無限の成層によるDies irae (アマゾンズ)
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第一劇 渇望

「では一つ。皆様、私の歌劇をご覧あれ」

「その筋書きはありきたりで、既に一度開演した歌劇ではあるが・・・」

「役者が変わる事で、新たな歌劇となると信ずる」

「故に面白くなると思うよ」



「さぁ!今宵のグランギニョルを始めよう…!」


演説 水銀の蛇


2XXX年 5月1日

 

PM13:30

 

ある場所に二人の少年、いや青年達が拉致されていた。

 

一人は奥の倉庫へ放り投げられ、もう一人はその隣の倉庫で縛り付けられている。

 

「悪いな?お前を使わんと棄権させられないんでな?」

 

「もう一人は?」

 

「奥に縛って放り込んである。お偉いお姉さまが見てるよ、これで大金と権力が手に入るなら万々歳だ」

 

「・・・・」

 

青年の一人は黙っていた。

 

身動きが出来ないからか、それとも悲観して全てを諦めているからだろうか。

 

「(勝利を・・・勝利を、こんな奴らに負けるなんて嫌だ・・![総てを蹂躙し尽くしたい、全ての力を得たい!]」

 

否、青年の心の内は闘争の渇望を放っている。

 

それはまるで祈りのように、宇宙(ソラ)へと向かっていく。

 

奥の倉庫へ放り投げられたもう一人の青年も先ほどの青年と同じように渇望を放っていた。

 

「(こんな、俺がなんで!ふざけるな![斬首台のように全て刈り取りたい!俺自身が刃だったらいいのに!])」

 

もう一人の青年も闘争を望む渇望を放っている。

 

ふたりの渇望が宇宙(ソラ)へ溶けていてく。

 

『卿らの渇望(ことば)・・・確かに聞き遂げた。我が軍勢(レギオン)に相応しくある』

 

「「!!!!!!????」」

 

どこからか聞こえてくる声に二人は場所こそ違えど同じ反応を返した。

 

まるで清水のように心に染み渡っていく、威厳にあふれた声。

 

カリスマなどという言葉では片付けられないほど二人はその声に聞き入った。

 

『卿らは何を望む?』

 

「「勝利(ジークハイル)を!!」」

 

 

『よかろう、ならば我が軍勢(レギオン)に招待しよう。ザミエル、マキナ』

 

 

突如として二つの倉庫の扉が破壊される。

 

一方はまるで戦車の砲弾が直撃したかのようにひしゃげており、もう一方は超高温による熱でチョコレートのように溶かされていた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・・ふん」

 

一人は男性らしく、無精髭を生やし鍛え抜かれたその身体は無駄なところが一切ない。

 

その男が繰り出す拳によって銃を持った護衛の男達が次々に命を駆られていく。

 

「・・・ここに一人か」

 

 

 

 

 

 

もう一人は女性で口には葉巻を咥えて紫煙を吹かしている。

 

炎のように紅く長い髪を束ねており、それを靡かせながら近づいてくる。

 

軍人といった様子だが美貌を持ちながらも左顔面にある火傷の痕によって更に威圧が増している。

 

「ハイドリヒ卿が目をかけた小僧どもか。なるほど渇望の度合いが強い事は認めよう、だがそれだけだな」

 

「あ、アンタ何者よ!?女なのに男を助けるの!?」

 

主犯格の女性が女騎士であるザミエルに震えながら意見を口にする。

 

しかし、それは自分の命を業火に晒す事と同義であった。

 

「女尊男卑・・・くだらん思想だな。その機械を動かせるだけで己を特別だと思う考え、反吐が出る」

 

吐き捨てるかのように紫煙を吐き出し、ザミエルは目を伏せた。

 

これ以上見るに値しないと言わんばかりに。

 

「死ねぇ!」

 

女に付き従っている残った最後の男がマキナと呼ばれた男へ向かっていく。

 

「・・・・」

 

ギリギリと拳を握り締めたマキナは無言のまま構えをとり拳を放つ。

 

「あ・・・がッ・・・?」

 

何が起きたかわからない、それが男の本心だろう。

 

拳を撃ち込まれたに過ぎない、ただそれだけだ。

 

終焉を告げる拳、触れた物の歴史(じかん)を終わらせる一撃を受けた男は倒れたまま動かない。

 

「そんな・・・一撃で」

 

マキナの一撃を受けた男は終焉(たおれて)いた。

 

「この程度か・・・」

 

最早、自分の任務を終えたと言わんばかりにマキナは動かない。

 

「こ、こうなったらアンタだけでも!!」

 

女は紫煙を揺らしているザミエルへISの射撃武器を向け、砲撃した。

 

「やった!」

 

手応えを確かに感じた。目の前にいた紅の女を倒したと確信している。

 

「この程度か・・しかも素人過ぎる。撃つなら確実に仕留めろ。貴様ごときには剣など不要だな」

 

「そ、そんな!直撃だったはずよ!?生身の人間なのに!」

 

爆煙が晴れた中から現れたのは無傷のまま真紅の髪を揺らした紅の騎士の姿だった。

 

Was gleicht wohl auf Erden dem Jagervergnugen(この世で狩りに勝る楽しみなどない)

 

その瞬間、主犯であった女は火柱に包まれた。

 

悲鳴すらもかき消す炎はISごと女を焼き尽くし、塵芥に変えた。

 

「すごい・・・」

 

それを見ていた青年は恐怖ではなく憧れを抱いていた。

 

炎に魅せられた訳ではない、圧倒的に敵を倒す力と実力それに魅せられたのだ。

 

「貴様等さっさと立て。ハイドリヒ卿がお待ちかねだ」

 

促されるままに立ち上がり、紅騎士であるザミエルの後へと着いて行く。

 

「来い・・・」

 

黒騎士であるマキナも、もう一人の青年を連れて行く。

 

「終焉・・・・一撃」

 

マキナについていく青年はマキナの終焉(ちから)を羨ましく思っていた。

 

全てを終焉させる力は彼にとっては憧れであり、渇望の根源であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入るがいい」

 

「・・・・」

 

案内された先は城のような場所であり、円卓があった。

 

マキナはⅦの数字が書かれた席に座り、ザミエルはⅨの数字が書かれた席に座った。

 

「さて、卿ら。初対面だったな、名乗ろう。私はラインハルト。ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ」

 

その名に青年達は驚愕した。

 

ラインハルト・ハイドリヒと言えば歴史を深く掘り下げたものなら知っている名だ。

 

当時のドイツでナチスのゲシュタボの長官を勤めていた人物だ。

 

その人物が目の前にいる。それだけでも驚きだがそれ以上の輝きに対して必死に耐えていた。

 

威圧、眼光、姿。その全てが黄金であり、有無を言わさぬ雰囲気を纏っている。

 

「卿らの名前は?」

 

「織斑一夏」

 

「鏡月正次」

 

二人はそれぞれ名乗った。そして心の中に黄金の輝きが射し込む。

 

「この統治された世界において渇望を持つか、それもかなりのものだな」

 

まるで愛でるような声に二人は震えていた。このハイドリヒという男は威厳がありすぎる。

 

「っ・・・っ・・く」

 

正行は震えていた、ハイドリヒから溢れ出る覇気に当てられているのだ。

 

「少々、戯れが過ぎますな。獣殿?」

 

影法師のように外套を纏った痩せた男がいつの間にか場にいた。

 

「カールか」

 

「この二人は未だ[人間]。獣殿と相対しているだけで大したものでしょう」

 

そう、この黒円卓にただの人間である二人が耐えられている事は珍しいのだ。

 

「さて、皆が揃ったところで本題に入ろうか。この二人を黒円卓に迎えたいがどうかね?」

 

「この二人を?」

 

カールと呼ばれた男は含み笑いを浮かべたままラインハルトを見つめている。

 

それと同時に二人の方へも視線を移す。

 

陽炎のように存在がない。しかしその仕草や行動一つ一つがまるで土に染み込む水の如く、それでいて遅効性の毒のように染み込んでくる。

 

黒円卓の面々は二人へと視線を一斉に向ける。

 

「ハイドリヒ卿、コイツ等はまだ人間なんっすよね?大丈夫なのか?」

 

「確かに坊や達だものね、魂の強度は認めるけどね~」

 

サングラスをかけた白髪の男性と小柄な女性が意見を述べた。

 

まるで品定めをするように見続ける、獲物だと言わんばかりに。

 

「彼らの渇望は我がグラズヘイムにふさわしいと思うがゆえに呼んだのだが、不服かね?」

 

ハイドリヒの表情は読み取れない、しかしそれをカールは笑ったまま見ている。

 

「それなら鍛えてあげれば良いんじゃないかなぁ?この二人の血を見てみたいしねぇ!」

 

「貴様にしてはまともな意見だな?シュライバー」

 

眼帯をした白髪の少年とザミエルは意見を僅かに交換すると目を伏せた。

 

品定めが終わったように黒円卓の面々はハイドリヒ卿に視線を向けた

 

「俺は強くなれるのか・・・?」

 

「そうだ!強くなれるのか?ここにいる方々のように」

 

二人は必死に叫ぶ、自分達もこの円卓に相応しくあろうと。

 

「無論」

 

ラインハルトは笑みを深くすると二人へ黄金の波動を向ける。

 

先ほどの波動とは違い、二人を肯定する波動。言葉にすれば愛という感情を向けられたのだ。

 

「あ・・ああっ・・・」

 

「あ・・・ああ・・・」

 

二人は涙を流していた、誰にも認められず二人の姉妹の付属品としか見られなかった青年と自身の存在を認めず親類の人形になるよう強制された青年。

 

破壊の愛、それは王者が従者を認める覇者の愛であり、それを受けた二人は歓喜している。

 

「ほう?この二人はよほど他者からの愛に飢えていたとみえる」

 

外套を纏った男は二人に対し視線を向けた。

 

「獣殿、私も賛成致します。この二人を向かい入れては如何かな?」

 

「ああ、皆はどうだ?」

 

黒円卓の面々はそれぞれが頷いた。誰もが肯定の意思を見せている。

 

主たるラインハルト、そしてその隣に並び立つカール・クラフト。総首領の二人が向かい入れると判断したのだ、従者たる爪牙達に反対する意思はない。

 

「では、カール。二人に魔名と呪いを与えよ」

 

「承知した。ああ、君達には名乗ってなかったか。私はカール・エルンスト・クラフト、他にも名はまだまだあるが一番気に入ってる名を名乗らせてもらうよ」

 

そう言ってカール・エルンスト・クラフトと名乗った男はふたりの前に立った。

 

「織斑一夏、君の魔名はサタナ=キア。呪いは他者に認められない、だ」

 

「鏡月正次、君の魔名はフォル=ネウス。呪いは自分の存在を決めつけられる、だ」

 

儀式は終わったと言わんばかりにカールはハイドリヒの近くに立つ。

 

「さぁ…卿ら。新たな爪牙として我らと共に女神の治世を守ろうではないか」

 

「「Jawohl!」」

 

「(サタナのルーンは刃。そしてフォルのルーンは鏡、この二人は新たな未知を感じさせてくれそうだ。否、そうでなくては困る)」

 

 

「ジーク・ハイル!」

 

「「「ジークハイル!!」」」」

 

魔名を受けた二人は女神を守る修羅の宇宙へと足を踏み込んだ。

 

己の渇望を満たさんが為に。




勢いで書いてしまった。

正田崇氏の作品は引き込まれる要素が沢山ありすぎます。

チート級が揃う黒円卓の中で能力がチートなのはご了承ください。


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設定集

設定集です。

能力や機体がチートなのはご了承ください。


織斑千雨(おりむらちさめ)

 

織斑千冬と織斑一夏の妹。

 

何事も素っ気無くこなしてしまうほどに要領が良く、ISの適正もA+という驚異の適合率を見せている。

 

幼少期は姉達に懐く素直な性格だったが白騎士事件とISの発表によって性格が一変し他者を見下す自分勝手な性格へと変貌してしまう。

 

女尊男卑に染まっており自分が第二の織斑千冬と言われている為に他の適合者を見下している。

 

兄である織斑一夏は自分の足元にも及ばない最下層の人間として扱っていた。

 

専用機は白式・春雨

 

白式・春雨

 

白式の色を薄い桜色をスラスター部分に塗装した機体。

 

接近戦用のノーマルブレードと雪片の二本の刀を装備されている。

 

零落白夜を持つが使用時は二本の刀を一本にさせ発動する。

 

集中力を必要とするが千雨はこれをクリアし使いこなしている。

 

 

 

 

サタナ=キア(本名・織斑一夏)

 

織斑家の恥とされ、周りからは織斑千冬の付属品としてしか見られていなかった。

 

一つでも飛び抜けようと努力したが叶わず、ある日、第二回モンドグロッソに招待されるが織斑千冬を棄権させる為に拉致されてしまう。

 

しかし千冬は一夏を自分の言う事を聞く弟にしか思っていなかったため棄権しなかった。

 

それにより渇望を自覚し、聖槍十三騎士団黒円卓へ導かれる。

 

渇望は[斬首台のように全て刈り取る刃になりたい]

 

という求道の側面を持つ覇道の渇望。

 

聖遺物はメルクリウスから与えられた魔剣ダーインスレイブの欠片。

 

Blutige Der Slave[血濡の竜剣](ブローティガ・ダースレヴ)

 

位階は創造

 

創造名はBlutige Geommu(血まみれの剣舞)

 

武装形態は両者共に武装具現型

 

大剣に数本以上の刃が生えたような形をしており、サタナ自身が持つには小枝と変わらない重さだが、他人が持とうとすると柄から刃が飛び出し、持てたとしても2トントラック100台分の重さがある。

 

IS機体は剣戟

 

普段名乗る魔名は悪魔の一人サタナキアから名付けられている。

 

あらゆる女性を意のままに従わせるという悪魔の名を魔名にした水銀の蛇による皮肉はイケメンであり女性を無意識に虜にするゆえと言える。

 

 

 

剣戟

 

サタナの機体で剣撃と速さに特化したIS。

 

位階が創造ではあるが武装具現型である為にISへの負荷が少ない。

 

創造状態では剣を振った時に生ずる空気ですら刃になる為、間合いが広い。

 

近距離では剣撃を、遠距離では真空の刃と衝撃を飛ばす。

 

正に相手を血まみれにする剣の舞を体現する。

 

機体色は灰色

 

 

 

 

 

フォル=ネウス(本名・鏡月正次)

 

大企業である鏡月グループの息子ではあったがその性格ゆえ、親類に従わなかった為に勘当された。

 

最後の情けとして生きていけるだけのお金だけを渡され、法的にも他人にされる。

 

権力とその財力に目をつけた女性利権団体が拉致した。

 

この時にサタナ(一夏)と出会う。

 

しかしフォルが他人になってるとは知らずに拉致した為に殺されそうになる。

 

その瞬間に渇望を自覚しサタナと共に聖槍十三騎士団・黒円卓へと導かれた。

 

渇望は[総ての力を得て蹂躙し尽くしたい]

 

という覇道の渇望。

 

位階は創造。

 

聖遺物はメルクリウスが作り出した神話級の鏡。

 

Labyrinth Gefängnis[迷路の牢獄](ラヴィラント・グフィンヌス)

 

 

創造はNachahmung Spiegel(模倣の合わせ鏡)

 

武装形態は人器融合型

 

形成による技は今まで見てきた戦い方(剣術や格闘技などの技術)を自分の技術として使えるというもの。

 

創造においては創造自体を模倣するという馬鹿げた能力を発現した。

 

創造ではグラズヘイムにて今まで戦った黒円卓のメンバーの意思の欠片が取り込まれており、その声が許可した場合その創造が解放される。(ただし、ラインハルト、メルクリウス、ゾーネンキントの模倣は不可能)

 

模倣であるために本人の創造に威力などは及ばないがそれでも強力な事に変わりはない。

 

(具体例・死森の薔薇騎士を模倣すれば結界内部の相手の生気を吸い取り自分の物にするという部分しか発動できない[聖遺物が違うため]人世界・終焉変生はただ威力が高すぎるだけのパンチにしかならない[求道の度合いが違いすぎるため])

 

黒円卓からは模倣者と言われ馬鹿にされているが(特にヴィルヘルム)模倣するという観察力を評価している者もいる。

 

IS機体は鏡花

 

 

 

魔名は一夏と同じく悪魔の一人、フォルネウスから付けられている。

 

敵から友人同様に愛されるようにするという水銀の蛇からの名付けは愛されなかったフォルを皮肉る魔名である。

 

 

 

鏡花

 

フォル専用のISで変形機構があるIS。

 

変形といっても余分な装甲をパージするだけであり、変形とは言いにくいが創造発動のためである。

 

武器は接近戦用のクロー、マシンガン、ブレードとバランスよく配置されている。

 

変形後は創造によって運用が変わる。

 

三騎士ならばその色に応じた肩がけのような装甲が展開される。

 

IS自体の負荷が大きいために装甲を排除した後は待機状態での冷却が必要となる。

 

機体色は鏡を彷彿とさせる銀色。

 

 

 

 

 

 

戦乙女

 

ベアトリス専用機で剣撃戦闘を主とする剣戟の戦闘データを基に鏡月の機体データを流用しカール・クラフトの魔術協力によって開発された。聖槍騎士団用ISの一号機。

 

カール・クラフトの協力によってエイヴィヒカイトに耐えられる仕様になっている他、創造位階の使徒の圧力にも耐えられるよう魔術防御も施されている。

 

一号機はベアトリス専用として高機動剣術型に調整され、接近戦用にブレードを二本、射撃武器もハンドガンという接近戦仕様となっている。

 

創造発現時は機体も雷化するため事実上、攻撃無効化状態となるがベアトリスの枷となるのがエネルギーの少なさ。他の専用機が350とするなら150しかない。

 

待機状態は剣のペンダント。カラーリングはスカイブルー

 

 

拷問城の魔女

 

聖槍騎士団用ISの二号機。こちらはルサルカに合わせて調整されている。

 

魔術要素をふんだんに取り入れ、食人影を模したビット兵器や拷問器具を模した武装を持つ。銃型の武装はISの腕部に直接装着されている反動の少ない小型ガトリング。

 

中距離防御型仕様の為、接近戦はやや不手。

 

創造発現時は拷問器具が腕に装着される。ルサルカの枷になってしまうのがブーストによるが他の機体よりも最も遅いという点。

 

待機状態は魔術師が持っているような杖のペンダント。

 

カラーリングは赤系のクリアパープル。

 

 

獅子心

 

聖槍騎士団用ISの三号機。こちらは櫻井螢用に調整されている。

 

剣撃戦闘用の調整がなされているが、速さではなく動きやすさを重視している。

 

マシンガン型の銃が装備されているがあくまで牽制程度。また日本刀を模したブレードを脇差と太刀の二本装備している。

 

創造発現時は腕部とスラスターのみの攻撃主体形態になる。

 

蛍にとっての枷は動きやすさを重視した故、緩急に即座対応できない事。簡潔に言えば機体の反応速度に遅れが出る。

 

カラーリングはクリムゾンレッド。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Twilight Der Wächter(黄昏の守護者)

 

サタナが発現した流出であり、発現した能力は『覇道神と座の容量増加による力の増大』

 

女神と出会った事で支えてくれる人がいるのを知った事で発現した。

 

本来ならば自分が愛されている自覚を持たないサタナが女神の抱擁を受けたことで己の中にある情愛を自覚。

 

座の容量と覇道神の力を底上げするというナラカに逆らうともいうべき力を得た。

 

サタナ自身は座を放棄しており、自身は女神を支える守護者だと認識しているため強制力はほとんどない。

 

仮に座を握った場合、仲間を大切に互いに支え合うという理が流れ出るが、繋がりばかりを追い求め生産性の無い世界が生まれてしまう。

 

 

相克の存在であるフォルがいる事で互いに互いを補い合う性質となっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

Götter Säule(神々の支柱)

 

 

サタナの相克の存在であるフォルが発現した流出。発現した能力は『覇道の模倣』

 

女神と出会い、相克の存在を知覚した事で発現した。

 

流出位階へと至った事より、座の記録を利用し力を模倣するという力を得た。

 

第四の座であるメルクリウスだけは相性が悪く占星術のみしか模倣できない。

 

ISの意志を軍勢変生させ、自らに取り込ませているためISの武装をそのまま扱うことができる。

 

 

フォル自身も座に興味は無く、当代の統治が続くことを願っているため放棄している。

 

座を握ったとしても自分で作り出すことができず何かの模倣しかできない世界が生まれてしまう。




出来ました・・・。

自分で書いていてチートすぎると思いますが黒円卓だから仕方ない。

この世界のDies iraeでは戒とベアは恋人ではありません(重要)

その為、第5位にはそのままベアトリスがいます。

ヒロイン候補にするつもりなので。


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詠唱集

サタナとフォルの詠唱です。


サタナ=キア

 

形成詠唱

 

Was in des Zwiespalts wildem(かつて激しい板挟みの苦悶に囚われ)

 

Schmerze verzweifelnd einst ich beschloss(絶望の中で決断した事を今)

 

froh und freudig führe frei ich nun aus(私は心楽しく実行しよう)

 

Zieh hin(行くがいい)

 

Ich kann dich nicht halten(もう私にお前を止める事は出来ないのだから)

 

 

Yetzirah(イェツラー)

 

 

Blutige Der Slave(血濡の竜剣)[ブローティガ・ダースレヴ]

 

 

創造詠唱

 

So starb meine Mutter an mir(母は私のために死んだのか?)

 

Sterben die Menschenmütter(人の母は)

 

an ihren Söhnen alle dahin(子供を産めば全て死んでしまうのか?)

 

Traurig wäre das, traun! Ach, möcht'(それは悲しすぎる)

 

ich Sohn meine Mutter sehen(ああ 母に一目会いたい)

 

Viel weiss ich noch nicht,(私もまだ多くのことは知らないから)

 

noch nicht auch, wer ich bin.(私は 私自身が何者かさえ分からない)

 

Doch ich - bin so allein,(私は一人きりだ)

 

hab’nicht Brüder noch Schwestern(兄弟もいなければ姉妹もいない)

 

meine Mutter schwand(母は消え 父は倒れた)

 

mein Vater fiel: nie sah sie der Sohn!(子供の私が親に会う事はない)

 

Briah(ブリアー)

 

Blutige Geommu(血まみれの剣舞)[ブローティガ・ゲオム]

 

 

 

 

流出詠唱(元ネタは戯曲フィデリオ)

 

 

Euch werde Lohn in bessern Welten(この世界でお前に報いがある)

 

 

Der Himmel hat euch mir geschickt(天はそなた達を私に遣わし)

 

 

O Dank!Ihr habt mich süss erquickt(その優しさに感謝を込めて)

 

 

Die hehre bange Stunde winkt,(不安な時が訪れよう) Die Tod mir oder Rettung bringt.(それは死なのか 救いなのか)

 

Und kann er helfen(そして救おう) hilft er gern(自ら喜んで救える者を)

 

 

Atziluth――(流出)

 

 

Twilight Der Wächter(黄昏の守護者)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォル=ネウス

 

形成詠唱

 

Nie mehr erfreu' mich Liebesglück(もう愛の歓びなど要らない)

 

Nie wird Vergebung dir zuteil,Kehr wieder,(許されるはずがない 戻るべきなのだ)

 

schliesst sich dir das Heil(貴方の救いの道は閉ざされているのだから)

 

Yetzirah(イェツラー)

 

Labyrinth Gefängnis(迷宮牢獄)[ラヴィラント・グフィンヌス]

 

 

創造詠唱

 

Ach lass mich nicht vergebens suchen,(なぜ無益に探し求めさせるのだ)

 

wie leicht fand ich doch einstens dich(かつては簡単に探し出せたのに)

 

Du hörst, dass mir die Menschen fluchen,(人が私を呪う声があなたにも聞こえるだろう)

 

nun, süsse Göttin, leite mich(愛しき女神よ、私を導いて欲しい)

 

Mein Heil,(私の救いは)

 

mein Heil hab'ich verloren(私の救いは、もう失われたのだから)

 

Der Gnade Heil ist dem Büsser beschieden,(この贖罪者にも恩寵の救いが与えられた)

 

er geht nun ein in der Seligen Frieden(至福と平和の眠りにつく)

 

 

Briah(ブリアー)

 

Nachahmung Spiegel(模倣の合わせ鏡)[ナハーアーモン・シュピーゲル]

 

 

 

 

 

流出詠唱(元ネタは戯曲アイーダ)

 

 

T'avea il cielo per l'amor creata,(あなたを愛の為に天は造った) Ed io t'uccido per averti amata!(私の愛であなたを死なせてしまう!)

 

 

Pregherai fino all'alba io sarò teco(夜明けまで祈ろう私もあなたと共にあるゆえ)

 

Ti sia guida, ti sia luce(これがあなたの導き)Della gloria sul sentier.(栄光へと至るあなたの灯り)

 

Nume, custode e vindice Di questa sacra terra.(守護者にして復讐者たる者よ)

 

E patria, e trono, e vita(座もこの命も)Tutto darei per te.(全てをあなたに捧げよう)

 

i schiude il ciel e l'alme erranti.(天が開く、彷徨える魂よ)

 

Suonin di gloria i cantici(栄光の歌を響かせよう)

 

Su! corriamo alla vittoria!(行くぞ!我らは勝利へと向かう!)

 

Dirti: per te ho pugnato,(そして告げよう、私はあなたの為に戦い)per to ho vinto!(勝利したと!)

 

Atziluth――(流出)

 

 

Götter Säule(神々の支柱)




詠唱まで作ってしまった。

サタナの詠唱はオペラの「ニーベルングの指輪」よりジークフリートのパートです。

フォルの詠唱はオペラの「タンホイザー」からです。


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第二劇 訓練

「彼らは何を思い、何を考え爪牙となったのか・・・」

「これを運命というのならば神が引き寄せたのやも知れぬ」

「学び舎で二人は知る事になるだろう」

「己の渇望がどれほど強力なのかを」

「これは目の前にある美酒を開けたいと思う欲望と似ている」

「いずれは開く事になるだろうが今はその味を想像するだけにしよう」

「では、幕が上がるよ。楽しむといい」


演説 水銀の蛇


「ははははは!どうした!!その程度は勝てんぞ」

 

葉巻を口にくわえ、楽しそうに笑いながら炎を放っているのは赤騎士(ルベド)の称号を持つ大隊長、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウァその人である。

 

「手加減なしかよ!あの人!!」

 

「ベアトリスさんも言ってただろ!![少佐は絶対に手加減なんてしてきませんから]ってよ!おわ!」

 

その炎を避けつつ会話しているのは織斑一夏=サタナ=キアと鏡月正次=フォル=ネウスの二人である。

 

こんな状況になったのは二人の浅はかな行動のせいであった。

 

地上での買い物を頼まれた二人は各々が必要とするものを買い終えた矢先にISの起動モニターをしていた場所でISに触れて起動させてしまい、逃げるようにグラズヘイムへと戻ったのだ。

 

そのことを知った黒円卓の面々は大笑いし、メルクリウスからは。

 

「女の園であるIS学園に行く事になるだろう。書類などは私が済ませておくよ」

 

と言われてしまう始末である。

 

それを言われた二人は。

 

「「メルクリウス!超ウゼェェェェェ!!」」

 

とものすごい声で叫んだらしい。

 

 

その後、外の時間では半年余りの猶予があるということでこうして特訓と入学までの知識を叩き込むという名目でシゴかれているのだ。

 

勉学の教員はエレオノーレ、ベアトリス、リザ、ルサルカ。

 

戦闘訓練担当はエレオノーレ、マキナ、シュライバー、ヴィルヘルム。

 

という並の人間なら200年先まで殺されてるんじゃないかという面子だ。

 

特にエレオノーレは久々に教官が出来るとの事でものすごくいい笑顔だったらしく。

 

それを見たベアトリスとリザはこう語っている。

 

「あんな楽しそうな少佐初めて見ましたよ・・・」

 

「よほど教官をやれるのが楽しみなのね・・・」

 

とリザは呆れており、ベアトリスは苦笑していた。

 

 

「ほう?貴様等、お喋りする余裕があるようだな?」

 

「げっ!」

 

「ヤバっ!!」

 

「燃え尽きろおおおおお!!」

 

一発だった砲撃が一気に10発へと増え、更にはパンツァーファウストまで出てくる事態になった。

 

「サタナ!この訓練が終わればリザさんとの勉強だ!」

 

「おう!フォル!意地でも生き残るぞ!」

 

「ブレンナーとの勉強だと?」

 

「「あ・・・」」

 

それは聞こえていたらしくエレオノーレは青筋を立てていた。

 

「逃がさん!灰になるまで決してなぁ!!」

 

砲撃が激しくなり、ベアトリスが止めた時点で特訓は終わった。

 

死んでも死ねないのがグラズヘイムの特性であり、二人は訓練後に教室へと向かった。

 

「あらあら?エレオノーレによっぽどシゴかれたようね?」

 

教室に入ってきたリザは苦笑しながら二人を見ていた。

 

「生きてるだけで儲けものですよ」

 

「ああ、死ねないことにこれほど感謝したことねぇや」

 

着席すると二人は授業用のノートと教科書、ペンを出した。

 

「それじゃ始めるわね」

 

その後の勉学は二人共真面目に聞いていた。

 

美人で教え方も上手な年上の方に教えられれば、それは頑張るというもの。

 

「はい、今日はここまでよ。この後も戦闘訓練でしょう?」

 

「「ありがとうございました」」

 

そう言って教室を出ていき、闘技場に向かうとそこにいたのは。

 

「やぁ!午後の訓練の相手は僕だよ」

 

「うわあああああ!!」

 

「シュライバー卿かよおおお!!」

 

「アハハハハ、君達?また僕を楽しませてよねぇ!」

 

そう、三騎士の一人であり白騎士(アルベド)の称号を持つ大隊長、ウォルフガング・シュライバー=フローズヴィトニルがそこにいたのだ。

 

二人はシュライバーを苦手としている理由は二つ。

 

一つは遠距離から攻撃してきてそれが的確であること。

 

もう一つは攻撃を当てた瞬間に創造(真)が発動するためだ。

 

「行くぞォ!!」

 

「行くぞォ!!」

 

二人はヤケクソ気味に戦いを挑んでいった。

 

「いいよ、いいよ!君達!最高だ!何度でも倒してあげるよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訓練を半年続け、とうとうIS学園への入学の日がやってきた。

 

「卿らはしばらくこの城を離れるわけだな」

 

「はい」

 

「大丈夫ですよ、すぐに終わりますから」

 

入学の報告を首領であるハイドリヒにしていた。

 

「獣殿、私から提案が」

 

「なんだ?カールよ」

 

いつの間にかカールがハイドリヒの隣に来ており、話しかけていた。

 

「外の世界は私も興味がある、ゆえに二人ほど監視役を出しては如何かと」

 

「ふむ、この二人と共に外へ行く者はいるか?」

 

ハイドリヒが目配せすると二人ほど手を上げていた。

 

「私も行きます。この二人危なっかしいですし」

 

そういったのはベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン、黒円卓の中で二人が最も親しみやすい女性だ。

 

「じゃ~私も~。坊や達の成長もみたいし~」

 

楽しそうに自分も行くと言っているのはルサルカ・シュヴェーゲリン=マレウス・マレフィカルム。

 

少女のようだが実際は二人以上の年上である。

 

「ふむ、ではマレウスとヴァルキュリアを向かわせましょう」

 

「ああ、卿ら。しかと学んでくるといい」

 

 

「「Jawohl!」」

 

 

そして二人はIS学園へと向かう。

 

新たな戦いが待っていると知らずに。

 

自分達を見捨てた者たちが居ると知らずに。

 




「歌劇の休息となる」

「では、後の歌劇を楽しみたまえ」

「次の演目は入学だ」

「憎みあっている者が出会った時にどうなるか、楽しみで仕方ないよ」

「では、後ほど」


水銀の蛇


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外演目 水銀と天災

「これは私が幾万、幾星霜も出会った一つの既知」

「本来、女神以外は興味はわかんのだが」

「話す価値がありそうなのでね」

「では、外演目としてはじめよう」


演説 水銀の蛇


スイスにある秘密研究所、そこでは一人の女性がコンピューターに向かっていた。

 

「ちーちゃんもさーちゃんも酷いよ、いっくんを放置なんて」

 

彼女の名は篠ノ之束。ISを開発した天才科学者である。

 

今の彼女は世界中にある監視カメラをハッキングし、織斑一夏の行方を探していた。

 

「いっくん、どこにいるのさ。この束さんが必死になっても見つからないなんて」

 

イライラがつのってきたのか、彼女は指で机を叩き始めた。

 

「彼はこの世界にはおらぬよ」

 

「!!???誰だ!?」

 

「織斑一夏を探しているのだろう?篠ノ之束」

 

すぐ後ろを振り向くとそこには外套姿のカール・クラフトが立っていた。

 

「誰だよ、お前。どこから来た」

 

束はすぐさま冷徹な表情を見せ、カールを睨んだ。

 

「サン・ジェルマン、パラケルスス、トリスメギストス、アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。あらゆる名はあるが、ここではカール・エルンスト・クラフトと名乗っておこう」

 

「ふざけてんの?その人物達は」

 

「ああ、確かに死んでいるがね。あれらも私なのだよ」

 

「(こいつ、一体何なのさ?まるで影のようにつかみにくい)」

 

束は警戒をますます強め、一歩引いて逃げられるようにした。

 

「織斑一夏に会いたいかね?」

 

「!!!なんでお前のような奴がいっくんの事を知ってるのさ!」

 

「彼は今、我らの城にいる。聖槍十三騎士団の城にね」

 

「なん・・・だと・・・?聖槍十三騎士団だって・・」

 

束はその名を聞いたと途端に冷や汗をかいた。

 

「そんな所にいっくんがいるはずが!」

 

「ない。とは言えんよ。彼は自分の意志で我らの元に来たのだから」

 

「そ、そんな・・・」

 

束は座り込み、絶望に打ちのめされた顔をしている。

 

「私は君に頼み事があって来たのだよ」

 

「束さんに頼み事・・・だと?」

 

メルクリウスは笑みを見せると歌うように話を始めた。

 

「ああ、織斑一夏ともう一人、彼と相反する者がいてね。彼らの専用機を作って欲しいのだよ」

 

「ふざけるなよ!束さんがお前の頼みなんか聞くわけないだろ!」

 

「織斑一夏はIS学園に入ることが確定していてもかね?」

 

「なっ!」

 

「君も知っているはずだ。男性二人がISを動かした事、そしてその人物が織斑一夏と似た人物であることを。その人物は紛れもなく織斑一夏だ」

 

メリクリウスの言葉が束の心に浸透していく、文字通り水銀を含んだ毒のように。

 

「いっくん、あれが・・・あれがいっくん・・・」

 

「私は命令はしていない。ただ、あの二人の為に頼んでいるだけに過ぎんよ」

 

「専用機を作ればいっくんに会えるの?」

 

「無論、私は約束は違えない。君が彼との再会を望むのなら必ず会えると約束しよう」

 

その言葉は悪魔の囁きだったが、束はそれに乗ることを決意した。

 

「わかったよ。いっくんともう一人の専用機を作ればいいんだね?」

 

「二人に代わって感謝しよう。それとこれが今の彼らの身体状態だ」

 

メルクリウスは手を軽く動かし直接、二人に関する記憶を束の脳に流し込んだ。

 

「!!??こんなの、ISが枷になる状態じゃないか!!」

 

「君ならばそれを超えられるだろう?この世界の超越者なのだから」

 

「っ・・癪な言い方だけどやってやろうじゃないか。この天才、束さんがさ!」

 

「くくくく・・・では、頼んだよ?私は君の事を二人へ伝えに行かねばならぬのでね」

 

メルクリウスはその存在を稀薄にし始めている。

 

「完成したらどうすればいい?」

 

「この世界に私の知り合いがいる。ベアトリスとマレウスといえば分かるはずだ。その二人に渡してくれたまえ」

 

「わかった、ちゃんといっくんと会わせてよ?」

 

「もちろんだとも」

 

そういってメルクリウスの存在がいつの間にか消えていた。

 

「聖槍十三騎士団・・・どうしてなの?いっくん・・・」

 

束は失ったと思っていた涙を流していた。

 

「でも、専用機を完成させれば再会出来るんだ!」

 

すぐに作業に取り掛かると、束は爪牙に耐えられるISの開発に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束さんに頼んできた!?」

 

「よくできたなぁ」

 

知らせを受けた二人は驚愕の声を上げていた。

 

「君達の為に骨を折ったのだがね。一週間後は入学の日だ、準備するべきではないかな?」

 

「ちっ・・」

 

「しょうがねぇな」

 

一本取られたと言いたげに二人はその場を離れ、入学の準備に向かった。

 

これはちょうど入学の一週間前の出来事である。




「如何かな?」

「これはもう既に私にとっては既知なのだがね」

「君達にとっては未知となるのかな?」


「では本劇に戻るとしよう」


水銀の蛇


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第三劇 入学

「彼らはそこで因縁である人物と出会うことになる」

「それは彼らにとって良き再会なのか、憎しみを暴走させるのか」

「未だ解らない。ただ一つ言えることは」

「その目には殺意のみが宿っているという事」

「さぁ、その殺意(えんぎ)を見せてくれ。新しき演者よ」


BGM・Unus Mundus

演説・水銀の蛇


グラズヘイムから抜け出して一日が経過し、晴れてIS学園に通うことになった俺達は受付をしに学園へ訪れていた。

 

「はい、書類の方も預かっています。皆様は転校生という形で編入になります」

 

「「「「ありがとうございます」」」」

 

教員の一人が四人を見つつ、書類に不備がないか確認している。この間に久々の地上を俺達は噛み締めている。

 

「それでは皆様のクラスは一組となります。この職員室を出て二階の一番奥ですので」

 

「はい、分かりました」

 

「失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

「それじゃ~」

 

 

一言、挨拶を返すと四人は職員室を出た。

 

「しかし、馴染まないな?この制服。苦しくて仕方ないって」

 

「贅沢言うなよ、我慢しとけって」

 

「はぁ・・・」

 

サタナはため息をつき、フォルは笑いながら教室を目指した。

 

「ここの制服はキツいものね~」

 

「うーん、こういうのって違和感ありますよね」

 

ルサルカはノリノリで着ており、ベアトリスは苦笑しながら歩いていた。

 

「そういえば、二人共名前は決まっているの?」

 

そう、声をかけたのはルサルカだ。どうやら気になっているようで笑顔のまま、先頭を維持したまま振り返った。

 

「ああ、サタナだけじゃ不便だからサタナ=キア・ゲルリッツって名前にしたよ」

 

「なんだかドイツっぽい名前ね~?」

 

「フォルも決めているんでしょう?名前は」

 

フォルに声をかけたのはベアトリスだった、やはりニヤニヤ顔で聞きたそうにしている。

 

「フォル=ネウス・シュミットって名前だ。ドイツ風味が被っちまったけどよ」

 

「良いじゃないですか、ドイツに帰化したと思えば」

 

「確かにそうだな」

 

少しだけ笑い合うと目的の教室に到着していた。

 

どうやら中では一人の教師の反響がすごい状態らしい。中からは

 

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです!」

 

「お姉さまの為になら死ねます!」

 

等といった発言が危なすぎるカオスな状態になっているようだ。

 

「・・・・」

 

その様子を廊下からサタナは睨むように見ていた。彼にとっては最も憎く嫌いな相手が教室の中にいるためだ。

 

「サタナ、俺達はもう別の人間だ。関係ない」

 

「フォルの言う通りよ?気を楽にね?」

 

「ああ、ありがとうな?相棒、ルサルカさん」

 

「ふっ」

 

「さん付けで呼ばれるとなんだかくすぐったいわね~」

 

そう言っているうちにどうやら教室内部が落ち着いたようだ。

 

「これでSHRを終わりとする!と言いたいが、ここで重大発表がある。今日から発見された男性操縦者の二人と転校生二人がこのクラスに来る」

 

男性操縦者と聞いてクラスは賑わいを見せるがそれを静止させた。

 

「入ってこい」

 

扉を開けるとそこにはサタナの因縁の相手、織斑千冬とその副担任である山田真耶が教壇に立っていた。

 

「「「「失礼します」」」」

 

「(?アイツ・・・誰かに似ているような?まさかな)」

 

千冬は一瞬だけサタナに注目したがすぐに視線を逸らした。

 

「四人共、自己紹介を」

 

「・・・分かりました。ドイツから来たサタナ=キア・ゲルリッツだ。何故かISを動かせてしまった為にこの学園に来た。女尊男卑は嫌いだが後は普通に接してくれ」

 

「同じく、フォル=ネウス・シュミットってんだ。俺も女尊男卑だ勘弁願いたい、が!気兼ねなく接してくれや」

 

 

 

 

女尊男卑の言葉に数人の生徒が反応したがそれ以上に。

 

「きゃああああああああ!!」

 

他の生徒の悲鳴にも似た声が響き渡り、四人は耳を塞いだが少し遅く、耳鳴りを起こした。

 

「男子!それも二人よ!」

 

「黒髪に青い眼って神秘的!!」

 

「茶髪に黒い眼、帰化した人なのかな?」

 

「これはイイわ!今年はこの二人ね」

 

おい、最後!夜のティーガーみたいなことを連想するからやめろ。

 

「(私も欲しいかなぁ。その本)」

 

 

そんな事が起こっていたが、二人の自己紹介が終わると同時にサタナの頭部へ出席簿が振り下ろされ、それをフォルがしっかりと出席簿を握って止めていた。

 

「おいおい、これが教師のご挨拶か?」

 

「まともな自己紹介も出来ん奴らに仕置しようとしただけだ」

 

「こりゃあブリュンヒルデじゃなく、タローマティの間違いじゃねえのか?」

 

「貴様・・・」

 

フォルの挑発に千冬は更に追撃しようとしたが。

 

「やめてください、まだ他の二人の自己紹介が残ってるんですから」

 

それを止めたのは副担任の山田先生だった。

 

「ふん、命拾いしたな?」

 

「あんたに取られるほどヤワじゃないけどな?」

 

挑発を挑発で返し、教室内は殺気で包まれたがそれを払拭しようと声を上げた者がいた。

 

「あー!全くもう!あ、私はベアトリス・キルヒアイゼンと言います!私もISというものが動かせてしまったのでよろしくお願いしますね!気兼ねなく話してくれると嬉しいです!」

 

「(ナイスよ!ヴァルキュリア!)ハーイ、私はルサルカ・シュヴェーゲリンよ。私も動かせちゃったから来たの、仲良くしてね?」

 

ベアトリスの元気な声とルサルカの鈴のような美声に教室中の生徒は。

 

「可愛い!」

 

「あのブロンドの髪をポニーテールにしてるけどすごく似合ってる」

 

などと騒ぎが再び起こっていた。

 

その中で一人だけ男性操縦者を睨んでいる者がいた。

 

「(男がISを動かしただなんて!それに、あのサタナって男。あの劣等種に似てて激しくムカつくわ!!)」

 

織斑千雨(おりむらちさめ)。織斑千冬の妹であり第二の織斑千冬などと言われている人物である。

 

 

「四人の席はちょうど右隅が空いているな、そこに座れ」

 

促されるがままに四人は各々の机に着席した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は四人で学生らしく喋っているように振舞っていた。

 

そこに来たのは一人の女学生だった。

 

「少しいいか?その、サタナという男と話がしたい」

 

「あ?」

 

黒髪にポニーテール、その目には危うさや独善といったものが宿っているが成長していないだけなのだろうという印象を四人は持った。

 

「俺とだと?」

 

「ああ、屋上でいいか?」

 

「手短に頼む」

 

サタナは他の三人に目を向けると。

 

フォルは行ってこいと行った様子で、ベアトリスさんは頑張ってくださいと言いたげでルサルカさんに関しては若いっていいわね?といった感じだ。

 

女学生とサタナは屋上へ上がり、向き合った。

 

「お前は・・・織斑一夏だろう?」

 

「誰だ?それ。俺は名乗ったはずだぞ?サタナ=キア・ゲルリッツだ。織斑一夏じゃない。それに誰だよ、お前は」

 

「わ、私は篠ノ之箒だ!忘れてしまったのか!?幼なじみを!」

 

「ああ、居たな。けどそれは織斑一夏が出会っただけでサタナ=キア・ゲルリッツは初対面だ」

 

「な・・・!」

 

「悪いな、戻らせてもらう」

 

そう言うとサタナは屋上から教室へと向かっていった。

 

「一夏。いや、サタナ・・・やはりお前はあの時のことが」

 

箒と名乗った少女は悲しそうにサタナが出て行った扉を見つめていた。




「こうしてかつての家族は出会った・・・」

「だが、それは仮初で最早憎しみという繋がりしかない」

「この繋がりを断ち切るか否か、それを教えたいところだが私は演者ではない」

「故に先の演目を楽しみにしてくれたまえ」

「では、次の演目で会おう。客人よ」

BGM・Unus Mundus

演説・水銀の蛇


※追伸

「作者よ、何故IS学園の制服姿のヴァルキュリア(ベアトリス)に悶えているのかね?」

『だったら女神(マリィ)がIS学園の制服着てるところ想像してみればイイだろ!』

「ああ、これは素晴らしいな。是非とも永久保存するべきだ。そうは思わんかね?」

『ウザイけどマリィの制服姿に関してだけは同意する』

「では、更にデータに保存し部屋用の壁紙にしなければなるまい」

『やっぱりメルクリウス。超ウゼェェェェ!!』

「解せぬ・・・」


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第四劇 戦前

「かくして、いよいよ最大の見せ場が始まる」

「どんな些細な事でも戦いとは美しいもの」

「私は荒事は苦手だが、観戦するのは好きな方だ」

「さぁ、魅せろよ。我が子等よ」

「その演目(たたかい)が舞台を盛り上げるのだから・・・」


BGM・Letzte Bataillon

演説・水銀の蛇


「ただいま」

 

サタナは少しだけため息をつくと自分の席についた。

 

「あの子はお前の知り合いだった子か?」

 

「知ってるみたいだったものね、向こうは」

 

フォルとルサルカも会話しようとサタナに近づき、椅子に座った。

 

「幼なじみだったがもう昔の話だ。今はもう関係ない」

 

「そういうのは大切にしたほうが良いですよ?サタナ」

 

ベアトリスは立ったまま少しだけ怒った表情を見せている。

 

「良いんじゃないですか?本人がもう関係ないって言ってんですし」

 

「だから、フォルは会話を乱さないでください!」

 

ベアトリスはペースを乱された事にご立腹の様子。

 

「まぁまぁ、これも若さよ。ヴァ・・・ベアトリス」

 

ルサルカは魔名で呼びそうになったのを訂正して呼びかけた。

 

 

 

周りから見れば何の変哲のない会話だが周りの生徒、特に女尊男卑主義者達は陰口を言っている。

 

それもそのはず、男性操縦者という異物の他に自分達を上回る美人とくればそれはもう妬みの対象にもなるからだ。

 

ルサルカはどこ吹く風で流しており、ベアトリスは元々そのような事を気にしない性格であるために全く動じていない様子だ。

 

そんな四人に近づいてくる一人の生徒が居た。

 

 

 

「少しよろしくて?」

 

「ん?」

 

「あ?」

 

「はい?」

 

「ん~?」

 

四人が四人、違った反応を見せ、話しかけてきた生徒はまるで火のように怒り出した。

 

「まぁ!何ですの!?そのお返事は!わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではなくて?」

 

その言葉にフォルが反応し、口を開いた。

 

「おいおい、俺達はこの学園に来たばっかりで右も左も分かってねーのに。それをいきなり出てきて私を敬いなさいって態度に(こうべ)を垂れるかっての!」

 

フォルの言葉にサタナ、ルサルカ、ベアトリスは頷き肯定の意思を見せた。

 

「くっ!」

 

「んで、アンタ誰だよ?名前がわからねーんじゃ名乗りようがねえからな」

 

「わたくしはセシリア・オルコット。イギリスのIS代表候補者ですわ!」

 

「イギリスねぇ。ま、忠告はしとくがあまりそんな態度とってるといつか破壊(こわさ)れるぞ?」

 

「っ!」

 

言い返そうとしたがチャイムが鳴り、セシリアは苦虫をかんだ表情をして自分の席に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、授業が始まる前に教員であり、担任でもある織斑千冬がHRを始めた。

 

「授業を始める前に再来週に行われるクラス代表戦でのクラス代表を決めねばならん。自推薦、他推薦は問わんぞ」

 

学校で言う委員長みたいなものだろう、フォルとサタナはかつての学生生活から予想し、ベアトリスとルサルカは軍での経験から予想していた。

 

「はい!フォル君を推薦します!」

 

一人のクラスメイトが元気よくフォルを推薦してきた。

 

「わ、私もフォル君を」

 

大人しそうなクラスメイトも代表になって欲しい人を推薦した。

 

「おいおい」

 

フォルは苦笑を浮かべながらクラスメイト達を見ている。

 

フォルとしては面倒な事は御免被りたい心境だが周りが許してくれないようだ。

 

「納得できないわ!」

 

「わたくしもです!」

 

立ち上がりながら怒号を上げたのは織斑千雨とセシリア・オルコットの二人だ。

 

その目には敵意しかなく、特に男性操縦者であるサタナとフォルを睨んでいる。

 

「クラス代表は最強である私がなるべきだわ!男なんかに任せられないわ!」

 

「それには同意致しますわ!こんな男の猿が代表に!」

 

セシリアの言葉が言い終わる前に机を思い切り殴る音が教室に響いた。

 

「「「「っ!!!!!!」」」

 

「いい加減にしやがれよ?相棒を馬鹿にするってことはあの方々を侮辱するのと同義だ」

 

それは怒りに満ちたサタナが出した怒りのメッセージだ。

 

机が無事なのは加減されてた故だがそれでもヒビが入っていた。

 

「っ、ならば決闘ですわ!」

 

「おい、今・・・なんて言った?」

 

「だから決闘ですわ!わたくしが全て倒して代表に相応しい事を示してみせます!」

 

「上等じゃないの!逆に返り討ちにしてやるわ」

 

「てめぇら・・」

 

今度はフォルが怒りを露わにしていた。

 

