リボーン短編集 (ウンバボ族の強襲)
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ボス生誕記念  XX-day


注意


・俺のディーノはこんなこと言わないならプラウザバック

・俺の山本はこんなこと言わないならプラウザバック




 それもいいというドカスの皆さんはスクアロールしてください。







 

「やっぱドレスなのな」

「いや、甘いな……スーツだ」

 

 

 

「……」

 

 

 沢田綱吉こと世界最大のマフィアボンゴレファミリーX代目ドンは死んだ目で虚空を見上げていた。

  

 

 どこだ。

 

 どこで間違えた。

 

 何が悪かった。

 

 

 

 目の前で熱い議論を繰り広げているのは灼けた肌に切れ長の目、爽やかな黒髪の短髪の青年――もとい、雨の守護者山本武。

 対するのは兄弟子にして同盟マフィアの10代目。陽光を溶かし込んだような金髪に新緑の瞳を持ったおっさ――男。ディーノである。

 本日催される祝事の護衛として同行する山本と話を詰めていたところにディーノが訪ねて来た。

 話をひと段落していたので、応接間に迎え入れ、紅茶を飲んでいた――。

 はず。だった。

 

 

「いつかの時もやった公開女装の羞恥プレイが最高なのな! 火照った顔が綺麗だったのな!」

「まぁ、待て。だけどアイツも男だぜ? 正装するとなりゃスーツだ」

 

 山本は愁眉を寄せ真剣そのものの顔で考え込む。

 

 

「……まるで喪服のような上から下までの黒。しかも仕立ての良い生地は、鍛え抜かれたにしては細い体の線を―――出しつつも、隠す」

 

「そしてその上には銀の髪が靡く」

 

「息をのむほど美しい、白と黒のコントラスト」

 

「首元まできっちりと留められたボタン。だがしっかりと絞められたネクタイは時間の経過と入るアルコールと共に緩められていき……」

 

「そうか……! 普段潔癖すら感じさせるストイックな装い――だが、酒が入れば話は別なのな……」

 

「それは完成されたモノを崩していく快感。夜闇の中、極限まで精密に細工の施された氷像が溶けていくような一瞬。酒精の混じる吐息。透き通るような白磁の肌に、薄く差す桜色」

 

「目は濡れそぼり、目元は紅を指したように赤くなり――乱れる……!」

 

「その辺になりゃ肩にもたれかかってくるのに……何故かその辺になるといつもXANXUSのヤローが邪魔しに来るのが難点なんだよなぁ。アイツやっぱ持ってんだろ、なぁツナ?」

 

 

 

「……いや、オレに振られても……」

 

 

「さっさとツナがXANXUSとくっつけばいいのな!」

 

 

「いや……って何言ってるんだよ山本!!」

 

 

「そうだツナ! なんで早くXANXUSに告白しないんだ!?」

 

 

「何乗せられてんですかディーノさん!! そんな事言ったら確実に来ますよ憤怒の炎が!!」

 

 

「零地点突破改で凍らせればいいのな! 邪魔なXANXUSの氷漬けを作ればいいのな!!」

 

 

「鬼か山本!?」

 

 

「やれ! やるんだツナ! そうすれば俺は――いや、俺達は!!」

 

 

 カっ、と世の女性を惑わすだろう、系統が違うが確実に美形に入るだろう男二人がガタン、と椅子を蹴り、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「「正々堂々スクアーロを巡って戦い合える!!!!」」

 

 

 

 

 

 

「……もう……逃げていい……?」

 

 

 

 強化防弾ガラス製のテーブルの上にはチタン合金の灰皿。

 喫煙者の居ない空間ではそれはただの置物。

 その上には封筒。

 

 XANXUSの誕生日パーティーの招待状だった。

 

 

 

 

 

 

「あのさ……ディーノさん……山本……。百万歩譲って二人がスクアーロに懸想してるのは嫌でもよく分かるよ……。だからXANXUSが気に入らないのも分かるよ……?

 でもさ……今日だけは辞めない? ねぇ、やめない?」

 

「は?」

「なんで?」

 

 

「誕生日だからだよ!! 流石にXANXUS可哀想だよ!! 自分の生まれた日に味方と! 同盟ファミリーのボスに!! 殺すとか言われるのは!!」

 

 

「……XANXUSには永久凍土がよく似合ってるのな!」

「あーあーあーまたクーデター起こさねぇかなアイツーー」

 

 

「だぁああかぁああらぁあああああ!!」

 

 

 ツナの絶叫に対し、山本はハハッと乾いた笑みを漏らした。

 

 

 

 

「ツナ……分かってるのな……。流石に、今日『は』やめとくのな。今日『は』」

 

「……は、はははそうだツナ。だがな……。分かってくれよ……。

 多分、今夜。おそらく、いや100パーセント。

 

 

 

 

 スクアーロは、XANXUSに喰われる……」

 

 

「……」

 

 

 んなもん知りたくねーよ!! とツナは心の中でシャウト。

 

 

「捕食されるのな……」

 

「見てて辛いんだよ!! だからせめて――せめて――」

 

「…………」

 

「スクアーロが」

 

「今夜」

 

「………………」

 

 

 

 

「「どんな服着てプレイするか視●≪ピ――≫する位許されるだろ!?」」

 

 

 

「許されるかぁあああああああああ!!」

 

 

 ツッコミのあまり、ツナの両手からX BURNERが噴射されたのは、後のボンゴレX世の鬼畜列伝として未来永劫語り継がれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが。この時はまだ、誰も知らなかった。

 

 

 

 これがまだ。

 

 

 

 『伝説』の

 

 

 

 

 序章であることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










そして始まる。





「ゔぉおおおおい!! 雁首揃えて来やがったかぁ! 守護者とクソガキ共ぉ!!」





「ス、スクアーロ……その恰好……」



「好きでやってる訳じゃねぇえええええええ!!」





 後の世に『悪夢』と呼ばれた。






「ほらさっさと入りなよ。入場料は払ってよ」


「まぁ、ドン~~。皆ようこそ~~~~今日のお料理は格別よ~~♪」


「しっしっし……今日のボス最っっ高に不機嫌。マジ今にもブチ切れそう」


「何を言っているボスはいつでも最高だ……」


「何か嫌な予感がしますねーー。だいたい34歳にもなって自分の誕生日会開くとかもう痛いの領域超えてますねーー。それに付き合っちゃうロン毛隊長もいい年こいて恥ずかしさの零地点突破ですーーミーは他人の振りがしたいですーーーー」




 

 血まみれの夜が








「うちのザン君をたぶらかすのは誰だぁあああああ!!」


「え、エェーーー!? 九代目が乱心してるーーーーーー!?!?」


「お前かァアーーーーーー!!」


「X代目! ヤバいッス!! 始まりましたよ……9代目の! 認知症が!!」

「アルツハイマー!?」


「お前かァアアーーーーーーーーーーーー!!」


「……ッ! 逃げろ! カス!!」


「なっ……XANXUS!?」










 ボンゴレ史上最悪の









「スクアーロ、ここはXANXUSに任せて早くオレ達と逃げるのな!!」


「行くぞスクアーロ! アイツなら大丈夫だから!」




「い、嫌だ……嫌だぁあああ゙! ボス!! ボス!! ――――XANXUSッ!!」




「……行け、カス……」










 お誕生日会が










「ボス……ヤバいよ……! 隊長連れてったの……山本武と跳ね馬だよ……」


「あ゙?」


「しっしっしっし……コレ早く追いかけないとマジでヤバくね?」

「あいつ等がうちのママン狙ってるのバレバレだよ」

「今頃ホテル連れ込まれてハメられてっかもな」


「……」






 
 始まる











「テメェらカス共…………全員かっ消す!!!!」














『ボス生誕記念 XX-day』
 
 

 TUDUKANAI。




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La scatolone

10年後設定
ボックスって変換で出ないから妥協




 

 

 

 このカスが笑ってやがるのが悪りぃ。

 

 

 

 

 

 

 

 ボンゴレ本部から「ヴァリアー全員ボックス兵器を所持すること」との命令が下った。

 

 どうやら新興勢力『ミルフィオーレ』との闘いに備えておけ…と言外に告げているのだろう。

 

 急な戦力の増強、その裏側を知ってか知らずか持ち込まれたボックス兵器を前に幹部はそれぞれ純粋な力への期待と渇望の入り混じった眼差しをむけていた。

 

 

「私のボックスはどんなのかしら~~? できれば派手でパーッとした奴だといいわ~~!!」

「王子のボックスが地味とか有り得ないし」

「自己顕示欲激強先輩たち黙ってくださーーい。多分ケッバイのが出るでしょーーねーー……ミーはこんなんが暗殺組織とか一体世の中どうなってんだとか思いますーー」

「消すぞクソガエル」

「フッ……箱の中身が何であろうとボスの役にさえ立てればそれで俺はj……」

「ゔぉおおおおい!! うるせぇ!! テメェらベチャベチャくっちゃべってんじゃねぇ!!!!」

「まだ俺がしゃべって」

「るせぇってんだろぉ!!!!」

 

 

 ……純粋な力への期待と渇望の混じった目で見つめていた。

 

 XANXUSは並んだ箱兵器をピジョンブラッドの目で見下ろす。

 

 

 

 ……どうも嫌な予感がした。

 

 

 

 

「おい、カス」

「何だぁ? なぁボス、開けていいかぁ? 開けていいかぁ?」

 

 振り返った男は神が与えただろう端正な容貌を全くの台無しにしていた。

 透き通るような銀色が曲線の軌跡を描いて揺れる。

 そのレリーフのように整った顔には、まるでプレゼントを前にした子供のような喜色が浮かんでいた。

 淡い色の目がキラキラと輝いている。

 

 

 冷たくも見える硬質な美貌に浮かぶ、子供のような無邪気な表情。

 

 そのギャップが何かを刺激し、煽ってくる。

 

 一瞬そいつを可愛い、と思ったXANXUSは近くにあった手頃な花瓶をスクアーロ目がけて投げた。

 

 

 花は入っていなかったが、水は差してあったのだろう。

 

 欧州の名門ブランドの花瓶が、スクアーロの頭に直撃。

 木っ端みじんに粉砕。

 更には中の水まで漏れて、銀の髪を濡らす。

 

 

 最早日常茶飯事になっているヴァリアーDV。

 

 周囲のメンバーも、スクアーロも、特に動じた様子は一切なかった。

 

 

「何しやがる!!!!」

 

「おいカス……テメェは開けんじゃねぇ」

 

「ハァ!? 何でだぁ!!??」

 

「るせぇ」

 

 

 銀の燭台も投げた。

 

 当たった。

 

 いい音がした。

 

 

 

 

 

「なっ……な、納得できねぇぞぉ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 認めたくないがあの日から鮫が苦手だった。

 

 

 あの日だ。

 

 

 ボンゴレX代目の座を賭け、指輪を奪い合ったあの時代。

 『雨の守護者』として雨の指輪を賭けて戦ったスクアーロが負けた時。

 

 

 

 あの時自分は笑っていた。

 

 

 散々偉そうなこと抜かしやがったカスが負けやがった、と笑っていた。

 これで過去がひとつ清算できると思っていた。

 確かに目に焼き付けたハズだった。

 スクアーロが鮫に喰われるところまで。

 痛い位に、自分のことを信じてやがった大馬鹿が一匹かっ消えた。

 

 その程度のことだ――――そのハズだった。

 

 

 

 

 結局、XANXUSはX代目にはなれなかった。

 

 

 

 今では養父も死に、かつて競い合った沢田綱吉がドン・ボンゴレの地位にある。

 

 あの時舐めた屈辱も、

 灼けるような怒りも、

 焦げ付くような憎悪ですら、気がつけば時が風に帰していた。

 

 憤怒の炎が消えることはない。

 

 ただ、それは即発的なものではなく――ゆっくり静かに高温で燃え盛るようになっただけだ。

 

 

 

 

 

 だが、敗北を過去として捉えられるようになった今だからこそ見えるものがある。

 

 

 

 

 

 抜けるように白く、極上の絹のように滑らかだったカスの肌。

 そこに這う、いくつかの無残な傷痕。

 

 残してしまった、と思ったのだ。

 

 残ってしまった、と、柄にもなく本気で後悔したのだ。

 

 無論態度にも口にも絶対に出さなかったが。

 

 本当に――――本当に、後悔したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以来、鮫は苦手だった。

 なるべく見ないように遠ざけていたハズだった。

 

 だが、恐らくあのボックス兵器――雨に適合したスクアーロのボックス兵器。

 

 あの中身は、鮫だろう、と直感した。

 

 

 

 

 『兵器』であるはずのものに感情を動かされるなどカスの極みだ。

 だが、もし(多分確実に)あの中身が鮫だったらと思うと――とXANXUSは思考する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は――冷静でいられるのか?

 

 

 カスは――――平気でいられるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 答えのない問いだけが、空中に霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゔぉおおおおおおおい!! ボス! 見ろぉ! すげぇ!! 鮫だぁああああ!!」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 ノックもなしに、突然XANXUSの執務室の扉が蹴破られた。

 

 そこにはうっとおしい程長い髪のカス、スクアーロが居た。

 両手には自分のボックス兵器だろう――勝手に開けやがったのだろう――青く燃え盛る雨の炎をまとった小型の鮫がビチビチビチと抱えられていた。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

「すげぇだろぉ。今はまだ子供だけどなぁ……コイツはでっかくなるぜぇ! 俺が喰われた奴ぐれぇになるぜぇ!!」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

「見てろぉ! コイツで俺はアンタの為に――」

 

 

 

 

 

 

 

 それは、獲物を取ってきた猫が飼い主に自慢しにくる様にも似ていた。

 

 それはそれは得意そうに。

 

 誉めてくれ、とでも言うかの様に。

 

 

 

 

 

 

 

 とても無邪気に、純粋に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、XANXUSは。

 

 

 

 

 

 棚に常備してあった酒瓶を。

 

 

 

 力の限りに、投げるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カス野郎がぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心配なんぞした俺が馬鹿だった。

 

 

 

 

 

 やっぱコイツはどこまでもカスだ。

 

 

 

 

 人の気なんざ知らねぇで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このカスが笑ってやがるのが悪りぃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















「ボ、ボス……悪かったぁ! す、すまねぇ!!」





 あぁ、やっぱボスさん怒ってんだぁ。

 



 俺が我慢できねぇで、ボックス開けちまったから怒ってんだよなぁ。





 
 だから殴られても仕方ねぇか。


























「スク……あぁ、駄目ね……あの子……何も分かってないわぁ……」



「やっぱ馬鹿じゃねーかな……つか何? やっぱドMなの? なんかもう王子逆に笑えるんだけど」



「本っっっ当にすれ違い凄まじいですねーー。アホのロン毛隊長は自殺志願の気でもあるんでしょーかねーー?」


「……俺の雷エイも誉めてくれボス……」



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mano

今回はザンスクじゃなくてスクザンです。

あとタイトルのイタリア語は毎回テキトーです。



 スクアーロが義手を外す時がある。

 

 

 

 スクアーロの義手は高性能かつ高品質。金属製のもので、360度可動だったりする馬鹿高価なスグレモノだ。

 それでも、剣士として生きるならば失った生身の利き手を補うには遠い。

 

 だが、それでもスクアーロは後悔なんかちっともしていなかった。

 

 この利き手は主の為に切ったものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その主、XANXUSは嘘や虚飾、隠しごとを酷く嫌う男だった。

 

 

 彼の逆鱗に触れて瀕死寸前まで殴られる人間の数は両手の指であっても数えきれない。

 実際灰になった奴も片手では足りない。

 そんな憤怒が服着て歩いているような男だったが、その生き様は分かり易い程単純明快なものだった。

 燃え尽きることのない炎のようなものだった。

 その確固たる強さと怒りに、銀色の少年はただ尊敬と崇拝の眼差しで彼を見上げた。

 

 

 スクアーロもスクアーロで、剣しかないような人間だったし、美しい銀色に縁どられた小さな頭には、嘘や隠し事をするだけの脳みそが詰まってなかったから一切の嘘も虚飾もなかった。

 隠すだけのこともないし、XANXUSに隠せることなんか何一つないのだ、と本気でそう思っていた。

 

 

 

 

 だけどそんな本気をXANXUSが信じる訳もなく。

 どうすりゃ信じてもらえるんだぁ? と思っても頭の悪い鮫が思いつくわけもなく。

 信じるに足る証拠を見せろ、と横柄にXANXUSは言うけど、基本的に言葉は足りず。

 訳わかんねぇぞぉ! と大声で鮫は大声で叫ぶだけだった。

 

 

 だから剣帝を倒した時。

 そして自ら切った腕を見せた時。

 言ってやったのだ。

 

 

「これがオレのお前とやっていくための覚悟だぁ!!」

 

 

 どうだぁ、これで分かっただろ。

 信じるに足る証拠になっただろぉ。

 

 スクアーロが悪い頭でそんなことを考えて居た時。XANXUSはいつも不機嫌そうに顰められている赤い目をめいっぱい見開いていた。

 その赤がやや陰りを帯びているものだと、有頂天になって浮かれているスクアーロはちっとも気が付かなかった。

 

 だからいつものように殴られて蹴られてバルコニーから突き落とされた。

 

 だがその行為もあまりにもいつも通りすぎてスクアーロは全く気にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スクアーロがソレに気付いたのは数年後の話。

 

 あの後、ヴァリアーを乗っ取り、XANXUSはボンゴレ史上最悪とまで言われるクーデターを起こし。

 そして敗れ去り、九代目に氷漬けにされてしまった。

 残されたヴァリアーも活動停止処分を言い渡されできることはただ、生きているかどうかも分からないXANXUSを待ちつづけるだけの日々だった。

 

 あんまりにもやることがなかったので、スクアーロはXANXUSについて調べてみることにしたのだ。

 

 居ないXANXUSを必死で補う為、慣れない情報収集を始めた。

 

 

 そして、行き付いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてクーデターを起こさねばならなかったのか。

 

 

 どうして彼が嘘や隠し事を嫌ったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの怒りは、一体なんだったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スクアーロはやっと悟った。

 

 

 当たり前だった。

 XANXUSが嘘を嫌う理由なんか、あって当然のものだった。

 

 だってそのせいでアイツはX代目になれないのだから。

 

 怒って当然だった。

 

 アイツが嘘を嫌う理由は、自分がその犠牲者だったからなのだ。

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 自分の野望を成し遂げるためには――自らを『信じて』着いてくる部下たちに、自分の出生を『偽り』『隠し』続けなければならなかったのだ。

 

 

 

 だからいつも怒っていたのだ。

 

 だからいつも殴られていたのだ。

 

 

 自分が最も忌んでいたコトを――自分の人生を狂わせたハズのコトを。

 やり続けなければいけなかったのだから。

 一人で抱えていかなければならなかったのだから。

 

 

 

 

 

 その『嘘』を『本当』にするために。

 

 

 

 

 

 

 スクアーロはとうの昔に亡くした利き手の見た。

 

 剣士として生きるのに、失った生身の利き手見た。

 

 だが、それでもスクアーロは後悔なんかちっともしていなかった。

 

 この利き手は主の為に切ったものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、その時ばかりは。

 

 

 

 

 後悔した。

 

 

 

 

 

 ただ信じてもらいたかった。

 

 信じて欲しくて、信じてもらいたくって、

 だけど馬鹿な俺の言葉なんか届かなくって。

 

 証拠を示せなんぞ言われてもどうしていいのか分からなくって、

 覚悟示せば分かってもらえるかなぁと安易に考えて。

 

 自分のことばっかで精一杯で。

 

 

 

 

 

 

 一体XANXUSが、『ソレ』をどんな気持ちで見ていたのか、なんてちっとも考えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 スクアーロが、本気で失った左手のことを後悔したのは、後にも先にもこの時だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スクアーロの義手は高性能かつ高品質。金属製のもので、360度可動だったりする馬鹿高価なスグレモノだ。

 

 基本的には実戦重視。使用用途は暗殺と戦闘。

 だけど、やっぱ形的にソコに手がないと格好がつかない場面もあって。

 そうゆう所には生身そっくりの装飾用の義手をつけていかなきゃいけない時もあって。

 

 コレも結局は嘘ってコトなんだよなぁ、と何だかやり切れない思いになって。

 思わずソレを口にしてボスに酒瓶で殴られて。

 

 似合って居ればなんでもいいじゃないの~~美しいは正義よーー! というルッスーリアに湿布されて

 つーかこの世界で舐められたら終わりじゃん? でもボスの前で言うとか先輩何考えてんの? と言うベルフェゴールに不器用に慰められて。

 

 

 

 

 

 

 大人になった今なら分かる。

 

 こんな薄暗い世界で生きていくためには、嘘や虚飾を纏わねばならない時もある。

 

 それをどれ程嫌っていようと。

 

 たとえ憎んで、憎悪すら抱いていようとも。

 

 

 

 

 あの日のように、まっすぐに真実だけを突き付けることができた時間は。

 

 

 もう、二度と戻ってこないのだ。

 

 

 

 

 切った手が二度と生えてはこない様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんな、スクアーロが義手を外す時がある。

 

 

 

 

 

 

 愛しい主に触れる時、スクアーロはいつも決まって義手を外す。

 

 何もない手の先。不格好に丸くなった腕の先で、傷だらけの主にそっと触れる。

 

 空気を掴むようにほんのわずかに触れるだけ。

 

 二人だけの時間。過ぎ去った遠い日のような、二人きりの時間にだけ。

 

 義手も刃も外すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日の気持ちに嘘はない、と伝えるために。

 

 

 そして、それは今も、これからも――変わることが無いのだ、と示す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









賛否あるだろうけどボスは嘘とかクソ嫌いだと思ってる。
けどそれを吐かなきゃ『ゆりかご』は出来なかった訳だからイライラしてカスを殴ってるんだと思う。
だけどカスは本当真っ直ぐに本音でぶつかってくるから更にムカついてもっと殴るんだと思いますよ素敵ですよね!!(白目)




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piccoli dolci

 ハロウィンネタ。
 ボスさんキャラ崩壊注意。



 評価ありがとうございました。




 10月31日。

 

 日本においてはカボチャ祭り、ハロウィーンの日だった。

 

 お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞーーという、世にも恐ろしい脅迫と共に少年少女がお化けや魔女、狼男のコスプレを嗜みつつ街を練り歩くという行事である。

 

 なので、訳あって幼児の居候を大量に抱える沢田家でも当然お菓子を用意しているのだった。

 勿論ダメツナに料理なんていう高等技術はないから母親が。

 

 しかもハロウィーンに因みカボチャのクッキーやマフィン、パウンドケーキ。あとは近所のスーパーで売っていた子供用チョコを大量。

 

 

「よし……こんだけ用意しておけば問題ないよな……」

 

 ほぼ母親がやったこととはいえ、沢田綱吉はお菓子の準備は万端だ、と意気込んでいた。

 

 ランボもイーピンもフゥ太も一体どんな仮装してくるのかな。

 ……ランボとイーピンは普段からコスプレしてるようなものだけどさ。

 ハロウィーン楽しみにしてたからなー。

 

 何だかんだであの二人はやんちゃ盛り、更に下手にスキルが高い。

 お菓子を貰えなかった時の応酬が怖そうだし、対策しておくに越したことはない!

 

 と、張り切る姿は世界最大手マフィアの次期ドンにあるまじき姿だが14歳という年齢を考えれば普通こんなもんだ。

 どっかのイタリア人×2の如くクーデター画策してたり利き手切り落としたりはしない、断じてしない。

 

 

 

 

 

 ピンポーン、とインターホンが鳴る。

 

 

 

「はーい」

 

 

 あっ、もう来たんだ。

 

 思ったよっか早かったなー、と思いながら綱吉はドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が欲しいのは菓子だけだ!! カスはオレを崇めてりゃいい!!オレを讃えてりゃいいんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 あまりの現実に

 

 

 綱吉君は

 

 

 ドアをそのままバタンと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 え? え? 何……? 

 今の……今のって……今のってアレだよね? アレだよね?? 

 確か少し前にボンゴレファミリーX代目の座をかけてリングの奪い合いと言う名の殴り合いをしたXANXUSだよね?

 

 何か今凄いこと言わなかった?

 暗殺組織の悪戯とか考えたくもないレベルで怖いんだけどそんなことも言わず露骨にお菓子だけを要求してきたような気がするんですけどーー?!?!

 

 

 と、脳内真っ白状態で玄関で凍り付く綱吉。

 

 

 

 

 すると何処からか、バリィイイイン! と窓が割れる音が響き渡る。

 

 

 

「え、エェーーーーー!?」

 

 

 

 

「しっしっしっし……Trick or Treat!」

 

 

 

 

「ベルフェゴールぅうう!?」

 

 

 

 

 白馬には乗らない王子様が、窓を破って突入してきた。

 手にはナイフ。

 恰好はヴァンパイアでも模したのだろう。口には牙が生えている。

 

 流石外国人。肌の白さや天然金髪も相まって本物みたいだなぁ、などと、綱吉の内心はどこか遠くに浮遊しつつあった。

 

 

「って何しに来たんだよ!?」

 

「だから決まってんじゃん? 今日ハロウィンじゃん? お菓子貰いに来た以外に何すんだよ」

 

 

 横からすいーーーっと、シーツをかぶっただけ、のお化けの格好をした赤ん坊が、シーツの下から紅葉のような手を差し出す。

 

 

 

「トリックオアトリート! 幻覚で精神崩壊させられたくなかったら山吹色のお菓子を頂戴」

 

 

「怖いよ!? 何その金銭要求!? 今日はそうゆう日じゃないから!!」

 

 

「……ドケチ」

 

 

 綱吉は理解していた。

 ボンゴレ所属、独立暗殺組織ヴァリアー。

 

 コイツらノリノリだ。

 

 確か2回クーデター起こしたから凍結されてなかったっけーー? 今処分中じゃなかったっけーー? どうなってんの九代目ーー???? とか何とか色々思いながらも現実についていくことを脳が拒否した。

 頼みの綱の超直感すらログアウト。

 

 

「あらーー。皆さんいらっしゃーーい。紅茶入れたんだけど飲むーー?」

 

「か、母さん!」

 

 こんな奴らに構わなくていいから! と叫ぼうとした綱吉は固まる。

 母親の隣にはヴァリアーのオカン、ことオカマルッスーリアが既にスタンばっていたからだ。

 頭の上にはとんがり帽子があるから多分魔女のコスプレのつもりだろう。

 

 

 じゃない。

 

 

 いつだ。

 

 いつから潜入してやがった。

 

 

 

 

「喧嘩しないでゆっくり飲むのよーーーーー」

 

「あら~~悪いわね~~助かりますルッスーリアさん」

 

「いえいえ~~。イキナリ押しかけちゃってゴメンナサイね~~?」

 

「いいのよ~~お菓子は沢山作る気だったしねーー」

 

 

 

 

 

「やめてよ母さん!!」

 

 

 その人は一見してもマトモそうに見えないネクロフィリアのオカマなんだよ!!

 

 と、いう真実を綱吉は言う事はできなかった。

 

 

 

「ああああ! もう何しに来たんだよ!! 皆! っていうか今ヴァリアー動いちゃって大丈夫なの!? 暗殺組織幹部が勢ぞろいしててウチ狙われない!? 平気!?」

 

 

「シラネ。問題ないんじゃね? 王子関係ないし。つかジャッポーネのコミックやっぱ面白い」

 

 

「我が家のように寛がないでよベルフェゴール!! てかそれいつの間に!? どっから持ってきた!?」

 

 

「お前の部屋。あと説明は王子の仕事じゃないし」

 

 そんな無責任な。

 綱吉は何かもう頭を抱えたくなった。

 横ではマーモンが子供の特権を駆使し、奈々に甘えている。コイン型のチョコが既に小さな掌の上に乗っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゔぉおおおおおおおおおい!!」

 

 

 

 ガッシャァアアアン、というガラスの割れる音が響き渡った。

 

 

 

 

「えええええ何で入口から入ってこないのーーーーーー!?!?」

 

 

 

 ガラスの破片を纏いながらアラワレタのは、

 どこか非現実的な銀色だった。

 

 月光のように艶めく髪を靡かせながらも、その全身には純白の包帯を纏っている。

 

 その白一色で染め上げられた姿が、どこか幻想的にすら見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なんでミイラ……?」

 

「実用を兼ねた仮装だぁ。頑張ったらこうなったぁ」

 

「え!? それ実用!?」

 

「ゔぉおおおおい! 鮫に食われたケガがそんな簡単に治ると思うなぁ!!」

 

「何起きてんだよ重症患者ーーーー!!」

 

 

 その酷く似合っていた包帯が、実はミイラの仮装なんて愉快なモノじゃなく未だ彼が重症であることを悟らせた。

 何だ。

 そんな体引きずって何しにきた。

 

 綱吉は何だか背筋が零地点突破初代仕様になる気持ちだった。

 

 

 

「テメェが気にすることじゃねぇええ! いいからさっさとボスさんに菓子を寄越しやがれぇ!!」

 

 

「さっきも似たようなこと言われたーーーー?! 何だよ! 

 何で……何で……何でお前らは……!」

 

 

「うるせぇ! 老いぼれと同じことをほざくなぁ!!」

 

 

 

 

 あ、九代目のところにも行ったんだ……と新事実発覚。

 

 

 

 

 

「早くしろぉ! ボスさんさっきから家の前で棒立ちして待ってんだぁ!!」

 

「嘘!? 律儀ーー!? XANXUSって意外と律儀!? もうとっくに投げて帰ったと思ってたのに……!」

 

「お前……ボスを何だと思ってる……

 

 八年間冷凍されても懲りなかった奴だぁ!! 数時間粘る位ぇどうってことねぇに決まってんだろぉ!!」

 

 

「ご、ごめんXANXUS今開けるから!!」

 

 

 

 

 ドアを開ける綱吉(2回目)

 

 

 そこには

 

 

 

 

 

 

 全身の痣(凍傷)をフルで浮き上がらせたガチギレモードのXANXUSの姿が。

 

 

 

 

 

「……え、えっと…………」

 

 

「テメェら全員……呪い殺してやる…………」

 

 

 

 

 

 もう手がつけられないような状態であった。

 

 

 

 

 

 

 こうなったらもう……お菓子をあげるしかない。

 

 だが、このお菓子は今日と言う日を楽しみにしていたイーピンやランボにあげるためのものなのだ。

 仮装衣装をつくったりカボチャランタンを用意したりとしていたあの子たちにあげるためのものなのだ。

 

 断じて。

 

 コイツらじゃない。

 

 

 コイツらに食われるために用意したものじゃない。

 

 

 

 だけどこのままにしておいたら(特にビビりなランボ)は怖がって来れないだろうなぁ、と思いながらも、だからと言ってお菓子を渡すわけにもいかない、というジレンマに陥ったツナは心の中で救いを求めた。

 

 

 誰か。

 

 

 誰でもいい何でもいい。

 

 

 何とかして。

 

 

 

 XANXUS何とかして。

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃおっす。また面倒な奴らに絡まれちまったなツナ!」

 

 

「リボーン!!」

 

 

 カボチャ頭を被った家庭教師ヒットマン、リボーンの登場にツナは思わず鼻水が溢れた。

 

 

「だが心配すんな。もう手は打ってあるぞ。もうすぐ追加のお菓子が到着するハズだ」

 

「追加のお菓子……?」

 

 

 

 

 

 

「十代目!! 今リボーンさんから連絡があって!! ヴァリアーの奴らが押しかけてきたって……うっわぁ……」

「獄寺君!! ツッコミたいのは分かるけど空気読んで!!」

「…………はい……」

 

「スクアーロの匂いがするのな!! スクアーロが居るのな!!」

「山本! 盛るな!!」

 

 来たのは特に役に立たない右腕と、戦闘狂な野球小僧だった。

 お菓子の追加なんかなかったんだ……と絶望しようとしたときだった。

 

 獄寺の背後から、艶やかな女性の声が。

 

 

「……リボーンに言われた。お菓子を持ってきたわ……」

 

 

 姉を見た獄寺少年が死んだ。

 

 

 そう、獄寺隼人の異母姉ビアンキは、『毒蠍』の名を持つ殺し屋だったりした。

 

 

 

 

 

「ま、まさか……!」

 

「……カボチャパイよ」

 

 

 

 

 ビアンキの手には、人間が見たらいけないような色の『物体』が載っていた。

 

 黒い。

 

 地獄の様に、黒い。

 

 それどころかどうやって発色しているのか紫の煙までもが出ている。

 

 

 そして、本人はソレをカボチャパイと言い張っている。

 

 

 

 

「……食べなさい。ハロウィーンよ」

「ちゃおっすだな」

 

 

「無理だよ!!」

 

 

 何で劇物持ってきたの!? 何しに来たの!? 

 こんなもんランボやイーピンに食わせられるかぁ!!

 

 すると綱吉の中の何かが脳内でリンクし、繋がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……XANXUS……………………お菓子だよ」

 

「……」

 

「……食べなさい」

 

「……」

 

 

 

 XANXUSはカボチャパイ(劇物)を凝視している。

 

 

 

「……」

 

 

 あ、やっぱダメかなぁ……と思った時だった。

 

 

 

 

「……食う」

 

 

「!?」

「……食べなさい」

「漢だな」

 

 

 いつの間にか集まってきたヴァリアーの部下達(仮装)が目を丸くした。

 

 

「……マジ? …………か、かっけーー……」

「ボス……辞めときなよボス……流石に死ぬよ……僕分かるよ……幻覚見る類だよ『アレ』は……」

「……で、でもボスなら……何とかできるかもしれないでしょ……? ……胃袋強そうだし……」

「……ボス……」

 

 

 

「自分で言っといてアレだけど……や、やっぱ辞めない? ねぇやめよ? 辞めよう? コレで死なれたら流石の俺でも寝覚めが悪いよ!!」

 

「るせぇ」

 

「ひっ」

 

 

 何のためらいもなく乱射される弾丸。

 ソレが相当イライラしていることを示していた。

 

 

 

「……女の手料理だ。食わなきゃ恥かかせるだろうが……」

 

 

 

 

 そう、XANXUSは腐ってもイタリア男だった。

 

 

 

 

 XANXUSの手がカボチャパイ(毒)に伸びる。

 

 

 

 未だ重症のハズのスクアーロは気が狂わんばかりに暴れていた。

 

「ボス! やめろぉおおおお! ボス食うんじゃねぇええ!! 離せぇ!! ボスの所に行かせろぉ!!」

「ははっ! 無理な相談なのな!!」

 

 ソレを抑える山本は真っ黒い笑みを浮かべていた。

 視線が完全に死ねXANXUS死ねXANXUS死ねXANXUSと告げていた。

 

 

「ボスーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 スクアーロの血を吐くような叫びも虚しく。

 

 

 

 

 

 

 

「ガハァアッ」

 

 

「と、吐血ーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 血を吐いたのはXANXUSの方だった。

 

 心なしか、痣全開のままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、コレで邪魔な奴は居なくなったな。さっさと入れ、ツナ。死ぬ気でハロウィーンパーティするぞ」

「鬼かリボーン!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、突如として現れたチェルベッロの二人がお疲れ様でした、とか言ってXANXUSを引きずって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 






何書いてんだ自分……(賢者モード)



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mele

 いい夫婦の日。(間に合ったァ!)
 評価ありがとうございました。





 その日、ヴァリアー幹部候補生であるフランが有給を願い出ていた。

 

 

「と、いう訳なのでーーミーは休みますーー。今日はーだいじな用事がありますーー」

「あ゙ぁ? 通ると思ってんのかぁ!! ふざけんなぁ!!」

「栄養分が銀髪に行った万年脳みそエネルギー不足な隊長には言ってませんーー。今日はーミーはー大事な日ですーー」

 

 一通り上司であるヴァリアーの美人作戦隊長をdisってるようで外見は誉めたフランはいつも通りどこまでも淡々かつ飄々とした態度で大事な用事、とやらを声高に主張していた。

 そこで、アホのスクアーロはようやく気づく。

 

「……フラン、お前……カエルはどぉしたぁ!?!?」

 

「うるさいですーーこの天然メガホンボイスーー鼓膜が死にますーーーー死んだら呪いますーー」

 

 そう、ベルフェゴールに嫌がらせで被らされているカエル頭が今日は存在していなかったのだ。

 かわりに、その頭部にはやはり何かが載っている。

 そう。

 

 

 子供の時にかぶっていた――――アップルの被り物が。

 

 

 

「今日はーージャッポーネのナガノ=ケンのアッポーの日ですーー。なのでーージャッポーネまで行ってミーはアッポ―を祝わないといけないんですーー」

「……」

「そう、フルーティーに!!」

「何言ってんだぁ! つーかフラン、刺さってんぞ……テメーの頭に銀ナイフ刺さってんぞぉお!!!!」

「これは前髪切り忘れた堕王子にやられましたーー」

「果汁滴ってんぞぉ!!」

「それは血ですーー幻覚で果汁っぽくしていますーー」

「重傷じゃねぇかぁ!! いいからさっさと医務室に行けぇ゙!!!!」

「嫌ですーー。ミーはジャッポーネに行くんですーー!」

「ナイフが脳まで到達したのかぁ! なんでそうなる……何がてめーをそこまでさせやがる!!??」

「おい、カス鮫」

 

 スクアーロの背後からかけられる低音バリトン声。

 と、同時に投げられる瓶。

 数秒後。

 

 避けるということを知らないスクアーロの銀糸を束ねて作ったような艶やかな髪はテキーラで濡れることになった。

 

 

 

 

「なにすんだぁ!!」

「プライベートジェットを出せ、行くぞ」

「はぁ゙゙!?!?」

「てめーも来い」

「え……別にロン毛隊長は要りませんーーつーか絶対来ないで欲しいですーーできれば恒久的現世追放って方向性で」

「……は?」

 

 

 こうして、ヴァリアーツートップ&幹部をのせた暗殺部隊専用機は日本(長野)へと飛んだ。

 

 ……はず、だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 話は変わるが、11月22日は『いい夫婦の日』と呼ばれている。

 

 財団法人余暇開発センターが、夫婦で余暇を楽しむゆとりあるライフスタイルを提案した結果11月22日を「いい夫婦の日」と提唱しだした結果である。

 無論、テキトーな語呂合わせの結果誕生したものだから勿論日本語のゴロアワセ。

 なので世界共通認識な訳もなく。

 結果日本独自の一部だけでやるような地味な記念日だったりする――だったり、する、の、だが。

 

 

 

 

「奈々~~♪」

「あなた~~♪」

 

 

 沢田夫妻はここぞとばかりにこの記念日にかこつけてイチャついていた。

 イイ年こいてアツアツのバカップルぶりをみせる両親に、流石のボンゴレ十世もタジタジである。

 

 

「父さん……母さん……流石にやめてよ!!」

 

 見てるこっちが恥ずかしい!とばかりにいい年こいてまるで思春期の少年のように顔を紅潮させるボンゴレ・ネオ・プリーモ。またの名を世界最大手のマフィアのドン。

 

「え~~だって~~……ツー君もだけど、家光さんお仕事忙しいって全然家に居ないし……」

「そーだー。だからこうやって愛情を温め合ってんだから多めに見ろっつーの倅よ」

 

 ねー、とばかりに息を合わせる両親に頭を抱えるネオ・プリーモ。

 まぁでも親が仲良いのは良いコトだよな、そうだよな、それに別にこの日常が嫌いなわけじゃない。

 ……と、自分に(無理やり)いいきかせた綱吉は二人に何か甘いモノでも買ってきてあげよう、今日くらいは親孝行しよう、と玄関のドアに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「施しだァ!!」

 

 

 

 

「うわぁああ! 出たぁああッ!?」

 

 

 

 

 突如顔面に投げつけられる、アッポーパイ。

 

 当然イキナリの奇襲にツナに避けられるまでもなくこのままでは顔に白い何か(ホイップクリーム)と若干粘ついた特徴的な芳香を帯びる黄色みがかった何か(ドカスタードクリーム)が付着してしまう!

 年齢よりかは幼くみえる幼気な、まだあどけなさの残る綱吉君の顔に――!

 そんな――そんな――エ●い光景に――他人の手でされたくないッ!

 

 と、いてもたっても居られなくなった六道骸が綱吉の家の前に設置されていたゴミ回収用のポリバケツの蓋をぶち破るッ! 何か頭に魚のホネとか刺さってるッ!

  

 かくて素晴らしく無駄な身体能力を発揮した六道骸が肉盾となりアッポ―パイによる強襲は防がれたのだった。

 アッポ―パイナポー奇跡のコラボである。

 

 

 

 

「やった!! よくやったありがとうXANXUS!!」

 

「ぶはははははーーーー!!」

 

「ゔぉおおおおおおい! 沢田ァ!! リンゴはまだあるぜぇ!! 心配すんなぁ!!」

 

「つ、綱吉君……僕……今白濁に塗れて……っ……!」

 

「あ、警察ですかー? 今家の前に白濁に塗れた不審者がいるのでちょっとしょっ引いて貰えますか?すみませんっと…………さてと、何だかよくわかんないけどなにしに来たんだよヴァリアーの二人!! 俺のせいでイタリアンマフィアが逮捕されたら悪いからとにかく家入って!!」

 

「お邪魔しますだコノヤローー!!」

「入るぜぇ!!!!」

 

「……あー、もうちょっと静かに入れないかなーうん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綱吉くぅん……」

 

 

 こうして、世界から。

 

 アッポ―パイに塗れたパイナッポーが一人監獄の中へとぶち込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー? 誰だー? こんな日に来やがる無粋な奴は誰だーー? さっさと追い返してや……うぉおお!? XANXUSじゃねーか?!」

「あら~~あらあらあら~~こんにちわ~~スクアーロさん」

 

 とりあえず五月蠅いから家の中に入れたモノの。

 綱吉は対応に困っていた。

 考えても見れば綱吉の父親、沢田家光とXANXUSとの縁は浅くはない。

 その昔。XANXUSがまだ子供の頃、九代目の養子に入ったばかりの頃に家光は世話係として傍にいたのだ。その後オッタビオとかいう変態眼鏡にとられた、と家光が愚痴っていたのを綱吉は薄らと聞いている。

 子供の時の世話係で、『あの嘘』の片棒をかついできた相手。

 きっと時分が思うよりも複雑な何かがある――と綱吉はゴクリ、と唾を飲み込んだ。

 

 

 

「家光」

 

 

「……おう」

 

 

「てめーには因縁がある」

 

 

「…………否定はしねぇな」

 

 

「だが、今日は」

 

 

「お、おう……」

 

 

「俺は」

 

 

「…………はい……」

 

 

 

「てめーら全員……祝い殺してやる!!」

 

 

 

「「祝い殺すーーーーー!?!?」」

 

 

 

 長年の確執、少しだけこじれた親子関係を乗り越え

 今、沢田親子の心がひとつになった。

 

 

 

 

「おめでとうだドカスが!!」

 

「投げるぜぇ!!」

 

「やめろ!! パイを投げるなパイを!!」

「スクアーロまたてめーのせいか!! ゆりかごん時も指輪戦の時も……XANXUSを誑かすのはいつだってお前だァ!!」

 

 スクアーロが常備していた袋からリンゴ(長野産)を取り出す。

 リンゴを完璧なコントロールでぶん投げたのはボス。

 家光にクリーンヒット。

 爆ぜるリンゴ、飛び散る果汁。

 

「母さん頭下げて!! こいつら本気でヤバいよ!!」

「……ねー、つー君」

「何!? 今それどころじゃな……」

「このリンゴ後でX-BURNERで焼きリンゴにしない?」

「俺の必殺技ガスコンロみたいに言わないで母さん!!」

 

 沢田奈々は動じなかった。

 

 

 

 

 

 色々あって、飛び散りまくったパイとかリンゴとかを吸引力が初代から変わらない零地点突破・改で吸い取った綱吉は半ばキレぎみに怒声を張り上げる。

 

 

「っていい加減にしろよXANXUS……! イベントならお前ら二人でやってりゃいいだろ!」

 

 ぴくり、と次球を投擲しようとしていたXANXUSがパイを投げる手を止めた。

 そのいかにも神経質そうに結ばれた厚めの唇が開かれる。

 

 

 

 

 

「沢田綱吉」

 

 

 あぁ、コイツに本名で呼ばれると何かドキっとするんだよなぁ……とツナは思った。

 

 

 

 

「……今日は恋人の日じゃねぇ」

 

「……うん」

 

「ましてやカップルの日でもねぇ」

 

「………………うん……」

 

 

 

「『夫婦の日』だ!!!!」

 

 

 

 そこかぁああああーー!! なんでこの人そこに拘っているんだぁあああああ!!

