タツミが斬る!《赤と黒の鬼》 (虎神)
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プロローグ

人が次第に朽ちゆくように

国もいずれは滅びゆく

千年栄えた帝都すらも

いまや腐敗し生き地獄

人の形の魑魅魍魎が

我が者顏で跋扈する

 

天が裁けぬその悪を闇の中で始末するーーー

 

ーーー我ら全員、殺し屋稼業

 

◆◇◆

 

「ど、土竜だぁぁぁあああ!!」

 

荷運びをしていた男の声が街道にてこだまする。男の目の前には、オケラのような巨大な化物。

《一級危険種 》土竜。それが目の前に現れたのだから。

 

「こ、こんな街道に土竜が出るなんて聞いてねぇぞ!!」

 

「と、とにかく逃げるぞ!!」

 

もう一人、仕事仲間である男が荷を置いて逃げるように言った。彼らとて自分の命の方が大事であろう。

しかし、逃げまどう二人の間に一つの影が映った。

 

「お、おい!お前も逃げーーー」

 

男はその影に向かって叫ぶがもう遅い。土竜は大きな手をその影に振り下ろした。

だがーーー

 

「邪魔だろうが...いきなり道のど真ん中に現れんな!!」

 

振り下ろした土竜の手は、細切れになって大量の血を出しながら落ちていった。その光景を見た荷運びの男達が息を飲んだ。

子供だ。右手に真っ黒な剣を持った子供が、そこに立っているのだ。

土竜は痛さのあまり呻き声を大きく上げるが、すぐさま自分をこのような目に合わせたソレを睨む。

 

『グオォォオオオ!!』

 

「うるせい。恨むなら自分を恨め」

 

残った手で再び攻撃をする土竜だが、その影はするりとソレを避け反対の手同様細切れにする。そして、肩に跳躍し土竜の頭を見据えた。

 

「終わりだ」

 

刹那、凄まじい斬撃の嵐が土竜を襲った。

その影が地面に着地した時には、もうすでに土竜は地に伏せていたのだった。

 

「まぁ、こんなもんか」

 

「少年!!凄いじゃないか、危険種を一人で!」

 

男達は、戦闘が終わったのを見てか木の陰から出てきた。なんともいい笑顔だ。自分たちの生活がかかっている物が帰ってきたのだから、それは嬉しいはずだ。

 

「ああ、まぁな。一応帝都で一旗上げる気だしな。これくらいできねぇと」

 

「ッ!!帝都...か」

 

少年のその言葉で、男の顔が曇る。

 

「どうした?」

 

「少年、君が思っているほど帝都は良い場所ではない。土竜(これ)なんかよりタチの悪い奴がうじゃうじゃいるんだ」

 

「わかってる...人間だろ?」

 

「...そうか、わかってるなら良いさ。これから俺たちも帝都に向かうが一緒に行くか?助けてもらった礼も兼ねて」

 

「お、そりゃ助かるよおっさん」

 

おっさんと言われた男は少し顔をしかめるが、すぐにため息を一つ吐く。倒れた馬車を起き上がらせ男達はそれに乗り込んだ。

 

「あ、そういや名前聞いてなかったな」

 

「ん?俺か?俺はーーータツミ。帝都で有名になる男だからよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ!!」

 

圧巻した。感動と言っても良いほどだろう。それほどまでに、俺は帝都に心を奪われた。

 

「ここが帝都かぁ〜、ここで出世すれば村なんて買えるかもな」

 

タツミの目的はただ一つ。ここ帝都で出世し、自分の村を救うということだった。実はもう二人ほど連れがいたのだが、事情から村を出るのが俺の方が遅かったのだ。一応あちらも目的地は帝都だから、会えれば良いんだが...

 

「ここ広いしなぁ〜。ま、イエヤスもサヨ強いし大丈夫だろう!とにかく兵舎を探すか!!」

 

心を躍らせながら、タツミは人が集まる道を進んでいった。

そのタツミの言葉に耳を澄ませる人間がいると気づかぬままにーーー

 

そして時間が飛ぶが夜、タツミは一人道を歩いていた。

どうしてかだって?簡単に言うと騙された。兵舎に着いたのはいいものの、一般兵からというのが気に食わなかった為にそこで少し騒いでしまったのだ。すると、兵舎を追い出され、挙句の果てには通りかかった金髪の美人なおっぱいさんに隊長にしてもらうように頼んでやると言われ、そのワイロで金を全部渡してしまったのだ。

すれば後は簡単。現在このように無一文に早変わりだ。

 

(あっんのクソおっぱい!!次あったらアレむしり取ってやる!!)

 

男性らしからぬ最低な考えを持っていたタツミであった。

しかし本当にどうしたものか、このままじゃ餓死する。サヨにもイエヤスにもあってねぇってのにーーー

 

「はぁ、前途多難すぎるだろ俺」

 

誰だよ、あの助けた男の言葉遮って人間だろ?とか答えた奴。今すぐ出てこい、その顔ぶん殴ってやる!!

軽く現実逃避をしていたタツミだが、道を歩いている途中に声が聞こえた。

これは...悲鳴、しかも女だ。

 

「ッチ、こっちか!」

 

タツミはすぐさまその悲鳴が聞こえた方向に走り出す。そして、路地裏。金髪の自分と同じくらいの少女を複数の男が手や口を押さえていた。少女の服は、かすかに刃物で切られた跡がある。

 

「ッ!!助けて!!」

 

少女はタツミの姿を見た瞬間助けを求める。だが、男達が少女の口を再度押さえつけた。

 

「ッチ、なんだガキかよ」

 

「おい、さっさとこいつヤッちまおうぜ?俺もう我慢できねぇよ!!」

 

「ッハ!本当に変態だなテメーは。おいガキ、痛い目見たくなかったらさっさと消えろよ」

 

リーダー格であろう男が、タツミに向かって睨みを効かせる。が、タツミは黙ったまま何も言わない。

 

「おいおい、ビビっちゃってんじゃねぇか。ほら、さっさと消えろって」

 

そして、男がタツミの胸を押したその瞬間だった。

 

「あ?」

 

ゴキッと大きな音が鳴った。タツミを押した男が自分の手を見ると、そこにはブランとぶら下がったような自分の掌があった。ソレを見た瞬間、男に凄まじい痛みが走った。

 

「ぎゃぁぁぁあああ!!?お、俺の手がぁぁあああ!!」

 

「汚い手で触るな下郎が。おい、さっさとその子を離せ」

 

タツミは何事もなかったかのように残り二人の男に言った。

 

「テメーざけんじゃ...」

 

「はい遅い」

 

ナイフを取り出した男の懐にすぐさま飛び出した。男はいつの間にと言うが早く、ナイフを突き刺そうとするがーーー甘い。

タツミはそのナイフを手で受けながすと、もう一人の男の肩へと突き刺した。

 

「お、お前!!何しやがんだ!!」

 

「お、俺じゃねぇよ!!あ...」

 

男が気づいた時にはもう遅い。タツミは振りかぶった足を男達めがけ振るった。その凄まじい衝撃で、男達はドゴンッと音を鳴らし地面に激突したのだった。

そして、最初の腕を外した男に向き直る。

 

「っひ!!?た、助けてくれ!!」

 

「悪いがそれを決めんのは俺じゃないだ」

 

「え?」

 

タツミは助け出した少女を見る。少女は一瞬ボッとしていたが、すぐさま落ちてあったナイフを手に持った。

 

「お、おい!!や、やめてくれぇぇえええ!!」

 

「ふっ!」

 

しかし、男の命乞いもむなしくその腕は振り下ろされた。

 

「....殺さないのか?」

 

「ええ。こんな人を殺したら私が穢れるもの」

 

そう。ナイフは男の股の間に突き刺さっていた。まぁ、あまりの恐怖のあまり気絶しているが

俺は乱れた服を気にしていた少女に自分のコートを肩にかける。

 

「あ、ありがと」

 

「気にするな。別に助けたのもたまたまだから」

 

「で、でも少し礼くらいしたいわ。わ、私に出来ることならなんでもやるわ!!」

 

その言葉にピクッとするタツミ。

なんでも?つまりこの美がつくほどの少女にあんな事やこんな事を?

 

「な、なんだか目が怖いんだけど...」

 

「ハッ!妄想の世界に入ってた。って、女性がそういう事言うもんじゃないぞ?他の奴なら勘違いしちまうかも知らないからな」

 

「?」

 

あらこの子、全然わかってないわ!!?

首をキョトンとかしげる金髪の少女にうなだれるタツミ。見れば、かなり薄着だ。そりゃ、この時間帯にこんな格好でいたら襲われるのも頷ける。

 

「で、なんでこんな時間に一人で出歩いてるんだ?家の人が心配するだろう」

 

「ちょ、ちょっと外の空気を吸いたくて...抜け出してきたの」

 

「だったら上着くらい着て出ろよ風邪ひくぞ」

 

「ごめんなさい...でも、あなたはどうしてこんなところに?」

 

「う...」

 

なんの悪気もないそんな目で見られてしまうと、凄く恥ずかしくなる。とりあえずは泊まるとこがないとだけ言っておいた。

 

「だったら家に来るといいわ!ちょうど貴方みたいな客人二人を招いているところなの!!」

 

「えぇ!?でも悪いしな...」

 

「助けてもらったお礼よ。あ、私はアリアよろしくね?」

 

「いや、まだ決まってな....はぁ、まぁいいか。俺はタツミだ。1日だけ世話になる」

 

そう言って、タツミは金髪の少女アリアの後をついて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、ここが私の家よ!!」

 

「.....」

 

いや、家っていうかーーー屋敷じゃん。

 

「お嬢様!!」

 

「お嬢様どこに行っていたのですか!!?それにその服は!!」

 

アリアが門に近づくと、鎧を着た男二人が息を切らしながらアリアに近づく。

 

「ちょっと藪の中に入って服が破れちゃったの。ソレを見たタツミが服を貸してここまで送ってきてくれたのよ」

 

どうやら先ほどの男達の事は内密にしたいらしい。タツミはその意図が分かり、すぐさま話を合わせた。

兵の男達は少し不審がっていたが、ホッと一息つくと俺も屋敷の中に入れてくれたのだった。

 

「さっきはありがとうタツミ。話を合わせてくれて」

 

「いいって、親を心配かけさせたくないんだろ?」

 

「え...あ、うん...」

 

なんか元気がないか?

そんな事を考えていたが、タツミは屋敷のドアを開けた。すると中は明るく、高そうな壺や高そうな絵。壁、床、天井ともにキラキラと光って見えた。

 

「すげぇ....」

 

「そうかしら?結構普通だと思うのだけど...」

 

これが普通なら俺の村はどうなる。ゴミか?ごみ屋敷か?あ、ごめんなさい村のみんな冗談です。

しかし、本当に大きいな。タツミが辺りを見渡していると二階から優しそうな男女の二人が現れた。女性の方がアリアに似ていたのできっと親だとすぐに分かった。

 

「アリア、いったいどこに行ってたの?こんな時間に一人で出て行くなんて...それにその服」

 

「ちょっと星を見たくて藪の中に入ったら破けちゃったの。あ、彼はタツミよ。私に服を貸してくれたの」

 

「ほぉうそれはそれは...二人とも二階に上がってきなさい。アリアは服を着替えておいで」

 

それだけ言うと二人は二階の奥に戻っていった。

それにしてもあの二人ーーー

 

「じゃあタツミ、私は服を着替えて来るわ。先に二階に行っててくれる?はい、これありがと」

 

「え、あ、ああ」

 

アリアは俺にコートを返すと、自分に部屋に走って行った。

そしてアリアが着替え終わり、俺は今日と明日だけ泊めてもらうことにした。しかもイエヤスとサヨの捜索も手伝ってくれるという。俺はとりあえずこのアリアの父に礼を言った。

ちなみに、どうやら俺の前にいた二人はもう出て行ったようだった。

 

「アリアの勘って当たるんだけどね?きっと近いうちに二人に会えるよきっと!」

 

「ああ、ならその勘を信じて見るよ。ありがとなアリア」

 

「ふぇ、あ、うん...」

 

「はっはっは!アリアにも春が来たか!」

 

「ふふふ、そうね貴方」

 

「ちょ、そんなんじゃないから!!」

 

そう顔を赤くして叫ぶアリアの顔はーーー何故か心のそこからは笑っていないような感じがしたのだった。

 

 




ただ一言

アリアちゃんってかわいいよね?


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殺し屋ナイトレイド

次の日ーーー

 

「なぁ、おっさん」

 

「おっさんというなお兄さんと呼べガキ」

 

「ガキって言うな。いやそんな事より...」

 

「お嬢様!!お待ちを!!」

 

「お嬢様少し抑えて!!?」

 

「あれってなんの修行だ?」

 

青く晴れ晴れとした天気。現在、アリアの付き添いという事で屋敷の兵と共に街へ繰り出していた。いや、そこは問題じゃない。問題はその量だ。俺は背後に積まれた荷物の山を指差す。

 

「これおっさん達の給料の何ヶ月分くらいっすか?」

 

「言うな。むなしくなる」

 

横で目を閉じる兵の一人である男、俺命名おっさん。

おっさんが言うには女というものは誰しもあんな感じらしい。サヨなんかはすぐに決めていたので、この光景が不思議だ。

 

 

「にしても本当よく買いますねアリア」

 

「まぁな...お嬢様にも事情はあるんだろうよ」

 

事情?

 

「んな事より上見てみろ」

 

「上?」

 

おっさんに言われ、俺は上を向く。すると気づかなかったが、そこには大きな宮殿がそびえ立っていた。

 

「デケェ!?」

 

「あれがこの国を仕切る皇帝のいるとこだ。...いや、違うな。今の皇帝は子供だ。本当にこの帝都を支配しているのはーーー大臣。それがこの国を腐らせる元凶だ」

 

「ッ!!じゃあ、俺の村が重税で苦しんでいるのも...」

 

「帝都じゃ常識だな...それにあんな連中もいる」

 

そう言って、おっさんは後ろにあった顔つきの張り紙を指差した。そこには《ナイトレイド》そう書かれていた。

 

「この帝都を震え上がらせる殺し屋集団だ。名前の通り、ターゲットに夜襲を仕掛けて始末する。主に富豪や重役をターゲットにしている。だから、用心だけはしておけ」

 

「はい、もしもの時はアリアを連れてでも逃げます」

 

「あら、なんの話?」

 

すると、アリアがひと段落入れたのかこちらに戻ってきた。背後には、兵達が更に多荷物が持たされている。タツミは心の中でそっと手を合わせたのだった。

 

そしてその夜。タツミの運命の変わり目が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜ーーー

 

コツコツと静かな廊下に足音が響く。

 

「ふふっ、やっぱり日記をつけるのはやめられないわね」

 

アリアの母は、そう言いながら手に持っていた小さな日記帳を眺める。

コツコツ、コツコツその音だけが響く。しかし次の瞬間だった。

 

「え?」

 

ジャキンッと、まるで金属を擦り合わせたような音が鳴った。

その音の正体は、ハサミ。巨大なハサミ。そして、それで切ったものはーーー自分自身だった。

 

「すいません」

 

血が綺麗な廊下に飛び散る中、一人の女性がそう言ったのだった。

 

◆◇◆

 

「!!これは...殺気か」

 

俺は外から感じた凄まじい殺気により目がさめる。急いで横に立てかけてあった黒い剣と赤い剣を腰の後ろにベルトと共につけ、部屋を出る。思い出すは街での会話。ナイトレイド、殺し屋集団。

そして、その予想を当てるように窓の外にそいつらはいた。

 

月が光る空の上、何か糸のようなものに立っている五人の人影があった。

 

「ここが富裕層だからか?いや....でも」

 

「おい、こっちだ!!」

 

そこで、タツミの耳に聞き慣れた声が聞こえた。おっさんだ。兵を何人か連れて外に出て行くのが見えた。それを見てか、二つの人影が地面に着地した。一人は黒く長い髪の少女。もう一人は鎧を着た大きな人間。兵達はその二人に向かっていくが、一人は首を飛ばされ、もう一人は鎧の奴が持っていた槍で串刺しにされる。

強い。そう思えるほどにその者達の動きには無駄がなかった。

そして、一人おっさんが残った。すると窓から見る俺に気づいていたのか、俺の方を見て口を動かした。

 

『お嬢様を頼む』

 

「ッ!!」

 

そのあと、黒髪の少女によって切り裂かれたのだった。

 

(ッチ!!最後までカッコつけなくていいだろおっさん!!)

 

そう思いながらも、俺は走る足を止めない。アリアを助けるために俺は走り続けた。そして、屋敷の林の中。

 

「いったい何が....」

 

「お嬢様!こちらに!!」

 

(いた!)

 

「アリア!!」

 

「タツミ!!」

 

「ちょうどいいところに来た!!俺達は倉庫に逃げて警備兵が来るのを待つ!!それまで敵をできるだけ食い止めてくれ!!」

 

「は!?ちょ...」

 

その瞬間、背後に人の気配がし振り返る。黒いコートに黒い髪。さっきおっさんを斬った女だ。

 

「ッチ!!アリアには恩があるんでな、時間稼ぎくらいしてやるさ」

 

俺は腰に付けてあった黒い剣を右手で構える。だが、その女の目線は俺へと向いていなかった。

 

「標的じゃない」

 

「んな!?」

 

そう言って、女は俺の横を通り過ぎて行ったのだ。その思いがけない行動に思わず見逃してしまう。女はアリアの側にいた兵に向かって突っ込む。兵は銃を女に乱射するが、当たらないまま横に斬られた。

そして、次は倒れたアリアを斬ろうとーーー

 

「葬る」

 

「って、やらせるか!!」

 

「!!」

 

俺は女とアリアの間に入り剣を振るった。女はそれを後ろに飛んで避ける。

 

「お前は標的ではない。斬る必要はない」

 

「でも、この子は斬るつもりなんだろ?」

 

「うん」

 

うんじゃねぇよ馬鹿野郎!?少し天然が入っているのかこの女は...でも、やはり強い。こうやって目の前に立ってなお、その強さが肌に伝わる。

 

「邪魔をするのか?」

 

「悪いがアリアは何もしてないんでな」

 

「そうか...では葬る」

 

瞬間、殺気が倍に膨れ上がった。おそらく普通の兵ならばすくみあがるほどだろう。それほどまでに深く、濃い殺気だ。

女はタツミに向かって横に刀を振るった。凄まじい一閃。速く、重いその剣撃はーーー

 

「っな!?」

 

自分の手を抑えるという形で防がれた。見るとタツミは剣をしまっている。女は距離をとろうと蹴りを放とうとするが、その前に膝を抑えられ防がれる。

 

「!!?」

 

「っと!」

 

俺は女の手を持ったまま背負い投げをしようとするが、それは空中でバランスをとり防がれる。しかし、刀と共に握っている手は離さない。女は苦虫を噛むような顔をする。

 

「おい、どうしてアリアを殺そうとする」

 

「.....」

 

「だんまりか...だったら」

 

「!!」

 

俺は握っていた手を強め、殺気を出す。

 

「力づくでも言ってもらうぞ」

 

「ッグハ!?」

 

その時、俺の蹴りが女の腹に入る。しかし、手を掴んでいるために吹き飛ぶことを許さない。なんとか反撃しようと蹴りを放ってくるが、それを反対の手で掴むと地面にそのまま叩きつけた。

すると女の刀を掴む手が弱まり、その刀をブン捕る。先ほどからこの刀から嫌な予感がしてたまらないのだ。

 

「ック...」

 

「動かないほうがいいぜ?結構きつめに入れたからな。さて、もう一度聞くぞ...どうして罪もない奴を殺そうとする」

 

「それについては私が教えようかな〜」

 

いきなり後ろから女性の声がし振り返る。全く気配がなかった。

そこには金髪の美人な....

 

「お、お前!?あの時の腐れおっぱい!!」

 

「ちょっと言葉選ぼうか少年?」

 

「うっせぇ!俺からふんだくった金返せ!!って、あ!」

 

そちらに気をとられている間に、刀を取り返された。

 

「あっはっは!少年、お前は罪もないって言ったな?だったら...これを見てもそう言えるかな!」

 

獣耳を生やした女は、そこにあった倉庫のドアを蹴り破った。あれって鉄製のように見えたんだけど...。だが、そんなふざけた事は考えられなくなった。

そこにあったのはーーー地獄そのものだ。

何十もの人間が拷問にかけられ絶命したまま放置されている。

 

「これ...は...ッチ!そういうことかよこれで違和感の合点がいった」

 

「そんな...こんな事が....」

 

「はぁ?何言ってんだ嬢ちゃん。お前もこれをやったんだろうが...」

 

後ろで何か話している声が聞こえるが、俺はそれを見つけてしまった。見つけたくなかった。知りたくなかった。それでも見てしまったのだ。

 

「サヨ?」

 

そこには変わり果てた姿で吊るされた幼馴染の姿があった。さらに、そこに今は聞きたくない声が聞こえた。

 

「タツ...ミ?タツミ...なの...か?」

 

「...イエヤス?」

 

「悪い...サヨが...サヨが....」

 

「おい!しっかりしろ!!おい!!」

 

なんと牢の中にはイエヤスもいた。すぐさま牢のを剣で斬り外に出す。見ると体には黒い斑点がいくつもついている。

 

「知り合いもいたのか...おい、嬢ちゃんお前がこの拷問に加担してるのはわかってるんだよ」

 

「そんな...私は知らない!!タツミ!!」

 

「.....」

 

タツミはイエヤスを抱いたまま動かない。それでもアリアは目を潤ませながらタツミに訴えかける。

 

「往生際が悪い....」

 

「アリアを離せ」

 

「「「!!」」」

 

「少年...本気で言ってるのか?」

 

「ああ、本気だ。アリアを離せ。彼女はやっていない」

 

「根拠は?」

 

そう言われ、タツミは口を閉じる。やはり信じたくないだけかと金髪の女性は悪態を付くが、その時イエヤスの口が開いた。

 

「タツ...ミ、その子は...なにもしてない」

 

「い、イエヤス!?」

 

「拷問にくる...イカれた...女がい...てたよ。あの...子は...なにも知らないまま...オモチャをも...ってきてくれるって」

 

イカれた女。それはアリアの母を示している言葉だとすぐに分かった。タツミは実はもともとこの屋敷でアリア意外信用していなかった。

理由は簡単、死臭がしたのだ。アリアの父と母の体から微かな血の匂いがしたのだった。そして、この惨状。これでようやく合点が付く。

 

「って事は...この子って無罪?」

 

「そうなるな...」

 

殺し屋の女二人は、信じられないような顔をしていた。アリアは無実。なにも知らなければ、悪気もない。ただ、化物が自分の親だっただけだ。

 

「お父様と...お母様が.....そういう...事なのね。なんだか最近怖いくらいに気味が悪かったのは」

 

「ッグ、ゲホゲホッ!!はぁ、これで...ようやく....サヨん...とこ行けるよ」

 

「おい....イエヤス!!目を閉じるな!!絶対に俺が助けてやーー」

 

「無理だ。それはデボラ病、そこまで転移していればもう助からない」

 

黒髪の女がそう言ってタツミの言葉を否定する。そして、最後にイエヤスはじゃあなという言葉を残し息を引き取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今回は完全にこちらの不手際だな」

 

「ああ、情報収集班の連絡ミスだ」

 

「「本当にすまなかった」」

 

「あ、あはは...」

 

俺はとりあえずサヨとイエヤスの死体に布を被せ手を合わせていた。後ろでは、金髪の女性レオーネと黒髪の少女アカメがアリアに謝っている。まぁ、それもそうだよな。なにもしてないのに殺されかけたんだから。

 

「あ、タツミ...」

 

アリアは俺の顔を見るたびこの反応だ。自分の親が俺の幼馴染を殺した。その事実を受け止めきれないんだろう。顔を俯かせるアリアに、俺は手をポンッと頭に置く。

 

「え?」

 

「お前は悪くない。絶対にだ。だから気にするな」

 

できるだけ笑顔で俺はそう言った。アリアはその言葉を聞いて、笑顔でありがとうと言ったのだった。

さて、次はこっちだな。

 

「えっと...アカメでいいのか?」

 

「ああ、なんだ」

 

「さっきはすまなかった。事情を知らなかったとはいえ攻撃してしまって」

 

俺はアカメに向かって頭を下げる。女性の腹を蹴り、地面に叩きつけたのだ。それ相応の事をされても文句は言わまい。

しかし、その返事は予想していないものだった。

 

「なら、仲間になれ」

 

「....へ?」

 

「おぉーアカメ、ナイスアイデア!!確かにかなり...いや、とてつもなく強かったよな少年」

 

「は?ちょ....」

 

なんだ、勝手に話が進んでいってるぞ!?

 

「んじゃ、とりあえず運ぼうか。あ、アカメはそこの嬢ちゃん持って。私はこの少年運ぶから」

 

「うん」

 

「へ、ちょっと!?」

 

「お、おい離せ!?」

 

「大丈夫だ。後で死体は私が持って行くから」

 

だが、そんな申し出も受ける事なく俺とアリアは他の仲間がいるところへと連れて行かれた。

 

こうして、俺の物語は始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、とりあえずプロローグっぽいとこ終了!

いやぁ、うん。アリアってかわいいよね?ね?ね!!?
という事で次回もお楽しみにー


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三日後

『私達三人、死ぬ時は同じと誓わん!!』

 

『え、やだよ』

 

『『何故に!?』』

 

『俺たちは出世するんだろ?だったら死ぬんじゃなくて、一生一緒に戦って行こうぜ』

 

『タツミ...そうだな!俺たちは死なねぇまま出世すれぜぇ!!』

 

『『『おぉー!!』』』

 

「とか言ってたのにな」

 

一人、丘の上にたった二つの墓石を眺めていた。

サヨにイエヤス。自分の大切な幼馴染であり、この帝都の闇によって殺された人物。

もしも一緒に村を出ていたら。もしももっと早くに会っていれば。そのような考えがいくつも頭をよぎる。

 

「はぁ、結局一人になっちまったじゃねぇか...」

 

「タツミ....」

 

背後から声をかけられ、タツミは振り返る。金色の髪に歳の割には幼い顔。アリアだ。

 

「アリアか...どうかしたか?」

 

「ううん、私も彼らのお見舞いに来ただけ。....タツミ、あのね」

 

「謝るなよ。何度も言ったが、お前は悪くない。悪いのは帝都であり、お前の親だ」

 

タツミはアリアの言葉を遮りそう言った。

アリアはなにも悪くない。にも関わらず彼女が謝るのはおかしいからだ。

 

「それでも...私、実は少しは気がついてたのよ。お父様とお母様が、夜な夜な何かをしているって。でも、怖くて言い出せなかった」

 

「なら、あの夜は....」

 

「うん、家出しようと思って....でもダメだった。結局私はタツミに...誰かの助けがなきゃ生きれないの」

 

横に座ったアリアは、少し涙を流しながらうずくまった。自分の無力さに、臆病さに嫌気がさす。どうしてこんな事になったかもわからない。いったいどこで狂ったのかもわからない。

結局の所、自分は親の事をなにも知らなかっただけだった。

しかし、タツミは

 

「そんな事ねぇよ」

 

「え?」

 

それを否定した。

 

「お前は強いよ。俺なんかよりもずっと。だって、こうして自分の悪いとこを自分自身でわかってるんだから。俺は、いまだにイエヤス達が死ななかったらなんて考えちまう。...もう、終わっちまった事なのにな」

 

「タツミ...」

 

「お前は強いさ。それは俺が保証してやるよアリア。絶対に俺はお前を守ってやる。だからーーー俺の背中は任した」

 

タツミは笑顔でアリアにそう言った。

それを見たアリアは、自分の目から流れるものを止める事はできないのであった。

そして最後に

 

「ありがとう」

 

こういったのだったーーー

改めて墓の前に座り直した二人だが、タツミは先ほどからの疑問をぶつけた。

 

「で、さっきから後ろにいる奴は何用だ?」

 

「え?」

 

俺は先ほどから草むらで人の気配がしてならなかった。

そして、その言葉を裏付けるように草むらから影が一つ出てきた。

 

「ありゃりゃ、バレてた?」

 

「隠す気なかっただろう元から。気配だだ漏れだ」

 

金色のボサボサの長い髪に露出が多い服。名をレオーネ。帝都最強の殺し屋、ナイトレイドのメンバーだ。

 

「で、もう三日経つけど私達の仲間になる決心はついた?」

 

「だから俺はならないって言ってるだろ。もう殺しは二度とごめんだ」

 

「....へぇ〜、まるで殺しをした事があるみたいな言い方だね」

 

その言葉にタツミは口をつぐむ。ただ目はレオーネを睨みつけていた。その目はまるで絵の具を黒く塗りつぶされているような色をしており、一瞬だがレオーネをビビらせる。

 

(私も結構な人生送ってきたけど、この歳でここまでの澱んだ目は初めて見たな)

 

スラムで育った自分がそう思うほどに、タツミの目は濁っていた。

だが、とりあえずソレは置いておこう。とりあえずレオーネはタツミとアリアの首をホールドしそのままアジトに連れて行ったのだった。

 

会議室

まず出会ったのはチャイナ服を着た女性。メガネをかけて手には本を持っている。

 

「え、まだ仲間になる決心がついてないんですか?」

 

「そうなんだよシェーレ。少しこの子達に励ましの言葉を送ってやってくれ」

 

レオーネがそう言うと、シェーレと呼ばれた女性は指を顎に当てて悩む。そして何かを思いついたかのようにこういった。

 

「そもそもアジトの場所を知った以上、仲間にならないと殺されますよ?」

 

「「温かい言葉をありがとう...」」

 

タツミとアリアのどんよりとした声が重なった。

すると横にいたアリアが、何を読んでいるか気になったらしくシェーレの持っている本の題名を覗きに行った。

 

「っふふ...」

 

少しアリアが笑うと、そのまま戻ってきた。

 

「なんて書いてあったんだ?」

 

「天然を治す100の方法」

 

なんだそれは。さすがは殺し屋、変人の集まりだ。

と、その時だった。

 

「あー!!なんでこいつらがここにいるによレオーネ!!」

 

ピンクツインテールを揺らしながら、一人の少女が怒るながら近づいてくる。

 

「だってもう仲間だし」

 

「だから!まだ決まってないでしょ!!ボスの許可も得てないし」

 

そう言ってジーッと俺の顔を見るツインテール。そして数秒後、鼻で笑われた。それには少しイラッとする。

 

「なんだよ...」

 

「別に?ただアカメを追い詰めたっていう奴がどんなのか気になっただけ...ま、アンタみたいな輩には私達みたいなプロフェッショナルな仕事を一緒にできる気がしないわ。顔立ちからして!」

 

「ほぉ、言ってくれるなドチビ。なんだ、その左右に付いてる尻尾引きちぎって欲しいのか?あぁ!?」

 

「何よやれるもんならやってみなさい、この田舎者!」

 

瞬間、タツミとツインテールの少女マインからブチッと何かが切れた音がする。

 

「「上等!表でろこのクソ野郎!!」」

 

「ちょ、タツミ!?」

 

「あっはっは!!やっぱり面白いな少年は!!ほら、マインももうやめとけ」

 

アリアとレオーネに止められ、マインはそのまま険悪そうな顔をしたまま部屋を出て行った。どうやら誰に対してもああらしいが、俺からの第一印象は最悪とだけ言っておこう。

そして、次に連れて行かれたのは訓練場だった。そこには豪快に槍を振るっている男が一人いた。

 

「あの見るからに汗臭そうなのがブラートだ」

 

「おぉー凄い槍さばき」

 

「わ、私全然見えないんだけど...」

 

まぁ、一般人の人からしたら見えない速度だよなアレは。

ブラートはレオーネ達に気づき、振るっていた槍を止めた。

 

「よぉ!レオーネじゃねぇか。っと、そこの少年と嬢ちゃんはこの間のやつか」

 

アレ?どこかであったっけか...

