もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら? (雪希絵)
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はじまりのレイシフト

どうも、こんにちは。

最近FGOガチャ爆死回数を更新しまくった雪希絵です。

つい最近お風呂で思いついたネタで書いてみます。

笑えないレベルでチートになる気もしますが、頑張って面白くしたいと思います。

ちなみに作者は百合好きなので、そういう描写が多々あります。

割とソフトな感じでいくので、ハードなのがほしい方はご意見くださいね。

※多大なキャラ崩壊を含みます。


「先輩。もうそろそろ、ドクターに呼び出された時間ですよ」

「うーん」

「ですので、あの……」

「うーん」

「そろそろ膝枕をやめてもいいですか?」

「うーん」

「これは……絶対に聞いてませんね」

 

そう言いながら、『マシュ・キリエライト』はため息をついた。

 

カルデア唯一のマスターで『藤丸立香』の私室。

 

そのベッドの上で、マシュは立香に膝枕をして(させられて)いた。

 

「先輩!本当に時間になっちゃいますよ!」

「うーん」

「はあ、まったくもう……」

 

半ば呆れながらマシュが再びため息をついた時、部屋の扉がノックされ、駆動音を慣らしながら開く。

 

「マスター。そろそろ時間です」

 

マシュと同じことを言いながらも、それ以上の気品を感じる声が響く。

 

「おお、我が愛しのアルトリア。会いたかったよ」

 

その声を聴いた立香は、起き上がりながら軽い様子でそう言った。

 

「私も会いたかったですよ、マスター」

 

それに対し、伝説のアーサー王ことアルトリア・ペンドラゴンは微笑みながら答える。

 

「おー、それは嬉しいねー。で、どうしたの?アルトリア」

「はい。ドクターロマンがマスターを呼んで来てほしいと言っていたので」

「そっかぁ。まったくもー、ドクターもせっかちなんだから。私としては、あと二時間くらいはこの至福の時間を味わいたかったんだけど」

 

ぶつくさと文句を言いながら、立香は靴を履いて立ち上がる。

 

ちなみに、マシュは立香が離れた瞬間からむくれている。

 

愛しのアルトリアに関しては、マシュにもたまに言うので文句はない。

 

しかし、今までマシュの言うことは聞かなかったのに、アルトリアの言うことは聞くのかと不満なのである。

 

端的に言えば、嫉妬しているわけだ。

 

しかも、立香はそれを分かってやっているからタチが悪い。

 

実際、歩きながらチラチラ後ろを見てはニヤニヤしている。

 

「マスター、あまり虐めてはいけませんよ」

 

見かねたアルトリアが小声で忠告する。

 

「えー、だって、マシュ可愛いんだもん」

「気持ちはわかりますけど……。ちょっとは自重してください」

 

嘆息しながらアルトリアがそう言うと、立香は悪戯な笑みを浮かべ、

 

「あ、でも、アルトリアもすっごく可愛いよ?」

 

と言った。

 

「なっ……!」

 

突然のド直球に、さすがのアルトリアも慌てる。

 

その反応が満足だったのか、立香はもう一度笑って、マシュの方に走り去った。

 

(あー、やっぱり二人とも反応が可愛いなー!)

 

そんなことを考えながら。

 

約五分ほど歩き、3人は管制室に到着した。

 

小さな駆動音を立てて開く扉を抜けると、そこには白衣を来た一人の男性が椅子に座ってモニターを眺めていた。

 

「ドクター、来ましたよー」

「ああ、立香ちゃん。待ってたよ」

 

にこやかな笑みを浮かべ、ドクターロマンことロマ二・アーキマンは挨拶をする。

 

しかし、そう思ったのも束の間、ロマ二は真剣な顔になると、モニターを切り替える。

 

「いきなりで悪いんだけど、さっそく本題に入らせてもらうよ。実は、おかしな特異点があってね」

「おかしな特異点?」

 

立香が首をかしげる。

 

「うん。というより正しくは成りかけかな。特異点というほどの規模ではないけど、おかしな点が2つあるんだ」

「むしろ、おかしくない特異点なんてあるんですか」

「いや、それはないけど……。身も蓋もないこと言わないでよ、立香ちゃん」

「てへっ☆」

「それで誤魔化そうとしないでください、マスター」

 

可愛らしく舌を出した立香に、アルトリアがすかさずツッコミを入れる。

 

息の合ったコンビだ。

 

そんな空気を変えるため、ロマ二は一度咳払いをしてから先を続ける。

 

「それじゃあ、まず一つ目。この特異点、どうやら位相が少しだけズレているみたいなんだ」

「ズレている……?」

「うん。半次元もないんだけど、ほんの少しだけズレているんだ」

「なるほどね……たしかに変だわ」

 

腕を組み、立香は考え出す。

 

今までの特異点では様々な場所に行った。

 

下手をすれば、固有結界の中までも。

 

しかし、そんな中途半端な場所は、今まで経験したことはなかった。

 

「それと、もう一つ」

 

ロマ二の声に、立香の意識が会話に戻る。

 

「どうやら、この特異点……未来にあるみたいだ」

「「「────!?」」」

 

3人が絶句する。

 

そもそも、カルデアの目的は2016年以降失われてしまった未来を取り戻すことだ。

 

それが完了していないにも関わらず、未来があるとはどういうことなのか……?

 

「詳しくは、現在調査中だ。

ただ、ここが特異点である以上、放っておくことはできない」

「それで、私たちの出番ってわけですね」

「そういうこと。マスター立香、頼めるかい?」

 

立香は一度、アルトリアとマシュに振り返る。

 

二人は力強く頷くことで返事をする。

 

「それじゃあ、これからレイシフトを開始する!

3人とも、頼んだよ!」

「「「はい!!」」」

 

スタンバイが完了すると、アナウンスが流れ出した

 

アンサモンプログラム スタート。

霊子変換を開始 します。

レイシフト開始まで あと3、2、1……。

全行程 完了(クリア)

グランドオーダー 実証を 開始 します。

 

直後、三人の意識はブルーの渦に飲み込まれた。




ちょっと設定詰め込み過ぎましたかね……


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緊急事態発生

書き忘れましたが、主人公の服装は魔術礼装・アトラス院制服で、アルトリアは普段はアニバーサリーブロンドです。

理由ですか?

か・わ・い・い・か・ら・です!!!


周囲から音が遠ざかる。

 

レイシフト後の軽い酔いのような感覚が消え、3人は目的地に到着した。

 

「レイシフト完了。身体状況に異常なし、周囲に敵性反応……」

「……どう見ても敵性反応ありまくりだけど?」

 

3人がレイシフトしたのはどこかの森の中だった。

 

それと同時に……謎の集団のド真ん中でもあった。

 

「お、おい、何なんだよ、こいつら!」

「い、いきなり現れたぞ!」

「ていうか……女だぞ!」

 

ざわざわと騒ぎ出す男たち。

 

目の前に突然現れた3人が女性だと気づいた瞬間、いきなり目の色を変えて武器を構える。

 

「ど、どうします!?マスター!」

「ぶっ飛ばす!」

「ですよねー!」

 

慌てるマシュに対し、冷静(?)に返す立香。

 

「アルトリア!」

「承知しました!マシュ、マスターを頼みます!」

「はいっ!」

 

アルトリアの指示に従い、マシュが立香の前に立つ。

 

「私のマスターには、指1本触れさせません!」

「何がマスターだ!一斉にかかれ!」

 

総勢10人はくだらない男たちは、剣や斧、槍など様々な武器を持って襲いかかる。

 

巨大な盾を持っているマシュを一旦無視し、何も持っていないはず(・・)のアルトリアを対象にする。

 

四方八方から襲来する刃。

 

しかし、彼らは知らない。

 

華奢で鎧以外は線の細いアルトリアに秘められた、無敵ともいえる能力を。

 

「────ふっ!」

 

短い気合いとともに、アルトリアは構えた両腕を振るう。

 

直後、耳を裂くような轟音が鳴り響き、男たちは誰一人漏れなく吹き飛ばされ、周囲の木に叩きつけられた。

 

「振った剣の風圧でこんなに踏ん張ることになるなんて……」

 

マシュが若干声を震わせながらそう言う。

 

周りの男たちも立ち上がり、再び武器を構える。

 

だが、その表情は先程までとは打って変わって、明らかに動揺している。

 

「何なんだ、あの女……。どんな筋力パラメータしてるんだよ……?」

(……? パラメータ?)

 

男の漏らした一言に、立香は違和感を覚えた。

 

筋力というのはわかるが、なぜわざわざ『パラメータ』をつける必要があるのか……?

 

「マスター。マスター、ご指示を」

「……えっ?あっ、ごめん」

 

アルトリアの声に我に返る。

 

頭を切り替え、立香はこの場からさっさと逃れるために、指示を飛ばす。

 

「とりあえず、峰打ちで全員殴ろうか?」

「はい!」

「また盾で峰打ちですか……!」

 

アルトリアは返事を、マシュは若干文句を言いながら駆け出す。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!来た!」

「に、逃げろ!」

「し、死にたくねぇぇぇぇ!」

 

すると、男達は情けない声を上げながら逃げ出してしまった。

 

「……あら?」

「に、逃げましたね」

 

始まりと同じく突然な終わりに、3人は目をパチパチとささせる。

 

しばらくそのまま固まっていたが、アルトリアが剣を下ろしたので、立香とマシュも警戒を解く。

 

「何にせよ、殺さず終わったのは良かったと言えるでしょう。どうやら奇襲の可能性もなさそうですし」

「そうですね。先輩、お怪我はありませんか?」

 

しかし、立香から返事はない。

 

(おかしい……明らかに。あれだけ吹き飛ばされたにも関わらず、あいつらは全員割とすぐに立った。普通は背骨くらい折れたって仕方ないような勢いだったのに。それに耐えられるほど強いって可能性もあるけど、だとしたら逃げる理由が見当たらない……)

 

「……い……。……んぱい。先輩!」

「うおぅ!どったの!?」

「どうしたのじゃありません!やっぱり、どこか怪我をしたんですか?」

 

どうやら、立香が思ってた以上に考えこんでいたらしい。

 

「ごめん、ごめん。なんともないよ」

「ならいいんですけど……。ひとまず、カルデアに連絡しますね」

 

ほっと息をつき、マシュはカルデアに連絡をとる。

 

「ドクター、聞こえますか?こちらマシュです」

「えっ!?ま、マシュ!?ってことは、立香ちゃんとアーサー王もいるのかい!?」

 

すると、やけに慌てた様子のロマ二の声が聞こえてきた。

 

「どうしたんですか?そんなに驚いて」

「どうしたもこうしたもないよ!だって、君たちの身体、今こっちにあるんだよ!?」

「……はあ?」



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ここはどこ?

お気に入り登録数29!?

2話しか投稿してないのに!?

あ、ありがとうございます!!<(_ _)>

登録してくださった皆様の期待に答えられるよう、努力していきます!

よろしかったら、ぜひご意見ください!

ただ、作者のメンタルは豆腐とはいかないまでも、たぶん餅くらいなので優し目にお願いします

それと、更新遅れてすみませんでした
m(_ _)m


「身体が残ったままって……どういうことですか?」

「そのままの意味だよ。レイシフトの光が消えた後、確認に向かったら、3人が倒れてたんだ」

「……うそでしょ……」

 

立香は頭が痛くなった。

 

ただでさえ不確定材料が多いのに、通常のレイシフトでは有り得ないことまで発生しているのだ。

 

楽観主義な立香でも、少々気が重くなる。

 

「今、ダヴィンチが君たちの身体を分析しているところだ。にしても、驚いたよ。3人の身体を調べたら、ほとんど死体と同じ状態だったからね」

「……えっ!?だ、大丈夫なんですか!?ドクター!」

「そうです!サーヴァントである私とマシュはともかく、マスターは無事なのですか!?」

「いや、私二人の前でピンピンしてるんだけど……」

 

しかし、立香の言葉も意に介さず、2人は慌てふためく。

 

そんな2人をなだめようとロマ二が口を開いた瞬間────。

 

「その心配はいらないよ。調査が終わったあと、すぐにコールドスリープさせておいたからね」

 

割って入るように美人の顔が映し出された。

 

「あ、ダヴィンチちゃん」

「やっほー、さっきぶりだね。立香ちゃん」

 

軽い調子で挨拶をした彼女(?)『レオナルド・ダヴィンチ』は、そのままの表情を崩さず、報告を始めた。

 

「とりあえず、3人の身体をあらかた調べた。まず共通して言えるのは、3人の身体は生命活動が停止してはいないが、仮死状態とも言えるほどに衰退していたね」

「うん、それは僕も確認したよ。最初は完全に死んでいるかと思ったほどだ」

 

3人の表情が険しくなる。

 

今こうして立ってはいるが、どうやら本体は大変なことになっているらしい。

 

「しかし、そうなるからには理由があるんですよね?まさかレイシフト中に攻撃されたとか……ですか?」

 

マシュが疑問を口にする。

 

ダヴィンチは首を横に振った。

 

「いや、理由はもう分かっているよ。どうやら3人とも、魂がごっそり抜けてるみたいだ」

「それって死んでない?」

「普通は死ぬね」

「デスヨネー」

「まあ、私は天才だからね。君たちの魂が戻ってきたら、ちゃんと元の身体に戻すことを約束しよう」

 

ふふんと得意気に胸を張ってそう言うダヴィンチに、3人は安堵の息をついた。

 

「まあ、戻れるみたいならそれでいいとして……。ここどこ?」

 

言いながら立香は周りを見回す。

 

そこにあるのは、見渡す限りの木。

 

もはやそれ以外に何があるのかというレベルだ。

 

「たしかに、こう緑ばかりだと、状況判断ができませんね」

「ヒーリング効果だけはありそうだけど」

「呑気なことを言わないでください……」

「あはは、相変わらず3人は面白いな。ただ、申しわけないけど、こちらにも情報はほとんどない状態だ。立香ちゃん、なんでもいい、手がかりはないか?」

 

ロマ二に言われ、立香は考える。

 

(違和感は最初からあった。さっきの戦闘、男の言った一言。どれもなんか妙なんだよね……)

 

とはいえ、あまり手掛かりない。

 

どうしたものかと考えながら、宙で手を動かしていると、不意に変な感覚が指先から走った。

 

ちょうど、指を上から下にドラッグするような動きの時だ。

 

その瞬間、

 

「うわっ!」

 

目の前に、まるでスクリーンのようなものが出現した。

 

そこには人の形が記載されているだけでなく、『items』や『skills』といった記述がある。

 

普通、魔術師にはわからないようなもの。

 

しかし、魔術師ではなく、元はほとんど一般人だった立香には見覚えがあった。

 

「これ……ひょっとしてステータス画面……?」

「? どうしたんです?マスター?」

 

独り言のように呟く立香に気づき、アルトリアが声をかける。

 

そんなアルトリアの方を向き、立香はニコッと笑い、

 

「わかったよ、ここがどこか」

 

と言った。



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仮想世界

とうとうSAOのキャラが登場します!

誰が登場するのかお楽しみに!


「おーっ!さすがは立香!もうわかったのかい?」

 

自信満々な立香の一言に、ダヴィンチは目を輝かせて反応する。

 

特異点のたびに、鋭い洞察力で真実を導き出してきた立香に、ダヴィンチは一目置いているのだ。

 

「まあ、あくまでも予想だけどねー。たぶん、ここはゲームの中だよ」

「ゲームの……」

「中……?」

 

アルトリアとマシュが首を傾げる。

 

そんな中、ダヴィンチだけが目をキラキラとさせる。

 

「ほうほう!その心は?」

「理由は三つ。一つ目、このステータス画面だよ」

 

言いながら、立香は目の前のステータス画面を指さす。

 

「なんですか……?この黒い画面は」

「真っ暗ですね」

 

アルトリアとマシュは、立香に肩を(必要以上に)くっつけて、そのステータス画面を覗きこむ。

 

しかし、二人にはただ黒い画面にしか見えなかった。

 

「ありゃ、私にしか見えないのかこれ。えーっと……どうにか見えるようにする方法は……」

 

困り果てた立香は画面のあちこちを触る。

 

そんな時、

 

「それなら、画面の上の方に全表示モードがあるはずだよ」

 

と、不意に横から声がかかった。

 

「「「!?」」」

 

その瞬間三人は一斉に真横に飛び、声がした方を向いて身構える。

 

「誰っ……!?」

 

眼鏡の奥の瞳を鋭く細め、立香はその人物を睨みつける。

 

だが、

 

「か、可愛い……!!」

 

すぐに警戒を緩めて、目をハートマークにする。

 

そこにいたのが、絶世の美少女だったからだ。

 

「ご、ごめんね!びっくりさせるつもりはなかったんだけど……!そ、その、一応警戒を解いて貰えると助かるなー……!」

「いえ……もう……大丈夫です……。マスターがすでに骨抜きですので……」

 

ため息をつきながら、マシュは盾を下ろす。

 

ご察しの通り、立香は凄まじいほどに美少女に弱い。

 

単純に女好き(自分も女だが)というだけなのだが、本人も女の子にモテるため、拍車がかかりまくった。

 

結果出来上がったのは、『美少女は正義!マジ美少女Love!』とか叫び出すようなやつだった。

 

そんな立香の前に現れたのは、長い茶髪が特徴的な美少女だ。

 

服装は全体的に白色だが、所々に赤の入り、まるで騎士のように見える。

 

「先程は失礼しました。なにぶん、ついさっき襲われたばかりなもので」

「ううん、気にしないで。私も急に話しかけちゃってごめんね」

 

アルトリアが武器を下ろし、その美少女騎士に謝罪する。

 

「や、やばい!甲冑美少女アルトリアと騎士服美少女のコラボ……!はぁはぁ」

 

そして、その間に鼻息を荒くしながら入る立香。

 

これがカルデア唯一のマスターか……とロマ二が頭を抱えたことも露知らず、立香は美少女騎士に詰め寄る。

 

「あなた、名前は!?私はリツカ!!」

「え、えっと……『アスナ』だけど……」

「アスナね!よろしく!末永く!」

「えっ?末永くはもう確定なの?」

「他にも色々教えて欲しいな!スリーサイズとか、スリーサイズとか、スリーサイズとか!」

「スリーサイズしかないよね? それ」

 

怒涛の勢いでまくし立てる立香に、アスナは目を白黒させながらも答える。

 

恐らく、根が真面目なのだろう。

 

しかし、このままにもしておけない。

 

それを見兼ねたマシュが立香の脇に手を入れ、羽交い締めにしてからアスナから引き剥がす。

 

「先輩!アスナさんが困ってます!それに、初めて話の通じそうな人に会ったんですから、情報を集めるチャンスです」

「お、それもそうだね。いやー、テンション上がっちゃって気づかなかった!」

 

若干名残惜しそうにアスナから離れ、立香は表情を整え、アスナに向き直る。

 

「こほん。さて、気を取り直して、自己紹介続行だね。私の左にいるのがアルトリア。私の右にいるのがマシュだよ」

「「よろしくお願いします」」

「うん、よろしくね。それで、リツカちゃんの聞きたいことって何?」

 

言いながら小首を傾げるアスナに、『可愛いぃぃぃぃぃ!!』と叫びそうになる衝動を抑え、立香は答える。

 

「えっと、率直に言えば、ここがどこかってこと」

 

直後、突如として訪れる静寂。

 

理由は、アスナが口を開けたまま動かなかったからだ。

 

たっぷり三十秒は固まったあと、アスナはようやく口を開く。

 

「……まさか、ここまで来てどこかわからないなんて人がいるなんて……」

「? どういうこと?」

「どういうことも何も無いよ。ここは、VRMMORPG『ソードアートオンライン』でしょ?そんな当然のことも、忘れちゃってるの?」

「……なるほど、そう来たか……」



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察しのいい主人公

今回、主人公の推理をひたすら綴る回です。

読んでてつまんないとは思いますが、とりあえず読んであげてくださいお願いします。

それと、話が飛ぶのはご容赦ください。


立香は考えていた。

 

正直言えば、ここが仮想ゲーム世界である可能性は考慮していたのだ。

 

まず一つ目、現れたステータス画面が昔やっていたゲームに似ていたこと。

 

人の形が描かれたそれは、どう見ても装備スロット。

 

その横にある画面は、恐らくアイテム欄やスキルなどのステータスが記述してあるのだろう。

 

二つ目、先程の戦闘中の男の一言。

 

単純に『筋力』というのはわかるが、なぜわざわざ『パラメータ』をつけるのか。

 

それは恐らく、レベルアップなどで手に入るスキルポイントを割り振るなどをして、自身の力をブースト出来るということだろう。

 

パラメータというからには、そうでないと説明はつかない。

 

そして三つ目、アルトリアの攻撃。

 

普段のアルトリアなら、人間の背骨を叩き折るような勢いで攻撃することはない。

 

元がどうたったかわからないが、少なくとも立香に出会ってからは、ただの人間に乱暴な真似はしない。

 

しかし、さっきの一撃は強過ぎた。

 

歴戦の剣士であるアルトリアが加減を間違えるなど、普通有り得ない。

 

劇的に世界法則ごと変わった以外には。

 

今までの固有結界などでは、常識外れなことはあっても、重力や加速度などの世界法則だけは変わらなかった。

 

つまり、ここに来た瞬間、アルトリアのステータスが現実世界よりも如実に現れ、アルトリアは加減を間違えたのだ。

 

(ここまでは、あくまでもゲームの世界である理由。

そして、仮想世界だと考えた理由は……)

 

それは簡単だ。

 

立香の視界右下に映る、現在も時を刻み続けている時計。

 

ステータス画面の段階でも違和感を覚えたものだが、これで合点がいった。

 

この世界は仮想世界であり、仮想世界を用いたゲームであるということが。

 

その予想は、アスナの言葉で裏付けられた。

 

「……っていうわけよ」

「な、なるほど……?」

「わかったような、わからないような……?」

 

あの後、アスナの追求を全力で回避し、どうにか森を抜けて街に辿り着いた。

 

案内という名目で着いてきたアスナとはフレンド登録(立香しか意味を理解していなかった)をし、別れた。

 

その近くにあった店に入り、一番目立たない席に座って、立香は自分の推理をアルトリアとマシュに話したのだが、残念ながら二人はほとんど理解出来ていないようだ。

 

「────さすがだね。もはや予測の領域を越してるよ……」

「ダヴィンチのような半分変態と意見が合うのはどうかと思うけど……ここは素直に同感だ」

 

しかし、モニターから聞いていたロマ二とダヴィンチには全てわかったようだ。

 

その予想が正しいことも。

 

「さて、立香ちゃんのおかげで、ここがどこかはわかったね。この前提があれば、調査もしやすいはずだよ」

「お、それは期待大だねー。何かわかったら、また連絡してねー」

「了解だ、立香ちゃん。じゃあ、また後で」

「はいはーい」

 

プツッと音がして、通信が切れる。

 

それを確認し、立香が二人に向き直ると……。

 

「うえっ!?」

 

マシュはショート状態、アルトリアは湯気が出そうな勢いで考え込んでいたのだった。

 

「ちょ、二人とも、何があったの!?」

 

NPCの店員以外誰もいない店内に、立香の叫び声が響いた。



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立香先生の大説明会

えっ……?

お気に入り登録数46……?

いつの間にそんなことに……。

有難いことこの上ないですありがとうございます!<(_ _)>

一層努力していきます!


「……大丈夫?二人とも」

「「どうにか……」」

 

とりあえずマシュとアルトリアに水を無理矢理飲ませ、強引に落ち着かせた立香は、二人の返事を聞いて息をつく。

 

「たしかにちょっと難しい話だとは思うけど、だったらそんなに考えなければいいのに……。二人ともバカ真面目なんだから」

「すみません……マスター。どうしても、その、『仮想世界』というものがわからなかったのです」

「ああ、なんだ、そんなこと?だったら私にお任せ!」

 

そう言いながら、立香は特にズレてもいないのに眼鏡を指で持ち上げる。

 

「まあ、根本から説明してると凄い時間かかるから省くけど。仮想世界っていうのは、ようは何も無いところに本当にそれがあるように思い込ませるものだよ」

「? 幻術の一種ですか?先輩」

「んー?やっぱそっちに直結かー」

 

あはは、と苦笑いをしながら、立香は続ける。

 

「幻術ってわけではないんだけどね。例えば、脳に直接リンゴの情報を送り込むでしょ?そうした場合、実際にリンゴが目の前に現れるし、触って食べることもできるけど、胃の中は空っぽって感じ」

「つまり、魔術ではない手段で作り出した幻影ということですね?」

「ちょっと違うけど、もうそれでいいや。面倒だし」

 

諦めたようにため息をつき、立香は注文したチーズケーキを切り分けて頬張る。

 

と、アルトリアがその様子をじっと見つめていることに気づいた。

 

(ふーん……?あ、そうだっ!)

 

何やら思案してからニヤリと笑い、立香は切ったチーズケーキを、フォークに刺してアルトリアの前に差し出す。

 

そして一言。

 

「はいっ、あーん」

「────!な、な、なななな、なにを……!」

 

必殺の一撃と言わんばかりに放たれた一言に、アルトリアは面白いように動揺する。

 

(これは……、俗に言うというか前に玉藻殿が言っていた、『あーん』というやつか……!し、しかし、マスターと私の関係はあくまでも主従関係のようなもの!受け取るわけには……!だ、だが、マスターの思いを無下にするわけにも……!)

 

内心で葛藤を続けるアルトリアに対し、立香は追撃する。

 

「んー?いらないの?あーん!」

 

いたずらっ子のような笑みを浮かべ、フォークの先のチーズケーキをゆらゆらと揺らす。

 

ちなみに、マシュは一連のことが始まった時からフリーズしている。

 

横目でそれを確認した立香は、

 

(後でマシュにもあげよう……)

 

と思いつつチーズケーキを揺らす。

 

「ほらほら、あーん」

「うっ……で、では、失礼します……」

 

意を決したように言い、恐る恐るアルトリアはフォークに顔を近づける。

 

しかし、

 

「もー、まだるっこしいな。えいっ!」

「むぐっ!」

 

時間がかかると判断した立香は、半ば開いたアルトリアの口に、無理矢理チーズケーキをねじ込んだ。

 

「おいしい?」

「は……はい……」

 

味など分かるわけもないだろうが、顔を少々赤くしたアルトリアはそう答えるしかなかった。




つまんなくなりそうだったので、半ば無理矢理お楽しみ(ほぼ自己満足)を入れてみました。

もうちょっと百合百合したいので、頑張ります


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クエストをやろう

長らく空けてしまいました……

最近忙しいというか、帰ってきたら寝ちゃうんですよね

夜書く派にあるまじき行動です……


「ほらマシュも、あーん」

 

アルトリアをひとしきり弄った後、今度はマシュに向かってチーズケーキを差し出す。

 

「い、いいんですか……?」

 

震える声で言うマシュは、いつの間にか涙目だった。

 

(ありゃりゃ、ちょっとイジメ過ぎちゃったかなぁ……)

 

心の中で反省しつつ、立香はゆっくりと頷く。

 

「うん、いいよ。はい、あーん」

「………!! い、いただきます!」

 

心底嬉しそうに、マシュはチーズケーキを頬張る。

 

「おいしい?」

「はい……おいしいです……!」

 

ゆるっゆるの表情でチーズケーキを咀嚼するマシュは、同じくゆるっゆるの声で答える。

 

立香からしたら、可愛くて仕方ない。

 

この場で抱きつきたくもなるが、どうにかこうにか堪え、立香は話を次に進める。

 

「で、まあ、さっきの説明通り、ここは仮想ゲーム空間なわけ。

ってことで、とりあえずクエストを受けてみようと思うんだ」

「「……なんですか?それは」」

「とうとう考えるの面倒になってきてるし……」

 

元々が古代の王であるアルトリアはもちろん、魔術師であるマシュも、科学の産物であるゲームに関してはどうやら疎いようだ。

 

投げやりなリアクションに、立香はついついに苦笑いになってしまった。

 

「クエストっていうのは、ゲーム内で一定の条件を達成することを目標に行動して、クリアできたら報酬がもらえるっていう……まあ、任務的な?ゲームの中のミニゲーム的な?」

「最後が酷く曖昧ですが……わかりました。マスターがそう言うなら、やってみましょう」

「もちろん私もやります、先輩」

「そうこなくちゃ。じゃ、行こうか!」

 

そう言い、超高速でチーズケーキを片付け、立香は立ち上がる。

 

それはもはや、消えたようにしか見えないレベルだった。

 

「レッツゴー!」

 

───── 数分後 ──────

 

「さてさて!やってきました森の中!」

「元の森に戻っただけですよ!先輩!」

 

今までの経験からどうにか立香がクエストを受け、メニュー画面でパーティーを組んだ後に、三人は指定された場所にやって(もとい戻って)来た。

 

クエストは『怒号の衆』。

 

内容は狼型モンスターの群れの討伐。

 

一体一体は大して強くないが数が多く、さらに群れの長はかなり強いらしい。

 

(まあ、ダメならダメで撤退戦だ。今まで何度もやってきたし、逃げるだけならどうにかなるでしょ)

 

一応、ピンチになった時のことも考えている。

 

色々とふざけてはいるが、根はしっかり考えを持ったマスターなのだ。

 

「さて、クエストの情報によると、この辺なんだけど……」

「……!! マシュ!マスターを頼みます!」

「!? りょ、了解です!」

 

画面を見ながら呟いた立香を庇うように、アルトリアとマシュが並び立つ。

 

直後、前方から黒い狼が大挙して押し寄せてくる。

 

「どうやら、探す手間が省けたようです」

「うーん、ゲームだから殺気とかないはずなんだけど……何このリアルさ」

 

立香は苦笑いをしながら呟く。

 

脳に情報を送り込んでいるのだから当たり前のことだが、ゲームとは思えないほどに、狼の雰囲気は異質で恐ろしかった。

 

「ま、ゲームなら大丈夫か……。数だけは多いし、試せるだけ試そう!」

「「はい!」」

 

立香の言葉に、アルトリアとマシュは迎撃体勢をとった。



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何これ無双ゲー?

今回戦闘シーンです

やっぱり書いてて楽しいですね

イチャイチャシーンの次に


敵の姿を確認したアルトリアは、不可視の剣を静かに構える。

 

腰を落とし、後ろ足を踏み込んで加速。

 

同時、後ろ脚から大気を揺るがす轟音が響く。

 

「はっ─────!」

 

大上段に剣を振り下ろし、剣の進行方向と逆に噴射。

 

二重の加速を乗せた必殺の一撃を、狼の真正面から叩き込む。

 

大した音も鳴らず、狼はいとも簡単に真っ二つに切り裂かれ、硝子を砕いたような音を鳴らして散った。

 

「相変わらずいい切れ味だこと……。『魔力放出』様々だねー」

 

そう、これこそがアルトリアを最強の騎士王にした無敵の能力。

 

魔力の塊を、さながらロケットエンジンのごとく噴射し、移動速度と攻撃力を劇的に上昇させる。

 

莫大な魔力と、針に糸を通すような繊細な魔力操作技術があってこその能力だ。

 

「次!」

 

アルトリアは右側から迫る狼に魔力放出で振り返り、剣にも魔力放出を使って加速をかける。

 

神速のスピードを得た剣は、まるですり抜けように狼の身体を切り裂く。

 

さらに勢いを利用して一回転。

 

一斉に飛びかかって来た三体を薙ぎ払う。

 

「風よ……舞い上がれ────!」

 

水平に剣を構えたアルトリアは、高らかに詠唱する。

 

直後、眩い光とともに、一陣の風が剣から解き放たれる。

 

竜巻のごとく吹き荒れる風は、必殺の一撃となって三体の狼を飲みこんで消し飛ばした。

 

一方、マシュも負けてはいない。

 

その身体能力を生かして上空に飛び上がり、両手で持った盾を狼に叩きつける。

 

それだけで狼はいとも簡単に砕け散る。

 

着地と同時に両脚を強く踏み込み、正面に体当たり。

 

巨大な鉄球でも衝突したかのように、狼は悲鳴のような鳴き声を上げて弾き飛ばされる。

 

さらに盾を逆手に持って振り回し、十字架のような突起を利用して次々と薙ぎ払っていく。

 

そんな二人の様子を、立香は少し離れた位置から眺めていた。

 

右を向けば、眩い閃光と轟音とともに消え去る狼たち。

 

左を向けば、あっちこっちに吹き飛ぶ狼たちが見える。

 

「……なんだろこれ?無双ゲーかな?」

 

無茶苦茶な強さを見せつけるアルトリアとマシュを見て、立香は苦笑いでそう呟いた。

 

それから数十分後。

 

暇になりだした立香がとうとう花占いを始めたころ、ようやく音と光がやみ、狼が飛んでこなくなった。

 

決して手を抜いていたわけではないが、無駄に数が多かったために時間がかかったのだ。

 

「さて、これで残りは……」

「あと一体……ですね」

 

言いながらアルトリアは剣を構え直し、マシュは盾を両手で持って地面に突き立て、警戒体勢をとる。

 

二人の視線の先にいるのは、一体の狼。

 

ただし、体格は先程までの狼とは比にならないほど大きい。

 

鋭い牙を隠そうともせずに荒い息を吐き、鋭い眼光でこちらを睨む。

 

「マスターの言っていた、この群れのボスですね」

「黒くなった『もの〇け姫』のモ〇みたい」

「もう少し空気を読んでください、マスター!」

 

そんなこんなで、騒ぎながらもクエスト最後の戦闘が始まった。



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一攫千金

FGOのガチャに現在登場している新サーヴァント『イシュタル』

個人的には凛推しなので引かずにはいられないです

あと、どうせならこの流れでルヴィアも来てほしいです


ギャオォォォォォォォォ!!?

 

何度目になるかわからない、狼の悲鳴のような鳴き声が響く。

 

戦況はこれ以上にないほど一方的だった。

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

下から上への切り払い。

 

その軌道に沿って、閃光を放つ風が放たれる。

 

それは狼の下顎を捉え、巨体を上空に跳ねあげる。

 

「そこです!」

 

すかさずマシュが盾を振りかぶり、身体の真横を殴打して木に叩きつける。

 

しかし、狼はどうにか体勢を立て直して着地し、強靭な脚をフル稼働させてマシュに飛びかかる。

 

爪と盾が衝突する甲高い音が鳴るが、マシュはまるで地面に縫い付けられたように微動だにしない。

 

むしろ攻撃した狼の方が弾かれるほどだ。

 

「今です!アルトリアさん!」

「お任せを!」

 

アルトリアは魔力放出で加速。

 

飛ぶように狼との距離を詰め、躊躇なくその横腹に剣を突き立てる。

 

剣は鍔まで突き刺さり、まるで血のように赤いポリゴンの破片(立香しか知らない)が溢れ出す。

 

だが、これでは終わらない。

 

「風よ……舞い上がれ────!」

 

今回の戦闘で幾度も繰り返された詠唱。

 

決定的に違うのは、風の発生源である剣が体内にあるということだ。

 

ボンッ──────!!!

 

と、火薬の爆発のような音を轟かせ、狼の半身が吹き飛ぶ。

 

最後は悲鳴をあげることすら出来ず、狼は爆発四散した。

 

戦闘を眺めていた立香は、苦笑いを通り越して呆れ顔で、

 

「……なんだろこれ?無双ゲーかな?」

 

と再び言った。

 

「ふぅ……片付きましたね」

「マスター、お怪我はありませんか?」

「うん、ゲームだから怪我しないよ。

お疲れ様、二人とも」

 

言いながら立香は木から飛び降り、二人の頭をよしよしと言いながら撫でる。

 

マシュは少し恥ずかしそうに、アルトリアはかなり恥ずかしそうにしながらも、立香に身を任せる。

 

微笑ましいその光景を充分に楽しんでから、立香は二人の頭から手を離して踵を返す。

 

「さて、クエスト達成報酬でも受け取りに行こうか?」

 

そう言って歩き出す立香に、マシュとアルトリアは同時に頷き、後を追った。

 

──── 数分後 ────

 

「…………何これ」

「お金……ですよね……?」

 

3人の前にあるのは、机の上に積まれたコルの入った袋だ。

 

パッと見だけで10を超える数の。

 

「あのクエストって……そんなに難易度高かったんだ……」

 

それもそのはず、あのクエストは現在のトッププレイヤーでも敬遠するような難易度なのだ。

 

母体であるボスを中心に、ほぼ延々と狼型モンスターが湧き続けるため、最初は余裕でも後から酷い目にあう。

 

それこそ、魔法でもなければ突破不可能だ。

 

「ま、まあ、報酬は多いに越したことないし?とりあえずいいんじゃない?」

「そ、そうですね!先輩の言う通りです!ね、アルトリアさん!」

 

何か裏があるのではという懸念をかき消すため、立香とマシュは慌ててまくし立てる。

 

しかし、アルトリアはそれには答えない。

 

「……? どしたの、アルトリア」

「マスター……非常に申しあげにくいのですが……」

 

直後、アルトリアのお腹から、

 

キュゥゥゥ…………

 

と音がした。

 

「……お腹空いた?」

「はい」

 

即答だった。

 

そんなアルトリアに苦笑しつつ、立香は視界の時計を見る。

 

時刻は午後6時30分。

 

クエストを始めたのが4時だったため、三人はなんだかんだ2時間以上戦っていたのだ。

 

遠くから指示を出していただけの立香はともかく、主に戦闘を行っていた二人は間違いなく空腹だろう。

 

「うん。時間もちょうどいいし、途端にかなりの金額を稼げたし、ご飯にしよっか?」

「賛成です」

「マスターならそうおっしゃると思いました」

「アルトリア、ヨダレ垂れてる」

「はっ!?」

 

立香の指摘に慌てて口を拭うアルトリアに、二人はついつい吹き出してしまったのだった。



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美少女ですから

最近、主人公が真面目に見えてきので、ここらでぶっ込みます

次回を書くのが楽しみで仕方ないので、たぶん更新超早いです


「こういうのって、街中に宿屋があったりするものなんだよねー」

「ゲームの中にですか?」

「うん。リアリティを追求するなら、それくらいはするでしょ」

 

(どうやら、ログアウトもできないようだしね……)

 

立香はメニュー画面で確認済みだが、こういったVRゲームには必須なログアウト操作ができない。

 

というより、元からできるようになっていない気がする。

 

「んー……どこかいい店はないかなー。

んお?宿屋っぽい建物発見!しかもちょうどご飯も食べれる!」

「!? ご飯!!」

「アルトリアさん!?」

 

ご飯という単語に迅速な反応をする食いしん坊騎士王に、マシュが驚く。

 

「いやいや、夏休みの『カルデアサマーメモリー』の時で分かってたことじゃん」

「心なしか、本来の先輩が別の場所にいる気がしてきました……」

 

まるで異世界の人が中にいるような……などと呟くマシュをスルーし、立香は宿屋の中に突入する。

 

わずかに木が軋む音が鳴り、扉が開く。

 

その瞬間、店内の全員の視線が三人に集まる。

 

「わっ……!」

 

そういった視線に慣れないマシュが驚くが、アルトリアは眉を寄せるだけで、立香に至っては表情一つ変えない。

 

チラチラといった視線も、鋭く強い視線も浴びながら、三人は一番角の席に座った。

 

「あ、あの、先輩。なんだ随分と見られてる気がするんですけど……」

「そりゃあ、私達が美少女だからでしょ」

「さすがマスター、自分で言いますか」

「今まで散々もてはやされたんだし、自覚もするよ。っていうか、自覚してるのに知らないふりをしてる方がムカつくでしょ」

「そういうものなんですか?」

「そういうものだよ」

 

立香の言ってることは事実だ。

 

というのも、立香はアスナとの雑談の中で、この『ソードアートオンライン』こと『SAO』には女性プレイヤーが滅法少ないことを聞いていた。

 

その中でも美少女というと、さらに限られてくるのため、美少女となれば必ず注目を集めるのだ。

 

「まあ、アルトリアはどっちかというと綺麗ってタイプかなー。マシュは完全に可愛いだね、すっごい愛でたくなる」

「「うぅ……!」」

「何を今更恥ずかしがってるの……」

 

言われ慣れてるでしょ、と続けてから、立香は注文をとる。

 

数分後、多数の料理がテーブルを埋め尽くす。

 

(こういうとこはゲームだなー)

 

現実では有り得ない速度で運ばれてくる料理に、立香はそう思った。

 

「おおっ……!」

「お、美味しそうです……!」

 

ふと正面を見ると、前衛組が涎が出そうな勢いで料理を見つめていた。

 

やはり、カロリー消費が凄かったらしい。

 

「話はここまでにして、食べよっか?」

「「はい!」」

 

律儀に手を合わせ、二人は一心不乱に料理に向かっていく。

 

といっても、やはりマナーは徹底して守っているのだった。

 

(真面目だなー、二人とも)

 

立香は二人を見て微笑み、自分も料理を手をつけ始めた。

 

──── しばらくして ────

 

「た、食べすぎました……」

「わ、私も……」

「ほら、言わんこっちゃない」

 

風呂付きでキングサイズのベッドという豪華な部屋中、マシュとアルトリアはグロッキー状態だった。

 

「ペース遅くしたほうがいいって言ったのに……」

「すみません……」

「いいよいいよ。こちらとしては、抵抗できない方が都合がいいから」

「「……えっ?」」

 

言いながら袖を捲り、立香は満面の笑みを浮かべる。

 

それに対し、二人は冷や汗を流す。

 

経験上、立香がこうやって笑うのは嫌な予感しかしないのだ。

 

そんな二人にじりじりと歩み寄り、立香はその表情のまま告げる。

 

「一緒にお風呂……入ろうか?」

 

そして、サーヴァントである二人すら反応できないような速度で、飛びかかる。

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

広い部屋の中、システム的に誰にも聞こえない叫び声があがるのだった。



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お風呂にて

お風呂回です

大事なことなのでもう一度

お風呂回です

これを書いている時の作者の顔ほど気持ち悪いのはヌタウナギくらいでしょう

ヌタウナギ好きの人がいたら、ごめんなさい


「はぁ……」

「もうお嫁にいけません……」

「初心だなー、二人とも」

 

マシュとアルトリアが一糸まとわぬ姿でうずくまっている。

 

見えもしないステータス画面を操作するという離れ業をやってのけ、二人の装備を全解除した立香は、脱衣所でアトラス院制服を解除してヘアゴムも解く。

 

「アルトリアさん……」

「ええ……諦めましょう」

 

二人は何を言っても無駄だと悟り、先に浴室に入った立香の後に続く。

 

「おー!結構広い!」

「本当ですね……三人同時に入っても、これなら多少は余裕がありそうです」

 

部屋に備え付けの風呂は広く、そういうシステムなのか既に浴槽はお湯で満たされていた。

 

「とりあえず、私は身体を洗ってから入りたいので、マスターとマシュは先に浴槽に浸かっていてください」

「はいはーい」

「わかりました。お先に失礼します」

 

アルトリアに言われ、二人は浴槽に片足を入れる……間もなくマシュは立香に突き飛ばされた。

 

「わ、わわっ!」

 

バッシャーン!!

 

と激しく音が鳴り、マシュは頭から浴槽に落下した。

 

「イェーイ!!」

 

それに立香め続き、軽くジャンプして浴槽に飛び込む。

 

「ぷはっ!せ、先輩!何するんですか!」

「いーじゃん、いーじゃん。ちょっとハメを外したくなったんだよ」

「先輩は常に外れてます!」

 

顔から蒸気が出そうなくらいに憤慨するマシュをいなし、立香はお湯に肩まで浸かる。

 

「ふぅぅぅ……やっぱいいなぁ、お風呂は」

 

実際のところ、如何に最新鋭のVR装置であるナーヴギアでも、お風呂のような大量の流体の再現は難しいらしい。

 

だが、ここでそんなことを気にするのは野暮だろう。

 

ゲームの中だろうとお風呂に入れるどうかというのは、女性として沽券に関わる。

 

それが満たされた今、本物かどうかなどは些細なことだ。

 

「いいお湯ですねぇ……」

 

ふと前を見ると、先程まで怒っていたマシュも、肩までお湯に浸かって惚けた顔を浮かべている。

 

アルトリアもその白磁をような肌色をした自分の身体を、石鹸とタオル(途中の店で購入しておいた)で洗いながら、ふんふんと鼻歌を歌っている。

 

待ちに待ったそんな至福の一時を、三人は各々で味わっていた。

 

どれくらい経っただろうか。

 

不意に、マシュがとある視線に気がついた。

 

「あ、あの……先輩?」

 

じぃーーー、という音が鳴りそうなほどの立香の視線が、マシュに注がれる。

 

しかもそれは、他の二人と比べても明らかに豊かで、今もお湯にプカプカと浮いている胸部に注がれている。

 

しばらくそれは変わらなかったが、不意に立香が口を開く。

 

視線は変えないまま。

 

「ねえ、マシュ」

「は、はい」

「また育った?」

「は、はい!?」

 

マシュが驚いて声を上げたのと、立香が距離を詰めたのは同時だった。

 

そして立香は迷うことなく、その両腕で、がっしりと、マシュの両胸を鷲掴みにした。

 

「えっ、きゃ、ちょ、先輩!?」

「うーん……やっぱり」

 

抗議するマシュを華麗に無視し、立香は両手を動かす。

 

強弱をつけ、されど大事なものを扱うように胸を揉みしだく。

 

「やっ……!あ、あの……!はぅ!」

 

しばらくすると、マシュの声色が変わってきた。

 

あまりにも手慣れた手つきに、こらえきれず声が漏れる。

 

「はぁ…はぁ……!あっ……あぅん!」

「…………やば、なんか妙な気分になってきた」

 

対する立香も、あられもないマシュの姿に理性が崩れかける。

 

ただ、そこは腐ってもカルデア唯一のマスター。

 

思考が如何わしい方向にフルスロットルする前に、どうにか手を離した。

 

「はあ、はあ……。先輩!冗談にも限度があります!」

「あはは、ごめんごめん。にしても、すごいなー。感覚までリアルなんだもん、このゲーム」

 

名残惜しそうに両手の指を空気を揉むように動かし、立香は笑う。

 

マシュを胸を腕で抱きながら肩を上下させ、立香を睨みつける。

 

そんなマシュにもう一度だけ謝り、立香は視線を空気と化している人物に向け、にっこりと笑う。

 

『み・つ・け・た♡』

 

立香のそんな心の声が聞こえたのは幻聴だろうか。

 

腕で自らの身体を抱くアルトリアは、逃げ場がどこにもないことを悟るのだった。




次回はアルトリアに毒牙がかかります


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鼠のアルゴ

祝!閲覧数9500突破&お気に入り件数100件突破!

ありがとうございます!

記念とお礼に何かできればいいのですが、生憎絵は書けないしかといってそれ以外に何も思いつかないし……

能がなくてすみません……

ですから、こうして感謝の気持ちを重ねて表すことしかできません

本当にありがとうございます!


「ア〜ル〜ト〜リ〜ア〜!」

「ひっ……!!」

 

歴戦の騎士アーサー王の背後をいとも簡単にとり、その形のよい胸を鷲掴む。

 

「ひゃぅ……!」

 

その瞬間にあがる声に、立香は加虐心をそそられ、一層執拗な手つきになっていく。

 

マシュのように大きく柔らかいものではなく、弾力に富んだ質感が、立香の指を押し返して来る。

 

「うーん……さすがの触り心地」

「そん、なっ……れい……せいにぃ!か、解説しないっ、で……くださ……いぃぃぃ!」

 

アルトリアは必死で逃れようとするが、立香の身体はピッタリと張り付いて脚を絡め、そう簡単に逃がそうとはしない。

 

「あっ……あんっ!ひっ……ふぁん!……はっ、はっ、ふぅぅぅん!」

「……毎日の習慣にしようかな、これ」

「い、いや……ですぅ……!」

 

もちろん、立香も本気ではない。

 

この二人相手にこんなことを続けたら、まず間違いなく理性がもたない。

 

「うーん……残念だけど今日はもう終わり!」

「や、やっとですか……!」

「お疲れ様です、アルトリアさん……」

 

ぐったりとタイルに座り込むアルトリアに、マシュは戦友を見るような目で話しかける。

 

「あはは、ごめんごめん、ちょっとやり過ぎた。ふぅ……なんかのぼせそう……先上がるねー」

「あ、はい」

 

軽く手を振りながらそう言い、さっさと浴室から出ていく。

 

タオルをオブジェクト化し、、身体を拭きながら立香は火照る身体を必死に抑えようとしていた。

 

(ふぅ……なんかいつもと反応が違ったなぁ……。身体が敏感になっているのかな?それとも顔に出やすくなっているとか……?どっちにしろ心臓に悪いよ……)

 

湯上がりだけが理由ではない熱をどうにか抑え、アトラス院制服を再び装備して部屋に戻った。

 

しばらくして、アルトリアとマシュも部屋に戻って来た。

 

…………全裸にタオルで。

 

「……何?なんのサービス?」

 

先程の思考を悟られないよう、立香は努めて冷静に言う。

 

「あ、あの……」

「服を着る方法がわからなくて……」

 

そう言い、モジモジと腿を擦り合わせる。

 

「ああ、なるほど、そういうこと」

 

納得したように頷いた後、立香はベッドから立ち上がり、二人が開いたメニュー画面を、いとも簡単に可視モードに切り替える。

 

「えっと、まずここの『item』ってところを押して、それからこっちの装備スロットに移して、完了だよ」

 

説明を聞いた二人は、たどたどしく画面を操作し始めた。

 

しかし、そこは飲み込みの早い二人。

 

すぐに二人の身体は衣服に包まれる。

 

「で、できました!」

「うん、よくできました!じゃあ、明日のことを話しておきたいんだけど、いい?」

「もちろんです、先輩」

「OK。じゃあ、こっちこっち」

 

立香は言いながら二人をベッドに誘導し、三人で丸くなって座る。

 

「というわけで、明日の予定だけど、とりあえず情報屋に会ってみようと思うんだ」

「いるんですか?ゲームの中に」

「まあ、その辺は明日調べる!」

「つまり無計画なんですね……」

「相変わらずの猪突猛進っぷりです……」

 

盛大なため息をつくが、それでも二人の顔を笑っていた。

 

なんだかんだ、アルトリアもマシュも自分のマスターならどうにかできると信じているのだ。

 

「わかりました。マスターにお任せします」

「先輩のことですから、会う方法も会ってからどうするかも決めているんですよね?」

「あら、やっぱり分かってる?さすがは私の相棒達」

「付き合いが長ければ、自然に分かるようになるものです」

「ですね」

 

くすくすと笑い合う二人をキョロキョロと見比べ、立香はなんとなく疎外感を感じてむくれる。

 

「なによ、私だけ蚊帳の外じゃん。いいもん、もう寝るもん」

 

そう言い、シーツにくるまる。

 

どうやら拗ねたようだ。

 

「拗ねないでください。ほら、添い寝してあげますから」

 

苦笑いしながらマシュがそう言うと、立香は頭だけひょっこり出して、

 

「………本当に?」

 

と言う。

 

「はい、もちろんです」

「というか、それ以外に全員寝る手段がありません」

「言われてみれば確かに……。じゃあ、二人は私の両サイドね」

 

それだけ言って、立香は再び丸くなる。

 

そんな立香を、二人は微笑ましく思った。

 

実は立香は寂しがり屋で、自分は仲間外れにするくせに、仲間外れにされると拗ねるのだ。

 

(難儀な性格のマスターですね)

(本当ですね。そういうところも魅力的ですけれど)

 

小声で二人は会話し、同時に立香の両側に倒れ込む。

 

そして、誰からともなく眠りにつくのだった。

 

 

 

「この街最強の情報屋?そりゃあ『鼠のアルゴ』だろ」

 

翌朝、三人は朝食をとった後に聞き込みを開始した。

 

何人かに聞き込みをしたが、この男性プレイヤーも含め、全員が鼠のアルゴだと答えている。

 

「そんなに有名な人なんですか?鼠のアルゴさんは」

「ああ、まあな。あいつの情報量は桁違いだから。

それで?情報屋がどうかしたのか?」

「いやー、できれば紹介してもらえないかなーって」

 

実は今まで聞いてきた全員にも同様のお願いをしたのだが、全員が鼠のアルゴをフレンド登録をしてないせいで、連絡はできなかったのだ。

 

「なんだ、そんなことか。ちょっと待ってな」

「あ、連絡してくれるの?ありがとう!」

「なに、気にすんな」

 

男性プレイヤーはそう言うと、心なしか嬉しそうなステータス画面を操作し始める。

 

(いい人そうで良かったですね、先輩)

(いや、たぶん、女の子に頼られて嬉しいんだと思うよ)

(……先輩は男性の気持ちがよくわかるんですね)

(なんだかたまに、自分が男なんじゃないかって気がするんだよね……なんでだろう?)

