルジョーの活力が戻っていくのが分かる。

 

「そういえば、同族は喰った事がなかったか? 美味いだろ? その味を覚えておけよ」

「グラァァァァアアアア!!!」

 食欲が湧いたのか、今度は僕に大顎を向けるイビルジョー。

 

 

 ったく、このポンコツは。

 

 

「ヴォァァァゥッ!!」

「グァォォッ?!」

 僕に牙を剥いたイビルジョーは、一匹の火竜に押さえ付けられる。

 少し、調教が必要かもな。

 

 

 

「サクラ、ソレを連れ帰るから船が来るまでそのまま押さえておいてくれ」

「ヴォァァァゥッ」

 アランが帰ってギルドを呼ばれる前にコレを回収しないとね。

 

 

 

「しかし……」

 死ななかったか、アラン。

 

 絆を捨てたお前が、モンスターと手を組んでイビルジョーを倒すなんてな。

 

 

 

 ───この裏切り者が。




読了ありがとうございますm(_ _)m

えー、実は作中で少し名前が出て来たギィギのハンバーグですが知っている方は知っている『あの作品』で登場した料理です。
使用許可を頂きましたので、チラッとですが場面に映りました。ありがとうございますm(_ _)m


さてさて、場つなぎの話としてなんだか変な話になってしまったな(´−ω−`)
次回とその次で今章も終わりです。その時には年を越しているのかな?なんとか今年中に終わらせたいぞ(`・ω・´)

でわでわ、またお会いできると嬉しいです。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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狩り人と乗り人の物語

「———だから、明後日にはやっこさんの船も来るでの」

「……そうですか。なら、そろそろ荷造りもしておきます」

 イビルジョーを倒してから、一週間と少し。

 

 

 奴のせいで崩れていた生態系も、この一週間で大分元に戻ってきた。

 この後もう一仕事あるが、明後日には大分落ち着く筈だ。

 

 だから、後はミズキ一人でも大丈夫だろう。

 

 

 

「報酬の件、感謝します」

「カッハハハハ! 何、ただ古い友人だっただけの事だ。まさか、怒隻慧(どせきけい)を探しとる輩が奴以外に居るとは思わなんだ」

 怒隻慧(どせきけい)。それは、俺から全てを奪ったモンスターの所謂二つ名だ。

 

 

 怒隻慧(どせきけい)───イビルジョー。通常種と異なるそのイビルジョーの特徴は、片目だけを赤黒く光らせている事だろう。

 

 食欲の箍が外れ、飢餓が暴走状態になったイビルジョーは全身の隙間から赤黒いエネルギーを放出する。

 その結果、両目が赤黒く光るのだが怒隻慧は身体の右半分だけを光らせて残りの半分は通常の状態で常に(・・)活動している。

 

 その姿は、まるであの時の───いや、考え過ぎか。

 

 

 怒り喰らう本能の傍ら、モガの森に現れた奴の様な狡猾さも持ち合わせたイビルジョー。

 誰が呼んだか怒隻慧。

 

 それが、俺が探し続けているモンスターだった。

 

 

 

 つい一ヶ月前、タンジアギルドでこの村長に声を掛けられた時にダメ元で怒隻慧について知っているか尋ねた所。

 このモガの森の異変を解決する事を条件に、俺と同じく怒隻慧の事を調べている知り合いを紹介する。

 

 そんな取引を、村長はしっかりと守ってくれたらしい。

 

 

「四年前、渓流に現れてからその消息は絶たれておる。聞くにやはり大喰らいのやっこさんはギルドでも最重要監視下にあった筈なのに……か。うんむ、厄介なモンスターを探しておるのぅ」

「……前に言った通りですよ。俺は、そいつを殺す為に生きている」

 そうだ。俺から全てを奪ったあの化け物を殺す。

 

 その為に、俺は生きている。

 

 

「一人でか?」

「……ぇ?」

 唐突に溢れた村長の言葉に、俺は何を言っているのか分からなくて聞き返してしまった。

 

「お前さんは、一人で戦いに行くのかの? と、少し気になっただけだ」

「一人でって……そりゃ、一人ですよ」

 もう、俺には家族も仲間も居ない。

 

 

 絆を深めた仲間は、もう居ない。

 

 

 

「この前モモナがの、ミズキにお前さんが出ていく事を伝えたそうだ」

 遠い所に目をやりながら、村長はこう続ける。

 

 

「ミズキの奴、お前さんが居なくなると知ってとても寂しそうにしとったらしいぞ」

「村に残る気はありませんよ」

 諭す様な村長の視線に、俺はすぐにそう返した。

 

 

 俺の仕事は終わりだ。

 後は、この村の───ミズキの問題だからな。

 

 

 

「それに……」

「うんむ?」

 

「俺にとって、仲間は……護るべき物は重いんですよ」

 だから、また一人に戻ろう。

 

 たとえ今から進む道が、地獄だとしても。

 

 

 俺がそこに、誰かを巻き込む事は許されない。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 。いならか分がろ後と前

 

 

 。すまり走は私、ままの覚感な妙奇なんそ

 

 

「!い良ばれすとうろ走にろ後てくなゃじ前」

 。いならか分かのるいてっ言を何がンラア

 

 

 。るすラクラクが頭

 !?のるてっなうどれこ

 

「!ャニるべ食れこうもーあ」

 。る来てし渡手をか何がキツム、とれやれや

 。なうよるれさ放解らか態状のこらたべ食 ?なか薬分多

 

 ───運に口をれそた来てし渡手がキツムにずえ考も何は私

 

 

 ─── に が い ! !

 

 

 

 視界がひっくり返る。

 まるで手足が思った方向と逆に動く感覚から、そのまた逆の感覚に陥った方向感覚が余計に感覚をグラつかせた。

 

「ホゥァァッ!」

 その隙を見逃さまいと、一匹の鳥が藍色の翼を広げて地面を駆ける。

 

 

 ただの鳥ではない。ただの鳥は人間より大きかったりしない。

 

 モンスター。彼等はこの世界の理だ。

 

 

 

「ひゃぁ?!」

 突進してくる巨大な鳥。

 藍色の羽毛に短い嘴。横に並ぶ赤い瞳は真っ直ぐに獲物である私を見つめていた。

 

 前のめりに掛けてくる突進を私は何とか地面を転がって回避する。

 正常に戻ったばかりの方向感覚がまた狂いそうな感覚を覚えつつ、直ぐに立ち上がって背後を確認した。

 

 

「ホゥァ、ホゥァァ、ホルルッ!」

 視野の狭い瞳を首ごと振って、逃した獲物を探すモンスター。

 やっぱり、その見た目はどんな鳥竜種よりも鳥に近いと思わされた。なんというか、フクロウを思わせる。

 

 

「ホルルァァッ!」

 そんなモンスター。夜鳥───ホロロホルルの背後に逃げて、なんとか息を吐く暇が出来たかと思ったのも束の間。

 ホロロホルルの首が百八十度回転してその視界に私達が映った。可愛い見た目をしている分、その光景には思わず悲鳴が漏れる。

 

 

「うぇ?!」

「鳥なんてあんなもんニャ」

 そうかなぁ?!

 

 

「ホゥァァ!」

 再び獲物を見付けたホロロホルルは、さっきと同じく翼を広げて地面を蹴った。

 

 モンスターとしては小柄だけど、私なんかよりは数倍大きな巨体での体当たり。

 当たって仕舞えば動けなくなって、後は餌にされてしまう事間違いなし。

 

 たとえここで許しを請うても、ホロロホルルにはその言葉に耳を傾ける理由がないんだ。

 

 

 だって、人と竜は相容れないから。

 

 

「伏せろミズキ!」

 さて、今度はどうやって攻撃を避けないといけないか。

 そんな事を考えていたんだけど、不意に背後から聞こえる声が私の次の行動を結論付けた。

 

 だって、彼の言う事を聞いているといつもそれで良い結果になる。

 

 

 素敵な体験が起きるんだ。

 

 

 私がモンスターの前で姿勢を低くした直後、背後で鳴り響く発破音。同時に突進してくるホロロホルルの真横を火の玉が通り過ぎる。

 

 火炎弾。火属性を有したボウガンの弾で、弱点なのか不意に撃たれたその攻撃をホロロホルルは大袈裟に起動をズラして避けた。

 そのおかげで、私は無傷。何よりホロロホルル()何度目かの発砲の後なのに、無傷だった。

 

 

「良くやったミズキ。ムツキ、この辺だな?」

 私の元まで駆け付けてきたアランは蒼色のボウガンを同じ色の装備の背に背負いながら、ムツキに確認するようにそう口を開いた。

 軌道を大きく逸らしてまた首を回しながら私達を探すホロロホルル。そんなモンスターを見る彼の表情は、なんだか暖かい。

 

 まるで、イビルジョーと戦っていた彼とは別人みたいだ。

 

 

 銀色の髪が風に乗る。ペンダントの綺麗な石を握る彼の手は、どこか嬉しげだった。

 

 

「まー、この付近で良いと思うニャ」

 そう返事をする黒い毛並のメラルーは、二足歩行の獣人種で先の白い尻尾と可愛い三角の耳が特徴的な私の相棒。

 

 そんなムツキは、私なんかよりとっても頭が良くて物知りで器用なお兄さん的な存在です。

 人間が使うアイテムなんかも、彼に掛かれば人より上手く使ってしまうのだから本当に器用だと思う。

 

 

 ところで、さっき私に食べさせたのは……何だったの?

 

 

「ホロロホルルの元の住処は。ほら、あそこに巣もあるニャ」

「なら、ここで俺達は消えるか。閃光玉は任せるぞ」

 そう言ってアランは黒い片手剣を持ち、未だに傷一つ着いていないホロロホルルに向かって行く。

 

 大きく踏み出すその音に、ホロロホルルはアランを見付けて振り向いた。やっぱり、なんだか可愛い。

 

 

「今だ!」

「ガッテンニャ!」

 そのタイミングで、ムツキの手から球体が放り投げられる。

 

 その球体はホロロホルルの視界の先、アランの背後で分裂したかと思えば突然景色を白色に染めた。

 

 

「ホェェァァッ?!」

 肉眼を焼き付けるような強い閃光を直接見てしまったホロロホルルは、視界を潰されて大きく仰け反る。

 真っ白になった視界への恐怖からか? ホロロホルルは羽を大きく広げて暴れ回った。誰一人として近付かないから、ホロロホルルのそんな恐怖は杞憂に終わるんだけどね。

 

 

 閃光玉。

 ハンターが使うアイテムの一つで、素材玉に生きたままの光蟲を閉じ込めたアイテムだ。

 

 ピンを抜いて投擲された閃光玉は一定時間で閉じ込められた光蟲を解放して、その際に光蟲が発する光を素材玉が増大化。眼球を焼き付ける様な閃光を発生させる。

 

 

 

「離れるぞ」

「うん!」

 そして、戻ってきたアランと一緒に私達は目が見えていないホロロホルルから離れていく。

 

 無傷でその場に立ち尽くすモンスターを見ながら。

 

 

 私はまた、とっても不思議で素敵な体験だな。なんて、そう思っていた。

 

 

 

 

「……落ち着いた様だな」

 双眼鏡を覗きながら、アランはそう言う。

 

 場所は変わって見晴らしの良い丘の上。

 覗き込む双眼鏡のその先には、私達をさっき襲っていたホロロホルルが落ち着いた様子でご飯を食べていた。

 

「可愛いなぁ……」

「一緒に遊ぼうなんて思うなよ……?」

「わ、分かってますー」

 

 

 人とモンスターが仲良くするなんて、難しい事。

 

 アランはそう言う。

 なのに、彼はとってもモンスターの事を分かってあげている。

 

 だから、こんなに素敵な体験が出来る。

 

 

 

「これで最後だな?」

「自分の住処から離れたモンスターは多分このくらいニャ」

「……なんとか間に合ったか」

 

 

 

 モガの森に現れたイビルジョー。

 陸続きの無いこの島で、イビルジョーは生態系を混乱に陥らせた。

 

 縄張りを失ったり、食料の会得が困難になったモンスター達は正常な縄張りから移動してしまって。

 イビルジョーを討伐した後も、この一週間モンスター同士の縄張り争いが絶えなかったの。

 

 

 それで、アランはあの手この手でモンスターを元の住処や新しい住処に誘導した。

 凄いんだよ、アランって。モンスターの事を分かってあげて、一切傷つけずに森の生態系を殆ど元通りに直すなんて……普通じゃ出来ないよね。

 

 だから、ここ数日は本当にずっと素敵な体験をしてたの。

 こんな日がずっと続いたら良いのに……なんて、事も思ってしまった。

 

 

 

「帰るぞ」

 でも、それも今日で終わり。

 

 あのホロロホルルが、住処がおかしくなったモンスターの最後の一匹だから。

 これで島は殆ど元通り。本当に、平和が戻って来たんだ。

 

 

「……う、うん」

「……どうかしたか?」

「あ、いや! なんでもないよ! 帰ろっか……。……今日はご馳走にしようね!」

「手伝おうか?」

「「それは無しで」ニャ」

「なぜだ……」

 こんな日々も、終わってしまう……。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 次の日も、私達はモガの森に来ていた。

 私達と言ってもアランとは別行動なんだけどね。

 

 

 今日の目的は森の生態系の最終チェック。

 島を一周回って、変な所にモンスターが居ないかだとか生態系の異常が無いか見て回るの。

 

 だから、アランとは別行動。お互いに島を半分ずつ見て回ります。

 

 

 きっと大丈夫だと思うんだけど、一応ね。

 この確認さえ終われば当分はモガの森も平穏を取り戻すと思う。

 それこそ、ハンターが島に居なくても……アランが島に居なくても問題ない程には。

 

 

「なーんか、あっという間だったニャ」

 森を歩きながら、ムツキはそう言う。

 

「……そうだね」

 本当に、あっという間だった。

 

 

 

 初めて会った時は、頭がおかしい人かと思っちゃった。

 

 だって、モンスター達が周りにいるのにぐっすり寝てるんだよ?

 その割には、人と竜は相容れない……とか言ってさ。

 その割には、モンスターの事を凄く分かってあげている。

 

 

 イビルジョーは仕方がなかったのかもしれない。

 でも、ジャギィ達やリオレウスと力を合わせて困難に立ち向かうその姿は本当に素敵だった。

 

 私の憧れの、あのハンターさんの背中を見ているようだった。

 

 

「どったニャ?」

「あ、ぇと、なんでもないよ! うん……なんでも」

 もう、そんな素敵な体験も出来なくなる。

 

 そう思うと、とても残念だなって思ってしまった。

 アランはアランで忙しいのにね。わがままだなぁ、私。

 

 

「ボクは……」

 歩きながら、ムツキは私の手を握ってくれる。

 どうしたの? なんて聞く前に、ムツキはこう続けたの。

 

「ミズキが何処に行くんだとしても、着いていくニャ」

「ムツキ……?」

 何処に……行く?

 

 

「アランを引き止めるのがダメなら、着いていっちゃえば良いニャ」

「…………」

 言葉が出なかった。

 

 そんな手が……。

 いや、でもよくよく考えれば無茶苦茶な話なんだ。

 

 

「む、無理だよ! 無理無理!」

「どうしてニャ?」

「まず、アランの邪魔になっちゃうし。それにお父さんになんて言うの?! 島の皆には?! モモナやミミナとも会えなくなるし……。そもそも、村のハンターが居なくなっちゃうよ?」

「この森の調子ならミズキは居ても居なくても一緒ニャ」

 酷い。

 

 

「むぅ……」

「ボクが言いたいのは、ミズキがどうしたいか……それを大事にして欲しいって事ニャ。それでもしミズキが島に残るにしても出て行くにしても、ボクはずっとミズキの側に居てあげるニャ」

「ムツキ……」

「ボクが居ないとミズキはてんでダメだからニャー」

「酷い」

 なんて言うんだけど、本当にムツキの優しさは嬉しかった。

 

 

 そっか、アランに着いていけばまた素敵な体験が出来るかもしれない。

 

 でも、それにはちょっと問題が多いよね……。

 

 

 

 

 その後ムツキと島を一周。

 特に異常は無かったんだけど、隈無く見て回ったから帰って来るのは夕方になってしまった。

 

 アランが出発するのは明日の朝。

 物事を考えるには、私にとってとても短い時間。

 

 

 頭が悪いんです! もう少し、もう少し考える時間を……っ!

 

 なんて思って、私は落ち着ける場所に向かう事にした。

 

 

「私が村から居なくなったら……どうなると思う?」

 農場のベンチに座って、沈んでしまった太陽の代わりに空を明るく照らす星々を眺めながら私はそう口を開く。

 この島の夜空はとても綺麗だ。でも、私はこの島の夜空しか記憶にないんだよね。

 

 だから、この島の外の景色を私は知らない。

 

 

「森も静かになったし居ても居なくても変わらないと思───ぎミャッ?」

「……もう喋らなくて良いみゃ」

 私が語り掛けた二人は、何時ものようにそうやって返してくれた。

 うん、本当に仲が良いよねぇ。

 

 

「……ミズキはどうしたい、みゃ?」

「私……?」

 私は……。

 

 

「村がとか、私達が、とかじゃなくて……ミズキがどうしたいか。それが一番大切だみゃ」

「どうしたいか、かぁ」

 それは、ムツキに言われた時から決まっている。

 

 

 でも、それはそんなに簡単な話じゃないよね。

 

 

 

「実際、ミズキが居なくなっても島は変わらないと思うミャ」

 思い悩んでると、モモナの口からそんな言葉。

 そ、そんなにかな?! 私ってそんなに役に立たないかな?!

 

「……モーモーナー?」

「ひ、人の話は最後まで聞くミャー!」

 怒ってくれるミミナだけど、話は途中みたいで。

 凄い形相で肩を掴んできたミミナの手を振り振りほどいてから、モモナはこう続けたの。

 

 

「ミズキとアランが必死になって守ってくれた森、今はとっても静かミャ。穏やかで、心地が良いくらい。モンスター達も安心してるミャ」

「えと……そうなの?」

 実感湧かないなぁ……。

 

 

 私は特に何もしてない訳だし。

 

 

「……みゃ、まぁ……モモナの言う通り。……森はとっても穏やか」

「もし何か起きても、私に任せるミャ!」

「……モモナに何が出来るの」

「ニャンターごっこ!」

「……私がやるみゃ。……モモナなんかには任せられない」

「ミャーーー?!」

「ふふっ」

 思わず笑みが溢れる。

 

 

 この二人は本当に仲良しだなぁ。

 

 そっか……大丈夫なのか。

 

 

「あっはは」

「ミャ?」

「みゃ?」

 でもそれは、彼女達───村の皆とお別れをするって事でもあるんだよね。

 私が居ても、確かに変わらないのかもしれない。

 

 でも、私には皆が必要だったんだ。

 当たり前のように居てくれた皆。失いそうになって、本当にその大切さを実感してる。

 

 

「ね、二人共」

「どったミャ?」

「……どしたみゃ?」

「ぎゅーってして良い?」

「ミャー」

「にゃー」

 私、決めたよ。

 

 

 ありがとう、二人共。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「なるほどなるほど、村を出て実家に帰らせて頂きます…………と───え゛?!」

 家の部屋で目を瞑って私の話を聞いてくれていたアイシャさんは、うんうんと頷いた後机をバンと叩きながら身を乗り出す。

 

 

「えぇぇえええ?! ど、どういう事ですかミズキちゃん?!」

 オフの時間帯なので、比較的ラフな格好の彼女。

 しっかり整えられていない服装は、むしろ彼女らしくてこの姿の方が落ち着いてしまいます。

 

 

「いや、実家はここだから……」

「そういう問題ではなくてーーー!」

 わなわなと肩を震えさせて興奮状態のアイシャさん。

 うーん……アイシャさんはてっきり優しく迎えてくれると思ったんだけど、やっぱりギルドの職員としてはそんな事出来ないよね。

 

 どうした物か。

 

 

「もう決めてしまったんですか……?」

 と、今度は瞳に涙を浮かべて首を傾げる。

 決意が鈍りそう……。ごめんなさい、アイシャさんには凄く迷惑を掛けると思う、ごめんなさい。

 

 でも、決めたんだ。

 

 私は───アランに着いていく。

 邪魔とか言われそうだけど。無理矢理でも着いていく!

 

 

「もうミズキちゃんが作るご飯はこれが最後なんですか?! もう食べられないんですか?!」

「そこなのかニャ?! この状況でギルドの受付嬢の反応がそこなのかニャ?!」

「何言ってるんですかムツさん、重要案件ですよ」

 え、どういう事。ギルド的には良いの? ご飯の方が重要なのこの人。

 

 

「まぁ、可愛い子には旅をさせろと言いますしねー。一応、村を出るならハンターズギルドの規則として書類を書かなきゃいけないんですけどそれは私が裏でこそっとやっておいてあげます!」

「あ、アイシャさん……。良いの……?」

 最初の反応にはちょっとビックリしちゃったけど、やっぱりアイシャさんは優しい人だ。

 

 こんな人達に支えられて、今の私が居ます。

 そう考えると───うぅ、今後が心配に。

 

 

「ふふっ、たまには帰って来て下さいね」

「アイシャさん……」

「でも、ちょっと残念です」

 ……うぅ、ごめんなさい。

 

 

「明後日辺りにあのハンターさん帰って来るのに」

「ミズキが居なくなるのに余裕こいてたのはそういう事かニャ……っ!!」

「え、あのハンターさんが?!」

 ナバルデウスから村を救った英雄。

 私はそんなハンターさんから、この村を託された……。なのに、結局何も出来なかったんだよね……。

 

 

「アランさんに着いて行ったら、ミズキちゃんあのハンターさんに会えないんですよ?」

「良いんです」

 だから、私はキッパリとそう答えた。

 

 

「ぇ?」

「私、あのハンターさんが村を出て行く時に約束したの。……私が立派なハンターになったら、一緒に狩りに行かせて下さいって」

「だったら尚更……」

「ううん、だからです!」

 目を瞑って、あの人の事を思い浮かべる。

 

 

 本当の英雄の姿を。

 

 

「私、まだ立派なハンターになんてなれてないから……。だから、修行して来る!」

 アランに無理矢理でも着いていって、彼に無理矢理でも教えて貰う。

 

 アランは……とっても凄い。あのハンターさんと同じくらい、私にとっては憧れの存在だ。

 彼のようになりたい。彼のようになれたのなら、私は胸を張ってあのハンターさんの隣に立つ事が出来るかもしれない。

 

 

 だから、私は行きます。

 

 

「ニャ」

 そんな決意を固めると同時に、お父さんが机に何やら小包を置きました。

 さっきまで黙って聞いてくれていたお父さん。

 

 私を助けてくれた、お父さん。

 この人には感謝しても仕切れない。

 

 

 でも、この人の為にも立派なハンターになりたい。

 

 

「お父さん……? これは?」

「三万ゼニーですニャ」

 ん? えーと、三万……ゼニー? ゼニー?!

 

「私の給料ですか?」

「黙ってろニャ」

「ムツさん、お別れだというのに辛辣過ぎませんか?」

 二人はその位が良いの。

 

 

「え、えと……どういう……事?」

 も、もしかして三万払うから行かないでって事……なのかな? いや、いやいや、お父さんがそんな事言う訳がない。

 

「ミズキ、旅に出るってどういう事か分かってますかニャ?」

 いつも以上に真剣なお父さんの声。

 

 お、怒ってる……?

 

 

「え、えーと、えー……どういう事、かなぁ?」

 こ、怖い。アイルーを怖がってるハンターの図とは如何に。いや、でもお父さんなんか怖い。

 

 

「船に乗ったり、外泊するという事ですニャ。下手をすれば野宿なんて事もありますニャ。夜になってもこの家には帰って来れませんニャ」

 ゴクリと、私は唾を飲んだ。

 

 

 考えもしなかった。

 の、野宿……船……。

 

 

「お金が必要ですニャ」

 そう言ってから、お父さんは普段の───いや、普段より優しい表情で小包を私の方に押した。

 

「持って行きなさい、ニャ」

「お、お父さん……」

「海老フライ食べ放題ニャ」

「ムツさん、コックさんの言うことちゃんと聞いてましたか? え?」

 あ、お父さんの海老フライ食べられなくなる……。

 

 

「いつでもとは言えないニャ。でも、たまには帰って来るニャ。ビストロ・モガは二人の家……ずっとここにありますニャ」

「うぅ……お父さん…………」

 私は、幸せ者だ。

 

 

 皆にお礼を返す為にも。立派なハンターにならなきゃね!

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「着いてくるな」

「ですよねー」

 そうと一言だけ告げて荷造りに戻るアラン。

 

 

 家に戻ってきたアランに「連れて行って!」と頼んだ所、一言で断られました。

 いや、分かってたけどね。分かってましたけどねー!

 

 

 

「お前に構っていられる余裕は俺には無い」

「アランは島を出て行って何をするの?」

「…………」

 素直に思った事を口にした質問に、彼は何故か固まって口を閉ざしてしまった。

 

 言いにくい事……なのかな?

 

 

 その後アランは口を聞いてくれなくて、そのまま一夜が過ぎてしまった。

 良いもん、こうなったらアイシャさん秘伝の裏技で着いていくんだから。

 

 もう荷造りも済ませてしまった。私の決意は変えられないのだ!!

 

 

 迷惑……なのかなぁ?

 

 

 

 

 皆に挨拶しておかないとね。

 そう思って、私はアランより早く起きて準備をする。

 

 こういう時だけなぜか行動力のある私。

 何でだろうねぇ?

 

 

「もう、行きますニャ?」

「うん」

「……眠いニャ。もう一眠りするニャ」

 ダメです。

 

「寂しくなりますニャ」

「ご、ごめんなさい……」

「そうやってすぐ謝るのは悪い癖ですニャ。自分を高める旅、応援してますニャ」

 お父さん……。

 

「私、頑張るね。頑張って、お父さんの娘として恥ずかしくないハンターになってくる。モガの村出身の凄腕ハンターって噂されるくらい頑張る。そしたら、モガの村が有名になって、必然的にお父さんのお店も有名になって……お父さんの役にも立てるかな?」

「期待して、いつでも海老フライをあげれる状態で待ってますニャ」

 本当にありがとう。

 

 

 私があるのは貴方のおかげです。

 

 頑張ります。

 

 

 

 

「行くのかミャ?」

 次に向かったのは、農場にある二人のお家。

 私の作戦上最後の挨拶は出来ないから。今、ここで。

 

「うん」

 この二人には、本当にお世話になった。

 

 アイテム採取すらまともに出来なかった私の手伝いをしてくれたり。

 虫が怖かったから蜂蜜も二人に取ってもらってたっけ。

 

 

「頑張るミャー! お土産期待してるミャ!」

「うん! 喜んで貰えるようなお土産も買ってくるねー!」

「……みゃ」

 モモナは元気に送り出してくれるんだけど、なぜかミミナは私のスカートをそっと掴む。

 そのまま涙を溜めた瞳を私の足に擦り付けた。

 

 

「ミミナ……」

「……気をつけて、みゃ」

 普段見せないような彼女の表情に、思わず抱き締めたくなります。

 心配してくれるんだね……。

 

「寂しい?」

「……全然寂しくなんて……無いみゃぁ!」

 言葉と行動が一致してないよぉ。

 

「ミミナー、それじゃミズキが行きにくいミャ」

「…………だってぇ。みゃ……」

 なんだろう……いつもと逆な気がする。

 

 

「ミミナには私が居るミャ!」

「……いらない」

「「酷い」ミャ」

 いつも通りか。

 

 

「……ミズキ」

「なーに?」

「……いってらっしゃい、みゃ」

「いってらミャー!」

「ウモゥ」

 二人に合わせて、アプトノスのジェニーも鳴き声をあげる。

 もしかしたら、分かってくれてるのかも知れない。そんな訳ないかな?

 

「…………。……うん! 行ってきます!」

 またね、二人の親友。ジェニーも、またね。

 

 

 

 

「本当に行くんだのぅ」

 日が昇り始める時間。船着場に着いた見知らぬ船の前で待っていたのは、村長さんだった。

 

「アイシャさんは?」

「徹夜でぶっ倒れとるぞ」

 アイシャさん……。

 

「そいで、昇天するまえにこいつをお前さんにとワシに渡してきおったわ」

「ほぇ?」

「アイシャからの荷物なんてロクな物じゃなさそうニャ……」

 こらー、そんな事言ってもぅ。

 

 

 でも、ムツキはアイシャさんと一番仲良かったから……なんだか寂しそう。

 

 

「これは?」

「ハンターズギルドの契約書かなんかなのではないかのぅ? ワシには難しい事は分からんが、あの娘が後はお前さんのサインだけで完成だと言っておった。これをギルドに提出すれば、お前さんも外の世界でハンターズギルドに公式に登録されるんだとか」

 ごめんなさい、ちんぷんかんぷんです。

 

 

「とりあえず名前書けば良いんですね!」

「そんな感じの詐欺とかありそうニャ……」

 なんでそんなにアイシャさんに辛辣なの?!

