カワイイ破壊者・ディケイド (ゆーふぉにあ)
しおりを挟む

ボク、変身!

第1話、この話から既にディケイド本編とは差異がいくつかあります
その差などを含めてお楽しみいただければと思います


 

「……ここは、どこ?」

 

高森藍子はどこかの岩場に立っていた。

その手には赤い2眼レフのトイカメラが握られている。

 

「うおおおおおお!」

 

遠くから、叫び声と地鳴りのような足音が近づいてくる。

遠くに見えるのは100台を超えるのではないかというバイクに乗った仮面の戦士たち。

そして巨大な龍や空を駆ける列車。

 

「な、なに……?」

 

ここは危険だ、そう頭ではわかっているのに足が地面に張り付いたかのように離れることをを許さない。

 

《FINALVENT》

《RiderShooting》

《FullCharge》

 

「キャーッ!」

 

火球が、銃弾が、衝撃波が

無数のエネルギーが藍子を越え、一点へと向け放たれる。

しかし

 

「ぐあああ!」

 

「うわああああああ!」

 

お返しと言わんばかりにその一点から放たれる攻撃、それになすすべもなく戦士たちもモンスターもただ倒れていく。

少しして、騒がしかったその場から一切の音が消えた。

一点を目指し攻撃をしていた戦士たちは、壊滅していた。

 

「……」

 

藍子はゆっくりと振り向き、その一点を見つめる。

 

「……ディケイド」

 

マゼンタ色のその戦士を見つめ、藍子は確かにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

「……さん、藍子さん、起きてください」

 

藍子は自分を呼ぶよく知る声で目を覚ます。

 

「……ふぇ?幸子ちゃん?」

 

その正体は、輿水幸子。藍子の後輩アイドルだった。

 

「もう、プロデューサー迎えに来てますよ。最近忙しくてお疲れでしょうけど、寝るのは帰ってからにしてくださいね」

 

「う、うんごめんね。アレ?」

 

自分の方に自分のものでない上着がかけられていることに気づく。

可愛らしいその上着はキュートな彼女によく似合う、そんなことを思いながら藍子は上着を外して幸子の元へ向かう。

 

「ふふっ、相変わらず素直じゃないんだから」

 

「なんのことですか?ボクは素直でカワイイ女の子ですよ?」

 

ふふん、いつも通りの態度を崩さない幸子に藍子はそれ以上何も言わず上着を幸子に被せる。

 

「2人ともお疲れ様、収録についていられなくてごめんな?大丈夫だったか?」

 

「ふふん、ボクにかかればこのくらい朝飯前です!」

 

「幸子ちゃん本当に大活躍だったんですよ〜」

 

今日行われたのはバラエティ番組。

2人はドラマの番宣として出演したが、ゆるふわな藍子と全力投球な幸子のコンビが観客にも好印象を与えていた。

 

「そ、そうです!だからプロデューサーさんもボクたちを労ってくれてもいいんですよ?」

 

素直に褒められると弱いのも仲良くなった頃から変わらない。藍子はそう思いながら幸子とプロデューサーのやり取りを見守る。

 

「それじゃ一回事務所に戻ってその後は仁奈ちゃんと菜々さんと今度の番組の打ち合わせだな。雨も降り出しそうだし、できるだけ手短に済ませよう」

 

「えぇ、そうですね。藍子さんもお疲れみたいですし」

 

「ん?そうなのか、なんならまた別の日に回しても大丈夫だぞ?」

 

「いえ、さっきまで休んでたので大丈夫です。幸子ちゃんは大丈夫?」

 

「もちろんです!」

 

「じゃあ決まりだな、車に乗ってくれ」

 

プロデューサーに促され、2人は車に乗り込む。

外は今にも雨が降り出しそうな曇天、雨が降り出す前に事務所まで向かってしまいたいとプロデューサーは車を走らせる。

 

「そういえばプロデューサーさん、新人のアイドルが来るのって明日でしたっけ?」

 

「あぁ、先輩として面倒を見てやってくれよ?幸子も菜々さんや藍子にしてもらったように」

 

「ボクが面倒を見たらすぐにトップアイドルになっちゃいますよ?」

 