 

 その時、綱吉の超直感がフル稼働し、何かを察する。

 

 XANXUSとスクアーロはデキているのは周知の事実。

 最近やっと恋人のような甘ったるい関係になっているイケナイ関係約20年の熟年カップルだ。

 だが二人はあくまで男同士。

 カトリック総本山のおひざ元イタリアでは同性婚は流石に認められていない(2016年制定で準結婚制度認定)

 なので夫婦じゃない。

 

 だがXANXUSはスクアーロとこの日をお祝いしたかった。

 というか、単にイチャつきたかった。

 もう誰でもいい。

 つか何でもいい。

 

 とにかく祝わせろ。

 

 だが二人の身近に既婚者はいなかった……。

 

 

 

 

 

 

「クソ迷惑だぁーーーーー! 帰れよ!! さっさとイタリア帰れぇ!! つか自分の親でも祝ってろよ! 九代目親馬鹿だから喜ぶんじゃないかなァ!?!?」

 

「ゔぉおおおおおおい!! 沢田ァ! それ以上ボスさんのデリケートなところに踏み込むんじゃねぇ!!」

 

「……」

 

「あああああもう面倒くさいなぁ!! じゃもう二人結婚しろよ! お前ら内縁じゃん! 恋人関係じゃん!」

 

「あ゙ぁ? 何言ってんだぁ? 俺とボスさんが恋人関係な訳ねぇだろぉ!!」

 

「お前が何言ってんだ」

 

「勘違いもいい加減にしろぉ!」

 

「お前こそ勘違いもいい加減にしろ!」

 

「カスが!!」

 

 渾身のアッポ―パイが銀髪に直撃し、純銀を白いクリームが汚していく。

 白磁の肌をさらに白いもので汚しながらも、スクアーロが見る者全てを魅了するような凄絶な美貌をキョトン、とさせていた。本当に男か、いや、三十路か、と疑いたくなるほどの可憐さである。

 だが恐ろしいのはこのスクアーロ、これは計算でも何でもなく本当に分かっていないのだ。

 そう、神はスクアーロに涼し気な容姿と冴え渡る剣才を与えたが――その分、脳を削っていた。

 

 

「何すんだぁクソボス!!」

 

 つまるところ、この馬鹿はなんでパイを投げられたのか1ミリたりとも理解していなかった。

 

 流石の綱吉も頭を抱えた。

 

 

「……XANXUS……」

 

 

 あぁ、コイツも苦労してるんだな……。

 

 長年のDVに耐えてきたスクアーロはXANXUSに愛されているなんぞ本当にそれこそ1ミクロンたりとも思えなかったのだ。XANXUSはあくまで主であり、自分は部下であり、そして剣なのだと信じて疑わなかった。

 時折向けるそれはあくまで劣情の類であるけど別に自分はそれで充分だ――と、勝手に満たされている何とも面倒くさい手合いだった。

 半分はXANXUSの自業自得とはいえ気の毒な話である。

 

 

 と、言う感じで収拾がつかなくなったバカップルのパイ投げ合戦は、『竹寿司』に舞台を移して第二ラウンドに突入ということになった。

 

 ……する、はず、だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 ほのかに漂う香りは、どこか神性を感じさせるものだった。

 

 金具と金具が静かな空間に打ち響く音が広がる。

 

 手と手がふれあい、そこに僅かな温もりを生み出した。

 

 

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 

 山本家には喪をつかさどる黒服に身を包んだ人間が陳列していた。

 

 

「(な、ナニコレーーーーーーーー!!)」

 

 

 

「あれー? しっしっしっしボスじゃん。超偶然」

「ドンも一緒なんだね……ってママン!? クリームだらけ!? どうしたの!?」

「ボスにやられたぁ」

「や、ヤベェ……ヤベェよ先輩その恰好……! なんかスゲェ……エロく見える!!」

「やばいよ……写真撮らなきゃ……これは――これは――売れる!!」

「? 何言ってんだぁ?」

 

 そこには喪服姿のベルフェゴールとマーモンの姿があった。

 

 なぜか一切突っ込まないスクアーロ。

 どこから何を突っ込めばいいのかもう分からない綱吉。

 そうだ着物だと手を突っ込む場所が沢山あるから触り放題だと新事実に気付いたXANXUS。

 

 

「ん? 誰か来たのか?」

「待てよ親父。この爽やかなシャンプーの芳香……スクアーロなのな!!」

「犬並だな山本」

「よ゙う。どぉしたぁ? 誰か死んだのかぁ?」

「葬式か?」

「暗殺部隊のツートップにこんなこと言ってもアレだけど日本はそんなにホイホイ人は死なないから」

「あ、違うのなー。実は今日……。

 

 

 ……お袋の、命日なのな……」

 

 

 

 ひゅおぅ、と笛のようにふきすさぶ、

 

 一陣の、風

 

 

 

 

「……母親の……命日……」

 

 ツナ、本日二度めの超直感。

 XANXUSのデリケートなスイッチ、オン。

 

 

 

「冗談なのな! これが山本家式の夫婦の日なのな!」

「泣けるぜぇ」

「王子寿司食いに来ただけだし」

「僕はギャラ貰ってるんだよ」

「XANXUS……あのさ……ほ、ほら冗談だってば……だからさ……」

「……」(沈思)

 

 XANXUSが遠い目をしていた。

 

「お袋、見てるか……。オレ、ちゃんとしてるかどうかは分からないけど、大人になったのな」

「ゔぉおおい、線香ってどうやってあげるんだぁ?」

「あげんな」

「まずリングに炎をつけます」(適当)

「お袋……実は俺、好きな人がいるのな」

「燃やすぜぇ!!」

「……おい、マーモン。信じたぞ」

「面白いからもうちょっと見てる」

「まだ片思いなんだけどな! ははっ!」

「ゔぉおおおい! なんか松明みてぇになったぞぉ! すげぇ!」(青●)

「スクアーロ何してんの!! 消すの! それは消すの!! ……ってリングの炎!?」

「……髪が長くって、銀髪で、すげぇ美人で……」

「山本ぉ……恋してんのかぁ……分かるぜぇ、片思いは辛ぇよな……」

「お前それ無自覚なら本当スゲェわ」

「しっしっしっし……ウチのママンは魔性だから仕方なくね?」

「で、ソレでボスが切れる……っと」

「声がデカくて、メチャクチャ剣が強くて、片手が義手な人なんだ」

「すげぇ……偶然だぁ! 俺もだぜぇ!」

 

 

 

「や、やめろ山本ーー! 山本! 手を握るな!! スクアーロ! 松明……じゃない線香を離せ!! ベルフェゴールとマーモンは煽らない! 面白がらない!! つか二人共なんで地味に距離取ってんの!? え……? 何?

 や、ヤバいここで精神世界からXANXUSがカンバック! ちょ……違うんだXANXUSやめろこんな所で銃ぶっ放したら仏壇が仏壇がぁああああーーーー!!」

 

 

 

 




傍から見ればどう見ても夫婦なのに、お互い認めようとしないカップルのバイオレンスラブは続くのだった……。



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愛をこめて花束を



 その日は珍しく一人で起きた。
 今日はトクベツな日だ、と知っていた。
 だから早く起きて街に出なければならなかったのだ。

 早くしないと、売り切れてしまうから。
 急がないと、時間が切れてしまうから。






 

 

 

 

 

「うん、じゃあ頼むね、急でごめん。でも助かったよ。じゃあ送り先は……」

 

「十代目!!」

 

「…………ごめん、かけなおします……」

 

 扉をたたき壊さんばかりの勢いでブチ開けたのは十代目ドン・ボンゴレの右腕、獄寺隼人だった。

 アッシュグレーの髪の毛は大いに乱れまくっている。

 緑かがった目はどんよりと曇っている。

 それを見てボンゴレ・デーチモは察した。

 

 

 

「獄寺君……」

「はい……十代目……」

 

 

「……また……『奴ら』だね……」

「……はい……十代目……」

 

 

 アイツら暇なのか? 暗殺組織ってヒマなのか?? それ自体は世界が平和ってことだから大いに歓迎すべきだが有能な人間どもが揃いも揃って何してんだ?

 

 なんでイベントがあると騒ぎ出すんだ?

 

 そしてヒマだからって人を巻き込むのか??

 

 しかも下手に有能だからトラブルを起こすと止めるのも厄介なことこの上ない。

 せめていつもみたいに大人しく椅子に座ってろよ……冷凍するぞ……今度こそ永久凍土に沈めるぞ……と綱吉はピキピキピキとこめかみに青筋を浮き上がらせながら思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、ボヴィーノ・ファミリーは何者かによる謎の襲撃を受けていた。

 

 

 

 

 

「う゛ぉおおおおおい! 四の五の言わずにさっさと例のブツを出せぇ!! カス共がぁ!」

 

 

 

「ひっ!?ヴァリアー!?!?」

「なぜヴァリアーが!?」

「アレが――スペルビ・スクアーロか……!?」

「す、すごい……! ウワサ以上だ!」

 

 

 一体何がウワサ以上なのか。

 ボヴィーノ所属なイタリアンマフィアなイタリア男共はめっぽう美人に弱かった。

 そして美人はメチャクチャ強かった。

 ボーンチャイナの白磁の肌も、絹のような銀糸の髪も。

 夜を割く月の如く冴え渡る美貌、そのすべてが全くの無駄である。腐ってもコイツ剣帝だから。

 

 そして戦闘中であるにも関わらず「ふつくしい……」「やべぇ、アレなら男でもイケる! 余裕でイケる!」

「踏まれたい! 踏まれて蔑まれたい!」「縛りたい! 抵抗できなくして好き放題したい!」

 ……とかなんとか生命の危機に追い詰められた哺乳類の雄特有の妄そ……テストステロン過多による神経障害が発生しているようだった。

 当然コレを聞いてクッソ面白くないのが剣帝の主、飼い主、旦那、ボスである。

 

 

「ドカスがァ!!!!」

 

 

 誰も望んでない! 憤怒の炎の出血大サービス!

 

 荒ぶる銃口からは炎がドッバドバ出ていた。絶え間なく噴射されていた。

 もはや拳銃ではない。拳銃とは何だったのか、という疑問すら沸くレベルである。

 

 のちにこの光景を見たものは恐怖心をあらわにうっすらと涙を浮かべ、震えながらこう答えたという……

 

 

「銃じゃない。ありゃ火炎放射器だった」……と。

 

 

 更にはタチの悪いことにボックス兵器まで開匣ときた。

 

 

「べスター!」

 

「GAOOOOOOO!」≪べスターだよ≫

 

 

 真っ白なライガーが初っ端からタイガーパターン全開で牛ファミリーに襲い掛かる。

 理不尽な圧倒的暴力が降り注ぎ、あっという間にいろんなものが石化、からの破壊!されていくのだった。

 現実的には有り得ない冒涜的な光景を見た彼らは深淵なる狂気に蔑まれ、罵倒され、甘美な狂乱へと囁かれ、誘われようとしている誘惑に抗うことができない。

 という感じで精神的ダメージ! 4人の精神が安らかにニルヴァーナへと旅立ちました。

 

 何だか知らないけどヴァリアーが本気出してる……。このファミリーはもう終わりかもしれない、とそろそろ自覚してきた幹部の一人が秘伝のバズーカをアタッシュケースから取り出した。

 

 

「ザンザス死すべし慈悲はない!」

 

 というサツバツ!としたシャウトと共に吹き上げるバズーカ。

 それはいつものバズーカより2倍ぐらいラージなバズーカだった。

 

「ボヴィーノファミリーに栄光あれぇえええええ!」

 

 実に豪快な雄たけびと共に、見覚えのかなりある煙がモクモクモク~と立ち上る。

 簡単に言うとバズーカがザンザスに直撃したようだった。

 

 

 

 

「あー!! あああああ! お、遅かったぁああああああ!!」

 

 

 

 その瞬間ボンゴレ10代目が到着。

 

 沢田綱吉が見たものは。

 

 優れた動体視力と反射神経で避けようと思えば余裕で回避できるはずのバズーカ弾を。

 

 確実に何か企んでいそうな笑みを浮かべながらあえて直撃を受けるザンザスの姿だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □□□

 

 

 

 

 

「ボヴィーノの皆さん……ウチの独立暗殺部隊がイキナリ失礼しました……」

 

「ほんとうに大変でしたドン・ボンゴレさん」

 

「で、急な強襲にテンパったあなた方は今しがた何か撃ちましたね」

 

「はい、我がファミリーに伝わるレアアイテム、バズーカです」

 

「そのバズーカは十年バズーカですか? だとしたら今の暴君を十年後の暴帝と入れ替えただけになりますよね?」

 

「いいえ二十年バズーカです」

 

「ということは50近いゴッドファザーが現れるのでしょうか。まるで勝てる気がしません」

 

 

 

「う゛ぉおおおい! ボスさんは何時でも最強だからなぁ!」

 

「うるせーぞロン毛! てめーがちゃんとテメーの旦那を管理しとかねーからこんなことになってんだろーがァ!」

 

「ボスさんはオレの旦那じゃねぇぞぉ!!」

 

 

 

「獄寺君、ややこしい事態が更に混沌方向に進んでいくからガタガタ抜かさないでお前も黙ってろ。どうぞボヴィーノの皆さんつづけて」

 

「いいえ、40後半のザンザスとか強そうなので逆を特殊召喚しました」

 

「……え? つまり?」

 

「ここに呼んだのは今から20年前のザンザスです。

 ぶっちゃけ十年前の若造でも良かったんですがそれでも何か勝てなそうなのでもっと弱そうな方を呼びました」

 

「ターミ○ターも真っ青な発想だよねソレ……。と、いうことは……」

 

 

 

 やがて煙が晴れる。

 

 白い煙からは、ケホケホとせき込む軽い声が聞こえてくる。

 その咳が成長途中にある子供のものだと分かるだろう。

 

「……ま、まさか……!」

 

 

 綱吉が振り向いた時、いつもなら見上げるの位置にあるハズの赤と、ハッキリと目が合った。

 

 

 

「う、うわぁあああああああ! どカスがぁああーーーーーーー!!」

 

「え、えぇえええええええええ!?」

 

 

 かなり低い位置からタックルがくらわされる。

 うわぁ、重たい……と思った次の瞬間には渾身の腹パンが繰り出されていた。

 一瞬だけ息が止まる。

 衝撃で倒れる。

 かなり痛い。痛いだけじゃない。熱い。

 何かが焦げるような臭いが漂ってきて初めて、「このスーツ高かったんだよなぁ……」と久方ぶりに庶民的な発想へとこぎつけるのだった。

 

 

「なんで俺ーーーーーー!?」

 

「十代目ーーーーー! てめーおいコラ、ガキザンザス! 何しやがる!」

 

「うっせぇカス! つーか誰だテメー!!」

 

 悶絶する綱吉の傍に駆け寄った結果、膝立ちになった獄寺隼人の顔面に容赦なく目潰しがクリーンヒット! 

 しかもご丁寧に憤怒の炎付きだ。

 獄寺にもし、5つの波動(特に雨)が流れていなかったらあっという間に眼球が蒸発していたところだろう。

 もっともコイツに目玉なんかあってもなくても大差ないのだが。

 

「このガキ……! もう容赦しねぇぞ……ウリ!」

 

 非常に大人げなくキレた獄寺が匣を開匣してウリを出す。

 あっという間に仔猫のようなパンテーラが出てくる。

 

「このガキを黙らせろ!」

 

 にゃーん、と鳴くウリ。

 てけてけてけ、と軽い足取りでザンザス(餓鬼)の方へと向かう。

 赤い目の少年はイキナリ現れた奇妙な物体に目が釘付けだ。

 もっとも、「路地裏とかでよく見るノラ猫に似てるけど何か違うな」程度の認識ではあったが。

 

「ゴロゴロゴロゴロゴロ~~」

 

「懐いてんじゃねぇえええええええ!!」

 

「ぶはははーー! 喜べカス猫ーーーーー!」

 

 倒れた綱吉、負けた獄寺は確信した。

 アイツ、ガキの頃からほとんど性格変わってねーじゃん……と。

 そしてなんだこの攻撃力……ガキの癖に攻撃力高けぇ……と。

 

 

「な、なんだと……!? 20年前のガキなのに……強い…だと……!?」

「クソ、ザンザスと言えどガキなら倒せると思ったのに!」

 

 

「本当にロクでもない事考えてたんだな! 流石ランボの古巣だよ!!」

 

 ランボの古巣関係ないけど、ドン・ボンゴレはあきれて突っ込んだ。

 そして数秒後に気づく。

 

 

 

「ちょ……ちょっと待って!? と、言うことは……ザンザスが過去に飛んだってこと!?」

 

 

「あーハイソーデスネー」

「飛びましたね、20年前に」

「太古の昔」

 

 

「何てことしてくれんのーーーーーー!」

 

 

 がばっと起き上がる綱吉。

 どうしたんスか十代目! と反応する獄寺。

 そして持ってきたフィレ肉でまんまと子供を釣る剣帝。

 警戒心をあらわにしながらもガッツリ釣られる入れ替えられた子供ザンザス。

 

 

「早くこの子帰さないと!!」

「な、なんでッスか十代目!?」

 

 確かにヴァリアーの首領不在だと色々面倒だけど、ガキならガキで面倒起こさないし、クーデターも起こさないし、何より小さくてかわいいからこっちの方が都合がいい! と獄寺は薄っすら、半ば本気でそんなことを考えていた。

 だが、綱吉は違った。

 

 

「子供ザンザスはいいんだよ、子供ザンザスは! だけど野放しにしたらヤバいのが20年前に飛ばされた大人の方だよ! 獄寺君……ザンザスになって考えてみて!? もし自分がザンザスで、20年前に戻れたら……何をすると思う?」

 

「え……20年前ッスか……」

 

 獄寺隼人は頭を働かせて考えた。こう見えても知能指数は悪くない。成績は良かった方だ。

 

 目の前でスクアーロの与えたフィレ肉をがっついている子供は、おそらく、まだ10歳にもなっていないだろう。

 将来の体格を知っているからこそ言える事だが、骨格的には同年代よりも優れているだろうが、どちらかというと、彼らの知るザンザスよりも痩せて見えた。子供だから、とかまだ筋肉がついていないから、とかではない。明らかに栄養が足りていない……というレベルで痩せていた。

 おそらく今がっついている肉もあまり食べたことがないのだろう。

 

 それに着ているものがザンザスらしくなかった。

 ザンザスと言えば、窮屈な着方を嫌うのかいつも胸元ははだけているし、ネクタイは首元まで絞めないし、腹心のスクアーロとは対照的に自分で作ったハズの隊服を着崩してはいるものの、身に着けているものはエクステ一本とっても一級品だ。御曹司育ちの彼は、人、モノにかかわらず常に最高級品しか傍に置かない。

 ……が、今目の前に居る子供は違う。

 着古した服は、丁寧に洗濯はされてはいるものの、もう長い間着ているせいだろう。落ちないシミやほつれを当て布で修復してなんとか着ている……といった有様だ。しかも、やや丈が合っていないようにも見える。

 

 以上のことから推測できる事実は一つだ。

 

 

『この』ザンザスはまだ九代目には迎えられていない……まだ、母親と一緒に暮らしていたころのザンザスなのだ。

 

 その頃の貧しくとも母と共に暮らしていた少年、と今のアレが入れ替わって、今のアレがやらかしそうな事と言えば……。

 

 

 

「……あ」

 

「気づいたよね獄寺君……。そう……間違えない……アイツは……」

 

「まさか……いや……! だが……」

 

 

 

 

「確実に」

「九代目を」

 

「「抹殺しに行く!!」」

 

 

 

 

 自慢のヴァリアーリングと、べスターまで装備して過去に飛ばされたのだ。

 しかも、ゆりかごの時とは違いボンゴレに伝わる奥義死ぬ気の零地点突破・改の情報をすでに得ている。

 いくら九代目とその守護者と言えど匣兵器もカンビオ・フォルマの概念すらない20年前の守護者では、暗殺組織の首領として長らく君臨し、幾多のターゲットを血の海に沈めてきたザンザスの敵にすらなれないだろう……。

 

 

 

「なんで止めないんだよスクアーロ!!」

「お前本当にカスだな馬鹿鮫!!」

「本当だよ! なぜだ……なんで、なんでお前は……!」

「う゛ぉおおおおい! うるせぇぞカスガキ共がぁ!!」

 

 スクアーロは通常運転のようだった。

 

 その様子に、綱&獄寺は一縷の期待をかけたくなる。

 

 

「たとえボスさんが爺を葬り去ることが……望みだったと、しても、だぁ……」

 

「……うん」「……お、おう……」

 

 

 

 

「俺はボスさんに付いていくと決めたんだぁ!! 異論もクソもあるハズねぇぞぉ!!」

 

 

 

「「この馬鹿嫁がぁあああああああああ!!」」

 

 

 ザンザス史上主義な嫁鮫は、やっていいことと駄目なことの区別がついていないようだった。

 確かにこの銀色は馬鹿だ。本当にバカだ。だが、実は話しても分からない馬鹿ではない。

 時間と手間をかければそれなりに話せる奴だったりはする。事実その臨機応変さは一目置くべきであろう。

 

 

 ……問題は、主のことになると脳が溶けることにある。

 

 

 ザンザスのやることは基本全部正しいし、異論ないし、全肯定するという手合いである。

 そのためなら利き手だって切り落とすし、8年待って髪も伸ばし続ける。

 

 

 

「い、いや……いくらなんでも……いくらザンザスでも、過去は変えようとしないハズでしょう……たぶん」

「そ、そうだよね。ひょっとしたらザンザス、九代目に拾われてなかったら死んじゃってたかもしれないんだよね……」

 

 綱吉は、スクアーロに抱かれながらキャーキャー騒いでアッという間に獄寺の匣兵器であるはずのウリを手なずけている子供ザンザスを見つめ……

「あ、コレ九代目が放置していても大丈夫だった系だな」と勝手に納得していた。

 考えてもみれば、彼は生まれこそ貧民だったものの、拾われてからずっとボンゴレの御曹司をやれていたのだ。

 すべてにおいて最高水準であることを要求され、ソレに全て答えてきたのだ。

 ……少なくとも、自分よりも。ずっと。

 

 

 その生き方を、ザンザスが後悔しているようには思えない。

 

 

 

 ……思えない。

 

 

 

 

 ……後悔……は……。

 

 

 後悔している……よう……には……。

 

 

 

 

 

 

「駄目だーーーーーーー!」

 

 

 

 

 残念ながら、後悔と憤怒とは全然全く別の問題である。

 

 

 ザンザスはザンザスであるからこそ、自分に屈辱を与えた者を決して許そうとはしないだろう。

 

 

 

「やる! 確実に!! やる!! たとえこの世界線がなかったことにしても! そのせいで過去の自分が死んだとしても! 今の自分という存在が消え去ったとしても……アイツは殺る!! そうゆう奴だーーーーーー!」

 

「ですよねぇええええええ!!」

 

「う゛ぉおおおおい! 俺は後悔なんかしねぇぞぉ!!」

 

「獄寺君! コイツをよく見てて! きっと……このうっとおしい世界が嫉妬する髪がなくなって、腕がにょきにょき生えてきたらその時は過去の九代目がお亡くなりになったときだよ!!」

「十代目……どうしましょう……俺実は九代目に大恩があるんです!! あの人が居なかったら俺……たぶんあなたに出会うことすらできなかったんです!!」

「今明かされる衝撃の事実!?」

「カスガキがぁ、詳しく話せぇ!」

「こえでけーよ! どカスーー! もっと小さくしゃべれ!」

「お゛ぅ、悪かったなぁ。やっぱ小さくてもアンタはボ――」

「スクアーロ黙れ!!」

「……あ゛、あっぶね」

「シャーーーーーッ!」

 

 

 こうして。

 

 

 周囲の期待やら不安やら何もかもが内包した空間で。

 

 

 淡々と。

 

 

 2時間が経過するのだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぼふん! という煙が再びたつ。

 どうやら時間が切れたのか、それとも目的を達成したのか。

 

 綱吉は獄寺を見た。スクアーロを見た。

 

 ……どうやら変化はない。

 

 未来は変わっていない。

 

 それは、ザンザスが過去を何も変えなかった、ということを確かに示していた。

 

 

 

「よぉ、ボスさん。任務は達成してきたかぁ?」

「……言われるまでもねぇ」

「そっか、上機嫌で何よりだぜぇ」

「……」

 

 

 え? 上機嫌なの? コレが??

 

 相変わらず無表情にしか見えないザンザスの顔を「上機嫌」だとスクアーロは評する。

 だが、どうやらソレはあたっているようで。

 ザンザスも否定はしないし。スクアーロを殴ってもいない。

 

「う゛ぉおおおい! カス共ぉ! 迷惑かけたなぁ!」

 

 何も言わずに、赤の風切り羽をそよがせて、暗殺組織の主は踵を返す。

 大声で宣言しながら銀の鮫がその後を追う。

 ただそこに居るだけなのに、非常に絵になる――つまりいつもの二人だった。

 

 

「……ざ、ザンザス!」

 

 

「……あ?」

 

 

 綱吉はザンザスを呼び止めていた。

 振り返る顔は相変わらず無愛想で、眉間にしわが刻まれた不機嫌顔である。

 ……だが、不思議と怒ってはいないように見えた。

 

 

 

「えっと……あの……何してきたの?」

 

「……」

 

 

 あ、余計な事聞いちゃった……?

 

 コレではまた憤怒の炎が飛んできてもおかしくない質問だ。

 だがスーツはすでにお釈迦になった。

 うしなうものは、すでに、なにもない。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 

「……答えると思うか?」

 

 

「……いいや、思わないよ」

 

 

 

 

 返ってきたのは、口元だけの笑顔だった。

 

 

 あぁ、すっごい、悪い顔だな。と綱吉は思った。

 

 

 

 

 

「……いいんスか? 十代目」

 

「……よくないよ。良くはね。……だけど、さ。何も変わってないってことは……」

 

 

 ザンザス、何も変えなかったんだね。

 

 

 変えられなかったのか、それとも変えたくなかったのか……それは分からない。

 だけど、ザンザスは今を変えることを望まなかったんだ。

 

 とりあえずは、ソレでいいような気がした。

 

 

 背後で右腕がうーん、と小さく唸る。

 

 じゃあ、十代目。と獄寺が言った。

 

 

 

 

 

 

「アイツは過去に戻って何がしたかったんでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段なら絶対に歩かないような道を、手入れの行き届いた革靴が踏んでいた。

 

 道端には昼間であるにも関わらず人が寝転んでいたり、座り込んでいたりしている。

 どの顔も痩せこけ、薄汚れ、目には光がなく、どんよりと濁っているように見えた。

 痩せた野良犬が生ゴミをあさっている。

 鼠の死骸にはハエがたかっている。

 

 何ということはない、物心ついたころにはコレが日常の光景だった。と、男は思い出す。

 

 男の身なりは場違いそのものだった。

 

 素材を見ただけで分かる、仕立てのいいスーツにシャツ。首元までしっかりと絞められたネクタイ。

 目にも鮮やかな赤い羽飾りひとつとっても、上質なものだろうと推測できた。

 武骨な指にはいくつもの重そうな指輪がついているものの、そこに苛烈さ、男くささは存在しても、不思議と下品さはない。

 見るものが見れば一目でかなり力のあるマフィオーソのそれだ、と分かる風格を纏いながらも、男は腐臭を放つスラム街をたった一人で歩いていた。

 

 やがて、今にも崩れそうな家の前へとたどり着く。

 

 呼び鈴がない。

 だから男は少しだけ戸惑い――結局手でノックをすることにした。

 男にしては優しすぎるノックが、狭い家の中に響き渡る。

 

 内側からはい、という掠れた女の声がした。

 

 

「……あら? どちら様かしら……?」

 

 

 ドアを開けた女が、男を見上げていた。

 

 ひどく疲れて見えた。

 髪が痛んでいた。顔色は見るからに悪かった。

 目は落ちくぼみ、目の下にはクマがくっきりと浮き出ていた。おそらくは既によく眠れていないのだろう。

 

 ……こんなに小さかったのか、と男は思った。

 

 正確に言うと男はかなりの大柄である。

 身長も高いし、体格はがっしりとしているし、全身には鍛え上げられた筋肉が鎧ってある。

 だから基本的体格をしている成人女性ならば、男から見れば『小さい』の部類に入るのも当たり前だと言えるし、男本人もそう思ってはいた。

 だが、記憶にあるこの人だけは、何故かいつも自分よりも大きい、と思っていたのだ。

 

 気づきもしなかった。

 身長など、もうとうの昔に、それこそ十年以上前に追い越していたというのに。

 

 幼いころから聡いと謳われ、秀英だと褒めそやかされ、十二か国語を操るだけの知性を誇る男ではあったが、本当に、コレだけは気づきもしなかったのだ。

 

 

「……あの……?」

 

 

 扉の前で硬直してしまった男を怪訝に思ったのか、女は首をかしげて声をかけた。

 われに返った男が口を開く。

 

 

 

 ……言葉が出ない。

 

 

 

 男は口数が多い方ではない、どちらかと言えば無口な方である。

 だがソレはとくに喋る必要性を感じないからだ。

 なぜなら、いつもは何か言葉を発しなくても自然と察する出来のいい部下が傍にあり、そして常に二人分騒ぐやかましくてにぎやかな腹心が傍に居る。

 

 だが、今は違う。

 誰もいない。

 部下も、腹心も、己一人だけだ。

 

 それに今は何か言わなければならない。

 話さなければならない。

 

 

 

 

 ……なのに、言葉が出なかった。

 

 

 

 

 何を言っていいのか、分からなかった。

 

 

 言葉は考えたハズだったのに、何を言えばいいのか決めていたハズだったのに。

 とある人間の代理で来た。アンタに渡してほしいものがあると言っていた。俺は代わりに持ってきた……という筋書きだったはずだ。ハズ、なのだ。

 

 さっきから、ずっと、何度も何度も。

 何か言おうと思っては唇を開き、何を言っていいか分からずに閉じる、という無駄な作業を繰り返している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ザンザス?」

 

 

 

 

 

 掠れた声だった。

 

 

 懐かしい響きだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ザンザス?」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 言葉が出なかった。

 

 

 本当に、何も言えなかった。

 

 

 

 山のような書類に目を通し、それを全部捌ききるだけの能力がある。標的を屠るために作戦を立てて時には指揮を執るために自ら先陣を切ることもある。十二か国語話すだけの知性も、マフィアの頂点に君臨する者としての理性も備えている。なのに、

 

 

 

 

 

 

「……貴方なの……?」

 

 

「……」

 

 

「……そうなのね……?」

 

 

 

 あぁ、神様。と女は呟いて縋りつく。

 細い、今にもぽっきりと折れてしまいそうな腕を回して、男の体をかき抱いた。

 

 

 

「……きっと、夢ね。夢を見ているのね」

 

 

 でも嬉しいわ、と女は笑った。

 

 

 

 

 

「私の息子が、こんなに立派になるなんて」

 

 

 

 

 

 もっと良く顔を見せて。

 

 

 女の細い指が、荒れてかさついた指先が、ザンザスの顔を、額を、そっと拭うように撫でていく。

 髪を払い、傷跡に触れ、優しく頬へと伝い落ちる。

 

 

 大きくなったのね。見せて、……とってもハンサムだわ。

 ……そんな顔しないで。

 もっとよく見せて。

 

 

 

 

 腕から力が抜けるのを自覚した。

 軽い音と共に、手に持っていた花束が地面に落ちたことが分かった。

 アレほど重かった口が、舌が。やっと一つの言葉を発するのだと気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マフィアの御曹司でも、暗殺部隊のボスでもない。

 

 

 ただのザンザスは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 20年ぶりに―――母のことを呼ぶのだった。

 

 

 

 

 

 









白いカーネーションの花言葉



『尊敬』

『純潔の愛』



『あなたの愛は生きています』





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Due decenni




※オリキャラ注意






 その日、なんやかんやあってランボが十年バズーカを二回暴発させた。

 よって何故だか中学生の沢田綱吉は20年後にぶっ飛ばされるのだった……。

 

 

 

 煙ガ晴れた。

 

 どことも言えない部屋。

 全体的には落ち着きのある部屋。たったひとつしかない窓は真紅のカーテンがしっかりと閉められており、今の時間が昼なのか夜なのかも良く分からない。

 日光のかわりに部屋を照らしているのは古めかしいがセンスのいい、アンティークな照明器具だった。

 そのほの暗い部屋に、赤いベルベットの張られた大きな椅子が設置されている。

 

 重厚な椅子に綱吉は見覚えがあることに気づいた。

 自分がいた時代に、その椅子に王者のように、誇り高く、優雅にふんぞり返る人物を綱吉は確かに知っていた。

 

 だが、今目の前に居る人間と『彼』は違う。

 

 

 

「……え? ス、スクアーロ?」

 

 

 あれ? おかしい、と超直感が告げた。

 

 スクアーロがザンザスの椅子に座っている? という状況を前にして綱吉は目を丸くする。

 スクアーロの取りそうな行動には思えなかった。

 それに、座り方がおかしい。

 確かにスクアーロは綱吉から見れば横柄極まりないし、乱暴だし、声もでかい男だろう。

 だけど、それはあくまで『自分の常識と比較して』そうなんであって……お世辞にも彼の主と比べたらマシ、かなりマシ、遥かにマシである。

 だからこんな風に偉そうにふんぞり返ったりはしなさそーなタイプに思えたんだけどな、と違和感を覚えていた。

 やがて、その人物が薄く艶の入った唇を開く。

 

 

 

 

 

「どうゆうつもりだ……沢田綱吉」

 

 

 

 

 

 

「えぇえええ!?!?」

 

 

 

 

 

 

「うっせぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 驚いた、そして驚いた。

 

 てっきり、いつものようにう゛ぉおおおおおい!というメガホンボイスと共に実に威勢よく非常にうるさく椅子から立ち上がって剣でも振り回すんだろうと思っていた。

 だが、実際は、叫ばれもしない、剣も抜かれない、それどころか椅子から立ち上がりもしない。

 その行動がやはり彼、というかそのボスを思わせる。

 

 だがそんなことより驚いたことがあった。

 

 

 声が、非常にうるさい超騒音じゃない落ち着き払った威圧感を放つ声が。

 

 

 

 

 

 低いが……確かに、女性のものだったのだ。

 

 

 

 間違っても声変わりをした成人男子の低い声ではない。

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええええええ!?!?」

 

「るせぇっつてんだろドザコが!」

 

「エエエエエエエエエええええええ!?!?!?!?」

 

「……」

 

 

(何!? アイツ女だったの!?!? 実は女だったの!?!? それとも何か変な攻撃喰らって性別が変わっちゃったの!?!? それとも生き別れの妹とか居たのーーーーーーーーー!?)

 

 

 綱吉は大混乱した頭でなんかそんなアホなことを思った。

 奇声を上げる中学生に対し、目の前のスクアーロに非常に良く似た人物は容赦なく発砲する。

 ダンダンダァン!という激しい銃声が近距離でぶっ放された。

 

「ひぃいい!? ご、ごめんなさいっ! 撃たないで!!」

「あ゛?」

「うたないでーーーーーー!!」

 

 

(なんでこんな短気ーーーーーー!?)

 

 

 沸点低いな……と綱吉は悟った。

 

 

 

「ザコが、十年前のド雑魚と入れ替わりやがったか」

「え? え?? あ、そうだ……オレ、ランボのバズーカが……」

「……あ゛? ……雷の守護者? ……なるほどその様子じゃ違ぇな。テメェはド雑魚じゃなくて20年前のドドザコだな」

「……あの……」

 

(何かこの感覚凄いデジャブだぁーーー!)

 

 綱吉は感じていた。

 スクアーロと話している……というより、まるで。そう。

 

 

 まるで、ザンザスと会話しているときのような。

 

 

 何故か敵意を剥き出しにされている。

 更に人の話をまるで聞いていない。

 挙句の果てに、勝手に自分のペースに持っていかれている。

 

 

(え? え? どうなってんのーーーーーーー!?)

 

 

 見た目はスクアーロなのだ。そのことが綱吉を混乱させている。

 背中まで届くだろう長い髪は薄く青味がかった銀髪だ。その下に収まる顔は名工が作り上げたボーンチャイナのように滑らかで白い肌をしている。顔立ちは確かにキツそうだが、紛れもなく美しいと形容するに値するだろう。だが女性だ、と分かってから見れば確かにスクアーロよりかは、全体的に持っている雰囲気が柔らかいように感じた。

 特に目だ。スクアーロの目は釣りあがってるし三白眼だし何時も血に飢えた鮫のようにギラギラしているけれどこの人は少し違うじゃないか少し、ほら、と綱吉は必死に相違点を探そうとした。

 ……そして気づいた。

 気づいてしまった。

 

 

(…………あ)

 

 

 

 その目は血に飢えた鮫のようなギラついた銀色……ではなく。

 

 

 血色そのものの、純度の高い赤だった。

 

 

 

 

 

「ええエエエエエエええええええええええええ!?!?」

 

「……るせぇ騒ぐな」

 

「だって……だ、だって……! え、エェー!? エェエーーーーーーーーーーーー!?」

 

「ブッ消すぞ」

 

「ちょっと待って! 待って!! え!? もうなんかエーーー!?」

 

(とっくにキャパオーバーだよ!!)

 

 綱吉の頭はとっくにキャパがオーバーしまくり、オーバーヒート状態に突入。

 そしてこんな時に限って作用しなくていい超直感がフルパワーでぎゅんぎゅんと回り、綱吉に最悪の事実を知らせようとしていた。

 

(やめろ! やめろ超直感!! 普段役に立たないくせに! こうゆうときだけ都合よく作用すんなぁ!)

 

 そして何より綱吉はその事実を受け入れたくない。

 受け入れちゃったら自分のなかにある大切な何かが――つまり常識が壊れてしまうことを恐れていた。

 

 だが綱吉は失念していた。

 

 そう、超直感といえど所詮は『直感』。

 

 

 目の前の椅子に優雅に、堂々と、ふんぞり返るその女は。

 口の端をにやっと歪めて……見覚えのある、めちゃくちゃ見覚えのある人物そっくりの笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 

「……まぁ、ゆっくりしていけや。ドン・ボンゴレ・デーチモ?」

 

 

「ひぃいいい!?」

 

 

 

 

 

 人類始まって以来、直感という力においては、男は女には勝てないのである。

 

 ……ましてや、男にすらなれていない、中学男子の『直感』なんて……バレバレのダダ漏れなのである。

 

 

 

 

「も、もうやめてーーーーーーーー!!」

 

 

 

 10分が経過し、「あぁ、やったコレで戻れる!」と思った綱吉が最後に見たものは。

 

 

 

 

 

 立派な椅子にふんぞり返る、傲慢なまでに美しい銀髪赤眼の女が、

 

 

 

 

 手に憤怒の光を灯しながらグラスを叩き割っているという光景だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったもんねーランボさんの勝ちだもんねー!! ランボさんの前にひざまづくもんねー!」

 

「う」

 

 

「さっさと負けを認めるもんねーー!」

 

 

 

「う、うわああああああああああ!! わ、忘れたい! 忘れたい!! 今見たことを忘れたいーーー!!」

 

 

「ひぇ」

 

 

「ランボでもイーピンでもリボーンでも何でもいいからぁ! 今すぐ! オレの! 頭を!! 思いっきり殴って!! 殴って!! 記憶喪失にさせてぇええええええええええ!!」

 

 

 結局泣き喚いたランボの声を聞きつけてリボーンがやってきて、ツナの頭を思いっきりとび蹴りしたのだが。

 

 

 あの忌まわしき、遠い未来の記憶は消えなかったのだった……。

 

 

 






勢いでやった、反省はしていない。



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cicatrice



 書いてやるッ……!『ボーイズラブ』ってやつをーーッ!!



 と意気込んで書いてみたのでおっさん同士のイチャつき上等、というドカスの皆様のみスクロールしてください。






 

 カスはいつでも唐突だ。

 

「俺、アンタの傷跡好きだぜぇ」

 

 

 もう一度言う、カスはいつだって唐突だ。だからこそのカスだ。

 カスがカスたる所以だ。こいつの年が今の半分以下だった頃からそうだったし、8年の空白を経て再会したときもやはりそうであり、結局変わることはなかった。カスのままだった。

 だから俺はスクアーロのことが未だに理解できない。そして御せないままでいる。

 「気色悪りぃ」だとか「俺は嫌いだ」とか言い返してやりたいことはある、山ほどある。

 だかそんな言葉の一つ、二つでコイツが懲りないことは分かっているし、分かり切っている。それこそ引きつって変色して沈殿した傷跡の奥の奥まで刻み込まれている。

 

 何故かコイツはこうするのが好きだった。

 裂けて引きつって埋まった傷跡の表面を一つ一つ確認して、形をなぞって、触って、手を当てることが好きらしい。

 不快じゃないから殴りも拒絶もしなかったら、どうやらこのカスは許されたと思ったんだろう。以来好きなようにさせているし、奴も奴で好きなようにしている。

 

 始めは背中に手を当てているだけだった。

 次は腕に触れていた。

 次は前、胸から腹にかけての跡をなぞる様になった。

 今は顔、頬と額を撫でている。

 

 

 

「俺、アンタの傷跡、好きだ」

 

 

 

 テメェじゃねぇんだから二回も言わなくても分かる。

 

 コレなら簡単に言えそうなのに、「で、何が言いたいんだ?」を未だに俺は聞くことができないでいる。もしかしたらこの行為だか動作だかには特に意味なんか持たないのかもしれない。

 無意識のうちにやってる行為か何かなのかもしれない。

 だが聞くことはできないでいた。

 

 きっと、この行動の意味を問えば、鮫は『コレ』を辞めるだろうと思ったからだ。

 コイツはいつだってそうだ、だからカスだ。

 別に俺はこの行為が嫌なんじゃない、辞めて欲しい訳じゃない、なのにコイツは勝手にそう解釈し、勝手に自分が悪いことにし、そんで勝手に辞めて、勝手に謝るから俺が切れて殴ってカスがぶっ倒れるまでがワンセットの流れになる。そして馬鹿なくせにこうゆうところだけ無駄に学習能力のあるカスは二度と俺の傷跡に触れようとはしないだろう。別にその結末を望んでいるわけじゃない。

 望んでるわけじゃないから、聞けないんだ。

 お前は何がしたいんだ、の一言を。

 

 だから取るべき行動は別の言葉で濁すしか選択肢がない。

 

 

「……こんなもんの、何がいい」

 

 本当にそう思う。

 女じゃねぇんだから顔に傷があるくらい何てことはない、ましては暴力沙汰の世界に生きる身ならばこそ傷跡のひとつふたつ、どうということはない。

 だが在れば在ったで気持ちのいいものじゃない。

 傷を見れば思い出すからだ。

 思い出したくもない、自分の過去と、因縁と、同じ目をした二人のドカスを。

 

「う゛ぉおおい……そんなこと言うなぁ」

 

 俺は好きだぜぇ、とカスはやっぱり同じ言葉を繰り返した。これで三回目だ。

 

 

 

「お前がお前で居ようとした証じゃねぇかよ」

 

「は?」

 

「爺ぶっ殺して、ボンゴレぶっ壊して。立ちはだかるモン、全部カッ消して、壊して壊して、何もかも賭けてお前がお前の欲しいモンを手にいれるために戦った証じゃねぇか。だから俺は好きなんだ」

 

「……」

 

 

「言っただろぉ? お前の怒りに惚れたんだぜぇ、俺」

 

 

 カスはガキみてぇに――14歳だった頃のように、ニカッと笑った。

 

 多分俺は相当間抜け面をしていたのだろう。

 ベタベタ頬の傷跡を触っていたカスが首を傾げるのが分かった。

 長い銀色が滝のように肩から滑りおちて、白い首筋に銀を塗っていくのが良く見えた。

 

 

「……あ゛? ボスどぉしたぁ?」

 

 

 

 言うわけねぇだろが。

 

 

 

「……テメェは」

 

 

 

 言える訳がねぇだろうが。

 

 

 

「……本当にカスだな」

 

 

 

 きっとコイツは気づくことはない、絶対に気づかねぇ。

 断言しよう、このカスが鮫に食われようが心臓ブチ抜かれようが義手を腕ごとブチ抜かれようがコイツが俺の気持ちなんてものを自覚するようなことはない、と。

 

 いつまで経とうと、どれだけ手間をかけようとコイツはコイツでこの先多分一生カスのままなんだろう。

 ソレがどれだけイラつかせ、キレさせ、逆にコイツを甘やかしている原因の一因になっていることをきっとスクアーロは知らないままだろう。だがそれでいいし、もうそれでいい、と思う俺がいた。

 

 

 お前がそうやって、変わらないでいればいい。

 

 

 

 

「う゛ぉおおい! 今さらだぜぇ!!」

 

 

 カスはどこか満足そうに無駄にデカい声を張り上げた。

 ガキの頃から変わらない笑みを、遥かに伸びた髪と大人びた(実際大人になった)顔面に張り付かせていた。

 

 

 

 

 当然コイツを黙らす一番手っ取り早い方法は決まっていた。

 

 

 

 もう、ずっと、前から。

 

 

 







 
 ……うん、コレが精いっぱいだった!!

 真のBLへの道はまだ遠いようです。



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dimenticare

 

 _人人人人人人_
 > 突然の死 <
   ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄

!!ボスの死ネタ注意報!!

 それでも許せるという人はスクアロールしてください!









