覇王少女ネム育成計画(修羅場ルート) (万歳!)
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プロローグ
第1話 出会い


初めまして! この度ハーメルン様にてオーバーロード、丸山くがね様作の二次創作を書かせていただきました!

物語を作ること自体初めてですので、多々誤字脱字や文法のミス等存在するかもしれません。

感想等で教えて頂けると幸いです。

また物語の描写として違和感がある箇所を教えて頂ければできる限り訂正致します!

ハーメルン様の規約等は一通り目を通しておりますが、もしかしたらミスがあるかもしれません。その時は教えて頂けると幸いです。

では楽しんで頂けると幸いです!


 ネム・エモットはあの日の出来事を忘れはしない。帝国の騎士たちに平穏を奪われたあの日を。

 

 父がいて、母がいて、姉がいた。農村での暮らしはけして豊かとは言えない。でもネムにとって、とても大切な日常を。

 

 でも日常は奪われた。父は逃げる時間を稼ぐために死んだ。母も同じだ。姉と二人で逃げた。姉も私を必死に守ろうとしてくれた。

 

 騎士から必死に二人で逃げているときネムは転倒してしまった。姉が助け起こそうとした時に、絶望がやってきた。大切な(日常)を奪った(悪魔)たちは嘲笑気味に言った。

 

「無駄な抵抗をするな」

 

 その目は語っていた。お前たちが死ぬ運命は変えられない。余計な手間をかけさせるな……と。

 

 なんで、とネムは考えてしまう。

 

 騎士(悪魔)は二人に近づいてくる。ゆっくりと剣を持ち上げる。まるで恐怖心を煽るかのように。

 

 ネムは考える。

 

(どうしてこんな目に遭うの。家族で平和に暮らしていただけなのに……)

 

 結末は決まっている。二人とも殺される。それはネムにとって覆えしようのない事実だった。

 

 しかし姉は違った。

 

「なめないでよねっ!!」

 

「ぐがっ!」

 

 騎士(悪魔)が装備する兜を思いっきり殴ったのだ。いったいどこからそれだけの力を出しているのかネムには分からなかった。

 

「はやく!」

 

 私は姉に連れられ逃げ出そうとするが……

 

 騎士(悪魔)は逃がしてくれなかった。

 

「―――っく!」

 

「貴様らぁぁ!!」

 

 姉が騎士(悪魔)に斬られていた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

 どうしてネムの大切な物を悪魔(騎士)は奪おうとするんだろう……

 

 ネムは何もできない。当然だ。ただの子どもが悪魔(騎士)に勝てるはずがない。

 

 初めから殺される運命は決まっていたのだ。

 

(せめて二人一緒に死ぬ事ができますように)

 

 ネムは何も助けてくれない神にそう祈った。

 

 本心では誰でもいいから、私たちを助けてくださいと……私の大切な物を奪わないで下さいと願いながら。

 

 視線だけは騎士から目を逸らさずに――それがせめてもの抵抗のように――そして奇跡は起きた。悪魔が止まったのだ。悪魔はただ一ヵ所に視線を留めている。何が起きたのか分からず、ネムも悪魔たちが見ている方向に視線を向けた。

 

 漆黒色の絶望が存在した。何かの扉のように見える。

 

 そして扉から死が現れた。

 

 悪魔よりも怖い死がこちらを見ていた。まるで私たちを迎えに来たように……

 

 死は呪文のような物を唱えた。

 

 心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

 ネムは一瞬目を閉じた。そして後ろで何かが崩れる音が聞こえた。怖がりながら振り返ると悪魔が倒れていた。

 

 一体何が起きているのか分からない。

 

(なんでネム達を連れて行か(殺さ)なかったんだろう?)

 

 考えを読んだのか死はこちらに近づいてきた。今度はネム達を殺すために。

 

 しかし、その考えは外れていた。死はネム達を通り過ぎた。

 

 そしてネム達を庇うかのように二人の前に立った。近くにいたもう一人の悪魔は怯えるように後退した。

 

「……女子供は追い回せるのに毛色が違う相手は無理か?」

 

 ネムは理解した。あの御方は私の願いを叶えてくださる方なんだ。そして無意識に呟いた。

 

「神……様?」

 その後神様はもう一人の悪魔を簡単に倒して、何かを作りだす。思わず姉共々、悲鳴を上げてしまう。

 

 神様が作り出した物に「この村を襲っている騎士を殺せ(村の人間を助けてやれ)」と命令した。

 

 それは命令に応えるように、咆哮を上げる。

 

「オオオァァ!」

 

 そして村の方へ駆けだした。

 

 神様は本当にネム達を助けてくれたんだと理解した。

 

 ネムは姉から手を離し、神様に向かって歩き出す。

 