 

 

「うんむ。確かに受け取ったぞ。後は、これがギルドカードになるらしい。肌身離さず持っておいて、無くしたらギルドで再発行するようにという事だ」

 おぉ……これが噂に聞くギルドカード。

 

「後、娘から伝言を授かっておるぞ」

 アイシャさんからの伝言……?

 

 

 うん、きっとありがたい言葉に違いない。

 

 

「ムツさん、船にビビってお漏らししないようにして下さいね。との事だ」

「あのバカとっちめて来るニャーーー!」

「寝てるから! アイシャさん寝てるから!」

 あっはは……。アイシャさんらしいなぁ、もぅ。

 湿っぽいの苦手な彼女なりの、お別れの言葉なのかもしれないね。

 

 

 行ってきます。村の皆。

 

 雑貨屋さんも、加工屋さんも、船長も、皆、本当に、ありがとう。

 

 

 

「お、来たか」

「お前が村長が言ってたミズキかぁ!」

 村長が視線を船に向けてそう言うと、船から一人の男性が出てくる。

 

 

 暗い色の髪に目立つ蒼い瞳。

 鍛え上げられた肉体は古傷が見えて、歴戦のハンターなのかな? なんて思えた。

 

「……ぇ」

 ただ、その人が映る視界がなんでか揺らんだ。

 

 

 

 なんだ……ろう? 既視感がある。

 

 

「ん? どうかしたかぁ? 娘っ子よ。今から村を出て大きな世界に旅立とうってんだぁ! ボーッとしててどうするよぉ!!」

 その手が、私に乗せられる。

 

 

 あれ……? なんなんだろう? なんなんだろう…………これ。

 

 

 

 あなたは…………誰?




読了ありがとうございます!
第一章本編事態はこれで終了です。ありがとうございました。

次の話はエピローグとプロローグを合わせたような物になります。
年内には投稿したいと思っていますが……間に合うのだろうか。

来年は酉年ですね!
なんて理由でホロロホルル出してみたり。気が早いか。


間に合えば、年始には登場人物紹介のような物を投稿しようかななんて思ったり。需要は知らない。

年内にあと一話で(投稿できれば)、第一章正式に完結です。
ここまで続けられたのも応援してくださっている読者様のお陰。本当にありがとうございます。これからも、出来ればよろしくお願いしますm(_ _)m

ではでは、今回はこの辺で。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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進む物語とこれからの君へ

 少し冷たく当たり過ぎただろうか?

 

 

 朝起きていつもの様にミズキを起こしてやろうと思い、俺はそんな事を考えた。

 

 いや、そもそも今日は起こさなくても良いか。

 

 

 着いてくるなんて言われた時は思わず強く返してしまった。

 その時は「着いてくるな」の一言で無理矢理会話を終わらせて、ミズキに嫌な思いをさせてしまったかもしれない。

 

 

「……相変わらず、人付き合いはダメだな」

 この目覚めの悪さはいつもの事だ。

 

 

 こればかりは性格で、どうしようもない。

 思えば村の皆やカルラやヨゾラにも、あまり良い接し方は出来なかったな。

 

 嫌いじゃないんだ。

 むしろ、楽しかった。一緒に居たいと思った。

 

 

「……っ」

 そんな事を思ってしまって、俺は拳を強く握る。

 

 

 ダメだ。

 

「一緒には居られない」

 俺は誰かと居るべきではない。

 

 

 

 いや、居たくないんだ。

 

 これは弱い俺のわがままなんだ。

 

 

 

 もう、誰も失いたくない。

 

 だから、俺は一人で良い。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

「うんむ、忘れ物は無いかの?」

「はい、大丈夫です。その……ありがとうございました」

 この村長に出会わなければ、俺は奴の———怒隻慧(どせきけい)の手掛かりをいつまでも掴めなかったかもしれない。

 だから、俺は誠意を込めて村長に頭を下げた。

 

 

「カッハハハハ! おかしいの、礼を言うのはこちらだと言うのに」

 いつものように大きく笑い、彼はこう続ける。

 

「ワシからこそ、礼を言う。村を救ってくれた英雄よ……心よりの感謝を。また、気が向いたら遊びに来ると良い。ワシらは大歓迎だ。ここを……モガを、第二の故郷と思ってくれて構わんでのぅ!」

 笑顔で言う村長は俺の肩を何度か叩く。

 

 普通に痛い。

 

 

「……ありがとうございます」

 第二、か。本当は第三になるんだがな。

 

 

「おめぇがアランか!」

 そうやって村長と話していると、村に停まっていた船から一人の男が話しかけてくる。

 モンスターの一匹や二匹が乗りそうな大きな船で、彼の姿はとても高い位置にあった。

 

 彼が、村長の言っていた人物か。

 しかし大きな船だな。階段を使ってやっと降りて来る彼を見ながら俺はそう思う。

 

 

「……はい、俺がアランです。早速ですが怒隻慧の事で───」

「焦るな焦るな! 船旅は長いんだ、いくらでも話してやる。今は別れを惜しむ時間だろう?」

 暗い色の髪に蒼い瞳が印象的なその男性は村長と同じように肩を叩きながらそう口を開いた。

 

 

 鍛え上げられ、ガタイの良い身体。

 しかし目の前で愛想良く笑う彼の第一印象は、愉快な人物という所か。

 

 歳は三十代後半から四十代前半という所だろう。

 しかし老いを見せ付けない身体つきは頼もしさすら感じられる。

 

 

「そ、そうですね……。すみません」

「謝るような問題じゃぁねーよ! ま、俺は船で待ってるから挨拶を済ませてから登って来い」

 ニッと笑う彼は、そう言った後に村長に話し掛ける。

 

 一体どういう繋がりで村長と仲良くなったのだろうか。

 まるで旧友とでも話すように、二人は会話を弾ませていた。

 

 

「アーラーンーさーん。これ、お土産です!」

 そうやって二人を見ていると、背後から女性のそんな声が聞こえる。

 

 受付嬢か。彼女の性格からして嫌な予感しかしない。

 

 

「……これは?」

「モガハニーです!」

 振り向いて彼女が手渡して来た物を手に取る。

 

 瓶に詰められた褐色の液体。

 これは一時期数万単位で取引されていたという、モガの村特産モガハニーか?

 

 

「農場の蜂の巣箱、直ってたのか……」

「アランさんとミズキちゃんが二人で頑張ってる間に、モモナさんが修復してミミナさんが手入れして、なんとかアランさん出発に間に合った訳ですよ!」

 なぜか自分の胸を張り、そう自慢気に話す受付嬢。

 貴女は何かしたんですか、とか聞いたらダメなんだろう。とりあえず頂いておこう。

 

「……ありがとう」

「……とれたて。味が薄くならないように、とれたてで摂取するみゃ」

 そう言う農場のアイルーミミナはスプーンを三つ渡して来る。

 

「……なぜ三本」

「……予備」

 そうか……。

 

 

「ミャ! アラン、ミズキの事頼───グフェッ?!」

 ん? ミズキがどうしたって? てかなんで殴られてるんだこのネコは。

 

「……アホ」

「あ、危なかったミャ……今日ばかりはミミナに大感謝ミャ」

 何が危なかったんだ……。

 

「もー、危ないですねモモナさん。ミズキちゃんの密───グフェッ?!」

「……アぁイぃシャぁぁぁ?!」

「ごめんなさい」

 ミズキがどうした……?

 

 そういや、あいつこの場に居ないな。

 

 

 見送りはしてくれないのか……。

 まぁ、昨日あれだけ強く言ってしまったしな……。

 

 ……別に、良いんだ。

 

 

 俺は一人になる位が丁度良い。

 

 あいつだって、俺と居たら不幸になる。

 

 

 だから、これで良いんだ。

 

 

 

 でも、見送りくらい来いよ。

 

 お前の甘い所とか、色々注意して……一応少しの間でも師として剣の振り方だけだが教えたんだ。

 今後どうすれば良いかとか教えてやろうと思って一晩考えていた事も無駄になってしまった。

 

 

 ……まぁ、良い。

 

 

 

 また会う事が出来たのなら、色々教えてやろう。

 

 

 

 ……じゃあな。

 

 

 

 

「もう良いのか?」

「……あぁ」

 船に登ると彼は笑顔で出迎えてくれた。

 

 さて、長い船旅だ。

 ゆっくりアイツの事について聞くとしよう。

 

 

 

「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はリーゲル、医者をやっている」

 そう言いながら、リーゲルさんは右手を出して来る。

 

 俺は迷わずにその手を握り───違和感を感じた。

 硬い。まるで、人の腕ではないような、防具を握ったような感覚。

 

 よく見れば、それは本当に人の腕ではなかった。

 

「あぁ……気になるか?」

「あ、いえ…………そういう事では」

「義手なんだよ」

 義手……?

 

 

「本物の腕じゃないって事だ。本物はお前の探してる奴に喰われちまってな……不便だから作った」

「な……」

 彼も、アイツに襲われた人物という事か。

 そして生き延びた。アイツを探しているという理由には大体見当が付く。

 

 

「気色が悪いか? ん?」

「いえ、そんな事は。……凄いですね」

「お、褒めるか。成る程これは良い! ほれ、握手しようか。リーゲル・フェリオンだ」

「アラン・ユングリングです。宜しくお願いします」

「おぅ! 楽しい船旅にしよう」

 しかし、謎の多い人物ではある。

 

 

「船を出すぞ。甲板に出て手を振ると良い」

「……手は振りません」

「照れ屋さんか?」

「そういう訳では」

 また会えるとは、限らないからな。

 

 

 ただ、甲板には出て村を見る。

 

 

 村人のほぼ全員が船着場に集まっていて、全員が手を振ってくれていた。

 

 良い村だったと思う。

 暖かく、生き生きした活気のある村だ。

 

 

 

「…………あいつ」

 ただ、その中にミズキの姿はなかった。ムツキも居ない。

 

「ん? どうした」

「……いえ、なんでも」

 最後まで出て来ないつもりか……。

 

 

 船が動き出す。

 

 視線をミズキの家に合わせるが、一向に誰かが出てくる気配はなかった。

 

 

 

 次第に島が小さくなっていき、もう肉眼では見えなくなる。

 

 あの野郎……。

 

 

 

 まぁ、良い……。関係ない。俺には関係ない。

 

 

 

 

「いつまって突っ立ったんだ? 中に入れ入れ」

「あ、はい……」

 そうだ。何も俺は師弟ごっこをやる為にモガの村に来た訳ではない。

 

 アイツを探して、殺す為に。

 その為の情報を得る為に、ここまで来たんだ。

 

 

 

 あのイビルジョーやカルラの事は、思わぬ副産物だったがな。

 カルラの事はタンジアに着いたらウェインに調べさせれば良いだろう。最悪それだけで話がつく。

 

 

 

「この船には、一人で?」

 リーゲルさんに連れられた部屋は船の大きさと比べると小さな部屋だった。

 ベッドが一つに向かい合うソファーが一対。キッチンと食べ物を入れて置く蔵、それになぜか大タルが二つ置いてある。

 

 

「ん? あぁ、そうだな。まぁ、この船は砂上船にもなる優れもんだ。俺はこの船に住んでいるみたいな物だからな」

「移動しながら医者をやっているという事ですか?」

「察しが良いな、そういうこっちゃ」

 成る程、移動診療所か。

 

 

「お前は飲める口か?」

 そう言いながらキッチンからグラスを四つ取り出すリーゲルさん。

 なぜ四つ……?

 

「結構です」

「お茶か?」

「それで」

 答えを聞くと、彼は四つのグラスの内三つにお茶を入れてソファーの前の机に置く。

 そうしてから置いてある樽の前に立って「ありゃ、どっちだったか? こっちか」と呟いてからタルの蓋を開けた。

 

 

 中に入っていたのは濃厚なブレスワインだったようで、蓋を開けた瞬間その芳醇な香りが部屋中に広がる。

 樽の中は酒が入っていたのか。と、なるともう一つの樽は違う酒が入っているのだろう。

 

 

「飲め飲め。話をするにぁ、まずは喉を潤さないとな?」

 そう言いながら、リーゲルさんはベットに座り込んで手に持ったグラスを口元で逆さにした。

 豪快に喉に吸い込まれていく液体を、彼は一気に飲み干す。

 

 

「そうですね……」

 さて、やっと話を聞ける。

 

 この人がなぜ怒隻慧を探しているのかは大体予想はついたが、その成果がどれ程の物かはまだ未知だ。

 四年前のあの時から消えたアイツの手掛かりを、彼は握っているかもしれない。

 

 

「ん、そろそろだな」

 俺がお茶を一口飲んだ所を見てから、彼はグラスにもう一杯の酒を入れる為に樽に手を伸ばす。

 ベッドのすぐ側に置いてある樽はさっきとは別の樽だ。違う酒を飲む気なのだろうか?

 

 

「もう大丈夫だぜ、ここまで来たら泳いで帰れだとか鬼でも言わねーだ───ってありゃ? ありゃりゃ、寝てやがるぁ?!」

 …………は?

 

「…………は? あの、リーゲルさん?」

 樽の蓋を開けると同時に妙な反応をするリーゲルさんに俺は困惑を隠せなかった。

 

 

 おい。

 

 

 待て。

 

 

 嫌な予感がするぞ。

 

 

「こーら起きろミズキ。んな所で寝る奴があるか! ムツキもだ!」

 ミズキだ?! ムツキだぁ?!

 

「ちゃっと待て!!」

 思わず吹き出しそうになったお茶をなんとか堪えながら、立ち上がって樽の前に立つ。

 上から見上げれば樽の中には体操座りで丸まって目を瞑っているミズキとその膝の上で同じような格好をしたムツキの姿があった。

 

 

「……お……前…………ら」

 言葉を失うとはこの事を言うのだろうか。比喩表現ではなく、本当にそれ以外の言葉が出て来なかったのだ。

 

 確かに俺は、強く言って何を言ってきても連れてくる気はないと言動で示した。

 だからと言って、こんな、密航?! ミズキにそんな行動力があるなんて思わなかったのは俺の過ちか。

 

 

 混乱する頭で俺は考える。

 

 こいつどうする気だ。

 

 こんな所に隠れて、流石に船を引き返して貰う訳には行かない。

 というかリーゲルさんの反応からして───グルだな。

 

 

「…………んぁ? あー……アラン? おはよー」

 そんな俺の心の中の葛藤など気にもしてないボケた表情で朝の挨拶をしてくるミズキ。

 一瞬この樽ごと海に放り投げようかとも思ったが、二人の過去を思い出してなんとか思い留まった。

 

 

「……何してる」

「……尾行?」

「密航ニャ、ミズキ。ちょっと違うニャ」

「成る程、密航」

「何してるって聞いてるだろ……っ!!」

 樽を持ち上げてひっくり返す。頭から落ちて地面を転がる二人にイラつきつつも、内心楽しんでいる自分が居るような気がした。

 

 いや、ダメだ。

 ……ダメだろ。

 

 

 とりあえず、二人はタンジアに着いたらモガの村に送り付ける……絶対にだ。

 

 

 

「いったぁ……何? 何? 地震?!」

「せ、世界が反転したニャ……ホロロホルルニャ……」

 この二人は……。

 

「……ったく、お前らなぁ」

 本当に、困った奴だ。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「ここに隠れるとかどうだ? 防具と武器とか荷物は倉庫にしまっといてやる!」

 朝方、リーゲルさんに訳を話すと彼は心良く私の相談に乗ってくれました。

 

 

 私の相談っていうのは、島を出て暫くアランの乗る船に隠れていて……島が見えなくなる位離れてから登場。

 もう連れて行くしかなくなるよね、大作戦なのです!

 

 我ながら頭が回り過ぎて怖い。もしかして天才なんじゃないかな?

 なんてムツキに言ったら物凄く馬鹿にした表情で無言で私を見て来たので傷付きました。

 

 

 それで、気が付いたら隠れていた樽の中で寝てたんだけど。

 アランに叩き起こされる形に。

 

 酷いんだよ?

 頭から地面に落とされるし。頭にチョップするし。

 頭割れちゃいそう。モンスターだったら確実に部位破壊されてるダメージを貰いました。

 

 

「お茶おいしいねー」

「ずっと息苦しい樽の中だったから生き返るニャ」

「……お前達分かってるんだろうな」

 呆れ声でそう言うアラン。う、怒ってるかな? 怒ってるよね……。

 

 でも、引く訳には行かない。

 

 

 

 私には、アイシャさんに授かった二つの言い訳がある!!

 

 

 

「別に、私アランに着いていくなんて言ってないし」

「……は?」

 そう、これがアイシャさんから教わった一つの言い訳!

 

「私、旅に出るから。その旅の向け先にアランが居るだけだもん」

「とんでもない屁理屈が出て来たニャ。アイシャだニャ。絶対にアイシャだニャ」

「面白い言葉遊びだな娘っ子よぉ!」

 ムツキは若干引いていたけど、リーゲルさんは褒めてくれました。

 

 初めて会った時は変な感覚がしたんだけど、この人は普通に良い人です。

 でも、あの感覚は何だったんだろうね?

 

 

「一人で旅なんてやめておけ。お前みたいのは直ぐにでも死ぬ」

「じゃあアランに色々習いたいな!」

「帰れ」

 むぅ……。

 

 

 流石はアイシャさん曰く頑固無表情無慈悲なアラン。

 でも、私にはアイシャさんがとっておきと言っていた魔法の言葉があるのです。

 

 良く意味は分からないんだけど、こう言えばアランは逆らえないってアイシャさんは言っていた。

 アイシャさんが言うのだから、間違いはないのです。

 

 

「アラン……」

「なんだ……」

 呆れ半分でお茶を喉に流し込むアラン。

 一方でムツキも手伝ってくれずにお茶飲んでるし、もぅ。

 

 良いもん、アイシャさん直伝の技使うから。

 

 

「お金を取る気なら、代金は私の身体で払うから!!」

「「「ブゥゥゥゥッォ?!?!」」」

 私がそう言うと、お茶を飲んでいた二人どころかお酒を飲もうとしていたリーゲルさんまで全員が口の中の水分を吹き出してしまった。

 

 え?! なんか私変な事言った?!

 

 

「アイシャぁぁぁぁあああああ!!!」

 叫ぶムツキ。まるでイビルジョーの如く、怒りに全身から凄いオーラを放つメラルー。物凄く怖い。

 

「おいミズキそれはアレだよな? あの受付嬢に言えって言われたんだな?」

「お前よ、悪い事は言わないから二度と身体で払うとか言うんじゃぁねぇよ?」

 何か、発言に問題があったみたい。

 

 世間的に悪い事を言ってしまったのかな?

 

 うーん、アイシャさんたまに抜けてる所あるからなぁ……。

 

 

「…………はぁぁぁ」

 そして、とても大きな溜息をつくアラン。

 頭を抱えるその姿に、やっぱり凄く罪悪感を覚えた。

 

「あ、アラン……。……ごめんなさい。……困らせてる?」

「そりゃ、な」

 う……。

 

 

「悪かったな」

「……ぇ?」

「お前に狩りを教えるのを途中で放り出した形になった。お前はそれが中途半端で嫌だった……そうだろ?」

「アラン……」

 ふふ、半分は正解です。

 

 

 でもね、違うよアラン。

 私が教えて欲しいのは……確かに狩りの事もなんだけどね。

 

 あの素敵な体験を、まだ私は体験したかったから。

 ただ、それだけなんだ。

 

 

 

「だから、まぁ……。危険の無い場所には連れて行ってやる……かもしれない。……だから俺の言う事は絶対に守れ。……良いな?」

「アラン……っ!! う、うん!! やった! あっはは、ありがとぅ、アラン!」

「嫌気がさしたら直ぐにでも村に樽で送り付けるからな」

 酷い。

 

 

 でも、良かった。

 

 これでまた、素敵な体験が出来るかも知れない。

 

 

 

「っと、話は纏まったか?」

 ソファで話す私達二人の話が纏まった所で、リーゲルさんがベッドから話しかけて来る。

 何もかも密航を許してくれたこの人のお陰。本当にありがとうございます。

 

 

「……そういえば話の途中でしたね」

「まぁ、その話より重要な事があるぁ」

 重要な事……?

 

 

「飯だよ」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「十五年前だ」

 皆が食べ終えたご飯の食器を片付けながら、リーゲルさんは唐突に口を開いた。

 

 

 海の上でのご飯らしく、お魚のソテーを頂きました。

 流石にお父さんの物と比べる事は出来ないけど、私は大満足のお味。

 

 

「後に怒隻慧と呼ばれるようになったそのイビルジョーは、突如としてとある村に現れた」

 食器に水だけを浸けると、彼は樽からお酒を酌んでベッドに座る。

 

「どせきけい……?」

 イビルジョー……?

 

「俺が探しているモンスターだ」

 と、アランは軽く私に説明してくれた。

 

 

 モンスターは生き物だ。

 だからそれぞれ個体で生きていて、偶にその種族から見ても強力な個体が出現したりする。

 丁度人間であるハンターにも強さがバラバラであるみたいにね。例えば、私とアランなんてモスとリオレウスみたいな差がある。

 

 実力の伴う個体には噂や格付けから、本当の名前とは違う名前で呼ばれたりするの。

 有名な人だとヘルブラザーズっていう二人が有名だよね。

 

 その、ハンターでいう有名どころの人。つまりモンスターでいうその種族でも強力な個体にもヘルブラザーズみたいな二つ名を与えられる事があるの。

 ギルドが監視したりして、ずっと警戒してないと危ないような個体。それが、二つ名モンスター。

 

 

 とは、後にムツキに聞いた話で私の知識ではありません。

 

 

 

「村に現れた?」

「あぁ……」

 聞くと、表情を暗くするアラン。

 

 もしかして……その村って───

 

 

「俺と、アラン……お前の故郷だ」

 どこか遠い所を見ながらリーゲルさんはそう告げる。

 

「あなたは……あの村の生き残りだったんですか?」

「あぁ……。いや、まさか俺以外に居たとは思わなかったがな」

 私はこの時なんだか違和感を感じた。

 

 それが何なのかは、分からないんだけど。

 

 

 なんでだろうね?

 

 

「まるで地獄を見るような光景だった。目の前で妻が喰われ、俺の目に映るのは真っ赤になった村だった場所。今でも夢に見る」

「…………腕は、その時に?」

「……あぁ」

 その話を聞いて、なぜか私の脳裏に映る光景。

 

 

 なんだろう、これ。

 

 

 

「それが、あなたがアイツを探している理由ですか」

「俺はアイツの居場所を探してる。そうだな……言葉にするとコレは何も間違っちゃいない」

 二人は、そのイビルジョーが憎いのかな。

 

 憎いん……だよね。

 

 

「変な言い回しですね……」

「ふっ、そうか? はっは、変かぁ」

 お酒が回っているからか、アランの言葉を聞いて大袈裟に笑うリーゲルさん。

 ふと立ち上がると、彼は徐ろに右手を取り外してベッドに置いた。

 

 義手って凄い技術だなぁ……なんて思ってそれを見ると、義手の手の甲に綺麗な石が嵌め込まれているのが見えた。

 蒼く光る綺麗な石。どこかで見た事がある気がする……。

 

 

「なぁ、お前ら。人がモンスターを狩る事についてどう思う?」

 そして唐突に、彼はそんな質問をしてきたの。

 

「狩りについて……?」

「自然に生きる生き物を、己が勝手に狩りと称して殺す事を……お前はどう思う?」

 アランに顔を近付けて、リーゲルさんはそう聞いた。

 己が勝手……? それは、違うと思う。

 

 

「勝手じゃなくて、ちゃんと生態系の間引きって理由があるニャ」

 それに答えたのはアランではなくてムツキだった。

 うん、そうだよね。私達ハンターは生態系の調整役。だから、必要以上には狩らない。

 

 決して、人間だけの都合で殺してる訳じゃない。

 

 

「そんなのは、人間が勝手に決め付けた生態系だ。生き物ってのはな、自然ってのは、人間が手を加えなくても勝手に廻って行く。それを調整者気取りした人間が勝手に弄くり回すから、余計に世界のバランスは悪くなる…………違うか?」

 そ、そう言われると……なんとも返し難い。

 

 

「人間は勝手に世界の生き物を自分の物だと思ってる。なぁ、そんなのはおかしいと思わないか?」

 なんでこんな話になったのか分からない。

 

 

 ただ、リーゲルさんの言っている事はなんだか正しい気がして。

 私はハンターという仕事が悪い事なのかなって、一瞬思ってしまった。

 

 アランの言葉を聞くまでは。

 

 

「人間も、自然ですよ」

 目を瞑ったまま、アランはその一言だけをリーゲルさんに告げる。

 

 それが彼の考え。

 

 

 きっと、彼を取り巻く環境を作っていた考えなんだと思った。

 

 とっても素敵な考えだと思った。

 

 

 

「…………。……なるほど、はっはっはっは!! なるほどなるほど上出来だ。面白い答えだ気に入ったぁ!!」

 大笑いしながらアランの肩を叩くリーゲルさん。

 一体どんな意図があってあんな事を質問してきたのかな……?

 

 ふと船の外を見て見ると、まだ夕方には早いのに空は暗くなっていた。

 窓に着いている水滴を見てやっと雨が降っていた事に気がつく。

 

 

 嵐かな……?

 大きい船だから、大丈夫だと思うけど。

 

 

「酔っ払って変な事聞いてるニャ?」

「そんなに弱かねぇっての。素だよ素!」

 なんだろう。変な感じがする。

 

 

 嫌な感じがする。

 

 

「所で、俺はミズキの答えも聞きてぇな」

「ぇ、あ、えーと……私───」

 そんな私の言葉を掻き消すように、空で雷が鳴った。

 

 遮る物の無い海上で、轟音が響く。

 

 

 外は大嵐になっていて。

 

 船が、一度大きく揺れた。

 

 

 

 

「ニャ?! 水没?! 漂流はもう嫌ニャーーー!」

「お、お、お、落ち着いてムツキ!」

 凄く大きく揺れた……。床が鳴ってるし、なんだか私も不安だ。

 

「大丈夫だ大丈夫。この船はそう簡単には沈まない…………が、どうやら厄介なお客さんが来ちまったようだな」

 そう言いながら甲板の方に視線を移すリーゲルさん。

 それに合わせて、私もアランもその視線の先を追い掛ける。

 

 

「ゴァァァァ……ッ!」

 巨大な、何かが居た。

 

 完全な形は嵐とその何かの体色のせいで分からない。

 

 

 黒いシルエットに、一対の翼。

 

「甲板にモンスターが居るニャ?!」

「落ち着けムツキ! 閃光玉はあるか?」

「こんな時が来るかと思って持ってきたボクを誰か慰めて欲しいニャ……」

 そんなプルプルと震えるムツキから閃光玉を貰って、立てかけてあったボウガンと片手剣を手に取るアラン。

 

 ふ、船の上で戦うの?

 

 

「ちーと、ヤバイか? こんな事もあろうかと、ほらよ!」

 後ろからリーゲルさんのそんな声。振り向くとリーゲルさんは私の片手剣───というか双剣を手に持っていた。

 

「防具着る暇はないだろうが、これだけでも気休めになるだろ」

「あ、ありがとうございます!」

 ここでアランの役に立つために、船に乗せてくれたリーゲルさんの為にも戦って、頑張ろう。

 

 

 そう思って、私もアランに続いて甲板に出る。

 

 

 

「……ぇ」

 ただ、視界に映ったその存在に私の身体は動かなくなっていた。

 

 

 背中から伸びる一対の翼の先は脚のように爪が並んでいる。

 だから、最初に見た時はティガレックスみたいなモンスターなのかな? なんて思ったの。

 

 次に視界に映る四本(・・)の脚を見るまでは。

 

 

 

「古龍…………?」

 それは、この世界の絶対的な理。

 モンスターと呼ばれる生き物達の中でも、頂点に君臨すると言われている種族。

 

 その種の特徴は、他のどんな種族にもない強大な能力や体格。

 

 と、いうよりは他の生き物とは全く異なる特異的なモンスターの総称みたいな物で。

 もっと言ってしまえば人が定めた種族に当てはめられないような規格外の生物。

 

 

 それが、古龍。

 

 

 数年前モガの村を襲った超巨大モンスター、大海龍ナバルデウスもその種に含まれる。

 

 その強大な力は天災とも呼ばれる物で、人間は愚か他のモンスターだって古龍から見れば小さな存在だった。

 

 

 目の前の生き物は、まさにそれだ。

 

 流線型の頭部に一対の翼、四本の脚。

 実際に見た事なんてないんだけど、いつかアイシャさんに聞いたとある古龍の姿にそのシルエットは良く似ていた。

 

 

 鋼龍クシャルダオラ。

 未知の生物である古龍種の中では、比較的研究が進められているモンスター。

 アイシャさんがいつか見せてくれたモンスター図鑑で見たシルエットがこんな感じだった気がする。

 

 

 

「なんだ……こいつは……っ?!」

 アランのそんな声。

 

 嵐が酷くて、アランの姿がハッキリと見えない。

 それなのに目の前のモンスターの存在感だけはハッキリと私に伝わった。

 

 

 危険だ。

 

 身体が、感覚が、私にそう告げる。

 

 

 

「ゴァァァァアアア!!!」

 咆哮が空間に響く。

 

 骨にまで伝わってくる、恐怖。

 

 

 私の身体は動かない。

 

 

 

「逃げろミズキ!」

「……ぇ───」

 アランの声が聞こえる。

 目の前のモンスターが動く。

 

 何もかも飲み込んでしまいそうな黒い身体が、私の身体を撫でた。

 

 

「ミズキぃ!!」

 身体が浮く。

 

 不思議と無い痛覚。

 

 

 何故か視界に映るリーゲルさんの船。

 

 

 ぇ……私、船から……落ちてる…………?