 

 

 

 

 全て消してくれ、がザンザスが口にした最後の願いだった。

 

 白いベッドに横たわるザンザスの姿を見たとき瞬時に理解した。

 むしろ驚いたのはかつては怒りの権化そのものだったはずの男の表情の方だ。

 

 

 病気だった。

 毒も炎もまるで効かない、暗殺部隊の長の体は強靭であり、同時に脆かった。

 それが力に特化しすぎた代償か、彼の持つ憤怒の炎が命まで焼き切ったせいなのか――あるいは、二度にわたる凍結のせいでどこかに異常をきたしていたのか、沢田綱吉には判断がつかなかった。

 

 分かっていたのは、本当にザンザスが、もう助からないということだ。

 

 なんだか現実感がないような、それでいてしっくりくるような不思議な感覚だった。

 常に炎が燻り続けているような男だったが、その薪はあまりにも少なかったのだろう。

 限られた燃料を高火力で燃やし続ければ、当然火の寿命は短くなる。

 だがその生き方がザンザスという人間にはひどくぴったりな気がした。

 

 

「俺の記憶は必要ねぇ」

 

 

 だから消せ、記憶を。と頼まれたときは思わず愕然とした。

 ボンゴレには幻術使いが数多くいる、アルコバレーノだったマーモン。

 確かに霧の守護者たちを総動員すれば全員の頭の中からザンザスという人間一人の記憶を消す位ならばできるだろう、と言った。

 実際に可能だと証明された。

 だからザンザスが死んだら、ヴァリアーや守護者、全員の頭の中からザンザスのことに関しての記憶がごっそりと抜け落ちる命令が極秘に発令されることになった。

 

 

「……本当にいいの?」

 

 

 色の失せた唇が開く。

 特徴的な赤い目が今では病のせいなのか暗く濁って、少し明るいだけの薄茶見える。

 暗くなった目の色がまるで普通の人間のそれのように思えた。

 普通に優しそうに見えた。

 

 

「人は殺しても、死なねぇ」

 

 

「……」

 

 

「殺しても消えねぇ。……消せねぇ」

 

 

 山ほど殺してきた男が吐く、妙に説得力のある言葉だった。

 

 

「じゃあ、いつ死ぬと思う?」

 

 

 分からなかった。

 綱吉には答えられなかった。

 

 

 心臓を撃ち抜かれたとき、違う。

 不治の病に侵されたとき、違う。

 

 愛するものなくしたときでもない。信じてた全てに裏切られた時でもない。

 それでも人は生きていける。

 この男がまさにそれを体現していたのだから。

 

 綱吉には答えれなかった。

 そして答えられないカスを待つザンザスではなかった。

 

 

 

「忘れられた時だ」

 

 

 

「……」

 

 

 曰く。

 

 存在が全て忘れられた時、やっと人間は死ぬことができる。

 どんなカスだろーが、人の記憶にはまとわりつく。

 

 誰かカスを消せば、そのカスの思い出を持つカスが更に報復に来る。

 だから消す。そいつも殺す。

 そうやって殺して殺して、片っ端からカッ消しても。

 

 ……それでも終わらない。それが記憶で、それが人間だ。

 

 

 と、息を切らせながら珍しく長くしゃべった。

 苦しいんだろう、と思った。

 ザンザスの思考回路では死ぬということは殺すということでも、死ぬということが消えるということにはならないらしい。

 何より死を前にした病人の前の口から何を聞いてるんだろうな俺は、と綱吉は思った。

 すごく冷静に思って、心の中だけで突っ込んだ。

 

 だから、とザンザスは苦し気に言う。

 

 

 

 

 

「スクアーロの中の俺は、こうでもしなけりゃ死なねぇ」

 

 

 

 

 何だかザンザスらしくないな、と思った。

 

 

 とても優しい目だった。

 そこに焼け付くような怒りは、なかった。

 それを見て綱吉は理解する。

 

 あぁ、そうか。とっくにザンザスは『死んで』いたんだ。と。

 

 

 おそらくは、病を得た時からだろう。 

 きっと病気になって、どんどん悪くなって、もう助からないと解ったのに、その運命に怒りを感じなかった、理不尽だと叫ぶ憤怒が起きてこなかった。

 ふざけるな、と感じられなかったのだ。

 

 怒りよりも、恐怖よりも。

 ただ、遺していくスクアーロのことを思ってしまったのだろう。

 

 その瞬間まぎれもなくザンザスは『死んだ』のだ。

 

 

 なのに、スクアーロは未来永劫ザンザスを殺せない。

 きっとあの馬鹿で純粋で、どこまでも愛しい銀色は、殺せないザンザスの思い出を背負って生きていくだろう。

 己の命が終わる日まで。

 

 

 

「アイツまで持っていきたくねぇからな」

 

 

 何言ってるんだ今さら、と綱吉は苦笑した。

 

 生きてる間は散々所有しておいて、見せびらかして、片時も手放そうとしなかったくせに。

 

 今だって、本当は会いたくて仕方がないくせに。

 

 

 

「やめろ、焼き付いて離れねぇだろ」

 

 

 あぁ、そうかよ。だろうね。

 人の最期なんてそうそう忘れられるもんじゃないよ。特にお前みたいな奴の最期なんか忘れようたって忘れられないよ、きっと。 

 夢に化けて出てきそうだよ、と言い切ると。

 ザンザスは口の端を歪めて笑った。

 

 あぁ、そうだ。だから。

 

 

 

「俺の最期はテメェにくれてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 





チョッパーの親父こと名藪医者ドクター・ヒルルクのセリフは泣いた。(再読中)
あの桜のシーンはヤバい。本当にヤバい。


だけど、生きてる人間がちゃんと忘れてあげないと、いつまでもその人は死ねないんだろうな、と。






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傲慢の記憶 (前)


完全に勢いだけで書いたんで後日修正版を出すかもです。


 俺のご主人様は冗談交じりに『ティランノ』なんて呼ばれてた。

 人嫌いの厭世家の王様みたいだと。

 

 

 ココは南イタリア、前に見える海がティレニア海。

 島の名物はレモン。

 あとは何にもないイナカだ。俺とボスはこのド田舎の島、崖の上の屋敷でもう3年くらい前から住んでる。

 合う人間は通いの野菜とか魚とか持ってきてくれる業者が何人か。オッサンたちは好きだ。「よう、また美人になったな!」とかアホみてぇな冗談をよく飛ばす。んで、奥さんたちは魚や果物のうめぇ料理を教えてくれる。

 のんびりしてて、退屈で、どこもかしこも不景気なのに明るくて、良くも悪くもあったかい場所だった。

 

 俺の仕事は家政婦ってヤツ。

 ボスと一緒に住んでて、ボスの散らかした後を綺麗にして、洗濯して、屋敷を掃除して、料理を作って、ボスの面倒を見て一日が終わってる。屋敷っつてもそこまでデカいもんじゃない。二人だけで過ごすにはデカすぎるような気もするけど、ボスさんには来客がものすごく多いのだ。来客がヤベェって分かってる時には近所の女やもめなオバサンに助けてくれ!ってヘルプコールをする。すぐ来てくれるからすごく助かる。

 

 なんでもウチのボスさんは昔はスゲェ人だったらしい。

 大きな声じゃ言えねえけど、どうも雰囲気とか見ると裏社会の人間だったと思う。

 なんでこんな人が田舎で隠遁してんだろうなって思った。ボスの年齢はよく知らないが、多分まだ四十とかその辺だろう。年なんか関係ねぇけど。だって、ボスはすげぇカッコいい。

 

 背が高い。無口で無愛想だけど、それが似合う。

 目はよく見ると赤い。南の島の日光に弱いらしくよくサングラスなんかかけてる。でも「ますますソレっぽく見える」って言うと気にするから言わねぇ。

 肌は濃い色で、髪は濡れ羽色。顔や体には火傷の跡みてぇな傷跡が沢山ついている。

 あと両足に大きな傷跡がある。たまに痛んでちゃんと歩けなくなるほど酷い。一体何をどうすればこんな傷ができるのか俺には分からなかった。

 滅多に笑わねぇし、よく怒るけど、俺にはすごく優しくしてくれる…………多分。

 何となく、年の割にはちょっと疲れてる感じがするような人だった。

 

 来客っていうのが、また凄い。個性的なヤツばっかり来る。

 皆ボスとか、ドン・ヴァリアーとかって呼んでるからボスはまだ『隠遁』してる訳じゃねぇんだなって思った。たまに畑とか作ってレモンとかトマトとか育ててるけど、それ以外は忙しそうに書類を書いたり整理したり、はたまたパソコンでネットにつないで何か指示をしているような感じ。仕事してるんだなぁ、って感じだ。

 ちなみにボスがネットをつないだせいで、この近くは電波がいいから、よく近くのガキがスマホを持ってくる。それを撃退するのは俺の仕事だ。

 

 来客は主に2種類になるらしい。

 

 

 

 

 1つ目は何かスゲェ個性的なメンツだ。

 ムッツリスケベっぽいデカイ大男に、派手な格好の頭3色なグラサンのオカマ。

 自称王子と、いくつかわかんないガキ。

 皆ボスのことを「ボス」って呼ぶ。

 ボスもこいつらには気を許してるみたいだった。

 きっと昔一緒に仕事でもしてたんだろう。

 最初の頃は王子とか言うアレなヤツとかムッツリ臭いデケェ男にスゲェ目で見られたけど、何回か見慣れるうちにやめたみたいだった。

 オカマは俺に優しかった。「ルッスって呼んで」っていうからそう呼ぶことにした。

 たまに一緒に料理作ったり、色々やってくれたりする。

 ルッスはボスの好きなコーヒーの銘柄や温度をよく知っていた。淹れ方なんかも教えてくれた。

 

「アンタ、前の家政婦だったのかぁ?」

 

 って聞くと

 

「違うわ」

「ただ……ボスが、前と好みが変わってなくって安心したの」

 

 

 どこか、寂しそうだった。

 

 こいつらが来訪する機関は一週間かそれ以下で、色々な話をしていた。

 多分仕事の話なんだろう。何故かと言うと何語か分からない言葉を使って話しているからだ。

 ボスは頭がいい。だって何か国語も喋れる。俺の自慢だ。

 

 

 

 

 2つ目は普通の奴らに見えるし、決まったメンツが来るわけじゃないから普通なんだろう。

 ラフな格好で着て、礼儀正しくお辞儀する。

 こーゆー奴らとはあんまり話しちゃいけないって、俺はボスに言われてる。

 だからコーヒーを出したらすぐに出ていく。

 大抵何人もで来るから、近所のおばさんにコールして、任せて、顔も出さない時もある。

 何でもあの人は昔大きなお屋敷で家政婦長なんかをやっていたらしいのだ。こうゆう時は俺よりずっとそれっぽく振る舞えるんから任せることにする。

 ……でも、そろそろ三年目だしな。とも思った、けど。

 

 

 

 

 

 その日の来客はそのどっちにもならないみたいだった。

 

 こんな南の島に、かっちりした黒スーツを着ていた。

 イキナリの来客だったから俺はビビった。こんな突然来る客なんか居なかった。

 電話しねぇと、電話、早く。

 ゲストルーム整えて、大急ぎで買い出し行って……違う、その前に早くボスを呼ばないと! とかアホなことを考えている俺にそのお客は苦笑して、綺麗なイタリア語で言った。

 

「あ、いいですよ。俺はすぐ帰りますから。ザンザスは居ますか?」

 

「え?」

 

 聞き返した時、お客の顔色がさっと変わった。

 

「……君」

「は、はい」

「名前は?」

「……え?」

「君は、ここで何してるんだ? いつからココに居るの?? なんで……なんでこんな……」

「……ちょ、待って」

「ザンザスはどこ? 話したいんだ、今すぐ!」

「…………あなた……一体誰なんですか?」

「俺は沢田綱吉、十代目、ドン・ボンゴレです。」

「ボン……ゴレ……?」

 

 知ってる。

 誰もが知ってる、イタリア最大最強のマフィアの名前だ。

 

「な、なんで? ボスに、なんでボンゴレが……?」

 

 俺はすっかりパニックになっていた。

 なんで? ボンゴレが?

 ボスは確かに後ろ暗い仕事をしていたと思う。だけど、ボンゴレが目をつけるほどだったのか?と。

 

 ……こともあろうに、ボンゴレがボスを殺しに来たんじゃないか、と。

 

 

 

「……ザンザスから何も聞いてないの?」

「……え? 何もって……?」

「…………」

 

 何を言ってるんだろう、この人。

 訳が分からなかった。

 分からないから、怖かった。

 

 

 

 

「……何してる、沢田綱吉」

 

 

 

 







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当て馬シリーズ
il puledro 【XS←D】


雨戦後、スクアーロ入院中の出来事。




※かっこいいディーノが好き! という人は絶対読んじゃいけません。






 ここに一人のロマーリオを用意する。

 

 ロマーリオというのは有力イタリアンマフィアな『キャッバローネ・ファミリー』のナンバーツーであり、まだ年若いドン・キャッバローネの右腕であり、今年で38歳のブラジル人だ。

 陽気なおっさんであり、九代目ドン・キャッバローネに拾われて以来のマフィア歴を誇る。

 狙撃から緊急救命までこなす超万能な、まさに一家(ファミリー的な意味で)に一人いてほしいレベルのマフィア幹部である。

 

 ……が、そんなロマーリオにも対応できない事態というのは発生するのだ。

 

 

「……おいボス……」

 

「スク!? あー……なんだロマーリオか~~」

 

 

 キャッバローネのボス、今年で22歳になるハズのディーノが病院のベッドに突っ伏していた。

 

 ちなみに、ディーノ自身怪我はしていない。

 一切していない。

 確かに『部下の前じゃないと力を発揮できない体質』というカス……もといへなちょこ体質ではあるからこそ、日ごろから切り傷擦り傷打ち身、といった謎の生傷が絶えない青年ではあるが、今回は、戦闘行為に一切参加していないためか傷はおっていない。

 

 ……おってない……ハズ……である。

 

 

「……ボス、なにしてんだ」

 

「何って……」

 

 真っ白なシーツに顔をうずめていたディーノが恍惚とした表情のまま、どこか心ここにあらず、といった調子だ。頬も薄く染まっているのが見える。

 外見だけならキラキラ輝く金髪に同じ色の目に、甘く整った顔立ち……とまぁ立派なロミオ様ではあるのだ。

 実際、若くしてキャッバローネのボスであり、財力も実力もあり、更にはこの外見なら引く手はあまたではある。是非愛人になりたい! だのドンナになりたい! だのさらには一夜でいいから! と女からはしょっちゅう『その手』のお誘いが絶えない。

 

 だが、そんな一流のスケコマシ、別名イタリアーノに育ったハズの我らがお坊ちゃんは、未だに中学生だったころの初恋を引きづり続けている。

 

 

 中学生の時から好きだった。

 だが当時は実力の差がありすぎた。だから見向きもされなかった。

 悶々とした片思いを続けているうちに、相手は別の男に惚れてしまった。

 やがて力を付け、見合うだけの実力を手に入れた。さぁ告白しにいこう! ……としたら今度は片思いの相手が失踪。同時にそいつが惚れた男というのも失踪。

 だが中学生にしょんぼりしている暇はない。

 同時期に父親が死んだこともありそこから長年の片思いは続くのだった……。

 

 

 

 なぁ、ロマーリオ、とディーノはうっとり、とつぶやく。

 

 

「……ここにスクアーロが居たんだぜ……」

 

「……あー……今精密検査をうけてるはずだぜーー」

 

「ここに!! スクアーロのぬくもりが!!」

 

「……」

 

 

 そう、跳ね馬ディーノは銀色の鮫にずーーーーーーっと片思いを続けていた。

 

 

 だが周知のとおり、スクアーロはザンザスに惚れている。

 あんなDV野郎のどこがいいんだ?と周囲が首をかしげるほどに惚れこんでいる。

 毎回毎回ひどい目にあっているのにも関わらずベタベタのベタ惚れである。

 殴られても蹴られてもセクハラさせてもR18でも何されても耐える。

 無駄に耐久力が高いから、死なない。

 しかも何気ザンザスもザンザスで「あ、これ絶対デキてる」というのが見てわかる。ただ、素直に思いを伝えるのは成層圏なみにプライドが高いザンザスにはできない。

 そしてその好意を分かっていないのはスクアーロ本人だけである。

 見た目だけなら男にしておくのが本当にもったいないほどの美人ではあるが、いかんせんお頭の出来具合がかなり残念な感じなのだ。だからスクアーロが自分が片思いしているだけだと思い込んでいる。そして、ザンザスはザンザスで常人より優れた頭脳を持っているからソレが分かり、腹を立てている毎日だ。

 

 ……という、お互い素直になれないだけのバカップルの甘~~~いイチャコラを横で見てきたはずのディーノは、さすがに、すこし、おかしくなっていた。

 

 

 

「あぁスクアーロの臭いがする……シャンプー……変えたんだな…………」

 

 

 おい……なんでテメェ……ヴァリアー副官のシャンプーまで把握してんだよ……とロマーリオは思った。

 

 

「……は! こ、これは……!」

 

「おいどうしたボス」

 

 

 

「……スクアーロの髪の毛…………!!」

 

 

 ディーノの視線の先には長い艶やかな銀糸が一筋。

 あー、寝たっきりだったからなーー。髪の毛の一本や二本そりゃ抜けるわなー。とロマーリオは思いながらも。

 

 手はナースコールにしっかりと伸びていた。

 

 

 

 

 

「どうしました!?」

「大丈夫ですか!!??」

 

 すぐさまナースステーションから看護師二名がかけつける。

 この病院は優秀だ。

 そして、ナース二人はベッドの上に突っ伏す恍惚とキラキラしたイケメンを見ている。

 そしてその指先に銀色の何かが握られているのを見て、さっそく行動する。

 

 

「急いで! 緊急カートを!!」

「鎮静剤持ってきて!!」

「待て! オレはどこも病気じゃない!!」

「はい落ち着いてくださいねーー」

「打ちます!!」

「待っ……せ、せめて一口!! 先っちょだけだからーー!」

「食べちゃいけませんッ! 早く!」

 

 

 

 

 

 

「……九代目……申し訳ありません……」

 

 辞表、出そうかなぁ……と思う、ロマーリオだった……。

 

 

 




ディーノは幻チャンみたいに病んでる訳じゃない。

ただ時々ストレスでぶっ壊れるだけ。


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il puledro 2【XS←D】

 その日。ロマーリオは思い出した。

 

 普段はボスの皮をかぶっている……男を。

 学生時代に『へなちょこ』と呼ばれていた……ディーノを。

 

 

「なぁ、ボス……コレ……どうしたんだ?」

 

「ん? あぁ、釣った……」

 

 

 お魚さんだった。

 お魚さんがいた。

 

 いや、正確にはお魚さんという表現はあまりに生ぬるいだろう。

 お魚というより、ギリギリ魚類。

 3メートルほどある、巨体。

 しかも凶悪そうなのっぺりとした顔つき。

 やはりというかなんというか陸上に打ち上げられてバタバタしている。

 

 

 鮫だった。

 

 鮫と言っても、ドン・キャッバローネことディーノが日ごろから懸想しまくっているヴァリアーの美人副官『スクアーロ』ではない。アイツなら先日行われた指輪争奪戦で常人だったらすでに死んでいるレベルの大怪我を負いベッドの上から起き上がれない状態である。ちなみに敬愛してはばからないボス共々だ。

 そしてその怪我の原因は対戦相手である山本武に金属の鉄の塊で脳天をフルスイングされたからではない。

 野球をたしなむ中学生の男子がバッドで全力で脳天を殴ったからではない。

 尚、加害者である山本武は『殺す気はねーのな!』などと意味不明なことを言っている。どう考えても死ぬだろ普通……『あの』スクアーロじゃなかったら死んでただろ常考。

 だが本当に山本ではないのだから何とも言えない。

 

 そう、『スクアーロ』重症の理由は『鮫』である。

 鮫に食われたためスクアーロは単純に言うと生死の境をさまよっていた。

 が、車椅子の上でう゛ぉいう゛ぉい騒いでいたので意外と元気そうだった。

 このままでは回復も時間の問題だろう……ではない。

 ロマーリオはそこまで思い出し、目の前に転がっている鮫をみつめ、嫌な予感から目をそらした。

 

「いや、あのさ……スクアーロさ、鮫に食われたじゃん……?」

 

「……お、おう……」

 

 ディーノの目は既に現実を見ていなかった。

 

「だからさ……コレ……」

 

「…………」

 

「『コレ』はアイツを食った訳だろ……?」

 

「………………………………」

 

「だから……」

 

 

 頼む、ボス。

 

 頼むから、どうか、本当に頼むからその先は言わないでくれ。とロマーリオは思った。

 それ以上言われたら俺はもうアンタをボスと思えなくなるかもしれない。

 マフィアから足を洗いたくなるかもしれない……と。

 

 

 

 

 

「コイツの! 牙が……歯が……スクアーロのあんなところやこんなところに触ったのかもしれないだろ!?!?」

 

 

 

「言っちゃったか……言っちまったかぁ……!!」

 

 

 

「は? 何言ってんだロマーリオ?」

 

 

「ボス、ブーメランって知ってるか?」

 

 

「バジルの武器だろ。そんなことより、鮫の歯だ! ロマーリオ、手伝ってくれ! コイツの歯をすぐに抜くんだ!! そうすれば俺は……俺は……!

 

 スクアーロを間接的にセクハラできるんだよ!!」

 

 

「…………」

 

 

 もう、何もかもが手遅れだった。

 とロマーリオは思った、どこで間違えたんだろう、何が悪かったんだろう……すまねえ、先代。という思いが胸中を締め付けていた。

 

 

「……っ! そ、うか……!」

 

「なんだボス、まさか……正気に戻ったんじゃねえだろうな!?」

 

 一縷の期待をこめて問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が……この中に入れば…………!」

 

「は?」

 

 

「俺が!! この鮫の!! 口の中に!! 入れば良いんじゃね?!?!」

 

 

 

「ボスが……? 鮫の……中に……?」

 

 

「神だ……愛の女神が……! 愛の女神が俺に微笑んだ!!」

 

「ボス! 目を覚ませ! ソイツは死神だ!! きっと腹を抱えて大爆笑してるぞ!!」

 

「飲み込んで俺のポセイドン!」

 

「やめろぉおおおおおおお!! 誰かぁあああああ!!!!」

 

 

 数分後。

 

 ひどく満足そうな顔で安らかに仮死状態になっているディーノが、鮫の口のなかから救出されたという……。

 

 

 

 

 







お目汚し失礼いたしました。

お詫びに絵を描きました。



【挿絵表示】




火は全てを浄化する……。



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Campa, cavallo, che l'erba cresce

 突然だが、イタリアにおいて馬は非常に明るい名詞とされている。

 

 古代ローマ時代からチャリオット、なんて武装もあるものだから当然といえば当然の話だろう。広大な領土を収めていたローマ帝国時代において交通は要だった。すべての道はローマに通ず、という古いことわざだってある。

 現代のようにガソリンで動くエンジンを搭載した車や、鉄道、飛行機なんてなかった時代、その中において最も速力として最有力視されたのは当然、獰猛でなく、肉を食わず、かつ扱いやすく、素直で何より速力に秀でた生き物――馬だった、というわけだ。

 結果、遊牧民族ほどではないにしろ馬という生き物はそれだけローマ人にとって身近でありながらも頼もしい相棒であり、ある時は共に戦場を駆け回り、ある時は長靴型の半島を隅から隅まで駆け巡る足になってくれた人類の歴史と共にあった生き物だったのだ。

 

 

 ……という、雑学をふと思い出した。

 

 

 ここはボンゴレ傘下のホテルのバーである。

 勿論安っぽい酒場などではない。断じて、ない。ゆえに客層にしろ内装にしろ酒にしろバーテンダーまでもがそれぞれ一級品をとり揃えられているはずなのである。

 だからこそ、きっと誰にも想像がつかないだろうと思う。

 

 そんな場所でベロンベロンになっているのが、キャッバローネファミリーの若手ドンだなんてこと。

 

 

「起きなよ」

 

「……だれ」

 

 地中海の陽光のように鮮やかな金髪、明るい目。

 映画俳優顔負けのきらびやかで派手な容貌に甘い顔立ちを持つ男、ディーノが今まさにせっかく神から授かった容貌を台無しにするかのようにクダを巻いている。

 いい年こいてなにしてんの。とあきれ返って言えばなんだ、恭弥か、などと、どこか安堵したような心底がっかりされたような寂しそうな言葉を言うものだからますます情けなく見えてくる。 

 

「何してんの」

「…………うるせー……ほっとけよ」

「そうはいかないから迎えに来たんでしょ。さっさと起きて」

「…………お前、薄情なヤツだな」

 

 ディーノはカウンターに突っ伏したままにぼやいた。

 しばらくすると、ぽつり、ぽつり、とこぼすようにつぶやき始める。

 独り言のようだった。

 でも、確かに誰かに聞いてほしいような、独り言だった。

 

 

 

「スクアーロが」

「……またあの人」

「スクアーロが、好きだって、アイツに、告白されたんだって」

「……」

 

 何をいまさら。

 

 聞けばあの二人は出会ってから今年で18年、冷凍中の空白時間を除いても、もう十年の付き合いになる。

 その間一言では中々言い表せない関係だっただろう、と解釈している。

 十代中ごろに出会って剣帝殺したりクーデター起こしたり髪伸ばしたり仲間を粛清したりDVしたりクーデター起こしたり鮫に食われたりしただろうと。上司と部下であり、悪友のようなそれでいて恋仲のような親密な空気をダダ漏れさせていたのは傍から見ている分には嫌というほど感じとれた。

 そして、その二人を一番近くで見ていたはずのディーノはその温度をよくわかって、感じていたはずなのだ。

 

 

「で?」

「そしたら、アイツ、どうしていいかわかんなくなっちまったんだって」

「……」

 

 アイツ本当、バカだからさ。と付け加えるように言う。

 

 

 あぁ、本当だ。全面的に同意だ。

 馬鹿だ、と思った。確信した。

 

 慣れ合いでいい、と思っていたのだろう。

 だが、本気だったと、気づいてしまったのだろう。

 だが本気だったのは、自分だけじゃなく、相手もそうだったということには1ミリたりとも気づかなかったのだろう。

 つまりスペルビ・スクアーロは忠誠だのなんだのを向けることには何のためらいもなかったくせに、愛されることには臆病な本当残念な大馬鹿野郎だったのだ。

 

 で、それで混乱した挙句、よりによって十年も自分に懸想している相手に「どうしたらいい?」と聞きにくるんだからもう、どうしようもない。コレが天然なら大した魔性だ。

 

 

 さらに、それに生真面目に答えてるんだからこの馬も、本当に本当にどうしようもない。

 

 

「……あぁ、もう、なんでだよ……」

「……」

 

「なんでさぁ、いつも、いつも。こうなるのかな……」

「……」

 

 

「やめろ、って言ったんだよ。あんな奴やめろよ、って。

 だってお前いつも殴られてんじゃん。そんな痛い目遭うことないよって」

「……」

 

「でもアイツが俺の言うこと聞いたためしなんか一度もねぇんだ。本当……本当ガキの頃から、何度も言ってんのにさ……あー……もーなんでアイツなのかな。なんで。なんで」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 なんで、俺じゃダメなのかな。

 

 

 

 言いたいことはソレだけだろうに、どうしてもその一言が口に出せないようだった。

 思わずため息が漏れた。

 そんなこと言ったって無駄だろうに。

 

 その答えはディーノ自身が、もう、とっくに分かっているからに決まっているのだ。

 

 

 でなければ。

 

 

 こんな報われない片思いを、延々とやり続けるわけがない。

 

 

 

 

 

「……俺だってさ」

「……うん」

「……俺だって。ずっと。ずっと。俺だって」

「…………そう」

「やめられるわけないじゃねぇかよ……だって、だって」

 

 

 好きになっちまったんだから。

 

 

 どうやらこの馬鹿男は、こともあろうに思い人の背中を押してしまったらしい。

 行けよ、あいつもきっと、同じ言葉を待ってるさ。とでも言ったのだろう。

 結局は同じなのだ。

 何度殴られても殴られても、待たされても、傷ついても、

 

 それでも愛することを諦められない。

 

 スクアーロも、ディーノも。おそらくは、『彼』も。

 

 

「……帰るよ」

「……やだ」

「……」

「……恭弥ぁ、ちゃんと帰るよ。帰るから、帰るからさ……。もう少しだけ、このままでいさせてほしいんだよ」

「…………勝手にすれば」

 

 あぁ、もう本当に馬鹿。

 

 きっとこのイタチごっこはまだまだ続くだろう。誰かが終わらせない限り。

 そして、自分もその中に入っている。

 入るつもりなんかなかった、でも、気が付いたら巻き込まれていた。

 自分だけは違うなんて思っていたけれど、結局は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、こうして、相手が振り向いてくれるチャンスを十年間も待っている。

 

 

 自分の思いも告げられないまま、

 気づかれないままに。

 

 ふと酒瓶が目に留まった。ラベルには馬の絵が描かれており、その端には格言らしき言葉が欧州特有の読みにくい装飾アルファベットで刻み付けられていた。

 

『Campa, cavallo, che l'erba cresce.』

 

 思わず笑みがこみ上げてくるのがよく分かった。

 

 

 

 

 

 

 待てども待てども来ない晴天。

 

 太陽を待ち焦がれて、未だに海をさまよっている。

 

 

 

 

 

 






Campa, cavallo, che l'erba cresce

『馬よ、生き延びろ。今に草が伸びるから』




 イタリアのことわざ。同義語:待てば海路の日和あり
 


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fiore 【XS←D】

花吐き病パロです。






 叶わない恋をするものだけが、罹る病がある。

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 それは現在ヨーロッパおよび世界各国に蔓延する病だった。

 感染経路は一切不明。

 実は人間に遺伝的に組み込まれていた~とか、最近出てきた最新型ウィルスだ~とか学説は色々あるが、実は普段『普通』に生活している分には全く無害な病気である。

 だが、しかし、コレには発症を促すべき鍵……いわばトリガーがあった。

 ……つまるところ、病気にかかりたくないのならこのトリガー予防をしてしまえばいい! というのが究極の防衛手段となるのだが、悲しいかな人のサガとはそう簡単にはいかないものである。

 

 そのトリガーは『恋』だった。

 

 

 しかも発症例を見ると決して叶わない恋、報われない恋、という厄介なものを抱えているケースが多い。

 相手を思えば思うほどに、体内に生成された花を吐いてく奇病は、いずれ死に至るという。

 唯一の治療法は両想いになることのみ。

 

 

 それが『嘔吐中枢花被性疾患』。

 

 

 愛すれば、愛するほど、命が削られていく。

 

 呪いのような、恋の病である――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という非常に面倒臭くて厄介な病気にかかった跳ね馬が居た。

 

 ディーノはベッドに横たわり、清潔なシーツの上に寝かされていた。

 

 目の前には花びらが大量に入っている洗面器がある。

 見るのも鮮やかな、香るような厚みのある赤いバラの花びらが彼の視界を埋め尽くしていた。

 随分沢山吐いちまったな、なんてディーノは思う。

 こりゃもう長くねぇかもしれないな、という諦観が一瞬だけよぎった。

 

 病室には自分の腹心が「ボス!」といたたまれないような切羽詰まった必死な声で、呼びかけてくる。

 

「もう見ていられねぇ! せめて思いを告げるんだ! 今からでも遅くない!」

「……だめだ……!」

 

 また胸が痛くなる。

 締め付けられるような痛みが、やがて焼け付くようなソレへと変わり、気が付けば口から大量にまた赤が零れ落ちていた。

 鮮やかな色だった。

 綺麗な赤だった。

 

「……いいんだ……アイツに……オレ……あのバカに変な十字架を背負わせたくねぇんだ……!」

「ボス!」

「いいんだ……俺は……!」

 

 

 ずっと好きだった。

 

 

 いつから好きだったのか、もう分からない。

 気が付いたら好きで好きで、どうしようもない位惚れていて、こっちはそれで片思いしてきたのに、あの銀色は他のオトコに夢中だった。

 気が付いていたのに。

 知っていたのに。

 

 さっさと諦めれば良かったのだろう。

 女々しくいつまでも引きずっていないで、勝ち目がないと、振り向いてもらえないと分かっていたなら、他の奴を――もっと全うな恋をすればよかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 ……でも、できなかった。

 

 

 

 

 

「……アイツ……馬鹿だから……ずっと……俺のこと……忘れられなく……なっちまうだろ……?」

 

 

 

 できなかった。

 やめられなかった。

 好きだということを、辞められなかった。

 

 

 愛することを諦められなかった。

 

 

 だから結局このザマだ。

 初めから、叶わないと分かっていたのに。

 最初から、報われないと知っていたのに。

 治る見込みがないと解っていたのに。

 

 ……それでもコレで死にたい、なんて思ってしまったのだ。

 

 

「だから……この思いを抱えて死んでやる」

「……ボス!」

 

 

 ただ一言いえば報われるのか、とも思った。

 

 

 好きだった、愛してた、と言えば少しでも報われるんじゃないか、と考えた。

 

 だが無理だろう。

 ソレを言ってしまえば、あの銀色は一生俺を忘れないだろう。

 アイツの心に自分という存在を切りつけてやりたい。せめて死の間際まで愛してたんだという事実を刻んでやりたい、という思いは確かにあった。

 もうこれは恋でも何でもない、ただの歪んだ独占欲だ。

 ……その自覚はあった。

 

 だからこそ。

 

 

 何も知らせないまま、何も傷つけないままで、消えようと決めたのだ。

 

 忘れられるのは怖かった。

 

 だが、それ以上に守りたい思いがある。

 

 

 ……オレはスクアーロのことが、本当に好きだったんだ……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う゛ぉおおおおおおい! へなちょこぉおおおおおおおおおお!」

 

 

 

「!? ……スク……アーロ……!?」

 

 

 

 突如として割れ響く大声が真っ白に染まった病室に反響した。

 

 現れたのは黒ずくめの麗人だった。

 鋭い目つき、すっと通った鼻梁、薄く色づく唇――――そして伸ばされた艶めく白銀の髪。

 

 

「な……んで……」

 

「くたばってんじゃねぇぞぉ!! しっかりしろぉ!!」

 

 

 ズカズカと入ってきた銀の鮫は、ディーノの肩をがっしりと掴む。

 最愛の人―――もとい病原が現れたことにディーノの頭の中で一瞬花が咲く。

 意志の強そうな銀の目と死にかかった金色の目が合った。

 

 

「どこのどいつだぁ!!」

「……は?」

 

 鮮やかな唇からは、鼓膜を直接打撃する近くに居る人間にそんな大声で叫ぶ必要がどこにあるんだよ……というレベルの騒音被害が発生していた。

 隣の病室からドン! という抗議の音がする。どうやらお隣さんは無事快復に向かっているようだ。

 退院の日も近いだろう。

 

 

 

 

「お前がホレこんでる奴はどこのどいつだぁ!!」

 

 

「ゴフッ!」

 

 

 

 耐え難い胸の痛みに襲われたディーノが吐花!

 やはり実物の破壊力は違う、軽くさっきの2倍もの花弁が口からあふれ出た。

 

 

 

「心配するなぁ゛!! オレが必ず見つけ出してきてる!! ヴァリアーを舐めんじゃねぇ゛!!」

 

「ス……スクアーロ……も、もういいんだ……!」

 

「よくねぇぞぉ!! テメェが死んだら色々厄介なんだカス馬ァ!!」

 

「……!」

 

 どうやらスクアーロはディーノに死んでほしくないようである。

 常日頃殺意とか怒りとかそうゆう感情でギラギラ光っているまなざしにはガチで心配している色と、「脅してでもコイツの片思いの相手を連れてきて、両想いにさせてやる」という決意がはっきりとにじみ出ていた。

 意中の人に多少なりとも思われている……ということにディーノはやや安堵する。

 が。

 

 

 

 

 

 

「ドン・キャッバローネが死んだらボンゴレの威光にかかわるだろぉがぁ!! またボスさんの悩みが増えるじゃねぇかぁ!!!! そんなん俺は認めねぇぞぉ!!」

 

「ガハァッ!!」

 

 

「ボスーーーーーーーー! しっかりしろ! 傷は浅いぞ!」

 

 

 結局すべてはザンザスの為! という宣言を改めて聞いたディーノの心にクリティカル!

 分かっていたけどやっぱりショック!

 目の前で好きな奴が惚気る生き地獄! ディーノは「なんで俺今際の際にこんな苦しまなきゃいけないの……?」と生まれてきたことを後悔していた。

 

 

「う゛ぉおおおおおい! なんかスゲェ花だぞぉ! 大丈夫かぁ!?」

「だめ……だスクアーロ……! それ……感染っちまう……!」

「病人が人の心配してんじゃねぇ、自分が治ることを考えやがれぇ」

「……いいんだ……もう……俺は……いいんだ……スクアーロ……」

「よくねぇぞぉ!

 

 

 お前が死んだら、ボスさんだって多少ガックリ来るだろぉがぁ゛!!!!」

 

 

「だからもうやめてソレやめて俺の心はもうとっくに折れオヴェェエエエエエ!」

 

「うぉ゛……」

 

「ボスーーーーーーーー!!」

 

 

 ロマーリオは思った。

 

 

 やべぇ、やべぇよコイツ……流石暗殺部隊! 流石ヴァリアー! そして流石次席!!

 今わの際に追い詰められたターゲットを殺しに来てる!!

 放っておけば勝手に死ぬ相手の息の根を、確実に! 止めに! 来ている!!

 

 しかも本人は全く無自覚!!

 

 スペルビ・スクアーロ……恐ろしい子……!

 

 と、ロマーリオはこの悪行を、『ヴァリアー・クオリティー』を未来永劫語り継ぐことを決意した。

 「10代目キャッバローネは二代目剣帝にトンデモナイ殺され方したぞー」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに心配するな゛ぁ……ディーノ。俺には感染らねぇ」

 

 

「……え?」

 

 

 もう一度言う。

 花吐き病とは、『叶わない恋』、『報われない恋』をしている者が罹る病である。

 

 『片思いをしている』奴が感染する病である。

 

 治療法は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チクショーーーーーーがぁああああああああああ!! ゴフッッッ!」

 

「う゛ぉおおおおおおおおおおい! へなちょこぉおおおおおおおおおおおおおおお゛゛!!」

 

 

 

 

 

 スクアーロの義手、左手薬指には。

 

 

 きらりと輝く銀色の、戦闘用じゃない、簡素だがシンプルで美しい指輪が嵌っていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 




コレだから跳ね馬イジメはやめられませんwww


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他キャラ
waiting for love 【L】


2017年鮫誕。

ルッス姐さんのターン!





 はぁい、Buonasera! 愛の伝道師ルッスーリアよ~~。

 今日記念すべきこの愛しい日に来てくれて嬉しいわ~~。

 

 まぁ、あらぁ、素敵な花束じゃない! ちゃんと渡しておくわね。

 あの子ったら本当、任務入れるなんて本当救いようのない度し難いおバカさんよね?

 まぁ、そうゆうところが可愛くてたまらないのだけれど。

 

 

 あら、不思議そうな顔ね。

 なぁに? ボスは許可したのかって? えぇ、もちろんよ。待って、言いたい事は分かるわ。

 本当はボスも行かせたくはない。本音は今日ぐらいは休みを取って、一日中傍に置いておきたいんじゃあないかしら?

 まぁ、でも……相手はあのスクアーロだからね。仕方ないわ。

 あの子はとても鈍感なの。アホなの。知ってるとは思うけど。

 ボスはボスで素直じゃないから言えない。

 あの子はあの子で全然気がづかない。

 だからずーーーーーっとすれ違い続けるのよね~~! 

 

 ヤキモキするわ~~じれったいわ~~でもソコがいいわ!!

 

 

 あぁ、もうごめんなさい私ったら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ねぇ、少し時間ある?

 

 あるんだったらね、他愛もない話だけど聞いてほしいことがあるのよ。

 

 まずひとつ聞くわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人は愛した方が幸せなのかしら?

 

 それとも、愛された方が幸せなのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 ……まぁ、愚問よね。答えなんてないもの。

 

 だけれど、本当あの二人を見ていると真面目に考えちゃうの。

 

 

 

 

 

 

 ボスは……ボスの人生には、愛は無かったと思うわ。

 ……いいえ、違うわね。この言い方は間違っているわね、ボスは、それなりに大切にされてきたし愛されてもきたでしょうね。

 だけど、全うな、きちんとした愛がある環境ではなかったんじゃないか――と思うの。

 

 ボスのお母さまのお話、私あまりよく知らないのだけれど……あまり心が強い人じゃなかったみたいでしょう?

 始めはちゃんと愛情を注げていたかもしれない。

 だけど、途中から――どんどんどんどん歪んだ形の愛情になっていって、それがどんな形で子供だったボスに与えられのかって……悪いけど私には想像もできない、いいえ、簡単に出来ていいことじゃないと思うわ。

 

 だからきっとボスは『九代目の子』としての自分に縋った。

 自分はボンゴレ十代目になれるんだって、そのことだけが――ボスを支えていたのだわ。

 それがボスに与えられた最後の母親からの愛だったんだから。

 

 九代目も九代目で、ちゃんとボスのことを愛していたんだとは思う。

 でも、その愛はボスには伝わらなかった。

 どの道、私は今でも思っているわ。

 

 

 ……どうして、もっと早く伝えてあげられなかったのかしら、って。

 

 

 実の息子のように思っていたのは分かるわ。

 だけど、ボスのことを思うなら――もっと早くに、まだ何とかなる内に、伝えてあげていれば良かったんじゃないかって。

 

 結局、無償の愛はボスを救ってはくれなかった。

 

 

 母親からの愛も、義父からの愛も、結局はボスを傷つけただけだった。

 だからそう――ボスは愛され方が分からない。

 あの人の半生は、愛に裏切られ続けた人生だったんだから。

 

 

 

 あぁ、スクアーロも愛されたことなんかないわ。

 あの子の過去は色々あったみたいだけど、あまりちゃんと育ってないみたいなのよね。

 だから当然、あって当たり前な両親からの愛情なんか注がれて育っている訳がない。

 

 

 やだ、驚かないでよ? 私たちの世界じゃあ常識じゃない。 

 むしろ貴方たちのように、ちゃんと両親がそろって、帰る家があって、誰も死んだりしない、暴力もない日常があった――なんて方が少数派かもしれないわね。

 ……何? 駄目よ、そんな申し訳なさそうな顔しないで。

 いいのよ、あなたたちはソレで。

 それがあなたたちの強さになっているんだから、堂々と胸を張ればいいわ。

 話を戻すわね。

 

 

 

 

 

 でも、そんな二人だけど。

 

 多分ちゃんとお互いのことを愛せているのだと思う。

 

 

 

 不思議よね。

 彼らの人生に、惜しみなく注がれる愛はなかった。

 もしくは、それをはい、って素直に受け取るだけの環境は整っていなかった。

 だから二人とも、愛され方が分からない。

 愛され方を知らないの。

 

 

 

 

 それなのに、愛し方をちゃんと知っているのよ?

 

 

 

 

 まるで奇跡みたいな話だと思わない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……けど、結局は二人ともお互いに愛されることに慣れてないから、愛情を受け取ることができなくて見事にすれ違っちゃうのよね。

 あの子はあの子で『自分何かが愛される訳がない』って思いこんじゃってるし、むしろボスの剣であることを全うしようとしているし。

 ボスには幸せになってほしい、って願ってる癖にその『幸せ』に自分は入らないんだって信じて疑ってない。

 どこかボスに相応しい家柄の美人な令嬢と結婚して子供をもって家族を作ってほしいんだって思ってるみたい。

 それ聞くと私、いつも思うのよ。的外れも大概になさい! って。

 

 そりゃあ、スクちゃんの考える『幸せ』大いにありだと思うわよ?

 むしろ馬鹿なあの子がない頭で考えた割には上等だとは思うわ。

 一般的な当たり前の、ありふれた幸せを知らないあの子が考え付いたにしてはよくやったんじゃないか、って思うくらいだわ。

 だけどね、違うの。

 ボスはそんな型にハマった正解の『幸せ』になんかなりたいんじゃないの。

 いいえ。きっと、ボスは、自身の幸せすら願っていないと思う。

 

 

 ボスはただ、スクアーロが傍に居れば、それでいいのよ。 

 

 

 それに一体スクはいつ気が付くのかしらね?

 ……あの子のことだから、もしかしたら一生分からないかもしれないわね……。

 …………本当信じられない位バカだからね……。

 あの子にもう少し、他人を思う気持ちが、いいえ、他人を思う頭があればいいのだけれど。

 

 

 

 

 そんな見事にすれ違ってる二人だけど、私見てて本当に思うのよ。

 

 愛されるってことは、本当に本当に素晴らしいこと。

 自分の存在を肯定されてる、って感じられること。

 

 誰かに生きてていい、って言って貰えるってこと。

 

 こんな世界に居ると、そうゆう温かさがどうしても欲しくなるときがあるでしょう?

 

 

 

 人は愛されたい、って願うことをやめられないのよ。

 

 

 

 愛されたいって願うの。

 誰かに認めてほしいって思うの。

 誰かに生きてていいんだよ、って言って貰いたいの。

 

 本来あるべき姿なら、それを生まれ落ちた瞬間から親に無償で与えられるけど。

 ソレを運悪く与えられなかった、受け取れなかった子供も居る。

 愛されなかった人間は愛されるってことが分からない。

 だから人も愛せない。

 自分が分からないことを、人に伝えることなんかできない。

 そうやって嘆く人に少し前なら「そうかもしれないわね」って答えてたでしょうけど、今なら言えるわ。

 

 

 そんなことない、って。

 

 

 だって、人は愛されなくっても、ちゃんと愛し方を知ってる。

 

 だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの二人はずっとそうやってきてるんだもの。

 

 

 

 

 だから私は思うのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛することも、愛されることも。

 

 諦める理由なんて、何処にもない――――って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「極限純愛だーーーーーーーーー!」

 

 

「そうよね~~~~! いいわよね~~~~!」

 

 

「かくなる上は!! 末永く爆発だあああああああ!」

 

 

「わかるわ~~!!」

 

 

「極限幸せになるがいい!!」

 

 

「ね~~~~~!」

 

 

 

 

 

 

 




 

















「う゛ぉおおおおおおい!! 帰ったぜぇ!!」


「おせぇぞ!! カス!!!!」


「う゛ぉ……起きてやがったかボス。悪かったなぁ! 思ったより手間取っちまった。けどよ、標的の息の根はガッツリ止めてきたぜぇ!! 報告書だぁ!!」


「……」


「じゃあ部屋戻るぜぇ、明後日には100本勝負があ――」


「おい」


「なんだ?」


「…………」


「何か用かぁ?」


「………………」



「う゛ぉおおおおい! 黙ってんじゃねぇ!! ボヤボヤしてっと日付が変わっちまうぞぉ!!」



「…………んなこと分かってんだるせぇぞドカス!!」



「椅子投げるなぁ!! 何だぁ!? 何かあんならはっきり言いやがれ!!」




「だから……!」






 








 結局XANXUSが、ソレを告げることができたのは。


 時計の針がゼロを指す。本当に、本当に直前だったりした。













  Buon Compleanno. Squalo







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出来損ないの失楽園 【M】

マーモン大好きな身内が書けって言うから……




 

 

 蛇が這うことしかできないのは、罰だという。

 知恵の実を口にしろと、イヴに罪をそそのかした罰なのだ、と。

 

 もっとも、僕は神様なんか信じてないけど。

 

 

 

 ムム? 金? 金は神様じゃないだろ。

 金はただのツールさ。この世には誇りも友情も努力も全部幻だからね。

 金だって幻。いわば人間の妄想の一種。だけど何だって役に立つ。

 それこそ、ボスの言う通りクソの役にも立たない無償の愛情なんかよりずっとずっと分かりやすい『力』さ。

 目的の為に力を求めて何が悪い? 誰だってそうするだろ。

 

 

 ムムッ?

 だったら何で『ゆりかご』の後8年もヴァリアーに居たのかって言うのかい?

 ……。

 決まってるだろ、腐っても天下の暗殺部隊さ。

 フリーで稼ぐよりも稼ぎがいいし、何より割りのいい仕事が定期的に入ってくるからね。それにボンゴレに居ればアルコバレーノの呪いに関する情報が手に入りやすいって、踏んだんだよ。

 僕の目的はあくまで呪いを解くことさ、そのためには努力だって惜しまないし、手段だって選ばないよ。

 

 

 ……。

 

 ……なんだよ。

 

 

 ……あぁ、もう分かったよ! そういうところが嫌いなんだよ!