二人だけで盛り上がった事ではない。

 

軽々しく使われた決闘(たたかい)を示す言葉が心の奥にある忠誠が許せないと感情が溢れたのだ。

 

「決闘なら命に値するものを賭けろ・・・それが出来ねぇなら軽々しく決闘なんて言うんじゃねぇ!!!!!!」

 

「「っ!!!」」

 

千雨とセシリアはフォルの怒りに怯んで震えてしまった。

 

「あーあ、二人の悪い癖が始まっちゃったわね~」

 

「すぐに熱くなるんだから、全くもう」

 

ルサルカは我関せずといった様子でベアトリスは呆れていた。

 

「なら、アンタ達は何を賭けるの?」

 

「そうだな。この命をくれてやるよ」

 

「俺もだ」

 

「それならわたくしはわたくしの専用機であるISを賭けますわ!」

 

 

四人が合意したと同時に千冬が声を上げ、自分に視線を集中させた。

 

「ならば一週間後に第二アリーナが空いている。そこで決着をつけろ」

 

そう言い終えて、HRは終了し通常の授業が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に熱くなりすぎですよ!」

 

放課後にベアトリスから二人は説教を受けていた。

 

「熱くなりすぎたのは分かってる。だけど」

 

「だけど、じゃありません!全く」

 

「仕方ないわよ、ヴァルキュリア。この二人は忠誠の度合いがすごいもの」

 

「俺達を認めてくれたハイドリヒ卿や黒円卓の方々のためにも負ける訳にいかねぇな」

 

サタナとフォルは冷静になり、自分の発言を反省していた。

 

「それじゃ私達は先に戻るわね?」

 

「それでは」

 

ルサルカとベアトリスは教室を出て仮初の住まいである学園寮に向かった。

 

到着の少し前で、二人を待っていた人物がいた。

 

「貴女方がマレウスとベアトリスという方たちでしょうか?」

 

「そうよ?」

 

「アナタは誰です?見たところ変わった姿をしていますが」

 

目の前の女性らしき人物に二人は警戒しながら会話を続けている。

 

いざという時は形成を使う事も厭わない考えだ。

 

「私はクロエ・クロニクルと申します。私の主人から預かっているものがございまして」

 

そう言うとクロエは銀色の牙のようなペンダントと灰色のハルバートのペンダントを差し出してきた。

 

「これは男性操縦者お二人の専用機です。貴女方に渡すよう頼まれていましたので」

 

「一体誰から頼まれたのよ?」

 

「ええ、それを聞かない限り受け取るわけにいきませんからね」

 

「えっと・・カール・クラフトという方だそうです」

 

「「やっぱりあいつかー!」」

 

声を揃えて同じ事を言う二人にクロエは首を傾げていた。

 

「分かりました。渡しておきます」

 

「ええ、それなら受け取っておかないとね」

 

「はい、お願いします」

 

それぞれの専用機をクロエから受け取った二人は渡すことを約束した。

 

「それでは」

 

要件を済ませたクロエはその場から去っていった。

 

「さて、あの二人に用事ができちゃいましたね?マレウス?」

 

「本当ね、でも仕方ないっか。二人が帰ってくるのを待ちましょ?」

 

二人は部屋へと入り、お茶を淹れて一息を付いた。

 

「これがISかぁ・・・見た目はただのアクセサリーに見えるのに」

 

「待機状態・・・って言うらしいですよこれ?」

 

部屋の中心にあるテーブルに待機状態のISを置いて眺めていた。

 

牙とハルバート、どちらも武器(ちから)であることに変わらないものだ。

 

だが、黒円卓にて鍛えられた二人にとってそれは枷にしかならないはずである。

 

二人の(つばさ)は更なる高みへと向かわせるのか、それとも。

 

自身を堕落させるものとなるのかは誰も知らないことだろう。

 

一週間後に始まる決闘(パーティ)に備えて二機のISは眠り続ける。

 

主となる二人の男性操縦者と共に破壊(アイ)を見せるために。




「狼煙は上がり、(IS)を手に入れた」

「これより先は明かす事はしないでおくよ」

「なぜなら・・・これから始まる歌劇(たたかい)は」

「私にとって我が息子とその自滅因子(アポトーシス)が相対した時の興奮を思い出す」

「さぁ、最高の歌劇(たたかい)にしてくれたまえ」


水銀の蛇


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第五劇 戦歌劇

「戦いとは人から切り離せぬ概念そのものだ」

「相手を倒さねば進めぬ道、己の道の障害を取り除くために」

「魅せろ、美々しく舞うがいい」

「私に戦いの宝石を見せてくれ」


演説・ラインハルト・ハイドリヒ


BGM・Götterdämmerung


日数は時間とともに過ぎていき、約束の一週間が経った。

 

サタナとフォルは前日に専用機を渡され、試運転をその日に済ませたが一次移行(ファースト・シフト)を何故かせずに当日を迎えてしまったのだ。

 

最初の組み合わせはフォルVS織斑千雨の組み合わせだ。

 

試合時間が迫っているためISを展開し、フォルはアリーナの入口へと向かった。

 

「頑張ってね~」

 

「無理は禁物ですよ?」

 

「分かってますよ」

 

二人に挨拶を交わすとフォルはサタナと向き合った。

 

「アイツを叩きのめすのはお前の役目だ。だが、俺もかなりやるからよ?」

 

「ああ、遠慮なくやってくれ」

 

「んじゃ、いっちょ行くぜぇ!!」

 

アリーナへと飛び出すと織斑千雨が向かい側で待っていた。

 

「アンタを叩きのめしてこの学園から永久追放させてやるわ!」

 

「はん!やれるもんならやってみやがれってんだ!」

 

挑発を挑発で返し、試合開始のブザーが鳴る。

 

「先手必勝!」

 

千雨は二本の刀を展開しフォルへと斬りかかる。

 

その動きはまるで水のようで洗練されている。一太刀でも受ければ動けなくなるまでくらい続けるだろう。

 

雨の名を持つがゆえ、このような剣術を身につけたのかもしれない。

 

「避けるなぁ!!」

 

「そいつは無理な相談だ。俺だってくらいたくねえよ!」

 

フォルは回避行動を続け、時間を稼ぎ機体表示を見る。

 

そこには一次移行(ファースト・シフト)完了の文字が浮かんでいた。

 

「!?一次移行(ファースト・シフト)?へぇ・・初期状態で戦ってたんだ?舐めるのもいい加減にしろォ!」

 

「学習しねぇのか?お前さんはよ?」

 

フォルはクローを展開し二刀流の攻撃を左右別々で受け止めていた。

 

「わ、私が止められた!?」

 

「この位の速さ、徐行運転の車並にしか見えねぇ・・・よ!」

 

「きゃあ!」

 

驚愕の間にフォルは蹴りを腹部へと放った。

 

絶対防御によって防がれたがフォル自身としては面白みがなかった。

 

「この程度?効いてないわよ?」

 

「なら、いいものパート1を見せてやるよ」

 

ピットで見ていたサタナ、マレウス、ベアトリスはある予感を感じていた。

 

「相棒、やるのか?」

 

「とうとう見れるのね?楽しみ!」

 

「一体どんな・・・」

 

 

各々が注目する中、それは始まっていた。

 

黒円卓に所属する者ならば内から聞こえてくる詠唱(うた)を持っている。

 

新たに所属した二人も例外ではない。

 

それは自らを罰するか、相手を敬う詠唱(うた)であった。

 

 

 

 

 

 

Nie mehr erfreu' mich Liebesglück(もう愛の歓びなど要らない)

 

Nie wird Vergebung dir zuteil,Kehr wieder,(許されるはずがない 戻るべきなのだ)

 

schliesst sich dir das Heil(貴方の救いの道は 閉ざされているのだから)

 

 

 

Yetzirah(イェツラー)!!」

 

 

Labyrinth Gefängnis(迷宮牢獄)[ラヴィラント・グフィンヌス]!」

 

 

紡がれた詠唱(うた)から現れたのは表面が鏡のように磨き抜かれた両手首から生えている刃だった。

 

「へぇ?慣れたらこんな形になるのか。なら、これだな」

 

構えをとるとその姿にピットにいる三人だけは別の存在を感じ取っていた。

 

 

 

「あれが・・・相棒の形成」

 

「あの拳の構え方、マキナかな?」

 

「間違いありませんね、あれはマキナ卿の構えです」

 

黒騎士(ニグレド)の称号を持つ大隊長、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンの構えをフォルはとっているのだ。

 

「彼の観察力には脱帽しますね」

 

それぞれが感想を言っている間に試合は続いていく。

 

「ハァァァァッ!!」

 

「くっ!なによこのパンチ!早くておまけに重い!?」

 

フォルのラッシュは千雨を捉えているが有効な一撃にはなっていない。

 

「このぉ!」

 

左右の横薙ぎを回避させ、千雨は間合いをとった。

 

「アンタには使うまいと思ってたけどね、そうも言ってられないわ」

 

千雨は二本の刀を一つとし、その刃はエネルギー状となって形を成していた。

 

「これが私の技、零落白夜!覚悟しなさい!」

 

そう言って突撃し変化を付けた切り込みによってフォルは避け続けるを得なくなっていた。

 

「エネルギー状の刃かよ!それに奴の剣技も相まって厄介すぎる!」

 

「おとなしく負けろォォォ!」

 

「俺は負けねぇ・・・!俺に勝てるのは・・・」『「あの人だけだァァァ!」』

 

その瞬間、千雨は吹き飛び、フォルの内部では黒円卓の一人が声を聞かせていた。

 

同じ思いによって同調しフォルはその声を聞いていた。

 

『情けねぇなァ?物真似野郎!その程度で負けそうになってんじゃねえよ!』

 

「(っ!?ヴィルヘルムさん?)」

 

『許可してやるからよォ、あの女を吸い殺しちまいなァ!アハハハハ!』

 

その言葉と同時にフォルのISの装甲がパージされ、身軽になっていく。

 

 

 

 

Ach lass mich nicht vergebens suchen,(なぜ無益に探し求めさせるのだ)

 

wie leicht fand ich doch einstens dich(かつては簡単に探し出せたのに)

 

Du hörst, dass mir die Menschen fluchen,(人が私を呪う声があなたにも聞こえるだろう)

 

 

nun, süsse Göttin, leite mich(愛しき女神よ、私を導いて欲しい)

 

Mein Heil,(私の救いは)

 

mein Heil hab'ich verloren(私の救いは、もう失われたのだから)

 

Der Gnade Heil ist dem Büsser beschieden,(この贖罪者にも恩寵の救いが与えられた)

 

er geht nun ein in der Seligen Frieden(至福と平和の眠りにつく)

 

 

Briah(ブリアー)!!」

 

Nachahmung Spiegel(模倣の合わせ鏡)!![ナハーアーモン・シュピーゲル]」

 

 

先ほどの詠唱(うた)以上に意味が重い詠唱(うた)詠唱(うた)われ、フォルからの重圧が大きくなった事を千雨は起き上がりながら感じていた。

 

「コケおどしが通用すると思ってるの!?」

 

「うるせぇよ・・・!クソアマがぁ!キッチリ吸い殺してやるよォ!」

 

許可を出した人物は聖槍十三騎士団第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイその人だ。

 

その影響からかチンピラのような言葉遣いになっているがその目に宿る殺意は本物である。

 

詠唱(うた)わせてもらうぜぇ?この詠唱(うた)をよぉ!」

 

 

いの一番に危険性を察知したのはフォルの陣営だった。

 

「あれって不味くない?フォル・・創造まで使ってベイみたくなってるし!」

 

「え?確かベイさんの創造って」

 

「これは危険すぎます!アレが来ますよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

しかし、もう既に遅いのである。同調したフォルに周りの配慮などもうないのだから。

 

そして同調した人物の詠唱(うた)詠唱(うた)い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『「Wo war ich schon(かつて何処かで) einmal und war(そしてこれほど幸福だったことが) so selig(あるだろうか)]」』

 

『「Wie du warst!(あなたは素晴らしい!)Wie du warst!(掛け値なしに素晴らしい!)Wie du bist Das weiß niemand,(しかしそれは誰も知らず)das ahnt keiner!(また誰も気付かない)」』

 

『「Wer bin denn ich? Wie komm' denn ich zu ihr?(いったい私は誰なのだろう?)」』

 

『「Ich war ein Bub' da hab'(幼い私は) ich die noch nicht gekannt.(まだあなたを知らなかった)」』

 

『「Wie komm' denn ich zu ihr?(いったいどうして?) Wie kommt denn sie zu mir?(私はあなたの許に来たのだろう?)」』

 

『「Wär' ich kein Mann,(もし私が騎士にあるまじき者ならば、) die Sinne möchten mir vergeh'n.(このまま死んでしまいたい)」』

 

『「Das ist ein seliger Augenblick,(何よりも幸福なこの瞬間――)den will ich nie(私は死しても)vergessen bis an meinen Tod.(決して忘れはしないだろうから)」』

 

『「Sophie, Welken Sie(ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ)」』

 

『「Show a Corpse(死骸を晒せ)」』

 

 

 

 

『「Es ist waskommen und ist was g'schehn,(何かが訪れ 何かが起こった)Ich mocht Sie fragen(私はあなたに問いを投げたい)」』

 

『「Darf's denn sein?(本当にこれでよいのか?)Ich möcht' sie fragen: warum zittert was in mir?(私は何か過ちを犯していないか?)」』

 

『「Sophie,(恋人よ)und seh' nur dich(私はあなただけを見)und spur' nur dich(あなただけを感じよう)」』

 

『「Sophie, und weiß von nichts als nur:(私の愛で朽ちるあなたを)dich hab' ich lieb(私だけが知っているから)」』

 

 

 

 

『「Sophie, Welken Sie(ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ)」』

 

 

 

『「Briah(創造)―」』

 

 

 

 

『「Der Rosenkavalier Schwarzwald(死森の薔薇騎士)」』

 

 

 

 

 

 

 

 

詠唱(うた)が終えたと同時にアリーナが突如として夜になった。

 

紅い月が上り、闇の不死鳥が飛び立つ。

 

それは誰もが知っている西洋の怪物、ヴァンパイア。

 

赤い夜とは血を吸うために現れる夜である。

 

「どうだァ?この夜は最高だろォ?織斑千雨ェ!!」

 

「あ・・うああ、何よ・・これ・・力が・・抜けて」

 

「クッ・・・ハハハハハハ!!模倣だからよォ・・・!バリア内部の限定だがなァ!!」

 

模倣と言っていても吸収と略奪の力は変わらない。

 

故に時間が経てば経つほどに千雨の方が不利になっていく。

 

「どうよォ?吸われ続ける気分ってのはどんな気分だよ!?なぁ教えてくれねェか!?」

 

「あ・・・ぐ・・・ああ・・・っ」

 

「ああ、悪い悪い。地面にキスしてりャあ言葉は喋れねェわな!!アーッハハハハハハ!!」

 

「うご・・け・・な」

 

「終わりにしてやるよ・・・Auf Wiederseh´n.(あばよ、くたばっちまえ)

 

フォルは動けなくなった千雨の頭を掴み、そのまま容赦なく地へと何度も叩きつけエネルギーを0にした。

 

「アハハハ!フハハハッ!!」

 

試合終了と同時に赤い夜が消滅し、アリーナも元の状態へと戻った。

 

「こんなテンションで戦ってるのか、それじゃ強いよな。ヴィルヘルムさんは」

 

少しづつ冷静になり創造を解くとISを待機状態にし、フォルはピットへと戻っていった。




「第一幕が始まったばかり」

「闘争とは飢えていなければ勝てぬものだ」

「さぁ、もっと魅せてくれ」

「それこそが至高の供物だ」

演説・ラインハルト・ハイドリヒ




※ルビが上手くいかないのでルビが出来るところだけルビを振りました。


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第五劇 二部 闘歌劇

「この歌劇は長めになっている」

「故にこのような趣向を凝らした」

「退屈かね?だが歌劇(たたかい)はまだまだ続く」

「さぁ・・盛り上がらせるといい。万雷の歓声を持って」


演説 水銀の蛇


ピットへ戻ると三人が出迎えてきたが、ベアトリスだけは怒り顔だ。

 

「もう!ベイの創造を模倣するなんて聞いてませんでしたよ!?」

 

「ごめんなさい許してくださいお願いですから戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)を向けないでください」

 

「まぁまぁ、相棒もまさかの展開だったんだと思いますよ?」

 

「それ、フォローになってないわよ?本人だってノリノリだったんだから」

 

珍しくルサルカが呆れ顔になっている。無理もない、黒円卓の中でも危険性が高すぎる創造を模倣したのだから。

 

「まぁ、観客に影響は無かったので良しとしましょう」

 

そう言いつつ、ベアトリスは戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)を納めた。

 

「さぁ、相棒。次はお前の出番だぜ?」

 

「ああ」

 

「あの女は俺の獲物だが、遠慮なく行きな」

 

「無論だ」

 

次の試合はセシリアVSサタナの予定が組まれている。

 

サタナの殺意はかつての妹に向けられておりセシリアなど眼中に無く、フォルはセシリアを狙っている。

 

「行ってらっしゃ~い!」

 

「気をつけてくださいね」

 

「行ってこいや」

 

それぞれの声援を受けてサタナはISを展開し、アリーナへと飛び出していった。

 

アリーナの地に着地すると向かい側ではライフルを持ったセシリアが待っていた。

 

「ようやく来ましたわね」

 

「展開に少し戸惑ってな、慣れない事だからよ」

 

「ふん、やはり男は男ですわね。わたくしは慈悲深いので最後のチャンスをあげますわ!」

 

セシリアはサタナを蔑んだ目で見ると笑みを浮かべながら口を開いた。

 

自分の方が格上なのだということを示さんとするかのように。

 

「チャンスだと?」

 

「そう、わたくしの勝利は確定しています。ここで頭を下げて許しを請えば許して差し上げますわよ?」

 

「クッ・・・ハハハハ!アーッハハハハ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間にサタナは片手で顔を覆い、盛大に笑い始めた。

 

「な、何がおかしいんですの!?」

 

「調子に乗るなよ?勝利ってのはそんな簡単には手に入らないんだよ」

 

指の間から見えるサタナの瞳からは明確な殺意が溢れている。

 

お前ごときが勝利を語るな、軽々しく口にするなとその目が訴えていた。

 

「お前は勝てないならどうする?一度で勝てないなら百回繰り返し戦う、百で勝てないなら千回繰り返し戦う、千で勝てないなら万回繰り返し戦う。未来永劫勝つまで戦い続ける!それが出来るのか?」

 

「そ、そんな事!」

 

サタナの演説めいた言葉にセシリアは恐怖を抱き始めていた。

 

彼は死ぬことを恐れていない。否、死は無いものと考えている。

 

勝てないのなら何度も何度も戦い続けるという思考こそが狂っているのだ。

 

「試合が始まるな」

 

「っ!」

 

試合が開始され、サタナはIS用の標準ブレードを手に持った。

 

「来い、お前には勝利を勝ち取ることの難しさを教えてやる」

 

「減らず口を!!」

 

セシリアはライフルを構え、サタナに照準を合わせ銃撃を放った。

 

自信のある攻撃なのだろう、セシリアは薄らと笑みを浮かべている。

 

「遅いな。ザミエル卿の砲撃やシュライバー卿の射撃の方が正確だ」

 

サタナは身体を逸らすだけでセシリアの銃撃を回避した。

 

「なっ!?」

 

「どうした、何を驚いているんだよ?俺は避けただけだぞ」

 

サタナはブレードを手にしたままやれやれと仕草をしていた。

 

「くっ!行きなさい!ティアーズ!!」

 

ライフルが躱されるならば機体の最大の特徴を出す他ないとビットを展開した。

 

「全方位からの空間攻撃が可能な兵器か」

 

特徴を見抜くがサタナは反撃せず、ただただ攻撃を避けるのみ。

 

本来の意図に気づかないセシリアは攻撃が当たらないことに焦りを感じ始めていた。

 

「何故、どうして当たらないんですの!?」

 

「時間だな」

 

「え?」

 

ビットの舞から抜け出すと同時にサタナのISが変化する。

 

その姿は騎士であり戦士ではあるが禍々しさと美しさを併せ持った雰囲気を醸し出している。

 

「ま、まさか!これは一次移行(ファースト・シフト)?初期状態でわたくしの攻撃をかわし続けていたというんですの!?」

 

「コイツはもう要らないな」

 

標準ブレードを投げ捨て、無手となったがサタナから溢れる重圧は一向に下がらない。

 

それを見ているフォル達は真剣な表情で試合を見ていた。

 

「おお?相棒もやる気か?」

 

「彼の形成も見れるなんてね、これはラッキーだわ」

 

「彼は剣の筋が良いので特訓しましたが、どうなるか」

 

フォルは楽しそうに、ルサルカは笑みを見せ興味深そうに、ベアトリスは師としての目線でサタナを見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以外でもサタナに注目しているのが教員用の部屋に居た。

 

「あの癖、やはり一夏か・・。ようやく戻ってきたのだな」

 

「織斑先生?」

 

「いや。それよりあの二人のISのデータは?」

 

「それが・・おかしいんです。専用機として登録はされているのですが」

 

真耶は不安を募らせているような表情で報告している。

 

「なんだ?」

 

「あんな赤い夜を発現させる技なんてないんです」

 

「なんだと?」

 

その言葉に千冬は驚愕した。自分の愛しい妹を痛めつけた相手の技がISによるものではないと断言されたのだ。

 

「(あの二機、解析せねばなるまいな。千雨の為にも)」

 

千冬の思考は妹を最強という玩具を持たせなければならないという考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相棒とは違う詠唱(うた)を俺も詠唱(うた)わせてもらう」

 

詠唱(うた)?」

 

セシリアが疑問を浮かべ、観客が見ている中。サタナは自分の手のひらを見つめると詠唱(うた)い始めた。

 

 

Was in des Zwiespalts wildem(かつて激しい板挟みの苦悶に囚われ)

 

Schmerze verzweifelnd einst ich beschloss(絶望の中で決断した事を今)

 

froh und freudig führe frei ich nun aus(私は心楽しく実行しよう)

 

 

Zieh hin(行くがいい)

 

Ich kann dich nicht halten(もう私にお前を止める事は出来ないのだから)

 

 

Yetzirah(イェツラー)!!」

 

 

Blutige Der Slave(血濡の竜剣)[ブローティガ・ダースレヴ]」

 

 

その手に握られているのは剣。形状はバスターソードのようだが刀身の下半分や鍔にあたる部分には小さな刀身が何本も突き出ている。主である巨大な刀身は輝いているが小さな刀身は血をよこせと言わんばかりの赤黒い色を発している。

 

持ち主はこの男しか認めない。それが剣から伝わってくる。敵に要求するのは血と魂、そして存在そのものである命だ。

 

「な、なんですの!その剣!」

 

セシリアの驚きも当然だろう。自身の体格以上の剣をサタナは小枝のように軽々しく持ち上げて何度も試し振りをしている。

 

 

ダースレヴ、それは生き血を浴びない限り刀身を納めることが出来ない剣の名称が訛ったものだ。

 

「ここからは反撃させてもらうぜ?」

 

そういってサタナは間合いを詰め、血に飢えた剣を振るってくる。

 

「な!くっ・・!!」

 

セシリアは回避行動を取るが髪に当たり、数本以上のブロンドの髪が地に落ちる。

 

本来なら激怒する所だろう。しかし、それが出来なかった。

 

あの剣は両手で小枝のように振るっていたと思っていた。しかしそれを覆される事実を見てしまったのだ。

 

「か、片手であの大剣を振るって」

 

「攻撃してこないのか?」

 

「!!行きなさい!ティアーズ!!」

 

再びビットを繰り出し、ライフルを放ち始める。恐怖から逃れんとするために。

 

「このわたくし。セシリア・オルコットの奏でる円舞曲(ワルツ)によって踊りながら果てなさい!」

 

円舞曲(ワルツ)か。戦いっていうのは戯曲(オペラ)だろうよ!」

 

ビットの射撃をかわし、間合いを詰めることで剣撃を繰り出す。

 

「この距離では、わたくしの引きの照準が合せられない・・!」

 

だが突然、サタナは間合いを取り、大剣を足元に突き刺した。

 

「あら?諦めたんですの?」

 

「いや」

 

剣に光が灯る、しかしそれは周りの小さな刀身が放っている赤黒い光だ。

 

「俺も、もっと詠唱(うた)を歌わないと相棒に示しが付かないんでな?」

 

その歌はフォルとは違い、苦悩を持った騎士の詠唱(うた)だった。己が分からず

孤独に生き続ける一人の騎士の嘆き。

 

So starb meine Mutter an mir(母は私のために死んだのか?)

 

 

Sterben die Menschenmütter(人の母は)

 

an ihren Söhnen alle dahin(子供を産めば全て死んでしまうのか?)

 

Traurig wäre das, traun! Ach, möcht'(それは悲しすぎる)

 

 

ich Sohn meine Mutter sehen(ああ 母に一目会いたい)

 

Viel weiss ich noch nicht,(私もまだ多くのことは知らないから)

 

 

noch nicht auch, wer ich bin.(私は 私自身が何者かさえ分からない)

 

 

Doch ich - bin so allein,(私は一人きりだ)

 

hab’nicht Brüder noch Schwestern(兄弟もいなければ姉妹もいない)

 

meine Mutter schwand(母は消え 父は倒れた)

 

 

mein Vater fiel: nie sah sie der Sohn!(子供の私が親に会う事はない)

 

 

Briah(ブリアー)!!」

 

 

Blutige Geommu(血まみれの剣舞)!![ブローティガ・ゲオム]」

 

サタナ自身の創造。それは己自身も刃となり戦うもので、形成の剣すらも自分の身体となった。

 

「さぁ、血まみれになっても踊れよ?」

 

地に突き刺した大剣を引き抜き、セシリアへと向かっていく。

 

「!まだ戦えますわ!」

 

セシリアもライフルを持ち銃撃を仕掛けるが、自分の頬に違和感を感じていた。

 

「なんですの?・・・え?」

 

それは鮮血、自らの内に流れる血であった。

 

本来IS操縦者は絶対防御機能によって守られている。しかし、フォル、サタナはそれを突破し操縦者にダメージを与えてきている。

 

「俺は動きによって生じる空気の流れすら刃に出来る。それから」

 

「!!!」

 

セシリアにとってそれは最も信じがたい事が目に映った。

 

真空によって出来た刃ではなく、手刀によってISの装甲を切り裂いたのだ。

 

「今の俺は身体すらも刃になっている。だから切り刻んでやるよォ!!」

 

「ひっ!」

 

大剣と刃になった身体を振るい、セシリアを追い詰めていく。

 

回避行動をしても速度で勝てず、とうとうサタナの剣撃が当たってしまう。

 

「ああああっ!!」

 

「舞えよ。鮮血に彩られてその名の如く涙を流しながらな!!」

 

高速の剣舞、それを終えて再び大剣をアリーナの地に突き刺す。

 

「ごほっ!?・・・・が・・・は!」

 

地から伝わったその衝撃によってセシリアは吹き飛び、気絶した。

 

致命傷に至っていない無数の細かい切り傷によって紅い鮮血花(セシリア)がアリーナに咲いている。

 

 

 

Auf Wiederseh´n. Ihre Tochter (さようなら お嬢さん)

 

 

 

地に伏したセシリアへ向けた言葉をサタナは無表情のまま口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりに壮絶な戦いに観客は静まり返り、それを背に受けサタナはピットへ戻っていった。

 

次の試合は一時間後とアナウンスが入る。無理もない二人の男性が強烈な印象を残さずをえない力で蹂躙したのだから。

 

「次は」

 

「ああ、次は」

 

「「本気で潰す相手だ!」」

 

フォルとサタナはもはや次の獲物しか見えていない。そんな二人を見ているのは戦乙女と魔女の二人だけ。

 

「本当に熱くなりやすいんですから、この二人は」

 

「若いっていうのも考えものね」

 

愚痴りながらも二人はどこかで対戦相手であった二人の少女の許せない部分もあったのだろう。

 

まだ、戦いは続く。闘争を剥き出しにした模倣者と刃が鞘に納まるまで。

 

指揮棒(ダクト)を振るっている者が一言、たった一言の言葉を送っていた。

 

それは祝福のようでいて呪いとも言うべき一言を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Disce libens(喜んで学べ)




「第二幕が終わったようだね」

「この戦いは後二幕で終了する」

「目の前に獲物がいる時に獣はどうなるか楽しみだ」

「私からも祝福を送ったが」

「彼らには聞こえていなかったようだ」

「さぁ、再び舞うがいい道化達よ」


演説 水銀の蛇


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第五劇 三部 決歌劇

「とうとう因縁が絡み合う」

「彼にとってはどれほどの演舞を見せてくれるのか?」

「私としても楽しみだ」


「爪牙の矜持、見せてもらおう」

「美々しく舞え」


演説 水銀の蛇、黄金の獣


一時間後、セシリアは目を覚まし手当てを終えていた。

 

千雨もISのエネルギーの補給を終えて機体のチェックをしていた。

 

「許さない・・・私を地につけたあの男!」

 

「・・・・」

 

千雨は憤怒が宿っており、セシリアはまるで熱が引いたような目で千雨を見ていた。

 

自分も一歩間違えればこうなっていたのではないのか?など思考がよぎる。

 

「わたくしは・・・」

 

黄金の爪牙に目をつけられたが故に逃れられない戦いにセシリアは絶望していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の戦いはセシリアVSフォルの組み合わせであった。

 

フォルはISを展開し、形成を済ませ、今か今かとセシリアを待っていた。

 

「お待たせしました」

 

セシリア戦意が多少落ちている様子でアリーナに出てきた。

 

「ん?相棒にやられて戦意が落ちたか?」

 

「っ・・・・」

 

「だが、俺は手加減はしねえ。お前が態度を改めれば強くなる方法を教えてやる」

 

「・・・・行きます」

 

試合開始のブザーが鳴り、戦いが始まった。

 

「ハアァァァ!!」

 

形成によって現れた手首の刃を使った接近戦でセシリアを追い詰めていく。

 

「強い・・強すぎますわ!この二人は!」

 

「余計な事を考えてる暇があんのかよォ!!」

 

「あぐっ!?」

 

フォルの拳がセシリアの腹部を捉え、その衝撃がセシリアを襲う。

 

その一撃一撃が戦いの恐怖、勝利への圧倒的な飢えを身に染み込ませてくる。

 

「!!ティアーズ!」

 

だが、自分も負けられない。負ける訳にはいかないと戦闘への意欲を見せた。

 

「そうだ、それでいい!」

 

「何を!」

 

「お前は恐らくISが全てなんだろ?なぁ!!」

 

「っ・・!!」

 

「取られたらそれはもう絶望だよなぁ!己の全てだものなァ!」

 

フォルは挑発を強める。その意図に気付かないセシリアは怒りを露わにしてくる。

 

「許しませんわ!わたくしが勝ちます!!」

 

「そうだ、女尊男卑に染まったその考えが聖戦を汚す!だから、欲する!」

 

『「自由を!!」』

 

 

 

セシリアの銃撃を避けたと同時にフォルのISの装甲がパージされ、ルーンのような模様が書かれた黒い肩がけのような装甲が展開される。

 

『俺の力を使いたいと?ふん・・聖戦(せつな)を思う。その言葉は真実か?』

 

「(無論ですよ、マキナ卿)」

 

『いいだろう、使うがいい。幕引きを・・な』

 

黒騎士から許可を得たフォルは詠唱(うた)を紡ぐ、鋼の求道を極めたドライチェーンの天秤であるズィーベンの力を。

 

 

 

 

 

 

『「Tod!(死よ) Sterben Einz'ge Gnade!(死の幕引きこそ唯一の救い)」』

 

『「Die schreckliche Wunde,das Gift, ersterbe,(この毒に穢れ蝕まれた心臓が動きを止め)」』

 

『「das es zernagt,(忌まわしき毒も傷も)erstarre das Herz!(跡形もなく消え去るように)」』

 

『「Hier bin ich,(この開いた傷口) die off'ne Wunde hier!(癒えぬ病巣を見るがいい)」』

 

『「Das mich vergiftet,(滴り落ちる血のしずくを) hier fliesst mein Blut:(全身に巡る呪詛の毒を)」』

 

『「Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte.(武器を執れ 剣を突き刺せ)」』

 

『「tief, tief bis ans Heft!(深く 深く 柄まで通れと)」』

 

『「Auf! lhr Helden:(さあ 騎士達よ)」』

 

『「Totet den Sunder mit seiner Qual,(罪人にその苦悩もろとも止めを刺せば)」』

 

 

『「von selbst dann leuchtet(至高の光はおのずから)euch wohl der Gral!(その上に照り輝いて降りるだろう)」』

 

 

 

『「Briah――(創造)」』

 

 

 

『「Miðgarðr Völsunga Saga(人世界・終焉変生)」』

 

 

その両腕が鋼と化し、鏡のように磨かれた刃ではなく全てを飲み込む黒色が覆っている。

 

「!!」

 

「言っておく、コイツは模倣ゆえに本来には及ばないが受ければタダでは済まない」

 

驚きによって硬直しているセシリアに声をかける。

 

「本来?」

 

「本来の力で受ければお前は死ぬぞ?一撃でな・・・」

 

黒騎士の影響のせいか口数が少ないが意味のない行動を嫌っているのだろう。

 

「行くぞ・・・!ハアアアア!!」

 

模倣したのは創造だけではない。黒騎士の体術すら模倣しセシリアに迫る。

 

「っ!この一撃・・・受けたら終わってしまいますわね!」

 

ギリギリのところで幕引きの拳を躱しつつ、ビットによって反撃するが至高の体術を模倣しているフォルにとってその攻撃は止まって見えている。

 

「終わりだァ!!」

 

左と右の拳を交互に放ち、左を避けたセシリアはフォルの右の拳を受けてしまった。

 

「ぐ!ゲホッ・・!!」

 

腹部にめり込んだ拳をそのまま振り抜き、アリーナの壁へと叩きつけた。

 

「あ・・・が・・・・」

 

セシリアはあまりの衝撃に再び気絶し、ISが解除されてしまった。

 

フォルはそのままセシリアに近づき、待機状態となっているセシリアのISを手にした。

 

「二日間は預かっておく。決闘の掟だからな」

 

そのままフォルは背を向け、アリーナからピットへと戻った。

 

ルサルカとベアトリスはお疲れ様と労いの言葉をかけ、サタナは次の試合に備えて待機していた。

 

「ちょっと、離れる」

 

「わかったわ、出来るだけ早く戻りなさいよ?」

 

ルサルカにそう言ってフォルは通路へと出た。

 

「居るんだろ?副首領閣下」

 

そうつぶやいたと同時に水銀の蛇たるメリクリウスが姿を現した。

 

「何か用かね?」

 

「コイツをあの人に渡して下さい」

 

そう言って待機状態となっているブルー・ティアーズをメルクリウスに渡した。

 

「これは、ああ・・戦い敗れた彼女の蒼き雫か。ほかならぬ君の頼みだ。この蒼き雫は彼女に渡しておこう」

 

「・・・・二日目には返却しますので」

 

「その旨も伝えておこう」

 

要件を終えたメルクリウスは陽炎のように消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、サタナがアリーナに佇み、形成状態のまま。対戦相手を待っていた。

 

「・・・・」

 

「アンタが相手とはね。アンタを見てるとあの劣等種の兄を思い出すからムカつくわ!」

 

「そうか、お前に関しては俺は何も言わない。だが、叩き潰す!」

 

「男のアンタが私に勝てる訳が無いでしょ!」

 

試合が始まり、互いに突撃し剣をぶつけ合った。

 

「!!この太刀筋・・・!アンタまさか!」

 

「・・・」

 

大剣で千雨の太刀を弾き返し、間合いを開く。

 

「まさかアンタがあの劣等種だったなんてね・・・!ますます倒さなくちゃ!」

 

「言葉を交わす気にもなれないな」

 

「ふん、アンタが忠誠を誓った相手だってクズでしょう!アンタなんかが忠誠を・・!がっ!?」

 

その先を言う前に千雨は喉を掴まれていた。その力強さは人間ではない。

 

サタナの目には殺意と怒りが同時に宿している。

 

「おい、お前・・・ハイドリヒ卿を侮辱したな?ザミエル卿を、マキナ卿を、シュライバー卿を、クリストフさんを、ベアトリスさんを、戒さんを。黒円卓を馬鹿にしたな?」

 

首を掴む手に力が更に込められていく。

 

「がっ・・・かはっ・・・!!」

 

外そうと千雨はもがくがサタナの力が緩むことはない。それどころかサタナの怒りはますます燃え上がっている。

 

「ふん!」

 

そのまま投げ飛ばすと、サタナは大剣を構え直した。

 

「ゲホッ!ゲホッ!!」

 

投げ飛ばされた千雨は喉を押さえながら必死に酸素を貪っている。投げられても衝撃を緩和していたことは驚くに値するだろう。

 

「お前にはもう手加減しない・・・血に濡れたまま踊り続けろ!」

 

「アンタに私が倒せるわけがない!」

 

「やってやるよ!」

 

怒りによって殺意を明確にしたサタナは千雨の知らない剣術で追い込んでいく。

 

「なによ・・これ!零落白夜を発動させる暇がない!」

 

「俺にこの剣術を教えてくれたのはベアトリスさんとザミエル卿だ!お前はそれすらも馬鹿にした!切り刻んで痛みと恐怖を与えてやる!」

 

千雨は二本の刀で防御重視の技を使って大剣を捌き続けるがその均衡は崩れてきている。

 

「うおおおおお!!」

 

小枝のように振るい、美しく軌道を描き続ける大剣は千雨をとうとう捉えた。

 

「あ!」

 

悲鳴を上げる前に全身を切り刻まれていく。痛みはなく、自覚できない。

 

「何ともないじゃない!おとなしく負けなさいよ!劣等種!」

 

「お前は気付かないだろうな。そのまま倒れろ」

 

自分の頬に何か暖かいものが付着する。それに手を触れて見る。その正体は鮮血、千雨の手のひらには真っ赤な鮮血が付着している。

 

「何・・・血じゃないのよ・・これ・・・た・・助け・・お姉・・」

 

Auf Wiederseh´n. Dumme Schwester(じゃあな、愚かな妹)

 

そう、サタナが声をかけると同時に千雨の全身から血が噴き出した。

 

出血している場所は容赦なく切られた四肢にある動脈の全て。

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

断末魔のように悲鳴を上げ、かつての妹はその場に倒れた。

 

観客からは悲鳴が上がり、サタナを非難する声も溢れているが、これは命をかけた決闘であり第三者が踏み込んでいい場ではない。

 

サタナはそのままピットへと戻っていき、ルサルカとベアトリスの二人のもとへ向かっていった。




「情け容赦のない演目、いかがだったかな?」

「道化というものは自覚があれば人を楽しませられる」

「それが無ければただの愚か者に過ぎない」

「君達は楽しめたかな?」

恐怖劇(グランギニョル)は始まったばかり存分に楽しんでくれたまえよ」

「次の演目にて再会を」

演説 水銀の蛇


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第六劇 戦終

「かくして戦いの戯曲は終わりを告げた」

「千の雨は血塗られた刃に敗れ、蒼き雫は境面の模倣者によって囚われた」

「この先がどうなるか・・新たな未知となるか」

「もう一人の戦乙女も動きそうだ」

「さぁ、戯曲が始まるよ」


演説 水銀の蛇


ピットへと戻ったサタナを待っていたのは不機嫌な顔をしたフォル、何でアンタが此処にいるの?と言いたげなルサルカ、呆れているベアトリスの三人だった。

 

その理由は単純明快、ピットには織斑千冬が許可もなく勝手に入ってきていたからだ。

 

隣には副担任の山田真耶がおり、少しオドオドした様子で落ち着きがない。

 

「サタナ、フォル。お前達のISを渡せ!こちらで解析するよう命令を受けた」

 

「はぁ?何を言ってんだ?解析をするならデータ提供はしてるだろ?いきなり乗り込んできて渡せとか意味わかんねーっつうの!!」

 

「いいから渡せ!これは学園命令だ!」

 

フォルの言葉に怒り心頭になりながら千冬は二人から強引にISを取り上げようとしている。

 

「さぁ、大人しく渡すんだ![一夏]」

 

「っ・・・」

 

千冬からかつての名前で呼ばれたサタナは顔を青くし、小刻みに震えている。

 

姉に対し何らかのトラウマを受けていたのではないかと思わせる程の震え方だった。

 

「ちょっと~、サタナは渡す気はないんだから諦めたら?」

 

「部外者は引っ込んでいろ。これは私とサタナ、フォルの問題だ」

 

「勝手に部外者扱いしないでください。これでも二人の世話役なんですから!」

 

ジト目で睨むルサルカと怒りを抑え気味のベアトリスがサタナを守ろうと千冬に反論する。

 

「さぁ!渡せ!!」

 

「・・・・くっ」

 

サタナが待機状態になっているハルバートのペンダントを渡そうとした時、千冬の腕が掴まれ止められていた。

 

「いい加減にしろよ?ブリュンヒルデ!てめぇ・・・相棒を人形と勘違いしてやがるんじゃねーのか?」

 

止めていたのはフォルの手だ。その力は強く、ちょっとやそっとでは外すことが不可能なほどに握られている。

 

「ぐぅ!は、離せ!!」

 

「離さねえよ、コイツはお前の弟じゃない。此処にいるのは聖槍十三騎士団黒円卓所属、サタナ=キア・ゲルリッツだ。お前の家族じゃない」

 

「違う!サタナは・・・コイツは私の弟だ!!」

 

「ふざけた事を言ってるぜ。コイツの苦しみを理解せずに何でも言う事を聞くお人形さんにしか思わなかった相手を今更ながら弟だ、やれ家族だァ?滑稽過ぎて笑えてくるっつうの!」

 

「何だと!?」

 

フォルの言葉が冷酷に千冬へと突き刺さる。今まで自分のしてきた仕打ちが間違っていたのだと真っ向から口にされたのだ。

 

「自覚がねえのか?反吐が出るぜ!てめえは教師でもなんでもねえ!ただブリュンヒルデという栄光を着飾って好き勝手してる暴君だ!はっ!神話のブリュンヒルデに同情したくなってくる」

 

「貴様ッ!」

 

掴まれていた腕を強引に引き剥がし、フォルへ向かって千冬は拳を放った。その拳をフォルは避けようともせずまともに顔面へと入った。

 

「これで大人しく・・・何!?」

 

だが、フォルは平然としていた。殴られた箇所から血も流さず、真っ直ぐに千冬を見ている。

 

「一発は一発だ・・・・オラァ!」

 

「ぐはっ!?な・・・に・・・バカ・・・な」

 

フォルの拳は千冬の腹部を的確に捉えており、それをまともに受けた千冬はその場でうずくまった。

 

「ISは渡さねえ。大方、この教師の自分の勝手な判断だろ?山田先生?」

 

「は、はい!?そ、そうです」

 

「き・・さ・・ま、フォ・・・ル!!」

 

うずくまった状態でも殴られた相手を睨む事を忘れないのはプライドからなのか、回復も早い様子だ。

 

「それならアリーナで戦おうぜ?生身でな!!」

 

「ほう?私に・・・挑むか?」

 

「ああ、俺が負けたらISでも何でも持って行きな!ただし俺が勝ったらサタナに干渉するんじゃねえ!いいな?」

 

「よかろう。二時間後にここへ来い」

 

そう言い残し、千冬は真耶と共にピットから出て行った。

 

「あ、相棒。いいのかよ?千冬姉はとんでもなく」

 

「強いって言うんだろ?分かってる」

 

「予想だけどアンタ達のISを解析してあの千雨って子の機体を強化しようとしたみたいね」

 

「口調はヴィッテンブルグ少佐みたいですけど・・・迫力というか強さを感じませんね。己こそが強いという傲慢さと言いますか自分勝手な所がそっくりです」

 

ルサルカとベアトリスも先ほどの千冬の態度にほんの少し嫌悪感を抱いていた様子だ。

 

「すまない・・あの頃から言う事を聞いてないと生きていけなかったんだ」

 

「別に関係ねぇよ。昔は昔だ。俺はちょっと出て行く。ルサルカさん、ベアトリスさん、サタナを頼みます」

 

「任せなさい!」

 

「ええ、マレウスの言う通り任せてください」

 

フォルはピットを出て行くとある人物に会いに行く為、通路を歩き始めた。

 

向かった先は保健室だ、そこに目的の人物がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

 

「何ですの?今のわたくしを笑いに来ましたか?」

 

目的の人物とは先ほどまで戦っていたセシリア・オルコットだった。

 

サタナに受けた切り傷は塞がっており、痕にもなる様子はないようだ。

 

サタナ自身はセシリアへ剣撃を打ち込む時、血は出るが塞がり易い傷しか付けず、戻し斬りの応用で斬っていたのだろう。

 

「皮肉れた答えだな?」

 

「決闘の掟とはいえブルー・ティアーズを取られ、わたくしは満身創痍。もう何もかも失いましたわ・・・」

 

「・・・・」

 

フォルはセシリアに近づき、手加減してベットへ叩きつけるように押し倒した。

 

「あ・・・ぐ!な、何を!?」

 

「相棒も言ってただろう?一で勝てないなら百回戦う、百で勝てないなら千、千で勝てないなら?」

 

「万回繰り返し戦って、勝つまで戦う。そう、おっしゃっていましたわ」

 

フォルの目はセシリアを逃さない。セシリアもその目に惹き寄せられているかのように目を逸らせない。

 

「簡単に言ってやる。それは諦めないって事だ、お前は諦めるのか?一度負けたくらいでよ?」

 

「それは・・・」

 

「悔しいなら何度でも挑んでこい。お前の気が済むまでな」

 

「!!」

 

セシリアは驚いたように目を見開き、フォルを見ていた。何度でも挑んでこいという男など初めて出会ったからだ。

 

「それとな」

 

フォルはセシリアの耳元に唇を近づけ、何かを囁いた。

 

「それは・・・本当ですの!?」

 

「ああ、だから何度でも挑んでこい。挑戦はいくらでも受けてやる」

 

何かを伝えると同時にフォルは起き上がってセシリアから離れた。

 

「二時間後に俺と織斑先生が戦う。興味があれば来るといいぜ?」

 

「え?」

 

「また、後でな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室から出て行くとフォルは再びアリーナのピットへと向かった。

 

時間にして一時間程は経過しただろうか、後一時間で千冬との決闘が始まる。

 

フォルとしてはある人物の創造が使えないかと思考していた。

 

だが、その人物は最も気難しく、許可をもらえる可能性は最も低い。

 

思考している間に時は過ぎて行き、決闘の時間となった。

 

アリーナへ入り、向かい側から来る相手を待っている。

 

「来たか」

 

「ふん、逃げる必要は無いからな」

 

 

現れた織斑千冬は刀を手に最も動きやすい服装でアリーナへと入ってきた。

 

「生身かぁ・・ISがあったほうがよかったんじゃないかしら~」

 

「刀・・・ですか。興味深いですね」

 

「あの、ご一緒に観戦してもよろしいですか?」

 

「ん~?アンタか、別にかまわないわよ?」

 

「私も構いません」

 

「ありがとうございます」

 

ルサルカ、ベアトリスが観戦している近くにセシリアが恐る恐る近づき、観戦しようと声をかけたが気兼ねなくいられるようだ。

 

「まさか、貴様・・・素手で戦う気か?」

 

「そんな訳ねーだろうが!」

 

形成を展開し、両手首から刃が現れ構えをとる。

 

「死んでも恨むなよ?私の一夏を取り戻すためだ」

 

「うわー、独占欲全開かよ!?サタナには忠誠を誓った御方がいるってのに」

 

「問答無用だ!」

 

突然の居合によって手を斬り落とされそうになったが、それを紙一重で躱すとフォルは刃を伸ばし、反撃した。

 

「!まだだ!!」

 

「流石に世界最強は伊達じゃないってわけか!」

 

一進一退の攻防が続く中、千冬は禁句を口にした。そう、サタナとフォル・・。

 

いや、それを口にしたとき忠誠を誓っている者は憤怒するだろう。

 

 

「お前たちの忠誠などゴミにしかならん!黄金?獣?そんなのは所詮、金メッキなのだ!!無謬の黄金など存在せんのだ!そんな奴に忠誠を誓うなど愚かの極み!」

 

「・・・てめぇまで、ハイドリヒ卿を侮辱してくるとはな」

 

「ん?なんだ?怒りが出てきたか?」

 

 

 

その様子を見ていた三人はそれぞれが呆れつつも違った反応を見せていた。

 

「まずいわね~、終わったかもしれないわ。あの人」

 

「少佐まで馬鹿にしてくるとは終わりましたね・・・」

 

「あ・・・あああ・・・っ」

 

 

セシリアは全身を震えさせ、隣にいる二人は千冬に心の中で合掌していた。

 

フォルの性格を知っている故に余計なことは言えないのだ。

 

 

千冬を見るフォルの目は容赦の理性は消えていた。残っているのは忠誠のみ。

 

『ほう・・・ハイドリヒ卿を侮辱するとはな。私の(ローゲ)で焼き尽してくれようか』

 

「(ザミエル卿・・・許可を。貴女から借り受ける炎《ローゲ》で焼き尽くしてやります)」

 

『黄金の忠誠は揺らがんだろうな?』

 

「(言われるまでもありません)」

 

『ならば許可する。使うといい模倣者』

 

 

フォルの手に宿るは炎、全てを焼き尽くさんとする炎がフォルの手に宿る。

 

『「我は荘厳なるヴァルハラを燃やし尽くす者となる」』

 

「この詠唱(うた)は愛なのかな?」

 

フォルは詠唱(うた)を始める。黄金を強く美しく輝かせる炎を体現する詠唱(うた)を。

 

 

 

『「Echter als er schwur keiner Eide;(彼ほど真実に誓いを守った者はなく)」』

 

『「treuer als er hielt keiner Verträge;(彼ほど誠実に契約を守った者もなく)」』

 

『「lautrer als er liebte kein andrer:(彼ほど純粋に人を愛した者はいない)」』

 

