東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結] (瀬本製作所 小説部 )
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第1章 人間
始まり 


あの時の僕は、今後について何を考えていただろう。






普通に大学生活を過ごし、

普通に会社に着き、

普通に家族を持ち、

普通に老後を過ごし、

普通に人生を歩む、という誰もがこれから体験することだと思う。





僕はその中の"一人"(ひとり)だった。








そんな当たり前だったことが.....もし突然.....





王子様がお迎えに来て、





普通の生活とはかけ離れ、





立派な"シンデレラ"になれるのなら、





それはとても幸せな運命だ。












しかし、もし突然......







不運に"事故"に巻き込まれ、






"普通"(ふつう)ではない日々ではなく、






"苦悩"(くのう)"恐怖"(きょうふ)の日々を送るとなれば、





それは幸せとはかけ離れた"悲劇"の運命だ。









でもその"悲劇"(ひげき)例えは......








のちに"僕"(じぶん)に来るとは思わなかった。


 

 

「いやー今日から俺たちは、キャンパスライフかー。あの高校の受験勉強を乗り越えた甲斐があったなー」

 

「そうだけど....単位はちゃんと取れよ?」

 

 

僕たちは先ほど大学での入学式が終わり、

今は街に歩いている。

今日はどんな場所に行くのかわからないが、

ヒデが行きたがっている場所のようだが....

 

「わかってるって!俺はそこまで馬鹿じゃねぇよ!」

 

春。

この季節は新しい生活の始まりで、

心地よい風と日が肌に感じられ、

桜の花びらが散るところが美しく見える季節だ。

 

「そういえば、この前のライブでさー」

 

「またアイドルの話?」

 

「そうだが?なんか悪いか?」

 

確か冬ぐらいに行われたシンデレラガールズのライブを行った以降、

ヒデは"アイドル"にかなりハマっている。

 

「いやー"楓さん"マジ最高だわ〜」

 

「はいはい、わかったわかった」

 

「て、なんだよその返しは!?カネキ!?」

 

ヒデは"アイドル"にハマっているが、

僕はハマってはいない。

そもそもアイドルと僕たちの交流は握手会ぐらいしかないのにどうして好きになれるか...

 

「全く俺がアイドルの話をすると、いつもそうなるよな」

 

「そりゃ、毎回僕に会うたびに言うじゃないか」

 

すると、ヒデはなにか思いついたように手をポンと叩き、

 

「......あ、そういえばお前、好きな女性のタイプは?」

 

「僕?....."知的な女性"」

 

「知的な女性....やっぱ"楓さん"だな!」

 

「なんでそうなる...」

 

僕は少し呆れた様子で返した。

 

(確かにあの人は僕のタイプに入るけど....)

 

 

高垣楓――――

 

以前にモデルをやっていて、それからアイドルに変わった人であることを知っている。

でもあの人は現在では"トップアイドル"で、

好きになっても結局はファンであることは変わらない。

 

(付き合うということは、まさに天地の差といえばいいだろう...)

 

ヒデと会話している時、

"長身の人"が僕たちの横に通りかかった。

 

(なんだろう...あの人..?)

 

僕はその場に足を止めてしまった。

黒スーツに長身で、目つきが悪そうな男性が横に通りかかったのだ。

 

「どうした?カネキ?」

 

「....いや、なんでも....」

 

おそらく、あの人は"ヤクザ"の人だろうか...?

僕はあの人に対して違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

もしかして...........

 

 

 

 

 

 

「カネキ、今日の予定は"楓さん"のライブに行くぞ!」

 

「....え?」

 

「何って今日は楓さんがライブをするんだよ!」

 

「また楓さん....」

 

ヒデはやはり楓さん推しと言えばいいだろう。

 

「いいだろ!?あの楓さんのライブチケットがゲットしたんだぞ!」

 

ヒデが持っているものは、"二枚のチケット"であった。

 

「あれ?それって....」

 

「これか?これはな...この前カネキに金を貸してもらった時に買ったんだ」

 

3月ごろ、急にヒデが大慌てでお金を貸して欲しいと言ったので、

 

僕はその時に仕方なく貸した。

 

「え?つまり...」

 

ヒデにお金を出す→ヒデがそのお金でチケットを買う→しかも二枚

 

っていうことは....

 

「お前も行くんだよ!カネキ!」

 

「ぼ、僕も!?」

 

僕は驚いてしまった。

急にライブを行くことを。

 

「そうだよ!楓さんのライブに行こうぜ!」

 

「だったらこれで返すぞ」

 

ヒデはそのライブのチケットを僕に渡す。

現金から変わり果てたものに変わってしまった....

 

(さすがに行かないともったいないから...)

 

仕方なく僕は妥協し、

 

「仕方ない...行くよ...」

 

「よっしゃ!行こうぜ、カネキ!」

 

「お、おー...」

 

ヒデはだいぶ満足な感じに対して、

僕はやる気を落とした。

なんて日だ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあな、カネキ」

 

(連れ出されたな....)

 

楓さんのライブに強引に連れ出され、

気がつけばもう日が沈みかけている。

会場はファンの人の声がうるさく、

しかもその"アイドル"までの距離がだいぶ離れていて見えず、

体はへとへとだ。

それに対してヒデは終わった後でも元気だ。

でも僕は楓さんの生の姿を見て少し満足した。

 

(とりあえず....帰ろう...)

 

僕は少しずつ足を動かし、新しく引っ越したマンションに向かう。

 

(家に帰ってすぐ寝......ん?)

 

すると、僕は道の先の花屋さんに目を留める。

 

(花か....)

 

花屋さんは普段は利用しないことが多いが....

 

(....入学祝いに買おうかな?)

 

別にこれは"デート"のための買い物ではなく、

自分への祝福と言うものだ。

 

(....寄ってみよう)

 

僕はその花屋さんに足を入れてみた。

 

(綺麗なお店だ...)

 

花屋さんに入るのは何年ぶりだろう...?

すごく空気の香りがいい。

花から出る香りは心を落ち着かせる....

 

「いらっしゃいませ」

 

すると、レジの方から店員さんがやって来た。

 

「あ、ど....も」

 

僕は少し言葉が詰まった。

なぜなら定員さんは思っていたより美しかったからだ。

髪はロングヘアーの黒で、とても美しい。

 

(まずい...まずは花を...)

 

あまり見とれてしまうと不自然に思われるので、

僕は花に目を向けた。

 

「?」

 

彼女は少し頭を傾けたような気がした。

少し怪しまれてしまった...

 

(.....意外と高い..)

 

目を向けた先はショーケースの中にあるバラだ。

入り口に置いていたバラよりも値段が違う。

入り口のバラより形がよく、花つきがよく見えるかも...

 

(あまりお金は使いたくないな..)

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんわ」

 

 

 

 

 

 

すると可愛らしい声がお店の入り口の方に聞こえた。

 

(...?)

 

少し振り向くと、"可愛らしい女子高生"の姿が見えた。

 

「はぁーどれにしようかな?」

 

彼女は元気がよく、どれにしようか迷っていた。

なにかいいことがあったのかな?

 

(あ、それより花を探さないと)

 

ふと気がつけば僕は彼女は少し見ていた。

僕はすぐに女子高生の彼女に向いていた目をそらそうとしたが....

 

「ん?どうしました?」

 

彼女に声をかけられてしまった。

 

「いえ....なにも...」

 

僕はそう答えたが....

 

「そうですか。どんなお花を買われるのですか?」

 

彼女は話を止めようとしなかった。

 

「えっと.....ん....」

 

僕は思い悩んでしまった。

このお花屋さんに訪れたのは具体的に決めて来たのではないため、

何て答えればいいのかわからなかった。

 

「なにかお探しですか?」

 

すると店員さんが僕たちに声をかけてくれた。

 

「あ、すみません。中々見つからなくて」

 

「あ、ぼくもそうです...」

 

彼女がそう言うと僕もそれに続いて言葉を返した。

 

「どなたへの贈り物でしょうか?」

 

「いえ、自分は今日大学に入学したのでその....自分へのご褒美、というものです」

 

彼女も続いて、

 

「へぇ、大学に入られたのですか。私は...この人と同じく"自分用"で....]

 

偶然、彼女も同じ目的で来たことに僕は少し驚いた。

さすがにこれは現実だ。

よく恋愛物語である展開だ。

僕は彼女に惚れないよう視線をそらす。

 

「でも、私にとってすっごく嬉しい"記念日"です」

 

(記念日...?)

 

彼氏に対してと思ったが、

彼女は自分用と言ったのでさすがにない。

多分、入学記念日かな?

 

「じゃあ、これはどうです?」

 

店員さんが手をさしたところに花があった。

 

「アネモネです」

 

紫に白い花びらを咲く花だ。

花の単語を聞くのはあまりなく、

初めて聞く。

 

「花言葉はえっと..."期待"、"希望"」

 

「期待....希望...」

 

彼女はふと口に出してしまった。

この言葉はまさに今の自分にぴったりな花だ。

 

「じゃあ、僕はこれにします」

 

「私もお願いします」

 

彼女と僕はアネモネを買うことに決めた。

 

「かしこまりました」

 

店員さんはアネモネをとり、

レジの方に持って行った。

 

「大学生なんですね」

 

「え?...う、うん...そうだよ」

 

彼女はまだ僕に声をかけたがっているようだ。

僕は少し照れていた。

女子と話すのはあまりなかったのだ。

 

(とりあえず...理由を聞こうかな..?)

 

僕は少し勇気を振り絞り、口を開いた。

 

「なんで花を買おうと?」

 

「私ですか?」

 

彼女は何もためわらず、元気良く口を開いた。

 

「私は"アイドルのオーディション"に受かったので、そのご褒美として買いました!」

 

「そうなんだ。アイドルにな....え?」

 

僕は言葉を止めてしまった。

 

「アイドルに...?」

 

「はい!」

 

「そ、そうなんだ...それはおめでとう」

 

僕はそれに驚いた。

まさかここで"アイドルになろうとする子"に会うなんて...

 

「ありがとうございます!」

 

彼女は元気良く言い、頭を下げた。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

僕たちは店員さんにお礼をし、

帰って行く。

僕は彼女が僕とは逆方向で行くのかと思いきや、

偶然帰る方向が同じであった。

さすがに話しかけてこないと思いきや.....

 

「えっと、場所はどこらへんですか?」

 

「え、場所?....僕は"20区"だね..」

 

「20区ですか。少し遠いですよね?」

 

「そうだね....でも慣れれば問題ないかな?」

 

この子は社交性がいいのか、まだ話しかけてくる。

僕はあまり慣れない感じに返してしまう....

 

(別に嫌とは言えないけど...)

 

すると、ちょうど目の前に交差点があった。

 

「あ、私はあの交差点に渡らないといけないので」

 

「そうなんだ。じゃあお別れだね」

 

「あなたとお話ができてよかったです」

 

彼女はそう言い、笑顔で返した。

彼女が渡る前に、僕は最後に彼女に質問をした。

 

「ちなみにお名前は?」

 

「名前ですか?"島村卯月"です。あなたの名前は?」

 

「―――"金木研"」

 

「金木さんですか、いい名前ですね」

 

「そうかな?まぁ、卯月ちゃんを応援してるよ」

 

僕は少し笑顔で返し、手を振った。

 

「ありがとうございます。私がんばります!」

 

彼女は純粋に満足した笑顔で僕にそう言い、頭を下げて交差点に渡っていった。

 

 

(こんな出会いもあるんだね...)

 

 

おそらく彼女とは会うことはないと思う。

 

 

(さてと...帰るかな)

 

 

僕は夜空が綺麗に見える住宅街の道へ歩いて行く。

 

 

 

 

期待....希望....

 

 

 

アネモネの花言葉が彼女の今後を表しているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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拒否



この先のことを知る者は、いるだろうか。


 

 

 

 

後日、ヒデにこの前に出会った子について話した。

その子の名は島村卯月(しまむら うづき)

さすがに名前は出さなかったが...

ヒデはその話にだいぶ食いついていた。

 

「まじか!その子はアイドルになるのか!?」

 

「まぁね.....まだ始まったばかりだから有名になるかはわからないけど...」

 

アイドルになると言ってもトップアイドルになるとは限らない。

でもヒデはその子について、いろいろ聞いて来た。

何系、身長はどのぐらい、可愛いか、スリーサイズなど、

僕は答えるのが大変であった。

 

「たく....カネキは運があるな」

 

「別にそうじゃないかな....たまたま会っただけだよ....」

 

今日は早めに講義が終わったため、午後が空いていた。

もしかしたら"また"会えるではないかと、

 

「今日は時間空いているかな...?」

 

僕はヒデに誘いしたのだが...

 

「あー今日は無理だな」

 

「どうして?」

 

「ちょと"大学の先輩"に頼まれたことがあって...ワリィ!」

 

ヒデは申し訳なさそうに両手を合わせた。

 

「そうなんだ....ならしかたないね」

 

先輩のことなら仕方ない。

ちなみにその先輩は誰だろう?

 

「ちなみにそのアイドルちゃんはどこに所属するかわかる?」

 

「え...それは...」

 

今考えてみると名前は聞いたが、所属先のことを聞いていなかった。

 

「わかんねぇか...もし346プロだったら...」

 

「"346プロ"?」

 

「知らないのか?いろんな場所で広告を出しているぞ。例えば駅の広告やテレビCM、雑誌など最近有名なアイドルを出す事務所だぞ」

 

「そうなんだ...」

 

あまり聞き慣れてないが、かなり有名らしい。

その中にヒデが好きな"高垣楓"が所属していると。

 

「たく...まさかカネキがアイドルの卵を見つけたとは!」

 

「いや、別にアイドルが好きだから知ったんじゃ...」

 

おそらくあの子とは出会うことはないと思う...

会えたとしても、覚えているかどうか....

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ヒデと話した後、僕は13区の周辺に足を踏み入れた。

ここに来たのは最近読んでいた本を読み終えたからだ。

家にある本だけでは少々物足らない。

いつもは20区の本屋さんに寄るのだが、

昨日会った子が気になるせいか13区へやって来た。

 

(少しお金はかかったけど....まぁいいかな...)

 

普段は利用しないこの地に踏み入れるのは何か新鮮に感じる。

一人で利用するのはあまり物寂しく感じない。

 

 

 

 

 

 

 

(むかし)から僕はそうだから――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

(ん?なんだろう?)

 

駅から出ると人だかりができていた。

人々は足を止め、何かを見ている。

何があったんだろう?と僕はそう思い、人々が見ているものを目にする。

僕が人々が目にしている先を見ると、驚いてしまった。

 

(....あの人って!)

 

僕は目にしたのは、二人の人物だ。

しかもその一人は"見たことのある人物"だ。

 

(花屋の方だ...!)

 

驚いたのはそれだけではなく、

 

(....子供が泣いている)

 

子供の足元には壊れた戦隊モノのロボットが落ちていた。

この状況は誰もが"彼女”が子供のおもちゃを壊したと考えれる状況だ。

 

(しかし....本当に壊したのだろうか...?)

 

この人が子供のおもちゃを壊すなんて考えられない。

 

(なんとかしなきゃ...)

 

彼女は子供になにも言わず、見ていた。

顔の表情は変わらずただ、じっと。

 

「そこの君」

 

すると警察官が彼女の元に近寄っていく。

 

「少し話を聞かせてもらえるかな?」

 

「別に何もしてないよ」

 

「なんでもないことは...」

 

(まずい...)

 

このままでは...彼女が...壊したことに..

ここで声をかけるのはためらいが胸の中にあったが....

 

(やるしかない...)

 

気持ちを整理し、前に一歩踏み出した。

僕が前に出ると視線が感じる。

人前に出ることは、得意ではない。

 

(妙に緊張がする)

 

「あの...すみませんが...」

 

僕は恐る恐る警察の人に声をかける。

周りの視線が彼女から僕の方に向いていったような気がした。

 

「なんだね?君?」

 

警察官は少し険しい顔でこちらに視線を向けた。

 

「えっと..」

 

(話さなきゃ....)

 

あまりにも唐突に声をかけたため、言葉を詰まらせてしまった。

 

「....?」

 

彼女は僕を見て何か反応したような気がした。

 

「えっと..」

 

僕が口を開いた直後、後ろから「すみません」の声が聞こえた。

すると後ろからスーツ姿の男性が顔を近づいてきて、

 

「もう少し彼女の話を聞いては?」

 

「っ!」

 

突然来たため僕は思わず、「ひっ...!」と声を上げてしまった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

(大丈夫かな..?)

 

僕はしばらく二人の会話が終わるまで待った。

何を話してるのかは知らないが、

先ほどの二人は警察官に連れて行かれ、

なぜか僕は取り残されてしまった。

 

(少し...申し訳ないことしたな...)

 

なぜ僕も連れて行かなかったのか...

胸がモヤモヤする....

 

(あれ..?)

 

すると彼女は、なぜか不機嫌そうに立ち去ってしまった。

 

(どうしたのかな?)

 

彼は顔は変わらず、名刺をしまった。

 

(彼がここから去る前に....)

 

僕はその彼に近づき、声をかけた。

 

「あの!」

 

「はい?」

 

彼はこちらに顔を向けた。

すると僕は再び「ひっ...!」と声をあげてしまった。

彼の顔は先ほどと変わっていなく、怖い。

 

(と、とりあえずお礼を....)

 

「さ、先ほどは...あ、ありがとうございます」

 

少々口がぎこちなく動いてしまった。

彼のオーラに僕は完全に負けてしまっている。

 

「あ、いえ...」

 

彼はなぜか納得のいかないような言葉を返した。

 

「さ、先ほどの状況で....あなたが入ったので....た、助かりました」

 

「あ、先ほど彼女を救ってくださった方ですか」

 

彼は思い出し、「少しご迷惑をかけました」と一礼をする。

 

「いえいえ、謝ることなんて...」

 

僕は手を振って拒否をした。

確かにあれのおかげで助かったのだが、

逆に彼に対して申し訳ないことをした。

 

(....そういえば、この方は誰だろう?)

 

あの状況で声かけるなんて、ただ者じゃないはず。

 

「えっと...あなたは..?」

 

僕が質問すると、彼はスーツから何か取り出した。

 

「私、こう言う者です」

 

彼が持っていたもの。

それは名刺であった。

 

「346プロダクション..?」

 

「はい」

 

彼がそう言うと、僕に名刺を渡す。

 

(346プロって...)

 

ふと頭からある単語が浮かんだ。

 

『わかんねぇか...もし346プロだったら...』

 

僕はその名刺を受け取った。

ヒデの言ったことを思い出したせいか、少し緊張してきた。

彼の話によると、

結局彼女が壊してはいないと彼は無表情で答えた。

僕はそれを聞いてほっとした。

この方は346プロの方だということは....

 

「えっと...つまり、彼女をアイドルにしようとスカウトを...?」

 

高校時代にふと耳にしたことがあった。

 

違うクラスの人で街で歩いてたら、たまたまアイドルのスカウトが来た、と言うことを耳にしたことがある。

 

「そうです」

 

彼は無表情な顔で口を開く。

僕はヒデと高垣楓さんのライブに行った時を思い出した。

間違いなく"昨日横に通りすぎた人物"だ。

 

「私は彼女をアイドルにするため、声をかけたのです」

 

暗い感じで目つきが悪い。

 

これは怪しまれるのは仕方ないだろう。

 

「それであの状況の中で....」

 

「はい」

 

なかなか会話が弾まない。

あまり話すのが得意でない僕とあまり話さない346プロのプロデューサーさん。

少しも表情が変わってない。

僕は不気味な人だなと感じてしまった。

 

「では私はここで」

 

プロデューサーさんは一礼し、立ち去っていく。

 

(..ん?そういえば...)

 

僕はあることを思いついた。

 

「あの、プロデューサーさん」

 

彼は僕の呼ぶ声に気づき、再びこちらに顔を向けた。

 

「なぜ彼女をスカウトしようとしたのですか?」

 

可愛い人ならどこにでもいるのだが....

なぜ彼女を?

しかし彼はこう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「笑顔です」

 

 

 

 

 

 

 

 

「笑顔?」

 

「はい。彼女をアイドルにしたい理由はそれです」

 

とても単純な理由だ。

僕はそれに少し驚き、それと同時に納得感は感じられなかった。

こんな簡単な理由でいいだろうか...

 

「じゃあ、他の子を探すのですか?」

 

「いえ、私はまだ彼女をスカウトをし続けます」

 

「そ、そうなんですか....」

 

さすがに不審者扱いされる....

僕は少々心配に感じた。

 

(....大丈夫かな?)

 

するとプロデューサーさんはあることを口にした。

 

「ちなみに、彼女とはどんな関係でしょうか?」

 

「え?」

 

彼の言ったことに止まってしまった。

 

「どうしてそれを..?」

 

「先ほど彼女はあなたに少し反応したので....」

 

どうやら、"彼"も気づいてたらしい。

おそらくプロデューサーという仕事は人間と関わる仕事だと思う。

それで気がついたと思う。

 

「いえ...実は以前、たまたま花屋さんでお会いしたことぐらいしか....それで助けようと声をかけたのです」

 

「そうですか」

 

無表情のまま、ぺこりと頭を下げ、

 

「では、ありがとうございました」

 

プロデューサーさんはそう言い、ここから立ち去った。

 

(怖い人だな...)

 

僕は少し緊張を感じながら彼と話してた。

こんな怖い人と話すのは初めてだ。

 

 

 

 

 

 

もしかすると...ニュースで耳にする喰種(グール)だったりして....

 

 

 

 

 

(....さすがにないよね)

 

僕は気を取り直し、

家に帰るため足を動かした瞬間、

 

 

 

 

「あなただったんですね」

 

 

 

 

プロデューサさんが去った後、

突然後ろから女性の声がした。

誰だろうと僕は振り向くと、昨日出会った"彼女"の姿があった。

あの時とは違い制服姿で、クールな外見だ。

 

「あの時、お花を買ってくださった方ですよね?」

 

「あ...はい。そうですけど...」

 

どうやら本当に覚えてくれていたようだ。

僕が警察に声をかけた時になにか反応したような感じがあった。

 

「ですよね、ここで会うなんて少し驚きました」

 

「そうですよね...ははは....」

 

先ほどの緊張感がまだ残っている。

 

(ど、どうしよ....)

 

僕はあまり女の子と会話は....

 

「確か、あなたは大学生の方ですよね」

 

「は、はい。金木研です...そうです」

 

緊張したせいか自分の名前を言ってしまった。

彼女はその僕の姿に少し笑い「緊張してますね」と笑いながら言った。

 

「私は渋谷凛」

 

彼女も自分の名前を口にした。

なんか申し訳ないなぁと僕は心に呟いた。

 

「で、何を話してたのですか?」

 

「え?」

 

彼女は先ほど346プロのプロデューサーさんとの会話を見ていたらしい。

彼女が僕の前に現れたのだから、立ち去った後見ていたのだろう。

 

「えっと...先ほど346プロダクションのプロデューサーさんにスカウトを断ったんだね」

 

「...それを聞いたのですか」

 

彼女は少し冷たく言葉を返した。

少し触れてはいけないところを触れてしまった。

なんか気まずい....

僕はそれに気づき「...なんか悪いこと言ってごめん」と小さく呟くように返す。

彼女その姿を見て「いや...そこまで落ち込まないでください」と少し焦った様子で僕に言葉を返した。

 

「....断ったんですね」

 

「そ、そうですね....私...アイドルとか"あんまりわからないし"」

 

彼女はなぜか言いにくそうに口を開いていた。

 

「.....そうなんだね」

 

「じゃあ、ありがとう....」

 

彼女は何か違和感を感じたような笑いをし、帰っていく。

僕はその帰っていく彼女に手を振った。

 

 

彼女は本当にやらないのだろうか?

彼女の背を向く姿に僕は疑問を感じた。

彼女は先ほど言いにくそうに言葉を返した。

なにか気を使っているかもしれないけど、

はっきりとしてない。

あの時出会った時の"卯月ちゃん”と比べて反対のような気がする。

きっと彼女はアイドルという世界を知らないから、断ったと思う。

突然アイドルのスカウトに来る。

アイドルになれば普通の日常が変わる。

でも、その新たな道に進めば"わからないこと"、こわいこと、そしていやなことに出会うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが後々、自分(ぼく)に普通の日常が一変するような"出来事"に出会うとは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

20区に戻り、僕は家まで歩いていく。

日は昼より下がりつつあるが、まだ夜ではない。

先ほどの違和感を感じている"凛さん"の姿が頭から離れなかった。

 

(...なんか申し訳ないことしたな...)

 

プロデューサーさんはまだ諦めないから....

また彼女の下に来る可能性が...

 

(あれ?ここに本屋さんがあったんだ...)

 

ふと気がつくと、道の先に本屋さんがあった。

正確には古書店だ。

 

(...あるかな?)

 

ふと思い出した、僕の部屋には父さんがかつて読んでいた本がある。

それは僕にとって大切な本で、父の形見といえる。

 

(...入ってみよう)

 

入っていくと、古い本の匂いが漂う。

父さんの本と似ている。

 

「すみません...」

 

声をかけたのだが...誰も声を返してこない。

というか誰かいるような気配がしない。

 

(奥に進めばいるかな..?)

 

先が暗く、誰もが踏みよりたがらないぐらい雰囲気が怖い。

ここの店主は誰だろうか?

謎が深まる...

 

(...進もう)

 

僕は古書店の奥に進む。

まるで先の見えない森を進むように。

 

(....あれは?)

 

暗く本棚に挟まれた通路に進むと、

一人の女性が本を読んでいた。

 

(........)

 

気がつくと僕は彼女を見とれていた。

彼女は髪はロングで、前髪が目を少し隠してあった。

彼女は本を読んでいるせいか、こちらに気づいていない。

実に知的な女性だ...

 

(....あ、いけない!)

 

やっと僕は我に帰り、ここに来た目的を思い出す。

 

(まずは声をかけないと..)

 

僕は本を読んでいる彼女に声をかけた。

 

「.....あの...」

 

恐る恐る声をかけたら.....

 

「.........っ!」

 

やっと気付いたらしい。

彼女はあわわとお客さんが来ていたことに慌てていた。

僕も驚いた彼女に体が動いてしまった。

 

「..い...いらっしゃいませ」

 

彼女はこちらに視線を向け、少し笑顔で口を開いた。

僕は彼女を見て、目がはっとした。

 

 

 

 

 

なんて美しい方だ――――――――

 

 

 

 

 

 

 



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周声




"彼らの声"が少しずつ聞こえていく。








 

 

 

 

 

 

「おーいカネキ?」

 

「...え?」

 

「どうしたんだ?」

 

「.....いや、なんでも」

 

しばらく時が過ぎたのだが、

"この前"のことが少し頭に引っかかる。

今日はヒデと喫茶店にいるのだが、

僕は何度も止まっていた。

 

(さすがにこのような状況じゃまずい....)

 

おそらくヒデから見れば、僕の顔は曇っているように見えるかもしれない。

僕が少しそう感じた時、

ヒデはあることを口に出す。

 

「そういえばさ、カネキの同じ学部に"可愛い先輩"がいるらしいな?」

 

「可愛い先輩...?」

 

そんな先輩いるだろうか?

僕はあまり大学の人を見ないため、

見過ごしているかもしれない。

 

「誰だろう?」

 

「知らないか....この前に目にしたんだよなー」

 

「見たことあるの..?」

 

「そうだな。ロングヘアーで、目が隠れてて、めっちゃ可愛いくてさ!」

 

僕は「そうなんだ...」とヒデに言葉を返した。

なかなか思い当たる人物が浮かばない。

ロングヘアーだったら"卯月ちゃん"か"凛さん"ならわかるが、

目が隠れているとなると、全く思い当たる人物は浮かばない。

 

「じゃあ、今度俺に会った時に名前とか教えろよ?」

 

「....え?さすがにそれは...」

 

「ついでにこの前にあったアイドルになる子もな!」

 

「そ、それは....」

 

ヒデにはまだ"卯月ちゃん"の名を伝えていないため、

日に日に興味が増していた。

さすがに"卯月ちゃん"の名を出すと申し訳ないので、僕は名前を教えてない。

そんな会話の中、お店のテレビにあるニュースを耳にする。

 

『――....区で再び"喰種”(グール)のものと思われる事件が―――』

 

ニュースを聞いて、ヒデが「また"喰種”(グール)かぁ」と呟く。

この世界には、"喰種”(グール)と呼ばれる人間を喰らう生きものがいるが、

情報として流れてはくるものの、お目にかかる機会はない。

 

「それを退治する組織があるのに、なんでなくならないんだ?」

 

そんな恐ろしい生き物がいるにも関わらず、なかなか消えないことに疑問が感じる。

その怪物を倒す"プロ"がいると聞いたことがあるが.....

やはり困難な問題だろうか?

 

「まぁ、もしも楓さんが"喰種"(グール)に襲われそうになったら、俺がすぐに駆けつけてやる....」

 

ここでヒデのアイドル愛が現れた。

僕は「....まずは居場所知らないとだめじゃない?」と突っ込んだ。

 

「だよな。なにかきっかけがあれば.....楓さんと会える....」

 

やっぱりヒデは楓さんに対しての愛が強い。

僕はいつも通りにその姿に呆れていた。

"アイドル"と出会う.....か....

 

(また会えないかな...?)

 

凛さんはあの花屋に会えるが、卯月ちゃんに関しては不明。

 

(....賭けてみるか)

 

「ヒデ」

 

「ん?」

 

おそらくまた卯月ちゃんに会える場所は...

 

「行って見ない?僕が"その子"に出会ったお花屋さんに」

 

あくまで前にあった場所であるため、

彼女がそこにいるとは限らない。

 

「おー!この前カネキが会ったアイドルか?」

 

「そうだね」

 

しかし、とりあえず僕は賭けてみる。

そこに"卯月ちゃん"がいるかどうか。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「えっと...こっちだっけ...」

 

「おいおい、ここで道を忘れるとかないだろ?」

 

とりあえず、あの時にお花を買った場所に向かっているが、

この前に来たより時間が空いたため、記憶が曖昧だ。

 

(...さすがに凛さんとは出会うのはちょっと...)

 

彼女の場合、まだアイドルになるとはいえないため、

会っても無意味だ。

まず卯月ちゃんと会わないと話にならない。

そんな不安が重なるなか、僕は足を止めた。

"とある二人"を目にしたのだ。

 

「...あれ?」

 

「どうした?カネキ?」

 

何か見覚えあるような二人が花屋の近くにいた。

以前に出会ったことのある人物だ。

一人は女子高校生で、もう一人はスーツ姿の目つきが怖い人。

 

「あ!あなたは...!」

 

すると女子高校生の方が僕がいることに反応した。

間違いない。

あの時に出会った女子高校生だ。

 

「う、卯月ちゃん..!?」

 

しかもその隣には、13区に出会った346プロのプロデューサーさんがいた。

 

「え?つまり...」

 

まさか...卯月ちゃんが入った事務所って...

 

「346プロに....入ったんだ...」

 

「へーあの女子高校生が346プロか.......え?346プロ!?」

 

ヒデがそれを聞いて、ひどく驚嘆した。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「まさか...またあなたに会えるなんて...」

 

僕たちはプロデューサーさんと公園のベンチに座った。

卯月ちゃんと凛さん二人は違う方に座ったけど。

 

「そうですね」

 

13区の時と変わらずに表情は変わらなかった。

ちなみに凛さんは、僕たちが驚いた声に気づき、花屋から顔を出して現れた。

 

「あなたが...卯月ちゃんを採用したのも」

 

「はい」

 

まさか彼が卯月ちゃんを採用したなんて...

そう感じたその時であった。

 

「あの!346プロのプロデューサーさん!高垣楓さんとは会ったことあるんですか?」

 

ヒデは彼が346プロの関係者であることに興奮し、

プロデューサーさんにいろいろ聞いている。

 

「はい。一昨日に顔を合わせましたね」

 

「マジすか!!めっちゃ憧れます!」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

ヒデにも顔を変えず、無表情で答えていた。

ヒデの態度にはどう思っているだろうか?

初対面でこうされたら辛いだろうが、

彼の顔は変わらなかった。

この無表情は昔からだろうか?

プロデューサーさんの謎が深まる.....

 

(まず"以前"はどうなんだろう......)

 

少し腕を組み、考えるが.....

 

「あの楓さんのライブって今度はどこでやるんスか!?」

 

「高垣さんについては....担当の人が違うので詳しくわかりません」

 

「マジすか!?やっぱそういう情報は無理スか....」

 

「すみません」

 

相変わらずのアイドル愛に僕は呆れていた。

もはや考える空気を与えてくれない。

 

(あ、そういえば、卯月ちゃんたちは何をやっているんだろう?)

 

二人が座っているベンチに目を向けると、何か話している。

彼女たちは何を話しているのだろうか?

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

(あ、こっちを見た)

 

金木さんが視線をこっちに向いていた。

 

(........会話から外れたかな?)

 

金髪の人とプロデューサーとの会話する光景が続いていた。

彼の顔は、退屈そうであった。

 

「...."あの人"ってなんだろう」

 

「え?"金木さん"のことですか?」

 

「知ってるの?」

 

「はい。私と同じく花を買いに行った方ですよね」

 

卯月が指したのはプロデューサーと金髪の人の会話から外れている青年だ。

確かに名前は合っているが...

 

「なんで卯月が金木さんの名前を知っているの?」

 

私が知ったのはこの前に駅で会った時に、彼が緊張していたせいか口に出したことだ。

 

「お花を買ったあとに一緒に帰ったんですよ。その時に自己紹介をして知りました」

 

それで卯月は金木さんの名前を知っている。

私は、はいはいと納得した。

見た目は文系男子で、あまり人とは話すのは得意ではない感じがあった。

 

「それでなんで凛さんが知っているのですか?」

 

「なんか...この前に13区にたまたま会って...」

 

「え!?会ったんですか!?」

 

「少し助けてもらったけど...」

 

結局はプロデューサーが入ったことで、金木さんの行動が無意味になってしまった。

それにしてもあのプロデューサーは一体何を考えているだろう?

私を選んだ理由は"笑顔"と言ったのだ。

しかも卯月も同じく言われたとか....

なんだか不安に感じる。

 

(プロデューサーの次に謎に感じる人物は....金木さんだね...)

 

プロデューサーとは違い、普通にいそうな男性だ。

しかも話すのはあまり得意ではない文系男子。

別に嫌とは感じないが、気を使わないといけないのが少し苦手。

でもプロデューサーのように毎回私のところへ来るのではなく、偶然に再び出会うことだ。

 

「卯月は....金木さんとは何回か会ったの?」

 

私の場合は今回で3回しか会っていないため、詳しくはわからない。

卯月なら何回か会ってそうだが....

 

「いえ、これで"2回目"ですね」

 

「え...?」

 

思わず卯月の言ったことに疑ってしまった。

 

「そうですね...確かに言われてみれば....少なすぎですよね」

 

だいぶ会ってそうな感じがしたが、実際は2回しか会ってない。

 

「でも」

 

「でも?」

 

「金木さんとは少しぐらいしか話したことしかないけど...彼はきっと優しい方だと私は思います」

 

卯月は笑顔でそう口にした。

確かに彼は頼りない感じがあり、話すことが不得意かもしれない。

でも優しいと言うことは変わりないかもしれない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(ん?なんか僕のこと言ったのか?)

 

ふと僕の名前が聞こえたような気がした。

何を言ったのか気になる....

 

(さすがに陰口じゃ....)

 

「おい、カネキ」

 

「どうしたの?ヒデ?」

 

「俺トイレ行ってくるわ」

 

「え?...う、うん」

 

僕はこくんと頭を盾に振った。

ふと気がつけばヒデとプロデューサーさんの会話は終わっていた。

ヒデは「じゃあ、行ってくるわ」と言い、すぐにこの場から去ってしまった。

 

「........」

 

今思えば話す話題はまったくない。

 

(ど、どうしよう....)

 

何か言いたいことがあったが思い出せない....

 

「....金木さんですよね?」

 

突然プロデューサーさんが僕の名を言った。

 

「え?...は、はい...そうですけど」

 

「先ほど永近さんがあなたの名前を言ってくれました」

 

どうやら先ほどの会話の時にヒデが伝えたかもしれない。

 

(...あ)

 

ふと思えば、少し疑問に思っていたことがあった。

 

「あのプロデューサーさん」

 

「はい?」

 

「どうして"彼女”(渋谷さん)にスカウトを?」

 

13区の時にプロデューサーさんに一度聞いた言葉。

しかしそれだけではおそらく彼の口から"笑顔"としか言わない。

 

「あと少し思ったのですが....笑顔以外何か目的があるのではないでしょうか?」

 

「目的ですか?」

 

中身を知りたい。

彼女をどう言ったアイドルにするのか。

僕は"13区の時"から疑問に思っていたことだった。

 

 

「彼女を"別の世界"に踏み込ませた方がいいのではないかと」

 

 

「別の世界...?」

 

彼が言う別の世界はおそらく"アイドルという世界"。

 

「彼女がシンデレラのように、普通の日常から別の日常へと変われたらいいと、私は"彼女”(渋谷さん)を声をかけたのです」

 

「.....そうなんですか」

 

彼が考えるアイドルは"笑顔"だけではない。

普通の日常から別の日常へと変えていく。

まるで"シンデレラ"のようなことだ。

 

「...まるでシンデレラですね」

 

「はい」

 

僕がそう告げると、あることが思い出した。

 

(....ん?"シンデレラ"..."プロジェクト"...)

 

13区にもらったプロデューサーさんの名刺に書いてあった言葉。

なぜ"それ"を気づかなかっただろうか?

つまり、彼はシンデレラのようなアイドルを求めていたことになる。

 

「....おもしろいですね」

 

「はい?」

 

「もしかして...プロデューサーさんは彼女を導く"魔法使い"でしょうか?」

 

「....そうなりますね」

 

顔は変わらなかったが、少し困惑していたような感じがあった。

プロデューサーと言う仕事はある意味裏方の仕事だ。

しかしその担当しているアイドルをトップへと導く大事な仕事でもある。

 

「行きますか?」

 

「え?」

 

「彼女の元に」

 

プロデューサーさんがそう言うと立ち上がった。

 

「は、はい。行きます」

 

僕はそう言い、彼の背中に続き、歩いていく。

きっとこれが最後のチャンスだ。

彼女が舞台と言うお城に導く最後のチャンス。

 

 

(僕も"彼女"に何か言えることがあるかな....)

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

"本当にいいのかな....?"

 

 

「少しでも、あなたが夢中になれることがあるのなら、一度踏み込んでみませんか?」

 

「......」

 

確かに今の自分は何も決めてはなく、夢中になってるものはない。

しかしアイドルという仕事に対して、私は躊躇ってしまう。

かと言って嫌とは言えない。

先ほどの卯月の言葉、この前に喫茶店でプロデューサーが言った言葉。

私の胸の中に思い出す。

これはなんて言えばいいのかな....?

気持ちが纏まらない.......

 

 

「....自分の知らない世界に行くのはいいんじゃないかな?」

 

 

するとプロデューサーの後ろにいた金木さんが口を開く。

なぜか金木さんの"その一言"が大きく耳に届いた。

 

「普通に日常に過ごすことはいいと思うけど....何か新しいものを見つけられたらいいんじゃないかな.....?」

 

「..........」

 

「確かに知らない世界に行くのは誰でも不安がある。けど、その不安を取り除けばきっと自分にとって最高な世界になると思う」

 

「...........」

 

私は金木さんの言葉に何も口を開くことがなかった。

すると金木さんの後ろに誰かがやってくる気配が感じた。

 

「たく、お前いいこと言うじゃねえかよ!」

 

突然金木さんの背中を手で叩きつけた。

金木さんは、「ぐはっ!」と声を上げ、攻撃を食らった。

 

「え...?」

 

そして金木さんは倒れこんでしまった。

 

「あれ...?ちょっとタイミング悪かったか...?」

 

「だ、大丈夫ですか!?金木さん!?」

 

卯月が不安そうに金木さんの顔を見る。

 

「....大丈夫」と金木さんは立ち上がる。

 

(...やっぱり文系男子)

 

私はその金木さんの姿にため息が吐きたかった。

"いい言葉を言うのに"、と。

金木はヒデに「やりすぎだよ..."ヒデ"」と小さく呟く。

 

「悪い、悪い」

 

(ヒデというんだね...)

 

きっと名前を呼ぶことはないが、

私はその名を頭の片隅に置いとく。

 

「あの、お怪我は?」

 

「このぐらい平気ですよ....ハハハ」

 

しかもプロデューサーまでも心配かけてる。

この文系男子、と私は再び心に呟く。

金木さんは立ち上がり、服についた砂を払う。

あんなみっともない姿を出したにもかかわらず、

金木さんは"笑顔"でいたのだ。

他の二人は先ほどの心配から笑いに変わっていた。

プロデューサーは何も顔は変わっていなかったが、

笑っていると思う....多分...

そしてなぜか私はその状況で「....ふふ」と笑ってしまった。

 

(アイドルか......)

 

私は小さくそう呟いた。

私にとって知らない世界。

どんな仕事をやるのかよくわかんない。

でも、一つだけ言えることがある。

それは、私は普通の世界に過ごすのではなく、

 

 

 

 

知らない世界に過ごしたほうがいいんじゃないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言った"本人"も同じ行動を出すなんて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いやーなんだかんだ、あの子たちがアイドルになるのか」

 

「そうだね...」

 

僕は彼女らと話して、今帰っている。

先ほどの凛さんの顔は何か迷いがある顔から、笑顔に変わっていた。

凛さんはプロデューサーさんの言葉と卯月ちゃんの言葉を聞いて、

考えが変わるかな...?

 

「それにしてもお前、"連絡先"もらってラッキーじゃん」

 

「あれは..ヒデが言ったやつじゃ」

 

つい先ほど、ヒデは"とんでもないこと"を言ったのだ。

 

 

 

 

 

『あ、そうそう。カネキが、卯月ちゃんの連絡先を知りたいってさ』

 

 

 

 

 

あの時は思いによらないことであったため、とても驚いてしまった。

これはヒデが勝手に考えた言葉であった。

将来彼女はアイドルになるということで、一般人とはプライベートで話すなんてとんでもない。

さすがに無理じゃないかなと僕は思った。

もし下手したら変人扱いにされ、二度と彼女の前に立てなくなるかもしれない....

そんな恐れが僕の体を襲った。

しかし、卯月ちゃんは意外な言葉を口にした...

 

『えっと....あの、"スマホ"ありますか?』

 

『え?』

 

まさかの言葉に少し時が止まったような感覚がした。

 

『アイドルになりますが....少しぐらいの連絡なら...』

 

 

 

 

.......という感じに連絡先をもらってしまった....

 

「俺はもらいたい気持ちはあるけど..やっぱお前だけが持つべきだと俺はそう思うぜ!」

 

もし僕がヒデなら、楓さんの連絡先を知りたいと言うだろう。

 

「そうだけど...」

 

「別にためらう必要はないだろ?」

 

連絡先を知ったのだが、一体どういった返事を出そうか全く考えてない。

メールとかで話したことがあるのはヒデぐらいしかない....

 

 

 

 

 

しかし、これが後に"多くの人との出会い"があるとは考えもしなかった。

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、明日よろしくな」

 

「...え?何が?」

 

「あれだよ、カフェでいた時に言った"可愛い人"」

 

「....いるかな?」

 

僕はヒデが言ったことを受け答えたが、

なかなか思い当たる人物が浮かばない。

それにしてもそれ人は誰だろうか?

まず可愛いと言ってもどう言った可愛いだろうか?

僕はそれが知りたい.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"ん?"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...!」

 

ふと僕の記憶の中から"とある人物"が浮かんだ。

 

「どうした?カネキ?」

 

「その人....もしかして..」

 

ヒデから見れば"可愛い"と思うかもしれない。

 

でも僕から見れば"美しい"と思う――――――

 

 

 

つまり――――――

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

13区に凛さんと再び出会った後のことである。

僕は20区の古書店に尋ねていた。

 

「どうも....」

 

僕は少し頭を下げ、挨拶をした。

彼女はあまり人接することが苦手なのか、こちらに視線を向けない。

 

「えっと...」

 

なんと言えばいいだろうか、と口が止まる。

僕はおそらく彼女の美しさに、緊張していたと思う。

 

「古書がたくさんありますね....」

 

「........はい」

 

彼女はまだ僕の方に視線を向かない。

一生懸命考えた結果、そう言う答えしか出なかった。

 

(何当たり前のこと言っているんだ....僕っ!)

 

何かいい言葉があるだろうか、と僕は考えた。

 

「..........」

 

そんな僕に彼女は口を開いた。

 

「.....本は....お好きですか?」

 

「...え?」

 

急に彼女から来たため、

びくっと体が動いた。

 

「は、はい...好きですね」

 

僕は照れながら彼女に言葉を返した。

 

「そうなんですか.....」

 

彼女は少しこちらを向いて来た。

 

「どう言った....本が好きですか...?」

 

「えっと...小説が特に好きですね」

 

彼女は何か興味を示したのか、質問をする。

 

「大学生の......方...ですか?」

 

「はい。そうですね..."上井大学"の一年生ですね」

 

すると彼女は何か反応した。

 

「"上井大学"...私も....同じ大学で.....通ってます...」

 

「同じ大学ですか?僕は文学部の国文科です」

 

まさかの同じ大学の人だ。

 

僕はそれに驚いた。

 

「同じ学部....」

 

「ん?」

 

「私と....同じ学部ですね...」

 

「え!?ほんとですか?」

 

彼女は本で口を隠し、照れているようであった。

なんで僕は気づかなかったんだろう。

こんな"綺麗な人"が僕と同じ学部にいることを。

 

「ところで......お名前は...?」

 

「僕ですか?金木研です」

 

「金木......研.......なんて....書きますか?」

 

「カネキは曜日の金と木、ケンは研究の研です」

 

先ほどまで静かであった古書店。

今は二人だけの声が聞こえる。

 

「金木......太宰治の出身地の.....町の名前ですよね?」

 

「はい、そうです」

 

「おもしろいですね....」

 

彼女は少し微笑んだ。

僕はそれを見て、胸がどきっとした。

 

「....緊張してますね」

 

「そ、そうですね...ははは...」

 

気が合うところがいくつかある。

彼女は会った当初よりも明るく見えた。

 

「えっと....名前は?」

 

僕は彼女に続いて、名前を聞く。

 

"鷺沢文香"(さぎさわ ふみか)....です』

 

"鷺沢文香"(さぎさわ ふみか).....さんですか」

 

可愛い名前だーーーーー

 

僕は心の中でそう呟いた。

 

「なんて描きますか?」

 

「鷺は鳥のサギで、沢は小さな川の沢。文は文章で、香は香りです....」

 

「いい名前ですね」

 

「ありがとうございます」

 

彼女は再び僕の顔を見て微笑んだ。

 

 

 

 

そう――――――――――

 

 

 

 

彼女の名は―――――――

 

 

 

 

"鷺沢文香"(さぎさわ ふみか)

 

 

 

 

 



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会再




その時に偶然出会った人が、またどこかで出会う―――






 

 

 

 

 

4月24日 土曜日 朝

 

 

 

目覚ましの騒がしい音が耳に響く。

即座にアラームを止め、早々にベットから起き上がった。

カーテンの隙間から朝の日が入って来ているが、部屋はしん、としていた。

もうぼくは"あの家"にいるのではなく、一人暮らしだ。

物静かで寂しいけど、あの張り詰めた空気がないことがよかった。

この後朝食を食べ、行く支度をし、

いつもならこのまま大学に行くのだが、今日は違った。

 

しんとしている部屋に携帯の着信音がなった。

 

(....?)

 

こんな朝にもかかわらず、携帯が鳴った。

どうせヒデからの返事だろうと思い、携帯を開くと、

 

 

『おはようございます。カネキさん。島村卯月です』

 

 

「!?」

 

ぼくはその返事を見て驚いた。

まさかの卯月ちゃんからの返事だ。

あちらから来るのは全く予想はしてなかった。

 

(ほ、本当に来た....)

 

あまりにも驚いてしまい、なんて返せばいいのかわからなかった。

 

(とりあえず...あいさつを)

 

驚きの次に緊張がして、手が震える。

震える手でゆっくりと文字を打っていく。

ヒデ以外こうやって話すのは初めてだから。

 

『おはよう。卯月ちゃん』

 

一生懸命に動かしたが、返事は普通だ。

こう言う返事ならヒデであったらすぐに返すが、今回は卯月ちゃんだ。

本当にこの返事でいいのかとためらい、何分か思い悩んだ末送信した。

一先ずほっとしたが、

 

(次はどういった返事を....)

 

おそらく再び来る。

口ならまだいいのだが...

そう思った瞬間、返事がすぐ来た。

すぐさま携帯の画面を見ると、

 

 

『今日は私の誕生日です!カネキさんも祝ってください!』

 

 

(そ、そうなんだ....)

 

携帯のカレンダーを見ると、今日は4月24日の土曜日だ。

 

『誕生日おめでとう。卯月ちゃん』

 

(やっと送れた...)

 

緊張していたせいか、疲れが少し感じた。

こんな朝にも関わらず早速疲れた。

 

(まぁ...."あの家"にいたよりはいいかな...?)

 

恋愛はしたことないが、まるで恋人にメールを送るような緊張感であった。

一息つくと、再び携帯が鳴る。

 

 

『ありがとうございます。実は、凛ちゃんはアイドルになることになりました!』

 

 

(....よかった)

 

その返事を見てなんだかホッとした。

あの時に迷っていた凛さんが、最終的にアイドルになることを決めた。

ぼくはそのことを聞いて安心した。

 

『そうなんだ。それはよかったね』

 

そう返事を出して、数十秒後....

 

 

『今日も頑張っていましょう!』

 

 

実に卯月ちゃんのらしい返事だ。

その返事になんだか先ほどの疲れがなくなった気がする。

 

 

(さてと作らなきゃ...)

 

卯月ちゃんとやりとりしていたため、

まだ朝食は作っていなかった。

今日は大学の講義があるため、早く食べて行かないと時間が足りなくなる。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

土曜日の朝の大学。

 

 

平日よりも人波は少なく、歩きやすい。

本来なら一人で登校し、そのまま講義をする教室に行くのだが....

 

「おはようございます....金木さん」

 

誰かが僕に挨拶をしてくれた。

聞いたことのある声だ。

 

「あ、文香さん」

 

この前に古書店で出会った文香さん。

髪が目を少し隠し、暗い印象があるが、よく見れば美しい方だ。

 

「今日は....同じ講義でやりますよね....?」

 

「そうですね。そのまま行きます」

 

「じゃあ....一緒に行きましょう」

 

ぼくの横に近づき、共に歩く。

また緊張する。

 

「文香さんは他の人と話さないですか?」

 

「そうですね.....最近話したのは叔父ぐらいしか...」

 

「そうなんですか....」

 

文香さんの出身は長野県。

彼女は東京の大学に進学するため、叔父さんの家に住んでいる。

その叔父さんが経営していたのは、出会うきっかけになった古書店であった。

そこでバイトをしていたところ、ぼくと出会い、今に至っている。

 

「今の所....金木さんが初めてです」

 

「ぼくが初めてですか....」

 

なんだか少し恥ずかしい。

でもそれと同時に嬉しい感じがあった。

 

「金木さんは....普段話す方はいるのでしょうか?」

 

「はい、一人ぐらいしか....」

 

それはもちろんヒデだ。

....."今の所"は。

 

「そうですか.....でも、今お互いに新しく"お話ができる方"ができましたね」

 

文香さんはそう言い、少し笑った。

 

「....確かにお互いできましたね」

 

つまり今ここにいる"僕ら"だ。

 

「では....教室に入ってきましょう」

 

ぼくたちは今日講義する教室に入って行く。

今日はいつもとは違う日常がよく味わえているような気がする。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「え...?アイドルの名前を覚えろ?」

 

「そうだ!どうせカネキは卯月ちゃんの連絡をもらったから、覚えないとな」

 

午前の講義が終わった後、ヒデに話していた。

 

「なんか悪いか?どうせ卯月ちゃんと凛ちゃんが関わる人はまずアイドルだと思うから、もしお前が話題を出すとき使えばいいだろ?」

 

「い、いや.....」

 

確かに覚えないとけないかもしれないが、僕は別にアイドルが好きとは言えないのに覚えるのはどうかとためらっている。

 

「まずは伝説のシンデレラガールズのメンバーを知らないと」

 

ヒデはそう言い、カバンから雑誌を取り出し、僕に渡す。

 

「し、"シンデレラガールズ"...?」

 

全く聞きなれないアイドルグループの名が僕の耳に入る。

 

「まず知るべきアイドルは"シンデレラガールズ"。346プロのアイドルを知るならまずはこれだ」

 

一体なんだろう?と雑誌を見る。

 

「特にこの子はおすすめだ」

 

ヒデが指をさした人物は"城ヶ崎美嘉"(じょうがさき みか)と書かれた記事。

ピンクの髪が特徴で、"カリスマJKモデル"と書かれている。

 

(.........)

 

ぼくはその記事を見て、妙に苦手意識みたいな気持ちが出て来る。

というか無理なタイプだ。

 

「どうした?カネキ?」

 

「僕ちょっと....城ヶ崎さんは合わないかも...」

 

ヒデは「どうして!?」と僕に問いかける。

 

理由は"見た目"だ。

彼女は派手でセクシーなファッションをしており、

まさに社交的な女子高校生が好きっぽい。

別に関わるのは問題ないとおもうが、

話しかけるのを避けたくなる。

 

「別に彼女はかわいいと思うよ?でも....なんだか好きになれない」

 

彼女に申し訳ないが、ぼくは好きになれない。

 

「そっか...別に悪くねぇけどな」とヒデは残念そうに呟く。

 

なんだか申し訳ない気持ちが湧き上がる。

 

「あ、そういえば。名前は聞いたか?」

 

「名前?」

 

「この前俺がみた"可愛い子"」

 

その"可愛い子"と言う単語を聞いて思い出した。

今朝、出会って一緒に講義に参加した人。

 

「名前は...鷺沢文香さん」

 

「へー文香ちゃんか」

 

ヒデは何かもっと言いたそうな様子であった。

 

「どうやって知った?」

 

「えっと....古書店で出会って....そこで名前を聞いたよ」

 

さすがにその古書店の名前は出さなかった。

もし言えば、きっとヒデはそこに立ち寄る。

 

「そっか....確かにいつも文香ちゃんは本読んでいるもんな」

 

よく考えてみれば、いつも本を読んでいる姿をよく見かける。

 

「......もしかしたら、アイドルに向いてんじゃないか?」

 

「え?」

 

ぼくはヒデの言葉に一瞬止まった。

 

「あんな可愛かったらアイドル目指したらいいだろ」

 

「そ、そうかな...?」

 

確かに美しくて、アイドルに向いていそう。

でも彼女がアイドルになると言うだろうか?

ぼくは疑問に感じてしまう。

 

「まぁとりあえず、明日までにシンデレラガールズのメンバーの名前とプロフィールを覚えてこいよ」

 

ぼくは「わかったよ」と返した。

おそらく誕生日だけではなく、身長やスリーサイズ、出身地、血液型など聞くと思う.....

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ヒデと別れた後、

ぼくは再び13区に訪れていた。

最近行くことが多いような気がする。

 

(いい本ないかな.....?)

 

そう思い歩いていると、"何か"が接近して来る。

 

(ん?)

 

視点を向けた瞬間、何かにぶつかった。

 

「っ!」

 

ぶつかった衝撃で、後ろに倒れた。

その同時に紙が空に散らばる。

 

それは自らぶつかったのではなく、"何か”がぼくにぶつかって来た。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ぶつかる1分前。

 

 

(やばいやばいっ!!)

 

わたしはとにかく走って行く。

おそらく私は人生で大きな過ちをしていると思う。

時間を見れば、オーディションの時間まで残りわずかだ。

昨日弟とゲームした結果、寝坊をしてしまった。

 

(なんてことをしてしまったんだ...わたし...)

 

今更後悔しても、もう遅い。

とにかく早く走らないと遅れる。

風よりも早く。

 

(神様お願いっ!今日だけ間に合うようにっ!)

 

焦りのせいか、周りを見ていなかった。

それが悪かった。

 

「っ!」

 

突然何かにぶつかった。

それは柱のように硬い何かではなく、人だ。

ぶつかった後、私は後ろに倒れた。

 

「い、痛ったあ.....」

 

目を向けると、"男性"も私と同じく倒れていた。

間違いなく私がやってしまった。

 

「す、すみませんっ!」

 

わたしはすぐに立ち上がり、その当たった男性に頭を下げ、謝る。

 

「い、いいよ....大丈夫かな?」

 

男性はそう言い、自分で立ち上がる。

 

(....あっ!)

 

気がつくとぶつかった衝撃でカバンの中にあった書類が散らばっていた。

 

(まずい...散らばっている...!)

 

度重なるトラブルにさらに焦りが来る。

もう最悪。

 

あーなんでこうなるの...」と小さく呟いていると、

「手伝いますよ」と男性は拾うのを手伝ってくれた。

プロフィールが書かれた紙は広く散らばり、一人で集めるのは精一杯であった範囲を短時間で終わらせた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

書類をカバンに入れ、再び頭を下げて急いで会場までダッシュをする。

とりあえずあの男性には感謝をしたつもり―――

 

(遅れる遅れるっ!)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(結局いいものなかったな....)

 

本屋さんに行ったが、気に入った本は見つからず、

ぼくは帰っていた。

高槻作品ならすぐ買うが、残念ながら最新作はまだであった。

 

(そういえば、今日ぼくにぶつかった子はどうなったかな...?)

 

今日ぶつかった子の特徴は、ショートカットでハキハキしていそうな子だ。

ぶつかった衝撃で書類が地面に散らばり、ぼくは拾うのを手伝った。

うろ覚えだけど、"どこかのオーディション”に出すような紙だった。

 

(....あれ?なんでこんなに人が少ないんだろう?)

 

今日は土曜日なのだが、人が少ない。

普通ならこんな時間帯であれば多くの人がいるはずなのだが....

妙に人影がないような気がする。

 

(......ん?)

 

そんな人があまりいないホームで"ある人"に目をつけた。

"どこかで見たことのある人物"のような気がした。

 

(.....もしかして)

 

話しかけてみようと思ったが、もし間違ってしまったらとても恥ずかしい。

ぼくは声をかけようか躊躇う。

 

そんな状態の中、彼女に異変が―――

 

(......!)

 

彼女が少しふらついついている。

妙に意識が薄いような感じだ。

ふらつきが前に行く。

 

(まずい...!)

 

このままじゃホームに落ちる。

ぼくは咄嗟に体を動かし、彼女の肩を掴む。

 

「...っ!」

 

気がついたようだ。

彼女はぼくの方に顔を向ける。

 

「あ....えっと...」

 

なんて言おうか迷った。

 

「だ、大丈夫...?」

 

「あ、ありがとう...」

 

ぼくは彼女の肩から手を離し、少し離れた瞬間、

偶然に強い風が来る。

 

(......!)

 

彼女が被っていた帽子が取れた瞬間、髪がすっと出てくる。

ピンクの髪で滑らかだ。

ぼくは彼女は一体誰なのかわかった。

今日ぼくが好きではないと言ってしまったアイドル。

 

「城ヶ崎....美嘉...さん?」

 

彼女は"城ヶ崎美嘉"(じょうがさき みか)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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心残




消せない想いが、なぜか消えない。






 

 

 

「.............」

 

お互い何も話さず、目を合わせていた。

あまりにもホームが静かだ。

まるで僕と彼女しかいないだろうと感じてしまう。

 

(何か言わないと.....)

 

「....あの」と僕が声をかけた瞬間、電車がやって来た。

 

そしてドアが開いた瞬間、

 

「....っ!!!」

 

彼女は顔を赤くし、すぐに後ろを向き、電車の中に入っていく。

彼女が電車の中に入っていた後、タイミングよくドアが閉まり、行ってしまった。

 

「行っちゃった.....」

 

僕は彼女を乗せた電車をただ見るしかなかった。

なんだか僕の心は、誰もいない寂しいホームのようであった。

 

(.....城ヶ崎美嘉ってあんな人だっけ?)

 

よく考えてみれば、何かおかしいところがある。

彼女の顔は赤かったような...?

でも城ヶ崎美嘉はそんな人ではないはずだが.....?

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日ーーー喫茶店

 

 

「はっ?美嘉ちゃんに会った?」

 

後日、昨日ホームに出会った人のことをヒデに話した。

その人は顔を赤くし、電車に逃げたと。

 

「うん。少し変装していたけど、多分本人」

 

確かにあれは本物だと確信したが...

ヒデは何か納得していなかった。

 

「いや...おそらくその人は"美嘉ちゃんじゃない"」

 

「え?どうして?」

 

「だって、カリスマギャルだぜ?そんなことで顔を赤くすることはまずない」

 

「そうだよね...」

 

昨日駅とか街とかでも城ヶ崎美嘉の載っている広告を見たが、

確かにそんなことで顔を赤し、恥ずかしがるような人に見えない。

きっと彼女はそんなことをしない。

 

「悪いがカネキ。その人は美嘉ちゃんじゃなくて、"美嘉ちゃんに似ている人"だ」

 

ここは東京。多くの人が行き交う場所。

似ている人だって何人かいる。

よくテレビでそっくりさんコンテストもやっているから、多分昨日あった人がそれに出たら優勝するかな?

 

「うん....」

 

でもいまいち納得できない。

確かにあの顔はそっくりさんだとすれば、似すぎる。

 

「ところで話に戻るが、覚えて来たか?」

 

「え?...あ、ああ、覚えて来たよ」

 

「じゃあ、"Happy Princess"を組んでいるメンバーの名を言ってみろ」

 

「えっと...城ヶ崎美嘉、小日向美穂、川島瑞樹、日野茜、佐久間まゆ...っでいいかな?」

 

「お、正解」

 

そうだった。今日来たのは報告だけではなく、

シンデレラガールズのメンバーの名前やスリーサイズを言うために来たんだ。

...と思ったがどうやら今日はこれで終わりらしい....

 

「よーし、今度は346プロの主なユニット名やその所属しているアイドルの名前などを覚えてこい」

 

僕は「またやる?」と少し呆れて口に出した。

 

「そりゃー決まっているだろ!話の話題だ!」

 

「そ、そうだね....」

 

その時のぼくは多分嫌そうな顔をして返事を返したと思う。

....と言っても、僕は覚える。

昨日は嫌々で覚えていたが、今度は違う。

昨日城ヶ崎美嘉に似ている、いや、"本物の城ヶ崎美嘉"に出会ったことがきっかけか―――

覚える気が出てきたかもしれない。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

『だ、大丈夫...?』

 

妙にあの言葉が頭で繰り返していた。

一昨日の電車のホームで"ある男性"に助けられた。

その時の私は仕事の疲れのせいか、妙に立ちくらみがあった。

もしあの時、彼がいなかったら....

 

「........」

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

 

「...え?」

 

気がつけば、少しぼーとしていた。

その姿に莉嘉は少し心配していた。

 

「い、いや...今日は何かあるかなぁって考えてたよ」

 

今日は写真撮影だ。

今度のライブパンフ用の写真のための。

そんな中、"新しい人"が三人いた。

おそらく違う部署の子だと思う。

 

「美嘉ちゃんー撮影するよ」

 

カメラマンの人が私を呼びかける。

 

「はーい。莉嘉行ってくるね」

 

「撮影頑張ってね、お姉ちゃん!」

 

「うん」

 

私は返事をし、撮影するセットに向かう。

 

(なんで昨日のことが忘れられないかな...?)

 

昨日は恥ずかしいことをやってしまった。

助けられたのだ。

あの時はたまたま人がいなくてよかったけど....

 

(また"出会う"とかないよね...?)

 

世間でのわたしのイメージは、カリスマギャルで"恋愛経験"がありそうと思われているけど、

でも実際は違う。

実際は恋愛なんて全く経験していない。

ある意味誤解されている。

 

世間のイメージとは違う私を、"彼"が見たのだ。

 

「美嘉ちゃんー?」

 

「....え?」

 

またぼーとしてしまった。

 

「もうちょっと笑顔をお願いねー」

 

カメラさんに指摘されてしまった。

 

「あーごめん」と少し軽く返し、ポーズを決める。

 

今日はあまり仕事に集中ができない。

これは間違い無く"彼"のせいだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

(.....どうしたんだろう?)

 

先ほどから美嘉の顔がおかしい。

何か考えているような...?

 

「どうしたの?しぶりん?」

 

すると、未央が声をかけて来た。

 

私は「いや、別になんでもないよ」と返す。

先ほど宣材写真の撮影が終わり、今はフリータイムになっている。

私はとりあえず美嘉のところにを見ていた。

 

(....どういった行動すればいいかな)

 

みんなは楽しんでいるように見える。

でも私は少しその雰囲気になれない。

アイドルってまず何するのかわからない。

それで今ここにいる。

 

「ねえ、三人で写真を撮りませんか?」

 

卯月の手には携帯を持っていた。

どうやらそれで撮るようだ。

 

「おっ!いいね!しぶりんもやろうよ?」

 

「う、うん。いいよ」

 

三人一緒に横で並び、写真を撮る。

しかも自撮り。

まさに女子高校生がやる行動だ。

 

「ありがとうございます!」

 

「しまむー見せてー」

 

ちゃんと 綺麗に写っていた。

 

「あとでみんなに送りますので」

 

「お!ありがとう!」

 

「うん、ありがとう」

 

私はそう言って、少し微笑んだ。

ある意味いい思い出を作った。

最初に同じアイドルの子と楽しんでいることだ。

わたしは正面上では楽しんでいるというか、落ち着いて見ると思うけど、

内面は楽しめている。

 

(.........)

 

ふと、あることを思い出す。

 

(...."金木さん"に送るとか無いよね...?)

 

あの時確か....ヒデ?さんの口に『金木が卯月の連絡先を知りたい』ということを言ってた。

さすがに渡さないだろうと思ったけど、まさかのOKだった。

普通なら絶対渡さないところを卯月は渡したのだ。

 

(....私だったら絶対やらない)

 

普通何回か会ったことのある人物に渡せるはずがない。

いくら見た目が落ち着いている人でもさすがに...

 

「凛ちゃん?」

 

「ん?」

 

ふと気がつけば、今スタジオにいるのは私と卯月だけだった。

 

「もう行きますよ?」

 

みんなは帰る準備をしていったようだ。

 

「うん、わかった」

 

私は少しゆっくりと足を踏み出す。

 

 

中々好きになれない。

 

具体的な理由もなく、好きになれない。

 

多分、私は嫌っていると思う。

 

彼のこと。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Side

 

 

 夜 ―――自宅

 

 

「......」

 

ぼくは静かに読書をしていた。

やっと面白い本を見つけたのだ。

高槻作品ではないが、結構面白い。

 

「.......」

 

妙に部屋は薄暗いけど、そんなの気にしなかった。

何せ本を読んでいるときは、その本の世界に入っているのだから、

部屋が暗くても、一人でいる時でも問題は無い。

そんな本の世界に入り込んでいるぼくに、"ある音"が聞こえた。

 

(....ん?)

 

本を読むのをやめると、携帯が鳴っていた。

 

(誰だろう...?)

 

ぼくはそれを開くと、卯月ちゃんからの返事であった。

 

 

『金木さん金木さん!』

 

 

(...ん?)

 

何かぼくに呼びかけている。

 

(どうしたのかな...?)

 

ぼくは『どうしたの?』と返事を返す。

するとすぐに返事が来た。

 

 

『今日はとってもいいことがありました!』

 

 

どうやら何かいいことがあったらしい。

それを表しているのか、絵文字が可愛いく表示してあった。

 

『どんなことかな?』と返事を再び返す。

 

(何がいいことあったのかな?)

 

いい仕事が見つかったのか....それとも...ライブか....?

 

 

『城ヶ崎美嘉さんと一緒にライブに出ることになりました!』

 

 

(美嘉さん....?)

 

一瞬誰だろうと思ったが、思い出した。

確かにシンデレラガールズの人気アイドルだ。

 

(結構すごい....)

 

まだ新人にもかかわらず、最初から一緒に出れるなんてすごい。

おそらく、城ヶ崎美嘉から声をかけられたのかな?

 

(さすがにこの前会ったことは言わないでおこう...)

 

そう思い、文字を打つ。

 

 

『そうなんだ、すごいね!卯月ちゃんと他に誰が出るの?』

 

 

しばらく待っていると.....

 

 

『このメンバーで出ることになりました』

 

 

その返事とある写真が送られた。

その写真には三人写っていた。

おそらく場所は....写真撮影をするスタジオ。

 

(....結構可愛く写っている)

 

一人は卯月ちゃん、二人目は凛さん、三人目は.......

 

 

ん?

 

 

(....あれ?)

 

ぼくは何か気づいた。

その三人目の子、"どこか"で見たことがあった。

 

(.......まさか)

 

急いで文字を打ち、メールを送る。

 

 

『卯月ちゃんと凛ちゃんと次の子は誰?』

 

『"本田未央"ちゃんです!何か気になることありましたか?』

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

(あれ...?早い?)

 

金木さんの返事は普通なら数分で来るのだけど、

なぜかこの返信だけは数十秒で来た。

わたしは少し疑問を持ちながらメールを打つ。

 

 

『"本田未央"ちゃんです!何か気になることありましたか?』

 

 

(どうしたんだろう...?)

 

もしかして金木さんの好みだとか...

そう思った瞬間、返事が来た。

 

「!」

 

わたしはその返事を見て、驚いた。

 

 

 

 

『多分、"その子"と出会ったことがある』

 

 

 

 

 

 



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輝影



光もあれば影もある。

ぼくはその影かもしれない。






 

 

 

卯月Side

 

 

『多分、"その子"と出会ったことがある』

 

 

「.....え、えっ!?」

 

私はそのメールを見て驚いた。

まさか金木さんが未央ちゃんに会ってたとは...

 

『もしかして、お知り合いですか?』

 

わたしは急いでメールを打ち、送る。

 

(....まだかな?)

 

まだ数秒しか経ってない。

金木さんの返事が来るまで、

ものすごく待ち遠しい。

なぜ金木さんが未央ちゃんを...?

 

『実は卯月ちゃんの誕生日の時に出会ったんだ』

 

『どうして出会ったんですか?』

 

『確か....その子は何かオーディションを受けるため移動をしていたら、たまたま僕に当たって』

 

未央ちゃんがオーディションを受けたのは私の誕生日の時に受けてたと言ってた。

だとすれば、一瞬かもしれないけど会っていたことになる。

 

『そうですか....』

 

『多分、僕と会っても覚えてないかも』

 

(ん....そもそも未央ちゃんに金木さんの名前を言っても....)

 

しかも金木さんの写真もないため、確認しようがない。

 

『ちなみに卯月ちゃん達が出るライブって...?』

 

(あ....言ってなかった)

 

『"Happy Princess"のライブで、私たちが出るのは城ヶ崎さんの"TOKIMEKIエスカレート"のバックダンスです!』

 

(....そうだ!)

 

わたしは何か思いつき、メールを打つ。

 

『そうなんだ。有名なユニットのライブに出るんだね』

 

(じゃあ....会わせてみようかな...?)

 

たぶん、未央ちゃんは思い出すかも。

 

 

『来てくれますか?ライブに?』

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Side

 

 

『来てくれますか?ライブに?』

 

 

卯月ちゃんからの返事を見て、なぜかびっくりした。

 

(ら、ライブ...)

 

少し迷う。

卯月ちゃん達が出る"Happy Princess"のライブに行くことを。

別にその日は何も予定はないが....

 

(まぁ...せっかく卯月ちゃん達の初めてのライブ出演だし...)

 

ぼくは『行こうかな』と入力し、返事を送る。

 

『そうですか!ありがとうございます!』

 

卯月ちゃんはとても嬉しそう。

しかしぼくは手を額につけ、ため息をつく。

 

(どうしよう....チケットは...)

 

ライブは来週。

しかも"Happy Princess"のライブ。

ぼくはチケットの調達の仕方がよくわからない。

ある有名な歌手のライブでは、チケットは抽選でゲットできると耳にしたことがある。

 

(明日ヒデに相談しようかな...?)

 

そう思っていると、携帯が鳴る。

 

『金木さん。ライブが終わったら、しばらく会場の外で待ってくれませんか?』

 

(.....え?)

 

ぼくはその返事に少し動揺した。

なぜ待つのかを。

 

(.......なんて返事を....)

 

あまりにも驚いたせいか、指が動かない。

会うなんて約2週間ぶりと言えばいいだろう。

 

(......もしかしたら...城ヶ崎さんに会えるかな?)

 

確率は低いと思うが、会えるかな...?

 

『いいよ。待つよ』

 

『ありがとうございます!ではおやすみなさい、金木さん!』

 

その返事の最後にハートがあった。

その返事を見て、携帯の画面を消す。

そして....

 

(あーーーーーーーーっ!!!!!)

 

ぼくは心の中で叫ぶ。

僕が未熟なせいか、

ただの会話のはずなのだが、

妙に恋人同士の会話に見えてしまう。

 

(これは普通の会話だ....多分)

 

恋愛なんてだめだ。

 

彼女はアイドル。

 

そんなことしちゃ....彼女の道を"傷つける"ことになる。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日―――喫茶店

 

 

「よーし、今日も合格だ」

 

午前の講義が終わり、ぼくたちは喫茶店にいる。

今日のヒデのテストはもちろん合格した。

出された問題は現在のシンデレラプロジェクトのメンバーを言えという問題。

 

「もうやめない....?」

 

なんだかヒデと会うたびテストをやるため、もう定番化しそうだ。

 

「別にいいだろ?カネキが忘れないためにだ」

 

ヒデは笑ってそう言う。

どうやらやめないらしい。

 

「別に忘れはしないけど...」

 

そう会話していると、テレビにあるニュースが出ていた。

 

『今日、13区にて"喰種"(グール)の捕食事件がありました』

 

「またか"喰種"(グール)か.....しかも"13区"」

 

ヒデが少し顔を曇らせ、呟いた。

そのニュースは昼のトップニュースだ。

そのニュースはとても残酷だ。

その被害者は目を潰され、手足が切断されたと。

 

「昔から13区って危ないよな?」

 

「うん....」

 

昔から危ないと聞いている。

いつまで経っても同じことを聞くため、まだ危ない。

 

(と言っても......."喰種"(グール)ってなんだろう?)

 

そもそも"喰種"(グール)の姿を見たことはなく、どういった者なのかわからない。

中学や高校の時には薬学講座や交通安全、犯罪防止する講座を受けたことがあるのだが、

"喰種"(グール)についての講座はやったことがない。というかないと言ってもいいだろう。

学んだことを言えば、現代社会の時間でぼそっと出たくらいだ。

 

(あ...そうだった)

 

今日ぼくがヒデに会って話すことがあった。

 

「そうだ。ヒデ」

 

「ん?」

 

「ぼく行こうと思うんだ。ライブに」

 

「ライブ?どのライブだ?」

 

「えっと..."Happy Princess"の」

 

ヒデはそれ聞いた瞬間、顔が変わった。

 

「まじかっ!ちょうど俺も行くつもりだったから、行こうぜ!」

 

やっぱり、ヒデはアイドルが好きだと再び感じられる。

 

「でも...ぼくにはまだチケットが....」

 

そもそもどうやって買うのかわからない....

しかもまだ残っているのか....

 

「やっぱりか...でも、予想してたぜ?」

 

「え?」

 

ヒデがバックから何かを取り出した。

もしかして....

 

「そうと思って、事前にお前の分もあるぜ!」

 

ヒデが取り出したのは二枚のチケット。

ぼそっと「しかも抽選で」と言った。

どうやら抽選でゲットしたらしい。

 

「本当は一人一枚だったけど、頑張ってお前の分をゲットしたぞ」

 

一体どんなルートでゲットしたのか分からなかったが、とりあえず安心した。

 

「ありがとう、ヒデ。あとでお金を...」

 

「いいぜ、金木。合格祝いだ」

 

ぼくは「それでいいかな..」と苦笑いして言った。

 

ぼくがこのライブに行きたいのは"Happy Princess"のためではなく、

城ヶ崎美嘉の"TOKIMEKIエスカレート"の時に出るバックダンサーの三人の子たち、

つまり卯月ちゃん達を見るためだ。

 

それのために来るのは少し変かもしれないけど、でも彼女達にとって初めてのライブだ。

 

(さすがに....卯月ちゃんたちが出ることは言わないでおこう...)

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

鼻歌を歌いながら346プロに向かっている。

気分がいいのは今度ライブに出るのだ。

しかも初ステージ。

美嘉姉のバックダンサー役だけど、だいぶ嬉しい。

ライブまであと数日程度。

 

(今日も頑張って行こう!)

 

心にそう言い、346プロに入ってくと、わたしは"ある人"に目を止めた。

 

「あれ?だれだろう?」

 

白い白衣みたいなコートを着て、銀色のアタッシュケースを持った男性が二人いた。

警察の人に見えるけど、何か違う。

 

"喰種"(グール)捜査官の方ですよ」

 

ちひろさんがわたしの後ろからやって来た。

 

「あ、ちひろさん!おはようございます!」

 

わたしは頭を下げ、挨拶をする。

ちひろさんも「おはようございます」といい、頭を下げる。

 

「なんで346プロに?」

 

"喰種”(グール)捜査官が来るなんて今初めて知った。

 

「昔から13区は"喰種"(グール)事件が多くあるところなんですよ」

 

確かに今日も13区で"喰種"(グール)の事件があった。

被害者は30代男性で、遺体は腕と足が切断され、腹部は穴が開けられ、目は潰されたと聞いた。

それを耳にしたはわたしは、朝から妙に嫌な気分を味わった。

 

「それで、"喰種"(グール)捜査官の方が防犯のために、ここに来ますね」

 

家は千葉だから、東京の事情は少ししか知らない。

東京ってそんなに危ないんだね。

 

「まぁ、月に一回ぐらいにここに来る程度ですけど」

 

「そうですか...それでここに来ているんですね」

 

「ちなみに346プロの入り口には、"喰種"(グール)が入って来ないようにするためのゲートがあるんですよ」

 

「へーだいぶ警備が厚いんだね」

 

初めてここに着た時、入り口が妙に違うことに気づいた。

13区のお店にはまずない作りだ。

それなのになぜ346プロはそういうことをするんだろう?

13区だから警備が厚いということかもしれないけど....

 

「今日も練習ですか?」

 

「はい。今日もですけど、がんばってきます!」

 

ちひろさんは「がんばってください」と言い、その場から立ち去った。

 

(さてと、ロッカーに行かないとっ!)

 

わたしは足を動かし、ロッカーに向かう。

 

日が近くなるにつれて、楽しみが増して来る。

 

 

 

 

 

 

それと同時に"緊張"が迫ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

当日―――会場

 

 

(だいぶ人多いな....)

 

僕たちは"Happy Princess"のライブに来ている。

会場に入るため、列の中にいる。

予想していた通り人が多い。

今週はゴールデンウィークということだからか、多くの人がやって来ている。

おそらく東京以外から来た人たちが多くいるだろう。

 

「いやー美嘉ちゃんに会えるからいいなー!」

 

「うん...」

 

ぼくは適当に返事を返す。

今日はヒデのアイドル愛がもっと見れる。

あまり好きではないけど。

 

「ところで席は...?」

 

「えっと、二階の前らへん」

 

「二階か...」

 

前の席かなと思ったが、二階であった。

 

「前の席は即完売したんだよ...」

 

ヒデは残念そうに言う。

確かに"Happy Princess"は人気アイドルユニットだ。

移動中、街の広告では何度も見かけて来た。

 

「仕方ないかな....」

 

そう呟くと、係員の人が『大変お待たせしました』と言う声が聞こえた。

すると止まっていた列が動く。

 

「行くぞ!金木!」

 

ヒデはそう言い、歩く。

 

多くの人の中、僕たちは歩む。

 

(一体どんなライブなのか?)

 

僕にはわからない。

前の高垣楓のライブとは妙に違うように見える。

 

 

 

 

なんだか楽しめそうだ。

 

 

 

 

 



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星姫





彼女たちは輝いていた

魔法がかかったお姫様みたいに





 

 

 

金木Side

 

 

(もうそろそろ始まる...)

 

携帯の時間を見てみると、開始時間があと数分であった。

 

「楽しもうぜ?金木?」

 

ヒデの顔はだいぶニヤついていた。

もう待ちきれないらしい。

 

「う、うん...」

 

そんな姿にぼくは少し不安を感じた。

さすがにそんな顔したら不審者扱いされるのではないかと。

 

すると、ぼくの携帯が鳴った。

 

「?」

 

画面を見てみると、卯月ちゃんからのメールだった。

 

『頑張っていきます!!』

 

ぼくは妙に不安が胸に少しづつ湧き出る。

 

(本当に大丈夫かな...?)

 

彼女たちにとって、初めてのライブ。

初めてということで、もしかしたら緊張はしているかも....

 

(よし.....)

 

ぼくはメールを打ち始める。

きっと緊張しているだろう。

ぼくは何か励ましの言葉を作る。

 

(よし....これでよし)

 

出来上がったメールを卯月ちゃんに送る。

 

『初めてのライブ頑張って!緊張しても、"何か楽しいこと"を考えたらいいかも』

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月SIde

 

 

(どうしよう.....)

 

初ライブということでかなり緊張がする。

今日持ってきたサンドイッチが口に進まなかった。

 

「..........」

 

部屋の空気が重い。

みんなは黙っている。

 

(何かしなきゃ....)

 

そんな状況の中、携帯が鳴る。

まるでこの空気を壊すかのように。

 

(?)

 

音がなったのは、私の携帯であった。

 

(誰かな...?)

 

携帯の画面を見ると、金木さんからの返事だ。

 

『初めてのライブ頑張って!緊張しても、何か"楽しいこと"を考えたらいいかも』

 

金木さんからの応援メッセージだ。

先ほど私は金木さんに返事を出したのだ。

 

(楽しいこと....)

 

先ほどまでもし失敗したらなどの不安にさせるようなことしか考えてなかった。

するとまた、返事が来た。

 

『例えば、卯月ちゃんだったら"笑顔"をするとか』

 

(..."笑顔")

 

そうだった。

わたしはそれを忘れていた。

 

(そうでしたね...頑張っていきます!)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

とてつもない不安が私の体をのしかかった。

 

(.....)

 

わたしは緊張のせいか、ずっと黙ったままだ。

一言も言わず。

きっとみんなは今の私の姿にこう思うだろう。

 

いつもの未央じゃないことを。

 

「未央ちゃん!」

 

するとしまむーが私の肩を叩く。

 

「笑顔で行きましょ?」

 

しまむーが笑顔で私に言葉を

 

いつものしまむーの笑顔。

 

それのおかげか、わたしの体にのしかかった不安が少し和らいだような気がした。

 

「...そうだね」

 

自然と笑顔が溢れる。

 

「スタンバイお願いします」

 

ちょうどスタッフさんが部屋からやってきた。

 

「行くよ...」

 

しぶりんが私の方に顔を向けて、言葉を出す。

 

「う、うん...」

 

まだ不安が残っていたが、先ほどよりはだいぶ軽い。

 

ありがとう、しまむー。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

「お!美嘉ちゃんの登場だ!」

 

ヒデは大きく喜び、サイリウムを大きく振り回す。

ぼくは何か変な気持ちが湧き上がる。

 

(やっぱりこの前に会ったのは...間違い無く本人だ)

 

今、城ヶ崎美嘉をライブで見るのは初めてだ。

でも、妙に生で見るのは"初めてではない気がする"。

 

(確かこの曲は..."TOKIMEKIエスカレート")

 

確か城ヶ崎美嘉の持ち歌。

つまり、卯月ちゃんたちが出る番だ。

 

(出るタイミングはどこだ...?)

 

聞いたことがあるが、卯月ちゃんたちが現れるタイミングがわからない。

少しずつ焦りがくる。

その同時に彼女たちは失敗しないだろうかと言う心配が混ざる。

どこ出るのか。

早いか遅いか?

それに彼女たちはミスをしないだろうか?

 

 

そんな不安から、"ある声"が聞こえた。

 

 

 

 

「「フラ!イド!チキーン!!」」

 

 

 

 

 

彼女たちが現れた瞬間、ぼくの耳に聞こえていた観客の騒ぎ声、ステージの音が消えた。

 

(......!)

 

まるでスローモーションの映像を見えているかのように、動きが遅い。

彼女たちがよりキラキラと輝き、表情がより見える。

 

(...すごいっ!)

 

ぼくは彼女たちのようにどんどんと笑顔が現れた。

こんなに楽しいところなんだ。

ぼくはますます心が踊っていく。

 

そして彼女たちが地面に着地した瞬間。

 

 

 

 

「「おお!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

聞こえていなかった観客の音が、ぼくの耳に一気に入って行った。

 

「.....え?」

 

ぼくはそれに驚いたのか動きが完全に止まり、呆然してしまった。

 

「なに黙っているんだよ!卯月ちゃんたちが出たぞ!」

 

ヒデはそんなぼくの姿に声をかける。

 

「.....あ、ごめん」

 

ぼくはみんなにつられてサイリウムをリズムよく振る。

 

「さっき、"フライドチキン"と言ってなかった...?」

 

「はぁ?金木、もしかして腹減っているのか?」

 

「え?」

 

なぜかヒデは聞こえなかったらしい。

もしかして、"僕しか"聞こえなかったのか?

 

(なんだろう、さっきの一瞬は)

 

周りの音が消え、彼女たちの動きが遅くなった。

しかも、彼女たちがよりキラキラしていた。

 

それにぼくは楽しく思えた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

ライブ終了後、わたしたちは誰もいないステージにいた。

まだ信じられなかったのだ。

 

「....本当にやったんだね」

 

未央が呟くように口を開く。

 

さっきまで私たちがこのステージに立っていたことが信じられなかった。

ライブに出る前は不安で仕方がなかった。

リハーサルがうまくいかず、本番を迎えてしまったのだ。

失敗するのではないか、初ライブがダメになってしまうのではないかなどのネガティブな単語が頭に現れ、私は黙ってしまった。

しかし実際出てみると、今まで見てきた世界ではなかった。

 

あの時一瞬時が止まっているように見え、別世界にいるようだった。

まるで夢の世界にいるように。

 

「...あ!」

 

急に卯月がなにか思い出したような仕草をした。

 

「どうしたの?」

 

「"金木さん"が」

 

「"金木さん"?」

 

卯月はだんだんと焦り始めた。

 

「え....来てるの?」

 

一瞬疑った。

まさかあの"文系男子"が来ていることを。

 

「だれ...?その人?」

 

もちろん未央が知らない人。

卯月と私しか会ったことがない。

 

時計を見るとライブが終わって一時間。

 

つまり、"1時間ぐらい"待たされてることになる。

 

「とにかく行かないと!」

 

卯月は急いで楽屋に戻る。

 

「あ!待ってしまむー。金木さんってだれ!?」

 

わたしもそれに釣られ、走る。

 

(事前に私たちに言ってくれればいいのに...)

 

私は"彼"(金木)は好きではない。

 

でも、さすがに忘れられるのはひどいと思う。

 

あとで謝ろうかな...?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(まだかな....)

 

ぼくはライブが終わった後、しばらく外で待っている。

 

先ほどまで夕焼けが綺麗な空が、もう夜空になりかけている。

 

ライブ終了後、ヒデに「今日は先に帰って」と申し訳なさそうに言ったら、

「いいぜ。"楽しんでこいよ"」とニヤニヤしながら帰って行った。

ヒデの態度はぼくをからかっているように見えた。

つまり、気づかれたらしい。

 

(あれは間違い無く、明日聞かれるやつだ....)

 

でもどうして気づかれたのかわからない。

なぜ"隠し事"がバレたのか。

 

(それにしても遅いな....)

 

もしかしたら中で打ち上げ会みたいのがやっているかも。

そんなことならメールで連絡を...

 

「お兄ちゃん何しているの?」

 

「ん?」

 

声がした方に向くと二人の女の子がいた。

ずっと考えていたせいか、いたことに気づかなかった。

 

「誰か待っているの?」

 

一人は"金髪の子"で中学生ぐらいで、二人目は"黒髪の子"で小学生ぐらいの子達だ。

 

「えっと...そうだね」

 

気づくのが遅かったせいで言葉が詰まる。

それにしてもどこかで見たことのあるような...?

 

「待ってる?だれなの?」

 

「えっと...."島村卯月"って子を」

 

「「え!?」」

 

彼女たちはそれを聞いた瞬間、大きく驚いた。

 

「...え?」

 

ぼくはそんな彼女たちのリアクションが不思議に感じた。

なぜそんなに驚くのかわからなかった。

バックダンサーの子を知ってライブを来る人は本来いないはずだが...?

 

「なんで...知っているの!?」

 

金髪の子が近づき、ぼくに問いかける。

 

「えっと...それは..」

 

「金木さん!」

 

そんな状況の中、タイミングよく声がぼくの耳に入る。

 

「あ、卯月ちゃん」

 

卯月ちゃんは急いでぼくの元にやって来た。

 

「遅れてすみません!」

 

「いいよ。大丈夫だよ」

 

この状況で来てくれてありがたかった。

 

「卯月ちゃん、この人だれ?」

 

金髪の子は卯月ちゃんに聞き、ぼくに指を差す。

 

「あ...その人は..."わたしの友達"だよ、"莉嘉ちゃん"」

 

卯月ちゃんは少しぎこちなくその子に返事を返す。

 

「"莉嘉ちゃん"...?」

 

ぼくはその名前に何か思い出した。

 

(...."莉嘉"ってもしかして!)

 

確かこの前にヒデがある雑誌をぼくに渡した。

 

『"シンデレラプロジェクト"...?』

 

『ああ、卯月ちゃんたちが所属するプロジェクトだ。メンバー全員の名前を覚えてけよ』

 

なんで忘れていたんだろ。

卯月ちゃんたちと共に過ごすメンバーの名を。

 

「莉嘉って...確かシンデレラプロジェクトの子...?」

 

ぼくが呟くように話すと、

 

「え?もしかして、わたしのことわかるの....?」

 

彼女はそれに反応し、ぼくの方に顔を向ける。

 

「うん。城ヶ崎美嘉の妹だよね?」

 

「そうそう!カリスマギャルを目指してるの!」

 

彼女は食いつくように喋り続ける。

 

「そうなんだ。お姉さんと似ていて可愛いね」

 

「でしょでしょ!莉嘉も同じく可愛い☆」

 

彼女はとても嬉しくなっていた。

姉とは違い、幼さがあるが、

彼女のかわいさの一つかもしれない。

今の所"シンデレラプロジェクト"はまだ始まったばかりで、メンバーについてはあまり知られてないとこの前ヒデが言っていた。

 

「え!!もしかしてわたしの名前もわかるの?」

 

黒髮の子はぼくに近づき、返事を求めてきた。

 

「君の名前は赤城みりあちゃん...だよね?」

 

少し不安を抱きながら返事を返す。

まだみんなの名前を知っているのではなかったから。

 

「正解!正解!覚えてくれてありがとう!」

 

みりあちゃんは満面の笑顔でぼくに言葉を返す。

 

「金木さんアイドルの名前を覚えてくれたのですね」

 

卯月ちゃんはそんなぼくに少し驚いていた。

 

「さすがに卯月ちゃんたちと一緒にいるメンバーを知らないと可哀想から..」

 

これでヒデが毎回出しているテストのおかげだ。

帰ったらヒデに感謝しなきゃ。

 

すると、次に現れてきたのは凛さんだ。

 

「来てたんですね...」

 

「渋谷さん、こんにちは」

 

やっぱり彼女らしく落ち着いている。

 

「先ほど忘れてすみません」

 

凛さんが頭を下げる。

 

「い、いや..別に謝らなくてもいいよ」

 

ぼくはその姿を見て、動揺してしまった。

なんだか凛さんが謝るのが申し訳なかった。

 

「あれ?なんでみりあちゃんたちがいるの?」

 

凛さんはみりあちゃんの方に視線を向ける。

 

「お兄ちゃんが一人で寂しそうにしてたから、みりあたちも一緒に待ったよ」

 

そう言うとぼくの腕に抱きつく。

 

「そうそう、莉嘉も待ったよ」

 

莉嘉ちゃんもミリアちゃんと同じくぼくの腕に抱きつく。

それを見た凛さんは「金木さんって...."そういう人"?」と少し嫌な顔でぼくに視線を向け、口に出す。

 

「い、いや...違うよ!」

 

ぼくは激しく首を横に振る。

おそらく世間でいう"ロリコン"と間違われているかも...

 

「さ、さすがに金木さんはそういう人じゃないですよ」

 

卯月ちゃんはあわあわと焦りながら、ぼくにフォローをする。

すると、今度は"どこかで見たことのある人物"が建物から姿を表した。

 

「どうしたの?しまむー?わたしに会ってほしい人って?」

 

(あ...もしかして)

 

そう、卯月ちゃんの誕生日の時にぶつかった子。名前は"本田未央"(ほんだみお)

 

「!」

 

彼女はぼくを見て、驚いて口を開きっぱなしにする。

ぼくは顔を覚えているが、彼女はどうだろうか?

ぼくは少し不安を抱き、彼女の返事を待ったら...

 

「あなたって!確かあの時ぶつかった人!」

 

どうやら覚えていたらしい。

ぼくを取り付いた不安が消え、気分が和らいだ。

 

ほっとした瞬間、彼女はぼくの両肩に手を置き、

 

「あの時はありがとうございます!!えっと...しまむーのお友達.......さん?」

 

未央ちゃんは卯月ちゃんの方に顔を向け、返事を待つ。

 

「まぁ...そういう立場かな...?」

 

卯月ちゃんは少し首を傾け、苦笑いをした。

 

「そ、そうだね....ははは...」

 

ぼくは笑ってごまかす。

今の状態は友達なのかちょっとわからない。

 

「まさか、しまむーのお友達なんて!」

 

「そうですね...」

 

ぼくはぎこちなく喋る。

両腕に莉嘉ちゃんとみりあちゃんがいて、両肩に未央ちゃんの手が置いてあり、動けなかった。

 

「どうでした?わたしたちの初ライブは?」

 

卯月ちゃんは何か返事を欲しがっているような仕草をした。

 

「よかったよ。みんなが現れた瞬間、時間が"ゆっくり"に見えたよ」

 

「「ゆっくり...?」」

 

卯月ちゃんと凛さん、未央ちゃんの声が同時に重なった。

 

「その時、みんながキラキラしていて、まるで夢の中にいるみたいだったよ」

 

「まるでお姫様のように?」

 

みりあちゃんはさりげなくぼくに聞く。

 

「そうだね。卯月ちゃんたちはお姫様のようだったよ」

 

「そうなんですか!()()()()()感じてたんですか!」

 

「え?」

 

卯月ちゃんの言葉に、ぼくは疑った。

 

「実は私たちもそう感じたんですよ」

 

未央ちゃんはぼくの肩においていた手を離す。

 

「まさか、しまむーのお友達さんも感じたとは」

 

手を顎に当て、ふむふむと何か納得したような仕草をした。

 

「すごーい。みりあもやりたいなー」

 

みりあちゃんの瞳はとても輝いていた。

やはりステージに立つことは憧れるものなんだね。

 

「ところで、なんで"みりあちゃんたち"がここにいるの?」

 

凛ちゃんが疑問を持った感じにみりあちゃんに聞く。

このぐらいの時間だと帰るべきなのだが...

 

「"お姉ちゃん"を待ってたの」

 

「"お姉ちゃん"..?」

 

誰だろうと思ったが、すぐにわかった。

お姉ちゃんを待っていた。

つまり...

 

「お!美嘉姉!お疲れ様です!」

 

未央ちゃんが建物の入り口に、"誰か"にあいさつをしていた。

 

「お疲れ。なんだか騒がしいね」

 

「!」

 

僕はそのやって来た女性を見て、ぼくの体が石のように固まった。

その人の容姿は眼鏡をかけ、帽子をかぶっていて、きっと多くの人は誰なのかわからないと思う。

しかし、ぼくは"もう"わかっていた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

莉嘉ちゃんはぼくの腕から離れ、出てきたばかりの"その人"に抱きしめた。

 

「まだ帰ってなかったの?莉嘉?」

 

彼女は莉嘉ちゃんの頭を撫でる。

 

「だって一緒に帰りたかったの!」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

彼女はにひひと笑い、言葉を返す。

 

「お疲れ!美嘉お姉ちゃん!」

 

みりあちゃんもぼくの腕から離れ、"その人"の元に行った。

 

「お!みりあちゃんもいるね」

 

莉嘉に続き、みりあちゃんにも頭を撫でる。

 

「みりあも美嘉お姉ちゃんを待ってたよ」

 

「そーか、えらいえらい」

 

その人の顔はだいぶ笑みが現れていた。

妙に莉嘉ちゃんとのテンションが違っているように見えた。

 

「まだ、帰ってなかったんですね」

 

そんな中、凛さんは"その人"に声をかける。

 

「うん。まぁ、みんなと話してたらつい....」

 

彼女がぼくに視線を向けた瞬間、言葉が失った。

 

「........」

 

「どうしたの?美嘉姉...?」

 

彼女は一言も言葉が出なかった。

ぼくも同じく、口が動かなかった。

 

間違いない。

 

あの時出会った"人"だ。

 

彼女の名は―――"城ヶ崎美嘉"(じょうがさきみか)

 



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匂先


彼とまた出会ったんだ、再び―――





 

 

 

金木Side

 

 

「「.........」」

 

お互い何も言わず、ただ黙っていた。

周りは風の音がするだけで、とても静かであった。

 

(何か言わないと....)

 

さすがにこんな状況が続いたらまずい...

ぼくは勇気を振り絞り、声をかける。

 

「あ、あの.....」

 

「そ、そういえば...今日のライブどうだった?」

 

「え?」

 

突然彼女はぎこちなく口を動かす。

ぼくはそれに驚き、言葉が詰まってしまった。

 

「...と、とても良かったです」

 

「そ、そう....あ、ありがとう!」

 

彼女は大雑把にリアクションをする。

照れを隠しているように見えた。

 

「「............」」

 

周りのみんなは空気を読んでいるせいか黙っていた。

ぼくたちのこの気まずい雰囲気を見るためか。

 

「やっぱり....あの時出会ったんだよね?」

 

「ははは....ど、どこで?」

 

「"13区駅"で...」

 

「................」

 

彼女はその言葉を聞いた瞬間、口が動かなかくなった。

だんだんと顔が赤くなり、ゆっくり頷く。

 

「そうなんだ.....うん...」

 

本当だった。

あのときに出会ったのが"本人"だと言うことを。

 

(何話せばいいんだ...?)

 

またしても言葉が詰まる。

なんて言えば.....

 

「じゃあ...私は帰る...うん...またね.....えっと...名前は?....」

 

ぼくはさりげなく「金木です」とぼそっと言った。

 

「そ、そうなんだ!.....じゃあまたね....」

 

彼女はものすごい速さでこの場から去る。

 

「あ!待ってお姉ちゃん!」

 

「みりあたちを置いて行かないで!」

 

みりあちゃんと莉嘉ちゃんは彼女を追いかける。

とても可哀想に見えた。

 

「どうしたんでしょうか...?」

 

卯月ちゃんは少し状況が読み込めず、漠然していた。

 

「そういえば金木さん。美嘉に会ったって....」

 

凛さんがぼくの方に顔を向ける。

 

「本当だよ...」

 

さすがにこれが嘘なんて言えない。

 

「「え?」」

 

卯月ちゃんたちはそれを聞いた瞬間、大きく驚いた。

 

「13区駅で美嘉姉と....?」

 

「うん...たまたま彼女に会ったんだ。変装してたんだ」

 

すると未央ちゃんは人差し指を顎に当て、おぼつかない顔をした。

 

「おかしいな...美嘉姉ってそんな人じゃないんだけどな...」

 

「多分疲れているんだよ。そう、ライブをやったから」

 

未央ちゃんは「うん...」と先ほどと変わらず納得のいかない表情でぼくに返事を返す。

ぼくは手をおでこに当て、ため息をする。

 

 

ああ、やってしまった。

 

彼女の"踏んではいけないもの"を、ぼくは踏んでしまった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

美嘉Side

 

 

(ヤバい.....なんであんなに緊張したんだろう...)

 

まさかの"彼"がいた。

しかも建物から出た瞬間にいたのだ。

 

「おねーちゃん?」

 

「...え!?」

 

「どうしたの、さっきの?」

 

莉嘉が心配そうな顔つきでアタシに聞く。

先ほど逃げるように去ったため、莉嘉たちを置いてしまった。

もちろんその後すぐに謝った。

 

「調子でも悪いの?」

 

みりあちゃんも同じく心配そうに言う。

 

「あれだよ!カリスマJKが教える、間違ったやり方をしないようするために、ああやったんだよ!」

 

アタシは慌てててさっきの行動の理由を口にする。

もちろん言っていることは"嘘"。

 

「確かにさっきのようにやったら、ダメだよねー。お姉ちゃんだったら"違うこと"してるね」

 

「なにがだめなのー?みりあも知りたーい」

 

なんとかうまく隠せたかも。

 

「ははは....」

 

アタシは違和感のある笑いをした。

 

(........なんで名前聞いたんだろう?)

 

今思えばアタシは不思議な行動をしていた。

確か彼は"金木"という名前だったね。

 

(でもどうして彼がいたのだろう...?)

 

一瞬しか見てなかったけど、卯月たちは動かなかった。

もしかして....彼は卯月たちとは知り合いなのかな?

 

 

 

 

 

 

.......今度卯月に聞いてみよ、"彼”(金木)について

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

彼から匂いがしたんだ

 

"運命"という匂いが

 

だからあたしは彼を追いかけることにした

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

卯月ちゃんたちの初ライブから数日が経った平日の朝。

ぼくは普通に登校をしていた。

人だかりの中、ぼくは大学を目指すべく、歩いていた。

 

(....違和感あるな...)

 

今日は少し違う。

いつもとは違い、爽やかな匂いを出す香水をつけてきたのだ。

香水をつけたきっかけは、この前のライブが終わった後に、卯月ちゃんが"あるもの"を渡したのだ。

 

『金木さん!これどうぞ!』

 

渡して来たのは、男性用の香水であった。

 

『これは...?』

 

『先週デパートでくじを引いたら、当たった景品です!』

 

見た感じとても高級感があって、外国製だ。

でもどうしてぼくに渡すの?と聞くと、

 

『わたしのパパが好きじゃないと言っていたので...金木さんにプレゼントします!』

 

満面の笑みでその返事が来た。

さすがに断れなかったため、結局もらうことにした。

 

(....本当にいいのかな?)

 

明らかに数万円しそうな香水で、貰い物にしては高すぎる。

 

(今度何かお返しをしないと...)

 

そんな爽やかな気分と裏腹に、今日はそんな爽やかではなかった。

 

(ん?)

 

人だかりから何か視線が感じた。

ぼくは後ろを振り向き、周りを見渡す。

人混みの中とはいえ、僕を見つめる人は見当たらない。

 

(...気のせいかな?)

 

気を取り直して前を向き、歩く。

 

(........)

 

ぼくは足を動かすのをやめ、止まる。

何か変な感じがする。

明らかに気のせいではなかった。

 

 

 

 

"誰か"がぼくを見ている。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

???Side

 

 

今日から"この地”(20区)に住むことになった。

前までアメリカの大学に行ったんだけど、つまんないから日本に帰ってきた。

今日から初めて高校に行くのだけど..

 

「なんか気分が上がらないなー」

 

家から出て3秒後、学校をサボることにした。

理由は簡単、つまんないから。

今日の予定だと化学が入っていない。

学校で寝るのはいいかもしれないけど、それだったら学校をサボった方がマシだ。

 

とりあえず今日の予定は学校に行くのではなく、20区を探検することに決まった。

 

(何かあるかな〜♪)

 

学校へ行く道を外れ、商店街に向かう。

何か美味しそうなもの売ってそうだから。

 

「....ん?」

 

ふと、アタシの鼻に"ある匂い"が入った。

 

「フンフン.....何かいい"匂い"が.....」

 

その香りは爽やかで、おそらく男性向けの香水。

これはとてもいいやつだ。

匂いをする方に行くと、"ある男性"にたどり着く。

見た目は地味で人との交流があまり好きではなさそう。

でも何やっても"怒らなそう"。

 

「もしかして.....その匂いを出しているのは"彼"かな?」

 

あたしはポンっと手を打った。

 

彼について行こう。

 

そしたら、何か面白いことが起きそう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

「........」

 

午前の講義が終わり、ぼくはキャンパス内のベンチで読書をしていた。

 

「........」

 

しかし中々集中ができない。

なにか変な気分がする。

 

朝の通学の時、大学に入った時、講義が終わった時、誰かがぼくを見てような気がする。

 

「こんにちは、金木さん」

 

そんな落ち着かない雰囲気の中、文香さんがぼくに声をかけて来た。

 

ぼくは「こんにちは」と言うと、文香さんは隣に座ったのだ。

その時、僕はどきっとした。

急に隣に座ってきたのだから。

 

「どうしました?」

 

「い、いえ......なんでもありません」

 

文香さんは「?」という顔つきをし、少し頭を傾けた。

卯月ちゃんと接する時より無駄に緊張がする。

 

「今日はどんな本を読んでいらっしゃるのですか?」

 

いつも文香さんとの会話はそれで始まる。

お互い本を読むのが好きだから。

 

「えっと...."高槻作品"の本ですね」

 

「 "高槻作品"...ですか」

 

文香さんは何かおぼつかない表情をした。

 

「文香さんは読みますか?」

 

「読みますが....私は少し苦手ですね」

 

「...え?」

 

ぼくは小さく驚いた。

好きそうなイメージを持っていたが、まさか違うとは。

 

「どうしてですか....?」

 

ぼくは理由を聞く。

 

「彼女が書く作品は...短編以外必ず『大事な人』か『主人公自身』が死ぬところがあって....苦手です」

 

彼女は視線を落とし、寂しそうに喋る。

なんだか悲しそうに見える。

 

「そうですか...」

 

ぼくも彼女と同じく視線を下に向く。

もし文香さんが好きなら、もっと語り合えたのだが、少し残念。

すると彼女はぼくの姿を見て、

 

「あ....申し訳ございません....金木さん」

 

文香さんは頭を下げる。

 

「い、いえ、人は好き嫌いはありますから...謝らなくてもいいですよ?」

 

ぼくはその姿を見て、慌ててしまった。

 

「…すみません。…あ、つい…謝るのが癖で…すみません」

 

「そうですか......でも、文香さんは優しい方ですね」

 

「そうでしょうか...?」

 

そんな会話の中、また感じた。

 

(....ん?)

 

また"あの感覚"がした。

 

「どうしたんですか?金木さん?」

 

「...誰かがぼくを見ているような気がするんですよ」

 

どこなのかははっきりわからないが、ぼくを見ていることは間違いなかった。

だとすれば、どうして"ぼく"を見るのだろうか?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

???Side

 

 

(おやおや?ばれたかな?)

 

建物や電柱などの隠れることができるものに隠れ続けて彼を追ったが、どうやら彼は警戒心が強いらしい。

気がつけば大学のキャンパスにいる。

この大学の名は...."上井大学"だっけ?

 

(しかも、見た目の割に女の子のお友達がいるねー)

 

とりあえず彼はどう言った者なのかわかった。

一つは大学生。

二つは女子友達がいること。

三つは本が好きな青年。

そして最後は、いい匂いだからいい人(多分)。

 

(でも"志希ちゃん"はそう簡単に諦めないよ~♪)

 

ますます興味が湧き出た。

 

まだ追いかけるつもり。

 

その彼に。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(.......まだする)

 

今文香さんと一緒に帰っているのだが、まだ視線が感じる。

 

「...まだいますね」

 

文香さんも気づいたらしく、歩いている時に何度か後ろを向いていた。

この後の予定では文香さんと別れ、家に帰るつもりだが...

 

「あの、今日は文香さんのところに行ってもいいでしょうか?」

 

ぼくは文香さんの古書店に行く。

このまま家に行くと、何かトラブルに巻き込まれそうな気がした。

 

「...そうですね。一度私の書店にいらっしゃってください」

 

彼女は寂しそうな笑顔で答える。

 

「先ほど申し訳ないことを言ってしまいましたので...」

 

「別にさっきのは気にしてませんよ、文香さん」

 

「すみません....」

 

またしてもすみませんと文香さんは言う。

でもぼくはそんな彼女を悪くとも思わない。

そんな彼女と一緒いるのは、ぼくは嬉しかった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

(金木さんのあとを追ったのは誰なんでしょうか...?)

 

金木さんと私の古書店に入り、読書をしています。

理由は金木さんを守るためです。

朝から誰かに見られていると金木さんは言っておりました。

私も気づきましたが、一体誰なのかわかりません。

身長から見ると、おそらく"女性"だと思います。

 

(本当に好きですね....)

 

私は彼の姿をじっと見つめる。

自分で言ってみるのはあれですが、金木さんは本が読むのが好きです。

古書店にもかかわらず、いろんな本を手に取り、読んでいます。

多分、私と同じ年頃の人はこの古書店に訪れないでしょう。

でも金木さんはここに訪れて、楽しんでいます。

 

(しかし...先ほど金木さんに申し訳ないことをしてしまいました...)

 

それは高槻作品が好きではないということを言ってしまったのです。

私は好きではないということは本当ですが...

金木さんはとても残念そうに落ち込んでしまいました。

 

彼女の作品に初めて触れたのは、作者高槻泉の処女作"拝啓カフカ"。

読んだのですが、少し気に入りませんでした。

あの"独特の感じ"が好きではなかったのです。

 

(......すみません...金木さん)

 

私の癖のせいか、謝りたい気分が湧き上がります。

 

「あの...文香さん」

 

「...はい?」

 

「もうそろそろ帰ります」

 

時間を見ると、もう2時間経っていました。

 

「そうですか....まだここにいてもいいですが...」

 

「さすがにそれだと閉店時間が...」

 

「.......そうですね」

 

心の中になぜか寂しい気持ちが湧き上がった。

もっと一緒にいたいのでしょうか?

それとも私が一人になりたくないのでしょうか?

 

「帰るときは..お気をつけて」

 

私は金木さんに手を振り、寂しく言う。

 

 

 

 

ごめんなさい...金木さん。

 

先ほど申し訳ないことを言いまして。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

「ではありがとうございます」

 

彼女はなんだか寂しそうだ。

やはりさっきのこと引きずっていたのかな...?

ぼくは彼女にまた口を開く。

 

 

 

「また"来ます"」

 

 

 

彼女はその言葉を聞いた瞬間、寂しそうな顔から、

 

 

「またいらっしゃってください」

 

 

寂しそうな笑いではなく、嬉しそうな微笑みに変わった。

ぼくはそれを見て、心から嬉しかった。

ぼくはぺこりと頭を下げ、お店から出ようとすると...

 

ドォン!と大きな音がした。

 

突然お店のドアが大きな音を立てて開いたのだ。

 

「こんばんはー♪」

 

「!?」

 

「やっとみつけたよー♪」

 

満面の笑みでぼくにこえをかけてきた。

その子は"女子高校生"であった。

 



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志希



いい匂いさせてる人はいい人

やっぱりその通り




 

 

 

金木Side

 

 

「やっと見つけたよ〜♪」

 

その子はにゃははと笑う。

もしかして彼女は、今日ぼくのあとを追っていた人物なのか?

 

「えっと.....どなた様ですか?」

 

ぼくは恐る恐る彼女に聞く。

 

「やっぱり知らないよねー♪あたしも同じくー♪」

 

一瞬、昔出会った人かなと思ったが、結局ぼくの記憶の中にはなかった。

すると、先ほど大きい音に気がついたのか、文香さんがぼくたちの元にやって来た。

 

「あなたが...先ほど金木さんを...?」

 

文香さんは少し険しい様子で彼女をみる。

 

「うん、そうだよ〜♪」とそんな険しい様子を気にせず言う。

 

「ただこの人の"匂い"がよかったから〜♪それだけー♪」

 

そういうと彼女は、ぼくの腕に抱きつき、匂いを嗅ぐ。

思わずぼくはドキッした。

 

「..........」

 

謎の静けさが数十秒続く。

なんとかしないと....

 

「とりあえず....彼女を送るよ...」

 

文香さんは険しい様子で見るかと思いきや、

 

「金木さん...大丈夫ですか」

 

心配そうな目つきでぼくを見る。

どうして変わったのかわからなかった。

 

「うんまぁ...彼女を家に送るよ...最近"物騒"だし」

 

「まぁ、"志希ちゃん"は少なくとも"喰種"(グール)じゃないから、安心して〜♪」

 

ぼくの腕に抱きつく彼女を連れ出し、ここから去った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

結局彼女を連れ出すことにした、ぼく。

本来なら6時ぐらいで文香さんの古書店に出られるはずだったが、

突然やって来たストーカーさん(名前は...志希ちゃん?)のせいで一時間長引き、現在は7時ぐらいだ。

彼女はぼくの腕から離れ、鼻歌を歌いながらステップするように歩く。

しばらくぼくたちは会話をせず、ただ歩いていた。

さすがに黙ったままじゃ何もわからないので、とりあえず彼女に聞くことにした。

 

「名前は?」

 

「ん?あたしの名前?"一ノ瀬志希"(いちのせしき)。志希ちゃんと呼んでね〜♪」

 

満面の笑みでイエイとピースをする。

なんだんだ、この人は。

 

「君の名前は〜?」

 

「ぼくは金木研」

 

ぼくは控えめに口ずさむ。

 

「ふーん。じゃあ、"カネケンさん"でいいや〜♪」

 

「"カネケン"...?」

 

今まで"カネキ"か”ケン”しか言われたことがなかったため、ものすごく違和感を感じる。

でもぼくはやめてほしいとは思わなかった。なぜか。

とりあえず彼女を家に帰してあげないと...

 

「あの...家は?」

 

「知らなーい♪」

 

「え?」

 

ぼくはその言葉に疑った。

その同時に足を止めてしまった。

 

「まだここに住んだばかりで、志希ちゃん、わかんなーい♪」

 

彼女はえへへと言い、両手を少し上げてお手上げのポーズをした。

その同時にぼくは右手を顔につけて、ため息をつく。

どうすればいいのかと。

 

(交番に連れて行こうかな...?)

 

ここからだともう少し歩かないといけない。

もう少しでぼくの家なのだが....

 

 

すると彼女はとんでもないことを口にだす。

 

 

 

 

 

「じゃあ、カネケンさんの"お家"に行ってもいい?」

 

 

 

 

 

「え?」

 

一瞬、何を言っているんだと感じてしまった。

 

「それはだめだよ....」

 

さすがに見知らぬ人を泊まらせるなんてとんでもない。

どっかのテレビ番組なら多くの人は了承をしたくなるだろう。

でもさっきまでついて来たストーカーを普通に了承するだろうか?

さすがに無理がある。

 

「おねがーい!ねぇ?こんな女子高校生が夜一人で歩いてたら"襲われる"じゃーん!」

 

ぼくは"襲われる"と言う言葉に反応する。

この前に起きた"13区の事件"を思い出す。

被害者は夜一人で歩いていて、"喰種"(グール)に襲われたと。

そういえば、最近20区で"喰種"(グール)の捕食事件があったような....

 

「わかったよ。連れてってあげるから...」

 

ぼくはため息をつき、オッケーを出してしまった。

ぼくの家の方が近いし...

 

彼女は「やった〜!」と言い、とても嬉しく喜んだ。

 

「じゃあ!カネケンさんのお家にレッツゴー!」

 

志希ちゃんは再びぼくの腕を抱きしめた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

歩いて数分。

ぼくの住んでいるアパートに着いた。

 

「へーここがカネケンさんの家?」

 

「そうだね...」

 

「一人暮らし?」

 

「そうだね....」

 

「あたしと一緒じゃんー♪」

 

 

さっきからぼくは『そうだね』しか言っていない。

彼女はそんなぼくの姿を気にせずにゃははー!と笑い、ぼくの腕を抱きしめる。

それにぼくはため息をした。

めんどくさい子に会ってしまったと。

 

鍵を開け、中に入っていく。

それ同時に志希は感動する子供のような反応をする。

 

「ところでさ!同じ一人暮らしだったら、一緒に住まなーい?」

 

「さすがに困るよ.....」

 

まだ出会ってまだ1日にも満たない。

さっき家に泊まっていいよと言ってしまったが、こんな状況で了承したらおかしい。

 

「えーいいじゃーん!そうしたら、アパート代が安くなるし!」

 

「そうだけど....」

 

「しかも、カネケンさんは優しいじゃん!」

 

自分で言ってみるのはあれだが、確かにぼくは優しい。

志希ちゃん曰く、いい匂いさせてる人はいい人だと。

すると彼女は何かに目を止め、それに近づく。

 

「これか!カネケンさんの匂いの元!」

 

彼女は卯月ちゃんからもらった香水を取り、匂いを嗅ぐ。

 

「カネケンさんってこうゆうのシュミ?」

 

「いや、それは貰い物だよ」

 

「貰い物?女の子から?」

 

「なぜ女の子?」と聞くと、「こんなの絶対男性はあげないよ。男だったら、自分のものにするじゃん」

と目輝かせながら香水をみる。

やはり志希ちゃんは匂いが好きみたいだ。

 

「じゃあ、もらっていい?」

 

彼女はぼくの目をじっと見つめ、答えを待つ。

 

 

 

 

「......"だめ"だね」

 

 

 

 

ぼくは断った。

"理由"があるから。

 

「へー何か特別な意味でもあるの〜?」

 

彼女は少し嫌らしい目をしながら、ぼくに近く。

 

「まぁ...なんて言うかな?その友達から"初めて貰った物"だから....さすがに他人には渡せないよ」

 

卯月ちゃんからの初めてのプレゼント。

これをみるとなぜか、あの時貰った時の"卯月ちゃんの笑顔"が浮かぶ。

どうしてかはわからないけど、これは特別なもらい物だと思う。

それを聞いた志希ちゃんは「おー」と言い、納得した。

 

「じゃあ、さすがにあたしはもらえないや」

 

彼女は香水を元の場所に戻す。

 

(....ん?)

 

するとぼくは"何か"を見てしまった。

 

「ところで...カバンに入っているのは?」

 

志希ちゃんのバックの中に、なにか"薬品"が見える。

 

「あたし、化学好きだし、匂いも好きだからこういうの持ち歩くんだ」

 

彼女はバックから何かを取り出す。

一つは香水。

二つは試作品と書かれた小さな瓶。

その小さな瓶の中に入っている液体の色が危なっかしい。

 

「この薬品飲む?」

 

志希ちゃんはその小さな瓶をぼくに渡す。

 

「さすがにこれは.....飲まないよ」

 

ぼくはすぐに彼女に返す。

冗談抜きで死ぬんじゃないかと。

 

「えー?別に飲んでも死なないよー?あたしがホショーするからー♪」

 

「いや....飲まない」

 

「飲んでー?カネケンさーん?」

 

ぼくは何度も断り、彼女は何度もぼくに飲ませようとする。

これが何分間も続いた。

 

ああ、なんでこの子を連れてきたんだろう.....ぼく―――

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ぼくはシャワーし、髪を乾かしている。

先ほど志希ちゃんはシャワーに入り、今はぼくのベットにいる。

今日は志希ちゃんがぼくのベットで寝て、ぼくは床に毛布を敷いて寝ることにした。

 

(意外と辛いの好きだったんだね....)

 

志希ちゃんがお風呂に入る前に夕食を食べた。

冷蔵庫にあったのはぼくの好物のハンバーグしかなく、他に使えそうなものがなかった。

ここで使うべきだろうか?とためらっていると、志希ちゃんは『ハンバーグが食べたーい♪』を言ったので仕方なくハンバーグにすることにした。

そこで衝撃なことがあった。

彼女は食べる前にバックからタバスコを取り出し、ハンバーグにかけたのだ。しかも大量。

ぼくにとってはとてもショッキングなシーンであった。

まるで美しい街が大量の溶岩に飲み込まれたように。

デミグラスソースだけでもおいしいのに.....と。

 

(とりあえず下着姿じゃなくてよかった....)

 

志希ちゃんがシャワーに入る前に『着替えはあるの?』と聞いたら、『下着しか持ってないよー』と笑って言った。

もしかすると最初から他人の家に泊まることを前提にしていたのかと疑った。

さすがに下着だけでは困るので、ぼくはクローゼットからシャツと短パンを取り出し、彼女に渡した。

そして今、彼女は着ている。

 

(志希ちゃんって綺麗だね...)

 

彼女の肌はとても綺麗だ。

制服姿よりも肌が出ているため、よくわかる。

透き通るような肌、化粧をしていないことを疑いたくなるような可愛さ。

そう思うと、卯月ちゃんのように"アイドル"を目指せるんじゃないかな?

 

『そういえば、小倉さん。つい最近に20区で喰種の事件がありましたよね?』

 

『ええ、そうですね。この前は13区でしたが、今度は20区で起きましたね』

 

「.........」

 

さっきまでハイテンションな感じが、まるで嘘のように黙っていた。

彼女はぼくのベットに両膝を抱えながら、ただぼーっとテレビを見ている。

テレビでやっているのは"喰種"(グール)の特集番組だ。

この前に起きた13区の事件についてが取り上げられている。

もちろん"喰種"(グール)ということで"小倉久志"が出ている。

 

(どうすればいいんだろう...)

 

突然見知らぬかわいい女の子が現れ、『あなたの家に行きたい』と言い、自分の家に泊まらせる。

まるで恋愛小説みたいなシチュエーション。

他の人なら喜ぶかもしれないけど、ぼくは喜ぶどころか困っている。

さすがに明日には帰ってくれるだろう...

 

「カネケンさん」

 

突然志希ちゃんはぼくの方に顔を向け、声をかける。

 

「どうしたの?」

 

"喰種"(グール)見たことある?」

 

それを聞いたぼくは何も言わず、間を作ってしまった。

彼女の声があまりにも静かであったから。

 

「見たことないな...」

 

「ふーん」と表情を変えず答える。

そういえば『少なくとも"喰種"(グール)じゃない』と言っていたな...

 

「あたし見てみたいなと思うことあるんだ」

 

「どうして?」

 

「だって、見たことがないもん」

 

「そうなんだ...」

 

なんだか違和感を感じる。

先ほどまでのテンションと違うせいか、とても違和感がある。

 

「......んふふっ」

 

「ん?」

 

「うふふふふふふふふふふ、なんちゃってー♪」

 

突然彼女は吹き出した。

さっきまでの満面の笑みが戻り、にゃははと笑う。

 

「どう?さっきとは違う志希ちゃんは?」

 

「....不思議に感じた」

 

「フシギに感じたんだ」とニヤニヤしながら言う。

さっきのなんなんだ。

 

「ていうことで、おやすみー♪カネケンさんー♪」

 

彼女はそう言い、布団に包まる。

 

「.........."喰種"(グール)か」

 

ぼくは小さく呟くように言う。

ニュースで何度も聞く言葉で、なんとなく耳に入る言葉。

でも実際どう言ったものなのかわからない。

姿は人と同じと言うため、

しかも"人"しか食べれないと。

 

 

妙に胸騒ぎがした。

もし今日、彼女を家に招かなかったら....

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「カネケンさん!カネケンさん!」

 

ぼくの体がゆさゆさと触れていた。

いつもの朝より騒がしかった。

目を開くと制服姿の志希ちゃんの姿が映った。

そしてぼくの手を引っ張り、台所に連れ出す。

まるで何かを見せたがる子供みたいに。

 

「あたしの料理の腕はいいでしょー」

 

「そ、そうだね....」

 

ぼくは無理をして笑顔を作り、言う。

どうしてそれをしたのか理由があった。

食パンをオーブンで焼き、皿に置いただけのものだ。

ぼくは椅子に座り、一品だけの朝食を食べる。

その同時に志希ちゃんはインスタントコーヒーを作り、ぼくに渡す。

『食べないの?』と志希ちゃんに聞いたが、『もう食べた』と言った。

 

「どうでしょー?志希ちゃんが作った朝食はー?」

 

志希ちゃんは食べているぼくをじっと見つめ、にゃははと笑う。

ぼくは「おいしいよ」とまたしても無理して笑顔を作る。

うん、いつも食べる味。

『何か変なもの入れてないよね?』と志希ちゃんに聞くと、『何か入れる?』と言い、真っ青な色をした薬品を取り出す。

それを見たぼくはすぐに断った。

 

「そういえばさ....志希ちゃん」

 

「ん?」

 

「"お金"取ってないよね?」

 

勝手に料理を作っていたため、もしかするとぼくが寝ている間に何かやったのではないかと疑った。

 

「うん、取ってないよー?どうして疑うの?」

 

「ほら...まだ出会ったばかりで、しかもぼくが寝ている間に朝食を作ったし」

 

すると志希ちゃんはなにか企んでいるような笑顔を顔をした。

 

「志希ちゃんは何も取ってませーん。さてどうしてでしょー?」

 

ぼくは「わからないな....」と答えた。

起きたばかりのせいか答える気力がなかった。

 

「正解は、カネケンさんが優しい人からでーす♪」

 

そして、にゃははーと笑う。

朝から疲れる....

すると志希ちゃんは何か思いついたような顔をした。

 

「あたし、わかったかも」

 

「どうしたの?」

 

「家の場所」

 

なぜ今思いつくんだろう....

 

「大丈夫?また迷ったりしないよね?」

 

情緒不安定の彼女が心配になり、ぼくは聞く。

 

「大丈夫!"カネケンさんの連絡先"を知っているから」

 

「....え?」

 

ぼくはその言葉に耳を疑う。

すぐさま携帯を開く。

連絡帳には『志希ちゃん♪』と登録されていた。

ぼくの携帯はパスワードを設定していなかったので、勝手にいじられたのだ。

 

「いやーカネケンさんは優しい人だとわかって、これから多分ここを使わせてもらうよー」

 

ぼくは「さすがにやめてほしいな...」とぼそっと口に出す。

 

しばらく会話をし、ぼくは『学校行かないの?』と言うと志希ちゃんは『そうだった!』と大声を上げた。

聞くところによると、本来なら昨日が初登校であったが、やる気をなくしてしまい、ぼくについてきたそうだ。

そして彼女はバッグを取り、玄関に向かう。

ぼくも彼女を見送るため、同じく玄関に向かった。

 

「今日学校行きまーす♪」

 

彼女はビシッとぼくに敬礼をする。

 

「サボらないでね」

 

「大丈夫ー。今日は化学がある日だからー」

 

彼女はそう言い、玄関のドアを開いて行ってしまった。

 

(もう....来ないよね...?)

 

遊びに来るのはわかるが、

食費を浮かせるためや泊まるためにここに来るのは勘弁だ。

そう思っていると、ちょうど携帯が鳴った。

 

(?)

 

こんな時間にメールなんて珍しい。

開いてみると、卯月ちゃんからだ。

 

「!」

 

ぼくはそのメールを見て、驚いた。

 

 

 

 

 

『CDデビューが決まりました!!!』

 

 

 

 

 

 



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初舞

わたしは失望した

期待していたものとは違い、輝けなかった

なんで

なんで

あの時とは違うの?

まるで輝く星が消えた、真っ暗な夜空のように





 

 

 

 昼―――図書館

 

 

金木Side

 

 

CDデビューの報告を聞いて、何日か経った。

 

(.........)

 

図書室でギリシア悲劇について調べている。

授業の課題だ。

ギリシア悲劇は古代ギリシアのアテナイのディオニュシア祭に上映された劇。

 

「こんにちは、金木さん」

 

うしろから、聞こえた。

振り向くと文香さんの姿が見えた。

 

「進んでいます....でしょうか?」

 

「少しは進みました」

 

「そうですか」と文香さんは微笑んだ。

文香さんも同じく文学部なので、同じくギリシア悲劇を調べている。

 

「隣に座ってもいいでしょうか...?」

 

ぼくは迷いもなく「いいよ」と答えた。

そう言うと文香さんはぼくの隣に座った。

前よりは緊張はしなくなったが、まだする。

 

「この前の"金木さんの跡を追っていた人"はどうでしたか....?」

 

「この前...?ああ..」

 

この前の志希ちゃんのことだ。

実際は泊まらせてしまったが、さすがに言えない。

文香さんは不安そうにぼくを見る。

 

「ちゃんと...家に帰ってくれましたよ」

 

「そうですか.....よかったですね」

 

先ほどの不安そうな顔が徐々になくなり、再び明るくなった。

ぼくはそれを見てほっとした。

そんな会話の中、ぼくの携帯が鳴った。

 

「あ...」

 

マナーモードをし忘れたせいで、図書室中に音が響く。

その音に文香さんはびくっと体が動き、驚いた。

その姿にぼくも驚いてしまった。

 

「す...すみません」

 

「い、いいですよ...」

 

ぼくは少し頭を下げて謝り、携帯を開いてみると、そのメールは卯月ちゃんからだ。

内容は『衣装がでました!!』

 

(出たんだ...)

 

文章下には写真が貼ってあった。

卯月ちゃんたち三人が衣装を着て、ピースをしている。

 

(かわいい...)

 

その中で未央ちゃんは張り切っているように見える。

 

彼女たちのユニット名は"new generations(ニュージェネレーション)"

メンバーは卯月ちゃんと凛さん、未央ちゃんの三人ユニットだ。

名前を決めたのは彼女たちではなく、あの"顔が怖いプロデューサーさん"。

 

「誰でしょうか...?」

 

気がつくと文香さんが横で見ていた。

 

「っ!?」

 

ぼくは驚き、携帯が落としそうになった。

 

「友達....ですね」

 

ぼくは少し恥ずかしそうに答える。

 

「もしかして...彼女たちは...アイドルをやっていらっしゃるのでしょか?」

 

「は、はい...つい最近お友達になりました...」

 

文香さんは「そうですか」と少し驚いた顔をして、頷く。

 

「文香さんはアイドルに興味はありますか?」

 

ぼくが言った途端、文香さんは視線を下に向けた。

 

「私は....そんな華やかなお仕事は....」

 

文香さんは僕の質問を聞いた瞬間、先ほどの明るかった顔が消え、落ち込んでしまった。

 

(あ....)