 

 

 次の瞬間、私は海面に叩きつけられて視界が海水に妨げられた。

 

 

 

 何……これ…………嫌だ…………嫌───

 

 

「───ッ!!」

「……っぁ!」

 突然視界が開ける。目に映るのは海面に浮いているリーゲルさんの大きな船。

 

「大丈夫かミズキ! ミズキ!」

「……ぁ……ぁ、アラン……?」

 そして、海に沈んだ私を助けてくれたアランだった。

 

 

「アラン……」

「生きてるな?! ……はぁ。なら良い」

 良くない。

 

 こんな海の中に飛び込んだら、アランだって───

 

 

 それに船にはムツキとリーゲルさんが残ってて、その船は今モンスターに襲われている。

 

 全然、良くないんだ。

 

 

 

「おーい生きてるかぁ?!」

 船の上から聞こえるリーゲルさんの声。その肩には、ムツキが乗った───私が隠れていた大タルが担がれていた。

 

 

「気休めだがこれに掴まれ!! 絶対に諦めるなよ?! お前らはまだこんな所で死ぬべきじゃぁないんだ!!」

 そして投げられた大タル。

 

 

「嫌ニャぁぁぁぁぁ!!!!」

 そんなムツキの悲鳴と共に、私達の目の前に大タルが流れて来た。

 私とアランはそのタルに掴まる。

 

 

 嵐のせいで、リーゲルさんの船と私達は直ぐに離されてしまった。

 視界が悪くて船を見失ってしまうし、大タル一つで私達はこの大海に流される事に。

 

 

 

「アラン…………ごめんなさい」

「……ミズキ、怪我は無いな? 意識はしっかりしてるか?」

「ぇ……あ、うん」

「嫌ニャぁぁ……漂流は嫌ニャぁぁ……」

 アラン、なんだか優しい……?

 

「生きてくれてるなら、それで良い。ミズキ……なんとしてでも生き残るぞ。こんな事で死んでたまるか……」

「あ、えと、う、うん!」

 こんな事になってしまったのに……アランは凄いなぁ。

 

 

「嫌ニャぁぁ……嫌だニャぁぁ……」

 

 

「それに……」

「それに……?」

「リーゲルさんにはもっと話を聞きたかったからな……。あの人は何か変だった」

 変……?

 

「リーゲルさん……大丈夫かな?」

「多分、大丈夫だ。俺達よりはな」

 あ、やっぱり私達大ピンチ?

 

 

「ミズキ……諦めるなよ」

「う、うん」

 

「もうダメニャぁぁ……」

 ムツキぃぃ……。

 

 

 

 こうして、私達は西も東も分からない状況で大海原を漂流する事に。

 

 結果的には、とあるキャラバン隊に助けられるんだけど。

 本当、もうダメかと思ったよ。助けてくれた団長さんには感謝しても仕切れない。

 

 

 

 所で、リーゲルさんの船に現れたあのモンスターは何だったんだろう?

 

 思い返すと、なんだか禍々しい物が脳裏に映る。

 

 

 

 流線型の頭部には───眼が無かったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「ゴァァァァアアア!!!」

「ったく、感動の再会を良い所で邪魔しやがってよ。てか何だ? お前さんは……。見た事ない奴だな」

 

「ゴァァァァ……」

「まぁ、良いか……。悪いが俺もまだ死ぬ訳には行かねーんだ。手加減は出来ねーかもしれねーぞ? そっちが本気ならなぁ」

 

 

「ゴァァァァアアア!!!」

「へぇ、そうかい。ほいじゃ、派手に暴れて貰おうかねぇ……」

 

 

 

 

「ライドオンッ!!」

「グォォォアアアアアッ!!!」

 

「■■■■■■!!!」

 

 

    ★ ★ ★

 

 

 孤島地方、イビルジョー出現事案の報告書。

 

 今回の普通生息域から外れたイビルジョーの出現の報告。

 原因は調査中であるが、密猟者によるモンスターの輸送が原因との見解をギルドには報告したい。

 

 件のイビルジョーは村のハンターであるミズキ・シフィレと助っ人のアラン・ユングリングが討伐。

 死骸は見つからなかったが、孤島地方からは完全に消滅したと見て間違いはない。

 

 ここに、イビルジョーによる生態系の破壊は解決したと見る事をギルドに報告する。

 

 

 ギルド受付嬢アイシャ。

 

 

 

「ふぅ……」

 いやぁ、堅苦しい文字は本当に疲れますね。

 

 私はアオアシラのハグの予備動作のように手を広げて身体を伸ばします。

 今日も朝日が眩しい(時刻は午後二時)ですね。おやすみなさい、徹夜です。

 

 

「おーい娘っ子や、船が着いたぞ」

「なんですか? おやすみなさい?」

 村長がその場で寝ようとする私に話し掛けて来るので、おやすみなさいと一蹴。

 

 私は眠いんです。

 

 

「あのハンターが帰って来たのにつれないのぅ。お、そう言っとる間に来たわい」

「え゛ハンターさん?!」

 そう聞いて顔を上げると、そこにはもう忘れたくても忘れられないそんな顔が。

 

 本当にずっとずっと、どこで遊んで来たのか。

 

 笑顔で久しぶりだと挨拶をしてくるあのハンターさんの姿があったのです。

 

 

 もう、本当、なにが久しぶり、ですか。

 

 何年待ってたと思うんですか。

 

 

 ミズキちゃん行っちゃいましたよ!!

 

 他にも色々あったんですよ?!

 

 

 そんな事を言っても、この人は困ってしまうかも。

 

 

 しかし、これだけは言いますね。

 

 

 

「おかえりなさい。あ、今度はもう何処にも行かせませんよ。永住してもらうつもりで居てくださいね!!」

 そう言うと、ハンターさんは苦笑いでとりあえずは了承してくれた。

 

 ふふ、変わってないですね。

 

 

「冗談ですよー、だ」

 行ってらっしゃい、ミズキちゃん。

 

 モガの村は当分大丈夫なので。

 

 

 頑張って来て下さいね。

 

 

 

 END……




読了ありがとうございます。
これにて第一章完結です。ここまでお付き合いして下さった方々は本当にありがとうございました!!

さて、もうお気付きかと思いますが第二章はあのお話にそって話が進んで行く予定です
賛否両論あるかと思いますが、もし宜しければまた今後もお付き合いして下さると嬉しいです。



さてさて、余談を。
私の作品ではゲームの主人公、つまりプレイヤーキャラを名有りで登場させる予定はありません。今回のモガの村のハンターみたいな登場の仕方で貫きたいと思っています。
やっぱり、ゲームの主人公は私達プレイヤーの分身のような物ですし。そう易々とキャラクターとして出そうとは思えないんですよね。私の意見ですが。


さて、本当に第一章終わらせる事が出来ました。
重ね重ねですが、本当に皆様の応援のおかげです。

感想とか評価とか貰えるともっと頑張れるので(貪欲)気が向いたらお願いします(`・ω・´)←

Re:ストーリーズとしては、今回が今年最後の更新になりますです。
年始には登場人物紹介とかやってみるつもりです。もし宜しければ、お楽しみになって下さい。

第二章もその後淡々と書いていくと思います。



さて、長くなるので今回はここまでで。

皆様良いお年を!!!


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狩り人と龍の物語 —The wing undermined blackly— 我らの団と出会いの街

 人が走っていた。

 

 鬱蒼と生い茂る木々を掻い潜りながら、必死に、文字通り命を懸けて駆ける。

 時折、傍の相棒を心配して視線を送るが心配は無用。ちゃんと付いて来ていた。

 

 

「グァァァァッ!!」

 そんな彼を背後から追い掛ける巨大な影が、鳴き声を上げて周りの木々を揺らす。

 揺らした木々を薙ぎ倒し、人間の何倍もあるその身体を一歩また一歩と木々の間を走る人物に近付けて行く。

 

 

 走り続けてどれだけの時間が経ったか。

 

 木々が途切れ、視界が開けた。目の前に広がる高原。

 自分の身長と同程度の高さの段差を、転がる様に降りたその先にあったのは地割れ。

 とてもじゃないが、助走なしに跳び越えるのは難しいだろう。常人であれば。

 

 そして、後ろから彼を追う生き物はそれに対して例外だった。

 

 ここを跳び越えなければ、その巨体に轢かれる。

 

 

 すぐ後ろまでその生き物は迫っていた。

 

 迷っている暇はない。

 

 

 彼は常人とは掛け離れた脚力で大地を蹴り、跳んだ。

 彼の相棒も同時に飛ぶが、相棒の身体とその能力では向こう側に届かずにそのまま落下してしまう。

 

 一方で向う岸になんとか手を掛けた彼の、その頭上を巨大な影が跳び越える。

 後一瞬でも跳ぶのが遅ければ、視界に映ったソレにこの身をバラバラにされていただろう。

 

 そんな事に安心する暇もなく。

 彼を跳び越えた生き物はその場で身を翻し、崖に手を掛けただけの彼にその巨大な頭を向けた。

 

 

 頭だけでも人間より大きなその生き物は、大顎を開けて間髪入れずにその牙を向ける。

 そのままでは崖に捕まっただけの彼はその身を食い千切られるか、または地割れに落下するかのどちらかだろう。

 

 彼も覚悟をした次の瞬間、生き物の頭を突然横から何かが殴る。

 

 

「グォァァ?!」

 突然の痛覚に首を振る生き物。大きな傷ではないが、生きとし生けるものとは痛覚には反応せざるをえないものだ。

 

 その隙を彼は見逃さず。

 一瞬の内に這い上がり、生き物の横を通って援護をしてくれた仲間(・・・・・・・・・・)の元へと駆けた。

 

 地面を掘り進んで背後に現れる相棒を横目で確認してから、彼は全速力で進みその先にある段差へと登る。

 巨大な生き物よりも高い段差を駆ける彼の視線の先では、もう一人の人物が身の丈程の筒を巨大な生き物に向けて発砲していた。

 

 装填された弾を打ち切ったその人物は、その筒を背負いながら自らの相棒と一緒に大きなタルを担ぐ。

 しかし彼の想像以上に生き物は早く接近して来ていて、タルを地面に置いたその瞬間には目と鼻の先に跳びながら接近されていた。

 

 

 その生き物へ、段差を登り走っていた彼は飛び移る。

 

 突然押し寄せた背中への衝撃で、生き物は跳躍の勢いを殺されて地面に叩きつけられた。

 そんな生き物を確認しては、二人の小さな相棒が生き物へ飛びながら突進。

 

 

 それを合図に生き物の背中に必死にしがみついていた彼はその手を離し、巻き込まれない様に跳躍する。

 

 

 態勢を整えたもう一人が再び筒を構え、タルに向けて発砲したのはそれとほぼ同時。

 

 

 

 筒から放たれた弾丸がタルを直撃したのはそれから瞬き一回分の時間の後だった。

 

 次の瞬間、タルに詰め込まれた火薬に火が付き爆炎が生き物を包み込む。

 破裂音が轟き、辺りに舞うタルの破片と炎。

 

 

 

 それをしかと目に焼き付ける二人の人物。

 

 彼等は狩り人(ハンター)

 この世界の理に触れる者。

 

 

 この世界の理とは何か。

 

 

「…………グォァァ……」

 爆炎を振り解き、人ならば形も残らぬ爆発を耐え抜いた一匹の竜が彼等の視界に再び君臨する。

 

 

 この世界はモンスターの世界だ。

 

 強大で、強靭で、強堅な生き物達。

 この世界の支配者は人間ではなく、彼等モンスター。

 

 

「グォァァアアア!!!」

 そう、この(モンスター)こそがその理の一部。

 

 

 そんな理に立ち向かうべく、彼等は己の得物を再び構えた。

 

 

 

 人は弱い。

 

 しかし、それでも、勝てないと分かっていても———

 

 

「グォァァ———」

「ゴァァァァ!!!」

 二人の狩り人に牙を剥く竜を、突如上空から飛来した龍が踏み砕く。

 

 龍とさほど体格差のなかった竜だが、その力に圧倒され爆発に耐えた命を簡単に散らせた。

 この世界は彼等の世界だ。

 

 弱肉強食。

 

 端的に世界の理を表すなら、その言葉が最も適しているだろう。

 

 

 弱い者は食われ、強い者が喰らう。

 

 

 ———分かっていても。

 

 

 

 勝てないと分かっていても。挑戦者は挑む。

 

 

 自らの何かを掛けて、戦うんだ。

 

 

 

「ゴァァァァ!!!」

「はぁぁ!!」

 

 

 それが、この世界の理だから。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 慣れない乾燥した空気に、私は唾液を飲み込んだ。

 

 

 喉が乾く。単純に乾燥しているだけではなく、周りの温度も関係しているんだと思う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「暑い……」

「暑いニャ……」

 私と、私の相棒のムツキは同時にそう呟く。

 

 

 インナー姿で備え付けのベッドに体操座りする私の隣で、横に倒れながら身体中を自分の舌で舐めるムツキを見ては、暑そうだなぁと思いながらその可愛い仕草を眺めた。

 黒い毛にモフモフと包まれた身体、先の白い尻尾と可愛い三角の耳。獣人種アイルーの亜種メラルーのムツキは、私のオトモアイルーにして頼りになるお兄さんです。

 

 そんなムツキだけど。この暑さには慣れないのか、だらしない格好でずっと自分の身体を舐めている。

 こういう時、モフモフな毛は邪魔なのかもしれないね。

 

 

「暑いと言葉にするから暑くなるんだ。自己暗示は案外バカにならない。これは、覚えておいて損はない。後……服くらいちゃんと着ろ」

 離れた所から冷静に口を挟んでくる一人の男性。

 

 銀色の髪に、赤い瞳。綺麗だけど欠けた石のネックレスを首に掛けた彼はアラン。

 タンジアという街のギルドのハンターさんなんだけど、私の故郷モガの村がある孤島地方の異変の解決をしてくれた人物でもあるの。

 

 

 アランは凄いんだ。

 モンスターの事を分かってあげて、傷付けずに事情を解決したり。時にはモンスターの助けになったりした。

 そんなアランの活躍で孤島地方の異変はちょっと悲しい結果だったけど解決されて。

 

 私はそんなアランと別れるのが嫌で、村を出て行くアランにわがままでこうやって付いて来ているんだ。

 

 

 それでね、リーゲルさんという人の船で島を出たんだけど。

 

 その船は航海の途中で一匹のモンスターに襲われたの。何とかしようと武器を持って立ち向かおうとしたんだけど……。

 私は海に落とされちゃって、私を助けるためにアランとムツキも武器とタルだけを持って海に放り出されて。

 

 

 その後嵐の海に流されて、私達はリーゲルさんと離れ離れになってしまったんだ。

 

 リーゲルさんは大丈夫かな?

 早く安否を確認したい。

 

 

 それで、流されちゃった私達なんだけど。

 

 たまたま。本当にたまたま、海上を通り掛かった漁船に魚さん達と一緒に釣り上げられたの。

 タンジアではない小さな村の船着場まで無事に辿り着いたは良かったんだけどね?

 

 

 その時点での私達の持ち物は。

 

 武器と、タル。

 

 一文無し。お父さんに貰ったお金も、持って来たアイテムも、防具も、ボウガンの弾も無し。

 あるのは大タル。私達の命をそこまで運んでくれた大タルだけ。

 

 本当に絶望的状況でした。ハンターとして仕事をするにも難しそうなのどかな村だったし。

 タンジアまでどの位の距離があるか聞けば、一文無しの私達が向かえる距離じゃない。

 

 

 助けてもらえたお礼も出来ず、そこから動く事も出来ず。

 

 困り果てていた私達に手を差し出してくれたのは、漁船に乗っていたとある中年の男性でした。

 

 

 ——俺はとあるキャラバン隊の用事で来ててな。どうだお前さん達、バルバレまで一緒に旅をしてみんか? なぁに遠慮は要らんさ。ここで会ったのも何かの縁。旅は道連れだとも言うだろ? はっは!———

 

 赤い帽子を被った、快活な男性。

 我らの団というキャラバン隊の団長をやっている彼の助けで、私達が彼と行動を共にして早二週間。

 

 

 私達は連絡船に乗って、この広大な砂漠を渡りバルバレという街に向かっている。

 

 砂漠なのに船。

 砂上船は、細かい砂の粒子で出来たこの砂漠をまるで海の船のように渡る乗り物なんだって。

 初めて乗った時は私もビックリ。船が砂の海を航海するのは新鮮な光景でした。

 

 

 

 ただ、それなりに長い時間が経つと風景の変わらない砂漠の航海はとても暇なんです。

 

 次第にワクワクは暑さへと塗り替えられていき、最終的にはこの有様。

 

 

 

「暑い……」

「暑いニャ……」

「お前らな……」

 アランは暑くないのかなぁ……。

 

 

「はっは! 初めての砂漠に大分苦戦してるみたいだなお前さん達は」

 船の甲板から降りて来たその人物は、何やら瓶に入った液体を手に持ちながらそう話し掛けて来る。

 年季を帯びた白い髪に赤い帽子が良く似合うその人こそ、我らの団というキャラバン隊の団長さんその人だ。

 

「あ、団長さん。あはは……」

「年頃の嬢ちゃんがそんな格好で男の前に居るのは感心せんなぁ。ん? これでも飲むか」

 そう言って団長さんは手に持っていた瓶を私に渡してくれます。

 これはなんだろう?

 

 

「えーと」

「クーラードリンク、ニャ。飲むと身体の芯から体温を下げてくれるハンター御用達のアイテムニャ」

 なんて素敵なアイテム。

 

「お、よく知っとるな」

「昔諸事情がありましてニャ」

 フッと小声で団長さんから目を離して呟くムツキ。

 ど、どうしたんだろう……。

 

 

「ほれ、これ飲んで服は着ると良い。まぁ確かにこの辺りで着るにはいささか生地が厚いかもしれんがなぁ」

「私は別に気にしてないですよ」

「気にしろニャ」

 裸を見られてる訳じゃないし?

 

 

「それに、ハンターさんもインナー姿だし!」

 ムツキがなんだか細かいので、私は同席しているもう一人の人物を見ながらそう反論しました。

 

 今この場には私とムツキにアランと団長、それにもう一人の人物が居る。

 その人もこの連絡船に同席した人なんだけど、何やら話を聞けばバルバレの街のギルドにハンターとして登録しに行くんだって。

 

 つまり、まだ正式なハンターという訳ではないんだけど。

 

 うん、でもなんだろう。この人はなんだか凄い気がする。

 まるでモガの村のあのハンターさんを見ているような、あの人と同じ何かを感じるんだよね。

 

 

「ほほぅ、快活な嬢ちゃんだ。アランと言ったな、お前さんのガールフレンドは危機感が足りんと思うぞ」

「———ブホッ、ゲホッゲホッ。が、ガールフレンド?! ち、違います」

 団長さんの言葉に飲んでいた水を吹き出すアラン。新鮮な姿に笑いを堪えようとするけど、堪えきれずに出た含み笑いを見てアランは私を睨み付けた。

 

 あ、これ後で怒られる奴だ。

 

 

「っと、俺の勘違いか。悪い悪い!」

 と、愉快に笑いながらまた甲板に向かう団長さん。

 

 本当に、彼にはお世話になりっぱなしだ。

 バルバレに着いたらクエストでもなんでもして、お礼を返す事をアランに相談しなきゃね。

 

 

 

「所でお前さん達、もう少しでバルバレに到着だ。どうだ、外に出て一緒に眺めないか?」

 階段を登りながら、彼は私達にそう話し掛けてくる。

 

 こう誘われたら、行くしかないよね。

 それに街が見えてくるって事は景色が変わるって事だし。

 

 砂の海に浮かぶ街。一体どんな所なのか、今からドキドキするなぁ。

 

 

 

 

 視界に広がるのは、広大な砂の海。

 

 未だに街は見えないけれど、もう少しで着くんだよね。

 

 

 

「お、全員上がってきたか」

 団長さんの言う通り、私やムツキを含めアランやハンターさんも甲板に上がってきていた。

 アランが上がって来たのはビックリ。景色とか興味なさそうなんどけどな。

 

 

「アラン? どうかしたの?」

 そんなアランを見てみると、何故だか周りの風景じゃなくて空を見上げてるから、どうしたんだろうと思って声を掛ける。

 空に何かあるのかな? 遮る物の何もないこの砂漠では、太陽が眩しいだけな気がするんだけど。

 

「アレは…………ガブラスか?」

 ガブラス?

 

 アランが呟く。その言葉を聞く私の後ろで話をしていたハンターさんと団長さんも、その言葉に導かれるように全員が空を見上げた。

 

 眩しくて見にくいんだけど、何だろう。竜が飛んでいる気がする。

 ただ、リオレウスみたいな飛竜じゃなくて。少し小さな竜が何匹か。

 

 

「お前さんも気が付いたか」

 アランの言葉にそう変事をしたのは団長さん。

 どうやらアランより前に気が付いていた見たいで、腕を組みながらその小さな竜を見上げていた。

 

 

「お前さん達、気にならないか? あの上空にいるガブラスの群れ。さっきから奴ら、妙にザワついている」

 私には眩しくてその竜達がどんな状況か見えないんだけど、少なくとも団長さんにはそう見えてる見たい。

 

 

「い、嫌な予感しかしないニャ」

 ムツキがそう言うのには、理由がある。

 

 これは後で聞いた話なんだけど。

 ガブラスという蛇竜種のモンスターは、不吉の象徴とされているんだって。

 なんだか可哀想な話だけど、そう言われる理由はその生態にあるらしい。

 

 

 ただ、私にはムツキや団長が言っている事が分からなかった。

 

 次の瞬間に、船が大きく揺れるまでは。

 

 

「ニャ?!」

「うぇ?!」

 突然、衝撃の後に足元が傾く。

 垂直に近くなっていく床に、私の身体は船の外に放り出されそうになった。

 

「ミズキ!」

「わっ?!」

 そんな私の手を取って助けてくれたのはアラン。

 その手に捕まって、ムツキは私の足にしがみ付いて何とか傾く船から落ちずに済む。

 

「また船から落ちるのは嫌ニァぁぁ!」

「お、ぉ、おぉ、落ち着いてムツキ!!」

「ぬぉ……っ。マズイな。お前さん達、船から落ちるなよ! 踏ん張れ!!」

 帽子に手を乗せながらそう言うの団長さんは、傾いた船の奥をキッと見詰めていた。

 まるでそこにある物を確かめるように。

 

 

 一体何が起きているのか?

 

 突然の衝撃の後に傾いてしまい、今にも横転してしまいそうな船。

 何かに横から押されているのだろうか? いや、でもこの船は例えリオレウスが押したって傾く事なんてなさそうな程大きな船だ。

 

 もしこの船を何か生き物が押しているのだとしたら、それはもうとても巨大な生き物だとしか考えられない。

 例えば、大海龍ナバルデウスとか。でもここは海じゃないし、この見晴らしの良い砂漠でそんな大きなモンスターが居たら気が付かない訳がなかった。

 

 

 そんな考えは大自然からすればちっぽけな考えだったと、私は次の瞬間思い知らされる。

 

 巨大な何かが、上空に映ったんだ。

 団長さんが見詰めるその先、ガブラスと太陽だけが映っていた視界に途方もなく大きな何かが突然映る。

 

 

 それだけで小さな船よりも大きな巨大な角。そしてそれよりも大きな身体はこれまで見た事のあるモンスターと比べたって比較すら出来ないほど巨大だった。

 それはまるで、話だけで聞いた事のあるナバルデウスの大きさと比べるのが一番しっくり来る大きさ。島への体当たりだけで島全体を揺らしたあの大海龍と同じかそれ以上。

 

 そんな生き物が、私の視界———空に映ったんだ。

 

 

「ガブラスは古龍の先駆け、やはりダレン・モーランだったのか! うぉ———」

 視界にその生き物が映ると同時に、傾いていた船は元の姿勢に戻って行く。

 その衝撃で、団長の帽子が頭から外れて船に着いている大砲に引っ掛かった。

 

 とってあげたいけど、手が届かない。

 

 

 そして、身体も動かなかった。なぜか。

 

 さっきまで視界に映っていた巨大な生き物が目の前で砂の中に消えるなんて光景を見せ付けられたからだ。

 規格外の巨体が忽然と視界から姿を消す。この砂の海とも呼べる砂漠の砂をあの大きな生き物は泳いでいるとでも言うのだろうか。

 

 

 その巨体は、なんの事もなしに身体の半分だけを砂の上に浮上させて私達の船の真後ろに着いた。

 

 

「何……あれ…………?」

「豪山龍、ダレン・モーランか……。古龍だ」

 ナバルデウスと同じ……。あの生き物も、古龍……?

 

 そんな会話をしている間に、大砲に引っ掛かっていた団長の帽子は風に煽られて船の外に飛んで行ってしまう。

 

「船は治まったか?! だが……なんてこった、俺の帽子が……。あの中には大切な……」

 揺れる船の上からその光景を見ていた団長さんはダレン・モーランを見詰めながらそんな事を呟く。

 大切な帽子だったのかな……。あの時私が拾っていれば……うぅ……。

 

 

「いや、今はそれどころじゃない……。このまま奴が進めばダレン・モーランの腹でバルバレがペシャンコだ」

 名残惜しそうに言うけど、事の重要性を冷静に捉えてそう発言する団長さん。

 そう、この先には私達の乗る連絡船の行先であるバルバレという街がある。

 

 でもこんな大きな生き物が街へ近付いたら、大惨事は免れない。

 大切な帽子を探す事よりも、団長さんはその事を気にして慌てていた。

 

 

「俺は周囲の船に救難信号を上げよう。お前さん達、この船の設備でダレン・モーランを少し脅かしてやってくれないか?」

「大砲とか、ニャ?」

「その通りだ!」

 そう言うと団長さんは、船に備え付けられた緊急用の救難信号を上げる準備をする。

 自分の大切な帽子の事より、他の人達の安全を気にする。団長さんはそんな人なんだった。

 

 

「のわっ」

「うわっ?!」

 突然、また船が揺れる。なんだろうと船の側面を見てみれば、ダレン・モーランが船のすぐ真横へと近付いていた。

 

 大きい。

 本当に、乗っている船の何倍も大きい。

 

 

 

 モンスター。

 

 それはこの世界の理だ。

 

 

 空に、海に、大地に。

 

 様々な場所に生息する生き物達は、私達人間には考えられない程強大な力を持っている。

 

 私達は彼等をモンスターと呼んだ。

 

 

 

「これが……古龍」

 その中でも、古龍と呼ばれるモンスター達はこの世界に住まう生き物達の中でも規格外な生き物達。

 天災と呼ばれるものや、幻と呼ばれるもの、山の様に巨大なもの。そんな生きる伝説とも呼べるモンスターが今私の目の前に君臨していた。

 

 そういえば、リーゲルさんの船に現れたあのモンスターも———

 

 

 

「あ、帽子!」

 ふと、私の視界に砂の海に消えた筈の団長さんの帽子が映った。

 それは古龍ダレン・モーランの背に引っかかっていて、見付かったは良いけどとてもじゃないけど取りに行けない。

 

 

「なんだって? 俺の帽子を取ってきてくれるってのか?!」

 そんな事を思ってたんだけど、インナーだけのハンターさんが団長さんにそんな提案をしたみたい。

 え?! 危ないよ?!

 

 

「あ、アラン止めてあげなきゃ!」

「良いんじゃないか?」

 嘘ぉ?!

 

 

「畜生、にくいねェハンターさん!! よーし、ならばお前さんに託そう! 今ならダレン・モーランの腕から背中に登れる。あ、身体にロープを巻くのを忘れるなよ!」

 団長にそう言われると、ハンターさんはインナーだけの姿でダレン・モーランの背に向かって行く。

 

 その姿はとても果敢に見えて、格好良かった。

 

 凄い人だなって、思ったんだ。

 

 

 

「よーし、俺は救難信号。お前さん達は大砲で攻撃だ!」

「ガッテンニャ!」

 ムツキと一緒に私も敬礼して、大砲の弾が置かれている場所まで走る。

 むむ……け、結構重い。

 

 

「さて俺は救難信号———っと、なんだお前ら?!」

 そんな団長の声が聞こえて、私は振り向いた。

 

 視界に映るのは小さな魚竜種のモンスター、デルクスが船に飛び乗って団長さんを囲う光景。

 

 身体の半分を占める背びれとヒレの様になった前足、退化した後ろ脚にするどいキバが特徴的なデルクスが五匹。

 小さなと言っても私より大きなデルクスに噛まれて仕舞えば大怪我は免れない。

 

 

 危ない———そう思った瞬間。団長さんはその内の一匹を船の外に蹴り飛ばした。

 

 え?! 団長さん凄い?!