「おい、メッセージが返ってきたぞ」

 

小声でマシュと立香が話している間に、件の鼠のアルゴから返信がきた。

 

「今から十分後に、街の広場に集合だそうだ」

「OK、わかった。わざわざありがとね」

「困った時はお互い様だ」

「そういう考えの人がもっと増えるといいんだけどねー」

「はは、違いねえ」

 

お互いに笑い合った後、立香は手を振りながら宿屋を出る。

 

マシュとアルトリアは軽く礼をして、その後に続いていった。

 

男性プレイヤーは美少女相手にいいことを出来たと、幸福感に浸っていたが、

 

「あ……フレンド登録頼むの忘れてた」

 

当初考えていた肝心な目的を忘れていたことを、今更ながらに思い出した。

 

「この辺でいいかな?」

「そうですね。全体も見渡せますし」

「わらひもひゃんへいれふ」

「アルトリア、口の中のものを飲み込んでから喋りなさい」

「も、申し訳ありません」

 

広場にやって来た三人は、その中央にあるベンチに腰掛け、待つことにした。

 

ちょっと後ろを向けば、後ろ側も見渡せるため、待ち場所にはちょうどいい。

 

立香はステータス画面を見ながら、マシュは広場をキョロキョロと見渡しながら、アルトリアは途中で買ったホットドッグを食べながら待つこと十分。

 

「先輩、彼女じゃないですか?」

 

事前に聞いていた特徴と一致する女性プレイヤーが、こちらに近づいて来た。

 

「随分早いナ。全員真面目カ?」

 

独特な口調で話す女性プレイヤーの顔を、立香は見てみる。

 

その顔には、まるで猫か鼠の髭のようなフェイスペイントがされていた。

 

(なるほど……たしかに鼠のアルゴだ)

 

心の中で納得し、立香はアルトリアから貰ったホットドッグを飲み込んでから口を開く。

 

「二人は真面目だけど、私はそうでもないよ。それより、あなたが鼠のアルゴ?」

「その通りダ」

 

ニヤリと笑い、アルゴはそう言う。

 

「そっか。じゃあ、早速情報を売ってくれない?」

「もちろんダ。まずなんの情報が欲しいのか言ってくレ。その価値で値段を決めル」

「わかった」

 

そこで一拍おき、マシュも、アルトリアも、アルゴも予想できなかったことを告げる。

 

「このゲーム内で最も好奇心の強い、ソロトッププレイヤーを教えて」




今までが短い気がして来たので、長くしてみました

それと、新作出そうと思います

そちらは聖杯戦争をやろうと思うので、よろしかったらご覧になってください

ちなみに百合ではありません


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黒の剣士

いやもう……死にそうです……

FGOのストーリーを三章から一気に進めたら、睡眠時間が削られまくりましたよ……

なんですかあれ、キャメロット難し過ぎますよ

おかげで時間がなくて……

お待たせしてすみません



「ふーん……面白いナ。オマエ」

「そうかな?」

 

質問の意図が理解できず、口をパクパクさせるマシュとアルトリアを放置し、二人は話を進める。

 

「それはつまり、オレっちが知ってる限りでということでいいんだナ?」

「最強の情報屋が言うんだもん、間違いないでしょ」

「随分信用されたもんだナ」

「情報屋としての腕はね」

「それなら話は早イ。情報屋は、時に信用を得るのに一番苦労するから、そういう考えは助かるんダ」

「ま、現実主義だからね。それでどう?心当たりはある?」

「もちろんあル。情報屋だからナ」

 

そう言い、アルゴはステータス画面を操作し始めた。

 

どうやら心当たりの人物に、メッセージを送ってくれるらしい。

 

「先輩、なぜ直接情報を買わないのですか?」

「その分お金を払うはめになるからね。私たちが欲しい情報はかなり多いし」

「なるほど」

 

(それに、ドクターとダヴィンチちゃんの調査じゃ、さすがゲームの設定と世界観はわからないしね)

 

いくら高い報酬が出たとはいえ、いちいち情報を買っていたら、間違いなく底をつく。

 

だったら、今立香達が持っている最も面白い情報を提供し、代わりにこの世界の情報を貰う。

 

それこそが、立香の出した最適解だった。

 

(あとは、信頼に足る人物であることを祈ろう)

 

とりあえず、どこぞの金ピカ女神にでも祈ろうかな……など考えていると、アルゴの下に返信が来た。

 

「これからダンジョンに行くところだったらしいゾ。ギリギリセーフだナ」

「運だけはいいからね」

「大事にしておケ。このゲームでは重要な要素だからナ」

「ありがとう、そうするよ。アルトリア、そろそろ食べるの終わり」

 

待ち合わせ場所をメモし、料金を払ってから、立香は未だにホットドッグを齧っているアルトリアを立たせる。

 

「というか、何個目ですか?アルトリアさん」

「4個目です」

「本当によく食べますね……」

 

さすがは食いしん坊騎士王である。

 

「ありがとね、アルゴ」

「今度もご贔屓ニ」

「はいはい」

 

ちゃっかりしているアルゴに苦笑いしてから別れ、立香達は集合場所に向かう。

 

指定されたのは一軒の店。

 

なんだか喫茶店のような雰囲気の店に入ると……。

 

「立香ちゃん!こっちこっち!」

 

と、店に響くような声で呼ばれた。

 

「えっ?アスナ!?」

「うん、昨日ぶりだね」

「うん、また会えて嬉しいよ!っていうか、アルゴの心当たりの人ってアスナだったの?」

「半分正解で半分外れ。私だけじゃないんだよ?」

「えっ?」

 

アスナが言いながら指差した方向を見ると、そこには一人のプレイヤーが座っていた。

 

長めの黒髪に、漆黒の瞳。

 

細い体を黒いコートが包み、さらに背中の剣まで真っ黒。

 

「黒すぎでしょ」

「会って一言目がそれか……」

 

そう言って、真っ黒の剣士が嘆息する。

 

「あはは、ごめんごめん……。黒いからつい……」

 

謝りながら席につき、立香の右隣にマシュ、左隣にアルトリアが座った。

 

「たしかに黒いもんね、キリトくん」

「好きでしてるんだからいいだろ」

 

あはは、と笑いながらそう言うアスナに、『キリト』と呼ばれたプレイヤーは口を尖らせる。

 

「まあ、気を取り直して。改めまして、血盟騎士団副団長アスナです。よろしくね」

「俺はキリト。ソロプレイヤーだ」

「よろしくね、。私はリツカ。右隣がマシュで、左隣がアルトリアだよ」

「「よろしくお願いします」」

「話をする前に一つ言っておくけど、アスナは勝手に着いてきただけだ。アルゴに呼び出されたのは俺の方」

「だ、だって、キリトくんとダンジョンに行こうとしたら、聞き覚えのある人に呼び出されたって……」

 

自己紹介を終え、キリトがぼやくと、アスナが顔を赤くして反論する。

 

その雰囲気に何かを感じ取ったのか、ふーん……、と言いながらニヤニヤと笑う。

 

立香は美少女好きだが、その恋路を邪魔するような、無粋な真似はしない。

 

むしろ、その動向をニヤニヤしながら見守り、手伝うタイプだ。

 

(まあ、面白そうだから、アスナが自分で話してくるまでは傍観してよっと)

 

などと企み、立香は注文したコーヒーを飲む(ちなみにブラック)。

 

「さて、それじゃあ早速話を始めよう」

 

キリトとアスナが落ち着いたのを見計らい、提案する。

 

「ああ、そうだったな。まず何から話すんだっけ?」

 

それを聞いて、立香は少し考える。

 

第一印象は悪くない……というか、アスナの意中の男性なら、まず間違いはないだろう。

 

信用できるかを判断しようとしていたが、もうその必要はなくなったわけだ。

 

そもそも何故あんな条件にしたかというと、面白い話に食いついてくれて、尚且つその話を漏らす心配のないソロプレイヤーが理想だったからだ。

 

それがキリトだったわけだが、アスナが一緒だったのは都合がいい。

 

(美少女は正義なわけだし、だったらキリトにも話せるね)

 

「えっとね、このゲームのことを話して欲しいんだ」

「? 昨日も言ってたけど、どういうこと?」

「アスナが知りたいなら、後でお礼に話すよ」

「分かった。等価交換だな」

「そういうこと。お願い出来る?」

「まあ、そういうことなら。いいよね?キリトくん」

「いいよ」

 

二人の許可も出たところで、立香はまず基本的なことからきく。

 

「じゃあ、一つ目。このゲームってどういう世界観なの?」

「本当に基本的なところからだな。まあいいか」

「このゲーム……『ソードアートオンライン』ことSAOが、VR世界だってことはわかる?」

 

三人は同時に頷く。

 

立香は元より、アルトリアとマシュは説明により掠める程度は理解している。

 

「良かった。そこは分かってたんだ」

「じゃあ、世界設定だな。まず、ここは『アインクラッド』っていう、天に浮かぶ巨大な城なんだ。基部は一キロメートルにも及ぶな」

「広っ!」

「それが、上に百層連なっているんだよ」

「高っ!」

 

その茫漠とした大きさに、立香は驚愕する。

 

(上に行く連れて段々小さくはなるんだろうけど……。えーっと、一層ごとに約0.5パーセントずつ小さくなると考えると、総面積は……ああもう!めんどいー!)

 

考えるのを放棄した。

 

「まあ、それはまだ重要度が低い。この世界で生きるために、もっと大事なことがある」

「? なに?」

 

パフェを頬張ったアルトリアの口についたクリームを拭きながら、立香は聞き返す。

 

キリトはコーヒーを啜って一拍おき、真剣な表情で口を開く。

 

「……ゲームでプレイヤーが死ぬとどうなる?」

「そりゃあ、蘇生ポイントに……」

「ああ。だが、この世界は違う」

「……!ま、まさか!」

 

察しのいい立香は、悲痛そうなキリトとアスナの表情を見て、思わず立ち上がった。

 

何人かの客が振り向くが、そんなものは気にしない。

 

「ご察しの通りだ」

「……この世界ではね、プレイヤーのHPがゼロになると、現実でも死ぬことになるの……」

「……なに……それ」

 

(そんなの、もう、ゲームじゃない。ゲームという形を取った、ただの現実世界だよ……!)




短編で『年末年始特別企画 ぐだ子とダヴィンチちゃんの聖杯戦争』というものを出します

そちらもライカが主人公なので、よろしかったらご覧になってください


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理不尽なこの世界で

20日も空いてる……

短めなのにちょっと時間がかかってしまいました

お前は早さだけが取得だろコノヤロウって話ですよね、はい


「……いかにも、頭のネジの外れた科学者が考えそうなことだね。一体誰がそんなことを……」

「製作者は茅場晶彦。VRマシン『ナーヴギア』自体も制作した天才だ」

「……これだから、やたら才能のある馬鹿は……!」

 

そう言い、歯を噛み締める。

 

これがVR世界じゃなければ、まず間違いなく血が出ている。

 

「先輩……」

「……大丈夫。落ち着いてはいるから」

 

と言いつつ、立香は思考と感情を切り離すのに必死だった。

 

(落ち着け……落ち着け私……。一番大変なのはキリトとアスナ達。私達は自分自身の立場を利用して、どうにかみんなを助けないと……)

 

立香は、それを目的として定め、やるべき事は怒ることではないと考えることにした。

 

「……リツカちゃんは優しいね。私は、最初は自分のことに必死で、そんなこと考えなかったよ」

「ありがと。でも、誰だってそう思うはずだよ。現にアルトリアも無言で超怒ってるし……」

 

立香の隣では、アルトリアがパフェのスプーンを噛み砕くつもりかと思う強さで噛んでいた。

 

「おいおい、スプーンは破壊不能オブジェクトだぜ?」

「関係ありません。私のアゴ力をもってすれば……」

「握力みたいに言わないでよ。というか、いくら力を入れても無理だよ?」

 

立香の的確なツッコミに、思わず全員が吹き出す。

 

少しだけ和やかになったところで、立香は先を促す。

 

「死ぬって言っても、一体どうやって?」

「ナーヴギアには高出力のマイクロウェーブを放射する機能がある」

「まさかのレンジでチン……」

「同じこと言ったやつがいたな」

 

その後、『電源を切る、コンセントから抜くとどうなるか』、『装置を直接外すとどうなるか』、『仮想現実の原理』等々、マシュとアルトリアどころかアスナでも困惑するようなテーマで話し合い、納得したように二人は息をついた。

 

「キリトはすごいね。こういう機械関係に随分詳しいし」

「そういうリツカもそこそこだよな」

「まあ、ゲーム好きだったから」

 

むしろ、一般人でゲームをやったことをない人の方が少ない。

 

それをきっかけに、ゲームについて調べる者もいるだろう。

 

立香はその一人だったのだ。

 

「なら、この世界にもすぐに適応できそうだな。SAOは少しシステムが独特だからな」

「独特?」

「戦闘系MMOだが、この世界には魔法が存在しない。代わりに『ソードスキル』というものが主な戦法だ」

「なにそれ、凄そう」

「言葉で説明するのは難しいなぁ……」

「キリトくん、直接見てもらった方が早いんじゃない?」

 

頭を掻いて悩むキリトに、アスナが提案する。

 

「なるほど、それだ。早速行こう。三人とも、時間はあるか?」

「もちろん」

「「もちろんです」」

 

三人同時に答え、立ち上がった。

 

──── 数分後 ────

 

アインクラッド五十層迷宮。

 

五人はそこで、ソードスキルの練習を始めた。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

アスナが気合いとともに、レイピアを振るう。

 

閃光がよぎり、突進のごとくモンスターに突っ込む。

 

「ギイィィィ!」

 

奇妙な悲鳴を上げるが、頭の上のHPバーは、まだ残っている。

 

「おぉっ!」

 

そこに、間髪入れずにキリトが突っ込む。

 

ジェットエンジンのような轟音と、赤色のエフェクトを撒き散らし、剣が深々と突き刺さる。

 

「ギャアァァァァァァ!?」

 

耳障りな断末魔と破砕音を響かせ、モンスターは砕け散った。

 

「……まあ、こんなところか。お疲れ、アスナ」

「お疲れ様、キリトくん」

 

キリトは左右に剣を切り払い、背中の鞘に収めた。

 

「……かっこいい」

 

立香は目をキラキラと輝かせる。

 

ソードスキルもそうだが、キリトの切り払ってから鞘に収める動作が、相当お気に召したようだ。

 

「やりたい!私もやりたい!」

「おお、やる気だな。じゃあ、武器を構えてくれ」

「イエス、サー!」

「マシュちゃんとアルトリアちゃんもね」

「はい」

「了解です」

 

三者三様な返事をし、武器を構える。

 

ちなみに、マシュとアルトリアはすでに戦闘モードだ。

 

キリトはそれを確認し、解説を始めた。

 

「ソードスキルを発動するには、その初動になるモーションをする必要がある。それをシステムが感知して、ソードスキルが発動するんだ。あとは、身体が勝手に動いてくれる」

「なるほど。だから一般人でも戦えるわけだ」

「そういうこと」

「キリト。何かコツはありますか?」

 

何度か試し振りをしていたアルトリアが尋ねる。

 

「そうだな……。ソードスキルが発動したら、自分で身体を動かすんじゃなくて、ある程度身を任せることかな。『システムに乗っかる』イメージで」

「なるほど。わかりやすいですね」

「私もわかりました。流れに身を任せればいいんですね」

「よーし、早速やろう!」

 

そう言って子どものように騒ぐ立香に、アルトリアとマシュは肩をすくめて着いていく。

 

「危なくなったら、助けるからねー!最前線だからー!」

 

アスナが後ろから叫ぶが、聞こえていないようだ。

 

キリトとアスナは顔を見合わせ、くすっと笑ってから三人を追いかける。

 

「……なあ、アスナ」

 

道中、キリトが真剣なトーンで言う。

 

「なに?キリトくん」

 

経験上、真面目な話だと分かっているので、前の三人から距離を取る。

 

「あの三人のこと、どう思う?」

「……いい子たちだよ、すごく。ただ」

「ただ?」

「リツカちゃんはともかく、アルトリアちゃんとマシュちゃんは、謎が多いよね……」

 

うーん、と唸りながらそう言う。

 

それは、キリトも考えていることだった。

 

先程聞いた、三人のスキル欄に記された聞き覚えのない多数のスキル。

 

リツカは『令呪』だけだが、これの能力は破格だ。

 

だが、それ以上に、アルトリアやマシュの持つ戦闘補助スキル『魔力放出』やら『カリスマ』やら『誉れ堅き雪花の壁』やらが強すぎる。

 

それこそ、『ユニークスキル』並にゲームバランスをひっくり返しかねない。

 

レベルは、リツカが60、アルトリアが63、マシュが61と割と普通だったが。

 

「まあ、いいんじゃないかな?強力な味方になってくれると思うよ?」

「……そうだな」

 

顔に出ていたのか、アスナが励ますように笑う。

 

キリトも笑い返すが、それでも考えずにはいられなかった。

 

(願わくば、あの三人が、この世界の暗黒面に感化されませんように)

 

短い会話でも、それが有り得ない性格であることは理解していた。

 

だが、それでもキリトは、一抹の不満を覚えずにはいられなかった。




お読みいただきありがとうございました

以下、各種スキルのSAOでの扱い、及びオリジナルスキルの解説です↓

リツカ

令呪 熟練度マスター
最大使用回数は三回。
24時間に一度、使用回数が回復する。
『他プレイヤーのHPを全回復(死亡したプレイヤーには使用不可)』、『真名解放』のどちらかを選択して使用する。

アルトリア

魔力放出 熟練度マスター
移動時、攻撃時に、任意のタイミングで任意の方向に加速補正を付与する。
使用回数制限はなし。
ソードスキル中にも使用可能。

風王結界 熟練度マスター
自身のもつ武器をいかなる者からも視認不可オブジェクトととする。
解除した場合、一定範囲内に強風を発生させる。

カリスマ 熟練度マスター
パーティメンバーの攻撃力を三分間上昇させる。
一日に一回使用可能。

直感 熟練度マスター
一戦闘につき一度、特定の部位に攻撃を当てるとダメージボーナスが発生する。

マシュ

大盾ソードスキル
盾でソードスキルを発動する。
自身の防御力を上昇。
武器防御時に防御力を上昇。
背後にパーティメンバーがいる場合防御力を上昇。
武器防御時の硬直時間を短縮。

誉れ堅き雪花の壁 熟練度マスター
パーティメンバー全体の防御力を三分間上昇、一度だけダメージをカット。

時に煙る白亜の壁 熟練度マスター
付与したプレイヤーのダメージを一度だけ完全カット。

奮い立つ決意の盾 熟練度マスター
自身のターゲット集中率を極大上昇。


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チートソードスキル

お待たせしました……

やたら早かったり、すごい遅かったり、安定しない更新ペースですね

安定してできるように、3日とか一週間とか期間を決めて更新したいです

まだ決まってませんが


「そういえば、本当にそれで良かったのか?」

 

手頃なモンスターを探し、迷宮内を歩いている途中、キリトがそう言う。

 

キリトが言っているのは、立香の腰に収められた短剣だ。

 

固有名『ソードブレイカー』。

 

片刃の短剣で、峰側のギザギザの部分で相手の武器を破壊する確率が上昇する。

 

だが、それは極低確率あり、主目的として運用するにはギャンブルになる。

 

加えて基本攻撃力が低く、普通の武器としても扱いにくい。

 

立香はそれを承知で、この武器をキリトから譲り受けたのだった。

 

「大丈夫。私はこれでいいんだよ」

「? ならいいけどさ」

 

首を傾げ、キリトはどこか納得のいかない様子でそう言った。

 

(……私は、これを使う必要性はないからね。二重の意味で)

 

苦笑しながら、立香はそんなことを考えていた。

 

「それにしても、何もいませんね」

「試す機会がないのは、残念です」

「マッピングが随分進んでるからねー。他の人たちが倒しちゃったかも」

「MMOの欠点だねぇ」

「あはは、たしかにな」

 

人は暇になると雑談が弾む。

 

さらに歩くこと数分後、なんの敵にも遭遇しないまま、一行は大きな扉の前にやってきた。

 

「……なんというボス部屋臭」

「うん……大当たり」

「わかるやつにはわかるよな」

 

立香がため息をつきたくなるほどに、モロにボス部屋という禍々しいデザインの扉。

 

中にはボスが居て、それを倒せば先のフロアに進むことができる。

 

「なるほど、試し斬りの相手としては申し分なさそうですね」

「いや、やめた方が……」

「ダメ!!!」

 

立香の発言を遮り、アスナが叫ぶ。

 

突然声を荒らげたアスナに、立香たちは目を白黒させる。

 

「ど、どうしたの?」

「あ……ごめんね。でも、本当にダメ。唯でさえ今回は五の倍数だから危険だし、キリトくんの仮説が正しければもっと大変なことに……」

 

(五の倍数が危険ってことは、恐らくそれらのボスは他より強く設定されてる。で、今は五十層。どんなやつが出てもおかしくはない数か……)

 

「やっぱり特別なの?この層は」

「ああ。偵察を繰り返しして、ようやく最近討伐の話が出たところだ」

「ってことは、それまでにはソードスキルを習得しないとね」

「さ、参加する気なんだ……」

「チャレンジャーだなぁ……」

 

血気盛んな思考回路だった。

 

ボス部屋に挑むのは後々とすることにし、出口に向かいながら敵を探す。

 

すると、

 

「居た……」

 

出口付近に二体発見した。

 

「マシュ、アルトリア」

「了解です」

「お任せを」

 

ゴブリンが2体だが、どちらも重装備だ。

 

俗に言う『ホブゴブリン』というやつだろう。

 

「ゴブリンですね。特異点でも見かけました」

「だね。大した差はないはずだから、大丈夫だと思う」

「はい。行きます!」

 

立香を庇うように前に立ったマシュは盾を正面に構え、後ろ脚を引いて防御体勢へ。

 

アルトリアはその隣で剣を中断やや担ぎ気味に構え、前傾姿勢で腰を落とす。

 

「ギギィ!」

 

爛々と輝く目でこちらを見つけると、ゴブリン達は武器を振り回しながら突進してきた。

 

彼我の距離は約20mほど。

 

それが、

 

「ギギャァァァァァ!!」

 

瞬きの間にゼロになった。

 

かろうじて視認できたのは、オレンジ色々のライトエフェクトと、破砕音と共に爆発四散するゴブリンだけだ。

 

「はっ……?」

「嘘っ……!?」

「うわぁお……」

 

アルトリアの遥か後ろで、キリトとアスナと立香の驚く声がする。

 

「まさかここまで速度が出るとは……」

 

しかし、斬った本人が一番驚いていた。

 

アルトリアが使ったのは、両手剣上位ソードスキル『アバランシュ』。

 

威力が高く、圧倒的な突進力を持つため、非常に優秀なスキルの一つだ。

 

これに、アルトリアは魔力放出を重ねた。

 

ただの思いつきだった。

 

メニュー画面で見て暗記したソードスキルのうち、自分に合いそうなものを使った。

 

どうせならと魔力放出を重ねた。

 

効果は予想以上。

 

瞬間移動とも言える速度と、一撃必殺の威力が現れたのだ。

 

(これが……ソードスキル……!)

 

アルトリアの胸に、久々に湧き上がる興奮。

 

初めた剣を握った時、初めて剣技を身につけた時のことを思い出すほどだった。

 

だが、敵は待ってはくれない。

 

もう一体のホブゴブリンは、仲間の敗北も意に返さずに、すぐ近くのアルトリアに剣を振りかぶる。

 

その頭上に、

 

「やあぁぁぁ!」

 

雷ごとく黄色に輝く大盾が、叩きつけられた。

 

大盾ソードスキル『トールハンマー』。

 

圧倒的な威力と引き換えに、当たり判定の範囲が少ないスキルだが、マシュはいとも簡単に当ててみせた。

 

やはり、この辺りはデミサーヴァントとしてのセンスだろう。

 

「やりましたね、マシュ」

「はい!お疲れ様でした、アルトリアさん」

 

ソードスキルを使った初戦闘を終え、二人は互いの健闘をたたえる。

 

しかし、見守り組は唖然としたまま固まってしまった。

 

「……えーっと、マスターことリツカさん?この展開は?」

「……ヨソウガイデース」

「なんで片言なの……」

 

アスナのツッコミも覇気がない。

 

「まあ……一般人でもモンスターと戦えるようになるわけだもんね……。百戦錬磨の英霊が使えばこうなるか」

「リツカちゃん、何か言った?」

「なんでもないよー」

 

自己完結したリツカは、アスナの問いをはぐらかし、話題を変える。

 

「私も試したいな。どっかに敵いないかな?」

「ダメです!マスターにそんな危険なことさせられません!」

「そうですね。戦闘は私たちに任せてください」

 

そして速攻却下された。

 

「えー、いいじゃん。私もソードスキル使いたい!左右に切り払ってから鞘に収めたい!」

「落ち着いて、リツカちゃん。短剣じゃ無理だと思うの」

「っていうか、それは単に癖なんだが……」

 

いつになく騒がしい迷宮内。

 

通りがかったプレイヤーたちが眉をひそめていたのは、言うまでもない。

 

───────────────────

 

その後、何度か戦闘はあったものの、アスナとキリト、もしくはマシュとアルトリアが処理したため、結局立香の出番は無かった。

 

最初は不満気だったが、最後の方は諦めたようで、文句も言わなくなった。

 

「ところで、みんなこの後予定はあるの?良かったら、うちでご飯食べていかない?」

「「「もちろんです」」」

「息ぴったりですね!?」

 

理由は違うが、三人はマシュが驚くほど同じタイミングで頷いた。

 

街の中心にある転移門まで来ると、キリトが街の名前を宣言して中に飛び込む。

 

アスナがそれに続いたので、他三人も恐る恐る入る。

 

レイシフトに似た、酔うような感覚。

 

目を開ければ、もうそこは全く別の街だった。

 

「この近くだよ。私に着いてきて」

 

アスナは、キリトや昨日の立香たちと違い、コルを払ってプレイヤーホームを購入したらしい。

 

キリトも本当はそうしたいらしいが、手持ちのほとんどを装備品やら怪しいアイテムやらに使ってしまうらしい。

 

「本当はもっと綺麗なところに住みたいんだけどね」

「いや、充分だと思う……」

 

到着したアスナの家は、外から見ればたしかに普通の家だが、中はあらゆる高級そうな家具と調度品が揃えられ、扉が転移門だと言われた方がまだ信じられそうな状態だった。

 

「よくこんな高そうなアイテムばかり揃えたよなぁ……」

 

キリトが感嘆混じりに声でそう言った。

 

「家具は引っ越してからも使えそうだから、こだわってるんだ。着替えてくるから、その辺に座ってて」

 

アスナはテーブルを指差し、奥の部屋へと入っていった。

 

「では、私たちも着替えてきますね、先輩」

「うん、いってらっしゃい」

 

(本当は自分の意思で切り替えられるんだけどねー)

 

アルトリアもマシュも、普段着と戦闘服なら自由に切り替えられる。

 

しかし、この世界ではステータス画面を操作するのが普通なので、極力そういうフリをするように指示してあるのだ。

 

「リツカは着替えないのか?」

「普段着兼戦闘服だから、問題ないよ」

「そうか。俺もそういうのにしようかな……」

「コート脱ぐのすら面倒くさがったらダメでしょ」

「男は割と服装にこだわらないんだよ」

 

コートと剣帯を解除したキリトに習い、立香も短剣を解除する。

 

ついでにアイテム欄を見てみると、装備品には『アトラス院制服 帽子』の記述があった。

 

戦闘前に邪魔になるから外したのだが、今更つける気にもならないのでやめておくことにした。

 

ほぼ同時に、ガチャっと音がしてアスナがリビングに出てきた。

 

さすがに操作するだけとなると、着替えも早い。

 

程なくしてマシュとアルトリアも戻って来たため、食べたいものを聞いてアスナは調理に取り掛かった。

 

「そういえば、SAOの料理ってどんな感じなの?」

「『料理スキル』がスキルの中にあるんだ。熟練度が上がるにつれて、作れる料理とかも変わってくるんだよ」

「ふーむ、なるほど」

「アスナのスキル熟練度も随分上がったよな」

「誰かさんがたくさん作らせるからね」

「俺は熟練度上げに貢献してるだけだ」

「はいはい」

 

(リア充まぶしー)

 

ピンク色の空気を発し始めた二人を尻目に、立香は視線を移す。

 

そこにあるのは、ステータス画面。

 

正しくは、おそらくはマスター特権で見られるマシュとアルトリアのステータスだ。

 

(……やっぱり、高いよね。二人とも)

 

先ほどから考えていたのは、自分のステータスに比べて二人のステータスが高いことだ。

 

それどころか、レベル65のアスナや71のキリトより高い。

 

(英霊としての補正ってことかな……。でも、身体がここにあるわけじゃないのに、どうやってこんなに細かく再現出来てるんだろ?ぱっと見、カルデアで見てたステータスと似通ってるんだよね……)

 

自分のステータスの一部を下方修正して平均値とし、二人のステータスと照らし合わせる。

 

すると、今までA+やBとして記述されていた、各ステータスとよく似ていた。

 

ここから推測できるのは、一つだけ。

 

(今の現状を作ったのは、事故じゃなくて第三者。となれば、必ずどこにあるはず。聖杯が─────!)

 

なんとしても見つけなくては、と一人考えるのだった。




次回、真面目な話になります


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真面目な話をしよう

大変長らくお待たせ致しました

この度、皆様に二つ御報告があります

まず一つ、感想欄でのご指摘をいただいたため、二点ほど大きく変更致しました

①主人公の名前を変更
主人公の名前を決める際、自分のユーザーネームを使って『詩島ライカ』としましたが、その随分後に『藤丸立香』という正式名があることを知りました
ここまで来て変えるのも不自然かと思い、今まで何もしていませんでしたが、指摘をいただいたので変更することにしました

②原作名を変更
こちらはお二人の方にご指摘をいただきました
自分の考え方が間違っていたようで、大変申し訳ありませんでした
原作名は『ソードアートオンライン』に変更致します

二つ目、この作品の更新日に関してですが、明確な時間を決めないから期間を空けてしまうのではないかと思い至りました

そこで、この作品の場合は、『毎週月曜日』に更新することにします

作者の都合でズレてしまうかも知れませんが、1日以上はズレないように注意します

以上となります

上記のように、気になる点やおかしな点、間違った考え方の部分がありましたら、どうぞ遠慮なくご意見ください

これからも『もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら?』をよろしくお願いします


「はー、食べた食べた」

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした。というか、とんでもない量作ったのに、見事に空っぽだね……」

 

アスナが苦笑いでテーブル中央を見る。

 

巨大な鍋一つ分のカレーを作ったが、まるで最初から何も無かったかのように空になっていた。

 

原因はもちろん、アルトリアとキリトである。

 

「なかなか……やりますね……キリト……」

「ふっ……そっちの……方こそ……」

 

最終的には、どちらがたくさん食べられるかの戦いになり、同時に限界を迎えたのだった。

 

「まあ、喜んでくれて何よりだよ」

「うん、本当に美味しかった。ね、マシュ?」

「はい。ごちそうさまでした」

 

随分と簡略化されてはいるが、やはりSAOでも手料理は美味しく感じる。

 

立香もマシュも大満足だった。

 

食事も終わったので、アルトリアとキリトが動けるようになるまで、三人はお茶を飲みながら話すことにした。

 

「ねえ、アスナ。SAOに回復アイテムってないの?」

「あるよ。ポーションとか、結晶アイテムとか」

「ポーションはわかるけど、結晶アイテムって?」

「文字通り結晶型のアイテムだよ。指定の転移門にワープできる『転移結晶』、瞬時に体力を回復する『回復結晶』なんかがあるよ」

「便利ですね。緊急時に活用すれば、生存率が上がりそうです」

「そうだね。すっごく高いから、みんな緊急時にしか使わないよ」

「それでも、いくつかは持っておきたいですね」

「うん、今度買いに行こう。そういえばさ……」

 

それから、時々キリトも加わりながら、話は進んでいく。

 

おかげで、三人はSAOに関して様々な情報を手に入れることができた。

 

気がつくと、視界の端の時計はすでに23時だった。

 

「もうこんな時間か。そろそろ帰るかな」

「あ、じゃあ私たちも」

 

キリトはコートを装備し直し、立ち上がる。

 

帰り際、玄関前で立香たちは不意にアスナに呼び止められた。

 

「ねえ、リツカちゃん、アルトリアちゃん、マシュちゃん」

「ん?」

「良かったら、しばらく私たちとパーティーを組まない?まだわからないことも多いだろうし」

「それは願ってもないことだけど、大丈夫?迷惑じゃない?」

「全然。むしろ心強いよ。キリトくんもいいよね?」

「ああ。悪いやつらじゃないみたいだしな」

「そっか……。二人はいい?」

「もちろんです。安心して背中を任せられます」

「私も同意します」

「じゃあ、よろしくね。キリト、アスナ」

「うん、よろしく!」

「よろしくな」

 

というわけで、五人でパーティーを組むことになったのだった。

 

───────────────────────

 

「……んにゃ……先輩……」

「まだまだ食べられます……」

「……どんな夢見てんだか」

 

深夜。

 

アルトリアとマシュに挟まれた立香が、不意に起き上がった。

 

アラーム機能をこの時間にセットしておいたのだ。

 

二人を起こさないようにベッドから出て、窓際の席に座る。

 

窓枠に肘を載せ、頬杖をつく。

 

それから数分後、

 

「月光に照らされて物思いに耽る美少女か。中々絵になるじゃないか」

 

呑気なダヴィンチのそんな感想が聞こえてきた。

 

「それはどうも。随分遅かったね」

「ごめんごめん、状況が状況だからね。時間がかかっちゃったんだ」

「その代わり、いくつか分かったことがあるよ。心して聞いておくれよ、立香ちゃん」

「OK」

 

言いながら、ベッドで寝ている二人を見やる。

 

(戦闘は任せきりだったし、寝かせてあげよう。朝ごはん食べながら話せばいいでしょ)

 

窓枠に手をかけ、ささっと屋根に登る。

 

どういうわけか知らないが、アインクラッドの天井は明るかった。

 

幻想的な光景を眺めながら、三人の情報交換が始まった。

 

「さて、とりあえず、一番大きなところから行こう。立香ちゃん達が今いる世界……ああ、ゲームじゃなくて元の方ね。そこはどうやら、並行世界の一つのようだ」

「『もしも人理焼却が行われなかったら』の並行世界ってこと?」

「いや、もっと広い範囲だろうね。『もしも魔術自体がとっくに廃れた世界だったなら』とか」

「え、それおかしくない?」

 

ダヴィンチの言葉に、立香が反論する。

 

「だって、今のこの状況って、聖杯が原因でしょ?」

「まあ、それはね」

「後で言おうと思ってたけど、今の立香ちゃん達の状態から考えると、間違いなく聖杯が原因だろうね」

 

ここで、立香がため息をついて頭に手を当てた。

 

「待って、疑問が多すぎて処理出来ない」

「落ち着いて、立香ちゃん。順を追って話すよ」

「はーい」

 

一息ついでに、話を聴きやすいように楽な姿勢をとる。

 

長い話になると悟ったようだ。

 

「今の立香ちゃん達は、魂を引っこ抜かれて、その魂を仮想空間の身体に貼り付けられた状態だ」

「つまり、立香ちゃん達は、他のプレイヤーと違って本当に仮想の身体を手に入れたってわけだ」

「で、そんな器用なことは聖杯にしか出来ないってことね」

「そういうこと」

 

そうなると、いよいよ『魔術が廃れた世界』というのがわからない。

 

立香は改めてそこを尋ねる。

 

「じゃあ、なんで魔術が廃れた世界で、聖杯が使えるの?」

「聖杯はあくまでも、『莫大な魔力をもって全ての過程をすっ飛ばす願望器』だからね。一度魔力で満たされたなら、あとは願うだけだ。どんな方法で呼び出したかはわからないけれど、願いを叶えることはできるさ」

「それに、これも聖杯の効果なのか、そのゲームの世界は半ば固有結界のようになっている。残念ながら、こちらから通信や物資の供給以上の干渉は無理そうだ。ごめんね」

「いいよドクター。気にしないで」

 

首を横に振ってそう答える。

 

こうなったのは首謀者のせいであり、ロマンのせいではないのだ。

 

「他に分かったことは?」

 

話を先に進めるため、立香が促す。

 

すると、二人は急に押し黙ってしまった。

 

「? どうしたの?」

 

立香の呼びかけにも答えず、さらに時間が経ったころ、

 

「ああ……えっと、すごく言いにくいんだけど」

 

ようやくロマンが口を開く。

 

「実は……そのゲームをクリアしないと、こっちに戻ってこれなさそうなんだ……」

「……まあ、固有結界ってことならそうなるヨネー」

 

思わぬ真実に、立香の語尾が妙なことになってしまった。

 

「正しくは、固有結界の源にもなっているであろう聖杯を回収しないといけないんだけど……」

「ドクター、それはラスボスを撃破しろって言ってるのと似たようなものだと思うよ」

「だ、だよね……」

 

三人にはもう、話さずとも経験則から分かっていた。

 

こういう時は、大抵最後の敵が聖杯を持っているのだと。

 

今回の場合はまさかサーヴァントが関わっているわけではないだろうが、恐らくこの前提は変わらないだろう。

 

「はあ……」

 

(毎度毎度、よくまあ色んなことに巻き込まれるなぁ……)

 

同じサーヴァントが違うクラスで何度も出てきたり、マジカルな固有結界に放り込まれたり、ちびっこい謎生物が大量発生したり、サンタと一緒に空飛んだり。

 

立香は様々な理由で様々な場所に行ったし、巻き込まれて来た。

 

(でも、今思い返せば、それも結構楽しかったかな。きっとここも、そうなるよね)

 

こうなっては仕方ない。

 

時間を巻き戻すことなんて、それこそ聖杯でも可能かわからないのだから。

 

「よし、覚悟を決めたよ。私は!」

「おお、急にやる気だね立香ちゃん!」

「私はいつだってやる気だよ、ダヴィンチちゃん!」

 

言いながら立ち上がり、上空に向かって拳を突き上げる。

 

「モンスターだろうが、剣士だろうが、かかってきなさい!私がこのゲームを終わらせる!」

 

そう改めて、決意を固めるのだった。




本当に長らくお待たせ致しました……

更新日はできる限り守りますので、お許しください


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攻略会議

どうにか守りましたよ、更新日!

ギリギリでしたけどね!

提出物は出さないくせに投稿日は守る!それが雪希絵クオリティ!

……すみません、夜のテンションなんです


翌朝、アスナから緊急のメッセージが届いた。

 

なんでも、ボス攻略会議が今日これから行われるらしい。

 

「そういえば、キリトさんがボスの討伐の話が出ていると言っていましたね」

「だね。どうやら、私たちはその直前に転移させられたみたい」

「なんらかの作為を感じざるを得ませんね」

「うん。でも、今はとりあえず後回し。急ごう!」

「「はい!」」

 

昨日の話をしていたところだが、それと同時に朝食も手早く済ませ、三人は足早に宿屋を出た。

 

集合場所に指定されたのは、街中の大きな広場だった。

 

立香たちが広場に辿り着くと、

 

「リツカちゃん!こっちこっち!」

 

と、アスナが呼びかけて来た。

 

「おはよ、アスナ。メッセージありがとね」

「ううん。こっちこそ、急に呼んだのに来てくれてありがとう」

「でも、昨日はなんか、私たちに参加して欲しくなさそうだったよね?どうして急に?」

「キリトくんが言ってたんだ。今回のボスは相当な強さが予想されるから、アルトリアちゃんとマシュちゃんは必要不可欠だって」

「……私はついでなんだ」

「あ!ち、違うの!リツカちゃんが弱いとかそういう訳じゃなくて……!」

 

慌てるアスナに、逆に傷つく立香。

 

それはもはや、役立たずだと思っていたと言ってるようなものである。

 

「まあ、いいよ。気にしてない」

「うぅ、本当にごめんね……」

「よう、三人とも。もう来てたのか」

 

そこに、いいタイミングなのか悪いタイミングなのか、キリトが現れた。

 

「おはようございます、キリト。お腹の調子はどうですか」

「おう。寝たら絶好調だ。今すぐにでも食べられるぜ」

「奇遇ですね。私もです」

「二人とも、仲良くなるの早いね……」

「争った者同士の友情というものでしょうか」

「青春だねぇ」

 

大事な会議前だというのに、キリトとアルトリアはマイペースだった。

 

そのままその辺にあったベンチに座り、何気ない話をして過ごしていると、時間になったのかアスナが立ち上がる。

 

「それじゃあ、いってくるね」

「? どこに?」

「アスナは今回の攻略の指揮官なんだよ」

「なるほど」

 

案の定、アスナは全体が見渡せる位置に立つと、ぐるりと一周見渡す。

 

そして、今まで見たことのないような真剣な表情で、口を開いた。

 

「今回の作戦指揮をとります、血盟騎士団副団長のアスナです。どうぞよろしくお願い致します」

 

アスナの声は決して大きくはない。

 

しかし、静まり返ったその広場に、アスナの美声は凄まじいほど綺麗に響いていた。

 

「偵察の結果、この50層のボスは、今までと比較にならないほど巨大なことが分かっています。よって、今回の攻略作戦では、盾役の数を大幅に増やし、ボスのヘイトをひたすら集めてもらいます。こうして注意が逸れている間に、破壊が可能なら腕を少しでも削ぎ落とし、ある一定まで削ったところで一気に畳み掛けます」

 

50層のボスの姿は、数多くの偵察によって明らかになっている。

 

無数に腕のある、巨大な金の仏像。

 

もっとわかりやすくするなら、千手観音。

 

それが今回のボスらしい。

 

よって、まずはその大量の腕でしてくるであろう、連続攻撃を凌ぐ。

 

そのために前衛に大量のタンクを配置し、防御を固めつつ攻撃をそちらに集中させる。

 

その間に、別動隊として待機していたアタッカーが攻撃を開始。

 

切り落とすことが可能なら腕を攻撃し、不可能なら極力ダメージを与えてから後方に下がる。

 

そしてまたタンクが前に出る。

 

ひたすらこの繰り返しである。

 

単純な作戦だが、それゆえにシンプルで即実践可能だ。

 

「何か他に意見がある人はいますか?」

 

説明を終えたアスナが言う。

 

それに合わせ、ちらほらと何人かが手を上げる。

 

「それじゃあ……そこのあなた、どうぞ」

 

アスナは一番手前にいた男性プレイヤーを指さした。

 

「あの、この作戦だと、盾役の人はずっと攻撃をくらうことになりますよね?HPが全損したりはしないんですか?」

「そうならないように、盾役の数を普段より多くしたんです。ひっきりなしにスイッチを行えば、回復する隙はできるはずですし、人数が多ければダメージは分散します」

 

アスナはスラスラと回答し、男性プレイヤーは納得したのか何度も頷いていた。

 

さらに質問は続く。

 

「盾役を増やすとアタッカーの数が減ると思うんですが」

「今回は両手剣と細剣使い、または筋力パラメータの特に高い人達にアタッカーに回ってもらいます。両手剣は着実に重い攻撃を当て、細剣は手数でひたすら刻み続けます」

「ここのフォーメーション、もう少し間隔を狭くしてもいいと思います」

「後ほど検討します」

「次、いいですか」

「はい、どうぞ」

 

何人ものプレイヤーが話し合い、果てはグループを作って相談をしているところまである。

 

「ねぇ、キリト」

「ん?」

「攻略会議っていつもこんな感じ?」

「まあ、基本的には。でも、今回は相手が強いからな。みんなも気合いが入っているのかもしれない」

「……まあ、自分の命かかってれば、真剣にもなるよね」

 

そういう立香も、決して他人事ではない。

 

昨日のロマンとダヴィンチの話によると、この仮想の身体を失えば、立香とアルトリア、マシュの魂を繋ぎ止める器が消えることになり、もう元に戻すことはできなくなるそうだ。

 

つまり、三人は何が何でも、周りのプレイヤーと同じように、一度もゲーム内で死亡しないでゲームをクリアする必要があるわけだ。

 

着々と進んでいくボス攻略会議を聞きながら、立香はため息をついた。

 

しかし、立香には確信があった。

 

アルトリアとマシュ、二人の相棒がいれば、必ずクリア出来るだろうと。

 

───────────────────────

 

だからこそ、今この状況は立香にとっては腹立たしくて仕方なかった。

 

というのも、

 

「せ、先輩……」

「…………」

 

アルトリアとマシュが標的になったからだ。

 

事の発端は、一人の男性プレイヤーの一言。

 

『なぜベテランばかりが集まるはずのボス攻略に、あんな見慣れないやつがいる?』

 

それに対し、アスナは『今回から攻略に参加するプレイヤーだ』と素直に説明した。

 

しかし、どういうわけか、それが一部のプレイヤーのカンに触ったらしい。

 

いつの間にか、立香もアルトリアもマシュも素人扱いを受け、今まさにこの広場と攻略メンバーから外されようとしている。

 

(うっわ……ウザ)

 

二人に分かっているかは謎だが、立香にはだいたい分かっていた。

 

ようは、自分たちが時間をかけて築き上げて来た攻略組メンバーという枠組みの中に、どこの誰だかわからないやつが入っているのが気に入らないだけ。

 

単純に、自分たちの居場所が踏み荒らされたような気がして我慢ならないだけだった。

 

たしかに、その気持ちはわかる。

 

実際、立香たちはつい一昨日この世界に来たばかりで、知らないことも多い。

 

攻略組のメンバーたちには、今まで命懸けで戦って来た誇りもあるだろう。

 

だが、

 

「私の相棒が、弱いだって……?」

 

それでも、大事な仲間を邪魔者呼ばわりされる筋合いはない。

 

「だったら証明しようか。二人の強さ」

「先輩?」

「マスター?」

 

キョトンとする二人に、立香はにっこりと笑いかける。

 

そしてその表情のまま、全員に向かって言う。

 

「誰でもいいよ。この二人とデュエルをして。その結果で決めよう」

「「「「なっ……!」」」」

 

カチンと来たのか、先程の騒ぎに参加していなかった人も顔をしかめる。

 

そんな中、二人のプレイヤーが手を挙げた。

 

「じゃあ、俺がアルトリアの相手をしよう」

「それじゃあ、私はマシュちゃんの相手をするよ」

 

その二人とはもちろん、キリトとアスナの二人である。




次回、デュエル編です

最初はマシュVSアスナからとなります

SAO最強の剣速対SAO最強の防御力(たぶん)!

果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか!

次回『マシュVSアスナ』!

お楽しみに!

……なんかすごく次回予告っぽい


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マシュVSアスナ

うわぁぁぁ!またギリギリ!

うわーん、課題なんか嫌いだー!

お待たせ致しました、あと数分で更新日終了の状態ですけど投稿します!


「ごめんね、マシュちゃん。急にこんなことになって」

 

円形に広がったボス攻略参加者の輪の中。

 

デュエルのために相対したマシュに、アスナはそう言った。

 

「でも、マシュちゃんもアルトリアちゃんも強いでしょ?そうなると、負けた人から変な恨みを買うんじゃないかって心配で……」

「……そういうことでしたか。ありがとうございます」

 

お礼を言い、ペコリと頭を下げるマシュ。

 

そんなマシュに両手を振りながら、

 

「いいよいいよ、気にしないで。それに、キリトくんの場合は、単純に強い人と戦ってみたいってだけだと思うし……」

「好奇心というわけですか」

「ふふっ、そうだね」

 

微笑みながら言葉を交わす二人。

 

そしてアスナはステータス画面を操作し、デュエルの申請を送る。

 

【アスナ から1VS1のデュエルを申し込まれました。受諾しますか?】

 

そのメッセージの下にあるYESを押し、マシュはデュエルの申請を許可。

 

その後、言われた通りに《初撃決着モード》を選択する。

 

すぐに六十秒のカウントダウンが始まり、これがゼロになった時に二人のデュエルが始まる。

 

ついでに装備スロットを操作し、自分の愛用する巨大な盾を装備する。

 

瞬間、どよめきが広がる。

 

「なんだあの盾……!」

「いくらなんでもデカすぎる……」

「団長以上だぞ!」

「まさか、新たなユニークスキル……?」

 

会話の内容を拾い、立香は隣に立つキリトに話しかける。

 

「ねぇ、やっぱり盾『だけ』の装備って珍しい?」

「そうだな。名前にソードが付くくらいだし、やっぱり剣が主流だし、盾だけの装備は珍しいだろう。でも、みんなが驚いてるのは、盾の大きさの方じゃないか?」

「まあ、相当大きいもんね……」

 

マシュの大盾は、見ればわかる通り身の丈ほどもある。

 

鉄壁の防御力を誇る、大きな要因だ。

 

マシュは盾を右手に持ち、アスナを見据える。

 

(落ち着いて……落ち着いて……)

 

ここはまだ、戦場じゃない。

 

これから戦場に出ると思うと、やはり多少の恐れはあるけれど、今は考えない。

 

今やるべきことは、自らのマスターが作り、キリトとアスナが整えてくれたこの場で、自らの役割を果たすこと。

 

そう思い直し、盾を握る手に力を込める。

 

カウントダウン、残り三……二……一。

 

ゼロ。

 

直後、閃くデュエルの文字。

 

瞬間、アスナは駆け出した。

 

細剣を輝かせながら、徐々にその速度は上がっていく。

 

一方、マシュは動かない。

 

意思のこもった強い眼差しで、ひたすらアスナを見つめる。

 

アスナが選択したのは、細剣基本技『リニアー』。

 

しかし、アスナの圧倒的敏捷度パラメータの補正で、その速度はもはや目に見えるレベルではなかった。

 

空いている脇腹辺りを狙い、凄まじい速度の突きが放たれる。

 

だが、

 

ギィィィ……!

 

甲高い音を上げて、細剣は盾と衝突。

 

速度補正に加え、高性能な武器の補正を加えた一撃を、マシュは正面から受けきった。

 

その脚は、微動だにすらしない。

 

「!」

 

驚くアスナだが、切り返しは速い。

 

(やっぱり、盾が大きい分防御力はすごい。一撃の重さで削ろうとしたら、先にこっちが息切れしちゃう……!)

 

そう考え、素早く剣を引いて、わずかにバックステップ。

 

四連撃ソードスキル『スターライトロンド』。

 

水色のライトエフェクトが尾を引く、二連続の切り払い。

 

その両方を盾を素早くスライドさせることでガード。

 

続く時計周りの回転斬りを、右側に盾を配置して両手で支え、防ぐ。

 

アスナは弾かれた反動をも利用し、右手を強く引いて、勢いよく突き攻撃。

 

マシュは軽く跳躍することで威力を流しながら、盾で攻撃を受けきる。

 

(重い……!)

(堅い……!)

 

お互い反動から回復し、今度は同時に突撃。

 

細剣ソードスキル『シューティングスター』。

 

大盾ソードスキル『バスターアサルト』。

 

二つの突進ソードスキルが正面衝突し、大音響が鳴る。

 

火花が双方の真剣な顔が照らし、すぐに消え去る。

 

盾で受けた分、マシュの方が反動が少なかったのだろう。

 

体勢を整え、マシュは畳み掛ける。

 

両手で右側に盾を構え、勢いよく振る。

 

纏う緑色のライトエフェクト。

 

大盾ソードスキル『サイクロン』。

 

ハンマー投げのような勢いで回転し、猛烈な攻撃がアスナに牙を剥く。

 

「っ……!」

 

背を逸らし、どうにか回避するが、広範囲攻撃に回避しきれず、身体を掠める。

 

HPが減少し、アスナが歯噛みする。

 

しかし、ここで諦めるはずがない。

 

大振りの攻撃を行ったため、マシュには隙がある。

 

「はぁっ!」

 

気合いと共に、剣を一閃。

 

隙に気がつき、マシュも回避するが、やはり回避しきれずヒット。

 

お互い、腹と胸から赤いポリゴンを放出する。

 

「やぁぁぁ!」

 

だが、マシュは怯まない。

 

足を強く踏み込み、全体重をかけてアスナに突進。

 

細剣を間に入れてガードするが、細身の剣ではどうやっても防御力が足りない。

 

HPバーが再び減少する。

 

ここでアスナは腕を捻りながら強烈な突き攻撃。

 

もちろんマシュはガードする。

 

しかし、アスナの狙いはそこではない。

 

反動を利用して、飛び下がることだ。

 

二人の距離は、マシュがガード時に飛び下がったこともあって空いている。

 

アスナは細剣を構え、勢いよく助走をつける。

 

青く輝くエフェクトが置いてけぼりになるほどの速度で、ソードスキルが発動する。

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

細剣ソードスキル『フラッシングペネトレイター』。

 

細剣最上位の突進技だ。

 

それに対し、マシュは努めて冷静さを保つ。

 

(大丈夫……!受けきれる!!)

 

直後、赤く輝くマシュの大盾。

 

アスナは一瞬目を見開くが、それでも勢いを緩めない。

 

「ふっ……!」

 

解き放たれるアスナの閃光のごとき突き。

 

相対するマシュが選択したのは、大盾防御(・・)スキル。

 

『ペインブレイカー』。

 

ほんのコンマ数秒だけの当たり判定の代わりに、完璧に攻撃を反射する、大盾最上位スキル。

 

青いエフェクトと赤いエフェクトが激突。

 

今までで最も大きな音と閃光を上げ、二人の姿が掻き消える。

 

数秒後、晴れた全員の視界には、イエローゾーンに到達したアスナのHPバーが映った。

 

遅れて『WINNER Mash!』の表記。

 

「「「「う……うおおおおおお!!!」」」」

 

さらに遅れて、広場は歓声に包まれた。




以上です!

自分でも書いてて楽しくて、つい色々調べて時間かけてしまいましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか?

もちろんお分かりだとは思いますが、細剣ソードスキルの一部、大盾ソードスキル全てはオリジナルです

名前がダサいとは思いますが、勘弁してください……

こういうの考えるの、実は苦手だったりするんです……

日本語名の方が得意だったりするんです……

次回は『キリトVSアルトリア』です!

では、また来週!


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アルトリアVSキリト

どうも皆様

最近この作品の男主Ver.出したら見てくれる人いるかなとか、ふと思いついた雪希絵です

さて、とうとう二人がぶつかります

SAO最強の剣士はどちらなのかが決定します

では、ごゆっくりどうぞ!


興奮冷めやらぬボス攻略メンバーたち。

 

『閃光』の二つ名を持ち、その剣速と美貌からSAOでもトップクラスの超有名プレイヤーであるアスナ。

 

その彼女にいきなり現れた一人の美少女プレイヤーが勝利した。

 

これで湧かないわけがない。

 

しかも、この後は攻略組の中では有名プレイヤーである、キリトが戦うのだ。

 

周囲の期待も一気に高まる。

 

「お疲れ様、マシュちゃん。ある程度予想はしてたけど、想像以上だったよ。すごく強かった」

「お疲れ様でした、アスナさん。アスナさんも強かったです。目で追うのに、本当に必死でした」

 

そんな中、デュエルを終えた二人は互いの健闘を讃える。

 

にこやかに微笑み合い、二人が立香たちの元に戻ってくる。

 

「さて、次はキリトくんとアルトリアちゃんの番だよ」

「頑張ってくださいね。お二人とも」

「私のアルトリアなら大丈夫だよね?」

 

激励する二人とアルトリアに絶対の信頼を置く立香。

 

「お任せ下さい、マスター。必ず勝利します」

「そう簡単に勝たせないさ」

 

そうして、アルトリアとキリトは輪の中央で相対する。

 

キリトがデュエルの申請をし、先程のマシュ同様に承認。

 

六十秒のカウントダウンが始まった。

 

キリトはシンプルなデザインの片手剣を構え、アルトリアは不可視の剣を構える。

 

アルトリアの剣を見た途端、攻略組全員がざわざわも騒ぐ。

 

その場にいる全員が、不思議な感覚に陥った。

 

そこに剣はあるはずなのに、どんなに目を凝らしてもそれを視認できない。

 

アルトリアの剣に宿る宝具『風王結界(インビジブル・エア)』の効果だ。

 

「……厄介な武器だな。見えないってのは」

 

しかし、キリトはすでに対処法がわかっている。

 

あれは所詮剣だ。

 

銃や弓のように急に遠距離攻撃をしてくるわけではないのだから、必ず近づいて斬撃を放たなければならない。

 

ならば、近づいてくる剣に視覚以外を集中させればいい。

 

剣を操る手元を見ればいい。

 

あとは、それに自分がどこまで反応できるか。

 

これからそれをひたすら繰り返すことに対する心労と、まだ見ぬ戦いにほんの少し楽しみな思いを抱いていた。

 

一方、アルトリアは落ち着いたものだ。

 

ただただ、マスターの期待に応える。

 

自分とマシュを馬鹿にした者達に、力を知らしめる。

 

(その目でとくと見るがいい。これが、騎士の戦いだ……!)