 

ぼくはその姿に焦ってしまった。

言っていけなかったんだ。

 

(ど、どうしよう....)

 

とにかく謝らないと....

 

「金木さんはどう思いますか....?」

 

文香さんは下を向きながら、小さな声でぼくに聞く。

 

「私のような者が...アイドルを....」

 

文香さんの手は強く握っていた。

きっと自分のような人は無理だと言っているみたいに。

確かにアイドルと言う仕事は、人との交流があるため、内気の人は向いていないかもしれない......

 

でも....

 

 

 

だからと言って無理なんてだれも言ってない。

 

 

「別にやってもいいじゃないでしょうか?」

 

 

文香さんは「え?」と視線を上げ、ぼくを見る。

 

「先ほど見せたぼくのお友達は、どこでもいそうな普通の学生です。でも彼女はトップアイドルを目指しています。苦難とか辛いことがあるかもしれませんが、きっと彼女はトップアイドルになるとぼくは信じてます」

 

「.........」

 

「だから、文香さんでもできるんじゃないでしょうか?」

 

シンデレラだってぼろぼろの姿から、綺麗なドレスを着る。

そして、夢の舞台へと歩む。

だから、文香さんでもいけると思う、きっと。

 

「.......そうですね。私も同じく輝けますよね...」

 

先ほどの暗い表情がなくなり、雨上がりの太陽のようにだんだんと明るくなった。

 

ぼくは嬉しかった。

彼女の"優しい微笑み"が戻ってきたことが。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夜―――自宅

 

 

家に帰り、ぼくはベットに寝転ぶ。

理由は疲れたから。

ギリシア悲劇を調べ続け、気がつけばもう日が沈んでいた。

 

(かわいかったな...)

 

ぼくは携帯を開き、卯月ちゃんから送られた写真を見る。

これで再び彼女たちはステージで輝く。

そう思うと、なんだか嬉しく思える。

 

(さてと...夕食作らないと)

 

ぼくは携帯をベットに置き、台所に向かう。

 

その時、携帯が鳴った。

 

(ん?)

 

携帯がいつもより長く鳴っている。

電話だ。

 

(誰だ..?)

 

電話で会話するのはヒデぐらいしかいない。

開いてみると発信者は"番号だけ"であった。

 

(間違い電話かな...?)

 

ぼくは耳に携帯を当て、

 

「もしもし...」

 

『どーも!かっねきさん!』

 

大きな声が携帯に響き、ぼくの声が消された。

その声は元気な女の子の声で、聞いたことがある。

もしや....

 

「.....未央ちゃん?」

 

『あったりー!未央ちゃんです!』

 

ぼくは驚いた。

まさか未央ちゃんから電話が来るなんて....

 

「どうしてぼくの連絡を?」

 

『しまむーから金木さんの連絡先を聞いて、今話してるよー』

 

「そ、そうなんだ...」

 

考えてみれば、勝手に連絡先を知られていた。

悪用されないことを願う...

 

『16区のショッピングモールでやりますから、来てください!金木さん!』

 

「く、来るよ...」

 

『待ったねー!!』

 

そして電話が途切れた。

 

(元気だね....)

 

ぼくは未央ちゃんの元気に負けてしまった。

 

(...まぁ、いいかな)

 

元気は彼女の良さの一つだ。

ぼくは気を取り直し、台所に向かう。

 

 

 

 

 

でもまさか彼女の笑顔が消えるなんて

 

 

 

 

ぼくは考えもしなかった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 当日―――16区

 

 

ぼくはミニライブが行われるショッピングモールに足を運んだ。

今日は卯月ちゃんたち"new generations"の初ライブ。

しかも新田美波とアナスタシアの"LOVE LAIKA"も登場する。

彼女たちの初舞台と言えばいいだろう。

 

(ん.....別にステージとか悪くないけど....)

 

今日は少し騒がしそうになりそうな気がした。

なぜなら"ヒデ"が隣にいるからだ、

 

「"LOVE LAIKA"に"new generations"、新人アイドルの初ライブだな!」

 

ヒデはアイドルのライブということで、ここに来る前から興奮していた。

前日に誘ってみたら、見事に誘いに乗ってくれた。

またしてもヒデの"アイドル愛"が出る。

 

「あんまり騒がないでね?」

 

「わかってるって!じゃあ、いい場所とってくるからなー」

 

そう言うとヒデは走り、行ってしまった。

 

(まだ30分早いのに...)

 

実はライブ終了後、サイン入りのCDをもらうことになっている。

卯月ちゃん曰く、『最初にサインをしたCDを金木さんに渡します!』と。

 

(なんだか申し訳ないな...)

 

するとぼくの右肩にとんとんと、誰かが叩いた。

 

(ん?)

 

振り向くと、"変装をしている女性"が立っていた。

それを見たぼくは、すぐにわかった。

 

「美嘉..ちゃん...?」

 

ぼくはそう言うと、彼女はこくりと頷く。

 

「き、来てたんだ..」

 

彼女はぎこちない感じに喋り、帽子のつばを少し内側に引っ張る。

少し恥ずかしそうに見える。

 

「うん。卯月ちゃんたちが出るから」

 

「そ、そうだよねー...あんたのお友達だしね..じゃあ」

 

彼女はそう言うと、ここから立ち去った。

数回の会話であった。

 

(....?)

 

またしても疑問が残る。

なんでぼくと話す時、恥ずかしそうにするだろう?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

―――ステージ裏

 

 

「もうそろそろ出番ですね!」

 

「そうだね」

 

ライブ出演前、彼女たちは会話をしていた。"一人"を除いて。

 

「....」

 

未央は黙っていた。

理由は、先ほどおぼつかない顔でステージをこっそり見ていのだ。

 

(..........)

 

不安があった。

それは緊張ではなく、お客さんがあまりにも集まっていないのだ。

 

(大丈夫かな...?)

 

プロデューサーから『大丈夫だと思いますが』と言われたのだが、納得はいかなかった。

 

「では、スタンバイを!」

 

スタッフさんの声が聞こえ、彼女たちはステージへの入り口で待機する。

 

(......)

 

『では、"new generations"の登場です!』

 

アナウンサーが清々しく言うと、彼女たちの足が動く。

 

そして、ステージに出る。

 

 

 

 

(.....え...?)

 

 

 

 

ステージに踏み出した瞬間、

彼女は"失望"した。

 

(.....どうして...?)

 

この前のライブより人が少なく、全く輝いていなかった。

それを見た彼女の笑顔は消えた。

期待していたものとは違うと。

 

(....なんで....なんであの時と違うの....?)

 

彼女たちがステージの位置につき、曲が流れる。

 

 

ああ、始まってしまった。

 

 

"悪夢"が始まった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

「お!この曲は!できたてEvo!Revo!Generation!」

 

新田さんとアナスタシアの"LOVE LAIKA"が終わり、今度は卯月ちゃんたちがステージに現れた。

 

「.......」

 

ぼくはヒデに言葉を返さなかった。

何か違う。

特に"未央ちゃん"が。

 

「曲いいし、振り付けもいいな。なあ、カネキ?」

 

「.......そうだね」

 

何か"違和感"を感じる。

踊りはいいが、何かぎこちない。

 

「どうしたんだ?カネキ?」

 

あまりにも黙ったいたせいか、ヒデはぼくに声をかける。

 

「..あ、いや、なんでもないよ」

 

"彼女たちは笑顔でなかった"

 

この前のライブと違い、"輝き"が見えなかった。

 

(.......なんでだ?)

 

特に未央ちゃんが目立つ。

いつも見る彼女の顔ではなかったのだ。

あの明るい表情がどこか消えて行ってしまったようであった。

 

(.......)

 

そんなライブが終わった。

ものすごく嫌な感じだった。

輝きをなくした星のように。

 

「「未央!!」」

 

何人かのグループがM・I・Oと書かれた横断幕を下ろしていた。

おそらく未央ちゃんの友達だろう。

未央ちゃんはそれを見た瞬間、顔が急変した。

 

「っ!!」

 

卯月ちゃんと凛さんを置いて、ステージから逃げるように去った。

 

「あれ?なんで行っちゃたんだ?」

 

「........」

 

彼女の顔は悲しかった。

あの時電話した時の声とは全く違った。

 

(未央ちゃん....)

 

ぼくはそんな彼女の姿を見て、胸騒ぎがした。

 

とても悪い影が、彼女から感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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雨雲

 

 

暗い雲から降る雨のように、徐々に思い出したくない記憶が溢れて来る。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夕方 ーーー 喫茶店

 

 

金木Side

 

 

「たく、なんで未央ちゃんがやめると言ったんだ?」

 

「さぁね...」

 

ぼくはため息をつき、ヒデに言葉を返した。

大学の講義が終わり、ぼくたちは喫茶店にいる。

梅雨の雨のせいか、ぼくの気分が曇っていた。

 

(未央ちゃんが.....やめるなんて....)

 

ライブ終了後、卯月ちゃんからサイン入りCDを受けた時に聞いた。

未央ちゃんが"アイドルをやめる"と発言したと。

CDをもらった時、ぼくは複雑な気持ちになった。

もしかしたらこれが"最後のCD"なのかと。

 

『今日、11区で"喰種”(グール)の捕食事件がありました』

 

ヒデは「また"喰種”(グール)か」と呟く。

ニュースがまるでぼくの気分を追い討ちをかけているように思えた。

 

(....どうして...未央ちゃん?)

 

あの失望した顔が頭に浮かぶ。

期待を裏切られたような顔が。

凛さんも卯月ちゃんもしていたが、未央ちゃんはもっとひどかった。

一体彼女たちに何があったのか知りたい。

 

「カネキ」

 

そんな時、ヒデがぼくに声をかけた。

 

「どうしたの?」

 

「コーヒー冷めるぞ」

 

ヒデがぼくの手前にあるコーヒーに指を差す。

ふと思えば、頼んでいたコーヒーをまだ一口も飲んでいなかった。

しかもだいぶ時間が経っていた。

ぼくはコーヒカップを取り、口に注ぐ。

コーヒーは想像していた以上に冷たく感じた。

感覚ではぬるいが、なぜか感じた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 朝 ーーー 13区

 

 

ぼくは13区に訪れていた。

読んでいた本を切らしたため、本を探しに来たのだ。

 

(.........)

 

今日もまた雨だ。

気分が晴れていなかった。

多分いい本を見つけても、ただ文字を読むだけになりそうだ。

 

(....あれは?)

 

ある人物を見かける。

ロングヘアーに制服姿の女子高生。

ぼくはその人に声をかける。

 

「"凛さん"」

 

凛さんがぼくの声に気づいて足を止めるが、顔は向けなかった。

 

「金木さん...?」

 

驚いているように見えたが、何か機嫌が悪いように見える。

 

「どうしてこの時間に?」

 

「........」

 

彼女は何も口に出さなかった。

 

「ところで、未央ちゃんは...?」

 

ぼくは言ってはならなかった。

未央ちゃんと聞いた瞬間、凛さんの態度が悪化した。

 

「"あんた"には関係ない」

 

「え..?」

 

「邪魔しないでくれる?」

 

とても不機嫌であった。

 

「え...どうして?」

 

ぼくが理由を聞こうとする前に、凛さんはここから去って行った。

 

「..........」

 

ぼくはなにもできず、ここから去っていく凛さんの姿を見ることしかできなかった。

気がつくと、雨が強くなっていた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 朝 ーーー 事務所

 

 

また逃げてしまった。

彼はそう思い、拳を握り締める。

彼女らの気持ちを知らずに、出て行ってしまった。

 

(.....)

 

彼はどうすればいいのかわからず、下を向く。

また失う怖さと嫌な記憶が徐々に溢れて来る。

外の雨のように。

 

(.....)

 

彼は後ろの窓を見て心に呟く。

 

 

『"あの時"の天気と同じだ』

 

 

自分が彼女たちを導けなくて....起きてしまったんだ。

それがきっかけで彼は、シンデレラをお城に送る、無口な車輪へと変えてしまった。

 

(......)

 

 

もし"あの時"に....

 

 

 

"シンデレラ"を失わなかったら...

 

 

 

 

 

"喰種”(グール)に襲われることなんてなかった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夕方頃 ーーー 金木の自宅

 

 

金木Side

 

 

渋谷さんに出会った後、自宅に帰った。

本屋に寄ったが、考えていた通りに文字を読むだけであった。

それで結局は本は買わなかった。

 

(今度また文香さんに本を借りるか...)

 

まだ雨が降っていた。

 

(.......)

 

ぼくは椅子に座り、考えていた。

しばらく凛さんの先ほどの行動を考えていた。

どうして未央ちゃんと聞いた瞬間、不機嫌になったのかわからない。

もしかすると、本当にやめるのか?

 

(.....寂しいな)

 

あの時助けた子が、アイドルを志望した未央ちゃんと聞いたときはとても驚いた。

それと同時になんだか嬉しく感じた。

ぼくとは性格が反対だが、彼女はぼくを接してくれた。

ミニライブ前日に急に電話かけて来た時、ぼくは嬉しく感じた。

数秒の会話だったけれど、ぼくは満足だった。

 

 

 

でも....彼女は"アイドルをやめる"と言ったんだ。

 

 

 

あの性格でそんな発言するなんて、ぼくには考えれなかった。

 

(やめてほしくないな....)

 

ぼくは胸をぎゅっと握りしめた。

悔しいのか、ぼくは強く握った。

 

そんな状況を打ち壊すみたいに、ぼくの携帯が鳴った。

 

(...電話?)

 

ぼくは携帯を取り、開いて見ると、

卯月ちゃんからの電話であった。

 

(どうしたんだろう..?)

 

携帯を耳に当てる。

 

「もしもし?」

 

『こんにちは、金木さん』

 

熱のせいか、いつもより声が小さい。

朝に送られたのメールで"熱になりました”と言っていた。

それにしても卯月ちゃんが電話をするなんて、とてもめずらしかった。

 

「どうしたの、卯月ちゃん?」

 

『金木さん。お願いがあります』

 

「?」

 

『"           "』

 

ぼくはえ?と小さく驚いた。

なぜそのようなことを聞くのかと。

 

『            』

 

「......わかったよ」

 

ぼくはそれを聞いた後、携帯を切り、すぐに外でに出た。

 

外は雨が止んでいた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夕方頃 ーーー 凛の自宅

   

 

凛Side

 

 

帰った後、私はしばらくベットでぼーとしていた。

あのプロデューサーの何かに逃げている姿に私は出ていった。

未央をどうして連れも出さないのかわからない。

しかも住所すら教えてくれないところが嫌になった。

それとあの"文系男子"。

家に帰っていく時に、ちょうど出会った。

やはりあの頼りなさが余計に機嫌が悪くなった。

もう"会いたくない"。

 

(晴れている...)

 

ちらっと窓を見ると、雲の隙間から陽が差し込んでいた。

 

(気分転換にハナコと散歩しよ...)

 

私は立ち上がり、部屋に出て行く。

まだ胸は晴れないが、散歩すれば少しぐらいは晴れそう。

ハナコを呼び、首にリードをつける。

付けている時ハナコはなんだか寂しそうな感じがあった。

どうしてなのかわからないけど、梅雨のせいかもしれない。

 

(....行こう)

 

靴を履き、お店から出た。

外は雨が降っておらず、久しぶりに青空が見えていた。

地面は少し濡れていて、陽の光が綺麗に映した。

それを見た私は、胸の中にあった異物が軽くなったような気がした。

 

(....いい)

 

少し足を動かした瞬間、後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 

「"凛ちゃん"」

 

 

 

 

私は聞き覚えのある声に、足を止める。

そう、あの"地味なやつ"の声。

 

「......なんで来たの?"あんた"」

 

私は振り向かず、訊く。

先ほどまでのすっきりした気分が、一気に苛立ちへと変わった。

 

 

"あいつ”(金木)がやってきた。

 

 

 



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未開


わからない

その道に本当に進んでいいのか

私はわからない


 

 

 

 夕方ーーー公園

 

 

凛Side

 

 

私たちは公園のベンチに座り、しばらくお互い黙っていた。

あいつは何を思っているのかわからないけど、私は苛立っていた。

なんで来たのかと。

 

「どうして、私のところに?」

 

「卯月ちゃんから聞いたんだ」

 

「卯月から?」

 

「電話で『凛ちゃんのところに行ってください』と」

 

私は「そう」と"あいつ”(金木)の顔を向かずに言う。

ムカつく。

 

「だから朝に"事務所"から出たんだね」

 

「........」

 

イライラしているせいか私は何も言葉も返す気にはならなかった。

しかも"ちゃんづけ"とか。マジ、キモい。

 

「....どうしてな」

 

「関係ないでしょ、あんたに」

 

「.....」

 

私は口を尖らす。

それと同時に"あいつ”(金木)は口を閉ざす。

 

「未央が出た理由とか、私が出た理由とか知らなくてもいい。これは"こっち問題"だから」

 

ムカつく。

あの頼りなさがムカつくんだよ

 

「なのになんで関わろうとするの、"あんた”(金木)?」

 

私は手を強く握りしめる。

私は何もわからずやっている。

まるで真っ暗な世界にただ歩き続けているように。

そんなんだったら初めからしなくてもよかった。

 

「......"凛ちゃん"」

 

金木の声が大きく響いたような気がした。

弱々しいのになぜか耳に響いたんだ。

 

「確かに君の言う通り....ぼくは理由を知ろうとしていた」

 

「未央ちゃんがどうしてアイドルをやると言ったか知りたかったし、凛ちゃんが事務所から出たことも」

 

「.........」

 

「もしみんながやめたら、一番悲しくなるのは”卯月ちゃん”だと思う」

 

「”卯月”...?」

 

卯月に反応する。

プロデューサーだと思っていたが、なぜ卯月を?

 

「さっき卯月ちゃんと電話していて思ったんだ。卯月ちゃんだけはとても明るかった」

 

「何も暗いことも言わず、今度も凛ちゃんと未央ちゃんと一緒にライブなどに出演したいと言ってた」

 

なんで解散するかもしれない状況なのに、どうして明るい?

 

(......っ!)

 

私は思い出す。

春に出会った、卯月の笑顔が。

 

『私はこれから夢を叶えられるんだなって....それが嬉しくて!』

 

キラキラで眩しかった笑顔が頭に浮かぶ。

あの笑顔で私はアイドルと言う別の世界に歩めたんだ。

 

「....だからぼくは、諦めなかったんだ。もう一度みんなが一緒になれることを」

 

「.......」

 

"あいつ”(金木)は少し手を握り、こう言った。

 

 

 

「だからぼくも、凛ちゃんがやめたら......"悲しいよ"」

 

 

 

"寂しいそうな顔"で私に言う。

私はその顔を見て、気づく。

"あいつ”(金木)は卯月とは違い、笑顔ではなく寂しそうな顔。

心から悲しんでいるように見えた。

なぜそこまで悲しむ必要が...?

 

「しぶりん!!」

 

久しぶりに耳にすることが聞こえた。

前に向くと、未央の姿があった。

 

「未央ちゃん...!」

 

"あいつ”(金木)は未央の姿を見て、驚く。

未央だけではなく、プロデューサーもいた。

 

「しぶりん!私........ごめん!」

 

未央は頭を下げる。

 

「私...やめると言って、リーダなのに逃げ出しちゃって、迷惑かけてごめん!」

 

「アイドル、一緒に続けさせてほしい!」

 

「........」

 

なんて答えればいいのかわからず、言葉が出せない。

言えばいいのになぜか出なかったんだ。

するとプロデューサーは『渋谷さん』と私に呼び、近づく。

 

「私はあなたの言う通り、私は逃げていたかもしれません」

 

あの無表情か顔ではなく、真剣な眼差しで私を見る。

 

「あなたたちを混乱させて、傷つけてしまいました」

 

あの逃げているような感じではなかった。

 

「....嫌なんだよ。アイドルがなんなのかわかんなくて、わかんないまま初めて、よくわかんないままここまで来て...」

 

アイドルにスカウトしてからずっと思っていたんだ。

他の子よりも早くステージに立ち、早くCDデビューをして、本当にいいのか疑問を持ったまま過ごしたんだ、私。

 

「だからそう言うの、嫌なんだよ」

 

今まで心にあった疑問を口に出した。

胸のモヤモヤが少し軽くなったような気がした。

 

「努力します。もう一度、皆さんに信じてもらうために」

 

プロデューサーが手を差し伸べる。

私は手を置くのをためらう。

本当にいだろうかと。

すると未央が私の手とプロデューサーの手首を取り、繋ぐ。

 

「しぶりん...」

 

涙ぐんだ眼差しで私を見る。

 

「もう一度、一緒に見つけに行きましょう.....あなたが夢中になれる何かを」

 

「.........」

 

私は"あいつ”(金木)方に顔を向けた。

そしたら"あいつ”(金木)は寂しそうに微笑み、頷く。

"間違ってはいないよ"と言っているように見えた。

 

 

そして、私は立ち上がる。

 

 

それと同時に私を取り付いた迷いと不安が取り除かれた。

 

「明日からも、宜しくお願いします」

 

「「はい!」」

 

私たちは再び、一つになった。

今まで歩いて来た真っ暗な世界が明るくなった。

 

「.....っ」

 

"あいつ”(金木)は何も言わずに私たちをそっと座って見つめていた。

でもただ見ていただけじゃなかった。

寂しそうに微笑んでいた。

きっと心から喜んでいると思う。

とてもよかったと。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

ぼくはその光景をそっと見つめていた。

壊れていた関係が、元通りに戻った光景を。

 

「金木さん!」

 

すると未央ちゃんがぼくの呼び、ぼくの元に来る。

 

「あの時のミニライブ.......ごめん!」

 

そう言い、頭を下げる。

ぼくはその姿に見て、慌ててしまった。

 

「だ、大丈夫だよ..未央ちゃん。また今度、成功すればいいから」

 

「ありがとう....金木さんっ!」

 

彼女は飛びつき、ぼくに抱きつく。

あまりにも強く来たため、ぼくは「うぐっ」と声を上げてしまった。

 

(だ、抱きつかれている....!)

 

ぼくは顔が赤くなる。

腕に抱きつかれることは何回かあったが、真正面に抱きつかれるのは初めてだ。

 

「あの時は....ごめん....ごめん...」

 

未央ちゃんは泣きながらに言い、しばらく離れない。

ぼくはそんな姿を見て、恥ずかしさがなぜかなくなってきた。

 

(未央ちゃん...そんなに謝りたかったんだね...)

 

よく考えてみれば彼女はぼくに申し訳ないことをしてしまったと思う。

前日にぼくにわざわざ電話で報告をしてくれたり、

サイン入りCDをもらう時に卯月ちゃんが

『私が金木さんにこのCDをあげますと言った時、未央ちゃんが「サイン書いた方がいいじゃない?」と提案したんですよ』など、

ぼくに期待させておいたライブを壊してしまって、謝りたかったと思う。

 

「...もう大丈夫かな?」

 

ぼくが言うと未央ちゃんは離れ、うんと頷く。

 

「ありがとう...金木さん」

 

未央ちゃんは震える声で言う。

いつものハキハキした感じとは違い、可愛く見えた。

 

「たく....なんで未央が"金木"に抱きつくの...」

 

凛ちゃんが少し呆れた感じにぼくを見る。

 

「ぼくに謝りたかったんだよ」

 

「そうなの?」

 

凛ちゃんが未央ちゃんに聞くと、こくりと頭を縦に振る。

 

「せっかくのミニライブを台無しにしちゃったから....」

 

「そういうことね」

 

うんうんと頷き、納得した。

 

「まぁ...さっきはありがとう、"金木"」

 

凛ちゃんはこちらを見て、微笑む。

先ほどのイライラした感じはなく明るかった。

 

「あの...そろそろ帰りませんか?」

 

プロデューサーさんがぼくたちに声をかける。

 

「そうだね....みんなで一緒に帰ろう」

 

未央ちゃんはぼくから離れ、立ち上がる。

その後凛ちゃんは「じゃあね」と言い、公園の近くの花屋さんに帰って行き、ぼくたち3人は駅まで道を歩いた。

 

「プロデューサーさん」

 

ぼくは隣のプロデューサーさんに声をかけた。

プロデューサーさんはぼくの声に気づき、こちらを向く。

 

「よかったですね」

 

ぼくがそう言うと、常に無表情だったプロデューサーさんが微笑んだ。

 

「はい。これからもよろしくお願いします」

 

彼はぼくに軽く頭を下げる。

ぼくは気づいた。

彼女だけではなく、"彼"も成長したことを。

よかった。

バラバラになった星が元通りに戻って。

そしたらもっと輝ける。

 

(あと卯月ちゃんに感謝をしなきゃ...)

 

忘れてならないなのが、卯月ちゃんだ。

みんなが落ち込んでいる中、彼女は明るかった。

そしてみんなが仲直りにすることを信じていた。

とても偉い子だと思う。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

昼下がり ーーー 大学

 

 

数日が経ち、梅雨が明けた。

それと同時に卯月ちゃんたちの問題もなくなった。

原因は未央ちゃんがお客さんがいなくて失敗だと感じたことだった。

それでプロデューサーさんが『当然の結果です』と言ってしまい、今回の問題が起きてしまった。

すると携帯が鳴った。

携帯を開くと、名前は書いていなかった。

 

『この前はありがとう、金木』

 

ぼくを"金木"と呼ぶ人は、あの人しかいなかった。

ぼくは文字を打ち、メールを送る。

 

『凛ちゃん?』

 

『そう』

 

いつの間にか"金木さん"から"金木"と呼び捨てになったが、ぼくは別に嫌だと感じなかった。

 

『卯月ちゃん元気?』

 

『元気だよ。マスクしてたけど』

 

無愛想な文章だけど、凛ちゃんらしくていい。

すると誰かがぼくの肩にとんとんと軽く叩いた。

振り向くと文香さんの姿があった。

 

「あの....金木さん?」

 

「どうしましたか?」

 

「お話したいことが.....」

 

文香さんの顔は"悩んでいた"。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ぼくと文香さんは場所を変え、いつもヒデと通う喫茶店にいる。

ぼくはコーヒを頼み、文香さんも同じく頼んだ。

文香さんとここに訪れることは始めてで、少し緊張がした。

 

「...ど、どうしましたか、文香さん?」

 

緊張していたせいか少しぎこちなく喋ってしまった。

一体僕に何話すのか知りたかった。

 

「.........」

 

文香さんはしばらく何か躊躇っているように見えたが、勇気を振り絞って口を開いた。

 

 

 

 

 

「私...."アイドル"をやってみようかなと.....思います」

 

 

 

 

 

 



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寂心


彼は隠していました

本当の気持ちを



 

 

文香side

 

 

それは雨の降る日でした。

私はいつも通りに古書店にいました。

大抵の人なら外に歩くことはないのですが....

その日はたまたま私の古書店に入って来たのです。

その入って来た人が、"346プロのプロデューサーさん"でした。

 

「どうぞ.....」

 

金木さんに名刺を渡しました。

受け取った金木さんはその名刺を見て、驚きました。

「346プロからなんだ....」とつぶやきました。

 

「そのプロデューサーさんから....."金木さんのお友達"が所属している346プロだと聞きました」

 

この前に金木さんにアイドルのお友達の写真を見せてもらいました。

『彼女たちの名前は、"島村卯月ちゃん"と"渋谷凛ちゃん"、"本田未央ちゃん"』と金木さんはおっしゃいました。

それで私はそのプロデューサーさんから"346プロ"と聞いた時、すぐにわかりました。

 

「そ、そうだね....うん」

 

金木さんは言葉を発した一瞬、

"寂しいお顔"をしました。

 

「っ.......」

 

私はその姿を見て、不安が私の口を塞ぎました。

言おうとしていた言葉が言いにくくなったからです。

 

「まさか文香さんがアイドルを....」

 

深い哀色。

そんな金木さんのお顔を見ていたら、私はこのまま黙って入られませんでした。

気を取り直し、口を塞ぐ不安を取り除き、口を開きました。

 

「私は....アイドルになったら、変われますでしょうか...?」

 

「....」

 

一体どういう顔をするのか心配しました。

悲しむお顔はもう見たくない気持ちが、ますますと溢れました。

しかし金木さんは悲しいお顔をせず微笑み、

 

「"いいんじゃないかな?"」 

 

金木さんは"手を顎をこするように触わりました"。

 

「...え?」

 

私は驚きました。

予想とは違う結果のでした。

 

「変わりたいなら、自ら進んだら変われると思うよ」

 

「.........」

 

「文香さんが変われたら、ぼくは"嬉しいよ"」

 

「.........そうですね」

 

私は"少し"微笑みました。

"その時の私"は嬉しく感じました。

でも時間が経つにつれて、金木さんの顔に違和感を感じ始めました。

金木さんの微笑みが、なんだか寂しそうに見えたのです

 

(......苦い)

 

頼んでいたコーヒーが砂糖を入れたにも関わらず、とても苦く感じました。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夕方 ーーー 自宅近く

 

 

金木Side

 

 

「........」

 

ぼくは肩を落としながら、歩いていた。

落ち込んでいた。

 

(.........まさか文香さんが....)

 

あまりにもショックだったのか、喫茶店で聞いた言葉が頭に残る。

文香さんは持っていた名刺を見たが、ぼくが知っているプロデューサーさんではなかった。

 

(....あれ、もう着いた...)

 

気がつけば、ぼくが住んでいるアパートに着いた。

妙に時間感覚が狂っているように思えた。

住んでいる部屋は2階だ。

ぼくは上に続く階段を一歩づつ登る。

もし後ろに人がいたら、おそらく苛立ちを感じてしまうぐらい鈍いやつと思うだろう。

すると誰かが座っていた。

ぼくはその人を見た瞬間、

 

「志希ちゃん...?」

 

ぼくがそう呟くと、座っていた人が反応し「やほー」と笑顔で手を振る。

 

「なんで...いるの?」

 

「ちょうど学校終わったし、暇だから来たー」

 

彼女はいつも通りに、にゃははと笑う。

まさか学校に抜け出したのか?と思ったが、言う気力もなかったため聞かなかった。

 

「別に今日は泊まりはしないから、安心してー」

 

志希ちゃんは立ち上がり、「あけて〜」とぼくの肩を叩く。

ぼくは「はいはい...」と答え、アパートの鍵を開け、中に入る。

志希ちゃんは入った瞬間、「あ〜この匂いは落ち着く〜」と呟く。

 

(........)

 

やはり"先ほどのこと"がなかなか離れられない。

 

「あ、そうそう。あたし、"アイドル"をやるかも」

 

「え.....?」

 

志希ちゃんの発言に、ぼくは驚きのあまり声が出てこなかった。

 

「346プロの人に声をかけられて、これ渡された」

 

志希ちゃんはかばんから名刺を出し、ぼくに渡す。

その名刺の名前を見ると、文香さんが持っていた物と"同じ"だった。

今のぼくは「そうなんだ...」と答えるしかなかった。

 

「どうしたの?元気ないねー」

 

落ち込んでいることを気づいたのか、志希ちゃんはぼくに近づく。

 

「何か嫌なことでもあったのー?」

 

「な、なんでもないよ....」

 

嘘。

本当はあるんだ。

 

「そうかなー?志希ちゃんから見たらあると思うよ?」

 

「別に.......なんにも.......」

 

 

 

 

 

 

....あれ?

 

 

 

 

 

自分の頰に水が流れたような感覚がした。

ぼくはそれに手を触れると、それはただの水ではなかった。

気がつくとぼくは、涙を流していた。

自然と流していたんだ。

 

「あれ?どうして泣いているの、カネケンさん?」

 

志希ちゃんは驚き、頭を少し傾ける。

 

「なんで.....だろう....なんで涙が.....涙が....」

 

徐々に涙の量が増えてくる。

ぼくは手で拭くが止まらなかった。

 

「辛いこと....あったかな...?」

 

先ほどの文香さんの言葉が思い出す。

別に気にすることじゃないのに、なぜか思い出すんだ。

 

「悲しんでいるのかな.....ぼく...?」

 

「........」

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、志希ちゃんはぼくを"抱きしめた"。

 

 

 

 

 

 

「......!」

 

あまりにも驚いてしまい、言葉が出せなかった。

突然抱きしめられたのだ。

志希ちゃんの柔らかい肌。髪の毛から香るシャンプーの香り。

彼女はぼくの背中をポンポンと優しく叩く。

 

「カネケンさん知ってる?30秒ハグハグすると、1日のストレスのうち約1/3がなくなるって」

 

「.......」

 

ぼくは何も言わず、頷く。

 

「カネケンさんは優しいけど、抱え込むよね」

 

「.......」

 

ぼくは何も言わなかったが、志希ちゃんは続けて話す。

 

「あんまり抱え込みすぎると、カネケンさんだけじゃなくて、あたしもみんなも困っちゃうよ?」

 

「...........」

 

「だから、カネケンさんはあんまり抱え込まない方がいいんじゃない?」

 

「そうだね....」

 

「じゃあ、カネケンさんの悩みを聞いてあげる」

 

「..........」

 

彼女は抱くのをやめ、ぼくの肩に手を置く。

 

「別にゆっくりでもいいよ?」

 

彼女は笑顔で返す。

その笑顔を見たぼくは、ゆっくりと口を開く。

文香さんがアイドルをやること。

ぼくはそれを聞いてどう思ったのか。

ぼくは志希ちゃんに伝えた。

なんだか少し気分が楽になった。

志希ちゃんは「へーあのカネケンさんのお友達もやるんだー」とうんうんと頷いた。

 

「カネケンさんはその文香ちゃんがアイドルになることは嫌なの?」

 

確かにぼくが落ち込んだの理由は、文香さんがアイドルになることだと思う。

でもそれは嫌とは言えない。

 

「....違う」

 

「じゃあ、なんで?」

 

「....."離れたくないから"かな?」

 

「離れたくないかー」とぼくの頭を撫でる。

 

「確かに離れたくないよねーもしかしたら忘れられるかもしれないし」

 

「............うん」

 

よく考えてみれば、"一番嫌なこと"だ。

 

「でも、あたしはカネケンさんのことは絶対忘れないよ?だってアイドルをやっても、カネケンさんのところへ行くよ」

 

「....サボったりしないでね」

 

志希ちゃんの癖は失踪することだ。

何度かメールで宣言していたから。

 

「大丈夫ー。スカウトしたプロデューサーは優しいよ」

 

志希ちゃんはにゃははと笑う。

ぼくはその姿になんだか幸せに感じた。

 

「とりあえず、文香ちゃんに伝えとくね」

 

「え?」

 

ぼくはそれを聞いて驚く。

 

「だって、カネケンさん嫌なんでしょ?文香ちゃんと離れて、忘れられることが嫌なんでしょ?」

 

「う、うん....」

 

少し変に感じてしまったが、

嬉しく感じた。

そのおかげで、笑顔が戻ったような気がした。

 

「.....志希ちゃん」

 

ぼくは弱々しい声で、彼女の名前を呼ぶ。

彼女は「なにー?」と頭を傾ける。

 

「....ありがとう」

 

ぼくはそう言い、微笑んだ。

そして再び涙が流れた。

 

「もーカネケンさんは泣き虫ー」

 

志希ちゃんは嫌な顔もせず再び、ぼくに抱きつく。

それから志希ちゃんはぼくが涙を止まるまで、そばにいてくれた。

 

 

 

 

 

 

ぼくは、久しぶりに"幸福"を感じた。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 朝 ーーー13区

 

 

今日は大学はお休みで、天気がいい。

ぼくがここに来たのはなんとなく気分転換しに来たのだ。

まだ昨日のことが胸に残っているが、

志希ちゃんのおかげで、気分が軽くなった。

それでももしできるなら、今日中にその残っているものを取り除きたい。

それでここに来たのだ。

 

(やっぱり人がいるよね....)

 

やはり休日ということで、人波が大きかった。

 

 

(.......ん?)

 

しばらく歩いていると、

ぼくは"あるもの"を見つける。

 

(なんだろう?これ?)

 

ぼくはそれを拾い上げる。

『DARK PREDICTION』と書かれたノート。

一体何が書いてあるんだろうと思い、開いた見た。

 

「..........」

 

しばらく見た後、そっとノートを閉じる。

そのノートの内容を一言で言うなら、"拾ってはいけないもの"と言えばいいだろう。

そのぐらい見てはいけないものだった。

 

(ど、どうしよう.......)

 

ぼくは焦り出す。

これをどうすればいいのかわからなかった。

 

(とりあえず...交番に...)

 

ぼくは移動をしようとしたその時、

 

「あ....」

 

後ろから誰かがこちらを見て、気づいた。

その声を聞いた瞬間、背筋が凍った。

 

(み、見られた....)

 

視線を感じる。

明らかにこのノートの所有者だと思われる。

ゆっくりと振り向くと、"ある少女"が立っていた。

 

「あ、あ、あ......き、き、貴様!...我がグリモワールを...」

 

普通の人とは違い、ゴシックロリータの衣装に身を包んだ緋眼の少女がぼくの前に立っていた。

ぼくはその人を見た瞬間、一体誰なのかわかった。

確か"シンデレラプロジェクト"のアイドルの。

 

 

「"神崎"...."蘭子"?」

 

 

 

 

 

 



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邪眼

言の葉は増えて、秘めたる真意を伝える秘術はないものか...


 

 

 

 12時 ーーー 13区

 

 

「な、なぜ我が名を知っている....!?」

 

彼女はとても驚いた。

まるで私しか知らない秘密が漏れてしまい、なんで知っているのかと言うような感じに。

リアクションがすごい。

 

「えっと....."シンデレラプロジェクトの人"だよね...?」

 

ぼくはそんな彼女に恐る恐る尋ねるように話しかける。

彼女はまだCDデビューはしていないため、あまり知名度はない。

彼女がどうして驚くのかわからなくもない。

 

「ふふふ.....我を覚えているとは、嬉しきこと」

 

右手で手を顔を隠し、ポーズを決める。

 

「我が名は神崎蘭子。しかと覚えよ…!」

 

手を前に出し、ビシッとポーズを決める。

 

「ク、ククク。こ、この私の心結界を破るとはアナタの力もなかなかのようね……フフ、ハハハハ!」

 

高笑いが周りにだいぶ響く。

何人かの人は、こちらをちらっと見たような気がする。

なんだか見ているこっちが恥ずかしく感じてしまう。

 

「我が"グリモワール"を見た、愚かな者よ....」

 

「う、うん....」

 

いけなかったと思う。

改めてノートを見てはいけなかったと心から思う。

 

「我に"禁断の果実"を求めんとする!」

 

「"禁断の果実"...?」

 

"禁断の果実"といえば、旧約聖書の創世記に出てくる"りんご"のことだよね....?

まさか"りんご"を求めているのかな?

 

「もしかして....りんごが欲しいのかな?」

 

「ふふふ.....わからぬか....」

 

どうやら違うらしい。

 

(なんだろう.....)

 

ぼくは腕を組み、考える。

りんごじゃなければなんだろうか?

イチジクでもなさそうだし、ブドウじゃなさそう...

[旧約聖書では禁断の果実は"りんご"とは書かれてはない]

 

(ん...?)

 

気がつくと蘭子ちゃんは何か見ていた。

見ていた先は、"ある飲食店"だ。

確かちょうどお昼の時間帯だ。

 

「日時計が、新たな贄をと囁いている…」

 

蘭子ちゃんはそれを見て、呟くように言う。

 

("禁断の果実って".....まさかーーーー)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

12時頃 ーーー ハンバーグ専門店

 

 

「ふふふ....さすが罪を犯しき者...」

 

「その言い方やめてくれないかな.....」

 

"禁断の果実"が合っていたことにほっとしたが、

蘭子ちゃんの服装がかなり目立っているせいか、席の周りから視線が感じる。

 

(ちゃんとお金払ってくれるかな....)

 

別にお金に余裕はあるが、彼女は持っているかどうかはわからない。

 

「蘭子ちゃんって、普段からそういう喋りなの?」

 

さすがにそんな感じ喋ると、どこか休みが欲しくなると思うが....

 

「我が言霊は読み解けぬと…?」

 

「......う、うん。そうだね....」

 

多分、『私の言っていることわからないの?』と言っているように思うが...

よくわからない。

 

「ハンバーグを禁断の果実じゃなくて、もっと...何かわかりやすいものしたらいいんじゃないかな?」

 

「他にふさわしき言の葉があるのか?」

 

「別の言い方でたとえば..."聖なる肉"とかハンブルクの....なにかとか」

 

「我がふさわしくない」

 

蘭子ちゃんは即答で返す。

 

「ダメなんだね...」

 

そう会話していると鉄板に乗ったハンバーグが、ぼくたちが座る席にきた。

肉の焼ける音が響き、食欲がそそる。

蘭子ちゃんはそれをみて、かなり喜んでいた。

 

「これこそ.....我が求めていた...."禁断の果実"!」

 

ポーズを決める。

本当に普段からこんなキャラクターなのかと疑ってしまう。

 

(まぁ、今日は気分転換でハンバーグを食べるか....)

 

ぼくも同じくハンバーグを頼んだ。

本来ならハンバーグは特別な日にしか食べないが、今回は頼んだ。

ナイフでハンバーグを切る。

そしたらハンバーグの中から肉汁が溢れるように現れた。

 

(おお....)

 

ぼくはそれ見て感動をしてしまった。

いい光景だと心の中から呟く。

そして切ったハンバーグをフォークで刺し、口に運ぶ。

 

(おいしい.... )

 

ここのハンバーグは美味しい。

いい火加減に肉の旨味がうまく伝わっている。

 

「薔薇にも、潤いを…」

 

蘭子ちゃんは食べるたびにコメントを口にする。

彼女も美味しそうに味わっている。

そんな彼女を見ていると、食レポ番組に出れるんじゃないか思った。

 

(......そういえば)

 

そんな蘭子ちゃんにずっと気になることがあった。

 

「ところで....そのノートって..」

 

蘭子ちゃんはびくっと体を動かした。

多分『え?』と驚いてしまっただろう。

 

「ぐ、グリモワールは禁断の書よ....」

 

「うん...まぁそうだよね...」

 

『このノートは魔法書よ』と言っていると思う。

蘭子ちゃんは隠しているように見えた。

グリモワールはフランス語で言うと魔法書だ。

 

「でも中身みたら、衣装についてのイラストみたいだったよ?」

 

魔法書と聞くと文字ばっかりのイメージがあったが、蘭子ちゃんのノートの場合"絵"がメインだ。

 

「えっと...確か...傷ついた悪姫、我が名はぶりゅ」

 

「あ、言わないでください!!」

 

「...え?」

 

ぼくは彼女の声に留まってしまった。

彼女の声から聞くのことのない言葉を聞いたからだ。

蘭子ちゃんは「うぅ、恥ずかしい」と呟く。

 

(....自覚はあるんだ)

 

少しほっとした。

彼女もONとOFFがあるんだなと。

 

「もしかして、誰かに見せる予定だった?」

 

「........」

 

先ほどの堂々とした態度とは違い、恥ずかしそうであった。

そしてゆっくりと口を動かす。

 

「ぷろ....でゅー....さー」

 

「ん?プロデューサー...?」

 

誰だろうと思ったが、彼女が所属しているところを考えたらすぐにわかった。

 

「ああ、"シンデレラプロジェクトのプロデューサーさん"のことね」

 

「なぜその名を!?」

 

迫力のある感じで聞く。

 

「確かこれだよね?」

 

ぼくは財布から"あるもの"を出した。

彼からもらった物だ。

 

「これは...!」

 

蘭子ちゃんに渡したのはプロデューサーさんの名刺だ。

 

「名前は間違っていないよね?」

 

蘭子ちゃんはうんうんと頷く。

 

「そのノートをプロデューサーさんに見せるのかな?」

 

「ま、まだその時ではないわね。今しばらく、無垢なる語らいを…」

 

どうやら彼女はまだ見せないらしい。

 

「すぐに見せたほうがいいと思うけどな...」

 

ぼくはそう呟くように言うと、蘭子ちゃんはそんなぼくに「なぜだ?」と聞く

 

「自分の考えを相手に見せるのはいいと思うよ」

 

「...考え?」

 

「蘭子ちゃんの場合絵が上手いから、もしかしたらそれがステージ衣装になるかもしれないよ」

 

あのノートには絵が書いてあった。

顔は簡単に書かれていたが服装については上手く書かれていた。

そんなのを見せなかったらもったいない。

 

「だから、そのノートをプロデューサーさんに見せたほうがいいと思うよ」

 

「....そうですか」

 

「....え?」

 

普通に言葉を返したことに驚いてしまった。

蘭子ちゃんは自分の言った言葉にはっと気づき、言葉を直す。

 

「ウ、ウンディーネの壺をここへ」

 

「......ああ、水のことね」

 

ぼくは蘭子ちゃんのコープに水を注ぐ。

ウンディーネは四大精霊の水を司る精霊のこと。

蘭子ちゃんは何か疑問を持ったような顔をした。

 

「なぜ我の言葉を読み解けた?」

 

「昔から本を読むことが好きだから、本に出てくる伝説とか専門用語ならなんとなくわかるよ」

 

父さんが残してくれた本を読んだきっかけで、ぼくは本が好きだ。

本に関する知識ならなんとなく行ける。

 

「例えばさっき蘭子ちゃんが言ってた"禁断の果実"は旧約聖書の創世記に出てくるアダムとエバが食べたものだよね」

 

おお、と目が輝いていた。

 

「フフフ、波動が伝わったようね」

 

蘭子ちゃんは手を顔を当て、ポーズを決める。

多分「わかってくれたようね」と言っていると思う。

 

「ところでお金ある?」

 

「.....え?」

 

蘭子ちゃんは輝いていた顔から、呆然とした顔へと変わった。。

そしてすぐにバックに調べる。

 

「..........」

 

そして何も言わず、こちらに顔を向ける。

 

「.........」

 

「え?」

 

まさか....

 

「........忘....れた....」

 

「ないんだね....」

 

少し涙ぶんだ目をし、こくりを頷く。

 

「まぁ...大丈夫だよ...とりあえずぼくが払うよ」

 

財布を確認をする。

あるのかなと思ったが、蘭子ちゃんの分も問題なく払える。

 

「....ありが...とう..」

 

本当ならばここでは『ありがたきなんとか』と言う場面だと思うが、蘭子ちゃんは言わなかった。

ここで見ると蘭子ちゃんは優しい子だと感じた。

 

「確か....島村卯月ちゃんと同じ部署にいるよね...?」

 

「なぜそれを聞く?」

 

「卯月ちゃんとはお友達だから...その経由で返してもらうつもり」

 

蘭子ちゃんはそれを聞いた瞬間、「友なのか!?」大きく驚いた。

 

「...う、うん..」と小さく頷く。

なんだか蘭子ちゃんのテンションについていけない。

 

「.....そなたの名は?」

 

「ぼくは、金木研」

 

そう言うと、蘭子ちゃんは手を前に出し、

 

「我が友、カネキ。感謝をする!」

 

またしてもポーズを決める。

さっきまで普通の感じとは違い、迫力のあるテンションが戻った。

 

「ちゃんと返してね?」

 

蘭子ちゃんの姿にちょっと不安を感じた。

真面目にやっているのかふざけてやっているのかよくわからなくなったからだ。

それからしばらく話し合った後(だいたいは聞くのが苦戦したが)、蘭子ちゃんとは仲良くなり、彼女は帰って行った。

彼女は難しい言葉やわかったことは、いい子だと言うことだ。

一瞬だったけれど、普通に喋った。

そっちの方で活躍すればいいのにのに....と思ったが、

あの彼女の迫力のあるテンションは個性だ。

別にあのテンションを否定するつもりはない。

 

(....伝えてくれるかな?)

 

この後問題なのは、お金が帰って来てくれるかどうかだ。

蘭子ちゃんが喋る言葉は難しいため、伝わるかどうか不安。

ちゃんと卯月ちゃんのところに伝わればいいのだが.....

 

(まぁ..."我が友、カネキ"と言ってくれているから....なんとか伝わりそう)

 

蘭子ちゃんがちゃんと卯月ちゃんのところに伝わることを信じて、ぼくは13区を後にした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 後日 ーーー 上井大学

 

 

講義が終わった後、ぼくはベンチで一人読書をしていた。

本来なら文香さんが来るのだが、今日は来ていなかった。

おそらく346プロでのお仕事で大学に来ていないかもしれない。

そんな読書している時、ぼくの名前を呼ぶ声がした。

 

「カネキー!」

 

ヒデの声だった。

 

ぼくが「どうしたの?」と聞くと、ヒデは雑誌を渡してきた。

 

「いやー蘭子ちゃんの曲最高だわー」

 

雑誌の表紙には蘭子ちゃんの姿があった。

ぼくはそれを見た瞬間、小さく驚いてしまった。

 

「あのゴスドリチックな感じも最高。実に蘭子ちゃんらしい!」

 

「そ、そうなんだ.....」

 

ぼくは少し違和感を抱えた感じに言葉を返す。

理由があったから。

 

「どうしたんだ、金木?」

 

「い、いや...なんでも....」

 

ぼくは困惑した感じに返す。

さすがに蘭子ちゃんと食事に行ったとは言えない。

そんな姿を見たヒデは、良からぬ顔をし、

 

「最近卯月ちゃんと話してるか?」

 

「いや...最近忙しいって」

 

「いや、実は最近デートとかし」

 

「そんなことしないよ...卯月ちゃんはアイドルだからそんなの無理だよ」

 

さすがに卯月ちゃん以外にも交流しているアイドルがいるとは言えない。

そう会話していると、ヒデがあることを思いついたような仕草をした。

 

「あ、先輩のところに行かねえと」

 

「え?どうして?」

 

「ちょっと頼まれたことがあって」

 

ヒデは「じゃあ、またなカネキ!」と言い、去って行った。

 

(まぁ...蘭子ちゃんとは出会ったと言わずに済んだ...)

 

そしたらもっとめんどくさくなったと思う。

そう安心していると、携帯が鳴った。

画面を見ると未央ちゃんから電話があった。

 

(...未央ちゃん?)

 

なんでだろうと思い、電話をかける。

 

「もしもし...」

 

『やっほー金木さーん』

 

未央ちゃんの声が聞こえた。

相変わらず元気だ。

 

「どうしたの...?」

 

『金木さん、らんらんと食事に行ったんだー』

 

先ほどのヒデと同じく、良からぬ感じにぼくに聞く。

 

「どうしてわかるの?」

 

『らんらんが言ってたよ』

 

(え?未央ちゃんわかるの..?)

 

ぼくでも理解できないのに、どうやって理解できたのだろう...?

 

「未央ちゃんって...蘭子ちゃんの言葉わかるの..?」

 

『え?いやいや、私じゃなくて"みりあちゃん"がそう言ってたから』

 

「......え?みりあちゃんが?」

 

一瞬、疑ってしまった。

あの小学生のみりあちゃんがわかっていることを。

 

「みりあちゃんってわかるの...?」

 

『なんかわかるらしいんだよねー』

 

疑ってしまう。

難しい文学的な言葉を理解することできるなんて.....

 

「すごいね.....ははは....」

 

まさか将来蘭子ちゃんのようにならないだろうか....

少し心配してしまった。

 

(あ、そういえば...)

 

あることを思いついた。

 

「あの、蘭子ちゃんに伝えて欲しいことがあるんだけど....」

 

「ん?」

 

「お金....」

 

『お金?らんらんのですか?』

 

「いつもらえばいいかな?」

 

彼女はCDデビューを果たし、人気が出て来ているため、

会えそうにない。

 

『んー確かにらんらんはしばらく忙しいよね.....あ!』

 

すると未央ちゃんが何か思いついたような声を出した。

 

『じゃあ、金木さん』

 

未央ちゃんがあることを提案した。

 

 

 

『"ブレインズキャッスル"の収録で会いませんか?』

 

 

 



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四葉

今日、四つ葉のクローバの髪留めを買ったの

お母さんからの数少ないプレゼント

本当ならお父さんと一緒にいるつもりだったけど、今日もいなかった

どうして私のお父さんはいないの?、と何回もお母さんに聞いたのだけど、

お母さんはその話を聞くたび悲しそうな顔をするの

どうしてなのかその時の私はわからなかった

 

 

後から気づいたの

お母さんが亡くなった後、お父さんはもう居なかったんだ

つまりお母さんと同じく殺されたの

あの時、悲しそうな顔をしていたのはお父さんはもういないんだということだったんだ

私が人間じゃないことがダメだったのかな?

どうしてこんな生き物に生まれて来たのかな、私

 

 

"人間のお姉ちゃん"と友達になった

彼女は笑顔がとても輝いていて、かわいかった

私はそれを見てお兄ちゃんを思い出したの

あの優しい笑顔が頭に浮かんだ

私は人間という生き物が怖かったんだけど、

なぜかお姉ちゃんは怖くは感じなかった

お姉ちゃんはお兄ちゃんと同じく文字を教えてくれた

彼女はお仕事が忙しい時でも私の元に来てくれるの

そんなある日、私は気づいてしまったの

"お姉ちゃんも"悲しんだってことを

 

 

ある時、私はお姉ちゃんからお花の本をもらったの

その本にはお花の意味がいろいろあった

それで私がつけている髪留め、四つ葉のクローバーの意味を知りたくなった

どうゆう意味かな?、と思って調べたの。

そしたら明るい言葉ばかりの花じゃないことに気づく。

 

希望、愛情、信仰

 

そして最後にあった言葉。

 

 

 

 

それは"復讐"。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  

収録当日 ーーー テレビ局前

 

 

蘭子ちゃんのお金は、ブレインズキャッスルの収録にて受け取ることになった。

収録ということはつまり、テレビの収録現場を見ることだ。

収録ということで応募が出来るだろうかと思ったが、ぎりぎりに応募ができた。

そして今、収録が行われるテレビ局に向かっている。

するとテレビ局前に卯月ちゃんたちが待っていた。

 

「お!金木さん!」

 

未央ちゃんはぼくが来ていることに気づき、ぼくに近寄る。

 

「久しぶりじゃないですか〜」

 

「うん....久しぶり」

 

未央ちゃんの元気にぼくは負けていた。

 

「あ!金木さん!」

 

次に来たのは、卯月ちゃんであった。

 

「卯月ちゃん元気になったんだね」

 

しばらくメールをしていなかったため、体調についてはわからなかった。

 

「はい!おかげさまで元気です!」

 

卯月ちゃんは笑顔で言葉を返す。

ぼくはその笑顔を見てよかったとほっとした。

 

「金木、久しぶり」

 

3人の中で最後に来たのは、凛ちゃん。

 

「久しぶり凛ちゃん」

 

凛ちゃんは「全く..」とため息をつき、

 

「あんたはなぜか偶然にアイドルと会うよね。たとえば蘭子とか」

 

「まぁ....そうだね」

 

昨日電話した未央ちゃん曰く、シンデレラプロジェクトのみんなに知られたらしい。

そんな会話しているとある人物がぼくたちの元に来る。

 

「こんにちは、金木さん」

 

プロデューサーさんがやって来た。

ぼくは彼にこんにちは、と挨拶をして頭を下げる。

 

「この間の神崎さんのこと、ありがとうございます」

 

スーツの中から封筒を取り出した。

 

「神崎さんのお金はまだ来ませんので、代わりに私が渡します」

 

「あ、ありがとうございます....」

 

ぼくはお金を受け取る。

本来もらう側なのだが、

なんだか本当にもらっていいのか困惑してしまった。

 

「ハンバーグ専門店に行ったのですね」

 

ぼくはそれを聞いた瞬間、え?と小さく驚いた。

 

「どうしてわかるのですか?」

 

「神崎さんがそうおっしゃったので」

 

「蘭子ちゃんのしゃべっていることわかっているのです?」

 

「いえ、まだ少ししかわからないのですが...」

 

ぼくは「ですよね....」と小さく呟いた。

プロデューサーさんも困るのもそうだろうね。

 

「へー、金木って蘭子の好きな物を当てたんだ」

 

「近くにハンバーグ店があったから、蘭子ちゃんはそれを見てたから...」

 

「ふーん。まぁ、蘭子は金木のこと気に入ったらしいし」

 

「え?そうなの?」

 

「だってプロデューサーも同じく"我が友"と言っているから、かなり気に入られている証拠だよ」

 

「気に入られたんだ...」

 

あの時出会った時を思い出す。

確かに彼女は難しい言葉を使っていたが、テレビなどでは見られない姿を見てしまった。

蘭子ちゃんはお嬢様系かなと思ったが、実は優しい子。

そう考えてみると嬉しく感じる。

 

(あ、そういえば...)

 

「確か今回の収録って...."CANDY ISLAND"の皆さんが出るんだよね?」

 

番組を応募する時、次回の出演者リストで"KBYD"の対決と書いてあった。

 

「えっと..."ブレインズキャッスル"だよね?」

 

「そうですよ!初のテレビ出演です!」

 

みんなに聞いたが、プロデューサーさんだけはなぜか顔色が違っていた。

 

「いや、実は"変更"が...」

 

「え?」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 撮影開始 ーーー スタジオ

 

 

「看板も変わってるし....」

 

「なんで変わったんだろう.....」

 

スタジオに入ってわかったことは"頭脳でドン!ブレインズキャッスル"ではなく、

今回からは"筋肉でドン!マッスルキャッスル"に変わっていた。

理由はアイドルがあまりにもクイズに答えられないから急に変更になったらしい。

そりゃあ番組側としては問題を答えられないとクイズ番組にならないよね...

 

(そんなに難しい問題をやっているのかな....?)

 

普段クイズ番組を見ないぼくには難易度がわからない。

確かこの番組は"川島瑞樹"と"十時愛梨"の"シンデレラガーズ"二人が司会を務める人気クイズ番組だ。

今、両チームの自己紹介タイムだ。

 

「ではチーム名をどうぞ!」

 

そう言うと幸子ちゃんたちKBYDチームはカメラに目線を向け、

 

「かわいい僕と!」

 

「野球!」

 

「どすえチームどすえ」

 

KBYD チームはこの番組では最多出場である。

 

(名前が長い....)

 

どうしてそうゆう名前になったのかは知らないけど、

特に幸子ちゃんのかわいいぼくがかなり強調されているように思える。

 

「幸子ちゃんって...かわいいぼくって必ず言うよね...」

 

テレビで何度も見るが、だいだいかわいい僕と言うイメージが強い。

 

「さっちーのことどう思う?」

 

「どうかな....別に嫌いでもないけど....」

 

好きとも言えない。

分類は違うけど、"志希ちゃん"が浮かぶ。

 

「ではチーム名をどうぞ!」

 

「「きゃ、"CANDY ISLAND"です」」

 

緊張していたせいか、一致していない。

 

(緊張している.....)

 

初めてテレビに出演であってか、かなり緊張気味であった。

ぼくはその姿を見て心配になった。

 

「初々しいですねー」

 

「初々しさでは完全に負けているかわいい僕と野球どすえチームさん。今日は勝てそうですか?」

 

「大丈夫ですよ!なんて言ったってかわいいぼくが付いてますから!」

 

本当に幸子ちゃんってかわいい僕と言うよね。

 

「待ってください!そういう意気込みは、マイクパフォーマンスでどうぞ!」

 

愛梨さんがそう言うと幸子ちゃんにマイクを渡す。

その同時に智絵里ちゃんはスタッフさんからマイクを受け取る。

 

「えーあなたたち"CANDY ISLAND"でしたっけ?お菓子みたいに甘い覚悟だと、この番組とかわいいぼくには勝てませんよ!」

 

幸子ちゃんがそう言うと、智絵里ちゃんはひっと顔が青ざめ、

 

「す、すみませんでした!」

 

そして大きく頭を下げる。

ぼくはその姿を見て驚いてしまった。

 

(え..謝っちゃうの?)

 

本来ならここで言い争う感じだと思ったが、全く違った。

 

「はい!10ポイント!」

 

「え...」

 

まさかのKBYDチームより先にポイントをゲットしてしまった。

観客から驚きの声が上がる。

 

「トークバトルはCANDY ISLANDの皆さんの勝利です!」

 

観客の皆さんは拍手をし、CANDY ISLANDの皆さんを祝った。

 

「はい!オッケーです!」

 

スタジオのスタッフさんがそう言うと、

その同時に未央ちゃんが大きく息を履いた。

 

「子供を見守る母親みたいだよ...」

 

未央ちゃんがほっとしていた。

 

「はは....そんなに心配なんだね」

 

「だって、特訓をしたからね」

 

「特訓?」

 

「そう、ツッコミの特訓ですよ。なんでやね!ってね」

 

未央ちゃんがビシッと手を振る。

 

「つ、ツッコミ...?」

 

「テレビ番組ってウケとツッコミがないとダメじゃないですか?」

 

「まぁ...そうだね...」

 

確かにそうじゃないとテレビは面白くはならないかもしれないけど、

定番のなんでやねんはどうだろうか...?

 

「智絵里ってテンパっていたよね」

 

「そういえば、智絵里ちゃんだいぶ緊張していたね」

 

"CANDY ISLAND"のメンバーの中では一番緊張してように見える。

 

「そうだね、ちえりんは"家の事情"でそうなっちゃたらしいよ」

 

「え?」

 

「ちえりんの両親は仕事で忙しくて、寂しがり屋になっちゃったとこの前話してたよ」

 

「....そうなんだ」

 

ぼくはそう暗く呟いた。

なぜか視線を伏せてしまった。

 

(........)

 

妙にぼくは暗くなってしまう。

なんだか"一致"してしまう。

 

「どうしましたか?金木さん?」

 

「....ん?」

 

気がつくと卯月ちゃんが心配そうにこちらを見ていた。

 

「あ、いや、なんでもないよ....」

 

「?」

 

卯月ちゃんは頭を傾け、疑問を持った顔をした。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

2回目の収録の休憩。

収録の合間に休憩があり、

ぼくはトイレに行っていた。

 

(大丈夫かな....)

 

ポイントは圧倒的にKBYDチームが有利だ。

もし次勝てなければせっかくデビューしたばかりの"CANDY ISLAND"のアピールタイムがなくなってしまう。

 

「智絵里ちゃん!」

 

突然、誰かが倒れたような音をした。

ぼくはそこに振り向くと智絵里ちゃんが倒れていた。

 

「大丈夫ですか!」

 

ぼくはそんな彼女に近づき、呼びかける。

するとプロデューサーさんがぼくに顔を向け、

 

「金木さん、緒方さんを楽屋に」

 

「は、はい...」

 

ぼくは彼女を楽屋まで運んだ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ぼくも楽屋の中に入った。

本来なら一般人が立ち寄る場所ではないところのため、

バレないために楽屋に入っている。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ...偶然にその場にいたので..」

 

プロデューサーさんは頭を下げる。

ぼくはいいですよと少し困惑した。

ぼくは楽屋の椅子に座り、彼女の様子を見ていた。

 

「智絵里ちゃん大丈夫かな...」

 

彼女は横になり、休んでいた。

きっと緊張で倒れてしまったのだろう。

 

「....ん」

 

すると智絵里ちゃんは目を覚ます。

 

「大丈夫ですか」

 

プロデューサーさんは智絵里ちゃんに声をかける。

 

「はい...すみませんでした」

 

「次の収録できますか?」

 

「.....はい」

 

そう言うと彼女は体を起こしたが、

不安そうな顔をしていた。

 

「笑顔でできますか?」

 

「.........」

 

彼女は言うのをためらっているように見えた。

すると智絵里ちゃんはぼくがいることに気づき、

 

「あなたは....」

 

彼女は誰だろうか?と思っていると思う。

先ほどかな子ちゃんも杏ちゃんも気になっている様子であった。

 

「えっと...ぼくは"金木研"」

 

「"金木"....」

 

すると彼女は何か思いつきたような顔つきになり、

 

「金木って...もしかしてこの前に蘭子ちゃんが言っていた...」

 

「うん。そうだね」

 

「「え!?」」

 

智絵里ちゃんとかな子ちゃんは大きく驚いた。

 

「"カネキ"って....あなただったんですね」

 

「意外と普通な人なんだね」

 

「まぁ...たまたま蘭子に会ったんだんだよね」

 

やはりだいぶ広まっていることを実感する。

 

「...智絵里ちゃんてだいぶ緊張していたよね」

 

「....はい、緊張が...」

 

やはり気にしていたんだ。

 

「大丈夫だよ。未央ちゃんも凛ちゃんもそうだったし」

 

「え?そうなんですか?」

 

智絵里ちゃんは少し驚いた。

きっとイメージはなかったと思う。

 

「でもなんで卯月ちゃんたちのことを知ってるの?」

 

杏ちゃんが疑問を持ったような顔つきをする。

 

「えっと...new generationsのみんなとは友達のような関係...かな」

 

「そうなんですか!?プロデューサーさん!?」

 

かな子ちゃんは驚き、プロデューサーさんに聞く。

 

「そうですね。彼女たちとは何度かお世話になっています」

 

「まぁ...その通りだね」

 

否定するなんてない。

 

「でも智絵里ちゃん、君は一人じゃないよ。杏ちゃんもかな子ちゃんがいるよ」

 

収録中の智絵里ちゃんはかなり緊張をしていた。

まるで抱え込んでいるように。

 

「だから罰ゲームをやるもの、一人じゃないよ」

 

だから、君は一人じゃない。

君は仲間がいるんだ。

ぼくとは違って。

 

「じゃあ杏、バンジー嫌だから逆転を希望します!」

 

杏ちゃんがそう言うと二人は笑顔を取り戻した。

つまり勝てばいい。

 

「そっか、逆転すればいいのか。それでアピールタイムをゲットして」

 

「一緒に歌を届けよ」

 

彼女たちの暗い空気が立ち去る。

 

 

「「行くよ!CANDY ISLAND!」」

 

 

再び彼女たちに笑顔が戻った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夜 ーーー テレビ局外

 

 

「まさか同点になるとは....」

 

結果はどちらが勝ち、どちらが負けではなく、

両チームが同点になったのだ。

 

「まぁ、でも良い成果を上げましたよ」

 

未央ちゃんは満足に言う。

 

「そうかな....」

 

両者引き分けで両チームはアピールタイムをもらえたのはいいが、

両チームは罰ゲームのバンジージャンプを受けることになった。

でもそれよりも気になることがあった。

 

「で.....なんでぼくもここに待つのかな?」

 

「いいから金木さん!」

 

未央ちゃんと一緒にここに待っている。

卯月ちゃんと凛ちゃんはCANDY ISLANDのみんなに挨拶をした後、

帰っていたのだが....

 

「ほら、来た!」

 

未央ちゃんがばしばしとぼくを叩き、

何かを指した。

 

「あれ...CANDY ISLANDの皆さんだ...」

 

「金木さん!」

 

かな子ちゃんがぼくに手を振る。

 

「あれ?金木さんって会ったことあるの?」

 

未央ちゃんはこちらに視線を向ける。

 

「いや...実は収録中に会ったんだ...」

 

「え!?」

 

未央ちゃんは驚いた。

 

「いつ会ったの?」

 

「えっと休憩中かな...」

 

未央ちゃんは「休憩中か」つぶやく。

するとかな子ちゃんはぼくに近寄る。

 

「おかし食べますか?」

 

かな子ちゃんはバックからプラスチックケースを取り出す。

そして蓋を開くと、綺麗な黄金色をしたクッキーが並んでいた。

とても美味しそうだ。

 

「じゃあ、いただくよ」

 

ぼくはクッキーを取り出し、食べる。

 

(美味しい...)

 

ほのかに香るチョコの味がよく、舌触りがいい。

 

「おいしいね。このクッキー」

 

「本当ですか?もっと食べていいですよ!」

 

彼女はかなり喜んでいた。

ぼくはあまり食べないため、数枚だけ取った。

 

「まさか未央ちゃんと待ってたなんて、よくわからない人だね」

 

杏ちゃんはテレビに出ていた時とは違い、だるそうに言う。

ぼくはそんな杏ちゃんに少しホッとした。

収録中に見せた私服ではなかった。

その服の特徴を一言を言えば、『働いたら負け』だ。

 

「とりあえず、みんなを元気付けてありがとう。金木さん」

 

彼女はぼくにそう言うと、

 

「杏、帰ってゲームがしたい。今日も"YONE"と狩りに行かねば」

 

杏ちゃんはつぶやくように言うとよろよろと帰って行った。

彼女が言った"YONE"はおそらくゲームのフレンドの人だろう。

 

「あ、待って杏ちゃん!」

 

かな子ちゃん杏ちゃんを追いかけるように行く。

 

「あの...金木さん」

 

そんな状況の中、声をかけてきたのは智絵里ちゃんであった。

彼女は最初にステージ現れた時よりもで笑顔であった。

 

「先ほどはありがとうございます...」

 

智絵里ちゃんは頭を少し下げ、ここから立ち去った。

 

「いやー金木さんはモテモテだね〜」

 

未央ちゃんがぼくをからかうように言う。

 

「そ、そうかな....」

 

未央ちゃんは、もー気づいてよ〜とバシッとぼくの腕を叩く。

 

「痛いよ....」

 

「大丈夫ですよ。このくらいは」

 

未央ちゃんはいつも友達とこう言う風な会話をしているのかな?

 

「まぁ、とりあえず帰りましょ?」

 

「うん...いいよ」

 

ぼくと未央ちゃんは駅まで一緒に帰った。

その後未央ちゃんとは駅で別れた。

結局、両者引き分けで終わってしまったが、

今回のクイズ番組で輝いたのは”彼女”(智絵里ちゃん)かもしれない。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 後日 ーーー 大学

 

 

大学の講義が終わり、ぼくは今日もまた一人でベンチに座り、本を読んでいた。

"文香さん"はいなかった。

 

(.......)

 

346プロでの仕事で忙しいかもしれない。

それなら仕方ない。

そんな静かな空気を打ち壊す人物がいた。

 

「カネキ!!」

 

ヒデがぼく両肩を掴み、ゆさゆさとぼくの体を激しく揺らす。

 

「お前!なんでテレビにいたんだよ!?」

 

「え?どうして...?」

 

「どうしてじゃねぇだろ!この前の"CANDY ISLAND"が出ていたマッスルキャッスルに卯月ちゃんたちと一緒にいた映像が映ったんだぞ!」

 

つまり見られた。

 

「なんで俺を誘わなかったんだよ!」

 

「..ご、ごめん...」

 

ぼくはそんなヒデに謝る。

 

「ちなみにいつ行った?」

 

「この前の日曜日に...」

 

それを聞いたヒデは「あーまじか」と手を額に置く。

 

「その時先輩に頼まれたことががあったしな..さすがに応募しても来れないな....」

 

先輩のことを無視してアイドルのライブなどを見に行くなんてさすがにひどい。

 

「じゃあ、今度そんな誘いがあったら俺を呼べよ?」

 

「え...」

 

うんと言うべきか迷ってしまった。

 

「なんだよ!そんな嫌そうな感じになって!」

 

再び僕の体を揺らした。

 

「じゃあな、カネキ!」

 

ヒデはそう言うと、すぐに去ってしまった。

 

(......ヒデのアイドル愛はちょっとな...)

 

再び静かさを取り戻した。

ぼくは途中読んでいた本を読もうとした時であった。

 

(...ん?)

 

携帯が鳴った。

こんな時間に来るのは珍しい。

 

(誰だろう...?)

 

画面を見ると発信者の名前はなく、

見知らぬ電話番号であった。

ぼくはその電話に出た。

 

「もしもし...」

 

『金木さん!』

 

何か焦っているような感じであった。

わかることと言えば、発信者の声は"女性"だ。

 

「え..誰?」

 

『今どこにいる!?』

 

彼女は名前を名乗らず、ぼくの居場所を聞き出す。

 

「え..ちょうど20区に...」

 

『ちょうどよかった』

 

 

 

 

『今すぐ来てくれない?』

 

 



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二人

 

二人は再び、出会うことになる。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

  昼頃 ーーー13区 原宿駅

 

 

金木Side

 

 

(まさか...美嘉ちゃんだなんて...)

 

ぼくは原宿駅についた。

電車から降りた瞬間、ぼくはすぐに走っていった。

先ほどのぼくに電話をした人物は美嘉ちゃんだった。

どうして僕の連絡先を知っていたのかわからないが、

美嘉ちゃんに何かトラブルがあったように思えた。

 

(あ!見つけた!)

 

変装をしている美嘉ちゃんの姿を改札口で見つけた。

美嘉ちゃんはぼくがこちらに向かっていることに気づき、

「金木さん」とこちらに手を振る。

 

「どうしたの...?」

 

あまり運動していないため、かなり疲れた。

 

「莉嘉たちのプロデューサーがいなくなったの」

 

「え?プロデューサーさんが....いなくなった?」

 

どうやら美嘉ちゃんのプロデューサーではなく、

シンデレラプロジェクトのプロデューサーがいなくなったらしい。

 

「どうしていなくなった?」

 

「それはわからないけど...莉嘉に聞いたら警察にいるらしいの」

 

確かにプロデューサーは見た目は怪しい人だ。

警察が職務質問をするのはわからなくもない。

 

(何か変なにことに巻き込まれなきゃいいんだけど....)

 

ぼくたちはとりあえず歩き出した。

何か巻き込まれていなことに願いながら。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 同時刻 ーーー 13区 原宿

 

 

原宿にてアタッシュケースを手に持った人物がいた。

彼の名は亜門鋼太朗。

CCGに勤める捜査官だ。

今日は珍しく早く仕事が終わったため、担当の区ではない13区の原宿にいる。

ここに訪れたのは美味しいドーナツ屋ができたという情報を聞きつけたからだ。

 

(しかし...どこだろうか?)

 

亜門は13区には馴染みがないため、どこなのかはわからなかった。

地図を何度も見返すが、ドーナツ屋らしきお店が見つからなかった。

 

「プロデューサー!」

 

「ん?」

 

振り向くと三人の少女の姿があった。

年代的には一人は高校生、あとの二人は中学もしくは小学生のぐらいの子たちであった。

特に高校生の方は亜門の身長とは同じとは言えないが、高い。

 

「ご、ごめんなさい...」

 

黒髮の子は亜門の顔を見た瞬間、しょんぼりとしてしまった。

どうやら人を間違えたようだ。

 

「どうしました?」

 

亜門はしゃがみ、彼女に声をかける。

 

「あの、"プロデューサー"を探していて」

 

「"プロデューサー"?」

 

黒髪の子が少し焦っているように亜門に言う。

プロデューサーとは一体誰だろうと思ったが、

確かここ13区に有名なプロダクションの名が浮かんだ。

 

「もしかして、"346プロダクション"の?」

 

CCGとは関係があり、"喰種”(グール)対策には積極的で、

"あの事件"が起きたことがきっかけで、

おそらく業界では有名な"喰種”(グール)対策をする企業と言われる。

 

「そうそう!346プロの!」

 

黒髮の子が大きく頷き、先ほどのしょんぼりとした顔が消えた。

 

「お兄さん知ってるの?」

 

金髪の子が亜門に聞く。

 

「え...ま、まぁそうだな...」

 

CCG内でもかなり有名な企業であると知られている。

 

「それで...どうして探しているんだ?」

 

「きらり達、このあと会場に行かないといけないの」

 

聞けば彼女たちは"凸レーション"と言うユニットを組んでおり、

これからファッションブランドのコラボイベントに参加する予定であった。

 

「ここで歩いてたら、Pちゃんがいなくなったの...」

 

「そうか...」

 

突然プロデューサーが消え、イベントまでも時間が足りない。

亜門はどうすればいいのか考えた。

このまま警察に行き、プロデューサーのことを聞くのか、

それともイベントが行われる会場に行くのかと考えた。

すると莉嘉はとんでもないことを言い出した。

 

「じゃあ、莉嘉たちと一緒に探してくれるのはどう?」

 

「え?」

 

思いがけない言葉に亜門は固まった。

きらりは「こらこら、ダメだにぃ?」と莉嘉に言う。

亜門はすぐに腕時計を見る。

 

(先ほど仕事が終わったところだが...)

 

時間的には問題は無いが、この子たちとプロデューサーを探すのどうかと思った。

でもこのままで見つからなければ彼女たちが出演する会場に遅れてしまうかもしれない...

 

「じゃあ..探していきましょう」

 

亜門はそう言うと、きらりが驚いた。

 

「お、お兄さん本当に大丈夫ですかぁ?」

 

「私は先ほど仕事を終えたので、時間については問題ないです」

 

それを聞いたみりあと莉嘉は「本当に!?」と喜ぶ。

亜門は彼女たちとプロデューサーを探しに行くことになった。

 

(しかし..プロデューサーとは誰だろうか....?)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 13区 ーーー 原宿警察署

 

 

金木Side

 

 

「警察と言ったら、警察署じゃないの!?」

 

「いや、交番じゃないのかな..」

 

ぼくらは原宿警察署にいた。

そこにはプロデューサーの姿はなかった。

 

「たく...なんでいないのよ....」

 

美嘉ちゃんの顔には苛立ちと不安が見えた。

 

「とりあえず...交番に行こう」

 

ぼくがそう言うと美嘉ちゃんの電話が鳴った。

美嘉ちゃんはすぐに電話に出る。

 

「もしもし...あ、莉嘉!今どこにいるのよ?」

 

電話をかけたのは莉嘉ちゃんからだ。

 

「って、なんでじっとしてないの!」

 

美嘉ちゃんは怒った感じに喋り出す。

その姿はとても心配していた。

やはり姉と言うことで妹を心配している姿がよくわかる。

しばらくその姿を見ていると、そんな心配している姿が一変した。

 

「....え?莉嘉!莉嘉!」

 

美嘉ちゃんが何度も莉嘉ちゃんの名前を言い、焦り出す。

何かあったようだ。

 

「........」

 

「どうしたの?」

 

そう言うと、彼女はこちらに顔を向ける。

彼女の顔はとても焦っていた。

 

「....急に電話が切れた」

 

「...え!?」

 

ぼくはそれを聞いて驚いてしまった。

 

(まさか...何かに巻き込まれたのか....?)

 

プロデューサーの次に今度は莉嘉ちゃん達がいなくなってしまった。

 

「と、とりあえず...交番に行こう..!」

 

ぼくたちは急いで交番に向かう。

ますます、ぼくらに不安が湧き上がってくる。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

  13区 ーーー 原宿

 

 

「プロデューサーさんいないね...」

 

「うん....」

 

亜門達はしばらく歩いたが、プロデューサーらしき人物は見つからなかった。

今のところわかったことは、先ほど交番にいたことだ。

 

(それにしても...俺に似ているプロデューサーとは...?)

 

そもそも名前も知らなく、写真もない。

唯一の手がかりは、彼女たちに頼るしかない。

 

「お兄さんってどんな人?」

 

すると、みりあが亜門に訪ねてきた。

 

「CCGと言う"喰種”(グール)を退治する捜査官だな」

 

「「"喰種”(グール)...?」」

 

みりあ達はは首を傾げる。

 

"喰種”(グール)は簡単に言えば、人しか食べれない怪物だ」

 

「「え!?そんな生き物いるの!?」」

 

みりあと莉嘉は大きく驚いた。

彼女たちが知らないことはある意味よくないことだ。

"喰種”(グール)は人の姿をし、人を喰う怪物。

東京にはたくさんの"喰種”(グール)が潜んでいると言われる。

ここ13区では"13区のジェイソン"がいると思われる区だ。

世間では"喰種”(グール)についての番組があるのだが....

実際あまり知られてない。

 

「それで俺はその"喰種”(グール)を倒す仕事をしている」

 

「お兄さんすごい!」

 

みりあと莉嘉はそれを聞いて驚いていた。

しかし一人だけ、それを聞いて驚かなかったものがいた。

 

「.........ごめんね...みんな...」

 

きらりはみりあ達とは違い、だいぶ落ち込んでいた。

 

「きらりがあっちこっち連れ回って...」

 

先ほどの明るい感じが消え、きらりの顔は落ち込んでいた。

 

(.......)

 

亜門はそんな落ち込む彼女に声をかける。

 

「きらりさん」

 

亜門がそう言うときらりが顔を上げる。

 

「そう落ち込まないでください。あなたはみんなに笑顔を届けるアイドルじゃないですか!」

 

この世の中、笑顔になれない人がいる。

亜門はそんな人たちを何度も見てきた。

"喰種”(グール)によって笑顔が奪われてしまった人が何人もいる。

そんな彼らの中に笑顔を取り戻した人がいた。

それはアイドルの姿を見て元気を取り戻したという。

そんな彼らに笑顔を再び取り戻せる存在として、いて欲しいと亜門は感じていた。

 

「えっと...お兄さんのお名前はぁ?」

 

きらりは人差し指で目を拭き、亜門に尋ねる。

 

「"亜門鋼太朗"....だが?」

 

きらりは再び顔を上げ、

 

「亜門さん、ありがとう。....おかげできらり、元気になれたよぉ☆」

 

彼女は少し涙ぐんだ目で笑顔をした。

亜門はそれを見た瞬間、彼女に再び笑顔が取り戻せたことに喜びを感じた。

すると莉嘉たちが何かこそこそ話をし、

 

「じゃあ、亜門さん。これ持って」

 

莉嘉とみりあが上着を脱ぎ、亜門に渡す。

 

「な、何を...するんだ?」

 

「今からライブをするの!それだったら遅れないでしょ?」

 

莉嘉とみりあはきらりに手を差し伸べる。

 

「だから、きらりちゃんもやろう!」

 

きらりは亜門に顔を向ける。

亜門は頷く、行って来いと言っているように見えた。

 

そして彼女は二人に手を取り、立ち上がる。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

13区 ーーー 交番

 

 

金木Side

 

 

「結局いない....」

 

美嘉ちゃんははつぶやくようにそう言った。

交番に着いたのだが、そこにはプロデューサーさんの姿はなかった。

 

「きっと探しに行ったんだよ」

 

「.......」

 

彼女の顔は下を向いていた。

だいぶ心配している。

 

「莉嘉ちゃんはきらりちゃんとは一緒だよ。だから」

 

「でもなにかあったらどうするのよ...!」

 

ぼくは美嘉ちゃんの言葉に閉口した。

 

「だからと言って、安心とは言わないでしょ!」

 

美嘉ちゃんはぼくの顔に向け、ぼくに問いかけるように迫る。

彼女の目はとても怒りに満ちていた。

 

「もし何かあったら!」

 

「美嘉ちゃん、落ち着いて!」

 

ぼくはそんな美嘉ちゃんの両肩を掴む。

 

「心配するのはわかる。でも、そうやって苛立っていたらダメだよ」

 

ぼくは美嘉ちゃんにそう伝える。

そんなことしても無意味だってぼくはわかっている。

 

「だから、とりあえず落ち着こう」

 

「.........うん...」

 

美嘉ちゃんは先ほどの苛立ちが消え、落ち着いた。

 

「城ヶ崎さん!」

 

するとプロデューサーさんがぼくらの元に来た。

 

「ぷ、プロデューサーさん!」

 

「金木さん...!」

 

ぼくの姿を見て驚く。

 

「あなたも探していたのですか...」

 

「はい。美嘉ちゃんと探していました」

 

どうやらプロデューサーさんも探していたようだ。

 

「それで...莉嘉ちゃんたちは見つかりましたか?」

 

「いえ...どこにも..」

 

プロデューサーさんも探していたが、まだ見つかってはいなかった。

 

「城ヶ崎さんたちは先に会場に向かってくれませか?」

 

「え、あんたはどうするのよ?」

 

「自分は万が一に行きそうなところへ」

 

そんな時、周りに何か動きがあった。

 

「え?なんかやっているよ!」

 

「お!すげーのやってる!」

 

すると多くの人がどこか向かっていた。

 

「なんだろう...?」

 

「行ってみましょう」

 

ぼくたちはプロデューサーさんの言葉通りに多くの人たちが向かっている先に向かった。

何かパフォーマンスでもやっているように思えた。

 

(あ、あれは....!)

 

そこに向かうと、意外な光景が見えた。

 

「輝いて絶対!」

 

「だって絶対!」

 

そこには莉嘉ちゃんたちの姿があった。

彼女たちはこんな街中にもかかわらず、ライブをしていた。

周りの人たちはそんな彼女たちに楽しそうに見えた。

 

「........」

 

ぼくはその姿を見て、驚きと同時に安心が現れた。

 

「よ、よかった....」

 

ぼくは地面に座り込んだ。

安心した瞬間、先ほど莉嘉ちゃんたちを探した疲れがどっしりときたのだ。

そんな姿にプロデューサーさんは「大丈夫ですか?」とぼくに心配そうに言った。

 

 

彼女たちはとても輝いていた。

街の中で一番輝いていた。

それは誰もが笑顔になれる存在であった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

  13区 ーーー 会場

 

 

金木Side

 

 

ぼくはステージの裏側にいた。

先ほど一緒に探してくれたと言うことでみりあちゃんたちに連れて込まれ、

今ここにいる。

さっき、ちひろさんと言う方にスタミナドリンクをもらった。

他のエナジードリンクとは違い、特徴のある蓋だ。

するとある人がぼくに声をかけてきた。

 

「あなたが金木さんなんですね」

 

ぼくがが振り向くと美波さんの姿があった。

あのアナスタシアと"LOVE LAIKA"というユニットとし活躍しているアイドルだ。

 

「は、はい、そうです!」

 

ぼくは彼女を見た瞬間、なぜか戸惑ってしまった。

妙に色っぽく見えてしまったからだ。

 

「先ほど一緒に探してくれてありがとうございます」

 

彼女はそう言って、笑顔をした。

 

「あ、はい...」

 

確か彼女は文香さんと同じく19歳なのだが....

なぜかより大人っぽいように見えてしまう...

 

(あ、そういえば...)

 

「新田さんとアナスタシアちゃんの"LOVE LAIKA"のミニライブの時に行きました」

 

あの"new generations"と出たミニライブのことだ。

卯月ちゃんたちが出る前にライブに出ていた。

あのライブはとてもよかった。

 

「そうですか!ありがとうございます」

 

美波さんはそれを聞いた瞬間、とても喜んだ。

あの時のミニライブは人が少なかったが、

美波さんたちにとっては記念すべきライブだ。

そんな会話しているとある人物がこちらに近づいて来ていた。

 

「お!我が友カネキ!」

 

聞いたことのある声。

視線を向けると蘭子ちゃんの姿があった。

 

「あ、蘭子....ちゃん..?」

 

ぼくは蘭子ちゃんの姿を見た瞬間、少し戸惑ってしまった。

今着ている姿が明るく、派手な服、

いわゆる原宿ファッションだ。

 

「我が友カネキ!どうだ!この衣は!」

 

「す、すごくかわいいよ...」

 

原宿ファッションをだいぶ気に入っている模様。

いつもゴスドリチックな服を着ているのだが、

今来ている服にだいぶ違和感を感じてしまう。

 

「金木?」

 

すると凛ちゃんがテントの中から顔を出した。

 

「またあんたが来るなんて....なんなの?」

 

そう言うとため息をつく。

 

「い、いや...美嘉ちゃんがぼくを呼んで、一緒に探してたよ」

 

そう聞いた凛ちゃんは「え?美嘉と?」と小さく驚いた。

 

「そういえば先ほど私たち、蘭子ちゃんのような服装を着てましたよ」

 

「え?そうなんですか?」

 

美波さんがそう言うと、ぼくは疑ってしまった。

つまり、凛ちゃんも着ていたことになる。

 

「凛ちゃんも着ていたの?」

 

「仕方ないでしょ....突然きらりたちが来ないと言うことを聞いたのだから...」

 

凛ちゃんは恥ずかしそうに言う。

よく考えれば、クールな凛ちゃんが原宿ファッションを着ているイメージが思いつかない。

 

「着ているところが思」

 

「考えるな、バカ」

 

凛ちゃんの冷たい一言にぼくは口を閉ざしてしまった。

やっぱり凛ちゃんは厳しい....

 

「あ!お兄ちゃん!」

 

「金木お兄ちゃん!」

 

するとみりあちゃんと莉嘉ちゃんがぼくの元に来た。

二人はぼくの腕に抱きつく。

 

「「久しぶり!」」

 

「久しぶりだね」

 

二人とも元気よく言う。

どうやらトークショーは終わったらしい。

 

「こらこら、あまり困らせちゃダメだよぉー?」

 

すると奥から誰かの声が聞こえた。

 

「え?」

 

テントの中からきらりちゃんが現れた。

 

(で、でかい...)

 

ぼくはその姿に驚いてしまった。

プロデューサーさんぐらい背が高い。

間近に見るのは初めてだ。

 

「きみが金木ちゃん?」

 

「そ、そうだね..」

 

驚いていたせいかぼくはぎこちなく言葉を返す。

するときらりちゃんが手を前に出し、

 

「ありがとぉー☆」

 

きらりちゃんがぼくに頭を撫でる。

 

「先ほどPちゃんと私たちを探しに行ってくれてありがとねぇー☆」

 

「うん。どういたしまして...」

 

彼女はそんなぎこちないぼくにニコッと笑顔をした。

 

「金木ちゃんはかわいいね?」

 

「え?そ、そうかな...?」

 

ぼくはその言葉に少し恥ずかしく感じてしまった。

そんなことを聞かれるのは初めてだ。

 

「もしかしたら...女の子にかもしれないにぃ?」

 

「え?」

 

その言葉に固まってしまった。

まさかぼくが女の子になれるなんて。

 

「さすがに..ぼくが女装なんて...」

 

賛同するものはいないと思ったが...

 

「確かに...金木ならいけるかも」

 

凛ちゃんがうんうんと頷く。

 

「お兄ちゃんが女の子に?それ、いいかも!」

 

莉嘉ちゃんも同じく賛同する。

 

「えー?みりあは金木お兄ちゃんは男の子でいいよ!」

 

みりあちゃんは他のことは違い、意見が違った。

するときらりちゃんがきょろきょろと周りを見ていた。

 

「そういえば.."亜門さん"はいないねぇ〜?」

 

「"亜門...さん"?」

 

知らない名前だ。

誰のことだろうか?

 

「きらり、"亜門"ってだれ?」

 

凛ちゃんがきらりちゃんに訊く。

 

「みりあちゃんたちと一緒にいたPちゃんに似た人だにぃ☆」

 

「え?きらりちゃんと一緒に探してくれた人いたの?」

 

美波さんは驚いた感じにきらりちゃんに訊く。

 

「うん。Pちゃんにすっごく似ているお兄さんだよ〜」

 

(誰なんだろう...?)

 

多分身長は同じぐらいだと思うが、顔はおそらく....似てはいないと思う。

 

「お!みんなおつかれ!」

 

すると美嘉ちゃんがぼくたちの元に現れた。

 

「あ!お姉ちゃん!」

 

莉嘉ちゃんはぼくの腕から離れ、美嘉ちゃんに抱きつく。

 

「どうだった?あたしの感じは!」

 

「んーよかったよ。先ほどよりもずっとよかったよ」

 

美嘉ちゃんはそう言うと、莉嘉ちゃんの頭を撫でる。

ぼくたちはしばらく会話をし、そのあと凛ちゃんと美波さん、蘭子ちゃん三人は事務所に戻った。

その次は凸レーションの皆さんもここから去った。

みんなはここから去ったあと、ぼくと美嘉ちゃん二人だけになった。

 

「先ほどごめん...」

 

美嘉ちゃんはぼくに頭を下げ、謝る。

先ほどぼくにイライラをぶつけたことだ。

 

「い、いや...別に問題ないよ...」

 

ぼくはそんな美嘉ちゃんに戸惑ってしまった。

イライラをぶつけたくのはわからなくもないけど....

 

「そういえば...どうしてぼくの連絡先を知ってたの?」

 

ここに来る前から思っていることだ。

ぼくの連絡先を知っているのは卯月ちゃんと凛ちゃんに未央ちゃんぐらいしかいないはずだが...

 

「ああ...それは...卯月に聞いたんだ...」

 

「え?...そ、そうなんだ...」

 

まさかの卯月ちゃんからぼくの連絡先をもらったのだ。

ぼくはなんて返せばいいのかわからず、頷く。

 

「勝手に連絡先を知ってごめん....」

 

「まぁ...でも今回、役に立てたらいいよ...」

 

そう会話していると美嘉ちゃんの口から驚くような言葉が出た。

 

「お礼にと言うわけじゃないけど....今度、一緒に遊びに行かない?」

 

「え?」

 

ぼくはそれを聞いた瞬間、小さく驚いてしまった。

まさかの美嘉ちゃんからのお誘いだ。

でも美嘉ちゃんと一緒に行くのは...少しまずい。

 

「さすがに二人きりはまずいから...だれか連れていい?」

 

「え?」

 

彼女はそれを聞いた瞬間、こちらに顔を向ける。

多分、男友だちを連れて行くの?と思っているだろう。

ヒデを連れて行くのはまずい。

アイドル愛が炸裂する。

 

「あ、でも...知り合いに346プロにいるんだ...」

 

「知り合い?」

 

きっと彼女は卯月ちゃんのことを思っているだろう。

 

「卯月ちゃんたちじゃなくて"一ノ瀬志希"って子だよ」

 

美嘉ちゃんは「へー知り合いだったんだ」と頷いた。

 

「じゃあ、もしこっちに休みができたら連絡をする」

 

「うん。わかったよ」

 

ぼくと美嘉ちゃんは約束をした。

どこかの休みに遊びに行くことを。

 

これが"あのユニット"の誕生につながると、ぼくは想像をつかなかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

   13区 ーーー 会場

 

 

(すごいな....)

 

亜門は彼女たちのステージを見ていていた。

彼女たちはトークライブという形でやっていたのだが、

先ほどのパレードの影響で多くの観客が多かった。

 

(しかし...まさかあの行動をするなんて..)

 

その時の亜門は彼女たちが来ていた上着を持っていた。

そしたら事務員のちひろが気づき、亜門に声をかけてくれた。

そのあと会場の裏側に移動し、なぜかスタミナドリンクをもらった。

普通のドリンクとは違い、蓋の上に星が立っている。

 

(おそらく...プロデューサーだろう...)

 

先ほどから"お礼がしたい人物"がいということを聞いたため、

しばらくここにいる。

 

「あの」

 

すると亜門に声をかけてきた人物がいた。

 

「先ほどはあり...」

 

プロデューサーは亜門の顔を見た瞬間、口が止まる。

その同時に亜門も固まった。

お互いまさかここで再び出会うとは、と。

 

「あなたは...あの時の"亡くなったアイドル"の...」

 

あの"2年前の雨の日"の悲劇が彼らの記憶が蘇らせる。

 

 

 

 

 



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二思

ケンカの良いところは、仲直りができること

エリザベス・テイラー/Giant


ーーー346プロダクション

 

 

「た、だいまー!!」

 

「おかえりなさい、皆さん」

 

事務所できらり達の迎えた人がいた。

彼女の名は"アナスタシア"。

日本人とロシア人のハーフだ。

 

「イベント、大丈夫でしたか?」

 

彼女はきらりたちに今日のイベントのことを聞く。

今日はイベントに遅れてしまうような問題が発生した。

プロデューサーがいなくなったり、探していた彼女達もいなくなったりするなど、

イベントに影響するかもしれない問題があった。

結局プロデューサーは見つかり、きらりたちは原宿内でパレードみたいなことをしているところを発見し、

時間通りにイベントを開催ができた。

 

「大丈夫だったよー!アナスタシアちゃん!」

 

みりあがそう言うとアナスタシアはほっとした。

 

「今日ねぇ、面白い人と出会ったの☆」

 

「誰ですか?」

 

「"金木さん"と"亜門さん"だよー!」

 

「"アモン"..?」

 

アナスタシアはある人物の名前に疑問を感じた。

 

「"亜門さん"って誰ですか?」

 

"金木"という人はシンデレラプロジェクト内ではかなり有名になっているが、

"亜門"というのはいま初めて知った。

 

「えっとねぇ、その亜門さんは"喰種”(グール)を倒す人だよ☆」

 

「っ!?」

 

アナスタシアは突然びくっと体を起こし、背後に嫌な寒気が感じた。

きらりが言った"ある単語"によって。

 

「どうしたの?アナスタシアちゃん?」

 

莉嘉はそんなアナスタシアに声をかける。

 

「あ、亜門さんは...."グール"を倒す...人なんですね...」

 

先ほどの様子を隠そうと無理して笑顔を作る。

 

「そうだにぃー☆その人はきらりより高くて、Pちゃんに似てたよー☆」

 

「そうですか....プロデューサーに似ているんですね」

 

アナスタシアはその"喰種”(グール)という言葉に恐れを感じていた。

 

(.......)

 

彼女は会ったのだ。

その"喰種”(グール)に。

 

 

『Что вы видите? Аня?(何を見ている?アーニャ?)』

 

 

故郷で出会った"ロシア人"が"喰種”(グール)だと知った時、

彼女の心は、おそらく消えないであろう深い傷を負ったのだ。

暗闇に光る奇妙な赤い光、そして口は恐ろしく赤い血が染まっていた。

 

 

『Вы знаете, что? Аня?(知っているか?アーニャ?)』

 

『Человеческая плоть является то, что ребенок является самым вкусным』

     (人肉の中で一番美味いのは、子供だということを)

 

 

幼き頃に見てしまった、彼らの姿。

彼女は心の中でこう呟いた。

 

 

 

『....Донато Порпора(ドナード・ポルポラ)』

 

 

 

彼女の記憶から蘇る。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夜 ーーー 自宅

 

 

金木Side

 

 

「え?前川みくと多田李衣菜がユニットを組む?」

 

『はい。そうなんですよ....』

 

今ぼくは卯月ちゃんと電話をしている。

掛けたのはぼくではなく、卯月ちゃんからだ。

今日はみくちゃんと李衣菜ちゃんがユニットを組むということをぼくに言ったが、

卯月ちゃんの声は嬉しそうな感じではなく、何か納得しないような感じの声であった。

 

「別に悪いことじゃないの?」

 

ユニットを組むというのはいいはずなのだが...?

すると、卯月ちゃんの口から意外なことがわかった。

 

『みくちゃんたち、いつもケンカするんですよ』

 

「え?」

 

ぼくはその言葉に疑ってしまった。

本来ユニットというのは仲良い同士にするべきものじゃないのかと。

 

『昨日ですと写真撮影のときにケンカしていまし...』

 

「そうなんだ...」

 

確かお互いには確か特徴ががある。

みくちゃんは猫キャラで、

李衣菜ちゃんはロックなアイドル。

ケンカするのもわからなくもない。

 

(...大丈夫かな?)

 

それぞれ価値観があり、譲れないところがあるかもしれない。

 

『金木さんが相談に乗ってくれれば....』

 

「え、え...!?さ、さすがに無理だよ...」

 

ぼくはその言葉に困惑してしまった。

流石に自分はそんな重要な人物でもあるまし...

[最近シンデレラプロジェクト内では知れ渡っているけれど..]

 

「まぁ..とりあえず、仲良くさせないとね...」

 

まずユニットを決めたプロデューサーさんがなんとかしないとけないと思う。

どうしてみくちゃんと李衣菜ちゃんにしたんだろうか?

シンデレラプロジェクトの中でユニットを組んでいないのは二人だけだ。

さすがに"余ったから"ではないと思うけど....

 

「そうですね...こちらもなんとか仲良くするよう頑張ります!」

 

卯月ちゃんはいつもの元気な声で返す。

 

 

 

まさかこの後、"彼女ら"に会うなんて....

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 次の日 ーーー 駅周辺。

 

 

(不仲同士ユニットを組むのか....)

 

昨日のみくちゃんたちのことが頭から離れなかった。

プロデューサーさんはどうして組んだだろうか?

まさか喧嘩するほど仲がいいと言うわけではないと思うが...

最悪の場合、アイドルフェスに出れない。

ちなみにぼくはこんな夏の時期だけど"たい焼き"を買った。

理由は特にないが、ただ食べたかったと思う。

 

(なんとか仲直りできないものか....)

 

そう考えていると、ぼくは何かにぶつかった。

いや、向うからぶつけられたような感じで。

 

「あ、す、すみません...」

 

女子高校生の人とぶつかってしまった。

その女子高校生の人はぼくは謝る。

その人の特徴はメガネをしていた。

 

(...ん?)

 

ぼくは何かに気づく。

まさか、"この人"は.....

 

「あの」

 

ぼくは"その人"の声をかける。

 

「はい?」

 

彼女はこちらに振り向く。

普通の人なら普通の高校生に見えるかもしれないが、

ぼくは"ただの普通の高校生"には見えなかった。

 

「あなたはもしかして....前川...みく?」

 

「....え?」

 

それを聞いた彼女はキョトンと頭を傾けた。

まさか間違えたのかと思った次の瞬間、

 

「なんで....わかったにゃ...?」

 

「え?」

 

妙に声が震えていた。

 

「だからなんでわかったにゃ!!??」

 

彼女は周囲に気にせず、ぼくに近づいて問いかける。

見た目では想像がつかない態度だ。

 

「え、え!?」

 

ぼくは彼女がまさかの"みくちゃん”だと言うことに驚いた。

そしてなんて答えればいいのかわからなかった。

 

「えっと...か、金木です!」

 

ぼくは不意に名前を上げてしまった。

 

「え.....?金木?」

 

するとみくちゃんは先ほどまで怒った様子がなくなり、

顔が青ざめ始めた。

 

「もしかして....みんなが言っていた"金木"って...」

 

「うん...ぼくだよ....」

 

「え、ええっ!?」

 

彼女の驚く声が、街中に響いた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あなたが蘭子ちゃんが言っていた金木さん...」

 

「うん、そうだよ...」

 

ぼくたちは場所を移し、人気(ひとけ)がない公園のベンチに座った。

さっきまでのみくちゃんと比べて、だいぶ落ち着いる。

まさか李衣菜ちゃんと組んでいるみくちゃんと出会うとは考えもしなかった。

 

「この前のきらりちゃんのイベントの時にお世話になったっと聞いたにゃ」

 

「まぁ...あれは...」

 

その時のぼくは美嘉ちゃんと探しに言ったのだが、

実際は"亜門さん"という人にぼくよりお世話になったと思う。

でもよく考えて見ると、やはりシンデレラプロジェクト内に知れ渡っていると改めて感じた。

 

「そういえば.."李衣菜ちゃん"とユニット組むんだよね?」

 

その瞬間、みくちゃんは躊躇ったように見えた。

 

「...な、なんでそれを知ってるにゃ?」

 

「卯月ちゃんから聞いたんだ」

 

「そうか.....にゃ」

 

彼女は視線をそらす。

やっぱり卯月ちゃんの言う通り、仲はあまり良くないように見える。

 

「李衣菜ちゃんとはうまくいってないんだね...」

 

「...うん..」

 

彼女は小さく頷く。

彼女の顔は何か迷いがある感じであった。

 

「金木さんはどうかにゃ?」

 

「え?」

 

「みくと梨衣菜ちゃんのユニットのことにゃ」

 

「どうかな....」

 

そもそもぼくは彼女らについてはあまり知らない。

知っていることと言えば、彼女たちのプロフィールぐらいしか知らない。

 

「...まず、みくちゃんは嫌なの?」

 

「嫌というか....合わないことがいっぱいにゃ...」

 

確かお互いのキャラを合わせるのは無理がある...

 

「李衣菜ちゃんが言う"ロックな気持ち"なんてわかんないにゃ...」

 

「ロックな気持ち...」

 

李衣菜ちゃんらしい言葉だ。

 

「他に気持ちが合わないところもたくさんあるし...」

 

やはりお互いのキャラが合っていないことがわかる。

 

「例えば...?」

 

「この前に夕食で"魚"を出してきたり」

 

「....え?」

 

ぼくはみくちゃんの"ある言葉"に耳を疑った。

 

「もしかして、"魚"食べれないの?」

 

「え?」

 

みくちゃんはこちらに顔を向ける。

 

「ネコキャラなのに?」

 

「にゃ!?これとこれは別にゃ!」

 

彼女は大きく否定をする。

みくちゃんはネコミミをしているイメージがあるんだが、

まさか魚が食べれないとは....

 

「魚嫌いなんだ....」

 

猫といえば魚だと思うんだけどな....

 

「だ、だから...Pちゃん何考えてるかわからないにゃ....絶対余ったから組んだと思う...」

 

彼女はそう言うと、視線を下に向ける。

確かにシンデレラプロジェクト内でユニットを組んでいないのは、

みくちゃんと李衣菜ちゃん二人だけだ。

自分たちは余ったから、と感じるのもおかしくはない。

 

「仲を良くするためにしたんじゃないかな?」

 

「金木さんが言っていることがなんか..."ケンカするほど仲がいい"から組んだに聞こえるにゃ....」

 

彼女は少しぼくに睨んだ。

ぼくは「ごめん」とすぐ謝った。

 

「もしこのユニットがダメだったら...どちらかがソロデビューだにゃ...」

 

「え?どちらかがソロデビュー....?」

 

つまりどちらかが"デビューができない"と言うことだ。

 

「みくたちは...仕方なくやってるっという感じにゃ...」

 

「.....」

 

彼女はだいぶ落ち込んでいた。

今の感じだと無理やり組んでいると言ってもいいだろ。

そんな状況の中でユニットを組むのはあまりよくない。

 

(何かあるかな....)

 

ぼくはどうしたらいいのか考えた。

今一番いいのはユニットを解散するのではなく、

お互い仲良くすればいいことだ。

でも、お互い合わないことばかりでユニット的にはよくない。

 

(あ....そういえば..)

 

ぼくは"あること"を思い出し、

バックからあるものを取り出す。

 

「これなら...食べれるかな?」

 

「ん?」

 

ぼくは"あるもの"をバックから差し出す。

 

「こんな夏の時期にあれだけど...」

 

バックから取り出したのは先ほど買ってきたたい焼きだ。

少し時間はたったが、まだ暖かい。

 

「"たい焼き"なら食べれるよね?」

 

名前は魚だけど、使用している材料に魚はない。

 

「あ、ありがとうにゃ!」

 

みくちゃんは先ほども落ち込みを吹き飛ばし、嬉しそうにたい焼きを受け取る。

 

「これなら食べれるんだね...」

 

ぼくは少しほっとした。

まさか名前だけでも無理ではなかったことを。

 

「みくは魚はだめだけど、たい焼きなら食べれる!」

 

彼女はそう言うと、ぼくに笑顔を返した。

 

「元気になれてよかった」

 

みくちゃんの笑顔に、ぼくは自然を微笑んだ。

 

「....みくちゃんは李衣菜ちゃんのことどう思う?」

 

「李衣菜ちゃんのこと?」

 

まずお互いのいいところがあると思う。

それを聞いた彼女はある言った。

 

「私と同じく"家族思い"」

 

「家族....思い....」

 

ぼくはその言葉に妙に反応してしまった。

あの記憶が思い出す。

"母さん"の姿が。

 

「この前の夜に李衣菜ちゃんがお母さんと電話したところを見たにゃ」

 

「...........」

 

あの働いている姿を思い出す。

一人が頑張って、みんなのために働いていた姿。

ぼくにとってお母さんは偉い人であり、大好きな人。

 

「どうしたにゃ?金木さん?」

 

ふと気がつくと、ぼくはみくちゃんの言葉を聞いていなかった。

 

「.....い、いや...なんでもないよ...」

 

ぼくはそう言うと、みくちゃんは顔を少し傾ける。

なんで深く思っていただろうか、ぼく。

 

「じゃあ、金木さんを金木チャンと呼んでいい?」

 

「え?いいけど.....」

 

ぼくがそう言うと、みくちゃんは立ち上がり、

 

「じゃあ、金木チャン。みくたちのことを応援してくれる?」

 

彼女はこちらに振り向き、答えを待っているような仕草をした。

 

「もちろん、応援するよ」

 

ぼくがそう言うとみくちゃんは、

 

「ありがとう、金木チャン」

 

彼女はとても嬉しそうな笑顔をした。

心から満足をしている笑顔で。

ぼくはその笑顔を見て思った。

 

 

お互いもっと"仲良く"なってほしい。

 

 

ぼくは心からそう願った。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

数時間後 ーーー CDショップ

 

 

みくちゃんと別れた後、ぼくはCDショップに入った。

この前にヒデが買えなかったCDを買ってくれお願いされたので、ここに入った。

最近"先輩"のことで忙しいらしい。

 

(...ん?)

 

"ある少女"を見かけた。

 

「.......」

 

見た感じだとCDを見ていると言うか、何か考えているように思える。

 

(......まさか)

 

ぼくは彼女が"ある人物"ではないとか感じていた。

少し聞くのをためらったが、気持ちを整えて、

彼女に近づいた。

 

「あの....」

 

「ん?」

 

彼女はぼくに振り向く。

 

「君って...."多田李衣菜"だよね...?」

 

「え?....は、はい....そうですけど...」

 

小さく驚いていた。

なぜ私を知っているだろうと言うような顔で。

 

「なんで...私をご存知でしょうか?」

 

彼女はまだデビューはしていないため、

どうして自分の名前を知っているだろうかと不思議に感じている。

 

「えっと...」

 

ぼくがなんて答えればいいのか考えていたその時、

 

「もしかして..."金木さん"?」

 

「え?」

 

驚いてしまった。

まさか彼女の口からぼくの名前を出すなんてことを。

 

「そ、そうだね...」

 

驚いたせいでぎこちなく返してしまった。

 

「へーあなたが金木さんなんだ」

 

関心した様子でぼくを見る。

もちろん彼女と会うのは初めてだ。

 

「みんな言っていた金木さんって、あなただったんですね」

 

「うん....」

 

そういえば先ほど"みくちゃん"と話したため、

ぼくは李衣菜ちゃんにあることを言う。

 

「そういえば....李衣菜ちゃんってみくちゃんとユニットを組むよね?」

 

先ほどみくちゃんに同じような言葉を出す。

 

「え?どうしてそれを?」

 

「卯月ちゃんから聞いたんだ」

 

「卯月から?......そうなんだ」

 

彼女はそう言うと、妙に暗く感じた。

まるでなんで知っていたんだと。

 

「みくちゃんのこと嫌なのかな?」

 

「嫌と言うか....合わないことばかりあるんですよ」

 

やはり李衣菜ちゃんも同じく感じていた。

 

「確かに...みくちゃんはネコのイメージが強いよね....」

 

「そうですよね...ネコの気持ちを理解することなんて無理ですよ」

 

確かに彼女自身はRockなアイドルを目指しているから、

さすがに妥協してネコキャラになるのは嫌だと思う。

 

「そういえば、李衣菜ちゃんって"ロック"が好きなんだよね?」

 

「え?は、はい....そ、そうですね」

 

李衣菜ちゃんはぎこちなく言葉を返した。

 

(ん?)

 

ぼくはそんな彼女に何か違和感を感じた。

答えからが自信なさそうに見えたからだ。

試しにぼくは李衣菜ちゃんに質問する。

 

「例えば何が好きかな?」

 

「えっと...."UK"とかですね...」

 

「UKなんだ...最近いい曲あるよね」

 

ぼくはいくつかのバンドや曲の名前を出した。

大体はヒデに無理やり貸されたのバンドの名前ばかりであったが、

そのバンドの名前は世間ではよく知られているバンドだ。

しかし、彼女の反応は"何か”違っていた。

 

「....あ、それいいですよね...」

 

意気投合するどころか、聞いているだけであった。

まるで知らない単語を聞いて、どう返せばいいのかわからないような感じであった。

まさか.....彼女は....

 

「もしかして....ロックバンドの名前とか知らないの?」

 

「えっ!?」

 

彼女はびくっと体を体を動かす。

 

「そんなことないじゃないですか!」

 

彼女は大きく否定をした。

何か隠しているような感じに。

 

「...じゃあ、知っているバンドは?」

 

「えっと..............」

 

そう言うと、李衣菜ちゃんは視線をそらす。

しばらく沈黙した後、「すみません...」と言い、頭を下げた。

 

「実は私...Rockなアイドルと言っているんですけど...あまり知らないですよね...ははは」

 

彼女はまさかのロックについてはあまり詳しくなかった。

紹介ではロックなアイドルを目指していると書いてあったんだけど...

 

「ギターなんかは持っているんですけど...今練習中なんですよ」

 

「そ、そうなんだ....」

 

「こんな感じだと....さすがにダメですよね..」

 

「確かに...それはまずいよ...」

 

李衣菜ちゃんの顔は不安そうな見えた。

もしバレたら、イメージダウンしかねない。

きっと彼女は焦っているかもしれない。

 

「でも、今から頑張って覚えればいいんじゃないかな?」

 

「え?」

 

今の状態だと遅すぎると言うかもしれないが、

今頑張って覚えればいいと思う。

 

「他の人から見れば遅すぎと思うかもしれないけど、別にぼくは今頑張って覚えればいいと思うよ」

 

「確かに今は遅いと思われるかもしれませんが....今頑張ればいいですよね」

 

李衣菜ちゃんの顔には笑顔が戻った。

 

「あ、これは誰にも言わないでくださいね」

 

李衣菜ちゃんは人差し指を口に近づけ、静かするような仕草をした。

さすがにぼくはそんなことしない。

もし他人に知られたら、彼女の将来に影響しかねない。

 

「約束ですよ?金木さん?」

 

「うん、約束するよ」

 

ぼくと李衣菜ちゃんは約束をした。

彼女はまだ"未熟なロックアイドル"ということを。

 

「ありがとうございます」

 

「みくちゃんとは仲良くしてね?」

 

「みくとは....うん...」

 

口をこわばり、曖昧な感じに言葉を返す。

 

「.....やっぱり、"家族のこと"じゃないですかね」

 

「え」

 

ぼくはその言葉に固まってしまった。

 

「前、みくの部屋に"家族の写真"があって」

 

「.......」

 

ぼくは再び思い出した。

"母さん"のことを。

一人で内職している姿を思い出す。

病気になっていてもやり続ける姿。

あの時のぼくは、心配をしていた。

 

「どうしましたか?」

 

みくちゃんと同じく話を聞いていなかった。

 

「え?なんでもないよ」

 

ぼくがそう言うと、李衣奈ちゃんは

 

「でも、みくのことは別に全部悪く思ってませんよ」

 

「うん...それはよかった」

 

彼女たちはまだユニットと言えるような状態ではない。

みくちゃんも李衣菜ちゃんもお互い悩みがある。

その悩みがどうか打ち明けてほしい。

ぼくはそう感じた。

 

 

 

ぼくは彼女と別れた後、再び思い出した。

 

 

 

小さい頃の"暖かい記憶"が。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 後日 ーーー 自宅

 

 

ぼくは家で本を読んでいた。

前の休みの時に買ったを

立ち上がろうとその時、僕の携帯が鳴った。

 

(ん?)

 

ぼくは携帯を取り、画面を見ると"未央ちゃん"から電話があった。

 

「もしもし?」

 

『金木さん!』

 

未央ちゃんは焦っている感じにぼくの名を言う。

何か急いでいるような感じであった。

 

「どうしたの?」

 

ぼくはそんな彼女に聞く。

すると未央ちゃんはぼくにあることを伝えた。

 

 

 

 

『今から"サマーフェス"に来れますか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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心届



二人はそれでも、乗り越える。


 

開始数分前 ーーー サマーフェス

 

 

金木Side

 

 

(どうして....急に!?)

 

ぼくはとにかく急ぐ。

未央ちゃんから急に会場に来るようにと言われたため、

急いでその会場に向かっている。

どうしてぼくが来ないといけないかはわからない。

けど未央ちゃんが『とにかく来てください』と言われたため、

ぼくはわからないまま、行くしかなかった。

 

(あれかな?"サマーフェス"?)

 

未央ちゃんに言われた会場、

サマーフェスに到着した。

その会場は小規模のだが、かなりのお客さんがいる。

その中に卯月ちゃんがいるらしいけど....

 

「あれは!我が友、カネキ!」

 

ぼくが探し始めようとした時、蘭子ちゃんの声が聞こえた。

声がした方に振り向くと、卯月ちゃんたちの姿が見えた。

蘭子ちゃんがぼくに指をさすと、卯月ちゃんたちがぼくの方に顔を向けた。

「金木さん!」と卯月ちゃんが手を振る。

 

「ど、どうしたの...?」

 

ぼくは急いで駆けつけたため、夏の暑さと急いで来た時の疲労がぼくの体にのしかかる。

 

「突然呼び出してすみません...実はみくちゃんと梨衣菜ちゃんが出るんですよ」

 

「え?みくちゃんたちが...?」

 

卯月ちゃんの口から驚くようなことを耳にした。

みくちゃんと梨衣菜ちゃんがこのステージに出るなんて、今初めて知った。

会場が小規模のせいか、そんな情報はあまり行き届かなかったと思う。

 

「それで、金木さんも来たらいいかな?っとしまむーたちと相談して、連絡をしました」

 

未央ちゃんはそう言うと小さく「すいません...」と呟くようにぼくに言う。

せめて昨日に連絡して欲しかった...

 

「あなたが金木さん?」

 

卯月ちゃんの隣に"白髪の少女"がいた。

顔を見ると、その子はあの"LOVE LAIKA"(ラブライカ)のアナスタシアちゃんだ。

 

「そ、そうだよ...」

 

疲れているため、言葉を返すのが精一杯だ。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

アナスタシアちゃんはそう言うとバックから水を取り出し、ぼくに手元に渡した。

 

「あ、ありがとう...」

 

ぼくは水を受け取り、すぐに口に注ぎ込んだ。

乾いていた喉が潤わされ、百熱の地獄から天国へと変わった。

なんだかアナスタシアちゃんが天使に見えてしまった。

 

「蘇ったようね...我が友カネキ」

 

日焼け対策なのか、ゴスドリチックな傘をさしている。

 

「蘭子ちゃん、服変えたね」

 

この夏にゴスドリチックなドレスを着たら、さすがに熱中症になりかねない。

今の蘭子ちゃんの姿に少し安心した。

 

「我が衣は、灼熱の血・地獄の姿。これぞ真の衣ぞ!」

 

「....そ、そうだね...」

 

蘭子ちゃんの言う言葉は、未だわからない。

とりあえず....『夏服に変えました!』と言っていると思う。

しばらく彼女たちと会話していると、ぼくはあることを思いついた。

 

「ところで"みくちゃんたち"大丈夫かな...」

 

ここに来た理由でもあるみくちゃんと梨衣菜ちゃんのライブ。

イベントのプログラムには全く書いてはない。

 

「お互いまだ合ってないらしいよ」

 

「え?」

 

凛ちゃんが言った言葉に、耳を疑ってしまうようなことを聞いてしまった。

 

「合ってないって...練習とか?」

 

「そう。しかも、歌詞がまだ曖昧らしい」

 

「え?それはつまり...」

 

「"ぶっつけ本番"..だよ...」

 

夏の暑さのせいか、不安のせいか汗が嫌なぐらい溢れているような気がした。

まさか、そんなことがあったとは。

 

(失敗しなきゃいいんだけど......)

 

彼女たちにとって初ライブ。

練習があっていないと耳にしたため、

ますます不安に感じる。

 

「あ!始まりますよ!」

 

卯月ちゃんが言うと、

舞台からみくちゃんと梨衣菜ちゃんが現れた。

 

「「いえええーーいい!!」」

 

「みくアンド!」

 

「梨衣菜です!よろしく!」

 

元気が良く、登場の仕方は悪くないが......

 

「みくand梨衣菜?」

 

「聞いたことないね」

 

観客の反応はイマイチであった。

そのアイドルがこのステージに立つとは知らない人にとって、

突然現れたアイドルを知るはずもない。

 

(まずい.......)

 

彼女たちの姿に、ぼくは目を背けたくなった。

この前の"new generations"のことを思い出してしまったのだ。

まさか、"未央ちゃんみたいなこと"を再び起こるではないかと。

 

「み、みんなげんきが足りないにゃ!」

 

なんとかこの空気を変えようと二人はあることをアイディアを出す。

 

「みんなで、”にゃあ”と言ってね!」

 

またしても観客の反応が良くない。

掛け声を求められるのは難しい。

 

まさかこのライブは"失敗"するだろうか?

もし二人の初めてのライブが"失敗"で終わるとなると....

 

そんな時、その言葉を打ち壊す大きな声がぼくの耳に入った。

 

「「にゃあああああああああ!!!」」

 

みくちゃんと梨衣菜ちゃんたちが大きな声で『にゃああああ!』と言うと、タイミングよく曲が始まった。

 

(...あれ?)

 

タイミングが良いせいか、観客の反応が徐々に良くなっている。

 

(これは...良いのか?)

 

先ほどまでの暗い空気が一変した。

暗かった闇が、一瞬にして消え去ったように。

 

「じゃあ!行くよ!」

 

「「せーの!"ØωØver!!"(オーバー)!!」」

 

そう言うと観客の反応が一瞬にして最高潮に達した。

 

(これって本当に"みくちゃんたちが作詞”をしたの?)

 

先ほど聞いた話だと練習では息が合わず、作詞もまだ決まっていないと言っていたが、

それなのに驚くほど息が合っており、歌詞もいい。

これがアドリブだなんて、信じられない。

 

「金木さん!一緒に盛り上がりましょ!」

 

「え?....う、うん」

 

ふと気がつくと、未央ちゃんに何度も声をかけられていた。

あまりにも驚いたせいか、ぼくは呆気に取られてしまった。

 

 

みくちゃんと梨衣菜ちゃんの初ライブは、不安がいろいろあったが、

無事に大成功に収めた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ーーーイベント終了後

 

 

イベント終了後、ぼくは卯月ちゃんたちに連れられ、

ステージ裏に待っていた。

 

「成功してよかったよ」

 

「そうですよね!みくちゃんたちの初ライブがうまくっていよかったです!」

 

卯月ちゃんの言う通り、初ライブながら成功したことに安心した。

序盤は成功するかどうか不安があったが、無事にライブが終了し、彼女たちにとって満足するような結果だと思う。

 

「みくちゃんとリーナの曲も最高でしたね!」

 

さらにすごいのは、未央ちゃんが言った二人の曲だ。

歌詞と練習が曖昧と聞いていたのが、それが嘘ではないかと思うほどうまく合っていていた。

そんな会話していると、ある声が僕らの耳に入った。

 

「「あ!」」

 

何か見つけたような声が、ステージの裏から聞こえた。

そこに視線を向ける、"二人"の姿があった。

 

「あ!金木さん!」

 

「金木チャン!」

 

二人ともぼくを見て名前を言った瞬間、

数秒固まった。

 

(...あれ?)

 

何かに気づいたかのように固まった。

おかしいことに気づいたようだ。

 

「「....え?」」

 

なんで知っているの?という顔で二人はお互いの顔を見る。。

 

「な、なんで...李衣菜ちゃんが知ってるにゃ!?.」

 

「みくことなんで!?」

 

「みくはこの前に金木チャンと会ったにゃ!」

 

「え!?会ってたの!?」

 

「私も会ったよ!」

 

「にゃ!?なんで李衣菜ちゃんも金木ちゃんに会ってたのにゃ!?」

 

「また喧嘩してる....」と未央ちゃんはつぶやいた。

見ての通り、喧嘩をし始めた。

 

「さっきまで合ってたのに...」

 

ぼくはその光景をただ笑うことしかできなかった。

先ほどのライブだと息が合ってたのに..

 

「こんにちは、金木さん」

 

すると後ろから、聞き慣れた声が耳にした。

振り向くとあの"シンデレラプロジェクトのプロデューサーさん"が立っていた。

 

「あ、プロデューサーさん」とぼくは言うと、ぺこりと頭をさげた。

 

「また、彼女たちとお世話になりましたね」

 

「い、いえ...みくちゃんと李衣菜ちゃんとはたまたま会ったので..」

 

蘭子ちゃんのように偶然に出会い、そして交流するような感じ。

あまり感じないけど、なんだかぼくは運があるかもしれない。

 

「本当にありがとうございます」

 

「はい....」

 

ぼくはまた、プロデューサーさんに感謝の言葉を受け取った。

シンデレラプロジェクトの彼女たちとは結構お世話になっていると思う。

 

「そういえば、金木さんにお伝えしたいことが...」

 

「伝えたいこと?」

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

後日 ーーー 上井大学

 

 

午前の大学の講義が終わり、ぼくはベンチに座り、読んでいた。

今日もまたぼくは、一人で本を読んでいた。

 

(卯月ちゃんたちとは、しばらく会えないんだね...)

 

この前のイベントで帰る時にプロデューサーが、

『夏の合宿をしますので、しばらく会えません』とぼくに伝えた。

今度のアイドルフェスに向けてのため、合宿がある。

しばらく卯月たちとは会えない。

寂しいけど、彼女たちはアイドルだから仕方ないことだ。

 

(少し寂しい....)

 

そう思っていると、ぼくの携帯が鳴った。

 

(ん?)

 

携帯を開くと、"ある人"からのメールだった。

 

(あ、"美嘉ちゃん"からだ...)

 

美嘉ちゃんからメールが来ると言うことは、

 

 

 

 

つまり、"あれ"だーーーーー

 

 

 

 

ぼくはそのメールを開くと、"文"が書いてあった。

 

 

 

 

『今度の休み、予定空いてる?』

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 同日 ーーー 346プロ

 

 

文香Side

 

大学の講義が終わり、私は346プロのカフェで読書をしていました。

今日もまた私は、一人で読書をしています。

私がアイドルになって、いつもの日々が変わりました。

今までいないと等しかったお友達ができ、

やれなかったこともできて、満足です。

 

 

でも、私には"悩み事"を抱えていました。

 

 

それは、本当にアイドルをやってもいいのかと言うことです。

 

 

プロデューサーさんにいくつか励ましの言葉をいただきましたが、

私が欲しいのは"金木さん"からの本当の答えです。

金木さんを思い出すと、あの"寂しそうな顔"を浮かび上がり、

『本当にアイドルをやってよかったのだろうか?』と自分の心の中で葛藤が始まってしまいます。

私がアイドルをやると聞いた金木さんは、一体どうゆうお気持ちをしたのでしょうか?

私には"彼"の気持ちがいち早く知りたいです。

 

「やぁ、文香ちゃん」

 

すると、私の名前を呼ぶ声がしました。

その読んだ人の声は、何か聞き覚えのある声でした。

 

「はい....どうしまし」

 

その声をかけた人の顔を見た瞬間、私は声を失ってしまいました。

 

 

私に声をかけたのは、金木さんをストーカーをしていた人

 

 

 

"一ノ瀬志希さん"が私に声をかけたのです。

 

 

 

 

 

 



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抱我

私は抱えてました

心の奥底に隠していた、他人には言えない悩みごとを

その悩みごとは悲しく、儚いものでした




志希Side

 

 

(警戒してるね...)

 

やはり"カネケンさん"と関わったせいで、文香ちゃんは敵を見るような目で見ている。

やっぱあのベタベタに接したことが悪かった。

 

「なんのようですか....」

 

「ちょっと落ち着かない?いつまで警戒してもあれだしー?」

 

「.........」

 

とりあえずこの嫌な空気を変えようとしたけど、文香ちゃんは警戒をし続ける。

多分、あたしのことを本当に"敵"と認識していると思う。

 

(んー"話すこと"(カネケンさんの約束)があるのになー)

 

それをまず出さないとカネケンさんとの"約束"が果たせないし、

文香ちゃんにとって大切なことが伝わらない。

どうにか文香ちゃんの警戒を解かないと...

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

私は一ノ瀬さんを警戒しておりました。

彼女は私と同じくスカウトで346プロダクションのアイドルになりました。

どうやら私に声をかけたプロデューサーがスカウトしたらしく、私と"同じ部署"に所属しています。

 

「文香ちゃんはカネケンさんと仲良しだよね?」

 

「"カネケン"...?」

 

聞きなれない名前に私は疑問を感じました。

 

「あーカネケンさんは文香ちゃんのお友達の"金木研”のことだよ?」

 

「金木さん...ですか....」

 

やはりストーカをしていたことで、おそらく金木さんにだいぶお近づきなっていると思います。

そう思うと、一ノ瀬さんは”簡単に信頼するような人物ではない”と私は感じました。

 

「一ノ瀬さんは金木さんとはどんな関係でしょうか?」

 

私がそう言うと一ノ瀬さんは「んーどうだろうー?」と軽く返しました。

 

「別に恋人関係でもないし、かと言って知り合いと言うほどでもないし......まぁ、仲良しだよ」

 

一ノ瀬さんの発言が実に不愉快に感じられました。

そんなに金木さんと仲良しなのかと。

 

「文香ちゃんってカネケンさんのこと、どう思っている?」

 

「私ですか....」

 

年齢的には後輩と言うべきと思いますが...