 

 

「ムツキ、音爆弾!」

 驚く私の後ろで、アランがムツキにアイテムを要求する。

 直ぐにポーチから出て来たお目当のアイテムを、アランは団長を囲うデルクスの群れに投げ込んだ。

 

 瞬間、甲高い音が鳴り響く。

 

 

「ギィッ?!」

 その音にビックリしたデルクス達は逃げる様に船から、団長さんから離れて行った。

 

「お、助かったぞ!」

 流石アラン!

 

 

 

 そして、団長さんが救難信号を上げると同時にハンターさんが団長さんの帽子を持って船の上に戻って来たの。

 本当に取ってきた?! す、凄い……。

 

 

 

 

 どれだけ強大なモンスターでも、立ち向かう事は出来る。

 

 ハンターと呼ばれる者達は、そういう人達だ。

 

 この広大な自然に向き合う存在だ。

 

 

 このハンターさんも、アランも、そして……私も。

 

 

 

「さぁ! 援護が来るまでなんとかするか!!」

 

 私達は狩り人(ハンター)

 

 

 

「ブォォォァァァアアアアアアア!!!」

 彼等はモンスター。

 

 

 

 

 ようこそ、モンスターハンターの世界へ。

 

 

 これは、狩り人と龍の物語。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 地図に載らない街。

 そう呼ばれだしたのは、いつからだったか。

 

 

 移動式の集会所を中心に様々なキャラバン隊や商人などが集まるこの街は、どんな地図にも載っていない。

 

 それは、この街があの移動式集会所の移動と共にキャラバン隊もが移動してそこに人が集まり街になるからだ。

 様々な人が集まるこのバルバレには、世界各地の物が集まる。物が動けば情報も動き、何か知りたい事があればバルバレに行けと言われるまでこの街には全てが集まった。

 

 

 全てが集う場所。

 地図に載らない街。

 

 ここ、バルバレはそう呼ばれている。

 

 

「なんとか街に被害は無さそうだな……」

 俺達がこの街に着いたのはついさっきの事だ。

 

 到着するまえに、まさか街が古龍の襲撃を受けてその古龍———ダレン・モーランの迎撃戦に参加させられるとは思ってもみなかった。

 

 

 色々な人物の活躍で、ギリギリ街への被害は無かったらしい。

 

 その中でもあの、インナーだけで武器も持たず防具も無いハンターが果敢にも古龍に挑んでいたのには正直驚いた……。

 

 

「危なかったねぇ……」

「もう少しで大惨事だったニャ」

 隣を歩くメラルーと一人の少女。金髪に蒼色の瞳、黄色の無地のワンピースに麦わら帽子は彼女の故郷であるモガを思わせ———今は砂漠にあるバルバレでは妙に目立つ格好をしていた。

 

 まぁ……インナー姿で街を歩かれるよりはマシか。

 

 

 モガの村から強引に付いてきた彼女を、俺は何故か追い返すことが出来なかった。

 そのせいでミズキを危険な目に合わせたというのに、俺はまだこうして彼女の隣に居る。

 

 誰かと居れるのが嬉しいんだろう。

 だが、巻き込んでいる……その意識だけは離れない。

 

 

 いつかは別れなければならない。

 

 けど、その時までは———

 

 

「でも凄いねぇ、バルバレ! モガの村より大きいし、色々売ってる! 服とか買っちゃおうかなぁ?」

「そんな金どこにあるニャ」

「ぁ……」

 俺達は今、一文無しだ。

 

 

 リーゲルさんのあの船に武器以外、防具もアイテムも所持金も置いていってしまったからな。

 とりあえずの目的は、リーゲルさんに再会する事だろう。あの防具は特注品だからな。

 

 だが、タンジアに戻るにしても俺達は今日食べる金すらない。

 

 

 あるのは、俺達を乗せていた大タルだけだ。

 

 

「このタル売れないかなぁ……」

 ミズキは眼を半開きにして、ムツキが背負う大タルを見詰める。

 そんな物、売ったって財布の足しにもならないだろう。

 

「な、何言ってるニャミズキ! この大タルは僕達の命の恩人ニャ?! 売るなんてあり得ないニャ!」

 ムツキが大タルに恩義を感じている……。

 

「ご、ごめんね……」

 謝るのか。

 

 

「でも、確かにお金もなければ僕達このままオジャンニャ……? タルも命には変えられないニャ?」

「いや……タルを変えても命にはならん」

 精々パン一切れか。

 

「うーん……どうしようね」

 さて、どうした物か。

 

 

 そうやって悩む俺達の前に、ここまで世話になったキャラバン隊の団長が姿を表す。

 何やら上機嫌に笑い、いつも以上に快活な雰囲気を出していた。

 

 

「どうしたお前さん達、せっかくバルバレに無事に着いたのに浮かない顔をして!」

 赤い帽子が良く似合う中年男性の彼は、これでもかという程満足気な表情だ。

 

「あ、帽子! 戻って来たんですね!」

「あぁ! さっき、あのハンターさんに返してもらってな。この通り俺の宝も無事だ」

 ミズキの言葉に、団長は帽子を取ってからその中に仕舞ってあった物を俺達に見せてくれた。

 

 

 それは、金色に輝く薄い何か。

 

 

「ほぇ、お宝?」

「金ニャ? 金の作り物? 金色に塗った木にも見えるニャ」

 なんだか分からない金色のそれは、太陽の光を眩くも反射する。

 

「これは?」

「俺にも分からん」

 俺が聞くと、団長はキッパリとそう答えた。

 

 どういう事だ。

 

 

「俺はな、昔手に入れたこいつの正体を確かめる為にこの我らの団で旅をしてるんだ。それでな、今は仲間を集めている」

「仲間?」

「一緒に楽しくやっていける仲間さ。さっきまで相棒と嬢ちゃんしか居なかったが、今さっき一人増えた所だ!」

 ミズキの質問にそう答える団長。

 

 なるほど、それで機嫌が良さそうだった訳だ。

 

 

「それって、もしかしてさっきのハンターさんニャ?」

「おぅ、またまた大正解だ! さっき帽子を渡してくれたあいつを誘ってみたらな、心良く仲間になってくれた。そして直ぐに入団試験に飛んで行ったさ」

 そう言ってから、団長はなぜかポケットから金銭を取り出す。

 目測ではあるが三千ゼニー程だろうか。食にするなら十食分の金銭だ。

 

 何の為に取り出したのだろうか?

 

 

「本当はお前さん達を誘おうと思ってたんだがな、タンジアに戻らないかんのだったか? ここまでしか連れて来れなくて悪い。少ないがこれで何とかならんか?」

 そう言って、ミズキの頭を撫でながらその手に金銭を乗せる団長。

 

 成る程、俺達をあの村から連れて来たのはそんな理由があったのか。

 

 

「えぇ?! だ、団長さん。……良いんですか?」

「言っただろう。旅は道連れだ! 短い間だったがお前さん達との旅も楽しい物だった。これはその礼として受け取ってくれ」

「団長さん……」

「これまで色んな奴と旅をして来た。今度こそこいつの秘密を解き明かせると良いと思って居るんだがな、さてどうなるか」

 そう言うと、団長は静かに俺達に背を向けた。

 

「一緒に旅をしたお前さん達はもう仲間みたいなもんだ。当分はバルバレに居るから、また何かあったら声を掛けてくれよ! はっはっは!!」

 そう言いながら、彼は右手だけを上げて人混みの中に消えて行く。

 

 この恩は彼がバルバレに居る間に返さなければな……。

 

 

「やったよムツキ、ご飯食べられる!」

「野宿回避ニャ?! 久し振りの海老フライ?!」

 お前らな……。

 

 

「他にやる事があるだろ」

「「???」」

 おいおい。

 

 

 ひとまず、俺達はこのバルバレで活動する事になるだろう。

 

 タンジアに戻る資金を集める、そんな理由もあるが俺にはもう一つ理由が出来た。

 

 

 ここ、バルバレには全てが集まると言われている。

 

 未知の素材、未知の食材、未知のモンスターの情報。そう、俺の探しているアイツの情報だってもしかしたら———

 

 

 

「……ハンター登録だ」

「あ、そっか!」

 だから、ひとまずはこの街でやっていこう。

 

 

 この、騒がしい相棒二人と一緒に。

 

 

 

 一緒に居られなくなる時が来るまでは。




あけましておめでとうございますm(_ _)m
第二章 狩り人と龍の物語 —The wing undermined blackly—

始まりです(`・ω・´)
開幕モンスターハンター4のストーリーに少し改変してしまいましたが、今後はこのような事は無しで裏で動いて貰うつもりです。
今回だけはどうしてもダレン・モーラン戦に居合わせたくて団長の台詞などを改変してしまいました……。個人的には、ちょっと辛いです。

お分かりの通り、第二章はモンスターハンター4のストーリーに少し沿って進んで行く事になります。
アランやミズキがかの龍にどう関わっていくのか、宜しければ最後までお付き合いして頂けると嬉しいです。

でわ、長くなりましたが今回かここまでにしますm(_ _)m


また次の更新でお会い出来ると嬉しいです。でわでわ(`・ω・´)
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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物語と災いの端

 怒号が飛び交う。

 

 アレやコレやと食べ物や飲み物を注文する声や、昼間からアルコールに酔った者の意味のない叫び声。

 その喧騒の中で客に声を届ける為に、ギルドの受付嬢やスタッフのアイルー達は余計に声を大きくした。

 

 

 ここは集会所。

 バルバレギルドが誇る移動式集会所は、俺が過去に居たタンジアギルドと比べても賑やかで騒がしい。

 

 それもその筈か。このバルバレは全てが集う場所。

 そしてその中心こそ、この移動式集会所なのだから。

 

 各地からハンターが集まりギルドからクエストを受ける為のこの集会所は連日こんな感じなのだろう。

 この喧騒が嫌ならば、それはもうこの街を出て行くしかない。

 

 

 もっとも、今の俺達にそれは出来ないのであるが。

 

 

「で、出来れば採取クエストとかが良いよね!」

 武器を床に立て掛けた双剣使いのハンターである少女が、集会所のクエストボードの前でそんな事を呟く。

 短く整えられた金髪の上に麦わら帽子を乗せ、黒いインナーだけを着た姿は中性的で幼い少年に見え───ない。どう見繕っても華奢過ぎる。

 

 

 澄んだ青い瞳を細めにして、腕を組みながらクエストボードと睨めっこをする彼女。

 そんな少女———ミズキの直ぐ隣に立つ俺はこの集会所に居る人達にどんな眼で見られているのだろうか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 あまり考えたくないな……。

 

 

「……良いクエストはあるか?」

 良くて師弟、兄妹。悪くて誘拐目的で声を掛けた。なんて頭で考えながら、俺はミズキに丁度良いクエストがあったかを聞いた。

 それと同時に背後から「ギルドナイト呼んだ方が良いかな?」なんて声が聞こえる。ふ……危なかった。このボウガンに弾が入っていれば本当にギルドナイト案件になる所だ。

 

 ……顔は覚えた。次会った時は集会所の裏に呼び出して話をしよう。

 

 

「採取クエスト……無い」

「別に退治でも良いと思うけどニャ……」

 残念そうに肩を落とすミズキに対し、半目で彼女の顔を覗くメラルー。

 彼女のパートナーであるムツキは、クエストボードに貼ってあった一枚の紙を取って持ち上げる。

 

「アルセルタス一匹の排除。確か虫ニャ。火炎弾で燃やせば良いニャ」

「えぇ?! 可哀想だよ……」

「でも今日クエストに行かなければ今晩の寝床どころか晩メシも怪しいニャ?」

 ムツキの言う通り。バルバレに着いた時点で俺達の所持金は無し。

 あったのは武器とムツキのポーチの微々たるアイテム、そして……大タルだけだ。

 

 

 俺達をここまで連れて来てくれたキャラバン隊の気の良い団長の計らいで一晩の宿代と飯代、クエスト一つを受けるだけの契約金を頂いたが。

 どの道これより後は俺達に残されていない。きっとあの団長は困っている俺達を見ればまた力を貸してくれるだろう。

 

 だが、彼が俺達にギリギリの金銭を渡した意味を少し考えてみた。

 

 

 きっと彼はこう思ってこの金銭を渡したのではないだろうか?

 

 出来る限りは己の力で進んで見ろ、と。

 見捨てる事はなく、かといって甘えさせる事もない。

 

 キャラバン隊の団長をやっているだけはある、包容な性格だ。

 俺の勝手な見立てではある訳だが。

 

 

 

「ぐ……ぬぬ……」

 所でこのミズキという少女は、ハンターとしては優し過ぎる一面がある。

 生き物であるモンスター達の命を重く見る事は決して悪い事ではないが、だからこそ面と向かって付き合わなければならない。それがハンターだからな。

 

 まぁ、まだ若いというより幼い年齢だ。そこは少しずつ慣れていけば良いだろう。

 

 

 だから今回は、彼女に合わせて行動してやるか。

 

 

「ムツキ、そのクエストの内容を詳しく見せてくれ」

「んニャ? ほいニャ」

 俺が頼むと、ムツキは首を傾げながらも俺の手元に用紙を伸ばした。

 

「なるほど……」

 クエスト内容は、とある商人が使う陸路を縄張りにしてしまったアルセルタスを追い払って欲しいという物。

 狩猟クエストは討伐クエストとは違い必ずしもモンスターを狩る必要はない。

 

 例えば捕獲したり、弱らせてその場から追いやったりして、依頼主の目的が達成されればそれでクエストはクリアだ。

 勿論、討伐や捕獲以外でのクエストクリアは報告が特殊で面倒な為、滅多にそんな事は起こらないが。

 

 

 例えばクエスト中に何らかの理由でモンスターが人の害にならなくなった場合、その理由をギルドに明確に伝える必要がある。

 

 途中他のモンスターが現れて対象を狩られたり、弱った対象が遠くへ逃げて行ったりといった場合、対象を己が狩らなければクエストクリアと認められないとハンターは困る訳だ。

 そんな状況になって、態々狩場に出向いたハンターがクエスト受注損にならない為のギルドの計らいがこの制度である。

 

 

「ミズキ」

「え、えと……何でしょうか」

 なぜ改る。

 

「お前のその甘い考えはいつか自分を殺す」

「ぅ……」

「だから、少しずつ慣れていけ。今回は特別だ。勘違いするなよ、お前の甘い考えに付き合う訳じゃない。防具もボウガンの弾も無い今はモンスターと戦うのは避けたいだけだ」

「アラン……」

 俺の言葉に澄んだ瞳を輝かせるミズキ。

 

 

 こいつは本当に分かっているのだろうか……。

 

 

 まぁ、良いか。とりあえず今は目先の事が重要だ。

 今の所持金じゃ今夜を迎える事が出来ないからな。

 

 

「幸いにも、ここは全てが集う場所バルバレだ。アレも流通してるかもしれないしな」

「……アレ?」

「だがソレを買うから、クエスト前の飯は抜きだ」

「「えぇ?!」」

 泣き顔で後ろを付いてくる二人を無視して、俺はその足でギルドの受付嬢にクエスト受注の手続きをして貰うためカウンターまで歩く。

 村では毎回ふざけた事を言われたが、此処ではそんな事はないようだ。懐かしくは……あるな。

 

 そう言えば、お土産に貰った蜂蜜もあの船に置いてきてしまっていたか……。

 

 

 そんな事を考えながら、周りからの異様な視線を無視して俺達は一旦商人の集まる広場に向かってアレを購入。

 その足で昼飯抜きに、遺跡平原へと向かった。

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 地図に載らない街。

 バルバレは移動式集会所と共に移動するとても不思議な街です。

 

 そんなバルバレが今存在する場所は、この遺跡平原と大砂漠を隔てた中心に位置している。

 だから、この街からだと二つの狩場へ簡単に足を運ぶ事が出来るんだそう。

 

 

 そんなお話等を、ガーグァを引くアイルーさんに聞いていると小一時間程で遺跡平原のベースキャンプに到着。

 私はモガの森のベースキャンプ以外見た事がないから、中々新鮮です。

 

 切り立った岩の並ぶベースキャンプから見える風景全てが、私にとっては初めてだった。

 

 

「えーと、クエストの目的って何だっけ?」

「忘れるの早過ぎニャ。ア ル セ ル タ ス」

 あ、そうそうアルセルタス。

 

 ……アルセルタス?

 

 

「私知らない」

「……」

 ムツキの視線が冷たい。

 

「セルタス種の雄で、大きな角が特徴的な甲虫種のモンスターだ。簡単に説明するとデカイカブトムシだな。平均三メートル」

「そんなのカブトムシじゃないよ……」

 うん、まぁ。モンスターなんだけど。

 

 

「えーと、アラン。そのアルセルタスを……殺さずに商人さんが使う陸路から離せられるの?」

 アランは、今回このクエストはモンスターを殺さずにクリアすると言った。

 

 それはモガの村に居た時に初めて二人で戦ったロアルドロスの事を解決した時のような、そんな不思議な事。

 アランはそんな事を、平然と言って見せて実行しようとしてくれている。

 

 

 そんな素敵な体験、普通は出来ない。

 

 本当に、アランに着いて来て良かったって……私は今思ってます。

 

 

「さっき言った通り、アルセルタスはセルタス種の雄だ。つまり、セルタス種には雌が居る」

「アルセルタスさんがカブトムシなら、メスのセルタスさんは角が無いカブトムシなの?」

「いや、アレは…………アルセルタスの五倍あるサソリだな」

「ごめん、何言ってるか分からない」

 それってリオレウスより大きいんじゃないかな……。本当に、甲虫種? 本当に、同じ種類のモンスター?

 

 

「で、そいつをゲネルセルタスと言うんだが。アルセルタスはこのゲネルセルタスの出すフェロモンの匂いを嗅ぐとその付近にゲネルセルタスが居る筈と思い、そこに当分留まるんだ。雌を探すためにな」

「夫婦になって二人で協力して生きて行く為だね!」

「…………。……そうだな」

 その間は何?!

 

 

「え、えーと…………つまり! その雌が出すフェロモンで雄を誘き寄せて、商人さんの陸路を安全にするん———」

 ———だね、って、アレ?

 

 でもその肝心な雌のフェロモンを、私達は持ってないと思うんだけど。

 

 

「フェロモンは?」

「これの事か?」

 私が思った疑問に、アランはポーチから一つのアイテムを取り出す。瓶に入った透明な液体。

 

 それって確か、集会所を出てから街の商人さんにお昼ご飯代を献上して購入したアイテムだっけ?

 

 私とムツキが泣きながら止めるのを無視して、アランが街で買ったアイテム。

 回復薬とか解毒薬とか、何かの薬かなとも思ったんだけど……まさかソレが?

 

 

「私達のご飯……」

「……なんでそんなに辛辣なんだ」

 だってぇ……。お昼ご飯……。

 

 

「とにかく、これを使えば当分アルセルタスを他所にやる事が出来る。後は、普段通りやれば良い」

「遠くにフェロモンを撒いて、そこにアルセルタスをおびき寄せるんだね!」

「正解だ」

 そしたら、アルセルタスを殺さずに商人の人も困らなくて済む。

 

 

 本当、アランって……なんでこんなに素敵な事を平然とやってのけるのだろうか。

 

 

 

「何してる? 行くぞ」

「うん!」

 そんな彼の背中はとても大きく見えて、ずっと一緒に居れたらな……なんて思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 虫には、羽を持って空を飛ぶ者が居ます。

 というか、殆どが飛びます。

 

 甲虫種と呼ばれるモンスターもそれに習ったかのように、殆どが飛びます。

 

 

 勿論、背後から私達を追うこのアルセルタスというモンスターも…………飛びます。

 

 

「聞いてないぃぃ!!」

「ニァぁぁ!! 口動かす暇があったら走るニァ!! 閃光玉には限りしかないニァ!!」

 そんな事言ったってねぇ?!

 

「キシィィッ!」

 特徴的なのは身体と同じくらいの長さがある巨大な角。緑色の甲殻をした巨大カブトムシと言われれば成る程確かに納得が行く。

 強いてカブトムシと違う点を挙げるならば、その巨体と———鎌のような前の二本脚だろうか。

 

 徹甲虫アルセルタス。それが、このクエストのターゲットであり今無抵抗な私達を空から追う一匹のモンスターだった。

 

 

 そのアルセルタスを商人さんが使う道から遠くに追い出すには、雌のフェロモンに引き付けないといけない。

 そのフェロモンまで引き付けるには?

 

 やっぱり、襲われてからフェロモンの場所まで逃げるしかないのである。

 

 

 しかし今回はロアルドロスとは違い飛びます。

 ホロロホルルも飛んだけど、ずっと飛びながら追って来る事はなかった。

 

 むぅ……アルセルタスさん、物凄く早いです。

 一瞬でも目を離すと、視界から消えてしまう程には早いんです。

 

 

「どこどこ?!」

「伏せろ!!」

「ひゃ?!」

 アランの声と共に私の身体が浮く。

 どうやらアランが私を抱えて地面を滑るように姿勢を低くしたみたい。

 

 私もだけど、アランも防具を着てないからふと見た彼の表情は痛みからか辛そうだった。

 無理を……させてるのかな。

 

 

 私のわがままで、アランに無理をさせてるのかな……。

 

 

「あ、アラン……」

「……大丈夫か?」

「ぇ、ぁ、うん」

「走れるな?」

 そうとだけ言って、アランは私を抱えたまま立ち上がってから私を降ろしてくれる。

 優しくて、頼り甲斐がある。そんな彼に私は無理を押し付けてるのかもしれない。

 

 

「どうした? ミズキ」

「あ、あの……アラン……」

「また来たニャぁ?!」

 今は、謝る暇もない。

 

 空中からの突進をしてきたアルセルタスは、その速度を殺さず反転してまた私達に襲いかかってくる。

 なんとかそれをしゃがんで避けて、私達はまた走った。

 

 

 このクエストが終わったら……謝らないと。

 

 私のわがままで、アランに無理をさせてたら……意味がない。

 

 

「ミズキ! 前から来てるニャ!!」

「ふぇ?!」

「キシィィッ!」

 そんな考え事をしていたからか、私は目の前から突進してくるアルセルタスが視界に入っていなかった。

 

「———ひっ」

 速度も相まって、あんな巨大な角に突かれたら絶対にただじゃすまない。

 

 そんな事は知っていたのに。

 そんな事は分かっているのに。

 

 

 私の身体は動かなかった。

 

 

「ミズキ!!」

 また、私の身体が浮く。

 アランに抱えられ、彼は私が傷付かないように地面を背中にして滑る。

 

 そんな私の背後をアルセルタスが通り過ぎて、向かいに切り立つ岩壁に自慢の角を突き刺す。

 もし、アランが助けてくれなかったら私の身体もあの岩みたいに———考えただけで、背筋が凍り付きそうだった。

 

「……っ!」

「あ、アラン!!」

 苦痛に歪むアランの表情。直ぐにまた立ち上がった彼の肩や背中は赤い液体で濡れている。

 

 

「わ、私……」

 私……何してるんだろう。

 

「……迷うな」

 でも、私の手を取りながら彼はそう言った。

 

「……ぇ?」

「お前がその道を正しいと思って進んだなら、そこからは迷うな。迷って良いのは道を選ぶ時だけだ。お前が正しいと思って進んだ道を信じろ、振り返るな、ひたすらに進め……」

「ひたすらに……進む……」

 私は、迷っていた……?

 

 

 何も無かった私が、自分の意思でアランに着いてきた。

 

 なのに……私は……。

 

 

「進めば、お前が選んだ先の答えが出てくる。そしたらまた次の道を選べば良い……。そうやって、進んでいけ」

 私の頭に手を乗せながら、アランは私に視線を合わせてそう言った。

 

「…………。……うん!」

 そうだ……迷ったらダメだ。

 

 

 私はアランみたいになりたいって、そう思った。

 

 あんな素敵な体験をもっとしたいって、そう思った。

 

 

 だったら、迷ったらダメだ。

 

 

「……走れるな?」

「うん!」

 私が言うと同時に、岩壁に突き刺さった自らの角を引き抜くアルセルタス。

 

 もう見失わない。

 もう迷わない。

 

 

「ムツキ、閃光玉の用意をしろ!」

「言われなくてもしてるニャ! ガッテンニャ!」

 もう少しだけ走れば、アランが雌のフェロモンを撒いた場所に辿り着く。

 そこでアルセルタスの目を眩ませてから私達が居なくなれば、アルセルタスは雌の匂いに集中してその場に留まるというのがアランの算段だ。

 

 だから、走った。

 

 

 私のわがままを通す為に。

 

 私のわがままで誰かを傷付けない為に。

 

 

 

「眼を瞑るニャ!」

 きっと、その一瞬世界は真っ白になったと思う。

 

 眼を閉じていても眼球に突き刺さる光が、そんな事を思わせる。

 閃光玉は使用と同時に素材の光蟲が放つ光を最大限に強くする事で、強い光を発生させるアイテムだ。

 

 

「キヤェェァ?!」

 そんな閃光を間近で見てしまったアルセルタスは視界を焼かれて、空を飛ぶバランスを取れなくなって勢い良く地面に叩きつけられてしまう。

 だ、大丈夫かな……? 打ち所悪かった気がするんだけど。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 全力で走ってたからか、息が荒くなります。

 でも、休憩をしてる場合じゃない。

 

 アルセルタスの視界が治った時、まだここに私達が残ってたら意味がないもんね。

 

 

 だから私達は、元来た道をまた走って行く。

 

 振り返らずに、迷わずに、真っ直ぐにと。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 様子がおかしいなと、私はそう思った。

 

 

 閃光玉の影響で私達を見失ったアルセルタスを遠くから双眼鏡で観察する事数分。

 アルセルタスがその場に留まってくれるか少し見ていたんだけど、私はその様子に少し違和感を覚える。

 

 なんだか、動きが鈍い。

 さっきまでずっと空を飛んでいたアルセルタスは、地面を這うように脚を引きずっていた。

 

 

「どうかしたのかな?」

「頭の打ち所でも悪かったんじゃニャいかニャ? 脳震盪でも起こしてるのかもしれないニャ」

 あちゃ……ごめんなさい。

 なんて、私は単純な事を思っていたんだけど。

 

「あの程度の高度から落ちただけでアルセルタスがあそこまでフラつく訳がないと思うが……」

 私と同じく双眼鏡でアルセルタスを観察していたアランがそんな事を呟く。

 アランがそう言うなら、やっぱりおかしいのだろうか?

 

 そう思って眼を凝らすと、アルセルタスはついに脚を崩して地面に倒れてしまった。

 

 

「……お亡くなりになったニャ?」

「……ぇ、嘘」

 そんな……せっかく傷付けずに済んだと思ったのに。

 

「いや……そんな訳が———なんだ? アレは」

 不思議そうに双眼鏡を覗くアランに釣られて、私もアルセルタスに視線を戻す。

 

 

 そうして双眼鏡に映った視界で、アルセルタスは何やら黒い靄のような物を身体中から噴出していた。

 

 

「も、燃えてる?」

 初めに脳裏に浮かんだのは、物が焦げる時に上がる黒い煙。

 ただ、どう考えてもアルセルタスに火が着いているとは思えないしそうは見えない。

 

 なら、あの黒い煙の正体は何なのか。

 

 

「違う……かな? アラン、行って確かめよう!」

 アルセルタスが心配。そんな気持ちもあったんだけど。

 

 私はもっと、なんだろう、嫌な予感がして。

 今あのアルセルタスを放って置くのはダメな気がして、走った。

 

 

「おいミズキ!」

「ニャ?! また勝手に無茶して、もぅ!!」

 だって、なんだろう、アレは……おかしい。

 

 

 嫌な感じがする。

 

 

「……アルセルタスさん……?」

 今日一番にアルセルタスに近付く。

 

 その身体は不自然に痙攣し、だけど生き物らしい動きをする事はなかった。

 ただ、身体の至る所から黒い煙を吹き出し。その複眼から色は抜けている。

 

 

「ニャ……死んでるのか、ニャ?」

「わ、分かんない……」

「二人共、少し離れろ」

 そう言ったアランは自分の言葉とは裏腹に、アルセルタスに近付いていく。

 私はその言葉に従ってアルセルタスに背を向けるんだけど———その瞬間、嫌な感じが私の背中を突き抜けた。

 

 

 ——苦しい——

 

 

「何……今の———」

「ギジャ゛ァ゛ァ゛ッ!!!」

 突如、背後から声にならない音が聞こえる。

 反射的に振り返った私の視界に映ったのは、少し前に見た元気に空を飛び回るアルセルタス———ではなく。

 

 

「キジジジ……ァ゛ァ゛」

 瞳に光の映っていないアルセルタスが、安定しない動きで羽を使い飛行する姿。

 まるで動く気配のなかったアルセルタスが、まるで復活したかのように。この地を飛び立つ。

 

 

「生き返ったニャぁ?!」

「そんな訳があるか!! 二人共また逃げるぞ。こいつはフェロモンがある限りこの一帯を守り続ける筈だ」

 冷静に言うアランに従って私達はまた走った。

 

 まるで安定しないアルセルタスを尻目に、今のアルセルタスの状況を考える暇もなく。ただ、走る。

 

 

「アラン! アルセルタスさんどうしたの?!」

「分からん……。俺の知らない生態がアルセルタスにあるのか……?」

 アランも知らないの……?