「ネム!?行っては駄目!!」なぜかお姉ちゃんが止めるが神様に近づく――途中また黒い靄のような物から何かが現れ驚くが――そして神様が話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

 ネムは頭を下げながら答えた。

 

「神様……ネムを、お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます」

 

 ネム・エモットはこの日両親を殺された。決してその事を忘れる事は無い……

 

 同時に神様に救われた事も忘れないだろう…

 

★ ★ ★

 

 モモンガは困惑していた。助けに来たのは一目瞭然であるはずなのにまるで変な行動をしているかのように、戸惑いを見せている少女たちに。ただ姉の少女は剣で切られているため疑問を晴らす時間がない。そのため二人の少女を自らの背に隠し、現れた騎士に対して言葉をかける。

 

「……女子供は追い回せるのに毛色が違う相手は無理か?」

 

 後ろから「神……様」との声が聞こえて。少し疑問が晴れた。確かに、死にかけているときに助けに来たのだから錯乱しているのだろうと。

 

 実験も兼ねて騎士を殺し、死の騎士(デスナイト)を召喚する時、黒い靄が騎士に纏わりついて召喚される。姉妹も悲鳴を上げるがモモンガも悲鳴を上げたいほど驚いた。ユグドラシルではありえないからだ。また召喚者の近くしか行動できないはずのユグドラシルとの違いを見せつけられ驚愕していた時、後ろから妹と思われる少女の方が近づいてきた。

 

 近づくときに姉の方が「行っては駄目!」と叫んでいたがなぜ助けに来たはずなのにそんな事を叫ぶのだろう……困惑したが、血が足りず錯乱しているのだろうと思う事にした。少女が近づく合間にもう一体死の騎士(デスナイト)を媒体がなくても召喚できるかの実験と護衛のため召喚しておく。

 

(どうやら媒体がなくとも召喚は可能のようだ……さらに実験が必要だな)

 

 そして近づいてきた比較的錯乱していないように見える少女に

「どうした?」と話しかける。

 

 少女は頭を下げる。

 

「神様……ネムを、お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます」

 

 モモンガは一瞬驚いたが……

 

(……そうだよな! 助けに来たんだから、これが正しい反応だよな! しかし神だと……俺の事だよな、これは訂正しとくべきだよな)

 

 そしてモモンガは片腕を顎に当てながら答える。

 

「ふむ……何か勘違いしているようだな私は神ではない。私はモモン……」

 

 名乗ろうとして止めた。今の自分はモモンガと名乗るべきではない。俺、否私はただ一人ナザリックに残った最後の一人なのだから……。少女が首を傾げている。途中で名乗りを止めたからだろう。

 

「少女よ、我が名を知るがいい、我こそが、アインズ・ウール・ゴウンである」

 

 少女はまるで確認するかのように呟く。

「アインズ・ウール・ゴウン様」

 

「アインズで良い……ところでだ、私は確かにお前たちを助けに来たがお前の姉はまだ助かっていないぞ?」

 

 目の前の少女と姉が同時に「「え」」と呟いた。

 

「お前の姉は剣で斬られて血を流している以上治療をしないと助からないぞ?」

目の前の少女が「そんな」と呟くのを目にしながら、下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を取出し姉の方に近づく。

 

 姉の少女は何が起きているのか分からないかのように困惑した顔を浮かべている。早くポーションを使わないとまずいだろう。

 

 後ろの方からは妹の少女が「お願いします!!お姉ちゃんを助けてください!!」と叫んでいる

 

 それに答えるように「ああ。助けよう」

 

 そして姉に薬を突き出す。

 

「飲め」

 

 姉は何が何だか分からないような顔を浮かべ硬直している。

 

(物事を認識する事も難しいくらい血を失ったか……当然と言えば当然だが……どうする? 私が直接流しこむのは、飲ませるはまずいだろう……セクハラになるかもしれないし)

 

 決してまともに女性と触れ合った事がないからへたれた訳ではないと誰かに言い訳しながら――自分の部下にセクハラ(パイタッチ)をしている事を頭の隅に追いやりながら――

 

「ネムだったか? 姉を助けたいならこの薬を飲ませろ。すでに物事を認識できないほど血を失ってるらしい。」

 

 それに慌てたのか「お姉ちゃん!!」と叫びながら近づく。薬を渡すとすぐに受け取り姉の口に薬のビンを持っていく。姉は困惑したように「ネムっ!?」と叫んでいたが、叫んで開いた口に薬を飲ませた。姉は少し苦しそうにしていたが(無理やり飲ませられたからだろう)飲み干した。

 

 その瞬間姉は目を見開き 

 

「うそ……」

 

 呟きながら自らの背中の感触を確かめていた。ネムという少女もとても嬉しそうに「良かった!!」と涙を滲ませながら喜んでいた。

 