よく考えてみれば、今まで金木さんを後輩だとい感じたことも一度もなく、

先輩・後輩関係と言えないような気がします。

 

「....お友達...ですね...」

 

「へーそうなんだー」

 

そう言うとにやにやと何か考えているような顔をしました。

なんだかその姿に怖く感じました。

一ノ瀬さんは話を止めることなく、次の質問をしました。

 

「カネケンさんとは"仲良いの”?」

 

「...........」

 

普通に『仲良しです』と言えばいいのに、なぜか口に出ませんでした。

別に難しい質問ではありませんのに

 

 

 

 

 

『文香さんが変われたら、ぼくは"嬉しいよ"』

 

 

 

 

「....!」

 

あの言葉が突然頭に過りました。

何か隠しているかのような口で言った言葉。

そしてどこか悲しそうな顔。

私はそれを思い出した瞬間、なぜか体が震えました。

何か恐ろしいものに怯えるように。

 

「ん?どうしたの?」

 

一ノ瀬さんがそんな私の姿に変に感じたと思います。

 

「な....なんでも.....あ.....ありません....」

 

私は視線を下に向き、震える口で返しました。

 

「いや、文香ちゃん。なんかおかしいよ?」

 

一ノ瀬さんは私の横に座り、声をかける。

 

「なんでも....ないです.... 本当に....」

 

私はそう返しましたが一ノ瀬さんは辞めず私に声をかけました。

それがまずかったのです。

一ノ瀬さんは「いや、おかしい」と言おうとした瞬間、

私の心の中に抑えていた感情が爆発しました。

 

 

 

 

 

「本当になんでもないですっ!!」

 

 

 

 

まるで静かな場所に一つの大きな雷が落ちたかのように、

今まで出したことない大声で、周りの音が一瞬消え去りました。

 

 

「......あ...」

 

 

気がつくと私の頰に冷たい何かを感じました。

それに静かに触れますと、それは汗ではなく涙でした。

 

「す.......す、すみません....すみません....」

 

私は両手で目を隠し、ひたすら一ノ瀬さんに謝りました。

涙がとても溢れ出て、両手では抑えきれませんでした。

 

「..........」

 

一ノ瀬さんはしばらく何も言わずに見ていたと思います。

まさかそんな行動が起こすなんてと驚いていたと

 

 

「.....いいよ文香ちゃん」

 

 

志希さんは静かにそう言い、私を抱きしめました。

 

「.....っ」

 

その時の私は驚いてしまいました。

まさか急に抱きしめられるなんて。

 

「......っ」

 

志希さんの体温が心地よく感じました。

 

「...カネケンさんとは"仲良し"なんだよね?」

 

「..........はい..」

 

私は小さく言い、頷きました。

 

「...別にカネケンさんはいい人なのに、どうして言いづらいかな?」

 

「金木さんを思い出すと....本当にアイドルをやっていいのか...」

 

あの"どこか悲しい顔"が浮かぶ度、本当にアイドルをやっていいのかわからなくなります。

志希さんは「うんうん」と私のお話を聞いてくれました。

今の志希さんは先ほどの子供っぽい感じが嘘かのようでした。

志希さんは私を抱きつくのをやめ、私の顔を見ました。

 

「文香ちゃんはやりたい?アイドルを?」

 

「.......」

 

アイドルをやるのが日々疑問を感じる時があります。

まるで自分の意思でやっているわけではないような。

 

「私は...少しアイドルに不向きかもしれません...」

 

他にも理由はありました。

私は他の人とは違い、夢はアイドルではありませんでした。

なので、”卯月さん”のように養成所に行っていませんでした。

 

「この前に基礎レッスン後で...倒れまして...」

 

しばらく運動をしておりませんので、基礎レッスンがとてもきつく感じました。

 

「そうなんだ。あたしと"同じ"じゃん」

 

「え?」

 

私は志希さんの言うことに驚いてしまいました。

志希さんはそんな体つきには見えませんが...?

 

「私もレッスンの時で貧血で倒れちゃってー」

 

志希さんは笑い事のように話し、にゃははと笑いました。

 

「志希さんは運動できそうな体つきだと思いましたが...」

 

「そんなことないよ。あたしはしばらく試作品作ったりして」

 

「試作品?もしかして...志希さんは何か研究を?」

 

「まぁ、私は化学が好きなんだよねー」

 

「化学ですか...」

 

つまり志希さんは私とは反対の理系ということです。

 

「こう見えて大学に飛び級してね」

 

「飛び級...?」

 

でも今のお姿は"高校生"...ですが...

 

「でも、結局大学を辞めて、ここにいるわけ」

 

少しもったいないように思えますが....

よく考えましたら志希さんは私とは違い、周りに流されずに自分の意思で決めたと言えます。

 

「文香ちゃんは大学でお友達はいる?」

 

「今のところは....金木さん以外はいませんね..」

 

今のところ346プロダクション内だと、"奏さん"と"ありすちゃん"だけです。

 

「へー。じゃあ、あたしと友達にならない?」

 

「お友達ですか...?」

 

「あたし、まだ友達いなんだよねー。まぁ、原因は"癖"だけど」

 

「”癖"?」

 

「"失踪癖"があって、他のアイドルとは会う機会がないんだよねー」

 

そう言うと、志希さんはにゃははと笑いました。

確かに....346プロダクションで志希さんを見かけたことはあまりないような....

すると志希さんは『あ!そうだ!』と何かを思い出したような仕草を見せ、カバンの中から”あるもの”を私に渡しました。

 

「これは...?」

 

志希さんが渡したのは、引きちぎったルーズリーフでした。

表には何も書いてはいませんが...?

 

「”カネケンさん”の連絡先、持ってないでしょ?裏に書いてあるよ?」

 

私は志希さんに言われた通りに裏を見ますと、

そこに書いてあったのは、一つの電話番号。

つまり"金木さんの連絡先"でした。

 

「はい...連絡先は知らないです」

 

「じゃあこれで、カネケンさんと連絡したら?」

 

「金木さんと連絡...」

 

少し胸が複雑に感じました。

なんだか電話をかけるのが勇気がいるようでした。

そんなことを考えていた時、志希さんがあることを言いました。

 

「カネケンさんは"抱え込みやすい人"だよ」

 

「"抱え込みやすい"...?」

 

「だから、何か"おかしいこと"なかった?」

 

「おかしいこと...っ!」

 

すぐに頭に浮かびました。

あの”寂しそうな顔”。

見ているのが辛く感じてしまう顔が頭に浮かんできました。

 

「はい...私がアイドルをやると金木さんに伝えた時ですね...」

 

「やっぱりー」

 

私は『え?』と小さく驚きました。

 

「その文香ちゃんがアイドルをやると言った後、カネケンさんはどうなったかわかる?」

 

「...いえ、それ以降直接はあっていませんのでわかりません」

 

私がその報告をした後、金木さんとは一度も会っていないため、わかりませんでした。

 

 

「カネケンさんは、泣いたよ」

 

 

「....っ!?」

 

私はそれを聞いて衝撃を受けました。

まさか..そんなことがありましたとは.....

 

「でも」

 

「でも?」

 

「文香ちゃんがアイドルをやることに悲しかったんじゃないよ。カネケンさんは文香ちゃんと"別れるんじゃないか”と泣いたんだよね」

 

どこかで聞いたことがあります。

昔、仲がよかった友人が有名人となり、離れ離れになってしまうような本を読んだことがあります。

 

「だから、時間があったらカネケンさんに連絡したら?」

 

「...はい、そうでね」

 

ここ数ヶ月、金木さんとは会ってはいません。

おそらく金木さんは私に避けられているとお考え担っていると思います。

 

「あ、そういえば。"卯月ちゃん"の連絡あるけど....いる?」

 

「卯月さんの連絡先ですか?」

 

とても不思議に感じました。

なぜ他の人の連絡先を知っているのかを。

 

「同じアイドルですし...金木さんとはお友達でしたね...」

 

「あれ?どうして知っているの?」

 

志希さんは不思議そうな顔をし、頭を少し傾けた。

 

「以前、金木さんが卯月さんが参加している"new generations"の皆さんの写真を見せてもらいまして」

 

「へー意外とカネケンさんは他の人に言うんだね」

 

やは金木さんは親しい人には言う方だとわかります。

それにしてもどうして志希さんが卯月さんの連絡先を知っていたのかは知りませんが。

 

「とりあえず、卯月ちゃんの連絡先も書いてくよー♪」

 

そう言うと志希さんは私が持っていたルーズリーフを取り、ポケットから取り出しだしたペンで書きました。

 

「文香ちゃんって可愛いね」

 

「そ、そうでしょうか...」

 

私は読んでいた本で口を隠しました。

その私の姿に志希さんは「かわいい〜」とにゃははと笑いました。

 

「多分カネケンさんは文香ちゃんを可愛いと思っているよ」

 

「か、可愛いと...?」

 

妙に恥ずかしく感じました。

その恥ずかしさはただの恥ずかしさではなく、

"嬉しさ"が混じった恥ずかしさでした。

 

「て言うことで、あたしもうそろそろ、ここから去らないとー」

 

志希さんはルーズリーフを私に渡し、

ここから立ち去ろうとした時、

私は志希さんの行動にあることが浮かびました。

 

「"失踪"ですか?」

 

さすがに仕事に行くような空気がなく、

おそらくここから立ち去るつもりだと思いました。

 

「お?わかってるじゃんー♪」

 

見事に的中しました。

 

「あたし疾走するから、プロデューサーに内緒ね?」

 

「...はい。わかりました」

 

なぜか私は志希さんの言うことに同意してしまいました。

いけいないことですのに。

 

「じゃあ、バイバーイ」

 

志希さんはそう言いますと、ここから逃げ去るように去りました。

 

(...あ)

 

私は志希さんからもらったルーズリーフを見て、"あること"に気づきました。

 

(志希さんの連絡先もありますね...)

 

金木さんの連絡先の下に、大きなハートのマークの中に『志希』と書いてありました。

 

 

こうして、志希さんとお友達になりました。

彼女は見た目はマイペースで、どこか幼い感じがあるように見えますが、

実は周りのことをよく考えていまして、良い方でした。

 

 

志希さんは....よい友人になれそうです。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

「あーよかった♪」

 

あたしは346プロから逃げ出し、街に歩いている。

さっき、カネケンさんとの約束を果たせた。

あとは文香ちゃんが行動を起こせばいい。

ちなみにあたしが友達はいないと言ったのは"嘘"。

本当は友達がいる。

例えば"フレちゃん”や”周子ちゃん"、あと文香ちゃんと知り合っている"奏ちゃん”三人だ。

文香ちゃんと友達になろうとしたかった理由は、カネケンさんになんとなく似ているからだ。

他に理由はあるけど、特に大きいのはそれだ。

あの本を読む姿を見ると、カネケンさんの姿を思い出してくるから。

あとは文香ちゃんはかわいいぐらいかな?

 

「ん?メール?」

 

すると、ポケットからメールの着信音がした。

スマホを開くと、意外な人物からのメールだった。

 

「あれ?カネケンさんじゃーん♪」

 

なんとも珍しい。

だいたいあたしからメールするだけど、今回はカネケンさん。

そのメールにはこう書いてあった。

 

『暇な日ある?』

 

これはもしかしてあたしに誘っているかも?

 

『いつでも暇だよー』

 

『また...失踪してるの?』

 

おそらくカネケンさんはため息をしていると思う。

あたしはいつでも失踪している。

 

『今度美嘉ちゃんと遊びに行くんことになったんだ』

 

「おーなかなかやるねー」

 

一体どこ経由で知り合ったかはわからないけど、

多分"卯月ちゃん経由"かな?

 

『だから、志希ちゃんも来ない?』

 

そこは二人っきりにしたほうがいいと思うけど、

最近カネケンさんに会っていないからお誘いに乗ろう〜♪

 

(あ、そうだ...!)

 

あたしはあることを思いつき、メールを打つ。

その打ったメールはこう書いた。

 

『友達連れてきていい?』

 

その書いたメールを送ると、

すぐに返信が来た。

 

『友達?別に連れてきてもいいけど...?』

 

あたしが連れてきたい理由は。346プロで出会ったアイドルをカネケンさんに合わせてみたいから。

そしたら"面白いこと”が起こるかも。

 

「誰にしようかなー?」

 

とは言ったものの、誰を誘うのかは決めてはない。

ちなみに文香ちゃんは誘わない。

先ほどカネケンさんの連絡先を教えたのだから、

あとは自分で誘えばいいと思う。

そうじゃないと、カネケンさんのためにもならないし、文香ちゃんのためにもならない。

 

「ーーーよし、決めた!」

 

しばらく考えた末、

今度カネケンさんに合わせてみたい友達を決めた。

 

これがあの"有名なユニット"が出来るきっかけだなんて、カネケンさんが"いい匂い"を出している証拠だよ。

 

 

 



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唇 前編

思いやり



チューリップの花言葉はそれらしい

この前に凛に教えてもらった言葉。

まさにあたしたちが歌った曲にぴったりのような気がする。



そういえば、”彼”はどこにいるのかな?



生きていればいいんだけど....


あの時"彼"に言った言葉。

あれは思いやりだったのかな?





 

 

 

金木Side

 

 

(まさか......本当にやってきてしまった...)

 

ついにやってきてしまったこの時。

美嘉ちゃんと遊ぶ約束(詳しくはそうではないが)が今日行われるのだ。

美嘉ちゃんとは何度か会っているのだが、

なぜか今回は夢にいるような感覚だ。

 

(.....早すぎたのかな?)

 

集合時間まであと5分程度だけど、緊張をしているせいか、なんだか早く来たかのようであった。

 

(...本でも読んでようかな?)

 

しらばく周りを見渡しても仕方ないので、ぼくはベンチに座り、カバンの中から本を取り出し、

読み始めた。

先ほどの緊張が和らいだ。

やっぱり本の世界に入れば、周りの雑音が消え去り、心地がいい。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

美嘉Side

 

 

(あ!いたいた☆)

 

待ち合わせ場所で金木さんを見つけた。

金木さんは今、ベンチにで本を読んでいた。

 

(この前、だいぶお世話になったし...楽しまないとなー)

 

この前に莉嘉たちを探す手伝いをさせたり、"あのこと"とかいろいろ金木さんに迷惑をかけたようなことがあった。

だから、今日は金木さんと遊ぶ。

 

(でも.....金木さんだけじゃないんだよね...)

 

さすがにアタシと二人だけでは少しまずいから、

"志希"と"志希の友達”も連れて遊ぶことになった。

その方が”緊張”がほぐれる。

 

(んーそのまま現れるのは少し物足りないかなー?)

 

このまま来ても面白くないから、どうやって金木さんと会おう?

 

(あ!そうだ!後ろから驚かしちゃお♪)

 

金木さんは一体どんな反応するだろう?

そっと金木さんの後ろに近づき、位置につく。

 

 

(よーし!驚かしちゃお☆)

 

 

アタシは金木さんを驚かす気満々だった。

 

 

金木さんを顔をそっと近づき、

そのまま驚かせばいい.......

 

 

 

"はずなのだけど".....

 

 

 

(....っ)

 

 

 

驚かそうとしたアタシは、動きが止まってしまった。

 

 

(.......っ)

 

 

 

動きを止まってしまったのは、金木さんの顔に原因があった。

金木さんの顔は"どこか寂しそうな顔"であったから。

アタシはその顔に、見つめていた。

まるで"何か大切なものを失い、悲しむような顔"を。

 

 

「あ、美嘉ちゃん」

 

 

しばらくアタシが見ていたせいか、金木さんが後ろに向いた。

寂しそうな顔が消え、いつものの金木さんの顔に戻った。

 

「........あ、ど、ど、どうも!金木さん!」

 

突然こっちに向いてしまい、私は慌ててしまった。

慌ててしまったせいか金木さんは『ん?』と変に感じたような仕草をした。

 

 

”さっきの顔”は、一体なんだろう.....?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木side

 

 

(どうしちゃったんだろう?)

 

美嘉ちゃんに会えたが、不思議なことがあった。

美嘉ちゃんがぼくの顔を見てなぜか驚いていたのだ。

別に周りには驚くようなものはないのだが....?

 

「やっほ〜カネケンさん〜♪」

 

この気まずい雰囲気の中、それを打ち破るかのように志希ちゃんがやってきた。

 

「久しぶり、志希ちゃん」

 

「久しぶり〜カネケンさん〜!」

 

志希ちゃんは相変わらず無邪気な子供みたいだ。

 

「あ、もしかしてあたしが入っちゃダメだった?」

 

「「そんなことないよ....っ!」」

 

ぼくと美嘉ちゃんは息がピッタリに同じことを言った。

先ほどの気まずい空気を無くしてくれたことに感謝したい気分だ。

 

「ははは、二人ともお似合いだね〜」

 

志希ちゃんは何か企んでいるような目でぼくと美嘉を見た。

 

「金木さんとはそんな関係じゃ...!」

 

「まぁまぁ。美嘉ちゃんとカネケンさんは"そんな関係"じゃないと言うことわかってるから〜」

 

志希ちゃんはそう言うと、にゃははと笑った。

なんだかステージに出る美嘉ちゃんと今隣にいる美嘉ちゃんは全く違うように見える。

そんな会話の中、ぼくはあることを思い出した。

 

「ところで...何人来るの?」

 

昨日メールで連絡をしたのだが、何人連れて行くのかはと言うのを忘れてしまった。

 

「えっと...3人」

 

「「え?」」

 

ぼくと美嘉ちゃんはその人数に聞いて驚いてしまった。

妙に多いような気がした。

 

「あ、来たよ〜」

 

ぼくは振り向くと、固まってしまった。

驚いてしまったのだ。

やって来た"3人"を見て。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ファッション店 ーーーー 金木✖️宮本フレデリカ

 

 

 

「カネケンちゃんこっちに来て〜♪」

 

「は、はい.....」

 

志希ちゃんが誘って来たお友達はかなり有名な人であった。

一人は今一緒にいる宮本フレデリカさん。

二人目は塩見周子、

最後は速水奏だ。

今、フレデリカさんのお買い物に付き合っている。

 

(フレデリカさんはかなり美人だけど...... )

 

フレデリカさんはフランス人と日本人のハーフで、

容姿はほぼ外国人といってもいいだろ。

金髪で白い肌、青い瞳という完璧な容姿と言いたいところだが....

 

「ところでアタシのサイズってどのぐらいだっけ?」

 

「フレデリカさんのサイズは知りませんよ...!」

 

喋らなければ美人と言うのがふさわしいぐらい適当な発言を連発する。

先ほどは『あ、知ってる?アタシ、宮本武蔵と名字、同じなんだって!』だとか、

『わー、あの鏡に映ってるの、どこの美少女?...あ、これアタシだ!』など、

どこかのタレントさんに似ているような気がする....

 

「あははは、そうだったね!カネケンちゃんはアタシのサイズわからないよねー♪」

 

そう言うとフレデリカさんはえへへと笑う。

フレデリカさんが小悪魔系アイドルと言われる理由がよくわかる。

 

「そういえば、フレちゃんのことをさん付けするの珍しいねー♪」

 

「そうですか..」

 

フレデリカちゃんは年齢的には先輩と言ってもいい。

さすがにちゃん付けをするのは、抵抗がある。

 

「別にアタシのことふつーにフレちゃんと言ってもいいよ?」

 

「いや、大丈夫ですよ...フレデリカさんはぼくより一つ上ですから...」

 

「カネケンちゃんはアタシの年下なんだねー。初知りー♪」

 

フレデリカさんはふむふむと頷いた。

おそらくフレデリカさんのファンの人なら今のぼくの状態を羨ましく思うかもしれないけど、

ぼくはもう早く誰かに変わってほしいぐらい疲れている。

そう思っていた時、フレデリカさんの口にあることが出た。

 

「そういえばカネケンちゃんって、シキちゃんと仲良いよね?」

 

「え?」

 

フレデリカさんの口に出たのは、志希ちゃんに関することだ。

 

「そうですけど...」

 

「だよね!だってシキちゃんはいつもカネケンちゃんのことをアタシに言うもんっ!」

 

「そうなんですか...」

 

「たとえば、『今日カネケンさんにいろいろ言った!』とかいろいろっ!」

 

「いろいろってなんですか....」

 

でもよく考えみると志希ちゃんが他の人にぼくの言うほど気に入っているかもしれない。

それを思うとなんだか嬉しく感じた。

 

「だから、次シキちゃんと一緒の時に、『シキちゃん大好きー!』と言ったりっ!」

 

「え、えぇっ!?そんなこと言えないですよっ!」

 

それじゃあまるで告白しているようで恥ずかしい。

 

「じゃあもしくは何か買って、かっこよく『シキちゃん。愛してるよ』と言ってあげたりー☆」

 

「さっきとあんまり変わらないじゃないですかっ!」

 

「あはははっ!カネケンちゃんは面白いね!」

 

この会話が一時間続いた。

フレデリカさんの適当な発言をつこっむことを何度も何度もして、

お店を出る時はもく喋ることができないほど疲れた。

でもフレデリカさんは疲れた様子もなくぼくに話し続けた。

もしかしたら志希ちゃんよりだいぶ疲れたかもしれない。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 香水専門店 ーーーー 金木✖️志希

 

 

志希Side

 

 

「カネケンさんと初デ〜ト〜♪」

 

「さすがにデートじゃないよ...」

 

フレちゃんの次はあたしがカネケンさんと一緒になる番。

カネケンさんと来たのは、あたしが好きな香水専門店。

ずっとカネケンさんと一緒に行きたかったお店。

 

「カネケンさんはどの香水がいい?」

 

「ん...爽やかな香りかな?」

 

「えー"卯月ちゃんからもらったやつ”と同じじゃーん」

 

「...え?」

 

すると金木さんはあたしの発言に"何か"気がついた。

 

「どうして卯月ちゃんからもらったとわかったの...?」

 

金木さんは驚いた様子であたしに聞いた。

やっぱり食いついて来た。

 

「さぁ、どうしてでしょうか〜?」

 

あたしはそう言うと、にゃはははと笑った。

気づいてよ、カネケンさんが寝ていた時にあたしがやったことを。

 

「もしかして...友達になったとか?」

 

「いやいや、まず卯月ちゃんとは一度も会ってないよー」

 

カネケンさんの連絡先を調べてた時に見たんだよ。

気づいてよ。

 

「ん....わからない....」

 

「えーわかんないのー?」

 

しばらくカネケンさんは腕を組んで考えたが、本当にわからないようだった。

多分さっきのフレちゃんのお買い物で疲れたせいで頭が回らなかったと思う。

 

「で、どうなの?卯月ちゃんとは?」

 

とりあえず卯月ちゃんとはどんな関係なのか聞いてみた。

おそらく卯月ちゃんとはあたしが出会う前に会っていると思う。

 

「...卯月ちゃんとは仲良しだよ」

 

「そうなんだー」

 

カネケンさんの笑顔は満面...というわけではなく、

どこか寂しそうな笑顔だった。

でもそれは金木さんの"癖"かもしれない。

癖なら仕方ない。

 

「卯月ちゃんとはよく遊ぶ?」

 

「んー....最近は卯月ちゃんに会うことはないけど...連絡はよくするよ」

 

「へー、卯月ちゃんから?」

 

「だいたいはそうだね...」

 

カネケンさんの顔は、"本当に幸せそうだ"。

 

「それで卯月ちゃんはいつもカネケンさんになんて言ってるの?」

 

「仕事であったことやおもしろいこと、あと嬉しかったことも言ってきてくれるよ」

 

話を聞く限り、カネケンさんと卯月ちゃんは本当に仲がいいかも。

それを聞いたあたしは意地悪したくなってきた。

少しカネケンさんを困らしちゃおー。

 

「なんかー嫉妬しちゃうなー」

 

「え?」

 

「そんな卯月ちゃんと仲いいなんて、なんか嫉妬したー」

 

あたしはぷいっと口を膨らませ、怒った感じにした。

実際は怒ってはないけど。

 

「こんなんだったら、あたしのデビューライブの時に来るわけないじゃんー」

 

「そ、そんなことないよ...!」

 

カネケンさんは少し困った顔で否定をする。

その顔はなんだか可愛い。

 

「というか.....第一に、ちゃんとレッスンとかお仕事かやってるの?」

 

「んーどうかなー?」

 

あたしはそう言うと、何かをそらすしぐさをした。

答えはいつも失踪してる。

めんどくさいレッスンとかお仕事は失踪している。

 

「まさか失踪したんじゃないよね?」

 

「わお!どうして、あたしが失踪することわかったの!?」

 

見事にあたしがいつもやることを的中した。

カネケンさんは賢い。

 

「そんな感じだったらプロデューサーさんの口からデビューする話はでないよ」

 

「ははは、"いつか"はデビューは.....」

 

陽気であったあたしは、突然口が止まってしまった。

"カネケンさんの顔"を見て。

いつもは困ったような顔をしているのだけど、

"今"は違う。

 

「その"いつか"と言うのは、"いつ"なの?」

 

「........」

 

あたしはめずらしく黙っていた。

 

なぜなら、いつも優しいカネケンさんが"怒っていた"のだ。

 

「失踪してばっかじゃ、デビューできないのは当たり前だよ。他の子がデビューできるのは、レッスンとかお仕事をしっかりと取り組んでいるから、そんなことしていいの?志希ちゃん?」

 

「.......」

 

いつも他の人に怒られる時なんかはだいたい問題なく言葉をスルーすることができる。

でもカネケンさんに怒られている今、そんなことはなぜかできなかった。

カネケンさんが言っている言葉は、他の人がいう言葉より本当に怒られていると感じられる。

特に難しくもないことを言っているのに。

 

「........だめ....だよね」

 

しばらく黙っていたあたしは口を開いた。

 

「失踪ばっかじゃ....デビューなんかはできないよね....」

 

なんだか文香ちゃんと喋ったあたしが"バカ"に見える....

あの時文香ちゃんがかわいそうだ。

 

「だから....カネケンさん、ごめんなさい」

 

あたしはそう言うと、しっかりと頭を下げた。

いつも他の人に怒られた時はちゃんと謝るなんてしないのに、

とても珍しくちゃんと謝った。

こんなの初めてかもしれない。

 

「....いいよ、"志希ちゃん"」

 

カネケンさんは優しくあたしの名前を言った。

いつも聞くあたしの名前より、とても心地よく聞こえ、心の中が嬉しく感じる。

顔を上げると、先ほど怒った顔つきをしたカネケンさんではなく、

いつも見る優しいカネケンさんだ。

 

「それでいいよ。志希ちゃん」

 

カネケンさんはどこか寂しそうに微笑んだ。

その顔が好き。

 

「....もし志希ちゃんがCDデビューが決まったら、ライブに来てくれる?」

 

「....もちろん来るよ」

 

カネケンさんはそう言うと少し微笑んだ。

その顔も好き。

 

「だから....ちゃんとレッスンして、いろんなお仕事も受けてね」

 

「志希ちゃん、失踪しないようにがんばりまーす!」

 

そう言うとカネケンさんにビシッと敬礼をする。

 

「じゃあ、志希ちゃんが好きな香水あるかな?」

 

「あたしが好きな香水?えっと確か...あ!あそこにあるよ!」

 

そう言うとあたしはカネケンさんの腕に抱きしめ、連れだす。

 

「..てっ!志希ちゃん!ぼくの腕に抱きしめるのはっ!」

 

カネケンさんの顔はすぐに赤くなった。

 

「いいじゃんー♪志希ちゃんがやりたいことに付き合って♪」

 

しばらく香水を選んでいると、あたしはあることを思い出し、金木さんに小指を出す。

 

「ん?」

 

「"指切りけんばん"。"約束"でやるじゃんー♪」

 

あたしはそう言うと、にゃははと笑った。

 

「...そうだね」

 

カネケンさんはやれやれと少しため息をしたのだけど、

それでもあたしのわがままに付き合ってくれる。

 

あたしは"そんなカネケンさん"が好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

この後、"約束"を"破ること"があるなんて。

 

 

ひどいよ、"カネケンさん"。

 

 

 

 

 

 



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唇 後編

もう少し



今なら逃げ出せそうだ

ぼくを不自由にさせた檻から逃げ出せる

檻のドアは脆く、今なら壊せそうだ。

そのドアを叩き続ける度、早く外に出たい気持ちが高まる

もし外に出れば今まで見たことのない世界が広がり、羽ばたける

最初にしたいことは、"彼女"のそばに行くことだ

君の声はとても可愛らしく、檻にいた時のぼくの唯一の楽しみだった

そして何より君の一番の魅力は、笑顔だ

あの笑顔が、もっと近くで見れるんだ



でも、そんな願いが届くわけなかった。



『逃げたらダメ』



ぼくの背後から聞きたくない声が聞こえたんだ
まるで死刑宣告を受けたような冷たく、恐ろしい一言


『他の子と関わったらダメなの』

『あなたはそういう運命』

『さぁ、新しい檻にお入り』


ぼくは飼い主に掴まれ、新しい暗い檻に入れられたんだ

もう君の顔も声も聞こえない檻に





  

 

  カフェ ーーー 金木×塩見周子  

 

 

金木Side

 

 

「どうよ?金木?そのカフェモカは?」

 

「ん....甘すぎるかな...」

 

今僕たちがいるのは人気があるカフェ。

ぼくのとなりは'周子ちゃん'。

ぼくと同じ年のアイドルだ。

銀髪のショートヘアに、黒い瞳。

とても可愛いし、美しい。

 

「それはないわー」

 

「え....ご、ごめん...」

 

「え?別に謝ることないよ?変だねー」

 

周子ちゃんはそう言うとはははっと笑った。

本当はカフェモカはを頼む予定はなかったが、周子の提案で今持っている。

と言ってもこのカフェモカはぼくの口には合わなかった。

ぼくには今若者に流行っているものには合わないかもしれない。

 

(よく食べてるよね....周子ちゃんは)

 

周子ちゃんと一緒に気づいたことは、周子ちゃんの食欲だ。

容姿は細いなのだが....

 

「これは…たい焼きの匂い…?」

 

周子ちゃんが何か嗅ぎつけたような仕草をした。

 

「また食べるの...?」

 

「そー♪お腹すいたーん♪」

 

見たのとは違い、食欲が旺盛の気がする。

そんな会話をしていると周子ちゃんがあることを口にした。

 

「そういえば金木って、文香ちゃんに似てない?」

 

「っ!?」

 

"文香"をいう言葉に驚いてしまい、飲んでいたがカフェモカでむせてしまった。

 

「どうしたの?」

 

「い、いや...驚いちゃって...」

 

「驚いたの?もしかして、他の人にも言われたりしたり?」

 

「それは...違うかな...」

 

確かに文香さんと共通点があるかもしれないけど、

それは違う。

 

「実を言うと...文香さんとは同じ大学で、友達なんだ」

 

「へー文香ちゃんと大学同じなんだね、意外〜」

 

周子ちゃんはふむふむと頷いた。

そういえば、文香さんとは長く会ってはいない。

きっと仕事で忙しいだろう。

そう思っていたら、周子ちゃんが何か良からぬ顔で、

 

「もしかして、"好き"?」

 

「....え....っ!?」

 

ぼくはそれを聞いて、焦ってしまった。

ぼくが文香さんを好きだなんて、

まさかそんなことはない

 

「そ、そんなことないよ....」

 

「金木、顔赤いー」

 

ぼくは否定はしたのだが、周子ちゃんは信じようともしない。

 

「シューコちゃんがなんか手伝いしようか?」

 

「だ、大丈夫だよ..!ぼくは今の関係で十分だし...」

 

「その今の関係はなんだろうねー?」

 

「う、うん...友達だよ」

 

しばらく周子ちゃんにいじられた。

まるで恋話をしているようであった。

 

 

でも、そんな言葉なんて言えない

 

 

彼女は"アイドル"だから

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カフェテラス ーーー 金木×速水奏

 

 

「金木さんって、美しい人が好き?」

 

「え?」

 

奏ちゃんとの最初の会話はそれだった。

何か意味が込められているように。

 

「例えば...私みたいな人とか」

 

「そ、それは...」

 

奏ちゃんは高校生とは思えない美しさ。 

ぼくより年上のように見えてしまう。

隣に座るだけでも緊張をしてしまう。

 

「なんてね」

 

「......え?」

 

奏がそういうとふふふっと笑った。

ぼくはそれを見て、惘然してしまった。

 

「あんまりからかっちゃ可哀想かな。ふふっ」

 

「は、はぁ...」

 

「それに"文香"もそうだし」

 

「え?....文香....さん?」

 

ぼくは"文香"というのを名に反応してしまった。

 

「金木さんって文香とはお友達なんですよね」

 

「なんで...知ってるの?」

 

「文香に金木さんのことを話してたら、嬉しそうに金木さんについてお話ししてくださいました」

 

「そうなんだ....」

 

最近文香さんとは会っていなかったが、

忘れていなかったことに嬉しく思えた。

 

 

 

 

『私は....アイドルになったら、変われますでしょうか...?』

 

 

 

 

 

「....どうしました?」

 

「え?」

 

気がつくと、ぼくは奏ちゃんに何度も声をかけられていることに気がついた。

 

「どうしましたか...?」

 

「いや......なんでもないよ」

 

ぼくは奏ちゃんに変に思われないように無理に笑顔をしたのだが...

 

「"寂しい顔"をしましたが、なにかありましたか..?」

 

ぼくの顔に問題があるらしい。

 

「あ...えっと別に寂しく思ってないよ」

 

否定はしたのだけど、

心の中に何か残っていて気持ちがよくなかった。

文香さんを思うと、なぜか悲しく思ってしまう。

別に文香さんは悪くないのに、何故だろうか?

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

メイク店 ーーー 金木×美嘉

 

 

美嘉Side

 

 

「この前、莉嘉が私のメイク道具を勝手に使って」

 

「結構大変だね」

 

今度はアタシの番。

金木さんと一緒になる番だ。

本当ならみんなで一緒に回るつもりだったのだけど、

志希が「カネケンさんと二人っきりになりたい人ー?」と急に言い出し、結局二人っきりになってしまった。

 

(まぁ...アタシはいいんだけど...)

 

別に気にすることじゃなけれど、

なぜか少し"物足りない"気がする...

そんな会話の中、金木さんがあることを言う。

 

「美嘉ちゃんっていいよね」

 

「ん?」

 

「莉嘉ちゃんと仲良くしていて」

 

金木さんがそういうと"寂しそうに笑う"。

 

「そりゃーね。家族だしね」

 

大変なところもあるけど、一緒にいて苦しいだなんてない。

むしろ楽しい。

 

「金木さんは兄弟とかいないの?」

 

金木さんはもしかして一人っ子かな?

 

 

 

「"いないよ"」

 

 

金木さんはそう言った。

なにか込められたように。

私が「そうなんだ」と言おうとした瞬間、金木さんの口に衝撃的なことが、

 

 

 

 

『家族と呼べる人なんて、もう"いない"よ』

 

 

 

「.....っ!?」

 

アタシはそれを聞いた瞬間、言葉を失ってしまった。

あまりにも衝撃すぎて、なんて言えばいいのかわからなかった。

 

「ぼくのお父さんは4歳の時になくなって、母さんは10歳の時になくなったんだ」

 

そんなことを告げた金木さんは衝撃を受けたアタシを見ることなく、どこか寂しそうに話す。

 

「...それで、金木さんは..?」

 

「叔母に引き取られたのだけど.....あまり...」

 

それを聞いたアタシは金木さんの姿に、

とても暗く、寂しそうに見えてしまった。

 

「だから..他の人を見るとなんだか羨ましく感じるんだ」

 

金木さんは"どこか寂しそうな笑い"をした。

その顔は幸せとは程遠いような顔だった。

 

だから、あんな"寂しそうな顔”をーーーー

 

 

「....でも、金木さんはだいぶ"幸せ者"だと思いますよ?」

 

「え?どうして..?」

 

「だって、"友達"がいるじゃないですか?」

 

「友達...」

 

金木さんは何かおぼつかない様子でつぶやくように言った。

 

「ほら、卯月や凛、未央に"私"がいるじゃないですか」

 

家族がいなくても、金木さんには友達がいる。

金木さんの連絡先を教えてくれた卯月が"特"にそうだ。

 

「そうだね....て、"友達"と呼んでいいのかな?」

 

「え?....ん、ん.....」

 

でもよく考えると、アタシみたいなアイドルと友達になるのはちょっとあれだけど....

 

 

「でも金木さんは、あの時私を助けた"恩人"じゃないですか?」

 

 

もしあの時に金木さんがいなかったら、アタシはここにはいなかった。

だからアタシは、"彼"(金木さん)と友達になってもいい。

 

「...そうだね。美嘉ちゃんを助けたね、ぼく」

 

なんだか金木さんの"寂しそうな笑顔"が、幸せそうに見えた。

 

「さてと...金木さん、アタシにぴったりなヤツあるかな?」

 

金木さんの"あの顔"も分かったし、このお店に来た本題を出した。

 

「美嘉ちゃんに似合ってる化粧品...?」

 

「そっ!金木さんがアタシに似合うリップを選んで!」

 

「え、え....ぼくには選べれるかな...?」

 

とりあえずこの前にリップを切らしたから(だいたい莉嘉が使ったけど)、金木さんに選んでもらう。

金木さんには女子のメイク道具を選ぶのは難しいと思うけど、

これからアタシみたいな女の子と友達のなるのだから、知らないといけない。

 

 

 

と思ったんだけど、ある日を境に"彼"が居なくなってしまった

 

なんでいなくなったんだろう

 

もっとアタシたちと過ごして欲しかった

 

もっと長くていて欲しかった

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ゲームセンター ーーーー 全員

 

 

金木Side

 

 

(大変だったな....)

 

先ほどぼくは美嘉ちゃんとメイク店にいた。

そこで美嘉ちゃんにリップを選んで欲しいと言われ、

少し緊張してしまった。

たくさんリップある中で、ぼくが選んだリップは少しピンク色をしたリップ。

気に入ってくれるかどうか不安だったけど、気に入ってくれた見たいでよかった。

 

(後は...何をやるんだろう...?)

 

その後ぼくと美嘉ちゃんは他の子と合流し、ゲームセンターにいる。

やはり5人揃うとかなり目立っているように見える。

フレデリカさんに志希ちゃん、周子ちゃん、奏ちゃんに美嘉ちゃんと言う誰もが目にする有名人。

ぼくはそんな彼女たちから少し離れて歩いて行った。

そんな時、美嘉ちゃんがある誘いを出した。

 

「金木さん、プリクラ撮ってみる?」

 

「プリクラ...っ!?」

 

その単語に少し抵抗感があった。

ぼくにとって、プリクラなんて無縁と言ってもいいだろ。

女子が好んでやるものだから、さすがに男がやるようなものではないと思う...

 

「ぼくはいいよ....みんなで撮ってきて」

 

ぼくは断ったが、他のみんなの反応がよくなかった。

 

「えーカネケンちゃんは撮るべきだよ!」

 

「金木もやろー!」

 

フレデリカさんと周子ちゃんが無邪気な感じにぼくの両腕を掴み、

無理やりぼくをプリクラの中に連れ込む。

 

「え!?や、やめてください!」

 

ぼくは必死に抵抗するが、今度は志希ちゃんと奏ちゃんがぼくの背中を押す。

 

「別に撮るだけでも問題ないじゃん〜。カネケンさん〜」

 

「変なこともしないので、さぁ、行きましょ?」

 

そして必死に抵抗した末、ぼくはプリクラの中に入れられた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「これが...プリクラなんだ....」

 

プリクラに入れられたぼくは彼女たちとプリクラを撮った。

6人でのプリクラは窮屈に感じられた。

ぼくは彼女たちに囲まれる形で真ん中にいた。

彼女たちには言えないが胸が当たった。

 

「はははっ!カネケンちゃんがもっと可愛いく見える!」

 

フレデリカさんが笑っていたのはぼくたちが写っている写真だ。

目が通常よりも大きく開いているようで、なんだか違和感を感じる。

それに彼女たちは撮影に慣れているせいか、とても可愛い。

それに対してぼくはカメラには慣れておらず、

目が閉じている写真もあれば目が外れている写真もある。

 

「金木がまっすぐ向いているの一枚しかないじゃん」

 

「金木さんはカメラには慣れていなんですね」

 

みんなはぼくが写っている写真に笑っていた。

 

「やっぱね、フレちゃん的にカネケンちゃんは女装したほうがいいよ!」

 

「結構ですよ...フレデリカさん...」

 

「じゃあカネケンさんが女になる薬を作るから」

 

「それはダメだよ!志希ちゃん!」

 

やはりここでもいじられる、ぼく。

 

(..そういえば、みんな仲良いね...)

 

ふと思えば、彼女たちを観察してあることに気づいた。

それは仲がいいことだ。

最初であった時は普通に喋り、笑い合っていた。

そして会話が途絶えることもなく楽しく話し合っているためとても良さそうだ。

 

「もしかしたら...ユニット組めるじゃないかな?」

 

「「........」」

 

(あ、あれ...?)

 

ぼくがそう言うと、なぜか喋っていたみんなが黙ってしまった。

何かまずいことを言ってしまったのだろうかとじわじわと焦りだす。

 

「ふふふっ....」

 

「ん?」

 

するとフレデリカさんが小さく笑い出し、

 

「「ははははははははっ!」」

 

「っ!?」

 

突然みんなは笑い出し、ぼくは驚いてしまった。

 

「驚いたでしょ?」

 

志希ちゃんが満足そうに笑いながらぼくに聞く。

 

「う、うん...どうしたの?」

 

「カネケンさんを驚かそうとみんなで急に黙り込んで、そして笑い出すっと言うドッキリだよ?」

 

「金木さんはどんな反応するか、試してみたかったんですよ」

 

「そ、そうなんだ...」

 

あの奏さんも美嘉ちゃんも驚かすだなんて、ちょっと驚いた。

 

「確かにみんな仲良いねー。アタシもいいかも☆」

 

「このメンバーなら組めるかも♪」

 

「最高なメンバーになれそうね」

 

ぼくが提案したことはみんなの反応が良かった。

最初は言ってはならないことだと思ったのだけど、

みんな賛成してくれてよかった。

 

こうしてみんなと楽しい時間が過ごせた。

ぼくが知らない世界に踏み越えて楽しかった。

 

 

 

 

とても楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

とても"幸福"だった。

 

 

 

 

そしてぼくが言った"ユニット"が

 

ぼくがこの世界に去った後だなんて

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 フェス前日 ーーー "あんていく"

 

 

 

20区にある喫茶店

その喫茶店の名は、"あんていく"

一人の初老の男性が営んでいる

中は落ち着いた雰囲気で、一見普通に見えるが、

"あること"が普通のお店とは違う

 

「こんばんわ」

 

するとあるお客さんが来店した。

そのお客さんの容姿は美しく、

ボブカット風の髪型の女性であった。

 

「お久しぶりです。"芳村さん"」

 

彼女は名は、高垣楓。

"人間"だ。

 

「おや、"楓ちゃん"。久しぶりだね」

 

芳村は彼女を見て、微笑んだ。

 

芳村が彼女を見て微笑んだのは有名人だからと言う理由でもなく

美しい方だからと言う理由ではない

 

 

 

 

 

 

彼女は"かつて"のあんていくの仲間であるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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懐所



そこは私の大切な場所。ゆったりと過ごせる実家のような安心感を出せる。






 フェス前 ーーー あんていく

 

 

「やっぱり芳村さんが淹れるコーヒーはいいですね」

 

「それはどうも」

 

楓は芳村が淹れたコーヒーを美味しそうに飲む。

ここのコーヒーは他のと比べておいしく、

コーヒーの美味しさがより味わえる。

 

「あれ?"古間さん"と"入見さん"は?」

 

「二人は帰ったよ」

 

「そうですか..それは残念です」

 

楓はそう言うと少し落ち込んでしまった。

本当ならば今の時間帯はもう閉店するのだが、

芳村は特別に彼女のために開いている。

 

「"四方さん"は元気ですか?」

 

「ヨモくんも元気だよ」

 

彼女が言う"四方"は数日だけあんていくでウエイターをやっていた"人"だ。

無口で接客がよろしくなく、いつもコーヒーカップを割っていた。

でも四方が入れるコーヒーはおいしく、まるで芳村が淹れたようなものであった。

今はあんていくから離れ、どこかで仕事をやっているらしい。

それが楓が知る"四方"である。

 

「そういえば、お仕事はどうかな?」

 

「以前よりだいぶ忙しくなりましたよ。明日アイドルフェスなんですよ」

 

「そうなんだ。大変だね」

 

彼女は何か大きいイベントに参加する前にいつもあんていくに訪れる。

その理由は...

 

「楓ちゃんの"バイト姿"が恋しいよ」

 

「お恥ずかしいこと言わないでくださいよ〜」

 

彼女は18歳の時、あんていくにバイトをした。

当時の彼女はまだ上京したばかりで、

今の姿と比べてかなり不安そうであった。

下積み時代であったため、もらえるお金は不安定であった。

そんな中、彼女が偶然訪れたお店が、ここ"あんていく"だ。

しばらくここでバイトをし、お金をためていた。

そして彼女が24歳の時、"アイドル"となった。

 

「あの時の楓ちゃんは他の人と話すのが得意ではなかったから、今の姿を見ると懐かしく感じるよ」

 

「いえ、私は今でも口下手ですよ。まだまだ昔のままですよ」

 

「ははは、それは良かった」

 

雑誌やテレビではクールでミステリアスの感じだが、

実際は話すのが得意ではなくそう見えてしまうのだ。

 

「"看板娘さん"もおかえりになりました?」

 

「今日は仕事はお休みだよ」

 

「いつも私がここに訪れる時にはいませんよね」

 

彼女が言う"看板娘"は、彼女があんていくから去る時に入れる形で入った"人"だ。

 

「そういえば、楓ちゃんは会ってないんだね。"その子とは」

 

芳村が言う"子"は高校二年生だと言う。

でも一つだけ言えないことがある。

 

「その"看板娘さん"のお名前は?」

 

「今度彼女に会って聞いた方がいいんじゃないかな?」

 

「えーまた同じこと言ってるじゃないですかー」

 

それはその"看板娘"の名は言わないのだ。

これは芳村だけではなく古間も入見も言わない。

その理由は彼女はわからない。

 

「まぁ...今度、お酒を飲みに行きませか?」

 

「ははは、ぼくはもう歳だから行かないよ」

 

「またまた〜。いつも芳村さんは私のお誘いを断りますよね」

 

彼女がお酒が飲める年になった時、彼女はいつも芳村に居酒屋のお誘いをするのが日常であった。

しかし、いつも芳村の口から出るのは、『もう歳だからいかないよ』と言う断りであった。

 

 

彼女は知らない。

 

 

この喫茶店の"正体"を。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 同時刻 ーーー 自宅

 

 

『じゃあ、明日20区駅に集合だそ!』

 

「わかってるよヒデ」

 

ぼくはヒデと明日のフェスについて話し合っている。

明日は346プロのアイドルフェスだ。

ヒデが張り切るのもおかしくはない。

 

『いやー明日美嘉ちゃんや楓さんが生で見れるからー』

 

「う、うん...そうだね」

 

ぼくはそれを聞いて、複雑に感じた

ヒデは知らないと思う、ぼくは美嘉ちゃんとは友達の関係だと。

 

「それで...もう電話切っていいかな...?」

 

ぼくはもうそろそろ切ろうか思った。

多分ヒデのアイドルに対しての熱い思いを聞くだけと思った...

 

しかし、それは違った。

 

『....カネキ。お前、卯月ちゃんになんか言わないのか?』

 

「え?」

 

ヒデが言うことに驚いてしまった。

まさかそんなこと言うだなんて。

 

「だってお前は卯月ちゃんとは友達だろ?」

 

「....そうかな?」

 

疑問を感じたが、

ふと美嘉ちゃんが言った言葉が思い出す

 

『ほら、卯月や凛、未央に"アタシ"がいるじゃないですか』

 

ぼくはあの言葉を思い出し、

 

「そうだね...電話しないといけないね...」

 

『だろ?きっと卯月ちゃんは緊張していると思うから話せよ?』

 

彼女はきっと緊張している。

あのステージに立つのだから、失敗だなんて許されない。

何か励ましの言葉を送ろう。

 

『だから、絶対話せよ!じゃあな!』

 

「うん、じゃあね」

 

ぼくがそう言うとヒデは電話を切った。

 

(さてと....電話しなきゃ...)

 

卯月ちゃんに電話をするのが、少し勇気がいるようだった。

でもやらないと、卯月ちゃんがかわいそうだ。

ぼくは卯月ちゃんに電話をする。

電話帳を開き、卯月ちゃんの連絡先を選び、電話をした。

電話の発信音が緊張するぼくの心臓の音と似ているようだった。

 

 

 

そして

 

 

 

「もしもし、卯月ちゃん」

 

 

 

 

 



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表裏



(ぼく・私)は似た者同士かもしれない


金木Side

 

 アイドルフェス ーーー 当日

 

 

「ついにやってきた....この時を!!!!」

 

ヒデは今まで溜め込んでいた気持ちを、思いっきり大声で出した。

 

「ははは....そうだね....」

 

ぼくはそんなヒデの姿にすでに呆れていた。

アイドルフェスの入り口で叫ぶのはどうかしている。

 

「なんだよ!その態度は!お前は嬉しくはないのか!?」

 

ヒデはぼくの両肩を掴み、激しく揺らす。

 

「ち、違うよ....」

 

ぼくはヒデのアイドル愛に疲れ、返す気力はなかった。

 

「まさか...昨日卯月ちゃんに告白したら、フラれたとか」

 

「そ、そんなことしないよ!」

 

突然ヒデの口に"卯月ちゃん”に告白したという冗談に反応し、

疲れが一瞬に吹っ飛んだように感じ、大きく否定をした。

 

「ははは、嘘だよ。そんなことしちゃ、ファンにぶっ殺されるもんな」

 

ヒデは笑い、ぼくの肩をぽんぽんと叩く。

 

「さすがにそんなことなんてしないよ....」

 

ぼくはため息をし、夏の暑さのせいかカバンにあった冷たい水を一口飲んだ。

今日は346プロダクションの"サマーアイドルフェス"だ。

メインは"シンデレラガールズ"だが、ぼくが注目しているのは"シンデレラプロジェクト"だ

卯月ちゃんが入っているシンデレラプロジェクトの初の"全体曲"を披露する重要なイベントだ。

彼女たちと交流したぼくが行くのは"当然”だと思う。

 

(....大丈夫かな、"卯月ちゃんたち"は?)

 

でも期待している反面、ぼくが不安に感じているのは、

卯月ちゃんが入っているユニット"new generations"だ。

初ライブの時は輝かしい登場ではなく、今回は成功するかどうか不安だ。

 

「....ん?」

 

するとぼくのポケットに入っていた電話が鳴った。

誰かからメールが来たみたいだ。

 

(誰だろう.....?)

 

そのメールを見ると、

 

(あ...卯月ちゃんからだ)

 

おそらく挨拶のメールかもしれない。

そういえば昨日は、メールではなく電話をした。

いつもはメールで済ませるのだが、初めて電話をした。

ヒデの言葉に押され、メールじゃ物足りないような気がしたので、

電話で話した。

 

(....今回は頑張って欲しい)

 

ぼくは心にそうつぶやいて、卯月ちゃんのメールを開こうとしたその時、

 

「ん?どうした、カネキ?」

 

横からヒデがぼくの携帯を覗いた。

 

「ちょっ!?ヒデ!?」

 

ぼくは慌てて携帯を隠した。

 

「なんだよ?急に隠して?」

 

「い、いや...学校から連絡があったんだ...」

 

それは嘘。

さすがヒデに携帯の画面を見せたらまずい... 

 

「お前、もしかして卯月ちゃんからメール来ただろう?」

 

「ち、違う...!」

 

「じゃあ、見せろよカネキ!」

 

この後このやり取りがしばらく続き、なんとかそのメールを見られずに済んだ。

 

ちなみに卯月ちゃんからのメールは

『おはようございます!』と言う文であった。

 

ちなみに昨日電話については....

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

  アイドルフェス ーーー 同時間

 

 

文香Side

 

 

「なぜ私もでしょうか....」

 

本当ならば、今日は家でじっくりと本を読む予定でした。

しかし"ある方"によって打ち壊されました。

 

「いやー今日はいい天気だね〜」

 

私の声が小さいせいか彼女は私の方に振り向かず、

ステージを眺めていました。

その"彼女"は”志希さん”でした。

 

「そう思わない?文香ちゃん?」

 

「え、ええ...そうですね...」

 

私は志希さんのお誘いを一度お断りしましたが、

次の日の早朝、つまり今日の早朝に志希さんが私の家にやってきたのです。

 

「あの...志希さん?」

 

「ん?」

 

「今日はどうしてサマーアイドルフェスに..?」

 

どうして志希さんが私をサマーアイドルフェスに連れて来たのか、

実は"まだ"わかっていません。

電車で移動中に何度か聞きましたが、

志希さんは『秘密〜♪』と言うだけでした。

 

「文香ちゃんはアイドルのステージを生で見たことないよね?」

 

「はい....そうですね....」

 

私の現在のお仕事は基本、他のアイドルのサポートをする形です。

舞台の主役というのは程遠い気がしますが、これも大事なことだと思います。

 

「だから、ライブの舞台裏はどういったものなのか知りたいわけ。そう思わない?」

 

「確かに...そうですね...」

 

志希さんの言う通りでした。

私は基本、企業及び公共事業を宣伝するアイドルのサポートが中心で、

ライブでのサポートは未だやったことはありません。

ですので、アイドルのライブの舞台裏は一度も行ったことがありません。

 

「それに"美嘉ちゃん"に会わないとねー」

 

「"美嘉さん"にですか?」

 

私はそれを聞いて疑問を持ちました。

なぜあのシンデレラガールズの"城ヶ崎美嘉さん"に会うのかと。

 

「この前に友達になったんだー」

 

「お友達に?」

 

「うん。それで『ライブ来てくれる?』と言ってたから、ここに来たわけ♪」

 

「そうですか...でも私を連れて来るのは...」

 

「それは文香ちゃんにお友達をもっと作ったほうがいいかなーって思って」

 

志希さんはにゃはははっと笑いました。

確かに私はお友達は少ないのですが、

さすがに強引ではないかと思います...

それに私は夏が少し苦手のため、まだ朝ですがもう疲れてきてます。

 

「ちなみに今、カネケンさんが来ていると思うよ?」

 

「.....えっ!?」

 

私はそれを聞いて、驚きました。

私を取り付いていた疲れはどこか行ったかのように感じました。

 

「か、金木さんがいるのですか...?」

 

私は真剣な顔で志希さんを見ました。

どうしてそんなに金木さんに反応したのか自分にもわかりません。

 

「まぁまぁ落ち着いてよ、文香ちゃん。カネケンさんが来る理由はわかるよね?」

 

私たちが来ることを知って、ここに訪れるなんてまずあり得ません。

考えれるのはただ一つ.....

 

「確か...シンデレラプロジェクトの卯月さん.に..?」

 

「そお!正解〜♪」

 

志希さんは「文香ちゃん賢いね〜♪」と笑いながら言いました。

 

「カネケンさんは卯月ちゃんとは友達だし、来るのは当然だしね♪」

 

「そうですよね...」

 

私たちはそう話しながら会場裏へと行きました。

そういえば、私はまだ金木さんにメールも電話もしていません。

まだ心が整ってはいないというか、かけるのに勇気がいるようです。

そろそろやらないといけません

 

金木さんのために

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

     会場 ーーー 開始数分前 

 

 

金木Side

 

「やっとステージの前にこれたな!」

 

「そうだね...」

 

ぼくたちは会場のステージの目の前にいた。

今までのライブは室内で座って見ている形だったが(大きいライブは)、

今回は野外でライブをするため、皆は立っていた。

 

「美嘉ちゃんがもっと近くで見れるな!」

 

「そ、そうだね.....」

 

ぼくはヒデのその発言に胸が複雑に感じた。

なぜならぼくは美嘉ちゃんとは"友達"だからだ。

もしそんなこと言えば、間違いなくこの近くにいる美嘉ちゃんのファンに殺される。

 

「お!始まった!」

 

すると明るかったステージが暗くなり、

スクリーンに大きな時計が現れた。

時計の針の音がこのライブの開始のカウントダウン

それにこれは”お願い!シンデレラ”の始まりのところでもある

 

 

 

そして今、ライブが始まる

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

   

  ステージ裏 ーーー 同時刻

 

 

文香Side

 

 

「二人とも今日よろしくね」

 

「おねがいしまーす!」

 

「おねがいします....」

 

私と志希さんはスタッフさんと同じ服に着替え、

現場の責任者さんに挨拶をしました。

今日は舞台裏のサポートをするという形でやることになりました。

 

「えっと...私たちは一体何をすればいいのでしょうか...?」

 

他のスタッフさんを見ると、衣装を手がける方やステージの機材を扱う方など、

私には務まるような気がしませんが...

 

「ステージに出るアイドルたちのサポートをしてください」

 

「アイドルのサポートですか?」

 

「例えば声をかけるけたり、何かリラックスさせたりなど緊張を和らぐことをお願いします」

 

私にはできる自信は少しありませんでした。

今まで私は志希さんやプロデューサーさんに助けられています。

私はできるのか心配でした。

 

「あと今日暑いですので、"熱中症"に気をつけてください」

 

そう言いますと、現場責任者さんはこの場を去りました。

 

「ねぇねぇ、リハーサル室に行かない〜?」

 

すると志希さんは何かを企む子供のような顔をし言いました。

 

「どうしてでしょうか?」

 

「多分そこで誰かがやっていると思うから〜♪さあ、行かない?」

 

わたしはすぐに志希さんがサボると頭に浮かびました。

先ほどスタッフさんに言われたことを無視するかと思い、

躊躇いました。

 

「い、行きますか...」

 

躊躇った末、私は志希さんのお言葉に従いました。

また許してしまいました。

 

「じゃあ、行こ〜♪」

 

私は志希さんに手を引っ張られリハーサル室に向かいました。 

おそらくそこでステージに出る方がいて、志希さんは楽しくお話しをすると思います。

そしてリハーサル室の目の前につき、ドアを開けました。

 

 

でもこのドアの先にトラブルが起きているだなんて、考えもしませんでした

 

 

「え?」

 

私はリハーサル室のドアを開けた瞬間、固まってしまいました。

 

「た....助けてください!」

 

一人の方が涙ぐんだ目で私の元に駆けつけて来ました。

その方はあのシンデレラプロジェクトの"智絵里さん"でした。

 

「ど、どうなさい.......っ!?」

 

智絵里さんの後ろを見ると、"倒れている方"がいました。

よく見ますと、あのシンデレラプロジェクトの美波さんでした。

 

「美波さんが突然、体調が悪いと....私..私...」

 

"智恵理さん"は溢れる涙

 

「あー緊張で体調崩しちゃったみたいだね」

 

志希さんは美波さんに近づき、「大丈夫?」と声をかけた。 

 

「......き..気持ち.....悪い....」

 

美波さんは本当に

 

「"まずいね..."」

 

「え?」

 

私はその志希さんの言葉に嫌な予感を感じました。

 

「智絵里ちゃん、美波ちゃんは確か...ステージに出るんだよね?」

 

「...えっ!?」

 

驚きのあまり体が固まっていました。

智絵里さんは震える口で「はい...」と答えた。

 

「....文香ちゃん、今すぐ救護室に向かって!」

 

志希さんは私を見て、

先ほどの子供じみた顔とは違い、真剣な顔でした。

 

「は、はい...!」

 

私はすぐにリハーサル室に出て、救護室に向かいました。

まさか、こんなことが起きるだなんて

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

   救護室前 ーーー 数十分後

 

 

「いやーまさかのトラブル発生だなんてねー」

 

「はい....急に起こりましたね....」

 

私たちは救護室の前にいました。

先ほどシンデレラプロジェクトの皆様がいらっしゃいました。

その中に金木さんのお友達の”卯月さん”がいました。

声をかけようしましたが、彼女は心配そうでしたので声をかけませんでした。

 

「大丈夫でしょうか....美波さんは...」

 

「大丈夫だよ。すぐに治ればいいんだけどね」

 

彼女はこれからステージに出るはずでした。

この大舞台に

 

 

『待ってください!私が出られないのは、自分のせいです!』

 

 

先ほど救護室から聞こえた声。

とても悲しく、悔しそうな声でした。

私はその声を聞いた時、胸が張り裂けそうになりました。

 

「志希さん」

 

「ん?」

 

「もっと早く美波さんのところに訪ればよかったですね...」

 

私はそういうと、下に向きました。

あの時は志希さんのサボりに少し躊躇っていましたが、

今思えばすぐに答えればよかったと思います。

 

「もっと早く来ていたら.....美波さんはこんなことに...」

 

 

私があの時、躊躇していたから

 

 

美波さんがあんなことに....

 

 

「文香ちゃん」

 

すると志希さんが私の肩をポンポンと叩き、

「こっち向いて」と私に優しく声をかけました。

そして私は志希さんの方に顔を向けました。

 

「別にこれは文香ちゃんのせいじゃないよ?」

 

志希さんの目はまっすぐと私を見てました。

 

「文香ちゃんが全て悪いわけじゃないし、智恵理ちゃんも美波さんもそうだよ」

 

「......」

 

私は何も言わず、頷きました。

 

「それに」

 

 

 

『抱え込んじゃダメ』

 

 

 

「......っ!」

 

志希さんの言葉が私の耳に大きく響いたように聞こえました。

その言葉はとても意味が込められているように感じました。

 

「文香ちゃんはカネケンさんと同じく抱え込んじゃうから、ダメだよ」

 

「......」

 

金木さんの顔を思い出しました

あの悲しそうな笑いを

辛いことを誰にも口にせず、抱え込み、

自らを責めてしまうことを。

 

「....すみません。志希さん..」

 

私は頭を下げ、謝りました。

 

「.....ふふっ」

 

「ん?」

 

すると志希さんは、真剣な顔つきから笑顔に変わり、

 

「にゃはははっ!」

 

「っ!?」

 

急に志希さんが私を抱きしめました。

 

「ど、どうしたのでしょうか?」

 

「文香ちゃんはやっぱり可愛い♪」

 

志希さんは抱きしめるのをやめ、私の頭を撫でました。

 

「は、はぁ...」

 

先ほどまで真面目に話していた志希さんが、

急にいつも見る子供じみた志希さんに戻ったことに、

なんて受け止めればいいのかわかりませんでした。

 

「あ!美嘉ちゃん!」

 

すると志希さんが私の後ろに指をさしました。

振り向くと、あのシンデレラガールズの美嘉さんの姿がありました。

 

「美波ちゃんってここ?」

 

衣装を着た美嘉さんが私たちの前に現れました。

 

「そうだよ。でも今は入らないほうがいいと思うよー?」

 

「あー確かに、そうみたいだね...」

 

「......」

 

私は無意識に、美嘉さんに見とれていました。

彼女から"輝き"を感じたからです。

普通の方とは違い、とても輝いていて、美しく感じました。

まるでこの世にない美しき宝を発見した探検家みたいに

 

「あのー?」

 

「...え?」

 

気がつくと、美嘉さんに何度も声をかけられていました。

 

「ちょっと座らせていいですか?」

 

「あ、は、はい....」

 

私は慌てた様子で返しました。

志希さんは私の姿に『どうしちゃったの〜?』とからかうように言い、笑いました。

美嘉さんは志希さんと私に挟まれる形に座りました。

 

「美嘉ちゃんはライブ出るよね?」

 

「そうだけど、まだ時間があって」

 

「......」

 

美嘉さんと志希さんはお互い楽しく話していました。

しかし私は、二人の会話を見るしかありませんでした。

 

(....本が読みたいですね)

 

おそらく私に声をかけられることもなく、美嘉さんはここから立ち去ると思います。

そう思った瞬間、

 

「文香さんですよね?」

 

「え?」

 

気がつくと、美嘉さんは私の方に顔を向けました。

 

「は、はい...そ、そうですけど...」

 

私はぎこちない様子でしゃべりました。

なんだか美嘉さんと話すのが緊張しました。

 

「そこまで緊張しないくださいよ」

 

美嘉さんはそんな私の姿に少し笑いました。

 

「まぁ、アタシも緊張すること結構あるんだよね」

 

「え?美嘉さんもあるんですか..?」

 

驚いてしまいました。

私は美嘉さんには気が強い人だと思っていましたが...

 

「アタシも"人"だし、緊張するのは当たり前じゃん♪」

 

「......はい」

 

私は美嘉さんの言葉に、なんだか安心しました。

アイドルの方は緊張しないかと思いましたが、

まさか美嘉さんも緊張をすることを。

 

「文香さんは結構かわいいじゃん☆」

 

「えっ!?そ、そうでしょうか...」

 

私はそれを聞いて、なんだか恥ずかしくなりました。

 

「じゃあ、美波ちゃんに会いに行くね」

 

美嘉さんはそう言い、救護室に入って行きました。

 

「どう?美嘉ちゃんは?」

 

志希さんは私に近づき、答えを求めていました。

 

「素敵な方でした...」

 

「え?素敵な方?」

 

志希さんはきょとんっと頭を傾けました。

 

「とても良い方でした....」

 

「....なら良かったー♪美嘉ちゃんといい友達になると思うよ♪」

 

志希さんはそう言うと、にゃはははっと笑いました。

 

 

 

 

この出会いが、私たち"3人"の出会いだなんて

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

     会場  ーーー 同時刻

 

 

金木Side

 

 

「どれも最高だわ!!」

 

「みんないいね」

 

やはりヒデは、アイドル愛を存分に出していた。

ヒデはどのアイドルにも何度も叫ぶようにコールをしていた。

 

(えっとその次は....”LOVE LAIKA"だね)

 

そして次はLOVE LAIKAだ。

アナスタシアちゃんと美波さんのユニットで、卯月ちゃんたちとは同じ時にデビューしている。

二人の歌は"Memories"はとても美しく、いい音色だ。

そして李衣菜ちゃんとみくちゃんがステージが去った後、彼女たちは現れる。

本来なら美波さんとアナスタシアちゃん二人が出てくるのだが、

 

 

 

今回は"違った"

 

 

 

「あれ?なんで蘭子ちゃんが...?」

 

アナスタシアちゃんの横にいたのは"美波さん"ではなく、蘭子ちゃんであった。

先ほど歌ったのだが、なぜなのか?

会場にざわつく中、"LOVE LAIKA"の曲"Memories"始まった。

 

(....えっ!?)

 

先ほどステージにも出たにもかかわらず、アナスタシアちゃんと息ぴったりに踊り、

歌っている。

 

「す、すげ.....まじ息ぴったりじゃん!!」

 

ヒデは二人の姿にとても感動していた。

そして美波さんが歌う場面に蘭子ちゃんは歌う。

 

(すごい...!とてもいい声を出している....!)

 

先ほど激しく踊り、歌っていた蘭子ちゃんがここまでやるなんて、

とても感動をした。

そして最後も、彼女たちはうまく決まった。

ぼくは蘭子ちゃん、アナスタシアちゃん二人に拍手をした。

誰よりも大きく拍手をした。

 

「結構よかったぞっ!!」

 

ヒデは蘭子ちゃんとアナスタシアちゃんに向かって思いっきり叫んでいた

 

 

 

その時だった

 

 

 

(ん?)

 

ぼくの肌に"何か"を感じた。

冷たい水滴なようなものを

 

「あ...め?」

 

ぼくは空を見上げると、ぽつぽつと空から水滴が襲ってきた

終わった直後、雨が降り始めたんだ

 

 

 



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信心


ぼくには友達がいるんだ

同じ状況で立つ友達を

だからその友達の元に駆けつけるんだ






 

金木Side

 

「たく....なんで急に雨が降り出したんだ...」

 

「そうだね…」

 

本当ならばもう既に”New Generations”のライブをやっているはずだっだ。

しかし運が悪いせいか急に雨が降り出し、一時中止となってしまった。

ぼくたちは雨から逃れるため会場から離れ、屋根のある建物に入った。

そこには誰もいなく、ぼくとヒデが貸し切っているように思えた。

「今日の天気予報に雨降るなって、言ってねえよな?」

 

「確かにそんなこと言ってないし….これはもしかしてゲリラ豪雨かも」

 

初めは強く、すぐにずぶ濡れになるぐらいだったが、

今は雨が弱くなっており、ライブは中止にならそうだが....

 

(まさか….今回も失敗しないよね…?)

 

でも雨が降っていることには変わりがなく、

会場に戻ろうと思うなんて抵抗を感じてしまう。

きっとライブを始めても、人がたくさんいるとは言えない。

そう考えてみると、まるで”あの時”と同じような空気だと頭に過ぎった。

 

あの”失敗したライブ”を思い出したんだ

 

「ああああああ!!!!!!」

 

そんな思わしくないことを考えていたぼくに喝を入れるかのように、

ヒデの叫び声が耳に入った。

振り向くと突然ヒデが叫び出し、雨が降る外に走り出した。

 

「ちょっ!ヒデ!」

 

ぼくはその姿に驚きヒデの行動を止めようとしたが、

ヒデは声を聞く耳はなかった。

 

「はははっ!こっちも来いよ、カネキ!」

 

ヒデはこんな雨の中、傘もフードもせず楽しそうに浴びていた。

まるで荒地に何年かぶりの雨に喜ぶ農家のように

 

(もう…やめて…ヒデ)

 

ぼくはそんなヒデの姿に見てはいられなかった。

恥ずかしくて見ていられないのではなく、

ヒデの姿にあざ笑うのように見る人々の姿を見て苦しく感じていたんだ。

ぼくは見続けるなんてできない

友達がこんな姿に

だから、やめてほしかった

ぼくは再びやめるように呼びかけたその時だった。

 

「ヒデ!もうやめ」

 

「お前はこんな俺の姿にやめてほしいと思っただろ!!」

 

突如ヒデはぼくの声に反応し、怒りに似たような声でぼくに言葉を伝えた。

先ほど楽しそうにしていた顔は真剣そのものになった。

 

「なんでこんな雨になんで楽しそうに踊るのだろうと思っただろ!」

 

「…..」

 

ぼくはヒデの言葉に黙ってしまった

ぼくが考えていたことを見抜かれていたのだ

どうして返していいのかわからず黙り続けるとヒデはあることを口にした。

 

「もし俺が”卯月ちゃん達”だったらどうなんだ!!」

 

「…っ!」

 

ぼくが想像したくなかったことをヒデは口に出した。

それを聞いた瞬間、胸が締め付けられる感じがした。

なんだかミニライブの時の未央ちゃんの気持ちがよくわかるような気がした。

 

(これじゃあ….卯月ちゃんに申し訳ないな..)

 

そんなぼくにあることを思い出したんだ

 

“昨日の電話をこと”を

 

『卯月ちゃん大丈夫?』

 

あの時のぼくはヒデに『卯月ちゃんに何か言わないのか?』と言われ、

電話をかけたんだ

その時に聞いた彼女の声は、いつもより心地よく聞こえた

まるで鳥の声を聞いているかのように

何度も会って話しているのになぜかこの時はいつもより”特別な感じ”がしたんだ。

 

『…そうなんだ。大変だね』

 

しばらく話しているとぼくはわかったんだ

彼女は”やっぱり”そうだった

他の人よりもより感じていたんだ

 

『….卯月ちゃん』

 

それを聞いたぼくは彼女に、”励ましの言葉”を送った。

困難な状況でもがんばれる言葉を

 

そしてぼくは”約束”をしていたんだ

絶対に何があろうとも逃げ出さないと

 

「だからさ、カネキも同じくやろうぜ?」

 

ヒデは雨で濡れた手でぼくに差し伸べた。

ヒデの手は見るからに雨と土が混じっていて汚かった

でもぼくは、

 

「…うん、わかった」

 

汚れに躊躇することなく、ヒデの手を掴んだ。

ヒデの手は濡れていたのに、とても暖かく感じた。

ヒデはぼくをしっかり握り、ぼくを雨の降る外へと導いた。

 

「よし!卯月ちゃん達がいる会場へ行こうぜ!」

 

ぼくたちは雨が降る会場へと走り出した。

雨は弱く見えたのに、ぼくたちに嘘みたいに容赦なく襲いかかる

それと同時に他者からの目線を感じた

まるでぼくたちは敵がそこら中にいる土地に踏み出しように思えた

 

でもぼくとヒデには関係はなかった

 

ぼくたちみたいな同じ状況でもやろうとする”友達”がいるんだ

 

そんな友達を見捨てるだなんてできない

 

ぼくはヒデに何度も助けられたことがあった

 

今度はぼくが彼女たちを助ける番だ

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

「いやー急に暗くなったね〜♪」

 

「そ、そうですね….」

 

先ほど雷が鳴った瞬間、館内の電気が一気に消え去りました。

その時の私は驚いて、少し慌ててしまいました。

まるで闇の世界にいるようで廊下が一面真っ暗になってしまいました。

しかしそんな状況でも恐怖など感じていない人がいました。

その人は隣にいる”志希さん”でした。

 

「なんかお化け屋敷にありそうな展開みたいじゃない〜?」

 

志希さんは恐怖など感じておらず、

暗闇になっても彼女ははしゃぐように話をやめることなく楽しんでいました。

 

「お化け屋敷みたいでしょうか…?」

 

「うん、多分ありそうな展開だよ?行ったことない?」

 

私はそれを聞いた瞬間、躊躇ってしまいました。

そもそも私はテーマパークに行くようなことがなく、ずっと家にいるようなことが多かったです

 

「いえ、一度も…」

 

「そっか〜じゃあ、今度一緒に行こっか♪あたしも行ったことないし♪」

 

「え..え……」

 

志希さんの答えに困惑してしまいました。

なんだか本当に行きたがるような雰囲気を感じたからです。

 

「二人とも大丈夫?」

 

するとタイミングよく、救護室から美嘉さんが顔を出してきました。

美嘉さんの顔はとても心配そうでした。

 

「いや、別に問題ないよ?楽しく話せてるし」

 

こんな状況でも慌てることがない志希さんの姿に少し羨ましく感じました。

 

「とりあえず、二人とも入って?」

 

「え?」

 

私はその言葉に少し驚いてしまいました。

別に問題はないのですが….

 

「じゃあ、おじゃましま〜す♪」

 

志希さんは美嘉さんの言葉を聞いた瞬間すぐに答え、

部屋に入って行きました。

 

「おじゃま…します...」

 

私は断ることをやめ、志希さんに続き救護室に入って行きました。

少し申し訳ない気持ちは胸にありましたが、ありがたく感じました。

入ってみるとそこには元気を取り戻した美波さんの姿がありました。

先ほどは立ち上がることができなかったですが、今は少し立ち上がることができ、その姿に私はほっとしました。

すると美波さんが私たちの姿を見て「あ」と気づき、

 

「先ほどはありがとうございます!」

 

美波さんは私と志希さんの方に顔を向け、頭を下げました。

私はその姿を見て、慌ててしましました。

美波さんの声はなんだか悲しみに似た声に聞こえたからでした。

彼女は自分がステージに出れなかったことに悔しさと悲しみを抱えていたと思います。

 

「い、いえ…私は」

 

「いえいえ、別に大したことやっていないので〜」

 

私が言葉を返そうとした瞬間、志希さんが私の言葉を横槍しました。

 

「……..」

 

私は志希さんの行動に不満を感じましたが、志希さんがこういう人だということを思い出し、反論するのを諦めました。

そんな時、私はあることをふと思い出しました。

 

「そういえば…卯月さんたちは大丈夫でしょうか..?」

 

本当ならばすでにライブをやっているはずですが、

運が悪く雨が降ってしまい、一時中止となりました。

現在はライブは再開することはできるのですが…..

 

「いや、大丈夫だよ」

 

すると美嘉さんは力強く私にそう伝えました。

 

「あの子たちならできるよ」

 

私は彼女の顔の方に振り向くと、驚きに似た感情を抱いてしまいました。

彼女の目は本気でした。

どんな状況でも、必ず成功すると信じる心

これが本当に人を信じるっと言うことを私は初めて知ったように思えました。

そんな経験など感じたことがない私にとって憧れに近いものでした。

 

「あれ?なんか聞こえなかった?」

 

すると志希さんが何かに気がつきました。

 

「え?志希、聞こえたって…?」

 

「ほら、テレビから何か叫び声が聞こえない?文香ちゃんも聞いて?」

 

私は志希さんに言われるがまま、テレビに耳をしました。

 

(…あれ?)

 

テレビから聞こえる叫び声に何かに気づきました。

その声はどこかに耳にした声でした。

 

(…もしかして…っ!)

 

しばらく考えてると”ある人”が頭に浮かび、気づきました。

 

その声は”あの人”でした

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

「こんにちは!new generationsです!」

 

雨の降る会場、私たちはステージに立ちました。

会場にはお客さんは少ししかいなくて、再開するのには早すぎたと言ってもいいぐらいでした。

先ほどプロデューサーさんから『前回のライブと同じになるかもしれません』と聞きました。

でも私はもう恐れていませんでした。

あの時の私ではないからです。

一度はバラバラになってしまいましたが、

あの時がきっかけで再び私たちの心は一つの纏まりました。

 

「「いええええ!!!」」

 

すると"とある二人の叫び声"が私たちの耳に入りました。

声をした方を振り向くと、ちょうど真ん中に見慣れた方がいました。

 

「ニュージェネ最高!!!!」

 

そこに二人の男性の方がいました。

一人は金髪でハキハキした人"ヒデさん"と、

もう一人は黒髪の人"金木さん"がいました。

 

「ほら!カネキも声出せよ!」

 

ヒデさんはそう言うと金木さんの肩を叩きました。

二人ともカッパもせず、傘もささず、私たちと同じく濡れていました。

 

「う、卯月ちゃん!凛ちゃん!未央ちゃん!頑張って!!!」

 

金木さんは恥ずかしさを含んだ叫び声で私たちを応援しました。

 

「...金木さん」

 

私はそれを見て、なんだか緊張がなくなったように思えてしまいました。

私は昨日の出来事を思い出しました。

 

『あ、こんばんわ金木さん!』

 

あの時の私は驚きと嬉しさが混ざっていた気分でした。

なぜかって金木さんが電話をしてきたのです。

いつもならメールで連絡するのに、今回は違ったのでした。

 


『明日のライブは大丈夫?』

 

金木さんの口に出たのは、今回のライブの話でした。

 

『だ、大丈夫です!』

 

私は元気よく言葉を返しました。

その緊張を隠すように

あの時の私は緊張しておりました。

なぜってもう一度new Generationsのライブをやるからでした。

あの時は失敗してしまいましたが、今は違います。

みんなは気持ちが一つになり、成功すると信じていました。

でも心の隅には失敗を恐れてしまい、緊張をしてしまいました。

 

『…卯月ちゃん』

 

『はい..?』

 

『…….』

 

その時の金木さんは私の名前を言い、言葉を探していたのかしばらく黙ってしまいました。

 

『…….』

 

その時は何か言おうとしましたが、なぜか私もつられて黙ってしまいました。

金木さんが言うのを待つかのように

 

『…もし』

 

『卯月ちゃんたちにとって最悪なライブでも...ぼくは見続けるよ』

 

『え…?』

 

私はそれを聞いた時、小さな驚きをしました。

なぜそんなことを言うのかわかりませんでした。

でも、それが今の私に必要なことだと気付きました。

 

『だから卯月ちゃんたちだけじゃないから、頑張って!」

 

『は、はい..』

 

『じゃあ、おやすみ』

 

『おやすみ…なさい...』

 

私がそう言うと、電話が切れてしまいました。

私はいつももっと長く電話をするのですが、

あの時は珍しく”短い時間”で会話が終わってしまいました。

でもそんな短い時間でも満足でした。

 

(....よし!)

 

私は大きく息を吸い、気持ちを整えました。

 

「では!聞いてください!できたてEvo! Revo! Generation!」

 

私がそう言うと、タイミングよく音楽が流れました。

私たちがnew generationsの曲"できたてEvo! Revo! Generation!"

 

そして私たちはステージに輝いていました。

まるで舞台に立つお嬢様のように



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夢終


時計の針が聞こえてくるんだ。

まるで心臓の音のように聞こえてくる。

彼女達の耳にはどう聞こえるかわからない。

けど、ぼくにとってその音は、




"悪夢の始まり"の音に聞こえるんだ。










文香Side

 

 

「.......」

 

私は今日のライブが終わった後、スタッフのみなさまが集まっている会場から離れ、

寂しく光る一つの電灯に照らされたベンチに座り、空を見上げていました。

 

私は昔から一人に慣れているせいか、ただ一人いる時が落ち着きます。

いつもならただ空を眺めているだけのはずなのですが、

今回は違いました。

今の私は夢の中にいるようで、

現実の世界から離れているような感覚です。

その夢を見ているような不思議な気分にさせた原因は、

シンデレラガールズの皆さまのステージでの姿を見たからです。

皆さまはまるで本当のシンデレラに見えました。

それを見た私は感動と憧れが混じり合った気持ちになりました。

 

「夢...でしょうか..?」

 

私がそう独り言をした瞬間、

 

「夢じゃないよ〜♪」

 

「っ!?」

 

ふと我を帰ってみると、私のお隣に志希さんが座っていました。

私はあまりにも驚いてしまい、言葉が出ませんでした。

まるで志希さんが幽霊のように現れたと思えました。

 

「し....志希さん....!?」

 

「やぁ、文香ちゃん。驚いたでしょ〜?」

 

志希さんはそう言うと、にゃははっと笑いました。

 

「ど、どうして私の場所を..?」

 

「いやー急に文香ちゃんがいなくなったから、アタシは探してきたよ〜♪」

 

確かによく思えば私は誰にも言わず、一人でここに来ました。

志希さんが私を探し出すのはおかしくはありません。

 

「あ、二人ともここにいたんだー」

 

続いてやって来たのは先ほどステージに立っていました美嘉さんでした。

 

「美嘉ちゃんお疲れ〜♪」

 

「お、お疲れ様です....」

 

「いやー今日のステージよかった!」

 

美嘉さんは満足な笑いをし、両手を思いっきり上に伸ばしました。

そして私を挟むように横に座りました。

 

「美嘉ちゃんよかったよー」

 

「ありがとうー!結構楽しかったよ」

 

美嘉さんと志希さんは間にいる私を越して楽しく会話を始めました。

私はあまり話すのが得意ではないため、どうすることもなくただじっと黙ってしましました。

彼女たちのように明るく喋れるわけありません。

そんな能力があればいいのにと心に感じてしまいました。

 

その時でした。

 

 

『文香さんも来てくれてありがとう』

 

 

私の耳に美嘉さんの一言がすっと入りました。

まるで心地の良い風が吹いたように

私はすぐに顔を美嘉さんの方に言葉を返しました。

 

「は、はい...私はお役には..」

 

「役に立ちましたよ?」

 

私が少し否定的に返すと、美嘉さんは「そんなことないですよ」とすぐに言葉を返しました。

 

「先ほどの美波さんのこと、ありがとうございます」

 

美嘉さんは優しい顔つきで私にそう伝えました。

美波さんのことというのはnew generationsのライブが終わった時のことでした。

あの時の美波さんは手を握りしめていました。

ステージに出たいと言うお気持ちが強いと感じました。

そんなお姿をした美波さんに私は声をかけました。

 

『シンデレラガールズの皆さんと一緒にステージに立ちませんか?』

 

私はそういった時美波さんは「え?」と驚いた顔をし、私を見ました。

そして私が彼女にシンデレラガールズの皆さんと一緒に新曲を披露することを伝えました。

美波さんは少し躊躇う姿を何度もお目にしましたが、

その時に美嘉さんと志希さんのフォローがあって彼女はステージに立つことを決めました。

そして美波さんはシンデレラガールズの皆さんといっしょに無事に新曲の『GOING!!』を披露できました。

 

「ちなみにねー、文香ちゃんはカネケンさんとはお友達なんだよねー」

 

「え?金木さんと友達ですか?」

 

それを聞いた美香さんは驚いた顔をし、私を見ました。

 

「そ、そうですね...同じ大学で同じ学部ですね...」

 

私はそう答えると、なぜか顔が赤くなりました。

 

「あ!そういえば!」

 

すると美嘉さんは何か思い出した仕草をし、テントの中に入って行きました。

 

「あれ?美嘉ちゃんどうしたんだろう?」

 

志希さんと私は美嘉さんの行動に変に感じました。

何か忘れてきたのでしょうか?

 

「お待たせー☆」

 

しばらく待っていると、美嘉さんはテントの中から持ってきたののは、三つの缶ジュースでした。

 

「3人で打ち上げしない?ここで?」

 

美嘉さんは今いるところで打ち上げをする提案を出しました。

 

「お!それはいいね〜♪」

 

それを聞いた志希さんはすぐに賛成をし、

美嘉さんから缶ジュースを受け取りました。

 

「文香さんもやりますよね?」

 

「私もですか..?」

 

美嘉さんと志希さんは私の方に顔を向けました。

私を挟む感じに視線を向けました。

 

「や....やります..!」

 

重圧のせいなのか、自分の意思なのかわかりませんでしたが、

私は了承をしてしまいした。

一つ言えることは、この提案は"良いこと"だとわかりました。

 

「ありがとね、文香さん♪」

 

美嘉さんはそう言うと、私に缶ジュースを渡しました。

 

「じゃあ、今日のステージに乾杯!」

 

「乾杯〜♪」

 

「乾杯....」

 

寂しかったベンチは私たちの会話で明るく感じました。

なんだか一人でいるのがもったいないと思いました。

私は友達と言う存在に初めて心地よいと心の中で感じました。

 

今まで一人でいることが何より十分な私が、友達と一緒にいることが幸せと気づきました。

 

 

 

これが友達といる楽しさだと

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月SIDE

 

 

夢の中にいるようだったライブが終わり、

私は凛ちゃんと未央ちゃんと一緒に近くの公園にいました。

先ほどシンデレラプロジェクトの皆さんといましたが、

時間が経つにつれてだんだんと帰って行き、

残りは私たちになりました。

 

「夢なのかな...?」

 

私は無意識にそう呟いくと、

 

「しまむー、また言ってるー」

 

未央ちゃんが私の言葉に反応しました。

 

「卯月大丈夫?」

 

「あ..すみません!ついて無意識に言っちゃいました!」

 

凛ちゃんに心配され、なんだか無意識が怖く感じてしまいました。

 

「ははは、でもしまむーがそう言うのことはなんだかわかるかも!」

 

「確かに、私もまだ夢にいる感覚がまだ抜け出せてないね」

 

「え!?ほんとですか!?」

 

私はそれを聞いた時、驚いしてしまいました。

 

「なんだろうね....私たちがライブしている時からそうゆう感覚が抜け出せてないね」

 

未央ちゃんが言うと、凛ちゃんも『私もそう』と共感しました。

私はそれを聞いてなんだか安心しました。

この思いを同じく感じる"仲間"がいること

私は幸せに感じました。

 

「そういえば金木は?」

 

すると凛ちゃんが思いついたような顔をし、言いました。

私たちNew Generations がステージに立った時、

彼の姿を目撃しました。

その後シンデレラプロジェクトの皆さんとステージに立った時も彼の姿を見ました。

 

「金木さんは帰りましたよ?」

 

「えー金木さんと会話したかったー」

 

未央ちゃんは少し残念そうに答えました。

 

「え?なんで卯月知ってるの?」

 

「先ほど金木さんからのメールが来ましたよ」

 

ライブが終わった時、携帯にはメールが届いていました。

そのメールを開くと金木さんからのメールでした。

そのメールに書いてあったのは、

 

 

『お疲れ様、いいライブだったよ』

 

 

私はその時、声にならない嬉しさを感じました。

その後『金木さんもお疲れ様です!!!!』とメールを送ると、

すぐ返信が来ました。

そのメールに書いてあったのは『もう帰るよ。おやすみ』と言うメールでした。

 

「じゃあ、今夜金木さんと電話するよー」

 

「え?いいの?」

 

「え?だめなの?しぶりん?」

 

「さすがの金木の体力はないと思うけど...?」

 

「大丈夫!!金木さんは私の話に付き合ってくれるから!」

 

「そうかな..?」

 

未央ちゃんと凛ちゃんの何気ない会話がなんだかとても面白く感じます。

 

 

 

金木さん

 

 

 

あの時声をあげたことに

 

 

 

とても感謝しています

 

 

 

これからもお願いします

 

 

 

私は心に呟く感じに言いました

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな私たちにこれから新たな困難に出会うだなんて考えもんしませんでした。

 

 

 

 

 

 

その困難が私たちだけではなく、"彼"も同じく受けるとは

 

 

 

 

 

どうか"彼"の"悲劇"が

 

 

 

 

夢のお話であることを

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

ぼくたちは帰りの電車に載るべく駅に向かっていた。

先ほどぼくらはライブ会場にて最高の一時を感じたのだ。

彼女たちの新曲の『GOING!!』が披露された。

あの曲はとてもすばらしかった。

彼女たちにぴったりな曲だった。

 

「....ん?」

 

ぼくはぴたりと急に足を止めてしまった。

誰かが『凛はあたしと同じ中学にいた』と言ったような話を耳にしたのだ。

しかしその声に主は一体誰なのかわからず、その人はどこか去ってしまったようだ。

 

「どうした?金木?」

 

ふと気がつくと、ヒデはぼくの顔を見ていた、

ぼくは「...いや、なんでもないよ」とヒデに言葉を返した。

 

「なんだよ...お前もしかして可愛い子見つけたのか?」

 

「え..!?そんなことないよ!?」

 

それを聞いたぼくは自然と恥ずかしさが溢れ、照れながら否定をした。

確かに声は可愛いような気がした。

 

「なんだよ...!まったく...!」

 

ヒデはぼくの言葉に少し怒ったような仕草をし、ぼくより早く行ってしまった。

でもヒデは姿を消さないよう、ぼくの歩くスピードを合わせているように見えた。

そう思うとヒデはぼくのことを嫌っていないとわかる。

 

(卯月ちゃんたちどうしているのかな..?)

 

彼女たちは今何しているだろう?

ライブが終わって今打ち上げをやっているのかもしれない。

彼女達は今回のライブの結果を非常に喜んでいると思う。

 

(...."とても幸せな気分だ")

 

ぼくは心の中に呟くよう感じた。

彼女たちのようにぼくも"輝きたい"と感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを考えていたのがまずかった。

 

 

 

 

 

ぼくは"あること”を忘れていた

 

 

 

 

それはぼくの"運命"だ

 

 

 

ぼくは幸せな時を感じてはならない"人間"(ヒト)

 

 

"望まないもの"(悲劇)に出会うことがまるでぼくの使命かのように寄ってくるんだ

 

 

それがもうすでに始まっていたんだ

 

 

彼女たちにとって夢に近づく針の音が

 

 

 

 

ぼくの"夢"の終わりのカウントダウンだなんて

 

 

 

 

 

 





第1章 人間 終






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第2章 異変
登場人物紹介


 

・金木研

 

 本作の主人公

 大学一年生

 上井大学に通う青年

 島村卯月と出会ったきっかけに346プロダクションのアイドルと交流を持つが、

 自らの運命を狂わせる"ある人物"の出会いがきっかけで、悲劇へと堕ちる。

 

 

・島村卯月

 

 本作のヒロインの一人

 高校二年生

 シンデレラプロジェクトに所属する、笑顔がいい少女。

 金木とは渋谷凛の両親がやっている花屋に出会った。

 現在、渋谷凛と本田未央と一緒に"new generations"を活動している。

 

 

・渋谷凛

 

 本作のヒロインの一人

 高校一年生

 シンデレラプロジェクトに所属する、クールな少女。

 金木とは彼女の両親が勤める花屋に出会った。

 金木に対して厳しい態度を持つが、心優しいところもある。

 島村卯月と本田未央と一緒に”new generations"を活動している。

 

 

・本田未央

 

 本作のヒロインの一人

 高校一年生

 シンデレラプロジェクトに所属する、元気いっぱいな少女。

 金木とは彼女がアイドルオーディション当日に会った。

 いつも元気な一面はあるが、小心者のところがある。

 島村卯月と渋谷凛と一緒に”new generations"を活動している。

 

 

・一ノ瀬志希

 

 本作のヒロインの一人

 高校三年生

 346プロダクションに所属する、キャラの濃い少女

 金木のあとをついてきて、鷺沢文香の叔父がやっている古本屋で出会った。

 普段はマイペースな性格だが、時には真面目になることがある。

 なお、嗅覚は鋭い模様。

 鷺沢文香と城ヶ崎美嘉とは仲がいい。

 

 

・鷺沢文香

 

 本作のヒロインの一人

 大学二年生

 346プロダクションに所属している大学生。

 金木と同じく上井大学を通っている。

 金木とは彼女の叔父が勤める古本屋で出会った。

 普段は物静かな性格で、金木対して何か思いがあるらしい。

 一ノ瀬志希と城ヶ崎美嘉とは仲がいい。

 

 

・城ヶ崎美嘉

 

 本作のヒロインの一人

 高校三年生

 シンデレラガールズの一人である、人気アイドル。

 金木に助けられたことがきっかけで知り合った。

 見た目では強気な性格ぽいが、実は違うらしい。

 なお、金木はそれに気付いてるらしい。

 鷺沢文香と一ノ瀬志希とは仲がいい

 

 

・霧嶋董香

 

 のちにヒロインの一人となる少女。

 清巳高等学校二年生

 あんていくにてバイトをする店員。

 一見普通の女子高校生に見えるが、何か違うところがあるらしい。

 のちに金木や"new generatios"に関わることになる。 

 

 

その他のアイドル

 

 

・高垣楓

 

 シンデレラガールズの一人である、人気アイドル。

 かつて"あんていく"にてバイトをしていた模様。

 

 

・アナスタシア

 

 シンデレラプロジェクトに参加しており、

 新田美波と"LOVE LAIKA"を活動しているアイドル。

 "とあるロシア系喰種”が東京に生きていることについてはまだ知らない

 

 

・双葉杏

 

 シンデレラプロジェクトに所属し、

 三村かな子、緒方智絵里と"CANDY ISLAND"を活動している。

 "YONE"と言う友人がいる。

 

 

その他の人物

 

 

・永近英良

 

 金木と同じく上井大学に通う、金木の親友。

 アイドルに対する愛は熱く、高垣楓を押している。

 陽気な性格だが、他人の機微を見抜く洞察力は鋭い。

 

 

・プロデューサー(武内P)

 

 346プロダクションに勤める男性

 新しくできたシンデレラプロジェクトを指揮してる。

 常に無表情で、どの人にでも敬語を使う礼儀正しい人。

 だが、それで怖がられたり不審に思われたりすることがある。

 表情をあまり変えないのは"とある事件"によって、

 感情を押し殺してしまったことが原因らしい。

 金木研とは何度も出会っており、顔見知り状態である。

 

 

・亜門鋼太朗

 

 CCGに務める一等捜査官

 現在、真戸呉緒と組んでいる。

 プロデューサーとは昔、"とある事件"の時に出会ったらしい

 金木研とはのちに戦うことになるとは、まだ知らない。

 

 

・美城常務

 

 346プロダクション会長の娘で、

 のちに346プロダクションで常務取締役になる。

 346プロダクションで喰種に対する対策を進める一人である。

 

 

・芳村

 

 あんていくの店長。 

 優しい初老の男性だが、普通の人とは何か違うらしい

 なお、高垣楓のオヤジギャクを教えた人物でもある。

 

 

組織

 

 

・346プロダクション

 

 13区にある大手芸能プロダクション

 普段は芸能活動をするが、

 CCGとは喰種対策で協力している。

 しかしゲートの高い維持費や喰種の存在の疑いが346プロダクション内で反感声が上がっている。

 

 

・喰種対策局

 

 1区に本局を置く国の行政機関

 英語名の頭文字をとって"CCG"とも知られる。

 普通の人にはあまり馴染みがないが、

 のちにヒロインたちが関わることになる。

 

 

・あんていく

 

 20区にある喫茶店

 かつて高垣楓がアルバイトしていたところでもある。

 一見普通の喫茶店に見えるのだが、実は....

 

 

用語

 

 

・とある事件

 

 それはプロデューサーが入社し始めに起きた出来事であり、

 346プロダクションが喰種対策に本格的に取り組むきっかけでもある事件。

 プロデューサーが担当していたアイドルの一人が去った数日後、

 13区で喰種に襲われ、死亡した。

 その後、襲った喰種は駆逐されたものの、

 プロデューサーは感情を押し殺してしまった。

 その時CCGに入ったばかりの亜門鋼太朗と現場に出会った。

 

 

 

 



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Tragedy

12時を知らせる時計の音が耳に響いた



その音と同時に魔法が解けていく




それはぼくにも来るだなんて









卯月Side

 

 

 

 

13区駅前 9月はじめ

 

 

 

夏の暑さがまだ残る東京

 

 

 

13区スクランブル交差点の近くにて、

 

 

 

 

"一人の少女"が待ち合わせをしていた

 

 

 

 

(....まだかな?)

 

 

 

私は13区駅前に待ち合わせをしてました。

今は昼下がりの時間。

駅の周りには多くの人が行き交っていました。

まだ時間はありますが、なんだか事務所に行きたいせいか、

とても待ちきれませんでした。

 

 

 

 

あれから時が経ちました。

 

 

 

 

暑い夏が終わり、今は秋に移り変わろうとしてます。

 

 

 

 

 

(今でも信じられないなぁ....)

 

私はあることがまるで夢で起きたことのように考えてました。

それは夏にやった"サマーフェスティバル"です。

私たちはキラキラと輝くシンデレラのように輝いていました。

 

 

 

そう、

 

 

 

 

それはまるで

 

 

 

 

 

"お城のお姫様"のように

 

 

 

 

 

「やっほー!!しまむー!!」

 

 

すると、私の名前を呼ぶ声がしました。

振り向くとそこには私のお友達がいました。

"未央ちゃん"と"凛ちゃんで"す。

 

 

「未央ちゃん、凛ちゃんこんばんわ!」

 

 

私は二人に元気よく挨拶をしました。

未央ちゃんと凛ちゃんはユニットのメンバーであり、"親友"です

 

 

 

私の名は、"島村卯月”(しまむらうづき)

 

 

 

前まではアイドルを夢見る女の子でした。

 

 

 

 

 

眩しいお城

 

 

 

 

 

綺麗なドレス

 

 

 

 

 

そして優しい"王子様"

 

 

 

 

 

 

私にとって遠い夢でした

 

 

 

 

 

 

しかし私たちに運命な出会いがあり、

 

 

 

 

そこで"魔法"がかかりました

 

 

 

「あ、皆さん!あれを見て!」

 

 

私はあるものに指を指しました。

指を刺した先には、13区のビルのスクリーン

そのスクリーンには時計が映ってました。

時計が今、12時になろうとしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時計の針は、"夢に近く音"のように聞こえました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、私に"もう一人大切な方"がいます。

 

 

 

 

 

 

その方は私にとって最初のファンであり、お友達です。

 

 

 

 

 

その方の名は....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

金木Side

 

 

「おっかねぇなー高田ビルって結構近いぞ...」

 

 

ヒデがテレビを見て、少し顔が暗くなった。

今テレビにて喰種に関する事件についてやっている。

喰種の事件ということで"小倉久志"が出ている。

最近20区で喰種に関する事件が耳にするようになった。

その喰種を駆逐する組織があると聞いたことがあるが、

それにしてもなぜそんな危険な生き物が減らないのだろうか?

 

「ところでさ...例のコーヒー屋のかわいい子ってどれだ?"カネキ"?」

 

「声デカイって....!」

 

ぼくはヒデの言葉に、恥ずかしさをあらわをしてしまった。

今僕たちがいるのは20区にある"あんていく”という喫茶店だ。

ここに来た理由は、"ある人"がここに来ることを待っているのだ。

その人とは一度も話したことはないけど...

 

 

 

ぼくの名前は"金木研”(かねきけん)

 

 

今年で大学生になる青年だ。

 

 

ぼくは本を読むことを好む、いたって"普通な人"だ

 

 

そう、"普通の人"

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

ぼくにはヒデ以外に"友達"がいる

 

 

 

 

その友達はぼくとは違い、"普通”ではない

 

 

 

 

「でもカネキがまさか"卯月ちゃん"を狙っていなかったとはな...」

 

「さ、さすがにそれは無理だよ....!」

 

 

ぼくはそれを聞いた瞬間、顔が赤くなった。

 

 

 

"島村卯月”(しまむらうづき)

 

 

 

346プロに所属するアイドルだ

彼女は笑顔のイメージがあり、明るい子だ。

ぼくは彼女とはお友達関係である。

さすがにそんな関係になることはできない。

 

 

 

ちなみにぼくは、他に”アイドルの友達”を持っている

 

 

 

「"卯月ちゃん"ではなければ、”凛ちゃん”とか?」

 

「いやいや...無理だよ..」

 

 

"渋谷凛”(しぶやりん)

 

 

卯月ちゃんと同じ346プロのアイドルだ

彼女とは知り合っている。

凛ちゃんはクールで綺麗な子だけど、

ぼくに対してなぜか厳しい態度を取ることが多い。

さすがに付き合うだなんて考えたら....

 

「それか、確かお前の学部にアイドルになった先輩いたよな?」

 

「えっと..."鷺沢文香さん”だよね?」

 

 

"鷺沢文香”(さぎざわふみか)

 

 

ぼくたちが通っている上井大学にいる先輩だ。

最近大学内でアイドルになったと言うことでちょっとした人気者になっている。

ぼくは彼女がアイドルをやる前に友達になった。

 

 

 

 

そう、あくまで"友達"

 

 

 

 

「付き合いなよ?」

 

「...無理だよ」

 

「どうしてさ?文香ちゃんは結構かわいいだろ?」

 

「さすがに....無理だよ...彼女はアイドルだし」

 

(.....それは無理な話だ)

 

文香さんはアイドルだ。

アイドルと付き合うだなんてとんでもないことだ

だからぼくは文香さんとは付き合わない。

とても悲しいけど、仕方ないことだ

 

「そっかーなんかつまらんなー」

 

ヒデはつまらなそうな顔をし、カプチーノを口に注いだ。

なんだか少し空気を悪くしてしまった。

そう思うと徐々に気まずくなった。

 

(そういえば、最近連絡がこないな...)

 

今頃、卯月ちゃんたちはどうしているだろう?

サマーフェスティバル以降、

最近会うことや連絡することは少なくなった。

最近あったといえば...."夏休み"の時かも

 

(まぁ...仕方ないことだ)

 

そう思うと、ぼくは彼女たちとは違うことがわかる

 

 

 

 

 

 

ぼくは、"普通"だから。

 

 

 

 

 

 

ぼくはそう心に呟いた後、コーヒーを口に注ごうとした瞬間、

 

 

「...っ!」

 

 

ぼくはある人に目を留めた。

それを見たぼくは、少し嬉しさのようなものが心から溢れて来た。

 

 

 

("あの人だ")

 

 

 

それはとても魅力的な方。

 

 

ぼくがここの喫茶店にてよく見る方。

 

 

 

彼女はとても大人らしい

 

 

その綺麗なところがぼくが魅力を感じるところだ。

 

 

 

 

そう

 

 

 

"彼女がいったい何者か知らずに"

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

    

 

凛Side

 

 

 

登り始めた太陽の光が眩しい朝

 

 

一人の少女が今、家から出ようとしていた

 

 

 

 

 

私は"渋谷凛”(しぶやりん)

 

 

 

最近までは普通の高校生だった

 

 

 

でもプロデューサーと出会い、

 

 

 

今はアイドルをやっている。

 

 

 

それは楽しいか?と言われると、

 

 

 

迷いもなく楽しい

 

 

「行って来ます」

 

 

私はそう言った後、家から出た。

今日から本格的に授業が始まる。

学校のみんなだったらおそらく夏休みに定着してしまったから、

とてもだるそうになるかもしれない。

私はそうなるかというとそうはならないと思う。

だって夏休み中でも仕事があったから、

少なくとも規律正しい生活をある程度してきた自信がある。

 

(ん?)

 

すると私はあるものに目を止めてしまった。

それは公園の花壇に咲く、他の物体よりも目立つ"赤い花"だった。

 

 

(”彼岸花”だ...)

 

 

 

 

彼岸花

 

 

 

それは赤く、放射状の形の花弁をした花

 

 

 

 

見た目は綺麗だけれど、

 

 

 

死や不吉のような悪いイメージがある花だ

 

 

 

 

まだ夏の暑さがの残る9月の始めに咲くなんて、

 

 

 

時期的には少し早いような気がする。

 

 

 

 

(まぁ、そういう時もあるよね)

 

 

 

私は彼岸花を見るのをやめ、学校に向かった

別に時期が少し早くてもおかしくはないと

 

 

 

 

 

 

でも、彼岸花をすぐには忘れられなかった。

 

 

 

どうしてすぐに忘れられなかったかはわからない。

 

 

時間が経つにつれて、

彼岸花の赤い色がなんだか"血"を連想してしまう。

 

 

 

 

 

 

まるで"誰か"が死んでいるのではないかと

 

 

 

 

 

 

 

なんか...

 

 

 

 

 

 

 

 

"嫌な予感がするんだよね"

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

未央Side

 

 

 

私の名前は"本田未央”(ほんだみお)

 

 

元気いっぱいの"女子高校生”(JK)

 

 

 

でも、私はただの"JK"なんかじゃない。

 

 

 

 

"アイドル"をやっているの!

 

 

 

 

 

この前のサマフェスは大成功に納めて、

 

 

 

 

とっても楽しかった!!

 

 

 

 

まるで舞台にいるお姫様のような感じだった!

 

 

 

 

今アイドルの仕事は楽しいかと言われると、

 

 

 

 

 

最近、少し"悪い感じ"があるんだ

 

 

 

 

「みんなおつかれー」

 

私は一息をし、みんなにお疲れと声をかけた。

私としまむー、しぶりんはライブハウスで先ほどライブをやった。

今日はここでライブをして来たのだけど、

その前にはいろいろ問題があった。

 

「これからどうなるのでしょうか...?」

 

しまむーは少し不安を”あのこと”を口にした。

 

「わからない...なんか事務所の場所変わったしね...」

 

やはり二人も今の346プロについて考えていた。

今日の朝、事務所に訪れた時、

いつもの事務所の場所が地下の所に移動してたりして、

なんだか空気があまりよくない。

 

(そういえば346プロで改革?みたいなことが起きてるというのは耳にしたような...)

 

他のアイドルの子の会話で耳にしたのだけど、

多くの子がよくない話題を出していた。

例えば今までの出ていた番組が変更されたりとか、

今までやってきたことがキャンセルされたりとかいろいろある。

 

 

 

 

(そういえば....)

 

 

 

 

そんなことより私が気になることがあった。

 

 

 

 

それは346プロのことじゃないけど、

 

 

 

 

ライブに来てわかったことがあった。

 

 

 

 

 

それは金木さんの姿がなかったことだ。

 

 

 

"金木さん"

 

 

その人は私たち三人にとっては友達のような人

私との出会いはオーディション当日のことだった。

その時の私は弟と夜遅くまでゲームしたせいで寝坊してしまい、

急いでオーディション会場に向かった。

 

 

 

そんな時に"金木さん"にぶつかったのだ。

 

 

 

それから初ライブ後に再び出会い、

お互いいい友達となった。

でも最近忙しくて連絡はできないのだけど、

私たちがライブに出ることはわかると思うのだけど...

 

 

(....気にしすぎかな...?)

 

 

でも、金木さんはいつでも来れるわけはないと思う。

 

別に金木さんにも忙しいいことあるよね。

 

 

(もしかして..."何か”事件巻き込まれたのかな..?)

 

 

考えてはいけないことなのだけど

 

 

 

もしかしたらすると"何かに"巻き込まれたとして...?

 

 

 

(まさか...そんなことないよね..)

 

 

私はそんなことを考えるのをやめた。

 

 

 

 

そんなこと考えたらだめ

 

 

 

 

金木さんに"失礼"だ

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

そんな嫌なことが

 

 

 

 

 

 

 

 

"今夜"起こるだなんて...

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

 

 

「あーお仕事終わった終わった♪」

 

 

あたしの名前は"一ノ瀬志希”(いちのせしき)

 

アイドルをやっている女子高生。

 

 

今あたしはお仕事が終わり、家に帰っている。

あたしが歩いている道は夜の暗い道で、街灯が寂しそうに光っていた。

なんだか何か現れそうな感じがある予感。

 

「志希さんは大学は決まりましたか?」

 

今、隣にいるのはあたしの大切なお友達、"文香ちゃん"。

文香ちゃんはあたしと同じく"20区”に住んでいる。

他に美嘉ちゃんとかいるけど、今は他のお仕事があってここにはいない。

そうえいばあたし、来年にはもう高校を卒業するんだよね。

なんだか早く感じるよ

 

「んーまだかなー?」

 

ふと思えば、あたしが通っている高校の中は受験シーズの空気が感じる。

すごくピリピリとした嫌な空気。

もしあたしが凡人だったら、もう終わってたと思う

 

「でも、先生から"どっかの大学"に推薦を進めてるよ」

 

「"どこかの大学"ですか?」

 

いつも不真面目に授業を受けているけど、

あたしの才能を認めているせいか推薦を勧めてくる。

 

「確か文香ちゃんと同じ大学で"薬学部"のような気がする」

 

「え..!?上井大学の薬学部...!?」

 

文香ちゃんはあたしの言葉を聞いた瞬間、

ものすごく驚いた。

 

「え?そんなに驚くことなの?」

 

「ええ、上井大学の薬学部は難関です...」

 

アタシは「へーそうなんだ〜」と軽く返した。

そういえば全国学力テストをやった時、

入りたい大学とかなかったから、

"カネケンさんの大学"(上井大学)の学部を適当に入れたら、

先生に驚かれたような...?

 

 

 

あ、そうそう"カネケンさん"のことを忘れていた。

 

"カネケンさん"は"金木研"という人で、

あたしにとって大切な人。

別に付き合ってもなく、フツーの友達関係ではないね。

最近お仕事が増えて話す機会がないけど、

今度時間があったらサプライズで会おうかな?

 

「まぁ、あたしはそのぐらい天才だから....」

 

 

 

あたしが口を開いている時、"何か"に気づいた。

 

 

 

 

「....ん?」

 

あたしは"何か"に反応したのだ。

あたしたちの横に通りかかった人から、

なんだか妙に変な匂いを感じたのだ。

 

 

その匂いは"ヘモグロビン"のような匂い

 

 

いや、それに"似ている匂い"かも

 

 

「どうしましたか?」

 

気がつくと文香ちゃんは心配そうにあたしを見ていた。

 

「...なんでもないかなー?」

 

あたしはその気づいたことを言わずに、話題を戻した。

たまにあたしの鼻はおかしい時もある。

もしかしたら少し鈍くなったかも

 

「まぁ、あたしはそのぐらい天才〜♪」

 

「は、はぁ..」

 

でも文香ちゃんは先ほどのあたしの態度のことを気になっていたような感じがあった。

おそらく何か変に感じている。

 

(それにしても....さっきの匂いの人なんだろう?)

 

あたしが感じた匂いは、明らかに変な匂い。

興味が持ったと同時に胸にある感情が生まれた。

 

 

 

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

"不気味さ"だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

「じゃあね、文香ちゃん」

 

「おやすみなさい、志希さん」

 

私は志希さんと別れ、家に入りました。

すぐに自分の部屋に入り、明かりをつけました。

 

 

 

私の名は"鷺沢文香”(さぎざわふみか)です。

 

以前は本を読む普通の大学生でしたが、

現在は346プロダクションのプロデューサーさんと出会い、

今まで過ごした中で一番楽しいです。

 

(疲れました...)

 

私は自分の部屋に明かりをつけた後、ベットにそのまま寝転びました。

 

(今日も大変な1日でした...)

 

今日はダンスレッスンやボイスレッスンなど、自分にとって大変な1日でした。

私は昔から体力がなく、運動するのが苦手です。

でも、それをやればきっと努力が報われるとプロデューサーさんは言いました。

そのせいか最近大学内では多くの学生さんに声を掛けられることが多くなり、

お相手をするのが大変です....

でも私はそれよりも"楽しみにしていること"がありました。

 

(久しぶりに"金木さん"会いたいですね...)

 

 

"金木研”

 

 

その方は私と同じく通っている上井大学一年生の方です。

私より一つ下ですが、とてもいいお友達です。

最近お仕事が忙しくなり、大学の講義が終わってすぐに346プロに行きます。

そのせいで金木さんとはお話ができないような状況が何日も続いています。

きっと彼も寂しく感じていると思います。

 

 

(そういえば...明日のお仕事はありませんね...)

 

そういえば、明日は私はお休みでした。

この機会に金木さんと会おうかなと思います。

 

 

(どんな本を紹介しましょうか...)

 

 

なんだか少し気持ちが嬉しくなりました。

いつもなら明日が楽しみということはありませんでしたが、

今では早く夜が開けて欲しいというぐらいに待ち遠しかったです。

 

 

 

 

 

 

そう

 

 

 

 

 

 

 

 

明日"会えない"と知らずに

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

美嘉Side

 

 

仕事が終わり、人気のいない駅のホームで電車を待っている少女がいた。

 

 

 

アタシの名前は"城ヶ崎美嘉”(じょうがさきみか)

 

 

カリスマJKで、アイドルやっているの

 

 

アイドルは去年ぐらいからやっていて、

今はだいぶ有名になった。

 

 

(........)

 

 

でも今は、少し嫌な感じ。

どうしてかって?

今までアタシは"カリスマギャル"というイメージを持っていたのだけど、

今度はそのイメージが潰すかのようなものだった。

今度は高級感がある大人路線に行くらしい。

先ほど会議室で言われたことだ。

 

(...本当にいいのかな..?)

 

どうして変更になったかというと、

それは"346プロの改革"らしい

今までのイメージを一転するようなことを実行しているとか

アタシはそれを受け入れるかどうか迷っていた。

でも最終的それを受け入れた

 

 

"本心は違うのに"

 

 

 

(そういえば、進路どうしようかな..?)

 

ふと思えば、今は9月。

アタシは高校3年生

進路を考えなければならない時期だ。

アタシはどうしようと考えた。

 

(確か...ニュージェネのみんなは、楓さんと一緒だよね...?)

 

ふと"ニュージェネ"が今日ライブをしたと言うことを思い出しだした。

"ニュージェネ”は"new generations"と言うユニットの名前で、

"卯月"と"凛"と"未央"が組んでいる。

ニュージェネがライブをしたということはつまり、"彼も"いるはず。

 

 

(そういえば....”金木さん”に聞いてみようかな?)

 

一体何を考えているんだろう、アタシ

他に相談ができる大学生のアイドルを持っているにも関わらず、

なぜか"金木さん"を考えてしまった。

 

 

"金木研"

 

アタシを助けてくれた人

 

仕事帰りに駅のホームで立ちくらみが現れ、転落しそうになった時、

金木さんに助けられた。

その後卯月と凛、未央とライブをした後再び出会い、知り合った。

 

(まぁ...相談だから相談!!)

 

アタシはメールを開き、金木さんに宛てのメールを打つ。

 

(今の時間だったら...おそらく家に帰っていると思う)

 

今は夜の9時ごろ、

別にあっちは忙しいことはないと思う

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

今メールを送った時、

 

 

 

 

 

彼が今、"どういう状態"だなんて知らずに

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

今私は凛ちゃんと未央ちゃんと一緒に帰っています。

空は真っ暗な夜空になっています。

先ほど一緒にいました楓さんに一緒に帰りませんかお誘いをしましたが、

『今日は"寄るところ"があります』と言い、帰ってしまいました。

 

 

(.......)

 

 

でも私たち三人に"ある疑問"がありました。

 

「どうして金木さんは来なかったでしょうか...?」

 

それは金木さんがライブに来ていなかったことです。

本来ならライブにいつも足を運んでくるのですが、

今回はその姿はありませんでした。

今まで私たち"new generations"のライブを見てきたのでしたが、

何かあったのでしょうか?

 

「なんかめずらしいよね?来てないって?」

 

「そうかな?別に問題ないと思うけど..?」

 

 

凛ちゃんも未央ちゃんも同じく考えてました。

 

 

 

 

 

なんだろう

 

 

 

 

 

 

今私の胸の中には

 

 

 

 

 

 

 

 

"嫌な予感"がありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

とても不安があるようなもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金木さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今あなたは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしていますでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

金木Side

 

 

 

 

 

意識が朦朧としていたぼく

 

 

 

 

目を開こうとするけど、まぶたが重くて開かない

 

 

 

「急げ..!!....くっ!!」

 

 

 

ぼくの耳にはかすかに荒立たしい声が飛び交っていた

おそらく病院の医師だろう

 

 

「腹部....損......が」

 

 

 

「臓器....移....が....必....だ...!!」

 

 

 

 

痛みが鈍く感じてきた

 

 

 

慣れたせいかな?

 

 

 

 

 

脈拍の音なのか血の垂れる音なのわからないけど、

 

 

 

 

その音が時計の針の音に重なって聞こえる

 

 

 

 

とても早く

 

 

 

何かに急ぐように

 

 

 

 

まるでその音が

 

 

 

 

"大切な時間"が終わるのを早まらせているように聞こえるんだ

 

 

 

「今....時だ!?」

 

 

 

 

 

「現....."12時01分"です!」

 

 

 

 

ああ、

 

 

 

そうなんだ

 

 

 

ぼくの"魔法"は終わってしまったんだ

 

 

 

 

彼女たちの物語は

 

 

 

 

幸せを掴むお姫様を描く物語だ

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

ぼくの物語は....

 

 

 

 

 

"悲劇" を患った主人公の物語だ

 

 

 

 

 

 

 



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Oddity

変わってしまった僕の日常


彼女たちとは違う日常


どんどんと違いが明らかになってくる



 

 

金木Side

 

 

 

"あの事件"が起きた後、

僕はなんとか一命を取り止めた。

 

重症に負った僕の腹部には針が縫った跡があり、

徐々に傷の跡がなくなってきている。

僕を治療した嘉納先生は数週間後は退院はできると聞いた。

これで僕はいつもの日常に戻れると思った。

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

僕の体に"異変"があった。

 

 

 

 

(生臭い...)

 

それは食事を取り始めた時に異変を感じた。

口に運んだ食べ物は水を除いてすべて不味く感じる。

口に入れた魚は生臭くてそれ以上入れられない。

魚だけではなく味噌汁は濁った機械石油みたいで飲めたもんじゃない...

それに豆腐の食感は動物の脂肪を練り固めたような気分の悪さだし、

 

 

 

つまり、全部"不味い"

 

 

 

"嘉納先生"にそのことを伝えたら、

"事故のストレスで食が通らないかもしれない"と言われた。

 

(それにしても本当にストレスだろうか...)

 

ストレスだとすれば、"少し"でも問題なく口に入れられるはずだ。

でも今の僕の状態だと全ての食べ物が食べれない不味さ

これがストレスのせいとは疑いを感じてしまう。

 

(....ヒデは心配しているだろうな..)

 

 

『今日もお友達いらっしゃてましたよ』

 

 

先ほど看護師の人に言われた言葉

入院して以降、毎日のように聞く言葉でもあった。

ヒデはそのぐらい心配しているとわかる。

今までも心配してくれるのはヒデしかいない。

 

(さすがに...ヒデ以外来るわけ)

 

「あれれ?どうしたのカネケンさん?」

 

ふと気がつくと、誰もいないはずの隣に"女子の声"が聞こえた。

 

「っ!?」

 

僕はびっくりし、隣を見ると"人"がいた。

 

その人は髪はロングヘアーで制服姿の女子高生

"志希ちゃん"だった。

 

「し、志希ちゃん!?」

 

「やっほ〜カネケンさん〜♪」

 

志希ちゃんは僕の驚いた姿ににゃははと笑った。

相変わらず子供のような無邪気さがある子だ。

 

「ど、どうしてここに?」

 

「カネケンさんが数日姿がなかったから、探してたよ?」

 

志希ちゃんの顔を良く見ると、会えたことに嬉しいかホッとした顔つきであった。

彼女は、大切に考えてくれる。

 

「それは...ごめん...」

 

そういえば僕が事故から意識を取り戻した時、

携帯を開いたらヒデと志希ちゃん、美嘉ちゃんからのメールが多くあった。

そう考えると志希ちゃんは僕のことを大切にしてくれる友達だと少し安心をした。

ちなみまだ美嘉ちゃんに返信はしていない。

 

「おや?全然食べてないじゃん」

 

すると志希ちゃんはあることを指摘した。

それは僕の目の前にある食事だ。

そう、不味くて口に入れられない食事だ。

でもそう感じるのは自分だけで、

看護師の人に食べてもらったが、

問題ないですよと言われた。

なんて説明すればいいか考えてたその時、

 

「びょーいんの食べ物はマズイよね〜」

 

志希ちゃんがそう言うとおえとマズイ時のリアクションをした。

相変わらずのふざけた感じが混ざったリアクションであった。

 

 

 

でも、今の僕は"そういう状況"ではない。

 

 

 

「そ、そうだね..」

 

僕はその志希ちゃんのリアクションに苦笑いをした。

その瞬間志希ちゃんが『カネケンさんあたしのことバカにした〜!』と頰を膨らし、

怒った仕草をした。

でもその怒った仕草はどこか可愛い。

そのやりとりが気がつくと一時間が短く感じた。

それは僕にとって嬉しいことだった。

ここの病院でベットにいることが多く、つまらない。

本を読んでもただ字を読んでいる時が多かった。

そんな時に志希ちゃんが来てくれたことにありがたく思う。

 

「そういえば、カネケンさん?」

 

「ん?」

 

「文香ちゃんや卯月ちゃんに伝える?」

 

何気ない会話の中で出てきた新たな話題、

それは他の人に伝えるかと言う話題だ

僕が"こんな状態"だと言うことは今のところヒデと志希ちゃんしか興味を持っていないと思う。

 

「...いいよ、言わなくても」

 

「どうして?」

 

「きっと仕事とかで忙しいと思うから..」

 

僕はそれ以上広めては欲しくはなかった。

それは知ってはほしくないこともあり、

心配はして欲しくなかった。

 

 

 

 

でも

 

 

 

彼女はそんなことはしかなった

 

 

 

 

 

「じゃあ、伝えとくよ」

 

 

 

 

志希ちゃんは満足そうな笑顔をし、

僕にそう伝えた。

まるで僕が『伝えて』と言って、嬉しく感じたように

僕は否定をしようとしたが、

彼女は僕に喋るタイミングを奪ったかのように再び口を開く。

 

 

 

「金木さんは別に一人じゃないからね」 

 

 

 

志希ちゃんはそう言うと「じゃあ、またね〜♪」と言い、部屋から去っていった。

 

(....心配している...か)

 

しばらく違う人と出会ってはいなかったため、少々嬉しかった。

その後、志希ちゃんと入れ替わる形で看護師さんが入って来た。

 

「あれ..?金木さん?」

 

「はい?」

 

するとその看護師さんは何かに気づいた様子で僕を見た。

 

「"お薬"飲みましたか?」

 

看護師の言葉におかしく感じた僕は食事の横にいつも置いてあるはずの薬の場所を見た。

 

 

「あれ..?」

 

 

 

 

僕が見たときには、薬がなかった

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

(それにしても、見たことない薬だね〜)

 

あたしはカネケンさんがいる病院に出た後、

ベンチに座って"あるもの"を眺めていた。

 

"免疫抑制剤"と言う名前の薬だ

 

おそらく食後に飲む薬だと思う。

どうして持っているかって?

そりゃ、興味が出て奪っちゃたから仕方ない。

 

(免疫抑制剤って、こんなものだっけ?)

 

あたしが知っている免疫抑制剤はたくさんあるけど、

何か形がおかしい。

 

(帰ったら調べてみよ〜♪)

 

あたしはカバンにしまって、346プロに向かった。

今日は撮影がある日だから

 

 

 

今日はお見舞いだけではなく、戦利品がゲットできるとは

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

それから僕は退院をし、

普段の生活に戻った....

 

 

 

でも僕の食欲は、減る一方であった。

 

 

 

 

(まさか....僕が....)

 

 

僕は食い散りばめられた食べ物に囲まれているかのように横たわっていた。

その理由はあることにふと感じてしまったからだ。

先ほどテレビで"  "の特集をしていた。

その番組で取り上げていたのは、"  ”の生態でだった。

その生態で今の僕に一致しているところがあった。

 

 

 

それは、"食するもの"だ。

 

 

 

”  ”は”人”(ヒト)しか食べることができず、人間が食べているものは全て不味く感じる。

僕は不安に思い、冷蔵庫にある食べ物をがむしゃらに口にした。

そしたら、全て吐き気がするほど不味く感じた。

 

 

とても、とても、

 

 

"食べれるようなものではなかった"

 

 

床には冷蔵庫にあった食べ物が散りばめられており、

すべてが僕が吐き出した食べ物だ。

 

 

(...どうすれば)

 

 

僕はまるで"カフカに出てくる青年”だ

その青年は食べ物の嗜好が変わり、

新鮮な食べ物は口にできず、

腐りかけのチーズなどを好むようになった

 

もし僕の食べ物の嗜好がわかってしまったなら、

 

 

 

 

 

 

 

僕にとっての"チーズ"は...?

 

 

 

 

 

 

 

「....?」

 

ふと意識を戻すと、携帯が鳴っていた。

 

(誰だろう..?)

 

僕は空腹で力が入らない体を動かし、携帯を手に取り、画面をを見る。

 

その電話の主は、"知らない電話"であった。

 

(...留守番電話?)

 

僕はその留守電話を流した。

 

 

 

 

『もしもし、金木さん?』

 

 

 

 

その声はどこか聞いいたことのある女性の声であった。

 

(文香...さん?)

 

その声を耳にするのはひさしぶりであった。

 

『志希さんから聞きました。最近まで事故で入院されたと...

 お身体は大丈夫でしょうか?

 そういえば、今日金木さんがお好きな高槻泉のサイン会が駅前の本屋さんでやってます。

 では、お大事にです』

 

 

(そういえば....高槻泉のサイン会あったな...)

 

空腹から出る食欲のせいか、僕はすっかり忘れていた。

僕はフード付きの上着を来て、外に出た。

しばらく外に出ていなかったので、外の空気がなんだか新鮮に感じる。

 

 

 

 

 

いい気分転換になりそうだ....

 

 

 

 

 

 

でもそれが、より僕を苦しめてしまう

 

 

 

 

 

僕は

 

 

 

"  ”になってしまったのか?

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

(夏休み明けテスト...まぁまぁかな..)

 

テスト返しの後の昼休み、

私は机でぼーとしていた。

今日の一限から休み明けテストが返された。

周りの友達は点数の悪さにあーやこーやいっているのだけど、

私は良くも悪くもない普通だった。

 

(そういえば...結局はシンデレラプロジェクトは潰れないことに安心した..)

 

先週、資料室に移動した事務所にてプロデューサーが言った。

シンデレラ舞踏会というものをやると

つまり、シンデレラプロジェクトは存続すると言う意味だ。

少しは安心はしたのだけど、結果がでなければシンデレラプロジェクトは終わってしまう。

 

(どう言ったことするだろう...?)

 

少しこの先のことを考えたその時であった。

 

 

「ねぇ、昨日"変な人"見たよ」

 

「え?どんなやつ?」

 

 

隣で何か会話していることに耳をした。

話の内容では、昨日にある人を見かけたと言うものだった。

 

(変な人...?)

 

私はなぜか興味を持ってしまった。

別に無視しても構わないものなのに

 

「そいつはね、フードかぶっていて、人差し指を噛んでよだれを垂らしてたよ!」

 

「まじで?めっちゃキモいじゃん!!」

 

「ほんとそれ"怪物"じゃん」

 

 

(...........)

 

 

妙に気味の悪い話なのだけど、

 

 

 

 

私は聞いてしまった

 

 

 

 

私には関係ないはずなのに

 

 

 

私の身近にいるような怖さがあった

 

 

 

どうしてそう感じたのかわからない

 

 

 

 

 

ただ、

 

 

 

 

 

 

怖い感じがあるだけ

 

 

 

 

 

 

無視できなかった

 

 

 



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Hatch


異変


それは私たちに突然起きました。

まるでシンデレラが再び元の"輝きない生活"に戻るかのように





卯月side

 

 

学校が終わった午後4時

 

私はお仕事をするため、346プロに向かってました。

 

(これからどうしましょうか...)

 

私が所属しているシンデレラプロジェクトの事務所が資材室に変わり、

シンデレラプロジェクトが終わってしまうではないかと言う危機がありました。

でも、プロデューサーさんの努力によって、なんとか存続できる企画を出しました。

それの企画はシンデレラ舞踏会と言うものです。

でもそれはシンデレラ舞踏会と言うものを成功すれば存続できる話で、

 

 

もし成功しなければ.....

 

 

 

 

「あ!見つけた!」

 

 

 

 

すると後ろから何か近づいてくるような気配を感じました。

 

「ん?」

 

私はその声をした方に振り向いた瞬間、

 

「うぐっ!?」

 

思いっきり抱きしめられてしまいました。

まるで強い力が突っ込んできたように

 

「へ〜キミが"卯月ちゃん"なんだね〜♪」

 

「な、なんですか!?」

 

その人は私に離れようとはせず、

匂いをすごく嗅いてきます。

私はより近づこうするその人を離そうと必死に抵抗しますが、

その人の力が強いせいか中々離れません。

 

「ん〜卯月ちゃん、匂いいいね〜♪」

 

「や、やめてください!!」

 

私はそう言うと、「仕方ないな〜」とその方は離れました。

 

「あ、あなたは....誰ですか..?」

 

私は先ほど抱きしめられた時にやった抵抗のせいか、とても疲れました。

その方の容姿は私と同じ女子高生で、同じロングヘアーの方でした。

 

「おっと、自己紹介するのを忘れてたね〜♪」

 

その人は何気なくにゃははと笑い、

 

「あたしの名前は"一ノ瀬志希"。志希ちゃんと呼んでね♪」

 

「は、はぁ...」

 

私が少しため息に似た答え方をすると、

 

「あ、それと!同じ"346プロに所属しているアイドル"だから、安心してね♪」

 

そう言うと志希さんはウィンクしました。

私は志希さんのテンションになんだか怖さと言うか、

悪い感情は妙に生まれませんでした。

 

「そ、それで...どうして私に声をかけたのでしょうか?」

 

そう言うと志希さんは「ん?」と言い、

「あ、そうだ!」と思い出した手を叩く仕草をしました。

 

「卯月ちゃんって"カネケンさん"と知り合っているんだよね?」

 

「カネケンさん..?」

 

聞き慣れない名前に私は疑問を持ちました。

その"カネケンさん"は一体誰かと聞こうとしたその時、

 

「あ、カネケンさんは"金木研"のことね」

 

「...え!?金木さんを知っているのですか!?」

 

私はそれを聞いて驚きました。

 

「もちろんだよ〜♪同じ20区に住んでるし」

 

志希さん私の答えに満足そうな笑いを答えました。

確かに金木さんは20区に住んでます。

 

「そういえば、"カネケンさん"と連絡してる?」

 

「い、いえ...最近はお仕事で忙しいので..」

 

「ああ、そうなんだ」

 

志希さんは私の答えに顔が変わりました。

先ほど笑っていた顔が消え、

まるで私の答えにどこか不満があるかのような顔でした。

 

 

そして 志希さんの口からとんでもないことを耳にしました。

 

 

 

 

 

『カネケンさんは、"事故"に巻き込まれたよ』

 

 

 

 

「...え?」

 

私はそれを聞いて、一瞬頭が真っ白になってしまいました。

あまりにも衝撃的な事実でした。

 

「ど、どうしてわかるのですか..?」

 

「あれだよ、最近あった"臓器移植事件"だよ」

 

「...え?あのニュースですか?」

 

そういえば私もなんとなく耳をしてました。

朝のトップニュースになるまでの事件だとわかりましたが、

その事故の被害者は名前が出されてなかったのでわかりませんでした。

 

 

その被害者の一人が"金木さん"だなんて....

