「……て下さい。起きてください」
凛とした声に呼ばれて目を開ける。目にはこの時代には少しばかり豪華すぎる部屋の内装と、ショートボブの金髪の女の子が顔を覗き込んでいた。
「おはようフラン」
「おはようございますレムさん」
眠い眼を擦りながら、体を起こしベッドの縁に捕まるようにしてしゃがみこむフランに声をかける。彼女は僕以外に見せることのない顔で微笑んでくる。
彼女は現在僕らがいるフェンリル極致化技術開発局「フライア」のオペレーターである。本名はフラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュと長く、本人からの意向もありフランと読んでいる。
「それでこんなに早くにどうしたんだ?」
基本フライアは行く手にアラガミが現れたり、他の支部からの救助要請が無い限りは討伐の依頼はなく僕のようなゴッドイーターやフランのようなオペレーターは十分に休息を取ることができる。
「少しばかり早く起きてしまったので、庭園にでも誘おうかと思いまして。迷惑でしたか?」
上目遣いで首を少し傾けられた状態で、可愛い娘にお願いされて断ることが出来ようか、いや出来ない。
素早く身支度を整えて、エレベーターを使いフライアの最上階へと向かう。そこは前時代の自然があり、心安らぐ所となっている。小川からの涼し気な音を聞きながら、中央にある大きな木に二人して寄りかかる。周りに人が居ないという事もあってフランは僕に体を預けて幸せそうな顔をしている。
「そういえば今日、新人が二人来るそうですよ」
「ブラッドに所属の子達かな」
「おそらくそうでしょうね」
「これでジュリウスと話が出来る子がいたらいいね。それとロミオを先輩として呼ぶ子かな」
「二人がその様な人ならあまり心配事は無いでしょうね」
「流石にそれは言いすぎじゃないかな。前提として生き抜くための力がなきゃ」
「それは貴方とジュリウスさんがいれば問題ないでしょ」
「確かにそうだけど」
「……それに、ようやく貴方と結ばれることが出来ますし」
自分で言っておきながら恥ずかしくなったのか、赤らめた顔を僕の胸に押し付けるようにして隠す。普段のクールな彼女とのギャップにドキッとしてしまう。
「ようやくフランの両親も認めてくれたからね」
もともと僕の生まれは極東のスラム街だ。親もいなければ頼れる人もいない。そうやって暮らしている時に極東支部のゴッドイーターにスカウトされたのだ。
生きる為に必死だったあの時の僕は、失敗して自分がアラガミになる事など考えずにそれを了承した。結果としてはそんな事は起こらず最善の選択をしたこととなったのだが……。
同期のリンドウと共にずっと極東支部で働いていたのだが、何やかんやと上層部の秘密計画を邪魔したりだとか、やりたい様にやっていたら榊支部長にフライアに行く様に命令された。それが大体二年前。
そして僕がフライアにやってくるのと同時に知り合ったのがフランだ。フェンリルに就職し、まもなくフライア所属になった彼女と意気投合しこれまでなかよくなってきた。
様々な事があり付き合うことになったのだが。元々出自が良いフランと何処の出かも分からない僕との交際を彼女の両親が認めるわけもなく。更に歳の差が10歳ある事や僕が任務であっさり死んでしまうかもしれない事が、両親の反対を後押しした。
最近になってようやく僕が過去にやった事が時効をむかえたようで、支部長をやってみないかと誘われた。とは言ってもその時は既にフライアに欠かせないゴッドイーターとなっており、またブラッドの計画が始まっていたので簡単に了承する事は出来なかった。
そのため上からはゴッドイーター兼副局長としてフライアに務めることを命じられた。どうやらこの一件にはリンドウと榊支部長が一枚噛んでいたようで感謝してもし切れないほどだったのだが、考えてみると彼らのせいでこうなった所もあるので、感謝の言葉を伝えるだけにした。
当面はブラッドが完成するまでフライアに務め、ブラッドが完成しフランの後釜がやって来るのと同時に二人で新たな支部に移ることが目標である。出来る事ならフランの事をいやらしい目付きで見てくるフライアの局長を止めさせて、フライアの局長になるのも一つの手だが、自分を守る為なら何でもやる奴なので、色々と暗躍しなければならなく危険な為その案は放棄した。
「あっという間に時間が過ぎてしまいました」
フランの頭を撫でたり、手を握って見つめ合ってるいるうちに仕事の時間が迫って来ていた。もう少し一緒にいたいが我儘を言う事も出来ないので、フランを仕事場まで送り届けた。
自室兼副支部長室で書類(明らかに支部長向けのものも含まれている)を書いていると、ラケル博士から連絡が入ってきた。
「もしもしレムですがどうかしましたか?」
「新しくゴッドイーターとなる子たちの最終試験がこれから始まるので、ご覧になられてはどうかと思いまして」
何処か儚げな所があるラケル博士からのお誘いだった。僕自身、朝にフランから言われて気になったがしばらくするとアラガミ討伐のミッションが入っていた為、申し訳ないとラケル博士の誘いを断ることにした。
ジュリウスが後輩の訓練を見るとの事で久々のソロミッションとなったが、極東のアホみたいに強いアラガミではない為難なく終えることが出来た。強く無いとは言っても慢心は死を招くため、フランを悲しませない為にも気を引き締めないといけない。
フランと通信機越しにやり取りをしてフライアに戻り、ミッションカウンターで話をしているとラウンジに先ほど資料で見かけた新人二人が座って話をしていた。
「あの二人が新人か」
「ちょうどレムさんがミッション中に訓練をしていて、今は休憩中です」
極東支部にいた頃は新人育成の為に沢山の新人ゴッドイーターと出会ってきた為、何となくだがこの子は長生きするとか、強くなるとか、その逆も分かるような目が鍛えられてきたのだが、二人はどうやら強いゴッドイーターになる気がする。
「声をかけられてはどうですか?」
「それもそうだね。これからミッションで一緒になることもあるだろうから行ってくるよ」
フランに手を振り二人の元へと歩をすすめる。どうやらフランと話をしている間にロミオも二人に合流していたらしい。僕が近づいてくるのに気がついて、挨拶してきた。
「レムさんお疲れ様です!」
「ロミオくんも訓練お疲れ様。この子たちがブラッドに所属する事になった新人さんかな?」
「そうです!ほら、自己紹介しろ」
小声でロミオに言われた二人は立ち上がり、自己紹介をする。
「神威ヒロ、17歳です!よろしくお願いします!!」
「香月ナナ、同じく17歳!これからよろしくお願いします!!」
ビシッと効果音を付けてもおかしくないほど立派に敬礼をしてきた。
「僕はレム。第1世代の神機使いで26歳になるのかな。ゴッドイーターとしてはそこそこ長いけど、フライアに来てからは二年くらいしかそこまで緊張しなくていいよ」
後ろのフランから『ゴッドイーター歴2桁でそこそこ長いは無いでしょう』という視線が向けられている気がするが、気にしないでおこう。
「何か困ったことがあったら部隊長のジュリウスでも、先輩のロミオでも、またまた同じくフライアに所属する僕にでも気軽に聞いていいからね」
さっそくヒロくんが質問をしてきた。
「レムさんはブラッド所属では無いんですか?」
「僕は只の遊撃部隊だよ。僕以外に人がいないから部隊というのもおかしいけど」
「レムさんのお陰でフライアが無事に移動できてるって事だよ」
なる程なる程と二人は納得する。
「第1世代ってどういうことですか?」
続いてナナさんが質問してくる?
「ナナはそんなことも知らないのかよ」
「ならロミオ先輩は知ってるの?」
「……」
沈黙が場を埋め尽くす。
「君らみたいに剣形態と銃形態そして捕食形態が使えるゴッドイーターを第2世代って言って、ここ最近の主流かな。2、3年前は珍しかったけどね。君らブラッドは第2世代特有のものを少し強化したゴッドイーターだから、便宜上は2.5世代ってところになるのかな」
『へー』
三人して僕の言葉に耳を傾けているようだ。
「その第2世代が出回る前まで主流だったのが第1世代。剣形態と捕食形態の2つを扱える、銃形態のみを扱える神機を使うゴッドイーターだね。ちなみに僕は銃形態の神機を使うからもしミッションで一緒になったらよろしくね」
「レムさんはあの極東支部に長年務めてたから、扱えない剣形態の事にも詳しいから困ったらちゃんと聞けよなー」
ブラッドと話をしていたら、また進行経路にアラガミが現れたらしいので僕は再びミッションに出かけた。
フランとのイチャイチャが書きたかったのだ……。
しばらくGOD EATERという作品に触れていなかったので、もし設定が違っていたらゴメンナサイ。
小説のタイトルを付けるのが一番難しい件について。
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2話
「なぁジュリウス」
『なんですかレムさん』
「この新人の初陣に僕まで付いて来る必要あったか?」
『レムさんは何だかんだあの二人に構ってたじゃないか』
「たしかにそうだけど」
今日はヒロとナナの実地で初めての戦闘をする日である。ジュリウスの言うとおり、訓練終わりの二人と談話を良くしており気のおけない間柄になることは出来た。
『こちらは新人二人の討伐対象であるオウガテイル以外のアラガミの討伐を完了した』
「僕の方はもう少し掛かりそうだから、ジュリウスは先にヘリの到着地点に行ってていいよ」
『分かりました』
ジュリウスとの通信が終わると同時にフランのオペレーションが始まる。
『周りにはレムさんの目の前の2体以外、アラガミの姿はありません』
「それならぱぱっと片付けてしまいましょう」
『レムさんが居る地点から合流場所まで移動する時間を考えると、討伐にかけられる時間は長くて5分となります。いけますか?』
「この2体なら大丈夫だよ」
『それではご武運を。もしもの際はコチラからも連絡はしますし、常に通信は付けておくので何かあったら何でもおっしゃっください』
「あいよ」
ある程度通信が終わり、倒壊したビルの影から今回の対象であるシュウとヴァジュラを観察する。見た感じ大きさや色は他の個体と変わりがなく、大きな心配をすることはなさそう。
アサルトのバレットを変え、準備が整い次第影から出る。僕の姿を認識した2体は咆哮し戦闘態勢に入る。しかし、それはあまりに遅すぎる。
極東支部を離れる際にリッカにお願いして(無理やり)作ってもらったガトリングの様な銃身からは、普通のアサルト以上の弾数が発射され、それぞれの頭に結合崩壊をもたらす。
シュウが怯んだ為追撃をかけようとしたが、ヴァジュラが電気球を飛ばして来たので回避のために追撃を断念。バックステップでその場を離脱。
怯みの解けたシュウは僕に殴りかかってくるが、同様にかわした為僕にダメージが入ることは無かった。避けた僕の方をシュウは睨むように見てくるがソレは悪手だ。
予め敵が触れると爆発するようにエディットされた球に触れたシュウは爆発に巻き込まれて、コアが破壊されたようで爆発によって生じた土煙が晴れるとシュウの姿はなかった。
一体になればあとは簡単である。極東ではヴァジュラを一人で倒せるようになれば一人前と呼べるのだが、極東はゴッドイーターとアラガミが互いに互いを高め合っているため、極東のヴァジュラと比べればこのヴァジュラは赤子同然である。
集中砲火と言えるほどの弾数でヴァジュラを蜂の巣にする。傷を修復するごとに肉質が柔らかくなり、その時を見極めコアがあると思われる数カ所に銃弾を放つ。狙い通りコアに当たり、砕いたらしく、ヴァジュラの姿が消えていく。
「こちらレム。討伐対象2体の消滅を確認」
『お疲れ様でした。モニタリングしておりましたが、特段危険なところがなく安心出来ました。目的地への移動おねがいします』
「わかりました」
アサルトを脇に構え、スタミナが尽きないように注意しながら駆けていく。
「つーかーれーたー」
「ここに来る人が少ないとは言え、カウンターに突っ伏すのは止めてください」
「いいじゃんいいじゃん。こっちはジュリウスの暴走で疲れたんだし。フランの顔を見て癒やされたいんだよ」
「……仕方ありませんね」
照れるように顔を赤らめて、顔を背けるフランを見ることが出来てこれだけでもう幸せ。
「だらけない顔をしないでください」
「やっぱりそんな顔になってたか」
「そこまで疲れたのですか?」
「うん。ジュリウスが新人にゴッドイーターとは何たるかを教える為に、オウガテイルに腕を喰わせそうとしたり、それとは別に新人教育ってのは何度やっても疲れるものだからさ」
「たしかにジュリウスさんの件は私もビックリしてしまいました」
オウガテイルと言っても下手をすれば腕を持って行かれるのに、後輩に見せるためだけにそこまでやるのは如何なものかと思いました。因みに、結果としては腕を喰わせる前に銃身でオウガテイルをぶん殴りました。
「新人の方はどうでしたか?今まで多くの新人教育をしてきたのですから、何かしら思う事があったと思いますが」
極東で多くの新人を見てきた。長年ゴッドイーターをやっているという点ではリンドウも同じなのだが、僕の方に新人教育の仕事が来るので、人よりは多いとは思う。
とは言っても、銃形態の第1世代の教育が殆どだった為今回は二人が硬くなって動けなくなるような状況にならないようにしただけで、戦闘面での指導はジュリウス中心だった。
「動けていたから大丈夫だとは思うよ。昔と違って第2世代の戦闘マニュアルは確立しているし、よっぽどの事が無い限りはやっていけるはず」