 丁度そこに転移門からアルベドが現れた。

 

 アルベドは普段と違い完全装備だ。命令は伝わっているようだな……などと考えると転移門が消えアルベドが話しかけてくる。

 

「遅くなり申し訳ありません」

 

「構わない」

 

「ありがとうございます。そこの下等生物はどうしますか?よろしければ私が処分いたしますが?」

 

 どうやら命令は途中までしか伝わっていなかったようだ。自分が上位者と意識しながら話す。

 

「セバスにはこの村を助けると伝えるよう命令したはずだが……何を聞いた?」

 

 少しアルベドやセバスを批難するような声で問いかける……

 

「申し訳ありません!」

 

「まぁ、ここでしっかりと認識してくれれば構わない。とりあえずの敵はそこの騎士だ」

 

 そこには無邪気に喜んでいる少女と今のアルベドの発言からか怯えながらネムを庇おうとしている少女がいる。

 

(確かに、恐ろしい事を言っているが、私が助けたのは理解できているはずなんだがな~ネムの方はしっかり理解しているみたいだし……)

 

 まぁいいかと考え姉妹の周りに防御の魔法をかける。対魔法用の魔法はどうするかと考え一応唱えておく。

 

「ある程度防御の魔法をかけておいた。そこにいれば大抵は安全だ――後は……そうだな」

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力を解放し、月光の狼(ムーン・ウルフ)を召喚する。

 

「2匹は周辺を警戒せよ。1匹はこの少女達の近くで護衛せよ」

 

 命令に従い2匹が散る。1匹は待機している。2匹は発見器としての狙いもある。先程の騎士は弱く死の騎士(デス・ナイト)も現状倒されていないが拮抗しているか圧倒しているかの判断材料にはなる。倒されればレベル20以上の敵が周辺に存在する事になるだろう。ナザリックに所属する者から見れば弱いが、別に失っても特に惜しくは無い。

 

 さらにモモンガ改めアインズは最初姉の方に渡そうかと考えたが今までの反応からネムに近づき、膝を突く。目線を合わせ、二つのみすぼらしい角笛を手渡す。

 

 アインズは優しいと思える声色で語りかける。

 

「その角笛を吹けば小鬼(ゴブリン)――小さいモンスターがネムに従うために召喚されるはずだ。それで自分と姉の身を守るといい。一応月光の狼(ムーン・ウルフ)1匹は護衛にしておく」

 

 ネムが驚きながらも感謝を述べる。

 

「アインズ様!ありがとうございます!」

 

 それに反応したのかアルベドが声を上げる。

 

「アインズ様?」

 

 アルベドの声が聞こえる首だけを後ろに回し目でアルベドに「後で説明する」と伝え、ネムに向き直る。

 

「それとだネム。お前は魔法詠唱者(マジック・キャスター)を知っているか?」

 

 これは聞いておく必要がある。もしいなければ、対応を考えなければならない。下手をすればこの少女たちの口を封じる必要が出てくる――できるなら避けたい――しかしそうはならなかった。

 

魔法詠唱者(マジック・キャスター)? ンフィー君もそうです!アインズ様は違うんですか?」

 

 少し首を傾げながら返答される。

 

(確かにあれだけ魔法を使えばそう思うか……いや大事なのは使用する人間が近くに存在する事だな。しかし幼いな。信じても良いのか?)

 

 もしかしたら手品を魔法と勘違いしている可能性も0ではない。

 

(しかし姉の方に聞くにしてもさっきまでの反応を見ると信用しかねるな……ここは信じるしかないか)

 

万が一の場合の事を考えながらアインズは

 

「あぁ私も魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。これから村の人達を助けに行ってくる。じっとしてるんだぞ?」

 

 その言葉を聞き現状を思い出したのか、ネムは少し泣き出しながらお願いををしてくる。

 

「お願いします!お父さんたちも助けてください!」

 

「了解した。生き延びているなら必ず助け出そう。アインズ・ウール・ゴウンの名に誓って」

 

 それを最後に立ち上がり村に向かい歩き出す。途中からアルベド達も追従する。その時後ろからおそらく正気を取り戻したのだ少女の声が聞こえる。

 

「助けて頂いてありがとうございます! 図々しいと思いますが家族を助けてください!」

 

 手を振る事で返答として村の方向に向かう。

 

(正気に戻ったなら、戻って魔法詠唱者(マジック・キャスター)の存在を確かめるべきだったか? ……確実に正気かどうかも分からない以上、時間の浪費は避けるべきだな――それとたっちさん……俺は恩を少しでも返せましたか? たっちさんに少しでも近づけましたか?)