 

そして、カウントダウンが終わる。

 

『DUEL!』の文字が閃き、二人の戦いが始まった。

 

「おおっ!」

「はぁっ!」

 

二人の選択は、どちらも突進系ソードスキル。

 

両手剣ソードスキル『アバランシュ』。

 

片手剣ソードスキル『ヴォーパルストライク』。

 

オレンジ色のライトエフェクトと、真紅のライトエフェクトが正面衝突。

 

マシュとアスナの最後の一合にも並ぶ大音響が辺りに轟く。

 

一瞬の拮抗。

 

「ぐっ……!」

 

しかし、すぐにキリトが体勢を崩す。

 

それもそのはず、アルトリアの剣戟には魔力放出が乗っているのだ。

 

普通のソードスキルとは、威力の桁が違う。

 

そして、その隙を逃すアルトリアでもない。

 

返す刃で左下から右上への斬り払い。

 

それをキリトはどうにか地についていた足を踏み込んで、強引にバックステップして回避。

 

間合いがわからない以上、大げさに回避する必要があったのだ。

 

そのまま体勢を低くし、剣を構え直す。

 

駆け出し、ソードスキルのモーションに入る。

 

水色に輝く片手剣。

 

片手剣ソードスキル『ソニックリープ』。

 

補正によって高い威力と速度を得た斬撃がアルトリアに襲いかかる。

 

相手はソードスキルを発動している。

 

それを、

 

「ふっ……!」

 

何も使わず、正面から受けきる。

 

「!?」

 

目を疑うキリト。

 

たしかに『ソニックリープ』は基本ソードスキルだが、まともに受けきれるような甘いものではない。

 

だが、アルトリアはそんな無茶を平気でやってしまった。

 

いや、それどころか、

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

さらに押し込もうとしている。

 

その細い身体からは到底想像できない筋力。

 

(筋力パラメータ上げすぎだろ……!)

 

右手に力を込めながらそんなことを考える。

 

その直後、ジェット噴射のような音ともに、キリトが弾き飛ばされた。

 

魔力放出は何も斬撃と同時でなければいけないわけではないのだ。

 

想像よりも厄介なスキルであることに気づき、倒れかけながらキリトが歯噛みする。

 

アルトリアはさらに追撃。

 

鋭い踏み込みで距離を詰める。

 

明らかに素人ではない動き。

 

剣道の経験があるキリトだからこそわかる、武道に卓越したものだからこその他無駄のない動き。

 

(間違いない。 ただの一般人じゃ、決してない……!)

 

ならば、さらに覚悟を決めるしかない。

 

ソードスキルのことは一旦忘れる。

 

目の前に迫って来たアルトリアの斬り上げに対し、剣を滑り込ませる。

 

相手は両手剣だが、キリトの剣は重量が高い。

 

充分に、攻撃を防ぐに足りた。

 

弾かれる互いの剣。

 

跳ね上げられた剣をキリトは右手の力をフルに使って無理やり振り下ろす。

 

対するアルトリアはそれに乗る。

 

下方に弾かれた剣を魔力放出で持って強引に加速。

 

腕の力ではなくその加速だけで斬撃を放つ。

 

衝突、そして轟音。

 

もちろん、そんなものでは終わらない。

 

アルトリアが攻撃すれば、キリトが反射神経だけでそれを捌き。

 

キリトが攻撃すれば、アルトリアはそれを正面から受け止める。

 

一体後その場にいる何人がこの激闘の全てを理解しているのか。

 

一進一退の攻防に、二人の速度は徐々に上がる。

 

(まさか、これ程の剣士が現代にいるとは……!)

 

(一撃一撃が重すぎる……!まさか、SAOにここまで強いやつがまだ眠ってたなんてな……!)

 

互いに心中で褒め合いつつ、真剣極まりない表情で剣をぶつけ合う。

 

しかし、やはり地力と威力の違いか。

 

キリトのHPは、徐々に減少していた。

 

それを視界の端に捉えたキリトは、内心焦っていた。

 

アルトリアの方はほとんどダメージを受けていない。

 

このまま時間切れなら、確実に負ける。

 

(一か八か、これに賭ける!)

 

アルトリアの突き攻撃を、ようやく理解できた間合いギリギリで回避。

 

そして、攻撃に転じる。

 

もう一度真紅に輝く、片手剣。

 

アルトリアも気づくが、すでに遅い。

 

間合いの把握が思ったよりもずっと早かったのだ。

 

空を切る音と、急加速するキリトの視界。

 

狙うは、クリティカルヒットの胸中央。

 

吸い込まれるようにそこに剣が飲み込まれ……。

 

ギィィィン!!

 

直前で、軌道が逸れた。

 

「なっ……!?」

 

アルトリアが、常識外れの速度で、自らの剣を身体と片手剣の間に挟み込んでいたのだ。

 

ここでキリトはわかった。

 

アルトリアは、未だ本気ではなかったのだ。

 

「さすがです、キリト。その強さに敬意を表し、私の全力で決めさせてもらいます」

 

キリトにしか聞こえない声でそう言う。

 

直後、アルトリアの姿が掻き消える。

 

気づいた時には、キリトは宙を舞っていた。

 

数メートル吹き飛び、地面を転がる。

 

キリトですら反応できない速度でアルトリアが斬撃を放ったことに気がつくのに、キリトは少々時間を要した。




以上です!

うわぁ、書いてたらギリギリ!

よろしかったら、感想などお聞かせください!

では、また来週!


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ボス攻略戦へ

どうも皆様

最近、新宿アルトリアと新宿ジャンヌにベタ惚れし、カードスリーブを衝動買いした雪希絵です

しかも二種類買いましたからね

さて、今回ちょっと短めです

それでもよろしければ、どうぞごゆっくり


静寂。

 

先程のマシュとアスナの戦いとは違い、『WINNER Arturia!』の表記が現れても、誰一人声さえ上げられない。

 

アルトリアとキリトの二人の戦い。

 

常識外れの剣術を持つ者と常識外れの反射神経を持つ者の戦い。

 

周囲の大半が目で追うことすら叶わなかった。

 

そこへ、追い討ちのごとく見せつけられた、次元の違う一撃。

 

移動する瞬間すら見えない、超高速の踏み込み。

 

あのキリトですら反応できない、超高速の一太刀。

 

そして、人間一人を吹き飛ばすその威力。

 

それら全てに、誰もが唖然としていた。

 

「…………負けたか」

 

しばらくして、キリトがゆっくりと立ち上がり、剣を納める。

 

「─────終わっちゃった……のか」

 

キリトは全てを出し切った。

 

全力でアルトリアの剣戟を防ぎ、迎え撃った。

 

かつてない好敵手との戦い。

 

今自分に持てる総力で、戦い続けた一戦。

 

そんな高揚感も、勝負が終わってからはすでに過去のものとなってしまった。

 

「残念だな。もう少し、戦ってみたかった」

「同感です。わずか一年程でこの強さ、大したものです」

「そういうアルトリアは何者なんだ?あの動き、明らかに素人技じゃないぞ?」

 

お互い少し近づき、自分たちにしか聞こえない声でそう言う。

 

「それが分かるということは、キリトも武道の心得があるようですね」

「……一応、昔剣道を」

「なるほど。ならばその反射神経も納得できる」

「それはどうも。で、本当に何者なんだ?」

「…………」

 

改めて尋ねるキリトに、アルトリアは沈黙を返す。

 

数秒後、やや躊躇いがちに口を開き、

 

「申し訳ない。私にそれを語る資格はない。マスターがいつか話すまで、どうか待っていて欲しい」

 

顔を背けながら、そう言った。

 

「……わかった」

 

表情から何か事情があることを察し、キリトは頷く。

 

「それで、アルトリア。ものは相談なんだが」

「なんでしょう」

「……この空気どうしよ」

「……どうしましょう」

 

より声を潜めながら、二人は相談する。

 

というのも、二人が話している間も、周囲はあまりの驚きに静寂。

 

唯一、立香だけは、ケロッとした顔をしているが。

 

「と、とりあえず、握手でもするか?」

「それがいいでしょう」

 

キリトがおずおずと手を出し、アルトリアはそれをなんの躊躇もなく握る。

 

一瞬驚くキリトだが、すぐに控えめにアルトリアの手を握った。

 

それを見て、ようやく我に帰ったのか。

 

「「「「おおおおおぉぉぉぉ!!」」」」

 

かなり遅れて歓声が上がった。

 

なかなか鳴り止まない歓声の中、アスナが急いで真ん中に進み出る。

 

「これで、二人の強さがわかって頂けたかと思います。参加を認めて貰えますね?」

 

最後を強調し、呼びかけた。

 

だいたいの人が頷くが、何人かは首を傾げている。

 

「何か言いたいことがあれば、どうぞ」

「じゃあ、いいですか」

 

アスナが促すと、一人の男性プレイヤーが手を上げる。

 

「あと一人いるんですけど、彼女はどうなんですか?」

 

そう言い、立香の方を指さす。

 

「……まあ、そうくるか」

 

一人呟き、立ち上がる立香。

 

ボス戦参加者からしたら、立香は実力未知数の存在だ。

 

アルトリアとマシュの参加には納得出来ても、流れで立香もというわけにはいかないようだ。

 

焦るアルトリアとマシュ。

 

二人は立香と契約しているサーヴァントだ。

 

マスターがそばにいるからこそ、全力を発揮できる。

 

そのマスターである立香が来ないとなると、戦闘能力ダウンは免れない。

 

どうしたものかと考えていると、助け舟が出た。

 

「彼女が参加する意味ならあります」

 

見晴らしのいい場所に再び立った、アスナだ。

 

全体に聞こえるようにボリュームを上げ、アスナは続ける。

 

「今回の作戦、その全てを考えたのは、そこにいるリツカさんです」

 

全員が目を開き、立香の方を向く。

 

「いえ、それどころか、今までの質問の内容すら、彼女はわかっていました。質問の回答を予め私に教えてくれたのが、その証拠です」

 

そう、今回の作戦立案者は立香だ。

 

アスナから今までの偵察の情報を聞き、今まで幾つもの戦場を巡って来た観点から、作戦を考えだした。

 

各ポジションごとの細かい動きを考えたのも、立香だ。

 

「よって彼女には、私が前線に出ている間の指揮をとってもらいます。これだけの規模の作戦です。一人くらいは全体を見る人がいた方がいいとは思いませんか?」

 

アスナは最後に、そう締めくくった。

 

納得したように頷く者、首を捻る者、周りの人に相談する者。

 

反応は様々だが、総意として反対意見はないようだ。

 

「では、これで会議を終了します。五分後にボス部屋までの行進を開始します。最後の準備を整えてください」

 

そうしてアスナは一礼し、いそいそと立香たちの元へ戻って来た。

 

「はぁ……緊張した……」

「お疲れ」

 

ボス戦前からすでに疲れた顔のアスナ。

 

そんなアスナに、キリトは労いの言葉をかける。

 

「大変だね、アスナも。毎回やってるの?」

「うーん……そうだね、だいたいは。うちの団長があんまりこういう会議とかに興味なくて、『任せる』の一言ばかりだから……」

「それは団長としてどうなんでしょうか」

 

アルトリアが眉を顰める。

 

人一倍責任感の強い彼女からしたら、なんだか引っかかったのだろう。

 

「それはそうだけど、でもすっごく強いんだよ。団長がいるから血盟騎士団に所属してるって人も多いし」

「カリスマ性は充分だからなぁ……」

「聞けば聞くほど想像できない」

 

そんなことを話しているうちに、五分経った。

 

アスナを先頭にパーティごとに固まり、ボス戦参加者たちは街の外へと進み出した。

 

───────────────────────

 

途中戦闘はあったが、アタッカー組が手際よく討伐し滞りなく行進は進んだ。

 

ちなみにアルトリアはアタッカー組、マシュは盾組に所属している。

 

立香は極力逃げに徹し、より広く視界を取り、スイッチやアタッカーの攻撃タイミングを指示することになっている。

 

迷宮区内に入り、モンスターの数が増える。

 

ここからはアルトリアとマシュも参戦し、敵を次々と薙ぎ払っていく。

 

そんなまるで無双ゲームのような光景に、参加者たちは再び唖然としていた。

 

出発から数十分後、ボス部屋の前にたどり着いた。

 

「隊列を組んで!少しでもHPが減っていたら、大事を取ってポーションを飲んでください!」

 

アスナの声が響く。

 

それに従い、盾ポジションの者たちが前に出て、その後にアタッカーポジションの者たちが控える。

 

「私から言えることは一言。全員、必ず生きて帰りましょう!」

「「「「おおおおおおお!!!」」」」

「全員、突撃!」

 

扉を開く係のプレイヤーが扉を開け放つ。

 

直後、中にあった灯台のようなものに次々と火がついていく。

 

その部屋の中央で、爆ぜるポリゴンの欠片。

 

それは確かな形を作り、ものの数秒で固まっていく。

 

上へ、上へ。

 

横にも広がりながら、さらに上へ。

 

見上げなければ全容が分からないほど上に伸び、静止。

 

形が定まり、それは現れた。

 

無数の手を有する、黄金色の仏像。

 

頭の上に、四本のHPバーが現れ、同時にその固有名が明らかになる。

 

『The Thousandhands』。

 

千の腕。

 

「ォオオオオオォォォォ─────!!」

 

威嚇するように叫ぶボス。

 

アインクラッド第五十層ボス戦が、今始まった。




今回ちょっと短かかったので、次回は長くしたいと思います

お読みいただきありがとうございました!


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本気を出そうか

どうも皆様

メルトリリスが引けなくて泣きそうだった雪希絵です

時間過ぎて申し訳ありません!

寝落ちしてました、本当にごめんなさい!

いつもはリビングで書くのですが、今日は脚が痛かったので寝て書いていたのですが……

まさか本当に寝てしまうなんて……

今後二度とこんなことはないよう注意しますので、どうかお許しください

では、今回もごゆっくりどうぞ!


「盾部隊、前へ!」

 

広いボス部屋の中、アスナの声が響き渡る。

 

指示を受けた盾部隊が、マシュを筆頭にボスに向かっていく。

 

「ォオオオオオオォォォ!!」

 

かかってこいと言わんばかりの咆哮。

 

「「「「うおおおおおお!!!」」」」

 

負けじと盾部隊も叫び、ボスのヘイトを集める。

 

まるで阿修羅の如く三つある頭が、ぐるりと動いて盾部隊を見下ろす。

 

そして、無数にある腕を一斉に動かし始める。

 

轟音を上げ、右側の腕が振り下ろされる。

 

それを見て、盾部隊全員が足を踏ん張る。

 

無数の腕に武器の類はない。

 

だが、

 

「ぐあっ!」

「……ぐぅ!」

「うお……!」

 

盾部隊前方のプレイヤー達は、等しく数メートルは後退させられる。

 

あまりの衝撃に、唸り声を上げるもの。

 

そんな暇さえなく、体勢を整えるのに必死なもの。

 

続く第二波。

 

右側の腕を引っ込めたボスが、左側の腕を振りかぶる。

 

体勢の整いきっていないプレイヤーもいるが、ボスは一切容赦しない。

 

そこへ、

 

「『奮い立つ決意の盾』!!」

 

マシュが叫びながら飛び込む。

 

その瞬間、全ての腕はマシュに向かい始める。

 

マシュはタイミングを合わせ、防御スキルのモーションを取る。

 

水色に輝くライトエフェクト。

 

ボスは何も迷うことなく、この程度捻り潰せるとばかりに躊躇いなく腕を振り下ろす。

 

しかし、ボスのAIは認識していなかったのだろう。

 

あの最初の一撃で、マシュだけが唯一、微動だにしなかったことを。

 

巨大な多数の腕と、身の丈ほどもあるマシュの盾が衝突。

 

周りを染め上げるほどの火花と、大音響。

 

ただ、それだけ。

 

ボスは腕を引っ込め、マシュは少しも動かない。

 

周りのプレイヤーは目を丸くする。

 

あの攻撃を、正面から受けきったのかと。

 

「皆さん、落ち着いてください!力を込めるタイミングを誤らなければ、受けきれない攻撃ではありません!」

 

マシュが同じ盾部隊のプレイヤー全員に呼びかける。

 

それに頷き、今度はより強固に隊列を組み直す。

 

直後、再びボスの攻撃。

 

マシュを最前線に、盾を構える。

 

「今!」

 

どこからか聞こえた声。

 

しかし、不思議と身体が動き、盾部隊全員が同時に力を入れる。

 

すると、驚くことに全員が多少引きずられるくらいですんだ。

 

「次来るよ!今度はぶつけるように受けて!」

 

見上げると、今度は腕をバラバラに開き、至る方向から腕をぶつけてくる。

 

ちょうど、前衛一人につき一本から二本といったところか。

 

指示された通り、盾を腕に叩きつけるつもりで体重をかけながら動く。

 

力と力がぶつかり、質量の小さい方が負ける。

 

つまり、盾部隊全員に大きなノックバックが発生するということ。

 

そこから何をするかは、流石にもうわかった。

 

「「「「スイッチ!」」」」

 

声が揃った直後、背後に控えていた第二列の盾部隊が飛び出す。

 

マシュはなおも残り続けるが、それ以外は全員入れ替わった。

 

「さっき前衛だった人はポーションで回復!前衛、構え!」

 

また飛んできた指示に合わせ、前衛組が両腕で盾を支えて構える。

 

「今!」

 

先程と同じ指示。

 

素直に全員が従うと、やはり結果は同じ。

 

多少下がる程度に威力が抑えられた。

 

こんな全てを見通したかような指示が出来るのは、一人しかいない。

 

全部隊の後ろに控え、今も回避しながら必至に周囲の把握に務めるプレイヤー。

 

今回の作戦参謀、立香だ。

 

「スイッチ!」

 

タイミングを見極め、そう指示を出す。

 

今度は各々が判断し、盾で腕に向かっていく。

 

二列目の隊がスイッチし、三列目の隊が前衛に出る。

 

さながら、長篠の戦いで織田信長が行った三段撃ちのようだ。

 

こうして微調整しながらスイッチを繰り返せば、ボスのヘイトは盾部隊に集まり続ける。

 

今なら、アタッカー部隊が動ける。

 

「アタッカー部隊、攻撃開始!」

「「「「了解!」」」」

 

立香の指示に、左右に散開して走り出すアタッカー部隊。

 

「はあっ!」

 

アルトリアは魔力放出を使いながら、誰よりも早く駆け抜ける。

 

流星の如きスピードのまま、ボスのサイドに滑り込む。

 

途中、急ブレーキしながら、剣を床と水平に構えて詠唱する。

 

風王(ストライク・)────」

 

そして、剣をボスに向かって勢い良く突き出す。

 

鉄槌(エア)!!」

 

彼我の距離は、十メートルは離れている。

 

普通なら、剣を突き出したところでなんの効果もない。

 

だが、アルトリアは話が違う。

 

剣に宿っていた封印が、一瞬だけ解ける。

 

収束した風の塊は、剣を中心に一つの鉄槌に。

 

剣を突き出すとともに、それは閃光を放ちながら竜巻のように吹き荒れる。

 

ボスは盾部隊に夢中だったため、アルトリアの風王鉄槌に気がついていない。

 

よって、アルトリア渾身の一撃は見事にクリーンヒット。

 

ボスの四本のHPバーのうちの一本目、その一部が目に見えて減少する。

 

「すごい攻撃力だ……」

「残念ながら、連発はできませんが。ですが、まだまだ戦う手段はあります」

 

アルトリアが風王鉄槌を放っている間に追いついたキリトが、感嘆の声を上げる。

 

それにアルトリアは早口で答え、再びボスに接近。

 

「……よし、俺も負けてられないな」

 

キリトも右手の剣を強く握り、ボスに向かう。

 

走りながら、キリトは剣を構える。

 

「おおっ!」

 

剣先を中心に真紅のライトエフェクトを纏い、ジェットエンジンじみたサウンドが鳴り響く。

 

片手剣ソードスキル『ヴォーパルストライク』。

 

高いリーチと威力を持つ一撃を、ボスの腕に向かって叩き込む。

 

ガスッ……!と音が鳴り、ボスの腕が切り取られた。

 

「いける……!腕は切り落とせるぞ!」

「みんな!聞いた!?ボスの腕を狙って!」

「「「「了解!」」」」

 

計画通り、腕を切り落とすことは可能らしい。

 

キリトとアスナの指示に従い、アタッカーは全員腕を狙う。

 

とくに、アルトリアはただの斬撃でも甚大なダメージを与えられるため、そのペースは他のプレイヤーの比にならない。

 

腕が切り落とされるたび、ボスのHPが減少する。

 

また、何人かの両手剣使いは胴体の攻撃に集中しているため、それもHPの減少に一役買っていた。

 

盾部隊がスイッチを繰り返し、アタッカー部隊が腕を切り落としながら攻撃。

 

同じことの繰り返しだが、それはたしかな効果を持っていた。

 

───────────────────────

 

そんな戦いに、ある変化が訪れる。

 

「みんな、あと一本だよ!」

 

ボスのHPバー三本を削り取り、全員のモチベーションが上がった時。

 

「オオオオオオオオオォォォォォォ」

 

今までと少々トーンの違う叫び声。

 

直後、

 

カパッ

 

と、えらく間抜けな音とともに、ボスの口が開いた。

 

そこに、閃光が収束していく。

 

「「……!」」

 

キリトと立香は確信した。

 

このモーションの正体を。

 

「全員下がれーーー!」

「ブレスが来るぞ!」

 

そんな叫びも虚しく。

 

ボスのブレスは既に放たれた。

 

白に染め上がる視界。

 

広範囲に破壊を撒き散らすブレスは、まるで嵐の如く爆音と衝撃をもたらす。

 

破壊不能オブジェクトのはずの壁さえ砕けそうな、圧倒的な破壊圧。

 

次にプレイヤー達が目を開けた時、そこには。

 

HPの大部分を減らし、倒れる大勢の仲間の姿。

 

そして、彼らにとどめを刺そうとするボスの姿。

 

「ひ、ひぃぃぃ!」

「だ、だめだ!」

「逃げろぉぉ!!」

 

勝利の確信は、一瞬にして敗北の予感と恐怖にすり変わった。

 

大急ぎで転移結晶を取り出すプレイヤー達。

 

「お、おい!」

 

キリトが近くにいたプレイヤーを止めるが、そんなものに聞く耳を持つ者など一人もいない。

 

次々と勝手に転移し、ボス部屋から人が消えていく。

 

しかし、転移の間に合わない者もいる。

 

ボスの近くにいたプレイヤーは、大量の腕の連続攻撃が直撃。

 

「ああああああ……」

「や、やめ……!」

 

腕が振り下ろされるたび、断末魔の叫びとポリゴンの砕ける音が鳴る。

 

「そ、そんな……」

 

目も耳も塞ぎたくなるような状況に、アスナも他のプレイヤーも戦意を喪失する。

 

キリトはかろうじて剣を握っているが、自分が攻撃を防ぐのに手一杯だ。

 

そんなキリトの横では、ある人物が一人で攻撃を受け続けていた。

 

真紅の鎧に、巨大な十字盾。

 

血盟騎士団団長にして、SAO現最強プレイヤー、『神聖剣』の『ヒースクリフ』。

 

彼はブレス直後から一人で、ボスの残った腕による攻撃を防ぎ続けていた。

 

その化け物じみた防御力は、未だにグリーンゾーンから変わらないHPを見れば一目瞭然だった。

 

だが、それでも足りない。

 

一人で戦線を支えられても、アタッカーがまずいないのが問題だ。

 

気がつけば、部屋の中には最初の半分ほどの数しかプレイヤーが残っていない。

 

「くそっ……!」

 

どうにか腕を切り落としながら、歯噛みするキリト。

 

仮に全ての腕を切り落としたとしても、次に待っているのはブレスだ。

 

ほんの少しだけ減少しているが、ボスのHPはほぼ満タン。

 

だが、こちらは盾部隊もアタッカー部隊も間違いなく人が足りない。

 

こんな状況で、どうするというのか。

 

「増援を……待つしかないのか……?」

 

可能性があるとするなら、転移したプレイヤー達が応援を連れてきてくれることだ。

 

しかし、今から人を集め、状況を説明し、一体何人のプレイヤーが、何分後にやってくるのか。

 

考えただけでも絶望感が押し寄せる。

 

ふと、アスナの方を見ると、彼女は既に立ち上がっていた。

 

けれども、その立ち姿にはいつもの覇気がない。

 

「……こうなったら」

 

こうなったらアスナを連れて自分達だけでも、と自分でも反吐が出るほど卑怯な手を思いつき、首を振って否定した時。

 

「……ああ〜、死ぬかと思った」

 

場の空気に不釣り合いな、気の抜けた声が響き渡った。

 

声の方を横目で見ると、そこには、

 

「ブレスがあるなんて……聞いてないよ。意識なくなったわ」

「大丈夫ですか、マスター?」

「一応、なんとか」

「すみません。すぐにマスターの元へ駆けつけられなくて……」

「いいよ。気にしないで」

 

そんな会話を交わす、立香とアルトリアとマシュの姿。

 

呆れたような視線も気にせず、三人はずかずかとボスに近づく。

 

「お、おい!危ないぞ!」

「三人とも!下がって!」

 

キリトとアスナが咄嗟に叫ぶが、完全にスルー。

 

とうとう、ボスの前までやって来た立香は、ヒースクリフに話しかける。

 

「血盟騎士団の団長さん。ちょっと、危ないのでどいてもらってもいいですか?」

 

そして、いきなりそんなことを言った。

 

何を馬鹿な、という周囲の動揺も無視し、立香は続ける。

 

「ちょっと、本気を出してみたいので」

 

そう言い、立香は不敵に笑った。




最近百合成分が足りていない気がします

もう少ししたら補充していこうと思います


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真名解放

どうも皆様

最近炭酸水にハマった雪希絵です

WILKINSON炭酸のコーラ味美味しいです

さて、やって来ました更新日

タイトルからご察しの方はいるとは思いますが、楽しんでいただければ幸いです

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「……何か策があるのかね?」

 

ヒースクリフはそんな立香に、攻撃を受けながら冷静に尋ねる。

 

二人はもちろん初対面だが、わざわざ挨拶をしている余裕はない。

 

「はい。勝てます」

 

立香もひらりと攻撃を回避し、はっきりと、迷わず答える。

 

「……わかった。任せよう」

 

そんな立香に何か感じるものがあったのか。

 

ヒースクリフはあっさりと後退し、ボスと距離を取る。

 

「なっ!?だ、団長!」

「しょ、正気かっ!?」

 

驚くべきヒースクリフの言動に、アスナとキリトが止めに入る。

 

周りのプレイヤー達も固まっている。

 

しかし、ヒースクリフも立香たちも何も気にしていない。

 

ヒースクリフという壁がなくなり、自由になったボスは攻撃を始める。

 

「ォオオオォォォォォ!!」

 

叫び、減ってはいるがまだ数多くある右側の腕を振りかぶる。

 

「マシュ」

「はい」

 

名前を呼ぶだけの指示。

 

だが、マシュはそれだけでも的確に動く。

 

立香とアルトリアの前に立ち、束になる右腕をいとも簡単に受け続ける。

 

衝突する度に弾ける火花。

 

普通のプレイヤーならHPが削られ、数回も受ければ何度もノックバックするような激しい攻撃。

 

それに対し、マシュはたった一人、ヒースクリフをも超える見事な反応速度と防御力を発揮する。

 

しかし、これでは先程と変わらない。

 

ただヒースクリフが前線で攻撃を受け続けていた時となんら変わりはない。

 

(一体何をするつもりだ……)

 

キリトは頭を捻る。

 

鉄壁の防御にアルトリアも加わり、両側に増えたボスの攻撃をひたすら受ける。

 

ほんの、ほんの少しずつ減少するHP。

 

未だに何もしない立香。

 

しばらく響き続けていた音は、

 

「オオオオォォォォォォォォォォ」

 

ボスの咆哮に掻き消された。

 

再び、間抜けな音を立てて開く口。

 

「やばいっ!」

「みんな、下がって!」

 

キリトとアスナの危機警告をする中、立香は一人、

 

「待ってたよ。それを」

 

にっこりと微笑む。

 

右手の袖を捲り、手の甲を正面に。

 

横にいたキリトとアスナは気がついた。

 

その手には、奇妙な紋章が刻まれていることに。

 

「真名解放……」

 

ボスの口に収束する光。

 

それに対し、控えめに光る立香の右手の紋章。

 

それは、サーヴァントを操るマスターだけの特権。

 

ありとあらゆる不可能を可能にする、聖杯に最も近い魔術行使。

 

『令呪』。

 

サーヴァントの魔力がどれだけ減っていようと、切り札を切ることができる強力な命令権。

 

「『マシュ・キリエライト』!!」

 

それを、今使った。

 

立香が名前を叫んだ直後、マシュの身体が光り輝く。

 

いよいよブレスが吐き出される、その瞬間。

 

マシュは、一歩、二歩先へ。

 

ボスの目と鼻の先に、立つ。

 

「真名、開帳────私は、災厄の席に立つ」

 

静かに呟き、盾を振り上げる。

 

ボスの口が最大限まで開き、ブレスを放出。

 

目を開けていられないほどの閃光と、耳をつんざく轟音。

 

そんな中、不思議とはっきり聞こえるマシュの声。

 

「それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷。顕現せよ『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』!!」

 

盾がズシンッと床を揺らして叩きつけられると同時、マシュを中心に権限する城壁。

 

白亜の城と円卓の騎士の中枢、円卓自体を呼び出させるマシュの宝具。

 

それらを用いた究極の守り。

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』。

 

マシュの作り出した盾と、ボスのブレスが激突。

 

しかし、ブレスは当たった端から霧散していく。

 

あまりの防御力に、ブレスは微塵も歯が立たないのだ。

 

「マスター!アルトリアさん!今です!」

 

懸命に盾を支えながら、マシュが背後の二人にそう言う。

 

「OK、分かってるよ。マシュ」

「お任せを。本気でいきます」

 

そうして、再び右手を突き出す立香。

 

「真名解放……!『アルトリア・ペンドラゴン』!!」

 

立香の宣言とともに、マシュ同様に輝き出すアルトリアの身体。

 

いや、令呪の干渉が終わっても、なお輝き続ける。

 

地面から登ってくるような、光の粒子。

 

その数は次々と増えていき、やがて周囲を埋め尽くさんばかりに広がる。

 

その中央で、アルトリアは剣を垂直に構える。

 

空気の爆ぜる音とともに、解除される封印。

 

不可視の剣は可視の剣となり、その全容を表す。

 

目を閉じ、意識を集中するアルトリア。

 

(必ず決める。この一太刀で、この目に写る全てを救う!)

 

もう既に犠牲者は出てしまった。

 

だからもう、これ以上何も失わせはしない。

 

「遍く星の息吹よ、輝ける命の奔流よ。受けるがいい!」

 

柄を両手で握りしめ、目を開く。

 

同時、マシュはその場から跳ねるように移動。

 

これでもう、アルトリアとボスの間に障害はない。

 

「ォォォオオオオォォォォォオオオオォォォォォ!!!」

 

ブレスを防がれ、激昂でもしたのか。

 

ボスは残った腕全てを伸ばし、手当たり次第に殴りかかろうとする。

 

だが、そんなものは無駄な抵抗だ。

 

勝負は、決まったも同然なのだから。

 

アルトリアの周りの粒子が集結し、剣から光の帯が伸びる。

 

高く、高く。

 

数メートルは伸びた剣。

 

(砕け散れ、モンスター!!私達は、こんなところで止まるわけにはいかないのだ!)

 

「『約束された(エクス)────』」

 

強い意思を込めて、振り下ろす。

 

「『勝利の剣(カリバー)』!!!」

 

まるで剣が伸びたように。

 

巨大なレーザーのような斬撃が放たれた。

 

それは聖剣の真骨頂。

 

全ての力を解放した最強の剣でのみ放たれたる、究極の斬撃。

 

魔力を直接光に変換することで、莫大なエネルギーを伴った一太刀。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。

 

立香達の正真正銘の切り札である。

 

ボスモンスターの大部分を覆う一撃は、いとも容易くボスのHPを刈り取る。

 

猛烈な勢いで減少、即座に空に。

 

グリーンから黒一色に染まったHPバーは、

 

「オォォォォォォォォ……………!」

 

ボスを討伐した証拠。

 

長い長い断末魔を上げ、ひび割れるボス。

 

一際大きい破砕音が鳴り、木っ端微塵に砕け散り、ポリゴンになってキラキラと舞う。

 

それが消えてから現れる『Congratulation!!』の表記。

 

第五十層ボス攻略戦、終了の瞬間だった。




どうでしょう、かっこよく書けていましたでしょうか?

このシーンはこの作品を書く上でも重要なシーンだと前々から考えていたので、気合いを入れて書きました

よろしければ感想などお聞かせください

お読みいただきありがとうございました!

また来週お会いしましょう!


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改めて名乗ろうか

どうも皆様

課題の多さに絶賛絶望中の雪希絵です

それでも更新日は気合いと根性で守りますけどね!

さて、前回のボス戦決着のシーン、お楽しみ頂けましたでしょうか?

今回はそんなボス戦のあとのお話しです

それでは、ごゆっくりどうぞ!


ボスが砕け散ったのを見届けても、部屋は沈黙に包まれていた。

 

勝利の喜びも、亡くなった者を悼むこともない。

 

ただただその視線は、部屋の中央に立つ三人に注がれていた。

 

一撃で隊列を壊滅状態にしたブレスをたった一人で防ぎ、ゲージほぼ一本分のHPをたった一人でいとも簡単に削り取った。

 

今までのSAOプレイヤーとは、決定的に何かが違う。

 

誰もがそれを理解して、動くどころか一言発することさえできなかった。

 

やがて、右手や身体を確認するように動かしていた立香が、

 

「行くよ。アルトリア、マシュ」

 

と言って踵を返し、出口に向かう。

 

当然、近くにいたアスナの方に向かって歩くことになる。

 

「あ……」

 

止めなくては。

 

聞きたいことが山ほどあるのだから。

 

そう思うが、先程の光景が目に焼き付いて離れない。

 

頼もしい、心強い、いい戦力になる。

 

そんな感情より、真っ先に思うのは、恐怖。

 

SAOに存在してはいけないレベルの力。

 

ゲームバランスなど真っ向から無視した、規格外の一撃。

 

そして、それがもし自分に向いたとしたら。

 

有り得ないとはわかっていても、想像してしまうのだった。

 

そんな硬直するアスナの横を、立香は通り過ぎて行く。

 

その途中のことだった。

 

「……待ってるから」

 

ボソリと、アスナの耳元で呟いた。

 

「えっ……?」

 

意味を問うより早く、立香たちは入り口を出ていってしまった。

 

まるで、もう役目は果たしたと言わんばかりに。

 

アスナは急に不安に駆られた。

 

もしかしたら、このまま三人はいなくなってしまうのではないだろうか。

 

もう二度と、顔を見せることはないのではないかと。

 

胸を抑え、不安そうにしているアスナ。

 

そこへ、キリトが近寄る。

 

「アスナ」

「あ……キリト君……」

「どうした?っていうか、リツカになんて言われたんだ?」

 

どうやら、アスナの横を通り過ぎる時に、その口元が動いていたことに気がついたらしい。

 

さすがに、いい目をしている。

 

「……うん。実はね、リツカちゃんに『待ってる』って言われたんだ」

「待ってる……?」

「それを聞いたら、なんだか三人が遠く行っちゃうような気がして……。だから、私、行かないといけない」

 

キリトに話している間も、不安は募る。

 

もうとっくに、三人の背中は見えない。

 

もしかすると、すでに転移結晶か何かですでに遠くに飛んでいるかもしれない。

 

だから、今すぐに三人を追いかけたい。

 

アスナは、そう思っていた。

 

「……わかった。じゃあ、行こう」

「えっ?」

「俺も一緒に行こう。聞きたいことが山ほどあるしな」

「……うん!」

「クライン!転移門の起動は任せた!」

「なぁ、ちょっ、おい!キリト!」

 

馴染みのプレイヤーに仕上げを任せ、キリトとアスナは駆け出す。

 

迷宮区を抜け、外へ。

 

少々ガタガタとしている森の道を二人並んで駆け抜ける。

 

やがて、開けた場所に出た。

 

細かく草の生えた河原で、キリトが昼寝をするのに使っているようなのどかな場所。

 

そこに、三人はいた。

 

立香は寝そべり、マシュはその隣に座り、アルトリアは立って、ただ遠くを見つめていた。

 

「……リツカちゃん」

 

近づき、話しかける。

 

知らず知らず、声はかすれていた。

 

「……来てくれると思ったよ。二人とも」

 

振り返りもせず、立香はそう言う。

 

「あそこじゃ、ちょっと話しにくいからね。ここまで呼んだってわけ。びっくりした?」

「……! うん、びっくりした。ただ事じゃなさそうな顔してたから」

 

安心しながら、アスナは立香の隣、マシュとは反対側に座る。

 

キリトもその隣に座った。

 

「マシュー。膝枕してー」

「はい。まったく、仕方ない人ですね。先輩」

 

二人が座ったことを確認すると、立香はマシュに膝枕をねだる。

 

いつものことなので、ため息をつきながらもマシュはそれを了承した。

 

「んふふー」

 

立香はご満悦である。

 

そして、しばらく無言。

 

爽やかな風が、五人の間を流れ、髪がさわさわと揺れる。

 

先程の戦闘などなかったかのような、優しい風景だった。

 

「なあ、リツカ」

 

そんな雰囲気を名残惜しく思いながらも、キリトが口を開く。

 

聞かなければいけないことは、たくさんある。

 

「三人は、一体何者なんだ?」

 

至極当然の問い。

 

今までゲームバランスを崩壊させていると言われて来た『ユニークスキル』すら優に超えるその強さ。

 

反面、まるでつい最近やってきたかのように、SAOについて何も知らない。

 

疑問に思うのは当然だった。

 

「……そうだね。二人には話した方がいいかな」

 

言いながら身体を起こし、実に軽やかな身のこなしで立ち上がる。

 

「それじゃあ、改めて名乗ろうか。私は『人理継続保障機関カルデア』所属のマスター。ここの定礎を復元するために、異世界からやってきたんだ」

「……えっ?」

「はい?」

 

訳が分からず、二人は気の抜けた声を出してしまうのだった。




うわぁ、ギリギリ!

あと、今回ちょっと短くてすみません!

次回の説明が長いので、こうなってしまいました!

それでは、また来週お会いしましょう!


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魔術と魔法とサーヴァント

どうも皆様

極度の甘党雪希絵です

なんならホイップクリーム丸呑みできると思います

さて、今回は説明回となりますので、すでに知っている方はつまらないかと思います

また、FGO本編のネタバレを含みますので、まだ最終章まで終えていない方はご注意ください

それでは、今回もごゆっくりどうぞ!


「ちょ、ちょっと待ってくれ!カルデア?マスター?異世界?どういうことだ!?」

「まあまあ、順を追って説明するから」

 

混乱するキリトとアスナを、立香はなだめながら説明を開始する。

 

「……まず、大前提として聞いて欲しいのが、私達はこの世界の人間じゃないってこと」

「異世界から来たってこと?」

「そう。私達の世界にはそういう技術があるから」

「技術?」

「うん。私達の世界には、魔術があるから」

 

二人は頭を抱えた。

 

目の前の少女が何を言っているのか、何一つ理解出来ないのだ。

 

「これは、魔術について説明してからの方が良さそうだね……」

 

呟き、そして場所を変えることを提案した。

 

───────────────────────

 

場所は変わってアスナの家。

 

全員装備を解除し、お茶を用意して話を再開する。

 

「まず、魔術に関して説明するね」

 

お茶を啜って一息つき、立香がそう言った。

 

「それって、つまり魔法のことなの?」

「うーん。この世界だとあんまり変わらない感じかな?」

「そうだな。少し呼び方が違うだけというか」

「やっぱりそんなものなのか……」

 

どうしたものかと、立香は首を捻る。

 

というのも、人理修復やらなんやらに忙しく、魔術に関してそこまで詳しい訳では無いのだ。

 

「それでは、私が説明します」

 

そこで、マシュが手を挙げた。

 

「おおっ!さすがマシュ、頼りになる!」

「あ、ありがとうございます……」

 

立香のストレートな褒め言葉に顔を赤くしつつ、マシュは咳払いして説明を始めた。

 

「まず、魔術と魔法は、私達の世界では全く持って違うものです。最初に、それをご理解ください」

 

二人が頷いたのを確認し、マシュは続ける。

 

「魔術というものは、あらゆる事象を魔術回路と魔力によって代替するものです」

「魔力はわかるが、魔術回路って?」

「そうですね……。今は、設計図のようなものだと理解してください。例を挙げましょう」

 

マシュはそこで一息いれ、机に指で空書きしながら説明を続けた。

 

「例えば、火を起こすとしましょう。キリトさんとアスナさんだったら、どうしますか?」

「うーん……。場合によるけど、ほとんどはライターかな?」

「そうだな。それかマッチ」

「それです」

 

欲しい答えを出した二人に、マシュは満足そうに微笑んで頷く。

 

「ライターの場合、『ライターオイルという原料に、火花を散らすことによって引火させ、それを燃焼させて火を発生させる』ということになりますね?」

「うんうん」

「たしかにそうだね」

「これを魔術で考えると、『魔力がライターオイル』『火花を散らす機構が魔術回路』『火が魔力と魔術回路によって発動した結果』という形で分けることが出来ます」

 

それを聞いて二人はしばらく考え、

 

「つまり、魔力という原料を使って」

「魔術回路という設計図で、色々なものを作ることができるのが魔術」

「「ってことになるのかな?」」

 

と、揃って言った。

 

「息ぴったりだね、二人とも」

 

苦笑いの立香が突っ込むと、二人は互いの顔を見合わせて少し顔を赤くした。

 

「まあ、魔術に関してはとりあえず分かったよ。それで?」

 

キリトが慌てて先を促すと、マシュはそれに従った。

 

「はい。つまり、魔術というのは現在科学で行っていることを、魔力で行おうというものだと言えます」

「ん?それじゃ、魔術は単純に万能なだけで、場合によっては科学の方が便利じゃない?」

「その通りです。現在では、魔術が科学の後追いをしている状態ですし」

「お寿司」

「マスター、少し空気を読みましょう」

「アルトリアに久しぶりに怒られた……」

 

何故か少々嬉しそうな立香を一旦放置し、話は先に進んでいく。

 

「ってことは、魔法は……」

「科学じゃ再現できないもの?」

「さすがです、お二人共。魔法というものは、科学では出来ないことを行うものです」

「なるほど……」

 

納得したように何度も頷く二人。

 

「例えば、どんな魔法があるの?」

「最も有名なものでいうと、『並行世界の運営』でしょうか」

「なんとなく想像できるな」

「はい。名前の通り、並行世界を渡り歩くことができるものです。あとは……」

 

と、そこまで言いかけて、マシュは首を横に振る。

 

直前にマシュが見ていたのは、アルトリアの方だ。

 

アルトリア、つまりは逸話上の『アーサー・ペンドラゴン』が持っていた聖剣『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の鞘。

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)』。

 

これも、魔法の領域にある究極の宝具である。

 

各種五代魔法すらも防ぎきる、桁外れの防御性能を持つものだが、アルトリア自身はそれを所持してはいないのだ。

 

「厳密には魔法ではありませんし、言うべきではないかも知れませんね……」

「どうかしましたか?マシュ」

「いえ、なんでもありません、アルトリアさん。私からの説明は以上です」

 

説明を終え、マシュはお茶を飲んで、ほっと息をついた。

 

「というわけで、私達はそんな魔術のある世界から、その技術を使ってこの世界に来たんだ」

「だから最初は何も知らなかったんだね」

「そういうこと」

 

これで、キリトとアスナに取っての一つ目の疑問が氷解した。

 

「それじゃあ、マスターってなんだ?」

 

話は次へと進んでいく。

 

「マスターっていうのは、サーヴァントっていう使い魔を使役してる魔術師のことだよ」

「サーヴァント?」

「大昔の偉人の魂に仮の肉体を与えて、戦うことができるようにした感じ?」

「一から説明すると、長いですからね……」

 

だが、二人はイマイチ納得がいっていない顔をする。

 

「んー、じゃ、改めて二人に自己紹介してもらおうかな」

 

見てもらった方が早いだろうと、立香はアルトリアとマシュを立たせる。

 

「じゃあ、よろしく」

「「はい」」

 

これから何が起こるのか、キリトとアスナは息を呑む。

 

直後、風が吹き荒れる。

 

渦中にいるのは当然、アルトリアとマシュ。

 

数秒後、強い風が晴れたかと思うと、二人の姿は大きく変わっていた。

 

「!?」

「あ、あれ……?いつの間に……」

 

驚く二人。

 

しかし、そんなものはまだまだ可愛いものだ。

 

これから、人生最大クラスの衝撃を受けるのだから。

 

「それでは、改めて自己紹介を。私は円卓の騎士団長にして、ブリテン国王。真名をアルトリア・ペンドラゴンと言います。アーサー・ペンドラゴンの方がわかりやすいでしょうね」

「同じく円卓の騎士団所属。第十三席ギャラハッドのデミサーヴァント、マシュ・キリエライトです」

 

沈黙。

 

キリトは顎が外れたかと思うほどの表情で固まり、アスナは金魚の如く口をパクパクさせる。

 

伝説の存在が目の前にあっさり現れ、しかもそれがそうとは知らないうちに知り合いだったということが分かった時。

 

人はこうなるのである。




今回もお読みいただきありがとうございました!

それでは、また来週お会いしましょう!


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丸め込まれる主人公達

どうも皆様

レポート書きすぎて腕が痛い雪希絵です

湿布貼って対処中です

今回かなり短いです!

すみません、時間がなくて……

その分、次回は読み応えある内容にできるようにするので、ご了承ください

それでは、今回もごゆっくり!


「ちょっとぉ……おーい」

「「…………」」

「ねぇねぇ、二人とも……?」

「「…………」」

「おーい、生きてるー?」

 

キリトとアスナの前で片手を振り、呼びかける立香。

 

しかし、反応せずにすっかり固まっている。

 

ため息をつき、少しの間待つことにした。

 

二人にも、姿はそのままでもせめて座るように言う。

 

そんなこんなで、この先どうするかを三人で相談し始めたころ。

 

「はっ!」

「遅い!」

 

ようやく元に戻った二人に、テーブルを叩きながら叫ぶ。

 

「一生そのままかと心配になったよ!」

「ご、ごめんね……」

「しょ、衝撃が凄すぎて……」

 

と言いつつ、キリトとアスナは納得もしていた。

 

デュエルで、そしてボス攻略戦でよくわかった。

 

アルトリアとマシュの、桁外れの強さを。

 

この世界の誰よりも、特別な力を持っている。

 

それら全てが、彼女らが傑物であることを、英雄であることを示している。

 

「そっか……。歴史上の偉人、つまりサーヴァントっていうものだから、あんなに強いんだね」

「そういうこと」

「サーヴァントっていうのは、マスターとはどういう関係にあるんだ?」

 

理解が進んで満足そうに頷く立香に、キリトが質問する。

 

「マスターはサーヴァントを支える存在だよ。サーヴァントを維持するための魔力を、マスターが供給してるの」

「厳密には、カルデアの召喚システムは少し違いますが。契約しているのは、やはりマスターということになりますね」

「だから、私と二人を引き離すと、大変なことになるよ?だからこれからも、ボス攻略戦に参加させてね?」

「なんだその脅し方。斬新だな」

 

思わず全員吹き出す一言に、場の空気は元通りの明るさに戻る。

 

「言われなくても、これからも一緒に頑張って欲しいと思ってたから大丈夫だよ」

「鬼の副団長が『これからも死ぬ気でこき使うからよろしく』ってさ」

「キ〜リ〜ト〜く〜ん〜?」

「じょ、冗談だよ、冗談……」

「二人本当に仲いいね……」

 

たはは、と笑いながらそう言う。

 

アルトリアとマシュも苦笑いである。

 

(もう付き合っちゃえばいいのに)

 

などと考えながら、立香は話を進める。

 

「他に何か聞きたいことある?」

「じゃあ、一つだけいい?」

「ん?なーに?」

 

立香が促すと、アスナは少し遠慮がちに続ける。

 

「あのね。リツカちゃん達がここに来たのって、何か目的があるんでしょ?」

「うん。そうだけど」

「それなら、もし良かったらそれに協力させてくれないかな?」

「───!」

 

予想外の提案に、三人は驚く。

 

今までの特異点でも、協力者は確かにいた。

 

しかし、それはあくまでもほとんどがサーヴァントであった。

 

そのため、まさか一般人であるアスナからそんな提案があるとは思わなかったのだ。

 

キリトの方を見ると、彼もうんうんと頷いている。

 

どうやら、キリトも協力してくれるらしい。

 

「……気持ちは嬉しいけど、大丈夫かな」

「お話としては有難いですけど、私達の目的には、常に危険が伴います」

「下手すれば、二人とも……命を落としかねませんよ?」

 

だが、それでもおいそれと肯定は出来ない。

 

二人はあくまでも一般人。

 

その上、このゲームは今デスゲームと化している。

 

立香達が普段特異点で行っている、周辺の調査でさえ、死ぬ可能性はある。

 

「でも、それは三人も一緒だろ?」

「いやでも、私達は慣れてるし……」

「この世界に慣れてるのは私たちの方だよ?」

「そ、それを言われますと……」

 

痛いところを突かれる。

 

この世界は謎が多い。

 

ゲームをクリアするためには、協力者の存在は不可欠だ。

 

それが、トップクラスの剣士であるなら、尚更のこと。

 

それから幾度も説得を受け、最終的には立香達が根負けする形で、協力を受けることになった。




お読みいただきありがとうございました!

また来週お会いしましょう!


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第51層へ

どうも皆様

最近すぐに眠たくなってしまう雪希絵です

更新遅れて申し訳ありません!

ううっ……最近もうしないって言ったばかりなのに……本当にすみません……

それでは、今回もごゆっくりどうぞ!


翌日から、五人は早速動き出した。

 

メッセージをやり取りして集合したのは、50層の転移門前だった。

 

「ボスを攻略したおかげで、最前線は51層になった。もう既に転移門は起動してるから、早く行ってみよう」

「そうだね。三人の目的のために、情報も集めたいし」

 

慣れた様子で立香達をリードするキリトとアスナに、ただ頷く三人。

 

やはり、SAOで一年ほど過ごしてきたからだろう。

 

これから赴くのは全く未開の地だというのに、随分と落ち着いている。

 

「じゃあ、行こう!」

 

そうして、転移先を宣言し、次々と転移門の中に飛び込んで行く。

 

軽く酔うような感覚がし、すぐに消えていく。

 

目を開くと、そこは既に別の街だった。

 

「ここが51層か……」

 

全員でキョロキョロと辺りを見回していると、自分達が注目を受けていることに気がついた。

 

正しくは、アルトリアとマシュがかなりの視線を集めている。

 

あるものはチラッと、あるものはガン見、あるものは睨むような目を向けている。

 

各々何を思っているかはわからないが、決して好意的なものだけでは無さそうだ。

 

「せ、先輩……」

「おー、よしよし。大丈夫だよー」

 

そういった視線に慣れていないマシュが、立香に助けを求める。

 

すると、立香は頭を撫でながら優しく声をかけた。

 

それだけで、マシュは幸せそうに微笑んだ。

 

「アルトリアは大丈夫?」

「はい。このくらいは慣れています」

「さすが元国王」

 

立香もこういった視線を気にするタイプではないが、それでもそう気持ちのいいものではない。

 

だが、アルトリアはかつて人の上に立ち続けた国王なのだ。

 

多少の好奇の目は慣れっこなのだろう。

 

しばらく街中を練り歩き、だんだんと人の視線に疲れたころ、キリトがため息混じりに言う。

 

「ここだと落ち着いて話せないな……。例のごとく、店でも入るか?」

「人気の無さそうなところがいいかな。あそこのお店なんてどうかな?」

 

アスナが指さしたのは、少し暗めの酒屋といった見た目の店だった。

 

とりあえず入ってみることにし、店の扉を開く。

 

「ん?人いないね」

「そうですね。見たところは」

「じゃあ、ここでいいか」

「賛成」

 

例によって角の席を陣取り、飲み物を適当に注文。

 

ほんの数秒で飲み物が到着し、全員一息つく。

 

「さて。それじゃあ、この後どうしようか?」

「とりあえず、迷宮区に入ってみるか?」

「そうだね。それが無難かな」

 

そんなこんなで情報を集める方法などについて話していると、不意に思い出したように立香が、

 

「あ、そういえば」

 

と言って、ステータス画面を操作する。

 

そうして立香が出現させたのは、

 

「うおぅ。重いっ!」

 

一振りの片手剣だった。

 

柄どころか鞘まで真っ黒。

 

だが、明らかに普通の剣ではなかった。

 

「これ、50層のボスからドロップしたらしいんだけど。私達は使わないから、キリトにあげる」

「えっ?いや、そんな、悪いよ」

「気にしないで。私達の中に片手剣使いはキリトしかいないし」

「そ、そうか……」

 

思ってもみない提案に、キリトは頬を掻きながら、

 

「わかった……有難く貰うよ」

 

と言って、ウィンドウを操作して片手剣を受け取った。

 

「良かったね、キリト君。新しい剣欲しいってボヤいてたもんね」

「まさかこんなところで叶うとは思わなかったけどな」

 

未だに信じられないようで、キリトは剣を何度も眺めていた。

 

「ありがとう。本当に嬉しいよ」

「お礼は、ドロップさせたアルトリアに言ってね」

「ああ、そうか……。アルトリア、ありがとう」

「どういたしまして」

 

若干照れながらお礼を言うキリトに、笑顔で答える二人。

 

無事に剣の受け渡しも終了し、五人は結局『迷宮区にいってから聞き込みをしても遅くないだろう』と判断。

 

今すぐにでも迷宮区に向かうことを決心した。




お読みいただきありがとうございます!

この層は全くもって情報がないので、全て私の想像で書いていますので、ご了承ください

それでは、また来週お会いしましょう!


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無双ゲー再び

どうも皆様

マイブームはお菓子作りな雪希絵です

得意なお菓子はスノーボールです

さて、やって来ました更新日!

ごゆっくりどうぞ!