第2世代が出始めた時の新型二人の教育を押し付けたヨハネス支部長は許せそうにない。前にあった時はソーマと一緒にいた手前殴れなかったが、今度あったら殴ってやろう、そうしよう。
「断定は避けるのですね」
「まあね。ラウンジからこっちに聞き耳立ててるみたいだしね」
ラウンジの方を見ると二人がなんとも言えない笑みを浮かべていた。自分の評価が気になるのは仕方がない。
「調子がいいと思われてぽっくりイカれたら夢見が悪いからさ」
極東支部にいた頃なんて慢心していなくともぽっくりイク人だっていたのだから。
「でも、期待してるってのはあるかな」
ラウンジの二人に聞こえる様に言ったところ、嬉しかったようです喜びの声が聞こえて来た。
「結局甘いのですね」
「それが持ち味だからね」
その後しばらく話しているとアラガミが出現しため出動命令が出た。後輩の登場で焦ってるであろうロミオでも連れて行こうかな。
レムさんはよく分からない人です。それは初めてあった時に抱いた感情であり、2年一緒に活動したり、恋人となった後でも変わりませんでした。
彼と
望んではいなかったものの親の権力があった事とより、フライアと呼ばれる比較的安全な所のオペレーターの仕事が与えられました。そして、私と同時にフライアにやって来たのがレムさんでした。
招待されたパーティーに来るゴッドイーターは何処か傲慢で、自慢話のようにアラガミを倒したと語る者がおおく、ゴッドイーターという職業の方はあまり好きではありませんでした。
そんな気持ちはレムさんにあった時も勿論ありました。前もって貰っていた資料にはもっともアラガミとの戦いが激しい極東支部からやって来るため、エリートかもしくは安全な所に逃げてきた方だと想像していました。
局長に挨拶しに部屋に入ろうとした時、丁度レムさんが局長室から出てきたのが初めてあった時です。男性にしては長めの髪を自然に流し、当たり障りの無いような表情をして来ました。「これからよろしく」とだけ言い残して、彼はエレベーターに乗ってエントランスへ行ってしまれました。
それからすぐ私の初めての現場でのオペレーターとしての仕事が始まりました。やはり練習通りとは行かず、おぼつかない所が多々あり、アラガミの接近に気づくのが遅くなってしまいました。しかし、その事でレムさんがダメージを負うこともなければ、私のミスを怒ることもありませんでした。
おそらく極東支部にいた頃に身につけたであろうオペレーターとしての心構えを教えていただき、「初めてなんだから、これくらいで怒りはしないよ」と慰めてもらいました。
きっと、彼の様な方が真のゴッドイーターなのでしょう。驕ることなくどこまでも誠実な態度で任務を遂行する彼の姿はとても素晴らしかった。
彼が戻ってくる姿を確認すると、体の力が抜けぺたんと床に座り込んでしまいました。その様子が面白かったらしい彼はカラカラと笑い、私の頭を撫でてくれました。
それからというもの、レムさんは私に気をかけてくれました。きっと私が変に意識しているだけかも知れませんが……。殆どの人と別け隔てなく接する彼ですから、私以外の方とも仲良くしていたと思います。私を除けば、よくジュリウスさんといました。何処か浮世離れしていた彼を放っておけなかったのでしょう。
少し脱線してしまいましたね。惚れたのがいつなのかはあまりはっきりしていません。最初のミッションの時なのか、はたまた一緒に書類整理をした時なのか。休みの日に庭園に誘われ、ピクニックをした時なのか。気が付いたら、彼の事を考えている時間が多くなっていました。
そして私は決心し、彼に告白しました。
「レムさん、貴方の事が好きです。私と付き合ってください」
初めての告白で、思ったよりも自分の気持ちを言葉に出すことが出来ませんでした。私の告白に対してレムさんは恥ずかしそうに頬をかいたあと、私を優しく、しかし強く抱きしめました。あまりの事に頭が働かない中。
「僕も君の事が好きだ」
耳元にこんな言葉を囁かれてしまいました。いつもの元気そうな声ではなく儚げな声に私は顔を赤くして、人様に見せられぬ様な顔をしていたでしょう。
付き合ってから一つ大きな問題にぶつかってしまいました。何処からか私に恋人がいるということが両親に伝わってしまったのです。オペレーターとして雇われた後に見聞を広める為と事後報告で親に伝えた上に、このようなことがあった為怒り心頭でした。ましてやイヤイヤながらも危険な所に送り出した娘、何処の生まれかも分からない奴にやれるかという気持ちもあったのでしょう。
10数年ゴッドイーターをやっているベテランと言っても、上の者から見たら只の駒であり。何が原因となって死ぬ事になるのかは分からない。正直言って今も、毎回のミッションで不慮の事故で彼が死んでしまわないかは心配です。
私と付き合い初めて半年で彼は支部長の推薦を貰うほどの成果を上げました。本人が言うには今までためてた研究資料を出しただけ、極東支部での悪行がようやく許された、などと言っていましたがこれでようやく両親が私達の中を許してくれ、私は嬉しかったのです。
しかし、現段階でその推薦を受け取れば離れ離れになるということでまだレムさんは受け取っていません。フライアのオペレーターは私しかいない為でした。また、レムさんも仲良くしたジュリウスさんが部隊を持つという事でその完成を見たいということもあって、私の後釜そしてブラッドの完成とともに私達はまた新たな一歩を踏み出すことになるでしょう。
ここまで長々と考え事をしてきましたが、それ程時間が経っていませんてました。レムさんとロミオさんがフライアに無事到着してからの考え事でしたが、丁度今神器の収納も終わりラウンジに戻ってくるそうです。
「ただいまフラン」
「おかえりない」
ゲートからやって来た屈託のない笑みを浮かべるレムさんを見て。レムさんと入れる日々のありがたさに感謝してしまいます。
1話の加筆修正はしなかった模様。今回長いから許して。
思った以上に読まれ、感想が来たので書いちゃいました。
本編の内容にさらっと触れながら程よくイチャイチャさせる感じで。
次回の更新でブラッドのメンバーが揃って、神機兵の流れに乗ってグレム局長を懲らしめる感じ。フランにいやらしい目向けるから……。
前半では1人称視点での戦闘シーン、後半はフラン視点の過去話となりましたが如何でしょうか。馴れ初めは何処かで1話を使ってもっと詳しく書きたいですね。
主人公紹介 そのいち
名前:レム
生まれ︰極東支部付近のスラム街
(名前は西洋風だが立派な極東生まれ極東育ち)
年齢︰26歳(フランとは10歳差)
髪:男子にしては長めの黒髪
服装︰F制式カーキ(服装には無頓着)
特徴そのいち︰トリガーハッピー持ち(無印使用)
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3話
「れむしゃーん、チューしてくらさいよ」
目の前には目をとろんとさせ、僕を上目遣いで見てくるフランがいる。僕はそれを見なかったことにして、コップの中身を飲もうとするが、それを阻止するかのようにフランが腕に引っ付いて来る。
「無視しないでくらさい!はい、ちゅー」
目を閉じて口を近づけるフランの頭を掴み、動かないようにする。「んーんー」とする姿は可愛いのだが、それは酔っていなきゃの話だ。周りにいるブラッド
ヒロとナナが入って来たあと、しばらくすると新人のシエルとグラスゴー支部からやって来たギルがブラッドに入った。ヒロとナナが入ってきた時と違ってブラッドのメンバー内で少しいざこざがあった様なのだが、今ではある程度仲良くなったらしい。
らしい、という曖昧な表現になってしまうのは僕があまりブラッドとのミッションをしなかったからである。ジュリウスとフライアの進行先にいるアラガミをぶっ倒したり、新人を連れて行くのには強すぎるアラガミを倒したり。他には、ラケル博士から紹介されたシエルと戦術の話をしたりしただけだった。
どちらかと言えば脳筋な極東支部出身のため僕自身も脳筋だと思われがちなのだが、バレットを自作したりだとか支部長に任命されるくらいには頭は使える方なのだ。スラム街出身だった為幼い頃にゴッドイーターになった頃から貪欲に知識を求めたせいなのだが。この事は、極東支部にいた時はよく驚かれたものだ。
話を戻そう。今日は偶然ブラッドの皆が休みのため、ヒロとナナ、シエル、ギルの歓迎会が行われることとなった。広いところと言ったら庭園のため、それぞれが配給チケットで食べ物や飲み物を持ってくることとなっていた。
その歓迎会はおそらくブラッドにやって来た事なのだろうが、こういったお祭り事に飢えているフライアの職員はフライアにやって来た事の歓迎と拡大解釈し、自分の仕事や研究の休憩時間を使って2.3時間だけだが顔を出していた。
僕も基本的には歓迎会に参加していた。前もって今回の歓迎会の事をジュリウスとロミオに相談されていた為、前日までに当日の書類仕事は終わらせているのだ。ちなみに僕が伝えた為フランも今日の分の書類仕事は無い。フランはオペレーターと言うのとでゴッドイーターと仲よくする事は大切だ、と昔僕が彼女に言ったことを理由に今回参加を決めたらしい。
僕とフランでフライア内で作っている食材を作って持って行ったらブラッド隊に喜ばれたので嬉しかった。本当はお酒も持って行きたかったのだが、僕はフライアの航路にアラガミが現れたら出撃しなきゃいけないわけでギル一人が飲むことになるので持っていくのをやめた。ジュリウスは二十歳だがあまり飲まない。また、極東出身のため二十歳になっていない者にお酒を勧めるのはどうも気が進まなかった。
朝から始めて話が止まることなく夕方まで続いた。その最中で僕は三回ほど出撃していた。そして四回目の出撃から戻った時、場面は冒頭へと戻る事になる……。
僕がミッションから帰ってくるとそこは殆ど地獄と変わりがなかった。ブラッドの年長組であり、苦労組であるジュリウスとギルが呂律がまわってない状態で話をしていた。シエルを除くブラッドの若者3人が話をしているのだが、何が面白いかは分からないが何を言っても大笑いをしている。
シエルは普通にジュースを飲みながら、お酒を飲んでいつもとは違う調子のフランに相槌をうっている。
唯一素面そうなシエルにこの原因を尋ねる。
「誰がお酒を持ってきたんだ?」
「レア博士です。私はもしもの時の為に飲みませんでしたが、他の方はレア博士に注がれお飲みになりました」
「はぁ」
何やってんだよ……。そんな風にシエルから事情を聞いていると、近くにいたフランが僕に抱きついてくる。
「シエルさんだけでなく私にもかまってよー」
最初のうちはまだフランさんだったが、最後はもうフランさんの原型が無いほど甘い声だった。そして、何かを悟ったようにシエルが僕らから離れる。
「シエルになにか言ったか?」
「私がレムさんとお付き合いしてると言いましたが、らめれしたか?」
ダメじゃない、と言ってしまいそうになる。あのいつも落ち着いているフランが呂律が回らなく、とろんとした目で見てくるのだ。
「れむしゃーん、チューしてくらさいよ」
周りに他の人が居なければしていたかもしれないが、流石にみんなの前では出来そうにない。
「はいはい。落ち着いてくださいねー」
「いやいや!!」
この状態のフランをどうしようかと悩んでいると、ブラッドのメンバー全員が「ひゅーひゅー」だとか「キース!キース!」と囃し立ててくる。
「五月蝿いよ。静かにして」
「いいから早くしてよー」
ナナが大きな声で言ってくる。仕方がないか。
「フラン目を閉じて」
「分かりました」
目を閉じて少し唇を窄めて、僕の方に顔を近づける。僕もそれにならってフランに顔を近づける
チュッ
後ろから「きゃー」などと悲鳴が聞こえるが、一先ず先にフランを部屋に戻さなくては。頬にキスをしただけで嬉しさのあまりか、恥ずかしさのあまりか気を失ってしまった。
何を言っても意味がないほど酔っているブラッドを無視して、フランを抱きかかえて部屋まで連れて行く。その途中で局員とあってここでもひゅーひゅーなんて言われたが、面倒なので無視無視。
フランの部屋に入るわけにもいかないので、僕の部屋に行きベッドにフランを寝かせる。僕の部屋は副局長室と兼用になっているため、来客用のソファーもあるので寝る場所には困らない。
僕も疲れたのでフランの頭を一撫でしたあとソファーに横になろうとすると、僕の右手が掴まれた。掴まれた先を見てみると、当然のようにフランが掴んでいたわけだが。本人はうまく騙せているようだが、寝たふりをしているのがバレバレである。
どうしようか。みんなの前で困らされたので、少しばかり意地悪してもバチは当たらないだろう。今度は先程とは違い唇をフランの唇に近づける。とは言っても舌を入れるなどの行為はせず、軽く当てるだけ。その後耳元で「フラン可愛いよ」と囁く。すると見る見るうちに顔を紅潮させる。
「バレバレだよフラン」
「ぐーぐー」
「えいっ」
もう寝ているふりを出来てる時点できっちり起きているはずなので、次は舌を入れて少し激しめにキスをする。「んっ」と嬌声を漏らす。
「……ぷはっ。レムさんは意地悪です。私がお願いしてもしてくれなかったのに、寝てる時にするなんて」
「悪かったな」
ベットの縁に座り、不貞腐れているフランの髪をなでる。
「その場のノリで後々恥ずかしい思いをするのはもう少し歳を取ってからの方が良いんだよ」
「むむむ……」
僕もそれでやらかしたし、もし極東支部に行ったりしたら僕がそうなりそうだけど。
「もう一回してください」
「目つぶって」
イチャイチャに重点をおいたら思った以上に字数が伸びませんでした……。
イチャイチャ加減はどうでしたでしょうか、もっと甘い方がお好みですか?