 

 傍にいないはずの友に語りかける。想像の中の友はしっかりと首を縦に振ってくれていた。

 

(ふ……これはただの願望だな……だが悪くは無いな)

 

 その背中はとても喜びに満ちていた。

 

 

 

 

 少し歩いた後、機嫌が良さそうなアインズをアルベドが何か合ったかと質問した。

 

「モモン……失礼いたしました。アインズ・ウール・ゴウン様」

 

「アインズで良いぞ、アルベド」

 

 アインズの答えを受けアルベドは混乱を表すかのように動く。

 

「しっ至高のお方の名前を略すなどは、ふ、不敬でしゅ!」

 

 構わないと思うのだが……

 

「それだけ、この名を尊い物と思ってくれて嬉しいぞアルベド。私は仲間たちが戻る日までこの名を名乗る。お前や他の者に思う所は無いか?もし不快にさせるのであれば止めるぞ?」

 

 そしてアルベドは少し動きすぎだと思う。

 

「とんでもない!ただ、」

 

「ただ?何だ?」

 

 アルベドが居住まいを正す。

 

「アインズ様を不快にさせれば自害を命じてください。他の至高の方々がモモンガ様を差し置いて名乗った場合思う所はあるかもしれません。しかしモモンガ様なら喜びだけです!」

 

 アインズもアルベドの答えを聞き、自分の内心も考えながら返答を返す。

 

「そうか。感謝するぞアルベド」

 

 それにしてもよく動くな。

 

「あぁ♡アインズ様に感謝するぞと言っていただけるなんて幸せでございます! っは! もしかして私だけ特別だから名前を略させて頂けるのでしょうか!!」

 

 アルベドがさらに喜びを表す。

 

「長い名前で呼ばれるのがこそばゆいだけだ。全員私の呼び方は統一するぞ?というよりさっきの少女(ネム)にアインズと呼ばせていただろう?」

 

 アルベドの動きが一瞬にして止まる。

 

 どうしたのかと思いアインズも立ち止まる。

 

「どうした」

 

 返事がない。

 

(何か問題が起こったか?そんな気配はないが?いや前衛職のアルベドが返事を返せないくらい固まっている以上何かあったと考えるべきか?)

 

 考えに従い配下に命令を下す。

 

死の騎士(デス・ナイト)アルベドが何かを感じたらしい、警戒を密にせよ」

 

 了承の意が返ってくる。

 

(しかし、この返答の感覚は謎だな……救援に行かせた死の騎士(デス・ナイト)も無事なようだし、村の方にも強い敵はいなかったようだな)

 

 一応村の方の死の騎士(デス・ナイト)にも命令を下す。

 

『アルベドが何か感じ取ったようだ。騎士の殺害はその辺にして警戒を密にしておけ』

 

 そちらからも受諾の意思が返る。こちらに戻さないのはおとりにするためだ。死ねばすぐに帰還するしかないだろう。あの少女との約束を破る事になるのは残念だが……一応偵察にだした月光の狼(ムーン・ウルフ)にも強者を探せと命令する。

 

 少し語尾を強めながらアルベドに尋ねる。

 

「アルベドよ…どうしたのだ。強者が存在するのか?お前をして固まるような存在が!」

 返答はすぐに返ってきた。

 

「違います!アインズ様!」

 より強い返答が返り内心驚いていると

 

「なぜあの小娘に優しくするのですか!まさかアインズ様はあのような小娘を妃にするつもりですか!!」

 

 アルベドが大声で叫ぶ。途中から泣きそうになりながら。アインズは一体何を言っているのか分からなかった。意味を咀嚼すると感情が鎮静化される。つまりそれほど大きく感情が動いたのだ。

 

「アアアルベドよ一体何を言っているのだ!」

「だってアインズ様は膝まで突いてやさしいお言葉をかけておられたではありませんかっ!」

「誤解だ! アルベドよ私にはそんな気持ちはなかった! あのとき優しくしたのは昔を思い出していたからだ!」

 

 それにたいしてアルベドは「昔ですか?」訝しそうに発言する。どうやら信じていないようだ。

 

「私はな……昔まだギルドができる前だ。その時PK()されかけたのだ、いや何もなければ確実にPK()んでいた」

 

 アルベドが一瞬固まり憤怒の感情を表す。

「わ、わたしの大好きな――」長くなりそうだったから手で止める。

「続けるぞ。あのとき死んでいれば私は完全に死んで今この時お前たちと一緒にいる事もなかっただろう。しかしだ……私はたっちさんに救われたのだ……あれがあったからこそ今の私がある」

 

 アルベドが驚いた顔をしている。

 

「私はな、あの姉妹を救った時にたっちさんに少しだが近づけた、恩を返せた、そんな気がしたのだよ。アルベドよ。だからあの少女に恋愛感情はない。あるのはたっちさんに近づく事ができた、恩を返す事ができたと思える事に対する感謝だよ」