 

「アルセルタス、さっきの所から居なくなってるニャ!」

 振り向いて確認したのか、ムツキがそんな事を確認してくれる。

 

 アルセルタスが居なくなった?

 逃げる私達を追いかけるために。多分、それが当たり前の事なんだろうけど。

 

 

 なんだか私には変な事なような気がして、頭に引っかかる。

 

 走り過ぎて酸欠なのか、思考が止まりそう。視界から色が抜けて、意識が遠退いて行く———

 

 

 

「右から来る!!」

 ———ハッキリと、アルセルタスの居場所が分かった気がした。

 

「お前……その眼———っ?!」

 アランを右方から襲うアルセルタス。アランはなんとかそれを交わして、私ごと地面を転がる。

 

 

「……っぅ。あ、アラン?」

「ミズキか……? 俺が分かるか? その煙はなんだ?」

 アランに声を掛けられて、遠退いていた私の意識が戻ってきた。

 それで、視界に映ったのはアルセルタスから放たれていた黒い煙。

 

 もしかしてこれ……私から出てる?

 

 

「な、何これ……ぃ、嫌だ……」

 怖い。全身の感覚がおかしくなる。身体の何処に力を入れているのか分からない。

 

「どうなってる……」

「ニャ?! あのアルセルタス変なんてレベルじゃないニャ!!」

 私とアルセルタスの間に立つムツキがそんな事を言う。

 

 全く言う事を聞かない身体をなんとか動かして、私が視線を送った先。

 そこには、何もない壁に向けて二本の鎌を広げるアルセルタスが居たの。

 

 まるで見えない何かに怯え、それと戦っているよう。

 

 

 苦しい。

 なぜか、そんな感情を感じる。

 

 これは、私の感覚……?

 

 それとも、あなたの感覚なの……?

 

 

「助……けな、きゃ」

 身体が動かない。全身が痛い。頭の中に何かが入ってくる。

 

 声が、聞こえる。

 

 

「ミズキ! 無理をするな!」

「ミズキどうしたのニャ?! 僕はどうしたら良いニャ?!」

 心配そうに私の顔を覗く二人。

 

 違うんだ。

 

 苦しいのは、私じゃないんだ。

 

 

「助け……な、きゃ! 苦しんでる。あの子……苦しんでるんだ……っ!!」

 無理に力を入れてでも立ち上がる。力み過ぎた身体の至る所が軋むように痛い。

 

 でも、あの子はもっと苦しんでる。

 

 

「ぅ……っ、ぁっ…………あ……らん」

「ミズキ……?」

「助けて……あげ…………て……」

「どうしたんだ……お前」

 分からない。

 

 

 分からないよ。

 

 何……これ。

 

 

 

「ギジャ゛ァ゛ァ゛ッ!!!」

 立ち止まっている私達には目もくれず、アルセルタスはその場で暴れ回る。

 岩壁に叩き付けられた片方の鎌は無理に入れられた力のせいで折れてしまい、それでもまだアルセルタスは残った鎌を叩き付けた。

 

 その場で空を飛びながら狂ったように不規則に動き、最後には大空を暴れ回るように飛ぶ。

 その姿はもう見ていられない程に傷付いてきて。

 

 

「ギジジジガッ! ア゛ア゛、ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」

 空高くから地面に自らの身体を叩き付け、ついにその身体は動かなくなった。

 

 

 

「な、なんだ…………これは……」

「アルセルタス……さは———っくぁっ」

「……っ?! ミズキ?!」

 立ち上がろうと、掴んでいたアランの手を握る手に力が入る。

 力み過ぎた私の手は、爪でアランの腕を抉っていた。

 

「は———ご、ごめんアラ……っぅ」

「ミズキ?! どうしたニャ?! 痛いのかニャ?!」

 耳が良く聞こえ過ぎる。煩い。

 

 

 苛立つ。

 

 

 壊し———ダメ。

 

 

「ムツ……キ! アラン! 私から離れ———」

 何かを傷付けたくなる。そんな感情が私を支配した。

 

 でもそんなのは嫌で、二人にそんな事を言う。

 

 

「ミズキ……落ち着け」

「———ふぇ」

 ただ、そんな私をアランは力強く抱き締めた。

 身体はそれを拒んで、爪で脚でアランを引き剥がそうとする。

 

「っぁ゛! ぁ゛ぁっ!!」

「ニャ……?! ミ■キ……? な、何■て■ニャ!!」

 気が遠くなる。

 

 

 怖い。恐い。苦しい。壊したい。辞めたい。消したい。何これ。何? 何?? 何???

 

 

「ミズキ!!!」

「……っきぅ……ぁ…………」

「落ち着け……。な? 何も怖くない。…………ムツキ、手を握ってやれ」

「ニャ……ニャ……ミズキ、大丈夫かニャ? 僕がここに居るニャ……お兄ちゃんがここに居るニャ」

 柔らかい感触が手に触れる。

 

 力が抜けて行く。

 

 

 視界に映る黒い靄は、少しずつだけど。時間を掛けて消えていった。

 

 

 

「私…………何して……」

「やっと落ち着いたか……」

 気が付いた時には、私は全身の力が抜けて頭を打ちそうになる。

 そんな私を支えてくれたアランは何故か身体中傷だらけで。

 

 私は自分が何をしていたのか……分からなかった。

 

 

 ただ、私の手を握るアランとムツキの手が暖かい。

 

 

「立てるか?」

「ね、ねぇ…………私、何してたの? なんでアランが怪我してるの……?」

「ミズキ……覚えてないニャ?」

 そう言うムツキが握る手が強くなった気がした。

 

 

 私……また……?

 

 

「……アルセルタスが怖かったのか?」

「ち、違うの……。なんか……突然、私の中に何かが入って来る気がして。それで……それが怖———アルセルタスさんは?!」

 そうだ、私が感じたのはきっとアルセルタスさんと同じ物。

 

 

 

 蝕まれるような、怖い感覚。

 

 

 

「……死んだ」

「……っ。…………そっか……」

 助けられなかった……。

 

 

 アルセルタスは、私達の目の前でひっくり返って死んでいた。

 

 怖かったよね……。苦しかったよね……。

 

 

「助けられなくて……ごめんなさい」

 無意識にそんな言葉が口から漏れる。

 

 でも、そんな気がした。

 アルセルタスさんが恐怖で苦しんでいるのが、分かったような気がしたの。

 

 

 それがなんでかも、なんで苦しんでたのかも、私には分からない。

 

 

「アラン……」

「なんだ……?」

「アルセルタスさん、どうしたのかな……?」

「お前な……。お前こそどうしたって状態だぞ。アルセルタスは良かったのか悪かったのか死んだ……クエストクリアだ。……帰るぞ」

 そっか……私、クエストでここに居たんだった。

 

 

 

 アランでも分からない、アルセルタスの異変。

 

 

 

 それがなんだったのか。

 

 

 

 

 私達がそれを知るのは、もう少し…………後の事になる。




さて、本格的に物語を進めていきたいと思います(`・ω・´)
モンスターハンター4の物語に彼等がどう関わって行くのか、楽しんで頂けると幸いに思いますm(_ _)m

バルバレは色々な物が売っていますから、それをハンターが買えないのはおかしいんじゃないかなと思ってお話に組み込みましたが実際どうなんでしょうね?


なんと、ファンアートを頂いたので紹介させて頂きます!

【挿絵表示】

グランツ様より、アランの装備姿を頂きました(´,,・ω・,,`)
私は装備とか描くの苦手なんで、本当に凄いと思います。めちゃ格好良い!!ありがとうございました!!

ファンアートを頂けると本当に嬉しいですね(´;ω;`)
また頂く事があれば紹介しようと思います(`・ω・´)


長くなりましたが、今回はこの辺で。

ではでは、また次回お会い出来ると嬉しいです。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。


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選ぶ道と進む道の先へ

前後篇の前編です


 原因不明のモンスターの狂暴化。

 

 

 アルセルタスを包み込んだ黒い霧。

 そのアルセルタスは、狂ったように何もない空間へと攻撃し。

 その末には、自らの身体を上空から地面に叩き付け命を絶った。

 

 そんな事がありえるのか……?

 いや、人から聞かされた事なら兎も角この眼で見た事だ。現実逃避をしたって仕方がない。

 

 

 ギルドに報告するも、気の良い返答は返ってこなかった。

 

 

 

 アルセルタスが雌のフェロモンを無視して俺達を追い掛け、あまつさえ気が狂ったかのように自らを殺す。

 そんな事がある訳がない。

 

 理由がある筈だ。

 

 

 

 それを知っていそうな奴を一人だけ知っていた。

 

 タンジアに連絡を取る所だったのだから、丁度良いな。

 

 

 知り合いのギルドナイトに宛てた手紙をギルドの受付嬢に渡しながら、俺はクエストボードの方に目をやる。

 新調したブレイブシリーズの防具で身を包む一人の金髪の少女が、真剣にボードを見ながらお目当の依頼を探していた。

 

 

「お手紙ですね。タンジアギルドに……と、了解です! 所で今回もお二人は採取クエストに?」

「……どうだろうな。多分、そうだろうが」

 集会所の下位クエストを担当する受付嬢は、モガの森の彼女程ではないが良く喋る。

 俺達がこのバルバレに来て二週間が経つが、ミズキの人懐っこさのせいか俺まで顔を覚えられてしまった。

 

「まぁ……最初のクエストでアルセルタスに謎の症状が現れて、モンスターと戦うのも怖いですよね」

「その後の情報は?」

「私には何も。なんだかキナ臭~い噂を偶に聞く事はあるんですが……」

 キナ臭い……?

 

 

「……詳しく」

「……ふぇ? ぁ、ふぃ、ぇーと……倒したモンスターが生き返ったとか。夜に眼が血走って光っているモンスターが現れたとか。モンスターを切ったら血が真っ黒だったとか」

 なんだそれは……。

 

「……酔っ払いのジョークだろ」

「なんですかねぇ? 倒したモンスターが生き返るなんて、そんな事あってたまるか! ですし」

 ただ、そんな彼女の言葉を聞いて俺はあの時の光景を思い出していた。

 

 

 倒れたアルセルタスが、起き上がると同時に狂ったように暴れまわる。そんな姿。

 これもまた、他人から聞けば酔っ払いのジョークにしか思えないかもしれない。

 

 

 一体、何なんだか。

 

 

 

「あ、ミズキちゃん良いクエスト見つけたようですね」

「退治だと思うか?」

「納品クエストに百ゼニー」

「だろうな」

 この二週間。アルセルタスの後からミズキが選ぶのは納品クエストばかりだ。

 

 そもそもアルセルタスも俺が無理やり選んだ高収入クエストであって、ミズキが自分から退治クエストを選ぶ事は村に居た頃からなかったのかもしれない。

 

 

 だが、それでは村の外でハンターをやるのは難しいだろう。

 

 

「なんとか慣れさせないと、ミズキちゃんがちゃんとハンターになれませんよ?」

 それはこの受付嬢も感じているようで、満足気な表情でクエスト内容の書かれた用紙を持ってくる少女と俺を見比べる。

 

「……でも、それがあいつだ。甘いのは分かってるがな」

 甘やかしているのかもしれない。

 

 それで、俺があいつの成長を止めているのかもしれない。

 

 ただ、なんだろうな。

 あいつが選んだ道は、俺が間違いだと選ばなかった道だ。捨ててしまった道だ。

 今は、俺が進めなかった道を歩く彼女を見ているのを嬉しく思っているのかもしれない。

 

 

 だが、やはり採取クエストだけだと報酬が安定しないのは少し問題だろうか……。

 

 

「昨日はこのクエストでお願いします! キノコ狩り!」

 笑顔で用紙を受付嬢に渡すミズキ。

 

 それなのに俺は、自分のわがままを通そうとしているのだろうか……?

 

 

 ……分からないが。

 

 今は進むしかない。

 

 

 

「サブターゲットは何かあったりするか?」

「お金にお困りで?」

「……聞くな」

 こればかりは我を通している場合の問題じゃないからな。

 

「ジャギィ三匹の討伐、とかなら。最近、普段居ない筈の場所にジャギィが出てくるって報告があってですね」

「なら、それで」

 これは、俺がクリアすれば良い。

 

 

 道を踏み外した、俺が。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 この景色も、少し見慣れてきたかもしれない。

 岩壁に囲まれた遺跡平原のベースキャンプから見える景色は、広大で気が遠くなりそう。

 

 

 少しだけ慣れた感覚でガーグァが引く荷車から降りると、一つだけ普段と違う感触が足に伝わった。

 鎧のブーツが地面を踏みしめる感覚。鉄で出来たちょっと重い装備が、地面と擦れて音を立てる。

 

 

 ——何? 防具選びで困ってるのか。なら俺の相棒に頼むと良い! ん? 金なんぞ要らん。お前さん達も我らの団の仲間みたいな物だからな!!——

 

 私が装備しているブレイブ装備は、団長率いるキャラバン隊我らの団のメンバーであり団長さんの相棒である加工屋さんが作っている我らの団専用の装備らしい。

 

 そんな物を私はタダで譲ってもらい。

 サイズが合わないからと加工し直して、重たいからと軽量化して貰った私だけの装備。

 

 

 こうやって狩場に装備してくるのは初めてだから、なんだか気分が高揚してしまいます。

 

 

 

 クエスト内容は特産キノコ八個の納品。

 ここ遺跡平原はそれなりにキノコが見付かるから、そんなに時間は掛からないだろうけど頑張ります。

 

 なんて、意気込んでいると。

 

 

「今日はサブターゲットをクリアする」

 と、背後からアランの声。

 えーと……?

 

「サブターゲット……?」

 何それ?

 

「クエスト本来の目的とは別の、やってもやらなくても良いクエストニャ」

 半目で私を見つめながらそう教えてくれるムツキ。

 なんで半目なのかな……。もしかして、知ってて当然なの?

 

「も、勿論知ってたよ……?」

「「…………」」

 虚勢をはると、アランもムツキも顔を見合わせた後黙ってしまう。

 

 

「だ、だって、村にいた時はそんなのなかったよ?!」

「あったニャ」

 もう何も言えない。

 

「ムツキが酷い」

「酷いのはミズキの頭ニャ」

 心に杭を突き刺された気がしました。

 

 

「まぁ……知らない事は覚えていけば良い」

「う、うん。そうだよね!」

「覚えて、忘れなければ、良いけどニャ」

 ムツキぃ……。

 

 

「え、えーと。それで、そのサブクエストって?」

「ジャギィ三匹の討伐だ」

「辞めよう。キノコ探さないと行けないから忙しいし」

 私はそう言って、アランに背を向ける。

 

 

 そうしてから、私はまたわがままを言ってる事に気が付いて足を止めた。

 振り向くのが怖い。アランやムツキはどんな表情をしてるかな……。

 

 呆れてるかな。

 

 

「狩るのは俺がやる」

 ただ、アランはそう言った。

 

「毎日安いパンの生活で良いのなら、俺の邪魔をすれば良い」

「そ、それは……」

 バルバレに来てから二週間。私達の生活は質素な物になっていた。

 私が納品クエストばかり受けるから、報酬が少ないのが原因。そんな事は、分かっている。

 

 

 モンスターを、生き物を殺したくない。

 そんな私のわがままで、二人に迷惑を掛けていた。

 

 

「ミズキ」

「アラン……?」

 彼の手が、私の頭の上に乗る。

 大きくて力強くて、でも優しい手が。

 

「前も言った筈だ。……迷うな」

 

 ——お前がその道を正しいと思って進んだなら、そこからは迷うな——

 あの日、アランが言ってくれた言葉が頭の中で木霊する。

 

 

 そうだ、迷っている方が迷惑を掛ける。

 

 

 なら、私は———

 

 

「サブクエストの内容は?」

「普段住み着かない所に出てくるようになったジャギィの討伐だ。数は三匹」

 普段住み着かない所に……。

 

「ねぇ、アラン。ならそのジャギィさん達をその場から追い払うか元の住処に返せばクエスト達成になるのかな?」

「…………。あ、あぁ……そうだな」

 私が言うと、アランは驚いたような表情でそう返事をしてくれた。

 

 

 ———なら、私は殺さない。

 

 

 

 間違っているのかもしれない。

 

 おかしい事なのかもしれない。

 

 

 でも、この道の先に答えがあるのなら。

 合っていても、間違っていても、私はそれを確かめたい。

 

 

「キノコ探すついでに、そんな事が出来る方法を考える!」

 だから、迷わずに進もう。

 

 その先の答えが———私は知りたいから。

 

 

 

 

 

 

「無いねぇ……特産キノコ」

 ベースキャンプを出発して一時間ほど。

 

 サブクエストの前に特産キノコを集めちゃおうと思っていたんだけど、思いの外特産キノコが見つからない。

 おかしいなぁ、この前来た時はキノコなんて沢山あったのに。

 

 あ、これが昔モガの村のハンターさんが言っていた物欲センサー(欲しい物ほど手に入らなくなる呪い)なの?!

 

 

「あったニャ!」

 なんて考えている所で、ムツキが五つ目の特産キノコをゲットしました。

 必要なのはあと三つ。少ない筈なのになんだが多く感じてしまう。

 

 なんでかなぁ……。

 

 

「なんかそもそも、キノコが少なくなってる気がするニャ」

 私に特産キノコを渡しながらそう言うムツキ。

 確かに、言われてみればそもそもキノコが見付からない。

 

 狩場として指定されている遺跡平原として、私達はその中心まで歩いてきてるのにまだ目標数まで達していない。

 

「何でだろうねぇ?」

 岩壁の下に見付けたキノコを取る為に、エリアの中心を流れる川を渡りながら私は返事をする。

 

「さぁ……ニャっと」

 ムツキはそんな私の背中に乗って私と一緒に川の向こうへ。

 この川はそんなに深くないから大丈夫だと思うけど、やっぱりムツキは水が苦手みたい。

 

 

「……あれ?」

 所で、見付けたキノコなんだけどその正体はマヒダケだった。

 でもそのマヒダケには一目で分かるような異変があったの。

 

「……食べられてるニャ?」

 そう。ムツキが言った通り、マヒダケは何かに半分食べられていた。

 生えていたと思ったけど、捨てられたみたいに地面に横たわっているだけのマヒダケはまるで食べ残されてるみたい。

 

 

「ん……これじゃ素材としても使えないよね?」

「僕を舐めて貰っちゃ困るニャ」

 なんて言いながら、ムツキは落ちていたマヒダケを自分のポーチに入れる。

 使えるのかな……? 半分くらいしか残ってなかったし、新鮮味の欠片もない気がするけど。

 

「オルタロスか?」

 私の後ろで、さっきまでの光景を見ていただろうアランはそんな言葉を落とした。

 

 そんな声に振り向いてみると、何故かアランは手に釣竿と魚を持っている。

 ちょっと、私達が一生懸命キノコ探してたのにアランはお魚釣ってたの?!

 

 

「なんでお魚……」

「後で使うかもしれないからな」

 お魚じゃキノコは取れないんだよ……?

 

 

「で、オルタロスなのか?」

「え、えーと……」

 オルタロス……聞いた事ある気がするけど。

 

「……なんだっけ?」

「モガの森にも居たニャ。お腹が膨れる虫」

「あ、うん、あれね、オルトロス。知ってるよ」

「オルタロスニャ」

 ぅ……。

 

 確か、甲虫種のモンスターだよね?

 そのオルタロスがどうかしたのかな?

 

 

「食べ方からしてオルタロスじゃないと思うニャ。なんかこう、豪快に食い散らかした跡みたい」

 アランの質問にそう答えるムツキ。

 

 確かに、地面に横たわっていたマヒダケは半分程大きな口で囓られた跡がある。

 オルタロスじゃなくて、なんかもっと大きな生き物……。そんな気がした。

 

 

「だろうな。そもそも俺はここ最近の遺跡平原でオルタロスを見た事がない」

 そしてムツキにそう返すアラン。

 

 

 遺跡平原に狩りに来始めてから早二週間。

 この一帯にオルタロスが住んでいるっていうのは聞いたんだけど、私は一度も見た事がない。

 

 

「食料の不足による個体の減少か……ジャギィが生息域から離れたのと関係があるのか?」

 一人でアランが何か言っているけど、私にはチンプンカンプンでした。

 ジャギィってキノコ食べたっけ? うーん、関係あるのかなぁ?

 

 

「この先に木が生い茂ってる所があるけど、そこも探してみるかニャ?」

「いや、そこは今ジャギィの群れが縄張りにしてる筈だ。どのみち行く事になるかもしれないが、無駄な血を流したくないなら辞めておけ」

 ん、ジャギィは縄張り意識が高いから……かな?

 

 

 アランと初めて会った時、彼はその縄張り意識が高いジャギィ達の真ん中で寝てたんだけど……。

 

 逆に、彼等と仲良くなれれば縄張り意識が高いジャギィ達が守ってくれるとか?

 今になって。そんな風に思ってたのかな、なんて思ったり。

 

 

「とりあえず、サブターゲットのエリアまで行くか。道中も探せばキノコくらい見つかるだろう」

 うん、キノコが見付からないのはたまたまだよね。

 

 

 そんな訳で、私達はサブターゲットである縄張り外のジャギィ駆除のために移動する事に。

 勿論、私は殺したくない。そんな事が出来るかは分からないし、出来ない時に私がどうするかも、分からなかった。

 

 その道中は結構な時間が掛かったんだけど、その距離を歩いても見付かった特産キノコは二つだけ。

 後一つがどうしても見付からないまま、私達は件のエリアに到着してしまった……。

 

 

 うーん、本当、なんでだろう。というか、どうしよう……。

 

 

 

「あれか……」

 木陰からアランが顔を出して、エリアを確認する。

 情報通り、そこにはジャギィが三匹住み着いていた。

 

 三匹は流れる川の付近で固まってるんだけど、何をしてるんだろう?

 そんな事を思った瞬間、一匹のジャギィが川に頭を突っ込む。直ぐに引き上げられたその口には一匹の魚が加えられていた。

 

 

「ご飯の時間?」

「ジャギィって草食種を襲うイメージがあるけどニャ。魚も食べるニャ?」

「鳥竜種の中でも小柄なジャギィは数が揃わなきゃまともに狩りも出来ないからな。縄張りから離れたらあんな風にしか餌を入手出来ない」

 うーん、ジャギィも大変なんだ……。

 

 私も、もし狩場で一人になっちゃったら何も出来ないし。仲間って大切だよね。

 

 

「ウォゥッウォゥッ」

「ウォゥッ!」

「ウォゥッ!」

 魚を取って嬉しかったのか、跳ねるジャギィに他の二匹が鳴き声を上げる。

 お腹が減っていたのか、そんなジャギィ二匹は捕った魚を奪おうとその牙を仲間に向けていた。

 

 

「仲間割れニャ?」

「喧嘩はダメだよ……」

 せっかくの仲間なのに……。

 

「縄張りから離れてしまえば一個体として生きるしかない。さて、サブターゲットはあの三匹の排除だ……。俺はその用意をするが」

 そう言いながら、アランはポーチから何やら地面に落とした。

 

 見てみれば、それはお魚。さっきアランが釣っていたお魚?

 

 

「もしあのジャギィ達を狩らなくても良い状況になったら、俺は素直に諦めるしかないな」

「アラン……?」

 細目で私を見るアラン。地面に落とされたお魚。

 

 こ、これって……もしかして……。

 

 

「……私が……やるの?」

「お前が選んだ道なら、自分の足で進め。俺は背中を押す事くらいしか出来ない」

 そんなぁ……。

 

 

「…………」

「……辞めるか? ならあの三匹は、俺が狩る」

「危ないだけニャ。アランに任せれば良いと思うニャ……その方が早いニャ」

 そうだね、ムツキの言う通り。

 

 

 こんな事したって、危険だしクエストの時間が伸びるだけかもしれない。

 

 

 でもね、私はアランと会ったあの日。

 とても素敵な体験をしたあの日。

 

 彼のようになりたいって、そう思ったんだ。

 

 

 だから———

 

 

「私、やるよ」

 ———この一歩を、踏む。

 

 

「……正気かニャ? 小さくても噛まれたら痛いって知ってる筈ニャ」

「ぅ……」

「…………。ま、しょうがないから僕が横でボディガード……してやるニャ」

 腕を組んで、他所を見ながらそんな事を言うムツキ。

 

「ムツキぃっ」

「むぎゃっ」

 優しいムツキに抱き着きます。

 私の頼れるお兄さんが傍にいてくれれば、安心だ。

 

 

「この問題を解決するにはまずジャギィ達の状況を知る必要がある。それにはあの三匹に縄張りに戻って貰いたい訳だ」

「お魚で釣ってさっき言ってた場所まで行くの?」

「いや、その魚はくれてやれ」

 ボウガンに弾を込めながらそう言うアラン。

 

 えーと、そしたらどうやってジャギィを縄張りに返すの?

 

 

「もし縄張り近くで餌が取れなくなったという理由でここまで出てきたのなら、腹が膨れれば縄張りに戻るはずだ。そうでないなら縄張り自体に戻れない理由がある」

「なるほどぉ……」

 逆説的。

 

「回りくどいニャ……。さっき縄張りを見てこれば良かったのにニャ?」

「縄張りに群れがちゃんと居たら、間違いなく争いになる。狩りをしないっていうのは、狩りをするより難しい……これは、覚えておいて損はない」

 うぅ……難しい。

 

 

 でも、立ち止まっていられない。

 

 これは私が選んだ道なんだから。

 

 

「持っていけ」

 私がお魚を拾うと、アランはいつも首に掛けている———彼が自らの戒めと呼ぶ綺麗な石を渡してくれる。

 欠けているけど、なんだか見てると心が安らぐ綺麗な石。なんで、アランは戒めなんて言うんだろうか。

 

「……お守りだ」

 そんな石を、彼は私にお守りと言って渡してくれた。

 私は素直に受け取って、それを首に掛ける。

 

 

「行こっか、ムツキ」

「世話のかかる妹だニャ全く。いや、本当、全く……大体ジャギィに襲われたら……もぅ」

 なんて言いながらポーチから閃光玉を取り出すムツキ。

 ありがとう、いつも迷惑ばかり掛けて……ごめんね。

 

 

「俺は何時でも撃つ。その必要があると思えばな」

「……うん」

「調整者気取り……か。ミズキ、俺の意見を一つだけ聞いてくれ」

「アランの意見……?」

 それは、アランの答えなのかな……?

 

 

「俺達も、自然だ。それを踏まえた上でお前の道を歩け」

 そう言って、アランは私の背中を押してくれる。

 私は武器を持たずに、お守りを握りしめて。魚を持って歩いた。

 

 

「ウォァ? ウォゥッウォゥッ!」

 一匹のジャギィが直ぐに私に気付く。その鳴き声で、他の二匹も私に気付いて振り向いた。

 うん、それで良い。三匹でちゃんと私を見て欲しい。

 

 私の想いが、届きますように。

 そんな願いを込めて。私はお守り(・・・)を握る。

 

 

「ウォゥッウォゥッ!」

「ウォァ!!」

 きっと、警戒の声だよね。

 当たり前だ。私は彼等の仲間ではないのだから。

 

 

「あニャニャニャ……」

「ジャギィさん……え、ぇーと、ご飯……要る?」

 ゆっくりと、驚かせないように近付いて私はそう口にした。

 この言葉が通じているとは限らない。でも、この言葉に想いを乗せる。

 

 

「あなた達のお話を……聞きたいな」

「クックルル……ウォァ? ウォゥ」

 私がお魚を持って差し出す手に近付くジャギィ。

 

「ニャぁ……」

「ダメだよ」

 今にも閃光玉を使おうとしているムツキを制す。

 

 私は彼等に、信用して貰いたい。

 あなた達がどうしてここに居るのか、聞きたい。

 

 

「クックルルァ……ウォゥッ」

 一口。

 

 お魚をその口で飲み込むジャギィさん。

 すると、さっきお魚を取れたのに他のジャギィに取られてしまったジャギィさんも私に近付いて来ます。

 

 しまった……もうお魚が無い。

 

 

「クックルルァ……」

「あ、わ、ぇ、ぇと……うぁ」

 ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう?!

 

「ニャ」

 焦っていると、後ろから私の足に生温い感覚がぶつかる。

 真下を見てみれば、そこには生焼けになったお魚が落ちていた。

 

「僕のお昼、あげるニャ」

 ムツキぃ……っ!

 

 

「ありがとうっ。……え、と、はい。どうぞ、ジャギィさん……」

「クックルル? ウォァウォゥッ」

 何回か首を横に振ってから、私の手が掴む生焼け魚を咥えるジャギィさん。

 

 

「お、美味しいかな?」

「僕の失敗作だけどニャ……」

 生焼け魚を食べたジャギィって珍しいと思う……。

 

「クックルルゥ……ウォゥッ! ウォゥッ!」

「……っ」

 身構える私達の前で、一匹のジャギィが吠える。

 ここは彼等の縄張りではない。でも、ここは彼等の世界だ。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

 私の想いは届———

 

 

「ウォァウォゥッ」

「ウォゥッ」

「……んぇ?」

 突然、目の前の二匹が私に背を向けて鳴き声を上げる。

 

 何か……会話をしてるの……?