極東支部に行くのと過去話しかネタが無いのですが、活動報告でのアンケートが取れないのでどうしましょうかね。
次回の予告は
『グレム局長(出番がないが社会的には)死す』
なんて具合になりますかね。(更には描写もない模様)
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4話
「最後はフライアの局長に締めてもらいましょー」
ところ変わって極東支部のラウンジ。
神機兵やら赤い雨やら何かやばいなーっと思っていたりしたら、いつの間にか極東支部に来ていた。みんな知っていたのに、あと一日で着く時に教えられたので疎外感を感じて悲しかった。
「紹介にあずかりました、フェンリル極致化技術開発局フライアの
神機兵の試験運用の際に本部の命令である『ゴッドイーター』優先を破り、神機兵を優先したグレム局長をフランや他の局員と一緒に本部にチクったらグレム局長が本部に呼びだされてしまった。この時セクハラのことも混ぜたのだが、どちらの事で呼び出されたのだろう。
その際、副局長だった僕が臨時局長として選ばれた。本当ならフライアは研究所としての機能もあるため、只のゴッドイーター上がりの奴が着けるはずが無いのに、僕が研究してた内容がフライアでの研究に役立っていたとか、グレム局長から渡されていた書類の一部が研究に関わるものだったらしく。僕は知らぬ間にフライアで行われている研究を手伝っており、局員の信頼もあるとの事で臨時局長に選ばれたのだ。
「―――という事で、これから暫くの間ブラッド共々よろしくお願いします」
直前に僕が挨拶しなければならない事を伝えられ、フランと一緒に作り、無理矢理丸暗記した為考え事をしながらでも噛まずに読むことが出来た。
一礼し壇上から降り、ヒバリにマイクを預け空いているソファーに腰掛ける。そこにトテトテと可愛らしい歩き方でこっちに飲み物を持って来る子がいた。
「これをどうぞ」
「ありがと」
グラスに入ったワインを受け取りその女の子の頭を撫でる。その子は目を細めて嬉しそうに笑う。
「それじゃ皆飲み物は持ったね。かんぱーーーい!!」
最初に座ったソファーから少しも動かずご飯や飲み物をいただく。僕の位が高いため色々な人が挨拶に来るのだが、僕が離れてから入ってきた人は酷く緊張して挨拶しに来て、昔馴染みの人たちは2年ぶりだというのにとてもフランクに話しかけてきてくれた。
パクパクとムツミちゃん(極東支部の人に教えてもらった)の料理を食べていると、コウタがグラスを持ってやって来た。
「隣いいですかレム局長」
「うぜぇから嫌だって言ったらどうすんの?」
いいじゃないですか、と言って僕の隣に腰をおろす。
「コウタが第一部隊の隊長になるとか、思っても見なかったよ」
「それを言うならレムさんの方が局長になる方が驚きですよ」
そりゃそうだな。ぐびっとワインを飲み干す。僕がいた頃とは違ってこのラウンジと言う存在のお陰で、極東支部全体が暖かく感じられお酒が進む。
挨拶回りが終わったフランがグラスを持ってフラフラと彷徨っていたので手招きする。同じようにコウタも誰かを呼んでいる、その先を見てみるとサクヤがいた。
「ほれ、隣に座れ」
「レムさん酔ってますね」
「まぁ実家に帰ってきたようなもんだからな。安心して酔えるんだよ」
コウタとは逆の方にフランが座り、その隣にサクヤが座る。
「久しぶりねレム」
「おっすサクヤ。リンドウはサクヤとレンをお留守番させてまたアラガミとデートかい?」
「そうよ。ほんと困っちゃう」
カラカラと笑って、新たにグラスに入れたワインを飲む。
「飲みすぎですよ」
「今日くらいいいじゃんかよ。っと、紹介しないとな。僕の隣にいるのがコウタ。知ってるとは思うけど、第一部隊の隊長で僕のN番目の弟子。フランの隣にいるのがサクヤ。僕の同僚の妻で、元ゴッドイーター、僕の3番目位の弟子かな」
「よろしくねー」
手を振るサクヤにフランは頭を下げて返す。
「隣のかわいこちゃんは誰なんだよ」
コウタのやつ酒飲んでも無いのに、場の雰囲気によって酔ってるだろ。そうじゃなきゃ腹をツンツンつついてきたりはしないだろう。
「私も気になるわね。さっきの様子を見ると、ここに座るように行ったのもレムなんでしょ。そんな事をする人って今までいなかったわよね」
確かにそうだな。ここは1つ驚かせてやろうかな。フランを肩に手をまわし、グッとこちらに引き寄せる。
「この子はフラン。僕の恋人、というより婚約者だ」
ラウンジの空気が凍った。隣でフランが頬を染め口をパクパクしているが何でだろう。僕が前にいた時とは違って美味しい食事があり、それを肴にしてワインをすすめるのは大変幸せだ。
「ちょっとこっち来い!」
「フランちゃんはこっちよ」
僕はコウタとどこから現れたか分からないタツミに、フランはサクヤに連れ去られていく。何だ何だ?
「どーしたの?こうたん、たつみん」
「うへっ、レムさん酔ってるじゃん」
「どうしますタツミさん」
何やらカウンターの方に連れられたっぽい。そして僕の周りには昔馴染みのゴッドイーター達がいる。まぁいいや。
「ムツミちゃーん、おかわりちょーだい」
「飲み過ぎないでくださいよ」
「このレム、その位のことは分かっております」
ツバキさんに昔鍛えられた敬礼でビシッと返事をする。
「おいっレム!フランちゃんってオペレーターだよな」
「そーだけど」
「どうすればオペレーターの子と付き合えるんだよ」
「まだヒバリちゃんと付き合えて無いのかよ。アハハハ、コイツはおもしれーー!!!」
僕がいなくなってからの2年何してたんだよ。アハハハ笑いが止まらない。
「あんなにトゲトゲしていたお前に恋人か」
「あれ、ハルさんじゃないですか。こっちに来てたんですね」
またもや昔なじみが現れた。
「おうよ。それで、あんな可愛い子何処で引っかけたんだよ」
引っ掛けたなんて失礼な言い方だな。
「ちょうど同じ日にフライアに配属になって、それから一緒にいる事が多くなって互いに気になり始めた時にあっちからな」
周りの男たちからは「おー」と野太い声が、フランを連れて行った女たちからは「きゃー」と声がした。そちらを見るとラケル博士とレア博士もいる気がするが、気のせいだろう。
「お前って何歳だっけ?」
「26」
「フランちゃんは?」
「16。歳の差は10歳だから」
「「「はっ!?」」」
完璧に日が変わり、出撃任務がある人は任務へ、寝る人は寝てそれぞれがやることをやるためにパーティーはお開きとなった。僕はと言えば結構早い段階から酔っていた様であまりパーティーの内容を覚えていないが、終わる頃に酔いが覚めるとよく分からないが膝にフランをのせていた。
「ほらフラン、起きなよ」
「あっ、レムさん」
目を覚ましたフランは僕を見ると何か恥ずかしそうに目をそらした。
「何かあったのか?」
「元はと言えばレムさんが原因なのですが、その様子では何も覚えていないようですね」
ふむ、酔って何かを行ってしまったという事は予想できるがそれ以外の事は予想できない。
「何があったか教えてもらえるか?」
「ダメです」
起き上がったフランは人差し指を口にあて、少し意地悪そうに笑うが可愛かった。
「なら仕方ないかな」
「ただ、私から言えることはですね」
バッと僕の耳元に口を寄せる。
「私はずっとあなたの事を見てますから。どうか安心してくださいね」
言われた事に対して僕にしては珍しくぽかんとしてしまった。
「早く部屋に戻りましょう、明日からまた仕事ですからね」
さっきのフランの声が頭の中で何度も繰り返される中、フランに手を引かれて寝室まで戻って行く。何故かフランもそのまま僕のベットで寝ることになったのだが、それは別の話。
二回連続で登場人物が酔ってるんですが良いんですかね……。
グレム局長がいなかったり、防衛班が戻ってきたりと原作と違いがありますが気にしないでください。
次はもう2の終わった後のクレイドルとの絡みか、GE無印、もしくはフランと初めて会った時ですかね。
今構想を練って良い物を書こうとしている、フランの幼児化は3話先とかになるでしょう。
ちなみに、この作品ではロミオもジュリウスも死なないです。
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5話
「レームさん」
局長室で書類をかたづけているとフランがしゃがみ込んで、机を縁を掴み見上げる様にこちらを見てくる。
「どうしたんだ?」
「クレイドルの方々が帰還したそうなので、お伝えに来ました」
遂に戻ってきたかクレイドル。アリサやソーマはちょくちょく帰って来ていたが、リンドウとユウは全くと言っていい程帰ってこなかったので会うのは2年ぶりということになる。
「嬉しそうですね」
「あれ?顔に出てた?」
ぺたぺたと自分の顔を触ってみるが、別に表情に出てないと思う。どうしてフランは分かったのだろう。
「アナタと一緒にいればそれくらい分かりますよ」
10歳も年下の子にそんなこと言われて恥ずかしくなるなんて、取り敢えずそんな顔を見せないように顔を隠す。一旦フランに部屋から出てもらい、クローゼットから服を取り出し局長としての服からゴッドイーターとして働く時の服装に着替える。
「よし!久々の再会と行きますか」
フライアからアナグラに移動する。ここ最近ようやく色々なゴタゴタが終わり、フランとようやく結婚出来ると話していた。しかし、結婚となると色々考えなきゃいけない事があって大変だ。リンドウとかはきっとサクヤに頼んだのだろう。容易に予想ができる。
ロビーのソファーでは昔の様に煙草を咥えて体を預けているリンドウのみがいて、他のクレイドルのメンバーはこの場にいなかった。
「他のメンバーは何処にいるんだ?」
「おそらくラウンジかと」
「んじゃそっちから行くか」
「ちょっとまてぇぇぇ!!!!」
リンドウしか居ないので多くの人がいるラウンジの方へ行こうとすると、ソファーから勢い良く立ち上がったリンドウが腕を引いて止めてきた。なんか泣いてるし。
「うぜぇ」
「いやいや!久々に会ったてのにそりゃないぜ」
「僕とリンドウの関係はこんな感じゃなかったか?」
他の二人からジト目で見られてしまった。
「悪かったよ」
そう言うとリンドウはニヤリと笑ってこっちに手を出してきた。僕も笑みを浮かべて手を差し出す。
「久しぶりだなリンドウ!」
「おう久しぶりだなレム!」
ガシッと音が鳴るほどぶつかる手。
めっちゃ痛い。
「それにしてもあのレムもついに結婚か」
「そうよね。私も初めて聞いた時おどろいたわ」
雨宮夫婦が僕とフランを見てニヤニヤしている。場所はラウンジに移っており、クレイドルとの再会も終わった。見てない間にユウは更に強くなっているように感じた。
その後子供を連れてサクヤがやって来て、リンドウとともに僕の結婚の事をバラしてしまった。そうしたらもう大変、結構前のブラッドが極東支部に来た時にうっかり漏らしちゃったのと同じくらい大変だった。
特にアリサがユウの方をチラチラ見て「私も……」と言ったにも関わらずユウがニコニコしていたのもあってか、はっちゃけるというより暴走していた。まだ誰にも詳しく言ってない馴れ初めについて聞かれたので、アリサの事はユウに任せた。
ようやく落ち着いた頃、ムツミちゃんから飲み物をもらって雨宮夫妻との会話をすることになった。この席にできるだけ近づかないように威圧感を出してるから、他のゴッドイーターも近づかないだろう。これならこの二人には馴れ初めを話しても、というより話せと脅されているようなものだ。
「そこまでレムさんが結婚するのが考えられなかったのですか?」
雨宮夫妻の子供を膝の上にのせ、その子の頭を撫でながら尋ねる。
「とは言ってもそれはゴッドイーターになり始めの頃との比較だしな。ここ数年は恋人なら作りそうだけど、結婚はないよなみたいな感じだったし」
「そうね、昔は『俺は神を狩るだけだ』なんてスカしてたし」
これは何て拷問ですか?