『「und doch, alle Eide, alle Verträge,(だが彼ほど総ての誓いと総ての契約)die treueste Liebe trog keiner wie er(総ての愛を裏切った者もまたいない)」』

 

 

『「Wißt inr, wie das ward?(汝ら それが理解できるか)」』

 

 

『「Das Feuer, das mich verbrennt,(我を焦がすこの炎が)rein'ge vom Fluche den Ring!(総ての穢れと総ての不浄を祓い清める)」』

 

 

『「Ihr in der Flut löset auf, und(祓いを及ぼし 穢れを流し)lauter bewahrt das lichte Gold,(熔かし解放して尊きものへ) das euch zum Unheil geraubt.(至高の黄金として輝かせよう)」』

 

 

『「Denn der Götter Ende dämmert nun auf.(すでに神々の黄昏は始まったゆえに)」』

 

 

『「So - werf'(我は) ich den Brand in Walhalls (この荘厳なるヴァルハラを)prangende Burg.(燃やし尽くす者となる)」』

 

 

 

『「Briah―(創造)」』

 

 

 

『「Muspellzheimr Lævateinn(焦熱世界・激痛の剣)」』

 

 

それは赤騎士が自らも焼かれる事を厭わない世界。巨大な砲身の内部であった。

 

「な・・・何だこれは!?」

 

「黄金を輝かせる炎・・・その身で受けるといい。絶対に逃がさないし逃げられなけどよ!」

 

二人を包んだ炎の中で決闘が再開された。




「魅せるがいい。新しき英雄(エインフェリア)よ」

「その輝き忠誠を」

「私が愛そう、例外はない」

「この戯曲で舞う卿らは素晴らしい」

「ああ・・・愛してやろう」

「その輝きごとな」


演説・黄金の獣


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第七劇 刻傷

「■■の修羅に敬意を評する」

「お前の忠こそ■■にとっても至高の天であったのだろう」

「彼の地でお前が■の■を許せるようになる事を■も願う」

「良き出逢いを、■の英雄。お前も俺が尊ぶ■■だ」

----


「我は永劫に御身の爪牙!」

「私の魂は・・・今も貴方の愛で溢れている」

「貴方に捧げるこの忠こそが私にとって焼身の剣」

「胸に修羅の矜持がある限り、無限の強さを得られるだろう」

演説 天■・■刀 御■龍■


※捕捉

今回の話では千冬がものすごくエグい目に合いますので千冬ファンの方は注意してください。それでも一向に構わんッッ!という方は進んでください。


焦熱の世界に入った二人は今もなお戦い続けている。

 

しかし、この世界は炎そのもの。生身の人間が耐えられるはずがなかった。

 

「く、くそっ!があああ!」

 

「どうした?逃げようとしても逃げられんぞ?この世界に出口などない!」

 

膝を折れば地に焼かれ、壁に当たれば背を焼かれ、相手は砲撃のように炎を撃ち込んでくる。

 

「化物が・・!」

 

千冬はそうつぶやいた。自分以上の強者などいないという自分の考えを真っ向から崩しに来ている相手が居る。

 

どうあがいても勝てる要素は何一つ見当たらない。

 

「燃え尽きろぉ!!」

 

フォルは本来の使い手であるザミエルのような威力が無いことを知りながらも炎を放ち続ける。

 

「!!」

 

千冬はそれを避け続け、ついには自分の間合いの中へフォルを捉える事に成功し横へ刀を薙いだ。

 

「終わりだ!」

 

自信の一太刀を浴びせた千冬は自分の勝利を確信していた。

 

しかし、それは泡沫の夢と消えていく。

 

「なに・・・!」

 

フォルは千冬の刀の刀身を腕で止めていた。

 

しかも、その身には炎が燃え上がり、刃を押しとどめている。

 

「近づいたな?」

 

フォルは炎を集中させ、極大な砲撃を至近距離で千冬に浴びせた。

 

「ぐああああああああああ!?」

 

「ザミエル卿と口調が似てるだけで強さが違いすぎる」

 

『貴様は引っ込め。私の気が済まん』

 

「(えっ?)」

 

フォルは呆気にとられると髪の色がザミエルのような赤に変わっていく。

 

「『こいつが我が君を侮辱した者か』」

 

身体はフォルだがその雰囲気は軍人、それもかなりの階級の人物であることが分かる。

 

千冬は刀を支えにし、立ち上がると口を開いた。

 

「貴様・・・何者だ?」

 

「『聖槍十三騎士団黒円卓第九位・大隊長、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウァ』」

 

「!?」

 

聞きなれない名前だが女性である事は分かる。

 

「『模倣者の身体でしかも今の私は欠片だからな。会話と軽い技しかできんが十分だ』」

 

千冬を捉えるその目は明確に逃がす事はないと殺気で教えている。

 

「『燃え尽きるといい』」

 

軽く手を振った瞬間に炎の壁が千冬に迫り、全身を包み込んで燃え上がり始める。

 

欠片とはいえ、本来の使い手が操作する炎は決して消えることはない。

 

「ぐあああああ!!がああああああ!」

 

「『ふん、この程度の火力で喚くか。出しゃばり過ぎた、戻させてもらう』」

 

「っ・・」

 

髪の色が元の色に戻るとフォルは自分を取り戻した。

 

先ほどの出来事は近衛兵であり、黄金に最も近い赤騎士だからこそ出来た事である。

 

 

「ぐ・・・・くっ・・」

 

全身が炎による傷で千冬はほとんど戦える状態ではなくなっていた。

 

「ザミエル卿が何をしたか知らねぇが。ふん、世界最強と言われたブリュンヒルデ様が炎で負傷とはなんとも皮肉が利いてやがるなぁ?おい」

 

「ふざ・・けるな!」

 

フラフラになりながらも刀を使い、フォルへと斬りかかる千冬だが万全ではないために一向に当たる気配はない。

 

「止まって見えてるっての!」

 

「ぐあっ!?が・・・は!」

 

炎を宿した拳で千冬の腹部を殴った後に崩れかけたところを首を掴み、焦熱と化している地へ叩きつけた。

 

「ぐあああああ!!」

 

それと同時に砲身の世界が霧散し、元のアリーナの状態へと戻った。

 

二人が現れたのを確認した三人は驚きのままだった。

 

「さっきの創造、一体誰のよ・・・」

 

「わかりませんよ・・(まさか、ヴィッテンブルグ少佐?)」

 

「炎の中で一体何が?」

 

千冬を首から頭の髪を掴み、フォルは空いている右手に炎を纏わせた。

 

「お前が相棒に近づけない印をここで刻んでやるよ。永久に消えない印をな!」

 

「な・・・に!?」

 

フォルはそのまま右手の人差し指と中指を立てると千冬の顔へ近づけていく。

 

その意味を理解したのか、千冬はフォルから逃れようとするが全くの無意味だ。

 

「あ・・・!や、やめ・・ろ!やめて・・くれ!!ぎゃあああああああああああああああああ!!」

 

「ハイドリヒ卿を侮辱し、相棒すら自分の所有物と考えている。このくらいで済めば安いもんだろうがよ!まだまだ刻みは終わってねえぞ!」

 

それは目を覆いたくなる光景であった。

 

フォルは炎を纏わせた指で千冬の顔の左半分をザミエルのような火傷を負わせ始めたのだ。

 

「あ・・・が・ああ・・・」

 

「これでお前はもう相棒に近づくことは出来ねえ。左半分全てじゃないが印としては十分だろうよ」

 

千冬は火傷を負わされた顔の左半分を押さえながら地に伏せっている。

 

「うっわ~、エッぐーい。あれはキツいわね」

 

「やりすぎですよ!いくら気に食わないからって」

 

「・・・・あ・・・あ」

 

ルサルカは笑っており、ベアトリスは怒りを見せ、セシリアは震えていた。

 

「・・・いいか?二度と相棒に干渉するなよ?あんな態度でまた相棒に干渉したら・・今度は印じゃすまねえ、その首を胴体から飛ばしてやる!」

 

「っ・・・っ・・・」

 

「だが、自分の所有物としての考えを改めるんだったら俺は何も言わないけどな?」

 

フォルは千冬に近づき、さらに一言言い放つ。

 

「それが出来ない無いなら近づくな。私の家族だ?私の物だ?笑わせるなよ、相棒に甘ったれてる奴が!真に愛するなら今の自分を壊せ!それが相棒に対する最大の信頼になる」

 

奇襲を警戒してか刀を蹴り飛ばし、フォルはアリーナから去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォルが去り、観戦者も去ったアリーナで千冬は仰向けに大の字になったまま天井を見つめていた。

 

『笑わせるなよ?相棒に甘ったれてる奴が!真に愛するなら今の自分を壊せ!それが相棒への最大の信頼になる』

 

「真に愛するなら今の自分を壊せ・・・か。奴はきっかけを与えてくれたのかもしれんな」

 

千冬は自虐的な笑みを浮かべ、押さえたままの顔の左半分の痛みをしっかりと受け止め過去を振り返った。

 

一夏が必死に頑張っていたことを認めずに千雨のみを見ていたこと。

 

自分から何故離れていったかを考えずに自分の中にある形だけで弟を見てしまったこと。

 

ありとあらゆる過去を振り返ったが結局は自分が原因だという事に気づいただけだった。

 

「ふふ・・・情けんな。世界最強の肩書きなぞ何の意味もなかったのだ」

 

「私はただ、家族を・・いや家族という名の箱庭を守りたかっただけ。それだけだ」

 

千冬は目を閉じると同時に目を瞑るとそのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、フォルは職員室に赴き合意の上で戦ったことを伝え織斑先生を負傷させてしまった事を報告した。

 

お互い合意の上だったという事でお咎めはなかったが、清掃活動をするように言われた。

 

「このくらいの罰なら安いもんだな。って・・・・なんでいるんですか?ベアトリスさん?」

 

「当たり前でしょう?監視するために来てるんです!サボリは許しませんからね?」

 

「へーい」

 

こうして学園生活へと戻っていく。しかし平穏とは刹那のごとく過ぎるもの。

 

戦いはすぐにやって来る。それも三つの流れを持ちながら。




「これにて戦いの幕を一旦下ろすとしよう」

「まだまだ、この物語は始まったばかり」

「慌てなくとも開幕はすぐだ」

「では・・・私は」

「舞台装置を用意するとしよう」


演説・水銀の蛇


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第八劇 平穏

「情愛とはある日突然現れるものだ」

「我が女神と出会った時に感じたのを私は忘れはしない」

「あれだけが唯一無二の美しい既知だ」

「さぁ、次の幕を開けるとしよう」

「今回は私にも獣殿にも退屈な日常だがね」


演説・水銀の蛇


清掃期間を終え、普段の学園生活へと戻る。

 

それは刹那のように過ぎ去っていく、それこそが至高なのだ。

 

教室内ではスイーツの話題や山田先生が生徒にからかわれているなど平穏な日常が広がっている。

 

 

そんな中、朝のHRが始まった。だが山田先生一人しかいない。織斑千冬は本日退院するということは言われているが学園には遅れてくるというだけのことだ。

 

「代表は・・・セシリア・オルコットさんに決まりました。フォル君とサタナ君は辞退して、千雨さんは重傷により入院中ですので」

 

「わかりましたわ。ですが代表になるにあたって皆様に申したいことがありますのでよろしいですか?山田先生」

 

「え?はい。どうぞ」

 

発言の為に教員の許可を貰ったセシリアは同時に床に足を着けてクラス全員に頭を下げた。

 

 

「皆様、このセシリア・オルコット。この度クラス代表になる前に一人の人間として皆様に不愉快な思いをさせてしまった事をこの場を借りて謝罪致します」

 

今までの自分を恥じている事と反省の色を見せているセシリアは頭を下げたまま謝り続けていた。

 

「もう良いですよ、セシリアさん。自分のした過ちをしっかり認めたんですから」

 

そう声をかけたのはベアトリスだった。その声を聞いたクラスメートはセシリアの謝罪を受け入れていた。

 

「うん、ベアトリスさんの言う通りだよ」

 

「こうして謝ってくれたんだし、何も文句はないわ」

 

「だから、これからも仲良くしてね?オルコットさん」

 

「皆さん、ありがとうございます!」

 

顔を上げたセシリアの目には涙が浮かんでいたがそれをこらえて気品に振舞う。

 

今のセシリアに女尊男卑の考えは一切ない。己の過ちを認めたことで彼女自身も変わったのだ。

 

皆がセシリアを許し和やかになった雰囲気の中、サタナが席を立ちセシリアに近づいた。

 

「相棒から伝言だ。[あの時の約束を果たしに来た]だってさ」

 

「これは!」

 

そう、彼女のISであるブルー・ティアーズ。それをサタナ代わりに皆へわからないよう巧妙に隠して待機状態で返却したのだ。

 

「詳細は後でな?」

 

「はい」

 

 

「じゃあ、HRを終わりにして授業を始めますよ」

 

 

 

 

そう言って授業が始まった。それがひとつの平穏であるという事をサタナは噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと終わったぜ。あー織斑先生はもう退院して現場復帰してんのか」

 

「女性の顔に火傷を負わせるなんて!まぁ、色々医療が発達してるみたいですから関係ないみたいですけど」

 

職員室にて報告を終えたフォルは席に座り、ベアトリスはその隣に座った。

 

「そういえば。二人共、転校生が来るって話題が持ち切りよ」

 

「転校生か。どこから来るのやら」

 

「中国って聞いたわよ」

 

「中国か・・・」

 

中国と聞き、サタナは少しだけ顔を曇らした。かつての名を捨てた自分の中に燻るものがありそれが解消しきれていないのだろう。

 

「どうした?相棒、中国に知り合いでもいるのか?」

 

「ああ、、あぁ・・まぁな」

 

「そうかい、詳しくは聞きやしねーよ」

 

二人の会話は本当に仲の良い親友同士の会話であり、踏み込むことは許されない雰囲気を醸し出している。

 

「あの・・」

 

「ん?ああ・・セシリアか?」

 

「ええ、中国の代表者が来ると聞いたので」

 

「セシリア、頑張れよ?スイーツ券や皆のためにな」

 

「はい!サタナさん!」

 

「相棒に惚れたなこりゃあ」

 

そんな会話をしていると突如、教室の扉が開かれた。

 

「ふーん、ここにいたんだ?アンタ達が噂の男性操縦者?」

 

「そうよ~。この二人がそう」

 

勝手に紹介を始めたルサルカに男性二人は注意を目でしながら入ってきた少女に目を向ける。

 

「私は中国代表生、凰 鈴音(ファン リンイン)アンタは?」

 

名前を名乗った少女はフォルに視線を向けていた。

 

「俺か?俺はフォル=ネウス・シュミットってんだ」

 

「俺はサタナ=キア・ゲルリッツだ」

 

「フォルにサタナね。覚えたわ(サタナ・・アンタもしかして?)」

 

「私はルサルカ・シュヴェーゲリンよ。よろしくね?リン」

 

「うん!ルサルカ!で・・・その隣にいるポニーテールの人は?」

 

「私はベアトリス・キルヒアイゼンと言います。よろしくお願いしますね」

 

「ベアトリスね。よろしく!」

 

各々が自己紹介を終えるとチャイムが鳴り、次の授業が始まる事を伝え始めた。

 

「!鳴っちゃったか!じゃあお昼に食堂でね!」

 

自分のクラスへと戻っていく鈴を見てサタナだけが複雑な思いを自分の中に抱いていた。

 

「相棒、お前はもう織斑一夏じゃねぇんだ」

 

「ああ、未練がないといえば嘘になるけどよ。やっぱり辛いな」

 

「だろうな」

 

一夏だった時の自分はもういない、それはサタナ自身もわかっていることだ。

 

わかっていても黒円卓のメンバーと比べればまだまだ若輩の身。

 

迷うことがあって当然なのだ。

 

 

そんな蟠りを持ちながら授業は開始され進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたわよ!四人とも!!」

 

そう言って近づいて来たのは鈴だ、その手にはラーメンの乗ったお盆が持たれている。

 

「リン、そこにいられると食券が買えないわよ」

 

「う、わ・・わかってるわよ。ルサルカ」

 

ルサルカの言葉に鈴はバツが悪そうに離れた。

 

それぞれが食事を持つと席を確保していた鈴が手を振っている。

 

それぞれが着席し、食事を始めようとした時。

 

「わたくしもよろしいですか?」

 

「ん?ああ・・セシリアじゃねーか。俺の隣しか空いてないが良いか?」

 

「ええ、もちろんですわ」

 

フォルの隣に座るとセシリアも一緒に食事を始めた。

 

「えっと・・後から来たアンタは?」

 

「わたくしはイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットと言います」

 

「そう、私は中国の代表候補生の凰 鈴音よ。よろしくね?」

 

「ええ」

 

セシリアの態度は初めて出会った時のプライドの高いお嬢様という感じが無くなり、今は淑女という言葉が合うほどに落ち着いた様子でしゃべっている。

 

「そうなの~、鈴ってば一途ね~」

 

「からかわないでよ!ルサルカ!!////」

 

小柄な体型同士、気が合うのか鈴とルサルカはすぐに仲良くなり、恋愛話で盛り上がっている。

 

「でも、アイツは行方不明って聞いてるから・・・」

 

「大丈夫、きっと再会できるわよ(目の前にいるんだからね)」

 

「ありがと、ルサルカ」

 

そんな会話をしながらの食事はあっという間に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、セシリアが自らフォルとサタナに特訓を申し込んできていた。

 

「どうしてもダメなのですか?」

 

「俺は射撃はマシンガンくらいしか扱えねえぞ?後はハンドガン位か」

 

「俺は知ってのとおりだしな」

 

そう、フォルはISの武装でも戦えないことはないが狙撃ではなく牽制を兼ねた弾幕展開型の銃を使っている。

 

サタナは標準ブレードや形成による大剣のみではあるが速すぎるためにセシリアにとっては相性が悪すぎるのだ。

 

「なら、いっそのことベアトリスさんに特訓してもらえばどうだ?」

 

「あの方にですか?」

 

「馬鹿にするなよ?あの人はああ見えて軍人だし、俺達の剣術の師匠でもあるんだ」

 

「決闘の時もおっしゃってましたが、意外過ぎますわ!」

 

セシリアの反応は尤もだろう。人懐っこい笑顔を見せ、明るく話してくれるベアトリスが軍人でしかもサタナとフォルの剣術の師である事を知れば当然の事だ。

 

「軍人だから訓練は厳しいぞ?その分、指導は的確だ」

 

「お願いしてみますわ、わたくしも強くありたいですから」

 

そう言ってセシリアはベアトリスのもとへと向かっていった。

 

「セシリア、変わったな」

 

「そりゃあ、惚れた男が近くにいるから仕方ねーんじゃねーの?」

 

「?それって相棒の事か?」

 

「アホか。鈍感野郎!」

 

「なっ!?なんだと!!」

 

「やるか?」

 

「来いよ!叩きのめす!」

 

「上等だァ!」

 

二人は創造を発動させ、喧嘩を始めてしまった。

 

この後、グラズヘイムに一時帰還する事を伝えに来たエレオノーレによって両成敗されたのは言うまでもない。




「あまりに退屈な日常の歌劇だったが」

「これも流れというものだ」

「私は舞台装置を用意するといった」

「この世界ではこの世界の最も強力な武器を使うとしよう」

「人に在らざるモノを使ってね」



演説・水銀の蛇


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外演目 弥生の白きお返しの日(ホワイトデーネタ)

「今回はなぜか喜ばせる演目だ」

「これを見る勇気があるかね?」

「では、幕を開けよう」


水銀の蛇

メモの書き留めより抜粋


「待たせたな!今日が何の日かわかってるか?」

 

「ホワイトデー!つまり、女からの求愛に男が応える日ってな訳だ!」

 

「そんな訳でこのIS学園には女しかいない!全員にお返しは無理だ!だから言葉でお返しすることにした!」

 

「これは必聴の放送だ!今日は耳からイカせてやるから覚悟しな!前置き抜きで行くぜぇ!!」

 

「俺達を特訓してくれた円卓の方々も協力してくれた!ただし録音だからそれは許容してくれ!!

 

「コンセプトは~?」

 

「エロスッ!!」

 

パーソナリティであるフォルとサタナはノリノリで放送室を占拠し、放送している。

 

「エントリーナンバー1!吸血鬼に襲われたい人は必聴だ!ヴィルヘルム・エーレンブルグさんだ!!!」

 

『テメエら・・俺に渡したチョコみたいに溶かされたいならこっちへ来な?今夜は帰さねえ、極上の快楽ってやつをその身体に教えてやるよ』

 

「キャアアアアアア!!溶かされたい!!」

 

「私に刻んでえええええええええ!」

 

チンピラ風の男性が好みの女生徒は一気に興奮し、悶えている。

 

「FOOOOOOOOOO!!」

 

「オーライ!エントリーナンバー2!静かながらも感情を教えたのは貴女!イザーク・アイン!!」

 

『私は・・・こんな感情など知らない・・・・お前が私の歯車を狂わせた・・・この胸の軋み・・暖かさを・・・一体どうしてくれる?』

 

 

「わ、私が!」

 

「私が支えてあげるよおおおおおお!」

 

 

イザークの無感情なボイスに酔いしれた母性の強い女生徒は転げまわっている。

 

 

「うわおおおおお!これはやっべええええ!俺まで赤面してきたぞ!超やっべええ!!」

 

「続けて行くぞおおおおお!!エントリーナンバー3!自らを屑となっても汚れることを厭わない!!櫻井戒さん!!」

 

『僕は屑だ。そして君の為ならば例えどれだけ汚れようと構わない。そう、君はいつまでも無垢で曇りのないホワイトチョコのようであってくれ』

 

「ああああっ!私だけなんて!」

 

「一緒に汚れたい!!むしろ汚してえええええ!」

 

イケメンかつ自分だけが汚れればいいという献身にまた更に悶える女性が増える。

 

「戒さあああああああああああああああん!!」

 

「フォルが壊れ始めてキターーーー!!」

 

「エントリーナンバー!4ォォォォ!ここで爆弾だー!ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンさん!!」

 

『そうだ、俺の名を呼んでくれ。誰よりもお前に呼んで欲しいのだ。そして俺はお前の言葉で辿り着く、俺の猛りの終焉に』

 

 

「いくらでも呼ぶから名前を教えてええええ!!」

 

「渋い・・酔いそうだわああああ!」

 

マキナの渋く男らしい声に酔いしれる生徒が続出し始めている。

 

「「これが俺の・・・!デウス!エクス!!マキナ!!!」」

 

「エントリーナンバー5!!今度は紳士かー?ロート・シュピィィィネェェェ!」

 

『親愛なるお嬢さん達。私の糸を持ってがんじがらめにして差し上げましょう。その愛は既に私の蜘蛛の巣に囚われているのです』

 

 

「絡め取られちゃう!縛られちゃうううう!!」

 

「強く縛ってえええ!」

 

ソッチ方面に目覚めている女子が肩を抱いて身体をくねらせている。

 

 

「ちょっとォォォォ!なんでカッコイイんですかー!貴方がー!」

 

「だが、聖人ならこの人だろう!エントリーナンバー6!!ヴァレリア・トリファー!!!」

 

『そのチョコを抱いて揺れに揺れ続ける貴女。食べるべきか、食べざるべきか?ああ・・貴女を愛しているからこそ答えは出ない。私は永劫・・・貴女の虜から逃れられない』

 

「ああ、神よ!この方に許しを!」

 

「食べてくださいませ!」

 

熱心なシスターだった女生徒が悶えつつ祈っている。

 

「聖餐杯は砕けないぃ!」

 

「でもテレジアさんからは貰えないいいいい!!」

 

「エントリーナンバー7!!次は愛してもヤンデレ!!ウォルフ・ガング・シュライバー!!」

 

「愛して・・愛して愛して愛して!!ねぇ・・・お願い、抱きしめて?君の中にある血の味を教えて?きっと甘ーいチョコレートのようだと思うから」

 

「私の血はここよ!」

 

「貴方の血も見せてえええ!!」

 

ヤンデレの素質がある皆様が刃を持って悶えております!

 

「つうか!男じゃねえええええ!」

 

「それは問題ないだろおおおお!!」

 

 

「次はお前の出番だ!!エントリーナンバー8!!フォル=ネウス・シュミット!!」

 

『ああ・・そうだ。俺は常に勝ちを狙い続けている!だからもうお前らは俺にイカれてんだよ!俺に惚れてる目は逃さねぇよ?迷わせてやるからよ』

 

 

「ギャアアアアア!!惑わせて!」

 

「そして閉じ込めて!!」

 

騒ぎがさらに大きくなって収集がつきません。

 

「相棒やっべええええ!柔らかでやべええ!」

 

「ここでそのセリフはまずいだろうがあああ!!」

 

 

「さぁ、最強の刃の登場だ!エントリーナンバー9!!サタナ=キア・ゲルリッツ」

 

『俺は君を傷つけたくない・・・けれど。君を守ることは出来るから、だから俺を納めて欲しい』

 

「あああああああああっ!!」

 

「も、もうダメぇ」

 

ついには失神者が出ました。

 

「うおおおおおお!竜剣の鞘が求められたああああ!!」

 

 

 

「さあ!ラストはこのお二人だ!!」

 

「黄金の獣、水銀の蛇!!我らが双首領だあああああああ!!!!」

 

 

 

『ああ、何故だ?なぜ耐えられぬ?柔肌を撫でただけで何故砕ける?この世は総じて繊細に過ぎるからだ。我が愛は破壊の情。愛でる為に先ずは壊す。いやさ、壊れ果てるまで愛させて欲しい。私は・・・総てを愛している』

 

『貴女に恋をした、貴女に跪かせていただきたい、花よ。この想い、遂げる為なら万象あらゆるものは貴女の為の舞台装置。我が脚本に踊る演者。さぁ、今宵の“劇”を始めよう』

 

『Dies irae』『Acta est fabula』

 

 

 

 

 

「これで全員!!全てが終わったぜ!!」

 

「お返しが言葉ですまねぇが!勘弁してくれや!放送を終わるぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

この放送はきっちりと録音され、ヒロイン達も悶絶したという。




マジですみません。

やりたかっただけです。

ですが後悔はしてません!!

ああ、水銀の蛇さんは忙しいみたいです。

では!


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第九劇 閃光の戦乙女

「私は追いかける側の人間です」

「だけど死人で出来た道などは照らしたくない!」

「後輩や、他の子達を照らす閃光になりたい」

「だから私は!今此処にいるんです!!」

演説 戦乙女


平凡な日常が過ぎていき、とうとう学年別トーナメント開催の日となった。

 

一回戦から二組代表である鈴と四組の代表であるセシリアがアリーナにおいて向かい合っている。

 

「てっきりサタナかフォルが代表だと思ってたんだけど」

 

「あの二人は強すぎるということで自ら辞退したのです。わたくしでは役不足ですか?」

 

「そんなことないわ。イギリスの代表候補生の実力、見せてもらうわよ」

 

「そのお言葉、そっくりお返ししますわ!」

 

試合開始と同時に両者がぶつかり合う。二人の男性操縦者がいないアリーナで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザミエル卿。なんで急に帰還命令が?」

 

「ハイドリヒ卿のご命令ですか?」

 

トーナメントの最中、サタナとフォルはグラズヘイムへの帰還命令を出され、城へと戻っていた。

 

「ああ、だが副首領閣下が貴様等に御用があるとのことで、私はハイドリヒ卿から命を受けたに過ぎん」

 

ザミエルは細葉巻に火を点け、城の通路を歩いていく。

 

「私はここまでだ。ここから先は貴様等だけで来いとの命令だ」

 

用は果たしたと言わんばかりにザミエルは背を向けて去っていく。

 

「行くか、相棒」

 

「ああ、緊張するけどな」

 

扉を開けるとそこは大きく広い宮殿のような場所だった。

 

そこには玉座があり、ハイドリヒが王としての風格を見せながら座っている。

 

「よくぞ戻った、若き英雄達よ」

 

「「はっ!」」

 

「話題に入ろう。我が友がな、卿等に是非とも会わせたい人物がいるそうだ」

 

「俺達に会わせたい人?」

 

「誰だ一体?」

 

二人が思案しようとした瞬間、玉座の部屋の天井から何かが降ってくる。

 

「いっくーーーーーーーん!!」

 

「避けろ!相棒!!」

 

「いや、大丈夫だ!」

 

降ってきた何かをキャッチすると見せかけ、流れるようにそのまま地に叩きつけた。

 

「あぐっ!?随分と激しい挨拶だね!」

 

「束さん、抱きつこうとしないでください。それ以前になんでグラズヘイムにいるんですか?」

 

「え?このウサ耳アリスのコスプレしたこの人が篠ノ之束だとぉ!?」

 

「ぐはっ!?当たりすぎてるだけにものすごく心に刺さったよ!?」

 

そう、グラズヘイムにて再会したのは篠ノ之箒の姉でありIS開発者の天才科学者である篠ノ之束だったのだ。

 

「あの詐欺師から聞いてるよ。君がいっくんの相克の存在なんだね?」

 

「・・・捨てた名で名乗るべきか。鏡月正次だ」

 

ここで初めてフォルは自らが捨てた名を束に名乗ったのだ。本当の名はフォル自身が口にするのも嫌悪しているためにありえない事だった。

 

「うーん、じゃあ・・まーくん。うん!まーくんだね!」

 

束のあだ名にフォルが苦笑している中、ハイドリヒ卿の隣に揺らめく影が現れ形となる。

 

「どうだね?久々の再会は?」

 

「!来たのかよ、詐欺師」

 

「そう睨まないでやってくれないか?我が友は卿との約束を果たしたであろう?」

 

「ぐっ・・・アンタに言われると納得しなきゃいけないよね」

 

ハイドリヒとカール・クラフトの二人を前にして怯まず会話できている束を見て、サタナとフォルは驚いている。

 

「卿は渇望を持たぬ身で我が城に趣いた。それは賞賛すべきことだろう」

 

「彼女はこの世界の超越者の身なればこそ、グラズヘイムにおいて魂を飲まれないのでありましょう。獣殿」

 

双首領が揃った事により爪牙である二人はいつの間にか膝を着き、頭を垂れている。

 

「!!いっくん・・・まーくん!?どうして?」

 

「俺達はハイドリヒ卿の爪牙だからだよ」

 

「そうです束さん。俺達は爪牙・・・そしてハイドリヒ卿の刃」

 

束自身は二人の忠義の姿に疑問を持っているようだが、それは束自身がこの世界の超越者ゆえである。

 

「事実だと言ったはずだがね?篠ノ之束」

 

メルクリウスの言葉に束は殺気を込めた目で睨むがどこ吹く風で流されている。

 

それを止めようとする二人の爪牙も立ち上がった。

 

「卿等は手を出すな。彼女の怒りは私が愛さねばならんからな」

 

「っ・・・!」

 

黄金の獣たるハイドリヒは穏やかに笑みを束に見せるが、それは王者としての余裕さが表れていることにほかならない。

 

そんなハイドリヒを見つめたまま束は動かない。いや、動けずにいる。超越者といえど相手は幾万もの魂を喰らってきた獣、一人の超越者の力は微々たるものでしかない。

 

「礼は言うよ。二人に会えたしね・・・それに」

 

「それに?何だね?」

 

「ここでなら二人のISを強化できるからね。枷であることは変わらないけど動きやすくする事ぐらいは出来るから」

 

束の言葉に笑みを深くしたハイドリヒは意外な事を口にした。

 

「ならば客人として迎えよう。なに、これでも私は客人を無下にはせんよ」

 

「獣殿、貴方が彼女に興味を持たれるとは」

 

「客人は迎えいれるのものだ」

 

やはりこの二人は何を考えているかわからない。まるで娯楽に興じているかのような会話の仕方だ。

 

「サタナ、フォル。客人の案内は卿等に任せる。案内を終えた後に速やかにIS学園へと戻るといい」

 

「「jawohl!Mein Herr!」」

 

二人に誘導され、束はそれに着いて行く。双首領は姿が消えるまで三人を見ていた。

 

「女神の治世でなかったならスワスチカを開いていたところだな?カールよ」

 

「獣殿、この地では魂が足りずシャンバラとしての機能もない。仮にも女神の治世でなくとも貴方を現世に行かせる事は出来ますまい」

 

二人だけの会話の中には儀式の事が含まれていた。かつて成功させる寸前までいった最大級の儀式、スワスチカ。

 

それはラインハルトを現世に呼び戻す黄金錬成。修羅の世界の侵食、それが完成した時こそ終焉の歌劇が始まる。

 

しかしそれは最早、意味を成さない。女神によって統治されているこの世界を守護すると決めた黄金の獣は反面である水銀の蛇とともに守護者となっているからだ。

 

「ですが、スワスチカを開かずとも現世には行けましょう。我らが女神の加護によって」

 

「ああ、そうだな。だが、この世界は私にとって目で愛でる物だ。此処にいるとしよう」

 

「では、ご随意に」

 

二人の会話は互いに笑みを浮かべ合い、まるでチェスに興じるプレイヤーのような感じだ。

 

それはこの二人が心から楽しんでいるという事でもある。女神による統治されていようとも人が争いを続ける限り、戦争(ラインハルト)は存在していることになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園に戻った二人はちょうど鈴とセシリアが接戦を繰り広げている所にタイミングよく現れた。

 

「おお、やってるやってる」

 

「鈴とセシリアの戦いか、これは観ないとな」

 

二人はアリーナの通路から二人の試合を観戦し始めた。

 

「っ・・!セシリア・・私、アンタの事ナメてたわ。ごめん」

 

「?急にどうしました?」

 

「アンタの目、すごい決意がありそうだから」

 

「それはサタナさんとフォルさんのおかげですわ」

 

「え?」

 

二人は試合中にかかわらず間合いをとったまま話を始めた。

 

「お二人はこうおっしゃっていましたわ。一で勝てないのなら百、百で勝てないなら千、千で勝てないなら万、何回でも戦い続けると。それは諦めたくないという気持ちだということを」

 

「でも、そんな事!出来るわけが!!」

 

「わたくしは一度、専用機を失った身ですわ・・・。帰ってきたとはいえ敗北したことは事実。その事実からもう逃げたくはありません!」

 

「セシリア・・・あんた」

 

「だからこそ、全力で戦うのです!勝利を掴むまで!!」

 

「そう、なら私も全力全開で行くわ!」

 

「望むところでしてよ!」

 

二人が戦いを再開しようとした矢先、突如としてアリーナの闘技場のバリアが破壊され、機械的な人形がその場で佇んでいた。

 

「なによ、あれ」

 

「無粋ですわね・・」

 

戦いを邪魔された二人は怒りが湧いてくるが理性で抑え込んでいる。

 

「相棒!」

 

「ああ、俺達も行くとしようぜ!」

 

アリーナで観戦していた二人もISを展開し、闘技場へ乗り込む。

 

「サタナ!」

 

「フォルさんまで!」

 

銀と灰色のISが並び立ち、蒼い雫と龍を守らんとする。

 

「機械のようだな・・・相棒」

 

 

「ああ・・・(我が初恋(はじまり)よ、枯れ落ちろ)」

 

「「行くぞぉ!!」」

 

IS戦ということもあり、サタナとフォルは形成を発動し各々が得意とする剣と爪で機械人形へと迫る。

 

「!!!!!!」

 

「何っ!?」

 

「なぁ!?」

 

二人は驚愕した。形成状態の二人を機械人形は軽々しくあしらい、吹き飛ばしたのだ。

 

「ぐっ!あっ!」

 

「ゴフッ!!」

 

機械人形は装甲に傷が付いたものの、平然としている。

 

サタナとフォル飛ばされた衝撃で吐血し、倒れていた。

 

「このぉ!」

 

「お二人をよくも!!」

 

鈴とセシリアが臨戦態勢となり、機械人形へ向かっていく。そんな中、教師陣は我先にと逃げ出し、生徒の避難が遅れている。

 

「「やめろ!お前らじゃ無理だ!」」

 

二人の男がその言葉を発したが既に遅かった。機械人形は反撃の体勢を整えており、鈴とセシリアへ最大級のビームを放った。

 

「うああああ!」

 

「あああっ!!」

 

二人が同時にフォルとサタナの目の前に叩きつけられた。立ち上がろうとするが足が言う事を利かず、エネルギーシールドもほとんどが削られていた。

 

「コイツ・・・強い」

 

「なら・・!」

 

二人が創造を発動させようとしたその時、もう一人アリーナに飛び込んできた人物がいた。

 

「全く、見てられません!」

 

その人物はベアトリス・キルヒアイゼンその人だった。その身には量産型のISであるラファール・リヴァイヴを身にまとっている。

 

「ベ、ベアトリスさん!?」

 

「どうして・・!」

 

「貴方達が未熟だからですよ。それに、ちゃんと戦えるという所も代表者の二人にも見せておかないと」

 

しかし、ベラファール・リヴァイヴがベアトリスの動きについて行けたのが不思議であり、機体が軋みを上げていた。

 

「連れてきてくれてありがとう、ここからは私が戦うからゆっくり休んで」

 

ベアトリスは機体から降りると一本の宝剣を形成し取り出した。

 

その剣の名は戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)彼女が自身の命と同等に扱い、彼女自身の祈りによって昇華した聖遺物である。

 

「相手が機械なら、私にとって相性がいい。サタナ、フォル、鈴さん、セシリアさん。今から私の力を見せますよ」

 

ベアトリスが剣を持ち、構えを取る。その構えには隙があるように見えて一切なく、凛々しさと美しさ、そして殺意が流れ出す。

 

彼女は戦乙女の名を持つ英雄の一人である。静かに目を閉じ、彼女は詠唱(うた)を口にする。戦乙女として、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンとしての自分を認める詠唱(うた)を。

 

 

War es so schmählich,――(私が犯した罪は)

 

hm innig vertraut-trotzt’(心からの信頼において) ich deinem Gebot.(あなたの命に反したこと )

 

Wohl taugte dir nicht die tör'ge Maid,(私は愚かで あなたのお役に立てなかった)

 

Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer(だからあなたの炎で包んでほしい)

 

 

ベアトリスが紡ぐ詠唱(うた)を聞いていたその時、フォルの内側にあるザミエルの意志の欠片が合わせる様にフォルの身体を使って詠唱(うた)を、ザミエル自身の声で詠唱(うた)い出した。

 

 

 

"Leb' wohl,du kühnes, herrliches Kind!"(さらば 輝かしき我が子よ)

 

"ein bräutliches Feuer soll dir nun brennen,"(ならば如何なる花嫁にも劣らぬよう)

"wie nie einer Braut es gebrannt!"(最愛の炎を汝に贈ろう)

 

 

 

 

Wer meines Speeres Spitze furchtet,(我が槍を恐れるならば)durchschreite das feuer nie!(この炎を越すこと許さぬ )

 

Briah―(創造)

 

Donner Totentanz(雷速剣舞・)――Walküre(戦姫変生)

 

その瞬間、ベアトリスは雷光に包まれる。この雷こそ彼女の力そのもの、それを見ていた四人は驚きを隠せない。

 

今、目の前にいるのは戦乙女としてのベアトリスであり、クラスメートのベアトリスではないからだ。

 

「雷・・・ベアトリスさんの力は閃光なのですね」

 

「ど、どうして平然としてられるのよ!人間が雷になったのに!!」

 

セシリアは平然としてベアトリスを見ており、鈴はパニックになっている。

 

「鈴、危険だ。こっちに来い!相棒、鈴を避難させないと」

 

「ああ、セシリアもこっちに」

 

「ええ」

 

「ちょ、ちょっと!サタナ!(あれ?この感じ・・懐かしい?)」

 

アリーナの入口へと避難し、ベアトリスだけが残る。機械人形と対峙しているベアトリスの目には相手を倒す意思がある。

 

「行きます!」

 

ベアトリスが一歩踏み出した瞬間、その間合いは一瞬で詰まり機械人形の腕を切り落としていた。

 

「鍛錬しておいて正解でしたね。まだまだ戦えます」

 

機械人形は標的をベアトリスに定め、ビームを放つ。だがそれは暴走している状態と似ており、ビームを撃ち続けている。

 

「ベアトリスさん!!」

 

「いや、あの人は」

 

爆煙が晴れた中に雷を纏ったままのベアトリスが立っていた。機械人形の攻撃は全てベアトリスの身体をすり抜けている。

 

彼女は元々部門に生まれ騎士の精神を持ち、精神状態が安定しているために能力の安定が凄まじい。

 

「舞踏は終わりです!!」

 

機械人形の四肢を切り落とし、一瞬で中心に刃を突き立て内部に雷を流し込んだ。

 

ベアトリスは一度、剣を振るうとそれを納めた。

 

「・・・・・」

 

「すごい・・一瞬で」

 

「あれが俺達の剣の師匠の実力だ」

 

「やっぱり叶わないな。ベアトリスさんには」

 

鈴はベアトリスの戦いに目を奪われていた。自分とは違い、力ではなく技術。剛ではなく柔の剣の流れ。それこそが鈴の中に影を落としていた。

 

「悔しい・・・・」

 

握り拳を作り、鈴は震えたまま唇を噛み締めていた。




「次の舞台は歌声が響いてくるやも知れぬ」

「その歌は天上の声か、地の響きか」

「次の戯曲は三人の役者の出演だ」

「楽しみにしていてくれたまえ」


演説 水銀の蛇


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第十劇 黒き蒼炎

「趣向を用意してみたのだが」

「まさか簡単に終わるとは」

「三人の役者はどのように動くのか」

「知っていても興味はつかない」


演説・水銀の蛇


機械人形が機能を停止し、ベアトリス自身も創造を解いた。

 

「大人気なかったですね。あの程度の相手、しかも機械に対して創造を使うなんて」

 

自分自身の行いを反省するかのようにベアトリスは目を伏せた。

 

「・・・」

 

そんなベアトリスを見つめているのは鈴だった。圧倒的な実力、見た事のない力で圧倒した姿。明るく人懐っこい顔の裏に隠された冷徹なまでの戦い方に戦慄していたのだ。

 

「ねぇ、ベアトリス・・・」

 

「なんですか?鈴」

 

「アンタ、なんでそんなに強いのよ?雷を纏ったのは抜きにしても剣術だけで相当じゃない!!」

 

鈴は大声を上げてベアトリスに詰め寄る。そうしなければ自分を保っていられる自信がないと感じていたから。

 

「私は昔から武門に精通する家系に生まれて、幼少の頃から鍛えられてましたから」

 

馬鹿にした様子も、見下した様子もなく答えるベアトリスには欺瞞が一切なかった。

 

一つだけ隠しているとすれば自分が黒円卓に所属し、尚且つ軍人であったこと。

 

それだけを鈴に伏せているだけである。

 

「そっか、そうだったのね。ゴメン」

 

「気にしないでください。鈴は鈴で強くなればいいんです、私のやり方じゃなく鈴にしかできない方法で」

 

こんな事が言えるのも黒円卓で生きてきた年数による老婆心からだろう。

 

「アンタ、随分と何かを経験してきたかのように言うのね?けど、ありがと」

 

「いえ、これも父の影響ですよ」

 

鈴の鋭さに内心驚いていたが、それを明るさで隠して助言をした理由を教えた。

 

 

「さて、後片付けは先生方に任せて行こうや?」

 

「ああ、そうだな」

 

「うん」

 

「壊しちゃったけど・・・大丈夫ですよね」

 

「大丈夫だと思いますわ」

 

フォルの催促でアリーナから通路へ移動し、フォルは四人に向き直る。

 

「ちょっと危うい姫さんを迎えに行ってくるわ」

 

「え?」

 

「誰ですの?」

 

「わかりませんね」

 

「相棒、俺達は先に行ってる」

 

サタナは鈴、ベアトリス、セシリアと共にアリーナから出て行った。

 

「何やってんだ?隠れてないで出てこいよ。篠ノ之箒」

 

「!!気付いていたのか?それになぜ私の名前を!?」

 

「名前は相棒から聞いてたし、バレバレなんだよ。勘だが相棒の応援とか言って侵入する気だったんだろ?」

 

「なっ!?」

 

箒はフォルの推理力に驚愕し、言葉を詰まらせた。

 

サタナが戦えば自分が喝を入れようと放送室に侵入しようとしたがベアトリスが現れ、相手を倒してしまい自分の行動が無意味となってしまった。

 

それを己で自覚した箒は隠れて誰も居なくなるのを見計らって、アリーナから出ていこうとしていたのだ。

 

「あの無人機をベアトリスさんが倒してなかったら厳罰されてたんだぜ?おまけに命の危険性もな」

 

「だが、私は!」

 

「勇気と無謀は紙一重じゃねーぞ?相棒の為を思うなら無謀な行動は止めとけ」

 

「ああ、それとフォル。なぜ、一夏はお前や聖槍十三騎士団などという所にいる?教えてくれ!」

 

「一夏?ああ・・・相棒の本当の名か。残念だが俺の口からは教えられねーよ」

 

「なぜだ!頼む、教えてくれ!」

 

箒はフォルに詰め寄るが、フォルの表情は無表情のままだ。これ以上、話したくはないと言わんばかりの様子で。

 

「教えた所で何が出来んだよ?俺も相棒も自分の意志で我が主の下へ行ったんだぜ?」

 

「そ、それは・・・私がアイツを!」

 

「救い出す。ってんなら止めておきな?篠ノ之。お前は[人間]だ。ただの人間が黒円卓の本拠地へ来たら今の場所から戻れなくなるぞ?」

 

「だが!」

 

フォルは形成を発動させ、手首の刃を出現させた。

 

「今、竹刀持ってるんだろう?思いっきり打ち込んでこい」

 

「っ?」

 

「本気で相棒を救いたいなら・・・な?」

 

「わかった。っ!めええええええん!」

 

箒は携帯している竹刀を取り出し、フォルへ思いっきり打ち込んだ。

 

だが、フォルはそのまま箒の一撃を受けると同時に箒の首筋に銀の刃を当てていた。

 

箒の首から一筋の血が流れる。箒は顔を青くし、血の感触に震えている。

 

「これが黒円卓と人間の差だ。だから止めておけ」

 

「な・・・」

 

箒は本気で打ち込んだが、人を殴った感触に震えており、フォルは無傷のまま自分の殺気を抑え込み刃を寸止めしている。

 

「黒円卓の方々は人を殺す事に躊躇いはない。もちろん俺も相棒も・・・な?理性で抑え込んで寸止めしたがそれでも相棒を救うって言うかい?」

 

「あ・・・わ、私は」

 

「お前は人を殺したという事実に耐えられるほど強くはない、俺と相棒はもう何人も殺して魂を溜め込んでいる」

 

「あ・・・あ・・」

 

フォルは形成を解除し、刃を納めた。黒円卓の実力を僅かでも体験させる為のポーズだったからだ。

 

「だからこそお前は人間のままでいろ。お前の力はハッキリ言って届くことはない」

 

「私の・・・ちからが・・なぜ?」

 

「殺し合いの中でお前の得意な剣道に拘れば確実に死ぬぞ?確実に死なせてくる方々がいる場所が黒円卓だ」

 

フォルは倒れそうになる箒を支えて、アリーナから離れるために歩き出した。

 

 

「一夏・・・・」

 

かつてのサタナの名を呟く箒をフォルは聞こえないフリをし、寮を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒を寮の自室に送り、フォルは自室のベッドで横になった。

 

眠気が襲い、そのまま睡眠へと入っていく。

 

夢を見始めた。どこかで何かが争っている、ここは見覚えのない場所だ。わかるのは広大な闇が広がっており、その闇の中では星が瞬いている。

 

そう、そこは宇宙空間。視線を移せばそこは星の海であり幻想的で美しい。

 

 

「私は総てを愛している!」

 

「そうだ、これで総ての決着をつける!」

 

聞き覚えのある声が二つ、だが一つはどこか同年代の青年らしい声だ。

 

「ああ・・・ついに私の自滅因子(アポトーシス)が発現したか」

 

そして、もう一つ声が聞こえる。そう、あの魔術師の声が。

 

『なんだよ、これ?』

 

フォルは二人に見覚えがあった。一人は主であるラインハルト・ハイドリヒ。もう一人はカール・クラフト、しかし外套ではなく黒円卓の軍服を身に纏っている。

 

最後の一人は分からない。副首領と同じ顔、同じ声を持ちながらも赤い髪と黒い肌、手には時計の針を模した刃を手にしている。

 

フォルは平行世界の一つで行われた三つ巴の神座闘争を目撃している。

 

『なぜ、我が主と副首領が争っているんだ?』

 

映像を早送りするように闘争の場面へと移る。

 

「おお・・・身が震える!魂が叫ぶ!!これが歓喜か。これが恐怖か!私は今、生きている!!至高の天はここにあり!!」

 

夢の中のラインハルトは己の肉体が崩壊しようとも進軍を止めようとはしない。

 

これを待ち望んでいた、この時、この瞬間が望んだ時なのだと一向に止まらない。

 

Ira furor brevis est.(怒りは短い狂気である )

 

Sequere naturam.(自然に従え)

 

どこか高揚しているかのようにカールは詠唱し超新星爆発を引き起こした。

 

『うわああああ!』

 

ダメージこそは無いが余りの眩しさと腕で目を覆った。

 

「よそ見してんじゃねェェェェェ!!」

 

刃を持つ刹那と呼ばれる青年の神が二人へ向かっていく。正に刹那の瞬間と言わんばかりの速さだ。

 

「私の愛は破壊である。ゆえにそれしか知らぬし、それしか出来ぬ。そしてそれこそが我が覇道なり!!私の楽土は鉄風雷火の三千世界だ。ここにまみえた友らを抱こう!砕け散るほどに愛させてくれ!共にこの宇宙で歌い上げよう!大いなる祝福を!!」

 

フォルはこの三つ巴の戦いこそが宇宙の崩壊なのではないかと感じ始めていた。

 

夢にすぎないはずなのに妙に現実味がありすぎて目を逸らせない。

 

神々の戦いというのはその境地に至れなかった者からすれば美しいのだ。

 

この戦いは色の混ざり合いと似ており、三つの色が互いにぶつかり合っている。しかし

 

「む!!」

 

「ん?」

 

「そこにいるか・・・」

 

三人の視線が一斉にフォルへと向いた。この戦いは平行世界とはいえ水銀がいる、それによって三人は異物を感じたのだ。

 

『!!!』

 

視線を受けたと同時にフォルの身体は光の中へと飲み込まれた。舞台の見学の時間は終わりと言われたかのように。

 

「っは!はぁ・・はぁ・・なんだったんだ?今の夢」

 

夢から覚めて、時計を見ると朝の五時を指している。夢の内容が内容だっただけに早く起きてしまったのだろう。

 

「彼は・・一体」

 

フォルはぼんやりと黒い青年を思い返していた。副首領と同じ顔、同じ声、しかし心の有り様は全く違っている。

 

「あれが・・・宇宙の戦い・・怖すぎるな・・」

 

夢の内容を早く忘れようとフォルは洗面台へ行き、頭から温水をかぶり続けた。




「戦いの一部を彼に見せたのには意味が有る」

「あの歌劇は最早二度と開演できぬ」

「ああ・・・この既知も愛しいのは事実だ」

「模倣者よ、処刑の刃を願うがいい」

「女神の守護者となれ・・」


演説・水銀の蛇


※追伸

演説セリフが浮かばなくなってきてます(慌)


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第十一劇 多重

「己というものは己自身がわかるというが」

「本当に分かっているのは」

「誰一人としていないだろう」

「それが理解出来た時こそ」

「異能者となるのだから」


演説・水銀の蛇


機械人形の襲撃から二日が経ち、重傷だったとはいえISの防御機能によって守られていた影響か織斑千雨は退院し、学園に出席している。

 

サタナは箒をはじめとするセシリア、鈴に振り回されており、そんな様子を相棒であるフォルはルサルカ、ベアトリスと共に楽しく見ている。

 

「はーい、皆さん。席についてください」

 

授業が始まる時刻となり、担任の織斑千冬と副担任の山田真耶先生が教室に入ってくる。

 

「さて、HRを始める。だがその前に山田先生」

 

「はい。この度、三人の転校生が来ることになりました」

 

転校生と聞いた瞬間にクラス中が騒然となった。

 

「静かにしろ!馬鹿者共!」

 

火傷の傷が出来てからの千冬の威圧は出来る前よりも増しており、一気に静かになった。

 

「それでは入って来てください」

 

山田先生の合図で三人の生徒が入ってくる。

 

一人は男性っぽく、金髪で正に貴公子という言葉が似合うだろう。

 

「シャルル・デュノアです!至らない所もありますがよろしくお願いしますね!」

 

シャルルと名乗った青年はにこやかな笑顔で挨拶すると一気に教室が揺れた。

 

「キャアアアアアアアア!!」

 

「男子!三人目の男子よ!」

 

「しかも守ってあげたくなる系の!!