「はあぁぁぁぁぁ!!」

「おおぉぉぉぉぉ!!」

「やあぁぁぁぁぁ!!」

「たあぁぁぁぁぁ!!」

 

重なり合う、四人分の気合い。

 

言うまでもなく、アルトリア、キリト、アスナ、マシュの四人である。

 

対して、同じ数のモンスター達は、心なしか慄いているようにも見える。

 

ジェットエンジンのような轟音と、魔力放出の轟音が重なり合い、より強烈な音が響く。

 

二つの突進ソードスキルは、見事にそれぞれの敵を穿つ。

 

ポリゴンが飛散し、発する光が二人を照らす。

 

一方、マシュとアスナはコンビネーションで戦う。

 

二体のモンスターをマシュが弾き飛ばし、敏捷力を活かしたアスナが反対に回り込む。

 

水色のライトエフェクトを纏い、アスナが飛ぶように突進する。

 

モンスターをまとめて貫き、爆発四散させる。

 

「………………」

 

そんな光景を、立香はかれこれ数十分眺めていた。

 

ともかく、四人の強さは圧倒的だった。

 

そもそも、偶然とは思えない程に編成のバランスが取れている。

 

大盾を装備したマシュが最前衛、そこにキリトとアルトリアが切り込み、アスナが場合に合わせて臨機応変に戦う。

 

加えて、個々の技量も相当に高い。

 

先程からモンスターを蹂躙出来るのも当然と言えば当然だった。

 

「……何この無双ゲー」

 

苦笑いどころか呆れ顔すら通り越し、完全に無の表情である。

 

ちなみに、今さっき大量のモンスター達に通路で挟まれたところだ。

 

しかし、そんな状況もなんのその。

 

風王鉄槌(ストライクエア)やカリスマ、奮い立つ決意の盾を用いて場を整え。

 

そして、モンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げる。

 

もちろん、主に戦ったのはアルトリアではあるが、それでも大したものだ。

 

「戦闘終了、お疲れ様でした」

「うん、お疲れ様」

「恐ろしい程サクサク進んだな」

 

普通のプレイヤーなら死を覚悟するはずの数がいたはずだが、それら全てを倒した四人はケロッとしている。

 

「やっぱり、パーティーのメンバーが増えるだけで安心感が違うね。二人とも強いし」

「いえいえ、お二人こそ凄いです」

「そうですね。並び立って共に戦っていると、強く実感します」

「さて、それじゃあ、先に進むか。マッピングはまだ進んでないみたいだしな」

「マスター、行きましょう」

 

振り返ったアルトリアがそう言うと、座り込んでいた立香は立ち上がって頷く。

 

(これ絶対ゲームバランスぶっ壊れてるよね)

 

頭をポリポリと搔き、そんなことを考えながら。

 

───────────────────────

 

迷宮区をさらに奥へと進むと、そこには多少開けた場所があった。

 

アスナ曰く、安全地帯というものに似ているらしい。

 

安全地帯とは、迷宮区内ではあるがモンスターがポップしない場所のことを指す。

 

しかし、キリトとアスナは警戒を解かない。

 

「なんか……安全地帯とは違うんだよな」

「うん、私もそう思う」

「私達には全くわからないのだけれど」

 

剣の柄に手を添える二人。

 

そして、その予感は的中することになる。

 

突如、部屋が赤く染まり、アラートのような音を鳴らし始めた。

 

「!?」

「マスター、私の後ろに!」

「キリト君!」

「ああ、間違いない!罠だっ!」

 

全員武器を構え、マシュは立香を庇うように背後に押しやって立つ。

 

変化は、部屋の中央に現れた。

 

ボスの時とよく似た、ポリゴンが積み重なって形を成していくエフェクト。

 

無論、ボスほどのサイズはない。

 

だが、それでも、ほかのモンスターよりは幾許か大きい。

 

「何これ、中ボスってやつ!?」

「いや、中ボスはボスと一緒に出てくるのが普通だ!これはどうやら、単純に強力なモンスターに出くわしたみたいだな」

「みんな、連携は崩さないで!ピンチになったらすぐに撤退!」

「「了解です!」」

 

話しているうちに、ポリゴンが形を成した。

 

それは、黒い巨大な木と言えるモンスター。

 

固有名称『ダーク・トレント』。

 

ぐにゃぐにゃと蠢く枝を持った、触手と木の中間にいるような生物だった。

 

「いくぞ!」

「先陣は私が!はぁ!」

 

気味の悪い咆哮をあげるダーク・トレントに怯みもせずに、斬りかかっていくアルトリア。

 

流星の如き速度と、それを上乗せされた斬撃。

 

「ギイィィィィィィィィ」

 

まともにこれを受け、ダーク・トレントが目に見えて怯む。

 

「まだまだいくぞ!」

 

遅れてキリトも飛び込み、ソードスキルを発動。

 

片手剣四連撃ソードスキル『バーチカルスクエア』。

 

木の破片を撒き散らしながら、トレントのHPががくんと減る。

 

「ギイィィィィァァァァ!」

 

激情したかのように声を上げ、トレントはその無数の枝を広げる。

 

槍のような鋭さを持つそれは、全員に向かって伸びていく。

 

高速で飛来するをそれを、

 

「やっ!」

「えいっ……!」

 

アスナが神速で切り落とし、マシュが叩き潰した。

 

枝はあっという間にボロボロになり、トレントを守るものは何もなくなった。

 

「風よ、舞い上がれ────!」

 

そこへ叩き込まれる、アルトリア渾身の風王鉄槌。

 

光り輝くレーザーにも見える一撃、トレントの中心部に打ち込む。

 

トレントは大きく仰け反り、致命的な隙ができる。

 

「一斉攻撃!」

 

アスナの掛け声を合図に、全員がソードスキルを発動。

 

両手剣ソードスキル『アバランシュ』。

 

大盾ソードスキル『バスターアサルト』。

 

片手剣ソードスキル『ヴォーパルストライク』。

 

細剣ソードスキル『フラッシングペネトレイター』。

 

デュエルの時にはそれぞれ衝突したスキルが、今度は協力して一体の敵を穿った。

 

「ギイィィィィィ─────!」

 

登場の割にはあっさりと倒され、トレントはポリゴンの欠片と化し、ほかのモンスターよりも大きめの爆発を起こして消えた。

 

───────────────────────

 

「ふぅ……一時はどうなるかと思ったけど、無事に帰ってこれたね」

 

強エネミーとの戦いが終わったころ、時刻はいつの間にか夕方。

 

そこで、続きは明日ということにして、五人は街に帰って来た。

 

「そうだ。今日も良かったら、ご飯食べていかない?」

 

手を合わせ、アスナがそう言う。

 

もちろん全員了承し、アスナの家に向かう。

 

全員装備を外し、ひとまず家の中で寛いでいると、

 

「とりあえず、お風呂でも入ろうかなぁ……」

 

と、アスナが呟いた。

 

「ほうほう……」

 

それを目ざとく聞きつけたのは、もちろん立香である。

 

「ねぇ、アスナ?」

「うん?どうしたの、リツカちゃん」

 

小首を捻って尋ねるアスナの肩に、立香は満面の笑みで手を乗せる。

 

ただならぬ空気を感じたアスナは、動揺して口をパクパクさせる。

 

そんなことはお構い無しに、立香は一言。

 

「一緒にお風呂……入ろっか?」




最近、真面目な話が多くなってますね

という訳で、次回はご察しの通りの展開になります

それでは、また来週お会いしましょう!


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セクハラ地獄

どうも皆様

最近『コロロ』にハマった雪希絵です

あの食感がたまらないです

さて、やって参りました更新日!

前回の展開からお分かりの通り、作者の欲望全開です!

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「お風呂?別に、それくらいならいいけど……」

「よっしゃー!」

「り、リツカちゃん……?」

 

なんだそんなことかと快く了承したアスナは、急激にテンションの上がった立香に面食らう。

 

素早く脱衣所へと向かい、立香は早速装備を解除する。

 

「それじゃあ、私とリツカちゃん先に入るから、マシュちゃんとアルトリアちゃんは少し待っててね」

「分かりました」

「ご武運を」

「……? う、うん。いってくるね」

 

パタリと脱衣所の扉が閉じ、マシュとアルトリアは顔を見合わせる。

 

「……大丈夫でしょうか、アスナさん」

 

マシュが不安そうな表情で呟く。

 

「何が起こっても、私たちに出来ることなどありません。信じて待ちましょう」

「……はい」

 

神妙な面持ちで頷き合う二人に、キリトはポリポリと頬を掻き、

 

「えっと……これお風呂の話だよな?」

 

と、一人不思議そうにしているのだった。

 

───────────────────────

 

「さて、早く入っちゃおっか?」

「私もう既に全裸だけどね」

「ちょ、ちょっとリツカちゃん!そういうことハッキリ言葉にしないの!はしたないでしょ!」

「えー、いいじゃん」

 

全く気にする様子のない立香に、アスナはため息をつきながら装備を解除する。

 

騎士風の白い服が一気に外れると、アスナの肢体が露わになる。

 

「じー………」

「り、リツカちゃん……?」

 

強烈な視線を感じ、そちらを見ると、皿のように目を丸くしてアスナを凝視する立香の姿があった。

 

「あ、あんまり見られると恥ずかしいんだけど……」

「ああ、お気になさらず」

「気になるよ!」

 

まったくもう、と呟きながら、やや気まずそうに下着も解除し、手早くタオルを巻き付ける。

 

残念そうにしながら、立香もそれに習う。

 

「はいどーん!」

 

勢い良く扉を開き、風呂場に突入する。

 

「お、結構広いね」

「うん。お風呂は大事なものだから、広めのところを買ったんだ」

「まあ、女の子にとっては死活問題だからねー」

 

しみじみそう言い、うんうんと頷く。

 

「とりあえず、身体洗ってさっぱりしてから湯船に浸かろうか」

「OK」

 

ハラリ、とタオルが落ちる。

 

現れたのは、言葉も出ない程の見事なスタイル。

 

日本人離れした、すらりと伸びた手脚。

 

大き過ぎず、小さ過ぎず、アスナのために完璧に調整されたようなバスト。

 

健康的な美肌と、湿気でそれに張り付く長い茶髪。

 

一人の美神とも言えるような、最高のプロポーションだった。

 

「……ほぇー…………」

「り、リツカちゃん?」

 

思わず見とれる立香。

 

しばし、動くことを忘れる程だった。

 

「身体冷えちゃうよ?SAOでは風邪とか引かないけど」

「あー、ごめんごめん」

 

立香もタオルを捨て去り、早速身体を洗い始めた。

 

アスナはシャンプーを手に取り、慣れた手つきで髪を洗う。

 

「アスナいいなー、長くて綺麗な髪で。私も伸ばそうかな」

「たしかに、結構似合いそうだね。試しにカスタマイズしてみたら?」

「うん、今度やってみる」

 

手早く身体を洗い終え、お湯で泡を流す。

 

ゲーム内のため汚れがつくことはないが、気分というものは大事である。

 

アスナも、シャワーで髪の泡を流している。

 

そんなアスナの立ち姿を、立香は再びじっと見つめる。

 

「……やっぱり超綺麗」

 

呟き、フラフラとその背中に近づき、

 

「きゃあっ!?」

 

不意にアスナに抱きついた。

 

「うーわ、肌も綺麗だねー」

 

そう言いながら、スルスルと身体に手を這わせる。

 

「げ、ゲームなんだからそんなの当然……って、どこ触ってるの!?」

「いやもう、決まってるでしょ。そんなの」

 

腰の辺りから手のひらは上へ上へ登り、適度な大きさを持つアスナの胸へと伸びていく。

 

そして、躊躇うことなくすくい上げるように揉み始めた。

 

「はぅ……!ちょ、ちょっと、リツカちゃん……!」

「柔らかー。しかも結構大きいし」

「う……ぁ……き、聞いてる!?リツカちゃん!?」

 

アスナの悲鳴にも似た訴えも虚しく、立香は止まらない。

 

片手は胸に触れたまま、もう片方は太ももの方に伸びる。

 

「リツカちゃん……く、くすぐったい……!きゃぅ!?」

「……なんか妙な気分になってきた」

 

あまりにも可愛らしい悲鳴に、立香の方も余裕がなくなってきた。

 

触られているアスナの方も、力が抜けてきている。

 

「り、リツカ……ちゃん……ふぁ……ほ、本当にやめ……あぅ……!」

「……うん、そろそろやめないと本当に危ないことになりそう」

 

散々揉みしだいた胸から手を離し、同時に太ももからも手を離す。

 

途端、アスナはぐったりと座り込んでしまった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。リツカちゃん!冗談でもやり過ぎだよ!」

「あはは、ごめんごめん……。途中から歯止めが利かなくなってきちゃって……」

「理由になってない!」

 

両腕で身体を抱くように抑え、息も荒く肩を上下させる。

 

「いやー、アスナが可愛かったから、つい……」

「褒められても嬉しくない!あんな身体中触られて……」

「これからは自重するから、許して?」

 

両手を合わせ、誠心誠意謝る立香。

 

ちなみに、もう二度とやらないとは言っていない。

 

「……もう。わかった、今回は許してあげる」

「ありがと!」

 

ため息をつきながらも許してくれたアスナに、立香は抱きつきながらお礼を言う。

 

「それじゃ、湯船浸かろ?大丈夫、もう触らないから!」

「はいはい」

 

調子のいい立香に呆れながら、アスナはその隣に座って湯船に浸かった。




お読みいただきありがとうございました!

……これ健全ですよね?

R18じゃないですよね?

それでは、また来週お会いしましょう!


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不意打ち超展開

どうも皆様

薄めのコーヒーならなんとか飲めることに気がついた雪希絵です

ミルクと砂糖は必須ですが、前のようにドバドバ入れることはしなくてもどうにか飲めそうです

まだまだ苦手ですけれど……

それでは、ごゆっくりどうぞ!


結局何度かセクハラし、最終的に紫色のエフェクトの拳を振り下ろされ、ようやくやめたころ。

 

アスナと立香は風呂から上がり、着替えてリビングに戻った。

 

アルトリアとマシュもささっと入浴を済ませ、リビングに戻って来た。

 

キリトはもはや烏の行水とも言える速度で入浴を終わらせた。

 

どうやら相当空腹らしい。

 

「ふぅ……いいお湯でした」

「ゆっくり出来ましたね」

「だよねー」

「私はゆっくりできなかったんだけどな……」

 

満足そうな三人を見て嘆息し、アスナが呟く。

 

とはいえ、その手は常に動いている。

 

大きな鍋からパスタを取り出し、それを盛り付けてソースをかける。

 

もちろん、アルトリアとキリトの分は大盛りである。

 

出来上がったのは、いくつかの香草を合わせたソースのパスタ。

 

それと、いくつかの付け合わせとスープだった。

 

「出来たよー。早速食べようか」

「待ってました!」

 

アスナが料理を運んでくると、キリトが即座に反応してそれを手伝う。

 

ちなみに、アルトリアはそのさらに前から、すでに席についていた。

 

(楽しみなのはわかるけど……早すぎる)

(相変わらずといえば、相変わらずですけれど……)

 

顔を見合わせて苦笑する、立香とマシュもそれに習って席につき、食事が始まった。

 

量はとんでもないが、味も大雑把なんてことはなかった。

 

良い茹で加減のパスタに、キノコなどの具材がいいアクセントになっている。

 

噛む度に香草の香りが鼻を抜け、食べる程に食欲をそそるほどだ。

 

例によって猛烈なペースで食事は進み、

 

「やはり……なかなかの強さですね……」

「さすがにこれでは……負けられないからな……」

 

案の定というかなんというか、アルトリアとキリトはやはり争っていた。

 

「たくさん作っておいて正解だったね」

「ナイス判断です、アスナさん」

「この二人は学習しないのかな?」

 

この先、この光景は定番になるんだろうと、三人は直感的に思ったのだった。

 

───────────────────────

 

翌日、五人は迷宮区にいた。

 

聞き込みに行こうにも、その辺にいる人に聖杯のことを話すわけにはいかないため、ある人物に調査をお願いしたのだ。

 

「まあ、あいつならいい情報を集めてくると思う。俺たちは、とりあえず迷宮区の攻略に集中しよう」

「んー……そうだね。そうしよっか」

 

キリトの意見に全員頷き、迷宮区深部に入っていった。

 

相変わらず多数のモンスターが闊歩しているが、探索するプレイヤーが増えたのか、数は昨日より多くなかった。

 

「数が少ないけど、油断は禁物だよ」

「あいあいさー。私戦って無いけどね」

「マスターは事情が事情です。仕方ありません」

「マスターのことは絶対に私が守りますね」

「俺も出来るだけ気をつけるよ」

「……何この頼もし過ぎる面々」

 

あはは……と、立香が笑いかけた時。

 

立香の耳が何かを捉えた。

 

微かに、本当に微かだが、確かに聞こえる。

 

「何これ……」

 

段々と近づいているわけでもない。

 

というか、先程から音量は変わらない。

 

「……笑い声?上から?」

 

声の正体と方向を当て、立香は上を流し見る。

 

直後、立香は叫んだ。

 

「危ないっ─────!!」

 

それを聞いた四人の反応は早かった。

 

武器を即座に構え、立香の見ていた方向、上を見る。

 

そこへ、人が降ってきた。

 

数は六人。

 

全員の目が、ギラギラと気味悪く輝いている。

 

「……!? くそっ、何でこんな時に……!」

 

そのプレイヤー達の手首を見たキリトが、旋律しながら怒声をあげる。

 

プレイヤー全員の手首に描かれていたのは、黒地に白い色で書かれたタトゥー。

 

棺桶と、それを抱くように伸びた腕に、気持ちの悪い笑顔。

 

「キリト。あの者達は?少なくとも、味方ではないようですが」

「……ああ、敵だ。言うなれば、このSAOのプレイヤー全てにとってな」

 

歯ぎしりし、キリトは続ける。

 

「奴らはギルド『ラフィン・コフィン』。史上最悪のPK集団、レッドギルドのメンバーだ……!」




実は今指を怪我していまして……今回少し短くなっています

来週までにはなんとか治しますので、お許しください

それでは、また来週お会いしましょう!


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私を怒らせたな

どうも皆様

実は徹夜明けの雪希絵です

死にそうな状態で今このお話を書いてます

書いたら寝ます、すぐにでも

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「PK……?このゲームでそれをやるの?」

 

PKという単語に、立香が信じられないという顔をする。

 

PK、プレイヤーキル。

 

モンスターではなく、プレイヤーを襲撃して金品を奪う行為。

 

ソードアートオンラインでのそれは、金品どころか命まで奪う、極悪非道の行為だ。

 

「許さない……あなた達さえいなければ……!」

 

アスナが歯を食いしばり、怒りを隠そうともせずに剣を構える。

 

キリトとアルトリアも無言で剣を構える。

 

「ま、待ってください!ひ、人と……戦うんですか?」

 

一方、マシュは動揺している。

 

まさか、死に直結するこのゲームで、デュエル以外でプレイヤー同士の戦いが起こるとは思わなかったのだろう。

 

「マシュ、この世界は綺麗事だけじゃ生き残れない。こうして、平気で人を傷つける奴はいるし、殺しまでする奴も多くいる」

「そんな……!」

「無理をすることはありません、マシュ。私たちだけで倒します」

 

絶句するマシュに、アルトリアはそう言う。

 

「──────っ」

 

一瞬の躊躇い。

 

その間に、キリトとアスナとアルトリアは、ラフィン・コフィンの六人に斬りかかった。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

轟音が鳴り響き、アルトリアが一瞬で距離を詰める。

 

愛用の『アバランシュ』に魔力放出を乗せ、神速で振り下ろす。

 

しかし、ラフコフはそんなものに物怖じするほど、可愛らしい連中ではない。

 

薄気味悪い笑みを浮かべたまま、手に持った剣で強引にその一撃を受ける。

 

もちろん勢いを殺しきれず、六人の中の一人、片手剣使いのHPが減少する。

 

だが、HPの減少など気にもくれず、片手剣使いはアルトリアに剣を振り下ろす。

 

「甘いっ!」

 

たしかに怯まないのは想定外だが、アルトリアは冷静だ。

 

片手剣を正面から受け、右側から割り込んで来た短剣使いを視界の端に捉え、反時計回りに回転して二人まとめて弾き飛ばす。

 

一旦距離が離れたのを見計らい、周囲を流し見る。

 

すぐ近くではキリトが、少し後方ではアスナが戦っている。

 

マシュは未だ迷っているのか、立香の側を離れていない。

 

(それでいい、マシュ。マスターを頼みます)

 

視線を戻し、再びラフコフのメンバーと剣を交わす。

 

訓練をしているという見た目ではないが、ラフコフのメンバーは全員連携がいい。

 

歴戦の英雄であるアルトリアならまだしも、キリトとアスナは二対一に苦戦を強いられていた。

 

(この者達……お互いの動きが分かっているかのような……。いや違う。お互いの狙いたいところ(・・・・・・・)が分かっているかのような……)

 

訓練によるものとは違う、何か異質な連携。

 

しかし、アルトリアにそんなものは通用しない。

 

どんな連携を組もうが、どれだけ技を用いようが、それを正面から捩じ伏せる実力がある。

 

鍔迫り合いになった片手剣使いを魔力放出で吹き飛ばし、短剣使いが近くにいるうちに、剣を水平に構える。

 

突き出すように放ちながら、詠唱。

 

「『風王鉄鎚(ストライクエア)』!」

 

空を斬り、大地を抉るように直進する風の塊が、ラフコフ二人を巻き込んで炸裂する。

 

HPバーが大きく減少し、レッドゾーンに突入する。

 

だが、アルトリアは見逃さなかった。

 

吹き飛ばされる二人の口の端が、笑うように歪んでいることに。

 

それに違和感を感じるのと、背後に新たな気配が現れたのは、ほとんど同時だった。

 

「─────!」

 

咄嗟の判断で地面を蹴り、距離を空ける。

 

アルトリアの体を掠めるように剣が通過し、ほんの僅かにHPバーが減少する。

 

「新手か……!」

 

アルトリアは剣を構え直し、新たに降りてきた敵を見据え……糸が切れたように崩れ落ちた。

 

「なっ───」

 

体が唐突に動かなくなり、痺れのような感覚が全身に広がっていく。

 

「麻痺……だと……?」

 

どうにか動く首で辺りを見回すと、新たに現れたラフコフの片手剣使いの剣には、緑色の液体が付いている。

 

(そうか……!先程の攻撃がかすった時に……!)

 

ようやく気がつくが、もう既に遅い。

 

キリトもアスナも、既に麻痺で動けなくなっていた。

 

「やれやれ……ようやく全員止まったか」

 

ラフコフパーティーの一人、両手剣使いの男が呟いた。

 

その視線は、残るマシュと立香に向けられている。

 

「────マスターにだけは、手出しさせません……!」

 

そんな追い詰められた状況に、マシュの心はついに決まった。

 

大盾を握りしめ、立香の前に堂々と立つ。

 

しかし、マシュには致命的な弱点があった。

 

ラフコフパーティーの一人がニヤリ、と笑ったかと思うと、光る何かが飛んできた。

 

立香に向かって。

 

「マスター!」

 

盾と共に、自分を立香と飛来物の間に割り込ませる。

 

それは、緑色の液体が付いたナイフだった。

 

間髪入れず、二本目三本目が飛んでくる。

 

マシュはそれら全てを盾で防ぐ。

 

敵は、必ず立香を狙って攻撃してくる。

 

そうなると、マシュは防がざるを得なくなる。

 

それこそがマシュの最大の弱点、マスターである立香を守らなくてならないという、責任感が多すぎるのだ。

 

防御に掛り切りになってしまったマシュは、近づいて来た他の気配に気がつかなかった。

 

「しまっ……!」

 

麻痺毒付のナイフが掠り、マシュの体の動きが止まっていく。

 

「うっ……っ……マスター……逃げて……!」

 

倒れ、マシュは悔しそうに唇を噛み締める。

 

残ったのは、もう立香だけ。

 

「待ってたぜ……あんたしか残らない状況をな」

 

舌なめずりをしながら、ラフコフの男がそういう。

 

それに合わせて、あちこちで気味の悪い笑い声がする。

 

立香は顔を伏せ、その場から動くことすらしない。

 

「リツカちゃん……!転移結晶で、今すぐ逃げて!」

「リツカ……!」

「マスター……!」

「先輩……!」

 

しかし、ラフコフパーティーはじりじりと距離を詰めながら、喋り続ける。

 

「事前調査で、あんたが戦わないのは分かっていた。そこの金髪の剣士と大盾使いがご執心なのもな」

 

もはや目と鼻の先に迫り、剣を振り上げる。

 

「そこで面白そうなことを考えた。他全員を動けなくして、あんたから殺したら、どうなるのかってな─────!」

 

そして、躊躇なくそれを振り下ろした。

 

「やめろ─────!」

「リツカちゃん──────!」

「マスターーーーー!!!」

 

上がる悲鳴。

 

愉悦に歪む男の顔。

 

その顔に、

 

メリィィィッ──────!

 

と音を鳴らしながら、拳がめり込んだ。

 

「──────え」

 

何が起きたかわからない。

 

男はそのままとんでもない勢いで転がっていき、壁に激突した。

 

「おー、良かった良かった。ちょっと久しぶりだけど鈍ってないねー。李書文に習った八極拳」

 

そんな気の抜けた声と共に、立香は拳をプラプラと揺らす。

 

そうして、その顔から笑みを消す。

 

「……私ってさぁ、普段あんまり怒らないのよ。カルデアって問題児だらけだし、いちいち怒ってたらキリないし」

 

ラフコフの面々を睨みつけ、続ける。

 

「けどさぁ……マシュとかアルトリアとか、私の大事な人達に手を出されると、どうも腹が立つんだよね」

 

ポキポキと拳を鳴らし、立香は構える。

 

「だからさ……死んじゃったら、ごめんね?」




如何でしたでしょうか

こうなったら理由はもちろん、FGOのストーリー上で主人公が人間を辞めているからです

丸太を素手で投げたり、幼女三人抱えて走ったり、常人なら死ぬレベルの毒霧が効かなかったり、宝具受けても割と平気だったり……

あれ、一般人って何でしたっけ?

それはさておき、突然ですが、皆様にお知らせとお願いがあります

実は、この『もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら?』に新しくサーヴァントを登場させたいと考えています

というわけで、新しく登場させるサーヴァントの投票を行いたいと思います

投票がなかったらなかったで自分の候補の中から選ぶので、どうか気楽に考えてください

ただ、申し訳ありませんが、いくつか制約を設けたいと思います

①ある程度SAOでも通じるセイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、ルーラー、アヴェンジャーのサーヴァントに限ります
②作者が勉強不足のため、投票するサーヴァントはFate/staynight、Zero、GrandOrderに登場するサーヴァントでお願いします
③イベント限定サーヴァントでも構いませんが、作者はライト版ではない『ほぼ週間サンタオルタさん』の辺りから始めたので、それ以降でお願いします

以上です

この話の2~3話ほど後に登場するので、その間が投票期間になります

活動報告を同様の内容で作るので、そちらで投票をお願いします

色々と範囲を狭くして申し訳ありませんが、あなたの一票をお待ちしております


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私には効かないよ

どうも皆様

テスト直前に寝落ちして焦りまくってる雪希絵です

もう手遅れな気がしています


突然ですが、現在行っているサーヴァントの投票に関して、皆様に訂正とお願いがあります

まず、訂正です

今までたくさんの方が投票して下さっていますが、中には多くのサーヴァントに投票している方もいらっしゃいます

私が記述したクラスは、あくまでも『このクラスのサーヴァントから選んでください』という意味であって、『このクラスのサーヴァントから一人ずつ選んでください』という意味ではありません

各クラス一人ずつサーヴァントが登場する訳ではなく、投票の結果一位だったサーヴァントだけが登場する予定です

もちろん、一人につき投票するサーヴァントが一人という訳ではありませんが、上記のことを踏まえた上で投票して頂けると助かります

次に、お願いです

投票を開始した際、たくさんの方が感想をくださいました

しかし、中には感想を書かずに投票の内容だけを感想欄に書き込む方がいらっしゃいます

そういった『感想欄での投票行為』はハーメルンの規約に違反しているため、御遠慮頂けると助かります

投票だけしたいという方は、投票用の活動報告を作ってあるので、そこで投票をお願い致します

ログインユーザーでない方は、出来る限り感想を添えた上で投票して頂けると助かります

以上となります

せっかく投票して下さった方々を責めるような形になってしまい、誠に申し訳ありません

どうかこれからも、『もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら?』をよろしくお願い致します

それでは、本編スタートです


「くそ……情報と違うじゃねえか……!」

 

ラフコフパーティーの一人が、小声で悪態をつく。

 

もちろん、周りの男達も動揺している。

 

しかし、ここで逃げることを考える訳がない。

 

既に人数差は歴然。

 

おまけに、全員『人殺し』という目先の快楽に酔っている。

 

まだ見ぬ活きのいい獲物に、期待と興奮でも覚えているのだろう。

 

その証拠に、全員の目がさらに爛々と輝いて見える。

 

「……反吐が出そう」

 

立香はポツリと呟き、脚を踏み込む。

 

ほんの瞬きほどの一瞬で、距離はゼロに。

 

先程悪態をついた男の鼻先まで迫る。

 

「えい」

 

気の抜けた気合と共に、拳が男の腹部にめり込む。

 

「な─────」

 

遅れて気がついた男が、慌てて剣を振り回す。

 

立香はそれを横から殴って軌道を逸らし、顎を的確に捉えた蹴りを叩き込む。

 

HPバーが勢いよく減り、男が焦る。

 

ようやく気がついたのだ。

 

立香もまた、今倒れている四人と同等の強さを持っていると。

 

「おい!」

 

背後のパーティーメンバーに呼びかけ、全員で取り囲む。

 

しかし、立香は焦らない。

 

横から斬りかかって来た片手剣使いの男の剣を、腰のソードブレイカーを抜いて受け止める。

 

峰のギザギザの溝に剣が食い込み、一時的に動きを奪う。

 

その間に一歩強く踏み込み、肩から体当たりの体勢をとる。

 

ライトエフェクトを纏い、爆音と共に片手剣使いが吹き飛ばされる。

 

偶然にも、『体術スキル』の条件を満たしていたらしい。

 

驚きに誰一人動けなくなっている中、立香だけが別の時間の中にいるかのように動き出す。

 

一番近くにいた男の腹部に蹴りを放ち、振り抜く。

 

男が衝撃に体勢を乱している間に、素早く脚を踏み変えて後ろ回し蹴り。

 

男の頭部を捉え、吹き飛ばす。

 

だが、ラフコフパーティーの全員が、その間に我を取り戻した。

 

独特な連携で、次々と立香に襲いかかる。

 

立香は平然とそれを回避し、時に剣を持つ腕を殴打することによって、防御する。

 

しかし、数の差は大きい。

 

一人の攻撃をバックステップで回避すると、左右から同時に短剣使い二人が挟み撃ちしてきた。

 

片方で蹴りで撃退、もう片方を回転しながら放った裏拳で撃退するが、致命的な隙ができる。

 

ヒュン、と飛来するナイフ。

 

肩口にそれが刺さり、立香がぐらりと体勢を乱す。

 

当然、そのナイフには緑色の麻痺毒が付着している。

 

「リツカ!」

「リツカちゃん─────!」

 

キリトとアスナが叫ぶ。

 

男達の顔が愉悦に歪み、一斉に斬り掛かる。

 

だが立香は、

 

「よいしょっと」

 

平然と動いて、正面の両手剣使いに体当たりする。

 

紙かなにかのように吹っ飛び、包囲網が開ける。

 

そこから飛び出し、先程体当たりした男に、追撃として肘打ちを叩き込む。

 

「おい!麻痺毒はどうした!?」

「ああ!?言う通りたっぷり塗ったに決まってるだろ!レベル5の麻痺毒をな!」

「じゃあ、何故あいつは動ける!?」

 

レベル5の麻痺毒といえば、十分は動けなくなるような代物だ。

 

しかし、立香の動きは微塵も衰えていない。

 

それに苛立ち、仲間同士で言い合いを始めたのだ。

 

「ああ、そっか。知ってるわけないか」

 

立香はそれに対し、何でもないことのように続ける。

 

「私に毒は効かないよ。英霊の毒も効かないから、たぶん全部」

「……冗談だろ?」

「冗談じゃないよー。さて、続けよっかー」

 

ラフコフのメンバーは、等しくこう思った。

 

こいつは、一体何者だ──────と。




ちょっと今回短めです

テスト前なのでお許しください

今から悪あがきの勉強してきます

それでは、また来週お会いしましょう


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親玉降臨

どうも皆様

何としても水着アルトリアオルタが欲しい雪希絵です

そのために貯めた石と呼符です

爆死しないことだけを祈ります

さて、やって来ました更新日

タイトルから分かってしまう方もいるかもしれませんが、ごゆっくりどうぞ!


「よっこらせ」

 

男の腕を掴み、自分に引き寄せながら蹴りを放つ。

 

鳩尾に蹴りがめり込み、強烈な音を鳴らして男が吹き飛ぶ。

 

これで、ラフコフ全員のHPがレッドゾーンに到達した。

 

それでもまだ続ける気なのが実に狂っているが、それも時間の問題だ。

 

「────まだやるの?」

 

ため息をつきながら、立香は言う。

 

ところどころ赤い色の傷がついているが、HPにはまだまだ余裕がある。

 

「………ちっ」

 

彼らは困惑していた。

 

今まで、毒や麻痺などは、殺人の常套手段として頻繁に使ってきた。

 

だからこそ、このSAOでの毒の致死量も、麻痺するまでに必要な量もよく知っている。

 

だが、立香には既にその数倍の量の毒が回っているはずなのに、本人はびくともしない。

 

「獲物を途中で逃すのはポリシーに反するんでな」

「あっそう。なら仕方ないね」

 

納得したように頷き、立香は再び構える。

 

えらく軽い態度な気もするが、その目は間違いなく本気の目だ。

 

立香に合わせ、ラフコフパーティーも構える。

 

そこへ、

 

「オイオイ、随分楽しそうじゃあねぇか」

 

軽薄な口調で、誰かが割り込んで来た。

 

フードを深く被り、腰に巨大な鉈のような刃物を吊るした、不気味な男。

 

「──────『PoH』……!」

「プー?」

 

キリトの呟きに、立香が反応する。

 

「おっと、そこにいるのは黒の剣士か。って、オイオイ、閃光様までいるじゃねぇかよ」

 

すたすたと男達の間を歩き、だんだんと立香達の方に近づいてくる。

 

「ストップ」

 

あと数メートルというところで、立香が静止をかける。

 

「それ以上近づくなら、容赦しないよ」

「………ヒュゥー♪」

 

しかし、PoHは茶化すように口笛を吹き、歩み続ける。

 

さらに一メートル、距離が近づいた時、

 

「────警告はしたよ」

 

立香は全力で地面を蹴った。

 

目にも留まらない、神速の踏み込み。

 

究極の武技を持つ、李書文直伝の歩法。

 

その場にいる誰もが、反応出来るはずなど無かった。

 

しかし、

 

「────っ」

 

立香は、拳を止めざるを得なかった。

 

「ヒュウ、あぶねえあぶねえ。まさか、ここまでとは」

 

紙一重で、立香の首筋に武器が止まっている。

 

立香の拳もPoHの目の前。

 

お互いの攻撃が、お互いの致命傷になり得る位置だった。

 

(……あの李書文直伝の動きに、ついてくるなんて……)

 

しばらくそのまま硬直していたが、不意に、

 

「ま、楽しみは後に取っておくもんだ。じゃあな」

 

そう言って、武器を下げる。

 

そして、PoHはラフコフの全員を連れて、さっさと迷宮区の奥に消えて行った。

 

見えなくなってからも、立香はしばらくその方向を睨みつける。

 

(……大丈夫そう、かな)

 

そう判断し、四人の方に歩み寄る。

 

「みんな、平気?」

「あ、ああ……何とか動ける」

「私も、もう大丈夫」

 

キリトとアスナは立ち上がり、そう言う。

 

「良かった。アルトリアとマシュは?大丈夫?」

 

立香が二人に声をかけるが、答えはない。

 

「……どうしたの?」

「………マスター、すみませんでした」

 

再度声をかけると、マシュが唐突に頭を下げた。

 

「私の役目は、マスターを……先輩を守ることなのに、私はそれを果たせませんでした。あまつさえ、先輩に戦わせることになってしまうなんて……」

「マシュ……」

 

マシュの瞳には、大粒の涙が溜まっている。

 

溢れ出し、それは地面を染め上げていく。

 

涙声で、マシュは続ける。

 

「私は、先輩のサーヴァント失格です。こんなことなら……誰か」

「『誰か他にもっと強力なサーヴァントに来てもらえば良かった』?」

「えっ……?」

 

言いかけたマシュの言葉を、立香が拾う。

 

そして、マシュの両頬を手で包む。

 

「あのねぇ、マシュ。今さっき自分で言ったでしょ。『私は先輩のサーヴァント』って」

「は、はい……」

「じゃあ、なんで私から離れるのさ」

「えっ、だ、だって私は……」

 

何か言おうとするマシュに、立香は顔を揺することで邪魔をする。

 

「わぶぶ───!せ、先輩……?」

 

意図が読めず、マシュが困惑する。

 

立香はそんなマシュの瞳をまっすぐ見据え、口を開く。

 

「だってもなにもないの!マシュはもう、私の相棒なんだから、勝手に離れるなんて許さないから!」

「え、えぇ……?」

「それに」

 

一拍おき、立香が続ける。

 

「マシュは、本当に私のサーヴァント辞めたいの?」

「そ、そんなことはっ!」

「だったらそれでいいよ」

「えっ……?」

 

頬から手を離し、今度は頭を撫でる。

 

「辞めたくないなら辞めたくないでいいの。責任とか役目とか、そんなの関係ない。私はマシュと一緒にいたいから。マシュは違うの?」

「…………違いません。辞めたくないです。私も、先輩と一緒にいたいです!」

「うん、よろしい」

「はい!」

 

マシュは涙を拭い、立ち上がって笑った。

 

そんなマシュに満足そうに頷き、立香はアルトリアの方を見る。

 

「ほら、アルトリアもだよ!負けたことにいじけてないで、立った立った!」

「ですが、マスター……」

「それとも何?私のアルトリアは、一回負けたことくらいで挫けるような、情けないサーヴァントだったの?」

「むっ!そんなことは有り得ません。敗北も糧です。次こそは、奴らに鉄槌を与えてみせます」

「よろしい。それでこそアルトリアだ」

 

立香は本当に、サーヴァントをやる気にさせるのが上手い。

 

「ふふっ、仲良しだね。三人とも」

「ま、色々あったからね」

「今度、良かったら聞かせてくれよ。面白そうだ」

「いいよー。徹夜覚悟してね」

「うげっ、マジかよ」

 

先程死にかけたというのに、五人の雰囲気は明るかった。

 

それこそが、彼女達の良いところかもしれない。

 

「さて、そろそろ始めようか」

 

ひとしきり笑った後、立香が真剣な顔でそう言った。

 

「何をですか、先輩?」

「マシュ。盾用意して」

 

質問するマシュに指示を出し、立香はアイテム欄を探る。

 

「……まさか先輩」

「うん、そのまさか。今から、もう一人サーヴァントを呼ぼう」

 

そう言い、立香がオブジェクト化したのは、一枚の金色の札。

 

俗に言う、『呼符』というやつだった。




お読みいただきありがとうございました!

来週はいよいよ、新サーヴァントの発表です

まだまだ投票を受け付けていますので、どんどん投票してくださいね!

それでは、また来週お会いしましょう!


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新たなサーヴァント

どうも皆様

58連してアルトリアオルタを引けなかった雪希絵です

キャスギルが唯一の救いです

ギルかっこいいよギル、ウヘヘへへへへへ(錯乱)

ゲフンゲフン、失礼致しました

さて、いよいよサーヴァントの登場ですね!

誰が出るかはお楽しみ、です!

それではごゆっくりどうぞ!


五人は安全地帯へとやって来た。

 

もちろん、休むためでも、作戦を立てるために来たわけでもない。

 

「先輩、盾のセット終わりました」

「うん、ありがと」

 

マシュの盾を中心に、召喚サークルが形成される。

 

「こちらも準備完了だ。呼符があるなら、サーヴァント一人くらい送れるはずだよ」

「完全閉鎖の固有結界ではないからね。良かった良かった」

 

ロマンとダヴィンチの声が聞こえる。

 

召喚のために、通信を繋いだのだ。

 

「通信も良好です」

「なら問題なさそうだね」

 

うんうん、と満足そうに立香が頷く。

 

「外部と連絡出来るなら、このSAO自体をどうにかして欲しいんだけどな」

「無理無理。レイシフト先には、ほとんど干渉なんか出来ないもん」

「今までもそうでしたね」

「そっかー。そんなに上手くはいかないよね」

 

キリトとアスナが残念そうにため息をつく。

 

SAOに幽閉されて一年、慣れこそしたが、脱出したいという気持ちは変わらないのだ。

 

「さーて、そろそろ始めようかな」

 

何故かストレッチをしながら、立香は召喚サークルの前に立つ。

 

気合いでも入れているのだろうか。

 

立香は呼符を握り、召喚サークルに放り込む。

 

(……面白そうだから詠唱してみよ)

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

実は、前にダヴィンチから聞いていたりする詠唱を始める。

 

暗記しているのもどうかと思うが、何かいいのが出そうな気がするのだ。

 

(いいのが出そうってなんだろ?うっ、頭が……)

 

思い出そうとすると幻痛がするので、考えるのをやめる。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国へ至る三叉路は循環せよ」

 

キメ顔かつ見事なポーズで、噛みもせずに詠唱を続ける。

 

「うおぉぉぉ!カッコイイ!」

 

それに対し、キリトは腕を振って大興奮する。

 

アスナも、興味深そうに立香を見つめる。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

召喚サークルがぐるぐると回り、三本の円環が広がる。

 

サーヴァント召喚の合図だ。

 

「──────Anfang。──────告げる。──────告げる」

 

マシュとロマンは半分呆れ顔、ダヴィンチは楽しそうに頷いている。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善となる者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

右手をかざし、最後の詠唱を紡ぐ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────!」

 

円環が収束し、束ねられて柱になる。

 

光の柱が高く登っていき、やがて薄くなる。

 

代わりに現れたのは、人影。

 

背はそれなりに高く、服越しでも鍛えられているのがわかる。

 

白髪は逆立ち、浅黒い肌の身体を、赤と黒の外套が包む。

 

「────貴方は……」

アルトリアが、か細く呟いた。

 

「───サーヴァントアーチャー。召喚に応じ参上した」

 

低めで落ち着いた、少しだけ皮肉気な声。

 

そして彼は腕を組み、笑みを浮かべる。

 

アルトリアはその笑みに、懐かしさを感じた。

 

「……全く。こんな所に急に呼び出すとは、つくづく破天荒なマスターに恵まれているな」

「破天荒で悪かったね。『エミヤ』」

「そうむくれるな、マスター」

 

そっぽを向く立香の頭に手を置き、サーヴァントアーチャー『エミヤ』は、くしゃくしゃと撫でる。

 

「むぅ…………」

 

少々不服そうだが、機嫌は直ったようだ。

 

「……さて」

 

立香の頭から手を離し、今度はアルトリアの方を向いた。

 

「……久しぶり、とでも言っておこうか。セイバー」

「……ええ、そう言っておきましょうか。アーチャー」

 

そうして、どちらからともなく、手を差し出す。

 

「再び肩を並べて戦えること、喜ばしく思います」

「こちらこそ。再び共に戦場に立つとは思わなかったよ」

 

握手を交わし、お互いに微笑を浮かべる。

 

「そう言えば、二人ともほとんど会ってなかったもんね」

「いろいろあるんだと思います。お二人にしか分からないことが」

「……うん、そだね」

 

かくして、新たなサーヴァント、錬鉄の英雄『エミヤ』を迎え、立香達は新たな面持ちでこのゲームに挑むことになった。




という訳で、投票の結果選ばれたのはエミヤさんでした!

改めて、投票して下さった皆様、本当にありがとうございました!

私の予想よりずっと多くの方に投票を頂けて、本当に嬉しかったです

皆様全員の希望には添えませんが、どうかご了承ください

また、何もこれ以上サーヴァントを登場させない訳ではありません

この先、サーヴァントを増やそうと思った時は、また投票を行いたいと思います

その時は、皆様ぜひぜひ投票してくださいね!

それでは、お読みいただきありがとうございました!

また来週お会いしましょう!


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無限の剣製

どうも皆様

魔法少女リリカルなのはの映画を観て大興奮していた雪希絵です

久しぶりにゲームを引っ張り出してきて、ずっとプレイしていました

時間が出来たら、リリカルなのはの小説も書いてみたいですね

さて、やってきました更新日

タイトルから皆様ご察しでしょうが、件の彼が無双してくれますよ

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「マスター、少しいいだろうか」

「ほえ?」

 

無事に召喚も終わり、カルデアとの情報交換も終えたので、六人は帰路についた。

 

その途中、エミヤが立香を呼び止めた。

 

「どしたの?エミヤ」

「ここの戦闘スタイルに慣れておきたい。セイバーの話では、少々特別だそうじゃないか」

「んー……。まあ、それもそうだね。ごめん、二人とも。少しだけ寄り道していってもいい?」

「もちろん、構わないよ」

「新しい英雄さんがどれくらい強いのかも気になるし」

 

キリトとアスナの許可も出たので、もう少し迷宮区内部を探索することになった。

 

しばらくそこら中を歩き回っていると、

 

「……みーつけた」

 

立香がモンスターを発見した。

 

「5体、ですかね」

「ちょうどいいね。一人一体で」

「あれ、六人いるけど……」

 

アスナが首を傾げる。

 

今のメンバーは、立香、アルトリア、マシュ、エミヤ、キリト、アスナの六人。

 

一人一体には、一人分多い。

 

「ああ。私は戦わないよ」

「あんなに強いのにか?リツカ」

 

さも当然のように言う立香に、アルトリアとマシュは頷く。

 

どうやら、二人は既に納得済みのようだ。

 

「私の格闘技……八極拳は、あくまで対人戦闘が専門だしね。もちろん、モンスター相手でも必要があるなら戦うけど。それだと効率が悪いから、出来るだけみんなに任せたいかな」

「八極拳は極近距離の間合いで戦うことが主な戦法です。武器以下の間合いでしか戦えないことを考えると、安全とは言えませんし」

 

立香の説明にアルトリアが補足し、全員納得する。

 

「そういうことなら、無理しない方がいいな。じゃあ、こうしよう。敵の数が俺たち以上の時と、大型の敵が出てきた時は、リツカも戦ってくれ」

「でも、武器がないから、無理はしちゃダメだよ?」

「OK。それでいこうか」

 

方針も固まり、六人は改めてモンスターを見る。

 

今までもよく見てきた、半魚人型のモンスターだった。

 

「……よし、やるぞ」

 

立香が一歩下がると、キリトが背中から武器を抜く。

 

他全員も武器を取ると、それぞれ自由に構える。

 

そんな中、エミヤも自身の最も愛用する獲物『干将莫耶』を手に取る。

 

「──────嘘だろ」

 

エミヤの二刀を見ると、キリトが信じられないとばかりに絶句する。

 

「どうした、キリト。私の武器がそんなに珍しいか」

「……ああ。すまない、エミヤ……だったよな?後で話がある」

「構わないが、二人の方がいいのか?」

「出来れば」

「承知した。ひとまず、敵を倒すことにしよう」

 

そう言い、エミヤが足を踏み込み……姿が掻き消える。

 

気がつけば、エミヤは既にモンスターの背後に回っていた。

 

「ギギィ!」

 

かなり遅れて気がついたモンスターが、エミヤに向かって三つ又の槍を突き出す。

 

容易くそれを弾き、エミヤはもう片方の剣を一閃。

 

若草色のライトエフェクトを纏い、エミヤの剣がモンスターを切り裂く。

 

「ほう……。これがソードスキルというものか」

 

呟き、エミヤは双剣を消して、別の武器を投影する。

 

呼び出したのは、槍。

 

見事な動きでそれを構え、横薙ぎに振るう。

 

頭部を捉え、モンスターが絶叫する。

 

手元に引き戻し、目にも留まらぬ速度で突き出す。

 

黄色のライトエフェクトを帯び、ソードスキルが発動。

 

その切っ先は吸い込まれるようにモンスターの胸中央に直撃。

 

いとも容易く、その体を貫通した。

 

「ギ……ギ……」

「……こんなものか。鍛錬が足りんな」

 

槍をふり抜き、消去。

 

同時に、モンスターは耳障りな音を上げて爆発四散した。

 

「……武器を切り替えられるなんて……すごい」

「よくよく考えると、エミヤってこの世界だとチートな気がする」

 

驚くアスナに、立香が同意する。

 

「ねえ、リツカちゃん。あれも魔術なの?」

「そうだよー。投影魔術っていってね。詳しくはエミヤに聞いた方がいいかな?」

「うん、聞きたい!」

「面白い話ではないが……そう言うなら話そう」

 

無事に戦闘が終わり、全員揃って迷宮区の外に向かう。

 

途中、キリトがエミヤに再び話しかけた。

 

「……今日、食事が終わったら、広場の方に来てくれ」

「場所は?」

「街の中央だ。夜になると、人通りが減る所がある。広場まで来てくれれば、案内しよう」

「承知した」

「バレないようにしろよ?」

「隠密行動は弓兵の基本だ」

 

こうして、キリトとエミヤは、男性陣だけでの話し合いをすることになった。




お読みいただきありがとうございました!

次回はこの小説でも数少ない男性陣の二人が語り合うことになります

どんな内容になるかはお楽しみにです!

また、最近減ってきたので、そろそろサービスカットを入れたいと思案中です

どうなるかはまだ未定ですが!

それでは、また来週お会いしましょう!


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二者面談?

どうも皆様

カラオケに行くと声が大きすぎて軽い公害だと言われる雪希絵です

薄い壁のカラオケだと、結構声が漏れるんですよね……

さて、やって来ました更新日

今回の登場人物は二人です!

主人公は影も形もありません!

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「さて、始めようか」

「なんか面接みたいだな」

 

エミヤの横を歩くキリトがため息をつく。

 

場所は広場から転移門を潜った先。

 

今は一つ下の層となった、アインクラッド第五十層のとある道だ。

 

時刻も遅いが、念のため人目につかない場所を移動中なのだ。

 

その移動中にも人目につかないようにするという慎重っぷりである。

 

「それにしてもキリト、ここまでする必要があるのか?」

「ある。絶対に人には聞かれたくないからな」

「そういうことなら仕方ない」

 

キリトは終始落ち着かない様子だが、エミヤはもうすっかりこの世界に慣れている。

 

さらに歩くこと数分。

 

「ここだ」

 

到着したのは、やけに古ぼけたバーのような店だった。

 

「酒類が美味いわけでも、食事が美味いわけでもない店だ。それでも、昼間は客が入ることはあるが、夜になるとNPCの店員以外は誰もいなくなる」

「内緒話にはうってつけというわけか」

「そういうわけ」

 

まるで西部劇に出てきそうな扉を開き、キリトとエミヤは中に入った。

 

「こういう店は、持ち込みOKだったりするんだよな」

 

席につき、キリトはアイテム欄から一つの瓶を取り出した。

 

テーブルに用意されたグラスを二つ取り、それぞれに中身を注ぎ込む。

 

赤紫色の液体が注がれ、暗めの照明に乱反射する。

 

「まるでワインのようだな」

「味の方はわからないけど」

「では、試してみるとしよう」

 

エミヤはグラスを傾け、中の液体を飲む。

 

「……ふむ」

 

呟き、もう一口。

 

「味もワインに似ているな」

「そうなのか?現実で飲んだことないから、わからないな」

「未成年の飲酒は法律で禁止されているはずだが、この時代では違うのか?」

「いや、そこは同じだよ。安心してくれ」

 

苦笑いしながらそう言い、キリトもグラスの

中身を煽る。

 

お互いしばらく飲み続け、二杯目を注いだ時。

 

「それで、話というのは?」

 

エミヤがそう切り出した。

 

「ああ。エミヤが使っていた武器……それが気になったんだ」

「私の双剣がか?」

 

二杯目を受け取りながら、エミヤがそう聞き返すと、キリトは頷く。

 

「SAOでは本来、両手に武器を持った状態だと、ほとんど戦えないんだ。両手に武器を装備すると、ソードスキルにエラーが出る」

「本来……というと?」

 

引っかかった部分に、エミヤが反応する。

 

「鋭いな。一応、これには例外がある」

 

そう言い、キリトはステータス画面を操作し、スキルスロットを開く。

 

全表示モードに切り替え、その画面をエミヤに見せた。

 

「俺のスキル一覧だ。ここに、『二刀流』って書いてあるだろ?」

「たしかに」

 

キリトが指さした部分には確かに、二刀流と書いてある。

 

「まだ出たばかりだから確信はないが、これは恐らくユニークスキル……つまり、俺にしか使えないスキルかもしれないんだ」

「……ほう?」

「理由は簡単だ。スキルが出現するには、必ず条件を達成しないといけないんだ。だけど、この二刀流が現れた時、俺には全くその条件の心当たりがない。未だにわからないままだ」

 

説明するキリトに対し、エミヤは腕を組んで考え込む。

 

「無意識に条件を達成した可能性は?」

「それは出来る限り考えたけど、やっぱり当てはまりそうな行動はしてない。それ以上に無意識でやったことが、スキル発動の条件とは思えないし」

「ふむ……」

 

キリトの回答に納得し、エミヤは再び考え込む。

 

しかし、すぐに肩を竦め、

 

「私もこういった予想は不得意なわけではないが、やはりマスターが適任だろう。よほど気になるなら、一度相談してみることをオススメする」

 

困ったようにそう言った。

 

「そんなにすごいのか?リツカは」

「ああ。彼女は本物の傑物だ。マスターとしても、魔術師としてもまだまだだが、彼女は他の誰にも替えがきかない人物だ」

「すごいな、リツカ。過去の英雄にそこまで言わせるのか」

「私は少し、他の英霊とは話が違うがね」

 

皮肉めいた笑みを浮かべ、エミヤはグラスを傾ける。

 

「話が脱線してしまったな。その二刀流がどうしたんだ?」

「ああ、そうだった。つまり、ユニークスキルだと考えられる二刀流をあまりたくさん使うと、悪目立ちする可能性があるってことだ」

 

軌道修正し、エミヤが尋ねると、キリトはそう答えた。

 

「死ねば終わりのデスゲームとはいえ、ここはMMORPGの世界なんだ。レアなスキルを持っていれば、羨ましがるやつも居れば、妬むやつだっている」

「どれだけ時間が経っても、人間にそういうところがあるのは変わらないな」

「……ごもっとも」

 

耳が痛いと言わんばかりに苦笑いし、キリトは嘆息する。

 

キリト自身もまた少なからず、レアなスキルを持っていることを誇らしく思っているのだ。

 

「つまり、出来る限り別の武器の方がいいのだろうか?」

「そうだな。俺も普段は剣一本だけだし」

「なるほど。忠告感謝する。少し考えてみるとしよう」

「ああ、そうしてくれ」

 

そうして、二人は今更ながらに乾杯をして、中身を一気に飲み干した。

 

その後、結局エミヤは剣を一本にすることにし、ワインの瓶を空にして店を去った。




お読みいただきありがとうございました!

実は、これはエミヤさんへの制約だったりします

干将莫耶は夫婦剣の性質上、一緒に持っているとステータスが上がりますし、二刀流スキルなんかも使えてしまうので、こうすることにしました

もちろん、二刀流を絶対使わないわけではないので、ご安心ください

それでは、また来週お会いしましょう!


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どこに行ってたの?

どうも皆様

明日が再試験なことに気がついた雪希絵です

どうしましょう、このままでは単位が……

とにかく、死ぬ気で勉強します!

ごゆっくりどうぞ!