ただただ恥ずかしいだけなのですが。そんな僕やリンドウが入ったばっかりや、サクヤを指導し始めた時のことを覚えているのだろう。あの頃は、今とは比べ物にならないくらい尖っていたから。
また、フランが目をキラキラさせながら聞き入っているのも中々羞恥心を刺激する。
「お前フランちゃんに昔のこと言ってないのかよ」
「自分語りの趣味も無ければ、そんな恥ずかしい過去はより一層言いたかないよ」
「レムはあまり自分から言わないものね。でもねフランちゃん、レムは聞けば絶対に答えるから気になる事があったら絶対聞くのよ。遠慮はいらないわ」
「分かりました。差し当たりましては、今日の夜にでも聞きたいと思います」
サクヤよ恩を仇で返すとはこういう事か……。
「『死にたく無きゃ俺について来い』『テメェは自分の命を他人に預けられねぇくせに、自分に命預けろ何てふざけたことを言うな』後は何があったか?」
「『待ってる人がいるなら、惨めでもいいから最後まで生にしがみつけ』が抜けてるわよ」
「しまった!それがあったか!」
「今と違って随分と口調が荒いのですね」
「スラム上がりの何の学もない餓鬼だったからな、今じゃ局長になって何処かの新設の支部の支部長にならないかなんて言われてるけど」
昔のことを言われすぎて麻痺したのか、それともフランの嬉しそうな顔が見れるからという事で二人が過去の話するのに恥ずかしがるのは止めた。
「それだよそれ!こっちを離れるまでは遊撃隊として働いて、フライアって所でも遊撃隊をするって事は聞いてたけど、局長まで登り詰めるなんて聞いてなかったぜ」
「言ってないから聞いてないのも当然だけど」
「そう言うことを言ってんじゃねぇよ。なんて言えばいいのか……。お前に局長になる程の力とか学力がある事は聞いてなかったってことだ」
「それも言ってないから当然だ。こっちにいた時にから隠れてやってた事が殆どだけど、それを公の場には出したからな」
「なんの為に?」
「そりゃ、フランと結婚する事をフランの両親に認めてもらうためだよ。結構良家の出だから『こんなどこの犬の骨から分からない奴に娘はやらん』なんて言われてな。ちょっと手直しして本部に見せて実績作ったわけよ」
「フランちゃんはレムに愛されてるわね」
「……はい。その時はとても嬉しかったです」
実際にフランの親が言ったことは正論である。10歳も歳離れてるし、スラム出身だし。
「そうだっ!聞き忘れるところだった。お二人さんの馴れ初めを聞かせてくれよ」
「私も気になるわ!」
年甲斐もなく満面な笑みを浮かべる二人に少し引いてしまう。フランに助けを求めるも顔を赤らめており、助けを期待することは出来そうにない。この二人から逃れる事も出来そうにないので話すことにしよう。
「確かあれは―――
これから先は
第0話(二人の馴れ初め
↓
第マイナス1話(極東支部でのアレコレ
注)私には上手くかけないのでボツになりました
↓
最終話(結婚したあとの事
↓
おまけ(フラン幼児化
の予定でいます。
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第0話
蛇足と言えば蛇足です。
極東支部から輸送ヘリでひとっ飛び(12時間)、飛行系のアラガミとの交戦を何十回としてようやくフライアにたどり着いた。戦闘回数は多かったものの、極東支部から離れてからのものが多く、バレット一発で倒せるというのはなかなかに爽快だった。
パイロットに一言言って、休む間もなく局長室に向かう。正装なんて物は持っていないのでF制式で誤魔化す。初期に渡されるものだから良いよね。
きちんと四回ノックし、中から聞こえてくるでっぷりとした声で入ることを許されて中にはいる。いかにもゴッドイーターを使い捨てのコマとしか見てなさそうな奴がそこにはいた。
ゴッドイーターを10何年もやっているため、人を見る目は養われており、出来ればこの人の下には長い間いたくない。どうせ無理なんだろうけど。榊支部長許すまじ。
「与えられた仕事をやってくれればいい」と言われて挨拶は終わった。遊撃隊なんて言われてるけど、一人なんだよね。隊じゃないじゃん。適当に返事して部屋から退出する。
部屋を出たところで一人の女の子と出会った。第一印象は猫のような子だった。この子も局長に用事かなと思いつつ、記憶を探ると。自分と同じく今日、フライア所属になるフラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュだと分かった。
ヘリに乗っている僅かな空き時間で見た資料に載っていた。名前が長いため何とか覚えようとしたので、すぐに思い出せた。
名前や雰囲気から僕とは比べ物にならないくらい、裕福な家の出身であることは予想出来た。しかも14歳でフライアなんて言う普通とは違って安全な所に来るため、結構な家柄なのであろう。
軽く会釈して立ち去ろうとしたのだが、彼女の着ているオペレーターの服のスカートがとても短い事に気が付いた。普段なら別に気にもとめないが、これから入っていく先が局長室なら気になってしまう。
絶対局長はフランちゃんの脚を凝視するだろう。それでこれから一緒に働く事となる子が嫌な思いをするのは気にいらない。どうにかして、上手く脚を隠せる方法を探す為に頭を働かせる。
そして思いついた。アラガミとの戦闘で鍛えられた思考スピードに感謝しつつも、F制式のジャケットを脱ぎフランちゃんに渡す。当然いきなりジャケットを渡されたフランちゃんはびっくりする。
「局長室の中、ここより寒いから脚を冷やさないようにこれを腰に巻いたほうが良いよ。もし局長に何か言われたら、レムに巻けと言われましたって答えていいからさ」
返すのは次にあった時で良いからねと言い残してふらふらとフライア内を彷徨い歩く。流石沢山のお金が注ぎ込まれているだけあって、中の施設は豪華だ。食料を自給できるなんてまじ凄い。
最後に庭園で休んでいたら携帯端末に連絡が入った。内容は初仕事があるのでロビーに来るとのこと。エレベーターを操作して、ロビーのに向かう。
「こちらが今回の作戦内容となります」
フランちゃんから一枚の紙を貰う。ミッションの度にこの様に紙を渡されるのなんて凄く久々な気がする。ざっと読み内容を確認するが、初仕事は楽そうだ。神器を取り、ヘリで現場に向かう。
極東とは違ってアラガミが乱入してくることはなく、初仕事はつつがなく終わった。しかしそれは僕だけに言えた事で、神器の受け渡しとかヘリでの移動などで何とかしなければならない点が見つけられた。だが、フライアで働いてる人は今のやり方で問題はないと思ってるらしい。外様の僕に言えたことではないので、この様に心の中にとどめておくのだが……。
悶々とした気分でフライアに戻りそのまま部屋に行こうかと思った時だった、フランちゃんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「先ほど返すのを忘れていました」
F制式の上衣が差し出されている。すっかり忘れていた。差し出された上衣を受け取り着る。
「それとですが……」
何だろうか。下を向き、言葉を詰まらせたフランちゃんが自分から話すまで待つ。極東の同僚や成人を迎えた人になら催促するのだが、14歳には流石にしない。
「今回のオペレーションは如何でしたでしょうか?」
「普通にミッションを成功できる程には良かったよ」
可もなく不可もなく、言うならば中の中。と言うのが、オペレーターとしての訓練を受けただけの彼女への評価だ。
「まだまだ改善する点があるという事ですね」
「初仕事だったって事を除けば、ね」
「やっぱりですね……。もしよかったらでいいのですが、何処をどうすれば教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「ここをこうやって。取り敢えず画面配置の初期化は終わったかな。ここから自分用にカスタマイズするんだけど、やり方は分かるかな?」
「はい。やってみます」
フランちゃんはどうやら自分の持てる力の全てを出せなかったようだ。カウンターに設置されてあるオベーション用のディスブレイに映し出されていた内容が、前任の者の仕様のままでフランちゃんが元々教わった形式ではなかったのだ。挨拶が終わると同時に仕事だった為、変更する暇もなかったそうな。
画面配置の初期化をした後、フランちゃんが自分の使いやすい様に配置するまでロビーのソファーに座る。フェンリルというのは殆どが腐りきった大人たちで構成されている為、フランちゃんの様な子はとても可愛らしい。見ていても、指導していても心が癒やされる。
「終わりました。確認してもらってもよろしいでしょうか?」
再びカウンターの内側に入り、フランちゃんが自分用にしたディスブレイを見る。今は映しだされてはいないがミッションが行われる場所の地図が表示される為の場所を中心として、各人のバイタルやアラガミの情報を知る為に色々配置されている。
「一先ずはこれでいいと思うよ。ディスブレイが1個しかないから狭っ苦しいけど、ディスブレイが増えるだけで効率も上がるから機会を見て注文した方が良いかもね」
「今回はありがとうごさまいました」
「いいのいいの。ガンバる若者を応援するのも僕の役目だから」
「一つお聞きしたい事があるのですが、いいですか?」
「うんいいよ」
「ゴッドイーターのレムさんはどの様にオペレーターの技術を習得したのかを教えていただきたいのです」
「べつにいいよ」
ぱーっと顔が明るくするフランちゃんを見て心を暖かくした。
話をどこにしようかと話し合って、流石に会った初日にどちらかの部屋はまずいと思った僕は、ラウンジで話をする事を提案した。その事を遠回しで言ったのだがフランちゃんは気付かなかった。やっぱり、良い家の出身なんだろう。
内容を保存している間に部屋まで戻り飲み物を持ってくる。片手にはフランちゃん様に甘い飲み物を、もう片方には甘いがゲロマズと評判の初恋ジュースを。在庫処分で僕持たせるなっての。僕は好きだからいいけど。
「どうして僕がゴッドイーターなのに、オペレーターの仕事が出来るかだよね?」
「はい、そうです」
「とこから話そうかな……」
どうしようかと悩みつつフランちゃんの方に目を向けると、今かいまかと僕が話しだそうとするのを待っている。
「僕が極東出身ってのは資料で知ってるよね?」
「はい。こちらに来る前に拝見しました」
「なら話は少し早いかな。フライアは今の所僕が所属する遊撃部隊とこれから編成される部隊の2つしかないでしょ」
コクリと頭を縦に振る。
「それはここフライアが居住区を持っていないからであって、本来ならば幾つもの部隊が存在してるんだ」
極東支部にもいくつかあるのだが、やはり有名所は第一部隊や防衛班だろうか。
「そんな数が沢山ある中、極東支部にいた時も遊撃部隊に所属してたんだ」
「そうなのですか。しかしそれが、オペレーターの仕事とどのように関係が?」
「極東のアラガミは他の所のアラガミと違って頭が良い、と言うより生きる為に何をすべきかという本能が強いと思うんだよね。だから討伐任務や防衛任務は複数のアラガミが討伐対象になるんだけど、その時ほど連携が大切になるんだよ」
特に防衛任務はそれが顕著に現れる。いかにしてアラガミによる被害を減らせるかは、連携によるのだ。
「そこに連携の度合いが少ない僕が入ってもね。隊の連携を悪くしちゃうだけなんだ」
「そこで、という事ですね」
「うん。僕が出撃するよりも、一人で10近くの隊を指揮するオペレーターを手伝ったほうが効率や安全性が高まるからね」
どうやら僕がオペレーターをする事になった事よりも、一人で頑張っているヒバリちゃんの事の方に驚いているっぽい。