 

「地球に生まれてよかったあああ!!!」

 

あまりの絶叫に教室が震え揺れており、それだけで相当な威力だ。

 

「すげぇ・・・な」

 

「ああ、そうだな・・・」

 

耳を塞いでいた男性二人はその威力に目を回している。

 

「えっと、次お願いしますね?」

 

「はい」

 

一歩前に出たのは黒髪の少女だ。箒とは違いを結っておらず、墨のように黒く美しい髪をそのまま流している。

 

「櫻井螢と言います。日本でIS適性が出た為に転校してきました。よろしくお願いします」

 

名前を聞いた瞬間に声を上げた者がいた。

 

「螢?螢なの!?」

 

それはベアトリスであり、その声を聞いた櫻井螢も同じように驚きを隠せないでいる。

 

「え・・・?べ、ベアトリスお姉ちゃん!?」

 

「え?お姉ちゃん・・・って」

 

「ベアトリスさんに妹!?」

 

クラス中がざわつくが二人にとっては関係ない様子だ。しかし、それを止めたのは意外な人物だった。

 

「あの、再会を喜ぶのはいいですけど、まだ自己紹介が残っていますので」

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

山田先生の注意に螢は取り乱しながらも元の位置に戻った。

 

「それでは次の方ですね」

 

「・・・・」

 

「あの・・」

 

真耶が声を掛けるが銀髪の少女は答えない。仕草が軍属であることが伺える。

 

「ラウラ、挨拶をしろ」

 

「はい・・教官・・っ!?」

 

銀髪の少女は千冬を見た瞬間、目を見開き驚愕している。無理もないだろう今の千冬の顔の左半分は火傷の跡が残っているままだからだ。

 

「どうした?挨拶しろ」

 

「は、はい」

 

クラス全員方へ向き直り、銀髪の少女は口を開いた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「あ、あの、以上ですか?」

 

「以上だ」

 

ラウラと名だけを名乗った少女は目を伏せたがすぐに開いた。視線の先にはフォルが映った。

 

フォル自身は笑っており、気まぐれで唇を動かした。

 

『織斑先生の火傷の原因はここだぜ?』

 

「!!!」

 

読唇術によって言葉の意味を理解したのかラウラは怒りに顔を歪ませたが、行動することができなかった。その原因は。

 

『相棒に手を出すな』

 

『遊びたいのかしらね~?』

 

『手を出そうとするなら容赦しませんよ?』

 

黒円卓所属の三人がラウラへと視線だけで殺気を集中させていた為だった。

 

ベアトリスは別として、サタナとルサルカは飢えている。ここ最近、魂の補給をしていないために殺人欲求が出てきているのだ。

 

「っ・・・・」

 

ラウラは気持ちを抑え込み、空いてる席へと座った。

 

「(面白くなりそうだな・・・くくく。はっ!?)」

 

フォル自身も殺人欲求が出てきている、自覚があるのはまだ理性がある証拠で耐えられる領域だ。

 

「フォル!サタナ!同じ男子だろう、面倒を見てやれ。次の授業は第二アリーナだ!遅れないように!」

 

そう言って千冬と真耶は教室を出て行った。

 

「はぁ・・この後の目当てはシャルルだな?質問攻めになる」

 

「そうなるな」

 

「君達がフォル君とサタナ君?初めまして、僕はっ!?」

 

「捕まってろ、急いでいく」

 

「え?ちょっと、ここって二階じゃ!?」

 

「相棒、こっちも支えたから問題ないぞ」

 

「よし、大人しくしてな」

 

そう言ってシャルルを支えたフォルとサタナは二階から飛び降りた。

 

「「「「ああああ!逃げられた!」」」」

 

二人に支えられていたとはいえ、かなりの高さから急降下したシャルルは顔を青くしていた。

 

「ふ、二人共、かなり無茶するね」

 

「これくらい普通だが?」

 

「そうだな」

 

その後は走って授業に間に合わせ、第二アリーナにて実践講習が始まった。

 

講習前に山田先生と鈴、セシリアの戦いもあったが結果は山田先生の勝利だった。

 

授業は専用機持ちのIS操縦者がクラスメート達に操縦を教えた上で授業は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三アリーナにてフォル、サタナ、鈴、セシリア、ルサルカ、ベアトリス、シャルルそして螢の八人がISを使って訓練している。

 

「射撃武器って扱いにくいのよね。基本は刀で戦うから」

 

「最低限の射撃は出来る方がいいよ。戦術に幅が広がるしね」

 

「このメンツだと基本接近型が五人ね、中距離がセシリア、遠距離がシャルルかしら?」

 

「私も中距離だけどね~」

 

「使わないだけで銃くらいなら扱えますけど、剣の方が使いやすいですね」

 

「俺も剣がメインだな」

 

「わたくしは中距離、遠距離ですから近距離は得意ではありませんわ」

 

「俺も接近戦寄りだな。クローが使いやすいからな」

 

それぞれが武装や得意な距離、苦手な分野を分析し教え合っていた。

 

「セシリアはナイフ一本だものな。接近戦をするにも辛いんじゃないか?」

 

「ええ、その為にキルヒアイゼンさんから剣を教わっていますわ。ようやく振るうことを許されるようになりました」

 

「セシリアさんは剣を持たせたらフェンシングみたく構えましたからね。私の剣はフェンシングじゃないので一から教えましたよ」

 

「ベアトリスお姉ちゃんは剣に関しての指導は超一流だから」

 

「ものすごく厳しいけどな」

 

「同感ですわ・・」

 

「熱が入ると、つい・・・ですね」

 

バツが悪そうにベアトリスは苦笑していた。そんな様子を指導を受けた者たちも笑顔になっていた。

 

そんな中、突入してくるISのバーニアの音が響く。地に降りると同時に殺気を向けている。

 

「あれは・・ドイツの第三世代?」

 

「たしか、ラウラとか言った奴だったか?」

 

ラウラは八人の中でフォルに殺気をぶつけていた。だが、フォルからすればそんな殺気は子供が駄々を捏ねている程度のものでしかない。

 

「フォル=ネウス・シュミット。貴様も専用機持ちだそうだな?ちょうどいい、私と戦え」

 

「ほう?やるのは構わねぇが一般人を巻き込むのが現役軍人のやり方か?」

 

「ふん、今は関係ない。あの方に傷を負わせた貴様が許せん!!」

 

「なるほどな・・・。なら、お前にはこの服を着て名乗るべきだろうよ」

 

そう言ったフォルは量子化させていたある服を身に付けた。

 

「それ持ってたの?」

 

「まさか、それを持っていたなんて」

 

ルサルカとベアトリスはまさか?という反応を見せ、他のメンバーは驚愕していた。

 

「相棒・・・貰ってたのか」

 

「あれって・・ドイツの軍服?」

 

「腕章の模様が違いますわね・・・」

 

「彼は所属してたの・・・騎士団に」

 

それぞれが口を開く中、ラウラだけは顔を歪ませ怒りに満ちていた。その腕章はドイツ軍人ならば誰もが知る事になる組織の腕章を着けているからだ。

 

「貴様・・・その腕章の紋章は!」

 

「名乗っておこうかね、聖槍十三騎士団黒円卓第十四位!フォル=ネウス・シュミット!!その身が真に強者なら、その総てをかけてかかってきやがれ!」

 

そう、彼が身につけているのは黒円卓の軍服だった。ドイツの歴史の中で闇に消えていった幻の部隊。魔術や科学を主とした部隊であり、かの総統閣下も恐れていた部隊であったとも記録に残っている。

 

「貴様・・どこまで私を侮辱する!!」

 

「関係ねぇな、あのブリュンヒルデに(ローゲ)で傷を負わせたのは確かに俺だがな」

 

「貴様ァ!!」

 

ラウラはレールガンを放とうとするが首元に大剣が突きつけられていた。ラウラの背後には気づかない間にサタナが立っていたのだ。

 

「ここで相棒を撃つ気なら首を飛ばすぞ?」

 

サタナのISは速さに特化している。黒円卓によって強化された肉体とISのブーストを使えば間合いを一瞬で詰める事は可能なのだ。

 

「サタナ=キア・ゲルリッツ!貴様も!!」

 

「ああ、俺は聖槍十三騎士団黒円卓第十五位、サタナ=キア・ゲルリッツ。この刃は黄金の牙だ」

 

この二人は帰還したその日に改めて洗礼を受け、所属ではなく序列を名乗ることを許されたのだ。しかし十三の数字以内ではなく十四と十五を名乗るのは二人がまだ完全な英雄(エインフェリア)となっておらず仮の序列である為だ。

 

「ぐ・・」

 

ラウラは悔しそうにレールガンを降ろし、ISを解除した。それを確認したサタナは大剣を首元から離し、メンバー達の所へ戻っていった。

 

「相応しい舞台が二週間後にあるだろう?そこで戦おうや」

 

「よかろう、今回は引き下がってやる」

 

ラウラはそのまま出てき、フォルも軍服を量子化させ元の服装に戻した。

 

「相棒、俺たちも危うくなってるのに気づいてるか?」

 

「ああ、そろそろ補給(・・)しないと学園中で喰い尽くしかねないな」

 

押さえ込んではいるが聖遺物からの飢えは抗いにくいものであり、理性で押さえ込めるだけの力を身につけなければならないが二人はそれをクリアしていた。

 

しかし、それも限界に来ており聖遺物が飢餓に耐えかねてきているのだ。

 

「なにか方法があればいいけどな」

 

「ああ、だな」

 

そう言いながらメンバーのもとへ戻り、特訓を切り上げて解散となった。

 

サタナはシャルルや鈴、セシリアとの特訓に付き合うことになり、螢はベアトリスと一緒に道場へ行きルサルカは先に寮へ戻っていった。

 

一人になったフォルは学園内を歩いていた。ほとんどがメンバーと一緒にいた為に一人の時間を満喫しようと散歩している。

 

「へぇ・・・学園ってのはこうなってたのか」

 

呑気に歩いていると何か言っている声が聞こえてきたために、フォルは気配を消し、近くの木に身を寄せた。

 

「何故ですか!なぜこのような所で教師を!」

 

「(あれはラウラか?それに向かい側にいるのはブリュンヒルデだな)」

 

どうやらラウラが何か意見しているらしく、フォルは二人の様子を見続けている。

 

「何度も言わせるな。私には私に役目がある、ただそれだけだ」

 

「このような極東の地でなんの役目があると言うのですか!!」

 

「お願いです教官!我がドイツで再びご指導を!ここではあなたの能力は半分も生かされません!!」

 

「この学園の生徒達はISをファッションか何かと勘違いしている。それに・・・教官にそのような傷を刻み込んだ者を野放しにしておくなど!!」

 

「そこまでにしておけよ?小娘が」

 

千冬の殺気を込めた睨みにラウラは身体を震わせた。顔にある火傷の痕によって更に威圧が増しており、並の者ならその場で失禁していてもおかしくないほどだ。

 

「少し見ない間に偉くなったものだな?たかが十五歳で選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ・・私は。ですが教官!あの男、教官に傷を刻んだあの男だけは!!」

 

「黙れ、これは私が背負っていかなければならない罪の印だ。貴様が否定していいものではない。アイツを許せないならば戦って勝ってみろ」

 

「っ!」

 

「話は終わりだ、寮へ戻れ」

 

ラウラはその場から走り去り、千冬だけが残った。

 

「そこの男子、盗み聞きか?」

 

「偶然だっての、気配は消してた筈だがな?」

 

フォルがいた事に気づいていたらしく、観念したフォルは千冬の前に姿を現した。

 

「お前と対面すると火傷が疼くな。だがそれ以上に私の価値観を破壊してくれた事に礼を言いたいくらいだ」

 

「アンタが俺に礼とはな?己を破壊したのか?ブリュンヒルデさんよ」

 

「あの戦いがなければ、私はアイツを一人の人間として見る事はなかっただろう。都合のいい(にんぎょう)としてしか見ることが出来ないままな、気づいた代償は大きいが」

 

そう言って千冬は火傷に触れてフォルを見る。やはり敗北したという事が彼女の中で最も憤怒することなのだろう。

 

「はん、今更失った時間は取り返せねぇよ。自らを破壊(こわし)たなら相棒と話せるようになるんだな」

 

「ああ・・・わかっている」

 

「俺はもう行くぜ、散歩の途中だ」

 

フォルは千冬から離れ、後ろ姿が見えなくなるまで千冬はその背中を見続けていた。

 

「フォル・・いつか必ず私が勝つ」

 

ベアトリスとは性質の全く異なる戦闘に飢える戦乙女。その魂は倒すべき相手を見つけたことで輝き、彼女に生きがいを持たせていた。




「黒き雨に疾き風、そして獅子心剣」

「新たな三人の役者をここに配置した」

「この後にも舞踏は用意されている」

「楽しんでもらえると思うよ」

「私は新たな歌い手を用意しなければならぬのでね」

「失礼するよ。観客達よ」


演説・水銀の蛇


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第十二劇 報い

「人というのは己だけの快楽を求める」

「物欲、愛欲、あらゆる欲が手に入れば良いと」

「だが、それが壊れた時、どうなるか」

「今回はそれを垣間見れるよ」

「さぁ、幕を上げよう」


演説・水銀の蛇


散歩から戻ると相棒がシャルルと共にいた。おまけにルサルカさんにベアトリスさんまで部屋にいる。

 

「一体何があったんだよ?相棒」

 

「ああ、実は」

 

話によれば相棒が部屋に連れてきてシャルルにシャワーを案内し、その数十分後にルサルカさんとベアトリスさんが来て、ルサルカさんがシャルルを脅かそうとシャワールームに入り、シャルルが襲われかけ性別がバレてしまったという事らしい。

 

「まさか女の子だったなんてね~。細いと思ってたけど」

 

「ううう・・・」

 

「マレウス、お仕置きです」

 

ベアトリスの容赦のない拳骨が振り下ろされ、ルサルカは頭を押さえた。

 

「いったーい!ベアトリス加減しなさいよー」

 

「襲おうとした罰です!」

 

「と、まぁ。あの二人は別件にするとして何で男装なんかして相棒に近づいた?」

 

「そうだな・・・問題はそこからだ」

 

ルサルカに説教しているベアトリスを放ってフォルとサタナ、それにシャルルは話を始めた。

 

「それは・・・あの人に命令されたからなんだ。デュノア社の社長直々にね」

 

「命令だぁ?デュノア社ってのはお前さんの実家だろ?」

 

「フォル・・僕は愛人の子なんだ」

 

「な・・?」

 

愛人の子、それは片親が正式なことではないことを意味している。それを聞いたサタナが少しだけ狼狽えた。

 

 

「検査でIS適性が高いと分かって、本邸に呼ばれた後、いきなり本妻の人に叩かれた。泥棒猫の娘って言われて」

 

俯いたシャルルは話すたびに言葉が弱くなっている。それほどの環境にいたのだろう。

 

「IS開発には資金もかかるし国の支援がないと出来ない。リヴァイヴは第二世代でフランスのIS開発は最後発なんだ」

 

「なるほどな・・・シャルル、お前さんを男装させたのは容姿もあるが広告塔としての役割と俺達の機体のデータ奪取って訳か」

 

「鋭いね。フォルの言うとおりだよ」

 

「酷いもんだな。利益の為に利用し続けるなんて」

 

シャルルの置かれた状況を聞いた二人は嫌悪感を露わにしたがすぐに持ち直した。自分達は聖槍十三騎士団の所属であり、正義などとは程遠い場所に居るためだ。

 

「それにね、デュノア社はもう女尊男卑の女性しかいないんだ。事実上の倒産になってる。持ち直そうにも経営力のある人はいないからね」

 

シャルルの言葉にフォルが笑みを浮かべた。それは楽しんでいるのではなく食事が出来ると言わんばかりの笑顔だ。

 

「一つ聞いておきたいんだが、潰して問題ないのか?」

 

「え?」

 

「え?じゃねーよ。お前の実家である会社を潰しても問題ねぇのかって聞いてんだよ?」

 

「あ、相棒?」

 

「大丈夫だよ。僕は大丈夫だけど・・・」

 

フォルの言葉に恐怖しながらシャルルは口を開き、意見を述べた。最後の希望に縋り付かんとするかのように。

 

「お母さんを助けて・・あの女の人にお母さんが囚われてるんだ!!」

 

「で?どうするよ?相棒。ディナー(・・・・)の場所は出来たが正義の味方ごっこでもやるか?」

 

「!そういう事か!ああ、やろうぜ?正義の味方ごっこをな」

 

フォルの言葉の意味を理解したサタナも笑みを浮かべた。食事が出来るという事に嬉しさを隠せないのだ。

 

「ふ、二人共怖いよ?」

 

「安心しな。お袋さんは助けてやるよ」

 

「派手にやらないようにしなきゃな。我が主から怒られる」

 

二人は笑みを隠すとルサルカとベアトリスの近くへ向かった。

 

「お二人さん、俺達これからフランスに行ってくるわ」

 

「は!?いきなり何を言ってるんですか?」

 

「また急な話ね~」

 

「シャルルからの頼みを聞いてあげようかなって」

 

突然、海外へ行くというフォルの宣言にベアトリスはあっけにとられた顔をしており、ルサルカはジト目だった。

 

「あまり食べ過ぎちゃダメですからね?」

 

「分かってますよ」

 

「行ってきます」

 

そう言って二人は一時ヴェヴェルスブルグ城へ帰還し、そこからフランスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子から連絡は無いの!?もう何日経っていると思っているの!」

 

「は、はぁ・・・再三連絡はしているのですが一向に」

 

「連絡を続けなさい!」

 

現社長であるシャルルの養母はヒステリックに声を上げながら社員に命令している。

 

ヒステリックになっているのは自分の経営が上手くいかないせいもあるがシャルルの連絡が途絶えたことだろう。

 

「あの泥棒猫の娘め!今度会ったら全てを奪ってやるわ!!」

 

そう言いながら社長室に戻り、椅子に座ると同時に内線電話が鳴った。

 

「一体何!?」

 

「社長・・!侵入者です!ぎゃああああ!!」

 

断末魔を残して連絡した社員は反応しなくなっていた。

 

「ちょっと!どういうことよ!答えなさい!!」

 

Pater noster, qui es in caelis(天にまします我らの父よ)

 

sanctificetur Nomen Tuum(願わくば御名の尊まれんことを)

 

 

Requiem aeternam dona eis(彼らに永遠の安息を与え)

 

Domie et lux perpetua luceat eis(絶えざる光もて照らし給え )

 

 

それは鎮魂歌(レクイエム)と主の祈りを組み合わせたものらしく、男の声で歌われている。しかしそれは電話越しではなく頭に直接響いてきている。

 

exaudi orationen meam(我が祈りを聞き給え)

 

その歌の一節一節が響くたびに社員の(いのち)が吸われていく、まるで食物が逃げるなと言わんばかりに。

 

ad te omnis caro veniet(生きとし生けるものすべては主に帰せん )

 

onvertere anima mea in requiem tuam(我が魂よ 再び安らぐがよい)

 

quia Dominus benefect tibi(主は報いてくださるがゆえに)

 

足音が近づいてくる。しかしそれは死を映す鏡と血に飢えた竜剣が近づいて来る音であった。

 

社長室の扉が開かれ、二人の男が入ってくる。その手には半死半生の護衛が僅かに呻いており、そのまま手を離され地に倒れる。

 

「な、何者よ!貴方達は!!ここをどこだと思ってるの!!」

 

「あん?ここは倒産間際のデュノア社だろう?それ以外に何があるってんだ?」

 

「監禁してる女性はどこだ?」

 

男性二人の正体はフォルとサタナであり、形成状態のままで女社長、つまりシャルルの養母と対峙している。

 

「知らないわ!護衛!何してるの!早く来なさい!!」

 

号令をかけた瞬間に最後の20人の護衛が女社長を守り始めた。

 

「泣き叫べ劣等!」

 

「今宵、ここに神はいない!」

 

「「ハハハハハハ!!」」

 

殺人欲求を開放した二人は狂ったように笑い始めていた。まだこれだけの食料がいたことに嬉しさを隠せない。

 

「男ごときが!!早く奴らを始末しなさい!!」

 

「はっ!」

 

女社長の号令により、ISを纏った護衛達は一斉に二人へ襲いかかってきた。

 

「飢えて飢えて仕方なかったんだよ、さっさとこいや!クッハハハハ!!」

 

「ようやく、ようやく血を吸わせられる。よこしな!ハハハハハハ!!」

 

だが、二人はお互いに10人ずつの命を消した。それによって社長室は血という赤によって彩られ女社長は呆然としていた。

 

「さぁ・・・監禁した人はどこにいるんだ?」

 

「言えば楽にしてやるぜ?」

 

話しかけながらも護衛をしていた人間達が青白い光となって二人に吸い込まれていく。

 

それは二人が(いのち)を喰らっているという事が本能的に分かってしまった。

 

「ば・・化物!!!」

 

「おっと!逃がしやしねぇよ!!」

 

フォルは女社長を取り押さえ、サタナの目の前に差し出した。

 

「どこにいる?答えろ」

 

「ぐっ!男なんかに答える義務は無いわ!」

 

取り押さえられた状態でもプライドがあるのか答える様子は無い。しかしそれは延命ではなく拷問以上の苦痛を受ける事になってしまう。

 

「そうか」

 

サタナは無表情のまま女社長の左手首を切り落とし、目の前に転がした。サタナの技量ならば痛みを感じさせずに切り落とす事は可能だ。

 

「え・・あ・・・!ぎゃああああああ!わ、私の手!私の手がああああ!!」

 

「もう一度だけ聞いてやる、監禁した女性はどこにいる?」

 

「あ・・あああ・・・」

 

「どこにいるんだ?さっさと答えた方が楽になるぜ?」

 

「こ・・この会社の地下にある部屋よ・・!これが鍵」

 

そう言って女社長はカードキーを手渡し、怯えた様子で二人の様子を伺っている。

 

「そうかい。じゃあ、楽になりな」

 

「開放して、え?」

 

女社長が最後に見たのは噴水のように流れ出る己自身の鮮血だった。フォルは身体から手を離すとサタナの隣へと移動した。

 

「喰う気すらおきねえ魂だ。行こうぜ」

 

「ああ・・・そうだな」

 

二人は急いで地下に向かい、カードキー対応の扉を開いた。そこにはやせ細り、生きているのがギリギリの女性が座っていた。

 

「アンタがシャルルのお袋さんか?」

 

「あなた・・たち・・は?」

 

「シャルルの同級生ですよ。とりあえずここから出ましょう」

 

二人は地下を登ると会社の裏口から抜け出し、国内の病院へと運び込んだ。医者の見立てでは栄養失調が激しく、しばらくは入院が必要だが、命の危険は無いという事を伝えられた。

 

デュノア社において聖遺物の飢えを満たした二人はヴェヴェルスブルグ城を経由して日本に戻り、IS学園でシャルルに母親が入院している病院の場所を教えた。

 

それを聞いたシャルルは嬉しさで大泣きし、何度もお礼の言葉を二人に言い続けた。

 

「正義の味方ごっこも悪くはないが」

 

「今の俺達には合わないな?相棒」

 

「ああ、全くだな」

 

今の自分たちは黄金の爪牙。人助けをする立場ではないゆえに複雑な心境だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの劣等種を必ず潰す!いえ、その前に私を地につけたあの男を必ず殺してやるわ!!!」

 

誰もいない夜の学園の屋上にいるのは退院して学園に復帰していた織斑千雨であった。

 

今の彼女にあるのは復讐という感情だけであり、他がどうなろうと関係ないと考え始めている。

 

「お姉ちゃんを傷つけて、私の力も馬鹿にして許さない、絶対に!!」

 

黒い感情をその身に秘めた千雨は夜空に向かって更に復讐を誓った。

 

 

「この力があればあの二人を殺せる!フフ・・・アハハハ!あの得体の知れない男から貰ったこの力で!」

 

その手には1本の小さな剣が握られていた。その剣は主の狂気に反応して禍々しく輝いている。その剣からは、願いを叶える代わりに主の破滅を見せろと言わんばかりにカタカタと刀身が揺れていた。

 

その刃の先に復讐する相手を思い浮かべながら、千雨は笑い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後、デュノア社が倒産したというニュースは世界中を駆け巡ったが、IS学園では学年別トーナメントの準備が進んでいた。当日を迎える前にタッグマッチに変更となり、女生徒達が殺到し、サタナはシャルルとペアを、フォルは螢とペアを組む宣言をされた為に女生徒達の企みは潰えた。

 

そしてトーナメント当日となり、アリーナは満員となっている。代表候補生の成長やスカウト、そして男性操縦者という珍しいことがある為に見に来ているのだろう。

 

 

「さて、相棒はBブロックか。俺はAブロックで対戦相手は・・・ほう?粋なことしてくれるじゃねえか」

 

対戦表には櫻井螢 フォル=ネウス・シュミット 篠ノ之箒 ラウラ・ボーデヴィッヒと表示されている。

 

「フォルくん、今回のペアよろしくね?それと出来る(・・・)んでしょう?貴方も」

 

「ああ、よろしく頼むわ」

 

二人は軽く握手し、笑みを見せてアリーナへと向かっていった。

 

 

ISを纏い、アリーナの中心へと降り立つとそこには既に待機していた箒とラウラが待っていた。

 

「ようやく貴様と戦えるな。私が貴様を叩き伏せてやる!!」

 

「はっ!面白い事を言いやがるな!やってみな?」

 

「私はあの箒って子を押さえればいいのね?」

 

螢は自分の役割を確認するようにフォルへ話しかけると形成し、自分の愛刀である緋々色金(シャルラッハロート)を出現させた。

 

螢も武装具現型であり、バランスが取れているのだ。フォルは螢に向き直り頷いた。

 

「ああ、よろしく頼む。ラウラは俺が相手をする」

 

『ふふ、黒い兎とは珍しいねえ』

 

フォルはその声に青ざめた。最も苦手な人物の欠片の声が聞こえたのだ。

 

「(シュ・・・シュライバー卿?)」

 

『僕の創造、使っていいよ?君の魂の量なら狂っちゃっても(・・・・・・・)大丈夫でしょ?君の作る轍を僕に見せてよ』

 

「(分かりました。使うと決めた時に使います)」

 

『楽しみにしているよ?あ、許可は出したままにしておくからね』

 

そう言い残し、シュライバーの意思の欠片はフォルの内側へと戻っていった。

 

会話が終わると同時に試合が開始され、二人はそれぞれの相手へと向かった。

 

「行くわよ、篠ノ之さん。悪いけど手加減なんて期待しないでね?」

 

「望むところだ!」

 

螢と箒は互いに刃を交え始め、互いに退かない戦いを開始した。

 

「これで!」

 

「ちっ!距離は関係ないって訳か、なら」

 

フォルはラウラのワイヤーブレードを回避しつつ、マシンガンで牽制している。だが、ラウラは牽制の弾幕を軽くいなしていた。

 

「貴様だけは!貴様だけは必ず倒す!!」

 

「っ!?ちっ!!」

 

ワイヤーブレードと格闘によって戦い、AICを織り交ぜた戦術によってフォルは追い込まれていた。

 

「そこだ!」

 

「ぐはっ!?」

 

ワイヤーブレードの一撃がフォルを捉え、そのまま叩きつけられる。フォル本人にダメージはないが鏡花のエネルギーは削られている。

 

「この程度で教官に傷を負わせただと・・・ふざけるな!やはり許せん!」

 

ラウラは更なる追撃を加えようとしたが回避され、マシンガンを放ちつつ間合いをとったフォルに追撃はできなかった。

 

「もう、使うべきか・・・この人の創造は強すぎるから極力抑えたけどよ」

 

フォルが呟くと同時に鏡花の装甲がパージされ、ルーンの描かれた白い肩がけの装甲が現れる。

 

『「泣き叫べ劣等、今宵ここに神はいない!!」』

 

フォルの左目が血のような赤に充血していく。まるで出血寸前のような状態だ。

 

『「Fahr’hin,(さらば ヴァルハラ)Waihalls lenchtende Welt(光輝に満ちた世界)」』

 

『「Zarfall' in Staub(聳え立つその城も)deine stolze Burg(微塵となって砕けるがいい)」』

 

『「 Leb' wohl, prangende Gotterpracht(さらば 栄華を誇る神々の栄光 )」』

 

『「End' in Wonne,(神々の一族も)du ewig Geschlecht(歓びのうちに滅ぶがいい)」』

 

 

『「Briah――(創造)」』

 

『「Niflheimr Fenriswolf(死世界・凶獣変生)」』

 

詠唱(うた)を終えたフォルは一瞬にしてラウラへと迫った。それはもう光速以上の速さだ。

 

「何!?」

 

一瞬で距離を詰められたことによりラウラは一瞬の隙を作ってしまった。そこへブレードによってラウラへ斬りかかり、シールドエネルギーを削った。

 

「たかが速くなった程度で!!」

 

「遅すぎんだよ!!」

 

レールガンを放つがフォルはその速度を上回る速さで回避してしまう。しかし、フォル自身も息が荒くなっている。

 

模倣した創造は絶対回避と絶対速度だが、本来の創造に及ばず、速度も一歩遅くなってしまう。それ以上に精神にかかる負担が大きい。

 

フォルは壊れているわけでも、殺人狂でもない為に凶獣になろうとするには精神に負担がかかるのだ。

 

「はぁ・・はぁ・・ちきしょう。負担が」

 

回避を終え、足が震えているフォルの首をラウラは掴もうとし接近した。

 

「ふん、終わりにしてやる」

 

そして彼に触れた。そう、ラウラの相手は凶獣になりつつあるモノ。この創造は誰にも触られたくないというルールの具現である。

 

それをラウラが知る由もない、それゆえに鎖を自ら切ってしまったのだ。彼自身に触れてしまう(・・・・・・・・・)という事こそが完全な凶獣を開放する条件なのだ。

 

「あ・・・・ア・・・アアアあああああああああああああああ!!!!!!」

 

ラウラの手が触れた瞬間にフォルは絶叫に近い声を上げ、ラウラを殴り飛ばしていた。だがその行動に本人の意識はない。それと同時にフォルの充血した左目から血が流れ出し始めた。

 

「ぐ・・・な・・に?」

 

 

 

 

『「Vorüber, ach, vorüber!geh,(ああ わたしは願う どうか遠くへ) wilder knochenmann!(死神よどうか遠くへ行ってほしい)」』

 

『「Ich bin noch jung,(わたしはまだ老いていない)geh, Lieber!(生に溢れているのだから)Und rühre mich nicht an.(どうかお願い 触らないで)」』

 

『「Gib deine Hand,(美しく繊細な者よ) du schön und zart Gebild!(恐れることはない 手を伸ばせ)」』

 

『「Bin Freund(我は汝の友であり) und komme nicht zu strafen.(奪うために来たのではないのだから)」』

 

『「 Sei guten Muts!(ああ 恐れるな怖がるな)Ich bin nicht wild,(誰も汝を傷つけない)」』

 

『「sollst sanft in meinen(我が腕の中で愛しい者よ) Armen schlafen!(永劫安らかに眠るがいい )」』

 

『「Briah――(創造)」』

 

『「Niflheimr Fenriswolf(死世界・凶獣変生)」』

 

 

 

その詠唱(うた)に本人の意志は無い。機械が歌うように淡々と言っているだけに過ぎなかった。詠唱(うた)が終わり、フォルの髪は真っ白になっていく。左目からは流血が止まらず、視線の先にはラウラのみが映っている。

 

「GAAAAAAAAA!!!!Zarfall’in Staub deine stolze Burg(聳え立つその城も微塵となって砕けるがいい)

 

凶獣と化したフォルは真っ直ぐにラウラへと向かっていく。模倣といえども凶獣であるために一切の加減はない。咆哮、身体の全てが武器となっている。

 

「ふん!所詮は、なっ!?速い!?ぐっ!!」

 

ワイヤーブレードを操作し、反撃を試みるがフォルは回避し続けラウラに一撃一撃を加えていく。

 

End’in Wonne, du ewig Geschlecht(神々の一族も歓びのうちに滅ぶがいい)!!!」

 

もはや凶獣となったフォルは目の前の獲物を狩ることしか頭にない。ラウラは常識では測れない獣を目覚めさせてしまったのだ。




「凶獣を映し込んだ模倣者に黒兎はどう戦うか」

「食われる獲物となるか、その刃を突き立てるか」

「既知ではあるが今再び見せてもらおう」

「さぁ、舞台を魅せるがいい」

演説・水銀の蛇


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第十三劇 模倣と複製 

「凶獣は屍という轍のみを残す」

「黒兎は轍となるか、刃を突き刺すか」

「私からも余興を差し込むとしよう」

「悪いようにはせんよ」

演説・水銀の蛇


End’in Wonne, du ewig Geschlecht!!!!(神々の一族も歓びのうちに滅ぶがいい)

 

凶獣となったフォルは元となった詠唱を叫びながらラウラへ攻撃を仕掛け続けている。

 

それはまるで獣が獲物をいたぶる様子と酷似していた。

 

「がっ!ぐああ!!おの・・・れ!!!」

 

ラウラは己の身体能力を全開にしてフォルを追うが、全くと言っていいほど追う事ができない。相手は光速以上の早さを持つ凶獣であり、生半可な照準では捉えることは出来ない。

 

sollst sanft in meinen(我が腕の中で愛しい者よ)Armen schlafen(永劫安らかに眠るがいい)!!!!」

 

「く・・なぜ、捉えられない?どんなに速くても捉えられるはずだ!」

 

ラウラはワイヤーブレードによる攻防一体の戦術に切り替えた。接近してくるならブレードによるカウンターが勝算が高いと考えたのだ。

 

Vorüber, ach, vorüber(ああ、わたしは願う。どうか遠くへ)!!!!!geh, wilder knochenmann(死神よどうか遠くへ行ってほしい)!!!!」

 

「ただ突撃するしか脳がないか!くらえ!!」

 

ラウラはワイヤーブレードを中距離限定で動かすことで反撃を可能にしているが、当たっていようがいまいが、今のフォルは外界の刺激に関して何も感じず、感じようともしない状態だ。

 

「当たっても突撃し続けるか・・・やはりここで消去する!!」

 

「!!!!GUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!GAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

一撃が掠り、それに気付いたか気づかないかは分からず、着地するとフォルは咆哮を上げる。その咆哮を聞いた一般の生徒は気絶していく、生半可な精神状態で凶獣の咆哮を聞けば当てられるのは当然のことだ。

 

「速度でこのシュヴァルツェア・レーゲンに!!があっ!!何!?」

 

・・・unt ruhre mich nicht an・・・!(わ た し に 触 る な!)

 

「がはっ!!あっ!」

 

unt ruhre mich nicht an!!(わ た し に 触 れ る な!!)

 

「な・・・速度が!ぐああああ!!があああ!」

 

unt ruhre mich nicht an!!!(私 に 触 る な! ! !)

 

「く・・・くそぉ!!まだ!うああああ!!?」

 

unt ruhre mich nicht an!!!!(私 に 触 れ る な! ! ! !)

 

ラウラは速度を上げて勝負をかけるが、凶獣は相手の速度が上がれば上がるほどその速さ以上の速度で反撃してくるのだ。触れるな、触るなと叫びながら攻撃を仕掛け続けている。

 

ラウラ自身は防御機能によって傷は浅く済んでいるが、エネルギーシールドのエネルギーは削られてきている。

 

「がはっ・・・く・・・く・・・そぉ・・・」

 

「GUFUUUUUUUUU・・・・・」

 

フォルの攻撃を受け続けたシュヴァルツェア・レーゲンはスパークを発し始め、大破に近い。そんな様子を嘲笑うかのようにフォルは唸りを上げ、間合いを開いた状態で見ている。

 

「・・・・・・・Auf Wiederseh´n・・・!GAAAAAAAAAAAA!!!」

 

凶獣は止めと言わんばかりにラウラへと突撃していった。屍しか見ない獣は本気でラウラを轍に変えようと牙を、爪を向けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その横では箒と螢が攻防を続けていたが、徐々に箒が劣勢になっていた。

 

「はぁ・・はぁ・・くそっ!私は負ける訳には!」

 

「勢いだけは認めてあげる。でもね、貴女は弱い」

 

「何故そう言い切れる!?はあああ!!」

 

箒の唐竹割りを受け流し、螢は太刀となっている緋々色金の横薙ぎの一撃に遠心力を加えて振り抜いた。

 

「ぐああああ!」

 

「貴女は型に拘り過ぎているのよ、そんな事では届かない」

 

螢は太刀を一度振ると倒れている箒の近くへ赴き、刃を向けた。

 

「私は確かに刀を使っている。でもね?私はあらゆる要素を取り入れた剣術、貴女は型を重んじる剣道。柔軟性が違いすぎるの」

 

「貴様、剣道を侮辱しているのか!?」

 

「侮辱なんてしていないわ。剣道には剣道の良さがあるのも知ってる。けれど実戦でそんなことが言えるの?殺し合いの中でも剣道に拘ると言い切れる?」

 

「っ!?」

 

「ISは競技用でもあるけど兵器でもあるっていう事を忘れてない?私はベアトリスお姉ちゃんから特訓と戦場の心構えを教えてもらって、殺し合いを少しだけ経験してるの」

 

刃を向けたまま螢は表情を変えずに淡々と箒へ話しかけている。その姿はまるで男性操縦者の二人と似ていた。

 

「型だけに拘っていると命取りになるの、剣道は決して悪くないわ。けどね、どんな戦いでも、相手が自分の得意な事を使ってくるのは当たり前だと認識したほうがいいわ。皆が皆、あなたと同じ戦い方をする訳じゃない」

 

「ぐっ・・・」

 

それはあまりの正論だった。剣ばかりにこだわっても射撃を練習する場合もある。自分と同じ戦い方をしろといっても相手が聞き入れる訳がないのだ。

 

「剣道に拘る貴女の戦い方を否定はしない。私から言えるのはもっと柔軟性を持つべきだってことだけよ」

 

そういって螢は刃を振り下ろし、箒の打鉄のエネルギーを0にした。

 

「教えてくれ、なぜそんなに強い?フォルもお前も」

 

「強くなれたのは特訓や周りの人達のおかげよ。貴女にだって居たんでしょ?でも、自分から目を背けてしまった。違う?」

 

「っ・・・そう、だ」

 

箒は倒れたままの姿で、俯くように横へ顔を逸らした。螢の顔も見れないと言いたげに。

 

「ならまず、目を背けるのを止めることよ。背けても結局は自分に付き纏っている。それなら逃げずに受け止めて向き合うことが第一歩になるから」

 

そう箒に言葉をかけた後、肩を貸し、ピット近くまで運ぶと螢はアリーナへと戻っていった。

 

「受け止めて、向き合う・・・か」

 

箒は螢にかけられた言葉をしっかりと受け止め、考えていた。自分は強くなれるのかと、認めてくれるのかと。考えたところで答えが出るはずもなく試合を観戦することに専念しようと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く!私は・・・負けない!負ける事など許されないのに!」

 

目の前には最速の凶獣を模倣した鏡の化身が迫りつつある。だが、機体は大破に近い状態で満足に動かない。もはや喰われるだけかという状態だ。

 

『願うか?汝、自らの変革を望み、より強い力を欲するか?』

 

「よこせ!何者にも負けない唯一無二の絶対的な力を!!」

 

それはまるで宇宙(ソラ)へ捧げる渇望に似ていた。だが、彼女が渇望を自覚したわけではない。己の機体から聞こえてきた声に従っただけである。

 

Damage Level・・・D

 

Mind Condition・・・Uplift

 

Certification・・・All Clear

 

《Valkyrie Trace System》・・・・Boot

 

「うああああああああああああ!!!!」

 

その声に従った瞬間にラウラのISであるシュヴァルツェア・レーゲンが形を崩し、ラウラを飲み込んである人物の姿を複製していた。

 

「GU・・・・?」

 

本能的に危険を察知したのか、フォルは突撃を止め、間合いを開いた。それと同時にフォルの髪が元の色に戻っていく、それは凶獣に成り続ける限界が来たという意味だ。

 

「く・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・時間切れ・・かよ」

 

「フォル君!」

 

「櫻井・・・か?」

 

螢がフォルの近くへ来て彼を支えた。自力で立ててはいるが疲労しているのは明らかだ。

 

「あれ、さっきまで戦っていたのと違うわよ」

 

「ありゃあ、ブリュンヒルデの現役時代の姿・・か?映像で見た事はある」

 

二人の目の前にいるのは織斑千冬の現役時代の姿だ。それは複製された姿と能力を持っている。

 

「櫻井、アレ(・・)出来るか?俺も手伝えなくは無いが剣術は無くてな?」

 

「できるけど、勝算はあるの?中に囚われているあの子を助けて、織斑先生のコピー品を倒すなんて」

 

「あれは囚われてるのを引き剥がせば勝ちだろう?シンプルじゃねえか」

 

螢の隣に立ち、先程まで展開されていた装甲である白い肩がけが黒い肩がけに変わっている。

 

それは黒騎士が己の力を使う事を許可している状態だという事だ。

 

『「Briah――(創造)」』

 

『「Miðgarðr Völsunga Saga(人世界・終焉変生)」』

 

黒騎士の鋼鉄をその腕に宿したフォルは拳を握る。だが、白騎士の真創造を使った影響と黒騎士の創造を展開した状態は負荷が跳ね上がっている状態に等しい。

 

「櫻井、この一発が勝負だ。本気でラストの一発になってっからよ」

 

「それなら私が助け出すわ。その後に貴方が止めを刺して」

 

「わかった」

 

「ベアトリスお姉ちゃん、見てて・・・私もあれから強くなったんだから!」

 

緋々色金を構えると螢も内にある詠唱(うた)を歌い始める。自分の情熱を絶やす事などしたくはない。だからこそ己を燃やし続けるのだと。その誓いを体現した詠唱(うた)を。

 

Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba(かれその神避りたまひし伊耶那美は)

 

an der Grenze zu den Ländern Izumo und Hahaki(出雲の国と伯伎の国その堺なる)zu Grabe getragen.(比婆の山に葬めまつりき )

 

Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,(ここに伊耶那岐)

 

das er mit sich führte und die Länge(御佩せる) von zehn nebeneinander gelegten(十拳剣を抜きて)

 

Fäusten besaß, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.(その子迦具土の頚を斬りたまひき)

 

 

Briah―(創造)

 

 

Man sollte nach den Gesetzen der Götter leben(爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之)

 

詠唱(うた)を終えた螢は炎となり、偽物の織斑千冬へと向かっていく。ベアトリスの状態と似ているが属性が違っており、炎と雷ということもあり速度も差があるようだ。

 

「・・・・」

 

VTSによって現役時代の力が再現されているが、所詮は機械による複製であり行動が的確過ぎている。螢はその中から隙を見つけながら中心を切り裂いた。

 

「いい加減に出てきなさい!貴女は貴女!織斑先生にはなれないのよ!!」

 

複製の雪片によって螢は胸元を貫かれるが、本人は一切、意に介していなかった。ベアトリスの透過能力、雷と炎の違いはあれど性質が似ているために使えた能力である。彼女の精神もベアトリスという姉の存在が大きく、ある程度安定してる為、動揺が少ないのも強みだ。

 

「そこにいるのね!!」

 

引き裂いた複写の千冬の奥から螢はラウラを引きずり出すと、フォルへ合図を送った。

 

「フォル君!!今よ!」

 

「ああ!!ハアアアアアアア!!」

 

フォルは終焉の拳を模倣した一撃を撃ち込み、操縦者のいなくなったシュヴァルツェア・レーゲンを停止させた。

 

「やったわね!この子も無事よ」

 

螢の腕の中にいるラウラはまるで安らいでいるかの表情を見せたまま、気を失っていた。それを確認したフォルも膝を折った。

 

「ああ、そうだな・・・悪い。櫻井・・・俺・・・も・・・限・・界だ・・・」

 

「フォル君!?」

 

螢に謝ると同時にフォルは倒れてしまった。気を失った訳ではなく寝息を立てている所を考えれば疲労困憊によるものであった。

 

「なんだ、眠ってるだけか。脅かさないでよ、もう」

 

螢は呆れながらも担架を用意してくれるよう千冬に頼み込み、ラウラとフォルは保健室へと運ばれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう・・・はっ!?」

 

「気が付いた?」

 

「お前は・・・櫻井螢か」

 

ラウラが目を覚ますとそこには螢が隣に座っていた。その奥にはフォルが眠っている。

 

「動かないほうがいいわよ。全身の筋肉が無理な負荷で疲労してるって先生が言ってたから」

 

「そうか、すまないが教えてくれ。あいつと戦ってる時、私に何があったのだ?」

 

ラウラは隣のフォルに視線を移した後に、真剣に自分にあった出来事が知りたいと訴えている。

 

「織斑先生から口止めされてたんだけど、本人から聞きたいと言われたなら伝えろって言われてたから言うわね?VTシステムってわかる?」

 

「正式名称はヴァルキリー・トレース・システム・・・モンド・グロッソの優勝者の動きをトレースするシステムだったはずだ」

 

ラウラの答えに螢は頷くと再び口を開く。

 

「流石は軍属ね。そのシステムが貴女のISに搭載されてたみたいよ」

 

「・・・・そう、か」

 

「さてと、目が覚めるまで居ろって言われてたから、私はもう行くわね?」

 

「ああ・・・」

 

「それと一つだけ言っといてあげる」

 

「?」

 

「貴女は貴女。どんなに憧れて望んでも、憧れてる人間にはなれないわよ。限りなく近付く事は出来ても、ね」

 

「!」

 

そんな言葉を残し、螢は保健室を出て行った。

 

「私は・・私。教官ではない・・・か」

 

ラウラは螢の言葉を噛み締めながら隣で眠り続けるフォルを見ていた。自分は自分で憧れている人間にはなれないと。

 

「何故・・・お前は強いのだ・・・・フォル=ネウス・シュミット」

 

「強くなんかねぇよ」

 

「!!?起きてたのか?」

 

「今さっきな?お前と同じで起きられる状態じゃねえけどな」

 

フォルは軽く寝返りをうつとラウラの方へ向いた。

 

「お前はブリュンヒルデの凛々しさと強さしか見なかったんだろ?」

 

「っ・・・」

 

「どんな人間にも裏の顔がある。お前一人の理想を押し付けるなよ。それは自分を殺してるのと同じだぜ?」

 

「ならば私はどうすればいい・・・私にはもう」

 

「お前はお前になればいいだろうよ。ラウラ・ボーデヴィッヒという一人の人間にな」

 

何故、こんなに饒舌に喋っているのかフォル自身も戸惑っていた。いや、誰かの代わりや誰かになりたいという部分を否定したかったのかもしれない。自分は自分でしかないと己に言い聞かせる為に。

 

「私が・・・・私に?」

 

「相棒が言ってたぜ?そんなに綺麗な眼をしてるのに勿体無いってな」

 

「な・・・!!」

 

「眠い、もう一度寝るわ。おやすみ」

 

「お、おい!」

 

声をかけたがフォルは既に眠りの中へ入っており、起きる気配がなかった。

 

「お前の相棒とは一体・・・」

 

ラウラも目を閉じ、身体を休ませようと再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、眠りから覚め、フォルはサタナと共に再びグラズヘイムへと呼び戻された。今回はISを持ってくるよう命を受けた為、待機状態にして帰還した。

 

「やぁやぁ、二人共ようやく戻ってきたね」

 

二人を呼び出したのは篠ノ之束だった。あれから城に拠点を移し、サタナとフォルのISの調整をしている。本人曰く此処にいれば絶対に見つからないからという理由で城から出ないようだ。

 