 何だよニヤつくな気持ち悪い。

 そうやって見透かしたような顔をするな! お前に僕の何が分かる!

 だからお前なんか大嫌いだ、大っっっっ嫌いだ!!

 

 

 

 ……本当は、出て行っても良かったんだ。

 

 出て行くことは出来た。追っ手だって幻術を使えば巻くことなんて余裕で出来た。

 もし、去ったとしてもあの当時の彼らじゃ僕に追いつくことなんてできやしなかっただろうしね。

 イキナリ消えるんじゃ怪しまれそうだったし、それにどうせなら貰うものを全部回収していこうかななんて思ってたんだよ。

 

 だけど、できなかったんだ。

 

 

 

 お前はどうせ神様なんか信じてないだろう?

 分かるさ、僕だって信じてないし。勿論クリスマスは祝うし復活祭もやるけど信じてないよ。

 だってその時期は皆財布の紐がゆるくなるからね。

 

 でも、この世には本当に本気で神様を信じてる奴も居るのさ。

 

 そしてその神の帰りをバカみたいに待ってたのさ。

 

 ご丁寧に髪まで伸ばしてね。

 本当はガサツなのによくやったと思うよ。

 いつか必ず返ってくるからその日まで待ってるんだ、って必要もないのに大きな声で怒鳴ってがなり立てて。

 だけど本当にバカだから分かってなかったんだね。

 

 本当はスクアーロ、本当は泣きたかったんだって自分で全然気づいてなかったんだ。

 

 

 人が知恵の実を口にしたのが罪だって言うなら、スクアーロは違えなく魚類だね。

 きっと知恵の実を口にし損ねたんだ。

 

 

 出来損ないのイヴは、楽園の中で、目の前のアダムを神様だって思い込んだんだ。

 

 そのアダムは傲慢で嫉妬深くて凄く怒りっぽくて、強欲で好きなものしか食べないし、滅多に椅子から立ち上がらない程怠惰で、愛してるの言葉もなしにベッドに引きずり込んで行く様な悪魔……ううん、むしろ七つの罪を一人でコンプリートしているような魔王そのものの男だったけど、何も知らない無知なイヴにはアダムがすべてだった。

 すべてだったのに、ソレを取り上げられてしまった。

 

 

 崇拝していたアダムを失ったイブは知恵の木の前で呆然と立ち尽くすしかない。

 

 蛇がいくら「これ、おいしいよ、食べなよ」って言ってもきっと聞かないのさ。

 だって一人で食べたっておいしくないし、そんなにおいしいものならアダムにやりてぇって言って。

 ……それにアダムは最上級のフィレ肉しか食べないし。

 

 

 イヴがいつまでたっても知恵の実を食べてくれないんだから、蛇は困るしかないだろう?

 

 

 そんな頑固で傲慢なイヴは、今日も優しい色欲のオカマと忠誠心の熱い嫉妬深いムッツリと、有能なのに怠惰な王子様の世話をしながら8年も神様を待ってたんだよ。お世辞にも楽園なんて言えない場所でね。

 

 は? 何だよ、それで蛇はどうしたのかって?

 

 ……蛇はもう諦めたよ。

 結局、バカで純情なイヴがアダムを待って持久戦するっていうから付き合うことにしたんだ。

 そしたらイヴの手下の王子様に「これ、王子に頂戴!」って捕獲されて気がついたら逃げられなくなっていた。

 

 

 だからもう、蛇は蛇じゃないんだ。

 

 そのままなし崩し的に悪魔になることにしたのさ。

 手段なんか構ってられないよ、呪いと戦うんなら、蛇だろうが悪魔だろうがあんまり変わらないよ。

 存在価値? そんなもの、下らないね。

 

 

 

 

 どうせ戦うなら、団体戦のほうが有利だろ?

 

 

 

 お前なんかとは死んでも組まないけどね!!

 

 

 

 

 

 

 蛇が這うことしかできないのは、罰だという。

 知恵の実を口にしろと、イヴに罪をそそのかした罰らしいよ。

 

 だけど、アダムを失ったイヴが全然知恵の実を口にしようとしなかったから。

 

 

 

 だから蛇は自分で悪魔になることを決めたのさ。

 

 

 

 

 

 

全く素直じゃありませんね。

 

でも、良い傾向ではありますよ。ようやく、あなたも見つけられたのですね。

あなたがあなたとして、自分の帰るべき場所を。

 

良かったですね、『マーモン』

 

 

 

 

 

 







最初はベルマモを書こうと思った。
でも、できなかった。
だからしょうがない。マーモン単体にしようと思った。
でも難しいから、じゃあマーモンとヴァリアーにまで譲歩してもらった。結果。



ま さ か の マ モ ス ク 。



ちなみにコレ書いた後「誰がマモスクやれっつたよ!?」とか怒られました。理不尽。


 ヴァリアーは7つの大罪を一人でオールコンプしてたボスが居なくなっちゃったから、8年間で全員一人一罪ずつ分担してボスのことを待ってたっていう真面目な解釈のつもりなんですけどね……。


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raison d'etre 【F】

6月6日はフランの誕生日なので。



 メーデーメーデー、現在逃走中のヴァリアー幹部はこちらですー。

 

 

 とか何とか言ってミーは走ります。

 ミーだって走れます。

 確かに術士だから、とても三十路とは思えないいい年こいてうざったらしくってムサくて見るに耐えないアホのロン髪隊長や、椅子に座ったまんま歩くって動作を忘れてんじゃないかと推測できるちょっとアレなボスには身体能力は勝てませんーー、けどミーだってミルフィオーレのモブ隊員をさっくり倒せちゃう程度には身体能力はあるし、単純な頭の構造してる脳みそ単細胞なベル先輩と追いかけっこする程度には身軽だったりですよ。凄いでしょ。

 

 こーなったのは、色々理由がありますが、結論から言っちゃうとまぁ。

 もうミーはヴァリアーには居られなくなりましたー。

 

 はい、なのでー足抜けしますー。

 

 ミーは、いわゆるかっこよく言うと潜入工作員という奴でした。

 簡単に言うと、ミルフィオーレとか言う百蘭って若白髪が率いる全自動裏切り者製造集団を倒すためにミーの師匠たるクソナッポーを脱獄させたりするのがメイン任務で、その間ヴァリアーに潜入してろとか言われて、大変でした。

 どいつもこいつも本当人使い荒すぎだろ、ブラックってレベルじゃねーぞ。

 ダーク企業だろ。流石マフィア。

 

 捏造サービス残業代を架空請求したいですねーー。過労死したら訴えますー。ヴィンディチェにでも訴えますー。

 

 まー、だけど勝っちゃいました。

 かつてリングを取り合って敵同士だった奴等が手と手と足を組んで、ふざけたご先祖まで召還してみたりして見事世界の敵を倒しましたー。めでたしめでたしですー。

 ……という感じなのでミーはもうお役目ゴメンですよ。

 それに、マーモンとかいう霧の守護者も帰ってきたので、もうミーは要りませんよねー?って空気になったので、空気を吸って吐くっていう特技が遺憾なく発揮されたミーはさっさと帰りますー。だからカエルの被り物も脱ぎましたー。ミーは両生類じゃないので肺呼吸します。

 王子(騙)が押し付けてきたモンなんて返品ですよ。

 

 それに、マーモンって人も帰ってきたんだし。

 

 元々ミーがカエルの変なクソ帽子なんか被らされてたのだって、確か『前任のマーモン』って人の変わりだっていうアホみたいな理由だったんで、もう帰ってきちゃったんですから被ってる意味もないなーと思いました。

 本当にカエル連れてましたねー、マーモンさん。

 身体のサイズに比例して脳みそまで縮んでんじゃねーかなこのガキ、と思ったのはミーだけの秘密です。

 まぁ、ほっぺにペイントしている時点でもうお察しですー。きっと王子(自称)とか三十路ロン毛とか、グラサンオカマ野郎とかとつっくづく同じ人種ですねーとか思いました。

 本当に変な集団でした。外見からしてマトモな奴がいねーってかなりヤバくないですか?

 まぁ、あっちも似たような集団なんだけど。

 

 あ、追ってきましたねーー。

 

 ミーだって馬鹿じゃないので、ミーは幹部だったりしたのでぺーぺー隊員の手には負えないでしょーと思ってましたー。なのでー追ってくるのは確実に幹部(笑)だろーなーと想像はついてました。

 だから逃げますよ。ちゃんと、幻術使って。

 最近、ジャッポーネのニンジャのコミックとか言う奴で見ましたー。

 必殺、タジュウカゲンブンシン。

 あっちにもこっちにもミーの分身っぽいものを大量発生させたりします。

 しかも、ジャッポーネのコミックみたいに、「倒したら煙」じゃなくって、そこはミーは術士なので、プロのこだわりといいますが職人芸って奴ですか。アレですー。倒したら相当スプラッタな感じで、断末魔あげて血反吐ブチまけて臓物ぶっ放して派手に散るって感じに仕上げました。見てる方の心にちょっとでも焼き付きゃいいかなーって感じですー。

 願わくば夜な夜なうなされて睡眠不足で死ねば万々歳かな。

 

 

 ゲロっ、まーた一匹ミーの分身が消えました。

 残念です、絶妙な再現度のクオリティだから結構愛着あったのに。

 しかも相当近いですねー。もう追いついてきやがりましたねー。……畜生が。

 

 しかも何ですかー? ナイフ投げまくりのハリネズミかって位にオーバーキルしまくりですかー、日ごろの恨みをここぞとばかりにぶつけるとか本当、大人げないですよねー。あーゆー逆コ●ンになりたくないですー。

 しかもその後嵐属性の赤い炎で森を燃やしまくってますー。

 CO2がー大量発生していますーー。限りある自然がもったいないですー。

 あーあ、パリ協定が可哀想だなー。このままじゃキョートギテイショの二の舞かなー。

 

 という明後日の方角へ現実逃避しそうになった脳みそを現世に戻します。

 

 そもそも、ミーはヴァリアーに拉致られたし、いつだって逃げられる程度の実力はあるんですよ。

 ヴァリアーって幻術士は少ないじゃないですか? で、ミーはトップマジシャンなわけですー。

 まぁ、アホ銀毛は直感で幻術見破るらしいですけどね。剣士ってやっぱどっかイカレてやがる。

 けど専門が居ないんですからミーを追跡できる人間は少ないんですよねー。

 と、ミーらしくもなく余裕ぶっこいていました。

 

 したら気がつけば森が真っ赤ですー。

 ミーが自分でぶっ放した血のりと、嵐属性の炎で真っ赤かに大炎上ですー。

 一週回って笑えますー。

 

 

 

 

 

 なんでわざわざ追っかけてくるかなぁ、本当。 

 

 

 

 

 まー、いっか。

 ミーだって追いかけられることは計算済みですよ。

 だから、いざって時の最終手段はちゃんと仕込んでますよ。

 いざって時に全部ぶっ飛ばせる超凄い爆弾を仕込んでるんですよー。

 ミーも追ってきたアホのベル先輩もろとも木っ端微塵の肉片ですー。超細切れのミンチですー。

 このままじゃ王子(二番手)との合びき肉の出来上がりですー。

 ……うわぁ。言ってて最悪じゃねーか、今からでもやめよっかな。

 

 

 

 

 

「何が最悪だって?」

 

 

 

「ゲロっ」

 

 

 

 

 うわぁ、出てきやがりましたよ、堕王子!

 その「髪切れ、前髪」と思わず突っ込みたくなるような金髪ピンピンフォルムは一度見たら忘れられません。つかアンタ十年前はストレートだっただろ。なんで癖毛になった。

 ともあれ、ミーに追いついたことだけは褒めてやりましょう。

 

 

 

「逃げられると思ってんじゃねーよ、クソガエル。天下のヴァリアーが、足抜けなんか許すわけねーじゃん? お前やっぱ馬鹿だろ」

 

「そーですかねー? 逃亡成功しちゃえばこっちのもんだろ、って思いますけどねー?」

 

 つか、天下のヴァリアーって自称しちゃう辺りやっぱこいつ等痛いわ、とミーは冷静に思いました。

 

「成功なんかさせねっつーの。お前が逃げられるわけねーんだよ。本当ならここで処分。だけど今はミルフィオーレの残党狩りに後始末に忙しすぎて術士総動員。

 だから王子の特例で連れ戻してやるよ、うっしっし……テメー死ぬ気で働け」

 

「うっわー。熱いブラックカミングアウトもらいましたー。今世紀最大の自白が、今、ここに」

 

「くだらねーことほざくんじゃねえよ。オレの分も働けよ」

 

「後輩に仕事押し付けるのは人間としてどーかと思いますーー。性根が曲がって腐ってますねー。腐臭がしますよー。加齢臭もしますー。神よー! どーか神よ! 哀れなミーにファ●リーズを!」

 

「うるせーよ」

 

 

 アホのベル先輩の「いかにも」って感じのナイフが背中にブッ刺さりますー。

 痛くて涙が出てきます。

 このままじゃミーは不法すぎる不法労働の末に過労死する未来が見えました。見えてしまいました。

 搾取されて死ぬのだけはゴメンですー。

 なので、この世からオサラバですよ。

 

「こんなこともあろーかとー。いざ尋常に! 爆発するは今! 起爆装置、スイッチON!」

 

「あ?」

 

「わが生涯に一片の悔いなしーーーーー!」

 

「はぁ???」

 

 

 こんなこともあろうかとー。超爆弾をゲットしておいて本当によかった、と思いながらミーは起爆装置のスイッチを入れました。コレでこの世とはさよならのどっかーんですよ。

 死体が残るなんて5流の術士の仕業です。一流の術士は死体を遺しません。ミーはスペシャルなのでベル先輩も巻き込みます。

 衝撃に備えようと目を閉じます。さらば人生。悪くない人生だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……死なない。

 

 

 死なない。

 

 なぜ、死なない。

 

 

 

 

 

 見ると目の前で偽王子がひらひらとミーが脱ぎ捨てたカエルの被り物を振っていました。

 

 

 ……その中には……。

 

 

 

 

 

 

「お前の考えてることなんて王子にはお見通しだし」

 

 

 

 

「ぬあーーーーー!」

 

 

 どうやらミーの最後の切り札は解除されていたようです。

 あー、もう、泣きてー……やってらんねー……。

 

 

 

「ああああ……これが……絶望……」

 

「諦めろクソ蛙。マーモン一人じゃ過労死するっつーの」

 

「人のことなんだと思ってんですかねー」

 

 

 はいはい、どーせミーは予備ですよー。

 本当の霧の守護者はマーモンさんですよ。分かってますよ。

 それにミーだってそーゆースタンスです。何時消えたっていいや、って感じで割り切ってる、ドライな乾いたかっぴかぴの関係だったはずです。

 だから。

 ……だから。

 

 

 黙って音もなく、霧みたいに消えようと思ったのに。

 

 

 

「はぁ? 何言ってんだお前?」

 

 

 

 ベル先輩がミーに何か言いました。

 ミーはもう帰りたいような帰りたくないような、何かそんな気持ちでいっぱいです。

 もう何か頭がぐちゃぐちゃです。

 

 いえる訳ないだろ、本当は行きたくないなんて。

 ……あんな暗殺部隊が、すごく居心地がいいんだ、なんて。

 

 本当はずっと、霧の守護者でいたいなんて。

 

 

 格好悪くて言えませんよ。それに、ミーはナンダカンダで師匠を裏切られませんー。

 ……だから、こっそりひっそり逃げよう、って思ってたのに。

 このイカレ王子様のせいで台無しです。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿王子ですー。

 

 

 

「そんなん決まってんだろ」

 

 

 

 ベル先輩が何か言います。

 目元は相変わらず絶対切らない前髪のせいで見えません。

 

 

 

 

 

「オメーは王子のナイフの的だから」

 

 

 

 

 

 ……やっぱり、酷い人権侵害だなーと思いました。

 マトってなんなんですかねー? やってられませんねー。

 

 

 それがミーの存在理由なんて、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





レゾンデートル:フランス語で『存在理由』
        他者との優劣比較で認められる『存在価値』に対し、
        自己完結した価値を意味する。




フランはフランス人なのでフランス語タイトルにしてみました。
ウンバボ族はどうやら霧属性キャラが好きみたいです。リボーンで好きなキャラトップ5を考えてみたら、3人が霧属性でした。


キャラソンを真面目に聞いた結果がこんな感じです。もうちょい時間あったらもう少し考察できたかもです(言い訳)

フランは普段淡々としつつ飄々としつつもどっかで寂しさみたいなものを抱えていて、で誰かがソレを丸ごと受け止めてくれることを望んでるんじゃないかなーみたいな印象。
ひたすら逃げて逃げて逃げまくって、それでも追いかけてきて欲しい、みたいな面倒くさそーなタイプだから平気で危なそうな橋もガンガン渡って行きそうだなーと思います。
あと、カエルの被り物が嫌(多分被り物自体は嫌じゃない)なのは「マーモンの代わり」が嫌なのかな~と思いました。ガキ時代は喜んでアッポー被ってるし。



というキャラソンの妄想の産物がこちらです。
リボーンのキャラソンは本当レベル高いと思います。特にベルの『Bloody prince』と桔梗さんの『狂気の花』はキャラソンのレベル超えてねえかな、と思いました。
ところでどうして九代目と幻騎士のキャラソンはないんですかね?
ドカス馬のキャラソン作る位なら九代目の歌出せばいいのに……。




 


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Nono 【爺】


 若かりし頃の九代目の完全創作。


 あとがき>本編というあとがきゲシュタルト崩壊作品


「お前の悪いところは甘すぎるところね」

 

 

「……仰せのとおりです」

 

 

 あぁ、でも勘違いしないでね。と豊かな白髪をポニーテールに結った老女は微笑んだ。

 かつては強く美しかった、まるで戦女神のようだと褒め称えられていた女傑の顔には今では深いしわが刻まれており、長年彼女がか細い女の身でありながらどれ程の苦難を背負わねばならなかったのかを如実に物語っていた。

 だが、それを口に出すような愚は冒さない。

 「余計なお世話だ」と一蹴されるからに決まっているからだ。それに、(たとえ口にしたにしても彼女なら笑って流すだろうが)女性に年齢と顔のことをとやかく言うのはイタリア男の意地が許さない。

 男は年齢と共に幾多の試練を乗り越えて男になるが、女は生まれたときから死ぬまで女なのだ。

 そしてその女性を讃美せず、見下したり罵倒したりましてや手を挙げたりする、などということは二流三流のドカスのやることだと己は叩き込まれてきた。

 そして、自分は一流どころか『それら』を統べる存在。

 

 つまりは、男の中の男でなければならない。

 

 

「お前の悪いところは優しすぎるところでしょう。そして甘すぎるところ。

 だけれど困ったわね、それがあなたの良さでもあるのだから」

 

「……」

 

「あなたの良さは、その底抜けの甘さ、なのよ。……私が生涯持ち得なかったモノ」

 

「……そんなことは」

 

「ないとは言わせはしないわよ」

 

「……」

 

 老女は嫣然と余裕の微笑を浮かべる。

 それはまるで少女のように明るく無邪気で、乙女のように艶やかな色香を持ち、そして母親のように慈愛に満ちていた。

 

 

「私の手は汚れている。私の治世はそうでなくてはならなかった。だが悔いたりなどはしないわ。それが私が進むと決めた道」

 

「……」

 

 

 確かにそうだ、と思った。

 

 『彼女の治世』は穏健とは程遠いものだった。

 彼女が、女性でありながら大ボンゴレを継いだ理由は簡単だ。

 本来なら継ぐべき血筋の男子が、絶えたのだ。

 これが通常のマフィアならば相応の男を他所から迎えればいいのだが、大ボンゴレは『掟』によりドンは1世の血縁者から輩出しなければならない。しかも、自分だから言えるなのだが、『炎』と『超直感』を宿していなければ直系と言えど名乗りを上げる資格すらない。

  

 

「あの日、ボンゴレを継ぐと決めた日からね」

 

 

 知っていた。

 

 確かに彼女はどちらかと言うと強気な方ではあっただろう。

 だが、決して争いを好む性格ではなかった。むしろ平和な日常を愛し、本来の性質は穏健な方だったのだと思う。

 

 

 だが、彼女が受け継いだものがその凪ぐような平和も陽だまりのような優しさも、許してはくれなかった。

 

 先代から受け継いだ組織は、もうボロボロだった。

 

 時代が悪かったのかもしれない。

 あの時代はマフィアは独裁者から嫌われていた。マフィア狩りにまであっていた。立て直すことが適わず沈んでいったファミリーも少なくは無い。

 その中でも尚生き続けたのは、最早呪いに近い、作意的な、誰かの意思すら感じる何かだった。

 それでも、彼女は自分の一族を、『ボンゴレ』を愛していた。

 かくして波乱の時代を生き抜いた父親から、ファミリーを受け継ぎ。

 

 そして『復活』させたのだ。

 

 世界に、裏社会に、帝王の如く孤高に君臨するボンゴレ・ファミリーを。

 

 

 

「……すべてはボンゴレを取り戻すため。いくらでも手を汚したし、汚させもした。

 間違ったこともあった。失ったものも少なくは無い。誇れないことも多い。

 けれど……けれど、歴代のドンたちにも恥じぬように生きたつもりよ。

 

 ……でも……ただひとつ、後悔があるとすれば……」

 

 

 彼女は寂しげに瞑目した。

 それは、遠い過去の記憶をなにかを思い出そうとするようなしぐさに見えた。

 

 

 

「……子供を持てなかったこと……ね」

 

 

 誰よりも男らしかった女ボスに、付き従う者は大勢いた。

 全てを受け入れ包み込む大空の如く、彼女も慕うものを惜しみなく愛し、欲したものを欲した分だけ与えることができた。

 時に母のように優しく、時に父のように厳しかった。

 過ちを認め、間違いを正し、そして厳粛に罪に罰を下した。

 それが孤独と戦い続けなければならない男たちにとって、どれ程救いになったことか、きっとこの女には理解できないだろう。

 だが、誰にも等しく降り注ぐ慈愛の大空は、誰に対しても平等でなければならなかった。

 

 

 

 全て等しく受け入れるということは、なにか特別な一つを作ることと、共存できなかったのだ。

 

 

 

 愛した一人の男が居た、らしい。

 

 男には才能があった。初めはその才能を愛していたのかも知れない、長らく傍にいたせいで、幼馴染のような戦友のような清らかな友情めいたものがあったのかもしれない。

 だが、それは時間と共に焼け付くような思慕へと変わっていた、変わっていたことを無視できなかった。

 

 だから結局愛情なんてない、ことにした。

 その後男の方が彼女の血縁と結婚する。 

 大空の炎を持つ一族と婚姻を結ぶということは、それなりに認められていたということなのだろう。

 運よく彼らは男の子に恵まれ、その子供は、『超直感』と『大空の炎』を持っていた。

 そして、10年ほど経ったとき、男と妻は子供を一人遺してこの世を去った。

 

 

「そんな顔しないの」

「……」

 

 彼女は寛容だった。

 

 マフィアの世界で、優れた血統を持った遺児が辿る道が見えていたのだろう。

 強大な一族の力は、本人が望もうと望まなくとも、必ず血を流す道を選ばせるのだ。

 血でできた、血の道は、血を欲しがらずにはいられない、かのように。

 そのことを彼女は恐らく一番……誰よりも、分かっていた。

 だから、その遺児を引き取ることにした。自らの養子として。

 そして、『次』として。

 

 

 

「……ここからは、貴方達の物語になる。

 

 滅びるも栄えるもお好きになさい……。継承おめでとう。『ボンゴレ9世』」

 

「……はい」

 

 

 老女、ボンゴレ8世は、9世と呼ばれた青年に、継承の証を差し出した。

 

 

 

 

「でも、忘れないで。――ティモッティオ」

 

「……はい」

 

 

 

 義母は優しかった。時には厳しかったが、本当の母のそれと同じくらい私に優しく接してくれていた。

 愛されていたとは思う。

 だが、義母の目が時折とても悲しげに遠くを見ているときがあった。私はそれに確かに気づいていた。

 ……だが、気づかないフリをした。

 恐らくその目が、もうこの世に居ない自分の父親を見ていたものだと、『分かってしまった』から。

 

 だがそれはもう、義母がまだ若かった頃の話だ。

 そして自分がまだ少年だった頃の話だ。

 

 ボンゴレ8世――義母は、悲しみも喜びも、全てを見通してきた目をそっと閉じて、私に言うのだった。

 

 

 私は、と。

 

 

 

 

 

「お前を、本当の息子のように思っていたよ」

 

 

 

 

 

 






 以下ウンバボ族が何となく思ってる歴代ボンゴレ予想



 1世

言わずもがな、ジョット。後の沢田家康で、息子は吉宗さんらしい。
あの時代のハーフって日本で育ってたらめっちゃ苦労しただろうなとか思いました。
何か本編の雰囲気からさっさと引退しちゃってそう。


 2世

絶対ボスさんと血縁あるよねと思うセコーンド様。バリバリの武闘派。
オルゲルトもジャンニーニもツナも「ザンザスだ・・・」と言っていたレベルで似ています。
正直ジョットと親子だとはあまり思いたくない、似て無さすぎるし、プリセコ推しとしては兄弟はアウト。というわけでものすごい離れた10歳くらい年下の血縁ぐらいに思ってます。養子設定だと死ぬ気の炎が燃え上がります。

知ってのとおり武器はなし。素手で憤怒で戦っているようです。彼に関してはものすごい妄想がひねります。

 悲しいのは、出番のわりには名前すら設定されていないってことですかね……。ボンゴレを最強にしたとか腹筋破壊神D様を霧の守護者にしたとかロンシャンのご先祖と殴りあったとか豪気なお方だったようです。
 ……ということは嘆き弾喰らったんですかね……?



 3世

 予想だけど多分ジョットの血縁から選んだと思う。それにしてもすげえ頭ですね。
 パイナポーとかD様とか上には上がいるけど歴代ボスの中では、光ってます、物理的に。
 先代二人のせいで苦労してハゲたんでしょう。個人的には穏健派だと思ってます。目が優しい人です、目が



 4世

 マフィアド直球のキャラだと思いました。恐らく穏健派。

 でもこの辺からボンゴレ内部のゴタゴタが始まっちゃってるんじゃないかなと邪推します。3世の時代にはまだ『自警団』だった頃のボンゴレや恐怖で裏社会を支配していた時代を知っていたヤツが残ってそうな気がしますけどここいらでそうゆう爺がそろそろくたばってるんでしょう。
 巨大すぎるが故に内憂を抱えていくボンゴレがこの辺からスタートです。

 個人的には2世直系かなーと思います。目つき悪いし。
 でも肌色とか髪色を見ると似てなくて腹立ちます。多分歴代で一番色白いし身長高いのでゲルマン系とでもミックスしたんでしょ。(テキトー)

   そしてフォークに火をつけている人。

   ……なんでそんなチョイスにしたのですか……? 

   いや、一番実用的だけどさ……。
  




 5世

 イケメン枠。プリーモ、セコーンド、ダニエラ様の次にコイツに目が行った人が多いんじゃないかと。
 個人的にはヴァリアーを組織したのはこいつじゃねーかと思います。理由は暗殺とか薄汚いことが好きそうな顔してるから。
    
 真面目に考えると↑の説だとすると、内憂だらけのボンゴレを何とかしようとして劇薬を投入した結果じゃね? とか思います。だから『独立暗殺部隊』なのかな、と。
 わざわざ独立ってくっつけている辺り、ヴァリアー結成当初の存在意義は粛清とかそっち方面だったら面白いと思います。多分雲の守護者あたりがボスやってたんでしょ。
    

 あと使用武器どうやらインドの暗殺武器らしい、東洋が好きだったのかも。血は争えんわ。
 多分2代ぶりの武闘派だったと思う。
 あと何か変なマント着てるし……なんだこのデコ助、デコに刺青……? 一体どうゆうセンスでしょうか。


 突っ込みたいのはこの野郎目が青いんですよね。3世までのキャラは(2世は緑?にも見えますけど)大体黒か茶色です。(プリーモは個人的にオレンジじゃなくて薄茶カウントです)
 髪(色)薄いし目が青いし目つき悪いし、なので4世の息子だと思っています。
    
 若い姿で出てきているあたりが凄い気になります。
 1世は早期引退、2世は多分早死、ダニエラ様はご愛嬌、あとはオッサンと爺ばっかのこの集団でなぜ彼が若い姿なのか……多分若くてイケメンなうちにロクな死に方しなかったからでしょう。
    

 ……まさか、外見が全く老けない体質だったという可能性は考えたくありません……。


 
 6世

 顔つきの雰囲気が何となく5世に似てないともいえないけど、髪色が全然違うなーと思ったんで多分4世5世は断絶して3世筋でしょう。5世が異様に若いし。
 若い頃は相当イケメンだったんじゃないかと思いました。見た目が紳士っぽくてカッコいいです。

 身長低そうだけど。何となく穏健派だと思います。

 5世の粛清政治のせいで内憂は治ったけど今度はガタガタになったボンゴレを整備しなおした感じだったと勝手に考えてます。見た目だけで判断するのはアレですが頭良さそうに見えるんですよね、彼。
 歴代ボンゴレで一番頭が良さそうに見えるんですよね(偏見)
 この辺から名前が残っています、シモーラさんだそうです。




 7世

 歴代ボスの中でも1世2世並みに情報が揃っている人です。ヴァリアー編のせいで。

 多分6代目の息子でしょう。死ぬ気の炎が歴代最弱というカスだったにも関わらず、努力と工夫で死ぬ気弾+炎戦術を編み出しました。
 きっと子供の頃から人一番頑張るという努力家だったのでしょう。
 だから先天的に憤怒の炎という攻撃力の高い炎を宿していながら、自拳銃まで使ってパワー増大させるボスさんを見てさぞムカついたことと予想します。
「てめー憤怒の炎持ってんだから銃使ってんじゃねーぞ!」とあの世でザンザスを呪っていたかも。

 公式絵を見ているとツナの炎のせいでつぶれちゃってる可哀想な人です。
 
 名前はファビオさんだそうです。





 8世

 唯一の女ボス。ダニエラ様です。

 台詞なし、出番2コマだけだったにも関わらず23巻の第4回人気投票では10位。
 未来編ラスボス百蘭様やヴァリアー人気上位キャラであるベルフェゴールより上に来るという脅威の順位を獲得した凄い人です。
 更に第5回人気投票ではあのザンザスの下。

 そう、ヴァリアー編最強のボスキャラとしてやりたい放題やって血反吐ゲロった後、イタリア主力戦でボス戦を見事勝ち抜き「アイツ(ボンゴレ)を虐めていいのはオレだけ」という亭主関白全開発言を超カッコよくお決めになり、日本のツナたちの危機についにあの重い、本当に重っっっい腰を上げて助けに来た! という活躍っぷりを見せた結果見事人気投票5位を獲得! なさったザンザス様の下の6位に出番たった2コマ台詞なしにランクインしています。

 元悪役というジャンルから光堕ちして身体を張って主人公たちを逃がしたスクアーロも、10年経って男の色気を身に着けたドン・キャッバローネ、別名当て跳ね馬ディーノも『剣士』として覚悟を期間限定で決めた山本もこの漫画のタイトルキャラであるリボーンもこのお方に見事蹴落とされました。
 不甲斐ない名誉ある男共など所詮ダニエラ様の前ではドカス同然ということでしょう。
 尚この数値をたたき出した結果、継承編にチラッとご登場なさった模様。


 設定上本人は1世のファンだったと言いますが人気投票の順位は圧倒しています。
 使う武器はボウガンというガチ武器です。
 男共がブーメランとかフォークとか杖とかフザケた武器を持つ中ガチ武器です。流石ダニエラ様。なので恐らくは武闘派に属した方でしょう。
   
 髪色といい、眉毛(ちょっと太め)といい、多分7世の実子、もしくはかなり近い血縁だと思います。
 お綺麗なお顔には刺青が入っているのですが、5代目とかいうもっと変な刺青を入れてるアホが既出なのであまり気になりません。
 彼女が女性であるにも関わらずボンゴレボスになれた理由っていうのを推測してみたんですが、やっぱりツナと同じ理由に思えます。
 後継者になれるだけの他の男子が全滅したんでしょう。ひょっとして殺ったんじゃないかな
 本来ならダニエラ様の旦那さんがドンにでもなりそうな感じですがボンゴレの純血主義の賜物でしょう。今回だけはナイス純血主義! という感じです。
 このせいボスさんは血反吐をはいてのた打ち回る結果になりましたが。

 ハルちゃん曰く「ものすごい綺麗な人」でジャンニーニ曰く何となくハルちゃんに似ているらしいです。
   
 個人的にはこの後継者全滅の理由は第二次世界大戦のせいかな~とか思っています。イタリアではムッソリーニがマフィア大嫌いだったせいでマフィアも真っ青なマフィア狩りがあったみたいです……。
 だから時代のせいで疲弊したボロボロのボンゴレを引き継いだのではないかと思います。全部妄想です!

 あと個人的に男社会のマフィアで女ボスとして君臨する以上結婚はしなかったし、できなかったんじゃないかと思います。ので、6代目から続いた直系もここで断絶しているという設定を考えました。





9代目

 リボーンを読んでいる人なら確実に知っている。ヴァリアー編の元凶。どころかこの作品の元凶です。

 コイツがリボーンさえ送りこまなければ死ななくていい人間も、傷つかなくていい人間も沢山いました。
 典型的な穏健派で知られ、その決断は神の采配と謳われるらしいです。
 神は神でも邪神の方だけどな。
      
 その厄病神の采配の結果がゆりかごだったりヴァリアー編だったりするわけです。

 フェニーチェという専用ジェット機と、ゴーラ・モスカという汎用人型決戦兵器を所持しています。

 ゆりかごの時も思ったのですが爺の割りには非常に機敏に動きます。剣帝を倒して調子こいてたスクアーロも撃破、信じてたすべてに裏切られたことにより怒りMAXのボスさんをも凍らせたあたり戦闘能力はマジ半端ないと考えられます。
棺桶に片足突っ込んでる爺の時点でコレなら最盛期は一体どんな化け物だったのか想像もつきません……。
 間違えなく作中最強クラスだと言えます。

 根拠としては作中最強クラスであろう実力を誇るザンザスとその腹心スクアーロ二人が組んで仲良く撃破された相手は終盤で出てきたヴィンディチェのイェーガー位なので、ボンゴレ9代目は単純に身体能力の衰えた60代の時点でイェーガー並みに強かったと考えられます。
 ショートワープなんざ九代目にとっては止まって見えるんでしょう、おそらく。

 更には作中最強クラスの雲雀さんが殴っても、ツナが本気で殴っても、60代の爺は継承編にひょっこり出てきてピンピンしていました。なので耐久力、防御力もかなり高いと考えられます。だって爺の外側たるゴーラ・モスカは大破してたじゃん。何も悪いことしてないのに……。
 
 さらには『ゆりかご』のとき、「邪魔だからとりあえず殺しておけばいっかー」というイェーガーさんとは違い、養子とは言え実の息子のように思っていたザンザスをとても殺すことはできず、ギリギリまで手加減していた可能性も考慮すれば……!(思考停止)


 どうやら実子は居ない様子で、次期ドン候補は甥っ子であるエンリコ、マッシモ、フェデリコが上がっていたようです。
 この時点で形式上『息子』であるはずのボスさんは? とその辺問いただしたいです。
 この十代目候補が全滅したのでツナ君にお鉢が回ってきたよ~というのがリボーンの始まりだったはず。
 一体この十代目候補を皆殺しにしたのは何ァリアーなんでしょうか……。

 そしてツナ君に継承権があるのに家光にはないようです、ないったらない様です。
 九代目の足元にも及ばないヴィンディチェに瞬殺されるザコに用はないみたいです。
 すごい、流石ボンゴレ。純血主義だけど実力主義!

 家光とかいうドカスは置いておいて、真面目に継承権を考えると多分

 直系>イタリア系分家>イタリアのプリーモ血縁者>日本のプリーモ血縁。
 
 で優先権があると考えました。
 直系が一番すんなりするし、ボスさんも「てめーら分家のカス」とか言ってカスを殴ってたし、この時点で
 直系>分家の図式が成立していると思います。(ボスさんが勝手に言ってるだけかもですが)
   
 じゃあコイツどっから沸いてきたのかと思うと、やっぱりティモッティオは8代目の子供説は信じにくいんですよね。
 継承編でチラッと出てきたダニエラ様はかなり高齢のご様子で、若き日の爺が写っていますが親子っぽくは見えないし。で、爺の顔つきやらを見ていると『6代目以降から分岐した分家』出身者じゃないかと思いました。


 ダニエラ様が資格所有者を集めて『よし、てめーら殺しあえ、生き残った奴が九代目ドン・ボンゴレだ』みたいな。
 各属性の参加者全員に大量の偽ハーフボンゴレリングを渡しておいて『本物2個しかねーから』とか言って殺し合わせる……という。vsヴァリアー編も真っ青な大規模指輪争奪戦バトロワが行われていても面白いですよね。
 もしあのリング戦をコヨーテ・ヌガー辺りがみていたら『倒す相手が一人だけならマシだろ! オレなんかどこから弾飛んでくるか分かんなかったわ!』とかボケたこといいそうですよね、全部妄想です。
 チェルベッロが過労死しそうです。
 先程も述べたとおりに若き日の九代目の戦闘力ならバトロワで生き残ったのも納得です。
 ……いや、むしろ逆か? このバトロワで生き残るために強くなった可能性ももももも。



 この話は「実は九代目自身も養子だったんじゃないか」という妄想に基づいて書いております。
 だったら色々と悲しいよね……ボス……。




 ともかく今時見られない、仲間同士で協力しないし、キャラは基本ゴーイングマイウェイだし。
 挙句の果てに平気でガンガン裏切ったりするので本当リボーンは名作だと思います。


   
   


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ヤンデレ幻騎士シリーズ
白昼夢 1



皆さんは覚えていますか。


幻騎士という、ミルフィオーレの霧の守護者を……



 幻騎士は死にかけていた。

 

 

 よく分からない伝染病的な何かで死にかけていた。

 

 多分エボラ。

 

 

 だけど死にたくなかった幻騎士は泣いた。

 

 年甲斐もなく、泣き喚いた。

 

 

 成人男子が、恥も、外聞もなく、泣いた。

 

 

 泣いて、泣いて、泣いて、周囲からの眼差しが同情からドン引きに代わる頃。

 

 

 幻騎士は流石に泣き疲れたし、病気だし、喉痛ェからもういいかなぁ、という気持ちになった。

 

 

 

 薄れゆく意識の中、幻騎士は自分が所属していたファミリーのことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 思えば、誰ともソリが合わなかった。

 

 

 

 

 

 

 先代のドンが逝去した後、ドンに据えられたのはまだ幼い少女……いや、幼女だった。

 

 

 

 

 どう考えても無理だろ。

 

 頭おかしいだろ。

 

 

 

 

 幻騎士はそう唱えたが、大多数が「うっせぇ! 年齢だ性別だなんざ関係ねぇ!! んなことよっか血筋だ血筋!!」とか妄言ほざいてやがった。

 その幼女ノリノリで何か変なおしゃぶりとか持ってるアルコバレーノだから良かったようなものの、幻騎士はファミリーの終焉を垣間見た。

 

 そして。

 

 

 彼のファミリーは。

 

 

 

 基本的に、皆。

 

 

 

 

 ロリコンだったのだ。

 

 

 

 

「ユニ様ハァハァ」

「ユニ様ペロペロ!」

「ユニ様の匂いだぁ……ようじょのかほりだぁ……くんくんくんくん」

 

 

 特にガンマとかいう金髪はヤバかった。

 幼女完全ガードしていた。

 

 え? 何? 何なのアンタら?

 

 幼女マンセーなの? え? 間違ってるの俺なの??

 

 

 幻騎士はもう訳が分からなかった。

 

 

 そんな訳で一人アフリカにぼっち旅行していたら何か感染症にかかったのだった。

 

 で、数日前に上司。

 

 というかボス。

 

 ドンから通信があったりした。

 

 

 

 

 

 

『うっわ。本当に死にかけてるよ……。……ないわー……』

 

 

 

 

「……」

 

 

 

『お前どうせアレだろ、性病とかそっち系だろ。何なの? ホモなの? キモいの死ぬの?』

 

 

 

「…………」

 

 

 

『ごめん私そうゆうのマジで無理だわーー』

 

 

 

「…………」

 

 

 

『じゃさいならwwwwこの世からwwww』

 

 

 

「………………」

 

 

 

『骨ぐらいは拾ってやるからよwwwwwwww』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻騎士は、泣いた。

 

 

 

 

 

 何かもう、大泣きした。

 

 

 

 

 

 

 

 泣いて、泣いて。

 

 

 涙も枯れて果て、喉が引き千切れる程嗚咽した後。

 

 

 

 何かもう…いいかなぁ。という諦めの極致に達していた。

 

 

 自分もファミリーにもボスにもそして自分自身にも。諦めがついていた。

 

 

 あまり誉められた人生ではなかったけど特に生きる理由も見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かロリボス酷いし

 

 周りロリコンだらけだし

 

 

 辛……。

 

 

 

 

 

 

 幻騎士が意識を手放そうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めちゃダメだよ」

 

 

 

 

 

 開くドア。

 

 

 何だねキミはー。

 防護服ナシとかテメェ正気かーー。

 自殺志願なら他を当たってくれー

 このクソ忙しい時にパンデミック拡散すんじゃねえよクソが死ねーー

 

 とかなんとか周囲の医者を瞬殺し、白い男が現れた。

 

 

 

 

 

 

 まるで、闇にふる、一筋の光のように。

 

 

 

 

 

 

 

「命は尊い。生きているだけで人は美しい。簡単にあきらめちゃダメだよ。生きることから」

 

 

 

 

「あ……あぁ……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで天啓。

 

 雷に打たれたかの衝撃。

 

 

 絶望というなの闇で塗りつぶされた世界を――塗り替えた白。

 

 

 

 幻騎士は直感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――天使だ……。と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、幻騎士は知らない。

 

 

 

 

 

 

 彼が見た『天使』こそが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真性の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ロリコンであるという、ことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






コイツ超好きだったわ。




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白昼夢 2

 白蘭様ラヴ。

 

 

 何か酷いボスに「うっわアイツ帰って来やがったよ……」という目で見られながら。

 

 同じファミリーの連中に

 

 「エボラ復活だって」

 「え、HIVじゃなかったの?」

 「リボーン(笑)」

 

 

 とか言われながらも。

 

 

 サックリアッサリ裏切ってみたりした幻騎士。

 

 大好きな白蘭様が褒めてくれたので有頂天。ついでに六弔花なんかにしてもらってテンションは上がりまくっていた。

 

 ……が。

 

 

 

「何故ですか!!」

 

 

 

 何ということだ。

 

 六弔花とか言ってたけど

 

 

 それは。

 

 

 

 真六弔花のかませ犬にすぎなかったのだ。

 

 

 

 しかも何故か5人しかいないし。

 

 

 雲の守護者出てこないし。

 

 

「何故ですか白蘭様! 何故……何故俺が真六弔花になれないのですかぁあああああああ!」

 

 

 

 

「やぁ幻ちゃん。ちょっと頭冷やそうか」

 

 

 

 にっこり、と人として大事何かが欠落してんじゃないかってくらい神々しくも清らかな笑みを浮かべた白蘭様が何かほざいていたが幻騎士の耳には入らない。

 

 

 

 

 

「なぜですか……白蘭様……! 白蘭様は――俺の忠誠を疑うのですか……!?」

 

「疑ってる訳じゃないけど?」

 

「貴方のために……俺はヴァリアーの剣士と殺り合った!!」

 

「八百長だったよね~~」

 

「貴方のために――元ボスも売ったし、古巣のファミリーを捧げたというのに……!」

 

 実はジッリョネロファミリー売った時点で目的のブツもついでにユニとかいうドストライクな幼女も手に入れたことだし、幻騎士の存在価値など白蘭の中ではゴミカス以下になっているのだという、この世の摂理にして絶対的な真実が白蘭の中にはあるのだが、そんなこと色々なものでフィルターがかかりまくり目がどんよりと曇りに曇っている幻騎士には知ったことじゃない。

 知らないったら知らないのであった。

 

「なのになぜですか! 俺では――俺では役不足なのですか白蘭様……!」

 

「あーうん。ぶっちゃけそう!」

 

 もはや白蘭は対応がめんどくさくなっていた。

 

 すると幻騎士の指輪が淡い紫の炎を帯びる。

 

 おや? 幻騎士のようすが……。

 

 

 

 

 

 

 

「……ならもう、いらない」

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

「俺のことを必要としない白蘭様なんて……いらない……」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 幻騎士の指には嵌っていたのはヘルリング。

 先ほどまでそこにいた、おかっぱ頭のマロ眉青年はどこにもいなかった。

 かわりに、何かやたら巨大化したガイコツっぽい奴が特殊召喚されていた。

 

 おめでとう! 幻騎士はヤンデレガイコツにしんかした!

 

 

 

「俺のこと必要としない白蘭様は要らない……だが白蘭様のいない世界など価値はない!!!!

 

 よって滅ぼす!!!!」

 

 

「…………あー……幻チャン?」

 

「もう、なにも怖くない」

 

「…幻ちゃーーーん??」

 

「さぁ壊滅し曝せ!! ヘルリングに炎を注入……最大出力……!!」

「好きだよ」

 

 

 

 

 今にもヘルリングに魂を売り渡し「ちょっと悪魔と地獄の契約交わしてくる」ところだった幻騎士は、神とあがめる白蘭の天使のような言葉でしょうきにもどった!