「一回オペレーターやったらそれから先も数十回と任される事になってね。その分、オペレーターの子に休みをあげることが出来たから良いんだけど」
昔の極東支部は休みなんて無かったからね。
「オペレーターの仕方ってのは、基礎はほぼ同じなんだけど、応用は神器並に人それぞれだから。基礎の所は教えるから、応用の方は僕の出撃の時に色々試してみてね」
「今日はお話をしていただきありがとうごさまいました」
「これくらいの事なら気にせず何時でもいいからね」
自室に戻った
初め資料で見た時は、これまで会った様な自称エリートの様ないけ好かない、若しくはただ単にチカラが足りなく極東から安全な所に飛ばされた金持ちの息子だと思っていましが、実際に会ってそれまでの想像は間違いだったと気付かされてしまいました。私とは10歳も歳が離れているはずなのに、威張る事なく物腰柔らかく接してもくれましたし。
そうそう、彼と初めてあった局長室前で何故上衣を貸してくれたのかが分かりました。本当に最初はびっくりしました。だって、いきなり初対面で上衣を渡してくるんですよ?今では、グレム局長の目線から私を守る為だと分かりましたが。
いけませんね。考え事をしてしまうと、作業が泊まってしまいます。改めてレムの事を見てみましょう。
これまでの任務数や任務達成率、隊の生還率などもありますがそれは一先ずは別枠に保存して来歴を確認します。
======================
レム(24)
2061年フェンリル極東支部入隊。それ以降、2072年までの11年間は他の支部からの勧誘を断わり続けてきた。そして2072年、榊支部長の後押しもあり極致化技術開発局への入局を決断。
極東支部では同期の雨宮リンドウと互いに高め合い、極東にこの人ありと呼ばれるまでの人材となる。
入隊当初は旧型遠距離式の定石を破壊する程の自己流の戦闘法を編み出し、旧型近接式の補助として認識されていた旧型遠距離式の有り方を変えた。
また、同期の雨宮リンドウとの比較が良く行われる。その際、最も話題に挙げられるのは隊の生存率である。
雨宮リンドウは隊の生還率90%超えという、隊長としても破格の生還率を誇っている。一方レムは20%を下回っている。
しかしこれには理由があり、隊の生還率というのは二人以上での任務の際の生還率を表していることにある。遊撃隊という一人部隊に所属していたレムが二人以上と組む際は、極東支部第一部隊を除き、殆どすでに任務に向かい隊員が瀕死の状態である。故に、生還率は低いものとなっている。
その為、雨宮リンドウとレムは比較すべきでないというのが本部の決定である。
では、レムの秀でている点は何処であろうかと考えた際に挙げられるのは弟子の生還率である。
都市伝説の様に『レムに指導されたゴッドイーターは死なない、若しくは死にづらい』と上層部で広まっている。
特にそれが顕著なのは彼のホームの極東支部である。橘サクヤ、ジーナ・ディキンソン、台場カノン、藤木コウタなどの旧型遠距離式と神薙ユウ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラなどの新型がその例である。
また彼には―――
神器:神器のコアが遠距離式の3つに適合するため
アサルト>ブラスター>スナイパーの頻度で使う
======================
一通り彼の事を調べたが、私が知りたいと思っていた彼の性格やどんな人なのかという事は分からなかった。そんな事を頭の片隅で考えながら布団に入る。
きっとこれがレムさんの事を気になるきっかけとなったと、今なら分かります。
馴れ初め話ですね。これから先の事は皆さんの想像にお任せします。私が書けるのはここまでですし。
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最終話
「これで報告を終わらせていただきます」
ふぅ。やはりお偉いさんとの対談は画面越しでも疲れる。重たい上着を脱いで、パキパキと固まった体が音をたてる。本部の方と話をするとあっちの方に時間を合わせるため、既に静まりかえっている。
フライアでの臨時局長が終わり、それから二年後フライアはそのまま極東第二支部と名前を変えた。そのまま僕は支部長になった。しかしだ、支部長をやらせながらも手が回らなくなるなったらと言うのは少し厳しすぎやしないかな。
それが必要なことなのは分かるが、アラサーに勘を忘れない為の日々の鍛錬と定期的な偏食因子や腕輪のチェックやらは結構堪えるのだ。ぐーっと体を伸ばす。
コンコンとノックの音が聞えた。
「終わったから入っていいよ」
「失礼します」
予想通り部屋に入ってきたのはフランだった。フランも僕と同様に引き続きここでオペレーターとして働いている。
「ここ最近働き続けているのですから、今日は早くお休みになってください」
机にお茶を置きながら窘めるように言う。
「やらなきゃいけない物は終わってるんだけどね」
現在フライアは各地を移動しながら避難者を助ける事を主な任務としており、彼らを新設のサテライト拠点まで運ぶことにある。また、サテライト拠点での生活を円滑にするために教育も行っている。技術者や研究者は多く、その殆どが教育に対して嫌な顔をしない為問題はない。
しかし問題となるのはアナグラからの要請である。どんなに離れていたとしても、助けが欲しいや人手が足りない。などと言ってくるのである。それへの対応が最も負担になってると言っても良いだろう。
「しかしだ。期限まではまだあるし、今日はもう寝ようかな」
「……大丈夫なのですか?」
「言ってきたのはフランでしょ?」
「そうですが」
「いいのいいの」
ぽふんとフランの頭に手を乗せ、手櫛で髪をとく。
「フランにはそんなふてくされた顔は似合わないからね。きっと僕といれなくてすねちゃったんでしょ」
顔を真っ赤にして手を振り払おうとするが、片方の手が振り払われたらもう片方をのせれば良いだけなのである。
「フランは今みたいな顔の方が可愛いよ」
「は、恥ずかしい台詞は禁止です。もう、結婚してから前よりも多くなりましたし」
「そう言わないでよ」
我慢しきれずにギュッとフランを抱きしめる。フランも先ほどまでああ言っていたものの腰に手を当てて抱きしめ返してきた。
フランとは僕が第二支部の支部長になると決まってから、実際になるまでの数カ月の間に結婚した。これまでそれを、いい方が悪くなるが、邪魔していたのはフランの両親だったが。ゴッドイーターではなく支部長ともなれば嫌な顔をしなくなった。
場所はアナグラの中で行われた。ある意味人生の半分を過ごして来た場所のため、気恥ずかしさはあったが、その分多くの人に見届けられ大変嬉しかった。
「いつまで続けるんですか?」
「疲れたからもう少しだけ。エネルギー補給中だから」
「仕方ありませんね……。ちょっとだけですからね」
フランの抱き心地を堪能した後、フランは僕の寝室へと入って行った。僕の寝室は支部長室の隣にあり、支部長室から直に行くことが出来る。
僕も軽く片付けをしてから自室に戻り、シャワーを浴びる。フランも使ったようで、シャワー室は濡れている。浴び終わった後寝間着に着替えてベットに行く。
「お待たせフラン」
「それほど待っていないので、大丈夫ですよ」
お風呂上りの熱がまだ引いてないようで朱に染まった頬と少し眠そうな眼によって、18歳であるにも関わらず艶かしさを感じる。
「髪が少し濡れてるね、乾かしてあげるよ」
ベッドの縁に座るフランの後ろに周りタオルでフランの濡れた髪を乾かす。
「やっぱりフランの髪は綺麗だね」
「そんなこと……ありませんよ」
「もしかしなくても、フラン眠いでしょ」
「まだ、大丈夫、ですよ」
首をこくりこくりとして船を漕いでいるフランの髪を乾かすのを早めにやめて、二人して布団の中に入る。眠くなっているフランは僕の腕にギュッと抱きついてきている。
普段の凛としたフランとは違うこんな姿を見れて僕は大変幸せモノなのだろう。
ちなみにフランとはまだ大人の階段は登ってません。まだフランは18歳だしね。
その日は朝早くから仕事が入っていた。久しぶりにアナグラに来ていて、フライア所属のゴッドイーターの教育と今後の極東支部の活動についての話し合いが主である。
榊さんと無い腹を探りあって、支部長室を出る。あの胡散臭さは一生僕には出せないだろう。部屋を出たらフランが待っていてくれた。
「お疲れ様でした」
「ありがと。フランもいい気分転換が出来たかい?」
「はい。皆さんと久しぶりにお話出来て楽しかったですよ」
「それは良かった」
すこしフランの顔が赤くモジモジしている気がするが、きっと僕が疲れていることによる気のせいだろう。その後はぶらぶらとアテもなくアナグラの中を歩き回る。その最中にクレイドルや極東支部の元同僚、ブラッドの人たちとすれ違いその場で立ち話をした。
みんな僕の腕にくっついているフランを見て、前と会った時よりも積極的になっているフランに目を見開いて驚いていた。僕だってそうだ、ふたりっきりの時はでれていたが、人前ではクールだったフランがこうなるとは僕も驚きだ。
その日の夜。僕らは明日もアナグラでの会議があるため、穴蔵に泊まることとなった。極東支部のあらゆる人の配慮で二人で少し大きめの部屋が用意された。
いつも通りフランが先にお風呂に入り、次に僕が入る。そしてお風呂を上がると、いつもの寝間着ではなくネグリジェを見にまとったフランがベッドで待っていた。
「フ、フランっ!その格好は!?」
少し駆け足でベッドまで向かう。
「『これでレムを誘惑しちゃいなさい』とサクヤさんにいただきました」
あの弟子はここまで僕になにかやってくるのか。でも、たしかにこのネグリジェはフランに合っている。フランの真っ白な肌にコントラストを描くような黒のネグリジェ。
「私じゃダメですか?」
手を捕まれ上目遣いをされる。
「レムさんと付き合って、レムさんと結婚して、レムさんと一緒になりたいと思っているのに。私じゃ……」
僕は何処かでフランは子供だからという考えを押し付けていたのだろう。殆どいつも一緒に寝ているのに僕が手を出さないと、不安に思うのも無理がなかったと思う。
「そんなことは無いよ」
両頬に手を添え、下を向いていた顔を真っ直ぐ僕の方を向くようにする。暫く見つめ合ったあと、手を肩に移しそのまま顔を近づける。
フランの柔らかい唇の感触が伝わってくる。
「ごめんねフラン。不安にさせちゃった」
「もっとしてください。レム」
もう一度確かめるように軽くキスをして、僕らは、
電気を消した。
これにて本編は終了となります。
まだ、経験してないのでこういうのは上手く書けませんでした。すみません。
明日は番外編として、ロリフランちゃんを軸とした話となってますので、お楽しみしてくださいね。
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おまけ
フランが幼くなります。それによるキャラ崩壊にご注意ください。
いつもは目覚ましで二人同時に起きるはずなのだが、今日は顔をペタペタと触られる感覚で意識が覚醒した。まだ眠いため目を開けることなく再び寝ようとする。一緒に寝たフランを抱きしめようとするが、フランがいなく抱きしめることが出来なかった。
緊急出動の際などはいない事はあるが、今日はそんな放送が無かったしどうしてだろう。起きたばかりの頭で考えつつ、それなら起きようと目を開けた。
「やっとレムくんおきたー!」
わーいわーいと僕の顔をぺちぺち叩きながら嬉しそうに笑う女の子がいました。
状況を確認しよう。僕とフランしかいなかった寝室にフランはいなく、代わりに金髪のロリっ娘がいる。またその女の子は以前見せてもらったフランの幼少期によく似ている。