束はこの世界の超越者である。その影響でグラズヘイムに魂を吸われず、刻印も打たれずレギオンになることもない。

 

「束さん何用ですか?」

 

「用がないなら戻らなきゃならねぇからよ。臨海学校も近いし」

 

「いっくんとまーくんはISを纏うと枷になっちゃうから動きやすくしようと思ってね、特にまーくんの鏡花は負担がすごいから一から整備しないとダメなんだよ」

 

そう、フォルのISである鏡花はラウラとの戦いでシュライバーの創造を模倣したことによりかなりの負荷がかかり、起動できるのが不思議なくらいの状態になっていた。

 

「私にとってISは夢の結晶であり娘でもあるからね。無茶はさせられないよ」

 

「ならば束さんに預けるとするわ。ISは第二の相棒でもあるからな」

 

「じゃあ・・俺も」

 

アクセサリーとなっている待機状態のISを束に預けると二人は椅子に腰掛けた。

 

「確かに預かったよ。それと一つだけ二人に伝えたいことがあるんだ」

 

束は真剣な目を二人に向け、待機状態となっている二人のISを胸元に当てた。

 

「二人のIS、剣戟と鏡花はいっくんとまーくんを追いかけてる状態なんだ」

 

「俺達を追いかけてる?」

 

「どういう事です?」

 

束の言葉の意味が不可解で二人は首を傾げた。ISが自分達を追いかけている?何故に自分達を追っているのだと。

 

「二人はもう、この城の主の爪牙で、ただの人間じゃなくなってるでしょ?そんな二人にとってISはずっと言ってるけど枷になってる。だからこそ、追いかけて、追いかけて・・・追いかけ続けてる。二人に追いついて力になろうとしてるんだ」

 

それを口にしている束はどこか悲しそうな顔を見せ、二人を見ていた。

 

「追いついた時には向かい入れてあげてね?」

 

「ああ、わかった」

 

「もちろんですよ」

 

「(ありがと・・・)」

 

束は聞こえないようにお礼を口にした。表立ってお礼を言うことは出来ない。この二人はこの城の騎士。未来永劫戦い続ける人間なのだから。




「追いかける側と先を行くもの」

「それはまるで互いに引き合う図面の欠片のようなものである」

「組み合わさった時がいかな結果を生むのか」

「ここまでは既知ではあるが、結果が変わることで新たな未知となりそうだ」

「では、主演ではないが女神にも舞台に上がってもらわねばなるまい」

「我が息子に模倣者を引き合わせる為に・・・・くくくく」


演説・水銀の蛇


※追伸

螢がベアトリスをお姉ちゃんと言っていますがこの小説では「姉妹のように仲が良く姉としてみている」というだけです


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外演目 千の雨と水銀の毒

「我が友が再び動き出したようだ」

「私も友の考えていることは解らんよ」

「あれはあれで独自に動いている」

「さぁ、楽しませろ」


演説・黄金の獣


某病院内

 

PM0:30

 

 

病院の個室のベッド、そこには一人の少女が横になっている。彼女は織斑千雨、IS学園の生徒で第二の織斑千冬と持て囃されている少女である。

 

「なんで・・・あんな・・・劣等種に私が負けたのよ・・」

 

彼女は病室の天井を見つめたまま、己が負けた理由を考え続けてきた。自分も鍛えてきた、知識もつけた。姉のようにはなれなくても隣に歩いて恥ずかしくない実力をつけたはずだった。

 

しかし、突然現れた男性操縦者の二人。一人は己の兄だったサタナ=キア・ゲルリッツ(織斑一夏)。そして常に傍らで彼を支えるもう一人の男性操縦者フォル=ネウス・シュミット(鏡月正次)

 

二人は自分の実力で楽に勝てる相手だと思っていた。だが実際はその逆、フォルには己の力が届かずに何度も地に叩きつけられるという無様な敗北を味合わされた。

 

己の兄であったサタナには己の得意とする剣での戦闘で徹底的に実力の差を思い知らされ、血を見せつけられてしまうという最も恐怖する敗北をした。

 

自分は姉である織斑千冬と同等だと言われていた。それに相応しい実力を身につけたし、周りもそう言ってくれていたからだ。

 

「許さない・・・私に泥を塗ったあの二人を!!」

 

己自身ではなく男性操縦者の二人に対する復讐心を燃え上がらせ、その目には怒りだけが宿っている。

 

『・・・そうまでして彼らを倒したいのかね?』

 

「誰!?」

 

その声は自分しかいない病室から聞こえている。確かに自分しかいないのに声が聞こえた。その声に千雨は混乱している。

 

「これはこれは失礼した。姿を見せないのは無粋極まること、謝罪の言葉を述べよう」

 

「!!!」

 

突如、その場に現れた男が現れた。その印象は影、実体が掴めないというのが素直に思うことだろう。外套で全身を包んでいるがその姿は陽炎のように儚いものであると千雨は思った。

 

「だ、誰よ!アンタ!!」

 

「私かね?では・・カール・クラフトと名乗ろうか。名はまだまだ沢山あるがね」

 

「い、一体私に何の用なの!?」

 

千雨は全身を震わせていた。突然現れたからではなく、カールから放たれている得体の知れない雰囲気と威圧が千雨に向けられている。

 

「そうまで恐れなくとも構わんよ。君に打開の力を与えようと言うのだ」

 

「!!!私に力を?」

 

「くくくく・・・彼らに君は負けた。その事が許せず覆したい、違うかね?」

 

「ぐっ・・・なんでアンタがその事を知ってるのよ!!」

 

「私も観戦していたのだよ。荒事は苦手だが、観戦は好きな方なのでね」

 

笑いながらもその目には虚無しか宿っていない。力を与えると言いながらも何かを企む詐欺師、それこそがカール・クラフトであり、メルクリウスの本質なのだ。

 

女神の治世である世界とは言え、彼女は排斥や攻勢といったものを持たない。それゆえ守護する者達がいる、だが守護者はあくまで女神を守護する者であり、現世に干渉することは可能だ。

 

「君にこれを与えよう。ある剣の欠片だが君なら使いこなせるはずだ」

 

カールが千雨に渡したその欠片からは禍々しさと神々しさを併せ持った輝きを放っている、我を手に取れと言わんばかりに欠片の輝きは増していた。

 

「これがあれば・・アイツ等を倒せるの?」

 

「無論だ。受け取るかね?ただし君自身に何が起こるかは君自身が確かめねばならない。この欠片はそれほどの力を秘めている」

 

「受け取るわ!あいつらを倒せるなら、受け取ってやるわ!」

 

「気をつけたまえよ?その欠片はたった一度の願いしか叶えぬ。それが叶った瞬間に君は君の築き上げた物を失う事になるのだから」

 

「ふん!そんなの関係ない!」

 

千雨は欠片を奪うように手にすると己の願いを欠片に込めた。その瞬間、欠片は彼女の体内へと沈んでいった。

 

「あ、あああっ!うあああああああ!っ!」

 

聖遺物の意思の全てを受け入れた千雨は寝たきりの状態のまま笑みを浮かべていた。

 

「溢れそうなこの感じ・・・これならあの二人を殺せるわ!アハハハハ!!」

 

「どうやら受け入れたようだね。君の力なら形成位階まで楽に行けるだろう、あの二人と互角まで行くかもしれないね」

 

「感謝するわ!これで、これで私も!!」

 

カールは笑みを浮かべて千雨を見ている。余興として与えたものが成功した事で新たな未知を得られるのではないかと考えた事にほかならない。

 

「踊れよ。君は模倣者という土に潤いを与える存在であるのだから・・・」

 

「殺す・・・必ずこの手で」

 

千雨は力を得た実感に浸り、浮かれきっていた。その殺意は明確であり、聖遺物との相性もかなりものになっている。

 

「さぁ、相手は出来た・・・若き英雄達よ。その力を女神に示すがいい」

 

カールは薄く笑みを浮かべていた。新しき英雄である二人を女神に会わせねばならないという使命感からくるものだ。

 

「では、私は失礼するよ?その魔剣の力…存分に使うといい」

 

「ありがとう、寝たきりで燥いだら疲れたし眠るわ。じゃあね」

 

千雨は眠ってしまったが同時に気づくべきであった。未だその場にいる男が詐欺師であることに。

 

「やはり怨恨こそが動く糧となるか。ああ、しかしこれでも」

 

カールはどこか落胆している様子で軽くため息をついた。

 

「では、更なる試練を与えるとしよう。英雄であるからには乗り越えてもらわねばな」

 

そう呟くと同時にカールは陽炎が揺らめくかのように姿を消した。

 

彼は戦闘という名の試練を課す事によって新しいエインフェリアを育てようとしている。

 

それはある懸念から来るものであった。

 

並行世界という概念を生み出した彼はとある並行世界の一つで守護する女神が倒されるのを見てしまった。

 

その世界は史上最悪の外道に滅ぼされたのではなく、五人の少女達が座を塗り替えた世界だ。

 

少女達が抱いていた渇望は一つ、[愛する者とずっと共に居たい]という願い。

 

守護者に倒されようと一人でも座にたどり着き、当代の神を倒せば世界を変えられる。

 

その世界で少女達に座の存在を教え、彼女らの渇望を自覚させた者は不明であった。

 

しかし、それは純粋なモノではなく少女達の我侭に過ぎないものだ。塗り替えられた世界では愛こそが最も尊いという理により愛が暴走してしまった。

 

愛するが故に離れない、離したくない、離れることは許されない。自分だけを見て欲しいという思いが重りとなった。

 

それにより愛した相手が自分に振り向かなかれば所有してやるという歪んだ愛を理として発現しまった。

 

故に人々は殺し合い、開放を求め続ける世界へと流れていった。

 

しかしこれは数ある可能性の世界での話である。起こりうるからこそ、英雄を育てる理由となる。

 

女神の世界は決して壊すことなど許さない、それこそがカール・クラフトという男の行動理念である。

 

並行世界を見たといっても対策はある、深く笑みを零したカールは独り言のように呟いた。

 

『開放の時は近い。千の雨に打たれ磨かれるがいい。くくくく・・・』

 

その笑いは誰にも聞かれることなく消えていったが、新しい役者は出番を待ち続けている。

 

 

 

 




「さぁ、新しき台本が整った」

「いよいよ、我が息子と我が女神に会わせよう」

「その時こそ英雄となる」

演説・水銀の蛇


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第十四劇 それぞれの返礼

「ああ・・・可能性が現れてしまう」

「危険だ、これは危険な兆候だ」

「女神以外に統治は許されん」

「台本を修正しなければなるまい」



演説・水銀の蛇


ISを束にあずけた後、サタナとフォルは学園へと戻りルサルカとベアトリスの二人と合流した。

 

二人によれば暴走事故によりトーナメントはデータ収集の為、一回戦のみ行ったそうだ。

 

「それにしても、螢がこの学園に転校してきたのにはびっくりしたんだからね?」

 

「それはコッチのセリフ。お姉ちゃんがIS学園に居るなんて本当に驚いたもの」

 

あれから螢は転校生メンバーの輪に入ってきていた。一番の要因はやはりベアトリスだろう。

 

血の繋がりがなくとも実の姉のように慕っているともなれば一緒にいたいというのが当然の事。

 

「とりあえず腹減ったな。食堂へ行かねえか?時間も無くなりそうだしよ」

 

「相棒に賛成だ。俺も腹が減っていて」

 

「全く、男の子だから仕方ないけどね~?」

 

「私もお腹空いてましたし、一緒に行こうか?螢」

 

「うん!一緒に行くわ」

 

メンバー全員は食堂へと移動するとすぐに食券を購入し、料理の乗ったお盆を手に席へと着いた。

 

「美味しい!この学園の料理ってこんなに美味しいの?」

 

螢の驚きにベアトリスは笑顔で応えた。

 

「この学園は世界各地から来てるからその為じゃない?」

 

「国々に合わせなきゃならねえしな。美味くなくちゃ意味もねえ」

 

フォルはちょっとだけ言葉を発するとカツ丼を一気にかきこんだ。

 

「あの・・・」

 

メンバーに声をかけてきたのはシャルルだ。今はまだ性別を男と偽っているため男物の制服を着ている。

 

「な~に?ああ、シャルル。相席なら構わないわよ?」

 

「うん、ありがとう!」

 

「私の隣が空いてるから」

 

ルサルカは笑顔で椅子を引き、シャルルに座るように促した。

 

「(それで?アンタどうするの?このままでいるつもり?」

 

今の境遇の確認の意味も含めてルサルカはシャルルに小声で話しかけた。

 

「(改めて女の子として入り直すつもりだよ?いつまでもこのままじゃいられないからね)」

 

「(時間が必要なんでしょ?それまでは合わせてあげる)」

 

「(ありがとう、ルサルカ)」

 

シャルルがお礼を言った時点で二人は会話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えた後、ベアトリス、ルサルカ、螢の三人は部屋へと戻っていった。

 

フォル、サタナはシャルルと共に部屋へ戻ろうとしていた。

 

「あ、三人ともまだ居たんですね。ちょうど良かったです」

 

「山田先生?おつかれっす!」

 

出会したのは副担任である真耶だった、様子からして三人を探していたのだろう。

 

「どうしたんです?俺達に何か?」

 

「あ、そうでした!実はですね、今日から男子の大浴場使用が解禁です!」

 

「おお!マジかよ!?ありがてえ!」

 

フォルは大喜びしていたが視界にシャルルが入った途端、冷静になった。

 

フォルとサタナはシャルルの本当の性別を知っているために下手な発言は出来ない。

 

「あー、その山田先生?すぐに入らなきゃダメですか?整備とかがあったんじゃ?」

 

「実はですね、元々ボイラーの修理と整備を同時に済ませていまして、ちょうど今日で完了したんです!」

 

真耶の勢いに三人はたじろぎ、苦笑した。いかにも早く入れと言わんばかりだ。

 

「ですから、三人は着替えを持って来て一番風呂を堪能して来てください!大浴場の鍵は私が持っていますから!!」

 

コレには参った、逃げ道がなく鍵は山田先生が持っている。完全にシャルルが男だと思っている為に本当のことは言えない。

 

「んじゃあ、一度部屋に戻りますから大浴場前で待っててもらえますかね?」

 

「分かりました、ですけど早めに来てくださいね?」

 

その言葉を聞いた真耶はその場を去り、三人だけが残された。

 

「まいったな。こりゃあ」

 

「ああ、けどシャルルも一緒に来ないと怪しまれちまうぞ?」

 

「あうう・・・・」

 

部屋に戻った後に三人は大浴場へと赴き、風呂に入ることにした。

 

方法としてはシャルルが最後に来ることとサタナとフォルは身体をすぐに洗い流し、湯船に入るという方法を取った。

 

「なぁ?相棒。これって、温泉か?」

 

「さぁ、温泉だったらすごいけどな」

 

サタナとフォルは入口に背を向けて湯船に浸かっている。今のところ男二人な為、お互い聞きたい事を話し始めた。

 

「なぁ、サタナは気になる奴(女)っているか?」

 

「急になんだよ?」

 

「ちょっとした好奇心だっての」

 

「そうだな、いつものメンバーなら俺はベアトリスさんかな」

 

「へぇ、世話焼きな年上好きなんだな?」

 

「う、うるせよ!なら、相棒はどうなんだよ!?」

 

「俺か?そうだな・・・俺は櫻井だな、アイツは良い女だ。きっとな」

 

「櫻井さんかよ?あの人、かなり気難しそうだけどな」

 

「そうか?案外、素直になれなくて直球に弱いタイプだと思うけどな?」

 

そんな男にありがちな会話をしているとカラカラと入口が開く音がし、二人は会話を切った。

 

「二人共、ごめんね?気を遣わせちゃって」

 

「かまわねえさ。このくらいは普通のことだろ?」

 

「ああ、だな」

 

シャルルは身体を洗い流し、湯船に入ってきた。流石に年頃の男二人に年頃の女の子がいるという危うい状況である。

 

もっとも、この状況でシャルルをどうこうしたいという気持ちは男として無いとはいえないが、それを理性で耐えている。

 

「僕はもう自由なんだよね・・・お母さんもふたりが助けてくれたし」

 

「あくまで俺達は自分の都合で動いただけさ」

 

「ああ、結果的にはシャルルの実家を壊しちまったからよ」

 

「シャルロット・・・」

 

「「え?」」

 

「シャルロット、それがお母さんがつけてくれた本当の名前・・・」

 

「そっか、いい名前じゃねえか」

 

そう言うとシャルロットは黙ってしまった。この状況と気恥ずかしさも加わったからだろう。

 

「んじゃ、先に上がるぜ?ゆっくり疲れを取りな。ああ、そうだ。シャルロットは目を瞑っとけ扉の音が聞こえたら目を開けな」

 

「ちょ!相棒!?俺も行くぜ!外で待ってるからな。シャルロット」

 

「うん、わかった。それと目を閉じたよ」

 

シャルロットがそう言うと同時にフォルとサタナは湯船から上がり、脱衣所へ向かっていった。扉が閉まる音と共にシャルロットは目を開ける。

 

「二人共、本当にありがとう。でも、ずるいなぁ・・・好きになっちゃいそうだよ」

 

シャルロットは湯船の湯を手ですくい、すくい取った湯の流れが終わるまでずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の部屋に戻るとフォルは一瞬で嫌悪を顔に出していた。その原因が自分の目の前におり、一緒にいたサタナも嫌悪を顔に出している。

 

「そんな顔をしないで貰いたいな。君達に用があるのだから」

 

「こっちとしてはさっさと要件済まして欲しんだけどよ」

 

「相棒に同意する」

 

その原因とは副首領であるメルクリウスだ。何故か外套姿で緑茶をすすっている。

 

「篠ノ之束からの伝言だよ、学園の臨海学校の時に調整を終えたISを持って行くとの事だ」

 

「束さんが?」

 

「ああ、私すら伝言役に使うとは流石としか言いようがないがね」

 

「むしろなんで伝言役やってんだよ、アンタが」

 

「無論、それは我が女神の」

 

「「それはもう何度も聞いたから大丈夫!!」」

 

「解せぬ・・・」

 

女神への愛を語ろうとしたメルクリウスだったが、二人の真顔での返しに言葉を止めた。

 

「で、束さんからの伝言は聞いた。他には?」

 

「ああ、これは個人的な忠告だが刃の雨に気をつけたまえよ?」

 

「刃の雨ねぇ・・・」

 

「それと、婦女子との湯浴みはいかがだったかな?」

 

「「なっ!?」」

 

そう言い残し、メルクリウスは居なくなってしまった。二人はひと呼吸おいた後。

 

「「やっぱり・・・メルクリウス、超ウゼェエエエエエエエエ!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、これといった変化はなく通常通りのHRが始まっていた。一人の人物が入ってくるまで

 

「おはようございます。今日は皆さんに転校生を紹介します・・・というか、皆さんも知ってるといいますか・・・」

 

真耶はひどく落胆しており、元気がなかった。

 

「それでは・・・入って来てください」

 

「失礼します!シャルロット・デュノアです!改めてよろしくお願いします!」

 

「えっと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです・・・はぁ・・」

 

「(ああ、本当の性別を明かしたのね)」

 

「(自由になったんですね。強引な方法でしたけど)」

 

ルサルカとベアトリスも元から性別を知っていた為に比較的冷静だ。

 

「え?デュノア君って女?」

 

「美少年じゃなく美少女だったこと!?」

 

「ちょっと待って!昨日って男子が大浴場使ったわよね!?」

 

ここで盛大な爆弾を投下され、サタナとフォルは少したじろいだ。

 

「相棒・・!」

 

「言うんじゃねえ、逃げるぞ!」

 

アイコンタクトのみで会話すると急いで教室を出ようとしたが。

 

「フ・ォ・ル・君?ちょっとお話したい事があるんだけど?」

 

「さ、櫻井?」

 

「サタナァーーー!!」

 

揺らりと形成状態で近づいて来る螢と、教室のドアをぶち破って現れた鈴。

 

ああ・・・ここで終わったな、創造を使えば逃げられるが逃げたら逃げたで面倒になる。

 

「死ねぇーーー!!」

 

怒りの衝撃砲と緋々色金。これにはもう逃げ場無いなと覚悟を決めたが何も来なかった。

 

理由は直ぐにわかった。ラウラがISを展開しており、AICで衝撃砲を緩和し緋々色金を止めていた。

 

「ラウラか?お前・・・」

 

「なんで俺達を?それにISの修理がこんなに早く終わったのか?」

 

「コアは無事だったからな。予備パーツで組み直し、調整もしたのだ」

 

ラウラからの返答に納得し、少しだけ気を緩めた矢先にラウラはサタナにキスしようとしたがそれを避けた。

 

「嫁よ!なぜ避ける!?」

 

「気を緩めた矢先にキスする奴がいるか!それに男は嫁じゃなく婿だろう!嫁ってのは間違ってるぞ!」

 

「む?そうなのか?」

 

「ああ、誰に吹き込まれたのか知らねえが間違ってんぞ?その知識。後、ISは解除しとけ」

 

「わかった」

 

サタナとフォルに説得されたラウラは大人しくなり、またラウラに止められて冷静になったのか、鈴もISを解除し蛍も形成を納めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、屋上には一人の女生徒、篠ノ之箒が携帯電話を持って立っていた。

 

 

『それなら先ず、目を背けるのを止めることよ。背けても結局は自分に付き纏っている。それなら逃げずに受け止めて向き合うことが第一歩になるから』

 

タッグトーナメント時、蛍に言われた言葉を思い出しながら電話帳を開き、一回もコールしたことのない例の番号をプッシュする。

 

数回のコールの後、電話の相手がハイテンションで話しかけてくる。

 

「もすもす?終日?」

 

「ふざけてるなら、もういいです」

 

「わー!待って待って!!」

 

電話の相手は篠ノ之束、篠ノ之箒の実姉だ。箒自身にとって正直、良い印象を持っていない。

 

「それで?要件は何かな?」

 

「姉さん、私だけのISを下さい」

 

「それは構わないけど、一つだけ聞かせて?」

 

「はい」

 

ふざけた様子のない束の声に箒は気を引き締める。向き合うと決めたのだから自分が逃げる訳にいかないからだ。

 

「箒ちゃんはなぜ、ISが欲しいのかな?」

 

「私は人間(ひと)として支えたい奴がいます。私自身も共に成長し支えていきたいから」

 

「60点だね。でも、ISは渡してあげるよ」

 

束の厳しい評価に一瞬、反論しそうになるが箒はそれを堪えた。喧嘩のためじゃない、自分が歩み寄る為に電話したのだと言い聞かせて。

 

「姉さん、まだお願いがあります」

 

「何かな?」

 

「私がISと共に成長していけるよう、ISに枷をつけてください」

 

「!!!!」

 

束はまるで天地がひっくり返ったような衝撃を受けた。自分の妹が、力に溺れやすい妹が枷を要求してきた事に。

 

「箒ちゃん、本気!?」

 

「本気です。私は姉さんの妹ですが、姉さんじゃない。私は私なんです。やっと気付いた事ですが、私はISと姉さんから目を背けていました」

 

箒は向き合う為に自分自身の言葉を姉に伝えていく。螢と出会い、フォル、サタナ、代表候補生達の戦いも見てきた。

 

自分は家族と離れた原因であるISを嫌悪していた。だが、姉やISが悪いのではない。実姉の夢を自分の力だと勘違いしている者達が悪い。更には自分が向き合わなければ解決しないだけだった。

 

向き合って、何が悪いのかを自分の目で見て知ろうとしなかった、ただそれだけのことだ。

 

「この電話だって私の自分勝手な行動です。私は企業に所属してるわけでも、代表候補生でもない。結局は姉さんに甘えてISを頼んでますから」

 

「箒ちゃん・・・」

 

「姉さんはきっと最高のISを用意してくれると思います。けど、それではまた私は力に溺れてしまう。だからこそ枷を付けて欲しいんです」

 

束は更に驚いた。箒は自分の行っている事、姉である自分の総てと向き合って話している。

 

ただISが欲しい、力が欲しいと言われても自分はそのまま妹のワガママを叶えただろう。

 

だが、今の妹は姉である自分と向き合い、己の立場を理解した上で話しているのだ。

 

「わかったよ、箒ちゃん。けど約束してくれる?」

 

「なんですか?」

 

「聖槍十三騎士団とは関わっちゃダメだよ?それと」

 

「分かってます、私は人間ですから」

 

「うん、会うのを楽しみにしてるね?箒ちゃん」

 

「私もです、会えたら姉妹でゆっくり話しましょう?姉さん(・・・)

 

電話を終えて、箒は堪えていた涙を流した。悲しかったのではなく嬉しかったのだ。

 

自分が歩み寄っただけでこんなにも家族と話す事が出来た自分が誇らしかった。

 

「もっと早く、気づきたかった・・・・うあああああああ!」

 

誰もいない屋上で箒はひたすら泣き続けた、今までの自分と決別するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「箒ちゃん、しっかりしてきたね」

 

束は妹の成長に笑顔を浮かべながらコンピューターのキーを叩いていた。

 

「成長型のリミッタープログラム。これを組み込めば紅椿は第三世代と変わりは無くなる」

 

一瞬の迷いを振り払って、束はリミッタープログラムを紅椿にインストールした。

 

「箒ちゃんの決意を確かに受け止めたよ。箒ちゃんが成長すればリミッターは解除されていく」

 

「私は・・・[誰もが幸福になれる世界になればいい]と思うけど。今の束さんじゃ説得力は無いね」

 

「宇宙へ行きたいけど、行くだけなら誰でも出来る。それならこの宇宙を統治してるモノに会えるように!」

 

束は己の渇望を自覚することなく、新たな先を口にしていた。

 

「戦乙女に魔女、それから獅子心も完成してる。皆、力になってあげて」

 

束の視線の先には3機のISが待機状態で置かれている。それぞれが剣、杖、日本刀のペンダントになって置かれている。

 

これはフォルとサタナのISである剣戟と鏡花の戦闘データから、束が紅椿を完成させる過程で作られた機体だ。

 

「騎士団に所属してる三人のための機体だけど、やっぱり枷になっちゃうね。でも、自分の身体のように扱えるよう調整したし、癪だけど創造に耐えられる程度の魔術防御もあの詐欺師からしてもらった」

 

束は城に来てから創造の強さに耐えられるISを開発しようとしたが、全くの徒労だった。

 

創造は使い手の内側へ向かうものと、外側へ向くものとあるがその圧力に量産機のISでは耐えられないのだ。

 

一度だけラインハルトに口利きを頼み、エレオノーレに協力してもらった実験結果によるものである。

 

鏡花のデータによって専用機でギリギリ耐えられるレベルなのを判明させた。

 

「何でだろう?束さん、ISの有用性を知らしめたかったのに、今は世界を変えたいと思ってる。皆、ISも幸せになれるようになればいいって」

 

自分の考えの変わりように混乱しつつも束はキーボードのキーを叩き続ける。

 

「カール・クラフトは言ってた、科学と魔術は似ている。ゆえに構造は君が思ってる以上に簡単だって、アイツに舐められたままで終われるか!」

 

束はカール・クラフトが、心底気に入らなかった。魔術においては自分を凌ぎ、工学においてしか自分が先に出ている物はなかった。

 

それだけではなく、カール・クラフトはありとあらゆる分野において博士号クラスの理論をいとも簡単に提案してくる。

 

極めつけが既知という言葉、彼はこの世界の全てを知っている。いや、知りすぎているのだ。

 

考えれば考えるほど正体が掴めない、自分が理解できない存在。

 

「一体、あの詐欺師は何なんだ?まさか人を超えた存在?まさか、ね」

 

己の推測は一つの予想でしかない、そんな考えを科学者である自分が持っては矛盾してしまう。

 

そんな考えを振り払うかの様に束は騎士団用のISの調整に取り掛かった。




「大丈夫だよ」

「きっと幸せになれるから」

「喧嘩したって仲良しだもの」

「だから、諦めないで」


演説・黄昏の女神


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第十五劇 君は誰よりも美しいから

「上がればいい、見え据えろ」

「お前の望むものはここにある」

「刃を持つがいい」

「己が力を示すために」


演説・???


間近に迫った臨海学校の為に水着を新調しようと女性陣はフォルとサタナを強引にショッピングに連れてきていた。

 

「海なんて久々ね~」

 

「私もです、しかも羽が伸ばせるなんて!」

 

「お姉ちゃんはしゃぎすぎよ、全く」

 

「むむ・・こんなにいるのね。メンバー」

 

「本当ですわ」

 

「むう・・・嫁が後ろにいるとは」

 

「仕方ないよ、人数が人数だもの」

 

各々が先頭だって歩いている中、男性二人はどこか疲れた顔をしながら後についていた。

 

「なぁ?相棒?俺達」

 

「言うな、聞くな。黙ってろ」

 

周りの視線が辛い、大抵は男からの嫉妬の目である。殺気ならなんともないが男性操縦者の肩書きの他に美少女の随伴という状態が嫉妬の拍車を掛けている

 

「あの店が良さそうね、行きましょ?鈴、シャルロット」

 

「あ、待って!ルサルカ!!」

 

「ふ、二人共!待って!」

 

足早にショッピングモールへ入るルサルカと鈴、シャルロットだが、その様子は子供に近い。

 

「私達もいこっか?螢」

 

「うん、一緒に選ぼう」

 

「貴女の私服もね?」

 

「確かにその服は・・・」

 

「それは言わないで、お姉ちゃん・・・セシリアさん」

 

螢は自分の私服に関してセンスが悪いのを自覚してるらしく項垂れた。

 

ショッピングモールに入ったと同時に女性陣は買い物を始めていた。

 

シャルロット、ルサルカと鈴は臨海学校の為の水着を探しており、ベアトリス、セシリア、ラウラ、螢は私服と水着を選んでいる。

 

男性陣の二人は荷物持ちをしながら自分達の買い物も済ませていた。元々、水着だけを買いに来たので荷物は少ない。

 

「そこの男共!これ片付けておいて!」

 

命令口調で一人の女がフォルとサタナの目の前に女性用の下着や水着が入った買い物カゴを置いた。

 

「ああ?なんで俺達が見ず知らずの奴が散らかしたのを片付けなきゃなんねーんだ?」

 

「これはアンタが自分で入れたものだろう?自分で戻すのが筋だよな?」

 

二人の反論に女は奇声を上げながら睨みをきかせ、口調を荒げ始めた。

 

「男風情が女の私に口答えしても良いと思ってるの!?警備員呼ぶわよ!!」

 

「呼べるなら呼んでみな?俺達は荷物で両手が塞がっている。乱暴されたと言っても取り合わねえぜ?」

 

「それに監視カメラでの映像もあるだろうからな、意味がない」

 

「なによ!私は女よ!ISを動かせるのよ!」

 

切り札を出したと勘違いしているような女の言動を聞き流していたが、フォルとサタナはほんの少しだけ殺気を出した。

 

「ISを動かせるだぁ?なら専用機は?所属は?今ここでISを出してみろや!」

 

「アンタはISを実際に動かした事もないただの一般人だろう?女にしか適性が無いというだけで自分が特別だと思うな!」

 

「ぐっ!あ、アンタ達!タダじゃおかないわ!名前!そう!名前を教えなさいよ!」

 

「必要ねえな、だってお迎えが来たぜ?」

 

女の後ろには警備員が二人、女の腕を掴んでいた。

 

「な、何するのよ!悪いのは私じゃない!!あの二人よ!」

 

「ほかのお客様の迷惑となりますので」

 

「こちらへお越し下さい」

 

女は警備員に連行されていった。俺達に対して何か言っていたが気にしても仕方ない。

 

「はぁ、疲れたわ。女尊男卑に染まった女の相手は」

 

「全くだな、あんなのが多いからおかしくなっちまってる」

 

 

二人が短く会話している間に女性陣の買い物が終わったらしく、全員が合流し昼食をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、そちらの手番ですぞ?獣殿」

 

「ふむ、ならば」

 

同時刻、城の内部では双首領の二人が揃い、チェスを始めていた。

 

「この城に来てから、どうやら篠ノ之束が己の渇望を無自覚に発現しかけている様子」

 

「ほう?だが、それも我らにとっては」

 

黒色の駒を動かしながらも会話をやめない二人は笑みを浮かべ続けている。

 

「然り、既に経験してるが流れがほんの少し変わっている次第」

 

「それは興味深いな?して、どのような」

 

あの時(・・・)は五人の少女達が一組で流出に達していた。しかし今回は篠ノ之束、そして織斑千雨(・・・・)この二人が未知への鍵」

 

「織斑千雨、卿が聖遺物を渡した者か。篠ノ之束も鍵とはな」

 

「篠ノ之束は特定の共存しか望んではいなかった。だが、今回はまるでマルグリットと似た望みを抱き始めている」

 

「あの者が、か。それだけではあるまい?」

 

「もちろんですとも。そして織斑千雨、彼女は己のみを良しとする渇望を抱いている。きっかけを与えたのは私だが同じ事を繰り返すことになろうとは」

 

カールは白色の駒を動かし、黒色の駒を退ける。それを見たハイドリヒは次の一手を打つ。

 

「あくまで、あの二人(・・・・)の成長の為にと思ったが、それがかえって裏目となってしまった」

 

「織斑千雨は我らが守護する者を殺そうとした。カールよ、この世界でその傾向が現れているのだろう?」

 

「ええ、私の代替は女神の刃として自立している。それに代わる刃を作り出さねばならない」

 

「それが模倣者という訳か」

 

「そう、彼には我が息子と女神に出会ってもらわねば刃とならぬのです。そのための手筈はしましたがね」

 

「して、もう一人の英雄には?」

 

「彼にも会ってもらうつもりだ。彼を見守る彼女(・・)と共に」

 

笑みを深くしたカールは黒色の陣へ駒を進め、チェックメイトと宣言した。

 

それと同時にハイドリヒも笑みを深くする、かつて宇宙を三色で塗りつぶさんとした戦争の時のように。

 

二人にとっては未知以外に興味はない。しかし、守護者の役割を忘れている訳でもないのだ。

 

女神の統治を消滅させるわけにはいかない、次に座を狙う者あらば倒さねばならぬと。

 

史上最悪の座は決して成立させてはならない。女神以外に消滅させられるなど嫌だ、認めない。

 

この世界は誰もが幸せになれるよう統治されてはいるが、限界はあるのだ。

 

だからこそ、彼女には次世代へ繋ぐべき相手を見定めてほしい。

 

その時、私は私の使命を女神の手で終える事ができるのだ。




「生きる為に何を飲み、何を喰らっても足りる訳がねえ」

「満たされたら何も残らねえ」

「飢え続けろ」

「それが生き様だろう」

演説・???


※短いですが次回は福音編です


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第十六劇 我が渇望こそが原初の荘厳

「ああ・・・」

「我ら以外の神座が目を覚ますか」

「歴代の者共よ」

「ああ、これこそが正に」

演説・水銀の蛇


臨海学校当日、それぞれの組がバスに乗り、宿泊予定の旅館へと向かっていた。

 

その中で、一組を乗せたバスは盛り上がりを見せている。

 

「じゃあ!歌います!Einsatz!」

 

バス内でのカラオケで女生徒達が盛り上がっている中、更に加速するような歌が始まった。

 

「・・・・・」

 

「へえ、良い曲だな」

 

フォルは目を閉じたまま到着を待っており、サタナはカラオケを聴いている。

 

「海よ!!」

 

ルサルカの声に全員が窓の外の景色を一斉に見る。そこには広大に広がる海原が広がっている。

 

「海ですか、日本の海は綺麗ですね」

 

「お姉ちゃんはずっと軍属だから海なんて行かなかったものね」

 

「海か、楽しみだ」

 

 

各々が楽しみを口にする中、バスは宿泊予定の旅館「花月荘」の駐車場に停車した。

 

バスから生徒達が下車し、整列する。

 

「ここが三日間お世話になる花月荘だ。従業員の方達に迷惑をかけないように!」

 

「「「「よろしくお願いしまーす!!」」」」

 

生徒達全員の挨拶が響く、それを見た旅館の女将らしき女性は笑顔を向けて会釈した。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね。あら?そのお顔は?」

 

「ちょっと怪我してしまいましてね」

 

職業柄、笑顔を絶やさず生徒達を見ていたが途中で千冬の顔の怪我、男性操縦者の二人に目を向けた。

 

「そうでしたか、ところで、こちらのお二人が噂の?」

 

「初めまして、フォル=ネウス・シュミットです。」

 

「サタナ=キア・ゲルリッツです。よろしくお願いします」

 

「ご丁寧にどうも、名前からしてドイツの方から?」

 

「はい、俺達は生まれは日本ですが、育ちはドイツです」

 

「そうでしたか。では、ご案内しますね」

 

女将の案内で、それぞれ割り当てられた部屋へと向かっていたが、男性二人だけは未だに部屋がわからなかった。

 

「ね、ね、ふぉるねーとサタサタの部屋はどこ?」

 

声をかけてきたのは布仏本音、通称のほほんさん。このように独特の愛称を付けて呼ぶらしく違和感があったが今では慣れたことだ。

 

「それが、俺達にもわからないんだ」

 

「俺は予想がつくけどな、どうせ教員と一緒じゃねえの?」

 

「その通りだ、着いてこい」

 

千冬に促され、着いていった先には「教員室」と書かれた紙が貼られた部屋の前だ。

 

個室で居たら女生徒達が流れ込んでくるのは目に見えた上での配慮だろう。

 

「さて、荷物を置いたら自由行動だ。好きに遊びに行くといい」

 

「んじゃ、遠慮なく行きますか。サタナ、先行ってるぜ?」

 

「ああ、俺も後から行く」

 

フォルは着替えの為に部屋を出て行き、サタナと千冬だけが残った。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

お互いに沈黙したままでいたが先に口を開いたのは千冬だった。

 

その目には後悔の色が宿っており、今一度戻ってきて欲しいという思いもある様子だ。

 

「一夏・・・戻れないのか?私達の所へは」

 

「その名前で呼ぶなよ。言ったはずだ、アンタは千雨しか見ていなかった。周りからも出来損ないの烙印を押され、誰も助けてくれなかった。そんな俺を受け入れてくれたのが相棒であり、聖槍十三騎士団の方々だ!」

 

「何故だ!?聖槍十三騎士団など・・危険な・・・っ!?」

 

「その先を口にしてみろ、ここでお前の首を飛ばすぞ?」

 

千冬はこの時に理解した。此処に居るのはもう自分の弟ではない、聖槍十三騎士団という魔人の騎士団の団員であることを。

 

手に届く領域には居ない、家族という枷から解き放たれた弟はもう人間ではないと。

 

「もう、あんたの所に戻る気は無い、俺はあの方の爪牙であり剣だ」

 

「・・・・」

 

「じゃあな、相棒が待ってる」

 

サタナも部屋を出て行き、千冬が一人残された。しばらく呆然としていたが洗面台へと行き、鏡の前でフォルにつけられた顔の火傷に手で触れた。

 

痛みはないが胸が苦しくなった。胸元を掴んで意味を理解する、これは後悔の痛みだ、何事もこなしていた千雨だけを見ていて、もう一人の家族を見ていなかった深い悔恨。

 

「ぐ・・・・ううううう!」

 

どんなに後悔しようともそのように接していたのは自分自身だ、今ならフォルが言い放った言葉の意味が分かる。

 

自分はブリュンヒルデという栄光に縋っていただけなのだと、名誉ばかりを求めて大切なモノに目を向けなかったのだと。

 

「確かに皮肉だな、ブリュンヒルデ(世界最強)(つみ)に焼かれて罪状に気づくとは、な」

 

苦笑しながら自分を持ち直すと教師としての仕事に取り掛かるため、自分も部屋を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相棒・・・コイツは」

 

「ああ、間違いないな」

 

サタナとフォルは目の前に生えている物に注目していた。よく見れば「引っこ抜いて下さい」と書いてある。

 

「どうするよ?」

 

「どうするって言われてもな・・・」

 

二人は少し考え込むとウサ耳を引っこ抜いた。手応えが軽いと感じた為にただの布石だったのだろう。

 

「何もなかったな?」

 

「ああ、でも束さんの事だから絶対に現れるだろ、とりあえず海に行こうぜ」

 

「そうだな」

 

二人は向かい側にある障子に視線を移した後、海水浴が許可されている海原へ向かった。

 

「ここで驚かそうと思ったけど、なるべくなら大勢いた方が面白いもんね」

 

部屋の中潜んでいた束は二人が海岸へ向かったのを確認するとフワリと居なくなった。

 

さながらそれはメルクリウスのような消え方で、陽炎のように姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海へ向かった男性二人が見たもの、並の男ならばパラダイスと言える光景だろう。

 

見渡す限りの水着、水着、水着、水着を来た女生徒だらけなのだ。

 

「はぁ、この光景は辛いな・・・」

 

「全くだ、これじゃあ俺達が場違いすぎるっての」

 

フォルは濡れても平気なノースリーブを羽織っており、サタナも同じだが帽子を被っている。

 

ベンチがある所へ向かい、羽織っていたノースリーブと帽子を脱いで水着姿になった。

 

周りではクラスメート達が泳いだり、日光浴をしたりと海を満喫している。

 

 

「わ!ミカってば胸おっきい!また育った?」

 

「きゃあ!揉まないでよ!もう!」

 

「ティナは水着大胆だねー!」

 

「そう?アメリカなら普通よ?」

 

二人は海原へ近づこうと砂浜を歩いていく、女生徒達は二人が近づいてくるのを見かけると視線を向けた。

 

「あ、フォル君とサタナ君だ!」

 

「わあ、細身なのに鍛えられてる。二人共すごい・・・」

 

「私の水着、変じゃないよね!?」

 

それぞれ自分の水着を見たり、男性二人の肉体に見惚れていたり様々な反応を見せている。

 

しばらく見回していると、後ろから誰かが近づいて来る。それは水着に着替えたベアトリス、櫻井、ルサルカ、シャルロット、セシリア、鈴だ。

 

ラウラも居るようだが、他のメンバーの後ろに隠れてしまっている。

 

「え、こんなにレベル高かったのかよ・・・」

 

「すごいな・・・」

 

「なんですか?じーっと私達を見て」

 

「変かな、私はあまり」

 

「あらあら?私達の水着姿に見惚れてるの?」

 

騎士団のメンバーはまさに見惚れると言えるレベルの貴重な水着姿だ。

 

ベアトリスは水色に近い色のビキニタイプで、ブロンドの髪と相まって美しさを強調していた。

 

櫻井は紅色のビキニだが、釣り目と黒髪が相成って情熱的な色香が漂っている。

 

ルサルカも薄い赤のビキニで、パレオをタンクトップ代わりにして小さな体型に釣り合わない大きめの双丘を強調し境界線となって可愛さと色気を演出していた。

 

セシリアは青色のビキニと下半身にはパレオを纏っており、モデル並の肢体を惜しげもなく披露している。

 

シャルロットは黄色に近い色のビキニで弾けるような明るさを強調しそれが魅力となっている。

 

鈴はオレンジ色のビキニを着ているがこちらは健康的な肢体が小悪魔的魅力を引き出している。

 

「仕方ないですわね、これだけ囲まれていては」

 

「ベアトリスさんも螢さんもすごいな・・・女の視点から見ても見惚れちゃうよ」

 

「うー、なんでルサルカはそんなにあるのよー!」

 

「ふふーん、私の勝ちね?リン」

 

ウガー!と格差社会を見せつけられた鈴は騒いでいた。

 

「ほら、ラウラ。二人に見せるんでしょ?」

 

「うう・・」

 

シャルロットに強引に引っ張り出されたラウラはタオルを身体に巻いて俯いている。

 

「ええーい!笑いたければ笑え!」

 

ヤケクソに近い言葉を吐きながらラウラは巻いていたタオルを取った。

 

そこにはフリルの付いた黒色ビキニタイプの水着を着たラウラがいた。銀髪に映えておりとても似合っている。

 

「うん、全員レベル高えわ。こりゃあ、舐めてましたごめんなさい」

 

「だな、すごいって」

 

男性二人が感想を述べているとベアトリスが話しかけてきた。

 

「二人共、申し訳ないですけど、パラソル立ててくれません?私達じゃ上手く立てられなくて」

 

「お安い御用だ、相棒!手を貸してくれや」

 

「ああ、わかった。手伝うよ」

 

二人は手際よくパラソルを立て、シートを広げ全員が座れるようにした。

 

「手際がいいな?慣れているのか?」

 

さらに声をかけて来たのは担任である千冬だ。メリハリの付いた肢体にラウラとは違う黒のビキニを着ている。

 

顔の傷が威圧感を醸し出しているがそれが強さを引き立たせる物になっており、女傑という言葉がぴったりだ。

 

「これくらいは出来ないとな」

 

「そうだな、昼食を取ってくるといい」

 

「わかった、行くか!みんな」

 

フォル達は昼食を取る為に一度、宿の方へと戻っていった。

 

「隠れてないで出てきたらどうだ?千雨」

 

「バレてたの?千冬お姉ちゃん」

 

「私と話がしたい時は、決まってお前は隠れる癖があるからな」

 

「お姉ちゃん、単刀直入に聞くわ。あの二人を倒したくないの!?」

 

「ああ、今の私にそんな気持ちは微塵もない。むしろ感謝すべきだと思っている」

 

「なんでなの!?アイツ等に感謝することなんて!」

 

「騒ぐな!それにお前もいつまで立ち止まってるつもりだ!?」

 

「っ!?」

 

姉からの厳しい叱咤と威圧に千雨は驚きを隠せなかった。自分のやってきた事は全て褒められ、受け入れてもらえた。

 

しかし、今は違う。姉は自分のやってきた事に初めて否定をしてきたのだ。千雨にとって全く有り得ない事だ。

 

「どうして!?お姉ちゃんどうしてよ!?」

 

「私はサタナにやってしまった事を後悔している。だが、償いはしていくつもりだ。ゼロからのスタートだがな」

 

「そ、そんな・・・」

 

「話は終わりか?それなら戻れ」

 

千冬が去ると千雨は拳を強く握り締めた。最も信頼していた姉までがあの二人に影響されている。

 

どうして自分だけが孤立していってしまうのか。どうして自分の行動を否定されるのか、その答えが分からないのだ。

 

「いいわ、だったら私があの二人を始末するまでよ・・・そうすればまた私は返り咲く事が出来るもの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎて行き、夜となった。夕食は海鮮料理で本わさを使っている高級なものだ。

 

「久々の海鮮料理だ、コイツは最高すぎるぜ!」

 

「ああ、全くだ」

 

「お刺身なんて私も久しぶりに食べたわね」

 

「うー、ワサビは苦手なのよ~」

 

螢とルサルカも海鮮料理に舌鼓を打っている。ルサルカにいたってはワサビが苦手なようだ。

 

フォルは食べる前に刺身に少しだけ乗せて食べるのだと教えている。

 

「へえ、風味が良くなって美味しい!」

 

「だろ?これが最高なんだよ!って・・・セシリア、足は大丈夫か?痺れてるなら無理するなよ?」

 

「だ、大丈夫ですわ」

 

「背を伸ばして足の甲を八の字になるよう、しっかり重ねてゆっくり座ってみな」

 

「うう・・やってみますわ」

 

セシリアはアドバイスされた通りに座ると痺れが少しずつ取れてきたのか辛そうな表情が消えた。

 

「あら?平気になってきましたわ」

 

「無茶な座り方してりゃあ、そらあ痺れるさ」

 

その後、食事は楽しく続き、それぞれが部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事後の自由行動、フォルは許可をもらって宿の外に居た。たまには夜風に当たりたい気分になったからだ。

 

「おそらく、明日だろうな。束さんが来るのは」

 

フォルは直感的に嫌な予感がしていた。恐らくという感じでこの臨海学校で悪い事が起こるだろうと。

 

「フォル君」

 

「ん?櫻井か、どうしたんだ?」

 

「見かけたから声をかけたのよ。何を考えてたの?」

 

「明日の事さ。ちょいと嫌な予感がするからよ」

 

「嫌な予感って」

 

「それより、浴衣似合ってるじゃねえか」

 

「!き、急に変なこと言わないでよ!//」

 

「思った事を言っただけだぞ?」

 

「時と場合を考えなさいよ!バカ!!」

 

恥ずかしさを隠す為に螢は真っ赤になりながらフォルを責めた。

 

「俺は戻るが、櫻井はどうする?」

 

「私も戻るわ、皆が待ってるし」

 

「じゃあ、明日な?」

 

「ええ」

 

フォルと螢は宿の中へ入り、それぞれの部屋へと戻っていった。この時、櫻井の顔が残念そうに見えたのは気のせいか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿二日目、専用機持ちである男性操縦者二人、織斑千雨、代表候補生の4人、何故か騎士団所属の三人と専用機を持たない篠ノ之箒が集められていた。

 

「質問いいか?織斑センセ」

 

「フォルか、一体何だ?」

 

「俺や相棒、織斑千雨。それに代表候補生達はわかるが何故、ベアトリスさん達や代表候補生でもない篠ノ之箒までいるんだ?」

 

「その理由はこれからわかる」

 

千冬がつぶやくと同時に空中から人影が迫ってきた。というよりものすごい速さで落下してきている。

 

「ちーーーーーーちゃあああああああん!!」

 

声が聞こえる。聞き覚えのある声だが、千冬は落下の速度を利用してその声の主を叩きつけた。

 

「がふっ!相変わらずの反射神経だね!!」

 

「お前こそ一段と丈夫になったみたいじゃないか?束」

 

そりゃあそうだろと騎士団に所属している男性二人は同じ事を思って口にしなかった。

 

「やあ!」

 

「お久しぶりです・・・」

 

再会した篠ノ之姉妹はどこかお互いに一歩引いている雰囲気だ。だが、それを崩したのは束の方だった。

 

「本当に会うのは何年ぶりかな!?箒ちゃんが立派に成長してて嬉しいよ!特におっぱいが」

 

ガンッ!と鈍い音が響いた。普通の人間ならば本気で大怪我になりかねないくらいの良い音だ。

 

「殴りますよ?」

 

「殴ってから言ったー!しかも木刀の柄で!箒ちゃんひどいよー!!」

 

「束、周りが困惑している。自己紹介ぐらいしろ」

 

「そうだった。篠ノ之束=アリス・カタストローフェです。宜しくね」

 