 

 

「それって、大変じゃないですか!?」

 

私は志希さんの口に出た言葉に心配が徐々に胸の中に生まれました。

 

「カネケンさんは結構ストレス抱えていると思うよ」

 

 

『だから卯月ちゃんも、時間があったら会ったらいいんじゃない?』

 

 

そう言った志希さんの顔は笑顔が再び現れました。

でもその笑顔はどこか寂しく見えました。

 

 

 

まるで"彼"に似た顔でした

 

 

 

「じゃあ、またね〜♪」

 

志希さんはそう言うと立ち去って行きました。

彼女は満足そうな顔で帰って行きました。

 

「.......」

 

先ほどの志希さんの言葉が頭に残っていて、言葉がでません。

その何気なく聞いてニュースの被害者が身近にいる人だと言うことを

そう思うとなんだかとても怖い。

 

 

 

あの時事故の夜、私が感じた"嫌な予感”

 

 

 

それが"あの事件"の予知なのでしょうか..?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

僕が学校にやってきた午後の4時

  

(...久々だな...大学)

 

僕は久しぶりに大学に訪れた。

長く休んでいたせいか、なんだかとても居心地が悪い。

 

"眼帯”(コレ)...逆に目立ってないよな...?)

 

僕は左目に眼帯をしていた。

理由は片方の目は空腹の時に、赤い目が現れてしまうからだ。

その目は"  ”の特徴でもある赤い目だ。

さすがにそんな姿で人前に出てしまえば不味いので、

僕は眼帯をしている。

 

(そういえば..."気分"がいいな..)

 

今日の僕は久しぶりに元気になっていた。

昨日の夜に”あれ”を食べたことが原因だと思う。

でも僕の腹は満たされてはいなかった。

 

(ヒデもだいぶ心配しただろうな...)

 

僕が休んでいる時、ヒデからのメールが何件も届いていた。

授業の時に取ったノートを写真で送ったものばかりでもあり、

僕がいないことに寂しがるようなことも送ってきた。

 

 

 

「金木さんっ!」

 

 

 

すると後ろから僕の名前を呼ぶ声がした。

その声は初めて聞く声はなく、聞き慣れた声であった。

 

 

 

 

僕はその人を見て、驚いてしまった。

 

 

 

 

 

その人は、"鷺沢文香”(さぎさわふみか)であった。

 

 

 

 

 

それを見た僕は、ふと胸に"あること"を感じた。

 

 

 

 

僕にはまだ"居場所"がある、と

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

私が金木さんに出会った午後4時30分

授業が終わり346プロに向かおうとした時、金木さんの姿を見つけました。

その後私たちはベンチに座り、

 

「だ、大丈夫でしょうか..?」

 

私はすぐに声をかけました。

とても心配していました。

 

 

とても、とても

 

 

心の底から私は心配してました。

 

「な、なんとか...大学にいけるぐらいになりました..」

 

金木さんは少し寂しそうな笑いをし、そう答えました。

私はその彼の姿に嬉しさと、どこか悲しさに似た感情を抱きました。

心の底から嬉しく感じたのですが、

彼の姿を見ると悲しさと言うものがなぜか胸に生まれます。

 

「そうですか...安心しました」

 

そう伝えた私は胸の中にある感情を隠すように、

少し笑顔で返しました。

それから私は金木さんに会えなかった時に話したかったことをお話しました。

オススメな本、レッスンのこと、最近アイドルのお友達ができたこと、

そして私の世界が広くなったことをお話ししました。

 

金木さんは私のお話を聞いてくれました。

よかったですやそうなんですか、いいですねなど言ってくれました。

でも私は彼の行動に何か感じました。

 

 

 

 

"何か"変だと

 

 

 

「ところで...金木さん?」

 

「はい?」

 

「顔色が悪いですが..?どこか調子が悪いでしょうか?」

 

「...えっ?」

 

金木さんは私の質問になぜか驚いた顔になりました。

 

「い、いや...別に大丈夫ですよ」

 

金木さんはそう言い、"自分の顎をこするように触りました"。

 

「そ、そうですか...すみません...」

 

私は金木さんの行動に少し不愉快に感じながら、そう答えました。

金木さんは何か隠しているように見えます。

 

「とてもお顔が悪そうでしたから...」

 

「そ、そうですか...」

 

金木さんの顔はなんだ以前より違って見えました。

"何かに怯えている"ように見えました。

 

「それじゃ...僕、行きます」

 

金木さんはそう言うと、私の元から離れて行きました。

その彼の背中はなぜか寂しく見えました。

何か抱えているように

 

(.......)

 

私は金木さんと会話して思いました。

胸の中には会話して楽しいと言う感情だけではなく、

 

 

 

 

彼の"恐れ”を感じました

 

 

 

 

 

それは触れてはいけないもののように怖く感じました。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

弱い

 

 

弱い

 

 

僕が"バケモノ"に勝てるわけない

 

 

一度も人を殴ったことのない僕が、

 

 

戦えるわけない

 

 

 

圧倒的な力で僕はそのまま倒れてしまった

 

あまりにも攻撃を受けたせいか、

 

視界がとても歪んでいるようであった。

 

まるでここは世界の闇みたいに感じる。

 

 

 

 

 

その"バケモノ"は僕の友達を殺そうとした。

 

 

 

 

 

 

僕は友達の死を見届けるのか?

 

 

 

 

いや

 

 

 

そんなの嫌だ

 

 

 

嫌だ

 

 

 

嫌だ

 

 

 

 

 

今まで僕を支えてくれた友達がいなくなるなんて

 

 

 

 

 

 

 

そんなの

 

 

 

 

 

 

 

 

"ゆるせない"

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

私はある夢を見ました。

 

 

 

その時の私は白いドレスを来ていて、

 

綺麗なシンデレラになっていました。

 

 

 

私がいたのは綺麗なお花畑の中心でした。

 

色鮮やかな花がたくさん足元にありました。

 

 

私は周りは見渡していると、

 

 

 

奥から"とある王子様"がやってきました。

 

 

 

その”人”は髪が白くて、黒い眼帯をしてました。

私はその"人"を見た時、少し惚れたような感情を抱きました。

なぜかは知りませんが、そう言う感じようを抱きました。

 

「あなたは誰でしょうか?」

 

「.......」

 

彼は私の答えに答えませんでした

彼の顔を見ると、どこか寂しそうに私を見ていたように見えました。

私は他の質問をしようとした時、

彼はこう言いました。

 

 

 

『僕は、君を一人にしないよ』

 

 

 

その声は強くて、哀しそうな声でした

彼がそう言った瞬間、

周りが一瞬にして白く輝きました。

 

 

 

 

 

 

 

「........ん」

 

 

目が覚めた時、外が明るくなっていました。

窓を開くと空は徐々に日が登っていました。

鳥の鳴く声が朝を知らせているみたいで心地いいです。

 

「....誰だったんだろう」

 

私は外の空気を感じながら、そう呟きました。

その"人"の声はどこか聞いたことのある声でした。

 

 

 

そして彼が言った言葉が気になって仕方ありませんでした。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

僕は友達を殺そうとした。

 

 

 

 

 

"  ”から守ったと言うのに、

 

 

僕は空腹から現れた"食欲"と"理性"を失った同時に現れた自暴によって、

 

 

友達を喰おうとしたんだ。

 

 

 

 

 

でも僕が意識を取り戻した時、

 

ベットにいたんだ。

 

外は朝日が眩しく輝いていた。

 

まるで悪夢から覚めたように思えた

 

 

 

でも僕の口に赤い血がついていた

 

その血は僕では無く、人を食べた時についた血だった。

 

僕は"人の肉"を食べたんだ

 

 

 

 

その時、"店長"から言われたんだ。

 

 

 

『君は"喰種”(グール)でもあり、同時に”人間”でもあるんだ』

 

 

『ふたつの世界に居場所を持てる唯一人の存在なんだよ』

 

 

 

 

そして僕は"居場所"を守るため、

 

 

 

 

 

"喰種”(グール)の世界を知るんだ

 

 

 

 

 

 



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Antique


偽る


僕に必要なこと

それは僕のためでもあり、他の人のためでもある








 

金木Side

 

 

「ーーゆっくり焦らずに、平仮名の"の”の字を描くようにね」

 

「は、はいっ」

 

僕はあんていくで働き始めた。

それは僕にとって初めてのバイトである。

と言っても今はお店のカウンターにいるのではなく、

二階の控え室にいる。

 

「.....」

 

今そこで僕はコーヒーを淹れる練習をしている。

でも緊張しているせいか、出来がいいとは言えなかった。

 

("微妙"...)

 

自分の淹れたコーヒは店長の淹れたコーヒーとは、

どこか味が違ってるように思えた。

 

「店長と比べると何かが違います...」

 

僕がそう言うと店長は少しにこやかになり、

 

「....コーヒーは手間をかけることで全く味が変わるんだ」

 

「"人"も同じ、焦ることはないさ」

 

僕は少し安心感は出たが、

なんだか申し訳ない気持ちが同時に僕の胸に生まれた。

するとそんな僕に店長の口から驚くことがあった。

 

 

「 なんだか金木くんの姿を見ると"楓"ちゃんを思い出すよ」

 

 

「..."楓"ちゃん?」

 

僕はその言葉に反応してしまった。

 

「その人って誰でしょうか?」

 

僕はその"楓"と言う名前に気になってしまった。

その人はもしかして、かつてここにいた"喰種"だろうか?

 

 

「金木くんは"シンデレラガールズ"を知ってるかね」

 

 

「...え!?」

 

僕はそのことを聞いて驚いてしまった。

何せ世間に大きく知られているあの"シンデレラガールズ"に、

該当する人物がいるからだ。

 

「"楓"って....あの"高垣楓"さんのことですか!?」

 

「そうだよ。君と同じ身長ぐらいの子だよ」

 

店長は僕の驚いた姿に『そんなに驚くことかな?』とにこやかに笑った。

 

「彼女も最初コーヒーを淹れるのが得意ではなかったよ。味が薄かったり、時には濃すぎたりの時はあったよ」

 

テレビに出ている楓さんはクールでどこかミステリアスという大人なイメージがあるが、

彼女にもそんな姿があったことに以外に感じた。

 

「でも彼女もうまくコーヒーを淹れるのがうまくなったよ」

 

「だから金木くんも、いつかはできるよ」

 

さっきよりも安心感が得たような気がした。

それはかつてあんていくにいた楓さんのことを聞いたかもしれない。

 

「楓ちゃんは僕たちあんていくのみんなをよく知ってるよ。コマくんやイリミさん、ヨモくんのこともね」

 

楓さんはアイドルになった現在もここにこっそりと訪れると言う。

そのことは楓さんとあんていくのみんなだけの秘密だと店長は言ってくれた。

 

「ああ、そうそう」

 

すると店長は何か探し始めた。

そして「あった」と見つけた。

 

「この前、楓ちゃんがこれを渡してくれてね」

 

店長はその見つけたものを僕に見せた。

緑の紅葉を型にしたうちわであった。

そこには"高垣楓"のサインがあった。

 

「それって...?」

 

「楓ちゃんが初めてライブしたところでファンの皆さんに配ったものだよ」

 

店長はそれを嬉しそうに"楓さん"のサインが書かれたうちわについて言った。

まるで我が子を褒める親のような温もりが感じられた。

 

 

 

すると僕はふと胸に感じてしまったことがあった。

 

 

 

「彼女は..."喰種"ですか?」

 

 

 

ここで働くと言うことはつまり、

"喰種"と言うことだろうかと、ふと頭に浮かんだ。

それなら彼女は....

 

 

 

「いや、彼女は立派な"人間"(ヒト)だよ」

 

 

 

「え...?」

 

しかしは、僕の予想していたことは違う答えを店長は口にさらっと出した。

僕はあまりにも意外な答えに言葉がでなかった。

 

「あんていくのみんなは僕たちが"喰種"だと言うことは楓ちゃんには伝えてないよ」

 

その時の店長の顔は"笑顔"だった。

それはどう言った意味なのかわからなかった。

 

「それじゃあカネキくん、トーカちゃんの元に行ってくれないかな?」

 

「は、はい...」

 

僕は店長に言われた通り、控え室から出た。

僕の胸の中には"楓さん"の意外な一面を知れた驚きと、新たな疑問が生まれた。

 

 

それにしても、どうして店長は"楓さん"をここに迎えたのだろう..?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

("ヒデ"を殺すだなんて....)

 

僕は考えたくないことを聞いてしまった。

それはトーカちゃんに言われた言葉

 

 

 

『...もし何かのきっかけで、アイツが私たちの事に気がついたら...』

 

 

 

『その時は..アイツ"殺す"から』

 

 

 

とても冷たく、恐ろしい言葉に聞こえた。

でもそれが現実、

僕は"人間"ではなく"喰種”

バレたらお終い

 

 

僕はそんな状況に立っていることを忘れてはならなかった。

 

 

(...いつか"そんな時"が訪れてしまうのか..)

 

 

そんな暗いことを耳にした僕、

その気分を変える出来事が起きた。

それはお店のドアが開く音がした時だった。

 

「あ、いらっしゃ....」

 

僕は暗い気持ちを隠し、

いらっしゃいませと言おうとした。

しかし僕は言うのを途中で止めてしまった。

その理由は"来たお客さん"にあった。

 

「やっほー!金木さん!」

 

「え」

 

僕はあまりにも驚いたせいか、固まってしまった。

そんな僕にさせたのは三人の女子高校生だった。

 

「金木さんお久しぶりです」

 

「久しぶり、金木」

 

その三人は僕の友達でもあり、アイドルでもある子達。

"卯月ちゃん"と"凛ちゃん"、"未央ちゃん"だった。

 

「な、なんで...来たの?」

 

「いやー金木さんに久しぶりに会いたくて、しまむーに場所を聞いたよ」

 

「この前、"志希さん"に教えてもらいましたので...」

 

僕がバイトをすると言ったのはヒデと文香さん、志希ちゃんにしか言ってなかった。

その中で卯月ちゃんに一番言いそうな子は志希ちゃんしかない。

あの子なら言いかねない。

 

「じゃあ、ここに座るよー」

 

三人はテーブル席を座ると思ったが、未央ちゃんが「カウンターの方がいいよね」と言ったためカウンター席になった。

 

「さてと、喫茶店だからまずは金木さんが淹れたコーヒーでも飲みたいねー」

 

未央ちゃんは何か企んでそうな目で僕を見る。

 

「さ、さすがに僕はまだ出せるようなコーヒーできないよ...」

 

先ほどの練習の成果ではお店に出すのは先が長い...

 

「えーじゃあ大将!三人ともカプチーノで!」

 

「ここは喫茶店だよ...未央ちゃん」

 

僕は未央ちゃんの発言にツッコミを入れた。

元気なところが彼女の取り柄だ。

カプチーノは先ほどヒデが頼んだやつと同じだった。

それなら僕の腕では問題なくカフェラテアートができる。

さすがに三人分は時間がかかるので、トーカちゃんは手伝ってくれた。

 

「結構いいところだね」

 

僕がカプチーノを作っている時、

凛ちゃんはさりげなく僕に声をかけた。

 

「そ、そうだね...」

 

僕がそう言うと凛ちゃんは

 

「金木なら絶対迷惑かけるよね?」

 

僕はその言葉に刃物が胸に刺さったように心にきた。

 

「ま、まぁ確かに迷惑はかけてるよ...」

 

凛ちゃんの言葉は正しかった。

僕はバイトを初めて何度もトーカちゃんに怒られている。

掃除の仕方やオーダーのミス、あとコーヒーをこぼすなどいろいろある。

そう考えてると凛ちゃんの目は鋭いなと感じる。

 

「ほんと金木はドジだね」

 

「ご、ごめん...」

 

僕は無意識に謝ってしまった。

まるで説教されているかのようであった。

 

「凛ちゃん、さすがに言い過ぎですよ」

 

すると僕をフォローをする人がいた。

それは"卯月ちゃん"だった。

 

「金木さんはまだ始まったばかりですし、わからないこともありますよね?」

 

「あ、ありがとう..」

 

彼女は僕のことを考えてくれる。

僕は彼女のことを優しく感じた。

 

「それと金木さん、お体は大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫だよ...元気になったし」

 

僕はその言葉に少し慌ててしまった。

元気になった理由はしばらく時間が経ったおかげとかそう伝えた。

 

 

 

実際は"違う"けれど

 

 

 

でも僕は彼女たちと会話ができて嬉しかった。

こんな忙しい時にわざわざ僕の所に来るなんて考えもしなかった。

僕を心配してくれる人がヒデ以外いるなんてありがたかった。

 

 

 

 

 

でも、隣にいたトーカちゃんの表情はなぜか暗かった。

それはどこか"嫌な予感"がした。

 

 

 

 

その"嫌な予感"は、トーカちゃんの口に現れた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

卯月ちゃん達が帰った後、僕は少々疲れた。

未央ちゃんの無茶振りが何度もあり、僕は困った。

どんなコーヒーが美味しいかだったり...まぁたくさんあった。

 

「アンタ、絶対にあの三人に"喰種"だとバレないようにしろよ」

 

トーカちゃんは再びヒデに伝えたことを同じく僕に言った。

僕が「わかってるよ」と言おうとした瞬間、

ヒデとは全く違ったことを僕に聞いてきた。

 

「あの三人は"346"のアイドルでしょ?」

 

「え?」

 

トーカちゃんがその質問を聞いて来た事に小さく驚いた。

 

僕は「そうだけど...」と伝えた瞬間、

トーカちゃんの口に"驚くようなこと"を耳にする。

 

 

 

「もし上が知ったら、アンタも"あの三人”の命ないから」

 

 

 

「...え!?」

 

僕はその言葉に、不安が募ってしまった。

 

「三人の命はないってどういうこと!?」

 

本来命が危うくなるのは僕だけのはずなのだが、

なぜ卯月ちゃんたちがそうなるのかわからなかった。

 

「346はハトと手を組んでいるから、喰種の中では恐れられている」

 

「例えばあそこで働こうとしても"喰種ではないことを証明するもの"を要求するし、毎月"喰種ではない検査"とか他のところよりも厳しい」

 

その情報は普段耳にしない情報だった。

喰種だから耳にすることのできる情報だとわかる。

それはたとえステージのアルバイトや清掃員でもと例外ではないとトーカちゃんは言った。

 

「あと、仮にあの三人がカネキが"喰種"だと言うことを知ってそれを隠したら、"牢屋行き"」

 

「え!?」

 

トーカちゃん曰く、人間が喰種を庇えば、他の刑罰より重いと言う。

つまり僕は彼女たちの夢を殺すことになる。

 

「もしアンタが"喰種"だとバレたら、あの三人の夢を本当にぶち壊すから」

 

 

 

「だから、"死ぬ気で”隠しな」

 

 

 

「...うん、わかった」

 

僕はトーカちゃんの言葉に深く心に染み付いた。

それは決して忘れてはならぬこと。

彼女たちの運命を壊すことを聞いて、

 

 

 

 

僕はとても怖く感じた

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

「いやー金木さんがバイトするとはねー」

 

私たちは今日ちょうどお休みでしたので、

一緒に金木さんの働いている喫茶店に行きました。

その喫茶店は20区にある"あんていく"と言うお店でした。

そのお店の中はコーヒーの香りがいい香りでした。

 

「少しみっともないところあったけどね」

 

凛ちゃんは相変わらず金木さんに対して厳しかったです。

確かに凛ちゃんのおうちは花屋さんですから、小さい時からお店の手伝いをしてます。

そう考えると凛ちゃんがそう言ってもおかしくはなかったです。

 

「なんか、金木さん変わった感じなかった?」

 

「確かにどこか変わった感じあるよね?」

 

「そうでしょうか...?」

 

未央ちゃんの言う通り、金木さんは以前よりどこか違って見えました。

それは一体どこなのかはわかりません。

 

 

 

 

しかし、私は少なくとも"プラスなことではないな"と感じます。

 

 

 

 

(それにしても..金木さんと一緒に働いてた人誰でしょうか..?)

 

私は金木さんが働いているお店で、気になる人を見つけました。

その人は右目が前髪で隠れていて、ショートカットで、私と同じぐらいの女子の方です。

 

(また、訪れようかな?)

 

私はふと胸の中に感じました。

その時は一人で来ようかなと

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

卯月ちゃんたちが来た後、他の友達があんていくに来た。

それはあんていくに働き始めて幾つ経った時であった。

 

(美嘉ちゃん変わったな...)

 

僕の視線はふとテレビに向いていた。

それはテレビ番組を見ているのではなく、

"CM"を見ていたのであった。

そのCMは化粧品のCMで、

 

 

僕の友達の"城ヶ崎美嘉"が出ていた。

 

 

普通なら見逃すCMのだが、今回は違っていた。

それは今までカリスマJKと言うイメージを持っていたのだが、

なぜか最近は大人な女性へと変わってしまったからだ。

僕はそんな彼女に少し寂しく感じたが、

これもいずれは起きることだから仕方がないと思う。

 

「何テレビ見てんだよカネキ」

 

「あ、ごめん...」

 

ふと気がつくとトーカちゃんが僕の行動に叱っていた。

僕はトーカちゃんに言葉に、仕事に戻った。

 

「アンタって他に346の友達いる?」

 

「そうだね...他に20区に住んでいる"一ノ瀬志希"ちゃんや"鷺沢文香さん"も友達だよ」

 

「見た目からしても中身からしても考えられない」

 

「ひ、ひどいな....」

 

トーカちゃんは相変わらず僕に対して厳しい態度をとる。

なんだかトーカちゃんが"凛ちゃん"みたいな感じがした。

 

「で、他には?」

 

「他には.....」

 

僕が言おうとした時、ドアが開く音がした。

 

「いらっしゃ....」

 

僕がそのやって来たお客さんを見た瞬間、

口が止まってしまった。

それは驚いてしまったからだ。

 

「どうも、金木さん」

 

帽子とメガネをかけた子

一見普通の女の子に見えるが、

僕の目ではそうではなかった。

 

 

 

 

その人は先ほどテレビのCMに出ていた"城ヶ崎美嘉ちゃん"だった。

 

 

 

 

 



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false


偽りの姿


それは僕たちだけではなく、彼女たちにもあった。





金木Side

 

 

(まさか美嘉ちゃんがここに来るなんて...)

 

僕は美嘉ちゃんがきた驚きがしばらく続いていた。

何せ先ほどテレビに出ていた人物が目の前にいるのだから、

友達でもある僕でもなぜか驚いてしまう。

 

「結構雰囲気いいんじゃん〜」

 

僕の目の前にあるカウンター席に座っているのは"美嘉ちゃん"だ。

美嘉ちゃんはお店の雰囲気に気に入っていたみたいで、

興味を持った目でお店の中を見渡していた。

今のところこのお店にいるのは、僕と美嘉ちゃんと隣にいるトーカちゃんだけだ。

彼女はメニュー表をじっくと眺め、僕に視線を向けて、

 

「金木さんいいバイト選んだじゃん☆」

 

「あ、ありがとう...」

 

美嘉ちゃんは可愛らしく僕にウィンクをした。

僕はそんな美嘉ちゃんを見て、

さらに緊張が増してしまった。

 

「ん?もしかして...アタシが来て緊張してるとか?」

 

「そ、そんなことないよ..」

 

僕は美嘉ちゃんが来たことで緊張をしていたのは本当だった。

でも僕は美嘉ちゃんの答えに嘘が混じったような恥ずかしそうな顔で否定をしまった。

美嘉ちゃんは僕の行動を見て、「隠してるな〜」と未央ちゃんと違った良からぬ顔で僕を見つめた。

まるで僕を揶揄うかっているような感じで、じっとこちらに見つめる。

なんだか美嘉ちゃんはポジティブな子だなと思った。

 

「そういうところがなんか金木さんっぽくていいよね☆」

 

「はは..ありがとう..」

 

今まで僕は美嘉ちゃんのイメージはは気が強い子で話しかけづらいと言う印象だった。

でも実際話してみたら、見た目とは違い素直でいい子であった。

そういうところが僕にとって美嘉ちゃんらしいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも今回はどこかいつもとは"違う感じ"がした。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと...カネキ」

 

「え?」

 

するとトーカちゃんは僕を強引に引っ張り出し、

2階に上がるドアの中に連れ出した。

 

「ねぇ、カネキが話してたヤツって"城ヶ崎美嘉"?」

 

トーカちゃんは少し深刻そうに美嘉ちゃんの方向にに指を指す。

 

「そうだよ...僕の友達でもある.」

 

「マジで言ってるの..?」

 

トーカちゃんは眉をひそめ、僕を見る。

 

「うん、本当だよ..」

 

「なんでアイツと友達になってるの...」

 

トーカちゃんは手を頭につけ、困った顔になった。

それはこの前に話したことと同じことだ。

彼女も346プロのアイドルだから、もし僕が喰種とバレたら僕も彼女も終わりだ。

しかも美嘉ちゃんはシンデレラガールズの一人で、いろんなメディアに出ている。

彼女が喰種と出会っていたと知られてしまったら.....

トーカちゃんは悩んだ顔をして何か考えた末、「さっさと注文させて帰らせろ」と苛立った様子で僕に指示をした。

 

「え!?それはさすがに..」

 

「さっさとしろ、バカネキッ!」

 

トーカちゃんは控えめに僕に怒鳴りつけた。

彼女の言う通り、早く帰らせた方が僕たちのためでもあり、美嘉ちゃんのためでもある。

 

 

僕は今いる状況を改めて自覚した。

 

 

それは"決して明かしていけないこと"を僕は持ってしまっているのを

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

美嘉Side

 

 

「あれ?金木さん何かあった?」

 

先ほど金木さんはお隣にいた女の店員の人に連れ出され、ドアの中に入って行った。

その連れ出した女子はどこか深刻そうな顔であった。

もしかしたらアタシが来たことに驚いたかも。

 

「いや..さっき彼女から注文を聞かないの?と言われたから..」

 

「ああ、そうだったね..まだアタシ何も頼んでないね...」

 

ふと気がつけばアタシはただメニュー表を開いているだけで、その中身を見ていなかった。

やっぱアタシは"あのこと"を言うのを緊張してる...

 

「ここは喫茶店だよね..?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「こ、コーヒーとか淹れれるの?」

 

「僕はできないよ...コーヒーの腕はまだまだだよ...」

 

「そっかー...それは残念だね...」

 

アタシはそう言うと視線を金木さんから手元にあったメニュー表に視線を向けた。

 

「「........」」

 

徐々に話すたび、気まずい空気が大きくなりはじめた。

話すネタが尽きたせいかアタシは金木さんに視線を向けず、

メニュー表に向けていた。

メニュー表をじっくり見ているが、そんなにメニューは書いてはない。

アタシはどのメニューを決めずに、ただ話をしていた。

 

 

 

もうそろそろ切り出すしかない....

 

 

 

「か、金木さん..」

 

「ん?」

 

アタシは緊張した口で金木さんを聞いた。

そして金木さんがアタシの方に視線を向けた。

なんだかステージに立つよりも緊張しているみたい。

とても緊張しているせいか中々"あれのこと"を言い出せずに、数分沈黙が続いてしまった。

 

(い、言わないと...)

 

アタシは緊張で震えた口で金木さんに心の中の悩みを伝えようとした。

 

 

 

 

でも、そう簡単に出せるようなことじゃなかった。

 

 

 

 

「カ、カフェオレを飲もうかな..?」

 

「カフェオレ?...あ、ああ、わかったよ...」

 

また避けてしまった。

アタシが出したかった話ではなく、

唐突で違う答えを出してしまった。

なんだか後悔がした。

金木さんがカフェオレを作るため、棚から器具を取り出し、コーヒーや牛乳を用意した。

アタシはしばらくその光景をただ見つめてしまった。

言うことがあるのに何故か黙っていた。

 

(...言わなきゃ)

 

アタシは今度こそ金木さんに"あのこと"を話すことにした。

いつまでも口に出さなきゃ意味がない。

アタシは勇気を振り絞り、話したいことを口に出した。

 

「その....最近のアタシ、どう思う?」

 

「...え?」

 

金木さんはアタシの言葉に驚き、手を止めてしまった。

 

「さ、最近の美嘉ちゃんのこと...?」

 

「うん...なんか...変わったことあると思う?」

 

アタシはそう言うと、金木さんに視線を向けず、カウンターに視線を向けた。

何度か金木さんに視線を向けることはあったが、じっくり見ることなんてできなかった。

金木さんはなんていえばいいのか考えているように見えた。

 

「ふ、雰囲気変わったよね?」

 

「....うん」

 

「.....」

 

アタシの答えの返し方が悪いせいか、

金木さんは何も言わなくなってしまった。

どう答えを出せばいいのかわからないように見えた。

 

「えっと...最近、大人になった感じだね」

 

「.......大人?」

 

「髪を下ろした姿の美嘉ちゃんはなんだか新鮮感を感じたよ....」

 

金木さんはそう言うと、手で髪を下ろした仕草をした。

確かに最近街中やテレビのCMではアタシの髪を下ろした姿をよく目にする。

その理由は最近大手化粧品メーカーの広告を担当するようになったからだ。

それは他の人から見ればいい話かもしれない。

 

 

でも、アタシはそうは思わなかった。

 

 

「アタシ、これでもいいのかわからないの」

 

「わからない?」

 

金木さんはアタシの言葉に頭を少し傾けた。

 

「今までのイメージを変えたのだから...これでいいのかわからないの」

 

今まではカリスマJKのイメージがあったのだけど、

その化粧品のCMではそのイメージが潰された。

大人らしさがメインになり、自分の個性を否定されている嫌な気持ちが胸に生まれた。

 

「それでその不安でイライラして、昨日莉嘉にきつく言って...」

 

「莉嘉ちゃんに?」

 

莉嘉はアタシの妹で、同じく346プロでアイドルをしている無邪気で幼い感じがかわいい。

でも昨日アタシは迷いがあるせいかイライラしてしまった。

"仕事が嫌ならやるな"と。

 

「ちょっと八つ当たりっぽく言ったことが後悔してる...」

 

「....」

 

「...美嘉ちゃんは今迷っているよね」

 

「...うん」

 

「まるで"今の自分の姿"が、"偽りの自分"に見えてはっきりしていないっと感じると思う」

 

金木さんの言う通りだった。

今の自分の姿が、嘘をついているように思えた。

それじゃあ、仕事も人生も面白くはない。

 

「美嘉ちゃんはクールでいるのはいいのだけど...」

 

「やっぱり、美嘉ちゃんはハキハキした方が似合うよ」

 

金木さんはそう言うと、少し微笑んだ。

それは何かが失ったことに寂しく感じるようにみえた。

そしてアタシの目の前にできたカフェオレをそっと置いた。

 

「例えばクールな大人を演じるより、美嘉ちゃんらしいところを出した大人を演じた方がより良いイメージが湧くと思うよ」

 

「金木さん、結構いいこと言うじゃん」

 

アタシはそう言うと、渡されたカフェオレを口に注いだ。

コーヒーの風味がミルクとの相性がとても合う。

まるで今まで合わなかったものが、とても合っているように。

そう思うとなんだか気持ちが軽く感じた。

 

「いや...僕は大したことは言わないよ..」

 

金木さんはそう言うと照れ臭そうに笑った。

 

「金木さんも何か"悩み"があったら"アタシにも"聞いてね?」

 

「美嘉ちゃんにも?」

 

「あれじゃん、志希に悩みとか色々言ったとか聞いたよ」

 

この前のサマーフェスの時、志希が金木さんのことを耳にした。

彼の性格、住んでいるところ、あと好きなものなどいろいろ聞けた。

その中の一つが金木さんの性格だ。

金木さんは文香さんがアイドルになった時、悲しかったと聞いた。

志希は金木さんはとても寂しがりな人だと。

 

「ああ...志希ちゃんなら言うよね...」

 

金木さんは少し照れくさそうに壁に目をそらした。

やっぱり照れ臭いことだとわかった。

アタシもそう言われたら照れるのは間違いない。

 

 

 

 

「でも僕は、別に"悩み"はないよ」

 

 

 

 

金木さんはそう言うと、右手で"顎を触った"。

 

 

「えー、今はないんだ...」

 

アタシは金木さんに今は悩みがないことに少し残念な気持ちになり、

カウンターに寝そべる感じに顔をテーブルにつけた。

実際は残念な気持ちになっていないけど、

アタシの心の中に遊んでみようと言う気持ちがなぜか生まれた。

そしたら金木さんはその姿を見て、慌てた様子になった。

 

「あ、で、でも、"いつか"は言うよっ!」

 

「"いつか"?」

 

アタシは金木さんをさらに言葉を出すため、揶揄うように言葉を返した。

 

「そ、そうだよ...!もしあったら、美嘉ちゃんも他の人にも..」

 

「他の人?さては、"卯月ちゃん"だね?」

 

「え!?ど、どうして..!?」

 

「それも志希に聞いたよ。もー、金木さんたらー♪」

 

その情報も志希にも聞いた。

志希が言うには、結構連絡取っているらしい。

もしかすると心のどこかで"あの気持ち"があるかも。

なんだ心が軽くなったと実感できた。

 

「わ、わかったよ。 じゃあ、約束するよっ!」

 

「うん、約束ね☆」

 

アタシはそう言うと、えへへと笑った。

こうしてアタシと金木さんは約束をした。

 

 

 

それは悩みがあったら言うこと

 

 

 

きっとこれからもいっぱい悩みや不安なことがで合うかもしれない。

 

 

 

だからアタシは金木さんと約束を交わした。

 

 

 

 

 

そういえば、ここの喫茶店はなんだか雰囲気が好きになった。

 

 

 

今度、莉嘉とみりあちゃんとここに来ようかな?

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

お昼12時の仕事が終わり私はあるところに向かってました。

 

「今日も金木さんは働いてるかな?」

 

秋の少し心地のよい風が気持ちいこの季節

でもその風がなぜかより緊張をさせているように思えました。

この前は未央ちゃんと凛ちゃんと一緒に来ましたが、

今回は私"一人で"来ています。

私は金木さんに何も言わず再び"あんていく"に行くのがなんだか勇気がいる...

 

(あ..来てしまった..)

 

ふと気がつけばもうすぐ金木さんが働いている"あんていく"に着いてしまいます。

一体何話そうか何も考えずにそのままお店の入り口まで進んでしまいました。

 

(うう..緊張がする...)

 

お店のドアの前に立ち、私は手を握りました。

そして、ドアを開きました。

 

「いらっしゃいませ」

 

そこにいたのは金木さん...ではなく、金木さんと一緒に働いている女の子でした。

 

(あ、あれ..?)

 

私はお店の中を見渡しましたが、お店にいるのは私とその方だけでした。

 

「...あの、どうなさいましたか?」

 

するとその店員さんは私に声をかけてきました。

 

「あ、ああ!な、なんでもありません!」

 

私は緊張していたせいか、ぎこちなく返しました。

 

「そ、そうですか...」

 

その方はどこかおぼつかない顔をしました。

私の行動に変に感じたと思います。

 

「と、とりあえず席に座りますね!」

 

私はそう言うと、カウンターの方に足を運びました。

 

(金木さんがいなくても...その方とお話できればいいです..!)

 

私は心の中でそう呟いた後、まっすぐにカウンター席に座りました。

今のところどう会話すればいいのかわからずに

 

(ま、まずは...その方のお名前を聞かないと...!)

 

私は目の前にいる店員さんに緊張しながら声をかけました。

 

「あ、あの...お名前はなんて言いますか?」

 

「お名前ですか...?」

 

その人は少し困った様子になりました。

まさかここでお名前を聞かれるとは予想はしなかったと思います。

 

「"トーカ"です」

 

その人はそう言うと、素敵な笑顔で返しました。

ショートカットで右目が髪で隠れていましたが、とてもかわいい子です。

 

「と、"トーカさん”ですか..!」

 

私は緊張気味た感じでうんうんと頷きました。

 

「以前お店にいらっしゃいましたよね?」

 

「あ、はい!そうです!」

 

その方は「やっぱりそうですよね」と言い、可愛らしく笑いました。

覚えてもらえたことに嬉しくなりました。

 

(あ、そういえば...)

 

私はあることを忘れていました。

それはここ"あんていく"に訪れる理由の一つを忘れていました。

 

「今日は金木さんはいませんか?」

 

「金木さん?」

 

「はい、今日はお会いできるかなと思いここに来ました」

 

「そうですか....今日は仕事があると思いますが...」

 

「ご、ごめん!」

 

トーカさんが言った瞬間、お店のドアが急に開きました。

ドアを開いたのは金木さんでした。

遅刻して慌てているように見えました。

 

 

その時でした。

 

 

「コラッ!カネキ!何遅刻してるんだ!」

 

「ご、ごめんっ!トーカちゃん!」

 

「え..?」

 

先ほど私に優しく接したトーカさんが、

荒々しい態度に急に変わってしまいました。

 

「さっさと着替えてこい!カネキッ!」

 

「わ、わかったよ..」

 

金木さんはトーカさんにそう言われると、すぐに二階へと上がって行きました。

 

 

「...あっ」

 

 

するとトーカさんは私を見て、固まってしまいました。

まるで隠していたものがばれてしまったかのような驚きと恐れが混じった顔でこちらを見てました。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

董香Side

 

「...あっ」

 

私は不味いことをしてしまった。

それは"島村卯月"の前で絶対客の目の前で見せない自分を出してしまった。

別に私の正体が全てバレたのではないけど、性格がバレるだけでも不味い。

だいたいカネキが悪いのだけど。

 

「...ふふっ」

 

「...?」

 

「はははっ!」

 

すると島村は笑い出した。

まるで隠していた笑いをどんどんと表に出すように

 

「なんだか董香ちゃんは"凛ちゃん"みたいですね」

 

「"凛ちゃん"?」

 

「あ、"凛ちゃん"はこの前来た黒髪でロングヘアーの子です!」

 

「へ、へー....」

 

卯月は先ほどの私の姿を見たにも関わらず、どんどんと私に話しかけてくる。

 

「トーカさんはもしかして同じ高校生ですか?」

 

「そ、そうだね...今、高2で17」

 

「高校生二年生で17歳ですか!?私と同じじゃないですか!」

 

島村卯月はそう言うと輝いた目で大きく声を出した。

 

「あ...あ、そうなんだ...」

 

私は少しぎこちなく返した。

なんだか面倒臭いやつに絡まれているように思った。

 

「同じ年だなんて、初めて知りました!」

 

「.....ふ、ふーん」

 

私は少し微笑んだ。

しばらく島村卯月に接してみてわかったのは、

本当に偽っていないことだ。

テレビとかでは可愛い子ぶっていて、絶対裏のあるやつだと嫌っていた。

でも実際に会ってみると、違っていることに気づいた。

 

「その..."凛"は金木に怒ってるの?」

 

「凛ちゃんですか?」

 

この前、卯月と一緒に来ていた友達の一人"渋谷凛"。

アイツとカネキの会話の感じだと、完全に金木を厳しく接していた。

 

「怒っていると言うか...行動を叱っていると言うか...」

 

「それ私に似てる」

 

私はそう言うと自分に指をさした。

 

「ほ、本当ですか!?やっぱり凛ちゃんと同じですね!」

 

「そ、そうなんだ...そんなに似てるかな.....?」

 

私はそう言うと、少し頭を傾けた。

嬉しいようで、嬉しくは感じない答えであった。

 

「それで...カネキって、いつも頼りない感じ?」

 

「え?」

 

卯月は私の言葉を聞いた瞬間、

まるで私の答えが間違っているようにこちらを見てきた。

 

「か、金木さんはいい人ですよ!」

 

「いい人?」

 

私はそれを聞いて中々イメージがつかなかった。

いつも頼りなく、小心者感があるし、毎回オーダーミスするやつが、良い人だなんて考えにくい。

 

「か、金木さんは私にとって"最初のファン"でもあり、"大切なお友達"です!」

 

卯月はそう言うと、まっすぐとこちらを見る。

卯月の目は決して嘘は言っていない。

本当にカネキはいいヤツだとこちらに言っているように見えた。

 

「そうなんだ...そ、それはごめん...」

 

「あ、謝らなくてもいいですよ!」

 

卯月はそう言うと慌てて手を振った。

 

「面白いね、卯月は」

 

「そ、そうではありませんよ...!」

 

卯月は照れながらそう言った。

その姿はどこか可愛かった。

 

「あ、卯月で呼んでいい?」

 

私はふと気がつくと、無意識に名前を言ってしまった。

まだ合って数分なのに。

 

「はい!卯月でいいですよ」

 

卯月はそう言うと、笑顔で返した。

 

「っ!」

 

私は卯月の笑顔に、何故か驚いてしまった。

他のヤツの笑顔とは違う笑顔だと

その笑顔は本当に卯月しかできない笑顔に見えた。

 

「....ん?」

 

すると私は2階に上がるドアに視線を向けた。

私たちを見るヤツの存在に気づいたからだ。

 

「あ、金木さん!」

 

卯月は金木さんの姿を見て、どこかテンションが高くなっていた。

 

「あの..さっき、何話してたの?」

 

「アンタには関係ない」

 

私はいつも通りカネキに対して、冷たい態度で返した。

冷たい視線でアイツを見る。

カネキは「え....」と困った様子で頭を傾けた。

でもそれは先ほどの私の感情を卯月に見せてしまったからではなかった。

むしろ感謝に近いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも振り返ると、後悔してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"喰種"でもある私が、なんでまた仲良くしちゃったんだろう

 

 

 

 

"人間”(ヒト)

 

 

 

 

 

 

 

 



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White Dove


二つの世界が交わるこの場所、

3人の男が動き出す。


金木Side

 

「今日は卯月は来るの?」

 

「いや、今日は来ないよ」

 

昼下がりのあんていく、

今店内にいるのは僕とトーカちゃんだけだ。

お客さんは今のところいないため、僕たちは少し話をしていた。

その会話の話題はやはり卯月ちゃんのことだった。

卯月ちゃんは時間があればあんていくに来ると言っていて、

僕はそれに"心配"と"恐れ"を感じていた。

その理由は"喰種"(グール)だということをバレてることだ。

何せここあんていくも喰種がやっているお店だから、

もし彼女が知ってしまったら....

 

 

「なんだ、もう嫌われたのか。早いなー」

 

「そ、そんなことないよっ...!」

 

トーカちゃんは少し嘲笑いに似た顔で僕を見た。

さすがに卯月ちゃんはそう考えているとは想像はしたくはない。

卯月ちゃんはいつも優しく接するから余計に想像がつきにくい。

 

ちなみに卯月ちゃんは今日は来ない。

来るときはいつもメールをすることになっているので、

今日はメールは来ていない。

おそらく仕事かレッスンがあるかもしれない。

 

そんな会話をしていた僕らに、

ちょうどお店のドアが開いた。

 

「あ、いらっしゃませー...」

 

「あれ?もしかして新人さん?」

 

店内にやって来たのは二人の親子であった。

一人は綺麗なお母さんと、中学生ぐらいの女の子であった。

 

「あ!リョーコさん、ヒナミ!」

 

「こんにちは、トーカちゃん」

 

「店長2階で待ってますよ、どうぞ」

 

するとトーカちゃんは二人を二階にまで案内をした。

 

「あれ..?どうして二階に?」

 

普通なら店内にいるはずなのだが、

なぜかあの親子は二階に上がっていった。

 

「ああ、受け取りに来たんだよ」

 

「受け取りに?」

 

「....."肉"」

 

「肉...?なんで...?」

 

「.....アンタと一緒よ」

 

 

 

『"自分で狩れないから"』

 

 

 

「え?」

 

僕はトーカちゃんの口に出たことに驚いてしまった。

 

 

"人"(ヒト)を狩れない"喰種"(グール)

 

 

僕が"人"(ヒト)を狩ることができないのはわかるが、

 

 

 

人を糧とする"喰種"(グール)がなぜ狩れないのだろうか...?

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

プロデューサーSide

 

 

346プロダクションにて、とある男性が入って行った。

その人物はシンデレラプロジェクトを指揮するプロデューサー。

背は高く、鋭い目つきで口数は少ない男性だが、

見た目とは違い礼儀は正しく、どの人でも敬語で話す。

 

今日の朝の346プロダクションは少し騒がしい。

 

(...ここにいる人たちはみんな会議に行くのだろうか?)

 

いつものなら朝のこの時間は人が数人しか見ないのだが、

今日は数十人の人がロビーにいた。

それはこの後行われる会議に出席するためだ。

その会議の内容はわからないが、多くの者はあることを予想していた。

以前社内では"喰種"(グール)に関することを話すではないかと言う意見が多く耳にした。

 

 

しかしその内容は"彼"(プロデューサー)にとって良いことないようではなかった。

 

 

「今回話すことはおそらく、"喰種(グール)対策"の削減だろうな」

 

「ああ、やっぱりお前もそう感じたか」

 

「..........」

 

彼の隣で二人の社員の会話が耳に反応した。

それは"彼"(プロデューサー)にとって耳を塞ぎたくなる会話であった。

最近の社内では喰種(グール)対策にかける費用が高いとなどの不満の声がよく耳にする。

ゲートの維持費の高さや13区内の喰種(グール)対策が万全ではないことが取り上げられている。

多くの者はきっと削減、もしくは廃止を求めていた。

こんなものは"必要ない"と

 

「ここの捜査官は絶対アイドルに会いに来るためCCGに入っただろうな?」

 

「そんな甘いことはこの後の会議で終わる。夢を見る時間はもう終わりだ」

 

二人は嘲笑いに似た笑いをしながらこの場を去った。

それはまるで"彼"(プロデューサー)に対する嫌味でも言われているように思えた。

346プロダクションが喰種(グール)に対策をするきっかけは"彼"(プロデューサー)に関係があった。

それは"彼"(プロデューサー)が入社し手間もない時、"とあるアイドル"をプロデュースをしていた。

当初はうまくいったのだが、軋轢を生んでしまい、そのアイドルはやめてしまった。

 

 

 

しかしそのアイドルがやめた同日、"悲劇"が起こってしまった。

 

 

 

 

 

 

それは雨が降る6月、

 

 

 

 

 

そのアイドルは、

 

 

 

 

13区内で"喰種"(グール)に襲われ、死亡した。

 

 

 

 

 

 

(....ああ、また思い出してしまった)

 

気がつけば"彼"(プロデューサー)はあの悪夢の光景を思い出してしまった。

最近"喰種"(グール)のことを耳にするせいか、"あの事件"が頭に遮る。

この前にも13区に"喰種"(グール)の事件があった。

ニュースによれば遺体の損傷はひどく、

"捕食による傷ではない"と言っていた。

そんな恐ろしい"喰種"(グール)が13区にいるとは考えたくない。

"彼"(プロデューサー)は気を取り直し、会議室へと向かった。

今回の会議では主導するのが"美城常務"。

彼女は会長の娘であり、先月帰国したばかりである。

彼女の政策は急進的な改革が多く、

社内では不満の声を耳にしたことがあった。

しかし多くの者は不満を直接言うのではなく、

影でこそこそと言うばかりであった。

そんな状況の中、美城常務の政策に反対した人物が""彼"(プロデューサー)であった。

"彼"(プロデューサー)が指導しているシンデレラプロジェクトは美城常務にとって廃止対象であったからだ。

"彼"(プロデューサー)はそれを存続させるべく、

"シンデレラ舞踏会"と言うイベントを計画していた。

だがそれは"成功すれば"と言う話であるため、

失敗すればシンデレラプロジェクトは終わってしまう。

そんな美城常務と意見が合うことなど、

"彼"(プロデューサー)は考えれなかった。

 

 

 

 

 

でもその会議は、

 

 

 

 

"彼"(プロデューサー)が予想していたものとは違っていた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

亜門Side

 

 

CCG20区支部の朝

 

"喰種"(グール)の被害が少ないこの場所に、

本局から派遣された"二人の捜査官"が入って行った。

 

「よくやってくれたな、346は」

 

「はい。これから喰種(グール)対策に力を注ぐようですね..」

 

今朝のニュースで346プロダクションが喰種(グール)対策に今後力を入れるとの情報が入った。

これはCCGにとって良い情報であった。

 

 

"亜門鋼太朗"(あもんこうたろう)

 

CCG本局所属の一等捜査官

 

彼はCCGのアカデミーを首席で卒業したエリートで、

喰種(グール)のために開発された武器"クインケ”を使い、

喰種《グール》捜査官として日々奮闘している。

 

「これで私たちは"鼠"をより捕まえやすくなる」

 

真戸は右手を握りしめ、くくくっと不気味そうに笑った。

 

 

"真戸呉夫"(まどくれお)

 

CCG本局所属の上等捜査官

 

白髪で痩せこけた頰と不気味な容姿をしている男性であり、

"喰種"(グール)に対して残酷な態度を示す。

亜門とはパートナーとして組んでいる。

 

「まさか....美城常務があの状況で判断を下すとは..」

 

「彼女も我々の気持ちを理解したのだろうね」

 

346プロダクションと連携して以来、

CCGは高額な資金を得た。

連携前よりも研究と対策がしやすくなり、

CCGにとって346はなくてはならぬ存在となった。

 

 

しかし、最近346プロダクション内では不満の声が上がっていた。

 

 

維持費の問題や、13区内の喰種(グール)対策が十分に取れてないなど問題があった。

確かに13区は以前から"ジェイソン"がいる。

 

だがその"ジェイソン"の駆除は決して容易ではない。

この前にも13区に"ジェイソン"による犯行があった。

"ジェイソン”の特徴は捕食ではなく"遊び"による犯行だ。

大体の遺体はボロ雑巾のようなひどい有様で現れてしまう。

捕食している傷はなく、まるで拷問の傷に似ている。

そんな恐ろしい喰種(グール)が潜む13区に置く346プロダクションにいる者も少しCCG側の気持ちをわかってもらいたい。

亜門も一度346プロダクションに入ったことあるが、

社内の人間は捜査官に対する冷たい視線が嫌に感じるほど味わった覚えがあった。

"なぜここに来ている?”と言っているかのように

 

("あのプロデューサー"は今回のことをどう思うだろうか..?)

 

亜門が言うプロデューサーは、CCGと346が手を組むきっかけとなった被害者のアイドルを担当していた人物のことだった。

出会ったきっかけは"アイドル捕食事件"であった。

346プロダクションに所属していたアイドルが、

"喰種"(グール)に襲われてしまい、死亡した悲惨な事件であった。

その被害者のアイドルは346プロダクションに所属していたのだが、

担当していたプロデューサーによれば"その日にやめてしまった”と言っていた。

その同じ日に事件が起きるだなんて、"彼"(プロデューサー)にとって悲痛に違いない。

当時の亜門はCCGに入りたての新米捜査官であり、

その時の事件現場にいた。

亜門は"彼"(プロデューサー)に被害者について聞いていた。

それがきっかけとなり、二人はある程度の顔見知りとなっていった。

 

(...そういえば、"彼"(プロデューサー)のアイドルに間違われたことあったな..)

 

ちなみに亜門と"彼"(プロデューサー)は年であり、容姿は似ている。

スーツ姿に同じ髪型、同じ身長である。

以前凸レーションの諸星きらり赤城みりあ、城ヶ崎莉嘉に"彼"(プロデューサー)と間違われていた。

もしかするとシンデレラプロジェクトのアイドルに"間違われるかもしれない"。

 

「ところで真戸さん」

 

「ん?」

 

「あの"親子"が見つかるといいですね」

 

「見つかるさ、その為に来たのだから」

 

 

二人の捜査官が"ここ"(20区)に訪れた理由は、

 

 

 

 

とある"親子の喰種(グール)”を追っていたからだ。

 

 

 

 

 

 




いつも読んでいただきありがとうございます。

最近投稿の間隔が遅くて申し訳ございません。(不定期ですが..)

投稿が早くなるようがんばります。

次回は凛がとある二人を連れてくるようです。


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Mask



気づかれてはならない。



その正体に





金木Side

 

 

今日も卯月ちゃんはやって来ることないあんていく

彼女がいないあんていくは少々寂しい気持ちが生まれるが、

それは僕にとって安心を与えてくれる日でもある。

そんなある時だった。

 

「"マスク”..ですか?」

 

「そう、マスク。君も持っていた方がいいと思ってね。私たちも一つは持っているし」

 

 

今のところお客さんのいない店この時、店長から僕にマスクを作った方がいいんじゃないかと言われたのだ。

それは自分のマスクを持つことだった。

 

(...でも、マスクなんか着けたら僕...)

 

マスク...と聞くとあの風邪を引いた時に着ける白マスクが思い浮かぶ。

そうなると左目に眼帯で口にマスクとなってしまい、僕の顔は右目しか見えなくなる。

 

「トーカちゃん」

 

「なんスか、店長?」

 

「次の休み、カネキくんのマスク作りに付き合ってあげてくれないか?」

 

「はっ!?」

 

トーカちゃんが店長の言葉にとても嫌そうな驚き方をした。

 

「な、何で私が休日にわざわざこんな奴と...!」

 

「...」

 

トーカちゃんの発言に僕はしょんぼとしてしまった。

相変わらずきつく接する。 

まるで"凛ちゃん"のようにとても嫌そうな顔つきになっている。

 

「..カネキくん一人じゃ迷子になるだろうし...."ウタくん”と二人きりじゃ、彼も怖がっちゃうでしょ」

 

「..た、確かにそうですけど...」

 

「..でも別に、まだマスクは必要ないじゃないですか?」

 

今は必要だろうか?と僕の胸に疑問が生まれた。

そのマスクをどう使うかわからない。

普段使うものだろうか?

 

そう言うと店長は少々深刻そうな顔つきなった。

 

「....四方(よも)くんから聞いた話なんだけど...」

 

「"ヨモさん"からですか?」

 

『"捜査官"が二人ウチの区に...」

 

「....!!」

 

トーカちゃんは店長の言葉に、

まるで危険を察したのような顔つきであった。

 

(捜査官..?)

 

話していることはよく聞こえなかったが、

おそらく良い話ではないことがわかる。

 

「...わかりました」

 

トーカちゃんはそう言うとため息をつき、

僕の方に顔を向けて、

 

「眼帯!」

 

「っ!」

 

「土曜日4時半に新宿駅東口...遅刻したらぶっ殺す

 

トーカちゃんの顔は暗く、恐ろしい目つきで僕をじっと見る。

これは間違いなく遅刻したら殺されてしまうように思えた。

 

「...はい」

 

僕はそんな表情をしたトーカちゃんにすんなりと答えた。

こんな状況で他の言葉はあるだろうか?

 

 

 

そんな厳しい状況の中、

チャララっとお店の扉が開くベルの音がちょうど聞こえた。

 

 

 

「あ、い、いらっしゃ...」

 

僕はすぐさまドアの方に体の向きを変え、挨拶をしたのだが、

驚いて言葉が止まってしまった。

 

 

 

 

それは始めて出会うお客さんではなく、

 

 

黒髮ロングの女子高生、

 

 

 

"凛ちゃん"がやって来たのだ。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

 

(言わなきゃよかった...)

 

私は右手で少し頭を抱えていた。

どうしてって?それは今、後悔しているから。

なぜなら金木が働いている喫茶店に"加蓮"と"奈緒”を連れて来てしまったからだ。

 

「凛、結構いいところじゃん」

 

「結構おしゃれなところ行くんだな」

 

「ま、まぁね...」

 

私は怪しまれないよう作り笑顔で返した。

前回はカウンター席に座ったのだけど、

今回は私たちはテーブル席に座った。

私たちが金木が働いてる"あんていく"に行くことになった原因は、

加蓮が「どこかいい所ない?」と言う一言だ。

いつも私たちはファストフードのところで行くのだが、

今回はなぜか私に場所を選んで欲しいと加蓮から頼まれた。

そして今に至る。

 

(一体何考えてるんだろう、私...)

 

ちなみに加蓮と奈緒は同じ346プロのアイドルで、二人とも私より一つ下の仕事の後輩になっている。

別に二人は前から会っているから、後輩というと少し変に感じる。

加蓮とは私と同じ中学校にだけど、会った覚えがない。

何せ加蓮は学校は休みがちだった。

でも今は仲はいい友達。

奈緒は加蓮の親友で、その形で友達になった。

そんな後悔している私に追い討ちをかけるかのように"ある人"がやって来てしまった。

 

「こ、こんにちは...."凛ちゃん"」

 

金木が私たちが座っている席にやってきた。

しかも何で私の名前を言うの...?金木?

 

「あれ?どうして名前を知っているのですか?」

 

加蓮はすぐに気づき、金木に訪ねた。

 

「あ、そ、それは....と、友達だから..」

 

「友達ですか..!?」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

加蓮と奈緒はその事実にさらに食いついた。

 

「う、うん... そうだね.....それよりも注文を...」

 

「ああ、そうだったね。アタシはカフェオレで、奈緒は?」

 

「あたしはカプチーノ」

 

そして加蓮と奈緒が言い終わると二人は私の方に顔を向けた。

 

「え?私?」

 

ここに来るまで私は何を頼もうか考えてはなかった。

考えていたのはここに来た後悔と、金木の態度に対する苛立ち。

 

「..凛ちゃんは....ココアでいいかな?」

 

「...は?」

 

突然金木が私が注文していないのに、勝手に決めつけた。

 

「どうして勝手に決めつけるの?」

 

「い、いや...卯月ちゃんが凛ちゃんがチョコレートが好きだからと言ってたから..」

 

金木は私の言葉に完璧にヘタれていた。

なんで卯月言ったの?

 

「え?卯月ちゃんも来てるんですか?」

 

「そ、そうだね....一昨日ここに来たよ」

 

「へー意外ですね」

 

「ま、まぁ卯月ちゃんはあんまり...」

 

 

 

 

 

 

「"金木"」

 

 

 

 

 

すると私がそう言った瞬間、

周りが一瞬にして静かになった。

 

「さっさと行かないの?」

 

私は金木を睨むかのようにじっと見つめた。

私の中にあったのはあいつ(金木)に対する怒りでしかなかった。

 

「わ...わかりました...」

 

それを見た金木は震える声で言い、すぐにここから去った。

完全に私の顔を見てビビっていた。

 

「り、凛、そんなに金木さんにそんなに怒ることあるの?」

 

「凛、結構顔怖かったぞ....」

 

金木が私たちの前に立ち去った後、加蓮と奈緒は先ほどの私の行動に指摘をした。

今日は少しやりすぎたかもしれない。

 

「あ...ごめん...つい、あいつ(金木)の行動にカッとなって...」

 

「別にアタシたち謝ることじゃないけど....金木さんって凛より年上?」

 

「うん、確か...大学一年」

 

「「大学一年っ!?」」

 

加蓮と奈緒はその言葉に驚いた。

何せ高一の女子高校生が大学生の男と交流があると聞けば、それは驚く。

 

「と言うかそのぐらいの年って、だいたいアニメの話ぐらいしか聞かないぞ」

 

「まぁ、そうかな..?」

 

そういえば奈緒は結構アニメ好きであり、アニメに関してはよく知っている。

私はアニメに関してあんまり知らないけど。

 

「金木は頼りないところもあるし、ドジな部分もあって、なんか気に入らない」

 

「ふーん...」

 

私の話を聞いた加蓮は、少し良からぬ顔でこちらを見た。

何か企んでいるように見える...

 

「...なに?加蓮?」

 

「金木さんって"凛の彼氏"?」

 

「...はっ!?」

 

急に加蓮の口からとんでもない発言を耳にした。

私はその言葉に焦りと苛立ちが生まれた。

その時の私の驚きは奈緒に似ていたかもしれない。

 

「ど、どうしてそんなことを言うの!?」

 

「だって、結構仲よさそうだし」

 

「そ、そんなことないよ...」

 

でも金木とは短い仲とは言えず、

気がつけば出会ってもう6ヶ月になりそうだった。

最初の出会いは私の親がやっている花屋さんで、

その時に卯月に出会った。

でもあいつ(金木)とそんな関係とか私の頭にはまずない。

と言うかこれから"絶対"ない。

 

「おまたせしました」

 

そんな会話していると、話の話題の人物がやってきた。

タイミングが悪すぎる。

金木は私たちが頼んだメニューを持って来て、机に置いている時、加蓮が金木に声をかけた。

 

「あ、"凛の彼氏さん"」

 

加蓮がまるで私を揶揄うかのように金木を”私の彼氏扱い”をする。

絶対ないから

 

「彼氏じゃないよ..加蓮」

 

「あ...はい...?」

 

私が否定したのに対し、

金木はなぜか普通に応じていた。

何応じてるの..?金木?

 

「これ、食べる?」

 

「..え?」

 

加蓮が出したのは、先ほど立ち寄ったファストフードのポテトであった。

すると金木はなぜか驚いた様子でポテトを見ていた。

 

「な、何してるの加蓮!」

 

「あれじゃん、よくカップルがやるやつ」

 

「っ!?」

 

加蓮が今やろうとしていることは、

つまりアーンというやつだ。

 

「凛はやらないの?」

 

「..え?」

 

「やらないなら、アタシがやるよ?」

 

「....」

 

私は何もいう言葉がなく、言葉を探していた。

なぜってあいつ(金木)にそんなことするなんて考えられなかった。

金木とは"普通の友達関係"だから、

別に加蓮がやっても問題ない"はず"

 

 

 

 

 

 

でも、

 

 

 

 

 

やりたくない感情だけあるはずの私の胸に、

 

 

 

 

 

なぜか

 

 

 

 

"ある感情"が生まれた。

 

 

 

 

 

「....やるよ」

 

「おーやるんだね」

 

「...え?」

 

金木は私の言葉に驚いた様子になった。

..こっち見ないで

こちらは好きでやってるわけじゃないから

 

「ほら、口開いて」

 

私はポテトを手を取り、それを金木に向ける。

 

「...っ」

 

なぜか口を開こうとはしなかった。

私がアーンさせようとするから驚いているかもしれない。

まさかだと思うけど、"拒否"しているわけないよね?

 

「おーやるね」

 

「マジでやるの..?」

 

加蓮と奈緒はあいつ(金木)と私の光景に楽しんでいた。

このモヤモヤにきっと楽しんでいる。

さっさ動いて欲しいのだが、金木は動こうとはしなかった。

 

(...早くしろっ!)

 

そしてその思いは伝わったのか金木は覚悟を決め、唾を飲み込み。

 

「い...いただきます」

 

金木はそう言うとパクッとそのポテトを口にした。

 

「お、おいしい...ね...これ...」

 

金木はぎこちなく言うと、"手を顎に擦るかのように触った"。

 

「おー!本当にやったじゃん!!」

 

「ま、マジじゃん...!」

 

「.......」

 

それを見た加蓮と奈緒はテンションは上がっていた。

...こっちはもう最悪だけど...

私はあいつ(金木)に顔を向けることはなく、顔を伏せていた。

後悔に似た、いや嫌気、それに近い何かがあいつ(金木)の顔を見る気を伏せていた。

 

「.......?」

 

ふと金木に一瞬顔を見た時に、あることを気がついた。

それはだんだん金木の顔色が悪く見えのだ。

 

「...大丈夫?」

 

「いや..大丈夫だよ」

 

私は顔を向けずに言ったのだが、金木は大丈夫だと言った。

でも本人はそういうのだけど、体調が悪そうにしか見えなかった。

しばらく私たちがお店に出るまで、金木の顔色は変わることなかった。

それで試しにポテトを食べたのだけど、別になんの変哲も無い"普通のポテトの味"だ。

 

 

一体何があったんだろう?

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

「どう?全部吐いた?」

 

「吐いたよ....うん」

 

僕は凛ちゃんたちが去った後すぐにトイレに向かい吐き出した。

まるで工場の排水に浸した練り固めたチョークを食べているみたいで気持ち悪かった。

 

「よくあんな状況で食えたな」

 

「さ、さすがに怪しまれない為に食べたよ...」

 

日々の食べる練習をしたおかげか、目の前では吐くことはなかった。

最初は飲み込むことすら難しかったのが、

今ではなんとか少量は行けるようになった。

 

先ほど凛ちゃんがアーンをしてくれるとは考えもしなかった。

あのきつく接するはずの彼女が、なぜあの行動をしたのが不思議で仕方なかった。

...その後、僕に何も言わなかったけれど

 

「全く...本当に卯月の言う通り、凛はアタシに"そっくり"だな」

 

「...え?」

 

「...なんでもない」

 

トーカちゃんはそういうと、背を向いた。

 

「じゃあ、今度の休日に頼むよ」

 

「え?休日..?」

 

「覚えてねぇのか、バカネキ」

 

トーカちゃんは僕の言葉に嫌な顔をし、その場から立ち去った。

これは僕が忘れていたのだけだけど、

やっぱりトーカちゃんは僕にきつく接するところは凛ちゃんに似ているよ...

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

「いやー凛の紹介したお店、結構よかったよ」

 

「う、うん...それはよかった...」

 

私たちは20区駅に向かっていた。

とりあえず加蓮たちと別れたら、真っ先にメールで金木に文句を言う。

『あんたは本当に頼りない人間だ』とすぐに書きたい気分だ。

 

(...でも、加蓮の言ったことを思うとな...)

 

加蓮から"当たりが強い"と言われたため、よくよく考えて見れば金木に悪いことしちゃった。

なのでメールの内容は文句の内容ではなく、メールで謝ろうかな

 

 

 

 

 

 

いや、

 

 

 

 

 

 

 

"口"で言った方がいいや

 

 

 

 

 

 

 

照れ臭いけど

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、二人の会話は...

 

 

 

「そういえばさ、加蓮」

 

「ん?」

 

すると奈緒はあることに気がついた。

 

「あの金木って言う人...」

 

「....うん」

 

 

 

 

 

 

 

「なんかまるで黒○事で出てきたシ◯ルに似てなかったか?」

 

 

 

「あー、確かにそうだね。と言うか黒◯事とかなついね」

 

二人は金木をとあるアニメのキャラクターに似ているという話題を話していた。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(遅いな...)

 

新宿駅にて僕はトーカちゃんと待っていたのだが....

集合が4時半にもかかわらず、

もう30分もの時間が遅れていた。

この前は怖い顔をして僕に言ったのだが、

言った本人が遅れるのは少しおかしい....

 

(来ないかな...?)

 

僕は周りを見渡すが、トーカちゃんの姿はない。

多くの人たがりがいるため、

まさかと思うけど人混みに流されたのかな?と少し頭によぎった。

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

「あれ?金木さんじゃん!」

 

 

 

 

 

すると聞き慣れた声が僕の後ろに耳にした。

その声のした方向に顔を向けると...

 

「み、未央ちゃん!?」

 

僕の目の前にやってきたのは"待っていた人物"ではなかった。

 

そこにいたのはアイドルであり、僕の友達であるショートカット女の子、

 

 

"未央ちゃん"であった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

「どーも金木さん!」

 

私は今、思いがけないことが起こった。

まさか新宿駅に金木さんとばったり会うだなんて想像はしなかった。

 

「こ、こんにちは...」

 

金木さんは驚いた様子で、ぎこちなく挨拶をした。

本当に驚いちゃってるね〜☆

 

「ど、どうして未央ちゃんがここに?」

 

「どうしてかって?それは金木さんに会いに...」

 

「...え?」

 

「なーんてね☆ただここに買い物をしに来ただけだよ」

 

「そ、そうなんだ...」

 

「金木さんは何しにここへ?」

 

「え..!?」

 

私が質問をした瞬間、金木さんは少し変な声が混じった驚き方をした。

 

「い、いや....友達と待ち合わせかな..?」

 

金木さんはそう言うと、右手で顎を触った。

 

「へー友達と待ち合わせなんだー!もしかして男友達?」

 

「うん...そうだね...待っているのだけど、来ないんだ」

 

「その友達は遅刻してるわけなんだ」

 

「ま、まぁね...」

 

金木さんはそのお友達を待っているんだね。

今日は私は仕事はないし、やるとこないので、

私はあることを提案した。

 

「じゃあ、金木さんとそのお友達と一緒に待つってどうですか?」

 

「...え!?」

 

金木さんは再び私の質問にとても驚いた。

少し考えたのだけど、そんなに驚くことかな?

 

「さ、さすがに大丈夫だよ...」

 

「えーいいじゃないですか?この未央ちゃんがその遅れた男友達を指導する!だなんていいと思わないですか?」

 

「それほど指導するほどやらなくてもいいよ...」

 

「えーダメなの?金木さん?」

 

「......」

 

金木さんの口は止まり、何か思い悩んでいるような様子で困った。

そんな姿を見た私は、あることを思いついた。

 

「じゃあ金木さん、今度また話さない?」

 

「え?」

 

「あれじゃん!今日が無理なら、また今度って言うことで」

 

「...ああ、それでいいね...」

 

金木さんはそう言うとどこかホッとした様子になった。

...どうしてだろうね?

 

「今日は長く話せなくて、ごめんね」

 

「あーいいですよ!別に今日じゃなくても話せますし!」

 

金木さんは私と違ってハキハキではなく内気だけど、

誰でも優しくてとても良い人だと私は思う。

 

「じゃあ、またね〜」

 

私は金木さんに別れを告げ、その場から立ち去った。

今日は新宿で何買おうかな〜?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば私はあることを思った。

 

 

 

 

 

 

 

なんで私と一緒に待つのが"いや"なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

あっちの事情に関係するけど、

 

 

 

 

 

 

 

なんでダメだったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は少し気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Murk


雲行きが怪しくなり始めた。



それは彼らが住む街を覆うように広がっていった。


卯月Side

 

 

「こんにちは、金木さん」

 

「あ、やぁ、卯月ちゃん」

 

再び金木さんが働いている喫茶店に踏み出した、私。

店内は私と金木さんだけでした。

時間がだいぶ開いていたせいか、

ここに来るまでワクワクしていました。

私は前に来た時に座ったカウンター席に座り、

早速金木さんに声をかけました。

 

「お元気でした?」

 

「うん、元気だったよ」

 

金木さんはそう言うと、少し微笑ました。

私は金木さんの表情を見て、どこかほっとしました。

 

「あ、あの卯月ちゃん...」

 

「ん?」

 

「お金大丈夫?」

 

「え?お金ですか?お金は別に問題ないですよ?事務所でお給料もらってますので大丈夫です!」

 

「そ、そうなんだ...喫茶店のメニューは学生だと少し高いんだと思うけど...」

 

よく考えてみますと、喫茶店でいただくものは大体高いように見えます。

でも金木さんやトーカさんとお話しできれば、別に気にするようなことではありません...多分っ!

 

「そういえば...トーカさんはいらっしゃいますか?」

 

「トーカちゃん?」

 

それはここに来て、ふと気づきました。

以前仲良くなりましたトーカさんが、

今日はお店には姿がありませんでした。

 

「あー、トーカちゃんはテスト勉強だよ」

 

「テスト勉強ですか...少し残念です」

 

「まぁ、彼女もそう言う時はあるから仕方ないよ。ちなみに卯月ちゃんはテスト大丈夫?」

 

「え?わ、私ですか...?」

 

その質問を聞いた私は、少し焦ってしまいました。

 

「私は......国語があんまりよくないんですよね....」

 

「国語が苦手なんだ...」

 

漢字は大丈夫ですが、その文書を説明しろとなると非常に難しく感じます...

 

「金木さんは国語は得意ですか?」

 

「僕?国語は得意だよ」

 

「本当ですか!今度、勉強教えてください!」

 

「そ、それは今度、時間があったらね...うん...」

 

そういうと金木さんは"顎をこするように触りました"。

久しぶりの金木さんと会話をして、私は楽しんでいました。

 

「あの...卯月ちゃん?」

 

「はい?」

 

「僕が言うのはあれだけど....何か頼まない?」

 

「あ、そうでしたね」

 

ただ会話しに来るのは、お店としては困ってしまいます。

私は今日は飲もうか、手元にあるメニューを開きました。

前回はカフェオレを頼みましたので、今回は別のものを選ぼと思います。

 

(でも...何かいいもの.....あっ!)

 

そんな時、私の頭にふとあることを思いつきました。

それは以前から金木さんにやって欲しいことです。

 

 

 

 

 

「そろそろ“金木さんの淹れたコーヒー”が飲んでみたいです」

 

 

 

 

 

「...え?」

 

金木さんは私の言葉に驚いてしました。

まるでそのことを疑うかのような顔で私を見てました。

 

「...本当にいいの?」

 

「はい!ぜひ、飲んでみたいです」

 

私がそういうと、金木さんは頭を抱え、悩む仕草をしました。

彼は本当に悩んでいました。

私はやってくれるかそれともやってくれないか少し緊張しました。

やって欲しい気持ちがありますが、

逆に無理して欲しくない気持ちが争うかのように複雑な心境でした。

金木さんは悩んだ末、「よしっ!」と言い、

 

「...じゃあ、やるよ」

 

「本当ですか!ありがとうございます」

 

金木さんの淹れたコーヒーが飲めることに嬉しく感じました。

さっそく金木さんは棚からコーヒーが入った袋を取り出しました。

その袋を開き、コーヒー豆を取り出して、コーヒ豆を粉にする機械に淹れました。

 

私はじっくりとその光景を見ていました。

まるで初めて何かを見る子供みたいに目をまるまると目を開いて見てました。

 

「....あの卯月ちゃん?」

 

「どうしました?」

 

「あんまり見られると緊張するよ...」

 

「あ....それはすみません」

 

私は視線をそらすため、メニュー表を見ました。

メニューを見ているというか、顔を隠しているに近い感じで。

 

(...何やっているんだろう、私...)

 

まるで恥ずかしがっているような仕草で、胸の中がもやもやとしてました。

メニュー表からこっそり目を出そうか迷っていると...

 

「卯月ちゃん」

 

「..はい!?」

 

「コーヒーできたよ」

 

ふと気がつけば、

あっという間に出来上がったみたいでした。

私は顔を隠していたメニューを外すと、

カウンターに湯気がともるコーヒーが置いてありました。

 

「これがコーヒーですか...」

 

目の前に置かれたコーヒーは、写真で見るよりも空気が違ってました。

コーヒーという物を知っているのに、

なぜか初めて見る感覚に近いものを感じました。

 

「...初めてお客さんに出すよ」

 

「え?本当ですか?」

 

「今まではカプチーノとかカフェオレぐらいしか出してないからね...」

 

「と言うことは、私が初めてですね....」

 

私はそう笑顔で返した後、表情が少し強張ってしまいました。

金木さんにとって初めてお客さんに出すコーヒーと言われますと、

なんだかより緊張が高まってきました。

 

(....は、早く飲まないとっ!)

 

流石に眺めているじゃ、コーヒーが冷めてしまいますので、私は飲む覚悟をしました。

 

「....では、いただきますっ!」

 

私がそう言うとコーヒーが入ったカップを持ち、

コーヒーを口に入れました。

 

「......」

 

「...どうかな?」

 

「.....」

 

笑顔だった私がだんだんと顔が曇らせてきました。

その同時に私の胸に"あるもの"が湧き上がりました。

 

「ま、まずいです....」

 

「...え!?」

 

コーヒーを口に淹れた瞬間にとても苦い液体が私の口に広がり、今すぐに口から吐き出したい気分でした。

でもさすがに口から吐き出すのは失礼なので、無理して飲みました。

 

「あ....別に下手というわけじゃなくて....」

 

「...?」

 

「私...実は、コーヒーを飲むのが苦手なんですよ...」

 

今更自分で言うのはあれですが、私はコーヒーが飲むことはできません。

飲むことができるのはコーヒーの風味より甘みが強いカフェオレなどのものです。

それにしてもなんでコーヒーをブラックでいただこうとしたんだろう、私...

 

「で、でも金木さん....」

 

でも私がただ苦いだけのコーヒを飲んで、

 

 

 

"わかったこと"と"言いたいこと"が生まれました。

 

 

 

「今はこのコーヒーはただ苦い味しか感じられませんが...」

 

 

 

 

今の私の口は拒絶したくなるほど苦さですが..........

 

 

 

 

「金木さんの淹れたコーヒーはよかったですっ!」

 

「....よかった?」

 

「はいっ!」

 

コーヒーを飲んで得たことは、ただまずいだけではなく、

これから好きになろうと言う意欲が生まれました。

 

「ですので、コーヒー飲めるように頑張りますっ!」

 

「そうなんだ....それは嬉しいかな」

 

「ありがとうございますっ!」

 

流石に全部は飲むことはできなかったですが、

今度は全部飲めるように頑張ろうと思います。

 

「「..........」」

 

 

しばらく時間が過ぎると急に会話が止まってしまいました。

いっぱい話したいことがあったのに、

すぐに尽きてしまったように感じました

 

(な、何か話さないと...っ!)

 

焦りがより気まずさを増してるようでした。

 

 

 

そんな、何も話していないその時でした。

 

 

 

 

(....ん?)

 

金木さんの後ろにあるドアが開いていることに気づきました。

誰かこちらを見ているような気配を感じました。

じっくりそれを見ていると...

 

「っ!」

 

その瞬間、そのドアの奥で“女の子”と目が合いました。

 

「あ、あの!」

 

私はそう言おうとした途中、その子はすぐにドアを閉めてしまいました。

 

「ど、どうしたの?」

 

「先ほどの後ろのドアに女の子がいたんです!」

 

「女の子...?.........っ!」

 

金木さんは首を傾げましたが、しばらく時間が経つとあることを思い出したような顔になりました。

 

「金木さん、今の子誰ですか?」

 

「だ、誰だろうね...?」

 

「...え?金木さんは知らないのですか?」

 

「名前とか聞いたことないんだよね...」

 

金木さんはそう言うと、手で顎を触れて首を傾げました。

 

 

 

 

あの女の子の目は、“何か恐れている”ように見えました。

とても不安そうに私を見つめていた瞳が、

頭の中から中々離れられませんでした。

 

 

 

 

そう思うと私は、

 

 

 

より“あの子”に話したくなってきました。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(僕の淹れたコーヒーが良い....)

 

卯月ちゃんが帰った後のあんていく

僕はあることを思っていた。

それは先ほどの卯月ちゃんの“言葉”だけ。

まだ未熟な僕の腕なのに、なぜそう言ったんだろうか...?

 

(....まぁ、僕もがんばらないと)

 

彼女も仕事を頑張っているなら、

こちらも頑張らないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

"彼女と長く一緒にいるために"

 

 

 

 

 

 

 

 

(...ん?)

 

そんなことを考えていると、お店のドアを開く音がした。

 

「あ、金木さん」

 

僕が声をかける前に、先に声をかけられてしまった。

その方を見た僕は、口が開いてしまった。

 

 

そのお客さんは女性の方で、

 

 

 

僕は名前は知っていた。

 

 

 

 

 

 

その方の名前は、

 

 

 

 

 

文香(ふみか)さん”だった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「いいところですね...」

 

「はい....ありがとうございます」

 

文香さんはカウンター席に座り、店内を見渡していた。

でも僕は文香さんを見ることはできなかった。

まさか文香さんが訪れるなんて信じられなかったからだ。

未だに嘘のように感じられてしまう。

 

「アイドルのお仕事は慣れましたか?」

 

「はい、おかげさまで順調です」

 

「はは...そうですか。それは良かったです」

 

話の話題を出すが、すぐに途切れてしまう。

それがより気まずさを増す。

 

「....あ、そういえば、金木さん」

 

文香さんは流石に沈黙が続くのがまずいと感じたのか、“ある話題”を出した。

 

「実は、金木さんに話したいことがありまして...」

 

「話したいことですか?」

 

僕がそう聞くと、

文香さんは嬉しそうな顔つきになり、こう言った。

 

 

 

 

 

「私、“プロジェクトクローネ”に参加することになりました」

 

 

 

 

 

 

 

それは彼女にとって嬉しい知らせだった。

文香さんはとても嬉しそうに僕に伝えた。

 

 

 

僕はそれを聞いて驚き、彼女を祝福の言葉をした。

 

 

 

 

 

でも、

 

 

 

 

 

 

 

そのプロジェクトは、

 

 

 

 

 

 

 

決して良いだけじゃないと知る。

 

 

 

 

 

 

 



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disunion



今は見なくても、


そこに見えない別れが徐々に現れてくる。






 

文香Side

 

 

 

「プロジェクト....クローネ?」

 

「はい!私はそのプロジェクトに参加することになりました!」

 

私はそのプロジェクトに参加することを決め、

早速金木さんにご報告しにあんていくに訪れました。

 

「そうなんですか...おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

それを聞いた金木さんは驚いた後、私に嬉しく祝ってくれました。

そういえば私が金木さんにプロジェクトクローネに入ると言う報告だけではなく、

他に言うことがありました。

それはプロジェクトクローネに関係することでもあり、

金木さんのお知り合いのことです。

 

「他に凛さんが入る予定なんですよ」

 

「え?凛ちゃんも入るんですか!?」

 

金木さんはnew generationsの皆さんとはお友達ですので、

私はその凛さんが入ることを伝えました。

でも凛さんに関してのことで、少し"疑問"がありました。

 

「でも今の所、"正式には"入っていないんですよ」

 

「入ってない?」

 

凛さんはプロジェクトクローネ"参加する予定"ということになってます。

 

「なぜ凛ちゃんは入らないだろう...?」

 

金木さんは腕を組み、考えました。

長く関わっているなら理由はわかると思います。

 

 

 

なぜすぐに入らないんでしょうか...?

 

 

とても"良き機会"なのに

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

文香さんがあんていくにやって来て週明け、

僕は今日もあんていくで働いている。

今日は卯月ちゃんからメールが来てないため、やってこない。

 

(文香さんが大きなプロジェクトに参加か....)

 

彼女から喜ばしい知らせを聞いた時の僕は、

なんだか幸せに感じた。

彼女も表舞台に立ち上がれたこともあってか、

とても嬉しそうに僕に話してくれた。

 

 

 

 

 

 

彼女が幸せなら、

 

 

 

 

 

"僕も幸せだ"

 

 

 

 

 

 

ふとそう思っていると、お店のドアがガチャっと開く音がした。

お客さんがやってきたのだ。

 

「やぁ、金木」

 

「あ、凛ちゃん」

 

やって来たのは凛ちゃん一人だった。

彼女は少し微笑み、僕に挨拶をした。

凛ちゃんは僕が目の前にいるカウンター席に座った。

 

「.........」

 

彼女は注文もせず、ただ机に視線を向けていた。

 

「...調子どうかな?」

 

「..........」

 

とりあえず聞いて見たけど、

彼女は何も返事はせず視線を向けなかった。

どうしたのだろうか?

 

(....あのことでも話してみよう)

 

流石に何も行動を起こさない限り状況が変わらないので、

僕は再び凛ちゃんに声をかけた。

 

「えっと....凛ちゃん?」

 

「....ん?」

 

少し睨みに似た目つきで、僕を見た。

僕は凛ちゃんの視線に怯えてしまった。

未だに凛ちゃんの性格に慣れない僕は、

文香さんが話した"あのこと"を話してみる。

 

「その..."プロジェクトクローネ"に入るんだよね?」

 

 

文香さんは嬉しそうに返してくれた。

 

 

きっと彼女も同じく嬉しそうに言うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

でも、凛ちゃんは"違った"。

 

 

 

 

 

 

「....は?」

 

 

それを聞いた彼女は、決して喜ばしい顔に変わらず、

 

 

 

 

現れたのは"怒り"だった。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

「なんで金木が知ってんの?」

 

突然、あいつ(金木)が"あのこと"を口に出した。

それは私が迷うきっかけを作ったプロジェクトだ。

 

「え..?」

 

金木は私の言葉に驚いた。

まるで何もわかっていないような顔つきで見てくる。

 

「だから、なんであんた(金木)がそのことを知ってるの?」

 

本来普通の人が知るはずもないことをなぜか金木は知っていた。

私の怒りは治らなかった。

その時の私は感情に囚われていた。

 

「い、いや...それは」

 

「私は!.......っ!!」

 

なにかが私の怒りを止めたような気がした。

ふと私は気づいた。

怒りによって目が曇ってしまっていたのだと。

 

「....ごめん、金木」

 

「い、いや.....僕も悪いから..」

 

いつもより怒りが強すぎた。

強く当たることに迷いがなかった私が、

今回はなぜかそう感じてしまった。

今の私の感情は不安定だった。

 

「それで...なんで金木は知ってるの」

 

「文香さんから聞いたんだ」

 

「文香...?」

 

「同じくプロジェクトクローネをやる人だよ」

 

「...そうなんだ」

 

心が不安定なんせいか、返す言葉が頭に現れなかった。

何かが私を縛っているように感じる。 

 

「それで....なんで"プロジェクトクローネ"がダメなの?」

 

「.......」

 

理由はわかっているのに、口には出せなかった。

"いつもの私"ではないと自覚している。

まるで重い何かが口を閉ざしているように感じたんだ。

 

「......話を聞くよ。凛ちゃん」

 

「.......」

 

いつもならこんな状況ではムカついて当たりたいのだが、

今日はそうではない。

 

 

 

 

 

 

"こっちはこっちで辛いんだから"

 

 

 

 

 

 

「....裏切るかもしれない」

 

「裏切る?」

 

私は固く閉ざした口を動かした。

そのプロジェクトクローネに入ることに迷ってしまう原因の一つは、

今私が参加しているユニットのメンバーを裏切ってしまうことが恐れている。

 

「この前に来た二人覚えてる?」

 

「えっと...加蓮ちゃんと奈緒ちゃんだよね?」

 

「うん。二人もプロジェクトクローネをやるの」

 

私は加蓮と奈緒にそのプロジェクトに言われた。

でもそれに参加すれば卯月と未央に裏切るかもしれない。

もし二人がこのことを知ってしまったら......

 

「...でも凛ちゃん、僕は自らの意思でやったほうがいいと思うよ」

 

「...え?」

 

金木から意外な言葉を耳にした。

それは自らの意思でやれと言うものだ。

 

「でも、未央たちが」

 

「大丈夫だよ、凛ちゃん」

 

 

 

 

 

 

『二人ははきっと、凛ちゃんの答えに受け入れてくれるよ』

 

 

 

 

「....っ!」

 

「...それが友達だと思うよ」

 

私は金木の言葉に心が打たれたよな感覚を感じた。

それは今の迷いがある私にとって心強い言葉。

 

「僕も凛ちゃんが新しいことやっても受け入れるよ」

 

金木はそう言うと寂しそうに笑った。

 

「...ありがとう、金木」

 

なんだか私、金木の言葉に心が晴れた気がした。

何かを縛りつけたものが消えたような感覚が心地よかった。

私は自然と笑顔が戻った。

 

「それで今言うのはあれだと思うけど......何か注文あるかな?」

 

「注文?...ああ、何か頼もうかな」

 

せっかくここに来たのに何も頼まなかったら失礼だね。

うちのお店で同じことされたら少しイラつく。

 

「....."前回頼んだやつ"で」

 

「..え?前回頼んだ....やつ?」

 

それを聞いた私は、プツンと怒りが込み上がった。

 

「...ココアだよっ!バカネキっ!」

 

 

 

 

いつも金木に強く当たってしまう私

 

 

 

 

金木のドジさは怒ってしまう

 

 

 

 

 

あの頼りなさが少々気に入らない

 

 

 

 

 

 

でも金木のことは嫌いになれない

 

 

 

 

 

 

というか心の底から嫌いになれないと気づいてしまった

 

 

 

 

 

 

ほんと

 

 

 

 

 

金木はよくわからないやつ

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

凛ちゃんがあんていくにやって来て数日後のこと

僕は今日もあんていくで働いていた。

今日は卯月ちゃんはこない。

 

(....みんなに迷惑か)

 

僕は凛ちゃんの迷いを耳にして、

頭の中に残っていた。

 

 

 

 

それは"新しくやっていくことの不安"

 

 

 

 

新しくやればそれを犠牲にして何かが消えてしまう。

かと言ってその新しいことをやめれば、

それを捨てることになる。

 

 

 

 

 

 

 

"まるで今の僕みたいじゃないか"

 

 

 

 

 

 

僕がそう思っていると、

お店のドアが開く音がした。

僕はドアの方に視線を向けた時、驚いてしまった。

 

「未央ちゃん...?」

 

「金木さん!やっほー!」

 

未央ちゃんが笑顔でやってきたのだ。

それは実に彼女らしい笑顔だった。

僕は以前新宿駅で会って以来、少しだけど久しぶりに出会った。

 

「未央ちゃんが来て驚いてますな〜」

 

「ま、まぁね...」

 

もちろん僕は未央ちゃんが急に来たことに驚いているが、

先ほどの凛ちゃんのことが離れられないせいか、

気持ちがまとまらない。

 

「それで...今日は何かお話しに来たのかな?」

 

「おっ!いいこと言いますね〜!」

 

僕の予想がどうやら当たりらしい。

 

「金木さんに"報告"しに来たんだ!」

 

「"報告"?」

 

そう言った未央ちゃんは一度息を吸って気分を落ちつかせた。

 

 

 

そして口を開いた。

 

 

 

 

 

「本田未央、本日ソロデビューします!」

 

 

 

 

それを聞いた僕は、最初に胸の中に生まれたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"孤立感"だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは自らの意思で生まれたのではなく、勝手に生まれきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

度重なる彼女たちから聞く言葉が、徐々に僕の孤立感を増しているように聞こえるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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Sudden Shower

雨が降る。


そう言った彼女は夢に向かっていく。


でも僕は、


"悲劇"を見ることになるんだ。





未央Side

 

 

「ソロデビュー...?」

 

「そう、ソロデビューっ!」

 

今日金木さんが働いているにやって来たのは、

報告しに来たのと久しぶりに会話したくなったから。

この前は新宿駅で出会ったのだけど、

その時は金木さんとは長く話せなかった。

だから、今日ここに来た!!

 

「そ、そうなんだね...」

 

「すごいでしょ〜?」

 

金木さんは私の突然の報告に、少し戸惑いを見せた。

確かに急に驚くのはわかる。

だってこの報告をし始めたのは"今日"だから。

私は午前中にシンデレラプロジェクトのメンバーの前で、ソロ活動の発表した。

みんなも私の言葉に驚いた。

 

「明日から私は舞台のオーディションをやるよ!」

 

「オーディション..っ!?」

 

「そう!『秘密の花園』という舞台のオーディション!」

 

私がやるソロ活動は"舞台"だ。

持ち前の元気と明るさを活かすため、私は『秘密の花園』のオーディションをする。

確か明日の天気は、"途中から急に雨が降る"と言う予報があった。

 

「『秘密の花園』.....確か小説で読んだことあるよ」

 

「本当にですか!?」

 

「うん、結構いい作品だよ」

 

「金木さんはなんでも詳しいんですね〜」

 

「いや...ただ本を読むのが好きなだけだよ....」

 

金木さんは私が知らないことばかり知って、私にとっていい刺激を与えてくれる。

 

 

 

 

"そんな時だった"

 

 

 

 

「...ねぇ、未央ちゃん?」

 

「ん?」

 

それは不安そうな顔に変えた金木さんの一言だった。

 

「"....またみんなと一緒にやれるよね?"」

 

「え?」

 

突然金木さんの言葉に、私は呆然してしまった。

 

「それは....」

 

簡単に『できる』と言えるはずなのに、

なぜか口には出なかった。

 

「...ああ、ごめんね。変なこと言って...」

 

金木さんはそう言うと、気まずそうに少し視線をそらした。

 

「い、いや、大丈夫だよ?......金木さんも、もしかして...しぶりんから聞いた?」

 

「....まぁ..そうだね...」

 

金木さんは少しぎこちなく返した。

金木さんが言おうとしたのは、今の"ニュージェネ"のことだと思う。

"ニュージェネ"は、私としぶりん(渋谷凛)しまむー(島村卯月)三人のユニットの名前。

金木さんがそう言ったのは間違ってはなかった。

今しぶりんはプロジェクトクローネの問題を抱えていたからだ。

きっとしぶりんはプロジェクトクローネに入れば、ニュージェネはバラバラになってしまうと考えてる。

 

「...金木さんも考えてくれてるんだね」

 

「うん、凛ちゃんがとても不安そうに僕に伝えたんだ」

 

今のところ、しぶりんはプロジェクトクローネに参加はしていないけれど、きっと今も悩んでると思う。

 

「そういえばさ金木さん、私ね...こう見えて小心者でさ....なんていうか...」

 

「小心者..?」

 

しぶりんがプロジェクトクローネのことを私としまむーに伝えた時、

私は"とても怖かった"。

まるで今のニュージェネを否定されているかのように怖かった。

私はニュージェネのことはとても好き。

そのニュージェネが消えるとなったしまえば、

 

 

 

“とても嫌だ”

 

 

 

「僕には...見えないけど?」

 

「そうだよね...いつもの私は明るくて元気な子だよね...」

 

気がつくと私は笑えなくなっていた。

元気をなくしてしまった。

 

「それで...未央ちゃんがソロ活動をするのは...?」

 

「....しぶりんの気持ちを考えてたらね...」

 

私がそう考えたきっかけの言葉があった。

 

 

『わからない....』

 

 

しぶりんがプロジェクトクローネを話した時に言った言葉

あの時のしぶりんは何か断れない理由を持っていた。

受けたくてもすぐには受け入れず、

かといってすぐ断れない状況に立たされているように見えた。

 

「しぶりんもきっと...言葉にならないものを得たと思う。だから私はニュージェネのリーダとして先に進もうと思うんだ」

 

だから、ニュージェネレーションズのリーダとして先に進む。

 

 

 

 

また"3人"一緒に前に進めるように....

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

今までみんな一緒だった私が

 

 

 

 

 

 

"一人"になるのは怖い

 

 

 

 

 

見えない恐怖が私の目の前にあって、

 

 

 

 

 

光の見えない暗い森林のように、

 

 

 

 

 

 

 

“とても怖いんだ”

 

 

 

 

 

 

「....大丈夫」

 

「っ?」

 

「....未央ちゃんも新しいことに挑戦するのがいいよ」

 

金木さんはそう言うと微笑んだ。

 

「凛ちゃんが迷っているのは、"今の状況"が崩壊するのは怖いと思う」

 

「....うん」

 

「でも今よりもっと良くするには"必然"かもしれない..」

 

「"必然"...?」

 

「うん。だから未央ちゃんも新しいことをやるのを恐れずに、挑めばいいと思う」

 

それを聞いた時の私は、

金木さんの言葉がまるで"暗闇を灯す明かり"のように思ったんだ。

それは不安ばかりあった私の心にそっとやってきた"希望"のように感じたんだ。

 

「金木さん...ありがとう」

 

私は金木さん言葉を聞いて、

なんだか心にあったモヤモヤが晴れた気がした。

安心感というものを得たのだ。

 

「金木さんって"優しいね"」

 

金木さんはとても優しい人だ。

私たちの悩みを一緒に考えてくれるし、

応援してくれる。

 

「い、いや.....あ、ありがとう...」

 

金木さんは私の言葉に照れていた。

その照れは嬉しさと恥ずかしさが混じったものに見えた。

私はその姿に自然と笑った。

先ほど笑顔ができなかった私に、

気がつけば私の顔に笑顔が元に戻った。

 

「じゃあ、金木さん。未央ちゃんの活躍に応援よろしく〜」

 

「うん、応援するよ。ところで...何か飲む?」

 

「あ、そうだったね!」

 

相談したせいか、今いるところが喫茶店にいたことをすっかり忘れていた。

流石に何も頼まずに帰るのは失礼だから、私は何か頼むことにした。

 

「えーとカプチーノで、あと何かイラストつけてくれたらいいな〜」

 

「イラスト付きね....なにがいいかな?」

 

「それは金木さんセレクトで!!」

 

私がそう言うと金木さんは少し微笑みながら「わかったよ」と答えて、カプチーノを作り始めた。

その時に金木さんがカプチーノに描いたのは、可愛い猫。

それを見た私は嬉し感じ、じっくりそのイラストを見てカプチーノを飲み干した。

 

 

 

 

 

 

私は、前に出る。

 

 

 

 

 

 

"新たな自分"と"みんなと一緒にやっていく方法"を発見するために、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソロデビューという"新しい道"を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

のちに苦しむ人が

 

 

 

 

 

 

 

 

"二人"現れることを知らずに

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(未央ちゃんがソロデビュー....)

 

僕は昨日の言葉が頭から離れられなかった。

今日は彼女がやる舞台『秘密の花園』のオーディションの日だからだ。

彼女が受かるかどうか僕は不安だった。

まさで自分の子供を心配する親の気持ちだ。

 

(......"新しいこと")

 

 

 

 

 

最近凛ちゃんや文香さん、未央ちゃんに美嘉ちゃんが"新しいこと"をやり始めている。

 

 

 

 

 

 

確かにそれは彼女たちにとって"必然"かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも僕はまるで普通の日常が崩れて行くように感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

"元の場所から離れていくように"

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーあのお兄ちゃん?」

 

「...え?」

 

ふと気がつくと、"ヒナミちゃん"の何度も呼ぶ声が耳にした。

 

「ああ...ごめんね」

 

隣にいたヒナミちゃんは心配そうに僕を見ていた。

 

 

考えすぎだ、"僕"。

 

 

ヒナミちゃんは女の子の喰種だ。

先ほどヒナミちゃんの食事する姿を見てしまった。

本当に人間(ヒト)の肉を食っている光景を。

それを見た僕はびっくりしてしまい、

すぐに出て行ってしまった。

その後、謝るついでにコーヒーをヒナミちゃんのいる部屋に届けたところ、

ヒナミちゃんは"ある本"を読んでいた。

その読んでいた本は高槻作品の『虹のモノクロ』だ。

僕が好きな高槻作品の本だった。

その本をきっかけにヒナミちゃんと仲良くなった。

 

「そういえば、お兄ちゃん?」

 

「ん?」

 

「この前お兄ちゃんが話してたお姉ちゃんって?」

 

「ああ、"卯月ちゃん"ね」

 

ヒナミちゃんが気になっていたのは、僕の友達"卯月ちゃん"だ。

ヒナミちゃんはこの前はドアの隙間からこっそりと卯月ちゃんを見ていた。

 

「うづき...ちゃん?」

 

「彼女は僕の友達だよ」

 

「友達.......喰種(グール)って言うことは知らない?」

 

「....うん、そうだね」

 

僕は少し間を空けて答えてしまった。

辛く感じたからだ。

 

「どうして卯月ちゃんが人間(ヒト)だとわかるの?」

 

「ヒナミわかるよ。匂いが違うもん」

 

喰種(グール)人間(ヒト)とは違い、嗅覚が非常に優れいている。

だからお互い一体誰なのかわかるらしい。

ちなみに僕の場合は喰種(グール)人間(ヒト)の匂いが混じっているとヒナミちゃんが言っていた。

僕は卯月ちゃんに"嘘"をついている。

そう思うと胸がより苦しく感じてしまう。

 

「卯月ちゃんとは僕が喰種になる前に会っているから...言える状況じゃないよ」

 

「さっきお兄ちゃんは“元人間”と言ってたよね...」

 

突然僕に降りかかった喰種と言う名の”不幸“

しかもその不幸は一歩間違えれば全てが崩れる不幸

僕は“その時”を来ることを恐れながら暮らしている

 

「...ヒナミ、人間(ヒト)と話すのが...苦手...」

 

「そうなんだ...」

 

確かにヒナミちゃんのお母さんリョーコさんとトーカちゃん以外誰も話しているところを見たことがない。

きっとリョーコさんはヒナミちゃんに"細い綱”を渡らせないためだと思う。

 

「...でも卯月ちゃんはいい(ヒト)

 

「いい(ヒト)?」

 

「うん、彼女はとても優しい(ヒト)だよ」

 

卯月ちゃんは僕にとって数少ない大切な存在の一つ

あの時に出会った時、

まるで天使のように感じたんだ。

暗い檻の中にいた僕に、

光を射してくれたのように。

それがきっかけで僕はヒデ以外にも友達ができたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちと会うたび

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"いつか失う怖さが大きくなってくんだ”

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんだ...今度会えるかな?」

 

「んーそれはわからないな...」

 

「じゃあお姉ちゃんが来る時、ヒナミに言ってくれる?」

 

ヒナミちゃんは僕が卯月ちゃんの事を言ったせいか、

とても会いたがっていた。

僕の胸の中は会わせたい気持ちはあるが、

会わせたくない気持ちもあった。

"矛盾のある心情"がかすかに生まれてた。

 

「...いいよ」

 

「ありがとう!お兄ちゃん!」

 

ヒナミちゃんはとても満足に笑顔になった。

彼女にとって卯月ちゃんはどう映るだろうか

 

「あ、そういえばお兄ちゃん!時雨に似たこれって....?」

 

ヒナミちゃんは高槻泉の作品『虹のモノクロ』を開き、

ある文字を指で指した。

 

 

「これは”驟雨"(しゅうう)っていうんだ」

 

「しゅーう?」

 

「うん、それは」

 

 

 

 

 

 

 

『"急に降り出す、雨のことだよ"』

 

 

 

 

 

 

 

その言葉はこの後、僕たちにやってくる

 

 

 

 

 

 

 

 

その同時に"悲劇"も来ることを知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





お知らせです。


いつも読んでいただきありがとうございます。

大変申し訳ございませんですが、

今後の方針で月山編を書くのをやめ、次に行こうか検討してます。
(もしくは省略してやるか)

理由としてはシンデレラガールズのストーリに沿ってやると、
時間が足りないのではないかと考えたからです。

月山がお好きな方はもうしわけございませんですが(月山がアイドルたちと会ったら...というのは考えてませんが)、ご了承ください。

なにかご質問かもしくは感想がありましたら書いてくださいましたらありがたいです。







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Mother and Daughter



愛する人の失う悲しみ



僕は彼女の心に植え付けてしまった






未央Side

 

 

 

(やっぱり、雨が降ってきたー)

 

 

 

 

それは今日、天気予報で耳にした。

今日の東京は午前中は曇りで、午後には雨が降るという予報だった。

私は家から出る時に傘をもってきたので、ビショ濡れになる心配はなかった。

 

(さてと、金木さんに報告しないと...)

 

私はポケットからスマホを取り、

金木さんの連絡先をタッチした。

今日はオーディションをして、

後は結果を待つだけ。

私はオーディションが終わったことを、

金木さんに報告することにした。

 

 

 

今は夕方ごろだから、

金木さんはバイトしているかも

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

(あーなんで雨降ったんだろう?)

 

あたしは今日のお仕事をやり終わり、

今、家がある20区に向かっていた。

あたしは少々不満を持ちながら、傘を差していた。

今日の天気予報では雨は降るということは知っていたけど、

髪が乱れるから雨は好きじゃない。

私は少し濡れた髪を指でくるくるしながら、

雨が降る街に歩く。

 

(最近、カネケンさんに会ってないなー)

 

お仕事の関係もあるし高校三年生というせいか、とても忙しい。

教室に来ても周りが誰も話さずに静かだし、

先生から『お前は受験生だろ』とか『もっと受験生らしくしろ』などガミガミうるさい。

これこそが"THE 受験生シーズン"というものだね。

 

(まぁ、そんなだったら明日カネケンさんと会おうかな?)

 

そんなつまらない状況だったら、"朝から"楽しいことしよう。

あの"あんていく"と言う場所ではなく、別の場所で会おうか考えた。

"あんていく"で会うのはいいかもしれないが、

それだったら視線を感じて、カネケンさんは緊張をするかもしれない。

だから私は、明日カネケンさんを呼び寄せようと思う。

 

(どれだったら、たくさんお話ができるからいいや♪)

 

 

 

 

 

そう感じたその時、

 

 

 

 

(...ん?)

 

するとあたしの横に、"誰か"が走り去っていた。

濡れたアスファルトをびしゃびしゃと踏み出す音が私の耳に響き、傘も差さずに雨が降る街に走っていった。

 

(なんだろ..?"あの子"?)

 

走り去っていったのは、"女の子"。

身長と顔つきだとだいたい"中学生"に見えた。

あの走り方だと誰か探しているには見えず、

むしろ"何か"から逃げているように見えた。

 

(....なんだろ?)

 

 

 

 

雨のせいで鼻がが鈍く感じるけど、

あたしはふと何かに気づいた。

 

 

 

 

(..."変な匂い"がした)

 

 

 

あの子から

 

 

普通の人とは違う"匂い"がしたんだ

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Side

 

 

僕はバイトが終わり、

雨の降る帰り道に僕は歩いていた。

夕方ごろに雨が降ると未央ちゃんが言ったおかげで、

僕は傘を差し、ずぶ濡れになることを防いだ。

 

(トーカちゃんが来るんだね...)

 

僕があんていくに出る時、

店長から『明日からトーカちゃんがあんていくにやって来るよ』と僕に伝えた。

しばらくテスト勉強期間であんていくに来なかった。

あの当たりの強い日々が帰って来るのは少々辛い。

 

(精神的には"コマさん"の方がいいんだけど...)

 

コマさんはあんていくで一緒に働いている男性で、

時々自分を『魔猿』と自ら言うが、

温和の性格が中々想像が結びにくい。

 

僕が歩むに連れて、雨が強くなっていた。

空は暗い雲に覆われ、なぜか少し不安になった。

僕にとって雨のイメージは“誰かの涙”に見えてしまう。

 

(ん?誰だろう)

 

そう感じていると僕の携帯から着信音がした。

だいたいこの時間に着信がくるのは、

おそらく"あれ" しか考えられなかった。

 

(あ、やっぱり"未央ちゃん"からだ..)

 

携帯を開くと、その届いたメールの返信者は未央ちゃんからだった。

おそらく未央ちゃんが受けていたオーディションが終わったと思う。

いい出来なのか悪い出来かと思うと少々開くのに躊躇してしまう。

だんだんと強くなって来る雨がまるで僕に急かしているように聞こえる。

 

(...よしっ!開こう!)

 

僕は気持ちを改め、メールを開くことにした。

 

 

 

 

それを開こうとした瞬間

 

 

 

「いやー俺、"喰種"(グール)って初めて見たよ」

 

「!!」

 

それは隣に通りかかった人の会話に耳を傾けてしまった。

二人の男性が話している会話は、普通の会話で上げることない話題だった。

 

「見た目はまんま人間だったなー」

 

「バケモンになってからはヤバかったけど...」

 

「どうせならもっと見たかったよな」

 

僕はそれを耳にして、

胸の中に"嫌な予感"を生み出してしまった。

それは現実になってほしくない"予感"。

 

(..?)

 

そして道端にあるものが落ちていた。

それは濡れてしまったノート。

ノートに書いてあった名前に僕は、

さらにその嫌な予感が胸の中に大きくなってしまった。

 

(...."ヒナミちゃん")

 

それはヒナミちゃんが持っていたノートだった。

先ほどお母さんのリョーコさんと一緒にあんていくに出た様子が頭に重なった。

 

 

 

 

 

 

まさか...

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

346プロダクションのトレーニングルーム前、

私は一人いました。

外が雨のせいか、室内はいつもより暗かったです。

 

(凛ちゃん...未央ちゃん......)

 

先ほど私は凛ちゃんとここで話していました。

その会話した話題は、プロジェクトクローネに関することでした。

凛ちゃんは昨日、私と未央ちゃんにプロジェクトクローネのついて話しました。

それを聞いた私はどうすればいいのかわからず、明確な答えが出ませんでした。

 

(..........未央ちゃんは確かオーディションでしたね)

 

その凛ちゃんの話を耳をした未央ちゃんは、

不安に駆られたのか私と凛ちゃんの元を飛び出しました。

未央ちゃんは私たちと一緒に進みたかったという思いを持っていたからです。

後日、未央ちゃんから出た言葉は、“ソロデビュー”をすることでした。

私たちと一緒に進むため、自分の成長が必要というものでした。

未央ちゃんは今日はオーディションで事務所にいません。

 

 

(凛ちゃんも新しいことやってる...)

 

 

先ほどの凛ちゃんの様子は、

“いつもの感じ”じゃないと思いました。

いつもなら不安がるようなことをしない凛ちゃんが、

迷いを抱えてました。

新しい事をやれば、

“今”を壊してしまうという恐れを抱えていました。

 

 

 

 

(.......“新しいこと”)

 

 

 

 

 

 

二人の共通していること

 

 

 

 

 

それは

 

 

 

"新しいこと挑んでいる"

 

 

 

 

なぜかその言葉は自然を消えず、

胸の中に留まっていました。

 

(.........)

 

そう考えると、私は"暗く"感じてしまいます。

心から嬉しくなるっという感情がなぜか生まれませんでした。

 

 

(.....私は)

 

 

自分の手のひらに視線を向けた私

どうしてそこに視線を向けたのわからない

その時、外の雨が強くなっているように聞こえた

 

 

無数に降る雨の音が、今の自分の心を写しているように

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

 

思わず叫びそうになった

 

 

 

 

僕がヒナミちゃんとリョーコさんの元にたどり着いた時

 

 

 

 

 

もう遅かった

 

 

 

 

 

 

ヒナミちゃんのお母さんリョーコさんはもう力が尽きてしまい

 

 

 

 

 

捜査官にトドメを喰らおうとしていた

 

 

 

 

 

 

僕はヒナミちゃんをお母さんの元に行かせないように

 

 

 

 

 

 

彼女を抑えていた

 

 

 

 

 

 

 

でもその時の僕は

 

 

 

 

 

何もすることができず

 

 

 

 

 

ただその光景を見ていたんだ

 

 

 

 

無力の僕は、なにすればいいか焦って考えた

 

 

 

 

 

店長もトーカちゃんが来ない状況どうすればいいか

 

 

 

 

 

 

だが時間は

 

 

 

 

 

待ってはくれなかった

 

 

 

 

 

 

 

リョーコさんはこの後

 

 

 

 

 

捜査官の手によって

 

 

 

 

 

 

殺された

 

 

 

 

 

 

 

飛び散った赤い雫が雨に混じり

 

 

 

 

 

 

濡れたアスファルトに染み付いた

 

 

 

 

 

その光景を見たヒナミちゃんは

 

 

 

 

 

 

その悲しみは、愛する人を亡くした悲しみ

 

 

 

 

 

 

僕に出来ることは

 

 

 

 

 

 

この光景を

 

 

 

 

 

 

彼女に見せないようにすることぐらいだった

 

 

 

 

 

僕は

 

 

 

 

 

 

"何もできなかった"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Confinement




監禁


自分を責める

責めれば責めるほど自分の殻に閉ざしてしまう

それはまるで檻にいるかのように





 

金木Side

 

 

 

 

あの時の僕は、何も出来なかった。

 

 

 

 

目の前で愛する人を見殺しにしてしまった。

 

 

 

 

 

あの悲劇を止めることができなかった。

 

 

 

 

 

 

僕は

 

 

 

 

僕は

 

 

 

 

 

 

"何もできなかった"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....?」

 

僕は重いまぶたを開くと、携帯の音がなっていることに気がついた。

 

(....メール?)

 

その音は着信の音なのだが、

まるで目覚ましに音に聞こえた。

 

(...朝か)

 

窓に視線を向けると、

暗闇だった空がきれいな青空へと変わっていた。

どうやら僕は寝落ちしたようだった。

 

(誰かな...?)

 

携帯を開き、そのメールに目を通すと、それは"ある人物"からのメールであった。

 

 

 

 

 

 

(....志希ちゃん?)

 

 

 

 

 

それは"志希ちゃん"からのメールであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(ここが志希ちゃんのアパート...?)

 

僕は志希ちゃんから送られた地図を頼りに、

志希ちゃんが住んでいるとされるアパートに着いた。

なんかアパート言うより、マンションと言ってもいいぐらいに妙に大きく感じた。

僕は彼女が住んでいると思われるアパートの部屋まで足を運んだ。

踏み出すたび鳴り響く僕の足跡が、妙に気味が悪く聞こえた。

それは"昨日の悲劇"の影響かもしれない。

心がまだ安定していない。

 

(あ、ここかな..?)

 

メールに書かれていた部屋の番号に着いた、僕。

メールでは鍵はかかってないらしい。

 

(あ、確かに開いてる...)

 

メールの通り、ドアが開いていた。

さすがに昨日の夜からドアを開けてはないだろうと少し心配であった。

その同時に実際はもう既に起きているではないかと疑う。

 

(....あそこかな?)

 

ドアを開けると、まっすぐの廊下が僕の目の前に映る。

多分、このまま真っ直ぐに向かえば志希ちゃんが眠っているだろう。

 

(右のドアは...トイレかな?)

 

右にもドアがあるがアパートの外観を見れば、おそらくそこに志希ちゃんは眠ってないはず。

 

(それにしても....志希ちゃんは一体何したがってるだろう?)

 

彼女が家に呼ぶとすれば、きっと何か企んでるに違いない。

志希ちゃんならやりそう

 

 

 

いや、彼女なら絶対やる。

 

 

 

(まぁ...さっさと起こして大学に行かないと...)

 

今日は普通の平日であり、今の時間帯はもうそろそろ授業が始まってしまう。

というか高校だったらもう既に授業が始まっている。

志希ちゃんもさっさと起こさないとまずい。

 

「志希ちゃ.....」

 

ドアを開け声をかけた瞬間、僕は言葉を止めてしまった。

 

「....っ!!」

 

あることに異変に気づいた。

それは鼻に入った空気だ。

その空気を吸った僕に、

 

 

 

"吐き気"が襲いかかったのだ。

 

 

 

(.....!!)

 

僕は必死に口を抑え、部屋から出た。

先ほどトイレがあると思われるドアを開いた。

そのドアを開くと予想通りにトイレがあった。

 

「おえぇぇっ!!!!」

 

僕はトイレに向かい、腹にあった嘔吐物を吐き出した。

とてつもなく気持ち悪さが僕を襲った。

それは匂いを感じる前に、吐き気というものを頭に先に生まれた。

気分がとても悪くなった。

 

 

 

「大丈夫?カネケンさん?」

 

 

 

「...っ!」

 

歪んだ視界が徐々に回復すると、

志希ちゃんが僕の背中をさすっていた。

 

「やっほ〜カネケンさん」

 

志希ちゃんはこの無様な僕の姿でも気にせず、何もなかったような顔つきで挨拶をした。

 

「な...何この匂い...」

 

「匂い?あー、"試作品の香水"だよ?」

 

「香水...?」

 

香水にしてはとてもおかしい。

あの外国人がよくつける独特の甘い香水とは違い、

本当に拒絶したくなるような気持ち悪くなるものだった。

 

「やっぱ"試作品"だから、匂いはダメだったみたいね」

 

「う、うん.... 匂いがきつかった」

 

志希ちゃんはそういうと「やっぱりなんだ」とにゃははっと彼女らしく笑った。

 

「じゃあ換気するね〜」

 

志希ちゃんはそう言うと、部屋の窓を開く。

徐々に吐き気がする匂いが薄れていった。

 

「カネケンさん?」

 

「...ん?」

 

「立ち上がれそう?」

 

「......大丈夫だね」

 

お腹にあった嘔吐物が消えたせいか、ある程度体調が戻った。

と言っても僕が食べているものは、彼女には言えない。

 

「じゃあ、ここに座って〜」

 

志希ちゃんはそう言うと、ベットにパンパンっと叩く。

 

「う、うん...」

 

「ん?どうしたの?」

 

「い、いや...流石に人のベットの上に座るには...」

 

さすがに女の子のベットに座るのは抵抗があった。

だが彼女は....

 

「問題ないよ?この前あたしはカネケンさんのベットで寝たし、カネケンさんもあたしのベット座ってもいいじゃん」

 

「そ、そうだけど....」

 

そう言った僕は結局、志希ちゃんのベットに座った。

何しているんだろうか、僕。

 

「いや〜カネケンさん久しぶり〜」

 

「ひ、久しぶり...志希ちゃん」

 

相変わらず子供っぽい感じに、"悲劇“をみた後の僕に初めての安心感を得た。

 

「ど、どうして僕を呼んだの?」

 

「だってカネケンさんが働いているところで会話したら、カネケンさんは緊張で喋れないじゃん」

 

「ま、まぁね...」

 

確かにいつも卯月ちゃんや他の人が来ると緊張してしまう。

後からだんだん緊張は薄れていくけど、やっぱり初めは感じてしまう。ちなみに今も緊張はしている。

 

「それであたしの住んでいるところで呼んだらいいんじゃないかなって思ってカネケンさんを呼んだの」

 

「そうなんだ.....ところで志希ちゃんってやっぱり化学が好きなんだね」

 

ベットの隣には薬品が入った瓶がずらりと並んでいて、

机には調合したと思われる痕跡があった。

まるで研究室にいるように見えた。

 

「カネケンさんはあたしとは正反対で、本がいっぱいあるもんね」

 

「そ、そうだね....この前に僕のアパートに泊まったからね」

 

初めて志希ちゃんと出会った日、僕は彼女と一緒に僕の住んでいるアパートで一夜を得た。

決していやらしいことはやってないが、結構大変だった。

 

「本当にカネケンさんは"文香ちゃん"にそっくり〜」

 

「......文香さん」

 

僕はその言葉に"あること"を思い出してしまった。

それは目を背けたくなるような話題。

 

「あっ、そういえば文香ちゃんってプロジェクト・クローネに参加するよね〜」

 

「....そうだね」

 

最初それを耳にした時は嬉しかったのだが、

時間が経つにつれて、寂しさと孤独を一層感じるようになったんだ。

 

「それで...志希ちゃんも何かいいことあった?」

 

僕は胸の奥に彼女も同じく"文香さんのようなこと"がないことに密かに祈っていた。

凛ちゃんや未央ちゃん、美嘉ちゃんの同じようなことが口にでないことを。

僕は志希ちゃんからそのことを口から出ることに恐れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、僕の望みは叶えられなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーなんか来年新しいユニットに入れるみたい」

 

「....新しいユニット?」

 

「うん。だからあたしは今、待機状態みたいなものかな?」

 

「..........そうなんだ」

 

志希ちゃんもいずれ“新しいこと”をやる。

そう思うとだんだん笑えなくなった。

 

「どうしたの?元気ないね?」

 

「え?」

 

嬉しそうな顔つきをしていた志希ちゃんが、いつの間にか疑問を持ったような顔つきになっていた。

 

「い、いや...別になんでもないよ...」

 

僕は最近、新しいことをやることに嬉しく感じられなくなっている。

文香さんや凛ちゃん、未央ちゃんのことを耳にしたせいか

 

 

 

それと"もう一つ"理由があったんだ

 

 

 

 

それはここでは言えないこと

 

 

 

 

昨日あった“悲劇”のことだ。

 

 

 

 

 

 

何もできなかった僕の"無力さ"

 

 

 

 

 

 

僕は助けることができなかった後悔を抱えていた。

 

 

 

 

 

「...ふーん」

 

何か企んでそうな目つきなっていた。

 

「"なんでもないか"...」

 

「.....え?」

 

僕は志希ちゃんの行動に不思議に感じたことがあった。

それは志希ちゃんはなぜか“顎をこするよな仕草”をしたのだ。

その仕草をわかりやすく堂々とやっていたのだ。

一見ただの仕草に見えるが、何かおかしく感じた。

どうしてかはわからないけれど。

 

「まぁ元気はないことは良くないしっ!」

 

志希ちゃんはそう言い、ベットから立ち上がった。

 

「今からコーヒー作るね〜♪特製志希ちゃんブレンド〜♩」

 

志希ちゃんはそう言うと、棚からあるものを出した。

出したのはどうみても市販のコーヒーだった。

彼女は何も他の豆を混ぜず、マグカップに入れた。

 

「志希ちゃん...?」

 

「ん?」

 

「それって...市販のヤツじゃ..」

 

「別にいいじゃん!あたしがコーヒーを淹れるのだから」

 

「う、うん...わかったよ」

 

彼女の見えない圧力のせいか、

僕は否定することはできなかった。

僕は志希ちゃんが何か変な薬品を入れるのかと不安そうに覗くよう見たが、

結局変な薬品は入れなかった。

マグカップに入れたのはコーヒーとお湯のみであった。

 

「はい、カネケンさん。志希ちゃん特製ブレンドコーヒ〜♪」

 

「あ、ありがとう...」

 

僕はコーヒーが入ったマグカップを受け取った。

コーヒーは唯一僕が口にすることができるもの。

喰種(グール)になった僕にとって"姿"を隠せる道具にも使える。

 

「えっと...志希ちゃん?」

 

「ん?」

 

「砂糖入ってないよね?」

 

「うん、入れてないよ?」

 

もしコーヒーに砂糖を入れてしまえば、

コーヒーが嘔吐した液体の味に変化してしまう。

たとえ"微糖のコーヒー"でも

 

「カネケンさんってブラック好きなの?」

 

「ま、まぁ..そうだね」

 

「ふーん....結構大人だね〜」

 

志希ちゃんはそう言うとにゃははっと笑った。

 

僕はこうして喰種(グール)だとバレてしまわないようたとえ嘘をついてでも回避しなければならない。

ヒデや卯月ちゃん、凛ちゃんなどの友達と”長く”過ごせるためにも

 

「そう言えば、カネケンさん?」

 

「ん?」

 

「最近卯月ちゃんとか会ってる?」

 

「卯月ちゃん?」

 

志希ちゃんが卯月ちゃんのことを聞くことに不思議に感じた。

 

「だいぶ会ってるよ...他の子よりも」

 

「ふーん、そうなんだ....」

 

「.....どうして卯月ちゃんのこと?」

 

「今度また会ってみたいなーって思って」

 

「会ってみたい?」

 

卯月ちゃんと志希ちゃんがお互いあったのは一度だけなのだが、

再び会いたくなったのはなぜだろうか?

 

「だって、卯月ちゃんも"いい匂い"がしたんだもん」

 

「"いい匂い"...?」

 

「なんかねーカネケンさんと同じ匂いっ!みたいなものを感じたの!」

 

そう言えば僕と初めて出会った時、志希ちゃんは僕を追いかけていた。

その理由は僕から"いい匂い"がするからであった。

あの時は卯月ちゃんからもらった香水を体につけていたのが原因であった。

 

「まさか、あの時つけた香水とか言ったり..」

 

「いや、そう言う"わかりやすい匂い"じゃないよ?」

 

「え?」

 

僕は志希ちゃんの言葉に変に感じてしまった。

もしかするとよく本である比喩表現なのだろうか?

もしそうなれば、一体どういう意味だろう?

 

「まぁ、カネケンさんは卯月ちゃんと同じ匂いがあるっと頭のどこかに置いといてね♪」

 

「う、うん....わかったよ...」

 

それを聞いた僕は答えがわからない時に現れるがモヤモヤが胸にこもった。

彼女は一体何を感じたのだろうか?

僕が腕を組んで考えてると、

 

 

 

 

 

 

 

 

"あること"を忘れていたことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「....ねぇ志希ちゃん?」

 

「ん?」

 

 

 

 

『....学校行かないの?』

 

「あっ」

 

それを聞いた志希ちゃんは思い出したような顔つきなった。

完璧に忘れていた顔であった。

高校の時間的にはもうそろそろ二限が始まる時間帯であった。

 

それから僕は彼女が支度するのを少し手伝い、なんとか家から出させた。

いつもなら志希ちゃんは急ぐようなことをしないのだが、

今日はかなり支度に急いでいた。

なぜなら今日の二限は好きな化学の授業だったのだ。

志希ちゃん曰く、それがないと生きれないっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば僕は彼女の家から出るまで、"ある疑問"を持っていた。

 

 

 

 

それは最初に感じた"あの匂い"

 

 

 

 

嘔吐をしたくなるほどの気持ち悪い匂い

 

 

 

 

 

あの"匂い"は一体なんだろうか....?

 

 

 

 

 



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Savage



正しさ



この世界はどちらかが悪でどちらかが正義だなんて、


はっきり言えないんだ。






 

卯月Side

 

 

お仕事が終わった昼下がり、

私は金木さんが働いているあんていくに足を運んでいました。

最近の事務所内では秋の定例ライブが近づいているせいか他のお仕事が終わるのが早いです。

 

(今日はトーカさんもいるかな...?)

 

そういえば、つい最近まではトーカさんとは出会っていませんでした。

その時のトーカさんは定期テストの勉強でお店にいかなったでした。

ですので、今日はおそらくいらっしゃると思います!....多分!

そう思っていると、金木さんが働いているあんていくに着きました。

 

 

 

 

できれば"あの女の子"にも会いたいです。

 

 

 

 

(よしっ!今回も話しましょっ!)

 

私は少し息を吸いこみ、お店のドアを開きました。

 

 

 

 

 

 

ドアを開いた先にいたのは....

 

 

 

 

「え?」

 

私はそれの先を見て、驚いてしまいました。

ドア開けて最初に目を向けたのは、金木さんとお話ししていた人。

 

 

その人は一度私と会話をしたことのある方でした。

 

 

「おっ!やっぱり来たね〜卯月ちゃん♪」

 

 

 

そこにいましたのは、"一ノ瀬志希”(いちのせしき)さんでした。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いやー卯月ちゃんが本当にここにくるとはね〜」

 

「は、はい....そうですね...」

 

志希さんが座る隣のカウンター席に座りました。

というかそれは志希さんの強制でした。

接する機会が少なかったせいか緊張がありました。

 

「あの..金木さん」

 

「ん?」

 

「どうして志希さんがここに来ると言わなかったのですか?」

 

「え?」

 

金木さんは私の言葉に少し慌てた顔になりました。

私は”事前に誰かが来たら伝えてください”と一言も言ってませんですが、

せめて誰かが来ることに伝えて欲しかったです。

 

「えっと...志希ちゃんが勝手にやってきたんだよね...」

 

「勝手に...ですか?」

 

「うん....志希ちゃんはそう言う性格だからどうしよもできないんだよ....」

 

「そうっ!あたしは結構適当だし〜」

 

志希さんはそう言うとにゃははっと笑いました。

確かに初めて会った時は結構絡みが強いかったです.....

 

「それで...どうして志希さんがここに?」

 

前回は金木さんが事故に巻き込まれたことをご報告してくださいましたが、

今回は何か言うことはあるのでしょうか?

 

「志希ちゃんが卯月ちゃんに"会いたい"って言ってね」

 

「私にですか?」

 

それを耳にした時、私は不思議に感じました。

私に思い当たることはありませんし...

 

「...あの金木さん」

 

「ん?」

 

「少しお手洗いに行っていいですか?」

 

「お手洗い?....うん、いいけど...?」

 

私は事務所からそのままあんていくに向かったので、

トイレに行く暇はなかったです。

あまりにもあんていくに行きたかったせいかすっかりそれを忘れていたかもしれません。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

卯月ちゃんはそう言うと席から離れた。

なんだか志希ちゃんがいることで不慣れな感じに見えた。

 

「あやや、あたしのせいで緊張しちゃったかも」

 

「そうかもね...」

 

「カネケンさんひど〜い」

 

「あ、ごめん...」

 

志希ちゃんを少し怒らせてしまった。

....と言っても半分ふざけているような怒り方だけど。

そんな時、二階から誰かが降りて来た。

 

「あ、"トーカちゃん"」

 

「........」

 

二階からやって来たのはトーカちゃんだった。

僕の返事を返さず、店内を見渡していた。

相変わらず冷たい態度が空気で伝わる。

 

「他の客が来たらちゃんと接客しろよ」

 

「わかったよ」

 

そう言うとトーカちゃんは上に上がって行った。

そういえば今日トーカちゃんはなぜか上にいる時間が長いように思えた。

お客さんがあまり来ないからいるのかな?

 

「.......」

 

その時、志希ちゃんはトーカちゃんに目つきを変えた。

それはまるで何か気づいたような感じに

 

「カネケンさん、カネケンさん」

 

「ん?」

 

「ちょっと耳貸して」

 

「え?」

 

僕は志希ちゃんに言われた通り、片方の耳を前に向けた。

彼女から聞いた言葉

 

 

 

 

 

 

 

それは驚くものだった

 

 

 

 

 

 

 

『...え?"ヘモグロビン"?』

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

「うんっ、あの子からその匂いがしたよ?」

 

あたしはカネケンさんに気づいたことを言った。

名前は知らないけどあのショートの子から妙に"そのような匂い"がしたのだ。

柔軟剤のいい香りの中に、あの"鉄臭い"においがしたのだ。

 

「え?どうしてそれを?」

 

カネケンさんは本当に驚いたような顔であたしの聞いた。

その顔は何か恐れたような顔にも似ていた。

 

「なんか志希ちゃんのお鼻から感じたんだよね〜」

 

あたしはそういうと砂糖を"三杯"入れたカプチーノを飲んだ。

とても甘くて、コーヒーの味を壊しかけていた。

 

「.....そ、そうだなんだ」

 

金木さんはそう言ったのだけれど、

なぜか顔色は変わることはなかった。

どこか不安そうな顔つきが変わることなかった。

 

(.....行かせてみようかな?)