ここで考えられうる選択肢は2つ。何故かここにフランの親戚、または姪がいる。もしくはフランが幼くなった。
親戚や姪がいるなんて言ってないし、いたとしてもアナグラにいて更に僕らの部屋に夜来ることなんてゼロに等しい。よって前者は却下。
となると、この女の子はフランが何かしらの要因で幼くなった姿なのか。
「レムくんどうしたの?まだおねむなの?」
くそっ。可愛くて思考に集中できない。起き上がりフランちゃん(仮)の頭を撫でながらどうしてこうなったかを考える。思い出せ思い出せ、こんなことを出来る人とフランが昨日誰と会っていたかを。
まずこんなことを出来るのはアナグラとフライアにいる4人のマッドサイエンティストと変態技術者だけだ。そのうち昨日フランとは会いそうなのは……。一人しかいないか。直接会いに行くと勘付かれて会えないかもしれない、誰かを経由して呼び出してもらおう。
「フランちゃん、お腹空いてない?」
「うーん。すいたっ!」
「それじゃご飯食べに行こうね」
「やったー!」
フランちゃん(本物)の服装は寝間着もそのまま小さくなっているので、パーカーを着せてご飯を食べに行くことにした。しかし、ベッドから一向に動こうとしない。
「どうしたの?」
「あのね、レムくん」
「なんだい?」
しゃがんでフランちゃんに目線を合わせて尋ねる。
「いつもみたいにぎゅーってしてくれないの?」
いつもとのギャップに一人悶えながらお願い通りこなし、そのままの流れで抱っこしてラウンジへと向かった。
僕らがラウンジに入るとそこにいた人は皆二度見をしている。仕方ないよね、コレばっかりは。
ここまで来る途中で分かったことは、フランちゃんが覚えている事はフランが覚えていた事全てではないらしい。途中に出会ったリンドウとサクヤでは、リンドウのことは覚えてなかったがサクヤのことを覚えていた。このことから察するに付き合いが長いほどその事は覚えているらしかった。
カウンターの席にフランちゃんを座らせてその隣に僕も座る。ボックス席だとテーブルとの間があって大変だからね。
「あっレムさんとおはようございます」
「おはようムツミちゃん。僕にはいつもので、この子にはオムレツお願いしていいかな」
「わかりましたーっ!」
流石極東支部のお母さん、
僕がムツミちゃんと話したことにヤキモチを焼き、ほっぺを膨らましたフランちゃんをつんつんしてると、機嫌が良くなったらしくパタパタと足を動かして待っている。しばらくしてやってきた。
「レムくんレムくんっ!これおいしそう!」
「落ち着いて落ち着いて。ムツミちゃんにもらったエプロンつけて、ゆっくり食べようね」
スプーンを使いながら食べるフランちゃんが零したりしないように見ながら僕も箸をすすめる。フランちゃんが食べ終わり、ケチャップのついた口をおしぼりで拭く。その間何が楽しいのか分からないが、きゃっきゃっとフランちゃんは笑っていた。
僕はお茶をフランちゃんはジュースを飲んでいると騒ぎを聞きつけたであろう、第一部隊のコウタがやって来た。
「おっ、ようやく来たね」
「レムさん……あなた何やってるんですか」
「僕はなんにもしてないよ。ねー、フランちゃん」
「そうですっ!レムくんは何もやってないもん」
「で、その子が噂の」
「やっぱり噂になってるか」
「ここに来る前にエリナが伝えてきたんで、きっと広まってますよ」
「いやー、とある研究バカの女の子に巻き込まれちゃったらしくてね。僕が呼んでもきっと来ないだろうから、コウタが呼び出したとなればすぐ来ると思うんだ」
「あのー、レムさん?穏やかな解決法は無いんですか?」
「そんな、ちゃんと
「絶対嘘だってそれくらいオレにも分かりますよ。目が笑ってないですし、特訓の時の表情じゃないですか!」
「いいから、お願いね。場所は出撃ゲート前で。フランちゃん、ジュースが飲み終わったらお散歩に行こうねー」
「レムくんとのお散歩たのしみー」
「ガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」
「おーけー?」
目の前には顔を青くして震えながら、これから出撃に出る人や出撃から戻ってきた人に見られるリッカが座っている。僕の隣にはバツのワルそうな顔をするコウタがいて、フランちゃんは僕に肩車されている。
「あ、あのレムさん?もしかしなくても怒ってますよね?」
「怒ってないよ。相手の非が分からないうちに怒ったらダメだからね。だから、君が何をしたのかを教えてもらえないかな?」
「こ、コウタくん!助けて」
「レムさんっ!もう少し落ち着いて」
「コウタ、そんな元気があるなら。今日の夜に久々の特訓する?ジーナとカノン呼んで」
コウタはリッカの顔を一回見て、回れ右をしてこの場から離れていった。
「ごめんリッカさん。オレまだ死ねないから」
「こうたくーーーんっっ!!」
「それで、リッカ。何がどうしてこうなってるんだ?」
当然フランちゃんの事である。
「この前初恋ジュースをどうすれば美味しくなるか研究してて、偶然若返り薬が出来たの」
意味が分からない。しかし初恋ジュースが関わっているのならば何処か納得してしまう自分がいる。
「それを別の容器に入れたんだけど、他の飲み物と混ざっちゃってさ。フランちゃんが夕飯終わった後来た時にそれが混ざった中から一つ出したんだけど、偶然それが若返り薬でね。フランちゃんが帰ったあとどれかなって調べたら分かったんだけど。それってセーフ?」
いいや、どう考えてもアウトでしょ。
「もしそれかわかった時点で連絡してくれたら、セーフだったかもね」
「つ、つまりは」
僕が言うよりフランちゃんが言ったほうが効果があるだろう。フランちゃんに目配せして予め伝えておいたことを言うよう促す。
「りっかちゃん。ぎるてぃーです!」
「という事で残念でした」
orzのように悲しむリッカだが、パッと顔を上げなにか誇らしげにしている。
「でもレムさんには何もできないでしょ?体罰はもっての外だし、例えば私がゴッドイーターだとしたら別だけど」
「実はもう既に何をするかは決めてたんだよ。これを見て」
ボッケから一枚の紙を取り出す。
「リッカのこれから一週間の仕事の予定。所々にすきま時間があるよね」
「もしかして……」
「そのすきま時間にちょっとずつフライアの改造をしてもらいたいんだよね。別にに無理にとは言わないけどね。でも嫌だって言ったら」
「嫌だって言ったら」
「どうしようかな……ふふふ」
「やります!やりたいです!やらせてくださいっ!」
「ありがとねリッカ」
「ぐすん」
「最後に聞きたいんだけど、これの効果ってどれくらい?」
「24時間。着ているものも幼くなった時みたいにそのまま大きくなる」
「そうか。これからの仕事頑張ってね」
「りっかちゃんばいばーい」
効果は24時間か……。寝たのが0時だから、それ以降に幼くなったと考えるべきか。となると今日は特段気をつけなきゃいけないことはないかな。
リッカとお話したあとは、急な任務が入りフランちゃんをラウンジに置いて出撃したら。なぜがフランちゃんがオペレートしてくれて、一緒にいたクレイドルと面々にいろいろ言われた。討伐が終わったあと、思いっきり撃ってやったのでそれ以降ちょっかいを出してくる事は無かったし。
そして一日が終わりを迎え、晩御飯も食べ部屋に戻ってきた。そこで僕は、フランちゃんのお風呂をどうするべきか悩んだ。きっとフランちゃんは一人でお風呂に入る事は出来ないだろう。だからといって僕が一緒に入っていいものだろうか。フランともまだ入ったことがないのに。
ぐぬぬぬ、と悩んでいたらフランちゃんの方から「一緒に入ろう」と言ってきた。そう言われたら断ることも出来ずに一緒に入ることにした。
「痒いところは無いかな?」
「うん、ないよー」
楽しそうに鼻歌を歌いながらシャンプーハットをつけた状態のフランちゃんの髪の泡を流し落とす。
「熱くない?」
「ちょうどいいよー」
その後リンスもして洗い流す。ちなみに僕もフランちゃんもタオルを巻いているので悪しからず。
「それじゃ次は体洗おうね。スポンジ取るからちょっと待っててね」
脇にあるスポンジを取るためフランちゃんから視線を外して壁にかかってあるスポンジを取り、ボディーソープで泡立ててフランちゃんに渡す。
「優しく洗うんだ……よ」
正面を向いてフランちゃんにはスポンジを渡そうとしたら、フランちゃんがフランになっていた。
「あ、ありがとうございます」
フランは恥ずかしそうにスポンジを受け取って体を洗い始める。僕は急いで後ろを向く。
ちょっと待って。どうしてフランちゃんがフランになってるんだ?リッカは24時間と言っていたはずだ、夕食を食べ終わった後にお風呂に入っているのでお風呂に入ったまま0時になるわけがない。
……もしかして、薬を飲んでから24時間なのではないか?それなら時間もぴったりと合う。マジですか……。
「あの、レムさん」
「な、なにかな?」
「折角一緒に入ってるんですから、背中を洗ってもらってもよろしいでしょうか」
「あっうん。分かったよ」
スポンジを受け取って泡を手に乗せ、フランの、白くてきめ細かい肌を洗っていく。
「フランは今日のことどれだけ覚えてるの?」
「……ぶです。」
「もう一回いいかい?」
「全部です」
僕の動きが少し止まった。そうだよね、こうやってお風呂に入っているのにそのまま順応出来たんだから想像出来たね。
「それと覚えているというよりも、あれが私だったというか。子供のように自分のしたいことが抑えられなくなってました」
ということは、朝の抱きつきの要求や今のお風呂などは子供だからやったというよりも、前々からやりたかったけど恥ずかしかったりして出来なかったのが、子供になる事によって我慢できなくなったという事なのだろうか。
「えーっとねフラン」
「なんでひょうか?」
「背中は洗い終わったから、早く上がろうか。僕も君もちょっと恥ずかしくてのぼせそうだからね」
「それがいいですね。早く流して上がりましょうか」
リッカによって引き起こされたアレコレは一先ずここで終わった。これから先も結婚するまで色々マッドサイエンティスト達にちょっかいを出されるのだがそれはまた別のお話。
しかし、そのお陰でフランは僕に対して積極的になってくれた。その点だけは感謝しても良いかもしれない。
これまでの全話、お付き合いいただきありがとうございました。
フランちゃん可愛いからの見切り発車となりましたが、完結まで持ってこれて大変満足しております。
少しでも多くの人にフランちゃん可愛いと思っていただけたら嬉しいですね。
このシリーズはこれで終わりとなります。
回収できてない伏線、ヨハネス元支部長やラケル博士が死んでなかったり、が有りますがそれは無視です。私は何も知りません。
またこの名義で投稿することがあればよろしくお願いします。
ここまで読んでいただき大変有難うございましたっ!
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GE
第1話
コウタは困惑していた。
赤紙の如く届いたゴッドイーター適合試験への招集。恐る恐るながらも受けた試験を無事に合格出来た彼は、極東支部アナグラのラウンジにいた。
自分の方が少し早くゴッドイーターになったため「オレが先輩だ」なんて言ったが、結局のところは同輩である。そんな同輩は一足早くツバキに連れられて訓練に行ってしまった。
「後からお前の担当者が来るから待っていろ」
なんて指示を受け、ラウンジのソファーで出撃に向かう、もしくは出撃から帰ってくるゴッドイーターの先輩たちを見て、将来的には有望なゴッドイーターになれることを想像する。
―――母ちゃん、ノゾミ。オレ頑張るから!