 

 無言のまま時間が経過する。暫くすると意味を理解できたのか……

 

「失礼致しました。アインズ様」

 

「良い。ではアルベドよ何も問題がないのであれば村を助けに行くぞ……それとだ、恥ずかしいから他のNPC達には内緒だぞ? それに俺は必要があればどんなことでもするつもりだからな。純粋にたっちさんと同じ事をするつもりはないからな?」

 

(実際たっちさんみたいになりたいと考えているのをNPC(子どもたち)に知られるのは何かが辛い。それに下手をすると不和を撒き散らす事になりそうだからな。……ウルべルドさんは悪に括ってた訳だし)

 

 そしてアルベド達を伴いアインズ達は村に近づいていった。

 

★ ★ ★

 

 ところでお気づきだろうか? ネムの行動によりアインズは嫉妬する者たちのマスクを装備していない。

 

 ここに喜劇が始まった!

 

★ ★ ★

 

 法国の偽装工作の兵士たちは絶望を感じていた仲間が次々と死に、現在生きているのは4人だ。しかも実力で生き延びた訳ではない。我々に死を撒き散らした騎士が急に止まったのだ。まるで何かを警戒するかのように。この隙に逃げられるのであれば良いが足がすくんで動かない。だだ恐怖の混じった息遣いだけが聞こえる。仲間だけでなく村人も同じようだ。

 

 早く終わってくれと願っていると死の騎士より恐ろしい存在(超越者)が近づいてきた。よく見れば死の騎士が後一体いる。早く悪夢が終わる事を騎士たちは祈った。

 

 

「はじめまして、村に死を撒き散らした騎士たちよ。私はアインズ・ウール・ゴウンという。お前たちが降伏するなら命を助けよう。戦いたいのなら――」

 

 言葉は続かなかった。なぜなら全員がすぐに武器を捨てたからだ。

 

「……ずいぶんお疲れのご様子だな。しかしだ、そこにいる死の騎士(デス・ナイト)の主人に頭を下げないのはどうかな?」

 

 すぐさま騎士たちは頭をたれる。死刑を待つ死刑囚のよう。

 

「騎士の諸君。この辺で二度と虐殺をせぬよう上に伝えよ。さて、それでは逃げてくれて構わないよ……死の騎士(デス・ナイト)途中までお見送りしてやれ」

 

 騎士たちは戸惑うが死の騎士(デス・ナイト)が走り出そうとするのを見て逃げ出す。後ろから死の騎士(デス・ナイト)が追いかける。

(多少離れたら、戻ってこい)

 

 それを見送り村人に近づく……しかし村人たちは近づくたびに怯えの色を大きくする。

 

(助けたはずなのになぜこいつらは怯えているんだ?まともな反応を返したのはネムだけだぞ?)

 疑問に思いながら近づき

 

「さて、君たちはもう安全だ。安心すると良い。」

 

 そう言葉を発すると、村人たちは絶句したように眼を見開いた。

 

(なぜそれほど驚愕するんだ? 助けに来たと言っているのに……)

 

 疑問はすぐに解決した。なぜなら村人の代表と思われる者が怯えながら口を開く。

 

「あ、あな、あなた様はせ、生命を憎み死をま、撒き散らす、アン、アンデッドではないのでしょうか?」

 

 意味を咀嚼するのに少し時間が掛かる。

 

(……はぁ!! 死を撒き散らすって…鎮静化した…この世界じゃアンデッドはそう思われてるのか。だったらさっきの姉の方の対応も当たり前か。死を撒き散らす物って考えられているなら……ネムの方はなぜ私に感謝したのだ? むしろネムの方が錯乱していたのか? しかしこれは失態だな。何とか誤魔化さないと……)

 

 アインズが考え込むと村人たちの不安は増す。さらにアルベドが動き出した事で、村人達の恐怖は急激に上昇した。

 

「助けて頂いておりながら、感謝の言葉すら表さないとは……その罪万死に値する」

 

 アルベドが武器(バルディッシュ)を持ち上げた。村人を殺すため殺気を撒き散らしながら――ここで村人の何人かは倒れた。

 

(まずい!!)

 

「止めよ! アルベド! 私は村人を助けると命令したぞ!!」

 

 アルベドが何かを言いかけるが、無視する。

 

「部下が済まない。確かに私はアンデッドだが死を撒き散らそうと思わない。今回は君たちが殺されているのを見かけたから助けに来たのだ。見過ごせなくてね……しかしだ、アンデッドがこの辺では死を撒き散らすのが当たり前なら、こちらのルールに従った方が良いのかな?」

 

 少し冗談を交えて言葉(ボール)を投げる。少し待つと理解ができたのか

 

「とんでもない!! こちらこそ助けていただいた方に失礼を致しました!! どうかお許しください!! 殺さないでください!!」

 土下座しながら話してきた。それに付随して他の村人たちも土下座を始め各々「ご慈悲を!!」「殺さないでください!!」泣きながら叫びだす。

 

 アインズは思う。

(どうしてこうなった)

 




さて覇王少女ネム1話をご覧いただいた訳ですが、如何だったでしょうか?