 

 

 

 

「好きだよ、幻チャン」

 

「……え?」

 

「好きだよ。幻ちゃん」

 

 

 

 しゅるるるるるるる。

 

 憎悪とか妄想とか気持ちわりぃ何かで凝り固まりまくっていた紫色のヤンデレ炎があっという間に沈火した。青春を剣とか幻覚とかマフィアの抗争とかに捧げてきた幻騎士はめっちゃチョロい子だった。

 恋は盲目。

 

 肝心な大好きな白蘭様の目が完全に死んでいる件について幻騎士は全く気付いていないようだった。

 

 

「申し訳ありません、しばし我を忘れて取り乱しておりました無礼をお許しください白蘭様」

 

「あー……うん。僕の方こそゴメンネ~~? でも幻チャンのことは大事だからね? 真六弔花じゃなくても幻チャンのことは大事に思ってるからね!」

 

「いいえ、白蘭様。俺はただの白蘭様の兵卒にすぎません。真六弔花の件は水に流しましょう。

 トリカブトの野郎を掻っ捌くのはしばらく延期にします」

 

「…………」

 

 

 何かそんなこと言って幻騎士は部屋から出て行った。

 残された白蘭はガタリ、と椅子から崩れ落ちた。

 彼らしくもなく、その涼し気な表情の横にはうっすらと脂汗がにじんでいる。

 

 

 

 

「怖…………何アレ……怖いんだけど…………」

 

 

 

 釣った魚に餌やらない主義というわけではないが。

 

 生来正真正銘の異性愛者であり、真正のロリコンであり、ロリをこよなく愛する白蘭にとって、一方的に忠誠以上の何かを捧げてくるホモは恐怖以外何でもなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という、一連の流れを見ていた真六弔花たち。

 

 

 

「ハハン、ハハンハハンハハンハハンハh」

 

「デイジー知ってるよ……コレ、ヤンデレってやつだよ……」

 

「これは白蘭様が悪い」

 

 

 壊れる桔梗、恐怖を抱くデイジー。死んだ目で画面を見つめるザクロ。

 

 

 

「……うん、でも」

 

 

 ブルーベルのおおきな青い目には、何かが浮かんでいた。

 

 

 

「私。少し気持ちが分かる気がする……」

 

 

 

「え」

 

 

 

 








ニーアオートマタ最高。
影響されて現在ザンスクのアンドロイドパロとかいう妄想を受信しました。
元気があれば書くかもしれません。


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白昼夢 3

 虹の代理戦争。

 

 またの名をアルコバレーノ代理戦。

 

 謎の不動産屋『チェッカーフェイス』によって招集されたアルコバレーノ達。

 彼らは「誰か一人を解呪してあげる~~」という甘い囁き、蠱惑的な誘い、でおびき寄せ、自らの代理を立たせて殺し合わせるというバトルが繰り広げられた……。

 

 という解呪詐欺にあったアルコバレーノ達は、『被害者の会』の皆様、元アルコバレーノな先輩たち通称『復讐者』という日がな一日牢獄を警備するスプラッタなボランティア団体と殴り合うことになる。

 

 ヴィンディチェの牢獄なんてしょっちゅう囚人にプリズンブレイクされまくってるカス牢屋だからザコ確定だよね~~と余裕ぶっこいていたが、ヴィンディチェは無駄に強かった。

 メチャクチャ強かった。

 そんなに強いんならもっとちゃんと囚人管理してろよ……ってレベルで強かった。

 

 こうして、急きょ彼らは、パイナポー(1期ボス)DVカップル(2期ボスと2期カス)天使(白蘭様)当て馬、という利害が一致しただけの関係で成り立つチームを編成したのだった……。

 

 かくして、おしゃぶりを巡るバイオハザードが始まり…………。

 

 

 

 ボンゴレデーチモが死ぬ気で何とかしてくれた。

 

 

 だが、払った犠牲はデカかった。

 具体的に言うと。

 

 スクアーロの心臓。

 ボスさんの手。

 白蘭様の内臓。

 

 等価交換とは何だったのか、苦い勝利であった。

 しかしそこはアルコバレーノを総動員しただけあり、重傷者には幻覚で内臓を補うという神業で応急処置を施す。

 

 

「……という感じになってるけど、コレ結構大変なんだから」

「すまねぇな゛ぁ!」

「べつにいいよ……でもお金が尽きたときが隊長の最期だから」

「……命のカウントダウンが着々と始まってるなぁ……」

 

 とは言いつつも、実際マーモンはスクアーロを失いたくはない。

 もはやマーモンにとってはヴァリアーは家、ヴァリアー隊員たちは家族も同然だった。

 そしてスクアーロは大事なママンだ。ママンのためなら頑張れる! 勿論お金もとるけれど!! という強い決意のもとマーモンは心臓の幻覚づくりに励んでいる。

 ……が、問題なのはもう一匹のほうだ。

 

 

「感謝してるよ♪マーモンチャン♪」

「うるさいよ」

「ぷーっ! 赤ん坊の癖になまいきなんだからーー!」

「君たちより長く生きてるんだから赤ん坊呼ばわりしないでくれるかい?」

「そーだよブルーベル、赤ちゃんをいじめちゃダメじゃん」

「赤ん坊呼ばわりしないでくれるかい!?!?」

「えー? こんなにプニプニなのにーー??」

 

 プニプニプニプニと白蘭はマーモンのほっぺをつつく。

 だがマーモンはされるがままである。

 抵抗できるにはできるのだが、正直幻覚をやりまくってる身だ。

 体力がない。

 

「あははーマシマロみたいだねーー」

「や……やめろよ!」

「すっげーやわらかいねーー。食べちゃいたい位」

「うぅ……」

 

 気力もガンガン削られていく。

 なんだろう、おかしいだろ。

 何故かこの男に勝てる気がしない。ノントリニセッテもないのに、何故か力が吸いとられてく。

 マーモンは薄っすらと涙目になっていた。

 

(た……助けてママン……!)

 

 

 そして、マーモンの願いは届く。

 

「う゛ぉおおおおおおおい! その薄汚ない手を離しやがれぇ!! カスがぁ!!」

「ま、ママンー!!」

 

 マーモン思わずスクアーロの平らな胸板に向かってダイヴする。

 

「ウチのマーモンに手ェ出してんじゃねぇ!!!!」

「マ……ママン……!」

 

 非常に男前なママン(♂)である。

 

 

「えー? ケチだなー? スクアーロ君。いいじゃんちょっと位さ、貸してよそのコ♪」

「や、やだぁ……!」

「誰が貸すかカス野郎がぁ!」

「ちょっとうるさいんだけどー? 騒音被害で訴訟も辞さないよーー!」

「う゛ぉおおおおい! テメーもそんなロリコン野郎に引っ付いてんじゃねぇ!! カス娘! ロクな目に合わねぇぞぉ!! こっちに来ぉい!!」

「DVされまくりのドMに言われたくありませんーー!」

「んだとぉ!?」

「もうやだよママン! アイツ殺しちゃっていい??」

 

 あのロリコンを生かしておくメリットがもう何もない!と判断したマーモンは幻覚を停止しようとする。

 何か疲れるし。もう沢山搾り取ったし。何より何か弄られてる気がするし。

 マーモンはグズグズと顔を真っ赤にしながら縋りついた。

 そんな小さな頭を義手がポンポン、と優しく叩く。

 

「駄目だぁ。あんな奴でも戦力だぁ。癪だがボンゴレのためにはなりやがる」

「でもボクもう嫌だよ……」

「もう少し耐えろぉ。すぐにSランクの術士が来るように手配してある」

「え? Sランク?」

 

 術士とは、ヴァリアーの術士だろうか。

 マーモンは首を傾げた。

 Sランクともなると、超一流の術士だ。

 六道骸や十年後のフラン、そして自分など数少ないハズ。

 ならば『この戦い』に参加していてもおかしくないハズだ。

 

 

「へー? さすがヴァリアーだねーー。まだSランクの術士とか居るんだーー人材豊富だねーー」

 

 余裕の不敵な笑みを絶やさない白蘭に対し、スクアーロは。

 

 

 

 苛烈なまでに、鮮やかに、白い歯をむき出しにして笑った。

 

 

 

 

 

「誰が、『ヴァリアーの術士』だって言ったんだぁ??」

 

 

 

 

 

 

 

「え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 白蘭の顔から笑みが消えた。

 

 

「Sランク……ま、まさか……!」

 

「う゛ぉおおい! 剣士のネットワークを舐めてんじゃねぇぞぉ!!」

 

「や、ヤバい、早く逃げ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白蘭様ぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 その時、地上5階のハズのガラスを割りながら、幻影が舞い降りた。

 

 

 

「ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

「白蘭様! あぁ白蘭様!! なぜ俺を呼んで下さらなかったのですか白蘭様! 俺さえいればあなたにこんな! 怪我など!! 負わせはしなかったというのにッ!! だがそんなことはどうでもいいッ! 白蘭様ッ! 白蘭様のことなら俺に任せろヴァリアーの術士!」

 

「ひっ……!」

 

 マーモン、初対面。

 

 

「白蘭様のことなら俺は何でも知っている……身長体重座高血液型骨密度肺活量ヘモグロビン数DNAの塩基配列まで……!」

 

「うわあぁあああああああああああああああ!」

 

「何と……お可哀想に、取り乱しておられる……白蘭様! セイッ!!」

 

 なんのためらいもなく幻騎士の手刀が白蘭の脳天に直撃!

 意識を失う前に白蘭の目に確かに麿眉が見えた。

 

 

 

 

 

「ズ ッ ト 一 緒 ニ 居 ヨ ウ ッ テ 言 ッ タ ヨ ネ ? 白蘭様……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我は白蘭様と共にあり!!』(単行本:27巻)

 

 

 

 

 

 ……そういえばそんな事言ってたなー……と、白蘭は思い出し、意識が完全にフェードアウトしたのであった……。

 

 

 

 








ヤンデレ幻騎士好評につき、延長戦もやろうと思います。


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白昼夢 延長戦



※馬鹿大量発生注意







「やぁザンザス君」

 

「あ゛?」

 

「ハジメマシテだねー。ここは色々あって精神世界とか精神空間だよー。簡単に言うと、キミの脳内に直接呼びかけてるって感じかなー? だから僕を殺そうとしても殺せないからねーー。

 あ、でも大丈夫ー。僕もキミを殺そうと思ってもできないよーー」

 

「……」

 

 既にコルボ・ダッティオをぶっ放した後にソレを言われても遅せーぞカスが、とザンザスは思ったのは内緒の話だ。

 

 

「実は折り入って相談があるんだよ~~それがね~~」

「……カスが」

 

 聞く価値ねぇな、とザンザスはいつも通りかっ消す体勢に入った。

 手のひらには憤怒の炎がバンバン燃え盛っている。

 ……が。

 

 

 

 

 

「幻チャンのことなんだ」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 白蘭は真顔だった。

 

 しゅぅうう……と掌のから煙が上がっていくのが見えた。

 どうやら話を聞いてやることにしたらしい。

 

 幻騎士という霧の守護者の情報は知っている。

 確か自分の嫁……副官、スクアーロと斬り合いをしたとかいう、ジッリョネロ所属の剣士だったはずだ。

 凄腕の剣士であると同時にヴァリアーで言うならSランク、即ち幹部クラス相当の一流の術士であるとも言える。さらにはリングの炎に対する理解も深く、非常に優秀な人材といえるだろう。

 

 そしてその忠誠心の高さゆえに……白蘭に付きまといまくるガチホモのストーカーであり、最近は白蘭様への歪み切った愛情ゆえの謎のヤンデレパワーでヘルリングを使役&酷使しまくっているちょっとアレなドカス。ということも薄っすらと理解していた。したくなかったのに。

 

 

 

「思い出して欲しい、エボラだった頃の幻チャンを……」

「……」

 

 

 知らねーよ。

 とザンザスは思ったがそこは超直感とかいうザンザスがこの世に生れ落ちた瞬間から実装されていたチートスキルが発動して『アフリカっぽい所に旅行中病に倒れて無菌テントと感染予防服を纏った医者たちに囲まれる包帯だらけの幻騎士』という光景を受信。

 ぶっちゃけ知りたくもなかった。

 超直感という才能もとんだspada di MOROHAだ。あればいいというものではない。

 

 

 

「眉毛、フツーだったよね……?」

「…………」

 

 確かにぶっ倒れているときの幻騎士は包帯で顔をぐるぐる巻きにされているとはいえ眉毛が普通に思えた。

 

 普通の眉毛に思えた。

 普通の。

 普通の……。

 

 ちなみにザンザスの眉毛は割れている。どちらかというと校則違反な方だ。これは生まれつきだが。

 

 

 

「普通だったんだよ!!」

 

「お、おう」

 

「普通!! だった!! んだよ!?」

 

 

 

 『だった』即ち……圧倒的過去形……!である。

 

 

 

「アレはそう……ジッリョネロ吸収前のある日だった……」

「……」

 

 白蘭はすっかり回想モードに突入していた。

 そうゆうのいいからそろそろかっ消えねーかなーこのカス、とザンザスはとても自然に思った。

 これ以上ヤンデレの愛憎劇場なんか聞きたくない。

 聞きたくないったら聞きたくない。

 だが白蘭様はやめる訳がなかった。

 

 

 

 

 

『じゃあさ、証拠にお土産がほしいな』

 

 胡散臭い笑顔でほほ笑む白蘭が白いスーツを着ていた。

 正面には黒いスーツで膝をつく幻騎士の姿がある。 

 いつも来てる変なピッチピチのスーツではない。

 

 

『僕に忠誠を誓ってなんでもしてくれるんなら、君んとこにある7つのマーレリングとボスの大空のおしゃぶりを持ってきてよ』

 

『……ジッリョネロファミリーを……滅ぼせと?』

 

『幻ちゃん仲間に信頼されてんでしょ? 幻覚でケガでも装ってみんなが心配して集まったところを全滅させちゃいなよ』

 

 

『……御意』

 

 

 そう、白蘭の目的はこれだった。

 

 ジッリョネロファミリーに伝わる『マーレリング』と『大空のおしゃぶり』。二つのトゥリニセッテと幼女こそが白蘭の目的だったのだ。

 世界を統べるには、ボンゴレリングとマーレリング、そしてアルコバレーノのおしゃぶりそして幼女が必要不可欠なのだと白蘭は理解していた。

 しかし、ボンゴレリングはこの世界には存在しない、するにしても世界最大手であるファミリー、ボンゴレを相手にしなければならない。アルコバレーノのおしゃぶりも同様に、正攻法ではまず手に入れられないだろう。

 ゆえにここはまず、入手しやすい所から攻略していこうとしたのだ。

 

 マーレリングと、大空のおしゃぶり。そして、ロリを……。

 

 真正のロリコンである白蘭ではあるが、野望と性癖を別個に考えるだけのギリギリの理性はどうにかして保っているようだった。その冷徹なまでに強固な理性と意志の力こそが、やがては偉業を成し遂げる者こどが持つ精神であり、白蘭はその精神力に値する器であったと言えるだろう。

 

 ゆえに白蘭は知らなかった。

 

 

 この世には

 

 

 それが

 

 

 

 

 

『ならば白蘭様、証をみせましょう』

 

『え? は、はい? えー……何してくれるのー?』

 

 

 

 できない、不器用な人間もいるのだと……いうことを。

 

 

 幻騎士は手から何かを取り出した。

 それは……カミソリだった。

 

 

 

『せいっ!』

『え、え? え??』

 

 

 幻騎士は勢いよく眉毛を剃った。

 

 

 すごく自然に勢いよく剃った。

 

 

 

 

『この毛を……白蘭様!! 貴方に捧げる!!』

 

『……』

 

 

『これが俺の忠義の証! あなたの願いを必ず届けてみせる!! この眉に誓って!!』

 

『この……眉に……誓って……?』

 

 

 白蘭には理解不能だった。

 

 

『もし俺が失敗した暁には白蘭様……貴方の手で……剃っていただきたい』

 

『は? 何を????』

 

 

 

 白蘭はもう意味が分かんなかった。

 

 だが幻騎士はノンストッパブル。

 

 

 

 

 

 

 

『我が眉毛!! 失敗の暁には全て白蘭様に献上する!!!!』

 

 

 

 

『…………は、はい……』

 

 

 

『そして生涯二度と生やさないと誓いましょう!!』

 

 

『…………』

 

 

 

 重い。

 

 重い。

 

 ……重いよぉ。重すぎるよぉぉ……!

 

 今そんな誓い要らねーよ……! 眉毛とか要らねえよ……!

 だがコレは好機。むしろ一番堅実な策なのだ。

 幻騎士こそが……マーレリング、そしてユニという最高の幼女への……鍵となるのだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今思えばアレが全ての間違いだった……」

「……」

「眉毛……貰っちゃったんだよね……。なんかさ……マーレリング……ユニちゃん……そして……世界が、ほしかったんだ……僕」

 

 白蘭は心底後悔しているようだった。

 

 どことなく哀愁漂うその姿は、まるで、懺悔のようですらあった。

 

 膝をつくその姿を見てザンザスは思った。

 

 

 

 

 まるで神への祈りじゃねぇか……と。

 

 

 

 

 多分あのクレイジーサイコホモから解放してください神様とでも言うんだろ、と。

 

 

 そして、生憎ザンザスは本場カトリック総本山を持つイタリア人の癖に神を信じてはない。

 七つの大罪を司る悪魔を率いているんだから信じるもクソもない。むしろ神の存在を知っていてあえて背を向けている人種だろう、とにかく神様が祈れば何かしてくれるなんぞこれっぽちも思っていない。

 

 だからこそ、優雅に笑った。

 

 

 

「……カスが、それ位でビビってんじゃねぇ」

 

「黙れ……! お前に何が分かるんだよ!!」

 

 思わずキレた白蘭だった。

 普段の飄々とした態度を保てない……おそらくは、それほど心理的に追い詰められているのだろう。

 知ったことか、とザンザスは言う。

 

「ドカスが。……俺からの施しだ……聞いておけ。……もう十年前の話だ」

 

 

 あ、この話面倒くさいかなーとザンザスの過去に1ミクロたりとも関心がない白蘭はまるで水が高い場所から低いところへゆっくりと流れ落ちるように……ごく当たり前にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日ザンザスは重い体を引きずっていた。

 ずっと冷たい場所に閉じ込められていた肉体は鉛のように重い。だが頭は冴えている。脳は煮えたぎっている。

 だが、諸々の問題を放置しても尚。それ以上に今はやるべきことがあった。

 

 『アレ』から一体、どれくらい時間が経った?

 

 カスは……カス共はどうなった??

 

 今すぐにやるべきことがある。

 だからカスが必要だった。癪だがカス共の力が必要だった。

 あの爺を引きずり降ろしてやる。

 

 

 そう決意しながらかつてのアジト……ヴァリアーの城の扉を開ける。

 

 

 

 カス共は呑気にポーカーに興じていやがった。

 

 ……オッタビオの姿はない。

 グラサンのカマ野郎……ルッス―リアは変わっていないように見えた。

 レヴィも同様だ。信じられないものを見るような目つきでこっちを見ている。

 マーモンも変わらない、変わるわけがない。

 

 見覚えのないガキがいる。……ベルだろう、と直感で判断した。

 髪型や服装は変わっていないように見えた。

 だがその背丈は自分が知っているよりもかなり伸びている。

 体つきも子供、というよりは少年、いや、もう青年と呼んでいい年齢に差し掛かっているように見えた。

 

 一体アレから何年経ちやがった……!と突沸のような感情が沸きあがった。

 

 そして全く見覚えのない奴がいる。

 

 

 見事な長い銀髪だった。

 

 なんだこのカス共、女でも入れやがったのか? 暗殺だろ、このナリじゃ目立つだろーが。ナメてんのか。

 だが髪は綺麗だと素直に認めてやってもいいと思った。

 顔立ちも悪くない、むしろかなりいい、自分好みだ。

 だが目つきが悪すぎる、女の癖になんだこの目つきの悪さ……は……。

 ……いや、違う。

 

 ……俺はこの目を知っている……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これから先お前はオレを仲間にしたことに感謝する日が必ず来る』

 

 

 

 忘れる訳がないその眼を知っている。

 

 

 

 

 

『オレは例の計画が成就されるまで髪は切らねぇ』

 

 

 

 ……忘れたくない、お前の目を。

 

 確かに俺は覚えている。

 

 

 

 

 

『 髪 は 切 ら ね ぇ 』

 

 

 

 髪は……切ら……。

 

 ……切らな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おああああああああああああああああ!?!?」

 

 

「う゛ぉおおおおおおおおおおい!!?? ざ、ザンザス、俺ずっと待っ……」

 

 

「ドカスがぁああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伸びてやがった……」

 

「ひっ!?」

 

「カスは……伸ばしてやがった……8年間……ずっと……」

 

「う、うそだよね……? じょ、冗談だと言ってくれ……! 頼むからぁ……!」

 

 白蘭の目は光っていた。

 いろんなものが反射して、光っていた。

 に、対しザンザスの赤い目はもはや光を映してはいなかった。

 

 

 

「……せいぜいテメェも気を付けるんだな……一度伸ばし始めたら、絶対切らねぇぞ……。

 ……そして一生付きまとわれる……」

 

「うわあああああ! 嫌だぁああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   一方その頃

 

 

 

 

「この眉は白蘭様と共にあり!! 俺の忠誠の証なのだ……!」

 

「う゛ぉおおおい! 俺もだぁ!!!!」

 

 

 

 既に時遅かったりした。

 

 

 

 






旦那たちによる嫁自慢大会にも。

ヤンデレホモストーカー被害者者の集いにも見える不思議。


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変態総集合! ロリコンvsホモ血痕式編
if you that your happiness 1


※シリアーーッ!スな続かない物。

※オールキャラ未出演。

※非ザンスク前提。

※ボスさん一生独身。

※公式原作キャラに忠実。



以上が無理!というドカスの皆様は、プラウザバックせずに
このままスクアロールしてください。


















 

 

 

 

 

 あのXANXUSが結婚することになったらしい。

 

 ソレを聞いた者達は一瞬自らの耳を疑ったと言う。

 確かに、万年反抗期、放っておくとすぐクーデターを計画し始める乳児よりも目が離せないイタリア人別名XANXUSと言えど、三十路半ばを突入した。立派な中年だ。

 しかもXANXUSはいい男である。

 まごうことなき超一級品のイタリアーノである。

 

 色々あって継承権を持たないとはいえ、ボンゴレ九代目の息子であるということには代わらないし、189センチという高身長。贅沢な肉ばっか喰ってるのに贅肉とは全く無縁な引き締まった体躯。

 更に険があるといえど整った顔立ち。

 

 相変わらずの性格はかなりアレだが、彼の若い頃を知っている人間なら神妙な顔つきで厳かに口を揃えて言うだろう……

「マシになったよ」

「キレるまで数秒かかるようになったじゃん」

「今のほうが遥かにマシだわぁ」

 ……と。

 

 問題はその相手である。

 

 

「……まさか……」

 

 ボンゴレ10代目、別名ネオ・プリーモと呼ばれるヒト科の生物沢田綱吉は目を見開いていた。

 

 

「XANXUSが……結婚する……!? しかも……相手が――!」

「10代目、気を確かに」

 

 傍には右腕と称される嵐の守護者が、居たりした。

 

 

 

 

 

「スクアーロじゃない……だと……!?」

 

「俺も正直ビビってます……アイツ絶対ホモだと思ってたんで……」

 

 

 

 こいつらはもはや自分が何を言っているのか良く分かっていないようだった。

 

 

「信じられない……だってあの二人絶対デキてるのに!?」

「一目ぼれからの8年の別離を乗り越えて10年間……何故籍を入れていないのかそっちのほうが不思議だったのに」

「それはイタリアの法律のせいじゃないかな……じゃなくって! 何だよXANXUS……? しかも……しかも相手がさ!!」

「十代目それ以上は!」

「だって予想外も予想外のダークホースだったよ!! だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手がユニだなんて!!」

 

 

 

 

 

 

 こうなったのにはいきさつがある。

 

 まず、ボンゴレファミリーは世界最大手のマフィアである。

 なので、パーティーだの交流会だのと言った催しがしょっちゅう開催され、ほぼすべてに出席を余儀なくされるのだ。

 当然十代目ファミリーだけでは体が持たない。というか足りない。

 霧の守護者たるクローム髑髏の幻術トリックというインチキを使って尚、足りることがない。

 そこで現在でも影響力のある九代目の息子かつ、ヴァリアーのボスたるザンザスにお願いせざるを得ない状況にあるのだ。

 だが、ザンザスはザンザスであった。

 

 椅子から意地でも立ちたくない疾患にでもかかってんのか、それともただ単に人が嫌いなだけか滅多にその願いが聞き入れられることはない。

 が、その時はちょうど機嫌がよかったのだろう。

 たまたま十代目ボンゴレの代理として出席したパーティー。

 そこにはジッジョネロ・ファミリーのボスの娘、ユニも出席していた。

 

 ……で、何故か二人が意気投合し、トントン拍子で婚約にまでこぎつけたのだった……。

 

 

 

 あまりにも衝撃すぎてその知らせを聞いたすべてのものは信じられない、と愕然としながらも真剣な表情を浮かべ、結婚への戸惑いと祝福を口にしたのだった。

 

「冗談は眉毛だけなのな!」

「極限エイプリルフールは過ぎたぞ」

「ホモがロリコンにジョブチェンジしただけだもんね。どうあがいても絶望だもんね」

「……ボス猿が結婚? ……で? キングコングの嫁取りでそんなに騒ぐこと?」

「……私なんかが……ブライズメイドでいい……?」

 

 

 そう、このとき誰もが自分が驚くばかりで精一杯だった。

 

 だから、誰も気づくことができなかったのだ。

 

 そう、たとえ『超直観』を持つ者たちといえども……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祝ってやるつもりだった。

 

 

 決まった、という話を聞いたときも、挙式の打ち合わせやら準備やらがびっくりするほどサクサク進んでいく時も大して感情は揺さぶられることはなかった。

 ただ、漠然と現実感だけが欠如していた。

 

 これは夢なんじゃねえかなぁ、と大してよくない頭の隅っこから声がする。

 

 ……だったら。

 

 

 ずっと夢を見ていたような気もした。

 

 

 自分と主は甘ったるい関係じゃなかったはずだ。

 ただ、ビジネスライクというにはあまりにも距離が近すぎ、じゃあ悪友か、と言えばそうじゃないような気もした。

 望まれれば、なんだってやった。

 自分ができることは何だってやったし。

 自分の持てる者は何だって捧げたつもりだった。

 だが、所詮は全て一人よがりだったのかもしれない。

 散々カスだ、バカだと言われていたが、本当にそうだ。

 

 自分は結局ザンザスの望むものを、何一つ与えられてはいないのだ。

 

 悪い頭でもそれ位は分かっているつもりだった。

 

 

「……スク」

 

 頭を三色に染めたグラサンオカマが入ってくる。

 特技は拳法、趣味は死体愛好というトンデモナイ特性を持つオカマである。

 そのカマがスクアーロの背中に毛布を掛けていた。

 

「寒くない? 今夜は冷えるでしょう?」

「……ねーよ。余計な世話だぁ」

「そう? 強がるのも大概にしなさいな」

 

 

 私もトシよね~~最近冷えに弱いのよ~~。

 と、格闘戦のプロであるオカマはそんな訳のわからんことを言う。

 スクアーロはカマの全く変わっていないように見えるグラサンを見た。

 グラサンは変わっていない……ように思える。

 だが、頬は若いころよりもいくらかこけている。目じりには僅かだが薄く皺が寄っている。

 気か付けば随分と長い付き合いになっていた、とスクアーロは思った。

 

 

「スクちゃんの髪は本当に綺麗ねぇ、うらやましいわ」

「……そーかよ。あいつのせいで伸び放題だぜぇ」

「そうね。ガサツだったあなたがよく我慢して、手入れして、キレイに伸ばしたものよねぇ」

「……なぁ、ルッス。この髪よぉ」

 

 

 いっそ切っちまうか。

 

 

「アイツだってズルズル伸ばされてウゼェだろ」

「……そんなこと」

「……ユニだって、こんな奴が近くに居たらうっとおしいだろ」

「……スク」

「なぁ、ルッス」

 

 

 あまり良くない頭で考えた。必死来いて考えた。

 自分はザンザスにとって目障りな存在なのだ。

 少なくとも――ザンザスが幸せになるのに。

 

 だからもう傍に居ない方がいい。

 

 それが馬鹿な銀色が一生懸命出した結論だった。

 

 

 

 なのに。

 

 

 

 

「……俺、弱ぇなぁ……」

 

 

 

 

 

 嫌だった。

 本当は嫌だった。

 離れたくなかった。

 もう二度と離れたくなかった。

 

 なにも望んでなかった。

 ただ、ザンザスに傍に居てほしかった。

 ザンザスが欲しかった。

 

 でも、それ以上にザンザスには幸せになってほしかった。

 だから。

 

 

 だから何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 だから――――何も言わないで消えようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 

 イタリア某所にて。

 

 

 

 

「あの野郎……ホモだと思って油断してたら、やらかしやがったな」

「だよね~~すっかり安全パイだと思い込んでたよね~~」

「ハハン、しかしもう過ぎ去ったことは仕方がないでしょう」

「バーロー、だから今から止めんだろーが」

「まさかお前らと組むことになるとはな……」

 

 金髪をオールバックにした男、紫髪の少年、でけえゴリラ。の三人がいかにもそれっぽいスーツを着込んで会議室に陣取っていた。

 その正面には一見異様な風体……こ、個性豊かなメンツがそろっている。

 簡単に言うとロン毛アイシャドー、無精髭、ゾンビ、お面、長い髪を靡かせた小柄で華奢な蒸留水のごとく清廉な印象を与えるような美少女である。

 そして彼らの前には彼らの長である真っ白な青年がいた。

 

 

「確かに僕はボンゴレの監視対象だけどさーーチェデフの監視マジでザルなんだよね~~。簡単に抜け出せちゃった☆」

「ボンゴレのハリボテ企業ごときが白蘭を見張るとか有り得ないんだから~~!」

「僕ちん……チェデフなんかよっかもっと手ごわい奴を撒く方が大変だったと思」

「バ、バーロ……! 黙れ死にたいのかデイジー! 奴がまだどこに潜んでいるかわかんねえんだぞ」

「……は、ハハンハハンハハンhhhhhhh」

「一体何を言ってるんだお前ら」

 

 金髪オールバック――ガンマはわけわかんねえぞ、といった表情だった。

 世の中には知らない方が幸せなこともある。

 

 

 

「ともかく、ガンマクン、僕たちの目的は同じようだね」

「あぁ……そうだな。俺はここに宣言する――――本日このときをもって、ジッリョネロはお前らと同盟を組む……」

「そうだね~~。一時的とはいえ、ミルフィオーレ復活だね~~」

「お前と組むのはコレで最初で最後にしたいもんだ……」

「僕たちの目的は一つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「武力を用いての『結婚式』の中止、そして――――花婿の抹殺だ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 婚約発表時には誰もが自分が驚くばかりで精一杯だった。

 

 だから、誰も気づくことができなかったのだ。

 

 

 この事態に一番早く対応したものたちのことを。

 

 

 

 

 ロリコン同盟――別名、ミルフィオーレがひそかに復活していた……ということを。

 

 

 

 

 

 

 

 



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if you that your happiness 2

 一連の知らせは瞬く間に広まった。

 まるで『早すぎる』位に。

 ある種不気味なまでの速さだった。

 

 マフィアたちの見識はこうだった。

 伝統のある息の長いファミリーと、『あのボンゴレ』に監視されていたという謎の男とその実力派集団たちが組んだ武力同盟がボンゴレに喧嘩をふっかける――という事実。

 

 あるものは恐怖におびえ、またあるものは自衛のために緊張を孕んだ唾をのみこみ、またある者はどうするべきか、と幹部を集めて緊急会議を開く……

 

 状況は一瞬でも気を緩めたら爆発しそうな火薬庫さながら。

 触れたら切れそうなほど張り詰めた空気がイタリア中を駆け巡るのだった――――。

 

『祝! ミルフィオーレ、再結成!』

 

『チェデフのザル監視なんか今に始まったことじゃないよな』

 

『沢田家光www無能www』

 

『ロリコンを一匹残らず駆逐してイタリア国民を守るのがマフィアの義務だわこんなん』

 

 

 だが恐怖におののき、震えている暇はない。

 己の掲げる『大義』と『誇り』のために命を懸けて戦ってこそ男。そしてマフィオーソと言えば男の中の男たちだ。つまるところ誇りのためには死線上に喜んで立ちにいく。

 

 だからこそ『彼』が立ち上がるのは至極当然のことのように思えたのだ。

 

 

 

 イタリア最強のヒットマン――リボーンである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなことになってるんだよ!! リボーン!」

「やべぇな。想像以上だ。面白すぎる」

「本当だよ誰が想像したよこんなカオス展開……ってオイ!! 何面白がってんだよ!! そうじゃないだろ! そりゃ傍から見てれば楽しいかもだけどさぁ!!」

 

 ネオ・プリーモなドン・ボンゴレは頭を抱えていた。

 だめだ。頼みの綱、元家庭教師はもう完全に面白がっている。

 

 綱吉は考えていた。

 クッッッッッッッソくだらない、本当心底下らない理由でまさかの復活を遂げたミルフィオーレファミリーはもうブラックスペルとホワイトスペルに組織を分割しているらしい。

 リーダーはもちろん、ブラックスペルのロリコン、ガンマとホワイトスペルのロリコン白蘭という二大頭領体制だ。それも綱吉たちが圧殺した未来とは違い全員が

 

「ザンザス死すべし、慈悲はない」

「ユニ様の結婚断固阻止」

「結婚式を血で染めろ!!」

 

 ……という崇高な志の元。内部にどのような構想があろうと、外部のドカスが求婚しやがった非常時においてはミルフィオーレは常に一つ!!!と言った感じで結婚式をそのまま血痕式にしかねない勢いだ。

 ぶっちゃけもう全部まとめて焼き払いてぇ……と十代目は薄っすら思ってはいるが、良心がギリギリのところでその考えを止めている。

 

 とはいえ腐ってもミルフィオーレだ。

 白蘭やガンマは半端じゃなく強い。特に無駄に3期ボスな白蘭と真六弔花はバカにできない。

 ので、対抗勢力として警備にあたろうと緊急会議中だ。

 

「ハハッ、ザンザスも災難だなーー」

「他人事みたいに言わないでよディーノさん!!」

「は? アイツ他人じゃん」

「(この駄馬が……)……でも一応ザンザスも結婚したいって言うんだから、ちゃんと式を挙げさせてやらないと……こんなん俺が言うのもアレだけど、一応身内だし……」

「あぁ、リング取り合って死ぬ気でころしあった仲だナ」

「だ、だからそのーー、義理の兄?? っていうか身内だし!!」

「本音を言え、ツナ」

「……」

 

 元家庭教師にはいまだに頭が上がらない綱吉だった。

 

 

「ユニはジッジョネロファミリーの後継者だし、ジッジョネロがボンゴレと正式に同盟を組むのはボンゴレにとって悪いことじゃない……それに、たぶんコレが一番いい方法なんだ。……ザンザスもその辺よくわかってると思うし、むしろそっちが狙いなんじゃないかって思ってる……。ボンゴレのためにならないことはしない、結構合理的な人だから」

 

「……」

「……」

 

「それに、ジッジョネロは野放しにはできない。……もし……もし、これが、ジッジョネロを監視できる最善の方法なら……って」

「……綱……」

「話は分かった」

 

 まっすぐ見つめる瞳には、あの日14歳だった少年のものではない。

 すでにそれは、手を汚すことを覚えたドン・ボンゴレのものだった。

 

「……だから、リボーン。ディーノさん。二人には『こっち側』についてほしいんだ」

 

「分かった。そうゆう事情なら仕方ねぇ。キャッバローネはボンゴレに力を貸すぜ」

「ありがとうディーノさん。リボーンは……」

「あぁ、仕方ねぇな。オレは」

 

 あぁ、良かった。と思った。

 イキナリ「結婚する」とかザンザスがトチ狂ったこと言い出した時には本当どうしようかと思っていた。

 それで相手が相手だからびっくりしていたら、ユニ様至上主義なファンクラブ……もとい死すべきロリコン共が同盟を結成して立ち向かってきやがった。

 しかも無駄に戦闘力高い奴らだ。

 守護者たちだけで本当に捌けるのか不安だった。

 だがキャッバローネがついてくれるというのなら心強い。

 それにアルコバレーノ勢力が味方になってくれるのなら――――……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちは白蘭の味方につくぞ」

 

 

「え?」

「は?」

 

 

 綱吉はアッレー? これ幻聴かなー? 骸のヤツ何さらしてくれてんのかなー? あとでボコっとこーーと一瞬思考が現実エスケープを起こす。

 

 

 

「図に乗るなよ、ザンザス。てめーが誰でどんな状況だろうと。

 アルコバレーノのボスに手を出すんならオレが黙っちゃいねーぞ」

 

 

 

「今の話聞いてた!? ねぇ聞いてたリボーーーン!?!?」

「ちょwww我が師wwwwww」

「オレはユニが赤ん坊のころから知ってんだ。だからオレにとっちゃあユニは娘も同然だ。それを奪おうっていうんだから筋は通さなきゃな。ザンザスも男なら俺に『説得』しに来るべきじゃねーのか?」

「超理論だよ!! アイツがそんなことする訳ないだろ!!」

 

 綱吉の脳内に和室が浮かぶ。

 ちゃぶ台を挟んで座るリボーン。反対側にはザンザスとユニがいる。もちろん全員正座で。

 「娘さんを俺によこせドカス」「却下だな」「おじさまやめて!」

 返されるちゃぶ台……飛び散る緑茶……。

 

 

「やるわけないだろぉおおおおおおお!!」

「おい綱……今何想像してた……?」

「ディーノさんは黙ってて下さい!!」

「あ、はい」

 

 弟弟子に黙れ言われた駄馬は口を閉ざす。

 

「アルコバレーノを招集するぞ。ヴァイパー……いや、マーモンは来るかどうかわかんねぇけどな。お前らも付き合え」

「えぇ!? 何言ってんだよ!!??」

「おい、リボーン……ちゃおっすちゃおっす言いすぎて頭の中までカオスになっちまったのか……?」

「けすぞへなちょこ」

「冗談だよ」

「え、エェー……エェーーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得いかない」

 

 

 

 スクアーロが出て行った。

 

 何も言わずに、書置きも残さずに。

 剣だけ持って、身一つで出て行った。

 溜まってた仕事や任務だけは全部終わらせて、出て行った。

 

 

「裏切り者は探し出してでも処分すんのがヴァリアーじゃねーの? ボス」

 

「……」

 

「それとも先輩だけはトクベツとか? 王子納得できないんだけど」

 

「……」

 

 

 

 

「何とか言ってよ、ボス」

 

 

 

 なのに、ボスは黙ったままだ。

 

 

 

 

「……ボスが結婚したい、っていうなら止めない。それがヴァリアーのためで、ボンゴレのためになるっていうんだから。そんなの王子にはどーでもいい話だけど。

 けどスクアーロ馬鹿だから、アイツ本当にバカだから消えちゃったじゃん。

 アイツ馬鹿だから、自分はボスにとって不都合になる―――とか考えて出てっちゃったじゃん。

 

 なぁ、ボス。……ボスがそんなことわかんない訳ないんだよ」

 

 

 ボスは長い間ずっと『ボンゴレの御曹司』だった。

 『次期当主』だった。次の十代目として振る舞うことをやってきた。

 その性質はボスを雁字搦めにする。たとえ逃れようとしても、どこまででも追ってきて、考え方や生き方の後ろにいつも佇んでる。

 オレなら分かる。

 だって結局、オレも同じだったから。

 『王子』だったことから逃げられなかった。

 だから分かる。

 

 ボスはボンゴレのためにしか動けない。

 

 たとえどんなにボンゴレが嫌いでも、たとえ憎んでても、何度も裏切られても、それでも手放すことができない。

 結局生涯尽くすしかない――――ヴァリアーの長として。

 自由なき玉座で誇り高く生きるしかないってことを王子はよく知ってる。

 

 

 でも、それならスクアーロだってそうだ。

 

 あの鮫だってもう、ボスのためにしか生きていけない。

 あの鮫はもう、ボスの傍でしか息ができない。

 ボスにとってボンゴレがそうである様に、スクアーロにとってはボスのためにしか動けないんだ。

 

 そんな簡単なことを、ボスが分からないわけがないのに。

 なのに。

 

 

 

「追えって言ってよ。探せって、探し出せってさ! じゃなきゃ先輩勝手に死ぬよ!!」

 

「ベル! 貴様ボスに向かってなんという無礼な口の――」

「ムッツリ変態隠れスケベ不細工童貞は黙ってろよ!!」

「ベル! さすがにひどすぎるよ! レヴィにそんな現実つきつけたって……受け入れられないよ!!」

「マーモン貴様ぁ!!」

 

 

「なんで……なんで止めなかったんだよ!! ボス!!」

 

 

 

「オレ達、家族じゃなかったのかよ……!!」

 

 

 

 

 今度はレヴィは止めてくれなかった。

 マーモンも茶化してくれなかった、ルッスーリアもはぐらかしてくれなかった。

 ボスは……何も言ってくれなかった。

 

 そんな時ふと思った。

 

 あの大声が聞きたい。

 喧しいあの声が聴きたいな、と思った。

 アイツならこんな空気も雰囲気も全部全部ブチ壊してくれるんだろう。

 銀髪を靡かせながら大股で部屋に入ってくるんだろう。

 う゛ぉおおおおおい!って鳴いてしみったれてんじゃねぇぞぉ!とか吠えるんだろう。

 

 

 ……なのに、来ないんだ。

 

 待っても待っても、スクアーロが居ないんだ。

 

 

 

 居てほしかった。

 ただ、スクアーロが恋しかった。

 アンタが居ないと調子狂うんだよね、皆駄目になっちゃうんだ。

 

 スクアーロに会いたかった。

 何もしなくていいから、傍に居てほしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ってな具合に守備の要のヴァリアーは全くやる気ナシであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マレ・ディアボラ。

 かつてイタリア軍が海上防衛のために設けた人工島。

 それは時代の流れと共に民間組織に売却され、ボンゴレファミリーの手によりリゾート地へと生まれ変わるハズだった。

 だが、今から十年余前、ボンゴレの同盟ファミリーの有力者を集めた懇親パーティーのさなか、謎の武装集団によって占拠されるという事件が発生した。

 武装集団の要求は現金2000万ユーロ。

 だが、この件はボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーの暗躍により一晩で解決する。

 それは8年の沈黙を経てヴァリアーが復活した、ということを世界に告げる布告であった――――。

 

 

 という経緯でスッカリ放置されていたマーレ・ディアボラ島は中途半端にリゾート化するために豪勢なホテルやらチャペルやらプールやらをぶっ建てていたので、結婚式を挙げるにはうってつけの場所だ。

 元々無人島だし、ボンゴレ所有だし、ちょうどいい都合がいい! ということで。

 ヴァリアーがこれでもかって位フルボッコに惨殺しまくった元軍人たちの亡霊が「オッタビオゆ゛る゛さ゛ん゛!」と安らかに眠る場所で、ボンゴレ関係者、同盟ファミリー、の構成員、傘下企業の重役たち、そしてその家族たちが集まる中ド派手に結婚式があげられようとしていた。

 

 その中でもひときわ目立つのは、結婚式参列のためにマフィオーソの正装に身を包んだジッジョネロ……もとい、復活の『ミルフィオーレ・ファミリー』たちである。

 右手にはそれぞれ果たし状……別名、招待状を握りつぶしている。

 彼らを出迎えたのは、今回の主役である花嫁――

 

「姫!!」

「それは残像です」

 

 の、ホログラムであった。

 

 

「やぁユニちゃん、キレイだね。とっても可愛いよ」

「白蘭……」

「そんな可愛いユニちゃんが帰ってきてくれるんならマレ・ディアボラはつぶさないでおいてあげるよ」

「白蘭、なぜあなたが私を欲しているのかわかっています」

「……」

「分かっているからこそ、あなたの元へ帰るわけにはいきません」

 

 

「ふぅん、じゃあやっぱり……」

「どうやら交渉は決裂したようだな……」

「かくなる上は仕方ねぇな」

 

 

「「「花婿をブチ殺して結婚式を中止させるしかねぇ」」」

 

 

 

(逃げてザンザス超逃げてーーーーーーーーーー!!)

 

 

 沢田綱吉は心の中で叫んだ。

 

 無理だ、流石に無理だ……と思った。

 白蘭、真六弔花だけでも厄介なのにそこに更にアルコバレーノまで襲ってくる!

 いくらヴァリアーでも無理だ……!と綱吉は思った。

 

 各自殺る気満々で死ぬ気の炎をソレゾレのリングに灯していた。

 

 

 

 

 

「天馬超翔!!!!」

 

 

「!?」

「なっ!?」

 

 

 背後からの強襲。

 突然の炎――それも大空属性の攻撃により前衛が総崩れになる。

 式場の客誘導にあたっていた並盛中学風紀委員OB代表草壁が「ほ…炎の翼!!」と叫んだ。

 

「翼に触れた物はみな切り裂かれ調和によりて炎となり灰と化す」

「ぼば!!」

 

 炎の翼が何の罪もないデイジーに直撃!!

 デイジーの上半身が切り裂かれる! が! しなない!! デイジーはしなない!

 死ねないデイジーは「あ゛ぁあああああああ! や゛け゛る゛ぅううううううううう!!」とすげー絶叫を挙げながらのたうちまわるのだった。

 

 

「あ、アレは……スクーデリア!?」

「ディーノのボックスじゃねーか」

「……ってコトは」

 

 

(嫌な予感マックス……!?)