 

「俺だよ、あの鎧着た奴だよ」

 

「あぁ!あのなんかカッコいいの着てた奴か!!」

 

「お、わかるか!あの格好良さが!!」

 

ブラートはタツミに近寄り背中をバンバンと叩く。この人は普通の人っぽいな。そう思った矢先だった。

 

「そいつ、ホモだぞ」

 

そのあとの行動は早かった。凄まじい速さでアリアの背に周り後ろに隠れるタツミ。しかもブラートは"誤解されちまうだろ?"とか言うだけで否定はしなかったのだった。

次に連れて行かれたのは、なぜか森の中。その先に緑のコートを着た少年が匍匐前進をしていた。

 

「へっへっへ...そろそろレオーネ姐さんの水浴びの時間だ。今度こそは絶対に覗いてみせる!!」

 

もう、いろんな意味でお腹いっぱいだ。アリアにいたっては首をかしげ、彼が何をしたいのかわかっていないらしい。

レオーネはその少年の背後からそっと近づき腕を捻り上げた。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!?」

 

「お前もこりねぇなラバ。あ、こいつはラバック。見ての通り馬鹿だ」

 

「みたらわかる」

 

「んだとテメー!?って、その横の美少女は誰だ!?」

 

凄まじい眼光で見られ、アリアは俺の後ろの隠れる。なんだか羨ましいぞテメーとか言ってるが、レオーネに痛めつけられ沈んだ。

そして、次で最後らしい。俺たちは河原に沿って歩いて行くと、肉が焼ける匂いが漂ってきた。

 

「で、少年は会ったことがあるだろう。アレがアカメだ」

 

「「.....」」

 

そこには特急危険種でもあるエビルバードを丸焼きにし、その肉をかぶりついている黒髪の少女の姿があった。

いや、しかし...アレは女性としてどうかと思うぞ。

 

「あ、あんなに食べて太らないのかしら?」

 

「さぁな。もう見るからに野生児だな」

 

「ん、レオーネか。お前も食え」

 

アカメはレオーネに肉がついた骨を投げ渡す。レオーネは礼を言うと、すぐにそれを喰らった。

結論、ここにいる奴ら全員普通じゃない。殺しとかじゃなく、人間性として。

 

「お前達も仲間になったのか?」

 

「い、いえ。まだ決まってはいなくて」

 

「右に同じく」

 

「そうか、だったらこの肉はやれないな」

 

いや、いらねぇよ。って、アリアさん?少しよだれ垂れてますよ?あなたつい最近までお嬢様だったでしょうが。

 

「にしても今日は奮発したな。どうした」

 

「ボスが帰ってきてる」

 

アカメがそう言うと、エビルバードの丸焼きの後ろに一人の女性の姿があった。銀色の髪に右手の義手。目にも眼帯をつけている。

 

「ボス!おかえりなさい!!お土産とかある?」

 

「よっ、それよりもレオーネ。お前三日前の作戦で時間オーバーしたらしいな」

 

それを聞くが否や、レオーネは踵を裏返し走り出す。しかしそれはボスと呼ばれた女性の義手によって阻まれた。

というか飛んだのだ。今はレオーネの肩を掴んだままキリキリと音を鳴らしながらひきづっている。

 

「強敵との戦いを楽しむのは良くない...そのクセを直せ」

 

「わ、わかったからそのキリキリ音やめてぇ!!?」

 

やっと機械の手から解放されたレオーネは、本題を思い出したかのようにボスに言った。

 

「あ、ボス!!この人材推挙!!」

 

「な、おい!」

 

勝手に決めるなというが、背中をドンドン押される。

 

「見込みはあるのか?」

 

「ありま...「ある」って、私にセリフー!」

 

「ほぉ、アカメがそう言うのは珍しいな」

 

「現時点で、私よりも強いかもしれない」

 

そのアカメの言葉に息を飲むレオーネとボス。まさかアカメからこのような言葉が出るなんて思いもしなかったのだろう。

アカメはこの隊でもトップクラスの強さだ。そのアカメより強いかもしれない少年。思わずボスこと、ナジェンダは頬を緩ませる。

 

「では、そちらの少女は?」

 

「あ、私はアリアと言います。えっと...三日前にあなた達が殺した者の娘です」

 

「な!?」

 

「あ、その事だボス。どうやらこちらの不手際だったらしい。この嬢ちゃんは何も関係なかった」

 

「そうか...アリアと言ったな。この度はすまない事をした。代表として私が謝る。すまなかった」

 

ナジェンダはアリアに向かって頭を下げる。歳下であるあるアリアにここまで礼をできるのだ。きっと凄い人脈のある人なんだとタツミは考えた。

 

「い、いえ!私として...アレを殺してくれてありがとうございます。ただ、それだけですから」

 

「そう言われると助かる。さて、アカメ皆を会議室に集めろ。この少年と少女の事を含め全作戦の結果を聞きたい」

 

ナジェンダはそう言い、最初にシェーレとあったあの部屋に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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帝具

会議室。タツミとアリアはナイトレイドのメンバーに囲まれるようにそこに立っていた。

 

「なるほど事情は全て把握した。で、タツミ。ナイトレイドに加わる気はないのか?もちろん、アリアもだ」

 

「断ったらあの世行きなんでしょ?」

 

二人の目の前に座っているナイトレイドのボス、ナジェンダの問いに答えるタツミ。

 

「いや、それはない...が、これからは我々の工房の作業員になってもらう」

 

「あ、あの...」

 

するとアリアがおそるおそる手を上げる。

 

「わ、私はタツミみたいに強くないから...ここに入っても何もできない...」

 

「それならさっき言ったように作業員として働いてもらうさ。それに君の場合、これから先の事もある」

 

そう。アリアの場合はもう行くところがないのだ。それに、言葉は悪いが何も知らず平和に暮らしてこれた彼女の事だ。いきなり一人で帝都に出しても餓死するのが関の山だろう。

 

「とにかく、別にこの話を断った所で死にはしない。どうする?」

 

「...この国の腐り具合は短い時間だったがわかった。俺の村みたいなとこが苦しんでいるって事も帝都のせいだってもわかる。でも....」

 

どれだけ殺した所で、どれだけ命を散らした所で、そんな程度では話にはならないことを俺は知っている。

そして最後には...全部失う。

 

「....そんなチマチマしていて国が変わるかと聞きたいんだな?」

 

「ああ、結局はどんな事をしたってその程度じゃ...何も救えない」

 

「ふっ、ならなおのことピッタリじゃないか」

 

どういう事だと聞くと

帝都のはるか南には反帝国勢力がある革命軍のアジトがあるそうだ。

最初は小さかったらしいが、今はかなり大規模な組織に成っているらしく

 

「そして、その中での日の当たらない仕事をこなす部隊がーーー私達ナイトレイドだ」

 

「...で、最終目標は?」

 

「帝都を潰し新しい国を作る。そしてその為にはまず、この国の腐敗の元凶ーー大臣をこの手で討つ!」

 

まだ何の事かもわからない。どうやりたいかも、彼女達の部隊のことも....それでも

 

「その新しい国ってのは、民にももちろん優しいんだろうな?」

 

「ああ」

 

「す、凄いですね。それってつまり正義の殺し屋って事じゃないですか!」

 

『....ップ、アハハハハハハハハ!!』

 

アリアが何かを思いついたようにそういった。すると、部屋が笑いの渦に包まれる。

 

「え、な、何かおかしな事言った!?た、タツミ〜」

 

アリアは訳が分からず、タツミに助けを求めた。

 

「はぁ、そうだな。アリア教えといてやる。たとえどんな大義名分を唱えてもやってる事は、殺しなんだよ。そこに善何てもんは存在しない。ここにいる全員がいつ何処で死んでもおかしくないって事だ」

 

「お、わかってんじゃねぇかタツミ!」

 

「そういう事。で、どうすんのあんたら?入るの?入らないの?」

 

「俺はーーー入る。俺をナイトレイドに入れてくれ」

 

タツミは決意したように腰に付けてあった剣を目の前に突き出す。アリアも横で私も入ると言っている。

 

「もう村には大手を振って帰れないぞ?」

 

「ああ、わかってる。それでも...俺は今、目の前の人間を助ける」

 

きっと、今度こそ。何も手から失わない為に...その為に俺は強くなったんだ。サヨやイエヤスのようには絶対にさせない!!

 

「そうか、ならば決まりだな。ようこそ修羅の道へ。タツミ、アリア。....で、アリアの処遇だがーーー」

 

ナジェンダがそう言おうとしたその時だった。緑髪の少年、ラバックが言葉を遮る。見ると手につけてある糸のようなものがグルグルと回っていた。

 

「侵入者だナジェンダさん!!数はおそらく8人!!」

 

「そうか。ここを突き止めたとなるとかなりの手練れだな。では、アリア以外緊急出動だ。一人たりとも生きて返すな」

 

こうして俺の早すぎる初陣が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラートさん!」

 

「おぉ!タツミじゃねぇか、一緒にくるか?」

 

アジトのすぐそばの森の中、俺はブラートさんと共に駆け抜けいていた。

 

「ハイ!よろしくお願いします!!」

 

「おう、いい返事だ!!俺の事はハンサムか兄貴って呼びな!」

 

「ハイ!兄貴!!」

 

「おぉう!いい感じだ!!」

 

あ、この人結構面白い人だ。それに実力もかなりのものだろう。体に纏う雰囲気で分かった。

 

「んじゃ、そんなお前にいいものを見せてやる!!ちょっと離れとけ...」

 

ブラートはいきなり立ち止まり息を吸い込んだ。

 

「インクルシオォォォオオオオオ!!」

 

その叫び声と同時に、ブラートの背後から龍のようなものが現れる。そしてそれは、ブラートを飲み込むかのように見に張り付いていった。凄まじい風が吹き荒れた後、そこに立っていたのは銀色の鎧を着たブラートだった。

 

「か、かっけぇ!!」

 

「だろ!これは帝具インクルシオ」

 

「帝具...なんかわかんないけどカッケェな!!燃えるというかなんというか!!」

 

きっとこれは男にしかわからない気持ちだろう。ブラートさんは俺のその言葉に喜ぶようにポージングしてくれる。

っと、こんな事してる場合じゃないな。ブラートさんも目的を思い出したようにポージングをやめる。

 

「フゥ、ではそんなお前に重要な任務を言い渡す!!」

 

「オッス!!」

 

って、返事したのはいいがーーー

 

「暇だ」

 

現在、俺は草むらに隠れて敵の逃亡ルートの可能性が高い場所を見張っていた。兄貴いわく最悪足止めでもいいだそうだ。

 

(優しいな。俺が人殺しが出来ないと思ってくれているんだろう)

 

本当に少し...優しすぎる。俺はそんな優しくされるような人間じゃないんだから。

っと、その時人の気配が近づいてきた。

 

「!!」

 

「あ、見つかったか....」

 

草むらから出てきたのは、生き物の毛皮をかぶった人間だった。きっとどこかの民族衣装だろう。

 

「ッチ!こんなとこにも人を見てやがったのか!いくら少年とても手加減せんぞ」

 

男は剣を抜刀し構える。俺もそれを見て腰の赤い剣を左手で掴む。

瞬間、男が剣を振りかぶった。

 

「うぉぉぉおおおお!!」

 

「.....」

 

ガキンッと金属がぶつかる音が鳴る。男は攻撃を休まず、2度、3度と斬りつける...が、タツミには一切当たらない。

 

(つ、強い!こんな小さな体のどこにこんな力が!!)

 

先ほどから自分は斬りかかってはいるが、弾き返されるのも自分だった。男はジリジリと間を詰めていく。

だが、次はタツミが動いた。だが、男にはーー

 

「消えっ...グハァ!?」

 

その姿は見えなかった。腹に強い衝撃が送られ息がつまる。蹴られた。そう理解するのに数秒かかった。

全く見えなかった。目の前にいたはずなのに、気づけば懐だ。

それはもう、誰の目から見てもわかっていた。

 

(格が違う!!)

 

それでも...

 

「俺は...死なねぇ!!一族の為に!!」

 

「ッ!!あんたもか....分かった。だったら戦士として、本気でやってやる」

 

瞬間、タツミの殺気が何倍にも膨れ上がる。もはや常人では立っているのでさえ困難だろう。それでもこの男が立っているのは、本当に気合のみだ。

タツミは持っていた剣を地面に突き刺した。

 

「ウオォォォオオオオ!!」

 

「ーーー赤鬼」

 

真っ赤な風。それが自分の体を通っていくのを感じた。見ると自分の半分がない。

ああ、最後の最後で君のような少年と戦えてよかった。男は少し微笑みながら命を散らした。

男を斬った後、背後から気配がした。

 

「....アカメか」

 

「うん...それ、()?。お前の武器は直剣だったはずだが...まさか」

 

「...とりあえず戻ろう。その時に話す」

 

そう言って俺は腰に自分の武器を戻す。その時には、それは刀から直剣へと変わっていた。その後、兄貴が走ってきてくれたがアカメがもう済んだとバッサリ切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいタツミ!怪我はなかった?」

 

「ああ、ただいまアリア」

 

アジトに戻ると、アリアが凄まじい量の料理を並べていた。すでにレオーネとアカメはそれを食っている。その後他の皆も食事をしていった。

 

「うっま!?なんだこれ!!アカメちゃんのより美味しい!!」

 

「む、失礼な...。でも、美味しい...肉」

 

「でも、本当に美味しいですね」

 

どうやらアリアの料理は大絶賛だったようだった。するとナジェンダがタツミに近づく。

 

「初陣ご苦労、どうだった?」

 

「はい、なんとか...それよりもボス。それにみんな話したいことというか聞きたいことがあるんだ」

 

「お、なんだなんだ?お姉さんが全部答えたるぞ〜」

 

もう出来上がっているレオーネは置いといて、俺は腰に付けたあった自分の二本の黒と赤の剣を取り出した。

 

「俺に帝具っていうのを教えて欲しい」

 

『!!』

 

「おそらく俺のこれは...兄貴が持ってるインクルシオと同じ帝具だ」

 

「っな...」

 

それにはナジェンダや周りの仲間も息を飲んだ。わかってないのはアリアだけだ。

 

「いったいどういうことだよ!?帝具は一人ひとつしか持てないんじゃ...」

 

「いや、そうでもない。ただひとつの帝具を使うだけで体力、共に精神力もかなり使う。だからこそひとつだけと決めてはいるが...二つ持てない道理はない。しかしタツミ、なぜこれが帝具だと思う?悪いが私は見たことがない」

 

ナジェンダにそう言われ、俺は二本の剣を構えた。

 

神鬼闇纏(しんきあんてい)【黒鬼】神鬼赫纏(しんきせきてい)【赤鬼】。これがこの剣...いや、刀の名前だ」

 

次の瞬間、直剣だった二本の剣が赤と黒の刀に変わった。鞘も刀のに変わっている。それを見たメンバーは全員言葉を失った。

それもそのはず。今この少年は、二本同時(・・・・)に帝具を扱ったのだ。それがたとえどんな些細な変化といえ、これが帝具なのには変わりないのだから。

 

(これは...っふ、どうやらレオーネ達の拾い物は原石の塊だったようだな)

 

「分かった、帝具について簡単に教えてやろう」

 

帝具

 

それは千年前、大帝国を作った始皇帝は悩んでいた。

国を永遠に守りたい、だが自分はいずれ死ぬ。ならば武器や防具ならば後世に残せると考えた始皇帝は、叡智を結集させた兵器を作った。

伝説とまで言われた超級危険種の素材にオリハルコンなどのレアメタル。世界各地から呼び寄せた最高の職人。

そしてその結果作り出された48の兵器。それを帝具といった。

 

帝具の力はまさに一騎当千。帝具を貸し与えられた臣下達はより大きな戦果をあげれるようになった。

が、しかし。五百年前の大規模な反乱により、その半分は各地に姿を消した。

 

「そしてアカメ達が持っている武器もそうだ」

 

アカメの帝具

一斬必殺(いちざんひっさつ)【村雨】

刀型の帝具。これに斬られれば傷口から呪毒が周りやがて死に至る。解毒方法はない。

 

レオーネの帝具

百獣王化(ひゃくじゅうおうか)【ライオネル】

ベルト型の帝具で己自身を獣化し身体能力、治癒能力を向上させる。嗅覚なども強化。

 

マインの帝具

浪漫砲台(ろまんほうだい)【パンプキン】

精神エネルギーを衝撃波として撃ちだす銃型の帝具。その威力は使用者がピンチになればなるほど上がる。

 

ブラートの帝具

悪鬼纏身(あっきてんしん)【インクルシオ】

鉄壁の防御力を誇る鎧型の帝具。しかし使用者にかなりの負担がかかるため、並の人間が使えば死に至る。

 

ラバックの帝具

千変万化(せんぺんばんか)【クローステール】

強靭な糸の帝具。罠や敵を察知するのにも使うことができる。また、拘束・切断も可能な異名通りの千変万化

 

シェーレの帝具

万物両断(ばんぶつりょうだん)【エクスタス】

大型鋏の帝具。世界のどんなものも両断できるもの。その強度さにより防御にも使用可能。

 

「そして、帝具には奥の手というものが存在する。そして、最後に...もしも帝具同士が戦えば、必ずどちらが死ぬ。と、まぁこんなものだ。あとはアジトにある本でも読んでくれ」

 

ナジェンダの長い説明が終わり、俺は礼を言った。

 

「ではタツミの帝具は刀型と考えていいのですか?」

 

「私も見たことがないからな...それはなんとも」

 

「俺のこれは刀であり刀じゃないぞ」

 

そう言うと皆さらに頭にハテナを浮かべた。俺はそれを見せるように刀になった黒鬼と赤鬼を地面に突き刺した。

 

「纏え、黒鬼、赤鬼」

 

瞬間、今度は刀が消え俺の手に吸い込まれた。そして、俺の手はというと...右は黒く、左は赤という異形の形となっていた。

 

「こんなこともできるが?」

 

『.....』

 

「もう...なんていうか....お腹いっぱいな帝具だな」

 

ナジェンダの呟きがそう聞こえた。

 

 

 

 



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初任務

今回少し長くなりましたが、どうぞ!


ーーー次の日の朝

 

トントンとまな板を叩く音が聞こえる。タツミは起きたばかりの体を持ち上げ、その音の鳴る方へ歩いて行った。

そして、そこにはエプロンを着た金髪の少女の後ろ姿。アリアだ。

 

「アリア、おはよう」

 

「うきゃ!?って、タツミか...脅かさないでよ」

 

別に脅かした気はなかったが、とりあえず謝る。見ると作っているのは朝食のようだった。アリアは慣れた手つきで食材を切っていく。

 

「そういえば昨日もみんなの飯を作ってたな。料理好きなのか?」

 

「うん、まぁね。それに今ここで私ができることってこのくらいだしね」

 

そう言うと、少し暗い顔をするアリア。タツミはそれを見て、アリアの頭を撫でる。アリアはビクッと少しおどろくが無理にどこうとはしなかった。

 

「さて、俺も少し手伝うよ。こっちに食材切ればいいか?」

 

「あ、うん。....タツミ」

 

「なんだ?」

 

「ありがと、タツミがいなかったら私ここにいなかったから」

 

アリアの今までで一番の笑顔に、俺自身も頬を緩めるのだった。

そして、時刻は7時をまわった頃。各メンバーがそれぞれ集まってくる。

 

「おーう、おはようタツミ、アリア。早いな」

 

「おはようレオーネ。ん?でも、呼び捨てはあれだから姐さんとか読んだそうがいいか?」

 

「あっはっは!別にどっちでもいいよ。って、お!飯もう出来てんじゃん!!アカメ仕事とられたな!!」

 

「....つまみ食い」

 

おい、今つまみ食いって言ったぞコイツ。アカメはどうやら炊事担当らしいが、何故なったか疑わしいな。

そして、ボスとマインとシェーレ以外の人間が揃い椅子に座った。

 

「では」

 

『いただきまーす!!』

 

各自食べたいものを大皿からとって口に運ぶ。

 

「うっま!やっぱりアリアちゃんの料理最高だな!絶対いいお嫁さんになれるぜ!」

 

「うわぁー、ラバが口説いてる。でも、本当においしいよ。な?アカメ」

 

「フガフガッ!!」

 

「聞いてねぇーし...」

 

アカメは用意した骨付肉を口いっぱいに放り込んでいた。その姿はまるでリスを思い浮かばせる。

 

「そういえばタツミは、昨日アカメの下に付けって言われてたっけか?俺たちは依頼で殺しに行くが」

 

ブラートの言葉に、昨日の事を思い出す。

あの俺の帝具暴露から、とりあえず明日はアカメと共に行動するようにボスから言われた。帝具の事についてはボスの方でどうやら調べてくれるらしく、こっちは気にしなくていいらしい。

 

「なら、今日俺とアリアはアカメと行動するってことか?」

 

「まぁ、そう言うことだろうよ」

 

「アカメちゃんは今日なにすんの?」

 

ラバの問いに、アカメは口の中にあった食べ物を飲み込む。

 

「今日は食料調達のために山奥に行くつもりだ」

 

こんだけ食ったのにまだ飯の話をするか。

結構な量を作ったはずにもかかわらず、皿にはほとんどの料理がなくなっていた。そのあと、マインとシェーレが来たが、皿の上を見てうなされたのだった。

シェーレごめん。マインはざぁまぁw

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、行くか」

 

「「はぁーい」」

 

アカメを先頭に、タツミ達は背に籠を背負って山道を歩いて行く。アリアの籠は俺たちより小さく、主に山菜などを入れることになっていた。

 

「あ、これ食べれるかな?」

 

「...それはアオイグサ。食べたら三日三晩吐き気が止まらなくなるぞ」

 

「え....じゃ、じゃあこれは?」

 

「クサレソウ、めまいや吐き気を起こす」

 

「き、こんなに綺麗な花なのに....」

 

「いや、そもそもの話。花を食べるのか?」

 

道中に見つけた草や花をアリアが指差すが、そのほとんどが害のあるものであった。アカメは、こんなに毒草を見つけるのは才能だ。と、言っていたが絶対に嬉しくないだろう。

そして、俺たちはどんどん奥へと進んでいきある水場についた。

 

「川の獲物を捕る」

 

「まさか全裸で!?」

 

「ええぇ!?」

 

アカメは自分の服に手をかけそれを脱いだ。アリアは俺の目を隠すが、すぐにそれを外してくれた。

どうやらアカメは下に水着を着ていたようで、そのまま水場に飛び込む。と、次の瞬間。

 

「「え?」」

 

大量の魚が自分たちに向かって投げ込まれた。

 

「あぶなっ!?...これってコウガマグロ」

 

「あの警戒心が強いで有名な?凄い、もうこんなにいっぱい...」

 

コウガマグロは警戒心が強く、結構なレア魚だ。アカメは地上に息を吸いにきてお前も来いといった。

 

「気配を断って、獲物が通り過ぎた瞬間襲う。慣れれば簡単だぞ?」

 

「いや、そうは言っても....俺、水着持って来てないし。アリアは?」

 

そう聞くともちろん首を横に振るアリア。最初に説明くらいしとけよアカメさん...。

タツミはため息をひとつつくと、水が手で触れるところまで降りていく。

 

「タツミ?なにしてるの?」

 

「まぁ、見とけって....」

 

タツミは静かに手を水につける。そしてジッとそのまま動かなくなる。それを見ていたアカメとアリアは首をかしげるが、次の瞬間ドゴンッとタツミが触っていた水場が破裂した。

すると、浮かんできたは十匹程度のコウガマグロだった。

 

「!!」

 

「え!?ど、どうして...」

 

「振動だよ。なにもないところから強烈な振動を水全体に与えると、魚達はそれにビックリして気絶するんだ。しかも、コウガマグロならなおのことな。あ、アカメ!それくらいで足りるか?」

 

「あ、ああ」

 

アカメはそう言うと、浮かんでいるコウガマグロを全て回収したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、感じでした」

 

「「あはははは!!」」

 

夜。どうやら任務に向かった奴は帰ってきていないらしく、いるのはボス、レオーネ、アカメ、アリアそして自分の5名だった。

机の上にはコウガマグロを使った料理が並んでいる。

 

「いやぁ、凄いな!振動でコウガマグロ取るとか初めて聞いたぞ。さすが私が見込んだ奴だ!」

 

「ちょ、レオーネ!!当たってる!!当たってるから!!」

 

「えぇ〜なにが〜タツミ〜?」

 

レオーネはタツミの頭を胸の前で抱きしめる。それに何故かアリアが怒っているように見えたが、きっと気のせいだろう。

 

「ふっ....さて、レオーネ。数日前、帝都で受けた依頼を話してくれ」

 

そのボスの言葉にレオーネは真剣な顔になる。依頼、つまりは暗殺の仕事のことだった。

 

「標的は、帝都警備隊のオーガと油屋のガマルって奴だ。内容はガマルが悪事を働くたびに、オーガがそれを隠蔽。代理の犯罪者をでっち上げ死罪にするって言うもんだ。依頼主は、その濡れ衣で殺された男の婚約者」

 

「ひどい...そんな」

 

「警備隊って人を守るのが仕事じゃねぇのかよ。にも関わらずんなこと...」

 

聞いているだけでもムカつく話だ。つくづくこの国は腐っていることを実感させられる。

 

「そして、これがその依頼金だ」

 

レオーネはドサリと大きな袋に入ったお金を机に置いた。中を見るとかなりの量だ。とても普通の仕事をして稼げる金額じゃない。

 

「性病の匂いがした。体を売り続けて作ったんだろう」

 

「!!」

 

「事実確認は?」

 

「ああ、有罪だ。ガマルの家の屋根裏から話は聞いた」

 

そうかとボスは吸っていたタバコを灰皿に押し付ける。

 

「ナイトレイドはこの依頼を引き受ける。こんなクズどもは新しい国にはいらん。天罰を下してやろう」

 

「しかしどうする?ガマルを殺るのは簡単だが、オーガの方はいつも兵を側に数人置いているらしい。非番の日と言っても、役目柄詰め所を離れすぎるのもダメだからメインストリート近くの酒場で飲んでるって情報だ」

 

「マイン達はいつ帰ってくる」

 

「わからん。しかも殺すのならば同時に殺したいところだ。もし先に片方が死ねば警戒される恐れがある」

 

「うーん...だったらーー」

 

レオーネが頭を抱えたその時だ。

 

「俺がオーガを殺す」

 

「ほぉ....」

 

「アカメとレオーネはガマルの方を頼む。アカメの方は指名手配されてるからメインストリート出歩くよりもいいだろう」

 

その意見に納得するボス。レオーネもよく言ったと肩を叩くが、そのタツミの様子にアリアだけが気づいていた。

 

(なんだかタツミ...怖い)

 

まるで親の仇を恨むように...いや、そんなものじゃないほどの殺気とはまた別の恐ろしさに誰も気づかなかったのだ。

 

「お前にはまだ早...」

 

「だったら何か?今もなお濡れ衣で死ぬかもしれない人間を見逃すか?そんなのはもうごめんだ。俺はーーー今、目の前にある命に貪欲に食らいつく」

 

「そうか、タツミ。お前の決意はよくわかった。ではオーガを消せ」

 

「了解。あ、なら殺す場所については俺が決めるがいいか?」

 

『?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都警備隊、詰め所ーーー

 

(あぁ、こないだの殺った奴。婚約者がいたのか〜こりゃこっちも殺しとけばよかったな)

 

先日、殺した男のプロフィールを見ながら、オーガは自分に用意された椅子にふんぞり返っていた。ここは自分の城で、自分の国。何者も俺の前では無意味だ。その権力という名の武器を思い浮かべ。ククッと少し笑っているとコンコンとドアがノックされた。

 

「あぁ?入れ」

 

「はい、失礼します!」

 

入ってきたのはここ最近この隊に入ってきた男だった。なんでも酒と女が大好物らしく、俺自身気に入っている人間だ。

しかし今日は何故かローブのようなものを着込んでいるため顔しか見えない。

 

「おう、どうしたそんなもん着て」

 

「じ、実は少し風邪をひいてしまい少し肌寒いのです」

 

「ガハハハ!!なんだそりゃ!また、遅くまで女と裸でパーティーでもしてたのか?まぁ、いい座れ」

 

オーガは用意されていた椅子に座るように男に命令する。

 

「で、なんのようだ?言っとくが女は紹介しねぇぞ?」

 

「オーガ隊長よりもモテますから大丈夫ですよ」

 

「おぉ?言うようになったじゃねぇーか」

 

再び豪快な笑い声を上げるオーガ。すると男は冗談ですと言いながら、本題に入った。

 

「実は昨日、夜見回りをしていたときなんですが...隊長の行きつけの酒場があるじゃないですか?」

 

「ああ、俺はいつもあそこで飲んでるな」

 

「はい、俺昨日あそこであの指名手配犯アカメらしき人間を見たんですよ!」

 

その言葉に思わず目を見開くオーガ。考えられるのはこないだの婚約者。もしかしたらソイツがナイトレイドに依頼したにかもしれない。

だとしたら、狙われているには自分の命。

 

(ッチ、やっぱりあの時殺しとけばよかったな)

 

「一応隊長の耳に入れておいたほうがいいと思いまして」

 

「ああ、わかった。そいつは助かる...」

 

「あ!あと一つ!!」

 

男は何かを思い出したかのように懐から封筒を一つ取り出した。

 

「なんだそりゃ?」

 

「実はここに来る前にその酒場の主人から手紙を預かっておりまして...なんでも中を見ればオーガ隊長はわかるとか言っていました。自分は見るなと言われましたが...」

 

あの酒場の主人は、よく俺に女を紹介してくれる。きっとそのことだろう。しかしコイツにも見せないとなるとかなりの上物が入ったってことか?

俺はその封筒を貰う為にこっちに渡せと言い、男はそれを持ってくる。

 

「はい、ではどうぞ!」

 

「ああ、悪いな...」

 

今度、女紹介するといいかけた時だった。声が出ない。自分の喉から音がでず、出るのはヒューと空気の音だけだ。

そして、自分の喉を手で触ってみる。そこにはベットリと赤いものがついていた。これは...血だ。

 

「ッガ....」

 

「あーあ、叫ばれると面倒だから喉を潰さしてもらったぞ」

 

何を言っているんだこいつは。そう思ったが、目の前の男の手には血がこべりついていた。いや、そんなことはどうでもいい。それよりもその男の右腕は、黒くまるで危険種のような異形の腕になっていた。

俺はすぐさま剣を抜こうとするが、

 

「無駄」

 

「!!?」

 

剣を取ろうとした右腕に強烈な痛みが走る。見ればその異形の手によって、自分の右腕はあってはならない方向にひん曲がっていた。

 

「こんなもんじゃねぇぞ。お前がその手で、その力で!殺してきた人たちの痛みは!!」

 

「ーーーー!!」

 

なんだ、この目の前の生物は!?本当に人間なのか!!?

 

「でも、長居する気もないんでな。...これで終わりにしよう」

 

一閃、俺の首に手が振るわれた。喉からは血が大量に噴出し俺の意識は消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー、終わった終わった。そして俺は自分の変装を解く。これは俺の帝具、神鬼闇纏【黒鬼】の能力のうちのひとつ変化。

変化したい対象に触ることでその人物の顔と声になれる。しかし、なれるのは顔だけで、身長や体つきなどは変えれない。俺は事前に見つけ出した自分と体格の似た警備隊になりすましていたのだ。そのため、何も疑われることなくこの場に入り込めた。

 

「さて、さっさとやりますか」

 

そう言って死んだオーガの机を物色し始める。やることは簡単、ただこのクズのやってきたことを公開するだけだ。

俺は部屋を漁って見つけた被害者たちのプロフィールをまとめ、オーガの机に上に置いた。

 

「じゃあな、来世があったらまた会おう。そん時は善人になってるよう願っておくぜ?」

 

俺はそう言い残して窓から飛び降りたのだった。

 

 

 



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次の任務へ

オーガとガマル暗殺を実行したその夜。アジトにはアカメ、レオーネの姿はあったが、タツミの姿はなかった。

 

「遅いなタツミの奴....」

 

「まぁ、そういうなレオーネ。あいつの事だ、きっと上手くやれているさ」

 

ナジェンダはレオーネにそう言うが、内心かなり心配していた。いくら帝具を持っているからといって、絶対に勝てる見込みなどない。もしかしたら自分の判断不足ではなかったのか?と、悪いほうばかりに考えてしまう。

 

「そうだといいんだが...アカメ、心配か?」

 

「!!」

 

「さっきから肩が震えてるぞ。大丈夫か?」

 

「....ああ、問題ない。タツミは強いからな」

 

「そ、そうですよ!きっともう少ししたらお腹が空いたとか言って帰ってきます!」

 

アリアはなんとかこの空気を変えようと、自分も心配なのにもかかわらず無理に笑う。それがわかってか、ナジェンダ達はそうだなと言って少し笑う。

 

「しかしタツミの奴、殺す場所は自分が考えるとか言ってたがどこでやるつもりなんだろうな?」

 

「確かにな...メインストリートの裏路地とかに行けば簡単だと思うんだが」

 

と、ナジェンダとレオーネが話していた時だった。会議室のドアがガチャリと開きいた。

 

「ただいまです...あー、アリア腹減ったー」

 

『タツミ!』

 

「うお!?な、なんだ!!?」

 

急に自分の名前を一斉に言われ戸惑うタツミ。

 

「おかえりタツミ!ご飯すぐ用意するね!」

 

アリアは嬉しそうに厨房に向かって行った。何故こんなにテンションが高いのかいまいちわからないタツミは首をかしげる。

 

「よく帰ったなタツミ。その様子だと始末できたみたいだな」

 

「はい、オーガは殺しました。あと、あいつの今までの罪も全部暴露してきました」

 

「ん?お前どこで殺したんだ?」

 

「え?詰め所」

 

そのタツミの言葉に皆、は?と声が出る。

じゃあなんだコイツは詰め所であのオーガを殺してきたのか!!?

 

「お、お前どうやって....って、アカメどうした?」

 

すると急にアカメがタツミに向かって歩いて行く。そしていきなりタツミの服を脱がそうとした。

 

「てい」

 

「あう...」

 

タツミは間髪入れずに頭にチョップをお見舞いする。威力が少し高かったのか、アカメは自分の頭をさすりながら涙目でこちらを見る。

 

「何をする...」

 

「その言葉そっくりお前に返すよアカメ。いきなり何すんだ」

 

「....今まで強がって傷を報告せずに毒で死んだものも知っている。だからそれを確かめようとした」

 

ーーー!!