「わざわざ送ってもらってすまないな、キリト」

「なんとなくついてきただけだよ。気にしないでくれ」

 

リツカ達が泊まっている宿屋に到着し、エミヤとキリトはそこで別れることにした。

 

だが、

 

「なーに二人でコソコソしてるのかな?」

 

唐突に背後から声がかかる。

 

聞きなれた声に振り返ると、そこには満面の笑顔で腕を組み、仁王立ちする立香。

 

どうしてだろうか。

 

可愛らしい笑顔のはずなのに、ものすごく恐怖を感じる。

 

「ま、マスター……」

「り、リツカ……」

 

ひくついた笑顔でそう言うと、リツカは唐突に笑顔を消す。

 

「こんな時間に何してたのかな?」

「せ、世間話だよ、うん」

「夜遅くに?わざわざ外に出て?」

「飲み物を用意してから話したかったからな」

「宿屋でも飲めるけど?」

「「うっ…………」」

 

言い訳をことごとく返され、エミヤとキリトは後ろを振り返って相談を始める。

 

「どうするキリト」

「なかなか厳しいな……」

「だが、逆に考えればチャンスでもある」

「どういうことだ?」

「マスターだけしかいないのなら、先程の相談も可能なはずだ」

「なるほど、それもそうだ」

「どうするキリト」

「そうしよう」

 

再び振り返り、

 

「リツカ、折り入って相談があるんだ。ちょっといいか?」

 

と、相談した作戦を遂行した。

 

「ほえ?どうしたの急に」

「先程キリトと話していたことだ。私からも説明しよう」

「んー、分かった。ちょっと聞いてみよかな」

 

───────────────────────

 

「ふむふむ、なるほど」

 

場所は変わって、宿屋の屋根の上。

 

アルトリアとマシュは、ラフコフ戦で疲れたのか、早々に寝てしまっている。

 

というわけで、その屋根の上で話しているのだ。

 

ちなみに、立香はスルスルと登っていたが、実は窓から屋根は結構離れている。

 

エミヤとキリトは、少しばかり苦労した。

 

「で、どうしてスキルが発動したのか、って考えてたんだよ」

「私も考えてはみたが、やはりマスターの方が適任だと思った次第だ」

「エミヤってば、私のこと買いかぶり過ぎじゃない?」

 

たはは、と苦笑いし、すぐに考え込む。

 

顎に手を当て、真剣な表情をする様は、本人の容姿も合わさってかなり画になる。

 

「……まあ、キリトの話を総合すると、スキルが発動した理由として考えられるのは三つだね」

 

そして、すぐに考えを導き出した。

 

「というと?」

 

キリトが身を乗り出し、答えを待つ。

 

「完全にランダムに割り振られるか、第三者が意図的にキリトに割り振ったか、あらかじめ用意されていた何らかの条件を満たしていたか。このうちのどれかだと思う」

「……第三者、というと?」

「まあ、一番考えられるのはGMだよね」

「そんな馬鹿な!一年間潜ったままのGMなんて……!」

「ダイブしたままじゃないとしたら?」

 

どこまでも冷静な立香の発言に、キリトが押し黙る。

 

「可能性的にはありえるよ。初めてのVRMMOのゲームを作ったんだもん。人を殺すシステムの組み込まれていないナーヴギアを身につけていても不思議じゃない」

「───たしかに、ありえる話だ」

 

立香の推論は、恐ろしいほど説得力があった。

 

二刀流スキルのことはさておき、高出力マイクロウェーブのシステムがないナーヴギアがあること、それを使ったGMが存在する可能性。

 

それはたしかな説得力を持っている。

 

「さすがはマスターだ。ユニークスキル一つで、ここまで推理できるか」

「ええへー、それほどでもあるよ!」

「前言撤回だ。調子に乗りのはよしたまえ」

「エミヤちょっと酷くない?」

 

上げてから下げられた立香がしょげる。

 

しかし、キリトは素直に感嘆していた。

 

「いや、エミヤの言う通りだ。月並みだけど、すごいよ」

「ありがとキリト。エミヤとは違って優しいね、エミヤとは違って!」

「待て、何故二回も言う」

「大事なことなので二回言いました」

「私はあくまでも、マスターの人間的な成長を祈って言っているだけだ」

「いつも思うけど、おかんか!」

「私も心が痛いんだ。だが、時には心を鬼にすることも───」

「おかんか!」

 

憤慨する立香の声と、エミヤの説教、キリトの苦笑いが、夜の街に響いた。




お読みいただきありがとうございました!

ちょっと短めですが、お許しください

それでは、また来週お会いしましょう!


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偽・螺旋剣Ⅱ

どうも皆様

現在友人宅にてお泊まり中の雪希絵です

遊び惚けていて投稿できませんでした、申し訳ありません

タイトルから察しはつくと思いますが、お楽しみ頂ければ幸いです

ごゆっくりどうぞ


「よし、今日も張り切って迷宮区へ行こうか!」

 

翌日、リツカ達は例によって迷宮区へやって来た。

 

「そういえば、たしか……ラフィンコフィンでしたか。彼らの件はどうなったのですか?」

「私が団長に報告したよ。団長も事態を重く見てるみたい」

「そのうち対策をするかもな」

 

昨日のラフィンコフィンとの遭遇戦の後。

 

アスナはすぐに本部に戻り、団長であるヒースクリフに報告したらしい。

 

結果、事態を重く見たヒースクリフは『何か対策を立てておく』と言い、アスナにはそれまで待機するように指示した。

 

「だから、近々大きな作戦があるかもしれないな。その時は、覚悟した方がいい」

 

雰囲気が変わり、真剣そのものなキリトの表情に、全員が神妙に頷いた。

 

───────────────────────

 

「でも、結局やることは変わらないんだよね」

「そうですね、先輩。結局迷宮区探索です」

「まだ探索仕切ってないからね」

「ボス部屋を探すのも、俺たち攻略組の役割だからな」

「すっかり私達も攻略組にカウントかぁ……」

「今更気にすることでもないだろう、マスター」

 

エミヤも増え、さらに賑やかになった一行は、迷宮区の奥へ奥へと進んでいく。

 

そこへ、大量のモンスターが現れる。

 

「!?」

「マズイ、みんな下がれ!」

「ダメです、キリト!既に見つかっています!」

「流石に数が多いね。私も戦う」

 

全員が武器を構え、敵に向かい合う。

 

敵の総数、パッと見だけで十数体。

 

「レベルが高い訳じゃないが……油断するな」

 

キリトの忠告に、全員が表情を引き締めた。

 

しかし、

 

「……私に任せてもらおう」

 

エミヤが一歩、また一歩と、前へ歩む。

 

「エミヤ……?」

「待て、たった一人で何を……!」

 

静止の声も振り切り、エミヤは魔術を発動する。

 

両手が光り輝き、漆黒の弓が現れる。

 

「ヤバイッ……!」

「ちょ、キリトくん!?」

 

並外れた反射神経で、キリトがアスナの目を塞ぐ。

 

見られたらマズイと判断したのだ。

 

「────投影開始(トレースオン)

 

そんなことが起こっているとは梅雨知らず、エミヤは詠唱する。

 

その手に現れたのは、まるでドリルのように渦を巻いた剣。

 

それを弓に番え、弦が引きちぎれそうになる程に引く。

 

「ちょ……エミヤ……まさか……」

 

この距離で巻き込まれないかと思い、ちょっとずつ後ずさる。

 

さりげなくマシュが前に出て、背後に残る全員を庇う。

 

モンスター達もただ事でないことに気がつき、一斉に走り寄ってくる。

 

「……『偽・(カラド)─────」

 

ただただ一点を睨み続け、自身の奥義を放つ。

 

螺旋剣Ⅱ(ボルグ)』!!」

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』。

 

自分の持つ宝具に備わる魔力を、丸々爆発に変換する禁術。

 

宝具の顕現につき一回しか使えない、秘技中の秘技。

 

離れた偽・螺旋剣Ⅱは、猛烈な勢いでモンスターの集団に迫り……直前で大爆発。

 

とてつもない閃光と衝撃。

 

それが晴れた時、そこにはモンスターは一匹もいない。

 

ただ、小さなポリゴンの破片だけが、キラキラと舞っている。

 

「……ふむ、こんなところか」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待った────!ストップストップ!」

 

アスナから手を離し、キリトが猛烈な勢いでエミヤに走り寄っていった。




今回短めです

次回はエミヤさんが珍しくお説教を受けることになるでしょう

それでは、また来週お会いしましょう!


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オカンに説教する女子高生の図

どうも皆様

徹夜明けの雪希絵です

眠いですが、頑張りますので、お付き合い頂ければ幸いです


「エミヤ!待て待て!待ってくれ!」

「どうしたキリト」

 

非難するようなキリトの声に、全くわからないと言わんばかりに首を傾げるエミヤ。

 

それもそのはず、エミヤはキリトから『二刀流は使うな』としか注意を受けていないのだ。

 

「弓使っちゃダメだろ!二刀流と同じように、悪目立ちするんだよ!」

「いや、君からそんな話を聞いたこと覚え……は……」

 

そう、

 

「エミヤ」

 

キリトから(・・・・・)は、

 

「正座」

 

二刀流しか忠告を受けていない。

 

「ま、待て、落ち着けマスター!」

 

名前と命令だけというシンプルかつ恐ろしい怒声に振り返ると、そこには満面の笑みの立香。

 

当事者どころか、事情を知らないアスナですら硬直する、氷のごとき冷たさを持った笑顔だった。

 

「り、リツカちゃんって、こんな顔もするんだ……」

 

苦笑いで精一杯の感想を述べるアスナ。

 

マシュとアルトリアは全力で頷くばかりである。

 

「本当はね『全裸で、正座です♪』って言いたいんだけどね。それは流石にハラスメントコードに引っかかるから、やめとくけど」

 

(((((引っかからないならやるの……)))))

 

その瞬間、全員の内心はピッタリと一致した。

 

結局、エミヤは本当に正座させられる羽目になった。

 

先程から、時折通りがかる他のプレイヤーの視線が痛い。

 

「私言ったよね?エミヤにこの世界について説明した時。『近接武器しかないからね』って」

「す、すまない、マスター……。すっかり失念していた」

 

アスナの気をマシュとアルトリアが微妙に逸らしている間に、立香が咎めるような口調でそう言う。

 

それに対し、エミヤは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

意外にも抜けているところがあるようだ。

 

「だいたい、壊れた幻想(ブロークンファンタズム)使うのはまだいいとして、私たちとの距離が近い!そこも考えてよ!」

「すまなかった、気をつけよう」

「それに!使うとしても、偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)みたいな高ランク宝具じゃなくてもいいでしょ!いつもの干将・莫耶にしなよ!」

「一撃で止めを刺すことを優先したんだが……」

「爆発大きすぎ!」

「す、すまない……」

 

もはや、どこぞの竜殺しの英雄レベルで謝りながら、エミヤの説教は続く。

 

白髪に外套を羽織った高身長の青年が正座させられ、美少女女子高生に説教されているという状況。

 

どこかシュールな光景に、他の四人は終始苦笑いをするしかなかった。

 

───────────────────────

 

「よし、もう立っていいよ」

「現実の身体ではなく、仮想であることに、ここで感謝することになるとは……。脚が痺れていない」

 

そこそこ長く続いたお説教も終わり、立香はスッキリした顔で、エミヤはやや疲弊した顔で戻って来た。

 

「お疲れ様です、アーチャー」

「ああ……。うちのマスターは、怒らせると面倒だな……」

「……そう、です……ね」

 

アルトリアは少しだけ言葉に詰まる。

 

つい最近、本気で怒った上に大立ち回りを披露した立香を見た後だと、どうしても言葉を濁さずにはいられない。

 

「さて、そろそろ出発しようか?リツカちゃん、準備はいいかな?」

「ん、私はいいよー。みんなもいい?」

 

全員が頷いたのを確認し、ひとしきり迷宮区を回る。

 

今度こそエミヤは目立つ武器は使わず(それでも、武器の切り替えは充分な戦力だった)、きっちりと本日分の目標を達成した。

 

その帰路でのこと、またアスナが食事に誘った。

 

「新しいメンバーも増えたことだし、ちょっと豪華にしようよ」

「おっ!賛成!」

「私も賛成です」

「セイバー……なんという反応速度だ……」

「気にしないでください、エミヤさん。いつものことです……」

「また大食い勝負の勃発かなぁ……?」

 

それぞれがそれぞれな反応をし、食事をすることに決まった。

 

そして、事はその準備中に起こった。

 

「ねぇ」

 

立香が唐突に全員に呼びかけた。

 

「王様ゲームしたい」

 

そして、何やら妙なことを言い出した。




お読みいただきありがとうございました

美男美女だらけのメンツで王様ゲーム

何が起こるか、もはやお察しのことだと思います

それでは、また来週お会いしましょう!


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混沌の王様ゲーム

どうも皆様

学校に遅刻しかけた雪希絵です

始業のベルが鳴るのと同時に教室に入りました

さて、やって参りました、更新日!

今回は暴走しました!

大変申し訳ありません!

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「王様ゲームって……急にどうしたの?リツカちゃん」

 

調理中のアスナが手を止めずにそう言う。

 

マシュはその手伝い中である。

 

「マスター?無茶はいつものことだが、今回は唐突に過ぎるぞ」

「えー!いいじゃーん!やーりーたーいーのー!」

 

駄々をこね出す立香。

 

あまりにも唐突な事態に、全員目が点になる。

 

「一体どうしたんだ、リツカのやつ……?」

 

そう思ったキリトが立香の手元を見ると、そこに握られているのは瓶。

 

中に入っている液体は、『SAO内でも酔うことが出来る』という特殊な酒アイテムだ。

 

本来ならグラスに数杯くらい飲むものだが、立香はガッツリ1瓶飲んだらしい。

 

ベロベロになるのも当然だ。

 

「しかし、おかしいな……」

 

エミヤも気が付き、顎に手を添えて考え込む。

 

「マスターは、自分からはあまり酒は飲まないはずだが……」

 

言いながら視線を逸らすと、

 

「……どうしました?アーチャー」

 

水の如く酒を飲み続けるアルトリアが。

 

「君のせいかっ!?」

 

エミヤが叫ぶ。

 

「アルトリアがリツカに酒を飲ませたのか?」

 

苦笑いをしながら、キリトがそう言う。

 

「違います。私が飲んでいたら、横から取られたんです」

「そーだよー」

 

一見素面にも見えるが、その顔は少し赤い。

 

「リツカちゃんは、あんまり強い方じゃないみたいだね……」

 

一口、また一口と瓶の中身を煽る立香。

 

全員が全員、呆れ顔である。

 

「と、とりあえず、食事にしましょう!先輩!」

「そうだね、そうしようよ!リツカちゃん!」

 

エミヤが抑えている間に、二人は料理の完成を急いだ。

 

───────────────────────

 

「チキチキ!第一回王様ゲーム大会ー!あははははーっ!」

 

とうとうテンションまでおかしくなった立香が堂々と宣言する。

 

残る全員はすっかり死んだ魚の目である。

 

「ちょっとぉ!テンション低い!盛り上がらないでどうするのー!」

 

むしろ、テンションが高いのは立香一人だけである。

 

「早速引くよ!バッチコイ!」

 

人数分の棒が用意され、1から5までの数字と赤い印のついた棒がある。

 

赤い印がついたものを引けば王様である。

 

「……こうなったら、腹を括るしかないか」

「そうだな……やるしかないな」

 

もうなるようにしかならないと考える組と。

 

「…………」

「…………」

 

もはや慣れた組に分かれてはいるが。

 

「せーの!」

 

一斉にクジを引いた。

 

1番:エミヤ

2番:アルトリア

3番:マシュ

4番:キリト

5番:アスナ

王様:立香

 

「よっし!私が王様だ!」

 

(((((いきなりやばい人が王様に!)))))

 

全員の心の声が一致し、宣告の時を待つ。

 

「まあ、最初は軽く行こう!1番が4番に膝枕だ!」

「「はぁ!?」」

 

結果、

 

「あっははははは!」

「くっ………ふふっ……!」

「うふふっ……!」

 

男が男に膝枕するという光景が出来上がった。

 

立香は爆笑、その他の女性陣も、かなり肩が震えている。

 

なかなかシュールな光景に、当の二人は完全に死んだ目である。

 

「もう!終わりだ終わり!」

「次に行くぞマスター!」

「OK!やってやろうか!」

 

乗り気に……というか、恐らく復讐しようと考えているのだろう。

 

ただならぬ雰囲気でクジを引く。

 

「せーの!」

 

1番:キリト

2番:アスナ

3番:マシュ

4番:アルトリア

5番:エミヤ

王様:立香

 

「よっし!」

「またリツカか!?」

 

正直嫌な予感しかしない。

 

「4番が王様のほっぺにチューだ!」

「なっ、マスター!?」

 

4番の棒を握りしめ、真っ赤な顔でアルトリアが叫ぶ。

 

「王様の言うことは絶対!」

「くっ……うぅ……!」

 

プルプルと肩を震わせながら、アルトリアも覚悟を決めた。

 

「い、いいでしょう……!やってみせます!」

「よっし、いらっしゃーい!」

 

そう言って勢いよく立ち上がる立香の横に、アルトリアが近寄る。

 

羞恥で耳まで真っ赤に染まった顔を、徐々に、少しずつ近づけていく。

 

「………っ……ぅぅ……!」

 

止まっては近づきを繰り返し、

 

「……えいっ!」

 

思い切って唇を立香の頬にくっつける。

 

「ふぉっ!」

 

柔らかい感触が当たり、立香が妙な声を上げる。

 

「終わりました!もうこれで勘弁してください!」

「OK、大満足」

 

幸せそうな顔でそう言う立香。

 

「さー!次行くよー!」

「まだやるのか!?」

 

混沌(カオス)と化した王様ゲームは、まだまだ続く……。




お読みいただきありがとうございました!

まさかの王様ゲーム編二回という……(^_^;

では、来週の続きをお楽しみに!

また来週お会いしましょう!


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素直じゃないな

どうも皆様

メモ消失事件から立ち直れていない雪希絵です

泣いたのは随分久しぶりです

そんなテンションで書き上げたもので宜しければ、ごゆっくりどうぞ


「よっし、次いってみよー!」

 

まだまだゲームは続く。

 

アルトリアは未だに顔を真っ赤にし、キリトとエミヤは執念に燃えている。

 

マシュとアスナは、これから先に何が起こるかという不安感でいっぱいである。

 

くじが再び用意され、全員一斉に引く。

 

1番:アスナ

2番:エミヤ

3番:立香

4番:キリト

5番:アルトリア

王様:マシュ

 

「わ、私が王様ですか!?」

 

唐突に王様役を割り振られ、マシュは大いに困惑する。

 

「あ……えーっと……」

 

特にお題を考えていた訳でもないので、どうしたものかと悩んでしまう。

 

(ですが、あまり考えてお待たせしてしまうわけには……。今この場にふさわしいのは、盛り上がる行動。となれば……!)

 

「に、2番の方と5番の方でハグしてください!」

 

意外にも大胆な命令に、全員が顔を見合わせる。

 

「2番は私だ。5番は誰だ?」

 

見回しながら尋ねるエミヤに、アスナと立香とキリトが首を振る。

 

「…………わ、私……です……」

「なぁ……………!?」

 

ガチガチに固まるアルトリア。

 

それを聞き、エミヤも驚愕の表情を浮かべる。

 

「!? あ、わ、そ、その!す、すみません!?」

 

色々とわだかまりのある二人を指名してしまい、マシュが全力で頭を下げる。

 

「あ、あの、今から変更しても……」

「ダメー!」

 

変更も中止され、いよいよ後がなくなる。

 

「……ど、どうする、セイバー」

「そ、そそそそ、そう、ですね……。少なくとも、マスターはやらないと収まらないかと……」

「間違いない……」

 

小声で相談し、ため息をつく。

 

「セイバー、失礼するぞ」

「ど、どうぞ」

 

双方ガチガチだが、意を決して距離を詰める。

 

最初にエミヤが、おずおずとアルトリアの背中に手を回す。

 

ギリギリ触れるか触れないかくらいの距離感。

 

続いて、アルトリアもそれに習う。

 

極力離れてはいるが、お互いの呼吸は感じる。

 

もはや、これがゲームとは思えないリアルさだ。

 

数秒後、

 

「………っ! も、もういいでしょう!?」

「そ、そうだな!」

 

反発しているかのような勢いで、二人は離れた。

 

「本当に、本当に申し訳ありません、お二人とも……!」

 

土下座しそうな勢いのマシュを、立香がどうにか宥める。

 

(まあ、あの二人の関係にはあんまり手出しちゃいけないよねぇ……)

 

とはいえ、マシュにも悪気はない。

 

今回は運が悪かっただけだ。

 

「さて、次行こうか!」

 

クジを再びシャッフル。

 

「せーのっ!」

 

1番:立香

2番:アスナ

3番:アルトリア

4番:マシュ

5番:キリト

王様:エミヤ

 

「ふむ、私の番か」

 

全員が息をつく。

 

エミヤなら、唐突に変なことを言ったりはしないだろう。

 

「2番に一発芸でもしてもらおうか」

「わ、私が!?」

 

(そう思っていた時期が私にもありました)

 

一発芸はまだいいだろう。

 

しかし、それがまさかアスナに当たるとは。

 

「え……ど、どうしようキリトくん……」

「お、俺に聞かれてもなぁ……」

 

半分涙目のアスナに、キリトが困ったように返す。

 

「すまない、まさかアスナに当たるとは……」

 

エミヤも謝罪するが、変更が効かないのは先程のことでよく分かっている。

 

酔っ払いほど面倒なものも中々いないことを学んだ。

 

「と、とりあえず、歌います!」

 

恐らく、もうやけだろう。

 

アイテム欄からマイクを取り出し、歌い始めた。

 

曲名『motto☆派手にね!』(アニメ『かんなぎ』より)

 

「…………もうダメ。穴があったら入りたい」

 

実に見事に歌い上げた後、アスナはへなへなと崩れた。

 

「アスナ、お疲れ……」

「うん……」

 

労うキリトに、アスナが少しだけ頷いた。

 

「でも、すごくお上手でしたよ、アスナさん」

「関心しました」

「あ、ありがとう……」

 

微妙な表情でお礼を言うアスナ。

 

「さてさて!次行こうか!」

「一体いつまでやる気だマスター」

 

どこまで続くかわからない王様ゲームは、結局夜遅くまで続いた。

 

─────────────────────

 

「ふぅ」

 

解散した後、いつもの宿屋に戻ると、立香は一人窓際にいた。

 

先程のまでの酔いは醒めたのか、いつも通りの様子である。

 

「まったく、マスターも食えないな」

 

そこへ、エミヤが話しかけた。

 

「ありゃ、もう寝たと思ってたのに」

「マスターが散々やらかしたことを思い出してしまってな。とても眠れそうにはないよ」

「あはは、ごめんごめん……」

 

口調こそ軽いが、本当に申し訳なさそうにしている。

 

「それにしても、マスターも回りくどいことをするな」

「んー?何が?」

「アスナとキリトのためにやったのだろう?今回のことは」

 

エミヤがそう言うと、立香はニコリと微笑む。

 

「……バレてたか。さすがエミヤ」

「何となくだがな。だが、なぜ急に?」

「だって、もどかしいんだもん、あの二人」

 

エミヤが尋ねると、立香はさも当然といったように答える。

 

「お互い好意があるのは明らかなのに、どうも近づかないんだよね……。まあ、だからといって、当事者以外があーだこーだ言うものでもないんだけど……」

「それはそうだな。それで、今回のような間接的な手段に出たのか」

「まあね。結局上手くいかなかったけど」

 

あはは、と苦笑いする立香。

 

結局、酔っ払って見えたのも、大部分は演技だったのだろう。

 

多少はテンションハイになっていたかもしれないが。

 

「とにかく、これからは見守ることにするよ。ただの勘だけど、あの二人なら幸せになりそうな気がする」

「ならば、将来安泰だな。なにせ、マスターの勘はよく当たる」

「ん、だといいね」

 

お互いに微笑み合い、二人はしばらく窓の外を眺めていた。




お読みいただきありがとうございました!

次回からは、ちゃんとSAO攻略に戻しますので、ご安心ください

それにしても、こういった日常の描写は難しいですね

特に、全員に役割を回すのが大変です

書いてて楽しいのは、間違いないですけども

それでは、また来週お会いしましょう!


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そして時は経ち

どうも皆様

魔法のリンゴカードを買ったためにお財布の中身が寂しい雪希絵です

しかし後悔はしていません

さて、今回のお話ですが

一気に話が飛びます!申し訳ありません!

情報が無かったので、結構カットしてしまいました

想像で書いても良かったのですが、そうなると凄い時間がかかってしまうので、残念ながら辞めました

全て私の文章力と想像力のなさ故です申し訳ありません

それでも宜しければ、ごゆっくりどうぞ!


後日からも、彼女達の奮闘は続いた。

 

マッピングを手早く進めると、続くボス戦にも最前線で参加。

 

最後はキリトが見事にトドメを刺し、犠牲者ゼロでボス戦は終了。

 

続く五十二層から五十六層もクリアされ、SAO攻略は立香達の活躍により、大きく進んでいた。

 

さらに、念願のホームも購入出来た。

 

街の中ではなかなかに大きい方で、一人ずつの部屋も獲得し、意外と快適な暮らしをしている。

 

「………………………」

「ま、マスター……」

 

そんな拠点となった家の中にて。

 

立香はふくれっ面だった。

 

家の中にはカルデアのメンバーである立香、アルトリア、マシュ、エミヤだけだ。

 

ここが拠点というのもあるが、アスナやキリトとは既にパーティーを解消し、時折協力してもらう形で活動しているのだ。

 

「朝から頬を膨らませて。どうしたんだマスター」

 

完成した朝食を運び込み、エミヤがそう言う。

 

マシュはその手伝い中である。

 

「もどかしい」

「え?」

「もどかしいのー!あの二人がぁー!」

「またそれか……。前も言っていたな……」

 

少し前にも同じことを言っていたことを思い出し、エミヤがため息をつく。

 

「そうなのですか?アーチャー」

「ああ。王様ゲームの後に」

「「王様ゲーム……」」

 

どうやら二人は思い出しくないことを思い出したらしい。

 

若干カタカタと震えている。

 

「それで、何故またそんなことを言い出したんだ?マシュ、コショウを取って貰えないか」

「はい。どうぞ、エミヤさん」

 

仕上げにコショウを振りかけ、朝ごはんが完成した。

 

「いただきます」

 

全員でそう言い、食事を開始する。

 

「どうしたもこうしたもないよ。あの二人、あれからほとんど会ってすらいないんだよ!?」

「たしかにそうですね。お二人共、ボス攻略会議の時に顔を合わせるだけというか……」

「アスナも少し雰囲気が変わりましたね。なんだか、攻略に躍起になっているというか」

「…………」

 

女性陣が口々にそう言う中、エミヤは口を閉ざす。

 

実は、エミヤはキリトからたまに相談を受けていたのだ。

 

その際に、キリトはこう言っていた。

 

『また昔のアスナに戻ってしまった気がする』と。

 

つまり、どうやら過去のアスナは、攻略に必死になっている今の状態と同じで、キリトはそれを心配しているのだ。

 

(噂では、アスナは『攻略の鬼』とも呼ばれている様だが……。その状態になってしまった理由は、間違いなくパーティーの解散が理由だろうな)

 

パーティーの解散は、キリトから切り出した。

 

自分はソロプレイヤーだから一人の方が気楽なんだ、と言って。

 

立香達も随分SAOに慣れていたため、特に反対はしなかった。

 

思えば、その頃からアスナの雰囲気が変わった気がするのだった。

 

「絶対両想いなのに、全然告白もしないし……」

「そうは言うがマスター。別に焦ることもないんじゃないか?」

 

エミヤの一言に、立香の手が止まる。

 

「……焦るよ」

 

ポツリと呟き、パンを齧りながら続ける。

 

「例え死なないで攻略出来たとしても、二人はここで離ればなれになるんだよ?私達だってそう。いつまでも、一緒にいられるわけじゃないんだから……」

 

悲しそうにそう言う。

 

「……そうですね。いつかは、私達もカルデアに帰るわけですから」

「そう考えると……寂しい、ですね」

 

空気の沈む朝食。

 

そこへ、

 

「んお?」

 

立香がメッセージを受信した。

 

「んー。どれどれ。って、アスナから?すごいタイミング……」

 

言いながらメッセージを開封し、読み上げる。

 

「えーっと、『リツカちゃん。もし時間あったら、合わせたい人がいるから、連絡してくれないかな?待ってるね』か……」

 

読み上げると、リツカは口元に手を当てて考え込む。

 

「どうしたんですか?先輩」

「……いや、ちょっとね」

 

真剣な様子に、マシュが息を呑む。

 

「……美少女からの『待ってるね』って、なんか良くない?」

「……そうですか」

 

結局そんなことをかと肩を落とすマシュ。

 

アルトリアとエミヤも苦笑いである。

 

「さて返信っと。『おけ!d(ゝω・´○)』。これでよし」

「マスター、メッセージ使い慣れしてますね……」

「まあ、携帯やパソコンとそこまで変わらないから」

 

返信を待つ間に食事を済ませ、立香達は家を出た。

 

集合場所はアインクラッド第五十五層『グランザム』。

 

場所は、アスナが副団長を務めるギルド『血盟騎士団』の本部だ。

 

「………高っ」

「大きいですね……」

「総面積で考えると、私達の家数個分はありそうだな」

 

通称『鉄の都』とも呼ばれるグランザムには、いくつか塔が建ち並んでいる。

 

その中でも一際大きな塔、それが血盟騎士団本部だった。

 

「いらっしゃい、四人とも。私に着いてきて」

 

挨拶もそこそこに、アスナが中へ案内する。

 

「昔は、もっと小さな家が本拠地だったんだけどね。ギルドが大きくなってから、ここに変わったんだ。殺風景だから、あんまり好きじゃないんだけどね……」

 

長い階段を上りながら、寂しそうにそう言うアスナ。

 

「まあ、なんか冷たそうだよね」

「呑気ですね、マスター……」

 

立香は至ってマイペースだが。

 

いくつもの扉を通り過ぎ、現実なら相当疲れているであろう高さまで登った頃、五人は重厚な鉄扉の前に来た。

 

「開けるよ」

 

アスナはその扉に手をかけ、一気に開く。

 

「団長。四人が到着しました」

 

そう言い、立香達を中に促す。

 

「……ご苦労だった、アスナ君」

 

椅子に座り、アスナを労ったのは、血盟騎士団団長の『ヒースクリフ』だ。

 

「こうして話すのは、五十層のボス攻略以来かな?リツカ君」

「そうですね。ちょっと久しぶりです」

 

思わず敬語になるほど、ヒースクリフには迫力があった。

 

「君たちを呼んで貰ったのは、他でもない。君たちに相談があるんだ」

 

立ち上がり、片手を立香達の方に伸ばして、ヒースクリフは続ける。

 

「我が血盟騎士団に、入る気はないかな?」




お読み頂きありがとうございました!

いやぁー、本当に話が飛びましたね本当にすみません……

しかも、いくつか設定的に間違いも見つけたので、近いうちに修正作業が出来たらと思います

それでは、また来週お会いしましょう!


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お着替えタイム

どうも皆様

やたら低い気温と湿度が結構辛い雪希絵です

冷え性が、冷え性がぁカタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ

それではごゆっくりどうぞ!


「はい。いいですよ」

 

ヒースクリフの勧誘に、立香は即座に頷いた。

 

これには、アスナも、誘った張本人のヒースクリフも面食らった顔をする。

 

「ただし、条件が一つ」

 

そんなことは気にもとめず、立香は右手の人差し指を立てながら続ける。

 

「しばらくの間、こちらでお世話になります。ただ、それはあくまでも仮入団。血盟騎士団が私達に合ってると思ったら、入団させて貰います。合わないなら、お断りさせて貰います。いいですか?」

「……ふむ」

 

顎に手を当てて、ヒースクリフは考え込む。

 

「なるほど。確かにギルド内を見てもらうのは良いだろう。何はともあれ、歓迎するよ」

 

僅かに口元に笑みを浮かべ、ヒースクリフはそう言った。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

立香がぺこりと一礼し、他の三人も慌ててそれに習う。

 

「アスナ君。彼女達の制服の準備を頼む」

「わかりました、すぐにでも。みんな、ちょっとこっちに来て」

 

言いながら踵を返し、アスナは扉へ向かう。

 

立香達もそれに続き、

 

「失礼しました」

 

そう言って部屋を出た。

 

「はぁ……。なんだか、貫禄のある方でしたね」

「団長は何だか『只者じゃないです』って感じが凄くするからね」

「あの強さなら、それも納得です」

 

最強の騎士王も、ヒースクリフの強さは認めているようだ。

 

(でも、実際戦ったらアルトリアの方が強いんだろうなぁ……)

 

いかに高い防御力があろうとも、アルトリアにはまず勝てない。

 

それはエミヤとマシュも同じだ。

 

歴戦の英雄がソードスキルを使うのだから、当然といえば当然だが。

 

「とりあえず、装備を作っちゃうね。担当の子にお願いするから、サイズだけ測るよ」

 

その日はそれぞれの体格だけ測定し、解散することになった。

 

───────────────────────

 

「いらっしゃい!みんな。装備出来てるよ!」

 

翌日、再び血盟騎士団本部にやって来ると、アスナから早速装備を手渡された。

 

「部屋は用意してあるから着てみて。違和感とかあったら直すから、言ってね」

「うん。ありがとアスナ」

 

ギルド本部内の一室に案内され、衣服を解除。

 

もちろん、エミヤは別の部屋である。

 

「うひゃー。派手だなー」

「私は嫌いではありませんよ」

「わ、私は少し違和感が……」

「あー。マシュは元の服が黒いからね」

 

各々感想を述べながら、ステータス画面を操作して服を着替える。

 

最初こそもたついていたが、今ではアルトリアもマシュも慣れたものだ。

 

「おおっー!結構かっこいいじゃん!」

 

立香の制服は、アスナとよく似た服で、それに上着を一枚着たような形だ。

 

格闘戦のために用意されたのか、血盟騎士団デザインの篭手もついていた。

 

「新たな装いというのも、やはり良いものですね。気分が変わります」

 

アルトリアの制服は、細身の鎧に下はスカート、血盟騎士団の男性団員が身につけているマントを合わせたものだ。

 

流石は騎士王、白と赤の正義感溢れるデザインが良く似合う。

 

「す、少し私には派手すぎるような……」

 

マシュの制服は、同じくアスナ等が着ている騎士服に、腰の辺りに純白の布が結び付けられている。

 

デザインは、マシュの元々の服によく似ていた。

 

「よっし、最後はエミヤだ!」

 

勢いよく扉を開くと、既にエミヤが着替えを終えてそこに立っていた。

 

「ほほぅ……さすがエミヤ。やっぱり似合うね」

「それはどうも、マスター。そちらこそ、よく似合っているじゃないか」

「お、そう?」

 

エミヤの制服は、男性団員が身につけているものから鎧を外し、代わりに長いコートを羽織ったものだ。

 

いつもの外套とはまた違うが、これもよく似合っている。

 

「みんなー、着替え終わった?……うんうん、似合う似合う!」

「あ、アスナ。この篭手ありがとう。ソードブレイカーじゃ剣しか受けられないから、助かるよ」

 

篭手の感触を確かめながら、立香がお礼を言った。

 

「ううん、気にしないで。ギルドの共通ストレージに余ってたやつを、友達に打ち直して貰ったものだから。大事に使ってね」

「うん、もちろん!」

 

笑顔で頷くと、楽しそうに型の素振り等をしている。

 

それを見ても、アスナも、

 

(頑張ってデザインとか考えたかいがあったな)

 

と満足そうにしている。

 

「それじゃあ、早速クエストに行こうか。私も同行するけど、あと二人団員を連れて行くね」

「了解だ、副団長殿」

「承知しました」

「わかりました、頑張ります!」

「よーし、張り切って行こー!」

 

こうして、気分も新たに、五人は迷宮区へと向かった。




お読み頂きありがとうございました

制服を決めるのは結構迷いましたし、そのせいで描写は大分薄くなってしまいました_(:3 」∠)_

こっちの方が似合うんじゃないか、というご意見があれば、是非お聞かせください

それでは、また来週お会いしましょう!


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えげつないチーム

どうも皆様

風邪の脅威は去ったものの、今度は花粉症に悩まされる雪希絵です

結局マスクは外せません

先週は突然おやすみして申し訳ありませんでした

今週から復帰しますので、どうぞよろしくお願いします


血盟騎士団本部を出て、広場に向かう。

 

すると、血盟騎士団の制服を着た人物が、二人いることに気がついた。

 

「『クラディール』。『ノーチラス』。お待たせ」

 

片方は三白眼の顔色の悪い男。

 

もう片方は、少々気弱そうな見た目の青年だった。

 

「……どうも」

 

ノーチラスと表示されている青年が、そう言いながら軽く頭を下げる。

 

その様子に、立香は少々違和感を感じた。

 

今まで会った血盟騎士団の団員は、どちらかというと、

 

「初めまして。あなたがたのお話は聞いております。私はクラディールと申します。以後お見知りおきを」

 

こういった自信満々なタイプが多いような気がしたのだ。

 

ところが、ノーチラスはどうも自分に自信がないような。

 

というより、

 

(なんか……諦めてる感じ?)

 

首をひねりながら、そう思った。

 

ひとまず、挨拶をされたなら挨拶を返すのが礼儀だ。

 

「よろしくね、二人とも。私はリツカ。右からアルトリア、マシュ、エミヤだよ」

「「よろしくお願いします」」

「よろしく頼もう」

 

自己紹介を済ませ、一向は現在の最前線、五十六層迷宮区へと向かった。

 

「ひとまず隊列の確認。大盾使いのマシュちゃんが最前線。盾持ちのノーチラスにも前に出て貰うよ。同じ両手剣使いのクラディールとアルトリアちゃんには、それぞれ両サイドを固めてね。私とリツカちゃんとエミヤは遊撃。これで行こう」

「……早速実践する機会が来たようだぞ」

 

アスナの作戦を聞いた直後、エミヤは片手に剣を構える。

 

「総員構え!隊列を組んで!」

「腕が鳴るね!」

「皆さんは私が守ります!」

「………っ!こ、のくらい……!」

 

エミヤに習い、全員が武器を抜いた。

 

現れたのは、複数体の鬼型モンスター『オーガ』。

 

体躯はプレイヤーよりも大きめで、全員が棍棒を握っている。

 

「行きます!」

「ガァアアアアアアアアア!!!」

 

吠えるオーガの前に立ちはだかり、振り下ろされた棍棒を正面から受ける。

 

相当な体重の乗った一撃のはずだが、マシュはガッチリと受け止めてみせた。

 

「ガァアアア……!」

 

しかし、その脇をもう一体のオーガが走り抜けていく。

 

「!? ノーチラスさん、お願いします!」

 

流石に二体同時には受けられず、盾役二人目に託す。

 

「………っ!……ぅ……っ……!?」

 

しかし、ノーチラスの身体は動かない。

 

ガクガクと震え続け、脚がすくんでいるのが見てわかる。

 

「これくらい……!」

 

縫い付けられた足を無理やり引きはがすかのように、剣を構えて踏み込む。

 

オーガの振り回す棍棒を盾で受け、下からすくい上げるように弾き飛ばす。

 

しかし、その横から飛び込んでくるもう一体のオーガ。

 

「くそっ……!」

 

悪態をつくが、受けられる位置ではない。

 

「駆けよ、風よ!」

 

そこへ、剣をジェット噴射のように使い、轟音を鳴らしながらアルトリアが滑走。

 

「はぁ!」

 

勢いをそのまま乗せ、横薙ぎに不可視の剣を振るう。

 

「グガァ!?」

 

オーガの腹部に直撃し、吹き飛ばす。

 

「……ご無事ですか?」

「……あ、ああ」

「良い動きでしたが、前の敵ばかりを見すぎです。周りにも気を配るように気をつけた方が良いでしょう」

「なっ……!」

 

何を上から、と言うよりも早く、アルトリアは前線へと飛び出していった。

 

「クラディール殿、右側を頼みます!」

「承知!」

 

挟み撃ちし、マシュが足止めしていたオーガを同時に切り裂く。

 

「グゥ……ガォ……!」

 

頭の上のHPバーが大きく減少。

 

「これで終わると思わないでよね……!」

 

二人が作り出した隙に、不敵に笑いながら立香が突撃。

 

白いエフェクト光を発しながら、立香の拳が振り下ろされる。

 

拳闘スキルの威力に加えて、高い強度を誇る手甲が攻撃力を補正。

 

オーガの顔面が凹む程に拳がめり込み、再びHPバーが減少。

 

「やぁああああ!」

 

バランスを崩したオーガに、マシュの黄色く発光する大盾が叩きつけられる。

 

それはオーガのHPを見事に刈り取り、オーガはポリゴンの破片となって砕け散った。

 

「まだまだ!」

 

アルトリアはその一連の動きの間にバックステップ。

 

先程自分が吹き飛ばしたオーガに切りかかる。

 

一方、ノーチラスが抑えているオーガには、エミヤとアスナが向かう。

 

片手剣に、槍に、両手剣に。

 

多彩な武器に切り替え、様々なソードスキルをオーガに叩き込む。

 

アスナはその素早い動きで、四方八方から斬撃を加えていた。

 

「アルトリア!そっち行くよ!」

「助かります!」

 

オーガと切り結んでいたアルトリアの隣に、立香が立つ。

 

「ふっ……!」

 

アルトリアが棍棒をはね上げた瞬間、前脚を強く踏み込み、肘打ちを打ち込む。

 

そこへ、アルトリアの剣が大上段に振り下ろされる。

 

帯びる緑のライトエフェクト。

 

ソードスキルが見事発動し、オーガのHPをガリガリと削り取る。

 

「これで止め!」

 

立香渾身の蹴りがオーガの頭にクリーンヒットし、オーガが爆発四散。

 

同時に、もう一体のオーガも砕け散った。




えげつない程に強い(;゚∇゚)

自分で書いててそう思いました(^_^;

これはいよいよカーディナルが動き出しそうな予感……

それでは、また来週お会いしましょう!


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帰る理由

どうも皆様

夜にカラオケなんて行くものではないなと思っている雪希絵です

更新日も過ぎてしまいました、本当すみませんm(_ _)m

時間の都合で、今回かなり短めです

それでも宜しければ、ごゆっくりどうぞ


「ふぅ……お疲れ様ー」

 

蹴りを放った体勢のまま、しばらく固まっていた立香が、足を下ろしてそう言った。

 

立香のミニスカートの中身が見えないか、マシュは内心ハラハラしていた。

 

幸い、角度的には大丈夫なようだ。

 

(先輩は格闘技専門ですからね……。タイツなどがあれば、履いてもらった方がいいかもしれません……)

 

などと考えるマシュを他所に、少しバラけていたメンバーが集まった。

 

「うん、上手くまとまってるね」

「私も戦いやすいと感じました」

「同感だ」

 

さすがは副団長アスナの人選。

 

カルデア組四人ともよく息があっている。

 

「良かった。この人数なら、盾役二人はいるかなと思って選んだんだけど、合ってたみたいだね」

「ナイス、アスナ!」

 

ぐっ、と親指を立て、屈託のない笑顔を浮かべる立香。

 

それに微笑むことで返し、

 

「それじゃあ、先に進もう。マッピングが遅れてるのが問題になってたから、出来るだけ進めないとね」

 

アスナは踵を返して歩き始めた。

 

クラディールは堂々と、ノーチラスは悔しそうに口を引き結びながら、それに続く。

 

その後ろを、少しだけ離れてカルデア組四人が歩く。

 

「……意外と普通だね」

 

途中、立香が唐突に小声でそう言った。

 

「なんのことだ?マスター」

「決まってるじゃん。アスナのことだよ」

 

何を今更という顔をするマスターに、サーヴァント達は『そういえば』という顔をする。

 

「たしかに、聞いていた『攻略の鬼』といったイメージはしませんね」

「そう……ですね。多少、焦っていると感じますが」

「……そこなんだよねぇ」

 

首を傾げるサーヴァント組を差し置き、立香は腕を組んで考え込む。

 

(見た目は意外と普通……だけど、内心の焦りようが取り繕っても出てきてる。これって結構末期っぽいよね……)

 

もちろん、こんなデスゲームなのだから、脱出したいと思うのは当然だろう。

 

その為に焦る気持ちも良くわかる。

 

「けど、焦り過ぎるのも良くないんだよね……」

 

焦りは情報を奪い、情報が奪われれば判断力を奪われ、判断力を奪われれば命を奪われる。

 

………などと哲学めいたことを考え、

 

「ま、一回話聞いてみようかな」

「マスター?」

「先輩?」

「どうしたマスター?」

 

と、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

───────────────────────

 

「で……き、急にどうしたの?」

 

迷宮区から出ると、本部に戻ってマッピング内容を報告。

 

その直後、立香はアスナは誘って、カルデア組の拠点へと帰った。

 

アルトリア、マシュ、エミヤは街への買い出しに向かった(向かわせた)。

 

「いやね、ちょっとお話を聞きたくてね」

「悪い話をする前の上司みたいだよ?リツカちゃん」

 

迫り来る立香に、アスナが苦笑いで返す。

 

「は、話って?」

「んー?いやー簡単だよ?」

 

あはは、と少しだけ笑い、真顔に戻す。

 

「何をそんなに焦ってるの?……いや、違うか。どうしてそんなに早く現実世界に戻らないといけないの?かな?」

「…………!」

 

いかにも核心をついたその質問に、アスナは目を見開いた。




お読みいただきありがとうございました!

最後の質問の部分、もっと核心めいた聞き方があったとは思うのですが……私のネズミレベルのボキャブラリーではこれが限界でした_(:3 」∠)_

それでは、また来週お会いしましょう!


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もう充分だよ

どうも皆様

録り溜めしたアニメを消化していたら寝不足になった雪希絵です

ブレンドSが面白過ぎました_(:3 」∠)_

それではごゆっくりどうぞ


「り、リツカちゃん……?急に何を……」

「誤魔化そうとしてもダーメ。見れば分かるよ」

「うぅ…………」

 

咄嗟に話をかわそうとしたが、残念ながら立香にそれは通用しないのだ。

 

「たしかに、SAOはデスゲームなわけで、早く脱出したいと思うのは当然だと思うよ。でも、身体は充分な処置はされてると思うし、急ぎすぎて死んじゃったら元も子もないよ」

「……うん」

「……そんなことは百も承知だよね。じゃあ、理由聞いてもいいかな?」

 

立香がそう言うと、アスナは口ごもった。

 

やや目をそらし、答えにくそうに口元を何度か開け閉めする。

 

立香はそんなアスナを急かすことなく、両手で頬杖をつきながらじっと見つめる。

 

どれくらいそうしていただろうか。

 

「……リツカちゃんは、カルデアって所に入る前は、学生だったんだよね?」

「ん、そうだね」

「……なら、分かるかな」

 

ぽつりと呟き、アスナは続ける。

 

「別に、他の人からしたら大したことじゃないんだけど……」

「うんうん」

 

適切に相槌を打ちながら、話を聞く。

 

「私の家って、母親が凄く厳しくて……。一定の成績を維持しないと、凄く怒る人なんだ」

「なるほどね。それはたしかにプレッシャーだね」

「うん……。同級生との競走とか、出席日数の事とか考えたら、なんだか……落ち着かなくて。早く、早く戻って元の生活に戻らなきゃって……!」

 

微かに震え、自らの肩を抱くアスナ。

 

焦燥と絶望感、そして恐怖感が滲む表情。

 

「だから、早くクリアしないと……。他の誰にも任せちゃいけない、私自身の手で……!」

「もういいよ」

 

そんなアスナの手を肩から強引に引き剥がし、立香が両手で握りしめる。

 

「もういいよ、分かったから。……もう充分だよ」

「リツカちゃん……?」

 

じっと見つめる立香の黄色の瞳を、アスナが見つめ返す。

 

SAOは感情が極端に出やすい。

 

アスナの瞳は、微かに濡れていた。

 

「もうアスナは充分戦ってるよ。ずっとずっと最前線で頑張って来たんでしょ?だからもう、一人で戦おうとしないで」

「…………え?」

「たまには頼ってよ。色々話してよ。一人で抱え込まないでよ。……せっかく会えたんだから、それくらいしてくれてもいいんじゃない?」

「……リツカちゃん……」

 

アスナの震えが止まる。

 

素直で、飾り気のない言葉。

 

それでも、自分と同じ年齢の少女からぶつけられたその言葉は、アスナの心に素直に突き刺さった。

 

「……いの?」

 

かろうじてアスナが絞り出せたのは、

 

「いいの?」

 

その一言。

 

立香は満面の笑みを浮かべ、

 

「当たり前でしょ?」

 

両手を強く握った。

 

───────────────────────

 

陽の光が、アインクラッド外周区から入ってきた。

 

窓から光が飛び込んで来る。

 

眼窩付近に飛び込んで来た光に、立香は目を開く。

 

「……朝か」

「………んぅ……」

 

そして、目の前には、見慣れた整った顔があった。

 

長い茶髪が鼻にかかり、少々くすぐったい。

 

「……そっか、昨日一緒に寝ちゃったのか」

 

あの後、立香はひたすらアスナの話を聞き続けた。

 

今までの攻略戦のこと、これまでの愚痴、そしてこれからのこと。

 

立香も自分の事を話したし、聞いてもらった。

 

そうしていつしか疲れて、二人で揃って眠ってしまったのだ。

 

メッセージを確認すると、

 

『いつの間にか寝てしまうのは構いませんが、ちゃんと布団くらいは被ってくださいね』

 

と、マシュからのメッセージが届いていた。

 

「流石は私の愛しの後輩。優秀だねぇ」

 

にこやかに微笑み、再びアスナに向き直る。

 

「……ふむ」

 

相変わらず、どこまでも精緻で整った顔立ちだ。

 

普段から美男美女美少女に囲まれて生活してはいるが、アスナはその中でも上位に食い込める程だろう。

 

「とりあえず眺めてよ」

 

そう呟きながら立香がアスナの頬に手を当てると、アスナは僅かに微笑んだ。




お読みいただきありがとうございました

いやはや、百合百合してますねぇ、よろしいですねぇ(๑´ω`๑)ウヘヘ

……失礼致しました

それでは、また来週お会いしましょう


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誰か助けてくれ

どうも皆様

どう森スマホ版にどっぷりハマった雪希絵です

初めてどうぶつの森というものをやりましたが、結構楽しいものなんですね

さて、ここで皆様にお詫びがございます

今まで私は、大きな設定改変はしないように気をつけきました

やむなく変わってしまったところはありましたが、極力気をつけてきたつもりです

ですが、今回は自分の意思で流れを変えさせていただきます

どうかお付き合いください


「さてさて、今日も今日とて迷宮区へレッツラゴー!」

 

アスナが目覚め、朝食を食べた後に、いつものように迷宮区へ向かう。

 

しかし、

 

「あれ?クラディールとノーチラスは?」

 

昨日パーティーを組んだ二人がいなかった。

 

「あ、連絡来てたよ。先に向かってるって」

「先にって?」

「ボス攻略会議」

「「「「……はい?」」」」

 

カルデア組全員の声が重なった。

 

アスナ曰く、昨日深夜組が徹夜で攻略を進めていく中、ボス部屋を発見。

 

そのままメンバーを再招集して偵察。

 

すでに、これからボス攻略に行く算段がついているそうだ。

 

「はっや。ペース早っ」

「ここまでの階層になると、それほど弱いとも思えないが……」

「たぶん、みんなが血盟騎士団にいるうちに、攻略したいんじゃないかな?だから団長も早めにボス攻略の話を出したんじゃない?」

「なるほど。納得です」

 

話ながらボス攻略会議の行われる場所へと向かう。

 

そこには、すでに多くのプレイヤーが集まっていた。

 

少し離れてはいるが、キリトやクラディールを含めた血盟騎士団のメンバーの姿もある。

 

「……マスター」

「んー?」

「ノーチラスの姿が見当たりません」

「あれ?本当だ」

 

アルトリアに言われ、立香は周囲を見回す。

 

だが、どこにもノーチラスの姿はなかった。

 

「単純に遅れてるだけじゃない?」

「寝坊か。まったく、自覚が足りないな」

「オカンか!」

 

そんなこんなで騒いでいると、攻略会議がさっそく始まった。

 

今回の標的は巨大な鳥型。

 

猛禽類を思わせる見た目で、全身のベースは赤色で、ところどころに黄や紫の入った毒々しい色使いだそうだ。

 

目と目の間、額に当たる部分には閉じられたもう一つの目があったらしい。

 

「……ってことは、特殊攻撃ありっぽいね。第三の目って、いかにもビームとか視線攻撃とかしてきそうだし」

 

すっかり軍師ポジションに収まった立香がそう言う。

 

最初こそ反感を覚えていた攻略組の面々だったが、その洞察力と犠牲者を出さない作戦の数々に、今では逆らう者などいなかった。

 

「石化とかだったらぞっとしますね。状態異常に気をつけて前に出ます」

「最悪麻痺とかでスイッチ出来ない可能性もあるね……どうしよう、リツカちゃん」

「そうだねぇ……」

 

顔を覗き込みながらそう言うアスナに、立香は首を傾げて唸り声を上げる。

 

数十秒後、

 

「……壁、正面に配置するのやめよっか」

 

と、妙なことを言い出した。

 

「「「「「はい?」」」」」

 

そんな立香に、参加者達はキョトンとするしか無かった。

 

───────────────────────

 

隊列を組み、全員でボス部屋へと進軍。

 

手際よく、最短距離で行進し続け、ほとんどのプレイヤーがHP最大でボス部屋に到着。

 

最前線には、もちろんヒースクリフ。

 

「行くぞ、全員突撃!」

「「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」」

 

扉が一気に開かれ、盾役から先に部屋の中へなだれ込む。

 

次々と灯台に日がともり、部屋中央でポリゴンが形を作り始める。

 

それは大きく横に広がり、巨大な鳥型モンスターの形をとった。

 

ベースは真紅、羽には黄色や毒々しい紫色の羽が追加されている。

 

完全に形が完成すると、四本のHPバーが現れ、同時に正式名称がポップアップする。

 

『The Poison raindown』。

 

降り注ぐ毒。

 

「キェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

甲高い叫び声を皮切りに、ボス攻略戦が始まった。

 

「行きます!」

 

漆黒の盾を握り、白い衣装に身を包んだマシュが滑走する。

 

他の盾役プレイヤーも、それに続く。

 

「キァァァァァァ!!」

 

再び吠え、ボスはその巨大な翼を振るう。

 

次々と大量の羽が飛び出し、それ自体が意思を持っているかのように、プレイヤー達に襲いかかる。

 

「防御!」

 

ズシンッ、と盾を地面に叩きつけ、防御態勢。

 

今回のボスが遠距離タイプであることは、すでに分かっているのだ。

 

「総員、前進!」

 

羽はぶつかった先から撃ち落とされていき、進軍の速度を少々削ぐことしか出来ない。

 

「キェェェェェェェェェ!!!」

 

業を煮やしたのか、ボスは咆哮しながら一瞬だけ静止。

 

奇妙な物音を響かせ、額の目が開いた。

 

「来るよ!予定通りに動いて!」

 

そんな立香の声を掻き消すようにキン、キンと高い音が鳴った後に、

 

リィィィィィ────ン!!!

