FAIRY BEAST (ぽおくそてえ)
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設定集

そろそろキャラ設定を出そうと思ってまとめました。かなり読みにくいとは思いますがまとめました。
だが、媚びぬ退かぬ省みぬぅ!作者に逃走はない!
…すいません騒がしくて。とりあえずどうぞ〜


今回は主人公たるジンヤ君と相方の孫悟空の設定です。キャラが増えたらここに載せます!

 

ジンヤ ・マーナガルム

 

年齢25歳(x784年時点)

好きなもの 賭け、ルーシィ

嫌いなもの 仲間の傷ついた姿、またそうさせた敵

能力 獣化、それに伴う身体能力向上

ギルドマークは脇腹に柘榴色

 

獣と人の間の獣人という存在。他のギルドマスターにも広く顔が知られていて、マカロフとは将棋でよく遊んでいる。

S級魔導士であり、ナツたちがいないときはよく単独で仕事に行っている。百年前のギルド創立時にいたとかなんとかという曖昧な噂が飛んでいる。実力がある上に顔が広いのであちこちのギルドや評議会からも要請がかかることも。

ギルドの主要メンバーに比べて情報はよく入るがガセネタも当然多い。

 

ラクサスやミストガンの秘密を知っており、ごく一部のメンバーしか知らない事実も知っているため、マスターの息子、イワンのギルド・レイヴンテイルが狙っている。初代マスターとは旧知の仲で戦争の終結を早めたという伝説があるほどだが真偽は不明。

 

普段は短い茶髪で背中に鬣のようなものが生えている。獅子奮迅を使用した時は白髪の長髪に変わる。身長は180cmほどでやや高めで、そこそこ筋肉が付いている程度。

 

技紹介

獣化

言葉通り獣となる技。腕や足のように身体の一部を変えるものと全身変化をする2タイプ。身体を変化させるといっても嗅覚や聴覚を上げるだけということもできる。

 

白羊子守唄

(夢に出ることで有名な)羊の技で、一定範囲にいる者を眠りに誘う。精神干渉系なので相手によったら聞かない。発動には少し時間がかかる上にエネルギー消費量が多い。

 

アルマジロの外殻

銃弾も跳ね返すアルマジロの外殻を纏う。風や炎などの魔法を受け付けない防御特化の魔法。その堅さを利用して相手の装甲を破ることもある。

 

三封数え歌

ジンヤの持つ封印術の一つ。相手の足場を奪い、その上神経に干渉して動きを封じた上で力を喰らう。3段階目で喰うと同時に封印式を組む。

 

斉天の如意棒

オリ話に出てきた大ザルの憑依していた棒。姿形を自由に変えられる棒で、金剛石並みに硬い。この棒を経由してジンヤに取り憑いて変身することができる。

 

 

微振動

羽虫などが羽を動かす時の動きを高速化させて腕(特に指先)から放つ。脳天や水中では絶大な威力を放ち、場合によっては破壊できる威力。攻撃以外にも探知に使える。

 

分身双棒術

髪の毛などの体毛を使い分身を作って挟み撃ちにする技。所詮は分身なので3分くらいしかもたないし、攻撃を食らうとすぐ解ける

 

月兎飛来

すごいジャンプ。たったそれだけ。かなり長距離、高度を一気に飛べる。

 

大蝦蟇の油

燃えやすい油で、全身の汗腺から出すことが可能。固形化させて塗り薬にもできる。

 

仙法獅子奮迅

エーテリオン吸収で完全に開放した力。嗅覚、腕力、変身速度に反射神経と移動速度が上がる。その代わり、日に二、三回しか開けずしかもどんどん維持できる限界時間が短くなる。また、最初の一回は悟空の助けか、少しの瞑想が必要なので隙が多い。数秒で発動できることもあるが維持時間等が劣ることも。

 

鸚鵡返し

受けたダメージを力に変換して衝撃波として打ち出す。ポケ○ンのカウンターに近い。

 

仙法青龍の咆哮

身体の身体エネルギーを吐き出す。螺○丸に近い。

 

以上がこの小説『FAIRY BEAST』主人公ジンヤの設定集です。フルネームが出た記念に書いてみました。

苗字に当たるマーナガルムは西洋妖怪です。女巨人が産んだ者たちはことごとく狼の姿をしていた。その中には太陽を追うスコル、月を追うハティがいる。マーナガルムはその中で最強の狼で、月を奪い天に血を塗り太陽から光を奪うというものです。

(参考wikipedia)

中々な妖怪ですが、ジンヤはそんなことをすることは多分ないです。語感が良かったのでこいつにしました。

今後はあとがきに動物図鑑や妖怪図鑑を掲載するかもしれないです。作者の気まぐれだと思ってください。

 

 

孫悟空

 

かつてはただの棒だったものに百数前、物好きの魔導士が妖怪の猿を憑依させることで産まれた存在。数々の人間に渡ったものの、数ヶ月前に黒魔法に染められて暴走。その暴走を止めたのが仕事でやってきたジンヤで、それに伴い彼についていくことで暴走の原因の闇魔導士を追うことにした。人間をからかうことが趣味だが裏切りといったことまではしないあたりかなりの物好き。

 

【挿絵表示】

 

 

ジェニファー

 

エドラスのジンヤ。魔戦部隊の五番隊隊長で王都の警備や王都周辺、時に遠征をしている。複合武器を扱っていて、銃火器の扱いには慣れている。国の魔力のためなら犠牲はつきものという考えを持つ一方で、よほど危険性がない限り多少怪しいだけなら泳がせて様子を見るという冷静さもある。軍でもかなり慕われていて、彼女を目指すために軍に入る女性もいるとか。

 

 

【挿絵表示】

 




2017/6/29 ジェニファーの項を追加しました。本当は貴族だとかミストガンに片思いしてるとか色々と設定を考えていたんですがそこら辺は没になりました。部隊長以外のキャラ設定候補として国王の娘だったり、フェアリーテイルの一員で故人だったり反乱軍のリーダーだったり様々ありましたが結局こうなりました。

相変わらず下手な絵ですがジェニファーの見た目こんな感じです。
7/12


2017/12/1 ジンヤの年齢と好きなものを変えました。


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プロローグ
第1話 出会い


フィオーレ王国。そこは魔法と呼ばれる力が溢れていて、市民生活にまで浸透するほど根ざしている。この世界では魔法を仕事や生業にするものもいて、彼らは集まってギルドをなし、生活を送っている。これより始まるは、そんなギルドにいる不思議な力を持つ獣人の少年とギルドの仲間たちが織り成す物語

 

784年、ハルジオン港の近くの駅では、乗り物酔いを起こした青年ナツの近くには青いネコ、ハッピーと大柄の青年ジンヤが降り立っていた。

 

「あの、そちらのお客様は大丈夫ですか?」

「あい、いつものことですから」

「お、おお…」

「すまない、こいつは担いで行くから」

 

あまりにナツの酔い方が酷いからか駅員が心配そうに見つめていたが、いつものことなのでジンヤが担いで駅から出て街中に繰り出した。

 

「もう、やだ…まだ揺れてる」

「それヤバイね」

「ここにイグニールがいるかもしんないだろ?しっかりしねえか」

「イグニール以外に火の竜なんていないもんね」

 

ふらふらと歩くナツに呆れながらも目的の相手を探しにここまでやってきたのだ。人混みを歩いていると、あちこちから女性たちが広場に向かって走っていくのが見受けられた。

 

「サラマンダー様が来てるわ!」「サラマンダー様ー!」

「噂をすれば影だな」

「待ってろイグニール!」

「早いよナツ〜!」

 

会いたいと思っていた相手かもしれないと、ナツが急に復活し、人混みを掻き分けるように突っ込んでいった。

 

==============

 

「あんた、いい加減にしなさいよ!」「「そーだそーだ!!」」

「そう怒らないでくれ。特別にパーティに呼ぶからみんな来てくれ」

 

集まった人々を遠くから眺めていると何か失礼なことでもしたのだろうか、ナツが吹き飛んできてジンヤの目の前で倒れた。もう一度集団の中央を見るとキザな男が火の魔法を使って離れていくところを見かける。

 

「だめだったね?」

「完全にニセモンだったし、なんかムカつくヤローだったなー」

「何やってんだ、お前」

「まったくいけすかないよね、ああいうの。ありがとう、助けてくれて」

「「「???」」」

 

振り返るとそこには綺麗な金髪を持つ少女が笑顔でお礼を言っていた。

 

====

 

場所は変わって近くの食堂に来ていた4人は大量の食事を挟んで自己紹介を兼ねて話し合っていた。この少女、ルーシィは魔導師らしく、魔導師ギルドなどの話をしていく。

 

「へぇ、まろうひでまひふはいか(魔導師で鍵使いか)おもひろほうやな(面白そうだな)

ほれにひても、いいひほはぶあ(それにしても、良い人だなぁ)

「あはは、ナツにジンヤだっけ?2人とも落ち着いて食べていいから、ね」

 

腹が減っているのかただの大食漢なのか、目の前にある食料がどんどん減っていき、流石にルーシィも苦笑いで見つめているしか出来ない。

 

「それにしても、あの男。今は発禁になってる魅了(チャーム)って魔法つかってみんなの気を引こうとしたなんていやなやつよ。ナツが来なかったら私もどうなってたか」

「むぅ」

「私も早くギルドに入って仕事したいなぁ。なんたってギルドは魔導士の憧れの場所でみんなから頼られてる様なすごい人たちでね…」

「よく喋るね」

「こんな喋る子久し振りにみたよ」

 

どうもギルドに入ってあちこち冒険したい様子で、3人とも口を挟む余裕がないほどに熱弁してくる。一通り話し終えて冷静になったのか、何故この街にナツたちが来たのかについて質問してきた。

 

「あ、イグニールか?この町に来たって話だったんだけどなあ」

「あい、完全にはずれだったね」

「人探し?」

「「いや、ドラゴン」」

「そ、そ、そ、そんなの街中にいるわけないでしょ、あんた達全員バカなの?!ちょっと、今気づいたって顔揃ってするな!」

 

すっかり失念していたと言わんばかりに驚いた顔をしたのを見て思わず突っ込んでしまった。こうして楽しいひと時を過ごした少年少女たちはここで別れることとなった。

 

======

「そういえば、あの船でパーティやってるみたいだね」

「うぷっ、想像しただけで吐きっ…」

「しっかりしてくれ」

 

外に出てみるとすっかり日が暮れ、夜の帳が下り始めている。街の高台から海を見下ろすと、昼間に会ったサラマンダーとやらが乗っている船が少し沖合に浮いているのが見えた。

 

「ねぇねぇ。知ってた?あの船で有名なサラマンダーがパーティやってるんだって」

「サラマンダー?」

「知らないの?なんでもあのフェアリーテイルの魔導士なんだって」

「そんなに有名なら私も行けば良かったかも」

 

近くを通った女性たちのその言葉に反応するように、肩が動く。

 

「フェアリーテイルの魔導士、あいつが?」

 

======

 

その船ではサラマンダーことボラがルーシィを騙し、奴隷として隣国に売り捌こうとしているところだった。

 

「もはや君は私からは逃れられない。ボスコまで来てもらう。勿論フェアリーテイルの話もなしだよ」

「(こんな…こんなこと...)」

「さあ、奴隷の烙印を…」

「最低じゃない…」

 

憧れのギルドに入れると思っていた彼女は悔しさと己の無知さに涙を流した。ボラが奴隷の烙印を押そうと熱した焼き鏝を持ち上げた瞬間、船の天井が壊れ、そこから1人の男と大きな獣が現れた。

 

「昼間のガキか!?それになんだあの白い虎みてぇのは!」

「ナツ!なんでここに?…ええ!?あんたこんなの飼ってたの?!」

『虎じゃねえよ俺。あ、虎か』

「えっ、ジンヤ⁉︎」

 

突然現れた侵入者に驚く声が響く。なにせ虎のような風貌の獣が言葉を喋り、その背にはナツが乗っていたからだ。ボラもルーシィも2人に面識があるから余計に戸惑ってしまう。

 

「あ、ルーシィ発見!とりあえずつれてくね」

「飛んでる!?しかもなんで羽が!?」

「これも魔法ですから」

 

上空には羽の生えたハッピーがおり、一瞬にして驚くルーシィを連れ去っていった。

 

==============

 

「ふー、ふー。ようやく落ち着いた」

「(岸まで流れたか。ルーシィ何やったし…)」

「2人ともまだ無事!?」

「あー、ナツが酔ったこと以外は大丈夫だ」

 

気づけば何かに押されるように船が岸まで戻され、揺れもかなり収まっていた。その原因を作ったルーシィとハッピーは2人の無事を確認するためにわざわざ部屋まで戻ってきたのだ。そんな彼らに怒りを覚えながらもボラは挑発するように悪どい笑みを浮かべている。

 

「ふむ、勝手に侵入してくるとは感心しないよ?」

「お前か、例のサラマンダーてのは」

「フェアリーテイルの魔導士なんだってな?よぉく面みせてみろよ」

「だから何度言えば良いんだ?俺がサラマンダーだよ」

 

肩を竦めるボラを睨みつける両者は上着を脱ぎ捨てた。そして向かってくるゴロツキどもを思いっきり殴りつけ、声を張り上げた。

 

「俺はフェアリーテイルのナツだ、テメェなんて見たことねぇ!」

「同じくジンヤだ。この通り、ナツと同じギルドのもんだ!この紋章を見て、文句は言わせねぇぞ!」

「えっ、2人ともフェアリーテイルの魔導士なの⁉︎」

「腕と脇腹のあの紋章、まちがいない!」「やばいよ、ボラさん!」「そ、その名で呼ぶな!」

 

各ギルドごとに刻まれる紋章がナツの肩に、ジンヤの脇腹に堂々と妖精の紋章が付いていた。

 

「ほぉ、紅天のボラか」

「確かタイタンノーズを追い出されてたね」

「あぁ、あいつか」

 

かつて犯罪紛いの行為に手を出し、ギルドを破門されたこの男は金儲けのために人身売買にまで手を出していたのだ。そんな言外に侮蔑の言葉を受けたボラは激昂し、炎をナツめがけて放った。

 

「くそ、テメェらのせいで全て台無しだ!これでもくらえ!」

「ナツ!」

「あれくらいなら、大丈夫だルーシィ」

「ナツの魔法は特別なんだ」

「ど、どういうこと?2人は何であれを見て平然としてられるの?!」

「本人が平然と炎食ってんのにこっちが何を慌てる」

「えっ?えええええ!?」

 

慌てたルーシィを宥め、炎をみると徐々に小さくなり、ナツが食らっているのを見て再び驚いていた。ボラは慌てるあまりにその場でへたり込んでしまう。

 

「炎食ったら力が出た。行くぞぉ!」

「ハッピー、ルーシィ、離れるぞ。あいつの魔法は強くて危険だ」

「炎食べたり、炎で殴ったり。本当に何なのあれ」

「あれは竜を倒すための力だよ」

「イグニールが教えてくれたんだってよ、滅竜魔法」

「なんで竜が自分を倒すための魔法を教えたんだろう」

「さあな、今となってはわからない」

 

ゴロツキどもを相手に一騎当千の暴れっぷりを見せるナツをよそに、先に離れて街に戻っていく。そして数分後にはなぜか港がナツのせいで壊滅しており、犯罪者どもが全員のされていた。

 

「ナツあんた暴れすぎ!なんで町が壊滅すんのよ!」

「こりゃやべえな、軍隊が来てやがる。追いつかれる前に逃げるぞ」

「ルーシィ、お前も来いよ!俺たちのギルドに来たかったんだろ?」

「…うん!」

 

こうして1人の少女との出会いがギルドを大きく変えていくのだった。

 




はじめまして。《ぽおくそてえ》です。
案外小説って難しいなと実感した1話目です。なんか地の文が難しくて今回は冒頭除きほぼ無しにしました。もしかしたらまたこういう形式になるかもしれないです。
これからも当作者《ぽおくそてえ》をよろしくお願いします。


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第2話 妖精の尻尾へご招待!

どうも皆さん。ぽおくそてえです。寒くなった途端風邪になりました。情けない限りです。

<前回のあらすじ>
ハルジオンで偽の火竜ボラを滅多打ちにして、大暴れしたナツたち。新たな仲間ルーシィをつれてギルドに戻ってきました。
今回はその次の日になります

それではどうぞ!


ルーシィ「すごい、こんなに大きいだなんて…」

ジンヤ「気に入ってくれて重畳の至りだな」

ハッピー「ようこそ、フェアリーテイルへ!」

 

 

「ミラちゃーん、ビール!」

ミラジェーン「は〜い、ちょっと待ってね!」

「ミラちゃーん、俺と付き合ってくれ!」

ミラ「うふふ、諦めなさい?女の子はいくらでもいるでしょう?」

「ウワッ!それをいわんでくれ!」 ワハハハハ!

ここはフェアリーテイル。フィオーレ随一の人と仕事、実力が集うギルド。今日も相変わらずの騒がしさ。

ミラ「あら!帰ってきたみたい。」

 

ナツ「ただいまー!」

ハッピー「ただー!」

ジン「よぉ、かえったぜ」

ルーシィ「すごい活気ね」

 

ボラの事件のあくる日、彼らは無事ギルドに戻ってきていた。

 

ミラ「3人ともおかえりなさい」

「おう、ミラちゃんか。こいつは新しく来た人なんだが手続きとか頼めるか?」

「分かったわ」

 

ルーシィをミラに任せ、ナツに声を掛けようとした瞬間…

「よぉ、おかえりナツ!どうだったよ?見つかっ、ブハァ⁉︎」

「サラマンダーの情報、嘘じゃねぇかぁー!!」

ナツがギルドの仲間に突っ込んでいった。

「おーおー、やってるね」「ワッハッハ!もっとやれ、ナツ!!!」

 

「おい、ジンヤたちが帰って来たって?ジンヤ!今日こそ倒す!」

「グレイか。昔みたく返り討ちにしてやる。あと半裸はやめれ」「うぉ、そうだった!」

これを皮切りに個性的なメンバーに囲まれ、戦いを申しこまれているうちに大喧嘩に発展し始めてしまった。

「変人ばっかだなんて、このギルドにまともな人いないの?」ドガッバキッ!!

「おい、俺は至ってまともだぞ!」ズドンッ!ヒュン!

「あなたがジンヤの言ってた新人さんね?」

「ミラさん!?本物の!?ってそれよりあれいいんですか?」

「いいのよ、いつものことだから」

 

 

カナ「酒が飲めないじゃない!いい加減に、しなさいよ!」カッ!

グレイ「うざってぇ!」キィーン!

エルフマン「ウオォー!!」ズァッ!

ナツ「オラオラァ!かかってこいやぁ!」ボゥ!

ジンヤ「鎮めよ、『白羊子守唄』」スゥッ

 

ドスン!!!

「やめんか、バカたれども!」

ルーシィ「でかぁー!!」

 

突然ギルドに響いた鶴の一声により、まるで先ほどの騒ぎが嘘のようにしんと、静まりかえった。

「ちっ」「ふん!」「はぁ」

 

ナツ「だーはっはっはっはー!!情けねえな、これは俺の勝ぴぎゃ!?」

ナツは勝手に盛り上がってたが…押しつぶされてしまった。

マカロフ「むっ?新人かね?ふんぬぅー!…よろしくね?」

ルーシィ「えええ!?(小さい!?)」

 

マカロフ「貴様らあ。またもや問題を起こしよったな〜?まずグレイ!盗賊団壊滅に貢献もその時下着を盗んで逃走。エルフマン!護衛中の婦人に暴行!そしてナツぅ…。町の半壊、歴史的な時計塔の破壊。ハルジオン港で暴れたらしいな!ジンヤ!なんで止めんのじゃ!」

ジンヤ「これでも被害は小せえほうだぁ!最悪死人出てたんだぞ!これでも感謝されてぇくれえだ、全く」

ナツの暴走のとばっちりで怒られながらもそうぼやくジンヤであった。

================================

マカロフからの激怒と叱咤を受けた後、いつもの落ち着きと喧騒を取り戻していた。

 

「はい、ここでいいのね?」

「お願いします!…やった!ナツ見て、私も仲間の一員よ!」

「良かったな、ルイージ」

「ルーシィよ!!」

 

「ナツを押し付ける様な真似をして済まないのう」ぱちん

「気にすんなよじいさん、俺たちは家族だろ?できの悪い弟の世話をしてるだけ。あんたから頼まれてる以上尚更な」ぱちん

「優しい男だな、お前は」ぱちん

「ほめ言葉としてうけておくよ。これで詰みだ!」ぱちん

「ぬぅまたワシの負けか...」

「精進しろよ。じゃ、明日おごりな」

「仕方ないのぅ」

ジンヤに完膚無きにまで負かされたマカロフは己の財布を心配していた。




千字書くのって難しいですね。2000字くらい書けるようになれたらな、とか思っちゃいます

さて、次回は「日の出編」に該当する部分ですが、ジンヤ君はオリジナルのクエストに出かける予定です。うまくかけるか心配ですががんばっていきます。
それではまた次回お会いしましょう
それでは


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第3話 絶望の悪夢、光にて照らさむ 前編

前回のあらすじ
 ナツたちによってルーシィはフェアリーテイルに加入する。ジンヤはけんかを吹っかけられて怒られた。

今回は前回書いたとおりオリジナルものになります。おそらく二話くらいに別れます。

それではどうぞ


ギルドの喧騒の中、ジンは1人依頼を探していた。ギルドではルーシィたちが雪山で大ゴリラを倒してマカオを助けたことで持ちきりだ。当のナツとハッピーは「ルーシィと仕事に行ってくる」の一言で彼女の新居に向かっていってしまった。

「ルーシィも大変な奴に目をつけられたな…ジジィ王手だ」

「あっ、待った!」

「待ったなしだぜ?」

 

ジンはマカロフと将棋を指しながらルーシィに同情するのだった。

「さて、仕事に行くかね?今日は…これだな」

 

名峰クガの麓のカダ村にて凶暴で

大型の黒い猿型のモンスターが出現

名のある者は急ぎモンスターの討伐に向かわれたし

報酬500万

村長、村民一同

 

「マスター、これで頼む」

「…お前だから大丈夫だろうが気をつけろよ。軍も返り討ちになったそうだ」

「ああ、気をつける」

×××××××××

 

「さすが、名峰というだけあって周りの空気も景色も素晴らしいな。」

 

名峰クガ。天につく程高い山でその麓にあるカダ村は美味しい水と土、天候に恵まれたところで療養で訪れる者が多い。ここで取れる薬草などは王国で使われる程で、効き目や値段が高いことでも有名だ。

 

「おーい、どなたかおりませんか?フェアリーテイルから仕事で参ったものです!」

「やや!来てくれましたか!待っておりましたぞ魔導士殿!私は村長のハマチですじゃ、以後よろしく」

「ジンヤだ、早速でもうしわけないのだが仕事の話に移りたい。依頼書を読んだがただの討伐依頼にしてはかなり高額だ。軍がやられたそうだがそれでも異様でな、一体何が?」

「…実はかの大猿には大変苦しめられておりましてな。怪我人の発生や商業の妨害の他にも、軍隊や魔導士の方が挑んで返り討ちにあっておりますじゃ。そんなことを見てから村民は毎日怯えた状態で暮らしており、私自身もここ何日も眠れておらんのです!もう…早く悪夢から解放されたいのです!どうか…どうか!」

「話していただき感謝するぜ、村長。村を襲い不安を煽るようでは、いくら同じ間中の血を引くとは言え、許せぬこと。この仕事、責任を持って進めておく。もう眠れぬ夜が来ないようにな」

 

==============

クガ山中腹広場にて

「話ではここに現れるということだが?」

待つこと数分、前方から黒い気魄を出しながら大猿がゆっくり進んできていた。

「何者ダ。ココハ、我ノ住処デアル!如何ナル者トテ赦サヌ、追イ出シテヤロウゾ!」

「こいつが依頼書にあった大猿か…人様が迷惑を被ってんだ!狩りとってやらぁ!」

「ヤッテミロ。返リ討チニシテヤル!」




はい、というわけでオリジナル第一話です。ちょうどエバルーや星霊のキャンサー(語尾が「-エビ」のカニです)やバルゴ(このときは太っていたメイド)が出ている時間軸です。(詳しくは原作読んでね)

オリジナルストーリーは先ほど書いたとおり後1,2話あります。先に進んでくれ、という方もいるかと思いますがどうかお付き合いください


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第4話 絶望の悪夢、光にて照らさむ 後編

どうも、ぽおくそてえです。2日連続でこんにちは
はい、オリジナル後編です、なんとか2話にまとまりました。
戦闘描写に不安ありです、うまく書けてればいいですが。
それではどうぞ。


「はぁ、はぁ、はぁ…なんてヤローだ。ここまでしぶといヤツは初めてだ!急所狙っても倒れねぇし、魔獣の両腕を解放しといてこれとは…」

「ウゥ、ギュぉぁがぁー!!!ワレハ斉天大聖ノ、孫悟空サマジャア!」

うめき声とともに木の幹くらいある腕を振り上げて火をまといながら振りぬいてきた。

「我ニ挑ミシ不届キ者メ、死ニサラセ!」ドゴォ

「グフォッ!!…うぇ、ゴホッゲフッガハッ!ぺッ!能力で固めてなきゃ腹抉られてたな。にしても、効いたぁー。体が痺れやがる」

すかさずに、硬い皮膚を持つアルマジロに変身したが威力の高さを前には防ぎきれなかった。

 

「ウハハハハ!我ノ力ガ溢レルヨウダ!カノ者ニ力ヲ与エテモラエテカラ!」

(かの者?誰かがあいつの魔力を暴走させてるのか?だったら力の供給源を止めてあふれた力を食い切るしかなさそうだな。…ここであいつを仕留める!)

 

[我が魂魄、この身が滅ぼうとも貴様を食い止めてみせようぞ。わが意思にてその姿を現せ!]

 

「ナ、ナンダソノ姿ハ!」

『これは獣人の力を先程より更に引き出したものだ。貴様を止めるにはもはやこうせざるを得まい!』

全身から血より紅い蒸気を出し、上半身を石榴色に染めた爬虫類のような姿にさすがの悟空も驚きを隠しきれない様子でいた。

『貴様の動きを止めて、その力を頂くとしよう!一つ、玄武【崩地渇水】!』

その声で地面が割れ、

「グッ、片脚ガ!」

『立て続けに行く。二つ、【大蛇不動の大見得!】』

(ナンダ、ヤツノ背後ニ見エルノハ!カラダガ全ク動カヌッ!我ハコイツニ畏怖シテイルノカ!)

 

《大蛇不動の大見得》。獣人解放時に現れる力で蛇睨みの様に、相手を竦ませてしまう力を持っている。もはや、動く余裕も話す気力も削られてしまっていた。

 

『これで仕留めるとしよう。すべてを喰らってやる!三つ数えて仕上がりだ!三封数え歌《餓鬼鮫の大顎》!』

ジンヤの右腕から先がまるで鮫のように皮膚が逆立ち始めた。動けなくなった悟空を捉え、その身の黒い気を食い始めた

「グォォオー!!ワシノ、ワシノ力ガァアアァア!」

 

 

彼が目覚めたのは戦いから一刻が過ぎたころ、もう日は沈み始めていた。

「…はっ!ワシはここで何をしておったんじゃ?」

「意識を取り戻したか。その様子じゃ何も覚えてねえの?」

「ふむ、そなたがワシを救ってくれたのか。迷惑かけたな…。すまぬがいきなり襲われたもので何がなんだか。変な力を入れられたのは憶えておるのだが…そうじゃ、思い出したわい!そやつは黒髪に漆黒のマントをつけて『黒魔道士』を名乗っておったわ!」

「なにぃ!黒魔道士だ!?…なんてこったいあいつか!最恐最悪の黒魔道士『ゼレフ』だとは!」

「ゼレフじゃと⁉厄介なことに…。折角じゃ、お詫びと言ってはなんじゃがワシの力をそなたに貸そう。如意棒にワシを取り憑かせたもので、如意に姿を変えられる優れものじゃ。戦術が広がってそなたの役に立つじゃろう」

「ありがたい。これで遠距離攻撃もバッチリだ」

黒魔道司ゼレフ、400年前に世界を陥れる魔法を作った本人だ。彼はもはや伝説、生き残っているはずはなかった。重い風が吹きぬけていった。

======

「村長、世話になった。3日も泊めさせてもらった上に看病まで…」

「なに、こんな悪夢から覚めたのです。これぐらい恩返しさせてくだされ。我々の恩人ですから」

「そうか、何か困ったら伝えてくれ。いつでも来る」

「嬉しいのぅ。そうじゃ、君に評議会の支部から連絡が来ていましたぞ?確か緋色の髪の女性からあなたに連絡を取りたいと…」

「……それってあいつじゃねえだろうな、おい?全く俺も運がねぇな」

 

村の連絡所にて

「はーい、ノックしてもしm「私だ。そのラクリマにノックするところなどなかろう、ばか者が」いきなり罵倒か、ショック」

「できればギルドで話したいことがある、急ぎ戻っておいてくれ」

「あいよ、怪我に響かねえ程度に急ぐよ」

「うむ、ではな」

「はぁ、帰ったら説教か。面倒なことn…ちょっと待て、何で俺の居場所がわかったし!しかも評議院にいるって、何したしぃ!?村長ォ帰りの馬車用意してくれぇ、今すぐにぃ!」

 




終わりました、オリ話。思ったより難しいです、オリ話。
次からは鉄の森、アイゼンヴァルド編です。最後に出てきた人誰だかわかった読者さんも多いのでは?
それでは、次までサイナラ!


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第1章 危機!鉄の森編
第5話 紅の女王様


はい、今回から原作の鉄の森編突入です!
話がちょっと蛇行したりカットしたりと、いろいろ迷走すると思いますがよろしくお願いします。
それでは鉄の森編、スタァートォー!


如意棒と悟空(精神世界にいます)を連れて大怪我を負いながらも仕事を終えてから二、三日たったある日。大怪我を負って帰ったジンヤに周りからどよめきが起こり、三日三晩ギルド専属医に預けられたのはここだけの話。

 

「ナツ達がケンカしてんの見ると相変わらずで安心するな」

「ジンヤ、まだ治りきってないんでしょ?ギルドに顔を出してくれるのは嬉しいけど、家に帰って寝たら?まだ痛むんでしょう?」

「ミラさんの言う通りだよ?みんな心配してるし、無理しなくて良いんだよ?」

「2人ともありがとよ。だけど今日はちゃんと理由があって来てるんだ。この前の仕事帰りに今日帰ってくるって連絡があったんだよ。あの妖精女王から」

「妖精女王?」

 

ジンヤの口から出た聞きなれない言葉に思わず聞き返してしまう。その反応の意味をようやく理解したミラが妖精女王の(あざな)を持つエルザというフェアリーテイル最強の女魔道士で、ここらでは有名な魔導師であるということを説明してくれた。

 

「オイ、あいつ来るんだと!」「マジか!まだ心の準備ができてねえ!」「早すぎだろ!」

 

皆にルーシィからしてみれば不自然な動揺が走る頃、ギルドの門の方から不自然に大きな音が聞こえはじめて、ギルドメンバーの顔から恐怖と焦りで一気に血の気が抜けた。

 

「ジンヤ、なんか空気がすごく重いけど…?」

「まあ俺もなんだがここにいるヤツ皆、彼女がちょっと苦手なんだよ。おっと話してたら来たぞ」

 

そこに現れたのは魔物のツノを抱え、鎧に身を包んだ綺麗な紅の髪を持つ妖精女王ことエルザだ。

 

「ただいま戻った。マスターは居られるか?」

「今定例会に出てここには居ないわ」

「そうか。相変わらず貴様らはマスターの手を煩わせてるらしいな。仕事の合間にも色々聞いたぞ。マスターが許しても私は甘やかすつもりはない!」

 

帰ってきて早々にギルドの問題児たちを叱りつける姿にどこかしら風紀委員のような佇まいすら感じられた。

 

「ナツとグレイは仲良くやっている様だな…む?」

「(あー、見つかっちまった)」

「(まあ、頑張れジンヤ)」

「(ミラ、テメェ他人事だからって!)」

 

味方だと思っていたミラに突き放されたジンヤは至極不機嫌そうな顔をエルザに向けていた。半分諦めに近かったが…。

 

「ジンヤではないか⁉︎この前連絡した時かなり重傷だと聞いたが大丈夫なのか?全くお前という男は!いくら実力があるとはいえ、今回の様な…」

「(やってらんねぇ…)」

「ふむ、今回はこの程度にしてやろう。大事な話をしそびれては意味がないからな…」

 

そうと言っておきながらその場にいたほとんどの者を片っ端から説教していたのでこの程度レベルの話ではないとルーシィは心底ツッコミたかったが後が怖いので黙っていた。

 

「ナツ!グレイ!ジンヤ!明日私と協力してほしいことがある!来てくれるな?」

「うぇっ!?」「いいっ!?」

「この前の話、本当だったのか!?俺はまだ治ってないんだぞ!幾ら何でも無理があるだろ!」

 

大怪我が治りきっていない自分としては何としても回復に専念したいところだ。いくらエルザの頼みごととはいえ、そう簡単に受けられるものではない。

 

「それを忘れるほど私は薄情じゃない。だがそれでも来てくれ。お前の実力と経験がこのときは必要だ」

「チッ」

「詳しくは明日説明する。準備を怠るな」

 

そういい残してナツたちの小さな抗議を聞き流して去ってしまった。

 

「大変な事になりましたね、ミラさん」

「ええ。それに考えた事なかったけど、この4人が組むってなると最強チームかも」

「え!そうなんですか!?」




2017/9/6 地の文の追加と一部の表現を直しました。


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第6話 死神のいる空

「くそ、エルザがいる上にナツまでいんのか。胃に穴が開きそうだ」

「俺だって!で、なんでルーシィとジンヤも来てんだ?」

「「あんたら(テメェら)のお守りよ(だよ)!」」

「すごい息ぴったり」

 

エルザが帰ってから1日、集合場所に指定された駅で待ち合わせていたがあいも変わらず喧嘩しようとしたナツたちには疲れ果てていた。

 

「もぉ、ミラさんに頼まれなかったら来たくなかったわよ…」

「本当はきたかったんでしょ?」

「うるさい、ネコ!」

「ナツ、グレイ。そこまでにしとけ。来たみたいだ」

「すまない、待たせたか?」

「「「荷物多っ!」」」

 

何ヶ月旅行をするのだと言わんばかりに大量に持ってきたバッグに見慣れているジンヤ以外は驚きを隠せなかった。

 

「ジンヤが来てくれて嬉しいし、噂の新人もいる。今回は楽に行けそうだ」

「そう言ってもらえると嬉しいのですが多分出回ってる噂、ほとんどナツです…」

「それより良かったのか、さっきのナツとの約束」

「別に構わん」

「そうか」

 

エルザは列車に乗る前にナツとの約束(決闘)が行われていたのだ。列車に乗ると、お互いに紹介が終わって話題に入ることになった。

「さてと本題に入るぞ、皆についてきてもらったのには訳がある。昨日も言ったが、とある物について不吉な情報が入った。そいつらは"ララバイ"の解除をするらしい」

「なんだ?催眠術にでもかけるってのか?ちと厄介そうだがそこまでか?」

「最初は私もその程度の認識だったさ。しかし、ある名前を聞いた時ほど後悔した時はない」

「(この人怖っ!)」

 

自分のしたミスへの後悔と聞いた名前への怒りは隣にいたルーシィを震わせ、恐れさせた。冷や汗を流しながら、努めて冷静にしていたグレイが話を進めた。

 

「で、誰のなんだ…その名前って」

「お、おぉ」

「そいつの名は死神エリゴール。闇ギルド『鉄の森』リーダーで暗殺の仕事ばかりしているやつだ」

 

非合法な存在である闇ギルドが絡んでると聞いただけでルーシィは半ば諦めムードになり、帰りたい様子を見せ始めていた。

 

「ついてこなきゃ良かったかも」

「頼まれたのが運の尽き、諦めろルーシィ…(闇ギルドねぇ?何考えてんだか)」

「ううー、ジンヤのイジワル!」

「やつらは何かしらを企んでいるのは確かだ。それならば我々で止めるしかない。仕掛けるぞ!」

「面白そうだ」

 

==============

オシバナ

 

鉄の森壊滅に向けて早速、(約1名程除いて)闘志を燃やしていた。

「確かこの町にいるんだったな」

「あぁ。移動してしまうかもしれんから急ぐぞ」

「あっ!ちょっと待って、ナツがいないんだけど!」

 

さっきの列車でそのまま置いてきてしまったのだ… …街について早々に先行きが不安になった。

 

「私のせいで乗り物に弱いナツをおいてきてしまうとは!だから電車を止めてくれ!」

「そう申されましても」

「なんで無茶振りなのかしら」

「ああいう奴なんだよ」

 

手段を選ばないやり方にフェアリーテイルのメンバーが変わっていることがなんとなくだが、悪い方向に掴み始めてしまってるルーシィだった。

 

「おい、エルザ?その右手にあるのはなんだ?まさか下げないよな、頼むから…嗚呼、また始末書か…マスター、すまぬぅ!」

 

ジンヤの制止を聞くことなくエルザは躊躇せず非常停止バーを下げてしまい、始末書に追われることに恐怖と絶望を見たジンヤはその場でホワイトアウトしそうになった。

 

÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷

 

一方ナツは、(エルザによって無理矢理)緊急停止していた電車でカゲと名乗る男とかち合っていた。

 

「さっきはよくも俺たちのギルドをバカにしやがったな!ボコしてやる!」

「調子にのるなよ、このハエが!」

 

が、喧嘩が始まって束の間、緊急停止信号が誤報と判明し、運転を再開してしまうアクシデントが発生してしまった。ようやく乗り物酔いが止まったナツにとっては最も不吉な放送が鳴り響いた。

 

「やべっ、逃げよ」「ふざけるな、逃がすか!」

「いつかぶっ飛ばしてやる!それまで待ってろ、うぷ...とう!」

 

再び走り出した列車から飛び降りたナツの目の前にはようやく追いついたメンバーの乗った魔導四輪、しかも屋根に乗ってたグレイと正面衝突するという事故まで起こしていた。

 

「ナツ!」

「なんで飛んでんだよ!」

「あぶねぇな。まあ、無事で何よりだが」

「無事じゃねぇよ。さっき変な奴に絡まれたし…たしかアイゼンヴァルド?のカゲ、だったかな」

 

「バカモノォ!」

「んがあ!?」

 

ナツはエルザの強烈な一打を受け、ものの見事に車両3つくらい吹っ飛んでいき、あまつさえ見覚えのないことで説教まで受けていた。

 

「なんで話を聞いてないんだ、私達はそいつらを追っているんだぞ!」

「(見事な平手打ちだ、痛そ)無理言うな,列車の中じゃ聞こえてねぇよこいつは」

「今はあの中にいる奴を追うのが先決か。どんな奴だった?」

 

敵と遭遇したとなればなるべく目が離れないようにしたい。後を追おうとナツからなるだけ情報を聞き出す。

 

「あんま、特徴なかったな。変な三つ目の笛を持ってたけど」

「もしかして…。笛、ララバイ、呪殺魔法…。やばい、その笛がララバイよ!集団呪殺魔法ララバイ!」

「っ!くそっ…なんかいやな予感がしてたんだよ!」

「なんてことだ…皆乗れ!間に合わなければ被害は甚大だ!」

 

÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷

 

「駅を占拠したみたいだぞ、あいつら。」

「何で駅なんて?」

「列車はスピードはでるし、大人数で長距離移動が可能だ。その上、ここの駅は交通の要所。ま、こんなもんだろ」

「なぜ脱ぐ…」

 

闇ギルド『鉄の森(アイゼンヴァルド)』が占拠した駅まで乗り込もうと魔導四輪を最大速度まで飛ばしていた。

 

「エルザ、一回交代しろ。いくらお前でも魔力が足りなくなって、あっち行った時にバテるぞ!」

「構わん。多くの市民の命を守れるなら…」

 

そう言って残り少ない魔力を込めてさらにスピードを上げ始めた。

 

「ルーシィに何か渡そうと思ったんだけど、なんだっけな?うーん。ルーシィ、変、魚、おいしい。ルーシィ、変…」

「変って何⁈」

 

変な会話が行われてる中、一行は人をかき分けながら駅の入り口に進み、奥に目的の人物の目撃情報を得た。

 

「奴らは駅の中だ!死神相手じゃおそらく軍隊は勝てやしねぇ!」

「待って、早過ぎ!ナツが逝きかけてる!」

「しょうがないよ。電車→魔導四輪→ルーシィ三連コンボだよから!」

「あたしもかい!」

 

ナツが限界を超えつつある中、広場には大量の魔導士が待ち受けていた。

 

「まってたぜ、ハエ共」

「お出ましか、死神エリゴール。一つ聞く。何故黒魔法なんかに手を出したよ。死神も地獄の底まで堕ちたか?」

「ふん、ハエが何を叫ぶ。俺の高尚な考えなど分かるまい!これは我々の権利を奪った者達への罰なんだよ、処刑なんだよ!」

 

空を飛ぶエリゴールがこの世の全てを恨むが如く叫ぶ。

 

「俺たちから仕事を奪ってのうのうと生きている馬鹿どもが許せねぇんだよ!野郎ども、俺は笛を鳴らしに行く。こいつらを止めておけ!」

 

一通り叫び終えて、どこかに目的でもあるのか窓から外へと出ていった。

 

「行かせてはまずい!ナツ、グレイ、ジンヤ!先に行って止めてこい!」

「やっぱこうなるか…2人とも行くぞ!」

「ルーシィ、やつらは我々で倒すぞ」

「えっ!女の子2人であの人数を⁉︎」

「徹底的に行く。悪は栄えない、それを分からせるだけさ」




どうもこんにちは、ぽおくそてえです。
今回は鉄の森編二話目です。いつもより1000文字近く多めになってます。

さて、お気づきの方もいらっしゃるかと思いますがこたび新しい小説を書くことになりました。もう少し先の予定でしたが、自分の書きたいという願望が「いいや、限界だ!」といわんばかりになりまして早めに出すことになりました。つきましては、この小説が若干ですめばいいですが亀化、レベル低下の懸念があります。それでも「かまわん、やれ」とおっしゃっていただける方はこれからもお願いいたします。

それではまた次回

====

2017/9/6 地の文追加です。文章も少し直しました。


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第7話 風のバリアーを突破せよ!

UAが1,000を超えました!ありがとうございます!
未熟者ですがこれからもがんばっていきます!

失礼、うれしさで若干WRY!してました。
それでは本編スタートです


「エルザのヤロー、俺らをこきつかいやがって!」

「全くだ!氷と炎は合わねぇっつぅーの」

「(なんでこいつらが張り合ってんだよ)」

 

エルザに半強制的にエリゴールの追跡をさせられている三人だが、早速その内の2人が殴りあいながら構内を走り回る。そんな彼らの目の前には分かれ道が現れた。

 

「十字路か…」

「おれは左だな」

「それじゃあ、おれ右な」

 

相反する性格の2人のお陰ですぐさまにそれぞれの行く道が決まった。敵を追おうと走りかけた2人にジンヤは発破をかけた。

 

「ナツ、グレイ。ここから先、いつエリゴールに会ってもおかしくない。魔笛を持ってる、見つけたら手段を問わない!徹底的に倒してこい!いいな!」

「おう、当たり前だ!今更だよ」

「それにフェアリーテイルに喧嘩売った大馬鹿だ!」

「そうだな。2人とも健闘を祈る、散開だ!」

 

2人の力強い覚悟とその言葉に笑みを浮かべ、自分の行くべき目の前の道を走る。一方エントランスのエルザとルーシィ、おまけのハッピーは目の前の敵の軍勢と戦っている。

 

「一気に行く」

「剣!魔法剣だ!」

「あれはエルザの魔法の一部だよ」

 

何十人といる男たちに臆すことなく両手に剣を持つ。

 

「魔法剣士なんて珍しくもねぇ!」

「こっちにもたくさんいるんだよ!」

「かかれぇ!」

 

手に武器を持ち合わせた数人が先手を取って襲い掛かってきたものの、まるでハエを叩き落すかのように次々となぎ倒されていく。

 

「っ!速い!」

「すごい!かっこいい!」

「エルザは剣の天才だよ」

 

他の魔道士も我先にエルザを倒そうとするがまるでついていけず、結局は返り討ちにあっていた。しかも剣のみならず、他の武器に次々と切り替えながら戦う。

 

「なっ!?あれは太刀か!」

「ハンマー!?」

「槍まで使えるのか!?」

「くそっ、なんで速さで換装するんだ!」

 

そう、手元で切り替わる瞬間が視認できない程に多種多様な武器を切り替えているのだ。

 

「換装?何それ?」

「ルーシィの星霊に似てて別空間にストックした武器を出すって仕組なんだ。すごい人はエルザみたいに瞬時に出せるんだ。でもそれだけじゃない、エルザの本領はここからだよ」

「まだ、何か持ってるの?」

 

ルーシィの疑問にハッピーはエルザを指差す。すると、エルザの鎧が剥がれていく。

 

「まだいるようだな…。面倒だ、一掃する!」

「鎧が!」「おお!取れて行ってるぞ!」

「あれがエルザの十八番、その名も『騎士(ザ・ナイト)』!」

 

その言葉を受けたようにさっきまで来ていた鎧と代わりに、羽が生えたような姿になり、その背には剣が浮いていた。

 

「舞え、剣たちよ。天輪・円環の剣(てんりん・サークルソード)!」

「ゴフッ!?」

「ぎぇあ!」

 

漂う剣がまるで意思を持っているかのように残っていた連中も叩っ斬る。

 

「わぁ!全員一発だ!」

 

こうしてエントランスに居た魔導師たちは反抗する気さえ削がれるほどに完璧に負かされ、ルーシィはその勇猛さに痺れた。そんな彼女にエルザが視線をよこす。

 

「ルーシィ、ナツたちと合流してくれ。彼らを頼んだぞ」

「えっ、私が!?」

「たのむ!!!」

「はいっ!!」

「(魔導四輪で飛ばし過ぎたか。皆、後は頼んだぞ)」

 

エルザの脅迫に近い頼みにハッピーを連れてルーシィが他の3人を追う。その後ろでは鎧を解いたエルザが魔力不足と疲れからその場でため息を吐いた。仲間を信じ、1人歩き始める。

 

====

 

「こっちにはだれも居なかったな。戻るか…。なんつってな、壁から出てきな!」

「...オレの魔法を見破るなんてな」

「潜行魔法か。面白いもの持ってんだな、闇ギルドの連中は。さて、俺は先に行きテェんだよ。ぶっつぶれろよ」

 

真ん中の道も突き当たりに差し掛かったジンヤの前には、敵の1人、カラッカが壁から出てきた。闇ギルドの仕事を阻止するのに彼を邪魔に感じ、髪を逆立てる。

 

「そうさせられねんだ。こっちも計画があるんだよ、だから行かせねえよ。マスターたちを殺せば…」

「山嵐千本針!」

 

敵がそう話を切り出そうとしたらそれを制するように髪を鋭く飛ばした。

 

「うぁた!危ないな」

「壁に隠れるとか厄介この上ないな」

「話を最後まで聞けよ!このっ、このっ!」

 

その行為に怒りを覚えたカラッカはジンヤめがけて、壁の中身を削って投げつけてきた。能力の使い方は変わっているものの、ジンヤにとっては脅威ではなく、1つずつ丁寧に避けていく。

 

「(壁に片手を突っ込んで壊して投げるか。単純だが悪くない)」

「な、なんで当たらねんだ…」

「悪くはねぇが、全力を出すまでもねぇな。沈んでもらうぜ」

「えっ?ひいい!」

 

恐怖に怯える敵の顔を壁にぶつけ、その耳の近くで右手から象すら気絶するほどの振動を与えた。人間が耐えられるはずもなく、カラッカはその場で崩れ、倒れ伏せる。

 

「微振動だが、そこそこ強力だぜ…なんか消化不良だな。さてと、どうすっかな?外行ってみるか」

 

不満げに戦い終わって外に向かって戻っていると、途中でどうやら怪我をしてるグレイと偶然遭遇した。

 

「お、グレイ大丈夫か?怪我してんがな」

「ジンヤ、来たか。ちょっと外に行こうとしたんだが外に出られねぇんだよ。エリゴールの魔法だろうけど、変な風のバリヤーができてんだ。通ろうとしたらミンチだ、ありゃ」

「そんじゃあエリゴールはどこに行こうってんだ?駅の周りで演奏するならそこまでする必要もないだろうが」

「とりあえず、エルザのところに向かうか。ここでは解決しそうにないな」

「はいよ」

 

別れたナツの心配をする必要はあるまいと判断し、エントランスの方にいるはずのエルザの元へと走る。

 

====

 

「知らねえよ、アレの解除法なんて」

「…これで詰みか!逃げられて大分経っているのに!」

 

倒した者で唯一気絶していないメンバーに拷問に近い尋問をしていたエルザだが、風のバリアーを解く方法を探そうにも誰も知らない。

 

「エルザ、無事か!」

「まさに死屍累々てやつだな。おお、怖い」

「2人とも帰って来たか。ナツはどうした?」

「あいつは途中で別れたよ。おそらく誰かと戦ってるはずだ。そうだ、ナツもだが今はそれより…」

「だな、あの壁をどうするかだ」

 

グレイが外に向かおうとした時に見てきたもの、風のバリアーを事細かに説明し、その対策を考えているとエルザが妙案を口にした。エルザもそれを見てきたが、エリゴールを目の前で逃してしまっていた。

 

「待て、確かアイゼンの連中に解除魔導士(ディスペラー)がいたな!確かカゲヤマという名前だったはず!そいつを探すぞ!」

「ララバイを1人で解除したって男か!急げ、ナツがそいつと戦っててもおかしくない」

 

3人でナツの向かった方向へと走る最中、倒されたビアードが壁に向かって話しかけた。

 

「おい、カラッカ。そこにいんだろ、ちょっと出てこい。頼みたいことがある」

「な、なんだよ。今気絶から治ったばっかなんだ、あいつらを倒せとか言うなよ?」

「それより簡単なことさ!」

 

====

 

「何、あいつマスターたちを狙ってるってのか!!大胆なことをしやがるな」

「ああ。だからといって、やつらにはなんの得にもならないと思うが」

 

伝え聞く言葉の端々からそう結論づけたら、その瞬間にナツが起こしたと思われる爆音がビルの中に響き渡る。

 

「この爆発音、ナツだな」

「あっちだ!」

 

しばらくしてナツが戦っていた場所に辿り着いた。

 

「ナツ!そいつに話がある、そのままにしておけ!」

「エルザ?どうしたんだいきなり」

 

ナツとカゲの間に割り込むや否や恐喝という名の尋問を始めた。怪我をしているカゲに遠慮などせず剣を突きつけた。

 

「魔風壁を解除してもらう、拒否権はないと思え…」

「そりゃねぇだろエルザ。やっぱおっかねえ!」

「まあいつも通りだろ。今更だ、どうしようもない」

「さあ吐け。さもなくば傷が増えるぞ」

「わ、わかった。やるからその手を…がはっ!」

「カゲ!どうした?!」

 

カゲが話そうとした瞬間、血反吐を吐きながら崩れ落ちていく。その後ろには短剣を刺し、恐怖に怯えるカラッカが居た。

 

「あいつ、さっき気絶させたはずの!」

「くそ、起きろカゲ!お前の力が必要なんだ!」

「無茶言うなエルザ、もう気を失っちまってる」

「それでもやってもらわねば!」

「私ってお邪魔かしら?」

「あい、そうみたいです」

 

後から合流したルーシィたちはしばらく蚊帳の外であったのは言うまでもないだろう。




ようやく2000文字いけました!ここからはどうなるかわかりませんが、なるだけこの文字数はキープしたいですね。
これからもがんばっていきますのでよろしくお願いします!

それではまた次回までごきげんよう


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第8話 死神を超えてゆけ!

鉄の森編が結構長くなってしまってます(大丈夫かなこれ?)
S級試験編までと前に活動報告に書きましたが、そこまで行くのにいったいどれくらいかかるのか計画なしにやっちゃってる感が否めないっす。
一応そこまでは終わらせるつもりですのでどうかご安心を(汗)

それでは本編スタートであります!


「どうすんだよ、このままじゃこの壁通れないぞ!魔法じゃかき消せねぇし」

「カゲは直すことはできないのかジンヤ!」

「過剰治癒は出来ねえし、できて精々凍傷の悪化防止と蛇で毒抜きくらいだ」

「くっ、このままでは追いつかないどころかこいつまで!何か突破口となる鍵はないのか!」

「鍵…突破口…。あーっ!思い出した!ルーシィ、この鍵を渡すように言われてたんだ!」

「これバルゴの鍵じゃない!なんで持ってきてんのよ!」

 

「バルゴ?処女宮の金鍵か、そんなん持ってどうすんだよ」

「おい、遊んでんじゃねえ!」

「でも、この鍵を使えば出られると思ったんだ。バルゴなら地面掘っていけるから」

「「「なにぃ!?」」」

「それを早く言いなさいよぉ!まったくぅ!」

「ルーシィつねったし」

「よし、ルーシィ急いで契約してくれ!今なら間に合う!」

「うん!」

 

「やった!地面にトンネルが出来たぞ!」

「ここからでるぞ!」

「あれ、またナツたちがいない!ジンヤも!」

「先に行ったか!魔導四輪で飛ばして行くぞ、そこにいるカゲも連れて行け」

「わかった、ほら。ちゃんと捕まりなさい」

「…」

 

エリゴール「ふぅ、もうすぐ定例議会につくな。もう少し飛ばすか!」

「待てぇ!これが、ハッピーのぉ、マックススピードだぁ!」

「おー、当たった!ようやったナツ!ハッピーもお疲れな」

「あい、もう動けない」

「どうやってお前ら抜けてきた!カゲたちは何してる⁉︎」

「そんなこと気にしなくていいだろ。なんせテメェはこれから負けるんだ、このそよ風野郎!」

「ナツ、ここは連携して行く!先頭切ってくれ。追撃する!」

「おう!火竜の鉄拳!」

「くそ!鎌鼬!」

「させるか、アルマジロの堅盾!」

「ちっ!防ぎやがった!(あの2人、かなり特殊な力を持ってるな。普通に挑めば…負ける!)」

「降りろー!殴れないだろ!」

「誰が降りるよ、それで。やっぱ馬鹿だろお前」

「んだとジンヤ!張ったおすぞ!」

 

「ふざけやがって!貴様らを我が風で三枚におろしてやる。この体の俺にちかづけるかな?暴風衣(ストームメイル)!」

「なんだ!一気に向かい風が吹き始めたぞ。これも奴の魔法か!?」

エリゴールの体に風が巻きつき、まるで台風のように突風が吹き出していっている。

「これじゃナツの魔法が出しにくいし、相性最悪だな。それなら…ナツ下がってろ。前後交代だ…」

そういってジンヤは一本の棒を取り出した。

「おい、なんだそれ?そんなの持ってたか?」

「この前の仕事の報酬みたいなもんさ。まあ、見てろ」

「何するつもりか知らんが、終われ!はぁ!」

「させるかよ、伸びろ!」

「くそっ、なんだいきなり!」

「逃がすかよ!分身双棒術!」

「うごぉ!この、この程度で!翠緑迅(エメラ・バラム)!」

「うお!まだ力を!(くそぉ、抜かったか)」

切り刻むほどの風の大魔法を受けてさすがのナツたちも吹き飛ばされてしまった。

「ふん、雑魚のハエどもが。このまま行くか」

倒れている二人を確認したあと再び行き先に向かおうとしたが、突然首に刃物をあてられるような感覚を味わって動きを止めて振り返った。

「それ以上進むのはやめておけ、さもなくば飛ぶぞ。その首」

いつの間にやったのか、エリゴールの体から力が奪われていて、二人は平然とたっていた。

「うっ、暴風衣が…剥がされてる!お前ら確かに今のをまともにくらって!」

「俺らの堅さをなめんなよ。ナツゥ、あとはまかせたぜぇ!」

「さっきはよくもやってくれやがったな!火竜の劍角!」

「うぉあー!」

「ようやった!これでこいつの負けだな。あとはこの笛を…」

 

「ナツー!ジンヤー!」

「おっ、来たか。これで解決かな?」

「お前ら、勝手に先行くんじゃない!どれほど心配したか…」

「すまんな。で、肝心のこの笛はどうするよ?」

「まずはマスターに指示を仰ごう。そこからだ…なっ!?」

「はっはー!この笛は俺がもらった!」

「あいつ、笛を!ハッピーは飛べぬ、魔導四輪もない!一体どうすれば?」

『全員俺の背中に乗れ。大型の鳥になれば良かろうなのだ!振り落とされるなよ!』

 



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第9話 悪魔の笛ララバイ

どうも、いつでもハイテンションを目指して頑張るぽおくそてえです!
新たな発見に日々驚いている作者でもあります。

さて、それはさておき内容に入ります
どうぞぉ!


「ハア、ハア。ここが、ギルドマスターたちの…」

 

傷が癒えておらず、魔力がほぼ残っていなかった為かカゲが会場についたころにはすでに日は暮れて夜の帳が下りたころ、マスターたちの晩餐会が行われている時間帯であった。

 

「(少し遅くなっちまったが、後はこれさえ吹けば全て終わる!)」

「これこれ、こんなところで何をしてるんじゃ」

「うわぁー!」

 

疲れ切った体を振るい、鉄橋の上で奪った笛を吹こうとした瞬間後ろから声がかけられ、思わず驚いてしまった。そこにいたのはマカロフだ。酒を飲みすぎたから風に当たろうと外まで来ていたのだ。

 

「ほう、怪我をしておる様じゃな。何故こんなところに?病院に戻らなくてもいいのか?」

「(くっ、確かこいつは妖精のとこのマスター!)あ、あの。病室の方では楽器が禁止されてるものでして。できればここで一曲だけでも演奏できればと」

 

突然のマスターの来訪に驚いた割にはどうにか上手く言い訳を作り上げた。闇ギルドで鍛え上げた度胸によるものがあるのだろうか。

 

「ほう。聞かせてもらおうかの?」

「(勝った!後は吹きさえすれば!)」

 

死の笛を吹いて目標が達成できると内心で勝利を確信したカゲをマカロフがせかす。

 

「どうしたんじゃ?早く吹いてくれんかね?」

「あ、すいません。では…」

 

そこに遅れてやってきた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々は、笛が吹かれようとしていることに気づき、飛び出して止めようとした。

 

「マスター!」

「じいちゃん!」

「爺さん!」

 

しかし、動くより前にブルーペガサスのマスター、ボブに止められる。その隣にはクワトロケルベロスのゴールドマイン総長も笑顔で立っている。

 

「やめておきなさい?」

「なんだ居たのか、ボブさん?」

「久しぶりねぇ、ジンヤ?私のギルドには来ないの?」

「誰が行くかい。俺ぁ今のギルドに恩義があるんでな。それよりあれを!」

「黙ってみてろよ、ジンヤの若旦那。いいところなんだよ」

「マスターゴールドマイン!なぜです、相手は死の魔法を!」

 

エルザがあわててとめに向かおうとすると、マカロフは小さいながらも重い声で語りだした。

 

「やめておけぃ、若い魔導士よ。そんな闇魔法使ったところで何になる?己に誇りをもって使えぬ魔法など、それこそ愚の極み。己が道を探してみよ、まずはそこからじゃ。光は受け入れるものを拒まぬ。主のような若者なら、な」

「…参りました!」

「なるほど、そういうことか」

「そういうことだよ。お前もまだだな」

「マスター!」「爺さん!」

「なんでこやつらがここにおるんじゃあ!!?」

「マスターの言葉、胸が熱くなりました!」

「いてぇ!」

 

ララバイをとめられたことに皆喜んでいたが、ジンヤ一人だけが違和感を感じていた。

 

「なんだ、変な煙が…!お前ら戦闘体制に入れ!なんか来るぞ!」

『こやつらはいかんな、へたれすぎる。ならばワシが直に喰らってやる!貴様らの魂をな!』

 

その声とともに笛の中から煙とともに大きな木の怪人が姿を現した。

 

「あのデカブツがララバイの本体か…」

「なんでそんなに冷静なのよ〜!」

『全員の魂を一度に頂こうか!』

「やばい!」

 

生命を吸いだし始めようとするララバイ。瞬間、いち早く気づいたジンヤの先制の攻撃が入った。

 

『俺から行く、続け!『斉天の剛拳』!』

「何あれ!?」「新たな型か!」

 

彼の放った一撃でララバイの左肩から首の根元にかけてが軽く吹き飛んだ。

 

「全く、成長の面白いやつだ!天輪の鎧」

「火竜の煌炎!」

 

続けて連携攻撃を受けて、さすがの悪魔も反撃してきた。

 

『ぐぬぅ、しつこい小虫どもめ!喝!』

『グレイ頼む!』

「任せろ!アイスメイク『シールド』!」

 

ララバイの攻撃がそれて後ろにいたマスターたちに飛んでいったがグレイの魔法が全部防いでいく。

 

「わぁ、氷の盾が出た!」

「あれがグレイの造形魔法だよ。想像を形にするんだ。そして相手の形を奪いもする…」

「アイスメイク『ランス』!」

「脇腹がなくなった!なんて威力!」

 

鋭い氷の槍はララバイの腹部を大きく抉ぐり、胴の半分は吹き飛んでいた。

 

「さぁ、終わらせるぞ!」

『俺らに挑んだのが運の尽きだったな!』

「吹き飛べ!」

「おらぁ!!!」

『グギャアー!!?』

「見事」

 

一気に攻撃を受けたことでララバイは跡形もなく崩れ去っていった、が同時に後ろにあった定例会場が押しつぶされて壊滅状態になっていた。

 

「おい、あそこの建物って確か…」

「ギ、ギルドマスターの定例会場…だったものだが…」

『つぶしてもうた?』

「あい、完全に…」

 

数秒の沈黙の後、呆然とする彼らはある一つの答えを導き出した。もはやその答えしか導き出しようがなかった。

 

「逃げるぞぉ!」

「逃げるなー!」

 

やることはひとつとばかりに一目散に逃げ去っていった。




前より投稿が少し遅れて申し訳ないです。バイトやら祭りやらで忙しくしてました。
今回と次回がたぶん鉄の森編ラストです!長と々すいません。
なんかララバイの台詞とジンヤ変身時の台詞が区別つきにくいですね(汗)いい案が浮かんだら編集します!アドバイスもらえるとめちゃうれしいです!

次回もよろしくです!ではまたお会いしましょう!


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第10話 決闘!ナツvsエルザ!

どうも、ぽおくそてえです!なんかこの前見たらUA二千超えました!光栄です!
では本編どぞー!


「ふぅ、久しぶりの運動も悪くないな」

 

鉄の森の一件から2、3日が経った。あの事件でギルドメンバーの大半が拘束されていったし、他の闇ギルドに対して評議会も重い腰を上げることになったそうだ。しかし、肝心のエリゴールはトンズラこいたらしく、行方不明である。

 

「さてと、今日は確か2人の決闘する日だったな、見に行ってやるか」

そう、出発前にナツとエルザの間でそんな約束がなされていたのだ。それがこの日、ギルド前で行われる。

 

 

 

 

ギルド前広場

 

「お?もしかして、もう始まってる?」

 

「よお、ジンヤ。怪我治ったみたいだな。ちょうどいい時に来た、今始まるとこだよ」

「よかった、間に合ったか。カナ!エルザに5000J賭ける!」

実はこういった喧嘩や決闘はギルドではよくあることで、賭けや酒の肴によくなっている。

「今回は負けねぇぞ、エルザ!」

「お前も以前に比べたらかなり強くなっている。こちらも本気で行くぞ」

「あれは、炎帝の鎧!」「ナツ、勝てんのか?」「賭けるのエルザに変えようかな?」

炎帝の鎧、文字通り炎を半減させる程の強い耐性をもつ、ナツにとっては天敵のような鎧だ。これには周りのやつら、特にナツに賭けてるやつらは必死だ。

「そうこなくっちゃな!燃えて来たぞ!」

「いつでもこい!」

「はじめ!」

 

いつのまにか現れたマスターの合図とともに、火蓋が切られた。お互い一歩も引かず互角の勝負になって、周りもかなり盛り上がっていた。盛り上がっていたのだが、ある者の立てた音により、中断させられる羽目になった。

 

「両者そこまで!私は評議員である」

突然横槍を入れるようにかえるの評議員に止められてしまう。

「評議員!?」「いつもだけどなんでいきなり?」

「誰もあのカエルの容姿には触れないのね?ジンヤ、あれも獣人?」

「似た種族なのは間違いない。おそらく水獣族の方だろ、詳しくは分からんが。魚人や竜人族、爬竜族、鳥人族とは違うのは確かだな」

 

突然の評議員の来訪でギルドでは(いろんな意味で)ざわめきが起こっていた。容姿、問題を起こしたのかというマスターの震え、賭けを妨害されたことへの怒りだ。

「静かにしとけお前ら。ところで評議会が一体何のようで?」

「うむ、協力感謝する。では。ここに来た用件はひとつ。先日のオシバナ駅における駅舎破壊、ギルド間抗争禁止条約等違反により、エルザ・スカーレット及びジンヤ・マーナガルムを連行する!」

「ナニィ!?嘘ダっ!」

思わず某キャラのごとく叫んでしまった。が、事態が変わるわけでもなく大人しくつれられていった。

 

 

 

 

評議会会場ERA

「ったく、手錠に足枷とおまけの重り付きか!」

「仕方ないだろう?それだけ評議会はお前の力を恐れてるんだ」

「歩きづらい」

「まあ、そう言うなよ獣人君?俺だってそうしたくはなかったんだぜ?」

「貴様、ジェラール!」

愚痴ってるジンヤに奥から異様に目立つ蒼い髪の男が姿を現した。どうやら彼も評議員、しかも今回の裁判官らしい。すごい怒気を放つエルザに少々びびるジンヤであった。

「いやだな、確かに似てるけどあいつは弟だよ。俺は兄のジークレインだ」

「知り合いか?かなり毛嫌いしてるみたいだが何かあったか、その弟とやらと(あの顔、ふむ。よく見てみるとあいつのいう通り似ているな)」

「ああ、深い因縁がある」

「あんまり睨むなよ、忠告しに来たのに」

「いらぬ世話だ!」

「落ち着け、エルザ。どんなことがあったか知らないがふっかけるな。それにこの人は思念体だ。ジークレインさん、あんまりおちょくるなよ」

「さすが、獣人、その鼻と耳には負ける。それに肝も座っている。じゃ、あっちで待ってるよ」

普段見ないほどのエルザの怒気に内心ヒヤヒヤしていたジンヤは彼女を引き連れて奥まで進んでいった。

 

 

 

「エルザ・スカーレット、ジンヤ・マーナガルム。以上の2名を十数の罪に問うが異議はあるか?」

「否定できない。異議なし」

「…右に同じです」

「それでは2人に判決を言い渡ー」

裁判所で判決を待っていたがボカンという如何にもな音とともにナツとルーシィが変装して乱入して来たがあっけなく捕まり、エルザ達と同じ牢に繋がれてしまった。

「お前らアホだな、大体マカオやミラと違って変身系の魔法使えないだろうが」

「ご、ごめん2人とも」

「全く、ジンヤの言う通りだ。しかも一日だけの形式的な逮捕なんだ、すぐに釈放だ。だが嬉しかったぞ?」

「まじか、しくじったー!」

「あはは、ありがとうエルザ。それにしてもジンヤとエルザの二人って、どんな関係なの?仕事中も仲良かったけど。もしかして恋仲?」

「こ、こここ恋仲だと!?変なことを言うでない!」

「小説の読みすぎだよ、ルーシィ。昔ジジイと一緒に出先に行ったときに出くわしてうちで預かったんだよ」

あまりのエルザの落ち着きのなさにドン引きのジンヤであるが冷静に質問にかえした。

「ま、ルーシィはあんまりこの前話せなかったんだしせっかくだ。今日はお互いの紹介でもしようか」

こうして仲良く4人は牢で一晩過ごすことになった。

 

 

 




今回で鉄の森編終了です!次回はガルナ島編ですね。
書き溜めがついになくなってもうた!なので次は遅くなりそうです。先に謝っておきます、ごめんなさい。

ではまた次回をお楽しみに!
次いつかな?


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第2章 怪奇!悪魔の島ガルナ島編
第11話 S級と悪魔の島


どうも、ぽおくそてえです!
今回から悪魔の島ガルナ島編です!
とりあえずまだ前段階ですがスタートです!


「ようやく帰ってこれたか、首が凝ってやってられん」

「よっしゃー!グレイ、勝負だー!」

「やんのかクソ炎!」

「やめないか、私は今疲れているんだ。あまり怒らせるな」

「「あ、あい」」

「まったく…」

(相変わらず怖ーなあいつ)

評議会による形式的な逮捕から1日明け、ようやくギルドに戻った4人。さすがのエルザも疲れているみたいだ。

「ジンヤ、ならお前とだ!いいだろ?」

「ああ、構わねえがエルザはいいのか?」

「いや、怖えけど…気にしたら負けだ!」

「はっはっはっ。しょうがない奴だな、来い!」

「ぶっ飛ぶへぇ!?」ゴガッ!