 

どうやらこいつも俺を心配してくれていたらしい。アカメには嫌われていると思っていたため、内心少し嬉しかった。同時に心配かけたのも悪いと思い、俺は上着のみ脱ぎ捨てる。

 

「!!」

 

「お前、その体...」

 

「あー、傷跡が多くて分かりにくいと思うが傷はおってないよ。だから安心してくれ。あ、それとこの傷跡についてはノーコメントで」

 

背中、腹、胸、そのすべてに大きな傷跡を見て三人は息を飲んだ。自分たちも今までいくつもの生傷や傷跡を見てきた。訓練に失敗した者、危険種にやられた者。それは様々だったが、この歳でここまでの大きく多い古傷は見たことがなかった。

いったいどんな生活を送ったらそうなるのかと思ったが、タツミが聞かないでくれと言ったので胸の中にしまいこむ。

 

「...すまない。見せたくない傷だったか?」

 

「ん?まぁ気にするな。確かに背中の傷とかは剣を使ってる者としては見られたくないが、俺を心配してくれての事なら別にいいよ。ありがとなアカメ。お前が俺に厳しくしてたのは俺を心配してくれてたんだよな...それなのに俺...」

 

「いや、別にいいさ。初めての暗殺は死亡率が高い。よく生還してくれたなタツミ」

 

その初めて見るアカメの笑顔に思わず見惚れる。

ああなんだーーー

 

「笑えば可愛いじゃないか」

 

「え...」

 

「「ほぉ...」」

 

あ、声に出てた。

 

「あ、いや...その...ありがとう」

 

「え、あ、ああ。ごめんいきなり...と、とにかくこれからよろしく..」

 

といいかけたその時だ。部屋の隅から何かを落としたような音が聞こえそちらを見る。するとそこには持っていた料理をひっくり返したアリアの姿があった。

 

「タ、タツミ...じょ、上半身裸で...しかもアカメさんに手を出して」

 

「は?」

 

「な、ち、違うぞアリア!私とタツミは別に...」

 

『笑えば可愛いじゃないか』その言葉がアカメの脳裏に浮かび、再び顔を赤く染める。しかし、それがトドメだった。

アリアはタツミに俯いたまま近づき、持っていたおぼんを上に掲げた。

 

「お、おい?ア、アリアさん?」

 

「タツミのーーー馬鹿!!」

 

その腰の入ったおぼんの一閃は、タツミの頭に入り込んだ。まるでドゴンッという音がなるほどのその威力は、タツミの意識を奪うのに十分な威力だった。

 

(なんでアリアが怒るんだ....)

 

最後まで女心が分からないタツミだった。

 

ーーー翌日

 

「ほら、タツミ!次はこっちよ!」

 

「オイコラ...ちょっとは荷物もて馬鹿マイン...」

 

「嫌よ。あんた女の子に荷物持たせるとか最低よ?」

 

その言葉と態度に持っていた荷物全部背後から投げつけてやろうかと一瞬思ったが、ため息をひとつつくとゆっくり前を歩くマインの後を追っていく。

現在、俺とマインは帝都にて市勢調査という名のショッピングに来ていた。

 

「ほら早く!」

 

「うぃーい...」

 

さて、どうしてこのようなことになったかといえば、それは今日の朝に時間が戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうことで今日はマインの下についてもらう」

 

「ちょ、ボス!なんでアタシがこいつと!!」

 

今朝、何故か目が覚めたら自分のベットに寝ていた。というか昨日のオーガを殺してからの記憶がない。アリアは俺だけ何故か飯の量が少なかったり、アカメは俺の顔を見るなりそそくさと踵を裏返す。

ボスとレオーネは何か知っているような雰囲気だったが

 

「何も知らない方がいい時もあるんだぞタツミ」

 

と言われ教えてくれない。二人の顔を見ると何故かニヤニヤとしているので余計気になる。

と、その話は置いておこう。ということで朝食が終わり、俺はマインとともに帝都の調査をお願いされた。マインはかなり不満そうだったが、しぶしぶといった感じで了承したのだった。

 

まぁ、そこからは先ほどと同じだ。

もはや調査はなくするにはショッピングのみ。しかしすごく楽しそうにするマインの顔を見ると強くは言えなかった。

 

「あんた、意外に何も言わないわね。何か文句で持ってくるかと思ったのに」

 

「別に一応これってボスなりの配慮だろ?オフの時くらいゆっくりしてもいいと思うしな」

 

「ふーん、わかってるじゃない」

 

マインは指名手配されていなく、好きなように帝都内を動き回れるらしい。ボス、アカメ、シェーレ、兄貴は指名手配になっていた...が、その時見てしまった。

それは兄貴の指名手配の絵だ。載っていたのは超絶イケメンな男。マインいわくナイトレイドに入ってからイメチェンしたらしい。今世紀最大のビフォーアフターだ。

 

「あんたも服くらい買いなさいよ。それくらいのお金は持ってるでしょ?」

 

「んー、そうだな。俺も上着数着買うことにするよ」

 

そう言って街を歩いていた時だった。何か騒がしい人混みを見つけ少し見てみる。だが、そこにあったのは最悪なものだった。

手や足はもがれ、胸には鉄の杭が刺さり貼り付け状態。その光景がいくつもそこにあった。

 

「な..んだよ..これ」

 

「帝国の逆らった人間の公開処刑よ。帝都ではよくあることだわ」

 

そのマインの言葉に更に歯を噛み締める力が強くなる。これが人間のやる事か?いや、こんな事を出来る奴は人間じゃない。

 

「ああいうことを簡単にするのが大臣よ。ーーーアタシは絶対にああならない。勝ち組になってやる」

 

その強い決意が自分まで伝わり言葉を失う。きっと、マインもかなりの人生を歩んできたのだろう。

俺たちはその場を離れ、もう少しだけ買い物をした後アジトに帰って行ったのだった。

 

その夜、ボスから新しい任務が入った。

標的は大臣の遠縁にあたる男、イヲカル。大臣の名を利用し女性を拉致しては死ぬまで暴行を与える外道。

そしてその蜜を吸っている傭兵五人も同じく有罪だ。

 

「重要な任務だ。全員でかかれ!!」

 

ということだそうだが...

 

「マインここから当たるのか?」

 

「アタシを誰だと思っているのよ。私は射撃の天才よ?」

 

タツミとマインはイヲカルの屋敷の前の林の中で待機。マインが言うには屋敷から出てきたところを撃ち抜くらしい。

そして、ついにその時が来た。

 

「うわぁ、あんなに女性をはびらせて楽しいか?でも、かなりの人だな...マインいけ..」

 

いけるかと聞こうとしたが、マインの凄まじい集中力で言葉を切った。どうやら愚問だったようだ。

マインは一呼吸を置き、パンプキンの引き金を引いた。銃口から発射された細いレーザーは、真っ直ぐにイヲカルの額に吸い込まれていきーーー

 

ーーー貫いた

 

それを見て思わず口笛を吹いてしまう。

 

「言ったでしょ?アタシはーーー射撃の天才だって」

 

その言葉に思わず俺は肯定するように笑ったのだった。

そして今頃、イヲカルを殺した刺客を殺そうと傭兵達はやけになっているだろう。しかし、そちらはアカメ達がどうにかしてくれるらしい。

あと、俺たちの任務は合流地点である場所に向かうだけだ。

 

「敵は全滅したかな?」

 

「相手は皇拳寺で修行してきた連中よ。そう簡単には終わらないかもね」

 

「帝国一の拳法寺か。大臣に縁者ともなると護衛のレベルも上がってくるな」

 

「権力に物を言わしているだけよ。アタシ、そういうのが一番嫌いなの」

 

深く、低い声でマインはそう言った。すると、マインが自分の過去の事を話し始めた。

 

「アタシは西国境付近の出身でさ、異民族とのハーフなのよ。そのせいで街では差別されていて、誰一人アタシを認めてはくれなかった。本当に悲惨な子供時代だったわ」

 

その話に思わず手に力がはいる。異民族だとか関係なく、同じ人間なのにどうしてここまでの差が開く。

 

「でもね...革命軍は西の異民族と同盟を結んでいるの。新国家になれば国交が開き、アタシみたいな子は苦しまなくてすむ。もう二度とーーー差別なんてさせやしない!」

 

マインのその強い意志に何も言えなくなるタツミ。なんて強くて硬い意志だ。そう思うと、この目の間の少女がどれだけ強い子なのかよくわかった。

 

「マインは優しいな」

 

「なっ!...べ、別にそんなんじゃないわよ。ほ、ほら!もうちょっとで合流地点だから急ぐわよ」

 

マインは赤くなった顔を隠すように、歩くスピードを上げたのだった。そしてたどり着いたには、一本だけポツンと咲く大きな桜の木だった。

 

「さて、任務達成ね」

 

「報告するまでが任務だぞ....ッ!!危ない!!」

 

瞬間、タツミはマインを横に押し出す。すると、タツミは横から凄まじい衝撃に襲われ地を転がった。

 

「タツミ!!」

 

「おうおう、さすが十年前は師範代。俺の勘は冴えてるねぇ」

 

そう言った男は、手のひらをブラブラとさせながらマインを見つめた。マインは少し距離を取り銃を構える。

 

「それは、身分が落ちたものね!!」

 

マインは容赦なくその男に銃撃を浴びせる。が、それを男は避けマインに近づく。

 

「なっ!?」

 

「悪さして破門されちまってね。さて、生きたまま大臣に差し出す。覚悟しろよ」

 

と、その時だった。男の背後から凄まじい殺気が飛ぶ。男はそれを瞬時に感じとりマインから横に距離をとった。

 

(な、なんだ今の殺気は!?俺が飛び退くほどの殺気を出せる奴なんて...)

 

尋常じゃないほどのその殺気を肌で感じ、冷や汗が止まらない。そして、そこに立っていたのは先ほど自分が吹き飛ばした少年だった。

 

「タツミ!大丈夫!?」

 

「.....ああ。マインは援護を頼む」

 

少年...タツミはそういうと黒い剣を逆手に持って男に向かって走った。

 

ーーー速い!!

 

タツミの一閃をなんとか躱す男だが、あとから来た銃撃に頬をかすめる。自分が寺にいた時にでも、ここまでのスピードを出せるものはほとんどいなかった。

 

「黒鬼、解放」

 

タツミがそう言った次の瞬間、タツミの持っていた剣が黒い渦を巻きながら形が刀に変わっていく。その刀からは禍々しいほどの闇がまとわりついており、見るものすべてに恐怖を与えた。

 

「いくぞ...」

 

「ッ!!殺られてたまるか!!」

 

タツミの突撃になんとか合わせる男、振るわれた刀の斬撃をなんとか受け流そうとするがーー

 

(コイツ!さっきのが本気じゃなかったのか!!)

 

先ほどの剣の速度とは全く別次元の速さだった。右から、左からと高速の斬撃は男の体に傷をつけていく。まるで速度に追いついていない。

 

(一旦距離を!!)

 

そう考え、男は全力で後ろに飛んだ。しかし、忘れていた。

 

「グフォ!?」

 

離れた瞬間、自分の腹に穴が開く。その先を見ると、銃をこちらに向けたマインの姿があった。男は穴の空いた腹を隠すように、血を流しながら地面に倒れていったのだった。

 

「ふぅ...マイン、ナイスショット!」

 

「え、ええ。ま、私にかかればこんなものよ!」

 

すると、先ほどまでの雰囲気はどこにいったのか、タツミは笑顔でマインにそう言った。マインはその変わりように戸惑うが、なんとか言葉を返す。

 

(コイツ、まだ全然余裕があった)

 

マインは笑うタツミを見ながら考える。先ほどの攻撃、まるで自分にとどめをさせるかのように誘導しているように見えた。アカメ並みの剣速であそこまで追い詰めていたのならば、きっととどめも自分でさせたはずなのだがーーー

 

「いやぁ、やっぱり強いな。さすがマインだぜ!」

 

(ま、気のせいか)

 

そのあと、自分たちを心配してかアカメとレオーネが駆けつけてくれた。二人は無事なアタシ達を見て安心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、愉快愉快。帝具使いに、殺し屋。どうやら帝都は最高に過ごしやすい場所のようだ」

 

 

 

 

 

 

 



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首切りザンク

イヲカルの暗殺から三日後、タツミ達は新たな任務のためにアジトで一つの部屋に集まっていた。

 

「今回の標的は深夜、人の首を切り取っていく連続殺人魔だ。もう何十人殺されたかわからん」

 

それについてはタツミの耳にも届いていた。しかもその殺人魔、殺している三割が警備隊という。これまでの敵とは比較にならないものだろう。

 

「間違いなくあの首切りザンクだろうね」

 

「それなら私も知ってます。確か元は監獄の首切り人だったけど、何人も何人も首を切ってるうちにクセになってしまった人ですよね?」

 

「嬢ちゃんの言う通り。しばらくの間姿を消してたんだが、今になって帝都に現れるとはな。しかしよく知ってたな」

 

「...昔、母に教えてもらったことがあって」

 

その言葉にブラートはうっと言葉を詰まらせる。さらにみんなには鋭い目で睨みつけられた。

 

「べ、別に気にしないのでいいですよ!!ちゃんとそこは割り切ってますから」

 

「そうか...悪いな嬢ちゃん」

 

「まぁ、話を戻そう。ザンクは当時獄長が持っていた帝具を盗んで消えた。つまり、今も帝具を持っている可能性が高い。今回は二人一組で行動してもらう。皆、心してかかるように」

 

『了解!』

 

その時、アリアが悲しそうな顔をしていた気がしたが、それは誰も気づくことはなかった。

そして夜。俺はアカメと組むことになり住宅街を徘徊していた...のだがーーー

 

「アカメ?なんで俺からそんなに離れて歩くんだ?」

 

「...気のせいだ」

 

さっきからこの一点張りだ。俺とアカメの間は5メートルほど常に離れており、自分から近づくとその分離れていくのであった。気づけばあの記憶がなくなった日からずっとこの調子だ。

 

「おい、アカメ本当にどうし...むぐっ!?」

 

と、急にアカメが俺の口を押さえ建物の影に隠れる。

 

「帝都警備隊だ。ああいう奴らもいるから気をつけ...〜〜〜!!」

 

隠れた拍子にタツミとの顔が近かったためか、勢いよく離れるアカメ。よく見ると顔も赤くなっている。

その様子にさらに困惑するタクミ。

 

「なぁ、もしかして...」

 

「!!」

 

「俺、あのオーガ殺した時に何か言ったか?」

 

「...は?」

 

「いや、何故かあの日の記憶がポンッと抜けててだな...もしかしてアカメを怒らせるような事を言ったのかと」

 

そのタツミの言葉に呆然とするアカメ。心当たりはある。あのアリアの一閃だ。つまり、あれのせいで記憶が飛んだという事か?

 

「〜〜〜!!」

 

そう考えると今までの行動が余計恥ずかしくなっていく。

 

「ア、アカメ?」

 

「な、なんでもない!それにあの日も特に何もなかったぞ!!で、では行こうか。大丈夫だ携帯食料も持ってきている!!」

 

もう自分でも何を言っているかわからないアカメは、柄にもなく真っ赤になった顔をタツミに見せないように先を歩いていくのだった。

 

(いったいなんだよ....ッ!!)

 

その時、背後から視線を感じ振り返る。だがそこには誰もいなく、気のせいかとアカメを追っていくのだった。

 

 

「ほぉ、あの少年。今こちらに気づいたか?いやぁ愉快愉快。ーーーーさて、どの首から狩っていこうか?」

 

暗闇の中、その声の持ち主は悪魔のように微笑むのだった。

 

 

 

探索から1時間。やはり敵さんもそう簡単には出てきてはくれないらしい。タツミとアカメは置いてあった椅子に座り休憩をいれる。ザンクのこともあってか、人っ子一人いないためアカメが顔を隠す必要もない。

 

「まぁ、根気よく行きますか」

 

「そうだな」

 

「....ちょっと失礼」

 

「トイレだな」

 

「わかってんならいうのやめてもらえますかね!?」

 

タツミは恥ずかしさを隠すように路地裏に飛び込んでいった。だが、そこで会ったのは信じられない人物だった。

 

「サ...ヨ?」

 

それは大切な幼馴染の姿。着物を綺麗に着ており、長く水のような綺麗な髪が下に流れている。

何故だ、彼女は死んだはずだ。サヨは俺を見た瞬間路地の向こうに走っていく。

 

「待て!待ってくれサヨ!!」

 

タツミはそれを必死で追いかける。右へ左へと路地を曲がっていき、一つの広場のようなところに着いた。そこにサヨはポツンと一人立っている。

 

「おい...サヨなのか?」

 

「.....」

 

だが、サヨは何も答えない。それでも、死んだサヨが今目の前にいるという嬉しさは堪えることができない。眼から涙が一つ二つと零れ落ちる。

だが、そこで気づいた。そのわずかながら放たれる殺気を

 

「...お前、誰だ?」

 

タツミは殺気を込めながらその偽物に言った。すると、それは急に形を変えて大きな影になっていく。

 

「はは、愉快愉快。よく気づいたな少年」

 

「お前....」

 

「私は首切りザンク。以後よろしく少年」

 

首切りザンク!!その名を聞きタツミは赤い剣を腰から抜く。

 

「ほぉ、それは帝具か」

 

「!!」

 

何故!?これはボスでさえ知らない帝具だ。にも関わらずなんでこいつが知ってーーー

 

「それは簡単だ。それの事はお前が、知っているだろう?」

 

そう言いながらザンクは自分の額に付けられた目玉のような模様の飾りを叩く。

 

「これは帝具【スペクテッド】五視の中の一つ"洞視"いえば観察の究極系だ」

 

「つまりはそれを使えば相手の心が読めるって事か」

 

「ご名答。いやぁ、褒美に干し首でもいるか?」

 

「遠慮しとくよ殺人魔」

 

「ははは!愉快愉快!!さぁて、お前は俺にどんなひょうじょーー」

 

一閃、ザンクの腹に向かって斬撃が繰り出された。ザンクはそれをギリギリで防ぐ。

 

(無心!?いや、今のは心を読めていた。にも関わらずこの反応...)

 

いつの間にか背後に立っている赤い刀を持った少年を見て、思わず笑みをこぼすザンク。

帝具同士の戦い。つまりは...必ずどちらかが死ぬ。

 

「さぁ、始めようか首切りザンク。悪いがお前に斬られるほど、ヤワな首は持ち合わせていないがな」

 

「クッ、クク、クハハハハ!!愉快愉快!!さぁ、始めようぜタツミ〜!!」

 

「人の名前勝手に呼ぶなよ殺人魔!!」

 

こうして、必ずどちらかが死ぬ完璧な殺し合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ!」

 

「おっら!!」

 

お互いに振るった武器が高い音を上げて弾かれる。タツミの武器は【赤鬼】。紛れもなくあの最強の兵器、帝具の一つだ。

 

「っら!!」

 

(上段!!)

 

対するザンクは武器は通常の武器だが、帝具【スペクテッド】でタツミの心を読みながら戦い続ける。

しかし、意外にも押しているのはタツミの方だった。

 

「赤鬼!!」

 

「!!」

 

瞬間、タツミの持っていた刀から赤い斬撃が飛ぶ。それがわかっていたザンクは、なんとか両腕の剣でそれを防ぐ。わかっていても、攻撃が重すぎる。それがあと一歩踏み込めない理由でもあった。

 

「愉快愉快...お前、その歳でそこまでの力どうやって手に入れた?」

 

「あぁ?ただ修行しまくっただけだよ。この剣だってたまたま俺のとこにきただけだ」

 

ザンクは透視で他に武器のないことを確認済みだ。驚いたことといえば、おそらくもう一本の黒い剣も帝具だということ。

二本の帝具を扱うことができるなど聞いたことがなかった。

 

「いやはや...こうしてお前のような化物と会うことができるとはね」

 

「誰がバケモンだ、この首切り大好きサディスティック野郎が!!」

 

タツミはそう言って再びザンクに向かって突っ込む。目に見えないほどの斬撃をザンクはなんとか両腕の剣で防ぐ。しかしその時だった。ザンクの剣がタツミの頬をかすったのだ。

タツミは驚きすぐに距離をとる。

 

(いきなり動きが変わった?)

 

先ほどまで押していたはずの剣が止められ、反撃された。きっと何かあの帝具の能力だろう。

 

(なら、しょうがない...やるか)

 

ドンッとタツミから先ほどからの比ではない殺気が噴き出す。それにはザンクも数歩後ろに下がった。しかし、心を読んでいるザンクにとって、それは隙も同じ事。すぐさまタツミに向かって突撃し始めた。

 

「あははは!!じゃあな!タツミ!!」

 

そう言って剣を振りかぶったその時、頭上から刀が一本すごい勢いで落っこちてきた。思わず危険だと察したザンクは、元いた位置に戻る。

そして、そこに現れたのはーーー

 

「大丈夫かタツミ!」

 

「アカメ...ふぅ〜」

 

タツミは出していた殺気をしまい、アカメの元へ歩いて行く。

 

「まったく、深追いはするな」

 

「悪かったよ。というかしたくてしたわけじゃない。...で、わかってると思うが、あれが首切りザンク。あの額に付けているのが帝具【スペクテッド】だ」

 

「そうか、奴が...」

 

「いやぁ、愉快愉快。まさか俺が一番会いたかった奴に会えるとはな、なぁ?アカメ?」

 

ザンクは嬉しそうに、顔の頬を歪める。それには一種のホラー要素でも混ざっているようだった。というかただただ怖い。

しかしザンクはそんな事はお構えなしに笑い続ける。

 

「あー!!愉快愉快!!俺はずっとお前に聞きたかった事があったんだ。いや、この際タツミにも聞いておこう。お前ら、声はどうしてる?」

 

声?

 

「ほら声だよ。今まで自分が殺してきた人間の地獄からの声だ。早くこっちに来いと俺の耳元で囁いてきやがる。お前達はいったいどう対処してーーー」

 

「「聞こえない」」

 

「あ?」

 

「俺はまったく聞こえないな。というか地獄からの声とか言ってて恥ずかしくねぇの?」

 

「私もタツミと同じだ。そんな声は聞こえない」

 

そう言ってやると、ポカンとしたように口を開けるザンク。驚いている事がよくわかる顔だ。

 

「これはなんと....お前ほどの殺し屋。そして貴様ほどの実力なら聞こえると思っていたのだがーーー悲しいねぇ!!」

 

と、次の瞬間。アカメの様子がおかしい事に気がつく。肩を震わせ目を見開いていた。

 

「ッチ、さっきの幻覚か!」

 

「その者の一番大事な物がそこに映る。それが幻視だ」

 

アカメはなおボッとしたまま立ちすくむ。そして、口を開きこういった。

 

「....クロメ」

 

「え?」

 

今、アカメはなんて言った?

しかし、そんな事を考えている暇などなくザンクはアカメに向かって駆け出した。

 

「死ねぇ!!アカメ!!」

 

だが、それは二つの斬撃によって防がれた。一つはタツミ、もう一つはーーータツミだった。

両腕に黒と赤の刀を持ち、タツミはアカメの前に立った。

 

「タツ...ミ?」

 

訳が分からずアカメはタツミを見る。手は村雨にかけられており、別にタツミが出なくても切り掛かっていただろう。しかし、それをタツミは許さなかった。

 

「アカメ...よく頑張った」

 

なにの事を言っているかわからない。よく頑張った?いったい何の事を言っているのだろう。

タツミはアカメには当てないように、ザンクにのみ凄まじい殺気を当てる。

 

「ザンク、お前がその声を聞きたくないというのであれば...今すぐ止めてやろう」

 

タツミはそう言って刀を二本地に刺した。

 

「なにを...」

 

「纏え【赤鬼】【黒鬼】」

 

次の瞬間、刀は赤と黒の渦に変わりタツミの腕を侵食していった。そして出来上がったのは、まるで危険種の腕のような異形の赤と黒の腕だった。

 

「さぁ、首切りザンク。俺の首を切ってみろ」

 

「ッ!!死んでたまるかぁぁぁぁああああ!!」

 

両者、最後の激突をする。ザンクはその異形の腕に斬撃を加えるが、その腕は全ての斬撃を拳で、爪で、甲で弾いていく。

そして終わりは来た。タツミの黒く染まった左腕がザンクの武器を粉砕した。

 

「ッグ!!」

 

「終わりだ」

 

タツミは右の赤い腕を後ろに回す。その手のひらから出てきたのは、巨大で禍々しい真紅の大剣。タツミはその剣となった腕を横に振るった。

ザンクは上と下に分かれ大量の血を流しながら倒れこんだ。

 

「どうだ?声はまだ聞こえるか?」

 

ザンクは薄れゆく意識の中、耳をすます。すると、ずっと聞こえていた音はまったく聞こえなくなっていた。

 

「カカ...ありがとよ...タツミ」

 

首切りザンク 暗殺完了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、俺は一人サヨとイエヤスの墓の前にいた。持ち寄った花を供え、墓の前で手をあわせる。

 

「タツミ」

 

すると、背後からアカメが俺に声をかけてきた。

 

「おう、アカメか。どうした?」

 

「夕食の準備だ。アリアはもうしているぞ」

 

タツミはすまないと言いながら立ち上がる。そして、アカメの横を通り過ぎようとしたのだが、彼女に腕を掴まれて止められる。

 

「アカメ?」

 

「.....あの時のよく頑張ったとはなんだ」

 

「.....」

 

アカメに問いにタツミは答えない。

 

「答えてくれ」

 

「....お前が元帝都の暗殺部隊にいた事は知っている。それはレオーネに聞いた。そして....その時にいたお前の妹もだ」

 

「!!」

 

俺のその言葉にアカメは驚く。この反応から見て、知っているのはごくわずかな人物だけなのだろう。

 

「名前はクロメ。今もなお、帝都の柵にとらわれている。体を薬物で強化し、帝都の薬がなければ生きていけない」

 

「な、なんでクロメの事を...」

 

「....実際にクロメと会ったことがあるからだ。その時にクロメに聞いたことがある。自分の姉は、裏切り者だって」

 

その言葉に思わず俯くアカメ。だが、俺は言葉を続けた。自分の意思を伝えるために。

 

「俺はお前とクロメが殺し合うことなんか認めやしないし、やらせもしない。絶対に阻止してみせる」

 

「な!?何故タツミがそんな!!」

 

「家族が!!」

 

「ッ!!」

 

俺の急な叫び声でアカメはからだを震わした。すまないと一言入れると、言葉を繋ぐ。

 

「家族が殺し合うなんて絶対にダメなんだよ。だから...俺は必ずクロメの心の闇を取り払ってみせる。それが俺がお前達にやれる事だからだ」

 

そう言って俺はアカメの頭を撫でる。同じ年のはずなのに、まるでその手は父親の手のように暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 




あれ?これってアカメ戦ってなくね?
って事で次はセリューちゃんです!!いや、俺って結構セリューちゃんも好きなんだよな〜

タツミの過去ものちに分かっていきます!それでは、また!


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アリアの気持ち

今回、おかげさまでお気に入り100件を超えることができました!!
これからも頑張っていくのでよろしくお願いします!!


ーーー夢を見た

 

一人の少女が建物の裏影で泣いていた。俺はそれを見つけ、どうかしたかと少女にきいた。

 

『お姉ちゃんがいなくなったの。私を置いて、ずっと一緒にいてくれるって約束したのに!それなのに!!』

 

自分より歳が下のはずの少女は、その歳からはありえないほどの殺気を出す。その時に少女の顔が見えたが、その目は黒く染まっていた。

 

『私は...私には!お姉ちゃんがいないとダメなんだ!それなのに...それなのに!!』

 

ーーーお姉ちゃんは私を裏切った!!

 

まるで殺意の塊のようなその言葉に、俺はこの少女に恐怖を覚えた。いったい何がこの少女をここまで変えたのだろう。いったい誰が、この少女にここまでの感情を押し付けたのだろう。

この子の姉か?いや、少なくても聞いている限りこの子にとって姉は心の在りどころだったはずだ。

 

『絶対に...絶対に私が殺してやる!!』

 

『ッ!!ダメだ!!』

 

つい、少女のその言葉に反応して叫ぶ俺。少女はびっくりしたかのように涙で濡らした目を見開いていた。

 

『どうして?...お姉ちゃんは私を裏切ったんだよ?』

 

『本当にお前の姉はお前を裏切ったのか?それは本人に聞いたのか?』

 

『そんなの、聞かなくてもわか...』

 

『いや、わからない。お前の姉は本当にお前一人を見捨てて何処かに行ってしまう奴なのか?』

 

俺のその問いに、少女は口を閉じる。まだ、やはり姉が自分を裏切ったとちゃんと信じていないようだった。

 

『だったら、信じろ。お前のたった一人のお姉ちゃんなんだろうが。世の中には血の繋がらない家族もいるけどな、血の繋がった家族はもっと繋がりが強いんだぜ?』

 

そう言うと、少女はクスクスと笑いだした。

 

『ふふっ、お兄さんっておかしな人だね?見ず知らずの私にこんなことを言うなんておかしな人』

 

『わ、笑うなよ....でも、俺はお前のこともお前の姉の事もよく知らない。だからあくまで他人の言葉と思ってくれればいいさ。そのあと、お前がどうしようが俺の知ったことではないってな』

 

『うんそうだね...。ねぇ、お兄さん名前はなんていうの?私と大して変わらないと思うけど...』

 

『俺か?俺はタツミ。この近くの村に住んでるただの村人だよ。今日はたまたまこの街に買い物に来ただけだよ。で、お前は?』

 

俺は、名を聞こうと座り込んでいる少女に手を差し出した。少女は涙を袖で拭き取り、笑顔でこう言った。

 

『私はーーークロメ。タツミ、ありがとう』

 

そこで、俺の視界が光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

「ん...朝か....」

 

懐かしい夢を見た。きっと、昨日アカメにクロメの事を話したからだろう。あれがいつだったかはもう覚えていない。

ただ思うのは、あの時俺は彼女を本当の意味で安心させることはできたのだろうか?もう少し言葉があったんじゃないか?

 

(って、ダメだな。また終わったことを後悔してる...もう、どうすることもできないっていうのに)

 

自分の甘さに少しイライラしながら、ベットから体を動かそうとする。

 

「ん?」

 

だが、そこで気づいた。自分の足付近に何か柔らかいものが当たっている。タツミは目線を足に向けていき、その正体を確かめた。

 

「....ん..むにゃむにゃ...」

 

「は?」

 

自分でも驚くくらい低い声が出た。

って、そうじゃない!!なんでーーー

 

「ん?...あ、おはようございますタツミ。タツミは今日から私の部下になるそうです。よろしくですぅ...むにゃむにゃ」

 

そう言って紫髪のメガネをかけた女性は、再び眠りにつく。

 

(なんでシェーレが俺の部屋にいるんだよぉぉぉおおおお!!?)

 

こうして、タツミの朝は始まる。

と、いうことで特訓だ。俺はシェーレに言われた鎧を着て、アジトの近くを泳いでいた。

 

「あぁー水がきもちぃ...」

 

「あの鎧、かなり重いはずなんですけど...何故沈まないのでしょう?」

 

え、そりゃだって沈まないように全力で足動かしてるしな。何を当たり前なことを...

と、考えているこのバカだが、一応これは暗殺カリギュラムに載っている訓練方法だ。しかも鎧が重い分よけいに難易度も上がっているはずだが、この男はクロールで川の隅から隅に行ったり来たりしていた。

 

「タツミー、もういいですよー」

 

「え、はーい。...以外と楽だったな。もっとめちゃくちゃな訓練だと思ってた」

 

「普通はタツミみたいにできませんよ。...さて、それでは少し休憩を入れましょうか」

 

「あーい...ところでシェーレはアジト内での役割とかないのか?」

 

タツミは鎧を脱ぎながら、石に座るシェーレにきいた。すると何故か暗い顔をして話し出す。

 

「料理は肉を焦がしてアカメにクールに怒られました。掃除はゴミを全てひっくり返してブラートを困らせてしまいましたし、買い物は塩と砂糖を間違って買ってきてレオーネに笑われました」

 

「わぁお...」

 

天然だ天然だとは思っていたがここまでだったとは...ある意味ナイトレイド最強ってシェーレじゃないのか?