 

紫色の閃光が放たれた。

 

部屋を埋め尽くすように放たれたそれは、至近距離にいては目を細めざるを得ない眩しさだった。

 

それは固まっていた壁役プレイヤー達を捉え、HPを削る。

 

見た目の派手さの割に、あまり威力はない。

 

だが、

 

「う……ごけ……ない……!」

「体が……痺れて……」

 

状態異常付きだ。

 

麻痺、毒、一部石化、鈍化。

 

様々なバッドステータスが、プレイヤー達を襲う。

 

当然のように、ボスは追い討ちをかけようとするが……。

 

「どこ見てんの!」

「お前の相手はこっちだぜ!」

 

その前衛組とは、対称の位置に別の前衛組の方から声が上がる。

 

これこそが、立香の考案した作戦。

 

範囲攻撃で状態異常付き。

 

たしかに強力だが、だったら狙いを一つに定めさせなければいい。

 

そこで、前衛組を二つに分け、左右からボスを挟み込むように配置。

 

片側が状態異常で動けなくなれば、それが治るまでもう片側がヘイトを集める。

 

それをひたすら繰り返せば、ボスの状態異常攻撃をある程度無効化できる。

 

ボスのAIは、まだ動ける方の前衛組を脅威と判断。

 

巨大な鉤爪や羽を用いて攻撃を仕掛ける。

 

当然、それは防御され、隙が生まれる。

 

「攻撃開始!」

「「「「ぉぉおおおおおおお!」」」」

 

立香とアスナが率いる攻撃部隊が、ボスのHPを削りにかかる。

 

「せいやぁぁぁぁ!」

 

立香の拳が。

 

「はぁあああああ!」

 

アルトリアの不可視の剣が。

 

「ふっ────!」

 

エミヤの剣と槍が。

 

「やぁああああ!」

 

アスナの細剣が。

 

「おぉおおおおおお!!」

 

キリトの片手剣が。

 

その他大勢の武器が、ボスのHPを着実に削り取る。

 

(行ける、このペースなら勝てる……!)

 

攻撃を続けながら、立香がそう確信した時。

 

ボス部屋の扉が、開いた。

 

「!?」

 

近くにいた立香含む数人が振り返った先には、

 

「……ノーチラス?」

 

息も絶え絶えなノーチラスの姿が。

 

そんな立香達の驚きも無視し、ノーチラスは叫ぶ。

 

「誰か……誰か、ユナを……助けてくれ!」

 

悲痛な叫びが、ボス部屋の中にコダマした。




というわけで、原作ではかなり前の層の話をここでさせていただきます

そういったものが苦手な方、申し訳ございません

それでも、私はこの話が書きたかったのです

どうか、どうかお付き合いくださいませ

それでは、また来週お会いしましょう!


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あなたのファンです

どうも皆様

始めたはいいものの、忙しくてなかなかSAOのゲームが出来ない雪希絵です

土日マイクラやる暇あったらやればよかったのに...( = =) トオイメ

それはさておきまして

最近、オリジナル小説の書き溜めがようやく出来上がって来ました

別サイトで連載しているのですが、せっかく再開しようとした矢先にメモ消失事件でしたから……

近いうちに更新を再開したいと考えています

そうなった時、並行が難しいと考えた場合は、この作品の投稿頻度を下げることになってしまうかもしれません

そうなった場合は、どうぞご了承ください

それでは、ごゆっくりどうぞ


(ユナ……?あの子ことか!?)

 

ユナ。

 

様々な街に現れては、転移門前で歌を披露しているプレイヤー。

 

そんな彼女の歌は、心から楽しそうで、純粋に歌を楽しんでいるのが伝わってくる。

 

立香達も、密かに会えるのを楽しみにしていた。

 

それでも、話したことも、面と向かって会ったことすらない。

 

彼女が転移門前で披露していた歌を、何度か聞いたことがある程度。

 

されど、助けるのに仲の良さなど関係ない。

 

「アルトリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

立香が全力で叫ぶ。

 

「ここは私達でなんとかする!」

「アルトリアちゃん、お願い!」

「アルトリアさん!」

「セイバー!」

 

受け、斬り、避け、戦闘を続けながら、アルトリアに希望を託す。

 

「承知しました!」

 

アルトリアは強く頷き、ボス部屋の出口へ飛び出す。

 

剣を水平に構え、魔力放出の加速も使って。

 

立香の横を通り過ぎる直前。

 

「任せたよ!」

「はい────!」

 

そう、言葉を交わした。

 

───────────────────────

 

転移結晶を用いて、アルトリアは即座に目的の階層へ飛んだ。

 

ゲートを潜ったその瞬間、アルトリアは全力で駆け出した。

 

場所は、薄暗いダンジョンの底。

 

アルトリアは、己の直感だけを頼りに、ひたすら走った。

 

近くまで来ると、何が起きているかはすぐにわかった。

 

視界を埋めつくす、おびただしい数のモンスター。

 

「……あそこですね」

 

確信し、アルトリアは速度を上げるために、

 

「──────ふっ」

 

己の鎧を解除。

 

激増した魔力放出を伴い、駆ける、駆ける。

 

群れるモンスターの上を飛び越え、そして騒ぎの中心へ。

 

その瞬間、アルトリアは目にした。

 

茶髪の少女に斬り掛かる、モンスター。

 

鈍く輝く刃が、少女に振り下ろされる。

 

すでに覚悟は決まっているのか、それとも諦めたのか。

 

少女は静かに、目を閉じる。

 

まさに、その少女に凶刃が当たる寸前。

 

「はぁああああああああああ!!!」

 

鎧を外したことにより、全ての魔力を魔力放出に注ぎ込んだアルトリアが割って入る。

 

ギャリィィィィィィィィ────!!!

 

猛烈な摩擦音と、視界が掻き消える量の火花。

 

ギリギリのギリギリ。

 

後一歩遅ければどうにもならかった。

 

だが、アルトリアは間一髪間に合った。

 

「……あ……れ?」

 

ユナは何が起こったのか分からないという顔をしたあと、目の前のアルトリアに気がついた。

 

「あ、あなたは……?」

 

至極当然の問いに、アルトリアは肩越しに振り返って答える。

 

「……そうですね。あなたのファン、と言っておきましょうか」

 

そして、目の前の敵を睨みつける。

 

数えるのも馬鹿らしくなる数。

 

それでも、アルトリアは怯まない、揺るがない。

 

勢いよく駆け出し、その手に握った不可視の剣を振るう。

 

爆音と噴出音が鳴り響き、辺りを揺るがす。

 

アルトリアの一太刀一太刀が、莫大な威力を持っていることが目に見えてわかる。

 

「くっ……!」

 

それでも、HPは僅かに、ジリジリと減る。

 

避けきれない攻撃、受け損ねた剣戟。

 

数があまりにも多すぎて、どうしてもそういったダメージが発生するのだ。

 

「や、やめてください!このままじゃ、あなたまで……!」

 

当然のように、ユナは止めに入る。

 

そもそも、この数に一人で飛び込むこと自体がどうかしている。

 

それでも、

 

「それは無理な相談です。……私は、ここで退くわけにはいかない!」

 

アルトリアに諦める気は微塵もない。

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』────!!!」

 

詠唱し、モンスターの群れに向かって剣を突き出す。

 

解き放たれた風は、モンスターの群れを割くように直進。

 

いくつかのモンスターのHPを削りながら、部屋の中に微かな空間を作る。

 

そこに飛び込み、アルトリアは縦横無尽に剣を振るう。

 

「貴女はここで死んでいい人間ではない!」

 

休むことなく戦いながら、アルトリアは叫ぶ。

 

「貴女の歌は人々を励まし!」

 

剣を低く構え、かち上げるように斬撃。

 

ソードスキルが発動し、赤い閃光を纏った四連撃が繰り出される。

 

「貴女の歌で戦士達は鼓舞し!」

 

それは次々とモンスターを屠り、さらに直後の硬直時間を魔力放出で埋める。

 

「貴女の歌で傷ついた心は癒される!」

 

アルトリアは斬り続け、そして叫び続ける。

 

「貴女の存在が、貴女の歌が、このアインクラッドの希望の一つなんです!」

 

四方八方から繰り出される攻撃を、魔力放出だけで無理やり逸らす。

 

同時に一歩大きく踏み込み、常識外れの速度でユナの近くに飛び込む。

 

ユナを攻撃しようとしていたモンスターの胸を、不可視の剣が貫く。

 

「私はそんな貴女を救うためにここまで来た」

 

真上に切り上げ、モンスターの上半身が真っ二つになる。

 

ユナを真っ直ぐ見つめ、

 

「私は貴女を助けます。そして、貴女を彼の……ノーチラスの元へ連れていく。そんなことも出来ないで、何が騎士か!!!」

 

そう言い、踵を返して再びモンスターに向き直った。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉっ─────!」

 

水平に構えられた剣を真上に切り上げると、魔力放出の乗った衝撃波が放たれる。

 

それはモンスター達をやすやすと吹き飛ばし、直撃していないモンスターも動きを鈍くする。

 

その隙を逃さず、アルトリアは一気に距離を詰める。

 

「────ギャンッ!」

 

奇妙な叫び声を上げ、モンスター達は次々とバラバラにされる。

 

手を切り落とされ、足を両断され、首を飛ばされる。

 

当然のように、HPは猛烈な勢いで減らされていく。

 

やがて完全にゼロになり、破砕音を響かせて消えていく。

 

「……まだまだ、これからだろう?来ないのなら、こちらから行くぞ!」

 

剣を握り直し、アルトリアは未だ多くいるモンスター達に立ち向かった。

 

そんなアルトリアの戦闘は、どれくらい時間が経ったかも分からないまま。

 

長く長く、続いた。

 

最後の一体を切り払った時には。

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

片膝をつき、剣を支えに肩で息をしていた。

 

それでも、アルトリアは生き延びた。

 

ユナを、守り切ったのだった。




お読みいただきありがとうました

直感で居場所を当てるアルトリアすさまじい(;゚∇゚)

流石は直感A……書いた張本人ですけれど

それでは、また来週お会いしましょう!


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今日も歌が聞こえる

どうも皆様

朝起きたら床に居た雪希絵です

何よりも落ちたのに起きなかったことに驚きです

さて、今回はちょっと短めになります

キリよく終わろうと思ったらこうなってしまいました

それでもよろしければ、ごゆっくりどうぞ


「無事……ですね?ダメージなどは入っていますか?」

 

息がどうにか整い、アルトリアは振り返ってそう言う。

 

ユナはぽかんとした顔から我に帰り、ふるふると首を降って、

 

「だ、大丈夫です!あ、ありがとう……ございました……」

 

お礼を言いながらも、ユナは呆然としていた。

 

実に正常な反応だ。

 

いくら中層域とはいえ、モンスターによる数の暴力というのは、プレイヤーにとって最大の敵である。

 

中層プレイヤーどころか、攻略組ですら死亡するような、膨大な数の敵。

 

おまけに、ここは結晶無効化空間である。

 

即時回復も緊急脱出も許されない状況で、アルトリアは戦い抜いた。

 

そして、ただ一人で勝利したのである。

 

もはや尊敬や羨望を通り越し、畏怖すら感じるレベルの強さである。

 

「HPが随分減っていますね。今のうちに、ポーションを飲んでおいてください」

 

そんな内心は梅雨知らず、アルトリアはそう言って周囲を見回す。

 

敵がいないのは分かっているが、警戒するに越したことはない。

 

「は、はい……。わかりました」

 

そんなアルトリアの言うことに従い、ユナはアイテム欄からポーションを取り出す。

 

先程までは暇がなかったが、今なら飲めるだろう。

 

アルトリアもグリーンゾーンではあるが、一応ポーションをくわえている。

 

五分もあれば、HPはMAXになるだろう。

 

「アルトリア!」

 

そんな時、近くからアルトリアが聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「マスター!」

「アルトリア、アルトリア!」

 

名前を呼びながら立香が走り寄り、アルトリアに飛びつく。

 

「大丈夫!?HPは!?」

「お、落ち着いてください、マスター!私は大丈夫ですから!」

 

ぎゅーっと抱きしめ、立香は半分涙目でそう言う。

 

どうやら本気で心配していたようだ。

 

「ごめんね、ごめんね……!無茶させて、本当にごめんね……!」

「……マスター」

 

何度も何度も謝る立香に、アルトリアはうろたえる。

 

それでも、なだめるようにポンポンと頭に、恐る恐る手を置いた。

 

「……アルトリア?」

「ああ、いえ……なんでも。ご安心を、HPは充分残っていましたし、ユナも無事です」

「……そっか。良かった」

 

安心し、立香は息を吐く。

 

全く離れる気はないらしいが。

 

「それに……」

「それに?」

 

そんな立香に苦笑いしながら、アルトリアはユナの方を見る。

 

「ユナ!!!」

「あ……ノーチラス……」

 

ノーチラスがユナに駆け寄り、その身に触れようとして……直前でやめた。

 

そんなノーチラスの様子を見ると、ユナは黙って手を握り……微笑んだ。

 

直後、ノーチラスは崩れるように座り込んだ。

 

嗚咽を漏らし、ぱたぱたと涙が落ち続ける。

 

肩を震わせるノーチラスは、ユナの胸に抱かれて、長く長く泣き続けていた。

 

「……こうして、この光景を守り抜けたんです。危険を犯した意味はあったはずです」

「……うん。そうだね。そうだと思うよ」

 

そう言い合い、二人は微笑んだ。

 

───────────────────────

 

「……すまなかった。本当に感謝してる」

「いえ。騎士として当然の務めです」

 

迷宮区を出ると、すぐにノーチラスが頭を下げた。

 

道中、何が起きたのか詳しく聞いた。

 

攻略組がボス部屋に行った後、閉じ込めトラップが発動してあるパーティーが全滅しかけた。

 

ユナ達はその救出に向かったが、多勢に無勢で自分達がやられそうになってしまった。

 

そんな中、ユナはモンスターを吟唱スキルによって引き寄せ、囮となってパーティーを逃がした。

 

ノーチラスはそんなユナを救出しようとしたが、フルダイブ不適合症の症状『恐怖心が優先してナーヴギアに読み取られる』というものが発動し、動けなくなってしまった。

 

他のメンバーは救出を拒み、大急ぎで回廊結晶を使って、ボス部屋で救援を要請した……ということらしい。

 

「っていうかさ、なんでボス部屋前の回廊結晶なんて持ってたの?」

 

立香が尋ねる。

 

「ああ……これでも、攻略組の端くれだ。なんとか、ボス戦に途中からでも参加出来ないかと思って……あらかじめ設定しておいたんだ」

「なるほどねぇ」

 

納得したように頷き、立香はアルトリアの手を引く。

 

「マスター?」

「あとはお若いお二人で……ってね?じゃあねー、お二人さん」

 

振り返らず手を振りながら、立香はアルトリアを連れて街の方へと歩いて行く。

 

ノーチラスはそんな二人の背中を見つめ続け、ユナは深々と頭を下げ続けた。

 

その後、ノーチラスは血盟騎士団を離脱。

 

同時に攻略組からも退いた。

 

しかし、深夜になれば。

 

「〜〜♪〜〜♪」

 

またどこかの街で、透き通るような歌声が聞こえてきていた。




お読みいただきありがとうございました

もう12月に入って、結構日にちが経ちましたね

この頃になるとだいたい体調を崩すので、気をつけたいと思います

皆様も、お身体にはお気をつけください

それでは、また来週お会いしましょう!


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リズベット武具店

どうも皆様

最近やたら目が痛い雪希絵です

目が疲れているんでしょうか……

さて、今回もお話が飛びます!

申し訳ございません!

それでも宜しければ、ごゆっくりどうぞ!


「せいやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

今日も、迷宮区内に気合いがコダマする。

 

攻略層はとうとう六十層を突破。

 

その最前線で活躍し続け、今や一躍有名人となった立香たち。

 

結局、血盟騎士団には入らず、自分たちだけで活動している。

 

それでも、その知名度は相当だ。

 

桁違いの機動力と、それにも劣らない攻撃力を持つ立香。

 

攻撃、防御、スピード、剣技、全てにおいてトップクラスの水準を誇るアルトリア。

 

防御力だけならヒースクリフすら超えるとも言われるマシュ。

 

多彩な武器とソードスキルを自在に使いこなし、まだまだ底見えぬ実力を秘めたエミヤ。

 

おまけに、SAOでもトップクラスの美男美女揃いである。

 

そんな四人はいつしか、攻略組どころか、中層下層プレイヤーにも知られるようになっていった。

 

「マスター、今日は張り切っていますね」

「今日は、ではないな。いつもだ」

「先輩は元気なのが一番です」

 

あっちへこっちへ走り回り、拳と脚を振るう立香に対し、サーヴァント組がそう言う。

 

ちなみに、今はボス戦に向けてのレベリング中である。

 

同時に欲しい素材もあるため、こうして迷宮区内を周回しているのだ。

 

現在の最前線は六十四層。

 

今はそこの迷宮区にいるのだ。

 

「とぉりゃあああああああああ!!!」

 

最前線にも関わらず、立香は暴れに暴れる。

 

というのも、最近服装をアトラス院制服から魔術協会制服に変えたのだ。

 

おかげで動きやすくて仕方ないらしい。

 

立香の拳が白いライトエフェクトと共に、敵に叩き込まれる。

 

一回転するような勢いで地面に叩きつけられ、モンスターはポリゴンの破片となって砕け散った。

 

「いぇーい!ぶいっ!」

 

腰に手を当て、片手でピースサインを作る立香。

 

他三人も微笑みで返す。

 

今日も立香はご機嫌である。

 

だが、

 

バキッ………

 

という小さな音が響く。

 

やけに生々しく、嫌な予感を掻き立てられる音だ。

 

全員がダラダラと汗を流しながら、音の発生源を見る。

 

それは、立香が身につけている手甲だ。

 

白地に赤色のラインが入っており、薄手だが強度は折り紙付きだった。

 

しかし、それにヒビが入っている。

 

大きなものではないが、このまま使えば間違いなく壊れる。

 

「……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!アスナに貰った手甲がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ま、マスター!落ち着け!落ち着いて素数を数えるんだ!」

「エミヤさんも落ち着いてください!素数では間違いなく先輩は落ち着きません!」

 

ぎゃあぎゃあと大騒ぎし、立香は慌てて手甲を外す。

 

裏側まで達している傷を見て、目に見えて落胆する。

 

「はぁ……気に入ってたのに……」

 

ガックリと肩を落とし、瞳には涙すら浮かびかけている。

 

エミヤもマシュも、何を言ったら良いかという顔をしている。

 

「あの、マスター?」

 

そんな立香に、アルトリアが遠慮がちに声をかける。

 

「……修理に出せば良いのでは?」

 

そして、極々当たり前のことを言った。

 

「…………それだ!!!」

「…………それです!!!」

「え、えぇ……?」

 

慌て過ぎて思いつかなかったようで、立香とマシュが全力で肯定する。

 

エミヤは分かっていて乗ったらしい。

 

今はすまし顔をしている。

 

「よし、そうと決まれば帰ろう!すぐ帰ろう

そして『リズベット武具店』へGO!」

 

ダッシュで迷宮区の出口に向かい、道を塞ぐモンスターを蹴り一発で弾きながら、立香は出口に向かう。

 

「ま、待ってください!先輩!」

 

マシュは慌ててその後を追った。

 

「……行きますか、アーチャー」

「……そうしよう、セイバー」

 

そんな二人の後を、アルトリアとエミヤは苦笑いでついて行った。

 

───────────────────────

 

「リズぅぅぅぅぅぅぅ──────!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

アインクラッド第四十八層、リンダース。

 

その街中にある、大きな水車が特徴的な一軒の鍛冶屋。

 

その店主であるチェリーピンクのボブが特徴的な美少女『リズベット』は、突然の来訪者に持っていたコーヒーを落としそうになった。

 

「ちょ、ちょっと、リツカ!あんたまでアスナみたいに唐突に入ってくるようになったわけ!?あたしの言う事聞いてよ!」

「そんなことはいいの!」

「そんなことって何よ!」

「これ!これ直してぇ!」

 

涙目の立香が差し出したのは、見覚えのある手甲。

 

何を隠そう、アスナがこの手甲の手直しを頼んだのは他でもない、リズベットである。

 

「……ふーん、なるほどね。ちょっと見せて」

 

リズベットは真剣な顔つきになり、立香から手甲を受け取る。

 

あちらこちらを触り、見聞しながら、リズベットはふむふむと声を出す。

 

そして、

 

「うん、これなら直るはずだわ」

 

と言った。

 

「本当!?ありがと、リズ!」

 

目を輝かせて喜び、リズベットに飛びつく。

 

「うわっ!ちょ、ちょっと、急に抱きつかないでよ、リツカ!」

「だって嬉しいんだもん!」

 

挙句の果てには頬ずりまでしだした。

 

「ああ、もう!作業に入るから、とりあえず離れて!」

 

痺れを切らし、リズベットは立香を引き剥がして修理に取り掛かった。

 

立香とリズベットは、アスナの紹介で出会った。

 

サーヴァント組に武器は必要ないのだが、どうやら手入れはしておいた方が良かったらしい。

 

とはいえ、エミヤはその必要はないが。

 

そうして手入れなどをしてもらう内に、立香とリズベットは仲良くなっていったのだ。

 

「……よし、こんなもんか」

 

しばらくして、リズベットが立ち上がった。

 

「ほら、終わったわよ」

 

くるりと振り返り、手甲を手渡す。

 

「おおっ!すごい!ピカピカ!」

 

新品のように綺麗になった手甲に、立香も大満足だ。

 

「ありがとう、リズ!本当に、本当にありがとう!」

「はいはい。またヘタレて来たら持ってきなさい。あたしが研いであげるから」

「うん!あ、そうだ。この後暇?お茶しようよ」

「ん?別にいいわよ」

「よーし、なーに話そっかなー」

「ま、じっくり考えんなさい。コーヒー入れ直すから」

「はーい!」

 

そうして、そこにアルトリア達も合流し、結局夜遅くになるまで話し続けていた。




お読みいただきありがとうございました!

最近SAOキャラクターラッシュですね

序盤で全然絡められなかったので、個人的に書いていて楽しいです

それでは、また来週お会いしましょう!


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アスナが苦手なもの

どうも皆様

私の身体はどんだけ疲れているんだと思い始めた雪希絵です

寝落ちしておりました、大変申し訳ございません

もう……謝るしかできなくて本当にごめんなさい

記念すべき50話になんてことを……

それでは、ごゆっくりどうぞ


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

迷宮区に絶叫が響く。

 

「きゃぁぁぁああああ!!?」

 

何度目になるか分からないが、もう二桁は確実に超えている。

 

「うぅ……リツカちゃぁん……」

 

立香の右腕にしがみつくアスナ。

 

嬉しいことこの上ないが、動きづらいのは少々マズい。

 

「……どうしてこうなった?」

 

薄暗く、陰湿なイメージで染まった迷宮区内で、立香は首をかしげた。

 

───────────────────────

 

時間は一時間ほど前に遡る。

 

アインクラッド攻略は第六十五層に至った。

 

早速迷宮区を覗きに行こうと、立香達は人を待っていた。

 

アスナから誘いがあったのだ。

 

ちなみに、

 

「しっ────!」

「はぁ────!」

 

今回はキリトも(立香が無許可で)呼んでいるのだが、

 

「ぐぅ……おぉ!」

「ふっ────」

「……ああもう!このバトルジャンキー共がっ!」

 

会うや否や、挨拶もそこそこにデュエル中である。

 

ちなみに相手はエミヤ。

 

人通りのないところで戦っているため、エミヤはバッチリ二刀流である。

 

「くそっ、なんて剣技だ……!何より剣速が半端じゃないぜ……!」

「そちらこそ、大したものだ」

「まだまだだ。……出来れば、使いたくなかったんだけどな!」

 

そう言いながら、キリトはメニューを弄って二刀流を装備。

 

「わっ、ちょ、先輩!?」

「ま、マスター、見えません!ホットドッグが!」

 

二人の目は立香がさっと隠す。

 

マシュとアルトリアなら言いふらすことはないが、キリトの気持ちの問題である。

 

少しだけ向かい合い、剣を構える。

 

そして、同時に駆け出す。

 

火花が舞い散り、辺りに飛散する。

 

左右の剣を縦横無尽に振るい、空を切る音が、辺りを揺るがす程に起こる。

 

右手の剣で受け、左の剣で突き。

 

時には左右の剣を合わせて防御する。

 

激しい斬り合いが繰り返される。

 

「……お待たせー、リツカちゃん。って、リツカちゃん!?」

「私の手2本しかないんだけど。二人とも勘弁してくれない?」

 

そんな立香の願いも届かず、デュエルはひたすら続く。

 

「おぉぉぉぉっ!」

 

キリト渾身の突きが炸裂する。

 

轟音が唸りをあげ、エミヤに迫る。

 

「……そこだっ!」

 

瞬間、エミヤは小さくかがみ込む。

 

すくい上げるようにキリトの剣をはね上げる、軌道を逸らす。

 

「しまっ……!」

 

エミヤの剣がキリトの腹部を切りつける。

 

HPがイエローゾーンに到達し、デュエル終了を告げる表示が現れる。

 

「負けたか……。やっぱり、スキルの熟練度が足りなかったかな」

「いや、充分に強かった。大したものだ」

「ありがとう。今度リベンジするぜ」

「ああ、受けて立とう」

 

二人はにこやかに笑って武器をしまう。

 

「はぁ、やっと終わった」

 

言いながら、立香は三人から手を離す。

 

「先輩、どうしたんですか急に」

「いやぁ、ごめんごめん。気にしないで」

 

話をサラッと逸らし、立香はデュエルをしていた二人に駆け寄る。

 

「もう、二人とも。腕試しはいいけど、本気になりすぎるのはやめてよね」

「す、すまない……」

「つ、つい……」

 

すっかり立香に躾されている二人は、怒られて焦る。

 

そんなキリトに、アスナが気がついた。

 

「あ……き、キリトくん……」

「あ、アスナ?ひ、久しぶり……」

「う、うん……」

 

沈黙が降りる。

 

俯きながら、あさっての方向を見ながら、二人は押し黙る。

 

(……別れてから偶然再会したカップルか!?)

 

盛大にため息をつく立香。

 

「ほらほら、行くよ!せっかく久しぶりに同じパーティーになったんだから、ちょっとはやる気出して!」

「わわっ、お、押さないでよ、リツカちゃん!」

「待て待て!自分で歩くから、歩くから!」

 

そんなこんなで慌ただしく一行は迷宮区へ。

 

その方向へ進むたびに、どんどんと辺りは暗くなっていく。

 

より鬱蒼と、より陰湿な空気に変わっていく。

 

「ね、ねぇ、立香ちゃん……。本当にこっちであってるの?」

「あってるあってる。こっちで間違いないよ」

 

小刻みに震えるアスナ。

 

「大丈夫?寒いの?」

「う、ううん、平気……」

 

立香はアスナの方をチラチラと見ながら歩いていると、迷宮区へとたどり着いた。

 

のだが。

 

「…………ここ?」

 

アスナが震え声で言う。

 

目の前に現れたのは、まさしく城。

 

といっても、おとぎ話のような綺麗な白亜の城ではない。

 

古ぼけた、おどろおどろしい見た目。

 

今にも剥がれそうな外壁が、窓から覗く影が、這い回るツタが、より一層の恐怖を煽る。

 

「まさしく幽霊城って感じだね。ホーン〇ッド〇ンション?いや、タ〇ーオブ〇ラーみたいな感じ?」

「マスター、その発言は色々と危ない」

 

エミヤが若干慌てながらツッコミを入れる。

 

「いかにもゴースト系が出そうだな」

「ひっ……!」

「アンデッドも出そうですね……」

「いやぁ……」

 

敵の予想が展開される度に、アスナが頭を抱える。

 

どうやら、アスナはこういったホラー系が得意ではないようだ。

 

(大丈夫かな……)

 

そう心配しながら、立香は早速古城の中に入って行った。




お読みいただきありがとうございました

アスナのビビってる姿が書きたくてこうなりました

ちょっとだけ、この先もこの話が続きます

それでは、また来週お会いしましょう!


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いつもの悪巧み

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願い致します!

雪希絵です!

いやはや、なんだか昨年1年はとても早かったように思います

思えば、昨年は1年間、この小説と向き合って来たんですよね

これからも、出来うる限り続けて行きたいと思います

皆様、よろしければ、どうぞお付き合いください!

それでは、ごゆっくりどうぞ!


そういうわけで古城ダンジョンの中に入ったわけだが、

 

「キシャアァァァァァッ!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ゴースト系モンスターが、曲がり角から飛び出して来た。

 

それはまさしくホラーゲームやお化け屋敷のようで、アスナは大きな悲鳴を上げて逃げる。

 

安心するのか、立香の腕を掴んで涙目になっている。

 

「……ねぇアスナ?とてもとても、いやこれもう天国かってくらいに嬉しいけどさ。大丈夫?一回出ようか?」

 

ふるふると震えるアスナを見ながら、立香はそう言う。

 

「だ、大丈夫……。大丈夫だからぁ……!」

「そんな可愛い泣き顔で言われても説得力皆無なんだけど……」

 

美少女の泣き顔とは、人によってはなかなかにそそるものである。

 

先に進むごとに、どんどんドッキリ要素が増えていく。

 

まるで製作者の悪意がそのまま具現化したかのように、次から次へとゴーストモンスターが現れる。

 

それは軍隊のように群れをなしている訳ではなく、絶妙なタイミングで脅かしに来ているという意味だが。

 

「うぅ……もういやぁ……」

 

叫び過ぎて疲れたのか、若干死んだような目をしているアスナが呟く。

 

「マスター、モンスターの討伐完了しました」

「うん、ありがとマシュ。ほら、もう目開けていいよ、アスナ」

 

もうすっかり慣れたもので、モンスターが現れる度に立香が目を閉じるように指示している。

 

一応、アスナも慣れてはきたようで、先程よりは絶叫しなくなってはいる。

 

「……ふむ」

 

そんなアスナを見て、そして気味悪そうではあるが割と平気そうな顔をしているキリトを見て、立香は口の端を釣り上げる。

 

そして、アルトリアとエミヤは立香の横顔を見て、

 

「「……ああ、何か企んでる顔だ」」

 

そう考え、これから起こるであろうひと騒動に、盛大にため息をついた。

 

マッピングを進め、もう少ししたら帰還しようかという時。

 

「はあぁぁぁ!」

 

アルトリアの剣がゴーストを捉える。

 

上下に真っ二つに切り裂かれ、ゴーストが声もなく崩れ落ちる。

 

「『投影開始(トレースオン)』」

 

エミヤの周囲に無数の剣が現れ、モンスターに向かって飛来する。

 

それはモンスターに突き刺さり、飛び穿ち、そして貫いていく。

 

「おおっ!」

 

キリトの剣が青く輝く。

 

ソードスキルが閃き、青い閃光を靡かせてモンスターを切り刻んでいく。

 

「戦闘終了、お疲れ様でした」

 

マシュがそう言い、全員が武器を収める。

 

「……いや、まだだ!」

 

立香がそう叫び、超速で前に飛び出す。

 

ダンジョン自体が暗いため、立香の姿はすぐに消えてしまう。

 

「先輩!」

 

マシュもそれについて行く。

 

金属音のようなものだけが響き、時折火花が五人のいる所まで飛んでくる。

 

「マスター、加勢するぞ!」

「私も行きます!」

 

エミヤとアルトリアが、その中に飛び込む。

 

「リツカ!マシュ!」

「エミヤさん!アルトリアちゃん!」

 

二人が叫ぶが、金属音が轟くばかりで、何も返事がない。

 

「くそっ!俺も加勢する!」

「ダメっ!逃げて!」

 

立香の叫び声。

 

「モンスターの数が多い……!私達も隙を見て逃げるから、行って!」

「……で、でも!」

「いいから!近くの安全地帯に!」

 

そう言われ、目と目を合わせる二人。

 

「どうする、キリト君」

「決まってる、助けに行く!」

 

アスナは神妙に頷き、剣を抜く。

 

キリトもそれにならい、背中の剣を抜き放つ。

 

「行くぞ!」

「うん!」

 

まるで最初期の頃に戻ったかのように、二人は並んで四人の元へと駆けた。

 

その先で待っていたのは、

 

「はーい♪いらっしゃーい♡」

 

実に楽しそうな表情をしている立香だった。

 

近くで渦巻くのは、見覚えのある青色の渦。

 

見慣れた転移結晶より、色が濃い。

 

「回廊結晶……!?」

 

そう、指定した場所に相手を飛ばす回廊結晶だ。

 

勢いつけすぎた二人は、吸い込まれるように回廊結晶に向かい……

 

「いってらっしゃーい♪」

 

そう満面の笑みで言う立香の声を最後に、完全に飲み込まれてしまった。

 

そう、全ては立香の計画通り。

 

転移先は探索の途中で見つけた安全地帯。

 

ただし、レベル1かつ全く攻撃してこない敵モブが湧いている。

 

そうして、それがダンジョンとは比にならないほど絶妙に驚かしてくる……らしい。

 

実はアスナが入るのを断固拒否したため、入ってはいないのだ。

 

結局、立香がダッシュで駆け抜けて走破した結果、入ると入口からは出られないこと、そしてそこそこ長いこと。

 

端的に言えば、完全にお化け屋敷だった。

 

「ふっふっふ……この吊り橋効果さえあれば、二人は間違いなくラブラブになるはず……!」

 

そう計画した立香は、わざわざマシュやアルトリア、エミヤと組手のように戦う芝居までして、この状況を作ったのだ。

 

「よっし!出口の方に回り込むよ!迎えに行かなきゃね!」

そうして、返事も待たずに駆け出してしまった。

 

「……ちょっかいは出さないのではなかったのか、マスター」

「先輩……」

「嘆いていても仕方ありません。ここはマスターに従って、素直に出口へと向かいましょう」

 

サーヴァント組は大きくため息をつき、やっぱり予想通りになったと頭を抱えていた。




お読みいただきありがとうございました!

二人にラブラブして欲しかったので、こういう展開になりました

さて、どうなることでしょうか

それでは、また来週お会いしましょう!


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お化け屋敷へIN

どうも皆様

ついつい更新日を忘れてしまっていた雪希絵です

いや、いつかやらかすのではと思っていましたが……23時5分に気がつきました

そして、残り50分程で書きました

そんな紙クオリティでよろしければ、ごゆっくりどうぞ


「きゃっ!」

「うおっ!」

 

見事にお尻から落下し、アスナとキリトは短く悲鳴を上げた。

 

「よいしょっと……アスナ、大丈夫か?」

「う、うん。平気だよ」

 

痛みはないので、二人はすぐに立ち上がる。

 

辺りを見回してみると、

 

「ひぃ……!」

 

アスナが短く悲鳴を上げた。

 

カタカタと震えるアスナの様子から、キリトがその心情を察する。

 

まず、この場所は明かりが限りなく少ない。

 

もちろん、先も見えないほどというわけではないが、迷宮区よりもかなり暗い。

 

加えて、内部の構造が不気味だ。

 

迷宮区はいかにも古い城といった感じで、蜘蛛の巣やら妙な絵やらがあり、不気味さを駆り立てていたが。

 

「……ほとんど、何もないな」

 

周囲に、そんな類のものは見当たらない。

 

ほとんど先の見えない、一本道が続くだけである。

 

それが逆に不気味で仕方ない。

 

アスナが悲鳴を上げるのも当然と言えば当然だった。

 

「な、なぁ、アスナ」

「ひゃいぃ!?な、なに……?」

「あ、うん。ここどこかなぁ……って……」

 

ちょっと声をかけただけでこの驚きようである。

 

気の利いた言葉でもかけてやれば良いものを、自称コミュ力レベル1のキリトはどうしたら良いかわからないのだ。

 

「た、たぶん……リツカちゃんが一人で走破してきた安全地帯……じゃないかな?」

「あー……なるほど。ってことは、ゴールまで行かないと出られないのか……」

「いやぁぁぁ……!」

「お、落ち着けアスナ……」

 

キリトは前に進もうとするも、アスナがなかなか動き出せない。

 

「……アスナ。その、見えなくなると危ないから……」

「え……?」

 

若干恥ずかしそうにしながら、キリトはそっぽを向く。

 

「……その、コートの裾を掴んでて、もらえないか?」

 

しかし、ここで手を繋ごうとしないヘタレである。

 

「……う、うん?」

 

よく分からない提案に、アスナも思わず首を傾げるが、一応その通りにする。

 

「よし、行こう」

「うん……!」

 

覚悟を決めて一歩踏み出す。

 

心もとなさ過ぎる明かりを片手に、キリトが先導して歩き始めた。

 

直後、

 

「……キミハドコカラキタノ」

 

アスナの真横に、顔が現れた。

 

それは闇に浮かぶように、顔だけ(・・・)がそこにあった。

 

もはや黒い穴だけと化した眼窩と口は、笑み浮かべているように見えた。

 

「……あ、あ……あ……」

 

状況が整理できず、アスナは硬直する。

 

「ドコカラキタノ」

「……アスナ!」

 

繰り返される言葉に、振り返って硬直していたキリトが強く手を引く。

 

「あ……!」

 

思わずアスナの鼓動が跳ねる。

 

だが、

 

「ドコカラキタノドコカラキタノドコカラキタノドコカラキタノドコカラキタノドコカラキタノドコカラキタノ」

 

そんなものかき消してしまう程に、背後から特段の恐怖が迫ってきていた。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「こ、これは流石に俺も怖い!!」

 

お互いの高い敏捷値を極限まで活かし、全力で走る。

 

ちなみに、立香はこの顔が現れた時はペタペタと触りながら、

 

「わー、冷たー。というか、ぜんっぜん触り心地良くないね」

 

と、呑気な感想を言っていたという。

 

随分と走り、どこをどう曲がったのかも分からなくなってしまったころ。

 

二人はようやく立ち止まった。

 

「ぜー……ぜー……!」

「はぁ……はぁ……!」

 

荒く息を吐き、壁に持たれる。

 

しばし息を整えた後、

 

「「あ……」」

 

繋いだままだった手に、同時に気がついた。

 

「あ、ご、ごめん!」

 

キリトは反射的に離そうとするが、

 

「ま、待って!」

 

アスナがぐっと握り返す。

 

「アスナ……?」

 

アスナの顔を見ると、耳まで赤く染まっていた。

 

「……こ、このまま、繋いでても……いい?」

「え……?あ、うん……。う、うん」

「こ、怖いから!怖いからだよ!?」

「う、うん……」

 

何度も頷くキリト。

 

「……その」

「な、なに?」

「一応……ありがとう……」

「お、おう。どういたしまして」

 

そうして、二人は手を繋いだまま歩き始めた。

 

その後も、モンスター達の猛攻(?)は続く。

 

行く先行く先で、次々に現れては驚かし、そして消えていく。

 

しかし、慣れたのか、はたまたそれ以外の何かによるのか。

 

アスナも、だいぶ落ち着いていた。

 

一方キリトは、

 

(落ち着かない……!)

 

別の意味でドキドキしていた。

 

手から感じるアスナの体温、柔らかな手自体の感触。

 

必然的に距離も近くなっているため、キリトは緊張しっぱなしである。

 

そんなこんなで、15分程歩いたころ。

 

「あ!キリトくん、あれ出口じゃない?」

「本当だ!扉がある!」

 

古ぼけたデザインで、まるで習字で書かれたように『出口』と書かれた扉。

 

どこからどう見ても出口には間違いなかった。

 

「よし、行こう、アスナ!」

「うん!」

 

しかし、二人は気がついていなかった。

 

これだけ驚かすこのお化け屋敷が、こんなに簡単に出してくれるわけがないということを。

 

「あれ?開かない……」

「ど、どういうことだ?」

 

ズル…………ッ!

 

「ん?」

 

まるで思い何かを引きずるような音が聞こえた。

 

ズルズル………ッ!

 

「あ………あ………!」

「な………んだよ……これ……」

 

絶句する二人の前には、肉塊が転がっていた。

 

赤色のブニブニとした見た目。

 

それは、一定の距離まで近づくと。

 

「キャ…………」

 

一斉に大量の目を開き、

 

「キャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!!」

 

奇妙な声で高笑いし始めた。

 

「ヒッ………………!」

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」」

 

飛びかかってくるそれに、二人は大きな悲鳴を上げる。

 

「出して!出してよぉぉぉぉおおお!」

「くっそ……こうなったら蹴破り……!」

 

ガチャガチャと扉を揺すり続け、その化け物が二人に着弾する寸前。

 

「「うわぁ!?」」

 

唐突に扉が開き、二人は外に投げ出された。

 

「おっかえりー!二人とも」

 

そこには、ニコニコとしている立香と、心配そうなサーヴァント組の姿が。

 

「どうだった?楽しかった?」

「「そんなわけないでしょ!」」

「あら、息ぴったり」

 

ほほほ、と聞いたことのない笑い方をする立香。

 

「こんなの楽しいわけないよ!どうしてあんなところに私を放り込んだの!?」

「いやいやー、出来心で」

「幾ら何でもタチが悪すぎる……」

 

涙目のアスナ怒鳴られ、立香はニコニコと返す。

 

そして、二人を指さしながら。

 

「そーんな体勢で抱き合ってる二人に言われても、説得力なんかないよー?」

 

ニヤー、と口の端を吊り上げながら、立香はそう言う。

 

「「……………!?」」

 

二人は今、キリトの腕の中にアスナがすっぽり収まる形で、抱き合っていた。

 

倒れた拍子に、どうやらそうなったらしい。

 

「お二人共、随分お楽しみのようですねぇ?うっふっふっふ」

「「ち、違ーーーーーう!!!」」

 

二人の大きな否定の声が、迷宮区にコダマした。




お読みいただきありがとうございました!

二人を上手くイチャイチャさせられたでしょうか?

時間も時間なので、恐怖描写もラブラブも紙クオリティはご容赦ください

それでは、また来週お会いしましょう!


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物語は動き出す

どうも皆様

最近やたらとオロナミンCが美味しい雪希絵です

疲れてるんですかね……?

今回、例によってかなり話が飛びます

そして、とうとう皆様お馴染みの話に入っていきます

それでは、ごゆっくりどうぞ!


あれから随分時が経った。

 

一体どれだけの人が犠牲になったのだろうか。

 

一体どれだけの人が泣き叫んだのだろうか。

 

それでも、彼らは戦い続けている。

 

己の命のため。

 

自らの願いのため。

 

何よりも、この世界から解放されるために。

 

VRMMORPG『ソードアート・オンライン』サービス開始より約二年。

 

現在の階層、第七十四層。

 

物語は、大きく動き出す。

 

───────────────────────

 

「おろ?」

 

迷宮区からの帰り道。

 

立香は不意に立ち止まって、ある方向を凝視する。

 

「どうしました?先輩」

 

それに気がついたマシュが、一緒に立ち止まる。

 

「しっ……」

 

唇に指を当て、立香は鋭く息を吐く。

 

「……あれ」

 

そして、自分が見ていた方向を指さした。

 

そこには、ウサギに似た白色のモンスターがピョンピョンと飛び回っていた。

 

「あれは……『ラグーラビット』……でしたか?」

 

マシュがそう言うと、アルトリアが音こそないが凄まじい勢いで振り返る。

 

『ラグーラビット』は、SAOでS級食材と呼ばれる程の美味らしい。

 

食べたことなどないので分からないが、そんな食材をアルトリアが逃がすわけが無い。

 

「アーチャー!」

「小声で叫ぶとは器用だな……」

 

ため息をつきながら、エミヤは黒弓と矢を投影して構える。

 

ギリギリ、と弦が音を鳴らす。

 

ラグーラビットは相変わらずピョンピョンと縦横無尽に飛び回り、どこに飛ぶかも分からない。

 

だが、一流の弓兵にとって、そんなものは関係ない。

 

「……しっ!」

 

短い気合いと共に、矢が放たれる。

 

それは音もなく真っ直ぐにラグーラビットに向かい、深々と突き刺さる。

 

そして、ラグーラビットはパタリと倒れた。

 

「よっし!」

「やりました!」

「流石です、アーチャー!」

 

先程までのラグーラビットのように、ピョンピョンと飛び跳ねる女性陣。

 

早速立香が回収し、アイテム欄に放り込む。

 

「これでよし!早速帰って調理して食べよう!」

「はい!」

 

スキップしながら、立香とアルトリアは街の方へと急ぐ。

 

「……食べ物のことになると、やはりアルトリアさんは……その、素直になりますね」

「オブラートに包む必要はないぞ、マシュ。彼女は単純に、食いしん坊なのだ」

 

苦笑いのマシュに対し、エミヤはため息をつきながらそう言った。

 

───────────────────────

 

「どうせなら、アスナとエミヤ二人に作って貰わない?確実に超美味しいよ」

「賛成です!」

 

街に到着した。

 

今まで先行していた立香の一言に、アルトリアが即座に同意する。

 

「んじゃあ、そうと決まれば早速アスナの家へGO!」

「はい!」

 

流れるような動作で、転移門に飛び込んで行った。

 

「……行きましょうエミヤさん」

「……私は、あの子の育て方を間違えたのだろうか……」

「エミヤさん。色々と認識が間違っています、しっかりしてください!」

 

半ば狂いかけているエミヤを揺すりながら、マシュは転移門へと急いだ。

 

通いなれたアスナの家に到着すると、いつもの如く扉をノックした。

 

「……はーい」

 

しばらくして、アスナが扉を開けて出てきた。

 

「やっほー、アスナ。こんばんは」

「立香ちゃん!こんばんは。どうしたの?」

「ん、ちょっとお願いが……って、あら?ひょっとして料理中?」

 

私服姿でエプロンを身につけているアスナに、立香はそう言った。

 

「うん。今始めたところだよ」

「そっか。じゃあ、ついでにこれも調理して貰えない?」

「え?どれ?」

「まーまー。とりあえず中に入れてよ」

「あ、うん。どうぞ!」

「お邪魔しまーす」

 

カルデア組が全員家の中に入ると、

 

「ありゃ?キリト」

「リツカ?それにアルトリア達も。どうしたんだ?急に」

 

そこにはキリトがいた。

 

「いや、私はちょっと食材を調理してもらおうと思ってさ」

「食材?」

「そう。これ」

 

言いながら立香はアイテム欄を操作し、先程捕らえた食材を取り出した。

 

「はいこれ」

「「…………え?」」

 

短く声を出し、顔を見合わせる二人。

 

「な、なぁ、リツカ?これってひょっとして……」

「うん、ラグーラビット」

 

えへん、と胸を張りながら立香は頷く。

 

ラグーラビットは相当に美味な分、遭遇率も桁違いに低いレアモンスターだ。

 

オマケに、かなり逃げ足が早い。

 

発見し、捕まえたともなれば、威張りたくなるのも当然だ。

 

「……どしたの二人とも」

 

硬直する二人に、立香が目をぱちくりしながらそう言う。

 

「「……ふふふっ」」

 

すると、二人は唐突に吹き出した。

 

大きくはないがしばらく笑い続ける。

 

「あの、お二人共……?」

「あ、違うの。ちょっと、こんな偶然あるんだなぁって」

「まさか、一日に二人がラグーラビットを捕らえた上に、それが知り合い同士なんてな」

「ん……?ということは、まさかキリトも?」

 

アルトリアの問いには答えず、アスナはキッチンに向かう。

 

そうして持ってきたのは、立香が持っているものと同じラグーラビットの肉だった。

 

「……あらま」

「今からこれでシチューを作るところだったんだ。立香ちゃんの捕ってきたラグーラビットも使って、どうせならみんなで食べない?」

「どうかな?みんな」

 

アスナの提案に、立香が三人の方を振り返る。

 

「私は構わないぞ。作りがいがありそうだしな」

「私も良いと思います。気の合う仲間との食事は楽しいものですし」

「私もアルトリアさんに賛成です」

「じゃあ決定!よろしくね、アスナ、エミヤ」

 

そうして、料理人二人はキッチンに入って行った。

 

そう時間が経たないうちに、部屋の中に美味しそうな香りが充満する。

 

やがて、

 

「出来たよー」

 

そんなアスナの一声と共に、人数分のシチューが運び出される。

 

ブラウンルーの中に、ゴロゴロと大きな肉が入っており、白いミルクがマーブル模様を描いている。

 

「おぉ……!」

「あ、やばいヨダレが」

 

待ちきれないとばかりに全員席につき、いただきますももどかしいと言わんばかりに、シチューにスプーンを差し入れる。

 

大きな肉を一口頬張ると、口の中で濃厚な油とルーの風味が広がる。

 

噛むたびに肉汁が溢れ出し、このまま永遠に飲み込まずにいたいと思うほどだった。

 

そうして、五人はほとんど喋ることすらなく、一心不乱にシチューを食べ続けていた。




お読みいただきありがとうございました!

さて、これはアニメでも原作でもお馴染みのシーンですね

少しばかり改変しましたが、いかがでしたでしょうか?

それでは、また来週お会いしましょう!


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パーティー結成、再び

どうも皆様

最近1日2本ほどエナジードリンクを投与している雪希絵です

眠気が悪いんです

私を襲う眠気が悪いのです

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「はー………!美味しかったぁ……!」

「今まで頑張って生き残って良かった……!」

 

全員が満腹になり、各々食後のお茶を啜る。

 

巨大な鍋の中身は空っぽに、それこそシチューなどあった形跡もなく、全て食べ尽くされた。

 

ラグーラビットのシチューは、SAOに幽閉されて以降、間違いなく最大の美味だった。

 

「いやー、本当に美味しかったよ。ありがとね、アスナ、エミヤ」

「ううん、こちらこそありがとう。いい食材を提供してくれて」

「キリト君も、ありがとう」

「お、おっす……」

 

何故かちょっと緊張した表情で、キリトは頷く。

 

(照れてるなぁ……)

 

立香はニヤニヤとしながら、そんなキリトを見つめていた。

 

そんなことはつゆ知らず、アスナはカップを両手で包みながら呟く。

 

「不思議ね……。なんだか、この世界で生まれて今までずっと暮らしてきたみたいな、そんな気がする」

「……俺も最近、あっちの世界のことをまるで思い出さない日がある。俺だけじゃないな……この頃は、クリアだ脱出だって血眼になる奴が少なくなった」

「攻略のペース自体落ちてるわ。今前線で戦ってるプレイヤーなんて、五百人いないでしょう……」

 

そんな二人の会話を、カルデア組は若干他人事のように聞いていた。

 

マスターとサーヴァントである四人にとって、異世界から出られないことは珍しくない。

 

とあるマジカルな固有結界など、条件を満たさなければ出られなかったのだ。

 

他にも、不測の事態で連絡が途絶えたことなんかもあった。

 

一つの特異点にここまで留まることもなかったが、それでも四人の奥底には『ここは特異点である』という認識があるのだった。

 

「……でも、帰りたいでしょ?」

 

ポツリ、とそう言う立香。

 

「……うん」

 

アスナは真剣な顔で頷く。

 

そして、柔らかな微笑みを浮かべて続ける。

 

「だって、あっちでやり残したこと、いっぱいあるから」

 

それに対し、キリトも素直に頷いた。

 

「そうだな。俺たちが頑張らなきゃ、サポートしてくれる職人クラスの連中に申し訳が立たないもんな……」

 

そう言って、一気にお茶を煽る。

 

「ん、そうだね。私たちだって頑張るよー。ね?みんな」

「はい、もちろんです。騎士の誇りに誓って」

「私はいつだって、先輩のそばにいます。先輩が戦うというなら、どうぞご指示を」

「人理修復、という事情を抜きにしても、放ってはおけないからな。私も、力は惜しまないさ」

 

立香の言葉に、三人はそれぞれ答えながら頷く。

 

アスナもキリトも頷いて答える。

 

すると、何を思ったのかキリトは真剣な顔つきでアスナを見る。

 

(おおっ?これは……)

 

立香がワクワクとしながら、二人の動向を見守る。

 

「あ、ま、待って、やめて……」

「な、なんだよ……?」

 

(言え!言ってしまえ!言いなさいキリト!)

 

内心でとんでもないことを考えながら、立香はキリトを穴が開きそうなほど見つめる。

 

「今までそういう顔をした男性プレイヤーに、何度か結婚を申し込まれたわ」

「なっ………」

 

返す言葉がないのか、キリトは口をパクパクとさせる。

 

(んんんんんっ!もう!なんで言わないのよぉー!)

 

心の中でバンバンと机を叩く。

 

ここで言うべきものではないと思うが、どうやらくっつかなさ過ぎて、立香はやきもきしているらしい。

 

サーヴァント組は察しているのか、立香をなだめている。

 

「落ち着けマスター」

「だってさぁ……」

「先輩、私には詳しくは分かりませんが……お二人なら、きっと大丈夫ですよ」

「そうだろうけどさぁ……」

「見守ることも守ることです。ここはどうか抑えて……」

「むむむむ………!」

 

腕を組み、唸る立香。

 

「……どうかな?みんな」

 

そこへ、アスナから唐突に声がかけられる。

 

「ほぇっふ!?」

「え。何今の妙な声」

「な、なんでもないよ!?」

 

慌てて立香は否定する。

 

「な、なんの話だっけ!?」

「だから、しばらくパーティーを組もうって……」

「うん!いいよ!全然いいともさ!」

「え、う、うん……」

 

テンションも勢いもおかしい立香に押され、アスナは疑問を口にすることもできなかった。

 

かくして、かつて最も永き時を過ごしたパーティーは、再び組まれることとなったのだった。




お読みいただきありがとうございました!

エナジードリンクの効果が切れました!

目が眠気で霞みます!

それでも書き切れて良かったですけれど

それでは、また来週お会いしましょう!