「一発か、まだ精進が足りないぞナツ」

ただのパンチ一発でこの有様に周りからも笑いや冷やかしが飛ぶ。事実ジンヤも苦笑いである。

 

「うふふ。あら?どうされました、マスター?」

「…いや、眠いんじゃ。おそらく奴じゃろ」

「え?…あっ」

「うっ!」「眠てっ!」「うがっ!」

重たい空気がギルド内を包み、睡魔に襲われて倒れるものが相次ぎ発生した。エルザも例外ではなく、寝息を立てていた。

「ジンヤお主は相変わらず、寝ないみたいだな」

「動物も様々だからな」

「寝ていないのは君だけだ、ジンヤ。いつも不思議だ…」

睡魔の原因となっている男、ミストガンがいつの間にか後ろに立っていた。

「おー、ミストガン!元気そうで何よりだ。ところで、ここに来たってことは…」

「ああ、仕事だ…マスター、これを」

「分かったから早う眠りの魔法を解かぬか!」

「時期解ける。5…4…3...2...1...」

5つ数える間にギルドから出たミストガン。その言葉通り催眠から皆目が覚めていた、約1名除いて。

「くそ、今の睡魔!」「間違いない、ミストガン!」「それにしてもすごい力だな、ありゃ。エルザまで寝てたみたいだ」

「ミストガン?」

寝ぼけ眼でルーシィが聞いてきた。

「ミストガンはこのギルドのトップ5人に入るくらいのすごい魔導士でね、魔法センスもかなり良い線いってる。見てみろエルザを。あいつを寝かせるほどの力だ」

「確かにこんな大人数を短時間で…すごい人もいるのね」

「まあ、上には上もいる。このギルドの古参のおっさんとかな。俺はあいつを兄貴と呼んでるが」

「でもなんでこんな魔法を?」

新人のルーシィにとっては当然といってもいい質問が返ってきたのは目の前からではなく上からきた。

「おっと、それ以上は詮索してやんなよ?あいつもシャイなんだよ」

突然二階から声が聞こえ、ルーシィはビックリしてしまった。

「なんだ、いるんだったらもうちょい早く顔見せてくれても良かったんじゃねえの?雷のラクサス?」

「テメェにはそんなことする義理もねぇよ、獣人のジンヤ?」

「釣れないね」

「ケッ、言ってろボケ」

いきなり現れたラクサスにジンヤ以外の皆が驚いていた。普段あまりギルドに寄り付くことがないからだ。中にはナツみたく喧嘩をぶっかける者もいたが。

「俺と戦えラクサスゥ!そこから降りろ!」

「嫌だね、ナツ。さっきジンヤにやられたんだろ?お前が上がって来いよ」

「上等だぁ!行ってやぷげ!」

「お前にはまだ早い、ナツ。上には行くな?」

階段めがけて爆進していたナツをマスターが一撃で沈め、黙らせていた。

「ハハッ、怒られてやんの!」

「お前も大概だぜラクサス。いいかげんにしろよぉ?止めるこっちの身にもなれや」

「俺は自由にやらせてもらうぜ、テメェに関係なくな!」

そういって大声で笑いながら奥へと引っ込んでしまい、顔を見せなくなった。

「なんですか、さっきの?すんごい図々しい感じでしたけど」

「ラクサスよ。彼はマスターの孫、なのよ。しかも力が強いからなかなか止められなくてジンヤとマスターも苦労してるの」

「ええ!?マスターの!驚いたぁ。あれ?それにしても二階に行っちゃダメってなんでですか?」

マスターが言っていた二階には一部の人しか行けない特別危険で高報酬、ハイリスクハイリターンなS級任務のボードがある場所でこのギルドではジンヤ、ラクサス、ミストガン、エルザ、もう1人ここにいないオヤジと呼ばれてるギルダーツを含めて現役で5人しかいないS級とマスター専用の階だと説明を受けた。

「へぇー、S級かぁ。道理でジンヤとエルザが強いわけだ」

エルザ達の仲の良さや仕事に行く機会の多さを垣間見た瞬間でもあった。

 

その夜

「うーん、やっぱり家が一番だなぁ。ここにいると…」

「よぉルーシィ!」

「落ち着くー!なんでいるのよ!」

「オイラとナツで仕事取ってきたんだ!ついでに筋トレ」

「筋トレやるならでていって!!あっ…金の鍵が報酬なんだ!…え,これって?ええええ!!!」

ルーシィの固まった理由、それは紙にデカデカと書いてある 『S』という文字であった。




今回から新章スタート!思ったより早く投稿できました!良かった良かった。
では書くネタも切れたのでまた次回!


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第12話 戦いの始まり

こんにちは、初めての人は初めまして。いつもご覧いただいている皆さんまたお会いできて嬉しいです、「ぽおくそてえ」です。
さて、今回は最初の方を勢いよく飛ばしてジンヤ君は五巻該当部分からの参戦です!
ではどうぞ!


ラクサスやミストガンの来た翌日、仕事のためにあまりないやる気を振り絞ってジンヤは大通りを通ってギルドにトボトボ歩いて来ていた。

「(ういー、なんか騒がしいな。また評議会かなんか?)おーい、なにごとだ?」

「ジンヤ丁度良いところに来た!お主に頼みたいことがあるんじゃ!」

「なんだよジジィ。すんげえ焦ってねぇか?一回落ち着け」

そういって水の入ったコップを差し出した。

「ふぅ。実はな昨日の夜にナツとルーシィ、ハッピーの三馬鹿が勝手にS級任務に行ってしまったんじゃ!実際見たやつもおる」

「俺が来る前に頼んだやつはいねえのか?」

「グレイが先に行ったが成功するか…。しかも、行き先が…」

ガルナ島。そこに住まう住人には呪いがかかり悪魔の島や呪われし島とも呼ばれてる災厄の島、評議会ですら近づこうとしない。

「行ってくる。…ところで、エルザはどうした?」

「あやつはまだ知らん。お前にいって欲しい」

 

ハルジオン港

「ついこの前きたというのに何かしら懐かしいものを感じるな…。さて、確か向かったガルナ島は…あっちか。とりあえず船でも調達するか」

ところが船を探そうにも誰からも断られた。当然といえば当然だ。呪われた島と呼ばれてる場所に好き好んでいく人など稀だろう。

「仕方ない、変な歪みをたどっていくしかないか。変化!」

大きな羽の生えた鷲に変化して飛び立った。

『悟空、今回の件はどう思う?ただの噂とは思えないが?』

(だろうな、俺もただ事じゃないと思うぜ?とりあえず解決すんのが先だ!連れ戻したりなんなりするのはその後だ)

『了解だぁ!飛ばすゼェ!』

 

ジンヤが空を切って飛ばし、島の砂浜についた頃には日が暮れていた。

「風切のモードでも時間がかかるとはな」

(仕方ねぇ、空がかなり不安定なんだよ。ついただけマシだと思えや)

「だな、さて村に…なんだあれ?ネズミ、にしてはでかいな?急ぐか」

上空のネズミを追って村に急ぐジンヤであった。

 

一方村では

「グレイがやられちまったし、敵がいつ来るか…」

「ナツたちより先に行ってたのにおかしいわね」

バタバタバタバタバタバタ

空から不審な音がし始め、上を見上げた一同。

「何アレェ!空中!?落とし穴の意味ないじゃない!」

「なんかやるらしいぞ!」

空中から落ちてきたゼリー。それが地面についた瞬間

「な!地面が…焦げた…」「まさかあれを!」「逃げろぉ!」

 

「哀れな連中だ。もはや救済もない」

「やっておしまい、アンジェリカ(ネズミです)」

空中からゼリーが一気にばらまかれた。容赦ない攻撃が降り注ごうとした時…

『非戦闘員は全員村の中央へ!ナツはハッピーと上空で魔法を!合わせるぞ!』

高速で現れたジンヤが的確に指示を飛ばしていく。

「分かったぞジンヤ!行くぞハッピー!」

「あいさー」

「あれは獣!?何者!?」

突然の登場に驚きを隠せないようだ。

「両手に炎を集めて!」ゴオッ!

『一枚が二枚、二枚が四枚、行くぞぉ!』ダラァ

「『ユニゾンレイド!大蝦蟇の煌炎!』」

油と合わさった強大な爆炎がゼリーを勢いよく弾いて村の外に吐き出した。

「間に合った〜!よかったー!」

『テメェらにゃあとで説教だ。ま、それよりあいつらだぁ』

いつも間にか降りてきていた敵。彼らはまずジンヤに問いかけていた。

「貴様、ただの動物じゃないな。トビーはどうだ?」

「オオーンこれは飾りだ!」

「いや、冗談だ」「オオーン」

『けっ、勝手に聞くんじゃあないよ。この礼儀知らずども』

「そんな不潔な獣は放っておきなさいなユウカ。この村もろとも破壊するのですから」

「そうだったなシェリー」

『不潔ダァ?!テメェの姿を鏡で見てこい!このゴスロリ女ぁ!』

激しい睨み合いが起こる中、ジンヤは隙を見つけて村民の命を考え、避難をさせようとしていた。

『グレイを頼んでいいか?俺らの仲間なんだ。そして全員退避せよ』

「分かったよ、兄ちゃんたちも無事にな!」

「逃がしませんわ!行きますわよアンジェリカ!」「チュー!」

ジンヤの目的に気づき1人(と1匹)が去って行った。なぜかルーシィを連れて。

『まぁあちらはルーシィがどないかしてくれよう。とりあえずは…』

「ああ、こっちは片付けてやる!テメェらが何もんか知らねえが俺らの敵なら戦う理由は充分だ!」

『賽は投げられた、さあLet's ROCK!』

 




「Let's ROCK!」
ンーなかなかかっこいい台詞です!これが分かった方はゲームを結構やってる方とお見受けします!
さて、今回のガルナ島編は前回と違いあっさり行こうと思います!ごめんね零帝さんあなたの出番は少ないです!
零帝「ひどいぞ!もっと出してくれよ、しかも読者さん俺が誰だか分からんだろう!」
ぽおく「黒幕なのにこれはまた丁寧な説明を…。まあ、今回の黒幕です!これ以上はネタバレ的にアウト!」
「ありがとう、これだけでだいぶ救われた」
さてと茶番はここまでにして…ではまた次回お会いしましょう!


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第13話 前哨戦!道を開くのはどちら!?

毎度ご覧いただきありがとうございます!ぽおくそてえです!前回のあとがきは失礼しました。
今回はラスボスの前のいわゆる中ボスです。
それではどぞー!


ガルナ島、村での決戦がついに始まろうとしていた。ナツ、ジンヤの2人に対して相手も青髪のユウカと犬耳のトビーが迎え撃とうとしていた。

『ナツ、あの青髪任せていいか?もう1人の犬耳を倒してきたい』

「構わねえよ、あっち弱そうだし」

『だよなぁ。まあ、任せたよ』

打ち合わせてそれぞれの敵に向かうことにした。

「オオーン、話は終わったのか?」

『待ってくれるとは律儀だね、意外と。不意打ちしても良かったのに』

「そうしなくても俺の『麻痺爪メガクラゲ』には敵わないからな!」

(ほう、マヒか。バカな見た目してるのに厄介な能力だこと…はてさてどうしようかな?)

「かかってこないなら行くぞぉ!」

長くて鋭利な爪を所構わずな感じで振り回し始めた。

『当たらんなあ。ほれ、その程度か?』

「オオーン!」

『そういえばずっと気になってたんだがお前さんの頭になんかついてねえか?』

何気ない一言に爪を忘れたままトビーは頭を触ってしまった。

「おお?これか…あびゃあー!」

『あーあ自滅か。ま、勝ったからいいか。やれやれ詰めが甘い奴だな』

気絶して動かなくなったトビーを放ってナツのいるはずの方向に向かい始めた。

『ナツー、そっちどうだ?』

「早かったなジンヤ。なんか波導なんて魔法を使ってたけどのしてやったぜ!」

『それは重畳だ。これならルーシィも大丈夫だろうから、住人のいった方に向かう。グレイの匂いを追って行くぞ』

「いや、それはお前に任せる。俺は行きたいところがあんだ!」

『なんだそうなのか?じゃあ、任せる。…気をつけろよ』

 

ガルナ島 仮避難所テント広場

 

「おや?あなたは確か獣だった…」

「ああ、さっきぶり。こっちが本当の姿だよ」

「グレイさんの容態を?それなら安定して来ています、安心してください」

「全く無茶しやがるから。ありがとよ」

「そうだ、今さっきもう一人来ましてあなたやグレイさんが来たらあそこのテントに行くようにと」

「…あいつか。予想より早かったな」

おそらく自分の出た比較的すぐ後を追って来たのだろうと踏んでテントに向かった。途中から殺気が溢れていたが恐れずに入ると予想通りエルザがルーシィとハッピーを捕まえて待ち構えていた。

「早かったな、何用だティターニア」

「貴様こそ何をやっている、ビーストマスター。ナツがいないとなると貴様が来た意味がなかろう」

(ぶっとんだ姉ちゃんだなこれ、来たばかりの相手に無茶を言いやがる)

(まあいつものことだ)

 

「今ナツは敵を追って遺跡に行ったと思われる。俺は追って行くぞ、グレイの容態を確認したしな」

「貴様、何を言っているのかわかっているのか!こやつらは仕事を勝手に受けて来ているものたちだ!早急にギルドに連れ戻すべきだろう!」

「騒ぐな!…聞くが、今連れ帰ったところで何の解決になると?それなら一件を片付けてからでも良かろう?どうせナツやグレイのことだ、片付くまで動かねえだろうさ…先行くぜ」

テントを出て行ったジンヤの背中を見送ってしまったエルザは全身を震わせ修羅が見えたほどだという。




はい、トビーとユウカ戦でした。
次はいよいよ零帝さんとデリオラ(怪物だと思ってください)の登場です!多分
それではまた次回


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第14話 月の光の神殿へ

どうもお久しぶりでございます。ぽおくそてえです。前回から1週間も空いてもうた、これはあかんやつや、と思いながらもジンヤの新しい能力考えてたらこんなかんじに空いてしまいました!申し訳ないっす!後もう一つお詫びが。前回で中ボスまで行ったんですが、今回はラスボスのリオンくん打破やデリオラ登場までは進みません。もうあと一、二話先になります、すいません。
ジンヤの能力がエルフマンやミラ達とただ被りだと指摘を受けまして頑張って新しい方向に持っていきたいです!なかなか難しいですけどね。
それではどうぞ!


エルザの来訪から何時間か経ってまた月が登っていた。どこかにいってしまったナツを追って森に来たジンヤだったが

「なんだよこいつら!?例の変な教団か!」

零帝とやらが組織する教団みたいな集団に囲まれて闘っていた。かなりの大軍に悪戦苦闘していた。

「数が多いんだよ!どけテメェら、道を開けやがれ!」

如意棒を手に暴れていたが、敵の数の多さに若干辟易していた。そんな中後ろからグレイ達が姿を現した。

「やっと来たか、グレイ先に行け!目的の氷帝はおそらくあそこの遺跡に居る!」

「ジンヤ来てたのか。ありがとよ」

「協力するぞジンヤ」

「助かる。お前がいれば百人力だ。ルーシィ、ハッピー、期待してるぞ」

グレイを先に通すため、エルザと久しぶりに共闘することになった。

 

「しかし、こいつらの目的はなんだ?魔物を復活させたいみたいだが…」

「確かデリオラとか言ってたけど…」

「くそ、またしてもゼレフ書の悪魔か!」

「そいつは彼らが片付けてくれるだろう。今は目の前の敵だ!」

襲いかかってくる敵勢をなぎ倒していくが、そんな中でジンヤは違和感を覚え始めていた。

「なんか、能力が思ったように出せないんだが…昨日はできたのに。調子が良くねぇのか?」

「ええ!?もしかして変身してないのもそれのせい!?」

「ああ、魔法と違うから魔力切れって訳じゃなさそうなんだよ。なんか腕が中途半端にしか出せねえ。なんかが引っかかってるような…そんな…感じだ…」

「大丈夫か?もしかしたら…あの光が原因か」

エルザの見た先には月から光が遺跡に差していた。明らかに自然現象ではなかった。

「あれは確か、ムーンドリップ!早く止めなきゃデリオラが復活しちゃう!」

「月の雫ねぇ、あんまりロマンチックなもんじゃなさそうだ…ハァ、ハァ。全員に構ってたら時間がない、強行突破をしよう!」

「グレイ達は間に合わなかったか、別人が儀式を?」

「わからんが、おそらく後者だろうな。とりあえず遺跡についたら二人は屋上へ…俺はグレイと合流する!」

「よし分かった、無茶はするなよ?」

「遺跡の入り口はあそこ!早く行こう!」

先に突入したグレイ達を追って遺跡に入っていった。

 

一方その頃グレイは…

「あれを復活させるってのがどんなことかわかってんだろうな、リオン!師匠のウルを殺すも同然なんだぞ!」

「あれは最早師ではない、俺の野望を邪魔するだけの氷だ」

遺跡に突入した後、零帝ことリオンと衝突していた。戦いの中なのか、二人とも傷がそこかしこに見られた。

「もう、お前を完全にぶっ飛ばす以外に止める方法はねぇんだな。ここからは遠慮なしだ」

「やってみろ、両手でしか造形できない雑魚が…」

師の遺志を継ごうとする者と亡き師を越えようとする者が再び激突へと向かっていった。

「お前は俺が止めてやる!リオン!」

「デリオラを復活させ、倒すまでは負けられんのだ!何があっても!」

 

その頃屋上部分では

「おお〜ん、あのデリオラを倒してくれるならなんでもやるんだなー。むーん」

何故かトビーが一人でムーンドリップを行なっていた。

「しかし、誰も来ないと暇だな。早く終わんないかなー?」

なかなかシュールであった。




動物妖怪紹介編①

猫又(猫股)
アニメやゲーム等で数多く取り上げられ、九尾の妖狐並によく知られてる猫妖怪。猫が長い年月を経て尻尾が二つに分かれた姿をしていて、かなりでかいから人に化けるそう。藤原定家さんが1233年に猫又が何人も殺したー、というのが最初の記述なんだとか。
最近有名なキャラに『妖怪ウォ○チ』の「ジバ○ャン」がいる。

やってみました。動物や妖怪を紹介するコーナー第一回。ただの自己満足です、はい。こいつ紹介して、というのがあればぜひ。


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第15話 lumen lunae

どうも、ぽおくそてえです!
今回のタイトル、頑張って辞書で調べたラテン語です。

ジンヤ君の能力、今回(かなり下手かつよくありそうな感じで)追加しようとしたチャレンジ版でもでもあります。
はてさてどうしたものか、この作者のポンコツ感

それでは本編スタート!


「ぶっ倒れろ、リオン!」

「グレイ、貴様が先だ!俺に傷をつけた貴様を許しはしない!」

「いい加減にしやがれよ、テメェ!」

氷で作り出した剣でリオンを斬りつけたが、素早く氷と入れ替わっていて、後ろを取られる形になってしまった。

「アイスメイク・スノードラゴン!」

「しまった!」

大きな竜が襲おうとしたその時

「銀装如意!」

「ジンヤか!助かったー」

「貴様が…。どうやら邪魔がしたいみたいだな、人間になりきれなかった下等生物が」

「言ってくれんな、不完全な片手の造形師よ…。お前の師ウルが残念がるな。(なにか…自分の中になにか悟空とは違うものが、いる!)」

ジンヤの登場により、ことなきを得たグレイだったが安心できていない。ジンヤがかなりふらついておりその上、彼から異様な雰囲気を感じていた。

「あいつをぶっ倒さねえとデリオラまで行けねぇ。行けるかジンヤ?」

「任せい!」

「獣に弟弟子か。なかなか面白い、前座にはもってこいだ!」

 

「アイスメイク・エイプ!」

「アイスメイク・ハンマー!」

「その程度では俺の氷は砕けぬぞ!」

「どうかな?変化しろ!変化・如意槍!」

如意棒を槍に変え炎を纏って投げ、いとも容易く氷を砕いていった。

「なんて奴だ!!」

「お前今のって…」

「月の乱れた影響だろうな…俺にもよく分からん…ハァ。かなり疲れるなこれ」

突然ジンヤの胴や手に模様が浮かび、目元には隈取が波打つように現れた。

「これ、魔法か?」

「グレイ、俺にもまだ分からんことが多い。ただ言えるのは俺が先程とは違っている、という点だけだ」

溢れかえる力に驚きつつ、この力の正体を確かめようとしていた。

(とうとう、俺にも魔法が…?なんで今更。まぁ、いいさ)

「何はともあれ、その不気味な力は潰すに限る!」

「ジンヤ!」

「アイスメイク・スノータイガー!」

「失せろ、貴様に用はない」

冷たく鋭く、殺気のこもった声と共に放った炎で一気に粉砕された。

「リオン、どうやら片手の造形は力が入らんらしいな。だから脆い…。グレイ、やりな」

「これで引導だよ…アイスキャノン!」

「ぶはぁ!」

グレイの一撃によりリオンは血反吐を吐き、その場に伏してしまった。

「ただの魔法でもない、そんな気もして…なんなんだろうなこれ」

「いつか分かるさ、今は気にするな」

「…だな」

いつの間にか消えていた紋様に、謎の答えを逸したジンヤは考えるのを一旦やめ、遺跡の出口に向かおうとした。

『グォォオー!!』

「なんだ!かなりでかいぞ!」

「これは…忘れるはずもない…デリオラ!」

「何!?ナツたちは間に合わなかったのか!今なら間に合うかもしれん!行くぞ、奴は地下だ!」

エルザやナツたちの無事を祈りながらデリオラの元へと急いだ。




タイトルは月光という意味です。
なかなか難しいですね、外国語。昔から苦手なもので、かなり苦労しました。
後、零帝リオンを氷帝と書いてました、恥ずかしい限りっす。見つけられるだけ直しておきました。まだあったら報告お願いします!
今回の能力追加、納得いかないかたもいるとは思いますが、それでも作者は後悔しないです!
それではまた次回


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第16話 師の力、弟子の思い

どうもこんにちわ、相も変わらず低レベル文章のぽおくそてえです。
今回でガルナ島編終了です。永らく、待たせたな!!


「かなり声がでかかったな。復活の儀式を止めきれなかったか」

「デリオラが復活してもナツがどうにかしてくれるさ」

「信頼しているんだな。喧嘩している割には結構仲が良いじゃねえか」

「だ、誰が!」

「まあ、かく言う俺もナツは信じているがな」

リオンを撃破した二人は振動と騒音の激しくなっている遺跡内を階段で降りてデリオラの元へと急いでいた。

「見えた、あそこを出ればデリオラが!」

その先には、悪魔と呼ぶにふさわしい禍々しい力の権化がそこにいた。大きく咆吼をあげている様にいろんな戦いに参じたジンヤも背筋が凍る思いがした。

「さすがにゼレフ書の一体となるとそこら辺の雑魚とは格が違うな」

「グレイ、ジンヤ!きたのか!あいつをぶっ倒すの手伝ってくれ!」

「させ…る…か。あいつは…俺が…。ウルを…超える…はははっ…」

背後から現れたのはリオンだ。先ほどまでの戦いでふらついていたが、ここまで意地で這いずってきていた。

「お前、もう戦える状態じゃねえよ。死んでも良い理由がないなら勝てない戦はしないこったな。下がれ。(さて、さっきの力を引き出す方法はないかな?)」

「リオン、やめておけ。ジンヤも、俺に任せろ」

目を瞑り、強大な力を探り始めようとするジンヤを引き留めるようにグレイから声がかかった。腕を交差させると同時に、周りの気温が下がり始め、凍り始める部分も出始めた。

「あの構え、アイスドシェル!やめろ、それを使ってもまた俺が氷を溶かして!」

「これしか今あいつを止める方法がねえんだ!だから…!!ナツ、どけ!」

永遠に溶けない氷で封じようとするグレイの前にナツが道をふさぐように立っていた。

「俺はお前には死んでほしくねえんだ。だから、俺があいつを倒す!」

「よけろ!ひけ、ナツ!」

「俺は最後まであきらめねえぞ!」

デリオラが腕を振り上げ、ナツをつぶしにかかろうとしていたその時

バキィ!という音とともに腕が壊れ、徐々に崩れ去っていくデリオラ。ウルの氷の中でじわじわと生命力を奪われて氷の融解と運命を同じくして崩壊していってしまった。

「あの、あのデリオラが!くそっ、俺にはウルは超えられない!さすがだ…かなわない」

「ありがとう、ございます。師匠!」

 

***

あれから村に戻ったジンヤたちは村人たちの依頼を無事にこなした。彼らがムーンドリップの副作用を受けていて、本物の悪魔だと判明したときにはエルザを除いた一同はかなり驚いた。しかしその一方で、ジンヤの突然の能力開花の原因は分かったものの使い方も条件も分からないままだった。

そして帰ってきて、ハルジオン港で-

「さてと、勝手にS級にいったバカルテット共!お前らにはギルドに帰ったら罰ゲームだ!おそらく“アレ”だがな」

「うわぁ、アレかぁ!」「やべぇ!アレだけはぁ!」「もうやだぁ!この世の終わりだぁ!」「アレってなにぃ!?」

「まぁとりあえず帰るぞお前ら!」

ナツを引きずりながらギルドに向かっている一同だったが…。

「なっ!?これは…」「俺たちの…ギルドが…」

そこには破壊され、見るに堪えないほど無惨な姿になっていたギルドがあった。

「一体誰がこんなこと…」

 

「ファントムよ…完全にやられてしまったわ」

後ろから出てきたミラによって衝撃の一報が知らされた。

 



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第3章 決戦!ファントムロード編
第17話 予感


今回から新章突入であります!
どうもお待たせしました!
長々と書くこともないので本編開始なり!


ファントムロードによって壊された建物の地下へと続く階段を全員で降りた。

「ファントムねぇ、あいつら結構えげつないとは聞いているがまさかここまでな…」

「ああ、しかも前々から仲が悪いしな」

「それでもけが人が出なかったことが不幸中の幸いなの。深夜に入ってきたというのがまだよかったのよね」

「なるほどね。おい、じじぃ。約束通り連れ戻したぞ、一人も欠けずにな」

「おお、お疲れさん。ご苦労様じゃったな」

襲撃を受けた割にはなんとものんびり酒を飲んでいたマカロフにエルザやナツが突っかかっていく。

「マスター!けが人がいなかったとはいえギルドを襲撃されているのですよ!?」

「やり返えさねえと気が済まねえよ!!」

「落ち着かんか、そうして何になる。建物くらいなら、まだいくらでも替えがきくじゃろ」

「それに相手とこちらじゃ、戦力は拮抗している。ギルド間抗争禁止条約に触れるし、やれてもお互い弱体化するし、あんまり熱くなって反撃しないこったな。いいなテメエラ!」

ジンヤのドスの利いた一声で萎縮しきってしまい、周りも完全に黙りきってしまった。

「で?次“ちょっかい”かけてきたら、どうする?あいつらがこのまま黙ってるわけないぞ」

「放っとけ、みみっちい攻撃しかできない奴らなぞ」

(どうだか…。やつらの執着はハイエナの如し!今度はどう出る、ファントム!)

その夜

「おう、お前ら!ちょっと面かせ」

「何だよジンヤ、これから帰るって時によぉ」

「さっきの襲撃の件を考慮して、今日はなるべく数人で一箇所に固まっておきたいんだよ。襲撃されたのを考えるに、こちらの情報が流れていてもおかしくないはずだ。一人でいるときよりましだろう」

「それもそうだな。そうすると、どこに泊まるんだ?」

「ここの近くでいいところがある。それはな…」

 

 

「あーぁ、帰ってこられたと思ったら今度はギルドが襲われるなんて…」

「ぷんぷ~ん」

ルーシィは一足早くギルドから出ていたが風に当たっているうちにすっかり帰りが遅くなってしまった。今は愛玩星霊のプルーとともに家の近くまで来ていた。

「最初ね、私ファントムとフェアリーテイルでどっち入ろうか悩んでたけど、フェアリーテイルには入れて良かったかも」

「ぷぷーん!」

「ふふ、ありがとね!」

鍵を開けて家のドアを開けた。

「よお、ルーシィ!」

「なかなか良い部屋だな」

「よお…」

「おかー!」

「ようやく来たか、待つのもきついなぁ?」

「何でぇ!?しかも多いー!」

いつものメンツが勝手に部屋に入っていたのだ。まさかエルザまではいるとは思っていなかったルーシィは動揺しきっていた。

「悪いなルーシィ。これもファントムから身を守る方法なんだ。協力してくれ。そっちのほうが安心だろ?」

「うん、そうだね。ありがとうジンヤ!」

(大したことは言ってないんだが…。まあ、納得したんなら良いか)

 

数刻後

「(俺の鼻に何か反応したか)今から出かけてくる、少し待ってろ」

「敵か?」

「ま、似たようなのだな」

鉄のような、血に似たにおいをかぎつけて、飛び出すことになった。

(間に合ってくれよ!嫌な予感しかしない!)

そう願いながらたどり着いたのは、人気のないギルド前の大広場。なぜか数人の影が見えていて、しかも明らかに異様であった。

「こんなところで何してる?鉄竜のガジル、ファントムのエースが…」

「ジンヤ!助けてくれ、あいついきなり襲ってきたんだ!」

「ジンヤ?ああ、獣人か。てめえが相手となるとかなりやりにくいな」

「こいつらになんか恨みでもあんのか?それとも宣戦布告ってことでいいのか?逃げることはない、戦うなら俺が相手だ」

「さあ、どうだろうな。戦って勝てるかわかんねえ相手じゃやってらんねえから俺は退くぜ?」

「二度と顔を出すな…。この戦争が終わるまでは」

ジンヤの異様な威圧と殺気に押されるように相手の気配が完全に消えたあと、三人とも張っていた気が緩んだのか怪我の影響か一気に疲れて腰を抜かしてしまい、レビィに至っては気を失っていた。

「とりあえず、その傷は治さなくては。うわ、結構ひどい傷だな。ちょっと待ってろ」

腰に下げている巾着から出した塗り薬で一時的に治すことにして、その日のうちに治癒魔道士の元へと連れて行った。

 

翌日

「…ってことだ。怪我自体は出血の割にはひどくなかったそうだ。だが、俺が行かなかったらと思うと」

「あやつらぁ、ギルドのボロ建築までは我慢できたが。ガキ共に手を出すのは我慢ならん!戦争じゃ…!」

ついに巨人マカロフの怒りが頂点に達した。

 



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第18話 突撃、そして…

どうも、連日寒くなってきて布団から出たくないぽおくそてえです。
コタツが欲しいですね。
なんとUAが4000越え!大台の5000も見えてきて有頂天気味の作者です。お気に入り登録も13人の方にしてもらえて大変嬉しいです。コメントも待ってまーす!
はい、そんな事は置いておいて本編に移ります!どうぞー、であります!


昨日の一件があって、マスターも怒髪天であった。

「ジンヤはどうする?ワシらと行くのもありじゃ」

「ま、行くしかないでしょ。可愛い妹分たちを傷つけたゲスをみすみす逃してしまったんだ!守り通せなかった俺は俺自身を許せない…家族を、兄弟を、家を潰される恐怖を叩き込んでやる、待ってろよファントム!」

かつてないほどの怒りに大地が揺れる錯覚を覚えるほどだったという。

 

その頃ファントムロードのギルドではガジルのやったことが酒の肴になっていた。

「ガジルのやつギルドどころか3人も潰してきたんだとよ!」

「ギャハハハ!妖精のやつら今頃チビってんじゃねえか?」

「さすがガジルだ!あっひゃっひゃっ!」

「ブヒャヒャ…っと、そろそろ俺は仕事かね?」

「女か?羨ましいなぁ」

「だろ?うひひ」

男の一人が仕事のために出口に向かった。

しかし、突然の爆発によってあっけなく吹き飛ばされてしまった。

 

「フェアリーテイルじゃー!」

正面より喧嘩を始める、フェアリーテイルらしさを感じつつ、戦いが始まる。先に仕掛けたのはナツ、火竜の翼撃で勢いよく蹴散らして行く。

「かかってこいやぁ!俺が相手だァ!」

「野郎やりやがったな!」

「お望み通りにしてやる!まとめてかかれぇ!」

「ナツが出たぞ!あの勢いに乗れ!」

「あいつにばかり手柄を取らせるかァ!」

お互いのギルドが入り乱れ混戦の様相を呈していた。

 

「あれがサラマンダーのナツか。そして指揮しているのが獣人、聖十大魔道に最も近い男のジンヤ・マーナガルムか…主力がほとんどいねぇじゃねえか。なめやがって」

事の発端のガジルは高みの見物をしていた。ミストガンやラクサスがいないことが気にくわないようである。

「ま、ここにいても暇だ。そろそろ仕掛けるか、ギヒヒ!」

天井から飛び降りて参戦を決め込んだ。

「ひゃっはぁ!俺と戦うやつはいねぇか!」

「殺し合いをお望みなら俺がいこうか、この前はお預けだったからな」

「ギヒ、また会ったな。なら、やるか!鉄竜棍!」

「当たらねぇなら意味はない。八咫烏の魔拳!」

両ギルドの精鋭による激しい攻防が続く。しかし、白熱していた争いも予想外の終わり方を迎える。

「マスター!」

「?何事?」

振り返るとそこには倒れて息絶え絶えになってしまったマスターがいた。

「くそっ!ここは撤退だ、皆急げ!」

頭を失ったフェアリーテイルは一気に戦意を喪失し、撤退を余儀なくされた。ファントムも簡単に逃す程甘い連中じゃない。

「お前ら、先に行け。ここは俺が殿を務める。さあ、マスターと負傷者を早く連れてけ!」

ジンヤは仲間を逃がすために単独で残ることにした。

「へぇ、さすがに度胸は他とは違うし冷静だな?」

「伊達に長生きしてねぇよ、青二才が」

一世一代の逃亡を援護になった。

 

 

見事に殿を務めてギルドに戻ったのはその日の夜になった。怪我人も多く出ていて、見事に取り戻したとはいえ出撃後にルーシィがファントムに幽閉されていた事に後悔を隠しきれなかった。

「大丈夫か?怪我の方は」

「大丈夫とは言い切れないがやるしかないよマカオ。だが、ここで下がれば士気に影響が出る。少しでも踏ん張らなければ」

単独で殿を務めただけあって、あちこちの骨にヒビが入っていたが、強気な姿勢は崩さなかった。

「それより、ルーシィが心配だな」

「ああ、あいつ相当責任を感じてるみたいだな」

 

そのまま、何事もなく次の朝を迎えていた。昨日の今日なので、空気が張り詰めていて物々しい雰囲気に包まれていた。

「まだ心配か、ルーシィ」

「ごめん、私のせいでみんなが…マスターやジンヤに至っては」

「気にすんなよルーシィ、俺たちは仲間だし、家族だろ?そのために戦うのは当たり前だ。フェアリーテイルのルーシィは笑顔が一番だ!」

「ナツ…」

「ナツの言う通りだ、ルーシィ。俺たちはみんなのために、みんなはそれぞれのために。仲間を思うのがここの家訓だよ。だから泣くな」

「みんな…ありがとう…」

今にも泣きそうなルーシィをみんなで励ましていた。

「ふふ、ギルドといのはいいものだ」

側から眺めていたジンヤは改めてこのギルドの温かさを感じていた。

そんな中、外で警備していたアルザックが慌ててギルド内に戻ってきた。

「ファントムだ!ギルドごと来やがった!」

予期せぬ襲来に皆臨戦態勢に入ってギルドを飛び出た。

「まさか、あんな方法で攻めてくるとは…」

ギルド前の湖には移動式ギルド、ファントムがせめて来ていた。

『貴方方には一片の希望も持たせない。消し去ってくれる』

ジョゼの物騒な言葉とともに砲台がこちらに向けられた。




動物妖怪紹介コーナーパート2
八咫烏
サッカーの日本代表のマークとしても有名な3本足の神の使いのカラスです。月のウサギに対して太陽を表すそうで、導きを表す存在です。3つの足は天地人を表すとかなんとか。

はい!今回は本編にもちょこっとだけ出てきた八咫烏です。説明がかなり短いですが、これは作者の読解力不足なので気になる方は調べてみては?(投げやり感)
いよいよ次回から本格的に戦いが始まります。ジンヤは一体どう活躍するのか乞うご期待!です!


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第19話 立ち向かえ、戦士たちよ

どうも、連日投稿中のぽおくそてえです!
タイトル、厨二病がかってるかな?気にしたら負けですね!
それではドゾー!


ファントムはいよいよ徹底的にフェアリーテイルを潰しにかかって来た。ファントムのギルド自体を移動させる驚きの登場、そして魔導砲ジュピターを発射しようと言うのだ。

 

「くそが、俺の能力にあんなでかい魔法弾を止めたり吸収しきれるやつないぞ!」

「なら下がっていろ、私がいく!」

「よせ、いくらなんでも…」

 

ギルドのメンバーの制止を振り切り、前に出て換装したのは金剛の鎧、防御特化の鎧だ。

 

「エルザ!」

「いくら金剛の鎧でも!本気か!」

「あいつを信じて言う通りにしとけ、ナツ!ジンヤ!」

「う、あっ!」

 

『発射だ』

 

砲台に集中していた魔力が解き放たれ、轟音をあげて迫った。

 

「伏せろぉ!」

 

エルザの声をかき消すように魔導砲がぶつかった。もはや意地の問題だった。だがいくら最強防御の鎧といえ、ギルドにあたることはなかったが、完全には防ぎきれずにエルザは虫の息になってしまった。

 

「エルザ、エルザ!くそ!無茶しやがるから!」

「はぁ、はぁ。だが…ギルドは…」

『マカロフ、そしてエルザ・スカーレットもダウンだ。諦めろフェアリーテイル、貴様らには凱歌は上がらねぇ。ルーシィ・ハートフィリアを渡せ』

「誰が!」「そうだ、ルーシィは仲間なんだぞ」「ふざけるな!」

『渡せ』

 

「私…」

 

自分が捕まればと自責の念に駆られる。仲間も傷つくことはないと思ってしまう。だが、その不安も仲間の声がかき消す。

 

「仲間を売るくらいなら死んだほうがマシだ!」

「俺たちは何があっても変わらねえぞ!」

「テメェらをまとめて捻り潰してやる!俺らの家族に手ェ出したことを後悔させてやる、ファントム!」

『そうか、ならやってみろ。ジュピターを再度発射してやる。この15分、恐怖に足掻け!』

 

その言葉が終わったら今度は兵隊がギルド内から出て来た。同じ格好をしたその兵たちの後ろではジュピターの再装填が行われていた。

 

「おい、あいつら味方ごと打つのか?」「さすがにファントムでも…」

「あれはシェイド、実体のある幽霊だ。ジュピターをマジで打つ気だな」

 

その言葉と幽鬼の兵の進軍、そしてエルザさえも一撃でダウンさせた砲撃に恐れ慄いた。しかし、そんな中でもナツは毅然としており、じっと前を見つめる。

 

「ジンヤ、あれが出るまで15分なんだろ?」

「ああ。中に入って砲台を崩すか、ラクリマを壊せ。それまでは俺たちであいつらを迎え撃つ。ナツ、壊すのは得意だろ?」

「当たり前だ!ハッピー!」

「あいさー!」

「俺らも続くぞ!」「おっしゃあ!漢を上げるぞ」

 

一気に飛んでく二人と、グレイとエルフマンの二人も見送り、目の前の敵に集中を向けていく。

 

「カナ、ロキ、ここの指揮は任せる。あの砲台が崩れたら俺も突入するぜ」

「分かったよ。後で酒でも奢ってくれよ?」

「特上酒を用意しとくぜ」

 

誇りを賭けたギルド攻防戦が本番を迎える。




今回はいつもより短めです、作者の駄文じゃこれが精一杯です。ごめんなさいなのです!
次回はどこまでいけるかわかりませんが、頑張っていきます!
それでは次回までサラダバー!

2017/9/27
少し訂正しました。


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第20話 疾走!激突!エレメント4を倒すまで

最近なぜか投稿するしかやる気の起きない駄作者ぽおくそてえです。
今回はかなり巻き気味にエレメント4をとりあえず全員出す形になりました。


ジュピターが充填し始めて10分が経っていたが未だに壊れる気配がない。

「誰かに妨害されてるみたいだ、エレメント4か?それにしても、シェイドが邪魔すぎる!」

かれこれ数十体と倒しているが一向に減っているようには感じない。

「こうなったら一か八かだ、悟空の能力で一掃してあそこに!」

「力を無駄に使うな!ナツを信じろ!土壇場で壊すはずだ!」

「…そうだな、俺としたことが。とりあえず後五分、その時はその時だ!」

気合を入れ直して、再びシェイド狩りを続けていた。

 

ファントム内 砲台ラクリマ前

「邪魔すんじゃねぇ!!」

「炎が使えなくて今度は肉体戦か。なら刀持ちの俺が有利だ!」

ジュピターを発射するラクリマの前でナツはエレメント4の一人、炎を操る大火の兎々丸と一進一退の状態が続いていた。お互いに食べたり操ったりと相性最悪のようである。

 

発射まであと40秒

 

「ぐぬぬぬ!」

「くそ、あの炎が操れない!(まさか俺の制御を振り切ったというのか!?)」

「ナツー!急いでー!」

「俺の炎は俺のだ!」

手に溜め込んだ炎を一気に兎々丸の方へ放った!

「当たらなければ意味がない!」

「ハナからお前は狙ってねぇよ!」

兎々丸には当たらなかったものの見事にラクリマは破壊した。

 

 

 

「おお、ナツの野郎派手にぶっ壊したな?これでジュピターは出てこないだろう」

「ジンヤ、こっちは任せな。あんた、この前のカチコミで殿務めたんだろ?今度はこっちが背中を守るよ。行ってきな」

「ありがとよ、カナ。武運を祈る」

ジュピター(砲台含む)の陥落を受けてジンヤはファントム内への侵入を急ぐ。

「おっと、なんだ?変形してる?」

「あれって、巨人!?」「なんでだ?」

飛び立とうとした瞬間にギルドがロボットのように変形していった。

「なんか魔法陣書いてる!」「まさか、あれは!?」

「やばいな急いで入るか!月兎飛来!」

兎の脚力をバネに利用して一気に飛んでいった。

 

ギルド内

「ナツ!無事か?」

「ジンヤも来たのか。あの魔法陣はなんだ?」

「あくまで予想の範囲でだが、あれはアビスブレイク。あの大きさからして発動したらこの街が地図から消える勢いだよ」

「なんだそりゃ!?そんな魔法ありかよ!」

「やばいな、早く止めなきゃな!」

「それならここで別れるぞ。原動力はエレメント4と見ていい!残りのあと3人、片付けるぞ」

それを聞いて慌てて3つに別れた。

 

 

「ナツ、あと3人のエレメントはお前にとっては相性が悪い相手ばかりだ。俺が奴らと相対する、お前はガジルのところに行け。ルーシィはそこだろう」

「…任せていいんだな?」

「当たりまえだ、ナメてんのかナツ?」

「へへっ、じゃあ行ってくる」

「ナツ!…死ぬな」

「おう!ルーシィと一緒に生きて帰る」

ナツは力強く言い放ち、先へと進んで行った。

「ふふ、流石だな。…まさか、待ってくれるとはな?勝てる自信の現れかエレメント4、大空のアリア!」

「私のことを勘付くとは、フェアリーテイルの最強の一角というのもうなづける」

「テメェはジジィに手をかけた外道だ。許す訳にはいかないなぁ」

「それはマカロフが弱かったのが原因だ。大空のアリア、巨人狩りに続き、獣狩りに推参いたした」

 

 

その頃エルフマンは…

「くっ!?この岩野郎!」

「ノンノンノン。私の名前はムッシュ・ソルでございます」

(片手で倒せる相手じゃねぇ!)

全身接収に移ろうとしたが、かつてのトラウマがあってか、失敗に終わってしまった。「うっ…」

「ん〜、トラウマの魔法を無理に使うものではありませんなぁ。ヴォワラ!!」

「うぉあ!」

「ん〜、この魔法でとどめをさしてあげましょう!プラトールソナート!」

石で固めた魔法の拳で呆気なくダウンを取られてしまう。エルフマンが倒れた先で見たのは、敵によって捕まってしまった姉、ミラの姿だった。

「姉ちゃんを、姉ちゃんを離しやがれぇ!」

家族を失いたくない一心でトラウマだった力を克服したのだった。

そう、かつて妹を失うきっかけになった魔法、全身接収『ビーストソウル』を。

「ノンノンノンノンノンノン!!」

ソルも予想だにしなかった現象に為すすべもなく吹き飛ばされてしまった。見事に理性を保って敵を討ち取り、姉も取り戻した。

「姉ちゃんとギルドを守るにはこれしかなかったんだ。嫌なもの見せてすまなかった、姉ちゃん」

「あなたのおかげで、私は生きてるわ。ありがとう…」

 

 

ソルを倒したその頃グレイは

「ん?さっきまで晴れてたのになんで雨が…」

「しんしんと…。ジュビアはエレメント4の一人で雨女…しんしんと…」

「お前もか…。悪いが女子供でも仲間に手ェ出す奴には容赦しねえつもりだからよぉ」

屋上でまた一つ仲間をかけた衝突が始まろうとしていた。




もうなんだかんだで気づいたら20話ですよ。これも皆さんのおかげです!UAがたくさんつくと励みになりますね、やっぱり。(なんか最初UVと誤字ってもうた、なんでやねん)
この嬉しさを糧にどんどん頑張るっすよ!
それではまた次回お会いしましょう!


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第21話 立ち向かえ、妖精たちよ!

ナツたちが活躍したためか、どことなく魔導巨人の動きがぎこちなくなっている。そんな巨人の頭部ではグレイと三人目のエレメント、雨女こと大海のジュビアと交戦していた。

 

「アイスメイク・ランス!」

「ジュビアの体は水でできているの。だから物理的攻撃は効かないわ、ウォータースライサー!」

「うおっ!?…なんで攻撃だ、周りの壁が切れてやがる」

 

人体から作り出せるとは思えない高速水流に壁や床に断面ができていた。しかもその切れ味は相当なもので、断面に粗がないくらいに綺麗に切れていた。

 

「っと、アイスメイク・バトルアックス!」

 

グレイが新しく作った武器で斬りかかるものの、まるで手応えがなく、水の体を通り抜けるだけだった。

 

「このままじゃ埒があかねえな」

「それなら、ルーシィを連れて来て頂戴。そうすれば私から話して、マスターに退いてもらうこともできるわ。今ならまだ間に合うかも」

「ふざけるなよ、ルーシィは仲間なんだ。絶対に渡さねえぞ、コラ!」

「そう、なのね。そうとなるとあなたを殺すしかなくなったわ」

 

水と氷、似た力を持つもの同士の戦いはまだ続く。

 

====

 

場所は変わってギルド内ではジンヤとアリアの戦いはまだ続いていた。風の魔法を使った遠距離攻撃や、背後を取って奇襲してくるアリアに何発か拳や蹴りを入れて徐々に力を抑え込んで押していく。

 

「いい加減倒れろ、鬱陶しい(まだ隠した力があるのは伏せておきたいな。発揮しきれるかわからんし)」

「ふふ、ふ…ふふふ。それは出来ないな。貴様はここで死ぬことになるからだ。空域『絶』、まずはこの魔法で貴様の魔力、食い尽くしてやる」

 

再び背後に現れ、前の戦いでマカロフに使った魔法でとどめを刺しに来た。

 

「さあ、死に行きなさい」

「相手のことを知らないようだな。知らないなら教えてやる、俺には魔力がほぼ皆無なんだ。だから…」

「ぐふ!どこに、そんな…力が…」

 

アリアの首を掴み取り、力を加え始める。声が出ず、苦しみ、ついには気絶してしまった。

 

「その魔法は意味がないし、効かない」

 

自分以上に体格が大きい相手を絞めたおし、泡を吹いている男を叩きつけるように地面に置いた。

 

「お前には、マスターを倒したと言う武勇伝を抹消してもらう。いいな」

 

聞くことも話すこともできない大男を放っておき、部屋を出て行った。

 

再び屋上

 

「なぜ俺を殺しにかからない?さっきのは噓か?」

「私は、ルーシィを連れて帰ればそれで良い。そ、それに。実は、あなたのことが…そのぉ」

「なんだか雨が激しくなって来たな」

「ジュビア、じれったい!」

 

「まったく、ここまでくると鬱陶しいな、この雨」

 

この一言でトラウマを刺激されてしまったジュビアは激怒してしまい、体を熱湯に変えてしまうくらいだった。

 

「あなたは許さないわ!」

「なんだいきなり!…くそ、温度が高過ぎて魔法が溶けて!」

 

あまりの高温に氷が一瞬にして溶けてしまった。怒りの原因が分からないし、いまいち飲み込めないグレイだったが、ギルドとしての意地にかけて負けられないと全力を出す。

 

「シェラー!」

「負けられるかよ!お前なんかに、ファントムなんかによぉ!!!」

「周りの雨も氷に!?なんて魔力!!?」

「アイスゲイザー!!」

 

グレイの強力な一撃、氷山のような大きな塊で閉じ込め、力を奪うことで沈めることに成功した。

 

「どうよ?落ち着いたか?」

「雨が…あがってる?」

「おー、晴れたか!」

 

ジュビアにとっての初の青空。一生見れないと思ってた青空であった。

 

「で?まだやるか?」

 

なぜかその一言でダウンして幸せそうな顔をしていたと言う。

 

エレメント4、撃破。アビスブレイク消滅、更にファントムギルド崩壊。いよいよ闘いは終局へ!




エレメント4との戦い話終わりです。かなり端折って書いたのは重々承知ですが本編でも結構描写が少なくて困ってました、ハイ。
さて次はマスタージョゼ登場です、お楽しみに!
あ、そういえばアンケート。あれもうそろそろ行いますので!
それではまた次回!


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第22話 聖なる光

はい、今回もかなり端折っていきます!
次回でこの章も終わるはずなので、アンケートの予告です。次回投降後から10日間行います。


 

「前哨戦の殿、シェイド、アリア。たったこれだけで体の負荷が…」

 

数多くのシェイドと戦って体力を消耗しきってたジンヤはギルドの奥に通じる大部屋で情けなく座り込んでしまった。

 

「俺も鍛えなきゃな」

 

(すまんな、ワシの力を分けることが出来なくて)

 

「気にすんな。そもそも如意棒がなきゃ出来ねえし」

 

そこに、さっきまで一緒に行動してた二人となぜかミラまで来ていた。

 

「すごい怪我だな、まさかアリアを倒したのはジンヤか?」

 

「まあな、それにしてもなんでミラちゃんが?」

 

「ファントムに捕まってたの、エルフマンが助けてくれたけどね」

 

ふらりと立ち上がったところで、全員急におぞましい寒気を受けた。

 

「なんだ!?変な感じが!」

 

「漢にあるまじき寒気が!」

 

「まさか、な」

 

 

 

 

「ふっふっふっ。見事なものでしたよ皆さん、まさかここまで楽しませてくれるとは」

 

「ジョゼェ…!」

 

(こいつがファントムの、マスター!)

 

エレメント4を撃破したことで遂に黒幕たるマスター・ジョゼが邪気を放ちながら現れた。

 

「さて、このままではいけませんな。楽しませてもらった礼をしなければ」

 

「お前ら逃げろ、敵う相手じゃ!」

 

素早く全員を逃がそうとするが、それより早くジョゼの魔法で全員吹き飛ばされてしまう。

 

「テメェ、よくも!!相手は俺だけでええじゃろが!」

 

手だけ変化させてジョゼに立ち向かっていき、一発食らわせたが同時に吹き飛ばされた。

 

「やりますね。シェイド相手に一騎当千し、エレメント最強のアリアをも下しておきながら私に一発当ててくるとは。獣の闘争本能とでも言いましょうかね?」

 

「それだけじゃねぇんだよ。『家族を守る』、『誇りを通す』。この両方をやらなきゃならないんでね」

 

「ほほう、なんと倒しがいのある男だ」

 

 

 

 

「ならば馳走しましょう、デッドウェイブ!」

 

「怨霊!?うぉっと!」

 

「ハァッ!」

 

「ぐぉっ!」

 

直に食らった魔法が想定以上に強力で、思わず膝をついてしまう。

 

「情けない。この程度ですか?」

 

「俺はまだ行ける。まだ、倒れるわけには!」

 

「くくく、楽には死なせません。苦しんで死に行きなさい!」

 

「誰が死ぬか!」

 

 

 

 

時間は少し遡りギルド近郊、魔法の森。ポーリュシカ宅…

 

「!マカロフ、あんた…」

 

「ガキ達が誇りを持って戦っている。ワシがいつまでも寝てたらいかんじゃろ…」

 

小さな巨人、出撃の時である。

 

 

 

 

「テメェらが戦争を仕掛けて来た理由はなんだ!仲が悪いのは昨日今日の話じゃねぇだろ!」

「そんなこと、きっかけはほんの些細な出来事ですよ。ハートフィリア財閥令嬢、ルーシィ・ハートフィリアを連れ戻せと言う依頼さ」

(あの時の涙はそういうことだったのか…)

ようやく、ギルドに連れ戻した時の涙の理由に納得がいった。

「この国有数の資産家の娘がフェアリーテイルにいるのが気にくわないのだ!元々雑魚だったギルドが力をつけおってからに!マカロフを殺さなかったのも落ちぶれて壊れたギルドを見せるためだ!」

 

ジョゼの魔法が再びジンヤを捉えた。

 

「ふふ、私に挑んだことを後悔しなさい。まさか何度も攻撃を当ててくるとは思わなかったが。苦しませてやる、あの世間知らずなガキ同様に!」

「テメェに…テメェにルーシィの苦しみが分かるか!自分の過去のことで悩み、涙を流すあいつの何が分かる!?仲間に迷惑かけたくないと自分だけで全てを背負おうとするあいつのことを、お前は!」

「これから知っていくさ…親から金をたんまりもらってな」

「この、下衆がぁ!」

「力まない方がいいぞ。死にたいならいっそ殺してやる!死ねぇ!」

「ぐぉあー!!!」

高圧電流が流れるような痛みに気を失いかけたその瞬間、何故か魔法が打ち破られた。

「何者!?貴様に破れるはずは」

 

 

 

 

「いくつもの血が流れた……。子供の血じゃ」

暖かい光が流れる感じがした。

「出来の悪ぃ親のせいで子は痛み涙を流した」

久しく感じなかったものを見た気がした。

「互いにな…もう充分じゃ…」

まるで親のような優しさと厳しさの入り混じったものだった。

「終わらせねばならん!!!」

マスター降臨である。

「ジジィ…遅えんだよ」

「すまなかったな、さがっておれ」

「ああ、頼む…」

気を失って倒れたジンヤをグレイ達に回収されてギルドを後にした。

「天変地異を望むのか、マカロフ・ドレアー」

「それが家族のためならば、ジョゼ・ポーラ」

 

 

聖十大魔道の二人の魔力のぶつかり合いに空が荒れ始め、地面が揺れ始める。攻撃が桁外れであり、まるで先程の闘いがなかったかのように凄まじい攻防が続く。

 

「さすがじゃ、その若さで聖十大魔道に選ばれるだけある。しかしその力を次代へと繋ぐことをしなかったのが悔やまれる」

「説教、ですかな?」

「これから貴様にはギルドのしきたりにより三つ数えるまで猶予を与える。ひれ伏せ」

マカロフの手には光の球ができ始める。

「一つ」

「は?いきなりなんのことやら。ひれ伏せ?」

「二つ」

「ふざけるな!貴様のギルドには負けない!」

「三つ」

「ひれ伏すのは貴様らの方だ、フェアリイィテイィイル!」

「そこまで…フェアリーロウ、発動」

 

妖精三大魔法、フェアリーロウ発動の瞬間であった。



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第23話 家族と仲間

はじめから再読していたら「結構大事な部分が抜けてね?」と思ってあわてて書いたものです。せりふや言い回しがおかしかったり違ってても優しくスルーしていただければと思います。


「終わりじゃ、ジョゼ。ここまで大きな戦争をやっちまった以上、評議会も黙って見過ごさぬはず。まずはテメェの身を心配することだ、お互いな」

フェアリーロウを発動させたことで決着がつき、ジョゼをおいてギルドを後にし始めていた。十歩ほど歩いたところで後ろから音もなく現れたのはジンヤにやられたはずのアリアだった。

「(悲しいなぁ、マカロフの背後はあの時と同じ、隙だらけ!死ね!)」

マスターのジョゼがやられ、完全に後ろを取ったと感じたアリアはマカロフを強襲したがマカロフのたった一撃の拳に再びノックアウトされてしまった。

「ギルド同士の決着はもうついたんじゃ。これ以上を望むというのなら、今度はこんな生易しいものでは済まさん。殲滅、跡形もなく消し去るぞ。そうなる前にジョゼをつれて帰れ、ワシの逆鱗にまた触れぬうちにな」

ギルド同士の決着はマスターの一言によって終焉を迎えた。

 

 

 

その日の夕方。

「おーおー。これはまた派手にやられたのう。完全に壊されとるわい」

「あの…マスター…。今回は私のせいで…」

「ルーシィ、おぬしもひどい目にあったそうじゃのう」

「それでも…私がいなければ…」

「そんなこと言わないの、ルーちゃん」

「まったくだ、暗い言葉は似合わねえぞ」

「それにギルドはみんなで立て直せばいい」

ルーシィの言葉の先を切ったのはレビィたちシャドウギアだった。

「レビィちゃん、ジェット、ドロイ…」

「ごめんねルーちゃん。苦しい思いをさせちゃったね」

「謝るのは私の…レビィちゃんは…何も…」

「ルーシィ俺らは仲間であるお前を守りたいから戦ったのさ。一人の喜びはみんなの喜び、一人の涙はみんなの涙、どんな苦楽も分け合えばいい。自責の念にかられる必要はない…だから顔を上げてくれ、ルーシィ」

仲間にかけられた優しい言葉にこらえきれず、涙を流す。団結力がいっそう増した戦いだった。

 

 

この戦いが終わってからは様々なことが起こった。評議会の拘束部隊がやってきてしばらく調書を取られたり、ロキが脱走未遂騒ぎを起こしたりと問題があった。

そんな騒動が一段落着いて、ようやくギルド再建の工事が始まった。

「おいジジィ!この設計図、遠近法が適当すぎてどうにもならねぇぞ!リーダスに作り直してもらうように言ってくれ!」

「遠近法なぞなくてもどうにかなるじゃろう」

「なるか!適当に作ってぶっ壊れましたなんて洒落になんねえわ!」

「そこはおぬしがなんとかせい!一応責任者じゃろうが!」

工事の部分責任者になっていたジンヤはあまりにもズボラな設計図にイライラしながら指示を出していた。

「まったく、こんなんじゃいつまで経っても完成しねえぞ。っておいナツとグレイ!サボってんじゃねえぞコラ!働け!」

「とりあえずルーシィの家まで逃げろ!」

なぜかさっきまで木材を運んでたはずの二人と近くにいたエルザと鬼ごっこをする羽目になった。

 

「で、なんでルーシィん家に来てるんだお前ら?訳がわからん」

「最近、顔見てないからな。様子見にきたんだが留守っぽいな」

散々追い掛け回した結果、四人+ハッピーでルーシィの住んでるマンションにまで来てしまっていた。

「どこか出掛けてるのか?…これって?」

「置手紙だ。読むぞ」

先に気づいたエルザが取り上げた手紙には短く

『実家に帰る』と記されていた。

「「「「なにぃ!?」」」」

「何考えてるんだアンニャロー!」

「もしかして責任を感じて…」

「分からん。ルーシィの実家に急ぐぞ!」

何も告げずに出て行ったルーシィを追いかけて電車に飛び乗った。



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第24話 子の心、親知らず

どうもぽおくそてえです。
今回で一応ファントム編終了です。22話とこの24話の間が抜けてたので入れました。
それでは、本編どうぞ!


ナツたちが騒いでる頃、ルーシィは実家に向かう列車の中にいた。

 

「(久しぶりだな、あの家も。書き置き残したけど、みんなに黙って来ちゃったから今頃騒いでるかな?)」

 

小さくため息をつきながら外の景色を眺めた。彼女の心の中と違いだいぶのどかな風景が続いていた。

 

「(あの人、なんて言うかな?今頃連れ戻そうだなんて考えてることが未だに分からないし)」

 

列車に揺られながら目的地にゆっくりと向かっていた。

 

 

数刻してようやく実家に戻った。ここを飛び出して以来なのに大きな感動を覚えることもなく門をくぐると、ルーシィに気づいた使用人たちに囲まれて大騒ぎになっていて、中には泣きだす人もいた。しばらくすると若い使用人が父親が書斎で呼んでいることを伝えに来た。

 

「(娘が久しぶりに帰って来たのに書斎に来なさい、か。あの人も変わらないなぁ)」

 

使用人にせっつかれて着替え終えたルーシィは早速書斎に向かっていき、ドアをノックした後に入っていった。

 

「来たか、ルーシィ」

「今回はお騒がせして申し訳ありません」

「分かっていれば良い。今回お前を呼んだのはちゃんとした理由があったからだ。何故かわかるな?」

「…」

 

厳格な雰囲気の中で、答えを聞く前に言葉を続けた。

 

「お前の婚約が決まったからだ。相手はとある国の皇太子。その国と関係を持てばこの会社を発展することは間違いない。そして男子を産め、跡取りのためにな。良いなルーシィ?…用件は以上だ。下がれ」

「…お父様。勝手に決めないでください」

「なに!?今なんて言った!」

「私は結婚するつもりはありません!」

 

ルーシィの毅然とした言葉には驚きを隠せない様子であった。

 

「勘違いしているようですので言わせていただきます。これからは私は自分の生きたいようにします。ママなら、やりたいようにしなさいって言うだろうから。…さようなら、お父さん」

 

そう言い残して部屋を出ていった。

 

「やはり…ルーシィはお前の子だな、レイラ。私はなにも分かっていなかったようだ」

 

父と別れた後、使用人たちに別れを告げて母の墓参りをしに来ていた。

 

「(余り来れなくてごめんねママ。心配は要らないよ?なんたって今は仲間がいるもん)」

 

久しぶりに来たのでたくさん話そうと物思いにふけっていたが、突然沈黙を破られることになる。

 

「ルーシィ!無事かぁ!」

「なにやってんだお前はぁ!」

「ルーシィ〜!!」

「ええー!?なんでいるの!?」

 

ナツたちの突然の来訪に驚きしかなかった。ハッピーに至っては泣きながら飛び込んでくる始末である。

 

「いやいや、なんでってお前。いきなりあんな置き手紙あったら誰でも驚くだろうが!」

「で、なにをしに来たのだルーシィ?」

「あー、いや。お墓まいりだよ。ママのね」

「なんだ、俺たちの早とちりかよ。まー、でも良かった良かった。ハッピーなんて泣いてたしな」

「泣いてないもん!」

「(やっぱりフェアリーテイルにいて良かった!私を大切に思ってくれるみんなに会えたんだから)」

 

ルーシィの無事を確認した一行はのどかな農道を歩いていた。

 

「それにしても、この街でかくねえか?」

「言われてみたら確かにそうだな。どこらへんまであるんだ?」

「あ、ここら辺全部私の家の庭だよ。あそこの山のあたりまでうちなんだ」

「「「「「はぁ?」」」」」

 

皆顔を揃えたかのように驚いていた。街一つ入る大きさの庭と言われれば当然だが。

 

「さりげ自慢来たー!」

「お金持ち来たー!」

「エルザ隊長、ジンヤ伍長!二人ともやられました!」

「空が…青いな」

「なんも言えない…。それしか言葉が見つからない」

「隊長たちもやられたー!」

 

こんなやりとりがあったとかなんとか。



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閑話休題 その1
第25話 新たな仕事に出かけよう


皆さんお久しぶりです、ぽおくそてえです。
アンケートにご協力くださった方には感謝です。さて、早速そのアンケートの結果をタグに反映しました。結果から申しますとルーシィをヒロイン、ということになりました。うまく書いて行ければなあと思います。

二週間近く空きましたがようやく投稿できます。お待たせしました。ポケモンとPXZ2をクリアするのに時間がかかってたのが遅れた一因です。申し訳ないです、遅れて。PXZ2の最終ステージで詰まってました、はい。
言い訳はここら辺までにして、本編です。楽園の塔前のちょっとした番外編みたいな何かになります。いつも以上にキャラ崩壊してそうなので「そないなの読めるか!」という方はそっ閉じ推奨です。
では早速どうぞ!


ギルドの改修工事も少しずつ進み基礎の部分が出来上がった頃、一時休憩を兼ねて作業を止めることになった。そこには休憩以外の理由もあるのだが、その理由が…

 

「みんな、これからしばらくは仕事の受注を仮設カウンターで行うわよ!」

「うおおー!仕事だぁ!」「俺も行くぞ!」「それ俺がとったやつだ、返せ!」

そう、ギルドが崩れたことによって止まっていたギルドへの依頼が再開することになったのだ。久しぶりの仕事ともあって金欠になりかけていたギルドのメンバーにとってはありがたいものである。

「やっぱり仕事しねえと楽しくねえな。ところでミラ、S級任務は貼ってないのか?」

「あ、ゴメンね。それがまだ来てないのよ。ギルドが再建されるまでの辛抱よ、ジンヤ」

「まあ仕方ないよな。分かった、ありがとよ。…お、そうだルーシィ!お前さん金に困ってるんだろう?一緒にどうだ?」

ミラと談笑していたルーシィに話を振ってみた。いつも家賃で困っていたのを気にかけてのことである。

「え?あ、うん。後から行くから仕事決めて来てくれると嬉しいな」

「おうよ!」

そう言って掲示板まで向かって行くジンヤをルーシィは呆然と見送っていた。

 

「どうしたの?なんかぼーっとしてるけど…」

「ジンヤって、この前、相手のマスターと殺し合いに近いことやったって聞いたから…その…色々と心配で。傷とかかなり負っている筈なのに」

「ルーシィも心配性ね。でもね、彼はどんな修羅場も生きて帰って来た…その経験は信頼になってるの。傷を受けても、仲間と誇りを守り通せたらってね」

「ミラさん…それでもやっぱり」

「大丈夫よ。ほら、仕事持って来たみたいよ」

「お、なんか話してたのか?悪いな中断させて」

話のネタになっていた彼が持って来たのは採集系の仕事だ。内容としては丘の近くの森に生える薬の原料を集めてくれ、という物である。

「これなら戦うのが苦手なルーシィでも大丈夫そうだし、報酬も高い!場合によっちゃあ美味しい飯も食えるんだと。良いことづくめだな」

「うん、ありがとう。じゃあ、準備できたらカルディア大聖堂で集合!」

「あい分かった。そんじゃ先行ってるぜ〜」

「…それにしてもなんであいつが気になるんだろ私」

複雑な気分のまま仕事に向かおうとしたら、何やら喧嘩が始まったらしい。

 

「ラクサス、貴様…。今なんて言った!」

「聞こえなかったか?ならもう一度言ってやる。お前らが弱すぎて情けない、ってな!」

どうやら前のファントムの件のことでラクサスが吹っかけたのにエルザが反応しているようだ。

「そもそも、テメェらが弱くなかったらやつらにもナメられることはなかったんだよ。特にそこの3人!名前なんつったけか、お前らがやられたことが戦争の始まりらしいな」

「貴様ぁ…どこまで!」

「事実を言っているだけだろうが」

さすがにみていられなくなったルーシィが小さい声ながら反論していく。

「何でそこまで言えるのよ…レビィちゃんになんの責任があるのよ」

「誰かと思えば元凶の姉ちゃんじゃねえの。テメエの責任でこんなになったんだぜ?」

そこに仕事の受付を終えたジンヤが呆れかえったような雰囲気で割り込んできた。

「おいラクサス、今回はそういうのは無しだ。第一、戦ってないお前が何で偉そうにしているんだ。大口叩ける立場じゃあねえんだぜ。文句があるなら戦ってからにしろ」

「ちっ、一番面倒な奴が来やがって。気分が悪い、帰る」

ジンヤが間に入ったことでラクサスは文句を垂れながらそこを立ち去った。

「ありがとう、助かったよ。ごめんね言い返せなくて…ルーちゃんも」

「気にすんなレビィ。あいつが何と言おうとお前には何も責任はない。さ、辛気臭い話はここまでだ、お前らも仕事に行きな」

空気を変えるために仕事に行く様せっついた。

 

 

ラクサスの一件が起こってから30分後、カルディア大聖堂前

「いや悪いな、準備してたら遅くなっちまったぜ」

「別に良いけどそこの腰袋に入ってるの、何?」

「これか?こっちの左足についているのには暗器にメリケンサック、折りたたみ式トンファー、まあ主に武器類だ。右側にはリボルバー銃、弾丸に携帯砥石だよ。あとは回復錠に閃光玉と…」

「わ、分かったから大丈夫。(しかしなんで今回に限って…)」

いつもならここまで厳重に武装することがないので多少心配になって来た。まるで狩りにでも出かける様な装備だ。

「話が終わったなら行くぜ。目的地はマグノリアから片道3時間かかる、『風車の回る丘』だ」

「よし張り切って行こう!(ここで考えても仕方ないもんね)」

若干の不安を持ちながら駅のある方向へと歩き始めた、薬草の採取から起こる闘争の幕開けとも知らずに。




はい、番外編です。本当はロキ(レオ)のお話が来るんですがここではなしです。大丈夫、今後の話には星霊になった、という前提で進めるのでちゃんと生きてます。バトル・オブ・フェアリーテイル編(13-16巻冒頭該当)まで本格的な活躍はありませんが。
次いつ投稿できるかな?