「ははは、そりゃ願ったり叶ったりだ。たのもしいな……ん?」

 

プロデューサーが車を止める。

そこには数人の警察官が通行止めを行っている。

 

「なにかあったんでしょうか?」

 

「聞いてくる。ちょっと待っててくれ」

 

プロデューサーは車を降りて警察官の元へと歩み寄る。

 

「何かあったんですか?」

 

「いえね、この先でちょっと混乱があったみたいなんですよ」

 

警察官のうち1人がプロデューサーに受け答える。

 

「混乱?事件か何かですか?」

 

「えぇ、なんでも怪物が出たとかなんとか」

 

「怪物!?まさか映画じゃあるまいし」

 

「それがどうやら本当みたいなんですよ。こんな怪物が出たって……」

 

警察官がそう言うと、警察官全員の身体がまるで灰のような身体を持つ怪物へと変化する。

 

「う、うわああああ!?」

 

プロデューサーは大慌てで車に戻り、車を発進させる。

 

「な、なんですかあれ!?」

 

「か、怪物ですか!?」

 

「知らん!とりあえずおとなしく掴まってろ!舌噛むぞ!」

 

プロデューサーはアクセルを踏み込み車を反転させる。

 

「どうなってるの……?」

 

そう呟いた藍子は自分のスマートフォンが光っているのに気づく。

 

「電話、仁奈ちゃんから?」

 

こんな状況での電話、嫌な予感を感じながらも藍子は電話を繋げる。

 

『大変でごぜーますよ!』

 

その一言は、仁奈が危機的状況にいることを伝えるには十分だった。

 

「仁奈ちゃん!?どうしたの!?」

 

『事務所の周りにトンボみたいな怪人がたくさん現れやがりました!』

 

「事務所の周りに!?仁奈ちゃん、今どこにいるの?」

 

『菜々おねーさんのメイドカフェでごぜーます!菜々おねーさんは逃げ遅れた人がいないか探しに行ってしめーました。事務所にはもう人はいねーですよ』

 

「菜々さんが……!プロデューサーさん!事務所じゃなくて菜々さんのメイドカフェに向かってください!」

 

「聞こえてたさ!」

 

プロデューサーは車の進路を変え、スピードを上げる。

 

しかし

 

「プロデューサーさん!なんか並走してますよ!パパラッチなんて比じゃないくらいのしつこさです!」

 

幸子が車と並走する影に気づく。

それは先ほどの灰のような怪物とは違い、鮮やかな色をしている、虫のような怪物だった。

 

「ッ!危ない!」

 

幸子がそう叫ぶも虚しく、車は怪物、ワームの一撃で勢い良く横転していた。

 

 

 

〜〜〜

「あと少しで、今度も始まる」

 

「彼女の動きはどうなってるの?」

 

「順調さー。予定通り」

 

「そう、ならそろそろ行ってくるわね」

 

 

 

〜〜〜

「……痛っ!」

 

頭に激痛を感じながら幸子はなんとか身体を起き上がらせる。

 

「あ、あれ?」

 

しかし、違和感があった。

横転した車の中で手を地面につけばそこは車の壁、もしくはガラスのはず。

しかし彼女が手をついたのは、コンクリートの床だった。

 

「……2人は!?」

 

幸子が辺りを見回すとすぐ横には藍子が倒れていたがプロデューサーの姿は見当たらない。

というか、そもそも遠くがよく見渡せない。

先ほどまでも曇天で明るくなかったとはいえ、今のあたりは夜、それも周りに明かりがない。

 

「目が慣れないと、歩き回るのも危なそうですね……藍子さん、起きてください」

 

藍子の身体に怪我がなさそうなことを確認しながら揺すり起こす。

 

「うん……?幸子ちゃん、あれ、ここは?」

 

藍子も当然ながら戸惑う。

言ってしまえば自分たち2人だけが車の中からワープしてきたようなものだ。

 

「輿水幸子さんね」

 

「ヒィッ!?だ、誰ですか!?」

 

突然背後から呼ばれ身体をびくりと震わせながら幸子は振り返る。

そこに立っていたのは青い髪をなびかせた少女。

 

「あなたのカードとバックルはどこ?」

 