 

 ツナの得意の超直感がガンガン警報を鳴らしている。

 

 

「悪いなミルフィオーレ、俺は……これよりキャッバローネ・ファミリーはボンゴレ暗殺部隊ヴァリアーを掩護する!!」

 

「駄馬ぁああああああああああああああああああ!!」

 

 

 ツナはもう、同盟ファミリーのボスとか兄弟子とかどうでもよくなっていた。

 

 

「色々あったがアイツとは長い付き合いだ……友達の一世一代の晴れ舞台を邪魔させるかよ!!」

「へぇ~~裏切るんだディーノクンーーまぁ最初から信用もしてなかったケド!」

「跳ね馬如きが……俺たちを止められる訳ねぇだろーーーがァ!!」

「来い! へなちょこ。どんだけ成長したか見てやろーじゃねーか」

 

 

「安心しろザンザス! 誓いのキスが終わるまで――――こいつらを教会には入れさせねぇ!!」

 

 そう言い切るディーノの姿は友情の名のもとに友を守ろうとするマフィアの鏡であった。

 ……あった、が。

 

 

 

 

「ん? どうしたのなー? ツナ?」

「おかしい……何かひっかかる……ディーノさんがザンザスを好きなわけがない……! むしろどっちかっていうとブチ殺したい側のはずだ、なんだ、何が狙いだ……?」

「改心したんじゃねーの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで晴れてフリーになったスクアーロは俺が貰う!!!!」

 

 

 

「てめぇえええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

 ディーノの下半身は馬並みであった。

 

 ついでに頭の中も馬並みであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

「……始まったか」

 

「ころしあえ!! 血を見せろ!!」

 

 

 本日の主賓、新郎新婦は白タキシードとウェディングドレスを着たまま、優雅に椅子に座ってモニターで下界の争いを悠々と見物していた。

 

 一見ゴシック調の教会……なのだが、あちこちにかなり趣味の悪い、いやむしろ最低最悪なゴミ飾りつけがされている。

 

 それはパイナッポーだった。

 

 説教台にはパイナッポー。

 後ろのパイプオルガンにもパイナポー。

 そして高い天井、天窓にもパイナップル。

 

 極め付けにはそこいらじゅう南国のような爽やかなパイナップルの香りが充満している、迷惑だ、くさい。少量なら快いはずのその香りは、大量ならばただの悪臭。もとい臭害。深刻なスメルハラスメントだ。

 

 

「クフフ……さぁザンザス! 誓いのキスをするのです!!」

「るせぇぞドカス!!」

「黙ってろ喋んなくせぇんだよ!!」

 

 二人が揃ってリボンが巻かれたナタをパイナポーという名の六道骸へと叩き付けた。

 

「グハっ! それが結婚式のデコレーション兼演出家にすることですか……! クフ……そうですか……これが……はじめての共同作業ですかクフフ!」

 

 わざわざ来たのに到着するなりイキナリ縛り上げられて吊し上げられたカトリックの司祭はパイナップルを頭に乗せながら神へと祈った。

 あぁ神よ……このゴミクズ共の穢れ切った魂をお救い下さい……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくしてボンゴレ式結婚式――――ロリコンvsホモの不毛な争いが幕を挙げたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回

『裏切りのワゴンセール』

お楽しみに~~




ただいまの状況




結婚反対派 (攻撃)     vs      賛成派(守備)

白蘭                    ヴァリアー(やる気ない)
ガンマ                   ディーノ(裏切った)
真六弔花
アルコバレーノ
十代目守護者


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ついったまとめ
ツイッターまとめ




実はツイッターを始めました。
単発お題モノが溜まったので投稿します。



『優先順位』https://shindanmaker.com/375517 (XS)

 

 

雨の降りしきる中二つの銀が輝いている。一つは鮫の髪、もう一つは剣の色だ。勝負は長い時間続いている、ような気がする。

ようやく標的の首から赤が噴出した。鮫はようやく踵を返し、もう一つの赤を見た。

「すまねえボス、居たのかぁ!?」

ザンザスがスクアーロの関心を取り戻した瞬間だった。

 

 

 

『なんて身勝手な願い』 https://shindanmaker.com/375517 (DS)

 

 

頼む、跳ね馬。と鮫はずっと何度目かになる懇願を口にしている。

「ボスに会わせてくれ」と繰り返す。

「お前の頼みなら九代目もボンゴレも無碍にはしない」「だから頼む」

「なんでもするから」「なんでもしていいから」

ディーノはため息をついた。断る訳ないだろ。

 

俺だって、ずっとお前が。

 

 

 

 

 

 

『愛される覚悟をしておいて』shindanmaker.com/587150 (YS)

 

 

それは山本武の宣戦布告だった。

「決めたぜ、俺」

「俺は強くなる」「そんでアンタを絶対追い抜く」

 

「それで勝ったら、アンタを俺のモンにする」

 

やたら綺麗な銀の目を白黒させるスクアーロの耳元で山本は甘く囁いた。

だから、愛される覚悟をしておいて、と。

 

山本武の宣戦布告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『日常崩壊寸前』shindanmaker.com/375517 (XS)

 

その日ザンスクは思い出した。

奴に支配されていた恐怖を。

揺り籠の屈辱を…。

 

午後はオフだった。干されてんじゃねえかな、なんて言いながらカプチーノを淹れて、ルッスの作ったビスコッティなんか俺たちはつまんでた。

したら血相変えたマーモンが「逃げて!」と叫ぶ。

「九代目が!窓に…」

 

 

 

 

 

 

 

『迷子のお知らせ』 https://shindanmaker.com/375517 (XS)

 

 

黒い髪で赤い目で割れた眉毛の、とても可愛らしい男の子だった。

家も分からないと言うし家族の名前も言えないようだ。ただ「カスと来た」を繰り返すばかりだった。

困り果てていると銀髪のやけに目立つ男が現れた。しゅんとしていたその子が飛び出す。

「おせーぞ!カス!」

「悪かったなぁ」

 

※年の差パラレル

 

 

 

 

 

『頬に伝う雫』 https://shindanmaker.com/375517 (XS)

 

 

「施しだァ!」

「う゛ぉおおおい!?」

何しやがるクソボス!と俺が言う前に直撃したのは粉々の氷の塊。だった。汁が口に入る、甘ぇ。そうだカキゴーリとか言う奴だ。

とか考えてるとボスの顔が、目の前。

 

「確かに甘ぇな」

 

 …俺の顔が真っ赤なのは苺味のシロップのせいだ。断じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する

 

 

 

「愛してる」

「……嘘だろ、アンタから…そんな言葉、聞く、日」

「嘘じゃねえよ、ドカス」

「……やべぇ、思い残すこと…が、ねぇ」

「だからさっさと生まれなおして、追いついてこい」

「…」

 

「また愛してやるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

『雨も、悪くない』 https://shindanmaker.com/587150 (XS)

 

 

誰かが言ってた。雨の音には安眠効果があるらしい。と。

その理屈をスクアーロは知らないが、雨の夜は嫌いじゃなかった。

眠りの浅いはずの主が、安心しているように見えるから。

「悪くねぇよなぁ、雨も」

全てを洗い流す鎮魂の雨とはよく言ったものだとスクアーロは思うのだった。

 

 

 

 

 

 

『寂しいなんて言えない』 https://shindanmaker.com/375517  (XS)

 

 

絶対帰ってくるから、それまで待ってろ。

 

よく夜中になると先輩は言ってたよ、8年間ずっと。

しかも春先の雪が解ける季節になると決まって同じ台詞を繰り返すんだ。

同じ時間、同じ時期、同じ言葉を。

馬鹿な先輩。

 

素直に寂しい、って言えばよかったのに。

 

言えれば、良かったのに。

 

 

 

 

 

 

『捨てられないガラクタ』 https://shindanmaker.com/375517 (YS)

 

 

「まだ持ってたのかテメー」

「あー…本当に100本撮ったんだ…」

スクアーロから貰ったDVDは積み重ねてあるまま見切れていない状態だ。

俺だってヒマじゃないし、一本一本の真剣勝負はそれなりに長い。

だけど捨てられない。

 

だって、俺だけの為に撮ってくれたもんなんだからさ。

 

 

 

 

 

 

Gが出たので冷静に役割を分担するディノスク

#恋ともつかない https://shindanmaker.com/736744

 

「来るぞ…跳ね馬ぁ、分かってんだろうな…」

「あぁ、一筋縄じゃいかねぇ相手だ…」

「だが俺たちの属性を合わせりゃ敵じゃねぇ」

「鎮静のお前、調和の俺。あとは手数で圧倒するのみ」

 

「「来い…! 初代嵐の守護者ァア!! G!!」」

 

 

 

 

 

 

『笑ってくれる?』 https://shindanmaker.com/375517 (XS)

 

 

心を病んだ母親に育てられ、現れた『父親』はまがい物で、血を吐いてまで求めた座には拒絶されても。それでもザンザスは泣けなかった。だからスクアーロも泣かなかったんだろう。

だから、

涙を流せないのなら、せめて笑ってほしいって思うんだ。

いつか心からの笑顔を、二人に。

 

 

 

 

 

 

『臓器移植』(RTで回ってきたやつ)

 

 

心配するな、ドカス。大丈夫だ、俺が必ずテメェに合う心臓を持ってくる。

カスは俺のために心臓を失った。なのに、まだ生きてやがる。一体どんな体だ。そういやアイツは鮫に食われても生きてた。

だが俺は今日という日を悔しいが神に感謝するだろう。

 

心臓はもう見つけてある。

 

 

 

「ボス」

 

あれからカスに心臓を移植したし、奇跡的に拒絶反応も出なかった。

驚く程ぴったり適合した心臓は今もカスの中で脈打っている。抱くと薄い胸越しに心音がする。情けないが、そのことにひどく安堵した。

そうゆう訳で俺はカスを窒息させながらベッドに押し倒した。

 ……時だった。

 

「ザンちゃんや……ようやくデレてくれたのぅ…」

「!?」

 

 カスの口からコイツに似つかねえ声が響く。

 

「テメェ……カスじゃねぇな…!?」

「このカスの体はワシが乗っ取った」

「まさか…爺…!?」

「お父さんと呼びなさいザンちゃんや!!」

 

 カスの心臓は爺から抜いたものだ。

 

 

「テメ…! カスを返せ爺!!」

「フッ…ワシに攻撃できるか…来い息子よ…!」

「クソ…ドカスが…!」

 

 その時、爺が憑依したカスの口から声が漏れた。

 

「ボ、ス…」

「!?」

「今…爺を…抑えたっ!」

「なっ…カス!? カスなのか!?」

「早く…!」

「っ!?」

「俺ごと…」

 

 

「俺ごと…撃てぇ!! ボス!!」

「……は?」

「俺が! 俺の! 中の! 爺を!! 抑えている間にっ…!」

「くっ……!」

「ボス!! 早くっ! 俺の!! 心臓を!! 撃てぇ!!」

 

 

 

 

 

 

『痛いの痛いのとんでいけ』 https://shindanmaker.com/375517 (XS)

 

 

手当て、という言葉がある。

手を当てることが傷や病の治療になるのだという。

「痛くねえか?」スクアーロは右手でザンザスの凍傷に触れた。左手には、もう体温はないから。

 …なのに。そんな左手から熱を感じた。

「…痛くねぇのか?」

傷だらけの手が、斬り落とした手に触れていた。

 

「もう、痛くねぇよ」

 

 

 

 

 

 

『二人だけの王様ゲーム』 https://shindanmaker.com/375517 (DS)

 

 

「スクアーロ」

元々俺には何もなかった。

「スクアーロ」

今でこそ十代目キャバローネなんて呼ばれてるけど。

「なぁ、スクアーロ」

お前の為ならドンの王冠なんか要らない。緋色のマントも置いてきた。だから、「俺を見てくれよ」

 

コレはゲームだ。

 

裸になった王様ゲーム。

 

 

 

 

 

 

『結論はとうに出ている』 https://shindanmaker.com/375517

 

「中元が来た」

「今さらかぁ」

「モスカの詰め合わせだ」

「どっから突っ込んだらいいんだぁ…」

「テメーは突っ込まれてる方だろーが、カス」

「下ネタはやめろぉ」

「で、このモスカだが」

「……」

「いるぞ、確実に…」

「入ってるなぁ…」

 

「ベスター!!」

「蒸し焼きだぁぁあ!」

 

 

 

 

 

 

 

『世界で一つだけの願い事』(YS)

 

 

任務が終わったら一つだけ願いを聞いてやると約束していた。

「じゃ、キスするのな!スクアーロ!」

「……う゛ぉい、まぁ…おう」

そんなんでいいのか、とスクアーロは思った。

近づいてくる山本の顔。

「口にかぁ?」

「駄目?」

「意味知ってるのかぁ?」

「?」

 

「…いいぜぇ、やれよ」

 

 

 

知らないだろうなぁ、きっと。

口にキスするってのは、イタリアのマフィアの間じゃ『お前を殺す』つー意味だぁ。平和ボケした小僧に分かる訳ねぇか。

まだまだお前は強くなる。

いつか、覚悟決めて、成長して、強くなって、意味を知ったら。

 

その時、俺を殺しに来い。

 

 

 

 

 

 

『きっとたぶん』 https://shindanmaker.com/375517 (XS)

 

 

「この前来たモスカの蒸し焼きはどうした」

「全部プレスして溶鉱炉にぶっ込んだぞぉ」

「ター●ネーターみてぇ」

「親指立ててたなぁ」

「で、ヴェルデから来た中元だが」

「あぁ」

「グリーンモスカだが」

「おう」

 

「もう回復しやがったのか…」

「きっと多分、化け物だなぁ!!」









増殖する丸大豆@Mdent0322

続きが読みたければフォロワーになってください(フォロワー乞食)
ザンスクとホモのことしか喋ってません基本。



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ついったまとめ 2

 

 

ザンザス様刀剣男子パロ

 

獄「十代目!これ…!オーパーツっすか…!?」

綱「獄寺君、それはね、ボンゴレに伝わる秘剣なんだ」

獄「秘剣…?」

綱「その名もザン」

獄「まさか…斬鉄――」

 

綱「XANXUS剣……」

 

 

 

獄「は? ざ、ザンザス剣…?」

綱「この剣の恐ろしいところ、それはものすごく良くキレることなんだ。二つの意味で」

 

 

 

 

 

『おいていかないで』 https://shindanmaker.com/375517

 

 

「俺が一番最初に目ぇつけんたんだぞぉ」

「ヴァリアーだって持ってきたのに」

「揺り籠だって最後まで着いてったのになぁ」

「なのに、アンタ一人だけ止まっちまった」

 

 いつしか長くなった髪は追い越した年月を現していた。

 ただ置いていかれたくなかった。連れて行って欲しかった。

 

 

 

 

『愛してみろよ』 https://shindanmaker.com/375517

 

 

クソの役にも立たねえ気色悪い無償の愛なんぞ吐き気がする。

実際血反吐も吐いてやった。だから俺には必要ない。

俺以外を見るな、俺以外に聞くな。手も髪も心臓も全部俺以外にくれてやるな。

やるなら徹底して崇拝しろ依存しろ。最期は俺の前で死ね。

そうすれば

 

お前を愛してやれるかもしれない。

 

 

 

 

 

『頬に爪を立てる』 https://shindanmaker.com/375517

 

 

「やべえスクアーロが猫になっちまった!」

「あ゛?カスはもともと猫だろーがドカス」

「シャーー!」

「やめろスクアーロ! ひっかくな!」

「シャギャーーーーー!」

「ぶはははーー! 猫科ー!」

「ゴロゴロゴロ~」

 

ボスの膝でゴロゴロ喉を鳴らす猫スク。

その後ろにはべスターの姿が

 

 

 

 

『幸せになってよ』 https://shindanmaker.com/375517

 

 

「王子、もーいいんじゃないかって思うんだけど?」

利き手斬って、髪伸ばして、8年待って、命賭けて、体張って、心臓抜けたんだからもう上げるもんが何もないじゃん?時間も体も命もやったんじゃん?

「幸せになってもいいんじゃねーの?」

 

 なのに馬鹿な先輩は指輪を前に、まだ固まってる。

 

 

 

 

 

『痛いの痛いのとんでいけ』 https://shindanmaker.com/375517

 

 

スクアーロが泣いていた。

「なんで、痛いんだぁ…?」

 見た目ばっかりキレイな彼は、やはり涙もキレイだった。だが蒸留水みたいなソレはやっぱり0.9%の塩水らしい。水滴の張る目は意味も分からない涙を流しながら無くした手をぼうっと眺めている。

「分からなくていいんだ」

「なぁ、俺」

 

 

 

「何を……忘れてるんだぁ?」

 

 

 

※記憶喪失ネタ。アルツハイマー鮫を好き放題するゲス馬であった。

 

 

 

 

 

 

ザンスクアンドロパロ (一部改稿)

 

 

S・スクアーロとXANXUSは最新型モデルを搭載した一対のAIだった。

色々な知識や言語プログラムを搭載してお互い会話、通信などの意思疎通が果たしてAIにできるかどうか、の実験体だった。ともあれ2体は起動した。

 

「う゛ぉおおおい!起きたぜぇ!」

「ドカスが!起こすんじゃねぇ!」

 

 

=第1実験レポート=

起動時に2体共に意味不明の言語を発する。AIの独自言語と予測。非常に危険と判断し、即デリートし、プログラムの再構成。後に第二実験に入ることにした。

 

 

「S・スクアーロ起動だぁ」

「XANXUS、起動する」

「お前XANXUSっつーのか」

「…テメェはカスみてぇな名前だな」

「うるせぇぞ。俺は気に入ってんだぁ。文句言うなぁ」

「…はっ」

「お前強そうだなぁ」

「…」

「よし、決めたぜぇ!」

「…」

「ついていくぜぇ!ボスって呼」

 

 

=第2実験レポート=

何故かS・スクアーロはしゃべり方が間延びする。システムエラーだが実験上問題ないと判断し続行。

即座にXANXUSをボスと呼称し序列を構築しようとしたのは興味深いが本実験の趣旨に合わない為デリートし、再実験とする。

 

 

「S・スクアーロ起動だぁ」

「…起動した」

「なぁボ…XANXUS!俺、お前好きだぁ!」

「…あ゛?」

「だからお前の為にコード伸ばしたぜぇ!」

「…」

「XANXUS!お前はいつか俺に感謝する日が必ず来」

「るせぇ!!意味わかんねぇぞドカスが!」

「う゛ぉおおおい!?!?」

 

 

=第3実験レポート=

最早意味不明である。

S・スクアーロはXANXUSに好意を抱いていると判明。思考のプロセスは解析中である。

『ドカス』や『う゛ぉおおい』共に意味不明の独自言語である。よって危険と判断したためデリート、再実験。

尚う゛ぉおいはフィルターの故障ではなかった。

 

 

 

「S・スクアーロ、起動だぁ」

「…起動」

「XANXUS好きだぁ!一生ついていくぜぇ!」

「…」

「…や、やっぱ嫌かぁ?」

「…一生っていつまでだ?」

「ぶっ壊れるまでついていくぜぇ!」

「…信用ならねぇな」

「じゃあ左手に誓う!」

「…」

「左手やるぞぉ!」

「…は?」

 

 

=第4実験レポート=

S・スクアーロがまさかの自傷行為に走った。全く意味が分からない。

やはりこの実験は失敗だったのだろうか。今までの報告書を全て本部に送った。今度ボンゴレの役員も来る。そこで2体の処分と今後の実験が決まるだろう。

最悪凍結もあるらしい。

このレポートも最後だ。

 

 

 

 

 

「…と4回の実験3回の初期化をしましたが、いずれも同じような結論になりました」

研究員の説明を聞く男は40代半ば程の大柄な男だった。赤い目と頬傷が特徴的だ。隣には長い銀髪の人間が寄り添っていた。

「…お二人の人格をトレースしたにも関わらず…」

「…いや…」

「あぁ…こりゃ…」

 

 

……俺達じゃあ、しょうがねぇか。

 

 

二人は微妙な顔を見合わせ、少し遅れて苦笑した。

 

 

 

 

 

『オーバーヒート恋心』 https://shindanmaker.com/587150

 

 

「俺は今日、死ぬかもしんねえ…」

「「「!?」」」」

「何不吉なこと言ってるの!?早く鉄を触りなさい!」

「王子のティアラ触ったら先輩でも殺すから」

「僕のチェーン、お触り代2億円」

「スク…私のメタル・ニーなら触ってもいいわよ」

「でも、今日」

「私…はいてないの」

「う゛ぉ」

 

「いいわよ、スクの為なら…!」

「待てぇ!ルッス、なんで今日に限ってはいてねえ!?」

「細かいことはいいじゃない!さぁ、早くなさい!」

「う゛ぉおおおお!?」

「…カス」

「ボ、ボス!」

「…鉄並みに固くなってるモンならあるぞ」

「!?」

「…いいのかぁ…?」

「かまわねえ」

 

「待って、何も良くない。間違ってるの王子なの?」

「ムダだね、今のボスは恋心で脳がオーバーヒート…」

「じゃ、じゃあ触るなぁ…?」

「…」

「え、マジ?ここでおっぱじめんの?」

「カメラ回すよ…っ!?アレは…」

「アレは…タイガーパターン!」

「オルゲルト!?いつから居た…!?」

 

「聞いたことがある…稀にトランクスとボクサーの雑種が生まれると」

「アレは…リグレ・テンペスタ・ディ・オパンツェ!」

「こいつマジ何言ってんの」

「雑種が劣ると誰が決めた」

「ウワサ通りだ…この質感…あの股構え…似ている…ボンゴレⅡ世に!」

「2世のパンツタイガーパターンか…」

 

「ボ、ボス…こ、こうかぁ…?」

「っ…カスっ…!」

「はぁ…ボ、ボス駄目だ俺もうっ…!」

「…ド淫乱が」

「ん゛んっ…!」

 

帰ってきたレヴィ

「…何が何だかわからない…?」

「…とりあえず…スクアーロ」

「…鉄は…義手では…駄目だったのか…?」

「剣では…駄目なのか…?」

 

 

 

※8/2はパンツの日。そしてイタリアの風習『不吉なことを言ったら鉄を触る』より。

※尚この風習は女性限定。男は股間を触ればいい。なので何も間違ってはいない。

 

 

 

 

 

『全部全部、君のせい。』

 

 

「なぁ、馬ぁ」

「分かってる、何も言うな」

「やっぱ俺にはできねぇよ」

「頼むよ、スクアーロ」

「…無理だぁ」

「こんなとこアイツに見られたらヤバいんだ。そのリスクを冒してまでここに来たんだ…だから、頼むよ」

「…できねぇ…!」

「…どうしても、ダメか?」

「…すまねぇ…」

 

 

「スッケスケの! 後ろヒモだらけのパンツ履いてくれよ!! 履くだけ!! 履くだけだから!!!!」

「無理だぁ! そもそもコレは女用だろぉがぁ!! 入るかぁ!」

「先っぽだけ! 先っぽだけだから!!」

 

「…アレ…まさか…」

「スクアーロなのな!」

「山本ステェエエイ!!」

 

 

『全部全部、パンツのせい。』

 

 

 

 

 

『惚れ直した?』 https://shindanmaker.com/375517

 

 

スクアーロの眼前で標的が倒れた。命が切れた瞬間だった。

首元には鮮やかな一線が引いてある。痛みも苦しみも感じなかっただろう。

その暇すら与えなかっただろう。

男は返り血ひとつない涼しい顔だった。

「なんだぁ?惚れ直したかぁ?」

俺の剣技に、と鮫は笑った。

 

「剣じゃねぇよ」

 

 

 

『それ以上は許さない』 https://shindanmaker.com/375517

 

 

え?なんだ?ザンザスの秘密?何かあるのかって?知りたいって?

まぁ方法なら…あるぜ。けどな、辞めとけ。死にたくないだろ?

ほら、見ろよ。奴の横に居るあの銀色を。偉い美人だがありゃ飾りじゃないんだぜ?

あの目だ、見たらわかっただろ?辞めておけ。死ぬぞ。

 

喰われるぞ、人食い鮫に。

 

 

 

『つくづく敵わない』 https://shindanmaker.com/375517

 

 

認めるよ、ガキの頃からだ。そうだよお前がコンプレックスだった。

年上だし、身長も高いし、優秀だし、強い。止めにすげぇカッコいい。自信満々だし、カリスマあるし、人望あるし!

アイツだって俺が先に…!…はぁ。

お前が良いってよ。お前だけだって。

だからスクアーロに会ってやってくれよ。

 

 

 

 

 





ツイッタお題メーカーは本当神。
だけどコレになれると長文書けなくなっちゃうぅ…はぅ…!


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ついったまとめ3


本当ついった良くないわ。
長文書けなくなるわ……。修飾語がカッ消えます。マジで。


泣きたかった叫びたかった、それでも笑っていなければならなかった

 

 

なぁ、お前何時からそんな笑い方するようになったんだ?

「うるせぇぞぉ」

「…何をしたんだ?」

「お前には関係ねぇ」

「なぁ、スクアーロ」

「くどい。要らねぇならとっとと帰れ」

「…俺はお前が」

「うるせぇぞぉ。へなちょこ、腹くくれ。今夜だけだぜぇ?」

笑いもしなかった。

 

 

 

『負けず嫌い』  https://shindanmaker.com/375517

 

 

気持ちいい、だなんて思ったら負けだ。

好きなようにされて、ぶち込まれて、喘いで、みっともねぇ声を上げて、聞かせて、ここまで好き放題されてんだからそれ以上求めるんじゃねぇよ、と。

言ったら負けた、好きだ。と。勘違いすんな、体だけだクソ野郎。

 

それが俺に残った最後の誇りだ。

 

 

 

十何年後かの馬と鮫

 

 

「よ゛ぅ、来たのかぁ馬ぁ」

「相変わらずだな、スクアーロ」

 ディーノ後ろ、スーツのズボンにまとわりついている小さな金髪の頭があった。

「紹介するぜ、こちらは我がファミリーの次期11代目だ」

「お゛噂の仔馬かぁ!」

 恥ずかしそうに父の影に隠れていた子供はパッと目を輝かせた。

 

 

「初めましてべッラ! ぼくはあなたにこころをうばわれました、けっこんしてください!」

 舌足らずの小さな口が爆弾発言。

「息子よ…どこでそんな勇気を!?」

 だが少し前ならブチ切れていただろうスクアーロは大人になっていた。仔馬の目線までかがみ込む。

「悪いなぁ、俺は男なんだぁ」

 

 

そーゆーセリフはなぁ、とニカッと白い歯を見せて笑った。

「あと10年経ったら本物のべッラに言うモンだぜぇ?」

意味を分かってんだか分かってないんだかな仔馬は目の前の銀色の鮫をただただ丸い頬を紅潮させて、見上げていた。

 

 

 

 

『慰めてよ』  https://shindanmaker.com/375517

 

 

笑いたきゃ笑え、とザンザスが言った。

「あのクソ爺が」

「ボス」

「俺達が、二回も殺そうとしたのに」

「……ボス」

 

「あっさり、くたばりやがった!」

 

笑いたきゃ笑え、ともう一度言った。

「俺は笑わねぇぞ」

笑う代わりに、抱きしめた。肩越しの温かさを感じた。

僅かな濡れる感触も

 

 

 

 

『慰めてよ』TAKE2

 

 

笑いたきゃ笑えと、ザンザスが言った。

「あのクソ爺」「ボス」「二回も殺そうとしたのに」「…ボス」

 

「アッサリくたばりやがった! ボンゴレだけに!!」

「……もうやめろぉ! ザンザス!!」

「……」

「慣れねぇダジャレで誤魔化すんじゃねぇ!悲しいなら素直に泣けぇ!」

 

 

 

 

『甘えてよ』shindanmaker.com/375517

 

 

甘い言葉を囁けば、お前は振り向いてくれるのか?

なぁ、スクアーロ。何でもやるから。お前がその気なら、ボンゴレだって敵に回したって良い。どんな強いリングでも武器でも持ってきてやるから。

…だから。

こっち向いてくれ、スクアーロ。

そうすれば、命まであげるから。

 

 

 

 

惚れ薬 (創作お題botから)

 

 

 

「爺が死んでるぞぉ!」

「何だと!?」

「盛った薬がやっと効いたかぁ!」

「はっ…死んだか」

「本当に死んだのかどーか確かめるかぁ」

「これで過去を清算できた!ブハハハハー!」

「良かったなぁ…ボス…ぺろ……ッ! これは!」

「何だ」

「下がれボス! 爺から離れろ! 惚れ薬だ!」

 

 

「惚れ薬…だと…」

「どこかで薬が入れ替わったのかぁ」

「待てカス一体何処で入れ替」

「ボス! 爺の目を見るなぁ! 見たら最期だ…爺が…ボスさんに…惚れちまうぞぉ!!」

「なん…だと…!?」

 

 

(そーなったらヤベーじゃねーか…ドカス)

(そーなったら…)

死炎印を押した紙を押し付けてくる爺。

「ザンちゃんワシと結婚ぢゃ~~~!!」

「ふざけんじゃねえぞドカスが!!」

(そーなったら…)

 

(俺が…)

 

(ボンゴレⅩ世になれちまうじゃねーかドカス…!)

※なれません。

 

 

(だが爺と結婚する位ならこの世に未練はねぇ…)

(俺は名にの称号を二つ持つ男XANXUS)

(舌かっ消して死んでやる…)

 

「失礼します九代…あ? なんだお前ら? またクーデターか?」

「「家光!!」」

「はい」

「家光テメーに決めた!!」

「ボス避けろぉ!」

「…は?」

 

キュピーンと言う謎の効果音と共に目覚める九代目。

ビビる家光。

目と目が合ったその瞬間。

 

「ワシは…家光…キミに…心をうばわれた!!」

「え? だ、ダメです九代目!俺には妻と子がー!」

「よいではないか~~!」

「ア゛ーーーー!」

 

「フ…危なかったぜ」

「これで良かったなぁ!」

 

 

 

 浴衣 ~ザンスクバージョン~

 

 

 

このカスは本当に頭が足りない。そんなことは昔から知っていた。

「おい、カス」

「なんだぁ?」

「浴衣っつーのは、右手を懐に入れられるように着るんだ」

「どーゆこと?」

「ともかく間違ってるぞドカス、逆だ」

「どーして?」

「それじゃ死人だ」

 

 

 

「いいや、これでいいんだぁ」

 

 

 

※お盆。

 

 

 

 

 

浴衣 ~山スク♀バージョン~

 

 

浴衣なんか着るもんじゃねえぞ。

ありゃ俺がバカだった。うっかりニッポンジンの年下の彼氏を喜ばせよーなんてアホなことを思いついた。で、安直にジャッポーネならキモノだユカタ!ってなった。まぁ、だから、通販で浴衣を頼んで、ネットで調べて着てみた訳だ。

最初は武もそりゃ喜んだ、けどな。

 

時間が経つと浴衣が着崩れてくる。

あと、ゾーリとか言う慣れないサンダルのせいで指の付け根が痛い。だからもうグチャグチャで何が何だか分からないなった。もう二度と着ねぇと思わず左手に誓った。

そんな浴衣は今箪笥の奥底に封印してあるし、武は今じゃ俺のユカタなんか見向きもしない。

 

4歳になる娘のユカタ姿に夢中になってるぜぇ。

アイツもう゛ぉいう゛ぉいはしゃいでる。もういいかぁ?そろそろ祭りに連れてってやんなきゃ、娘がうるせぇ。

やっぱ浴衣なんか着るもんじゃねぇぞ。

 

着せる方が、何倍も楽しいぞぉ。

 

 

 

『惚気はいいので、用件を』 https://shindanmaker.com/587150

 

 

「白蘭様のお姿はまさに天使そのもの」

「……」

「そして白蘭様の言葉は即ち神の言葉」

「……」

「つまり白蘭様は俺にとって天使であり神であるというわけだが」

「……」

「……果たして…どっちだ……?」

「う゛ぉい…そろそろ斬っていいかぁ?お前」

「あと5分!!」

「待つかぁ!」

 

 

 

 

『幸せかどうかはともかくも、』 https://shindanmaker.com/587150

 

 

未来を見た。

「オルゲルト」

「はい」

「お前、未来で死んでたな」

「…そうですな」

「俺の盾になってさ」

「それが私の務めですから」

 

「おい、オルゲルト」

「何でしょう、ジル様」

「今度は死ぬんじゃねえよ」

「……」

「王子には従者が要るんだよ、馬鹿」

「……仰せの通りに」

 

 

それでもきっと、盾になるでしょう。

何度でも。私は。

それが貴方の幸せかどうかは、ともかくも。

それが私の幸せなのですから。

 

 

 

 

 

 




あ゛つ゛い…。


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ついったまとめ4

『イタリアでは親が子供に予防接種をする』という習慣があるらしい

 

「時が来た」

「…」

「時が、ついに…この…時が…!」

「……」

 

「ワシがザンちゃんにお注射をしてあげる時じゃ~~!!」アヒィイイ

「や、やだ…やめろ爺…!」

「予防接種じゃ~~~!!」

「せ、せめてお医者を呼んで…!」

「それはお父さんの仕事じゃ~!」

「ひっ…!」

 

 

 

「さて、御曹司の予防接種は終わったかな」

 

「ザンザス! 腕を出しなさぁあああい!!」

「爺!」

「やめろよ爺!何しようとしてる!?」

「ザンザァアアス!」

「爺は母さんが居なくなっておかしくなったんだぁああ!」

 

「…子供は注射が嫌いだからな」ミテミヌフリ

 

 

 

 

 

君の左手は剣よりも彼の右手が似合っていた

 

左利きのコイツは左手でモノを持ちたがる。

 だからいつも左は塞がっていた。

「なんだよ、御曹司」

「うるせぇよ、カス」

 うるせぇカスを殴って黙らせる。痛ぇよ!と言う馬鹿は利き手で顎を抑えようとして、もうそんなものはないことを思い出した様だった。

 結局繋げなかった。その手を。

 

 

 

おかえりなさい、死に損ない

 

王子から見りゃボスも先輩も両方耐久度ヤバいと思うんだよね。

先輩さ、剣帝とやり合って勝って生き残って、そんで鮫に食われるて生還して、挙句心臓ブチ抜かれて生きてるんだぜ?

ボスもボスで、氷の中で8年。解凍2回。

だから、一緒なんだ。

 

「ただいま死に損ない」

「お帰り、死に損ない」

 

 

 

 

 

『人目を忍んで 手首をつかむ。』 https://shindanmaker.com/200050

 

多くの慣例を無視して、日本で執り行われた継承式は異例中の異例だった。

古き良き伝統にそぐわないと眉を顰める者もいれば、新しい時代の幕開けだと目を輝かせる者もいた。

その中、ザンザスは最前列でただ一人、一瞬たりとも目を逸らさなかった。

ただ傍に立つ、その銀色の手を掴みながら。

 

 

 

 

『ふざけて アクセサリーをつけてやる。』 https://shindanmaker.com/200050

 

「白蘭様…俺からの気持ちを献上いたします。どうか受け取ってください」

「嫌だよ…幻チャン…それ…」

「給料三か月分の」

「……」

「GPS発信機です!!」

「嫌だぁあああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

『幸せになれなくてもいい』 https://shindanmaker.com/375517

 

「ザンザス、もうやめた方がいい」

「……」

「良くないよ、こんなこと」

「……」

「スクアーロだって、お前の幸せを望んでるハズだ」

「……」

「お前だって、もう、幸せになっていいんだ…。だから…!」

「そんなもん望んじゃいねぇよ」

「…」

「ただ一緒に居てぇだけだ、アイツと」

 

 

 

 

「でも、ちゃんとお墓に入れてあげないと…スクアーロが可哀想だろ?」

 

 

 

 

 

『からかって 髪にキス。』 https://shindanmaker.com/200050

 

鋏が動く。ジョキ、ジョキ、ジョキ

「こんなもん、伸ばしてたらアイツが帰ってくると思ったのか?」

鋏が動く。ジョキ、ジョキ、ジョキ

「アイツの願いが叶うと思ったのか?」

ジョキ、ジョキ、ジョキ

「馬鹿だなぁ、本当に」

ジョキ、ジョキ、ジョキ。

 

「ほら、包帯全部取れたぜ?」

 

 

 

んー、綺麗には治らなかったか。

大丈夫さ、スクアーロ。あと何回か手術すれば綺麗に治るよ。

え?何?声が出ない?手が動かない?

……。

 

あぁ、後遺症だろ、アレだけ動いたんだから、しょうがないだろ?

髪を切られたのかと思った? 馬鹿だなぁ。

 

こんな綺麗なものを切る訳ないだろ。

 

 

 

 

 

 

幸福の温度

 

何もかも奪う温度を持っていた。

人間のタンパク質の限界が42度、溶け出すのが200度。

だとしたらこの炎は誰にも触れられないと諦めていた。

 

「間違いない、お前は私の息子だよ」

 

何もかも奪う温度を持っていた。

だから誰にも触れられなかった。

 

欲しかったのは36度、人の体温。

 

 

※ツイッター史上初のまともな九代目

 

 

 

 

ナルキッソス

 

スクアーロは非常に美しい少年だった。特に色素の薄い真っ白な彼は清廉な印象を与えた。だから女からも男からもモテた。女からモテるのは当然嬉しかったが、男からモテるのは冗談ではなかった。そんな趣味はなかった。

ある日スクアーロは夢をみた。

 

銀色の髪を長く伸ばした男が居た。年齢は30歳程だろう。

その美しい青年の傍らには派手な羽飾りの男が居た。褐色の肌に、濡れ烏色の髪、血のように赤い目の男だった。二人は寄り添っていた。スクアーロはその様子を水辺で眺めている。

そこで、いつも目が覚めるのだ。

 

あれはひょっとしたら未来の自分の姿なのかもしれない、と予感しながら。

だとしたら最高で最悪だ。スクアーロはベッドで一人でつぶやいた。

 

あんなモン、見せんじゃねぇよ。

もう一回……ボスに…会いてぇな。

 

スクアーロは今日も夢を見る。

愛しい最悪の悪夢を呪いながら、焦がれながら。

 

 

(ギリシア神話のナルキッソスはナルシストの語源だよね~)

 

 

 

 

 

 

寝言

 

 

「寝る前はシツジを数えると良く寝られんだよな」

「オルゲルトが1匹…オルゲルトが2匹…zzz…」

 

「……ジル様」

「…寝てしまわれましたか」

「風邪を引きますよ、ジル様」

「毛布を…」

 

「…zzz」

「…ずっと一緒に居ろよ…オルゲルト…zzz」

「…」

 

「…仰せのままに」

 

 

 

 

 

「全部、夢ならいいのに」

 

俺は結局馬鹿のカスだから難しいことは分かんねえけどよぉ。

やったことの後悔もねぇし、やり直してぇ、なんて願ったりはしない。

第一。俺には分かんねーし。

どこからが間違ってたのか、どこからやり直せばいいのか。

だから、願うとしたら。

 

全部夢なら良かったのに。

良い悪夢だったのに。

 

 

 

 

 

言葉のドッジボール

 

 

「う゛ぉおおおい!ボス!来てやったぜぇ!」

「るせぇテメェ帰れカス」

「土産も持って来たんだぜぇ!」

「……」

「ほら、肉だぞぉ!」

「要らねえよ」

「ラム持って来たぜぇ!」

「気分じゃねえ」

「和牛のサーロインもあるんだぜぇ!」

「…テメェ…」

「酒もあるぜぇ!」

「…カス」

 

「なぁ、ボス」

「…なんだ」

「ボス」

「……もう帰れ、テメェ。そんで二度と来るんじゃねぇぞ」

「ボス…」

 

 

 

 

 

「……墓場に肉なんざ持ってくんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンスク童話パロ『ラプンツェル』

 

昔、クーデターに失敗したスクアーロは高い塔の上に閉じこもってしまいました。スクアーロには大好きなボスが居ましたが、悪い九代目によって凍らされてしまいました。スクアーロは待ちました、銀色の綺麗な髪の毛を伸ばしながら待ちました。窓から垂らせば梯子にならないかと馬鹿なことを考えて乍ら。

 

でも待てど暮らせどボスが来ることはなく、スクアーロの髪は伸び続けるだけでした。梯子になるぜぇ!と窓から垂らしてみても、ボスは現れませんでした。

8年経った、やっとボスが現れました。嬉しくなったスクアーロはさっそく髪の毛を窓から分投げてみました。

ところがボスは上ってきません。

 

あれ、おかしいな?ボス?とスクアーロは窓から顔を出しました。

するとボスがスクアーロの髪の毛を渾身の力で引っ張りました。当然軽いスクアーロは地面に叩き付けられます。「痛ぇ!」とスクアーロは叫びました。「うるせぇ!」とボスは叫び返しました。

 

「テメェが降りてこい、ドカス!」

 

 

 

 

 

渓流

 

「ユニちゃん、川遊びに誘ってくれるなんてうれしいな~」

「お前を合法的に消せる絶好の場所だからな」

「ん?何か言った?」

「白蘭、あそこで泳いでいるウミウシを取ってください」

「やだなーユニちゃん、川にウミウシは居ないよ!」

「いいから取れ」

「ウミウシが川に居る訳ないって~…」

 

 

「白蘭様ぁあああああああああ!!!!」ザッパーン!

「アイエェエエエエ!?!? ゲンチャン!? ゲンチャンナンデ!?!?」

「ここに来れば…白蘭様が…居ると…聞いて…!潜伏していた甲斐が…あったァ!」

「ひっ…!?」

「この気持ち…まさしく! 愛だッ!」

「愛…!?!?」

 

 

「気色の悪い無償の愛など、クソの役にも立つか!」

「本当だよ!!」

「俺は間違ったままでもいい!!」

「う゛ぉおい!ボス!そっちに幻騎士が居るから行くなぁ…遅かったかぁ!」

「ヴァリアーの剣士貴様…!」

「なんだぁ!?」

「デートか?」

「そ、そんなじゃねぇょ…」

「デートか…」

 

「ならば仕方なし!!渓流おデートを楽しむがいい!ヴァリアー!」

「ば、大声で言うなぁ!」

「てめーもな、カス」

「う゛ぉおおい…」

「ユニちゃん…何か色々増えたからこの隙に僕と一緒に逃げよう」

「…いいえ、白蘭。私は貴方とはいきません」

「え?なんで?」

「この流れ…来るぞ…」

 

 

「…見える!皆さん!上流から!!」

「…モスカが…!」

「「「「!?」」」」

 

「…ドカスが」

「来たかぁ…!」

「有り得ん…俺の幻術空間を破るなど…」

「みんな…気を付けて…!」

「…え?」(※白蘭様)

 

「ザンちゃん…どうしてワシを呼んでくれなかったのぢゃ…?」

 

 爺 降 臨 

 

 

「え?何?お爺さん誰?え?」

「…九代目だぁ」

「は?」

「どうやってこの場所を嗅ぎつけやがった爺!!」

 

「愛ぢゃよ!!!!」

 

「愛だぁ!?」

「……愛……?」

「愛です」

 

「……愛なら! 仕方ない!!」

 

「気色の悪い無償の愛など、クソの役にも立つかぁああああああ!!」

 

 

 

 

 

 










おまけ


巨神兵は、夢を見るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは歩き出すための嘘でした。
「欲しい物のは手に入れたから、もういいんだ」、と。
本当の願いは、どうせ叶わないから。
https://shindanmaker.com/484159







「巨神兵!行かないでよ巨神兵!」
「ごめん…だけどもう、行かなくちゃ。『炎の7日間』は、やらなくちゃいけないんだ…世界を、焼かなくちゃ」
「そんなことしないでいいよ!なんで!なんで世界を焼いたりするの!?人類なんか放っておけばいいじゃん!勝手に滅ぶよ!」
「ありがとう…」

「でも僕は行かなくちゃ。その為に僕は生まれてきたんだから」
「嫌だよ…!もっと、もっと一緒に居ようよ!巨神兵!!」
「いいんだ。もう」
「欲しい物のは手に入れたから、もういいんだ」
巨神兵は、夢を見るような気持ちで最後の嘘をつきました。

それは歩き出すための嘘でした。

そして世界は…炎の七日間に…包まれた…。


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ついったまとめ5

明日なんか来なければいいと願う全ての中高生に捧げましょう…。


白い喪服は「二度と結婚しません」という意思表示(ねつ造セコ雨)

 

 

2世の葬儀は雨の降る中行われた。

誰も彼もが上から下まで、ぴっしりとした黒に身を包んで参列する。

その時、何かが黒の中をかき分ける。

白い髪を結い上げた女だった。古い型の真白のドレスだった。

手には1輪の百合の花。

女は静かに花を手向けると、静かにそこを去っていった。

 

2世の雨の守護者は女だった。

雨は2世が好きだった。2世も雨の思いは理解していた。

だが2世には既に妻子があった。組織を拡大する中の政略結婚だった。

2世の妻は雨を黙認し、雨も2世の妻を尊敬していた。

そして雨は同盟ファミリーのドンから乞われ、結婚を決意する。

 

「どうせだったら俺のウェディングドレス見てくれよ」

きっと、笑えるぜぇ?と雨は言った。

笑わねぇよ、と2世は言った。

だが2世は急にこの世を去る。雨の結婚式の1週間前だった。

茫然とする中雨はふと思い出す。

そうだ、2世にドレス姿を見せてなかった。と。

 

周囲から声が聞こえる。「あの女は何だ」「2世の愛人だったらしい」「傘下のファミリーに下げ渡される所だったそうだ」「気でも狂ったのか」「哀れな…」あぁ、何かどうでも良かった。雨の目には2世しか映らない。

「なぁ、似合ってるか?」

返事はない。

「俺、ドレスなんかはじめて」

 

「本当は服なんかどうでも良かったんだ」

「誓ってやる。俺……次は男に生まれるぜぇ」

「こんな思い、もうたくさんだ」

「そんで、次は絶対最後までお前の剣で居る」

「……次はもう、離れてやらねぇからな」

 

2世の顔に口づけた女の顔は笑っていたという。

ひどく美しい横顔だった、と言う。

 

 

 

 

 

ボンゴレ ザ リング

 

 

 

「ボス、夏だし怪談でもやろうぜぇ!」

「怪談ってなんだ」

「幽霊とかゾンビとか怖い話だぁ!」

「お前一択だろ鏡見ろカス(…下らねぇ)」

「逆だぁ!」

「クソの役にも立たねえ怪談なんぞ要るか、テレビつけるぜ」ポチッ

 

「井戸だぁ…」

「井戸だな」

「「…」」

 

「ザンちゃ~ん!」

 

 

 

「そういう事は嫌いって言ったよね?」

 

「駄目だボス。いい加減しなきゃならねぇ」

「……」

「お前が嫌だってことはよく分かる」

「……」

「お前の気持ちはよくわかるぞぉ」

「るせぇ…てめーに俺の何が分かる」

「分かる、俺には分かるぜぇ!」

「黙れ…テメェに俺が救えるか!?」

「分からねぇ!だが共に生きることは出来る!」

 

「注射しろぉおおおお!ボスぅ!!」

「ド畜生がぁあああああああああああ!!」※嫌がってる

「ボスの注射は俺が引き受ける!!」

「お願いよボス!マーモンの一生のお願いなのよ!」

「違うよ!?」

「あ゛ーー!採られちゃったよぉ!王族の血がぁあ~~!」※採血中

 

「…」←シャマル

 

 

幻騎士が愛するということ

 

「白蘭様…俺はあの時貴方に忠誠を誓いました。あの時俺は全てに見捨てられたような気持だった…そう、神でさえも。アフリカに行ったのはいいがそこでエボラが局地発生するなどと予想外にすぎる。どうしようもない状況にあなたは舞降りた…何一つ掴める俺の手に降った奇跡それが白」

「もうやめて…」

 

 

「いっそもうころしてくれ」

 

「もういっそ…」

「白蘭様ぁ!白蘭様!白蘭様ぁあ!」

「もういっそころしてくれ!」

「……」

「もううんざりだよ!気持ち悪いよ!もういっそ殺してくれよ!楽にして!」

「…」

「その案には大賛成です」

「ユニ貴様…」

「ぱ・じぇ・ろ! ぱ・じぇ・ろ!」

「嬲り殺して楽しい!?」

 

 

 

捏造初代馬ファミリー

 

キャッバローネは元々貴族の流れをくむ政治組織だった。

人好しの少々理想主義者の没落貴族の青年が、悪友たちを集めてできた組織と呼ぶにもお粗末なグループだった。当然会議室など用意できるわけもなく、馬小屋を寄合所として使っていた。これが後のファミリー名になった。

 

同じころ自警団として拡大しつつあったボンゴレと親交を結ぶ。

政治団体と自警団。やり方は違えど『民衆を守る』という志を同じくする同志だと、類は友を呼んだ結果だった。

初期における自警団時代のボンゴレ繁栄と同じくキャッバローネも政治組織らしくなっていく。

 

初代ボンゴレが退くという噂が出た。

初代キャッバローネは勿論止めようとした、が、初代ボンゴレ、ジョット曰く「これ以上ボンゴレに強さは不要」であると断定した。

大きすぎる武力は闘争を生む。手にしたものを実践せずにはいられないという人の性をジョットはよく知っていた。その行く果ても。

 

初代キャッバローネもここで決断を迫られることになる。

ジョットが後継者として定めた青年はボンゴレを武装させると既に表明していた。引き返すなら今しかない、立ち去りたくば去るが良い、と。

2世が見ているのは血みどろの世界だった。

ジョットはそれを好しとせず遠く極東に隠遁することにする。

 

だが、初代キャッバローネにはその手段はなかった。

数代前に没落していたとはいえ、精神的に貴族であった初代には民を見捨てるという選択肢は存在しなかったのだ。

キャッバローネの命運が決まった瞬間だった。

こうして、少々血気が盛んな政治団体から本当の暴力組織へと転身することになる。

 

それでも後悔は多かったのだろう。

その後キャッバローネファミリーはボンゴレの傍らで粛清や抗争を繰り返しながらも血や金を食らい巨大に成長していった。だがあまりにも暗い成長だった。

初代は息子である2代目に家督を譲る時にこう言い残したという。

「民を大事にすべし」と。

 

「あと少しだけ良い生活を」というささやかな願いと理想に燃えて立ち上がった青年たちの馬小屋。その結末は欲と暴力の伏魔殿に終わった。初めから分かっていたことだった。踏み出したら最後倒れぬように足掻き続けるしかない。

その中でも残った最後の誇り、それが民衆への無償の愛と献身だった

 

 

 

「目障りだ。消えろ」

 

傷つけたい訳じゃなかった。

歪ませたいわけではなかった。

左手も、8年間も、心臓さえも、何もかも奪っただけで終わった。

「テメェはもう要らねぇ」

これ以上奪ってしまう前に。

「目障りだ、消えろ」

 

 頼むからもう、俺の前で何も失わないでくれ、と願うばかりだった。

 

 

 

 

 

「って言われてそう簡単に消える訳ねぇだろぉがぁああ!