 

「それに洗濯は間違ってマインと一緒に洗ってしまいました」

 

「おし、それはナイス。よくやったシェーレ」

 

タツミは笑顔でシェーレに親指を立てた。シェーレは首を傾げているが、深くは言わないでおこう。

しかしシェーレは、何故この稼業に入ったのだろうか?失礼だが少し似合わないような気がする。気になりタツミはシェーレに何故暗殺稼業をやり始めたのかを聞いた。

聞くとそれは散々なものだった。

 

シェーレは帝都の下町で育ったらしい。が、その不器用から周りからいつもバカにされていたらしい。

そんなシェーレにも、たった一人仲の良い友達がいたそうだ。だがある日、その友達の元彼が家に乗り込んでき彼女の首を絞めたそうだ。

なんでもフられた仕返しらしい。たまたまその子の家に遊びに来ていたシェーレは、首に手をかけた男を見て持っていたナイフで男の首を刺し、殺した。

その次の日にシェーレは数人の男に囲まれたらしい。なんでもあの男はギャングの下っ端だったらしく、それの報復に来たのだ。

 

「もう家族は殺したと言われたのにもかかわらず、私の頭はクリアでした。そして、持っていたナイフで襲ってきた男を皆殺しにしました。そこで思ったんです。私みたいにネジが外れているからこそ、殺しの才能がある...と」

 

聞いているだけで胸糞が悪くなる話だ。助けられた友達はもう二度と会うことはなかったらしいが、俺に言わせればそれは勝手だ。自分が助けてもらっておいてシェーレを見捨てるなんて...。そんなもの友達とは呼ばない。

 

「タツミ、そんなに怖い顔をしないでください。別に良いんですよ」

 

「な!?何が良いんだよ!!全然よくなんてないだろうが!!」

 

「いえ、いいんです。だって今こうしてタツミや、アカメや、それに他のみんなと一緒に居られるんですから!」

 

そういったシェーレの笑顔は、俺はきっと忘れることはないだろう。

それと同時に、やはり自分以外にもみんな色々と抱えているということがよくわかった。

そして、シェーレとの訓練が終わり部屋に戻る最中だった。

 

「ん?あれって...」

 

窓から見えたのは一人、ナイフを振るっているアリアの姿だ。遠目で見てもわかるくらいに肩で息をしていた。

タツミはすぐに下に降りていき、アリアがいる場所へと駆けていく。

 

「おい、アリア」

 

「!!タ、タツミ...ど、どうしたのこんな所で?」

 

アリアは手に持ったナイフを背に隠すようにそういった。

 

「お前こそ何してるんだよこんな所で」

 

「ちょ、ちょっといい天気だから日に当たろうかなって...」

 

「だったらその手に持ってるナイフはなんだ?」

 

アリアは声を詰まらして持っていたナイフを隠すのをやめる。よく見るとかなりの汗だ。きっとかなりの時間振り続けたのだろう。

 

「ちょっと手を貸してみろ」

 

「え?ちょっと!?」

 

タツミはアリアの手首を無理やり取って、自分の方に手のひらを向けさせた。見ると思った通り、豆がつぶれて血が滲んでいる。1時間そこらでできる傷ではなかった。

アリアは俺の手を振りほどき、再び手を隠す。その顔はかなり沈んでいた。

 

「どうしたんだアリア。なんでこんな...」

 

「別に...タツミには関係ないことでしょう?」

 

その言葉に少しカチンときた。

 

「関係ないわけがあるか!!こんな手になるまでどうして止めなかった!!」

 

「ッ!!」

 

初めてアリアに怒鳴り、アリアはそれに肩を震わせる。するとアリアの目からはポロポロと涙が溢れ出していた。

 

「...じゃない.....ッ!!しょうがないじゃない!!こうでもしないと私、タツミの...みんなの前に立てないんだから!!」

 

「な、何を言って...」

 

アリアは涙を流しながら声を荒げた。初めて聞くアリアの叫び声に俺もまた驚く。

 

「ここにいるみんなは、悪い人をやっつけて他の人を助けてる。なのに!私だけ!私だけが、ここでは何もしないでのうのうとみんなが帰ってくるのを待ってる!そんなのって卑怯じゃない!!タツミが、みんなが!必死に命をかけて戦ってるっていうのに!!」

 

「.....」

 

「私だってみんなと一緒に戦いたい!横に並びたい!!タツミはもうアカメさん達と横に並んで戦ってる!!なのに...なのに...」

 

アリアは膝をつき地面に向かって涙を落とす。

どうして気づいてやれなかった。何かサインがあったんじゃないのか?どうしてここまで思い詰めるまでほっておいた!!

その考えが脳内で駆け巡る。するとアリアは俺の顔を見て

 

「まただ...またタツミは自分の所為みたいな顔してる」

 

「!!」

 

「タツミは何も悪くないよ。悪いのは私。全部、弱いのも役立たずなのも!全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部!!私が何もできない所為なんだから!!」

 

違う。そうじゃない。アリアの所為じゃない。そう言いたかった。言ってやりかった。だけど、口が開かない。

 

「私が気づいてれば!お父様とお母様を止めていれば、タツミの幼馴染達は死ななかった!!そんなのーーー」

 

ーーー私が殺したようなものじゃない!!

 

その言葉を聞いた瞬間。俺はアリアの頬を叩いていた。アリアが何が起こったのかわからないようで、え?っと声を出す。

 

「さっきから黙って聞いてりゃ...そうじゃねぇだろ!!サヨも、イエヤスも!!死んだのはお前の所為じゃないだろうが!!」

 

「!!」

 

「自分が何もできない?自分は役立たずだ?その返答はこうだ。ふざけるな!!お前が役立たずのはずがねぇだろ!!」

 

「で、でも私は...」

 

アリアが何かを言おうとしたが、タツミはそれを遮るようにアリアの手首を掴んでアジトの中に無理やり連れて行った。アリアは抵抗するが、力でタツミに敵うわけもなかった。

そして、たどり着いたのは会議室の扉の前。しかしなぜか中には入らない。

 

「タツミは、何を...」

 

「黙って耳を澄ませろ」

 

そう言われ、アリアはドアの向こうに耳を澄ませる。すると、向こうでの話し声が聞こえた。

 

「ねぇ、アリアはこれからどうするの?」

 

なんと、話していたのはアリアの内容だ。アリアはそれがわかり、ドアの向こうに集中する。

 

「これから帝国との戦いも激しくなっていく。このままじゃ危険じゃないのか?」

 

声はブラートだろう。アリアはその声を聞き思う。やはり自分がこのままここにいるのは迷惑なんだ。アリアはその場から離れようと踵を返した時だった。

 

「ふむ。ならばアリアには悪いがこれからここで料理担当として働いてもらうってのは?」

 

『賛成!!』

 

(え?)

 

アリアはその言葉に驚いた。

 

「アリアにはかなりの心配をかけるかもしれない。だがーーー」

 

「俺はアリアちゃんの飯が食べれなくなるなんてゴメンだね!!」

 

「そうね。アリアの料理ってなんだか...暖かい?そういう感じがするのよね」

 

「うん。アリアの料理は最高だ。あんな美味しい肉は初めて食べた」

 

「そういえば今度、私に教えてくれるらしいんですよぉ?本当にいい子ですね」

 

「アリアがもうちょっと大人ならいい酒が飲めると思うんだけどなぁー。同じ大人の女性として?」

 

「それって、レオーネが酒を飲みたいだけだろ」

 

ドアの向こうから聞こえる笑い声に、アリアは戸惑いを隠せないでいた。何もできない自分にどうしてあそこまで言ってくれるのだ。

すると、タツミがそっと口を開く。

 

「戦うってさ、別に俺たちみたいに武器をとって敵を倒すことだけじゃないんだと俺は思う。それは、俺たちをサポートしてくれる人達も一緒に戦ってるんじゃないのか?」

 

「でも...私は」

 

「俺、前に言ったよな?俺に背中は任せるって。だからさ...アリアは俺を...ううん。俺たちを支えてくれないか?ほら、アカメって胃に重いものしか作らないからさ。絶対にいつか腹下す奴っているかもなんだよ」

 

タツミは冗談を言うように、笑って話をする。アリアはその言葉を聞いて、再び涙がポロポロと零れ落ちる。

今度は悲しい、悔しいという感情ではなかった。

 

「アリア、お前は必要だ。だってお前はーーーナイトレイドの一員だろう?」

 

「ッ!!タツミ....私、ここにいていいの?」

 

「もちろん。もしダメとかいう奴がいたら俺がぶん殴ってやる」

 

「私、戦えないよ?」

 

「なら、俺がお前を絶対に守ってやる」

 

「もしかしたら、今日みたいに変なことで泣くかもしれないよ?それでもーーー」

 

「それでも!」

 

タツミはアリアの言葉を遮ってアリアの肩を抱き寄せ言葉を放つ。

 

「俺は、お前を一人になんかしない」

 

「!!...うん。ありがとうタツミ」

 

ナイトレイドの一員の笑い声を背に感じながら、タツミとアリアは二人少しの間抱き寄せあっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやぁ、アリアちゃんの独壇場でしたね!

いや、シェーレやクロメの話も出てるしそうでもないのかな?
まぁ、とにかくお疲れ様でした!
次回もお楽しみに〜


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タツミの帝具

数日後、会議室にてーーー

 

「さて、タツミ。教えてもらおうか」

 

何故かそこには皆の前で正座させられている、タツミの姿があった。と、いうのもーーー

 

「お前の帝具の能力を教えろ!!」

 

「いや、教える暇がなかっただけですし?それになんでそんなにテンション高いんですかボス」

 

いきなり兄貴に呼ばれてきてみれば、何故か笑顔のボスが椅子に座っており、俺に向かってここに正座しろと言ってきたのだ。

すると周りからぞろぞろと人が出てき、現在任務でもないのにナイトレイド全員集合だ。

 

「報告は受けてるぞ。オーガを殺害した詰め所、そしてこの前のザンクの件についてもだ。それについて本人からじっくりと話しを聞こうじゃないか...」

 

オーガについては殺された場所にどうやって近づいたのかということだろう。しかし、ザンクについては...

タツミはザンクを殺したその場に唯一そこにいたアカメの顔を見る。が、目をそらされた。

 

「はぁ...いいですよ。これもいい機会ですしね」

 

タツミはため息をつきながら立ち上がり、腰の後ろに付けてあった剣を二本取り出す。

 

「まず、改めてこの剣の名前を赤い方が神鬼赫纏(しんきせきてい)【赤鬼】黒い方が神鬼闇纏(しんきあんてい)【黒鬼】という名です。聞いた話では、どちらも超級危険種という化物から作り出されたそうです」

 

「そりゃ知ってるよ。俺たちの持っている帝具ってのは全部、超級危険種から作られているからな。ちなみにその危険種の名前は知ってんのか?」

 

「えっと確か....北のずっと奥にある深林の中に住んでいた双子の鬼の化物とか聞いたことがあるな。名前はそのままで黒鬼と赤鬼だったような気がする」

 

「黒鬼に赤鬼...聞いたことがない危険種だな?皆、知っているか?」

 

ナジェンダが他のメンバーに聞くが、どうやら誰も知らないらしい。ここまで知られていないぐらいの危険種なら、そこまで強くはなかったのかとナジェンダは考える。

だがその時、アリアが何かを思い出したように手をそっと上げた。

 

「ん?どうしたアリア」

 

「えっと、勘違いかもしれないんですけど...小さい頃に読んだ絵本で、確か二匹の鬼の話があったような気がします」

 

おとぎ話?つまりは童話ってことか?

 

「確か内容は、その森の近くに住む村の少年が、入ってはいけないと言われていたその森に入り、そこで二匹の鬼と出会ったというお話です」

 

「でも、それっておとぎ話なんでしょ?だったらたまたまなんじゃ...」

 

「いえ、その鬼というのが黒い鬼と赤い鬼だったような気がするんです。そして少年がその鬼とお友達になり、毎日のようにその鬼達と一緒に遊ぶんです」

 

なんだ、普通にいい話じゃないか。それだったら危険種とは関係がないんじゃないか?タツミがそう思っていると

 

「しかしある日、悪い大人達に少年の村が壊されてしまい、少年も傷を負ってその森に逃げ込みました。鬼達は必死に少年の怪我を治そうとするんですが、鬼の薬草というのは人間には合わなくて、最終的に少年は死んでしまうんです」

 

「それって本当に童話?めっちゃ重いんだけど...」

 

「確かにな。子供が聞いたら泣くぞ」

 

レオーネと兄貴の言う通りだ。アリアは"昔聞いた話なんでほとんど覚えていないですけどね"とか言ってるが、そこまで覚えてたら十分だと思う。すると、ボスが顎に手を当てて何かを思い出した。

 

「どうかしたかボス」

 

「あ、いや...確か帝国にいた頃、かなり昔の文献で北の集落が何者かに襲撃されて壊滅させられたという報告が書かれていたのを思い出した」

 

「あ!あの不自然なやつですか。確か結構昔のやつでしたっけ....北の集落が、山賊もろとも皆殺しにされたっていう。あそこらへんって、今ほど危険種が出てこないはずだったのにってナジェンダさん言ってましたね」

 

ラバが軽口でそういうが、それが逆に怖い。

え?山賊全滅?何故に?それに危険種の仕業かもだと?当時の帝国ちゃんとしろよ!!

 

「あぁ、それなら俺も知ってるぜ?兵の中でも一時期盛り上がった話題だったしな」

 

『......』

 

おい、みんな黙るなよ。

 

「と、とりあえずタツミの能力を聞くか!」

 

「そ、そうね!アカメよく言ったわ!!」

 

「え、あ、ああ。んじゃ話戻すが...。....あのオーガを殺したのは黒鬼の能力の一つ。変化だ」

 

タツミはそう言って、直剣を刀に変える。するとその刀が黒い渦となり、タツミの顔に張り付いた。

そして、そこにいたのはーーー

 

「んな!?」

 

「これは...」

 

「な、なんで...なんで俺がもう一人!!?」

 

ラバックだった。緑の髪の毛に少し釣り気味の目。その場にはなんとラバックが二人存在したのだ。

 

「これが黒鬼の能力、変化。効果は選択した対象者に顔と声をなりすますことができる」

 

「こ、声もラバだ」

 

「ちなみに変身の条件はその対象者への接触。ただし変化する前に誰かに触られると上書きされる」

 

「テメェいつの間に!?」

 

ラバは少し怒るが、とりあえずはほっておこう。タツミは変化を解除して元の顔に戻る。

 

「俺はこれでオーガの手下になりすまして殺した」

 

「どうりでご丁寧にオーガの城に忍び込めたわけだ....。で、もうないのか?」

 

ナジェンダに聞かれ、タツミは次に赤鬼を刀に変える。

 

「次に赤鬼の能力だ。と、言ってもこっちはシンプルだけどな」

 

タツミは一度皆と一緒に外に出る。そして、一本の木に目印を入れその場から数十メートル離れた。

この能力を見たアカメ以外、皆首をかしげる。

 

「コレの能力はいたってシンプル。ただーーー」

 

タツミは持っていた赤鬼を目印をつけた木に向かって、横に振り抜いた。数十メートルも間が空いているのに何をやっているというのが普通の反応だが、そうではない。

タツミが振るった刀からは、赤く染まった斬撃が飛んだのだ。それはそのまま飛んでいき、目印をつけた木を横に叩き斬った。

 

『は?』

 

「....あの時は流したが、凄いな」

 

「今のが赤鬼の能力、空斬(くうざん)。見た通り斬撃を飛ばす能力だ。ま、射程は50メートルくらいだがな」

 

タツミは笑いながらそう言うが、そうではない。これは剣を扱っていながら遠距離からも攻撃できるというかなりの物だった。それに、タツミは二つ同時に帝具を扱うことができる。

 

(隠密にも使え、タツミ本来の剣技もかなりのもの。それにこの強力な力を加えたら...)

 

もうはっきり言って、凄いとしか言いようがない。

 

「で、でもそれってデメリットとかねぇのかよタツミ」

 

ラバックがそう聞くと、少し申し訳なさそうにタツミは頭をかいた。

 

「わ、悪いがある。変化は変わるのは顔と声だけだし、赤鬼も全力で何百発と撃てるわけじゃないんだ」

 

「いや、それでも十分だ。そういえばあの時の腕は?」

 

「っと、ちょっと待てよ...よっと!」

 

タツミは刀を二本地面に刺して空気を吸い込んだ。

 

「纏え【黒鬼】【赤鬼】」

 

すると、刺さった刀は黒と赤の渦となってタツミの腕を飲み込んでいく。そしてその渦が消えてなくなると、そこにはあの日見た黒と赤の異形の腕があった。

 

(ッ!!凄い圧力だ。こんなものを腕に装着して大丈夫なのかタツミは!?)

 

アカメや、ブラート達でさえ息を飲むほどの圧倒的な圧力。さすがは帝具といったところだ。

アリアは一人何故みんなが怖い顔をしているかわからずに慌てている。

 

「これが形態ニ【鬼ノ手】だ。主に超近接戦闘時のみ使うな。リーチが短い分、破壊力、防御力はかなりのものだぞ。さて、俺が扱うことができるのはここまでだが...参考になったか?」

 

「あ、ああ。その力があれば作戦の幅が大きくなる。ありがとうタツミ」

 

「い、いろいろな帝具があるんだね...」

 

まるでおとぎ話のような武器を見て、アリアは心底驚く。まぁ、俺自身。この武器を使い始めの頃は驚きの連発だったからな。

すると、ナジェンダが少し困ったような顔をし始める。

 

「どうかしたんすかボス」

 

「いや、この間のザンクの帝具をどうしようか迷ってな。アリアはもう実は試したんだが...」

 

「ごめんなさい。可愛くないとか思っちゃって...」

 

『あ〜...』

 

いったいどうしたのだろう?するとラバが教えてくれた。どうやら帝具にも相性があるらしく、大抵は第一印象から決まるらしい。

 

「じゃあさ!タツミに使わしてみようぜ!!」

 

「は?」

 

「な、ラバックあんた馬鹿なの!?ただでさえ帝具を同時使用できるのに、これ以上なんて無理に決まってるでしょうが!!」

 

「そうだな。いくらなんでも危険すぎる。やめておくことにしよう」

 

ラバックは、ちぇ...とかいいながら地面を軽く蹴る。タツミとしても実験してどうにかなったらかなり最悪に等しいからお断りだ。

こうして、タツミの帝具お披露目会は閉館したのだった。

 

そして、その夜。タツミは一人自分の幼馴染の墓の前にいた。

 

「サヨ、イエヤス。そっちはどうだ?元気にやれてるか?」

 

俺はあの後、帝具についての資料を全て漁った。ある帝具があることを望んで。

しかし、思っていた通りその望む効果を持ってた帝具は見つからなかった。

 

(まぁ、死者を蘇らせる帝具なんてあったら始皇帝は今も生きてるよな)

 

命は一度きり。わかってはいたが、やはり心が痛くなるのを感じるタツミだった。サヨにもイエヤスにももう会えない。

それがどれだけ辛いことか、わかるのはタツミだけだろう。

 

「タツミ、まだ起きてたんですか?」

 

「...シェーレ...か」

 

紫色の髪を風で揺らしながら、シェーレは俺のそばに近寄ってくる。

 

「...いや、わかってたけど辛いな。ほんの少しだったけどこいつらを蘇らせれるとか思ったけど、そんなに甘いわけもなかったよ」

 

「タツミ...」

 

「悪いシェーレ。少しでいいから...一人にーーー」

 

と、その時、自分の体が後ろから暖かいものに包まれた。それをしたのがシェーレだとわかるのはそれほど時間がかからなかった。

 

「みんなには内緒にしておいてあげますから、今は好きなだけ泣いていいですよ」

 

「...上司がそんなに優しくていいのかよ」

 

「さぁ?いいんじゃないですか?」

 

「シェーレ....ありがとう」

 

もっとタツミは大人みたいな子だとシェーレは思っていたのだ。しかし、今自分の腕の中で涙を流すこの少年を見て少し安心した。

 

(やっぱり、タツミはまだ子供なんですね。それにお礼を言うのは私の方です。おかげで私にできることがまた一つ見つけれました)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪が降り注ぐ銀世界。しかし、そこにあったのは赤く染まった地獄だった。

あたりに見えるのは死体の山ばかり。中には氷漬けにされているものまである。

 

「北の異民族を瞬く間に殲滅。さすがです将軍!」

 

そういった兵の前には、椅子に座る綺麗な女性が一人いた。彼女の足元には彼女の靴を舐める男の姿。

北の勇者ヌマ・セイカ。ここにあった国の王子であり、この女に全てを奪われた者だ。

 

「兵も民も誇りも壊され、自身も壊れたか。まったく、これが北の勇者とは笑わせる。....死ね、犬」

 

瞬間、およそ人の首でなってはいけない音が響きわたった。この女性が男の首を蹴りつけて折ったのだ。それは女性が出せる威力を超えていた。

 

「どこかに...私を満足させてくれる敵はいないのかーーー」

 

この水色の髪の女性はエスデス。

 

性格、ドS

 

強さーーーーー帝国最強



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本当の正義とは

タツミがお披露目会をした次の日。タツミとレオーネは、共にスラムに来ていた。

まず、来て驚いたのはレオーネの人気だ。いつもは酒ばっか飲んでいるイメージしかないのに凄く慕われていた。

 

「ねぇ、タツミ?何か失礼なこと考えてない?」

 

「気のせい気のせい...でも、ここにいる人達は元気だな。中心区に住んでる奴よりもいい顔をしてる」

 

「ここにいる人達は元から貧乏だからね。雑草魂ってうやつだよ。って、おっとヤバイな」

 

すると、いきなりレオーネが踵を返し走り出したのだ。タツミは一人ポツンとその場に立ったままだった。なんだか嫌な予感がする。

そしてその嫌な予感は的中した。

 

「レオーネだ!!溜まったツケを払え!!」

 

「博打で負けた金清算しろぉぉぉおおお!!」

 

「兄貴から奪った金返せゴラァァァアア!!?」

 

ヤバイ。そう感じた俺はレオーネが逃げた方向へと一目散に逃げ追いつく。

 

「お、さすが速いな。どうだ?面白いとこだろ?」

 

「俺はあんたが殺しの対象にならないか心配だよ!!」

 

そう叫びながら、レオーネとタツミはスラム街を走り回った。そして、決して舐めてはいけない。

 

「....どこだここ」

 

スラム街はほぼ迷路だということを。

あれから数分後、完全にレオーネとはぐれたタツミは一人スラム街を歩いていた。先ほどの人が通っているところではなく、全くもって人の気配がしない。

 

(二度とレオーネとスラム街にこねぇ...)

 

そう心に決めながらも、内心かなり焦っているタツミ。今日の夜には仕事もあるのだ。

本当にヤバイ。ヤバイったらヤバイ。

 

「ややっ?私の正義センサーに反応あり!そこな貴方、何かお困りですかな?」

 

と、いきなり話しかけてきたのは栗色の長い髪を後ろで止めている、自分と同じくらいの少女だった。そして、彼女が来ている服には見覚えがある。

 

「その服は...」

 

「帝都警備隊セリュー!!正義の味方です!!」

 

警備隊。そう言われ思い出すのはあのオーガだ。そういえばあいつにやってきたこと全部まとめて机に置いてきたが、たいして噂にならなかったな。この帝都じゃ普通ってことか?

 

「あのー?大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。少し考え事をしてて...正義の味方ですか?いい職業ですね」

 

「はい!私の使命は悪を全てを根絶やしにすること。そのためには手段を選びませんから!」

 

「キュン!」

 

そこで気がついた。目の前の少女、セリューの横には小さい生き物がセリューと同じように胸を張っていたのだ。うん、超かわいい。

しかし、それはどこかで見たことがあるものだった。

 

「えっと...それは?」

 

「あ、この子ですか?この子は帝具【ヘカトンケイル】ご安心ください。悪以外には無害ですから!」

 

帝具!!どうりで見たことがあると思ったら、アジトにあった文献にあった絵と同じだ。生物型の帝具で、体のどこかにある核を破壊されない限り永遠に動き続ける。

 

「この子は私の正義の心に反応してくれた相棒なんです!!」

 

「へぇ〜、可愛いな?名前とかあるんですか?」

 

「はい!コロって呼んでます!!悪人をいっぱい殺してくれるように名付けました!!」

 

「そ、そうですか...」

 

さっきから殺す殺すって言ってるが、大丈夫かこの子...。タツミはコロの頭を撫でながら自然に笑顔になる。程よい毛と弾力があって最高だ。

 

「しかしコロがこんなに懐くなんて...貴方きっと凄く正義なんですね!!」

 

「正義...か...。さぁ?どうかーーー」

 

と、その時だった。

 

ーーーーー!!

 

「「!!」」

 

かすかに悲鳴のようなものが聞こえ、俺はその悲鳴が聞こえた方向へと走り出した。

 

「あ、ちょっと!!待ってくださーい!!」

 

セリューも腰にコロをつなぐ手綱を括り付けて追いかけてくる。それにかなりのスピードだ。そこいらの兵よりよっぽど強い。しかしコロが速さで宙に浮いてるからやめてあげて!?

 

そして、走って数分くらいだろうか。俺たちは悲鳴が聞こえた場所に着いた。そこはどうやら博打場のようだ。

タツミとセリューは急いでその中に入っていく。

 

「ッ!!これは....」

 

「クソッ!!遅かったか」

 

中にあったのは一人の男の死体だ。そして側には血に濡れた刃物を持った男が力が抜けたように座っていた。

俺は急いでその周りにいた男に話を聞く。

 

「おい!何があった!!」

 

「い、いや...いきなり部屋が暗くなったと思ったら、あいつがあんな状態になっててな」

 

「ち、違う!!俺はやってな...」

 

俺たちの話を聞いてか、刃物を持った男が叫ぶ。しかし、情緒不安定なのか刃物を離そうとしない。タツミは落ち着けと言いながら男に近ずいたその時だった。

 

「コロ!!悪を捕食!!」

 

「!!?」

 

いきなりセリューの声が聞こえたと思ったら、あの小さかったコロが巨大な化物に変貌し鋭い牙を男に向けていた。タツミは急いで腰に付けてあった剣でコロの行く手を阻む。それにはセリューも驚いた顔をした。

 

「少年、何をやっているのですか!!その悪は早く殺さないと!!」

 

「あんたこそいきなり何やってんだよ!!さっさとコロを元に戻せ!!」

 

先ほどからおかしいとは思っていた。簡単に殺すや悪などの言葉を使っていたが、どうせ比喩だと思っていた。だけどーーー

 

(この女、今本気でこの人を殺すつもりだった!!)

 

「ッチ、落ち着け!!まだこの人がやったと決まってねぇだろうが!」

 

「何を甘い事を言っているんですか?コロ、早くその男を殺して!!」

 

「コロ!今はまだダメだ!!」

 

「キュ、キュウゥゥゥウウウウ?」

 

コロは俺とセリューの言葉をどちらを実行すればいいかわからないようにキョロキョロと周りを見る。

 

「コロ、私の言うことが聞けないの!?」

 

「セリュー...だったか?とりあえずコロを引け!!第一この男が本当に犯人ならいつまでもこんなに長くここにいたりしないだろ!!」

 

俺たちが悲鳴を聞いてここに来るまで数分。それまでこの男はずっとここにいたことになる。普通自分が殺せばすぐに逃げるはずだ。

セリューも少しそれに納得したのか、コロを元に戻した。

 

「はぁ、いきなり何すんだよ」

 

「私は悪を倒そうとしただけです」

 

「悪を倒す?あんたは人権って言葉を知らないのか?いきなり問答無用で殺しにかかるとか警備隊のやることじゃないぞ」

 

「お、おいあんた...俺はやってねぇよ!!ただ暗闇の中で何かに触ったらそれがコレだっただけだ!!」

 

タツミとセリューが言い争っていると、背後にいた男が涙を流しながらタツミの足にしがみついて手に持ったナイフを俺に見せてくる。刃は15センチくらい。血に染まっているのはその半分くらいだな。

 

「はぁ、どうしてこんな事になったのか...」

 

「時間はあげます。その代わりその間に悪を見つけますよ。でなければやはりその男が悪ですから」

 

セリューはそう言って男を睨む。

何がこの子をここまでさせるのかはわからないが、とりあえずはここにいた奴らに話を聞こう。

そして、話を聞いたところこの場にいたのは5人。

 

一人は筋肉質な大男。先ほどタツミに状況を教えてくれた人物だ。話によると、自分たちが博打をしていると急に光を通していたロウソクが一斉に消えて真っ暗になったという。男は入り口の真ん前に座っていたため、すぐにそこから出てこれたらしい。

「いきなり女の声が聞こえてびっくりしてよ。俺が壁をつたってロウソクを改めてつけたと思ったら、そいつががナイフ持ってその男を殺してたんだよ」

 

二人目は、女性。この女性は死んだ男の隣にいた人物らしい。ロウソクが消えた時には動かずにジッとしていたらしい。

「いきなり光がなくなって、自分のお金を取られないように守っていたわ。私は関係ないわよ」

 

三人目も女性。この女性は殺された男のほぼ真ん前にに座っていたらしい。叫び声を上げたのもこの女性だった。

「わ、私は、いきなりロウソクが消えて驚いていると、自分の横に座っていたその男がその刺された男にナイフを刺しているのを見て叫び声を上げたんです....」

 

そして四人目はナイフを持っていた男だ。殺された男の隣に座っていたのもこいつらしい。

「お、俺はやってねぇよ!俺は暗闇が苦手だからあんなとこで目が見えるはずがねぇ!!ただ手を置いた場所がナイフだったから、ロウソクがついた時に俺が犯人みたいになっただけなんだ!!」

 

まぁ、最後はこの五人目の殺された男だが...うん。何も聞けないな。

 

「これで一応全員聞いたけど、何か思いつきましたか?」

 

「....ん〜」

 

「そうですか。それではあの男を殺してきます」

 

「ちょぉっと待てぇ!?どうしてあんたさっきからそんなに判断が早いんだよ!!」

 

いい加減、少しこの少女にもイライラし始めるタツミ。コロは二人が睨み合っているのをオロオロした様子で見ていた。

すると、セリューが話し出す。

 

「私のパパは優秀な警備隊だった。だが!ある日凶賊によって殺された!!私は絶対に悪を許さない!!全ての悪を殺し尽くすまで絶対に私はーーー」

 

「だから自分が悪を決め裁くってか?そんなものは正義とは呼ばない」

 

「...なんだと?」

 

セリューは殺気を放ちながらタツミを睨みつける。しかし、それくらいで怯むタツミではない。

 

「さっき見たく話も聞かずに状況証拠だけで自分の判断で人を殺す。それのどこが正義だよ。そんなものはお前の父親を殺した凶賊と一緒だろうが」

 

「なっ!!?ッ、貴様!今の言葉を取り消せ!!」

 

「断る。何もかも自分で決めてそんなやり方をしてきたならセリューさん。あんたこそよっぽど悪だ」

 

「貴様ァァァアアアアアア!!」

 

セリューは俺に殴りかかろうと拳を上げた。だがーーー

 

「キュウ!」

 

「コロ?」

 

「キュウ、キュキュキュウ!」

 

コロがセリューの足を掴み何かを訴えかけるようにそれを止めた。どうやら主人がこうだからか、かなりお利口らしいな。

 

「セリューさん。あんたが本当の意味で悪を討ち滅ぼしたいのなら...それをちゃんと見極め、それにふさわしい罰を与えるべきだ」

 

「ふさわしい...罰?」

 

「ああ。その罪人にあったふさわしい罰をだ。...みんなを集めよう。犯人がわかった」

 

セリューはその言葉に目を見開いて驚いた。

しかし、これはそこまで難しいことじゃない。こんなもの、わざと気づいてほしいみたいな死に方なのだから。

俺たちは博打場に先ほどの4人を集めて話をし始めた。

 

「まず、最初から言うと...これについて犯人はいません」

 

『....は?』

 

セリュー含め、全員が一斉に声を上げた。

 

「あんたら4人は犯人じゃないってことだよ」

 

「どういうことですか?だったら誰が...」

 

「キュウ?」

 

セリューとコロが同時に首を傾げた。さすが使用者とその帝具。息がピッタリだ。

 

「まず、この男性のナイフだが...見ろ刃が半分しか刺さってないだろ?普通この人みたいな男性がさしたらもう少し刺さるはずなんだよ」

 

「た、確かに...」

 

「そして次にみんなの話を聞いてだけど...一人だけおかしい人がいた。死んだ男性の前に座っていた貴女ですよ」

 

「!!」

 

「みんなの話を聞く限り、ロウソクがつくまでかなりの暗闇だったらしいな。なのになんであんたは暗闇の中で叫び声を上げたんだ?」

 

セリューはそこで気づいた。確かに皆はかなりの暗闇と答えていた。しかも明るい場所からの暗闇だ。訓練された兵でもない限り目には何も見えないはずだった。

女性は焦ったように身をソワソワさせるが、やがて諦めたように息を吐いた。

 

「ええ。確かに何も見えてなかったわ。でも、私は殺してなんかない!」

 

「何をそんな!!少年、こいつが悪です!!」

 

「落ち着けって...さっき言っただろうが。この4人の中にナイフを刺した人はいないって」

 

そう、この四人の中に犯人はいない。なぜならーーー

 

「この死んだ男が自分で刺したんだから」

 

『な!?』

 

「.....」

 

「あんたなら知ってるよな?どうしてこの男が自殺したか...」

 

しかし、女は黙ったまま何も言わない。タツミはため息を吐くと説明を続けた。

 

「まず、消されたロウソクは死んだ男の後ろに何本もあったんだ。つまりロウソクを消せるのはこの男一人だけ。次にこのナイフ...さっき言ったように男ではこんな浅くない。つまり女、もしくは...死を恐れた自殺した男本人しかありえない」

 

誰もが死を恐怖する。確かに死も恐れない奴もいるが、そんなものはそうそういない。それにそんな奴は自殺などしない。

 

「しかし、暗闇のなか男を刺して再び自分の席に戻るなど、いくらなんでも無理だ。それに...てか、これが一番の証拠なんだが...あんたら、この人の悲鳴、もしくは声を聞いたか?」

 

『!!』

 

「普通ならグワァなり吠えるが、それを聞いたものは誰もいなかったな。そんなことはありえない。人間は急にくる痛みに敏感だ。素人であるあんたらが痛みに慣れてるはずがない。つまりは簡単。この男自身が自分の身を刺したから声を我慢することができたってわけだ。そうだなぁ、理由は....金か。なぁ、そうだろ?」

 

タツミは叫び声を上げたという女性に向かってそういった。

おそらく、皆が混乱に乗じている間にこの人たちの金でも盗もうとしていたのだろう。しかし、それに俺とセリューが来てしまい逃げれなくなったってとこだ。

 

「....はぁ、あともうちょっとだったのに。まさか警備隊が来るなんて思ってなかったわ」

 

「あんた、この死んだ男の妻か何かか?同じネックレスをつけてるからわかったが...」

 

「ええ、この人は私の夫。二人で話し合って決めたことよ。私たちには子供がいるの。そのためにお金が必要だったのよ!」

 

女は涙を流しながらそう叫んだ。皆、元気な顔をしているが、それでもこのような人はいる。それがこのスラムの現状だった。

 

「あんた、その自分の子になんて説明する気なんだ?貴女のお父さんは貴女を育てるために死んだのよってか?...ふざけんなよ!」

 

「ッ!!貴女に何がわかるのよ!!私がやりたくてこんなことやったと思ってるの!!?」

 

「それでもあんたらはそれを実行したんだろうが!!たとえどんな理由があったてな、家族が...親が死んで悲しまない子供なんていないんだぞ!!」

 

「ーーー!!」

 

「今回、この場にいる人間は誰も悪くない。だけどな、それでも...命がなくなったらおしまいだろうが!」

 

そう言うと、女は泣き崩れた。他の3人も特に言うことはないらしく、そのままその場を離れていった。

俺とセリューも、その女性を残してその場を去ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....」

 

「わかったか?お前は罪もない人間をあの時殺そうとしたんだ」

 

「ッ!!」

 

俺たちは一つベンチを見つけると、そこに座って話していた。先ほどからセリューは元気が無く、コロはそれを必死に慰めていた。

自分が無実の人を殺そうとした。正義という大義名分を掲げて行動していた彼女にとってそれは凄く辛いことだろう。

すると、セリューの方からタツミに話しかけてきた。

 

「知ってるかもしれませんが、最近オーガという警備隊長が何者かに殺されたんです」

 

「....ああ、知ってるよ。確かその人ってかなり悪いことをしてたんだろう?噂でちょっと聞いたよ」

 

嘘だ。殺したのは俺で、流したのも俺なのだから。聞くと、なんと彼女はオーガ直属の部隊だったようだ。オーガは師匠であり、自分に武術を教えてくれた恩人。そんな彼が悪に手を染めていたことに気づけなかったのが悔しいらしい。

 

「あなた...そういえば名前を聞いてませんでしたね」

 

「タツミ。ただの村人だ」

 

「ふふっ、タツミ...ですか。なら、タツミは私をどう思いますか?」

 

どう思ってるか...他人が聞いたら勘違いしそうな言葉だと一瞬考えるが、それは置いておこう。

セリューをどう思っているーーー

 

「悪く言えば偽善者だ」

 

「ッ!!はっきり言いますね....」

 

「聞かれたからな。さっきも言ったように自分の考えだけで悪と決めつけ即殺す。そんなものは正義とは呼ばない。人の話を聞かずに殺す凶賊と一緒だ」

 

その言葉に反論できないセリュー。コロは俺がセリューを虐めていると思ったのか、俺の手を叩いてくる。地味に痛い。

 

「私が...私が今までしてきたことは無駄だったんでしょうか?私は...私の正義は間違っているでしょうか?」

 

「....全てが無駄とは言わないが、コロという巨大な力を持ちながら罪状を問わずに私刑。今のままだったら完璧にセリューさんの方が悪だ」

 

その言葉にさらに落ち込むセリュー。コロの叩く威力が同時に上がっていく。と、それをセリューが止めてくれた。しかし、目からはポロポロと涙が出ていた。

 

「タツミ、私は...私はどうしたらいいですか!?私はこれから何を信じて戦えばいいんですか!?」

 

セリューはタツミの服を掴んで必死に聞いてくる。まるで親に泣きつく子供だ。それを見たタツミはセリューの頭に手を乗せて優しく撫でる。

 

「え?」

 

「今まで通り、セリューさんが信じた正義を貫けばいい。でも、これまでの正義じゃなくて今度は本物の...全てを見定めた上での正義を貫け。俺に言えるにはこれくらいで、後はセリューさん次第ですよ」

 

タツミはそう言うとスッとベンチから立ち上がる。セリューはコロを抱きしめたままタツミを見上げた。

あたりが暗闇に包まれそうな風景にタツミのその顔が、セリューは生きていた頃の父親のような姿に見えたのだった。

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くけど...」

 

「私は大丈夫です。次からはセリューでいいですよタツミ」

 

「お、そうか。ならじゃあなセリュー。今度会ったらまた話くらい聞くぜ。コロもまたな」

 

「キュウ!」

 

タツミはそう言うと、走ってそのまま人混みの中に消えていった。

一人と一匹。ベンチに残されたセリューは先ほどのタツミの掌の感触を思い出していたのだった。

 

(タツミーーーありがとうございます)

 

 

このあと、任務ギリギリに帰ってきたタツミはもちろん怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 




やっべ、めっちゃ長くなった。
どこで切ろうかすごく迷ったんだけどな〜...というかセリューも自分好きです(真顔)

長いので誤字などありましたらご報告いただければ嬉しゅうございます!!
では、また!