個人的に一番の変更点は覇王炎莉→エンリ・エモット ネム・エモット→覇王少女ネムだと思います(笑)細かな変更点は多々ありましたが、違和感は大きかったでしょうか?

感想お待ちしております!


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第2話 カルネ村の輝き

では第2話カルネ村の輝きをどうぞ!

ちなみにタグにロリコンを追加いたします!

理由は明白ですね!むしろなぜ入れてなかったのか過去の自分を問い詰めたいw

では第2話 カルネ村の輝きをどうぞ!


 アインズは考えていた。

 

(さてこの状況をどうするか)

 

 村人たちは何かを叫びながら土下座を続ける。少し考えをまとめながらアインズは声をかける。

 

「立ち上がってください皆さん」

 この言葉に全員が即座に立ち上がる。

 

「私は本当に貴方達を殺そうとは思ってはいません。確かに一般のアンデッドは死を撒き散らす者かもしれませんが私は別です。もし本当に殺すつもりなら貴方達は既に死んでいるはずです。部下が貴方達を殺そうとするのも止めません」

 

 これらを聞いて村人たちは混乱しながらも少しずつ信じはじめたようだ。不安の色はまだ完全に消えていないが……村長と思われる者が質問をしてくる。

 

「ではなぜ助けて頂けたのでしょうか?」

 

 アルベドが自分に対して、疑問をぶつけた事に怒りを表すが止める。

 

「先程も述べましたがなぜか見過ごせなかったのと…あえて理由を挙げるなら二つです」

 

 村長が不安がりながら「何で……しょうか?」と尋ねてくる。やはり自分が彼らを殺すつもりだと考えているのだろうか? 

 

「私はこの辺りのアンデッドではないので、この辺の常識を知らないのです。長い間ナザリックという所に引きこもっていたので……なので情報が欲しいのです。私にとっての常識が貴方達の非常識な場合もある。丁度今のようにね。なので貴方達の常識を助けた報酬として教えて頂きたい」

 

 村人たちの顔色から少し緊張が取れ、理解の色が浮かぶ。

 

「それとこれは個人的な事ですが、純粋に人助けをしたいと思ったからです」

 

 村人が驚愕の色を浮かべる。生物を憎むと言われる存在が純粋に人を助けたいと言ったのに驚いたのだろう。

 

「昔。本当に昔、私もある人に助けられた事があるんです。その人の事が頭に浮かんでしまってね……いてもたってもいられなかったんです」

 

 感情を抑えきれずに笑ってしまう。

 

 村人たちからすると骸骨が笑うのは少し怖いのだろうが、機嫌が良くなったのは分かるのだろう。安堵の表情が浮かぶ。

 

 これはアインズが気付かなかったことであるが、アインズの顔は何かを成し遂げる事が、願いをかなえる事ができたようなニンゲンに村人達は見えた。一瞬の事だったので村人達も錯覚と感じたが、なぜか一瞬の出来事を忘れる事ができなかった。

 

「それでは、常識の話をする前に、向こうで助けた二人の少女を連れてくるので少し待っていてください」

 

 そこまで話して歩き出すアルベド達も追従する。

 

(しかし、先程逃がした騎士たちはどうするか?それとネムにも少し話を聞かないとな)

 

 などと考えながら最初に救った少女たちへ歩いていく。

 

 

★ ★ ★

 

 エンリは一体何が起きているのか理解できなかった。

 

 先程の方――アインズ様――アンデッドなのになぜ私達を助けてくれたのか。

 

 なぜネムは、助けてくれたと信じられたのか。疑問に従いエンリは聞きたいが近くにアインズ様が召喚した狼が存在する。聞いても大丈夫か少し不安になりながら、意を決する。

 

「ネム?なんでアインズ様が私たちを助けに来てくれたと分かったの?」

 

 ネムは少し首を傾げながら答えようとするとき。

 

「ネム。私も聞きたいな」

 

 どきりとしてしまう。振り返ると助けてくれた方がいた。

 

 ネムが「アインズ様!」と立ち上がりお礼を言っている。アインズ様がネムを止め。

 

「あぁ君が私に感謝してくれているのはよく理解できる。だからこそ聞きたいのだ……先程村人達から聞いたがこの辺の常識ではアンデッドは死を撒き散らす存在らしいな? なのになぜネムは私が助けに来たと理解できたのだ?」