 

 この大馬鹿野郎!!」

 

 

 

 

 

文句のひとつも言わなかった

 

 

文句のひとつも言わなかった。

 

俺と違って。考えてみれば大ボンゴレの御曹司なんて窮屈極まりなかっただろうに。かけられる期待も、重圧も俺よりずっとデカかっただろうに。

なのに散々嫌だ嫌だダダこねて、甘えて、逃げてた俺がボスになって、血反吐を吐いてるザンザスを見てる。

「文句の一つも、言わなかったのにな」

 

 

 

 

 

 

迷子の白蘭

 

 

※白蘭監視中の家光

「クソ!また白蘭を見失った!あの野郎どこ行きやがった」

『親方様!白蘭、自宅から半径300メートルに存在は確認できません!』

「何!?確かなのか!?情報源はどこだ!?」

 

『幻騎士です!』

「……は?」

『幻騎士です!!』

「……」

 

「…確か、だな……」

 

「白蘭様ぁあああああああ!どこに行ったぁああああああ!」

「落ち着け幻騎士、一流の幻術使いの君なら見つけられるハズ!」

「貴様に俺の何が分かる!?」※逆切れ

「分かるさ!お前と白蘭は絆でつながっている!」

「…なん…だと…」

「だから信じるんだ!」

「…分かった!」

「ちょろい」

 

『我が魂は! 白蘭様と共にあり!!』

『幻騎士!? すごい、これがヘルリングの力…!』

「……」※家光

『見つけたぞぉ!! 白蘭様ぁ!そこだぁあああ!!せいっ!』

『開匣!追え、アルフィン!親方様ー発見しましたー追跡します!』

 

「……」

 

「…バジル…。アイツ。要領いいな…」

 

 

 

 

 




ボス!ボス!ボス!ボスぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ボスボスボスぅううぁわぁああああ!!!
名にXの称号を二つ持つザンザス様の黒髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
小説隠し玉2巻のボスさんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
夢アンソロ発売で良かったねボスさん!あぁあああああ!かわいい!ザンザス様!かわいい!あっああぁああ! いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃあああああ!!
見…てる?表紙絵のボスちゃんが僕を見てる?
表紙絵のボスちゃんが僕を見てるぞ!XANXUS様が僕を見てるぞ!挿絵のザンザス様ちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのボスちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ! いやっほぉおおおおおおお!!
僕にはボスちゃんがいる!!やったよスクアーロ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのボスさぁああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!! ううっうぅうう!!俺の想いよボスへ届け!!イタリアのXANXUS様へ届け!!!!


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ついったまとめ6




9月9日はザンザス様の解凍記念日




 没ネタ

 

「ん……わりぃ、何かへんなゆめ見てた」

「……」

「何かよぉ、俺がロボットで、ボスさんがクローンだか何だかな未来の夢だったぜぇ」

「映画の見すぎだな」

「そぉだなぁ」

「でも、何かすげえ変なんだぜぇ?ボスが俺の夢をずっと見てんだけど、俺はロボットだから夢なんか見れねぇんだ」

 

「なんかすげえ……ボスさんが可愛そうだった」

 

 

「痛ぇ!何しやがる!」

「下らねぇ同情なんざするんじゃねぇ。カスが」

「だからアンタじゃねぇって言ってんだろぉ!! …もっと若かったぜ、そんで、もっと…寂しそうだった。俺に会えて、嬉しそうだった」

「……」

「ザンザス、俺は、いつだってお前の夢を見てるからな」

「……」

 

 

「俺もだ」

「……」

「テメェがガラクタだろうが、俺がフェイクだろうが、関係ねぇ。俺は俺で、お前はお前だ。……そうだろう?スクアーロ」

「……おう」

 

 

「どんな俺でも、必ずテメェの夢を見る」

 

 

 

 

※ザンスクアンドロイドパロのオチ。ここまで書けなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロポーズ

 

アイツのプロポーズはハッキリ言ってグダグダもいい所だった。

宿を取るもの、セキュリティ万全の料亭を手配するもの完璧だったのに、なんでこうなるのか。ジャッポーネの旅館で、いかにもっていう高級料亭だったのに、そこで花束忘れたことに初めて気づいて、空飛んで買ってきた。馬鹿だよなぁ、本当

 

そりゃ空飛んだんだから、風圧だの炎圧だので花弁は散るわ。つか焦げてるわ。なんで普段頭良いし、超直感もあるのにこんなことに気づかねぇんだよ?コイツ。ほんとばか。

でももう、あとには引けなくなって、最高にカッコ悪いって分かってて、顔真っ赤にしながら「結婚してほしい」って言った。

 

 

 

全員バカだった。

「はい」と嬉しそうに俺達のマダーマになる女は頷いた。日本人だという彼女の為にわざわざ日本でプロポーズしたのだ。馬鹿だなぁ、やめとけよこんな男。我儘だし、気難しいし、そのくせ繊細だし。

アイツも馬鹿だし、マダーマも馬鹿女だ。でも一番馬鹿なのはやっぱ俺だ。

 

「う゛ぉおおおい!良かったなぁ!!」

 

 ちっとも良くなんかねぇけど、いつも通り笑って、おめでとう、ってデカい声で言って、そんで、本当に幸せそうなボスに「うるせぇ」って殴られてる。

 

 

 …………俺が一番馬鹿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥婚

 

14歳のスクアーロは所謂人身売買で売られてきた少年だった。家が貧しかった上に、利き手と両親を災害で失ってしまった。当然引き取り手などなく、業者に売られたのだった。業者はスクアーロの綺麗な銀髪と白い肌に目を付けた。

これなら高額で売れる、ちょうど銀髪を探してた大口がある。と言った。

 

どうやら自分はどこかの変態にでも売られるらしい。スクアーロは悟った。

コンテナの中に詰められて、最小限の水しかもらえず運ばれた。

どこだかよく分からない、山の中だった。コンテナが開けられて、出された。

沢山の黒服の男たちがいた。服を脱がされて、体を調べられた。

黒服が怒鳴った。

 

「話が違う」「銀髪の女にしろと言ったハズだ!」と。

業者はへこへこと頭を下げた。「本命は後から遅らせますので」「とりあえずはコイツで」「安くしておきます」と。

馬鹿、性別位ちゃんと確かめとけよカス、とスクアーロは薄く笑った。

仕方ない、と部屋へ通された。

中には大勢の女がいた。

 

スクアーロを少年だと知ると、少しだけ怪訝な顔をしたが黒服と何かを話し合っていたようだった。丁寧に洗われ、短い髪を梳かれ、白い着物を着せられ、薄く紅まで引かれた。顔が見えないように覆われて、奥の部屋へと運ばれていく。

随分物好きなヤツなんだな、とスクアーロは思った。

 

妙なにおいが充満した部屋の奥に誰かが見えた。

隣に座れと支持された。

逆らえるハズもなくスクアーロは誰かの隣に座った。

真っ黒な着物を着ている、身長の高い、大人の男の様だった。

変なにおいが濃くなった。坊主が経を唱えている。何を言っているのか分からなかった。何かが変だった。

 

何かがおかしい、何だこれはとスクアーロは思った。

祝われているのか、呪われているのか分からない。厳かな雰囲気だが、どこか空寒い。

なんだこれ、と。

「花嫁を」と声がした。自分と黒い着物の男を隔てていた御簾が巻き上げられる。そこで臭いの意味を知った。

 

 

…隣の男は死体だった。

 

 

ビビるスクアーロ、逃げ出そうとしたら押さえつけられて薬をかがされる。いやだ、こわいと叫ぶが無駄。

トランス状態になったスクアーロはどこともつかない真っ白な空間に意識が飛んだ。目の前に居たのは黒い着物の男だった。ただし、今度はちゃんと生きていた。

 

 

赤い目が美しい男だった。

これほど赤い目は見たことが無い、と見惚れていた。

「男じゃねえかよカスが」

男はひどく不機嫌そうだった。

「うるせぇよ!!」

「喚くな、るせぇ」

男は酷く横暴だった。

「なぁ、コレ何なんだ?」とスク。

「…冥婚だ」と男は言った。

「めーこん?」

 

自分は黒社会の人間だったと男は言った。それもドンの養子で暗殺組織の長だった程の。

数か月前に男は死んだ。結局34まで結婚しないままだった。

風習として未婚のまま死んだ男は花嫁を迎える冥婚を行わねばならない。と

 

「なんで銀髪なんだよ?」

「結婚なんぞ面倒クセェ。だから生前、銀の髪の花嫁がいいと条件を付けた。そうすりゃ縁談も来ねぇ」

「ふざけんなよぉ!」

「…あぁ、テメェには災難だったな」

「で、俺どーなんの?」

「生きたまま俺と焼かれる」

「マジかよぉ…熱いのヤダなぁ」

「…それだけか?」

 

「は?」

「…未練はねぇのか?」

「だって…俺もう、帰るアテもねーもん」

「……」

「生きてたって苦しいだけだぁ。手はねぇし、親は死んだし、村は俺を売りやがった。どーせロクな一生じゃねぇ。だったらもーここで死んじまおっかって」

「…」

「それに、俺、お前が嫌いじゃねぇ」

「…」

 

「お前の目が綺麗なんだ」

 

「そんな綺麗なもん、俺みたことないぜぇ」

 

「まぁ……アンタに惚れた」

 

 

 

「だから一緒に死んでやるよ」

 

 

ふと男はスクアーロを突き放した。

「え?」

拒絶されたとスクアーロは思った。

「…やっぱ、男じゃダメかぁ?」

少しだけ悲しくなった。

「……カスが」

男は薄く笑った。

 

「殺すのが、惜しくなった」

「テメェは生かした方が面白そうだ」

 

 男は愉快そうにくつくつと笑った。

 スクアーロはいやだ、と追いすがった。

 

「うるせぇ!嫌だ!俺も連れてけぇ゛!!」

 

「黙って待ってろ、カス」

 

 男は言った。

 

「今から18年、待ってろ」と。

 

 

 

 

 

気が付けばどこかの山奥に居た。

 

すぐに近くの村人に見つけられて、保護された。

その村は故郷とは違い豊かだった。

心配すんな、利き手のない孤児を一人くらい面倒みれる、と村人たちは笑った。

やがて、村人たちの支えがあって、スクアーロはなんとか一人で生計を立てていけるようになった

 

少年から青年へと成長したスクアーロは、ひどく美しかった。

「この村の娘でも嫁に貰ったらどうだ」と何度も言われた。時には近隣の都市の有力者さえも求婚に来た。

それでもスクアーロは断り続けた。

「18年、待ってるんだぁ」と。

あれから18年、ずっと願掛けとして髪を伸ばしている。

 

ある日、一人の若者が村を訪ねてきた。

年の頃は18程だろう。

濡れ羽色の髪、濃い肌の色、そして赤い目を持った大柄な青年だった。

「伸ばしてたのか、カスが」

一目見るなりそういった。

「この銀のせいでロクな目に遭わなかったのに」

うるせぇよ、とスクアーロは思わず抱き着いた。

 

「この銀の髪が、アンタに会わせてくれたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 婚姻契約書

 

実は俺は契約書はあんま読まない方だ。だってメンドクサイから。

ソレで結構失敗したり痛い目にも遭ったけど、どうやらサガって奴はそう簡単には治らねえ。

…そんな俺でもこの契約書は目を皿のようにして読んだ。

「ゆっくり読め」

「急かしは、しねぇ」

「ただ、今回は逃げられると思うなよ」

 

 

 

 

 

 頼む、話を、聞いてくれ

 

 

 

「なんでだよ……?」

「俺なら、お前を日陰者なんかに絶対しない」

「お前の望むものを全部やれるのに」

「お前を……お前を絶対悲しませたりしないのに……」

 

「……」

 

「…どうしても俺じゃダメだった?」

 

「……悪い」

「謝んなよ」

「……嫌いじゃねぇよ」

「……分かってるって」

「嫌いじゃねぇよ。…お前は良いボスだぜぇ」

「……」

 

「…良いボスなんかじゃねぇ…よ……!」

 

「良いボスなんかじゃない!!」

 

「俺は…俺は今だって、ヘナチョコって呼ばれてた時と変わってねぇ…!」

「誰も俺のことなんか分かってない…お前だけだ。お前と、ロマーリオだけなんだよ!」

「……」

「だから……!だから俺は……!」

 

「なぁ、スクアー」

 

「ワシもじゃよ……」

 

「え」

「は」

 

「ワシもじゃ…」

 

「爺…!?!?」

「あの、九代目…心中お察しいたしますが、今そーゆーのh」

「ワシも分からなくなる…」

「それはアルツハイマーだぞぉ爺」

「あの…九代目…」

「ワシも…自分が…」

 

「ティモッティオなのか…モスカなのか…」

 

「わからない…」

 

 

「九代目少し黙ってていただけま」

「爺……テメーはテメーだろぉが…迷ってんじゃねぇよ」

「…スクアーロ君…!?」

 

「おい」

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

 

「爺…俺は…アンタにはクーデター起こしたりモスカ詰めたり何度もぶっ殺そうとしたけど……あんたは、アンタじゃねぇか」

「……!」

「だからよぉ、アンタは」

 

「なりてぇ爺に、なっていいんだ」

 

「スクアーロ君…!」

 

「…えぇ…?」

 

 

「ワシも……なりたい……九代目に……!」

 

 

 

 

「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!」

 

 

 

「あれは……モスカ!?」

「生えたぞぉ!?」

 

「薙ぎ払えぇえええええええい!!」

 

 こうして九代目は、破壊の限りを尽くすのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お帰り、ボス

 

 

 

その日ザンザスは氷の中で目が覚めた……。

 

(なんだこりゃ……)

(つか、まだ氷の中か)

 

わりとこーゆーことがあったりした。

前を見るとカス共が集まって何かをやっていた。

どうやら呑気にカードでもやっているらしい。

かっ消したい衝動にかられた。

 

「あ~~どーするのかなぁ~~マーモン!?」

「……ムッ…ムムム!!」

「賭け狂おうぜぇええええ!!」

 

王子がマーモンの全財産を溶かして遊んでいるようだった。

 

「そろそろ休憩にしてお菓子でも食べな~~い?」

カマがなんかほざいた。

「ほら、ちょうどよく冷え冷えよ~~」

 

(アイスかよ…)

 

ザンザスの目にパ○コが入った。

よく見たらアイスが山積みになっている。

 

(おい…これまさか…)

 

中には「家光」「ガナッシュ」とか名前まであった。

 

 

 

 

(ふっ…理解したぜ……)

 

 

 

(コイツら……)

 

 

 

 

(俺を……!)

 

 

 

 

(冷凍庫扱いしやがって……!!!!)

 

 

 

 

 

(ふざけんな、殺す……絶対許さねえ…!!)

 

 

 

 

(爺……テメーも……いつか冷凍庫にぶち込んでやる)

 

 

 

 

 

「じゃー王子のジェラートとって。レモンの奴」

「いいわよ~」

「ボクのピスタチオ」

「分かったわ~」

 

(冷やしてんじゃねーよ!!)

 

 

 

 

(クソ…カス共が)

 

「う゛ぉおおおおおい! テメーらぁあああ!!」

 

イキナリ現れた超うるせえスクアーロ。

 

(カス…)

「ボスさんは全自動ジェラート製造機じゃねえぞぉ!」

(…カス…)

「ボスさんを冷凍庫にすんじゃねぇ!」

 

(…なんだ…)

 

(この…胸の痛みは…!?)※真実と言う名の暴力

 

 

 

「これはボスへのお供え者だったはずだぁ!!」

 

「あーそうだそうだ。先輩が3年前から始めたんだったーうっしっしっし」

「そうだったわね~あれ以来皆で真似したのよね~~」

「そうだぁ!!」

 

 

 

(カス鮫……)

 

 

(そうか……)

 

 

 

(…テメェが)

 

 

 

 

(テメーが元凶かぁぁああ!!)

 

 

 

(いいだろう、テメーからかっ消す)

 

 

(この屈辱忘れはしねぇぞ……!)

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでです、ヴァリアー」

 

 イキナリ入ってくるチェルベッロ。

 

 

 

「なんだぁ!?テメーら一体何モ」

「黙りなさい、スペルビ・スクアーロ」

「あ゛ぁ゛!?」

「うっせぇ、喋んなクセェんだよ。フ●ブリーズで存在ごと除菌されて来い」

「何だとぉ!?」

「今からザンザス様を解凍します。そこどけお前ら」

「え?」

「唐突」

 

(マジか)

 

「う゛ぉおおおい!?どこの誰だか知らねぇが……それは一体誰の差し金――」

「黙りなさい」

「聞けぇええ!」

「S・スクアーロ…海にお帰り。ここは貴方が居ていい世界ではありません」

「せいぜいイソギンチャクと生存競争にでも精を出していなさい」

「う゛ぉおおい!」

「うるせーよ先輩」

 

 

「九代目によりザンザス様の罪は許されました」

「と、言うわけで」

「我らチェルベッロ機関により、これから、ザンザス様を解凍します」

 

「「この電子レンジで」」

 

 

 

 

(なん……だと……!?)

 

 

 

 

 

 

(やめろ…ふざけんな……)

 

(俺は名に10を意味するXの称号を二つ持つ男XANXUS…)

 

(いずれ大ボンゴレのドンになる男が…)

 

(レンチンされるなんぞ……)

 

(ヴァリアーのボスが……!)

 

(レンチンされんだぞ……!?)

 

(冷食みてーに……!)

 

 

 

 

 

「なんかやめろとか幻聴が聞こえる気がしますが無視します」

「プライドが高い男の断末魔が聞こえるような気がしますがスルーします」

「「スイッチオン」」

「3分間です」

 

「あれ?」

「どーしたマーモン?」

「なんかアレ…リングの炎に似てる気が…?」

 

チーン♪

 

 

「…………」

 

「お帰りなさい、ザンザス様」

「あらやだ。なんか全体的にベタベタますね」

「ベッタベタのヌッラヌラですね」

「白濁被ってますよ頭から」

「……」

 

「ボ、ボス……!」

「やりやがった! あいつら……アイスごと…レンチンしやがった……!」

「あ……あ…!うわああああああ!!」

「マーモン?」

「ボクの…!ボクの…!」

 

 

「ボクのハーゲンダ●ツがぁあああああああああああ!うわぁあああああああああああ!」

 

あまりのショックにマーモンは前後の記憶を失いました。

 

「マジか…えっと…お帰りボス」

「ボス!復活ねー!復活したのね!」

「ボス!!レンチンの件は俺が墓場まで持っていくぜぇ!!」

 

 

 

「テメーら……」

 

「……1列に」

 

「並べ」

 

 起きたその日に。

 

 憤怒の炎をフルパワーで出力したという。

 

 ザンザスの怒りの鉄槌は。

 

 その後。

 

 未来永劫。

 

 語り継がれたという……。

 

 

 

 

 

 






お辞儀少女の次話よりもボスの解凍記念日を優先しましたが何か??


凄い気分がいいので、両方読んでくれているというかなりアレな読者さん達に、
アルティメット老害なダンブルドアと九代目の違いを教えちゃいます!!




愛がない方が校長先生。

歪んだ愛がある方が、九代目です。


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ついったまとめ7

 ずっと、一人で生きてきた。

 

自慢じゃねぇが、ずっと一人で生きてきた。

気がついたら親なんかとっくに居なかった。

何かぼろい家の隅で動かなくなっていた死体があったからアレがそうだったのかもなぁ。

そんなことはどーでもいい。それから盗みも殺しも何でもやったし生きるためだった。

剣の腕だって最初はテキトーだった。

 

 

そっから色々あって、ちゃんと剣やって、マフィアの学校入って。

そんで、お前に会ったんだぁ。

一目見て、敵わねぇって思ったぜぇ。

……だから利き手なんざくれてやった。

身一つしかねぇ、俺だから、お前が手に入るなら利き手位くれてやると思ったんだ。

次は8年、くれてやった。

 

 

だから、この髪の毛はテメェのもんだ。

テメェにくれてやった時間みてぇなもんだ。分かりやすかっただろぉ?まぁ、ムカつくけど許してくれよ。

あとは――あー……心臓だなぁ。

お前の盾になったんだぜぇ? 悔いなんかねぇよ、とっくに命賭けてんだから。

 

……だから、そんな顔しないでくれ。

 

 

「…スクアーロ」

 

 お前に出会わなければ強いままでいられた、なんて言わねぇよ。

 

「……言うな」

 

 そんな強さはもう要らねぇよ。

 

「喋るな」

 

 お前の為だったらいくらだって失えたんだぁ。

 

「……死ぬんじゃねぇよ、カス」

 

 なぁ、ボス?

 

 

 

 

 

 

 

 ゴーストルール

 

「死んだことに気づかず呪いを解くために金を数えるマーモンの霊」

「死んだことに気づかずご当地殺し屋殺しの標的を探し続ける王子の霊」

「自分が死んだことに気づかず晩飯のボスの肉を調達しようとする嫁の霊」

「死んだことに気づいたが、隣に居ない鮫を探し続けるボスの霊」

 

 

 

 

 

 

 看病

 

「今日はボスさんを独占できるぜぇ!」

「……」

「アンタは辛ぇだろぉけどなぁ、俺は嬉しいぜぇ」

 

 

「…」

「こうでもしねぇと頑丈なアンタは止まらねぇからなぁ」

「……カスが」

「うるせぇ、いいか、今日だけは思いっきり甘やかしてやるんだからな、覚悟しろよぉ」

「……」

「今日だけは俺だけのボスさんだ」

 

「……」

 

 

言えるわけがない。

嬉しいなんて。

やっと独占欲を出したお前が、愛しいなんて。

 

こっちはもう、16の時から惚れている。

 

 

 

 

 

 

 命令

 

 

 

「で?」

 

 赤面のスクアーロ。

 

「テメェは、俺に、どうしてほしいんだ?」

 

 本人はやる気満々である。

 こうなったのにはいきさつがある。

 普段アレコレされまくってるスクアーロは夜のストライキを敢行した。それに対してのXANXUSは媚薬というカウンターを繰り出した。

 

 

「ハッキリ言えよ、スクアーロ」

 

 ここぞとばかりに普段呼ばない名前を呼ぶ、かつてないほど紳士的だ。

 

「今まで自分勝手で悪かったな、お前の負担を考えてやらなかった。

 …で? 今日はどうなんだ? 一晩中添い寝してやろうか?」

 

 超面白がっている。

 

「…くれ…」

「あ?」

 

 

「あぁもうクソメッチャクチャにしてくれぇえ!!ボス!!」※やけくそ

 

「あ?」

 

「だから…! 脱がせて縛ってアンナモノやコンナモノを俺のケツにぶち込んでくださいぃいいいいい!!」※やけくそ

 

「すげぇな、お前…AVみてぇなこと言ってんぞ…」(退)

 

「誰のせいだクソがあああ!」

 

 

 

 

 

 8年

 

忘れる訳ねぇよ。

不機嫌そうな顔付きだとか、褐色目の肌の色だとか。分厚い唇だとか。

つーか、あの眉毛一体どうなってんだぁ?

なんで割れてんだぁ?

極めつけは目だ、真っ赤な、血の色をしたあの目だ。

一目見て敵わねぇと悟った。

確かに覚えた、その特徴的な顔。

 

俺は、忘れねぇぞぉ。

 

 

 

 

 

 英数字の持つ短絡的意義

 

ローマ数字とはあまり縁のない人生だった。

使うのは、漢数字かそれともアラビア数字、なんて世界で生きてきた。

だから俺には分からないよ。

 

アイツがXの字を見るたびに、一体何を思うのか。何を思い出すのか。

 

……なんて、きっと、俺には一生分からない。

 

 

 

 今となっては、ただ、この手をさしのべるだけの勇気があればいい。

 

畜生、ドカスが。

アイツは何も分かってねぇ。本当に、何も、分かってねぇ。

そのくせ分かってるなんぞ簡単に言いやがるからムカつくんだ。

 

ガキの頃無くなった左手を見てた俺の気持ちがテメェに分かるか。

あの時切れた右手を見ながら俺が何と思ったか分かってたまるか。

 

今となっては、ただ、この手をさしのべるだけの勇気があればいい。

 

お前はただ、残ったこの手を掴めばそれでいい。

 

 

 

 

 戻れないと思い込んで、死ぬまで戦うと誓った verXANXUS

 

狂った母親に背中を押された場所からすべてが始まった。

周囲はひたすら次の頭領であることを望むから、全てのカス共に応えてやった。

何も見えないフリをして。何も聞こえないふりをして。

 

 

 

 

 誓いを立て死ぬまで足掻いて最終的には走馬灯を一笑せよ

 

 

剣士っつーのはある意味ギャンブラーだぁ。

賭け金は己の命のみ。ベットしたら、レイズ合戦。

ショーダウンまで突っ走れ。

要は勝てばいいんだぁ。誇りが許す限りセコい手もコスい手も使っていい。

あ゛? 負けたらだぁ? そんときゃ、さっさと死ね。

やり切ったと笑って死ね。忘れんなよぉ!

 

 

 

 

 名前

 

「おい、カス。テメェの本名なんだ」

「なんだぁ……?突然」

「気になった」

「う゛ぉぉぉぃ…俺の本名かぁ……忘れちまったなぁ」

「は?」

「色んな名前で呼ばれてきたからなぁ。忘れちまった」

「…」

「本当の親は早くに死んじまったし」

「…」

「その後はテキトーに呼ばれた」

 

 

「クソガキだとか小僧だとかチビだとかそんな感じだぁ。そんで気が付いたら親がつけた名前なんざ忘れちまった。だから分かんねぇよ、もう」

「…」

「今はスクアーロでいいぜぇ」

「…」

「お前に出会ったときがスクアーロだった。だから、この先俺は、一生S・スクアーロだ」

「…ほざけ」

 

 

 

「テメェなんざカスで十分だ」

 

 

 

 

 

 戻れないと思い込んで、死ぬまで戦うと誓った verスクアーロ

 

「ボス! 開けろぉおお!」

「……」

「ここを開けろぉおお!」

「……無理だ、それはできねぇ……」

「ふざけんなぁあ゛!! 開けろっつてんだろぉ!!」

「……できねぇよ、カス」

「俺も……俺もそっちに行かせてくれぇ!! 行っただろぉ! アンタと一緒だって!!」

「…」

 

「ずっとずっと一緒だって!! 約束したじゃねぇかぁ!!」

「……すまねぇ……」

「こんなん……こんなんねぇよ!! 畜生がぁ! 馬鹿野郎!!」

「……」

「許さねぇぞ!テメェ絶対許さねぇからな゛ぁあああああ!!」

「……カス」

「……クソが……! ……ボスの馬鹿野郎……!!」

 

 

 

 

 

「俺を……置いていきやがって…………!」

 

 

 

 

 

 

「迫ってきてんだよぉおおおお!! 茶羽がぁあああああ!!」

「……」

「ああああ! これ何匹いんだよぉおおおお!! ふっざけんなぁああああああああああああああああ!!」

「……多分、20匹位」

「あ゛あ゛ああああああああああXの称号ふたつ持ってんじゃねぇええええええええええ!!」

 

「カサカサ言ってんだよぁああああああああああああ!!」

 

 返事はない。

 

 開かない鉄の扉。そして開けてくれないザンザス。

 

 退路は全て断たれた。

 

 もう、戻れない…とスクアーロは確信した、

 

 死ぬまで戦うと誓った。

 

「う゛ぉおおい! 来やがれ…ゴキブリ共!」

 

 

黒光りするGが一斉に、強襲を開始した――。

 

そして始まる――。

 

「う゛ぉおおおおおおおおおおおい!!」

 

――伝説の、死闘が……!

 

 

 

 

 

 



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NL(ボス×女オリ主)
貴方の写真が灰になるまで。




※なんと非ザンスク。

※ボスが普通の女の子と付き合っているという超設定です。

※やっつけ仕事。

※台本形式

※台 本 形 式ッ!

※圧倒的台本……ッ!



それでもいいというドカスの皆さんは、どうぞお読みください。



 

 

 

カス鮫「ボスは写真残さねぇ主義だったからなぁ」

 

 

 知ってる。暗殺業やってるんだからって言って、私が欲しいと言ってもそれだけは許してくれなかった。仕方ないんだって思って諦めてた。

 

カス鮫「だからお前のばっかりだなぁ」

   

ボス嫁「…そうだね」

 

 開いたアルバムからは、私の写真ばかりが出てきた。

 

 

 

 ボスさんに言うなって口止めされてたんだけどなぁ、とスクアーロが言う。

 

カス鮫「お前の写真をいつも持ち歩いてたんだぜぇ」

    

ボス嫁「え?嘘でしょ、まさかー」

 

 そんなことするタイプに見えない、と言い返した。

 

カス鮫「ああ見えて意外に繊細で純情なんだぜぇ。ボスさんはよぉ」

 

ボス嫁「あはは…知ってるよ」

カス鮫「ボスさんは細けぇからな」

   

ボス嫁「だよねー。分かる」

カス鮫「お゛、すげえ写真があるぜぇ」

 

 

 スクアーロの持つ写真はやはり私だけが映っていた。やたらと近い距離で撮られたそれは驚いた私の顔が大きく目を開いている。一体いつのだろう。嫌な写真を何時までも持ってるなーと、思った。

時だった。

 

 

大きく見開いた目に映る何かがあった。

 

 

 

よく見るとそれは人の顔だと解った。

 

 

その表情は、笑っていた。

 

 

とても穏やかな笑顔だった。

 

 

 

これにしよう、と言った。

 

 

カス鮫「いいのかぁ?それで」

ボス嫁「うん、だって」

 

 

 

 ふと、目の前が曇っていくのが分かった。

 ぽとり、と何かが写真に落ちそうになる。

 慌てて目を拭った。

 なのに、どんどん、次から次へと溢れてくるのだ。

 

 

 

 

「だって、二人で映ってるから」

 

 

「…ツーショットだから、多分、一枚だけの」

 

 

「だから、教えてあげたい、から」

 

 

「…すごくいい顔で、笑ってるよ、って」

 

 

 

 

 

カス鮫「…そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクアーロ「じゃあ、コイツを棺桶に入れてやるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の大好きな人は、写真も残らなかったけど。

 

 私はちゃんと覚えてるから。大丈夫。

 

 でも、もしかしたら貴方は知らないかもしれないから。

 

 教えてあげたいな、って思ったから。

 

 多分、ちゃんと鏡見たことないから、知らないんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 ……貴方は、こんな顔で笑うんだよ、って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

====以下あとがき====

 

 

 

 

RTネタと、フォロワーさんからの希望消化です。

 

どうやらフォロワーさんが、「台本形式苦手!」な方だったので率先して台本形式にして引き受けました。もう一度俺を褒めて下さい。ボス。

 

それにしても非BLで初挑戦ノーマルCPだったにも関わらず何故かホモ臭いですね不思議です。遺品整理をする長年の愛人と新妻の図にも見えてきましたぁ。くやしいでしょうねぇ。

 

やらかしたらスッキリしました。

 

 

 

 

 








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10年ぶりの蜜月を。



※またしても非ザンスク!! またしても非ザンスク!! ホモじゃない!!

※ボスさんが結婚してます。嫁が居ます。

※嫁目線です。





 

 

 

 自分の人生に悲観していたわけじゃなかったけど。

 

 流石にここまでとは思わなかった。

 

 なんて、似合わないようで似合ってる礼服姿の今日初めて顔を見た婚約者、このまま順当に行けば数時間後には夫になっている人を前にして思った。

 旦那様は34歳。ざっくり言うと自分の2倍の時間を生きている人だった。

 しかもその時間は決して平らで和やかな道なんかじゃないということは、鋭すぎる目やどう見ても事故が原因じゃない顔に走る傷跡を見れば世間知らずな私でも理解ができた。

 まぁ、人には色々ある。その色々が私にも降りかかってきたわけだから、分からないでもない。

 

 

 

 子供の頃、私は自分に『お父さん』は居ないのだと思っていた。

 ただ暮らしていく分のお金には困っていなかった。体が弱かったから、よく寝込んでいたし、ひどいときにはベッドから起き上がれない年もあった。そんな私の莫大な医療費を1日のほとんどを私の世話に費やしていた母

が稼いでいる様子も、国からの補助である様子もなかったから、きっと誰かがお金を送ってくれてるのだろうとはぼんやりと思っていた。ともかく、私がその真実を知ったのはもう少しだけ大人になったときだ。

 

 寒い冬だった。母が死んだ。事故だった。

 

 この時期には、いつも肺や呼吸器を壊して生死の境を彷徨う私ではなく、もう若くはなかったけど死ぬには早すぎる年齢の母が事故でぽっくり逝くなんて何だか悲しいよりも、寂しいよりも、順番が違うんじゃないか? という妙な疑問だけが一番最初に出てきたというから我ながら薄情だろう。

 だが、実際薄情というよりも、私は勝手に『母が居なくなれば、もう病がちな私の面倒を見てくれる人間は居ないのだから私はきっとこのまま死ぬんだろうな』と思い込んでいたため、特に寂しいとも悲しいとも思わなかったのだ。

 あと数か月したらまた会えるかな、とかお母さんは待っててくれてるかな。とか諦めが一周回ったようなことを思っていた。

 ……結果から言うと私にその数か月後は来なかった。

 

 代わりにその翌々日に、父親だと名乗る人が現れた。

 え、居たの、とびっくりしたし。やっぱり、とも納得した。笑えることに、私はお金の出どころは薄っすら理解していたけど、自分に父親が居るとは思っていなかったのだ。

 そんな『父親』は裏社会の人間で、いわゆる中小マフィアのドンという立場で、お母さんはその昔彼の愛人だったらしい。それで子供を身ごもったが、彼にはすでに正妻が居たのでお母さんと結婚することはできなかった。そんな時私が生まれて、運良く(?)女だったからこのまま静かに生きるのであれば、ということで毎月そこそこの養育費を支払うことを条件に愛人とその娘はファミリーから姿を消した……という、何でもない実によくある話だった。

 で、母が死んだし、私は女だし、更には病弱だけど、父は何故か私を引き取りに来たのだった。

 

 というのが私の人生のダイジェスト。

 それから1年後、どうやら私は結婚することになったらしいと父から告げられた。特に興味もなかったけど、まさか自分が結婚できると思ってなかったので、かなり驚いた。

 ただ、そんな私でも「相手は34歳」と聞いたときは多少げんなりしたものだ。

 34歳、オッサンだ。自分より一回りどころか今の人生をもう一回やり直してやっと追いつく年齢だ。きっと頭はハゲはじめお腹はメタボの兆しがありそして足は地獄のように臭いのだろう。

 そんなのと結婚しろ、嫁に行け、家庭を築けと言われてもできるかどうか。そもそも自分で言うのもアレだがこの通り私は病弱だし、子供を産めるかどうか。……それ以前に、作れるかどうか。

 

 相手はマフィアだ。それもイタリア最大のボンゴレファミリーの有力者だ。

 彼は先代ドン・ボンゴレの息子だ。『事故が原因』で大きな怪我を負ってしまったゆえに、次のドンの座を辞退したが実力は本物だろう。何少し年齢は離れているがどうという事はない、何度か会ったがそりゃあいい男だった。一見どこも悪そうには見えなかったのだが、アレほどの男がドンを継げないというのは正直惜しいが。

 まさかあのボンゴレと婚姻を結べるとは。これで我がファミリーは……。

 

 ……やっぱりそれか、と思った。

 それにしたって三文芝居のカス脚本みたいな話だ。

 

 こうして私の嫁入りは決まった。

 

 

 

 

 で、その結婚生活だが。

 

 当然今までマフィアの世界も知らなければマフィアの妻がすべき仕事もなすべきことも何ひとつ分からないまま嫁に行った私だったが、あまり困った覚えはない。

 夜仕事をこなすことが多い夫とは日中は顔を合わさないし、家中は既に取り仕切っている家政婦と執事と幹部を兼任している超優秀なルッス―リアが居た。分からないことは彼のような彼女が教えてくれたし、夫とは夕食を共にし、たまにその後の1時間ほどを静かに同じ部屋で過ごす程度だった。それにしても無口な人だったので、基本同じ部屋で本を読んでいるだけだったような気もするが。

 朝方に帰ってきたあの人を迎えたこともあった。正直引いた。ものすごい量の血を浴びていた。何も言えず蒼白になっている私を一瞥し「帰った」と言うや否やで速攻部屋に戻っていったっけ。

 このような場合、妻は「おかえりなさい」と言って抱き着いてキスでもしなければいけなかったのだろうが返り血にビビった私にそこまでの考えは及ばなかったのだ。

 

 

 あとは、ボンゴレ中枢の妻だけを集めた会などにもたまに参加した。やはり自分よりも10歳上の奥様然とした淑女たちが声高に存在を主張するマウンティング合戦の場だ。

 その中でまだ小娘にすぎない私はやはり異邦人で、どこか垢抜けない田舎娘と見下され、更に夫はボンゴレの暗部の権力者だというから当然異端で、更に私の出自が遥かに格下のマフィアの妾腹の娘だとバレた日にはもう、白眼視どころか憐みの目で見られていた。結果、割と皆私に優しくしてくれていたような気がする。

 それはもう、腫れものか何かを触るような丁重さで。

 女は自分よりも遥かに劣る格下の者に関しては、逆に優しい生き物なのだ。

 ただ一人の例外は10代目ボンゴレの妻であるドンナ・ボンゴレだった。彼女だけは、「まだ若いから大変かもしれないけど、ザンザスさんはいい人だから、きっと大丈夫だよ」……と世にも恐ろしいことを何のためらいもなく仰せになった。凄い人だと素直に思った。

 そんな会合も別段嫌ではなかったのだが、毒を盛られたらしく意識が3日浮上しないという状態を得てからはもう出ていない。

 

 

 

 結婚してから9年経った。夫が早期引退を宣言した。

 ドン・ヴァリアー座を後継に譲り田舎に隠遁することに決めたと言っていた。

 いいな、と問われたが。そもそもその話自体数年前から言っていたことだし何を今さら、と私も着いていくことにした。

 ボンゴレの私有地であるという土地に少し二人で暮らすには大きすぎるんじゃないか、と言う程の家を建てたが御曹司育ちの彼にはこの位でないと落ち着かないのだろうと思って納得することにした。掃除や手入れが大変そうだと思わずげんなりした。

 当然引退したとは言っても彼は暇ではない。来客があったり、仕事があったりで、出かけたり帰ってこなかったりでやはり忙しい。

 つまりせっかく建てた家にも寄り付かないまま、私たちの結婚生活は10年目に突入しようとしていた時だった。

 

 

 

 ただいま、と同時に帰宅したザンザスが抱きついた。何が起こったのか、イタリアが沈むのか、世界が終わるのかと一瞬頭が真白になった。

「え……? あの、コレ、なんです? どうかしましたか??」

 お腹でも痛いのかな、と思って腹に手を当ててみた。刺しても通らなそうな腹筋があった。

「どうしちゃったんです?」

「夫婦なんだから問題ねぇだろ。何が悪い」

「……え? うん……??」

 いや、違う。聞きたいのはそうじゃない。

 どうしたんだ、変なモノでも食ったのか、おいザンザス。と聞いているのだ。朝はパニーノ、昼は昨日の残りのラザニアを食べさせたはず。どこかで拾い食いでもしたのだろうか。

 元々色素の濃い夫の顔は心なしか赤くなってるように見えた。

 更には何か少し戸惑っているようにも思えた。

 

「……あの……?」

「……嫌だったか?」

「いえ、そんなことは」

「……本当か?」

「はい、むしろ嬉しいですよ」

「……」

「……もしかして、ずっと……コレしたかったんですか?」

「…………」

「ザンザス様?」

「……………………」

「貴方?」

 

 

「ずっと、病気がちだっただろ」

「元からです」

「だから、血は、付けらんねぇだろ」

「……あぁ、そういえば……そうですね」

「マフィアの妻なんぞロクなもんじゃねぇ」

「そうですか? 大変だったとは思いますけど」

「命だって狙われただろ」

 

 もう何年も前になる。

 毒を盛られたらしく意識が3日浮上しないという状態になったらしい。自分のことなのによく覚えてはいないが

ただひとつ、手がとても温かかったことを覚えていた。

 目を覚ました時、この人が傍に居た。その時手が温かかった理由を知ったのだ。

 3日間ずっと、この人が手を握っていたことが分かったのだ。

 

「ありましたね、そんなことも」

 

 そんなちっぽけなことだった。だが、紛れもない、その時決めたのだ、この先一生、この人の傍に居ようと。

 

「だからお前に触れなかった」

 

 嘘でしょう、触ってたじゃないですか。わりとしょっちゅう。

 夜中にやってきて、頭を撫でたり名前を呼んだりしていたでしょう、起きていたんですからね。

 ……と、素直に言うほど私は無垢でも純粋でも無神経でも空気を読めない人間な訳でもない。

 

「じゃあ、今は、もう触るんですか?」

「……嫌か?」

「これからは、キスしてハグしてお帰りなさい、でよろしいですか?」

 

 嫁いだ時に比べれば、大分色素が濃くなった赤い目が見開かれて、わずかに揺れた。

 

 まぁ、なんというか。要は不器用なのだ。私もこの人も。

 

 10年かかった。お互いに。

 10年の月日と暗殺組織とこの人のマフィアとしてのキャリアを全部支払わなければ、ままごとのような結婚生活も始められなかったのだから、これはもう、笑うしかないだろう。だって、冗談みたいな話。

 

 

 

 自分の人生に悲観していたわけじゃなかったけど。

 

 流石にここまでとは思わなかった。

 

 

 

 そうやって私はひとしきり笑った後、結婚式を挙げてから10年経って、やっと夫婦の真似事を始める気になった少し老けた17歳年上の夫の頭を思いっきり抱きしめたのだった。

 

 

 10年ぶりの蜜月を。

 

 







8月3日はハチミツの日~~。


以下非BLでノンケなボスにもしお嫁さんが居たら?個人妄想

現役やってる間は結婚一切しないのに、40半ばとか50位でイキナリ引退宣言して田舎に引っ込んで、しばらくして「ザンザス元気にしてるかな~」と様子を見に来た10代目辺りが尋ねて行った時に急に黒髪赤目の赤ちゃん抱いた20代半ば位の若奥様が「あら、どちら様ですか?」ってイキナリ現れる……位に思っています。
 つまり誰にも言わないで勝手に引退して勝手に若い嫁さん貰って勝手に子供作ってそう。ってイメージです。
 あと何かボスってすげぇ若い嫁さん貰ってそうだし。


 今回は知り合いと「こんな感じじゃね?」と話し合った結果「やれ」って言われたのでやりましたァ……。BL書いてるはずなのにね……どうして……こんな……。
 次はちゃんとBLを書きます。ザンスクに栄光あれええええええ!!(爆死)