「ボクは14歳だからクレジットカードは作れませんよ!というかボクの質問に答えてください!」

 

「幸子ちゃん、どうしたの?」

 

声を荒げる幸子をらしくないと感じた藍子は幸子の顔を覗き込む。

その顔は不快そうな表情で少女を睨みつけている。

 

「なんだかあの人を見てるのイライラします…!頭の中がザワザワして」

 

「世界を救うためには、あなたの力が必要になる」

 

少女は幸子の言葉など意に介さないというように話を続ける。

 

「世界は9つに分かれ、1つに戻った。そうして均衡を保つはずだった」

 

少女が天を指差す。

釣られて幸子と藍子がその先を見るといくつもの地球が浮かび、そのうちの2つが衝突し、消滅する。

 

「なんなんですかこれは!」

 

そう言い幸子が再び少女の方を見るも、そこに既に少女の姿はなかった。

 

「とにかく、ここから脱出しないと……!」

 

 

 

 

 

〜〜〜

「お疲れ、千早」

 

小さな事務所のような部屋に戻ってきた少女、千早をメガネをかけた女性が迎え入れる。

 

「律子、なんで私に行かせたの?」

 

「他の子より余計なことを言わないだろうから、じゃダメかしら?」

 

律子はそう言って何かのデータが書かれたバインダーを取り出す。

 

「輿水幸子、彼女が全てを終わらせる。私たちにできるのはその道を示すことだけ。余計なことをすれば……彼の二の舞よ」

 

「……もう一度行ってくるわ。そろそろだと思うから。彼女の旅の始まりが」

 

千早は部屋に戻ってきてから、正確には幸子と会話した時から表情を一切変えずにいた。

 

「……私は、全てが終わるまで、決して笑わない」

 

誰も気づかないように小さくそう呟くと、千早は部屋を後にした。

 

「限界が近い、か」

 

律子は大きくため息を吐くとバインダーに目を通す。

 

そこには17人の少女の名前が連なっている。

10番目には幸子の名前もあり、その横の欄には赤い文字でDECADEと書かれていた。

 

 

〜〜〜

「ひ、ヒィーッ!もう無理!ムリっす!」

 

「菜々だってムリですよー!でも、走ってくださーい!」

 

メイド服を着た女性、安部菜々は仁奈を自身の勤めるメイドカフェに隠れているように告げると他に助けを求めている人がいないか辺りを探していた。

その中で1人の女性を見つけたはいいが、2人一緒に怪人に追い回されることになっていた。

追いかけてくる怪人はモグラのような姿だった。

 

「こ、こんなことならニートなんかせずしっかり働いておけばよかったっす!」

 

「比奈さん!こっちです!」

 

菜々が比奈の手を引き、倒壊しかけたビルの陰に隠れる。

 

怪人たちは菜々たちが隠れたことに気づかずそのまま真っ直ぐに走っていく。

 

「はぁー……はぁー……な、なんとかなったっスね……」

 

「で、でもなんとかしてカフェに戻らないと……ん?」

 

菜々が何かに気づき、小さな瓦礫をどかし始める。

 

「なんかあったんスか?」

 

「えーっと、今この辺が光って……これかな?よいしょっと」

 

少し大きめの瓦礫をどかした中から現れたのは、土埃にまみれ、古ぼけたバックルとカードホルダー、そしてそれだけは綺麗なままの2眼レフのトイカメラだった。

 

「カメラのレンズがなんかに反射してたみたいっスね。でもこの天気じゃ……」

 

比奈がそう言ってカメラに触れようとした瞬間だった。

不快な鳴き声が、2人の後ろから聞こえた。

 

ーー気付かれた!