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第26話 お目当ての薬草は一体?

どうも、毎度ありがとうございます。最近投稿頻度が低速化まっしぐらな、ぽおくそてえです。前までは週1から週2回とかで投稿できてたのですが貯蓄がなくなったのが痛いです。
さて、もうクリスマスも終わりましたが皆さんどう過ごしました?こっちは家に一日引きこもってました(汗)。外に出たのは犬の散歩くらいでしょうか。

さて、そんなことは置いておき、本編に移りましょう!どぞー!


ルーシィたちが長いこと列車に揺られてたどり着いたのは優しい風が吹くのどかな町である。

「なんか風が暖かいね」

「ここら辺の気候はフィオーレでも穏やかな方だから作物が取れやすいんだと。仕事後の食事が楽しみだ」

「あはは、食べるの好きだね」

「まあな…お、見えて来た!あそこが依頼人の家だ」

そこには小さな丘の上に立つ一軒家があり、町の中央からはかなり離れている。

「静かでいいかもしれんが、遠くに行くには少し不便だな。まあいいや、入ろうぜ」

ドアを開けてみると、そこには待っていたと言わんばかりにお茶と菓子の用意がたくさんされている部屋に依頼人の女性がいた。

「随分遅かったですね?しかも彼女連れとはどうかと思いますよ、ジンヤさん?」

「まさかお前がいるとはな、ユウギリ。」

「か、彼女!?違います!仕事仲間です!ジンヤ、知り合いなの?」

「自己紹介がまだでしたね。今回の件の依頼人で、ジンヤとは古馴染みのユウギリといいます。以後よろしく」

「古馴染みというより腐れ縁の方があってる気がするがな…とりあえず仕事の話をしようか」

「そうですね。お茶でも飲みながら話しましょうか」

せっかく用意したのだからと、促されるままに座ることになり、お互いの自己紹介と説明が始まった。

 

「…という訳なんです」

一通り、お菓子をつまみながら説明をざっと行った。ここ最近持病の喘息が悪化していて、医療機関を受診したり、治療を行ったりしたが効果が薄かった。最後の頼りである漢方は技術面と材料の希少性から勧められなかった。材料が多くあれば、と言われたが喘息であまり遠くまで出られない自分ではどうしようもないという

「なるほど。まだ持病の喘息が治ってないんだな」

「そうなんです。できれば自分で取りに行きたいんですが…」

「私たちが多めに取ってきますから。その為のギルドなんですし」

「助かります!いつ喘息が悪化するか分からないので」

聞くところによると喘息に効く薬の原料がここの近くだと裏手の森にしかない特殊な物が何種類かあるのだとか。

 

「お願いできますか?」

「当たり前だ、お前の頼みとなればなおさらな」

「これが今欲しい種類です。全部で8種、できるだけ多く集めてください。よろしくお願いしますね」

写真と特徴、名前といった情報が乗った紙を渡され、一通り目を通したところで出発することになった。

「確かに確認した。それじゃ行くぞルーシィ」

「行ってきます、ユウギリさん!」

「ええ、待ってますよ。お気をつけて!…うっ!ゲホッ、ゴホッ!はあ、はあ…喘息が。今日明日でお願いしますよ…ジンヤさん」

喘息の悪化に伴い、薬が必要になるまでの時間がさし迫っていた。果たしてジンヤ達は間に合うか。

 

 

ユウギリ宅・裏手、カダノ森林地帯

「ここにあるんだと。とりあえず手分けて探すか」

「そうしようか。ある程度見つけたらさっきもらった通信機で連絡を取ろう」

「念のためにこの閃光玉と回復錠、信号弾を持っていけ。この森、クマが出てもおかしくないぜ」

「気をつけるよ。じゃあ私はあっち行ってるね」

効率化を考えて、二手に分かれて探すことになった事にさしあたって、ユウギリにもらった資料といくつかのアイテムを渡しておいた。

「さてと、探すか。暗くならないうちに帰りてえ…。ええと何々?麻黄に桂皮、芍薬と半夏?なんだこれ、漢方薬の材料じゃねえか」

よく似た見た目が多いことに気づいたジンヤはこのままでは夕暮れには間に合わないと必死に森の中を進んでいくことにした。

「早く見つかるといいが…」

ジンヤの苦労はまだまだ続く。




はい、というわけで結構久しぶりの投稿でした。その割には文章力も語彙も上達していませんが…。それではまた会いましょう。

ユウギリの挿絵描きました(2017/07/24)

【挿絵表示】


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第27話 血に染められた宵の月

新年あけましておめでとうございます。ぽおくそてえです。2017年もどうかよろしくお願いします!
さて、今回は閑話休題の続きからになります。キャラ崩壊とかそういうのが多かったり崩壊しすぎたりしてるかもなので「そういうのいらんっしょ?」という方は早めのブラウザバックをお勧めします!それでも「構わん…続けろ」とおっしゃっていただける方はどうぞ!


「これで3種類集まったな。もう1種類集める前に一回通信しておくか」

カダノの森で採取を続けていたジンヤだが、ふと一緒に来ていたルーシィの様子が気になってきた。この森に入ってかれこれ3時間以上連絡も来てないし信号弾も見ていない。緊急時か集め終わってから連絡すると決めているが何かあってからでは遅い。

「あーあー、こちらそろそろ仕事さぼりたいジンヤでーす。応答願いまーす、どうぞ」

『ジンヤ!?ようやく出た!早くこっちに来てよー!なんか盗賊っぽいの来てるし!』

「(何やっているんだ、全く)まさか通信の入れ方わからんわけじゃないだろ?今できているし」

『そうじゃないの!早くー!』

「はぁ。通信できる状態にしとけ、今から行く」

何かと巻き込まれやすいな、などと呆れかえりながらジンヤはルーシィの居場所を逆探知し始めた。

 

 

 

「場所はここらへんだな。さてさて、ルーシィはどこかな?」

安い探知機を片手に動き回ること十数分、ルーシィが持ってるはずの通信機の在処に近づいた。盗賊らしき集団がいたと聞き警戒していたものの、周りには盗賊どころか人っ子一人いないことに違和感を覚えた。少し歩いたらすぐに目的の通信機がつながった状態で見つかったのだ。

「どういうことだ?…ん?」

見渡してると、通信機のあった場所に走り書きでメモが残っているのを見つけた。そこには…

『フェアリーテイルの女はこちらで預かった。明朝までに、森の最奥のツウセン堂に一人で来るのである。 フォックストロット代表キンタオ』

と記されていた。

「なんとも王道な脅迫文だこと。だけどツウセン堂ってどこだ?ユウギリに聞くか!」

手紙となぜか残されていた薬の材料を持ってユウギリの家へと戻っていった。

 

「ルーシィさんが誘拐された!?誰がそんなこと!」

持ち帰った薬を飲ませて窮地を脱したユウギリは突然の誘拐に驚いていた。

「ここに手紙があるんだがよ…フォックストロットなんて聞いたことないしツウセン堂なんて知らないんだけど、ユウギリは知ってるのか?」

「フォックストロットは魔導士の世界でいうと闇ギルドのような存在です。この地域には文字を名前に使った組織が多く存在していて自治連盟を作って治安を守っているのですが、その組織は密輸や恐喝と言った犯罪行為を陰で数年にわたってしていたので連盟から除名処分を受けていたんです。あと、ツウセン堂は医学薬学の神を祀っている本殿です。これが地図ですよ」

「すまんな。にしても何で今回の標的がルーシィなんだ?」

「おそらく大型ギルドのメンバーだからでしょう。フェアリーテイルほど有名なら金が出るかそれなりの対応があるだろうと踏んでのことかと」

「身代金かそれ相応の何か、ねぇ」

外を眺めてみるとすでに日は傾きかけていて、期限の明朝まで時間が迫っていることが一目瞭然だった。ルーシィの体力を考えるとそろそろ救出に出向かなければと思い立ったジンヤは指定場所のツウセン堂に駆けることにした。

 

 

日が沈んでから数刻後、月が顔を出したころにようやくツウセン堂の前にたどり着いた。

「(地図もらって正解だったな…)出てこい、要求どおり一人で来たんだ」

「ほう、期限より早かったな。律儀な男であるとみた。我が名はキンタオ、頂点を目指すものなり」

ツウセン堂の中や周りには見えるだけで50人以上はいた。一番高い玉座のような場所には親玉のキンタオと、縄で縛られているルーシィの姿があった。

「遅いよジンヤ!何やってたのよこの馬鹿!」

「おいおいせっかく早めに来たのにそれはないでしょうよ。そうカッカしてると小じわが増えるぞ?それに空気ぶっ壊れたじゃねえか」

「うう、そんなことどうでもいいから早くしてよ!」

「はぁ…(急いで来なくてもよかったか?)。キンタオ!その子を早く離してもらえないかね?これ以上の面倒ごとは遠慮したいんだ!(しかもうるせえし)」

「交渉するなら見返りが必要だ。だが、どちらにしろ聞くつもりはないのである。我が大志への礎になってもらう。どうしてもというなら『死』あるのみ、ぞ」

キンタオの手が振り下ろされたのを見計らったように一斉に襲いかかってきた。

「そうか、せっかくの機会を無駄にするか。…ならば黄昏に消え去るが良い」

今までにない殺気を放ちながら、一瞬にして沈めていった。

「お前は気絶程度では済まさんぞ、キンタオさんよ」

「訓練を積んだ我が同氏をいとも容易くなぎ倒すか!面白い、貴様とはいい勝負が出来そうである」

「(なにあれ!?あのジンヤがあんな殺気を!私の知らない一面がまだ…)」

内に秘めた殺意をぶつけ合う両者。果たして打ち勝つのはいずれであろうか。




たぶん次かその次で終わると思うので、楽園の塔編ももうすぐです。
深夜のテンションで書いたり編集しているのでおかしいところがあったら優しく教えてくだされ。
なんやかんやで三か月くらい続けることになったのですがまさかここまで行くとは思わなかったです(実は作者、結構飽きっぽいので)。それでは今年も頑張っていこうと思います!
それでは、また次回!


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第28話 決着

どうもお久しぶりです。ぽおくそてえです。
オリ話、今回でいったん終わりです。ネタがなかなか上手く思い浮かばなくて自分でもすっきりした終わり方ができなかったのですがこのままでは先に進みそうになかったので、ここでひとつ区切らせてもらいます。
遅くなった上に微妙な終わり方で申し訳ないです。あと、22話の後の部分が抜けてたので追加しました。それに伴って少し話数がずれました。
それでは本編どうぞ


「どうした、その程度か?もう手がないとは言わないよな?まさか、これで終わりぃ?」

「想定以上だ、一個中隊ほどの人数を相手にここまでやるとはな(この男、言わせておけば好き勝手言いおってからに!)」

「どうだ、キンタオ。今ならサシで勝負してやるぜ」

「いい気になるな。今までのはお遊びだ」

決戦に終止符を打つため、2人は同じ土俵に立つ。

「慈悲はかけねぇ。ここで沈めてやる」

「大した自信であるな。貴様のその増長した牙をへし折って見せようぞ」

お互いに構えたまま数分、睨み合い、空気が張り詰めたまま動く気配が無かった。数歩進めば相手の首に手が届く距離がまるで遠くに感じるほどである。

 

「地に堕ちろ!!」

「消えろ!!」

 

 

一瞬にして詰め寄った2人は相打ち覚悟でありったけの力をぶつけた。が、体が少しばかり小柄なジンヤにうまくかわされ、驚いた隙を突かれ、急所を鋭い打撃が襲った。

「ぐっ、まだ力をそんなに残していたの、か…!」

「当たり前だ。まだ死ぬわけにはいかない」

「執念の差か。何年も時間をかけたのに…このような…結果とは。魂魄だけになろうともいずれ…この雪辱は…」

「お前の負けだ。殺しやしないがそのまま評議会に突き出してやる」

 

「ルーシィ、大変な目にあったな」

「ホントだよ全く。ねぇ、ひとついいかな?」

「なんだ?」

「ジンヤは昔なにかあったの?あんな戦闘狂染みた姿みたことないよ?」

「やはり聞いてくるか」

ジンヤにとって話すのが億劫な話題だ。しかし、先ほどの戦いを見られてしまっている以上話さない訳にはいかなくなり、仕方なく語り始めた。

「俺の故郷の人達は戦争に駆り出されたんだ。皆武器を持って戦ったんだが俺と数人を残して壊滅、生き残った仲間たちも今は行方知れずだ。それ以来よっぽどのことがない限り武器は持たないようにしてたし、殺しとかしたくなかったんだけどね」

「そんなことがあったんだ。知らなかった」

「知ってる奴の方が少ないがな、これに関しては。これ以上は話すつもりはない、もう思い出したくもないしな」

早々に話を終えてユウギリの家に戻った。

 

ユウギリ宅

「2人とも無事に帰ってこれましたか!心配しましたよ」

「すいません、ユウギリさん。元気になったということは依頼は完了してるんですね」

「ええ。とりあえずお疲れ様でした、今日は休んでください、お帰りになるなら明日以降にしましょう」

「いつも迷惑をかけるなユウギリ。お言葉に甘えて、そうさせてもらうよ」

翌日、2人は無事依頼を終え、報酬を持ってギルドに帰っていった。




次回から楽園の塔編です。30話目前でようやく10巻あたりに到達とかなりのスローペースですが最後までお付き合いいただければと思います。

後、殺害までせず、評議会に突き出すという形に変更しました。


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第4章 禁忌!楽園の塔編
第29話 その切符、楽園への道標にして


毎度おなじみ、ぽおくそてえでゴザル。なるべく1月中に多めに更新すべく投稿します。
ここからは新章、楽園の塔編です。
四か月目でようやく10巻到達とな。まさかここまで続くとは思いませんでしたよ。
それでは本編どうぞ!


ジンヤとルーシィが盗賊の件から帰ってきて数日が経過したころ、まだ工事は続行していた。

 

「工事はまだ時間がかかるな、こりゃ」

 

「もう1週間もやってるのに骨組みしか終わってないってどうなんだこれ?」

 

「全くだ。まあ、怪我人が多かったからしょうがないのかね?にしても疲れた…」

 

ようやく基礎部分が出来上がったギルドを見ながらジンヤ、ナツ、グレイは疲れ切った顔でぼやいていた。

 

「やあ3人とも。元気にしてたかい?」

 

「誰かと思ったらロキか、久しぶりだな」

 

「こっちに来るなんて珍しいな、どうした?」

 

ルーシィの星霊になっていたロキが1週間ぶりくらいに顔を出した。

 

「実は君たちに渡したいものがあってね。これなんだけど」

 

そういって渡してきたのは海岸沿いにある高級ホテルのチケットだった。

 

「おお、これってすごい高いとこじゃん!」

 

「泊まったことねぇぞ、こんなとこ!」

 

「あはは、喜んでくれて良かったよ。僕はルーシィの星霊になったから、人間界に長くはいられない。彼女達と行くつもりだったんだけどもう行けないからね。5人分からプレゼントしただけだよ」

 

「はぁ、すげえもんだな。5人分ってことはルーシィとエルザにも?」

 

「もちろん渡してあるよ。楽しんできてくれると嬉しいな。じゃ、僕はこれで失礼するよ」

 

そういって星霊界に戻ったロキからのプレゼントをありがたく受け取って行くことになった。

 

「しばらくは休めるぜ!」

 

「だな。ちょうど良かった」

 

3人で喜んでいたところにエルザがこれでもかと言わんばかりの水着や浮き輪を持って現れた。

 

「早くしないか!ビーチは待ってはくれないぞ」

 

「そーだそーだ!」

 

「…エルザ、半分くらい置いて来い。小学生かお前は」

 

 

 

 

 

翌日、アカネビーチ

 

「青い空に白い雲。いいねぇ」

 

「遊ぶには最高の環境だぜ!」

 

ナツ達は早速ホテルの近くにあるビーチまで遊びにきていた。

 

「盛り上がってるとこすまないが、先に遊んでてくれ。俺はちょいとばかし用事を済ませてから行く」

 

「おう!早く来いよ〜!」

 

ジンヤは振り返らずに手を振りながらみんなから離れたところに着いた。

 

「(さてと、久しぶりに如意棒でも…)」

 

『おお、なんか久しぶりだぜ、この感覚!』

 

「最近使ってなかったからな。少し馴染んだらあいつらのところに戻るぜ」

 

『任せな』

 

 

 

「しかしジンヤは何をやっているのだ?あれから30分も経つぞ!」

 

「まあまあ怒るなよエルザ。あいつにも事情があるんじゃないかな」

 

「それでもだ!せっかく遊びに来てるのに!こうなったら私が」

 

「そう慌てなさんな、ビーチは逃げはせんよ」

 

怒るエルザを適当に宥めながら合流したジンヤはみんなと楽しく遊んで1日を終えた。夜になってそろそろ休もうと部屋で1人でいたところにルーシィがなぜか正装をしていたエルザを連れてやって来た。

 

「ここのホテルの地下にカジノがあるんだって!ナツ達は先に行ってるけどどうする?」

 

「カジノねぇ?あんまり気が乗らんが、みんなで行くってなら仕方ないな。俺もついてこう」

 

1人でいてもつまらぬと思い、ルーシィの誘いにのり、3人で地下に向かっていった。

 

 

 

3人が地下に着いた頃、ナツとグレイは既に楽しんでいる最中だった。早速ルーシィ達と別れてバーカウンターに来ていた。

 

「よお。遅かったじゃねぇの」

 

「すまねぇな。で、その子はどこの誰だい?彼女か何か?」

 

「いや、元ファントムのやつでね。さっきそこで会ったんだよ」

 

「ど、どうも。ジュビアです」

 

「ファントムか。何もしないなら俺は構わねえが、仲間に手を出すなよ」

 

軽く威嚇しながら酒を片手にギャンブルをしに行った。

 

「こ、怖かったです」

 

「心配するな、あいつは仲間思いのいいやつだ。そのうち分かるさ」

 

 

 

「(やっちまったか。いくら元ファントムとはいえ、あそこまできつく言わなくても良かったな。後で謝っておくか)」

 

ジンヤはさっきの恫喝まがいの脅しに大人気なかったと反省しながらスロット台に近づき数回ほど打っていると、いきなり辺りが闇に包まれたように真っ暗になった。

 

「なんだ!?いきなり暗く?くそ、何事だ」

 

仲間達の様子を確認しようと耳と鼻を頼りに動こうとしたところで少しずつ光が戻り始めた。

 

 

 

「(なんだったんだ、一体。えらい騒ぎだったが、とりあえずみんなの無事を確認しねえと)」

 

あたりを動いていると何故か縛られたルーシィと遭遇した。しかも周りには人が閉じ込められた異様な魔法トランプが大量におちている。

 

「おい、こんなところで何やってるんだ?俺が目を離した隙にSMプレイにでも目覚めた?」

 

「そんなんじゃないし!とりあえずこの紐ほどいてよ!なんか痛いのよこれ!」

 

「じっとしてろよ。…ほい、取れたぜ。ところでエルザは?」

 

「はぁ、助かった。そうだ、エルザが変な奴らに!」

 

「何があった?落ち着いてゆっくり話せ」

 

一旦落ち着かせた所で、暗闇の原因やその間になにが起こったのかを掻い摘んで説明を受けた。

 

 

 

「そうか、そんなことが。とりあえずグレイ達と合流しよう。あっちにいるはずだ」

 

そういって先程のバーカウンターに戻ると血を流しているグレイを発見し、ルーシィは絶叫していた。

 

「ぎゃあああ!なにこれ!?」

 

「落ち着け、これは氷だ。人間臭さがない」

 

「えっ?」

 

「流石ですね。グレイ様は私が守りました」

 

ジンヤ達の近くからいきなり出て来たジュビアとグレイを確認して、現状を一通り説明した。説明の途中でどうしてか不明だが看板の下敷きから出て来たナツにも同じ説明をしていた。

 

「…というわけだ。ナツの話ではハッピーまで捕まってるみたいだし、事態は思ったより深刻だ」

 

「だけどよ、あいつらがどこにいったか分かるのか?」

 

「俺の鼻に任せな。そこまで離れていないはずだ。船着場に向かうぞ、急げば間に合う」

 

ジンヤの指揮のもと、早速行動に移るのだった。攫われた仲間を救うため、無事を祈りながら、向かっていくのであった。




珍しく2,000字超えました。なんか切りのいいところで終わらせようとしたらこんな長くなりました。
それではまた次回!


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第30話 妖精の涙

遂に30話まで来ました!このまま頑張って最後まで突っ走るのみです!
さて今回は塔についたところからです。では本編どうぞ!


「もうそろそろだな。エルザたちはここら辺にいる筈だ」

「あの塔かな?ここら辺だとあそこくらいだよ、陸があるの」

「ナツの鼻がありゃもうちょい楽だったんだけどな」

エルザとハッピーが攫われ、アカネビーチに偶然あった船を出すこと十数分、目的地と思われる島に辿り着いた。入り口前にあった桟橋に着けて、地下に何かないかジュビアに水中を探らせることにした。

 

「なんか人がたくさんいるぞ?」

「あんなやつらぶっ飛ばして先にいくぞ!」

「やめとけナツ、そんなことしたらエルザとハッピーに危険が及ぶぞ」

上陸して、時折やってくる巡回兵を影から観察していると、結構な数の人がいるみたいで、2分から3分に一回は出入り口付近を通り過ぎることを確認した。

「隠れての正面突破は難しいな。出た瞬間にバレる可能性が高いぞ」

「そろそろ水中に行ったジュビアも戻ってくるんじゃないか?」

グレイの言葉通りにすぐに戻ってきた彼女は水中の洞窟に入れる場所があるのを確認していた。

「地下洞窟か。正面突破ができない以上そこからいくしかなさそうだな」

「空気のある場所までは十分ほどかかります、皆さんには空気の入ったこちらを…」

ジュビアの能力で水の球を作り、そこにしばらく呼吸が出来るように空気を閉じ込めているみたいだ。

「俺は能力でどうにかなるから他のみんなに渡しておいてくれ」

「分かりました、そうしましょう」

準備ができたところで早速潜って向かい、洞窟内の陸地に上がった。

 

「こっちは正門に比べて警備が薄いな。ところで出入り口はどこだ?」

「あそこからだったら行けそうだ」

「あの天井の?でもあれ内側から開ける式っぽいし、こっちでは開けるのが難しいかも」

潜入に成功したが一方通行の扉があるだけで入れる気がない仕掛けになっていた。

「はぁ。せっかく着いてもこれじゃ厳しいな」

「どうしよう?このままじゃ何もできないけど…」

悩んでいるうちにどこから見てたのか分からないが敵兵がうじゃうじゃと出てきた。

「貴様らここで何をしている!?」「何者だ!!」「絶対逃すな!」

「何者だと!覚えておけ、俺たちはフェアリーテイルだ、バカヤロウ!!」

「運が悪かったなお前ら!仲間は返してもらうぜ!」

 

 

ジンヤたちが地下スペースで暴れること十数分、やって来た部隊はことごとくやられて床に転がっていた。

「骨のねぇ連中だこと。能力の無駄使いだったぜ」

「…どうやらさっきの扉が開いたみたいだ」

「俺たちのことバレてるのか?」

「遠隔操作しているみたいですし、おそらくどこかから私たちを見ているのでしょう」

挑発をするかのように静かに降ろされた梯子を登りきると、だだっ広い部屋にたどり着いた。

「こっからどうするかだな。まずはエルザとハッピーの合流と回収かな」

「そうだね。まずは早くエルザと合流したいけど…」

 

5人で小会議を行ってると連絡が入ったのか、第2部隊が追いかけて来た。身構えるジンヤたちをその刃は襲うことはなく、1人によって沈められた。

「エルザ!」

「まさかそっちから来てくれるとはな。無事で何よりだ」

「か、かっこいいです」

「な!?お前たち何故ここにいる!」

まさか会うと思って居なかったエルザは驚きを隠せなかった。

「そりゃ仲間が攫われたんだ!来るのは当然だろ!」

「お前だけじゃなくハッピーも攫われたんだよ。なにか思い当たる節はないか?」

「ハッピーもだと?そうとなると、おそらくミリアーナだろう。だが、どこにいるかは分からん」

「よし、分かった!」

「(何が分かったんだ、こいつ)まさかハッピーの元に行くのか?」

「当たり前だ!うおぉ、待ってろよー!」

制止する前に完全に先走ったナツは部屋を飛び出し、何処へと向かっていってしまった。

「待て、おい!」

「追うな。お前たちは先に帰れ」

後を追おうとしたところでエルザに刃を向けられ、止められてしまった。

「エルザ、なんのつもりだ。すぐに行かないと追いつかねえぞ!」

「ミリアーナはかなりの愛猫家だ。いくら敵とはいえ、無闇にハッピーに手をあげるとは思えん。2人は私が連れて帰るからお前たちは離れろ」

「はいそうですかと言うとでも思うのか、俺らがよ」

「お前たちは無関係だ。巻き込みたくない」

「俺たちはもう十分巻き込まれてんだよ、あのナツを見ただろ?」

ジンヤに続いてグレイからも言葉がかけられたが、エルザは黙り込んでしまった。

「昔のことでいろいろ言いたくないだろう。

それでも俺たちは仲間だ、どんな時でも側にいる」

「か…帰れ…お前たちには」

「エルザらしくないよ?いつもみたいについて来いっていってくれれば良いのに」

「ルーシィの言う通り、俺たちは力を貸す。仲間なんだからな。お前だって怖えと思ってもいいじゃねーか。だから…うっ!」

肩を震わせていたエルザの目には涙がたまっていて、皆を驚かせた。

「エルザ、お前」

「…この戦い、勝とうが負けようが私はこの世界から姿を消すことになる」

「どういうこと?」

「今から私が知っていることの全てを話そう」

そこで話されたのは自分たちのいる『楽園の塔』について、そしてエルザがここに奴隷として働いていたこと、その時の仲間たちについてだった。

「だから、私は戦うしかない。この悪夢を終わらせるには…」




今回も二千字超えました。エルザの回想は書くと長くなりそうだったのでカットしました、すいません。今後の話では地の文とかでその都度、必要に応じて説明して行こうかと思います。後、原作とちょっとセリフの言い回しや喋らせる人とか量とか変えました。

そういえばセンター試験から1週間経ちましたね。受験生の皆さん、最後まで過去問と基礎練習を勧めます。頑張ってください!
脱線しましたね。それではまた次回お会いしましょう!


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第31話 進むは光のその先へ

今回は1,000字ちょっとくらいと短めになってなかなか進まないことに申し訳ない気持ちになっている作者こと、ぽおくそてえです。気づいたら1月もあと数日ですね。風邪をひかないよう頑張ります。


「そんなことがあったとはな。その、話に出て来たゼレフってのはもしやあの黒魔道士か?」

「ああ、魔法史上最凶最悪の伝説の黒魔道士で間違いない」

ゼレフはガルナ島でグレイの師であるウルが命と引き換えに倒した化け物『デリオラ』やナツたちと初めてチームを組んだ時に倒した呪歌『ララバイ』のような悪魔を多く生み出した厄災と言っても過言ではない男だ。そんな男を生き返らせる動機が楽園へと進むためだと昔の仲間がエルザに語ったそうだ。

「それにしてもなんでその仲間たちがお前を目の敵にしてるんだ?」

「私は彼らを裏切ったといってもおかしくないことをしたし、8年も離れていたからな、その間にジェラールに何かを吹き込まれたんだろう」

「裏切ったって、それはエルザがここに近づけなかったからじゃない!それなのに」

「もういいんだ、ルーシィ。ジェラールを倒せば全て解決する」

自分で全てを背負い込もうとしているように見えたグレイにとっては胸のつかえが取れず、もやがかかったままでいた。

 

全てを話し終えたところでエルザを姉さんと慕うショウがやってきた。彼の口からは、エルザの言うことは全て嘘で魔法を体得したために自分たちを裏切り1人だけ逃げたこと、ジェラールのみが希望であり彼のためにこの塔を完成させたと吐き出すように叫んだ。その時に信じられるのはジェラールの言葉だけでそれが全てであり救いでもあったと続けた。

「だから俺たちは塔を完成させたんだ、ジェラールの言葉を信じて!」

「ジェラールの言葉を信じてエルザを疑うのか?こいつがそんなことするとは思えねえがな」

「逆になんでそこまで信じられるんだ。間違ってたのは俺たちだったって言うのか!」

「そうだ」

後ろから話しかけてきたのは一際大きな体をしたシモンだった。

 

「あの時のジェラールの言葉は嘘だったんだよ」

「お前はあの時の!」

「待ってくださいグレイ様!彼は敵じゃありません!」

アカネで襲撃してきたシモンに対して突っかかろうとするグレイを抑えたのはジュビアだった。闇の術者が身代わりと知りながら攻撃をして、自分たちを見逃したからだ。つまり、彼は最初から敵対するつもりがなかったのだ。

「さすが、ファントムのエレメント4だな。よく観ている。…俺は強力な戦士たちが集まるこの機を待っていた、それまでは騙されたフリをしながらな」

「戦士?俺たちのことか?」

「ああ。ジェラールを止められるのはお前たちしかいないからな。エルザの仲間なら大丈夫だろう」

「シモン、お前」

「エルザ、俺はお前を信じてたんだ。8年間ずっとな」

何年も待たせてしまった仲間との再会がこの一言によって報われたエルザとシモン、ショウは久方振りに抱擁を交わした。

「…ジェラールを潰すなら今しかない。敵同士ではあったがここは一つ力を合わせようじゃねえか。この腐った計画を潰しにな」

ジンヤの提案で一致団結することになった。

「そうだな。まずはサラマンダーのナツと合流する。ミリアーナ達と衝突する前に」



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第32話 楽園の戦士

遂に10000UA達成です!本当に感謝感激です!
この小説も大台達成出来て嬉しいです。引き続きよろしくお願いします!
それではどうぞ!


「シモン、他の仲間はどこにいるか分かるか?」

「すまんが、あいつら通信を切ってやがってる」

「そうか…」

ナツの行方を探して塔の中を走り回ること数分、突如として辺り一面に現れた変な口から聞こえてきたのは男の声だ。

『ようこそみなさん。俺の名はジェラール、この塔の支配者だ』

「なんだこの口は!?」

「変な趣味してるな、こいつ(この声、どこかで聞いたな)」

『互いの駒は揃った。そろそろ始めようじゃないか、楽園ゲームを』

姿を見せないジェラールと名乗る男から告げられたゲームの内容はエルザを生贄にゼレフを復活させること。それを実現すればあちらの勝ち、阻止すればこちらの勝ちという誰もが反感を持つものだったが、それでも静かにジェラールの声が響き渡る。

 

『ただそれだけじゃ面白くないのでな、こちらは3人の戦士を配置する。すなわち3対8のバトルロワイアルだ』

「3人の戦士?ショウ、シモン、知ってるか?」

「いや、初耳だそんなこと」

「こっちもそうだよ」

ジェラールの仲間として長年近くにいたシモンたちでさえ知らない存在に全身が凍るような感覚を味わった。だが、恐怖はそれだけに留まらなかった。

『そして特別ルールを説明すると、ここに全てを破壊するエーテリオンが落とされる可能性がある。それが落ちれば全て終わり、ゲームオーバーだ』

「何!?エーテリオンが?あの最終兵器が落ちてくるってのか!」

「何をするつもりなの!?」

突然の情報に動揺が隠せない。なにせ周囲数百メートルはいともたやすく滅亡させられる兵器が落とされようとしているのだ。

 

『さあ…楽しもう』

「くっ…これはやばいぞ。ジンヤ、ここは手分けした方が良さそうだ」

「じゃあシモンと俺で引き続きナツを追おう。お前らは別れて敵を探してくれ」

これから動こうという時に、まさかのハプニングが起きた。

「姉さんには指一本触れさせない!ジェラールは俺が倒す!」

「おい、ショウ!お前1人じゃ無理だ。くそっ、俺はショウを追う!お前らは別々に別れてくれ」

「なんでどいつもこいつも勝手に!」

突然正気を失いつつあるショウが先走ってしまったのだ。

「(ま、パターンだけどな)俺もあいつらを追うからなるべく固まって動けよ」

全員に指示を出したところでジンヤは先に行ってしまったショウとエルザの後を追うことにした。

 

 

「ショウ!エルザ!っておいおいこりゃ酷え傷だな」

「ジンヤか。そこを離れてた方がいい 」

途中で何度も見失いながらもようやく追いついたのが塔の天辺に続く階段の前にある最後の廊下であった。薄くではあるが胸部を切られているショウが倒れていた。

「女王様が出てきた思うたら今度は獣人さんかいな?」

「何者だ、あんたは?エルザをこんなハレンチでエッチィ格好をさせるとは只者じゃないな」

「は、恥ずかしい言葉を次々言うな!」

顔を真っ赤にしているエルザを放っておいて長刀を携えた女の方を睨みつける。

「うちは斑鳩と申しますぅ。よしなに」

「(例の戦士の1人か)おい、先に行け。こいつの相手は俺がやっとく」

「何を言いだす!此奴は私がやる。でなければジェラールに…」

「ダメだ。おまえをここで止めておくわけにはいかんし、その傷の状態ではジェラールどころかこいつにも勝てねえ」

 

少しごねたが、無理矢理説得してジェラールを倒すため上へと向かわせた。真横を過ぎ、階段の方に向かった彼女をなぜか斑鳩は見逃したことに顔をしかめる。

「そう易々と通して良かったのか?」

「いずれにせよ、彼女は間に合いませんし、ジェラールはんが勝つに決まってます。これが運命どす」

「あいつは勝てるさ。あいつには仲間がいるからな」

「…行きますえ?」

「この塔を渦巻く呪いを解いてやる、全てを賭けてな」

互いの武器を手に衝突が起こった。




はい。3人の戦士と書きましたが話の都合上(いつものことですが)斑鳩しか出しません。オリキャラも出ません。残りの2人は作者のやる気の犠牲になりました(ゴメンね)。
もう少しでジェラールとの決戦に持ち込めそうです。
それではまた次回お会いしましょう!


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第33話 墜つる天の光

遅くなりました、すいません。


エルザが最上階を目指す中、2人の戦士達が衝突を繰り返していた。

「無月流、迦楼羅炎!」

「危ねぇ!」

斑鳩の抜きはなった刀から大蛇が踊りでたかのように炎がジンヤに襲いかかったが悟空の神通力『縮地法』を使ってなんとか上方へと逃げることができた。

「刀から炎とかどんな剣術だよ」

「まだまだこれからどす。無月流、夜叉閃空!」

「くっ!!」

凄まじい一閃に身体を小さな蝙蝠に変えて散らすことで攻撃の当たる箇所を小さくさせるという奇策に出たが、それでも何箇所からか血が流れ出してしまった。

「あんな状態からよく私の攻撃を躱しましたなぁ」

「…全力を出してないのにそう言われてもな」

「ふふ、なら全力で参ります」

そこから更に十分ほど経つが未だに決定打を打てていない状況だったが、脇腹に受けた傷以外にも肩や腕から血が流れて痛みが悪化していた。

「(あちこちから血が流れ過ぎたな。負けないとか言っときながらボロボロたぁ、情けねえ…)」

「これで終わりどす!」

斑鳩が長刀を居合の状態に持ち込み、一気に踏み込んだ。

「くっ、おあぁー!」

あと少しで斬られようとした瞬間、周りの大気が弾け飛び、身体中に模様が浮き出てきた。さらに身体から青い炎がオーラのように纏わりついて斑鳩を牽制した。

「いきなり、姿が…あの炎は一体!?」

「ココで負けるワケにはユカぬゥ!」

ダメージをおった状態で無理に発動したため、力のコントロールが効かず暴走状態になっていた。そんな状態にも関わらず目にも止まらぬ速さで一気に詰め寄った。

「一瞬千撃、『瞬獄殺!』」

「ひっ!?うあぁあぁぁ!!」

その拳は敵の骨が残らぬ程に強烈な連撃を浴びせ、遠く彼方へと吹き飛ばした。斑鳩は全身の筋肉や骨が傷つきもはや動くこともできず、それを見届けた後、オーラが消え去った。

「ぐっ!?はぁ、はぁ(このパワーは無理に引き出すもんじゃねえな)」

地に伏した斑鳩が声をかけてきた。

「それがあんたの本当の力どすか?」

「さあな。俺にもよくわからねぇ」

「ふふふ、変わった方どすな。でもジェラールはんが居れば…」

そう言い残して意識が途切れた。

「…奴には引導は渡してやる、死者の復活なぞさせてたまるか」

 

 

「…ショウ、頼みがあるんだが。痛て!」

「な、なんだよ(大丈夫かこいつ、突然変身するし?)」

なんとか立てるようになったところでショウにこの塔内にいる仲間を全員退避させるように言い渡した。エルザもそれを望んでいるだろうと伝え、連絡を取らせながら出口に向かわせた所で自分は階段へとおぼつかない足取りながら歩を進めた。

「姉さんたちを必ず連れて帰って来てくれよ!」

「当たり前だ!(待っていろよジェラール、エルザ!)」

無理に力を引き出した疲労を隠すように力強く応えた。

 

かくして斑鳩の翼を折り、地に沈めたジンヤは傷に薬を塗りながら最上階へ向かうが、何故か後ろにいたはずのナツとシモンと遭遇することになった。

「お前らなんで避難してねえのか…」

「なんのことだ?エルザはどうした?」

シモンに聞かれたことに素直に先に向かったと答えたがそのエルザがエーテリオンを使ってジェラールを道連れにするつもりだという言葉を聞き、不用意にエルザを先に行かせてしまったのを後悔することになった。

「(まだやられてねぇと思うが)とりあえずシモン。お前は他の奴らと合流してろ、おら行くぞナツ!」

呆然とするナツを引っ張るようにして連れて行くのだった。

 

「くそったれ、まだ着かねえのか!?」

「発射まで時間ねぇのに!」

塔の中を五分近く登っていたが未だに頂上が見えないことに苛立ちを感じて来ていた。しかも2人揃って身体に限界が近づいていたからか、なかなか速く走れない。

「長すぎるだろここの階段…ん?なんか外が急に明るく?」

顔を窓に向けた瞬間、稲妻より鋭く重たい衝撃と爆音が塔全体を襲った。超絶時空魔法エーテリオン炸裂の時だった。

 




ぽおくそてえです。この能力の名前を付けたいんですが中々いいのが思いつかないです(汗)。そして今回、別の原作技を入れました。瞬獄殺です。ご存知の方も多いかと思いますがストリートファイターに出てくる豪鬼というキャラの大技で一気に30コンボで体力を半分も削る悪魔のような技です。一気に近づくのが(作品内で名前は出てませんが)阿修羅閃空と言います。
さて、後2,3話で楽園の塔編終了です。ようやく目標の半分ぐらいまできました。まだ先が長いっすが頑張っていこうと思います!


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第34話 夢幻の星々

「ナツ。大丈夫か?」

「ちょいと擦りむいたけどそれ以外はなんとか」

「そうか、なら先に行ってくれ。こっちは少し休んでくわ…ふぅ。」

「無理すんなよ。エルザのことなら俺に任せろ」

塞いだ傷が無理な運動をしたことと強い衝撃を受けたで再び開いてしまったのを治そうと立ち止まり、力強い言葉をかけるナツをいち早くエルザの元へと急がせた。

「間に合ってくれよ、ナツ…痛え!うう、情けねぇ」

(すまんな、少し助けるだけのつもりじゃったんだが…)

なんでも悟空曰く傷を繋げる程度で済ませる筈だったがなぜか想定以上に力が流れ込み過ぎたために眠っていた力が目を覚ましたらしいと説明されながら上へと進む。

「なるほどな。だがおかげで動けんだし、あの女剣士も倒せたし助かってるんだ…ぐぅっ!(なんだ急に、頭が!)」

(おいジンヤ!!くそ、ワシの神通力が通じぬ!)

半開きになっている扉に近づいた瞬間抑え込んでいたはずの能力が再び暴走しはじめた。

「(飲まれてたまるか、こんなところで!)」

一か八かの賭けでかつて悟空を目覚めさせる時に使った能力で己の腹部を貫き、封印術式をかけた。腹部にかなり大きな傷を負うことになったが完全に飲み込まれることなく無事だった。

(大丈夫か?なぜかワシの神通力じゃ干渉できんでな)

「あ、ああ。もうダメかと思ったわ(封印術を覚えてて良かった)…とりあえず行くぞ」

 

塔の中で盗んできたエネルギー薬を一息に飲み干したジンヤは体を奮い立たせて扉を潜ったら、ジェラールに倒され意識を手放したナツが目に入った。

「…ジェラールはテメェか。仲間を散々にやってくれたようだな」

「遅かったなジンヤ、ERAで会って以来かな?バトルロワイアルのゴールに着いたの、お前が最後だぜ?ここからが本番だってんだから待たせないでくれよ。そして、君がここに残った最後の戦士だ」

「ERA?そうか、そういう事だったか。お前はジークレイン自身だったのか。あの時のエルザの反応がおかしいと思ったら…(そして、その顔はあいつと同じ!)」

ナツの後ろで気絶して静かに眠っているエルザを見て頭に血が昇り、足元のラグリマにヒビが入るほど怒りがこみ上げていた。仲間を傷つけられたこと、そして目的のために人を多く殺しかねないエーテリオンも投下させるという考え方に血が逆流する感覚さえ覚えた。

 

「仲間をこんなんにしたんだ。こっから先はお遊び程度じゃ済まさねぇぞ、クソが!」

「遊びのつもりはないし、これは俺の夢のためなんだ。いたって真面目だぜ、俺は?そのためにゼレフを復活させる!」

「史上最凶と呼ばれた男を呼び覚ますというなら、その夢幻から解いてやる、ボケナスが!」

「こい、化け物め!俺の天体魔法の塵にしてくれる!」

こうして大いなる野望を胸に持つ星と仲間を生きて連れ帰すと誓う野獣の互いの信念を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。

「「沈むがいい!」」




こんにちは、ぽおくそてえです。
今回はかなり短め+ストーリーがほとんど進まない一話になりました。正直次のやつとくっつけた方が良かった気がしますが、文章力皆無なのでこういう形になりました。次は長めに(といっても2000字くらいかと思いますが)書くのでご容赦を。
あと、活動報告でも書きましたが来週あたりから投稿が出来ないかもしれません。来週まで投稿がなかったら次回は3月半ばくらいになるので予めよろしくお願いします。


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第35話 覚醒する遺伝子、潰える楽園

どうも、毎度お馴染みぽおくそてえです。今月投稿できるのが今回か次回が最後になると思います。あと数日で投稿できなければ次回以降は来月にまた投稿を再開することになるので、それまで待ってください。


「まずは小手調べだ。ミーティア」

『ほお、速いな…(目で追えぬのなら)』

高速で動き回るジェラールに鼻と耳で動きを感知しながら攻撃を躱していく。いともたやすく避けるジンヤに苛立ちを覚え始めたジェラールは更にスピードを上げていく。

『まだ上げるか?(風の音、匂い、奴の速さ、この距離感)…そこ!』

「ぐはっ!」

目を閉じているにも関わらず正確に顔面に一発放ったことで勢いよく吹っ飛んでいった。

『寝てんじゃねえよ!お前には気絶すら生易しいんだよ!』

「なるほど…スピードをものともしないか。ならばくらえ!」

追撃をかわし、ハイスピードで攻撃をくわえたところで上空へと昇ったジェラールは更なる破壊魔法を繰り出した。

『ちっ、急に上げやがって!』

「今度こそ終われ、7つの星に裁かれよ!『グランシャリオ』!!!」

『ごはっ!(しまった!エルザ、ナツ…)』

隕石に相当する破壊魔法をまともに食らってしまったことで、遂に立ち上がれず倒れてしまった。

 

「あのスピードについて来れたのには驚いたが、所詮はこの程度か。さて…少し崩れたし、時間がかかったが始めようかエルザ。もう邪魔は入らないさ」

最後の砦のジンヤを攻略したことで妨げの無くなったジェラールは復活の儀を行うためにエルザに近づいた。彼女に手を掛けようとした瞬間後ろから石がぶつけられた。

『まだだ…まだ終わらんよ』

「貴様、なぜ動ける!あの技を食らっているのに!」

『俺とお前の執念の差よ…。そして、こいつで更に復活させてもらうとするか!』

「やめろ!そいつはゼレフ復活に!」

足元の水晶を砕き、溢れ出したエーテリオンの魔力を次々に吸収していく。それと同時に封印した能力が連動し、今度こそ完璧にコントロールができ、髪が伸びて風格を表す白頭に生まれ変わった。

『これが俺のコントロールした力だ、散り行く前にとくと見るがよい』

 

「しつこい奴だ。立ち上がったことを後悔しながら地獄に行け!」

『こうなったら意地でも最後まで立っててやる!このパワーを試すには丁度良いぜ』

青い炎どころか七色に輝くオーラを纏い、不敵に微笑む男にジェラールは苛立ちと焦燥感が顔に現れていた。焦りと塔を壊せないことへの慎重のためか、放った攻撃が1つもカスることなく避けられていく。

『ビビってんじゃねえよ!俺を殺すんじゃなかったのかぁ!』

「ナメるな、怪物風情がぁ!」

ようやく当たった一発も難なく吹き飛ばしたことで遂にしびれを切らしたジェラールは闇の天体魔法を繰り出そうとしていた。

「無限の闇に堕ちろ、獣人よ!」

「貴様に私を殺せるか!?」

『何をしてんだ、エルザ!そこをどけ!』

2人の間に割り込んできたのは先程まで倒れていたエルザだった。生贄に必要な自分を差し出せば攻撃できないと踏んでの行動だったが、狡猾なジェラールにとって誰でも構わないと放たれた言葉に驚くことしかできなかった。

「2人揃って砕け散れ、天体魔法『アルテアリス』!!!」

「すまないジンヤ、私には止められなかった…」

ジェラールの手から放たれた暗黒球だが、エルザに到達することは無かった。

 

 

『甘いな、お前は』

 

 

ジンヤの力で暗黒の魔法は完全に吸収されていた。

「ぐっ!なんで俺はお前を倒せないんだ!?」

『素人めいた言葉を吐くな。ただ1つ言えるのは、お前は幻想に囚われたからだ』

「ほざくな!俺の夢はこんなところでは終わらない!自由の国をつくりあげる、ゼレフに選ばれた者として!」

空へ飛ぶ中、己の信念と理想、そして願望を声高に唱えあげながら一際大きい魔法陣を組み上げていた。

「あれはアビスブレイク!?塔ごと消滅させるつもりかあいつ!!」

「また8年、いや5年もすれば再び完成させられるだろう。ゼレフ…待っていろ」

しかし、その魔法陣もエルザに付けられた刃傷が響き、儚く崩壊してしまった。

『今のお前には真の自由なぞない!!良い加減自分を解放しろぉ!ジェラァアルゥ!!』

獣のありったけの生命力をぶつけた一撃でジェラールを塔へと叩きつけ、壁を大きく崩れていく。

「これが…獣人の本来の力なのか(だが、これで8年ぶりに自由を勝ち取れた。全て終わったんだ)…っ!ジンヤ!」

死闘を2つも超えた身体には立っているだけの体力も残っておらず倒れこむようにして眠り始めてしまった。そんな彼をエルザと丁度目が覚めたナツでなんとか暴走する塔から抜け出すことができた。

「(ジェラール…違う形で再会したかったよ、私は)」

楽園を目指した星は夢を叶えることなく堕ちていくのだった。




バレンタイン、自分に全く関係のないイベントで街中でリア充が沢山いて辛い(泣)


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第5章 激動!バトルオブフェアリーテイル編
第36話 新生フェアリーテイル!


前に投稿が三月半ばになると言ったな。すまん、あれは嘘だ。
というわけで少し予定より早い投稿になります。なんかwifiが予想以上に飛んでたので出せました!いやはや、良かった良かった。
それでは約1ヶ月ぶりの更新です、どうぞ!


「ん?ここはどこだ?(こんな天井覚えてねえぞ?)」

長い眠りから覚めたジンヤは見覚えのない天井をぼやけた意識のなか見つめていた。

「ようやく起きたか。全く、三日間も起きないから心配したぞ?」

「エルザ…お前がいるってことは」

「ああ。無事あの塔から帰還したということだ」

聞いたところでは倒れた直後から塔に溜め込んでいた魔力が暴走し始めて脱出するのにも一苦労したという。結局最後まで下層に残っていたシモン達のお陰で全員死なずに帰ってこれたのだとか。

「…すまないなエルザ。お前、ジェラールのこと好きだったんだろ?それなのに…」

「いや、謝るのは私の方だ。1人で闘うと決めたのに皆を巻き込んでしまったしな」

「くくく、全く変わってないのを見て安心したぜ。で、他の奴らは?」

「それなら…」

ルーシィはこのホテルに帰ってから目が醒めるまでずっと看病をしていて、ついさっき部屋に着替えに行き、ナツとグレイは遊びに行っているという。

「ルーシィ達には後でお礼を言っとくか。そう言えばあの、なんだっけ?ファントムのあの水の子…」

「ジュビアなら帰ったぞ、お前が寝てる間にな。久しぶりに起きた感じはどうだ、この惰眠野郎」

「あ?今なんつった、変態クソ氷!生意気言ってるとその腕、喰い千切るぞ!」

外で遊んでたグレイがナツとハッピー、そして部屋に行っていたルーシィを連れて部屋にやってきていた。

「はいはい、ケンカしないの!それにしても良かったよ、意識取り戻して」

「ルーシィが看病してた時泣いてたんだよ」

「な、何言ってんのよ!ハッピー黙ってて!」

「へぇ、そりゃ嬉しいねぇ。俺のために泣いてくれたのか?」

「からかわないでー!」

仲間と笑うという、いつも通りの光景を取り戻し、明るい雰囲気に包まれていた。

「やはりこのギルドが一番、だな」

エルザの小さな声は明るい笑い声に吸い込まれていった。

 

 

それから数日、エルザの旧友とも別れ、ギルドに戻ってきた。そこにはかつてより大きくなり様変わりしたギルドが建っていた。

「うわぁ!」

「こいつはクールだな」

「新しいフェアリーテイルだぁ!!」

新しく生まれ変わったギルドにはオープンカフェやらグッズショップまで出来ていてナツは言葉が出ないほど驚いていた。中に入ってみるとプールや遊技場まで増設されていた。

「ウェイトレスの服まで変わってるし二階も出入り自由になったんか。(あの服、ジジイの趣味かねぇ?)…おいナツ、なに不貞腐れてんだ?」

「違いすぎて落ちつかねぇ」

「帰ってきたかバカタレども」

不服そうな顰めっ面でいるナツ達の元にやってきたのはメンバーに加わったジュビアを連れたマスターだった。

「本当に入ったなんてな!」

「アカネで世話になったな、あんまり話せなかったけど」

「みなさんよろしくお願いします!頑張ります!」

マスターが彼女の元々いたギルドで多少不安に思っていた部分もあったが、エルザやグレイの口添えで何事もなかったかのように話した。

一緒に戦った仲間と和やかな雰囲気で話していた場所を離れて、ジンヤがやって来たのはネジやボルトの積んであるテーブルの前だった。そこにいたのはかつて争い、敵同士だった鉄竜ことガジルだった。

「よお、ガジル。お前も来てたのか」

「まさかそっちから話しかけてくるとはな、獣人のジンヤ。俺としちゃあ仕事があればどこでも良かったんだが、あの雨女のせいでここに入る羽目になっただけだ。正直何処でも良かったんだよ」

「まあそう言わずに仲良くやってこうや。もう敵じゃねえんだし」

「ほっとけよ、お前と馴れ合うつもりはねぇんだよ!」

喧嘩腰の相手にこれ以上話すとおっかないと離れて元いた場所に戻っていくのだった。そこで待っていたのは一部始終を見ていたルーシィだった。どうも争いごとをしている様に見えたらしい。

「ねぇ、何かされなかった?大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない」

「なら良いけど。あ、そうだ!また仕事に行こう!」

「少し休んだらな(それにしてもなんか、少し嫌な空気を感じる…。こいつは一波乱ありそうだな)」

新しい仲間が増えたことで変わった空気に不穏な流れが見え隠れしはじめていた。




これにて楽園の塔編が終わって新しい章に入ります。そろそろ設定集を更新したいなとか思ってやり始めたんですが、自分の作品をもう一度読み直すって結構恥ずかしいですね(苦笑)。いつも以上に駄文で申し訳ないです。


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第37話 共食い

ドーモ、読者=サン。ぽおくそてえです。新しい章に本格的に入りました。なんか最近文章力落ちたんじゃないかと思うようになってきた作者です。
それは横に置いといて、本編どーぞです。


アカネビーチから帰ってしばらく経った頃、収穫祭とそれに合わせて行われるフェアリーテイル恒例のファンタジアの準備で皆慌ただしく動き始めていた。そんな中でルーシィはギルドを眺めていたが、休憩にやってきたジンヤと話していた。

「この街にもお祭りがあったんだね」

「そういえばルーシィは今回が初めてだったな。夜のパレードはギルドのみんなが出るんだよ。で、そのためにもこうやって準備してるって訳」

「ふうん、なんか楽しそうだね。今からワクワクしてきたよ」

「そういってもらえると嬉しいね。ほれ、今回のやつのチラシだ、家に帰ってゆっくり読んどけ」

そういって一枚ポケットから出して渡した。マグノリアの収穫祭と当日のイベントなどが載っているやつだ。

「へぇ、ミス・フェアリーテイルなんてやるんだ…って優勝したら50万ジュエルももらえるの!?家賃7カ月分なら参加しなきゃ!」

「それ、エルザとかミラとか参加するらしいから賞金は結構厳しいんじゃねぇか?…って聞いてねえし(大丈夫か、あれ。なんか嫌な予感しかせんよ)」

優勝賞金に夢中になっているルーシィがギルドから帰って行くのをジンヤは少し呆れながら見送り、再びパレード用の台車製作を手伝いに掛かった。

 

 

翌日、ミス・フェアリーテイルに参加するルーシィやジュビアを見送ってからジンヤは気晴らしに街で昼ご飯を口にしながら何故か居たガジルと話していた。

「どうだガジル、新しいギルドは。もう慣れたか?」

「この前ラクサスとかいう雷兄ちゃんに絡まれたよ。ったく、ムカつくヤローだ!」

昨日の昼間、ルーシィと会っていた頃にギルド近くの広場でラクサスに一方的にやられたとシャドウ・ギアから話を聞いていた。

「だけどお前は手を出さなかったし、仲間も守ったんだろ?やるじゃねえか」

「うるせえな、俺の勝手だろうが!」

「おい、どこに行く?」

「言うわけねぇだろ」

手元にあった鉄屑や食器類をあらかた食い尽くしたガジルを呆然と見送り、気にしても仕方ないと再びテーブルに運ばれたメニューを食い始めた。が、5皿ほど食べ終えたあたりで晴れているのに突然ギルドの方から雷鳴が轟いた。

「(快晴なのに雷?)…帰ってきたのか、ラクサス」

いつもと違う臭いでギルド最強の一角たるラクサスが率いる雷神衆が帰ってきたことを感じとったものの、その場を動かずにコーヒーを暢気に飲みはじめた。

「おいジンヤの旦那、ギルドの方はいいのか?」

「構わんだろ、ジジイがなんとかするはずだ(しかも、なんかあっても奴らからこっちにくるだろう)」

そんなこんなで手元にあったコーヒーを飲みきった頃、予想に反して雷神衆ではなく傷ついたアルザックが目の前にやってきて魔法銃を突きつけてきた。

「なんのつもりだ?俺を殺そうってか?」

「ビスカを救うためだ、俺と戦え」

「どういうことだ、そりゃ。あいつになんかあったか?」

「それは…今は言えない」

「そうかよ。何が何でも聞き出さなきゃいけないな」

アルザックが両手に持った魔法銃の弾を避けながら、なるべく人のいない建物の屋根を走って行く。

「(あの至近距離を!)くっ!」

「ここじゃ民間人が怪我をしかねんからな。俺について来い!」

「ビスカのためにも、僕は!」

 

そうして数分ほど走ったところでたどり着いたのは人の閑散とした広場だった。

「さて、ここなら邪魔が入らんだろ。聞くが、街中でうちの連中がやりあってんのはなんでだ?ラクサスか?」

「ああ、あいつさえこなければ…ビスカやみんなは」

「…そうか。だけどよ、今のお前じゃあいつにゃ勝てやしねぇさ」

「なめるな!ガンズ・マジック、トルネードショット!」

2丁拳銃から放たれた竜巻のような銃弾がまっすぐ飛んできて、ジンヤを軽く数メートルは吹き飛ばしていった。

「もう一丁!」

「…くらってみればこの程度か!喝ッ!」

もう一度飛ばされた弾丸を今度はいともたやすく打ち消していく。

「寝てろ、白羊子守唄!」

「うがっ!うっ…」

一気に近づき耳元で発動した能力で眠りにつかせた後、情報を集めに街に戻っていった。

「ちっ、こいつから聞き出すつもりがついやっちまったな」

アルザックvsジンヤ、勝者ジンヤ。



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第38話 背を守るもの

ぽおくそてえです。一週間ぶりの投稿で、お待たせしました。文字数増やしたり、戦う組み合わせとか試行錯誤してたら遅くなっちまいまして申し訳ないっす。
ではどーぞです!


アルザックと同様に襲ってくる仲間たちを気絶させながら街中を慎重に走っているとギルドの方からエルザがやってくるのが見えた。

 

「おい、エルザか!石から復活したのか!」

「ジンヤ!?」

 

聞いてみると昔失った眼を義眼に換えていたことで自分だけ復活できたそうだ。そしてその原因のラクサスと雷神衆、そして同士討ちでギルドメンバーの大半がやられてしまったことを聞いた。

 

「なるほど、その右眼の義眼が功を奏したと。それに残り人数がミストガンの参戦を含めて五人のみ、か」

「どうやらそのようだ。で、ここからどうする?まずはエバを倒すべきか?」

「だな。人質が解放されたらこのバカな“ゲーム”とやらも破綻だな」

「よし、手分けして探すぞ。ジンヤはあっちを、私はこっちに行こう」

「雷神衆のやつらの目は見るなよ。眼鏡や仮面をとったらなおさらな」

 

お互いの敵を倒しに街を再び走り出した。

それから数刻した頃、おもちゃ屋の近くの屋根を通りかかったら鼻が嗅いだことのある臭いをとらえた。

 

「まさかテメェと当たるとはな、ビッグスロー」

「よお、久しぶりじゃねえか。こっちもビックリだ、まさかお前が参加するとはなぁ」

「こちとらうるせえ雷をとめなきゃならんのだわ。邪魔しないでほしいね」

「それはこっちのセリフだ!やっちまいな、ベイビー!」

 

ビッグスローの近くにいたトーテムポールのようなおもちゃが次々にビームを容赦なく打ち込んでいく。

 

「おい、街を無闇に壊すなよ。あとで弁償がメンドーだろうが!」

「んなことは知らねぇよ。今を楽しめりゃあいいんだよ」

「そこまで言うなら仕方ない。怪我しても後悔するなよ」

「いってくれるねぇ、でも勝つのは俺だぁ!もっとやっちまいなベイビー達!」

 

足元にある店からさらに新しいおもちゃを呼び出し、先ほどより苛烈な攻撃を放ってきて、何発か直撃していく。

 

「おいおい、ずいぶん手荒く攻めてくれんな」

「まだやりたりねぇくらいだぜ、もっと楽しませてくれよ」

「バカは休み休み言え!『鸚鵡返し』!」

「ぬっ、うぉおー!」

身体に蓄積されたダメージをそっくり返すかのような凄まじい衝撃におもちゃが粉々になり、ビッグスローがかなりの勢いで吹き飛ばされていった。

「くっそ、なんつー技だよ。でも無駄だぜ、俺の能力があればいくらでも呼び出せんだからよ〜」

「(確かにこのままじゃジリ貧か)クソが」

 

 

「どうやら僕たちの助けが必要みたいだね」

 

 

突如背後から聞こえた声に振り返ると見覚えのある顔が2つ、並んでいた。

 

「久しぶりだね、ジンヤ。これからは星霊として君をサポートしよう」

「大丈夫そうで良かったよ。やっと石から戻ったんだ!」

「ルーシィ、それにロキもか!そうか、そう言うことか!(やったんだな、エルザ!)」

 

ルーシィが復活したのを見て、エバーグリーンの撃破と石化の解除に成功したと確信を持てた。

 

「よーし、ここからは3人で行こう!」

「背中は任せて、2人とも」

「なら、時間を稼いでくれ。力を貯める。あいつの目は見るなよ!」

 

そう言って地面に胡座をかいて瞑想しはじめ、ゆっくりと気を練り上げていく。

 

「分かった!あの人形は僕が相手する、ルーシィはビッグスローの相手を!」

「うん、任せて!」

 

腰に巻いていた鞭を手に、ロキとペアでどんどん攻めていく。しかし、新しいおもちゃを投入してくるビッグスローには効果はあまりなく、しかもとっておきの魔眼・フィギュアアイズを投入してきて、2人の視界が封じられ悪戦苦闘を強いられていた。

 

「くっ、2人がかりなのに!」

「だから言っただろう!勝つのは俺だって」

「…そうかな?もう勝ちは俺の手に来る、これでな!奥義『仙法・獅子奮迅』」

 

その言葉に反応するかのようにいつかの白獅子髪と隈取りが姿を現した。

 

「2人は後方支援だ。ロキ、目潰しを…」

「ああ、後は任せたよ…レグルスは満ちた、『獅子光耀』!」

 

ロキを中心に眩しい光で溢れ、目を開いていたビッグスローは堪りかねて魔眼を閉じた瞬間にルーシィの鞭が彼の首をとらえて動きを封じていた。

 

「ビッグスロー、お前の敗因はかなりシンプルだ。とてもシンプルな理由だ。『テメェにゃ背中を守る奴がいねえ』」

「それが、なんだってんだ…」

「俺はいる。だから先に進めるし、テメェに勝てる!『獣王激烈掌』!」

「ぐっ、うおぁあー!」

 

激しい嵐のような一撃を喰らい、派手に吹き飛んだ雷神衆の2人目が遂に倒された。

 

「…2人ともきてくれて助かった。あいつには攻めあぐねててね」

「僕が来れたのもルーシィのおかげだし、彼女の要望でね」

「余計なことは言わなくていいから。ジンヤ、お礼ならまた後でたっぷりしてもらうから」

「はは、しっかりしたお嬢ちゃんだこと」

 

ビッグスローvsジンヤ&ルーシィ、勝者ジンヤ&ルーシィ。



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第39話 三強

今回は早めの投稿です。
次回でラクサス戦本番になるかな、といったところです。


「ルーシィ、お前はギルドに戻るなりなんなりして休んどきな」

「えっ、それはいいけどそっちはどうするの?」

「俺か?こっちは雷鳴を断ちに行ってくる」

 

同士討ちや雷神衆と戦った傷が何箇所か残っていたが、味方のほとんどいない状況では自分が立たねばと半ば無理に体を起こした。

 

「…無理は、しないでね。そうだ、これが終わったらどこか一緒に出かけよう!それが今回のお礼ってことで」

「へっ、気楽なお嬢ちゃんだ。わかったよ、好きなとこに連れていく(さてと、如意棒を取って少し回復してもらうか)」

 

そう言って屋根伝いに歩いて如意棒を取りに行きつつラクサスを探しに出た。

 

そんなこんなで如意棒を家から取って、歩いていると空中に浮いているラクリマに今更ながら気がついた。

 

「悟空、あれをどう思う?」

『あれか?おそらくあれは神鳴殿、生体リンクのついた設置型魔法じゃ。全く汚ねえ花火を出しやがって。あれが発動すれば街中に雷が落ちるじゃろう』

「仲間の人質が無くなったから今度は街の人たちを人質に取ったってか?許せん奴だな」

『本当にアホなやつじゃのう。もう引く気はなさそうじゃよ、そのラクサスとやら…。おそらくあれが発動するまで時間はあまりないじゃろう。あれを作ったやつに止めさせるか死と隣り合わせで全部壊すかじゃ。進むも地獄、退くも地獄と言ったところか』

「ったく面倒なことをしてくれる!」

背に持った如意棒の感知を頼りに街中を急いで駆けていく。

『あのラクリマに近い力をあの教会から感じる、おそらくあそこじゃろ』

「カルディア大聖堂か。すっかり見落としてた」

 

この街のもう1つのシンボルたる教会へとひた走っていく。

 

教会の入り口にたどり着いてみるとそこにはなかなかギルドに顔を出さない男がいた。ミストガンだ。どうやら丁度つくタイミングが一緒だったようだ。

 

「お前が参戦を決めるたぁな、驚いたよミストガン。こういうのとは無縁だと思ってたよ、うん」

「このギルドと街を脅かすものと戦うために私は来た。たったそれだけだ、それ以外には何もない。…ラクサス、神鳴殿を止めればまだ余興の範疇で収まるのだが?」

「おめでたいねぇ。それにこうでもしなけりゃ最強を決めらんねえだろうが。噂に聞いたことあるだろ?このギルドで誰が最強かってね」

 

時々このような他愛もない噂が飛ぶことがある。いかにもフェアリーテイルらしいものだ。

 

「私はそういうことにはさして興味がないのだが、ギルダーツを推そう」

「俺は…ギルダーツかナツが最強だと思ってんだがねぇ」

「俺からしてみりゃダメだな。あいつは帰ってこねぇだろ。エルザもいい線いってるがまだ弱い。ナツは…てんでダメだな」

「エルザが弱い?とんだ節穴だな、お前の目は」

「こっちはおめえらの実力を認めてるんだぜ」

「おめでたいのはお前の方だなラクサス」

「白黒つけようぜ、なぁ?ジンヤ、それにミストガン。いやアナザー…」

「「!?」」

 

ラクサスの口から出てきた言葉に2人は強襲して遮った。

 

「それをどこで知った?」

「このことをどうやって?俺やマスターは話してねぇぞ!」

「…知りてえんだったら俺を倒してみろよ」

「後悔しても遅いぞ。貴様がみたことのないような魔法を知ることになる」

「ここでテメェには口を閉ざしててもらうとするか」

「来い、格の違いを見せてやる」

 

こうしてS級三人による本気の闘いが切って落とされた。先に動いたのはジンヤだった。背負っていた如意棒を巧みに操り、ラクサスと互角にやりあっていたら頭上に5つの魔法陣が現れた。

 

「眠れ、五重魔法陣『御神楽』!」

「うおおお!!」

「俺を巻き込むなぁ!」

 

ジンヤを巻き込む形で放った魔法で大きなダメージを与えたものの同時にラクサスの攻撃で相打ちになっていると入り口の方から大きな声が聞こえて来た。

 

「「ラクサス!!」」

 

エバーグリーン撃破の貢献者であるエルザとなぜかギルドから出られなくなっていたナツだった。

 

「ナツ、お前今まで何してたんだよ?」

「うるせぇ!術式から出られなかったんだよ!それよりあいつ、誰だ?」

「ミストガンか?」

 

いきなり現れた2人に顔を見せまいと手で顔を隠そうとした隙をラクサスは見逃さなかった。

 

「隙あり!」

「がっ!」

「(ヤベェ!)」

 

顔の周りについていた布がとれ、ひた隠していた顔があらわになった。そこにあったのは、先に戦ったジェラールと同じ顔だった。

 

「オマエッ!」

「ジェラール…生きて、いたのか?」

「ほお、知ってる顔みたいだな」

 

ミストガンの顔が露見したことで重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

「私はジェラールという男を知っているが、その者ではない…すまない、後は任せた。ジンヤ、すまない」

「おい!!」

「あいつのことはいずれ分かる、今はラクサスだ!」

 

このままでは戦えないと一足先に離脱していったミストガンのことを気にしてはいられないとラクサスと対峙しようとするナツとジンヤをよそにエルザは動けない状態になってしまっていた。

 

「おいエルザ、ボサッとすんな!戦え!」

 

だが、その声が届く前にラクサスの電撃がエルザを吹き飛ばしていた。

 

「おら、何人だろうと相手してやる。来やがれ!」

「言わせておけば…いくぞナツ!」

「おうよ!」

 

人獣竜による激しい戦いが始まった。



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第40話 竜と獣のスリープラトン

どうもぽおくそてえです。四月になりましたね。今回で40話到達でまだ原作の15巻半ばなのでペースは結構遅いですが、お付き合いいただければです。
それではどうぞ!