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貫きたい正義

ボスに怒られた後、タツミはすぐにレオーネとともに任務へと出かけた。

 

「うわ...ここが色町か。なんか落ち着かないな」

 

「あれ?以外にもテンション低いね。ラバはいつもここに来るとテンション高いのに」

 

俺とあんな性欲の塊を一緒にするな。

今回の任務はスラムの女性を騙し、薬漬けにして体を売らせる男の暗殺だ。シェーレの話を聞いてから、薬関係のことについて苛立っていたからちょうどいい。

 

「んじゃ、変身!ライオネル!!」

 

レオーネは、自らの帝具ライオネルを発動する。能力は身体能力と回復力を全向上化するだったけか?

レオーネの短い金色の髪は、動物のように長くボサボサの髪となり、手は猛獣のように鋭く尖った爪が生える。

 

「おぉ、やっぱりレオーネは似合うな。同じ肉食獣的なアレで...」

 

「あははは、おねえさん怒っちゃうぞ?」

 

レオーネさん、目が笑ってないです。

 

「と、とにかく行こうぜ!...って、ちょっと待ってくれ」

 

「どうした?」

 

タツミはレオーネを止めて少しあることを考えた。そして、何か思いついたようにニヤリと笑う。

すると腰にかけてあった剣を刀にし、タツミはそれを立っている屋根の上に突き刺した。

 

「纏え【黒鬼】【赤鬼】」

 

そう唱えると、毎度の如く刀は黒と赤の渦に変わっていく。しかし、今回はいつもと違った。渦はタツミの腕ではなく、両足を包んでいったのだ。

そして、出来上がったのは腕と同じく異形の赤と黒の義足のようなものだった。

 

「な、なんだそりゃ?」

 

「おぉ、本当にできた。レオーネのそれ見て思いついたんだが...そうだな名前は...手はそのまま鬼ノ手だったしな...。うーん...よし!【鬼閃脚】って名付けよう!!」

 

今思ったらこれから先もいろいろできるかもしれないし、一つ一つに名前つけていこうかな?それの方がカッコいいし!!

一人テンションが急に上がったタツミを見て、レオーネは面白そうに笑っていた。

 

「やっぱり面白いねタツミは。んじゃ、行くか!」

 

「おう!」

 

と、両脚に力を入れてみた。と、その瞬間ーーー

 

「...え?」

 

「は?」

 

タツミの体が前に吹き飛んだ。吹き飛んだ...もったくもって比喩ではない。言葉通り吹き飛んだのだ。凄まじい速さで飛んだタツミは、そのまま運良く目標のいる建物まで飛んでいき中に入る。それをポツンと一人見ていたレオーネは、ハッとしてすぐに後を追いかけて中に入っていった。

そこには体制が逆になって倒れているタツミの姿があった。

 

「レオーネ。俺、これ使えるようになるまでは絶対に実戦では使いたくない」

 

「あ、ああ。そうだな。でも、スピードは馬鹿げてるし直線なら今みたいに使えるだろ?」

 

ああ。ブレーキはまったく効かないがなコレ。

と、ふざけるのも終わりにしよう。タツミとレオーネはすぐさま屋根裏に潜り込み、ターゲットの部屋を探していく。

途中、凄まじい匂いがする部屋に行きあった。そこには何十人もの女性が薬によっておかしくなっていた。

 

「うっ...」

 

「凄い匂いだ...って、アレは」

 

屋根裏からその部屋を覗いていた時、覗いていた部屋の襖が開いた。入ったきたのはスーツをきた男二人だ。

 

「お前達、もっと稼げば薬回してやるからな」

 

『ハァーイ』

 

もはや思考回路すら薬に侵されているのか、女性達の舌がほとんど回っていなかった。すると、男の一人が、倒れている女性に近づく。

 

「うわっ、こいつ見てくださいよ。魚くさいしもう壊れてませんか?」

 

「ああ、そうだな。廃棄処分。すぐに新しいのと取り替えろ」

 

もう一人の男がそう言うと、男は女性の顔面を容赦なく殴りつけた。まだ死んではいないが、かなりの重症だろう。

そこで、もうレオーネとタツミの限界は超えていた。

 

「今の...スラムの顔なじみだ」

 

「ほっんと...ここまでクズだと逆に清々するな」

 

どうやらここのゴミは、怒らせてはいけない獅子と鬼を怒らせたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広い居間。男が数人の女をはびらせながら酒を飲んでいた。話をしているのは、先ほど処分しろと言った男だ。

 

「親分、そろそろ販売ルートを拡大させましょうよ!」

 

「それも、そうだな...チブル様のところへ相談に行ってみるか」

 

親分と呼ばれた眼帯の男は、そう言って一口酒を飲む。そして次の瞬間、男の目の前が爆散し、そこにはタツミとレオーネが立っていた。

 

「お前らが行く所はーーー」

 

「「地獄だろ!」」

 

男達は一瞬驚くが、すぐに状況を理解し手下に命令する。

 

「し、侵入者だ!!始末しろ!!」

 

下っ端の男が、覆面をかぶった手下に命令する。数はおよそ20。

 

「レオーネ、こっちの15は俺がやる。レオーネはそっちの残りと相手のボスを頼む」

 

「あいよ。任せろ....。標的は密売組織、お前達も標的だ。ーーー全員まとめて逝かせてやるよ!!」

 

タツミとレオーネは、それぞれの敵に向かって走っていく。

 

「黒鬼!!」

 

タツミは刀になった黒鬼を取り出して向かってきた兵を数人斬り刻む。縦に横に裂かれた兵はそのまま地面に倒れていく。そして、そのまま近くにいた敵の首を蹴りでへし折った。

 

「おい、この程度か?もっとあがけよクズが」

 

「貴様!ナメーーー」

 

「おせぇよ」

 

タツミは一気に喋る男の元に近づき、刀を持っていない手で頭を持ち地面に叩きつける。ドガンッと頭蓋が破れる音が部屋に鳴り響いた。

そしてレオーネの方は、もはや細かいことはしていない。ただ、殴り殺し蹴り殺す。本当にただそれだけだ。

 

「「さぁ、この程度か」」

 

全員を殺し頬を血に濡らしたタツミと、拳を血で濡らしたレオーネがボスとその一人残った下っ端に睨みを効かす。

男達はそれに肩を震わせた。

 

「ざ、ざけんなぁ!俺は死なーーー」

 

だが、下っ端の男が銃を取り出すよりも早くタツミは黒鬼を右足に憑依させた。

 

「裂け鬼閃脚」

 

すると、異形の形になった脚から放たれた刃のような風は男の半身を斬り裂いた。真っ二つになった男はそのまま息をひきとる。即死だ。

レオーネはその隙に相手のボスに近づき首を片手で締め上げた。

 

「ッグ、何が目的だ!金か?それとも薬か!?」

 

「そんなものはいらない。欲しいのはお前の命だけだ」

 

「な、何もんだテメェら...」

 

レオーネはニヤリと笑い、男の腹に向けて振りかぶった。

 

「ろくでなしだよ」

 

レオーネはそう言うと、そのまま拳を男の腹に炸裂させる。ドゴォンと音を立てて、男の体はそのまま吹き飛ばされた。腹には大きな穴が開き、どう見ても死んでいた。

 

「だからこそ....世の中のドブさらいに適してるのさ」

 

麻薬組織壊滅。任務完了、こうしてタツミとレオーネの仕事は終わったのだった。

 

仕事が終わり、アジトへの帰り道。

 

「なぁ、あの壊れた女の子達はどうすんだ?」

 

ふと気になったことをタツミはレオーネに聞いた。

 

「そこは私達の領分じゃないだろ?」

 

「でも...」

 

「....はぁ、大丈夫。スラムに元医者の爺さんがいるから話を通してどうにかするさ。腕は確かだしな」

 

レオーネは少し照れたようにそういった。きっと、もともとそのつもりだったのだろう。それがわかったタツミはレオーネに飛びつく。

 

「さっすが!姐さん(・・・)

 

「んな!?ちょ、タツミ!!今のもう一回!!もう一回言ってくれ!!」

 

「残念、アレは一回だけだよレオーネ。やっぱ優しいんだな」

 

レオーネから離れ、タツミがからかうようにそう言うと、柄にもなく顔を赤く染めそっぽを向いた。自分でも慣れないことでもしているのだろう。

 

「別にそんなんじゃ...」

 

「俺はレオーネのそう言うところ好きだぞ!」

 

「すっ!?お、大人をからかうなぁー!」

 

レオーネは真っ赤になりながら、逃げるタツミを追いかけ始めた。だがその時、タツミは何かを感じたように立ち止まる。

 

「どうした?」

 

「いや...別働隊が気になって」

 

別働隊。マインとシェーレの事だ。二人は俺たちが殺したあの男のさらに上、チブルを暗殺しに行っていた。その別働隊が急に気になったのだ。

 

(何か...嫌な予感がするな)

 

夜。生暖かい風が吹き、タツミは嫌な予感にかられるのだった。そして、その予感は的中することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、林の中。マインとシェーレは標的を暗殺し、アジトに向かって走っていた。

 

「あのチブルって奴、用心深いのにも程があるわよ」

 

「でも無事にかたずいてよかったです」

 

互いの背には自らの宝具である大鋏と銃がかけてあった。一応まだここは標的の敷地内。なるべく早く退散しなければならなかった。

だがーーー

 

「「!?」」

 

その時、二人は上からの気配に気がつき後ろに飛んだ。やはり、その気配通り二人の上からいきなり人が蹴りを放ってきていたのだ。先ほどまでいた自分たちの場所は陥没している。

警備服を着て、髪は後ろにまとめている少女。しかし、明らかに普通の警備隊とはレベルが違った。

 

(なにこいつ、ギリギリまで気配がなかった!)

 

(普通の警備隊とは違う。...でも何故でしょう。殺気が感じられない?)

 

シェーレはその場に立つ少女から殺気が感じ取れないのが不思議でならなかった。思えば今の蹴りも殺気は含まれておらず、避けようと思えば避けれるものだった。

 

「手配書通りナイトレイドのシェーレと断定。そちらの女も帝具を所持している為にナイトレイドと...いや、駄目。こんなことで決めつけない」

 

なにやらぶつぶつと言っているソイツを見て、マインは首を傾げる。殺気もなく攻撃もしてこない。いったいこいつはなんだ?

その目の前の少女は、一つ深呼吸をするとマインたちに向かってーー

 

「私は帝都警備隊セリュー・ユビキタス。自らの正義にのっとて、貴様らを悪かどうかを見極める!!」

 

「「....は?」」

 

私たちを見極める?なにを言っているんだこの女は。

ここ帝都では賊などについては生死を問わない。にも関わらずこの女は見極めるなどと言ったのだ。これには少しマインも笑いをこらえる。

 

「な、なにがおかしい!」

 

「キュウ!」

 

「い、いや...何もおかしくはないけど...ふふっ」

 

セリューは何故か笑われた為に顔を少し赤くする。それを見て余計笑いが堪えられなくなるマイン。

 

「わ、私は正義だ!!だから貴様らがどんな悪かきちんと見定める必要がある!!...と、思うんだが。うぅ...コローやっぱり慣れないよ...」

 

「キュ、キュウ!キュキュキュキュウ!!」

 

犬のようなその生き物。帝具ヘカトンケイルはなんとかセリューを立ち直らせようと必死に慰める。と、その時シェーレは背にかけてあったエクスダスを抜きセリューに切り掛かった。

 

「ッ!!コロ!」

 

セリューはとっさにコロに指示をしてソレを止める。巨大化したコロはシェーレに向かって拳を放ち、距離をとらせた。

 

「不意を狙ってくるなんて...やはりお前らは悪だな?」

 

「はぁ?そんなこと言うならあんた達の方がよっぽど悪だっての。警備隊なんて、罪もない人間を自由に殺したりしてたんだし」

 

セリューはソレを言われ言葉を失う。自分の上司であったオーガがおこなった罪の数々。それは自分が言う悪に他ならない。

 

「...オーガ隊長を殺したのはお前らか?」

 

「ええ、そうよ。あんなクズは殺されて当然だわ」

 

「マイン、このままでは追っ手がきます。早くここを抜け出しましょう!」

 

マインとシェーレは互いにうなづきあい、この目の前の女を始末することに決める。先ほどからの言葉といい、彼女はきっと仲間にはならないだろう。ならば、姿を見られた以上殺すしかないのだ。

そんな中、セリューの頭は意外にもクリアだった。それはあの少年の言葉。

 

『全てを見定めた上での正義を貫け』

 

(私は、今まできっと間違っていた。だったら!私が最後まで悪かどうかを判断してやる!!)

 

そう決意し、セリューとコロは戦闘体型を組んだ。

 

「警備隊も何も関係ない!セリュー・ユビキタス、私個人の意思で決め貴様らを裁く!!」

 

「キュゥゥウウウ!!」

 

そして、帝具同士の戦いが今始まった。

 

 

 

 

 







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戦闘を終え

「はぁぁあああ!!」

 

「コロ!」

 

マインが撃った銃撃がセリューに向かって飛んでいく。それをセリューはコロに指示して防がした。

帝具ヘカトンケイル。生物型帝具といい、体のどこかにある核を破壊せぬ限り、傷が永遠に回復するものだ。ソレを知っていたマインは思わず舌打ちをする。

 

(わかってはいたけど面倒ね。)

 

コロと呼ばれた帝具は、そのままシェーレのいる方向へ突進する。

 

「シェーレ!そっちに行ったわ!」

 

コロは大きな口を開けてシェーレを殺す勢いで鋭い歯を向けた。シェーレはすぐさまエクスタスを構える。万物両断、このハサミに切れないものは存在しない。シェーレは鋏をその向かってくるコロに向けたーーーのだが

 

「ダメェェェエエ!!」

 

「キュウ!!?」

 

なんといきなり、自分に向かってきたソレが横に吹き飛んだのだ。見れば、シェーレの目の前には鉄のトンファーを構えたセリューという少女がいた。

 

「コロ!殺したらダメだって言ってるでしょ!?まずは悪かどうかをきちんと判断しないと!!」

 

「キュ、キュゥゥゥウ....」

 

その帝具はまるで謝るようにしゅんとなる。もう全くもって彼女達が何をしたいのかがわからないマイン達だった。

 

「ですが...やはり強いですね、ナイトレイド。こうなったらーーー」

 

セリューは持っていた笛を取り出し、ソレを口に咥え息を吹き込んだ。木々の揺れる音しか聞こえない夜に、その甲高い音は良く響いた。

あれは援軍の笛だ。

 

「コロ、腕!死なない程度に足止めする!!」

 

「キュウ!」

 

その可愛い声とは裏腹に、その帝具の姿は変わっていく。腕は先ほどよりもより巨大になり禍々しい。

そして、コロはセリューの指示により腕を振り回しながらマイン達に襲いかかった。まるで嵐のようなその攻撃に逃げ場を失う。

 

「ちょ、そんなの反則じゃない!!」

 

「マイン、私の後ろに!」

 

そう言うと、シェーレはエクスタスを盾にようにしてその攻撃をなんとか防ぐ。しかし、帝具と人間の筋力では明らかに力の差があった。

どんどんと押されていくシェーレを見て、マインの頭の中は意外にも冷静だった。

 

(援軍は呼ばれ、嵐のようなこの攻撃。これはピンチ!!)

 

「だからこそいけぇぇぇぇ!!」

 

「な!?」

 

マインは飛び上がり、シェーレを襲っている帝具の顔面に向けてその引き金を引いた。すれば先ほどまでとは全く桁が違う威力の衝撃がコロを包む。

マインの持つ帝具の能力。使用者がピンチになればなるほど、その威力は上がる。マインにとってピンチとはチャンスにも等しかった。

顔を向き飛ばされたコロだが、再び再生が始まる。

 

「帝具の耐久性をなめるな...ッ!!」

 

「ふっ!」

 

マインがコロを相手しているうちにシェーレはセリューの懐へ飛び込み鋏を振るう。なんとかセリューもそれについていき両腕に持ったトンファーで防いだ。

使用者が死ねば帝具は止まる。つまりは最初からセリューが狙われていたのだ。

 

「エクスダス!!」

 

「っな!ック...」

 

瞬間、シェーレの持つ鋏が光り輝く。金属発光。ソレがこの帝具の奥の手だった。セリューはそれに一瞬目をやられるが、なんとか体勢を立て直しシェーレの攻撃を防いだ。

 

(彼女自身も強い...)

 

「ック....私は...私はまだ!コロ!狂化!!」

 

と、セリューが命令したその時だった。コロの姿はなお凶暴に変わり、体つきも大きくなる。そして、月に向かって凄まじい雄叫びをあげた。

 

「ギョアァアアアアアアアアア!!」

 

その轟音に、思わずコロに応戦していたマインは耳を塞いだ。だが、それがいけなかった。狂化したコロは一瞬のうちにマインをその大きな手でつかんだ。ギリギリと音がなり、骨が軋む音が聞こえる。

 

「死なない程度に握り潰せ!!」

 

「アアアァァァアアア!!」

 

あまりの痛さに叫ぶマイン。しかし、その痛みは急に消えた。シェーレが鋏を持ってコロの腕を切ったのだ。

 

「マイン、大丈夫ですか!?」

 

利き手である右が折れてはいるが、それ以外は全く問題はなかった。マインはこのままではまずいとシェーレに撤退しようと言おうとしたその時ーーー

 

「...え?」

 

一つ銃声が聞こえ、シェーレの右肩を貫いた。

 

「コロ!今のうちに確保!!」

 

「ギュアァァアアアアアア!!」

 

普通ならば右肩を撃ち抜かれたくらい造作もない。しかし、その銃弾は普通の銃弾ではなかった。

 

(まさか、麻痺弾!?)

 

危険種を捕獲するための銃弾。それを撃ち込まれたのだ。シェーレは一歩も動くことはできなかった。

そして、後ろからは凶暴化したコロがすぐそこまで迫っていた。

 

「シェーレ!!逃げて!!」

 

マインはそう叫びながら必死に腕を動かそうとするも、折れた腕は簡単には動かない。

もう、間に合わない。そう思ったその時だったーーー

 

「よう、シェーレ。気分はどうだ?」

 

ドガンッと凄まじい音がなり、コロはそのまま数メートル離れた木に飛んで行った。シェーレは何が起きたかわからないように、今自分を抱えているローブ姿の人間を見つめた。

顔は見えない。しかし、その感触を自分は知っていた。

 

「タツ...ミ?」

 

「こら、声出すなよ。ばれたらどうする」

 

タツミだ。この声は、この体の感触は間違いなくタツミだ。だがどうして?彼は自分たちとは違う場所で仕事だったはずだ。それなのになぜここにいるんだ?

 

「聞きたいことはいろいろあると思うが、とにかくは帰った後でだ」

 

タツミはそう言うと、倒れていたマインを腰に抱えた。

 

「ちょ、あんたなんでここにいるのよ!!」

 

「うるさいな。舌噛むから口閉じてろ」

 

右と左にマインとシェーレを抱え、そのまま去ろうとするタツミ。だが、いきなり背後から銃弾が飛んできたためそれを回避する。

撃ったのはセリューだった。

 

「貴様!ナイトレイドの仲間か!!」

 

(セリュー!?って、そりゃコロがいるんだからセリューもいるか)

 

タツミは立ち上がりトンファーに内蔵された銃器を向けているセリューを無言のまま見つめる。声を出さない理由は、最悪バレるからだ。

 

「黙秘は肯定と取る...今ここで貴様らを拘束させてもらう!!コロ!」

 

セリューは倒れていたコロにタツミ達を襲わせるように指示する。コロは凄まじい速さで腕を振りかぶり襲ってきた。

 

しかし、今のタツミにそんな速度は遅すぎた。

 

「え?」

 

声を出したのはセリューだ。それもそのはず。先ほどまで10メートルほど離れていた黒フードを付けた奴が、腰に仲間を抱え自分の目の前に立っていたのだ。セリューは慌てて装着してあったトンファーを振るうが、背後に回り込まれた。

そして、自分の首の後ろに強い衝撃がはしった。その衝撃にセリューは地面に倒れる。

 

(奴は...いったい...)

 

セリューは薄れゆく意識の中、フードの奥の口がニヤリと笑ったような気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マインとシェーレを助け出したタツミ。鬼閃脚を装着したままアジトに向かって一直線に走って帰った。

まだこの鬼化に慣れていないため、途中何度かマインを落としそうになったがとりあえずは置いておこう。

それよりも今、タツミは絶体絶命の状態だった。

 

「で、タツミ。弁明は?」

 

「え、えっとですねボス。とりあえず何故、俺は正座をさせられているのでしょうか?」

 

「....何か言ったか?」

 

「いえ、何も言ってません」

 

超・ボス・怒ってる。やばい、何がやばいって本当とにかくやばい。

ボスことナジェンダは、椅子に腰を下ろして笑顔でタツミに問いただしていた。しかし全く目が笑っていない。

 

「まぁ、ボス。今回はタツミのおかげで二人共無事だったわけだし許してやろうよ」

 

さっすがレオーネ!!これからは姐さんと呼んでやろう!!...極たまにだけど。

 

「それはそうだが、私は勝手に一人で。しかも無策で二人の元に向かった事を怒っているんだ」

 

「い、一応無策ではなかったですよ?」

 

タツミがそう言うと、ナジェンダは興味深そうにその策を聞いてきた。

 

「え、えっと、俺が新しくできた足を鬼化する力は直線だけだったらレオーネの変身後よりも速いので、もしもの時は逃げれると思ってました」

 

「でもタツミよぉ?もし相手がお前より速かったらどうするつもりだったんだ?」

 

「それは兄貴あれですよ。あの場の雰囲気に合わせてみたいな...って、冗談です!冗談ですから、その上にあげた右腕を振り下ろさないギャフン!?」

 

振り下ろされたその硬い拳は、タツミの頭に激突する。タツミは涙目で頭を押さえながらのたうちまわっりだした。

その様子を見てナジェンダは溜息をこぼす。

 

「はぁ、もういい。二度とこんな無茶はするなタツミ」

 

「....あい」

 

タツミは涙目になりながらボスの言葉に頷く。

というかさっきからラバの野郎笑いやがって...後で絶対に仕返してやる。

 

「でも、タツミ大丈夫だったの?怪我とかなかった?」

 

「あぁ、アリア。俺は今お前が天使に見えるよ...」

 

「て、天使!?べ、別に...私は天使なんかじゃ....」

 

あれ?なんで顔が赤いんだろう?

顔が急に赤く染まるアリアを見て、首をかしげるタツミ。アカメはわかっていないが、他の面々は溜息を漏らした。

というかナジェンダさん溜息しすぎだろ。

 

「それで、マインとシェーレの容体はどうなんですか?」

 

「マインは右腕を骨折。他にも打撲痕はあったが特に問題ないだろう。シェーレの方だが...もしかしたら、もう帝具を振るえないかもしれない」

 

!!

 

「シェーレに撃ち込まれたのは危険種用の麻痺弾だった。命に別状はないが、撃たれた右肩が後遺症として残るかもしれん」

 

その言葉を聞いて歯を食い縛るタツミ。もしもう少し早く着いていたら。相変わらずの自分の力不足が嫌になる。

 

「....お前のせいじゃない。タツミのおかげでマインもシェーレも生き帰れたんだ」

 

「アカメ...ありがとう」

 

「別にいいさ。仲間だからな」

 

アカメは微笑むようにタツミに笑いかけた。そして、それを見てかラバックとレオーネがこそこそと何かを話す。

 

(なぁ、アカメちゃん最近機嫌良くないか?)

 

(ああ。最近っていうかタツミとアリアが来てからだな。それにタツミに対して良く笑顔見せるな)

 

(クッソ!あいつアリアちゃんっていう自分のヒロインいるくせにまだモテようとするのか!!)

 

(ラバみたいに自分からモテようとしてないからじゃない?)

 

(そこはほっといて!?)

 

何を話してるんだあいつら?とにかく後で二人のとこに行ってみよう。団子でも持っていけばいいか。

そして、話が終わった後。タツミは数本の団子をもってシェーレの部屋まで来ていた。片手に団子をもったままドアをノックする。

 

「シェーレ〜寝てるか〜?」

 

『タツミですか?どうぞ入ってきてください。鍵はかかってませんから』

 

ドアの向こうからそう声が聞こえ、タツミは部屋に入っていく。中は以外とシンプルで本がたくさんと生活に最低限の物しか置いていなかった。シェーレはベットでメガネをかけたまま本を読んでいた。

 

「寝なくて平気なのか?」

 

「はい。私はマインよりは酷くないですからね」

 

「そうか...あ、これ食べるか?」

 

俺はそう言って団子をシェーレに渡す。するとどうやら大好物だったらしく、シェーレは喜んで団子を受け取った。

 

「ありがとうございます。タツミのすごく美味しいです」

 

「うん、少し言い方を考えようか?俺が持ってきた団子な?」

 

さすが天然娘。普通に俺の不意をついてくるぜ。

しかも何を言っているか理解できていないようで、可愛らしく首をかしげるシェーレ。それもなんだかシェーレらしく、今は逆に和んだ。

しかしーーー

 

「あの、シェーレ...」

 

「謝らないでくださいよ?私はタツミに感謝してるんですから」

 

「え?」

 

「きっと、私はタツミが来なかったら殺されていたか捕まっていました。だからこうして、タツミと一緒にまた話せるのは...タツミのおかげです。本当にありがとうございます」

 

シェーレはそう言ってタツミに頭を下げる。しかし、それが逆に今のタツミには辛かった。もっと罵って、怒って、騒いでくれた方がずっとか楽だった。それなのになんで感謝なんかするんだよ。

 

「タツミ?泣いてるんですか?」

 

「え...あ、ご、ごめん。お、俺もう行くよ。マインの方にも顔出しときたいしな」

 

そう言って立ち上がろうとしたその時だった。後ろから優しく何かに包まれた。それは、あの夜墓場の前で泣いた時と同じ暖かい手だった。

 

「タツミ、本当に...本当にありがとうございました。私はタツミとあえて本当に良かったです」

 

「....どういたしまして、シェーレ。俺もシェーレとあえて良かったよ」

 

まるで姉と弟のように、二人は笑いあった。

 

 

 

 



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帝国最強の女

ぷるぷると震える手でスプーンを口に運ぶマイン。しかし慣れない左手でスプーンからは料理が落ちてしまう。

 

「ほら、口を開けろマイン。シェーレはあんなに食べてるぞ」

 

前に座っていたアカメは食器をとり、マインの口の前に料理を運んだ。

 

「う、うるさいわね!だいたいーーー」

 

「ほら、あーん」

 

「あーん...ん!やっぱりアリアの料理は美味しいですね」

 

「なんでアイツがシェーレに食べさせてんのよ!?レオーネとかアリアがいたでしょ!!」

 

マインが悪戦苦闘する中、その横では仲睦そうに料理を食べさせているタツミの姿があった。シェーレも利き手の肩を撃ち抜かれたために、どうやらちゃんと動かせられないらしい。

それにマイン、俺も別にやりたくてやってるわけじゃないんだぞ?ただな...

 

「タツミ、タツミ、次はあれがいいです!」

 

(なんだろう、この可愛い生物は!!)

 

口を開けながら料理が運ばれるのを待つシェーレが、すごく可愛く見える。

そりゃ最初頼まれたときには断ったぞ?でもあのウルウルとした目からの上目遣いで頼まれたら断れるわけがないだろ。

 

「っと、ほら、口にソースがついてるぞ」

 

「え、ん...あ、ありがとうございますタツミ」

 

ナプキンで口を拭いてやるとなぜか顔を赤くするシェーレ。

アリアもアカメもそうだったが、何か風邪でも流行ってんのか?

 

「....アカメ、料理を食べさせてくれないの?」

 

「!!あ、ああ。すまないマイン」

 

「私も...あーん...」

 

背後から刺さる二つの視線に少し肩を震わせるタツミ。しかし、それとは裏腹にシェーレは笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだあたりが明るい昼間、タツミとレオーネは一つの屋敷の中に潜入していた。

今回は民の依頼からではなく、革命軍からの依頼だそうだ。

 

『標的は文官コボレ兄弟。大臣の手下で、甘い蜜をたっぷり吸ってる悪党だ。...が、仕事は優秀。少しづつ帝国の力を削ぐためにもーーー消せ!』

 

タツミとレオーネは一つの扉の入り口に身を潜めた。その向こうには標的であるコボレ兄弟が、酒を飲みながら楽しそうに話している。

俺はレオーネに合図を確認すると、同時に扉の影から飛び出し背後から息の根を止めた。

静かだった部屋は剣の突き刺さる音と、レオーネが首を折ったことによる鈍い音が響いた。

 

(さて、任務完了だな)

 

だがーーー

 

「お父さん?」

 

「ッ!!」

 

タツミとレオーネはその声を聞くや否や、出口に向かって駆け出した。背後からは子供の泣き叫ぶ声が聞こえていた。

そしてタツミはアジトの近くに戻り、川で剣の血を拭っていた。

 

「クソッ、悪党のくせに子供にはいい父親かよ。どうしてその優しさを他に当てれなかったんだ!!」

 

愚痴をこぼしながら血を必死に拭うタツミ。しかし、血はなかなかに落ちない。

 

「その汚れは一生洗っても落ちないぞ」

 

「!!...レオーネか。わかってる。この汚れは...落ちることは本当にないだろうな」

 

すると、いきなりレオーネはタツミを自分の胸へと抱きしめる。その大きすぎる胸にタツミの頭はすっぽりと埋まった。

 

「ブッ!?な、何すんだよレオーネ!!」

 

「にゃはは!お前は思ったより優しすぎるなぁ。お姉さん心配になってきたぞ」

 

「な、何がお姉さんだよ!!だったらもうちょっと年上らしくしろっての!!」

 

タツミはそう言ってレオーネの体から離れる。顔は真っ赤だ。

 

「はぁ、まったく....。そういえばレオーネはどうしてこの稼業についたんだ?結構メンタル高いけど」

 

「ん?ただ気に入らない奴ボコってたら革命軍にスカウトされた」

 

「ふぅーん...」

 

「......」

 

.....