 

「比奈さん!行きますよ!」

 

菜々は拾ったものを抱えたまま比奈に走るように指示を出す。

その時に見えたのは先ほどのモグラのような怪人と、アリのような姿をした怪人。

逃げる方向はちょうど仁奈がいるメイドカフェの方向だった。

 

「なんなんスか今日は!」

 

我ながら情けない悲鳴だと思いながらも2人は必死に走り回る。

最初に走り始めてどれくらい経っただろうか

一時間近く経ったのじゃないだろうか

 

「な、菜々の体力はもう限界、です……!」

 

「じ、自分も、もう、限界っス……」

 

2人はついにそこに座り込む。

カフェはもうすぐそこだが、最早そこまで歩みを進める余裕もない。

怪人もゆっくりとではあるが2人に迫る。

 

「うおおおおおっ!」

 

鈍い金属音が響き、怪人のうちの1匹が大きく後ずさる。

 

「菜々!大丈夫か!?」

 

「プロデューサーさん!」

 

プロデューサーは頭から流れる血を拭う。

恐らく車が横転した際にぶつけたのだろう。

しかしそんなことは二の次と言わんばかりに鉄パイプを構え怪物と菜々たちの間に割って入る。

 

「菜々、幸子か藍子から連絡はないか!?」

 

「幸子ちゃんたちですか?いえ……菜々のところには何も」

 

「クソッ、どうなってるんだ……とにかくここは俺がなんとかするから安全な場所まで逃げろ!」

 

「で、でもプロデューサーさん、頭から血が!」

 

「こんなもんツバつけとけば治るってばあちゃんが言ってた!いいからとっとと行け!」

 

「……ちゃんと追いかけてきてくださいね!」

 

菜々と比奈はヘロヘロになった足で歩みを進めようとするが

 

「痛っ!」

 

「な、なんスかこれ?か、壁?というかオーロラ?」

 

菜々は頭を抑え比奈はペタペタと突然出現したオーロラを触る。

触れても害はなさそうだが、菜々がぶつかった部分にも傷一つ付いていない。

 

「ぐぁぁっ!」

 

「プロデューサーさん!」

 

鉄パイプが地面に落ちる音とプロデューサーの悲痛な叫び声が聞こえる。

怪物はプロデューサーの首を掴むとゆっくりと持ち上げる。

 

「ぐっ……化け物がぁっ!」

 

プロデューサーも負けじと怪物の腹部に蹴りを叩き込む。

 

「ぐっ……ふん!」

 

怪物はプロデューサーを投げ捨てる。

プロデューサーはそのまま建物に激突し気絶する。

 

「何か……何か手は……!?」

 

菜々はあちこちを見回し、そして気づいた。

 

「……幸子ちゃん?」

 

オーロラの向こう、こちらに向けて走ってくる幸子と藍子の姿に。

 

 

 

「菜々さん!プロデューサーさん!」

 

幸子と藍子はいつのまにか夜の町から元の町に戻ってきていた。

それからは夢中に走り回り、気づけばそこにいた。

幸子はオーロラを何度も叩くが、ヒビどころか傷の一つも入らない。

 

「プロデューサーさん!」

 

「どうしたらいいの……そうだ!」

 

藍子は辺りを見回し近くに落ちていた工事用のスコップを見つける。

 

「これなら……!」

 

藍子はスコップをオーロラに向けて振りかぶる。

 

「お二人とも離れてください!」

 

藍子の言葉に促され菜々と比奈は数歩横に避ける。

 

「せぇーっの!?」

 

次の瞬間、藍子はオーロラに触れることも、ましてや砕くこともなくオーロラを越えていた。

そしてスコップは手をすっぽ抜けて飛んで行き

 

「うぐっ?!」

 

怪人に直撃していた。

 

「あ、あれ?どうなってるの!?」

 

「ちょ、ちょっと、ボクだけ置いてきぼりですか!?」

 

幸子も近くに落ちていた別のスコップを拾い上げオーロラを叩くが、通り抜けることはない。

 

一方怪人の中の一匹がスコップをぶつけられたのに腹を立てたのかのしのしと3人の方へ向けて歩いてくる。

 

「ど、どうしましょう!?」

 

そう言って菜々話慌ててまたオーロラをガンガンと叩き始める。すると

 

「あっ…」

 

菜々の手からバックルとカードホルダーがすっぽ抜けオーロラをすり抜ける。

 

「これは……?」

 

幸子はそれを拾い上げる。すると先ほどの千早の言葉がフラッシュバックする。

『あなたのカードとバックルはどこ?』

 

「カードと、バックル……」

 