「今度こそぶっとばしてやらぁ!」

「テメェのバカ一直線もいい加減煩わしいんだよ。失せろ!!!」

 

ナツとラクサスがぶつかり合っている隙にエルザを少しずつ2人から離していく。

 

「エルザ、危険な賭けだがやってほしいことがある」

「神鳴殿の破壊か…分かった、任せてくれ」

「無理はするなよ、死んでは元も子もない」

「無論だ。お前に助けられた命を無駄にはしない(ミストガンのことはいずれ、分かるだろう)」

 

神鳴殿は1つでもかなりのダメージが帰ってくる魔法であるが故に、空中に浮いている数百個全部を壊せば死んでもおかしくない代物だ。

 

「テメェ、ゲームのルールを壊す気か!それに発動まで時間もない!一個ずつでは間に合うはずもない!」

「全てを同時に壊せばいい。街も助かる」

「くそっ!やらせるか!」

「火竜の咆哮!」

 

エルザを止めに向かおうとしたラクサスを間に入って止めたのはナツだった。

 

「エルザの邪魔はさせねぇぞ」

「よくやったナツ…いくぞ、ここでラクサスを仕留める!」

「このガキどもが、死んで後悔するがいい!」

 

========

 

「火竜の鉄拳!」

「遅えよ、オルァ!」

「余所見とは余裕だな!」

 

エルザは神鳴殿を止めに、ナツたちはラクサスを倒すためにそれぞれの戦いを行なっていた。神鳴殿の発動まで2分を切り、投降する気のないマスターにラクサスの顔にも焦りが見え始めていた。

 

「あのジジイ、まだ降伏する気ねぇのかよ!街がどうなってもいいってのか!」

「エルザが止めてくれる!」

「意地を通すのも楽じゃねぇな!」

「テメェら知った様な口を!」

 

ラクサスの雷が一層強くなる中、交わす拳が更に激化していく。

 

「諦めろラクサス!お前にはてっぺんは取れねえよ!」

「うるせぇ!このギルドがどんなに腑抜けた状況か知らないわけじゃないだろうが!」

「今のフェアリーテイルは初代以来の意志と結束の結晶、簡単には壊させんぞ!」

「ほざけ!」

 

そんな時に突然電光掲示板が現れ、神鳴殿が機能停止、もとい全破壊されたことが流れた。

 

「やった、か」

「へっ。ギルドを変える必要がどこにあんだよ。みんなの輪に入れねぇ奴がどうやってマスターになんだ!?ラクサス」

「ぐっ…うおおお!!」

 

ラクサスの電力のギアが上がった様に全身から雷がほとばしる様に溢れていく。

 

「支配だ。そう、最初から駆け引きなんていらなかったんだよ」

「いい加減にしろよ…」

「(感情のタガが外れかけてる。危険だ、このままじゃ、あいつは…)」

「最初からこの力に任せりゃ良かったんだ!この圧倒的な力にな!!かかってこいフェアリーテイル!!!俺が全てを飲み込んでやる!!!」

 

理性で押さえ込んでいた力が感情の高まりで一気に解放されていく。体の帯電も一層強まっていき、スピードも力も段違いにパワーアップしていた。

 

「ぐっ!仙法を解放しても防御が限界…なのか…はぁ、はぁ」

「やっぱり…強えな。体が…」

「鳴り響くは召雷の轟き…」

 

ラクサスの魔力の高まりと共に、雷が不穏に鳴き、響いていく。

 

「天より落ちて灰燼と化せ、レイジングボルト!!!」

「くそっ、くそぉ!」

 

天から降りてくる空をも切り裂く轟音が迫った。

 

 

「くくく、このギルド最強はだれだ?」

 

ラクサスの問いに答えは聞こえない。

 

「ハハハハハッ!粉々になっちまったら答えらんねぇか!!」

「仲間……じゃなかったのか?それを消して喜んでるとぁどうかしてるぜ」

「あ?」

 

後ろから声が聞こえた。完全勝利を確信していたラクサスは少しばかり驚きを感じた。

 

「ま、こいつらには消えてもらったら困るんでな。こいつらは俺が倒す」

 

もう1人の滅竜魔導士、鉄竜のガジル参戦の瞬間だった。彼のおかげで2人とも攻撃が当たらずに済んだのだ。

 

「来たのか…ガジル」

「消えろ、消えろぉ!俺の前に立つものは全て消え去るがいい!」

 

感情が昂ぶっていて冷静さを完全に失っているラクサスを前にナツは1人で突っ込もうとしているが、そんな彼にガジルは驚きの提案がなされた。

 

「気にいらねぇがギルドを守るためならこれしかねぇ。共闘だ」

「てめっ、どう言うこった」

「あんな状態のラクサスと戦えんのは他の奴らがやられた影響で俺たち3人だけなんだよ。ここで止めなきゃどうなるかわかんだろ!」

「へっ、この空に竜は二頭いらねぇんじゃなかったか?」

「いらねぇな。だがこうもうるせえと空も飛べねぇ」

「俺を忘れないで欲しいな。獣と竜の多重奏、奏でるとするか!」

 

力と勇と義のスリープラトンがマグノリアの平和をかけて雷撃とぶつかることになった。




プラトン=(本来は)小隊、(格闘技では)プロレスの合体技の意味です。

某ゲームに出たスリープラトンというのを見て思いついたタイトルです。


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第41話 王道と覇道

これで一応ラクサス編決着です。最後力尽きて端折り気味になって申し訳ないです。


「うおおお!!」「だらぁあ!」

 

猛攻を加えるナツとガジルだがそれでもいなされ、ついにはナツが吹き飛ばされてしまう。

 

「ブレスだ!」

「火竜の…咆哮!」

「鉄竜棍!」

 

吹き飛ばされたナツをつかみ、ブレスの勢いと炎をまとった状態の鉄竜棍を浴びせかけるが難なく避けられ、脚を変化させた鉄竜剣も上空へ逃げられカウンターを浴びせられてしまう。

 

「ようこそ、そして堕ちろぉ!」

 

しかし、待っていたとばかりに先回りしていたジンヤに斉天の巨腕でなぐられ、地面に叩きつけられた。そこに畳み掛けるようにナツの火の玉とガジルの鉄槍が襲う。

 

「火竜の…」

「鉄竜の…」

「仙法・青竜の…」

 

ジンヤの着地のタイミングを見計らい、三人は肺に大量の空気を吸い込み、そして一気に吐き出していく。

 

「「「咆哮!!!」」」

 

火、鉄、仙法の3つの力がラクサスに直撃し、巨大な爆発が大聖堂に、そして街に轟いた。しかし、白煙が晴れたその先にはまるでダメージを受けていないかのように立つラクサスがいた。

 

「滅竜魔法に獣人の力がこの程度とは、聞いて呆れる」

「馬鹿な!竜迎撃用魔法なんだぞ!ありえねぇだろ…」

「そいつは簡単な事さ…ずっと隠してたんだが、特別に見せてやろう」

「ま、まさか…」

 

彼の歯が牙の様に鋭くなり、雷をまとった腕には竜の鱗の模様が浮き始めた。

 

「すぐに終わらせてやる。雷竜の…」

「やはりお前もドラゴンスレイヤーだったのか、ラクサス!!」

「咆哮おぉ!」

 

ナツやガジルのブレスと桁違いの威力に為す術なく三人とも飲み込まれていった。そして雷の消えたところにはダメージと痺れでまともに動けなくなっていた三人が地面に倒れ込んでいた。

 

「いい加減くたばれよ…テメェらも、ミストガンも、エルザもジジィもギルドのやつらもマグノリアの住人も…全て消えやがれぇ!!」

 

雄叫びを1つあげるとラクサスの手元に強大な魔力が集中し始めるのが感じられた。

 

「こ、この魔法は確か…」

「この感じ…じっちゃんの」

 

フェアリーテイルに伝わる三大魔法、超絶審判魔法フェアリーロウを発動しようとしていた。

 

「フェアリーロウって、マスタージョゼを一撃で倒したあの…。反則だろ敵と認識した者全てが攻撃対象なんてよぉ!」

 

かつてガジルのいたギルドのマスターもマカロフが放ったこの魔法にやられている。その威力は絶大で、自分以外のほとんどが敵のラクサスにとっては逆転さえも可能な魔法だ。

 

「やめて、ラクサス!!」

「レビィ!」

「バカヤロウ、何しに来やがった!」

「ここにいたら危ねぇ!逃げろ!」

 

彼女が最前線にいては危ないと避難させようとしたがその言葉が聞こえないのか、ラクサスに向かって叫ぶ。

 

「マスターが、あんたのじいちゃんが…危篤なの!早く戻ってあげて!」

 

沈黙が場を支配した。誰もが耳を疑い、言葉を吐き出すことができない。信じられないような顔をしている。ラクサスの目にも正気が戻ったように見えた。しかしラクサスはまだ野望を捨ててはいなかった。

 

「なんだ、これで俺がマスターになれる可能性が再び浮上したってわけだ」

「危篤…じっちゃんが?」

「消えろ、フェアリーテイル!俺が誰にも負けない最強のギルドを作り上げてやる!フェアリーロウ、発動!」

 

手に集まった魔力と光が一気に放たれ、一瞬にしてマグノリアの街を包み込んだ。そして光が収まり、発動に成功したラクサスは勝利を確信していた。

 

「俺は、ジジィを超えた!俺にかなうものはいない!」

 

が、煙が消えるとそこにはさっきまで戦っていた三人の誰も消えていないのに気づき、焦りが募る。

 

「なんでだ…なんで誰も消えてねぇ!あんだけの魔力をくらって平気なわけねぇだろ!」

「ギルドのメンバーも…街の人も全員無事だラクサス。誰1人としてやられていない」

 

誰かと戦ったのだろう、傷だらけになったフリードが現れ、皆の無事を告げた。その言葉が信じられず、フェアリーロウは完璧だったとラクサスは吠えたが、敵にしか効かない魔法ということはギルドを壊す気がないという心を魔法に見抜かれたということでもあった。

 

「これがお前の本音だ、ラクサス」

「違う!!俺の邪魔をする奴は全員敵だ、敵なんだ!!」

「もうやめるんだラクサス、マスターの所に行ってやれ」

「俺は俺だ、ジジィの孫じゃねぇ!ラクサスだっ!!ラクサスだぁああぁー!!!」

「吠えるなよ、クソ野郎…」

 

ジンヤの言葉にラクサスは睨み返していた。

 

「マスターの孫だからなんだってんだよ!俺たちはギルド全員で家族だろうがぁ!」

「テメェに何がわかる…」

「俺は仲間を失い、いろんな人に出会い、支えられた!だからわかる!仲間はお互い知ろうとすることから始まるんだと!」

「ほざくなぁ、ジンヤァ!」

 

お互い力はほとんど残っていなかったがそれでも拳を互いにぶつけていく。しかしやはり連戦の疲れが出たのかラクサスの拳がジンヤを押し始める。吹き飛ばされたジンヤを更に攻撃するがしぶとく立ち上がる姿に苛立ちと恐怖の念が湧いてくる。

 

「こんな…もの、かよ…ラクサスゥ」

「このヤロ〜、跡形もなく消し去ってヤルァ!!」

「よせラクサス!その魔法を使えばあいつは!」

 

もはや側近たるフリードの言葉さえ耳に届かない。両手で雷の武器を型取り、それを躊躇なく放った。

 

「雷竜方天戟!!!」

「殺す気かぁ!」

「(くそ、立つのが限界か。奴には勝てなかったか!)くそぉ!」

 

避けられない。もはや死ぬしかないのかと思われたがジンヤの手前で急に曲がり、ガジルが自分を身代わりにしたのだ。

 

「行け、ジンヤ!」

「ガジル!(俺に最後の力を!『仙法・獅子奮迅』!)」

 

一度解けてしまった能力を無理やり開放し、全身に極度の負担をかけていく。最後の魔力を出し切ってしまったラクサスは動くことさえかなわない。

 

「お、おのれぇ。おのれぇぇえっ!」

「おまえの負けだぁ!ラクサスァ!」

 

拳に乗せられた力がまるで虎のように力強くラクサスを吹き飛ばし、ついに決着がついた。まるで勝ちを知らせるかのように一際大きな咆哮が空に響き渡った。




どうも、ぽおくそてえデス。なんか大型犬に噛まれて痛みと戦いながら書いていたので圧縮&テキトーになってもうた。申し訳ない。
皆さんも怪我や病気にはご注意あれ。


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第42話 旅立ち

どうも、ぽおくそてえです。今回でバトルオブフェアリーテイル編は終わり、次の日常閑話休題に移ります。文字数増やして詰め込んだ甲斐があったってもんですよ。
コンパクトにまとめようとして地の文たくさんになっちゃいましたがそれでもいいよという方は、ゆっくりしていってね。


バトルオブフェアリーテイルから1日明けた。街もすっかりと落ち着きを取り戻し、ファンタジアに向けた準備に取り掛かっていた。そしてギルドでも同じだった。

 

「ポーリュシカさんのおかげでマスターも無事一命をとりとめたそうだ、安心してくれ」

「よかったぁ、一時はどうなるかと思ったよ」

「あのじーさんがそう簡単にくたばるわけねーんだ」

「だが、心労を重ねればまたお身体を悪くする。そのことを忘れるなよ」

 

色々とごたごたがあったもののマスターの意向もありファンタジアをやることに決まり、動ける者は全員参加ということになった。

 

「ジュビアも参加しないと行けないんですか?」

「今回は怪我人が多いからね」

「じゃああたしも!?」

 

ルーシィのその言葉にグレイがベンチの方を指差した。

 

「あの3人みたいなのが参加できるとでも?どう見ても無理だろ」

 

そこには全身包帯で巻かれたナツ、ガジル、ジンヤの3人が座らされていて、ジンヤに至っては点滴まで使っている。

 

「な?無理だろう?」

「だね…ジンヤなんて動けんのあれ?」

 

そんな状態になるまで戦っていた3人に呆れているのか、長いため息をついた。

 

「ふんがごあがぐごがう!」

「無理だね、参加できるわけねーだろクズが」

「ガジルの言う通りだぜ、そんな怪我じゃ出るどころかまともに歩けやしねえよ、バーカ」

「おがえがべおごぐる」

「そりゃ関係ないだろ」

「テメェのことを気にしてろ、アホが」

 

ナツの意味不明な言葉がなぜか通じている3人に苦笑いするしかなかった。そんな時にラクサスがマスターの様子を見にギルドにやってきていたが、やはりというべきか仲間からの反発は強かった。それを止めたのはエルザだった。

 

「よせ…奥の医務室にいけ」

「おい、いいのかよ!」

「ファグアグゥー!」

 

そのまま奥に行こうとしたところを止めたのはナツだった。

 

「)&@¥&"(¥&@!!」

「あっ?」

「3対1でこんなんじゃ話にならねえ、次こそはぜってぇ負けねぇ。いつかまた勝負しろラクサス!だとよ」

「あれ?勝ったんじゃないの、ジンヤ?」

 

ルーシィの疑問ももっともだ。今こうして以前のギルドと同じ状態で居られるのもラクサスを倒したからのはずだ、と。

 

「いんや、あれを勝ちと言えねぇよ。こっちは全身ボロボロ、それに比べたらあの程度の傷、それも3対1でだ。ホント化け物だよラクサスは」

「あいつがファントム戦に来てたらやばかったな」

 

そんな話をしているうちにナツの横を通り過ぎ、奥へと向かっていった。奥の医務室に入った彼を見送り、呆けたように口を開けているみんなを叱咤する。

 

「ファンタジアの準備を続けるぞバカどもぉ!本番は夜だぁ!」

「「「うおおおお!!!」」」

 

それから数刻、夜になりファンタジア本番を迎えて居た。いろんな街から来た人がこの時を待っていたと言わんばかりにかなり混雑していた。道を通る台車を見るとルーシィやエルザ、エルフマンにミラ、グレイやジュビアたちが思い思いに演技をしていた。そんな彼らやマスターを遠目に眺めていたラクサスは幼い頃の自分とマスターのことを思い出していた。ファンタジアに初めて出る時、いつでもマスターのことを見ているというメッセージを決めた時の懐かしい記憶だった。

 

「(さてと、行くか…)」

 

もういいだろうと立ち去ろうとして、もう一度振り返るとあの頃のメッセージを皆がしていた。姿が見えずとも、どんな遠くにいようともずっと見守っている、そんな優しさの現れだった。

 

「ありがとう、じーじ」

 

パレードで幼い頃マスターとラクサスが交わした約束であるサプライズを見終え、やり残したことがなくなり、別れを告げることなく去ろうとしたところにやってきたのはジンヤだった。

 

「よう、もう行くのか?」

「ああ。最後にいいもんが見れたよ、もうここに残る理由もねえ」

「そうか、決心がついたか…。身体には気をつけろよ。そして死ぬな、いいな。…いつでも帰ってこい。妖精の紋章がある限り俺たちは仲間だからな」

「…ああ。最後に戦って、最後に会ったのがお前で良かったよ」

 

去りゆく背中を見守り、押すようにして突き上げた指は、1人の男を見送るサインだった。

 

ラクサスを見送り、ギルドに戻るとファンタジアの打ち上げが行われていた。ジンヤはその雑踏に混じることなく、向かったのは二階にあるスペースだった。ここなら静かに飲めるだろうと踏んでのことだった。

 

「お前、どこ言ってたんだ?」

「ちょっと見送りにな。で、そのメモってレイブンのことか?」

「!?よく分かったな。ついに奴らの居場所が割れた。それをマスターにな」

「危険な任務だな。よくやったよ。そういやぁ、あいつらと混ざらなくて良いのか?」

「ガラじゃないんでね。1人の方が落ち着くんだよ」

そう言ってその場を離れ、マスターと話しに行った。

 

そして時は流れ、ラクサスがこの街を去って1週間が経とうかとしていた。彼の破門の件でナツが騒いだり、マスターが突然辞任を発表したりと色々と事件が起こった(どちらも結局何事もなく沈静化)。それからというもの、雷神衆の3人はギルドのメンバーと溶け込み始めていた。

 

「ほら、私のことを絵のモデルにしてもいいのよ?」

「う、ウイ」

「ルーシィ、お前ジンヤとできてんの?」

「でぇきてぇるぅ」

「うざっ!」

 

エバーグリーンやビッグスローはその前向きな性格の影響もあるのか馴染むのに時間がかからなかった。そんなことがあった翌日、ジンヤはルーシィとの約束を果たしに出かけていた。

 

「やれやれ、遅くなってすまんね」

「女の子を待たせるなんていけないんだよ、って言いたいけど怪我残ってるんだったらしょうがないもんね。今日一日付き合ってくれたら許してあげる」

「おお、怖え」

 

ビッグスローとの戦いが終わった時にした約束は一日一緒に出かけるというかなりシンプルなものだった。

 

「…本当にこれで良かったのか?」

「いいの!出かけようって言ったの私だよ?文句はないから(それになんでか2人きりでいたくなったんだ)」

「じゃ、少し遠出をしよっかね」

「やったぁ!」

 

こうして2人は束の間の休息に出かけることになった。



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第43話 仲間と一緒に出かけよう

はい、今回は一話完結のお出かけ回です。正直こういうの得意じゃないのでたぶん他の人ので似たの見たぞと言われても言い訳できないです。
それではどうぞ(次は六魔将軍編かな?)


マグノリアから少し離れた街まで出かけにきた2人は何をするでもなく、お菓子を食べながらぶらぶらと並んで歩いていた。

 

 

「そうか、親父さんとは和解できたのか」

「うん。あの人とファンタジアの後に会ってね、その時に色々と話したら…なんていうか、歩み寄れた気がしたんだ」

「それでいいさ。話すことで分かることもあるってもんよ(親か…そろそろ亡くなった一族の墓参りでもしていろいろと報告してこなくちゃな)」

 

 

お菓子を食べ終え、ふと大通りに目を移すと青空市場が開かれていて、ファンタジアの余韻が残っていた。

 

 

「ねぇ、ちょっと見たいんだけどいいかな?」

「ああ、いいぜ。買いたいもんがあったら言いな、今日は俺の奢りだ」

「じゃあ…とりあえず本と服とあとは…」

「(多いな。そんなに生活に困ってんのか?)」

 

多めに持ってきた財布の中身が最後まで持つか多少不安になってきたジンヤだった。

 

 

 

服に本、生活雑貨といったものを一通り買い終わった2人は町外れの大きめな公園で休憩をしていた。

 

「ありがとうジンヤ!こんなに買ったの久しぶり!」

「喜んでもらえたようで、なにより」

「ごめんね、高いものばっかり買って。しかもこんなに」

「気にしなくていい。金の使い道がなかったし」

「それでもだよ。15万ジュエルなんて大金なんだし」

「今日は俺の奢りだって言ったじゃん?それにあん時助けてもらったのに比べたら安いもんよ」

 

そうしているうちにお腹が鳴るのが聞こえたので、そろそろ食べようとしたら、タイミング悪く声がかけられた。

 

「あら?誰かと思ったらジンヤちゃんじゃない!女の子と2人なんて羨ましいわ〜」

「こんなとこでデートってか?やるじゃねえか」

「デ、デート!?」

「おん?おお、誰かと思ったらボブにゴールドマインか。そんなんじゃねえよ。で、そっちは定例会帰りか?」

 

振り返ってみるとそこにはブルーペガサスとクワトロケルベロスのマスターたちが立っていた。どうも会議の合間に寄っていたら偶然見かけたから来たそうだ。ボブとルーシィが話している隙にゴールドマインが2人からジンヤを放していく。

 

「ところで…闇ギルド『オラシオンセイス』って奴ら知ってるか?」

「名前だけならな。そいつらがなんかあったのか?」

「今回の会議で決まったんだが…」

 

彼曰くラミア、ブルーペガサス、フェアリーテイルとケットシェルターの4つのギルドから精鋭を集めての合同作戦だと聞かされた。最近不穏な動きを見せているのでそれを牽制、壊滅させようというものらしい。

 

「ふむ…わかった、ありがとよ。じゃ、今度時間があったら酒でも飲もうや」

「そっちの奢りで頼むぜ。じゃ、俺らはこれで帰るよ」

 

そう言って立ち去ったところで座り直すとぽかんとしたルーシィが座ったまま固まってた。

 

「おい、どうした?なんか変なもんでも食ったか?」

「変なもの食べた、じゃないよ!他のギルドのマスターとなんであんなに仲良いの?」

「まあ仕事の関係でね。連携が取れてる方がいざって時に自分を助けてくれるんだよ。俺はその時に備えての橋渡しって訳」

「へぇ、すごいなぁ。私ももっと頑張んなきゃ」

「ま、無理すんなよ(たまにはこうやってゆっくりする日があってもいいかもな)」

 

気づいたらまたお腹が鳴ったので今度こそ食事にありつけた。

 

「おっ、サンドイッチか。美味しそうだな、いただきますっと」

「どうぞ…どうかな?美味しい?」

「おお、これはなかなか美味いな。わざわざすまんね」

「付き合ってもらったせめてものお礼だよ。たくさんあるからどんどん食べて!」

 

そう言って自分の持ってきたサンドイッチを勧めてきたので気の向くままに食べているとルーシィがすごく言いにくそうに質問してきた。

 

「ねぇ。ジンヤってさ、私のことどう思う?」

「ぶっ!急にどうしたんだよ!」

「ご、ごめん。なんかさ…ジンヤが他の女の子と話してるとモヤモヤして…ちょっと聞きたくなっちゃって」

 

爆弾発言に少し戸惑ったものの、言葉を濁すのは失礼だと思い、真剣に考え、慎重に言葉を紡いだ。

 

「そうだな…。少しおっちょこちょいなところがあるけど、仲間思いだし、優しい。それに一生懸命なところがあるから背中を任せられるし守りたくもなる、ってとこかな」

「なんか聞いてて恥ずかしくなってきたよ」

「ええい、それ以上は言うな!俺も恥ずかしいっての!」

 

そんな会話をしている2人を遠くから見つめている人たちがいた。例に漏れずナツ、グレイ、ハッピーとなぜかエルザとミラもいた。

 

「なんかあそこだけ空気ピンク色になっていないか?」

「でぇきてぇるう」

「こっちが恥ずかしくなって来るわね」

「ジンヤめ、や、やるな」

 

実は2人が出かけた直後に、ギルドに置いてあった悟空がこのことをバラし、ついていくことを提案していたのだ。

 

『なかなか面白いことになっておるのう』

「そうか?なんか飽きてきたぞ」

「おい行くな!こっからどうなるかが楽しいんだろうが、わかってねえな!」

 

静かにつけるべきなのに途中から少しずつ騒がしくなり始め、気づけば2人とも喧嘩をし始め、終いにはジンヤにバレてしまった。

 

「あのなお前ら、聞くのもどうかしてるけどなんで付いてきた?しかもエルザとミラまで…」

「「「「「悟空にそそのかされた」」」」」

『わしが言った。後悔はしてない』

「はぁ〜、お前なぁ」

 

 

 

結局2人きりでのお出かけはみんなと遊ぶ方向に行ってしまった。



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第6章 集結!六魔将軍編
第44話 連合集結


どうもです。今回から六魔将軍編です。(早く投稿できて良かった)
序盤は早めに進むかも?とりあえず本編どうぞです。


街に出かけて数日経った頃、ジンヤは1人、森の中をひたすら歩いていた。オラシオンセイス討伐がギルドに正式に発表され、4つのギルドからメンバーが選ばれ集まるそうだ。フェアリーテイルのメンバーとしてではなく、ギルド合同推薦という形で呼ばれたジンヤは皆より少し早めに着いてしまっていた。

 

「歩いて時間稼いだと思ったんだけどねえ…」

「君がフェアリーテイルのジンヤさんだね?待ってたよ」

「ん?そうだが…」

 

質問をしようとしたところでタイミングよく答えたのはブルーペガサスのトライメンズだった。

 

「百夜のヒビキ」「聖夜のイヴ」「空夜のレン」

「「「3人合わせてトライメンズ」」」

「その口上毎回やってんのか?ご苦労なこって。知ってるようだから簡単に済ますけどジンヤだ、今回はギルド連盟の推薦で来てる」

「そうなんだ、それじゃあ他の人が来るまで待っててくれ」

「そうさせてもらうよ…ふう、よっこいしょういち」

 

近くにあった柱にもたれかかるように座っていると入口の方が少し騒がしくなり、入って来たのはフェアリーテイルのいつもの4人(+1匹)だった。

 

「あ!ジンヤじゃねえか!」

「お前も来ていたんだな」

「ま、フェアリーテイルとしてではないんだがな」

「へぇ、ところであのイケメン3人組は誰?」

「ペガサスの奴らだ。もう1人いると思う」

 

いつもの顔なじみが来たと思ったら美男美女揃いで知られるペガサスの3人がなぜかエルザとルーシィをナンパし始めたのを止めたところ、階段の上から来たのはブルーペガサスの異端児、一夜が降りて来た。

 

「そこまでにして机を片付けたまえ、君たち。そして元気そうだね、ジンヤ君」

「そっちもな。前よりちょっと匂いがきつくなった気もするが…」

「それにしても、相変わらずエルザさんはいいパルファムだ、そこの金髪の君もなかなか…」

「やめてやれ、2人とも引いてる」

 

いつもの癖で女性の匂い、もといパルファムに目のない一夜の暴走を止め、残るギルドを待っているとそこにやって来たのはなんとも懐かしい顔ぶれだった。

 

「せっかく来てやったのに挨拶もなしか?ん?」

「お前、リオン!?ギルドに入ってたのか!」

「グレイか!?」

「あん時の小僧か…それにあの時のゴスロリ女にジュラも来ていたんだな」

「久しいな、ジンヤ殿。前に会ったのはいつだったかな?」

「かれこれ一年以上前だった気がするな。で、残りはケットシェルターの奴らか」

「奴ら、というより1人だと聞いてまぁす」

 

危険な任務にたった1人だけと聞き、どのような人が来るのかと警戒していた。いくら合同任務とはいえ、相手は数はすくないが闇ギルドを束ねるような強敵だ。と、そんな時に入口の方から人が思い切り転びながら入ってくるのが見えた。

 

「あう〜、転んじゃった…。遅れてすいません。ケットシェルターから来ましたウェンディです。よ、よろしくお願いします」

「「子供!?」」

「「女!?」」

「ウェンディ?」

「(あの子、ナツやガジルに似た匂いがする…。どういうこった?)」

 

それぞれが疑問に思うのは仕方ないことだった。目の前にいるのはそこらへんの街にいる普通の女の子だといえば通じそうなくらいな子供だ。

 

「それにしても、ケットシェルターはなんでこんな子を?しかも1人だけなんてどうかしてますわ」

「あ、あの、すいません…」

「あ〜、謝らなくていいから、うん。君は何も悪くない、ok?」

「は、はい」

「しっかりしなさいよウェンディ。それに1人じゃないわよ、ケバい姉さん」

「シャルルついてきたの!?」

 

人と話し慣れてないのか、かなり緊張しきっている少女の後ろから現れたのはハッピーに似た白いネコだった。

 

「ハァ…(もうツッコむ気にもならん)。おい、早く説明を始めてくれ」

「そうしよう。っと、その前にトイレのパルファムを…」

「トイレにパルファムはつけなくてよくねえか?」

 

数分後、トイレから戻った一夜の説明が始まった。曰く、ワーズ樹海という場所にニルヴァーナという魔法があること。それを狙って集まったオラシオンセイスを天馬の飛行艇で殲滅するという作戦のようだ。そのメンバーの毒蛇使いのコブラ、スピード系と思われるレーサー、天眼ホットアイ、心を覗ける女エンジェル、ミッドナイト、そして司令塔のブレインを潰すことが目的だ。

 

「よっしゃああ!俺が全員ぶっとばしてやらぁ!」

「あ、ナツ!」

「仕方ない、追うぞ!」

 

先に飛び出していったナツを追ってみんな飛び出し、残ったのは一夜、ジュラ、ジンヤの3人のみとなってしまった。

 

「全く…」

「メェーン」

「(こいつ…)おい、1つ言っていいか?」

「なんだい?」

「何事だ?」

 

少し間を空け、一夜の胸ぐらを掴んで大声を張り上げた。

 

「テメェ、そんなんで化けたつもりか?バレバレなんだよ、この雑魚が!」



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第45話 希望のち厄災

六魔将軍編本格突入。色々とわかりにくくなっていたら申し訳ないです。それではどうぞ!


「化けるとは一体…」

「こいつからは人とは別の匂いがすんだよ。それに…一夜はもっと香水のきつい匂いがしているはずだ。鼻の利く俺相手に匂いまで完全にコピーしなかったのは失敗だったな、なあ?エンジェルとやら」

「まさかバレるとは思わなかったゾ」

 

皆が出ていった方角から現れたのはオラシオンセイスの1人、エンジェル。どうやら作戦のコピーとあわよくばジュラの戦意喪失を狙っていて、先ほどの一夜は星霊が化けたものらしかった。

 

「俺を甘く見ないほうがいい。なんだったらここで潰してもいいんだぞ!」

「そちらから現れたなら、ここで叩くのみぞ!」

「こっちの仕事はもう終わったから無駄に戦うくらいなら帰るゾ」

 

そういうとあらかじめ隠してあったのだろう魔導二輪で一気に去っていってしまった。

 

「チッ、逃げやがって!」

「仕方あるまい、我々も後を追おう」

「その前に一夜も連れてこう。トイレにいるはずだ」

 

 

いつの間にか傷だらけになっていた一夜を抱え、ナツたちの走っていった方角に向かうと、既に味方は全員、敵6人に為す術なくやられていた。

 

「おい、こりゃあどういうことだ?」

「ジンヤ…あいつら…ウェンディを」

「ほう、こいつらが獣人ジンヤと岩鉄のジュラか。だが、遅かったな、天空の巫女は頂いた!そして死ね、ダークロンド!」

「む!岩鉄壁!」

 

ブレインの持っている杖から広範囲に魔法が放たれた。それをジュラが防いでいるうちに敵の姿は既に消えていた。

 

「消えた?何故…」

「おい、お前ら。何があった?」

「そ、それが…」

 

一夜の痛み止めの香り魔法などで傷の介抱をしながら皆から情報を聞き出したところ、何かしらの目的でウェンディとついでにハッピーを捕らえて連れ去ったこと、エルザが敵の毒にやられ、弱っていることが判明した。

 

「どう?その毒どうにかなりそう?」

「完全な解毒は無理だな。簡単な治療と時間稼ぎしかできん。高度な魔法があればやりやすいんだが…」

「でもそんな魔法、持ち合わせてないぞ!」

「私のパルファムも効果がないとは…メェーン」

 

その毒の対処法で騒ぎを止めたのは1つの静かな声だった。

 

「ウェンディなら治せるわよ」

「っ!!なんか知っているのか!」

「ウェンディは解毒以外にも解熱や痛み止めができるわ」

「メェーン。私のアイデンティティが…」

「おい、もしかして天空の巫女ってのは…」

「ええ。あの子は天空のドラゴンスレイヤー、天竜のウェンディよ」

 

その言葉に周りもざわついた。ドラゴンスレイヤーがナツやガジル、ラクサス以外にもいたのかと驚くメンバーが多かった。

 

「…何はともあれ、そうとなればやることは1つだな」

「そうだね、ウェンディちゃんを助けるんだ」

「エルザの為にもな」

「ハッピーも忘れずにね」

「よっしゃあ、やってやろうじゃねえか者ども!仲間を何としてもとりもどすぞ!」

「「「おおー!」」」

 

仲間の危機に対して、一致団結して当たろうと手分けしてウェンディたちの捜索に出始め、残ったメンバーも手当の為に早速行動に出た。

 

「ここら辺にある鎮痛作用のある植物をなるだけ多く集めてくれ」

「なら、僕の出番だね。僕の魔法、アーカイブの情報を使えば効率的に集められるはずさ」

「分かった。ルーシィ、できる限り彼と行動するように。2人とも頼んだぞ」

「「了解!」」

「さてと、こっちでできることをやるとするか!」

 

暇なうちに自分にできることをやっておこうと毒の吸い出しと駄目元の血清作りにとりかかった。

 

「ちいと痛むが許せよ、エルザ」

 

 

その後合流したルーシィとヒビキの協力もあり、毒のまわりが抑えられていた。

 

「さてと、あとは誰かがウェンディたちを連れてくるのを待つだけだな」

「でも、ここ分かるかな?」

「心配ないよ、僕がここの位置をみんなに知らせてるから。帰れなかったら意味がないしね」

「仕事が早いな。この任務に選ばれた理由がわかった気がするよ」

 

やれることはやりきったと、大人しく待っているとやってきたのは気絶しているウェンディとハッピーを連れた(正確には担いだ)ナツがやってきた。

 

「やっと着いた!頭の中に変な地図が出て凄かったよ」

「おう、ご苦労さん。ちょっとその子の力を…」

「そうだ、おいウェンディ!起きてくれ!」

「ちょっと!揺さぶったらダメでしょ!」

「う、ううん?」

「目覚めたか」

「ご、ごめんなさい!」

「今はあのことはいい!頼む、助けてくれ!」

 

ようやく目を覚ましたウェンディはなぜか怯えていたが、ナツやジンヤが頭を下げてまでエルザの治療を頼んだこともあり、すぐに治すことができた。

 

「よし、これで後顧の憂は無くなったな」

「エルザさんが目覚めたら反撃の時だね」

「ニルヴァーナは渡さないぞぉ!」

 

後は敵を叩くのみ、そう思った瞬間、遠くに黒い光の柱が昇るのが見えた。

 

「おい、あの光って…」

「まさか…ニルヴァーナか!」

「まさか先を越されちゃった!?」

「!!…あの光、ジェラールがいる!」

「どういうことだ!?奴は海に叩き込んだはずだぞ!」

「あいつはエルザに会わせるわけにはいかない…潰してやる!」

「わ、私のせいで…」

 

災厄の復活、そしてこの地で目覚めたジェラール。波乱に満ちた戦いの真の幕開けである。




ジェミニってどこまでコピーできるんだろ?匂いとか癖までコピーできんのかな?


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第46話 堕天使再び

どうも1週間ぶりくらいでございやす、ぽおくそてえでござる。
最近ペースが落ちるわ文章が下手くそだわで待っていただいている読者の皆さんには申し訳ないです。
さて、本編ですが、今回はかなり短めです。それでもええよという方はお進みください。(堕天使書いてますが、アザ○ルやアルマ○スは当然出ません)


「やれやれ、なんでこんな時にはぐれるかね…。ニルヴァーナのせいで匂いが追えねぇよ」

 

途中、ナツを追っていたのにはぐれたジンヤは森の中で比較的大きめな木に登って匂いを元に探そうとしていた。しかし、木々の生い茂った森がニルヴァーナの発する黒い邪気にあてられ、所々黒く変色し、その影響か嗅覚に支障をきたしていて思ったようにはいかなかった。

 

『さすれば、ワシの出番じゃな』

「頼む、ナツの魔力を追ってくれ」

『合点承知の助じゃ…むっ!あそこの小川にそれらしい力がある!敵も近い、急いだ方が良かろう』

「助かるぜ、さすが相棒だ」

 

登っていた木の上から飛び降り、ムササビの如く滑空していった。

その頃、ナツたちは六魔の星霊使いエンジェルを前にナツ、ハッピー、ヒビキがダウンしていて、なぜかウェンディがいなかった。残るルーシィも黄道十二門の星霊を何体も呼び出した影響で魔力切れに近い状態になっていた。

 

「お、おお…」

「ううっ」

「ふふふっ…大した魔力もなし、相関図も知らない。そんなのでバンバン星霊使ってたらバテるだけだゾ?このまま死になさい!」

「助けて…ジンヤ…」

 

そのまま振り下ろされようとしていた。が、いつまでたっても痛みがこないことを不思議に思ったルーシィの目の前にヒーローが来ていた。

 

「すまなかったなルーシィ」

「やっぱり…来てくれたんだ」

「ヒーローってのは遅れてくるもんだろ?」

「1人増えたくらいじゃなにも変わらないゾ、カエルム!」

 

先ほどまで刀になっていたのは星霊で、今度は砲台のような形に切り替わった。そして距離を取った瞬間、魔法の砲撃が繰り出された。

 

「死ねぇ!」

「悟空」

『おうよ!仙法・五行の盾!』

 

地面に突き立てた如意棒の前に魔法陣が現れ、魔導砲からの攻撃を完全に防ぎきった。

 

「くっ、こうなったら直接切り裂いてやるゾ!」

「……一時撤退だ、ルーシィ」

「えっ!?なんでよ?他のみんなが…」

「そのためだ…それにお前、魔力もほとんど残ってないだろ?」

「逃げても無駄だゾ!」

 

ナツ、ハッピー、ヒビキを抱えてルーシィとともに森の中に再び姿をくらませた後をエンジェルが追うが、遂には見失ってしまった。

 

「逃げ足の速い奴ね」

 

あたりを見回し、姿が確認できず苛立ちを覚えるエンジェルだったが、奥からジンヤが現れたのを確認し、不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ようやく出てきた…他の連中をどこに逃したか話してもらうゾ」

「それを容易く話すほど、俺はバカじゃないんでね」

「お前もさっきのやつらも消してやるわ。これが運命よ」

「…運命を切り開くのは俺たちだ。進むのは意志ある者のみぞ!」

 

天使と獣人、勝利の星を見るのは果たして…



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第47話 崩壊の目覚め

どうも、ぽおくそてえです。大学の休みのシステムが特殊なおかげで天国の9連休の真っ最中です。だからと言っていつもとクオリティとか更新速度が変わるわけじゃ無いんですけどね(読者の皆さん、ゴメンちゃい!)
それでは本編どうぞ!


「開け、白羊宮の扉・アリエス!彫刻具座の扉・カエルム!」

「二体同時召喚か。面倒な」

 

星霊魔導師が二体同時に召喚するとなるとかなりの魔力を消費するが、その代わりに強力な星霊を同時に呼べる。そうなれば苦戦するのは必須である。

 

「アリエス、やりなさい!」

「は、はい!ウールボム!」

「(こいつの相手をしたら時間をくうし、傷つけたらルーシィにどやされそうだ。それなら、本体をっ!)歩法・千鳥足…」

 

ジンヤは目を伏せて全身の力を抜き、酔っ払いのように歩き始めた。酒を飲んでいないのに不規則に、そしておぼつかない足取りで動いているにも関わらず、小さな穴に糸を一発で通すような正確さで攻撃を避ける様にエンジェルは焦りを感じる。

 

「このっ!アリエス、消えてろ!」

「焦りは禁物だぁ。勝てるもんも勝てなくなるぞ?」

「なんだその動きは!?キモいゾ!」

「キモいはねぇだろ。ま、それどころじゃないがな」

 

冷静さを失ったエンジェルはやたらめったらにカエルムを振り回したり出鱈目な方向に撃ち始めた。

 

「失せろ…。星霊を愛せぬ者に星霊魔導師たる資格無し!」

「く、来るな!」

「歯ぁ食いしばれよ。ボルティック・アッパー!」

 

脳震盪を起こすような衝撃が鳩尾に加えられ、痺れる拳で軽く3メートルは打ち上げられた。

 

「ったく、どうしてこんなゲスが星霊魔導師になれたんだ?」

 

気を失い、恐怖と痛み、そして痺れによって痙攣しているエンジェルを放っておき、再び森へと入っていった。

 

「(邪気が強まっている…。いよいよアレが本性を現すのか!)」

 

遠くの方を見やると、いつの間にかニルヴァーナの発する光が黒から白になっていた。復活も間近といったところだ。

 

「先に行かせたのはまずかったかな。ま、悟空もいるし、大丈夫か。さてと…こっちも誰かと合流せにゃいかんな」

 

鼻が効かないことを思い出したジンヤは目を極限まで遠視の状態にし、上空から探すことにし、高くまで飛んでいると大岩の上に座っていたウェンディたちを見つけて、立ち寄ることにした。

 

「よお、こんなとこでどうしたんだ?」

「あ、ジンヤさんでしたか。実は…」

「戦う力が低いから避難したのよ」

「なるほどね、そりゃしゃあないな。そんな状況じゃあ誰だってそうする、俺もそうする、多分」

「あ、あはは。それにしても、あの光なんか白くなってません?」

「どうやら完全復活も近いみたいだな…ん?2人とも、離れるぞ!」

「「えっ!?」」

 

何かが動き始め、それに伴う揺れを感じ、驚く2人を脇に抱えるとかなりのスピードで空へと逃れた。突然のことにウェンディたちはまだ混乱している。

 

「いきなり何すんのよ!危ないじゃない!」

「あれを見ても同じこと言えるか?」

「えっ?あれって…」

「ああ。あれが…ニルヴァーナの本性だ」

「誰も、止められなかったのね」

 

超反転魔法『ニルヴァーナ』、覚醒!!




これからニルヴァーナ突入です。
できれば連休中にもう一本いきたいな。

あと、今回出てきた技、参考にしたのは『しびれうなぎ』です。獣言うときながら魚類ですが気にしたら負けです。

そういえば、気になったことが1つ。伝承と噂の違いってなんなんでしょうね?ゲームやってて、気になって…。伝承の中に噂って含まれるんでしょうか?ご存知の方いましたら教えていただければです!


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第48話 悪夢の行進

どうも、ぽおくそてえです。今回は比較的早く更新できました。あまり進んでいませんが、最後までどうぞよろしく。
それでは本編どうぞ!


「俺はあそこの上に行くが、2人はどうする?着いてくるか?」

「あのね、この子にはこれ以上無茶はさせられないの!だから…「待って、シャルル」ウェンディ?」

 

シャルルがジンヤに文句を垂れていたが、ウェンディが言葉を遮ったことに驚いていた。

 

「私がここにきたのもみんなの役に立ちたいからなの。だから…私も連れて行ってください!自分にできることをやりたいんです!」

「それが聞きたかった。大丈夫、俺がいるからな」

「はい!」

「よし、ちゃんと捕まってな。飛ばすぞ!」

 

広げていた翼や足を畳み、高速で一気に飛んでいった。空から見下ろすとそこには、7つの脚がついた要塞都市が目的を持ったように進んでいく姿があった。

 

「…あそこで降りよう。って、おい一夜!そこで何遊んでんだ!」

「メェーン、助けてくれたまえ!」

「はぁ、この二人降ろしたらな。待ってろ」

 

なぜか手足を縛られ、町の煙突に引っかかっている状態で見つかった。呆れながら回収すると、どうも皆と別れた後にボコボコにやられて気づいたらこんなところで引っかかっていたとか。

 

「全く手間かけさせやがって」

「メェーンボク無い」

「くだらんこと言ってんなよ、ほれ。取れたぞ」

「ありがとう、さすがはジンヤ君だ。ところでこれからどうするかね?」

「そうだな。他に誰かいるんなら合流したいとこだが…」

 

振り向いてウェンディたちに質問しようとした瞬間、大気を揺るがすような爆音が鳴り響き、耳を思わず塞ぎ顔を歪めてしまった。

 

「ナツさん?」

「うるさいわね」

「うるさいどころじゃねぇだろこれは!」

「メ、メェーン」

 

ひと通り怒号が辺りに響き、1分ほど経ってようやく静まった。

 

「耳が痛え…」

「あんた耳良すぎじゃない?」

「むしろなんでウェンディの耳が無事なのかそっちの方が疑問だ。滅竜魔導師って耳いいんだろ?」

「私のパルファムの賜物だ「いつ使ったよ、いつ?」…冗談だ」

「全く調子のいいやつだ…おいウェンディ、どうした?」

 

後ろにいるウェンディに声をかけるが、なぜか反応を示さず、何かを恐れているかのように体を震わせていた。

 

「これ、あっちに…私たちのギルドのある方に、向かってる気がする」

「「なにぃ!?」」

「嘘でしょ…」

 

慌てて見てみると確かに小さな集落と思しき灯りが遠くの方にポツポツとついているのが分かった。

 

「確かに集落がある。まずいな、どうにかしてコレを止めねぇと…」

「ヒビキならば何か分かるだろう。彼と連絡したほうが良さそうだね、メェーン」

「だな、急ごう…こちらジンヤ、聞こえるなら応答求む。ヒビキ、聞こえるか!」

 

何度も叫んでみるが、何の応答もなく返ってくるのは静けさのみ。下から聞こえる足音だけが虚しく響く。

 

「ダメだ。繋がらん」

「むぅ、そうか」

「そんな…」

「とりあえずここから動こう。こういう時は留まってるだけじゃダメだ。まずは、あの塔の頂点を目指して歩こうか」

 

指差した方にはこの魔法都市で一番天に近い、塔の最上階。操縦席のような広間だった。

だが、この時のジンヤたちはまだ知る由もなかった。ある男に眠る、最凶の祈りの目覚めが近づいていることに。




原作だと一夜の出番なさすぎたので復活(?)させました、戦いませんが。


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第49話 無限の闇、現る

どうも、ぽおくそてえです。ゴールデンウィーク最終日に間に合わなかったです。今日から夏休みまで長いですが、頑張っていきたいです。
それではどうぞ。


ウェンディたちを伴って歩いていると、ナツやグレイルーシィたちと合流を果たした。

 

「よお、全員無事か?」

「ちょうどいいところに。ナツ殿とネコ殿の調子が悪そうなのでな」

「私が治します!」

 

どうもコブラと戦い、毒を食らいながらもあの馬鹿でかい叫び声で逆転勝利を収めたとか。しかも、その後に現れた敵の司令塔ブレインをジュラの本気で一蹴したとか。

 

「やっぱ化け物じみた力だな」

「ふふ、そなたほどでもない」

「謙遜なさるな。俺なんぞ仲間を逃さないかんかったんだ、それに比べりゃあんたはよ」

「でも、おかげで私たちは助かったんだよ。ありがとう、あの時庇ってくれて嬉しかったよ」

「ま、まあ助かってんならそれに越したことはねぇよ、うん」

 

互いの無事と情報交換をしたところで、王の間を目指すことで一致した。

 

「あそこで操縦してるやつって居るのか?」

「おらんだろうな。それならば、舵になっている物を壊すなり利用するなりすればいい話だ」

「なんか嫌な予感がするな」

「敵が敵だ。狡猾な策を取ろうとするだろうからな、ジンヤ殿の言わんとすることは分からんでもない」

 

塔内の螺旋階段を走り抜けるとそこにはナツが少し壊した後が残っているだけでもぬけの殻となっているだけの王の間があった。

 

「誰もいねえな」

「操縦席はないし、操ってるはずのブレインは倒れてる。それなのに動いてるなんて」

「まさか、自動操縦だってのかよ!ケットシェルターの破壊までもう組み込み済みかよ!」

「そんな…私たちのギルドが…」

「大丈夫だ!」

 

大切な場所を壊されるかもしれない恐怖に震えるウェンディを励ましたのはナツの言葉だった。

 

「ギルドは必ず守ってやるさ、快復させてくれた礼だ。こいつを止めてやる!」

「ナツさん…」

「ここで分かれよう。私とジンヤ君は他のメンバーを探しつつ最後の一人ミッドナイトを叩く」

「それでは残りのワシらでこれを止める手段を探そう。皆もこれでよろしいかな?」

 

7人も一箇所に居るより、二手に分かれた方が効率が良さそうだと特に反対派はいなかった。

 

「それでいくか、ってウェンディ?」

「私…心当たりがありますので行ってきます!」

「おい!どこに行くつもりだ!」

「待って、ウェンディ!」

 

どこかへと去っていってしまったウェンディを追ってシャルルもいなくなってしまったことに溜め息が出てしまった。

 

「なんでこうなるんだよ。おい一夜、急いで飛び降りるぞ」

「メ、メェーン!」

「あ、ジンヤ!これ持っていって!」

 

ルーシィの投げた如意棒を空中でうまく捕まえながら猛スピードで塔側面をくだっていく。

 

「エルザをみっけたぜ!そこで降りるぞ」

「メェーン。いいニュースだね」

 

塔を蹴って勢いに乗った状態でエルザの前に降り立った。

 

「エルザさん。無事でよかったです」

「ああ、どうにかな」

「元気そうだな。ミッドナイト倒したのか?」

「なんとかな。ぎりぎりだったよ」

「そうか…ん?お前、ジェラール!!」

 

敵だったの魔導師がここにいることに驚きと怒りがこみ上げてくる。

 

「テメェ、なんでここにいんだよ!テメェのやったことを考えろ!」

「落ち着け、ジンヤ!今のこいつには記憶がない!」

「だから許せってのか!こいつをよぉ!」

「すまない。謝って済むことじゃないのは君の怒り方からも充分なほど分かる」

「このっ…意地でも思い出せよ!このまま忘れましたなんて許さんからな」

「分かっている」

 

頂点にまで達しかけた怒りをおさめつつ、情報交換を行っていたら、先ほどまでいた王の間のふもとで爆発がおこった。

 

「まさか…様子見に行ってくる!」

「ジンヤ!?おいどうした!」

「(くそっ、何があった!?)」

 

風のように街を駆け抜け、塔の麓に辿り着き、開いている門をくぐると見知らぬ禍々しい邪気を纏った白髪の男が悠然と立っていた。

 

「ようやく来たのか、獣人よ」

「テメェ、何故俺のことを」

 

闇の都市に揺られながら、六魔最悪最凶の男との光を賭けた勝負の始まりだった。



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第50話 進むは無辺の闇か折れない光か

遂に50話まできたっす!一時期一ヶ月ほど空きましたがそれ以外は投稿間隔が10日以内くらいに収まっているな、て感じですね。
今回は久しぶりに2000字超えです。ちょっと長くて読みにくいかと思いますがどうぞ。


「なんてことだ…遅かったか!」

「初めましてとでも言っておこうか。それともまた会ったな、かな。俺はゼロ、このギルドのマスターだ」

「あ?マスターってブレインじゃねえのか?」

「何を勘違いしている?まぁ無理もないがな。テメェも俺のギルドを随分荒らしてくれたみたいだなぁ。きっちり受けた借りは返してやる」

 

ゼロの周りの空気が突然黒く染まっていき、邪気が強まっていくのが感じられる。

 

「死んで詫びろ!」

「がっ!?ゴフッ!(速えし、重い!)」

「壊れゆけぇ!」

 

手から黒い幽鬼を放ち、壁に打ち付けられたジンヤに追い打ちをかける。

 

「んがっ!クソッ…開け、『仙法・獅子奮迅』!」

「ほぉ…まだ力を隠してたのか。だが何も変わりやしない。俺を前にして形を残したものは一人として居ねえからな!」

「いくぞぉ!」

「ここで終わりにしてやる!」

「斉天の…剛腕!」

 

========

 

その頃、ジンヤより先に行っていたはずのウェンディがようやくやってきたのはエルザたちのいる場所だった。

 

「エルザさん!ジェラール!」

「ウェンディ。無事だったか」

「君は!?」

「え?」

 

初めて会うかのような言い方をする彼を不思議に思った。しばらく一緒に旅をしていた仲なのだ。

 

「ジェラールは記憶が混乱していてな…私の事も君の事も覚えていないらしい」

「そう、ですか」

「まさかこのニルヴァーナの壊し方まで忘れたとか言うんじゃないでしょうね!?」

「自律崩壊魔法陣は破れた。もう俺には手立てがないんだ。すまない」

「それじゃ私たちのギルドをどうするのよ!!もうすぐそこなのよ!?」

 

シャルルの激昂を他所に、動きを止めた古代都市は、少しずつ揺れを激しくしていく。

 

「な、何をする気だ」

「さっきより揺れて…」

「まさかニルヴァーナを撃つつもりか!」

「辞めてぇ!!」

 

叫び声を打ち消し、無情にも轟音が轟く。そのまま無慈悲な砲撃がギルドを飲み込むかと思われた。

が、その一撃は僅かにそれて建物の端を掠める程度で済んだ。皆驚いていた、そのままいけば確実に地図から消えていてもおかしくなかったからだ。それを防いだのは上空からの一撃が軌道をずらした影響だ。

 

「どうなってるんだ」

「ん?まさか…あれはクリスティーナか!」

「わぁ!」

 

『誰か、応えてくれ!』

「ヒビキか!私とウェンディ、一夜は無事だ!」

『エルザさん!ウェンディちゃんも無事でよかったよ。それに先輩まで』

 

上空に所々壊れながらも飛ぶ姿に勇気づけられながらも1つ疑問が出てくる。最初に一度墜落され木っ端微塵に近い状態にさせられているのになぜか飛んでいるのだ。

 

「クリスティーナは一度堕ちたはずだろう?どうして…」

『みんなが翼や砲台の役割を補ってくれたからさ。でも…それももう、限界だ』

 

皆の魔力ももう残っていなかったのだろう、ガクンという音と共に再び墜落していった。

 

『僕もいつまで念話をつないでいられるかわからない。その前にニルヴァーナの破壊方法を伝えておくよ!遂に見つけたんだ!』

「本当か!」

『それの脚の付け根の内部に巨大なラクリマがあるんだ。それを同時に壊してくれ!そうすれば機能が停止する』

「同時なんてどうやって!?」

『タイミングを計りたいけど、そこまで持たない。だから…これを使ってくれ』

 

その言葉と共に頭の中に地図とタイマーがアップデートされた。脚の部分に7つの番号がふってあり、『20分後に攻撃する』というタイミングが設定されている。

 

『その地図とタイマーに従って行動してくれるかな?』

「分かった、ありがとう」

「早速別れようではないか。私は…」

『無駄なことを…』

 

一夜の声に被さるように聞き覚えのある声がいきなり割り込んできた。ブレインのもう1つの人格、ゼロだ。

 

「こいつ…」

「ブレインってやつだ!」

『僕の念話に介入したのか!?』

『俺の名はゼロ、オラシオンセイスのマスターだ。俺はこれから全てを破壊する!手始めにてめえらの仲間を壊してきた。サラマンダー、造形師、星霊使い…そして獣人だ』

「メェーン、彼らが負ける訳がなかろう!」

「そうだよ!そんなデタラメなんか!」

『そして俺は7つのラクリマの1つの前にいる。フハハハハ、これで同時に壊すなんて不可能になったな!諦めるがいい!』

 

一方的に話すだけ話して念話を強引に切っていった。その時、更に絶望的なことが発覚する。

 

「待って!!ラクリマの壊せる魔道士が7人も居ないわよ!」

「してやられたか…」

「あ、あの。私、破壊魔法とか苦手で…」

「くっ、こっちは3人だ!誰でもいい、立てるものは居ないのか!?」

 

========

 

「(俺は…負けたのか。闇に…)」

 

ゼロとの戦いに敗れ、ジンヤの意識が闇に沈んでいく。やれることはやった、ここまでの存在だったのだろうと諦めの感情が湧くなか、手を差し伸べるように一筋の光明が差し、そこから声が聞こえる。

 

「(…声?)」

『グレイ、立ち上がるんだ。お前は誇り高きウルの弟子、こんな奴等に負けるな!』

『私、ルーシィのこと嫌いですわ。でも…死んだら嫌いになれませんわ。後味悪いから返事しなさいよ!』

『ナツさん、私は信じてます。必ず皆さんの期待に応えてくれるって。だから…目を覚ましてください』

『ここで別れるなんて私はしたくない。皆と一緒に帰るぞ!ジンヤ!』

『四人とも…僕たちの声が…』

 

「「「「聞こえてる!!!」」」」

 

連合最後の反撃が始まる。




関係ないですが、21歳になっちゃったよ。
1つ歳をとりました。


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第51話 崩れる闇、そしてその時…

今回はかなり端折ったりしました。そこ戦えよだの、なんでやねん、てとこがあると思いますが、温かい目で見逃してくだせえ。
それではどうぞ!


「要は、ラクリマを…同時に壊しゃあ、いいんだろ…フゥ〜」

「おまっ…ボロボロじゃねえか」

「るっせえな、お前も大差ないだろボケ…さっさと、別れるぞ」

「減らず口は健在かよ。俺は1に行く!」

 

グレイが2、ルーシィが3と一人一箇所に向かうことになった。ジンヤは7だ。

 

『それじゃあ、みんな…たのむよ』

「…通信が切れたか」

「もう限界だったんだね」

「とにかくちゃんと人数もいるみたいだ。ゼロに当たったら各自撃破、みんなバラバラだから誰が当たっても加勢できないからね!」

 

ハッピーのその言葉を皮切りにそれぞれのポイントへと向かい始めることに。折れた骨、身体中にできている切り傷や痣を抱えながらも進んでいく。牛の歩むが如くゆっくり進んだ先のラクリマには誰も居なかった。

 

「…居ねえか。もしや、ナツの方か?」

『の、ようじゃな。ワシの力をさっきこっそり分けておいたでな、多少マシに動けりゃええがの』

「早業だな…(あいつゼロがいるって分かって行ったな)よし、俺にも力を貸してくれ!」

『あんま無茶はせんほうがいいが…骨が完全に逝ってまうかも分からんからな!』

「構わん、やってくれ!時間が惜しい!」

 

残り5分もなくなり、力を再解放するために悠長に座禅を組んでいる時間もない。かと言ってこの傷だらけの体で微妙な力を出しても壊せるかわからない。危険な賭けではあるが体へ過負荷を強いることにした。

 

「仙法『唐獅子の舞』…ぐっ!」

『(肋が完全に逝きやがった!しかも右腕の骨と左脚の筋肉もか…ならば)“内気功”!』

「ふぅ…痛みが。助かるぜ」

『連携は大事じゃからなぁ。さあ、あと30秒じゃ!』

「おうよ…我が力を左手に」

 

体のあちこちに異常がでているが、もはや気にしていられまいと左手に全神経を集中させる。

 

「砕けぇ、メガトンコング!」

 

紅く染まった左手が唸り、巨大な水晶を微塵に砕く。全員が無事に砕き切ったようで、ニルヴァーナ全体が音を立てながら崩れていく。

 

「うっ、ごはっ!やっぱ無理はしたらいかんな…」

『呑気に話しとる場合じゃなかろうが!一気に崩れとる、逃げるぞ!』

「そ、そうだな(最後まで持ってくれよ)」

 

使えない足の代わりに背中の翼を頼りに脱出を目指す。

 

その頃、一部のメンバーを除いて全員がなんとか脱出できていた。

 

「あっぶねぇな。で、他の奴らは?」

「こっちは無事だ、ルーシィ達もな」

「あとはナツとジンヤだけだね」

「もしや二人とも…」

「ナツさんは私が保護しました、デスネ」

 

地面を割って出てきたのはミッドアイことリチャード。どうもナツとジェラールを抱えてきてくれていたらしい。

 

「オラシオンセイスがなんで?」

「色々あってな、今は味方だ。ニルヴァーナの光の面の表れとでも言えば良いかな?」

「じゃあ、後はジンヤさんだけですね」

 

しかし、いつまで経っても来ない彼に不安が募る。中にはしびれを切らして瓦礫の方に向かおうとするのもいた。そんな時にみょんなとこから声がした。

 

「おーい、どこ探してんだ。こっちだ、こっち」

「「「えっ?」」」

「いやだから木の上、枝のとこ」

「えーっと、何遊んでるのかな?」

「これ事故だし。脱出したのはいいけど骨折して降りれない訳。とりあえず降ろしてくんさい」

 

なんとも情けない姿ではあったが、突入組は全員無事に生還できた。ジンヤは回復をしてもらうことに。

 

「よくもまあ無事なもんよな」

「ああ、全くだ」

「ありがとうございます。みなさんのおかげでギルドも無事です」

 

仕事も終わり、このまま何事もなく終わるのかと思いきや、一夜が何か騒いでいるのが聞こえてきた。

 

「メェーン…何かにぶつかってトイレのパルファムに行けない!」

「あ、これって…」

「術式か!誰だ!?」

 

足元に書かれた魔法陣を囲うように同じような服を着た集団とそのリーダーらしき男がいた。

 

「新生評議院第四強行検束部隊隊長のラハールと申します。手荒な真似をするつもりはありません。しばらくそこを動かないでください」

「もう来たのか。相変わらず仕事が速いな、ラハール」

「ええ、お久しぶりです。新しくなった評議会は法と正義を守るためにいかなる悪も許さない。それを実行しに来ました」

「なっ!?俺たちはなんもしてねえぞ」

「そーだそーだ!」

 

思い当たる節の多いナツたちは自己弁護のために騒いだが、ラハールの一言で静まり返った。

 

「存じてます。我々の目的はオラシオンセイスの捕縛。そこにいるコードネーム“ホットアイ”をこちらに渡してください」

「し、しかし!」

「良いのデスネ、ジュラ。善に目覚めても過去の悪業は消えませんデス。一からやり直そうと思いマス」

「リチャード殿…それではそなたの弟は私が探そう。弟の名前はなんと申す?」

「ウォーリー、ウォーリー・ブキャナン。それが弟の名前デス」

 

その名前は何人かにしてみれば聞き覚えのあるものだった。楽園の塔の一件で知り合いになったうちの一人だ。

 

「「四角ゥ!?」」

「偶然というのも不思議なものだな、ウォーリーは私の親友の一人だ。今は大陸中を元気に巡っている」

「おお、おおお、これが光を信じるものに与えられる奇跡というものデスか。ありがとう、ありがとう、ありがとう!」

 

心残りのない晴れやかな表情ながら少し憂いを感じさせる雰囲気を醸し出しつつ、評議員に連行されて行く彼を見送った。

 

「なんか可哀想だったね」

「あい」

「しょうがねぇさ」

 

オラシオンセイスを捕まえたのにも関わらず、評議員は一向に引く気配を見せないことに一夜が声を荒げる。

 

「もういいだろう!?いい加減解放してくれんとここで漏らすぞ!」

「そういう訳にはいきません。オラシオンセイスの捕縛はほんの些細なことだ」

「えっ?」

「評議院への潜入、破壊、エーテリオンの投下。とんでもない悪党がそこにいるでしょう…貴様のことだジェラール!来い、抵抗する場合は抹殺の許可も降りている!」

「なんでだよ!!」

「その男は危険だ。この世界には放って置けない、絶対に!」

 

この冷静な男には珍しく、語気を荒げる。魔力も尽きた男に異様なまでの大捕物である。

 

「エルザ、いろいろとすまなかった。ありがとう」

「(…私が止めなければ、あいつは…。せっかく悪夢から覚めたあいつをもう一度闇になど…)」

 

彼にとり憑いていた闇が消え、ようやく日の元に出てこれたジェラールを牢に行かせまいと拳を握る。

 

「なにか言い残すことはないか?貴様は死刑か無期懲役はほぼ確実、人と会うことは一生許されないだろう」

「ああ」

「ラハール、そいつの記憶は混乱状態だ。それでも連れて行くのか?」

「刑法第13条によりそれは認められません。さあ、術式を解くぞ」

「(行かせるものか!!)」

 

エルザが踏み出そうとした瞬間ー

 

「行かせるかぁ!!」

「な、ナツ!?相手は評議員よ!」

「貴様…取り押さえなさい!」

 

突然ナツが暴れ始め、評議員を殴り倒し始めた。それを取り押さえようとした数人を今度はグレイが妨害する。

 

「止まるな、ナツ!俺が道を作る!」

「グレイ!?」

「ナツは動くと止まらねえからな!それに、ニルヴァーナを壊すのに手ェ貸してくれたやつに労いの言葉もなしか!」

「確かにそれには一理ある。その者の逮捕は不当だ!!」

「悔しいけどその人が連れていかれるとエルザさんが悲しむ。彼女に涙を流させるわけにはいかん!」

 

ひとたび始まった反抗は次第に乱闘へと発展していき、敵味方入り乱れて戦う始末になった。

 

「…もう、もういい!!そこまでだ!!」

「騒がせたなラハール。責任は俺が取る、連れて行ってくれ。色々法に触れたしな」

「ジンヤ、すまない」

「なーに、これくらいお安い御用だ。ヤツとは話したいこともあったしな。そうだ…お前の髪の色だった、だってさ」

 

そう言うと彼用の頑丈な鎖をかけられてジェラールと同じ護送車に詰め込まれた。そして、重苦しい音と共にERAを目指す。




おそらく初めて3,000字いきました。そして、ジンヤには捕まってもらいました、はい。


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第52話 涙は拭いて

最後に詰め込んだらまた3,000字超えました。次どうしようか悩み中です。もしかしたら一、二話やったらすぐに進もうかと。


護送車に揺られながら、目的地に着くまでの間、かなりの静けさが広がっていた。それを破ったのはジェラールの方だった。

 

「何故捕まるような真似を。そのまま言わなければ良かったのに」

「あんなに暴れて放置なんてどうかと思うよ。それに聞きたいことがあってな。本当に何も憶えてねぇのか?エルザのことも、俺のことも、何も」

「全くと言っても過言じゃないくらいだ。あそこの森で目覚めてからの記憶しかない」

「分かってると思うが…エルザがな、お前のことをずっと気にかけていたんだ。あいつのためにも思い出してやってくれ」

「ああ。もちろんだ」

 

またしても静寂が立ち込め、車輪が石を弾く音が響く。

 

「…エルザには、君みたいな仲間がいて良かったよ。安心した」

「それは重畳。お前が捕まらなきゃあ尚良かったんだがな」

「すまない。俺が事を引き起こしたばかりに」

「…もう一つ聞く。エルザに会うためなら行動する覚悟はあるか?さっきのナツたちみたいに」

「…ああ。記憶の戻った時には、必ず」

「しかと聞き届けた。どうやら着いたみたいだな」

 

ERAに着く頃には日が真上に来ており、厳重に警備された道を通って中に入ったところでそれぞれ別室に行くことになった。

 

「お別れだ、ジェラール」

「世話になったね。君のことも思い出せるといいな」

「……ああ。じゃあな」

 

左右に別れ、もう2度と会わないかもしれない男の背中を見送り、今度は自分の行くべき法廷へと向かった。扉を開くと、見知った顔を含めた者たちが鬼の形相で座っていた。

 

「ジンヤ・マーナガルム。公務執行妨害、ギルド間抗争禁止条約違反などの罪に問われておるが異論はあるか?」

「ないな」

「同時にオラシオンセイス捕縛及び連中の愚行の粉砕に協力したとも聞くが?」

「結果的にはそうなっただけだ」

「ふむ…ならば1週間ほど監視をつける程度で済ませる。特例だ、下がれ」

「…失礼した」

 

しばらく監視がつくものの無罪同然の扱いに驚きつつ、静かに退室した。するとそこにラハールが鍵を持って待っていた。

 

「実質無罪だそうですね?」

「不思議だ。禁固刑も覚悟の上だったんだが…」

「今回のバラム同盟の一角を崩した貴方達の働きがあってこそでしたからね、罪より恩恵が大きいと判断したのでしょう」

「ま、牢に入んなくていいなら楽なもんだ」

「ジェラール逮捕に協力してくれたこと、感謝してますよ。では…」

 

手足の錠を外され、ラハールに送り出されながら無事に外に出ると何故かウェンディを連れて皆が待っていた。もう日が暮れようかとしていたのだ、そのままギルドで待っていればと思ってしまう。

 