 

 ネムが首を傾げる。

 

「? だってアインズ様私たちを殺そうとした騎士(悪魔)を殺す時に「……女子供は追い回せるのに毛色が違う相手は無理か?」って言いながら私たちを庇ってくれたもん!」

 

 ……確かによく思い出すとそうだ。そう言っていた。ネムがお礼を言った時には助けに来たと明言していた。

 

(私の方が年上なのに)

 

 妹の方が冷静だった。姉として助けると誓ったのに状況の判断も出来ないなんて、何をしてるんだろう。と考えてしまう。自虐をしているとアインズ様が続きを話しだす。

 

「確かにそのとおりだ。しかしだからこそ気になる。先ほども言ったがアンデッドは死を撒き散らすのが常識なのだろう?怖くなかったのか?」

 それにネムが思いを語り出す。

 

「えっと……その最初門から出てきた時と、そこの騎士? さんが出てきた時は怖かったです」

 

「なるほど。」

 

 相槌を打ちながら続きを待つ、エンリも気になった。

 

「その……助けに来てくれたって思うと何も怖くなかったんです。アインズ様は優しい方と理解できたんです……騎士(悪魔)の方が怖かったんです。私から大事な物を奪っていく騎士(悪魔)が…」

 

 ネムが泣き出す。その時の恐怖を思い出したのだろう。アインズ様が召喚した狼?がネムを心配そうに見上げているように見える。

 

「……つらい事を聞いたな」

 

 アインズ様がネムの頭を撫でる。そしてネムが少し泣きやむと……ネムを立たせる。

 

「さて、そろそろ村人たちの方向に向かうか。君たちの両親が生き延びているかの確認もしなくてはな」

 

 それに現状を思い出す。

 

「では、行こうか」

 全員が歩き出して村に向かう。

 

 途中エンリは「助けて頂いたのに失礼ばかりして申し訳ありません!」と謝るが……「気にするな、君は常識に従っただけだ」と言われ会話が終わる。

 

 エンリは願った。

(両親が生き延びていますように)

 

 その確率は低いと薄々察しながら……

 

★ ★ ★

 

(それにしても子どもとは偉大だな……常識に囚われず、私が助けに来たのを理解するのだから。もしかしてやまいこさんが学校の先生をしていたのも、子どもの純粋さが好きだったからかもしれないな……)

 

 アインズはその事を考えながら今後の事を考える。

 

(さっきの騎士は見逃していいだろう。常識から考えればアンデッドが人を助けたとは思えないだろう。彼らが「アンデッドが人を助けたんだ!」と言ってもバカにするだけだろう。その分村の人とも話を合わせないとな……)

 

 そのような事を考えていると村人達と合流する。死の騎士(デス・ナイト)も戻っている。二人の少女も村人たちの方に行き、村人達と生き延びた事を喜びながら両親を探している。月光の狼(ムーン・ウルフ)も付いてくるが問題ないだろう。

 

 ここでアインズは大きな声で

 

「では村長、話を伺っていいだろうか?他の村人たちは、他にする事があるだろう?」

 

 それに村長たちが

 

「おお!ありがとうございます!」

 

 片手を上げて構わないと返事をする。

 

「一つだけ皆さんに頼みがあります。この村を助けたのはアンデッドではなく――」

 

 ここで嫉妬する者たちのマスクを取出して顔に付ける。

 

「仮面を付けた魔法詠唱者《マジック・キャスター》という事にしておいてください。知られるとお互い大変でしょうし……」

 

 村長たちはその言葉にアンデッドに助けられたと言えば、他の人達から差別される可能性を理解したのだろう。

 

「……分かりました。決して誰にも言いません。しかし騎士達は」

 

 予想された返事に問題ないと話す。

 

「アンデッドは死を撒き散らす者でしょう?あなた達が助けた人は仮面をしていたと言えば、恐怖で錯乱したんだろうと、バカにされますよ。丁度恐怖の対象(死の騎士)も存在しますしね。」

 

 それに対して理解できたのか。頷きながら感謝を述べてくる。

 

「分かりました。ただこれだけは言わせてください。我々を助けてくれた方にご無礼をして申し訳ありませんでした!!村を助けて頂き感謝いたします!!」「「本当にありがとうございます!!」」

 

 村長が頭を下げる。少し遅れて村人全員が頭を下げながら言ってくる。

 

 アインズは少し瞠目した。この世界に来る前にこれほど純粋な感謝をされた事はない。それもこの人数にだ。少し気恥ずかしいが、それ以上に胸が熱くなり嬉しい思いが駆けあがる。

「………」

 何と言えばいいのだろう? 少し逡巡する……

 

「頭を上げてください。私は自分のためにあなた方を助けただけです。」

 