心の中で家族に思いを告げ、まだ見ぬツバキに言われた教官を待つこと数分。
「君がコウタくんかな?」
「わぁっ!!!」
人が近づく気配も、足音もしない状態からの声がけだったからかコウタは情けない声を出して驚いてしまった。
声を掛けた男の人もコウタの驚きように少し驚いている様子だ。
「ごめんごめん。少し雑務を押し付けられちゃってな。未来有望な新人の教育ってのは何回やっても楽しいからね。急いで来た分驚かせちゃったかな」
「急いできたら逆に分かると思うのですが……」
「そっちの方か。……その事については後からにするか」
「はい?」
「こっちの話。新人ゴッドイーターは訓練してなんぼだからね、ほら早く行くよ」
男はコウタを促して出撃ゲートへ向かう。
「持ち物は何が必要ですか?」
「神機」
「神機だけですか? 回復剤とかOアンプルとか」
「いらない、いらない。僕がいれば死ぬことはないし、死なせたら僕の首が飛んじゃうから」
取り敢えず任務はコウタがやってみな。という男からの指示に従って、ミッションカウンターにいるヒバリさんに任務書類の手続きを頼む。
「これから初出動ですねコウタさん。緊張はありませんか?」
「オレは帰ってこれるのか心配です。あの先輩神機以外はいらないって言ってたけど怪我したらどうするつもりなのか」
「あの方なら大丈夫ですよ。ここにいる第一世代型遠距離神機を使うゴッドイーターの半数は彼に教わっているんですからね」
まじか、と口からこぼれてしまった。
あんなにマイペースで我が道を行く人が、そこまですごい人だとは予想をつけられるはずがない。
「はい、これで完了です。出撃ゲートへ向かってもらっていいですよ」
「ありがとうヒバリさん。っと、一つだけ聞きたいけどいいかな?」
「はいどうぞ」
「オレの教官の名前って何て言うのかな? さっき聞くのわすれちゃって」
「彼は第八部隊、通称遊撃部隊隊長のレムさんですよ」
聞いたことがない名前だったため、任務が終わり次第アーカイブで調べてみようとコウタは思った。
そしてコウタはレムのことに集中しすぎで、どこで任務が行われるのか全くに気にしていなかった。最初の任務はトレーニングルームでだろうと思い込んでいたこともあるのだが。
コウタが持っている書類には『贖罪の町』と書かれていた。
◆
「よし。神機の準備はいいな?」
「いいっすけど。けど、なんでいきなり実地での研修なんですか!?」
前もって新人教育をしてくれとツバキさんに頼まれたコウタくんはどうやら元気な子らしい、というのが僕の初対面での感想だ。
同期に新型神機使いがいて、比較されても折れないように教育しろとの事だった。さて、どのくらいのシゴキに耐えられるのかなっと。
「まずは君が持っている神器について説明しようかな。自分の神機の種類は分かってるよね?」
「はい! 第一世代型遠距離神機アサルトです!」
「アサルトの特徴は近〜遠のどの距離においても攻撃できることにある。場合によっちゃスナイパーの超遠距離やブラスターの超近距離も担当するけど」
「マジすか……」
ここまで出来て極東では二流と言ったところだろう、他の支部に行けば「エリート」なんて威張れるがここでは全然足りない。
カノンちゃんなんかは銃身でアラガミをぶっ叩いたあと、開いた口に突っ込んで爆発バレット打ち込んでるし。一流になると何処か頭のネジが外れるから怖いのだけれども。
コウタくんの家族は極東の居住区に住んでいるそうだから、極東でゴッドイーターをする事になるのなら、僕が面倒を見られる内に極東で生き残れるくらいには強くしなくてはなら無い。
「今日はアラガミと戦うことはないから緊張はしなくていいよ」
「それじゃ、何するんすか?」
「アラガミを見るだけ。スコープで非戦闘中、戦闘中問わず観察するんだ。攻撃もしなくていいから、バレットは外してね」
僕の指示に従うコウタくんはどこか納得出来無いような顔をしている。けれどキチンとバレットを外している。根は真面目なのかな。
「さっきも言ったけど、アサルトってのは簡単に言っちゃえば何でも屋だ。それ故に近距離でのアラガミでの先頭、近接神機使いと離れている際のアラガミからの襲撃何てのも起こり得る。そんな時君は、身体を
「ないっす」
「今日はその不安を取り除く為に観察してもらうから」
ヘリコプターで送ってもらった安全地帯の高台から飛び降りる。着地は出来るだけ音も土埃もたてずに、静かに行う。今回は出来るだけ高台前、もしくは高台からスコープで見える所で戦闘をしなければならない。
贖罪の街は建物が多くそれが障害物となって釣り出しには向いている。高台に行く道も少ないので、警戒を分散させることなく済む。
「ヒバリちゃん」
『なんでしょうか?』
「僕の方はいいからコウタくんの周りの観測を強めてもらってもいいかな? 僕の方でも警戒するけど、やっぱり機械でやったほうが安心だから」
『了解です。他に頼むことはありますか?』
オウガテイル3体発見。
息を殺し、あらかじめ装着しておいた単発弾を放つ。
弾は3体のうちの1体に当たり、爆発を生じて残りの2体にもダメージを与える。
オウガテイルがこちらを観測したのを確認して、高台前まで駆ける。
「そうだね。中型、もしくは大型が近くを通りそうだったら連絡して。フェロモン使ってこっちに引き寄せて、コウタくんに見せるから」
『レムさんだから心配はしませんが、それでも気をつけてくださいね』
「了解です!」
オウガテイルが尾を振って棘を飛ばしてくるのを感じて
、前転で避ける。直感は当たり、前いた地面に棘が突き刺さる音がした。
さてと、どんなふうに
◆
アナグラに帰ってきたコウタは興奮覚めやらぬと言った感じで、ラウンジにいた。30分ほど前にレムとのミッションを終え戻って来たコウタは先程の光景が目に焼き付いて、離れていなかった。
コウタはゴッドイーターに対してあまり良い印象を持っていなかった。それもそのはず、居住区にゴッドイーターが現れるという事は既にアラガミの侵入を許し、有効打を与えられていないということになる。
そんな彼らにいい印象を持つはずがなかった。
しかし。
「最前線は違ったんだな」
しかし、レムの戦闘は全く違った。
アラガミを観察するように言われたのだが、それをしていたのは最初の方だけだった。すこし倍率を小さくして、アラガミと戦闘するレムも観察していた。
視線をあちこちに向け、アラガミにはノールックでバレットを当て、襲い掛かってくるアラガミを躱す。
到底自分には真似できないと思いもしたが、自分も出来るようにならなくてはとも思った。
そして最後にはヴァジュラが現れた。
スコープ越しでも威圧がビリビリと感じ、数歩後ろに下がってしまった。ヒバリから攻撃範囲に入らないように誘導されながら、ヴァジュラを観測する。
ヴァジュラが結合崩壊される怒る時も、こちらに向けて電球を放つ時も目を離さなかった。目を離したら死ぬと心のどこかで理解していた。
息の詰まるような数分間を超えるとその後はいつの間にかアナグラに戻っていた。
レムはこれから用事があるからと言ってエレベーターに乗ってどこかに行ってしまった。エレベーターに乗る前に「明日からはトレーニングルームで擬似アラガミと戦闘訓練するからそのつもりでね」と言い残した。
「コウター!」
深く沈んだ意識が名前を呼ばれた事で浮き上がる。
名前が呼ばれた方を見ると先に訓練に行っていた神薙ユウがあった時と同じ屈託のない笑顔を浮かべ、駆けて来る。
「ユウ! 今トレーニング終わった感じ?」
「うん。想像してたより大変で、もうクタクタだよ。ツバキ教官は予想通りのスパルタだし」
言われてみればユウの笑顔は疲労がありありと見てとれる。
「コウタの方はどうだった?」
「オレは……。改めてアラガミの怖さを痛感したよ」
至近距離で見るアラガミの怖さ。
これまで居住区に住んでいた時に見ていた時とは違う、既に対岸の火事ではないと理解したことによって生じる恐怖。
今まで見てきたアラガミに襲われるゴッドイーターに自分がなるかもしれない、そう思うだけで体が震える。
新人ゴッドイーター二人はそれぞれの思いを胸に秘めて成長して行く。
◆
「新人の教育はどんな感じだ?」
コウタくんの教育が無事終わり、何だかんだ文句を言っていたが新人教育は良いなと思いながら通路を歩いていたらツバキさんに声をかけられた。
たしかツバキさんももう一人の新人の新型くんに指導していたんだっけ。
「いささか気が早いと思いますが、と言うより早すぎる気もしますが中々良い感じに育つと思いますよ」
「そうか」
「取りあえずは新型くんに潰されない位には鍛え上げます。ここの居住区に住んでいたお陰で来族出身の奴らより、アラガミに対する恐怖感が少なかったですし」
今まで新人教育について聞いてこなかったツバキさんが尋ねてくるなんて、同時に戦線投入しようとしている新型くんが想定以上に人機の扱いが上手かったからだろう。
僕もリンドウとよく比べられ、二人で対決しあっていたから何となく分かる。結局の所、どっちも折れてそれぞれ秀でた部分を押し出していったから今も仲良くやっている。
「上の方は新人を増やせと言ってくるが、そういう者こそ現状を確認しに来れば良いのだ」
「こんな明日生きてるか死んでるか分からない所に来る物好きなんて居ませんよ。はぁ、僕も現役引退して教育だけに専念したいな」
「お前が辞めたら誰が代わりをやる。しばらくは現役続行だな」
「サクヤとかジーナがいるじゃないですか」
名前を上げたのは僕が結構長く教えている二人だ。今でも研究会や相談に乗っていたりと、僕の代わりに据えるのになかなか適していると思う。
他にもう一人カノンがいるが……うん。
「彼女たちでもお前の代わりは無理だ」
「えー、そんな」
「大体、支部長の懐刀と噂されているお前がそうそう辞められるわけもないがな」
「そんな噂から気在るんすか……」
「私も小耳に挟んだ程度だがな」
ただ支部長から言われる事をこなしてるだけなんだけどな。懐刀とかそんなの出来ると思うほど自惚れてないし、まだまだ死にかけることだって多い。
「ため息しか出ないなぁ」
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第2話
よく晴れた日。急いでやる仕事もなく、どこかの部隊がアラガミに囲まれて困っているなどの連絡が無いからラウンジで淡々と流れる電光掲示板の文字をぼんやりと眺める。これと言って僕に重要な情報が流れることも無く、どこの部隊がいついつ出発や誰それの呼び出し、重鎮が来るから気をつけろ等々、はっきり言ってどうでもいい事だ。
fcで自販機から飲み物を2本買ってミッションカウンターに向かう。掲示板を見た限り今出払っている舞台はあるものの、緊急事態に陥っている部隊はいないのでヒバリちゃんは忙しくないはずだ。やらなければならない書類とかあれば忙しいかもしれないが、この前のヴァジュラ相手に大立ち回りした時のオペレーションのお礼が出来ていないので時間のある今の内にしておきたかったのだ。
「あっ! レムさん! 丁度いい所にいらっしゃいました」
「なに?」
ヒバリちゃんに声をかけようとしたら、逆にこちらが声をかけられた。取りあえずは先日のお礼を言ってプルタブを開けてカウンターに置く。
「あちらでレムさんを待っている方がいますよ」
「マジか」
それならさっきラウンジにいる時に声をかけてくればいいものを、どうしてわざわざ待つ必要があるのか。そんな少しおかしな奴がいるんだなと思って、ヒバリちゃんに教えてもらった方に目をやる。
そこには確かにおかしな奴がいた。フェンリルのマークを背負ったコートを身につけ、タバコをふかしている。普段から忙しいあいつが僕を待っている時点で碌なことはない。
ヒバリちゃんから何も聞かなかったし、僕は何も見なかったことにして、やるべき仕事を探そう。バレットの改良についてリッカちゃんと話してもいいし、コウタくん特訓プログラムを考えてもいい。部屋の片付けは……要らないかな。
何はともあれ、早くこの場所から逃げなくちゃ!