「おーおー、こりゃまた…どうしたんだ?」

「ルーシィさんが落ち着かなくて、来ちゃいました」

「あい、ずっとそわそわしてたんだよ!」

「ちょっ!?それ言わない約束でしょ!」

「エルザは…やはり、来てないか」

「あいつは他の奴らに任せてるよ。さすがにあの状態で連れてくるのもねぇ」

「そう、だな…ルーシィ、肩貸してくれねえか?そろそろ限界…だ」

 

半ば崩れるようにルーシィに倒れこみ、突然意識を切らした。そのまま静かに寝息を立ち始めた。

 

「ちょっと、ジンヤ?もう、しょうがないなあ」

「無理すんなよ?きつかったら代わるぜ」

「結構でけえからなこいつ」

 

グレイやナツから親切な提案がなされたが、すぐそこまでだからと断った。背中で子供のような寝顔を見せているジンヤを微笑みながら眺めているルーシィにウェンディが顔をほんのり赤くしながら疑問を投げかけた。

 

「ルーシィさんってジンヤさんに結構優しくしますよね?なんか他の人とはちょっと違うというか…もしかして付き合ったりとか?」

「でぇきてぇるう!!」

「べ、別に私は!で、でで、できてないし、ただの仲間だし!」

「できてなきゃ2人きりで楽しそうに買い物しねえだろ、なあハッピー」

「んなっ!?ど、どうしてそれを…もしかして、あの時みんながいたのって…あわわ!」

 

慌てるルーシィをスルーしながら借りた魔導四輪を走らせ、皆で笑い、話し、遊び、ケットシェルターに戻った頃には完全に陽が沈んでいた。

 

========

 

次の日。目を覚ますと、既に日が昇り始めていて、寝床の隣にはマスター・ローバウルが居て静かに見下ろしていた。なんとか動かせる上半身だけ起こして、挨拶とお礼を交わした。

 

「起きられたか」

「すいやせん、寝床。薬も分けてくれたみたいですし」

「あの忌まわしきニルヴァーナから救ってくれたことに比べたら些細なことじゃよ。して、我々の正体はご存知で?」

「…多少の推測はついてます」

 

外の元気な声がよく聞こえてくる中、この天幕では2人の対話が静かに続いている。

 

「ウェンディにそのことは伝えるので?」

「無論じゃ。いつかくる決別の時が今になっただけのこと、そして今こそワシらの最期の清算をせねばなるまい」

「…こんな時になんもできない自分が情けねえ」

「力がないからこそ、歩み寄ろうとする、理解しあおうとする。無力でもいい、人は万能じゃない。ワシもお前さんもな…ウェンディたちを、頼みます」

 

先に行ってますぞと言い残して天幕から出て行く老体にかける言葉が見つからず、ふと自分の手を見つめた。

 

「皆さん。オラシオンセイスを倒し、ニルヴァーナの破壊して我々のギルドを守ってくれてありがとう。なぶらありがとう。地方ギルド連盟を代表してワシから感謝させてください」

「どーいたしまして、マスターローバウル!激戦に次ぐ激戦でしたが皆が一致団結してなんとか勝利を収めることが出来ました!」

「あいつ誰かと戦ったか?なんか仕切りだしてるし」

「少なくともボロ負けしかしてねえな」

 

何人からでている辛口な評価を聞いてるのか聞いていないのか、一夜とペガサスの3人が踊り始めていた。それにつられて何人か混ざって踊っていた。

 

「それ、ワッショイワッショイ!さあ皆さんもご一緒に!!」

「「「ワッショイワッショイ!」」」

「ワッショイワッ…あれ?」

「なにこのテンションの差…」

 

かたや楽しく踊って盛り上がり(全員ではないが)、かたや重苦しい空気に沈黙というカオスでアンバランス極まりない状況が出来てる。

 

「我々がニルビット族だということを今まで黙っていて申し訳ない」

「んなこと気にしてねえのに。なぁ?」

「あい」

「私も気にしてないですよ、マスター」

「これから話すことをよく聞いてくだされ。まず、ワシらはニルビット族の末裔などではなく、ニルビット族そのもの。あのニルヴァーナを400年前に作ったのもこのワシじゃ」

「何っ!?」「嘘だろ?」「400年も?」

 

想像をはるかに超える告白に皆が目を点にし、絶句するしかなかった。

 

「その昔、世界に広まった戦火を止めようとワシはあのニルヴァーナを造った。そのおかげか戦争は徐々に収束して、平和な国として知られるようになったが、大きな力には反する力がある。世界から奪った闇をあの都市は纏っておったのじゃ」

「そんな…」

「まさに地獄じゃった。その闇は我々にもとり憑いて、仲の良いもの同士で殺し合いが起こってワシ1人を残して全滅した」

 

同族の殺し合い、そして壊滅。深すぎる闇を目の当たりにして、言葉が出ない。ウェンディに至ってはその目に涙が見えていた。

 

「そして生き残りのワシも、もはや思念体に近い体になってしまった」

「そんな話、私…」

「この400年、無力な爺に代わってあれを壊せるものをずっと待ち続け…そしてそれは達成されたんじゃ。漸く肩の荷を降ろせる」

 

その言葉を聞き終えた途端、ケットシェルターのメンバーが光に包まれて次々に姿を消していく。

 

「マグナ!ペペル!どういうことっ!?消えないで!」

「あんたたち!」

「どうなってんの?」

 

あたりからどんどん姿を消していき、遂にはローバウルも光に包まれ始める。

 

「今まで7年間騙しててすまなかったね、2人とも。このギルドはウェンディに悲しい思いをさせないための幻じゃ」

「意思のある幻だと!?」

「なんて魔力なのだ!」

「並の芸当じゃねぇぞ!」

 

数十人の個性を作り上げたその力には誰しもが驚く。巨大な魔力と精神力の要するものだ。

 

「この廃村に1人で暮らすつもりだったんじゃがな、7年前に訪れた青髮の少年のあまりに純粋でまっすぐな瞳に押されてしまったわ」

 

昔を惜しみ、そして人を愛している。そんな表情を浮かべていた。

 

「ウェンディのためのギルド…」

「そんなの聞きたくない!バスクもナオキも消えないで!私を1人にしないでよ!」

「ウェンディ…お前には偽りの仲間は必要ない。もう…本当の友がいるではないか」

 

後ろを指差し、涙を見せる少女に本物の笑顔を見せる。体から出る光が強まり、輪郭も朧げになっていく。

 

「まだ人生の旅は始まったばかりじゃ。皆さんありがとう、そして2人をよろしくお願いします」

「マスター!待って!」

 

消えゆく彼にウェンディが駆け寄ろうとする。しかし触れ合うことは叶わず、残されゆく少女を託した男の魂は空へと昇っていく。

 

「マスタァアアー!」

 

最愛の家族を一度に失い、膝から崩れ落ちるウェンディ。藍色の髪の少女の肩に手を乗せた緋色の少女と茶髪の大男は優しく諭すように話しかける。

 

「愛する者との別れのつらさは…仲間が埋めてくれる」

「涙は仲間が受け止めてくれる。歩みを止めそうになったら背中を押してくれる。進む意志があるなら…」

「「こい、フェアリーテイルに」」




終着点が徐々に近づいてくる…。


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閑話休題その2
第53話 気持ちを伝えに その1


はい、ちょっと最後の方から日常編を突っ込み始めたぽおくそてえです。あと、タイトル通り今回は二、三話続きます。
それではゆっくりしていってね。


あれからギルドを離れ、船に乗ってハルジオンに向かっていた。一緒に戦った他のギルドはそれぞれのあるべき場所へ帰っていった。

 

「漸く帰れんのか、長かったな。2日前に出たばっかなのに1週間も戦ってた気分だよ」

「確かにきつかったな。よく生きてたな、俺たち」

「体ボロクソだがな。やれやれ、ポーリュシカにどやされそうだ」

 

途中でナツにかけていた酔い止めが効かなくなったりとトラブルがあったものの、なんとか新しい仲間を連れてくることができた。

 

「おい、マカロフ。帰ったぞ」

「おお、無事じゃったか!心配したぞ!」

「お帰りなさい。あら?可愛らしい子たちね」

「今日からここに入るウェンディとシャルルだ」

「わぁ、本物のミラジェーンさんだ!綺麗だね、シャルル!」

「まぁね」

「うふふ、褒めても何も出ないわよ」

 

今回の任務の報告をマカロフにしているうちに2人を紹介してもらうためにミラに預けた。

 

「仕事はどうじゃった?」

「大怪我したり、ケットシェルターがなくなったりドタバタしたが、連中は全員捕まったよ。まあ及第点かな」

「すまんな、危険な仕事を任せて。とにかく2人は歓迎しよう。新たな風が吹くと信じてな」

「そうだな」

 

皆に話しかけられて楽しそうにしている少女を2人は暖かく見守っていた。

 

「私、天空魔法が使えるんです。天空のドラゴンスレイヤーです…」

「「「…」」」

「(信じて…もらえないかな?)」

「「「うおおお!すげぇ!」」」

「え?」

「ドラゴンスレイヤーか!」「これでギルドに3人もいるぞ!」「珍しい魔法なのにな」

「(良かった。受け入れてもらえた)」

「皆の者ぉ、今日は宴じゃぁ!仕事は無しにして飲みまくるぞぉ!」

「「「「おぉおー!!!」」」」

 

普段より元気のいい掛け声が上がり、どんちゃん騒ぎになっていく。

 

「どうだ?気に入ったか?」

「はい!楽しそうなとこで良かったです!」

「それは重畳。酒は飲めないだろうけど楽しんでね」

「ありがとうございます」

 

他のメンバーに話しかけられた2人から離れて二階に上がると珍しくミストガンが黄昏ていた。

 

「今空いてるかな?」

「…彼女が来るなんて思わなかった」

「あ?ああそういうことか。声かけても良いんじゃないのか?」

「時期尚早だ」

 

ローバウルが言っていた男の隣で酒を飲み、下の騒ぎを聞きながら話しはじめた。

 

「…例の仕事、まだ続いてんのか?」

「そういうことだ。最近は頻度も規模も上昇している」

「あの子待ってるぜ、話したら喜ぶぞ。力がいるなら貸すよ、『家族』としてな」

「……ありがとう。ではな」

 

そう呟き、霧のように消えていった。宴の喧騒はまだまだ続く。

========

そして次の日。

 

「ねぇジンヤ。あなたの誕生日いつだったかしら?」

「んー、去年も聞いてなかったかミラ?今日だよ今日。ああそうだ、何もせんでいいよ。どうせ祝う物好きな奴なんていやしねえさ」

「どうかしらね?意外と近くにいるかも?」

「どういうこった、そりゃ?」

「教えてあげない。それよりやることがあるんじゃないの?」

「はぁー、分かったよ。仕事行ってくる」

 

渋々引き下がり、目の前の昼飯をかきこんで10年クエストを抱えてそそくさと席から離れていった。その席にそわそわしながらやってきたルーシィに先程のことを耳打ちする。

 

「うまく聞き出せたわよ、今日だって」

「ごめんなさいミラさん、勝手なこと頼んじゃって」

「別にいいわよぉ。それにしても誕生日プレゼント渡したいなんて…ふふ、そこまで行ってたのね」

「ミラさんまで…やっぱりそんな風に見えるんですか?」

「まあねぇ。あんなに目で追ってたりしたら誰でもそう思うわよ。それにデートまでしてるなら、尚更ね?」

 

そこまでバレているのかと顔を真っ赤になってしまい、湯気が出るかと思うほど熱くなるのが分かる。

 

「気になってるんでしょ?彼、結構堅いから、どんどんアタックしなきゃ落とせないわよ」

「あい、頑張ります」

「その意気よ。聞きたいことあったら何でも言ってね?」

「あの、プレゼントって何を渡せば…」

 

========

 

町の喧騒も鳴りを潜めはじめ、そろそろ雀色時になろうかとしていた。そんな時にジンヤは1人、仕事を終えて街をあてもなくぶらついていた。

 

「(少し風が冷たくなってきたな…)酒買って帰るか…」

「こんなところで何やってるんですか?」

 

後ろから聞き覚えのある声がして、振り返るとウェンディが買い物袋を持って歩いてきていた。

 

「お、ウェンディか。仕事終わりにちょっとな。で、仕事はうまくいったか?」

「はい、グレイさんがいたからどうにか。そういえばジンヤさんあの後、怪我の方はどうですか?」

「おかげさまでどうにか仕事に行けるくらいにはなったさ。ありがとよ」

「無理しないでくださいね」

「…善処するよ」

 

ギルドに2人で帰るとミラが慌てた顔でこちらを呼ぶのが見えた。いつものほほんとしている彼女にしては珍しい。カウンターの近くまで行き、とりあえず落ち着かせることにした。

 

「どうした、緊急クエストか」

「それが、ルーシィが…」

「あ?あいつ、なんかしたの…ぐぇっ!」

「ちょっとぉ、なんでこんな遅いのぉ?」

 

いきなり背中が重く感じ、無理やり首を回してみるとヤケ酒でもしてたのか、顔を真っ赤にして睨みつけているルーシィが絡んできていた。

 

「いて、いてて!とりあえず離してくれってばよ」

「うっさい。せっかく色々やってたのに遅いのが悪いのよ」

「なんだこりゃ、なんだこりゃ、なんだこりゃ。ヤケ酒かこりゃ、馬鹿力かこりゃ、カナ…お前のせいかこりゃ」

「あたしゃ、一杯しか飲ませてないわよ。勝手にガバガバ飲んだのよ、ルーシィが」

「おいおいおいおい、どうすんだよこれ!」

 

いくら怪我をしていたとはいえ、指一本外すのに苦労するとは思えない。しかもしがみついたまま眠ってる。

 

「あかん、外れねえ。変身しようにも体力が…」

「ふにゅう…」

「あらまぁ…(アタックしろ、って言ったけどここまでするんだ。意外と攻め好きね)」

「ったく面倒起こしやがってからに…ルーシィ送ってくらあ。仕事は成功したってマカロフに伝えといて」

 

背中に抱えてふらつきながら出て行った。しかし、試練はまだ続く。




「ルーシィも攻め好きですね、分かります」
こんな感じのをやりたかっただけです、はい。途中のネタがわかったかたがいらしたら踊らざるを得ない!


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第54話 気持ちを伝えに その2

前回から続く2話連続物です。どうも、恋愛経験ゼロどころか友人も数えるほどしか居ないぽおくそてえです。恋愛小説とかそういう系の漫画すら滅多に読まないので“勝手が分からん!”ってなってました。それに終わりが近づいてるのでどうしてもここら辺のタイミングになるんですよ。それにしてもUA20000超えてるぅ!嬉しいな。
それでは超絶苦いコーヒーかタバスコを持って本編どうぞ!


「確かにうちがここの大家だがね、あんた何者だい?ギルドの奴みたいだけど?」

「ええ、まあそうです。ルーシィを送りに来たんですが…(なんかすげえプレッシャーだなこの人)」

 

ルーシィの住んでる寮に着くと階段に小さいながらやけに威圧感のあるお婆さんが腕を組んで立っていた。何も悪さをしていないのに目の前に立つだけで冷や汗が出る。

 

「へぇ…そうかい。うちのとこのバカが迷惑かけたみたいだね。あんた、名前はなんて言うんだ?」

「ジンヤ、です。以後お見知り置きを」

「ほう、あんたが。とりあえず鍵は開けとくから適当に放り込むなりなんなりしときな」

「うっす。お邪魔しやす」

 

大人しく後についていき、ドアをくぐったところで鍵を渡された。受け取った鍵をポケットに入れて、ルーシィをベッドに寝かせつけた。

 

「何やってんだかね、この子は。いくら好きな人がいるとはいえ…」

「ありゃ?好きな人?」

「おや知らないのかい?」

「いや全く。あれ、まさかな…?」

「なんだい、思い当たる節でもあんの?」

「ははは!いや、なんでもございやせん。思い違いでしょうな」

 

大きく笑って誤魔化すが、前のお出かけはどう考えてもデートにしか思えない。頭の中が混乱し始めたところでルーシィがぼんやりした顔で体を起こした。

 

「あれ?私、いつの間に…」

「いよう、目ぇ覚ましたかい?案外軽いんだねぇ」

「えっ!?なんでいんのよ!どっから…」

「鍵は私が開けたよ。ちゃんと正面から来たからね」

「大家さん。じゃあ私を運んで…ウプッ!」

「おいぃ、吐くならトイレ行ってくれぇ!」

 

酒のせいでドタバタとした後、ようやく落ち着きを取り戻した。これ以上の騒ぎはごめんだと鍵をいつの間にか抜き取って大家が戻っていき、2人きりになる。

 

「ごめん、色々ありがと。プレゼント渡そうと思ったんだけど…」

「大丈夫だよ。気にすんな」

「…私が寝てる間にイタズラしたり、した?」

「ナツじゃあるまいに」

「ふぅ…でもジンヤならちょっとくらい良いかなって思っちゃった」

「おい、付き合ってもねえのにそう簡単に言うなよ」

「一緒になれば…言ってもいいの?」

「えっ?(ち、近い!)」

 

まだ酒が少し残ってるのか、はたまた照れによるものか、顔を赤くしながらほとんど密着状態になる。今まで意識したことがないのに何故か心臓の鼓動が早くなる。

 

「もうこの際だから言うけど…私、前からあんたのことが好きだったの。思えばファントムの時からずっとそうだったのかも」

「すまない、気づかんかった」

「むー、やっぱり気づいてなかったんだね。これからは私だけを見てよ」

 

唇が近づこうとしたその時、突然ドアが勢いよく開けられた。ナツたちだ。

 

「おーい、ルーシィ無事…か?」

「あそびにき…たよ?」

「どうした2人とも。なんかあったのか…って、ええ!?」

「お邪魔してしまったようだな。2人とも…幸せにな」

「うわぁ、すごいです…なんか大胆」

 

 

いざ、様子を見に来たのは良かったがタイミング悪く、口と口で接吻している現場に居合わせてしまった。ルーシィたちもようやく気付いたのか顔が真っ赤になったり真っ青になったりと大忙しだ。

 

「ちょっ、あの、これはその…」

「熱いねぇ!」

「「ヒューヒュー!」」

「囃し立てるな、お前らぁ!」

 

突然のキスと知り合いの来訪にドギマギしたジンヤはルーシィ同様顔を真っ赤にしながら全員追い出しにかかり、表まで叩きだすことにした。

 

「絶対話すなよ!特にミラとかカナとかマカオとかワカバとかマカロフあたりには!」

「どうしようかねぇ…」

「帰れぇ!話したらぶん殴るぞ!」

 

思いっきり叫んだからか、全員蜘蛛の子を散らすように去っていった。荒くなった息が落ち着くのを待ち、一息ついたところでげんなりしながらルーシィの部屋に戻った。

 

「はぁ、落ち着いたか?」

「なんかお酒残ってたからつい。ごめんね、いきなり…」

「別にいいよ。悪い気はしなかったし、むしろ嬉しかったっていうか」

「恥ずかしいことポンポン言わないの!」

「俺は恥ずかしくないかな。それと、さっきのあれの返事だけど…」

 

少し間を置き、じっと顔を見る。真剣な表情をしているジンヤに戸惑いながらちゃんと目を合わせた。

 

「俺で良いなら隣に居させてくれ、これからできればずっとね」

「えっと〜、それってOKってこと?受けてくれるの?」

「あそこまでいったらさすがにな。それに、ルーシィといるとホッとするからね」

「…やったぁ!ありがとぉ!」

「うぉっ!あぶねっ!」

 

月の明るい光に包まれ、2人は特別な夜を過ごすことになった。




なんか、今までで一番苦労したかもしれません。なんかリアルすぎると萎えそうだし、前書きで書いた通りそういう経験がないのでこんな妄想爆発ものになってまいました、反省…。ではではまた次回。

課題めんどくせぇ…


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第7章 突撃!異世界エドラス編
第55話 来たる、最強の魔導師


どうも、ぽおくそてえです。今回は短いです、はい。あの親父がきます。それでは本編どうぞ!


あの告白騒動から数日が過ぎ、仲間内でも2人の関係がすっかり定着していた。ウェンディもすっかりギルドに馴染んでいて、ギルドも普段通りの雰囲気に戻っていた。

 

「ここは慣れた、ウェンディ?」

「はい。なんとかやれてます。2人ともすっかり恋人ですね、手をつないでくるなんて」

「女子寮が良いわね、気に入ったわ」

「フェアリーヒルズか。あそこ家賃が10万するって聞いたが…今のルーシィじゃ厳しいな」

「わ、悪かったわね金欠で」

 

今日も仲良くやっている2人の会話を打ち切ったのは外から聞こえる鐘の音、しかもいつもの時報とは違った音色だ。

 

「この鳴らし方、ギルダーツか!遂に帰ってきたか!」

「誰ですかそれ?」

「このギルドで最強の男なんだって。それにしてもこの騒ぎようはなに!?」

 

ギルドのみんなが急に慌ただしく動き始めた。いつもの騒ぎ方とはまるで質が違い、外からギルダーツシフトなるものが騒がしく聞こえてくる。

 

「3年ぶりに仕事から帰ってきたんだよ」

「3年も!?どんな仕事よそれ」

「100年もの間誰にも達成できていない魔法界最高難度クエスト、それが100年クエストだ。その下に10年間未達成の10年クエスト、SS級、S級があんだよ。俺の場合10年が限界だな、100年の方は無理」

「ひええ、そんな難しいの?…で、ギルダーツシフトって何?」

「…外見ればわかるさ。もう出来上がってるはずだ」

 

入り口の方を見てみると、ギルドの入り口からまっすぐに街が割れて、道ができていた。

 

「街が割れるって、うっそぉ…たった1人のためにここまでする?」

「あいつ、ぼーっとしてるとたまにクラッシュって魔法で民家突き破ってきちゃうんだ。だからここまで障害物がないように改造してんだよ」

「すごいですね!」

「ええ、すごいアホよ」

「来るぜ。このギルド最強の男が…」

 

帰ってきたギルダーツは三年も仕事に出ていたからか、かなりくたびれた顔をしていた。

 

「ふぅ。疲れた」

「俺と勝負しろ、ギルダーツ!」

「いきなりそれかよ!」

「おかえりなさい」

「この人が…」

 

ギルダーツを見る目は羨望と尊敬の眼差しが多い。それだけ信頼され、敬われているのがよく分かる。当の本人は少しぼーっとしているが…。

 

「お嬢ちゃん、この辺にフェアリーテイルってギルドなかったか?」

「ここよ、それに私ミラジェーン!」

「ミラ?おお、すげぇ変わったな!ギルドも改装したのかよ!」

「見て分からなかったんだ…」

「俺と勝負しろぉ!」

「ナツか。まぁ、また今度な」

 

あのナツを右手の一発でいともたやすく天井に吹き飛ばした。

 

「まだまだその座を譲る気はなさそうだな、ギルダーツ」

「ジンヤか!ギルドや面子が変わってもお前は全く変わんねえな。それよりマスター、久しぶり!」

「うむ、仕事はどうじゃった?」

「がっはっはっはっ!!すまねえ、失敗だ…俺じゃ無理だわ」

 

最強の魔導師をしてまさかのクエスト失敗。その軽い言葉の裏には並々ならぬ重みがあった。この一言に皆驚愕を隠せない。

 

「すまねえ、名を汚してしまって」

「そんなの気にせんでよい、帰ってきてくれただけで十分。聞く限りでは生きて帰ってきたのは主が初めてじゃ」

「俺は帰るわ。ひー、疲れた疲れた…そうだナツ、後でオレん家来い!…んじゃ失礼」

「入り口から出てけって。直すの俺なんだからよ」

 

壁を壊しながら後にしていったギルダーツを静かに見送るしかなかった。

 

「はぁ…飄々としててナツを一撃だからなぁ。やっぱ強えわ」

「手合わせしたことあるの?」

「一回だけやったんだがダメだったよ、さっきのナツみたくすぐ伸された」

「あんたがすぐ伸されるなんてねぇ」

「まだあいつにゃ敵わんよ…(でもあの感じは、まさかな)」

 

この時、異なる世界軸に繋がろうとは誰も予想していなかった。




はい、というわけでおそらく次かその次がエドラス編の最初になります。
それではまた次回。


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第56話 誰よりも高く、あの雲を超えて

どうも、ぽおくそてえです。今回結構説明文っぽい単調な文になってしまいました(えっ?前から?)。
そういえばいつの間にかUA2万超えてました!やったぜ!(前にも書いてたわ…失念してた)
それでは本編ドウゾ!


「なんか雨上がらないね」

「仕事行く気にならないよ」

「デートできなくて残念だねぇルーシィ」

「もう!冷やかしは無し、ってね!」

 

ギルダーツの帰還から一日が過ぎた。今日は生憎の雨。仕事に出かける者はほとんどおらず、みんなギルドでおもいおもいに過ごしていた。

 

「そういえばミラさんは?」

「あ、ルーちゃん知らないんだっけ?」

「あの2人の妹、リサーナっていうんだけど彼女の墓参りだよ。2年前に仕事の事故でね」

「そういえばルーちゃん似てるかも」

「そうなの?」

「ナツとかジンヤと仲が良いとことか。まさかジンヤが女の子と付き合ってるなんて思わないだろうねぇ」

「ふうん、あの2人がね〜」

 

その頃、ジンヤはナツとは別に訪れたギルダーツの家からの帰り道にいた。霊峰ゾニアで遭遇した黒竜。その竜に魔法が効かず、気づいた時には一撃を食らって左腕、左脚、さらには内臓の一部を失ったという。

 

「まさか黒い竜に遭遇してたなんてな…」

『その黒竜、全力出してねぇんだろう。それでも生きて帰れて良かったのぅ』

「全くだ…それにしても一撃、か」

 

物思いに耽りつつ道中秋霖にうたれながら静かにギルドへと戻るとルーシィがタオルを持って駆け足でやってきた。

 

「もう、風邪引くよ?拭いてあげるからじっとして」

「ありがとよ。ついでに背中も頼む」

「はいはい。上脱いで」

 

少し顔を赤くしながら濡れた背中を丁寧に拭いていくと、そんな様子を見たカナとレビィが揶揄ってくる。

 

「あらら、見せつけちゃってまぁ」

「なんか夫婦みたいだね」

「ふ、夫婦!?」

「なな…何言ってんだよ!」

「動揺しすぎだよ」

 

無理に外を見やると、雨に混じって雷鳴が轟き、天候が一層荒れていく。暗い空を見ながらつまらなそうに机につっぷすルーシィ。新しい服を着たジンヤの隣でこの天気に文句を言いだしていた。

 

「なんか面白いことおこらないかなぁ…」

「やめてくれ、嫌な予感しかしねぇ…って睨むな、分かったよ俺が悪かったゴメン」

「むぅ…頭撫でてくれたら許してあげる」

「しょうがねえな」

「やっぱり夫婦だね」「うん。間違いない」

 

そんな他愛もない会話をしていると一つの蝶がジンヤの目にとまった。なんでもない、ただの蝶。普通に見ればただそれだけ。しかしその時、ジンヤに電流が走る。

 

「どうしたの、急に」

「黒死蝶…!?まさか…」

「ちょっと、どこにいくの?」

「(なんだこの胸騒ぎは!頼む、何も起こらないでくれ!)」

 

止める声も聞かず、再び秋時雨降る外へと飛び出していく。なにか嫌な予感を秘めていたが、その時は無慈悲にも到来した。まるで吸い込まれるように街が目の前から消えていき、白く変わった世界に残されたのは自分と背中の棒だけ。何が起こったか理解するのに数分の時間を要した。

 

「くっ、なんだこれ。おい誰か居ねえか!誰でもいい!」

『こいつは、どういうことじゃ?人も街も何もないじゃと!?』

「どうすりゃ…」

「あの空の穴を抜けて目指せ…この世界の裏にあるもう一つの世界、エドラスへ」

「ミストガン…そりゃどういうことだ?お前の故郷と今回の件、まさか…」

「全て話そう」

 

もう一つの世界軸のジェラールであることや、アニマのことなど既に知っていることを含めて知っている範囲の全てが彼の口から告げられる。

 

「なるほど。あのアニマを通ってあっち側にある巨大ラクリマをどうにかしてこっちに戻すんだな?」

「そういうことだ。これを飲め。魔力なきエドラスで異能を使えるようにする代物だ」

「あいよ、受け取った。じゃあ行ってくる」

 

誰よりも高く空の先へと飛んでいく。そして穴を突き抜けて先ず目に入ったのが浮遊する島々と見たこともない鳥にたくさんの月、そして唸るように空に浮かぶ川という異様な風景だった。

 

「これが…エドラス。なんて場所だ」

『魔力とかがほぼ皆無じゃの。薬飲んだ甲斐があったな』

「確かにな(…さて、ラクリマを探すか)」

 

もう一つの未知なる世界で、果たして皆を救い出すことはできるのか。




はい。早速突入です。何故ジンヤが吸い込まれてないかについてですが、特異体質なために弾かれたという感じになります(ナツたちと似た理由)。たったそれだけです、はい。深い理由はないです。


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第57話 もうひとつの世界の住人

どうも、ポオくそてえです。3話くらい完成したのでとりあえず1話分投稿です。次は明日になると思います。


「なあ、悟空」

『言わんでくれ。見ればわかる』

「なんで囲まれてんのこれ…」

『(言っちゃったよ)』

 

降り立ったはいいが、場所が運悪く王国兵の通り道。しかもたった数分の距離のところに。突然空から人が降って来たとなれば彼らが警戒しないはずがない。

 

「貴様、何者だ!」「フェアリーテイルのものか!」「抵抗するなよ!」

「(こっちじゃ闇ギルド扱いなのか?)」

「はいストップ。あんな人あそこのギルドにはいなかったわ」

「ジェニファー隊長」

 

囲む兵士をかき分けて現れたのは薄紅色が特徴的な髪を持つ女性だった。この部隊の隊長らしい。

 

「すまないねぇ、いきなり。最近色々あったから、見ての通り殺気立ってんの」

「こちらこそ失礼した。下をよく確認せずに降りてしまって」

「今回は見逃すけど、なんかやったら遠慮なく捕まえるよ。いいね?えっと…」

「ジンヤと申す。ちょいとここらに用があって来たもんで。心配しなさんな、用が済んだらすぐに立ち去る(何もなければ、だがな)」

「冷静で助かるわ。あたしはこの国の軍部隊長のひとり、ジェニファー・T・マーナガルムよ。もう会わないといいけど」

「!?(こいつ…こっちの!)」

 

名前を告げた彼女の号令一つでまとまって王都のある方へと帰っていった。残された2人は大きなため息を吐き、彼女たちを見送る。

 

「はあ、危ねぇ…こんなところで逮捕なんて死んでも嫌だわ」

『しっかし驚いた。あやつがこっちのお主のようじゃが、まさか女とは』

「厄介なことになったな。メンドくせえ…」

 

顔を大勢に見られてしまった以上、何かやったらすぐバレる。時間があまりない状況だ、何かあったら間に合わないこともありえる。

 

「王都か。しばらくは行かないほうがいいな」

『当たり前じゃ。それより情報屋を探すのが良かろう。街は…あっちの方かの?』

「だりぃ…」

 

着いて早々先行きが不透明に。路頭に迷いかけたジンヤは安請負はもうしないと決めたのだった。目指すは魔法の闇市、砂漠を越えた先の街ルーエン。

 

========

 

同じ頃、同じ砂漠ではあるギルドが王国から逃げるためにちょうど引越しを終えていた頃だった。

 

「ヤローども!引越し完了だ!」

「ひ、引越しって」

「ギルドごと移動したんだ」

「すごい…」

 

エドラス最後のギルド、フェアリーテイル。このギルド以外は悉く王国に潰され、このギルドも大半のメンバーを失いながら今日まで生き延びて来た。そこにやって来たナツ、ウェンディ、ハッピーとシャルルは説明と状況の理解を行なっていた。

 

「それじゃあ、あんたら。もう一つの世界、アースランドから来たってのか」

「しかもそっちにもフェアリーテイルがあってエルザが仲間なのか!?」

「簡単に言えばそうなるわね」

「あい」

 

当たり前だが、どうにも信じられないという声がよく聞こえる。目の前の人間、しかも知り合いにそっくりな男がいきなり別世界から来たなんて説明しても信じてもらえることが少ないだろう。

 

「私は信じるよ。あんたらの話…」

「ありがとよ。それでよ、王都に行く方法を教えてくれ」

「俺たちも半分くらいやられてんだ、やめておけ」

「行っても死ぬのがオチよ」

 

王国軍に、今まで反抗して来た者は生きていないという。それほど大きく強大であるとか。有限の魔力がなくなるのを危惧した国王によって潰されたギルドは多く、残ったのはフェアリーテイルだけ。反抗している以上無傷じゃ済まない、マスターを殺され仲間も半分くらいに減ってしまったとか。

 

「あんなのからは逃げるのが精一杯なんだ」

「近づかんほうがいい。大人しく元の世界とやらに戻りな」

「頼む、王都への行き方を教えてくれ!俺は、仲間を助けるんだ!絶対にな!!!」

 

こうしてナツ一行も砂漠越えをして王都へと向かうことになった。

 

========

 

シッカの街に入ったはいいが人が疎らで、まともに情報を聞き出せる状況ではなかった。

 

「魔法店がほとんど潰されてんな」

『それほど魔力に限りがあんじゃろ。しかし、寂しいものじゃのう』

「前は賑わってたんだろうに」

 

国の政策によるものか、表通りにある魔法関係の店が悉く取り潰されていた。道行く人に聞いたところ、ギルド狩りと魔法狩りによるものだと聞かされた。

 

「有限故に一箇所に纏めて管理するか…難しいものよな」

『左様か…む?なんじゃあの竜巻』

「行くか、竜巻にしちゃあ変だ」

 

竜巻のような風の渦の落下点へと急ぐ。近くまで行くと王国兵が騒がしく過ぎていくのが見てとれた。

 

「見つけたぞ!フェアリーテイルだぁ!」

「(何!?…やけに静かだ)」

 

てっきり攻めてくるものだと思っていたが、いつまで経っても来る様子がない。こっそりと物陰から覗き見るとルーシィが王国兵と言い争いをしているところに出くわした。しかもナツ達までいた。

 

「(えええっ!?何で居るんだよ!早よ助けなくては…)」

「開け、天蠍宮の扉・スコーピオン!」

「ルーシィさん!こっちじゃ魔法は使えないんです!」

 

そう、あの丸薬を飲んでいなければ魔法はつかえない。だから呼び出せないかと思われた。

 

「ウィーアー!」

「なっ、魔法!?どうして使えるんだ?」

「サンドバスター!」

「こ、これが…アースランドの…」

「ルーシィ!」

「みんなぁ会いたかったよ〜!」

 

ここまで1人で旅をしていたらしい。ようやく顔を知る者と会えたことに涙がでかけたが、自分と全く瓜二つのエドルーシィを見た瞬間、かなりショックを受けたみたいだが。

 

「まさかテメェらもいたとはな」

「ジンヤまで!良かったぁ」

「さっきここに着いたんだよ。こっちの俺にも会った」

「なあ、誰だよこいつ?あんたらの知り合いか?」

「俺はジンヤだ。とりあえずここを抜けることを考えようか」

 

撤退戦で、トラップや分身を利用した釣り野伏せといった戦術をふんだんに使い、街を離れて森の中でゆっくり話すことに成功した。

 

「…という訳で、街が吸い込まれる時にホロロギウムが助けてくれたみたい。そこにミストガンが来てね、一方的に話すだけ話してこっちの世界に飛ばしてきたの」

「そん時に丸薬を飲まされなかったか?」

「どうだったかな?正直わけがわからないうちに飛ばされたから覚えてないの」

「テメーラ…王国と戦おうってのか?」

 

エドルーシィの真面目な質問に当然とばかりに応と力強く答える。

 

「仲間を早く助けたいんだ」

「とーぜんだぜ」

「本当にコイツ私?」

「王国相手に魔法もロクに使えない状況で…」

「無いなら無いなりにやればいいさ。違うか?人は打開しようとするから力を出せる」

「!?(こいつら…不思議だ。本当に世界を変えてくれそうって思わせるなんて)」

 

世界を変えようとする意志は確実に前へと進もうとしていた。

 




もう5月も終わりですね。早いものです。
今回は話がある程度まとまったため投稿しました。ナツたちとは別路線で行きます。それにしても、異世界で性別が違う(今回の場合ジンヤとジェニファー)場合って性転換タグって必要なんでしょうか?(念のため)それとも同一キャラの時だけなんですかね?よくわからんです。


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第58話 王都への旅路

どうも、昨日に引き続き投稿するぽおくそてえです。多少カットしながら別ルート進行中です。このまま行けば合流するのは最後までないかもしれないです。


途中で宿を取るナツ一行と別れ、シッカとトライアの街の中間にある名もなき村に着いたのは次の朝になってからだった。

 

「で、なんでお前がいんだよガジル」

「ミストガンのヤローに送り込まれたんだよ。で、こいつはこっちの俺だ」

「どうも初めまして」

「ご丁寧にどうも…」

「新聞記者なんだと。で、王都の情報も結構持ってるそうだ」

「(運が向いているかもな)話、聞かせてくれるか?」

 

街の飲み屋に入ると見覚えのある男と彼にそっくりの男が飲んでいた(しかも朝っぱらから)。運がいいことに情報をそこそこ持ち合わせているとか。ならば聞くしかないと色々教えてもらった。

 

「大半の魔力が都市部、しかもその中の遊園地にか。そりゃ反発は出るだろうな」

「しかし、こっちの俺らが闇ギルドで、ラクリマがこんなでかいとは思わなかったぞ」

「そのラクリマなんですがね、記者仲間が言うには切り取られたような跡があったそうですよ?」

「これが全体の一部、しかもまだこれより大きい部分がどっかにあるってことか…」

「その一部がどこにあるか分かるか?」

「この国の首都、王都の中心に向かったそうです」

 

ここでかなり重要な情報がでた。みんなを解放するには王都に侵入、ミストガン曰く滅竜魔法で砕く必要がある。

 

「しかも、そのラクリマを3日後に魔力に置き換えるとか」

「ふぅむ…質問ばっかりですまんがここから王都まで歩きでどんくらい?」

「休憩と途中の街で一泊した場合2、3日くらいはかかるとみてください」

「時間との勝負か。色々ありがとよ、礼ができねえのが心苦しいな」

「とんでもない。是非ともよろしくお願いしますよ」

 

早速動くことになり、情報提供者に礼を言って店を出ることになった。

 

「どっちにしろ、あそこに行く羽目になるのか…。こっちの俺には会いたくねぇが、仕方ねえ」

「王国軍なのか?その、お前のそっくりさんは」

「似てるって言うか女だったよ。苗字で気づいた」

「ブッ!!女だと!?笑わせてくれるぜ!」

「るっせぇぞ、胡椒とモップでぶっ飛ばすぞコラ!」

 

切羽詰まった状況なのにまるで緊張感のない2人は喧嘩しながら王都のある方へと向かい始めた。

 

========

 

その頃王都では、切り取ったラクリマについて部隊長を呼んで会議が行われていた。

 

「あの水晶から今後数年、場合によれば十数年分の魔力が取れる採算でしゅ」

「すごい!そんな取れるんですね!」

「うおー!超スゲェっす!」

「ん〜、すごいですねぇ」

 

幕僚長バイロ、補佐のココ、ヒューズとシュガーボーイ、さらにはリリーパンサー、エドラスのエルザにジェニファーが王の前に集結していた。

 

「まだ足りぬな」

「今、なんと?」

「我が国は有限であってはならない…もっとよこせ。魔力を、無限の魔力を!」

 

========

 

前の村を出てからと言うものの、途中で襲ってくる魔物を食料にしながらトライアの街に昼になってようやくたどり着いた。水分補給と小休憩を兼ねて寄ることにした。

 

「ガジル、どうもナツ達が王都に着いたみたいだ」

「サラマンダーが?ちっ…出遅れてるのか」

 

負けず嫌いのガジルは先に行っているメンバーに苛立ちを感じている。そんな彼に呆れながらも遅れを感じているのも確かだ。

 

「このまま行ってもダメだな。どうにかして速度上げねえとよ」

「ゆっくり歩くわけにはいかねえだろうな…ん?」

 

少し耳をすますと近くの店で飲んでた男達の会話の端々に情報が溢れている。

 

「おい、聞いたか?後2日でラクリマを魔力にすんだとよ」

「それって大丈夫なのか?」

「なんだよ?そんなに国王様達を信じらんねえのか?大丈夫に決まってんだろ」

「あー…それもそうだな。きっと大丈夫だな!」

 

王国のラクリマの件が2日後に迫っていることが自然と耳に入った。

 

「俺たちも急いで行った方が良いな。奴らの裏で動いた方が事を進めやすい。途中で馬でも奪うか」

「予定より早く事が進んでるみたいだ…それでいこう」

 

こうして別行動をしている2人は急ぎ王都へと駆けることにした。




次回は何日か先になると思います。


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第59話 真の戦いの幕開け

遅くなって申し訳ないです。原作を探すのに時間がかかってしまいました。
6月になって暑くなりましたね、熱中症には気をつけて過ごしましょう!それでは本編どうぞ!


シッカから寝ずに全速力で走り、途中で盗賊の馬を強奪して破竹の勢いで進軍を続けること10時間、ナツたちに少し遅れるかたちで遂に王都を見下ろせる高台にまでやってきた。既に外は夜、雲で月も隠れて隠密には最適の環境だった。

 

「王都も真ん前、ここからは別れて突入だ」

「ラクリマは見つけたら俺がぶっ壊してもいいんだな?」

「魔法で頼むぜ。使えるんだろ?」

「ああ」

「そこの2人、止まれ!」

 

いざ行かんとしたところで王国軍、しかも一番会いたくないジェニファー率いる軍隊だった。今回は大きな複合武器を背に抱えての参上だった。

 

「ジェニファーよぉ、空気読んでくれよ」

「出来かねる。お前の隣にいる男、ガジルだな?そいつを王都内に入れる訳にはいかない!」

「こっちもそう易々と引っ込めねんだよ。ガジル、行け…時間稼ぎくらいならできる」

「今度会うときはマグノリアでな…」

「あっ、逃すな!」

「通さん!」

 

追おうとする兵を一掃し、立ちはだかるジンヤ。徐々に変わっていく体と月に照らされて銀色に煌めく体毛に足が竦む兵も出ている。

 

「暴行に逃走幇助か。今回ばかりは見逃す訳にはいかないね」

「こうなっては隠れる必要もないな。とっととこい!」

「ナメやがって!」「てめえなんざ、怖かねえ!」「かかれぇ!!!」

 

挑発に乗せられ、強気な者達が一斉にかかってきた。。片手を鉄さえ斬る爪へと変え、襲いかかる敵を流れるようにたたきふせては斬りつけていった。

 

「修羅の道に築かれし屍の如し…」

「へぇ、やるじゃないか。私とも一戦交えてほしいね…ん、どうしたの?」

「国王陛下からの伝言です」

 

連絡兵が焦燥しきった顔で近づき、耳打ちしていく。

 

「ドラゴンスレイヤー2人に女を捕らえたと?それにエクシードも。そうか順調に作戦が進んでいるみたいだね。すぐに戻ると伝えておいて」

「はっ!」

「(ナツたちか!くそ、何があった!?)」

「あんたの相手をしたいところだが、急用ができた。残念だよ。そいつを足止めしておきな。殺しても構わんとのことだ!」

「「「おーー!!!」」」

『逃げるぞ…鳥遁・夜雀の術』

 

身内の捕縛という悪報に敵は勢いに乗り、こちらは撤退を余儀なくされる。止むを得ず悟空の力を借りつつ、闇夜に乗じて王都に姿をくらますことになった。

 

翌朝、兵隊たちが慌ただしく行き交う大通りを変身して潜り込んだ姿があった。

 

「(空で大捕物があったみたいだな。なんかでけえ猫のラクリマが降ってきたし)」

『(ハッピーやシャルルと同じエクシードって種族らしいぞ)』

「(…いずれにしろ、城前の兵を抜けていく必要がありそうだな)さてと…行くか」

 

物陰より出た時には人型に戻り目指すは恋人と友の囚われている王城。そこに向かおうとしたら聞きなれた声に呼び止められた。

 

「待て、お前1人ではいかせんぞ」

「俺たちも連れてけよ。仲間だろ?」

「むっ…一緒に戦ってくれるのか、2人とも」

「急ごうか。事情は聞いている」

「よし、国崩しの始まりだ…」

 

ガジルの力で元に戻った2人と城の中へと突入した。国の崩壊が近づきつつあった。

 

==========

 

その頃王城地下のルーシィとハッピー、シャルルの3人はそれぞれを追うものから逃げていた。

 

「まさかエクシード全員をラクリマにするなんて…」

「なりふり構っていられないみたいね」

「魔力が有限だからか…なんか嫌だね」

 

猫の国エクシードにて堕天とされたハッピーとシャルル。逃げた2人を大量のエクシードが追っていたが、唯一この世界で魔力を持つエクシードを王国はあろうことか彼らをラクリマへと変えてしまった。

 

「神みたいに崇めてたのにいきなり叛乱だなんて」

「それくらい魔力がないってことよ。それよりウェンディたちの救出が先よ」

「ここから先には行かせん」

 

手に持っていた魔槍を使い、爆発で道を塞いだのは部隊長のエルザ。後ろからはもう1人の女性隊長、ジェニファーが軍を引き連れて挟み撃ちにしてきた。

 

「こんな時に…」

「この人、エドラスのジンヤなの?」

「まずいわね。この状況、どうにかしなきゃ…」

 

窮地の3人に背の武器を向けて威嚇しながらジェニファーはエルザに聞く。

 

「こいつら、確かアースランドの魔導師だっけ?」

「ああその通りだ。お前の知るジンヤだったか?あいつもそうらしい」

「へえ…私があっちじゃ男だったと聞いたときは驚いたよ。で、こいつら殺っても良いのかい?」

「構わん。作戦には支障は出まい」

「あんたらに怨みはないけど、ここで死んでもらうわ…武装解放!」

 

武器の砲台に魔力が集中し始めた。絶体絶命、もはや逃げられないのかと覚悟を決めた。

 

「「「「ぎゃああ!」」」」

「な、何事だ!」

 

両隊長の後ろで兵が突然吹き飛び、次々に倒される。そこには3つの影が見える。

 

「おい、こら。俺らの仲間って知っててやってんのか?」

「ギルドの仲間に手を出したものは何者だろうと決して許さない」

「テメェら…俺たちフェアリーテイルを敵に回したことを後悔しても遅いぜ」

 

エルザとグレイの復活とジンヤ本格参戦。フェアリーテイル反撃の狼煙が上がる。



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第60話 ジンヤvsジェニファー、エルザvsエルザ

はい、どうもぽおくそてえです。中間テストとレポートというなかなか大変な課題がありましたが、その勉強の合間を縫ってどうにか纏めたものなので文字数も進行速度も遅めで少なめです。次はどうにかなりそうですが…。


「エルザ様が…2人も!?」

「あれはグレイ・ソルージュか?」

「昨日の化け物まで…」

「こいつら全員アースランドの魔導師なのか!?」

 

突然の乱入に驚きの声があちこちから聞こえる。エドエルザも困惑した表情を浮かべている。

 

「仲間はどこだ…ラクリマに変えられた仲間はどこにいるんだぁ、ア!?」

 

グレイの怒りの一撃で次々に兵を吹き飛ばす。それを皮切りにエルザ対エルザがはじまった。

 

「ジェニファー!早くそいつの首を取れ!」

「分かってる!」

 

重量のあるその武器を再び振り下ろそうとしたが、右腕に痛みが走る。ジンヤが骨を折る勢いで握り潰さんとしていた。

 

「やらせるとでも?」

「またあんたか…邪魔しないで欲しいわ」

「無理な話だ。どうしてもって言うなら俺を倒してからにしろや」

「死にたいのかな?」

 

また1つ大きな衝突が起こった。先に攻めたのはジンヤ、お留守になっていた足元を滑るように強襲した。さらに上空に逃げたところに追い打ちをかける。

 

「『毛針千本』!」

「『リトルブラスト』!」

 

硬い体毛に小型ミサイルが飛び乱れ、お互い牽制しあう。

 

「そいつミサイルまで搭載してんのか…遠近両用って厄介この上ないな」

「そっちこそ変身したり針飛ばしたり、妙な術を使うのね。だけど、私の武器に死角はない!」

「かかってきな。その自信、武器ごと粉微塵に砕いてやるぜ」

 

アースランド対エドラス。決戦が始まった。

 

======

 

ルーシィたちは同行しているグレイがなぜここにいるのか不思議に思いながら城を駆け抜けていた。

 

「あの広場のラクリマ?」

「あれが丁度俺とエルザのふたり分だったらしい」

「うっそぉ!あれが!?」

「でもどうやって元に?」

「ガジルが来たんだよ」

「そっか。ガジルもドラゴンスレイヤーだから吸収されなかったのか」

 

彼がジンヤとともに王都まで来て、ラクリマを魔法で元に戻すために動いてる。滅竜魔法の果たす役割は大きい。

 

「オイラみんなのラクリマの場所、分かるよ!」

「マジか!今あいつは広場でラクリマを探すって言って暴れてる。連れて行けるか?」

「任せてよ、行ってくる!」

 

そう言って外に飛び出したハッピーを見送り、近くにあった扉をこじ開ける。そこには気を失ってぐったりとした仲間が見つかった。

 

「ナツ!ウェンディ!大丈夫か、しっかりしろ!!」

「ナツ!起きて!」

「こうなったらエクスボールを飲ませるか。おら、口開けろやナツ!」

「何それ?」

「あ?ジンヤに言われてねえのか?魔法や能力を使えるようにする薬だ」

「あ、そういえばそんなこと言われたし飲まされたような」

 

その薬を無理矢理口にねじ込むと、少し咽せたがなんとかナツが意識を取り戻した。

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

「よし、今度はウェンディだ」

「大丈夫、ナツ?」

「と、止めねぇと…」

「へ?ナツ!?」

 

そう呟くと、止める間も無く扉から外へ飛び出して行ってしまった。

 

「ウェンディ!あんた大丈夫?」

「シャルル…た、大変なの。ギルドのみんなが…このままじゃみんな、エクスタリアを破壊するための爆弾がわりにされちゃう!」

 

爆弾の真相、王国の陰謀、仲間の存亡。未来への選択の刻が迫る!




ジェニファーの武器、あれは戦場のヴァルキュリアのイムカの武器『ヴァール』やデビルメイクライシリーズの『カリーナ・アン』を参考にしてます。今の所ミニミサイルとビーム以外に打撃に刃に機関銃にロケランあたりを考えてます(全部出せるとは限りませんが)。


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第61話 竜の鎖

ご無沙汰です、ぽおくそてえでござる。課題やらテストやら学生にとって一、二を争うほどの苦痛が連続で来てたもので遅くなってしまいました。前回の投稿から空いたのにお気に入り登録してくださった方が増えて嬉しい限りです。
今回は若干時系列が原作と違います。原作の該当部分(22巻途中からほぼ最後)を前に行ったり後ろに行ったりな感じです。
それでも大丈夫という方は本編どうぞ!


「エドラスにはいくつかの浮遊島があるの。あれ…エクスタリアの魔力で浮いてるって本に書いてあったわ」

「それじゃあラクリマにされた仲間のみんなはその島の1つにいるのか?」

「エクスタリアのすぐ近くにね。この目で見たから確かよ」

「その島ごとエクスタリアにぶつけて魔力にするのが王国の狙いみたいです」

 

もしそうなったらラクリマもエクスタリアも弾けて、融合した果てにこの国の永遠の魔力となる。仲間は全員消えて、敗北…何も取り戻せなくなってしまう。

 

「とにかく止めねぇとな」

「うん!って、ナツ戻ってきちゃったよ?」

「おい、こっち来んな!化け物の集まりだぞ。エルザ2人にジンヤと変な武器持った女が戦ってる!あっちだ!」

 

無意識にも1番の激戦区という危険地帯に近づいていたらしく、慌てて戻ってきたナツ。今度こそはと王様に作戦を辞めさせるために戦闘のない安全な方向へと動くことになった。

 

=====

 

「『フレア・ショット』!」

「『水獣砲』!」

 

ジンヤとジェニファーの激突が起こってから十数分、戦いは収束するどころか逆に熾烈を極めようとしていた。

 

「そろそろ倒れてくれねえか?テメェにずっと構ってる暇はねえんだよ。それに疲れる」

「…そっちの事情など知ったこっちゃないわ」

「ま、だろうな」

 

====

 

「ガジルー!!」

「ネコ、無事だったか!」

 

エルザたちの解放後からずっと暴れているガジル。そんな彼をラクリマへ連れて行こうとハッピーはスピードに乗って大空へと翔んでいく。

 

「オイラがラクリマに変えられてるみんなの場所に案内するよ!」

「そうか…って、おい!コラ、掴むんじゃねえ!」

「ところでさ…どうやって元に戻すの?」

「ギヒ、滅竜魔法で砕いたら戻ったぜ」

 

思わず耳を疑った。砕いたのだ。もっと優しい方法だと思っていたハッピーは驚くしかない。

 

「ねえ、それでいいの?」

「俺はミストガンに言われた通りにしているだけだぞ!」

「そういえば何で居ないんだろ、ミストガン」

「知るかよ!ジンヤに聞けや!」

 

そして2人が向かったラクリマの予想以上の大きさに2人して唖然としてしまう。

 

「でけぇ…」

「想像以上だよこれ」

「ったく世話のかかるギルドだぜ!帰ったら腹一杯鉄食わせろよ」

「頑張れガジルー!」

 

ハッピーの声援が送られる中、毒吐きながらも右腕に魔力をためていく。ラクリマを砕きに行こうとした瞬間、島の岩盤をも切り裂く一振りが襲いかかってきた。

 

「誰だコラァ!」

「王国軍第一魔戦部隊長パンサーリリー。ここは今作線最重要拠点だ、やらせんぞ」

「羽!?あいつもエクシード!?」

「下がってろ、ネコ!!鉄竜剣!」

 

ラクリマ前でも1つ、大きな戦いが起き始めていた。

 

========

 

戦いが苛烈を極める中、国王とバイロの前には国の最終兵器の1つが鎮座していた。名は『竜鎖砲』、要は鎖を射出できる砲台だ。

 

「陛下。コードETD最終段階のすべての準備が整いました」

「うむ、ご苦労。して…これが竜鎖砲か」

「ええ。ドラゴンスレイヤーから抽出した魔力で浮遊島を意のままに操るための鎖だと思ってくだしゃれ。鎖で制御下に置いたラクリマをネコどもの国にぶつければ永遠の魔力になるのでしゅ。さあ、竜鎖砲起動の鍵を…」

「陛下、お待ちください!」

 

ピポポポと独特な音をたてながらひどく慌てた様子で走ってきたのはココだった。

 

「これココ!陛下の御前で走り回るなとあれほど…」

「あのラクリマの島にはリリーがいるんです!今作戦を実行したらリリーまで死んじゃいます!」

「それが…どうしたというのだ?」

 

ファウストから発せられた冷酷な言葉にココは一瞬怯みつつ、何とか言葉を続ける。

 

「仲間、ですよ?」

「あのエクシードくずれ如き、大局のための犠牲の1つに過ぎぬ!いちいち駄々をこねるな!」

「それでもリリーが居なくなるなんて嫌です!」

「な、何をする!」

「ココォ!!」

「きゃうあ!!」

 

なんとバイロの手にあった鍵を強奪し、逃走してしまった。それを逃すまいとファウストは杖から雷が打ち出した。

 

「お前は昔から走るのが好きであったな。余はお前が元気に走り回る姿が大好きだった」

「痛ぁい!!!」

 

手に握られている杖から追い打ちをかけるようにココの脚に雷が落とされた。凄まじい音と、人を傷つけることもいとわぬ国王のその冷酷さに隣にいたバイロは恐怖に震えるしかない。

 

「さあ、鍵を渡しなさい。今なら許そうぞ」

 

しかし、その言葉に従わずココはそのまま走り去ってしまった。

 

「おのれ…バイロ!追え、今すぐにだ!!手段は選ばん!」

「は、はひ!!」

 

========

 

竜鎖砲の鍵を巡って場内で一波乱起きている頃、ラクリマ前ではガジルとパンサーリリーが激戦を繰り広げていた。

 

「ぬおぉおおぉ!!」

「ほう。鉄をも砕くバスターマアムを腕で止めるとは…アースランドの魔法にはつくづく驚かされる」

「生憎、この鉄竜の鱗はただの鉄よりかなり頑丈でね。それよりお前、ネコの仲間なんだろ?なんで王国軍なんかにいやがんだ?」

「オイラと同じエクシードなんだよね?お魚食べる?」

「俺はあの偽りの国を捨てた!!あの忌まわしき腐りきった故郷をな!」

 

普段冷静な彼が珍しく声を荒げながら剣を振り下ろした。それを受け止めているガジルは、笑っていた。

 

「へっ、はみ出し者ってことか。ギヒヒ…気に入った!こいつを俺のネコにするぞ!」

「はぁ!?何言ってるの!?」

「な!?俺の剣を砕きやがった!」

 

バスターマアムの刃を文字通り木っ端微塵にして、実力差を見せつけるが如く怒涛のラッシュを見せる。

 

「ギヒヒヒ!これでサラマンダーにも小娘にも引けを取らんぞぉ!」

「(こ、この男…!)」

「鉄竜の咆哮ぉ!!」

「ひええ、ガジルの顔が凶悪だぁ!」

「(強い!)」

 

2人の強者の戦いはまだまだ続く。

 

========

 

「おーい、グレイ!鍵はどうした!?」

「ちょいと事情が変わったが…まあ、大丈夫だ。あの竜鎖砲だっけか?あれ滅竜魔法の鎖が入ってるから、ラクリマに直で当てれば皆を元どおりにできるぞ。そういえばルーシィは?」

「あっちの方で挟まってる」

「なんだそりゃ?何があったんだ?」

 

敵将との戦闘の末に竜鎖砲の鍵を奪取、破壊することに成功したナツたち。その時に竜鎖砲の意外な使い方を聞き出すことに成功した。なぜかルーシィは挟まっているが。

 

「その問題の砲台があのばかでかい扉の先にある。警備も厳重だし扉が頑丈ときた」

「じゃあどうすんだよ!」

「ここに、いたのか…」

 

そこにやってきたのはかなりボロボロになったエルザだった。

 

「エルザ!!」

「おい、こいつエドラスのエルザじゃねえのか!?」

「俺たちのエルザが負けたってのかよ!」

 

立ち向かう暇も気力も持たなかったのか気絶させられ、あえなく御用となってしまった。そのまま2人を引きずりながら門へと向かうと警備兵が無事を確認しにきた。

 

「ご無事でしたか、ナイトウォーカー隊長」

「ど、どこが無事なもんか!その怪我、どうなさったんです?」

「心配するな。見た目ほどじゃない。陛下は中か?」

「ええ。ところでこいつらは?」

「竜鎖砲の鍵の代わりだ」

「そうですか。どうぞ中へ」

「これで全ての準備は整った。永遠の魔力は目の前だ」




夏までには最後まで終われば良いな。多分無理かな?


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第62話 己が信念

前回から2週間も空いて申し訳ないです、ぽおくそてえです。七月末から夏休みなのでそこらになれば2ヶ月ほどは安定すると思います。次の話と次回作も書き始めました(遅れてるのに何やってるんだとか言われそうですが)。それでは話はここら辺にして本編どうぞ


「エルザ、鍵を持ってきたというのは真か!?」

 

大扉の先には既に数多くの兵と、作戦最終実行者の国王が今か今かと待ち構えていた。

 

「ええ、ここにいる魔導師どもに破壊されたようですがご安心を。この者が作れるそうです」

「そうか。ならばすぐに準備だ」

「立て、氷の魔導師よ。従わねばこいつの首をはねるぞ。竜鎖砲を起動させろ」

 

グレイを縛った紐を切り落とし、ナツに剣を突きつけて鍵を作るように脅しをかける。逆らえば命はない。

 

「早くしないか…」

「(チャンスは一度きり、失敗は許されねぇ。起動したら照準を変えて、ラクリマに直接ぶつければいい!)」

 

鍵の造形をして、一気に差し込んで捻ると重厚な音とともにあちこちの液晶に映像が流れる。

 

「(くそっ!どこだ、どこで操作するんだ!時間がねえのにっ!)」

「準備完了しました!!」

「よし、いいぞ!」

 

王の号令1つでいつでも砲撃を放てる状況だ。それなのに未だに操作盤が見つからない。

 

「撃てぇ!」

「茶番もここまでだ…ナツ!」

「おうよ!!火竜の…翼撃!」

「な、何事じゃ!?」

 

ファウストがまさに号令をかけた瞬間、突然の攻撃に襲われた王国軍は大いに混乱した。その隙をついてエルザが王の首に剣を突きつける。

 

「作戦変更だー!!」

「エルザ…貴様!なんのマネだ!離さぬか!」

 

いきなりの行動に動揺が走った。直後にエドエルザを光が包んだと思えば姿を現したのはアースランドのエルザだった。見た目が同じであることを活かした不意打ちである。

 

「私はエルザ・スカーレット。アースランドのエルザだ」

「なっ、此奴…謀りおったな!」

「悪いなエルザ。機転を利かせてくれて助かったぜ」

「カッカッカッ!これぞ作戦D、騙し討ちのDだ!!」

 

王を人質に取り、照準をラクリマに変えるように迫る。汚いだの卑怯だのと反発的な声も聞こえたが、仲間を取り戻すためならなんでもするという固い意志の表れだ。

 

「照準をラクリマに合わせろ。逆らえば…分かるな?」

「ワシに構うな!作戦通りにやれ!!永遠の魔力に比べれば我が命など!」

「うぬぬ…照準をラクリマに変更だ!急げ!」

「永遠の魔力を棒にふるつもりか馬鹿者!」

 

ファウストのそんな叫び声をかき消すような爆音がドアの方から響き渡る。煙の中では顔をしかめたジンヤが脇腹を抑えていた。

 

「ぐぅ…2対1とか普通に無しだろぉが」

「ジンヤ!?大丈夫か!」

「テメェらこそ…おい、上だ!」

「その首、貰ったぁ!」

「な!?こいつは…!」

 

ジェニファーの奇襲でエルザは思わず人質から手を離して距離を取ってしまった。

 

「よし、陛下が解放されたぞ!照準を島に戻せ!」

「しまった!」

「撃てぇ!」

 

躊躇う必要が無くなり、島に再度照準を向けた。そして阻む隙もなくファウストの号令で鎖が無慈悲にも放たれてしまった。轟音が鳴り響き、ガコンとくい込む音で止まった。

 

「接続確認しました!」

「よし、そのままぶつけてやれい!」

「やめろぉ!」

 

ナツの悲痛な叫びが響き渡る中、ドラゴンのような奇妙な生き物が乱入して来た。

 

「みんな、この子に乗って!」

「ルーシィ、お前いつの間にそれ手懐けたんだ!?」

「私のレギオンです。とりあえず乗ってください、急ぎますよ!」

「止められるか分からんが、行くしかねえ」

 

大きな翼をはためかせながら、徐々に近づく2つの島へと急ぐ。

 

「あいつらぁ…全員、急ぎレギオンの準備を!1人残らず殲滅せよ!」

「「「はっ!」」」

「ワシも行こう。ドロマアニムを用意せい」

 

国王直々に戦場に立とうという。しかし彼の言うドロマアニムはその危険さと性質故に王国憲章23条で禁式扱いになっている。そのようなものを使っていいのかと兵たちは狼狽えるしかない。

 

「今は緊急だ、用意しろ」

「エルザ隊長…」

 

怒り故か、自戒故か、髪を短く切り揃えたナイトウォーカーが布を体に巻いて現れた。有無を言わせぬ目つきに兵たちも折れた。

 

「かしこまりました。失礼しました、陛下」

「我々第二魔戦部隊も急ぐぞ。コードETDは継続中だ」

 

=====

 

速度を上げつつエクスタリアへと接近するラクリマ。それを止めようとドゴンと大きな音を立ててナツたちの乗るレギオンが体当たりを仕掛けていたが、一向に減速する様子が見えない。

 

「くそ、全然止まる気がしねえぞ!」

「私たちも押すぞ!魔力を解放するんだ!」

「うおおおおー!」

 

動く島を押し返そうとレギオンの頭のうえであろうことか素手で押し始めた。

 

「無茶しおって…力を貸せ、悟空!」

『正気か!?あれが人力でどうにかなると思っとるのか!』

「だからこそお前の力を貸してほしいんだよ!」

『ぬう…ええい、後で動けなくなっても知らんぞ!』

 

他の皆も必死に押すが、島の縁を削りながら徐々にエクスタリアに近づきつつあった。それを見ているパンサーリリーは無謀ともいえる行動に怒りすら覚えていた。

 

「無駄なことを!この島はぶつかって何もかも消える!止まりはしないし、人がどうこうできるものじゃない!それが運命だ!」

「止めてやる!たとえ魂だけになろうと絶対に止めてやらあ!」

「俺たちが諦めると思うなよ!絶望的な運命だろうと、変えてみせる!」

 

島の縁をさらに削りながら進む島を押していると、騒ぎを聞きつけたのかエクシードが団結して押し寄せていた。人を嫌い、見下してきた彼らでは今までには考えられないような行動だ。

 

「何故だ!?あれほどのエクシ-ドがそう簡単に動くはずがない!」

「これも抗ったから、進もうとしたからだ。今のお前には分からねえだろうな!」

 

想いは、意志は時には思わぬ形で叶うものだ。皆で押していると、何かに引き寄せられるようにだんだんと押し返され始めていく。

 

「ラクリマが…押し返されてるのか?」

 

エクスタリアから離れたその島をいきなり眩い光が包んだ。

 

「うあっ!」

「なに!?」

「これは!?」

「まさか…うおっ!」

 

光の柱が収まると、島からラクリマが姿を消し、大きな穴が開いているだけとなっていた。ラクリマがどこに行ったのか皆が疑問に思っていると思わぬ声が聞こえてきた。ジンヤたちを送り込んだミストガンだ。

 

「アースランドに、元の世界に帰ったのだ。すべてを元に戻すのに時間がかかっていたことは詫びよう、そして皆の協力のおかげで間に合ったのだ。感謝する」

「間に合ったって…それじゃあよ」

「ああ、ラクリマはアニマを通って時間とともに元通りになるはずだ。すべて無事に解決できたということだ」

 

大きな損害もなく、自分の国も仲間も守れた。無事に解決できた安堵と喜びから歓喜の声があちこちから聞こえる。涙を浮かべるものもいたが、皆の顔はどことなく晴れ晴れとしている。

 

「リリー、君に助けられた命だ。故郷を守って恩返しができてよかった」

「ええ…ありがとうございます、王子」

「王子が帰ってきたよぅ」

 

リリーがかつて助けた人間の子、ジェラールことミストガン。彼を助けたゆえに堕天として人間の国で過ごしていたリリーに少しでも恩を返そうと動いていたのだ。

 

「王子なの!?」

「話でしか聞いてねえが、嘘をつくタイプじゃないよアイツは」

「知ってたんだ…いつの間に」

「ジンヤ、君が背中を押してくれたおかげだ。ありがとう」

「いっただろ、家族の為なら力は貸すと」

「そうだったな」

 

そういって握手を交わそうとした瞬間、後ろにいたリリーの腹部を砲撃が貫いていった。

 

「リリー!!」

「だれか助けに言って!」

「俺のネコを!誰だ!?」

「まだ終わらん。終わらせんぞぉー!!」

 

エドエルザ率いる王国軍が最後の猛攻を仕掛けに来た。




後数話でこの章も終わると思います。

あと、活動報告で皆さんに質問とアンケートがあります。よろしかったらどうぞご協力いただければです。


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第63話 終幕

どうも、お昼投稿のぽおくそてえです。最後若干駆け足になりましたがたぶん次回でエドラス編最後です。それと、前回追記で書いたんですが活動報告のほうで質問とアンケートがあります。ご協力いただけると助かります。


「まだ終わらんぞ、スカーレットォォ!貴様と決着をここで付けてやる!」

「ナイトウォーカー…」

「一隊長に過ぎないお前がエドラス王国王子の私に刃を向けるつもりか?エルザ・ナイトウォーカー」

「くっ!」

 

1人激昂するエドエルザを諭すように話していたその時、どこからか国王の声がこだまする。

 

『貴様を息子となぞ思って居らぬ、ジェラール』

「王様だ!」

「どこから!?」

『知っておるぞ、姿を眩ませてた7年もの間、お主がアニマを封じて回っておったことをな。この売国奴が』

「あなたの計画は失敗した。もはや戦う意味もないだろう?」

 

その時、大地から1つ大きな振動が伝わった。

 

『腑抜けたことを…これは戦いではない』

 

森から聞こえるその音は大地を踏みしめ、空を揺るがす。

 

『王に仇なす者への一方的な報復…すなわち殲滅。ワシの目の前に立ちはだかるなら例えお前だろうと跡形もなく消してくれる』

「父上…!」

『父ではない。ワシはエドラス王、我が王国の力に不可能などない!』

 

王の乗るその機械の名は『ドロマ・アニム』、強化装甲をつけた竜型の二足歩行ロボットだ。

 

「あれは外部の魔法を無効化しちゃうから相手にするだけ無駄だよぅ!王様は中で操縦してるし!」

『この鎧の力で貴様らを滅ぼせば何度でもエクシードを融合できる。さあ、我が兵よエクシードを捕らえよ!』

 

レギオンの大群、武力と数の圧倒的力量差になすすべもなく次々にラクリマへと変えられていく。エクシード達は逃げ惑うしかない。

 

「王国軍から皆を守るぞ。ナイトウォーカー達を追撃する!」

「そっちは…任せても良いか?」

「どうしたの?」

「…ケリをつけにきたか。そこで待ってろ」

「ここで最後にしましょう。あんたを倒さなきゃ先に進めないわ」

 

指差した先には部隊のほとんどが伏せているのか、単騎で待ち構えていたジェニファーの姿があった。もはや退くことは叶わない、前に進んで終止符をうつのみという覚悟の表れだ。

 

「あんたはあたしの手で冥土に送るわ。王に反逆したんだ」

「…お前を倒してアースランドに帰る。仲間と共にな」

「さあ…決めようじゃないの」

 

2つの信念、2つの誇り、2人の力。

 

「「どちらが正しいのかを!!」」

 

進む道は違う。故にぶつかる。その道の先にある己が描く未来に進むのはただ1人。武器と武器がぶつかり、火花が散る。その後も何度もしのぎを削って武を振るう。

 

「あんた、なぜあたしたちの邪魔をするんだ?」

「仲間の命が掛かってんだ、当たり前だろ。お前も魔力と国のために体張ってるんじゃねえのか?他に手はなかったのか、魔力を作り出す策は…」

「陛下が正しいとおっしゃるならそれが最善に決まってる。陛下のおっしゃる事が正義だ、それを信頼してついていくのが我々の務めだ」

「それじゃあ、なおさら止めさせてもらうぜ、もう1人の『俺』よ!」

 

こうなってはこの相手は魔力がなくなるか倒れるまでは止まりはしない。それだけの覚悟はあると感じたジンヤは相棒を握る拳に一層力が入る。

 

==========

 

その頃、ミストガンは密かに王都に向かおうとしていた。その隣には負傷したパンサーリリーもいる。

 

「怪我は大丈夫か?」

「ええ…なんとか。王子、これからどうなさるおつもりで?」

「この国にとっての最後の仕事をする。そのためにも君の力が必要だ」

「私の、ですか?」

「ああ、一緒に城まで行こう。総仕上げだ」

 

森を抜けた2人は王都の城へと急ぐ。

 

==========

 

2人のマーナガルムの衝突は続いている。今までの戦いの傷からか、長くなる衝突ゆえか流石に息が上がり始めている。

 

「つぇあ!」

「はぁ!」

 

それでも止まろうとせず、もはや死合いの領域にまで達しようとしていた。流れた血が多く、視界がぼやけ始めてもいた。お互いに武器を使い、能力を使ってひたすらに殴り合う。どちらが倒れてもおかしくない。

 

「このままじゃ、ケリがつかんな…」

「そうね。なら…これで終いにしましょ」

 

そう言って手元にある武器を組み替えると、禍々しいほど黒い太刀へと姿を変えた。

 

「獄刀『エペタム』。私にしか扱えぬ血染めの妖刀よ」

「…仙法『獅子奮迅』、そして『斉天の剛腕』。俺の相棒、猿翁の力だ」

「あんたの最高の力ってわけね…気分が高揚するのが分かるわ!」

「終わらせようぜ、ここでな!」

 

身体が壊れようと、勝つ。その覚悟が正面からぶつかり合う。

 

「息の根止めてやるわジンヤ!」

「お前はそこで寝てろジェニファー!」

「「うおおおお!!!」」

 

最強の力がぶつかり、衝撃の大きさを物語るように2人のいる浮遊島が少しの足場を残して全て崩れ去っていた。

 

「わ、私の刀をいとも…容易く…」

「諦めな、テメェの負けだ」

 

深すぎる傷と限界まで酷使した身体が悲鳴をあげ、2人してその場に倒れこんでしまった。

 

「なんだい。あんたもボロボロじゃないの?」

「誰のせいだと思ってんだ…2度とこういうことはすんなよ、良いな?」

「陛下になんて言えば良いのさ。この国ではあの方は絶対だぞ?」

「その意識は変えろ。真に国を思うなら上を止めることも必要だぞ」

「そういうもの…かしらね」

 

島が崩れ、魔力のバランスが不安定になったからか、次第に堕ちはじめていた。周りを見ると光のようなものが空へと流れている。

 

「ま、魔力が…還っていく。私たちの…唯一の、希望が」

「何が起こってんだ?他の島も堕ちてる?」

「これからどうやって生きていけば…」

「ミストガンが何かしたのか?」

 

空を見上げると大きなアニマがあちこちに空いている。さっきまで使えていた魔法が次々に壊れ、街の方では混乱が起き、収集がつかなくなっている。

 

「どうなってるんだ!噴水が止まったぞ!」「火の魔法が壊れたわ!」「風の魔法もだ!」

 

生活用のものが使えなくなり、商売用のものも容赦なく壊れ、頭を抱えるものもいた。

 

「これからどうやって生活すれば良いんだ…」「もう終わりだ…」

 

国のあちこちでこのような悲鳴が聞こえてきた。

 

==========

 

「王子、これで良かったのですか?魔力をなくすなんて…」

「この国は一度滅ぶほうがいい。魔力なき世界で生きていかねばならないからな」

 

ここは城内部にあるアニマ発生装置前。魔力をアースランドに戻そうとしていたミストガンとリリーの姿があった。

 

「それには悪役がいる、魔力を奪ったという悪役が。その役は魔法を奪った元凶の私が責任を持ってやる、今後のことはリリー、君にまかせようと…」

「本気でおっしゃっているのですか、王子?責任を感じるならあなたが導くべきです!この世界を憂い、想えるあなたが!」

「それでは示しがつかない」

 

すべてを背負って悪になろうとするミストガン、背負うならば前に進むべきというリリー。二人の議論が平行線をたどっていると、一人の兵士があわてて部屋にやってきた。

 

「隊長、大変です!町に暴徒化しているものがいるとのことです!」

「混乱が広がってるか。分かった、ありがとう。王子、どうなさいます?」

「止めに行こう。私もいく」

「えっと、この方は?」

「後で話す、それより暴徒の数は?」

「三人です!我々近衛師団が鎮圧に行ったんですが大半がやられまして…」

 

王宮のバルコニーから外を眺めると、そこにはナツたちと戦いに敗れて囚われの身になっている国王がいた。

 

「あれは、ナツ!?」

「どういうつもりだ?」

「ぼきゅが教えたんだ。君たちの会話を聞いちゃったからね」

「ナディ様!?じゃああの者たちは自ら悪役を?」

「君たちも覚悟したほうがいいよ、もうすぐ世界が変わる」

 

==========

 

周りの魔力と反応しはじめ、空のアニマに吸い寄せられる前に身体が光に包まれていく。

 

「どうやらお別れみたいだぜ、俺たちも」

「すまないね、最後まで迷惑かけたよ」

「何を謝る?俺たちは敵だぞ?」

「関係ない…それと、ありがとうジンヤ」

「じゃあな、ジェニファー。もう会わないといいな」

 

体を光が包み徐々に空へと流されていく。これがエドラスでの最後の会話となった。



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第64話 妖精、帰還する。その時少女は…

どうもです、ぽおくそてえです。次回にはエドラス編終わって天狼島編に移れるかと。

それではどうぞ!