 

「え、終わり!!?その帝具は!!?」

 

「闇市で売ってたの買った」

 

「なんつう彫り出しもん!?」

 

帝具を闇市で買ったとか本当に言ってんのかこの人!?

しかし、まったく嘘はついていないようで逆に頭が痛くなる。

 

「初めはスラムで馬に乗って子供を踏み殺す貴族を殺した。そのあともそんな奴らを何度も何度も殺していったらーーーやめれなくなってな?」

 

ニタリと笑うレオーネに、タツミは少し顔が引きつる。

 

「いい気になってる悪党を殺すのがやめれなくなって、革命軍にスカウトされたときはすぐに返事をしたよ。しかもあの大臣は最高の獲物だ。必ずーーーー奴の悍ましさの上をいく殺し方をしてやる」

 

(な、なんつうアウトロー。もうここまでくるとかっこいいな!?)

 

「....ありがとう。話したら気が紛れた」

 

「お、そっかそっか!いつでもお姉さんに頼っていいんだぞ〜!」

 

そう言って再びタツミを自分の胸に押しつけるレオーネ。だが、今度はタツミも嫌がらなかった。

本当にーーー俺は仲間に恵まれているな。そう感じるタツミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー地獄

そう呼ぶにはふさわしいほどの光景。人々の悲鳴が絶え間なく聞こえ、その声が一つ消えては二つ鳴る。

男も女も関係なしで鳴り止まぬその絶叫。だが、誰一人としてその手を止めることはなかった。

 

「おらぁ!もっと泣き叫べや!!」

 

「大臣に逆らうからこうなんだよ!!」

 

そんな図太い声を上げながら、男達は次々門から流れてくる人間を痛めつけていく。

しかしそこに、場違いなほど綺麗な美女がいた。

 

「まったく、気分が悪い」

 

「「あぁ〜〜ん?ッヒ!?」」

 

男達はその声がした方一斉に振り返る。そこに立っていたのは水色の髪の綺麗な女性と三人の黒服を着た男。だが、男達の意識は彼女を見るだけで覚醒させられた。

それもそのはずだ。彼女はーーー

 

「「エ、エスデス様!!」」

 

帝国最強。究極のドS。Sが形になった者。様々な呼ばれ方をするが、そこに立っていたのは紛れもないこの帝都最強の将軍だった。

それがわかり、男達は一斉に頭を地に下げる。

 

「はぁ、貴様らの拷問を見ていると気分が悪くなる。なんだこの釜の温度は?すぐに死んでしまうだろ」

 

彼女はそう言うと指を一つ鳴らした。

すると、人を茹でていた釜の頭上からいきなり氷の岩が降ってきのだ。

 

「少し温くしておいた。このくらいがちょうど一番苦しむ」

 

「べ、勉強になりますぅぅぅ!!」

 

エスデスは、それだけ言うと踵を返して帰っていく。その姿に男達は見惚れる。

 

「さ、さすがはエスデス様。Sの魂が形になったお方だ」

 

「ああ。しかもエスデス将軍の後ろにいた三人、三獣士だぜ?あの方々、異民族の生き埋めを嬉々として実行したらしいぜ?」

 

「俺も部隊に入りてぇが、なんでも訓練がドSすぎて何人も死んだらしいしな...」

 

しかし男達のその会話は、他の絶叫によってかき消されていったのだった。

場所は変わって城の中。エスデスはある人間に膝をついていた。

 

「エスデス将軍、北の制圧見事であった!褒美に黄金一万を用意してある」

 

子供だ。子供が王座に座りエスデスにそう言った。この少年こそが、現帝国の王。そして、その横に立っている太っている男こそが、ナイトレイドの目標、オネスト大臣だ。

 

「ありがとうございます。それは北に残した兵達に送るとします。きっと喜ぶでしょう」

 

エスデスは頭を上げてそう言った。

 

「して、戻ってきたところすまないが仕事がある。帝都周辺にナイトレイドを始めとした凶悪な輩がはびこっている。それを将軍の武力で一掃してほしいのだ」

 

これを言ったのは元々はオネスト。それをこの少年が代弁しているにすぎなかった。それをわかっているエスデスであったが、迷うことなく二つ返事で答える。

 

「わかりました。その代わり一つお願いがあります」

 

「む?なんだ、兵士か?」

 

「いえ、間違ってはいませんがそうではありません。相手には帝具を扱う者も多いと聞いております。帝具には帝具が有効。故にーーー六人の帝具使いを集めてください。兵はそれで十分。帝具使いのみの治安維持部隊を作ります」

 

帝具とは四十八しか存在しない。というのにエスデスは六人の帝具使いを用意してくれと言ったのだ。それには皇帝も驚く。

その時、横にいた大臣が口を開く。

 

「陛下。エスデス将軍になら安心して任せられます」

 

「うむ、そうか!お前がそう言うなら安心だな」

 

皇帝は子供。だからこそ大臣はその力を振るうことができるのだ。

大臣としてはエスデスは政治や権力にまったく興味がないことを知っている。ただ戦いたいという闘争心のみだ。

 

(本当に最高の切り札ですねぇ)

 

「それでは、兵の方は私が手配しておきます」

 

「うむ、よろしく頼むぞ大臣!しかしだな...将軍には苦労をかけっぱなしだ。何か別の褒美をやりたいのだがーーー何かないのか?」

 

皇帝はエスデスに向かってそう聞いた。エスデスは少し悩んだように間が空いた後、スッと口を開いた。

 

「そうですね...しいていえばーーー恋を、してみたく思っています」

 

その言葉に、一瞬その場が凍った。

 

「....そ、それもそうだな!将軍も年頃なのに一人身だしな!」

 

「し、しかし将軍には慕っているものがたくさんいるでしょう?」

 

「あれはペットです」

 

なんだそれはと言いたいがとりあえずは流す。結局、エスデスが持ち出した《恋人の条件》と書かれた紙を提出して、その場は終わりを告げた。

そして王宮の廊下にて、エスデスは大臣と共に並んで歩いていた。

 

「相変わらずの好き放題のようだな大臣」

 

「はい。気に食わないから殺す。食いたいから肉をほうばる。己の欲のままに生きることのなんと痛感なことか」

 

「本当に体をこわすなよ。しかし、私が戦闘以外に興味を持つことがあるとは思わなんだ」

 

エスデスは自分のこの感情に自身でも不思議に思っているところがあった。本当に急にこのような事を思い出したため、意味がわからない。

 

「まぁ、将軍も年頃だということでしょうな。....しかしそれはそれとして、帝具使い六人はドSすぎやしませんかねぇ?」

 

「ふっ、ギリギリなんとかできる範囲だろう?」

 

「ふふふ、備える変わり...と、言ってはなんですが...私、いなくなってほしい人がいるんですよねぇ」

 

ニヤリと笑う大臣につられ、エスデスも少し微笑むのだった。

そこで、エスデスは自身の部下。三獣士をすぐに呼びつけ命令を出すすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、なぜか眠れないタツミは水を飲もうと台所まで来ていた。

 

「って、アカメ」

 

「ん?タツミか....どうしたこんな遅くに?」

 

自分と同様に背にはコートをかけたアカメが、三本の団子を持っていた。

 

「....盗み食い?」

 

「な!?ち、ちがう!これはお前の幼馴染にと思って...」

 

「サヨとイエヤスにか?そりゃまたなんで....」

 

シェーレは、何度か供え物をしてくれていたのは知っていたが、アカメが供え物をくれるなんて思ってもみなかった。主に食い意地で。

 

「特に理由はない。これからお前を任せろといった感じか?」

 

「そうか。サンキュウなアカメ。でも外は雪降ってるし今度でいいよ。気を使ってくれるだけでもアイツらは喜ぶ。特にイエヤスは、アカメみたいに美人にもらったら泣いて喜ぶだろうな」

 

「び、美人か....うん。悪い気はしないな」

 

夜でよく見えないがアカメが少し笑っているような気がした。タツミは水を入れたコップを持ちと、それを一気に喉に流し込む。

 

「...タツミ」

 

「ん?なんだよって、ど、どうした!?」

 

いきなりアカメがタツミに向かって頭を下げてきたのだ。これにはさすがに驚くタツミ。しかし、一向に頭を上げようとしないアカメ。

 

「シェーレとマインの件だ。確かにタツミのした事は危ないことだったが、それでも二人のために助けに行ってくれて、ありがとう」

 

「アカメ...あーもう!可愛いなお前は!!」

 

「わっ!タ、タツミ!?いきなり何するんだ!!?」

 

タツミはアカメをギュッと抱き寄せる。それにはアカメも顔を赤くするが、抵抗はしない。

 

「アカメ、俺は仲間だ。だから気にするな。俺は絶対にお前の前からいなくなったりしないから」

 

「!!....そう言った奴は沢山いた。だが、全員死んでいった」

 

「それでも、俺はいなくなったりしないよ。絶対に...お前を一人置いていくことなんかするもんか」

 

優しく頭を撫でながら、アカメの耳元で囁く。

これから帝国との戦闘はもっと激しくなるだろう。それでも、俺は絶対に全員救ってみせる。

 

「わかった。約束だぞ?」

 

「ああ。約束だ」

 

アカメもギュッとタツミを抱きしめる。が、その時ーーー

 

「ふ、二人とも...なにしてんだ?」

 

「「あ...」」

 

まずい。今一番見られてはいけない奴に見られた。

金髪のその女はニヤっと笑うと、

 

「じゃ、続きをどうぞ」

 

そそくさと逃げていった。

 

「アカメ!あの馬鹿獅子を狩るぞ!!」

 

「あ、ああ!」

 

結局、夜遅くはしゃぎまわった俺たちはボスによって怒られたのだった。

 

 

 

 

 



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任務失敗

早朝。アジトに木がぶつかる激しい音が響いていた。

 

「ふっ!」

 

「あっぶね!ッチ、どりゃ!!」

 

両者が持つ木刀は叩かれ合い、甲高い音がなる。

その目にも止まらぬ剣戟の嵐の中、それをおこなっていたのはアカメとタツミだった。

 

「っと....ふっ!」

 

「ック!!はあ!!」

 

左右から上下からとぶつかる木刀。タツミは連続でアカメの攻撃を防ぎ避け、対するアカメも反撃させまいと連撃を止めない。

しかし、アカメが横に木刀を振るった時だった。

 

「ッ!?」

 

「ナイスキャッチ俺!」

 

なんとタツミが木刀の持ち手を掴み、それを阻止したのだ。この防御方法にアカメは驚くが、すぐに離れようとタツミに蹴りを放とうとするがーーー

 

「おせぇ!!」

 

それをされるよりも早く、タツミはアカメの足を引っ掛け地面に投げ飛ばした。もちろん、着地できるくらいに手加減をして。

しかしそれでも体制を崩されたアカメは、タツミに木刀を突きつけられた。

 

「降参だ。やはりタツミの方が強いな」

 

「いや、俺も結構危なかったよ。ほれ、手」

 

タツミはそういいアカメに手を伸ばす。

 

「ん、助かる。しかし、相変わらず独学とは思えないほどの剣技だ」

 

「基本は村にいた元軍人の人に稽古してもらったんだけどな。そこからは片っ端から危険種をぶった斬ってれば強くなった。どちらかというと才能はイエヤスやサヨの方が断然上だったしな」

 

そう話していると、アジトの建物の方から誰かが歩いてい来ているのが見えた。黒いコートにゴツい体。

 

「あ、兄貴!おはよう!」

 

帝具、インクルシオの使い手。元軍人のブラートだった。

ブラートは笑顔で手を振りながらこちらに来る。

 

「おう、やってるなタツミ!アカメにしごいてもらってんのか?」

 

「いや、私が先ほどタツミに負けたとこだ」

 

「!!....ほお、やっぱりお前は強かったか。強い強いとは思ってはいたが、アカメに勝つとはな」

 

ナイトレイドでもトップクラスの強さを誇るアカメにタツミが勝ったと聞かされ驚くブラート。

が、当の本人のタツミはあまりよくわかっていないようだった。

 

「まぁ、普通の人よりは強い自信はあるけど...。そんなことより兄貴はどうしたんだ?」

 

「そんなことって...まぁいい。俺は今から修行に行ってくるがお前も来るか?」

 

「え?修行!!?行く行く!!」

 

「ブラート、私も行っていいだろうか?」

 

「お、おう。そこまで食いつくとは思わなかったが、いい熱さだぜタツミ!アカメも別に断る理由なんてねぇよ。さぁ!行くぜ!!」

 

「「オー」」

 

そのあと、三人によってここらの木や岩に擬態する危険種が狩り尽くされたとかなんとか。

 

で、ところかわって会議室。

 

「タツミ、任務だ」

 

「え?」

 

タツミはいきなりナジェンダに呼び出されたと思いきや、いきなり任務を言い渡された。

 

「昨日の夜の件での罰だ。嫌だとは言わせないぞ」

 

「いや、任務の事に関してはいいんですけど...。あの馬鹿獅子とアカメは?」

 

何故に俺だけ...

 

「知らん。というかお前な...。なぜブラートには兄貴というのに、レオーネは姐さんと呼んでやらんのだ。レオーネの奴、少し落ち込んでたぞ」

 

「だって、あの人を大人して見れないというか....。そりゃ人生の事に関しては見習ってますけど、人間性についてはね...俺、初めて会った時に金全額盗られましたし」

 

そういえばあの金を返してもらっていない。今度問い詰めてでも、返してもらおう。

ナジェンダはため息を吐くと、任務内容を説明した。

 

「任務は隠居中だった、現在帝都近郊を渡っている帝都元大臣であるチョウリの影からの護衛。チョウリは帝国のブドー将軍の庇護下にいるが、帝都には珍しいちゃんとした人間だ。きっとこの先の事で帝都をいい方向に向かわせてくれるだろう」

 

「影からの?そりゃまたなんで?」

 

「お前は私たちが革命軍ということを忘れていないか?とりあえず、任務はチョウリ元大臣を帝都まで見届けることだ。まぁ、チョウリを運ぶ周りには腕利きの兵士が三十名ほどと、皇拳寺にて槍に皆伝を持っている娘がいるそうだから安心だとは思うがな」

 

「了解。危なくなったら手を貸せってことですね」

 

「そういうことだ。外は寒いから暖かい格好をして行けよ」

 

タツミは一つ頭を下げると、自分の部屋に戻って荷物をまとめる。すると、部屋の扉がトントンと叩かれた。

返事をしながら扉を開くと、そこに立っていたのはピンク髪の少女、マインだった。相変わらず腕は包帯で巻かれている。

 

「どうした?お前が俺の部屋に来るなんて珍しいな」

 

「.....」

 

「おい?」

 

マインは俯いたままで何も言葉を発さない。

からかいに来たのか?

 

「マイン、用がないんだったら俺急ぐんだけど。今から任務なんだよ」

 

「え、任務?....そう、だったらちょうどいいわね」

 

マインはそういうと、包帯をしていない反対の手で紙袋を一つタツミに渡した。

 

「これ、この間のお礼よ。...あんたのおかげで助かったわ。ありがとタツミ」

 

「お、おう。....って、お!マフラーか!ちょうど今から出かけるから早速使わせてもらうぜ。ありがとなマイン」

 

「ッ!!え、ええ!私のセンスを持ってすればこんなもんよ!!じゃあ、せいぜい死なないように行ってきなさい!!」

 

マインはそういうと駆け足で自分の部屋の方向に走って行った。

まぁ、あれがあいつなりの礼の仕方なんだろうな。

 

「さて、俺もいっちょ頑張りますか!」

 

そう気合を入れながら、俺は貰った黒色のマフラーを首に巻いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギシギシと音がなりながらその馬車は進んでいた。馬車の周りには何十人もの兵が護衛しており、そして中に乗っているのは元大臣であるチョウリと、その娘であるスピアという金髪の少女だった。

その様子を、タツミは遠くの木の上からジッと身を潜め眺めていた。

 

「まぁ、こんなことだろうと思ったが....寒い。そして暇だ」

 

外は雪が降っており、タツミはその寒さを耐えながら馬車を見守る。

一応何かあってもすぐに駆けつけれるように、足には鬼閃脚をつけている。

にしてもさすが元大臣。周りにいる兵は強いな。しかも、娘は皇拳寺の皆伝者だろ?さすがとしか言いようがない。

そして、馬車は一つの集落を通る。が、その時だった。馬車の周りを囲むように山賊のような男達が数十人現れる。

 

「ッチ!やっぱりか!!」

 

数はおそらく護衛の倍近く。いくらなんでも無茶だと判断したタツミは、すぐさま鬼閃脚をつけた足で木を踏み込んだ。自分の乗っていた木は爆散し、俺は凄まじいスピードで馬車まで飛んだのだった。

 

 

 

 

「へへへ!おい、女まで乗ってやがるぜ!しかもえれぇ別嬪だ!!」

 

「おぉーい!金目の物とその女を置いていきな!」

 

「くっ、どこまでこの国の近郊は壊れてるんじゃ!皆、道を開け!!」

 

チョウリのその指示に、兵達は剣を抜く。馬車の中にいたスピアも、戦おうと馬車を降りたその時だった。

 

「え?」

 

先ほどまでうるさく吠えていた男が横に吹き飛んだのだ。もちろんその男は意識を失う。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「黙れよ」

 

「ぐふぉ...」

 

その後も何人もの男達が、何者かによって吹き飛ばされ意識を奪われる。そして十人ほど狩ったところだろうか。山賊の中に一つの影が見えた。

黒いマフラーに茶色の髪。コートで体を羽織ってはいるが、どう見てもスピアと大して変わらないその姿にチョウリは驚く。

 

「ここは任せろ。あんた達はとりあえず進め!」

 

男の声だった。それも、まだ成人していない少年の。

 

「な!?君一人でこの数は!!」

 

「あんたはこれから帝国を変えんだろうが!こんなとこで死ぬ気か!!」

 

「ごちゃごちゃとうっせ...グファ!?」

 

少年の背後から襲おうとした男が、見向きもされず切り裂かれる。

 

「行け!!」

 

「ック..馬車を出せ!!」

 

しかし、馬車に自分の娘であるスピアが飛び込んできた。

 

「待ってください父上!私も残ります!!父上は兵達と共に先へ!!あの少年だけでは!!」

 

「そうか...わかった。気をつけるのじゃぞスピア」

 

チョウリのみを乗せた馬車は、兵を連れてそのまま道を進んでいった。山賊達は追いかけると思ったが、もはや目的はこの少年のみらしい。

 

「テメェ!!よくも仲間を!!」

 

「ぜってぇ殺してやる!!」

 

男達は武器をそのたった一人の少年に向ける。しかし、その山賊の脇を通るかのように一つの影が少年に近づいた。

 

「あんた....いいのか?」

 

「私も手伝います!」

 

飛び出してきた影。槍を構えたスピアは、その少年の肩を合わすように構える。

 

「はぁ、めんどくさいな。とりあえずはよろしくスピア。俺はタツミだ」

 

「どうして私の名前を...ううん、とりあえず話は後。行くよ!」

 

そして二人は山賊の中に突っ込んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、覚えてやがれぇ!!」

 

ボコボコにされた山賊達は、泣きながらその場を去っていく。タツミとスピアは、やっと終わったと息を吐く。

 

「すごいですね貴方!そんな義足初めて見ました!!」

 

義足というか鬼の足なんだけど。

どうやら彼女にはこれが本物の足だとは思わないようだ。

 

「いやいや、あんたの方も凄かったよ。さすがは皇拳寺皆伝者だ。見事な槍さばきだったよ」

 

とりあえずスピアとタツミは互いに絶賛しあった。

しかしタツミとしてはかなりいけない状況だ。

 

(まずい。任務対象を逃がすためとはいえ見失った)

 

これは間違いなくボスに怒られる

 

「そういえば、なんで私の名前を?それに皇拳寺のことだってーー」

 

「あー!早く追いかけないといけないな!きっと心配してるだろうしなー!!」

 

つい口が滑ったことを反省しながら、タツミは話をそらすようにわざとらしく叫ぶ。

 

「そ、それもそうですね。早く追いかけないと!」

 

通じた!?なんだ?俺の周りは天然娘が多くないか!?

と、馬鹿なことを言っている場合ではなかった。

 

「んじゃ、ちょっと走るから」

 

「へ?ちょ....」

 

タツミはスピアの膝に手をかけて、その背中を持った。タツミの胸板にスピアの顔が当たるこの体制。そう、俗に言うお姫様抱っこというやつだ。

 

「な、ななな」

 

スピアは嫁入り前の娘だ。しかもかなりの美人のくせに男性と付き合ったことなど、一度たりともない。

そんな彼女はもちろん顔が真っ赤になり、恥ずかしさで爆発しそうだった。

 

「ん?どうした?」

 

「ど、どうしたじゃないですよ!!なんで、私貴方にその...か、抱えられてるんですか!?」

 

顔を真っ赤にしながら抗議するスピア。しかし相手が悪い。この男は最強の朴念仁なのだから。

 

「いや、今からあんたの父親追いかけるから。俺の方が速いし」

 

「だ、だとしてもいきなりそんな...」

 

「はぁーい、もう行くぞ。口閉じとかないと舌噛むぞ」

 

「え、ちょっとまーーー」

 

タツミは足に力を溜め、一気に地面を蹴った。先ほどの木の上のような場所ではちゃんと踏み込めないが、地面ならば加減はしなくていい。

かまいたちすら発生しそうなほどのそのスピードの中、腕の中のスピアが何か言っているみたいだったが、タツミはよく聞こえないまま走り続けたのだった。

そして、走ること数分。

 

「ッ!!」

 

タツミは何かに気づいたように足にブレーキをかける。十メートルほど滑った後、やっと止まる。

だが、腕の中のスピアはもはや魂が抜け落ちていた。

 

「お、おい!?大丈夫か!!?」

 

「うぅぅ...怖かったよぉ...あんな速さで走るなんてありえないよぉぉ」

 

やばい、女の子を泣かした。

急いでタツミはスピアを下ろし座らせる。

 

「ご、ごめん!!速くつかないとと思ったから!!」

 

「ううん...いいよ。...貴方は私の為に頑張ってくれたんだよね?だから大丈夫だよ?」

 

いや、本当にごめんなさい!?ちょっと走ってたら楽しくなって貴方の存在を忘れてたんですよ!!お願いだから謝らないで!?

もはや罪悪感しかないため、タツミは座り込んでいるスピアに必死に謝る。

だが、それよりもやばい状況かもしれない。

 

「スピアはここにいて。ちょっと、先を見てくる」

 

「え、私もいーーー」

 

「ダメだ!!」

 

いきなりタツミが叫んだことでスピアが驚く。すぐさまもう一度謝ると、タツミは軽く鬼閃脚で先に飛んだ。

すると案の定だった。

 

「クソッ!!やられた!!」

 

そこには大量の兵士の死体があった。それらは全て上半身と下半身を分けられており、地面には真っ赤な血の池ができていた。

馬車だったであろう木材の近くには、首がなくなった死体が一つ。この服は先ほどチョウリが着ていたものだった。

 

「ッチ...俺のせいで!!」

 

だが、その時だった。

 

「ーーー父上?」

 

背後にスピアが立っていた。

俺が止まったのは血の匂いがしたから。だからこそスピアをおいてきたというのに!!

スピアは父だったその死体に近づく。

 

「悪い。俺がもう少し速かったら...」

 

「そんな...嫌だよ。父上...お父さん、お父さぁぁぁぁああん!!」

 

雪が降る中、スピアの泣き叫ぶ声だけが響き渡る。そんな泣き叫ぶスピアを片目で見ながら、地面にちら奪っているある紙を手に取った。

 

「これは、ナイトレイドのーーーああそうか。そういうことかよ」

 

自分でも分かるくらい、凄まじい殺気が放たれる。それを感じたのか、スピアは涙を流しながらこちらを見つめた。

 

「タツミ...くん?」

 

「....スピア、俺についてきてくれ。安全な場所に連れて行く」

 

俺はスピアにそういうと、帝都の方を眺める。

誰だか知らないが、ナイトレイドを語ってこんな事をしたんだ。

 

「絶対に殺してやるよ」

 

ーーー任務失敗

 

 



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偽のナイトレイド

チョウリ元大臣護衛失敗の後、タツミはスピアを連れナイトレイドのアジトへと戻り、ボスや仲間たちに今回の事を説明していた。

 

「すいませんボス。俺が不甲斐ないばかりに...」

 

「いや、お前はよくやってくれたよ。相手の行動を読めなかった私にも責任はある。よく帰ってきたな」

 

ナジェンダはタツミを慰めるようにそう言うが、やはりタツミは自分の無力さを呪っていた。もう誰も死なせないと決めていてコレだ。

 

(クソッ!!前と全然変わってねぇじゃねぇか!!)

 

血がにじむほど手を握りしめるタツミ。ナジェンダもそれを見て、それ以上は何も言わなかった。

しばらくして落ち着くと、タツミの横にいたスピアがそっと手を上げた。

 

「あ、あの、貴方たちは、あのナイトレイドでいいですか?」

 

「ん?ああ、すまないな。いかにも私達がナイトレイドだ。君はチョウリ元大臣の娘のスピアだったか?」

 

「どうりで....タツミくんが私の名前や皇拳寺の事を知っていたので、誰かに聞いたと思っていたんですが、貴方たちならば情報網も広いでしょうね」

 

「タツミ...」

 

呆れ顔のナジェンダに、心の底から謝るタツミ。

 

「い、いえ、タツミくんは悪くないんです。タツミくんがいなかったら私はあそこで死んでいたでしょうしね。感謝はしても、恨むことなどは全くありません」

 

「わかった。しかしすまないが、このアジトの場所を知ったんだ。タダで返すわけにはいかなくなってな。それに言い方は悪いが、チョウリ元大臣がいない今、安全な場所はここだけだといえる」

 

自分の父親が死に、その娘だけが生き残っている。今回チョウリを殺したヤツらからすれば、面倒なことこのうえないだろう。もしもスピアを元の場所に戻しても、安全という保証はどこにもないのだから。

だが、これでも帝国元大臣の娘。本当に首を縦にふるだろうか?ナジェンダは少し不安だった。

 

「私としたら、君にはナイトレイドーーー革命軍に入ってもらいたいのだが...」

 

「はい、もちろんいいですよ。それにタツミくんも入ってるんでしょ?一緒の職場なんて楽しそうですし」

 

まさかのOKだった。

 

「いや、そんな簡単に決めなくても!!わかってるのか!?殺し屋だぞ!!?」

 

自分の名前が出されたことによって、タツミは必死に考え直すように言う。が、スピアは入ると言って聞かない。

 

「もちろん、いやいやじゃないですよ。それに一緒の職場が楽しそうっていったのは嘘ですから安心してください。ただーーー父上を殺したのは帝国です。その事実は変わりません。さすれば、私が帝国に槍を向けない道理はありません」

 

その放たれた凄まじい怒気に、メンバーが驚く。が、すぐにその怒気は収まり、スピアは話を続けた。

 

「どうか、私をナイトレイドに入れてください。あいにく槍術には覚えがありますから、きっと足手まといにはなりません。お願いします!!」

 

「ボス、俺が言うのは間違ってると思うけど、スピアさんをナイトレイドに入れてやってください。お願いします!」

 

タツミとスピア両者に頭を下げられ、ナジェンダは少し戸惑う。シェーレが現場復帰できないかもしれない今、戦力を強化しておくのは得策だ。

 

「わかった。スピア、君をナイトレイドに歓迎しよう。この道は修羅の道だ。覚悟はあるか?」

 

「!!ーーーはい!」

 

スピアは笑顔でナジェンダの声に応えた。周りのメンバーも反論はないらしく、何も言わないまま拍手をした。

 

「タツミはスピアの面倒を見てやれ。お前が連れてきたんだ、それくらいはしろ」

 

「はい!じゃあ、これからよろしくなスピアさん!」

 

「ふふっ、はい!ですけど、ここではタツミくんの方が上なんですからさんはやめてください」

 

「ああ、よろしくスピア!」

 

だが、スピアを呼び捨てにした瞬間だった。いきなり背後から鋭い視線を幾つか感じて振り返る。が、そこにいるのはアカメ、マイン、アリアの三人だけだった。

気のせいか?

 

「なぁ、姐さん。俺、あいつを殴っても大丈夫な気がしてきた」

 

「やめとけラバ。殴り返されるのがオチだぞ...」

 

なんでラバックは腕を握りしめてプルプルしてるんだろう?何か嫌なことでもあったのか?

すると、ボスが手を鳴らし皆の気を戻させる。が、何故か暗い顔だ。

 

「悪い知らせが三つある。まず一つ、地方との連絡が途絶えた」

 

地方との?

 

「私達が帝都担当の暗殺団というように、他の所でも私達のような隊はいる」

 

「じゃあ、全滅ってことか?」

 

「なくはない...。が、とりあえず用心はしておいてくれ。ラバックは糸の範囲を拡大してくれ」

 

ナジェンダのその言葉に、ラバックは頷く。しかしナジェンダはそのままの調子で話を進めた。

 

「そして二つ目ーーーエスデスが北を制し戻ってきた」

 

その言葉には、タツミとアリア以外のメンバー全員が息を飲んだ。

 

「スピアも知ってるのか?」

 

「あ、は、はい。北の勇者を相手取るということは知っています...けど、いくらなんでも速すぎでは?まだ、そんなに時間は経っていないはずですよね?」

 

「あいつは本当に、いつも悩みの種だよ」

 

ラバックが愚痴をたれながら頭をかく。

北の勇者をこんな短期間で落とした人間。エスデスーーーいったいどんな人物なんだ?

 

「今は日夜、拷問というものを他の執行人に教えているらしいが、いつどう出るかわからん。レオーネ、お前も帝都に潜りエスデスの動向を監視してくれ」

 

「おうよ!話は聞いてたけど、一度会ってみたかったんだよなぁ!」

 

レオーネは自信満々に腕を鳴らすが、ナジェンダは逆に不安そうだった。

 

「殺戮を繰り返す危険人物だ。用心しろ。そして最後だが...どうやら、ナイトレイドを語った文官連続殺人事件が起きてる。チョウリ元大臣で4件目だ」

 

語り。それを聞いてタツミは口を開いた。

 

「ああ。俺が今回いった場所でも、ナイトレイドのマークが描かれた紙がいくつか落ちていた」

 

タツミはそう言って、ポケットから一枚の紙を取り出した。そこにはナイトレイドのマークが大きく書かれた紙が一枚。

そのマークの下には、ナイトレイドによる天誅と書かれてあった。

 

「あきらかに誘いだな」

 

「ああ、だがほっておくわけにもいかない。殺されている文官は皆、大臣の派閥に属さない良識派の人間たちだ。彼らはこの先の国に必要不可欠。してーーーー私はこの偽物を潰しに行くべきだと考えている。お前たちの意見を聞こう!」

 

ナジェンダのその言葉に、一番早くに口を開いたのはタツミだった。

が、それと同時にこの場の人間はタツミの放つ殺意に驚いた。

 

「そんなもの決まっている。賛成だ。ナイトレイドを語ってこんな事をしでかしたんだ....容赦も、雑念も、存在も、すべて殺してやる。これ以上、誰も死なせるわけにはいかねぇ!」

 

「ふっ、よく言ったタツミ!」

 

ブラートに背を叩かれ、少し息がつまるタツミ。その時にはすでに、殺気は放たれてはいなかった。

そして、ナジェンダは立ち上がり言う。

 

「よし、ならば偽物に、名前を語るということはどういうことか、殺し屋の掟を教えてやれ!!」

 

『オウ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー大運河

全長2500kmの超巨大な川。タツミはそれを渡る龍船という船に乗る、一人の文官の護衛だった...が、

 

「いくらなんでもーーーでかすぎんだろぉぉぉおおお!!」

 

デカイ。本当にただただデカイ。感想はそれしか出ない。

と、急に肩を後ろから叩かれる。

 

「ん?...ああ、兄貴か」

 

そこには誰もいないはずだが、タツミはそこにブラートがいるとわかったのだ。というのも、ブラートは絶賛指名手配中。そんな人物がこの船に乗れるはずがない。

と、いうことでーーー

 

『馬鹿、反応すんじゃねぇよ!』

 

絶賛インクルシオの奥の手、透明化中だった。無銭で乗るのはどうかと思うが...まぁ、この際ほっておこう。

任務は、ブラートとタツミ。アカメ、ラバック、スピアの三人がそれぞれの担当の文官の警護。そして、襲ってきた偽物を撃退というものだった。

 

(はぁ、なんというか兄貴とは一緒にいて楽しいんだけど...)