 

取り敢えずあたしの予想を言うことにした。

さすがにこの状況だと変わることなさそうだから。

 

「多分、その子は怪我してるんじゃない?」

 

「怪我?」

 

匂いはほんのりした程度で、おそらくガーゼか何かで傷口を塞いでいるかも。

 

「だからカネケンさんも上に上がったら?」

 

ちょうど店内はお客さんはあたしと卯月ちゃんしかいないため、

今上がった方がよさそうかも。

と言うかじっくりと卯月ちゃんと会話できる機会を作れるし。

 

「...わ、わかったよ」

 

カネケンさんはそう言うとさっきのショートカットの子と同じく上に上がった。

カネケンさんが一体どういった感じにその血液のことを話にあげるか想像するだけで面白い。

 

(それにしても....どうしてあの香りがしたんだろう?)

 

ヘモグロビンに似た香り、いや血。

あたしは疑問に感じていた。

普通なら嗅げないほどのものなのだが、

もしかすると大きな傷を負ったかそれとも手当の仕方が悪いのかもしれない。

 

(まぁ、もしかすると運動が好きな子だったりして〜)

 

あたしの予想だけど、あの子の見た目は運動好きっぽく見える。

きっと何か"ミス"をして怪我したかも?

 

そう考えていると、トイレの水が流れる音がした。

もうそろそろ卯月ちゃんが戻って来る。

 

 

 

 

そして、あたしと卯月ちゃんの時間が始まる。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

「あれ?金木さんは?」

 

私がお手洗いから出た時、店内は志希さんと私だけでした。

金木さんの姿はありませんでした。

 

「カネケンさんはどっか行っちゃったね〜」

 

「え!?どっかにですか!?」

 

「大丈夫〜コーヒーに使う豆を切らしちゃたから上に行っただけだよ」

 

志希さんはそう言うとにゃははっ!と笑いました。

 

「そ、そうですか.....」

 

私は少しぎこちなく返し、席に座りました。

今店内にいるのは私と志希さんだけで、

一方的に絡まれると察しました。

 

「まぁ、緊張しないしな〜い」

 

志希さんが私の両肩をポンポンと軽く叩きました。

中々馴染めないです。

 

「えっと...志希さん?」

 

「ん?」

 

「どうして私に会いに来たのですか?」

 

志希さんが私に会いたかったその理由が一番知りたかったです。

きっと何か重要なことだと思いますが.....

 

「それはね....今あたしとお話できる人がいなんだよね〜」

 

「お話できる人がいない?」

 

「例えば"フレちゃん”と"シューコちゃん"、"奏ちゃん”に"文香ちゃん"はプロジェクト・クローネで忙しいし、"美嘉ちゃん"はクローネと同じく秋の定例ライブに向けて忙しいんだよね〜」

 

「は、はぁ...」

 

志希さんはぼそっと「文香ちゃんと美嘉ちゃんと遊べないのはつらい」と言いました。

 

「それで今暇な人と言うと、カネケンさんと卯月ちゃんぐらいかな〜って思ってここに来たの!」

 

「そ、そうですか....」

 

確かに私も自分でも言うのはあれですが暇なことはあります。

今の所、美穂ちゃんとお仕事をしていて、

ニュージェネレーションズでお仕事は今の所停止している感じです。

凛ちゃんはプロジェクト・クローネで、未央ちゃんは舞台の練習をしています。

 

「あの...」

 

「ん?」

 

「志希さんって文香さんと美嘉さんとは仲いいのですか?」

 

「うんっ、結構いい友達なんだよね〜」

 

志希さんはそう言うとにゃははっと笑いました。

先ほどぼそっと言ったので、私はそれについて聞きました。

 

「だって、カネケンさん関連で仲良くなったからね♪」

 

「...え?金木さん関連...?」

 

私はそれを耳にして驚きました。

確かに美嘉さんは金木さんとは知り合ってます。

文香さんに関しては会ったことありませんでよくわからないです。

 

「そーそー、文香ちゃんはカネケンさんとは同じ大学で出会って、美嘉ちゃんは卯月ちゃんの初ライブ後に出会い、あたしはカネケンさんを追いかけてたら出会ったんだよね〜」

 

「そうな....え?追いかけてた?」

 

「そう!いわゆるストーカーってやつっ!」

 

志希さんは堂々と言いました。

やはり志希さんは不思議な方だとますます感じます。

 

「それで....金木さんとはお友達関係ですよね?」

 

「まぁ、友達以上恋人未満ってやつかな?」

 

「え!?」

 

その発言に思わず驚いてしまいました。

 

「あっ、言い方が悪かったね。ふつーに仲が良いお友達同士みたいなものだよ」

 

「そ、そうですか...」

 

「例えるなら..."カネケンさんと卯月ちゃん"っみたいな?」

 

「”私と金木さん”...?」

 

その言葉に私は疑問を持ちました。

一体どう言うことですか?と聞きましたが、

志希さんは『ご察しを〜』と答えてくれませんでした。

取り敢えず..."仲がいい"と言う意味に捉えることにします....

 

「卯月ちゃんはカネケンさんとはいつから知り合ったの?」

 

「えっと...四月頃ですね...」

 

「四月頃?結構長いね〜♪あたしは五月だよ」

 

「一ヶ月違いですか...」

 

しかし、志希さんの質問攻めは止まりません。

 

「それで...卯月ちゃんは何がきっかけで出会ったの?」

 

「金木さんと出会ったのは、凛ちゃんの両親がやってるお花屋さんなんですよ」

 

「凛ちゃんの家ってお花屋さんなんだ〜いいな〜」

 

「え?どうしてですか?」

 

「あたし匂いを吸うのが好きなんだよね〜♪」

 

志希さんはそう言うと『特にいい匂いが好き』とにゃははっと笑いました。

 

「そのお店でなんかお花を買った?」

 

「はい。アネモネを買いました」

 

「アネモネ?」

 

あのお花はとても綺麗なお花でした。

紫に白のお花で、凛ちゃんから聞いた花言葉が素敵でした。

 

「そのアネモネの花言葉は...期待と希望...だと思います」

 

「ふーん、結構いい花だね♪」

 

それはあの時アイドルになれた私にとってぴったりな言葉、

まさにその花言葉でした。

 

 

 

 

 

しかし志希さんは驚くことを言いました。

 

 

 

 

 

「それで....そのアネモネの花言葉は"それだけ"かな?」

 

「え?」

 

「志希ちゃん的には、その花のことをもっと知りたいという欲求がまだ残ってるんだよね〜」

 

志希さんはそう言うとにゃはははっと笑いました。

なんだか少し変に感じました。

普通ならそこまで調べる必要がないのに、なぜか志希さんは調べたがっていました。

 

「とりあえず、スマホでパッパッと調べてみようか」

 

志希さんはそう言うとスマホを人差し指で動かす仕草をしました

スマホを開き、そのアネモネの意味を調べました。

 

 

 

 

 

そこに出てきた、もう一つの意味は....

 

 

 

 

 

 

『"見捨てられる"....?』

 

 

 

 

 

 

 

 

それは他の意味とはかけ離れた悪い言葉でした。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

金木Side

 

 

僕は志希ちゃんに言われ、トーカちゃんの元に向かった

 

 

 

 

 

 

そしたらあることが発覚した

 

 

 

 

 

 

 

それはトーカちゃんが怪我したことがわかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

その傷は捜査官と戦った時に負った傷だと

 

 

 

 

 

 

ヒナミちゃんのお母さん"リョーコさん"を殺した捜査官を殺害しようしたが、

 

 

 

 

 

 

 

"ある捜査官"が入ったことにより一人しか殺せなかったと

 

 

 

 

 

 

ヒナミちゃんとリョーコさんみたいな喰種が殺されるなんて間違ってはない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも喰種は反社会的生き物

 

 

 

 

 

生きる資格はない

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそれは人間であった僕の考え方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の僕の考え方は変わった

 

 

 

 

 

 

 

 

喰種の世界に入ったことで喰種の気持ちがわかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喰種は人間と同じく意思を持っている

 

 

 

 

 

 

 

 

だから喰種みんなが悪いと言うのはない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はある言葉をトーカちゃんに伝えた

 

 

 

 

 

 

 

それはあの悲劇を見た僕が言える言葉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何も出来ないのは、もう嫌なんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの悲劇を再び起こさないよう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"僕"が止めないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば僕はあることを疑問に感じていた

 

 

 

 

 

 

それはトーカちゃんの傷を知るきっかけになった志希ちゃんだ

 

 

 

 

 

 

志希ちゃんの言葉が普通なことではないことに疑問に感じたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

普通の人間が血の匂いを服を越して感じることなんて考えにくい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思うと僕は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女のことが

 

 

 

 

 

 

 

怖く感じてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Condolences

かすかに震えがくる

それは秘密が明かされる恐怖と離れてしまう怖さが、

震えを生み出しているんだ





美嘉Side

 

 

アタシは電車から降りると、早速腕を伸ばした。

電車内の曇った空気に少しうんざりしていた、私。

電車から出た時の秋の空気が心地よく感じられた。

 

(あー今日もレッスン疲れたな〜)

 

秋の定例ライブに向けて周りは忙しいし、

心も体も疲れが感じつつあった。

それに他の仕事が混ざっていて、

倍に疲れがのしかかる。

 

(というか....来年どうしようかな?)

 

今秋というのだが、今後の進路にまだ迷っていた。

今後の進路表で書いた第一志望は、そのまま芸能界で活躍すると書いた。

でもそれでも本当にいいのかっと頭の片隅に留まっていた。

別にアタシの学校は結構自由なところがあって、

進学校のように大学重視というのはない。

 

 

 

でもなぜか心のどこかにぽっかりと穴が空いているように満たされてはいなかった。

 

 

 

(まぁ、そういうわけで"ここ"に来ちゃった)

 

ストレスが感じつつあったから、アタシは20区にやってきた。

その理由は簡単、金木さんに会いに行くのだ。

何せ事務所はプロデューサー以外じっくり話す男性はいない。

というかアタシは男性とは付き合ったことがない女の子....

みんなから付き合った経験がありそうと言われるけど..

 

 

 

そんなことは"一度"もない

 

 

 

やはりある程度”経験”積まないと....

 

 

 

 

 

 

「あれ?美嘉姉?」

 

すると聞いたことのある声がした。

 

「あ、"未央"じゃん」

 

アタシは振り向くと、そこにいたのは"未央"だった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

私が20区駅に着いて数分後、とある人に出会った。

その人は"美嘉姉"だ。

私の憧れの人の一人で、

あのセクシーさに私は参考している。

 

「どう?舞台の稽古いけてる?」

 

「うん!いけてるよ!」

 

監督に怒られることはあるけど、

"あーちゃん”(高森藍子)とか支えてくれる仲間ができたから、

乗り越えられる力が身についた。

 

「それで...なんで未央はここにいるの?」

 

「それはね、金木さんに会いに来たんだよね!」

 

「そうなんだ。アタシもちょうどその理由で来たんだよね」

 

偶然にも美嘉姉も金木さんと会いにここ(20区)に来たのだ

私は来た理由は稽古の疲れが現れたから、その気分転換に来たのだ。

 

「もうそろそろ秋のライブに向けてレッスンが激しくなってね...」

 

今回の秋のライブは私としまむー(島村卯月)は出ない。

なぜなら今回はプロジェクトクローネに参加するのだ。

その中の"トライアドプリムス"に入る。

メンバーはかれん(北条加蓮)かみやん(神谷奈緒)がいる。

 

「それで一息しようかなって思ってここに来たんだよね」

 

「私と同じじゃん!美嘉姉!」

 

美嘉姉は「たしかに同じね☆」と言うとえへへっと笑った。

私と同じ理由を持ってここに来るのはなんだか運命のように感じた。

もしかすると金木さんはそれを引き寄せる存在かもしれない?

そんな時、美嘉姉があることに気がついた。

 

「...あれ?」

 

「どうしたの?美嘉姉?」

 

「あそこの人ってもしかして...?」

 

美嘉姉が指を指した先を見ると、

よく事務所で見る人が同じくここ(20区)にいたのだ。

灰色のコートを着て、私たちよりずっと高い身長の男性。

プロデューサーのコートを着た姿を見たことはないけど、

 

 

 

もしかすると、"プロデューサー"かも?

 

 

 

「じゃあ、声かけて来るね!」

 

「え!?ちょっと未央!」

 

私は真っ先にその人の肩を叩くことを決め、走り出した。

プロデューサーだったらどうして20区に来たか聞いて見る!

 

 

そしてその人の肩を叩き、

 

 

「こんちは!!プロデュー.........サ?」

 

私はそう呼ぶと、プロデューサーだと思われる人が振り向いた。

その時、私は言葉を失った。

 

 

 

それは、"違う人"だったから。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

亜門side

 

 

「...え?」

 

突然誰かが俺の肩に叩かれ振り向くと、

二人の女子高生が立っていた。

急に肩を叩いてきたのだ。

 

「え......と....」

 

その一人のショートカットの女子高生が俺の肩を叩いて来たのだ。

なぜか驚いて、なにすればいいのかわからない顔つきになっていた。

 

「「ご、ごめんなさい!!!」」

 

二人の顔色は青くなり、真っ先に頭を下げた。

 

「は....はい?」

 

俺はなんと答えればいいのかわからなかった。

あまりにも一瞬のことで、状況が整理できない。

 

(.....ん?どっかで見たことがあるような?)

 

ふと単なる女子高生の悪戯かと感じたが、

俺はあることに気づいた。

それは彼女たち一体誰なのかと

 

「もしかして、"346のアイドル"か?」

 

「...え?」

 

俺がそう言うと二人とも顔をあげた。

その二人はあの346プロのアイドルであった。

一人はシンデレラガールズの"城ヶ崎美嘉"と、

あのプロデューサーが担当しているアイドル"本田未央"だった。

 

「そ、そうです!」

 

本田未央は嬉しそうに答え、目がキラキラと輝いていた。

 

「本田未央です!アイドルやってます!!」

 

「そ、そうか....」

 

あまりの元気さにこんな俺でもついて来れない。

まだ若いはずなのだが、負けてる自覚が出てきている。

 

「どうして名前を知っていますか?」

 

「それは...君が所属しているシンデレラプロジェクトのプロデューサーとは知り合いだからだ」

 

「え!?本当ですか!?」

 

本田未央はそれを聞いてとても驚いた。

テンションがかなり高く、明るい子だと言える。

俺は346プロダクションのアイドルの名を少々だが、知っている。

特にあのプロデューサーが担当しているアイドルの名前は特にわかる。

決して俺はアイドルが好きだからと 知っているのではなくだが...

 

 

しかし本田未央とは裏腹に、城ヶ崎美嘉の表情はあまりよくなかった。

 

 

「あの...」

 

「ん?」

 

「もしかして、"あの事件"にプロデューサーに事情聴取をした人ですか?」

 

「...そうだな」

 

俺は少し間を開けて彼女に答えた。

そうした理由は、事件が発生した時に会ったことがあるからだ。

"あの事件"は2年前に起こった喰種によるアイドル捕食事件だ。

当時の城ヶ崎美嘉はあのプロデューサーの担当アイドルであり、

被害者のアイドルとは同期であった。

 

「え?"あの事件"って?」

 

「2年前に346プロダクションのアイドルが喰種に襲われ、死亡した事件のことだ」

 

「...えっ!?それは本当ですか!?」

 

彼女が知らないのは"当たり前"と言ってもいいだろ。

"あの事件"に関することは世間ではあまり知られてはいない。

その理由は二つある。

まず当時346プロダクションのアイドル部門はできたばかりで、あまり知られていなかったこと。

二つ目はメディアがあまり報道されていなかったからだ。

喰種の情報は制限されていることが多く、報道ができるのはほんの一部しかない。

 

「当時のこと明確に覚えてるよ..」

 

唯一その喰種の事件を知ることができるのは喰種捜査官か事件の"被害者"、あとは被害者の関係者ぐらいしかない。

城ヶ崎美嘉はあのプロデューサーの元担当のアイドルであるため、事件については耳にしていた。

 

「本当に...喰種はいやだよ...」

 

城ヶ崎美嘉はそういうと目を逸らし、

どこか悲しそうに何かを見つめた。

同期が喰種によって殺されるのは悲しいことだ。

 

 

 

 

 

 

 

俺も同じく味わった

 

 

 

 

 

それは何度もあり、

 

 

 

 

 

 

"先週"に起こってしまった

 

 

 

 

 

 

「あの...?」

 

「....ん?」

 

ふと気がつくと本田未央が俺に声をかけていた。

あの"悲劇"が頭に浮かんだせいか気づくのが遅かった。

 

「えっと......"おまわりさん"っと呼べばいいですか?」

 

「いや...喰種捜査官だからおまわりさんと言われても...」

 

俺はその呼び方に否定はしたが、

その代わりと言える呼び名はすぐには答えが出なかった。

 

(でも...なんて呼ばれればいいのだろうか?)

 

喰種捜査官は警察に似ているが、実際は違う。

なんて呼ばれてもいいか悩んでしまう。

そんな時、"城ヶ崎美嘉"からある提案が出た。

 

「じゃあ、名前で呼びません?」

 

「名前?」

 

「ある程度、アタシとは会ってますからいいんじゃないですか?」

 

「い、いや...それはさすがに...」

 

「もしかするとプロデューサーに会いに行く時、私と会うかも!」

 

本田未央が発言した後、俺はさすがに否定はできなくなった。

あの輝かしい瞳に負けてしまったのだ。

確かにそれもなくもないが....

 

「それで....お名前はなんですか?」

 

本田未央はそう言うと頭を少し傾け、俺の答えを待つ仕草をした。

確か俺の名前はプロデューサしか伝えておらず、"城ヶ崎美嘉"には一言も言ってはいない。

 

「俺の名は亜門鋼太朗(あもんこうたろう)だ」

 

「亜門さんですか!いい名前ですね!」

 

「亜門さんなんだ....」

 

二人は俺の名前を聞いてとても興味な顔つきをした。

結局、おまわりさんの代わりに人の名前になるとは...

 

「あ!私、亜門さんに聞きたいことがありました!」

 

「なんだ?」

 

「亜門さんは本当にプロデューサーに似てますね!」

 

「....に、似てる?」

 

「特に身長と髪型が似てます!」

 

本田未央の発言に、あの3人のアイドルが頭に浮かぶ。

確か、"諸星きらり"と"城ヶ崎莉嘉"、"赤城みりあ"が以前、同じく俺に言ったのだ。

あの時にちょうどあのプロデューサーに事件以来、久しぶりに出会った。

ちなみに346プロの事務の"千川さん"から『プロデューサーさんに似てますね』と言われた。

 

「そうか...やっぱりそのぐらい似てるか...」

 

「んーでも、顔を見たら違うとわかりますよ」

 

そう言うと城ヶ崎美嘉は「特に目つきが」といい、目を指に指した。

 

「二人とも20区によく来るのか?」

 

「はい。友達がバイトしているので、そのお邪魔に!」

 

「友達のところにか...」

 

アイドルであるとは言え、

それを外せば普通の女子高生であることは変わりがない。

そう思うと二人はまだ子供じみたところがある。

 

「じゃあ、私たち行きますので!」

 

「ありがとうございました、亜門さん」

 

「あ、ああ...」

 

二人はそう言うと背を向けて、立ち去ろうとした。

 

 

 

 

そんな時、俺はふと"あること"を思い出した。

 

 

 

 

「あ、ちょっと待ってくれ」

 

「はい?」

 

俺はあることを思い出し、二人を止めた。

 

「最近20区は危ないから、なるべく早めに帰った方がいい」

 

「え?どうしてですか?」

 

「先週に喰種による殺人事件があった」

 

それは俺が目の前に起こった事件。

鮮明に俺の目に映ったことを覚えている。

 

「え...!?ここ(20区)に!?」

 

「そうだ。その事件を起こした"喰種"は20区に潜んでいる」

 

二人は俺の言葉に驚いた。

この情報はつい最近出たもので、

世間ではあまり知られてはない。

被害者は共に捜査をしていた喰種捜査官で、

おそらくあの"親子の喰種復讐だと思われる。

 

 

「だから君たちも気をつけるように」

 

 

俺はそう言うと二人の前に立ち去った。

二人が"喰種の事件"に巻き込まれないように願いながら

 

(.....さすがに彼女たちが所属している346には被害は出ないと思うが...)

 

そういえば最近346では"新たな対策"を出した。

それは今度の秋の定例ライブで”Rc検査ゲート”を試験的に設置するということだ。

Rc検査ゲートは簡単に言えば喰種だと反応するゲートだ。

喰種は人間とは違い"Rc因子"が数十倍高く、検査すればすぐに出る。

現在設置しているのは各CCG支局と346プロダクションしかない。

何せまだ開発途中であり、設置には高額だからだ。

 

(なのに今度のライブに設置するのか...)

 

CCG以外唯一設置してある346がさらに設置を増加させると聞くと、

こっち側としてはありがたいのだが、

346内の職員から見ればどうなることやら....

 

 

 

(...."ラビット")

 

 

 

俺が心の中で呟いた名前

 

 

それはこの前同じく捜査をしてた草場さんを殺した"喰種"だ。

名前の由来は兎の仮面をしてたからだ。

おそらく多くの捜査官を相手にしていた経験のある凶悪な喰種だ。

 

 

 

 

 

罪なき人が喰種に殺されるなんて理由はない。

 

 

 

 

 

 

なぜ彼らはそのような運命を辿らなければならない?

 

 

 

 

 

(....変えてみせるっ!!)

 

 

 

 

俺はこの"間違った世界"を変えなければならない

 

 

 

 

 

 

その"負の連鎖"を断ち切るために

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

今日もあんていくに働いていた、僕。

昨日は本当に命が消えそうな事態があった。

 

(さすがにトーカちゃんやりすぎじゃないかな...?)

 

それは昨日の夜頃であった。

僕はあんていくの前でトーカちゃんを待ち、

出会って中に入っていった。

その時僕たちが向かったのは"地下"であった。

その地下は昔喰種が作ったとされる場所で、

地上に住めなくなった喰種が向かう所であると言われる。

 

 

 

そこで僕たちが行ったのは"トレーニング"だった

 

 

その時の僕は何をやるかわからず

中指を折られ、僕を殺そうとした。

 

 

 

 

その時であった

 

 

 

危険を察知したのか勝手に僕の体に赫子(かぐね)が現れた

 

それはあのヒデを助けて以来初めて出したのだ。

 

(さすが腹筋100回は辛いよ...)

 

そんなことを考えていた時、

お店のドアがタイミングよく開いた。

 

「あ、こんにちは」

 

僕はそのお店に訪れた人に『いらっしゃいませ』ではなく挨拶をした。

その人は僕の知っている人で、

今日は“一人”ではなく、“二人”であった。

 

「お久しぶりです!金木さん!」

 

「久しぶり、金木さん」

 

やって来たのは未央ちゃんと美嘉ちゃんだ。

相変わらず明るい二人で、僕もそう明るくなりたい。

二人は僕に挨拶をした後、

カウンター席に座った。

 

「二人が来るなんて珍しいね」

 

「今日は金木さんの所に行こうと思ったら、未央と出会ったんだよね」

 

「美嘉姉と一緒にここで一息しようかなと思って!」

 

「ははは、そうなんだ」

 

その後二人から出る会話は止まることはなかった。

美嘉ちゃんからはもうそろそろやる秋のライブについてのことや、

最近の仕事のこと、あと妹の莉嘉ちゃんとみりあちゃんのことが話題に出た。

その話を耳にした僕は、美嘉ちゃんは本当に妹思いだなぁと感じた。

未央ちゃんから出た話題は、やはり舞台のことであった。

『秘密の花園』にオーディションは受かったことは耳にしたものの、

レッスンはどうなのかは僕は不安だった。

ついて来れてるか不安だったが、

未央ちゃんかは『練習はがんばってますよ!』と言葉が出て、

僕は安心感を得た。

未央ちゃんは舞台に向いていることが改めてわかる。

 

「二人とも楽しんでるね」

 

「もちろん!やっぱ今を楽しまなきゃ!」

 

「うん!辛いことはあるけど、未央ちゃんは十分に楽しいよ!!」

 

二人は同じく口を揃えて、楽しんでいると言った。

僕はなんだか二人がとても羨ましく感じるんだ。

 

 

 

 

 

僕と違って

 

 

 

 

「あ!金木さん!」

 

すると未央ちゃんが何かを思い出した仕草をし、

僕に声をかけた。

 

「ん?」

 

「金木さんは今度のライブに来ますか?」

 

未央ちゃんが言ったこと。

それは秋のライブのことであった。

 

「今度のライブ...?」

 

「そう、アタシたちの活躍するライブに来ます?」

 

 

でも行けるような状態じゃない。

 

 

「ごめん..........今度のライブは僕はいけないよ....」

 

「「え!?」

 

二人は僕の言葉に驚き、とても残念そうな顔になった。

 

「せっかくみんなが頑張ってるのに...」

 

特に未央ちゃんは本当に残念そうだった。

 

「ごめんね..体調が優れないよ」

 

「体調?もしかして事故の?」

 

「うん....あんまり大勢のところは行きたくない」

 

「そっか、なら仕方ないね。体調悪い時は寝てた方がいいよね」

 

「金木さんはアタシたちが活躍している時に休んでてね★」

 

「ありがとう...二人とも...」

 

僕は彼女たちの言葉に申し訳なさとありがたさを感じた。

 

 

 

 

でも僕は彼女たちに”嘘“をついてしまった。

 

 

 

事故に巻き込まれたおかげで、体調が悪いという言い訳を使ってしまった。

 

 

本当はライブに行けるような体調であった。

 

 

 

 

僕は正直彼女たちが活躍するライブに行きたい

 

 

 

でもそれは“無理”な話だ。

 

 

 

何せ“店長”から警告を耳にしていた。

 

今度のライブには“喰種捜査官”がいる情報を得たのだ。

この情報は喰種の中では有名になっていた。

僕が彼女たちの活躍を見て死ぬなら、

活躍するところを見ずに、

生きていていた方が僕と彼女たちにとってメリットは大きい。

 

「僕が言うのはあれだけど...注文は」

 

「注文?ああ、そうだったね。アタシはカプチーノで、未央は?」

 

「私もカプチーノで!」

 

「ありがとね」

 

伝票に書き、早速カプチーノを作る準備に入る、僕。

 

 

 

 

そんな時、未央ちゃんの口に“ある話題”が出た。

 

 

 

「最近、"20区"は危ないらしいですよね」

 

 

「え?」

 

僕はその言葉を耳にした瞬間、腕がぴたりと止まってしまった。

それは耳にしたくない話題であった。

 

「ど、どういうことかな...?」

 

僕は恐る恐る未央ちゃんに聞いた。

だいたい予想はついてしまうものであった。

 

「先ほどプロデューサーに似ている"喰種捜査官"の人に言われたんですよ」

 

「未央がそう思って声をかけたら、プロデューサーに似ている喰種捜査官の人だったんですよね」

 

美嘉ちゃんがそう言うとえへへっと笑った。

 

「そ、そうなんだ...ははは...」

 

僕は不快に思われないよう作り笑いをした。

彼女たちにとって笑い話に思うかもしれない。

 

 

 

 

でも僕にとって決して笑えるようなものではない。

 

 

 

「あ、金木さん!手止まってますよ!」

 

すると未央ちゃんが僕の姿を見て、それに指摘をした。

 

「あ...ごめん未央ちゃん」

 

僕はそういうと固まっていた体を再び動かした。

 

「ラテアートは可愛い猫ちゃんをおねがしますね!」

 

「わかったよ...未央ちゃん」

 

 

二人が来てくれることに嬉しく感じる。

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

やってくるたびに感じることがある。

 

 

 

 

 

 

なんだか影が濃くなっているように思えるんだ。

 

 

 

 

彼女たちの輝きが大きくなるにつれて、

 

 

 

 

 

僕の方は暗くなっていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

(.........もうそろそろライブか....)

 

日が流れ、僕は今日もあんていくに働いていた。

今はお客さんがこない時間帯であり、

店内は僕だけであった。

トーカちゃんはヒナミちゃんの様子を見に上に行ってしまい、

今の所、店内は僕だけだ。

今日は卯月ちゃんは来ることはない。

それはメールが来ていないと言うわけでもない。

明日は"秋のライブ"をやるのだ。

前日にここに来るわけない。

 

 

 

 

まるで店内の様子が今の僕の心情を写しているように感じる。

 

 

 

 

 

 

喰種になったことで隠さなければならないことが生まれ、

 

 

 

 

卯月ちゃんたちなどの人間(ヒト)を失いかねないリスクを背負った。

 

 

 

 

 

 

だから今日卯月ちゃんが来ないことは寂しいだけではなく、

 

 

 

 

 

 

 

喰種であることを明かされない恐怖がない"安心感"を得ていることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、僕のその予測が外れる出来事が起きた。

 

 

 

 

 

 

それはお店のドアが開いた時であった。

 

 

 

「こんにちは、金木さん」

 

ドアを開いた先を見た僕は驚いてしまった。

あんていくにやって来たのは、文香さんであった。

 

「ど、どうも...文香さん...」

 

あまりにも驚いたせいか口がとても硬くなり、

普通に言葉が返せてなかった。

文香さんはカウンター席に座り、

メニュー表を手に取った。

 

「元気でした?文香さん?」

 

「.......」

 

僕は文香さんに声をかけたのだが、

なぜかこちらを向けようとはせず、

ただメニュー表に目を向けていた。

一体何があったのかと胸の中に感じたら、

文香さんははっと気づき、

 

「あ、げ、元気でしたよ....金木さん」

 

文香さんは慌てて言葉を返し、

顔を少し赤く染まっていた。

 

(どうしたんだろう...?)

 

僕は文香さんの行動に少し変に感じた。

いつもなら普通に言葉を返すはずなのだが....

 

「今日は何を注文しますか?」

 

「この前に志希さんが注文したカプチーノでお願いします....」

 

「わ、わかりました....」

 

なんだかとても違和感に感じる会話であった。

どうしたのだろうと言う気持ちを抱え、僕はカプチーノを作り出す。

 

(.....何があったんだろう)

 

ライブ前日にここに来るのは予想はしなかった。

文香さんはあのプロジェクトクローネのメンバーの一人で、

ライブのメインでもある。

それなのになぜ僕の元にきたのだろうか不思議で仕方なかった。

 

 

「「........」」

 

 

お互いの会話なく、ただ静かな店内。

まるで誰もいないかのように静かだった。

 

(....何か言わないと)

 

カプチーノを作っている段階なのだが、

僕の胸には行動を起こさなければと言う意欲みたいのが生まれていた。

でもこんな静かな空気を壊すのが怖いと抑制にしてくる。

 

 

そんな時であった。

 

 

 

 

「あ、あの...金木さん!」

 

 

僕が文香さんが口を開いた。

 

 

 

「そ、その...... 」

 

文香さんの顔は赤く、何か言おうとしていた。

それは恥ずかしさと悲しみが混じった顔に見えた。

 

 

「.......っ!!」

 

 

文香さんは決意をしたのか手を握り、

驚くことを僕に言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わ......私と......お付き合いしませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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dream



早く覚めたい


この絶望に満ちた悪夢から






文香Side

 

 

『わ......私と......お付き合いしませんか?』

 

 

その一言を口にした、私。

一瞬周りの音が消え去り、まるで無の世界にいるように聞こえなくなった。

時計の針の音、外の風の音、その風で揺れる窓の音が一瞬にして消え去った。

衝動に似た状態で言ったあまり、周りの状況がかさついてしまい、見えなかった。

 

「........」

 

金木さんは驚いてしまったのか何も言葉を発せずに、ハッとした目で私の瞳をじっと見つめてました。

夢と現実が見分けがつかない言葉だと感じていると思います。

 

「.......えっと」

 

まるで二人だけいる喫茶店の静かさが現実から離れ、

喫茶店がまるで夢にいるような状況を作っているように感じた。

自分が何か話さなければならない無気力さを感じたせいか、再び口を開きました。

 

 

「私は金木さんの悲しむところをもう見たくないです..」

 

 

アイドルになったきっかけは金木さんの言葉でした。

プロデューサーさんからスカウトをもらい、

受けようか迷っていた時に金木さんに伝えたところ、

アイドルになった方がいいと私に伝えました。

それは私に後押しをしてくれました。

 

 

 

でもなったことで金木さんに寂しい思いを作ってしまいました。

 

 

 

 

それは志希さんからの言葉からわかりました。

私はそのことを耳にして以降、本当にアイドルをやっていいのか心の奥で潜むようにありました。

 

「私は金木さんのそばに居たいんです......もう寂しい思いをさせないために」

 

手を震わせながら、金木さんに胸に思いを告げました。

ここ最近金木さんの元に来るのは卯月さんしかおらず、

今後もしかすると本当に“一人”になってしまうかもしれません。

 

 

本当に

 

 

彼のそばに居たいのです。

 

 

「...なのでっ!」

 

「文香さん..」

 

さらに言葉を伝えよう我を忘れていた私に、

金木さんは止めるかのように、

優しい声で私の名前を口にしました。

 

「........僕はありがたいです」

 

金木さんは笑顔で伝えました。

それはあの"どこか寂しそうな顔"をし、

手で顎をこするように触りました。

 

(.....っ!)

 

私は金木さんの表情に嫌な予感を感じました。

なぜならその顔は一度目にした顔。

 

私が"アイドルをやることを伝えた時に現れた表情"でした。

 

 

 

 

『.....でも、お断りします』

 

 

 

「....え?」

 

嫌な予感を感じたはずなのに、

私はどうして金木さんは断ったのか整理が追いつかず、

混乱をしてました。

 

 

「ど....どうしてでしょうか....」

 

 

わからない

 

 

どうして私の思いを断ったのか

 

 

わからない

 

 

なんで寂しいはずの金木さんが断るのか

 

 

わからない

 

 

わからない

 

 

「どうしてなら....」

 

 

金木さんはこう言いました。

 

 

 

 

 

『文香さんは“アイドル”ですから』

 

 

 

 

どこか寂しそうに理由を伝えた金木さん。

 

私はまるで死刑宣告を言い渡された囚人のように衝撃が走りました。

 

 

 

 

ああ、そうだった

 

 

 

 

私は"アイドル"

 

 

 

 

アイドルになっていたんだ

 

 

 

 

なんであの時、私は

 

 

 

 

「そ...そうですよね....」

 

私は偽った笑顔を作り、言葉を返しました。

あまりにも衝撃が走ったせいか顔が上げられませんでした。

何かが私にのしかかったような状態にいるように

 

 

 

その後金木さんとの会話はなく、口にしたのは帰りの挨拶だけでした。

言いたいことがたくさんあったにも関わらず、

一瞬にして砂のように消え去ったように消えました。

 

 

 

 

ああ、なんでだろう

 

 

 

私が得たのは"彼の思い"ではなく、

 

 

 

“後悔”でした。

 

 

 

どうして自分は打ち明けてしまったのか

 

 

 

悲しい 悲しい

 

 

 

なんで大事なライブの前にこんなことをしてしまったのだろうか

 

 

 

まるで博打をするようなことを

 

 

 

 

「......なんで.....なんで......」

 

 

 

 

その夜、私は眠れませんでした。

明日ライブがあるのにも関わらず、

ただ時計の鉢の音を聞き、寂しく輝く月を枕元で見ながら泣いてました。

枕を強く抱きしめ、独り言のようにただ泣いていた、私。

それは声を上げて泣いていたのではなく、

周りに気づかれなよう静かに泣いていた。

 

 

 

何でしょうか、私

 

 

 

まるで私は手にしてはならない禁断の果実を、

"蛇"の言葉に耳を傾け、その果実を手にした“エヴァ”のように思えたのです。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

 

辛い

 

 

 

 

真っ暗な夜にベットの中で呟いた言葉

 

 

 

断ってしまった辛さと罪悪感

 

 

 

喰種であることの辛さ

 

 

 

それと喰種になって増してしまった孤独感

 

 

 

そして出会うたびに現れる“失う恐怖”

 

 

 

それを考えるほど、目に涙が溢れ出した。

 

 

 

僕はとても辛く感じていた。

 

 

 

 

「......ごめんなさい.....文香さん...」

 

 

 

 

僕は最低だ。

 

 

 

彼女を傷つけてしまった。

 

 

 

それは簡単に治ることのない傷を負わせてしまった。

 

 

 

 

 

文香さん

 

 

 

今日はごめんなさい

 

 

 

今の僕には“断る”という選択肢しかありません。

 

 

 

それは僕の身のためでもあり、文香さんの身を守るための選択です。

 

 

 

 

早く"終わり"を知りたい

 

 

 

時間がわからない中で過ごすのが

 

 

 

 

 

僕は辛いんだ

 

 

 

 

 



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new paper

新聞


それは"真実"と"嘘"を告げる紙



時には真実を伝え、また時には嘘を伝える






















金木Side

 

 

あの悲しみにくれた夜が明けて、

僕は何事がなかったのように過ごした。

ただあの出来事を考えては何も良いことはない。

だから僕は心の奥底にしまった。

また増えてしまうのだけど

 

「カネキ 、コーヒーブラック2個頼む」

 

「わかった」

 

僕は午後の始めからあんていくにて働いていた。

その注文したのはおそらく喰種。

だいたいブラックコーヒーを頼むのは喰種であり、

人間は約2割ほどである。

 

(....)

 

ふとあの出来事が頭に現れる。

奥底にしまったはずのあの思いが頭に浮かぶが、

誰かに口にするにはやらない。

それは彼女を壊しかねない物であった。

 

「どうぞ、コーヒー2つ」

 

僕は気がつくと、驚いてしまった。

おかしく感じると思うかもしれないが、

僕は何も考えず無意識にコーヒーを作り、トーカちゃんにそう言葉を伝えたのだ。

決して考えながら行動をしておらず、ただあの出来事しか考えていなかった。

 

「カネキ、カネキ 」

 

「ん?」

 

「聞いてるのか?」

 

気がつくとお客さんがいたはずの店内は、

誰もおらず僕とトーカちゃんだけであった。

コーヒー2つを受け取り、飲んで帰って行ったお客さんを見送る姿を見れなかった。

 

「ああ...ごめん...どうしたの?」

 

「今日なんかぼーとしてない?」

 

「..ああ、そうだね..」

 

トーカちゃんは僕の様子に気づいたらしく、

少し気にしていた。

さすがに僕はその理由を伝えるわけにはいかない。

 

「卯月は来るのか?」

 

「今日は来ないよ...」

 

今日は卯月ちゃんはあんていくには来ない。

それはメールが来なかったではなく、

今日行われる"イベント"であった。

 

「来ない?....ああ、“ライブ”ね」

 

トーカちゃんも卯月ちゃんがライブにいることに気が付いた。

その気が付いた理由は彼女は"喰種"だからだ。

それは喰種の中である噂が上がっていたのだ。

今回の346プロダクションで喰種捜査官の配置とRc検査ゲートの設置だ。

それは表では"警備強化"と出しているのだが、

喰種の中では”喰種廃滅”と掲げているようにしか見えないと言う声があった。

そのせいで今まで346プロダクションのアイドルライブにひっそりと足を運んでいた喰種は、

行くことを断念せざえるしかなかった。

もちろんその一人に僕がいる。

 

「カネキは行かないのか?」

 

「行かないよ....まだ生きていたいし」

 

今回のライブは卯月ちゃんと未央ちゃんは舞台に立たない。

なぜなら凛ちゃんが別ユニットとして参加するからだ。

そのユニットの名前は彼女の口から出た"プロジェクトクローネ"だ。

その中の奈緒ちゃんと加蓮ちゃんと一緒に組む"トライアドプリムス"が今回のライブで舞台に出る。

 

 

 

凛ちゃんがステージに立つのは、今日の"夜ごろ"に開始だ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

今日行われるライブに足を踏み入れた、私。

舞台裏での準備が行われ、

 

(今日はライブですか...)

 

なんだか時の流れが早く感じました。

前回のニュージェネレーションズのライブからあっというまに時が来てしまいました。

今回は“ニュージェネレーションズ”は出ません。

凛ちゃんが"トライアドプリムス"に参加することで私と未央ちゃんは今回のライブは立つことはありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"新しいこと"、か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほーしまむ!」

 

「...え!?」

 

考え事をしていた私に、

急に未央ちゃんが私の背中に抱きつきました。

 

「一人で何してるの?」

 

「い、いや..なんでもありません」

 

 

本当は考えてました。

もしニュージェネレーションズがこのライブに立っていたならばと

そんなことを凛ちゃんや未央ちゃんが聞いてしまえば、

間違いなく未央ちゃんの顔は変わってしまいます。

未央ちゃんは抱きつくことをやめ、

あることを伝えました。

 

「そういえばしまむー聞いた?」

 

「なんのことですか?」

 

「金木さんは今回のライブに来ないことを」

 

「え?金木さんは今回も来ないですか?」

 

「うん、体調が悪いと言ってたよ」

 

未央ちゃんの言葉を耳にした私は驚きと心配が胸の中に現れました。

金木さんは前回のニュージェネレーションのライブには来ていません。

それの日に事故が会ったからです。

事故が起きた以降、金木さんは一人になることが多くなったと思います。

それは私たちの活躍が多くなかったからです。

金木さんの言葉から『最近卯月ちゃんぐらいしか来てないよ』とどこか寂しそうに言っていました。

 

「少し残念だけど、仕方ないかな?」

 

「そうですよね...もしかすると事故の影響が...」

 

"あの事故"の影響がまだあるかもしれません。

それは体に刻まれた傷よりも深い心の傷。

 

 

 

 

 

その時でした。

 

 

 

 

 

「あ!卯月ちゃんを見つけた!」

 

「ん?」

 

誰かが私の名前を呼んだ声を耳した私は、その声のした方向に振り向いた瞬間、

 

「うぐぅ!?」

 

誰かが強い力で私に突込み、私に抱きつきました。

 

「いや〜ここでも同じく会えるとはね〜♪」

 

「だ、誰なのしまむー!?」

 

未央ちゃんは一体何が起きたのかわからずに驚きました。

その抱きついて来た人をよく見たら、くせ毛のあるロングヘアーに聞いてことのある声に思い当たる人物が浮かびました。

 

「おっと紹介し忘れてた〜」

 

その人は抱きつくのをやめ、未央ちゃんの方向に体を向けました。

 

「あたしの名前は一ノ瀬志希。 別の部署だけどアイドルやってま〜す♪」

 

その人はピースをし、にゃははっと笑いました。

その方は志希さんでした。

 

「し、志希..?」

 

「うんっ。志希ちゃんかしきにゃんっと呼んでね?」

 

「志希さん痛かったですよ...」

 

前回と同く受けた突っ込むような抱きつきが痛く感じました。

 

「あ、いや〜ごめんよ〜卯月ちゃん♪」

 

志希さんはそう言うと再び、私に抱きつきました。

先ほどの抱きつきより優しいものでした。

 

「カネケンさんはいなくても、あたしがいるよ〜♫」

 

「撫でられるのはちょっと...」

 

志希さんはさらに私の頭をよしよしっと撫でました。

別に悪くはないのですが....

 

「カネケンさん..?もしかして金木さんと知り合ってるのですか!?」

 

「うんっ♪もちろん大切なお友達だよ?」

 

「本当ですか!?金木さんとお友達なんだー!」

 

すると未央ちゃんは"カネケンさん"という言葉に金木さんではないかと気づき、志希さんに聞きました。

そして二人はお互い金木さんを知り合っていることを知ると、緊張感をなくし会話が弾みました。

 

 

そういえば今日の夕方ごろは"雨が降る"と言うのをニュースで耳にしたました。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

董香Side

 

 

(と言うか...卯月のことうるせえなぁ...)

 

今日の金木は少しおかしい。

それは二つ挙げられる。

一つは何かボーとしていること。

なんども名前を呼んでも聞こえない時があり、私は少しイラついた。

二つ目は金木は”卯月たち“のことに気にしすぎだと思う。

今日の会話はそれがメインといってもいいぐらい喋ってた。

なにせ今日はライブをするのだから。

 

(卯月ちゃんがどうのこうのとか、凛ちゃんが別ユニットとかうるせぇ..)

 

その話を聞くたび、思わずカネキに蹴りや殴りで攻撃した。

 

(さっさと帰りたい...)

 

店内は少し薄暗い雲で暗かった。

これから雨が降ると耳にしたかったから濡れる前に帰りたい。

 

(とっとと掃除終わらせよう...)

 

私は布巾を手に取り、机やカウンターなどを拭いた。

その時、カネキがあることを口にした。

 

「今日はヒナミちゃん静かだね」

 

「ヒナミ?」

 

確かに仕事していた時は二階から物音がしなかった。

別に忙しくて聞く暇はなかったとかではなく、

お客さんがいない時でも聞こえなかった。

 

「見てきて」

 

「わかったよ」

 

私が言うとカネキは二回に上がって行った。

ヒナミは最近カネキから借りている本を読んでいるおかげで、夜中でも部屋のあかりは消えることはない。

でも親をなくしたヒナミにとっていいかもしれない。

それともう一つ、本以外にヒナミが気になっていることがあった。

 

 

 

『私、卯月ちゃんに会って見たい!』

 

 

 

それは金木の友達の”卯月“だ。

ある時に耳にした言葉。

私はその時なんて返せばいいのかわからなくて、

適当に流してしまった。

その理由はヒナミにもう一回心に傷を与えてしまうかもしれないから。

人間と関わってしまったなら覚悟をしないといけない。

 

 

 

もし知り合えば、偽らなければならない。

 

 

 

私はその”一人“だから

 

 

 

「トーカちゃん!」

 

するとカネキが何か慌てた様子で帰ってきた。

 

「どうしたの?」

 

「ヒナミちゃんがいないよ」

 

「....え?」

 

疑ってしまう言葉。

私は持っていた布巾を机に置き、すぐにヒナミがいるはずの部屋に駆けつけた。

 

(....!)

 

ヒナミがずっといるはずの部屋に来た、私。

雨雲で暗い部屋の中に、ヒナミの姿がなかった。

 

「ヒナミがいない...?」

 

部屋の窓が開いていて、カーテンが風にゆらゆらと揺れていた。

 

「カネキ....違う部屋も見て」

 

「わかった」

 

 

信じたくないこと

 

 

 

 

まさか...外に行ってしまった?

 

 

 

 

 

 

 



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Disappearance

二つの場


一つは輝ける舞台



二つは生死の舞台






凛Side

 

 

あっという間に過ぎていった時間

 

別に心の底から楽しみと言うわけでもないのに、

1週間前に金木がバイトしている所に訪れたことがまるで昨日のような出来事に思えた。

 

「どうしたの凛?」

 

ふと気がつけば隣に加蓮が座っていた。

 

「あ、加蓮」

 

「なんだかどこか寂しそうな顔つきに見えたけど...?」

 

「ちょっと緊張してたね...」

 

私はそう嘘をついた。

実際は何か覚束ない感情を抱いているのだからなんて言い表せばいいのかわからなかったから。

 

「そうなんだ....私ちょっと楽屋に出るよ」

 

「出る?」

 

「なんだかここにいるのが落ち着かなくて....凛が言っていた緊張かも」

 

「わかった、いってらっしゃい」

 

「行ってくるよ」

 

そう言うと加蓮は楽屋に出ていった。

 

(なんか考えちゃうな....)

 

先ほどの加蓮との会話があまりにもぎこちなく感じてしまった、私。

まだ迷っているかもしれない。

金木と話したことがまるで...

 

 

(...ん?)

 

 

そんな私に"ある人物"に目がついた。

 

 

(....確かあの人って)

 

迷いに似た感情を持っていた私がある人に目を向けた。

偶然に視線を向けたのは、同じプロジェクトクローネに参加しているアイドル"鷺沢文香"。

金木の口から出た名前で、金木とは同じ大学に通う人らしい。

 

(....話しかけてみようかな)

 

緊張で落ち着きが治らない私に、よくわからない探究心と言うものが私の胸にこっそりと生まれていた。

私はその文香に声をかけることにした。

 

「....あの」

 

「....はい?」

 

文香は私が声をかけると振り向き、こちらの目を見つめた。

髪で隠れた瞳は青くて綺麗で、

どこか私と似ているように感じた。

 

「......えっと」

 

文香に声をかけたのはいいのだけど、

私は何か話そうかは全く考えてはいなかった。

数十秒の空白の時間を作ってしまい、周りが静かに感じてしまった。

そんな時、文香は口を開いた。

 

「....渋谷さんですよね?」

 

「えっ?あ、そ、そうだね...」

 

あちらから声をかけられたことに私は驚いてしまった。

 

「...金木さんから凛さんのことを耳にしております」

 

「金木から...?」

 

「ええ、いい人だと金木さんは私に伝えてくださいました」

 

文香は純粋といってもいいほどの笑顔で私に伝えた。

 

(変なこと伝えてないよね...?)

 

仮にそうだったら、今すぐ殴りに行きたい。

 

「....そういえば、金木さんは今回のライブに来られないそうです」

 

「えっ、来ない?」

 

「美嘉さんから体調が悪いと耳にしました」

 

「そうなんだ...」

 

今初めて知った。

 

よく考えてみればあいつ(金木)はいろんな人と関わりすぎだ。

一体どんな"運命"をもってるのやら。

 

「....そうなんだ」

 

前回も今回もあいつは来なかった。

私の新たな姿を生で見てもらえない残念さと、

いらいらが生まれた。

理由は事故の影響はあるかもしれないけど、

せめて今回は足を運んで欲しかった。

 

「....金木さん」

 

するとなぜか文香はあいつの名前を口した瞬間、

どこか悲しそうな顔つきになった。

 

「え?」

 

「...あ、い、いや...なんでもありません」

 

文香ははっと気づいた様子でそう言うと席を外し、

楽屋から出て行ってしまった。

妙に行動がおかしく感じた。

髪で隠れた瞳はどこか悲しそうだった。

まるで“あいつ”のような顔つきが私の頭に映った。

 

(....どうしたんだろう?)

 

私の予想だけど金木が来なかったことに悲しくなったかもしれない。

でもこれは私の予想。

“別の理由”があるのだと思う。

 

(....なんだか落ち着かないな)

 

誰もいない楽屋にいた私は少し気分を和らげるために廊下に出ることにした。

自分で言うのはあれだけど、

楽屋に止まるのがなんだか嫌に感じたらしい。

私は机から立ち上がり、楽屋に出た。

 

(....全然落ち着けるような感じじゃないね...)

 

廊下ではライブが始まったおかげで慌ただしい状況だった。

 

(これじゃあ気分転換にならないな....)

 

私はため息をつき、楽屋に戻ろうとした。

 

 

 

 

その時であった。

 

 

 

 

「会場に“ハト”が紛れてるらしいな」

 

「ああ、そうだな」

 

(...ハト?)

 

慌ただしい空気の中、スタッフの会話から耳にした単語。

それを聞いた私の胸にふと疑問が生まれた。

流石に動物が今回のライブで使うわけない。

何か意味する言葉だろう?

 

「こんなところで"喰種"が潜むだなんて考えられるか?」

 

「さぁな、何も知らないアホな喰種はくるだろうな」

 

(え?....“グール”?)

 

それを聞いた瞬間、さらに疑問を生んだ。

なぜ喰種の話題が“ライブ”(ここ)で話されてるのか。

私はそのスタッフの会話が普通のことではなく、

不愉快に感じ始めた。

どうしてここで話されてるのかわからない。

 

「どうしましたか、渋谷さん?」

 

すると誰かが私の名前を呼んだ。

振り向くと、その人は

 

「あ、プロデューサー」

 

プロデューサーとバッタリと会ったのだ。

 

「ちょっと気分転換にここにいて」

 

「そうですか....」

 

やはりプロデューサーもどこか不安そうに見えた。

前までは感情を顔に表すことはなかったけど、

今は前よりは表すことが多くなった。

 

(....聞いてみようかな?)

 

私はさっきスタッフ同士の会話から出た話題をプロデューサーに伝えることにした。

 

「さっきスタッフの会話から”ハト“とか"喰種"とか口に出たのだけど..どうしたの?」

 

「えっ?」

 

するとプロデューサーは私の言葉に驚いたのだ

まるで思っていなかった言葉を伝えられて、

驚いたような様子であった。

 

「それは....おそらくセキュリティのことだと思います」

 

「セキュリティ?別に喰種にそんなことするの?」

 

「いや....それに関してはあまり詳しくはわかりません」

 

そういうとプロデューサは首に手を置き、目をそらした。

 

「わからない?」

 

「はい。おそらく情報」

 

「プロデューサーさん!こちらに来てください!」

 

プロデューサーが話している途中、

会場スタッフがプロデューサーを呼んだ。

 

「すみません渋谷さん。話の途中ですが、行きます」

 

「う、うん..いいよ....」

 

私はそう答えるとプロデューサーはここから去ってしまった。

気のせいかわからないけど、文香もプロデューサーも何か隠しているように見えた。

その後私は他のところを回ることなく、楽屋に戻ってしまった。

気分転換に出たつもりが、結局できなかった。

 

 

 

 

 

 

その時に私は楽屋に出て得たものは、"疑問"だった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

「始まっちゃいますね.....」

 

「うんっ、始まるね〜」

 

私は志希さんと一緒に他のスタッフさんが邪魔にならないように通路から離れた長椅子に座ってました。

未央ちゃんは『美嘉姉に会いに行ってくる』といい、私たちの元から去ってしまいました。

先ほどから舞台裏では慌ただしくなり、もうそろそろ始まる感じになっていきました。

 

(凛ちゃんやシンデレラプロジェクトの皆さんが問題なく行えたらいいのですが....)

 

今回は凛ちゃんはプロジェクトクローネのトライアドプリムスに参加していて、

私と未央ちゃんとは一緒にステージには立ちません。

 

「卯月ちゃんは凛ちゃんのことが心配?」

 

「え?」

 

突然志希さんの質問に私は一瞬、茫然してしまいました。

 

「ど、どうしてその質問を?」

 

「だって、同じユニットで今回は別々じゃん?」

 

「た、確かに心配です...」

 

今回はニュージェネレーションズはライブには立たず、凛ちゃんが別ユニットに所属してでのライブですので、

未央ちゃんと私はステージの裏にいます。

特に凛ちゃんは新しい世界にいるので、もしかするとどこか不安を抱えているかもしれません。

 

「あたしも"同じ"だよ」

 

「同じ?」

 

「"大切なお友達"がステージに立つからね」

 

志希さんはそう言うと、にゃははっと笑いました。

でもその笑いとは裏腹に志希さんの顔はどこか心配そうな雰囲気がありました。

 

「志希さんの大切なお友達とは誰でしょうか?」

 

「美嘉ちゃんと文香ちゃんだよ」

 

「そうなんですかっ!確かにお二人はステージに立ちますよね」

 

美嘉さんの口から聞いてたのありませんでしたので、

美嘉さんとは仲がいいとは初めて知りました。

文香さんは金木さんから聞いていますが、直接会ったことはありません。

でも金木さんからは『とても優しい人だよ』と聞きました。

 

「うんっ、二人とはサマーフェスで仲良くなったよ♪」

 

志希さんはそう言うと、にゃははっと笑いました。

ふと思い出すとサマーフェスに志希さんと文香さんの姿を見たような気がします。

 

 

 

でもそんな志希さんの陽気な雰囲気が、少し鈍るようなことがありました。

 

 

「...特に文香ちゃんは心配だよ」

 

「えっ?どうしてですか?」

 

「美嘉ちゃんほどステージには慣れてないし、....そう思うとなんだか不安に感じるよ...」

 

志希さんらしくない不安な顔つきになっていました。

私はその姿に驚いてしまいました。

確かに文香さんは今回のライブでは初めての大舞台に立つと金木さんの耳にしました。

私も初めてステージに立つ前は、とても緊張をしてました。

失敗するではないかと言う恐れと、うまくいけるかの不安が胸にありました。

そのことを心配する志希さんはどこか不安そうな目でした。

 

「...大丈夫ですよ!」

 

「...ん?」

 

「私も凛ちゃんのことが心配ですが、成功できると信じてます!」

 

 

 

 

信じることが大切。

 

 

 

 

同じ仲間が辛い状況に立たされても、お互いの心は繋がっている。

 

 

 

 

未央ちゃんも凛ちゃんのことが成功すると言ってました。

 

 

 

 

「.....ふふっ」

 

「...?」

 

すると志希さんは少しずつ笑顔になり、

 

 

「ありがとう卯月ちゃん〜!!!!」

 

「う"っ!?」

 

思いっきり私を抱きしめました。

当たりの強いもので、私の頭をなでなでと撫でました。

 

「いや〜あたしの妹みたいでかわいい〜」

 

「え、え?妹ですか!?」

 

私は志希さんの言葉に困惑してしまいました。

やはり志希さんはまだよくわからない人です。

 

 

 

そういえば今日の東京は一時的に“雨”が降ると聞きました。

 

 

 

ステージは室内ですが、その雨が"残念な雨"にならないよう、

 

 

私は皆さんが成功することに祈っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは表だけではなく、裏側の人も伝わるだなんて

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

私はしまむー(卯月)しきにゃん(志希)と別れ、ある人の元に来た。

 

(あれ...?美嘉姉はどこだろう?)

 

私が会おうとしたのは"美嘉姉"だ。

今回は私はステージに立たないため応援に来たんだけど、

美嘉姉の姿が見当たらない。

私はしばらく周りを見渡していると、

 

「何してるの〜?未央?」

 

美嘉姉が私の後ろから肩をポンと叩き、声をかけて来た。

 

「あ、美嘉姉!」

 

私はそれに驚いてしまい、美嘉姉はその私の姿にえへへっと笑った。

 

「どうしたの?未央?」

 

「応援しに来たんだっ!」

 

「応援?ちょうどいいタイミングにに来てありががとう★ちょうど気分転換に誰かと話ししたかったんだよね♪」

 

ちょうどいいタイミングと聞いた私は、来てよかったと心の中が嬉しく感じた。

 

「今日のライブはどう?」

 

「アタシは今回もうまくいけると信じてるよ」

 

美嘉姉も今回のライブに出る。

私はステージには立てないけど、みんなに何か応援することや助けれることをする。

私にも役割があるのだから。

 

 

 

 

 

 

そんな自信を持っていた美嘉姉だったのだけど、

 

 

 

 

 

 

"あること"を私に話した時、

 

 

 

 

 

 

 

美嘉姉の様子が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「でも....少し"心配なこと"あるんだよね....」

 

「え?”心配なこと”?」

 

私は美嘉姉からそんな言葉が出たことに少し驚いた、

美嘉姉が心配するようなことがあるなんて、

それはなんだろう?

 

「心配なことって?」

 

「それは....文香さんなんだよね..」

 

「文香さん?もしかしてしぶりんと同じく所属しているプロジェクトクローネの人?」

 

「うん、そうだよ。アタシとはいい友達なんだけど....」

 

確か大学生で、本を読むのが好きな人だ。

話したことないけど、優しい人だと耳にしている。

 

「どうして心配なの?」

 

「......それはアタシが文香さんに金木さんはライブに来ないことを伝えた時に感じたんだよね...」

 

 

 

美嘉姉によると、会場に入って文香さんに会った時だった。

金木さんが来ないと伝えたところ、文香さんの行動が変に感じたのだと。

それは視線も向けず、寂しそうな目をしていた。

 

 

 

その文香さんのことを私に話していた美嘉姉の顔はどこか不安で心配な顔つきだった。

 

「アタシが伝えた時、どこか"悲しそう"だったんだよね」

 

「"悲しそう"?」

 

「うん....なんだろ....何かを失って悲しんでいるように見えたんだよね」

 

 

 

それはおそらくステージに立つことの不安ではなく、何か"他の理由"があるかもしれない。

文香さんの身に一体何があったんだろう...?

私はそう考え出した瞬間、美嘉姉は私の肩をポンっと叩き、

 

「まぁ、そんな心配ごとあまり考えちゃダメだし、今日のライブは楽しんでいかなきゃ」

 

そう言った美嘉姉の顔は先ほどの不安そうな顔ではなく、自信にありふれた顔に戻っていた。

 

 

 

確かに私も不安なことはある。

 

しぶりんが今回のライブで成功するか心の奥底で心配している。

 

 

 

でも美嘉姉の言葉の通りに心配ごとではなくて、ポジティブに行かなきゃダメ。

 

 

 

 

 

それが"信じること"だと、私は自分に聞かせるよう胸につぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

金木Side

 

 

(どこ行ったんだろう...?)

 

 

僕は先ほどまでトーカちゃんとヒナミちゃんを探しに、町中に探し回った。

思いたある場所に行ったが、ヒナミちゃんの姿はなかった。

その後僕とトーカちゃんはそれぞれ別の場所に探すことになり、今に至る。

 

 

空は暗い雲に包まれ、秋の終わり頃と言うせいか暗くなり始めた。

暗くなるに連れて不気味な風の音が耳に入る。

僕の胸に中に"想像はしたくはないこと"が徐々に浮かび上がる。

まるで風が僕を不安に落としいれようとしているみたいだ。

 

(ヒナミちゃん.....どこなんだ....)

 

 

 

 

そんな焦りつつある僕に、"ある人物"を見つけた。

 

「ラビットですね!?」

 

それは橋の下にいた男性であった。

 

(...あれはっ!)

 

その男性は見知らぬ人物ではなく、見覚えのある人物であった。

それはヒナミちゃんのお母さんリョーコさんが殺された現場にいた捜査官(ハト)だった。

もしかするとヒナミちゃんの元に行くつもりだ。

 

 

 

(.......)

 

 

 

 

 

 

 

僕はふとあることを思い出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

それはリョーコさんが殺された時であった。

 

 

 

 

 

 

 

あの時の僕は何もできず、ただ見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この今も僕はただ見て過ごすだけでいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の悲劇をもう一度起こさせてしまうのか?

 

 

 

 

 

 

いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことはさせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、嫌なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(...っ!)

 

僕は覚悟を決め、持っていたマスクをつけた。

歯がむき出したような口元、赫眼(かくがん)を表すため反対の目を隠す眼帯のマスクだ。

 

 

「っ!!」

 

 

僕はその捜査官(ハト)に道を塞ぐように前に現れた。

捜査官(ハト)は僕が現れた瞬間、足を止めた。

 

 

「.....誰だ貴様?」

 

 

 

僕は胸にこうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう、あの時と同じ思いをしたくはない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Hidden Sword





密かに胸に隠していた思い


それが毒になるとは






 

亜門Side

 

 

「誰だ、貴様は」

 

真戸さんのところに向かおうとした時、

ある人物が道を塞いだ。

それはマスクをつけた人物であった。

 

「 .....」

 

その人物は何も答えず、ただ俺を行かせないよう立っていた。

 

俺は警戒し、奴が動き出すのを待った。

一体どういった行動に出るか待つと、ポツポツと雨が降り出した。

それはまるで今の俺の心理を表現しているかのようだった。

 

 

 

 

その瞬間であった。

 

 

 

 

「っ!」

 

突然奴は俺に殴りつけた。

その動きはむやみに突っ込んできたように見えた。

拳で攻撃してきたが、

俺には通用しないと言ってもいいほどの力だった。

 

「邪魔するなっ!!」

 

俺は奴の服を掴み、地面にひれ伏せさせた。

奴は俺の攻撃に何も手を出さずに、攻撃を受けた。

 

(いたずらか...?)

 

稀なのかわからないが、

こんな忙しい時に妨害を受けたことに変に感じた。

あまりにもタイミングが悪すぎる。

 

 

苛立ちし始めたその時、

 

 

(っ!!)

 

その瞬間、邪魔してしたマスクした人物の目が赤く染まった。

 

(“赫眼”....っ!!)

 

その目は喰種の特徴でもある瞳。

奴は人間(ヒト)ではない。

 

(...っ!?)

 

一瞬俺は油断を作ってしまい奴は俺に蹴りを入れられ、

すぐ様、俺から離れた。

その動きは人の速さではないほど早かった。

 

「てっきり人間だと思ったが..........」

 

単なる不良の人間の悪戯だと感じてしまい、

喰種だと頭に浮かばなかったが、

 

 

 

 

 

相手が"喰種"となれば、駆逐するしかない。

 

 

 

 

俺は持っていたアタッシュケースにスイッチを入れる。

そのアタッシュケースはただの物ではない。

 

 

それは喰種を駆逐するための道具“クインケ”が入っている。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Side

 

 

(なんだ...あれは?)

 

突然捜査官(ハト)が出した武器。

"金棒状の武器"で、赤く危ない気配が感じる。

今わかることは、"ただの武器"ではないことだ。

 

(..くるっ!)

 

捜査官(ハト)は僕に近づき、武器を僕に向けた。

 

(...っ!)

 

僕はすぐに姿勢を低くし、

その武器に間一髪に避けたのだが、頰に傷を負ってしまった。

 

(キ....キズ?)

 

普通ならすぐに治るのだが、傷が塞がずに血が流れた。

やはり喰種捜査官(ハト)が持っている武器は、

 

 

 

 

"ただの武器"ではない。

 

 

 

 

(でも僕が止めなければ..........)

 

 

 

 

 

この人を行かせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

もし行かせてしまえば、ヒナミちゃんが危ない。

 

 

 

 

 

 

そう

 

 

 

 

 

 

"僕しか"できないんだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロデューサーSide

 

 

順調に進んでいる秋の定例ライブ。

これは私にとって今後を左右するライブでもありました。

美城常務の改革により、私がプロデュースするシンデレラプロジェクトの存続に影響が出ていた。

なので今回の定期ライブに良い成績がでないといけない。

 

(...今回は"喰種のトラブル"は起きては欲しくないな)

 

でも私がこの定期ライブでもう一つ思っていたことがあった。

それは喰種のことだ。

私がそう感じたのは理由があった。

それは先ほど渋谷さんから出た言葉であった。

 

 

『さっきスタッフの会話から”ハト“とか"喰種"とか口に出たのだけど..どうしたの?』

 

 

それを聞いた私は驚いてしまい、喰種のことは口にはしなかった。

なぜなら今回から喰種対策をすると言うことで、保安上それ以上は言ってはならない。

今の所、喰種と思われる人を発見された情報は耳にしてないが、

私は喰種が発見されたと言う情報は耳にしたくはない。

 

「あの...すみません」

 

すると、現場スタッフが私の元にやって来た。

 

「どうしましたか?」

 

私がそう言うと、そのスタッフは私の耳にある伝えた。

 

 

 

そのスタッフから出た言葉は、

 

 

 

 

衝撃が走る驚くことだった。

 

 

 

 

『......鷺沢さんが倒れた?』

 

 

 

それはいつ起こるかわからなかったトラブルが、この舞台裏で起きてしまった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

志希Side

 

 

「いや〜美嘉ちゃんの歌声いいね〜」

 

「そ、そうですね....」

 

あたしたちは他の子のサポートと言うことで、長椅子に座っている。

あたしは足を伸ばし気分良く鼻歌を歌っていた。

今は美嘉ちゃんがステージに立っている。

美嘉ちゃんが終われば、今度は文香ちゃんとありすちゃんだ。

 

「いつかあたしも自分の持ち歌でも欲しいな〜♪」

 

「持ち歌ですか....」

 

(なんか反応があれだねー?)

 

妙に卯月ちゃんの反応が鈍いような気がした。

あたしは卯月ちゃんに視線を向けると、

どこか緊張しているようで、不安そうな顔つきでいたのだ。

 

(卯月ちゃん緊張しているみたいだね〜)

 

その姿を見たあたしは何もせずにただ見ることはせず、

卯月ちゃんに"ある言葉"をかけることにした。

あたしのいつものの適当なポジティブが働き始めた。

 

「ねぇ、卯月ちゃん」

 

「..はいっ!?」

 

変な力が入っていたせいか驚いて変な声出ちゃったみたい。

相変わらず可愛いな〜♪

 

「ど、どうしましたか?」

 

「えっとね....」

 

伝える言葉があったのだが、わざとあたしは指を顎につけ、考えているような仕草をした。

それを見た卯月ちゃんはどんな言葉が出るのか待っているように見えた。

 

 

 

 

 

あたしが卯月ちゃんに伝える言葉

 

 

 

 

 

それはただ突然に頭に浮かんだことである。

 

 

 

 

 

「今度、カネケンさんとデートしたら?」

 

「えっ!?」

 

卯月ちゃんはあたしの言葉にすごく驚いた。

それは言ったあたしでも驚いちゃうような言葉だからだ。

 

「ど、どうして金木さんとデートを!?」

 

「だって〜あたしより結構会ってるじゃん〜?」

 

あたしはちょっといやらしい目つきで卯月ちゃんの両肩に手を置き、

耳元で『そうでしょ?』と小さな声で言った。

卯月ちゃんがカネケンさんのバイト先に誰よりも多く来ていることを耳にした。

もちろんその情報は卯月ちゃんが言ったのではなくカネケンさんが言ったのだ。

 

「確かにそうですけれどっ!!」

 

「恋せよ乙女ってきな!にゃははっ!」

 

あたしはすぐに卯月ちゃんの肩から手を離し、

にゃははっといつもの笑いをした。

その会話をしたせいか卯月ちゃんの顔は不安そうな顔が消え、

顔は赤く染まって恥ずかしそうな感じになった。

別に先ほどよりは結構いいとあたしは思う。

 

「卯月ちゃんもカネケンさんのこと好きってあたしの前に言ったら〜?」

 

「さ、流石に好きだなんて...」

 

「あたしも好きだよ?」

 

「...え!?」

 

あたしの言葉を耳をした卯月ちゃんは結構すごく驚いた。

とても顔が驚いて、面白かった。

 

「ほ、本当ですかっ!?」

 

「別に恋愛的にどうなの?と言ってないから問題ないよ〜♩」

 

「恋愛的に...?」

 

「うん、別にカネケンさんはお友達的に好きだからね〜♪」

 

「そ、そうなんですか....」

 

どうやら卯月ちゃんはあたしの発言を勘違いしていたらしい。

でも卯月ちゃんの心配は晴れたみたいでよかった。

 

(まぁ、心配していることは"あたしも"そうだけれどね)

 

さっき卯月ちゃんに聞かれちゃったため、自分で口にしちゃダメだと感じ、人前に言わないことにした。

"一部の人"を除いてね。

そんな陽気にしていたあたしと可愛いあたしの妹みたいな卯月ちゃんに、

 

 

 

 

"ある出来事"に出会う。

 

 

 

 

「あれ?どうしたんでしょうか?」

 

すると卯月ちゃんが何か気づいた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「さっきからあそこが慌ただしい状況に見えますが...」

 

卯月ちゃんが指した先を見ると、何かスタッフが慌ただしい光景があった。

それはトラブルが起こったような慌ただしさに見える。

 

「何か機械的なトラブルかも?」

 

「そうでしょうか..?」

 

あたしは楽観的な言葉を返したのだけど、卯月ちゃんの顔はどこか納得してなかった。

確かによく見れば機械に問題あったような言動は耳にはしなかった。

とりあえず何かいい言葉が何か考えていると、

タイミングよく"卯月ちゃんのプロデューサー"があたしたちの元にやって来た。

相変わらず仏頂面みたいに表情があまり変わることのない人だけど、

卯月ちゃんから聞いた話だと『良い方です!』と。

とりあえず、卯月ちゃんが言うならあたしはその言葉を信じることにした。

 

「どうしたのですか...?」

 

あたしは別に大したことじゃないと感じ、耳を傾けなかった。

 

 

 

 

しかし、さっき考えていたことが現実に起きるだなんて、

 

 

 

想像はしなかった。

 

 

 

 

 

 

『...鷺沢さんが倒れました』

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

「...っ!!」

 

あたしはそれを聞いた瞬間、目が大きく開き、胸の中に衝撃が走った。

それは最悪なことが本当に起きてしまったことの驚きと焦りが表に現れたのだった。

 

「っ!」

 

「志希さん!」

 

衝動に似た感情ですぐに立ち上がり、廊下に向かった。

その時のアタシは卯月ちゃんの言葉を聞くことなく、

ただ文香ちゃんの元に急いで向かった。

一歩でも早く足を前に出す。

誰よりも早く、文香ちゃんの元に行きたかった。

 

(嘘だ嘘だ嘘だっ!!)

 

 

 

 

 

 

何度も心の中に願うように言った言葉。

 

 

 

 

 

信じたくない事実。

 

 

 

 

 

考えてしまった後悔。

 

 

 

 

 

 

そして、乱れ狂うあたしの胸の中。

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 

文香ちゃんが倒れている姿があたしの目に映った。

それはまるで被害者の親族が事件現場に来た時の心情みたいに恐ろしく感じた。

 

 

「文香ちゃん!!」

 

 

あたしは不安と悲しみ、焦りが混ざった声で名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

その時のあたしは感情が乱れていた。

 

 

 

 

それは一瞬にしてパリンっと結晶が散らばった宝石のように儚く割れたように

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

歌い終わった、アタシ。

先ほどのアタシの番が終わり、ステージから降りていた。

ファンのみんなのコールや演技、そして終わって得られる達成感を感じられる喜びを、

アタシはこの今、得たのだ。

 

(今度は文香さんとありすちゃんだね〜♩)

 

アタシがそう考えていると、ちょうどよく卯月がアタシの元にやってきてくれた。

 

「お疲れ様です....美嘉さん」

 

「お疲れ様★」

 

気分良く挨拶のしたのだけど、

なぜか卯月は元気なさそうな顔つきをしていた。

どうしたの?と言おうとしたのだけれど、

アタシはもう一つあることに気づいた。

 

「..あれ?」

 

「...どうしました?」

 

「志希はどこに行った?」

 

卯月と一緒にいたはずの志希がいなかった。

周りを見ても、それらしき姿はどこにもなかった。

 

(もしかして、いつもの失踪かな?)

 

あたしはそう思っていると、

とある光景を目を止めてしまった。

 

「...卯月?」

 

「...はい?」

 

「あそこ、どうしたの?」

 

アタシが指を指した先、

それは廊下に続くドアの方であった。

なぜかやけに慌ただしかった。

 

「...えっとですね」

 

卯月が少し言うのをためらい、

数秒後その理由を口にした。

 

 

 

 

 

その内容はアタシにとって、疑いたくなるようなものだった。

 

 

 

 

 

『文香さんが倒れました...』

 

 

 

 

「....えっ?」

 

それを聞いた瞬間、一瞬疑ってしまった。

アタシの次に出るはずなのに、文香さんは倒れていると卯月が言ったのだ。

 

「文香さんが倒れた!?」

 

「はい...それで志希さんがすぐに....」

 

志希がここにいないのは、文香さんの元に間違いなく行った。

 

「ちょっとアタシ文香さんのところに行ってくる!」

 

アタシは卯月にそう伝え、急いで文香さんの元に駆けつける。

次にステージに立つ時間は大分空いているため、

アタシは楽屋には戻らずすぐに文香さんの元に向かった。

成功すると期待していたのに、

どうして倒れてしまったのかわからない。

でもアタシの胸の中に心当たりがあった。

 

あのどこか悲しそうな顔をした理由が、

倒れた理由に結んでいるかもしれない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

「..........」

 

 

一歩踏み出した、私。

目の前には、美嘉さんが立っているステージがあります。

もうそろそろ私たちの出番。

美嘉さんの次はありすちゃんと私の二人のユニットです。

 

 

 

本当ならばこのまま前に進み、ステージに立てばいいのでした。

 

 

 

でも私の体に"異変"がありました。

 

 

 

 

「....っ」

 

 

 

気がつけば周りの音が聞こえない。

 

スピーカーから流れる音、お客さんの声、美嘉さんのマイクの声、

それらが一瞬にして遮断された。

私はありすちゃんを見ましたが、何も異変に気づいておらず、

緊張をしていました。

 

 

 

波のように歪む視界。

 

まっすぐに立っている柱や、床の板、

ステージを照らすライトがとても歪んでいるように見えました。

 

 

 

手先の感覚が麻痺しているかのように動かない。

 

 

まるで鎖で繋がれて動けず、何もないただ青い海に孤独にいるかのように、

私は怖い思いを抱いていた。

 

 

(.......っ)

 

その状態を作っていたのは、私の隠していた思い。

それは原因とは言いたくない出来事。

 

 

(.....金木さん)

 

 

私が胸の中につぶやいた人物の名。

その人は昨日、私がお会いした人。

私にとって大切なお友達です。

 

 

 

彼と共に幸せな日に私は望みたかった、昨日。

 

 

 

心の奥に秘めていた思いを言葉にして伝えたのだけれど、

 

 

 

 

幸せな日とは全くの別の答えが私の耳に入りました。

 

 

 

 

『文香さんは“アイドル”ですから』

 

 

 

 

あの時、金木さんが伝えたお言葉が頭に蘇る。

 

 

私は今すぐその言葉を忘れたかった。

 

 

騒音より、悲鳴よりも聞きたくない言葉。

 

 

それは私がアイドルになったことへの"後悔"を感じられてしまう言葉からでした。

 

 

(......っ.....っ)

 

 

治る気配がしない心臓の拍動の音。

 

 

緊張と後悔で生まれた震えが私を襲う。

 

 

「鷺沢さんっ!!」

 

 

今、何が起きたのかわからない。

 

 

まるで内の心が体から離れられているように一体何があったかわからない。

 

 

頭が床に叩きつけられたような音が、鐘のように私の頭の中に響いた。

私の視線は気がつけば会場の天井に向けていた。

それで私は倒れているのに気が付いた。

 

 

ありすちゃんが私に何度も呼んでいるのに、

声が程遠く聞こえる。

 

 

 

 

それはまるで深い海へと沈んでいくように聞こえなくて、

 

 

 

 

 

とても怖い。

 

 

 

 

 

 

ああ

 

 

 

 

 

 

なんで こうなったんだろう 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

「........」

 

私は一人、長椅子に座っていました。

先ほどまで志希さんといたのでしたが、

文香さんが倒れたと耳に入った瞬間、志希さんは急いでこの場から離れて行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もできなかった、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美嘉さんや志希さんの姿をただ見ていた私。

一瞬にして笑顔が消え去ったお二人の顔を思い出すと、

とにかく辛さと申し訳ない思いが湧きあがります。

何もしてあげられなかった悔しさが私の胸に大きく占めているようでした。

 

 

 

 

 

 

 

私は服をぎゅっと握りしめました。

 

 

 

 

 

 

 

二人ともに何もしてあげられなかったことへの悔しさでした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Sdie

 

 

夜の雨の川沿い。

僕は捜査官(ハト)と戦っていた。

ヒナミちゃんの元へと行かせないよう、攻撃をするのだが...

 

(....強いッ!)

 

赫子(かぐね)を使用しても、僕は苦戦していた。

おそらくこの捜査官(ハト)は僕よりも多く喰種と戦っていて、歯が立たなかった。

 

「ぐはっ....!」

 

僕は避けようとしたが、疲れてしまったせいかそのまま攻撃を受けてしまった。

吹き飛ばされた僕は雨で濡れた地面に叩きつけられるように倒れた。

その濡れた地面はとても冷たく感じた。

それは心の奥底から感じられるほど冷たいものだった。

その後、僕に攻撃が来るのだと思ったが、

なぜか捜査官は僕に攻撃しなかった。

 

 

「.....貴様に聞いてみたかった」

 

 

すると捜査官は攻撃を止め、僕に何かを問いただすように話しかけた。

 

「なぜ罪のない人を平気で殺め、己の欲望で喰らう」

 

「貴様らはなぜ存在している?」

 

彼の顔は先ほどのごわついた硬い顔よりも、憎しみと悲しさが混じった顔であった。

なぜ彼が僕にそのようなことを話し始めたのかわからなかった。

 

 

 

 

でもその理由が後からわかるんだ

 

 

 

 

「貴様らの手で親を失った子も大勢いる、残された者の気持ち...悲しみ...孤独...空虚..」

 

「貴様考えたことはあるか?」

 

彼の声は震えていた。

悔しさと憎しみ込められたような力のこもった声であった。

 

「...私の仲間はほんの数日前に貴様らの仲間の"ラビット"に殺されてしまった...」

 

「..彼はなぜ殺された...?」

 

「....捜査官だから?人間だから?...ふざけるな...っ!!」

 

彼はそう言うと涙を流した。

それは雨と共に流れた悔しさのこもった涙。

まるでこの強く降る雨が彼の心を表しているように思えた。

 

(......)

 

僕はそんな彼のことを何も言えなかった。

それは怪我で何も言えないのではなく、

あまりにも正しいだからだ。

僕は今の立場では"喰種"。

人から見ればただの人殺ししか見えないと思う。

 

 

 

でもそんな正しいこと言っていた彼の言葉は、

 

 

 

 

 

次の言葉で僕のイメージが変わってしまった。

 

 

 

 

 

彼は歯を食いしばり、僕にこう言ったんだ。

 

 

 

 

「この世界は間違ってる....」

 

 

 

『歪めているのは、貴様(喰種)らだ!!』

 

 

 

 

僕はその捜査官の言葉に、正しいとは感じられなかった。

喰種だって優しい人や、悪い人だっている。

だから全ての喰種が殺される理由なんてない。

 

 

 

(...あ..)

 

 

 

 

僕は気が付いてしまった。

 

 

 

 

人の良さと悪さ、喰種の良さと悪さ。

 

 

 

 

 

 

それを伝えられるのは、

 

 

 

 

 

 

"僕だけだ"

 

 

 

 

 

それは人であり、喰種である僕だけしか伝えられない。

 

 

 

 

 

そう胸につぶやいた時、締め付けられるように苦しく感じられた。

 

 

「....確かに多くの喰種(グール)は間違ってます....ラビットと言う喰種もその一人だと思います....」

 

僕は目の前で見てきた。

人が無残に殺される場面、

喰種が殺される場面もこの目で見てきた。

でも僕はそれだけを見たのではない。

喰種も人のように優しさや暖かさを持っている。

 

「そんなの正しいとは、僕は思えない」

 

僕はなんとか立ち上がろうと、怪我を負った足に力を入れる。

体中に滲みでる痛みが、僕を立つことを拒ませるが、僕には感じない。

何せ僕に今、"役割"ができたのだから。

 

「....何を言っているか分からん」

 

捜査官(ハト)は僕の言葉を全く理解をしようとはしなかった。

彼が今わからないのは、当然だ。

"こちら"の身になったことがないからだ。

 

「そうですか....」

 

 

 

 

 

僕が伝えなきゃ....

 

 

 

 

 

「だったら...."わからせます"」

 

 

 

 

 

これは僕しかできないんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

"人間"(ヒト)"喰種"(グール)の狭間にいる僕しかわからない、"見えなかった世界"を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Enlightenment


伝える



あなたにとって大切な事だから














凛Side

 

 

ステージの裏にいた私たち。

美嘉のライブが終わり、次のライブが行われるはずだった。

 

 

「文香さんが倒れた...」

 

「...え?」

 

 

未央から聞かされた疑いたくなるような情報を耳をしたのだ。

それを耳にした私は衝撃のあまり、ライブ前から抱えていた緊張にさらに不安がのしかかった。

 

「次にステージに立つはずじゃ.....」

 

「嘘でしょ...?」

 

確か私たちより先にありすと文香がステージに立つはずなのだが、

文香が体調を崩したという言葉を耳にし、奈緒と加蓮は受け入れがたい様子だった。

 

 

 

 

 

でも私はそれよりも"気になること"が頭に浮かんでた。

 

 

 

 

(まさか...."あの時"....?)

 

ふと私の頭にあることが察した。

それは文香が急に楽屋に出た時に一瞬目にした顔。

 

 

 

 

 

あの時の顔は"とても悲しそうな顔"だった。

 

 

 

 

 

 

それはどうしてなのか、私にはわからない。

 

 

 

 

私はただ、それを考えていた。

 

 

 

 

 

何かあるのではないかと、中々頭から離れられなかった。

 

 

 

 

 

「あ、プロデューサー!」

 

ふと我に帰ると、未央が指を指した先から私たちの元にプロデューサーが来た。

 

「プロデューサー...」

 

「...状況はわかってます」

 

プロデューサーも想定外の状況でどこか慌てていた様子に見えた。この慌ただしい状況をなんとか収束しようとしているとわかる。

 

「私たちはどうすればいい?」

 

止まったままでは、ライブに支障は出かねない。

私はプロデューサーに何すればいいか聞いた。

 

「出演順を変えて.....トライアドプリムスが先に出ることは可能ですか?」

 

「「...え?」」

 

それを耳にした私たちは、プロデューサの言葉に驚いてしまった。

 

「....うん。できるよ」

 

私がそういうと奈緒と加蓮も同じく頷いた。

だけどプロデューサーの言葉に私と加蓮、奈緒は戸惑いは隠せなかった。

なにせ私たちが文香たちより先にステージに立つのだ。

 

(確かに最善な事だと思うけど....)

 

あまりにも突然ステージに立つことに、緊張がさらに高まった。

急に変わった状況に受け止めるのは難しい。

 

「それで調整できますか?」

 

「少し時間をいただければ」

 

プロデューサーは会場スタッフに演出の準備や変更を伝え、準備に取り掛かった。

この後の予定は他の人が時間を埋め、その次に私たちが出ることになった。

これ以上何もせず止まっては仕方ない。

緊張と不安が増えたのは事実だけれど、

こんな大変な状況ができたのは私たちにとって、

与えられた試練かもしれない。

 

 

(.......)

 

 

そんな状況なのに、私の胸の中にまだ残っていた。

皆が起こってしまったトラブルを埋めようとしているのに、

私はその起こってしまった原因の文香のことが気になっているせいか忘れられていなかった。

別に変わってしまったことへの恨みではなく、理由を知りたかった。

 

 

 

 

それはどこか、私にも関係するような空気に感じたから

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

 

真っ暗な世界。

私は一人、立っていました。

周りを見渡しても、何もないただの闇だけの世界で、

まるで死後の世界のように思いました。

不安を抱いた私はその世界に、一歩一歩と歩き出しました。

歩いた先に何かあるではないかと、踏み出しました。

 

 

 

 

 

 

そんな暗闇の中、ある人が立っていました。

 

 

 

『....っ!!』

 

それは“彼”でした。

 

今に私にとって唯一の男性の友人。

 

私が働いている書店で出会い、

 

一目惚れという一雫が私の心に響き渡ったきっかけを作った人です。

 

 

『.......』

 

 

しかしそんな彼を目にした私は、喜びの感情を抱きませんでした。

私が感じたのは、"恐ろしさ"でした。

会うことを望んだはずなのに、

出会ってしまった恐怖が胸に生まれていたのでした。

 

『........っ』

 

私は彼の名前を言おうとしましたが、口が思うように動きませんでした。

 

 

それは金縛りで動けなくなっているように、言葉が発することができません。

 

 

言いたくても開けない状態が私をさらに焦りと悔しさを生み出しました。

 

 

『....っ!!!』

 

しばらくすると彼は、私の方に顔を向けず、私からだんだんと離れ始めました。

 

 

 

 

 

離れないで、お願い。

 

 

 

私はあなたを嫌いにさせようと、アイドルをやったんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたの"喜ぶ顔"が見たかったの。

 

 

 

 

それなのに、なぜあの時に言ってくれなかったの?

 

 

 

 

 

 

私はあなたのことが好きなのに。

 

 

 

 

 

『金木さんっ!!!』

 

 

 

 

 

彼は振り向きはしませんでした。

 

 

 

彼の背中から伝わる孤独は、私が作ってしまった。

 

 

私がやってしまった過ち。

 

 

何もしてあげれなかった後悔。

 

 

そして、身に染みる無力感。

 

 

 

 

 

 

私は彼に見放されてしまったのでした。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「....っ」

 

ゆっくりと瞼を開くと天井の光が目に映りました。

ここはどこだろうとしばらく考えていると、

私はソファーに横になっているのをふと気がつきました。

 

「....ここは?」

 

私が独り言のようにそう呟いた瞬間。

 

「文香ちゃん!!」

 

「文香さん!!」

 

私の名前を呼ぶ声がすぐに耳に伝わりました。

ふと気がつくと志希さんは私の手をぎゅっと握っていました。

 

「......え?」

 

一体どういう状況なのか私は掴めず、私の手を握っていた志希さんはすぐに私を抱きしめました。

 

「文香ちゃん.....よかった」

 

志希さんの涙声が混じった声で、私を強く抱きしめました。

それは心配と不安を抱え、体調が戻ったことに安心を誰よりも感じてました。

志希さんと美嘉さんの目は私のことを本当に心配していた瞳でした。

 

「文香さんが体調を取り戻してよかったよ..」

 

「本当に.....死んじゃうかもと思ってた...」

 

志希さんは抱きしめるのをやめ、涙が含んだ目で私を見ました。

私が驚いたのは志希さんの姿でした。

いつも陽気で明るい志希さんが、私に悲しい涙を見せたのでした。

 

「.......すみません」

 

そう言うと視線を逸らし、毛布を強く握りしめました。

今の状況を変えてしまったのは私のせい。

皆さんに大変な迷惑をかけたのです。

 

「大丈夫ですよ、文香さん」

 

美嘉さんがそう言うと私の肩に手を置きました。

 

「みんな文香さんのこと悪いとか考えてないよ」

 

「....で、でも....」

 

「むしろ、みんな心配してるよ。ありすちゃんも奏ちゃんとかもね」

 

二人のフォローが、弱きった私を暖かくしてくださいました。

 

「それで....緊張で気分が悪くなったのですか?」

 

「.....いえ」

 

「...え?」

 

緊張で体調が悪くなったとは言えません。

私にとって緊張よりもはるかに”大きなもの”を抱えていました。

それはステージに立つ前日に起こったものです。

 

「..........」

 

私は口を閉ざしてしまいました。

一体自分は何言ってしまったのだろうか

まるで金木さんのせいにするような理由を二人の前で言うなんてできない。

あの時の"私の選択"が悪かったのに。

 

 

 

「文香さん」

 

 

 

すると美嘉さんの私を呼ぶ声が、耳にすっと入りました。

心に響いたかのように大きく聞こえました。

 

「アタシたちに伝えて欲しい」

 

美嘉さん飲めはまっすぐと私の目に向いてました。

黄色く輝く瞳が私に答えを求めていました。

 

「文香さんの抱えていることも志希もアタシも知りたい。決して一人じゃないから」

 

友達に知ってもらう。

それは私が抱えていることを伝えること。

こんなの、初めてかもしれない。

心の中から嬉しく、安心感を得たようでした。

 

「...ありがとうございます」

 

「それで....どうして体調を?」

 

私は胸にあった"あの理由"を言うことを決心し、口を開きました。

 

「...私っ」

 

 

 

 

 

理由を言おうとしたその時でした。

 

 

 

 

「.....?」

 

さらに言葉を伝えようとした私は口を止めてしまいました。

それは見ていたものに気を取られていたからでした。

それはライブの様子が見れるテレビから、ある映像が映し出されてました。

 

「渋谷さん...?」

 

私とありすちゃんの次のはずなのに、

ライブには凛さんたちが立っていました。

 

「文香さん!大丈夫ですかっ!」

 

すると楽屋のドアが突然開き、そこからありすちゃんがまっすぐと私の元に来ました。

ありすちゃんは不安そうに、私を見ました。

 

「すみません...橘さん」

 

本当ならばありすちゃんと言いたいのですが、

彼女は『橘です』と言いましたのでありすちゃんではなく橘さんと呼んでいます。

しかし、ありあすちゃんは首を横に振り、

 

「...ありすでいいです」

 

ありすちゃんはそう言うと微笑みました。

先ほどよりも固そうな顔つきから、穏やかでした。

その瞬間志希さんが、

 

「さぁて二人とも、立ち上がって!」

 

志希さんが私とありすちゃんを立ち上がらせるよう手を取り、私を取り立ち上がりました。

 

「少し時間あるけど、プロジェクトクローネのみんなとすぐにステージに立つよ!」

 

「志希、流石に急ぎすぎじゃ..」

 

「ちょうど気持ちいい展開になったから、行かなきゃね♫」

 

「う、うん...わかった...」

 

美嘉さんは少し納得しない様子で志希さんと一緒に、私とありすちゃんを舞台裏に連れ出すよう出ました。

楽屋から出る前、志希さんと美嘉さんは私の両耳にそれぞれ小さな声でこう言いました。

 

「頑張って来て、文香さん」

 

「楽しんできてね、文香ちゃん♪」

 

二人に背中を押され、私は前に踏み出しました。

 

 

 

 

 

考えてはだめ。

 

 

 

後を考えては前に進めない。

 

 

 

今の私はそう過ごせばいいと、心に感じてしまいました。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

 

ステージに立ち込める演出の煙

 

 

それが消えれば私たちの歌が始まる。

 

 

 

 

煙が消えるまで、私は考えたんだ。

 

 

本当にこの道を選んでよかったって。

 

 

いつもニュージェネレーションズとして卯月と未央と一緒に立ってきたのだけれど、

 

 

今回は二人とではなく、加蓮と奈緒とステージに立つ。

 

 

本当は卯月たちとずっと一緒にいたかった。

 

 

でもずっと一緒にいられるには新しいことに挑まなければならない。

 

 

未央がソロデビューをやっていくのもその一つだ。

 

 

一人で未知の世界に入るのは勇気はいる。

 

 

そんな不安が胸が胸にあった私がステージに立つ前、私は卯月と未央に励まされた。

 

 

そういえば金木は結局今回も私が立つステージには来なかった。

 

 

でも"あいつ”(金木)は私に大切なことを伝えてくれた。

 

 

『二人はきっと、凛ちゃんの答えに受け入れてくれるよ』

 

 

 

その言葉があの時迷いがあった私に背中を押してくれた。

 

 

 

 

きっと"あいつ”(金木)も応援してくれてるはず。

 

 

 

 

 

演出の煙が消え、観客席が見えた瞬間、私たちは口を開いた。

 

 

 

何度も練習を重ね、お互いを信じることを得たんだ。

 

 

 

失敗を恐れては進めない。

 

 

 

 

 

 

だから私たちは前に出る。

 

 

 

 

 

"新たな自分に出会うために"

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

 

 

雨で濡れていた僕ら

 

 

 

 

 

地面から伝わる雨の音

 

 

 

 

漂う雨の香り

 

 

 

 

雨で水の流れが激しい都会の川近くにて、

僕たちは戦っていた。

 

 

 

 

 

「......わからせます」

 

 

 

僕は彼をヒナミちゃんのところに行かせないよう戦っていた。

 

 

 

 

 

だけど彼と戦い、僕の胸の中に新たな使命が生まれた。

 

 

 

 

 

それは喰種というのは、ただの悪の存在でないことだ。

 

 

 

喰種に対して何も知らなかった僕が得た知識。

 

 

 

 

偏見でも偽りのない真実

 

 

 

その真実を喰種に対して憎しみしかない彼に伝えないといけない。

 

 

 

 

 

ここで僕は、死ぬわけにはいかない。

 

 

 

僕には“大切なもの”があるのだから。

 

 

「っ!!」

 

前に踏み出した僕、真っ先に捜査官に近づいた。

彼は突然動きが早くなったことに驚いた顔になり、すぐ様武器で僕の拳を防いだ。

 

「.....邪魔するなっ!!!」

 

捜査官は振り回した武器の隙を受けるためか、

右足で僕の腹部に蹴りを入れた。

 

「うっ....!」

 

蹴りを食らった僕はさらに攻撃を受けないよう、腹に食らった痛みを抱えながらすぐに下がった。

 

だけど僕はそれで項垂れるような体じゃない。

 

「....効かないな」

 

 

トーカちゃんの蹴りに比べてみれば、断然攻撃が軽い。

喰種が人よりも身体能力が優れていると言われる理由がわかった。

 

(....最初よりも彼の動きがよく見える)

 

何度も彼に近づいてわかった。

彼が振り回す武器の動きが、とても遅く見える。

先ほどのよりも冴えていると自覚できる。

 

(...でも今の僕じゃダメだ)

 

このまま攻撃を避け続けていたら、終わりが見えない。

彼を倒すにはただ一つ、"赫子"しかない。

 

 

 

 

でも僕にはそれを使うことへの恐怖があった。

 

 

 

自分を失いかねない欲求が、僕の胸に潜んでいた。

 

 

それは彼を殺してしまうではないかと。

 

 

 

 

 

 

だけど

 

 

 

 

これしかない

 

 

 

 

彼の攻撃を止める方法は

 

 

 

 

 

僕はマスクのチャックを開き、彼に突っ込むように急接近をした。

 

 

 

 

それは赫子での攻撃ではなく、"捕食"だ。

 

 

 

 

『いただきます』

 

 

 

僕は彼の肩に、勢いよく噛み付いた。

それはまるで肉食動物が獲物の肉を噛み引きちぎるように、

僕は彼の肩を噛み付いた。

 

 

 

 

「なっ....!!?」

 

 

彼は突然自らの肩を噛まれたことに止まってしまい、武器を両手に持ったまま抵抗はしなかった。

そんな彼に僕はすぐさま離れた。

 

(.....)

 

まだ慣れていないはずの人の肉が、人一倍心地よい味がした。

喰種が唯一、口にすることができるものであり、

または飢えた食欲を満たすことができるもの。

僕は食欲と快楽感を同時に得られた。

これが食した時に得られる快楽

 

僕の腰付近から再び現れた赫子は、先ほど出していた赫子がより丈夫で、強さを感じられる。

 

 

 

強さを得ることで自分が暴走をしてししまうではないかと恐れが胸の中で現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"僕は人間を失わない"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Adversary



孤独




それはみんな自分とは違うと気づいた時から始まった。







金木Side

 

 

「ぐはッ!!!」

 

彼に攻撃した僕。

肉を得た僕は最初よりもはるかに力を得て、僕は彼を赫子で攻撃をした。

 

彼が持っていた武器が真っ二つに割れ、肩に血が吹き上がった。

 

やっと彼を攻撃を止めることにできた。

 

もう彼は戦えない。

 

 

「.......」

 

 

でも僕は忘れてはならないことが起こってしまった。

 

 

 

「....うっ!」

 

 

 

僕の体中から悲鳴が上がっていた。

自分の意志でもないのに体が勝手に動く。

それは心の中で潜んでいた"欲"が表に現れ始めた。

"欲"が欲していたものはただ一つ、"人間の肉"だ。

僕は勝手に動く体を必死に動きを止めるが、心は耐えきれない。

 

 

 

理性よりも力強い欲が僕の心に大きく蝕み始めてたんだ。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

亜門Side

 

 

「.....っ!!」

 

俺は必死に肩にできた傷を手で抑えていた。

それは喰種によって噛み付かれて、肉を引きちぎられてできた傷だ。

必死に痛みに耐え、なんとか正気を保った。

 

(....どうすれば)

 

俺には戦う術はなかった。

喰種を駆逐するためのクインケが壊れてしまい、

俺の体は深い傷を負ってしまった。

 

 

まさに飢えた獅子に俺は攻撃をしてしまった。

 

 

(...すまん..."張間")

 

張間 それはかつての俺の同僚の名だ。

彼女は俺と同じく喰種捜査官を目指していた。

だが、それは叶うことはなかった。

 

 

その理由は、喰種に殺されたからだ。

 

 

俺も同じく彼女の道に辿ってしまうと、覚悟をしていた。

 

 

 

 

しかし、俺に疑いたくなるようなことが起きたのだ。

 

 

 

 

「逃げてください....」

 

俺に攻撃をした喰種が震えた声で言った疑いたくなる言葉。

俺はその喰種の言葉に驚き、怒りが現れた。

まるでなぜこの場に身動きできない獲物を逃すような発言をしたのだ。

 

「ふざけるな!!!"喰種”()を前に背を向けるなど....!」

 

「行けッッ!!」

 

「!」

 

俺は喰種の叫び声に近い言葉が止まった。

これはふざけた行動ではない、俺が今まで信じていた世界が変わっていった。

 

「頼むから....」

 

 

 

 

 

 

『僕を人殺しにしないでくれ...』

 

 

 

 

 

 

その喰種は、泣いていた。

 

マスク越しから伝わる彼の気持ち。

 

それは雨の雫ではく、本物の涙であることに気づいた。

 

 

俺が駆逐しようとしたにも関わらず、彼は俺を殺そうとしなかった。

 

今までは欲望のまま殺しにくるはずだった喰種が、なぜこんな深い傷を負った俺を殺さなかった。

 

攻撃でやられた重い体を引きづりながら、俺は喰種から離れた。

 

 

 

 

「.........」

 

 

 

 

こんなの初めてだ

 

 

 

 

人間(ヒト)が憎むべき"喰種"に命を助けられるなんて

 

 

 

 

 

俺はあの喰種に考えさせられたんだ。

 

 

 

 

 

 

喰種という生き物は何かと

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロデューサーSIde

 

 

(.....次が決まる)

 

先ほど美城常務から私に伝えた言葉。

今回の秋の定例ライブは成功したと認識してくださった。

しかし、まだシンデレラプロジェクトが存続したとは喜ぶのはまだ早い。

冬の舞台が最終結果になる。

 

 

 

今回が良くても次がダメなら、来年も続けられるとは限らない。

 

 

 

そう考えるとほっとしてられない。

 

 

 

「あ、プロデューサーさん」

 

すると私に声をかける人物がいました。

振り向くと一人の男性いました。

 

「今回喰種対策局から会場の警備をしました"滝澤 政道"ですっ!」

 

彼はビシッと私に敬礼をし言いました。

白いコートをきた人物。

喰種対策局から来てもらった"喰種捜査官"だ。

他に捜査官はいますが、おそらく代表者として伝えに来たと思います。

 

「お、お疲れ様です」

 

「今回は会場内に喰種らしき人物はいませんでしたっ!」

 

「そうですか。ありがとうございました」

 

少し緊張気味の様子で私に今回のライブの警備を伝えました。

おそらくはまだ入ったばかりの新人捜査官だと思います。

 

「では、失礼します」

 

「お疲れ様でした」

 

私はこの場から去っていく彼に一礼をしました。

今回ライブ中でも会場内の喰種への警備や、入場口のRcゲートをなどの喰種対策に乗り出してくださった彼らへの感謝でした。

会場裏ではトラブルはありましたが、喰種のトラブルがなくてよかった。

 

 

 

 

しかし、その時の私はほっとしてしまった。

 

 

 

 

 

ライブが行われている時、この東京内にて"事件"が起きていたとは、

 

夜が明けたとき知るとは、今の私は考えもしなかった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

「は〜終わった終わった!」

 

「終わったね」

 

ライブが無事に終わり、私としぶりんは一息をついていた。

長椅子で座っていた私たちは、今回のライブについて語っていた。

今日のライブはあたしたちにとって"最高の日"だった。

それはただいいことがあったからじゃない。

悪いことも起こって、それを乗り越えられたことも最高だった。

 

「未央」

 

「ん?」

 

「あの時ありがとう」

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

それはライブをやっていた時だ。

通常通りにライブが行われるはずだった。

しかし急に文香さんが体調を崩し、トラブルが発生したのだ。

なんとかライブにスケジュールに支障しないよう、

しぶりんたちが文香さんたちより先にステージに立つことになった時、

しぶりんもそうだし、加蓮もかみやん(奈緒)は不安そうな顔だった。

そんな時、私としまむーは緊張を和らげようとコツを教えた。

ステージに出る時に好きな食べ物を掛け声にすると言うこと。

 

「おやおや、何してるんかなー?」

 

すると私としぶりんの間に誰かが座っていた。

 

「え!?しきにゃん!?」

 

「いつの間に!?」

 

「ちょっと楽しそうだから来ちゃった♫」

 

そこにいたのはしきにゃんだった。

急にいたせいか私としぶりんは驚いた。

 

「どうやってそこに来たの!?」

 

「さぁ、どうでしょ〜?」

 

しきにゃんは確か美嘉姉と一緒に文香さんの元に行ってた。

今回しぶりんたちが先にステージに立った理由は文香さんが倒れたからだ。

理由はよくわかんらないけど、緊張で気分が悪くなったかららしい。

 

「いや〜雨が止んでいてよかったよ」

 

「雨が降ってた?」

 

「うん。確か文香ちゃんが倒れてた時にちょうど降ってたよ」

 

それ言えばライブの時に誰かから耳にした。

雨が振り始めたのはトラブルが発生した時で、

雨は上がった時はトライアドプリムスが終わった時に聞いた。

なんだか会場の状況が天気と同じくなるなんて不思議に思った。

 

「これで傘をささずに済む!」

 

「確かに傘を買わずに済むし!」

 

天気予報では雨が降るとは聞いてなかったから、

もし降っていたらコンビニで買うハメだった。

そんなしきにゃんとしぶりんと話をしていると、

私たちはあることに気がついた。

 

「あれ?卯月は?」

 

しぶりんは卯月が来ないことに私たちに言ったのだ。

同じくニュージェネのプチ打ち上げをあげようとしまむーに伝えていたのだけど....

 

(....あれ?)

 

その同時に私はあることに気がついた。

 

「あれ?志希が消えた!」

 

「え!?」

 

ちょうど同じくこの場から消えていた。

私としぶりんの真ん中にさっきまで座っていたはずのしきにゃんが消えたのだ。

どこに見渡してもしきにゃんの姿が見当たらなかった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

志希Side

 

 

「ふっふふ〜ん♪」

 

あたしは一人、満足した気分で歩いていた。

何ってそりゃあ今回のライブが無事に終わってよかったから。

他の子もライブが無事に終わってくれてよかったけど、

文香ちゃんと美嘉ちゃんが特に成功できてよかった。

 

(まぁ、美嘉ちゃんと文香ちゃんはそれぞれ時間かかりそうだし)

 

美嘉ちゃんと文香ちゃんはそれぞれ、他の子と打ち上げみたいのをやるらしいので、

あたしはとりあえず卯月ちゃんと同じくユニットの凛ちゃんと未央ちゃんに訪ねた。

それで凛ちゃんが『卯月は?』と言ったため、今私は卯月ちゃんを捜索中だ。

 

(ちょっと、探索したくなったのだ〜♫)

 

と言ってもいつもの失踪とは変わらない。

あたしは会場内に卯月ちゃんを探しつつ、探検していた。

時間など気にせずに歩いていると....

 

(あ、見つけたっ!)

 

あたしの目に卯月ちゃんの姿が映った。

なぜか卯月ちゃんは一人、みんなから離れていた。

一人何か見つめているように見えた。

一言で言うと、"寂しい"っと言うことかな?

 

(....チャンスっ!)

 

とりあえず卯月ちゃんを驚かすことにした。

もちろん理由は脅かしたいから。

そっと私は卯月ちゃんの背中に位置に着き.....

 

「卯月ちゃ〜ん♪」

 

「っ!!」

 

両肩にぽんっと手を置くと、

卯月ちゃんは声にならない驚きをした。

 

「どうしたのー?」

 

「え、えっと....」

 

驚いたせいか、なんて言えばいいか迷っている様子だった。

 

 

 

 

 

他の見方だと、"何か"隠しているっと言えばいいかな?

 

 

 

 

(...いいこと思いついちゃった♪)

 

その隠していることを突き出して気分を悪くさせるより、はるかにいいことが頭に浮かんだ。

 

「カネケンさんと話してみる?」

 

「え!?」

 

何って卯月ちゃんはカネケンさんと同じいい匂いがするからねぇ。

 

「ちょっとスマホ貸して」

 

「え?」

 

私は卯月ちゃんのズボンのポケットにあったスマホを取り出し、

すぐにロックを解除をした。

パスワードは六桁だけど、あたしは覚えていた。

 

「ど、どうして私のスマホのパスワードを!?」

 

「どうしてでしょう〜♫」

 

卯月ちゃんとカネケンさんのバイト先の喫茶店でアネモネと言う花の意味をスマホで調べる時に、

入力したパスワードを覚えた。

もちろん悪用するつもりはないけど。

 

「元気がないなら...電話しちゃえ♪」

 

あたしは『えいっ♪』と金木さんに電話をかけました。

 

「え、え、か、金木さんに!?」

 

卯月ちゃんの顔は驚きと混乱が混じった顔つきだった。

 

「じゃあ、電話よろしく〜♫」

 

「え、えっ!?」

 

あたしは卯月ちゃんのスマホを返した。

でも卯月ちゃんは電話を切らず、ちゃんと受け止め電話に出た。

そういうところがあたしが卯月ちゃんが好きなところだね。

 

 

 

 

今の時間帯ならカネケンさんはバイトは終わっているはず。

 

 

電話は出てくれるかも

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Side

 

 

「助けて....助けて....」

 

雨が上がった川沿い。

彼が離れた後の僕は、自らの欲望と戦っていた。

 

「...肉っ....肉っ!」

 

赫子が出たせいか心の中に潜んでいた欲望が僕の理性を揺らめき、

ますます人の肉への欲求が増すばかりであった。

 

「違う....っ!僕は食べたいんじゃ......」

 

正気に戻ったり欲に戻ったりと、僕の体はとても不安定だった。

 

 

 

その時であった。

 

 

「.....?」

 

ふと突然、電話の着信音が僕の耳に入った。

よく聞くとその着信音は僕の携帯の音であった。

 

「....だ....れ?」

 

雨で濡れた地面に這いずりながら、僕は自分のカバンに向かった。

鉛のように重い体を、僕は必死に前へと進む。

自分のカバンがある場所に着くと、

重く、痛みがある手でカバンを漁るように携帯を取り出した。

 

「....!!」

 

僕はその電話をかけてきた人物に驚いてしまった。

 

「....う....づ...き...ちゃん..?」

 

その着信をした人は、卯月ちゃんからであった。

どうしてこのタイミングでかけてきたのかわからなかった。

 

でも電話に出てはダメだ。

 

今の僕は瀕死状態だ。

 

今出てしまえば、彼女に心配をかけてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、彼女をここに呼び出しておけば...........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は"肉"を得ることが....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......」

 

ふと気がつくと、後ろに気配を感じた。

それは人のような気配。

気配を知った僕は、体に張り付いていた苦しみが一瞬欲求に変化した。

 

 

 

 

『...誰...か...し.....ら.....』

 

 

 

マスクを外し

 

 

 

 

『フフ.....まァ...誰でもいいか.....』

 

 

 

 

その人は(あたし)に何も答えず

 

 

 

 

『ねぇ』

 

 

 

 

まっすぐとその人に向かい

 

 

 

 

(あたし)......』

 

 

 

 

赫子を出し

 

 

 

 

『すごくお腹がすいているのーーーー』

 

 

 

 

 

 

僕はその人の体を赫子で貫いたんだ。

 

 

 

 

「芳村さんがお前にお前に目をかける理由が、わかった気がする...」

 

 

 

『"楓と同じ奴ら"との交流を止めない理由も』

 

 

聞いたことのある声。

僕は徐々に我に返り、自分がやってしまった過ちに気づいていく。

突き出した赫子から血が流れていた。

 

「よ....四方さん...?」

 

だんだんと震えと、犯してしまったことへの怖さが心の底から感じる。

僕は攻撃をしたのだ。

欲に飲まれ、攻撃をしてしまった。

 

「喰え、楽になるぞ」

 

そう四方さんが言うと僕の赫子が消えた。

四方さんは赫子で穴ができていたにも関わらず、

何もびくとはせず立っていた。

僕は手渡された肉が入っている包みを開き、

僕はそれを口の中に入れた。

 

 

 

僕は改めて実感をした。

 

 

それは人の僕ではなく、喰種の僕がやってしまった過ち。

 

 

欲望に負けて、"人の友達"を殺してしまう恐怖を頭に想像してしまった。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

董香Side

 

 

「.......」

 

薄暗い橋の下。

そこに私とヒナミはいた。

さっきまで捜査官(ハト)と戦い、

その捜査官(ハト)を殺した。

私は傷を抑え、奴の死体に近づいた。

 

 

 

「....やったんだ...」

 

 

 

私はまた殺したんだ。

 

捜査官(ハト)

 

 

 

 

「....ど...けよ」

 

私はそいつに気に入らなかった。

そいつは手袋をしていた。

喰種(私たち)を素手で触るのを嫌がっているように見え、

 

手袋なんか(こんなもん)しやがって....」

 

私はそいつの左の手袋を掴み

 

「私らに触るのも嫌かよッ!!」

 

思いっきり引っ張り、投げ捨てた。

こいつによって殺されたリョーコさんの恨みが晴らように気分は落ちついた感じだった。

 

 

 

 

 

これで終わりと思っていた、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

違った。

 

 

 

 

 

 

 

「......っ!」

 

しかし、それで済まされるとは違った。

私はあるものを見てしまったのだ。

それを見た瞬間、私の胸にあった復讐が恐怖へと変わった。

計り知れないほどの、恐ろしいものに感じたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴の左手には、"指輪"があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「トーカちゃん!!」

 

 

カネキとヨモさんが私たちの元に来た。

 

それはちょうどいいタイミングで来たんだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

(.....あれ?)

 

志希さんに私の携帯を開かれ、金木さんに電話を繋げさせられ、

私が電話に出ましたが......

 

「ん?電話にでなかった?」

 

「...はい」

 

電話をかけたのだけど、金木さんは電話には出ませんでした。

 

(...なぜ出なかったんだろう...?)

 

確かこの時間ならお家にいてもおかしくはないのですが....

 

「多分なんか電話の電波が乱れちゃったりして?」

 

「....そうかもしれませんね」

 

「まぁ、そういうときもあるよ。あとカネケンさんとお話しできなくて残念?」

 

「そ、そんなことありません!」

 

志希さんは私の答えに、にゃははっといつもの笑いをしました。

心の片隅では少しだけ話したかったのは事実でした。

でもその時の私は自然と、笑えなくなっていると知らずに話していました。

心から嬉しくなれないような、すぐに消えてしまう笑い。

 

 

 

 

 

なんだろ....

 

 

 

 

 

 

私......

 

 

 

 

 

 

どうすればいいんだろう.....?

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

亜門Side

 

 

真戸さんに指定された橋の下。

 

 

俺はそこにやって来た時、もう遅かった。

 

 

俺の目に映ったのは、血を流しうつ伏せに倒れた真戸さん。

 

 

それを見た時、言葉が浮かばなかった。

 

 

俺は無情な顔で倒れている真戸さんの元に冷たい川を気にせず足を運んだ。

 

 

彼の体を起こさせるも、息はしていなかった。

 

 

半目で口に血を流し、首には喰種によって切られた傷が深く残っていた。

 

 

俺は真戸さんの目を手で閉じさせた。

 

 

安らかに眠らせるようにと。

 

 

「.............っ」

 

 

俺は真戸さんの死に受け入れられなかった。

いくら心にそう伝えても、自然と目に涙が流れ始め、

しゃくり上げ始めた。

 

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

俺は泣き叫んだ。

 

 

悲しみと悔やみがこもった声で泣き叫んだ。

 

 

 

死した最初に私とパートナーとして組んでくださった方。

 

 

 

これが彼の死。

 

 

 

 

俺は止められなかった。

 

 

 

 

 

彼を助けられなかった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

他の捜査官が来る情報が四方さんから聞いたため、

僕たちはトーカちゃんとヒナミちゃんがいたあの橋下から離れた。

 

「....」

 

僕はあるものに目を向けていた。

先ほど着信を眺めていた。

 

「....あんまり"あいつら"とは話すな」

 

「....わかってます」

 

四方さんから僕に伝えた。

人間である卯月ちゃんたちとあまり話すなと。

僕は人でもあり、喰種でもあるんだ。

四方さんからもらった"肉"を口にして思った。

卯月ちゃんたちとは住んでいる世界は違う。

あの華やかな世界と僕たちがいる血が滲む世界。

その違いを再び気づかせてくれた。

 

でも僕は四方さんに心から感謝している。

あの時、理性を失った状態で電話をかけようとしていた僕を止めたからだ。

もし卯月ちゃんに電話に出てしまえば、最悪な状況になっていたかもしれない。

 

 

 

(....あの人の言葉が頭に残っている)

 

 

彼が言ったことが、僕の頭に残ってた。

 

 

まるでループしているように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この世界は間違っている』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはこれからの僕にとって重要な言葉になっていくんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Bitter Taste

苦味



あの一夜が終わった時から僕は離れて行ったんだ。



彼女たちとは





金木Side

 

 

あの一夜からしばらくたった。

僕の体にできた傷はなくなり、いつもの生活へと戻っていた。

いつもの生活と言っても変化はあった。

ニュースでは喰種捜査官が一名殉職したと大きく取り上げられ、

20区で喰種捜査官が亡くなるのは数十年ぶりらしい。

今後20区に捜査官が送られることは間違いなかった。

 

ちなみその喰種捜査官が殉職したニュースがテレビに流れた同じ日、

凛ちゃんたちが出ていた346プロの秋の定例ライブの特集が同じく流れた。

今回のライブは文香さんと凛ちゃんが所属しているプロジェクトクローネは好評だったと。

二つの出来事が同じ時間帯に起きるだなんて、なんだか気分がよくない。

 

「おーいカネキ?」

 

「.....え?」

 

「さっきから覚束ない顔しやがって」

 

「ああ、ごめんね....」

 

気がつくとヒデが僕の名をなんども読んでいたことにハッと気がついた。

考えすぎたせいか周りの音など耳に入っていなかった。

今、僕はヒデと大学の敷地内のベンチで会話をしていたんだ。

 

 

 

普通は考えられるだろう?

前に起きた喰種捜査官殺害事件の関係者が、この目の前にいるだなんて?

 

 

 

「それでさ、最近卯月ちゃんとはどうなんだ?」

 

「そ、それは....」

 

「まさか...全く連絡してねぇのか?」

 

「あ、ある程度してるよっ!」

 

あの一夜の後、卯月ちゃんに電話に出なかったのは"充電が切れてしまった"とメールで伝えた。

もちろん充電が切れたのは嘘だけれど。

 

急にヒデの口から卯月ちゃんの話題が出たことに僕は戸惑った。

先ほどのヒデの口から出た話題とはギャップが違うからだ。

最近ヒデは喰種について興味を持っている。

昔から急に何かを始めるのがヒデなのだが、僕は今それに恐れを抱いている。

理由はもちろん、僕は"喰種"だ。

ヒデはあの喰種捜査官の殉職した事件を自分なりに調べている。

その調べた内容はどれも正解と言っていいほど合っていて、とても恐れを持った。

もしヒデがその殉職した事件に、僕が関わっていると知ってしまえば....

 

「それで最近どんな会話したんだ?」

 

「...え?」

 

突然と言われるとすぐに答えが浮かばなかった。

 

「え...と....」

 

「........」

 

一体何を言えばいいのか考えてると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒデはとんでもないことを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カネキ、今度卯月ちゃんとデートしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...はっ!?」

 

しかもヒデの顔はふざけた顔ではなく、真顔で言ったのだ。

 

「さ、さすがにそれはまずいだろ!」

 

一体どれだけリスクが高い行動なのか理解しているとは考えにくかった。

もし本当にやったら、ファンに殺されかねない。

 

「いや、デートというか二人でどっか遊びに行けと言えばいいか。デートとなったら他のファンにぶっ殺されるな」

 

「ど、どうして僕が卯月ちゃんと!?」

 

「だってトーカちゃんから聞いたぞ。よく卯月ちゃんがカネキと話してるとな」

 

「トーカちゃんが言った!?」

 

まさかトーカちゃんがそんなことを言っていたなんて驚いてしまった。

いつも卯月ちゃんが来るたびにトーカちゃんは冷ややかな目で僕と卯月ちゃんの会話を見るのだけど.....

もちろん卯月ちゃんは僕だけじゃなくてトーカちゃんにも声をかける。その時はトーカちゃんは冷ややかな目はせず、笑顔で会話をする。

 

「まぁ、安心しろ。流石にカネキが卯月ちゃんと一緒に遊びに行った話なんて、俺は他の人に伝える気はねェからな!」

 

ヒデは僕にいつも揶揄うけど、告げ口をいう人ではない。

昔からヒデのことは知っているから、僕は信じることした。

僕が喰種だということを知ってもらうのは知って欲しくはないけど。

僕たちがそんな会話した時、ヒデは何かあるものを見つけたような仕草に出た。

 

「あ、あれって....文香さんじゃん!」

 

ヒデが指をさした先に彼女がいた。

 

「確か文香さんってカネキとは仲よかったよな?」

 

「....そうだね 」

 

ヒデは何度もその光景を見ていたため、僕と文香さんは交流があることは知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも僕は文香さんが現れたことに喜ばなかった。

 

 

 

 

 

 

「......離れよう」

 

「え?どうしてだよ?」

 

僕はヒデに答えを言わなかった。

どうして言わなかったのかと言うと、答えは言わなくてもすぐに現れた。

 

「あ!もしかして鷺沢文香さんですか?」

 

「やっぱりあたしと同じ大学だ!」

 

答えは目の前に現れた。

彼女の周りに多くの人が寄って来たのだ。

秋の定期ライブ以降文香さんの名は世間に知られ、いろんなメディアで紹介されている。

なので最近では大学内の多くの人から声がかけれれている。

 

「話しかけないのか?」

 

「.....変な目をつけられるから」

 

「え?.....あ、ああ....」

 

僕は座っていたベンチから立ち上がり、その場から立ち去った。

ヒデも僕の言葉に従い、文香さんから離れた。

 

 

あのライブ以降、僕と文香さんの間に見えない溝が生まれていた。

それは僕が作った深い溝だ。

でも今の僕たちの関係は最善なことかもしれない。

もし僕が彼女に声をかけてしまえば、周りに誤解を生んでしまう。

誤解を生んでしまえば今後の彼女の道に悪影響が出てしまう。

 

 

 

 

 

 

 

彼女が傷つけられるより、僕が傷つけらた方が影響が少ない。

 

 

 

 

 

 

 

あのいつも彼女と気軽に話し合えた日々は、もう戻らないんだ。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

(.....落ち着きました)

 

一人、大学の図書室で一息をしてました。

今日は授業がなくお仕事がなかったため、私は大学に訪れました。

 

(最近は色々な方に声をかけられ、どこに行っても疲れてしまいます...)

 

秋の定例ライブ以降私はテレビに出演したり、雑誌の取材も受けたり、ラジオに出演したりなどいろいろなメディアに出てます。

そのおかげで多くの方から声がかかり、自分は世間では有名人になっていると自覚できます。

 

 

 

 

 

 

(........金木さん)

 

 

 

 

 

私には心の隅で寂しさがありました。

今日お久しぶりに金木さんとお話をしたかった。

でも今日もできませんでした。

 

 

(......嫌ってませんよね?)

 

 

金木さんは私に配慮をしてくださっていると思います。

もし二人で一緒にいてしまえば、今後の道に影響がしかねない。

 

 

 

 

 

 

(.......)

 

 

 

 

 

私は持っていたマフラーをぎゅっと抱きしめました。

 

 

 

 

 

最近私は何かを抱きしめたいという感情が芽生えてました。

 

 

 

寝るときも枕を抱きしめ、事務所にあるソファーにおいてある柔らかいクッションを抱きしめる日々が最近増えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは金木さんと出会っていない日々の数と同じく増えていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも私は何かに抱きしめるだけでは完全に満たされるとは限りません。

 

 

 

 

 

 

 

 

つらい

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と離れるだなんて

 

 

 

 

 

 

 

最近朝ベットから目覚めたとき、なぜか目元に涙を流した後が感じられます。

 

 

 

 

 

 

 

その時流した涙はほとんどは、冷たい悲しい涙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正しいだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

本当にこの道(アイドル)をやっていいのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

ヒデと共にした僕はその後バイトで別れ、現在あんていくにいる。

今日同じく僕と働いているのは古間さん、入見さんに店長でトーカちゃんはいなかった。

 

 

(.....僕が殺したわけないんだ)

 

 

先ほど喰種のお客さんたちから声がかけられた。

 

 

 

 

"これからも捜査官(ハト)をぶっ殺してくれ”と

 

 

 

 

それは僕が関わっている20区内の夜に起こった喰種捜査官殉職した事件だ。

今日あんていくに来たお客さんの中に、僕が捜査官(ハト)と戦っているところを目撃したらしく、

僕がその捜査官(ハト)を殺したと誤解していたらしい。

 

 

 

 

 

僕は彼を殺してはない。

 

 

 

 

 

僕は彼の命を救ったんだ。

 

 

 

 

 

喰種なのに人の命を救うだなんて、ありえない話だ。

 

 

 

 

 

「そういえばカネキくん?」

 

「はい?」

 

「今日"特別な人"が来るって聞いたかい?」

 

「"特別な人"?」

 

古間さんから初めて耳にした。

一体なんだろうかと聞こうとすると入見さんが反応し、

 

「今日はカネキくんに"会ってもらいたい人"が来るの」

 

「会ってもらいたい人?」

 

「ええ、店長と私たちは結構仲良しな子でね」

 

一体誰なのか僕は隣にいた店長に聞いたのだけど、

『もうそろそろ来るよ』としか言ってくれなかった。

 

僕はその店長の言葉に気になりつつ、

各テーブルを布巾で拭いていた。

今の時間帯は昼下がりで人が来ない。

僕があんていくに来た時は人はいたのだけど、今は妙に人はやって来ない。

まさか扉の看板をCloseとしているのかと考えていると、

しばらく開くことがなかったお店のドアが開いた。

 

 

「いらっしゃ....」

 

 

開いたドアに顔を向けた僕は、言葉を途中で止め、驚いてしまった。

 

それはお店の扉が開いた時だ。

 

ふんわりとしたショートカットに、僕と同じ身長の美しい女性だ。

 

この人を僕は知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、みなさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"高垣楓"(たかがきかえで)さんがあんていくにやって来たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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repeat



あの時の出会い




その次は思いがけないところで再び出会うのだ。









金木Side

 

 

昼下がり

出来事は突然、僕の目の前に起こった。

 

 

「.....え.....と....」

 

驚いてしまったせいで、僕は口が止まってしまった。

その理由は僕の目に映っていた。

あんていくにあの346プロのアイドル"高垣楓"がやって来たのだ。

楓さんがあんていくにやってきた時、店内は他のお客さんはおらず、

古間さんと入見さん、店長がいるはずなのだが変に店内は静まり返っていた。

僕はこの静まり返った空気をなんとか変えないかと考えていると、

僕は楓さんと目が合ってしまった。

そしたら楓さんは僕を見た瞬間、なぜか嬉しそうな反応をした。

 

「もしかしてあなたが看板娘さんですか?」

 

「.....え?」

 

僕は再び驚いてしまった。

それは別の驚きで固まった。

何も違和感もなく楓さんは僕を看板娘と言ったのだ。

 

「ああ、楓ちゃん。違うよ」

 

この静まった空気を店長は何も気にせずに楓さんに声をかけた。

 

「この子はカネキくんだよ」

 

「あ、じゃあ、この人はあの看板娘さんじゃないんですね」

 

「そ、そうです....」

 

楓さんは『すみません』と少し頭を下げた。

もしかして楓さんが言う看板娘さんはトーカちゃんのことだろうか?

 

「では座らせていただきます」

 

楓さんは笑顔でそう言うとカウンター席に座った。

楓さんが確か僕が働く前にあんていくで働いていたと以前店長から耳にした。

 

(まさかここに楓さんが来るなんて.....)

 

卯月ちゃんや美嘉ちゃんなど出会っているはずの僕でも、

同じく346プロ所属している楓さんになると存在感が違う。

身長は僕よりも2cm高く、171cmだ。

僕よりも少し大きい。

普段こんな近くで会うことはないため尋常じゃないほど緊張が僕を襲う。

もしヒデに楓さんがここに来ていると言ってしまえば食いついて来るのは間違いない。

ちなみに今は楓さんは入見さんと古間さんと話している。

やはりここにあまりこないためかとても嬉しそうに話している。

 

「そうだ、カネキくん」

 

「はい?」

 

「楓ちゃんがあんていくに来ていることは誰にも言っちゃだめだからね?」

 

「え?」

 

「もちろん金木くんのお友達やあの346プロのアイドルの子たちが来ていると言うこともね」

 

「それって...卯月ちゃんとか来ていることも?」

 

「そうだね。誰にも楓さんがここあんていくに来ていることを伝えてはだめだよ。楓ちゃんはあんていくを"隠れ家"として楽しみに来てるからね」

 

世間で知られるほど日常でゆったり過ごせれるのは家でしかないと考えてみれば、

あんていくもその数少ない場所と言うことになる。

 

「芳村さん、何話してたんですか?」

 

すると、ちょうどいいタイミングで楓さんが僕と店長の方に顔を向けた。

 

「いや、ちょっと金木くんが楓ちゃんが来たことに驚いちゃったみたいなようで」

 

「は、はい...まさかここに訪れるとは思いはしなかったので....」

 

驚いたことは事実だけど、話していた話は違う。

すると楓さんは僕に視線を向け、興味を持ったような顔つきになった。

 

「ところでお名前はなんて言いますか?」

 

「ぼ、僕ですか?...か、金木研です」

 

「金木研くんですか....」

 

楓さんはそう言うと、顎に右手を当て、考える仕草をし始めた。

 

(...一体何考えているのだろう...?)

 

楓さんは僕をじっと見つめ、何も話さない。

先ほど店にやって来た時と同じく、店内は静かな空気に包まれた。

 

(さ、さすがに....卯月ちゃんが来ているとか言っちゃダメだ....)