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速度制限は守りましょう

どうも皆様

怒涛の土日が終了しました、雪希絵です

心休まる暇がないとは、まさにこのことですね

今日はおやすみしたので、更新こそできますが、疲れが残っているのか時間を過ぎてしまいました

申し訳ございません

それでは、ごゆっくりどうぞ


翌朝。

 

立香の部屋にて。

 

「先輩、先輩。起きてください」

「……うーん。あと一日」

「それは寝すぎです!」

 

マシュがゆさゆさと揺するが、立香は唸るばかりで起き上がらない。

 

「どうした、マシュ」

 

そこへ、エプロン姿のエミヤがひょっこりと顔を出す。

 

隣にはアルトリアもいる。

 

「先輩がなかなか起きてくれなくて……どうしましょう」

「ふむ、なるほど」

 

エミヤは少しだけ思案顔をすると、キッチンの方へと引っ込んでいく。

 

「珍しい……というわけではないですが、久しぶりですね。マスターが起きて来ないとは」

「SAOクリアに真剣でしたからね」

 

立香は特別早起きというわけではないが、特別寝坊というわけでもない。

 

まあ、頻繁にマシュに起こされているのは事実だが。

 

「待たせたな」

 

程なくして、エミヤが部屋に戻ってきた。

 

その手には、

 

「な、なんですかそれ……?」

 

フライパンとお玉が握られていた。

 

「見ての通り、フライパンとお玉だ。調理器具だ」

「そんなことは知っています!」

 

若干ズレたことを言うエミヤ。

 

マシュはため息をつきながら、エミヤの発言を否定する。

 

「どうしてそんなものを持っているのか、と言っているんです!」

「なるほど、そういう意味合いか」

 

うんうん、と頷きながら、納得したようにエミヤはそう言う。

 

「なに、簡単な話だ」

 

当然、と言わんばかりにフライパンとお玉を両手に構える。

 

「こうするのだよ!」

 

そして、その二つを思いっきり打ちつける。

 

カァァァ────────ンッッッ!!

 

甲高い音が部屋どころから家全体に響き渡る。

 

「うわっひゃあ!?おはようございますっ!」

 

当然、こんな状態で寝られるはずもなく、立香は跳ね起きる。

 

「エミヤさん……。つい先程、調理器具だと仰ったばかりですよね……?」

 

再び、マシュは大きくため息をつく。

 

アルトリアはよく分からないといった表情で、首を傾げていた。

 

跳ね起きた立香と共に、ささっと朝飯を済ませると、四人揃って街に出る。

 

「集合時間ギリギリですね。急がなくては」

「いや、もはや間違いなく、時間を超過するだろう」

 

全員高めの敏捷力を持っているため、かなりのスピードで街中を走り抜けているが、いかんせん時間が無い。

 

それこそ、転移結晶でもなければ間に合わない。

 

しかし、遅刻しそうだから転移結晶を使うというのは、少々もったいない。

 

「あーもー!どうしてこうなった!」

「マスターが寝坊したからです。理由は明確ですよ」

「セイロンスギテクサハエル」

「先輩、口調が明らかにおかしいです!落ち着いてください!」

 

軽口を叩き合いながら、街中を疾走する。

 

やがて、転移門が見えてきた。

 

「飛び込めぇぇぇぇ!」

 

立香の声に従い、アルトリアとマシュが転移門に飛び込む。

 

「ま、待て!そんな勢いで飛び込んだら……って、遅かったか……」

 

既に転移門に消えてしまった三人の無事を、エミヤは祈った。

 

軽い目眩のような感覚と共に、転移が終了する。

 

転移は問題なく終了した。

 

問題は、

 

「どわぁぁぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

その後も勢いが収まらなかったことである。

 

「わぁぁぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

門の前には、キリトとアスナが向かい合うように座り込む。

 

そこへ、ピンポイントに、寸分も狂いなく。

 

立香とマシュがなだれ込む。

 

派手な音を鳴らしながら、キリトに覆いかぶさってしまう。

 

「ぐおぉぉっ……!」

 

カエルが潰れたような声を上げるキリト。

 

勢いそのまま、ゴロゴロと転がる。

 

「マスター!マシュ!キリト!ご無事ですか?」

 

アルトリアは持ち前のバランス感覚でギリギリ転移門前でブレーキをかけ、踏みとどまった。

 

三人が転がった方に駆け寄ると、途中でマシュが目を回して座り込んでいた。

 

「わ、私は大丈夫です……」

「良かった。マスターは……?って……」

 

辺りを見回すと、二人は固まってそこにいた。

 

どういう状態かと言えば、

 

「………っ!?」

「……あらま」

 

立香を押し倒すように、キリトが覆いかぶさっている体勢だ。

 

キリトの右手は、立香の左胸に触れていた。

 

「わぁぁぁぁぁぁ!?ごめん……うおっ!?」

 

大急ぎで飛び退こうとするキリトの顔面に、思いっきり拳がめり込む。

 

もちろん、街中であるため、ダメージは通らない。

 

驚いたキリトが脇を見ると、

 

「……あ、あの……あ、アスナさん?」

 

鬼の形相で拳を握りしめるアスナがいた。

 

さらに、

 

「キリト、少し話があります」

「安心してください。すぐに終わります」

 

キリトの両肩に、アルトリアとマシュの手が置かれる。

 

「……お、お手柔らかにお願いします……」

「「保証しかねます」」

「ですよねーーーーー!?」

 

目の前でお話(物理)を展開する仲間たちを見ながら、立香は、

 

「……いや、事故だしそんな気にしないんだけど……」

 

誰にも届かない呟きを言っていたのだった。

 

余談だが、事情を知らないままだったエミヤは、到着してから状況を察し、キリトのやけ酒に付き合ってあげたそうだ。




お読み頂きありがとうございました!

今までこういうラッキースケベは、基本的に百合でやっていたので、なかなか珍しい展開ですね

ちなみに、立香の反応についてはだいぶ迷いました

結局、こんな感じのクールな反応なのかな、と思ってこう書きました

それでは、また来週お会いしましょう


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止まらない無双ゲー

どうも皆様

未だにテストから全力逃走中、雪希絵です

数学系は苦手なんですよぅ……!

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「だーいじょーぶー?キリト」

「ごめん……本当にごめん……」

「いや、だから気にしないでいいってば……」

 

街中ではHPは減少せず、全ての攻撃は紫色の障壁によって阻まれる。

 

とはいえ、どんな人間でも恐怖心はある。

 

手前で止まるとは分かっていても、ボコボコにされるのは怖いに決まっている。

 

「ふー……ふー……ふー……」

「どうどう、落ち着けマシュ」

 

アルトリアは冷静さを取り戻したが、マシュはまだ興奮気味だ。

 

先程到着したエミヤが宥めるが、相当に癇癪を起こしたらしい。

 

なかなか落ち着かない。

 

ちなみに、アスナはキリトの隣で満面の笑みを浮かべている。

 

何が怖いかと言えば、目が全く笑っていないことだった。

 

キリトにとっては針のむしろである。

 

「……すみません、キリト。少し冷静さをかいてしまいました」

「いや、俺が悪いから……」

 

キリトはすっかり意気消沈してしまっている。

 

どうもギスギスとした雰囲気。

 

そんな状況に、

 

「だぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉ!めんどくさぁぁぁぁぁい!!!」

 

とうとう立香がキレた。

 

「いい!?私は!気にして!ないの!分かったぁ!?」

「「「は、はい」」」

「分かったらさっさと迷宮区行く!ただでさえ攻略の速度も落ちてるんだから!うがー!」

「「「は、はいー!」」」

 

こくこくと頷く面々は、そそくさと踵を返して迷宮区の方向へ向かった。

 

「……マスターは相変わらず人心掌握が得意だな」

「人聞きの悪い言い方はやめてもらえる?エミヤ」

 

残ったエミヤがそう言うのに対し、立香は苦笑いで答える。

 

「あながち間違ってもいないだろう?」

「そんな大層なものじゃないって。私は、みんなに素直に向かってるだけ」

 

ニコリと笑い、立香は走り去ったアルトリア達を追った。

 

「……ふっ。全く……それがどれだけ難しいことか、うちのマスターは分かっているのか……」

 

エミヤは少し嬉しそうにそう呟きながら、後を追いかけた。

 

───────────────────────

 

「マシュ!前衛頼む!」

「はいっ!」

 

すっかり仲直りした六人の連携は完璧だった。

 

しばらくのブランクなどなかったかのように、息をするように互いの行動をカバーし合う。

 

「アスナ、行きますよ!」

「うん、アルトリアちゃん!」

 

マシュとキリトが切り開いた道に、アスナとアルトリアが敏捷力を活かして飛び込む。

 

「はぁぁぁっ─────!」

 

アルトリアが群がるモンスターを魔力放出+多段ヒットソードスキルでまとめて吹き飛ばす。

 

巨大なハンマーにでも殴られたかのように、モンスター達は残らずアスナの方に飛んでいく。

 

「やぁ─────!」

 

気合い一閃。

 

『リニアー』、『ペネトレイト』、などの突進系ソードスキルを使用し、正確無比にモンスターの急所を抉る。

 

だが、やはりソードスキルは隙が生まれる。

 

アスナの背後から、巨大な斧を振り下ろすモンスター。

 

気づいた、しかしアスナは反応しない。

 

そのモンスターのさらに背後から迫る、立香に気がついているから。

 

「ちぇいさぁーーー!」

 

立香渾身の膝蹴りが炸裂し、モンスターの顔面が潰れる。

 

猛烈な勢いで後頭部を地面に叩きつける。

 

そこをすかさず踏みつけ、追い打ちをかける。

 

「これで終わりっ!」

 

瓦割りのように構えから、顔面に拳を振り下ろす。

 

モンスターは悲鳴をあげることすら出来ず、砕け散った。

 

「伏せろ、マスター!」

 

そこへ、エミヤの指示が飛ぶ。

 

迷うことなくその場にしゃがみこむと、真上を矢が通過する。

 

一本だけではない。

 

二本、三本と次々に矢がモンスターに飛来する。

 

それは寸分狂うことなくモンスターの頭部を捉え、HPを大きく刈り取っていく。

 

「トドメは任せてください!」

 

マシュがモンスターに向かって突進する。

 

横側に盾を構え、黄色のライトエフェクトが発生する。

 

大盾ソードスキル『イノセント』。

 

「やぁ!」

 

横薙ぎに振るわれた盾がモンスターの腹部にめり込み、吹き飛ばす。

 

その途中、モンスターはポリゴンの破片となって霧散した。

 

そのマシュの横を、キリトがジェットエンジンのような音を響かせて通り過ぎる。

 

目前に迫ったモンスターの胸を貫き、上に切り上げる。

 

当然、HPバーはそのほとんどを黒く染める。

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

間髪入れずに飛来する風の塊。

 

キリトはとっくに横っ飛びで回避しているが、モンスターはそうもいかない。

 

風に飲み込まれ、高い鳴き声を上げながら、モンスターは爆散した。

 

「……戦闘終了。お疲れ様でした」

「数は多かったが、なんとか切り抜けたな」

「エミヤの援護が的確だったからね。やりやすかったよ」

 

アスナとキリトに説明し、エミヤは弓を使用している。

 

もっとも、今のように周りに他の人がいない場合に限るが。

 

「うーん……疲れた。さってと……」

 

そう言いながら、立香が先を見つめる。

 

「なんか、雰囲気変わったね」

「……ああ。端的に言えば、オブジェクトが重くなってきてる」

「ということは、この先は……」

 

全員で頷き、もう少しだけ互いの距離を縮めて、先へと進んで行った。

 

やがて、回廊の突き当りに到着した。

 

大きな、大きな二枚の扉。

 

「ボス部屋だね」

「ええ、間違いないでしょう」

「……開ける?」

 

問いかける立香に、キリトが頷く。

 

「ボスモンスターはその守護する部屋からは絶対に出ない。ドアを開けるだけなら多分……だ、大丈夫じゃない……かな?」

 

とほほ、という顔をする面々は、一応転移結晶を用意して、扉に手をかけた。




お読み頂きありがとうございました!

軍の描写入れてませんでしたけど、ちゃんと見かけてはいますのでご安心を……

それでは、また来週お会いしましょう!


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ランチタイム

どうも皆様

三連休で昼夜が逆転した雪希絵です

矯正しないとまずいことになります

さて、今回はボス部屋前のくだりですね

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「……開けるぞ」

 

キリトがそう言い、ゆっくりと扉を開く。

 

中は真っ暗で、立香達がいる回廊の明かりすら届かない。

 

部屋の中はひんやりとした冷気と闇に包まれており、五感の鋭い立香ですら奥まで見渡すことはできない。

 

「…………」

 

顔を見合わせ、口を開こうとした瞬間、部屋の真ん中辺りに一組の炎が灯る。

 

もう一組、もう一組と増えていき、あっという間に入り口から部屋の中央への炎の道が出来上がった。

 

最後に一際大きな火柱が吹き上がり、同時に奥行きのある部屋が薄青色に照らされる。

 

アスナが緊張に耐えかねたように、キリトの腕をぐっと握る。

 

しかし、その状況を楽しむ余裕はない。

 

部屋の中央部で、ポリゴンが積み上がっていく。

 

だんだんと形を成し、それは人型を作る。

 

見上げるようなその体躯は、全身縄のごとく盛り上がった筋肉に包まれている。

 

肌は周囲の炎に負けない深い青、分厚い胸板の上に乗った頭は、人間ではなく山羊のものだ。

 

目は燃えているようにギラギラと輝きを放っているが、その視線は明らかに立香達を見据えている。

 

その見た目を端的に述べるなら、悪魔そのもの。

 

いくらバーチャルと分かっていても、見慣れていても、人間の本能的な恐怖心を煽る。

 

そのボスモンスターの上に、名前が現れる。

 

『The Gleameyes』。

 

輝く目。

 

ボスモンスターは立香達にその鼻先を向けると、

 

「ヴォオオオオオオオオオ!!!」

 

大気をビリビリと震わせながら、雄叫びを上げた。

 

そして、

 

「……げっ」

 

猛烈な勢いで突進してきた。

 

(何あれ、お前を殺すオーラ全開なんだけど)

 

そんな雰囲気に立香が思わずじりじりと後ずさりしていると、

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

キリトとアスナが揃って悲鳴をあげ、踵をかえして脱兎のごとく逃げ出した。

 

「えっ、ちょっ、待っ!」

「早っ!逃げるの早いです!」

「ボスは部屋から出てこないのではないのか……ってもう聞こえないか」

 

その速度はあまりにも圧倒的だった。

 

アスナは元々敏捷度を優先して上げていて、キリトは筋力優先ではあるがレベルの絶対値が高い。

 

(逃走)速度は、アインクラッドでもトップクラスだろう。

 

「……追いかけよっか?」

「はい」

「そうしましょう」

「迎えに行かなくてはな……」

 

立香達も踵をかえし、迷宮区の出口へと向かった。

 

残念ながらボス部屋から出られないボスモンスターは、出入口の前で棒立ちしている。

 

無情にも、扉はすぐに閉まってしまった。

 

───────────────────────

 

「あ、いたいた」

 

アスナとキリトは迷宮区途中の安全地帯にいた。

 

「みんな!こっちこっち」

 

駆け足で向かってくる立香達に、アスナが手を振る。

 

「もー。二人ともボス部屋から出てこないの分かってた癖にー」

「あ、あはは……。ごめんね。どうも途中で止まれなくなっちゃって……」

「俺も同じく」

「気持ちは分かるけどぉ……」

 

ため息をつく立香。

 

だが、あれは立香ですら怖気付く程の恐怖の塊だ。

 

いくら歴戦の剣士であるキリトとアスナでも、流石に黙って見ていることは出来ないだろう。

 

「うだうだ言ってても仕方ないだろう。これからどうする?」

「ああ、今からちょうど昼飯にしようとしていたところなんだ」

「食事ですかっ!」

「ブレませんね、アルトリアさん……」

 

そんないつもの様子に、アスナがうふふ、と笑いながらバスケットから人数分の大きな包みを取り出す。

 

手際よく包みを剥がすと、肉や野菜がふんだんに挟まれた大きなサンドイッチが姿を表す。

 

「おぉー!美味しそう!」

「じゅるり……」

「セイバー、涎をふけ」

「むっ、アーチャー。拭き方が荒いです」

 

そんなこんなで、立香達は早速サンドイッチにかじりつく。

 

「……? これって……」

「う、うまい……」

「もぎゅもぎゅ……むぐむぐ」

「セイバー、ソースがついているぞ」

「みゅっ、あーふぁー。ひゅきからがあらひれふ」

「口の中の物を飲み込んでから喋りたまえ」

 

全員、夢中でサンドイッチを頬張り続けた。

 

その味は、まさしく日本風のファストフードそのものだったからだ。

 

「……初めて食べる、味です」

「そっか。マシュはハンバーガー食べたことないのかー」

「あ、はい……。でも、すごく……美味しいです」

「良かった。また今度、作ってあげるね」

「はい!」

 

嬉しそうに微笑むマシュ。

 

一方、キリトの方は半ば放心状態だ。

 

「おまえ、この味、どうやって……」

「一年の修行と研鑽の成果よ。アインクラッドで手に入る約百種類の調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメータをぜ〜〜〜〜んぶ解析して、これを作ったの。こっちがグログワの種とシュブルの葉とカリム水」

 

言いながら、アスナは小瓶の中身を指先につける。

 

「口開けて」

 

ぽかんと口を開けたキリトの口と、いつの間にか近くにいたアルトリアの口の中にどろっとした液体が着弾する。

 

「……マヨネーズだっ!!」

「……本当ですね」

「で、こっちがアビルパ豆とサグの葉とウーラフィッシュの骨」

 

最後のは解毒薬の素材な訳だが、考えるより早く二人の口の中に液体が着弾する。

 

その味に、二人は先程のマヨネーズを上回る衝撃を受けた。

 

まさしく醤油の味そのものだったのだ。

 

「ぱくっ」

「はむっ」

「ぎゃー!」

 

両手の指に付着した醤油を二人がくわえ、アスナが指を引き抜きながら悲鳴をあげる。

 

二人を睨みつけるが、呆けた顔を見てくすりと吹き出した。

 

「さっきのサンドイッチのソースはこれで作ったのよ」

「すごいな……これ売り出したら、すごく儲かるぞ」

「そ、そうかな……」

「いや、やっぱりダメだ。俺の分が無くなったら困る」

「いやらしいなぁ、もう!心配しなくても、気が向いたら作ってあげるわよ」

「素直だなぁ……キリトは」

 

穏やかに笑う声が、安全地帯に響き渡った。




時間すぎて&話全然進まなくてごめんなさい!

でも、これ以上詰め込むと文字数が……

次回は極力巻いていきますので、よろしくお願い致します!

それでは、また来週お会いしましょう!


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かっこ悪いなぁ

どうも皆様

先週はおやすみして申し訳ございません、雪希絵です

先週一週間はなかなか時間がなくて……

やることも多かったので時間が取れませんでした

しかし、それも片付きましたので、また連載再開していきたいと思います

それでは、ごゆっくりどうぞ


すっかり空腹も満たされ、少しの間休憩をとる。

 

アスナはキリトにほんの少しだけ寄りかかり、立香はアルトリアに膝枕をしてもらっている。

 

エミヤとマシュは向かい合って今後の方針について相談中だ。

 

そんな時、不意に下層の入口の方から、プレイヤーが鎧をガチャガチャと鳴らしながら入って来た。

 

突発的にアスナとキリトは離れるが、立香は構わずのんびりしている。

 

現れたのは、六人組のパーティーだった。

 

「おお、キリト!しばらくだな」

 

その先頭を歩いていたプレイヤーは、キリトを見て気さくに挨拶をした。

 

逆だった茶髪に赤いバンダナ、腰には刀。

 

「まだ生きてたか、クライン」

「相変わらず愛想のねぇ野郎だ。珍しく連れがいるの……か……」

 

クラインと呼ばれた長身の男は、キリトのそばにいるプレイヤー達を見て、目を丸くして固まった。

 

「あー……っと。ボス戦で顔は合わせてるだろうけど、一応紹介するよ。こいつはギルド《風林火山》のクライン。で、こっちは《血盟騎士団》のアスナ。それと、リツカ、アルトリア、マシュ、エミヤだ」

 

キリトの紹介に、アスナや立香達はぺこりと頭を下げるが、クラインは未だフリーズしている。

 

「おい、ラグってんのか」

「く、くくクラインと申します二十四歳独身」

 

混乱のためか訳のわからないことを口走ったクラインに、キリトが肘鉄を打ち込む。

 

「まあ、こんなんだけど、気の良い奴だから仲良くしてやってくれ。リーダーの顔はともかく」

 

今度はクラインがキリトの足を思い切り踏みつける。

 

ゲームなので痛覚はないが、見た感じはかなり痛そうである。

 

そんな様子に、アスナはたまらず腰を折って吹き出した。

 

「おー、明るい人だね。まあ、よろしくね、クライン」

「よ、よよよよろしくお願いします」

 

立香がニッコリと微笑むと、クラインは鼻の下を伸ばしてにへらと笑う。

 

しかし、すぐに我に返って殺気のこもった様子でキリトの腕を掴む。

 

「ど、どどどういうことだよキリト!?」

 

キリトが返答に困っていると、

 

「こんにちは。しばらくこの人とパーティーを組むので、よろしく」

「よろしくぅー」

 

アスナと立香がよく通る声でそう言った。

 

「キリト、てんめぇ……」

 

もはやダダ漏れの殺気を振りまきながら、クラインが歯ぎしりする。

 

面倒なことなることをキリトが覚悟したその時、先程《風林火山》が現れた方角から、新たな一団が現れた。

 

「キリト君、《軍》よ!」

 

見れば、そこには道中でも見かけた重装部隊がいた。

 

その先頭にいた鎧の男は、部下とおぼしきメンバーを休ませると、立香たちの方へ歩み寄ってきた。

 

ヘルメットを取り、その長身でじろりとキリトを見下ろす。

 

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

「……キリト。ソロだ」

 

コーバッツは軽く頷くと、横柄な態度で口を開いた。

 

「君らはこの先まで攻略しているのか?」

「……ああ。ボス部屋の前まではマッピングしてある」

「では、そのマッピングデータを提供してもらいたい」

 

当然だ、という態度の相手にキリトは少なからず驚く。

 

アルトリアやエミヤも眉をひそめ、身を乗り出そうとしたマシュは立香に止められた。

 

しかし、クラインは穏やかではいられなかったらしい。

 

「な……て……提供しろだと!?てめぇ、マッピングする苦労が分かってんのか!?」

 

未踏破エリアのマッピングデータは貴重だ。

 

場所によっては高値で取引されることもある。

 

そんなクラインにコーバッツは眉をぴくりと動かし、顎を突き出しながら、

 

「我々は君たち一般プレイヤーの解放のために戦っている!諸君が協力するのは当然の義務である!」

 

大声でそう言った。

 

「ちょっとあなたねぇ……」

「て、てめぇなぁ……」

 

あんまりな態度に爆発寸前の二人を、キリトが抑える。

 

「どうせ街に戻ったら公開しようと思ってたデータだ。構わないさ」

「おいおい、それは人が良すぎるぜキリト」

「マップデータで商売する気はないよ」

 

キリトは言いながらトレードウィンドウを出現させ、コーバッツにデータを渡した。

 

コーバッツは「協力感謝する」と感謝も欠片もないような声でそう言い、くるりと振り返った。

 

その背中に、

 

「……カッコわるぅ」

 

盛大に言葉の毒が突き刺さる。

 

驚いたキリトとアスナ、クラインが振り返ると、声の主は傍観していた立香だ。

 

「……なんだと?」

 

不愉快さを隠そうともせず、コーバッツが振り返って立香を睨む。

 

気の弱いものなら気絶しそうな程の迫力だ。

 

だがしかし、立香に気の弱いなどということは欠片もない。

 

「ん?思ったこと言っただけだよ。かっこ悪いって」

「……どういう意味だ」

「そのまんまだよ?」

 

真顔で返す立香と、青筋を浮かべるコーバッツ。

 

しかし、その膠着は不意に途切れた。

 

「行くぞ!立て、貴様ら!」

 

コーバッツが半ば無理やり部下達を立たせたのだ。

 

軍のメンバー達はヨロヨロと立ち上がり、装備を構えて整列し、進軍し始めた。

 

最後まで、コーバッツは忌々しそうな顔をしていた。

 

その姿が見えなくなると、キリトが高速で立香に振り返る。

 

「……お、おい、リツカ……。あんまり軍と波風立てるのは……」

「えー、だってイライラしたんだもん」

 

ぶー、と唇を尖らせる立香。

 

「でも、リツカちゃんが何か言わなければ、私が言うところだったよ。だって、本当に嫌な態度だったもの」

「騎士の風上にもおけませんね」

 

アスナとアルトリアは立香に同調しているようだ。

 

「だが、いたずらに人を刺激するのは良くない。気をつけたまえ、マスター」

「はーい。……やっぱりオカンだなぁ」

 

クラインはと言えば、軍の者達が消えた方向を見ながら、

 

「……大丈夫かよ……あの連中」

 

と気遣うように呟いていた。

 

「……ふふっ。優しいんですね、クラインさん」

 

マシュが微笑みながらそう言うと、クラインは気まずそうに目を逸らした。

 

「まあ、間違いなくボス戦行くつもりだよね。あれは」

「やっぱりそうなのかな……。そんな無茶はしないと思いたいけど……」

 

立香の言に、アスナも不安そうにする。

 

「一応、様子だけ見に行くか?」

 

キリトがそう提案すると、その場にいた全員が首肯した。

 

装備を整え、走り出す。

 

すると、並んで走っていたアスナと立香に、クラインが話しかけてきた。

 

「あー、その。アスナさん。それと、リツカさん。ええっとですな……アイツの、キリトのこと、宜しく頼んます。口下手で、無愛想で、戦闘マニアのバカタレですが」

 

直後、クラインの背後に猛烈な勢いでキリトが回り込み、バンダナを引っつかむ。

 

「お前は何を言ってるんだ!」

「だ、だってよぉ……お前がパーティー組むなんて久しぶりだからよぉ……例え美人の色香に惑ったんだとしても大した成長だと思って……」

「惑ってないわっ!」

 

そんなやり取りに、アスナと立香は思わず吹き出す。

 

見れば、その場にいる全員がニヤニヤ(もしくはニコニコ)している。

 

アスナと立香は揃って、

 

「「任されました」」

 

と返事をした。

 

拗ねたのか、キリトは口をへの字にして先頭を走っていった。




お読みいただきありがとうございました

うーん、スランプというものが私のようなペーペーにもあるのでしょうか……なんだか上手く書けない気がします

それでは、また来週お会いしましょう


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カーディナルおこ

どうも皆様

先週のスランプの件で皆様に暖かいお言葉を頂いて感涙していた雪希絵です

例え上手く書けなかろうと、いつも通りにやっていきます!

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「ちっ!リザードマンかっ……!」

 

安全地帯を出て約十分ほど経った時。

 

無数のリザードマンが回廊の道を塞いでいることに、先頭のキリトが気がつき、手早く武器を抜いた。

 

「なんだよこの数!頭おかしいだろ……!」

 

クラインも悪態をつきながら武器を構える。

 

数えるのも馬鹿らしくなる、おびただしい数のリザードマンだ。

 

「おかしい、明らかにおかしいよ!こんな数、今まで無かったのに……!」

「いや、今までも……正しくは七十層くらいから、特別強力な敵が現れやすかったり、異常な数のモンスターの群れが現れたことがあった。それの一種だろう」

 

キリトがそう推測する。

 

全員思い当たる節があるのか、首を振って肯定する。

 

「……仕方ないか」

 

ポキポキと拳を鳴らしながら、立香が前に出る。

 

アルトリア、マシュ、エミヤもそれに続く。

 

「道をひらくよ。先に行って」

「なぁ……!?り、リツカ!何無茶言ってんだ……!」

 

クラインが思わず身を乗り出してそう言う。

 

その肩を、キリトが掴んだ。

 

「キリト、お前……」

「……現状、リツカの言う手が一番だ。それに、四人は俺たちより桁外れに強い。ここは託そう」

「……リツカちゃん。アルトリアちゃん、マシュちゃん、エミヤさん。……無茶しないでね」

 

キリトに合わせ、アスナが不安そうな表情でそう言った。

 

クラインや風林火山のメンバーは納得のいっていない表情をするが、

 

「……絶対無事でいろよ。まだフレンド登録もしてねぇんだからな!」

 

そう言って、武器を構えながら前を見た。

 

「もちろん。任せて。……行くよ、みんな」

「「はい」」

「任せろ」

 

そして、エミヤは黒弓と螺旋型の剣を取り出した。

 

剣を番え、ギリギリと弦を引く。

 

「『偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)』────!」

 

猛烈なスピードで放たれた偽・螺旋剣Ⅱが、リザードマンの集団中央部分に着弾する。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』による大爆発が、リザードマンを包み込む。

 

爆ぜる閃光、轟く爆音。

 

「『風王鉄槌(ストライクエア)』────!!!」

 

そこへ、ダメ押しの風の塊が叩きつけられる。

 

壊れた幻想と風王鉄槌の二つが叩きつけられ、リザードマンの集団の数が一気に減る。

 

中央部分には、開けたように道が出来た。

 

「今だっ────!一気に駆け抜けて!」

「な、なんだぁ……!?この威力……」

「話はあとだ。行くぞ!」

 

マシュが先行して敵を残るリザードマンを薙ぎ払い、リツカが牽制の一打を打ち込んで敵を怯ませ、さらなる道をひらく。

 

キリトとアスナを先頭に、開けた道を駆け抜けていった。

 

「……行ったか」

「はい、そうですね」

 

頷き、背後のキリト達を一瞥しながら構える。

 

「さて、せいぜい時間稼ぎますか」

「時間を稼ぐのは構わんが、別に倒してしまって構わんのだろう?」

「アーチャー、あなたがそれを言ってはいけません。何故か猛烈にそんな感覚がします」

「お、お二人共、敵がきます!」

 

マシュが慌ててそう言う。

 

「問題ありません」

「問題ない」

 

魔力放出で駆け出すアルトリアの背後で、エミヤが矢を番える。

 

「しっ────!」

「ふっ────!」

 

アルトリアが斬りかかったリザードマンの頭部に、正確に矢が突き刺さる。

 

さらに、アルトリアの剣が赤く輝く。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

ぐるぐると三回転しながら、赤いライトエフェクトを帯びた斬撃がリザードマンを切り刻む。

 

HPが全損し、ポリゴンの破片として爆散する。

 

「マスター、これは……」

「うん。前々からキリトと話してた仮説が、証明されたみたいだね」

 

『ソードアート・オンライン』を管理するAI『カーディナル』。

 

立香とキリトが話していたのは、これに関する仮説。

 

『桁違いの戦闘力を持つサーヴァントである三人がいる影響で、モンスター達が強化されるのではないか』と。

 

その兆候は現れていた。

 

層が上がる事に、安全マージンの目安だった『層+10レベル』がズレて来ていたのだ。

 

それが今、より確かな形として現れている。

 

「……大丈夫かな、キリト達」

 

珍しく不安そうに立香がそう言う。

 

「たしかに、下手をするとボスも強化されている場合が……」

「……っ」

 

歯噛みする自分のマスターを見ながら、サーヴァント組は顔を見合わせる。

 

そして、

 

「先輩。心配なら、キリトさん達を追ってください」

「マスターの敏捷力なら、すぐに追いつけるだろう」

「マスターが加わるだけで、彼らには大きな戦力になるはずです。頼みましたよ」

「みんな……」

 

立香は躊躇うように口を開け閉めした後に、

 

「……分かった」

 

こくり、と頷いた。

 

「危なくなったらすぐに撤退してね。……これは命令だよ」

「はい」

「分かりました」

「無理はしないさ」

 

全員が肯定したのを確認し、立香は全力で駆け出した。

 

「早く……早く……!」

 

もはや一陣の風のようなスピードで、回廊を駆け抜ける。

 

途中のモンスターも牽制の一打で遠ざけ、その隙に逃走した。

 

やがて、辿り着いたボス部屋。

 

そこで立香が目にしたのは、

 

「グォオオオオオオオ────!」

 

青から真っ赤に染まりあがった、ボスの姿だった。




まった時間過ぎてる……申し訳ございません

それでは、また来週お会いしましょう!


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コンビプレイ

どうも皆様

諸事情により、しばらく投稿できなくてごめんなさい、雪希絵です

待ってくださった心優しい皆様、本当にありがとうございます

さて、ようやく復活となりました

これから先、ラストスパートに向けて頑張っていきたいと思います

よろしくお願い致します!


「馬鹿な……!あれは……!」

 

立香の元に通信が入る。

 

ロマニのものだ。

 

「ドクター?どうしたの」

 

立ち止まり、立香はロマニの言葉に耳を傾ける。

 

「立香ちゃん、気をつけて!……その赤くなった体、間違いない!」

「ああ、全く忌々しい。私も同じ意見だよ」

 

ダヴィンチも同調して、ロマニの発言を肯定する。

 

「立香ちゃん、あれは……狂化だ!しかも、下手をするとA+レベルのだっ!」

「……っ!?」

 

狂化A+。

 

カルデアの基準で言えば、言語能力と理性の喪失の代わりに、桁違いの攻撃力を得るレベル。

 

「それでもっ……!それでも!」

 

拳を握り、前を見据える。

 

自らの脚を叱咤するように叩き、駆け出した。

 

「それでも、私はやらなきゃいけない!もう、一人だって失いたくないから……!」

 

仮想の大気を切りながら、立香は疾走する。

 

ボス部屋の内部では、驚愕して立ち止まるアスナとキリト、そしてクライン以下風林火山の面々。

 

そして、整列して突撃しようとする軍。

 

「全員……突撃……!」

 

無茶苦茶だ。

 

これだけの人数が並んで突撃しても、まともに攻撃できるはずがない。

 

そして、真っ先に犠牲になるのは最前列で真正面にいるコーバッツ。

 

「やめろ……!」

 

キリトの静止も聞かず、コーバッツ達は突撃する。

 

「オオオオオオオオオオォ────!」

 

ボスは部屋を轟かす咆哮をあげながら、手に持った大剣を振るう。

 

コーバッツに直撃し、薙ぎ払う。

 

そして、そのHPを全損させる……はずだった。

 

「間に合えぇぇぇぇぇぇぇ────!!!」

 

全力全開の立香の拳が、大剣の脇から叩き込まれる。

 

予想外の位置から強烈な一撃を受け、大剣が軌道を逸らし始める。

 

「ガアァァァァァァァァァ────!」

「ああああああああああぁ────!」

 

拮抗する力と力。

 

差は、位置とタイミング、そして速度。

 

「……っ!?」

 

大剣は、コーバッツと立香をギリギリで避けた。

 

「き、貴様は……な、なぜ」

「いいから!早く逃げろっ!死にたいのかっ!?」

「わ、我々軍に逃げるなどということは……」

「じゃあ、あんたはっ!」

 

コーバッツを肩越しに睨みつけながら、立香は叫ぶ。

 

「そのつまらないプライドのために死ぬのかっ!?プライドと命、どっちが大事だっ!」

「……わ、私は……」

 

ボスが体勢を立て直し、大剣を大上段に振り下ろす。

 

「このっ……!」

 

立香はコーバッツを蹴飛ばし、遠ざける。

 

「あっ……ぶなっ……!」

 

ギリギリで顔の前を大剣が通り過ぎる。

 

「────やるしかないか」

 

拳を打ち付け、構える立香。

 

「ガァァァ!」

 

赤い体躯を大きくしならせ、大剣を振り下ろす。

 

立香はそれを手甲で受け止めながら、力を下方向に流す。

 

破壊不能オブジェクトでなければ、間違いなく床は砕けていただろう。

 

それほどの勢いで、大剣は地面に叩きつけられた。

 

立香はその大剣を踏みつけると、高く高く飛び上がる。

 

「やぁぁぁぁ!」

 

帯びる黄色のライトエフェクト。

 

拳闘スキルが発動し、加速音が鳴る。

 

うなる立香の拳が、ボスの顔面にめり込んだ。

 

「ガァッ────!」

 

ボスのHPが僅かに減少するが、ボスは顔を振って立香の拳を弾く。

 

「大して効いてないか……!」

 

空中でくるくると回転しながら、立香が着地する。

 

「リツカ!お前ぇ、なんて身のこなしだよ……」

「まあ、慣れてるから」

 

そんな立香の元に、アスナとクラインが駆け寄る。

 

「リツカ!アスナ、クライン!」

 

そこへ、キリトからの声が届いた。

 

「10秒だけ時間を稼いでくれ!」

 

頷き、三人はボスに向き直る。

 

ちょうど、ボスが突進してくるところだった。

 

「私が囮になる!二人は武器で受けて!」

「「了解!」」

 

立香は敵の懐に飛び込むように、突進する。

 

そんなもの許すはずがなく、ボスはその図体からは想像出来ない速度で身を捻り、真横に大剣を振るう。

 

「こんのっ……!」

 

立香はダッシュしながらイナバウアーのような体勢を取り、そのまま脚と背中をつけてスライディング。

 

アクション映画のような動きで回避する。

 

脚に力を込め、飛び上がるように起き上がる。

 

「やっば……!」

 

しかし、ボスは空いた片手を活用することを選んだ。

 

拳を振り下ろし、体勢を乱した立香を押し潰そうとする。

 

(防ぎ……切れない!)

 

「リツカちゃん!」

「リツカ!」

 

クラインとアスナが、割って入る。

 

突進系のソードスキルで、ボスの拳を弾く。

 

「リツカちゃん、大丈夫!?」

「チクショウ、なんちゅう重さだ!」

 

その間に立ち上がり、立香は二人の間を駆け抜ける。

 

真横に振るわれた直後、拳も弾かれた。

 

残されたボスの攻撃手段は、特殊攻撃。

 

「ボアァァァァァァァ!」

 

口から吐き出される、レーザーの如きブレス。

 

立香は二人を押し倒すことで、どうにかそれを回避させた。

 

しかし、タイミング故か、どうしても倒しきれなかったらしく、二人はダメージを受けてしまった。

 

「くそっ……!ごめん、二人とも……」

「大丈夫だ、直撃食らうよりマシだしな」

「次来るよ!二人とも!」

 

叩きつけるように飛来する大剣。

 

あまりの連続攻撃。

 

これをまともに対処できる人間など、このSAOに何人いるのだろうか。

 

だが、この場にいるのはその何人かだ。

 

「おんどりゃぁ!」

「くっ……!」

「……ここだっ!」

 

武器を持つアスナとクラインが大剣を受け、立香がそれを思い切り蹴る。

 

見事に軌道が逸れるが、それでもアスナとクラインのHPはさらに減少する。

 

「攻撃力が高すぎる……!」

「キリト君、もうそろそろ……もたないよ……!」

 

そう言うアスナのHPは既に半分を割って黄色ゾーンだ。

 

「いいぞ!待たせた!」

「アスナ!クライン!下がって!」

 

キリトの言に、立香がそう言う。

 

「……ごめん。ポーション飲んだら戻るから」

「任せるぜ、リツカ!」

「グォオオオオオ────!」

 

話を割って飛び込んでくる咆哮と攻撃。

 

「イヤァァァァ!!」

 

純白のライトエフェクトを纏い、アスナの攻撃がヒットする。

 

大きく空いたその間隙に、飛び込むキリト。

 

「スイッチ!」

 

そして、キリトは再び振り下ろされた大剣を、右手の剣で受ける。

 

間髪入れず、背中のもう一つの剣に手をかける。

 

空いた胸に斬撃を叩き込むと、クリーンヒットにボスが悶える。

 

(二刀流か────!たしかに、これなら!)

 

立香のHPは、まだグリーンゾーン。

 

一人で捌くのは厳しいだろう。

 

なら、やることは一つ。

 

「キリト!」

「リツカ!」

 

二人のコンビプレイで、捌き切ればいい。




な、なんとか満足のいくように書けました……

よ、良かったです……一応鈍ってはいないようです……

それでは、また来週お会いしましょう!


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スターバースト・ストリーム

どうも皆様

またもや時間過ぎて申し訳ございません、雪希絵です

↓以下、長文になりますが目を通して頂けると幸いです

実は、ある方に御指摘を頂いたのですが

バランス調整で無双ゲーになっていないということと、ガールズラブのタグが機能していないと……

たしかに、ガールズラブに関しては私もそう感じるところがあります

タグに記載しているのに、ほとんどスキンシップくらいで、百合とも言えるか分からないような状態で……

R15でどこまで描写していいか判断しかねていたとはいっても、これではタグ詐欺になりかねません

その辺りは、また深く考えて行こうと思っています

バランス調整の方ですが……今のこのカーディナルによって敵が強化された状態というのは、完全に私の趣味です

無双ゲーじゃなくて多少苦戦したいい勝負が書きたいなぁ……というだけなんです

もちろん、元の無双ゲーに戻す設定も(かなり安い考えではありますが……)考えてあります

単純に書きたいものを書いただけなので、期待外れになってしまった方、申し訳ございません

上記のような考えがあることを、どうぞご理解のほどよろしくお願い致します

感想ではなく評価欄だったのでここに書きはしましたが、ちょうど皆様にも知って欲しかったのでこうして書かせて頂きました

どうぞこれからも、『もしもセイバーのマスターがソードアート・オンラインに異世界転移したら?』をよろしくお願い致します


二刀流を握るキリトと共に、立香はボスの懐へと飛び込む。

 

もちろん、ボスがそれを容認するわけが無い。

 

「グォオオオオオ!」

 

雄叫びを上げ、その手に握る大剣を振るう。

 

「俺が受ける!」

 

キリトは立香より一歩前に出ると、双剣をクロスさせてガードする。

 

元々重量級の剣を好むキリトの筋力が、二本に増えた剣によって遺憾無く発揮される。

 

「ぐぅ……!うぉおおおお!」

「ガァオオオオオオオ!」

 

ギリギリと鍔迫り合いを続ける。

 

互いの力が衝突した拮抗状態。

 

だが、キリトは一人で戦っているわけではない。

 

「やぁぁぁっ!」

 

サイドから割り込んで来た立香が、ボスの脇腹に腰を捻って拳を突き出した。

 

体重の乗ったフルスイングの一撃が、容赦なくボスに突き刺さる。

 

硬いものを叩いたことによる大音響が部屋に満ちる。

 

「グォオオオオオォォォォ!」

 

それを掻き消すかのようにボスは大きく咆哮する。

 

それは痛みからなのか、ダメージを受けたショックによるものなのかは定かではない。

 

だが、そこでボスの力が緩んだのは事実。

 

「ぉぉぉおおおおおっ!」

 

叫び、猛り、キリトは両腕に力を込める。

 

大剣を弾き飛ばし、キリトもボスの懐に飛び込んだ。

 

「「はぁああああっ!」」

 

立香の右拳、キリトの左手の剣が重なる。

 

同時に、赤いライトエフェクトと白いライトエフェクトがそれぞれの武器を包み込む。

 

突進系ソードスキルが重なり、ジェットエンジンの加速音が重なって不思議な音を奏でる。

 

金属を殴ったかのような衝撃が、二人の腕に跳ね返ってきた。

 

痛みがないので痺れるような感覚だけが伝わる。

 

違和感と気持ち悪さに顔を顰めながら、二人は同時に後退する。

 

「まだまだっ!」

 

今度は立香が後ろ足にタメを作って駆け出す。

 

ロケットの如く急加速し、ボスへと接近していく。

 

その最中、大きく横薙ぎに振るわれた大剣を、大きくジャンプして回避する。

 

自分の真下に到達した瞬間に、その大剣を踏みしめてさらに高く跳躍。

 

ボスの頭上おも大きく越えて、立香はその場で体勢を整える。

 

ぐるり、と脚を回しながら、その頭蓋に踵落としを繰り出す。

 

「ガァァァァァァァァ!」

 

再び吠え、鬱陶しいものを取り払うよう空いた手を振るう。

 

キリトはその間にも果敢に攻める。

 

体勢故か、キリトに向かってくる大剣は先程までの勢いは持っていなかった。

 

左手の剣を盾のように構え、大剣を正面から受ける。

 

ダッシュしながらであるため、ほんの僅か、少しだけ時間が出来た。

 

たかが一瞬、されど一瞬。

 

どうにか接近に成功したキリトは、X字型にクロスさせて斬撃を放つ。

 

立香は着地し、斬撃のエフェクトが消えた後に、ボスの目と鼻の先まで飛び込んだ。

 

「ガァアアアアアアアァァァァァァァ!!!」

 

痺れを切らしたボスが、頭上まで大剣を持ち上げる。

 

半秒後、落下する流星のような迫力と威力を内包した斬撃が、ボスから繰り出される。

 

「これはやばいっ!」

「キリト、そっち!」

 

正面から受ければただでは済まない、そう判断した二人は二手に分かれる。

 

二人が元いたところに剣が振り下ろされた頃には、既に立香とキリトはボスの両側に回り込んでいた。

 

自らを挟む超高速の二人に、ボスは対処に迷ったように動きを止める。

 

全く同時にソードスキルが繰り出される。

 

キリトは下半身狙い、立香はジャンプして上半身狙いだ。

 

しかし、ボスは左腕で立香の拳を受け、キリトに向かって下から上にすくい上げるように攻撃を繰り出した。

 

正面衝突し、何度目か分からない大音響が鳴る。

 

拳が通らなかった立香は、諦めずに何度も拳を繰り出す。

 

左、右、左、右、次々と着弾する拳。

 

「ゴァアアアアアアアッ!」

 

流石に無視出来なくなったのか、ボスは立香の方を向いて口を開く。

 

間違いなく、ブレスの予備動作だ。

 

「やっば……!」

 

こちらに向けられた腕を横から殴り、その反動を利用して速度を上げて着地する。

 

乱れた体制ながらもどうにか着地。

 

そうして、立香は口の端を吊り上げた。

 

意識が立香に逸れている間に、キリトが接近していたのだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ─────!」

 

ハサミのようにクロスさせて構えた二刀が、青白く輝く。

 

二刀流上位ソードスキル『スターバースト・ストリーム』。

 

連続十六連撃。

 

「ぁぁああああああああ────!」

「グガァァァァァァァ────!」

 

互いに叫びながら、青白い帯を描く斬撃が、ボスの身を切り刻んでいく。

 

「ガァッ!」

 

ボスが突き出した腕が、キリトの右手の剣を掴み取る。

 

だが、残るキリトの左手の剣が、ボスの胸を刺し貫いた。

 

ボスのHPは、その全てを闇色へと変えた。

 

断末魔の叫びを上げながら、ボスはポリゴンの破片となって砕け散った。

 

同時に、全力を果たしたキリトは倒れ込み、立香もその場にへたりこんだ。




時間すぎて申し訳ございません

時間が時間のためか、ちょっとの間寝落ちしてしまいました

それでは、また来週お会い致しましょう


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ボス戦のその後

どうも皆様

再び親指を怪我した雪希絵です

絆創膏打ちにくいです……

いえ、実を言うと指の皮をめくってしまう癖がありまして……

時折それが深くなることがあるんです

治すように気をつけなくては……

それでは、ごゆっくりどうぞ!


「はっ……はっ……はっ……!」

 

視界が霞む。

 

滝のように汗が流れ出す。

 

熱された体が呼吸を重ねる毎に冷えていく。

 

頭上の見れば、HPバーはそのほとんどが消失してレッドゾーンになっていた。

 

(……初めて、なったなぁ)

 

ははっ、と乾いた笑いが口から漏れる。

 

妙な感情が湧き上がり、ぼーっとする頭のまま座り込む。

 

「キリトくん!リツカちゃん!」

 

アスナが駆け寄ってくる。

 

大丈夫、そう声を出そうとしたが、かすれて何も出なかった。

 

(これは……相当にきてるなぁ……)

 

狂化A+という、桁外れのバーサーカーと化したボスとの戦い。

 

極限状態で戦い続けたことによって磨り減った精神は、いかに立香といえど多少では済まない。

 

加速し続けた思考回路の代償。

 

焼き切れる程に行使し続けた、反射神経の限界。

 

どうにか立とうとしても、上手く体に力が入らなかった。

 

キリトは恐らく、立香のその上を行く症状で気を失ってしまったのだろう。

 

(まあ、でも……ギリギリ残ってるし、大丈夫かな)

 

キリトのHPバーは、立香と同じくギリギリではあるが、一応残っている。

 

これなら大丈夫だろう。

 

「大丈夫!?リツカちゃ……」

「センパァァァァァァァァァイ!!!」

「にゃっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

声をかけようとしたアスナを遮り、突進するかのような勢いでマシュが抱きついて来た。

 

その勢いたるや、リツカが妙な奇声を上げてしまう程だった。

 

「先輩!先輩!大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?体力は大丈夫ですか!?状態異常は!?ああ、怪我はしないんでした!先輩!お腹は空いていませんか!?甘いもの食べますか!?」

「うん、大丈夫。大丈夫だよ、マシュ。あと話が妙な方向にズレてる」

 

怒涛の勢いでまくし立てるマシュを、立香は慌ててなだめた。

 

顔を見れば、その目は涙でくしゃくしゃに歪んでいた。

 

邪魔だとばかりにメガネを取り払い、拭いながら嗚咽を漏らす。

 

「先輩……先輩……ごめんなさい……ごめんなさい……!わた、私は……!先輩を…… 先輩を守らないと……ひっく……いけ、いけないのに……!」

「あーあー、大丈夫だって。そっちも大変だったんだから……」

「いえ、アルトリアさんとエミヤさんがバッタバッタと……」

「あ、そっかぁ……」

 

よくよく考えれば、エミヤも二刀流を使える上に、アルトリアも鎧を解けば魔力放出が激増するのだ。

 

時間はかかれど、充分に戦えるだろう。

 

「ごめんね、心配させて。私は大丈……」

「マスタァァァァァァァァァ!」

「いやっふぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

某ヒゲの配管工ような叫び声を上げながら、立香はまた驚きに身を跳ねた。

 

もはや魔力放出おも駆使しているのではないかという速度で、アルトリアが突撃してきたのだ。

 

下手をすればHPがゼロになってトドメを刺されそうである。

 

「マスター!大丈夫ですかっ!?お怪我は!?体力は大丈夫ですか!?状態異常は!?ああ、怪我はしないんでしたね!マスター!お腹は空いていませんか!?何か食べますか!?いえ、ぜひ食べましょう!ぜひ!」

「うん、大丈夫。大丈夫だよ、アルトリア。っていうか、食べ物ゴリ押ししすぎ。食べに行こうね、うん」

 

左手にはきつく抱きつくマシュ。

 

右手には手を握りながら不安そうな表情をするアルトリア。

 

(両手に花とはこのことか)

 

他人事のようにそんなことを思っていると、

 

「あの、リツカちゃん……」

 

アスナもまた、不安そうな表情でこちらを見ていた。

 

「……私は大丈夫だから。キリトのところに、行ってあげて?」

「……うん。ごめん、ありがとう」

 

キリトくん、と呼びながら、アスナはキリトの元へ駆け寄って行った。

 

直後、立香の側に背の高い影が現れ、立香にポーションの瓶を放り投げた。

 

周囲の索敵を終えたエミヤが戻ってきたのだ。

 

「マスター、無事か?」

「エミヤ」

「どうした、その反応は」

「いや、エミヤは二人みたいに抱きついて来ないのかなぁって」

「君は私に何を求めているんだ」

「バッチコイ」

「やめたまえ」

 

頭が痛いとばかりにエミヤはため息をつきながら、額に手を当てた。

 

しばらくすると、キリトが目を覚ました。

 

その瞬間強烈に抱き締めるアスナ。

 

「……あんまりきつく締めると、HPがゼロになるぞ」

 

アスナはキリトをキッと睨みつけると、その口にポーションの瓶を突っ込んだ。

 

五分もあれば体力はMAXになるだろう。

 

「おおい、それよかキリの字!何だったんだよ、今の!」

「言わなきゃダメか?」

「あったり前だ!」

「……エクストラスキルだよ。『二刀流』」

 

おおっ……、という声が上がる。

 

知ってた組は平然としているが、風林火山のメンバーは軍の面々は驚きを隠せない。

 

ひとしきり話が終わると、クラインは風林火山のメンバーを引き連れて転移門の方に向かう。

 

「どうする、キリト。せっかくの功労者だし、お前が転移門起動してくか?」

「いや、いいよ。任せた」

 

クラインはニヤニヤしながら頷くと、転移門の方へ向かっていった。

 

軍の面々も撤退していく。

 

「私達も行こうか?HPも回復したし」

「そうですね」

「マスターの言を借りるなら、『あとはお若いお二人で』だな」

「That's Right」

「流暢な英語ですね……」

 

キリトとアスナを部屋に残し、立香達もボス部屋を後にした。




お読み頂きありがとうございました!

盛大に時間過ぎてしまいました……

絆創膏打ちにくいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ三('ω')三( ε: )三(.ω.)三( :3 )三('ω')三( ε: )三(.ω.)三( :3 )ゴロゴロゴロ

それでは、また来週お会いしましょう!


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喧嘩売られた

どうも皆様

突然ですが、皆様にお知らせがございます

わたくし雪希絵、このたびTwitterアカウントを作成しました

@yukie_yaesaka

こちらがTwitter名ですので、よろしければフォローお願いします

それでは、ごゆっくりどうぞ!


翌日。

 

七十五層に至った攻略組の面々は早速攻略に乗り出した。

 

しかし、立香達はその限りではなかった。

 

「はあぁぁぁ?デュエルすることになったぁ?」

 

場所はエギルが店主を務める雑貨屋の二階。

 

立香、アルトリア、マシュ、エミヤ、そしてキリトとアスナがそこにいた。

 

ちなみに、店長のエギルはキリトによって一階に叩き落とされた。

 

店の外には、キリトから話を聞こうと集まったプレイヤー達が多数いた。

 

しかし、そんな外の大騒ぎも耳に入らない程、立香の声が部屋に満ちた。

 

「いや、その……成り行きで……」

「私は団長を説得しようとしたんだけど……」

「うんうん、アスナは悪くないからね。よしよし、よしよし」

「あの、大丈夫だから……立香ちゃん」

「なぁに?」

「そろそろ……離れて?」

 

現在、アスナは立香に後ろから抱き締められながら頬ずりされている。

 

「最近アスナ成分が足りてないからさ」

「ごめん、よく分からない……」

 

アスナは終始苦笑いであった。

 

「それで?何故そのような話になったんだ?」

 

話が進まないとばかりに、エミヤが切り出した。

 

「ああ。アスナが欲しいなら剣で奪えって……」

「それで、乗ってしまったんですね?」

「うん……」

 

恐る恐る、といった様子で頷くキリト。

 

「まあ、その状況なら私も乗るかもね」

「分かってくれるか、リツカ」

「良かったぁ……」

「……?」

 

首を傾げる立香は、

 

「実は、団長がリツカちゃんともデュエルしたいって言い出して……」

 

直後にポカンと口を開けたまま固まった。

 

───────────────────────

 

「どうしてこうなった……」

 

場所は変わってカルデア組の自宅。

 

立香はベッドの上でゴロゴロと転がり続けていた。

 

「どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁ……」

「……荒れてますね。先輩」

「無理もありません。分かっていても挑発に乗ってしまったわけですし……」

「『君の拳では私の盾を破れない』だったか。拳に絶対の自信のあるマスターは無視出来ないだろうな」

 

立香の格闘技は李書文を初めとして、新宿のアサシンやマルタ達に教わったものだ。

 

その格闘技を『私の盾を破れない』と馬鹿にされて黙っている訳にはいかない。

 

無論、ヒースクリフも本気で言った訳ではないだろう。

 

(分かってるけど……分かってるけどぉ……!でも、みんなに教えて貰った格闘技で負けたくないんだよぉ……!)