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Amazing Grace 1


※NL注意


※ボスの奥さんが出くるので注意




 

 

 ボンゴレ10代目の時代には、その初期と中期で傑出したドン・ヴァリアーが続いたと言われている。

 

 

 ヴァリアーはボンゴレの影と言われその影響力は時としてドンや門外顧問にも劣らず、むしろボンゴレ構成員にとっては外部組織であるチェデフの長や顔も分からないドンその人よりも、手段を選ばぬ恐怖や、鮮やかな手口を以て確実に事を成し遂げる畏敬の念を抱かれている。

 しかし、影であるがゆえにその歴代の長の素性は秘密に包まれるのは必然だ。

 特に10代目前期にドン・ヴァリアーを務めたと言われる男の資料は殆ど現存していない。

 にもかかわらず、未だに人々の口に『至高の暴君』と称される彼が、どのようなことを成し遂げたのかは、ボンゴレ公式文書が示す通りである。

 しかし、私人としての彼がいかなる人物だったのかを遺している資料は極端に少なく、もはや僅かとなった彼の人を知る人間はかたくなに口を閉ざすことを選ぶ。

 まるで、「思い出したくもない」とでも言うかの様に。

 

 

 ゆえに、ここで、一つの資料を公開しようかと思う。

 おそらくはこれが現存するだろう唯一無二の資料だろう。

 だが信憑性は確かだと保証がされている特級の文書だ。

 

 先日亡くなった、ドン・ヴァリアーXANXUSの妻の残した手記である。

 

 

 

 

 あまりに長すぎるために一部編纂を加えたことを許してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 ===

 

 

 

 これは、私の記録である。

 大きな決断が前に迫る只中において、少し今までの人生を整理してみたいなどという気持ちなったのでこれを記すことにした。

 そうでなくとも、私を案じてくれたあの人の腹心が用意してくれたこの別荘は、優しい。

 だから思い出してみようという気になってしまった。

 包み隠さず記そうと思おう。愚かさも、エゴも、温かさも、愛しさも、その全てを。

 

 

 どれ程悲しくとも、いつまでも嘆いては居られないのだから。

 復讐の準備が、既に私を待っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 私の生家は大ボンゴレの分家筋だった。

 母の祖母、つまり曾祖母がボンゴレ8世の実妹だったと言う。

 代々男の子に恵まれず、一代に一人女がいるだけの淋しい家系だった。

 あまり権力にも財力にも恵まれず、ただ、血筋だけが取り柄という家だった。

 

 

 両親はのんびりとした人だったが、父の兄、伯父は中々の野心家だった。

 私の顔が祖先であり、女傑だったというボンゴレ8世に似ていると大変歓んでいた。

 

 「私の天使。お前は今に、きっと、美しくなるだろう。戦女神と謳われた、誇り高き先祖の様に」

 

 などと甘い言葉を吐く半面、教育熱心な人であった。

 わざわざ姪の私に家庭教師をつけてくれるほどに。

 そして、どうやら私には才能があったらしい。瞬く間に幼い私は8か国語を習得した。

 今思うと既にこの時点で伯父の掌の上だったのだろう。

 

 

 12歳になったその日、私は当時ドン・ボンゴレだった九代目に目通りが叶った。

 穏やかで、優しそうな老爺に見えた、だが、どこか疲れている様にも映った。

 彼は私の顔を見ると目を見開き、すこしして、口元に穏やかな笑みを浮かべた。

 

 「驚いた、本当に先代にそっくりだね」

 

 能力の方も優秀なのですよ、と自慢げに言う伯父の言葉を聞きながら、既に九代目は何かを目算していた。

 

 

 その後私は寄宿学校へと入った。

 学業に全力投球する青春を送ったことが吉だったのか、凶だったのか。

 ともかく浮いた話のひとつもなく、歴史や工学を片っ端から手を付けた。

 

 学問に打ち込みすぎた、ある日、父から「ボンゴレ主催の夜会が開かれる」と帰ってくるようにとの書簡が来た。疑問は多かった。まず、何故ボンゴレ主催の夜会に私など分家も分家の人間が呼ばれるのだろうか……と。

 ルームメイトはくすくすと笑った。

「そんなの、決まってるじゃない」

「あなたに、色っぽい話のひとつもないから、親がおせっかいを焼こうとしているのよ」

 色恋の達人だった友人の言葉を真に受けた私は、「そんなもの、ある訳がないのに」と両親に半ば同情しつつ、せっかくの夜会、それも大ボンゴレの夜会なのだからきっと、さぞや、見た目も美しく美味な名産料理がどっさりとテーブルの上に飾り付けられるのだろう……と、それだけを楽しみに旅行鞄ひとつで帰ったのだった。

 色気よりも、食い気だった。

 

 

 慣れない夜会服は真紅だった。

 若年である少し派手なのではないかと思った。紅色は美しい、嫌いではない。だが、まるで血のようなそれが平凡な小娘にすぎない自分に似合っているようには見えなかったのだ。

 この服、少し派手じゃない? と聞くと両親はのんびりと似合ってるから大丈夫、と言った。そもそも服を選んだのは伯父と、その妻だ。伯父はひどく満足そうだった。

「どこか素敵な出会いの一つでもあるといいのだけどね」と苦笑する母に、伯父は満面の笑みを浮かべた。

「まさか、大物を狙っているのですよ」と。

 

 

 

 夜会は楽しかった。

 見たこともないほど大きなホール、複雑なつやつやに磨かれた大理石がはめ込まれた床。着飾った女たち、古き良き伝統通りの黒服姿の男たち。

 そして何より広いホールに点在する純白のテーブルクロスと、その上を彩る色彩豊かな料理の数々。

 さぞかし舌の肥えた客人を満足させるべく最高級の芸術の枠まで磨き上げられたそれらが、深窓の令嬢であるかのように陳列していたのだった。

 あぁ、と思わず嘆息した。国中から美女を着飾らせて、一同に集め、玉座から睥睨したと言われる東洋の君主たちは、きっとこんな気持ちだったのだろうと。

 それらをためらいがちにつまみながらも、舌鼓を打っている時だった。

 

 こちらへ来なさい、と伯父に呼ばれた。あぁ、そうだった、九代目に挨拶するようにと言われたのだったっけ、と思い出す。面倒なことはさっさと終わらせてまた食べようと、伯父の所へ向かった。

 九代目の傍らには一人の男が居たのが見えた。

 若者、という年齢ではなかった。しかし、色あせてない若々しさがそこにはあった。

 太陽の恵みをめいっぱい受けたのだろう褐色の濃い肌の色をしていた。均整の取れた体つきの偉丈夫、という表現がぴたりときた。単純な美形と言うにはやや粗野な顔つきで、頬や額には何かの負傷だろう、古い傷跡がなぞってあり、重く色素が沈んでいた。

 濡れ鳥色の髪の下で、暗く赤い目が鈍く光っているように見えた。

 私はただ呆けたようにその赤を見ていた。

 このときは、全く気付かなかったのだが、実はお互い全く同じ表情だったらしい。

 

 彼も、かなり、驚いていた、らしい。

 

「やぁ、覚えておいでかな? あの日の可愛らしかった少女が、これほどまでに美しくなられるとは」

 

 私も老いるハズだ、と笑った老爺は、まぎれもない九代目その人だった。

 ……もう、長くはないだろう、と私は思った。

 

「どうだろう、ザンザス」

 

 

 伯父と九代目が何を話していたのか、よくわからなかった。

 ただ、ひとつ、愚かで浅はかだった、若い娘だった私に分かったのは。

 

 

 一目見て、この人を好きになったという感情だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






この後ボスをギッタギタにしてやります……。


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Amazing Grace 2





 まだ若い娘が少し遅めの初恋に浮かれて、夢中になっている頃、男として成熟期を迎えていただろうドン・ヴァリアーは婚姻へと踏み切ろうとしていた。

 老齢になっていた義父は『息子』に優しかった。

 また、九代目ドン・ボンゴレだったティモッティオは結婚と政治を結びつけて考える人間ではなかった。

 優秀だがひどく気難しい息子が血筋は確かな分家の、若く、賢く、気立ての良い娘を気に入ったと考えて、口を出すことはなかっただろう。

 

 その一方でドン・ヴァリアーの狙いは的確だった。

 この時期、イタリアの裏社会界は戦国時代ともいうべき状態だった。

 旧いファミリーは没落し、新しく台頭してくる組織が多く、いわば下剋上も珍しいことではなくなっていた。ゆえに、自衛のためかもしくは侵略の為か目的は違えどもボンゴレと同盟を結びたがる組織は少なくない状況にあった。

 そして、同盟のうち最も早く確実なのは血による同盟である。

 未だ独身であるXANXUSの手にも多くの縁談が舞い降りたことだろう。

 

 しかし、XANXUSは全く意に介さなかった。むしろ、若い頃から過激だったボンゴレ第一主義とでもいうべき苛烈さは全く失速していなかった。欲しかったのは自らの思想と位置を大々的に公表するための『場所』と『機会』、そしてボンゴレに仇なす全ての者への布告である。

 年頃の良血統の女を迎えるのには最適だ、と判断したのだろう。

 

 

 

 純真無垢で恋に盲目になっている若い娘と、幾百もの修羅場に血の雨を降らせて来た男との交際期間がどのようなものだったのか、手記には書かれていない。おそらくは、書かなかったのだろう。ただ血なまぐさい話は一切なく、凡庸な女の心を満たすには十分な交際だったとは思える。

 だが、温度差は確かにあっただろう。

 

 

 ボンゴレに連なる者は最良の決断を下すことがある。

 

 まるで、『そうなること』を初めから分かっていたかのような。

 

 

 

 

 

 

 ===

 

 

 

 

 

 

 期待と不安なら、後者の方が大きかった。

 何か自分は夢を見ているのではないか、と思った。

 だとしたら、これから覚める現実こそが悪夢なのではないか……と。

 

 ずっと暗い世界なんて知らない世界で生きてきた。

 それも、マフィアの中でも影と言われる組織の長など映画や小説の中だけの話だと思っていた。

 与えられた血に沿わず、随分と呑気に生きていたものだ。

 

 

 そんな何も知らないで生きてきた小娘だった私を、屋敷に居た人殺し集団、ことボンゴレ暗部ヴァリアーはまるで受け入れるつもりはない様だった。

 獲物を観察する前の蛇のようなおおよそ人の温かさを感じさせない視線はあまり心地の良いものではなかった。

 歓迎されていないことは明確だった。

 ……約1名を除いては。

 

「う゛ぉおおおい! アンタがボスの奥さんかぁ!!」

 

 忘れもしない。

 銀色の髪のおおよそ人間とは思えない美貌の持ち主が非常に耳障りなダミ声を響かせてきたのだ。

 思わず、慎みを忘れて自衛に出た。

 私はダミ声に負けない位、品のない悲鳴を上げて美貌の男の顔面に肘鉄を叩き込んでいた。

 横で夫となったXANXUS様が大爆笑していた。

 全く、屈託なく笑う人だった。

 

 

 

 名実共にマダーマとなってからは、とにかく必死だった。

 

 散々勉強してきたハズの語学は、婉曲な言い回しを好む狸爺たち相手に全く役に立たなかった。机上で簡素な言葉で書かれた論文を読み解くほうが私には余程簡単だった。

 それまで積み重ねた教養や知識は実用できず、それどころか本に書いてあることは実は周回遅れであることを思い知らされた。

 礼儀作法などなにひとつ知らなかった。

 何度も何度も失敗を繰り返し「ドン・ヴァリアーは随分と若い奥方を貰われた様だ」と何度も皮肉を浴びせられた。

 そして、まるで人を使ったことが無かった私は、使用人たちを満足に捌けなかった。

 

 何度も落ち込んだ。自慢ではないが、幼い頃から何事も『そつなくこなす』ことができていた私にとっては、ここでの日々が人生初めての挫折だった。

 あまりにも、違いすぎた。

 私がそれまで所属していた世界との常識とは。

 マダーマとしては勿論、おそらくは同年代の女と較べても、私は無様だっただろう。

 とにかく不安で、すっかり自信を無くしてしまった。

 急にのしかかってきた血が重かった。大ボンゴレの一角のマダーマ、いう立場に押しつぶされそうだった。何より、失望されることが怖かった。

 そんな私の子供じみた恐怖など見通していたのだろう。

「気にするな」とXANXUS様は言った。「お前が初めから上手くやれるなんざ思ってねぇよ」

 じゃあ、どうすればいいのか、と半ば自棄になっていた私は詰問した。

 女としても、ボンゴレのマダーマとしても、残念ながら私は4流です。

 このままではあなたのお役に立つことは到底適いません、と。

 

「上品な女が欲しいなら他を当たっている。見た目が良くて育ちが良いのはいくらでも居る」

 

 

 思わず愕然とした。

 

 

「何にも惑わされず、ボンゴレに相応しい責務を果たせればそれでいい」

 

 

 ……何という野郎に嫁いでしまったのか、と思わず後悔を禁じえなかった。

 

 

 

 

 しかし、思えばXANXUS様は常にこのような人だったのだ。

 

 ヴァリアーという組織を俯瞰してみれば分かることだが、その出自の問わなさは、10代目の守護者、ひいては初代ボンゴレの守護者勢似ている節もある。義父だった九代目は全ての守護者や幹部をイタリア系のマフィアから選ぶと言う血による忠誠を基盤とした堅実さを好んだが、XANXUS様は徹底実力主義を拘り抜いた。

 

「ボスはアンタのことけっこー大事にしてるよね」

 

 幹部ベルフェゴールはこの時期の私によくそんなことを言った。

 

「俺達があんなミスぶっこいたらさ……とっくに、首、飛んでる」

「でも、ボスは責めようともしないじゃん? つーことは、アンタ結構愛されてんのかもよ」

「まぁ、頑張ってよ。『マダーマ』。けど、あんまり醜態さらすとそのうち王子が寝首かくから」

 

 どうかプレッシャーを理解してほしい。

 幹部は全員、そんな感じだった……あのスクアーロ以外は。

 

 

 それでも、時間さえ積めば人間なんとかなるものだ。

 1年経つころには何とかしてヴァリアーの女主人としての役割を果たすことができるようになっていたと思う。

 

 





タイトル変更しました


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Amazing Grace 3

 

 ボンゴレ10代目は言った。

 

「アイツは最初から、常に仕掛ける人間だった。罠を仕掛けるのが上手かった」と。

 

 

 

 

==================================

 

 

 

 

 

 物理的に、血は怖かった。

 

 これは生物としての純粋な恐怖感だった。

 他人のものだろうが、自分のものだろうが生暖かいし、鉄臭いし、なかなか落ちてはくれない。

 ましてや、大量に流れている場面など想像するだけでも鳥肌が立つ。

 ……という、境遇で生きてきた人間にとってヴァリアーはあまりいい場所とは言えなかった。

 設備はいい。料理もおいしい。籠城だってできる警備体制。どんな災害が来ても大丈夫そうな安全設計。そしてついでに空気は綺麗だ。

 

 

 だが、帰ってくる者たちを迎えなければならない身としては、血はあまり見てて嬉しいものではない。

 初めは、卒倒していた。

 恐ろしいことに、ここに居る人間たちはたとえメイドであろうと、血など少しも恐くないらしい。

 

「あら、嫌ですわ。ヴァリアーのマダーマともあろう人が」

「たったこれだけの血なんかでそんな真っ青になるなんて」

「この先、慣れていただかなければ旦那様が困りますわよ」

 

 

 幹部ルッスーリアはそんなことを言って一笑にしやがった。

 だが、こればかりは彼……女が正しかったと言える。

 何せ、彼らは血だけではなく、時には臓物までぶら下げて帰ってくるのだから。

 初見でそれを見たときは、トイレへ駈け込んで吐いたものだ。

 もうすっかりいい思い出になっている。

 

 人の慣れとは怖いもので、そんな血も臓物も平気になってしまった頃の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に来るか?」

 

「は?」

 

 

 ……と、XANXUS様はのたまいやがった。

 

「よろしいのですか……?」

 

 正直たじろいでいた。

 夫の仕事は知っている。それがかなりアレだということも十分に理解している。

 

「別に構わねぇ」

 

 それでも、私は、好奇心に負けた。

 外行き服を着てついていく。いかにもソレだと分かる黒塗りの車に乗って着いた場所は、屋敷だった。

 後続車から黒服の部下たちがいくつもスーツケースを降ろしていく。

 ……確実に妙なものだとはおもうけど。

 

 屋敷の主は、報道で見たことがある様なとある政治家だった。

「ようこそ」と老人は快く出迎えてくれ、思いのほかもてなしてくれることに少し驚いた。

 どうやら、こいつら、顔見知りらしい。

 子供の頃や、昔の話などをして盛り上がっている……政界とマフィアの穏やかな真っ黒なつながりを目の当たりにして私はだた大人しく置物と化していることしかできなかった。

 

「美しいマダーマ、あなたは素晴らしい人を夫に迎えられた。日頃から、貴女のことを自慢していますよ」

 

 仲良くコーヒーなど啜りながら爆弾発言を繰り返す老人と談笑するXANXUS様……という光景をみながら私は、かなり、ひやひやとしていた。

 ……この人がいつ銃を出すか、炎を出すか、それとも狙撃させるのか、と思い込んでいたのだ。

 

 わざわざ黒塗りの、高級車を家の前に停めているということは『そうゆうこと』なのではないか……。

 

 

 ……と、思ったが、何もなかった。

 ただ1時間ほど、お茶を飲んで菓子をつまんで、話をして終わってしまった。

 最後の方は老政治家に夫婦とは何か、男女とは何か、そして愛とは……というご高説を賜り、これは何かの拷問ではないか……と私は思った。

 九代目に孫の顔を見せてやれ……と。

 

 ひょっとしてこの人このエロ爺の話を一人で聞くのが嫌だから私を連れてきたんじゃなかろうか……と。

 

 不意に車に乗り込む前に何か視線を感じた。

 ……だが、私でも気づく程度のものを、暗殺者集団の首長たる人が気づかないことがあるだろうか、と思い直した。おそらくは気づいている、そのうえで無視している。

 

 XANXUS様は口数の多い人ではない。

 部外者には特にそうなる。だから滅多に喋らないが、常に行動しているとまで言われている。

 だが、この日は饒舌だった。

 

「どうだった?」

 

 老いても尚盛んな人だったと答えた。

 

「……正直いつ殺るのかと……。……気が気じゃなかったです……はい……」

「あ? ……殺すとおもったのか?」

「……違うんですか……?」

 

 ぶはーーーーっ!とXANXUS様は笑った。

 ……本当に、本当に、屈託なく笑う。

 

「随分と血の気が荒くなったもんだな。……それとも、そっちが本性か?」

 

 

 断じて違う、と明記しておく。

 

 

「アイツは殺さねぇ」

「……あー……ソーデスカー」

「お前ならどう見る? この状況を」

「……はい?」

「お前がもし一般人だった場合。この訪問をどう見る?」

「……はい??」

 

 何言ってんだコイツ、と思いながらも答えることにした。

 安易なことを言ったら怒られる……と頑張って黙考を重ねた。

 

 結論から言ってしまうと、そんなことは杞憂だった。XANXUS様は、部下には怒鳴るわ殴るわ当たり散らすわで凄まじかったが、私には手を上げたことも、それどころか、声を荒げたこともなかった。怒ると言うより、常に教え諭すような口調だった。全てにおいて愛されていたと言うより、甘やかされていた、と思う。

 

 

「お偉い政治屋の家に、それっぽいマフィアが訪ねてきた……でしょうか……?」

 

 ……そのまんまだが。これが精いっぱいだったのだ。

 

 

「に、見えるな」

「ですねぇ……」

「スーツケースは全部運ばせた」

「……」

「中に、何が入ってたと思う?」

「ま、まさか……爆弾……?」

「だから殺さねぇよ、今回は」

 

 今回は、というところが怖い。

 

「……金塊とかですか?」

「麻薬」

「ご、ご冗談ですよね!?」

「ああ嘘だ。中に入ってんのはガラクタだ。あとホットケーキミックス」

 

 嘘だと言ってほしかった。何て恐ろしいものをスーツケースの中に入れてるのだろうこの人。

 

「だが、ほとんどの奴は『そう』見える。お前の言った金塊か、俺の言った薬か、と」

「……」

「スキャンダルだ」

「……あぁ……やっぱり……」

 

 こんな時代だから、一度の落ち度が致命的な傷になりかねない。と横の人は得意顔で言っている。

 やはり物理的に殺しはしなかっただけで、政治家生命を断ちに来たんじゃないか……と思った。なるほど、これも立派な『暗殺』だ。しかも、本人も知らないうちに命を取るという鮮やかな手口だ。あの人はきっと、若い頃遊んであげた可愛かった九代目のお坊ちゃんが訪ねてきたとしか思ってないだろうに……。と。

 

「親仏姿勢を取ってるから仕方ねぇ」

 

 どうやら丁寧に解説までしてくれるらしい。彼にはこんな癖があった。ヴァリアーの関わった事業や『仕事』の目的から背景、そして狙いまで懇切丁寧に解説すると言う癖が。

 自信家特有の自慢の延長か、それとも一度吐き出して喋ることで自分の思考を整理したいのだろう、と私は思っていたし、実際、そんな話はどれも面白かった。

 本当は癖でも何でもなかった。後から分かった。

 

 

「フランスが最近うるせぇ……しかも、フランス側の勢力を使ってる新興組織も五月蠅くなってきやがった」

「アイツは親仏姿勢を取っているボンゴレ側だった」

「評判さえ落とせば奴は失脚する」

「『政治家がマフィアと繋がっている』のは最悪の汚点になる」

 

 

 ……というのが今回の工作の裏側だそうだ。

 

「あの……コレひょっとして、あの人を守るためですか?」

「……」

 

「……出過ぎたことを申しました」

「外れてねぇ、続けろ」

 

 当たってんなら早く言え。

 

「あの人は元々ボンゴレ側の政治屋さんなんですよね。だけど最近は主張が合わなくなった。から失脚。……って言いますけどこのやり方少し変だと思ったんです。……もし、あの人が対ボンゴレの為に『わざと』反対側の主張をしたんだったら……やっちゃいますよね?」

「……」

 

 この沈黙は肯定だ。なぜなら、笑っているからだ。それも最高の笑顔で。

 この赤い目には悪い笑顔が良く似合う。

 

「なのに、『失脚』させようとした……と、いうことは。コレ実は、あの人のせいではない……んじゃないですか?」

「……あぁ」

「ひょっとして、あの政治屋さんが唱えていた親仏姿勢はボンゴレの指示ですか」

「……」

「……だとしたら、今回間違ったのはボンゴレ……ではありませんか?」

「……そうだ」

 

 あの老人に思わず同情を禁じえない。

 

「あの爺には使い道がある。今回の仕事はボンゴレのケツ拭きだ。アイツを殺す必要はねぇ」

「……アイツを……ですか……」

「……どうした」

「……その言い方が気になってしまって」

「…………だから?」

「いえ……なんか、そんな言い方だと……まるで……」

 

 

「まるで、ほかのヤツは殺すみたいだ――――と?」

 

 

 おっしゃる通りだ。

 もうこの言葉でわかった。

 今回はボンゴレの尻拭いをする。そして、近いうちに今度こそ『対仏派』を一斉に狩る何か……もしくは脅しをかけるための殺しをする。この老人はあくまでボンゴレの駒であり、後ろ盾になる、だから殺さず生かしておく……。という話だ。

 

「やはり、俺の目に狂いはなかった」

「……は、はぁ……」

「お前を選んで正解だった」

「……」

 

 とても、一人で、嬉しそうで、満足そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。王子様が大笑いしていた。

 

「見て! スゲェ! やばい、王子腹痛いんだけど!! 酸欠で死にそう!!」

「それもー死ねばいいと思います~~駄王子」

「あらぁ……ちょっとマダーマー? やだ素敵、ツーショットじゃない!」

 

「……は?」

 

 何言ってんだこいつら……。だが今呼ばれたのは確かだ。

 

「……何です? 騒々しい」

 

 持っていたソレを見て思わず目を見開いた。

 

「なにこれ……??」

 

 所謂ダブロイド紙という奴だ。政治家のスキャンダルに関する記事がそこに載っていた。

 どうやら大物政治家のスキャンダルがリークしたとのことだ。

 マフィアとつながりがあるんじゃないか………………とか…………。

 

 

 

「祝! マダーマ顔出し記念!!」

「やってしまいましたねー。これは大変なことだと思うよー」

「……」

「う゛ぉおおおおい! 心配すんよぉ! マダーマ! アンタの身は俺が、何に替えようと必ず守り通してやるぜぇ!!」

「…………」

「今日お赤飯じゃね!?」

「お赤飯です~~」

「赤飯だぁ!? なんだそりゃぁ゛!?!?」

「………………」

 

 野郎、ハメやがった。

 

 

 やはり、私の勘は間違っていなかった……が……甘かった……。

 XANXUS様の野郎はバッチリ気づいていたのだろう。絶妙な角度で見えない風に映っている。

 美女マフィアだとか、愛人か、だとか恐ろしい文字が紙面には踊っている……。

 

 

「……御冗談でしょ……??」

 

 

 

 あぁ、ハメられた。と思った。

 十代目からアレほど注意しろと言われたのに。

 ともあれ、もう、逃げられなかった。

 

 よくも悪くも、私は次世代の『顔』になってしまった……というわけだ……。

 






おいこれ長ぇぞ……。思ったより……。


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NEW
ボス誕 2017


注意


・俺のディーノはこんなこと言わないならプラウザバック

・俺の山本はこんなこと言わないならプラウザバック




 それもいいというドカスの皆さんはスクアロールしてください。







「世の中にはいろんな奴がいる……。俺はガキの頃からマフィアのボスなんかやってきて……そりゃ色んな奴を見てきたさ、世界の汚ない面も、薄暗い面も見てきた」

「そっすか……深いっすね……」

「……」

 

 

 何だか嫌な予感がすると沢田綱吉は思っていた。

 

 

「でも、汚い部分ばっか見て、それで絶望するのは俺のガラじゃねぇ。そんな汚くっても苦しくっても、それでもこの世界は捨てたもんじゃないって思うんだ」

「ディーノさん……」

「…………」

「この世界は白と黒だけで割り切れる程単純明快じゃない。この世は楽園でも地獄でもない、灰色なんだ……ってこの年齢になってやっと分かったんだぜ」

「ディーノさんもう三十路っすからねーー」

「ははっ、あっという間だぜ?」

「…………………」

「だから色んな考え方があっていいと俺は思うんだ。なぁ、ツナ?」

「俺に振られても困ります」

「お前は……お前がもし、好きな子がいたら……どこに魅力を感じると思う?」

「好きな子ならずっと前から居ますし。答える意味」

 

 うんうん、わかるわかる、とディーノは重々しく頷いた。

 

 

 

「質問を変えよう、ぶっちゃけお前は―――――スクアーロのどこに魅力を感じる!?」

 

 

「アウトォオオオオオオオオォオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 完全に人としてアウトな発言だったがディーノに止まる気はないらしかった。

 

 

「確かにスクアーロの強さは凄まじい。しかも利き手が義手であの強さなんだぜ……一体どれほどの努力があったと言うのか……!」

「スクアーロすごいのなー」

「更に片手であの長髪を維持していることが謎めいている……そこがまた……神秘的だと……思わないか?」

「思うのな~~」

「山本相槌を打たなくていいから! だめだぁ……もうディーノさんは手遅れだぁ……!」

「ははっ、ツナは面白いこと言ってるのな!」

 

 山本武、お前もか……と綱吉は心の中で諦めた。

 

 

「流れる銀髪、切れ長な目、陶器のようだが温かみを感じさせる肌。そして目つきはちょっと悪いが銀色に輝く切れ長の目……そう、それらは全て素晴らしい」

「あの聖性すら感じさせるほどに神秘的でどこか侵しがたい神々しさをもう外見に反して中身が非常にガサツなのも可愛いのなー。やたらデカくてダミ声で絶望的に口が悪いのが魅力なのなー。大抵見た人間はSANチェックなのな!」

「薄い胸、細い腰。それらは全て素晴らしい。アレで血の気が多くて喧嘩っ早すぎて何より血を浴びるのが大好きというところが堪らない」

「いい匂いもするのなー!」

「あぁ、そうだな。俺も若い頃はそう思ってた。だけど、きっと違うんだよ」

「……ディーノさん……?」

 

 

 

 

脚、だよ

 

 

「脚……!?」

 

 

 

 

 

 何を言い始めたんだろうなコイツら……と、綱吉は真っ白になった。

 

 

 

 

「最近の俺のムーヴメントは……脚だ!!」

「脚……? スクアーロの……脚!?」

 

 

「考えてみろ……アイツの服装を。ヴァリアー編で出てきた過去話の14歳の頃のバルコニーでの制服、パーティー会場での正装、そしてテュール戦での私服、ゆりかごでのヴァリアー隊服。22歳のリング戦での隊服、継承式での正装、代理戦争編での私服。そして未来編での隊服(2パターン)とパーカーを……」

「ディーノさん……詳しいっすね……」

「アイツの足は基本的に本編では露出されていないんだ! ただ、OVAの慰安旅行で温泉入った時や、ユカタで見れるには見れる」

「……っ!」

 

 

「今気づいたって顔するな山本!! そしてディーノさんのサーチ力って一体何!?」

 

 

「しかしそれはコミックスではない……。つまり、スクアーロの生足を! 俺は! 今の所一度も見ていない!!」

「……温泉にディーノさんは来てなかったのな……!」

「そう! いや、だからこそだ!! 想像の翼をいくらでも広げられる!!」

「もはや変態の域なのなー」

「いいか? 考えてもみろ、アイツは暗殺者だ。メディアコンテンツで暗殺者と言えば、だ」

「やたらとピッチピチで体のラインを出す黒い服着てるのな」

「そう。シルエットとしてラインを出しながらも、そこは大抵レザーかなんかで覆われていて肌は見せないのが暗殺者だ。……と、すると」

「……スクアーロが履いている可能性があるとしたら……」

 

 

 

「「ニーハイだ」」

 

 

 

「履かねぇよ!!」

 

 

 

 

 

「膝から下は全てソックス。だが、口ゴムとボトムスの間にある、わずかな輝き」

「スリスリするも良し、ぺちぺち弾くもまた良し……!」

「生来色白の肌が黒いレザー素材を履く様はまるで一つの絵画のようだとは思わないか?」

「思う……思います……! 願わくば……願わくばそのソックスに指を入れたい! 指を入れてそこからサワサワとスクアーロの筋肉ガッチガチのフトモモを撫でまわしたいのな!!」

「撫でさすりたい!」

「いっそつま先から……つま先から舐めまわしたいのな……!」

「つま先から口に含んで、踵を眺めまわして、ニーハイ脱がして踏まれたい……!」

 

 

 ディーノの思考は既にドMのそっち側まで及んでいた。

 

 

「ともあれ、その絶対領域を観賞するもよし、撫でまわすもよし、ニーハイをつまんでパチパチ鳴らすも良し」

「恐るべしニーハイ……俺には……俺にはその可能性まで思いつかなかったのな……!」

「気にすることじゃねぇよ山本。そうと分かれば早速飲まそう。ここにス●リタスがある。しこたま飲ませて正体不明にすればアイツのことだ、ホイホイやってくれるに違いない!」

「待ってくれディーノさん! カメラを持っていきたいのな!」

「無論装備は全て手配済みだ!」

「流石なのな!」

「さあ行こう……」

 

 

「「俺達の戦場へ!!!!」」

 

 

「って待てぇえええ! 待てこの強●魔共!! それは犯罪だぁあああああああああ!」

 

「なんだよツナ犯罪王だろ? ケチケチすんなって」

「怖いよディーノさん!? 馬なの?! ねぇ馬なの!? 下半身まで馬並みなの!? 凄いな色々!」

「綱……止めないでくれ……お前とは戦いたくない」

「俺を殺してまでスクアーロをレ●プする気かーーーーーーーー!?」

 

 山本は既に抜刀しているし、匣も開けようとしている。臨戦態勢だ。

 

 

「駄目だ! お前ら! 分かってるだろ絶対分かってやってるだろ! 今日は!!

 

 今日は!! アイツの! 主人の!! 誕生日です!!!!」

 

 

 

「……!」

「……!?」

 

 

 

「今気づいたって顔すんなぁあああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その時、突如として扉が炎上した。

 

 

「ひぃいいいいいいいいい!?」

「大空属性の炎!?」

「この火……まさか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガン首揃えてんじゃねぇか……カス共が」

 

 

 

「ざ、ザンザス!?」

「と、スクアーロ!?!?」

 

 

 

 最悪のタイミングで最悪の本人たち降臨である。

 

 あぁ、コレ聞いてたな。

 コレ確実に聞いてやがったパターンだな……と、綱吉はおもっていたが、予想に反してザンザスは上機嫌だった。その腕に抱かれているスクアーロはと言うと既に泣きそうだ。水の膜が薄く張った銀色の目を真っ赤にして、肌も薄く紅潮させていた。ぐずぐずという音まで聞こえる。つまり、壮絶に、エロい。

 

 だが、カス燕山本と当て馬ディーノの目は、乱された銀糸よりもエロいという色気マックスな表情よりも、下……つまり下半身に目が釘付けになっていた。

 

 

 

 

「「が、ガーターベルト……だと……!?」」

 

 

「クソがぁあああ!! あ゛ぁああああああ! 見るなぁ!! 見るんじゃねぇええええええええ!!」

 

 

 隠そうとムダな試みをするのがエロすぎた。

 山本の目は完全にヤバい人のそれであった。ギラギラ血走っているし実際鼻から血も出ていた。

 ディーノに至っては昇天していた。今にも片腕を突き上げて「我が人生に一片の悔いなし!」と叫んで成仏しそうな勢いである。

 ノンケな綱吉ですら目に毒だ……と思わず同情を禁じえなかった。

 

 と、フリーズした男3人を見たのか満足したらしいザンザスはぶはーーーっ!と豪快に笑った。

 

 

「出直して来やがれカス共が!」

「ボス……俺こんなん嫌だぁ……あ゛ぁぁぁぁ……」

 

 

 べそべそ泣き出した鮫を片手に暗殺部隊の首領はとっとと帰っていった。

 

 

 残されたのはモノも言えなくなった馬と燕の二匹である。

 綱吉はそんな二人の肩をそっと叩いて告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい、解散」

 

 

 

 

 




Buon Compleanno.XANXUS!!



※この後作戦隊長はボスさんに美味しく頂かれました


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リバースオブチェリー


今回R18語が飛び交っております。
非常に下品です


 懺悔をさせてほしい。

 

 自慢じゃねぇが世間一般で言う悪行は一通りやってきた。

 盗みや恐喝は物心ついたころには既に日常だったし、気に入らねぇものは殴ったり壊したり殺したりしてきた。拷問はあまり得意じゃないから、どちらかと言うと命令してやらせている方になるだろう。粛清も処刑も見せしめもやったから、あとやってねぇことと言えば戦争位なものだろう。だが、武器の密輸に関わったことならあるから全く手を付けてないわけじゃない。

 

 違う、そんなことじゃねぇ。

 言いたいことはそんなことじゃねぇ。

 そんなことをイチイチ罪にしてたら数が多すぎてもう数えるのも面倒くせぇ、そんなもんをイチイチ懺悔する気はさらさらない。懺悔したいのは一つだけだ――――あのカスのことだ。

 

 

 16だった。

 嫌がるアイツを殴って押し倒して無理やりヤってやった。

 口では散々嫌だ嫌だとアイツは言っていた。頼むからやめてくれ、だの、こんなの嫌だ、だの間違ってるとか何かウルセェことを散々喚いていたのを覚えている。ボロボロ泣いていたことも覚えている。だが、抵抗らしい抵抗はしてこなかった。その気になれば刺しても殺してでも俺を止めようとするならできたハズだ――――少なくともカスでもそのくらいの能力はあった。

 だが、アイツが抵抗できるわけねぇと俺は分かっていた。口じゃ抗議しまくるが、じゃあ本気で暴れるかと言えばそんなことができる訳もない。

 結果、拒否されないと分かってて押し倒した俺と嫌がってても拒めないドカスが成立したわけだ。

 アイツはさぞ怖かっただろうし、気持ち悪かっただろうな。……考えてもみろ、14だぞ? それで女より先に男を知る訳だから傑作だ。凶悪で手が付けられねぇと謳われるあのカスを、口だけで必死に抵抗するあのカスを手籠めにするのは正直快感だった。

 ……とにかくここで懺悔してぇのは俺がガキの頃アイツを無理やりヤっちまったという場所だ。

 

 

 そこから8年後に話は飛ぶ。

 あれだけ好き勝手にされてもあのカスガキはちっとも懲りず馬鹿みてぇに8年俺を待っていた。

 8年もたてばもうガキじゃない。14だったガキは22の男になっていた。

 が、結局変わらず手酷く抱いた。

 言い訳をするなら『どうしても受け入れられないことが多すぎた』だろう。

 信じていた全てが足元から崩壊していく事象に対し、真っ向から拒絶するだけの子供らしさはもう存在しなかった。だからと言って、静かに全てを受け入れるだけの度量はまだ備えていなかった。結果として受け入れつつも不完全燃焼だったヤツがくすぶり続けているという状態に落ち込んだ。

 だから今まで以上に手酷く殴ったし、暴力を振るったし、意識を飛ばすことも少なくなかった。

 それでもアイツは俺を見限らなかった。

 なんで俺を見限らないと何度も聞いて、そのたびに「何でって……決まってんだろぉ、俺はお前に賭けちまったからなぁ!!」と実に気持ちよく豪快に言うのだった。

 それが真実だということは明白だった。

 

 コイツは、一方的に忠誠を誓い、勝手に利き手を押し付けて以来何があっても、何をされても俺の傍を離れる様なことはなかった。機会なら腐るほどあったハズだ。俺に関わっていなければ――それもまっとうな道はもう存在しなかっただろうが――外道なら外道並みに確実に今よりは順当な人生があったはずだ。

 だからつまり、あのカスを泥沼に引きずりこんだのは俺だと言える。

 だが、アイツはそんな俺を恨むでもなく、一緒に沈んだって構わないと言うと来た。

 

 ……と、ようやくドカスという人間が理解できた時、俺は初めてヤツへの恋を自覚した。

 

 

 

 

 本当に唐突だった。

 訳が分からなくなって混乱して散々暴れて少し落ち着いて、理解したときには既に手遅れだった。

 もう戻れねぇ、畜生が。カスに恋しちまったぞ。困った、戻れねぇし、辞められねぇ。

 もう突き進むしかないという選択肢以外全てが消えた。

 

 だが、いざ始めてみようとして愕然とした。

 気が付いたらエンカウント時から数えて20年だ。20年もたっていた。実質8年抜かしてもそれだって12年。つまり俺は12年ずっと傍に居たコイツに今更恋心を自覚した。

 だがそれでも俺は、我ながらよくやったと思っている。

 さり気なくアイツを誘いだしたり、学生時代ですらすっ飛ばしたママゴトのような恋愛の真似事までやったりした。キス一つするのにだって、イチイイチ了解を取ったんだから大したものだろう。

 

 

 

 大変だったのはここからだ。

 

 気が付けばもう俺はアイツに手を出せなくなっていた。

 以前はアレほど簡単に、だったのにだ。

 嫌がるアイツを無理矢理押さえつけたこともありゃ、手酷かったこともある――――むしろ、そっちの方が主流だったような気もする。

 にもかかわらず、一体今まで俺がコイツをどうやって抱いていたのかが、もう、さっぱり思いだせなくなっていた。

 そしてその打撃はカスに来た。

 あの馬鹿は何故かいつまで経っても俺が手を出さないので欲求不満そうにしていたが、何故かだんだんヤツの中ではそれが「なぁ、ボスいいんだぜぇ? 俺に飽きたんだろ?」……と来た。

「無理しなくていいんだぜぇ」

待て。

「俺アンタに好きだって言って貰えただけで良かったからなぁ!」

おいコラ。

「良い夢見れたぞぉ!!」

なんでそうなる。

 

 

 

 ド畜生が。アレだけ苦労したのに、このままじゃ破局じゃねーか。ふざけんな。

 ……だが今回だけは俺にも非がある。認めてやってもいい、そうだ俺が悪かったかもしれない。

 コイツをレイプまがいのヤツじゃねぇと、満足できない体にした……

 ……過去の俺が悪かった……。

 

 

 懺悔をさせてくれ。

 

 やっちまった俺が悪かった。

 

 一周回って戻って来ちまった俺達は―――こっから一体どうすればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「で……それなんで俺に聞いてんの?」

 

「……」

 

「いやだんまりかよ。ふざけんなよ。つか知らねーよ! 突如としてホモの心情を赤裸々に激白された俺の身にもなれよ!? なんか俺今スゲェ複雑なんだけど!?」

 

「……」

 

「おいコラてめぇザンザス……」

「王子、ここは私めにお任せ下さい」

「…………」

「マジか! 実は待ってたぜ……さっさと解説しろよ、オルゲルト」

 

「聞いたことがある……。マトモに恋愛してこなかったくせにやたらと高スペックに恵まれたせいで、モテに困ったことのない野郎が……マトモに恋をすると起こると言う現象が。

 似ている――この状態、この現象……! 『童貞セコーンド』に!!」

 

 

「てめぇら……」

 

「なぁーんだ。ただの童貞返りかよ」

「つまりザンザスは初恋返りと童貞返りのミックス! リトールノ・テンペスタ・ディ・DOUTEI!!」

「てめぇらは俺を! 本気で! 怒らせたぁあああ!!」

「え、ちょま」

「ジル様ーーーー!!」

 

 

 王子様(真)と執事は石になりました。

 

 



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飲み込みそこねた魂が、まだ、喉の奥に絡みついて。


創作系お題bot様で出したヤツのサルベージ品


初めまして、人工知能です。

それもただのロボットではありません。この先来るだろう超義体化社会に向けていち早く運用された実験用の人工知能です。

 

私の自慢はこの体です。首から下が生身という、とてもとても珍しいタイプの義体です。ところどころ傷だらけですが、まぁ、仕方ないでしょう。私の体20代の男性です。肌の色は透けるように白く、筋肉は細身で引き締まっています。何故か左腕と心臓が義体に変換されていますが、これは私の落ち度ではなく、元々の仕様のようです。

私には同居している人間がいます。このお方が私のパトロンです。年は三十歳くらいだと言っておられました。この人も顔に傷があります。しかしどこでそんな傷がついたのか私に教えてはくれません。そしてインプットもされていないので私には分かりません。

この人は私にとても優しくしてくれます。

私はこの人を『ボス』と呼びます。パトロンですから、ご主人様ともお名前に様をつけてお呼びしても良いと思うのですが、これは命令でした。

命令には従うようにインプットされています。どんなことにも。

 

話は変わりますが私には人格が設定されています。

人格だけではありません。剣術、つまり「刃物による殺人の為の技術」が回路に組み込まれています。どうやら機械の頭と生身の体をリンクさせる実験の応用のようです。どうやらこの体は散々剣になれているらしく私の体は驚く程剣になじみました。

「驚いた」とドクターたちは口をそろえて言いました。

「人の記憶は、脳にだけ宿るものではないのかもしれないな」などと言う言葉を。

そうなんでしょうか、と私は時々不安になります。

 

私の脳は人工物です。機械と、電子基板と、あとは無数のチップと電気信号によってつくられています。だけど、この人格や思考は私が作り出したものではありません。

博士たちや大勢の技術者たちの手でプログラミングされたもの。更にはその前には『誰か』が20と少しの年月をかけて組み上げていったもの、だそうです。

つまり、この体の持ち主です。

 

『ボス』は私にとても優しくしてくれます。

しかし、私はソレが『私』に向けられているのか、そうでないのか、理解できません。よく愛おしそうに体を撫でてくれますがソレは生身の肉体だからでしょうか。

生身の体を優しく撫でさすったかと思うと、機械であるハズの義手に触れます。ペースメーカーの埋まっている心臓に手を当てます。これが『ボス』の不可解な所です。

人工物だけを愛する人間は居ます。

逆に、肉で出来た体を愛する人間も居ます。

しかし、『ボス』はそうではありません。機械の部分もタンパク質の部分も等しく愛しているかのようなそぶりを見せます。

……見せる、のに。

 

首から上には一切触れてはくれません。

 

 

私は知っています。

昔、この人には恋人がいたのです。

美しい人でした。そして悲しい位馬鹿でした。

恋人は主だと思っている人間に忠誠も人生も腕も心臓も何もかもを捧げました。命まで。

それはどうしようもないけれど、致命的な不注意でした。

凶弾から最愛の主人を守る為に盾になりました。

主人は間一髪で命が助かりました。しかし、その人はダメでした。

主であった人は倒れた恋人を抱き起こそうとしました。

皮肉にもそれまで傷だらけになりながらも、間一髪で生還を果たしてきた体に傷はひとつもついていませんでした。

その代わり、頭だけはもうどうしようもなくなっていました。

彼が愛した、彼の為だけに伸ばされた長い白銀の髪も、血に染まって真っ赤なっていました。

凶悪な表情ばかり見せていた整った顔は、すっかりなくなっていました。

最後の言葉も表情さえも残らずに首から上が丸ごと消えてしまったのです。

古傷だらけの綺麗な体だけを残して。

 

 

私は人工知能です。

電子回路で思考を行い、無数のプログラムで感情を構築します。既に私はヒトと同じように喜怒哀楽の感情を理解し、実行することができます。

 

しかし、これは何なのでしょう。

時々、胸が痛くなります。

胸というのは曖昧な言葉です。正確に言うならば、心臓です。

人工物であるはずの、ただのペースメーカーであるはずの。

生身の肉体に血液を流すだけの役割を持つハズの心臓が、締め付けられるように熱くて狂おしい感覚を強く感知します。

 

 

本当に、脳だけが、思考を司るのでしょうか。

博士たちが言うように、記憶が脳だけに蓄積されないのでしょうか。

もしかしたら、心は、脳だけではなく、臓器や他の器官にも残るのではないでしょうか。

それが、魂なのでしょうか。

 

『ボス』は今日も私を抱きしめてます。

 

抱きしめたかった、恋人の体を。

 



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