 

何か話題を出そうと考えていたのだが、

第一に上がってしまったのは僕の友達に卯月ちゃんなどの楓さんが所属する346プロのアイドルが、あんていくに訪れているという話題だ。

もちろん流石に僕はその話題には口にはせず、

彼女に伝えない。

そんな風に僕は話題を考えていると、楓さんは口を動かし始めた。

 

「もしかして、女の子になれますか?」

 

「え」

 

僕は彼女の言葉に固まった。

一体何を言っているのか、この方は。

 

「お、女の子ですか!?」

 

「ええ、メイクと女装したらいけるんじゃないかなって。金木くんなら問題ないじゃないかなと思いますが...?」

 

楓さんはそう言うとふふふっと笑い、店長も古間さん、入見さんに笑いを誘った。

本気なのか、この人は。

 

「さ、さすがに僕は男のままでいいですよっ!」

 

「えー別にこのままよりはいいんじゃない?」

 

「さすがに男の方が暮らしやすいと言うとか....」

 

「いや、女の子の金木くんなら可愛く日常を過ごせると思いますよ。普通に」

 

「過ごせませんよ!!というか日常は無理ですよ!!」

 

楓さんは僕にからかうと言うか.....

むしろ意図はなく僕に伝えているように見える。

 

 

 

 

 

 

なんだろう。

 

 

 

 

 

 

気がつけば楓さんに対して抱えていた緊張はなくなっていた。

いつもの卯月ちゃんや凛ちゃんのように普通に接しているように感じたんだ。

まぁでも、僕は楓さんのその天然に翻弄されているようになっているけど。

 

「金木くんですか....」

 

「....そうですよ?」

 

「またお会いできたら嬉しいです」

 

「っ!」

 

まさかこの言葉をもらうなんて考えもしなかった。

 

「こ、こちらも同じくそう思います...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は楓さんにそう伝えた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつ会えるのか、ふと感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

卯月ちゃんとは違い、世間で名が知られている楓さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと会うのは長くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次は僕が寝ている時に出会うだなんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

プロデューサーSide

 

夕方頃

私は一人事務所で今日の仕事の報告書を作成していました。

その報告書の内容は私がプロデュースする各アイドルのテレビの収録の内容です。

感想はもちろん、現場の様子や今後改善すべき点など書類に書きます。

 

(......)

 

ふと私は秋の定例ライブを思い出してしまった。

秋の定期ライブが成功したのは悪くはないが、

ライブ終了後、喰種の事件が私の耳に多く聞くように感じる。

 

(....定期ライブの時に20区で喰種の事件か)

 

なんだか偶然に重なったせいか気分が悪く感じる。

それだけではなく11区では支局がとある喰種集団によって乗っ取られてしまい、

346プロでも11区周辺の会場を使用をしないことを決定した。

妙にここ最近喰種のニュースが目や耳に入るようになった。

 

「あの、プロデューサーさん」

 

すると私を呼ぶ声が聞こえ、

振り向くと島村さんが立っていました。

 

「少し険しそうな顔でしたけど大丈夫ですか...?」

 

「い、いえ..大丈夫ですが?」

 

考えすぎだ。

今は自分の仕事に戻らねばならない。

 

「そうですか。少しお話がありまして...」

 

「お話ですか?」

 

卯月さんは「はい」とにこやかに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこか、ぎこちない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの島村さんとは、どこか違うような空気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『養成場に戻ってもよろしいでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは間違った選択だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは彼女に養成場に戻ることを許可した後に、

胸の中に現れた疑問。

 

 

 

 

 

 

そう思い始めたのは時間が経ち続けたころだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Myself




蝕まわれる体



それは{私・僕}だけじゃないことを知る











卯月Side

 

 

時計の針が12時に指す前

私は一人、事務所から退出しました。

事務所から出る時、廊下や玄関には誰も人はおらず、一人も私の目には映っていませんでした。

 

「.......」

 

今日は美穂ちゃんと撮影がありましたが、私は途中抜けました。

その時の私は頭の整理が追いつかず、何度も撮影を取り直しました。

しかしカメラスタッフさんは私の出来の悪さに、プロデューサーさんに相談していました。

一体何を話していたのかわかりませんでしたが、プロデューサーさんは謝っていました。

 

 

 

 

 

 

それを見た私は、"無力"を感じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

美穂ちゃんに迷惑をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は他の人より何もできてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......?」

 

すると私の携帯から着信が来ました。

この時間帯にメールが来るなんて不思議に感じました。

 

(....誰だろう?)

 

携帯を開いてみるとその送られた人に驚きました。

その人は凛ちゃんや未央ちゃんでもなく、プロデューサーさんでもありませんでした。

 

その人は、"金木さん"からでした。

 

(...金木さん...!?......な、なんだろう?)

 

金木さんとは直接会っていますが、携帯などの連絡は基本私が多くやっています。

でも今回は金木さんから連絡が来ましたので珍しかったです。

それでは私は金木さんからのメールを開きました。

 

(.......え?)

 

私はそのメールに驚きました。

 

 

 

 

そのメールの内容は.....

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

時計の針が3時の頃。

都内にある遊園地の入り口前に僕はいた。

僕はベンチに座り、複雑な気持ちで"ある人物"を待っていた。

 

(.....一体何考えているんだ、ヒデは..)

 

僕は後悔をしていいのか、それとも喜んでいいのかわからないかった。

それは一昨日の出来事の話だ。

ヒデが『卯月ちゃんとどっかで遊ばないのか?』という話題だった。

さすがに僕は彼女のことを思い、『無理だろ』と何度も言ったがヒデは全く納得はせず、

僕がいじっていた携帯をぱっと取ったのだ。

そしてすぐに卯月ちゃんの連絡先を見つけ出し、

メールをパッパッパッとものすごい速さで文章と打ち、卯月ちゃんにメールを送った。

そのヒデが入力したメールの内容が問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『卯月ちゃん 明日どこか遊びに行かない?』

 

 

 

 

 

 

 

それを見た時はもう慌ててしまった。

書いてはならない文を卯月ちゃんに送ったのだ。

まさにラブレターと同類のものを送ったのと同じものだった。

でも運良くヒデは凛ちゃんや未央ちゃんの連絡先を見なかったことはよかったけど

 

(あの時の僕は絶望に近い感覚だったな...)

 

いくら卯月ちゃんでも間違いなく心の底から嫌うような行動だと

あと流石に明日どこか遊ばないかとなれば難しいだろ....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だと考えてたのだけど.......

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こんにちは..金木さん...」

 

「!」

 

卯月ちゃんの呼ぶ声が真っ先に耳に入った。

振り向いたら、本当に卯月ちゃんが僕の元にやって来たのだ。

制服で茶色のコート、水色と白の縞模様のマフラーをしていた。

 

「こ..こんにちは.....卯月ちゃん。制服って....」

 

「あ、い、いや、これは学校終わりで....そのまま、来ました」

 

今日は土曜日であるため、おそらく午前中で学校が終わっただろう。

 

「一昨日のメール驚きましたよ.....まさか金木さんが...」

 

「そ、そうだよね...きゅ、急にあのメールを送ってごめんね...」

 

僕が入力した内容ではない。ヒデがやったんだ。

見ての通り、僕は卯月ちゃんと遊園地で遊びに来ているのだ。

普通なら断るであろう誘いを卯月ちゃんはOKをしてくれたのだ。

今でも信じがたいことだ。

 

「い、いえ、ちょうど私にお時間がありましたから大丈夫です...!」

 

卯月ちゃんも僕と同じく緊張をしていた。

気を使っているのか本当に時間が空いていたのかわからない。

ただ僕は彼女の言葉に信じるしかない。

 

「じゃあ...行こうか」

 

「い、行きましょうか...」

 

僕はベンチから立ち上がり、卯月ちゃんと歩き始めた。

お互い緊張いるせいか中々顔を合わせられず、気まずい空気が漂う。

 

(.......いつも通り卯月ちゃんと過ごしているのに、なぜか新鮮だ...)

 

見慣れているはずの卯月ちゃんの姿は、どこか新鮮に感じた。

いつもより彼女から甘い香りがする。

綺麗な髪からする甘い香りはどこか心地がよく、気分がいい。

それに卯月ちゃんのマフラー姿は可愛い。

今は緊張して照れている。

その顔はとても可愛く見える。

チラチラと卯月ちゃんを見てると、緊張していて目をそらしていた卯月ちゃんは目を動かし、僕と合ってしまった。

 

「...どうしましたか?金木さん?」

 

「え?い、い、いや....なんでもないよ...?」

 

僕はしばらく彼女を見ていたことに少し照れてしまし、目をそらした。

ただいつもより可愛く見えてて仕方がない。

 

「...ゆ、遊園地ですか。なんだか来るの久しぶりです」

 

「久しぶり?」

 

「はい。昔はパパとママと一緒によく行ってました。今はお仕事で行く時間はありませんが、今度はお友達と行きたいです」

 

「そうなんだね....」

 

「金木さんはどうですか?」

 

「僕?.....最後に行った記憶はあんまりないな..」

 

「記憶がない?」

 

「うん。だいぶ小さい時だったから覚えてないよ」

 

「そうなんですか....」

 

僕が遊園地に訪れた記憶はあんまりない。

最後に行ったのは母さんと行った時しか思い出せない。

でもその時一体何をやったかは全く記憶にない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というか思い出したくないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その記憶を探す途中に思い出す"嫌な記憶"を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、チケット買いますか?」

 

「そうだね。まずはチケットを買わないとね」

 

僕たちはまだ遊園地の前にいて、園内には入ってない。

 

「あ、少し待ってください」

 

「ん?」

 

卯月ちゃんはそう言うとカバンからメガネとキャスケットを取り出し、顔に身につけた。

 

「バレてしまうとまずいので...伊達眼鏡をします」

 

「あ、そうだったね。卯月ちゃんは有名人だからね....」

 

決して忘れてはならないこと。

卯月ちゃんはアイドルだ。

もしバレてしまえば一貫の終わり。

それに僕は喰種であるため、346プロが彼女が喰種と知り合えば大変だ。

 

(....メガネ姿も珍しいな)

 

別に卯月ちゃんがメガネをかける姿は嫌いではないが、

これも可愛いと感じる。

僕たちは遊園地のチケット売り場に向かった。

受付には女性の方がいた。

 

「いらっしゃいませ。大人二枚でよろしいですか?」

 

「...はい」

 

「お、おねがい.....します」

 

僕と卯月ちゃんはお互い気恥ずかしそうに受付の人に答えた。

本当に二人で遊園地にやって来たと改めて思う。

きっと受付の人は"カップル”と考えたのだろう。

幸いにもその人から何も聞かれることもなく、チケットを受け取ることができた。

 

「よかったですね...気づかれてなくて..」

 

「なんか言われるかなと怖かったよ..」

 

僕はそう言うと胸を撫で下ろした。

 

「あの方、何か気がついた仕草がありませんでしたね」

 

「まぁ...そうだね....卯月ちゃんは有名人でもあるけど....」

 

「...ん?」

 

「あ、い、いや....なんでもないよ」

 

「は、はぁ....」

 

卯月ちゃんは少し頭を傾けた。

変に見られてしまった。

それは僕もわかっていた。

さすがに彼女に"お互いまるでカップル"と言うわけにはいかなかった。

そして僕たちは遊園地の中へと入って行った。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

(ど、どうしよう....)

 

今、私は金木さんと遊園地にいます。

ちょうど今日は養成所がお休みだったせいか、

私は一昨日金木さんのお誘いを受けました。

 

(なんだか本当に現実なのかわからない....)

 

自分でも驚いています。

そのおかげで中々話しかけづらいです。

いつもなら同性のお友達といるのが普通なのですが、今は異性のお友達といます。

プライベートでは異性のお友達と言えば金木さんしかいません。

 

「あ、卯月ちゃん..」

 

「え?....あ、はい!」

 

緊張のせいか、いつもより反応が鈍く感じました。

それは私だけではなく金木さんも同じくです。

 

「せっかく遊園地に来たから...何かに乗らない?」

 

「そ、そうですよね....」

 

せっかく遊園地に来たのだから、何か遊ばないといけません。

しかも買ったチケットは1日乗り放題です。

でもまず何をやろうか迷ってしまいます。

 

「あ、あれは良さそうじゃない?」

 

「ん?」

 

金木さんが指をさしたのは観覧車でした。

今日の天気は晴れで、景色を見るなら絶好です。

 

「観覧車ですか....」

 

「園内にあまり回ると...まずいじゃないかなと思って」

 

確かに園内を見渡すと、ある程度訪れている人がちらほらといます。

もし誰かが私を気づいてしまうと、厄介なことは免れません。

 

「じゃあ、乗りましょうか」

 

「...うん、乗ろう」

 

私たちは観覧車に乗ることに決めました。

それから係員の方に私の正体に気づくことなく、観覧車に入ることができました。

私は観覧車の中に入った瞬間、被っていたキャスネットを取り、つけていた伊達眼鏡を外しました。

観覧車の中に入ったのはいいのですが....

 

「「.........」」

 

景色は綺麗だけれど、お互いは静かなままでした。

観覧車の中は私たちだけではどこか広く感じました。

お互い正面に向き合うよう座っていました。

 

(何か話さないと....)

 

さすがに何も話さないまま観覧車を乗り過ごすのを止めるため、固く閉ざした口を開きました。

 

「き、綺麗ですね....」

 

「....うん」

 

「........」

 

「........」

 

しかし会話はすぐ途切れてしまいます。

やはり密室だから話しづらいかもしれません。

 

(あ...そうだ!)

 

私はあることを閃きました。

それはもちろん静かな空気を変えることでもあり、

金木さんに関係することでした。

 

「か、金木さん」

 

「...ん?」

 

「.....一緒に写真を撮りませんか?」

 

「え!?しゃ、写真?」

 

「はい!思い出として撮りませんか?」

 

「...本当に...一緒に撮っていいの...?」

 

「あ...えっと....」

 

今更かもしれませんが、私は何を言ったのか今気づきました。

確かに私と一緒に撮るのはいきなりですし、驚くことです。

でも私はただ緊張をほぐすだけで言った訳ではありません。

 

「さ...先ほど金木さんは言ったじゃないですか....遊園地の思い出はあまりないと...」

 

「....思い出がない?...ああ確かに、僕は言っていたね」

 

観覧車に乗る前、金木さんが言っていたこと。

あんまり遊園地に行った記憶がないってそんなことをいいました。

その思い出の一つとしていいんじゃないかなと私は写真と言う方法を思いつきました。

 

「...じゃあ、撮ろうかな?」

 

金木さんは気恥ずかしそうに答えました。

恥ずかしいのは私だけではないことに改めて安心しました

 

「少し移動しますね...」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「卯月ちゃん?もしかして僕の隣に...?」

 

「あ.....そ、そうです....」

 

今私たちは観覧車の中にいます。

一緒に写真を撮るなら、どちらかが隣に座らないといけません。

 

「なら...僕が卯月ちゃんの隣に座った方がいいかな?」

 

「え?そ、それは....」

 

「せっかく卯月ちゃんが考えてくれたことだし....その....僕が隣に座っていいかな?」

 

「.....お、お願いします」

 

私がこくりっと頷くと金木さんは私の隣に座りました。

金木さんとはいつも喫茶店で出会っているはずなのに、

なぜかもっと身近に感じていたせいか、緊張がさらに生まれてました。

温度が感じるほど近くだから。

 

「えっと....撮りますね」

 

私はスマホを取り出し、カメラモードにしました。

それからスマホを私たちの方に向けました。

 

「もう少し寄った方がいいんじゃない?」

 

「え?あ、そ、そうですよね...」

 

緊張いたせいか、金木さんがカメラの中に入っていませんでした。

 

「ぼ、僕が寄った方がいいね...」

 

「っ!!」

 

不意に金木さんは私に寄りました。

金木さんの顔が私の顔の隣にわずかな距離しかありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに私たちの距離が縮まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、卯月ちゃん...」

 

「...え?」

 

気がつくと金木さんが私のことを何度も呼んでいたことに気がつきました。

まるで周りが時が止まったかのように私は呆然としてました。

 

「シャ、シャッターを押して...」

 

「あ、はい!」

 

私はすぐにニコリと笑顔をし、カメラのボタンを押しました。

写真を撮った後、私はその撮った写真を見ましたが...

 

(ちょっと笑顔が....よくないかな...)

 

唐突だったためかその写真はどこかよくありませんでした。

 

「どうだった?」

 

「...もう一度撮ってもよろしいですか?」

 

「え?だ、ダメだった?」

 

「ちょっと緊張したせいか....」

 

「....なら、お願いね...」

 

もう一度再チャレンジです。

私は右手に持っていたスマホを私たちの方に向けました。

 

(さっきよりは変なことが起きないはず...)

 

そして金木さんは再び私の方に顔を寄りました。

 

(....やっぱり来ちゃった!!)

 

先ほどよりも驚きませんが、やはり少しは驚いてしまします。

でも私は忘れずにパシャりと撮りました。

今度こそはいい写真が撮れたはず....

 

「い、良い写真が撮れましたよ」

 

いつも友達と自撮りをするのに、今回は特別な感じに思えました。

 

「...うん、いいね」

 

「ありがとうございます」

 

金木さんは少し微笑みました。

きっと新しい思い出に嬉しく感じたのでしょう。

 

「ありがとうね。卯月ちゃん」

 

金木さんがそう言うと、元にいた席に戻ろうとしました。

その瞬間でした。

 

「あ、待って」

 

「ん?」

 

私は金木さん声をかけました。

無意識に近い感覚で私はその行動を起こしました。

 

「も、もう少し....隣に座ってくれませんか?」

 

 

なんだか離れられると寂しくなるんじゃないかなって心の中に生まれてました。

 

 

 

「....いいよ」

 

金木さんは何一つ嫌とは言わず、私の隣にいてくれました。

 

「....ありがとうございます」

 

「....うん」

 

「..........」

 

「..........」

 

隣になったとはいえ、結局お互い黙ったままでした。

でもその状況は嫌かと言われますと、全部が嫌とは言えません。

横に居ているくれることが安心感と言うか...幸せと感じるのと言えばいいのでしょうか。

でも隣に居てくれることが嬉しかったです。

 

「あ、卯月ちゃん」

 

「....はい?」

 

「もうそろそろ着くよ」

 

気がつくと観覧車はもうそろそろ一周を回ろうとしていました。

 

「あ、はい!わかりました」

 

私はキャスネットと伊達眼鏡を身につけました。

私と金木さんが観覧車の中で過ごした時間は長いようで、短い時間でした。

でも私はとても充実した時間です。

金木さんと隣にいたこと、一緒に写真を撮ったこと、

それは私にとって嬉しい一時でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その写真が金木さんだけじゃなくて、私にも重要なものになるなんて思いもしませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重要になる時が心寂しいときだなんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おもしろかったですね」

 

「面白かったね.....」

 

私たちはベンチに座り、少し休んでいました。

園内に一回りし、疲れたからです。

メリーゴーランドやお化け屋敷、それにコーヒーカップなど金木さんと一緒に行きました。

 

「お化け屋敷は怖かったよ...」

 

「そうですよね...私も怖かったです...」

 

私の希望でお化け屋敷に行きましたが...

予想以上に怖くて、一体何を見たかわかりません。

その時の私は金木さんの背中で隠れていました。

金木さんも私と同じく怖がっていましたが、止まることなく進んでくれました。

 

「少しお腹が空きましたから、クレープ食べませんか?」

 

園内に回ったせいか私のお腹は空いていました。

私はちょうど売店を見て、クレープでも頂こうと思いました。

 

「え!?」

 

すると金木さんは"なぜか"私の言葉に驚きました。

 

「え...?どうしました?」

 

「え....と...僕もお腹空いたけど、コーヒーだけで十分だよ」

 

「コーヒーだけですか?」

 

「そ、そうだね。今寒いし....」

 

「そうですか....確かに寒いですよね...」

 

さすがにないと思いますが、体重のことを気にしていたかもしれません。

でもなぜクレープで驚いたのか不思議に感じました。

 

「じゃあ、私か買って来ます」

 

「え?買ってくれるの?」

 

「今日は金木さんが誘ってくれたお返しと言うことで」

 

「さすがに奢らせるのは....」

 

「大丈夫ですよ?金木さんにお世話になったのもそうですし、いつもの感謝と言うことで」

 

「...わかったよ。缶コーヒーをお願いね」

 

「わかりました!」

 

私が金木さんに何か買うことにしたのは、今日金木さんが楽しませてくれたからです。

もちろん私も金木さんを楽しませたことあると思いますが...

 

「あ、ちょっと待って」

 

「ん?」

 

「コーヒーはブラックでね?」

 

「ブラックですか?」

 

「うん...最近甘いのは好きじゃないからね...」

 

「は、はい....」

 

そう言うと私は自動販売機に向かいました。

そこまでコーヒーをこだわるのかな?と疑問を抱えたままでしたが、

別にそういうこともあると思い、気分を切り替えました。

私は自動販売機にコーヒーのブラックを選び、

私はホットのミルクティーを選びました。

 

「金木さん、コーヒーです」

 

「ああ...ありがとね」

 

買った缶コーヒーを金木さんに渡しました。

金木さんは受け取ったコーヒで両手を温めました。

私は金木さんに缶コーヒーを渡した後、隣に座りました。

冬に入ったせいかいつもより日が沈むのが早く、

園内はライトアップし始まりました。

 

「綺麗ですね」

 

「...うん」

 

冬の肌寒さがより冬を感じさせてくれます。

それは決して嫌な寒さではなく、どこかいい空気を作ってくれます。

 

「金木さんって兄弟はいますか?」

 

「....いないよ」

 

「そうなんですか、私も同じなんですよ」

 

「そうなんだ...」

 

「はい。一人っ子なのかわかりませんが、どこか寂しいと感じる時があります」

 

「まぁ、確かに美嘉ちゃんと未央ちゃんを見るとわかるよ...楽しそうだしね」

 

「金木さんも兄弟が欲しいと感じたことありますか?」

 

「....どうだろうね」

 

「え?」

 

私は驚きました。

その瞬間、金木さんの顔が暗くなったからでした。

 

「....僕、親と呼べる人はもういないんだ」

 

「え?じゃあ...」

 

「うん。父さんは僕が物心が着く前に亡くなって、母さんは小学校5年生で亡くなったんだ」

 

「.......」

 

「...卯月ちゃん?」

 

「あ、いえ.....聞いてしまってすみません...」

 

「いや、大丈夫だよ....別に謝ることないよ...」

 

金木さんは私にそう伝えてくれましたが、申し訳ないと言う感情は離れてくれませんでした。

金木さんの顔は今まで見た中でどこか寂しく、悲しい顔になったからでした。

こんな話をさせた私は何一つ悪くないだなんて、ありません。

 

「...そういえば、卯月ちゃん」

 

「ん?」

 

「これから卯月ちゃん何して行くのかな?」

 

「私ですか?」

 

「うん....」

 

「...私はもっと頑張っていきたいんです」

 

「...うん」

 

「もっと練習をして、他の子と一緒に立てるようにいっぱい練習をして」

 

「.........」

 

「体力もつけて、みんなに置いてかれないように頑張って」

 

「.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで私は..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は口を止めてしまいました。

 

 

 

 

 

 

それはある光景を見たからでした。

 

 

 

 

「....金木さん?」

 

 

 

輝く綺麗なイルミネーションの光よりも、私はある場面に目を向けてました。

金木さんから異変を身に感じたからでした。

 

 

 

 

 

「そ......なんだ......そうなん....だね.....」

 

 

 

 

 

金木さんは泣いていました。

 

 

 

それはとても悲しそうに頭を下げ、左手で目を塞ぎ、右手は缶コーヒーを強く握っていました。

 

 

 

ただ悲しくないてるだけではなく、何かを恐れているように震えてました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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precious


帰り道


あの時の出来事が、


{僕・私}にとって大切なことなんだ





金木Side

 

 

 

「........そう...なんだ....」

 

 

僕は卯月ちゃんの言葉に、自然と涙が流れ始めた

 

 

別に明るい話なのに、なんだか不安が僕の胸に現れたんだ

 

 

それはまるで日が沈み、闇が生まれたように

 

 

僕は恵まれてないんだ

 

 

みんなと違って、先が真っ暗で見えない

 

 

ただ闇が広がる世界しか見えないんだ

 

 

「...怖いんだ...みんなが........輝くことが.......」

 

 

僕は怖い

 

 

みんなに置いてかれて、見捨てられることが怖いんだ

 

 

凛ちゃんや未央ちゃん、志希ちゃん、文香さんに美嘉ちゃんを見るとわかるんだ

 

 

自分は"影"の存在だと

 

 

みんなが輝けば輝くほど僕は彼女たちとは距離ができてしまう

 

 

そんなの嫌だ

 

 

「.....僕を......忘れられることが......怖いんだ......」

 

 

出会ってしまったことに嬉しさと失ってしまう恐怖が、日に日に大きくなっていたんだ

 

 

輝くみんなの背中を見る影の僕

 

 

それを見た僕は胸の中に孤独、不安、恐怖、嫉妬、そして悲しみが不意に現れたんだ

 

 

僕も同じく輝けたいいなと

 

 

それに僕は"喰種"だ

 

 

僕はみんなに嘘をついて生きなければならない

 

 

その嘘が気づかれないように、日々怯えながらね

 

 

もし嘘がバレてしまったら、僕は本当に一人になる

 

 

二度といつもの日常に戻ってはこれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人になるなんて、嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金木さん」

 

 

 

 

 

何も聞こえなかった僕に、卯月ちゃんの声が頭の中に響いたんだ。

 

 

それはまるで闇に現れた小さな光のように

 

 

目を隠していた左手を離し顔をあげると、

 

 

隣に座っていたはずの卯月ちゃんはベンチに座っている僕に合わせてしゃがみ、

 

 

僕の右手を握ってくれたんだ

 

 

「!!」

 

 

何も見えなかった目に映ったのは、卯月ちゃんの微笑む顔

 

 

そしてまっすぐ僕の目を見る卯月ちゃんの瞳

 

 

僕はハッとしたんだ

 

 

「...金木さんは一人じゃありませんよ」

 

 

とても暖かい

 

 

冷え切った僕の手に卯月ちゃんはぎゅっと握り締めてくれた

 

 

それを見た僕は温もりが胸の中にふわっと現れたんだ

 

 

「.....本当に?」

 

 

「はい!例え皆さんが金木さんのことを忘れていても、私は覚えていますから」

 

 

卯月ちゃんはそう言うと微笑んだ

 

 

可愛らしく、笑顔が素晴らしい彼女

 

 

どこか心が明るくなるんだ

 

 

そして卯月ちゃんはこう言ったんだ

 

 

 

 

 

 

『金木研さん。私は何があっても忘れません』

 

 

 

 

 

僕はその言葉に勇気をもらった

 

 

不安というものに捕らわれていた僕に、安らぎを与えてくれたんだ

 

 

「...うん。ありがとう」

 

 

僕は涙を拭った

 

 

寄り添ってくれたことに僕は嬉しかった

 

 

卯月ちゃんがそう言ってくれたことに何より嬉しい

 

 

孤独の僕を一人でしないでくれることに、安心したんだ

 

 

「さぁ、一緒に帰りましょ?暗くなっちゃいましたし」

 

 

「そうだね....帰ろう」

 

 

僕たちは立ち上がり、遊園地から出た

 

 

イルミネーションに照らされた中で僕たちは帰って行ったんだ

 

 

それから卯月ちゃんとは駅で別れた

 

 

卯月ちゃんは「また、会いましょう。金木さん」と笑顔で小さく手を振り、改札口に行ったんだ

 

 

それが彼女との最後の言葉だった

 

 

でも遊園地から駅までの間は満足だった

 

 

その時お互い何も言うことなく、ただ駅に向かっていた

 

 

だけど卯月ちゃんは僕の手を握って、寄り添って一緒に歩いてくれた

 

 

悲しみと不安を負った僕を知ってくれたことに、

 

 

僕は卯月ちゃんと一緒にいてよかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもその時、時計の針が12時を過ぎていったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"人間"と言う魔法を途切れたことを知らせる鐘が響いてしまったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

帰りの電車に乗っている、私

 

 

夜の景色を見ながら私は立っている

 

 

でもただ景色を見ているだけではありません

 

 

数十分前の出来事が頭に焼きついたままでした

 

 

それは金木さんが私の前で泣いていました

 

 

悲しく、怯えた様子で一人泣いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿はどこか似ていた

 

 

 

心の中の"私"に似ていたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は泣いていた金木さんの手を握りました

 

 

その手はとても冷たかった

 

 

まるで金木さんが抱えていた感情を表しているように冷たかった

 

 

でも私は手を繋ぎ続けました

 

 

それは金木さんが一人にならないように

 

 

私はこの人を見捨てるだなんて、嫌

 

 

助けられたこともいくつあったのだから

 

 

忘れるだなんて、考えられないんだ

 

 

 

私が金木さんと別れる前、こんな会話をしたんだ

 

 

『もう駅に着きましたね』

 

『.......』

 

『金木さん?』

 

『...ああ、そうだね』

 

 

その時の金木さんは別れを惜しむようにどこか寂しそうな顔で私を見てました

 

 

もしかすると一人になるのが怖かったかもしれません

 

 

『大丈夫ですよ?』

 

『....うん。わかってる...』

 

 

私はそう言いましたが、表情は変わることはありません

 

 

"本当に"別れてしまうのが怖かったかもしれない

 

 

そんな金木さんに私は思い切って、ある行動に出ました

 

 

『....金木さん』

 

『...ん?』

 

 

金木さんが私の方に振り向いた瞬間、

 

 

私は金木さんの左の頰に、右手を添えました

 

 

『また会えますよ』

 

『......!』

 

 

金木さんは突然の行動に静かに驚きました

 

 

そして私は笑ったんだ

 

 

また会えるよと言ったんだ

 

 

そしたら金木さんは寂しそうな顔から、微笑みました

 

 

私はそれを見て安心したんだ

 

 

安心した金木さんが見れてよかったと心から感じ取れたんだ

 

 

『....ありがとう、卯月ちゃん』

 

『いえ、今日金木さんがお誘いをしてもらったお返しです』

 

 

金木さんと別れた後、やっぱり恥ずかしくなりました

 

 

私が金木さんの頰をそっと添えたことに、

 

 

なんでやっちゃったんだろうと

 

 

でもよく考えたら笑えてくる

 

 

私がやることのないことを行動に起こしたことが

 

 

今の私の心は恥ずかしさと面白さが変に混ざっちゃったみたい

 

 

頰に手を添えたことは絶対正解だと私はわかるんだ

 

 

『またね、卯月ちゃん』

 

『また、会いましょう。金木さん』

 

 

それが金木さんと最後に交わした会話

 

 

その言葉は今でも頭に残ってるんだ

 

 

あの金木さんの声がまるで今でも聞こえるように

 

 

 

私たちは約束をしました

 

 

"再び"お互い出会うことを

 

 

(......今、何しているのかな?)

 

 

電車で揺られながら思ったんだ

 

 

また金木さんと出会えるかな?

 

 

その時も同じく話し合いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

{金木さん・私}が一人にならないように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

会えないだなんて考えてはなかった、私

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの駅の別れが最後だなんて、後から知るんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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caution


二人がいない時間



空気の流れが悪くなっていることに徐々に気づいていくんだ











凛Side

 

 

12月中旬

 

日に日に肌寒さを感じ始めたこの時期、

冬が来たことを実感させる。

マフラーを手放すことができないぐらい風は冷たい。

 

窓から見える木が物寂しく葉が散り、

空は薄暗い雲がよく見るようになった。

 

一方クラス内は皆はワイワイしていた。

もうそろそろ冬休みなのか、どこか遊びに行く計画を立てていた人を見かけた。

 

(私はお仕事があるのは確定だけど....)

 

でも私はそんな余裕はない。

学校が終われば、このまま事務所に向かう。

別に仕事は楽しいのだけど、

 

 

 

 

 

 

 

なんだか私は青春らしいことしてないような気がする.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを考えていた私に、ある話題を耳にした。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば最近11区ヤバイらしいよね」

 

「うん。ネットでめっちゃグロいやつあったよ」

 

「うわ、マジで?」

 

私の隣の席に、あるグループが喰種の話題を話し始めた。

 

(.....11区か)

 

事務所内でもたびたび11区の話題を耳にする。

今あそこは無法地帯と言ってもいいほどひどくなっているらしい。

うちの学校も11区に行かないようにと先生が言っていた。

 

(....喰種か)

 

私は見たことがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

それなのか私の胸の中に妙に興味が芽生えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その喰種という未知なる生き物に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

未央Side

 

 

学校が終わり、私はまっすぐと事務所に向かっていた。

事務所に向かう時、外は寒く感じた。

秋の心地よい寒さから、何か暖かいものが欲しくなるほどの寒さになった。

 

「ん?」

 

すると私はある人を見かけた。

その人は346プロの事務所に入っていくプロデューサーと似ていた人。

私はその人のことは知っていた。

どうしてかって?

それは以前出会ったことのある人だから。

 

「あ!亜門さんじゃないですか!」

 

「え?あ、こんにちは...」

 

私はその人に元気よく声をかけた。

その人は亜門さんだ。

亜門さんは喰種捜査官で、CCGと言うところで働いている。

亜門さんは私に驚いた様子だった。

 

「いや〜久しぶりに会えるだなんて、奇遇ですな〜」

 

「まぁ、そうだな....まさかここで会うとはな....」

 

「それで、今回どうしてここに来たんですか?」

 

「ああ、最近11区の様子が危ないから報告しに来たんだ」

 

「え?報告?」

 

「そうだ。今現在11区はある喰種集団によってCCG11区支部がやられている」

 

「え!?それって...もしかして」

 

「もうあそこは危険区域だ」

 

ニュースだと何度も流れているせいか聞き逃してしまうけど、

生の声を聞いて、11区が本当に危ないのだとわかる。

 

「だから君も、11区には近づかないように」

 

「あ、はい....」

 

そう言うと亜門さんは少し早歩きでこの場から去った。

その亜門さんの背中はどこか急いでいるように見えた。

もしかするとさっき言っていた11区のことで忙しいのかも?

 

 

 

 

 

 

 

そのぐらい今11区は本当に危ないことがわかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

これが現場を知る人がわかること

 

 

 

 

 

 

 

 

その空気を亜門さんから感じたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

(....ん?)

 

ふと横に視線を向けた瞬間、私が知っている人が目の前に映った。

 

(あれは...!!)

 

 

私の元に、しぶりんがやって来たのだ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

 

事務所に入った、私。

中に入ると暖房が効いているおかげで外の寒さが感じられない。

 

(あの人って誰だったんだろう...?)

 

さっきプロデューサーと似ていた人を見かけた。

白のコートに、高身長の男性。

それを耳にすると真っ先にプロデューサーを連想させる。

 

「あ、しぶりん!」

 

「ん?」

 

私は呼んだ声が聞こえた方向に向いた瞬間、

未央が私に思いっきり抱きついた。

 

「どーもしぶりん!」

 

「やっほ....未央」

 

「もー、驚いた顔をしちゃって♪」

 

「突然抱きつかれるだなんて、そりゃ驚くよ」

 

驚いてしまったが、

でもそんな未央の絡みは嫌いじゃない。

 

「今日はかれんとかみやんとレッスン?」

 

「まぁ、そうだね。今日はダンスレッスンかな」

 

あの秋のライブのおかげか、最近仕事が前よりも増えた。

撮影だったり雑誌のインタビュー、ラジオやミニライブなど引っ張りだこだ。

それとこの時期特有かもしれないけど、12月後半はほとんど仕事だ。

未央も私と同じく忙しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも私たちに忘れてはならないことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、しまむー来ないね...」

 

「うん....養成場に戻っていると言ったよね」

 

卯月も忙しいかと言うと違う。

卯月は私たちから離れ、 今は養成場にいる。

一から基本を学ぶために戻ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に大丈夫かな....?

 

 

 

 

 

 

 

仕事を手放して長く養成所に居て

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

(あーこの時期に来ちゃったなー)

 

事務所にやって来てふと感じたこと。

アタシは今、レッスンルームでストレッチをしている。

今日は仕事もレッスンもないけど、

こうした空いた時間は自分磨きも大切。

この後、アタシはダンスの練習をする。

 

(やっぱクリスマスシーズンもあるし年末だからかなー?)

 

やっぱ年末になると忙しくなるのは避けられない。

でもその仕事を受けること大切。

12月末の多くの仕事はアタシは真面目に受ける。

 

「やっほ〜美嘉ちゃん♪」

 

「あ、志希」

 

すると志希がドアからぴょこっと顔を出し、手を振った。

相変わらずにゃははっと笑っていた。

そして志希は私の隣に何も気にせず座った。

 

「あれ?美嘉ちゃんは今日なんかあったっけ?」

 

「今日はなんもないよ。志希は?」

 

「あたしも今日は何にもないよ〜♪」

 

「え?なんでここに来た?」

 

「それは今、志希ちゃんにお話ができる人がいなんだ〜」

 

「いない?」

 

「うん。文香ちゃんとかフレちゃんは今お仕事でいそがしいからね」

 

確かにプロジェクトクローネ組は仕事が多く詰まっているって聞いたことがある。

文香さんとは最近会っていないこともそうだ。

今は文香さんはどうだろう?

 

「最近美嘉ちゃんはどう?」

 

「もうそろそろクリスマスだし、こっからお仕事が増えるからね...疲れるよ」

 

「そうなんだね〜。あ!あたし最近悩みがあるんだ〜♪」

 

「悩み?」

 

志希が悩みを持つなんて珍しい。

むしろ私が悩みを持つよりね。

 

「どんな悩み?」

 

「なんか最近カネケンさんからメールが来ないんだ〜♪」

 

「...え?」

 

想像してたことより意外な悩みに驚いてしまった。

その想像していたことは例えば仕事が多いとか、レッスンが多いと言うと考えていた。

でも志希が言ったのは金木さんとは最近メールが来ないと言ってんだ。

 

「金木さんから来ないの?」

 

「うん。いつもなら早くて数分、長くて1日ぐらいだけどな〜♪」

 

志希はそう言うとアタシの肩にしがみつき、

『ちょっと寂しんだよね〜』と寂しそうに呟いた。

よく時間を数えているなぁ....

 

「金木さんも忙しいんじゃない?」

 

「ん〜どうだろうね?いつもなら"普通"に返ってくるんだよね」

 

「"普通に"?」

 

「うん。あ、でも"あの事故"以降遅くなっているかも」

 

「え?"あの事故"以降?」

 

志希が言ったあの事故と言うのは金木さんが工事現場の鉄骨で重症を負った事故のことだ。

しかも金木さんの臓器が損傷していて、

その同じ現場ににいた女性の臓器を移植した。

それは志希から直接耳にした。

ニュースだと未成年のため匿名だからだ。

 

「それで....どんなメールしたの?」

 

「クリスマスイブに遊びに行っていい?ってね」

 

「.....さすがにそれはアウトじゃない?」

 

「え〜?なんでダメ?」

 

「だって志希もアイドルだし、さすがにデ....」

 

「ただおしゃべりするだけだよ?」

 

志希はよくわからないことをする。

アタシはある程度志希のことは知っているのだけど、

時々予測不可能な行動にでたり、勝手に失踪をしていて行動が読めない。

 

「それでどうしてクリスマスイブに?」

 

「いや〜あたしはカネケンさんと久しぶりに話したいな〜と思ってね」

 

確かに志希はなぜかイブの時は仕事はない。

本来なら仕事はあってもおかしくはないのだけど...

どうしてだろう?

 

「まぁ...あっちも、もしかしたら勉強で忙しいかもね」

 

「え〜さすがにそれはないよ。大学はそんな真面目に勉強するところじゃないからね〜♪」

 

「....確かに志希は大学にいたよね?」

 

「うん。やめたけど」

 

志希はそう言うとにゃははっと笑った。

なんで志希はパッと大学をやめたか不思議に思った。

その後志希はアタシの練習を見てくれた。

ただ一人でレッスンルームを過ごすより楽しくできた。

時々志希に絡まれることがあったんだけど、

それも面白かった。

でも志希の口から金木さんのことを何度も聞いた。

きっと話ができなくて寂しかったかもしれない。

 

 

金木さんはおそらくは大学で勉強していてメールの返信はしていないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは"あくまで"アタシの推測だけれど.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近はどうしているんだろう、金木さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ruin

破滅


日が過ぎて行くにつれて、



自らが破壊されていくんだ






卯月Side

 

 

 

今日も養成場にやって来ました。

いつも来るのは学校が終わった放課後です。

ここは私がアイドルになる前から通っていた場所で、

アイドルになるきっかけを作ってくれた所です。

 

 

 

 

 

凛ちゃんと未央ちゃんは今お仕事でがんばってます。

 

 

 

 

私が離れてから、前より輝きが増しているように感じます。

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば事務所から離れて1週間は過ぎた。

今日もステップの練習をする、私。

何度も何度もやっても実感はできない。

ふとレッスンルームの鏡に写る自分を見ると思うんだ。

まだまだ足りないんだと感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどプロデューサーさんが来てくれて、あることを伝えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『卯月さんもクリスマスライブに出てくれませんか?』

 

 

 

 

 

 

それはニュージェネレーションズのクリスマスライブのことだった

もうそろそろクリスマスと言うことで、養成場にいた私に声を掛けたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも私は、出るとは言えなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私ははっきりとした答えが返せず、OKと言わなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の自分はステージに立つなんて早い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなと合わせれるぐらいにがんばらないとついていけない

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしないと置いてかれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方に現れる暗闇

それはまるで今の私を表しているように感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

この自信のない私を映しているように

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

僕は何回も叫んだ

自分の足の指が引きちぎれると同時に叫んだ

痛みに耐えきれず、全身から叫ぶように大きく声を出した

引きちぎれた瞬間、大量の血が床に広がった

その色はただの赤ではなく、黒が混ざった赤

 

 

血の匂いが蔓延していた

それは他人の血の匂いではなく、僕の血の匂い

長くここにいたせいか、鼻にくるほど匂いが伝わる

自分の血の匂いがこんなにひどいだなんて、最悪だ

 

 

僕がここに来たのは数十日ぐらい前のことだ

それは卯月ちゃんと遊園地に行った次の日のことだ

僕はあんていくで働いていた時だった

その日は"普通の日"だと感じていた

 

 

 

 

 

 

しかし、"異変"は突如現れたんだ

 

 

 

 

 

 

 

僕は"アオギリ"と言われる喰種の集団に連れ去られた

 

 

 

 

 

 

 

その時は抵抗ができないほどの圧倒的な力に、

 

 

 

 

 

 

 

僕は連れ去られて、今に至っている

 

 

 

 

 

 

 

太陽の光なんか何日、いや数十日浴びてなんかいない

このドームは外の状況がわからない

朝の心地良さ、昼の暖かさ、夜の冷たさがわからないんだ

 

 

バケツにたまり続ける僕の指

今、足の指は何個取られたのだろう

何度も何度も足の指が取られ、再生すればまた取られる

僕の体は回復がしやすいらしい

時間が経てば取られて指が元どおりになる

そんな悪夢を僕は何もできず、見ていたんだ

 

 

 

 

 

この地獄と言える状況で僕はふとあることを思い出したんだ

卯月ちゃんが僕の頰に手を添えたことがとても懐かしいと

あのどこか暖かい手をもう一度、僕の頰に触れ欲しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも今では寒い手足を縛られ、足の指を抜き取られる日々

そんな願いなど、届くわけがない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、僕は

 

 

 

 

先の見えない苦しみを味わい続けるのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

プロデューサーSide

 

 

私は先ほど卯月さんの元に行き、事務所に帰って来た。

来週はニュージェネレーションズのミニライブを開催することを決定し、

島村さんにそのミニライブの開催を報告をした。

最近は養成場で基礎レッスンをしており、

本来出るはずだったお仕事は他の方に代役として出ています。

しばらく表には出ていなかった彼女にライブの出演を伝えたのだが....

 

(やはり他の部署でも同じお仕事をしている)

 

他の部署もクリスマスシーズンと言うことで、

足を止めることはなく仕事を進めている。

世間では光のイルミネーションが飾り、華やかなムードになっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが世間では"明るい話題"だけではなく、その反対の"暗い話題"が同時に上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最近では徐々に“喰種"が身近にも知られている....)

 

もうそろそろクリスマスシーズンと言う所だが、

日が過ぎて行くたびに11区の喰種集団に関する話が耳にするようになった。

11区の民間人の被害は他の区より倍に上がっており、

メディアだけでは伝えきれないほど深刻になっている。

 

(.......ん?)

 

そんなことを思っていた私は玄関に入り、ふとある人物が目に映った。

 

(あれは亜門さん...?)

 

私の目に映ったのは亜門さんだった。

亜門さんは今、誰かと話していた。

本来なら亜門さんが訪れることはないはずだ。

なぜなら彼は20区を担当している。

ここ13区に来るのは、そもそもないはずだが....

 

(一体何.....え?)

 

私がなぜ亜門さんがここ346プロに訪れているのか考えていると、

その亜門さんと話している人物に目にし、驚いてしまった。

 

(あれは....美城常務っ!!)

 

何度か美城常務と意見が衝突をしており、

正直この場で話すのは避けたくなる。

少し時間が経つと亜門さんは美城常務との会話が終わり、事務所から去って行った。

その瞬間、私は美城常務と目が合ってしまい、

 

「ああ、君か」

 

美城常務は私に声を掛けた。

 

「お、お疲れ様です、常務」

 

「先ほど君に似ている喰種捜査官が私の元に来てな。11区の状況と今後の対策を報告してくれた」

 

「報告ですか...?」

 

「あとで皆の前で伝えるが.....先に君に伝えても悪くないな」

 

美城常務はそう言うと、"ある書類"を私に渡した。

 

「先ほどCCGの捜査官が渡した今後の対策について書かれた書類だ」

 

私はその書類に目を通した。

その内容は主に13区に関する喰種の状況で、

CCG側の被害と喰種の駆除数、喰種に関する事件内容が書かれていた。

明らかに一般に知られてはならない情報が書かれており、

関係者に渡されるような書類だ。

 

「お互いアイドルの方針は違うことはわかっている。だが喰種に対しては同じく一致してるはずだ」

 

確かに美城常務が入って以来、社内の改革の一つに喰種対策を挙げた。

これは346プロダクションが喰種対策を始めて以来、初めての改革であった。

多くの人は経費削減、もしくは廃止を美城常務の口から出るのだと考えていたが、

実際はその正反対の対策強化を口から出したのだ。

 

「社内の皆は喰種対策を軽蔑視をしている。君も肌に感じただろ?」

 

「はい.....多くが廃止、もしくは経費の削減を求める声がありました」

 

「だろうな....皆はある意味"平和ボケ"しているかもな」

 

「........"平和ボケ"」

 

日本は他の国とは違い、治安が良く平和だ。

アメリカのように銃社会ではなく、法はある程度整備されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、喰種に関しては何も変わりがないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

「それで本日の夜、11区で大規模の作戦が実行されることが決定した」

 

「11区で...!?」

 

「ああ、本当ならもう少し前に伝えて欲しかったが、おそらく外部に漏れないためだろうな」

 

確かに常務の言う通り、事前に伝えてくれればいいのだが、

仮に漏れてしまえば、喰種は11区から逃げ出すかもしれない。

すると私は美城常務から受け取った書類に、

あることに疑問が浮かんだ。

 

「...あの、質問があります」

 

「なんだ?」

 

「なぜ23区も危険区域に指定を..?」

 

本来は11区付近のみを危険区域にしているべきなのだが、

なぜか遠く離れた23区も危険区域に指定と記述されていた。

 

「CCGは23区の捜査官を多く使い、警備を薄れさせている。私の元に訪れた彼から耳にした」

 

「他の区よりですか?」

 

「そうだ。どうしてかは奴らの上のことは知らないが、仮にその23区にいた捜査官が大半損害が出たらどうなる?」

 

「......23区の警備が薄くなりますね」

 

「ああ。しかも23区に喰種の収容所がある。そこも例外なく警備が今薄い」

 

「えっ?じゃあ、もしそこを攻撃されてしまえば....」

 

「そうだ。もし連中(喰種)がそこを攻撃をすればどうなる?」

 

私の頭に嫌な予感がした。

それはこれから起きるであろう最悪な出来事がが頭に作り上げられていたのだ。

 

「我々はCCGの奴らほど喰種のことは知っているわけないが、その事態を悪化させないための予知する能力を持たなければならない」

 

 

美城常務とは仕事上は意見が違うが、喰種に関しては一致している

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決して明るいものだけを見るだけではなく、暗いものを見なければならない

 

 

 

 

 

 

 

 

例えそれが、目を背けたくなるものでも

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

ベットの中に入った、私

 

 

 

真っ暗な部屋で今、眠りにつこうとしていた

 

 

 

 

 

でも横になっても、心地よく眠れない

 

 

 

 

 

 

ここ最近感じ始めた

 

 

 

 

 

何か満たされていないから、眠れないかもしれない

 

 

 

 

 

 

そう言えばベッドに入る前に、テレビであることを見たんだ

 

 

 

今11区では喰種を制圧するための大きな作戦をしている

 

 

 

今回は結構大きく、11区は大部分は封鎖されている

 

 

 

 

 

でもそれは私にとって直接関係ない

 

 

 

 

 

私が知っている人はこの大きな作戦に関わっているとは考えにくい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからその11区のことは、私には"関係ない話"に聞こえた

 

 

 

 

そう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時の私はね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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1220


夜明け



朝の日が夢から覚めたんだ







董香Side

 

 

12月20日 早朝

 

 

長かった夜が、今明けようとしていた。

私たちあんていくは行ったんだ。

アオギリの樹に囚われていたあいつを助けるため、11区に行ったんだ。

 

あそこは"ハト"と喰種が戦っていたところで、血の気が激しい戦場と言ってもいいほどひどかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その激戦の中、私たちはあいつを助けたんだ。

あいつは白く変わり果て、ボロボロの姿に変わってしまったけど、

無事に生きているだけでも私は嬉しかった。

2度と会えなんじゃないかと不安がっていたんだ、私。

 

 

 

 

 

 

 

あいつを助けたのはよかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもその後は違ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま私たちの元には帰って来なかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつは"やること"があると言って、私たちの元に去って行ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白く髪が染まり、ボロボロになった姿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう前のあいつとは違った

 

 

 

 

 

 

あいつは姿だけじゃなく、中も変わっていった

 

 

 

 

 

あのどこか頼りなさそうでヘタれていた姿は、もう目の前に映っていなかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう伝えればいいんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"人間”(ヒト)である"卯月"に、"あいつ"がいなくなったことを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

12月20日の朝

 

 

肌寒さを増してきたこの季節の中、私は今日も大学に向かっていました。

 

(今日ゆっくりは過ごせそうですね...)

 

なぜなら、今日は珍しくお仕事もレッスンもありません。

ここ最近はライブのおかげで私の知名度が上がり、

いろいろなお仕事を受けました。

そのためゆっくりと時間を過ごす時間が恋しくなる程、心淋しかったものです。

 

(...最近卯月さんの様子がよろしくないですね)

 

事務所内で聞く限り長く休んでいるらしく、

本来出るべきお仕事には出ていないそうです。

志希さん曰く、『基礎レッスンを一から学んでいる』とおっしゃっていました。

 

(....まだ時間がありますね)

 

私は授業の一時間前には大学に訪れております。

それはもちろん授業に遅れないためでもありますが、

一番大きいのは図書館に行くことです。

そこでは新しく入った本もあれば奥底に置いてある本があります。

その中で新たな物語が発見ができることが私の楽しみの一つ。

考えるだけでも幸せな気分になります。

少し上々な気分を抱えて歩いていた、私。

 

 

 

 

誰も目向きをしない掲示板に通った瞬間、私はピタリと足を止めました。

 

 

 

 

(...?)

 

横を通った時、胸の中に違和感をというものを抱きました。

ただ横を通り過ぎただけなのに、何かを感じたのでした。

 

(...なんでしょうか?)

 

その掲示板にはたくさんの張り紙が貼られていました。

部活の紹介、クラブの予定、授業の変更などのお知らせがありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その張り紙の数々の中に、私の目が止まったものがありました。

 

 

 

 

 

 

「....え?」

 

それはどの張り紙よりも大きく貼られているものでした。

ただ文字が書かれていたお知らせよりも目立つもので、"とある人"の写真が貼られていまいた。

 

「え、え、え、え.......」

 

それを見た瞬間、体が震えました。

まるで空想の話であった悪夢が、現実に現れたような疑いたくなる出来事。

その悪夢が私の瞳にはっきりと映りました。

 

「........っ!!」

 

私は走り出しました。

信じたくもない真実から離れるために、逃げるように走った。

そして私は誰も見られない建物の裏の影へと逃げて行きました。

 

(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!)

 

誰にも声を聞かれないよう手で口を抑え、私は涙を流した。

私は見たものは信じがたいものでした。

頭に焼き付けるほどの信じたくない真実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたは一体どうしたのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

12月20日 夕方ごろ

 

 

学校は終わり、私は事務所に向かっていた。

今日は特に仕事やレッスンはないけれど、ただ事務所に訪れたかっただけかもしれない。

 

(昨日は11区と23区がとんでもないことだったらしいね...)

 

昨日突然テレビで11区の喰種アジトの駆除作戦がやっていた。

しかもせっかく見たかったテレビ番組がその中継のせいでなくなった。

それでその作戦は無事に終わったかと言うと、逆に悪化した。

23区にあった喰種収容所にいた大量の喰種が逃げ出したらしい。

何故なのかはわからないけど、クラス内で聞いた噂によると23区にいた喰種捜査官の多くが11区にいたおかげで23区の警備が薄くなり、別の喰種のグループが襲ったんじゃないかなって聞いた。

私が住んでいる千葉が23区と隣のせいか、今日先生から喰種に警戒するようにと耳にした。

 

(....しまむーは出ないかな)

 

クリスマスライブに出るのかと言うと、どうやらでないらしい。

本来しまむーが出るはずの仕事は他の子に代役として出ていて、

結構支障にきている。

そんなしまむーのことを考えていた私に、ある人が声をかけてきた。

 

「あ、未央」

 

振り向くとかれんとかみやんが私に声をかけて来たのだ。

 

「あれ?かれんとかみやん?」

 

私は二人が玄関元にいたことに不思議に感じた。

いつもよりレッスンが終わるのは早いような気がする。

 

「今日レッスンが早く終わったの?」

 

「さっき凛がプロデューサーの元に行ったよ」

 

「え?プロデューサーのところに?」

 

「うん。やっぱ卯月のことが頭から離れられなかったらしい」

 

詳しく聞くと、しぶりんはボイスレッスンに集中できずにミスが何度も起こって、

どうしてだろうと聞いたところ、しばらく仕事に出ていなかったしまむーのことが気になっていたと言う。

クリスマスライブに出ないのは私もいやだ。

きっとしぶりんもそうだ。

そんなことを考えていたら、かれんが私にあることを聞いた。

 

「未央も行ったら?」

 

「え?」

 

一瞬かれんの言葉に驚いた。

でも少しずつ時間が経つにつれて、

そのかれんの言葉が私を押したんだ。

 

 

 

「...じゃあ、プロデューサーの元に行ってくるよ!」

 

 

 

私は走り出した。

 

 

私たちの事務所部屋に向かったんだ。

 

 

その後、私はしぶりんとばったり廊下で会い、しまむーがいる養成場に向かったんだ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

12月20日  夕暮れ

 

 

美嘉Side

 

 

レッスンが終わり更衣室から出た、アタシ。

今は事務所の玄関にあるソファーで考え事をしていた。

クリスマス関係の仕事を多く受けたせいか、どこかぼーとしていたい気分があった。

ちなみに先ほどレッスンと言っても一人だけ自主練に近いものだった。

 

(とりあえず、この後は何もないから帰ろっかな?)

 

レッスンも仕事もないから、今やるべきことはなくなった。

あとは家に帰って、明日に向けてすぐに寝ようと思う。

もしかしたら家に帰ったら、莉嘉がいつも通りに甘えてくるかも。

アタシはそう思い、事務所に出ようとしたその時だった。

 

(...あれは、文香さん?)

 

アタシは文香さんを見て、少し変に感じた。

確か文香さんは今日は仕事もレッスンもなく、事務所には来ないと聞いていたのだけど....

なのにどうして事務所に訪れていたんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

少し文香さんの姿を見ていると、"何か嫌な予感を察したんだ"

前髪で隠れた目がどうも不自然に見えてしまう。

 

 

 

 

 

 

「文香さん...?」

 

アタシは恐る恐ると文香さんに声を掛けた。

何かあるに違いないとアタシは文香さんに近づいたんだ。

文香さんはアタシに顔を向けた瞬間、

 

「.........っ」

 

「.....?」

 

アタシの顔を見た瞬間、突然文香さんがしゃくり上げ泣き出したのだ。

 

「え?....ど、どうしたんですか、文香さん!?」

 

ただ声を掛けたのに、突然泣き出した。

普通ならこの人前で泣くのは避けたくなるのだけど、

文香さんは人前を気にせずに泣きだした。

 

(さ、さすがにこのままじゃ....まずい)

 

周りの人の視線を肌に感じ、さすがに玄関の真ん中で泣いては不味いと思い、

アタシは文香さんをソファに座らせた。

 

(....どうしたんだろう?)

 

文香さんは両手で目を隠すように泣いていて、未だ泣き止むような感じがしなかった。

人前を気にせずに泣くだなんてただ事じゃない。

何か文香さんにひどいことされたのか、それとも悲しいことに出会ったのかもしれない。

 

「...すみません...美嘉さん」

 

考えていると、文香さんは呟くようにアタシに謝った。

 

「い、いいですよ!アタシはちょうど暇だったし...」

 

アタシはそう言うとカバンからタオルを取り出し、涙を流した文香さんに渡した。

本当ならレッスンで流れた汗を拭くつもりで取っといたタオルだけど、

今日はめずらしく汗はなかったため、未使用と言ってもいいぐらい綺麗なものだった。

文香さんは「すみません... 」と言い、涙を拭いた。

先ほどよりは落ち着いた様子だけど、文香さんの顔は何か失って悲しいようだった。

 

「それで....何かあったんですか?」

 

「........」

 

文香さんの口を閉ざし、何も言わなかった。

涙で拭いていたタオルを握りしめて、唇を少し噛み締めていた。

一体何があったんだろう?

 

「あれ?どうしたの〜?」

 

お互い沈黙があった中、志希がタイミングよくやってきた。

志希が文香さんの姿を見た瞬間、にゃははっと笑っていた顔が、

心配と驚きが混じった顔になった。

 

「.....どうしたの文香ちゃん?」

 

志希が文香さんの横にすぐに座り、肩に手を置いた。

今、志希は全くはふざけてはない。

いつもなら他のアイドルやアタシにはふざけた様子で揶揄うが、

今の志希のは違った。

まさに自分の身近な人を心配をするかのような目で文香さんの横にいるのだ。

 

「.....すみません。みなさんを心配させて...」

 

「大丈夫だよ?一人で悲しく泣いちゃ、あたしも悲しいよ」

 

「アタシたちが文香さんを心配するのは、当たり前ですよ」

 

そう言えばアタシ、文香さんと話せてよかった。

最近お仕事で出会うことはなく、話すことはなかった。

それは仕方ないと言ってもいいかもしれないけど、

アタシはどこか話したかった。

 

「ありがとうございます....みなさん...」

 

少し微笑んでくれた。

それを見たアタシはほっとした。

悲しく泣いていた文香さんが再び明るい姿を見れてよかった。

 

「それで.....文香さん、どうして泣いてたんですか?」

 

「......実は」

 

 

 

 

 

 

文香さんは泣いた理由を話したんだ。

泣き出した理由を耳にしたアタシたちは...

 

 

 

 

 

 

「...えっ?」

 

「..........え?」

 

アタシと志希はその理由に驚き、そして疑った。

それはにわかに信じたくなることで、すぐに受け入れられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもこれは決して夢ではない、現在であることは変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

12月20日  逢魔時  公園

 

 

卯月Side

 

 

 

 

 

 

私は抱えていたんだ

 

 

 

 

 

 

人には言えずに、一人溜め込んでいたんだ

 

 

 

 

 

 

私は他の子と比べて輝いていなかった

 

 

 

 

 

 

 

みんなと違って私の取り柄は何もなかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑顔は誰でもできること

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の取り柄じゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は何もなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、凛ちゃんと未央ちゃんはそんな私に感謝していたんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛ちゃんは私を怒ってくれました

 

 

 

 

 

 

 

 

アイドルになるきっかけを作ってくれたのは私のキラキラした笑顔でした

 

 

 

 

 

 

 

 

その私の笑顔が凛ちゃんは感謝をしていたのでした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未央ちゃんは最初のミニライブの後で抜け出した時、私が未央ちゃんの帰りを待っていたことに感謝をしてました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと私に理由のない安心を抱いていたことに謝ったんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして未央ちゃんは"もう一度友達になろう"と言ってくれました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..帰るね、しまむー」

 

「...待ってるから」

 

凛ちゃんと未央ちゃんは私に告げ、歩き出そうとしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"その時でした"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...?」

 

すると突然、ポケットにあった携帯が鳴りました。

私は鳴った電話に出てみると.....

 

「...もしもし?」

 

「...やぁ、卯月ちゃん」

 

「志希さん....?」

 

その電話を掛けてきたのは、志希さんでした。

志希さんとはメールのやり取りは何度もしてますが、

電話を掛けてくるのは初めてでした。

 

「.....落ち着いて聞いてくれるかな?」

 

その声はいつものとは違いました。

あの子供っぽくて陽気な声ではなく、

何一つもふざけてはなく、しっかりとした声でした。

 

「どうしたのですか...?」

 

「........」

 

数秒間、電話から声が消えました。

聞こえるのは何か躊躇っているような音がかすかに聞こえる。

 

 

 

「...あのね、卯月ちゃん」

 

 

 

私に告げられたのは....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『......今、カネケンさんが"行方不明"なの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Lycoris albiflora






赤く染まっては、僕は君に会うことができない






もう会えなくなるから



















 

卯月Side

 

「え?....金木さんが?」

 

「.....うんっ、文香ちゃんから聞いたよ。大学で行方不明のお知らせを見たって」

 

「........」

 

「卯月ちゃん?」

 

「....嘘ですよね?」

 

「いや、嘘じゃないよ」

 

「嘘に決まってますよっ!」

 

信じたくない。

私は志希さんの言葉に信じきれなかった。

 

「金木さんが急にいなくなるなんて、ありえませんよ!」

 

「........」

 

壊れ始めた、私。

自我が不安定になっていた。

なぜって"金木さんを一人にさせない”と私と約束をしたのだから。

それなのになんで"行方不明"?

約束をしたのにどうして?

私は志希さんの言葉に混乱していた。

 

「どうしたの...しまむー?」

 

ふと我に帰ると未央ちゃんと凛ちゃんが私の横にいました。

あまりに焦って、周りが見えなかった。

 

「....金木さんが...行方不明なんです」

 

「え....!?金木さんが!?」

 

「金木が!?」

 

二人は目をはっとし、私が伝えたことに驚いた。

 

「金木さんが行方不明って....?」

 

「...志希さんがそう言ってました」

 

私は持っていた携帯を凛さんに渡した。

もしかしたら嘘かもしれない。

志希さんならありえる。

いつも私をからかってきます。

これもきっとからかいです。

 

「....もしもし?」

 

凛ちゃんは私の携帯を受け取り、電話にでました。

金木さんは今頃、自分の住んでいるところにいるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、私が望んでいたことは起こらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....卯月」

 

凛ちゃんが私に携帯の画面を見せました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

携帯の画面に写っていたのは、金木さんが"行方不明"と書かれていたポスターでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、あいつ(金木)は行方不明だよ」

 

「........っ!!」

 

はっきりと写し出されたポスターに私は言葉がでなかった。

真実をすぐに受け入れることができない。

 

「金木さんが急にいなくなるわけないですよ....」

 

「しまむー....私だって金木さんが行方不明だってことは信じられないよ。でもしきにゃんが言ってることは」

 

「嘘ですよ!!だって金木さんは、私が最後に会った時、何もなか.......っ!!」

 

感情的になった私に、ある記憶がふと浮かんだ。

金木さんの最後に出会った出来事。

その時の金木さんの様子は"普通”じゃなかった。

溜め込んだ悩み、不安、寂しさを表し、涙を流したんだ。

 

「う、卯月...?」

 

「なんで...なんで....なんでいなくなったんですか.....」

 

 

徐々に震えだす私の手

 

 

目に自然と流れる涙

 

 

しゃくり始めた、私

 

 

あの時の金木さんは、今の私のように泣いたんだ

 

 

一人になるのが怖かったんだ

 

 

「....ぅ.....っ...」

 

 

私の目から流れる涙は、より大粒になって止まらない

 

 

先ほど涙を流したのに、止まることなく多く流れてくる

 

 

私はこの真実に受け入れられず、泣いていた

 

 

 

凛ちゃんと未央ちゃんは私の横に寄り添ってくれたました

また先ほどと同じく寄り添ってくれるなんて嬉しかったです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金木さんと同じく、私も泣くなんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金木さん

 

 

 

 

 

 

 

なんで一人でどこか行ったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金木さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、約束したのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしていなくなってしまったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金木さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お願い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちを置いてかないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってきて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

12月20日 0時

 

 

一歩一歩ゆっくりと歩き出す、僕

 

 

 

 

じゃりじゃりと聞こえる足首についた鎖の音

 

 

 

 

荒れ果てた鉄筋コンクリートの建物の隙間から感じる冬の夜の寒い風

 

 

 

 

素足に伝わる冷たい床

 

 

 

 

そして鼻から感じる、血の匂い

 

 

 

 

床に横たわっているのはいくつもある人と喰種の死体

 

 

 

 

前の僕ならこの光景と匂いで今すぐ嘔吐をしてしまうかもしれない

 

 

 

 

でも今の僕は無残に倒れる死体と血の匂いで吐くこともない

 

 

 

 

もう慣れてしまったから

 

 

 

 

あの終わりのないと考えていた苦しみのおかげでね

 

 

 

 

 

 

 

ボロボロのコンクリートの建物から見える時計を見た、僕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時計の針はもう12時を過ぎていたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕にあった"魔法"は解けていったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間(ヒト)と言う魔法が終わったんだ

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

僕は人間(ヒト)ではなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は、喰種だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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friend

「あなたがたのうちに、百匹の羊を持っている者がいたとする。その一匹がいなくなったら、九十九匹を野原に残しておいて、いなくなった一匹を見つけるまでは捜し歩かないであろうか。そして見つけたら、喜んでそれを自分の肩に乗せ、家に帰ってきて友人や隣り人を呼び集め、『わたしと一緒に喜んでください。いなくなった羊を見つけましたから』と言うであろう」

ルカによる福音書 15:6


未央Side

 

 

しまむーとの約束を交わした次の日、

私は舞台のレッスン終わりにカフェに寄った。

そのカフェは金木さんが働いている所とは違い私みたいな若い女子に人気なコーヒのチェーン店で、

メニューも店内もおしゃれなところだ。

クラス男子からは『呪文みたいな注文だな』とよく言われている。

 

(なんで金木さんが行方不明なんだ...?)

 

私はそこの定番メニューのコーヒーを片手にで金木さんがいなくなったことをノートにまとめていた。

いつもみんなと一緒にいるのが当たり前の私がこうしてい一人、外が眺めれるカウンター席にいる。

もし今、しまむーたちが見たら驚くに違いない。

そうしてしまった理由は、金木さんが行方不明が一番大きい。

急にいなくなってしまったから。

 

(.....何か身にあったとかはないかも)

 

別に金木さん自身が行動を起こすのは考えられない。

だとしたら、もしかして誰かによって行方不明に?

その理由もあるはず。

何もないわけない。

 

「あの....?」

 

「ん?」

 

すると後ろから誰かが私に声をかけてきた。

声的には男性で、年齢はだいたい私とはちょい上くらい。

一体誰だろうと思い、私は振り向いた。

 

「もしかして...本田未央ちゃん?」

 

「あ、はい!そうです!」

 

声をかけてきたのは、金髪に赤い帽子を被った男性だった。

見た目的には大学生かも?

 

「やっぱりだよな!ショートヘアに制服の上にパーカーを来ているのを見て、気づいたよ!」

 

「私のことを知ってくれてありがとうございますっ!」

 

普段は変装もせずに街中に歩いているのだけど、ファンの人から声をかけられることはなく、

SNSでは『街中で未央を見た!』と言う人が多い。

もしかするとみんなは恥ずかしいかもしれないけど、こうして目の前にファンに触れ合えたことに私は嬉しかった。

 

「もしかして、よくここに来る?」

 

「いえ、今日はたまたま訪れてたので」

 

「そうなんだなァ!。まさかここで未央ちゃんに........ん?」

 

するとその男性は何かに気がついたような目になった。

 

「あれ...?もしかして"カネキ"と知り合ってる?」

 

「え?」

 

数秒、私は固まってしまった。

驚いてしまった。

その人の口からまさかの『金木』と言う名が出たのだ。

 

「え、な、なんで...金木さんを?」

 

「ああ、そうだったな。......実は俺、カネキの友達でね」

 

「え!?ほ、本当ですか!?」

 

「ああ、本当だ。確か....卯月ちゃんか凛ちゃんに"ヒデ"と言う金木の友達知ってる?っと言ったらわかるかも」

 

その人は『今、どちらかにメールしてみて』と言い、

私は言われた通りにしぶりんに『金木さんの男友達のヒデって知ってる?』とメールで伝えた。

そしたらしぶりんが『あの金髪の人でしょ』と返信を返してくれた。

 

「本当に金木さんのお友達なんですね....」

 

「だろ?」

 

流石にその後に来た『あのチャラチャラしている人』と言うメールは伝えなかった。

その人は私のお隣の席に座った。

 

「俺、永近英良(ながちか ひでよし)。みんなから"ヒデ"と言われてるよ」

 

永近英良(ながちか ひでよし)...ヒデさんと呼んでいいですか?」

 

「いいよ?」 

 

「それで...なんでしまむーとしぶりんのことを知ってるのですか?」

 

「卯月ちゃんのこと?ああ、そうだったな」

 

しぶりんが金木さんのことを知っているのはわかるが、

なぜヒデさんを知っていたのか不思議に感じていた。

 

「確か春頃だったな。カネキが俺を凛ちゃんの家の花屋さんに連れてったら、シンデレラプロジェクトのプロデューサーさんと卯月ちゃんとばったり会って、その後俺は凛ちゃんに出会ったんだよ!」

 

「それって、しぶりんのスカウトの時ですか?」

 

「うん、そうだな。その時のカネキは結構役に立って、凛ちゃんをアイドルと言う道に進ませてくれたな」

 

「しぶりんをアイドルにさせた一つに金木さんが!?」

 

「結構あいつはいろんなとこで活躍してるんだよな。もしかして、俺が見ていないところでもそうだった?」

 

「そうですよ!私もそうですし、色々な方が金木さんにお世話になってますよ!」

 

「お!それはあいつの友人としてありがたいわ!」

 

ヒデさんが話す感じは。なんだか私みたいにハキハキしている。

なんだかとても似ている気がする。

金木さんの話題だけでも長く話せて、意気投合だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、良い話だけじゃないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで金木さんは.......あ、そうだった」

 

「ん?」

 

「金木さんは行方不明ですよね」

 

「え?どうしてそれを知ってるんだ?」

 

「実は、ふーみんから聞いたんですよ」

 

「ふーみん?もしかして、鷺沢文香のことか?」

 

「あ、そうです!」

 

私は誰にでも愛称をつけたくなる人だ。

でも考えてみると金木さんには愛称はつけてはない。

 

「文香ちゃんか.....」

 

「ん?どうしたんですか?」

 

「結構文香ちゃん落ち込んでいたさ。他の人に聞いたら一人で泣いているところを見たって」

 

「え?泣いていたって...?」

 

「今、大学の掲示板でカネキが行方不明だと知らせるポスターが貼ってあってな。それを見たんだと思う」

 

しまむーの携帯にはっきりと映っていたあの画像が頭に焼きつくほど覚えている。

それと同時に衝撃もはっきりと覚えている。

ふーみんが泣きたくなるのもわからなくもない。

 

「それで...警察に伝えたのですか?」

 

「もちろん警察に捜索願を出した。まぁ、いつ見つかるかどうかは知らないけどな...」

 

何かあった時は警察に相談すればいいと耳にするけど、行方不明だと発見されるまで時間がかかってしまい、

あまり期待できないのは現実。

 

「金木さんはどうしていなくなったんですかね....」

 

「俺もなぜカネキがいなくなったかわからん...」

 

ヒデさんはそう言うと頰に手を置いた。

 

「特に変な奴とは繋がりはなかったし....何かに巻き込まれたのは間違いない」

 

「そうですよね....」

 

私にもわからない。

考えても可能性があるのは、誰かによってぐらいしかない。

"自殺"という可能性は全くないと言ってもいいぐらいにない。

 

「....とりあえず俺、帰るよ」

 

「え?帰るのですか?」

 

「未央ちゃんと長く隣に座ってたら、まずいだろ?」

 

確かに言われてみればまずいのは間違いない。

今は誰も見ていないのはいい。

だけどこの後誰かが来たら、めんどくさいことが起きかねない。

ヒデさんはそのままこの場から離れようとした瞬間...

 

「あのヒデさん!」

 

「ん?」

 

私はヒデさんを呼び止めた。

 

「あ、あの....ヒデさんの連絡先教えてくれませんか?」

 

「え?俺の?」

 

「私、金木さんを見つけたいんです!」

 

 

 

 

私は忘れてはならない。

金木さんは私にとって決して"ただの友達"じゃない。

しまむーに言った『もう一度友達になろう』を金木さんにも同じく伝えないといけない。

それはあの時のしまむーが『金木さんも凛ちゃんや未央ちゃんと同じく大切な友達です....同じく伝えないと』と言ったからだ。

そう言われたならやるしかない。

だから私は、同じく金木さんを探しているヒデさんと一緒に探したい。

 

 

 

 

 

 

「未央ちゃん、ありがとう.....だけど、流石に俺が未央ちゃんの連絡先を知ってたらダメだ」

 

「...え?どうして?」

 

「それにあんまりカネキを探してますと大きくアピールはしてはダメだ。未央ちゃんはアイドルだ。『カネキを探してます!』と大きく言ったら、仕事に影響が出るだろ?」

 

私は忘れていた。

金木さんは友達っと言うのはあくまでごくわずかな人が知ることであり、

表向きはファンとアイドルと言う関係だ。

考えてみれば、今後の道に影響が出てしまう。

 

「あ....そうでした...ね」

 

「だから卯月ちゃんと凛ちゃんに伝えてくれよ?"カネキを探している"と多くの人に伝えるのを控えたほうがいい」

 

金木さんをすぐに見つけたいと言う欲求があるのだけど、

私たちには"アイドル"と言うものを手にしていた。

そう考えてしまうと、私はどこか落ち込んでしまった。

まるでもう戻らない過去の出来事を悔やむように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それじゃあ、金木さんに再び会うことができない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなの嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....大丈夫だ、未央ちゃん」

 

呆然していた私に、ヒデさんは私の肩に手を置いた。

 

「絶対カネキは"生きてる"!死んだと考えたら、あいつは間違いなく死んでる。だから"死んだ"と考えるじゃなくて、"どこかで生きてる"と考えな!」

 

「っ!!」

 

そうだった。

もしかしたら死んでいるっと考えたらダメだ。

行方不明=死と考えちゃだめだ。

金木さんは今どこかにいて、生きている。

 

「わかりました...!私、金木さんが生きてると絶対に信じますっ!!」

 

「よしっ!これであいつは、生きてると間違いない!」

 

ヒデさんはそう言うと「いつも見る元気な未央ちゃんに戻った!」と喜んだ。

私は金木さんは"幸せだなぁ"と胸の中にに思ったんだ。

ヒデさんと言ういい友達を持っていてることを。

 

「あの....ヒデさん?」

 

「ん?」

 

「また会えます?」

 

「会えるさ、お互い”生きているうちにな”」

 

ヒデさんは「じゃあな」と言うと、私がいるカフェから姿を消した。

私は気が付いてしまった。

一瞬ヒデさんの"どこか寂しそうな顔"が私の目に写ったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、思うんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はいっぱい友達を持っているけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その"一人"が消えたなら、私は探し出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たかが一人の友達っと思うかもしれないけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった一人の友達を探すのは、決して無駄じゃないと私は思うんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お互い、その"一人の友達"を心配していたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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guilt

私は知りたい


あいつの本当の理由を






凛Side

 

20区に踏み入れた、私。

卯月と別れた次の日、私は学校終わりに立ち寄った。

今日は仕事やレッスンもないから、そのまま20区に来ることができた。

空は冬のせいなのかいつもより早く夕日が沈んでいて、日の近くは赤く染まり、日から離れるほど黒染まっていた。

 

(絶対来るよね....卯月)

 

昨日の約束したこと。

ここ最近事務所や仕事に立っていなかったため、

クリスマスライブに出る約束をした。

卯月がクリスマスライブに出るか不安もあるけど、

その同時に同じく胸にもやもやさせることがあった。

 

(あいつが行方不明って....なんでなの)

 

それは金木が行方不明だと言うことだ。

私は金木とはここ最近連絡していなくて、

あいつのことが行方不明だと知ったのは昨日だ。

卯月と約束をし、未央と一緒に帰ろうとした瞬間、その情報を知ったのだ。

それを聞いた時、悪寒のような感覚を味わった。

まるで当たり前だったものが一瞬にして嘘と化したように私はその事実を耳にしたんだ。

 

(確かここだよね?)

 

金木が働いているあんていくの前に着いた。

卯月は時間が空くたびにここにやって来たらしい。

私は最近忙しくて来れなかったけど、今ここに来れた。

来れたのはよかったのだけど...

 

(あれ?閉まってる?)

 

お店のドアにはCloseと書かれた看板があった。

今の時間帯は開いていてもおかしくはないけれど、なぜか閉まっていた。

 

(なんで閉まって....)

 

どうしようかと周りを見渡していたら、私の目にある人物が写った。

その人は金木と同じく働く人だ。

 

(ん?あれって...?)

 

今すぐ声を掛けたらいいのではと思うかもしれないけど、

まず私が思い出さないと話にならない。

ショートカットに右目が髪に隠れている女子だけれど、

私はその人を何度も見かけたことがあるが声が掛けたことがない。

 

(声を掛けたらいいのか)

 

「っ!....あの」

 

「っ!」

 

声を掛けようか迷っていたら、

まさかのその人と目が合い、あそこから声を掛けて来た。

 

「もしかして...凛さん?」

 

「そ、そうですけど....?」

 

「ですよね。私、あんていくで働いている"トーカ"です」

 

「トーカ?」

 

今初めて名前を知った。

そう、金木と同じく働いていた人だ。

いつも金木と話していたせいか、トーカさんとは話すのは初めて。

 

「以前、卯月さんと未央さんと一緒にカネキさんとお話に来てた時見かけましたから」

 

「ああ、そうなんですか」

 

金木と最後に会った時にトーカさんの姿はなかったことはよかった。

あの時の私は感情的になってたから、金木以外誰も見て欲しくない。

 

「そういえば、お店が閉まってましたけど?」

 

「はい...しばらくお店はお休みです」

 

「え?お休み?」

 

「店長が体調を崩しちゃって...12月の初めからお休みなんです」

 

「ああ....休みなんだ」

 

それだから今、お店のドアにCloseと書かれた看板があったんだ。

でも私があんていくに訪れた理由は、それだけじゃない。

 

「そういえば、金木さんが行方不明って知ってますか?」

 

「ええ...どうして凛さんは知ってるのですか?」

 

「金木と同じ大学に通っている文香から聞いたんだ」

 

「文香...?アイドルのですか?」

 

「うん」

 

「.......」

 

するとトーカさんは目を伏せた。

 

「トーカさん?」

 

「それで..卯月は?」

 

「え....?」

 

小さく驚いてしまった。

急にトーカさんの言葉遣いタメに変わったのだ。

 

「卯月はそれを聞いてどうだった?」

 

「...泣いたよ。金木が行方不明と聞いた瞬間に」

 

トーカさんは「...そう」とつぶやくように答えた。

金木が行方不明の知らせを聞いた時の卯月は混乱していた。

自ら抱えていた不安もあったのだけど、卯月は金木が本当に行方不明だと言うことに信じようしなかった。

電話を掛けてきた志希の言葉を嘘と言い渡して私に携帯を渡してきた時の卯月の状態は、ボロボロと言ってもいいぐらい自分を失っていた。

本当に卯月はそのぐらい金木を失ったことに信じられずに泣いたんだ。

 

「卯月は金木がいなくなったことに信じられなくて、たくさん泣いた」

 

「....ごめん。あいつ(カネキ)を助けることができなくて」

 

「...えっ?」

 

トーカさんは謝ったのだ。

しかも"助けることができなくて”と。

 

「何であやま」

 

「あいつに何もすることができなかった....」

 

そう言うとトーカさんは唇を噛み締め、手をぐっと握った。

トーカさんの声は怒りのように聞こえ、悲しんでいるように聞こえた。

 

「金木の友達に伝えてくれる...?『何もできなくてごめん』って」

 

トーカさんはそう言うと背を向けて、この場からすぐ去って行った。

私は謝った理由を聞こうとしたけど、トーカさんの足が速くて聞けなかった。

その後私は理由を聞けず、もやもやしたまま家に帰って行ったんだ。

先に去ってしまったトーカさんの姿は何もできなったことに悔やんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

その"何もできなかった"って一体?

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

昨日の出来事が終わった次の日の夕方。

アタシは昨日と同じく玄関にあったソファーで一人座っていた。

今回は何もすることがなくてぼーとしていたのではなく、莉嘉の帰りを待っていた。

今日は帰る時間帯が同じなのか莉嘉が「お姉ちゃん、今日は待ってね!」と今朝に聞いた。

アタシは別に帰りは誰も誘ってはいないからとりあえずソファーに座り、莉嘉を待つことにした。

 

(.....文香さん大丈夫かな)

 

昨日と同じく場所に座っていたせいか。ふと文香さんを思い出した。

その文香さんが泣いた理由はアタシと志希を驚かせた。

 

(まさか金木さんが行方不明に...信じられない)

 

それは今でも信じがたい。

突然金木さんがいなくなったのだ。

 

(いい顔してるのに.....)

 

文香さんが撮った金木さんが行方不明だと知らせている張り紙をスマホで見ていた、私。

くっきりと目を開いて微笑んでいる写真で、別に悪そうな顔つきではないしむしろアタシを助けてくれた人。

あの時のおかげでいろいろお世話になったことが生まれた。

相談も乗ったり、話を聞いてくれたり、あとは一緒に探してくれたりとか金木さんを頼ったことがたくさんあった。

それなのに、今行方不明って.....

 

(これじゃあ、莉嘉とみりあちゃんと一緒にあんていくに行っても仕方ないかな...)

 

でも金木さんは今は行方不明。

金木さんが働いているカフェに足を運んでも、彼はいない。

今度、莉嘉とみりあちゃんをあんていくに連れて金木さんと話したかった。

 

(...まぁでも、あんていくに来るのはいいかもね)

 

よくよく考えてみると訪れて損はない気がする。

あくまでアタシの思いつきだけれど、金木さんがいなくても"意味"はあると思う。

 

「あの、どうしましたか?」

 

「えっ!?あ、ああ、プロデューサー」

 

アタシに声を掛けて来たのは、シンデレラプロジェクトのプロデューサーだった。

急に現れたのだから驚いちゃった。

 

「城ヶ崎さんはもうそろそろここに来ますよ」

 

「わ、わかったよ。てか今、城ヶ崎さんと言うのまぎわらしくない?」

 

普通に莉嘉と言えばいいのだけど、この人はいつも人の苗字で呼ぶからアタシと莉嘉の区別がつかないことがある。

 

「すみません。城ヶ...あれ?どうして金木さんを?」

 

「えっ?あ、ああ、これね」

 

プロデューサーが目を向けたのは、アタシの携帯。

金木さんが行方不明と知らせているポスターだ。

アタシはそのことをプロデューサーに伝えた。

 

「金木さんが行方不明....!?」

 

「うん...金木さんと同じ大学に通っている文香さんから聞いたんだ」

 

「...そうなんですか」

 

プロデューサーは金木さんが行方不明だと耳にして、意外と驚いていた。

あんまり金木さんとは会っていないイメージがあって驚かないと思ったのだけれど、

まさかそこまで驚くなんてこちらもびっくりした。

 

「何か心当たりはありますか?」

 

「心当たりはないよ...一体どうしていなくなったか誰でもわからない」

 

「そうですか....あと、あまり彼のことを言わないでください」

 

「う、うん...わかってるよ」

 

当たり前だけど、アタシはアイドル。

もし金木さんを探していると"記者"が知ってたらまずい。

早く見つけたい気持ちがあるけど、今はその気持ちを抑えなきゃいけない辛さを味わなければならない。

 

「あ!お姉ちゃん!」

 

するとタイミングよく莉嘉がアタシたちの元にやってきた。

 

「やっとお仕事終....あれ?お姉ちゃん、もしかしてPくんと一緒に待ってたの?」

 

「ま、まぁ、そうだね...」

 

「ほ〜?Pくんと他に何したの?」

 

「ち、違うよ!莉嘉!」

 

莉嘉はまだ子供なのか状況を理解せず率直に聞いてきた。

アタシはその質問を聞いて"別なこと"が頭に生まれ、少し顔を赤く染まり否定をした。

 

「ほ、ほら!行くよ莉嘉!あ、あ、ありがとうね。プロデューサー!」

 

「あ、はい...さようなら」

 

「さよなら〜Pくん」

 

そしてアタシと莉嘉は事務所から出たんだ。

外はすっかり夜空が広がっていて、街は綺麗な光に包まれていた。

それに冷たい風が吹いて、つけていたマフラーが心地よく感じる。

先ほどの変なことを考えていたアタシを冷やしてくれる。

 

(....話してはダメか)

 

でも内面は全体を綺麗に写してはくれなかった。

昨日生まれた謎が中々晴れやしなかった。

金木さんが行方不明と言う暗闇だ。

今すぐ金木さんを探し出したい。

だけど今すぐだなんてできない。

まるで金木さんを見捨てろと聞こえてもおかしくはない。

 

「お姉ちゃん?」

 

「ん?」

 

「悩みあるの?」

 

「悩み?別にないけど...どうしたの?」

 

「なんか暗い顔してたからさー」

 

莉嘉の言葉に胸に刺されたような感覚を味わった。

些細な言葉なのになぜかそう感じたんだ。

金木さんの話題のせいか暗くなっていたことに今更だけど気づく。

さすがにそのことは口には出せなかった。

あまりいろんな人に広めたら影響がでかねないから。

 

「そ、そうだ!今度みりあちゃんとカフェに行かない?」

 

「お!いいね!どこの?どこの?」

 

「それはアタシが行っているところで、行ってからのお楽しみ☆」

 

「えー今教えて、教えて!!」

 

アタシはその莉嘉の話を変えようと、別の話題を出した。

いつも男性の話を持ちかけられると素直になりきれないアタシ。

でも金木さんが生きて欲しい気持ちは決して嘘じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえ"本人"が変わったとしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちの元に帰ってきて欲しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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my dear



もう会えないと悲しんだ、私




そんな時ある人と出会いました




笑顔が素晴らしい人に








卯月Side

 

 

久しぶりに事務所に訪れた、私。

長く事務所に来なかったせいか、とても重圧感と言うものが身に染みるほど感じる。

この場から引きたくなる恐れが胸の中にひっそりと現れていた。

でもここから逃げては、ダメ。

そうしたら私は何も変わらない。

私は事務所の入り口で、一人躊躇をしていた。

誰もいない空間の中で止まっていたんだ。

まさに今の心を表しているように。

 

 

 

 

 

「あの...卯月さん?」

 

 

 

 

緊張で何も聞こえなかった、私。

そんな時に私に声を掛ける人がいた。

その人に振り向いた私は、思わず小さく驚いてしまった。

 

「文香さん...?」

 

私に声を掛けて来たのは鷺沢文香さんでした。

金木さんが行方不明と皆さんに知らせてくれた方です。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香さんに連れられ、オープンテラスのカフェに移動した私。

私はカフェオレを頼み、文香さんはコーヒーを頼みました。

 

「「........」」

 

でもお互い口を開こうとはしませんでした。

別に話したいことがあるのだけれど、行動を起こす勇気がない。

簡単のように、難題に感じる。

 

「....すみません」

 

そんな重かった空気の中、

先に口を開いたのは文香さんでした。

 

「...金木さんに何もすることができなくて...ごめんなさい」

 

「...え?」

 

文香さんは視線を下に向けたまま、急に私に謝ったのだ。

その手はぎゅっと握りしめたまま。

 

「ど、どうして私に...謝るんですか?」

 

「........」

 

文香さんは何かを言おうと口をかすかに動かす。

まるで怯えているように見えたんだ。

 

「...卯月さん」

 

そして文香さんはあることに伝えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私....金木さんのことが好きだったんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え...?」

 

その事実に私は、胸に槍が貫いたような衝撃。

カフェテラスから聞こえる全ての音が一瞬に消え去り、

無の空間にいるように感じたんだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

言ってしまった胸の中に秘めていた言葉。

私の心の中で実ってしまった、触れてはならない禁断の果実。

その存在を卯月さんに打ち上げた。

 

「金木さんが好きって....?」

 

「はい....私は金木さんのことが好きだったんです」

 

すらっと言ってしまった。

他人に言えない秘密をあっさりと言ってしまった。

今までの硬かった口は一体どこか行ってしまっただろう。

 

「それで...金木さんに...その思いを告げたのですが......」

 

でもそれは思い通りにならなかった。

 

「....彼は私がアイドルと言うことでお断りしたんです」

 

「え...?金木さんが文香さんの告白を?」

 

「..はい。告白と聞くと男性が女性に告白をするのが浮かぶかもしれません。

 でも私は金木さんに告白をしたんですよ...なんだか私はおかしいですね....」

 

私はそう言うと哀れさと悲しみが混じった笑いをしました。

心が空っぽになり、何もかもを失った人のようです。

金木さんがいなくなる前の私が"今の私”を見たら驚くに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"金木さんと出会う前の私"が見たらの方がより驚くに違いない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっと金木さんが行方不明なったのは、私のせいです.....私がアイドルになったから、金木さんは...」

 

そう伝えた私は、両手を握りしめる。

私がアイドルになった時の彼の姿が思い出す。

あのどこか悲しそうな横顔。

思い出すだけでも心に苦痛が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「文香さん....っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時でした。

卯月さんが私を叱るように名前を呼びました。

声はそんなに大きくないものの、どんな音よりも大きく聞こえました。

私はその卯月さんの声に伏せていた顔を上げました。

 

「一人で抱えないでください...っ!!」

 

涙がこもった声。

涙を流すのを堪え、私を叱るように目をまっすぐに見てました。

 

「今の文香さんの姿を見ると、金木さんを思い出すんですよ...一人で抱え込む姿をっ!!」

 

一人で抱え込む。

私がアイドルをやる時も、大学で会うときも、そして思いを告げたときも、

彼は一人抱えていた。

それが私も同じくしてしまったのだ。

 

「金木さんは...生きているんですよ....文香さんは何も悪くないのです...っ!」

 

そう伝えた卯月さんは涙が流れていました。

堪えた涙を流したのだ。

 

「........卯月さんっ」

 

そして私の瞳に自然と涙を流した。

その涙は一滴ほどの雫からだんだんと量が増していった。

 

 

 

 

 

なんだろう

 

 

 

 

 

今、私が流している涙は暖かい

 

 

 

 

 

喉を縛り付けたものが消え去り、息苦しさがない

 

 

 

 

 

なんでこんなに気持ちがいいんだろう

 

 

 

 

 

これが隠さずに言うすばらしさなんだ

 

 

 

 

 

私と卯月さんは涙を流した後、自然と心から笑ったんだ

 

 

 

 

 

不気味に感じるかもしれません

 

 

 

 

 

でもお互い悲しみから一変して、気が楽になったんだ

 

 

 

 

 

言えなかったことが言えたことに

 

 

 

 

 

金木さんのことは暗くなってしまうのは仕方がありません

 

 

 

 

 

 

でも彼のことを忘れてはならない

 

 

 

 

 

 

今日卯月さんとお話しできてよかった

 

 

 

 

 

まるで私を苦しめていた鎖が緩められたかのように、心が軽くなったんだ

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

黒く染まった空。

私は事務所から出て、家に帰っていました。

今日の事務所にいた時間があったと言う間に終わったように感じた。

たくさんの人から声をもらいました。

 

(....もう夜なんだね)

 

街中に歩けば綺麗なイルミネーションが 輝き、

冷たい風が雰囲気をより表していました。

 

(文香さんっていい方でした...)

 

初めは文香さんが抱える姿が金木さんと似ていて、涙が混じった叱りでしたが、

だんだんと時間を空いていたら、なんだか笑っちゃったんだ。

お互いに言えなかったことを打ち明けたからです。

文香さんは金木さんのことをたくさん私に伝えてびっくりしました。

やはり同じ大学に通っているからたくさん言えると思います。

私も金木さんと過ごしたことを伝えました。

あんていくにいた時も、最後に出会った時もね。

それで文香さんと別れる時、連絡先を交換しようと思いましたけど、文香さんはまさかの私の連絡先を知っていました。

理由は志希さんから勝手に連絡先をもらっていたからでした。

一体どうして知っていたのかはわかりません....

 

(....やっぱり金木さんのことが離れない)

 

でもそのいい話とは裏腹に次に私の頭に浮かんだのは心に悲痛を感じた金木さんの行方不明のことだ。

それは文香さんとのお話で最初に上がった話題でもある。

金木さんのことを思い出すだけでどこか心が暗くなる。

でもそれじゃあ金木さんは行方不明ではなく、亡くなってしまったとなってしまう。

だから私は金木さんは"どこか”で生きていると信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえ本当にいなくなっていても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(...ん?)

 

夜の歩道橋の真ん中まで踏み出した途端、携帯が鳴り出した。

私は携帯の画面を見ると、志希さんが電話をかけてきたのでした。

 

「もしも」

 

「やっほー卯月ちゃん♪」

 

あの気楽な志希さんの声が久しぶりに聞いたように思えた。

 

「....えっと」

 

でも私も気楽に話せるかと言うとそうではなかった。

金木さんがいなくなった知らせを聞いた時、私は不安定だったせいか志希さんの言葉を信じれなかった。

その後私は志希さんにひどいことを言ってしまったと気づき、

志希さんとは話すのを避けてました。

それがまさか今、話すなんて。

 

「いやー卯月ちゃんと話せて、あたしは嬉しいよ」

 

「そ、そうなんですね...」

 

私は嬉しい気持ちより、気まずさが優っている。

 

「....もしかしてこの前のことで気まずいかな?」

 

「え?い、いや...そうじゃないですよっ!」

 

志希さんは気づいたのか私にそう指摘すると、

私は慌てて否定した。

本当は違うのだけれど、本人の前では言えない。

そうなると今日の文香さんの会話はどこへいってしまっただろう。

 

「......本当に?」

 

「....はい」

 

何も聞こえない間が緊張を増していきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時でした。

 

 

 

 

 

 

『後ろに向いてくれる?』

 

「...え?」

 

私はその言葉に後ろを振り向くと、ある人物が立っていました。

 

 

 

 

 

 

「どうもー♪卯月ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

そこに立っていた人は、にっこりと笑う志希さんでした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜に照らす街灯

 

 

 

 

渋滞に止まる車

 

 

 

 

ビルの谷間から吹く肌寒い風

 

 

 

 

 

僕は人混みの中に歩いていた

 

 

 

 

皆が歩いている中、僕は立ち止まった

 

 

 

 

ある一人を見ていたんだ

 

 

 

 

 

歩道橋で一人立ち止まる少女、島村卯月

 

 

 

 

僕が最後に出会った"人"だ

 

 

 

 

 

皆はアイドルとしての彼女を知ってるが、僕は本当の彼女を知っている

 

 

 

 

 

そう言えば今週にニュージェネレーションズのクリスマスライブがある

 

 

 

 

 

きっと彼女もその舞台に立つに違いない

 

 

 

 

 

でも僕は彼女が立つ舞台には行かない

 

 

 

 

 

どこか嫉妬に似た感情が胸の中にあった、僕

 

 

 

 

 

彼女たちの光に僕はどこかそらしたくなる

 

 

 

 

 

輝く姿を見るのは大切なのはわかるけど

 

 

 

 

 

僕の心の奥底にある"感情"が無意識にそうさせるんだ

 

 

 

 

 

 

そして僕は夜の街に消え去ったんだ

 

 

 

 

 

彼女が僕に気づかないようにそっと街に行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は彼女と違って、喰種なのだから

 

 

 

 

 

 



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desire



望み



お互いそう感じていたんだ











卯月SIde

 

 

「どうもー♪卯月ちゃん♪」

 

「.......」

 

私は志希さんが後ろにいたことに驚いたあまり、言葉を失った。

ぴたりと固まった体は、一歩も歩き出せない。

 

「久しぶり〜元気してた?」

 

「.......」

 

言葉が返せない。

先ほど電話をしていた志希さんが、目の前にいるのだ。

志希さんは手を振り、私に笑顔を向ける。

でも今の私にとって、恐怖に近いものだった。

まるで逃げていた犯人が警察官とばったり会ってしまったような感覚だ。

 

「あれれ、どうしちゃったの?」

 

「あ、い、い、いえ...志希さんが目の前に現れたのがびっくりしちゃって...」

 

驚いた感情よりも"話したくないと言う恐怖"が感情が強かった、私。

ぎこちなく話してしまったことに気づき、さらに緊張が増す。

そんな事実を志希さんの前で言えない。

言うなんてとんでもない。

私は一人、躊躇していたんだ。

 

そんな時だった

 

志希さんが私に近づき、

私の目の前に立ったのだ。

そして次の瞬間、

 

「.....会えて嬉しかった」

 

「...っ!?」

 

気が付いた時には、志希さんは私を抱きしめていたのだ。

浅くもなく深く抱きしめてられていた。

それは程よい力加減で暖かさが込められ、不安にかられていた私に安らぎを得たんだ。

 

「...卯月ちゃんに会えて、あたしは嬉しいよ」

 

耳元で聞こえる志希さんの小さな声。

なんだか心にまで響いて聞こえてくる。

 

「ちょうど寂しかったんだよね....文香ちゃんからカネケンさんが行方不明と聞いた時、

 動揺しちゃったよ。卯月ちゃんのようにね」

 

声は優しい声からだんだんと、どこか悲しさがこもった声に聞こえた。

普段耳にしない声に私は驚いてしまった。

 

「どう?気分は和らいだ?」

 

志希さんは抱きしめるのをやめ、私の顔をまっすぐと見る。

あのニコニコした顔から、どこか寂しそうな瞳で私の目を見つめる。

 

「志希さん...ごめんなさい。あの時は私は..」

 

「別にあたしは気にしてないよ。卯月ちゃんがあたしを疑ったことをね」

 

そう言うと志希さんはにゃははっと笑いました。

その姿を見た私はなんだか緊張がなくなり、気分が軽くなりました。

 

「未央ちゃんや凛ちゃんに聞いたよ、結構一人で抱えてたらしいねー?」

 

「え...?なんで知ってるのですか?」」

 

「そりゃ知ってるよ。あたしも心配してたしね」

 

「...そうなんですか」

 

「うんっ、心配してた。もし卯月ちゃんもカネケンさんのようにいなくなったら、"今以上"に泣いていたよ」

 

志希さんはどこか寂しそうに言った。

今の志希さんはいつもとは違う。

子供っぽさがなく、大人にみえた。

志希さんは本当に心から寂しかったんだ。

 

「志希さん...本当にありがとうございます」

 

「いえいえ、なにせ"実の妹"にしたいぐらい卯月ちゃんが好きだからね」

 

「...え?」

 

「ん?どうしたの?」

 

私はびっくりをしてしまった。

 

「あ、い、いえ...まさか...実の妹に」

 

「あ!そうだった!」

 

すると志希さんはポンっと手を叩き、ポケットからあるものを取り出し、私に渡した。

 

「卯月ちゃんにプレゼント〜♪」

 

「え?」

 

「あれだよ、ライブにクリスマスツリーに貼る紙だよ?」

 

私に渡したのは星の形をした紙でした。

それは確かクリスマスライブで事務所のみなさんが書いていました。

でも志希さんが数は一つではなく、二つでした。

しかもその一つは何も書かれていません。

 

「なんでこの星は書いてはないのですか?」

 

「それは言わなくてもわかると思うよ?」

 

「え?」

 

「......よーく考えてみれば、わかるはずだよ?」

 

志希さんは頭に人差し指で軽く叩くしぐさをし、にゃははと笑いました。

一体なんだろうと考えだした、私。

別に私は星をなくした訳でもないし、

かと言ってスペアで取っておきたいわけでもない。

そんな時あることが頭に浮かんだ。

さっき話したことが結びついたのだ。

 

「...もしかして、か」

 

「おーと!お口で言わない言わなーい♪」

 

私が言おうとしたその時、志希さんは私の口を閉ざすように手を当てました。

 

「それは卯月ちゃんの心の中で言ってね♪」

 

そして志希さんは口に指を当て、『しー』と言って笑いました。

私は呆然としてしまった。

まさかその何も書かれていない星が"金木さん”の分だったことに。

 

「明日、ライブに出るよね?」

 

「は、はい...」

 

「もし...緊張をしちゃったら、その星を思い出してね」

 

そう言うと志希さんは「じゃあね」と言い、私の元から立ち去って行きました。

私は志希さんからもらった星を大切に持ちました。

本当なら凛ちゃんや未央ちゃんに渡してもいいのに、志希さんは私に渡しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も書かれていない星が二つ

 

 

 

 

 

 

一つは私で、もう一つは彼

 

 

 

 

 

 

それが明日のライブまで書けなかった

 

 

 

 

 

理由は二つ

 

 

 

 

 

答えが書けなかった私と彼がいなくなって書けなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月24日

 

 

 

 

 

 

 

迷いのまま立ってしまった私

 

 

 

 

 

 

全然笑顔になれずただ一人、ステージに立っていたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもその時の私は一人じゃなかった

 

 

 

 

 

 

 

みんながいたんだ

 

 

 

 

 

あの時、私は決して一人でステージに立っていたんじゃなかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

その場にいなくても応援してくれる人はいる

 

 

 

 

 

 

そう感じ私はこう言ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『島村卯月……、頑張りますっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は再び輝くんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度、心から笑顔になれる時を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

 

空を見上げた、あたし

 

 

さっき卯月ちゃんと出会って嬉しかったんだ

 

 

最近事務所で会わなくて、どこか心の中に小さな穴が開いたように寂しかった

 

 

そんな時、私はサプライズで目の前に現れたんだ

 

 

でもあたしの心にはまだ穴があった

 

 

ねえカネケンさん

 

 

あたしは忘れないよ

 

 

こんなにあたしを悲しくさせたからね

 

 

いつも適当な性格のあたしを無視しなくていっぱいお話をしてくれ、時に私を頼ったりして

 

 

あたしはそんなカネケンさんと出会って嬉しかったんだ

 

 

でもそんな楽しかった時間が急に止まっちゃった

 

 

カネケンさん自身が行方不明になったからね

 

 

あたしはそれを耳にした時、冗談かとおもった

 

 

でもそれは冗談ではなく、本当なことだった

 

 

あたしより失踪上手だなんて、ずるいよ

 

 

うまくなさそうなのに、行方不明だなんてひどいよ

 

 

カネケンさん

 

 

もう1度目出会って、おしゃべりがしたい

 

 

時間とか何もかも気にせず、いっぱい話したい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは見つけるよ

 

 

 

 

 

キミが失踪した理由を

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

12月24日の真っ暗に染まった夜

 

 

 

僕は一人あるところに足を踏みいれた

 

 

 

一歩一歩と歩いていく、僕

 

 

 

そこは彼女と再び出会った公園だ

 

 

 

あの時は桜が綺麗な季節で、太陽がキラキラしていた昼だった

 

 

 

でも今は木々は寂しく葉が落ち、厚い雲がかかった夜

 

 

 

僕はベンチに座った

 

 

 

彼女が座った隣にそっと座る

 

 

 

彼女は今、舞台に立っている

 

 

 

クリスマスライブで再び姿をしたと耳にした

 

 

 

長く表に出ていなくて、アイドルをやめたのではないかと不安の声があった

 

 

 

でも僕は再び輝けると信じている

 

 

 

あの子なら僕と違って、もう一度取り戻せる

 

 

 

それは僕の望みでもあり願いでもあった

 

 

 

 

 

 

 

吐く息が白い

 

 

 

空にすぐに消えていく白い息を見ていると、はかなくみえる

 

 

 

輝かしい夢が消えていくように

 

 

 

彼女たちと過ごした日々のように

 

 

 

最後に彼女と会った記憶のように

 

 

 

再び彼女と出会いたいと言う夢のように

 

 

 

そう思い出すだけで胸が苦しくなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの頃に戻りたいと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそれは届かぬ夢

 

 

 

堕ちてしまった闇

 

 

 

そんな彼女たちと再び会うのは、もうできない

 

 

 

 

これが僕が抱える運命

 

 

 

 

僕は光である彼女たちの後ろにいる影だ

 

 

 

 

 

 

 

そして僕は街の影へと姿を消して行った

 

 

 

 

 

 

 

日の光が現れる前に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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sunlight



それは彼女たちにとって輝く存在であり、

僕にとっては背けたくなる存在




卯月Side

 

 

 

12月24日  19時

 

 

「いや〜しまむー良かったよ!」

 

「卯月...よかったよ」

 

「ありがとうございます!」

 

ライブが終わり、私たちはとあるところに訪れています。

今、来ているところ。

そこは凛ちゃんと再びであった場所でもあり、私が二人に胸の中に隠していた思いを言った公園です。

未央ちゃんが『しまむーは今どこか行きたい?』と言ったため、私の希望でここに来ました。

訪れた時はすっかりと暗くなってしまい、冷たい風が日が出ているよりも強かったです。

私たちは街灯に照らされたベンチに座り、先ほど行われたクリスマスライブのことを話しました。

再び取り戻した、私。

あの瞬間は今でも心に残っています。

 

「そういえば、ここって凛ちゃんともう一度出会った場所ですよね?」

 

「そうだね。あの時は桜が綺麗に咲いていたね」

 

綺麗に咲いていた桜。

今は葉っぱがなくて、何もありません。

でもよく枝を見ると蕾が小さくあります。

春に向けて咲く準備をしていました。

そういえば未央ちゃんは私と凛ちゃんと違いオーディションでアイドルになったため、あの時は一緒にいませんでした。

 

「うん。ここで卯月とプロデューサー、"金木"と出会ったんだ」

 

「........」

 

「しまむー?」

 

「....大丈夫です」

 

私は凛ちゃんが言ったある言葉に思わず、暗く感じてしまった。

金木さんという言葉に暗く感じ始めてしまった、私。

本当はそう考えちゃダメなのに、自然と現れてしまう。

ふと気が付いた凛ちゃんは少し唇をしめ、

 

「ごめん、卯月..."あいつの名前"を」

 

「謝らなくてもいいですよ...凛ちゃんも誰も悪くはありません...」

 

「....金木さんもしまむーとしぶりんといたんだね」

 

あの時、金木さんの言葉が凛ちゃんがアイドルと言う道を踏み出すきっかけを作ってくれました。

そのおかげで凛ちゃんは初めよりも成長して行きました。

でもそれを導いてくれた金木さんはどこかに行ってしましました。

金木さんの話題を上げただけで、楽しく話し合っていた私たちは口を閉ざしてしまいました。

 

「...大丈夫です」

 

そんな空気の中、私は口を開いたんだ。

 

「金木さんは....大切な人です。だから、私は帰ってくるのを待ってます」

 

「...しまむー。やっぱ、そう考えないと金木さんは戻っては来ないね」

 

「..うん、あいつは死んでなんかはいない。どこかいるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の舞台に立てた、私たち

 

 

 

 

 

 

舞台に立って、いろんなことが変わってしまった

 

 

 

 

 

 

それは良いこともあれば悪いこともね

 

 

 

 

 

 

 

 

私はどんなにキラキラと輝いても、忘れないよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いなくなってしまった、あなたを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

私は事務所の玄関にあるソファに一人本を読んで座っていた。

仕事が終わり、私はしばらくここで本を読んだ後、家に帰ろうと思います。

確かここは志希さんと美嘉さんに金木さんが行方不明だと知らせた場所であり、長く事務所に訪れなかった卯月さんとお会いした場所になります。

 

 

玄関は音もなく、静まり返っている。

いつも本を読んでいると周りの音を気にしないはずの私が、今は周りの音を気にしている。

読んでいる本もただ文字を読んでいるだけで、全く物語が頭に入らない。

 

 

 

 

後悔

 

 

 

 

自分がやってしまった過ち

 

 

 

 

それが今の私の頭に大きく占めているもの。

考えるたびに胸が締め付けられる。

今更、後悔しても遅いのにまだ思い続けていた、私。

前に踏み出すことを恐るように見えてしまう。

 

「ふーみーかちゃん♪」

 

ふと我に帰ると、聞こえなかったはずの音が玄関に響き渡っていました。

あまりにも考えていたせいか、周りを気にしてなかった。

 

「こ、こんばんは...志希さん」

 

「一人で何してる〜?」

 

「あ...い、いえ、新しく買った本を読んでいまして」

 

「そう?いつもにしては、かなり読むのが遅いように見えるよ?」

 

確かに志希さんの言う通りであった。

今開いているページはソファーに座った時と同じページであり、

一行すら読むのが遅かった。

 

「全く文香ちゃんは...もしかして一人で抱え混んでる?」

 

「すみません...」

 

志希さんは知っていた。

私がこうして一人抱え込む姿を何度も目にし、理解してくれる。

 

「癖はすぐには治らないよ。例えばあたしの失踪癖とか♪」

 

そう言うと志希さんはにゃははっと笑いました。

志希さんの失踪癖は前よりは治ってますが、治っているとは限りません。

 

「おっ!志希に文香さん!」

 

すると志希さんが指差した先を見ると美嘉さんが立っていました。

確か美嘉さんはクリスマスイベントのお仕事が入っていました。

 

「美嘉ちゃんじゃんっ!お疲れ〜♪」

 

「こ、こんにちは...美嘉さん」

 

「ありがとう、二人とも☆」

 

「あ、美嘉ちゃん!!あたし話したいことあったんだ!」

 

「話したいこと?まさか変なことじゃないよね?」

 

「いやいや、今回は少しだけ違うよ♪」

 

「.......」

 

相変わらず楽しそうに話す、お二人。

それを黙って見ている、私。

夏の時と変わらない。

私は未だに変わってないと心の中で突き刺さるように感じる。

そんなことを思っていた私はふと美嘉さんと目が合い、

美嘉さんはあることを伝えました。

 

「文香さん。そういえば、アタシたち最後のクリスマスなんだよね」

 

「え?最後のクリスマスですか?」

 

「あれだよ。高校生活最後のね♪」

 

「あ、ああ...」

 

確かに志希さんと美嘉さんは高校三年生。

となると来年では高校を卒業してしまいます。

そう考えると、なんだか私が卒業をした時が懐かしく胸に感じます。

あの時の私は長野の山奥の小さな町から、都会である東京に行くことに胸を弾ませていました。

まだ見ぬ世界に期待を持っていました。

でも今の私は金木さんという一人の方を失った悲しみと、アイドルになったことに葛藤する日々を過ごしています。

 

(...何しているんだろう、私)

 

上京し始めた私と今の私。

あまりにも変わってしまった。

大学で勉強をするためにきた東京。

今はその目的よりも、大きく胸の中に占めてしまった悩み。

私はなんでこうなってしまったんだろう。

 

「文香さん?」

 

「...え?」

 

「どうしたのですか、暗い顔をして?」

 

「あ....い、いえ...なにも」

 

「何もじゃな〜い♪」

 

突然、志希さんが無理やり私の肩にもたれるようにくっつきました。

 

「文香ちゃん。今日は一緒にたのしも?あたしたちと、どこかに」

 

「ど、どこかって?」

 

どこに行くのかわからず、聞こうとしたその時、

 

「今日はぱっぱと遊ぼうか♪」

 

「え?」

 

すると志希さんが満足そうな顔をし、私は無理やり立たせ、手を引っ張りました。

 

「ちょっと、志希!急にどうしたの?」

 

「美嘉ちゃんも行かない?」

 

「え?」

 

「今日は特別な日。思い出に残るような日にしない?」

 

「...そうだね。なにせ今日はJK最後のクリスマスだしっ!」

 

はりきってそう言った美嘉さんは私の背中を押し、外に行きました。

 

 

 

 

 

 

私は二人に連れられ、外に出た

 

 

 

 

 

 

無理やりといいほど私は彼女たちによって連れて行かれた

 

 

 

 

 

でもそれはどこか心地よかった

 

 

 

 

 

冬の冷たい風が肌に感じるたびに、ワクワクとした好奇心が胸に生まれていた

 

 

 

 

 

 

まるで上京した時に感じた好奇心と似ていた

 

 

 

 

 

 

志希さんと美嘉さんの性格は私とは正反対の明るい性格です

 

 

 

 

 

 

 

違う性格だから相性は悪いのではないかと思うかもしれません

 

 

 

 

 

 

でも私はそうは思いません

 

 

 

 

 

 

私は二人に新たな世界を見せてくれて、助けてくれました

 

 

 

 

 

 

もし志希さんと美嘉さんに出会わなかったら、あの悲しみから立ち上がることができなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は探さなければならない

 

 

 

 

本当にアイドルと言う道を選んで良かった理由を

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの人が行き交う駅

 

 

 

 

 

 

足の進む音はこの場所の雰囲気を表しているように聞こえる

 

 

 

 

 

その中に、人を装う僕がいた

 

 

 

 

 

見た目は人のだけれど、中身は喰種

 

 

 

 

 

正体がバレてしまえば、それは死の宣告と等しい

 

 

 

 

 

 

すると歩いていた僕はぴたりっと止まった

 

 

 

 

 

 

僕の瞳に映ったのは、駅の広告に映る輝く彼女たちだ

 

 

 

 

 

 

眼帯に隠れ、片目から見える彼女たちの姿はきらびやかに映っていた

 

 

 

 

 

 

その光は僕にとって隙間から照らされる命の光でもあり、自然と背けたくなる光

 

 

 

 

 

 

光の彼女たち

 

 

 

 

 

 

 

影の僕

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しいことかもしれないけど、それが今の僕が表す現実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕がやらなくちゃいけないこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは姿を消さないといけない

 

 

 

 

 

 

 

彼女も友達も大切な人たちを守るために、そっと影から見守らないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから僕はこの街に姿を消すよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と再び出会うことがないようにね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第2章 異変 終





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第3章 空白
壊れた時計




壊れてしまった時計



それが再び動き始めたんだ






冬の寒さが過ぎ去り、暖かさを取り戻した春。

寒さを耐えたつぼみが綺麗に咲き誇り、鮮やかに染まる景色。

 

 

 

そんな時、346プロダクションに入って行く人がいた。

 

 

 

「おはようございます!!」

 

元気よくみんなに挨拶をする女の子。

その子の名は島村卯月(しまむらうづき)

笑顔が素敵な彼女で、かつては普通の女の子。

 

 

 

でも彼女は綺麗な舞踏会にたった初代シンデレラプロジェクトの一人であった。

 

 

 

 

 

 

 

それが世間が知る島村卯月。

 

 

 

 

 

 

 

でも僕は、

 

 

 

 

 

変わっていく彼女よりも、僕は最初に出会った彼女を懐かしく感じているんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

これ以上時間が進まないことを、僕は影からひっそりと望んでいた

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

お仕事が終わり、家に帰った私。

今日は4月24日。

私の誕生日であった。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー卯月」

 

家に帰るとママが返事を返してくれた。

本当は誕生日会を開きたかったけど、メンバーが揃うことなく開くことはできなかった。

凛ちゃんと未央ちゃんはお仕事で忙しく、最近会うことがありません。

 

(....でも、来年こそは誕生日会を開きたいな)

 

場所は決めてはないけど、来年こそは3人で集まれると信じている。

私は気を取り直し、二階にある自分の部屋に入る。

一歩一歩ゆっくりと階段に登る。

今日のお仕事は少し疲れた。

今日は美穂ちゃんと響子ちゃんと一緒に、握手会と雑誌のインタビューをした。

握手会でも一つではなくいくつかの場所に向かい、インタビューは4社からそれぞれ違う質問を答えなければならなかった。

 

(ちょっと...暑いかな)

 

今日は日中暖かったせいか、部屋はムシっとしていた。

換気しようと私は部屋の窓を開け、 気分に夜の空気を吸った。

外は日中とは違い、ひんやりと涼しかった。

 

(今日もやらない...)

 

私の机にはたくさんの本が置いてある。

それはほったらかしたのではなく、勉強の為に置いてある教材であった。

私は大学受験を受ける為の勉強をしていたんだ。

 

(しばらくお仕事をやめないといけないのか...)

 

その山積みにされた教材を見て、ふと心の中に呟いた。

なんだか物寂しく感じるけど、仕方ないがないこと。

去年とは違い、今年は高校三年生。

とりあえずプロデューサーさんをお話をし、今度のピンクチェックスクールのお仕事が受験前最後のお仕事になる。

そのお仕事は『ラブレター』の収録とPV撮影だ。

 

「卯月ー?ご飯ができたわよ?」

 

「わかった、ママ!」

 

一階から聞こえたママの声に私は部屋から出ていった。

そのまま窓を開け、部屋から出たんだ。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

晩御飯を済ませ、私は二階へと向かっていた。

去年の私ならリビングでゆっくりとしていた。

でも今は自分の部屋に戻り、勉強をする。

戻って部屋に向かうと、

 

「...ん?」

 

カーテンが風でなびかせ、私の机に"あるもの"が置いてあった。

 

「....花?」

 

綺麗に置いてあった、花束。

その花は紫に白い色をしたお花。

それを見た私は、はっと驚いてしまった。

 

「アネ....モネ」

 

お花に詳しくない私が、自然と名前を一人つぶやくように言った。

去年のこの時期、凛ちゃんの親がやっているお花屋さんで買ったお花。

誰も二階に向かったような様子もなく、ポツンと机においていた。

付いていたレシートには購入した時間帯は5時50分。

去年と同じ時間帯であり、同じく買った場所であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「....."金木さん"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと呟いたある人の名前

 

 

 

 

 

 

 

 

その人はかつて私が出会った人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも今では出会うことができない人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私に胸の中に止まっていた時間が、再び動き始めたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

登場人物

 

 

・島村卯月

 

 346プロでアイドル活動をする高校三年生。

 初代シンデレラプロジェクトの一人で、世間では大きく知られている。

 受験のためアイドル活動を一時休止をすることになる。

 金木研とは渋谷凛の両親がやっている花屋に出会い、

 彼が行方不明になる前、最後に出会った人でもある。

 

 

・渋谷凛

 

 アイドル活動をする高校二年生。

 クールな外見で、現在入っているユニット"トライアドプリムス"やモデル撮影をしている。

 初代シンデレラプロジェクトの一人で、世間では大きく知られている。

 金木研とはアイドルになるきっかけを作った一人であり、友人同士だったが、

 現在は会うことができない人になってしまった。

 行方不明となった金木に疑問を抱いている。

 

 

・本田未央

 

 アイドル活動をする高校二年生。

 現在は舞台を中心に仕事をしている。

 初代シンデレラプロジェクトの一人で、世間では大きく知られている。 

 金木とは彼女がアイドルオーディション当日に会ったが、

 現在は彼とは会うことができない。

 消えてしまった彼をこっそりと探している。

 

 

・一ノ瀬志希

 

 高校を卒業をしたが、大学には行かずにアイドル活動をしている。

 化学と香りを好んでおり、特に鼻は誰よりも利くらしい。

 金木研とは20区で知り合った。

 ここ最近、喰種に対して興味を持っている。

 

 

・鷺沢文香

 

 346プロでアイドル活動をする上井大学3年生。

 金木研とは同じ大学であり、数少ない友人でもあった。

 アイドルになるきっかけを作った金木研を失ったことで、他の理由を模索している。

 

 

・城ヶ崎美嘉

 

 アイドルの頂点シンデレラガールズの一人である大学一年生。

 金木研に助けられたことで、お互いに知り合った。

 かつて同僚であったアイドルが喰種によって失ったため、喰種に対しては否定的である。

 

 

・金木研

 

 かつて彼女たちと交流があった上井大学一年生の青年。

 島村卯月との出会いを最後に去年、姿を消してしまった。

 現在も行方不明とされるが、ある情報が彼女たちに耳をすることになる。

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

その他

 

 

・霧嶋董香

 

 あんていくで働く喰種の少女。

 彼女たちが喰種だと言うことに彼女たちは知らない。

 なお、金木研が行方不明になった理由を知っている。

 

 

・笛口ヒナミ

 

 両親がCCGに殺された孤児の喰種。

 現在は金木研の元にいる。

 彼の友人島村卯月に憧れを抱いている。

 

 

・亜門鋼太朗

 

 

 CCGに働く喰種捜査官。

 かつてプロデューサーとは一つの喰種捕食事件に出会い、

 現在でも彼との交流はある。

 

 

・プロデューサー(武内P)

 

 346プロダクションで働く男性。

 現在は2代目シンデレラプロジェクトを担当しているため、

 初代シンデレラプロジェクトのメンバーとは別々に仕事をしている。

 過去に喰種によって一人のアイドルを失っているため、

 喰種に対しては否定的である。

 

 

・高垣楓

 

 アイドルの頂点を極めたシンデレラガールズの一人

 かつて、あんていくに働いていた過去をもっている。

 

 

 

 



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Who?






だれ?だれ?



自然とその人を知りたいっと言う欲求が増していく



まるで手に入りたいという欲望に似ているかのように






凛Side

 

 

「ただいま」

 

春の涼しい風が肌に感じる夜の帰り道を歩いてきた、私。

事務所から帰って来た。

今日は撮影の仕事で1日があっという間に終わったように感じた。

今回の仕事は雑誌ではなく、写真集だ。

一歩、家に入る花の香りがふわっと香る。

家は花屋さんをやっているため、玄関はお店の入り口だ。

 

「ああ、おかえり凛」

 

するとお父さんが顔を出した。

もうそろそろお店を閉めるところなのか、鉢に植えられている花を持っていた。

 

「もうそろそろ閉めるの?」

 

「ああ、時間だからね」

 

「ふーん」

 

私はそう言うと、家に上がろうとしたその時だった。

 

「凛、待ってくれ。今日、面白いお客さんが来たよ」

 

「面白いお客さん?」

 

私はそれを耳にした時、足を止めた。

お父さんがどこか面白く私にそう伝えた。

普段はあんまり私に声をかけることのないのに、今日はめずらしく私と話している。

 

「"白髪で眼帯の青年"が、アネモネを買ったんだ」

 

「白髪と眼帯の青年...?」

 

眼帯と青年と聞くと、真っ先に浮かんだのは"金木"だ。

でもあいつが急に髪を染めることはまずありえないし、しかも行方不明だ。

それを知ったのは去年の12月。

もうそろそろ半年も過ぎてもおかしくはない。

一体どうして姿を消したかわからない。

 

「どうしたんだ?凛?」

 

「え?あ、ああ、少し疲れていてぼーっとしてた...」

 

気がつくと私はぼっと考えていたせいか、お父さんは心配そうな顔をしていた。

お父さんは「そうか..まぁ、仕事で疲れていたかもな」と頷いた。

そして私はそれ以上聞かれないように家に上がった。

 

考え過ぎだ、私。

別に深く考えることのない話なのに、なぜか自然と考えてしまう。

眼帯の青年がアネモネを買う。

そういえばあいつも卯月と同じくアネモネを買っていた。

なんだか偶然過ぎるように感じる。

 

(考え過ぎかな...)

 

今回やって来た人はおそらくは"違う人"。

行方不明のあいつが急に顔を出すなんてありえない。

もしあいつが顔を出して来たら、真っ先に殴りに行きたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちがどれだけ心配させたのかを、私は金木にもう一度会って伝えたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

「こんにちは、トーカさん」

 

「いらっしゃい、卯月」

 

お仕事のないお昼下がりのオフの日。

学校帰りにあんていくにやってきた。

カランっとドアを開けば、コーヒーの香りがほのかに鼻にくる。

店長さんの体調がよろしくなく、あいんていくは長くお店を閉めてましたが、

つい最近再びお店が開いたと耳をし、ここにやってきました。

私はトーカさんが手前にいるカウンター席に座りました。

 

「久しぶりに会えて嬉しいですよ」

 

「そう?もう来ないかと思ってた」

 

「来ますよ! トーカさん」

 

「冗談だよ」

 

そういったトーカさんは少し微笑みました。

彼女の名前はトーカさん。

ショートカットで右目が髪で隠れ、私と同じ高校三年生で、ここあんていくで働いています。

 

「コーヒーをお願いします」

 

「またコーヒー?」

 

「はい!そうです!」

 

味に慣れるため、私は今回も頼む。

ただ苦いコーヒーを味わえるまで飲み続けています。

トーカさんは私の言葉に「また同じ言葉を言わないでね」といい、コーヒーが入った缶を開けました。

 

「...あれ?」

 

「ん?」

 

するとトーカさんは何かに気がついたように目をはっと開き、

 

「コーヒーを切らした」

 

「え?なくなったのですか?」

 

「うん、多分倉庫に置いてあるから、ちょっと取りに行ってくる」

 

「あ...はい」

 

トーカさんはそう言うと二階に続くドアを開き、二階へと上がって行きました。

私は一人店内に取り残されてしまった。

あんていくに訪れた時から私以外誰も入っていない。

やっぱりに一人いると寂しい。

トーカさんが帰ってこないか心から感じていたら、

 

「ん?」

 

すると二階へと続くドアが開きました。

トーカさんが戻って来たようでした。

 

「トーカさん、おかえり.....」

 

しかしドアから現れたのは、トーカさんではなかった。

私は思わず口を止め、驚いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは、小さな女の子。

 

 

 

 

金木さんがいた時に見かけた子だった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ヒナミSide

 

 

トーカお姉ちゃんを探していた、私。

店内にいると思いやって来たら、思わぬ状況に出会ってしまった。

 

「「......」」

 

それはカウンター席に座っていた人、お兄ちゃんの友達の"うづきちゃん"とばったりと会ってしまった。

不気味に静かな空気。

二人は黙ったままお互いの顔を見ている。

 

「あ...あの!」

 

するとうづきちゃんは緊張した様子で先に口を開いた。

 

「この前に私と出会った子...だよね?」

 

うづきちゃんは緊張はあったものの、笑顔に声をかけてくれた。

でも私は口を開かず、ゆっくりと頷いた。

私は怖かった。

喰種(グール)ではなく人間(ヒト)と話すのを。

かつてく人間(ヒト)の手でお父さんとお母さんを亡くしたのだから。

でも目の前にいるのは私が話したかった"うづきちゃん"だ。

それでも私は口を開くことができない。

 

「そうですよね!」

 

「...え?」

 

「私、話したかったんです!」

 

そう言うとうづきちゃんは席に立ち上がり、私の手を両手で握った。

急に起きたため、一体何が起こったのかわからなかった。

 

「あの時からずっと話したいと思ってました!」

 

うづきちゃんはまっすぐと私の目を見ていた。

それはとても輝いていて、綺麗な瞳。

私はそれを見て、だんたんと緊張がなくなっていったんだ。

まるでお兄ちゃんと初めて話した時のように。

 

「そ、そうなんだ....」

 

そう言うと私はだんだんと心が軽くなり、恐怖心が消えていった。

私はうづきちゃん連れられ、席の隣に座った。

 

「えっと....お名前はなんていうのですか?」

 

「....ヒナミ」

 

「ヒナミ?ヒナミちゃんですか!いい名前です!」

 

そう言うとうづきちゃんは私の名前を知って、とても嬉しそうだった。

 

「私の名前わかるかな?」

 

「えっと...うづきちゃんだよね?」

 

「うん、そう!もしかしてテレビで?」

 

「....テレビじゃなくて"お兄ちゃん"から教えてもらったの」

 

「お兄ちゃん?」

 

「..."カネキお兄ちゃん"のことだよ」

 

私は少し間を開け、言った"お兄ちゃん"と言う人。

それはうづきちゃんのお友達で、私にとって大切な人でもある"カネキお兄ちゃん"のことだ。

かつてあんていくにいたのだけど、今はここにいない。

 

「金木さん....」

 

「あ、ああ、ご、ごめんなさい」

 

私は無意識に謝ってしまった。

さっきまで笑顔だったうづきちゃんを暗くさせてしまった。

うづきちゃんはお兄ちゃんがいなくなって悲しかったと思う。

それを表すようにまるで綺麗に咲いていた花を、萎れさせてしまったかのように笑顔が消えていた。

 

「大丈夫.....だよ、ヒナミちゃん」

 

「...?」

 

「別にヒナミちゃんも誰でも謝ることじゃないよ」

 

うづきちゃんはそう言うと少し拳を握った。

確かにお兄ちゃんが"今の状態"になったのは私でもトーカお姉ちゃんでも誰でもない。

 

「...でも、私は新しいことを見つけれたよ」

 

「新しいこと?」

 

「うん、金木さんがいなくなった悲しみを全部埋めれることできない。でも今ヒナミちゃんとお話できただけで、私は嬉しいよ」

 

そう言うとうづきちゃんはにっこりと笑った。

私もお父さんとお母さんを失って悲しみがあった。

その悲しみは完全に埋めれるわけないけど、あんていくのみんなと出会って私は楽しく過ごせるんだ。

そして今うづきちゃんとお話できたことも一つなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はうづきちゃんの笑顔を見て、心の中でふと思ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"本当のこと"を伝えちゃダメだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"今のお兄ちゃん"を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし言ったら、うづきちゃんは....