無事にアニマを通り抜けたジンヤ。周りを見ると、何事もなかったように復旧しているマグノリアと傷だらけの仲間たちがいた。

 

「よ、全員無事に戻れたみたいだな」

「私たちの勝ちだな。ミストガンのことは残念だが、あいつは強く生きてるだろう」

「そうだな。それよりナツ、その魔王みたいな格好はなんなんだ?」

「ああ、これか?実はよ…」

 

どうやらミストガンやエドラスのために一芝居打ってきたのだとか。彼を王にふさわしいと認めてもらう、そしてフェアリーテイルの仲間を見送るためのものだったそうだ。

 

「まあ街を壊したのはどうかと思うが、これから奴が生きる道は作ってやれたか…(見送ってやれなかったのは心残りだが、あいつは強い。俺たちが居なくてもやっていけるか)」

「それも大事だけどよ、街の人は無事なのか?」

 

街の建物だけ元どおりでは意味がない。確認しにいこうとしたら、上から聞きなれない声が聞こえてきた。

 

「それは大丈夫だよ」「みんなラクリマになってるの気づいてなかったみたい」「アースランドってすげえな!魔力が溢れるほどあるよ!」

「な、なんでエクシードまで来てるのよ!?」

 

どうやら魔力を持つエクシードもアニマに吸い込まれて一緒についてきてしまったらしい。

 

「まあ、考えてみりゃ確かにあり得ることだけどよ…」

「まさか全員来るとはな。獣人の秘境にでも匿っておくか?」

「冗談じゃないわよ、ジンヤ!こいつらは危険!すぐに送り返すべきよ」

 

あちらで色々とやられたらしく、シャルルはご立腹な様子だ。女王シャゴットを筆頭としたエクシードたちは己の行動を悔いていた。

 

「まあまあシャルル。もう許してあげても良いんじゃないかな?」

「そうだよ。もうエクスタリアもないんだし、エドラスにも行けないんだよ?」

 

ハッピーやウェンディが反省している彼らのために弁解していたが納得している様子はない。

 

「石を投げたことは謝罪します。でももう帰る場所がないのです。許してほしいなんて、傲慢かもしれないですが、これから改心していくつもりです」

「そんなことはどうでもいいの!あなた達は私たちにウェンディやナツのようなドラゴンスレイヤーを抹殺するように“使命”を与えてアースランドに送り込んだんでしょ!?どうなのよ!」

「そうだ!女王はオイラ達から卵をうばった!忘れたとは言わせねえ!」

 

生まれてから6年間、この“使命”のせいで自分に大きなプレッシャーをかけてしまっていた。その重圧に押しつぶされまいと周りにキツくあたったこともあった。親達の中には自分の子を奪われたと思っている人もいる。

 

「まだ詳しく説明してませんでしたな。これは遡ること6年前の話になります」

「シャゴットの未来予知能力についてはもうお話ししましたな?ある日、シャゴットは地に堕ちるエクスタリアを見たのです」

「島が浮遊するのに必要な魔力の喪失による自然落下か」

 

補足説明をするジンヤの言葉に老エクシードが静かに頷く。その時は落下の原因がわからず、人間が戦争を仕掛けに来ると思っていたそうだ。しかしエクシードは元々弱い。戦争しても負けるのは火を見るより明らかだった。

 

「そこで、アニマを利用して100個の卵をアースランドに逃したという訳です。表向きにはアースランドにいるドラゴンスレイヤーを倒す、ということにしましたが恨みなどは全くありません」

「分かっていますよ。そういう“設定”が必要だったんですよね?」

「それに本当のことを話すとパニックになっていたと思うし」

 

事情を知れば納得できるものだった。争いごとは避けたいし、巻き込みたくないというものだった。

 

「計画は1つの点を除いて完璧でした。それはシャルル、あなたの未来予知です。無意識に発動した能力で記憶が混乱し、ありもしない使命を作り出してしまったんです」

「そんな…じゃあ頭にあった情報も全部…」

「オイラの使命って…」

「最初からそんなものなかったんです」

 

エドラスに行ってから何度も浮かんできた情報は全て無意識に予知をしている影響のものだった。地下道の情報も王都のことも今なら納得がいく。断片的にしか見えないのもその能力の不安定さがもたらしたものだ。

 

「この作戦と度重なる不運があなたや卵を取り上げた全ての家族を6年もの長い間苦しめてしまった。悪いのはエクシードではなく私1人です」

「それは違いますよ女王様!」

「女王様は私たちを思って行動してくださったんです!」

「せっかくアースランドに来たんです。6年前に避難させた子達を共に探しましょう!」

 

真実を知っても前に進もうという前向きな心が芽生えていた。新しい目標、出発点を見出した彼らの表情は晴れやかとしている。

 

「…いいわ、認めてあげる。この世界で生きていくのを」

「シャルル…」

「これでいつでも会えますね」

「何嬉しそうにしてんのよ、ウェンディ」

「そう、いつでも会えるわねシャルル」

 

シャルルを抱きしめるシャゴット。その腕は暖かさがあった。

 

「ここに俺が20年前まで居た秘境がある。ガキの頃の話だけど、荒らされてはいねえだろ。そこに行って開墾すればなんとかなるはずだ…俺からは以上だ」

「ありがたい話じゃ。安全な住みかとは…ありがとう、ジンヤ殿」

「気にするな。もう使うこともねえだろうからよ」

 

新たな生活を求め、かつて獣人の住んでいた秘境の1つに身を寄せることになった。

 

「…あの秘境なら安心して住めるだろう。あいつらなら大丈夫だ」

「そうだな。じゃ、俺たちもギルドに戻るか」

「みんなにどうやって報告する?気づいてないって言ってたけど」

「ミストガンのことを黙っておくわけにはいかんぞ?」

 

向こうに残った彼のことをどう説明するか頭を悩ませていると、ガジルがあることに気づいた。

 

「おい、あいつはどこだ?」

「どうした、誰か探してんのか?」

「リリーは何処だ!?パンサーリリーが何処にもいねえぞ!」

「俺ならこっちだ…」

 

そこに現れたのはハッピーやシャルルほどにまで小さくなったリリーだった。アースランドに来たことによる影響みたいで、子熊のぬいぐるみみたいになっていた。

 

「俺は王子のいたギルドに興味がある。約束通り入れてくれるんだろうな…ガジル」

「もちろんだぜ、相棒!」

「おい、離せ。それと…さっき怪しい奴を捕まえたんだ。来い」

 

そう言って紐を引っ張るとそこに現れたのは…

 

「ちょっと、私は…別に怪しくなんて…きゃあ!私もフェアリーテイルの一員なんだけど…」

「リサーナ…!」

「どういうことだ、これは…」

 

2年前の事故で亡くなったはずの少女、リサーナだった。




60話超えましたか。始めてから9ヶ月でここまで来れるとは思わなかったです。学校がつまらん、という理由で始めたのがきっかけでしたが…。これが完結したら新しいのを書こうかな?


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第65話 再会

どうもです、挿絵をはじめて描いたぽおくそてえです。色無し、へたくそなのは堪忍してください。これが限界です。七月になって一気に暑くなりましたね、熱中症にはご注意を。

それでは65話どうぞです。


「なんなのこのネコ?エクシード?」

「パンサーリリーだ」

「俺の相棒にケチつけようってのか?ア?」

「そ、そういう訳じゃ…っ!ナツ、ジンヤ!」

 

2年前に亡くなっていたはずのリサーナがナツに向かってダイブしていた。いきなりのことに反応できず、後ろに吹っ飛んでいった。

 

「お前…死んだんじゃあ?」

「なんでここにいる?」

「もしかしてエドラスのリサーナが来たとか!?」

「ど…どうしよう!」

「いや、その可能性は低いんじゃねえか?」

 

ようやく落ち着いたジンヤはエドリサーナ説をやんわりと否定した。

 

「どういうことか説明してもらえる?」

「アニマに吸い込まれるほどの魔力を持っていて、あっちじゃ性別まで違う俺のことを知っている」

「俺たちの知ってるリサーナってことか?」

「うん、そういうこと」

「なんでエドラスに居たんだ?あの事故で死んでたとばかり…」

 

暴走状態のエルフマンの一撃をくらって無事でいられるとは考えにくい。瀕死の傷だと聞いていた。

 

「私…死んでなかったの。あの時意識を失って、その時に小さいアニマに吸い込まれたんだと思う。あっちのフェアリーテイルを見つけた時は驚いたわ。そこでエドラスの私を二年間演じてたの」

「なんであの時に本当のこと言わなかったんだよ!ギルドで会っただろ!」

「よせナツ。あっちで2年も過ごしてたんだ。あっちの生活とか色々事情もあるさ…ミラたちはカルディア大聖堂の墓地に居るはずだ。会いに行ってやれ」

 

ナツの肩に手を置きつつ、リサーナにそう告げると、彼女は飛び出す様に走り去っていった。

 

「今話さなくてよかったの?」

「これからはいつでも話せるさ。家族と積もる話もあるだろうさ」

 

雨の降りしきる中、天を仰ぎみた。あちらに残った家族のことを思って。

 

翌日–

 

「なんかギルドも変わってるしミラ姉も雰囲気変わったね」

「うふふ、そう?」

「でもやっぱりウチはウチだね。騒がしさはどっちでも同じかな?」

 

リサーナの思わぬ復帰によりギルドはいつも以上にお祭り騒ぎとなっていた。仕事に行くものはごくわずか、いつもよりお酒の量が多く、歓喜に沸いていた。中には喧嘩を始めるものまでいる。

 

「元気だねぇ。でも、これを見なきゃ帰ってきた感じがしねぇのも確かだがな」

「さ、騒がしいギルドだな」

「やっぱり第一印象はみんな同じなのね」

「楽しいよ、ここは」

 

そんな状況でジンヤはエクシード3人組に混じって机にもたれかかっていた。その横でリリーは周りを見回し、魔法が当たり前に使われる光景に絶句している。

 

「ここにいる者全員が魔力を持っているのか…」

「正確には俺以外の全員だ。アースランドの魔導師は多かれ少なかれ魔力を体内に持ってる」

「なるほど、そうなるとあのラクリマの大きさにも納得がいくな。しかし、町の人が普通に使っているのを見るとは…」

 

ラクリマ以外の魔法とは全くといっていいほど縁のない生活を送っていたリリーにとっては驚きの連続である。町に魔法があふれ、奪い合わずともいろんなところに店が開かれていて、生活には困らないほどだ。

 

「豊富な魔力に感謝しねえとな」

「そうね、恵まれてるわ、わたしたちは」

 

魔力に苦しんでいる世界を目の当たりにした彼らは改めて豊富な魔力に気づかされた。

 

「昨日の敵は今日の友、これからは同じギルドの仲間だ。仲良くやっていこうぜ、リリー」

「そうだな。ハッピー、シャルル、ジンヤ、アースランドで生きる仲間同士、これからよろしく頼むぞ」

「ええ」

「あいさー!」

「とりあえず、あっちでやっている喧嘩に混ざってくるかな?久々の喧嘩だ!」

 

別れや出会い、奇跡的な再会のあった異世界での戦いは幕を閉じた。

 

====

 

所は変わって、新生評議会。その会議室にはフェアリーテイルから届いた始末書が何十枚も積み上げられていた。

 

「なんだこの始末書の量は! 1つのギルドが起こしたもんとは思えぬぞ!」

「フェアリーテイル、あそこは先代からの頭痛の種でしたからな」

「ラハールの話によればジェラールを“仲間”と言っていたと聞いたぞ」

「危険な思想だな、そのうち何かしでかすかもしれんぞ」

 

問題行動の数々に危険視する者が多く、対策を立てようとしていた。そこで反論してきたのはかつてフェアリーテイルを毛嫌いしていたオーグ老師である。

 

「彼らはあのオラシオンセイスを壊滅させた労もある。そう角を立てる必要もあるまい」

「その作戦の許可は下りておらぬし、地方ギルド連盟からは連絡すらなかったそうじゃないか」

「いくら闇ギルドとはいえギルド間の抗争は禁止されているし報復がないとも限らんぞ」

 

しかし彼の擁護も虚しく、一度できた空気は変えられなかった。闇ギルドの報復を心配して準備をしようとするあたり、まだ前よりマシではあるが。

 

「我々は新しく生まれ変わった!何が新しくなったのかを示していく必要がある!」

「その通りだ、これ以上問題を残しては置けぬ。フェアリーテイルは必ず潰す、今度問題を起こしたら容赦はせん!」

 

議長グラン・ドマの力強い言葉に拍手が巻き起こり、1つの溜息がかき消される中こうして会議は幕を下ろした。

 

====

 

「みんなどんだけ騒いだのよ」

「よく寝てるな」

「(良かったね、ミラさん)」

 

結局騒ぎは夜まで続き、疲れ切ったのかあちこちにゴミを残したまま眠りこけてしまっていた。三人仲良く寝ているミラ達を見てルーシィは安堵のため息をついた。

 

「ふふ、みんないい顔してるわね」

「ルーシィの寝顔もなかなか可愛かったぞ」

「見てたの?もう…見物料取ろうかしら?」

「膝貸すからそれで堪忍な」

「冗談よ。でも膝枕…して、ほしいな」

 

顔を赤くしながら寝転がるルーシィの頭を撫で、気持ちよさそうに目を細める彼女を見守った。

束の間の平和の続く中、邪悪なる者が刻一刻と近づいていた。この時、滅びと混沌が迫っていることを彼らはまだ…知らない。




もうそろそろ天狼島編に入れそうなんですが、その前にオリジナル入れます。季節真逆ですがクリスマスです。


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閑話休題 その三
第66話 それぞれのクリスマス


お待たせしました、ぽおくそてえでございやす。
課題がひと段落ついたので投稿です。真夏なのにクリスマスの話です、はい。原作の時期的にクリスマスなんです。

それでは、中身の薄い話で恐縮ですがどうぞ。


「あ、雪だ!」

「今日は積もりそうだな」

 

窓の外を眺めると辺り一面に雪が覆っている。ジンヤの家から街を眺めてもマグノリア全体が色めきたっているのがわかる。

 

「なんかロマンチックね」

「オレん家でまったりしながら言うセリフじゃない気がするが…まあいいや」

 

炬燵で暖まりながら食後のお茶を啜っている2人は外の寒さを気にせず談笑していた。

 

「今年は色々あったな。ルーシィがギルドに入ったり、死神退治したり悪魔の島に行ったり、ファントムの襲撃受けたり、楽園の塔で死にかけたり……ろくな思い出じゃねえな」

「でも楽しいこともたくさんあったし、こうして2人で過ごせるんじゃない。私は好きな人といられて幸せよ」

「そうだな、今までで一番幸せなクリスマスだ」

「今日くらいはいい思い出にしましょ!」

 

こんなに充実している一年を過ごしたことは滅多になかった。この時期は1人で修行をする日々を過ごしていたこともあった。

 

「じゃあ私からは、はいこれ。メリークリスマス!」

「手作りクッキーか」

「は、初めて作ったから自信ないけど」

「後で頂くよ。俺からはこれだ」

「これ、私が欲しいって言ってた本…」

 

エドラスから帰ってきた後に探していた本だ。お金がなくて買えないと嘆いていたのを聞き、こうしてプレゼントとして渡したのだ。

 

「ありがとう。嬉しいな」

「欲しいものがあればいつでも言ってくださいよ、お嬢様」

「そうさせてもらうわね、ナイト様?」

 

2人でゆったりしてる頃ギルドでは宴会が開かれており、みんな思い思いに過ごしていた。

 

「ねぇナツ、私の作ったケーキ美味しい?」

「ウメぇ!サンキューな、リサーナ!」

「がっつかないの。まだあるから」

「マジか!よっしゃあ!」

 

こちらではナツとリサーナがいちゃいちゃしており、周りのみんなから嫉妬と羨望の眼差しが向けられていた。

 

「シャルル、オイラの魚いる?」「いらないわよ」「仲良いのか悪いのかわからんな、お前たちは」

「凄いです、私もグレイ様と…」

「なんであの2人だけ楽しそうなんだ!俺なんて、俺なんてぇ!」

「泣くなよエルフマン、酒飲む?」

「(僕もビスカといつか…)」「(どうやったらあんなに積極的に…)」

「仲がいいのは素晴らしいことだ」

 

そんな言葉をよそに2人は楽しく過ごしていた。

 

「こういう時の酒は格別だなぁ」

「確かにそうだな。若いモンを眺めながらおじさん同士、今日は静かに飲むか」

「たまには悪くないかな。それじゃ、来年の幸せを願って乾杯といくか」

 

ギルダーツ、ワカバ、マカオの3人は喧騒から離れた場所で固まっていた。

 

「ワシも良いかの?」

「お、マスターも混ざるか?良いぞ」

「皆楽しそうなのに、俺ときたら。嫁もいないしロメオもウェンディと遊んでるし、酒しかやることねぇよ」

「まだ金と時間があるだけマシだぞ、マカオ。俺の嫁と子供はプレゼント寄越せってうるさくて…」

 

酒が入り、次第に愚痴が漏れはじめていた。

 

「ラクサスは無事に過ごしているだろうか」

「あいつなら心配いらねぇよ。それに今日はクリスマスだ!しけたツラしてっと怒られるぜ、フリード」

「そうよ、今日は呑まなきゃ!ミラ、もっとお酒ちょうだい!」

「はーい、ちょっと待ってて」

 

雷神衆もギルドにいることが増え、楽しい雰囲気を楽しんでいた。前までは考えられないほどイベントなどに顔を出すようになっていた。

 

「ギルドは楽しいものだな」

「あら、だいぶ丸くなったじゃない。誰の影響かしらね」

「う、うるさい!」

「こうして来てくれて嬉しいわ。これからは仲良くやっていきましょ、3人とも」

 

明るいギルドの中で一人でいたガジルの側にレビィが駆け寄ってきた。

 

「ガジル、隣いい?」

「あ?何の用だ?」

「ジェットもドロイも今いなくてさ…それに前に助けてくれたでしょ?そのお礼をしたくて」

 

数ヶ月前のラクサスの件で助けてもらったことのお礼をしにきたみたいだ。

 

「礼を言われる筋合いはねぇ、勝手にやったことだ」

「それなら礼を言うのも私の勝手でしょ?ほら、受け取って」

「変わってるな、お前」

「あんたにだけは言われたくない」

 

今日はクリスマス。寒い冬に絆を深めて過ごす温かい1日である。




多分次回からS級試験の話に入れると思います。


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終章 熱闘!天狼島S級魔導師昇格試験編
第67話 S級への道


どうも、ぽおくそてえです。今回は比較的早めにできました(出来が良いとは限らない)。

今回は試験前の説明という感じになります。とりあえず本編どうぞです。


ルーシィがギルドに入って早半年、ギルドでは人の往来がいつもより多くなっていた。

 

「仕事、仕事ォ!」

「ねぇ仕事なら私も…」

「悪りぃな、この時期はみんな1人で行くんだ!」

 

いつもなら誘ってくれるのに今回はいともたやすく断られてしまった。その後も争うように仕事に行ってくる者もいればいつも通りに過ごす者もいて、何が何だか分からずにいる。

 

「もう…どうなってるのよ」

「今更な気がするけどな。アピールするには遅すぎるだろ」

「ねぇアピールって何のこと?」

「明日になれば分かるさ。ミラ、お酒いいかな?」

「はいはい」

 

翌日、ギルドに来てみればそこにはギルドのメンバーの殆どが集まっていた。マスターからの重大発表があると伝えられているからだろう。そして、ステージにかかっていた幕が降りるとそこにはマスターとS級魔導師(元含めて)4人が並んで立っていた。

 

「待ってました!」「今年は誰なんだ!」「早く発表してくれ、マスター!」

「これよりギルドの古くからのしきたりにより、S級魔導師昇格試験の出場者を発表する」

 

その一言で、ギルドは溢れんばかりの熱気と盛り上がりに包まれた。年に一度のビッグイベントというだけあって、その熱気も凄まじいものだ。

 

「会場は天狼島。我がギルドの聖地じゃ」

「「「おおっ!」」」

 

初代マスター・メイビスの眠るギルドにとって大事な場所で、妖精が住んでいたとも言われている。

 

「ワシはこの一年、参加するにふさわしき者を見極めてきた。そして今回選んだのは…ナツ、グレイ、ジュビア、レビィ、カナ、エルフマン、フリード、そしてメスト。最終合格者はこの8人の中の1人だけとする」

 

ナツやグレイが参加するとあって参加しないメンバーも誰が合格するのか当てようとギルドが騒がしくなる。そんな中でも構わずに説明を進める。

 

「初参加の者もおるからな、ルールを説明しておくぞ」

「まず1週間以内に選ばれた人はパートナーを1人決めてください」

「フェアリーテイルに所属していること、S級をパートナーにしてはいけないこと。それ以外の条件は基本、問わないものとする」

 

当然といえば当然で、もしもギルダーツをパートナーにすれば試験どころではなくなる。この試験ではギルド内のメンバーと組むことで仲間同士の連携も試されるという寸法だ。

 

「試験内容はあっちで説明するが今回もエルザには貴様らの邪魔をしてもらう」

「「えええっ!!」」

「私も邪魔する係しまーす!」

「「はぁぁあ!?」」

 

まさかミラが試験官をするとは思わなかったのだろう、あちこちから悲鳴とも取れる叫び声が上がる。

 

「文句言うなお前ら。S級になる奴ァこうやって一人前になったんだ」

「これくらいの苦難を乗り越えなきゃS級になれん。地獄よりキツい仕事もある…それの謂わば練習だ」

「まさかあの二人まで…」

「勝てる気がしねぇよ」

 

S級4人が邪魔しにくるだけあって、早くも絶望的な顔をしている者までいる。

 

「選ばれた8人とそのパートナーは1週間後にハルジオン港まで一緒にくるように。以上」

 

説明も一通り終わり、気づけばみんなで同じテーブルに着いて話し合っていた。話題は当然S級試験と妨害してくる4人のことだ。

 

「こりゃ厳しいな、S級とは絶対当たりたくねぇ」

「燃えてきたぁ、今度こそあいつらをぶっ飛ばしてやる!」

「あんたたち初めてなのね、意外だわ」

「ぬおおお!漢エルフマン、S級が一気に遠のいたか!」

「た、大変ですね」

「みんな頑張って!」

 

自分の実力を試したい、親と再開したい、もっと大きな仕事をしたい。この試験への想いは様々だ。

 

「そういえばみんなパートナーって決めてるの?」

「俺はハッピーと組むぞ」「あい!」

「おい、試験がレースとかだったらずるいじゃねえか」

「俺は構わねえぞ。バトルになったら困るだけだ」

「酷いこと言うね、グレイ」

 

仲間との連携も試されるこの試験では信頼できる人と組む。最も、バトルを想定して組む人が多いのが現実だが。

 

「そういうあんたは、グレイ?」

「俺は去年から決めてたんだ。な、ロキ?」

「みんな久しぶりだね」

「ロキ!?」

「お前、いいのか?さっきギルドに所属してなきゃダメだって…」

 

エルフマンの指摘もごもっともだが、そう言われるのが分かっていたのか背中の紋章を見せてきた。

 

「僕はまだフェアリーテイルの魔導師扱いなんだ。それとルーシィ、今回は自分の魔力できたから魔法が使えないなんてことにはならないから心配しなくていいよ」

「なんて勝手な星霊なの?」

「頼りにしてるぜ」

「任せて。僕の力で君を必ずS級にしてみせる」

「2人ともあんな仲よかったかしら?」

 

自分の知らないところで仲良くしていたとは知らず、若干嫉妬混じりに怒っていた。そんな中、ジュビアはリサーナと、フリードはビッグスローと、エルフマンはエバーグリーンと次々にペアを決めていく。離れた席では何があったのかレビィとガジルがパートナーになったみたいだ。

 

「なんだ、もうパートナーが決まったのか?早いねぇ、俺なんてギリギリまで決まらなかったのに…まぁラクサスと組もうなんて、どうかしてたが」

「なんで今年に限って4人も…」

「しょうがないだろ。今年はS級が2人も辞めたんだし、選抜メンバーも多いからさ」

「クッソォ、ついてねぇ!」

 

頭を抱えるグレイをスルーしてテーブルに混ざった。

 

「んなことはないだろ。俺とギルダーツはまだ優しい方だぞ?」

「「それこそねぇよ!!」」

「あれ、そうか?」

 

グレイとエルフマンはこれでもかと言わんばかりに反論し、横からウェンディが説明していく。

 

「ジンヤさん強いですから、手加減でどうにかなると思えませんよ。それにエルザさんとかもいますから」

「そんなものか。まぁ、無理はするなよ」

 

そう言ってテーブルから離れた。

 

S級魔導師昇格試験。それぞれの想いを抱えて、その日はやってくる。




今アンケートやってます。活動報告にあげてますのでよろしくお願いします。


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第68話 選択した道

どうも、ぽおくそてえです。今回から島での試験開始です。

それでは本編どうぞです。


「暑い…鎧だときついな」

「海流の影響なんだっけか?」

「とりあえず、ルートに別れようぜ。ここより中の方が涼しいだろ」

「そうね、そうしましょうか」

 

試験当日、皆より先に島に辿り着いたS級4人は8つに別れたルートのどこか4つで待つことになった。

 

「“運のいい”奴が誰なのか、面白そうだな」

『楽しんでおるな、ジンヤ。そんなに奴らと戦うのが良いのか?』

「ああ。この一年でどれだけ成長したか、正面から確かめるいい機会だ」

『ふっ、それもそうじゃな』

「さてと、誰が来るかねぇ」

 

まだ見ぬ挑戦者に想いを馳せ、気分を高揚させていた。

 

======

 

「見えてきたぞ!」

「あれが天狼島!?」

「すげえ形だな。島の上に島がくっついてるような…」

「うぷっ、まだ…か…?」

「ナツ、もうすぐだよ」

 

島の近くで待機している船には選ばれた8人とそのパートナー、そしてマスターが乗っていた。

 

「あの島にはかつて妖精が住んでいたと言われている。そして初代マスター、メイビス・ヴァーミリオンの眠る地じゃ」

「そんな場所で試験をやるのか…」

「これより一次試験の内容を発表する。まずはあそこの煙が立ってる島の岸に行ってもらう」

 

少し離れたところには白い煙が一本、ゆらりと立ち昇っていた。

 

「あそこまで行った後、8つの通路のうち1つ選ぶんじゃ。ただし、1つの道につき1組しか選べん。そこを突破すれば合格とする」

 

地図を出すとそこには闘の文字と激闘の文字が浮かんでいた。その2つの違いが何なのか疑問に持つ者もいる。

 

「なぁ、そこに書いてある“闘”と“激闘”の違いってなんだ?」

「よく気づいた。この“闘”は別々に入ったメンバー同士で“闘”ってもらう。もう1つの“激闘”はS級魔導師とぶつかる最難関ルートという訳じゃ」

「邪魔をするってそういうことか。納得したぜ」

「この一次試験の目的は“武力”、そして“運”!」

 

その運という言葉に“そんなのありか”と言わんばかりに口をあんぐりと開けてしまう。

 

「さあ始めい!試験開始じゃ!」

 

そんな彼らを見てニヤリとほくそ笑みつつ、試験開始を伝える号令が下された。

 

=====

 

一方、島の方にも試験開始を伝える笛の音が聞こえてきた。

 

「……俺たちの出番って訳か。来い、挑戦者!」

「ふふふ、楽しみだ」

「誰が来るかしら?」

「久しぶりだな。胸が踊るぜ」

 

既に来ているS級魔導師4人も挑んでくるであろうペアが、いつ来るのかと待ち遠しく思っている。

 

「…一組目、来たか」

『ふむ、この声は雷神衆の男の方2人じゃな』

 

ジンヤの発達した耳には最初に来た2人を既に捉えていた。

 

「それにしても2組目と少し時間差があるな。術式でも使ったか…っと3組目も来たな」

 

外で水を弾き、砂を蹴る音が聞こえる。そのうちの1つがだんだんと近づきつつあった。手の届きそうな距離まで近づいてきたのはー。

 

=====

 

「すごい…魔力が溢れてる」

「大地からプレッシャーを感じる…」

 

島にやってきたのは2組目、レビィとガジルだ。フリードの作った術式をいち早く潜り抜けてやってきたのだ。

 

「どこのルートにする?」

「じゃあFで行くぞ」

「なんか理由でも?」

「直感だ」

 

ルートFを選んだ2人は薄暗い洞窟を抜けていく。少ししたところで洞窟が開け、明るくなってきた。

 

「あっ!道が開けてきた!」

「さあ誰と戦えるんだ?」

「…俺だ」

 

そこに居たのは難関S級魔導師の1人、獣人のジンヤ。レビィからしてみれば一番当たりたくなかったパターンだ。

 

「ええ!?」

「へっ、まさかテメェと殺りあえるたぁな」

「運がなかったな、お前ら。今回は俺が試験官を務めてやる」

 

果たして2人は無事突破できるのか!




はい、というわけでレビィ・ガジルペアと戦うことになります。
本格的に戦いを書くかはまだ未定です、はい。
S級が4人いる関係で“静”ルートは無しです


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第69話 vs獣人

『FAIRY TAIL』本編が完結したみたいですね、ぽおくそてえです。自分も頑張って完結させようと思います。

試験の部分はかなりサクッと終わらせました。


「よく来たなレビィ、そしてガジル」

「私、運なさすぎでしょ…」

「俺としちゃあラッキーなんだよな。ギヒッ!」

 

ガジルは『強い奴と戦える』という目的が達成されようとしているだけあって気持ちが昂りつつあったが、隣のレビィはげんなりしていた。

 

「長々と話すのもガラじゃないんでね。始めようか」

「テメェを倒して先に進んでやる!」

「なんかすごいやる気…私帰りたい」

 

涙目のレビィを横目に先に動いたのはガジルだ。

 

「鉄竜棍!」

「(キレがあるな。ファンタジアで共闘した時より動けてるじゃねぇか)」

「オラオラァ!」

「だが…まだまだ甘い!せいりゃあ!」

 

連撃の隙を突き、崩撃を繰り出して思い切り吹き飛ばした。

 

「ファイア!」

「うぉっ!」

「鉄竜剣!」

「危ねぇ!」

 

ガジルの特攻でようやく吹っ切れたのか、間髪入れずにレビィの攻撃が襲いかかる。復活したガジルと連携をとり、少しずつ追い込んでいく。

 

「やるじゃあねぇか」

「よく言うぜ!」

「速いよぉ〜」

「伊達にS級を十数年もやってないんでな…『センザンコウ』!」

 

しかし、後一歩というところが出ない。獣の能力を惜しまず使い、上手く避けていってしまう。何発か当たったが、頑丈な外殻を前に対してダメージを与えられずにいた。

 

「クソッタレ、まともに当たりやしねぇ!」

「悪いことは言わない、諦めて…」

「まだ諦めないよ!」

 

最初は弱音を吐いていたレビィだったが、その目には道を拓こうとする本気の眼に変わっていた。

 

「一つ提案だ」

「な、何?」

「本気の一発を撃て。それで合否を決める」

「勝たなきゃいけねぇんじゃなかったのか?」

「そんなもんこっちの裁量でどうにでもなる。来い悟空!」

 

相棒となって久しい如意棒を構え、2人の出方を伺う。

 

「鉄竜の咆哮!!」

「吹っ飛ばして!ウィンド!」

「(ユニゾンレイド!?)『金剛如意』!」

 

両者の力がぶつかり、轟音が鳴り響いた。あまりの振動に島中の鳥たちが一斉に飛び去っていく。

 

「ぶっ倒れろぉ!」

「いっけぇ!」

 

2人の全力の攻撃に少し押されていく。意志の強さが個の強さに勝ろうと、先に進もうとしているのが分かる。

 

「(個の力もさながら、仲間との絆もか。楽しませてもらえたな!)これで最後だ、奥義『三宝親和』!」

 

========

 

「ま、参りました」

「倒せなかったか…」

「2人とも合格だ、先に進め」

「いいの?」

「試験官がOK出してんだ、当たり前だろ」

 

久しぶりに良いものを見たと言い、先に進むためのゲートを開けた。

 

「二次試験はマスターが直々に見る、厳しい試験になるだろう。覚悟は出来てるか?」

「「望むところ!」」

「お前達なら出来る、頑張れよ」

 

晴々とした表情の2人を見送り、休憩地のテントに向かった。

 

一次試験合格者が集まる場所には今回五組が集まっていた。カナ、レビィ、エルフマン、グレイ、そしてナツが合格して二次試験に挑もうとしていた。

 

「今回は結構突破したみたいじゃな。それではこれから二次試験を始める、準備は良いな?」

「「「「「押忍!」」」」」

 

第二の試練への幕が切って落とされた。




11年休みなく連載した真島先生は凄いの一言に尽きますね。


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第70話 死の恐怖は突然に

どうもです、ぽおくそてえです。テストやレポートがほとんど終わりましたので投稿です。もう夏休みに入った学校も多いらしいですね。
宿題のペースは計画的に。
と、まあ話はこれくらいに本編どうぞです。


二次試験は『6時間以内に島にある初代マスター・メイビスの墓を探すこと』という比較的単純な内容だ。単純な内容だが、かなりシビアだ。何故ならー

 

「何この島ー!!」

「急げルーシィ!」

「いやぁー!」

 

この島には巨大な魔獣や凶暴な鳥などが数多く生息する魔境のような場所だ。そんな中で時間以内に探すことなど至難の技だ。

 

「なんつー島だ。厳しいってこれのことか」

「私死んじゃうかも…」

 

この二次試験で脱落した者は数多くいる。魔獣に襲われて大怪我をした者、疲労によるダウンで脱落した者、時間以内に見つけだせずに折れた者など数え始めたらきりがない。

 

「S級になるにはこれくらい乗り越えねえとな!」

「たいした強がりだ」

 

6時間も猛獣に追われ続け、精神も体力も消耗し、思考力も纏まらないことも多々ある。

 

「あっち行くぞエバーグリーン!」

「うっさい!少しは静かにしなさい!」

 

この二次試験は極限下での知力、持続力、そして冷静な判断力を見ているのだ。

 

「俺の邪魔を…するなぁー!」

「あーあ、ナツの前に出るからだよ」

 

一名だけやりたい放題だが。二次試験が始まって早々にゴールである初代マスターの墓にジンヤがやってきた。

 

「…誰かと思えばお主か、ジンヤ」

「墓参りだよ。初代と仲が良かったっていうご先祖様と話したくてよ」

「ルミナ殿か…あの人にはワシも色々と世話になったな」

 

初代の墓とその隣にある小さな祠に用があって来たのだ。ジンヤ自身は話でしか知らないが、そこには曽祖母が眠っている。

 

「ルミナ殿は優しいお方じゃった。小さい頃に親を亡くしたワシの母親代りになってくださってな、ギルドを引退なさるまで色々と世話になったもんじゃ」

「そんなことがあったのか」

「懐かしいもんだ、今でもよく憶えておる」

「そうか。これも縁なのかもな」

 

数分ほど静寂が包んだ後、気が済んだのかお供え物を置いて立ち上がる。

 

「それじゃあ島の巡回に行ってくる」

「頼むぞい。ここの魔獣もお主の言うことしか聞かぬからな」

「の、ようだな。また後でな」

 

====

 

「漢はいかなる時も逃げるべからずー!!」

「黙って走りなさいよー!」

 

イノシシのような大きい猛獣から逃げようと全速力だ、突っ込む余裕もほとんどない。

 

「ブモォーー!!!」

「危ねぇ!」

「えっ…きゃあ!」

 

巨体から繰り出された攻撃をギリギリで躱すが、エバを庇った時に勢いのあまり近くの穴に落ちてしまった。

 

「うおお!」

「きゃああ!」

 

ゴロゴロと転がり落ち、気づけば先程とは違う森に出ていた。

 

「た、助かったわ。でも抱きつくなんてどういうことかしら?」

「仕方ねぇだろ。それにしても見つからないな、初代の墓」

「落ち着いて考えましょ…っ!誰!?」

「人がいたんだ?誰もいないと思ったのに」

 

今後の事を話し合っていると茂みの方から1人の青年が姿を見せた。受験生でもなければ関係者でもなく、2人にとって初めて見る顔である。

 

「あんた何者?ここはギルド関係者以外立ち入り禁止よ」

「そうか…ギルドの管理する島だったんだね。知らなかったよ」

「テメェ、ナメてんのか!」

「来るな!来ない方がいい…死の捕食が、始まってしまう」

 

苦しそうに頭を抑えたと思えば黒い波動が体から溢れて広がっていく。周りの草木を枯らしながら2人へと近づく。

 

「伏せろぉ!」

「うおっ!」「んあっ!」

 

ギリギリのところで2人を押さえつけたナツのおかげで事なきを得た。顔を上げてみると周りの木々が枯れ、地獄と化していた。

 

「おい、お前ら大丈夫か!?」

「ナツー!急にどうしたの!?」

「いきなりドス黒いもん感じたんだ」

 

見廻中に異変に気付いたジンヤとナツのペアのハッピーが追いつき、事の発端を起こした青年を見る。

 

「凄まじい力ね。周りの植物が一瞬で…」

「どうするよ。迂闊には近づけばさっきのやつの餌食だぞ」

『( …こやつは!)また来るぞ、離れて伏せろぉ!』

 

魔力の急上昇を感じ、大声で叫んだ。全員離れた直後に再び黒い波動が大地を覆った。煙が消えて晴れ渡った頃にはもう既に先ほどの青年の姿は消えていた。

 

「何だったんだ…あいつ…」

「あんな危険な奴が紛れ込んでいたとは…俺はすぐにキャンプに向かう。お前らもなるべく固まって行動してくれ、さっきみたいな奴がいたら困る」

「気をつけてよ。嫌な予感がするわ」

 

妖精の住むと言われる天狼島。その近くには黒き魔導師を狙う悪魔が密かに近づいていた。




はい、というわけで本格的に天狼島編入ります。次はまたしばらく先になりそうです。

画力欲しい…。あと今回名前だけ出てきたご先祖様ですが、本編では出ない可能性の方が高いです。


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第71話 深淵、訪れる

どうもです、最近投稿が順調に進むぽおくそてえです。

で、早速次回の話なんですが、あちこち行く予定があるので一週間ほどはどうなるか分からない、とだけお伝えします。

それでは本編どうぞ!


謎の青年と一悶着あったものの、ナツたちのやることは変わらなかった。

 

「ねぇ…試験どうなるの?」

「あんな不気味なヤツがいるんじゃねぇ。中止じゃないかしら?」

「俺は諦めねえぞ!」

「俺もだ!姉ちゃんの弟としてS級になる義務がある!」

 

S級になる為、どんな障害があろうと絶対に最後まで諦めない。S級に対する気持ちは簡単には消えそうにない。

 

「よっしゃあ!試験続行だ!」

「行くぞエバーグリーン!」

「指図すんじゃないわよ!」

 

====

 

「あら、ジンヤじゃない。遅かったわね」

「色々ありすぎてな。エルザ、ジュビア、今から3人で見回りをするぞ」

「どうしたんですか急に」

 

驚き戸惑うジュビアたちに先ほどあった一件やその魔導師の特徴を伝えると次第に険しい表情へと変えていく。

 

「まさか侵入者を許すとは。分かった、行こう」

「嫌な予感がしますね。皆さん無事だといいのですが…」

「ミラたちはここで待っててくれ。誰か来たら今のことを伝えろよ」

「無理はしないでね」

 

テントにミラとリサーナを残し、急ぎ足で島を巡っていく。その頃、島には大きな戦艦が静かに近づいて来ていた。バラム同盟の一角、グリモアハートの所有する空飛ぶ船だ。

 

「遂にあの伝説の黒魔導師ゼレフを目覚めさせる時が来たか」

「しかしそれにはフェアリーテイル、あのオラシオンセイスを壊滅に追い込んだギルドの主力との衝突は必至。大きい障害になることは避けられないかと…」

 

そうマスターハデスに進言するのはかつて評議院に潜入していたウルティアだ。慎重な姿勢を示す彼女に突っかかったのは金髪の男だ。

 

「なーに言ってんだウルティアさんよ。あんな奴らはよぉ、俺っちの炎の敵じゃねぇってよぉ!ウハハハハ!!」

 

黒炎を纏って高笑いするこの男、名をザンクロウ。

 

「敵を侮るな、ザンクロウよ。メェたちは戦争をするのだ」

 

そんなザンクロウを窘めているのはヤギの姿をしたカプリコ。

 

「解き放て、俺たちの欲望(デザイア)…」

「ウ、ウーウェ…」

「これはギルド同士の総力戦。震えよ、俺たちの(カケラ)

「じ、じじじ自分もそな気がしま!」

「いや、なんつった今!?」

「解読…『自分もそんな気がします』」

 

キザなセリフをポンポン吐くリーゼントの眼鏡男ラスティローズと、どもりつつ早口でものを言う相撲取りのような巨漢、華院=ヒカル。

 

「メルディ、貴女戦える?」

「戦い…うん」

 

ウルティアに聞かれて静かに答えるメルディ。

 

「お主にも出てもらうぞ、ユマ。異論はあるまいな?」

「マスターの仰せのままに…」

 

壁に寄りかかっているユマは澄ました顔で呟いた。

 

「面白い、面白いではないか。今宵は悪魔と妖精の戯れ、喰って誇るか喰われて散るか…決戦だマカロフ、そして妖精たちよ」

 

====

 

その頃ガジルとレビィは…

 

「なんなんだこの試験ってのはよぉ!やれ道を選べだのやれ墓を探せだの!ほとんど戦えてねぇじゃねえか!俺はエルザやサラマンダーとやりあえると思ってたのに怪獣の相手ばかりかよ!」

「あー、うるさい」

 

いろんな魔導師と拳を交わせることを期待していたガジルにとっては些か拍子抜けたものだ。今の所まともに戦ったのは一回のみ、しかも勝てなかったのだ。かなりのストレスが溜まっているようだ。

 

「私のことはどうでもいいの?」

「それとこれとは別だろうがよ」

「じゃあ、なんでさっきから戦うことばっかりなのよ!全然私のことなんて…」

「構ってほしいのか?俺と対等に張り合えるようになったら考えてやるぜ、小せえ奴」

 

真剣に悩む彼女をからかうように頭をポンポンと叩くガジルは全くとりあおうとしない。

 

「どうせ私は小さいわよ…弱いわよ…」

「あっ?」

「もう知らない!!ガジルのバカァ!!」

「んだとコラァ!もういっぺん言ってみろ!」

 

嫌気のさしてしまったレビィはその眼に涙を溜めつつガジルを放って走り去ってしまう。

 

「(何よアイツ、ちょっとはいい奴になったなぁと思ったのに。やな奴…大嫌い!大嫌い!嫌い…)」

 

森を1人静かに走っていると後ろの茂みからガサッと音が聞こえ、ガジルなのかと声をかけたが返事が来ない。その代わりに2人組の男が襲いかかって来た。

 

「な、何よあんたたち!」

「答える義理もなし…やれ、カワズ」

「えっ?きゃああ!」

 

刀を持つ侍のようなヤギと鶏男。頭を狙った一太刀をなんとか躱したものの、ヘアバンドを切られてしまう。しかもいつの間にか後ろに回り込んだのか、鶏男に押さえつけられてしまう。

 

「まずは1人…」

「いやぁー!」

 

レビィに向かって振り下ろされた刀。しかし、それは彼女に当たる前に止められた。ガジルだ。

 

「ったく小せえと探しにくいんだよ」

「ご、ごめん…」

「だから俺から離れるんじゃねえ」

「うん」

 

その言葉に嬉しさと恥ずかしさを感じつつ立ち上がる。襲いかかってきた敵を見るとその鎧や首元にはギルドのマークが入っているのが見えた。

 

「こいつら何者だ?」

「あのマーク…グリモアハート!?なんで闇ギルド最強がこの島に?」

 

妖精と悪魔、衝突。どちらが散るか、その行く末は…?




はい、というわけで今回はここまでです。次回もお楽しみに〜。


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第72話 悪魔の侵略

どうもお久しぶりです、ぽおくそてえでございやす。

1週間ほど空きまして申し訳ないです。
それでは本編どうぞです!


「マスターは試験内容に闇ギルドを置いてんのか?」

「そんな訳ないでしょ。こいつらどっかから勝手に入ってきたんだよ」

「多少のトラブルくらいは対処できなきゃな。S級となれば尚更だ。ぶっ飛ばすぞ」

「でも闇ギルド相手に勝手に戦ったら…」

 

ガジルの提案にも反応は鈍い。違法の存在とはいえ闇ギルドもギルドの内、勝手に戦ってはこっちが法に触れかねない。

 

「ぬはははは、これだから正規ギルドは!規則、規則で息がつまりそうじゃのう!」

「戦争にルールなんてないペロン」

「戦争だぁ?」

「あんたたち何しに来たのよ!何が目的!?」

「簡単なこと…ここにいる妖精を狩りつくすことなり!」

 

そう言い切ると、『轟』という字から耳をつんざくような爆音があたりに鳴り響く。

 

「なんだあれ、お前と同じ魔法か!」

「あれは東洋の『固体文字(ソリッド・スクリプト)』!?」

「だぁー、うるせぇ!」

 

耳を塞いでも聞こえる音に聴覚の優れるガジルは思わず顔を顰める。

 

「ガジル、来てるよ!ガジルってば!」

 

後ろから来るカワズの接近を知らせるが、轟音の影響で注意しても全く聞こえていない。このままではやられると感じた彼女は耳から手を離し、襟元を思いっきり引いて間一髪攻撃を躱す。

 

「ペペペッ!」

「卵?」

「エッグバスター!」

 

振り向きざまに吐き出した卵を拳に変えて、次々にガジルたちに追い打ちをかけてきた。

なんとか抜け出したガジルをヨマズの刀が連携して攻め立ててくる。

 

「(くそっ、あの魔法のせいで足音さえ聞こえやしねえ!)」

固体文字(ソリッドスクリプト)静寂(サイレント)!」

 

苦しい状況を打開したのはレビィだ。音を出す魔法に静寂の魔法をぶつけ、元の状態に戻した。

 

「我が魔法を打ち消しただと!?」

「そこか…鉄竜棍!」

「ぬぉっ!」

「ファイア!」

「ぺぺッ!?」

 

邪魔な音が消え、まともに動ける様になった2人は少しずつ反撃する。しかし、その反撃も虚しく、逆にまた押し返される。

 

「くそ…俺の鉄の鱗が…」

「死にゆけ、暗黒剣・鳴咬!」

「(くそっ、ここまでか)」

 

必殺の一太刀を浴びせようとした刃は鉄竜に届くことなく阻まれた。エルザの金剛の鎧が2人を守ったのだ。

 

「そこまでだ、侵入者ども」

「エルザ…どうしてここに居る?」

「ガジルくん、レビィさん、この薬を飲んでください」

「うん、ありがとう」

 

一度距離をとって剣を構え直す。

 

「この、もう一度!」

「おい」

「貴様いつの間に…ガハッ!」

「寝ていろ」

 

後ろに回り込んでいたジンヤの眠りの能力で意識を持っていかれ、ヨマズはそのまま地面に倒れ伏した。

 

「グリモアハートが入り込んでいたとは…」

「私たちはテントに戻ってるね」

「そうしてな。それよりテメェらの目的、そして構成メンバーを吐いてもらおうか」

「そんな簡単には吐かないペロン」

 

そう易々と言ってたまるかと頑なに断るが、エルザの繰り出した頭突き一発にひれ伏すハメになった。

 

「話せ、さもなくばもう一発だぞ?」

「わ、分かったペロン。話せるだけ話すペロン」

「(人の頭がぶつかる音じゃなかったぞ、今の)」

「(ドカンって…凄まじいですね)」

 

味方の恐ろしい一撃に冷や汗を流す2人を余所にカワズはポツポツと目的を話し始める。

 

「自分たちの目的はゼレフ、黒魔導士ゼレフペロン」

「バカな!ゼレフは何百年も前の人間、生きているはずがない(だって、あの時ジェラールは…)」

『それがおるんじゃよ、今でも。先ほど見かけた奴がそうじゃ』

「あいつか。厄介な話になって来やがったな」

 

400年間ずっと生きてきたゼレフが完全に復活した時には世界が闇に包まれる。その世界を目指し、ゼレフを狙っている。

 

「ここはフェアリーテイルの聖地。その神聖な島で狼藉を働くつもりか!」

「関係ないペロン。マスターハデス直属の『煉獄の八眷属』がいる限り負けはないペロン。しかも既に1人はこの島に…」

「(いつの間に!)」

「くっ、試験は中止だ!総員戦闘配備、コンディション・レッド!迎撃態勢に入れ!」

 

====

 

その頃、島の一角では一次試験に脱落していたメストとウェンディが探索に来ていた。

 

「メストさん、あの信号弾って何の合図でしたっけ?」

「ん、あれ?うーん、何だったっけ?」

「ええ!?メストさんも覚えてないんですか?」

「(マズイな…本隊が来る前に動かねば…)」

 

メストは島で起こっている何かに内心焦りを感じる。すぐに行動を起こすべきと判断したが、そこにやって来たリリーとシャルルに止められる。

 

「ウェンディー!すぐにそいつから離れなさい!」

「シャルル、リリー!何でここに?」

「そんなことはどうでもいいわ。メスト、あなた何者?」

「え…何者って、俺はミストガンの弟子で…」

 

その言葉を遮るようにリリーの拳が真後ろにある岩を砕く。

 

「お前は何者だ、ギルドの人間ではあるまい」

「な、何のことだ」

王子(ミストガン)が弟子を取らないのはギルドの全員が知っている。お前と接点を持つ者の名も挙がらぬし緊急信号を知らないとなると尚更怪しい…」

 

リリーの詰問に徐々に顔を伏せていくメストは次の瞬間、姿を消した。

 

「消えた!?」

「(いや…これは、瞬間移動か!)しまった!」

「ウェンディー!」

「あっ…」

 

気付いた時には既に2人の後ろ、ウェンディの目の前に来て驚く彼女の腕を掴んでいた。

 

「危ない!」

 

リリーが駆けつけようとした瞬間、突如起こった爆発から守るように彼女を引っ張った。

 

「攻撃!?何事だ!」

「(ウェンディを守った?)」

「誰だ、出てこい!」

『ほう、今のを避けるか?流石だね』

 

声のする方を見ると、木から人の顔が現れ、徐々に全身を現して行く。

 

「木から人が!?」

「な、何者なんだ!?」

『俺の名はアズマ。グリモアハート、煉獄の八眷属が1人』

 

ここに来てさっきの信号弾が敵の出現を知らせるものと気づいた。しかも闇ギルド最強の一角グリモアハートの襲撃だ。

 

『ふむ、いま気づいたところで遅いとでも言っておこうか』

「一体何がどうなっているんだ!」

「黒魔導士ゼレフにグリモアハート…フェアリーテイルの聖地ならきな臭い話の1つや2つあると踏んでいたが、まさかこんなヤマに当たるたぁ俺ももついてるぜ」

「あんた…一体!」

 

シャルルの言葉に冷や汗を流しながら振り返って答えるメストから衝撃的な言葉が飛び出した。

 

「まだ気づかねえのか?俺は評議会の人間だ、フェアリーテイルを潰すためのネタを探しに来たんだよ。本拠地不明のグリモアハートまで釣れるとは思わなかったけどな、今日こそ我らの軍艦で一網打尽にしてやる」

『ほう、それはそれは。だが、無駄な努力というものだね、あの軍艦は役に立つまい』

「なっ!?」

 

いつの間に仕掛けたのか、沖合数百メートルは離れている評議会の軍艦が木っ端微塵に爆散していた。

 

「それじゃあ仕事を始めていいかね?」

「全員下がってろ…」

 

悪魔の進行は本格的に進み始めていた。



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第73話 『呪音』あらわる

どうもです、またしても遅れまして申し訳ないです。ぽおくそてえです。
それにしてもここ最近は梅雨に戻ったかのように雨が降ってますね。おかげで予定が狂ってます。早く晴れないかな。

それでは本編どうぞです!


「初代マスター、メイビス・ヴァーミリオン、そしてルミナ殿よ…」

 

2人の墓前でマカロフが語りかける。

 

「ギルド聖地たるこの島に敵を招く不祥事になんと失望させてしまったことか…」

 

数分前に上がった赤い信号弾に敵の侵入を知った彼は、己の不甲斐なさを呪った。

 

「罰はワシがいくらでも受けましょう。だから…ガキどもだけは守ってくだされ(貴女の曾孫のためにも、何卒…ルミナ殿)」

 

小さな巨人が静かに立ち上がった。それと同じ頃、森で仲間の捜索を行うエルザ達の耳には大きな音が聞こえた。

 

「なんかすごい音がしたな」

「爆発、でしょうか?」

「もう本隊とやらが攻めて来たのか。これからどうする?」

 

敵の迅速な行動に驚くものの、冷静に質問するエルザ。そんな彼女の質問に返したのはジンヤだ。

 

「ジュビアとエルザは引き続き捜索をしてくれ、俺は捜索をしつつ敵を叩きにいく」

「1人で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない。俺には相棒がいるからな」

「そうか…しっかり頼むぞ、悟空」

『任された!お主らも無茶だけはするでないぞ?』

 

それぞれの動きが決まり、早急に対応するために駆けていった。

 

====

 

「何をしたの?」

「爆発!?」

「戦艦が…あんな簡単に…」

「ぬぅ…うおおおお!」

「リリー!?」

 

謎の爆発に動揺するメストを横目にリリーは元軍人なだけあって、すぐに気持ちを切り替えてアズマへと突撃する。

 

「無謀な。『ブレビー』」

「ぬぉっ!この…オラァ!」

 

右手をかざすと、爆炎がリリーを包んだ。しかし、それでも怯むことなく前へと進んでがら空きの顎を殴り抜けた。

 

「まだまだ甘いね」

「なに?」

 

かなりの腕力で殴りつけたものの平然としているアズマ。彼の言葉の真意がわからないうちにまたしても爆撃を食らってしまう。しかも周りにいたウェンディやメストまで風圧で吹き飛ばされる。

 

「(剣さえあればもっと)」

「リリー!『剛腕(アームズ)×俊足(バーニア)』!」

「おおっ(体が軽い。これなら爆発魔法も躱せる!)」

 

ウェンディのかけた強化魔法のおかげで動きやすくなったリリーは『煉獄の八眷属』の1人相手に上手く立ち回る。敵がリリーに目線が行っている隙に、メストに協力を仰ぐ。

 

「メストさん、私たちに手を貸してください!あいつを倒しましょう!」

「何を言ってんだ!俺はお前達のギルドを潰そうとしてるんだぞ!」

「絶対潰させはしませんから!」

 

その強い決心の表れに、思わずたじろいでしまう。

 

「…分かった。とりあえずあいつの排除を優先しよう。ただ、今回だけだからな」

「はい!」

「俺はどうすれば良い?」

「では…」

 

策を伝えているうちにもアズマとリリーは激しい攻防を続けていた。

 

「リリー、上空に行って!」

「…うむ!」

「どこに逃げても無駄だね」

 

シャルルの指示で上空に逃れたリリーを追撃せんと、腕を空へと向ける。

 

「(ダイレクトライン!後ろは貰った!)」

「(このゼロ距離なら…天竜の咆哮!)」

 

ガラ空きになった背後をメストの瞬間移動でゼロ距離に詰め、ウェンディの最強魔法でカタをつけようとした。しかしー

 

「つまらんね。それではダメだ…『タワーバースト!』」

「「「「うわぁあぁあ!!」」」」

 

まるで来るのが分かっていたように全員を巻き込む爆発魔法を発動した。塔のように登る広範囲の爆炎に逃れる術なくやられていく。

 

「くっ…(戦闘モードも、時間切れか)」

「このギルドは女と猫ばかりなのかね?期待は出来そうにないな」

「(コレが…煉獄の八眷属の実力か。フェアリーテイルには…勝ち目はないのか!?)」

 

全てを片付け、去る背中を見つめることしか出来なかった。

 

====

 

「さっきから爆発の回数が増えてるな」

『誰かとぶつかっておるな。ウェンディとメストとやらが相手しておらねば良いがの』

 

聴覚の優れるジンヤの耳にも微かながらも何度か爆破の音が漏れ聞こえてくる。

 

「急いで向かわねえと…うおっ!」

 

急ぎ足で向かおうとした時、凄まじい震動と轟音、そして森にいても目立つほどに立ち昇る爆炎が見えた。あまりの衝撃に思わず手をついてしまう。

 

「(何があったんだ…)」

『…上じゃ!』

「えっ?なんだこりゃ?」

 

遠くに向けていた視線を上にやると、なぜか人が大量に降ってきていた。

 

「これが本隊か」

 

その頃、他のメンバー達もグリモアハートに取り囲まれていた。

 

「空から人が降るなんて…天気予報見とくんだった…」

「多分無理だろうぜ。それより…あれが全員敵なのかよ!」

「なんて人数だ」

 

それはミラとリサーナのいるテントや道中の様々な場所に現れていた。

 

「ミラ姉、協力して倒そう」

「もちろん。貴女は私が守るわ」

 

道中のエルフマンとエバの周りやエルザ達の近くにも当然現れている。

 

「漢たるもの侵略者は許さん!」

「なんでこうも面倒ごとが起こるのよ…」

「凄まじい数だな」

「まだ来ますね。ジンヤさんは無事でしょうか?」

 

中には先行したアズマを除くすべての八眷属も混じっていた。

 

「やれやれ、騒々しい連中の到着か」

「ヒャッホー!」

「捧げよ妖精の(サクリファイス)

「任務開始。妖精の殲滅とゼレフの回収を優先」

「う、ウーウェ。なぜ自分だけこうなのでありますか?」

「ゼレフ…この島にいるのね」

「あの猿が居るなら、この手で必ず…」

 

悪魔の軍勢は妖精を食らわんと、遂に本土決戦に駒を進めた。

 

====

 

「全員の首取ったるわぁ!!」

「「「うあああ!!」」」

 

巨大なゴリラに変身し、周りにまとわりつく有象無象を片っ端からその拳で蹴散らしていく。

 

「うははは!こんなもんか!」

「つ、強い」「噂以上だな」「俺たちじゃ…」

「最強のグリモアハートの軍勢相手に良くやるわね。全員戻りなさい、あなた達でどうにかできる男じゃないわ」

「ユマ姐さん!」

 

下っ端達の間を抜けてやって来たのは煉獄の八眷属『呪音のユマ』。

 

「来たか…」

『ほう…中々の別嬪さんやのう』

「惚けてる場合か悟空」

「悟空…?(まさかこいつがお母様の仇?)」

 

不穏な気が流れるなか、2人の魔道士は戦いに向かおうとしていた。




はい、というわけで『呪音のユマ』をオリキャラとして出しました。能力に関してかなり悩みました。なんか、ロスト・マジック縛りみたいなのがあるんですよね、グリモアの煉獄勢。とりあえず次回も頑張って書きますのでどうぞよろしくお願いします。


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第74話 恐るべき呪音

どうも、ぽおくそてえです。能力を考えるのは難しいですね。

とりあえず、短いですが本編どうぞです!


「まさかあの猿が化けてこの島に…」

「何のことかさっぱり分からんが、やるってんだな?手は抜かねえぞ」

「…いいわ、全てを呪ってあげる。木の悪魔たちよ(ル・アーブル・ド・ディアブロ)目覚めよ(レヴェイエ)!」

 

黒い笑みを浮かべ、聞き取れないほどの声で口上を述べる。すると、地面を突き破るように木でできた悪魔が出て来た。10体程の悪魔は意思を持つようにジンヤめがけて飛びかかってきた。

 

「何だこれ…悪魔か?」

『気をつけろ、これは唯の魔法でないぞ!闇魔法…深淵に近い魔法ぞ!』

殺れ(トゥエル)

 

号令1つで取り囲む魔人たちが一斉に腕を振り下ろしたが、間一髪で逃れ、一箇所に固まる木偶の坊を持ち前の剛腕で打ち砕いていった。

 

「あいつの声に反応してるのか?」

『言葉で命令を出して歌で継続性を持たせる、と言ったところかの?』

「音系譜の魔法か。厄介な…(敵との距離は17メートル半。中々の広範囲攻撃だな)」

「まだ行くわよ…顕現しなさい(ラ・マニフェスタシオン)紅蓮の焔よ(フラーム・ルージュ)!」

 

木の人形たちが崩れると共に1つの大きな炎が人の形に膨れ上がっていく。

 

「(今度は炎か…これは一々相手をしている場合じゃないが、やるしかないか)多重・練水砲!」

 

腹を膨らませ、密度の高い水玉を吐くと炎が一気に吹き飛び後ろにいたユマの近くまで当たって水柱を上げる。しかし、それでも徐々に元の形に戻り、何事もなかったようにジンヤの目の前に君臨した。

 

「何をしても無駄よ」

「それはどうかな?(蝶虫遁術・反照鱗粉隠れ!)」

「こ…コレは!視界がっ!」

 

手を合わせると一瞬にして背から二対の羽が生え、周り一帯に光を反射する目眩しの蝶の鱗粉が舞う。

 

天の風よ(エル・ラファール)荒れ狂いそして吹き飛ばせ(テンペテール、ウン、エクスフラーテ)!」

 

巨大な炎の魔人は風に変わり、突風となって周りを覆う鱗粉を晴らし、視界を元に戻したが既に敵の姿はなかった。

 

「…逃げた?」

『獣人式捕縛術・土竜穿孔』

「しまった!」

 

地中から伸びた2つの腕に膝下を掴まれ、首より下を地面まで一気に引き摺り下ろされた。

 

「終われや…」

「詰めが甘いわね。大地よ(テーレ)!」

「(地面が…くそっ!折角捕らえたのに!)」

 

口を封じるより前に地面を操り、距離を空けるとともに地面から抜け出し、しかもゴーレムを造り出して攻めに転じてくる。

 

「隙ありよ、『魔曲・夢幻の怨歌(ミラージュ・シャンソン)』!」

「ぐっ!(こっ…これは…幻術か?体が…)」

 

紫色に広がる波紋は瞬く間に広がり、抗う隙を与えず、ジンヤを夢へと誘った。目の前にはさっきまでいた島ではなく、灼熱の荒野と彼を縛る無数の鎖だった。

 

「(なんだ…この幻は)」

「私の魔法、『呪歌』の敵ではなかったわね。苦労したけど…あとはこの短刀で斬るなり刺すなりすれば終わりよ。あの世で後悔なさい」

 

動くことのない親を奪った仇の片割れを前に刃を振り上げ、恨みを乗せて勢いよく振り下ろした。




はい、エマとの本格戦闘開始です。彼女の技のルビはフランス語なのですが、適当な翻訳です。
彼女の恨み関係は次の回で説明できればと思います。


【挿絵表示】


ユマのイメージ挿絵です。(2017/09/06)


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第75話 ユマの過去、その惨状

はい、今回は過去編を1話で圧縮して作りました。内容は微妙かと思いますが最後まで読んで頂ければと思います。しかし、過去編ってかなり難しいですね。無い頭を一番捻った気がします(内容は薄っぺらいですが…)。

それでは、本編どうぞです!