束の自己紹介に思いっきり反応した面々がいる。聖槍十三騎士団所属のメンバー達だ。

 

「た、束さん!どういうことだ!?なんで聖槍十三騎士団みたいに名乗ってんだよ!!」

 

「そ、そうですよ!所属しないって束さん言ってたじゃないですか!!」

 

「フォーくんにサーくんだ!まぁ二人が食いつくのは当然だよね!」

 

二人の慌てた様子も楽しんでるかのように笑顔のままだ。二人を落ち着かせ、束は事情を話し始めた。

 

「確かに私は聖槍十三騎士団には所属してないよ。騎士団の魔名って言うのかな?それが気に入ったから束さんも自分で名乗ってるだけだよ♪」

 

束の回答に二人は頭を抱えそうになったが、自分で名乗ってるだけだと言うのなら問題ないだろうと割り切った。

 

「姉さん、頼んでいた物は」

 

「箒ちゃん、少しだけ待ってて貰えるかな?」

 

「?はい」

 

そう言って束は騎士団所属の3人へと近づいていった。3人からすれば初対面だが束は気にしていない様子だ。

 

「詐欺師から名前は聞いてるよ。ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンだからベアちゃん、ルサルカ・シュヴェーゲリンだからルカちゃん、最後に櫻井螢ちゃんだからけーちゃんだね!」

 

三人はいきなりの呼ばれ方に困惑したが、男性二人が似たように呼ばれているのを見ていた為、黙っていた。

 

「君達の特性に合わせたISを持ってきたんだ。待機状態だけどね」

 

束はベアトリスに剣のペンダントを渡し、ルサルカには杖のペンダントを、螢には日本刀のようなペンダントを渡した。

 

「ベアちゃんは戦乙女、ルカちゃんは拷問城の魔女、けーちゃんは獅子心って名前だよ」

 

「これが・・・」

 

「私達のIS?」

 

「でも、どうして?」

 

「あくまで空中戦闘を行える物だと思ってくれていいよ。君達にとってISは枷になっちゃうからね」

 

ISが枷になっている、この言葉は千冬を含め代表候補生達にも衝撃を与えていた。

 

「ふぉー君とさーくんの機体も調整済みだよ。出来るだけ動きやすくしたつもりだから」

 

束は待機状態となっている二人のISをフォルとサタナに渡した後、箒に近づいていった。

 

「待たせたね、箒ちゃん!さぁ、空をご覧あれ!」

 

指を鳴らすとニンジン型のロケットが地面に突き刺さる形で着陸し、中にはISが1機、展開状態で収納されていた。

 

「これが箒ちゃんの専用機、『紅椿』現行ISを上回るIS!だったんだけどね・・・」

 

「何か問題でもあるのか?束」

 

少しだけ気落ちしている束に千冬は声をかける、それを聞いた束はしっかり答えようと顔を上げた。

 

「箒ちゃんがね、紅椿に枷を付けてくれって頼んできたんだよ!束さんも嬉しびっくりだったね!!」

 

束は楽しそうに答えているが千冬は更なる驚きを隠せない、力に溺れやすい束の妹が自ら枷を望んだのだと断言されたからだ。

 

「だから、本来第4世代であるはずの紅椿は第3世代までの力しか出せない。もっとも箒ちゃんが成長すればリミッターが解除されていくようにはしてあるけどね!」

 

「姉さん、ごめんなさい。ISを縛るような事を頼んで」

 

「ううん、箒ちゃんがIS一緒に成長したいと言った時には感動したんだよ?さ、紅椿のフィッテイングとパーソナライズを始めよう!あ、渡した三人もね!」

 

そう言われてベアトリス、ルサルカ、螢の三人もISを展開した。束のサポートもあり、数分で終わったが紅椿の飛行運転も始めた。

 

「どう?箒ちゃん」

 

「私には、この枷がぴったりです。これでもまだ機体に振り回されてる感じがありますから」

 

箒の謙遜な言葉に束は改めて成長を感じていた。自分の意見こそが正しいと考えていた妹が変わったのだと。

 

「リミッターはかけたけど、特訓を続ければ紅椿は第4世代の領域に入るからね?」

 

「はい、姉さん」

 

 

束は直ぐに騎士団の三人のもとへ向かい、サポートへと回った。

 

「確かに学園で使ってる機体よりは動きやすいですけど」

 

「使っちゃても大丈夫なのかしらね~?」

 

「お姉ちゃんと私は特にね」

 

束は三人にプライベートチャンネルを開き、会話できるようにした。突然の事で三人は少し驚いたが順応力が高い為、すぐに持ち直した。

 

「大丈夫だよ。その3機はふぉー君やさー君の機体と同じように創造に耐えられるようにしてあるから!!」

 

「「「!!!!!!!!」」」

 

 

創造という言葉を聞いて三人は警戒を強めた。束はどこまで騎士団の事を知っているのかと。

 

「安心して、詐欺師の魔術には及ばなくてね癪だけど手伝って貰ったんだ」

 

「ああ、そういう事だったのね」

 

「なら、納得できますね」

 

「驚いちゃったわ、本当に」

 

三人は安堵したのか軽くため息をついた。

 

「それで、どう?ISの感じは」

 

「やっぱり枷になってしまうと言われた通り動きにくいですね」

 

「まるで足と手に枷をはめられてる感覚だわ~」

 

「こんな状態であの二人は戦ってたのね」

 

それぞれが動いたり、飛行したりした後、すぐにISを待機状態にして首にかけた。

 

そんな中で納得いかない顔をしていた人物が一人居た。織斑千雨である。

 

第4世代という機体を貰っておきながら第3世代の力しか出せないように頼んでいるという点が彼女を苛立たせた。

 

「束さん!私にも強化を!」

 

「あ?さーちゃん?いや、織斑千雨。あんたのISは強化できないよ」

 

「ど、どうしてですか!?だったら、あの第4世代の機体を私に!」

 

「ふざけた事言うなよ、箒ちゃんは確かに私に頼んでISをもらった。この時点でIS学園の奴らは不平等だって言うだろうよ。だけど有史以来、平等なんて一度も無いんだ」

 

束は不機嫌と怒りが篭った声で千雨に言葉の弾丸を浴びせ続ける。

 

「自分勝手だという事を自分で認めたからこそ、私は箒ちゃんにISを渡した。それに枷まで要求してね」

 

「そ、それでも私は!」

 

「ちーちゃんの妹だからって調子に乗るなよ?」

 

束がハッキリと拒絶の意思を示した事に千雨はショックを受けて立ち尽くした。

 

「箒ちゃんは自ら成長していく事を明確にしたんだ。自分の立場を自分で理解した上でね。紅椿は私から箒ちゃんへの信頼の証だよ」

 

「姉さん・・・」

 

信頼、この言葉が束から出てくることは非常に珍しい。篠ノ之束という人物は気に入った相手としかコミュニケーションを取ろうとしない。

 

だが、聖槍十三騎士団の城にて魔人となった者達と話をすることで、自分以外にも恐ろしい存在が居るのだと学んだ結果だ。

 

「だから、今のお前に強化してもらえる資格はないんだよ。織斑千雨」

 

 

千冬も妹への言葉を止めようとしたその時に真耶が走ってきた。

 

「お、織斑先生!大変です!!」

 

真耶の声にフォルは顔をしかめた。自分の勘が当たってしまったことに。

 

千冬と真耶がしばらく話した後に千冬は生徒全員に向けて声を上げた。

 

「これよりIS学園は特殊行動作戦に移る!テスト中止、ISを片付け、一般生徒は室内にて待機!部屋から出て来た者はこちらで身柄を拘束するものとする!!以上!」

 

女生徒達はなにがあったのかわからないまま、ざわついている。

 

「とっと戻らんか!バカ者共!!」

 

「は、はいいいい!!」

 

無理もない、今の千冬に一喝されれば誰でも従ってしまう。それほどの威圧感があることも事実だ。

 

「専用機持ちは全員集合だ!直ちに来い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が返事を返し、急遽、作戦会議室となった大広間にて現状説明が開始された。

 

女子全員。特にベアトリス、ルサルカ、螢の三人は軍人のように起立の状態で待機しその他のメンバーは正座で聞いている。

 

男性操縦者の二人は厳しい表情で座っている。

 

「では、現状を説明する二時間ほど前にアメリカ・イスラエルで共同開発された軍用IS「銀の福音」が暴走し監視空域を離脱したとの事だ」

 

千冬の説明を聞いたと同時にフォルが悪態を付くように口を開いた。

 

「つまり、制御を離れて自衛隊のISが間に合わないので俺達でなんとかしろって事だろ?やれやれ、なんで上の連中ってのはこう後手にばっかり回るのやら」

 

その言葉は誰もが思っていながら口にしなかった言葉だ、だがフォルはあえて口にすることで対応の遅さなどに対し苦言していた。

 

「フォルの言葉も一理あるが今は議論を交わす場ではない。作戦会議を始める。意見のある者は挙手しろ」

 

「はい、目標ISのスペックデータを要求します」

 

「わかった。だが、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。けして口外しないように。情報が漏洩した場合、諸君らには最低でも二年の監視と査問委員会による裁判がある」

 

「了解しました」

 

セシリアの要求は正当なものだろうスペックさえわかれば対策の立てようもあり、役割分担も考えやすい。

 

「広域殲滅に特化した特殊射撃型だな。コイツは接近戦メインの奴にはキツいぜ」

 

「相棒と同じ意見だ、特に俺達のメンツは中・近距離用が多い」

 

サタナとフォルの意見に全員が耳を傾けている。そんな中、ベアトリスも口を開いた。

 

「射撃型というだけで格闘性能もわかっていません。偵察はしたんですか?」

 

「私も同意見です」

 

ベアトリスの言葉にラウラも同じ事を考えていたようで言葉を発する。

 

「無理だな、この機体は現在も超音速飛行続けている。一回のアプローチが限界だろう。それとこれは私からの意見だが、フォル、サタナ、キルヒアイゼン、シュヴェーゲリン、櫻井。お前達の不思議な力は使えないのか?」

 

千冬の意見にルサルカが含み笑みを浮かべながら代表で答えた。

 

「使えない事はないわよ?た・だ・し、その軍用ISを壊しちゃうかもしれないわ。無人機ならともかく有人機だったら大惨事よ」

 

「む・・・それは流石にまずいな」

 

「でしょ~?だから、使うのはオススメしないわね」

 

ルサルカの説得力に千冬は惜しいと思いながらも創造を使わせる案を引っ込めた。

 

「だとすれば、頼りになるのは」

 

「私だけって事でしょ!私の零落白夜でなら一撃で落とせるもの!!」

 

千雨は嬉々として語っているが専用機持ちのメンバーは不安を覚えた。実戦だと言うのにこのような甘い考えで大丈夫なのかと。

 

「でもまぁ、ほかに方法がないのも事実だわな」

 

フォルの言葉に納得せざるを得ないと全員が思った。

 

「私のブルー・ティアーズの高機動パッケージ、ストライク・ガンナーへの換装も20分もあればなんとか」

 

「あれれ~?おかしいな?その子は私が手を加えたはずだから換装なんて必要ないはずだよ!」

 

天井から声が聞こえる、もちろんこの特徴的な声は束の他にいない。

 

「え?それは本当なのですか!?」

 

「うん、だってふぉー君が詐欺師を通じて持ってきたのを改修したのは他ならぬ私だもん!」

 

「はっ!」

 

セシリアには覚えがあった、自分がかつて挑んだ決闘の後、保健室でフォルに囁かれた事があった。

 

『お前のISは生まれ変わる』

 

そう言われて本当なのかと訪ねた時があった、まさかISの開発者自身が改修していたとは夢にも思わなかったのだ。

 

「だから、換装は必要ないよ。本来なら紅椿が運ぶのに適任なんだけど、今の現状ではブルー・ティアーズしか適任なのは居ないよ。展開時のお楽しみだけどね」

 

束の説明にセシリアは感謝の言葉を述べたかったがフォルに肩を掴まれており首を横に振っていた。余計な事はしないほうがいいということなのだろう。

 

その後、作戦を練り直し、明日の朝11時決行となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでアイツ等を始末できる!アイツ等さえ倒せば名誉も私の自信も戻るんだ!」

 

千雨は作戦前に歪んだ感情を誰もいないロビーで表に出していた。

 

形成を習得し、創造一歩手前までの位階まで到達しかけている千雨は狂気に支配されていた。

 

しかし、この時に彼女は気付かなかった。神をも処刑する処刑の刃と総てを凍てつかせる地獄の冷気。

 

そして、夢を現実とする使者が現れる事に。己の原罪を力に変える悪、天使や惑星の力を受け継ぐ者たちの覚醒すら促してしまう事に。

 

 




「罪は裁くものではない」

「すべては真なるツォアルへと還らねばならぬ」

「私はすべてを断罪せしめん」



演説・明けの明星


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第十七劇 半身の喪失

「あらゆる世界の可能性が彼女達に集まる・・」

「ああ・・君達は我等に見せてくれるというのか」

「私とわが友に未知をくれると」

「感謝したい、今一度君達に」

演説・水銀の蛇


作戦行動開始時刻となり、千雨は愛機である白式・春雨を展開した状態でセシリアのブルー・プラネットの上に乗っている。

 

「私が決めてみせるから!」

 

「ええ、お願いしますわ。千雨さん」

 

ブルー・プラネット。それはブルー・ティアーズを束が改修し、生まれ変わらせたセシリアの新しいISである。

 

コアはそのままに、ボディが強襲型高機動多数戦用という形に生まれ変わり、ライフルは小型に改修された物が2丁、接近戦用のレイピアが2本、最大の特徴であるビット兵器はブルー・ティアーズの三倍の数になっている。

 

 

男性操縦者の二人、騎士団所属の三人、セシリア以外の代表候補生の三人、そして新たに専用機持ちとなった箒がISを展開し、待機する。

 

「作戦開始だ!」

 

千冬の号令と共に全員が出撃する。その中でも群を抜いているのが紅椿とブルー・プラネットだった。

 

紅椿は第3世代にまでパワーダウンさせているとはいえ、元は第4世代のISである為、他の機体に着いて来ている。しかし、操縦者の熟練度が低いためか、箒は移動中に機体に振り回される場面もあった。シャルロットとラウラのアドバイスで速度に慣れ始めている。

 

ブルー・プラネットは他のメンバーと離れないよう速度を調節しながら先頭を進んでいた。

 

束が改修した事もあってセシリアは喜んでいたが機体のピーキーさに慣れるので必死だ。速度をある程度、落としても第3世代と同等のスピードに驚愕する暇もない。

 

事実上、実戦での慣らしというセシリアにとって前代未聞の挑戦となってしまった。

 

「(なんて速度・・・箒さんを悪く言えませんわね)」

 

セシリアはあの日から特訓を欠かしたことはなかった。女尊男卑に染まっていた己を恥じ、反省した上で自分を高めようと努力を続けた。

 

シャルロットに連射タイプの銃撃を指導してもらい、ベアトリスには接近戦の要である剣術を指南してもらった。

 

その結果、ブルー・プラネットに振り回されない機体制御と冷静な判断力、ビットを操りながらの連続攻撃などを身に付けた。

 

「!!目標を確認しましたわ!」

 

「接近まで残り10秒!!すぐに決めろ!」

 

「任せて!はあああああ!!」

 

千雨が零落白夜を発動し、そのまま『銀の福音』に斬りかかる。しかし、福音は動かない、まるで攻撃を待っているかのように動かないのだ。

 

「貰ったわ!!」

 

そのまま、福音は零落白夜を受け墜落していく。

 

「呆気なかったわね、これが軍用なんて」

 

千雨はフンと悪態を付いた。この程度だったなら相手にもならないと言いたげに。

 

そんな中、男性二人を含めた騎士団所属のメンバー達は警戒を解かなかった。

 

「(バカな、曲がりなりにも軍用だ。あの程度で終わるはずがねえ!)」

 

「(いつでも全力を出せるようにしておきましょうか)」

 

「(在り来たりよね~、けどもっと嫌な感じがするわ)」

 

「(・・・簡単なハズがないわ)」

 

「(来る、必ず!)」

 

それぞれが警戒、油断などをしている最中にそれは起こった。銀の福音が水柱を上げ、飛び上がってきたのだ。

 

コクピットが解放され、パイロットの人間らしきものが落下していく。

 

「!!いけませんわ!」

 

それに気づいたセシリアは最大戦速でパイロットを救出した。生体反応はしっかりしているようで命に別状はない様子だ。

 

救出したと同時にセシリアは急いで味方の後衛の位置に戻った。パイロットを抱えていては戦闘の妨げになってしまう。

 

「Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

福音は突然、声を上げた。その声は敵対する者には容赦しないという意味も込められているようにも見えた。

 

Initium sapientiae cognitio sui ipsius.(自分自身ヲ知ル事ガ知恵ノ始まマリデアル)

 

声を上げ終えた福音から言葉が聞こえ始めた。機械音声で一定の流れで紡いでいる。

 

Fortes fortuna adjuvat.(運命ハ、強イ者ヲ助ケる)

 

Nihili est qui nihil amat.(何モ愛さナイ者ハ、何ノ値打チモ無イノダ)

 

その詠唱は福音を包み込み、羽根を黒く染めていく。ISの変化ではなく詠唱による改変だ。

 

Briah――(創造)

 

Fraktur Rot Gefallener Engel(赤き破壊の堕天使)

 

創造と確かに福音は唱えた。これは有り得ない事だ、機械が詠唱するなど全くの想定外の出来事なのだ。

 

「機械が、ISが詠唱した!?」

 

「ありえねえ、いや・・束さん曰くISのコアには意志があると言ってたからありえないことじゃねえ」

 

福音は黒に近いレーザーと通常のレーザーをその黒い羽根から広範囲に放った。

 

その攻撃に対し、全員が回避行動を取ったがレーザーは徹底的にメンバーを追尾している。

 

「!!何よこれ!!」

 

最初に驚嘆の声を上げたのは鈴だ。レーザーを双天牙月によって弾いたが弾いたはずのレーザーが拡散状態で返ってきた。拡散したレーザーの一本一本を回避しているがエネルギーは削られていく。

 

これが福音が得た力である。銀の福音のISコアは「搭乗者を守り、敵を逃したくない」という渇望を体現させた結果、創造位階を会得してしまったのだ。

 

「逃げろ!これは創造だ!!相棒やベアトリスさん達以外は太刀打ち出来ない!!早く逃げろ!!」

 

「で、でも!!」

 

サタナの促しにシャルロットが声を出そうとしたが怒号のような声が聞こえた。

 

「大馬鹿野郎!!福音のパイロットを保護してる奴が居る時点で邪魔なんだよ!とっとと撤退しろや!!」

 

声の正体はフォルだ。代表候補生達を撤退させようと声を荒らげていた。

 

「分かりましたわ!皆さん!サタナさん達にお任せして撤退しますわよ!」

 

「セシリア!?」

 

「お二人と全力で戦ったわたくしには分かります!詠唱された時点でわたくし達はただの足でまといなのです!!」

 

「ああ、セシリアの言うとおりだ!あの力に私達では勝てん!!屈辱だが今の私達に出来るのは逃げることだけだ!急いで撤退するぞ!!」

 

代表候補生達の中で人間として、創造の使い手と戦ったセシリアとラウラの二人だからこそ、創造の強さと恐ろしさを身に染みて知っている。

 

「っ!悔しいけど!私たちじゃ勝てないわ!」

 

「そんな、二人共!!」

 

「シャルロット!!撤退だ!逃げねばならん!!」

 

「嫌、嫌だよ!ラウラ離して!」

 

「いい加減になさいませ!!今のわたくし達ではかえって足を引っ張ってしまうのですよ!状況は理解出来てるでしょう!」

 

「う・・」

 

セシリアの厳しい指摘にシャルロットは気圧され、黙ってしまった。ラウラはシャルロットを支え、代表候補生組は福音のパイロット連れて撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM Dies iraeより 『Deus Vult]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代表候補生組が撤退していった後、福音が創造を発現させたこの状況において、騎士団所属組も各々の創造を使い、福音と激戦を繰り広げていた。

 

 

「ちっ!ここじゃ模倣しても意味がねえ!!」

 

「私達が行きます!行くわよ、螢!!」

 

「ええ!」

 

ベアトリスと螢が福音へと向かっていく、今のメンバーで速さに関しては創造状態のベアトリスに追いつける者はいない。螢はベアトリスに捕まることで速さを補ったのだ。

 

二人の創造は性質こそ違うものの能力に変わりはない。速さに劣る螢をベアトリスがフォローすれば問題がない。

 

「La!?Laaaaaaa!!」

 

「これで!」

 

「終わりにしてあげる!!」

 

「残念だけど、逃げられないわよ?」

 

ベアトリスと螢の刃が振り下ろされ、斬られた福音を見ていたルサルカは拷問時に使う審問椅子を福音の落下するコースへ召喚した。

 

「Lagaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

「痛いわよね~?機械でも拷問が効くなんてゾクゾクして来ちゃった」

 

審問椅子は創造によって召喚されている。さらに言えば福音は覚醒したばかりで燃料となる魂を取り込んでいない為、純粋な力の差でルサルカに劣っている。

 

「それじゃあ、楽しませてね?」

 

誰もが見惚れる笑顔でルサルカは少しずつ福音を壊し始めた。人間に対する拷問と同じように機能が停止しないギリギリのところで回線を切ったり、装甲を剥ぎ取っている。

 

これがルサルカの本性そのもの、普段は抑えているが貪欲な性欲や加虐的な事を楽しむ傾向がある。これは言うまでもなく聖遺物に引っ張られている為だが本人に自覚はなく、むしろ受け入れているのだ。

 

「楽しめたから飽きちゃった。バーイ♪」

 

笑ったままルサルカは福音のコクピットがある中心に手を突っ込み、コアを抉り出した。

 

「うわ・・・あれが人間だったらとんでもねえグロ映像だぜ」

 

「心臓を抉り出したようなものだからな・・・」

 

機体はそのまま海へと落下していき、水柱を上げて海中へと沈んでいった。

 

 

 

Irresistibil forza qui mi trascina(抵抗できない力が私をここに連れて来ている)

 

Gran Dio(偉大なる神の慈悲を)abbi pietà Perduta io son!(私は破滅であるのだから!)

 

福音の爆発に紛れて誰かが詠唱を紡いでいた。それは騎士団の誰のものでもない、力を望み、破滅であることを受け入れたような詠唱(うた)だ。

 

Pregava(祈りを!)Ah! T'allontana, pregar mi lascia!(祈りを捧げて、ああ私を独りにして欲しい)

 

Deh!Taci(黙っていて欲しい) Ch'io più non t'oda!(私はもうあなたの言葉を聞きたくない!)

 

『創造』

 

Der Allmächtige(全能の)Ausschlüsse!(黄金呪剣)

 

 

まさか、あれは・・・。

 

そこにいる全員が詠唱し、創造を発現させた相手を見つけていた。誰もが有り得ないといった顔をしている。

 

発現者は織斑千雨(・・・・)だったからだ。黄金の爪牙とも水銀とも接触がないIS学園の生徒が位階に至っている。

 

「あははははは!!これよ、これが私の望んでいた力よ!アンタ達全員、みんな殺してあげるわ!!」

 

「あの野郎、とうとうそこまで力を求めやがったか!!」

 

フォルは千雨に対して憤怒していた。自分で自分を鍛えようともせず、安易に人間を超えてしまう力を手にした事に。

 

「うるさいわよ?」

 

「何!?ぐわっ!?」

 

千雨は光以上の速さでフォルに接近し、蹴り飛ばした。魂を喰らっていないはずなのにシュライバー並の力がある。

 

彼女の渇望は『誰もが自分に勝てなくなればいい』というものだ。それによって発現した能力は『敵対した相手よりも強くなる』という格差の操作である。

 

これによって本来、格上である聖槍十三騎士団所属のメンバーを出し抜いている。

 

「相棒!おかしいぞ、創造に至ってるとはいえこんな威力は!」

 

「教えてあげるわよ、劣等種。私ね、犯されに行ったのよ」

 

「何!?」

 

「わざと誘い文句を使ってね?もちろん男に犯されるのなんてゴメンだからあ」

 

「ま、まさか!貴女!!」

 

螢は男を呼び寄せた理由を察した。自分も似たような事をしたことはある、極悪人だけを厳選して殺してきたが殺した事に変わりはない。

 

みんな切り刻んで殺したわよ?2万人程ね(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「なんですって・・・!?」

 

二万人、それは一つの町が出来る規模の数だ。それを千雨は一切の戸惑いもなく、己の糧にしたのだ。その事にベアトリスは息を呑む。

 

「男なんてISに乗れない役立たずな劣等じゃないの、そんな連中を始末して何が悪いのかしら?まぁ、私に跪くなら生かしてあげるけど」

 

「・・・・」

 

ルサルカさえも言葉を発さなかった。この女は世の中、いや世界そのものが自分の所有物かつ自分の思い通りに動くものだとしか考えていない。

 

「ざけてんじゃ・・・ねえぞ!てめえ!!」

 

「相棒!」

 

フォルは千雨に向かって叫んでいた。そのような考えがあってたまるかと、お前一人の考えだけで世界が動くものじゃないのだと。

 

「あら、生きてたのね?じゃあ・・・・・死ね」

 

「ぐはああっ!?ば・・・うぐ・・・この・・は・や・・さ・・ごぼっ!」

 

話していた位置から目で追えない速さでフォルの背後をとり、形成していた剣を背中を貫通させた。鏡花は解除され、フォルは吐血しそのまま海面と落下していった。

 

まさに一瞬の出来事で気付いたのはフォルが海中へと沈んでいった事を知らせる水の音が響いた時だった。

 

「相・・・棒?嘘・・だろ?・・・相棒・・う・・・お・・・・アアアアアああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

フォルが海中へと沈んだと同時にサタナは断末魔以上の声を上げていた。サタナとってフォルは相克の存在、つまりフォルが居ることによって自身の存在が確立され切っても切れないものなのだ。

 

「千雨えええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」

 

「サタナさん!」

 

「サタナ!!」

 

「いいわよ?兄・さ・ん?遊んであげるから」

 

「今更、妹面するなァアアアアアアアアアア!!!!」

 

形成によるバスターソードとクレイモアがぶつかり合い、火花が散る。ベアトリスとルサルカが声をかけても今のサタナには聞こえていない。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「ぐ!やるじゃないの!でも、どこまで持つ・・・!?」

 

「私が居る事も忘れないで」

 

「螢!?」

 

サタナの振るう剣を捌いたと同時に炎を纏う刀が振り下ろされてきたのを紙一重で千雨は回避していた。

 

「邪魔するな!櫻井!!コイツだけはァ!!」

 

サタナに冷静さは無くなっていた。相克の存在が居る者は相克者が倒れれば悲しみに打ちひしがれるか、もしくは殺された場合には怒りしか残らなくなる。

 

「サタナ君!!」

 

「ふふふ、よっぽど大切な親友だったのねえ!本当にいいざまよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

撤退した代表候補生組は千冬に、銀の福音のパイロットを救出した事や福音がフォル達と同じ力を使いだした事などの全てを報告していた。

 

「そうか、よくやった」

 

千冬も創造を経験した一人である。そこから逃げ出せただけでも大したものだろう。

 

「お、織斑先生!!フォル君の機体反応がロストしました・・・」

 

「何!?」

 

それを聞いた千冬は確認の為、作戦室となっている大広間に急いだ。聞こえていた代表候補生達も急ぐ。

 

「そ、そんな・・・」

 

「見ての通りだよ、反応はロストしちゃってる。映像があるから見てみよう」

 

作戦室には束がおり、報告を受けて戦闘範囲で起こった出来事を映像にて確認する為にモニターが明るくなった。

 

「ば、馬鹿な!?何故」

 

「あ、アイツ!!」

 

「こ、こんな」

 

「どうして!?」

 

「まさかと思ったが!」

 

「そ、そんな!」

 

「嘘でしょ!?」

 

「これが本当なんて信じられませんわ!」

 

映像には創造を使い、千雨がフォルを撃墜した証拠の映像が非情にも流れていた。

 

「「っ!」」

 

「どこへ行く気ですか!?箒さん!鈴さん!!」

 

「決まっている!フォルを助けに行く!!」

 

「あのバカ千雨を一発殴らないと気が済まないわ!!」

 

「何を言っている!?私達はあの力に対して太刀打ち出来ん!!返り討ちに遭うのが見えている!!」

 

ラウラは二人を止める為に声を荒らげた。自分も飛び出して行きたいのを懸命に堪え、力の差を説いた。

 

「ぐ・・・!」

 

「なら、どうすればいいのよ!私達じゃ助け出す事が出来ないなんて!」

 

「ううう」

 

シャルロットは泣き崩れ、箒と鈴も悔しそうに口を結んだ。自分達はなんて無力なのだろう、あらゆる視野を広げてくれた恩人達が倒れているのにと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM Dies iaeより『Götterdämmerung』]

 

 

 

 

 

 

「ああっ!」

 

「弱い、弱いわよ!!」

 

「くそがああああああああ!!」

 

二対一の状況で千雨はサタナと螢を追い込んでいた。追い込まれている原因は純粋に魂の総量であった。螢とサタナの二人の合計で二万に届いているからだ。

 

本来、創造の使徒同士の戦いは相手の魂の総量が上回っている時点で勝ち目は無いが、二人の総量によって戦えている状況である。

 

「これで終わりよ」

 

「櫻井!!」

 

「あ!サタナ君!!」

 

「ごぼっ・・・・く・・そ・・・」

 

螢を狙っていた一撃は虚をついていた行動であった。本当の狙いであるサタナに千雨は刃を突き立てていた。

 

「さようなら、劣等種」

 

剣戟と共にサタナも海へと落下していく。ベアトリスは螢のフォローで助けに行く事ができず、そのまま海中へと沈んでいった。

 

「あ・・・そんな・・・二人が海に」

 

二人の男性操縦者はこの場から居なくなった。その瞬間に千雨は歓喜していた、自分の手で始末したという実績が己の中に染み込んでくる。

 

「ふふ・・・あはは!ねえ!三人とも一緒に来ない?」

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

螢ははっきりとした拒絶の意思を見せていた。ベアトリスもルサルカも彼女の言葉に賛同している様子だ。

 

「あなたはやり過ぎましたよ、千雨さん」

 

「アンタは営みすら拒絶し始めたものね」

 

拒絶の意思を見せた三人は創造を発動させ、千雨と敵対する。この女は自己愛の塊と化している、ならば許すわけにはいかない。

 

「アンタ達も殺してあげるわ!」

 

「やれるものなら」

 

「やってみなさい!!」

 

「アンタにやられる程ヤワじゃないのよー!!」

 

四人の創造の使い手がぶつかり合い、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代表候補生達は自分達の機体に問いを投げかけていた、どうすれば自分達は彼らの域にたどり着けるのかと。問い続けていると突如、代表候補生達は一人、また一人と倒れてしまった。

 

呼ばれるべき世界の力を得る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・何処だ?」

 

最初に目を覚ましたのはラウラであった。自分の置かれた状況を確認する為に周りを見回した。

 

 

起き上がると自分の手が石をすり抜けていた。慌てて立ち上がるが痛みはなく、触れないだけなのを確認出来ると冷静さを取り戻した。

 

 

「ん?あれは!?シャルロット!」

 

見回した先にシャルロットが倒れていた、自分と同じ場所に来ていたのは嬉しかったが目を覚ますよう声をかけた。

 

「シャルロット!起きろ!シャルロット!!」

 

「う・・・ラウラ?」

 

「目が覚めたか」

 

「うん、でもここは?それにみんなは?」

 

「わからないな、廃墟のようだが。それに私達はこの世界には干渉できないようだ」

 

ラウラは証拠を見せようとそばにあった石を拾おうとしたがすり抜けてしまった。これによりシャルロットは慌てたが意識を覚醒させた。

 

「ISに話しかけてたらこんな世界に来ちゃったのか、あれ?場面が切り替わった?」

 

「どうやら何かを伝えようとしてるのかもしれないな」

 

「ラウラ、わかるの?」

 

「そんな気がしただけだ」

 

まるで映像のように切り替わっていく、天使と呼ばれる存在や(シン)と呼ばれる地獄と直結している者達などの戦いを見せられていく。

 

「罪・・・なぜだ?私はその言葉に強く惹かれる」

 

「僕も・・・あの天使って呼ばれてる子達から目が離せないよ」

 

二人が共鳴したのは罪と天使の力であった。しかしこれで自分達の世界の力に太刀打ちできるのかが分からないまま、次の空間へ飛ばされていく。

 

 

飛ばされていく最中、誰かが近づいて来るのが見える。その声は聞いたことのある声だった。

 

「ラウラさん!シャルロットさん!!」

 

「セシリアか!」

 

「セシリア!無事だったんだね!」

 

近づいて来たのはセシリアであった、ラウラとシャルロットは合流できた事を喜んだ。

 

「一体ここは何処なんでしょうか?」

 

「僕達にもわからないんだ。セシリアはずっとここにいたの?」

 

「ええ、目が覚めたら此処に居ましたわ。進んでも進んでも出口が見当たらなくて

 

「む、あそこを見ろ!出口のようだぞ!」

 

三人は光が漏れている場所へと歩いて行った。通り抜けると同時にヨーロッパのような街並みに出てきていた。

 

「ここ、フランスかな?」

 

「ええ、間違いなくフランスですわね、エッフェル塔がありますもの」

 

シャルロットは自分の故郷を思い出し、懐かしさを感じていた。

 

「ふ、二人共!来てくれ!!」

 

「どうしたのですか?ラウラさん」

 

「そんなに慌てて」

 

「せ、世界地図のようだが此処を見てくれ!!」

 

「え・・・これは」

 

「そ、そんな」

 

ラウラが指差した世界地図には自分たちが知っている物と何も代わりは無かった。ある一点を除いて。

 

「どうして・・」

 

「信じられませんわ・・」

 

「ああ、この地図には日本が書かれていない!(・・・・・・・・・・)




「世界の可能性・・・ああ・・・彼女達はそれを手に入れるか」

「これもまた未知」

「女神に会わせる時が来た」

「少女達よ、女神を支える礎となるがいい」


演説・水銀の蛇



追伸

流出はまだ先!先ずは代表候補生達が力を得る為に。彼女達は他のlight作品の力を借ります!


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第十八劇 支える者達

「彼女達は可能性から力を得る」

「彼らは我が女神から」

「これは未知だ」

「これを望んでいたのだよ」

「さぁ、見せてくれ」

演説・???


「どうして日本が書かれていないんだろう?」

 

「これだけじゃ情報が少なすぎますわね」

 

考察している最中、また切り替えの流れがやってきた。次に映ったのは戦闘だ。そこには軍人、市民、人造兵器の戦いが目の前で繰り広げられている。

 

「また、戦いか…」

 

「このような戦いがこの世界では行われているのですか・・・」

 

「待って、二人共・・・なにか聞こえるよ」

 

『勝利からは逃れられない。さあ、逆襲を始めましょう』

 

三人に聞こえてきた声はどこか、達観しているようで少女のような声だった。

 

「ラウラさん、シャルロットさん。この世界では英雄というのは良い意味ではなさそうです」

 

「セシリア?」

 

「もしや、この世界で何かを掴んだのか?」

 

「ええ、英雄とは、星辰体(アストラル)とは勝利とは何か、その意味を理解しましたわ」

 

セシリアはこの世界の戦いを目に焼き付けておこうと一切逸らさなかった。切り替わっていく最中、また声が聞こえた。

 

『貴女達の勝利はまだ掴めていない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、セシリアが初めに居た場所に戻っていた。三人はそれぞれ思う事があったが前を目指す事に集中した。

 

「おや?あそこに居るのは箒さんではありませんか?」

 

「本当だ!」

 

「間違いないな」

 

見知った姿を見つけたのか箒は三人に向かって駆け寄ってきた。その顔には笑顔が浮かんでいる。

 

「セシリア、シャルロット、ラウラ!みんな無事だったんだな」

 

「ええ、箒さんも無事で何よりです」

 

「でも、此処で出会ったって事は」

 

「ああ、箒と相性がよく最も引かれる世界へ行く事になるだろう」

 

ラウラの言葉の通り、また光の裂け目が現れ四人はその中を潜っていった。

 

潜った先には古い時代の日本の街並みが建っていた。時代が進んでいる筈なのに文化、風俗といったものが江戸時代で止まっているようだ。

 

「この世界は日本か」

 

「しかも古き良き時代の頃だぞ」

 

「失われつつある日本の文化ですわね」

 

「すごく賑やかだったんだ」

 

街並みの場面を見せられた後に今度は御前試合のような場面へ切り替わっていく。

 

ここでは己の臣下としてふさわしいかどうかという腕試しと試験を兼ねたものであるようだ。

 

刀と刀のぶつかり合いにセシリア、シャルロット、ラウラは魅せられていたが、箒だけは一人の女性を見ていた。彼女こそ、この試合の立案者であり総大将であった。

 

自分と同じ形に結った黒髪、力に飲まれてない理性。優雅な立ち振る舞い、自己愛が強いこの世界で他者を愛するという真っ当な感性を持っている事。

 

箒はこの時に思った。彼女こそは自分が目指している理想の姿なのだと、こうなりたいと強く願った姿だという事を。

 

場面が移り変わり、彼女は弓を持った姿で夜都賀波岐と呼ばれる天魔と戦っている。

 

三人は固唾を飲んでその戦いを見ていた。天魔の中には聞き覚えのある声をした者も居る。

 

だが、この世界の戦いは見ているだけで心苦しくなってくるのだ。戦って欲しくない、どうして戦っているのかと。

 

「もう、もうやめてぇ!」

 

「なぜだ!こんな戦いは無意味なはずなのに!!」

 

「ああ、天魔の皆様は大切な物を奪われていましたのね」

 

「手を取り合えないのか・・・憎しみはこれほど深いのか」

 

四人は泣きながら東軍の益荒男達と夜都賀波岐達の戦いを見ている。誰も居なくなった世界で抗い続けていた夜都賀波の天魔達の真実を知り、また涙を流した。

 

戦いを見せられた後、光に包まれ、また何も無い空間へ戻っていた。セシリア、シャルロット、ラウラは泣いたままだが、箒だけは先程の世界へ繋がっていた裂け目のあった場所を見つめていた。

 

「私もきっと貴女のようになってみせる!久雅竜胆鈴鹿どの」

 

箒にはまた新たな目標が出来たのだ。自分が理想とする姿を体現した人物と並べるよう己を高めようと決意を新たに待機状態である紅椿を抱きしめた。

 

 

「箒さん?」

 

「何でもない、最後に残った鈴を探そう」

 

「うん、そうだね」

 

「すぐに探さねばな」

 

箒以外のメンバーは泣き止むと鈴を探すため、歩き始めた。しばらくして大声で誰かいないのー!という声がし始めた。

 

「さっきの声」

 

「間違いなく鈴さんですわ!」

 

「うむ、行こう」

 

「鈴!こっちだぞー!」

 

箒の呼びかけにすぐさま反応し、走ってきたようで鈴は息を弾ませていた。

 

「よ、よかったあ!みんな居たのね」

 

「鈴も無事でなによりだ」

 

「不思議だよね。僕達が巡ってきた世界でみんな何かしら掴んでる」

 

「うむ、という事は鈴が力のきっかけを掴むことになるのだろうな」

 

「わたくし達はみんな助けたい一心で引き寄せ合いましたから」

 

全員が集まったと同時に空間が一気に光に包まれた。突然の事に全員は離れないように気をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何・・ここ?」

 

「何だか、聖堂みたいな感じだね」

 

「待て、あそこに日本の軍服を着ている者がいるぞ」

 

「あれは、大正時代・・・いや日本帝國軍の服だ」

 

「なんでしょう・・・ここは落ち着きませんわ」

 

目の前には男の軍人が座っている。その顔には笑みしか浮かんでいない、その笑みは邪悪さしか出ていない。

 

『ほう?盧生(ろせい)でも眷属でも無い者が邯鄲(かんたん)に至るとは』

 

「「「「「!!!!!」」」」」」

 

『驚く事があるか?ここはいわば夢の中だ。お前達は偶然にも迷い込んだのだろうよ』

 

目の前にいる男はただ愉快そうに話しかけている。笑みを崩さず彼女達に対して何かが見えているかのように。今までの世界では接触も会話も出来なかったはずが、この世界では会話が可能になっているだからだ。

 

「アンタは一体何者よ!」

 

鈴が正面から男に声をかけた。男はますます笑みを深めている、鈴が気に入ったかのように。

 

『ああ、そうだな・・・名前を知らぬのなら意味はないな。俺の名は甘粕正彦』

 

甘粕正彦と名乗った男はゆっくりと鈴へと近づいて来る。敵意も殺気もない、ただ見定めようとしているだけだ。

 

『女尊男卑に生きる世界か、阿呆よな。俺の宝が生きている時代以上に人畜の群れだらけだ』

 

甘粕正彦は目を閉じ、鈴達が生きている世界に対しての最も改善すべき部分を見抜いていた。この世界は夢である為に最高の盧生である彼は彼女達の無意識下で代表候補生達が生きる時代を見たのだろう

 

『その世界で輝きを失わない者達が目の前にいるとはな。一つお前達に聞こう、お前達はなぜ力と共に己の生きる時代に帰りたいのだ?』

 

「私達にはどうしても助けなきゃいけない奴らがいるのよ!その為には力がいる、あいつらと肩を並べられるだけの力がね」

 

鈴以外のメンバーは甘粕正彦の強大なプレッシャーにその場で立っているのがやっとだ。その中で鈴だけが唯一互角に話しかけている。

 

『そうか、ならば試練を与えねばならんな。なに、お前達が力を得たいというのであれば鍛えてやるのが老婆心というものだろう?』

 

「アンタ・・!」

 

甘粕正彦から笑みが消える。あるのは殺気だけ、それでも何故か鈴には楽しんでいるようにしか見えない。

 

『越えてみせろよ?新たな盧生(ろせい)よ』

 

甘粕と鈴は互いの獲物をぶつけ合わせ、離れた。

 

「強い!・・・でも、帰る為に負けられるかあ!!」

 

『ほう?お前も輝きを持っているか、凰鈴音。お前達の仲間達も素晴らしい』

 

「気持ち悪いのよ!アンタは!!」

 

『良いぞ!その心意気を俺は気に入っているのだ!さあ、軽い試練と行こうか?守って見せろ。このような結末は許せんだろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM 相州戦神館學園 八命陣より 『PARAISO』]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘粕が腕を空へ上げた瞬間、その眼前に一瞬で何かが造り上げられる。それを見た鈴は驚愕する。学園の授業で聞いていた第二次世界大戦において唯一、日本が受けた最強最悪の爆弾兵器。

 

『リトルボォォォイ』

 

「あんなの、どうすればいいのよ!?・・・え!?そっか!」

 

鈴は咄嗟に流れ込んできた己が知りえない知識を組み合わせ、対抗手段を造り出していく。この世界は夢、ならば自分も現在、過去、未来の知識を引っ張り出せるはずだと信じた。

 

「原子爆弾なら原子炉に閉じ込めれば良いのよ!!」

 

鈴が造り出した原子炉へリトルボーイは落下していった。だが、それでもほんの少しの差で遅れが出ていた為に爆発の反動により聖堂が崩壊した。

 

鈴以外のメンバー達は衝撃に目を瞑ったが、戦いに干渉できない代わり、この世界の驚異から守られているかのように全員無傷であった。

 

「ぐうう!なるほど・・ね、これは私自身、何かを掴む為の場所!」

 

鈴はISを展開し、自分が友好を結んだ人達や愛機を思い浮かべる。培ってきた絆こそが私の最大の武器なのだと。

 

「来て!サタナ!私に力を貸して!!」

 

サタナが得意とする斬撃の衝撃波、それを鈴は甘粕へ向けて放つ。その一撃は甘粕を吹き飛ばしながら一筋の傷を負わせた。

 

『いいぞ?ならばこれはどうだ?』

 

傷を負いながらも甘粕は再び腕を上げる。鈴は共有によって最悪の兵器にも対応する。

 

『ツァーリ・ボンバァァ』

 

またもや原子爆弾とは言えない。先程無効化したリトルボーイの数千倍の威力を持つものだ。これを防ぐ方法が見つからない。だが、思い立つ。撃たれる前に停止させ、爆発させなければいい。

 

「止めて!ラウラァァ!!」

 

ISだけの出力ならアレは止められない。しかし盧生(ろせい)としての力を使いこなし始めている鈴はIS以上の出力を出していた。

 

ツァーリ・ボンバは完全停止し不発弾となって爆発しなかった。作られた爆弾(ゆめ)は形を崩していく。

 

「あがっ!?」

 

停止の隙をついた甘粕の一撃が鈴へと炸裂する。横薙ぎの攻撃を受けた鈴は肋骨が二、三本折られる。

 

「なめ・・るなぁ!!」

 

その瞬間、甘粕正彦に連続して銃弾が雨のように襲ってくる。避けようにも避けられず、その攻撃を受けてしまう。

 

鈴はラウラの夢を使い、ツァーリ・ボンバを停止させると同時にシャルロットの夢へと切り替え、弾幕を展開していた。

 

『ぬ、ぐう・・・ふふ、これが貴様の力という訳か』

 

銃弾をいくつも受けたにも関わらず、甘粕は笑っていた。その目には美しく愛しいモノを見ているかのようだ。

 

『では、俺からのこの瞬間の最後の試練だ。乗り越えてみせろ!』

 

甘粕は三度、腕を空へと上げる。作られたのは原子爆弾などではない、kinetic energy penetratorの完成形であり、超高度の衛星軌道から発射される神の杖。

 

『ロッズ・フロム・ゴォォォッド』

 

宇宙から放たれている純粋な質量の弾丸、常識的にこれを防ぐ手段はない。

 

「行くわよ!!箒!!」

 

双天牙月を持ち、神の杖へと向かっていく。箒の力は成長だ。神の杖を壊すという目標が鈴に力を与え、届かせてくれる。

 

「うあ・・・・ぐうううううう!!こんな・・・の、必要ないわよぉ!!」

 

目標に辿り着き、双天牙月で神の杖を両断した。その瞬間に放たれていた質量の弾丸は止まり、鈴は甘粕へ向かっていった。

 

甘粕はその一撃を受け止めると、自分を負かしたある男と鈴を重ねていた。

 

『時間が無い中で考えられる試練を与えたつもりだったが、全て乗り越えられてしまうとはな』

 

「何を・・・ッ!?」

 

鈴達は自分の身体が薄くなっているのに気付いた。あと少しでこの男を殴れると思った矢先に。

 

『ああ、俺も残念だよ。まだまだ試練を出してやりたかったのだがな』

 

「アンタの試練は二度と御免よ」

 

そう言い残し、代表候補生全員が光の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう・・あれ?ここって」

 

最初に目覚めたのは鈴だ、場所は旅館の一室のようだ。おそらくは救護室の代わりなのだろう。

 

起き上がると他の代表候補生達も横になっている。

 

「みんな!起きて!早く!」

 

鈴の声に箒、セシリア、シャルロット、ラウラが目を覚ました。彼女達は身体を起こして頭を軽く振る。

 

「夢だったのか?」

 

「それにしては現実味がありすぎるよ!」

 

「そうだな・・・あの時に感じたものは本物だった」

 

「わたくし達はあの世界廻りで何かを掴んだ気がしますわ」

 

それぞれが得たものはまさしく本物だ。しかし力を得たのか?自分達は本当に変われたのだろうかなどの疑問が浮かんでいた。

 

「まずは織斑先生の所へ行きましょう。現状把握しなければなりませんわ」

 

「ああ、その意見には賛成だ」

 

それぞれが頷き、大広間へと向かった。襖を開くと千冬、束、真耶が驚いた様子で近づいてきた。

 

「お前達、目が覚めたのか?」

 

「いきなり倒れたからびっくりしたんだよ!?」

 

「ええ、本当ですよ!」

 

それぞれが心配して声をかけていたが代表候補生達は今何が起きているのかを聞こうと声をかけた。

 

「今現在の状況は?」

 

「キルヒアイゼン、シュヴェーゲリン、櫻井が千雨を押さえているがそれも危うい」

 

「やはり、追い込まれているのですね」

 

「予想だけどアイツは多分、あの力で学園を支配するつもりね」

 

「そんな事、させる訳にはいかんな」

 

「うん、行こう!」

 

代表候補生達は全員が出撃しようと振り返り、部屋を出ようとした。

 

「待て!勝手な行動は!!」

 

「織斑先生。貴女には今、力は無いですよね?今ここで千雨を止めないと今以上にひどいことになります」

 

「・・・っ」

 

鈴の言葉に千冬は押し黙ってしまった。今の自分は生徒達を戦場へ駆り立てているだけの立場だ。

 

「罰則でもなんでも与えてください。それでもわたくし達は行きますわ」

 

セシリアの言葉を皮切りに代表候補生達は部屋から出撃の為、出て行った。

 

「皆さん、行ってしまいましたね・・・」

 

真耶の言葉は誰も聞いていなかったのように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘域では騎士団所属の三人と織斑千雨が戦い続けていた。戦力的には三人が有利なはずだが千雨の創造の能力と魂の総量によって拮抗している。

 

「このくらいじゃあ、私に届かないわよ?」

 

千雨は螢の斬撃を受け流し、ルサルカが召喚した拷問器具を斬り払い、ベアトリスを接近戦で距離を取らせないよう攻撃し続けている。

 

「くっ・・!流される!」

 

「ダメージはないけど、切り払われてちゃ意味がないわね!」

 

「二人のフォローに行けない!」

 

「行かせるわけ無いでしょ?アンタが一番厄介なんだから!!」

 

千雨は元々、要領がよく天性の戦闘センスが高いのだ。多数戦においても最初に倒すべきなのが誰なのかも無意識に理解している。

 

「ベアトリスさん、貴女さえ倒せば私の勝ちよ!」

 

「っ!」

 

この戦いにおいて、創造だけの戦闘ならベアトリスが優位となるが、ISによる戦闘では千雨に優位がある。

 