 

 

 

 

 

 

 

「え?ヒナミ?」

 

ふと気がつくと、トーカお姉ちゃんがコーヒーが入った缶を持って、驚いた様子で立っていた。

本当は人前に立ってはいけないことを私に伝えたのに、私は人とお話をしていた。

 

「なんでここに」

 

「トーカさん!ヒナミちゃんとお話しできてよかったですよ!」

 

「あ、ああ....そうなんだ」

 

トーカお姉ちゃんはそう言うと、ぎこちなく頷いた。

楽しく接していたうづきちゃんの機嫌を損ねないために、それ以上私にうづきちゃんとなぜ会話したのかを言及しなかった。

 

うづきちゃんが帰ったあと、トーカお姉ちゃんから少し怒られた。

普段攻撃的なお姉ちゃんだけど、私には手を出さずに叱った。

確かに私はあの時、すぐに二階に行けばいいのではないかと思うかもしれない。

私が人から危険な目を再び合わないために。

でも私はうづきちゃんと話してよかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃんがうづきちゃんと接していた理由がわかったから

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ミュージック番組の収録

スタジオにて収録が行われていた。

数々のアーティストが並ぶ中、あるユニットが注目されていた。

そのユニットは5人組ユニット"LiPPS"。

今年の3月に結成され、現在人気沸騰中のユニットである。

そのLiPPSのメンバーは速水奏、塩見周子、宮本フレデリカ、城ヶ崎美嘉、一ノ瀬志希だ。

今は曲を披露し、その後アナウンサーにインタビューを受けていた。

 

「一ノ瀬さんは確かLiPPSのメンバーの中でデビューが遅いですよね?」

 

「うんっ、確かにそうだね〜♪まぁでも、みんなとは仲良くしてるよ♪」

 

最初にインタービューを受けたのは一ノ瀬志希。

彼女はLiPPSの中で、一番デビューが若い。

他のメンバーは世間に大きく知られるのだが、その中で新人の志希がユニットに入っている。

 

「それで、一ノ瀬さんがアイドルになるきっかけはなんでしょうか?」

 

「えっとねー、プロデューサーにスカウトされたのもあるけど、"K・K"さんと言う男の人に出会ったからだね」

 

「K・Kさん?」

 

「うんっ、K・Kさん」

 

司会者がそのイニシャルに疑問を持った顔を持った。

一ノ瀬志希の発言にスタジオ内でざわつき始めた。

その"K・K"と言う人物は一体誰なのかと。

LiPPSのメンバーも志希の言葉に疑問を持ち始めた。

そのメンバーの一人、城ヶ崎美嘉は"K・K"と言う名に密かに勘付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそんな状況にも関わらず、一ノ瀬志希はにこにこと変わらずに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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蘇る、忘れられた人





いつの前にか、あの人を名前で言うのはなくなってしまった。




それが再び名前を言うきっかけが現れたんだ。



カネキと。








美嘉Side

 

 

「最近、お仕事どう?」

 

「うん、結構楽しいことがあって面白い!」

 

日が赤く染まっていた、仕事終わり。

アタシはみりあちゃんと一緒に帰っていた。

別にお互い一緒の仕事ではないのだけど、

今日はたまたま帰る時間帯が同じだったからこうして話しながら帰っている。

アタシは大学生になり、みりあちゃんは小学校6年生になった。

みりあちゃんも成長をし、アタシも同じくそうだ。

前よりも見ている世界が変わった。

それはアタシが前とは違い、変わったと言える。

 

 

 

 

でもそんなアタシに、もやもやすることを抱えていた。

 

 

 

 

 

(なんで言ったんだろう...志希)

 

それはこの前の音楽番組の収録で起きた出来事。

LiPPSとして一緒に出ていた志希が司会者に意味深い発言をしたのだ。

"K・Kさん"という名を言ったのだ。

SNS内ではその"K・K"という人物に一体誰なのかと議論されている。

しかし今世間で有力とされている人が上がっているが、

アタシはその答えが全く違うとはっきり言える。

 

(...さすがに金木さんが名前をあげることないよね?)

 

金木研

アタシとは一つ上の男性。

金木さんとは13区駅で初めて出会ったけど、

知り合ったのは卯月と凛、未央が初めてステージに立ったライブの終わりの帰りだ。

なぜ金木さんが志希が言ったK・Kだといえるかと言うと、もちろん名前もそうだけど、

志希がアイドルになったきっかけを作ったのは金木さんであった。

あくまで予想だけれど、まさか志希がその人を収録でイニシャルで上げるなんて考えもしなかった。

 

(....本当にどこにいるんだろう)

 

でも金木さんは今は行方不明。

理由はわからない。

理由を探したくてもアタシはアイドル。

それを大きく知られてしまえば、アタシの今の道を失う。

アタシも他のみんなも探したい気持ちを抱え、ただ時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 

時間が経つに連れてもう一つ、増えていく情報があった。

 

 

 

 

「そういえば美嘉ちゃん、この前に行ったカフェも一度行きたい!」

 

「あそこ?えっと....そこは今度にしようか」

 

「えー?今度に?」

 

みりあちゃんはアタシの答えにどこか落ち着いた様子になってしまった。

決してみりあちゃんを悲しませるために断ったのではなく、

この前に行ったカフェは6区の近くだ。

つい最近、6区内で"喰種の事件"が多発している。

だからアタシはそう伝えるしかなかった。

 

(...なんか喰種の事件が増えて、都内は物騒になっているしね)

 

ここ最近、喰種の事件を耳にすることが多くなった。

おそらくは12月に行われた11区の作戦だ。

11区にいた喰種の集団を倒すため、CCGはそこに攻撃をしたのだけど、

その同時に23区にあった収容所に多くの喰種が東京に放たれてしまった。

そのおかげでアタシは前よりも強く警戒するようになった。

 

「そういえば、美嘉ちゃん?」

 

「ん?」

 

「今度一緒に図書館に行きたい!学校でわからないところがあって、教えて欲しい!」

 

「いいよ。時間が空いたら、声をかけるよ☆」

 

「やったー!」

 

みりあちゃんはアタシの言葉に大きく喜んだ。

何気なく同意をした、アタシ。

 

 

 

 

 

 

 

その図書館でみりあちゃんが"ある子"と出会ったことは、アタシは知らない。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

雲が多く覆った朝。

事務所に訪れ、部屋にあったソファーに座り、一人本を開く私。

お仕事の前に私はいつも読書をします。

気持ちの整理もありますが、ある意味ルーティンとしてやっています。

今日はありすちゃんと一緒にお仕事をします。

それで私は早めにここに訪れました。

 

「おはようございます、文香さん」

 

「おはようございます」

 

するとありすちゃんがドアから現れ、挨拶をしました。

私もやって来ましたありすちゃんに挨拶を返しました。

前までは読書をしていると誰かが声をかけない限り気がつかなかったのですが、

今では読書をしていても気づけるようになりました。

 

「今日はどんな本を読んでいるのですか?」

 

「最近書店でベストセラーになっている本を選びました」

 

ありすちゃんとは本の話題で盛り上がります。

プロジェクトクローネの活動のおかげで色々な方と接する機会が増え、

以前よりもお友達が増えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそのおかげで"失ってしまった人"がいます

 

 

 

 

 

 

 

それがきっかけで心の中で葛藤するようになりました。

 

 

 

 

 

 

本当にこうしてアイドルをしていいのだろうか?っと

 

 

 

 

 

一人本を読む彼の姿を思うだけでも、胸が痛い。

 

 

彼の声を思い出すだけで、気持ちが乱れる。

 

 

彼の顔を思い出すだけで、涙が流れる。

 

 

 

 

 

私は彼がいなくなってしまった時から、こうして今を過ごしている。

 

 

 

 

 

「文香さん、文香さん?」

 

「...はい?」

 

「また何か考えてますよね?」

 

ふと気がつくとありすちゃんが私に何度も声をかけていました。

最近、ありすちゃんに気づかれています。

私がこうして一人、何かを思い続けていることを。

でも何を考えているかは、ありすちゃんは知りません。

 

「そうでしょうか....私は何も考えておりませんよ?」

 

「本当ですか?」

 

ありすちゃんは私の言葉に信じきれないまま、言葉を返しました。

私はまた嘘をついてしまった。

これで何回目だろうか。

"彼"を考えてるなんて言えない。

 

「そういえば、先ほどプロデューサーさんが探していましたよ?」

 

「プロデューサーさんが?」

 

「はい...そのお仕事前に何か打ち合わせみたいのをするって言ってました」

 

「打ち合わせですか...?わかりました、プロデューサーさんの元に行ってきます」

 

一体なんだろうかと疑問を抱え、プロデューサーさんの元に向かいました。

別にお仕事の打ち合わせなら、ありすちゃんと一緒に受けるはずなのになぜか私だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで"彼の名”を聞くなんて、私は知らない。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロデューサーSide

 

彼女たちが"ある人物"を聞く前のこと。

私は応接室の椅子に座り、"ある方々"を待ち合わせいた。

今日のスケジュールでは一番初めにこの応接室にてある方々と話すことになっている。

 

気がつけば、"彼女たち"と出会って一年が経っていた。

あの時は時間は長く感じ、今ではあっという間に短い。

私は2代目シンデレラプロジェクトを担当し、

卯月さんたちとは出会う頻度は少なくない。

今日は"CCG"の方が私に用があるようだ。

 

(一体何を話すのだろうか...?)

 

私がCCGの方に声をかけられるのは、"あの事件以来"であった。

担当していたアイドルが喰種に捕食される残酷な事件で、

当時そのアイドルをプロデュースしていた私にCCGの方が事情聴取をした。

今回は決してそのような関連はなく、理由が見つからない。

私に対してはないが、ここ最近都内は喰種に脅かされている。

都内では"アオギリの樹"と呼ばれる喰種集団が活発期的に活動していると耳にした。

これはCCGから我々346プロダクションに伝えられた情報であり、

一般的に公開されていない。

アオギリの樹は11区の作戦以降、都内で大きく勢力を示している。

そのおかげか、今まで社内では無駄だと称してきた喰種対策が、今では重要な政策だと一変している。

それは私も予想にしていなかった出来事だ。

 

「...ん?」

 

すると応接室の扉が開いた。

CCGの方々が来た。

私は椅子から立ち上がり、出迎える。

部屋に訪れたのは二人。

一人目は女性で、二人目は.....

 

「貴重なお時間をいただきありがとうございます」

 

「...」

 

その女性のCCG捜査官の方がお伝えしたのだが、

私はもう一人同じく来たCCG捜査官に思わず声を失い、驚いてしまった。

 

「亜門さん...?」

 

20区で仕事されるはずの亜門さんが私の元にやってきたのだ。

 

 

 

 



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Emerging



知る


無知な私にとって欲しいもの


プロデューサーSide

 

 

未だに動揺が治らない。

私がいる待合室にやって来た二人の喰種捜査官の一人に亜門さんがいたのだ。

 

亜門鋼太朗(あもんこうたろう)

かつて私が346プロダクションに入社したばかりに出会った喰種捜査官の男性。

出会ったきっかけは自分が担当していたアイドルが喰種によって命を奪われてしまった雨の日だ。

あの事件以降もう会うことはないと思っていたのだが..

 

「私は真戸暁。亜門上等の部下として捜査を務めています」

 

「よろしくお願いします」

 

髪を結んだ、しゅっとした女性。

私たちはそれぞれ自己紹介をした後、椅子に座り本題に入った。

 

「それで今回お話をするのは"アイドルの喰種調査"でしょうか?」

 

私は"アイドルの喰種調査"という情報をCCGから耳にしている。

本来は企画はこちらで作り、直接我々が喰種捜査官の元に訪れるのだが、

なぜかCCG側が企画を提案したのだ。

亜門さんは首を少し横に振り、口を開いた。

 

「いえ、事前に情報を頂いたと思いますが、それはあくまで表向きです」

 

「表向き?じゃあ一体何を?」

 

「今回お話することは貴社の上層部、特にアイドル部門で影響をしかねない話です」

 

それを耳にした私は、思わず息を飲んでしまった。

亜門さんがこれから言うのことはただの話ではない。

まるで亜門さんと初めて出会った時の雨の日のように、部屋の空気がずっしりと重く感じたのだ。

 

「そのお話は?」

 

「ええ、私たちは"ある人物"について彼女たちから聞きたいのですが」

 

「ある人物?」

 

「はい、"カネキケン"と言う青年に」

 

「....えっ?」

 

名前を聞いた瞬間、私は呆然してしまった。

 

「どうしましたか?」

 

「あ、いえ....」

 

「......もしかして、知っているのか?」

 

すると真戸さんが口を開いた。

 

「......はい。実は何度かお会いしたことがありまして」

 

「何度か?」

 

「ええ、彼女たちのライブ終わりにお会いすることが多くありました。でも去年の12月の終わりに、彼は行方不明になったと聞きました」

 

「あなたもカネキケンを知ってたとは...」

 

亜門さんは私が金木さんを知っていたことに驚いた。

おそらく予想がつかなかったことに出会ったように。

 

「それで聞くが、カネキケンについて何かわかっていることは?」

 

「彼のことについては全くと言ってもいいほどわかりません」

 

「そうか...だが誤解はしないでくれ。我々はカネキケンと接触していたとされるアイドルと話をするためにあなたの元にやってきた。

 決してあなた方の会社のブランドを傷を入れるわけでもなく、メディアに情報を売る馬鹿げたことではない」

 

確かに亜門さんたちが他の誰かではなく、私に声をかけたのはおそらくは他の誰かよりも信頼をする人物だからだと思われる。

我が社は喰種対策に肯定的だか、もしアイドルが他の男性と何らかのつながりを持っていたとするなら、

各マスコミが食いついてしまいブランドを傷をつけかねない。

あくまで我々の仕事は喰種対策ではなく、アイドルのプロデュースだ。

 

「それで、我々がカネキケンを捜査している理由は....」

 

真戸さんの口から出た本当の真実。

その内容は社内では知らされてはならないものであり、

自分にとって衝撃的なものであった。

亜門さんたちが言うには現段階ではあくまで仮説であると言われるが、

私は"その仮説"が現実になってほしくはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亜門さんたちが346プロダクションに去った後、心の中で思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、彼は初めから喰種なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやそんなことない。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの仮説があるなら彼は初めから喰種ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

 

もし彼が喰種だとなれば...

 

 

 

 

 

 

再び私の担当したアイドルを失ってしまう

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

亜門Side

 

「まさか亜門があのプロデューサーとつながりを持っていたとはな」

 

「今回彼の手を借りてしまうとは考えもしなかった」

 

俺たちは346プロから去って行き、20区支部の戻って行った。

 

「さすがに彼は上には伝えないはずだが...」

 

「もし上が知られてしまえば、"カネキケン"に関する情報が途切れ、今後の捜査に影響が出る」

 

俺たちは彼に我々が捜査していることを伝え、

その関わったていたとされるアイドルに会えるよう許可をした。

彼はシンデレラプロジェクトのプロデューサーとはいえ、以前よりはアイドル部門の中の地位は高い。

それで我々は彼に許可を求め、了承を得た。

我々がカネキケンと言う人物を知った理由は、

CCG内でバイトをし、捜査官補佐になった永近から情報を得たのだ。

永近曰く、カネキケンは島村卯月と交流があり、つい最近まで何度か会っていたらしい。

 

「それでなぜ島村卯月だけではなく、"鷺沢文香"と"一ノ瀬志希"が?」

 

本当なら島村卯月だけでもよいが、なぜか関係ない二人が捜査対象になっていたことに疑問が浮かんだ。

 

「これはあくまで私の勘だが、鷺沢文香はカネキケンと同じ大学に在籍している。

 おそらくは何らかの交流があったのではないかと思われる」

 

「交流?」

 

アキラはかつての上司真戸さんの娘でもあり、親子二人の勘が強い。

俺は長年、真戸さんとパートナーをしていたため、身に染みるほど勘の凄さを味わっている。

永近はカネキケンとは同じ大学だと言っていたが、鷺沢文香と同じ大学とは言ってはなかった。

 

「それと一ノ瀬志希はこの前の音楽番組で"ある意味深い発言"をした」

 

「発言? あの"K・K"か?」

 

K・Kは一ノ瀬志希がアイドルをなったきっかけを作った人物。

しかもそのK・Kは男性だ。

その出来事は色々な番組で取り上げられ、世間を騒がせている。

各メディアではそのK・Kと言う人物について何人か候補を挙げているが、未だにはっきりとした答えはない。

なにせ一ノ瀬志希は何を考えているのかわからない。

真相は彼女の頭の中にしかない。

 

「しかも彼女はカネキケンと同じ20区に住んでいる。もしかしたらカネキケンは彼女と接触したのではないか?」

 

「....確かにありえなくもない」

 

アキラの推理は、納得はいく。

我々が彼女たちから彼について聞き込みをする理由、

それは彼は一体どういう人物かと聞くのもあるが、肝心なのはここ最近の"異変"だ。

10月に起きた鉄骨落下事故でその場にいた少女は死亡し、彼は重傷を負った。

重傷を負った彼はとある医者が死亡した少女の臓器を使い、移植を受けた。

もし彼女たちからカネキケンの情報を得ることができたなら、捜査が進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの口から一体どんなことを耳にすることができるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

未央Side

 

 

「あー疲れたー」

 

そう呟いた私は都内の喫茶店のテーブル席に一人座った。

春の終わり頃とはいえ、夜は少し寒い。

今は夕方頃だから私は、暖かいカフェオレを頼んだ。

今日は仕事が終わり、こうして休んでいる。

外に見える車の渋滞がより夕方の味を出している。

 

(お仕事をするのはいいけど....その代償がね....)

 

初めて立った舞台の成功を納め、世間に名が挙がった。

その代わり友達とは遊ぶことが少なくなり、仕事が増えていった。

夢に近づけたとはいえ、失うものがある。

 

 

 

 

 

まるで"12月20日に聞いた衝撃"のようにね。

 

 

 

 

 

はぁっとため息をつき、ふと横を見ると"とある男性"が横に通った。

 

「あれ?もしかして...ヒデさん?」

 

そう呟くように呼びかけると、その男性は足を止め、私の方に振り向いた。

 

「お、久しぶりじゃん!未央ちゃん!」

 

まさか再びヒデさんと出会えたのだ。

ヒデさんは金髪の髪をした男性で、金木さんの親友だ。

 

「ちょっと隣に座っていいか?」

 

「いいですよ!ちょうど一人でしたし」

 

私が座っているソファーにぽんぽんっと叩くと、ヒデさんはそこに座った。

 

「最近、舞台で結構頑張っているだろ?」

 

「前よりも成長していると実感できて、楽しいですよ」

 

「そーなんだな。結構充実してるじゃん」

 

そういう時ヒデさんは嬉しそうに笑った。

久しぶりに話しているせいかなんだかとても面白いし、

話題が尽きることがない。

でもヒデさんと会話している時、ふとあることに気がついた。

 

「ヒデさん?」

 

「ん?」

 

「前より、髪伸びてませんか?」

 

「髪?ああ、長く切ってなかったな」

 

ヒデさんはそう言うと、自分の前髪を少し触った。

初めであった時よりも帽子から出ている髪が長かった。

 

「そろそろ切りどきかもしれないけど、俺にはやることがあるんだよなぁ」

 

「やること?」

 

「ああ、つい最近CCGでバイトをしてるからさぁ」

 

「あれ?CCGてバイトできましたっけ?」

 

CCGでバイトできるっていうのは初めて聞いた。

 

「なんか11区の作戦以降、人が少なくなってバイトの募集を始めたって」

 

「へー、そうなんですか」

 

「まぁ、さすがに未央ちゃんはバイトをする時間はないよな?」

 

「アイドルと舞台をやってますからね」

 

そう言うと私たちは笑った。

長く会ってなかったけど、ヒデさんも元気そうで何よりだった。

その後少しヒデさんと話し、私はまだ高校生のため先に席から去り、

ヒデさんと別れた。

ヒデさんと会話をして改めて思ったことは、友達や知り合いと毎日会うのはいいかもしれないけど、

たまに会う程度も悪くはない。

そちらの方がより楽しく感じられる。

 

 

 

 

 

 

 

でもヒデさんと話してみて思ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒデさんは前と同じくどこか悲しそうだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ金木さんを探しているんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

それは春の晴れが梅雨の雨に変わる時期でした。

私が"ラブレター”のミュージックビデオの撮影する学校に着いた時でした。

 

「え?お話ですか?」

 

「ああ、CCGの捜査官が卯月に用があるらしい」

 

ラブレターの撮影会場に着き衣装の制服を着替え、髪をセットしている時であった。

プロデューサーさんから突然、撮影前にCCGの方が私とお話をするのでした。

 

「なぜ今ですか?」

 

「それが...先程急に連絡が入ってきて。詳しくはわからないが、喰種の認知度調査らしい」

 

「喰種の認知度調査...?」

 

どうやらプロデューサーさんもよくわからないらしく、突然その知らせが来た。

いつもならきっちりとスケジュールを伝えてくれるプロデューサーさんが、

今回は急に予定が入ったことにどこか困惑していました。

それにしても喰種の認知度調査ってなんだろう?

 

「とりあえず、髪をセットしたら向かってくれ」

 

「わかりました....」

 

明確な理由もないまま私は髪を整えた後、一人CCGの人が待っている部屋に向かいました。

廊下に歩くたびにキュッキュッと音が鳴り響く。

これを聞くのは高校最後の一年だけ。

今回のお仕事の撮影と収録が終われば、私は活動を休止し、受験勉強に入る。

そう思うと、今回のお仕事は決して無駄にしたくない。

 

(確か...あの教室かな?)

 

私は目的の教室の前についた。

CCGの方が待っているのは入り口近くの教室。

おそらくは中に待っている。

私は学校の職員室のように「失礼します」と引き戸のドアを開くと、二人のCCGの捜査官が座ってました。

 

「こ...こんにちは」

 

「撮影の中、時間を頂いてすまない」

 

「あ、い、いえ、大丈夫ですよ」

 

教室にいたのは二人。

一人は男性で、何だか前のシンデレラプロジェクトのプロデューサーに似ていて、驚いてしまった。

 

「島村卯月さんですね?」

 

「はい、そうです」

 

「亜門鋼太朗上等です。よろしくお願いします」

 

「こ、こちらこそよろしくおねがします...」

 

亜門さんを新ためて顔を見ても、やっぱりどこかシンデレラプロジェクトのプロデューサーさんに似ている。

 

「私は真戸暁二等捜査官だ。亜門上等の部下を務めている」

 

「島村卯月です。よろしくお願いします」

 

「その着ている制服は撮影用か?」

 

「はい!さすがに普通に使ったら目立ちますよね..ははは」

 

私は暁さんの言葉に少し恥ずかしそうに笑った。

撮影前に急な連絡を入ったから仕方がない。

私たちはそれぞれ自己紹介をした後、椅子に座った。

 

「それで...先ほどプロデューサーさんが言っていた"喰種の認知度調査"ってなんでしょうか?」

 

「それは嘘だ」

 

「えっ?」

 

「あれはただの偽の情報を伝えていただけで、実際は違う」

 

真戸さんの唐突な言葉に、私は混乱をしてしまう。

 

「アキラ、さすがに急すぎるのでは」

 

「時間はわずかしか与えられてはないだろ?」

 

「そうだが...」

 

亜門さんと真戸さんは小声で何か話していました。

おそらくは真戸さんの行動がまずいのでないかと気が付いたようでした。

 

「あ、あの...一体何を話すのですか?」

 

「ああ、すまない。本題に入ろう、亜門」

 

「...わかった」

 

亜門さんは暁さんの様子に諦めた感じ、本題に入りました。

 

「今回我々が話すことなのだが....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"カネキケン"を知っているか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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his name

久しぶりに彼の名前を耳にした


その同時に疑いたくなる情報を耳にした






卯月Side

 

 

「カネキ...ケン?」

 

私はその名前を聞いた瞬間、記憶が一瞬にして消えたように状況が把握できなかった。

突然、喰種捜査官の暁さんの口から出た金木さんの名前。

なんで知っているのかわからない。

というか何で知っている?

行方不明のはずの金木さんが、警察ではなく喰種捜査官の口から出るなんて。

一体どうしてなの?

 

「あの」

 

「..え?」

 

「大丈夫か?」

 

混乱していたせいか、亜門さんに声に気がつかなかった、私。

かなり動揺をしていたんだ。

 

「あ、す、す、すみません...」

 

「戸惑うようなことを言ってすまない」

 

「だ、だ、大丈夫です....」

 

お仕事では緊張で動揺や硬くなることは少なくなったのだけれど、

今は仕事の時よりも比べものにならないほど動揺が大きかった。

 

「話に戻るが、お前はカネキケンを知っているのだな?」

 

「...知ってます。私は金木さんとは友達です」

 

疑ってしまう。

なんでCCGの人が金木さんを知っているのかと。

喰種を取り締まるのが主な仕事なのに、なぜ金木さんを?

 

「すみませんですが....誰にも言いませんよね?」

 

「安心しろ。我々は変にメディアに情報を売りつけるような馬鹿げたマネはしない。情報の保持は保証をする」

 

私は真戸さんのその言葉にほっとした。

私がアイドルで名が上がったおかげで、前よりも注意深く過ごさなければならない。

特に男性との関係に関してはもっと注意しないといけない。

 

「それで...なぜ金木さんを知っているのですか?」

 

「ああ、言い忘れてすまないな。我々はカネキケンに関する情報を集めている」

 

「関する情報?」

 

「カネキケンは現在行方不明だと知っているな?」

 

「はい...知ってます」

 

「それで何か"異変"を感じなかったか?」

 

「異変....?」

 

""異変"と言う単語に、私は真っ先に頭に浮かんだことがあった。

最後に出会った日が迷うことなく浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、あの出来事は言ってはだめだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....少し体調が優れていないと金木さんは言ってました」

 

「体調が?」

 

「はい...おそらくは、”事故”で」

 

「"鉄骨落下事件"だな」

 

その事故を知ったのは志希さんからだ。

その事故の被害者は名前が伏せられていて、

もし志希さんに言われなかったらわからなかった。

 

「そうです。その事故の影響かもし」

 

「その"事件"なんだが」

 

「ん?」

 

すると突然、真戸さんが私の話を遮るように口を開きました。

 

「その治療を担当した医者がCCGの元解剖医だ」

 

「かいぼう...い?」

 

「簡単に言えば、喰種の体の仕組みを調べる仕事だ。その医者なのだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カネキケンに喰種の臓器を移植した疑いが出ている』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーえっ?」

 

真戸さんの言葉に、私は固まった。

電流が走ったかのように心臓の鼓動が早くなり、頭が回らない。

喰種?

金木さんが喰種の臓器を移植された?

一体どういうこと?

 

「じゃあ...喰種の臓器を移された人間は、どうなるんですか?」

 

「それに関しては我々は答えることができない」

 

「答えることができない...?」

 

「ああ、人間が喰種の臓器を移植されるとどうなるかは我々はわからない」

 

亜門さんと真戸さんはどこか確信を持てない顔をしていたため、

私はそれ以上追求はできなかった。

 

「それで現在カネキケンに二つの可能性がある。一つは初めから喰種か、本当に人間だったか」

 

「初めから喰種..!?」

 

「喰種だった可能性はないとは限らない。喰種は人に紛れて生きている。特に親しくなった人間を捕食する事例は数多くある」

 

「え....」

 

「それでカネキケンが姿を消した理由はあくまで推測だが、その喰種の理由が絡んでいる可能性がある」

 

話が頭に入らない。

衝撃のあまり、頭に入らずに聞き流すように聞いていた、私。

喪失感と言うものを受け取ってしまったようだ。

 

「もし何か手がかりがあったら、俺たちに連絡をくれ。今日話したことはあなたのプロデューサーや友達など、誰にでも言わないように」

 

気がつくを話が終わり、亜門さんと暁さんは私に名刺を渡した。

暁さんと亜門さんの名刺を受けとり、二人は部屋から去って行った。

 

 

 

 

 

しばらく教室に留まっていた、私。

亜門さんと真戸さんの口から出たことに未だに信じきれない。

もし金木さんが初めから喰種だったなら、初めて出会った時はなんだったんだろうか。

あの時に出会ったのは私を食おうとしたの?

 

 

 

 

 

 

 

 

いや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金木さんが私を獲物として狙うなんて考えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に出会った時に流した涙は、嘘だったわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人になるのが怖がっていた姿が、偽っていたとは思えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ヒナミSide

 

 

珈琲の匂いが程よく香るあんていく。

そのあんていくのカウンターに座っていた私。

いつもなら表に出ることのない私だけど、今日は違う。

 

「もうそろそろ来るかな?」

 

「今日は撮影で遅くなるかも」

 

トーカ姉ちゃんがそう言うと、そわそわしている私に少し笑った。

今日は私が会いたい人がやってくる。

早く会いたいせいか、 時計の針がいつもより遅いように感じる。

こんなに会いたいと言う気持ちをさせたのは、"お兄ちゃん"以来久しぶり。

 

「こんにちは、みなさん」

 

カランっとお店の開く音出した瞬間、一人のお姉ちゃんがきたのだ。

その人はトーカお姉ちゃんと同じ年で、長い髪をしたお姉ちゃん。

 

「あ、うづきちゃん!」

 

「こんにちは、ヒナミちゃん」

 

彼女はうづきちゃん。

笑顔が素敵な人で、私たちとは違い"人間"だ。

 

「今日は早いね。もう少し遅く来るかと思った」

 

「いえ、今日はいつもより早く終わりました」

 

うづきちゃんは笑顔でそう言うと、カウンター席に座った。

彼女と出会ったのはつい最近のこと。

私は今まではこっそりと見ていて会おうとはしなかったけど、

今は普通にお話ができるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちが"喰種"だと言う事実を隠しながらね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナミちゃん!」

 

「んー?」

 

「今日いいもの持ってきたよ」

 

「いいもの?」

 

うづきちゃんがそう言うとふふっと笑い、カバンの中からあるものを出した。

 

「じゃーん!お花の本だよ!」

 

「本!本だ!!」

 

「ヒナミちゃんは本を読むのが好きとトーカさんから聞いたから、持ってきたんだ」

 

私はうづきちゃんの持ってきたものに嬉しさが溢れるばかり、大きく喜んだ。

新しい本を読めるワクワク感は好き。

知らないことを知れる喜びを味わえるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"お兄ちゃん"が本を読む面白さを教えてくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卯月ってそんな本持ってたの?」

 

「いえ、実は凛ちゃんからもらいました」

 

「凛?あいつそんな本を持ってたのか?」

 

「はい!凛ちゃんのお家はお花さんをやってますので、小さい時によく読んだそうです」

 

「そうなんだ、意外」

 

「あんまり本を読むことはないのですけど、凛ちゃんからこのお花の本をもらって試しに読んでたら、あっという間に時間が過ぎたんですよ」

 

そう言うとうづきちゃんは笑った。

私はそんなうづきちゃんの横に座れるだけでも嬉しい。

 

「あ、そうそう。この本にはね、花言葉があるんだよね」

 

「花言葉?」

 

「花言葉はそれぞれのお花に意味があって、例えばアネモネと言うお花は."期待"と"希望"と言う意味があるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

うづきちゃんが帰った後、私は一人でクローバーの花言葉を調べてみたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしたら、明るい言葉ばかりの花じゃないことに気づく。

 

 

 

 

 

クローバーの花言葉

 

 

 

 

 

希望、愛情、信仰

 

 

 

 

 

そして最後にあった言葉。

 

 

 

 

それは"復讐"。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

亜門Side

 

 

雲が厚く広がる朝。

俺とアキラは346プロダクションに訪れ、待合室にて鷺沢文香を座って待っていた。

今回も島村卯月の時と同じく、急に予定を入れる形で会うことになった。

これは決してあちらを迷惑かけようとするためではなく、事前に察することなくやるためだ。

 

「そういえば、亜門」

 

「なんだ?」

 

「この前の卯月のことなのだが.....彼女とまた話す必要がある」

 

「それはなぜだ?」

 

「私の勘だが、"何か"隠している」

 

「何か?」

 

「ああ、どこか不自然さを感じたからな」

 

さらに聞こうとしたその時、扉がゆっくりと開く音がした。

 

「え..?あ、あれ?プロデューサーさんは?」

 

入ってきたのは今回聞き込みをする鷺沢文香。

本来この時間は仕事の現場に向かうはずだったか、

その前に我々の聞き込みをする。

 

「部屋は間違ってはない。座ってくれ」

 

「は、はい....」

 

アキラがそう言うと、彼女は戸惑った様子で椅子に座った。

 

「戸惑うことをさせてすまない。今我々が話すことはあなたのプロデューサーには伝えれないことだ」

 

「えっと..どう言ったことでしょうか?」

 

予想がつかなかったことに出会ったせいか、彼女は動揺した様子で俺たちに声をかけた。

ちなみに彼女と話すのは基本アキラだ。

同性だと話しやすいのではないかと、俺は少し黙っている。

 

「私たちはカネキケンを探している」

 

「えっ」

 

鷺沢文香は小さく呟くように言うと、目を大きく開き、口を閉ざした。

 

「....」

 

そして彼女は視線を下に向け、手をだんだんと握った。

 

「どうしまーーーーっ!」

 

俺は彼女を伺おうとをしたその時、口を止めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はしゃくり始め、涙を流したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

とても悲しそうに、儚く泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ゆれる



前に踏み出せない



そうさせているのはもう一人の自分


無力で過去を背ける自分だ








文香Side

 

 

「す、すみません....」

 

震える声で二人に謝る、私。

突然"彼"の名を耳にし、心が乱れた。

前を見上げるだけでも辛く、下を向ける。

胸の中に溢れる悲しみと後悔。

 

「いえ、突然名前を出してすまない」

 

「.....はい。少し時間をください」

 

今の私は動揺したせいで、うまく話せない。

少し時間を経ち、再び顔を上げ話を聞く。

 

「そのカネキケンだが、一体どう言った人物だ?」

 

「彼は....」

 

彼の名前を口から言おうとした、私。

その時、口を閉ざしてしまう。

 

「彼は?」

 

「彼は....彼は...」

 

震えてしまう。

 

言えない。

 

その先を言えない。

 

何度も言おうとするが、彼の名前が言えない。

 

震えだけではなく焦り、不安、恐怖に似た怖さが私を抑制する。

 

まるで誰かが私の口を閉ざすように。

 

「...大丈夫か?」

 

私の行動に心配したのか暁さんが声をかける。

 

「すみません....私は彼のことを思い出すだけで...彼が行方不明になって以降...」

 

「すまないな、辛いことを聞いて」

 

暁さんはそう言うと、どこか悲しそうな顔をしました。

その顔は私に遠慮をしている顔立ちではなく、

私と"同じ出来事"を受けたような感じでした。

 

「それで、”彼”とは知り合っていたんだな?」

 

そう言われると私はこくりっと小さく頷きました。

 

「大学内で知り合った?」

 

「...はい」

 

「行方不明という知らせは大学内で知ったか?」

 

「...はい」

 

はいしか言えない。

あまりにも弱々しくなっている、私。

このままではいけないと私は勇気を振り絞る様に、彼らに質問をした。

 

「あの...なぜ"彼"を知っているのですか?」

 

「それなのだが...辛くなることだが話してはいいか?」

 

「.......」

 

辛くなるお話を耳にして、口と再び閉ざしてしまった。

知りたいと言う気持ちよりも、知りたくないと言う感情と恐怖が強くなってしまった。

 

「すみません....それでしたら...またの機会でお願いします」

 

「そうか....」

 

今の私は耐えきれない。

彼のことを聞くだけでも辛い。

喰種捜査官の方々に迷惑をかけてしまった。

その後二人の名刺を頂き、私の元から立ち去った喰種捜査官。

一人部屋から取り残された、私。

 

 

 

 

 

逃げてしまった。

 

 

 

 

 

真実を背けるそうに逃げたんだ

 

 

 

 

 

今更ながら気が付いたこと

 

 

 

 

それは彼の名前が自分の口から言えない

 

 

 

 

 

まるで言ってはならない言葉のように

 

 

 

 

 

 

忘れたくないのに、忘れさせようとしている自分がいる

 

 

 

 

 

 

彼を考えてようとしたら苦しむ

 

 

 

 

 

その苦しみを消すために"彼"の存在を忘れさせる

 

 

 

 

 

私は、もう一人の自分と戦う様にしているみたい

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ヒナミSide

 

 

雲から雨が降る夕暮れ。

 

傘をさし、ぴしゃりっと聞こえる濡れた道路。

 

漂う雨の香り。

 

そんな中、私は一人あるところに向かっていたんだ。

いつもなら外に出ることない私が今外にいるのだけど。

今はあんていくから離れ、6区にいる。

私は決めたんだ。

"お兄ちゃん"の元に行くってね。

それをトーカお姉ちゃんに伝えたのだけれど、

うづきちゃんには一切言わずに勝手に離れてしまった。

 

 

 

 

 

だけど、うづきちゃんにはそうするしかない。

 

 

 

 

 

今いなくなってしまった人に会うなんて言えない。

 

 

 

 

 

 

そう思うと一軒の家についた。

私はドアの横のインターホンに押す。

しばらくすると、閉じていたドアが動き出す。

ガチャっとドアが開くと、ある人が出迎えてくれた。

 

「お兄ちゃん!!」

 

姿を見た私はすぐ様、何も躊躇なく抱きついた。

そこに出迎えてくれた人は、

 

「ヒナミちゃん...?」

 

とても白くて、寂しそうにしていた人。

 

 

 

 

 

 

金木研(カネキケン)

 

 

 

 

 

 

トーカお姉ちゃん、あんていくのみんな、そしてうづきちゃんが会いたがっている人。

 

 

 

 

 

 

私は、お兄ちゃんの元にたどり着いたんだ。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

朝。

ジメジメと湿気が漂う雨の季節。

建物から聞こえる雨の音。

アタシはめずらしくどこにも失踪はせず、部屋の中にあるソファーにじっとしていた。

いつもならここに止まることが嫌いなアタシが、今回は変に静か。

今日はCCGから何か大事なことがあるらしい。

プロデューサーに聞いてみたけど、明確な理由がわからないらしく、どうも何か臭う。

それは普通に鼻に嗅げるような匂いではなく、様々な匂いが混ざり合った複雑な匂い。

感情と言う名前の匂いが重なり合っている。

 

「っ!」

 

するとガチャっとドアノブが動く音が耳に入った。

二人の人物が部屋から入って来た。

 

「突然、時間を頂いてすまない」

 

「うんいいよー♪ちょうどヒマだったし♪」

 

あたしはそう言うと笑顔で迎えた。

入ってきたのは346プロの人ではなく外部の人。

喰種捜査官だ。

346プロと連携しているけれど、なぜ彼らがアイドルに会うことになっているのか不思議だ。

一人は亜門と言う背の高い男性。

二人目は暁というあたしと同じ身長の女性。

二人がソファーに座ると、あたしはさっそく口を開く。

 

「喰種捜査官があたしに用があるなんてめずらしいね。もしかして、薬品の関係?」

 

「そんなことを聞くと思うのか? 我々が今話すことをわかっているはずだ」

 

あたしに冷たく接する暁。

どうやらあたしの不自然な対応に暁と言う人は真っ先に気づいたらしい。

さすがプロ。

 

「ふーん。じゃあ、あたしが知っていることは何かな?」

 

「この前のK・Kと言うイニシャル、"カネキケン"だろ」

 

 

 

 

 

 

暁が言った言葉。

 

 

 

 

 

 

 

わたしは思わず、にやりっと右の口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、動いた。

 

 

 

 

 

止まっていたあたしが望んでいたことが動き出したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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proust

キミと一緒にいたほのかに香る匂いのような懐かしの記憶



みんなは口には出さず、まるで忘れられたかみたいに日々を過ごしてしまったんだ




だけどあたしは呼び起こすんだ



キミをね















亜門Side

 

張り詰めた空気が漂う部屋。

今回我々が事情聴取をする人物は一ノ瀬志希だが、

アキラは前回の島村卯月と鷺沢文香よりも冷たく接していたのだ。

 

「アキラ..さすがにその態度は」

 

「気遣いありがとう。でもあたし的には必要ないかな」

 

すると一ノ瀬志希は俺に手を上げ、止めた。

 

「それでどうしてあたしが言った"K・Kさん"が金木研だと言えるの?」

 

「これは私の勘だが、カネキケンとお前は同じ20区に住んでいる。そこで何らかの交流があったはずだ」

 

「わお、さすが科学的に証明が難しい勘だね」

 

一ノ瀬志希はアキラの答えに何も隠すことなく、俺はまたもや驚いた。

やはり今回もアキラの勘は当たっていた。

 

「こりゃ、隠しても仕方ないかな。それでしつこいメディアさんに売りつけるバカな真似はしない?」

 

「そんな真似はしない。情報の保持は保証はする」

 

「あと敬語で言うのめんどくさいから、いつも通りにタメでいい?」

 

「それは構わない。その代わり我々が欲しい情報を言ってくれればいい」

 

アキラがそう言うと一ノ瀬志希は「そうこなくちゃね」とにゃははっと笑った。

 

「では改めて、あたしが金木研と交流があったのは、嘘ではなく本当だよ」

 

「それでお前はなぜ番組であの意味深い回答をしたんだ?」

 

「簡単だよ。キミたちCCGのような鋭い人に気が付いて欲しかったから。ただ話題に上がって欲しかったんじゃないよ。みんなネットで候補を上げていたのだけど、ぜんぜん違うし、ある人はK・Kは俺だと言うバカを見かけたけど」

 

彼女の話を耳にして我々が声をかけて正解だったのかもしれない。

彼女はアイドルと言うことで世間に知られてため、そう簡単に名前を出せば大問題だ。

だから回りくどく、簡単に悟られないイニシャルを言ったのだと思われる。

 

「今キミたちが探している金木研はなんだけど、あたしはカネケンさんと呼んでたよ。今こうして言うのも、懐かしく感じちゃうほど言う機会がなくなったね」

 

そう言うとにゃははっと笑った。

だが“その笑い方はいつも世間で見る姿とは”どこか違う。

 

「そのカネキケンは一体どんな人物だ?」

 

「あたしとは正反対で文系の人間だね。まるで"文香ちゃん"のように本を読むのが好きな一つ上の男性ね」

 

「一つ上ならどうやって知り合った?少なくとも同じ大学ではありえないな」

 

「うん、後をついて行った。別の言い方だったらストーカーかな?」

 

さすがに一ノ瀬志希と言えるほど普通じゃない行動だ。

よく失踪するといい、発想も思想も普通でない。

彼女の口から出た"文香"と聞くと前回出会ったことを思い出す。

そう考えていたときだった。

 

「もしかして、他の子に話をしているでしょ?」

 

「ああ、そうだが?」

 

アキラは何も動揺もすることなく答える。

 

「誰?少なくとも文香ちゃんはあるでしょ」

 

俺は思わず彼女の洞察力に驚いてしまった。

 

「彼女とは話したのだが、詳しくは話さなかった」

 

「文香ちゃんはダメだよ。だってカネケンさんがいなくなって一番悲しく感じた一人だもん。そう簡単に口を開くことはできないはず」

 

「なぜそう言える?」

 

「だって二人ともは結構仲よかったよ。別々に話を聞いてたよ。でも文香ちゃんがスカウトされてアイドルになって以降、関係がね...」

 

そう言うと長い髪をくるくるっと指で巻く。

 

「その後アイドルになってから会う時間もなくなって...そして今、行方不明となってしまったね」

 

「そうか...その行方不明になったとされるきっかけに何か心当たりはあるか?」

 

「なんだろうね、でも流石に文香ちゃんが悪いなんてないよ」

 

「悪い?」

 

「あたし的には少なくとも自殺はないね。だってカネケンさんは"いっぱい友達"いたんだもん。死んで得することはないよ」

 

「いっぱい?どのぐらいだ?」

 

「少なくともあたしと文香ちゃん、卯月ちゃんを含めて6人だね。みんな346プロのアイドルだよ」

 

「っ!?」

 

一ノ瀬志希の言葉に目を疑ってしまった。

想定して数より多く、その6人は346のアイドルだ。

しかも彼女の口から以前話した島村卯月の名が出ていた。

俺は「なぜ卯月を」と聞こうとした瞬間、

 

「卯月ちゃんと話したんだよね?」

 

まさに俺たちが言う前に知っているような感じがある。

もしかしたら島村卯月が一ノ瀬志希に伝えたのではないかと頭に浮かんだが、

 

「あー勘違いしないでね。卯月ちゃんはあたしに一切伝えてないよ。卯月ちゃんはいい子だから」

 

それを耳にした俺は少しほっとした。

あまり多くの人に広めてしまうと、影響が出てしまい、

捜査に支障が出てしまう。

 

「カネケンさんと交流のあったみんなはどこか寂しがっていると思うよ」

 

いつもメディアで映る一ノ瀬志希ではない。

面に映る彼女はポジティブで暗い一面を見せることないが、

今は悲しそうに、儚い顔を見せている。

 

「あ!そういえば、あるものを渡したいんだよね♪」

 

「あるもの?」

 

一ノ瀬志希はそう言うとポケットに手を入れ、何かを取り出した。

 

「これなんだけど」

 

渡してきたのは、ブリスターパックされた錠剤。

 

「これがなんだ?」

 

「これ、カネケンさんが事故の後に飲んでいたお薬。"嘉納"と言う医者からもらっていたらしい」

 

「嘉納から.....?」

 

彼女の口から出た“嘉納”と言う人物。

今我々が探しているカネキケンを臓器移植させた医者。

過去の経歴ではCCGに所属した記録があり、現在行方をくらましている。

今我々が捜査対象の人物である。

 

「”免疫抑制剤”というものらしいけど、どうも違うんだよね」

 

「違う?」

 

「うん、明らかに人が飲むのがおかしい薬だよ」

 

「おかしい?じゃあなんなんだ?」

 

「これ、“喰種”が飲むのに適している薬だよ」

 

「っ!?」

 

彼女が言った瞬間、俺たちに衝撃が走った。

 

「それはどこで入手した?」

「カネケンさんが入院している時にゲットしたよ。ちょうどその時食事をしていて、おそらく食後に飲むために置いてあったね」

 

普通喰種は人間の肉以外口にすることはできないとされている。

 

「安心して、あたしは喰種じゃないから。決して試しに口にしてみる真似はしてないよ」

 

そう言うとポケットから飴玉を取り出し、自分の舌に置いた。

おそらく喰種なら拷問に等しい行為であろう。

 

「なぜこの薬が喰種に飲むに適してると言える?」

 

「あたし結構薬品を扱いになれているから、不思議な薬だなーと思って取っちゃったんだよね。そして成分を調べてみたらね、なんか人間のヘモグロビンが出てきたんだよね」

 

「つまり"血"か」

 

喰種は人しか口にはできない。

仮に人間が食べるものを口にすれば嘔吐する。

だとすればその薬は人間が飲むようではない。

 

「カネケンさんが巻き込まれてしまった"あの事件"って勝手に臓器移植したんでしょ?もしその臓器が喰種の臓器だったら、まるで人に近いチンパンジーの臓器を移植するものでしょ?」

 

「.....」

 

その言葉は島村卯月も同じく言っていた。

だが今の我々には簡単に答えることができない。

確実な情報を掴んでいないため、口にすることができない。

 

「もしカネケンさんが喰種の臓器を本当に移植されてたら、あの嘉納と言う医者を恨むよ。ヤブ医者以上のクソ野郎。でもあたしはカネケンさんを初めから"喰種"だなんて考えてはないよ」

 

一ノ瀬志希は軽そうな口ではなく、言葉に力が入っていた。

 

「それはなぜだ?」

 

「カネケンさんは事件に会う前は普通に食べてたんだけど、事件の巻き込まれた後、食べているものがコーヒーと水ぐらいしか口にしてないんだよね」

 

一ノ瀬志希の情報で、我々が最初上がっていた彼を初めから喰種だと言う仮説が撃ち砕かれる。

そう考えると彼は喰種の臓器を移植されてしまったと考えが結びつける。

 

「.....私はカネケンさんにもう一度会いたいんだよね」

 

「っ?」

 

一ノ瀬志希は誰かに伝えるように言ったのではなく、一人呟くように言った。

 

「カネケンさんは、こんなあたしを普通に接してくれた大切な人。今までギフテッドと言うことでみんなはあたしを普通には接してくれなかった。だけどカネケンさんは違った。カネケンさんはあたしを特別扱いはしなくて、普通にしてくれた。だからあたしは消えてしまったカネケンさんを見つけたいんだ」

 

確かにアイドルになる以前は飛び級でアメリカの大学にいた経歴を持っている。

だが大学にいることにつまらなくなり日本に帰国し、今に至る。

 

「あたしからは以上だね。いい情報をもらったでしょう」

 

「ああ、参考になる情報を得てよかった。ちなみに今回の話はプロデューサーに伝えるなよ」

 

「わかってるよ。でも卯月ちゃんと文香ちゃんはいい?」

 

「それはあまり詳しく言わないでくれ」

 

「うんっ、わかった。キミたちとお話できてよかったよ。ちょうど心に穴が空いていたしね」

 

そう言うと、どこか寂しそうに笑う彼女。

テレビとステージと言う表に見せることのない本当の顔。

 

 

 

俺は今回の捜査に改めて重さを知った。

 

 

 

 

 

その重要さに

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

ぽつぽつと雨が降る昼。

傘に当たる雨の音。

ピシャリっと濡れた地面。

雨の日は家にいるにが適切だと言う人はいるけど、

私は外にいるのがいいと感じる。

 

(なんだかあっという間だな...)

 

今日は学校終わり、あんていくに向かっていました。

いつもならそのまま事務所に向かうのですが、今回は違う。

今日から私はアイドル活動を休止をしたのだ。

その理由は大学受験。

私は勉強に集中をしたいということでお仕事を休み、本格的に受験勉強に入る。

そう想っていると、あんていくの前にたどり着きました。

私はそのドアを押しました。

 

「こんにちは」

 

カランっと響くドアの音。

 

「いらっしゃい」

 

「いらっしゃい、うづき」

 

出迎えてくれたのは店長さんとトーカさん。

しかし私はふとある人がいないことに気がつく。

 

「あれ...?ヒナミちゃんは?」

 

いつもならカウンターに待ってくれているのに、今日は姿がなかった。

 

「ヒナミは...親の元に帰ったんだ」

 

「親の元?」

 

「うん、今までうちで預かっていたから、もうここにはいないよ」

 

そう耳にした私は「そうなんですか...」とテンションが下がってしまった。

ひとつ、楽しみが失ってしまった。

 

「大丈夫だよ。ヒナミちゃんはうづきちゃんのことは気に入っていたからね」

 

「そうなんですか、とても嬉しいです」

 

店長さんの言葉に私の胸の中にあった寂しさが、

嬉しさに変わった。

こっそりと見ていたヒナミちゃんが、時間が経つにつれて私のことを好きになってくれて嬉しい。

 

「それで卯月、今日もコーヒーなの?」

 

「え、きょ、今日はコーヒーじゃなくて、カプチーノでお願いします」

 

「おや?いつも卯月ちゃんはコーヒーを飲むのかい?」

 

「店長。卯月はいつも無理してブラックを飲んでるんですよ」

 

「そうなんだ。あまり無理しないでね」

 

ヒナミちゃんがいなくなっても、楽しいです。

ヒナミちゃんはもしかしたら今、お父さんとお母さんの元で楽しくしているはず。

 

 

 

 

 

 

外から見る雨はどこか綺麗で、かすかに悲しい。

 

 

 

雨ってどうして悲しいイメージが定着してしまうだろう?

 

 

 

私はそう思い、苦いコーヒーではなくカプチーノを口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

雨が降る東京。

 

 

 

 

夜に降る雨。

 

 

 

 

梅雨真っ盛りの季節

 

 

 

 

 

雨で打ち付けられるビルの上

 

 

 

 

 

僕はそこに立っていた

 

 

 

 

 

 

 

あれからどのぐらいたったのだろうか

 

 

 

 

 

人と言う世界を離れていった、僕

 

 

 

 

 

 

 

僕は人の肉を口にすることなく、喰種の赫子や肉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

腐った肉のような味をした喰種の肉で僕の体内を作り出す。

 

 

 

 

 

 

 

だけどそうしないと強くなれない。

 

 

 

 

 

 

強くなければ、僕はみんなを守れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

 

 

 

 

雨に打たれる僕は立ち止まった。

 

 

 

 

 

 

 

僕の目に映ったのは"彼女"だ。

 

 

 

 

 

 

 

広告で輝く彼女、島村卯月だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その広告はラブレターと言う新曲を宣伝する広告で、彼女が活動休止前最後の仕事だと言われる。

 

 

 

 

 

 

 

島村卯月

 

 

 

 

 

 

 

彼女は笑顔がステキな女の子で、こんな僕に優しく接してた

 

 

 

 

 

 

 

だけど“今の僕”には相応しくはない。

 

 

 

 

 

 

会ってはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな“バケモノ”と化した僕が彼女と会うだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう胸に呟いた僕は、街の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

誰にも気づかれないように

 

 

 

 

 

 

 



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光芒








モヤモヤしていた暗闇を消していく。



それを私の心も同じくやってほしい。







ヒナミSide

 

 

「どうかな...?」

 

「本のまんま!すごい!」

 

お兄ちゃんが住んでいる6区にある家。

外は真っ暗に暗い中、私は明るいリビングの中でお兄ちゃんに髪を切ってもらった。

少し長かった私の髪は、本に写っているモデルさんのように髪が短くなった。

髪を切るのは得意ではないとお兄ちゃんは言っていたけど、

写真に写っている人と同じ髪型になって嬉しかった。

先ほどまでお兄ちゃんは外に出ていたけど、

どういう内容はわからない。

 

「あ!お兄ちゃん!テレビに卯月ちゃんが出ているよ!」

 

するとテレビにある人が写り、私はとても喜んだ。

それはテレビに“うづきちゃん”の姿が写っていたのだ。

前に言っていた新しい曲"ラブレター”のCMだ。

 

 

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「...そうだね」

 

「え?」

 

お兄ちゃんの反応は私とは真反対だった。

まるで暖かかったものが、一瞬にして冷めてしまったように。

 

「あ、ああ、ごめんね。そうだ、今度ヒナミちゃんが行きたかった図書館に行こうか」

 

場の空気が悪くなったことを察したのか、お兄ちゃんは少し慌てた様子になり、私にそう伝えた。

確かに私は以前から図書館に行きたいとお兄ちゃんに伝えていたけれど、それよりも気になることが生まれた。

うづきちゃんが一番会いたがっている人が、輝いている姿に嬉しくなさそうにしていた。

見ていた時のお兄ちゃんの目はとても悲しく、何か抱えているように見えた。

 

 

 

 

 

どうしてなんだろう?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

ジメジメと雨が降り続ける今週。

そんな中でも私は事務所に訪れていく。

今日はレッスンだけで、仕事はない。

レッスンルーム前の長椅子に座り、髪を少し手をつける。

梅雨の湿気で髪は少し乱れてしまい苛立つけど、

でも天気予報だと来週には晴れの日が続くらしい。

それを耳にした私は、"あとちょっとで耐えよ"と胸の中で呟いた。

 

(卯月はしばらく受験勉強に励むんだね)

 

そういえば先週卯月が一時休止をして、しばらく経った。

卯月は去年とは違い受験生だ。

流石にアイドルと勉強を両立するのは難しい。

今度未央を連れて、卯月の元にサプライズをする形で行こうと考えている。

 

「凛さん?」

 

ふと気がつくと誰かが私に声をかけてきた。

その声は私と同じ女性の声。

振り返るとある人が立っていた。

 

「あ、文香」

 

私と同じロングヘアーの女性、文香だ。

以前は同じユニットとして交流はあったのだけど、

今は別々になってしまい、こうして出会うのは久しぶりだ。

文香は私の隣に座ったけれど...

 

「「.......」」

 

まるで去年のプロジェクトクローネの時と同じように静かな空気が漂う。

何を話してはいいのかわからない。

私と文香は金木とは知り合っている共通点はあるけど、中々話す機会や会う機会がないせいか口が開かない。

 

「ひ、久しぶりに話すよね...私たち」

 

「はい...あの時のライブ以来、会うことありませんでしたよね」

 

「そりゃ、仕事が増えて会う機会が減っちゃったから仕方ないかな」

 

「そうですよ...」

 

「ははは.....」

 

会話が途切れてしまう。

次の話題が浮かび上がらない。

 

(とりあえず...何か最近あった出来事でも聞こうかな)

 

次にあげる話題を仕事やプライベートのことをあげることにする。

 

「そういえば、文香」

 

「..はい?」

 

「最近何かあったかな?私だったら仕事だったり、卯月が休止したとかあるよ」

 

「.....最近ですか?」

 

文香はそう言うと人差し指を口元に当て、考え始めた。

 

「そうですね...実は以前、CCGの人からのお話が...」

 

「え?CCGから?」

 

それを耳にした瞬間、思わず疑ってしまった。

CCGは確か喰種を駆除するところだけど、なぜ文香の元に訪れたのか?

 

「なんでCCGが文香を?」

 

「.........」

 

文香は全く話そうとはしない。

口は開かずの扉のように固く閉ざしていた。

すると文香は自分の腕時計を見て、

 

「あ、すみません...このあとお仕事がありますので...」

 

「あ、うん...またね」

 

そう言うと文香はこの場から立ち去ってしまった。

どこかパッとしない終わり方だった。

 

(一体何を聞かれたのだろう...?)

 

CCGが文香に話をする理由が見つからない。

文香が言わなかったせいか、ムズムズして仕方ない。

まるでお父さんが前に言ったお客さんのように、答えが見つからない話ようだ。

もやもやした私は気晴らしに窓に視線を向け、雨が降り続く外を見渡す。

しばらく見ていると厚い雲の隙間から陽の光が現れ始め、徐々に雨が止んでいく。

雨で暗かった東京は、徐々に陽の光を染まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

でも私の胸の中は、外の天気のようには表してはくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Scheme


あいつ


いつのまにか名前で言わなくなってしまった、自分


再び名前で言う機会が、まさか現れるだなんて









卯月Side

 

 

梅雨に雨が終わり、

私は学校の友達に連れられ、図書館で受験勉強をしていました。

入試までの時間がだんだんと短くなり、まさに自分は本当に受験生だと自覚する。

外は夏の日差しに全く涼しさがない熱風がある中、今いる図書館はエアコンが効いて過ごしやすいです。

でも冷え性なのか少し上着が欲しいほど寒いです。 

 

「卯月ちゃんは今苦手な教科はある?」

 

「現代文が苦手なんだよね...」

 

古典は言葉の意味を知ればわかるのだけど、

現代文は中々苦手が克服ができない。

特に"説明しなさい"という問題に関しては一番苦戦をしてしまう。

私が好きな教科といえば音楽なのだけど、

受験科目には当然入っているわけがない。

とりあえず私は分厚い受験対策の問題集を解いていると、

 

「そういえば卯月ちゃん?」

 

「ん?」

 

「卯月ちゃんって好きな人いる?」

 

「え?」

 

突然友達がその質問をし、答えを書いていたシャーペンが止まってしまった。

 

「す、好きな人?」

 

「ほら、この前にリリースしたラブレターがあるじゃん。ラブレターといえば好きな人に渡すものじゃん」

 

「確かにそうだけど...」

 

確かにラブレターは告白する時に渡すものだけど、

それで好きなタイプはいるかと聞かれても簡単には答えれない。

好きな人と言っても....

 

「やっほー!しまむー!」

 

思い悩んでいた私に久しぶりに聞き慣れた声が耳に入った。

 

「え?嘘っ!?」

 

勉強を共にしていた友達が動揺し始めた。

一体誰が来たのか振り向くと、

 

「えっ!?凛ちゃん、未央ちゃん!?」

 

後ろに現れたのは、凛ちゃんと未央ちゃんがいました。

 

「久しぶりだね、卯月」

 

「お、お、お久しぶりです!!皆さん!」

 

突然現れたせいか私は思わず驚いてしまい、硬くなってしまった。

 

「ちょっと、アタシたちのことも忘れないでね」

 

凛ちゃんの後ろから加蓮ちゃんと奈緒ちゃんの姿が現れました。

 

「しまむー、どう?受験勉強は?」

 

「ええ、頑張ってますよ。ちょっと苦戦しているところもありますが...」

 

アイドル活動を休止にしたとはいえ、苦手な科目が大きく伸びることはありません。

挫折したくなる気持ちは最初はありましたが、アイドル活動のことを考えてみればまだこれからだとポジティブな気持ちになれます。

 

「卯月ちゃん」

 

「ん?」

 

すると学校の友達が私の肩をポンポンと叩き、声をかけました。

 

「席外したらいいんじゃない?少し息抜きしてきなよ」

 

「そうだね。じゃあちょっとお話ししてくるよ」

 

さすがにこの場にいると注目の的になってしまうので、学校の友達の元から離れました。

勉強は大切ですが、そればかりだと集中が切れ、疲れてしまいます。

なので私は一度勉強をやめ、目立たない場所に向かいました。そこは階段近くのベンチです。

 

「図書館内でもみんな結構私たちを見ていたね」

 

「さすがに前のように自由に行動はできるわけないよ」

 

以前とは違い、私たちは世間に多く知られています。

そうなれば日常生活に支障がくるのは避けられない。

しかも5人揃えばさらに目立ってしまう。

 

「あたしちょっと自販機に行くよ。喉が乾いてしょうがないからさー」

 

「私の分もお願いね、奈緒」

 

「アタシもお願い」

 

「えーまじかよ!」

 

でも奈緒ちゃんは嫌々に言うけど、凛ちゃんと加蓮ちゃんの分も買うと言い、そのまま行きました。

 

「そういえば、今度しきにゃんが来るんだって」

 

「志希さんですか?」

 

「なんか久しぶりにしまむーに会いたいからって」

 

確かに未央ちゃんの言う通り、ここ最近志希さんに会ってない。

私は文系に専攻していますので、理系の志希さんは手伝えるところは少ないと思います。

だけどお話しができるなら来て欲しいです、

 

「さっきしまむーが苦戦しているって言ったけど、それって何かな?」

 

「それは現代文です....回答が間違っている時が多くて、中々点数が上がらないんですよ」

 

「んー現代文かー。あっ!現代文だったら、ふーみんがいるよ!」

 

「文香さんのことですか?」

 

「そう!だって文学部だからね。もしかしたら手伝ってくれるんじゃないかな?」

 

文香さんは金木さんと同じ大学に通い、同じ学部にいます。

文香さんはあれからどうしているんだろう。

たまに寂しそうな顔をする姿が浮かんでしまう。

誰よりも金木さんをがいなくなったことに悲しんでいました。

 

 

 

 

 

そういえば、さっき友達から言われたことがいつまでたっても消えないんだ。

 

 

 

 

 

 

それに以前話したCCGの人から言われた話も頭の片隅に残っていた。

 

 

 

 

 

どうも彼が頭から離れられない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「7月に入って早速こんな暑さかよ...」

 

着ていた服をパタパタと仰ぎならが歩いていた、神谷奈緒。

彼女の長く癖のある髪がくるくると回っていた梅雨が終わると、蒸し暑さが漂う7月の夏が始まった。

先程は卯月たちの元にいたのだが、夏の暑さに喉の渇きを覚え、ここにやってきたのだ。

そして自分のポケットから財布を取り出し、硬貨を取ろうとしたその時、

 

「こんにちは」

 

「?」

 

すると誰かが挨拶をしてきた。

それは明らかに他の人に声をではなく、奈緒の方に声をかけていた。

いったい誰だろうかと奈緒は振り返ると、

 

「...え?」

 

振り返ると、思わず驚いてしまった。

その人はただの見知らぬ人ではなく、どこかで見たことのある人だ。

 

「君は奈緒ちゃんだよね?」

 

「え、ま、まぁそうだけど...」

 

あまりにも驚いてしまい、返しがぎこちない。

急に人から声をかけられて驚いたこともあるが、

奈緒はその人をどこか一度会った記憶がかすかにあった。

その男性の特徴は左目に眼帯を付けていて、髪は真っ白な髪だ。

一見見知らぬ人のだと思うかもしれないが、話し声は一度耳にしたことのある声だ。

 

「これを卯月ちゃんに渡してくれる?」

 

その男性は小さな紙袋を奈緒に渡す。

その紙袋を少し触るとキーホルダーのような形が手に伝わる。

 

「これを卯月に...あれ?」

 

奈緒が顔を上げた時、その人はすでにいなくなった。

足音を立てず、いったいどこに行ったのかわからないぐらいすぐに消えたのだ。

 

(....まさか)

 

ある人物が浮かび上がる。

前に会った時と比べて大きく容姿は変わっているものの、

雰囲気と声が同じく共通している人物が"一人"上がった。

奈緒はすぐにその場から立ち去り、卯月たちの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

凛から聞いた今行方不明のはずの彼が目の前に現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

卯月と出会えた、私。

仕事で事務所内で会うことが少なく、しかも休止という発表を受け、さらに会う機会を失った。

でも今は未央が機会を作ってくれ、久しぶりに会えて嬉しい。

そんな時、卯月はあることを話し始めた。

 

「私、不思議な体験をしたんですよ?」

 

「不思議な体験?」

 

「はい、私が誕生日の時に自分の部屋に凛ちゃんの家のお花が置いてあったんですよ」

 

「お花?もしかして卯月のお母さんが」

 

「いや、違うんですよ」

 

「えっ?」

 

「誰が買ったのか今でもわからないんですよ。ママもパパもそのお花を見て、何も隠さずに驚いたんです。私の部屋は二階にありまして、誰も上に上がってはないのに、ぽんっと置いてあったんです」

 

「それでその花は?」

 

「初めて凛ちゃんに出会った時に買ったお花"アネモネ"なんですよ」

 

「アネモネ....」

 

アネモネは私たちにとって思い出深い花だ。

その花を買い時、初めて卯月と出会った。

それは卯月と同じく“あいつ”も買った。

でもその卯月の話は別だけど、私も同じ"不思議なこと"に出会っていた。

 

「まさかだけど...」

 

私が考えた推測を言おうとしたその時だった。

 

「卯月っ!」

 

奈緒が突然大声で卯月の名前を呼んだ。

急いで来たのか、息が切れていた。

さっき自販機でジュースを頼んだはずが、

なぜか小さな紙袋を持っていたのだ。

 

「どうしたの?奈緒」

 

「さっきこれを卯月に渡してくれって」

 

「何?もしかしてファンからもらったの?」

 

「違うんだよ!ただのファンなんかじゃない!」

 

「え?ただファンじゃない?」

 

「左目に眼帯をしている白髪の男が現れたんだ!その人の声は凛が、前に紹介した喫茶店で働いていた眼帯の人と全く同じなんだよ!!」

 

「っ!」

 

奈緒の言葉に私は動揺してしまった。

嘘だ。

まさかあいつが奈緒の前に現れた?

ありえない。

だってあいつは今“行方不明”だ。

 

「...ねき」

 

一人ある名前を呟くように言う、私。

間違いない。

そいつは私の家に訪れたお客さんだ。

 

「どこで会った?」

 

「さっき自販機の前で...」

 

「.......っ」

 

私はすぐに椅子から立ち上がり、走って行く。

 

「待って凛!」

 

加蓮は走って行く私を呼びかけが、

わたしには聞こえなかった。

すぐさま図書館から出て、奈緒が行った自販機の元に行く。あいつが離れる前に。

 

(....どこ?)

 

だけど着いた時には誰もいなかった。

奈緒が言った通り、白髪の眼帯の男性はどこにもいない。

 

(まだ遠くには行っていないはず...)

 

私は再び走り出す。

図書館の周りを探し出す。

広場、公園、手洗い、道路沿い。

私は隈なく探した。

 

 

 

 

 

 

だけど、その人を見つけることができなかった。

 

 

 

 

 

 

(....どこなの?)

 

どこを見渡しても見つからない。

それらしき人が私の前に現れることはなかった。

私は探し回ったせいか息が切れて、肌に現れた汗が地面に落ちていた。

 

「どうしたのしぶりん?急に探し回って?」

 

ふと後ろを振り向くと未央が私の後について来た。

 

「....あいつだよ」

 

「あいつ?」

 

「.....やっぱり生きているんだよ、未央」

 

「まさか....」

 

「“金木”だよ。あいつは死んでなんかいない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり“あいつ”はどこかにいるんだ。

 

 

 

この街に。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

建物の屋上にいた、僕。

 

 

 

夕日の日差しで生まれた影からある人物の姿を見ていた。

 

 

 

 

 

渋谷凛と本田未央

 

 

 

 

久しぶりに目にした、かつての僕の友だち

 

 

 

最初に出会った時よりも成長していて、とても輝いていた。

 

 

 

 

 

 

今の僕は彼女たちの前に現れてはならない。

 

 

 

 

そっと影の中に潜むように、僕は静かに姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

僕はこの後、ある重要なことをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕を化け物にさせた嘉納の元に行くのだ。

 

 

 

 



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わたし



それぞれの思い



離れてしまった人を思い続ける







卯月Side

 

月が輝く夜。

外は昼間の暑さが残っているせいか、夜でも蒸し暑い。

それで部屋の窓を閉め、エアコンをつけ、

そろそろ寝ようとしていた、私。

ベットの上のいて、寝る準備はばっちりでした。

だけど私はあるものをずっと眺めていました。

それは合格祈願と書かれた小さなキーホルダー。

私が受験生だからこれをもらった。

でも私は何より気になっていたのは、そのキーホルダーではありません。

 

(金木さん....なのかな)

 

それは渡した人です。

直接は会っていないけど、渡された奈緒ちゃんはその人は金木さんではないかと言っているのだ。

奈緒ちゃんが言った言葉が今でも頭に焼き付けられるほど、明確に覚えている。

髪は白かったと聞いたのだけど、金木さんは黒髪だ。

真っ黒だった髪が白くなるなんて、髪を染めるぐらいしか考えられない。

 

(.......)

 

でも奈緒ちゃんと出会った人が"他の人"とはなぜか考えられない。

このキーホルダーを渡してきたのは白髪の人だと言われても、頭の片隅には金木さんではないかと考えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

ふと浮かび上がる金木さんとの思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

特に一番大きいのは、最後に出会った日。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように振る舞えるような空気でもなく、

いつものようにはできないことに挑戦ができて、

いつもでは味わえない空気

そしていつもとは違う胸に秘めていた想い

 

 

 

 

 

 

 

 

冬の冷たい空気に、キラキラときらめくイルミネーションが記憶の中に明確に覚えていて、

 

 

 

 

 

 

 

そんな状況の中、金木さんは泣いていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の金木さんはたくさんの悩みを抱えていて、それが溢れる形で泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はどうすればいいのか考えた。

 

 

 

 

 

 

 

楽しく遊園地で過ごしていたはずなのに、金木さんはまるで物語の終わりに恐れを抱くように震えて、怯えていたんだ。

 

 

 

 

 

 

考えついた末に私が示したことは、金木さんの手を握ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

一人にしないようにと、ぎゅっと握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時私は金木さんに約束をしたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『金木研さん。私は何があっても忘れません』と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも金木さんは私の前から姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

どうして姿を消してしまったのか今でもわからない。

 

 

 

 

 

金木さんがいなくなり、日々過ごしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

凛ちゃんや未央ちゃんもいつしか金木さんの話題を上げることがなくなり、"二度目の死"を表そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時、CCGの暁さんと亜門さんが私の元に来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

それはただ私に会いに来たのではなく、金木さんのことを私に聞きに来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

もちろんそれは金木さんが見つかったと言う報告ではなかったけど、喰種にされた疑いが上がっていた。

 

 

 

 

 

そのことに私は混乱してしまい、頭が回らなかった。

 

 

 

 

 

 

まさか金木さんに関することをこんな形で久しぶり聞くだなんてねって。

 

 

 

 

 

 

亜門さんと暁さんと話した後、しばらく心に引っかかて落ち着かなかった。

 

 

 

 

 

 

それは数時間ではなく、数十日ぐらい続いた。

 

 

 

 

 

 

 

その影響かラブレターの撮影で、何度も取り直しがあった。

 

 

 

 

 

 

美穂ちゃんや響子ちゃんに迷惑をかけてしまった。

 

 

 

 

 

二人からどうしたの?と心配をされたけど、金木さんのことを話すわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

その人で気になっているだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな状況だったけれど、無事にラブレターの撮影が終わり、お仕事が終わった。

 

 

 

 

 

 

その後アイドルを休止し、受験勉強を励んでいた私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時に突然、私にやって来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

金木さんと思われる人が奈緒ちゃんの元にやって来て、私にキーホルダーを渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか金木さんと思われる人からキーホルダーを受け取るだなんて考えもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

(....なんだろう)

 

 

 

 

 

 

 

切ない。

 

 

 

 

 

 

心が満たされない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、どこか"恋しい"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は空いた穴を埋めるため、大きなぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢にしていたアイドルになっていても、全てを得られていたわけがなかった。

 

 

 

 

 

それは普通の女の子の時でも同じく得られていないもの

 

 

 

 

一人では得ることができず、誰かがいないと結ぶことができない。

 

 

 

 

かと言って相手は誰でもいいとは言えない。

 

 

 

 

 

こうして日々過ごしているうちに、ふと思い出すかのように考えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし金木さんに再び会えるとしたら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Side

 

 

(何か嘉納と関係するものはあるのか...)

 

夏の夜。

日が昇っていた時とは違い、涼しい風が吹く夜。

僕たちは嘉納が所有する屋敷についた。

そこは嘉納とつながりのある喰種マダムAが彼と立ち会った屋敷だ。

街からだいぶ離れた丘に立っている建物で、誰もいる気配が感じない。

屋敷の入り口は鍵かけらてはおらず、僕たちはそのまま屋敷の中へと入った。

その後各自で屋敷内を捜索し始めた。

おそらくはこの中に何か嘉納に関する手がかりがあるはずだ。

僕はマダムが嘉納と話し合った居間に入った。

そこは生活感もなく、家具には埃がかぶっていた。

居間を見渡してみると、僕は本棚に目をつけた。

その本棚にある本を取ろうとしたその時、

 

「.......」

 

本を取ろうとした腕がピタリと止まったしまった。

何かが僕の動きを阻むように現れた。

 

(.....)

 

直接は会えなかった"彼女"を思い出す。

彼女は大学に進学するために夢であったアイドルを休止し、勉強に取り組んでいる。

笑顔が素晴らしくて、純粋で優しい彼女。

確か僕と違って国語が苦手と言っていたことがあった。

あの頃が懐かしく思う。

 

 

 

 

 

特に彼女と最後に過ごした日々が頭に浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

泣いていた僕の手を握ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

彼女の手は暖かく、心に不安を抱えていた僕を和らげてくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

一人だった僕を寄り添ってくれた、彼女。

 

 

 

 

 

 

 

今はどうしているのかな。

 

 

 

 

 

(.....)

 

 

 

 

 

でも今は忘れるべきだ。

 

 

 

 

 

 

情が僕を妨害させる。

 

 

 

 

 

みんなを守らないと、殺されてしまう。

 

 

 

 

 

情があったら僕は強くなれない。

 

 

 

 

 

 

 

だから、今彼女のことを考えてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の彼女は"目の前に消えた僕"を忘れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せっかく約束してくれたのに、僕は破ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと僕のことなんてーーーーーー

 

 

 

 

 

「カネキ!!」

 

ふと我に帰ると万丈さんが何か見つけ、僕を呼んだ。

取り付いていた想いを忘れるように僕は万丈さんの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その下は一見ただの地下室に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はマダムAにさらに情報を聞き出すために赫子を壁に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

その時、嘉納の研究施設の入口を発見した。

 

 

 

 

 

 

僕たちはその先を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その先に僕を喰種に変えた医者"嘉納"がいるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

 

 

 

眠れない

 

 

 

 

 

目を閉じても、リラックスをしても、息をゆっくり吸っても、

 

 

 

 

 

私は眠ることができない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ真っ暗な天井を見ているだけの私。

 

 

 

 

 

 

 

 

チクタクと時計の針が動く音。

 

 

 

 

 

 

 

扇風機の回る音。

 

 

 

 

 

 

 

明日は大事な撮影ですが、その緊張よりもはるかに大きいものが私を眠らせない。

 

 

 

 

 

 

以前まではだんだんと落ち着いていたのだが、

 

 

 

 

 

 

 

CCGの人からお話を聞いて以来、私は"彼"のことを思い出してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

"彼"

 

 

 

 

私と同じ大学に通う一つ下の男性。

 

 

 

 

 

 

"彼"は私と同じく本を読むのが好きな方で、人と接することが少なかった私にとって大切な人でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし私が346プロダクションでアイドルになった時、"彼"と接する機会を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

事務所に入って多くの人と知り合えましたが、それと同時に"彼"と会う回数は減っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初ライブ前の出来事、私は"彼"に告白をしてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今でもなぜやってしまったのかと後悔してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その結果は振られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

理由は私がアイドルだと"彼"は寂しそうな顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

それ以降、お互いは大学内でも話すことなく過ごしてしまい、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついには"彼”は本当にいなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

今思えば後悔の連続。

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ私はアイドルをしてしまったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

今の私は、ただアイドルの仕事をしているに過ぎない。

 

 

 

 

 

 

(.....)

 

 

 

 

 

 

 

私は立ち上がり、押入れの奥からあるものを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは私が以前触れたが、それ以上読むのを拒ませた本。

 

 

 

 

 

 

高槻作品の一つ、"拝啓カフカ"

 

 

 

 

 

作者"高槻泉"の処女作だ。

 

 

 

 

 

私がこれを読むのは苦手だが、

 

 

 

 

 

 

 

“彼”にとっては好きな小説。

 

 

 

 

 

 

 

私がこの本を再び取るなんて、前の私が見たら驚くに違いない。

 

 

 

 

 

私がこの本を手にした理由、

 

 

 

 

 

 

 

 

少しでも"彼"に近づければいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はその本のページをめくり、読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の胸に溜まり続けていた後悔を消すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Fissure

気づく、自分



見えなかったものが露わと出てくる






カネキSide

 

 

 

勝てない。

みんなを守ろうと誰よりも強くなろうとした僕。

しかしコクリアから脱走をした喰種(シャチ)が、挫折を僕の胸に刻み込んだ。

それ以降様々な格闘書を読み、練習を積み重ね、そして今(シャチ)の前に再びたった。

前回はかわすことができなかった(シャチ)の攻撃を全てクリアし、与えることができなかった攻撃を奴の体に刻み込んだ。

すべてが順調に言ったと確信した、僕。

 

 

 

 

 

 

 

だが僕は、再び敗北を味わうんだ。

 

 

 

 

 

 

散々攻撃を食らったはずの(シャチ)は全くダメージを受けてはなかったかのように、

何不自由もなく動き、ずっとかわしていった(シャチ)の攻撃を受けた。

その衝撃で壁に叩き込まれ、壁が壊れ、そして別の部屋へと写っていった。

そこは他の場所とは違い、壁には人が入れるカプセルのようなものがあった。

攻撃を受けた僕が立ち上がったその時、僕が追っていた"嘉納"が姿を表した。

嘉納を捕らえようとまっすぐと行ったら、またしても(シャチ)の強い一撃を受けてしまった。

せっかく嘉納の前にたどり着けたのだが、

またしても前と同じく"敗北"をしてしまった。

今までの積み重ねが水の泡とかしてしまった。

嘉納が(シャチ)に捕まれ、逃げようとした瞬間、

大量の実験体が放たれ、僕に襲いかかる。

その実験体はかつては人であったが、半喰種の実験に使われ、理性は失っている。

 

『ママ おなかすいた』

 

『うあぼ』

 

理性を失ったことで幼稚語しか話せず、僕を獲物しか捉えていない。

もし僕が喰種になるのを失敗したら、彼らのようになってしまたかもしれない。

僕は彼らを倒すのは困難だ。

(シャチ)から受けたダメージが体が思うように動かない。

 

 

 

 

 

 

僕は彼らの肉を喰う。

 

 

 

 

 

 

 

 

負った体を回復させないと

 

 

 

 

 

食い続けないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食い続けないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喰い続けないと

 

 

 

 

 

 

 

喰イ続ケナイト

 

 

 

 

 

 

 

 

死んデハいケナイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クるうゥ

 

 

 

 

 

 

 

 

アたマがァオかシィくぅナぁテイィく

 

 

 

 

 

 

 

 

大量ノ肉を喰らイ続ケていッた、僕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時、誰かが現れた。

耳から聞こえる音では、3人ほどのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁいいや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の邪魔をするやつはみんな

 

 

 

 

 

摘まなきゃ

 

 

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

亜門Side

 

 

 

 

 

俺は嘉納の施設と思われる場所で、再び"ヤツ"と出会ったんだ。

 

 

 

 

 

そいつは雨が降り始めた夜の20区に出会った喰種"眼帯の喰種"だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その喰種はあの時に戦えなかった俺を殺さなかったんだ。

人を糧にする喰種が見逃すなど通常はありえない。

だが俺は"2回"味わっている。

 

『...鋼太朗。"家族ごっこ"もこれで(しま)いだな』

 

思い出す小児喰らいの喰種"ドナート・ポルポラが真実を知った幼い俺に言った言葉。

実の親を失った俺を育ててくれた。

初めは父の代わりだと捉えていた。

だが日々が一変する時が訪れてしまった。

共に暮らしていた施設の孤児を喰らう場面に出会ってしまったのだ。

それを見た俺は彼が喰種だとわかってしまった。

しかし捕食する場面を見られてしまったにも関わらず、俺を殺さなかった。

あれ以降、俺は胸の中に葛藤を抱えることになった。

 

 

なぜ喰種であるにも関わらずに人間である俺を殺さなかったのかと

 

 

『"ただの喰種"でいいんだなッ!!??』

 

 

眼帯の喰種に問いただすように強く言った言葉。

眼帯の喰種は始め見た時より姿が違う。

ムカデのような姿で、まさにバケモノと言ってもおかしくないほど人の形が止まっていなかった。

人である俺を見逃した姿ではなく、

人を喰らう喰種と何も変わりがなかった。

あれほど自分の欲を抑え涙を流していた姿とは程遠いものだった。

 

『もう....食べたくない....』

 

眼帯の喰種は俺の言葉に我に帰ったのか、

涙を流し、巨大に伸びていた赫子が小さくなっていた。

そのあと俺はヤツを吹き飛ばし、ヤツは逃げていった。

このまま追撃すれば良いかもしれないがが、眼帯の喰種に攻撃を受けてしまった篠原さんを最優先に助けなければならない。

篠原さんは俺にとってアカデミー時代の教官であり、そして現在同じく20区に担当している。

幸いにも使用していた鎧型の赫子を捕食されただけであり、傷は深くはなかった。

その後我々が施設内を捜索していると、あるものを発見した。

嘉納が実験したと思われる被験者が詳しく書かれた書類が見つかった。

その中に以前彼女たちに聞いた"カネキケン"の名があった。

彼は人から喰種に変わったではないかと言う仮説が徐々に露わとしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼をどう裁けばいいのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

実験の被験者として裁くのか、それとも喰種として裁くのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼女らにどう伝えればいいのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カネキSide

 

 

大切なものを守るために戦っていた僕は、

その大切なものをを摘もうとしてしまった。

大量の喰種の肉を喰い続けてしまい、僕は暴走をしてしまった。

それが原因で共にしていた仲間の体を手で貫き、殺そうとしてしまった。

幸いにも誰も殺さずに済んだが、僕はあることが頭に過ぎった。

それは僕が初めて捜査官と戦った20区のこと。

喰種捜査官と戦い、瀕死になっていた僕。

僕は戦いっていた捜査官を殺さずに見逃した。

だが肉を求める体が悲鳴をあげ、自らを制御ができなかった。

そんな時、僕の携帯が鳴りだした。

僕は這いつくばるように動き、携帯手に取り、画面を見た。

その着信をしてくれたのはかつての友達"卯月ちゃん"だった。

でも僕は必死に電話に出ないよう体を抑えるように動かなかった。

その時の僕は彼女を人ではなく、肉として捉えてなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は改めて考えないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が守るべきものとはーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー 

 

卯月Side

 

 

ふと目を開いた私。

それはゆっくりではなく、パッと開いた。

ぐっすりと眠れた気がしない。

それは私は怖い夢を見てしまったから。

その夢ははっきりと頭に残っていた。

私が見た夢は誰もいない暗闇に、一人取り残されていたんだ。

光もなく、音もない。

まさに”無”と言っていいほど何もない世界。

なんだか“12月の時の私”みたいだ。

 

(..ベッドから起きないと)

 

私はどんよりとした気分を晴らすためベッドから立ち上がり、外の光を断っていたカーテンを開いた。

夜とは違い、空は眩しいほど明るい。

暗い色が消え去っていて、夏の朝日が昇っていた。

そして鳥の鳴く声や蝉の声など夜明けとともに始まった。

 

(あれは”夢”だよね....?)

 

私が見たのはあくまで夢。

現実では起こるはずのない。

きっと”怖い夢"は、起きるわけない。

私は胸の中にそう呟いたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー 

 

文香Side

 

東の空から昇る日。

カーテンの隙間から出る日差しで目が覚めた、私。

目覚めた直後、私はあることに気がついた。

どうやら私は本を読んでいる内に寝てしまったようだ。

いつもの私なら本を読んでいるあまり寝ることを忘れ、朝を向かえてしまう。

だが今回読んだ本は違う。

たった数十ページ程度を目を通しただけで、気がついたら眠ってしまった。

おそらくつまらないから寝てしまったと思うかもしれません。

でも考えてみれば、この本を読んだおかげで眠りにつけた。

苦手だった小説が私に眠らせるだなんて、不思議。

 

 

 

 

 

“彼"で眠れなかった私が、彼が好きだった本で眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか皮肉だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏入





彼女たちと離れた初めての夏。



毎年は何も気にすることなく過ごしたのだけど、



今年は違う。






凛Side

 

(夏休みか...)

 

夏休みに入って最初の日。

学校の友達は海に行くだったり、テーマパークなど普通の日常では行けない遠くに足を運んでいる。

だけど私は逆だ。

早速お仕事が入っているため、遊んでられない。

今日もお仕事はあり、事務所に訪れている。

まだ仕事前だから学校から出されて課題を睨めっこする感じに見ている。

もちろん数学や国語とかあるのだけど、その中でめんどくさく感じるのはオープンキャンパスの報告書だ。

高校二年生だからなのか、夏休みの課題の中に最低でも3つの大学のオープンキャンパスを行かなければならない。

 

(マジでどこのオープンキャンパスに行こう?)

 

私は数学が得意だから、文系ではなく理系に選択した。

それで理系の大学選ぼうとしているけど、中々決まらない。

アイドルになる前の将来の夢は獣医だったけど、今の夢はトップアイドルだ。

夢は変わったけれど担任からは理系の大学に覗いたほうがいいのでは?と言われた。

 

「こんにちは凛さん」

 

「あ、文香」

 

すると文香が私に声をかけた。

あまりにも課題に見ていたせいか、いることに気づかなかった。

 

「今日はお仕事ですか?」

 

「うん。夏休み初日に入って早速あってね」

 

「そうなんですか...無理をなさらないように」

 

「ありがとう文香。仕事は大丈夫だよ。ところで文香はどう?」

 

「私は撮影でここに来ました」

 

「撮影?新曲の?」

 

「ええ、"生存本能ヴァルキュリア"ですね。最初はダンスレッスンで苦戦をしたものですが...以前と比べると体力はつきました」

 

「それはよかったね」

 

会う回数が増えたのか前よりも会話が続く。

初めは会話がすぐに途切れ、沈黙が続くものだった。

そんな時、文香は私が見ていたオープンキャンパスの課題に気が付いた。

 

「その紙は...?」

 

「ああ、これね。オープンキャンパスに行かないといけないやつだよ。今ちょうど行くところが決まらなくて」

 

「オープンキャンパスですか?」

 

「そう、こんな暑い時に行くのは少し辛いよ」

 

「確かに今年の夏は暑いですよね....あ、もしよかったら、私の大学に行ってみますか?」

 

「文香の?」

 

「ええ、上井大学です」

 

文香の口から出た上井大学。

確か"あいつ"が通っていた大学。

そういえば上井大学は理系の学部はいいと言う情報を耳にしたことがある。

 

「ちょうどオープンキャンパスですし、私が案内しましょうか?」

 

「文香が案内?時間はあるの?」

 

「ええ、もし凛さんが行くならば時間を作りますよ」

 

気のせいかもしれないけど、どこか文香は明るかった。

今までは暗い空気を抱えていて明るさとは無縁と言っても良かったけど、

だけど今は前のように暗くはなかった。

何かきっかけがあったのだろう?

 

「なら、行こうかな。上井大学のオープンキャンパスに」

 

私は"あいつ"がかつて過ごしていた大学に足を運ぶことにした。

でもさすがに文香に"あいつ”のことを聞く真似はしない。

誰よりも"あいつ”がいなくなったことに悲しんでいたこもあり、

そして今の明るくしている時を壊したくなかった。

文香は前よりも暗さがなく、輝いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び失った悲しみを起こしたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

未央Side

 

 

「いやぁ、暑いね〜みんな」

 

「今日は一番暑いとテレビでやってたよね」

 

「こんな日は運動が一番っ!!」

 

夏の太陽がギラつく東京。

今私はあかねちんとあーちゃんと街で歩いている。

今日は休みが取れて、一緒に

暑い夏がやってきてしまった。

どうやら今年も記録的な猛暑だと言われるらしい。

毎年記録的な猛暑だと聞くのだけど、もしかするとこれがいわゆる地球温暖化というものだろう。

 

「あかねちん、今日はだいぶ暑いよ?」

 

「そういう時こそ、やるです!!」

 

「それで熱中ーー」

 

 

 

 

 

 

その瞬間

 

 

 

 

 

「...?」

 

一人の男性が私の横に通り過ぎた後、私は口を閉ざしてしまい、

立ち止まってしまった。

 

「あれ?どうしたの未央ちゃん?」

 

「...え?あ、い、いやなんでもないよ」

 

「もしかして、熱中症?」

 

「いや、さすがにそれはないよ?熱中症だったら、もしかしたら倒れてるよ」

 

「そうだよね。ちょっと心配したよ」

 

私たちは再び足を動かし、歩き始めた。

普通なら横にお通りすぎた人を気にすることはないけど、

先ほど私の横に通りすぎた人は何か普通の人とは違う。 

具体的になんなのかと言われると、やはり空気だ。

どこか懐かしい空気を肌に感じたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

一体誰だろう?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

美嘉Side

 

 

「わぁ〜!!やっと図書館に行けたね!!」

 

「そうだね。みりあちゃん」

 

夏の快晴の空。

やっとみりあちゃんがこの前に約束していた図書館に行くことができた。

それはもちろん夏休みの宿題の手伝い。

なんとか休みを合わせることができたため、やっとの思いで一緒に過ごすことができた。

ちなみに今日はみりあちゃんだけではなく、莉嘉も連れて来ている。

 

「お姉ちゃん、宿題を手伝って!」

 

「本当にわからないところだったら手伝うよ?流石に全部やってもらうのはダメだからね?」

 

莉嘉は「はいー」と答えたのだが、結局最後はアタシが全部手伝うことになる。

莉嘉はいつも宿題を最終日で溜め込むだからね。

 

(私は莉嘉とみりあちゃんに宿題を手伝うぐらいしかないかな?)

 

普段あんまり本を読むことなく、図書館に足を運ぶ機会がない。

ただ小説を目を通してもだんだんと睡魔がアタシを襲ってくる。

 

「とりあえず二人とも、あんまり迷惑をかけちゃダメだからね」

 

 

「「はーい!!」」

 

 

二人がそういうと、アタシたちは図書館の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこでみりあちゃんと莉嘉が"ある子”と出会うだなんて、アタシは知らない。

 

 

 

 

 

 

 



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人とは違う私




私はある女の子たちと出会うんだ。



二人は私が何者かを知らずに話しかけてくれたんだ






カネキSide

 

嘉納を逃してしまった、僕。

しばらく外に出ることなく、ベッドで横になっていた。

守るはずだった仲間を傷を与えてしまい、僕は家に篭っていた。

部屋にあった数ある本を目を通していたが、罪悪感があるせいか物語が頭に入らず、ただ本に書かれた字を見ていただけだった。

そんな状況だった僕だけど、ある一冊の本だけが楽しく読めた。

それは高槻作品の一つ”吊るしビトのマクガフィン”だ。

その本を読んでいたら、気がつけば頭の中にすんなりと物語が入っていた。

本を読んでいたら、ヒナミちゃんが僕の部屋にやって来た。

ヒナミちゃんが高槻泉のサイン会に行く提案を上げ、久しぶりに僕は外に出た。

いろんなことを抱え込んでこんで重くなっていた僕の心は、外に出たおかけか少し軽くなった気がした。

その後高槻泉のサイン会に行った後、ヒナミちゃんが久しぶりに図書館に行きたいと言ったため、

今僕たちは図書館に入って行った。

 

「図書館に着いたね!お兄ちゃん!」

 

「......」

 

「お兄ちゃん?」

 

「..あっ、そ、そうだね、ヒナミちゃん」

 

「?」

 

僕は物思いにふけてしまい、ヒナミちゃんに少し違和感を与えてしまった。

僕が物思いにふけてしまった理由は、つい先ほど僕の”かつての友人”とすれ違ったのだ。

その友人の名前は”本田未央”。

彼女は現在高校二年生で、アイドルと舞台女優をやっている。

未央ちゃんは僕とは正反対に明るくて社交的だが、僕と同じく小心者と言う一面があり共通点はあった。

以前はショートカットだったけど、今では少し髪が伸びて、前よりも大人っぽくなった。

彼女は僕とは違う、ますますと輝き続けるだろう。

 

「図書館に来るのって久しぶりだね」

 

「うんっ!だいぶ時間が空いちゃったけど、ここに来れてよかったよ!」

 

最近ヒナミちゃんは外に出ることがなかったから、とても嬉しそうにはしゃいでいた。

 

「あんまり離れないでね」

 

「はーい!!」

 

ヒナミちゃんはそういうと、僕の元から離れて行った。

以前よりは成長をしたから、”前のような出来事”に遭遇しないはず…

 

(...さてと)

 

僕は本棚にある一冊の本を手にし、椅子に座り読み始めた。

しばらく落ち着くことない日が続いていたため、自分の部屋にない本を読んで落ち着くもそうだけど、

僕の頭にある”嫌なこと”から背けたかった。

しばらく血の気のある日々を過ごしていたから、こうして静かに本を読むのは久しぶりに味わう。

 

 

 

 

僕はゆっくりと本の世界へと入って行った。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

みりあSide

 

暑くジメジメとした外とは違い、クーラーが完備されて涼しい図書館。

夏休みの宿題を終わらすために、私たちは図書館にやってきた。

宿題を終わらために来たと言うけど、私はまず宿題に取り組まずに探検することにした。

宿題というものはどこか憂鬱に感じ、やらされていると感じ出させる。

学びは良いことなのに、なんで宿題と言う響きは良くないんだろう?

それで私は図書館の中を歩くことにした。

 

(どんな本があるのかな?)

 

図書館に機会はなく、今の私にとって図書館は未知の世界だ。

たくさんの知識が詰まった本があり、昔の人が書き残した本や今も生きている偉い人が書いた本、そしてどこかの頭のいい人が書いた本など私が知らない世界が広がっている。

私はアイドルという世界に入ったけれどまだ知らないことばかり。

そう考えてみると知らないことを知ることは嬉しいことだ。

 

(....?)

 

そんないろんな本を眺めていた、私。

私はぴたりと足を止め、あるものに目を止めた。

それは本ではなく、ある女の子にに目を向けていた。

 

(誰だろう...?)

 

その子は一人絵本を読んでいた。

小学生にしては少し年上で、莉嘉ちゃんと同じかもしれない。

 

(話掛けてみよう!)

 

私は心にそう呟き、その絵本を読んでいる子に声を掛けた。

 

「ねぇ!!何してるの?」

 

「っ!!」

 

するとその子は急に声をかけられたことにびっくりした。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ヒナミSide

 

 

急に話しかけられた、私。

私は怖がっていた。

私に声を掛けてきたのは、私より年下の女の子。

目を丸くし、私を見ている。

まるで前のようだ。

再び同じ状況が起きるだなんて考えもしなかった。

それは私があんていくにいた時、トーカお姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒に図書館に行ったんだ。

その後私は絵本を読んでいると男の子が横に座り、『字が読めないのか?』と言われてしまった。

私は喰種だから学校にはいけない。

行ったら自分が喰種だとばれてしまうかもしれない。

だから私はこうして本を読んで勉強をしている。

 

「........」

 

怖い。

一体どんなことを聞かれるのか。

今ちょうどお兄ちゃんがいなくて、私だけ。

今更だけど一人でいたことに後悔している。

 

「どうして絵本を読んでいるの?」

 

「…えっと」

 

「.....」

 

その女の子は私の答えを待っている。

私はどう答えればいいのかわからない。

もしかしたら以前出会った男のように字が読めないのかと言われるかもしれない。

ここで正直に言ったらまずい。

どう答えようと考えていると、

 

「面白いよね!!絵本を読むの!!」

 

「...え?」

 

するとその子は

 

「私まだ小学校6年生だけど、絵本を読むの好きだよ!!」

 

「そ、そうなんだ...」

 

その子は私が絵本を読むのをおかしいと思わず、はきはきとしていた

 

「私は読むの好きだけど、クラスのみんなは絵本を読む嫌がっているんだよね。別におもしろいのにな〜」

 

「...おもしろい?」

 

「うん!!だって絵があって、出てくるキャラクターもかわいいもん!!」

 

「...そうなんだね」

 

ふと気がつけば少しづつ緊張が和らいでいた。

強張っていた体も、いつの間にか力を入れてはなかった。

するとその子はあるものに気が付いた。

 

「その本ってなに?」

 

「その本?」

 

その子が指をさしたのは、私が持っていた本。

 

「"()るしビトのマクガフィン"...」

 

「つるしビトのマクガフィ…?」

 

「吊るしビトのマクガフィンだよ..」

 

その子は私が持っている本の名前を言えてなかった。

難しい言葉だから私も最初見たときは何の言葉なのかわからず、言えなかった。

 

「マクガフィンってなに?」

 

「マクガフィン?」

 

その子は目を丸くし、言葉の意味を知りたがっていた。

 

「マクガフィンは..この本に出てくる小道具の名前で...えっと、大泥棒が狙うお宝だったり、スパイが狙う秘密の書類とか」

 

「そうなんだ!!すごいね!!」

 

私は「そうかな…」と少し照れた。

今日お兄ちゃんにそのマクガフィンの意味を聞いたから答えることができた。

マクガフィンの意味を聞いてよかった。

 

「その本は面白いの?」

 

「….まだ読んでない」

 

「そうなんだ!!読んでいい?」

 

「いいけど...?」

 

その子はパラパラとページをめくる。

そもそも私は本に書かれた漢字や意味を調べるほうが多いため、あまり物語に目を通すことはない。

少し時間が経つとなんだか険しそうな顔をし始め、私に顔を向けた。

 

「難しい漢字ばかりだね!」

 

「そうかな?」

 

そう言うと私は本に目を通す。

お兄ちゃんの言う通りでこの本を書く作者さんは独特な表現を使い、難しい言葉ばかり使う。

でも私は本を読み始めた時よりは言葉の意味や漢字がわかるようになった。

私は吊るしビトのマクガフィンに書かれている感じや言葉をその子に教えた。

私がある程度わかるものを選んで説明したのだけど、勉強不足なのかわかる感じや言葉が少ない。

私はあまり答えられなかったけど.....でもその子は、

 

「すごーい!!!この難しい漢字が読めるんだ!!私はできないよ!!」

 

「そうかな....勉強すればできるよ...」

 

その子の目はとっても輝いていた。

多くは説明できなかったにも関わらず、私を褒めるようにハキハキしていたのだ。

でもその子をよく見たら、なんだか私みたい。

私はわからない漢字をいつもお兄ちゃんから教えてもらっている。

もしかしたら、お兄ちゃんに教えてもらっている私はこの子のようになっているかもしれない。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

みりあSide

 

 

私はすごい子と出会ったんだ。

その子は私が知らない言葉や漢字を言えるのだ。

些細なことかもしれないけど、私は知らないことを知るこの子は本当にすごいと心から感じられる。

私はだんだんとその子に興味が湧き上がった。

 

「そういえば!!名前はなんて言うの?」

 

「..名前?」

 

「うん!!みりあ、知りたいな!!」

 

その子は私の言葉に少し困った様子だったけど、口を開いてくれた。

 

「私は..."ヒナミ"」

 

「"ヒナミちゃん"?いい名前だね!!ヒナミちゃんは何歳なの?」

 

「じゅ、14歳...」

 

「莉嘉ちゃんと同じだ!!」

 

「りかちゃん?」

 

「そう!ちょうど今、図書館にいるんだ!あ!莉嘉ちゃん!!」

 

「ん?なに?」

 

私はちょうど歩いていた莉嘉ちゃんを呼んで、ヒナミちゃんを紹介した。

 

「この子はヒナミちゃんだよ!!」

 

「ヒナミちゃん?」

 

「そう!ここで出会った子でいろんな難しい言葉や漢字がわかるんだ!!」

 

「そうなんだ!!すごいね!!」

 

「そんなにすごくないよ...」

 

 

しばらくするとヒナミちゃんは何かおぼつかない顔をした。

 

「名前...」

 

「ん?」

 

「名前は....?」

 

「...もしかして私たちのこと知らないの?」

 

「...うん」

 

「私たちテレビとか雑誌に出てるよ?」

 

「私...あんまりテレビ見ないし、雑誌も...」

 

「そっかー!!じゃあ、教えてあげる!!」

 

テレビや雑誌も見ていなかったら、仕方がない。

そして私はヒナミちゃんに自分の名前を言った。

 

「私は"赤城みりあ"だよ!」

 

「”みりあ”...?」

 

「そう!みりあ!!アイドルをやってるよ!!」

 

「アイ....ドル...?」

 

ヒナミちゃんは不思議そうな顔で言った。

 

「そう!アイドル!!ステージで歌ったり、テレビに出たりしてお仕事をしてるんだ!!」

 

「そうなんだ....」

 

「私は城ヶ崎莉嘉だよ☆みりあちゃんと同じくアイドルをしてるよ☆」

 

「莉嘉..ちゃん..?」

 

「そう!莉嘉だよ☆」

 

莉嘉ちゃんはそう言うとお決まりのポーズのピースをヒナミちゃんにした。

 

「二人はアイドルなんだ...仲良しなの?」

 

「うん!!ずっと仲良しだもんね!!」

 

「そうそう!!アタシたちズッ友だもん☆」

 

「...ズッ友?」

 

「ずっと友達の略だよ!!」

 

「そうなんだね....」

 

ヒナミちゃんがそう言うと何かに気が付いた様子を出し、なんだか"嬉しそうな顔"になった。

先ほどの顔とは違い、笑顔になっていた。

 

「そうそう、アタシたちは」

 

「ーーーヒナミちゃん」

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

次の話題を出そうとしたその時、ヒナミちゃんの後ろに"白髪の男性"が現れた。

ヒナミちゃんはその人に振り向くと、笑顔でその人の元に行った。

その同時に私たちは口を閉ざしてしまった。

まるで流れが突然止まってしまった川のように。

しばらくするとヒナミちゃんを呼んだお兄さんが私と視線が合った瞬間、私たちの元に近づいた。

 

「ヒナミちゃんと遊んでくれてありがとう」

 

「ど、どういたしまして...」

 

「は、はい....」

 

私たちは先ほどテンションが高かったのだけど、その白髪のお兄さんに声を掛けられると、静まってしまった。

莉嘉ちゃんはどうして静かになったのかはわからないけど、私はそのお兄さんが誰かに似ているから静まった。

姿は違うのだけど、声と空気は"どこか"で味わったことのある。

私たちがそう言うとそのお兄さんは離れていき、図書館から去って行った。

ヒナミちゃんはそのお兄さんについていくように歩き始めた。

 

「...あ、ヒナミちゃん!!待って!!!」

 

私はヒナミちゃんを呼び、足を止めさせた。

ヒナミちゃんは私の声に反応し、振り向いた。

 

「また会えるよね?」

 

「......」

 

ヒナミちゃんはなぜか私の言葉に黙ってしまった。

その顔はどこか不安そうな顔で、先ほどの笑顔はどこか行ったかのように消えてしまった。

 

「また、みりあちゃんと莉嘉ちゃんに会えるかな.....?」

 

「うん!!また会ったら、ヒナミちゃんにわからない言葉とか教えてほしい!!」

 

「アタシもいっぱいお話をしたい!!」

 

私たちはヒナミちゃんにそう伝えた。

初めて会ったけれど、また会いたい。

一期一会と言う言葉があるけど、私はその言葉は好きじゃない。

だってもう二度と会えないと考えるとなんだか悲しくなるし、もったいない。

だから私はヒナミちゃんにもう一度会うと約束をする。

そしたらヒナミちゃんは少し手を握り、返事をしてくれた。

 

「うん...会えるよ!!」

 

「約束だよ!!」

 

「うん...!!」

 

ヒナミちゃんはそう言うと笑顔で返してくれた。

初め出会った時よりも比べ物にならないぐらいほどの笑顔で言葉を返してくれたんだ。

そしてヒナミちゃんは行ってしまった。

数十分と言う短い時間だったけど、私にとってはとても充実な時間だった。

あっという間に時間が進むのが早く感じちゃうぐらいにね。

もしまた会ったらどんなことしようかな?

次に会うまでなんだか待ち切れない。

そのぐらい私はヒナミちゃんのまた会いたい。

 

「そういえば、みりあちゃん」

 

「ん?」

 

すると莉嘉ちゃんがあることに私に伝えた。

 

「さっきのお兄さん、どこかで見たことなかった?」

 

「さっきの人?」

 

「うん、まるで去年出会った"お兄ちゃん"に似てなかった?」

 

「そうかな?黒髪のはずだったかけど...もしかして髪を染めたのかな?」

 

今思えば最近お兄ちゃんのことを耳にしない。

お兄ちゃんと言うのは卯月ちゃんの友達で、優しい男の人。

去年は会っていたけれど、今年は一度も会ってはいない。

 

(今はどうしているのかな...?)

 

しばらく聞いていないため、今はどうしているのかわからない。

 

「とりあえず、美嘉ちゃんに最近のお兄ちゃんのこと聞いてみない?」

 

「いいね!!じゃあ、お姉ちゃんの元に行こう!」

 

そう言った私たちは美嘉ちゃんの元に向かった。

 

 

 

 

今、"お兄ちゃん"はどうしているかな?

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

(たく、どこに行ったのよ...)

 

ふと気が付いた時、二人はどこかに行ってしまった。

せっかく図書館にいるのに、まったく宿題を取り組んでいなかった。

やっぱりあんまり訪れない場所だから探検したくなったかもしれない。

 

「あっ!お姉ちゃん!!」

 

すると莉嘉の呼ぶ声を耳に入った。

その声がした方向に振り向くと、莉嘉とみりあちゃんが一緒にいたのだ。

 

「二人とも、どこに行ってたのよ。まったく...」

 

「ごめんね美嘉ちゃん...でもさっきすごい女の子と出会ったんだ!!」

 

「すごい女の子?」

 

「そう!!名前はヒナミちゃんって子だけど、わからない言葉や漢字を言えるんだよ!!」

 

「そうなんだね。そのヒナミちゃんはすごいね」

 

みりあちゃんは幼いところもあるけど、その純粋さがみりあちゃんの良いところでもあり、他の人に良いことを与えてくれる。アタシもそれで救われたことがあった。

 

「それじゃあ二人とも、勉強に戻」

 

「お姉ちゃん!!ついさっきお兄ちゃんに似ている人を見たんだよ!!」

 

「"お兄ちゃん"に似ている人?」

 

「うん!お兄ちゃんに似てる人」

 

お兄ちゃんとは一体誰だろうと二人に聞こうとしたら、

 

「美嘉ちゃん、ほらっ!!あそこにいるよ!!」

 

「あそこってーーーっ!」

 

みりあちゃんが指を指した先を見たアタシは、息を止めてしまった。

アタシは"白髪の男性"に見て驚いてしまったのだ。

 

「ん?どうしたの、美嘉ちゃん?」

 

「お姉ちゃん?」

 

二人はアタシの様子に変に感じたのか、頭を傾げた。

ああ、そうだった。

アタシは二人に伝えてないから驚かないんだ。

彼が今"行方不明"だと言うことを。

 

「....あ、ああ、ごめんね。ちょっと手洗いに行っていいかな?」

 

「え?い、いいよ?」

 

そう言うとアタシは歩き始めた。

アタシは二人に嘘をついた。

アタシは窓から見た彼を追いかけるのだ。

さっき外にいた白髪の人、間違いなく"あの人"。

行方不明のはずの彼がついさっきアタシの目に映ったのだ。

最後に出会った姿とは違っていたが、一瞬見た横顔は最後に見た時とは変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

間違いなく"金木さん"だ。

 

 

 

 

 

 

アタシは図書館に出た瞬間、急いで走っていく。

サンダルを履いていたのだけど、アタシはそれを知ることなく走っていく。

いなくなってしまった人が再び現れるだなんてありえない。

 

「どこに行ったのよ....」

 

アタシは一人、そう呟いた。

くまなく探したが、結局会うことができなかった。

あっちが察したのか、それとも帰るのが早いのか探し出すことができなかった。

 

(確かにあの顔は.....)

 

確かにあの人は彼だ。

似ている人ではなく、本人。

 

(....最初金木さんもこんな感じだったのかな)

 

いつの間にかアタシの頭に彼のことが思い出す。

確か彼と出会ったのは駅だった。

彼は最初はそっくりさんではないかと疑っていたのだけど、再び会った時でやっとアタシだとわかった。

でも今では立場が変わってしまっているみたい。

 

 

「...なんでアタシたちの元に現れないの」

 

 

彼の前で言うように言った言葉。

 

 

 

今のアタシの願い。

 

 

 

 

再びアタシの前に現れてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心からそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Dry Field




かつて"あいつ"が過ごしていた場所。





私はそこに歩きながら考えるんだ。




"あいつ"はどのように日々を過ごしていたんだろうと。










凛Side

 

 

(なんなの…この暑さ..)

 

電車から出た瞬間、蒸し暑い夏の空気が私を襲う。

電車の中ではエアコンが来ていたのだけど、外は容赦ない日差しに道路から伝わる熱気が

その同時に鳴り止まない蝉の鳴き声が耳に入り、まるで地獄にやって来ているようだ。

テレビでは毎年記録的な猛暑と言うけれど、なんだか毎年ずつ気温が上がっていると思ってしまう。

本当は家で過ごしたかったけれど、私が今日外に出るのは理由があった。

 

(あれは…文香かな?)

 

見えてきたのは上井大学の校門前。

そこに文香はきょろきょろと周りを見渡していた。

今日は私は上井大学のオープンキャンパスに来ている。

そのきっかけは文香の誘いであった。

学校から出された課題に夏休み期間中に開催される大学のオープンキャンパスに行って、

その行ったオープンキャンパスの感想を書く宿題がある。

私がそれに悩んでいた時、文香がやって来たのだ。

それで文香が自分の大学もオープンキャンパスをやると言ったから、私は上井大学にやってきた。

 

「凛さん、おはようございます」

 

「おはよう文香」

 

校門で待っていた文香は私を笑顔で迎えてくれた。

ここ最近笑顔を見せるようになった。

 

「文香よく私をわかったね」

 

「ええ、よく見たら凛さんだとわかりました」

 

私は少し変装をしている。

帽子を被り、伊達眼鏡をし、少しでも"渋谷凛"だとバレないようにする。

私は世間で知られているからすぐに気づかれないように変装しないといけない。

 

「でも凛さん」

 

「ん?」

 

「さすがに暑くないですか?」

 

「そりゃわかってるけど...」

 

帽子を被っているせいで頭が蒸れている。

でもさすがに取ったらバレてしまう。

バレるより我慢を選んだ方が身のためだ。

文香は私を心配しつつ、とりあえず私たちは大学内に歩き始めた。

 

「上井って理系が有名だよね?」

 

「ええ、特に薬学部は難関だと言われてますね」

 

「薬学部ね….」

 

私は同じ理系とはいえ、獣医学のほうが興味がある。

薬学と聞くと私はある人物が浮かんだ。

 

「薬学と聞くと、志希を思い浮かぶんだよね」

 

「志希さんですか?」

 

「うん。志希って結構化学が好きで、変な薬だったり香水を作ったりしてるじゃん。もしかしたら志希が入ったら正解じゃないかなって」

 

志希とは頻繁に会うことはないが、会うたびにいつも私に近づき『いい香り〜』と言う。

いつも他の子とは行動が違うから、クセが強い。

 

「そうですよね..実は志希さんは上井大学を候補にあったのですが…」

 

「え?そうなの?」

 

「でも志希さんは進学するのを辞退しましたね」

 

「やめたの?どうして?」

 

「私は行った方がいいと伝えましたが…志希さん曰く、『日本の大学は資金不足のところが多いから、自分でやったほうがいい』とか『研究内容が絞られるのが嫌だから、自由にやりたい』と言ってました」

 

「そうなんだね...」

 

一つは志希らしい答えだけどもう一つは真面目な答え。

志希はいつも行動が子供っぽいが頭がいい。

そう思うと私は志希に少し見習うところがあると感じさせる。

 

「文香」

 

「はい?」

 

「一人で歩いていいかな?」

 

「凛さんだけですか?」

 

「うん。さすがにずっと一緒だと目立つかなと」

 

別に文香と一緒にいるのが嫌ではなく、お互いアイドルだからだ。

少しは変装をしているけど二人で歩くと目立ってしまう。

それに今日のオープンキャンパスで文香に会いに行くためにやってきている人がいるはず。

仮に今日のオープンキャンパスで私がいると知られてしまえば、厄介ごとが避けられない。

 

「そうですよね。ちょっとしたら離れた方がいいですよね。もし合流する時、連絡を....あ、そういえば凛さんの連絡先持っていませんでしたね」

 

「そうだったね。文香の連絡先を持ってなかったね」

 

今更だけどお互いの連絡先を知らなかった。

今まで何度か顔を合わせたけど、なぜ連絡先を交換しなかったんだろう?

私たちはお互いの連絡先を交換し、

 

「ではまた会いましょう」

 

「またね文香」

 

私は文香と別れてた。

文香は校舎の中へと入って行った。

 

(さてと、歩いて行こう)

 

私は大学の入り口でもらった地図を手にし、歩き出した。

 

(...高校と全然違うね)

 

歩いてみるとわかる。

高校とは違う建物があり、中も違う。

高校じゃある程度規律はあるのだけど、大学は本当に自由だ。

寝るのも自由だし、携帯をいじっても自由。

だけど真剣にやるのも自由。

何をやっても最終的に自分に責任が来る。

ある程度保証されている高校とは違い、まさに社会の一歩と言える。

私は大学を見ていると、ふとあることが浮かんだ。

 

("あいつ"はどう過ごしてたんだろう?)

 

今はいない"あいつ"。

もし今いたなら大学二年生。

もしかしたらベンチに座り、一人で読書をしていたのかもしれない。

私が会うたびに読んでいた本はよくわからない難しい本だった。

名前は難しかったのかそれとも興味がなかったせいか思い出せない。

"あいつ"は私とは真逆の文系男子。

もし今日大学にいたなら、一人で本を読んでいるに違いない。

 

「....?」

 

私はふいに足を止めてしまった。

一人読書をしている男性を見かけたのだ。

その人は"黒髪の男性"。

まるで"あいつ"に似ている。

 

(ーーもしかして)

 

私は自然と近づいてしまった。

まさか”あいつ"ではないかと足を前に出す。

 

「..."金木"?」

 

私は無意識に口を開いてしまった。

その人は私の呼びかけに気がつき、振り向いた。

 

「...はい?」

 

その振り向いた男性は”あいつ”ではなく、"全く知らない男性"であった。

 

「あっ....え、えっと..」

 

私は動揺してしまった。

人違いだ。

 

「あ、あ、あの!理学部の校舎はどこですか?」

 

「理学部?校舎はあちらですよ」

 

「ありがとうございます!」

 

私はお礼をした後、すぐにその場から退散をした。

恥ずかしい思いを味わったのだ。

私はその思いをかき消すよう早歩きをした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「...はい?」

 

誰かが僕に何かを言っている気がした。

一体なんだろうかと思い振り向くと、一人の女子高生が立っていた。

 

「あ、あ、あの!理学部の校舎はどこですか?」

 

「理学部?校舎はあちらですよ」

 

「ありがとうございます!」

 

その女子高生はすぐにこの場から立ち去った。

 

(高校生かな..?)

 

読書をしていた僕に高校生から声をかけられた。

人から声をかけられるのはそんなにない僕。

もしかしたらオープンキャンパスで道を迷っていたのかもしれない。

 

(さて...なぜ"彼の名前"を呟いたのだろう?)

 

それにしてもどうしてだろうか。

あの高校生は普通にいる代わり映えしない人ではなく、あの346プロダクションのアイドル"渋谷凛"だった。

帽子を被ってメガネをし、バレないように変装をしていたが、僕はすぐにわかった。

いわゆる”職業柄”で判断できたと言えばいいだろう。

 

 

どうして"彼の名前"を言ったんだろうか?

 

 

確か上井大学はかつて”彼”が通っていた大学。

 

 

彼の苗字と同じくかぶる人物は"カネキケン"。

 

 

ただの偶然?

 

 

 

いや、どうだろうか?

 

 

 

仮に渋谷凛が"彼"と関係があると言うならば...

 

 

 

 

 

 

 

(まぁ、そんなことはないな...)

 

少し考えすぎた。

あまりにも空想すぎる。

空想を追求しても仕方ない。

僕は気を取り直し、再び読書をした。

 

 

これはあくまで僕が考え出した空想に過ぎない。

 

 

 

そう言うヤツだからね、僕は。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

凛さんと離れた私は一人、冷房が効いた図書館にいました。

私は外の暑さに耐えきれず、ここに足を運び読書をしています。

 

(凛さんが興味を持ってくれてよかったです)

 

いつも凛さんは愛想を顔に出すことがないので今回のオープンキャンパスを興味を抱いてくれるか少々心配でしたが、喜んでくれてよかった。

でも私がさらに安心したのは"彼"の話題が出なかったことだ。

もしかすると私のことを気を使っているのかもしれない。

 

(......)

 

私は自然と本を読むのを止めてしまった。

妙に引っかかる。

まるで何かをやり残してしまい、手放してしまった感覚。

 

 

 

 

 

 

 

今のままでいいだろうか?

 

 

 

 

 

 

私は"彼"を失ったことに悲しんだはずなのに、"彼"と言うものから逃げている。

 

 

 

 

それに"彼"の名前を言えずに日々を過ごしている。

 

 

 

 

 

 

 

私は臆病者だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それとも過去に引きずり込まず、前に進む善人なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

 

("あいつ"は今、ここにいるわけないよね)

 

しばらく大学内に歩いていた私。

先ほど赤の他人を"あいつ"だと言ってしまったことが頭から離れられない。

なんで声をかけてしまったのだろうか。

“あいつ”去年から姿を消していると知っているはずなのに。

一体どう言う理由でいなくなったのかわからない。

 

「......」

 

しばらく歩いていると私は"あるもの"を見つけ、立ち止まった。

それは大学の掲示板に貼られている"あいつ"が行方不明の張り紙だ。

去年の冬に携帯の画面で見たものと同じだ。

 

(..."あいつ"だ)

 

黒髪の男性。

写真では止まっているけど、動いている姿が頭に流れる。

"あいつ"のことを知らない人はこの張り紙を見ることなく去ってしまうかもしれない。

だけど私は"あいつ"を知っている。

これを携帯から見た時、何も言えなくなった。

まるで当たり前のことが一瞬にして消えてしまったように。

文香がこれを見て無意識のうちに涙がこみ上げる姿が想像がつく。

 

「....いつになったら帰ってくるんだよ」

 

あの頼りない姿が思い浮かぶ。

男のくせに女々しさがあって、私はいつもイラついてしまった。

今では懐かしく感じてしまう。

たくさん迷惑をかけている。

私もそうだし文香、未央、美嘉、志希、そして卯月にも心配させている。

 

 

 

 

 

 

 

 

もし仮に私の目の前に現れたらーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ここにすっか!」

 

すると、"ある男性"が私の横に現れた。

なんだろと思い振り向くと、

その男は掲示板に貼ってあった“あいつ”の行方不明の張り紙を剥がそうとしていた。

 

「ちょっと、何して!!」

 

私はその人の手首をとっさに掴んだ。

勝手に掲示板に貼ってあるものを剥がすだなんて不審にしか思えない。

 

「って!おい!何す.......えっ?」

 

「...え?」

 

何事だとその人は私の顔を見ると、ピタリと止まってしまった。

私も同じくその人の顔を見て止まってしまった。

私はその人一体誰なのかわかったのだ。

 

「…凛ちゃん?」

 

その男性は一度出会ったことのある人で、"あいつ"の友達"ヒデさん"だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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友達




あいつは幸せだ



なぜって心配してくれる友達がいるのだから








 

凛Side

 

 

私たちは人目があまり通らない場所に写り、テラス席に座っていた。

永近さんは私の飲み物を奢ると席を外し、今私は待っている。

それにしても永近さんが私を渋谷凛だとわかったのは、アイドルが好きだからすぐに顔がわかったらしい。

 

「お待たせ!凛ちゃん」

 

「ありがとうございます」

 

私は永近さんからアイスティーをを受け取った。

缶なのか受け取った瞬間、冷たさが腕に伝わった。

永近さんの方はアイスコーヒだった。

 

「しかしまさか上井で凛ちゃんに出会うなんてね」

 

「文香にオープンキャンパスを誘われて来たんですよ」

 

「そうなんだな。じゃあ今日は大学のどこかに文香ちゃんはどこかにいるんだ」

 

「はい、そうですね」

 

文香と離れたのはあまり目立たないようにするためだ。

決して文香と一緒にいるのが嫌だからではない。

 

「「…….」」

 

しばらくすると私たちは口を自然と閉ざしてしまった。

やはりお互い交流がないせいか沈黙が生まれた。

まず私はヒデさんとは去年の春以来であり、じっくり話した記憶がない。

私は何か思い切って「あ、あの!」と声をかけると、同時に永近さんも「あのさ!」と言い声が重なった。

 

「あ、すみませ」

 

「レディーファーストっつー事で」

 

永近さんは私に会話を譲った。

私が永近さんに話すことはただ一つしかなかった。

 

「..金木さんはまだ見つからないんですね」

 

「....だね」

 

「早く見つかるといいですね..」

 

永近さんはそう言うとアイスコーヒーを口に運んだ。

"あいつ"は未だに見つかっておらず行方不明だ。

どうして消えたのかわからない。

私たちは"あいつ"がいない日々を過ごしている。

探したい気持ちがあるがアイドルということがあり、全然動き出すことができない。

 

「あの永近さん?」

 

「ん?」

 

「金木さんはどんなや...人ですか?」

 

「カネキ?」

 

危うく"やつ"と言うところだった。

いつも私は"あいつ"のことをタメで喋っていた。

最初は敬語だったけど未央がニュージェネレーションズに戻ってきてからタメで会話をしていた。

"あいつ"は私がタメで話していたことには指摘はしなかったが、そのおかげか"あいつ"と話す時はどこか気が楽になる。

 

「んー今とはあんまり変わんねえかなー。休み時間も放課後も、ヒマさえありゃ本を読んでいたな」

 

「そうなんですか...」

 

"あいつ"のイメージはいつもどこかで本を読んでいるイメージがつく。

 

「カネキは本をいつも読んでいた原因でクラスのヤツにからかわれたりもしてたな。それで俺はいつも助けてたんだ。だけどカネキはなにされてもやり返さないでいつも困った顔で笑ってたんだよな」

 

確かに"あいつ"は喧嘩は苦手そうだし、避けるイメージが浮かぶ。

ちゃんと伝えてくれることはあるけど、やはりどこか困った顔で笑う。

特に私との会話だとよくそんな顔をしていた。

 

(永近さんは"あいつ"とは性格が違う)

 

ふと気が付いたことが永近さんはあいつとは性格が反対だ。

とても社交的で陽気だ。

性格が逆とはいえ"あいつ"とは親友。

明るく話していた永近さんだが、

 

「そんで、小学校の高学年くらいまではフツーの内気な読書家って感じだったけど、母ちゃんが亡くなってからちょっと変わったな....あれ以来いつもどっか寂しそうでさ」

 

「え?金木さんの親って..」

 

「...両方ともね」

 

再び永近さんはどこか暗くなってしまった。

 

「カネキの親は二人ともなくなっていて父ちゃんは小さい頃に、母さんは過労で」

 

「過労…?」

 

私は初めて知った。

"あいつ"の両親はどちらも亡くなっていたことを。

"あいつ"はそんなことを抱えていただなんて....

 

「そーいえば!!」

 

すると暗い話から一変するように永近さんは元気よく大きく話した。

 

「よーく覚えているんだけどさ、あんな引っ込み思案ボーイが劇の主役をやった事があったんだ!!」

 

「金木が...劇の主役?」

 

いつも内気なあいつが舞台の主役になっていたことに意外に感じた。

私たちのように表に立ち上がっていた経験があるんだ。

 

「半分押し付けられたカタチだったけど、意外に演技が良くてさ、舞台上では堂々としたもんだったよ」

 

「へぇ...」

 

「もしかしたら346プロにスカウトされてもよかったんじゃね?」

 

「そ、そうでしょうか...?」

 

私は永近さんの冗談に苦笑いを作った。

さすがに"あいつ"が346に行くのは考えられない。

 

「まぁそれは冗談だけど...カネキはなにかを演じるっつーか、仮面かぶるっつーか....一人で抱え込んじまうとこがあってさ。今回も"色々”抱えきれなくなって、どっか行っちまったんじゃねーかなぁと思ったり...」

 

振り返ってみれば”あいつ"が私に悩みを伝えたことがない。

だいたいは私の悩みを"あいつ"に伝えることばかりで、聞くと言うのは今までなかった。

 

「そうですよね...いつも悩みとか聞いてくれましたよ」

 

「悩み?」

 

「はい。金木さんは私が抱えていた悩みとかを聞いて、その解決方法を考えてくれるんですよ」

 

関係なくても、他人事でも”あいつ”は考えてくれる。

いつも私は"あいつ"に相談や悩みを嫌な顔をせずに聞いてくれた。

 

「それだったら、私にも悩みを言って欲しかった...」

 

私は自然と手を握った。

別に私に抱えていたことを伝えてくれればよかったの....

 

「...凛ちゃんもカネキを心配してくれてるんだな。そういえば前に未央ちゃんに会ってさ、結構積極的にカネキを探したがってたな。もしかして卯月ちゃんもそう?」

 

「はい、金木さんが行方不明と聞いた時に泣いて...」

 

「....そっか」

 

その顔はものさびしそうに見えるけど、どこかしら嬉しそうだった。

 

「文香ちゃんもそうだったな。行方不明の張り紙が貼られた時、何かを失ったように落ち込んでいた姿をしていたな」

 

「...そうなんですか」

 

「きっとカネキがいなくなって悲しんだと思う。文香ちゃんが有名になる前は一緒にいたからさ」

 

先ほどの文香の顔が頭に浮かぶ。

"あいつ"がいなくなったと知った時とは比べてだいぶ明るくなっている。

もし再び悲しみに暮れる時が現れるのは......

 

「たく、カネキは俺以外にも"いい友達"を持っていてよかった...凛ちゃんは知ってっかなァ...?」

 

「?」

 

「あいつには一個クセがあるんだ」

 

「クセ?」

 

「そ。アイツはいつも何か隠すとき、こーやってアゴをさわんの」

 

永近さんはそういうと左手で顎をこするように触った。

今まで"あいつ"と一緒にいたのだけど、私はそのクセには初めて知った。

 

「...これはカネキには内緒な!」

 

永近さんは小さくコソコソっと私に話した。

 

「ま...アイツがもし現れたらさ、抱え込んでいることを吐き出させてくれよな!」

 

「...はい」

 

永近さんはそう言うと椅子から立ち上がり「じゃあね、凛ちゃん!」と言い、去ってしまった。

私は去って行く永近さんに「さよなら」と伝えた。

"あいつ"は幸せだ。

いなくなって心配してくれる人がいる。

親がいなくても友達がいる。

永近さんだけではなく、私、卯月、未央、文香、志希、美嘉も心配している。

それに未だに"トーカさんの言葉"が頭に残っている。

 

『何もできなくてごめん』

 

トーカさんが震えた声で私に伝えた言葉。

どうしてそんな言葉を伝えたのかわからない。

同じく働いているからそう伝えたとはなぜか感じられない。

一体なんだろうーーーーー

 

「あ、凛さん」

 

すると後ろを振り返ると文香が立っていた。

 

「文香。あ、もしかして連絡してた?」

 

「いえ、たまたま歩いていたら凛さんを見つけられたので連絡はしてせんよ...そういえば、先ほどの方は?」

 

「え?あ、ああ、あの人は私がデビューした時に出会ったファンだよ」

 

「ファンですか?」

 

「うん。初めてニュージェネとして出たライブにきてくれた人だよ」

 

「そうなんですか...」

 

さすがに"あいつ"のことを言うのは避ける。

永近さんは"あいつ"の友達。

連想させないように"ファン"だと伝えた。

再び文香を悲しませないようにね。

私はしばらく文香と大学内を回った後、文香と別れどこに寄ることなく家に帰ったのだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、来るなんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"あいつ"が

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

太陽が眩しく照らす下で一人歩く、私。

金木さんと思われる人からもらったお守りを携帯につけ、とあるところに向かっていました。

しばらく勉強だけでは体に毒ということで、トーカさんが働いているあんていくです。

何度か訪れているせいか駅からあんていくまでの道のりが最初に一人できた時よりも短く感じます。

そしてお店の前に着いた私は気持ちを切り替えるため深呼吸し、お店のドアを開きました。

 

「いらっしゃいませ」

 

優しく迎えてくれたのはトーカさんと思いきや店長さんだけでした。

 

(あ、あれ...?)