 

ホモ疑惑があるまんまだし。

すると、そうやら乗り込めるようになったらしい。タツミは人ごみに流されるように、船の中に入っていった。

その後ろの、異様な格好をした三人組に気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

中に入ると、さすがは豪華客船というところだろう。貴族や富豪らしき人物がうじゃうじゃといた。

 

「おおうーーすげぇ華やか」

 

自分は現在、地方富豪のお坊ちゃん。帝都の華やかさに少し緊張気味という、訳のわからない設定だった。

これ考えたのボスかな?だとしたら以外と可愛いところがあるのかも。

タツミは船の隅の方へ移動し、近くにいるであろうブラートに話しかけた。

 

「なぁ、兄貴。本当にこっちであってんのかな?こんだけ人多くて、しかも護衛対象は肉の壁の中。本当に暗殺できるとは思わないんだけど」

 

『油断するな。俺のインクルシオみたいに帝具には奥の手がある。敵も何してくんのかわかったもんじゃねぇ』

 

確かにそれもそうだな。

俺の武器は兄貴に持ってもらってるけど、いきなり戦闘ってわけじゃないと思うし、当分は大丈夫か...。

 

『と、そろそろ透明化も限界か。俺は戻って内部を捜索してくるぜ』

 

「あ、うん。じゃあね....。にしてもあの帝具本当に便利だよな。あぁー俺もああいう使い勝手のいい帝具が欲しいな」

 

今、自分が帝具で使えるもの。

顔と声を変えられる【変化】

筋力を向上させる【鬼ノ手】

高速移動。斬撃なども放てる【鬼閃脚】

この三つしかないのだ。もっといろいろ試さなければ...。

そう考えていたその時だった。

 

「これはーーー笛の音?」

 

まずい!そう思った瞬間、身を縮こませて耳を塞ぐ。この音はヤバイ。本能的にそうわかったのだ。

 

(こっちが正解か!)

 

数分後、タツミはその音が止むまでずっと耳を塞いでいたが、頭の中に直接響いてくる笛の音。すでに周りの客は全員倒れている。きっとこれは音を聞いたものの感情を操作する帝具だろう。

 

「クソッ、頭がクラクラする...」

 

「おぉ、まだ立ってる奴がいるじゃねぇか。運のねぇ奴だな。おとなしく気絶しておけばよかったのによぉ」

 

すると、背後から黒いスーツを着た大男が歩いてきた。背には斧のような巨大な何かを背負っている。

普通の兵じゃない。つまりーーー

 

「てめぇが偽のナイトレイドか...」

 

「てことはそっちは本物かよ!!そりゃあいいーーーほらよ!」

 

大男は急に、倒れている兵が持ってあった剣をタツミに投げる。タツミもなんのことかわからず、その剣を受け取った。

 

「なんの真似だ?」

 

「俺はさぁ、経験値が欲しいんだよ。強い奴と戦って、最強になる為にな!!」

 

大男はそう言い、自分の背の斧を構えた。

帝具ベルヴァーク。強靭な膂力を持つものしか扱えない。中心から二丁に分離させることも可能で、投擲すると勢いの続く限り相手を追う。

 

「かかって来いよ。ここならあんまり人もいねぇから大丈夫だろ?」

 

「.....」

 

そう言われるが、タツミは剣を抜こうとせず立ったままだ。それには大男も苛立ちを隠せない。

 

「ッチ、なんだテメェツマらねぇな。ビビって剣も抜けねぇか。もういい....さっさと死ね!!」

 

大男、ダイダラはタツミに向かって斧を投擲したのだった。

 

◆◇◆

 

この笛の音を聞いた瞬間、俺は自分の足に鉄杭を指しなんとか正気を保つ。

 

(だがそれよりも、上に残ったタツミがあぶねぇ!!)

 

相手側の攻撃。つまり他の帝具持ちがタツミに接近してるかもしれねぇ!!

俺は一気に階段を駆け上がり、タツミがいる広場へと走って行く。手にはタツミの帝具である黒鬼と赤鬼を持って。そして、俺はエントランスを抜け、タツミのいる外の広場に出た。

 

「タツミ!!」

 

だが、そこにあったのは想像もしなかった光景だった。

そこには血まみれのタツミの姿があった。しかし、その血はタツミのではない。タツミの右手にもたれている、上半身のみの死体のものだった。その死体からは臓物や血が濁流のように流れており、タツミの足元は血で広がっていた。

 

「ーーーまずは一人目...」

 

そのニヤリと笑ったタツミの顔に、俺は少し恐れを抱いた

 

 

 

 

 

 

 



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尊敬する男

「もういい...さっさと死ね!!」

 

ダイダラは帝具【ベルヴァーク】を、タツミに向かって投擲すると同時にもう片方の斧を振り上げ突撃した。投擲されたベルヴァークは、勢いが続く限り対象者を追う。

 

(チッ、一歩も動かねぇじゃねぇか。経験値が少なそうだ)

 

凄まじい速度で斧が迫っているにもかかわらず、タツミは俯いたまま剣を抜こうとしない。そして、斧がタツミを捉えるその瞬間だった。

 

「ーーーな!?」

 

いきなり、その斧はダイダラに向かって飛んできたのだ。これに驚いたデイダラは、すぐに回避行動をとるがもう遅い。

 

「がっ!?」

 

デイダラの右腕は斬り落とされ、ボタボタと大量の血が流れた。

 

「ぐぁぁぁぁああああ!!て、テメェ何しやがった!!」

 

ダイダラは訳が分からずタツミに叫ぶ。

自分の腕を落とした斧は、すでに目の前の青年が持っていた。

 

「何ってーーー飛んできたんだから投げ返したんだよ」

 

「!!?」

 

何を言っているのかわからない。今、この目の前の奴はなんて言った?飛んできたから、投げ返しただと!?

 

「ふ、ふざけるな!あんな勢いのベルヴァークを、所有者でないお前が受け止めれるわけが...」

 

だが、その言葉は残った反対の腕への激痛で止められた。

 

「ぐぁぁあああああ!!?」

 

「うっせぇな。ちょっと黙れよ」

 

自分と青年には10メートルほどの距離が開いている。

つまりは今、ベルヴァークを投げられた?だがまったく見えなかった。投げる動作すらもだ。

 

(なんなんだコイツは!!)

 

化物。エスデス様とはまた違った異物。

 

「さぁ...お前らが殺してきた人間の。痛みを、苦しみを、存分に噛み締めて死ね」

 

そして、ダイダラの目では見えないほどの速度で踏み込んだタツミは、右手に持ったベルヴァークで胴体を裂いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まずい。また、やっちまった)

 

タツミは半身だけになった大男を見ながら後悔する。

ナイトレイドの語り。それが思いのほか自分は激怒していたみたいだ。

 

「はぁ、なるべくならないようにはしてたんだがな...」

 

一年前。ちょうど【黒鬼】と【赤鬼】を手に入れた頃だった。今と同じようなことになったことがある。

自分たちの生活も危ないというのに、コツコツ貯めてきたお金を使ってサヨとイエヤスのご両親が西の国へ旅行に連れて行ってくれたのだ。

その旅行先の帰り道。

たまたま通りかかった、ある村で起きていた理不尽な所業を見た俺はブチギレた。

そして、気が狂ったようにその村の家を壊しまくったのだ。確か魔女裁判とかなんとか言っていたような気がするが、そこは置いておこう。

結果、村の八割が壊滅。サヨとイエヤスのご両親と共にそそくさと急ぎ足で帰ってきた。

 

(本当にサヨとイエヤスのご両親には悪いことをしたな。それにしても、あの時助けた女の子は無事だろうか?)

 

と、その時。背後から人の気配を感じ振り返ると、そこには驚いた顔をした兄貴が立っていた。

 

「あ、兄貴!どうやらこっちが正解だったみたいだ」

 

「あ、ああ。...タツミ、これはお前がやったのか?」

 

ブラートは近づきながらタツミに聞く。

やばい。もしかしてさっきのアレ見られてた?俺キレると、その時の記憶がないんだよなぁ...。

 

「う、うん。一応...ッ!!兄貴、どうやら話は後みたいだぜ」

 

「ああ、そうだな。オイ!出てこいよ!!隠れるなんて熱くないことすんじゃねぇよ!」

 

それ、インクルシオ持ってる兄貴が言うのか?

すると、物陰から二つの影が出てくる。一人は白髪の中年男性。もう一人は金髪の背年だった。

 

「タツミ、ほれ」

 

「サンキュー兄貴。...纏え、黒鬼、赤鬼。【鬼閃脚】」

 

タツミは受け取った自分の帝具を、すぐさま足に装着した。

 

「ダイダラがまさか殺られているとはーーー貴様、何者だ?」

 

「ただの殺し屋だよ白髪のオッサン。安心しろ、お前らもすぐにお仲間の所へ連れて行ってやるから」

 

タツミは言葉に、殺気を含みながら話す。しかし、それを腕で制するブラート。

 

「落ち着けタツミ。油断すんじゃーーーッ!?あんたリヴァ将軍...」

 

ブラートは、その白髪の中年男性を見て驚く。

どうやら知り合いのようだ。

 

「久しいなブラート。相も変わらず熱いのが好きなようだな。それと、もう将軍ではない。今はエスデス様の僕だ」

 

エスデス。ここでも名前が出てくるか。

 

「兄貴、知り合いか?」

 

「ああ。昔の上司だ。...新しく大臣になった頃のオネストに賄賂を送らなくて、罪人に仕立てられた人だ」

 

「私の任務は、対象文官の殺害。及び邪魔者の排除だ。デイダラは戦いを楽しむ癖があったが、私達はそうはいかんぞ!」

 

リヴァはそう言って、右手につけていた手袋を外す。その指には、指輪のようなものが光って見えた。

 

「インクルシオォォォオオオオオ!!ーーータツミ、そっちの奴は任せた!」

 

「了解!兄貴も気をつけて!」

 

そう言うと、タツミは笛を使うニャウに向かって凄まじい速度で蹴りを放つ。

不意をつかれたことにより、なんとか笛で防げはしたが体はそのまま吹き飛ばされた。

 

「うぎゃ!?」

 

「さぁーて、チビ助。お前の相手は俺だぜ?ナイトレイドを語っておいて、ただで済むと思うなよ?」

 

「グッ...調子にのるなよ雑魚が!」

 

こうして、帝具使い同士の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水塊弾!!」

 

リヴァは船に積んであった水を操作し、インクルシオを纏ったブラートを攻撃する。

形状を鋭く変えられたその水は、いくらインクルシオを纏っていてもそのまま食らえばダメージは大きいだろう。

 

「オラァ!」

 

しかしブラートは、手に持つ槍を回転させることによってその水を弾き飛ばした。

 

「流石だなブラート...だが!」

 

「んな!?」

 

リヴァは急に船から飛び降りると、巨大な蛇の頭の形をした水に乗り再び現れたのだ。

リヴァの持つ帝具ブラックマリンは、自身が触れた液体ならばどんなものでさえ操作することができる。

つまり、今この場でリヴァは地の利を得ているのだ。

 

「水圧で潰れろブラート!!深淵の蛇!!」

 

巨大な蛇を模したその水は、ブラートに向かって落下する。

 

「うおおぉぉぉぉぉおおおおおお!!」

 

それをブラートは、なんと槍で両断した。

もしもこのまま避ければ、この船が沈む恐れがある。つまり、ブラートにはこれを迎撃する必要があったのだ。

しかし、それを読んでいたかのようにリヴァは次の手を用意した。

 

「お前が避けないのは分かっていたさ...空中でこれは躱せまい!!濁流槍!!」

 

空中に放り出されたブラートに、下からいくつもの水の槍が激突した。

ぶつかり合ったそれらは、轟音を響かせブラートをさらに上へと押し上げた。それと同時に、ブラートの鎧が少し割れる。

 

「こんな水で...俺の情熱は消えねぇ!!」

 

しかし、それを耐え抜いたブラートはリヴァに攻撃を仕掛けようとするーーーが、リヴァはわかっていた。

過去のブラートを知っている自分だからこそ分かる。ブラートという男は、この程度ではやられない。

 

「分かっているさ。お前とは数多くの戦場を歩いてきたのだから。傲慢も、油断も何もない。この最大奥義で貴様を殺す!!」

 

「!!」

 

なんとか防御をするように腕をクロスにするブラート。

そして、リヴァの技が炸裂しようとしたその時だった。

 

「ガッ!?」

 

突如リヴァの横から、何かが飛んできバランスを崩した。なんとかそれを受け止めるリヴァだが、その飛んできたものを見て驚く。

それはあの少年と戦っていたはずのミャウだった。

ボロボロになったミャウは、口から血を吐きながら痛みに耐えるように歯を食いしばっている。

 

「ミャウ、大丈夫か!」

 

「グッ...リヴァ...ごめん。邪魔して」

 

ミャウはすぐさまリヴァの腕から離れ、その目の前ぬ立っている足が異形の少年を睨みつけた。

見れば、ブラートもその少年のそばに着地する。

 

「タツミ、助かった」

 

「いいってこと、それよりも兄貴大丈夫か!?」

 

「ハハッ!俺の情熱はこの程度じゃ消えねぇ...ッ!!」

 

ブラートは軽口を言うように笑うが、タツミから見る限りかなりギリギリの状態だ。インクルシオも、ダメージを受けすぎたせいか、鎧が解かれている。

 

「タツミ、俺はリヴァとやる。だから...」

 

「分かってる。邪魔はしない。その代わり、俺もその笛のやつ倒せばそっちに手を貸すかーーー」

 

タツミがそう言いかけたが、それは前から突っ込んできたミャウによって遮られた。

ミャウは笛をタツミの頭蓋めがけて振り落とす。タツミはそれを鬼化した右足で防いだ。

 

「もうやられないよ!!」

 

「ハッ!言ってろ!!」

 

バキンッと音を鳴らし再び距離をとるが、今度は両者とも激突する。

ミャウの激しい攻撃を、タツミは器用に受け流しながら反撃を加えようとする。

だが、、流石に足に装着していれば腕からの攻撃よりも遅くなる。

 

「グッ!!」

 

「お前の帝具は、距離を詰めればただの強度が高い鎧と一緒だ!!」

 

鬼閃脚は、長距離から凄まじい速度で接近し重い打撃を食らわすことができる。しかし、ミャウの言う通り超近距離で戦えば、あとは使用者であるタツミの技量だけになってしまうのだった。

 

(チッ、やっぱり気づかれるか!しかもこいつの攻撃速度はかなり速い!!)

 

タツミは心の中で悪態を付く。

そしてついに腹に一撃くらってしまい、血を少し吐き出す。

 

「グハッ!?」

 

「もらっーーー」

 

「させるか!!」

 

タツミが怯んだところをミャウが攻撃しようとするが、横から剣が振るわれバックステップでそれを避ける。ブラートだ。

 

「サンキュ兄貴...」

 

「お互い様だ..グハッ...」

 

「兄貴!?」

 

急にブラートが血を吐き膝をついた。それ驚くタツミだったが、ブラートの背を見て原因がわかる。

そこには斜めに一本、決して浅くない傷跡が残されていた。

 

「まさか、俺を助けるために斬られたのか!?」

 

「ふっ、こんな程度..なんともねぇよ。...それよりも、まだいけるか?」

 

自分もボロボロのはずなのに、タツミの容体を気遣うブラート。その問いに、タツミは強く頷いた。

その時、最初に聞いた音と同じ笛の音が耳に届く。しかし、自身の体にはなんの変化も感じられなかった。

 

「ブラート、もうお互いに最後だろう。私も、この傷ではそう長くはない。だからーーー最後は剣で決着をつけよう」

 

リヴァもボロボロになりながら、ブラートに剣での勝負を持ちかける。別に乗る必要はない。しかし、ブラートはそれを聞くと無言で立ち上がりインクルシオの剣を手に持った。

 

「タツミ、その傷は重いだろう。少し休め...そして、俺の背中を見ていろ」

 

「兄貴...」

 

ブラートはリヴァの前に立つと剣を構える。

すると、リヴァが自分の腕に赤い液体を流し込んだ。

 

「お前が相手だからな。ドーピングさせてもらう」

 

「.....」

 

「いくぞ、ブラート!!」

 

そこからはまさに嵐の如き剣とのぶつかり合いだった。おおよそ、手負いの人間が戦っているなど思いもしない。

上から、横からと放たれる剣。まるで、それは演舞のような迫力だった。

 

「うおぉぉぉおぉぉおおおおお!!」

 

「ハァァァァアアアアアア!!」

 

そして、決着の時は来た。

ブラートの剣が、リヴァの腹を切り裂いたのだ。そこからとめどなく溢れる血液。

タツミは、それを見た瞬間に思わず叫ぶ。

 

「兄貴、血だ!!」

 

「!!」

 

「...ふっ、気づかれたか。しかしもう遅い!!奥の手、血刀殺!!」

 

飛び散った血が、ブラートに向かっていくつも刃のように飛んでいった。

 

「うおおおおおお!!」

 

不意な攻撃にもかかわらず、ブラートはその攻撃に対応する。致命傷は避け、ほとんどの血の刃を剣で叩き落とした。

腕に何発はくらい、膝を付くがなんとか防ぎきったのだ。タツミはすぐさまブラートに肩を貸す。

敵であるリヴァは、すでに倒れているが...何故かその顔は笑っていた。

 

「命を賭してまで放った攻撃..それに対応するとは流石だなブラート....しかし、私はエスデス様の僕!死ぬならば、ただでは死なんぞブラート!!」

 

「なにを...ン、グハァ!?」

 

「兄貴!?まさか、さっきのドーピングは毒か!!」

 

「その通りだ。グッ...先に逝って待っているぞブラー...ト」

 

そう言って、リヴァは事切れた。

ブラートは口から大量の血を吐きながら苦しむ。しかしその時、背後から人の気配がし、振り返った。

そこには、激しい戦闘で耳に入らなかったが、笛を吹き終わったニャウの姿があった。

そして次の瞬間、ニャウの体が巨大な筋肉質の男に変わった。

 

「鬼神招来。僕の奥の手だよ。リヴァが時間を稼いでくれたんだ。お前たちを必ず殺してやるよ殺し屋」

 

「....兄貴、ちょっとここで待っていてくれ。すぐ片付けて助けにーー」

 

「待て、タツミ」

 

ニャウに向かって歩き出した瞬間、急に後ろから腕を持たれ呼び止められた。そして、ブラートは一本の剣をタツミに渡す。

 

「これを...使え」

 

「これって...」

 

そう、ブラートがインクルシオを呼ぶ際に使う剣だ。

それをタツミの手に持たすブラート。

 

「お前なら...扱える。行け、タツミ!!」

 

「ッ!!...尊敬してる人にそこまで言われてやりゃなきゃ...男がすたるよなぁ!!」

 

タツミは刀に戻した黒鬼と赤鬼を地面に投げるように突き刺すと、受け取った剣を構えた。

 

「ハッ!今でさえ帝具を使っているのに、それを扱えるわけがないだろう!!もういい、死ぬ前に僕が殺してやる!!」

 

ニャウはタツミに飛びかかる形で攻撃を仕掛けた。

だが、タツミは意外にも落ち着いていた。

 

剣を握れ

 

これは鍵だ

 

呼出せ、最強の鎧を

 

浮かべろ、最強の武器を

 

考えろーーー最強の自分を!!

 

その時、どこからか声が聞こえた気がした。

 

『力を欲するか、我が主人。よかろう』

 

『ならば貴方に、誰にも負けぬ力を』

 

瞬間、地面に突き刺した黒鬼と赤鬼も互いの刀身と同じ黒と赤の炎を想像させる靄を出す。

 

「叫べタツミ!熱い魂で!!」

 

「インクルシオォォォオオオオオ!!」

 

「なに!?」

 

タツミの背後に、突如龍が現れた。バキバキと音を立てながら変形していくその鎧の姿に、思わずブラートですら息を飲む。

そして、タツミの体を龍が覆うようにまとわりつくと突風が吹き荒れ、タツミの姿が見えなくなる。

 

「さぁ、ナイトレイドの名を語ったエスデス軍。罰を受ける準備はいいか?」

 

「な!?」

 

「これは...そうか、タツミ」

 

白銀のコートに胸には赤い十字の紋章がついた鎧。

頭にはブラートの時のような兜はなく、代わりに顔を隠すような長い黒色のマフラー。

腕は赤い異形の外装で護られており、禍々しく思えた。

 

「これが、お前の魂...か」

 

「て、帝具を二つ同時に扱うだと!?いったいどうなってーーー」

 

ーーーー黒鬼

 

そうタツミが呟いた瞬間、いつの間にか目の前にいた黒い大剣を持つタツミにニャウの体が両断された。

 

「え?」

 

「赤鬼」

 

さらに一閃。どこからか現れた赤い大剣によってニャウの体は切り裂かれる。

 

「な...にを...」

 

ニャウは血は吐きながら問いただそうとするが、その言葉を聞くことはしない。

 

「斬撃よ残れ、陽炎」

 

「ぎゃあぁぁぁぁああああ!!」

 

すると、ニャウの体は斬った場所から黒く染まった炎に炙られるように燃え尽きたのだった。

 

 

 

 

 

パラパラと雨が降る。

タツミは一本の剣を腰に付け、倒れているブラートを上から眺めていた。

 

「なぁ、兄貴...俺やったよ?」

 

「ーーーー」

 

しかし、もちろんブラートは答えない。

ただ笑顔で倒れているままだ。

 

「殺し屋がこんなんじゃダメだと思うんだけどさ...今だけ、泣くのは許してよ」

 

そして、船の上で一つの叫び越えに等しい鳴き声が響き渡ったのだった。

 

ーーーー任務完了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそして同時刻

帝都辺境

 

「帝都かぁ、そこなら会えるかもねお姉ちゃん。....それと、あのお兄さんにもまた会いたいなぁ」

 

 



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予想外

夢を見た。

荒れ狂う炎の中、俺はたった一人そこに立っていた。

 

「ここは...」

 

見覚えは全くない。しかし、何故か心地よく感じる。

そして、その炎の奥。なにやらぼんやりと影が映った。

 

『ようやく会えたかの我が主人様?』

 

『この日を長く待ちわびていました』

 

影はそう言った。声は女の声。おそらくは自分と大して変わらないくらいだろう。

しかしその言葉には深みがあり、自然と聞かなければという気持ちになる。

 

『主人よ、この度の覚醒嬉しく思うぞ。まだ言の葉を交わすことくらいしかできんが、いずれこの姿を見せる時が来よう』

 

『さすればその時まで、私達はいつまでも貴方の中でお待ちしております。それではーーーー』

 

ちょっと待て、そう言おうとするが喉から声が出なかった。そのまま俺は周りの炎に包まれていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ごーじゅ!ほら、ラバ!タツミに負けてるよぉ〜?」

 

「ぬおぉぉぉおおおおお!?」

 

朝、訓練場にてラバックの悲鳴に近い声が上がる。

現在しているのは腕立て伏せ。ラバックは背にレオーネを乗せ、普段はあまりしない筋トレに励んでいた。

 

「もぉ、ラバってか弱いな〜?んなんじゃいつまでたってもタツミに追いつけないぞぉ?」

 

「い...いや、姐さん...アレは...」

 

「あはは...」

 

ラバックは横で同じように腕立て伏せをしているタツミを横目で見た。背にはアカメ()シェーレ。しかも先ほどからノンストップで動き続けている。

それにはレオーネも思わず苦笑いしかでなかった。

とその時、訓練場の襖が勢いよく開けられマインが出てきた。

 

「誰か!アタシと訓練しな...なにやってるのあんたら?」

 

『訓練?』

 

「なんで疑問系なのよ...って、タツミは本当になにやってんのよ」

 

「え、ラバと同じ腕立て伏せだけど...っと!よし、二百回終わり!」

 

「はやっ!?俺、まだ五十だぞ!!?」

 

タツミは笑顔でラバックに頑張れというと、木刀を持ち出し素振りをし出した。

マインは呆れながらも、少しタツミのことを心配していた。

先日の任務でブラートが死んだ。一番近くにいたタツミにとっては悔やまれることだろう。

 

「タツミ...オーバーワークは体に毒ですよ?少しは休まないと...」

 

「大丈夫だよシェーレ。これくらいじゃまだへこたれないから。...今回、インクルシオも同時に使ってわかったんだが、やっぱり体力の消費が半端じゃない。透明化も使えるのは使えるが、きっと今のままじゃ兄貴より断然短いだろうしな」

 

焦っている。メンバーの目にはそう見えた。確かにブラートの死はタツミに大きな影響を及ぼしただろう。が、それによりタツミ自身が壊れてしまうのではないかと心配になる。

 

「...タツミ、付き合うぞ」

 

「お、さんきゅアカメ」

 

それを見かねてか、アカメも木刀を持ちタツミとともに振るう。

アカメなりに気を紛れさせようとしているのだろう。

すると、マインの後ろからナジェンダとアリアが顔を出した。ナジェンダの背には大きなバッグを背負われていた。

 

「お、みんな揃ってるな?」

 

「おはようみんな!」

 

「あ、ボス、アリア...そんな大荷物持ってどこか行くのか?」

 

そう聞くと、なんでも今から革命軍本部の方に先日討伐した三獣士の使っていた帝具を届けに行くらしい。アリアも、見学も兼ねてそのお付きということだった。

普通に持っているが、あの斧とかかなり重かったんだけどな。さすがは元将軍。

 

「アカメ、留守は任せたぞ。作戦名はみんながんばれだ」

 

「...ん、だいたいわかった」

 

「いや、アバウトすぎるだろ!!?」

 

なんだそのガンガンいこうぜ的なアレは!俺的には命大事にが一番だけどな。

 

「それと、本部への用事はメンバー確保にも関係している。現在負傷中で帝具を失ったシェーレ。そしてブラート。二人が抜けた穴はデカイ」

 

ナジェンダのその言葉に、思わず手を握る力が強くなる。

 

「...気にするなとは言わない。だが、ブラートがお前に残したものはちゃんと理解していろ。お前はあの中で、唯一生き残った帝具使いだ。それはブラートがお前を生かそうとしてくれたという事実もある。タツミ、お前は弱くなんかない。良くやってくれてる」

 

「そうだぞタツミ。ブラートにはいうなって言われてたんだけど、あいつは俺よりずっと強い男になる。だからその時まで面倒見てやってくれって言ってたよ」

 

「!!...兄貴」

 

「強くなれタツミ。今よりももっと...ブラートが見込んだ男になるまで」

 

タツミはその言葉をぐっと噛み締め、顔を流れる涙をぬぐったのだった。

 

そして昼間、タツミは帝都にてある場所に向かってフードをかぶりながら歩いていた。

先日の船での件で、顔がばれているのではないかと不安だったが、ここまで普通に歩いていて何もないのだから、ばれてないにのだろう。

ついた場所は貸本屋。その前には、店員服を着たラバックが壁にもたれ立っていた。

 

「よう」

 

「お、来たか」

 

タツミとラバックはそのまま店の奥に入っていく。そこには関係者以外立ち入り禁止の文字が書いてあった。

そしてその下にあった木板を開けると、そこには地下につながる階段があった。

 

「へへっ、スゲェだろ?」

 

「別にラバが作ったわけじゃねぇだろ」

 

そのまま階段を下りていくと、そこにはすでに出来上がり寸前なレオーネの姿。

 

「おぉー!ようこそ帝都の隠れ家へ!!」

 

「レオーネくつろぎすぎだろ。もうちょっと酒は控えたら?」

 

言っても無駄だと言わんばかりに、レオーネは口に酒を含む。その光景に思わずため息が溢れるタツミ。

 

「で、マインちゃんの手配書が出回ったことで、俺たち三人だけしか自由に帝都を歩けなくなったわけだが...」

 

「船のこともあるし、少し不安だったが俺は大丈夫だったな。...で、やっぱ街の話題は"イェーガーズ"っていう特殊警察の話で持ちきりだったな」

 

ここ最近、あのエスデスが作り上げた新たな警察イェーガーズ。

今帝都では、この話で持ちきりだった。

 

「まぁ、あのエスデスが隊長なわけだしな。あんな危険人物...」

 

「そういえば、エスデスってどういうことをしたんだ?危険だとは聞かされてたけど、それ以外は何も知らないんだよ俺」

 

すると、どうやらレオーネもこの話に興味があるように寝ていた体制を起こした。

そしてラバックは話し出す。

 

「...数年前、南西にいたバン族が反旗を覆した。それにより帝国はすぐさま兵を送り出した、その数系12万。対するバン族は一万ちょっと。でも、帝国でぬくぬくと育った兵たちはその辺境の地での環境に耐えられなかった。寝不足や疫病、猛獣などの襲来もあり、しかもそれと同時にバン族は奇襲をしてくるもんだから、帝国軍はなすすべもなかった」

 

「あぁー...なんかそっからは流れが読めるわ俺」

 

「だろうな。で、派遣されたのはエスデスと当時若いながらに実力があったナジェンダさん。で、あとはご察しも通り。エスデスが村を囲っていた大河をすべて凍らせ、あとは蹂躙。しかも、そこの族長は生かしておき、恨みをもたせて再び自分に乱をもたらすようにしたんだと。ほんと、根っからの戦闘狂だよな」

 

戦争が好きだから自分に乱を向けさせるようにする。

常人では考えられないな。

いや、普通じゃないから恐れられてるのか。

 

「あー単独で仕掛けなくてよかった。危ない危ない」

 

「そういえば、レオーネは偵察で監視に行ったんだよな?どうだった見た感じ」

 

「もうなんていうか殺意の塊?いったいどんだけ人を殺せばあんなハクがつくんだか...」

 

レオーネにそこまで言わせるほどの人間。

 

「...ちょっと興味あるな」

 

「じゃあ見てきたら?」

 

ラバックはそういうと、バッグから一枚のチラシをタツミに見せる。

そこには【エスデス主催、都民武芸試合】と書かれていた。

どうやら賞金も出るようだった。

 

「いや、でもあんま目立ったら...それに自分の職業を明かさないといけないって書いてあるじゃないか。なんだ、殺し屋ですっていうのか?」

 

「アホか。んなもん適当にやっときゃいいんだよ。賞金も出るし、村への仕送りが増えるだろ?」

 

「そうだそうだ!行ってこいタツミ!!お姉さん応援してあげるから!!」

 

レオーネはそう言ってタツミの後ろから抱きつく。何やら背中に柔らかい感触があるが無視だ。

そして、タツミは少し考えた後、二人の輝く目を見て諦めるように大会に出ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場。

そこでは絶賛、二人の武器を持った男が全力で戦っていた。観客は満員。その声の音に思わず怯むものもいそうなくらいの大声援だった。

そのど真ん中でやっている戦いが見やすいように設置された場所で、一人の女が退屈そうにその試合を見ていた。

水色の髪に白い軍服。彼女こそ帝都最強の将軍、エスデス将軍だ。

エスデスは欠伸をしながら、今戦っている人間を見る。

 

「はぁ...」

 

「その様子だとお気に召さないですか?」

 

エスデスがため息を吐くと、横に立っていた金髪の美青年が話しかけた。

 

「ああ。つまらん素材らしく、つまらん試合だな。やはり帝具を扱える人間は出てこないか」

 

「ふふっ、あ、決着がついたみたいですよ?」

 

着物を着た男が、鎧を着た男に一撃入れたところで決着がつく。

 

『勝者、呉服屋 ノブナガ!!』

 

「勝ったどぉぉぉおおお!!」

 

ナレーションである青年がそういうと、観客が更に盛り上がった。

しかし、エスデスとしてはつまらないことこの上ない。もういっそ自分が出て行って全員相手取ってやろうかなどと考えたくらいだ。

 

「あ、次で最後らしいですよ」

 

金髪の青年の言葉を聞き、渋々と感じで舞台を見る。舞台に上がってきたのは一人の少年と牛のような顔をした大男だった。

 

『東方!肉屋カルビ!!西方!鍛冶屋タツミ!!』

 

その時のエスデスは、何故かその少年に見入ってしまった。そして数分後、その意味がわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『東方!肉屋カルビ!!西方!鍛冶屋タツミ!!』

 

自分の名前が呼ばれ、俺は舞台に上がる。どうやら相手はこの牛らしい。

 

「おいおい、ずいぶんとチビだな。クククッこりゃ賞金もいただきだぜ」

 

「ああ、そりゃよかったな。なんとか負けないように頑張るよ牛のおっさん」

 

「誰が牛のおっさんだコラァ!?いいか?これでも俺は破門されたとはいえ皇拳寺9段だったかたよ」

 

「え?なに?牛タン?俺ってあんまり牛タン好きじゃないんだよなぁ〜。それに破門されたなら駄目でしょ」

 

「なっ!?」

 

いや、当たり前だろ。なに破門されたことを自慢げに話してんのこの牛。

俺のその言葉に、司会の青年が笑いをこらえていた。カルビは顔を真っ赤にするように視界の青年に早くしろと怒鳴りつけた。

 

『クククッ...ゴホン....それでは、始め!』

 

「いくぜぇ!爆砕鉄拳フルコースだ!!」

 

司会がそういうのと同時に、カルビは勢いよく地面を蹴りタツミの顔と同じくらいの大きさの拳を全力で顔面めがけて放った。

タツミはそれをギリギリまで見極め受け流す。だが、一応は拳法をやっていたからか、体制はそう簡単には崩れない。

 

「おっと。お、意外と力もち?」

 

「へっ、お前なんざ血祭りにあげてやるよ!!」

 

そう叫び、懲りずに再び拳を振り上げて突っ込んでくる牛。それはアレだな。牛と一緒にしたら失礼だな。牛に...