小さく呟くと幸子はバックルを自分の腰元に当ててみる。

するとバックルからベルトが伸び幸子の身体にバックルを固定する。

 

「……そういうことですか…!」

 

幸子はカードホルダーから一枚のカードを取り出す。

そのカードに描かれているのは、マゼンタカラーを基調とした仮面の戦士DECADE

 

「3人とも離れてください!」

 

全てを察したかのように幸子は3人に呼びかける。

 

「幸子ちゃん、一体何を!?」

 

「世界を、救います。恐らく…」

 

そう言って幸子はディケイドのカードを胸の前に掲げ、

 

「変身!」

 

そう高らかに声を上げる。

 

《KAMENRIDE_DECADE!》

 

幸子がカードをバックルに装填し、バックルを閉じると音声とともに幸子の身体はカードに描かれていたのと同じ、マゼンタカラーの戦士、ディケイドへと変わっていく。

 

「さ、幸子ちゃんが、変身した!?」

 

「……!?」

 

「ディケイド……!」

 

菜々は大げさな程に驚き、比奈はもう声も出ないのか口をパクパクと動かしている。

そして藍子は、ディケイドの姿に戸惑いを見せる。

その姿が夢で見た戦士と全く同じ姿をしていたのだから当然だ。

 

「はぁっ!」

 

ディケイドはオーロラに向け拳を突き出す。

するとオーロラはいとも簡単に砕け散る。

 

「きゃっ!」

 

藍子たちは思わず頭を抱えるがオーロラの破片は藍子たちをすり抜けると消えていく。

 

「隠れていてください!」

 

ディケイドはそう言うと怪人の方へと駆け出す。

 

「たぁっ!」

 

ディケイドが一番近くまで迫っていたモールイマジンを殴ると大きく吹き飛ばされ背後のモニュメントに激突し、消滅する。

 

「プロデューサーさん!」

 

ディケイドは呼びかけるがプロデューサーは気絶しているのか動くことはない。

その間にも2匹目、3匹目のモールイマジンがディケイドへと迫る。

 

「イマジン……」

 

そう呟くとディケイドは一枚のカードを取り出し、装填する。

 

《KAMENRIDE_DEN-O!》

 

まるで電車が通り過ぎるような音ともにディケイドの姿が仮面ライダー電王ソードフォームへと変化する。

 

「ま、また変わったっスよ!?」

 

「電車?」

 

「桃にも見えますね…」

 

驚いたり考察をしている3人をよそにD電王は戦闘を続ける。

 

「いきますよ、勝利のイマジネーションはもう見てえます!」

 

そういうとD電王はカードホルダー、ライドブッカーをソードモードへと切り替えモールイマジンへと斬りかかる。

その動きは、先ほどより素早く、モールイマジンに反撃の隙を与えない。

 

「わかる……戦い方が、敵の動きが……!」

 

D電王はモールイマジンの右手をライドブッカーで弾き飛ばすと数歩下がり、再びカードを取り出す。

 

「これでトドメです!」

 

《FINALATTACKRIDE_DE-DE-DE-DEN-O!》

 

「ボクの必殺技!」

 

D電王は勢いよく駆け出すと赤く光りだしたライドブッカーでモールイマジンを2匹まとめて斬り捨てる。

 

「よしっ」

 

「幸子ちゃん、危ない!」

 

「っ!」

 

藍子の声にD電王は上を向くとすぐそこまで強烈な酸による攻撃が降り注いでいた。

なんとかそれを避けるが飛んできた方には10数匹はいるであろう蟻のような姿の怪人、アントロード〈フォルミカ・ペテス〉の姿があった。

 

「しつこいですね、なら今度はこれです!」

 

《KAMENRIDE_AGITO》

 

D電王は赤いアーマーが特徴的な電王の姿から黒と金のボディ、そして2本の黄金の角が特徴的な仮面ライダー、アギトグランドフォームへとカメンライドする。

 

「ふっ!はっ!」

 

剣を主体とした電王ソードフォームとは異なりDアギトは徒手空拳でアントロードを圧倒する。

しかしモールイマジンに比べ数が多く、倒すのに時間もかかり、下手をすれば背後を取られてしまいかねない。

 