「(この一振りであのバケ猿との因縁も終わる!私の失った過去との決別だ!)」

 

====

 

遡ること5年前、マグノリアから少し離れた場所に小さな集落があり、そこでは何事もなくただ平和な時間が流れていた。

 

「お母様、野菜取ってきたよ!」

「良くやったわ、頑張ったわね」

 

この集落で暮らす者たちは争うこともなく、各々好きなように過ごしていた、ごく普通の人々だった。

 

だが平穏は長くは続かない。厄災は突然に訪れる。

 

「隣の村が怪物にやられたらしい」

「またか。これで何回目だ」

「何人か死んだそうじゃねえか」

「ここに来なきゃいいけど…」

 

この集落の付近で次々に村がバケモノに破壊されるという災害のような事件が起きていた。

 

「お母様、何の話です?」

「貴女は何も知らなくていいわ。ほら、早く寝なさい」

 

真剣な表情と流れる不穏な空気に戸惑うが、それ以上は話さないと言う母の言葉を素直に聞き、涙目になりながら家に戻った。その次の日から集落では重苦しい空気が流れた。

 

「評議会も近隣のギルドも取り合おうとしなかったよ」

「見殺しにするつもりか」

「我々のような小さな村では仕方あるまい」

「全員は無理だが、子供と母親たちだけでも避難させよう」

 

武装なき村が襲撃を受けたら反撃できないことは火を見るより明らかだった。犠牲者を1人でも減らすつもりだ。

 

「でも…」

「大丈夫だ。お前たちなら生きていけるさ」

 

それが平穏と呼べる最後の日となった。集落の数少ない少年少女とその母親たちは怪物の現れない内に村を離れた。

 

「なんで逃げなきゃいけないの?」

「変なバケモノが村の近くに現れたんだと。父ちゃんがそう言ってた」

 

山の上を見やればそのバケモノが暴れているのか、所々で火柱が上がっており、激しい地鳴りが轟いた。

 

「そんな…家が、村が……」

 

驚く彼女たちの元に厄は非情にも襲いかかってきた。

 

「主ラノ血ヲ寄越セ!」

「こんなに早く…」

「ユマ、逃げなさい」

「で、でもお母様…」

「最後まで良い子で聞きなさい。これが最後のお願い…さあ、早く!」

 

ここで別れたらもう会えない、そんな不吉な予感がしていたが、涙をこらえて、振り返ることなく走り続けた。そして逃げること数時間…集落も遠くになり、あのバケモノも何処かへと姿を消していた。一緒に逃げていた子供達も結局、自分を逃がすために犠牲になってしまった。

 

「お母様、皆…この恨み、魂魄尽き果てようと必ず晴らします!」

 

逃げ延びた最後の少女は月夜に照らされた小道を1人、生きていくために只ひたすらに歩いた。

 

それから数ヵ月、孤児院で暮らしていたユマの元に初老の男が訪ねてきた。その風体からは尋常ならざる雰囲気をつくりだしていた。

 

「魔法?私が?」

「お主なら深淵の魔法に近づけよう…その名も『呪音』、音の魔法だ。ワシとともに来れば仇に出会えよう」

「私の…仇…」

「左様、お主の親を殺めた孫悟空に…」

 

その時からだった、1人の少女が仇を討つために深淵の魔法に染まったのは…。

 

====

 

「これで終わりよ…」

 

怨恨の篭った一振りは勢いよく振り下ろされた。

 

「舐めるなよ小娘」

「なっ!?」

 

幻術にかけられて動けないはずの男が刀を止め、あまつさえ喋ったのだ。あまりの出来事に冷や汗が止まらない。

 

「(どうやって!しかも刀が離れない!)」

「ジンヤのやつ油断しやがって、全く…」

 

眠る男と心身を入れ替えた悟空の目覚めの時だった。




次回からはジンヤ→悟空に選手交代です。


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第76話 罪と恨み

どうも、ぽおくそてえです。せっかくの夏休みが先週は雨のせいでほとんど何もしていませんでしたが、小説の進みは相変わらずです。

それでは、本編どうぞ!(次から原作の流れに戻ると思います)


「(こいつ、どうやって今の一瞬で入れ替わった?)」

「(動きが鈍った…好機!)」

「グッ!」

「逃がすか、ってのぉ!」

 

突然の変身に動揺した隙を狙い、重くて素早い拳を何度も振り抜いていく。

 

「(しつこいわね…封じろ、粘着する水よ(ブロクエル、アデシオン・ラ・エキュート)!」

「なんじゃこれは…粘液か?」

「(動けずに徐々に苦しむがいい…)」

 

粘土のように絡みつく水が徐々に動きを奪い、そして気づけば周りの森をも包むほどの濁流になっていた。

 

『我に水中を動く活力を…閉水の術!』

「これもダメか…」

 

そんな濁流をも割って現れ、ユマをなおも驚かせる。危機を感じた彼女は自分の寿命さえも蝕む禁術に手を出す。

 

「呪劇『死屍操演』。出でよ、死霊たち!」

 

ユマの一声に反応し、地中からは何十という異形のものどもが唸り声をあげて這い出てくる。

 

「(なんて数だ、覚悟ありか…)」

「これで終わりよ!」

 

緊迫した空気が流れる中、先に動いたのはユマのバケモノだった。何体も寄ってたかって暴れ始めた。

 

「危ないのう。死ぬかと思ったわい」

「余裕で避けておいてそれはないでしょ…ってね!」

「(さっきより疲れが見えておる。体力の消耗が激しいみたいじゃな…早くケリをつけてやるか)」

 

己が力を示すように寄ってくる有象無象を次々に蹴散らし、怪力乱神が如き立ち回りを魅せる。

 

「(これ以上壊されてたまるか!)…第二幕『紅月舞踏会』」

 

次々に倒される化け物を見てもまだ冷静なユマはすぐに気持ちを切り替え、残った二十体程に火を纏わせる。

 

「(退かぬか。ならば、こちらもやるしかないのう…)『身外身の術』!」

 

自分の体毛を抜き、力を込めてばら撒くと自分と同じ姿の者たちが本体の悟空を囲むように現れてユマを驚かせる。

 

「分身?(こいつ…変わっているな)…攻めろ(アターケ)!」

「行け、ワシの分身たちよ!」

 

死せる怨霊と生ける猿魔の勢力は大きな衝突を起こし、一進一退のせめぎ合いの様相を呈していた。

 

「さて、お主の燃える人形はワシの分身たちが遊んでくれよう。その間、この孫悟空と戦って頂こうか?」

「貴方は親の仇、そして故郷を奪った化け物。生かしては置けない…」

「ならば、全力で参られよ」

「そのつもりよ、最終幕『鬼神阿修羅』」

 

死なば諸共。そういった気概を示すように命を生贄にする禁術の最後の形態を己が身にかけ、赤い蒸気が噴き出す。

 

「それがお主の覚悟か。本気で行くぞ、大武仙『闘将・軍鶏』!」

 

髪が逆立ち、トサカのように一部が黄色く光る。

 

「終わらせましょ?」

「当たり前じゃぜ…」

 

一陣の風が両者の間を吹き抜け、静寂が流れる。風に吹かれた一枚の葉が落ちた時、2人は同時に動き出した。

 

「はあぁああぁ!!」「でりゃあぁあ!!」

 

様々な思いがこもった拳が交錯した。そして最後まで立っていたのは、悟空の方だった。

 

「私は…この程度の、存在だったの?」

「…済まぬな、お主の親御さん達のことは全てワシの責任よ。じゃが死ぬ訳にはいかぬ」

 

地に倒れ、天を仰ぐその目にはほとんど生気が無く、もはや生きることは叶わない状態だった。

 

「お母様と暮らす幸せは、大魔導世界は…すぐそこにあったのに…ハデス様、申し訳ありません」

 

亡き母への想いとハデスへの謝罪を口にした途端、命の糸が切れてそれ以上は動かなかった。そんな彼女を見て、改めて自分にのしかかる罪の重さを実感するのだった。

 

「(これがワシの罪、か。己の非力さゆえ、大勢の家族を壊してきたんじゃな…)」

 

最期まで仇を忘れず、全力で来た少女の姿に、何かを魅せられた気がした。最後に自分の罪を気づかせてくれた少女の亡骸をそっと側の木に預けた。

 

「済まない、名も知らぬ少女よ。ワシは…」

『生きろ、悟空。お前がやったことは自分で償うしかないんだよ』

「相棒…」

『殺めた分はこれから助けていけ。例え消せなくとも、それがお前にとって罪への清算になると思えるならな』

「そうじゃな…とりあえず交代しようかのう、ワシは疲れた」

『全く…ま、おかげで助かったがな。ゆっくり休みな』

 

罪を見つめ直そうとする殺戮を繰り返した者と、憎しみに囚われて最期まで戦い続けた少女の決戦はここに終わりを告げた。




はい、というわけでユマ戦終了です。次は華院戦になるかと思います。


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第77話 呪いの人形使い、華院=ヒカル

どうもです、毎度お馴染みぽおくそてえです。気づいたらUA30000でした!ありがとうございます!

というわけで、特別何かやるわけではありませんが今回は早めに投稿します!本編どうぞです!


八眷属の1人を倒し、散り散りの仲間を探す為に再び森を駆け、木々を飛び回る。

 

「思ったより時間を食ってしまったな」

『他の奴らが戦っててもおかしくないぞ!』

「だから走ってんだろうが!(間に合えよ)」

 

====

 

悟空とユマが雌雄を決している頃、八眷属のゾルディオ(カプリコ)がロキの手によって倒された。カプリコに憑依していた男が消滅したことでルーシィの元には新しい星霊が仲間になっていた。

 

「ねぇ、ここから別れない?八眷属ってやつ、手分けして探した方がいい気がするの」

「敵が居るんでしょ?私やだよ1人になるなんて〜」

「こういう時は纏まって動くもんだろ。さっきのヤギ男みたいなのがいつ出てくるとも分からねえだろ」

「それでもよ。早く試験を再開させるにはこれが最善。それとも1人で動くのが怖いって訳?」

「…分かった。気をつけろよ」

 

そんな中、カプリコと戦っていたロキを除いたカナ、ルーシィ、そしてグレイの3人で行動していたが、カナの提案で別れることになった。

 

「ルーシィ、悪いんだけど私たちも別行動よ」

「そんな〜!1人なんて無理だよう!」

「そう言わずにさ。それに、いざって時には私が作ったこのカードがあんたの助けになるから」

 

そう言って一枚のカードを懐から出し、ルーシィに手渡した。

 

「何これ?」

「ルーシィに何か危険が迫った時に私の持ってるもう片方のカードに知らせてくれる特注品さ」

「うう、これ嬉しいけど、できれば2人で行動したいな」

「ごめんね、でも試験再開のためだからさ」

 

そう言って驚き惚けてポツネンとしているルーシィを置いて、カナは走り去っていく。そんなルーシィの近くでは草むらがガサガサと動き、思わず鍵に手を伸ばしてしまう。

 

「…誰!?」

「俺だよ。そう構えんなって」

 

背後の草むらから現れた味方のジンヤに安堵のため息を吐いた。

 

「そういえばカナはどうした?さっきまでそこにいた気がしたんだが…」

「どっかに行っちゃった」

「俺が言えた義理でもないがこういう時は団体行動が基本だろうに」

「タイミングばっちりだよ。来てくれなかったら1人だったし」

「何考えてんだか、こりゃあ不合格だわ」

 

カナの自分勝手な行動には只々呆れかえってしまい、頭を抱えてしまう。試験前に伝えた“協力”を放棄した彼女には厳しく当たらざるを得ない。

 

「信号弾見てるだろうから知ってるとは思うがグリモアの連中が攻めてきてる。さっき1人敵将を片付けてきたところでね」

「やっぱりそうなんだ。早くカナを探さなきゃ…」

「まだそう遠くには行ってねえんだろ?それじゃあ、そう難しくない。で、どっちに行ったんだ?」

 

不安を口にするルーシィを諭し、カナが走り去った方向に向かって歩き始めた。

 

「それにしても一次試験突破、頑張ったな。相手誰だったんだ?」

「フリードとビッグスロー。ギリギリだったけど、なんとかね」

「ほう、あの2人か。流石だね」

「私もカナも、ファンタジアの時より強くなってるんだもん!」

「ははは、こりゃあ頼りになりそうだ!」

 

2人で仲良く話しているとまたしても草むらが揺れ、そこから出てきたのは2メートルはあろうかという華院=ヒカルだった。

 

「敵でありますか。め、面倒でありますな…ウーウェイ…」

「こいつ誰?なんかふざけた感じがするけど…」

「敵を見た目で判断するなよ。こいつもさっきのユマと同じような嫌な魔力持ちだ」

「ユマを倒したとならば、敵で間違いなさそうで……それじゃあ始めようか。我が魔法、『丑の刻参り』をとくと味わえ」

 

そう言って懐から取り出したのは『呪』の一文字が書いてある小さな人形だった。

 

「人形?あれでどうするのかしら?」

「東洋の魔法に確か似たもので藁人形なるものがあった気がする。そいつは釘を使っていたが…」

「なかなかの知識量っすね。自分のこの人形『ノーロさん』は髪の毛をつけると色々と操れるっす」

「「喋って良かったの、それ?」」

 

今まで会ってきた敵で戦う前に能力を話した人間はヒカルが初めてだった。その失態に初めて気づいたのか、大袈裟なまでに驚き、ルーシィとジンヤはその間抜けさにかなり呆れていた。

 

「まあいい、始めようか。ルーシィ、2人で協力して倒すぞ。俺は前、お前は後ろだ」

「うん、了解!」

 

2人の久しぶりの共闘が始まった。




カプリコとザンクロウは犠牲になったのだ…というわけで、ザンクロウ戦とカプリコ戦を飛ばして華院=ヒカル戦です。


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第78話 『丑の刻参り』

どうも久しぶりでございます、ぽおくそてえです。多分今回の戦闘描写はあまり上手く書けなかったですね。元々原作ではネタ回だったのでシリアス風に書くのが難しかったです。

それでは言い訳はこの辺にして、本編どうぞです。


「煉獄の八眷属が1人、華院=ヒカル、手は抜かないっすよ」

「…変化、黒犀!」

 

相撲の四股踏みの姿勢で猛スピードで突っ込んできた。重機関車のように進む彼を止めるためにジンヤはサイに変身して正面きってぶつかり、地面がひび割れるほどの力が加わっていた。

 

「(こいつ、なんてパワーを出してんだ!?)」

「どどすこーい!」

「うぐっ…!」

 

能力を使った怪力もヒカルに押し返され、ツッパリ一発で近くにある木の近くまで吹き飛ばされた。

 

「開け、金牛宮の扉『タウロス』!」

「モーウ!」

「どどすこーい!」

「フモゥッ!る、ルーシィさん…モーしわけありませぇん…」

「ええ〜!?」

 

勢いよく召喚されたものの、こっちも張り手でやられ、すぐに姿を消すことになってしまった。

 

「吹き飛べ、斉天の剛腕!」

人形(ノーロさん)チェンジ、『鉄』!」

 

懐に飛び込んで一撃を当てたものの、鋼鉄に変わった身体は微動だにせず、大きな山のように佇んでいた。

 

「こいつ、予想以上のパワー型だな」

「タウロスが一撃でやられるなんて…」

「自分、これでも八眷属の1人なので」

 

二人掛かりで挑んでいるのにいまだ余裕さえ見せる巨漢に、冷や汗がルーシィの頰を伝う。

 

「このノーロさんがあれば鉄のように硬く、そして綿のように軽くなれるっす」

「(こりゃあマズイな)おいルーシィ、ちょっと耳貸してくれ……」

「……なるほど、やってみる」

 

バラム同盟の一角を担うギルドの主力なだけあってかなり厄介な存在だ。一刻も早く無害化しようとジンヤの策に則って、腰の鍵に手を伸ばす。

 

「開け、人馬宮の扉『サジタリウス』!」

「呼ばれましたからして、もしもし!」

「足を狙って!」

「了解でありますからして!」

 

弓を数本まとめて引き、脚に向けて一気に放たれた。

 

「こんなもの、無駄なだけっスよ」

「(くらえ、『鋭爪』!)」

「(後ろが取れた!行ける!)」

 

足元に向かってくる矢をへし折っている隙を狙い、ガラ空きの背後から長く伸ばした爪を脳幹に向けて振り下ろした。

 

「無駄っスよ、ホントに…人形(ノーロさん)光源体!!シャイニングどどすこーい!!」

「ガハァッ!」「ジンヤァ!!」

 

完全に後ろを取ったかに見えた一撃も光を纏った一発を前に反撃をくらい、またしても吹き飛ばされてしまう。

 

「何度やっても無駄っすよ、自分は強いっすから」

「ゲフッ…これ、な〜んだ?」

「それって…な!?ノーロさんが奪われてるっす!」

「ついでに毛も抜かせてもらったぜ。ま、苦肉の策だがな」

「返せっす!」

 

頼みの綱であるノーロさんを取り返さんと、必死に後を追ってくる。パワーアップがなくなったからか途端にパンチが当たり始め、少しずつ足元がふらつき始める。

 

「待つっす…はぁ、はぁ…はひっ!」

「この人形はもう使わせねぇぜ」

「私たちの勝ちよ。(契約まだやってないけど…)開け、磨羯宮の扉『カプリコーン』!」

「お待たせしました、ルーシィ様」

「なっ、ゾルディオさん!?」

 

先ほどまで味方だった男が敵となれば驚くのも無理はない。彼の人間離れした武術を前にダメージを重ねていく。

 

(メェ)はゾルディオではありません。ルーシィ様の星霊、カプリコーンでございます!」

「んがっ!」

「これで終わりだ…『斉天の大剛腕』!」

「ウウェーイ!?」

 

はち切れんばかりに膨れ上がった左腕によるストレートは疲れ切ったヒカルをノックダウンさせるには充分なパワーだった。

 

「俺たちの勝ちだ」



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第79話 その輝きは…

どうも、ぽおくそてえでやんす。まだ夏休みがあるのでしばらくは週一くらいなら投稿できるかと…
それでは本編どうぞです!


「やれやれ、ここまで苦戦するとは…」

「敵逃げちゃったけど良かったの?」

「あのまま追っても勝てないだろう。相手が降りればそれでいい」

 

苦戦しながらも華院=ヒカルを撃退することに成功した2人は体力と魔力切れでその場にへたり込んでしまった。

 

「ウェンディたちを探したいとこだが、いったい何処にいるのやら」

「一旦キャンプまで戻らない?そこに皆いるかもしれないし」

「分かった、そうしよう」

 

他の皆がどうしているのか気になった2人は緊急集合場所のテントへと急ぐことになった。

 

====

 

ルーシィと別れ、1人でメイビスの墓を目指して歩いているのはカナだ。

 

「ここのEルートに初代の墓が…一番乗りで来れた」

 

毎年墓参りに行くジンヤの身体に付いていた花の一片は一時試験場のしかもこのルートに多い。ここに来ればおそらくゴールにたどり着けるだろう。

 

「これで私が合格。私がS級魔導師になれる」

 

自分にとって大時な人に会う為に、伝える為にS級試験を受けて、今回が最後のチャンスだと大きな決意を心に秘めて挑んでいる。

 

「光…もしかして…」

 

ふと横を向くと、穴があいていて、そこから光が漏れ出していた。たどり着いたものを祝福し、迎え入れるかのような暖かい光が…。

 

====

 

「ナツとウェンディがこっちに来てるんだね!」

「うむ。何事もなければシャルルが案内してくれよう」

「回復してくれる人が来てくれるなら安心ね。お兄ちゃんもお姉ちゃんも、エバにガジルまで怪我してるから…」

 

テントには連絡係のリリーと負傷しているメンバー、そしてその看病に当たっているリサーナとレビィがいた。ジンヤたちが捜索に出た後、アズマの襲撃を受け、テントはボロボロになり、負傷者が増えている。雨が降りしきる中で、仲間を待つ。

 

「手負いのマスターも連れてくるはずだ。少し遅れるかもしれん」

「マスターまで。でもこんな時だからこそ皆で力を合わせなきゃ!」

「諦めも大事さ」

「誰!?」

 

森から出てきたのはエルフマンとエバを倒した無限に物を作る『具現のアーク』使い、ラスティローズ。

 

「俺の(カケラ)が叫んでいる。妖精を残らず食い殺せと!」

「(くそ、戦闘モードを維持できるか!?)」

「こんな時に…(私たちはもう戦えるほど力が残ってないわ!早く来てナツ、皆!)」

 

====

 

「そうか、カプリコーンって奴、さっきまで敵だったんだな?」

「なんか操られてたんだって」

「それは大変だったな」

 

2人でフラフラしながらも歩いているとナツとウェンディ、エクシードの3人と大怪我を負っているマスターと鉢合わせた。

 

「ルーシィさん!それにジンヤさんまで!」

「お前ら、ボロボロじゃねえか」

「しょうがねえだろ、二連戦は流石に応えるって」

「そうか。とりあえずキャンプに戻るぞ、話はそれからだ」

 

このまま追撃しても善戦はできないのを二回戦ったことでよく分かった。全快といかなくてもまともに動ける状況になる為にも致し方なく退くことになった。

 

「(しかし、マカロフがやられたとなるとハデス攻略は難しいな…)」

「どうしたんですか?何か考え事でも?」

「ああ、相手のマスターにどうやったら勝てるかをな」

 

ギルド1の実力者であるはずのマスターを一方的に叩きのめしただけあって、そう易々と勝たせてくれるとは思えない。しかもこちらは戦力が少ない上に傷だらけだ。

 

「どんなに不利でも俺たちは諦めねえぞ。仲間に手を出した以上はあいつらを島から出させはしねぇ」

「当たり前よ」

「あいさー!」

「そうだな」

 

一致団結して敵にあたる覚悟を決めて歩いていると、不自然に雨が降っている場所があった。

 

「誰か居るぞ?」

「な、なにこの魔力…」

「肌がビリビリするよ…」

「また敵か、クソッタレ!(急がねえといけねえのに!仙法『獅子奮迅』!)」

 

目の前を歩いているだけで重くのしかかり、肌を突き刺すような痛みを感じる。

 

「今日は飛べるかなぁ…いや飛べねえなぁ」

「何を言ってんだ、お前」

「テメェらくれえのガキじゃ足りねぇんだ…堕ちろ」

 

グリモアの副司令、ブルーノートが手を下に降ろした瞬間、前触れもなく重力がズドンとかかり、地面が陥没してそこにいた全員が押しつぶされた。

 

「うあああ!」

「きゃあああ!」

「じゅ、重力魔法か…(範囲が広すぎだろ!?)」

 

あまりに強力な圧力に立ち上がるどころか腕をあげるのさえ一苦労だ。そんなフェアリーテイルのメンバーを見下ろしながらポツリポツリと喋る。

 

「俺は正直、フェアリーテイルの連中にもゼレフにも興味ねえんだよ。一つだけ、欲しいものがこの島にある」

「ぐっ…もしや、アレを!?」

「ああ、テメェの予想通りだろうよ。フェアリーテイル初代の墓はどこにある?」

 

====

 

「これで私もやっとお父さんに、会える!」

 

皆がピンチを迎えている頃、メイビスの墓にたどり着いたカナの目の前では墓が光り輝いていた。

 

「な、何よこれ…」

 

その墓の隣ではもう一つの墓がある男を待っているかのように淡く光が灯っていた。

 

「お墓が…光っている?」




次80話ですね。いやぁ長かった…


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第80話 心を育てる糧となれ

どうも、ぽおくそてえデス。80話目になりましたが、まだあのオヤジは来ません。多分次回です。

それでは本編どうぞデス!


「何、この光……うあっ!」

 

墓の真ん中に空いた穴に触れようとしたが、それを拒むように強い衝撃に弾かれてしまう。

 

「妖精三大魔法の一つ、妖精の輝き(フェアリーグリッター)ここに封じる…ですって?」

 

妖精の法律(フェアリーロウ)と同等以上の力を持ち合わせる妖精魔法最強の矛の一つだ。

 

====

 

妖精の輝き(フェアリーグリッター)、テメェらのギルドが持ってる三大魔法なんだろ?そいつを寄越してくんねえか?」

「あれは、お前のような奴に使えるもんじゃねぇ!あの魔法は素質がなきゃあ到底…!」

「そんなもん、後でどうにでもなる」

「お前のような何処ぞの馬の骨とも知れねぇ奴に渡せるか!仙法青竜の咆哮!」

 

重力から抜け出し、目前まで迫ったジンヤの一撃を無慈悲にも吹き飛ばし、逆に重力で押し飛ばした。

 

「ぐあぁ!!」

「ジンヤァ!!」

「テメェに聞けばと思ったんだがな……お、そこでヨレてんのマカロフ?じゃあそっちに聞くとするか」

「てめぇ、じっちゃんに手ェ出したら許さねえぞ!」

「よせ、ナツ…こいつはお前では…」

 

ナツが叫び、立ち向かうが同じように吹き飛ばされる。実力差が大きいのは火を見るよりも明らかで、圧倒的な力を前に心が折れかける者もいた。

 

「ガハッ!」

「ナツゥ!」

「(こいつ、強すぎる)」

「(どうしよう…どうしよう…)」

「(誰か…来て!)」

 

 

その頃1人でメイビスの墓に来ていたカナだったが、誰もいないこと、そして墓の前に現れた謎の魔法に苛立ちを覚えていた。

 

「私はこんなのが欲しいんじゃない!試験はどうなってるのよ!マスターはどこ!?」

 

この12年、父親に会うためにこの試験に全てを注いできた彼女は必死だ。最後のチャンスだと思って臨んでいるのだ、このまま合格せずに終わるなんてことはできない。

 

「やっと、やっとS級になれると思ったのに!!私はこんなところで諦めたくない!」

 

カナの頭にはこの12年の思い出がよぎった。

 

====

 

12年前、母の病没時に自分に父親がいることを手紙で知り、その父を探すうちにフェアリーテイルにたどり着いた。父の名はギルダーツ、フェアリーテイル1の実力者であり、当時のS級の中でジンヤと双璧を成していた。

 

「こんなところで何してんだお嬢ちゃん」

「迷子か?」

「(お父…)」

「こんな所にいたら服が酒臭くなるぜ」

「お嬢ちゃん、ここに居たら危ねぇから早く帰りな。じゃあな」

「(なんで、気づいてくれないの?……言いそびれちゃった)」

 

言いそびれた言葉を伝えようと父の帰りを待つうちにギルドを出入りし、そのうちギルドに入るようになった。そんなある日に、ギルダーツと共に仕事に行った男が帰って来た。S級の1人でジンヤと言い、当時は2人しか居ないS級の1人としてよく仕事を共にしていた。

 

「おっ、確かギルド前に居たな。名前は?」

「カナ。このギルドに入ったの」

「そうか、結局ウチに来ちゃったのか。俺はS級の獣人、ジンヤだ。よろしく」

「…ねえ、ギルダーツは一緒じゃないの?」

「途中まで一緒だったけど、あいつは別の仕事に行っちゃったな。なんか用事でもあったのかい?」

「別に…」

 

ギルダーツは忙しく、偶にしか帰ってこない。しかもまたすぐに仕事に出かけてしまう。ギルドに帰っても人気者の彼の周りには常に誰かが居て、自分が話しかけることなんて出来なかった。

 

「ギルダーツ、偶には一緒に飲もうぜ!」

「おう、いいぞ」

「仕事先の話、聞かせてくれ!」

「もちろんだ。今回は……」

「(あっ…チャンス逃しちゃった…)」

 

ギルダーツの仕事にはジンヤがよく一緒に出かけていたし、ギルドにいる時は他の子達と遊んでいる姿が見られた。

 

「ギルダーツ、今度はこれに行こう」

「そうだな…って痛え!髪引っ張るな!」

「お兄ちゃんも遊ぼーよー!」

「俺もかよ」

「(良いなぁ…)」

 

勇気を持って話せないことが続き、つっかえた物を心に残しながら日々を過ごしていた。

 

「大きくなったなカナ」

「あっ…うん」

「ギルダーツ!列車に遅れるぞー!」

「はいはい、じゃあまたな…」

「(また、言えなかった…)」

 

あの時に伝えられなかった一言は心の重しになり、本当のことを伝えるのさえ辛くなってしまう。そんな自分にも転機が訪れた。きっかけはS級試験だった。

 

「私が?」

「頑張れよ。お前なら合格できるさ」

「うん!私、頑張る!(これに合格すれば、私だって!)」

 

これに合格したら真実を伝えようと心に決めたが、結果は四年連続の不合格。自分より後に入ったエルザやミラが先を越して次々に合格してS級になっていく。

 

「私は落ちこぼれ…お父さんとは釣り合わない。だからこれで最後にする。もしダメだったらギルドを辞めて街を出ようと思うんだ」

 

ルーシィに語った諦めに近い宣言。これに受からなければギルダーツの娘である資格がないと感じた彼女なりの決意だ。

 

「あたしがカナのパートナーになる!絶対合格させる!ギルドを辞めさせたりなんかしない!!」

 

====

 

「っ!!ルーシィ…」

 

思い出から呼び戻したのは1週間前にルーシィが涙ながらに言ってくれた言葉だ。腰にあるカードにはそのルーシィがピンチになった時に輝くカードが入っていた。

 

「何やってるんだ…私は…」

 

自分に手を差し伸べてくれた仲間を1人にして勝手に行動した事に、後悔のあまり泣き崩れてしまう。

 

「なんで私は…こんなことを!仲間を裏切るつもりはなかったのに!私はもうダメ…ううっ」

 

涙に濡れた顔を抱え、俯いてしまう。己の行動を恥じ、後悔の念に包まれる。しばらく泣いていたが、その手でまだ何かを掴もうという意思が体を前へと進ませた。

 

「……S級魔導師になれなくてもいい、お父さんに全てを伝えられなくてもいい。それ以上に私は…仲間を、みんなを守りたいんだ!」

 

あろうことか痛むのを承知の上でメイビスの墓の中心に手を伸ばし、光に思い切り手を突っ込んだ。

 

「もう何もいらない!みんなが無事ならそれでいい!フェアリーテイルにいられなくなってもいい!私がどこにいようと…心はいつも同じ場所にあるから!だからお願い、私にギルドを守る力を貸して!」

 

どんなに痛もうが、傷つこうが構わずに手を伸ばし続け、そう願うように叫ぶ。

 

「私は…このギルドが、みんなが大好きなんです」

 

涙を流しながらありったけの想いを紡ぎ出した。

 

『ならば何も怖れる事はない』

 

カナの強い意志に答えるように優しい声と言葉が頭に響く。

 

『過ちは人の歩みを止める枷にあらず、心を育てる糧である』

 

カナの右腕に光が伝わり、そして糸が巻き付くように力を与えて包み込む。

 

『初めから全てが出来るものはいない。しかし、そなたなら友を救えよう』

「(この声…マスター・メイビス、なんか安心する…)」

『さあ…行きなさい。仲間を想える美しき心を持つそなたに秘宝の妖精の輝き(フェアリーグリッター)を貸そう』

「はい…」

 

仲間を救う光を携え、皆を守る為に駆ける。その背を見守る二つの声が静かに響く。

 

『貴女の遺志をプレヒト、そしてマカロフが継ぎ、その次代が守り貫き通してるのね。それならあの力を正しく使えるわね』

『ええ、清く正しい心の持ち主で良かった』

『…さて、もう1人の後継者を待つか』

 

仲間を救うために森を駆け抜けるカナの瞳には自信で溢れており、力強いものだった。

 

「(私は一番大切なものの為に戦うんだ!これが私の最後の戦いになるかもしれないけど、12年分の借りは返すからね!フェアリーテイルのみんな!)」



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第81話 仲間を守るための力

どうも、ぽおくそてえです。今回は早めに投稿できました。今回の終章もストーリーの半ばまで来ています。頑張って最後まで書き上げたいです。

それでは本編どうぞです!


「オラァ!」

「ダラァ!」

「少し飛べそうか?」

 

『獅子奮迅』を限界まで無理やり解放しているジンヤや、八眷属のザンクロウと戦った時に出来た傷でフラフラのナツに対して、相対するブルーノートは余裕の笑みさえ浮かべている。

 

「火竜の咆哮!」

「堕ちろ…」

「斉天の剛腕!」

「ぐふっ!こいつ…」

 

2人で連携しているにも関わらず、決め手に欠けるパンチばかりだ。

 

「(力が入らねぇし『獅子奮迅』が維持できねぇ。ここまで、なのか…)」

「タフなヤローだ…」

「ガキばかりだと思ってたが、案外やるな。だが、それでも少々できる雑魚程度だ…」

 

短時間で何度も戦いをして来た身体には限界が来ていて、遂には膝をついてしまった。ナツも疲れからか、かなり息が上がっている。

 

「このまま殺してやる…」

「待ちなぁ!」

「カナ!」

「仲間をこれ以上傷つけさせはしないよ!」

 

マジックカードを一気に投げつけるが、重力で周りに吹き飛ばされ、爆風が当たらない。しかし、その隙に腕に付けた魔法を解き放ち始めた。

 

妖精の(フェアリー)…!」

「まさか、あの光は…クソが!」

「うあっ!」

 

あまりの輝きに危険を察知したのか、魔法が完全に発動するより前にカナを地面へと叩きつけた。

 

「テメェ、その魔法あの墓から!」

「もしかして妖精の輝き(フェアリーグリッター)!?」

「初代から譲り受けたってのか」

「ルーシィ、1人にしちゃってゴメン。でもこの魔法が当たれば確実に倒せる」

「鴨がネギ背負ってやってきてくれるなんてな…その魔法は貰っていくぞ」

 

攻撃を仕掛けてこないようにカナを魔法で地面へと押し付け、獲物を狙うかのように一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄る。

 

「あんたなんかに…この魔法は、使えない!ギルドの者にしか使えないんだ!」

「魔法は“一なる魔法”を根本に広がってきたとされている。魔導の深淵に近づき、真理を悟った者に使えない魔法なぞない」

「(“一なる魔法”?どこかで聞いた気が…)」

 

ブルーノートの言葉に聞き覚えがある。それを思い出そうとルーシィは重力に押さえつけられながら考え込む。そうしている間にもカナを魔法で浮かせ、搾り取るかのように締め上げていく。

 

「テメェごときの魔力で、超高難度魔法を使えるのか?」

「あた…りまえ…だ!」

「太陽と月と星の光を集めるその魔法、お前のような小娘より俺たちのところにある方がふさわしい!」

「うあああ!」

 

魔法に込めていた力を一段と上げ、目的の物をいち早く取り出そうと、カナを更に締め上げる。

 

「三種族の力よ、敵を貫く槍であれ!奥義『三宝親和』!」

 

重力場が緩んだ隙を縫い、持ち合わせる最大級の攻撃を振りおろした。ブルーノートを取り囲む三本の柱の間を光の刃が駆け抜けた。

 

「この…雑魚どもが!邪魔すんじゃねえ!」

「うわぁ!」

「ぐあっ!」

「ナイス、ジンヤ!集え、妖精に導かれし光の川よ!」

 

敵の拘束から抜け出したカナの右腕に強力な光が宿る。周りの光を集め、その紋章は邪を討つ破邪の刃へと変わる。

 

「照らせ、邪なる牙を滅する為に!」

「バカな!?」

「くらえ…妖精の輝き(フェアリーグリッター)!」

 

妖精三大魔法の名に恥じぬ威力に空気が震え、凄まじい轟音を発してブルーノートをいとも容易く囲む。

 

「当たれえぇええ!!」

「ぬおおお!!」

「(決まったか!)」

 

輪の距離はどんどん縮まり、全員が勝利を確信した。もう躱せないだろう、そう思われた。

 

「堕ちろぉ!」

 

重力で下に叩きつけられた魔法は、当たることなくねじ伏せられ、あたりに衝撃波と光をまき散らした。

 

「うわぁあ!」

「カナァ!」

「いくら魔法が強力でも術者が雑魚だとその程度なのか?ん?最強の魔法だと、笑わせてくれる!」

 

あまりの光景に絶句してしまう。そして魔法を使い終えてしまった反動からか、右腕から血が出てしまう。

 

「(そんな…私の力不足で…みんなを救えなかった)」

「知ってたか?魔法ってのは死んだ人間からでも取り出せるってのをよ。もうテメェは用済みだ」

「(ごめん、みんな。ごめん、お父さん…)」

「俺は今日も飛べず終いだ」

 

そう言ってカナに近づき、最後のトドメを刺そうと手をかざす。自分の力不足に涙を流し、諦めて静かに目を閉ざす。

 

「死ね…」

 

魔法を発動しようとした瞬間、2人の間に入り、ブルーノートを吹き飛ばす者がいた。皆の目線の集まるところにいたのは…怒りの形相を浮かべたギルド最強の男、そしてカナの父、ギルダーツ・クライヴだった。

 

「ギルダーツ!」

「来てくれたのか!」

「(お父…さん…)」

 

妖精の反撃の始まりだった。



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第82話 妖精の反撃

どうも読者=サン、ぽおくそてえです。投稿が前から少し空きまして申し訳ないです。その割には内容が大して進んでいませんが…。

それはさておき、本編どうぞ!


ギルダーツの思わぬ参戦に勝利への希望を見出し始める。

 

「やったぁ!ギルダーツが来てくれた!」

「危なかったぁ…」

 

彼なら勝てるだろう、そういう思いが活気になる。しかし、ナツたちが思っていたのとは違う言葉が出てきた。

 

「ジンヤ、ここにいる全員を連れて行け」

「1人で戦うつもりか!?無茶言うな!」

「良いから、ここから離れろ!!」

「こんな怒ったギルダーツ初めて見るよ…」

 

声を荒げ、怒りを露わにする彼にハッピーやナツは驚きを隠せない。

 

「行けぇ!」

 

後ろにいる皆を避難させるために敵の元へと駆ける。対するブルーノートも負けじと足場の地面を抉ってひっくり返した。

 

「地面が…!」

「ひっくり返ったあ!?」

 

しかし、ギルダーツもただでやられはしない。足場を崩して勢いをつけて飛び、殴りにいく。ブルーノートも迎え撃つように拳を突き出す。そして、ぶつかり合う強者の拳はあたりにある岩や木々を難なく吹き飛ばし、この世の物とは思えない衝撃波を生み出した。

 

「おわぁーー!!」

「きゃああ!」

 

巨大な魔力の激突にナツたちも当然巻き込まれ、崖に叩きつけられたり飛んできた石の下敷きになっていた。

 

「なんて魔力なの!?」

「すごい…」

「ありがとうシャルル…」

「え!?庇ってないわよ?」

 

今まで経験したことのない領域の衝突にルーシィもウェンディも驚くしかない。

 

「お、俺が押し負けたってのか!?」

「すげぇ…さすがはギルダーツだぜ!」

 

ブルーノートもまさか自分が押し返されるとは思わなかったのだろう、少しばかり驚いていた。

 

「これ以上、あいつの邪魔をするわけにもいかん。退こう」

「う、うん。でも…」

「……行こう、私たちが居たらギルダーツの邪魔になるわ」

「……うん」

 

真剣勝負をしている2人の近くにいてはまずいと判断したジンヤは、神妙な面持ちでいるカナと事情を知るルーシィを含めた全員を連れて先に離脱していった。

 

「大事な試験だった…大人が考えるより多くの感情が、ガキにはあったんだ。明日は歩き出すための奴らなりの決意を、テメェらは踏みにじったんだ!」

 

ギルダーツの顔は修羅のように怒りに染まっていた。

 

====

 

大きな魔力と拳の衝突が起こっている頃、島の中心の近くではアズマとエルザが人知れずぶつかっていた。

 

妖精女王(ティターニア)の名を持つ強者たるアンタには前々から興味があったんだ」

「闇ギルドに興味を持たれる筋合いもないし、強い者の称号も私にとってはどうでもいい。仲間を守るための力があればそれで構わない」

「その力が如何なものか、見せてもらいたいね」

 

天狼樹のふもとでまた一つ強者同士の戦いが互いの運命をかけて繰り広げられていく。

 

====

 

「ねぇ、大丈夫?歩ける?」

「俺のことなら心配いらん。それより早くキャンプに行かねえと…」

「止まれ!貴様らのキャンプとやらには行かせぬ!」

 

激戦区を離れ、テントに向かう一行を足止めしようとやって来たのはガジルたちと戦ったカワズとヨマズだ。

 

「貴様らを打ち取れとのハデス様からの命だ。弱っているなら我らでも勝てよう」

「ルーシィ、ウェンディ、先に行ってろ。俺とジンヤで食い止める」

「ありがとう。2人とも無事に戻ってきてね」

「ああ、必ず後で合流する。行け!」

 

連戦の傷と疲労を押し殺し、心配させまいと強がってみせた。押せば倒れてしまうのではないかという極限状態でも笑い、仲間の背中を押す。無事に走っていくのを確認し、目の前の敵へと視線を戻した。

 

「…ここは、なんとしても勝たねぇとな」

「案外強がりだよなぁ、お前」

「お前も人のこと言えねえだろうが、ま、久し振りに共闘と行こうかナツ。頼りにしてるぜ」

「ラクサスの時以来か…燃えてきたァ!」

 

秋のファンタジアの一件以来の共闘で、久し振りにコンビを組むことになった。対するグリモアの2人も、逃げたルーシィたちに興味がないのかあっさりと見逃していて、正面の2人に焦点を当てる。

 

「貴様らさえ倒せばあとは雑魚ばかりよ。先に狩ってやろう、行くぞカワズ!」

「さっきやられた借りは返すペロン!」

「俺たちを甘く見んなよ」

「これ以上荒らされちゃあ、ご先祖に顔向けできねえんでな…ここで倒すぞ」

 

仲間の安全を確保するため、敵を1人でも減らしたい。2対2の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

====

 

天狼島の戦いは一歩ずつ着実に、終劇へと向かい始めていた。きっと勝てると信じていた、まだこの時は…。

 

『グオオオオ!』

 

空から轟くその声を聴くその時までは…。



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第83話 奪われた魔力

どうもです、ぽおくそてえです。もう少しで学校が始まるので、できるだけ今のうちに投稿しようと思います。10月からはペースも落ちる可能性が高いと思いますが何卒よろしくお願いします。


「伸びろ如意棒!」

「防!」

「隙ありペロ…ペペッ!?」

「よそ見してんじゃねぇよ!」

 

ルーシィたちを逃してから数分、両者手負いながらも、互いの道を切り開くために必死に戦っていた。

 

「いい加減しつけえな」

「そう簡単には倒れねぇか」

 

一進一退の硬直状態で、倒すまでには至っていない。バラム同盟の一角の先鋒を務めるだけあって実力は本物だ。

 

「ゼレフと共に大魔法世界を作るため、貴様らには死んでもらおう!」

「やらせねえよ…この世界の魔法は皆の為にあるんだ、誰かが独占して良いもんじゃねえ!」

 

たとえ敵が強大だろうと、志を強く持ち、未来を作るために先に進もうと覚悟を決めるナツに、ジンヤは内心である決意をした。

 

「(もし俺がゼレフに負けて死んだ時は、お前がルーシィを守ってやってくれ、ナツ)」

 

====

 

天狼島の各地で悪魔と妖精が持てる力をぶつけ合い、均衡した状態を保っている。その一つの戦場では妖精女王(ティターニア)と大樹のアークの使い手、アズマが全力で戦っていた。

 

「くらえ、ブレビー!」

「ぐはぁ!」

 

爆発をくらうが、その勢いを利用して木の根っこを蹴りながら鎧の換装を瞬時に行い、反撃していく。

 

「明星・光粒子の剣(フォトンスライサー)!」

「ぐおお!」

 

二つの剣を前に向けて光線を放ち、アズマを勢いよく飛ばしていく。そこそこダメージをくらっているはずなのに顔には笑みを浮かべていた。

 

「何がおかしい?」

「俺はアンタのような強者を待っていた。その強者と戦えて楽しいね」

「楽しいだと?この戦いのどこが…」

 

戦闘狂とも取れる発言に苦虫を噛み潰したような顔をしたが、気にするそぶりも見せない。

 

「アンタの武勇はよく聞く。恐らくは俺と同じ人種、ただ強者を求めて戦う者の証」

「生憎、それには賛同できんな。私は強者を求めてなどいない」

「いいや、そうでなければそこまで強くなれはしない」

 

アズマの言葉を聞き、しかし確固たる信念を持つエルザは敵を見据えながら力強く言葉を返す。

 

「私は仲間を守る力があればいい。その力と引き換えなら、私は誰より弱くてもいい」

「ほう、フェアリーテイルらしい意見だ。だが、何を言っても結果は変わらんがね」

「どういうことだ?」

「時間切れだ。俺の魔法『大樹のアーク』は大地の魔力を支配できる。いささか不本意ではあるが、この島の魔力を時間をかけて支配させてもらったよ」

 

残念そうな顔をしているアズマと彼の言葉を信じられないエルザ。そんな2人をよそに島を震動が伝わる。

 

「これも命令だ。仕方ないことだ」

「貴様…私たちの聖地に何をしたのだ!?」

 

エルザの叫び声が響く中、島の象徴の天狼樹は徐々に傾き始めていた。まるで妖精をくらう悪魔が勝つと言わんばかりに。

 

====

 

「なんだ!?天狼樹が倒れ始めたぞ!」

「おお、策が成ったか!」

「こいつらを早く倒さなきゃ…」

 

何が起きているのか分からず混乱するナツとジンヤは敵を叩き伏せようと踏み出したが、なぜか身体の力が抜けていく。

 

「身体に力が入らねえ。どういうことだ」

「魔法が使えねぇ…」

『なぜワシの仙法まで…くそっ!』

 

この現象は他のところでも起こっていた。

 

「んがっ!ど、どうなってやがる…こんな急に…」

「アズマめ、余計なことをしやがって…ジジィの指令か」

 

ギルダーツも例外ではなく、突然魔力が抜けたことに驚きを隠せない。また、逃げているルーシィたちも魔力が抜け、その場で倒れてしまう。

 

「なんで急に…」

「力が入らないよ…」

「急に立ちくらみが…」

 

====

 

「マスター・ハデスはこの島をよく知っている。この天狼樹は不思議な力を持っていてね、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を刻むものに加護を与えて死を防ぎ、そして魔力の増強を司るそうだ」

「(だからマスターはここを試験会場に…)」

 

アズマの説明に納得がいくと同時に彼の目的に気づいてしまった。その天狼樹を倒すことで妖精の尻尾(フェアリーテイル)の弱体化、そして無力化を狙うことだ。

 

「だが、島の魔力をコントロールしてアンタの魔力はそのままにしておいた」

「なっ!?」

「いま島中の仲間が瀕死だ。救えるのはアンタだけだね」

 

エルザを見下ろし、戦いの続きを求めるように窮地へ追い込むアズマ。

 

「仲間を守るための力というのを、見せてもらおうか」

 

その言葉に睨み返すエルザは苦しむ仲間を救うために剣を取った。



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第84話 護るための力を

どうも、ぽおくそてえでヤンス。この最終章も結構長く書いてますがもう少しかかります。なので、完結までもうしばらくご辛抱いただければと思ってます。最後まで頑張っていきます。

それでは本編どうぞです。


ギルダーツの参戦で勝ちに傾きかけたが、アズマが天狼樹を倒したことで一気に情勢がひっくり返り、ピンチを迎える羽目になった。この島にいる妖精たちは与えられた加護を失い、魔力や体力を奪われ続けていく。

 

「何故こんなことを…」

「マスター・ハデスの作戦で妖精を1人残らず倒せとのことだ」

「ちがう。なぜ私の魔力だけそのままにしたんだ!」

 

全員を倒すなら自分の魔力だけを残しておくことに納得がいかない。1人だけ残しておけばどうなるか分かったものではない。

 

「俺はアンタのような強者と戦いたい、たったそれだけの単純な理由だ」

「その言葉に嘘偽りがなければ、貴様が敗れた時は皆の魔力を元に戻してもらうぞ」

「ああ、いいだろう。約束しよう、ただし……俺に勝てたらだがね」

「私は仲間の命を背負っている。だから、必ず…勝つ!換装!」

 

重い使命を背負った彼女は双剣を手に、天輪の鎧に換装しながら一気に飛びかかった。

 

「…来るか」

「舞え、天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)!」

 

アズマとすれ違いながら、乱れ舞う剣が次々に襲いかかる。しかし、この攻撃を読んでいたように全てを木でガードした。そしてその背中に向けて反撃をかける。

 

葉の剣(フォリウムシーカ)!」

「くっ!」

 

葉を刃へと変え、無数に飛ばしてエルザを襲う。あまりの数と力に少しずつ押されていき、顔をしかめる。

 

「突き刺せ、枝の剣(ラームスシーカ)!」

「ぐっ、かはっ!」

 

アズマは鋭い枝を弓矢のように飛ばし、さらに攻勢をかけてくる。密度の高く、そして高速の攻撃を前に遂にダメージを受けてしまう。そして生まれた隙を狙い、木の拳をぶつけてくる。

 

「あぐっ!」

「ブレビー!」

「つっ!」

 

爆発する木の実をなんとか避け、自身の持つ最速の飛翔の鎧を纏って両肩を斬りつける。そのまま背後から追い討ちをかけようとするが、アズマが作ったドーム状の盾に阻まれ、今一歩届かない。

 

「剣が抜けない…なっ!?」

「今更遅いと言っておこうか!」

 

しかもお留守になっていた足を掴まれ、そのまま持ち上げられてしまう。

 

「大地の力を受けるがいい!タワーバースト!」

「うああああ!!」

 

広大な範囲を包む爆炎の塔が立ちのぼり、エルザに容赦なくダメージが加わり、そして遂には地面に倒れ伏してしまった。

 

「(なんて魔力だ…本当に強い!妖精の鎧も煉獄の鎧もまだ修復中だし、他の鎧で太刀打ちできるかどうか…)」

 

今換装できる鎧で勝利を収められるのか、ボロボロになりながらも必死に考えるエルザ。そんな彼女の頭の中にある鎧が思い出された。

 

「(そういえば先週、『誘惑の鎧』なるものを買ったような気が…)」

 

誘惑の名の通り、見た目がかなり際どい物で、もはや鎧と呼べるのかも怪しい代物だった。

 

「ルーシィじゃあるまいし、着れるかあんな物!却下だ、却下!」

「一体なんのことだ?一人言かね?」

「うるさい、なんでもない!」

 

その鎧につられて思考が脱線しかけたが、必死に頭からそのことを消し、目の前の男の対処法を見つけようとする。

 

「(さて…どうするか。これ以上魔力を無駄遣いしていては勝ち目はないな)」

 

生半可の攻撃をしても、大樹の中という地の利がある相手には勝てないと結論づけ、彼女に残された一つの選択肢を取った。

 

「(ならば鎧を捨て、剣に全ての力を集める!)出でよ、妖刀『紅桜』!」

「っ!面白い、最高だ…」

 

魔力のない装束へと着替え、全魔力を注いだその刀は妖刀となり、紅く不気味なオーラを纏う。それを目の当たりにしたアズマは大いなる高揚感と力への畏れを胸に抱き、体が震えるのを感じた。

 

「(私はギルドの最後の砦だ、ここで負ければギルドの負けだ。だから、負けられない!この一太刀で決める!)」

「来い、妖精女王(ティターニア)!全てをぶつけてくるがいい!」

「うおおおおお!!」

 

アズマの攻撃を切り裂きながら進み、勢いのまま一直線に走る。しかし、敵前にてその動きが止まる。

 

「何!?」

 

切った部分が枝分かれしてエルザに巻きついて捕らえたのだ。手足を縛られ、完全に身動きを封じられてしまう。

 

「今この地に眠る膨大な魔力を解放する!」

「くっ…動けぇ!」

 

天狼の魔力を呼び起こし、アズマの全力を拘束されたエルザに発動した。

 

「これで終わりだ!大地の叫び(テラ・クラマーレ)!!!」

「うああああっ!!」

 

膨大な魔力と爆破をその身に受け、エルザは思い切り吹き飛ばされ、意識を失い倒れてしまう。

 

妖精女王(ティターニア)、ここに敗れたり!」

 

勝利を確信し、笑みを浮かべるアズマの言葉が響く。



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第85話 “和”を知る者たちに光あれ

どうも、ぽおくそてえでゴザル。もう後数日で学校が始まるので、夏休み中は今回が最後だと思われます。ここからはペースが落ちるかもしれませんが、ここまで来たからには完結はさせるつもりです。最後まで何卒よろしくお願いします。


「エルザ…」

 

評議院の独房に繋がれた男、ジェラールが小さな声で呟く。見回りの者にも聞き取れないような小さな声だ。

 

「何か仰いました?ジークレイン様?」

「バカヤロー!こいつは評議会をぶっ壊した張本人のジェラールだ、この大悪党をそんな名前で呼んでんじゃねえ!」

「昔の癖でつい…」

 

気の抜けている同僚の看守に呆れて説教をしている間も、まるで上の空。ジェラールは周りのことも気にせず独り言を続ける。

 

「な、なんかヤバそうだな。魔法の詠唱でもしてるのか?」

「この牢は魔封石で出来てんだ、魔法を使おうにも失敗するだけだろーよ。試してみるか?」

「おい、どうする気だ?」

「こうすんだよ」

 

評議会を潰された恨みもあるからか、持っている杖で牢の外からジェラール目掛けて思い切り魔法をぶつける。

 

「うっ、ぐうう!!」

「ほれ、あのジェラールが手も足もでねえ」

「や、やめろってナダル。それ以上やったら…」

 

同僚の止める声も聞かず、看守のナダルは魔法を使い続けて執拗なまでに痛めつける。

 

「…ちっ、張り合いがねえな。めんどくせえ、仕事に戻るぞ」

「待ってくれ、置いてくなよ!」

 

どれだけ攻撃しても、うんともすんとも言わないジェラールに業を煮やしたのか、傷ついた彼を放ってその場を立ち去っていく。

 

「エルザ…負けるな…エルザ」

 

独房で倒れ伏す彼の口からは、緋色の少女を信じる言葉が紡がれる。その言葉は誰に聞かれることはなく、暗い独房に響く。

 

====

 

『(エルザ…負けるな…)』

「(ジェラール!?)ぐっ、がはっ!げほっ!」

「ぬっ、意識を取り戻したのか!?」

 

天狼島にある膨大な魔力をその身に受けても立ち上がる姿に戦慄し、恐怖さえ覚える。

 

「(なんでジェラールの声が聞こえたんだろう?)」

 

あの時確かに捕まったはずの想い人はここにはいない。弱気になった心を奮い立たせる。

 

「(甘えるな…流されるな。あいつはもういない!思い出に寄り添うな、過去に縋るな、意識を保つんだ…ここで倒れるわけにはいかないんだ!)」

「ここまでやるのか、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導師は…末恐ろしいね」

「(私は皆を守るために立ち上がるんだ!)」

「恐ろしいが…だからこそ、胸が弾むね」

 

再び立ち上がったエルザの太刀筋はまるで鬼神。闘争心の衰えるところを知らない彼女を前に、恐怖と楽しさをアズマは心に感じる。せめぎ合いを続ける両者だが、アズマの方が一枚上手で、再びエルザを縛り付けた。

 

「アンタほどの強者の名は生涯…忘れることはあるまい」

「くそっ!」

 

彼女の脳裏に浮かぶのは幼い頃、あの呪われた塔にいた時のジェラールたちと決めた自分の名前、そして逮捕される時に友に聞かされた言葉だ。

 

『エルザ・スカーレット。これでどうかな?お前の髪の色なら絶対に忘れないさ』

『そうだ…お前の髪の色だった、だってさ』

 

自分の人生に新たな意味をくれた特別な人からの贈り物であり、記憶をなくしてなおも思い出してくれた彼と自分を繋ぐ大切な思い出だ。

 

「動け!動けぇえ!」

 

そんな思い出を胸に木々を振りほどこうとするも、拘束は解けるどころか緩みさえしない。

 

「これで終わらせる!もう一度天狼島の魔力を受けるがいい、大地の叫び(テラ・クラマーレ)!!!」

「うあああああ!!」

 

最後の足掻きも虚しく、再び大爆発をその身に受けてしまう。

 

「(ここまで…なの、か…)」

 

意識は薄れゆき、諦めの感情が頭を埋めつくす。その時、聞き覚えのある声が聞こえる。

 

『諦めんのか?』

「(ジェラール?)」

『エルザ』

「(ナツ!?何故…)」

 

目を開くとそこにいたのはジェラールではなく、ナツ、そしてこの天狼島にいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の皆の姿だった。

 

『寝るにはまだ早えぞ、エルザ。さぁ、目を覚ますんだ』

『俺は信じてるぞ、お前ならまだやれる!』

『頑張って!私も一緒にいるわ!』

「(ジンヤ、グレイ、ルーシィ、皆…そうか、そういうことか。すまない、私としたことが肝心なことを忘れていたようだな)」

 

たとえそこに本当に居なくても、仲間の声と姿は自分の背中を前へと押す。自分は1人ではない、仲間がいる。そう思うだけで、枯れかけた闘志が再び燃え上がる。

 

「うおおおおお!!!」

「なっ、これは…!」

 

アズマは爆炎の中から姿を現したエルザ、そして、その後ろに見えるギルドのメンバーの姿に驚きを隠せない。

 

「これは幻覚か…それとも天狼島の加護だとでもいうのか!?」

「(私が皆を守っていたんじゃない。いつだって皆が私を守っていてくれたんだ)」

「俺が支配したはずの魔力と加護が…エルザに味方したのか…」

 

刀を構え、ただひたすらに仲間を信じ、そして信じられたエルザ。予想外の力を魅せられ、驚くアズマ。

 

「(信念、そして絆…こいつらの本当の力は“個”ではなく“和”。なんてギルドだ)…なるほど、見事だ」

 

最後に見せた奇跡とギルドの強さを認め、そして満足したような笑みを浮かべ、エルザの一振りを受けて下へと落ちていく。

 

「うっ…くっ!」

 

死闘の末に勝利を収めたエルザも、傷と魔力の消費の激しさ故にフラフラとよろめき、そして木から落ちてしまう。ふと目の前にいる男を見やると、木の芽が体のあちこちから出ていた。

 

「お、お前…その体!」

失われた魔法(ロストマジック)の副作用だね。体に無理を強いて使い続けたツケがこれだ」

 

その体は徐々に樹木に覆われつつあり、命が残り少ないことは火を見るよりも明らかだ。

 

「約束を破るつもりはない。アンタの勝ちだ、皆の力はすぐに戻るはずだ」

「…ジェラールを、知っているか?」

「ああ。有るはずもないゼレフの亡霊に憑かれて理性を失い、哀れな人生を歩んだ悲しき男。アンタにとって大切な人だったのか?」

 

最後の問いに口では言えなかったが、その沈黙が何よりの肯定だった。

 

「悪いことをしたね。あれは我々を評議院から逸らす為のものと聞いている」

「お前たちは何故ゼレフを…」

「魔法の始まりと言われる一なる魔法、それに近づく為か…ジェラールは楽園を夢見た。我々は…」

「おい!」

 

それより先の言葉を聞くことなく、木の侵食が進み、気づけばもう既に彼の面影はそこにはなかった。

 

「一なる魔法…」

 

====

 

アズマの撃破により島中に加護の光が満ち、妖精たちに加護と力が徐々にではあるが戻っていく。

 

「この程度か、妖精たちも…」

「これで終いペロン」

 

カワズとヨマズがナツたち目掛けて攻撃を仕掛けたが、刃がジンヤたちを切ることはなく、すんでの所で受け止めていた。

 

「くっ、こやつら!」

「テメェら…よくもやってくれたな!」

「これ以上やられてたまるか!」

「ぬおお!」「ペペッ!?」

 

怒りの鉄拳と火竜の蹴りを放ち、敵を離れたところへ吹き飛ばした。突然反撃してきたことに驚き、カワズに至ってはナツの一撃がクリーンヒットして伸びてしまっていた。

 

「何故急に力が…もしやアズマ殿は…」

「なんかよく分からんが、さっきの借りはしっかり返さねえとな!」

「ああ、盛大にやってやろうじゃねえの!」

 

その掛け声とともに仙法をもう一度かけて、右手に全ての力を込めていき、反対側に立つナツも両手に炎を纏う。

 

「滅竜奥義・『紅蓮爆炎刃』!」

「斉天の大剛腕!」

「ぐあぁあぁあ!!!」

 

両側から放たれた特大の一撃はヨマズを捉え、容赦なく吹き飛ばした。なんとか勝利した2人は先に行ったルーシィたちを追うべくその歩みを進める。

 

「この程度でフラフラになるとは、俺もまだまだだな」

「ルーシィたちは大丈夫だろうな?テントの方もギルダーツも気になるとこだが…」

「あいつなら大丈夫だろうて。行くぞ」

 

====

 

「あのギルダーツも魔力を失っちゃあ、てんで話にならねえな!」

 

倒れたギルダーツを一方的に蹴り続けるブルーノートだったが、魔力を取り戻したギルダーツにその足を掴まれ、押し返されていく。

 

「まさか…戻ったのか!?」

「こんなにボコボコにされちゃあ、試験官としての威厳もクソもあったもんじゃねえな…ガキの前でくらい、カッコつけさせろや!」

「ぬおお!」

 

散々殴られた仕返しと言わんばかりに掴んだその足を投げ、そして立ち上がりながら殴り飛ばす。ようやく復活した好敵手を前にブルーノートは狂気じみた笑みを浮かべていた。

 

「いいぞ、良いぞギルダーツ!もっと飛べそうな戦いをしようぜ、互いの本気ってものでなぁ!」

「っ!?」

「全てを吸い込め!超重力球(ブラックホール)!」

 

両手を合わせると、目の前に小さな球が現れ、全てを吸い込まんとした。

 

「んだコレァ!?」

「コイツァ全てを吸い込む無限の重力場だ!さぁ、トベェ!トベェエェエ!」

「くっ…おおおおお!!」

 

吸い込まれないように抵抗しながらも、右手を伸ばすギルダーツ。そして、掲げるその手の先で黒き魔法にヒビが入った。

 

「なっ!?ヒビが…魔法が割れたのか!?」

「そんなに飛びてえってなら、俺が飛ばしてやるよ…破邪顕正・一天(はじゃけんせい・いってん)

 

一気に砕け散った魔法に驚き戸惑うブルーノートに対してまっすぐに構えた右手を振り抜き、そして顎にむけて思い切り殴り通した。その一撃は破邪の名にふさわしき威力で、ブルーノートを空へと吹き飛ばし、雨雲さえも立ち消える程だった。

 

「くっ…これで疲れるとは俺も年を食ったな…」

 

妖精たちの反撃は遂に副将さえも倒し、止まるところを知らない。初代メイビスの眠るこの島での決戦は果たしてどちらに向かうのだろうか…。



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第86話 それぞれの決戦へ

どうもです、ぽおくそてえです。次の話でゼレフ戦まで行ければなぁと思ってはいるのですが、もしかしたらその次になるかと思います。

それでは今回は大して進みませんが、本編どうぞです!


「ど…どうなってんだこりゃあ…」

「俺とエルザたちが出ていった後か…迂闊だった、あのミラを倒せる奴が居たとはな」

「そう自分を責めないで。敵のことをいち早く皆に伝えられたのは、貴方たちのお陰なんだから」

 

遅ればせながらテントにたどり着いたナツとジンヤの前には傷つき、倒れている仲間たちの姿があった。そんな状況を鑑みて少しでも怪我の痛みと魔力を回復させようと、地面の下に隠していた特効薬を皆に飲ませていく。

 

「ここにある薬だけじゃ心許ないな」

「カナもマスターも負傷していたとはな」

「どうなってんだ、一体…」

 

テントの方も襲撃を受けていたが、信号弾に気づいたフリードとビッグスローのお陰でどうにか危機を乗り越えていたようだ。その証拠にすぐ近くには八眷属の1人、ラスティローズが伸された状態で見つかった。

 

「グリモアの戦艦がこの島の東の沖にある。ここの守備を考えて二手に分かれるのはどうたろうか?」

 

リリーの提案にほとんどの者が賛成していた。だが、1人だけそれに待ったをかけた。ジンヤだ。

 

「俺はまだやることがある…」

「ゼレフの事か?」

 

ナツたちが遭遇したあの黒髪の男だ。死を振りまく彼のような存在を放置していては後に禍根を残しかねない。

 

「奴を仕留めるのは今しかないんだよ」

「無茶よ!相手はあの伝説の黒魔道士、1人では勝てないわ!」

「ルーシィ…」

 

このまま行かせては死にかねない。無謀な戦いをしようとする彼を見殺しにはできないと叫んだのはルーシィだ。

 

「第一、勝てるの?そんな相手に」

「勝算がない訳じゃない。悟空の見立てが正しければ、カナの使ったあの魔法に答えがありそうなんだ」

妖精の輝き(フェアリーグリッター)のことか?初代の墓に何かあるのか?」

 

横から質問を挟んだナツの問いに静かに頷いた。確信に近いものを感じている。

 

「正確にはそっちじゃねえがな…初代の隣にはルミナ・マーナガルムの墓があるんだ。あそこに何かある気がする」

「ルミナ・マーナガルムってギルドの記録に載ってる人だよね?」

「ギルド創設メンバーの1人で俺の曽祖母だよ。ゼレフ攻略のカギを知っているかもしれん」

 

ギルド創設メンバーでありながら、獣王の座に就いた程の実力者だ。彼女の墓に獣人だけが使える秘技の一つでもあるのではと踏んでの話だ。

 

「どうしても…行くんだね?」

「やるしかないんだ。さて…この話はここまでだ。チーム決めをするぞ」

 

雷鳴の轟く中、天狼島の決戦は一歩ずつ近づいていた。

 

====

 

『来るみたいね。仲間を守る為の覚悟を見せて頂戴、ジンヤ…』

 

その小さな祠の前には力を授ける相手を待つ者が1人いた。数多の獣人を従えたルミナ。

 

『闇を屠る聖獣の力は、仙法を使える貴方なら使いこなせるはず』

 

新たな世代に未来を託すため、ここに1人…雨音の聞こえる中で待つ。

 

『だから…来て』

 

女帝は静かに男の到来を待つ。

 

====

 

「雨…止まないね」

「雷か…なんかやだね」

 

降り注ぐ雨は強さを増し、時々雷の音さえ聞こえてくる。不穏な空模様に、リリーが耳を塞いで震えている。

 

「どうしたのリリー?」

「もしかしてあんた、雷が怖いの?」

「ぐっ…」

「可愛いとこもあるんだね」

「うっ…うるさい!」

「さてと…」

 

エクシード組が和やかな雰囲気を醸し出していたところにナツが立ち上がる。

 

「俺たちもハデスを倒しに行くぞ、ハッピー、ルーシィ」

「あいさー!」

「えっ?私?」

 

まさか自分が呼ばれるとは思っていなかったのだろう、ルーシィが素っ頓狂な声を出してしまう。

 

「オイラたちチームなんだよ?」

「そうだけど、もっと強い人いるじゃん。フリードとかビッグスローとか…」

「俺はここの術式を書かないといけないんだ。悪いが行けないぞ」

「守りはやるって決めたじゃねえか」

 

助けを求めるように視線を投げるが、守りに徹するとあっさり切り捨てられてしまう。

 

「私もミラ姉が心配だからここに残るね」

「ルーちゃん、私もここに残って術式の補強を手伝うね」

「私はナツさんたちと行きます!」

「ちょっと、ウェンディ…」

「大丈夫。ナツさんのサポートくらいならできるから」

「俺も行こう…ガジルの仇は取らねばな」

 

ウェンディ、シャルル、リリーはナツたちとともに攻めのチームに。ビッグスロー、フリード、レビィ、リサーナは守りのチームとなった。そしてジンヤは単独行動に備えて動き始めていた。

 

「これで決まりだな」

「ギルドの紋章に誓って皆は必ず守る」

「気をつけてね、ルーちゃん」

「だいぶ魔力が回復したかも」

 

それぞれの戦い、それぞれのやるべき事を胸に刻む。

 

「敵はおそらくハデスのみ…」

「最後の戦いですね!」

「必ず生きて帰れよ…」

 

ハデスを倒しにいく者、傷ついた仲間を守る者、ゼレフの行方を追う者。やることは違えど目指す先は同じだ。

 

「オイラたちも頑張るぞ!」

「ええ、わかってるわよ」

「エクシード隊出撃だ」

 

勝利を掴むため、互いを信じて己のやる事を果たさんとする。

 

「行くぞ!!」

「「「おお!!」」」

 

ナツの掛け声に呼応して拳を突き上げ、彼と共に攻めのチームはグリモアの戦艦を目指して走っていく。

 

「俺も始めるか…ここは任せるぞ!」

「勝ってこいよ!」

「(これ以上悲劇を生まぬためにも…ここでお前を倒す!待ってろ、ゼレフ!)」

 

走り去る彼らを見送り、ジンヤもこの島にいる巨悪をこの世から絶つべく、ルミナの墓を目指した。




学校が始まるので投稿間隔が開くかもしれません。


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第87話 黒と白

どうも、ぽおくそてえデス。今回は少し短めです。

それでは本編どうぞ!