 

ゴロゴロと転がりながら、立香はそう考えていた。

 

「はぁ、やるしかないかぁ」

「ですが、負けたら血盟騎士団に再び入団しなくてはいけないのでしょう?」

「まあね。そんなに不都合はないと思うけどね」

「たしかに。頼もしい味方であるのは間違いないな」

「装備も昔もらったものがありますからね」

 

起き上がった立香、アルトリア、エミヤは首を傾げて考え込む。

 

「なんか、負けてもいいような気が……」

「私も……」

「以下同文」

「あ、あの……」

 

そんなことを言う三人に、マシュが遠慮がちに声をかけた。

 

一斉に振り返る三人に若干驚きながら、続ける。

 

「……血盟騎士団に入ってパーティーを組むことになったら……聖杯の探索が難しくなるのでは?」

 

直後、ピタッと静止し、

 

「あかんやん!」

「失念していました」

「………しまった」

 

一斉にそう言った。

 

「……大丈夫なのかな、この子達」

「私にも分からないので助けてくださいドクター……」

 

どうしようどうしようと焦る立香達を見ながら、マシュとロマニはため息をついた。

 

そして、次の日。

 

決闘会場となった、アインクラッド第七十五層首都にある闘技場前にて。

 

「いらっしゃい、いらっしゃい!」

「観戦に冷えた飲み物はいかがー?」

「……なぁにこれぇ」

 

お祭り騒ぎの状況を見て、立香が放心状態になった。

 

「いつの間にこんな騒ぎに……」

「大方、こうして観客を集めればコルが集まると考えた者がいるのだろうな……」

「人を見世物にして!出演料とってやる!」

「そっちですかっ!?」

 

とはいえ、その場に留まっている訳にもいかず、血盟騎士団のメンバーの案内で控え室に向かう。

 

「……いいタイミング」

「ええ、特等席ですね」

「……ごくり」

 

目の前では、キリトとヒースクリフのデュエルが行われようとしていた。




お読み頂きありがとうございました!

今回ちょっと短めですね(^_^;

決闘直前まで書こうとしたら、短くなってしまいました

時間すぎて申し訳ございませんでした、また来週お会いしましょう


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ユニークスキル

どうも皆様

ちょっとだけお久しぶりです、雪希絵です

体調はもうバッチリ治りました

今週からまた連載再開していきます!

よろしくお願いします!


結果から述べると、接戦の末にキリトは敗北した。

 

二本の剣と十字剣、そして巨大な盾が応酬される激しいデュエル。

 

誰がどう見ても、このアインクラッド史上に残る名勝負だった。

 

実際、闘技場内には惜しみない拍手と歓声が満ちている。

 

だが、立香は妙な違和感を抱えていた。

 

(……速すぎる)

 

最後の最後、キリトの渾身の一撃。

 

感覚の鋭い立香は、あれで決まったと確信していた。

 

だが、ヒースクリフはそれを防いだ。

 

ギリギリ掠めるとかそういうレベルではなく、真正面から綺麗に受け切ったのだ。

 

結果、体勢を乱したキリトはヒースクリフのカウンターを避けられず、デュエルは呆気なく決着した。

 

アスナに助け起こされたキリトもそう思っていたのか、呆けた顔でぼうっとしていた。

 

(あれと、戦うのかぁ……)

 

だが、立香の目はやる気だった。

 

(……手は、ある)

 

アイテム欄を操作し、愛用の手甲を取り出す。

 

一見するとサテングローブのようにも見えるが、強度は折り紙付き。

 

ヒースクリフの盾や剣にも、ある程度はついていけるはずだ。

 

「先輩!」

 

愛しい後輩の一声に、立香が振り返る。

 

「頑張ってください!信じてますから!」

 

両手でガッツポーズしながら、マシュが微笑んでそう言う。

 

(……ああ、可愛い。天使か)

 

そう思いながら、背中を向けて右手を真横に突き出し、ぐっと親指を立てて答える。

 

大歓声と共に、立香は闘技場へと入場した。

 

闘技場の真ん中辺りで立ち止まり、肩をぐるぐると回して準備運動をする。

 

ひとしきり動かし終わった頃。

 

一際大きな歓声を背に、ヒースクリフが入場してきた。

 

服装はキリトと戦った時と同じ、血盟騎士団員と逆の色合いの装備。

 

その手には、身体の半分を覆う程のサイズの盾が握られている。

 

剣はその裏に収納されているようだ。

 

ヒースクリフは立香から数メートル離れた位置で立ち止まり、不敵に笑う。

 

「……久しぶりだな、リツカ君」

「……お久しぶりです、団長。まあ、今は団長じゃないですけど」

「いや、このデュエルの後は君も団員だ」

 

当然のようにそう言うヒースクリフに、立香が眉を少しだけひそめる。

 

だが、すぐに両の拳を打ちつけて、

 

「……分かりませんよ?私、キリトより速いですから」

 

そう言って、同じように不敵に微笑む。

 

ヒースクリフは受けて立とうとばかりに、ステータス画面を操作してデュエルの申請を行う。

 

即座にそれを受諾し、ステータスを閉じて深呼吸。

 

カウントダウンがカチカチと進んでいく。

 

見れば、ヒースクリフも剣を取り出して構えている。

 

立香も構え、細く鋭く息を吐き出した。

 

雑音が遠ざかっていく。

 

己の感覚が、ヒースクリフ一人へと注がれていく。

 

……3……2……1……0。

 

カウントダウンがゼロになったその瞬間、立香はロケットスタートを決める。

 

効果音もエフェクトも置いて行く程の速度で、ヒースクリフへと肉薄する。

 

だが、ヒースクリフは焦らない。

 

落ち着いて盾を構え、立香の右拳の軌道上に。

 

神速で繰り出される立香の拳は、それでもヒースクリフの防御を破れず、弾き返される……それが普通だ。

 

だが、事実はそれを裏切る。

 

李書文(せんせい)直伝────」

 

ポツリと呟いた立香の拳は、ヒースクリフの盾に衝突。

 

直後、

 

「『鎧通し(よぉろぉいどぉしぃ)』ぃぃぃ────!!!」

 

ヒースクリフの盾から、ダメージが抜ける(・・・)

 

それは僅かではあるが、闘技場の観客にも分かる程度には、ヒースクリフのHPを刈り取った。

 

「「「「うぉおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!」」」」

 

一発目からヒースクリフにダメージが入り、観客は沸きに沸く。

 

サーヴァント組も驚き顔だ。

 

ヒースクリフはハッとした顔になると、即座に飛び下がる。

 

「……ふぅ」

 

立香はその間に体勢を整え、構え直す。

 

今しがた立香が使用したのは『鎧通し』と呼ばれる格闘技の技の一つだ。

 

端的に言えば、防具を無視して打撃力を直接相手に叩き込む技術。

 

カーディナルによる複雑な演算結果は、立香の打撃力を反映する結果を出した。

 

一か八かではあったが、立香は賭けに勝ったのだ。

 

(よし……次)

 

ほんの僅かな睨み合い。

 

数秒後、二人は同時に床を蹴る。

 

距離が詰まったその瞬間、

 

「やぁぁぁぁぁ────!」

 

立香の両手が燃える炎のようなライトエフェクトを帯びる。

 

微かに眉を顰めるが、ヒースクリフは冷静に盾を構える。

 

右手の正拳突きから、右側に回り込んで左手でアッパー。

 

大きく足を縦に回転させ、叩きつけるように踵落とし。

 

その全てを盾で受け、ヒースクリフは反撃に転じる。

 

だが、立香のスキルはこんなところでは終わらない。

 

両手の掌底を合わせ、手のひらを開いて五指を曲げる。

 

ライトエフェクトを纏いながら、ヒースクリフの攻撃を紙一重で回避。

 

そして、盾に向かって両手を叩きつける。

 

同時に捻りながら押し込み、力を爆裂させるイメージで力を放出する。

 

派手な金属音が鳴り、ヒースクリフが一歩二歩後退する。

 

再び、僅かながらも減少するHP。

 

「……なるほど。君も、ユニークスキルの持ち主か」

「ご明察」

 

左右の手を払うと、両手のライトエフェクトが消える。

 

「……ユニークスキル『太鳳拳』。隠し球、ってやつですよ」

 

直後、先程以上に沸きに沸く観客達。

 

闘技場が震えているようにも感じられる程だ。

 

(よし、上手くいった。でも……やっぱり流石だなぁ)

 

立香はそう思いながら、視線だけ右頬の方に向ける。

 

ポリゴンの欠片がキラキラと、傷痕から流れていた。

 

HPバーは少しながらも減少している。

 

『太鳳拳』のソードスキルを受けながらも、ヒースクリフはカウンターを決めてきたのだ。

 

(油断ならないな……)

 

再び構えながら、立香はヒースクリフを見据えた。

 

デュエルはまだ、始まったばかりだ。




お読み頂きありがとうございました!

というわけで、立香にユニークスキルを追加させて頂きました!

名前のセンスねぇな、とかは御容赦ください

それでは、太鳳拳の補足情報を少々

ユニークスキル『太鳳拳』は、体術スキルと拳闘スキルを発展させたような感じです

全てのライトエフェクトが燃える炎のような見た目で、両手両足を駆使した格闘ゲームのコンボのようなスキルがあるのも特徴です

それでは、また来週お会いしましょう!


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決着

どうも皆様

二日連続でお肉の食べ放題に行ってた若干胃もたれになってる雪希絵です

皆様はゴールデンウィークを謳歌しておりますでしょうか

私は残念ながらぶつ切りゴールデンウィークですが……精一杯楽しみたいと思います

それでは、ごゆっくりどうぞ


「ちぇいさー!」

 

気の抜けた気合と共に、立香は拳を振るう。

 

ヒースクリフとの距離はそれなりに空いているが、立香は拳の速度を緩めない。

 

何かくる、そう判断したヒースクリフが油断なく盾を構える。

 

次の瞬間、立香の拳がライトエフェクトに包まれる。

 

それはまるでロケットエンジンの噴射のように後方へと伸び、猛烈な加速力を生み出す。

 

ヒースクリフはそれに合わせ、同じくライトエフェクトを纏った盾を突き出す。

 

辺りに大音響が轟く。

 

(まずい、拮抗してたら押し負ける……!)

 

直感でそう考えた立香は、ヒースクリフの押す力に逆らわずに利用し、ぐるりと回転する。

 

左脚を軸にし、右脚で後ろ回し蹴り。

 

ヒースクリフはそれをしゃがんで回避し、膝を伸ばして勢いをつけながら右手の十字剣を突き込む。

 

「あっ────ぶっ……!」

 

紙一重でそれを回転するが、胸の部分に僅かにヒットする。

 

赤いポリゴンの破片がキラキラと飛び散る。

 

「こんのっ……!」

 

片足で器用に地面を蹴り、距離を取る。

 

体勢の乱れたその瞬間を、ヒースクリフが逃すはずがない。

 

地面を蹴り、盾を正面に構えたまま猛烈な勢いで突進する。

 

「………『太閣』」

 

その時、立香の全身が淡くライトエフェクトに包み込まれる。

 

時間にして、ほんの瞬き程の一瞬。

 

それがちょうど、ヒースクリフの突進が直撃した瞬間と重なる。

 

特大の鉄球二つが衝突したかのように、一際壮絶な音が響く。

 

「……っ……だぁぁぁぁぁぁっ!」

「むぅ………!」

 

僅かな拮抗の後、気合いと共に強引に腕を押し出す立香。

 

押し返され、体勢を乱すヒースクリフ。

 

ユニークスキル『太鳳拳』の中には、ダメージを完全に無効にするスキルまである。

 

だが、その当たり判定は極々限られた時間しかない。

 

その上、使用したあとは、少しの間被ダメージが上昇する。

 

(だったら、当たらなければどうということはない────!)

 

両手両足、さらには頭にまで炎のライトエフェクトが着火する。

 

ヒースクリフはそれを見て、なお後退はしない。

 

巨大な盾が光り輝き、立香のコンボを次々と受ける。

 

その堅牢さは、1ドットも減少していないHPバーが物語っている。

 

最後に頭突きを叩き込むが、それすらも盾で防がれる。

 

現実世界だったら猛烈な痛みが立香を襲っているだろうが、今は若干酔うような感覚があるだけだ。

 

(そんなことより、回避……!)

 

反撃に転じるヒースクリフの剣が、立香の首を両断せんばかりに襲いかかる。

 

全力で背を仰け反らせ、顎を上げてギリギリで回避。

 

あと数ミリ前にいたら、間違いなくヒットしていただろう。

 

「このぉ……!」

 

片脚を無理やり持ち上げて、ヒースクリフの盾を狙って蹴る。

 

防御のために込められた力を利用し、大きく距離を空ける。

 

(被ダメージ増加の時間は過ぎた。……よし)

 

呼吸を整え、立香は再びヒースクリフの懐に向かって飛び込んだ。

 

───────────────────────

 

「……弱点……って?」

 

一方、観客席は歓声に埋め尽くされていた。

 

そんな中でのキリトの呟きを、アスナが拾い上げた。

 

『……まずいな、弱点をつかれてる』と。

 

「……ああ。立香のスキル、たぶん格闘系のユニークスキルだろうけど……威力もスピードもあるし、コンボなんかもあって確かに強力ではあるんだけど……。それでも弱点が一つ」

 

一拍おき、キリトは腕を組んで続ける。

 

「拳って特性上、どうしても射程が短いんだ。それに合わせて、ヒースクリフは攻撃の瞬間に後退しながら受けてる」

「そっか、伸びきった腕だと大きな威力は出せないから……」

「うん。圧倒的に受けやすくなる。今、立香がやられてるのはそれだ」

 

(このままだと負けるぞ。どうする、立香……)

 

───────────────────────

 

「はぁ……はぁ……」

 

残り時間は、あと僅か。

 

HPは、ヒースクリフの方が少々上回っている。

 

というのも、立香の攻撃が通らなくなってきているからだ。

 

ヒースクリフのカウンターも回避してはいるが、限界がある。

 

(このままだと確実に負ける……)

 

だからこそ、立香は勝負をかけることにした。

 

「……よし」

 

構え、見事な歩法でヒースクリフへと肉迫する。

 

右手がライトエフェクトを纏い、スキルが発動する。

 

先程までと同じように、後退して威力を減衰させながら盾で防御。

 

そして、反撃。

 

真正面から顔に向かって、恐ろしい速度の突き攻撃が繰り出される。

 

「……それを待ってた」

 

口の両端を釣り上げる立香。

 

直後、立香の顔面に剣が直撃する。

 

だが、HPバーは減少しない。

 

「……ぐっ……ぎぃ……!」

 

なんと、立香は横向きに飛来してきた剣の先を、噛むことで防いだのだ。

 

ギリギリと軋むような音がし、ヒースクリフの動きが止まる。

 

その隙を逃さず、回し蹴りを側頭部に叩き込む。

 

ヒースクリフのHPがグリーンギリギリまで減少する。

 

同時、立香が噛んだ剣が真横に振るわれる。

 

グリーンギリギリまで減少するHP。

 

次の瞬間、音ともに目の前に『Draw』の文字。

 

見れば、タイマーは既にゼロだった。

 

全く同数字のHPで、時間経過。

 

結果、勝負は引き分けとなった。




お読み頂きありがとうございました

実際SAOにドローがあるのかは分かりませんが、こういう終わり方にさせて頂きました

それでは、また来週お会いしましょう


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強化しよう

どうも皆様

連休明け特有の気だるさに苛まれている雪希絵です

そのせいでしょうか、盛大に時間がかかってしまいました

それでは、ごゆっくりどうぞ


「……大丈夫かなぁ、あの二人」

 

アインクラッド七十五層、主街区『コリニア』。

 

ローマ風の街並みの中央に位置する広場にて、立香は座って足をプラプラさせながら呟いた。

 

結局、デュエルは引き分けに終わったので、立香達は血盟騎士団には加入しないこととなった。

 

ただし、キリトは敗北したので血盟騎士団に入団し、明日から団員として攻略に向かうらしい。

 

立香は先程から、それが気になって仕方ないのだ。

 

「やはり二人が気になりますか、マスター」

「うーん。まあね」

 

そう言うアルトリアに、伸びをしながら答える。

 

ちなみに、今はエミヤに屋台へのお使いを頼んでいるところである。

 

朝ごはんを外で食べることになったのだ。

 

「あの、先輩」

「んお?」

「私には、先輩の心配の理由がよく分からないのですが……」

「あー、そのことか。よっ、と」

 

勢いを付けて立ち上がり、くるりと反転してマシュの方を向く。

 

「まあ、大したことじゃないんだけどさ。前にクラディールとキリト、なんかあったみたいだしさ」

「そういえば、言ってましたね。なんでもデュエルになったとか」

「そそ。で、それのせいで、クラディールだけじゃなくて他の団員に目を付けられたりしてないか……ってさ。ただでさえ、アスナっていう最高クラスの戦力であり、アイドルである人を引き抜こうとしてたわけだし……」

「なるほど……」

「まるで新しい学校に馴染めるか心配している母親のようだな」

 

不意にかかった聞きななれた声に振り向くと、いくつかの食べ物を抱えたエミヤが戻ってきていた。

 

「お、ありがとエミヤ」

「感謝します、アーチャー」

「ありがとうございます」

 

各々お礼を言いながら、早速手をつける。

 

つい最近のデュエルで味をしめたのか、闘技場の周りには屋台が何軒か残っている。

 

どの店もそれなりに繁盛しているようだ。

 

「ふぅ、美味しいですね」

「もぐもぐ。もぐもぐもぐもぐ」

「セイバー、ハムスターのようになっているぞ」

 

焼いたソーセージを頬張ったアルトリアの頬が、まるでハムスターのように膨らむ。

 

なんだか微笑ましい光景だが、口元にケチャップが付着している。

 

「……ふむ」

 

立香は思案顔をした後に口の中の食べ物を飲み込む。

 

そして、アルトリアの頬に手を添えて、

 

「アルトリアー。顔にケチャップ付いてるよ?」

 

そう言って顔を近づける。

 

「ああ、すみません、マス……」

 

直後、アルトリアが硬直する。

 

それも当然。

 

必要以上に立香の顔が近づいたかと思うと、なんでもないことかのように、ペロリとケチャップを舐めとったのだ。

 

「ひっ……!?な、ななな、マスター何を!」

「ん?いや、汚れてたから」

「そそそそそ、そういうことを言っているのではなく!」

 

飛び上がるような勢いで立ち上がり、アルトリアが慌ててそう言う。

 

その顔は耳まで真っ赤である。

 

「ごめんごめん。舐めたくなっちゃって」

 

対する立香は、ペロッと舌を出して軽い調子で答える。

 

「先輩!その発言は流石に危ないです!」

「何をやっているんだ君らは……」

 

わぁわぁと騒ぐ他三人に、エミヤが一人ため息をついた。

 

───────────────────────

 

「さって、今日はどうしようかなぁ」

 

食事も終わり、立香はアインクラッドの天井を見上げる。

 

「いつも通り迷宮区に行きますか?」

 

食後の片付けを終えたマシュが提案する。

 

ちなみにアルトリアはほんの少しだけ離れた位置で未だに顔を赤くしている。

 

「うーん、それでもいいんだけど……」

 

しばらく腕を組んで考えた後、

 

「あ」

 

何か思いついたのか、アイテム欄を弄り始めた。

 

「……おお、すごい。あるんだ」

 

選択し、オブジェクト化する。

 

その手には、二枚のカードが握られていた。

 

「先輩、それは?」

「んー?『概念礼装』」

 

概念礼装は本来、カルデアのサーヴァント達が身につける装備品だ。

 

しかし、どうやらアルトリアとマシュが装備していた礼装が、アイテムとして立香の手元に渡っていたようだ。

 

(『リミテッド・ゼロ・オーバー』と『目醒め前』か……)

 

「……うん、いいこと考えた」

 

ニッコリと微笑む立香に、サーヴァント組は首を傾げるばかりだった。

 

───────────────────────

 

「リズー!やっほー!」

「わぁ!……って、リツカか」

 

しばらくして、立香達はリズベット武具店へとやって来た。

 

「ねぇねぇリズ。今って時間ある?」

「まあ、一応あるけど。どうしたのよ」

「うん。ちょっとお願いがね」

 

そうして、アルトリアとマシュが自分の武器を取り出す。

 

「強化、頼みたくてさ」

 

SAOにおける強化とは、NPCもしくはPCの鍛冶師にコルを渡し、六つのパラメータのうちのどれかを上昇させるというものだ。

 

ただし、武器によって強化出来る回数制限がある上に、失敗しても回数制限は消耗されてしまう。

 

ややリスキーではあるが、やってみる価値は充分にある。

 

「なるほどね……。OK、任せて」

 

ウィンクし、快く応じるリズベット。

 

「ありがとう!さすがはリズ!」

「ただ、成功するかどうかは運だから、過度な期待はしないでよ?」

「任せたよ、リズ!」

「お願いします」

「楽しみです」

「話聞いてた?あんた達」

 

額を抑え、ため息をつくリズベット。

 

しかし、すぐに立ち上がると、ハンマーを取り出して火事場に向かう。

 

「さて、どっちから始める?」

「では、私から」

 

名乗りをあげたのはアルトリアだ。

 

手に持った『約束された勝利の剣』を、リズベットに手渡す。

 

途端、リズベットの両腕にずっしりとした重みがのしかかる。

 

(見た目の割に結構重いなぁ)

 

「アルトリア、強化はどこに振るわけ?」

「そうですね……。では、鋭さ4と速さ2、丈夫さ2で」

「りょーかい!ついでにマシュは?」

「えーっと……。重さ2と丈夫さ6で」

「はいはい。任せて」

 

ステータス画面を操作しながらそう言い、リズベットは作業台に剣を置く。

 

「……よし」

 

気合を込めて、リズベットはハンマーを振り下ろした。




というわけで、武器を強化することになりました

実際出来るか分かりませんが、この場合は出来るということでお願いします

それでは、また来週お会いしましょう


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心からの贈り物

どうも皆様

またやらかしたかと途方に暮れる雪希絵です

恐らく、この先もこういったことはあるでしょうけど……それでも翌日までには何とか更新したいと思っているので、気長に待って頂けると嬉しいです

そして、ついでに私は重大なことに気が付きました

……ラフコフ討伐戦を書いていない!!!

これは由々しき事態ですよ……SAOでもトップクラスの事案だと言うのに……

というわけで、今度書きます!

恐らく、七十四層の前の辺りに挿入して投稿することになると思います

よろしくお願いします!


「いよっしゃ、終わり!」

 

最後のハンマーを叩き込み、リズベットがマシュの盾を抱え上げる。

 

「おっも……!より重くなったなぁ……」

 

両手で持ち上げても支えきれず、ヨロヨロとよろけてしまう。

 

「あっ……と」

 

その途中、マシュがリズベットを支える。

 

「大丈夫ですか?リズベットさん」

「ありがと、マシュ。っていうか、見かけによらず力あるわね……」

 

ある部分以外は細く華奢なマシュが、盾と人間一人をしっかりと支えたということに、リズベットは驚きを隠せない。

 

「リズ、大丈夫?」

「ああ、うん。平気平気。それよりほら、これ」

 

そう言い、リズベットは盾をマシュに差し出す。

 

「ありがとうございます!」

 

嬉しそうに微笑みながら、盾を受け取る。

 

鈍い輝きを放つ盾は、重厚感が増してさらに堅牢になったようにも思える。

 

(これで……今まで以上に皆さんを守れます)

 

微笑むマシュの横顔は、どこか決意に満ちていた。

 

「……なるほど。だいぶ感覚にも慣れました。良い仕上がりです」

 

すると、作業場の奥で素振りをしていたアルトリアが戻ってきた。

 

「ごめんね、アルトリア。1回ミスっちゃって……」

「いえ、気にすることはありません。充分ですよ」

 

マシュは強化に全て成功したが、アルトリアは一度失敗してしまった。

 

よって、上昇量は少し減ってしまったが、それでも今までよりもかなり性能は向上している。

 

「これならこの層の敵でも一気に倒せそうですね」

「変わらなくない?それ」

「気にするな。気分の問題なのだろう」

 

首を傾げる立香に、エミヤが答える。

 

たしかに、多少苦戦はするが、基本的にアルトリアはどんな敵でも苦労するとことなく倒している。

 

恐るべし騎士王の強さである。

 

しかし、それはエミヤも同義である。

 

数多の武器を投影魔術で操るという都合上、どうしても強化は出来ないが、状況に応じて様々な武器のソードスキルを扱えるというのは強力極まりない。

 

加えて弓術、そして何よりそれによる『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』がある。

 

強化は出来なくとも、このSAOでは無類の強さを誇るだろう。

 

「あーあ、手甲も強化出来ればいいのに」

「いいんじゃなーい?アンタにはユニークスキルがあるんだし。こっちの層まで噂届いてるわよ?」

「まあ、あの騒ぎ様ならそうだよねぇ……」

「今日もたくさん来てましたからね……」

 

ヒースクリフとのデュエル後、立香の元に多数の人がやってきた。

 

なんの比喩でもなく押し寄せてきたのだ。

 

理由は無論、立香のユニークスキル『太鳳拳』だ。

 

その時は李書文やハサン達に習った歩行術を駆使し、どうにか逃げるように家に帰れたのだが、残念ながら家まで割れてしまった。

 

今日、家を出る前も出てからも、結構な人数分に待ち伏せやら質問攻めやらを食らったのだ。

 

「はぁ……私もどうやって手に入ったかわからないんだけどなぁ。七十四層のボスを倒したらいつの間にかスロットに増えてただけだし」

「キリトも同じようなこと言ってたわ。ユニークスキルってみんなそうなの?」

「さあ?二つしか発動タイミングが分かってないから仮説でしかないけど……そうなんじゃないかな?」

 

現在明らかになっているユニークスキルは三つ。

 

ヒースクリフの『神聖剣』、キリトの『二刀流』、そして立香の『太鳳拳』。

 

エミヤの弓もオンリーワンのスキルだが、実のところソードスキルはない。

 

正規のユニークスキルである三つは、その全てが等しく出現条件不明だ。

 

ヒースクリフに関しては、そもそもいつからスキルを持っているのかすらわからない。

 

「……これは、いよいよもって前にキリトと話した推論が確信めいて来たかな」

「ん?リツカ、なんか言った?」

「なんでもにゃーい。にゃーん」

「……は?」

「なんでもございません」

 

リズベットの怪訝そうな顔に、立香は思わず秒で目を逸らした。

 

「……まあいいや。はい、これ料金ね」

「あれ?なんだか、随分とリーズナブルですね」

「友人価格ね。感謝しなさいよー」

「うんうん。ありがと」

 

頷きながらお礼を言い、オブジェクト化したコルの袋を手渡す。

 

「まいどあり。今後ともリズベット武具店を御贔屓に」

「そりゃあもう、これでもかってくらいにするよ」

「そいつはありがと。じゃあね」

「ありがとうございました、リズベット」

「ありがとうございました!」

「ばいばーい!」

 

実に晴れやかな表情で、立香達はリズベット武具店を後にした。

 

───────────────────────

 

「よーし、このままアスナ達の所へレッツゴー!」

「随分とまた急だな」

 

店を出た瞬間、立香は駆け出して転移門の方に向かう。

 

「早いとこ渡さないと。明日になったらギルドに正式加入するから、あんまり会えないだろうしさ」

「なるほど。では急ぎましょうか」

 

さらに拍車のかかった敏捷力を極限まで活かし、街中を駆け抜ける。

 

道行く人々が何事かと振り返るが、ついぞ視線が追いつくことはなかった。

 

転移門を通り抜け、集合場所のエギルの店へ。

 

「ダイナミック入店!!!」

 

扉をぶち破る勢いで店内に転がり込むと、

 

「ぬぉっ!?な、何事だ!?」

 

店長ことエギルがものすごい形相で立香達を見る。

 

「どうしたリツカ!トラブルか!?」

「ああ、そういうわけじゃないよ」

「じゃあそんな『バイ〇ハザード』みたいな登場をするなよ……」

 

げんなりとする店長を差し置いて、立香達は二階の階段へ。

 

「キリトとアスナいるよね?」

「なんだ、二人に用か?ああ、相変わらず居座ってるよ」

「OK、ありがとう。後でまたお話しよ?」

「はいよ。待ってるぜ」

 

頷き、トコトコと階段を登る。

 

「リツカちゃん!待ってたよ」

「話ってなんだ?」

 

そこには、いつも通りのアスナと、

 

「……キリト、どしたのそれ」

「違和感が……凄まじく違和感が……」

「で、でも!よ、良くお似合いですよ!」

「随分と雰囲気が変わるものだな」

「やめろ!次から次に指摘するな!」

 

真っ黒だった装備が真っ白に染まったキリトがいた。

 

形こそ今までのコートと同じ形状だが、純白をベースにところどころ赤の入った、控えめに言っても派手なものになっている。

 

「まあ、血盟騎士団入ったんだもんねぇ。仕方ないよね」

「まあなぁ……」

 

ため息をつくキリト。

 

割と不服らしい。

 

「まあまあ。今日は二人にプレゼント持ってきたんだからさ。機嫌直してよ」

「「プレゼント?」」

「相変わらずシンクロ率高いね。初〇機とシ〇ジかな?」

「また懐かしいネタだな、マスター……」

 

そんなツッコミは華麗にスルーし、立香はアイテム欄から選択したものをオブジェクト化した。

 

それは、先程も取り出していた概念礼装だ。

 

リミテッド・ゼロ・オーバーをキリトに手渡し、目醒め前をアスナに手渡す。

 

「はいこれ。プレゼント。心からの贈り物」

「なんだこれ?カード?」

「概念礼装、って言うんだ。端的に言えば、英雄の伝説が形になったもの……って認識かな?たぶん、持ってれば効果あると思うよ」

 

サラリとそう言う立香に、二人がギョッとした顔をする。

 

「え、聞くからに貴重そうなんだけど……」

「流石に、これを貰うわけにはな……」

「いいのいいの。アルトリアもマシュも強化出来たし、私もエミヤもユニーク持ちだし。それに……」

 

ニコッと微笑み、少しだけ恥ずかしそうに、

 

「やっぱり二人には、ちゃんと生きてて欲しいからさ」

 

えへへ、と笑った。

 

「……そっか。うん、それじゃあ、有難く貰うね」

「ありがとう、リツカ。大事にするよ」

「うん!上手く活用してね?」

 

概念礼装を握る二人を見て、満足そうに頷く立香。

 

そんな様子を、サーヴァント組はちょっとだけ離れて見守っていた。

 

「このためだったのですね。私たちの武器の強化は」

「たしかに、今まで装備してなくても充分戦えていたからな。良い判断だ」

「おふたりの為に、役立ってくれると良いですね」

 

元は自分達が使っていた装備が誰かを守ってくれる。

 

それを願って、彼らは目を細めて微笑んだ。




お読み頂きありがとうございました

前書きにも書きました通り、今後もこういった事態が起こるかも知れませんので……それでもお付き合い頂けると嬉しいです

それでは、また来週お会いしましょう


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誰かの為に

あれから早4ヶ月……

なんだか随分と長かった気がします

曜日も違うし、いきなりだし、混乱されるかもしれませんが

わたくし雪希絵、恥ずかしながら帰って参りました

というわけで、大変お久しぶりです!

雪希絵です!

忙しい期間も終わり、人生の大事な時期も無事事なきを得まして、ようやく再開することが出来ました

他作品、オリジナル共々、復活したいと思います!

実は新連載も始めようかなぁ、とか思ってたりもしますので、そうなった時はそちらもよろしくお願いします

ただ、いきなり謝罪になるんですが、ラフコフ討伐戦はもう少しお待ちを……

書いてるうちに長くなってきてしまったので、数話ほどに分けて、書き上がったら一気に投稿します

どうかそれまでお待ちください、申し訳ございません

というわけで、お久しぶりにごゆっくりどうぞ!

これからも、雪希絵と『もしもセイバーのマスターがソードアート・オンラインに異世界転移したら?』をよろしくお願いします!


翌日。

 

キリトとアスナは早速血盟騎士団として活動するために出かけていった。

 

彼らに渡した概念礼装は、それぞれなかなかに大きな効果を発揮してくれたようだ。

 

特に、リミテッド・ゼロ・オーバーの攻撃力上昇量は、

 

「なんか、猛烈にいけないことをしている気がする……」

 

とキリトが言うほどのものだった。

 

目醒め前もステータスが全体的に上昇し、アスナも、

 

「いいのかな……ズルしてる気分だよ……」

 

と言っていた。

 

その後、二人とも『私の気持ち……受け取ってくれないの?』という立香の上目遣いの懇願によって折れ、活用していくことを決めた。

 

そのため、二人の戦闘能力については心配してはいない。

 

問題はそれ以外である。

 

「うーん、やっぱり心配だなぁ……」

「今日で何度目だ?そのセリフ」

 

ため息をつく立香に対し、苦笑いでそう言うのはスキンヘッドのガタイの良い男性プレイヤー。

 

名を『エギル』という。

 

服の上からでも筋骨隆々なのが分かるが、これで雑貨屋の店主である。

 

今はカウンターで話しながら、立香はコーヒーを飲んでいるのだ。

 

「だって、心配じゃない?」

「そんなに気にするような事態になってるのか?」

 

ちなみに、サーヴァント組とは珍しく別行動だ。

 

立香とエギルのおつかいを頼まれている。

 

「まあ、実は……ね。前に血盟騎士団の団員とちょっと揉めたらしくてさ。もちろん、キリトが間違ったことをした訳じゃないんだけど……」

「ああ、あれか。KOBの団員とデュエルしたっていう」

「そうそう。割と騒ぎになってたよね」

 

そう言い、立香はコーヒーを啜る。

 

カタンッとコーヒーカップを置くと、再びため息をついた。

 

「それのせいで、逆恨みとかされてたら心配だなぁ、ってさ。ほら、ここのプレイヤーって……たまに、タガが外れてる人がいるから」

「……まあな。命懸けのデスゲームでありながら……いや、デスゲームだからこそか」

「どこでも変わらないものだよね。人って」

 

どこか悲しそうに、立香は苦笑する。

 

「だが、それをここでぶちまけられても困る。心配するのが悪いとは言わないが、してるだけじゃ何も起こらないぞ」

「……エギルってさ、結構いいこと言うよね」

「なんだ?急に褒めだして」

「んーん、ふと思っただけ」

 

よっ、と呟き、立香は椅子から降りる。

 

「行くのか?」

「うん。とりあえずね」

「気をつけろよ」

「そうするよ。ありがとう、ご馳走」

 

踵を返しながら手を振り、立香は足早に店を出ていった。

 

───────────────────────

 

一方のお使い組。

 

「えーっと、これで最後でしょうか?」

「マスターからのお使いは終わりですね。あとは、アーチャーの方ですが……」

「こちらも揃ったぞ。そろそろ戻るとしよう」

 

場所はアインクラッド第五十五層『グランザム』。

 

ここでしか売っていないものもあるようで、お使いでここまでやって来たのだ。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……。大丈夫そうですね。ちゃんとメモの通りの数です」

「層をいくつか渡ったからな。少しだけ骨が折れたが、まあ、この程度問題ないだろう。そろそろ戻……おや?」

 

ふと、エミヤが街の一角を見つめる。

 

その方角には、この五十五層のフィールドがあるはずだ。

 

一般人なら見えるわけがないが、アーチャークラスの視力は伊達ではない。

 

「どうかしましたか?エミヤさん」

「いや、アスナが走って行ったんだ。尋常ではない表情でな」

 

よく見えたな、とか。

 

どうしたんでしょう、とか。

 

そんな疑問は全て置き去り。

 

「アルトリアさん、追いかけてください」

「あぁ。何かあったに違いない」

 

頷き、アルトリアは駆け出す。

 

サーヴァント組でトップの敏捷力、そして魔力放出をいかんなく発揮する。

 

フィールドを出てすぐ、荒野の中で二人は合流した。

 

「あ、アルトリアちゃん!?」

 

少し遅れてアルトリアに気がついたアスナは、驚きに声をあげる。

 

しかし、依然として速度は緩まない、

 

SAOでも随一の敏捷力は、魔力放出付きのアルトリアにさえ引けを取らない。

 

高速で滑走しながら、アルトリアはアスナに声をかける。

 

「アスナ。多くは聞きません。あなたの急務に、このままで間に合いそうですか?」

「……! そ、れは……」

 

アスナは焦りの表情と共に言葉を濁す。

 

分からない、そういう顔だ。

 

「……でも、何もしないなんて嫌。大好きな人が、このままいなくなっちゃうなんて……そんなの……嫌……!」

 

目頭に浮かぶ涙を堪え、アスナは尚も懸命に駆ける。

 

「……分かりました。間に合わせてみせましょう、私が」

「えっ……?」

 

滑走しながら、アルトリアは鎧を解除する。

 

「時にアスナ。あなたは、風に乗って飛べますか?」

 

少しだけ黙り、アスナは答える。

 

「それが、キリトくんの為なら」

 

決意した目で、頷く。

 

ならばもう、言葉はいらない。

 

「舞い上がれ、『風王結界(インブジブルエア)』……!」

 

風が爆ぜ、不可視の鞘は効果を失う。

 

代わりに、鮮烈な暴風が二人を撫でた。

 

それはアスナに収束し、包み込むように上へ上へとすくい上げようとする。

 

アスナの足元へ、風が一極集中する。

 

同時、アルトリアは剣を横抱きに構える。

 

一際強く、アスナが地面を蹴ったその瞬間。

 

「飛べ!アスナ!」

 

風によって作られた架空の足場を、叩きつけるように踏みしめる。

 

強く、強く、されど繊細なコントロールで風を手繰り、アルトリアはアスナを上空へと打ち上げる。

 

高度はいらない。

 

代わりに水平移動の距離を強引に引き伸ばしていく。

 

やがて、輝く風と共に、アスナは彼方へと舞い降りる。

 

その先には、きっとキリトがいるだろう。

 

「……ふぅ」

 

(アスナ、あなたなら大丈夫です。あなたは、私の知る中で、マスターの次に強い女性(ひと)ですから)

 

立ち止まり、軽く息を整える。

 

この先は、二人の選択だ。

 

乗り越えられると信じて。

 

幸せになってくれると願って。

 

今は待つと、そう判断した。

 

「さて、戻りましょうか。……ご武運を、お二人とも」

 

しばらく歩き、アルトリアは街に戻る。

 

門前には、マシュとエミヤ、そしていつの間にか合流していた立香がいた。

 

「お疲れ、アルトリア」

「いえ。大したことは、してませんから」

「人を遥か彼方に飛ばすのは大したことなんだけどなぁ」

 

あはは、と笑い、息をつく。

 

「さて、どう転ぶかな」

「戦う軍師でも予想出来ないのか。意外だな」

「私は予言者じゃないよ」

 

そう言いながら、腕を組んで考え込む。

 

少し経って、何か思いついたように顔を上げる。

 

「何か思いつきましたか?先輩」

「うん。たぶんだけどね」

 

苦笑いというか、それでも嬉しそうというか、絶妙な表情で答える。

 

「たーぶん、明日辺りに驚くことになるのかなぁ……ってさ」

「はい?」

「ほぅ?」

「はぁ……?」

 

現段階では分からないサーヴァント組に、やはり立香は、たははと苦笑いをしていた。




というわけで、雪希絵復活となります

待ってて下さった皆様、ありがとうございます

これからお読みの方は、これからよろしくお願いします

では、また来週お会いしましょう!


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結婚おめでとう

復活宣言から3ヶ月……

諸々の事情で投稿を怠っておりましたが、説明はひとまず置きまして

皆さん、本当にすみませんでした!

それと、待ってくださった皆さん、ありがとうございます!

今度の今度こそ、雪希絵復活です!

罵詈雑言もなんでも受けます

また改めて、よろしくお願いします


「「「「け、け、け、結婚するーーーー!?」」」」

 

場所はリズベット武具店、鍛冶場。

 

メンバーは立香、アルトリア、マシュ、エミヤ、キリト、アスナ、リズベットだ。

 

叫んだのは立香とアスナ、キリトを除いた他の四人。

 

普段冷静沈着なエミヤでさえ、目を見開いている。

 

「ちょ、ちょっと待って!あ、あんた達、いつもの間に付き合ってたのよ……!?」

 

リズベットが慌てふためきながらそう言う。

 

「いや、付き合ってはいないんだけど……」

「そのまま結婚……的な?」

「はぁぁぁぁぁぁ!?何よそれ!もっと慎重にならなくていいの!?お母さん心配よっ!」

「ちょーいちょい。落ち着きなよリズ。もはや何キャラなのさ」

 

リズベットは頭を抱えて喚き散らし、アルトリアとエミヤは何やら談義を、マシュに至っては固まっている。

 

もはや冷静な人物はどこにいるやら、正しくカオスな光景だった。

 

───────────────────────

 

「そっか。そんなことがね……」

「クラディールさん……悪い人だとは思わなかったのですが……」

 

一旦落ち着き、リズベットが入れたコーヒーを啜る。

 

「人間なんてそんなものでしょ」

 

不意に、立香がそう言う。

 

「悪い心がない人なんかいないし、片側だけ見ただけじゃその人の全部なんて分からない。クラディールや、ラフコフの場合は、それが道理から外れるほど酷かっただけ。程度は違えど、誰にだってそういうところはあるんだよ」

「正論だな。このSAOで過ごして2年、自分のものも他人のものも、そういうものを死ぬほど見て来た」

「うん……私も。直接ぶつけられたことだって少なくない」

「そっ。だから、そんなに気にしなくていいの。クラディールはそういうやつだった。キリトとアスナはそれを切り抜けた。それだけだよ」

 

椅子にユラユラと揺れながら、なんでもない事のように呟く。

 

(素直じゃないな、マスターは。励ますならちゃんと言えば良いものを)

 

そう思い、エミヤはフッと笑う。

 

形や過程はどうあれ、二人は人を殺したのだ。

 

そうしなければキリトとアスナが殺されていただろうし、確実な正解ではないかもしれないが、間違ったことではない。

 

だが、それでも心は苛まれる。

 

初めてだろうがそうでなかろうが、正常な人間なら確実に蝕まれる。

 

『人を殺した感触は一生消えない』という人もいる程だ。

 

立香は二人がそれに飲み込まれないか気にしているのだ。

 

何となく察したのか、キリトとアスナは微笑んだ。

 

どうやら心配はいらないようだ。

 

「それじゃあ、もうそろそろ行くよ。これから血盟騎士団に行かないといけないし」

「退団申請?」

「そんな大袈裟じゃないよ。ただ、少し疲れちゃって……。しばらくお休みを貰いたいだけ」

「なるほど、分かりました。二人が居ない分は、私たちが攻略しましょう。安心して、二人きりで過ごしてください」

「そーそー、存分にイチャイチャしなさーい」

「イチャッ……!ちょ、リツカちゃん!」

「えーーーー?私何も間違ったこと言ってないよーーーー?」

「ちょっと!あんた達!人の店で騒がないの!」

「やれやれ……結局こうなるのか……」

「エミヤさん、達観してコーヒーを啜らないでください!あぁ、どうすれば……!」

 

このメンバーが集まると結局こうなる。

 

ただ、なんだかんだ、彼らはこの雰囲気が好きだったりするのだから、それで良いのだろう。

 

その後、休暇報告を終えた後、ささやかなお祝いパーティーをした。

 

記念撮影をして、それを全員に配って、その場はお開きとなった。

 

キリトとアスナは、第二十二層にあるログハウスに引っ越すそうだ。

 

翌朝。

 

「さて、行きますか」

 

キリトとアスナを除き、立香達は拠点を発った。

 

「いよいよ、お二人も夫婦ですか。なんだか、私達も嬉しいですね」

「長く見守って来ましたからね。マスター曰くとうの昔に両思いだったそうですし、こうなったのも納得でしょう」

「今頃昼も夜もなくイチャイチャしてるんじゃない?ぐふふ、羨ましいねぇ」

「マスター。二人の幸せを喜んでいるのは分かるが、せめて『ぐふふ』はやめたまえ」

「オカンか!」

「これに関してはオカンは関係ないだろう!?」

 

いつも通り雑談しながらの道中。

 

微笑みながら、はたまたニマニマとしながら、時折苦笑いする者もいながら、迷宮区へと向かう。

 

「おや、あの飲み物……可愛らしいですね」

「あ、ほんとですね。装飾が綺麗です」

「結婚祝いに丁度いいかもしれないな。一本買っていこう」

「結婚祝い渡すのはいいけどさー。タイミング大事だよね。真っ最中とかだったらあまりにも気まず……」

「わー!わー!わー!先輩!それ以上はダメです!」

「普通にお昼頃に行けば大丈夫だろう?……恐らくは」

「いやー、わかんないよ?お若い二人のことだからひょっとしたら……」

「普通に事前に連絡すれば良いのでは?」

 

道行く人の視線などなんのその。

 

普段は愉快に、いざと言う時は真面目に。

 

マイペースなのがカルデア組だ。

 

しかし、彼女達はまだ知らない。

 

この後に待ち受けるのは、今までの特異点と比較しても。

 

おおよそトップクラスの化け物だということを。




もうすっかり年の瀬ですね……

えーっと、こうしてギリギリ投稿出来たのですけれども

明日も正規の更新日ですし、続けて投稿したいと思っております

最後までお読み頂きありがとうございました、これからもどうぞお付き合いください

よろしくお願い致します

それでは、また明日!お会いしましょう!


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最初の敗北

さてさて、昨日ぶりでございます、雪希絵です!

長らくお待たせしまった分、ってことで、連続投稿させていただきます

それでは、どうぞ!


あれから約二週間。

 

アインクラッド七十五層、迷宮区。

 

立香達は巨大な扉の前にいた。

 

「……さて」

「いよいよですね」

 

アルトリアも神妙な顔だ。

 

キリトとアスナの攻略組脱退から、立香達は攻略の中核として大きな活躍を見せた。

 

今までの階層と比べても特段危険度が高いらしく、かなり慎重に攻略が進められた。

 

軍師立香の監修の元、犠牲を出さない戦法が街中に無償で流され、それを多くのパーティーやギルドが採用。

 

七十五層解放当時に比べ、27パーセントものマッピング速度向上を成し遂げた。

 

十数日、慎重を重ねた探索により、何とか犠牲なしでボス部屋の場所が明らかに。

 

そして、五つのギルドが合同で偵察隊を組み、二十人が集まった。

 

マップを元に迅速にボス部屋前に到着し、突入直前の待機状態だ。

 

「……みんな、HPの確認は大丈夫?あと、転移結晶はすぐに使えるように準備すること」

 

立香の指示で、全員がHPの確認や転移結晶を手元に収めるなどの行動を取る。

 

「それにしても、偵察なのに凄いメンバーですね」

 

そんな中、偵察隊のメンバーの一人が立香達に話しかけて来た。

 

「ん?そうかな?」

「すごいですよ。だって、『神速(立香)』に『聖騎士(アルトリア)』に『鉄壁(マシュ)』に『千剣(エミヤ)』が全員揃っていて、合計二十人のメンバーがいるなんて……!」

「あー、分かる。このメンバーでも倒せちゃうんじゃないかって思うくらいだよな!」

 

興奮気味に語るプレイヤーに、また別のプレイヤーが同調する。

 

「いや、それはどうだろ……。今回『クォーターポイント』だしなぁ……」

 

それに対し、立香は渋い顔をする。

 

『クォーターポイント』。

 

二十五層ごとに巨大な体躯と絶大な強さを誇るボスが出現することを、キリトと立香の間ではそう呼んでいる。

 

二十五層のボスでは軍に甚大な被害を与え、現在まで続く勢力低下に大きく関わっている。

 

五十層では、ヒースクリフの奮闘と、アルトリアとマシュの防具がなければ更に絶大な被害が出ていたとされている。

 

ちなみに、アルトリアはあれ以来、一度しか宝具『約束された勝利の剣』を放っていない。

 

曰く『何故かあれ以来、令呪をもってしても宝具を使用することが出来なくなっている』とのことだ。

 

(それもおかしな話なんだよね。ひょっとしなくても、ゲームマスター側にブロックされてるとしか思えないや……)

 

立香Lv89。

 

アルトリアLv92。

 

マシュLv90。

 

エミヤLv88。

 

SAO生活で強化されたレベルによって、宝具を使えばいかにクォーターポイントといえど倒し切れるだろう。

 

それが出来ないとなれば、真っ向から迎え撃つしかない。

 

「よし、準備完了!突入準備!」

「「「了解!!!」」」

 

メンバーのうち二人が扉を開き、アルトリアとマシュを先頭に十人が中に飛び込んでいく。

 

その中にはもちろん、立香とエミヤがいる。

 

大きな道を渡りきり、中央にたどり着く。

 

やがて、青い炎が次々と灯り、中央でオブジェクトが形成されて行く。

 

いつも通りのボス出現エフェクト。

 

だが、いつもと違うことが一つ。

 

扉が、唐突に。

 

本当に不意に。

 

閉まり始めた。

 

「……!?セイバーーーーーー!」

 

気がついたエミヤが、立香、マシュ、アルトリアを勢いよく扉の方に突き飛ばす。

 

英霊の筋力とスピード補正は伊達ではなく、それだけでかなりの距離を稼いだ。

 

「えっ………エミヤ!?」

 

アルトリアはほぼ本能で風王結界(インビジブルエア)を発動。

 

三人まとめて扉の外に投げ出された。

 

「セイバー……!マスターを、任せた……!」

 

何が起こったか分からない、そんな顔をしていた立香達も気がついた。

 

エミヤが、何をしようとしたのか。

 

扉は容赦なく、無慈悲にも立香達の目の前で、閉まっていく。

 

「エミヤ!エミヤ!」

「エミヤさん……!」

「アーチャー!」

 

最後に遠目から見たその顔は、いつもの様に皮肉げに、そしてどこか悲しそうに、微笑んでいた。

 

「エミヤァァァァァァァァ!!!」

 

重厚な音を立て。

 

扉は、完全に閉まった。




お読みいただきありがとうございました

大晦日に投稿するには、ちょっと話が暗かったですかね……

あと数分でで今年も終わりですね

今年はほとんど投稿出来なかったのが心残りです

来年は出来るだけ良いペースで、出来ないようならちゃんと連絡するようにしながら、続けていきたいと思います

お付き合い下さる皆様、来年もよろしくお願いします

それでは、良いお年を!


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傷跡

どうも皆さん

喪中につき新年の挨拶は控えさせて頂きますが、本年もどうぞよろしくお願い致します、雪希絵です

FGOの闇鍋星五確定ガチャの結果はどうでしたか?

ちなみに私は殺生院キアラでした

キャラクター的には結構嫌いじゃないです

さてさて、どうにかこうにか更新日は守れました

ちょっと短めですが、今回もどうぞ


「……マスター」

「……ごめん。都合がいいのは分かってる。でも、今は話しかけないで」

「……はい」

 

四人が使用していた拠点、そのリビング。

 

時間はお昼時。

 

普段なら台所にいる人物は、もう影も形もない。

 

いつも笑い声や呆れ声や、話し声の絶えなかった部屋は、静けさに満ちていた。

 

ソファに腰を下ろすアルトリアの膝に、立香は頭を乗せて寝そべっていた。

 

ニコニコしながら、膝枕する人物の顔を見つめている立香だが、今は顔を合わせようともしない。

 

長い沈黙。

 

時折、アルトリアの右手が躊躇いがちに動く。

 

ピクリ、と動かして、戻して。

 

また動かしかけて、戻して。

 

何度それを繰り返した頃か。

 

恐る恐る、といった様子で。

 

アルトリアの手が立香の頭に置かれた。

 

一瞬、微かに立香の体が身じろぐ。

 

けれど、抵抗はしなかった。

 

二度、三度、遠慮がちに撫でる。

 

「……マスター。申し訳ありませんでした。私の、我々の不手際で……」

「やめて」

 

アルトリアの言を途中で遮り、立香は鋭くそう言う。

 

「予想なんか出来ない事態だった。私でも、経験豊富な攻略組でも、きっとキリトやアスナでもそう。誰も悪くなんかない」

「はい」

「だから、自分が悪かったなんて言わないで。私もそう思ってるから」

「……そうは、見えませんよ」

 

(自分を責めていない人は、そんな顔はしないんですよ。マスター……)

 

喉元まで出かけた言葉は、直前で飲み込まれた。

 

───────────────────────

 

「……というわけでして。エミヤさんは、私たちを庇って……」

 

一方、マシュは二十二層のログハウスを訪ねていた。

 

あの日、扉が完全に閉まった後、立香達はあらゆる手段を試みた。

 

しかし『風王鉄槌(ストライクエア)』も、全力のソードスキルも、外部からどんな力を加えても、扉は開かなかった。

 

破壊不能オブジェクトであるため、破壊するなど以ての外。

 

それでも、宝具以外の物理的手段。

 

何らかの条件クリアによる扉の解放。

 

あらゆる手段を講じた。

 

だが、その努力も虚しく。

 

再び開いたボス部屋の中には、誰一人いなかった。

 

「なるほどな。それで、俺達のところに?」

「はい。新婚のお二人のところに来るのは、失礼だとも思ったのですが……」

「ううん、大丈夫だよ。そもそも、ここにいるのがバレちゃったせいで、もう召集令かかってるから」

「短い新婚生活だったなぁ……ははっ……」

 

おどけたようにそう言うキリトに、マシュは少しだけ微笑むが、すぐに表情を曇らせる。

 

「私も、しばらく傍にいたのですけど……先輩は、ずっとずっと自分のせいだって……思ってるみたいで……」

 

ポタポタ、とテーブルに涙が落ちる。

 

SAOの感情表現は大袈裟だが、嘘はつかない。

 

エミヤを救えなかったこと、それに心を痛める立香に対して何も出来ないこと、様々な後悔や悲しみ、悔しさかが綯い交ぜになり、涙になって頬を伝う。

 

「マシュちゃん……」

 

そんなマシュの背中に、アスナはそっと手を添える。

 

そして、決意したような目でキリトを見つめた。

 

「……うん。俺も同じこと考えてるはずだ」

「……じゃあ、行こう。それで、早くここに戻ってこよう。きっと、立香ちゃんはそれを喜んでくれるから」

「ああ、だと思う。あいつ、結婚報告した時嬉しそうだったもんな」

「ふふっ、そうだね」

 

そして、二人は勢いよく立ち上がる。

 

弾かれたように、マシュは顔を上げた。

 

「行こう、マシュちゃん」

「立香に発破かけにな」

 

微笑む二人を見て、マシュの瞳が徐々に光を取り戻す。

 

「私達は、何度も立香ちゃんに勇気付けて貰ったから。今度は、私達の番だよ」

「……はい!」

 

決意を新たに、三人は手早く身支度を整えて、ログハウスを後にしていった。




うーん、私にしては珍しく結構シリアスに書いてる気がします

なんちゃってシリアスな感じもしますけど

さてさて、新年一発目の更新ですが、いかがでしたでしょうか?

今年は去年のような惨劇にならないよう、しっかり更新していきたいです

それでは、また来週お会いしましょう


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