更にはISが枷になっているという不利な状況で、ベアトリスは戦っている。千雨も創造を発動した時点で枷になるはずだが、それをセンスで補い、普段と変わらない動きを可能にしている。

 

 

「(フォル君、サタナ君!私達は信じてるから!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・?俺は確か織斑千雨にやられて」

 

目を覚ましたフォルが居るところは黄昏の海原であった。そこには海だけが広がっており、何も無い。フォルは出口を探そうと歩き始めた。

 

しばらく歩いていた矢先、歌声が聞こえてきた。歌の内容は上手く聞こえないが歌声は幼くも優しいものだった。

 

「ありゃあ、誰だ?」

 

歌っているのはふっくらな体型に、ウェーブがかった金髪を腰まで延ばしている女の子だ。おまけに首には何かの切り傷のような跡がある。

 

歌い終えると女の子はこちらに気づき、近づいて来る。

 

「貴方は誰ですか?」

 

「俺はフォル=ネウス・シュミットってんだ。君は?」

 

「私はマルグリット。マルグリット・ブルイユ」

 

「な!?」

 

フォルはその名前を聞いて心底驚愕した。聖槍十三騎士団が守護する黄昏の女神が自分の目の前にいるのだから。

 

「フォルネウス、貴方と似た人が向こうで倒れてるよ」

 

「なんだって!?まさか?」

 

マルグリットが指差した先にはサタナがうつ伏せで倒れており、フォルは急いで駆けつけ声をかけた。

 

「おい!しっかりしろよ!」

 

「う・・相棒・・か?」

 

「ああ、どうやら俺達はとんでもないところに来ちまったようだぜ?」

 

「どこなんだよ?一体」

 

「百聞は一見に如かず、だ。着いてこいよ」

 

フォルはサタナに手を差し出し、掴んだのを確認すると立ち上がらせた。

 

マルグリットは近くにあった岩場に腰掛けていた。二人を見つけると嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「相棒、この子は一体誰だ?」

 

「この子が俺達聖槍十三騎士団が守護する存在、黄昏の女神。マルグリット・ブルイユだよ」

 

「なんだって!?この子が?」

 

「うん、よろしくね?」

 

サタナはマジマジとマルグリットを見ていた。フォルと同じように信じることが出来ていなかったのだ。

 

「あんまりマリィをいじめないでくれるか?お前達が信じられないのも無理はないがな」

 

「!!!!!」

 

「え?」

 

フォルは驚き、サタナは呆気にとられた。振り返るとそこには自分達変わらない年齢の青年がいた。

 

顔つきと声が副首領であるメルクリウスにそっくりだが、性格はまるで正反対だ。

 

「アンタは誰だ?」

 

「そうだ、一体アンタは誰なんだ?」

 

「名乗りは質問した方からじゃないのか?」

 

青年の言葉に言葉を濁しながら、サタナとフォルは口を開いた。

 

「それもそうか、俺はフォル=ネウス・シュミットだ」

 

「俺はサタナ=キア・ゲルリッツだ」

 

「フォルにサタナか、わかりやすいな。んじゃ改めて自己紹介するか、俺は藤井蓮。マリィの守護者だ」

 

フォルはこの人がそうか、といった様子だった。かつて夢の中で双首領とこの藤井蓮がぶつかりあったのを見ていたからだ。

 

「お前達も使える訳か、しかも流出位階手前まで来てる」

 

蓮はフォルとサタナの状態を見抜き、厳しい目つきで二人を睨んでいた。

 

流出は新たな神の出現であり、その域に達した場合「座」を奪われる危険性が高いのだ。

 

世界に色を塗ることが出来るのは一人だけ、その為に守護者は存在している。

 

「お前たちに聞きたい、流出に至ったらどうするつもりだ?「座」を奪うと言うならこの場でお前達を処断しなくちゃならないんでな」

 

フォルは少し息を吐き、サタナは深呼吸して蓮を見た。

 

「俺は「座」に興味はねえよ。女神を守護すると誓った身だからな」

 

「俺も相棒と同じで「座」に興味は無い、理由も同じだ」

 

「そうか、それとサタナとか言ったか?マリィが呼んでるから行ってこい」

 

「え?わ、わかった」

 

サタナが居なくなるのを確認すると蓮はフォルに近づいていく。その目には真剣さが宿っており何かを伝えようとしている。

 

「フォルとか言ったな?お前、創造を模倣するんだって?」

 

「!それを誰から聞いた!?」

 

「メルクリウスって言えばわかるか?」

 

「あの野郎・・・」

 

蓮もやっぱりなと言いたげだ。フォルの様子を見てコイツも苦労しているのだと悟ったのだ。

 

「で、話を戻すけどお前、俺の創造を模倣しろ」

 

「な!?アンタの創造を?」

 

「ああ、じゃなきゃお前は勝てないし、流出にも至れないんだよ」

 

「それにIS・・・だっけか?その意志も此処で形を成してる」

 

「は?」

 

「とにかく今は模倣のきっかけを作ってやる。俺の意志の欠片を与えてそれでものにしろ」

 

そういって蓮はフォルの頭を掴み、己の意志の欠片を流し込むと同時に使ってきた創造の記憶を映像として見せた。

 

「こ、コイツはすごい創造だな」

 

「お前、ラインハルトの配下なんだろ?これくらいで驚く事か?」

 

「仕方ねえだろ?大規模な戦いなんて参加した事ねえんだから」

 

「まるで司狼みたいな奴だな、ともかくこれで俺の役目は果たした。後はお前のISと話をつけろよ」

 

そういって連はマリィのいた岩場へと歩いて行った。呆然としていると、一人の着物を来た黒髪の女性が歩いてきた。

 

「・・・お前、まさか?鏡花なのか?」

 

「はい、ようやく追いつけました。我がマスター」

 

「お前には負荷ばっかりかけちまってたな」

 

「いいえ、マスターがよく言ってるじゃありませんか」

 

「ああ、忘れてたな。確かに口癖のように言ってたあの言葉を」

 

「「最後に勝ちを狙って何が悪い!!」」

 

「私はマスターと共にどこまでも飛びます、どのような力を得てもマスターはマスターです。その為に私は全身全霊で貴方を支えます」

 

「ありがとよ、鏡花」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、俺に何の話が?」

 

「うん、サタナにはずっと守ってくれてる存在がいたの」

 

「?誰だそれ?」

 

「そこにいるよ」

 

マリィが指差した大きな岩の陰に一人の女の子が背を着けて立っていた。鎧を身に付け、剣を携えている姿はまさに騎士といっても過言ではない。

 

「もしかして、剣戟なのか?」

 

「ああ、ようやく追いついて話ができるようになった」

 

「そうか」

 

「無茶してるな?私だって持たなかったんだぞ?」

 

「すまない、相棒がやられてどうしても」

 

「許せないというのは大事な事だ、悪くはない」

 

「剣戟、また一緒に戦ってくれるか?」

 

「今更だな、貴様が神になろうが消滅しようがずっとお前と歩んでやる」

 

「ああ、ありがとう剣戟」

 

 

蓮とマリィは二人の様子を見て笑みを浮かべていた。たとえ神になろうと女神を守る誓いを立ててくれたからだ。

 

サタナに合流したフォルは女神に一礼した。ISとの対話を実現することが出来たからだ。

 

「この事をお前達は覚えていない事になる、それでもお前達が大切に思う宝石を守れ」

 

「私は二人を見守っているからね、希望を捨てないで」

 

「ああ」

 

「それじゃ」

 

二人は特異点から去っていった。女神と刹那は二人の戦いに勝利を掴み取ることを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・ここは海底か、相棒先に行くぜ。俺は女神を守る黄金の爪牙であり、剣だ!!」

 

 

Euch werde Lohn in bessern Welten(この世界でお前に報いがある)

 

 

Der Himmel hat euch mir geschickt(天はそなた達を私に遣わし)

 

 

O Dank!Ihr habt mich süss erquickt(その優しさに感謝を込めて)

 

 

Die hehre bange Stunde winkt,(不安な時が訪れよう) Die Tod mir oder Rettung bringt.(それは死なのか 救いなのか)

 

Und kann er helfen(そして救おう) hilft er gern(自ら喜んで救える者を)

 

 

Atziluth――(流出)

 

 

Twilight Der Wächter(黄昏の守護者)

 

 

サタナの位階がさらに上がり、ついに流出へと至った。しかしサタナの中で自分の法によって世界を塗り替えることは考えていなかった。すなわち「座」へと向かい、神になるのを拒んだ事になる。

 

[斬首台のように全て刈り取る刃になりたい]という渇望と[仲間を支えたい]という願いにより発現したのは[力の底上げ]である。

 

これは「座」の容量にすら干渉できるものであり、女神が持つ覇道共存の容量さえも増やせる力。すなわち神専用の外付けハードディスクのようなものだ、これには守護者として守るべき神がいなければならない。

 

神が神を支えるというあまりにおかしな事態であるが、これこそがサタナの流出。目覚めた力の答えなのだ。




「ああ・・・とうとう出会ったか」

「模倣者よ、竜剣よ」

「今の私は恋する乙女のように心躍っている」

「新たな未知を見れたのだから」

「さぁ、見せておくれ、至高の未知を」

演説・水銀の蛇


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第十九劇 涅槃寂静 終曲

血 血 血 血が欲しい

ギロチンに注ごう 飲み物を

ギロチンの渇きを癒すため・・・

欲しいのは 血 血 血


歌・黄昏の女神


[推奨BGM Dies iraeより『Thrud Walkure』]

 

 

 

 

 

 

 

 

千雨と騎士団メンバーの戦いは千雨へと優勢が傾いていた。螢、ルサルカの体力は限界に達し、ベアトリスはISのエネルギーが尽きかけていた。

 

「いい加減に倒れろおおおお!!」

 

「っう!」

 

ベアトリスは千雨からの攻撃を捌き続けていた。剣術においてはベアトリスの経験が優っている。

 

「私だって負けず嫌いですからね!おまけに妹の前で倒れるわけにはいかないんです!」

 

「どうして、追い込んでるのは私のはずなのに!!」

 

「『戦場を照らす閃光になりたい』それが私の渇望、後輩達が迷わないよう行き先を指し示す閃光になりたい!」

 

ベアトリスは無意識に自分の決意を口にしていた、それは死すら覚悟したという事である。

 

「笑っちゃうわ!みんな私に従ってればいいのに」

 

「ふざけないで!お姉ちゃんを殺させはしないわ!!」

 

螢はベアトリスを馬鹿にされた怒りで、千雨に突撃し、得意の斬撃を繰り出すが防がれてしまう。

 

「私は絶対に認めない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ああ、サタナは向かったのか。かなり遠い場所に居たもんな、ちょうど真上で戦ってやがる。俺も行くか)」

 

 

フォルは意識を覚醒させ、新たな創造を模倣する。時間が止まればいいと、今が永遠に続いて欲しいと、この日常が終わって欲しくない、いつかは終わってしまうと分かっていても、愛しい刹那が永遠にあって欲しいと願い、神へと至った青年の渇望を己と同化させる。

 

「もう、これ以上、俺の大切な刹那(モノ)を壊させはしない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりよ!ベアトリス!!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

千雨の刃がベアトリスへと襲いかかった。それは確実に必殺の一撃で回避する事は不可能であった。

 

 

 

 

 

 

「ATEH MALKUTH VE-GEBURAH VE-GEDULAH LE-OLAM AMEN」

BEFORE ME FLAMES THE PENTAGRAM(我が前に五芒星は燃え上がり)

 

BEHIND ME SHINES THE SIX-RAYED SATER(我が後ろに六芒星が輝きたり)

 

ATEH MALKUTH VE-GEBURAH(されば神意をもって)

 

VE-GEDULAH LE-OLAM(此処に主の聖印を顕現せしめん)

 

その詠唱は歌声のように紡がれている。しかし、騎士団達が使う詠唱とは全くかけ離れておりこの世界では神域に近いものだ。

 

「アクセス、マスター!!モード“エノク”より、サハリエル実行!!」

 

その詠唱の力が解放され、黄金の鎖が千雨へと向かい束縛した。

 

「ぐっ!?何よ!この鎖は!?」

 

「よかった!間に合ったみたいだね!」

 

「シャ、シャルロットさん!?」

 

千雨を束縛した鎖を使っている詠唱者の正体はシャルロットだった。愛機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムIIのスラスターには、天使を思わせるようなエネルギーの翼が形成されている。

 

「ギリギリだったか!」

 

「よかったわ、三人とも無事で!」

 

「三人は早く補給へ戻ってくれ!!」

 

「ここはわたくし達が引き止めますわ!」

 

 

シャルロットは皮切りにラウラ、鈴、箒、セシリアの四人も次々と合流し、騎士団メンバーを守るように自分たちの後ろへ待機させた。

 

 

「で、でも」

 

「一時撤退よ、このままじゃエネルギーが足りないわ」

 

「お姉ちゃん、今は任せよう?後から戻ってくれば大丈夫だから」

 

「っ!四人とも、お願いしますね!」

 

ベアトリスはルサルカを支え、螢はベアトリスを支えて自分達の機体のバーニアを全開にし、補給へと戻っていった。

 

「うあああああああ!!」

 

千雨は手にしたクレイモアで黄金の鎖を断ち切り、その身を開放した。その目には怒りが宿っている。

 

「邪魔をするの?・・・貴女達まで」

 

「今のアンタは好きになれないのよ」

 

「フォルさん、サタナさんを撃墜して、ベアトリスさん達まで殺そうとしたのですから」

 

「撃墜してでもお前を止める」

 

「危険だよ、今の千雨は」

 

四人の言葉を聞いた瞬間、千雨は突撃し斬りかかってくるが四人はそれぞれ散開して回避した。

 

「思い通りにならないなら、みんな消えろォォォ!!」

 

子供の癇癪のように箒へと向かい、斬りかかり箒はそれを雨月で受け止めた。

 

「私が一番技量が低い事を知った上での攻撃か!」

 

「そうよォ!一番弱い奴を狙うのは基本じゃないの!!」

 

箒が千雨と刀でぶつかり合っている最中、ラウラは眼帯を外し己が最も共鳴した力を紡ぐ詠唱を口にした。

 

「アクセス、我が(シン)。ザヘル・アヴォン・アヴォタヴ・エル・アドナイ・ヴェハタット・イモー・アルティマフ!!イフユー・ネゲッド・アドナイ・タミード・ヴェヤフレット・メエレツ・ズィフラム」

 

「おお、グロオリア。我らいざ征き征きて王冠の座へ駆け上がり、愚昧な神を引きずり下ろさん。堕ちろ。堕ちろ。堕ちろ。堕ちろ!!Fuck off foolish God!!」

 

ラウラが最も共鳴した力、それは原初の罪と呼ばれる黒き力。力を欲した己が罪を力に変えたいという思いが共鳴に至ったのだろう。彼女自身は原初の罪という他に惑星の祝福を受けている事にも気づいていない。

 

「主が彼の父祖の悪をお忘れにならぬよう。母の罪も消されることのないよう

その悪と罪は常に主の御前に留められ、その名は地上から断たれるように」

 

「彼は慈しみの業を行うことを心に留めず、貧しく乏しい人々、心の挫けた人々を死に追いやった」

 

「彼は呪うことを好んだのだから、呪いは彼自身に返るように。祝福することを望まなかったのだから、祝福は彼を遠ざかるように」

 

「呪いを衣として身に纏え。呪いが水ように腑へ、油のように骨髄へ、纏いし呪いは、汝を縊る帯となれ。ゾット・ペウラット・ソテナイ・メエット・アドナイ・ヴェハドヴェリーム・ラア・アル・ナフシー!レェェスト・イィィン!!」

 

詠唱後にラウラはシュヴァルツェア・レーゲンに装備されている大口径レールカノン

を使い、放ったのは罪そのものを帯びた黒い光球だった。

 

「!!」

 

「くらう訳にいかないわ!」

 

紙一重で箒と千雨は同時に避けたが、着弾した海上はまるで抉り取られたかのようにクレーターができ、海水がそれを覆い隠した。

 

「っ・・これほどの威力とは!原初の罪とは制御できないものなのだな」

 

発射した反動と共に自分がどれだけ強力な力を得たのかを改めて認識したラウラはレールガンとベルゼバブの光球を交互に撃ち、牽制し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事!?福音が居た時まではこんな力はなかったはずなのに!!」

 

「力を得たのはお二人だけではありません!千雨さん、今の貴女は女性の英雄でしょう。それなら、わたくしは貴女に反逆しますわ!」

 

「まさか、セシリアも!?」

 

千雨が距離を開けた先にはセシリアがレイピアを両手に持ち、構えてしていた。

 

 

 

「天墜せよ我が守護星、鋼の冥星(ならく)で終滅させろ」

 

セシリアが紡ぎ始めるその詠唱は惑星の輝きを覆い隠す冥王の影。敗者が英雄へと反逆するという敗者が掲げる狼煙。

 

 

「毒蛇に愛を奪われて、悲哀の雫が頬を伝う。眩きかつての幸福は闇の底へと消え去った」

 

 

「ああ、雄弁なる伝令神(ヘルメス)よ。彼女の下へどうか我が身を導いてくれ。蒼褪めて血の通わぬ死人の躯であろうとも、想いは何も色あせていないのだ」

 

 

「嘆きの琴と、慟哭さけびの詩を、涙と共に奏でよう。死神さえも魅了して吟遊詩人は黄泉を降る」

 

 

「だから願う、愛しい人よ。どうか過去(うしろ)を振り向いて」

 

「光で焼き尽くされぬよう優しく無明へ沈めてほしい。煌く思い出は、決して嘘ではないのだから」

 

「ならばこそ、呪えよ冥王。目覚めの時は訪れた。怨みの叫びよ、天へ轟け。輝く銀河を喰らうのだ」

 

 

「これが、我らの逆襲劇(ヴェンデッタ)

 

 

 

超新星(Metalnova) 闇の竪琴(H o w l i n g)謳い上げるは冥界賛歌(S p h e r e r a s e r)!」

 

 

 

それは本来、民に恩恵をもたらし、英雄を生み出した別世界の力であり星を消滅させる力。セシリアは英雄を生み出す恩恵そのものを無効化する反逆の蒼黒い輝きを得ている。

 

この世界においては強者へ対する逆襲の力となっており、相手が強者であろうとすればするほどにセシリアは力を増すのだ。

 

惑星の力を発現したブルー・プラネットの背後にはセシリアを守るように金髪の女性が立っていた。どこかセシリアに似ており、気品と優しさ溢れる顔でセシリアを見守っているようにも見える。

 

「今度はわたくしが相手でしてよ!千雨さん!!」

 

「付け焼刃の剣術で私に勝てるかぁ!!」

 

剣術で自分に勝てるものはいない。そう自負している千雨は驚愕した。接近戦を苦手とするはずのセシリアが剣術で渡り合ってきている。

 

「どうして!?私の方が強いはずなのに!?」

 

「わたくしは敗者ですわ・・・それでも強者に逆襲する事を決意したのです!!」

 

「っ!剣がぶつかる度に力が抜ける!?」

 

「この冥王星の力は強者に対して力を削いでいくのですわ!」

 

セシリアの言葉を聞いたと同時に千雨は後退する。力を削がれては直感的に危険だと悟り、セシリアから距離を取ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃がすと思ってんの?千雨!」

 

「鈴!?」

 

「アンタを一発殴らなきゃ気が済まないのよ!最初から飛ばしていくわよ!」

 

鈴は武装を展開せず、次々に印を結んでいく。それは力を得る為にある男の試練を乗り越えた時と同じように。

 

本来、鈴が得た力は激戦を繰り広げた夢界でしか使う事が出来ない。しかし、後押ししてくれる何かが邯鄲の夢を現実で必要だと感じるこの時に使うことができる。

 

「私はね、空想上の生物だけど四神が大好きなのよ。その他の四霊もね?」

 

「それがどうしたのよ!」

 

「終段・顕象!!」

 

「左青龍避万兵、右白虎避不祥、前朱雀避口舌、後玄武避万鬼!!四神四霊!」

 

「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」

 

「青龍・白虎・朱雀・玄武・応龍・麒麟・霊亀・鳳凰!」

 

鈴が思い描いたのは四神及び四霊を使役する事ではなく、協同することだ。今まで出会った友人、仲間、そして自分の乗機である甲龍との絆を四神と四霊に置き換えることで自分は仲間や想い人によって支えられ、それが己自身の力だと気付いた。

 

「伝説上の生物を呼ぶなんて生意気なのよォ!!」

 

応龍(インロン)!フォル!私にあいつを殴らせて!!」

 

鈴がフォルを応龍と置き換えているのは人間としての自分を犠牲にし、人間外の存在になっている事に起因する。

 

鈴がフォルから見出した力は『鏡面』であった。模倣するという点に注目していた鈴は彼には洞察力と観察力があるのではと考えていた。

 

「鏡ならアンタへの攻撃が逆方向へ返るでしょ!!」

 

「あぐっ!?私の攻撃の逆方向から攻撃が!」

 

鈴の手に武器は無い。ただISを展開している状態のままであり、その拳で殴っただけだ。

 

「どいつもこいつも!!私を舐めるな!!」

 

次に狙いを定めたのは力の制御が出来ていないラウラだ。原罪の力は他の力と違い、清い物ではなく、むしろ忌み嫌う類のものだろう。忌み嫌っていようとも己自身が認めない限り制御は出来ない。

 

「ラウラ!!」

 

「貰ったわ!落ちろォ!!」

 

「なっ!?」

 

千雨の剣が目前へと迫り、ラウラは死を覚悟した。急速な斬撃に防御も回避も不可能ゆえ抵抗することが出来ない。

 

 

「させん!!天魔覆滅!」

 

「うあ!?ほ・・・箒!?アンタ!!」

 

 

千雨を捉えたのは刀の鋒を模した黄金の光だ。撃ったのは紅椿を駆り、その手にはもう一つの武装である雨月で剣の刺突の動作をしたのだと一目でわかる。

 

「私の仲間を傷つけさせない!」

 

箒の目には明らかに見て取れるほどの怒りが宿っていた。信じていたからでもない、幼なじみであるからでもない、一人の人間として許せないといった感情が湧き上がっている。

 

箒が別世界で得た力。天魔覆滅は相手の弱体化と特攻を持つ一撃を放つ力である。しかし、今の箒には未だ足りない資質があるため本来の威力まで至ってはいなかった。

 

「一番弱小の癖に歯向かうなぁ!!」

 

「く!私は確かに弱い!それでも私は先へと成長していくと決めたんだ!!」

 

千雨の攻撃を受け返し始めるが、箒が訓練してきたのは剣術ではなく剣道であるために柔軟な動きと発想ができず、追い詰められていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合ってくれよ!」

 

ISのスラスターを最大出力で代表候補生達の元へ向かっているのはサタナだった。彼は千雨に剣を突き立てられたと同時に吹き飛ばされ、かなりの距離を離れていたのだ。

 

「相棒・・・起きててくれよ!」

 

サタナは相克の存在を思い浮かべながら先へ先へと進んでいった。剣戟は二次移行を果たしており、剣戟・後光という名に変わっている。

 

流出位階となり、理を流れ出しているがサタナは「座」へと至るつもりはないと自ら神域闘争から降りた。

 

 

神になろうとも自分は自分、爪牙であり女神を守る守護者。その決意を胸に仲間のもとへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代表候補生達は千雨を追い詰めていた。原初の罪、天魔を滅する光、邯鄲の夢、天使の御技、星を滅する黒い惑星。その全てが千雨に襲いかかっていたからだ。

 

「はぁ・・はぁ・・負けない!負けたくない!!私の願いを叶えろ!!聖遺物!!」

 

千雨が聖遺物に願いを願った瞬間、千雨は光に包まれその額には天眼のような紋様が現れていた。

 

「塵芥共が・・・私以外消えてなくなれ」

 

さっきまでの子供のような癇癪が無くなり、明確な殺意だけが千雨から放たれている。だが、それ以上に自己愛が極端に強くなり、己自身しか知覚出来ていない。

 

 

あらゆる可能性の世界からの力を得た代表候補生達であったが、その弊害が千雨の力となって現れてしまった。

 

その力の正体に真っ先に気付いたのは箒だった。その影響で箒は歯をガチガチと鳴らし、その顔は恐怖で歪んでいた。

 

「どうしたの!?箒」

 

「あれは・・あれだけはダメだ・・あれだけは・・」

 

「しっかりなさいませ!」

 

箒は顔色を青くし、何かに怯えるように震え続けている。その正体が分からないシャルロット達は混乱していた。

 

「滅尽滅相ォォ!!!」

 

「「「「「きゃああああああああ!!」」」」」

 

咆哮を上げるような声で叫び、代表候補生達は発生した衝撃波でISのエネルギーを大幅に削られ、力を削がれた。

 

「このままじゃ・・」

 

「塵芥同士は塵芥同士喰らいあって消えろォォォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(身体・・・動かねえのかよ・・・)」

 

「[情けないぞ?許可してやるから早くお前の宝石達を助けろ。魂に関してはギリギリだが耐えられるはずだ]」

 

 

フォルは懐中で自分の内にある声と会話していた。その声の主は藤井蓮、永遠の刹那とも言われる覇道の神であり、黄昏の女神を護る守護者の一人。

 

 

「(アンタは・・・ああ、そうか)」

 

「[刹那を愛するなら使えるだろ?それに邪神の残滓が来てるぞ]」

 

「(分かってる、アイツ等を失ってたまるか。奴は倒す!)」

 

 

「(・・・行きますよ!マスター!)」

 

ISの意志である鏡花自身も己の身体の変化に気づいていない。その翼が断頭台の刃となり、処刑の器具の一部となっている事に。

 

 

 

『わたしが、全部包むから』

 

 

女神の声が聞こえたフォルは無償の愛を感じていた。成長し親類全てからは感じられなかった大きく包み込む愛、それこそが女神の抱擁だ。即ち、神の恩恵を受け、更なる高みへ昇ることが出来るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千雨が代表候補生達を手にかけようとした、その瞬間に海面から水柱が昇る。水柱が海面へと戻り、そこから現れたのは人の形をした黒い異形の姿。頭髪、目は鮮血のように赤く、肌は黒炭のように黒く、背中には赤と黒に変わったISのスラスターらしき部分が刃のように変わり、更にはカドゥケウスのような紋様が左右の腕に浮かび上がっている。

 

 

「!?また塵芥が増えたの?」

 

 

「『時よ、止まれ――お前は美しい』」

 

 

その黒い異形は周りを分かっている様子はなく、詠唱を始めた。その詠唱は刹那を愛し、全てを停止させる理を持った地獄の主の力。

 

Die Sonne toent nach alter Weise(日は古より)In Brudersphaeren Wettgesang.(変わらず星と競い)

 

 

Und ihre vorgeschriebne Reise(定められた道を)Vollendet sie mit Donnergang.(雷鳴のごとく疾走する)

 

 

 

 

Und schnell(そして速く)und begreiflich schnell

(何より速く)

 

 

詠唱に込められたものは優しさも慈しみも愛も無い。ただどこまでも続く憎悪と殺意を込めて唱われる憤怒の独唱。

 

 

In ewig schnellem Sphaerenlauf.(永劫の円環を駆け抜けよう)

 

 

Da flammt ein blitzendes Verheeren(光となって破壊しろ ) Dem Pfade vor des Donnerschlags.(その一撃で燃やし尽くせ)

 

 

女神の抱擁、永遠の刹那による承認という形で模倣し、人間という殻を破ることで自らを変化させていく。

 

敵対する者の視点からすれば存在する全てを巻き込む最悪の異世界。

 

 

Da keiner dich ergruenden mag,(そは誰も知らず 届かぬ) Und alle deinen hohen Werke(至高の創造)

 

 

Sind herrlich wie am ersten Tag.(我が渇望こそが原初の荘厳 )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Briah――(創造)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄には二つの最も大きなイメージがある。熱量により焼き尽くす炎のイメージ、もう一つが万象のあらゆるもの全てを氷結させる氷のイメージだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Eine Faust(涅槃寂静)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォルが模倣したのは氷の地獄。存在する全てを凍てつかせ、凍結させる停止の世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Finale(終曲)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおォォォ!!!!!」

 

 

発現と同時に鏡に映った氷結地獄を支配する仮の主が血涙を流しながら咆哮する。その雄叫びによって代表候補生達は黒い異形の正体に気付いた。

 

「あれは・・」

 

「間違いない、あの声は」

 

「フォル君・・・だよね?」

 

「ええ、確かにフォルさんですわ!ですが・・・」

 

「なんなのよ、あの姿・・・怖い」

 

 

それぞれがフォルが無事であったことを安堵する以上に恐怖を抱いた。今の彼には人間としての光が無いからだ。それぞれが思考している刹那にフォルは千雨へと向かっていく。

 

 

「塵芥の男がこっちに来るなァ!!」

 

 

残滓として得た力によって千雨は衝撃波をフォルへと放つ。その力の根源は自己愛、己だけを愛する心が強ければ相手を軽々と吹き飛ばしてしまう。

 

 

だが――

 

 

衝撃波がフォルの目の前で止まる。正確には少しずつだが目に見えない遅さで迫っているが遅すぎて止まっているようにしか見えない。

 

 

それをすり抜け、背中の刃が千雨を襲う。一本一本が神の首さえ落とせる神殺しを体現する斬撃、捌ききれずに吹き飛ばされるが千雨は僅かに間合いを開く事で致命傷を避けていた。

 

「がぁああああッ」

 

 

致命傷を避け、ISの損傷も最小限にした彼女の技量は間違いなく上がっている。

 

持ち直すと同時に相手を強く睨む。

 

 

「調子に乗るな!塵芥の集まり共!!私が全て駆逐してやる!!」

 

その瞬間、停止の模倣によって束縛している鎖を弾き飛ばした。

 

どれだけ停滞させようと、どれだけ早く動こうとも所詮は創造。

 

同じ位階ならば鬩ぎ合いは可能となってしまう。

 

地獄の体現者が未だ流出位階へと至れない要因、それは半身であるサタナとの合流だ。

 

更には氷地獄の体現という創造を使っているために言葉を発せず、思考も理性もかなぐり捨てている。

 

「だったら・・・」

 

その目に倒さなくてはならない相手が映り込む、逃がさない逃がすものかと。

 

「お前が消えろ!■■■■■ッ!!」

 

フォルが誰かの名を呼んだようだが誰の耳にも聞こえない。それはこの世界に決して存在してはならない、最悪の邪神の名前だからだ。

 

「塵芥が塵芥が塵芥が塵芥がァ!!」

 

千雨の自己愛は極限に達していた。フォルの刃とぶつかり合う度に正気を失っていく。

 

自分は世界最強の妹、それに相応しい実力も身に付けた。

 

周りもそれを認めてくれている、出来損ないである劣等種の兄とは違う。

 

なのに何故、人が自分から離れていくのか?自分に従ってくれていた者すら居なくなった。

 

女だけの世界で頂点にいるはずが引きずり下ろされた。

 

男性操縦者、許せない。自分に泥を塗り、最強の称号を崩した奴らを。

 

「お前が・・お前らがいるから!!」

 

「おおおおお!!」

 

地獄の主に言葉は通じない、思考など捨て去っている。目の前の敵の影を目に映し、相手を追いかけるだけの足、相手を滅する腕と刃。それだけしかない。

 

 

しかし――

 

 

フォルの身体にも変化が起きていた、黒炭のように黒い身体に罅が出て来ている。

 

究極の創造である涅槃寂静・終曲は模倣は出来ても弊害が少しずつ現れたのだ。

 

その弊害とは、己が展開した地獄に蝕まれる事。本来の使い手である永遠の刹那は黄昏の女神との相性がよく、その魂によって処刑刃を使う事が可能だった。

 

模倣者であるフォルには黄昏の女神に匹敵する至高の魂など持ち合わせてはいない。

 

己の聖遺物に溜め込んだ魂のみがあるだけだ。これには女神の抱擁をもってしても抑えることができない。

 

身体の罅は自分の魂を使い始めている証拠だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、あああああ!」

 

拮抗していた創造同士の戦いも傾きを見せていた。千雨は少しずつだが動きを取り戻し始めている。

 

「動け!私はこの状況からでも勝てるの!」

 

千雨の剣が動き始め、フォルが振るう刃に食い込ませていく。

 

代表候補生達は援護に向かいたくともフォルの創造によって動く事が出来ない。

 

求道であったはずの創造を覇道へと進化した状態で模倣した事により、自分以外の敵味方を停止させてしまう。

 

千雨は動ける時間を最大限に使い、フォルの首へと刃を振るった。

 

「死ねええええええ!!」

 

同時に何かが割って入った。停止の世界で動けるものなどいないはず。

 

「助けられてばっかりだったから、初めて助ける事が出来たな?相棒」

 

「お・・・・あ・・・」

 

その正体は二次移行と流出位階へと至ったサタナだ。流出を発現させているが神ではなく守護者として機能している。

 

そのため創造のルールの中を動く事は可能だ。彼の流出は神である自分を現神である黄昏の女神の容量として機能させている。

 

この流出によって女神の特性である覇道共存の容量が増え、あと一人の神を待ちわびている。

 

「相棒!お前はお前だろうが!人形じゃないだろう!!!」

 

「サタ・・ナ」

 

「邪魔をするな!劣等種の塵芥屑がああああああ!!」

 

「千雨、哀れだな」

 

サタナにはもう、かつての姉や妹に哀れみの感情しか持ち得なかった。

 

自分が力を手に入れたからではない。力を示し、崇拝者の偶像と成り続けなければならない。

 

それは確かに周りから見れば羨望と憧れを持つだろう。

 

だが、その人生は人形と同じだ。本人以外の人間は差別の対象となり、実力も成功した本人と同等に見られるだろう。

 

家族は持て囃されるだろうがそれを自分の実力だと自惚れていく。

 

その流れを己が身で味わってきたからこそ、サタナは余計に哀れみしか持てなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(・・俺は・・・[総ての力を得て蹂躙し尽くしたい]と願った)」

 

「(この女神の抱擁を失いたくない、仲間と共に進んでいきたい!)」

 

二つの渇望を自覚したフォルは相克の存在として更なる高みへと昇る。

 

黄昏の女神を守護し支えとなる覇道神として、仲間を先導する先導者として。

 

 

 

 

 

T'avea il cielo per l'amor creata,(あなたを愛の為に天は造った) Ed io t'uccido per averti amata!(私の愛であなたを死なせてしまう!)

 

 

 

Pregherai fino all'alba io sarò teco(夜明けまで祈ろう私もあなたと共にあるゆえ)

 

 

 

Ti sia guida, ti sia luce(これがあなたの導き)Della gloria sul sentier.(栄光へと至るあなたの灯り)

 

 

 

Nume, custode e vindice Di questa sacra terra.(守護者にして復讐者たる者よ)

 

 

 

E patria, e trono, e vita(座もこの命も)Tutto darei per te.(全てをあなたに捧げよう)

 

 

 

i schiude il ciel e l'alme erranti.(天が開く、彷徨える魂よ)

 

 

 

Suonin di gloria i cantici(栄光の歌を響かせよう)

 

 

Su! corriamo alla vittoria!(行くぞ!我らは勝利へと向かう!)

 

 

Dirti: per te ho pugnato,(そして告げよう、私はあなたの為に戦い)per to ho vinto!(勝利したと!)

 

 

 

 

 

 

 

Atziluth――(流出)

 

 

 

 

 

 

 

相克の存在、もう一人の神が現れる。女神を支え、他の覇道の神々の支え柱となる神が。

 

 

Götter Säule(神々の支柱)




「ああ・・・残滓だが現れたか」

「この世界においても奴だけは許されぬ」

「集うがいい守護者よ」

「■■を倒す刃となれ」


演説・???


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第二十劇 相克の覇道

「遂に守護者となったか」

「だが、これでは足りんな」

「あのような事は決して繰り返してはならぬのだ」

「そう、あの出来事だけは」

演説・???


流出に至った二人は千雨と対峙していた。

 

本来、流出に至った覇道神が複数現れた場合、互いの理によるせめぎ合いが発生してしまう。

 

 

この二人の流出は次代の覇道神が当代の覇道神を支えるという、座の機構そのものから逸脱している。

 

 

流出へ至る覇道神は本来、当代の座に挑む為に理を流すが、この覇道神達は当代を護る為に座へ至る事を放棄したのだ。

 

 

その為に一人は当代の座の容量を増やし守護する存在となり、一人は当代を初めとする覇道神達を支える支柱の存在となった。

 

 

「なんなのよ、ナンナノヨ!!アンタ達はァああああああ!!」

 

千雨は覇道の神となった二人へ突撃し剣を振り下ろした。

 

その剣には自分が得た力を収束させた一撃で自信を持っていた。

 

「哀れだな、千雨」

 

その一撃を受け止めたのはサタナだ。剣で受け止めたのではなく腕で防御したのだ、その一撃を受け止めなければならないと自分に言い聞かせたかのように。

 

「く!くそぉ!!」

 

「哀れだ、哀れすぎてこちらが泣けてくる」

 

サタナはそのまま千雨の頬に平手打ちをした。それだけでも人間の域を超えており、千雨は体制を崩した。

 

「劣等種のくせに・・劣等種である男の癖になんで私の先にいるのよ!ふざけるなあああ!!」

 

自分よりも先へ行くことを許さない。それを聞いたサタナとフォルは城で初めて友好を深めた時のルサルカを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時のルサルカには珍しくアルコールが入っており、泥酔していた。

 

話を聞いてくれる二人に自分の思いを愚痴と共に全て吐き出した。

 

『私!怖かったのよ、置いていかれるのが!嫌なのよ、抜かされるのが!歩くの遅いから!追いつけないなら停めてやろうって、・・・そう思ったのよ! 文句ある!?』

 

『『ありませんよ』』

 

『私、追いつきたい人がいるの、とても大切で・・・愛・・・すぴー』

 

酔いが回りすぎたのかテーブルに突っ伏した状態でルサルカは眠ってしまった。

 

『寝ちまったな、ルサルカさん』

 

『とりあえず、毛布くらいはかけておかないと』

 

ルサルカが追いつきたい理由、それは自分が愛した人の隣へ行き共に歩んで行きたかった純粋な思いなのだろう。

 

サタナは毛布をルサルカにかけながら思った。

 

この人は寂しがり屋なだけじゃないのかと。掴み所がなく、鋭いところを見せる時もあるがきっとそうなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他人を思っているようでその実、利用できるかしか考えていない。今のお前は道化だ、千雨」

 

サタナは二度目の平手打ちした後、自分の獲物であるバスターソードを形成し、突きつける。

 

「うるさい!もう私は私だけあればいい!!」

 

天眼の模様が赤くなり、宿った力が更に増大する。

 

「お前はそんなにも自分しか見ないのか」

 

繰り出される刃の雨に対し竜剣で弾く。

 

斬撃を弾くたびに分かる、コイツは力を得てはしゃいでいる子供だ。

 

思い通りにならないからと癇癪を起こし八つ当たりしているだけ。

 

「お前は止めなきゃならねえわな」

 

千雨の頭上から声が聞こえる、その声は哀れみではなく敵としか認識していない。

 

 

「共にありし六つの杯を満たす、円舞曲を踊ろう。我は蒼き雫なり」

 

 

フォルが口にしたのは存在している意志の詠唱。

 

 

「今こそ舞うがいい――blau Gerinnsel」

 

 

形となって現れ、六つのビットが千雨を襲う。

 

「ビットなんか今更!!」

 

千雨は回避しているが避ければ避けるほど、精度が上がっていく。

 

 

「うああっ!!」

 

ついには千雨を捉えるが牽制として使っているように見える。

 

その中でセシリアは呼び出された武装を見ていた。

 

「ブルー・ティアーズ・・・ですの?」

 

自分の記憶が正しければ、現れたビットは間違いなくブルー・ティアーズの武装そのもの。

 

その間にもサタナと千雨の戦いは続いている。

 

「もう、お前の創造は俺達には通用しないぞ?」

 

剣舞を続ける中、たった一言が千雨に対して深く突き刺さる。

 

「なんですって!?」

 

「俺達は更に上へと至った。お前も分かってるはずだぜ?俺達に勝てないと」

 

自分自身でも気づいていた。

 

斬撃を繰り出しき続けていても追いつけない領域に二人は立っている。

 

「ふざけるな、男なんて男なんて全て塵芥くせに!」

 

何度も言葉を紡ぐが、フォルは千雨に対し無駄だと悟った。

 

 

「・・お仕置きだ。キツイのいくぞ?」

 

手のひらに風が集まっていく、見えない弾丸が生成されていき、それを圧し固めている。

 

「天を泳ぎ、吹き荒ぶ風は爪の如く。我は龍の咆哮」

 

「全てを押し返す――Methyl Drache」

 

 

圧し固められた空気が千雨に向かい、吹き飛ばす。

 

「わあああ!?」

 

その一撃は衝撃砲に似ており、気付いたのは鈴だ。

 

「甲龍・・・よね?」

 

 

自分のISは確かに身に纏っている。

 

なぜフォルがそれを使えるのかと鈴は疑問を持たずにいられなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百式・春雨はもはや空中戦の為の機械となり戦闘用の意味をなしていない。

 

流出に至った二人には聞こえていた。自分を開放して欲しいと。

 

その願いに応えるため、二人は同時に頷く。

 

 

 

「相棒」

 

「ああ・・・分かってる」

 

サタナとフォルは散開し、サタナが前から追い込む。

 

「なんで、なんで私だけがいつもーーーーー!!」」

 

千雨にとって最も屈辱的な事は自らの名誉を傷つけられるのだと知っていた。

 

ゆえに見せてやろう。他の男に雪片(おんな)が抱かれるというものを。

 

 

 

 

「ああ、麗しき雪の欠片よ。輝きこそが道標。我は白き夜の刃」

 

「斬り開くがいい――Verstreute weiße Nacht」

 

その手には初期装備のブレードが握られている。

 

ブレードの刀身がエネルギー状に変化し、零落白夜を発動した状態で千雨へと向かっていく。

 

「なんで、なんでアンタが千冬お姉ちゃんの技を使ってるのよォー!!」

 

激昂と共にフォルへ向かって行き、零落白夜を発動させ刃を振り下ろす。

 

それを待っていたかのようにフォルは横薙ぎの一閃で千雨を斬った。

 

「他の人間に家族との繋がりを使われた気分はどうだった?これが奪われるという事だ」

 

その目は黄金の獣が相手を見つめるものに似ている。

 

王としての風格では叶わないが、それでも人間を恐怖させる事は可能だ。

 

「取り戻したいか?もっとも、他の(使い手)に抱かれた雪片(おんな)を許容できる度量がお前にあれば、な?」

 

 

「く・・・・」

 

千雨は気絶し、額にある点眼の模様も消えていた。

 

創造の使徒となり、ISを使って仲間内での戦闘で罰則は免れないだろう。

 

その時には千冬も動くだろうが、二人にとってはそちらが問題だ。

 

「作戦終了・・・だが」

 

「ああ、俺達は」

 

戦闘がは終わったが二人は浮かない顔をして空を見上げている。

 

この臨海学校が終われば、城に戻らねばならないと二人の中で確信めいたものがあった。

 

「サタナ!」

 

「フォルさん!!」

 

箒とセシリアを筆頭に代表候補生達が近づいて来る。

 

涙を堪えたり、泣きながら悪態をついたりするが無事なのを喜んでいる。

 

「悪いがコイツを旅館まで運んでくれ」

 

気絶した千雨を代表候補生達に預け、フォルはサタナの隣へと並ぶ。

 

「アンタ達はどうするの?」

 

鈴が何かを察しているかのように二人を見て話しかけていた。

 

「俺達にはまだ用があってな、後から帰るさ」

 

「すぐに帰ってきてね?」

 

「・・・・待っているぞ」

 

シャルロットとラウラも察したように旅館へと撤退していき、箒、セシリア、鈴は気絶した千雨を抱えてシャルロット達へと続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と・・・俺の用は一つだけだな」

 

「・・・・相棒、お前」

 

フォルの様子がいつもと違う、冷静なようでバカ言ってる顔じゃない。

 

途中で止められた喧嘩を再開しに来た。そんな雰囲気だ。

 

 

「ああ、そうだ。俺はお前とケリを着けなきゃならねぇんだよ」

 

「なんでだよ、なんで俺と相棒が!」

 

「分かってねえのか?いや、おぼろげに分かってるはずだよな?」

 

言いたい事は一つだけ、自分達の力だろう。味方を引き込むことで増大していく性質をお互い持っている。

 

「覇道神同士は本来、仲良くできねぇんだよ。みんなで仲良く友情パワーなんざ無理だ」

 

「っ・・・!」

 

「だったら、俺がアイツ等を全員取り込んでやる。そうすりゃあ女神を守れる力にはなるだろうよ」

 

「ざけんな・・・・・ふざけんじゃねえぞ!!」

 

サタナ・ゲルリッツという仮面が剥がされ、今のサタナは織斑一夏という存在に戻ってしまっていた。

 

「お前に渡してたまるか!箒も、鈴も、セシリアも、シャルも、ラウラも渡さねえ!!アイツ等は人間だろうが!!」

 

「はっ!まだ目を背けようとすんのか?アイツ等はもう異能者だ。人間じゃねえんだよ!」

 

「なっ!」

 

今のフォルもフォル=ネウス・シュミットという仮面が剥がれ、相克である鏡月正次

という存在に戻っている。

 

異能者とはその力を発現した時点で人間という殻を自覚なしに破っている。

 

気づくべき事に気づけと言葉で発している。

 

「俺の仲間を譲ってたまるか!!お前がそれを取り込むいうなら俺はそれを止めさせる!」

 

「やってみろよ?見捨てられたとか言っときながら、自分が可哀想だと騒いでるようにしか聞こえねえんだよ!この、タコが!!」

 

 

 

開始の合図を知っていたかのようにフォルは拳を不意打ちで撃ち込んだ。

 

 

「がはっ!?て・・めえ」

 

「怒ったか?来いよ、超絶天然ジゴロ野郎。俺はいい加減にイラついてたんだからよ!!」

 

「うおあああああ!!」

 

拳を握り、仕返しといわんばかりにフォルの頬を捉え殴りつける。

 

「ぐあっ!は・・・どうした?腰が入ってもいねえじゃねえか・・・・!」

 

サタナの胸倉を掴み、左アッパーで顎を殴り続ける。

 

「がァッ!?ぐは!っああああ!!」

 

フォルが拳を振り上げる一瞬を見切り頭突きで額を捉える。

 

「げぁあ!」

 

「うおらあああああ!」

 

サタナはフォルの頭を掴むと同時に頭突きを止めようとしない。

 

「ぐっ・・げはあ!」

 

腹部へと蹴りを打ち込み、サタナを引き剥がす。

 

「ごはっ!?・・・・う・・・ぐ」

 

「はぁ・・はぁ・・宣言してても・・、何もしてねえ・・・だろう・・が・・・!」

 

「なんだ・・と?」

 

「そう・・だろうが!俺がお膳立てしてやってようやく動く、それがてめえだろう!」

 

互いに胸倉を掴んだまま殴るのを止めようとはしない。

 

「ぐがああ!てめ・・ぇ!!」

 

「ごはっ!は・・・ようやく・・やる気出した・・・かよ、寝てんじゃねえぞ!!」

 

右ストレートを打ち込まれながらも、左フックで更に殴り返していく。

 

「なぁ・・一夏、お前はやっぱり、てめえで考え・・・てねえ・・・だろ」

 

「その名前で・・・呼ぶんじゃねえぇ!」

 

「吼えるだけじゃなくちったあ、こっちの質問に答えてみろや!!」

 

クロスカウンター気味にフォルの拳がサタナを捉え、殴り倒される。

 

「が・・・あ・・!俺は・・・支えてくれた人を守るんだ!だから剣になる!」

 

「お笑い種じゃねぇか・・・ハイドリヒ卿に忠誠を誓った時点で守るも何もねえんだよ!脳味噌退行させてんじゃねえぞ!」

 

「なんだよ!お前は違うってのか!!」

 

「ああ、そうだ。流出に至っちまったが俺はハイドリヒ卿の爪牙である事を捨てる気は・・・ねえ!」

 

左ストレートの一撃がサタナに撃ち込まれ呻く。弱っているとはいえど力は十分にある。

 

「フォ・・・ル・・・お・・・前・・!!」

 

「どうした・・・よ?力を得て鞍替えか?自分一人でやろうってか?ざけてんじゃねえぞ!」

 

サタナはフォルを睨む。お前は役目から逃げようとしているのだと。

 

「おうああああああああ!正次ゥゥゥ!」

 

何も言えない、ただ目の前の奴を殴る。お互いに思うからこそ止まらない。

 

「ぐぶぅっ・・・く・・効いたぁ・・おまけに・・・一番呼ばれたくねえ・・名前で呼びや・・・がって」

 

「お前も・・呼んでただろう・・が!」

 

「はっ・・お互い様ってか?」

 

握力も無くなり、呼吸も荒い。体力も削られており殴り合っていれば当然と言える状態だ。

 

「ち・・だが、俺は狙い続けるぜ?俺は・・なァ!」

 

「させねえよォォ!!」

 

お互いの拳が顔面に炸裂し、互いに一つの島へ落下した。




「これが再び見ることが叶うとは」

「歓喜した既知を再び見よう」

「流れというものに感謝せねばなるまい」

「これこそが望んでいたものだ」


演説・???