雨の降りしきる中、初代の眠る場所へやってきたジンヤを迎えたのは幽体のルミナだ。

 

『直接話すのは初めてかしらね?』

「ええ、まあ。それよりも…」

『ゼレフの事ね?そろそろ来るんじゃないかって思って待ってたのよ……手を伸ばしなさい』

 

本題に触れようとしたら、先を見越したように答えが返ってくる。行動の早さに驚きつつも、一刻も早くゼレフを討つため、彼女のいう通りに右手を前に出した。

 

『貴方に授けるのはあくまでも呪いを解く為のものよ。決して倒すためのものじゃない、良い?』

「それで十分ですよ。あとは自力でどうにかしましょう」

『そう…じゃ、渡すよ。体に負担がかかるからかなり痛むけど我慢してね』

 

彼女の左手が触れると痛みを伴いながら右腕に力が流れ込み、狼の紋章が浮かび上がる。

 

「こ…これは…」

『邪を祓う獣人族の奥義よ』

 

痛みで痺れる腕を押さえてうずくまる彼の肩に手を置き、簡単に説明を進めていく。

 

『…って事。分かったかしら?』

「…ふむ、俺にしか出来ない方法って訳だ。やってみせましょう」

『嫌いじゃないわ、そういうの。さあ…未来を勝ち取ってみせなさい!獣人と妖精の名にかけて!』

 

====

 

「だれも僕を殺せなかった…」

 

暗い森を歩くのは史上最悪と謳われる黒魔道士ゼレフ。歩くその道には草は生えず、生き物は死へと導かれる。

 

「そして悪魔は僕に死の尊さを忘れさせた」

 

彼の歩む先は死の制裁をもたらさんとしていた。

 

「あのアクノロギアを呼び寄せた罰、受けてもらおう」

 

呪いを受けたその体を進め、闇を持って裁きを下す為、心を殺した。

 

「その前に…僕を壊して欲しかったんだ、ナツ」

 

====

 

「雨ひどくなってきたな」

『集中しろ…近づいておるぞ』

「了解…(やり方としてどうかと思うが、不意打ちで仕留めるか)」

 

ゼレフに気取られぬ様にカモフラージュをして藪に隠れ、様子を伺う。

 

「(こっちは見てねえか。後は隙をついて…)」

「何者!」

「(どうして分かったんだ、クソが!)」

 

完全に背後を取ったはずが、振り向きもせずにばれ、黒い波動を高速で飛ばしてきた。それとすれ違うように如意棒が伸ばされるが、お互いの攻撃は当たらなかった。

 

「奇襲は失敗か…」

「僕は死なないよ。これが僕の呪われた運命だから…」

「知ったことか」

 

2人の間に雨交じりの冷たい風が吹き抜け、雷鳴が戦いを待ちわびたと言わんばかりに空を切り裂いて轟く。空気は張り詰め、あらゆる者の邪魔を拒絶する。

 

「400年生きた僕の気持ちが分かるのかい、君に?」

「…知らん。言葉は不要だ、答えは戦いの中にある」

 

互いに拳を握り、鋭い眼差しで睨み合う。死の運命と生の未来、2つに別れた道はここに1つ、選ばれとしていた。



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第88話 呪いを断ち切る者

結構駆け足になりましたがゼレフ戦です、ぽおくそてえです。

文章力が欲しい…


風と雨が激しくなり、厚く黒い雲で空が覆われる。嵐へと変わっていく天気の中、ゼレフとジンヤの距離は縮まらず、開いたままだ。

 

「(右手のアレが使えるまで時間がある。それまでは何とか生き延びねえと…)」

「そっちが仕掛けないならこちらから行かせてもらうよ!」

「(やばい!)」

 

邪気を纏った両手から放たれた黒い刃が、確実に死をもたらさんと襲いかかる。何度も放たれるその攻撃をかわすだけでも精一杯になってしまう。

 

「(魔力切れは期待できねぇな。攻めて弱らせる!)…仙法『唐獅子の舞』!」

 

体の動きを上げ、懐に入るチャンスを得ようと全身に仙法をかけて赤い蒸気を発生させる。対するゼレフの体からも黒い蒸気が溢れ出していた。

 

「ぶっ壊してやるよ、ゼレフ!」

「君の力、見させてもらうよ」

 

====

 

「……」

「どうしたんだルーシィ?」

「なんか顔色悪いよ?」

 

グレイとエルザの2人と合流したナツたちだったが、ルーシィの顔は晴れていない。

 

「アイツと一緒に行けば良かったかな?なんだか心配で…」

「ジンヤなら大丈夫だ。必ず勝ってくれる」

「今までもそうしてきたはずだ、安心しろ」

 

最凶の男と戦う恋人の無事が気になるが、自分たちの役割を果たす為、前を向いて歩き出した。

 

「(生きて帰ってきて、お願い…)」

 

最愛の男の無事を願いながら…。

 

====

 

血のように赤い蒸気を全身から出し、目の前の獲物を狩るために全力を出すジンヤ。その様子を見ているゼレフは狂気じみた笑みを浮かべていた。

 

「面白いね!僕を壊せそうな人間がここにいたなんて!」

「笑っていられるのは今のうちだぞ…ぬぅあああああ!!!」

 

大きな声を張り、衝撃波とともに更にパワーを上げていく。全身の筋肉が膨張し、目が充血しているその姿はまさしく猛獣だ。

 

「砕け、玄武『崩地渇水』!」

「くっ、地面が!?」

 

地面を強く踏みしめると、一気に砕けて不安定な足場へと変わっていく。急激な変化についていけないゼレフは、つい目線を下げてしまい、再び上にあげた時にはジンヤの姿を見失ってしまった。

 

「一体どこに…がはっ!?」

「遅い…」

「ぐっ、げふっ!」

 

速度を上げた状態からの連続切りはゼレフを傷つけ、翻弄する。

 

「貫け、『ジャイアント・ホーン』!」

「ぐぁああ!」

 

最後には左腕を捻れたツノへと変え、腹部に穴を開ける一撃を見舞い、岩に叩きつけた。

 

「これでしばらくは動けんだろ…」

 

腹部に穴が空き、内臓や肋骨が見えている。いくら最凶の黒魔導士と言えど動くのには難があると踏んでいた。しかし…

 

「これは…痛いね。でもまだ壊すほどじゃない。まだ足りないんだ…」

「くっ…悪魔め…」

 

普通なら死ぬような傷も痛い程度で済ませ、徐々に腹の傷も治っていく。まるで効いていないのだ。

 

「まだ終わらないよ、今の僕は不滅だ!」

「面倒な…(まだ完成まで数分はかかるってのに!)」

 

不滅の体を前に全身から冷や汗が溢れ、震えも感じる。ゼレフが両手を広げて構えを取ると、いくつもの魔法陣が2人を取り囲むように現れる。

 

「出でよ、我が眷属たち!」

「なっ…召喚術!?」

 

土塊から現れた異形の怪物たちは1つとっても2メートルは超えており、十数体もいるその景色はまるで地獄のようになっていた。

 

「これが、黒魔術の真髄か…なんて圧迫感だ…」

『屈するな、己を保て!もう少しじゃぞ!』

「そうは言うが…くっ!」

 

恐怖からか身体が思うように動かず、魔獣の一撃が直撃してしまった。更に他の個体から放たれる追撃の殆どが当たり、ダメージが積み重なる。

 

「(守りを固めてもこんなに痛むのか…内側まで響きやがる…)」

「まだまだ終わらないよ。もっと踊ろうじゃないか!」

「くっ、伸びろ如意棒!」

 

数の暴力を前に手も足も出ず、防戦一方となってしまう。守りの堅い獣の鎧を身につけても、できるだけ躱しても、それを無視するかのように重い一撃が当たっていき、僅かばかりの反撃も避けられてしまう。

 

「ぐはっ!」

「君の無謀な挑戦はここまでだ」

 

魔物の一撃で大木に叩きつけられて相棒を離してしまうジンヤを、冷たく見下ろすゼレフ。最後のトドメを刺そうと呼び出した異形の者どもを消し、全ての力を片手に集めていく。

 

「諦めて地獄で悔いろ、獣め」

「…へっ」

「何が可笑しい?」

「後ろは見るもんだぜ…」

 

その言葉を計りかねて振り向こうとした瞬間、そうすると分かっていたように悟空の剛拳が唸り、数十メートルも吹き飛ばした。そして立ち上がる意志を汲み取るように右腕の紋章は光り輝き、その完成を主張していた。ボロ雑巾のように傷ついた体で踏ん張り、腕を突き上げた。

 

「好機!滅呪の光、解放!」

「ぐっ!?(眩しい、なんだあの光は!)」

「顕現せよ、『大神槍(オオカミノヤリ)』!」

「なんだその槍は…」

 

ジンヤが手にしたのはあらゆる力を無に帰すことが出来る最強の力の1つ、『大神槍』。あらゆる呪いを断ち切る神々しいまでのその姿に、ゼレフは動くことさえも叶わない。

 

「ここで貴様の未来を消し去ってやる。覚悟!」

「なんなんだこれは!?」

「今日をもって貴様の命日にしてくれる!因果、呪い、全て捨ててゆくがいい!」

 

体を貫く白い牙は大きな呪いを容赦なくうち崩し、ゼレフの黒き力さえも容易く打ち砕いていく。

 

「僕の…呪いが、力が、消えて…まだ君のことが…ナツ…」

「逝け、この世に残る意味は無い」

 

遂にはその首を刎ね、傷も首も戻ることはなく、伝説の黒魔導士は1人の獣人によってその生涯を終えたのだった。

 

「黒魔導士の伝説、ここに潰えたり!」

 

魔法世界の夜明けへの一歩を踏み出した。




狼を大神と当てる時もあるみたいです。日本語面白い。


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第89話 束の間の平和

どうも、ぽおくそてえデス。VCのポケモンやってたら時間かかっちゃいました、すみません。今回は字数多めです。

それでは本編どうぞです!


「黒魔導士の伝説、ここに潰えたり」

 

少しの隙を見逃さず、邪悪な者を葬り去った。先ほどまで脅威を振るっていた伝説と言われた男の亡骸が静かに横たわる。

 

「さすが伝説だ、死ぬかと思ったよ。だが、勝ちは勝ちだ」

『ルミナ殿が待っておるじゃろ、報告に行くとしようかね』

 

彼の死亡を確認し、背中を向けて去って行く。そして一言、小さな声で骸に声をかけた。

 

「お前とは仲間として話したかったよ、ゼレフ」

 

夜明けをその目に焼きつけながら、仲間の無事と勝利を信じて墓へと向かう。

 

「助かったよ、悟空。おかげでなんとか勝てたよ」

『危なっかしいやり方じゃったな。奴が油断しなけりゃ死んどったぞ?』

「…俺もまだまだだな」

『精進せぇよ。ワシとて、いつまでもいられる訳じゃ無いからのう』

 

危険な戦い方をしていたことを改めて実感し、背筋が凍った。生きて帰れた奇跡を身を以て知ったジンヤは複雑な気分であったが、これ以上深く考えても仕方ないと先に進む。

 

「…とりあえず報告だ。それにナツやルーシィがどうなってるか気になるしな、キャンプに戻ろうか」

『はぁ…本当に分かっとるのかのう?』

 

話をスルーして歩く相方に呆れ、溜め息を吐く悟空をよそに歩いていると目的の墓にたどり着いた。そこで待っていたのはルミナではない、綺麗な金髪を持つ小さな幽霊だった。

 

『話はルミナから聞いています。貴方がジンヤさんですね?』

「え、ええ。確かにそうですが…失礼ながら、どなたです?」

『私はメイビス、メイビス・ヴァーミリオン。ルミナの友であり、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の初代マスターです』

「…マジ?」

 

まさかこんなに若いとは思わず、つい固まってしまったジンヤを見て何を考えてるのか察したのか、ふくれっ面をしてしまう。

 

『私にも色々あったんです。それなのに…それなのに…』

「あっ、いや、すいません。つい…」

『良いんです、ルミナにも似たことやられたんです。もう慣れましたから…』

「(何やったんだ、あの人)それで、ルミナさんはどこに?結果報告に来たんですが…」

 

周りを見ても墓を見ても、彼女の姿が見当たらない。ゼレフを討ち取ったことと、能力を返しに来たことを伝えようにも居ないのならどうしようもない。

 

『少し休んでます。それにしても…あのゼレフをよくぞ倒してくれました』

「殺さざるを得ませんでしたがね」

『あれだけ罪を重ねた男です、せめて最期くらいは誰かが裁く必要がありましたから』

 

生きていた頃に彼と何かしらあったのか、悲しげな表情を浮かべ、それ以上このことを語りたくないと言った雰囲気を醸し出していた。

 

『それより、船に向かっていた方々が戻っていくみたいですよ』

「…今日はお話できて光栄です。また来年にでも、お会いしましょう」

『はい!』

 

その場で一礼し、すぐにその足で皆がいるというキャンプに戻る。

 

====

 

「いやぁ、なんとかなったな」

「ラクサスが来てくれたからな」

「俺ぁ何も出来てねぇよ」

 

敵船から離れる戦士たちの中には破門になっていたラクサスがいた。旅の途中で胸騒ぎを覚えた彼が参戦したことでハデスを倒すことが出来たのだ。

 

「戦ってる時は気づきませんでしたけど、いつの間にか天狼樹が元に戻ってましたね」

「そう言えばそうね。何でだろ?」

「(ウルティアか?まさかな…それより、ジュビアは無事なのか?ゼレフはどうなったんだ!?)」

 

グレイはウルティアと戦っている間に、ゼレフを追うように彼女に伝えていたのだが、テントに戻っていないと聞き、何かあったのではと一抹の不安を抱えていた。

 

「おいカナ、ジンヤはどうした?ここには居ないみたいだが…」

「別の場所で戦ってるんだってさ。詳しいことは聞いてないけど…」

「そうなのか?まあテントに戻ってるかもれねえから、そこまで行くか。疲れたし」

「…そうね。(お父さん無事かしら…)」

 

ラクサスに声をかけられたカナだったが、こちらでも父親(ギルダーツ)の安否を確認できておらず、表情は沈んでいる。不安を抱えているメンバーもいる中、ウェンディの提案で全員でテントまで戻ることになった。

 

====

 

「さてと、もうそろそろかね」

『全員無事だと良いが…』

「すみません、態々運んでもらって」

 

墓を離れ、辛くも勝利を得たジンヤはキャンプにたどり着こうとしていた。その脇には骨折して歩けなくなっていたジュビアを抱えていた。キャンプに向かう途中で倒れていたのを介抱してから回収したのだ。

 

「そういやぁ何であんなとこに居たんだ?」

「実はゼレフを追ってたのですが…逃しちゃいまして。グレイ様に頼まれてたのに!」

「あー、それ大丈夫だ。もう片付いたよ」

「良かった…あ、着きましたね」

 

そうこうしているうちに、目的のテントまで無事に戻ってこれた。そこにはみんなが戦いを終え、笑顔で待っていた。試験の中止が報告されて何人かが抗議する中、ラクサスがこっちに歩み寄ってきた。

 

「おう、そっちも用が済んだみたいだな」

「どうにかな。って、ラクサス!?何でここにいんだよ!」

「初代の墓を拝みにきただけだよ。他意はねぇ」

 

数ヶ月も旅をしていたので、ただの気まぐれとは思えないが、指摘して雷を落とされるのも嫌なので言わないでおいた。

 

「ま、とにかく元気そうで良かったよ。旅の方はどうだ?」

「色々見てきたけどよ、やっぱり世界は広いな。面白い発見もあったよ」

「へぇ、詳しく聞かせてくれ」

「そうだなぁ。例えば…」

 

旅であちこち回った時に人々の生活や他ギルドの仕事に触れてきたり、旅を通して1人で生きることの大変さを実感したりと実りの多いものだったと聞かされた。

 

「自分の視野の狭さに気付かされたよ。外に出るのも悪かねえな」

「そりゃあ良かった。ところで、マカロフと話したか?」

「今更話すことなんてねえよ。それよりお前に客がいるみたいだ、行ってきな」

 

ラクサスの視線の先には薬草の泉まで行っていたルーシィと、何か不安そうなカナが立っていた。

 

「どうした?」

「ちょっと付いてきて、ギルダーツに話があるんだ」

「ギルダーツに?」

 

色々と疑問を抱えながらもルーシィと一緒にカナを連れて歩いていると、ギルダーツとナツが釣りをしている所に出くわした。

 

「ギルダーツ、ちょっといい?」

「待ってくれ、ナツが今男のロマンに目覚めるとこなんだ!あとで聞くからよぉ」

「カナが急ぎで話したいんだとよ」

「俺に?なんでだ」

「さあね?俺も連いてきただけだしよ。ほんじゃ、俺は戻るぜ」

 

肩をすくめるジンヤを余所にルーシィは騒ぐナツたちを釣り場から離し、近くの茂みに追いやっていた。2人きりになったところでようやくカナが口を開いた。

 

「あのさ、私…ギルドに入った理由がね、父親を探すため…なんだ」

「へぇ、そりゃ初耳だ。ってことはあれか?その親父さんってのは妖精の尻尾(このギルド)に居たのか?」

「う…うん。そういうこと」

 

何か話しづらいのか、時々言葉を詰まらせながら少しずつ話していく。

 

「あいつの親父、ウチに居たのか。ビックリだぜ」

「誰なんだ?」

「気になるね」

「頑張って、カナ。あんたたち帰ってなさい」

 

茂みの陰から見ているジンヤたちも、彼女の過去への興味からその場を離れられずにいた。そして数秒の沈黙の後、カナの口から長らく伝えられなかった、ある名前が告げられた。

 

「私のお父さん……ギルダーツ、なんだ」

「えっ、ええぇえぇ!?」

 

まさかの言葉にギルダーツは驚きの声を上げ、頷いているルーシィ以外の3人もあまりの事態に混乱している。

 

「なんか…伝え辛くって、今更になっちゃったけど」

「お、おお、お前…ちょ、ちょっと待て!」

「…受け入れにくいよね、こんなこと言われても」

 

頭の中が真っ白になってしまっている父親(ギルダーツ)に言葉を返す(カナ)。静けさが辺りを包む中、空気をぶち壊したのはギルダーツだった。

 

「だ、誰の子なんだ! サラ、ナオミ、クレア…もしかしてイライザか?いや、全員髪の色が違ぇ!エマ、ライラ、ミシェル、ステファニー…こっちは目の色とか違う!」

「おい、おっさん!何人女作ってんだよ!」

 

焦りのあまり、今まで過ごしてきた女性をかたっぱしから虱潰しに上げていく親父に思わず突っ込んでしまい、真剣な雰囲気も流れてしまった。自分の親が女たらしなことに小さな怒りがこみ上げ、その場を去ろうと踵を返した。

 

「と、とにかくそういうことだから!それだけ!」

「ま、待てって!」

「別にこれまでの責任とれって言ってるんじゃないの!今まで通りで…」

 

構わないと続けようとした言葉がギルダーツに抱きしめられたことで遮られた。

 

「コーネリアの子だ、間違いねぇ。結婚したのもあいつとだけだ。でも、なんで俺に黙ってたんだ」

「色々あってさ、いつの間にか言い辛くなっちまったんだ」

「18年前に別れた後に逝っちまったのは聞いてたが、子供が居たとは…」

「良いんだよ、バレないように隠してたんだし。これからもいつも通りでいいよ」

 

震える彼の腕を離し、そして正面から笑顔で言葉を続ける。

 

「ただ、1つだけ言わせて。お父さん…会えてよかったよ」

 

その言葉を聞くと、脳裏にはカナと出会った時から今までにあった彼女との思い出が浮かんでくる。涙を浮かべたまま、もう二度と離れないと誓うように力強く抱きしめた。

 

「もう寂しい想いはさせねえ!これからはずっと一緒にいてやる!仕事に行くのも、酒を飲むのも…ずっと一緒だ…」

「それはちょっと勘弁かな?」

「だから…俺にお前を愛する資格をくれ」

 

12年もの間、親子として過ごせなかった時間はゆっくりと、そして優しい光に誘われるように流れ始めた。これからの未来を祝福するように…。

 

2人を見守っていたルーシィの目元にあった涙を拭い、ジンヤは彼女の肩に手を置き、軽く抱きしめた。

 

「(愛する資格、か。俺もいずれその意味がわかる時が来るのかもな)」

 

 

 

X785年、1月3日。青空に包まれ、暖かい日差しに照らされた天狼島に突然、破滅が訪れようとしていた。



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第90話 誇り高き子供達よ

どうも、お久しぶりです。ぽおくそてえです。今日は投稿開始から一年という記念日になります。一年で90話と、なんとか継続的に書けています。

もう後、数話で完結の可能性が高くなりました。本編は100話まではいかないかもです(番外編を書くと行くかな?)。とりあえず本編どうぞです!


悪魔の侵攻により始まった一連の戦いも終止符が打たれた。ゼレフの脅威も去り、この天狼島にも平和が訪れている。

 

「まさかギルダーツとカナが親子だとはな。ま、これからは仲良くやってくだろな」

「お父さんか。私も帰ったら会いに行こっかな」

「その時は一緒に行っても良いか?」

「ええ、もちろん」

 

ジンヤとルーシィは心地よい風の吹く中、森を散策していた。親子の再会を目にしていたルーシィも、ファンタジアの時から一度も会っていない父親と久しぶりに顔を合わせようと決意したのだ。

 

「上手くやってるといいな、親父さん」

「あの時は色々大変だったみたいだけど…多分大丈夫だよ」

 

かつてファントムの一件で大きく対立してしまった親子も、少しずつ歩み寄ろうとしている。そんな彼女を見て、ジンヤも1つ行動に出た。

 

「なあ、まだ時間はあるか?」

「あ、うん。どうしたの急に?」

「大事な話なんだ」

 

====

 

その頃、エルザはマスターの元に来ていた。帰りの準備が整ったことの報告をした後、一つ質問した。

 

「ラクサスとは何か話されたんですか?破門の身の上とはいえ、助けられたところもあります」

「あやつと話すことはないわい。ハデスとの一戦で助太刀してくれた事に関しては感謝しとる。が、それとこれとは別問題じゃ」

「そうですか…」

 

マスターからの厳しい言葉に、俯いて答えることしか出来なかった。何か反論しようとしたところでラクサスが姿を見せた。

 

「良いんだエルザ、ギルドはそうやって守ってきたんだ。俺は戻るつもりはねぇし、戻りたいから加勢したわけでもねぇ」

「…で、あろうな」

 

加勢したことに他意はなく、墓参りをするついでだったと伝え、振り向くマスターを見つめる。

 

「ジジィ、俺は旅に戻る。その顔を見るのも今日で最後かもしれねえ…じゃあな」

「おい、ラクサス!」

 

エルザが引き止めようとあげた声も虚しく、ラクサスは振り返ることもなく木々の間を抜けていった。

 

====

 

その頃、キャンプから少し離れた穴場でジンヤとルーシィが面と向かって2人きりで話をしていた。

 

「それで、話って何?」

「話す前に…渡したいもんがある。これだ」

「お守り?」

 

ポケットから取り出したのは小さいお守りだ。白く染められたそのお守りには花の紋章が付いている。

 

「家に伝わる物でね、大事に扱ってきたもんだ」

「それだったらそっちで大切に持ってた方が…」

 

特別な物を自分に渡してくる理由はなんだと、戸惑いながら返そうとするが、その手を押さえて言葉を続ける。

 

「これは、その、なんだ…自分にとって一番大切な人に贈るもの、らしい。親父が昔そう言ってた」

「一番大切……っ!?」

 

詰まりながら出てきた言葉の真意に気づいたのか、ルーシィの顔は火を噴くように真っ赤になった。ジンヤも頭を掻いて少し俯いてしまっている。

 

「本当は戻ってから渡すつもりだったんだが…これが俺の気持ちだ。無理に受け取る事もない、断ってくれても良い」

「ちょ、ちょっと待って!落ち着かせて…」

 

火照った顔と混乱した頭を冷やそうと二度深呼吸をして、しっかりと前を向いた。

 

「…受け取るよ、その気持ち。私も前からずっと、一緒に居たいって思ってたから…嬉しいな」

「そ、そうか!そりゃ良かった…ふぅ、断られたらどうしようかと思ったぜ」

「断らないよ。だって私、誰よりも貴方が好きだから」

 

別々に進んでいた2人の時間が、陽だまりに包まれながらゆっくりと交わり、流れ始めた。しかし、それを阻むように大気を震わす咆哮が辺りに轟く。

 

「…なんだ今のは?この島の動物のもんじゃねえな」

「みんなのとこに行こう!」

 

危機感を覚えた2人は途中で合流したナツやギルダーツたちと共にキャンプに戻ると、みんなが空を見上げていた。視線の先には大きな黒い影が映り、その翼や頭には禍々しい模様が浮かんでいる。

 

「どうしたんだ!何事だ!」

「あんなデケェ咆哮を出せんのはドラゴンくらいだ」

「ドラゴン!?」

「絶滅したんじゃないの!」

「こいつを見ると傷が疼きやがる…」

 

ガジルの呟きにほとんどの者が驚かされていた。数百年前に居なくなっていると聞き、まさか生きているとは思わなかったのだ。

 

「あいつ、何者だ。なんでここに…」

「黙示録に載っている黒き龍、『アクノロギア』か…」

「やっぱりドラゴンはまだ生きてたんだ…」

 

ナツやガジル、ウェンディの親達が姿を消している中、目の前にドラゴンが現れた。もしかしたら何か知っているのではないかという気持ちのせいか、ナツが叫ぶが嘲笑うように無視して降下してくる。

 

「降りてくるぞ!」

「っ!まずい、逃げろ!」

 

かつてこの黒龍と相対したことのあるギルダーツは、身の毛のよだつ恐怖を思い出し、逃げるように叫ぶ。刹那、再び天狼島を強襲し、地面を軽く砕きながら特大の咆哮を放った。

 

「なっ!?なんて破壊力だよ!」

「これが竜の力!?」

「とにかく逃げろ!死にたくなきゃ全力で船まで走れ!!」

 

このまま戦っても怪我人が多くて勝ち目はないと判断したジンヤは、全員に船への撤退を命じた。

 

「ウェンディ、あんた、竜と話せるんじゃなかったの!?」

「私が話せるわけじゃないよ!あっちの知能が高いから話せるの!本当ならあの竜だって…」

「今はとにかく駆けろ、追いつかれたら死ぬぞ!」

 

====

 

突如として島に降り立った最後の厄災、アクノロギア。竜にして竜に(あらざ)るその存在は世界に混沌を振りまく。言葉を理解しながらも人間を虫ケラとしか思わず、国を何カ国も壊滅に追い込んだ。

 

この島にも破滅をもたらさんと、その黒い翼をはためかせて暴れまわる。

 

====

 

ブレスに吹き飛ばされながらも、攻撃をすんでのところで躱しつつ船へと急ぐ一行。彼らで遊ぶように、アクノロギアは逃げ惑う妖精達を咆哮を上げながら追いかける。

 

『グオオオオ!』

「急げ!すぐそこまで来てるぞ!」

 

逃げる若人を守ろうと、マカロフが黒竜の前に立ちふさがり、巨大化しはじめた。

 

「行け、船まで走れ…」

「何をするつもりだ、マカロフ!」

「行けえっ!」

 

身体に大きな傷を負い、その傷から血が溢れるが、アクノロギアの進行を受け止める。口からも血反吐を吐くが、手を離すまいとしっかりと掴みかかる。

 

「おいジィさん!敵うわけねえだろ!」

「マスター、おやめ下さい!」

「走れ」

 

血を流す姿を見ていられないと一緒に逃げるようにと叫ぶが、その腕を離すつもりはなく、逆に大声で叱責する。

 

「最後くらい(マスター)の言うことが聞けんのか、クソガキども!」

「なっ!?(最後って…マカロフ、まさか死ぬ気か!)」

「俺は滅竜魔導師(ドラゴンスレイヤー)だぞ!竜が敵だってんなら、俺が戦わねえと…うがっ!」

「…走るぞ、みんな」

「おいラクサス!」

 

目に涙を浮かべるラクサスの顔を見たナツは驚きながらも引きずられるように船へと向かい、他のメンバーも後に続く。

 

「ガキ達を頼む」

「……任せろ」

「…その為の俺たちだ」

 

ジンヤとギルダーツはマスターの言葉を聞き、皆の後を追いかけるために涙を堪えて立ち去った。

 

「(これで良い……人が死ぬから涙を流すのか、悲しみの涙が人を殺すのか、いずれにしろ涙は虚空なるもの。その意味と答えは自分で見つけ出せ。誇り高きワシのガキどもよ、生きよ、未来へ!)」

 

漢マカロフ、家族を未来へ歩ませるためにその体で魔竜に立ち向かう。果たして未来の光は帰還できるのだろうか。




というわけで開始から丸一年になりました。書き始めた時は一年で終わるかなーとか思ってましたがもう少し続きそうです。


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第91話 絶対強者

どうもです、ぽおくそてえです。一応今回アクノロギア戦なんですが、思ったよりあっさり終わってもうた感じです。
それでも良いよ、というかたは本編どうぞです!


黒竜の来襲により、撤退を余儀なくされた皆を逃がそうと、マカロフは老い先短いその身を盾にして立ち向かう。

 

「何の目的で来たか知らんがなぁ、ワシの後ろにはガキどもがおるんじゃ!そう簡単に行かせるか!」

『グオオ…ガァアアァ!!』

「ぶはっ!ぬあぁあ!」

 

しかし傷と老いからか、アクノロギアのパワーに勝てず押し返され、そして倒されてのしかかられた。

 

『グァアオオァ!』

「うおあああ!!」

 

アクノロギアの全体重をかけて押しつぶしてきており、マカロフの体からは骨の折れる音が響き、あまりの痛みに気絶するほど叫び声を上げてしまう。しかし、その顔はやがて笑みに変わった。

 

「(最後の最後で、ようやっと親らしいことが出来たわい。もう思い残すことはなかろう…ルミナ殿、親父、今そっちに…)」

 

死を覚悟し、受け入れるだけだと目を閉じようとした時、隣を大猿が走り抜けて黒竜目掛けて拳を振り抜いた。

 

『オラァァア!』

『グオアァアアァ!』

 

白い毛並みを持つ猿の脇腹には柘榴色に目立つギルドのマークがある。そう、ジンヤだ。

 

「何故、何故戻ってきた!」

『テメェの親を見殺しにするほど、俺らは冷たかねぇんだよ。ほれ』

「皆の者、ジンヤに続けぇ!」

「「「「おおおお!!」」」」

 

ジンヤの後ろからはエルザを筆頭に、ナツやグレイたちが大切な親父を救わんと立ち向かっていく姿があった。もちろん、ラクサスもそこに居た。

 

「俺は反対したんだがな。だがよ…あんたのギルドの連中は老いぼれを置いていけるような奴らか?」

「この…バカたれどもが…」

 

親を想う子の心に打たれたマカロフの顔には涙が流れ、そして笑顔を浮かべている。

 

「テメェらぁ、こいつを蹴散らしてギルドに帰るぞぉ!続けぇ!」

 

ラクサスの号令と雷撃を合図に、それぞれの魔法をありったけの力でぶつけていく。火を放つ者、氷の矢を射る者、剣で切り裂く者に拳を使う者と様々だ。

 

『グルルルル…ガァッ!』

「うおっ!?」

「きゃあ!」

 

アリを吹き飛ばすように群がる魔導師をなぎ払い、風圧で魔法を打ち消した。しかもアクノロギアの体には目立った傷が見えず、まるでダメージを受けていないかのように佇んでいる。

 

「打ち消すなんて…そんな…」

「効いてねえのか…」

『まだ諦めんな。少しだけだが確かに効いてやがるぜ。しかし、傷が消えるのは何故だ?』

「あやつ、魔力を吸収してるように見えたが…」

 

マカロフの確かな観察眼では大きな傷が消え、しかも口から少しずつエーテルナノや放った魔法を食べているように見えた。

 

「そうとなれば…皆の者、魔力を温存せよ!ジンヤは先頭に立って戦ってくれ!ウェンディは彼の援護を!」

「はい!」

『任された!』

「他の者は防御魔法の展開と補助だ!」

「「「おおおお!」」」

 

逆境に立たされても、ここで折れたら負けると決意を固め、迅速に指示を飛ばすエルザの言葉に呼応して一致団結していく。

 

『ウェンディ!!』

「はい!アームズ×アーマー×バーニア!!」

『ガルルルルァ!!』

 

突撃してくる巨体を迎え撃つため、ウェンディの強化魔法をかけてもらう。黒竜の口が目の前まで迫るが、強化してもらった速度と持ち前の筋力を武器に顎を下から殴りぬけ、打ち上がった顎を持ったまま更に地面へと叩きつけた。

 

『オオォラァアァ!』

『グ、ガァァァ!!』

「今度は持ち上げやがったぞ…」

 

倒れ伏したアクノロギアを背中から持ち上げ、一気に跳び上がった。

 

『落ちろォォ!』

 

弱りながらも足掻き続けるのをよそに、そのまま相手の頭を下にして回転しながら落下し、見事に大ダメージを与えた。

 

『ガル、グアウァア…』

 

頭に伝わった痛みと衝撃で足元がおぼつかなくなり、酷い目眩に襲われるアクノロギア。口からは血を吐き、痛みからか魔力を取り込みにくくなっていた。それでも追撃してくるジンヤに数撃加え、小さなブレスを浴びせていく。

 

『案外しぶといな、テメエは…』

『雑魚が…よくも我を追い込んでくれたな。もう遊びでは済まさん!我の一息で全員蹴散らしてくれるわ!ウオォォオ!』

 

あまりの痛みとジンヤの物理的なダメージに耐えられず、激昂しながら上空へ逃げて骨が折れるのも構わず強引に息を吸い込む。

 

「ブレスだと!?」

「島ごと壊すつもりか…」

「防御魔法を更に固めろ!急げぇ!」

 

それのダメージを少しでも相殺しようと防御魔法を展開して応戦する構えをとる。しかし、いつまで経ってもそのブレスが打ち込まれない。

 

「…こねぇぞ」

「つーか、あいつ落ちてきてねぇか?」

「さっきの攻撃が効いたのかしら?」

 

無理が祟ったのか、少しずつ姿が変わりながら下降していく。皆が警戒する中、人間になったアクノロギアが地に降り立ち、少し苦しそうにしていた。

 

「くっ、我としたことが…」

「何故この島に来たのじゃ?お主の答え次第では容赦せんぞ」

「気まぐれよ。それに、血と死の臭いを感じたからな」

「こいつ…」

 

怒りのあまり剣で切ろうとしたエルザをマスターが抑える。静かに睨む彼にアクノロギアは3人に捕らえられながらも、尚も強い眼差しで返す。

 

「反省の色なしか……3つ数える猶予を与える。態度を改めるなら今ぞ。1つ…」

「我は我だ。ここに来て何を変えろと?」

 

絶体絶命ながらも狂気の笑みを浮かべ、血走った目をする。そんな彼を見下ろしながらマカロフの手には小さな光の玉が出来始めていた。

 

「2つ…」

「例え我1人が死のうと闇は消えぬ!ただの虫ケラに何が出来ようか!」

 

声を荒げ、唾を吐き捨てて語気を強めていく。それを無視するように光には更に魔力が集まり、最後の警告を発する。

 

「3つ…」

「いずれ第二、第三の我を前にひれ伏す時が来る!その時を地獄で見ていてやるぞ!」

「そこまで…フェアリーロウ、発動」

 

手を合わせた瞬間、あたりに敵を容赦なく攻撃する聖なる光が灯った。その光は邪を滅し、アクノロギアを跡形もなく消し去った。

 

「…例え何年も生きようと、目指す道を踏み間違えることは許されんのじゃ」

「哀れだな、この男も。こいつもゼレフの被害者だったのかね?」

「…さあのぅ」

 

いくつもの闇がこの天狼島で歴史から姿を消すことになった。聖なる加護が降り注ぐ、妖精の住まうと言われるこの島で…。




とりあえずこれで敵全員倒したのでその内エピローグ入れると思います。

長かった…長い長い、道のりでした。もう少しで終わると思うと少し寂しいですな。


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第92話 帰ろう、フェアリーテイルへ

どうもです、ぽおくそてえです。もうすぐ最終話にして、初めての1日2話投稿です。
今話は大して進みませんが、キリのいいところまで書きました。
多分次回かその次がエピローグでとりあえずの最終回になります。

それでは本編どうぞです!


脅威は全て去り、この島に平穏が再び訪れる。黒竜も、伝説の魔導師も、悪魔も退けた。陽だまりに包まれた天狼島では各々集まって話す姿があった。

 

「まさか本当に来るなんてな、ラクサス!」

「これで雷神衆も復活ね」

「おい、俺はそんなつもりねぇぞ…」

 

雷神衆の3人はラクサスの来訪を喜び、楽しそうに過ごしていた。そこに歩み寄って来たのはウェンディだ。お互いにギルドに出入りした時期がずれた為、初めての対面になった。

 

「あ、あの…」

「ウェンディか。どうした?」

「えっと、ラクサスさんにご挨拶をと、思いまして…」

 

ファンタジアの事で色々噂を聞いているのだろう、おっかなびっくり近づいていく。

 

「そういえば初めてだったな。知ってるとは思うが、俺はマスターの孫で雷竜のラクサスだ。よろしく」

「天空の滅竜魔法を使うウェンディです…えっと、よろしくお願いします!」

 

こうして頼れる兄貴分と1人の少女は出会う事になった。

 

====

 

船のある砂浜に先に来ていたナツやグレイは常夏の島を楽しんでいる。

 

「試験は中止になったし、敵も倒したから遊ばねえとな!」

「あいさー!!」

「漢ならどんな時でも全力ぅ!」

 

少し離れた場所ではマカロフとジンヤ、そしてギルダーツが遊ぶ者たちを眺めながら今後のことを話していた。

 

「これで無事に帰れるな」

「天の時、地の利、そして人の和…それが我らに味方したのが大きかろう」

「帰ったらやることが増える。せめて今この時を楽しむとしようぜ」

 

ナツたちが喧嘩を始めたのを見て、この平和を噛みしめるマカロフは自分の老いから、ようやく次のマスターを決める決断をとった。

 

「ジンヤ、少し席を外してくれ。女子たちを呼び戻しに行ってくれると助かる」

「…分かった」

 

ジンヤが離れ、少し経ってから隣にいるギルダーツに重い口を開いた。

 

「ギルダーツ、今日この日を持ってワシは三代目を降りることにした」

「っ!?……長らくお疲れ様だったな。それで、次は誰にすんだ?」

「我がギルドの四代目は…ギルダーツ、お主を指名したい」

 

====

 

一方その頃、テントから少し離れた場所ではウェンディとエバーグリーンを除く女性陣がルーシィを中心に集まっていた。

 

「なんか嬉しそうだねぇ、あんた。良いことでもあったのかい?」

「そんなに嬉しそうに見える?」

「さっきからずっとにやけているぞ。そのお守りが理由なのか?」

 

ルーシィが手にあるお守りはこの島に来た頃には持っていなかったので、尚更興味が湧くのだろう。

 

「ま、まぁそうだね〜」

「それ誰から頂いたものなんです?ジュビア、気になります」

「確かに。ナツとかエルフ兄じゃなさそうだし」

「そ、それ話さなきゃダメ?恥ずかしいんだけど…」

「ルーちゃん、少しくらい良いじゃん」

「そうそう。話した方が楽よ?」

 

色恋沙汰ほど知りたいものはないと言わんばかりに皆して1人に詰め寄る。しかし、それも草むらから現れたジンヤによって打ち切られてしまう。

 

「ここに居たのかお前ら」

「ジンヤか。どうしたんだ?」

「もう帰るぞ。お前ら以外、全員船に乗ってんだ。急いで船まで行け」

 

ルーシィの秘密を聞き出せずに不満そうな顔をするメンバーだが、仁王より恐ろしい視線に渋々船まで歩く。

 

「ったく、手間かけさせやがって…(ここに次来るとしたら来年か。ま、挨拶はもう良いだろ)」

 

空を見つめると墓にいる2人の霊の声が聞こえる気がした。そしてしばらく見上げた後、名残惜しそうに歩みを進める。

 

『そろそろ帰るぞ、皆が待っておる』

「そうだな相棒。ルーシィ、行くぞ」

「うん!」

 

自分の守った大切な人と並んで歩く。陽だまりと葉陰のトンネルをくぐり抜け、歩んだ先にはマスターが待ち受けていた。

 

「ようやっと来おったか。待っとったぞ」

「済まねえな。そういやぁラクサス乗せて良かったのか?」

「後のことはあっちで決める。それに彼奴のことを決めるのはワシじゃない」

「…頑固なのは昔のままだな」

「言っとけ」

 

全員を乗せ、長く短い戦いを終えた戦士たちは自分の家、妖精の尻尾(フェアリーテイル)への帰路に着いた。そよ風に吹かれながら皆を乗せた船はマグノリアへとその道を進める。

 

 

 

X785年、この年の初めに魔法界では大きな変化が訪れた。黒魔道士と黒竜の死、そして悪魔の心臓(グリモアハート)の壊滅。それは、未来を明るいものにするだろう。



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エピローグ
第93話 それぞれの未来


どうもです、ぽおくそてえです。今回が最終話です。

今まで一年と少し、93話に及ぶ『FAIRY BEAST』をご愛読いただきましてありがとうございました。今話はテンプレではありますが、少し未来の話になります。

次回作はまだ決めていませんが、いつかまたみなさんにお会いできればと思います。みなさんのおかげでここまでこれました。本当にありがとうございました。


あの天狼島での決戦から早くも5年が経とうとしていた。マカロフの引退により空座となった四代目マスターの座はギルダーツに正式に譲られ、破門にされていたラクサスのギルド復帰が叶った。その後、何人かは結婚したり恋人同然の付き合いを始めていた。その中にはもちろん、ジンヤとルーシィも含まれていた。帰還から一ヶ月後には結ばれ、今は4歳になる娘が産まれて皆に祝福された。

 

「アンナ、そろそろ帰るわよ!」

「はーい!」

「これから駅まで行こうか」

「どうしたの?おでかけ?」

 

ジュビアとグレイ、ナツとリサーナ、ガジルにレビィなども恋仲になっている。天狼島の戦いが進んでいた間にアルザックとビスカも結婚しており、アスカという娘が産まれていた。ジンヤと何ヶ月もの間相棒として数々の修羅場をくぐり抜けた『斉天大聖』孫悟空は、マグノリアに戻ってから、己の罪と向き合いながら贖罪を果たさんと諸国を巡って慈善活動をしている。

 

「今日ね、お父さん帰ってくるって。楽しみね!」

「うん!明日たくさん遊んでもらお!」

「それは良いわね!」

 

マカロフは引退後、ラクサスとの仲が治り、2人でよく話すようになった。マスターを継いだギルダーツとその娘のカナも忙しい中でも時折いっしょに酒を酌み交わす姿が見られる。ウェンディとシャルルはギルドに残りながらも天龍グランディーネや他のドラゴンを探しに方々を訪ね回っていた。

 

「駅にもうそろそろ着くわね」

「まだ来ないかなぁ…」

 

エルフマンとエバーグリーンは試験で急速に距離が縮まったのか、恋人とまでは行かずとも仲良くやっている。ミラや他の雷神衆もそれを見て微笑んでいたとか。ジェラールが脱獄し、ここ数年で数々の闇ギルドを倒した功績で国王から恩赦を受けたと聞いたエルザは、いつもは手入れしない髪を念入りにチェックして彼と会える時を待っているそうだ。

 

こうして各々がそれぞれの人生と未来をギルドを通じて過ごしている。

 

「あ、お父さん!」

「お、アンナ!帰って来たぞー!」

 

未来は望む全てが手に入る訳じゃない。しかし、前に進もうとする者には自ずと明るい未来が訪れるのだろう。

 

「お帰りなさい、ジンヤ」

「ただいま、ルーシィ」

 

暖かい風が吹き、3人を暖かく包み込んだ。

 

====

 

平穏の訪れたこの希望の時代から更なる時が流れ、彼らの亡くなった頃の様々な書物には、獣人ジンヤについて、こう書かれている。

 

『獣王ジンヤ。伝説の獣人ルミナの再来と称された彼は数々の戦いの中で魔法界の平穏を取り戻し、その功績から聖十大魔導の1人に選ばれた。そしてどんな時でもその隣に1人の女性、ルーシィ・ハートフィリア改めルーシィ・マーナガルムが最期のひと時までずっと側で支え続けたという。2人の娘のアンナと共に先祖や一族の墓を良く訪れたとか、種族間の争いを沈めたとか、さまざまな逸話や伝説が語り継がれているが、その真実を今となっては知ることが難しくなってしまった。ただし、家族3人で明るく楽しい家庭を築いたことは、どの書物でも、誰の口からも伝えられている』




確認したら『FAIRY TAIL』原作の2次創作の中では珍しい完結作品なんだとか。

有難い話です。


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外伝 妖精と獣王の過去、そして彼の最期
番外編 その1 ナツと獣人の出会い


どうもお久しぶりです。ぽおくそてえです。今回から数回ほど番外編という名の短めのストーリーを出します。ナツ、エルザと出会った時の場面と、創設メンバー、そしてジンヤの最期を書きました。

それではまずナツとの出会いからです。


ルーシィとジンヤたちが出会う日から遡ること7年ほど前、マグノリアにある魔導師ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の前には2人の男が立っていた。1人はこのギルドをまとめ上げる老人で、聖十魔導師でもあるマスター・マカロフ。そして彼の隣にいる桜色の髪を持ち、白い鱗柄のマフラーを巻いている年端もいかない少年はナツだ。

 

「どうじゃ?これがワシらのギルドじゃ」

「スゲェ!なんかワクワクするよ!」

「そうじゃろう?」

 

連れてきた子の反応が良かったからか、満足そうにマカロフは笑みを浮かべる。ナツはまだ見ぬ冒険と興奮に目を輝かせ、嬉しそうに笑いかえす。

 

「妖精に尻尾はあるのかないのか?それは永遠に続く疑問。それ故に永遠の冒険、永遠のロマン…」

「それを知るのが初代の夢であり、ギルドを作るきっかけになった…だっけか?」

「あ?兄ちゃん誰だよ?」

「これ、途中で遮らんでくれんか」

 

仕事を終えて帰ってきたジンヤは右手を上げて謝りながらナツの前まで歩いてきた。180センチを越えようかという獣人とまだ幼い火竜の子は初めての対面を果たす。

 

「俺ぁここでS級魔導師をやってるジンヤってもんだ。よろしく」

「ナツ・ドラグニル。俺のことはナツって呼んでくれ!」

「おう。元気あって良いな、ナツ」

 

マスターの見守る中、お互いに手を取り握手を交わす。中へと進むとそこにはありとあらゆる魔導師が酒を飲んだり、喧嘩したりと大騒ぎだ。

 

「ナツ、このギルドは見ての通りどんな奴でも受け入れる場所だ。デケェ夢叶えてぇなら必死に働いていけよ」

「当たり前だ!」

「分かれば良い。じゃあ、新しい仕事行ってくるぞジイさん」

「気をつけて行けよ〜」

 

====

 

ナツの加入も滞りなく進み、1週間が経とうとした頃、ナツの初仕事をすることになった。

 

「…つー訳で、今日からしばらくは俺も同行する。基本中の基本だが危険な仕事ほど報酬が良くて、安全な仕事は報酬が低い。が、その分金以外の食い物とかを貰えることも良くある」

「へー…色々あんだな。危険なヤツってどんなのだ?」

「狩猟や退治系だ。ま、ナツの魔法ならそこらへんは大丈夫そうだが…習うより慣れろってな、早速行ってみるか」

「おっしゃあ、やってやらぁ!」

 

ボードから取ったのは魔物退治の仕事で200万というかなりの報酬が得られる仕事だった。

 

「じっちゃん!これ行ってくる!」

「早速仕事か。ジンヤと一緒なら問題なかろう、行ってきなさい。ジンヤ、頼んだぞ」

「出来る限りのことはしよう」

 

マカロフに見送られながら2人は依頼人に会うために駅へと向かった。いざ列車に乗ってみると、ナツがみるみるうちに弱っていく。

 

「お、おおお…」

「どうした?乗り物酔いか?」

「おおう…」

 

魔法の影響か、ただの体質か、ただの乗り物酔いにしてはかなり苦しそうにしていた。こんな状態で大丈夫かと心配しながらも、どうにか耐えて仕事場に向かった。

 

====

 

結果的には無事仕事を終え、ただの杞憂に終わった。ナツの乗り物酔いも降りたらすぐに復活し、仕事には大した影響は出なかったのが幸いした。

 

「まさかそんな弱点があったとはな…」

「なんでかわかんねぇけど、前からそうなんだよな」

「まあ、そういうこともあるさ。さて、帰ったらメシでも奢ってやる。初仕事成功のお祝いだ、遠慮しなくていいぞ」

「ほんとか!やったぜ!じゃあ、炎が食いてえ!」

「…ギルドに食える炎なんてあったかな?」

 

夕日を背に歩く2人はまるで兄弟のようだった。火竜の実力はこのギルドに入ってさまざまな人との出会いを通して強くなっていくが、それはまた別のお話。




次の話は明日です。


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番外編 その2 エルザとの邂逅

どうも、番外編2話目です。今回はエルザです。
本当はグレイやストラウス家、カナも書こうと思ったんですが、思いつかなかったので無しになりました。ルーシィとの結婚式とかもアイデアとしてはあったんですが、残念ながらこれも断念しました。


「(歩かなきゃ…前に…)」

 

ボロボロになった体で、少しずつ前へと進む。月の明かりが照らす中、ただひたすらに進む。

 

「(ロブおじいちゃんのいた、あのギルドに…)」

 

まだ幼さの残る少女はあるギルドを目指して歩き続ける。

 

====

 

「…今回もえらい叱られたなジイさん」

「全くじゃ。どうにかならんかの」

 

評議院に呼び出しと注意を食らっていたマカロフとジンヤは疲れきった表情でベンチに座っていた。隣にはマスターの友人のヤジマも居た。

 

「気をつけなよ、マー坊。ワスは弁護スとるがギルドを潰そうって思っとる人は結構おるからな?」

「いつも済まんのうヤン坊」

「すみませんヤジマさん、いつもご迷惑を…」

 

いつも弁護してくれる彼には気苦労ばかりかけてしまっている。現に今までも彼のおかげで何度か罪を軽くしてもらえている。

 

「これ以上問題を起こせばそのうち弁護スきれなくなるよ?」

「気をつけます…ほれ、帰ろうぜ」

 

これ以上問題を起こさないようにどうにかしろと釘をさされ、謝罪をして評議院からギルドに戻る列車に乗った。

 

「また始末書か。何枚書けばいいのやら…」

「頭が痛いのう。問題児ばかりで困るわい」

「元はと言えばジイさんがちゃんと叱らないからだろ?」

「言うでないわ」

 

これからどうしようかと頭を抱えつつマグノリアに戻ると人集りが出来ている。しかもカルディア大聖堂の前にだ。

 

「何事じゃ?」

「ああ…マカロフさん、ジンヤさん、丁度いいところに。実は…」

 

町長に尋ねると困った表情をしてわかる範囲で話が聞けた。傷だらけの少女が倒れているのを見つけた人が大聖堂にかくまったそうだ。保護をしたものの、その後のことはギルドに任せた方が良いだろうと、こうして2人の帰りを待っていたのだ。

 

「ひどい傷だな」

「街の者で出来ることはしましたが…」

「そうか、ありがとう。後はワシらでどうにかしよう」

 

自分たちならちゃんと休ませられるだろう。両者はそう考え、緋色の髪を持つ小柄の少女を担いでギルドの医務室まで戻った。

 

====

 

目を覚ますと、木組みの天井が見られ、陽の光が窓から入って部屋を照らしている。起きて見回すとそれに気づいたマカロフが近寄って来て、その隣にいるジンヤも誰かを呼んでから側にきた。

 

「起きたかね。名前は言えるかの?」

「エルザ・スカーレットです」

緋色(スカーレット)か…その髪がよく似合う名前よな」

 

ジンヤの褒め言葉にエルザは少し困った顔をし、そして傷の手当てをしてもらったことに気づいた彼女は感謝を口にしていた。

 

「ありがとう、お兄さん、お爺ちゃん」

「良い良い。困った者を助けるのがこの街の人々の考えじゃ…当然ワシらもな」

「服にしてもその怪我にしても…何があったんだ?」

「それは…話せない。ただ、死んだロブお爺ちゃんのいたフェアリーテイルを探してて」

 

彼女の口から出た一つの名前にジンヤも、ロブの親友だったマカロフも目を見開き、肩を震わせる。特にマカロフのショックは大きく、呆然としてしまう。

 

「ロブ…お主に何があったというのじゃ…」

「ジイさん、気持ちは分かるがこの子をどうするか考えねえと。ロブのジイさんの為にもよ」

「くっ…」

 

肩を落として震えるマカロフを支え、エルザに顔を向けさせる。

 

「ロブのことは残念じゃが、今は君のことじゃ。どこでどう知り合ったか分からぬが、君にここに来るように言ってたんじゃな?」

「うん。ここなら安全だって…」

 

悲しそうな顔を浮かべるエルザに、可哀想になったジンヤは彼女のためにできることはないかとマカロフに耳打ちをする。

 

「結構深刻そうだぜ。やっぱり俺たちのところで預かった方が良いんじゃねえのか?」

「それは賛成なんじゃが、あの眼の怪我はどうするんじゃ?ワシらのギルドにあれを治せる者が居たかどうか…」

「…あんまり気乗りしねぇが、ポーリュシカに頭を下げるしかねえよ」

 

マスターもそれにはげっそりしたが、それしか可能性がないと諦めたように肩を下げる。

 

「エルザ、ワシらは君をこのギルドに迎えよう」

「良かった…」

「そして、明日はワシと共にある場所に行ってもらう」

 

次の日、新しく買ってあげた服を着せ、マカロフとエルザはロブの旧友の1人、ポーリュシカの元へと向かった。

 

====

 

治療を施すことに成功し、遂には眼帯を外して帰ってきた。両目で世界を観れるようになってから、彼女はよく笑うようになった。

 

「ポーリュシカと話をつけるのに難儀したわい」

「まあ良いじゃねえか。いい笑顔を見せてくれてるぜ」

 

グレイやカナといった比較的年齢の近い子達が周りにいることも大きいのだろう。

 

「またギルドが賑やかになったな」

「…そうなのかもな。ふふ、ロブめ、良い子に育てたようじゃのう」

 

後に妖精の女王(ティターニア)、妖精最強の女魔導師と呼ばれ、楽園の塔の一件が起こるのはこれから更に数年後の話である。




なんだかんだで番外編まで来れました。あとは最後まで突っ走るのみです。


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番外編 その3 『妖精の尻尾』創設秘話

今回はご先祖のルミナとメイビスたちの出会った頃の話です。中身は相変わらず薄くてご都合主義的なとこもあります。


X696年、マグノリアに一つの小さな船が訪れていた。そこから降りてきた少女と3人の男たち。彼らの名前はメイビス、ウォーロッド、後にハデスと呼ばれるプレヒト、そしてマカロフの父になるユーリだ。ここには荷物の補給と新しい街の情報を集めにやって来たのだ。

 

「ここがマグノリアですか…」

「いやぁ、久しぶりだなぁ!」

(ワッシ)たちも何度か訪れたが、相変わらず栄えておるのう」

「とりあえず情報と物資を集めよう。話はそれからだ」

 

この先のことを考えたプレヒトの助言を元に二手に別れる。プレヒトとユーリは買い物に、そしてメイビスとウォーロッドは情報集めへと向かった。

 

「何か良いことがあればいいですね!」

「そうじゃな。まずはそこの酒場にでも行こうか。情報は人の多いこういうところに集まるでな」

 

まずは人の集まりそうな場所にいこうと扉を開けると、外とは変わらない活気がそこにはあった。

 

「いらっしゃい!旅の人かい?」

「まぁの…少しここら辺のことを聞きたいのだが、良いか?」

「それならそこのルミナのお嬢ちゃんに聞きな。この街の周りのことなら俺より詳しいかもな」

 

店主が指差した方にはメイビスとそう年齢が変わらない女性が1人で黙々と食事を取っていた。

 

「あの…少しいいですか?」

「もう少し待ってな。話ならメシ食ってから聞くよ」

(ワッシ)らは急いでいてね。時間はとらない、悪いが聞いてもらえんか?」

「…分かったよ、手短かにね」

 

ウォーロッドの少しドスを効かせた声にも臆すことなく、しかしその必死さに何かを感じたのか頷いた。

 

「何が知りたいんだい?ある程度なら答えられるけど?」

「これから旅をしようと思ってまして、その為の資金が必要なんです。それと、ここ一帯の情勢を知れれば…」

「安全を確保するのが大事でな。場合によればここに留まるかもしれんのじゃ」

 

2人からの説明を聞き、少しの間思索を重ねてある答えを導き出した。旅をしたいと言うメイビスたちに断りを入れてから言葉を続ける。

 

「正直ここらは呑気に旅を出来るほど安全じゃないよ。動ける範囲が限られちゃうけど、金も安全も確保する手段があるわ」

「もしやギルドのことか?やはり、そうなるか」

「これなら治安も金も手に入るし、力をつけてから冒険なり旅なりすればどうかしら?」

 

少女から出された案に賛成だが、勝手にここで決めては残りの2人に悪いだろうと、一旦持ち帰る事を伝えた。

 

「分かりました。一度他の2人と話して来ます。…貴女の名前を聞いてませんでしたね、私はメイビス、こちらの彼はウォーロッドです」

「ルミナよ、ルミナ・マーナガルム。話が纏まったらまたここに来て。昼間ならいつもここにいるわ」

 

笑顔で答えながら店を出た2人を見送るルミナは、悲しそうに涙を一粒浮かべた。

 

「お嬢、あんたも元は旅人だったんだろ?本当はついて行きてえんじゃねえか?」

「私は私なりにやるさね。それに私を受け入れてくれたこの街にもう少し居たいんだ」

 

獣人の里を出て何ヶ月も一人で過ごした彼女にとって一緒に旅をしたい気持ちと、この街の暖かさの中で過ごしたい気持ちで揺れていた。

 

====

 

その日の夜、宿に帰ってきたユーリとプレヒトにメイビスは昼間あったことを、包み隠さず全て話した。

 

「ギルドだ?何を言い出すかと思えば…」

「そんな物作ってどうなると言うのだ?立ち上げるにしてもどこに作る、金は?」

「そ、それは…」

 

プレヒトの現実的な言葉にどう答えようかとメイビスは頭を巡らせる。そんな時に、夜更けにも関わらず、ノックが聞こえた。

 

「誰だよこんな時間に…おい、どこの誰だ?」

「ああ、すみません。ルミナという女性のお客さんがお会いしたいそうで」

「ルミナ?誰だよそれ」

 

不審がるユーリは後ろにいる皆に視線を送る。それに対してメイビスとウォーロッドは入れても構わないと頷いて返した。

 

「連れて来てくれ」

「承知しました」

 

宿主がドアから離れて数分した頃、ようやくその女性がドアを開けてやって来た。

 

「こんな時間に済まないね。昼間の話、あの後色々回ってたら私の方で手伝えることが出来てさ」

「説明してもらおうか?」

「そうさね、土地と仕事が少し。あんた達がギルドを作るなら、分けてくれるそうだよ」

 

皆して驚いた。まさしく渡りに船と言ったところだ。しかし、どうやってそんな物を集めてこれたのか謎なままだ。

 

「なんでそんなすぐに集まるんだよ?何したんだ?」

「前のギルドが無くなってね、軍がここの治安を守ってるんだけど、大変らしくてさ」

「そこでギルドを作るって話か。たしかにあちらからしてみれば好都合、(ワッシ)らも仕事が入る、と」

「ご名答。どう?やってみる?」

 

プレヒトの懸念していた問題も少なくとも緩和はされた。この地にギルドを作るのも作らないのも、後は本人達の意思にかかっていた。

 

「私は良いですよ?」

「俺も賛成だ」

(ワッシ)もそれで構わん。プレヒト、お主はどうする?」

 

最後の1人プレヒトに話を振ると、ため息を1つついて目を開いた。

 

「全員賛成なら俺もそれで良い。今更反対してもどうかと思うしな」

 

これで話は通った。反対も特になく、数日後には正式に評議会と街の人に通すことになった。

 

「じゃ、とりあえず私はこれで帰るよ。ギルド名決めたら私のとこに来な、それまでに書類を取っておくよ」

「はい、お願いしますね!」

 

それから数ヶ月後、カルディア大聖堂の近くに妖精の尻尾(フェアリーテイル)の建物が築かれていた。その前で4人ともう1人、ギルド創設者であり、メンバーに加わったルミナが記念撮影をしていた。

 

「ここが俺たちのギルドか」

「案外、悪くないな」

「頑張った甲斐があったわ」

「ふふ、これからは5人になるな」

 

集まった4人の前にメイビスは一際明るい笑顔で立つ。

 

「さあ、写真を撮りましょう!これからも一緒に冒険を続けますよ!」

 

これはギルドの始まりの物語。妖精たちの冒険も戦いもこの日から全てが始まった。




案外番外編書くの大変でした…


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番外編その4 2人の道

どうもお久しぶりです。ぽおくそてえです。次の小説書いてる時にふと思いついたので書きました(かなり短いですが…)。
次の小説を投稿するまでの間、もうしばらくお待ちくだされ。


x785年、天狼島決戦を終えてからは平和な日々が続いている。そんなある日、ギルドに一つの吉報が届いた。

 

「…っつー訳でよ、急な話だが、俺とルーシィは結婚することになったんだ」

「「「なにぃー!?」」」

「そうか、本当に急じゃな。しかし、これは目出度い話でもあるのう」

 

そう、数ヶ月に及ぶ交際ののちに遂にルーシィとジンヤは互いに結ばれる決意を固めたのだ。ルーシィの父親、ジュードに挨拶した時に彼に病気が見つかり、彼のためにもという気持ちもあった。

 

 

「ギルドメンバー同士の結婚って珍しくないけど、それでも嬉しいわ」

「ありがとうミラさん。正直嬉しすぎて最初頭が真っ白になっちゃったんだ」

「あんたたち仲よかったから、私からしてみればやっとかって感じだけどねぇ」

 

カナのそのセリフに周りにいた女性陣もウンウンと同意するように頭を縦にふる。

 

「ルーシィ、おめでとう。2人とも仲良くね」

「お二人ならきっと大丈夫ですよ」

「先を越されたのは残念ですが、おめでとうです」

「ええ、みんなありがとうね」

 

皆に祝福の言葉を受けながら、ルーシィはこれからの未来を想像させる明るい笑みを浮かべた。

 

 

「まさかお前が結婚とはな。俺が旅してる間にそこまでいってたのか」

「まあな。俺も26だ、そろそろ身を固める時が来たって訳だ」

 

祝福を受けるルーシィから少し離れたテーブルではジンヤがラクサス、ギルダーツ、そしてマカロフと共に酒を飲んで静かにこの幸せを祝っていた。

 

「にしても驚いたな。結婚するってんなら、俺やマカオみたいにならねえように最期まで責任を持てよ」

「先輩の言うことは重みがあるな、ギルダーツ」

「痛いこと言ってくれるな。その通りなんだがよ…」

 

結婚し、子供までいるギルダーツの言葉に皮肉めいた言葉で返したら、苦い笑いを浮かべている。

 

「まあ何はともあれ、良き報告を聞けて良かったわい。己のガキが結婚するまで行ってるならこれ以上に嬉しいことはないな」

「ありがとよ、マカロフ。親のいねえ俺にとっちゃあ、あんたは親同然なんだ、少しは恩返ししねえとな」

「こんなしんみりしてたら酒が不味くなる。ここは楽しく行こうじゃねえか」

 

ギルドの喧騒は幸せな風に乗って今日も一日夜更けまで続いていく。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』では明るく楽しく時が過ぎていく。

 

====

 

そしてそれから一ヶ月、よく晴れた日にカルディア大聖堂で2人の式が行われていた。ギルドの「家族」だけではなく、街の人々までもがこの日のために集まっている。

 

「ジンヤさん、娘のこと、よろしくお願いします」

「分かっています、ジュードさん。後は自分に任せてください」

「ありがとう。親らしいことが最後にようやくできた気がします」

 

ジンヤの心強い決意の表れた言葉にジュードもどこか晴れやかな表情をしながら席へと向かった。それを見届けてから2人は指輪を交換し、一生を共に過ごす誓いを立てた。

 

「これからもよろしく。隣で一緒にな」

「ええ。こんな私だけど、よろしく」

 

晴れわたった冬の日、2人が出会った時のように爽やかな風が街を駆け、祝福を与えるように暖かい光が大聖堂を照らす。それぞれの道は一つとなり、未来へと向かい始めた。




多分年内は難しいので、まだ未定ですが新作は次年度とかになりそうです。


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番外編 その5 最期

番外編もこれで最後です。これで本当の意味で完結になります。後は気づいた誤字などを直すのみです。


X847年、ジンヤがこの世に生まれてから88年が経ち、その体は衰えと老いによりかなり弱っていた。時の流れは彼以外にも等しく訪れており、ギルドマスターの座もギルダーツの代から更に3回渡り、ビスカとアルザックの娘アスカがその座に就いている。普段仲良くしていた同期はナツとガジル、ウェンディ、ラクサスの滅竜魔導師組以外は全員が既にこの世を去っている。

 

「友もすっかり減っちまったな、ルーシィ。次は俺たちかねぇ」

「思えば、出会ってから60年以上が経ってたのね。私たちも年をとるわけね」

 

ナツ、ハッピー、ジンヤに連れられて妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ったのが63年前、まだルーシィが17の時だった。それからは様々な戦いを経てギルドの一員として、そして隣にいるジンヤの恋人として過ごし、今となっては最愛の人と共に最期の時を迎えようとしていた。

 

「あの頃の冒険の全てが懐かしいな。今でも良く思い出すよ…」

「私、その冒険があったから幸せだった。みんなに会えた、色んな事が出来た、それに貴方と一緒に過ごせたんだもの」

「そうか…」

 

いよいよその最期が近づき、意識も薄らいでいく。

 

「そういえばあの時に、言ってもらってなかったわね。最後に私からのお願い…愛してるって、言ってほしいな」

「…いつも、隣に居て…ありがとう。最期の最期まで…一緒に、いられて良かった……愛してるよ、ルーシィ」

「私もよ…ジンヤ。私の…」

 

X847年某日、子供のアンナや孫たちは仲良く静かに眠る2人を見送った。その時の2人は手を繋ぎ、そして安心したように笑っていたという。夫婦はどんな時でも決して喧嘩する事なく、最期のひと時まで仲睦まじく暮らし、そして亡くなってからも2人の墓地は隣り合わせで並べられている。そんな2人の仲の良さについては家族や友人、街の人たちにも良く知られており、誰もがその後ろ姿に憧れたという。その姿に魅了された人は彼らの死後も後を絶たず、種族間を超えた愛情に影響されて友好が生まれた。そんな存在になった2人の墓にはこう刻まれている。

 

『獣王』ジンヤ、X759〜X847年、享年88。獣王という肩書きを持ちながらも常に家族との絆を大事にし、街の人にも愛された男。その最期は妻と共にした。

 

『星霊との絆を説くもの』ルーシィX767〜x847年、享年80。星霊や仲間、そして最愛の男との絆や愛を忘れず、どんな時でも前を向くその強さは皆に希望を与えたという。最期のその時まで夫との愛を忘れず、共にした。




これが最後の最後です。結構テンプレになっちゃったかも…。
墓に書いてある文章も、93話の最後の文章もFE覚醒の『キャラのその後』的な部分を参考にしてます。

誤字脱字等々ありましたらご報告をお願いします。


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