「どこに行くつもりだ? おい」
決心とは反対に、離脱に失敗したことを確認。
面倒だなと思いつつも後ろを振り向く。そこには今までビールをあげたとき以外見たことのないような笑顔を浮かべるリンドウがいた。
「こんなところで会うなんて奇遇だな」
「普通に昨日も会っただろうが」
「そうだっけ? 何か用事でもあるの?」
チラチラと脇を見て抜け出せるタイミングを図っているが、丁度いいタイミングがあっても僕の肩を掴んでいるこの手をどうにかする必要がある。
「ある奴を待っててな」
「なら僕に構わないで、静かにその人を待ってたほうがいいんじゃないかな? すれ違っても大変じゃん?」
僕の肩を強く掴んでいる手を離すべくこちらも力で解決しようとする。しかし、あんなに重い人機を振り回しているだけあって全然離れない。詰んだ。
「でもな、ちょうど今目の前にいるんだよ」
「へぇ」
体を右にずらし、リンドウの目の前にいる人じゃなくなる。こんな子供みたいな素振りが通用するわけもなく、目線は再び僕に向けられる。
ここらで潮時かな。観念したほうが楽になりそう。
「はぁ。でなんの用かな?」
「すぐ折れるんだったら最初からそうすればいいものを。まぁいいや、とりあえず新人教育に付き合え」
「噂の新型くんの?」
「おう」
新型って近接と遠距離のどっちも出来るんだよね。僕が教えられる所があるのかいささか疑問だ。それに僕じゃなくて他の人でもいいはずだ。同じ部隊のサクヤでもいい。てか、そっちの方が後々やりやすいと思う。
「嫌だよ、面倒くさい」
「相変わらず自分の管轄外になると冷たいな」
「うるせ」
「支部長からの命令でもか?」
マジすか支部長……。
後ろ盾が無い僕は基本上の者に逆らうことが出来ない。だって逆らったら首が飛んで、最悪本当に死んじゃうかもしれないのだから。
でも今は流石にやめて欲しかった。
「いつから行くの?」
「今からだ。準備出来てるな」
「そんなわけ無いじゃん。3分だけ待って。準備して出撃ゲートの前にいるから」
リンドウは付き合えと言っていたから僕が教えることはあまり無いのだろう。けれど、コウタくんの指導の参考にするために行かせてもらおう。
誰に言い訳をしているか分からないが、持ち物を確認して人機を取りに行かなきゃ。
◆
「命令は3つ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ」
ユウは数週間に及ぶトレーニングを終え、ついに実地に赴く事となった。ミッションを受け、ヒバリに第一部隊の隊長と行くことを説明され待つこと数分。タバコを吸いながら、軽口を叩いてリンドウがやって来た。
「詳しい話は着いてからする」と言って出撃ゲートに向かう。出撃ゲートでも待つこと数分。誰かを待っている様子のリンドウの携帯端末が鳴り、何事もなかったかのように出撃ゲートをくぐる。ユウも少し遅れてリンドウについて行く。
ヘリコプターに乗り込むリンドウに「誰か待ってたんじゃないですか?」と尋ねられるほど、ユウに余裕はなかった。このヘリコプターが着けば遂にアラガミと対面する。その恐怖がユウの余裕を無くさせる。心臓の鼓動が早くうるさい。
向かい側に座るリンドウはいつもの事のように外の景色を見ている。
そしてヘリコプターは断罪の街に到着する。それぞれの人機を持って大地に降り立つ。吸っていたタバコの火を消し、リンドウはユウに話しかけた。
リンドウの自己紹介が終わり、生き残るためにすべきことを伝えられた。
少し心に余裕が戻り「それじゃ4つですよ」と伝えようとした時、ユウの後ろから声がした。
「それだと4つじゃないか」
「確かにそうだな。まぁとりあえず死ぬな。それさえ守れば万事どうにでもなる」
その人がリンドウの待ち人だと分かると同時に、この人が何処からやって来たのか分からなかった。ヘリコプターに乗っていたのは自分を含め二人だったはずで、後からヘリコプターがもう一台やって来た音もしていなかった。
「大抵コイツが何とかしてくれるからよ」
「人任せ過ぎる。君が直属の上司なんだから君が責任を持て」
「あ、あのこの方は?」
「おら早く自己紹介しろ」
ユウは勇気を振り絞って「この方はどうやって来たのか?」を聞いたのだが、リンドウには「この方はどなたですか?」というように聞こえレムに催促をした。
自分の求めていたものとは違うが言われてみればそっちの方が遥かに興味がある。自分の目の前にいる
「極東支部第八部隊隊長のレム。基本の仕事は遊撃だけど、何故かヘリコプターの操縦とかオペレーターもやってるよ」
「これからコイツにも手伝ってもらうから顔と名前は覚えとけ」
「それは初耳なんだけど……」
「言ってないからな」
リンドウにとても良い笑顔でヘッドロックをキメるレムの言葉で、ユウのいくつかの疑問が解消された。彼が誰でどうやって来たのか。
しかしそれと同時にまた疑問が生じた。
コウタから話してもらったレムはアサルトを使っているはずだ。しかし、いまレムが持っているのはアサルトではなく
「てかお前。なんでスナイパーなんだよ」
「昨日、サクヤとジーナといろいろ研究するためにスナイパーに変えてたし、君が突然言い出したから変える時間が無かったんだよ」
「それじゃお前を呼んだ意味がねぇな……」
「……帰っていい?」
「それじゃ俺たちが帰れなくなるから」
レムは少し悩む様子を見せ、スナイパーを握り直し高台から降りてすぐに姿が見えなくなってしまう。
リンドウはため息を吐いて、ユウの方に体を向ける。
「なんか悪かったな。まぁ気を取り直して初ミッションと行こうか」
◆
「レムさーん。居ますか?」
アサルトの運用法について分からないところが出来たコウタは、ベテラン区にあるレムの部屋の前に来ていた。部屋にいたら何でも質問していいと言われており、その言葉に従ってきたのだが、返事はなく。どうやらレムが居ないことが分かった。
「仕方ないか、レムさんが何処にいるかヒバリさんに尋ねよう」
踵を返し、ラウンジに戻ろうとした時後ろから声をかけられた。
「あら、レムに何か用かしら?」
「え?」
アナグラにやって来てからレムとの訓練に勤しみ、榊博士の講義を聞き、残りの時間はユウやヒバリ偶にツバキと話をするのみのため、アナグラにいる多くのゴッドイーターのことを知らずにいた。
そして今目の前にいる女性も自分と同じく腕輪をつけていることからゴッドイーターだと分かるが、名前は分からない。
簡単に折れてしまうのではないかと思えるほど線の細い体に、さらにその儚さを主張するような艶のある真っ直ぐな銀髪。綺麗な顔には眼帯が付けられている。
「えっと……アナタは?」
「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものよ」
「す、すみません。オレは藤木コウタっす! 一応これから第一部隊に配属になるらしいです……」
コウタが少し緊張し挨拶をすると、女性は艶美な笑みを浮かべた。
「冗談よ。少し言ってみたかっただけなの。そんなに緊張しないで」
「は、はい」
「わたしはジーナ。ジーナ・ディキンソン、防衛班第三部隊に所属よ」
すると突然ジーナはへそ出しスタイルのコウタの体を触り始めた。
「ひゃい! いきなり何するんすか!?」
「ちゃんと鍛えられてるわね。やっぱり彼の腕がいいのかしら」
「あのー、聞いてもらえてます?」
「話なら中で聞くわ」
「……聞いてないよな」
コウタの呟きに応えるでもなく、ジーナはレムの部屋の扉脇にあるパネルに数字を入れる。するとレムの部屋の扉が開いた。
「ほら入って」
「勝手に入っていいんすか?」
「ここはレムの部屋だけど、レムの部屋なんて呼べるところじゃなくなってるから良いのよ」
入っていいのか悩みながら、コウタはジーナの後に続く。レムさんの部屋はどんな感じなのだろうと、ジーナにはああ言ったものの、うきうきしながら部屋に入った。
しかし部屋の中はのコウタの想像と全く反対だった。
ベテラン区の部屋という事もあり、新人区にあるコウタの部屋に比べれば大きさは全く違う。だが、生活感で言ったならば天と地の差でコウタの方が上だった。
おそらくお酒やコレクションを置くであろうと思われる棚にも、体を休めるためのベッドにも書類やファイルが所狭しと置かれている。
生活感があるところと言えば沢山の紙が散乱し、飲み物の缶があるテーブルぐらいだろう。
「空いてる椅子に適当に座って」
小さな冷蔵庫の扉を開いて中を屈んで覗く。飲料缶を取り出して、テーブルの上に乗せジーナ自身も席につく。
「それで、何が聞きたいのかしら?」
「はい?」
「レムの部屋に来たんだから聞きたいことがあったんでしょ。私はスナイパーだからアサルトのことはそんな詳しくは知らないけど、初歩的なところなら答えられるはずよ」
半信半疑でコウタはジーナに対して、レムにしようと思っていたオラクル運用について質問をする。アサルトはアラガミとの距離が近いため、オラクル運用はブラストに似通う。
スナイパーのジーナに答えられるのかと(失礼ながら)思っていたコウタだったが、おそらくレムとの仲の良さからレムの弟子であると思われるジーナの回答は適切で、コウタの悩みは解消され、さらに新しい知識まで身についた。
◆
「ありがとうございました!」
「いいのよ。新人教育は仕事の一つで、更にアナタは私の
指導を終えたジーナは飲み物に口をつける。その姿を見ていたコウタは、机の上に散乱しているレポートが目についた。
「あのこれって」
「昨日の話し合いに使ったものがそのままになってるのよ。レムったら片付けずにミッションに行ったのね」
ここはレムの部屋ではあるがこの部屋にはあまり居なく、大抵ミッションやラウンジに居る。寝る時も「薬の匂いを気にしたければ、医務室にベッドがある」と言い、医務室で寝泊まりをしている。
「レムさんってそんなに忙しんですか?」
「仕方なくだけどね」
ジーナの言葉にコウタは首を
「アナグラの神機使いって一枚岩じゃないの。遠距離神機使いだけでも、3つのグループに分かれてるし」
「そうだったんすか」
「その内の一つ、私達がいるグループのリーダーがレムってわけなの」
沢山あるレポート用紙の中から白紙のものを抜き出す。更にペンを持って、字を書き始める。
「貴族派・実力派・不干渉派の3つね。それで私達は実力派って事になってるわ。これは別に貴族派が付けたものだから、私達は便宜上使ってるだけだけどね」
貴族派と実力派を線で結び、対立と脇に書く。
2つの派閥と不干渉派の間に線を引き、不干渉派はこの場では関係ないことを示す。
「貴族派は名前の通り、貴族たちが泊を付けるためにゴッドイーターなっている人達の事よ。私達はレムが中心になって、日頃から研究しているの」
「だから、遠距離人機について結構詳しく知ってるんすね」
「まぁね。私達は勉強して、生き残ることに必死なだけだから。でも、レムはね……」
「レムさんは違うんですか?」
「皆は生きる事だけを考えろ」
「レムさんの言葉ですか?」
そんなところね、と言って再び筆を走らせる。
実力派の下には、レムの名前を一番上として何人かの名前が書かれていく。
「コレにアナタを足して全員かしら。シュンとカレルは違うから」
「派閥なんて言われてるから大きいと思ってたんですけど、結構人数は少ないんすね」
「アナグラにいる人だけだからよ。本当は結構いるの。あとは、女性が多いのも特徴ね。コレも貴族派が私達にちょっかいを掛けてくる要因だわ」
ジーナが女性に印をつけると、確に男性よりも女性の方が多かった。
「ここ最近は弟子を取るつもりはないって言っていたから、アナタがレムの弟子になったって聞いた時は驚いたわ」
「レムさんは結構教えてくれてますよ」
「一度関わりを持ったら、死ぬまで関わりを持とうとする人だから。それで理由は、さっき行った話に関係するわ」
「貴族派とかですか?」
首を縦に振り、ジーナは言葉を続ける。
「最近貴族派からの干渉が増えてるからアナタは私達ではなくリンドウさん、第一部隊の下だけに入れたかったんだと思う」
「……」
「レムは今はそんな気にしてないから、アナタも気にすることはないわ。さっきも言ったけど、生き残ることだけを考えなさい。他のゴタゴタはレムや私達がやってあげるから」
少し晴れない気持ちでレムの部屋を出るコウタがチラリと見たベットの上の書類には、『アラガミの生活区域』や『アラガミの進化の過程』と言った榊博士に習っているような事が書かれていた。
GE2の時とは違って、恋愛要素はどっかに行きました。
世界観を壊すことなく、少しばかりのオリジナリティーを加えられたらいいと思ってます。
今回だと貴族派とかそこら辺ですね。
ここから少し設定
確かこの時のレムの年齢は23歳(のはず)
リンドウと同期だから入隊時は13歳(のはず)
フランと10歳差で留めて、リンドウと同期にするために深く考えてなかった模様。
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