タツミは向かってくる拳を跳躍し避けると、空中で回転し蹴りをカルビの胸を放った。なんとか防ぎはしたものの、カルビは衝撃で立ったまま地面を滑る。

 

「お、受けられた」

 

「へっ、んな軽い攻撃が食らうかよ!!」

 

「へぇー...軽い..ね」

 

「うおりゃぁぁぁあああ!!」

 

カルビは今までの一撃よりも一番思いであろう拳を振るってきた。速さも上々。威力も普通よりはあるだろう。

がーーー

 

「あめぇな」

 

バシンッ!

そう音がなり、カルビの全力の拳はタツミの細腕一本で止められた。それには観客も大盛り上がり。

 

「なっ!!」

 

「ふっ!!」

 

間髪入れず、タツミはカルビの腹に潜り込み蹴りを一発。吹き飛んだところを胸倉を掴み逃さないように引っ張ると、地面に向けて叩きつけた。

すると地面にはヒビが入り、見事にカルビの意識は消えていたのだった。

 

『.....』

 

「おい、司会者のお兄さん」

 

『!!しょ、勝者、西方 鍛冶屋タツミ!!』

 

それと同時にこの大会最大の歓声が沸き上がった。観客席にいるラバックとレオーネも一緒になって盛り上がっているところを見ると、なんだかこっちまで楽しくなる。

 

「やったぜ!!」

 

と、その時だった。背後からコツコツと足音がし振り返る。

なんと、エスデス本人が舞台に上がってきたのだ。これには辺り一帯シンッとなる。

エスデスはそのままタツミの目の前に立ち止まると少し観察する。

 

(うっわ...こりゃレオーネが言ってた意味がわかるわ。どうやったらこんな雰囲気纏えんだよ...)

 

強さの雰囲気?と言えばいいのかはわからないが、とりあえず得体のしれないものということはわかった。

少なくとも、今の自分では戦えば無事ではすまいないだろう。

 

「タツミ...と言ったな?いい名だ」

 

「え?...あ、はい。どうも...」

 

び、びっくりした。いきなりなんだこの人?

三獣士のリーダーであり帝国最強。兄貴が死んだのはこの人の所為でもある。

 

「今の勝負、鮮やかだったな。褒美をやろう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

エスデスは自分の服の下をゴソゴソと漁る。まぁ、貰えるものは貰ってーーー

 

「ッ!?」

 

と、その瞬間俺は後ろに逃げた。

それもそうだ。自分のさっき首があった場所にはーーー鉄の首輪があったのだから。

 

「いきなりなにするんですか!!?」

 

「む、逃げるな。ここでは落ち着いて話ができないだろ?」

 

そういうと、エスデスは先ほどのカルビの数倍のスピードで俺の後ろに回り込む。後ろから来る首輪を避けると、俺はすぐさま近くにいた司会者の後ろに隠れる。

てかアンタ、加速がないってどゆこと!!?

 

「!!」

 

「ちょ、おい!!?」

 

「司会者の兄ちゃん、俺のために犠牲になってくれ!!」

 

「やだよ!?なんでいきなり初対面の奴の犠牲にならねぇと...って、あぶね!?」

 

「へ?あがっ!?」

 

いきなり目の前の青年がしゃがむと、すぐ目の前に首輪が飛んできていた。全く予想もしていなかったので、その首輪は俺の首に直撃しガシャンと音を立ててロックをかけられた。

 

「まったく...タツミは照れ屋なんだな。さぁ、行くぞ」

 

「へ、ちょ...ま...ぎゃぁぁぁあああああ!!?」

 

そのまま俺は静まり返る会場の中、絶叫を上げながらエスデスに連れて行かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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イェーガーズ

「タツミがエスデスに攫われた!?」

 

「!!」

 

アジトに帰還したレオーネとラバックの報告に驚くマイン。アカメも思わず椅子から立ち上がってしまった。

 

「ナイトレイドとばれたわけでは、ないんですよね?」

 

「ああ、おそらく。シェーレの言う通りばれたわけではなさそうだった」

 

「でも、五分と五分...タツミがどうなってるのなんて確認もできない」

 

「宮殿に連れて行かれた所までは見たけど...どうするボス代行」

 

ボスがいない現在、その代わりはアカメがボスの代わりだ。

レオーネ達はアカメの言葉を待つが、やはりすぐには出てこなかった。

数秒考え、アカメは手をギュッと拳を握り締める。

思い出すのはあの夜。タツミが自分に死なないと言ってくれたあの時だ。

 

(タツミ...)

 

「助けに行く...なんて言わないでよアカメ」

 

アカメの命令が心配になったのか、マインが間から口を挟む。

タツミが囚われているのは宮殿の中。中には兵も腐るほどいる。そんな状況でタツミを助け出せる可能性は、ほぼゼロに近かった。

アカメはもう一度考えを改めると、一つ深呼吸をして落ち着いた。

 

「...とりあえずアジトを一時的に山奥へ移そう。ここがばれないという保証はない」

 

「了解、でもタツミは...」

 

「分かってる。無策で飛び込んだりしない。ただーーータツミは私たちの仲間だ。私たちにできることは全てやろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りを見渡せば兵士、兵士、兵士。

もう何人も同じ服装の奴を殺しているため、なんか生きてる心地がまったくしない。

というよりもーーー

 

「さぁ、タツミ。こっちだ」

 

「.....なんだこれ」

 

現在、殺し屋である俺は帝国最強の人間に首輪を繋がれだだっ広い廊下を歩いていた。鎖を持つ水色の髪の女性、エスデスは気分がよさそうに前を歩いていた。

 

(さて、本当にどうしてこうなった?身元がばれた...というわけではなさそうだが...)

 

焦り六割、不安四割。絶賛最悪の心境だった。

 

「あの、エスデスさん?これってどこ向かってるんですか?」

 

「ん?今向かっているのは私の部下の元だ。ーーーと言ってもこの扉の向こうだがな」

 

エスデスは一つの扉の前に立つと、その扉を開けた。

すると、なかに数人の男女が椅子に座って待っているようだった。

 

「皆、注目だ。この度イェーガーズの補欠となったタツミだ。よろしくしてやってくれ」

 

『は?』

 

いやいや、ちょっと待ちなはれエスデスさんや。いきなりなにいっちょるんだべか?

 

「え、隊長...市民をそのまま連れてきちゃったんですか?」

 

白い覆面をした上半身裸の男が、俺を心配するようにエスデスに問いかける。顔に似合わずめっちゃいい人だ。

 

「なに、生活の不自由はさせない。それに部隊の補欠にするだけじゃない...感じたんだ。タツミは私の恋の相手となるとな」

 

「...それで、なんで首輪なんかさせてるんですか?」

 

「愛しかったから、ついカチャリと」

 

「なにがカチャリですか!?あれどう見ても完璧に投げてきましたよね!!?んでもってそこの青服!!さっきはよくも見捨ててくれたな!!避けるなら避けるって言ってから避けろよ!!」

 

「あ、あはは...すまん」

 

先ほどの司会の青年に半ギレ状態で怒鳴るタツミ。その様子を見てか、心底悪そうに青年は頭を下げた。

いや本当に避けるなら言ってから避けて?おかげで首に直撃した時に一瞬息できなくなったから。

 

「あ!やっぱりタツミじゃないですか!!」

 

「キュウ!!」

 

「ん?...あ、あれ!?なんでセリューがここにいるんだ!!?」

 

「む、なんだ知り合いか?」

 

「はい!私の恩人です!!」

 

茶色の髪を一つにまとめ後ろで括っている少女、セリュー・ユビキタス。

そして相棒のコロが、鎖に繋がれたままの俺のそばまで近寄ってきた。コロはピョンとジャンプすると、俺の頭に乗っかる。

 

「また会えましたね!私、ずっとタツミに会いたかったんですよ?」

 

「キュウ!キュキュウ!!」

 

「そうか、俺もまた会えて嬉しいよ。ここにいるってことは、セリューもこのイェーガーズのメンバーなのか?」

 

セリューは大きな声で返事をすると、笑顔で俺の手を握ってくる。柔らかく、女の子らしい手のひらだ。

 

「私..タツミのおかげで、ちゃんと悪を見極められるようになったんですよ?あれから無駄な殺しは一切していません」

 

「キュウ!」

 

「そうか。よく頑張ったなセリュー」

 

タツミはそういうと、握られていない手でセリューの髪を撫でた。セリューは嬉しそうに微笑む。

頭に乗ったコロはペシペシと俺の頭を叩く。地味に痛い。

 

「おい、タツミは私のだぞ」

 

だがそんな甘い雰囲気の中、突如横からエスデスに割られてしまった。少し寂しそうなセリューだったが、エスデスが本気で悔しそうな顔をしていたように見えたので元の場所に戻る。

てか、あんたのじゃねぇよ。

 

「隊長、そろそろ彼の首輪を外してあげては?ペットではなく恋人にしたいのならばそれはどうかと...」

 

金髪のイケメンがそういうと、少し悩むように顎に手を当てるエスデス。そして、それもそうかと言いながら、つけられてあった首輪を外してくれた。自由とはなんとも素晴らしいものだ。

 

「そういえば、この中で結婚をしているものや、恋人がいるものは?」

 

エスですがそういうと、先ほどの覆面の男が手を挙げた。それにはいくらなんでも驚く。

 

「ボ、ボルスさんそうなんですか?」

 

「うん!もう結婚六年目!!よくできた人で私には持ったいないくらい!」

 

ボルスと呼ばれた男は、図体には似合わず照れながらそう言った。なんというか、人を見た目で判断してはいけないと、この人を見てたら思うな。

だが、それよりもこのままじゃまずい。なんとかこの話を断らないと。

 

「あのー俺って宮使いする気はまったくな...い....」

 

「ん?どうした、私の部下をジッと見て」

 

見覚えがあった。黒いショートの髪にセーラー服のような軍服。

腰には刀が一本下げられており、その刀からは凄まじ圧迫感が感じられた。しかし、そんなことはどうでもいい。

タツミはそのお菓子をパクパク食べる少女の前に歩いていきーーー

 

『!!?』

 

ギュッと肩を抱き寄せた。

 

「クロ...メ、久しぶりだな」

 

「...うん。久しぶりお兄さん。元気だった?」

 

「ああ。すこぶる元気さ。お前は?」

 

「まぁまぁってとこかな?」

 

その黒髪の少女クロメ。アカメの妹であり、自分が救いたい人間の一人だ。クロメは嫌がる様子もなく、タツミの腕の中で笑っていた。

だがその時、背後からの殺気に近いものを感じすぐにクロメから距離をとる。

その発生源はーーーエスデスだ。

 

「おい、タツミ。なんださっきから私の部下に色目を使ってばかりで、私にはなにもないではないか!!いったいどういう了見だ!!」

 

「え、そんなこと言われたって...」

 

「ダメですよ隊長。部下の色恋沙汰に手を出したら」

 

クロメはそう言うと、タツミの腕にギュッと抱きつく。まるで小動物のようだった。

しかし、目の前のエスデスは小動物などではない。どう見ても肉食獣の大型系だ。

 

「ほぉクロメ、私に喧嘩を売っているのか?」

 

「別にソンナコトナイデスヨ?ね?タ・ツ・ミ!」

 

(な、なにか腕に柔らかいものが!!?大きすぎず小さすぎない。なんともいい形がまたエクセレント!!」

 

「おーいタツミー、声に出てるぞー」

 

「タ、タツミ最低です!そういうのはダメだと思います!!(キュウ)」

 

「ふふっ、可愛いわね。それにエクセレントの発音がいいわぁ」

 

「あはは...元気がいいですね」

 

「た、隊長!クロメちゃんも!喧嘩はダメですよ!?」

 

各自言いたい放題だな。

タツミの心から漏れた声を聞き、クロメは顔を赤くするが腕を離そうとはしなかった。

エスデスもそれを見て対抗心を燃やしたのか、クロメとは別の大人の体で逆の腕に抱きついてきた。うむ、よきかなよきかな。

 

「って、そうじゃない!なんでこうなった!?」

 

「いや、お前がクロメに抱きついたからじゃ...」

 

「あ、つい...。と、とにかくエスデスさんもクロメも離れてくれないか?暑い」

 

自分でもこの言い方はどうかと思ったが、二人はおとなしく離れてくれた。

というかなんでクロメ、あんなに俺にベッタリなんだ?

 

(それよりも、おそらく全員帝具使い。これをなんとかしてみんなに伝えないと)

 

「エスデス様!!」

 

バンッと扉が開けられ、一人の兵士が勢いよく入ってきた。

 

「ご命令にあった、ゴギャン湖周辺の調査が終わりました!」

 

その言葉と同時に、エスデスの雰囲気が一変する。おそらくスイッチを入れ替えたのだろう。

 

「このタイミング、ちょうどいいな。お前たち、初の大きな仕事だぞ」

 

作戦内容はこうだ。

最近ギョガン湖というか湖の周辺にできた山賊の砦の壊滅。

なんでも帝都近郊の悪人たちの駆け込み寺という感じだそうだ。

 

「ナイトレイドなどの場所がわからない相手は後回し。先にこいつらのような輩を殺っていく」

 

「敵が降伏してきたらどうしますか?」

 

ボルスがエスデスに聞くと、当たり前かのようにーーー

 

「弱者は淘汰されるのが世の常だ」

 

ッ!!

 

「そいつらの罪状はなんなんですか?」

 

「罪状は主に全員が殺人と思っていいだろう。積荷を襲うのも、周辺の村を襲うのも確認が取れている」

 

セリューはその言葉にふぅと息を吐いた。

本当にちゃんと見極めてるんだなセリュー。

 

「それと、出陣する前に言っておくが、一人数十人はやってもらうぞ。これからはこんな仕事ばかりだ。きちんと覚悟はできているな?」

 

エスデスのその言葉に、皆は頷き自分の信念を口にする。どれも強く、硬い意志だった。

 

「皆迷いがなくて結構。では、出撃する!行くぞタツミ」

 

「え!?俺も!!?」

 

「当たり前だ。補欠として、皆の働きを見ておくのはいいことだ」

 

◆◇◆

 

夜、月が怪しく光りあたりを照らしていた。

 

「地形や敵の配置は頭に入れましたが...作戦はどうします?」

 

金髪の美青年、ランは皆に聞く。セリューはその問いかけに、髪を風で揺らしながら元気よく答える。

 

「もちろん!正義はドンと正面から!!」

 

いやぁ、セリューらしい答えだな。

 

「いや、それよりも...どうして俺がここにいるんですか?」

 

あれ?俺って見とく専門なんじゃなかったけ?

なぜにここにいるの?

 

「いや、しょうがないだろ。隊長がタツミも戦わせてみろっていうんだから。なんでかは知らないけど。あ、俺はウェイブよろしくなタツミ」

 

「僕はランです。よろしくタツミ」

 

「ふふっ、私はDr.スタイリッシュ!怪我はしても直してあげるから安心しなさい?」

 

「私はボルス。怖い顔だけどよろしくねタツミくん!」

 

「ああ、とりあえずよろしく。...んじゃまぁ、やるぜ?」

 

タツミは腰にかけてある二本の剣を握りしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、一つ見ものだなタツミ」

 

エスデスは崖の上から、全員の動きを観察していた。

今朝の闘技場での動きといい、タツミは全くと言っていいほどおそらく力を出していない。

 

(さて...この前座で力の底が見れるか。あるいはーーー)

 

それを大きく上回るかだ。

エスデスはニヤリと笑うと、目でタツミたちの後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「コロ、5番!!十王の裁き!!」

 

轟音と呼ぶにはふさわしいほどの爆発音がなり、砦の扉が吹っ飛んだ。セリューは腕を大砲のような武器に包まれている。

 

「なにそれ!?超カッコいいんだけど!!?」

 

コロの口の中に腕を入れた瞬間、この長い大砲が現れたのだ。

マジでかっこいい。

セリューは照れるように頭を掻くと、調子に乗ったように今度は大きなドリルを敵陣に向けて突っ込んでいった。

 

「凄まじい殲滅力ですね」

 

「もうあいつ一人で行ったほうがいいんじゃないか?」

 

「うわぁ、ウェイブって最低だな。女の子一人に行かせようだなんて...」

 

「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!?」

 

エスデスが集めた兵と聞いて身構えていたが、意外と普通の人間だった。良くも悪くも自分の信念を持って動いている。

 

「あれは私が作ったのよ?神ノ御手【パーフェクター】手先の精密操作性を数百倍に引き上げる、んもう最高にスタイリッシュな帝具なのよ!!」

 

「おぉ!すごいなスタイリッシュのおっさん!!」

 

「こらタツミくん?おっさんはだぁーめ。次言ったら怒るわよ?」

 

目が笑っていない。本当にいうのはやめておこう。

しかし、帝具でもないのにあの威力の兵器。凄いとしか言いようがない。

 

「で、クロメもう中に入っていったな。んじゃ俺も行こうかなっと!」

 

タツミは剣を一本さやから抜き出した。

その瞬間、ウェイブたちの視界からタツミの姿は消えた。

 

『は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!なんだこの女!めちゃくちゃつえぇぞ!!」

 

クロメは自分の帝具の力を使うことなく敵を切っていった。銃弾は撃たれる前に斬り殺し、剣を振り上げる者には容赦なく腕を切り落としていく。

 

(無駄に多い....それにお兄さんもいない)

 

つまらない。そういうようにクロメは脱力しながらも敵を斬るスピードは緩めない。

しかし本当に敵が多い。いっそのこと八房の能力使って楽をしようか。そう考えていた時だった。

 

「へ?」

 

誰が出した声なのかはわからない。

ただ分かっているのは、自分を取り囲んでいた数十人いた山賊はもれなく全員首が飛んだのだ。

そして、いつの間にか目の前には黒い剣を持ったタツミの姿があった。

 

「お兄さん、これお兄さんがやったの?」

 

「ん?そうだけど?いやぁ、女の子大勢で囲むとか最低なやつらだよな。さて...まだいけるか?」

 

「うん、もちろん!」

 

「てかさ、そろそろお兄さんって止めないか?歳一緒くらいだし」

 

「うーん..それもそうだね。お兄ちゃん!」

 

「いや、そういう意味じゃないんだが...」

 

と、その時、ウェイブが俺たちを狙っていた人間に蹴りを入れて飛んできた。

なぜかその顔は満足げ。

 

「なに、礼はいらないぜ。チームだろ?」

 

「「や、気づいてたし」」

 

「マジで!?」

 

ウェイブが悲しそうな顔をしていると、奥からさらに数十人こちらに向かって走ってきた。お前らはスライ○か。

 

「いたぞ!あいつらだ!!」

 

「子供ばっかだ!やっちまえ!!」

 

「あぁ、もう!心底めんどくさい。二人共、少し離れてろ」

 

タツミはクロメとウェイブを後ろに下がらせると、黒鬼を突き刺すような構えをとった。

すると、剣の周りに黒い靄が充満しだす。

 

「黒よ、闇よ、漆黒よーーー塗り潰せ!」

 

「【闇薙】」

 

横の一閃。黒の斬撃が何メートルも離れていた山賊たちに向かっていき、すべての山賊を切り離した。

これにはクロメもウェイブも息を飲んだ。なにをしたのか全くわからないのだから。

 

「ふぅ...さて」

 

....なんか出た。

あっれぇ!?剣からなんか出たぞ!!?

しかもどう見ても赤鬼よりも高威力の斬撃だったし、適当にカッコつけて無様でハイおしまいってとこエスデスに見せたら万事オッケーだと思ったのに!!

 

クロメとウェイブが後ろで驚くなか、タツミは自分への羞恥心を恨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ...あれは」

 

帝具...いや、タツミのあの様子から見てそれはないか?それにあのような帝具は見たことも聞いたことない。

 

「つまりはタツミの技?...ふふっ、まぁいいか」

 

ただ、よけい惚れ直しただけなのだから。

 

 

 



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再確認

(さぁて、いよいよもっとどうしよう)

 

ベッドの上、俺はそこに正座しながら今の状況を考えていた。耳に届くはシャワーの流れる音。

そうここは、我らがナイトレイドの打倒すべき敵である、帝国最強とも名高いエスデス将軍の部屋なのだ。

 

「無理だ。いくらなんでも無理だ。あの見るからにやばい人だぞ!?喰われるにきまってる!!」

 

「馬鹿、とりあえず今日のうちは何もせん」

 

....ゆっくりと、俺はその声がした方向に首を向ける。

そこにいたのはシャツ一枚でベッドの前に立つエスデス将軍だった。

 

「...いつおあがりで?」

 

「たった今だ。どれ、何か飲むか?」

 

そう言ってベッドに腰掛けるエスデス。

格好が格好なだけあって、動きの一つ一つが艶かしく感じた。

 

「いえ、いいですよ。...それよりもエスデスさん、俺あなたに聞きたいことがーーー」

 

「むっ...」

 

しかし、その言葉はエスデスの顔が近づき防がれる。

キスをしようとしたんだろうが、俺はその間に即座に手を入れる事に成功した。

いやほんと、いきなりなりするのこの人?

 

「なぜ拒む...」

 

「いや、普通拒むでしょ。たとえエスデスさんが俺のことが好きだとしても、俺はエスデスさんの事が...はっきり言って嫌いの分類に入りますしね」

 

「...ほぉ」

 

その言葉に、目の前のエスデスの目が鋭くなった。

 

「私が嫌い、か。初めてだな、そんな言葉を面と向かって言われたのは」

 

「エスデスさんは強い。だからこそ言われないんですよ。強いものには恐怖し、慄く。それが人間ってものですからね」

 

「ならばーーー」

 

「だからと言って、あなたのやっている事が正しいとは全く思えない。この際ですから言いますが、俺は働くならまだ革命軍の方がマシだと思ってますしね」

 

この際だ、自分の言いたい事は言っておこう。

俺という人間がどれほどこの国に不満があるのか、どれほどこの国が廃れているのか、全て話しておこう。

 

「タツミ、帝国の将軍相手に何を言っているんだお前は」

 

平手打ちが飛んでくるが、それを手で掴み防ぐ。

だが、エスデスの様子は変わらない。

 

「もしも、あなたが革命軍にいたらって心から思うよ。きっと今の状況は崩れ、帝国は今よりは良くなっているだろう。でも、そんな事は絶対にないんだろうなと、つくづく今日の一日で思いましたよ」

 

「...まるで私の事を全て知っているみたいな言い草だなタツミ」

 

「まさか、全てなんて知るわけないじゃないですか。俺はあなたの百分の一すらもわかってないのかもしれない。でも、これだけは断言できる。あなたはただ戦争がしたいだけの狂人だよエスデスさん」

 

ーーーだから、俺がそんな人を好きになる事は絶対にない。

 

そう、俺は言った。

無言のまま顔を俯かせるエスデス。表情は見えない、怒っているのか、それとも悲しんでいるのすらもわからない。

ただ、エスデスの事が嫌いだという事は言う事ができた。

 

「ならばタツミは、私と敵対するという事か?」

 

「...悪いが、このままだったらそうですね」

 

瞬間、俺の首には氷の剣が突きつけられていた。

勿論その柄を握るのはエスデスだ。

 

「何故だ...何故だ何故だ何故だ何故だ!!何故タツミは分からない!この世は所詮弱肉強食だ、弱い者は淘汰され、強いものが生き残る。タツミだって剣の腕を磨き続け強くなったから、私の目に留まったのだ!」

 

「だから、弱い奴は死んでも当然?滅んでも良し?それに対する回答はこうですエスデスさん、ふざけんなっ!!」

 

「ッ!!」

 

「理由がどうだとか関係ない。ただ俺がそれを気にくわないからだ!あんたの短いものさしで、人の命をはかんじゃねぇよ!」

 

もはや叫び声に近いそれによってか、廊下を見回っていた兵が部屋の扉を叩く。

俯いたエスデスは、手に持った氷の剣を消すと大丈夫だと言った。

俺は息を一つ吐くと、ゆっくりとベッドに横になった。

 

「...すいません。でも、これが俺の本心です。あなたを嫌い、あなたを否定する。きっと、あなたが変わらない限りこの想いは変わらないでしょう」

 

「....」

 

「...イェーガーズのみんなに聞きましたけど、エスデスさんは恋がしたかったらしいですね。ここまでの事を将軍のあなたに言ったんだ、何をされても文句は言えない。拷問して支配するのもありでしょう」

 

「....」

 

まぁ、最悪殺されるがしょうがないだろう。将軍の近くにいてここまで生きている事ですら、はっきり言って奇跡なんだ。みんなには悪いが、俺は俺の言いたい事を言いきった。そこには後悔などは全くない。

 

そんな時、俺はあることに気づく。

先ほどからエスデスが、ベッドに座ったまま喋らないのだ。

 

「あ、あの、エスデス...さ...」

 

「....」

 

目を、俺は自分の目を疑った。

そこにあったのはただ無言のまま俯き、目から涙を流す(・・・・・・・)エスデス将軍の姿だった。

 

(え?)

 

一度目をこすり、改めて見る。

 

「....グスッ」

 

(...えぇぇぇぇえええええ!!?)

 

いや待ってほしい、本当に待ってほしい。どうしてこんな状況になっているのかが分からない。

だってあのエスデス将軍だぞ?あの将軍が泣くとか...え?偽物?

 

「...おい、失礼な事を考えているなタツミ」

 

「え!あ、そのぉ...」

 

「ふっ、まぁいいさ。私とて、涙を流したのなどいつぶりなどと覚えていない。村がなくなった時でさえ涙は出なかったというのに、好いている者から絶対的な拒絶を貰うと、ここまで悲しいものなのだな」

 

それは、涙の混じった微笑み。

だが、やはり悲しみの方が優っているように思えたが、それでも俺は。

 

「...取り消すつもりはありませんよ」

 

「ああ、別にいい。ここで取り消しなどしていたら、それこそ私はお前を殺していたかもしれん」

 

「こんな俺を、まだ好きでいるつもりですか?」

 

「...ボルスが言っていた。恋愛とは時間をどれだけかけるかが勝負らしい。挫けずアタックしまくれだと。だから、私はお前を諦めないぞ、タツミ」

 

エスデスはそのまま、俺の体を抱きながら横になる。

普通ならきっと、ドキドキして眠れなどしなかっただろうが、肩を少し震わせながら抱きつく歳上のはずのエスデスは、まるで子供のように思えれたのだった。

 

(はぁ、まるで俺が悪いみたいじゃないか)

 

「おやすみ、エスデス」

 

そして、ゆっくりと頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日眼が覚めると、隣でエスデスはまだ寝ていた。

泣き疲れたのかは分からないが、随分とぐっすりだ。俺は起こさぬように拘束から出ると、そのままみんながいるであろう部屋に向かった。

 

「おう、おはようタツミ!昨日お前の声が聞こえてきたんだが大丈夫だったか?」

 

「おはようウェイブ、てかそこまで聞こえてたのか。悪かった、少しエスデスさんと言い合いになって」

 

それに驚いたウェイブは、"ええぇ!?"と大きなリアクションをとる。

 

「エ、エスデス隊長と言い合いとか...お前だけだよそんな事が出来るのは」

 

「別に、ウェイブがチキンなだけでしょ?おはよう、お兄さん」

 

「ん?おうクロメか、おはよう。あと、そのお兄さんっていうのやめてくれ。なんだかむず痒い」

 

「分かった、じゃあタツミって呼ぶね!」

 

話に入ってきたのは、椅子の上で袋に入ったお菓子を食べている、セーラー服に似た軍服を着た少女クロメだ。

ナイトレイド、アカメの実の妹でもある。

 

「おい、俺はチキンじゃないぞ」

 

「そうだぞクロメ、ウェイブはコウガマグロだ」

 

「いや、それってビビりって特性的に対して変わらないんじゃ...」

 

「あ、そうだね。ごめんねウェイブ、間違っちゃって」

 

「本気で謝りにきただと!?やめろ、そんな目で俺を見るなぁぁぁあああああ!!」

 

ふむ、さすがはウェイブだ。おちょくられたら右に出るものはイェーガーズにはいないだろうな。

だけど、うちの変態馬鹿に勝てるかな?などと考えていると、背後から頭の上に何かが乗っかった。

 

「っと」

 

「あ、コロ駄目でしょ!ごめんなさいタツミ」

 

「はは、いいよ別に。おはようセリュー、コロ」

 

「はい!おはようございます!!(キュー!)」

 

流石、相性抜群だ。

そして数分後、軍服を着たエスデスが扉から入ってきた...が、何か様子がおかしかった。

 

「すまない、少し遅れた」

 

「いえ、別にそれはいいんですが...って、隊長なんか目が赤くないですか?」

 

「...気のせいだ」

 

「いや、でも...」

 

「なんだウェイブ、貴様そんなにも私の拷問が受けたいのか?だったらそういってくれればーーー」

 

「いえ!なんでもございません!!」

 

顔を真っ青にしながらそう言うウェイブ。

部屋にいる皆は笑っていたが、それよりも俺はエスデスの様子が少し気になった。

そうなにか、落ち込んでいるように思えたのだ。

 

「それとタツミ」

 

「あ、はい」

 

突然呼ばれた自分の名前に驚くが、どうせお前も付いて来いみたいな事を言うのだろう思った。

だが、いきなりエスデスが自分に袋を一つ投げ捨てた。

 

「....あの?」

 

「お前は今日で釈放だ、無理矢理連れてきて悪かったな。それは迷惑料だと思って取っておいてくれ」

 

『...!!?』

 

.......え?

 

「なんだ貴様らその顔は。何かおかしなことでも言ったか?」

 

おかしいなんてもんじゃない。

あの残虐将軍のエスデスが、俺と言う思い人を諦めた!?いや、俺としたらすごく助かったんだが、少し信じられないでいた。

しかも、それは周りとて同じ反応だった。

 

「エスデス将軍、今日は少し休みましょう。きっと疲れが溜まっているんです!眠るなら抱き心地が良いコロを貸しますから!!」

 

「いらん」

 

「まさか、昨日聞こえたタツミの怒鳴り声に関係が!?ほらタツミ!影で鞭降られる前に謝っちまえ!!」

 

「ふらん」

 

「将軍、お菓子食べる?」

 

「くわん」

 

お前ら三人共馬鹿じゃねぇの?

特にクロメ、それはもはや慰めになってない。

だけどーーー

 

「いきなりどうしたんですか、あなたらしくもない」

 

「なんだ、私の事が嫌いなのだろう?ならばどこでも行ったらいいじゃないか」

 

....ん?

 

「いや、だからってこんな追い出すみたいな」

 

「知らん、さっさと行け」

 

全く聞く耳を持たないエスデス。

俺はそんなエスデスの様子を見て、どうしてこんな行動をとったのかが分かった。

 

「...エスデスさん、まさか拗ねてます?」

 

『!!?』

 

きっと、驚くということは皆も気づいていたのだろう。まぁ普通怖くて言えないがな。

すると、エスデスの肩が震えだす。

 

「...てけ」

 

「え?」

 

小さな声、思わず耳に手を当て聞き返してしまった。

そしてキッとエスデスは俺を睨むと、その細腕で胸ぐらを掴んだ。

 

『え?』

 

「さっさと出て行け!!この馬鹿タツミィィイイイイイ!!!」

 

「ぎゃあぁぁああああ!!?」

 

パリーンっと窓を突き破り吹き飛んだ俺、いや違った。吹き飛ばされた俺は、そのまま城の城壁すらも飛び越えていったのだった。

そして思う、エスデスも可愛らしい所があるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ....」

 

『.....』

 

やってしまった。声を荒げ私らしくもない。

部下も皆、私を見て呆然としていた。

 

「...すまん、取り乱した」

 

「い、いや、それよりもタツミは大丈夫でしょうか?」

 

「あいつなら大丈夫だろう。あれでも強い」

 

そうは口が言うも...ああ、胸がモヤモヤする。

これが恋というものだろうか?よくよく考えてみれば、どうして私はこんなにあいつに惚れ込んだのだろう。きっとよく探せば、あいつよりもいい人材がいるはずなのに。

 

そんな事を考えていると、先ほどまで喋らなかったボルスが口を開いた。

 

「エスデス隊長、少しいいですか?」

 

「なんだ」

 

「それでは...では頭で想像して見てくださいね。今、タツミくんはエスデス将軍が飛ばしたであろう場所で、綺麗な女性と話している」

 

ーーーバキッ!!

 

(おっと、どうやらこの机は腐っていたらしいな。新しく支給しておこう)

 

「その女性の家で、夕食を食べ笑っている」

 

ーーードゴンッ!!

 

(おや、次は床か。全く、この城はいつから欠陥建築になった?)

 

「そして最後はその女性と、ベッドでーーー」

 

ーーードガァッァアアアアアアン!!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ...」

 

壁が吹き飛んだ。

否、言葉通り吹き飛んだのだ。

タツミが飛んでいった窓はもはやなく、そこには土竜の頭ほどの大きさの大穴が開いていた。

ウェイブ達は何も言えない、もしも今エスデスに口を開こうなら、氷漬けにされてしまう予感があったからだ。

だが、ボルスだけは口を開く。

 

「エスデス隊長。それは本気でタツミくんを好きだという証拠です。きっと、あなたの思い人はタツミくん以外に現れないと思います」

 

「...何故、お前にそれが分かる?」

 

「何故?簡単ですよ、エスデス隊長ーーープライドが高いあなたを、そんなに顔を赤くさせている原因がタツミくんだからです」

 

覆面で見えなかったが、きっとその時ボルスは笑ったのだろう。

それを聞いて、私は改めて自覚した。

 

ああ、私はタツミが大好きなんだと。

 

 

 

 

 

 

 



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