 

 

「ウォゥッ」

 小さく鳴く一匹が、振り向いて私に視線を合わせる。

 

 

「ウォゥッ」

 そして向き直って、彼等の縄張りがある方角に向かって歩いたの。

 他の二匹もそれに続いて歩いて、ある程度進んでから一匹がまた私を見た。

 

 

「ジャギィさん……?」

「どっか行っちゃったニャ?」

 ううん、違う。

 

 

 付いて来て。

 そう言ってるような気がした。

 

 

「ミズキ」

 私の武器を持って歩いて来るアランは、優しく私の頭を撫でる。

 むぅ、なんだか子供扱いされている気が……。

 

 

「……行くか」

「うん!」

 ただ、何かの一歩を踏み出せた気がして。

 

 私は気持ちが良かった。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 うっそうとツタの茂る薄暗いエリア。

 

 

 切り立った岩壁に生い繁るツタは集まってしっかりと束なり、ツタ製の床を作っている。

 人が踏んでも崩れそうにないこのツタの地面の下は日の光が届きにくくて薄暗く、涼しげな雰囲気は休むのに丁度良いかもしれない。

 

 ただ、ここはモンスターの世界。

 それはモンスター達の特権なんだけどね。

 

 

 そんなエリアで、ジャギィさん達はツタの床の上から下を覗き込むように立っていたの。

 うーん、どうしたのかな? その下はあなた達の縄張りなんじゃないの?

 

 

「どうしたの?」

 三匹の横に立って、一緒に下を覗き込む。

 薄暗くて良く見えないから、眼を細めてじっと彼等の見詰める所を眺めた。

 

 チラッとキノコが見えて、そういえばまだ特産キノコが一つ足りない事を思い返す。あの中にないかなぁ?

 

「何してるニャ……危ない」

「……ピンク?」

「ニャ?」

 下を見ながら、付いて来たムツキを手招きします。

 良く見えないんだけど、なんだかピンクが見えたんだよね。

 

 それを確かめてもらう為に、今度はムツキにも見てもらおう。

 

 

「ウォゥッ」

 小さく鳴くジャギィは、なんだか怯えているみたい。

 

 

「……ババコンガ?」

 ババコンガ?

 

「どうした?」

 続くアランも、片膝を落としてツタの下に視線を送る。

 私が見たピンクが視界に入った瞬間、彼はなんだか怪訝そうな表情になった。

 

 

「なぜ……ババコンガが遺跡平原に居るんだ?」

「ババコンガ?」

「確り見てみろ。ジャギィの縄張りになってる筈の場所に居る、ここには生息していない筈のモンスターを」

 そう言われて、私はもう一度ツタの下に視線を戻します。

 

 

「フゴァ……」

 大きなピンクが動いた。

 

 トサカのように固まった頭部の毛、桃色の体毛はモガの村のモモナ達を思わせる色。

 だけどその毛の持ち主はアイルーは疎か私達人間なんかよりも大きな巨体を誇っている。

 

 

 牙獣種。

 私の知ってるモンスターではアオアシラがそれに該当するんだけど、ジャギィさん達の縄張りに居たこのモンスターもその牙獣種に属するモンスターだった。

 

 

 桃毛獣ババコンガ。

 それが、その場に居たモンスターの名前。

 

 

「あのババコンガっていうモンスターに縄張りを取られちゃったの?」

「クックルルゥ……」

 ババコンガを睨み付けるジャギィさん。うーん、そうなのかな?

 

 見た感じそこには他のジャギィも居ないし。

 うーん、どうしたものか。

 

 

「ミズキ、あのババコンガをここから追い出すぞ」

「え、なんで?!」

 そんな事出来るのかな?

 

 そもそも、そんな事して良いのかな……?

 

 

「普通、遺跡平原にババコンガは生息しないんだ。何処から迷い込んで来たかは知らんが……」

 ぇ、そうなの?

 

 

「この近くだと原生林か……。とにかく、此処にババコンガが居るのはおかしい。すると、ギルドはどういう反応をするか分かるか?」

「え、えーと……」

「ニャ、今回のジャギィみたく生態系のバランスを取る為に……」

 ……狩る。

 

 

 あのババコンガさんは、確かにジャギィさん達にとって縄張りを奪った憎きモンスターなのかも知れないけど。

 あのババコンガさんだって、此処に来た理由がある筈。それをまた狩ったりしたら、リオレウスさんとダイミョウサザミさんの時と同じになる。

 

 

 でも、だから、私にはどうしたら良いか分からない。

 

 

「私…………」

「今は考える時だ」

 え?

 

 

「道が分かれた時は考えて迷え。精一杯考えて、お前が行きたい道を探せ」

「道が……道が無くて、何処に行ったら良いか分からない時は?」

 今私の目の前に、道は無い。

 

 

 どうしたら良いか分からないし、何が正解かなんて分からない。

 

 

 そんな時は……どうしたら良いの?

 

 

「……人に聞け」

「人に?」

「誰でも良い。その先にある筈の道を知ってる奴に聞け。自分だけで最後まで歩ける奴なんて、そうは居ないんだ。誰の力を借りたって良い。……最後にお前が納得出来れば、そこがゴールだ」

 私が納得……出来れば、ゴール。

 

 

 そこに辿り着くには———

 

 

「……アラン」

「……なんだ?」

「……教えて欲しい。ジャギィ達の縄張りを取り返してこの子達を狩らずに済ませて。ババコンガの事も救える方法があるなら……教えて欲しい!」

 彼の眼を真剣に見て、私はそう言う。

 

 

 これが正解なんて分からない。

 

 また私のわがままで迷惑を掛けるかもしれない。

 ムツキやアランも、呆れるよね。変だと思うよね。

 

 

「……俺達は調整者なんかじゃない。人と竜は相容れないし、ジャギィやババコンガの生き死にを俺達人間が決めて良い理由なんてない」

「……っ」

 そう……だよね。

 

 

「……ただ」

「……?」

「俺達も、モンスターも、自然だ。人間とモンスターに違いなんて無い。生き物は、自分の好きに生きれば良い。それが誰の邪魔にもならなければ、誰にも怒りを売らなければ、自然に流されて生きていける。……要するに、敵を作らなければ良い」

 敵を作らなければ……良い?

 

 

「お前がもし俺が示した道に進むと言うなら———」

 アランはそこまで言うと私の手を握って、胸のペンダントを握らせる。

 同時に私に視線を合わせて、こう口を開いたんだ。

 

 

「───此処から先は迷うな」

 石を、意思を、強く握る。

 

 これはお守りだ。それと同時に、戒めだ。

 

 

「……うん!」

 

【挿絵表示】

 

 私は、その先の答えが見たい。




色々な力が足りず、二話構成に。

ふーむ……もう少し構成力とかが必要ですね……。
所でモンスターハンターの世界地図ってどうなってるんでしょうね、とても気になります。
需要あると思うし、公式が出してくれたら嬉しいんですけどねぇ。


さてさて、なんだかこの作品でのジャギィの登場数って多い気がします。ある意味、原作再現ですね()

また次回もお会い出来たら嬉しいです(`・ω・´)
感想評価お待ちしておりますl壁lω・)


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彼女の道とその先の答え

 桃毛獣ババコンガ。

 

 頭の髪を固めたトサカが特徴的な牙獣種。ピンク色の可愛らしい体色とは裏腹に、長い爪は攻撃的な印象。

 体格の良い身体から伸びる長い尻尾は、器用に物を掴んでそのまま口に運ぶ事も出来たりする。

 

 

「フガゥ」

 今そこで、キノコを器用に尻尾で取ってそのまま食べるあのババコンガがまさにそれを証明していた。

 

 

「あ、さっきババコンガが食べたの特産キノコだニャ」

「ぇ、嘘ぉ?!」

 私達が探してたキノコ……。

 

 

「なるほど、遺跡平原全体としてキノコが減っていたのはそういう事か」

 冷静に呟くアランだけど、このままじゃメインのクエストをクリア出来なくなってしまう。

 ババコンガさん、私にそのキノコを分けて下さいお願いします。

 

 

「ぇ、ぇーと、それで……どうするんだっけ?」

 私達は特産キノコ八個の納品。そして普段の縄張りから離れた所に現れたジャギィの討伐というサブクエスト達成のために遺跡平原に訪れていた。

 

 

 いくら探してもあと一つ足りないキノコをひとまず放置して、ジャギィの問題を解決しようとしたんだけど。

 お魚のおかげで気を許してくれたのかな? そんなジャギィさん達が私に見せたのは、彼等の縄張りだった筈の場所に堂々と居座っているババコンガだった。

 

 

「あのババコンガは多分、キノコが多いこのエリアを気に入ってここに居座ってるだけなんだろう。マイペースな奴が多いからな」

「えーと、つまり?」

「ババコンガがここに居る理由を無くせば良い」

「えーと……」

 ど、どうすれば。

 

 

「キノコを無くせば良いニャ」

「ぇ」

「この辺りのキノコが無くなればあいつは何もしなくたって勝手に出て行く、それで解決だ」

「んー、でもババコンガさんの目の前でご飯を奪ったりしたら怒るんじゃないかな?」

 食の恨みは怖いって言うしね。

 

 

「もう少しだけ待ってみろ。……あいつは寝る」

「え、なんで? 分かるの? というか、寝るの?」

 ここは私達の世界じゃない。

 

 お昼寝なんてしたら、忽ち他のモンスターに襲われてしまう。

 

 

「フゴゥ……フガァァ……」

 そんな会話の最中で、ババコンガは大きな背中から倒れる様に寝転びます。

 そしてその後、間髪入れずに聞こえてくるババコンガのいびき。

 

 気持ち良さそうにいびきをかきなが、お腹を爪でボリボリと。丸められた尻尾にはキノコが一つ。

 

 

「本当に寝ちゃった……」

「アレはそういうモンスターだからな」

 マイペース過ぎだよ……。

 

「カチコミ入れるニャ?」

 ダメです。

 

 

「ウォァ!」

「ウォゥッ」

「ウォゥッ!」

 ただ、ジャギィさん達はムツキと同意見みたい。

 ババコンガが寝た瞬間に鳴き声を上げるジャギィ達は、三匹共私を見詰めてくる。

 

 

 お魚のおかげなのか、私の事を仲間だと思ってくれてるのかな?

 ババコンガを倒すのを私に手伝って貰いたい。そんな意思を感じた。

 

 ぅ……どうしよう。

 私は貴方達を助けたいけど……ババコンガさんも助けたいんです。

 

 

 敵を作らないって難しい。敵の味方は敵なんだから。

 

 

 そんな事を考えてたじろいでいると、突然隣から発砲音が聞こえた。

 アランのライトボウガンから煙が出ている。

 

「グォゥ?!」

「ウォゥァッ」

「ウォゥァッ!」

 ただ、命中はさせてないみたいなんだけど。

 突然の発砲音にビックリしたジャギィ達は逃げるようにこのエリアから出ていってしまった。

 

 

「あ、アラン……?」

「勘違いだけはするなよ」

 勘違い……?

 

「お前とあのジャギィ達は友達じゃない。お前がその口でいくらジャギィ達の為だと言っても、それが彼奴らに理解されるのは難しい」

 友達じゃ……ない。

 

 

 うん、そうだね。

 人と竜は相容れない。

 

 私とジャギィさん達にあったのは、共存関係だ。

 

 

「ただ……」

「ただ?」

「お前の素直な気持ちは、もしかしたら本当に届いてるのかもな」

 アランがそう言って視線を移すその先には、岩陰からこっそりと私達を見ているジャギィだった。

 

「お前を心配してるのかもしれないし、まぁ……隙を見て襲おうとしてるのかもしれないが」

「心配してくれてるんだよ」

 確信はない。

 

 

「そんなバカニャ」

「きっとそう!」

 ただ、そんな気がしただけ。

 

 

「……どうだろうな。さて、ババコンガが寝てる間にここいらのキノコを全て採取するぞ」

 今更だけど、それとんでもない事しようとしてるよね。

 

 キノコはすぐ生えてくるけど、そういう事じゃなくてこのエリアのキノコ全部って何個あるのだろうか。

 考えると気が遠くなる。でもこれも後ろで待ってくれているジャギィ達や、ババコンガの為。

 

 頑張らなきゃね。

 

 

「それじゃ、一狩り行きますか!」

「狩るのキノコだけどニャ……」

 

 【キノコハンターの称号を手に入れた】

 

 

 

 ババコンガから離れた所から順番にキノコを採って、早一時間。

 私達は山菜爺さんもビックリしそうな量のキノコを採取していた。

 

 ポーチからはみ出るキノコの山。

 ムツキが背負う藁のカゴに入ったキノコの量といえば、背負ってる本人より重そうなんだからもう凄い。

 

 

「で、特産キノコはあったのか?」

「無いニャ」

「…………」

 アランとムツキはそんな会話をしている中、私は毒テングダケを入手。要らない。

 

 

 なんで?! なんでこんなに探してるのに特産キノコは見付からないの?!

 

 

「もう少しだな」

 そして、残るはババコンガの直ぐ近くに生えているキノコだけとなってしまった。

 それなのに特産キノコは見つかりません。

 

 

「これはもうメインクエスト失敗ニャ……」

「そんなぁ……それじゃ夜ご飯は?」

「色々なキノコの炒め物でも食べるニャ」

「そんなの嫌だ……」

「あんまり騒ぐとババコンガが起きるぞ……」

 あ、そうだった。

 

「……っ。ムツキ……シー、だよ」

「うるさいのはミズキニャ」

 うぐ……。

 

 

 なんて話ながら、私達はババコンガの近くにあるキノコも採取していく。

 一向に見付からない特産キノコ。本当に無いのかと諦めかけた瞬間、声が響く。

 

「あった! あったニャ!」

「ムツキ! シー、だってぇ!」

「いやお前も静かにしろ」

 結構うるさくしたけど、ババコンガは起きて来なかった。

 気持ち良さそうにお腹を爪で搔くその寝顔はなんだか愛くるしい。

 

 

 ところで、ムツキは何をはしゃいでいたのだろうか?

 もう夜ご飯がキノコ炒めに決定してしまったというのに……。

 

 

「これ見るニャ、これ」

 そうやってムツキが指差すのは、ババコンガの長い尻尾。

 周りのキノコを取ってそのまま口に運べるくらい器用なその尻尾は、今はお腹の横に垂れていて。

 

 その先には、喉から手が出るほど欲していたあの特産キノコが握られていたの。

 

 

 あった。あったよ!

 

 

「特産キノコぉ……っ」

 しかも、最後の一本。これを逃したらクエスト失敗。

 

 それなのに。

 

 

「フゴァゥ……フゴォ……フゴァゥ……フゴォ……」

 特産キノコは、気持ち良くいびきを立てるババコンガの尻尾にキープされていた。

 最後の特産キノコなのに……っ!!

 

 

「なるほど、こいつは特産キノコが好物らしい。辺り一帯で特産キノコが取れなかったのはこいつが食い荒らしたからか」

 なんて、呑気に観察するアラン。

 

 なんと……。

 

 

「これ、貰えないかなぁ……」

「無理だろうな」

 ですよねー。

 

 

「ジー……」

 ムツキは真っ直ぐに特産キノコを見つめるけど、そんなに見たって貰えないみたいだよ。

 

 まず、ババコンガさん寝てるしね。

 

 

 いや、寝てるならチャンス?

 

 

「ムツキ、やれるの?」

「ふ……僕を誰だと思ってるニャ」

 視線をズラしてそう言うムツキは、なぜだか遠くを見ているようだった。

 

 

「ボクに盗めない物はにゃい……」

 何でそんなに下を見ながら言うの……。

 

「あぁ……そう言えば、お前はやり過ぎて島流しになったんだっけか」

「言うニャ! ボクの黒歴史を掘り返すのは辞めるニャ!」

 そ、そうだったね。

 

 

 ムツキは島に来る前、メラルーとしても物を取る事に関して優秀だった。

 それで、良くハンターさんのアイテムとかを盗んで使っていた経緯で今の賢いムツキが居るんだけど。

 

 やり過ぎて、怒られて、怖いハンターさんに島流しにされちゃったみたいです。

 筏一枚で海を流れるのが相当効いたのか、島に来てからは泥棒はしなくなったんだけどね。

 

 

 

「と、言うことで」

 なんて言うムツキの手には、既に特産キノコが握られていた。

 すぐ視線をババコンガの尻尾に戻すと、そこにあった筈の特産キノコが無い。

 

 

「早っ……」

 久し振りに見せてもらったけど、ムツキのぶんどりはもう目にも見えません。

 必殺仕事人みたいで格好良いよムツキ! ババコンガさんも起きて来ないし。

 

 

「凄いねムツキ!」

「……ははっ」

 乾いた笑い声で目を反らすムツキ。どうやら、未だに島流しがトラウマみたい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「よし、キノコは取り終えたな?」

 そんなこんなで、私達は辺り一面のキノコを全て採取し終えました。

 キノコハンターマスターの称号も夢じゃないかも。

 

 

「ババコンガが起きる前にここを離れるぞ」

 それで、後はババコンガがご飯を探して出て行ってくれれば解決です。

 この近くには未知の樹海っていう場所があって、そこにはキノコも多いからババコンガは勝手にそこに向かうだろうってアランが言っていた。

 

 これでメインクエストも達成だし、サブクエストのジャギィ達も縄張りが返って一件落着。

 私が望んでいたゴールが、答えが、直ぐそこにある。

 

 

 

 なのに、私はまたやってしまった。

 ツタを登って、エリアから出ようとしたその先で。

 

「あ、特産キノコ……っ」

 ポーチから頭を出していた特産キノコを落としてしまったの。

 

 特産キノコは地面を何度か跳ねて、ババコンガのトサカに当たって停止した。

 

 

「……ったく、何してるニャ。もぅ」

「ご、ごめんなさい……」

 謝る私を尻目に、ムツキはババコンガのもとに戻って慣れた手つきで特産キノコを拾って振り向く。

 

「もう僕が持ってるニャ」

「ごめんね……ありが———」

 いつも迷惑を掛けてごめんなさい。そう思いながらも、頼りになるお兄さんを労おうと声をかけ掛けようとしたその時だった。

 

 

「フゴァ…………フゴォッ!」

 ムツキの背後で、ババコンガが身体を起こす。

 その瞬間だけは眠そうな表情をしていたんだけど、ムツキが視界に入るや否や血相を変えて自分の尻尾を視界に映した。

 

 

 特産キノコが無い。

 大切にとっておいた特産キノコが無い。

 

 目の前に居るネコがそれを持っている。

 

 

 そんなババコンガの心境が手に取るように分かった。

 だって、ババコンガさんは顔を真っ赤にして両手を広げていたから。

 

 

「フガァァァ!!」

「臭———ニャぁ゛ぁ゛?!」

 ムツキの背後で、お尻から茶色い煙を巻き上げながら身体を震わせるババコンガ。

 その鋭い爪が振り上げられ、特産キノコを奪った目の前の生物に振り下ろされる。

 

「ムツキぃっ!」

「……ちっ」

 人の身体ほどもある腕が振り下ろされる瞬間、火を纏った弾丸がその手首に命中した。

 

 

「ニャニャニャニャニャ……っ?!」

 震えるムツキの目と鼻の先に、弾丸の威力で攻撃位置がズレた爪が突き刺さる。

 アランの援護がなかったら———そんな事を考えて私は動きを止めてしまった。

 

 

「何してる! ムツキを助けるぞ!」

「……っぁ」

 そうだ、私のせいでムツキが危ないのに。

 

 直ぐに背負った剣に手を掛ける。

 ただ、私はまたそこで固まってしまった。

 

 

「ババコンガさんを、止めないと……?」

 起こしてしまったババコンガを止めるには、どうしたら良いのだろうか?

 アランも弾を撃ってしまったし、ムツキが特産キノコを持っているし、ババコンガは完全に私達を敵だと認識している。

 

 

 そんなババコンガを止めるには———殺すしかない。

 

 

「フガァァァ!」

「ふにゃぁぁぁっ?!」

 私がそんな事を考えている間にも、ババコンガの鋭い爪がムツキを襲う。

 

 右腕を、左腕を、それを交わされたならまた右腕を。

 繰り出される猛攻をムツキは必死に走って逃げる。

 

 

 

「……ミズキ?」

 アランが名前を呼ぶ。

 けど、それに応える事もムツキを助けようと動く事も私は出来なかった。

 

 

 ババコンガを殺さなければいけない。

 

 私は……アランみたいには———

 

 

「ミズキ!」

 私の名前を呼んだのは、ムツキだった。

 

 ———ぇ?

 

 

「何やってるニャ!」

 いつの間にか私の正面まで戻って来ていたムツキが、ジャンプして特産キノコで私の頬を叩く。

 全く痛くないけど、それでもムツキが私に喝を入れてくれたのだけは分かった。

 

 

「ムツキ……ご、ごめんね……っ」

「ミズキのバカは昔からニャ。気にしにゃい」

 な……っ。

 

 

 

「フガッ、フゴ……フゴフゴ」

 ムツキを取り逃がして、私達の前で威嚇をするババコンガ。

 今ツタを登ろうとしたら確実にババコンガに襲われる。状況としては、改善していない。

 

 

「……ミズキ、ババコンガを救いたいか?」

 そんな中、アランはババコンガから視線を外さずに私にそう話し掛けてきた。

 

 私は……確かにババコンガさんも助けたい。

 でも、もうこうなったら———

 

 

「傷付ける事で、相手を救える事もある」

 腰の剣も手に取りながら、アランはそんな事を言ったの。

 

 傷付ける事で……救う?

 

 

「傷付き弱れば、回復しようとその場から離れる。回復能力の高いモンスター達は、そう簡単には死なないからな」

「ババコンガさんと戦って弱らせられれば……殺さずに済むかもしれないって事?」

「そういう事だ」

 そんな事が……。

 

 

「俺は道を示しただけだ。……後はお前が選べば良い。お前が戦わないなら、俺はこいつを殺す」

 その眼は、いつかモガの森でジャギィを殺した時と同じだった。

 アランにはその覚悟もある。

 

 ただ、私が望むならチャンスをくれるって……アランはそう言ってくれた。

 

 

「……戦う」

 剣を手に取る。

 

 本当は双剣なんだけど、盾と剣にしてこの武器を構える。

 

 

 

 守れなかった私に、あなたは力を貸してくれますか?

 

 もし、貸してくれるなら。ババコンガさんを一緒に守って下さい。

 

 

 

「フゴァァァァッ!!」

 特産キノコ泥棒を目の前にして、怒りの雄叫びを上げるババコンガ。

 そんな声と共に、戦闘は始まった。

 

 私よりも早くババコンガの元に向かったアランが、その頭を踏み付けて跳躍する。

 そのまま空中で火炎弾をババコンガの背中に叩き付け、その背後に着地して後ろを取った。

 

 

「フゴァッ?!」

 突然の背中への衝撃、そして今さっき自分を踏み付けたアランを見失ってババコンガは辺りを見渡す。

 

 

「ムツキ、危ないから離れててね」

「んニャ……それは僕のセリフなんだけどニャ……」

 大丈夫、私だって成長してるもん。

 

 

 モガの村にいた時は、私はジャギィだって倒すのが精一杯だった。

 アオアシラやロアルドロス、ドスジャギィは愚かジャギィノスだって歯が立たない未熟者。

 

 

 でも、アランに剣の振り方を教えてもらったり……戦う覚悟を貰ったりした。

 

 

 あの時の私じゃない。

 

 倒す事は出来なくても、戦う事は出来る。

 それに、それで良い。

 

 

「こっちだよ!」

 アランを探して隙を見せるババコンガの懐に入り、剣を叩き付ける。

 振るんじゃなくて、引くように、腰を使って。

 

 迷わずに、斬る。

 

 

「フゴァッ?!」

「やった!?」

 剣先を濡らす鮮血と、確かな手応え。

 そうだ、私も戦える。

 

「そんな訳があるか盾を構えろ!」

 そんな自惚れた私に掛けられたのは、そんな声だった。

 

「ぇ———」

 何故か分からなかったけど、とにかく盾を構える。

 その次の瞬間、私の身体は物凄い衝撃と共に地面を離れた。

 

「……っぁ゛、っゃぁ」

 そのまま吹っ飛んで、私は地面を転がされる。

 ババコンガに殴り飛ばされた……?

 

 

 盾のおかげで大きな怪我はしなかったけど、地面に叩きつけられた衝撃で身体のあちこちが軋むように痛い。

 それでも何とか立ち上がって、心配で駆け寄って来たムツキに回復薬を貰う。

 

 それを一口で飲み干した所で視界に映ったのは、ババコンガの正面で剣を振るアランだった。

 

 

「フゴァッ!」

 アランの斬撃に苦しそうな表情を見せるババコンガだけど、それをものともせず太い腕を振りかざす。

 アランはそれを前転して避けたんだけど、私はあの攻撃に当たってしまったみたいだ。

 

 

 当たり前といえば当たり前、モンスターが私なんかの攻撃で動きを止める訳がない。

 

 

「も、もう一度……」

「辞めとくニャ……怪我しちゃうニャ……」

 ムツキの心配は嬉しい。

 

 だけど、ごめんなさい。

 

 

「私がやらなきゃ……意味がないから」

 アランは私に道を教えてくれる。けれど、その道はアランが知っているだけで向かおうとしている道じゃないんだと思う。

 アランがなんでその道を知っているのか分からない。

 

 本当はその道は間違いで、アランはそれを知っているのかもしれない。

 

 

 何も分からないけど。それでも、私は今その道を進みたい。

 アランと同じ答えが見えるのかも分からないし、私だけの答えが見つかるかもしれない。

 

 どっちでも良い。

 

 

 私は、その答えが知りたい。

 

 

「……っやぁぁ!」

 アランに集中して私を見ていないババコンガの背後から近付いて、剣を叩き付ける。

 尻尾の付け根に一撃、回転を加えて背中に一撃。

 

 小さな悲鳴が聞こえたのを確認したら、私は一歩下がって盾を構えた。

 ババコンガさんが何をしてくるか分からないから、とりあえず離れてガードで。

 

 

「フゴォォッフ」

 次の瞬間、ババコンガをお尻の周りを茶色い煙が覆った。

 え? 何? そんな事を考える前にとある感覚が私を襲う。

 

 

 ———臭ぁ?!

 

 なんとも形容出来そうもない強烈な匂い。とにかく臭い。何これ臭い。

 

 

「何これぇ?!」

 もう涙が出てくるくらい臭かった。

 どうなってるの、もぅ。

 

 

「フゴァッ」

 私とアランを一緒に視界に入れる為か、少し走って距離を取るババコンガ。

 向き直って何やら尻尾でお尻の辺りを触っている。

 

 

「さっきのは彼奴の放屁だ」

「ほうひ……?」

「屁だ」

 ぬぁ……っ。

 

 

「そして今から……」

「今から?」

「あいつは排泄物を投げてくる」

 ぇ、それって———

 

 

「フゴァッ!!」

 姿勢を低くし、長い尻尾を頭の上で振るババコンガ。

 その尻尾には何やら茶色い物が掴まれていて、それは真っ直ぐ一直線に私達へ向かって来た。

 

 

 嫌だ嫌だ当たりたくない!!