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第二十一劇 覇道の共存

「君たちが何故、必要か」

「その答えを垣間見るといい」

「正体を確かめ、憤怒するといい」

「さぁ、別次元を見せよう」


演説 水銀の蛇


二人が壮絶な喧嘩の後、現実では気を失ったままだが、魂は別の世界に来ていた。

 

自分達の居る世界と似て非なる世界、所謂、並行世界に魂を引き寄せられたのだ。

 

「ここは?(まさかあの時に見た夢と同じ?)」

 

「相棒、ここ宇宙だよな?」

 

「そうだ、宇宙だ。て事はまたなんか見せられるって事だな」

 

サタナの疑問にフォルは飄々と答える。既知に近いものを感じるのにどこか違っている。

 

まるで、この世界の分岐は最悪な方向へ向かっている。直感ではあるはずなのにそれに確信が持ててしまう。

 

二人は得体の知れない不安が、己の中で湧き出てくるのを抑えられなかった。

 

移動を始め、目の前に蓮の花を背にした座る玉座のようなものが見えてくる。ある世界では地平線の果てにある理想郷の玉座。ある世界では曼荼羅と呼ばれ、その中心が主神となって宇宙を表す物となる。

 

そう、それこそが"座"と呼ばれる宇宙の中心。世界をその手に出来るただ一人の覇道神が座る事を許される神座であった。

 

「またって・・・ん?あれが・・・座なのか?」

 

「ああ、あれが座、本来なら流出位階に至った俺達が来なくてはならない場所だ」

 

二人は座の闘争から降りてしまっている。紅蓮の地獄を司る永遠の刹那、永劫の回帰を司る水銀の蛇、至高の修羅達を率いる黄金の獣、それらが争い、輪廻と転生へ導く黄昏の女神を座へと押し上げられた。自分達の世界と同じく、女神が統治した世界が出来上がり、争った三神は守護者となっている。

 

別世界の二神であるサタナとフォルは守護者を支え、座の容量を増やすという意志を女神に捧げている。それ故に決して座へと至る事はない。

 

座の中心に座っている黄昏の女神に見惚れていた時、それは飛来してきた。ただ真っ直ぐに向けられた殺意という名の刃が黄昏の女神の腹部を切り裂いた。

 

「きゃああああああ!は・・・う・・・く・・ぅ・・・いた・・い」

 

「な・・・に!?」

 

「今のはなんだ!?」

 

『コイツが俺に触っているから俺は永劫一人になれない!滅尽滅相!!』

 

輪廻転生の理の色である黄色の覇道が侵食されるように彩られていく。その色は黒。だが、宇宙のように星という星を受け入れる美しい闇ではなく、血と糞尿を混ぜ合わせたかの如く吐き気を催すをいられない程に醜悪な黒であった。

 

『くくくく・・・ふふふ・・・アーッハハハハハハハハ!!』

 

その邪悪の根源は禅を組んでいるよな姿で座へと迫っている。誰にでもある自己愛を極限にまで極めた存在。渇望からして求道であるはずが覇道の性質を持っており、己自身を唯一無二として譲らない姿勢によって完成している。

 

「な・・なんだよ。アレは?」

 

「あれは■■■■■、最強にして最悪のクソ野郎だ!」

 

吐き捨てるようにフォルは怒りを露わにし、醜悪な黒へ向かって叫ぶ。それは自分のいる世界において欠片が現れていたからだ。

 

「マリィ!!」

 

叫んだと同時に永遠の刹那が黄昏の女神を抱きとめる。傷は神格を破壊するには至っていないが弱っている事には変わりはない。それ見ている自己愛の化身はただただ嘲笑っている。

 

「おい、相棒!あれってまずくないか?女神が攻撃された事で座の機構が崩れてる!」

 

サタナが座における最もあってはならない事に気づくが、自分達は何も手出しする事が出来ない。邪神の驚異から守られている反面、手出ししない事が守られている条件なのだ。故に邪神も座に居る黄昏の女神も自分達を知覚出来ていない。

 

「やはりに座に来る者が現れたか、手を貸そう。我が愚息よ」

 

「相変わらず女には甘いのだな、カールよ」

 

「お前ら・・・」

 

女神が攻撃された事で守護者の全てが現れる。だが、フォルはこの三人が邪神に勝てない事を信じたくはないが確信してしまっていた。

 

「ああ、そうだ。女神の機構が崩れた事で三人が覇道の食い合いを始めている!」

 

覇道神は己の理で世界を塗り替える神。座に付ける者はその中でたった一人である。

 

女神の特異性は全てを抱きしめるという渇望から発生した覇道共存だ。本来は共存が不可能のであるはずの覇道神を、食い合いさせることなく存在させる特異性。

 

女神の加護とも言えるこの共存を崩された今、三神はお互いを潰し合いながら戦いを挑むに等しい。

 

「ダメだ・・・ハイドリヒ卿!副首領閣下!!戦っちゃダメだーー!!」

 

サタナは叫ぶがその声は聞こえず、届く事もない。真っ先に向かって行くのが、黄金の獣たるラインハルト・ハイドリヒ。

 

彼は森羅万象、ありとあらゆる物を分け隔てなく愛している。その愛は破壊という形でしか表せない。故に敬意を持って相手を破壊する。

 

Gladsheimr(至高天)――― Longinus Dreizehn Orden(聖槍十三騎士団)!」

 

自らの旗に集った愛すべき英雄達と共に突撃する。その手にある槍はかつて聖人と呼ばれた人物を貫き、星の隕鉄から鍛えられた神殺しを体現するもの。

 

『なんだ?塵芥が集まった所で所詮は塵芥は塵芥だろうが!』

 

まるで虫を追い払うような動作で、黄金の獣の軍勢の突撃を吹き飛ばしてしまった。

 

残ったのは大隊長の三人と自身のみ。白騎士が向かっていくが、その牙が届く前に質量に押し潰され、霧散してしまった。

 

「おのれ、燃え尽きろぉ!!」

 

赤騎士が邪神へ向けて特大の炎を放つ。波の覇道神ならば一瞬で焼き尽くされるであろう熱量が向かっていく。

 

Miðgarðr Völsunga Saga(人世界・終焉変生)

 

合わせるように黒騎士が幕引きの一撃を繰り出す。二つの攻撃は確実に邪神を捉えた。

 

『何だァ?ぬる湯でも出てきたかぁ?臭いんだよ』

 

蝋燭の火を吹き消すかのように赤騎士の炎を消し去り、黒騎士を虫でも潰し殺すかのように圧殺した。

 

黄金の光を帯びた聖槍が迫っていく。邪神は意にも返さず、邪魔な物を叩き落すように槍を落とし、黄金の獣に圧力をかけていく。

 

「ぐ・・・ぬううう!!」

 

「ハイドリヒ!!」

 

水銀が叫ぶが上下左右、四方から圧力をかけられている黄金の獣の身体に罅が入る。

 

「卿ら、私は・・・ここまで・・・だ」

 

「ラインハルト!」

 

黄金の獣は邪神の圧力によって砕かれてしまった。神殺しの槍の穂先を遺して。

 

『集まった所で糞は所詮糞だなぁ?』

 

「う・・おおおおおお!下種が、貴様は誰を踏みしめている!!」

 

水銀は怒りに狂い、その手に暗黒物質を凝縮させていく。それは、宇宙に関する書物を読んだ事があるのならば誰もが知っている現象。

 

Spem metus sequitur(恐れは望みの後ろからついてくる) Disce libens(喜んで学べ)

 

暗黒天体創造。水銀がありとあらゆる宇宙から暗黒物質をかき集め、重力崩壊を起こすブラックホールを作り上げ、相手に放つ占星術の一つだ。

 

水銀は自滅因子たるラインハルトとは違い、占星術などの咒によって座を掴んだ咒法の神なのだ。

 

だが、邪神は。

 

「ああ?うるさいぞ?耳元で騒ぐな」

 

赤ん坊が初めて親の指を掴むような仕草で暗黒天体創造を握りつぶしてしまった。

 

「何だよ・・・これ。ハイドリヒ卿と副首領が全力で戦って負けるなんて」

 

「ありえねえ・・・俺達、聖槍十三騎士団黒円卓の双首領閣下が」

 

サタナとフォルは目の前で起こっている事が信じられずにいた。自分達を認め、破壊の愛という厳しくとも導く愛を示してくれた黄金が。

 

聖槍十三騎士団黒円卓の人員として洗礼を施し、魔名を名づけてくれた魔術の師が倒されていく。

 

そして、自分達は何も出来ないもどかしさだけが募り、届かない声を叫ぶ。

 

「ぐ・・・ぬ・・・・マルグ・・・リット・・すまない・・・」

 

平手打ちの動作で繰り出された衝撃が、水銀の蛇を硝子細工を割るかのように砕かれてしまった。

 

「カリオストロォ―――――!!!」

 

「てんめぇーーーーー!」

 

「あああ・・・鬱陶しいぞ!」

 

「ぐわあああああ!」

 

向かっていった永遠の刹那をまるで、ゴミを投げるように特異点から吹き飛ばした。

 

今や守護者はすべて消滅し、負傷し座に残った黄昏の女神がいるのみ。

 

「お前だ、お前がいるから俺は一人になれない」

 

「痛い!やめ・・・てえ」

 

邪神は女神の髪を掴み、座に叩きつけその足で何度も何度も踏む始めた。

 

「お前がお前が俺に触る!鬱陶しいんだよ!触るな消えてなくなれ!」

 

「ぎゃあ!あっ!がぁっ!ぎゃう!!」

 

踏まれるたびに黄昏の女神の身体は崩壊していく、彼女を守ろうとする魂も砕かれていき遂には流血に近い現象が起こる。

 

「ごぼっ!い・・た・・ぶふっ!」

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「マリィさああああああああああああん!」

 

二人が叫びを上げるが、邪神は女神を踏み砕く寸前になるとその身の上に座り、消滅させた。

 

「あ・・ああああっ」

 

「マリィさんが・・・俺達が守護すべき・・・・黄昏の女神が」

 

『これで邪魔者はいなくなった。清々したなぁ・・・塵芥掃除ができて気分がいい』

 

邪神は気づいていなかった。壊した黄昏の中に己が塵芥と断ずるものが入っていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを見届けた二人は意識が覚醒し、自分達の世界で墜落した島の砂浜で目を覚ました。

 

「うう・・・」

 

「あ、相棒?」

 

二人は起き上がると海に向かい、吐いてしまった。胃液しか出てこないが二人にとって守るべき存在の黄昏の女神が、一つの並行世界であれほどまでに残忍極まる殺され方を目撃した事による拒絶感からくるものであった。

 

「うぐううう!うえええ!」

 

「ゲホッ!ゴボッ!!」

 

機体の方は木々に墜落したおかげか損傷は軽微だが、二人で協力しなければ飛行は不可能。

 

「決着は後回しだな・・・サタナ」

 

「ああ、そうだな。相棒」

 

落ち着くと同時に二人の機体へ雑音混じりの通信が入った。それを急いで受信し応答する。

 

「応答・・・し・・・フォ・・・く」

 

声の主はどうやら櫻井のようで必死なようだ。それに応えるため大声でフォルは声を聞かせる。

 

「櫻井!俺達は無事だ!みんなにも伝えてくれ!」

 

「・・・わ・・・!ならず・・・もど・・・!」

 

通信が切れ、フォルは軽くため息をつくと相棒であるサタナに振り向いた。

 

「恐らくだが、お前の妹が覇道の理で攻めて来るかもしれねえな」

 

「!!アイツみたいになってか?」

 

「ああ、だからこそ。勝負はおあずけだ。アイツ等にだって協力してもらう時が来る」

 

「そうか・・・」

 

二人は期待を同時に展開すると互いに支え合うような格好で飛行を開始した。

 

「とにかく、帰ろうぜ?山田先生のお説教が待ってるからな」

 

「勘弁してくれよ・・・全く」

 

座標を確認しながら戻っていく。この後にラインハルトが気まぐれで降りてくるのをふたりは知る由もなかった。




マリィイイイイイイイイイイイイイ!

邪神に殺されるシーンは独自解釈してますのでご了承を。

あのキャラは吐き気を催す邪悪系としては最高峰だと思います。

矛盾を利用した力というのもまたいい味かと。


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第二十二劇 黄金の獣の凱旋

「ああ・・・私の親友が現れるか」

「真のヴァルハラを見る事になるだろうが」

「それに耐えられるか?我が友の愛は強すぎるゆえ」


一時間後、二人は互いに支え合って戻ってきた。出迎えたのは真耶だけで、千冬は恐らく千雨の容態を見ているのだろう。

 

二人を部屋に運ぶと、黒円卓のメンバー達が騒ぐようにして突撃してきた。

 

「フォル君!」

 

「サタナ!」

 

真っ先に入ってきたのは、ベアトリスと螢の二人だ。血相を変えて来たところを見ると、かなり心配していた様子だ。

 

「何をやっていたんですか!貴方達は!?」

 

「お姉ちゃんの言う通りよ!」

 

全くこの義姉妹には叶わない。俺達が喧嘩していた事を言えば、二人共、創造を使ってきそうな勢いだ。

 

でも、確かに俺と相棒は黄昏の女神に出会った。あのメルクリウスが熱を上げるものも無理はない、あれほど恐ろしくて、儚くて、美しい女性(たましい)を見た事がなかった。

 

あれこそが、黄昏の女神。今までどのような(ひと)だったのかを知らなかった。双首領が守護者として護るとおっしゃっていた。

 

俺達も「座」の争いから降りて、女神の覇道の容量を増やすという役割を担った。それほどまでに彼女を護りたいという気持ちになってしまった。

 

自分達も流出へと至ったが、神になる気は無くなっている。それでも隷属神に相当する仲間は欲しい。

 

あの下衆に黄昏を奪わせないためにも、その為に創造を使える人間や強き魂を求めているのだから。

 

「ごめんなさい・・・ベアトリスさん」

 

「すまねえ、螢」

 

 

二人が素直に謝ってきたのを見て、ベアトリスと螢の二人は呆気にとられ、ポカンとしてしまった。この二人が素直に謝るなんて珍しいからだ。

 

「・・・気色悪いですね」

 

「二人共、頭でも打ったのかしら?」

 

「ひでえ・・・」

 

「素直に言っただけなのに・・・」

 

ひどい言い草ではあるが、それ程までに二人の信用は低かったのだろう。二人は肩を借りつつ、手当てのために部屋を後にした。

 

「自業自得よね~」

 

ルサルカだけがその様子をニコニコした顔で楽しんでいたのだった。

 

 

 

 

 

別室では拘束された状態かつ、千雨が手当てを受け終わった姿で眠っていた。無論、鎮静剤と安定剤を組み合わせた物を既に注射されている。

 

「何故だ、何故・・私や私が大切にしようとしたモノばかりがこんな目に・・・」

 

サタナに付けられた顔の火傷を詰りつつ、考える。自分はこの世界において頂点を極めたはずだった。誰もが自分を敬い、平伏してくる。

 

それこそ、真理であり当たり前の事だったはずだ。だが・・・。

 

「アイツ等が来てから全てが変わってしまった!!」

 

思わず口から出た一言、それは男性操縦者として現れた二人に対するものであった。一方は仕方ないにしても、もう一方は自分の弟であった。

 

その弟は自分自分達に牙ではなく、刃を向けてきており、更には人間ではなくなっていた。心のどこかで人間であったのならば元の家族に戻れるのではないかという希望的観測があった。

 

しかし、それを打ち砕いてきたのが、弟の相棒を自称するもう一人の男性操縦者フォル=ネウス=シュミットであった。

 

優しく声を掛けようとすれば、その裏にある本心を見抜かれ、力尽くで従わせようとすれば逆に返り討ちにされた。

 

この世界において自分を倒せる者は居ない、それこそが絶対的原則であった。だが・・・。

 

その絶対的原則を壊す集団が居たのだ。聖槍十三騎士団と呼ばれるドイツの軍人達である。

 

実年齢は千冬の倍以上、しかし彼らに年齢という概念はない。死という名の断崖の果てを共に飛び越えよう。

 

その号令を聞きつつ幾千幾万の戦争を!敗北など認めない、何度も敗北のゲットーに囚われているのならば私が開放してやると己が声を聴く者達に告げた。

 

私と共に勝利を掴み取るまで進軍しようと。

 

首領である黄金の獣によって与えられた不老不死と名の付いた祝福、つまりはギフトである。ギフトを受けた一般兵士達は魂の密度が足りず、肉の身体を失ってしまったが、骸の姿を受け入れ勝利を欲する本能のみの存在となった。

 

その上位兵とも言えるのが、黒円卓の面々である。人としての姿を持ち、それぞれが魔名と呪いとともに勝利を目指す者達、円卓の騎士達に因んでの名前なのだろう。

 

数百年前に黄金の獣の鬣となった魂は今も生きており、勝利を目指すため遠征を繰り返す。その圧倒的軍勢に一部となったのが男性操縦者の二人。

 

愛を知らない二人は、初めて自分に向けられる無償の愛を知ってしまった。それは支配者の愛ではあった、支配と理解していてはいた、だがそれでも己に向けられた無償の愛を誰が拒めるのか?

 

況してや、愛されるはずであった家族から見放され、人間の闇とも言える部分しか見てこなかったのだから。

 

千冬は改めて自分の弟を奪い、妹を傷つけた黒円卓への復讐を考え始めていた。無論、間違った方向への力の信仰と世界が許容してしまった事によるものだが。

 

「必ず消し去って・・・!?」

 

瞬間、フォルとサタナの二人が帰還してきた場所を中心に地響きが起こる。そこから光があふれているが、美しいとは感じなかった。

 

逆に何か得体の知れないものがやってきたような予感と共に、千冬は部屋を後にし揺れの起こった場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM ゲームDies_iraeより{Götterdämmerung}]

 

 

「卿等、久しいな。私も卿等が至った事を我が友と共に見ていたぞ」

 

「「はっ・・・!」」

 

それは黄金だった。男性として人間の完成美とも言える均衡の取れた姿、溢れ出る気品、心の奥底まで見抜きそうな眼、それを象徴する黄金色の長髪。それらを兼ね備えた人間、いや・・魔人が今、目の前に現れている。

 

黒円卓の面々、サタナとフォルも忠誠の意を示す礼節の姿勢を取っている。そう、今この場にいる存在こそが、聖槍十三騎士団・黒円卓第一位、破壊公、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒである。

 

揺れが起こった事で、一般の生徒達も出てきてはいたが、ハイドリヒの持つ黄金のオーラに当てられ、全員が失神してしまっている。五人の代表候補生達は別世界の力。星の守護、邯鄲の盧生、原罪の具現、天使の加護、平行世界における座の自滅因子たる畸形嚢腫の力の一部である天魔覆滅、これらが黄金の波動から身を守っていた。特に天魔覆滅の力を持つ箒がいる事で一般生徒達が守られている。

 

これは黄金の獣の波動と天魔覆滅の波動が同質である故に可能になっている事だ。無論、質と量は圧倒的に黄金の獣が勝っており、箒は学園のみんなを死なせないという想いによって、かろうじて守護しているに過ぎない。

 

「ほう?私と同質の存在がいるのか・・・これは、未知だな。卿等には感謝の意を伝えよう、新しい未知と出会えた」

 

「あ・・・あ・・・」

 

「な・・・ぁ・・・・」

 

「う・・あぁ・・・」

 

「怖い怖い怖い怖い怖い・・・・!」

 

「ぐ・・・・な・・ん・・・だ。こ・・・れが・・・」

 

代表候補生達は全身の震えが止まらない。否、それ以前に自分達が消滅しない事自体が不思議で仕方なかった。

 

特にドイツが母国であるラウラにとっては出会いたくはあったが、これ程までに恐怖を感じる相手だとは思わなかったのだ。

 

千冬以上の圧倒的な実力差、それをオーラだけで感じ取ることができる。自分達が蟻だとすれば、目の前の男は大型の肉食恐竜に例えることが出来る程、差が開きすぎている。

 

確かにこの男は魅力的で神々しい。だが、その光に暖かさはない、一度支配されてしまえば抜け出せなくなるほどに呪いめいた魅了をもっているのだから。

 

「御身が城の外へ赴くとは珍しい事もありますな?獣殿・・・?」

 

いつの間にかその隣に影法師のように現れた男が居る。それは聖槍十三騎士団・黒円卓第十三位、カール・クラフトだ。

 

黒円卓の双首領が出揃った瞬間、更なる圧迫感が場を支配する。異なる世界の異能を身に付けた代表候補生5人の膝が笑い過ぎている程に笑い続けている。

 

「これはこれは、なるほど。懐かしい感じがすると思い、来てみたのだが・・・前々代の座が作り上げた世界の力を持つ者、此処とは全く異なる平行世界の加護を受けた者達とは・・・くくく。素晴らしき未知だ・・・ああ、我が息子以外でこのような未知を見せてくれる者が居ようとは・・・」

 

まるで狂言回しをしているかのようにカールは言葉を紡ぐ。存在が薄いはずなのにこの男の言葉は砂が僅かな水を完全に吸収してしまうように、心の奥底まで浸透してくる。

 

「何の用だよ、詐欺師」

 

「随分な言い方だ、篠ノ之束。獣殿が下界を見たくなったと言ってきたのでね?付き添ってきたのだよ」

 

「何を言う?カールよ。未知とあっては、自ら出向かなければ味わえぬ、そうであろう?」

 

「その通りでございますな、これは失礼しました・・・」

 

何気ない会話だが、誰一人として話しかけようとする者はいない・・・いや、話しかける事は出来ない。ラインハルトが黄金の獣と称されるなら、隣にいるカール・クラフトは銀、それも蛇である。水銀の蛇というのがしっくりくるだろう。

 

久々の「外」を満喫していたが、その穏やかさを奪う者が二人の前へと現れた。

 

 

 

 

 

 

それは千冬だった。手にはISのブレード、打鉄が使用する刀が握られている。それを見て黒円卓に所属している女性の面々、男性操縦者の二人、そして代表候補生達は何をするのかを察した。

 

「あの野郎、俺がヤキを入れたのに反省してなかったのか!?ハイドリヒ卿!」

 

フォルが声を初めて黄金にかけて、再び自分が制裁すると名乗りを上げようとしたが、黄金は優雅に手を上げ、彼を制した。

 

「よい、あれほどまでに己の憤怒を持った魂も珍しい。私に向けられた憎悪・・・それすらも愛しく感じるのだ、故に手出しは無用」

 

「は・・はい!」

 

流出という位階に達しても黄金への忠義は変わらない故、大人しく引き下がった。わずかに怯えがあったのも事実である。

 

「お前が・・・黄金か!お前が・・・お前が一夏を変えてしまった!私がお前を殺してやる!!

 

「ちーちゃん、ダメ!!」

 

「止めるな、束!!覚悟しろ!はあああ!」

 

刃を剥き出しにしたまま、束の静止も聞かずハイドリヒへと千冬は突進していく。突き殺そうとするのではなく刀を振り上げ、切り殺そうと刃を振り下ろした。

 

その様子を見て、代表候補生達は声を上げられず、ハイドリヒが切られたのだと思った。だが・・・。

 

「・・・・・っ!?な、何・・・・!?」

 

「これが・・・卿の渾身の一撃かね?」

 

ハイドリヒは千冬の刃を受け止めるどころか、その場から身じろぎ一つせず、刃をその身に受けている。数百万以上の魂を喰らい続けている黄金の獣の肉体は肉体そのものに限らず、対物理・対魔術・対時間・対偶然と言ったあらゆる魔術的防御力を施されており、常人では考えられない程に堅牢となっている。

 

刃を受けたラインハルトは直立したまま優雅な姿勢を崩さず、フォルの隣にいるもう一人の男性に視線を向ける。

 

「サタナよ、卿の姉であったこの者に私の愛しかたを教授するが、構わぬな?」

 

「はっ・・・ハイドリヒ卿のご随意のままに!」

 

一夏、いや・・サタナは最早、元姉であった千冬に何の感情も抱いていなかった。周りからは人間ではなく付属品として扱われ、家族間では命令を素直に聞き続ける人形として扱われてきた。

 

一般論を語るのであれば、育ててもらった恩を仇で返すのかなどという言葉も出てくるだろう。だが、都合の良い人形のような扱いをしていた相手の元へ誰が戻るのであろうか?

 

表面上の優しさや反省に騙され、何人もの子供やサタナ達と同年の男女が亡くなっている事を鑑みれば、一般論を言い放ってくる人間は騙されやすい部類に入ってしまうのだ。

 

「!?」

 

千が振り下ろした刃は肉を切り裂かない。逆に優雅とも取れる動きで刀身に触れる。まるで、所有物を愛玩するかのように・・・。

 

「哀れな・・・東洋の剣の鋭さは櫻井の偽槍で知ってはいるが、これ程までに担い手に恵まれぬとはな」

 

触れた先から徐々に刃へ亀裂が走っていく。己が持つ武器が少しずつ破壊されている、その理由がわからない。

 

だが、自分が刃を向けた男は優雅さを纏ったまま薄く笑みを浮かべつつ、口を開いた。

 

「私は総てを愛している。それが何者であれ差別なく平等に」

 

「何だと?」

 

総てを愛していると確かに言った。何者であろうと変わらず愛してやると、千冬の怒りはそれを聞いて怒りが頂点に達した。

 

何が総てを愛しているだ!こんな傲慢かつ、上から見下ろして見下しているような男に私が負けるはずがない。

 

その思いとは裏腹に千冬が手にしている武器の刃は悲鳴を上げているかのように、亀裂が走り続けている。

 

「織斑千冬。卿の業が強さならば、私の業は破壊だ。総てを壊す。天国も地獄も神も悪魔も、森羅万象、三千大千世界の悉くを」

 

「何を・・・馬鹿な」

 

ラインハルトの愛とは破壊である。黒円卓に属する人間ならば理解できるが、人間の世界に住んでいる千冬には理解がつかなかった。

 

愛しているから壊す。美しいと思うから壊す。愛でたいと思うから壊す。触れたいと思うから壊す。抱きしめたいと思うから壊す。

 

破壊によってしか、知覚出来ず、己の愛を伝える事が出来ない。何故ならラインハルトは強すぎるから。

 

時代でも世界でもない。神域とも呼ばれる場所にしか居る事を許されず、己の城とも呼べる空間において初めて全力を出す事が許される。

 

それ程までの相手に自ら挑んでいった千冬は無謀としか言い様がないとも言えるだろう。瞬間、千冬の刃が完全にへし折られた。

 

「な・・・・!」

 

「恐れで私は倒せぬよ」

 

瞬間、千冬はラインハルトに首を捕まれ、持ち上げられていた。女性とはいえ成人した人間を軽々しく持ち上げている。こんな力が何処にあるのだろうか?

 

「ぐ・・・があ・・・・あっ!」

 

「卿の魂は良いエインフェリアになるであろうな。だが・・・ブリュンヒルデをヴァルハラに連れてゆくなど皮肉ではないかね?」

 

「な・・・にを・・・言・・・って」

 

そのまま首り、破壊しようとするラインハルトにカールは歩み寄り、腕に手を添えた。細く弱々しい腕だが、それでも止めていることに変わりはない。

 

「なんの真似かな?カールよ」

 

「私としてはこのまま見ていたいのだが、ここでブリュンヒルデを亡き者にしては、我が女神が憤怒しましょう。下手をすれば刹那の断頭台が再び来ますぞ?」

 

「ふむ・・・」

 

考え直したかのように手を離し、ラインハルトはふわりとわずかに浮かび上がる。千冬は酸素を求めるように咳込み、同時にフォルが千冬に大声を上げた。

 

「げほっ・・げほ!」

 

「テメェ・・・少しは改心したと思えばハイドリヒ卿に刃を向けやがって!俺が直々にぶっころ・・っ!?」

 

飛び出そうとしていた瞬間、ハイドリヒ直々にその肩を軽く掴んでいた。その力は人間が蟻をつまむくらい優しいものである。

 

「よい、この者を怒りを私は愛しく感じている。卿が出るまでもなかろう?」

 

「は・・・はい」

 

ハイドリヒ卿が直々に止めて来たのなら従うしかない、双牙であるこの身はハイドリヒ卿に忠誠を誓っているのだから。

 

「ぐ・・・・なぜ・・・」

 

千冬はその場でハイドリヒを見上げる事しかできなかった。己は絶対的と信じていた戦乙女が黄金の獣を前に惨敗したのだ。

 

「うああああ!」

 

「1対1に慣れすぎているようだな。それでは生き残れん。では、卿に戦というものを一つ教示してやろう」

 

そう、言葉にするとハイドリヒは何かを合図するときのような仕草をした後、手を軽く前へ振り合図した。

 

何もなかったはずの空間から、何かが出現する。大量の戦車とパンツァーファウストと呼ばれる武器の砲口が千冬に対して向けられている。

 

「切り抜けて見せろ・・・第9SS装甲師団(ホーエンシュタウフェン)第12SS装甲師団(ヒトラーユーゲント)」

 

本当の戦場という名の大波が千冬に大挙として襲いかかってくる。戦車から放たれる砲撃、その戦車を破壊する為に開発された武器。

 

だが、もっとも恐ろしいのはラインハルトの指揮能力と軍勢の得意とするものを充てがう掌握力だろう。

 

それを知った今だからこそ理解した。この男は戦争そのもの、一人の騎士が軍勢に向かって行って勝てるのか?と問われれば答えは否。

 

なんて自分は馬鹿げた行動をしてしまったのか?一時の怒りに任せて、戦争そのものに個人で挑むなど愚の骨頂、愚かの極み。

 

「くそおおお!」

 

砲撃の雨の中、千冬は叫ぶ事しかできなかった。それを見ているカール・クラフトは薄く笑みを浮かべている。

 

「ブリュンヒルデが炎の雨の中で焼かれる・・・か。くくく・・・皮肉すぎて退屈してしまうぞ」

 

逃げ惑いつつも戦おうとする千冬の姿にカールの心中は、まるで何度も見返した演目を見ているようで飽和している。

 

唯一の未知もすぐに霧散してしまった。ああ、なんと残念だ・・・未知が残っていながらも砂の城のように消えてしまった。

 

これでは足りぬのだ・・・女神が統制している中、また新たな相手が必要なのだ・・・故に・・・。

 

彼女にはまだ役者を続けてもらわねばならん・・・この世界の物語を飾るフィナーレとして。




ひ、久々に書けた。

このところアイデアに悩みすぎて筆が進みませんでした。

他の作品も頑張りますので!


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劇間の演目(番外編)
番外劇 獅子の心 本当の恋心


「ああ、彼女の支えは我が息子だった時もある」

「彼女は激情家なのでね、苦労するよ」

「では、今一度見てみようか」

「彼女、レオンハルトの想いを」





演説・水銀の蛇


私、櫻井螢は満ちていた。前の学校ではそれなりに友人も居たし、悪くはなかった。

 

ISというものが世間では広がっていたけど、私にはどうでもよかった。兄さんは大学にいるし、お姉ちゃんもドイツに居る。

 

「はぁ・・・」

 

それでも、世界的に有能だと認知されているISの適性検査はこんな小さな学校でも行われている。

 

女性にしか動かせないのは知ってるけど、この学校の生徒は適合率が最高でCランクが多い。

 

「はい、この機械に触れてくださいね」

 

データを取っている職員さんに促されて私は目の前の機械に近づいていく。

 

IS学園への転校は最低でも適性がCランク以上じゃないとダメだって聞いたことがある。

 

おまけにかなりの有名校でもあるし、優秀な人もたくさん輩出してるって。

 

この時、私は思いもしなかった。突然の再会やたくさんの人達に出会えるなんて。

 

目の前にある機械、ISに触れて起動させる。それと同時に職員が驚く声が聞こえた。

 

「て、適性がA+!?あ、貴女!お名前は!」

 

「え?さ、櫻井螢です」

 

「櫻井さん!貴女!IS学園へ行ってください!!手続きはしておきますから!」

 

「え?ちょっと!?」

 

こちらの返答を聞かずに職員の人は走っていってしまった。

 

その一週間後に政府の人が来て、転入届けを持ってきたのにはびっくりした。

 

兄さんや実家に話をしたら、蛍が自分で決めなさいって言われちゃったし、元々実家から離れて一人暮らしだったから寮もあるって聞いたから転入を承諾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転入が決まってから二日後。今、私はIS学園の制服を着て学園に向かっている。

 

荷物はあまり多くはなかったし、移動手段で電車も使えたから平気だ。

 

 

「悪くない、かな」

 

 

制服は着やすいし、住んでた場所からも近い場所にあったし文句はなかった。

 

「でも、こんな時期に被せなくてもよかったと思うけど」

 

 

私が転入した時期、それは世界で初の男性操縦者が見つかったという事が発表された時期だった。

 

人数は二人で、私と同い年という事もあって興味はあった。

 

「さてと、到着したら先ずは受付に行かなきゃ」

 

この学園、ものすごく広いんだけど大丈夫かな?案内図を見ておこう。

 

私は知らなかった、最も大好きな家族がこの学園に来てることを。

 

「櫻井螢、間違いないな?私はお前のクラスの担任を受け持っている織斑千冬だ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

織斑先生は顔の左側に火傷の傷跡があるのを私は見逃さなかった。

 

ここで質問しても、はぐらかされるだけだろうと黙っておくことにしていた。

 

あの火傷は一般的な火傷じゃないと直感していた、顔に火傷なんて戦争とかに行かない限りありえないからだ。

 

「後、二人の転校生も来る。一緒に教室に向かう事になる」

 

「はい」

 

しばらくして、二人の転校生らしき生徒が職員室に入ってきた。一人は銀髪と眼帯をした女の子、おそらく軍属なのだろう。

 

もう一人は男性物の制服を着ていた。でも、私は違和感を覚えた、どう考えても高い声、骨格や体つきの細さなどから男装した女の子でしょ。

 

揃うと織斑先生が先導して私達は教室へと向かった。

 

「私が先に教室へ入る。呼ばれたら入って来い」

 

「分かりました」

 

「はっ!」

 

「はい」

 

それぞれが返事を返し、廊下で待機する。教室内ではクラスメートになる同級生が騒いでいるのだろう。

 

教室に入るよう促され、私は教室へと入った。副担任の先生と担任の先生、クラスメート達が一斉にこちらへ注目する。

 

自己紹介をするよう促され、自分の名前を口にし己を教える。教えたと同時に聴き慣れた声が私の耳に響く、それは会いたかった人で。

 

「螢?螢なの!?」

 

「え?ベアトリス、お姉ちゃん?」

 

兄さんと同じくらい大切で大好きな人、ベアトリスお姉ちゃんがこの学園に生徒として入学していたのに心底驚いた。

 

 

マレウスに関しては面識があったし、生徒として馴染んでいるのにも、また驚いた。

 

その他にお姉ちゃんの紹介で知った、フォル=ネウス・シュミット君。サタナ=キア・ゲルリッツ君。

 

後々で知ったのだけど、フォル君は鏡月グループの御子息だったらしい。本人はその名前を捨てたと言ってるけどね。

 

それからサタナ君は織斑一夏、あの織斑先生の弟だと聞いた。けど、織斑先生と自分の妹から出来損ないのレッテルを貼られていたらしい。

 

二人はドイツの名前が本当の名前だと主張してるみたいだから、私はその名前で呼ぶことにした。

 

 

 

 

授業でISは直ぐに動かせたけど、問題もあった。違和感があって、まるで枷を付けられたように動きにくかった。

 

武装も使ってみたけど銃は仕方ないとしても、接近戦用のブレードも使いにくい。

 

これはマレウスやお姉ちゃんも同じらしく愚痴っていたから。

 

フォル君とサタナ君に聞いてみたら開発者の人曰く、聖遺物の使い手はISが枷になるそうだ。

 

これは我慢するしかないと思って授業の時は我慢して訓練した。アリーナで二人きりになった時、フォル君に頼んでIS装着してる時に形成や創造を使ったらそうなるかレクチャーしてもらった。

 

でも、私は彼に対してなんだか好きになれない感じがした。

 

彼が言葉を発するたびに私に中で彼に負けたくないという気持ちが溢れてくる。

 

イライラして、頭に血が昇ってくる。戦って叩き潰したくてたまらない。

 

「ねえ、フォル君」

 

「ん?おわ!?」

 

いつの間にか私はISを解除し、形成して斬りかかっていた。自分でもわからない、彼を倒したくて仕方ない。振り下ろした一撃は彼に易々と避けられてしまった。

 

「いきなりなにしやがんだ!?櫻井!」

 

「私と戦いなさい!」

 

「はあ!?」

 

「あなたを見てるとイライラしてくるのよ、理由はわからないけど」

 

「ああ、そうかい。俺もお前と戦いたかった。理由はわからねえ!けど、一つだけ言える」

 

「ええ、私も一つだけ言えるわ」

 

彼もISを解除し、形成して両手首に刃を出してきた。聖遺物の使い手だと思ってたけど、かなり強い部類に入るみたいだ。

 

「「あなた(お前)を倒したくて仕方ない!」」

 

振り抜いた一閃は彼の刃に止められる。反動はそのまま伝わってるのだろう時折、呻く声が聞こえてくる。

 

「強いな、櫻井。なんでだろうな?お前と戦ってるとすごく興奮してくる」

 

「フォル君って変態かしら?女と戦って興奮するだなんて」

 

「馬鹿言え!俺はノーマルだ。ただな、お前と戦ってると満たされてくる感じがするんだよ」

 

「奇遇ね、私もそう。不思議よね?私達、知り合って間もないのに」

 

「ああ、そうだな・・・だがよ!」

 

「くっ・・・!」

 

彼が私の形成の刃を止めたまま押し込んでくる。こんなに強いなんて、けれど私も負けられない。

 

「この!」

 

「うお!?」

 

私が慣れない足技を使った事に驚いたのか、フォル君は後ろへ飛んで避けたようだけど確かに手応えを感じた。無駄がありそうでも彼の動きには隙がない。

 

「ゲホッ!効いたぜ?櫻井・・・」

 

「おかしいわね、戦って傷つけ合ってるのに感情が激しく動いてる」

 

「同感だ、血流したってのに興奮が収まらねえ」

 

斬って、斬られて、殴って、殴り返されてお互いがボロボロになるまで戦い続けた。

 

最後の一撃を決めようとしたら、彼に押さえ込まれて押し倒されてしまった。

 

「あ、ぐっ!」

 

「終わりか?櫻井。あっけねえな?」

 

「あなたが、強いのよ。最後の最後で押し切られるなんて、悔しいな」

 

「なら、なんで抵抗しねえんだ?お前なら反撃できるだろ?」

 

「無理よ。力は入らないし、押し退けるほど元気もないから」

 

そう言いながらも櫻井から目を離せない俺がいる。こいつは美人の部類に入るというのもあるが、出会った時から何故かこいつを放っておけなかった。

 

「なんで・・・」

 

「ん?」

 

「なんでいつも、頑張ってきたのに崩れるの・・・命懸けで必死になって走ってきたのに」

 

「・・・・」

 

「答えてよ、何も上手くいかない時にどうすればいいか。教えてよ!」

 

急に泣き出して、こいつは支離滅裂になってやがる。強い女だと思ってたが放っておけない理由がわかった。

 

コイツには芯が無いんだ、支えとなるものが一切無い。それを行動でごまかして走って、最後には硝子のように砕けちまう。

 

「馬鹿か?櫻井。お前が命懸けでやってきたってのは、お前にしかわからねえよ。上手くいかない?そりゃあそうだろうよ」

 

「じゃあ!」

 

「殺せ、ってのは無しだからな?俺はお前みたいな奴に命令されんのが一番嫌いなんだよ」

 

こうなりゃ滅茶苦茶になるが言いたい事をはっきり言ってやる。

 

「お前の価値観で図られんのはな、すっげームカつくんだよ。芯が無いくせして取り繕ってんじゃねえぞ?下に見られんのは一番ムカつくことだろうが」

 

「・・・っ」

 

自分でも滅茶苦茶だ、でも確信できてる。櫻井だからこそ言えるんだと。

 

「這い上がって見返せばいい、単純かつ王道パターンだ。お前そういう話好きだろ?」

 

 

「同年代の子たちと勉強したり、遊んだり」

 

「バカやって失敗しても楽しいって騒いで、怒られて」

 

「どこのお菓子が美味しいとか、何組の誰を好きになったとか」

 

「そんな話が」

 

「私も好き!」

 

突然、櫻井に抱き着かれて唇を奪われた。いきなり過ぎて訳が分からなくなっている。

 

この時にアリーナに誰も居なかった事に感謝していた。

 

「!?」

 

「好きな人と、こうしたり、からかったりして」

 

「おま、いきなり過ぎねえか?おまけに人のファーストキス・・・」

 

「何を少女漫画の女の子みたいなこと言ってるのよ。それなら私だって」

 

ああ・・・解ってきちまった。俺はコイツに惚れ込んだ、一目惚れしてたのか。

 

「イライラしてたんじゃなかったのね、好意って理解するとすごく恥ずかしいわ」

 

「言ってる事が最初と違うぞ?」

 

「しょうがないじゃない、好きになった人なんていなかったから。おまけに一目惚れなんて・・・」

 

「一目惚れってのは成立しないと思ってたけどな」

 

「ほんとよ、でも。それが成立しちゃった」

 

そう言ってまた櫻井に唇を塞がれる。おいおい、やられっぱなしの流されまくりじゃねーか俺。

 

「ん・・・・む、フォル君」

 

櫻井は唇を離すと目が潤んでいた。妙なスイッチ入ってるだろ絶対。

 

「私はしつこいわよ?絶対に逃がさないし、責任取ってもらえるまで付き纏ってやるから」

 

「・・・・」

 

こいつ、滅茶苦茶言いながら告白してきやがった。つうかなんだこれ?新手の八二トラってやつか。

 

「ああ、そうかい。だったら好きにしろよ、他にも狙ってくる奴もいるぞ?」

 

「その時はその時で、相手してあげたら?」

 

「なんだそりゃ?」

 

「私が一番最初なんだから、それにこの状態だし据え膳貰わないの?」

 

「こんな場所でもらえるかっつーの、それにまだ気分じゃねーし」

 

正直に答えたら櫻井は笑い始めやがった。おまけに抱きつく力を強くして。

 

「アハハハハ!フォル君って所かまわず食べちゃいそうな感じがしたのに」

 

「人をレイプ魔みたいに言うな、この野郎」

 

「ふふ・・あはは・・ごめん、やっぱりフォル君をからかうのは楽しいわ」

 

こいつ、人が何もしないのをいい事に。

 

「ん・・・う」

 

また櫻井に唇を奪われる。今度は深く舌まで絡めてきて、それなら応えてやるか。

 

「んんっ!?はぁ・・ん・・・んう」

 

しばらくして息が続かなくなり、お互いに唇を離した。

 

「はぁ・・はぁ・・意外に上手じゃない。フォルくんってば、やっぱり」

 

「おい、変な勘違いするな。お前が舌を絡めてくるから応えてやっただけだっての」

 

こいつ、見れば見るほど良い女じゃねえか。容姿は黒髪でツリ目で、性格は強気で素直じゃなくて放っておけない。完全に俺好みのストライクゾーンだ。

 

「だったら、今度こんな機会があれば私を抱いてよね?貴方を受け入れるつもりだったんだから」

 

「バーロー、こんなにキスされて興奮しないってのがおかしいだろ?場所がアリーナじゃなく部屋だったら抱いてるっつうの」

 

「ウフフ、最初のセリフ・・・漫画に出てくる子供の探偵のセリフじゃない」

 

「るせえよ、櫻井。少しだけ黙ってろ」

 

「え?あ・・・ん」

 

今度は俺から櫻井の唇を奪った。嫌な顔一つせずに受け入れられガッシリと抱きつかれた。

 

そのまま俺達は少しの間、抱き合った後自分達の部屋へ戻った。




画像を見てたら浮かんだので書きました。

螢可愛いよ螢!

ベアトリスと螢は可愛すぎて流出しそうです。


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番外劇 戦乙女の導き 道標の想い

彼女は光り輝く騎士であり導く者」

「その導きがとある人物を変えていく」

「では、興味深く見てみよう」

「彼女、ヴァルキュリアの想いを」


演説・水銀の蛇



黒円卓に在籍してから、私は少佐と共に様々な戦いをしてきた。ハイドリヒ卿は守護に重きを置いているようで、ここ数年動こうとしない。

 

少佐は平和な空気に馴染めず、煙草の本数が増えていた。そんな時だった、ハイドリヒ興が動いたのは。

 

この城に呼ぶに相応しい渇望を持つ者の声が聞こえたそうで、マキナ卿と少佐が外へ出て渇望を持つ者を連れてくるよう命令された。

 

さらに驚いたのは男性二人、それも今の時代を生きる青年二人だった。

 

今の私と変わらない年齢の二人、まぁ実年齢はかなりのおばあちゃんの私ですが何故か惹かれるものがりました。

 

彼らは人形になる事を強要され、家族からも出来損ないとして見放されたと聞きました。

 

愛されず、偽りの感情ばかりを見続けてきた彼らの目には危うく、力を求めていたのです。

 

私自身、彼らの世話役を自ら名乗り出ました。自分でもどうして名乗り出たのか分かりません、彼らを放って置けなくて仕方なかった。

 

『私は道を照らす光になりたい』

 

私の中にある揺るぎないたった一つの矜持、ヴァルキュリアとしての自分が持つ存在意義。

 

サタナ=キアとフォル=ネウス、この二人を迷うことなく導ける光となろう。

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・」

 

「強い・・なんで!?」

 

彼らが黒円卓に来てから私は暇を見ては彼らに剣を教えていました。少佐からは

 

「キルヒアイゼン、あの二人を鍛えろ。教官としてな」

 

と言ってきた。少佐が鍛えろなんて言うのは珍しい、最も少佐の事ですから人手不足だとか言いそうですけど。

 

「なら、特別に私の全力を見せてあげますよ。そこから存分にかかってきなさい」

 

「え?」

 

「全力?」

 

訓練用の髑髏の密度を強くし、創造でなければ崩せないくらいの強度に成り始める。擬似的とはいえ今の訓練用髑髏はトバルカインと同等の力を持っている。

 

そんな相手の前に立ち、ベアトリスは静かに宝剣を手にした。

 

War es so schmahlich,――(私が犯した罪は)

 

hm innig vertraut-trotzt’(心からの信頼において) ich deinem Gebot.(あなたの命に反したこと )

 

Wohl taugte dir nicht die tor'ge Maid,(私は愚かで あなたのお役に立てなかった)

 

Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer(だからあなたの炎で包んでほしい)

 

Wer meines Speeres Spitze furchtet,(我が槍を恐れるならば)durchschreite das feuer nie!(この炎を越すこと許さぬ )

 

Briah―(創造)

 

Donner Totentanz(雷速剣舞・)――Walkure(戦姫変生)

 

それは閃光だった。全力を出したベアトリスの一撃は瞬きする暇もなく、一瞬で強化された訓練用の髑髏を倒してしまったのだ。

 

「今日の訓練はこの状態の私と戦う事。さぁ・・・かかってきなさい!」

 

「!相棒!」

 

「ああ」

 

「「行くぞぉ!」」

 

サタナとフォルは同時に向かっていくが、ベアトリスに対し何一つ出来なかった。形成を覚えたばかりの身で創造の相手に挑むこと自体が無謀なのだ。

 

訓練が終わるまで何度も死を味わい、終わった頃にはサタナとベアトリスだけが残っていた。

 

フォルはザミエルに引きづられ、特別訓練という名のシゴキを受け続けている。

 

「訓練とはいえ、ボロボロになっても向かってくるなんて。グラズヘイムじゃなかったら消滅してるのよ!?」

 

「う・・・」

 

サタナは何も言い返す事が出来ずに押し黙ってしまった。

 

 

 

私自身でも解らない、どうして私はこの二人を気にかけ続けているのだろうか?どこかこの二人に惹かれている自分が居る。

 

半世紀以上も年下の彼らにどうしてこうも心を動かされるのか、どうしても放っておけない。

 

「全く、無茶するのは男の子らしいけど」

 

「俺や相棒は此処で一番弱いですから、だから追い付きたいんですよ」

 

そう言葉を紡いでくる彼は最初に出会った時の危うさが少しずつ消えている。それに、この二人は双首領閣下と同じ奇縁で結ばれているようだ。

 

「だからといって無茶し続けてちゃ意味がありませんよ?」

 

「うう・・」

 

ああ、私はこの二人に好意を抱いているんですね。まだどちらの方が上とかはわからないですけど。

 

「でも、努力してる姿は認めてます。ベイとかは認めてないみたいだけど気にしちゃダメよ?」

 

「ベアトリスさん・・・」

 

「ちゃんと休息をとる事、いいわね?」

 

はぁ、この年になって年下にときめくなんて何が起こるかわかりませんね。悪い気はしませんけど。

 

 

 

彼らが創造を身に付ける過程までたどり着いたと副首領閣下から聞かされた。彼らは少佐を含む三騎士との修行をしている。

 

「はぁ、心配になりますね」

 

数時間後、訓練を終えた二人がボロボロの状態で戻ってきた。数えるのが面倒になるくらいの回数を死んできたのだろう。

 

「やっぱり・・・三騎士同時相手はキツイ」

 

「強くはなれるけど、俺達この戦いでどのくらい死んだんだろうな・・・」

 

「さぁ、な。3から先は数えてねえよ」

 

「お疲れ様、二人共」

 

「あ、ベアトリスさん」

 

「どうやら相当扱かれたようですね」

 

「お察しの通りです」

 

二人の表情から私も思わず苦笑してしまう。訓練を見ていましたがフォルとサタナの戦闘の違いが分かってきました。

 

 

フォルはナイフや徒手空拳などによる接近戦、サタナは剣術の方が伸びやすいようで、私が主に剣術を二人に指導する事にした。

 

二人の成長は早い。指導者としてなら喜ぶべきなのでしょうが、あまりの上達ぶりに少しへこみかけている自分がいます。

 

黒円卓自体が二人にとって追いかけても追いかけても追いつけないものなのでしょう。

 

「はい、休息ですよ」

 

「「わかりました」」

 

手合わせして分かったことがある。フォルはまるで鏡に映った虚像のように私の動きを模倣し、自分の技としている。

 

サタナは自らが学んでいた剣と共に私の指導している剣術を取り入れる事で技が整ってきている。

 

二人が笑顔で話しているのを見ていると自分の内で鼓動が早くなっているのを感じる。

 

ああ、もう!どこまでこの二人は私をかき乱すんですか!全く。

 

「ベアトリスさん?」

 

「へっ?な、なんですか!?」

 

「休息時間が終わったから特訓の続きを」

 

「あ、そうですね。わかりました」

 

今は秘めた想いにしておきましょう。どちらに好意を抱いてるかちゃんと決めたいですからね。




この話は学園に来る前の話です。

ベアトリスは可愛いですがザミエル卿が居ないと難しいです。

正田卿はどうしてあのようなセリフをポンポン浮かぶのでしょうか・・?

知りたいです。


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