「多勢に無勢……ってわけでもありませんが厄介ですね。ならこれで!」

 

《FORMRIDE_AGITO_STORM》

 

Dアギトの胸部や左腕が青く、隆起したストームフォームへとさらに姿を変える。

Dアギトストームフォームが左腕をベルトの前へとかざすとそこから薙刀、ストームハルバードが出現する。

 

「はあああっ!」

 

Dアギトは風を纏ったストームハルバードで次々にアントロードを斬り捨てる。

 

「ふぅっ……」

 

最後の一匹を倒すとDアギトは変身を解除し、プロデューサーへ駆け寄る。

当然藍子と菜々も後に続き、雰囲気に流されてか比奈も近くへと寄る。

 

「プロデューサーさん、大丈夫ですか!」

 

「うぅっ……」

 

プロデューサーは苦しそうに呻き声をあげるばかりで目を開くことはない。

 

「と、とにかくカフェまで運びましょう!病院に連れて行きたいところですが……」

 

そう言って菜々は空を見上げる。

こちらへと視線を向けていないとはいえ空にも鳥とは違う生物が何匹も飛び回っている。

そして先ほどの怪人、安全に病院までたどり着けるか、たどり着けたとして病院が機能しているかも怪しい。

 

「仁奈ちゃんも心配ですし、急ぎましょう」

 

そう言って菜々がプロデューサーに肩を貸した瞬間。

 

「キシャアアアア!!」

 

「っ!?」

 

いつの間に近づいていたのか、ビルの裏側から巨大な蜘蛛の魔化魍、ツチグモが現れる。

幸子も慌てて再びディケイドへ変身しようとするが、

 

「はい、そこまで」

 

パチン、と指を鳴らすような音とともに、世界が静止した。

ツチグモも、藍子やプロデューサー、空中の怪人も、遠くで燃えていた火も全てが最初から動いていなかったかのように止まっている。

 

「はじめまして、幸子ちゃん」

 

「……うわっ!?」

 

その声とともに幸子だけが静止した時間から動き出す。

 

幸子の前には頭に二つのリボンをつけた可愛らしい少女が1人立っている。

 

「あなたは誰ですか?さっきのあの女の人の仲間ですか?」

 

「さっきの…あぁ、千早ちゃんのことだね?そうだよ。そして私は天海春香。幸子ちゃん、あなたに伝えたいことがあってきたの」

 

春香がそう言って上を指差す。

するとそこには先ほど千早と出会った時に見たのと同じく複数の地球が浮かび上がる。

 

「この地球一つ一つが世界。そして、その世界ごとにいろいろな人たちが生きている。そしてその世界には仮面ライダーって呼ばれる戦士がいたの」

 

「仮面ライダー……この力のことですね」

 

幸子はディケイドライバーを握りしめる。

 

「そう、そしてその世界は絶対に交わらない。そうして均衡を保っていたの。けど」

 

春香がそう言うと地球同士がぶつかり、消滅する。

ここまでは千早が幸子に見せたのと同じ光景。

 

「その均衡が、崩れて、世界は一つになろうとしてる。幸子ちゃん、それを救えるのは、あなただけ」

 

「ボクがですか?」

 

「うん、あなたが世界を旅する。それが世界を救うたった一つの方法」

 

「なんでボクなんですか?」

 

幸子がそう尋ねると春香は少し俯きつつも答える。

 

「ディケイドは、全ての仮面ライダーを破壊する。創造は、破壊からしか生まれないから……けどきっとあなたなら世界を救える。そう信じてるから、私たちはあなたに託す。世界を」

 

「そんな急に言われても……それにプロデューサーさんや藍子さんたちはどうなるんですか!?」

 

「うーん…幸子ちゃんのプロデューサーさんは私が預かっていいかな?きっとその怪我はすぐに治さないとだし」

 

「……わかりました。ちゃんと治してくださいね」

 

「うん、それじゃあちょっとまってね」

 

そう言い春香が手を叩くと藍子、菜々、比奈の3人も静止した世界から解き放たれる。

そしてそれと同時に、プロデューサーが浮かび上がり春香の横へと飛んでいく。

 

「きゃっ!」

 