 

 

「うわぁ?!」

 急いで身を乗り出して、私はそれから逃れる事に成功した。

 ババコンガさん、なんて汚い攻撃をするの……。

 

 アランもちゃんと避けてたのを確認して安心した矢先、エリアに悲鳴が轟く。

 

 

「ぎにゃぁ゛ぁ゛?!」

 私達を後方で見ていたムツキの隣に、ババコンガの排泄物が着弾。

 直撃していないのに、ムツキは白眼を向いて倒れてしまった。

 

 

「は……はわ……はゎゎゎ……はゎゎゎゎ……」

 戦慄して足が固まります。ババコンガ、そんなに危険なモンスターじゃないって思ってたけど物凄く危険。

 

 

「とりあえずムツキを彼処から離してやれ……。俺が気を引く」

 そう言って、アランはババコンガに向かって行った。

 

 む、ムツキを助けないと……。

 

 

 

「ムツ———臭っ!」

 倒れているムツキに駆け寄るけど、物凄い臭さ。キノコ大丈夫かな……。

 あまりの臭さに泣きながら、白眼のムツキをエリアの端に寄せます。カゴも大丈夫。

 

「……私、助けられてばかりだなぁ」

 失敗も多いし、ちゃんと攻撃も与えられてない。

 

 

 村にいた頃よりは成長してる筈……だけど。

 

 

 

「もっと頑張らなきゃ、ね」

 誰に言うでもないけど、決意を落として振り向く。

 ババコンガを一人で翻弄するアランは本当に凄くて、私は要らないのかもしれない。

 

 でも、本当は私がしなきゃいけない事なんだ。

 

 

 

 それから、力足らずだけど私も戦いに加わってババコンガと戦闘を続けて少し時間が経った。

 

 息がし辛いし、何度か地面を転がって全身痛い。

 それでも、倒れないように必死にババコンガに噛み付いた。

 

 

「フゴァッ……フゴァッ! フゴォォッ!」

 相手も私も、もうボロボロ。アランだけは息を切らしてなくて、ハンターとしての実力差を思い知るよう。

 

 そしてババコンガは、最後の力を振り絞って跳躍した。

 あの巨体を浮かして私達を上から潰そうとしてるんだと思う。

 

 

「……っゃ!」

 その攻撃を、地面を転がって回避する。

 背中に感じる風圧は、ババコンガと地面との間にあった空気。

 

 潰されていたら、死んでいたかもしれない。

 当たり前だ。ババコンガは命を賭けて、私達と戦っている。

 

 

 もうきっと、キノコの事は頭にないかもしれない。

 

 ただ、自分をここまで傷付けた狩人を殺して自分が生き残るために必死で戦ってるんだ。

 

 

 でも、それもこれで終わり。

 

 

「隙が出来た、一気に叩き込め!」

 そんなアランの言葉通り、立ち上がった私の背後でババコンガは地面にうつ伏せで倒れていた。

 体力の限界だったのだろう。本当に最後の攻撃だったのだろう。

 

「……やぁぁぁぁっ!!」

 そんなババコンガに私は近付いて、剣を叩き付ける。

 

 

 モンスターは、とてつもない生命力があってどれだけ傷付けてもその命の火を消す事は難しい。

 ハンターはそんなモンスターを限界まで追い詰め、殺す。

 

 凄いと思う。

 

 だって、もう、アランに手伝って貰っているのに私にはそんな体力が残されていないんだから。

 

 

 だから、この一振りも私の最後の攻撃だった。

 殺したくない言い訳じゃない、本当に最後の体力を使った攻撃。

 

 モンスターと戦うって、難しいんだ。

 

 こんなにも、大変なんだ。

 

 

 

 ……もっと、頑張らなくちゃ。

 

 もっと、強くならなくちゃ。

 

 

 

「…………はぁ……は……っ……はぁ……」

「フ……ゴゥ…………ォォ……」

 目の前で呻き声を上げるババコンガ。お互いに、もう限界です。

 

 

「……もぅ…………う、ご……けない……はぁっ」

「……もう少し体力を付けた方が良いかもな。というか、ちゃんとした狩りの仕方を学ぶべきか」

 私が村でやってきたハンターってなんだったんだろう……。

 

 

「フ……ゴァッ…………フゴォ……」

 苦しそうに身体を動かすババコンガさん。

 

 

「だ、大丈夫かな……っ? アラン、ババコンガさん大丈夫……?」

「さっきまで何回も自分を殺そうとしてきた相手を良く心配出来るな……。お人好しにも程があるぞ」

 むぅ……。

 

「私はババコンガさんの為に戦ったんだもん……」

「…………そうか。まぁ、大丈夫だろう」

 アランの視線の先で、ババコンガは呻き声を上げながらも立ち上がろうとしていた。

 

 かなり体力を消耗したのか、ぎこちない動きだけどちゃんと立ち上がるその姿には生きる強さがまだ残っている。

 

 

「後は、ほっておいてもここから出ていくだろう……ただ———」

 言いながら、アランはババコンガの方を向きながらも視線を別の場所に移した。

 

「———こいつらがそれを許すかどうかだな」

「グォゥッ」

「ウォゥッ」

「ウォゥッ!」

 その視線の先に居たのは、他でもないあの三匹のジャギィ。

 

 

 自分達の縄張りを奪ったババコンガが、今まさに弱っている。

 今なら倒せるかもしれない。

 

 ババコンガを睨み付けるジャギィの眼はそんな感情が見え隠れしていた。

 

 

「ジャギィさん達……」

「倒れているムツキをスルーしたのはこいつらの慈悲か知らんが……。こいつらにババコンガを逃すなんて選択肢はないのかもな」

 苛立たしそうにそう言うアランの手が背負っている剣に向けられる。

 

 

「チッ……ミズキ、選べ」

「……ぇ?」

 な、何を……?

 

 

「ウォゥッ! ウォゥッウォゥッ」

 鳴き声を上げるジャギィ。それは、私達に退けと言っているみたいだった。

 

 

「ババコンガを見捨てるか、ジャギィを殺してババコンガを助けるか」

「そんな!」

 アランの言葉に声を上げるけど、アランの言葉の意味が分からない訳じゃない。

 

 ジャギィさん達はババコンガを逃す気がない。

 ババコンガを助けるならジャギィを殺すしかないし、ジャギィを殺したくないならババコンガを見捨てるしかない。

 

 

 何事も上手く行く事ばかりじゃない。

 

 アランが舌を打ったって事は、どうしようもないって事だから。

 アランだって道を知らないって事だから。

 

 

 ババコンガもジャギィも救う道は、私達の前にないって事だから。

 

 

 

 ……嫌だ。

 

 

 …………そんなのは、嫌だ。

 

 

 

「ジャギィさん達、待って! ババコンガさんは直ぐ出て行くから!」

 アランに借りたお守りを握って、私はジャギィさん達に語り掛けた。

 言葉は通じないって、分かってる。

 

「グォゥッ!」

 想いは届かないって、分かってる。

 

 

「ウォゥッ」

「ウォゥッ!」

 私とジャギィさん達は種族が違う。

 

 

 人と竜は、相容れない。

 

 

 

「おいミズキ、ババコンガから離れろ。一緒に襲われるぞ」

「ダメだよ! ババコンガさんが殺されちゃう!」

「この世界はお前が思ってるほど甘くはないんだ!」

 それでも……っ!

 

「ババコンガさん、走って! 逃げなきゃ死んじゃうよ!」

「おいミズキ!!」

 嫌なんだ……っ!!

 

 

「グォゥッ!」

「っぁ?!」

 アランの言葉と同時に、ジャギィが一匹飛び掛かって来る。

 それが私に向けられた物なのか、ババコンガに向けられた物なのかは分からない。

 

 次の瞬間、何かが爆発した。

 

 

「フゴゥッフッ」

 強烈な悪臭を放ちながら、視界を茶色が覆い尽くす。

 物凄く臭い。気絶しそうな程に臭い。

 

 これは……ババコンガの放屁?!

 

 

「グェェッ?!」

 そんな臭いの中に自ら飛び込んで来たジャギィさんは卒倒した。

 モンスターは人より感覚が優れていたりするから、この強烈な臭いも強く感じてしまったのかもしれない。

 

 

 私の真横に落ちる気絶したジャギィさん。

 悪臭を我慢しながら、私はソレを放った犯人に振り向く。

 

 

「フゴォォッ」

 立ち上がり、私達を尻目に見るババコンガ。

 その表情からは怒りや苦しみは感じられなくて、ただ私とジャギィ達を見比べる。

 

 

「ウォゥ……」

「う、ウォゥ……」

 放屁で仲間を倒されたのが怖かったのか、後ずさるジャギィ達。

 

 そんなジャギィ達を無視して、ババコンガさんはゆっくりとこのエリアを歩いて行く。

 

 

 出口へと、真っ直ぐに。

 

 

 

「ふぁ……」

 そんなババコンガさんを見送って、力が抜けて座り込んでしまった。

 

 真横で倒れるジャギィを心配して、ジャギィ二匹が近付いて来るけどまだ臭いが臭かったのか直ぐに二匹は離れて行く。

 ただ、私達に攻撃しようとはせずに。取り戻せた縄張りを探るように歩いていた。

 

 

「運が良かった……のかな?」

 ババコンガさんが放屁する体力も残ってなかったら、ババコンガさんはそのまま襲われていたかもしれない。

 

 そして、私も。

 

 

「…………ミズキ」

 私の前に立ち、名前を呼ぶアラン。

 その声は低かった。

 

「ぉ、怒ってる……よね。ごめんなさい…………ぇ、えと……あ、お守り! お守り返すね!」

 なんとか誤魔化そうとして、借りた綺麗な水色のペンダントを首から外す。

 うぅ……絶対、無茶をするなとかそんな甘い考えじゃとか怒られるんだ。

 

 

「それは、お前が持ってろ。……お前にやる」

「……ほぇ?」

 そう言って、アランは私の頭に手を置いてくれた。

 優しく撫でてくれる手は、なんだか柔らかい。

 

 

 

「反省点は沢山あるが……まぁ、これがお前が今回辿り着いたゴールだ。満足か?」

 そう言うアランはこのエリアを見渡します。

 

 

 エリアを出て行ったババコンガ。私の横で可哀想に卒倒しているジャギィと、エリアを歩き回る二匹。

 

 

 私が選んだ道の先。ゴールが、その道の答えが、此処にはあった。

 

 

「……うん!!」

 これが……その答え。

 

 少しでも、その先の答えに近付いただろうか?

 

 少しでも、行くべき道を開けだろうか。

 

 

 ただ今は、この場の答えに満足して。気分が高揚した。

 

 

 こんな素敵な体験が、また出来た。

 

 

 

「クエスト、サブターゲット、クリアだな。今日くらいは良い物も食べられるだろう」

「本当に?! やったぁ!」

 エビフライが久し振りに食べたいです。もう何ヶ月食べてないのか!!

 

 

 

「……ぅ、ニャ…………アレ? ここは? 確か特産キノコのクエストで……あ、これ特産キノ———臭ぁぁああああ!!!!」

 エリアの端で、起きては手元の特産キノコの臭さに悶えるムツキ。なんて災難。

 

 

「うわ……臭そう」

「あれが臭くて納品が許されなかったら、今日もパンだな」

「そんなぁ!」

「後お前も臭い」

「そんなぁ?!」

 酷い!

 

 

 

 その後、なんと特産キノコは納品を拒否され。

 

 その日の夜ご飯はキノコの炒め物を挟んだパンでした。

 

 

 うぅ……貧乏生活から脱出出来ない。

 

 ハンターとしてもまだまだだし、課題がいっぱいです。

 

 

 頑張らなきゃね。




一章の補完みたいなお話になってしまいましたが、20話にして小さな区切りに出来たかななんて思っていたり。


言い訳としては。
ババコンガが遺跡平原に居たのは、近くに原生林や未知の樹海があるのでありえない事ではない……かな、と。
寧ろそれを今後の伏線に出来たならなんて考えてるくらいです。

所で私はババコンガが一番苦手なモンスターです。Xには居なかったので幸せなハンター生活を送っていましてが、XXでは復活するみたいですね……。タ、タノシミダナー。


遂に20話です。これからもお付き合いして下さると嬉しいですm(_ _)m
感想評価もお待ちしておりますよl壁lω・,,`)


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狂竜と世界の異変

 降り頻る雨のような温水が身体を流れていく。

 

 

 頭上から肩、背中を伝って足の先まで。

 身体を洗い流す温水は適温で、気持ちが良い。

 

 ある程度身体を流したら、流れていた温水よりも少し暖かい湯の塊に身体を沈めます。

 全身を包み込む、熱いとも暖かいとも取れる温水が身体を芯から暖めてくれる。

 

 

 正直熱いんだけど、そのくらいが丁度良い。

 

 

「ふひぃ…………生き返る」

 ここは、貸家の銭湯。このバルバレでも珍しい銭湯付き貸家を経営するキャラバン隊の管理する大きな浴場です。

 ちゃんと男女で分けられているし、安い家賃が売りなんだけど使用はハンター限定。

 

 女性ハンターは男性より少ないのが現状だから、この浴場は殆ど私の貸切のような物です。むふふ。

 

 

「……お、おっさんみたいだよ? ミズキ」

 思わず漏れた私の声に、私の正面に立っていた一人の少女が反応した。

 ただ、完全に居ないという訳ではないのだった。しまった……間抜けな声を隣人に聞かれてしまった。

 

 

 頭の上で一つに纏めた黒い髪。

 その少女を上から端的に表すなら———ボン、キュ、ボン。

 

 出るとこは出て引き締まるところは引き締まっている、女の子として完成されたその身体は私から見ても羨まし———素敵な体格。

 私と同い年で、私と同じくハンターをしている彼女。ヤヨイ・ハルノは私達が借りている貸家の別の部屋に住む隣人だった。

 

 

「隣、良い?」

「良いよ」

 断りだけ入れて、湯に浸かると私の隣に座るヤヨイ。

 横目で彼女の身体を見ると、横から見てもその身体の凹凸が良く目立つ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 なぜ、人によってこうも成長の仕方が変わるのか。

 

 

 

「クエストの帰り?」

「ううん、今から行く所。行く前に温泉で気分をリフレッシュ。これ、私の故郷じゃ常識なの」

 この貸家に来て、つまりバルバレに来てもう少しで一月程が経つんだけど。

 

 隣の部屋だから良く顔を合わせるし、今この貸家に居る唯一の女の子だから。

 私とヤヨイは知らず知らずの内に良く話す仲になっていました。

 

 

 これって、友達って事で良いんだよね?

 

 同世代の同性の友達は初めてだったりする。ヤヨイと話してるのはとても楽しいです。

 

 

「どんな所なの?」

「温泉が有名で、のどかな所かな。とっても良い村だよ!」

 うーん、私はモガの村以外の村をあまり知らないから、それだけじゃどんな所なのか分からない。

 でも、ヤヨイが良い村って言うんだからきっと良い村なんだろうな。

 

 

 

「そっかぁ……いつか行けると良いなぁ」

 せっかく村を出たんだから色々な所に行ってみたい気持ちはある。

 

 ただ、そもそも私はアランの拠点であるタンジアにも戻れない始末。このままじゃダメだよねぇ……。

 

 

「今日はどんなクエストを受けるの?」

「え、えとぉ……薬草か……キノコ採取…………かな」

 ヤヨイは最近ハンターを始めたばかりの駆け出しハンターだったりする。

 それなのに、先輩の私が彼女と殆ど変わらないというのは……どうなんだろう。

 

 

「は、初めはそんな物だよ!」

「そうかな……。私としては、早くモンスターを狩れるようになって! 実家のお母さんを安心させたいだけど」

「そ、そっか……」

 彼女の立派な志に、私はたじろいでしまった。

 

 

 私と同い年位の女の子が、一人でモンスターを狩れるようになろうと頑張っているのに対して。

 私がしている事といえば……その真逆。

 

 

「今日こそは、私のウォーハンマーでケチャワチャくらい…………ぃゃ、オルタロスくらい……倒……せたら、良いなぁ?」

 どんどん自信を消失していくヤヨイ。

 

 彼女はハンマーを使うハンター。一緒に狩場に出た事はないんだけど、普段から朝のトレーニングやこうやって狩りの前のリフレッシュというのも欠かさない一生懸命な人だ。

 私と違ってちゃんとハンターを出来ると思うし、努力家で真面目で、何よりスタイルが良い。

 

 きっと将来はバルバレを代表する美少女ハンターになってると思う。

 

 

「……羨ましい」

 そんな言葉を落としながら、私は顔も半分お湯に浸ける。

 何を食べたらそうなるのか。

 

 

「え、え? ん? そういえば、ミズキはなんでお風呂に?」

「アランとの朝の稽古の汗を流すって理由もあるけど……。一番はムツキが臭いって言うから、かな」

「え? 臭い?」

 あのババコンガの放屁の臭いが、まだ取れてないんです。

 

 アレから一週間は経ったから、人の嗅覚じゃ感じられない程度にはなったんだけど。

 メラルーであるムツキは臭いに敏感らしくて、まだ臭うみたいなんだよね。

 

 

 だから、私はこうして偶に時間を見付けてはお風呂に入ります。

 まだ臭うのかなぁ……。

 

「ムツキって、ミズキの部屋に居るメラルーさん?」

「うん、私のお兄さん」

「んぇ? お兄さん? お兄さんは、あの銀髪のイケメンの人じゃなくて?」

「アランはお兄さんじゃないよ?」

 そう答えると、ヤヨイは眼を丸くして私の両肩を掴んだ。ぇ、何。

 

 

「か、彼氏さんなの?! あの人、ミズキの彼氏さんだったの?!」

「え? 違うけど」

「えぇ?! じゃぁ、何なの?!」

 アランが私の何……かと聞かれれば。そういえばどう答えて良いか分からない。

 

 

 旅の仲間? いや、旅をしてる訳じゃないし私が勝手に着いて来ただけだし。

 

 師匠? いや、アランは色々教えてくれるけど弟子入りした覚えはない。

 ババコンガの一件以来毎朝稽古は付けてくれてるけど。

 

 

 ならば、アランは私の何なのか。

 

 考えると分からなくなって来てしまった。

 

 

「わ、分からない」

「ミズキ……あの人に嫌な事されたりしてない? 大丈夫?」

「???」

 なんで、ヤヨイは心配してるのだろうか。

 

 

 アランは良い人だよ。うん。

 

 

「ミズキが良いなら……良いんだけど。何かあったら言ってね? 私達友達なんだから!」

 友達……っ!

 

「ぅ、うん! ありがとぅ、ヤヨイ!」

「ミズキ可愛い……」

 なんかヨダレ垂れてるけど大丈夫かな、ヤヨイ。

 

 

「そういえば、クエストは?」

「あ、そろそろ行かなくちゃ。私先に上がるね! それじゃ!」

 そう言うとヤヨイは急いで湯から出ては、私に身体を向けて手を振ってくれる。

 

 

 その後振り向いて、何処とは言わない立派な物を揺らしながら浴場を後にするヤヨイ。

 そんな彼女を見ながら、私は自分の胸元に手を当てた。

 

 

「本当に同い年なのかなぁ……」

 身体は温まるのに、心は何故だか冷たくなる。

 

 

 そんな、不思議な入浴でした。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 バルバレは物流が盛んな街だ。

 

 

 まだ日が昇りきっていないこの時間でも、外では商人やその客が声を張り上げる。

 この商品は幾らだ、これと交換してくれ、この値段で買わせてくれ。

 

 流れる物は食料品から鉱石、モンスターの素材まで様々。

 

 

 そんな商売が行われている地域を抜けると、大きな建物が目に映る。

 

 移動式集会所。

 バルバレが誇る街の中心たるこの集会所の端に、バルバレでは珍しい気球船が泊まっているのを確認した。

 

 

 手紙を送って一週間。やっとご到着という訳か。

 

 

 急ぎ足で集会所に向かうと、見慣れては居るが集会所で出会うのは初めての人物と眼が合った。

 

「よう! お前さんか。ガールフレンドはどうした?」

 ウェスタンハットの下に白髪を伸ばす初老。しかしまだ若さを感じる快活な口振りでそんな挨拶をして来たのは恩人、我らの団の団長だった。

 

 

「……ガールフレンドではありません」

「おっと、はっはっは! そうだったそうだった。それで、お前さん一人でどうした?」

「荷物が届いてるんじゃないかと思いまして。団長さんは?」

 俺は軽く質問に答えると、団長にも同じ質問を返す。

 

 

 ハンターではない団長がこの場に居るんだ。目的も同じだとは思うが。

 

 

「なら、お前さんと同じだ。気球船が来てたな? アレはタンジアギルドからの荷物船。タンジアの知り合いに荷物を送って貰ったから、アレに乗ってる筈なのさ」

 親指で建物の外にある気球船を指差しながら、そう言う団長。

 色々な所を旅しているとは聞いたが、まさかタンジアにまで知り合いが居るとは。

 

 

「そういや、お前さん達に言うのを忘れてたな。俺達は今日バルバレを発つ予定だ」

「……そうなんですか?」

 我らの団はキャラバン隊。そして団長には目的があると言っていた。

 

 ならば、ずっとバルバレに居る事はないと思っていたが。

 こんなに早くなるとは思っていなかった。

 

 

「あぁ! 我らの団のハンターも、中々腰が座ってきた所だ。仲間も集まった。だから、今度は船を作ろうと思ってな!」

「船……ですか?」

「おうよ! ナグリ村って所なら、それが出来るかもしれないらしくてな。俺達の船だ。完成したら、お前さんも一度見てやってくれ!」

 そう言いながら俺の肩を何度も叩く団長。この人は普通に力が強いのだから遠慮して貰いたい。

 

 

 しかし、船か。タンジアに向かったりしてくれるのなら、是非乗せてもらいたい物である。

 

 

「しかし……すみません。俺達はまだ団長に恩を返せていない」

「恩? 俺はお前さん達に恩を返させるような事はしてないさ。ただ、一緒に旅をしたかっただけだ! お前さん達を見てるのも楽しかった。俺が恩を返したいくらいだよ」

 この人は聖人か何かなのか。

 

 

「団長……。……いえ、でも……いつかかならずこの恩は返します。また会いましょう」

「あぁ、お前さん達が何処へ行こうが俺達はもう仲間だ。旅をしていればまた会える……そうだろう?」

 そう言うと、団長は拳を俺に向けてくる。

 

 俺はそれに無言で答えた。団長の堅い拳は大きく、暖かい。

 

 

「俺達は荷物を受け取ったら直ぐ発つ予定だ。お嬢ちゃんには、宜しく伝えといてくれよ!」

「はい、勿論です。本当に、ありがとうございました」

「おぅ。またな!」

 快活な笑顔で返事をしてくれた団長は、ギルドの受付へ振り向く。

 

 

 さて、俺も荷物を受け取るとしようか。

 

 

 

 定期的に、バルバレはこうやって気球船もやって来る事が多い。流石は全てが集う場所と言われている事はあるだろう。

 

 今回バルバレに到着したのはタンジアギルドからの気球船だ。

 都合良く事が運んでくれていれば、俺やミズキの防具とあいつからの手紙が来ている筈だが。

 

 

「えー、ソフィアさん。モガの村、アイシャさんからの手紙ですよ」

「お嬢への手紙か! それは俺が受け取っておこう」

 聞き覚えのある名前が差出人の手紙を受け取る団長。我らの団に、アイシャの知り合いが居たとは……。

 

 

 こうやって、荷物は名前を呼ばれて受け取る。

 自分の名前が呼ばれるのを待っていると、先に団長が呼ばれたらしく。

 

 荷物を受け取った団長は俺に手を振りながら、集会所を後にした。

 きっとまた会えるだろう。彼らの事はあの、我らの団に入ったハンターに任せるとしよう。

 

 

 

 ところで、だ。

 いつまで経っても自分の名前は呼ばれる事が無かった。

 

 怪訝に思いつつも待っていると、遂に荷物の受け取りが終わってしまう。

 

 

 都合が悪かったか。

 そう思って諦め、集会所を後にしようと振り向いた矢先。

 

 目の前に羽帽子が映った。

 

 

「はい、どもー、アランさん。お久しぶりです」

 目線の少し下。ベージュ色の帽子に半分隠された瞳で俺を見ながら、ソイツはそんな軽い挨拶をしてくる。

 

 

「ウェイン……? まさか、本人が来るとはな」

「意外でしたか?」

 そう言いながら、辺りを確認する一人の黒髪の青年。

 

 青年というには若い童顔の下に着るのは、帽子と同じ色をしたコートだ。

 それはギルドナイトと呼ばれるギルド直属のハンターが着る制服のような物で、ギルドナイトスーツと呼ばれている。

 

 

 そんなスーツを着崩して着用する彼を、周りの人間は気に掛けて居る様子だった。

 

 それもそうだ。

 ギルドナイトはギルド直属のハンター。噂では対ハンター用ハンターとまで言われている。

 そんな人物が目の前に現れれば、警戒や興味といった感情が何かしら湧く物だろう。

 

 

 

「タンジアのギルドナイトであるお前が、態々バルバレまで来るとは思ってなかったからな」

「いやいや、アランさんの為なら例え火山だろうが砂漠だろうが」

 目の前の男は全くそんな事を思っていなそうな表情で、頭から帽子を取りながらそう言った。

 

 

「思ってもいない事を……」

「そんなことないですよ。まぁ、今回は積もる話があったのとタイミングが良くて足を運んだ訳ですが。その積もる話がですね……ここじゃ大声で話せない事もあるので。良い場所知りませんか?」

 男は饒舌にそう語ると、質問の回答を待った。

 

 積もる話、か。

 

 

 一週間程前、俺はこの男に手紙を出した。丁度ミズキがババコンガの放屁に晒された日の事だったか。

 

 その内容は三つ。

 一つは突如狂った様に暴れ出したアルセルタスの事について、ギルドナイトだから何か知っているかと問いた内容

 もう一つはリーゲルさんの行方。彼が無事なら、俺達の防具を送っても欲しかったし単純に彼の安否が心配だった。

 最後にカルラの事だ。ギルドナイトになっていたアイツの詳細。ギルドナイトの事はギルドナイトに聞いた方が良いだろう。

 

 

「今住んでる貸家の近くに物凄く高くて滅多に客が居ない酒場がある」

「それ、僕が持つんですよね?」

「そうだな」

「ったく、アランさんと居ると赤字ですよ。まぁ、貸家の近くだっていうなら蒼火竜砲の事も見に行けますし丁度良いです。僕が出しましょう。案内よろしくお願いします」

 彼に言われるまま、俺は集会所を後にする。

 

 

 ギルドナイトが後ろから付いて来るなんて光景は、バルバレでは珍しかったのか道行く人々が視線を彼に移した。

 

 

 ベージュのギルドナイトスーツ。

 それを着崩して飄々と歩くコイツの名はウェイン・シルヴェスタ。

 

 タンジアギルドのギルドナイトの一人であるが、俺との関係は武器商人と客。

 俺の持つライトボウガン蒼火竜砲【三日月】はウェインの母が経営していた武器屋の特注品で、コイツしか整備が出来ない物だ。

 

 

 七年の腐れ縁になるが、ウェインがギルドナイトになったのはつい最近の事。

 その特権を、俺は度々利用させて貰っている。

 

 

 

「さーて、何から話した物か。あー、やっぱり錆びてるし。弾薬庫汚いし。あーもー、これだから杜撰な人は」

 貸家に寄って。何故か胸元を触りながら考え事をしていたミズキを無視し、樽を磨いていたムツキには出掛けると声を掛けた。

 貸家のボックスに置いてあった俺のライトボウガンを持って、ウェインを待たせていた酒場に立ち寄る。

 

 

「どうせまた無茶な使い方をしたんでしょうに。ノズル溶けてるし。あー、もう、一度バラさないとダメですねコレ。お金取っても良いですか?」

「……なら要らん」

「……分かりましたタダでやります。どうか使ってやって下さい」

 勿論、要らないなんて事はない。この武器はアイツの形見なんだから。

 

 

 そう思って、俺は癖で胸元を握り締めた。

 しかし、手は空気を掴むだけで何にも触れられない。

 

 そういや、アレはミズキにやったんだったか。

 

 

「……あれ? ペンダントは?」

「知り合いにやった」

「ミズキちゃんにですか?」

 ん?

 

 なぜ、ウェインがミズキを知っている。

 

 

「なぜお前が知っている、っていう顔をしてますね。いや、リーゲル氏の安否を調べろと言ったのはアランさんじゃないですか。あ、蒼火竜砲は一日預かりますね」

 そう言うとウェインは、ライトボウガンを風呂敷に包んでから水を一口飲む。

 そうして、水が減ったグラスを揺らしながらこう続けた。

 

 

「結論だけを言うと、リーゲル氏の生存は確認出来ました」

 そうして出た言葉は、そんな曖昧な台詞。

 

「どういう事だ?」

「直接は会えなかったんですよ。彼はタンジアには帰って来なかった。その代わり、彼からタンジアに手紙が届いたんです。……船がモンスターに襲われてタンジアとは別の場所に行く事になった。アランさんとミズキちゃんの荷物をバルバレって所に預けたから取りに来てくれってね」

 バルバレって……ここだと?!

 

 

「なんというすれ違い。それで、さっきバルバレからタンジアへの荷物を確認してみたら見事にリーゲル氏の名前で荷物がありましたね。事情を話して荷物はちゃんとアランさんの貸家に届けて貰えるようにしておきましたけど」

「まさか探していた荷物がずっと近くにあったなんてな……。それで、リーゲルさんのその後は?」

「手紙にはそれ以上の事は書かれていませんでした。まぁ、無事なのは確かでしょう」

 なら、良いが。

 

 

 彼にはまだ聞きたい事が幾つかあった。

 

 また、会えるだろか。

 

 

「カルラというギルドナイトに着いては、申し訳ありませんが調査が足りませんでした。少なくともタンジアギルドにはその名前の人物は存在しません」

「……そうか」

 と、なると他の街のギルドナイトという事か……?

 

 あいつは今、どこで何をやっているのだろうか。

 

 

 

「さーて。ここから先が、大声では言えない事ですね」

 そして、ウェインは再び羽帽子を深く頭に乗せると少しだけ間を空けてから口を開いた。

 

「アランさんの言っていた、モンスターが狂った様に暴れ出す現象は他にも確認されています」

「……そうなのか?」

 アレが……他にも?