 

予想もしてなかったことに出会ったせいか思わず数秒立ち止まってしまいました。

さすがにずっと立ち止まっていけないと感じた私は「こんにちは...」と違和感を持ちながら、

そのままカウンター席に座りました。

 

「あの...」

 

「どうかしました?」

 

「今日、トーカさんはいらっしゃいますか?」

 

「今日はトーカちゃんは来ないよ。ごめんね」

 

「そうなんですか…」

 

私は店長さん少し落ち込みました。

店長さんは優しいおじいさんという感じの方で、トーカさんからは店長が淹れるコーヒーはおいしいと耳にしてます。

私はまだコーヒーの美味しさを感じることはできず、ただ苦い飲み物と認識してしまいます。

私はその苦いとしか感じ取れないコーヒーを店長さんに頼みました。

店長さんは「わかりました」といい、棚からコーヒー豆が入っている缶を取り出しました。

店長さんがコーヒー豆をコーヒーミルで挽いている時、あることに気がつきました。

店内を見渡す限り他の店員さんの姿はなく、私と店長さんだけです。

 

「そういえば、他の人来ませんね」

 

「確かに来ないね。もしかしたら"ある人"が来るかな」

 

「ある人...?」

 

誰なのか聞こうとしたその時、カランっとドアが開いた。

 

「遅れてすみません、芳村さん」

 

急いで来たのか息が切れたような声。

その声は事務所でよく耳にする女性の声。

 

「いらっしゃい、"楓ちゃん"」

 

店長さんはそのお客さんの名前を言いました。

 

「あれ?....卯月ちゃん?」

 

私は入り口に顔を振り向くと、一人の女性が立っていた。

 

「か、楓さん..?」

 

その女性は346プロダクションで何度かお会いし、同じくお仕事を共にするアイドル。

"高垣楓さん"があんていくにやってきたのだ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロデューサーSide

 

 

私は次の現場に向かおうとしていた。

今年の仕事は去年よりも多忙だと断言できるぐらい状況が違う。

シンデレラプロジェクトは去年よりも知名度が上がり、活動範囲が広くなった。

そのおかげか私は2代目シンデレラプロジェクトをプロデュースをすることができた。

その同時に13区の状況も変わった。

ここ最近、喰種関連の事件が少なくなっている。

それは激減と言ってもいいぐらいに。

一体どうしてなのかはわからないが、おそらくCCGの働きが反映したかもしれない。

 

(...ん?)

 

すると私は"ある光景"に目にし足を止めた。

 

(人だかり..?)

 

そこは玄関ホール。

普段は足を止める人が少ない場所なのだが、今回は何人かが足を止め、ある方向に目を向けていた。

その立ち止まっている一人に千川さんの姿があった。

 

「あの千川さん?」

 

「あ、プロデューサーさん」

 

「どうかされましたか?」

 

「ええ、実はある方が取材をしたいそうで...」

 

「取材?」

 

「事前に連絡もせず突然やってきたのですが...その依頼者がちょっとした有名人で」

 

「有名人?」

 

基本的には連絡せずに取材許可は断っているが、どうやらその依頼者に皆は驚いているようだった。

有名人と言っても普段仕事で芸能人と接することは多く、そんなに驚くことがないはずなのだが...

 

「その人物は一体?」

 

「...作家の"高槻泉"です」

 

「"高槻泉"?」

 

私は千川さんの言葉を耳にした後、皆が見ている先を見ると一人ソファーに座っている女性がいた。

 

「ここが346ッスかァ...写真はいい?あ、ダメ ?」

 

座っていた女性はメガネをかけ、カメラを持ちどこか興奮を隠しきれない様子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夕焼け



沈む太陽。


その時、あいつが姿を表すだなんて私は考えもしなかった。








プロデューサーSide

 

 

高槻泉ーーー

 

彼女は10代に書いた『拝啓カフカ』で50万部のベストセラーを達成した作家。

テレビでは度々名が上げられるが出演などなく、サイン会などの小さいイベントで顔を出す程度だ。

そんな彼女が突然346プロダクションに訪れ、取材を求めにきたのだ。

 

「彼女が取材したい理由は?」

 

「それがCCGとの関係を取材したいと言っておりましたが、特に"CCGと組むきっかけを作った人物"と話したいと」

 

「そうですか...」 

 

考えてみれば他の人に任せるより、現在346プロダクションがCCGと提携するきっかけを作った私が話した方がいいかもしれない。

 

「ちひろさん。私が話しましようか?」

 

「え?次の現場があるのでは?」

 

「"少し"のお時間なら大丈夫です」

 

私は携帯を取り出し現場先の担当者に少々遅れると連絡し、高槻さんの元に向かった。

 

「高槻さんですか?」

 

「ああ、どうも高槻です。デカイですね...」

 

高槻さんが言うのはわからなくもない。私よりはだいぶ身長が低い。

 

「くわしくは応接室でお話をしますが、撮影は控えてください」

 

高槻さんは「わかりました」と立ち上がり、カメラをバックに入れ私のあとをついていった。

 

「そういえば、346プロの入り口は特殊ですね」

 

「あれは検査ゲートです。喰種を入らせないように特殊に作っています」

 

入り口の作りは通常とは違い、薄い構造ではなくとても厚い扉になっている。

 

「喰種が入ったら、館内中になるんですか?」

 

「ええ、そうですが…なぜわかるのですか?」

 

私が次に言おうとしたことが高槻さんの口に出たのだ。

 

「前にCCGの20区支部で取材をしていたので、もしかすると同じかなと」

 

「そうなんですか...なぜ20区支部に?」

 

「それは秘密ですね。バラしたら逮捕されるほどの重要な情報でしたから」

 

高槻さんはそう言うと「逮捕は勘弁です」とわずかに笑った。

それにしても高槻さんは20区支部で一体何を話したのだろうか?

 

「346プロに入る喰種はいますかねぇ?」

 

「…おそらくは"0”です」

 

世間には346プロとCCGは強力な関係だと知らされており、13区は他の区と比べ警備が厚いと耳にしている。

そんな状況で346プロダクションに乗り込む喰種がいないことに私は心から願う。

再び"悲劇"が起きることなく、平和で過ごしたい。

そう考えていた私は応接室に着き、高槻さんを席に座らせた。

 

「それで我々とCCGの関係で聞きたいことは」

 

「そのまえに今日きたのは、だた346プロとCCGがどんな関係なのかだけではないのでお仕事のインタビューをできればと!」

 

「お仕事ですか?それならばある程度は答えられますが...?」

 

「なにげない事でもいいですよ」

 

高槻さんはふふっと笑い、満足そうにメモを取る。

 

「私はアイドルのプロデュースをしていまして」

 

「プロデューサーさんですか!プロデューサーっと言うお仕事は具体的にどんなことをするのですか?」

 

「基本的には私の場合はシンデレラプロジェクトのアイドルを担当しています」

 

高槻さんは「ほほぅ」とメモに書いていた。

そのまま話が進むと思っていると、

 

「ところでお好きな食べ物は?」

 

「え?」

 

すると突然、話がガラリと変わった。

 

「これも必要なことですか?」

 

「ええ、もしかしたら次回作のアイディアに必要かなと」

 

高槻さんの言葉に少し疑ったが彼女は作家であるため、もしかしたら創作には必要ではないかと考え、私は答えることにした。

 

「ハンバーグが好きです」

 

「ハンバーグですか。意外と可愛い食べ物がお好きなんですね。私がCCGでお話をした喰種捜査官はその日に食べた昼食は甘口のカレーでしたよ」

 

「は、はぁ..?」

 

その情報は必要だろうかと疑問に感じた。

なんだか話がずれ始めていると思い始めたその時、高槻さんはある話を取り上げた。

 

「そういえばCCGでこんなお話があるんですよ」

 

「お話?」

 

「喰種捜査官は喰種をどんな武器で倒すかご存知ですか?」

 

「クインケと呼ばれる武器で戦うと耳にしてますが、そのクインケというものは一体なにかはある程度...」

 

喰種捜査官はクインケと呼ばれるアタッシュケースの中にある武器で戦う。

そのクインケは喰種から取り出される非人道的な製法のため、一般に知られていない。

346プロダクションでは私と"一部の人"しか知らない。

 

「へぇ、知っているんですね」

 

「はい。それがどうしたのですか?」

 

「CCGは喰種をより排除するために、過去に喰種の身体能力をヒトに取り組む研究をやってたらしく、それがどうも"今"もやっているらしいいのです」

 

「...え?」

 

私は一瞬息を止めてしまった。

高槻さんの口に出た情報に疑ってしまった。

喰種を排除をする機関が人間の体に喰種の能力を入れる非人道的なことをする話を。

人が喰種になる話といえば亜門さんと真戸さんの口に出た話が記憶に新しい。

その被害者が"金木研"。

金木さんは卯月さんや渋谷さん、本田さん、城ヶ崎さんなど交流があった青年で、現在は行方不明だ。

 

「これは"あくま"で噂なので、本当なのかはわかりませんよ?例えるならアメリカのルート51でUFOの研究をしているぐらい」

 

それにしても"どこから"その情報を耳にしたのだろうか?

そう考えていた私に高槻さんはあることを私に伝えた。

 

「話は変わりますが、20区に美味しいコーヒーを出す喫茶店があるんですよ」

 

「喫茶店?」

 

「”あいんていく”と言う名前ですが、他のお店とは比べ物にならないほど味わい深い所で、実は過去に高垣楓が働いていた場所なんですよ」

 

「高垣さんが?」

 

「ええ、この話は意外にも知らされてなくておそらくあなたが...いや、もしかしたら"知っている人"はいるかも」

 

「え?」

 

「何はともあれ、ぜひ立ち寄ったらどうです?」

 

その後高槻さんは私に346プロダクションとCCGに関する質問をするのだろうと思ったのだが、

好きな色や最近訪れた飲食店など大半は関係のない話ばかりであった。

私は質問をした後、高槻さんは346プロダクションから去っていった。

ただ質問を答えた私だが、高槻さんが話したCCGに関する噂に考えさせられた。

高槻さんが言った情報は妙に金木さんの話が一致している。

確か元CCGの元解剖医が喰種の臓器を移植したと言われているが、その人物はあくまで元CCGの人間。

離れているはずなのに今も研究を続けているとなれば、重大な問題だと言える。

噂だと言えどどうも嘘らしさが感じない。

作家にしては想像力で考えた情報とは捉えにくい。

彼女は一体なんだろうか...?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

カネキSide

 

 

日が沈み始める夏の夕方。

僕は花屋さんに足を踏み入れた。

そこは彼女とは初めて出会った思い出のある場所。

去年は何度か訪れたのだが、今年は今回も含め2回しか来ていない。

その一つが誕生日だった彼女にプレゼントを渡すためにここの花屋さんで花を買いに来た。

その買った花は彼女の家に置いた。

ちょうど彼女の部屋の窓が開いていたため、そこに置いた。

今回お店に訪ねる理由はある人物に会うためである。

僕は彼女がいると思い、お店の中に入っていった。

 

「いらっしゃいませ」

 

出迎えてくれたのは中年の男性。

僕が4月にここに訪れた時と同じ人。

おそらくは凛ちゃんのお父さんだろう。

お店を見渡す限り、彼女の姿はなかった。

僕はその人に「あのすみません」と声をかけた。

 

「どうされましたか?」

 

「凛さんはいますか?」

 

「凛?もしかしてファンの方ですか?」

 

「いえ、ファンと言うか彼女とはお友達で、ここ最近お会いをしてなかったので会いに来ました」

 

彼女が人気になっていたせいかお父さんから少々警戒心が肌に感じる。

以前に出会ったことがよかったのか口を開いてくれたが、

 

「すみません。凛は今オープンキャンパスでいなくて」

 

「そうですか…」

 

「ここ最近は忙しくてね」

 

どうやら現在、彼女はいないようだ。

やはり以前とは違うことがわかる。

彼女は"去年"とは違う。

 

「いえ、彼女が自分の夢にしっかりと向かっているなら大丈夫ですよ」

 

僕はそう言うと微笑みを作った。

今会えなくても、彼女が僕と違って輝いているならいい。

 

「忙しいなら仕方ないです。お聞きできてありがとうございました」

 

「いえ、またお店にお越しください」

 

僕は凛ちゃんのお父さんに「さようなら」と伝え、公園の方に歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に彼女と会うのはーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

 

オープンキャンパスに帰ってきた私。

今日は長く歩いたせいか体に疲労を感じる。

だけど胸の中には充実感があった。

いつも行けるような場所に訪れたから、とても新鮮感を肌に感じ取れた。

高校とは違う大学は私にとって良いところだ。

 

「ただいま」

 

「おかえり、凛」

 

家に帰ると父さんが顔を出し、出迎えてくれた。

もうそろそろお店を閉めるためか外側に置いてある花を持ち出した。

ここ最近はお店の手伝いをする機会がなく、手伝おうとすると『せっかくのオフなんだし遊んで来なさい』と言われ、手伝うことができない。

このまま自分の部屋に行き、オープンキャンパスの報告書を書くつもりだった私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お父さんの"ある一言"がなければね。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、"白髪の人"が先ほど来たよ」

 

「っ!」

 

お父さんの言葉を耳にした私はピタリと足を止め、固まってしまった。

聞いた私は頭が真っ白になった。

 

「どうやら"その人"は凛の友達と言っていたよ。見た感じ凛より大人っぽい"人"だったね」

 

「........」

 

「凛?」

 

「..どこに行った?」

 

私は震える声でお父さんに聞いた。

白髪の人。

それは前に父さんからお店に訪ねたと耳にし、卯月が図書館に勉強していた時も奈緒から聞いた。

ここ最近私の近くで現れる人。

 

「どうした、り」

 

「その人はどこに行ったの!?」

 

怒号に似た声でお父さんに問いただしてしまった。

お父さんは私の態度に何があったのかわからず、目を大きく開いた。

私の感情は揺らいでいた。

私はとにかくお店に訪ねてきた白髪の人を知りたかった。

 

「帰った方向は....多分、公園の方向だな」

 

「っ!!」

 

私は父さんの言葉を最後まで聞かずにすぐ向かった。

もう一度会いたい。

今度こそ会うんだ。

オープンキャンパスで疲れていたはずの体は早く走ることができた。

体よりも会いたいと言う感情が勝っていたんだ。

 

「…….」

 

私は自然と立ち止まってしまった。

走ってきたため息が切れ、立っていられるのが辛い。

だけど今の私は関係がない。

私は公園のベンチに一人座る男性をまっすぐと見ていた。

 

「.....っ」

 

その男性は私がいることに気がつき、振り向いた。

左目に眼帯をして、白く染まった髪。

それに赤黒く染まった爪

 

 

 

 

 

 

 

でも"その人の瞳"は変わってはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「....凛ちゃん」

 

その人はつぶやくように私の名前を言った。

私はその人の声を耳にした瞬間、心の中で確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

“あいつ”だ

 

 

 

 

 

 

私をアイドルになるきっかけを一つ作ってくれた人でもあり、胸に抱えていた悩みを聞いてくれた人。

 

 

 

 

 

 

 

どこか女々しくて会うたびにイラつかせる人。

 

 

 

 

 

 

 

だけど私たちの前から姿を消し、たくさん心配をさせた人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人の名は"金木研"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Rin


あいつの帰りを待っていた、私。


だけど、それは一瞬にして消えてしまった。






卯月Side

 

 

私の目の前に起きた出来事は突然でした。

それは同じく346プロダクションのアイドルの楓さんがあんていくに訪れてきたのです。

 

「楓さんもあんていくに来ていたんですね!」

 

「まさか卯月ちゃんがここにくるとは思いませんでした」

 

楓さんは346プロダクションのアイドルで初代シンデレラガールズの一人です。

楓さんとは私が活動を休止以来初めて出会いました。

 

「楓さんはたまたまここに訪れたのですか?」

 

「いえ、違うんです。ここだけの話なんですが、昔ここでバイトをしてまして」

 

「え!?本当ですか!?」

 

楓さんは店長さんに「そうですよね?」と伝えると、店長さんはうんうんっと頷いた。

 

「本当だよ。楓ちゃんはここでコーヒーを淹れてたんだ」

 

店長さんは懐かしそうな顔をし、笑いました。

いつも見かける楓さんが店長の位置に立ち、お客さんにコーヒーを提供していたことに私は驚きました。

すると店長さんが『どうぞ』と注文していた飲み物がきました。

楓さんはあんていく特製のブレンドのコーヒーで私はカフェオレにしました。

楓さんが頼んでいたコーヒーを口にすると『やっぱりこの味ですね』と店長さんに顔を向け、笑顔になりました。

 

「どうして卯月さんが一人で来たのですか?」

 

「私ですか?実はトーカさんとお会いしに来たのですが…」

 

「トーカさん?看板娘さんですか?」

 

「え?もしかしてお会いを?」

 

「実は一度もお会いしたことがなくて..いつも私が来るときはいらっしゃらないんですよ」

 

しばらくお話をするとどうやらトーカさんとは本当に一度もお会いをしたことがないそうです。

店長さん曰く、『楓ちゃんが来るときはいつもトーカちゃんは休んでいる』とのこと。

 

「そういえば卯月ちゃん」

 

「はい?」

 

「もしかしてあんていくには結構訪れていますか?」

 

「そうですね。私があんていくにきたのは去年ぐらいですね」

 

「去年ですか!随分と来てますね!もしかして雰囲気が気に入ったんですか?」

 

「それもそうですが..以前ここで働いていました"金木さん"と会うために来たんですね」

 

「金木さんですか…」

 

すると楓さんは少し顔を変えました。

その顔は何かわかったような顔で、声のトーンを聞く感じだと”知らない人”と感じられない。

 

「え?楓さんは金木さんをご存知ですか?」

 

「はい。一度だけお会いをしたことがあります。眼帯をつけた男性ですよね?」

 

楓さんはそう言うと、左目をぐるぐると指を指しました。

金木さんがつけていた眼帯の位置は左目です。

 

「金木さんはなんだか"最初の私"に似てましたね」

 

「似ている?」

 

「ええ、私はあんていくに当初はあまり人と話すことは好きじゃくて、少々笑顔が下手でして…」

 

「え、ええ!?それは本当なんですか?」

 

私が言うと楓さんは店長に「そうですよね?」と聞くと、店長さんは笑いました。

 

「ははは、それも本当だよ。あのときの楓ちゃんはなんだか金木くんに似ていたね。そういえば久しぶりにここで働かないかな?」

 

「いえ、今はアイドルをしてますから大丈夫です」

 

楓さんが笑いながらそう言うと私に視線を再び向け、

 

「それで金木さんとお会いしたとき、私とどこか似ていると感じてお話をしたんですよ。そしたら楽しくお話をすることができてよかったです」

 

楓さんはどこか嬉しそうに話してました。

 

「もっとお話をしたかったのですが...今はいらっしゃらないんですよね...」

 

「...そうなんですよ。金木さんは去年の12月に行方不明になって...」

 

「え?行方不明に?」

 

「金木さんは今いないんですよ」

 

楓さんは私の言葉に目を開き驚きました。

金木さんは12月から姿を消している。

 

「金木さんが行方不明って..?」

 

「いなくなった理由が思い当たらなくて...」

 

「そうなんですか...本当にわからない?」

 

「..はい。でも最後に金木さんに会った時、"何か"を抱えていたのはわかります」

 

「抱えていた?」

 

その抱えていたことはわかりませんでしたが、まるで誰にでも言えない悩みとわかります。

でも私はそれを伝えることはできず、金木さんが行方不明となってしまいました。

あの時の私が気づけば..

 

「私がそれに気づいていたら金木さんは...」

 

「今、後悔してもダメですよ、卯月ちゃん」

 

すると楓さんは私の手の甲に手を添えました。

 

「前に進めばいいんのです。起こってしまったことをただ後悔するのではなく、アイドルもそうではないでしょうか?」

 

「そうですよね..ただ後悔してもダメですね」

 

楓さんの言う通り。

暗いことを考えちゃダメだ。

ただ後悔しても意味はない。

 

「そういえば、金木さんが淹れたコーヒを飲んだことがありませんでしたね。卯月ちゃんはどうですか?」

 

「ありますが...まだ私はコーヒーの苦さが慣れてなくて...」

 

あの時の私は何度も砂糖が入っていないブラックコーヒーを頼んでいましたが、

コーヒーの味わいを感じる前の苦さが口に広がり、味わう余裕がなくなる。

 

「別に急ぐ必要はありませんよ。人はそれぞれ違いますから、自分のペースで慣れればいいんです」

 

楓さんはにこりっと微笑みました。

 

「金木さんは今は行方不明ですが、いつかきっと卯月さんの前に現れますよ」

 

私は楓さんの言葉に少し勇気づけられました。

窓を見ると外の景色は綺麗な夕焼けに染まっていました。

空の青に夕焼けの赤が程よく合っています。

 

 

 

 

 

 

 

もし再び会えるならーー

 

 

 

 

 

その時はどこで会うのだろう?

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

 

夏の夕日がくる公園。

鳴り止むことのない蝉の声。

普通ならばただうるさいと聞こえるしれない。

でも今の私にはそうは聞こえず、どこか悲しく感じる。

自分が死が近づくと知り、最後まで力を振りしぼって鳴いているように聞こえる。

 

「…金木なの?」

 

「久しぶりだね、凛ちゃん」

 

金木は私の名前を言うと微笑んだ。

その顔は嬉しそうというより、”悲しそう”と言ったほうがぐらい明るさはなかった。

前会ったときは黒髪で左目に眼帯を付けどこか頼りなさがあった男性だったけど、今は白く染まった髪に赤黒い爪、そして肌から感じる感情の冷たさがくる。 

 

「…」

 

話したいことがたくさんあったにも関わらず、私の口は自然と止まってしまった。

金木としばらく離れて聞きたいことや話したいことがたくさん生まれた。

だけど久しぶりに会うのになぜか言葉がでない。

一つに絞れないんじゃなくて、なんだかどの話もふさわしくないと感じてしまう。

どれも金木に伝えるには何かが足りない。

 

「..急にいなくなってごめん」

 

なんて言えばいいのか考えていると金木が先に口を開いた。

 

「みんなに心配をかけたと思う」

 

「...うん」

 

私は小さく頷いた。

久しぶりに金木の声を聞いたせいかどこか安心感を得た。

やっぱりその人は金木。

ほっとした気持ちを抱えた私は金木にあることを話した。

 

「...戻ってくれるよね、金木?」

 

金木に伝えたは私の願い。

今は怒るとか心配したとかではなくただ戻って欲しかった。

そして"前のよう"に過ごしたい。

私は金木が戻って来れると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

だけど、そうはいかなかった。

 

 

 

 

 

「…わからない」

 

「....え?」

 

返ってきた答えは"わからない"。

戻るとか戻らないではなく"わからない"。

私は金木の言葉に理解できない。

ただ戻ってこればいいのに、なぜ"わからない"と返事したのか理解できない。

 

「...わからないってどうしてなの?」

 

「僕はみんなを守らないといけない」

 

そして金木はそう言うと、親指で人差し指を鳴らす。

指を鳴らしたとき、私は不気味さを感じた。

 

「守る?何から守るの?」

 

「…言えない」

 

「言えない?」

 

「凛ちゃんたちを危険な目に遭わせたくない」

 

「...」

 

たんだんと嬉しさが消えていく。

わからない答え。

あいまいな理由。

あいつは”何か”隠している。

 

「…なんなの、あんた」

 

嬉しさに代わり、苛立ちが生まれ始めた。

 

「あんたに守られるだなんて信用できない。さんざん心配させて、私たちの元に帰ってこないとか意味わからない」

 

「....」

 

「それに私たちから何から守るの?言えないとかバカみたい。本当に守る気あるの?」

 

「....」

 

何から守るのかわからない。

悪の組織から?どこかの国から?それともとある人物から?

何から守るの?

 

「それにあんたが私たちの前から消えて卯月と文香がどれほど悲しんだなんて知らないでしょ?それなのになんでそんな馬鹿げた話をするの?」

 

「....」

 

今のあいつの言葉に卯月と文香に失礼だ。

悲しんだことが"無駄"のように聞こえてしまう。

 

「そんなんで私たちを守るとか信用できない」

 

「...否定をするんだね。凛ちゃん」

 

あいつの顔は最初に出会った時から変わっていなかった。

まるで感情を失ったように表情を変えない。

 

「それでもいいよ、僕は守るから」

 

あいつが顎を触った瞬間、私は怒りが頂点に達した。

感情的になった私はあいつに近づき、

 

「っ!!」

 

私はあいつの頰を叩いた。

 

「…バカじゃないの....あんた...」

 

その同時にあいつの胸元を両手で掴むが、視線が上がらない。

私は泣いていた。

声が震え始め、感情が不安定なったせいか自然と涙が流れる。

怒りなのか悲しみなのかわからない。

だけどあいつは頰を打たれたにも関わらず、何も言わなかった。

 

「それだったら…もう私たちの前で現れないで」

 

あいつにそう伝えた私は掴んでいた両手を離し、背中を向け離れていった。

だんだんと離れていく私をあいつは追いかけはしなかった。

でもその時の私はもう二度とあいつの顔を見たくなかった。

だけどその感情が後悔へと変わっていく。

家に帰り、自分の部屋のドアを閉めた直後、胸の中から後悔がにじみ出た。

本当は喜ぶべき出来事なのに、私は感情的になってしまい、ついには手を出してしまった。

そして私は二度と私たちの前に現れるなと言ってしまった。

もうあいつは私たちの前には現れない。

 

「…っ」

 

私は再び涙を流した。

胸に留まる感情をどこに当てればいいのかわからず、ただ泣いた。

 

 

 

 

 

 

私のせいだ。

 

 

 

 

 

カッとなってしまった私のせいだ。

 

 

 

 

 

あいつはもう私たちの元に帰らないんだ。

 

 

 

 

 

私のせいで帰る場所を壊してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カネキSide

 

 

凛ちゃんが去った後でも僕はしばらく動かなかった。

彼女にうまく言葉を伝えることができなかった。

僕は彼女とは違い”喰種の世界”にいる。

“喰種の世界”に関わってほしくない。

だから僕は彼女に真実を伝えなかった。

その結果凛ちゃんから前に現れるなと言われてしまった。

僕が彼女の元に来たのは理由があった。

それはあんていくに久しぶりに訪れた時だった。

僕はただ訪れたのではなく、僕が対立しているアオギリの樹を生んだ一つが店長にあったからだ。

店長の子が隻眼の王だとわかったのだが、しばらく話をしていると店長からこんな話があった。

 

『カネキくんには”二つの道”が残されている。決して”喰種という道”だけは考えないでくれ。"卯月ちゃん"が君の帰りを待っているよ』

 

卯月ちゃんは僕のことを忘れておらず、今もあんていくに来ているのだ。

それで僕は直接卯月ちゃんではなく、凛ちゃんの元へと向かった。

以前図書館に訪れた時、凛ちゃんは僕の存在に気が付いたから。

直接卯月ちゃんの元に訪れるよりはいいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど僕は凛ちゃんの一言で一瞬にして道が消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう僕には新たに"ヒト"と言う居場所を失ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はなんのための生き続けるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Peace



僕はある女の子に出会った。


その子はまるで"彼女"に似ていた。










未央Side

 

 

夏の8月が終わり、秋の9月に入った。

秋と聞くと夏よりは涼しくなると思ってしまうけど、9月はまだ夏の暑さが残っている。

それに雨が降る日が夏より多くなる。

天気予報では秋雨前線が現れ、雨の日が増える見込みと言っていた。

そんな雨の日が続く知らせを聞いていた時、私はとある出来事に出会った。

そのきっかけはしぶりんからメールだ。

 

『ねえ、未央』

 

それはしぶりんが私を名前を呼ぶメールから始まった。

 

『どうしたのしぶりん?』

 

私は何気なく返信をしたのだけど、そしたら"すぐ"に返事が届いた。

いつもなら数時間ぐらい空いて返信するはずのしぶりんが、今回は違っていた。

 

『明日、会える?』

 

『明日?大丈夫だけど..どんなこと?』

 

『メールで話せない』

 

その返事を見た時、違和感を覚えた。

なんか普通ではない。

何か抱えているように見える。

翌日、待ち合わせの場所に事務所にあるカフェテラスに向かうと、背中を向け、椅子に座っているしぶりんの姿が見えた。

一見問題を抱えてなさそうに見え、私はしぶりんにそのまま挨拶をしようとしたら、口が止まってしまった。

 

(....どうしたんだろう?)

 

なんだか空気が重い。

いつもとは違い、どこか悲しく、暗い感情が覆い被っているように見える。

私はしぶりんの状態に困惑してしまったが、さすがに止まってばかりじゃだめだと思い、

私はしぶりんに近づいた。

 

「やっほー、しぶりん!」

 

「....っ!や、やぁ、未央。急に返事を出してごめんね」

 

「いいよ。別に遠慮する仲じゃないでしょ?」

 

私がそう言うと椅子に座った。

なんだかしぶりんの様子がおかしい。

自信と言うものをなくしたかのような様子でいつものしぶりんとは言えない。

 

「それで...しぶりんが私に話したいことって?」

 

「......」

 

私がそう聞くとしぶりんは視線を下に向き、口をつくんだ。

まるで本当に伝えていいのだろうかと迷っているように難しい顔をしていた。

しばらくその様子でいたしぶりんだったけど、言う覚悟を決めたかのように手を握り、硬かった口が開いた。

 

「昨日、”金木"に会ったんだ」

 

「えっ」

 

しぶりんの言葉に一瞬周りの音が消え去ったかのように衝撃が走った。

あの行方不明のはずの金木さんと会ったのだ。

 

「金木さんに会ったって…」

 

「…あいつはもう前とは違う。何もかもが変わっていた」

 

しぶりんの話によれば家に帰ってきたしぶりんがお父さんから『白髪の人がお店にやってきた』と聞き、その後追いかけるように公園に向かうと金木さんが待っていたかのようにベンチに座っていたのだと。

その時会った金木さんの姿は前とは違い白髪で暖かみがなかったと。

 

「それで金木さんはしぶりんになにか言った?」

 

「もちろん話したけど...全く意味がわからない」

 

「え?わからない?」

 

「『僕はみんなを守らないといけない』と言って、何から守るのと聞いたら『凛ちゃんたちを危険な目に遭わせたくない』と理由を伝えてくれなかった」

 

確かにしぶりんの言う通り、金木さんが言ったことはわからない。

別にここは日本だからそんな"物騒"なことはないはずなのだが...

 

「そんな意味わからないことを聞いた私はカッとなって、あいつに...あいつに...」

 

「しぶ...りん?」

 

するとしぶりんは『あいつに』と繰り返すように言葉が進まなくなった。

しぶりんの顔を見ると泣きそうな顔になっていた。

 

「だ、大丈夫..?」

 

「ごめん...未央...私は悪いことをしたんだ...」

 

「悪いこと?」

 

「私は...あいつに『もう二度と現れないで』と...言ったんだ」

 

しぶりんは震える声でいい、涙が流れる目元を手で隠す。

 

「だから...もうあいつは...」

 

「大丈夫だよ、しぶりん!」

 

私は椅子から立ち上がり、しぶりんの所に移動し背中に手を添えた。

 

「金木さんはまた私たちの元に現れるよ!しぶりんに会いにきたのはもう一度会いたいからきたんだと思うよ!」

 

しぶりんを落ち込んだままにさせたくない。

金木さんがしぶりんの前に現れたのは、何か理由があるはずだ。

きっとそれはいつか答えがわかるはず。

 

「ひとまず、しまむーとふみふみに話さな….あ、あと美嘉姉としきにゃんには話さないでおこう!」

 

なにせ消えたはずの人が再び現れたのだから混乱しかねない。

変にみんなに伝えちゃだめだ。

その後しぶりんの様子が落ち着くまで私は横にいた。

今日は私もしぶりんも予定も何もなかったから一時間以上いられた。

そんな時私はあることを考えた。

 

(…ヒデさんにも伝えとこうかな?)

 

私と同じく金木さんを探しているヒデさんに伝えた方がいいのかなと考えたのだ。

そう考えた私だけどそもそもヒデさんの連絡先は知らないし、どこで会えるのかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

そう、ヒデさんとは"いつ"会えるのかわからない。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

私は家の近くにあった図書館から出ていました。

今日は休日で学校はなく、家ではなく図書館で勉強をしていました。

 

(家で勉強だったらなぁ…)

 

私が図書館に出たのは集中力が切れてしまったからです。

それは単に飽きっぽいのではなく、何度も同じ場所で勉強するのが嫌だったかもしれません。

家だと逆に集中ができず、ゆったり時間を過ごしてしまいます。

次はどこにしようと私は考えていると..

 

「やっほ〜♪卯月ちゃん〜♪」

 

 

すると後ろから誰かが私を呼びました。

その声は聞き慣れた女性の声。

誰だろうと後ろに振り向くと"ある人"が立っていました。

 

「し、志希さん!?」

 

「どう?驚いたでしょ〜♪」

 

志希さんはそう言うと「にゃはは」と笑いました。

私が「どうしてここに?」と聞いたのですが、「さぁ、どうしてでしょう〜?」と理由を教えてくれませんでした。志希さんとはしばらく勉強でお会いしていなかったので、とても嬉しかったです。

 

「それで志希さん」

 

「ん?」

 

「どうして私に会いに?」

 

私がそう言うと志希さんは「あーそうだったね」と何か思い出したような仕草をし、

 

「明日、あたしのラボに来ない?」

 

「えっ!?明日ですか!?」

 

「うんっ、正確にはあたしの家だけどね〜♪あ、さすがに学校をサボってきてとかは言わないよ?」

 

明日は学校ですが、放課後は特に予定はありません。

 

「久しぶりに卯月ちゃんとじっくり話したいし、あと同じところでずっと勉強してたら退屈じゃない?」

 

「た、確かにそうですよね...」

 

ちょうど私が思っていたことが志希さんの口に出てきました。

まるで心を読まれているようの感じます。

 

「じゃあ...志希さんのお家に行きます」

 

志希さんは私の答えに「よかった〜♪じゃあ、きまり〜♪」と嬉しそうに喜び、私を抱きしめました。

それで私は明日、志希さんのお家がある20区に行くことになりました。

志希さんのお家に上がるのは初めてです。

そう考えるとなんだか心の底からわくわくしてきました。

私と考え方が大きく違う志希さんのお家は一体どんなんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"危険"が密かに忍び込んでいることを知らずにね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

僕は都内のとある公園にあるベンチに座っていた。

家にじっとしていると体に毒と言うことで外に出て、たどり着いた場所がここだ。

今日は休日なのだけど、公園は静まり返っていた。

おそらくみんなはどこか賑やかな場所にいると思う。

だけど今の僕にはこの静けさが十分だ。

今まで血の気の激しい日々を過ごしていたため、心が静かに安らげる場所が欲しかった。

それは家でもなく図書館でもなく、外の空気を吸える公園が今の自分にぴったりだった。

 

 

そんな時、僕は何気なく周りを見渡すと"ある子"に目を留めた。

一人の女の子が地面に降りていた一羽の鳩を優しく手に乗せ、優しく撫でていた。

年齢はおそらく9、10歳ほどの女の子。

周りの誰もいないせいか僕はその子に視線を向けていた。

 

「…..」

 

その女の子を見ていた僕は、しばらくすると前を見ていられなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

その女の子がまるで”彼女”を見ているかのようにそっくりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と会えないと考えると自然と目元に涙が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

もう僕は彼女の前に現れることができないのか?

 

 

 

 

 

 

 

そう思うとなんだか悲しみが心の奥底から這い上がるように現れる。

 

 

 

 

 

 

ずっと胸の中にしまっていたことが、だんだんと表に出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?お兄さん?」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

顔を上げると遠くにいたはずの女の子が、僕の目の前に立っていた。

 

「......あ、い、いや、な、なんでも....ないよ...」

 

動揺をしてしまった僕は涙をぬぐい、泣いた理由を隠そうとした。

でもその女の子は僕のうろたえる姿に流そうとはせず、

 

「何か"悲しいこと"でもあったの?」

 

「か、"悲しいこと"?」

 

「お兄さんの顔、とても悲しそう」

 

「…」

 

僕はその子に心の中にあった悲しみを隠せなかった。

 

「...うん、そうだね。悲しいことがあったからかな」

 

「そうなんだ!どんな悲しいことなのか聞くね!」

 

そう言うと女の子は僕の隣に座った。

 

「お兄さんが持っている悲しいことって?」

 

「…僕が"会いたい人"がもう会えないからかな」

 

「"会いたい人"と会えない?その人はどんな人?」

 

「その子は笑顔が素敵な優しい女の子。今は高校3年生だよ」

 

「こうこうせい?」

 

「えっと...今は18歳だね」

 

どうやらその女の子は高校を知らなかったみたいだったので、僕は年齢を伝えると『私よりお姉さん!』と驚いた。

 

「お兄さんはなんでその人と会えないの?」

 

「......」

 

僕は思わず口を閉ざしてしまった。

女の子は喰種ではなく人間だ。

僕が彼女と会えない大体の問題は喰種が絡んでしまう。

本当に言っていいのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"別の理由"もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは"人間の時"から密かに感じていた理由だ。

 

 

 

 

 

 

 

「...彼女はきっと忘れていると思うんだ。しばらく離れていたのだから、きっと僕のことは忘れている」

 

彼女は今や世間に大きく知られているトップアイドル。

出会った当初は会える回数が多かったのだが、月日が経つごとにだんだんと離れていった。

それは喰種になってしまったからと言う理由も言えるが、仮に人間のままでも同じく言えるはずだ。

僕は昔から内気な人間だったから、輝き続ける彼女とは正反対。

きっと彼女は....

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん!」

 

するとその女の子は僕の手を握った。

 

「お兄ちゃんが会いたいと気持ちがあれば、そのお姉ちゃんともう一度会えるよ!」

 

「...っ」

 

僕はその女の子の言葉に再び涙を流した。

当たり前のように聞こえてしまう言葉が、今の僕の心に大きく響いている。

その子は『お兄さん、これで涙を拭いて』とポケットからハンカチを取り出し、僕に差し出した。

 

「お兄さんも鳩さんのように優しい気持ちを持っているね!」

 

「鳩..さん?」

 

「鳩さんはみんな優しいの!私がいつもここの公園にくると集まってくるんだ!学校のみんなからは『フンを出す迷惑な鳥』と言うんだけど、私がいつも近寄る鳩さんは優しい心を持っているんだから、そんな迷惑者のような言葉はとっても似合わないよ!」

 

「....ふふ」

 

「ん?どうしたの、お兄ちゃん?」

 

「優しいね、君」

 

僕はその女の子の言葉を聞いて、無意識に笑ってしまった。

それはバカにする意味ではなく、純粋で綺麗な心に微笑ましくなったからだ。

 

「ありがとう!お兄ちゃん!」

 

その子は元気よく僕に伝えた。

僕はあることに気が付いた。

それはその子の隣にいるだけで心か軽く感じることだ。

警戒心と言うものが最初からなかった。

まるで隣にいるだけで傷を負った心を癒すように心地よかったのだ。

 

「お兄さんの名前はなんて言うの?」

 

「僕の名前?僕は金木研。君は?」

 

僕は自然と自分の名前を伝えた。

 

「私は”     “!」

 

「”  ”ちゃんなんだね」

 

その子はベンチから立ち上がり、

 

「もうそろそろお母さんが帰ってくるの!」

 

「そうなんだ。それはよかったね」

 

「またね!お兄ちゃん!また会おうね!」

 

「うん、またね」

 

その子が僕に手を振り、公園から走って出て行った。

 

("  "ちゃんなんだね..)

 

公園に訪れて正解だ。

家にずっといた時よりも明るくなれた。

あの女の子のおかげで、孤独な心に安らぎを感じられた。

僕はベンチから立ち上がり、歩き始めた。

今度はどこに行こうか?

家からそんなに遠くはない場所に行こう。

僕はあの子の暖かさに前向きになった心を持ちながら、公園から静かに立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそんな暖かい心に"冷たい風"がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“終わり”がだんだんと近づいていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Last Supper

今まで一つだったみんなが、



ある夜に起こった出来事のせいで、ばらばらとなってしまう。



まるで聖書に出てきた使徒達のようにね。









卯月Side

 

翌日学校が終わると私は制服のまま、志希さんが住んでいる20区に行きました。

志希さんから聞いたお話によりますと、一人暮らしでアパートに住んでいると聞いたのですが、

メールから送られた地図を頼りに向かうとそこはマンションみたいな立派な建物。

アパートと言うには間違いじゃないかと思ってしまいました。

志希さんが住んでいると思われる部屋のドアに立ち、インターホンを押しました。

そしたらドアがすぐに開き、志希さんが顔を出しました。

 

「こんにちは志希さん」

 

「いらっしゃ〜い♪卯月ちゃん♪」

 

志希さんは私が来たことに嬉しそうに笑い、「待ってたよ」っとハグをしました。

私は「お邪魔します」と靴を脱ぎ、玄関に上がりました。

すると突然志希さんが、

 

「そういえば、卯月ちゃん」

 

「ん?」

 

「何か嫌な匂いはしない?」

 

「えっ、嫌な匂いですか?」

 

志希さんの言葉に頭を傾げてしまいました。

私の鼻からくるのは、ほのかに香る甘い。

それは風で揺られる花びらのように広がり、心を包み込むような甘い香り。

その中から嫌な気分を作るような匂いは感じられません。

 

「うんうん、たまにあたしでも嗅げない匂いがあるからさ〜」

 

「嗅げない匂いですか?それはどんなのですか?」

 

「んーどうだろう。ただ嫌な匂いとしか言えないねー」

 

その心地よい香りの中、全くと言ってもいいほど嫌な匂いを感じることはありません。

それに今鼻に感じる甘い香りは外国人が好むような強い匂いではなく、かすかに香る程度です。

私が「特に嫌な匂いはしませんよ?」と言うと、志希さんは「なら、よかった♪」と満足そうに笑いました。

嬉しくなったせいか志希さんは私の手を強く引っ張り、そのままリビングへと連れ出されました。

 

「ここが志希さんのお部屋なんですね...」

 

「そう、ここがあたしの部屋でもあり、ラボでもあるのだ〜♪」

 

私の部屋のように可愛いぬいぐるみが置いてあり、暖かい色が特徴のある部屋ですが、しかし志希さんのお部屋は壁はコンクリートの張り紙が貼っていて、部屋の内側にはベットがあるのですが、窓側の机にはフラスコや試験管、スポイトなどまさに実験室と例えてもいいほど実験器具が揃えていました。

実験室と聞くと理科室のような好ましくないニオイが浮かぶのですが、志希さんのお部屋は見た目とは裏腹に甘い香りがします。初めてこの部屋に来たせいかとても新鮮感が胸の中に生まれていました。

志希さんの部屋の周りに興味を抱いていた私にベッドの上に座っていた志希さんは、ぽんぽんと肩を叩き「まぁ、座って座って〜♪」と声をかけられ、私は志希さんのベッドの上に座りました。

 

「志希さんはいつもここで実験をするのですか?」

 

「だいたいそうだね♪さすがに人の家に実験したら大変だよね?」

 

「まぁ…確かに」

 

私が考える実験のイメージはさすがに大きく偏っているかもしれませんが、科学者がフラスコにある薬品を間違えて入れ、大爆発を起こしてしまう光景が浮かんでしまいます。さすがに他の家で実験をされたら迷惑なのは間違いありません。

 

「あたしは家に人を呼ばないね。だって家にいないコトがいいんだもん♪」

 

もし私だったらママやパパが心配しますが、一人暮らしの志希さんなら問題ないかもしれません。

 

「例えばフレちゃんのお家だったり、シューコちゃん、あとはカネケンさんのお家とかね」

 

「そうな……えっ?」

 

志希さんが訪れた人の元の中に、一つだけ何かおかしいことがありました。

 

「か、金木さんのお家にですか!?」

 

「うんっ、カネケンさんはあたしと同じく一人暮らしだったからね♪」

 

「もしかして、遊びに..?」

 

「もちろんお泊まりも♪」

 

普通は女の子が男の子の家に勝手に泊りに行くのは私にとっては考えられません。

 

「大丈夫、大丈夫〜。別に卯月ちゃんが考える嫌らしいコトはないから♪」

 

動揺をしていた私を志希さんはにゃははっと笑いながらポンポンと私の肩を叩きました。

 

「.....」

 

でも私は志希さんが金木さんのことを言ったせいか、気分が上がらない。

 

「どうしたの、卯月ちゃん?」

 

「....また、金木さんに会えますでしょうか?」

 

ここ最近、金木さんと思われる人が私の近くに現れています。

その人の容姿は白髪だと言われますが、奈緒ちゃんによると金木さんだと嘘もなく伝えてくれました。

金木さんは今は行方不明の男性で、一体どうしていなくなったのかわからない。

それに金木さんは喰種ではないかと疑われています。

もし金木さんが本当に喰種なら、再び会ったら私は殺されるかもしれない。

本当に金木さんに会っていいのかわからない。

なんだかこの悩みが受験勉強のプレッシャーよりも大きいように感じる。

 

 

 

 

 

 

そんな時でした。

 

 

 

 

 

 

 

志希さんは何も言わずに私を抱きしめました。

 

「っ!」

 

「大丈夫」

 

志希さんは私に耳元でそう言うとぎゅっと抱きしめ、私の頭を優しく撫でました。

 

「カネケンさんはまた卯月ちゃんの元に必ず帰ってくるよ」

 

陽気で能天気だった志希さんは先ほどとは違い、落ち着いた声でささやく。

前に楓さんからも同じような会話をして、勇気付けられている、私。

そう考えると私はここ最近、心が疲れているんだ。

金木さんのことを考えすぎなんだ。

 

「だから、気分転換に一緒のお菓子でも食べよ〜♪」

 

志希さんはにゃははっと笑い、キッチンに向かいました。

すぐに何かを持ってくるのかなと考えていたら、キッチンにいた志希さんは棚の中を見て「ありゃ?」と首を傾げました。

 

「どうしたのですか?」

 

「家にインスタント珈琲以外なんもないや」

 

「えっ、ないのですか!?」

 

「うん、冷蔵庫の中も空っぽだ〜♪」

 

志希さんはまったく焦ることもショックもなく、にゃははっと笑いました。

 

「だから外で買ってくるね〜♪」

 

「え、ま、待ってください!志希さん!」

 

志希さんは私の言葉を最後まで聞かず財布と携帯を手に取り、部屋から飛びだして行きました。

これが志希さんが持つ失踪癖だと思います。

 

(...志希さんらしいですね)

 

でも考えてみれば、今いるのは志希さんのお家。

志希さんは帰って来てくれるはず。

私は気持ちを切り替え、カバンから教材と筆箱を取り出し、勉強をし始めました。

今は秋が始まり、受験勉強をさらに本格的に取り組まなければなりません。

私が受験する科目は主に文系教科ですので、志希さんが教えられるところはないかもしれません。

だけど一人で勉強するよりは気分が楽になります。

受験勉強は一人でやるものだと言われますが、私は一人でずっとやっていくと心に負担がのしかかります。

ですので私は志希さんは横にいるだけでも心強いです。

 

(.......)

 

開始してから約20分。

私の体に異変が起こりました。

それはだんだんと睡魔がやってきたのです。

別に寝不足でもないのに勝手にやってくる居眠り。

それは心の甘さなのか、それとも無意識なのか私にはわからない。

 

(...ね、寝ちゃだめだ!!)

 

私は手で顔をパンパンと叩き、意識を取り戻させます。

だけど再び眠気が襲いかかり、また顔を叩く作業を繰り返し、そしてついに私は無意識のうちに眠ってしまいしました。

 

 

 

 

 

 

 

受験日が近づいているにも関わらず睡魔に負けてしまった、私。

 

 

 

 

 

私が目覚めた時にはもしかしたら志希さんが起こしてくれるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に漂う甘い香りのように考えていた、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次、目覚めた時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪夢を見ることになるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

20区にある小さな喫茶店あんていく。

太陽がだんだんと沈み始め、あたりが暗くなり始めた夕方。

今日はお店が開いたときからお客さんの姿はなかった。

いつもなら来店と共に客が入ってくるのだが、今日は違っていた。

だが店長である芳村は何もおかしく感じず、いつも通り店内に立っていた。

しんっと静まる店内に、店のドアがからりっと音を立てて開いた。

 

「いらっしゃいませ」

 

芳村がそう言うと微笑んで出迎えた。

 

「こんばんわ」

 

訪れたのはスーツを着た背高い男性。

芳村は彼を見てどこか懐かしむように見ていた。

芳村にとって、”最後の来客"であったからだ。

 

 



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崩始





今まで普通だった日常。





それが突然終わりを告げるだなんて







プロデューサーSide

 

日が沈みかけてていた夕方。

私はある喫茶店に足を踏み入れた。

 

(ここが....あんていく)

 

仕事終わりに私は20区に足を運び、ここにたどり着いた。

店内はコーヒーの香りが雰囲気を作り、喫茶店というにはふさわしい場所であった。

 

「どうぞ、好きな席にお座りください」

 

店内には初老の男性が私を笑顔で迎えてくれた。

おそらく彼はお店の店長だろう。

私はカウンター席に座り、メニューを手に取った。

メニュー表はいたってシンプルで一枚のプラスチック製のものであり、書かれているメニューは多くない。

その数あるメニューの中、私はあるものに目を向けた。

 

「オリジナルブレンド......?」

 

メニューの中で一番上に書かれた商品。

どうやらそのメニューはこのお店の看板メニューらしい。

 

「ええ、当店のおすすめです」

 

「そうなんですか。じゃあ、オリジナルブレンドのコーヒーをお願いします」

 

彼は「かしこまりました」と言うとコーヒーミルを棚から出し、コーヒー豆を入れた。私は初めからコーヒーポットなどで作れていたのかと考えていたのだが、

私はあることを思い出し、彼に声をかけた。

 

「あのすみません」

 

「どうなさいましたか?」

 

「少しお聞きしたいことがありますが」

 

「お聞きしたいこと?」

 

彼は私の言葉に頭を傾げた。

 

「以前高垣さんがここで働いていたのは本当でしょうか?」

 

それは以前346プロダクションに訪れた作家の高槻泉さんから耳にした情報。

私が今日あんていくに訪れた一番理由がそれだ。

 

「ええ、そうですよ」

 

彼は何も隠すことなく口にした。

 

「楓ちゃんは前までここで働いていました。今はご存知の通り、アイドルとして活躍してます」

 

この話をするまで私は彼はこの話題を振るかどうか疑問を抱いた。

なにせ現在トップアイドルであり、輝かしい存在である彼女がかつて働いていた場所なのだから、もしかしたら彼は知らぬ顔で「いえ、知りません」と言うと私は考えていた。

 

「お待たせしました」

 

ふと我に帰ると私の前に一杯のコーヒーが置かれていた。豆をコーヒーミルでする工程が気がつけばもうコーヒーカップに淹れられていた。おそらく私が考えすぎていたようだ。

 

(あれ..?なぜもう一つ?)

 

私の隣にもう一つコーヒーが置かれていた。だれか来るのだろうかと考えていると、

 

「隣に座ってもよろしいでしょうか?」

 

「隣にですか?....ええ、構いません」

 

周りを見渡す限り、私以外お客さんの姿はない。

別に私は嫌でもなく、彼の言葉に了承をした。

そう耳にした彼は私の隣の席に座った。

 

「ところでお仕事は何をなさっていますか?」

 

「お仕事ですか?私は346プロダクションでアイドルをプロデュースをしておりまして、高垣さんとは何度かお会いする機会があります」

 

「ああ、だから楓ちゃんのことを聞いたのですか。しかし楓ちゃん自身をプロデュースをしているわけではないんですね」

 

高垣さんは別の方がプロデュースをしているのだが、事務所内では何度かお会いすることがあり、今では知人以上の関係になっている。

 

「それで高垣さんはどんな方だったのでしょうか?」

 

「楓ちゃんは真面目でいい子でした。彼女がここに働き始めたきっかけは今でも思い出しますよ」

 

「きっかけ?」

 

彼はそう言うと懐かしそうに微笑んだ。

 

「あの時の楓ちゃんは確か...18歳だったね。今と比べると自信がなくてあの頃の楓ちゃんはまだ上京したばかりで、顔には不安がいっぱいだったよ」

 

高垣さんは以前からアイドルをしていたのではなく、モデルの仕事をしていた。しかしモデルをしたとは言えどアイドルになるまでは知名度は低く、いわゆる下積み時代と言ってもいいだろう。

 

「たまたま私のお店に訪れた楓ちゃんは私が淹れたコーヒーを飲んで、涙を静かに流して感動をしたんだよ。きっと上京して生まれた辛いことが溢れたんだ。何も知らない土地で女の子一人住むのは辛いことだからね。それで私は彼女に「ここに働いてみる?」と勧めるたら、働くことになりましたね」

 

「そうなんですか....だから楓さんはここで働いていたのですね」

 

「ええ、ところで話が変わりますが、なぜ楓ちゃんがここで働いていたことをご存知だったのでしょうか?」

 

「実は作家の高槻泉さんから耳にしまして」

 

「高槻泉?....ああ、そうなんですね。実は楓ちゃんがここに働いていたお話をするには滅多にないです」

 

「滅多にないのですか?」

 

「ええ、意外と知られていないお話になっていますね」

 

今の時代ならSNS内では特定されることがあるのだが、なぜ高垣さんの働いていた場所が話題に上がらないのかわからない。

 

「それで現在の高垣さんについてどう思われますか」

 

「楓ちゃんは立派な人です。テレビで見る彼女は高嶺の花のように見えますが、私は彼女とは特別に接するのではなく普通に接します。ある人は彼女をただの人と扱わずに特別な存在と捉えるかもしれません。しかし彼女は普通の女性と変わらない一面もあります。なので私は彼女がお店に訪れるたびに決して特別な扱うなどしません」

 

ここ最近では芸能人を一人の人として扱うことなく、プライバシーや人権を侵害する事例も何度か耳にする。

そう考えていると彼は「それよりもコーヒーが冷める前にお召し上がりください」と伝え、私はコーヒーを口にした。

 

「おいしいですね、コーヒー」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

いつも私はインスタントコーヒーや缶コーヒーなどの本格的なコーヒーとはかけ離れたものを取っていたのだが、今こうして口にしたコーヒーは非常に味わい深く、舌に染み込んでいく。ただのインスタントコーヒーが物足りなくなるほど美味しい。

 

「何か豆にこだわりを持っているのでしょうか?」

 

「いえ、けして特別な豆は使ってはいません」

 

「こだわっていない?」

 

「ええ、私が使っている豆は手軽に購入できる豆を使用しております。よく高級な豆や高品質の豆を使っているのではないかと声をかけられるお客さんがいますが、私は一切そのような豆を使用しておりません。私はその豆の本来の味をより表すために淹れ方や砕き具合をこだわっています。これはアイドルもそうじゃないでしょうか?」

 

彼の言う通りだ。

私はプロデューサーを務めており、スカウトの時やお仕事の時が一番重要である。

性格や容姿だけでは判断をせず、一人一人に持つ良いところを見つけ出す。

そう考えると初代シンデレラプロジェクトがふと頭に思い出す。あの時はいくつかの困難やすれ違いもあった。だがそれをどう乗り越えられるかは自分と彼女たち次第だ。

 

「実は今日でお店を閉めることになってしまいまして」

 

「え、今日が最後ですか?」

 

彼の言葉に私は驚いてしまった。

この味わい深いコーヒーがもう口にすることができないとなると、非常に惜しみ深い。

 

「でも安心してください」

 

「?」

 

「楓ちゃんの淹れたコーヒーも美味しいですよ。彼女は他の人よりも美味しいコーヒーを出しますので、もしお時間があれば頼んだらどうでしょうか?」

 

高垣さんはここあんていくに働いた経験があるせいか、コーヒーに対して特にこだわりがある。それはかつてここに立ち、お客さんに提供をしていたから学んだ腕だと。

 

「ありがとうございます。今度高垣さんにお会いしましたらお声をかけます。ではお会計を....」

 

私は財布を取り出そうとしたその時だった。

 

「いえ、お代はけっこうです」

 

「え?」

 

「いいのですよ。こうしてお話ができるだけでも私は満足です...あと」

 

「?」

 

「楓ちゃんに渡してもらいたいものがありまして、少しお待ちください」

 

そう言うと彼は棚の中からあるものを取り出した。

 

「こちらを楓ちゃんに渡してください」

 

それは白いコーヒーカップと高垣さんのサインが書かれた紅葉の形をしたうちわ。

特にそのうちわは私には見覚えがあった。

それは去年new generationsのミニライブの時だ。

同じく高垣さんとお仕事になり、その時楽屋にいた高垣さんは積み重なったうちわを一つ一つサインを書いていた。

 

「このうちわは楓ちゃんがお仕事終わりにお店に訪ねて来たときにもらいました。その時の彼女は初めてステージに立った時のように嬉しい表情でしたよ」

 

彼はそう言うとうちわとコーヒーカップを紙袋に入れ、私に渡してくれた。

 

「またどこかで会えましたら、声をかけます」

 

「ありがとうございます。お気をつけてください」

 

私は席から立ち上がり、あんていくから去っていった。

私は東京に何年か住んでいるのだが、まだ知らないところがあると再認識をした。まだ知らない場所が都内にいくつかある。私は時間があればそこに訪れようと胸の中に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ店長がこれを私に渡したのか、数時間後にわかってしまう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

日が沈み、夜空が現れつつあった頃。

私は今日のお仕事が終わり、346プロダクションから去ろうとしていた。新作の本を手に取りこのまま家に着き、じっくりと読めると考えていた。

すると私を担当するプロデューサーさんが「文香!」と急いで駆けつけました。

 

「どうしたのですか?」

 

「今日は俺が手配したホテルで泊まってくれ」

 

「えっ?」

 

プロデューサーさんはそう言うと携帯を取り出し、ホテルまでの地図を見せました

そのまま家に向かおうとしたのですが、なぜ私がホテルに止まらなければならないのかわかりません。

 

「なぜ私がホテルに?」

 

「もしかして、ニュースを見ていないのか?」

 

「ニュース?」

 

プロデューサーさんは携帯からとあるニュースを見せました。それを見た私は静かに驚いてしまいました。それは私が住んでいる区には戻れないニュースでした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

未央Side

 

夜の渋谷。

夜の街は綺麗な光と車と人の声がガヤガヤと賑わっていた。街に行き交う多くの人は仕事や学校から帰っている人。その一人の私が街に歩いていた。

 

(結局金木さんにつながる情報は無しか...)

 

お仕事終わりにぶらりと一人訪れた、私。

本当ならば帰り道には地上に上がることのない渋谷。

だけど私は答えのない問題を抱えていたのか、地下から地上へと上がっていった。

今の所、しぶりんから聞いた話以外手がかりはなし。

今まで私たちの近くに現れた白髪の男性は、赤の他人ではなく金木さんだとしぶりんから耳にした。あの行方不明だった金木さんが生きていたことに私は嬉しく感じたのだけど、新たな問題が現れた。それは金木さんの口からよくわからない話が出たのだ。しぶりんから聞いたことによると、『僕はみんなを守らないといけない』と金木さんは言った。いくら東京や日本とはいえど、私たちを守るほど危ないことがあるのか疑問が生まれる。そのあとしぶりんは何から守るの?と金木さんに聞いたのだけど、金木さんの口からは何も教えてもらっていなかった。

直接私が本人に話を聞くにはいいかもしれない。だけど金木さんは神出鬼没と言ってもいいほどいつ現れるのかわからない。

そんな、もやもやとした感情を胸の中に抱えながら歩いていた、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

(.....っ?)

 

私は立ち止まってしまった。

多くの人が行き交うスクランブル交差点である人が私の横に通った瞬間、何かを感じた。

その感覚は前にも同じく感じた。

 

(....まさか)

 

私は人混みの中、自分が歩いていた逆の方向に走っていった。

 

 

 

チャンスだ。

 

 

 

これはチャンスだ。

 

 

 

もう一度会えるチャンスだ。

 

 

 

私はそんな急かされた感情で人混みの中に進んでいく。

何度か誰かにぶつかり、舌打ちされた音は耳にした。だけど今の私には関係ない。もう一度彼に会えるのだからそんなことで気にしたら、前になんか進めない。

しばらく追いかけた先を進んでいると、ある男性が歩いていた。

多くの人が行き交う中で私はその人をすぐに見つけることができた。

私が見ていた男性はしぶりんが言っていた通り、白髪の人だ。

一目だと知らない男性だと思ってしまうけど、その人の顔を見ると見慣れ顔だった。

 

「...金木さん?」

 

私は呟くように言うと、タイミングよく白髪の人が止まった。

私の声に気が付いて止まったにしては考えにくかったが、止まったおかげで追いつくことができた。

私が声をかけようとしたその時、

 

「....!」

 

するとその人はあるものを見て、大きく目を開いて静かに驚いた顔になった。

一体なんだろうと思い、私はその人が見ている先を見た。

見ていたのはビルにある大型ビジョン。

いつもコマーシャルとか天気予報を表示するのだけど、今は違った。

 

「....え?」

 

映されていた映像に私は言葉を失った。

ビジョンにはニュース速報が放送されていて、とある場所を映していた。

中継で映されていた建物は、かつて金木さんが働いていた場所でもあり、私たちが行き来していた喫茶店あんていくが映っていた。

 

 

 

 

壊れ始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

日常が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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檻の中の卯




怖い





目が覚めたとき、世界が変わってしまったんだ。









美嘉Side

 

今日のお仕事が終わり、アタシは事務所の最寄り駅にいた。

それにしても駅が混んでいる。

どうやら先ほど速報で入った20区の封鎖が原因だと思われる。アタシは住んでいる場所は埼玉だから問題はなかったけど、20区に住んでいる同じアイドル達は家には帰れず、それぞれのプロデューサーに対応をしてもらっている。

そういえば先ほど雨が降るって携帯の通知がきた。

今日は雨が降らないと今朝のテレビで聞いたのだけど、突然降り出すのは最悪。

なにせ傘を持っていなかったのだから。

そんな嫌な気分を抱えていたアタシに突然ケータイがなった。

 

(ん..?)

 

画面を見ると志希からの電話だった。

いつもならメールが多いのだけど、いきなり電話をかけるには珍しい。

 

「志希?」

 

アタシが電話に出ると、10秒ほど何も聞こえなかった。

普通なら志希は「やっほー♪」などどこか軽い返事をするのだが、その時は違った。

 

「やぁ...美嘉ちゃん」

 

しばらく待つと志希の声がやっと聞こえた。

その声はいつもより明るさがなく、まるで何かに怯えるように震えていた。

 

「どうしたの志希?」

 

「卯月ちゃんは今...そこにいる?」

 

「卯月?いや、アタシの元にいないよ?卯月って確か志希の家にいたんじゃ」

 

「.....」

 

アタシがそう言うと、電話からは静かな空気が聞こえる。

そもそも卯月は志希の元ににいたはずだ。

今日の朝、志希からアタシに『今日は卯月ちゃんが家にやってくるんだ♪』とメールで送ったのだから、さすがにほかの場所に行ったなんて考えられない。

 

「急に卯月を探してどうしたの?」

 

「...実はーーーーー」

 

志希の震えた声から出た話。

 

 

 

 

 

 

 

それを耳にしたアタシはーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーー嘘でしょ!?」

 

 

耳に疑うような衝撃が志希の口から耳にした。

周囲がいる駅の中で、私は何も気にせず声を上げてしまった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

ビルのスクリーンに映っていたニュースを見て静かに驚いていた、私。

何気なく通っていた喫茶店が、喰種が経営していたとニュースを耳にした。でも今の私にはそのニュースよりも重要なことがあった。

 

(..行かないと!)

 

数メートル先に私たちの近くに現れた白髪の人が立っていたのだ。その人は赤の他人ではなく、ある人に似ていた。

今こちらに全く気がついておらず、スクリーンに流れているニュースに驚いていた。

私は白髪の人の近づき、その人の手を掴んだ。

 

「っ!!」

 

その人は私の方に顔を向け、大きく目を開いた。

 

「か、金木さん!!」

 

私はその人の名を言った。

私には確信があった。

その人は知らない人ではなく、私がかつて出会った人であると。

 

「み...未央...ちゃん?」

 

その人から出た声は、あの時当たり前に聞けた金木さんの声。

 

 

 

 

 

 

 

ああ、懐かしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

金木さんの声だ。

 

 

 

 

 

 

この声が再び聞けてよかった。

 

 

 

 

 

 

 

「今までどこにいたんですか!?」

 

私は涙を込み上げ、彼をまっすぐと見る。

周りなんて気にしない。

金木さんは私の瞳を数十秒間なにも喋らなかった。

そしてどこか悲しそうな目をし、

 

「...ごめん、未央ちゃん」

 

金木さんがそう言うと、私の手を振り払った。

私は金木さんの行動に呆然してしまった。

頭が回らず、突然何が起きたのかわからなかった。

私が気がつくと足を挫けたように倒れた。

 

「待ってっ!!お願い!!」

 

私が金木さんに呼び止めようとしたのだが、もう遅かった。金木さんの足は私が追いかけられないほど速かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は逃してしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度会えた彼に

 

 

 

 

 

 

 

 

私は涙をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街の真ん中で一人涙をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またあの人を失ってしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

志希Side

 

 

私が美嘉ちゃんに連絡をする前の話。

あたしはお菓子を買いに卯月ちゃんを家に残し、外に出かけていた。

今日はなぜか20区内のお店はなぜか全て閉まっていた。

20区にあるスーパーや年中無休であるはずのコンビニも扉が閉まっていて、営業はしていなかった。

それで私は隣の区に行くことになってしまった。

でもいつもどこかに失踪しているせいかもしくはレッスンのおかげかそんなに疲れることなく、ウキウキしながらお菓子を選び家に帰っていった。

 

(ん?)

 

するとちょうど20区に向かう道の先に、いくつかの車が道を塞ぐように止まっていた。

 

(なんだろう?)

 

その車をよく見るとCCGと書かれていて、銃を持った人たちが何人かいた。あたしがそのまま進もうとすると一人の男性が「そこの君」と呼び止めた。

 

「あれー?行けないの?」

 

「そうだ。今20区内は厳重警戒が入った」

 

「...え?なんで?」

 

捜査官の言葉に陽気だった私はだんだんと不安が現れていく。

 

「今、喰種が20区に大量に現れている。20区にいた一般人は皆退散している」

 

「あー....そう...なんだ」

 

少し硬くなった口で話したら、嫌なことが頭に上がった。

 

(ま、まさか....卯月は外に出ているはずだよね..?)

 

あたしは携帯を開き、卯月ちゃんに連絡をした。

電話とメールを何度もしたのだけど...

 

(...あれ?)

 

メールをしても、電話をしても一切連絡が繋がらない。

胸の奥底から段々と不安が大きくなり始めた。あたしの不安を抱えた顔を見た捜査官の一人が異変を感じ。

 

「どうしたんだ?」

 

「取り残されているかも..あたしの家に....」

 

「取り残されてる!?場所はどこだ!?」

 

あたしはケータイから地図を表示し20区にある自分が住んでいるマンションに指を指すと、捜査官は「なんてこった...」と顔は険しくなった。

 

「そこは一番危ない場所だ。すぐに救出に向かえない」

 

「向かえないって...!お願いっ!!」

 

「すまない。今すぐ助けに行くことができない」

 

あたしが何度も捜査官に頼んだのだけど、すぐには助けることができないと何度も同じ言葉を口返していた。

あたしは買ってきたお菓子を地面に下ろし、頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

あたしはとんでもないミスを犯してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさに薬品の調合に失敗し危険な薬品ができたように大きな過ちを犯してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

卯月ちゃんをあたしの家がある20区に置いてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

チクタクと針の音がなる部屋。

寝ていた私はその音に徐々に意識を取り戻し始めた。

 

「...」

 

日が沈んでしまったかの部屋は真っ暗で、窓からは街灯の明かりが差しかかる。

 

(....なんだろう)

 

静まる部屋とは違い、何か騒がしい。

それは工事の音より音が激しく、人々がワイワイと騒ぐよりもなんだかうるさい。

私はなんだろうと窓に視線を向けた。

そしたら窓に赤い液体は張り付いていた。

 

「ひぃ!!」

 

それを見た私は眠気が消え、恐怖が現れた。

部屋の窓に赤い血しぶきがあったのだ。

私が寝る前には綺麗だった窓が、血に染まっていた。

血しぶきの先を見ると何人のかの人が戦っていて、倒れている人があちらこちらに地面に倒れていた。

よく耳にすると悲鳴や断末魔、そして銃の発砲音が聞こえる。

 

(な....何この音..?)

 

悪夢を見ているみたい。

寝る前は穏やかで静かな場所だった20区が、まるでどこかの国の戦争の地に来たかのように変わってしまった。

 

(に、逃げなきゃ..っ!)

 

恐怖心に駆られた私はすぐに立ち上がり、外に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも怖くてそのまま家に出てしまった、私

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も持たず外に行ってしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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alone




死にたくはない





ひとりにしないで






楓Side

 

 

夜の居酒屋。

 

「お誘いをしてくださってありがとうございます」

 

「いえいえ、私一人でお酒を飲むなんて心寂しいじゃないの」

 

瑞樹さんのお誘いで行きつけの居酒屋に訪れていました。

本当ならば今日あんていくに訪れる予定でした。

しかし芳村さんは「今日はお休だよ」と言われてしまい、来ることができませんでした。

あんていくが臨時休業をするのは珍しいです。

 

「ほら、今やっている番組みたいに元気にしなくちゃ!」

 

「本当ですね」

 

居酒屋に置かれていたテレビに視線を向けた私たち。

今やっていたのはゴールデンタイムのバライティ番組。

ここ最近巷で話題の番組で、視聴者からおもしろいと言うことを耳にします。

その番組を語っているうちに私たちはお酒が進み、さらに会話が弾む。

お酒は私にとって切っても切り離せない存在です。

普段言葉を伝えることが苦手な私を解放してくれるように口数が益々増えていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー速報です」

 

するとテレビに流れていたバライティー番組が急遽ニュースへと変わりました。

 

「あら、せっかく面白い場面だったのに」

 

「どうしたのでしょうか?」

 

いつも速報ニュースなら画面の上に字幕として出るのですが、今回は番組がガラリと変わりました。

それほど重要なニュースでしょうか?

 

「20区は大規模な警戒網が張られ、現在立ち入り禁止区域となって」

 

 

 

 

 

 

『対象は20区にある喫茶店で、"喰種(グール)"の巣窟(そうくつ)である可能性がーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

「このキャスターくん少し声が慌ててるわね。楓ちゃんもそう思わない?」

 

「.....」

 

「楓ちゃん?」

 

私はテレビのキャスターが伝えた言葉に震えていた。

生中継で映されていたのは、20区にある喫茶店。

アルコールが頭に回っているはずなのに酔いが覚めたようにはっきりと目に映り、恐怖が差し迫るかのように震え始めた。

中継で映されている場所は知らない所ではなく、かつて私がアイドルになる前に通っていた見慣れた景色。

私がアイドルになる前まで働いていた喫茶店がある。

そのお店の名前はあんていく。

 

「う....嘘ですよね...?」

 

「か、楓ちゃん!?どうしたの!?」

 

「う、嘘ですよね....?嘘、うそ、うそだ、な、なんで...なんで」

 

息が荒れ始める。

その同時に涙が目から溢れてる。

あまりにも信じられない。

これが夢であってほしい。

現実ではなく、夢の中の出来事であってほしい。

 

 

壊れ始める。

 

 

私の思い出の場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

その場所が崩壊しようしていたのだ。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

永近Side

 

20区 CCG総司令部。

現在20区では一般人は退避され、いるのはCCG捜査官と喰種(グール)だけだ。

しかしCCGの中に一人特殊な人物がいた。

その人物の名は永近英良(ながちかひでよし)

彼は正式にはCCG捜査官ではなく、捜査官補佐としてCCGの元にいる。

本来CCGは一般人からスカウトすることないのだが、丸手特等は永近の才能を見抜きスカウトをした。

 

「なんだと!?」

 

すると司令部に何やら動揺が走っていた。

なんだろうかと疑問を感じた永近は耳を傾けた。

その捜査官の驚き方は損害な被害を受けた情報ではなく、予想外な出来事に驚いたと言うには等しいほどの口調であった。

 

「島村卯月が20区内にいるだとっ!?」

 

今司令部に入った情報は被害の報告ではなく、まさかのアイドルの島村卯月がいると言う情報が入った。

 

「それは本当か!?」

 

「ええ....同じくアイドルの一ノ瀬志希からです。彼女曰く、自宅にいるのではないかと聞いています。彼女の自宅は現在、激戦区です」

 

(おいおい....嘘だろ)

 

島村卯月は346プロダクションに所属しているアイドルで、現在大学受験のため活動を休止している。

一般人が20区に残されているというのは仮にあるかもしれないが、彼らが彼女を大きく取り上げたのは理由があった。

それは彼女が所属している346プロダクションであった。

通常は約1週間前には計画を346プロに伝えるのだが、今回の作戦は何より最重要機密として作戦前ギリギリまで報告をしていないのだ。

 

「絶対に死なせるな!特に346に知られたらまずい!」

 

司令部内は今すぐ彼女を確保するようにと緊迫した空気が現れた。島村卯月が20区に取り残されたという事実を知られるのは確実であるが、もし仮に島村卯月が作戦中に死亡してしまえば、世間からさらに批判を受けるのは間違いない。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

プロデューサーSide

 

 

私が20区に出た瞬間だった。

喰種捜査官が大量に現れ、20区へ続き道を塞いだ。

 

(何が起きている..?)

 

装甲車などが大量に20区内に入り、そして武装した捜査官がゲートを設置した。

明らかに異様な光景だ。

そもそもCCGが作戦を実行するなど耳にしていない。

異様な光景に動揺していた私に持っていた電話が入った。

私が電話に出ると 、

 

「プロデューサーさん!」

 

私にかけてきたのは、事務員の千川さんだった。

 

「今、20区方面に多くの喰種捜査官が向かっているのですが..」

 

「20区は現在CCGによって厳重警戒区域になりました」

 

「今って、ど、どういうことですか!?」

 

本来なら都内に大規模な作戦が行う約一週間前には346プロダクションに連絡が入ってくるのだが、今回は事前にも知らされずに作戦が執行されたのだ。

 

「つい先ほどCCGから連絡が入ったんですよ。喰種捜査官から『今回は最重要なため、最後までお伝えすることができませんでした』と焦った様子おっしゃっていました」

 

直前まで報告しないとなると今回はただの作戦ではない。

 

「20区に住んでいるアイドルの皆さんにはそれぞれ対応を急がせていますが..」

 

千川さんの声の先には慌ただしく怒号に似た声が聞こえる。おそらく予期しない出来事に対応に追われているとわかる。

 

「それで今回の作戦はなんでしょうか?」

 

「今回の目的は20区内にある喫茶店だそうです」

 

「喫茶店?」

 

「そのお店の名は“あんていく”」

 

「っ!?」

 

美城常務から聞いた喫茶店の名前に私は背筋が凍った。

なぜなら私はつい先ほどそこに訪れていたのだ。

 

「その喫茶店にあのアオギリの樹と関係のある喰種がやっていたらしく、その喰種は過去に多くの人を殺害したそうで...」

 

「....」

 

「プロデューサーさん?」

 

「あ、い、いえ..あまりにもひどいお話で」

 

私がつい口を閉ざしてしまった理由はその話ではなかった。

私が手にしている袋。

それはあんていくの店長から頂いたものだった。

まさかあの人がCCGのターゲットなのか?

 

「そうですよね..まさか喰種がお店を経営してるとは考えられませんね....」

 

私はCCGが攻撃対象であるあんていくに訪れていた事実を隠しながら話した。

 

 

 

 

 

でも衝撃はすぐに消えることなく、ずっと胸の中に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私には疑問があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ彼は高垣さんをあの喫茶店で働かせていたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女を喰種が働いている喫茶店に

 

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

卯月Side

 

一歩一歩地面に歩く私。

何も持たずに飛び出してしまった。

大通りには戦闘が行われ、光が届かない路地裏に隠れていた。逃げる途中私は足を挫けてしまって長く歩くことができない。

平和だった東京がいつの間にか戦争の地に変わった。

 

 

 

 

 

 

耳を済ませば銃の発砲音

 

 

 

 

 

 

跡形なく倒れている死体

 

 

 

 

 

 

誰なのかわからない切断された腕

 

 

 

 

 

 

 

鬼のように恐ろしいマスク

 

 

 

 

 

 

 

 

そして感情をおかしくさせる血の匂い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怖い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怖い

 

 

 

 

 

 

私は暗い路地裏にあった鉄のゴミ箱の横に見つからないように座った。

 

 

 

 

 

 

 

座った瞬間、不安と恐怖がますますと頭に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はここで死んじゃうのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰にも見られず一人で死ぬ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パパとママより先に死ぬなんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人で死ぬなんて嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私にはアイドルという夢を掴んだのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今過ごしている場所はいつ死ぬかわからない怖い場所

 

 

 

 

 

 

 

助けを求めても誰もこない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胸の中で助けてと言うしかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私一人で死ぬは嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人にしないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卯月ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 

すると誰かが私の名前を呼んだ。

振り向くと道路側に一人誰かが立っていた。

逆光で誰なのかわからない。

でもその声はどこか懐かしい。

久しぶりに聞いた声。

 

 

 

 

それはまるでーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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My dear prince


私が一人だった時、彼が再び私の前に現れてたんだ。



その人はまるで王子様みたいだった。








卯月Side

 

 

「だ....れ..?」

 

私は小さな声でその人に声をかけた。

街灯の逆光で見えない。

私の呼びかけに応じたのかその人が一歩前に進んだ。

その人が私に近づくと姿がはっきりと見えた。

 

「っ!!」

 

その姿を見た私は胸の中で消えていた恐怖を再び現した。

黒いマスクに歯茎がむき出し、赤く光る目。

道で倒れていた遺体と同じ怖いマスクだ。

 

「こ、来ないで...」

 

私は声を震わせながら足を引きずりながら後ろに進む。

必死に逃げてきて生まれた疲れが私の体を重くさせる。

だけど今は生きるか死ぬかの状況。

その化け物は私に近づく。

もしかしたら私を殺すかもしれない。

足がうまく使えない今、私の腕で体を後ろに動かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーだけど

 

 

 

 

 

 

「....っ!!」

 

すると後ろに進んでいた私に硬い壁が動きと止めた。

背中から伝わる壁の冷たい温度。

それを感じた瞬間、絶望を感じてしまった。

もう逃げる場所ない。

止まることなく私に近づくバケモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、

 

 

 

 

 

 

 

私は死ぬんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ないで....来ないでっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

必死に叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

私は死にたくない

 

 

 

 

 

 

 

まだ生きたい

 

 

 

 

 

 

まだ私にはたくさんやることがあるんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きたいと言う望みを抱えながら死ぬ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなの、嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....?」

 

しばらくしても、私の身に何も起こらなかった。

絞め殺されることや刃物で殺傷されることはなく、私の肌に触れることはなかった。

一体何が起きたのだろうかとゆっくりと目を開くと、その人は私の前に片膝をつきマスクを外していた。

その人の顔を見ると、私はハッと驚いてしまった。

 

「か、か......ねき....さん?」

 

私が口にした名前。

その人は私より2つ上の男性でお友達です。

私がアイドルになれると知った当日、凛ちゃんのお家のお花屋さんで出会った。

その出会いがきっかけで仲がよくなり、たくさん思い出を作りました。

だけどある日突然、私の前から消えてしまったんだ。

それでどうしてかはわからず日々を過ごしてしまった。

その金木さんが私の前に現れていたのだ。

 

「...久しぶり」

 

金木さんは目を細め、寂しそうに微笑んだ。

肌と髪は真っ白な雪のように白く、爪は赤黒く染まっていた。

一見、見知らぬ人だと感じてしまうが、瞳と声は間違いなく金木さんだった。

 

「か、か...金木...さんっ!!」

 

私はすぐに金木さんの胸に飛び込んだ。

 

「金木さん...なんで急にいなくなったんですか....」

 

安心感を得た瞬間、私は解放されたかのようにいっぱい泣いた。

一人でいるのが怖かったこともあるし、何より金木さんにこうして再び会えたのが嬉しかった。

今まで行方不明だった彼と会えたんだ。

 

「....ごめんね、卯月ちゃん」

 

私の頭を撫でた。

金木さんの手は肌の色とは違い暖かい。

真っ白で冷たい色をした肌から伝わる温度が心地いい。

ずっとこのままして欲しいほど。

 

「私....怖かった...怖かったんです....街が突然変わってしまって...」

 

「うん...」

 

「それで私は一人で...死ぬんじゃないかなって怖かった....だけど、まさかここで金木さんに会えるだなんて...」

 

「...急にいなくなってごめん」

 

片耳から聞こえる金木さんの声は久しぶりに聞いた。

最後聞いた時は明るかった声が、今聞いた声は静か。

 

「卯月ちゃん、もしかして学校帰りだったのかな?」

 

「いえ...志希さんのお家にいたんです」

 

「そうなんだ...志希ちゃんのお家だから結構歩いたね」

 

「あれ..?金木さんは志希さんのお家を知っているんですか?」

 

「うん、志希ちゃんの家には一回行ったことがあるよ」

 

「一回...あ、そうでした」

 

「ん?」

 

「志希さんが言ってましたね」

 

「まったく...志希ちゃんは」

 

金木さんはそう言うと頭を抱えました。

志希さんの行動には困ったと思います。

 

「ここまで逃げてきて、制服は汚れちゃいました..」

 

這いつくばるように逃げたせいか綺麗だったシャツとスカート、それとベストは汚れてしまった。

 

「....卯月ちゃん、これを着て」

 

金木さんはそう言うと着ていたパーカーを私に着させた。

そのパーカーは私には少し大きかったのだけど、今の私には十分だった。

 

「少しは暖かくなると思うよ」

 

「...ありがとうございます」

 

私はそう言うと自然を笑顔になった。

なんだか久しぶりに笑顔になったみたい。

 

「立ち上がれる?」

 

「....いえ」

 

私は首を横に降った。

 

「私..足を挫いてしまって...」

 

立つだけでも苦痛。

それに長く歩いたせいか、体に疲労が蓄積されていた。

 

「...じゃあ」

 

「え?」

 

すると突然金木さんは動けなかった私を持ち上げたのだ。

 

「これでいいかな?」

 

「は、はい..」

 

私は一体何か起きたのか分からず動揺をしてしまった。

まるで王子様に抱っこされているみたい。

そして金木さんは私を抱え、走っていく。

 

 

 

 

 

誰もいない街の中で一緒に駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

孤独だった私を助けてくれた金木さん。

 

 

 

 

 

 

 

まるでお姫様を助けた王子様のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は至福の時を感じているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっとこの人といたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カネキSide

 

 

 

 

 

それは思わぬ出来事だった。

 

 

 

 

 

僕があんていくに向かっていた時であった。

捜査官を何十人も無力化をし、

ビルの間の谷間から誰かの声が聞こえた。

動物のような鳴き声や物が自然と壊れる音ではなかった。

そこにいたのは喰種ではなく人間だった。

近づいてみるとその人は僕のかつての友人卯月ちゃんだった。

彼女は僕とは違い、表に立ち輝くアイドルだ。

だけど路地裏にいた卯月ちゃんはその面影もなく一人ひどく怯えていた。

学校帰りだったのか制服姿で一人隠れていて、最初僕の姿に恐ろしく感じていた。その時僕はマスクを外し、彼女の前に立つと、涙を流し抱きしめた。彼女が怖がるのは分からなくもない。大通りにたくさんの死体が転がっていて、断末魔や銃の発砲音に慣れているはずがない。僕はその光景や音に慣れてしまっているのだから怖さなんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない街の中、僕は彼女を抱えたまま走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胸の中で懐かしさと嬉しさが生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

喰種の世界にずっといた僕がかつていた世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喰種になる前に出会った彼女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は笑顔が素晴らしい女の子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は僕にとって希望だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人であった僕が決して失ってはならない存在

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして彼女と再び会えたのは奇跡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卯月ちゃんともう一度会えたことになんとも言えないほど嬉しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど彼女に危険を犯させてまであんていくに向かうなんてできない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はあと少しで彼女と離れなければならない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女とこうして近くにいるのはあと数分しかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて辛いことなんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが"本当の最後"かもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

亜門Side

 

 

東京都20区

今現在は我々CCGと喰種の交戦地と化してしまった。

俺は部隊の隊長として主力部隊に横槍を加えられないように喰種を戦っていた。

今回の作戦は20区にアオギリの樹と繋がる喫茶店がターゲットだ。

その喫茶店に喰種が働いていたのだ。

 

(ターゲットの排除もそうだが...)

 

つい先ほど司令部から二つの情報を耳にした。

一つはある勢力が次々と無力化している。

おそらく今回殲滅対象の喰種の仲間だと思われる。

二つ目はアイドルの島村卯月がここ20区に取り残されていると言う情報だ。

346プロには突然と言う形で作戦前に実行すると報告をした。

今回の作戦は重要な戦いであり、最後まで伝えなかった。

だが島村卯月が20区内にいると同じアイドルの一ノ瀬志希の口から発覚したのだ。

作戦終了後、346プロから批判を受けるのは間違いないが、島村卯月が作戦中死亡となると346プロだけではなく世間に批判を受けることになる。

 

「現れました!!」

 

すると部隊の一人が何かに指をさした。

 

「っ!」

 

人の気配がしなかった大通りに一人現れた。

それは俺が見たことのある眼帯の喰種だった。

片目を隠し歯がむき出しのデザインをしたマスクをした喰種で、過去に俺と何度も戦った。

我々は近づいてくる奴に身を構えた。

何も言わず、武器を構えている俺たちに近づくなど喰種以外考えられない。

 

(...ん?)

 

だが眼帯の喰種が近づいてくると何か異変を感じた。

それは誰かを持っていたのだ。

フードで顔が隠されて確認ができない。

おそらくは味方の喰種を抱えているのか?

 

「っ!?」

 

すると突然強い風が吹き、眼帯の喰種が抱えていた人物の頭を隠していたフードから長い髪が現れた。

 

「...あれはっ!」

 

目を疑うような光景が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼帯の喰種が、島村卯月を抱えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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K

彼女の声







僕の耳からもう聞こえなくなった







ああ






もう聞くことができないんだ






彼女の声を















亜門Side

 

 

眼帯の喰種が346プロアイドル島村卯月を抱えたことが発覚すると、部隊内にざわつきが生まれた。

 

「嘘だろ...?」

 

「なんで島村卯月を....?」

 

「おいおい、まさか...殺したのか?」 

 

統制が取れ静かだった部隊が混乱していた。

このままだと眼帯に隙を見破られ突破されてしまう。

俺は大きく息を吸い、

 

「黙れっ!!!」

 

班長である俺が一喝すると、ざわついていた部隊は一斉に静まった。

 

「聞こう、眼帯。なぜ貴様は彼女を抱えている?」

 

眼帯の喰種と島村卯月。

俺は二人とは初対面ではなく以前に出会っていた。

眼帯の喰種は去年20区で初めて出会い、島村卯月は春の終わりごとに出会った。

眼帯の喰種は名の通り、右目と口を隠したマスクをつけており、俺が名をつけた。

歯茎が剝きだすようなマスクに、左目には喰種の特徴でもある赤黒い赫眼が現れている。

 

「そこを通してくれませんか?」

 

「ああ、ダメだ」

 

俺の役目は主力部隊に支障がでないよう、俺は絶対に守り通さなければならない。

もし仮に眼帯を通してしまえば主力部隊が崩れてしまう。

 

「ーーわかりました」

 

その瞬間眼帯の目が赤く光り、腰から4本の赫子が現れた。

 

「赫子..!?」

 

赫子は喰種の特徴に一つで、鋼のように頑丈で、液体のようにしなやかに動く、人間にはない武器だ。

俺が後ろを向くと部隊の何人かが銃口を向けた。

 

「銃を向けるな!!島村卯月がいる!!」

 

俺は怒号に似た声で指示をすると、銃を向けた隊員はゆっくりと銃口を下げた。

 

「貴様っ!!…まさか彼女を盾に」

 

「そんな愚かな真似はしません」

 

「っ!?」

 

眼帯から思わぬ言葉を耳にした。

 

「彼女は僕とは違い、生きなければなりません」

 

眼帯はそう言うと彼女を大通りの側に置き、俺の方に再び向けた。まるで最初に出会った時と同じだ。今まで喰種は非道な化け物だと考えていた俺だが、眼帯は違った。眼帯は戦闘不能だった俺を見逃したのだ。俺はそのぐらいの衝撃が今起きていた。

 

「...よければ、お尋ねしてもいいですか?..お名前」

 

眼帯はそう言うと目を細め、気味の悪い笑顔をした。

 

「...()れるな喰種(グール)め、貴様は()()()()()()だ」

 

 

 

 

 

もし仮にお前がここを抜けても、皆がお前を殺そうとするだろう

 

 

 

 

 

 

その上で無茶な頼みをしたい

 

 

 

 

 

「俺の名は、亜門鋼太郎だ!!」

 

 

 

 

俺はそう叫んだ瞬間、眼帯に攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

眼帯

 

 

 

どうか死ぬな

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

志希から電話を受けあたしは傘をさし、今志希がいる場所に急いで向かっていた。

本当ならばそのまま家に帰る予定だったが、急遽志希の元に行くことになった。

 

(まさか...卯月が20区に!?)

 

今の所ニュースには出ていないため、もしかしたら何かの手違いかもしれない。

不安を胸に走っていくと、ある人がアタシの目に映った。

 

「志希!」

 

20区に続く道には多くの人たがりがあったが、アタシはすぐに志希を見つけることができた。

皆が傘をさしているのだけど、一人だけど傘など刺さず雨に濡れていた女子が道路の境界ブロックに呆然と座っていた。

 

「....美嘉ちゃん!」

 

アタシの声に気がついた志希は震えた声でアタシに飛びつくように抱きついた。

 

「あんた傘もささずにそこに座ってたの?」

 

「..卯月ちゃんが...卯月ちゃんが..」

 

「確かに卯月が20区にいるのは心配だけど...まずは自分を心配しなよ」

 

アタシはそう言うと志希を傘の中に入れ、バックの中にあったタオルで濡れていた志希を拭いた。

いつも志希はアタシに容赦ない絡みをしてくるのだが、今はその影もなく雨に濡れていた。

 

「このまま卯月ちゃんが...卯月ちゃんが...」

 

「大丈夫、まずは落ち着いて」

 

志希が落ち着きがないため、アタシは一緒に屋根がある建物の中に入った。

少し落ち着き始めた。

 

「何があったの?」

 

「あたしが外に出て....それから家に帰ろうとしたら....」

 

「もしかして卯月を置いて失踪?」

 

アタシがそう聞くと小さく頷いた。

 

「ああ...全く」

 

アタシは自分の額に手を置いた。

失踪は志希のいつもの癖だ。

それが運悪く、卯月を20区に置いてしまった。

 

「もし卯月ちゃんが....死んじゃったら」

 

「大丈夫、卯月はきっと助かる」

 

アタシは流石に卯月を助けることはできない。

アタシたちはただ喰種捜査官たちに任せるしかない。

 

「文香ちゃんも呼んでもいい?」

 

「文香さんも?」

 

確か文香さんは20区に住んでいるから、おそらく今日は都内のどこかのホテルに泊まっているはず。

 

「前にも文香ちゃんが倒れたことが重なってね..なんだろ、あたし」

 

前にも同じ出来事があった。

文香さんが初めて大舞台に立った時のことである。

 

「じゃあ、文香さんも呼ぶーーー」

 

「なんだと!?」

 

すると何か驚いた声を耳にした。

 

「島村卯月が見つかったそうです」

 

「っ!」

 

どうやら本当に見つかったらしい、それを耳にしたアタシは卯月が見つかったことに歓喜をあげようとした。だが報告をした捜査官の顔は険しくなった。

 

「ですが、島村卯月はムカデが...」

 

(ムカデ....?)

 

喰種捜査官の会話からよくわからない単語が聞こえた。

 

 

 

 

 

今、20区で何が起きているの?

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

亜門Side

 

 

眼帯に一撃を与えた時だった。

強力な一撃だったにも関わらず、倒れていた眼帯が立ち上がり、奴の体に異変が起きた。

赫子が体にまとい始めた。

 

半赫者。

 

喰種は本来ならば人間を口にしかできないのだが例外がある。それが共食いだ。喰種が同胞である喰種を喰うことで、通常よりも強力な赫子が作られ凶暴になる。だがその代償に理性が欠如し始め、自らを制御することができないと言われている。

 

「っ!」

 

すると眼帯は島村卯月に視線を向け、彼女を抱えた。

 

「待て!!眼帯!」

 

俺は島村卯月を抱えた眼帯を追いかけた。

ヤツに追いつき、たどり着いた先は人の気配を感じさせない橋脚の下。

 

「彼女はどこにやった?」

 

「......」

 

眼帯からは全く返事がない。

理性が制御できていないはずなのだが、島村卯月をどこかに隠したのだ。普通ならば人間である彼女を喰う可能性が高いはずだが、ヤツは彼女を捕食はしない。

 

 

 

 

眼帯と戦っている中、俺はあることが浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

島村卯月を抱えた眼帯

 

 

 

 

 

 

眼帯は喰種にも関わらず、人間である彼女を捕食しない

 

 

 

 

 

 

 

彼女を抱えた時の眼帯の目はどこか悲しそうな目つき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、眼帯は島村卯月と面識がある人物なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カネキSide

 

 

僕を取り付いていた暴走が消え去った時、僕は自我を取り戻した。

後ろを振り向くと戦っていた亜門さんが片腕をなくし、倒れていた。

 

「亜門さん!!」

 

僕は自分の手でまた傷をつけてしまった。

彼の元に近づこうとすると、あることが気がついた。

 

「っ!!」

 

それは僕の体に異変が起こった。

 

「ぐはぁっ!!!」

 

口から大量の血が吐き出された。

横腹にできた傷がすぐに再生されない。

本来なら傷はすぐに治るはずが、再生が始まらない。

 

(あのクインケは-...!」)

 

亜門さんが使っていたクインケは先ほど使用したクインケではなく形状が違っていた。

喰種は人間とは違い肉体の再生は早いのだが、喰種同士の戦闘になると話が変わる。喰種にはそれぞれ相性がある。相性が悪いと再生する時間が大きくかかる。どうやらクインケとの相性が悪いらしい。

 

「っ....」

 

僕は傷を抑えながら高速道路の橋脚の下にいる彼女の元に必死に歩く。

僕は人間の肉を口にはせず、同種である喰種を喰らっていた。力を得た代わりに理性が効かなくなる。その結果守るべきはずの存在を摘もうとしてしまった。だが僕は彼女をどうか安全な場所に移した。食ってもおかしくはない状況なのに僕は彼女を抱え、隠したのだ。

 

 

 

 

 

 

僕は彼女の前に近づいた。

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと眠る彼女。

 

 

 

 

 

 

 

 

以前までは普通の女の子であった彼女は、今では高嶺の花であるアイドル。

 

 

 

「っ...っ...」

 

 

 

僕は彼女の頰に手を添える。

 

 

 

 

 

 

このまま彼女の肉を食えば僕は回復することができるが、そんな目先の利益を得たくない。

 

 

 

 

 

 

 

彼女から伝わる温度が痛みを和らいでくれる。

 

 

 

 

 

 

彼女とは別の生き物。

 

 

 

 

 

本来ならば会ってはならない存在同士。

 

 

 

 

 

 

僕はその理由でしばらく彼女の前に現れなかった。

 

 

 

 

 

 

だけど僕は彼女に会いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

もう一度話し合いたい。

 

 

 

 

 

何も怖がることなく、時間を気にせずに笑い合いたい。

 

 

 

 

「ムカデを探せ!!」

 

すると僕の耳に声が入った。

近くに喰種捜査官が僕を探し回っていた。

 

(逃げないと...!)

 

彼女を連れていくわけにはいかない。

僕は重い体を引きずるように動き、彼女から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうか死なないでくれ、卯月ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

うすうすと意識を取り戻した、私。

さっきまでは顔から雫のような冷たさを感じていたのだけど、いつの間にかその感覚はしなくなった。

一体何が起こっているのだろうかと少し目を開けると、私は高速道路の橋脚の下にいた。

先ほどまで私は彼の腕に眠っていたのに、その彼がいつの間にかいなくなってしまった。

暖かった彼の腕が消え、私の体は冷えきっていた。

寒すぎて体が思うように動かない。

 

「有馬特等!!」

 

すると誰かが私を見つけたらしい。

 

「島村卯月を発見しました。おそらく”ヤツ”が隠したのかと」

 

どうやら私は低体温症になっていたらしい。

 

「彼女を今すぐ本部まで」

 

「わかりました」

 

私は誰かに抱えられ、雨が降る街の中に運ばれた。

体が思うように動けなく、口も開けなかった私は再び目を閉じてしまった。

 

 

 

 

 

 

私を抱える人の腕は冷たい。

 

 

 

 

 

 

 

私を助けてくれた王子様の腕は表面上の暖かさだけじゃなく、心も暖かくしてくれたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

 

 

 

20区の地下

 

 

 

 

 

地下にも関わらず、白い花が咲き誇っていた

 

 

 

 

 

その場所で無残にやられた僕

 

 

 

 

 

 

そこに死神と呼ばれる有馬貴将が立っていた

 

 

 

 

 

 

 

有馬貴将は喰種捜査官であり、一人で大量の喰種を倒したのだ

 

 

 

 

 

その彼に一撃を与える攻撃ができず、ズタズタにされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両目を潰され、何もできない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が薄れていった時、ふとあることを思い出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕には喰種だけではなく、人間にも大切な存在があった

 

 

 

 

 

 

 

それは僕が喰種になる以前にあった友達

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒデもそうだが、大学生になった時に出会った人がいた

 

 

 

 

 

 

彼女の出会いをきっかけにたくさんの友達が生まれた

 

 

 

 

 

 

だけど彼女たちはアイドル

 

 

 

 

 

 

僕は人間を糧にする喰種

 

 

 

 

 

僕は彼女たちの前に姿を消していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど彼女たちは影であった僕を忘れていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だんだんと意識が消えていく

 

 

 

 

 

 

 

 

これで最後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さよなら、僕の希望

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

陽の暖かさが肌に伝わり、目をゆっくりと開けた。

 

「...っ」

 

夜の冷たさと雨の冷たさがなく、私はふかふかなベットにいった。

 

「卯月ちゃん!!」

 

すると突然志希さんに抱きつかれました。

 

「し、志希さん...?」

 

「本当にごめん...ごめん...」

 

一体何が起きたのかわからなかった。

志希さんが泣きながら私に抱きつく。

志希さんに理由を聞こうとしたら、ドアが開く音がしました。

 

「しまむー!!」

 

ドアから現れたのは未央ちゃんと凛ちゃんでした。

二人は急いだ様子で私のものに駆けつけたようだった。

 

「しまむー、大丈夫だった?」

 

「怪我もなかった?」

 

「ええ..大丈夫です」

 

疲労や体の冷えで動けなかったのだけど、今は不自由なく動ける。

 

「あの志希さん....どうして泣くのですか?」

 

「卯月ちゃんをあたしの家に置いていって....ごめん」

 

志希さんは私を強く抱きしめ、頭を上げようとしません。

いつも自由奔放の志希さんがこうするなんて、本当に反省をしているとわかります。

 

「大丈夫ですよ、志希さん」

 

私がそう言うと志希さんは顔を上げました。

確かに私を20区に置いてきたのは事実です。

でも志希さんを嫌うなんて考えません。

特にある人に再び出会い、助けられたのだから。

 

「私、金木さんに助けられたんですよ」

 

「「え?」」

 

皆さんは私の言葉に口を揃い驚いた。

 

「しまむー、そんなまさか…」

 

「金木に出会っただなんて、冗談だよね?」

 

「え?」

 

皆さんは信じてくれない。

 

「病院にいるってことは...もしかして、金木さんはきっと同じく病院に..」

 

「いや、卯月。金木がこの病院に運ばれたなんて聞いてないよ?」

 

「えっ....?」

 

凛ちゃんの顔は微動もせずまっすぐな顔で私に伝えました。

 

「そんな...私を助けてくれたのは、金木さんでしたよ」

 

何度も皆さんの話しても一向に信じてくれない。

あの時、私を連れてくれたのは確かに金木さんだった。

姿は変わってしまったけど、あの人は間違いなく金木さんだった。

金木さんの腕の中にいたのも本当だった。

 

 

 

 

 

それが嘘なの?

 

 

 

 

 

そんなことはない。

 

 

 

 

 

あれが夢の中の話だなんてありえない。

 

 

 

 

 

 

「あれ?卯月ちゃん?」

 

「...?」

 

すると落ち着き始めた志希さんはあることに指摘しました。

 

「そのパーカーって?」

 

私は制服の上に少し大きめの黒のパーカを着ていました。

 

「これ金木さんから頂いたもので」

 

私がそう言うと志希さんは匂いを嗅ぎました。

 

「...やっぱりカネケンさんのだ」

 

「え..?しきにゃん、今なんて」

 

「このパーカー、カネケンさんのものだよ!!」

 

志希さんはそう言うと子供のようにはしゃぎました。

 

「え、ま、待って、志希。あんた何言ってんのよ?金木が20区にいたわけないでしょ?それにそのパーカーは志希の部屋にあったのじゃ」

 

「いや、このパーカーはあたしの部屋にないよ。しかもこのパーカーは明らかに男向けのだから卯月ちゃんには大きすぎない?」

 

「まぁ...確かに...それで、なんで金木の匂いだと言えるの?」

 

「根拠?ずっと前に嗅いだカネケンさんの匂いを思い出してそれが一致したから、それだけ♪」

 

志希さんはそう言うとにゃははっと笑いました。

 

「ちょっと待って、しきにゃん!だったらカネケンさんは20区に本当にいたの?私は13区で出会ったんだんだけど」

 

「金木が13区に?未央、それは本当?」

 

「うん、金木さんは髪が白かったってかみやんから言われて、それで13区の交差点で見つけたんだ」

 

未央ちゃんの話を繋げると、金木さんは13区から20区に移動したと考えられる。

 

「全くカネケンさんは知らないうちに髪が白く変わったんだね...あ、そういえば卯月ちゃんは知ってると思うけど、カネケンさんは喰種になったんじゃないかと喰種捜査官に言われたよね?」

 

「え!?し、志希さんも同じく聞かれたのですか!?」

 

私は志希さんの言葉に驚きました。

確か私だけ喰種捜査官の方に聞かれたのだと思いましたが...

そう驚いていると誰かが入ってきました。

 

「急に騒いで一体どうしたのみんな?」

 

すると美嘉さんと文香さんが入ってきました。

 

「おっと、ちょうどよかった♪美嘉ちゃんも文香ちゃんもこっちにきて、話したいコトがあるんだ♪」

 

志希さんは金木さんのことを伝えました。

金木さんは喰種ではないかとか私が助けたのは金木さんだったこと、などすべてが本当だと言い切れませんが、みんなが抱えていたもやもやが晴れたようにどこか部屋の中が明るかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちはその後、金木さんのことは秘密にするように約束をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たち以外が知られないように、秘密にしなければなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

私がお手洗いで部屋に離れていた時だった。

卯月さんは喰種捜査官の方々に無事に見つかり、病院へと運ばれました。

幸いにも大きな怪我はなく、命の別状はありません。

しかし意識はありませんでした。

いつまでも意識を取り戻さない卯月さんに志希さんはずっとそばにいました。

私と美嘉さんはちょうど病室から出ており、美嘉さんは仕事に遅れると伝えるため退出し、私はお手洗いにいっていました。

私が病室に入ろうとした時、部屋の中は騒がしい声がしました。

どうやら卯月さんが目を覚ましたようです。

私がそのまま入ろうとしたその時でした。

 

「私、金木さんに助けられたんですよ」

 

卯月さんがいらっしゃる病室から聞いた耳を疑う話。

金木さんが卯月さんを助けた?

一般人は立ち去り、喰種捜査官と喰種しかいなかった20区で現れたなんてありえない。これは偶然?何か仕組まれた運命?金木さんが現れたのはなぜ?私の前に消えてしまった金木さんがなぜ卯月さんの前で現れたの?どうして?どうして?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんであなたは私の前に現れなかったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「文香さん..?」

 

ふと気がついくと誰かが私を呼んでいる。

美嘉さんが目の前にいました。

 

「あ...美嘉さん」

 

「なんかちょっと顔色が悪かったけど、大丈夫?」

 

「い、いえ..なんでもありません」

 

私がそう伝えると美嘉さんと一緒に、卯月さんたちがいる部屋に入って行きました。

中には志希さんだけではなく、凛さんと未央さんの姿がありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の胸の中に暗い色が生まれた。

まるで色とりどりの絵の具の中に黒色が投げ入れられるように、心が染まっていく。

ある出来事が思い出していく。

それは梅雨の時、私の元に二人の喰種捜査官がやってきた。喰種捜査官の方が私に金木さんのことを聞こうとした本当の理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて笑えない話。

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔しても仕方がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自ら前に進むことができなかった私が悪い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駄々をこねる子供みたいだ、私

 

 

 

 

 

 

 

私は影だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光ではなく影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて妬ましい

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

プロデューサーSide

 

 

20区での作戦が終了した翌日、私は高垣さんにお声をかけ、都内にある喫茶店にいました。

 

「突然、お声をかけ申し訳ございません」

 

「いえ、ちょうどお仕事が終わったので大丈夫ですよ」

 

高垣さんはそう言うと笑顔で返したのだが、どこか様子が暗い。

あの作戦後、高垣さんの様子が暗くなったと言う声を事務所内によく耳にする。

 

「久しぶりにお話をしますね」

 

「ええ、そうですね。こうして長く話すのはあまりないですね」

 

高垣さんとは同じ事務所にいるため昔から交流がある。

だが私は彼女をプロデュースをしていないため、こうして長く話すのはめずらしい。

 

「実は高垣さんに渡したいものがありまして」

 

「渡したいものですか...?」

 

私はそう言うとカバンから何かが入った袋を取り出し、高垣さんに渡した。

 

「袋ですか..?」

 

「...中身を見てください」

 

私はそう伝えると高垣さんを袋の中を見ました。

 

「コーヒーカップに私のサインが書かれたうちわ....プロデューサーさん、これは一体?」

 

「...」

 

私はしばらく口を閉ざしてしまった。

言うべきことがあったにも関わらず、口は硬くいえなかった。

彼女を悲しませたくない感情が芽生えてしまった。

だが起きてしまった現実を伝えなければならない。

 

「実は...高垣さんがかつて働いていた喫茶店の店長から頂いたものです」

 

「よ、芳村さんが…!?」

 

「高垣さんはあんていくに働いていらっしゃったんですね」

 

「...誰から聞いたのですか?」

 

「喫茶店の店長から聞きました。私が346プロダクションのプロデューサーと伝えましたら、お話が聞けました」

 

高垣さんがかつて働いていた喫茶店が今回CCGの殲滅対象であったでなると、あることが疑問に浮かんでいた。

 

「高垣さんは本当に店長が喰種だとご存知なかったのですか?」

 

それは高垣さんは働いていた時、同じく働いていた人が喰種だと気づかなかったのかと疑問に浮かんだ。

店長からは長く働いていたと耳にしたため、気がつくはずなのだが...

 

「いえ、全くと言ってもいいほど知らなかったです。まさか私が働いていた場所が…」

 

高垣さんは口を止めてしまった。

 

「すみません…あのショックが..」

 

高垣さんは口に手を当て、目を細めた。

そして静かに涙を流した。

 

「私をここまで育ててくださったあんていくの皆さんが...喰種だと信じられません....皆さんが人間を喰らう喰種だなんて....」

 

高垣さんはしゃくりながら私に伝えました。

彼女がショックを受けるのは当たり前だ。

アイドルになるまで支えてくれた場所が一夜にして消えてしまった。

これほど悲痛なものはない。

私も彼女と同じく失ったものがあった。

今回の作戦で喰種捜査官である亜門さんを失った。

彼の遺体は発見されず、消えてしまったと耳した。

 

「あの高垣さん」

 

「...はい」

 

私にはあんていくに訪れてわかったことがあった。

 

「...私も同じく彼らが高垣さんを..いや、人を食う喰種だなんて信じられません。店長はあなたと優しく接し、我が子のように見ていました」

 

それは店長とお話し、その後わかったことだ。

今まで喰種は非道で愚かな生き物だと認識したのだが、店長のような誰よりも高垣さんを知る人物がいたことに驚いた。人間を自らの糧とは考えず、人間とは変わらない考え方をしていた。

 

「この話は私たちだけの秘密です」

 

「...はい、わかりました...」

 

高垣さんは涙を拭き、小さくうなずきました。

この話は世間に知られてはならない。

彼女が喰種と合流があったとなれば、今後に影響しかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちは黙示するしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんていくと言う喫茶店のことを

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

私が退院した数日後、私は凛ちゃんと未央ちゃんと一緒にあるところに向かいました。

そこは20区にあった喫茶店あんていくです。

作戦後は解体作業が開始され、取り壊されていました。

 

「まさかここで働いていた人みんなが喰種だったの...?」

 

「...うん、そうらしい。今回の攻撃対象がここだったから...つまり働いていた人は喰種ってことになるよ」

 

まるで小学校の頃に読んだ注文の多い料理店を思い出します。

やってきたお客さんをだんだんと奥に引き連れ、最終的に訪れていたお客さんがメニューだとわかってしまう場面が頭に浮かぶ。

 

「...トーカさんが本当に喰種なんでしょうか」

 

「トーカさん?あの私たちと同じ女の子?」

 

「はい、トーカさんは私に優しく接したのですがーー」

 

私はさらに話そうとしたその時、

 

「...?」

 

後ろから何か視線を感じた。

誰かが私たちを見ていた。

 

「どうしたの卯月?」

 

「誰かが私たちを見ているような...」

 

「...そろそろ離れよ。もしかしたらファンかもね」

 

「...そうだね」

 

先ほどの視線はもしかしたらファンかもしれない。

しばらく壊されるあんていくの前に止まったら怪しまれてしまう。

私たちはあんていくから離れて行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあんていくの皆さんが人間を喰らう喰種だとを考えられられません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんていくに働いていた皆さんは優しく接してくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が見てきたものは悲劇は夢の中であってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬に崩れ去った居場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再び姿を消してしまった私の王子様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあなたを風のように忘れないよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっともう一度私たちの前に現れるのを信じるよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたが私たちの元に帰ってくるのを待ってるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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to:re...


桜が咲き始めた4月。


彼がいなくなって半年を過ぎようとしていた。



彼が再び私たちの前に現れる気配もなく私の誕生日を迎えようとしたら、思わぬ出来事が起こったんだ。







卯月Side

 

 

4月24日午後の6時ごろ。

お仕事が終わり、私は少し駆け足で凛ちゃんのお家に向かってました。

無事に志望校に受かり、4月の初めにアイドルに復帰しました。

今日の誕生日会は凛ちゃんのお家でやります。

 

「お邪魔します!」

 

私が凛ちゃんの家のお花屋さんに入り、元気よく言うと凛ちゃんと未央ちゃんが玄関から顔を出しました。

 

「やっほーしまむ!!」

 

「いらっしゃい卯月」

 

私がそのままリビングに入るとテーブルにあるものがありました。

 

「あちゃー、しまむーに見られちゃったね」

 

誕生日会を開催するリビングのテーブルには、まだ出来上がっていないケーキがありました。

 

「あれ?これって?」

 

「流石に卯月の誕生日ケーキをお店で買うのはあれかなって思って」

 

ケーキはまだスポンジの状態で、クリームといちごはまだ乗ってはいませんでした。

 

「私たちは仕事が終わって急いで作ってたから、もう少ししたら出来るよ」

 

「いえ、大丈夫です!」

 

手作りのほうがもっと嬉しいです。

凛ちゃんと未央ちゃんとは仕事関係で会う頻度は少なく、久しぶりに会えたのですから嬉しい。

凛ちゃんと未央ちゃんと楽しく話していると凛ちゃんのお母さんが顔を出しました。

 

「凛ー?ちょっと店番頼める?」

 

「えっ、今?」

 

凛ちゃんは今はケーキを作っていてお店を任せるのは無理があります。未央ちゃんはケーキのクリーム作りをしているのですが、ケーキをすぐ出来上がらせるには凛ちゃんの手が必要です。今のところ手が空いている人はーーー

 

「なら私がお店に立ちますよ」

 

「え?」

 

私は凛ちゃんにそう伝えると驚き、

 

「卯月、今日は誕生日だからやらなくても..」

 

「誕生日ですから、何かお役に立ちたいことをやらせてください!」

 

確かに今日は私の誕生日ですが、ただケーキが出来上がるのを待つのは嫌です。

なにもできないのは嫌だから。

 

「....わかった。なんかあったら私たちを呼んでね?」

 

「はい!島村卯月がんばります!」

 

私はそう言うと凛ちゃんのお店のエプロンを着け、店内に立ちました。

今の所お客さんの姿はなく、閉店時間はもうそろそろなので私は長く立つ必要はないと思います。

 

(っと言ったけど..もしお客さんから声をかけられたらどうしよう...)

 

私はお店の椅子に座り、悩んでいました。

もし何かあれば凛ちゃんサポートが来ますが、一体どんな方が来るのか少々不安です。

私がそう考えていると...

 

「あの....すみません?」

 

「あ、はい!いらっしゃいまーーー」

 

ふと気がつくとお客さんらしき方が私の前にいて、声をかけてきました。

 

「...え?」

 

慌ててお客さんに顔を向けると、私は自然と口を止めてしまった。

来たのはお客さんなのだけど、目を疑いたくなる人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"彼"が私の前に現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...嘘っ」

 

私は嬉しさのあまり、彼の胸の中に抱きついた。

 

「...えっ?」

 

「あなたを待ってた...ずっと待った...」

 

嬉しすぎて涙が無性に流れる。

最後に抱きしめた時と同じ暖かさ。

彼だ。

私を助けてくれた彼が帰ってきたんだ。

私の誕生日に帰ってくるなんて考えもしなかった。

 

「どうしたの?しまむー?」

 

「なにがあった....え?」

 

何か異変を察したのか、凛ちゃんと未央ちゃんは私の元に来ました。

二人は彼の顔を見ると驚き、

 

「か、金木さん....戻ってきたの..?」

 

「嘘っ..あんた...なんで...」

 

二人は彼を見て、声が震えていました。

凛ちゃんと未央ちゃんはわかっていました。

彼は一体誰なのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーしかし

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、ちょっといいですか?」

 

すると彼は抱きしめる私の肩に手を置き、離れさせました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『...どうして泣いているんですか?』

 

 

 

 

 

「...え?」

 

彼の言葉に私たちに衝撃が走った。

 

「えっと...その、僕はカネキじゃなくて、佐々木琲世です」

 

「佐々木...琲世?金木じゃ...ない?」

 

彼の名前は全く知らない人の名前で、金木研ではなかった。

よく見ると髪は真っ白でも真っ黒ではなく、上は黒で下は白のツートンカラーの髪色だった。

 

「なので...僕はみんなが言うカネキじゃないです」

 

声も顔もまさに彼なのだけと、まさか別人だった。

 

「す、すみません....変なことして....私としたことが...」

 

「いや、大丈夫だよ..」

 

泣いていた私は、佐々木さんに謝りました。

佐々木さんは彼と似ていたせいか、胸の中でずっと彼に会いたい気持ちが爆発し、佐々木さんに抱きついてしまいました。

長く会ってないから感情を抑えられず、起こしてしまった行動。

私は錯覚してしまったんだ。

佐々木さんを金木さんだと認識してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

そう感じていた私に、佐々木さんに異変が起きました。

 

 

 

 

 

「ーーーあれ?」

 

佐々木さんの頰に雫が流れました。

それは一粒ではなくだんだんと増えていました。

 

「なんでだろ..おかしいな..」

 

私は佐々木さんの顔を見ると、彼は泣いていました。

佐々木さんは突然自分が泣いていることに驚いていて、無意識に泣いていたのです。

 

「悲しいのかな...なんでかな...」

 

佐々木さんは流れる涙を拭きますが、涙は止まることなく溢れます。

私はポケットからハンカチを取り出し、彼が流した涙を吹きました。

 

「大丈夫ですよ、佐々木さん」

 

「っ!」

 

私はハンカチで拭くと、佐々木さんは私の瞳を見ました。

その瞳は金木さんと一緒に遊園地にいた時を思い出す

夜が始まり綺麗なイルミネーションが照らされる中、金木さんは一人涙を流した。

金木さんが一人で悲しく泣いていた時、私は彼の側にいてこう言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『金木研さん。私は何があっても忘れません』

 

 

 

 

 

 

 

だけど今、彼は悲しく泣いているのではなく、まるで再び会えたことに嬉しく泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

私たちともう一度会えたことに

 

 

 

 

 

 

「よかったら、一緒に私の誕生日を祝ってくれませんか?」

 

「誕生日..?」

 

「はい、今日は私の誕生日なんです。だから一緒に祝ってくれません?」

 

「...そうなんだ。じゃあ僕も一緒に祝うよ、島村さん」

 

「...卯月でいいですよ?」

 

「卯月...?」

 

「はい!卯月ちゃんと呼んでください!」

 

私は佐々木さんに私の苗字ではなく名前を呼んで欲しかった。

島村さんじゃなく、卯月ちゃんと。

 

「さぁ、佐々木さん!しまむーの誕生日会へ!」

 

「え!?ちょっと!?」

 

未央ちゃんは佐々木さんの背中を押し、リビングに誘導させました。

 

「今日は卯月の誕生日ですから、すぐに始めないと」

 

「え?あ、ああ、そうだね。早く始めないとね」

 

私たちは店内を後にし、リビングの中に入っていき、誕生日パーティーを始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の私の誕生日はとても嬉しいことがありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはただ嬉しさではなく、言葉に表せないぐらいのサプライズです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が待っていた人が帰ってきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

名前が変わっても、彼は彼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

4月24日午後6時。

僕は沈みゆく夕日を眺めながら街を歩いていた。

 

僕の名は佐々木琲世。

CCGに所属している喰種捜査官であり本日、二等捜査官に晴れて昇進をした。 

同じく喰種捜査官であり、僕のメンターであるアキラさんからには昇進祝いとして白いコートをもらった。

その白いコートは他の捜査官が着ているものとはデザインが違う。

 

(まさか有馬さんが言うとは、さすが天然..)

 

今日は昇格記念と言うことかせっかくだから何か発見をしたらどうだ?と僕に伝え、いつもより早く仕事が終わってしまった。

普通ならばありえないのだが、有馬さんは何もおかしくなく僕に伝えた。

周りが働いている中、自分一人で帰るのは違和感があったけど、結局僕はそのまま立ち去っていた。

有馬さんは天然な面があるのだが、CCG内では死神と呼ばれるほどの特等捜査官であり、今までの戦闘では無敗と言われている。

僕は何度も有馬さんと相手をしたのだが、一度も勝つことはできない。

 

(ん?)

 

すると僕はあるお店の前を通り過ぎようしたら、無意識に立ち止まった。

 

(なんだろう?この花屋さんは?)

 

一見そのお店は普通に見えるのだけど、僕に芽生えた興味は胸の中から去る気配がなかった。

 

(...入ってみよう)

 

僕はそのお店の中にそっと入った。

花屋さんに入るのはなんだか新鮮に感じる。

店内は数々のお花が置かれていて、知らない品種が多く書かれていた。

もうそろそろ閉店が近いのか僕以外に訪れるお客さんは誰もいない。

 

(..ん?)

 

周りを見渡すと店員と思われる女の子が何か難しそうな顔をしたまま椅子に座っていた。

僕が来たことに気がついていないようだった。

 

(あの子って..?)

 

僕は彼女をどこかで見た記憶があった。

どこで見たかは思い出せないが、とりあえず僕は彼女に声をかけた。

 

「あの....すみません?」

 

「....あ、はい!いらっしゃいまーーー」

 

僕の返事に気がついた瞬間、慌てた様子で僕の顔を見た。

僕を見た瞬間、彼女は目をパッと開き固まってしまった。

 

(...あれ?)

 

彼女は僕をじっと見つめる。

大きく目を開き、だんだんと手が震えていた。

 

「...嘘っ」

 

しばらくすると彼女は手を口に涙を込み上げ、まっすぐ僕に抱きついた。

 

「...え?」

 

「あなたを待ってた...ずっと待った...」

 

何が起こっているんだ?

突然、彼女に僕に抱きつきたのだ。

彼女は泣きながら僕を強く抱きしめる。

お店の店員さんが僕に抱きしめるだなんてありえない。

それにずっと待っていた?

一体どう言うことなんだ?

 

(ーー!!)

 

僕を抱きしめてきた彼女の顔を見ると、見覚えのある人物であった。

彼女は世間に知られているアイドルの島村卯月であった。

そんな彼女が僕に抱きつき、涙を流していた。

 

「どうしたの?しまむー?」

 

「なにがあった....え?」

 

するとお店の奥から二人の女子が顔を出すと、

 

「か、金木さん....戻ってきたの..?」

 

「嘘っ..あんた...なんで...」

 

僕を見ると驚き、目を滲みませた。

やってきた二人の顔をよく見ると、島村卯月と同じユニットメンバーである渋谷凛と本田未央であった。

その彼女たちが僕を見て、驚いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、ちょっといいですか?」

 

僕は抱きつく島村卯月を離れさせ、彼女たちにこう聞いた。

 

「...どうして泣いているんですか?」

 

「え?」

 

彼女たちは僕の言葉に疑った。

まるで僕の言葉を間違っているように。

 

「えっと...その、僕はカネキじゃなくて、佐々木琲世です」

 

「佐々木...琲世?」

 

僕の名前はかねきという名前ではなく佐々木琲世だ。

彼女たちは僕の名前を聞くと落ち着き始めた。

どうやら人違いだったようだ。

 

「す、すみません....変なことして....」

 

「いや、悲しませることさせてごめんね」

 

島村さんは自分の手で涙拭きながら僕に伝えた。

どうして彼女たちが真剣な眼差しで僕を見るのかわからない。

僕には心当たりもなく、そう答えるしかなかった。

僕は20年間の記憶はないのだが、彼女たちはどこかに会った記憶は思い出す気配はなかった。

 

 

 

 

 

 

すると突然ーーー

 

 

 

 

 

 

「ーーーあれ?」

 

僕は無意識に涙を流していた。

 

「なんでだろ..おかしいな..」

 

なんだろう、この感覚?

それは有名人に会えて嬉しいというのではなく、大切な人に再び会えた感覚。

彼女たちとは初めて出会ったはずなのに、なぜか懐かしい。

 

「悲しいのかな...なんでかな...」

 

僕は涙を手で拭くが、たくさん涙が流れているためか拭ききれない。

僕の肌にやわらかい布がそっと触れた。

 

「大丈夫ですよ、佐々木さん」

 

「っ!」

 

島村卯月は泣いている僕にハンカチで涙を拭いてくれた。

彼女の瞳を見た僕は何かを思い出した。

それはどこかの夜の遊園地で二人っきりの時。

今は大学生である彼女がかつて着ていた制服姿が頭に浮かぶ。

僕は高校生だった彼女をあんまり見たことがなかったのだが、鮮明に覚えているかのように思い出した。

 

『***さん。私は何があっても忘れません』

 

島村卯月の言葉が自然と頭に流れた。

僕は前に彼女と出会っていたのか?

消えた20年の中に、僕は会っていた?

 

「よかったら、一緒に私の誕生日を祝ってくれませんか?」

 

「誕生日..?」

 

「はい、今日は私の誕生日なんですよ。だから一緒に祝ってくれません?」

 

「...そうなんだ。じゃあ僕も一緒に祝うよ、島村さん」

 

「...卯月でいいですよ?」

 

「卯月...?」

 

「はい!卯月ちゃんと呼んでください!」

 

僕は卯月ちゃんと言うと彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。 

僕は彼女の返事に断ることもなく、そのままお店の奥に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちとは初対面にも関わらず久しぶりに会ったかのように心が温まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたら、以前の僕は彼女たちとは出会っていて、楽しんでいたのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はこの世界に生まれた時、喰種の部分しか思い出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど今は人間の部分が思い出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は悪い記憶ばかり持っていたわけじゃなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちのような友人を持っていたことに気づけて、よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

楓Side

 

 

 

とある真昼の頃。

 

 

私は都内のとある喫茶店で一人コーヒーを飲んでいました。

 

あれから私の居場所がひとつ消えてもう一年が経ちました。

今まで当たり前のことが一瞬で崩れ去った痛みは今でも心の奥底で感じます。

運が良いのかそれともまだ気づかれていないのかわかりませんですが、私はあんていくに働いていたことは公には一度も流れていません。

私があんていくに働いていたことを知っているのはプロデューサーさんと卯月さんしかおらず、あとのあんていくに働いていた方々の行方は知りません。

 

(ん…ちょっと酸味が強いですね..)

 

私の最近の楽しみは都内のカフェ巡りです。

カフェ巡りはお友達を連れてではなく一人で巡ります。

今訪れている喫茶店が出すオリジナルブレンドは私が思う美味しいコーヒーはまだまだです。

好物の飲み物としては流石のお酒のほうが勝りますが、コーヒーはその次に好きな飲み物だと言えます。お酒は一人ではなくお友達と一緒に飲むのですが、コーヒーは一人で過ごしたい時には口にしたいものです。

少々不満足感を味わった、私。

すると一人の男性が店内に来店しました。

 

「…!」

 

私はその人に目を向けると、驚いてしまいました。

その男性はどこか見覚えのある方でした。

彼は私とは少し離れたテーブル席に座り、店員さんに注文をしました。

 

「すみません。オリジナルブレンドを一つお願いします」

 

彼の声を耳にした私は驚いてしまいました

その人はまるであんていくに働いていた人にそっくりでした。

興味を抱えた私はその男性に話そうと座ったテーブル席に足を運びました。

 

「あの、すみません」

 

「ん?」

 

「座ってもよろしいでしょうか?」

 

「え?...あ、ああ、大丈夫ですが?」

 

彼の了承を得ると私は向かいの席に座りました。

その人は私に突然声をかけられ、隣に座ったことにどこか不信感を抱えたのかもしれません。

 

「あの...どうして向かいの席に..?」

 

「どうしてなんでしょうね?」

 

私はからかうように返事をしました。

少しは変装をしていましたが、彼は気づくような仕草はしていません。

 

「あなたのお名前はなんでしょうか?」

 

「僕ですか?佐々木琲世です」

 

「佐々木琲世さんですか…ご年齢は?」

 

「年齢ですか?僕はちょうど二十歳になったばかりで」

 

「そうなんですね」

 

私とは7歳年が離れています。

確か私がかつて働いていた喫茶店でいた男の子とは同じ年齢。

声と姿はまるであの人に似ている。

だけど名前が違う。

 

「あの…あなたのお名前は..?」

 

「私ですか?高垣楓と申します」

 

「高垣か….え!?」

 

彼は私の名前を聞くと不意につかれたように大きく驚きました。

 

「た、た、高垣楓って…あのアイドルのですか?」

 

「ええ、そうですよ?」

 

彼の驚き方は以前に出会ったことを思い出したのではなく、テレビや雑誌で見たことを思い出したと言ってもいいでしょう。

 

「何かのドッキリじゃないですよね?よくテレビにあるやつじゃ」

 

「ええ、どこも隠しカメラもありませんから安心してください」

 

彼は私の言葉を聞くと、「そうですか..ありがとうございます」と胸をなでおろした。

 

「もしかしてテレビが出るのが嫌い?」

 

「嫌いと言うか、あまり目立つことが嫌いなもので」

 

「そうなんですね。あと佐々木くんと呼んでいいかしら?」

 

「え?別に構いませんですけど...?なんでですか?」

 

「んー、なんでしょうね。以前、佐々木くんと似ている子がいたからかも」

 

「似ている子?その人って誰ですか?」

 

「誰でしょね〜、うふふ♪」

 

「からかっているんですか?」

 

私がそう答えると佐々木くんはもやもやした顔になりました。

 

「あ、そうそう、もしよかったら…」

 

私はあることを提案しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あとで一緒に歩いて行きませんか?』

 

 

 

 

 

 

私がそう言うと佐々木くんは「いいですよ」と了承をしてくれました。

彼がコーヒーを飲み干し一緒にお会計をした後、一緒にお店から出ました。

佐々木くんは喰種対策局に勤める喰種捜査官だと聞きました。

佐々木くんは真面目な男の子ですが、私の冗談やダジャレには無視はせずノリに乗ったり突っ込んでくれました。

それから私は連絡先を交換し、別れました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐々木くんはまるであんていくにいた彼を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたら彼はーーー

 

 

 

 

 

 

 




東京喰種 CINDERELLA GIRLS 完


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