「うわわっ!」

 

3人は驚き辺りを見回す。

 

「ごめんなさい。あんまり話せること、多くないんだ。でも旅をすればわかると思う。私たちも、あなたの助けになることはできるだけするか、ら、」

 

「春香さん?」

 

春香の声にノイズが走る。どうやらそこにいるのは本人ではなくホログラムのようなものらしい。

 

「ごめん、いかなくちゃ。またきっと連絡するからそれまで旅を……」

 

そう言って春香春香の消える。

いつの間にやらその隣に浮いていたはずのプロデューサーの姿も見えない。

 

「……世界を、旅する……」

 

「あのー……」

 

バックルを握りしめ小さく呟く幸子に菜々が恐る恐るというように手をあげる。

 

「とにかく一度カフェに戻りませんか?仁奈ちゃんと合流するのもそうですが、落ち着ける場所に移動した方が」

 

「そうですね。幸子ちゃん、行こう」

 

そう言って藍子は手を差し出す。

 

「……はい、行きましょう」

 

「自分も付いて行っていいんスかね?」

 

4人はカフェへと向け歩き出す。

 

 

 

 

〜〜〜

「どうですか?律子さん」

 

「大丈夫、しっかり休めば元気になると思うわ。プロデューサーってみんな生命力が強いのかしら?それと春香、勝手な行動は慎むように、わかったわね?」

 

「はーい、でも幸子ちゃん、大丈夫かな……」

 

「今は信じるしかないわ。そしてそれを見極めるのが、最初の世界」

律子はそう言って脇においたバインダーに視線を落とす。

 

「邪魔が入らなければいいけど……」

 

 

〜〜〜

「菜々おねーさん!幸子おねーさん!」

 

4人が戻ったメイドカフェの周囲は異常とも言えるほど怪人の現れた形跡はなかった。

さらに仁奈も、止まった世界の影響を受けていない。

恐らくこれも春香の力によるものだろうと幸子は無理やり自分を納得させる。

 

「飲み物用意しますね」

 

そう言って菜々はキッチンへ駆けていく。

止まった世界の中でも電気は生きているのか高い位置に備え付けられた薄型テレビは延々と砂嵐を映し続けている。

 

「テレビ、映らなくなりやがりました。壊れちまったですか?」

 

そう言って仁奈はテレビのリモコンを藍子に手渡す。

 

「とりあえず、しばらくは電源切っておこうか」

 

そう言って藍子がテレビの電源を切ろうとしたその瞬間、ブチンと音を立ててテレビや部屋の明かりが消え去る。

曇天なことも相まって部屋の中は完全な暗闇になってしまう。

 

「ふぎゃー!」

 

「さ、幸子ちゃん!?」

 

暗闇に驚いた幸子派思わず藍子に飛びつく。

 

「ぼ、ボボボ、ボクは暗闇なんて怖くないですけど藍子さんが不安になると困りますからね!」

 

「なんにも見えねーです!」

 

「とりあえず自分に捕まってるといいっスよ。えーと、仁奈ちゃん?」

 

比奈はそう言ってなんとか仁奈の手を握る。

そんなやりとりをしているうちに再び電気がつく。

 

「みなさん、大丈夫ですか?……ってアレ?」

 

飲み物を持った菜々が停電が終わると同時にキッチンから戻ってくると幸子たちの背後の壁を見つめて首を傾げる。

 

「どうしたんですか、菜々さん」

 

「そこの壁、そんな絵、飾ってなかったと思うんですけど……」

 

その言葉に4人が振り返るとそこには額に飾られた一枚の絵があった。

 

「森の中に……」

 

「太鼓でごぜーますか?」

 

森の中に置かれた大きな和太鼓。

幸子はその世界がどこか確信し呟く。

 

「響鬼の世界……ですね」

 

 




最初は響鬼の世界、ということでディケイド本家とは違った順番で世界を巡ります
また、序盤の世界で登場するアイドルは既に変えられませんが、このアイドルにこのライダーになってほしい、というのを感想で送っていただければ参考にさせていただきますので興味があれば感想と一緒に送っていたたければと思います
それでは次回、響鬼に変身するのは誰なのか、お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 10~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。