 

 

「暴れる他にも、体液が黒くなったり焦点の合わない瞳が不気味に光ったり。……時には死んだ様に動かなくなった後、復活したとか」

 それは、いつかバルバレの集会所の受付嬢が言っていた噂に酷似していた。

 あの時は酔っ払いの戯言だと思っていたが。まさか事実だったとは。

 

 

「この件、ギルドは裏で既に動いています。まずこの状態になったモンスターを狂竜化モンスターと命名しました」

 狂った竜、で狂竜か。案外的を得ているかもしれない。

 

 

「そして、その狂竜化モンスターからウイルスらしき物を最近検出した様です。しかし、モンスターが狂竜化する理由は未だに不明」

 肝心な所は分からず、か。

 

「狂竜化はこのバルバレを中心に世界各地に広がりつつあります。対峙した狩人へのウイルスの感染も確認されていて、ギルドは今全力を尽くして原因究明に当たっている所です」

「人に感染する……?」

 ふと、アルセルタスの時を思い出す。

 

 

 アルセルタスが身体中から出していたあの黒い靄を、ミズキも身体から出していた。

 アレが、ウイルスの感染だというのだろうか?

 

「人への影響は……? 人も感染すれば、モンスターのように狂うのか?」

「いえ、人間は感染しても理性を失ったりはしないようです。ただ、免疫力と筋力の低下により著しく体力を奪われるようになる。……なぜか、人は直ぐに完治するようですが」

「……そ、そうか」

 だが、ミズキに現れた表情はまた違った気がした。

 人によるのだろうか……?

 

 

「と、まぁ。実際この狂竜化とそれを発症させる狂竜ウイルスに関しては分からない事の方が現状多い。たーだ、それに関係しているかは分かりませんが……狂竜化が確認されだしたここ最近になって、このバルバレ付近で未知のモンスターが二種確認され出しました」

「未知の? ギルドが把握していないモンスターという事か?」

「はい……一匹は」

 声を低くしてそう言うウェイン。

 

 

 何故か俺を横目で見てから、彼はこう続ける。

 

 

「……一匹は、僕達が血眼になって探してる怒隻慧(どせきけい)です」

「…………は?」

 今……なんて言った?

 

「聞き違いじゃありませんよ。ただ、間違いの可能性もありますが」

「……どういう事だ。詳しく説明しろ」

 俺の大切な物を全て奪ったあのモンスターが、バルバレ付近に居る……?

 

 

 そんな事は有り得ない。

 

 

 アイツはタンジア付近に生息していた筈だ。

 

 

「四年前、ヨゾラさんを殺した怒隻慧はその後姿を眩ませた。四年間、ずっと探していたのに見付からなかったのはなぜか……? そもそも探す場所が間違っていたのかもしれない。奴には大陸を超える力があったという、可能性」

「イビルジョーが海を泳いだってのか?」

 そんなバカな事があってたまるか。

 

「アレが規格外なのはアランさんだって知っているでしょう。それに、半身だけが怒り喰らうイビルジョーになっているイビルジョーなんて誰が見間違うのか。……既に小さな村が一つ消えています。討伐に向かったハンター四人の内三人が死亡し、一人は両足と片手を失いました。その生き残った一人はこう言っていたようです。体の半分はイビルジョー、もう半分は───悪魔だった……ってね」

 その特徴は、俺が探し続けていた怒隻慧の特徴その物だった。

 

 

 本当に、大陸を渡る能力があるとでも言うのか……?

 

 

「まぁ、他のイビルジョーが怒隻慧と同じ状態に陥ったという可能性も捨てがたいですが……。そこら辺は今日僕と来た姉さんがもう調査に乗り出していると思います」

「あの人も来ているのか……?」

「それだけ重要案件って事ですよ。このバルバレを取り巻く環境がね」

 そこまで言ってから、ウェインは残っていた水を飲み干して店主に変えを要求する。

 少しの沈黙の後、店主が水の変えを持って来てウェインはそれを半分飲んでからまた口を開いた。

 

 

「もう一匹は全くの未知のモンスターです。ギルドにデータが無かった、新種のね」

「……新種?」

「目撃情報が曖昧なんで、確りと断定は出来ませんが。……四肢に一対の翼があり、体色は黒、眼球が確認されないというのがそのモンスターと対峙して生き残ったハンターの証言でした」

 特徴を聞けば、古龍の種に同じ様な特徴を持ったモンスターを思い出す。

 だが、俺の知っているモンスターにウェインが言った特徴を全て持つモンスターは居な———いや、待てよ?

 

 

「まさか……あの時船を襲ったモンスターなのか?」

「……ぇ、対峙した事あるんですか?」

「リーゲルさんの船の上でな。対峙した瞬間に海にミズキが突き落とされて、俺はそれを助ける為に飛び込んで……それきりだが」

「と、なるとリーゲル氏の手紙にあったモンスターがゴア・マガラ……」

「ゴア・マガラ……?」

 それが、あのモンスターの名前なのか。

 

「あ、その新種の名前です。とある伝承に伝わるモンスターに似ている事から名付けられたとか何とか。……今は筆頭ハンターという方々が調査に乗り出している所らしいですね。しかし面白い情報が手に入りました。リーゲル氏はゴア・マガラと海上で対峙して生存している……詳しく話を聞きたいですねぇ」

「仕事熱心だな」

「一応ギルドナイトですからね。本業ではありませんが、怒隻慧が関わっているかも知れない以上……僕も動くしかない」

 お前の本業は……。

 

 

「今、バルバレを中心に異常な事が起きつつあります。狂竜化、ゴア・マガラ、そしてこの大陸での怒隻慧の出現……何が何処まで関係しているのかは不明ですが。……さて、アランさん。実はギルドナイトの特権を使えば今すぐにでもアランさんをタンジアへ送る事が出来るんですが、ここは一つ僕に使われてくれませんかね?」

「ゴア・マガラと怒隻慧の調査か……?」

 それをするなら、ミズキには悪いがあいつだけでもモガに返すしかないかもしれない。

 

 

 どっちのモンスターも、甘い考えでは殺されるだけだ。

 

 

「ご名答。……まぁ、ところがギッチョン。僕もそう大して大きな情報を持ってないので、アランさんにはバルバレに待機していて欲しいのですが」

「この地方に怒隻慧が居るなら、タンジアに戻る理由もない」

 アイツは……俺が殺す。

 

「わー、なんて心強い。では、宜しくお願いしますよ? 僕は明日、蒼火竜砲をアランさんに届けたら帰るんで。後は姉さんと宜しくやって下さい」

「何……」

 あの人と……一緒に行動しろと?

 

「そんな露骨に嫌がるとあの人喜びますよ」

「…………」

 やはり帰ろうか。

 

「大丈夫大丈夫、あの人も多忙ですからずっと近くには居ないでしょう。必要となったら呼び付けられるだけでね」

「まぁ……悪いのは俺だからな」

「ヨゾラさんの件で悪いのはアランさんだけじゃないですよ……」

 そう言うとウェインは席を立って、店主に席代を支払う。

 

 

 そして歩きならが帽子の位置を直して、こう口を開いた。

 

「……僕はハンターとしては駆け出し以下です。この件に関して協力出来るのは、申し訳ありませんが情報だけ。……後は、任せますよ」

「何言ってる」

「……はい?」

 俺も立ち上がり、ウェインの背後についてその低い頭に平手打ちをくれてやる。

 

「ちょー、何するんです」

「お前の武器が無ければ俺は戦えない。ソレの事は頼んだぞ」

「…………へいへい。ゼロゼニーになりますよっと」

 そう言うと、ウェインは一足先に店を出て行った。

 

 

 さて、ライトボウガンの事はウェインに任せれば問題無いだろう。

 

 俺は、明日からの身の振り方を考える必要があるか……。

 

 

 

 

「ミズキとはもう居られないかも知れないな……」

 あいつと居て、俺が進めなかった道を行くあいつを見ているのが俺は心地が良かった。

 

 ……それも、もう終わりかも知れないな。




も、モンスターが出ずに一話終わってしまった……。
けど、この物語的には重要な回になっております。


新キャラを二人も出して、次のお話でも新キャラが出るんですが……うーんペースが早すぎるかな。

一応簡単な説明をここに。


ヤヨイ・ハルノ
ミズキ達が住む貸家の隣人。綺麗な黒い髪が特徴。
スタイル抜群でミズキとは同い年(15)。
ハンターを目指し出したのは最近で、遠く離れたとある村からやって来たらしい。使用する武器はハンマー。

モンハンを好きな方は彼女の故郷がどこか分かる筈ですね←


ウェイン・シルヴェスタ
アランの旧友でタンジアギルドのギルドナイト。スーツの色はベージュで髪の色は黒。
アランとの関係はアランのライトボウガンを作った加工屋の店主が彼の母親であり、今現在そのライトボウガンの説明を理解しているのが彼という事。

私の書いている『とあるギルドナイトの陳謝』という作品にも登場するキャラクターです(露骨な宣伝)。


と、長くなりましたが今回はこの辺で(`・ω・´)
次回もお会い出来ると嬉しいです。

感想評価等お待ちしておりますよl壁lω・`)


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甘さと選んだ道の答え

「ったぁ!」

 腰を使って、引く。

 

 

 単純だけど、ただ叩き付けるよりもこの方が風を切る音が綺麗だ。

 

 

「ったぁ! やぁっ!」

 声を上げ、クラブホーンの剣先を見詰める。

 大きく弧を描くそれは、風を切って最後に砂を舞い上げた。

 

 

 早朝から、仕事の用意をしている商業スペースを横切ってランニング。

 その後に素振りとアランの攻撃を盾で受け止めるというのが、私が最近やっているトレーニングの内容です。

 

 

「……アラン? どうしたの?」

「……ん、ぁ、いや、何でもない。素振りは終わったな?」

 ただ、なんだか今日はアランの様子が変だ。

 

 私の事を見てくれてはいるけど、上の空というか。

 何処か違う所を見ている気がする。

 

 普段より鋭い目付きの先に、私は写っていないような気がした。

 

 

「終わったよ!」

「……なら、盾受けをやるか」

 そう言ってしてくれた特訓の時も、アランは私の眼を見てくれてはいたのに。

 意識が別の所にある。そんな感じ。

 

 

 

「ぷはっ……疲れたぁ」

「お疲れニャ。ドリンク飲むニャ?」

 特訓も終わり、部屋に倒れ込む私に労いの言葉を掛けてくれるムツキ。

 今すぐそれを喉に流し込みたいのは山々なんだけど、ここは我慢です。

 

 ここでお風呂に入って汗を流して、そうして初めてドリンクを飲む事で気分がリフレッシュされる。

 そう教えてくれたのは、同じ貸家に住む初老のハンターさんでした。

 

 

 ムツキからは、おっさんみたいだって言われます……。

 

 

「ううん、先にお風呂入って来る。アラン、行ってくるね!」

「……ん、ぁ、あぁ」

 なんだろう。アランが変だ。

 

 昨日、用事があるって家を出てから何か変。

 誰かと話していたって聞いたけど、どんな話をして来たんだろう?

 

 

 ただ、きっと私なんかじゃ力になれないだろうから。

 

 私はいつも通りに振る舞おうと決めながら、部屋を出るために扉を開ける。

 今日はクエストも行くだろうし。頑張らなきゃ!

 

 

「……ふぇ?」

 ただ、扉の先に広がる光景はいつもの廊下ではなく。

 

 

 視界に映る二人の人物。

 

 一人は私より少し大きくてアランより少し小さな背の、黒髪の男性。

 もう一人はアランより大きくてガタイの良い、赤色の入った紺色をサイドテールにした女性。

 

 

 そのどちらもが、何処かで見た事のある服装をしていたの。

 

 白いシャツにそれぞれベージュとピンクのコートを羽織り、ズボンはコートと同じ色。頭の上も、同じ色の羽帽子。

 女性が着ている衣装にはフリルとかが付いているんだけど。どちらも同じような服装で、やっぱり何か既視感を感じた。

 

 どこだっけ……。そうだ、モガの村で、カルラさんっていう———ギルドナイトの人が着ていた服?!

 

 

「どもー、ギルドナイトです。お嬢さん」

「はゎゎゎゎゎ、あ、ぁ、ぁあ、あ、アラン! ギルドナイトの男女の人が着たんだけど?! 私達何かしたの?! 捕まっちゃうの?!」

 ギルドナイトは、悪い人を捕まえる仕事もしているって。

 そんな事を村でアイシャさんが言っていたのを思い出して、私は取り乱してしまった。

 

 

「いや、どう見ても男女じゃなくて男二人ニャ!」

「え?!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ていうかおっさんニャ!」

 そうなの?! ピンクの人男の人なの?!

 

 

「誰がおっさんよ」

 そしてその人から発せられた声は、確かに野太くて低い声だった。でも、話し方や格好は女性。

 え? えと? え? ドユコト?

 

 

「アランさん、居ますかね? お邪魔して良いですか」

 パニック状態の私に、丁寧にそう言ってくれるのはベージュ色のスーツのギルドナイトの人。

 私はおどおどしながら、道を譲って手だけで「どうぞ」と答える事しか出来なかった。

 

 

 

「ど、どど、ど、どう、どうしようムツキ」

「アランが誘拐の疑いで通報されただけニャ、きっと」

 誘拐……? 誰を?

 

 

「ウェイン、アキラさん……。朝早いですね」

 そんな二人が視界に入ると、アランは村の村長や我らの団の団長さんと接するような態度で口を開いた。

 名前を呼んだって事は、三人は知り合いなのかな? 私達、捕まっちゃう訳ではない?

 

「こちとら忙しい身ですからね。えーと、彼女がミズキちゃん?」

「そうだな」

 私の名前を知っている……?

 

 

「ミズキ、一応紹介しておく。……こっちの小さいのはウェイン。見ての通りギルドナイトだが、俺の腐れ縁だ」

「腐れ縁なんて酷い。……あ、どうもミズキちゃん。ウェイン・シルヴェスタです。宜しく」

 アランに膨れっ面をした後、ウェインさんという方は私に手を伸ばしてくれる。

 

「ど、どうも……」

 私はそんな手を取って、小声で挨拶しました。

 えーと……知り合いって事は、私達を捕まえに来た訳じゃないって事?

 

 

「あんやー、可愛いガールフレンドが出来ましたねー、アランさん」

「とっとと帰れ」

「酷い」

 笑顔で冗談を言うウェインさんに、アランは良く私にやる平手打ちをした。

 

「こんな小娘を連れ回して……。アランちゃん、一体どういうつもりなのかしら」

 それで涙目になるウェインさんの隣。腕を組みながらそう言うのは、ピンクのコートを羽織ったギルドナイトの……女性? 男性?

 

 フリルの付いたシャツはなんだか艶やかなんだけど、筋肉質な身体がどうも不釣り合い。

 格好や髪型、話し方は女性の物なのになんだかそれ以外が男性みたいな不思議な人。

 

 

「……成り行きというか。何というか」

 アランもその人には頭が上がらないようで、なんだか恐縮してるみたい。

 

 

「アラン、この人は?」

「アキラさん。……なんというか、俺の知り合いの兄で「姉よ」……姉で」

 アランの言葉を修正するアキラさんの表情は険しい物で、なんでか私をずっと睨み付けてるよう。

 

 わ、私何かしたのかな……。

 

 

「いや、どう見てもおっさんニャ」

「む、ムツキ! 失礼だよ!」

「そこの小娘」

 なんで私が怒られてるの?!

 

 ムツキに注意をする為に背を向けたアキラさんの方を、恐る恐る振り返る。

 目に映るのは目の前まで迫っていた大きな身体。いっぱい化粧をした顔が、おでこに当たりそうな距離に近付く。

 

「は、はい?!」

「小娘はモガに帰ってハチとでも戦ってなさい」

「…………。ぇ?」

 ドユコト?

 

 

「え、じゃないわよ。あんたみたいな小娘が狩場に出るのは間違いだって言ってるの。そんなにハンターごっこがしたかったらハチとでも戦ってれば良いわ」

「ぇ、えと……な、なんで…………ですか?」

 強く言われて、私はどう返したら良いか分からなかった。

 

 え、と、どういう事……?

 帰れ? モガに……?

 

 

「あら、アランちゃん。この小娘にはまだ何も言ってなかったのね」

「……それは…………その」

 視線を逸らすアラン。私はどういう事か、さっぱり分からなかった。

 

 

「いや、これはアランさんが悪いですよ。えーと、ミズキちゃんには僕が説明しますね? アランさんはギルドから直接依頼を受けていて、そのクエストがちょーっと危険な物でして。ミズキちゃんには荷が重いでしょうし、悪いんですけどモガに帰って頂こうかな……なんて?」

「アランちゃんにはね、狂竜化モンスターの調査に協力して貰うの。だから、アンタみたいな初心者ハンターの小娘は邪魔なのよ」

 視線を合わせて優しく説明してくれるウェインさんと、横目で見下ろしながら言葉を落とすアキラさん。

 

 

 狂竜化という知らない単語の後、邪魔だと言われて私の頭は真っ白になってしまった。

 

 私がここに居るのは、アランの側に居たら素敵な経験が出来ると思ったから。

 この前は、アランに手伝って貰っただけだけど。それでも、自分なりの道の先の答えを見る事が出来た。

 

 

 私はまだ、アランと一緒に居たい。

 

 

「何が邪魔ニャ! ミズキは最近頑張ってるニャ。勉強はサボるけど、毎日の特訓はサボった事ないニャ!」

 そうやってアキラさんに噛み付いたのは、私じゃなくてムツキだった。

 尻尾を膨らませて、敵意を剥き出しにする彼の眼は本気で怒っている表情。

 

 

「自分で何も語る事も出来ない小娘なんて、狩場では一人で何も出来ないだけよ。そもそもあなた、なんでアランちゃんの側に居るの? あなたはアランちゃんの何なの?」

 私とアランの関係……?

 

 ふと、昨日ヤヨイに言われた事を思い出した。

 

 私自身、良く分からない。

 

 

 でも、私の答えは一つだ。

 

 

「私は……モンスターの事を分かってあげてる優しいアランの側に居たい。そしたら、また素敵な経験が出来るかなって……。ただ、それだけです」

「…………誰かに似て甘いのね」

 良く、言われる言葉だった。

 

 

 甘い。

 モンスターと仲良くだとか、友達にだとか、甘い考えだって、分かってる。

 

 けど、私はアランみたいになりたい。

 モンスターと、心を通わせたい。

 

 

「アランちゃん、ヨゾラの事……忘れた訳じゃないわよね?」

「……っ。そんな事はない!」

 少しだけ、声を大きくするアラン。

 その表情はこころなしか辛そうだ。

 

 

「ミズキちゃん。狂竜化という現象をご存知ですか?」

 アランとアキラさんが話している傍らで、ウェインさんが小さく私に話し掛けてくる。

 さっきアキラさんが言っていた言葉。きょうりゅうか(・・・・・・・)モンスターの調査。きょうりゅうか?

 

「狂った竜と化す、そう書いて狂竜化。ミズキちゃん、バルバレに来て最初に遭遇したアルセルタスの事を覚えてますか?」

「あ、えと、はい」

 アレは、バルバレに来て初めてのクエスト。

 

 

 アランの考えで、アルセルタスさんを殺さずにクエストを完了出来るかと思ったのに。

 アルセルタスさんは、いきなり黒い靄を身体から出しながら暴れ出して。

 

 最後には自ら命を絶ってしまった。

 

 確か、私はその時———

 

 

「そのアルセルタスに異変が起こりましたよね? アレが、狂竜化。未だに調査不足で申し訳ないのですが、アレは他のモンスターでも確認されだした現象です。一種のウイルスによる仕業とも考えられています」

「ウイルス……ですか?」

 あのアルセルタスさんは……病気だった?

 

「人間にも感染します。人間は死には至りませんが。……ただ、モンスターが感染すると狂ってしまい暴れ出す。そして身体は弱くなり……死に至る。現状二匹の狂竜化モンスターの捕獲に成功……そのどちらも長生きはしませんでした。まぁ、多分致死率十割でしょうね」

「病気なら……治せないんですか?」

「現状その方法はありません。そして、狂竜化モンスターは決まって大暴れします、それがどれだけ危険でどうすれば良いか。ミズキちゃんにも……分かるよね?」

 分かりきった答えを、彼は念を押すように私に聞いて来た。

 

 

 それは、私が一番したくない事。

 

 間違っているのかもしれない。

 

 だけど、それは私が進みたい道じゃない。

 

 

「そして、アランさんにはその狂竜化モンスターの調査……並びに討伐を何件か依頼したいんです。ミズキちゃんが優しい性格なのはアランさんに聞きました。……だから、申し訳ないけどアランさんと居るのは君の為にもならないんだ。僕と一緒にタンジアに来てくれるかな?」

 優しく諭すようにそう言って、手を伸ばすウェインさん。

 

 彼が、私の為を思って言ってくれてるのは良く分かった。

 

 

 アランは、ギルドからの依頼でモンスターを退治しなきゃいけない。

 

 そのモンスター達は、どうしたって殺さないといけない事。

 そこに私みたいなのが居たら、邪魔だって事。

 

 

 

「私……」

「ニャ、ミズキ……どうするニャ?」

 きっと、ムツキは私がどうするって言ったって着いてきてくれるよね。

 

 今、私の目の前にある道の先は全く見えない。

 

 

「少し……お風呂で考えさせて下さい」

 こんな時、いつも私は自分の頭が悪い事を恨みます。

 

 バカな私じゃ、考える為の時間が足りないんだ。

 

 

「あ、ごめんね。入浴前だったんだ。うん、僕は構わないから待ってるよ」

「……ありがとう、ごめんなさい」

 そう言って部屋を出る時に、チラッとアランの表情を伺う。

 

 なんだか、厳しい表情をしているアラン。

 今朝のアランがおかしかったのは……この事の所為なのかな……?

 

 

 

 

 なんて、考えながら私は浴場へ急いだ。

 

 とにかく考えなきゃ。

 どうしたら良いか。どうするか。

 

 パパッと身体を流して、私は湯に浸かります。

 

 

「邪魔……か」

 そもそも初めから、私はアランの邪魔だったんじゃないかな。

 これまでの事を考えて、そんな事を思う。

 

 アランは優しい人。

 でも私みたいに甘くなんてなくて、モンスターを狩る時はちゃんと切り替える。

 

 

 私がいなければ、アランはとっくにお金を稼いでタンジアに戻っていた。

 そもそも私がいなければ、アランはここに来る事もなかったと思う。

 

 私が足枷になっているなんて……そんなのは明白だった。

 

 

「……私は、居ない方が良いのかな?」

 私の我が儘で、アランにいっぱい迷惑を掛けて来た。

 

 これからアランは、あのアルセルタスさんみたいになってしまったモンスターと戦って行く。

 そんな所に私が居ても、本当に邪魔なだけだ。

 

 

 ふと、あの日の事を思い出した。

 

 胸が苦しくなったあの感覚。怖かった、辛かった。

 何かに蝕まれる感覚が、身体の中に蘇る。

 

 

「……アルセルタスさん、苦しがってた」

 そんなアルセルタスさんを助ける事は、出来ない。

 狩るしかない。殺すしかない。

 

 苦しんで、狂って、そうして暴れていたアルセルタスさんを救うには……殺すしかなかった。

 

 

 思い出すのは、ダイミョウサザミさんやロアルドロスさんの時の事。

 この手で奪ったその命を思い出しては、手が震える。

 

 

「命を奪う事で……救える物もある…………のかな」

 そんな事を口にしては、私は顔を半分湯に浸けた。

 

 やり場のない感情を吐き出すように、ブクブクと息を吐く。

 

 

 ふと、誰かの言葉が頭を過ぎった。

 

 ——迷うな——

 

 そんな誰かの言葉は、私を推し進めてくれた言葉。

 これがわがままだと分かっていても、彼のそんな言葉が私を推し進めてくれた。

 

 

 ———もし、本当にそうする事で救えるのなら。私は———

 

 

 

「あ、ミズキ居る! おはよう?」

「ヤヨイ、またこんな時間か———え?! その血どうしたの?!」

 考え事をしていると、浴場にタオル一枚で現れたのはヤヨイだった。

 

 私はそんな彼女に声を掛けようと、視線を合わせる。

 ただ、そこで私の眼に映ったのは頬や腕に真っ赤な液体を付着させていた彼女の姿だった。

 

 

 見た目、完全に大怪我。

 

 

「あー、これぇ? むっふふ……私ね、ついにやったのよ! 狩りに成功したの!」

 そんな事を言いながら、彼女はその勲章とでも言うように自らの身体に着いた血を指で指した。

 笑顔でそう語る彼女は、私にそれを見せる事が出来て満足したのか湯を掛けて身体を洗い流す。

 

 

 そ、そっか……。モンスターを狩れたんだね。

 

 ヤヨイは凄いな……。そう思った。

 

 

「よ、良かったね」

「うん! あのねあのね! とんでもないチャンスが私に舞い降りたのよ!」

 とんでもないチャンス?

 

 その疑問を私は首を傾げて彼女に伝えると、ヤヨイはこう返す。

 

「なんかね、物凄く人懐っこい? 人に慣れてる? なんというか、私の事友達だとでも思ってるみたいに近付いて来たジャギィが一匹居てね!」

「———ぇ」

 ヤヨイのその言葉に、私の頭は真っ白になった。

 

 

 人懐っこい……?

 

 人に慣れてる……?

 

 友達だとでも思ってる……?

 

 

 脳裏に映るのは、私がお魚を上げたジャギィさん。あの三匹だった。

 

 

「それでね、全く警戒されなかった物だから。私の愛槌でそのジャギィの頭を、こう! ズンッて、潰してやったの!」

 ジャギィが彼女を警戒しなかったのは、間違いなく私のせいだ。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 それなのに私は、ジャギィさんに私達が———人間が敵じゃないと思い込ませてしまった。

 

 

「ふふふ、バカなモンスターもいた物だよねぇ。一撃じゃ死なずに倒れて呻き声を上げてて、可哀想だったからもう一撃! 別に初めてって訳じゃないけど……自分の力でモンスターを狩れたのは久し振りだから私感動しちゃって! あ、これ、そのジャギィから剥ぎ取った鱗なんだよ見て見て!」

 彼女は間違っていない。至極、当たり前の反応。

 

 

 だって私達は狩人だ。

 

 そして彼等はモンスターだ。

 

 人と竜は相容れない。

 

 

 当たり前の事だ。

 

 

 

 私の、甘い考えがジャギィさんを殺した。

 

 

「もぅ、ね! これで私もハンターとして上達出来たのかな? なん……て…………ミズキ? どうかしたの? あ、私が先に進んじゃって悔しいの? 大丈夫、次からは私がお姉さんとしてミズキを引っ張ってあげるんだから」

 そう言いながら私の横に座って湯に浸かるヤヨイ。

 

 

 彼女が悪くないなんて事は、分かってる。

 

 私がおかしいなんて事は、分かってる。

 

 

 でも、だから、余計に悔しくて悲しくて涙が出た。

 

 

「ぇ、ミズキ……泣いてる? ぇ、ご、ごめんね自慢なんかして!」

「ヤヨイは……悪くないよ」

 そう言ってから、私は逃げるように立ち上がった。

 

「……み、ミズキ? あ、そうだ。私勇気を出して明日アルセルタスの狩猟に行こうと思うの! ぇと、良かったらミズキも一緒———」

「ごめん。私、もう出るね」

 何でだろうね。

 

 

「ぇ、ミズキ? ミズキったらぁ!」

 頭が良く回る。

 

 何をしたら良いか、分かる気がした。

 

 

 振り向く先にあるのは、ヤヨイが自慢気に見せてくれたジャギィの鱗。

 

 ……ごめんね。ごめんなさい。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「あ、おかえりなさいミズキちゃん。で、答えは出ま……し……たか? ……ミズキちゃん?」

 部屋に戻ると、初めに声を掛けてくれたのはウェインさんだった。

 

 

 何やらムツキを除いた三人で会話をしていたみたい。ムツキは、いつもみたいに樽を磨いている。

 

 

「……私が、甘いから、邪魔だって言うんですよね」

 皆の前で、私はそんな言葉を落とした。

 

 自分でも驚く程、低い声で。

 

 

「……ミズキ?」

「私がちゃんとモンスターを殺せたら、アランの側に居ても邪魔じゃなくなりますか?」

 そうして、難しそうな顔をしているアキラさんに視線を合わせて話し掛ける。

 

「……面白い程切り替えが早いじゃない。良いわ、もしそんな事が出来たのなら私は何も言わない」

「ぇ、(あね)さん? ぇ、いやいや、ミズキちゃんはまだ経験も浅いハンターですよ?! それを狂竜化モンスターと戦わせるなんて」

 目を細めて私を見ながら頷いてくれるアキラさん。

 対照的に、ウェインさんはアキラさんの目の前で身振り手振り自分の意見を伝えようとした。

 

 

「ここに来る前に確か、筆頭リーダーちゃんが狂竜化ゲリョスを遺跡平原で確認したって言ってたわよね? アランちゃんと小娘で討伐して貰おうじゃない」

「姉さん。正気ですか? アンタがそんな格好してる理由を忘れた訳じゃないですよね」

「私はいつも正気よ」

 そう言ってウェインさんを一蹴すると、アキラさんは私に詰め寄ってくる。

 

 

「アンタがアランちゃんの、歯止めになれる事を期待してるわ」

 そして、そんな事を他の誰にも聞こえないような小声で呟くとアキラさんは私を乱暴に退けて部屋を出た。

 

 

「準備しなさい。アランちゃん、小娘。私は先に入ってクエストの手続きをして来てあげるわ」

「ちょ、姉さん……ってもぅ。ミズキちゃん……本気なの