 村長が語り出す。

 

「それは承知しています!ですが我々は死しかない未来をあなた様に覆していただいたのです!ありがとうございます!アインズ・ウール・ゴウン様のおかげで多くの村人が生き延びる事ができました!」

「「アインズ・ウール・ゴウン様!ありがとうございます!」」「アインズ様!ありがとうございます!」

 先程の少女達も一緒に唱和している。

 

「……受け取りましょう。あなたたちの感謝を…頭を上げてください。……そうですね村長。常識の話をする前にまずは村人の生き残りを探しましょう。アルベド、我々も手伝うぞ」

 

 少し驚愕したようにアルベドが叫ぶ。

「アインズ様!?」

 

 止めようとしたのかもしれないが、その言葉は出てこなかった。

 

 なぜなら、アルベドには涙を流せないアインズが泣いているように見えたからだ……

 

 

「では、みなさん急ぎましょう。今なら救える人がいるかもしれない」

 その言葉に全員が立ち上がりながら「ありがとうございます」と呟く。

 

「では、生きている人を助けに行くぞアルベド……」

 

 全員が行動を開始した。

 

★ ★ ★

 

 しばらくの時間が過ぎアインズは村長の家に座っていた。ある程度の救助作業が終了したからだ。

「アインズ・ウール・ゴウン様」

 

 向かいに座った村長が話しかけてくる。

 

「長いですし、アインズで結構ですよ。村長」

 

 村長が少し不思議そうな顔をして、何かに閃いた様子を見せる。

 

「……ゴウン様。誠に失礼なのですが、この周辺では目上の人等と話す時などは名字から呼ぶのです」

 

(なるほど、西洋式の呼び方か)

 

「構いませんよ。ある程度親しくなれたと私は考えているので、よろしければアインズと呼んでください。他の村人達にも伝えてください」

 

 それに村長が少し笑う。

 

「よろしいのですか、アインズ様?」

 

「構いません、それで」

 

 アインズが話を進めようとするが村長が途中で口をはさむ。

 

「アインズ様、帝国の騎士達の殺戮から助けて頂いただけでなく、救助作業までして頂きありがとうございます!」

 

 村長は先程の件を述べているのだろう。壊れた家等に押しつぶされた人たち。ただの村人では生きていても救助はできなかっただろう。その時役立ったのが死の騎士(デスナイト)だ。

 

 軽々と重い物を持ち上げ、生きている人を救い出した。また月光の狼(ムーン・ウルフ)も狼らしく鼻が利き埋もれた人たちの発見に役立った。

 

「ポーションまで使って頂き申し訳ありません……」

 

 助け出された人たちの何人かは致命傷だったためポーションを使い治療した。現在は一段落がついたのでポーションを幾つか預け治療をアルベドに任せている。召喚した者達も現在も手伝いをしているはずだ。

 

「構いませんよ。村長、私も無償で助けた訳ではないので……報酬を期待してますよ?」

 

 報酬とはこの周辺での常識の事だ。

 

「責任重大ですが、しっかりお支払(伝え)させて頂きます」

 

 そして様々な事を話し時は過ぎていく。

 

 様々な事をアインズは質問していく。通貨の事等村人から当たり前と思われることにも村長に分かる範囲で説明した。そして国の話になった。

 

「なぜ王国は村に兵士を派遣しなかったのですか? 民が襲われたら助けを出すのは当然だとおもいますが?」

 

 アインズとて本気でそんな事を思ってるわけではないが次の話に繋げるために必要だから質問した。

 

「……王様が我々民を助けてくれることはありません。税は六割以上持っていかれ毎年行われる帝国との戦争に男達は連れていかれます」

 

 アインズは少し気分を悪くさせてしまったかと思いながら、新しく疑問に思った事を聞く。

 

「……これは失礼しました。しかし徴兵されるのであれば、多少武芸の心得がある者もいたのでは? それにこれだけの辺境の地なら身を守る手段はあると思うのですが……」

 

「帝国の騎士達は戦いを専業にした兵士らしく徴兵で訓練を受けた程度ではまともに戦えないのです。魔物は……お恥ずかしい話ですが我々は森の賢王様と言われる強い存在のおかげで今までまともに魔物に襲われた経験もなく、人間が襲ってくる事もなかったので、まったく警戒もしていなかったのです」

 

「……なるほど。確かにそれなら仕方ないかもしれませんね」

 

「ですが今回の事で自分達はただ言い訳をしていただけと思い知りました……我々も覚悟を決めて村を守るために努力したいと思います」

 

 村長の目にはとても強い意志が存在した。たとえ命を賭してでも必ず子どもたちの未来を切り開くと……

 

(死を覚悟の上で進むか……強い目だな。先程私にただ救われただけの村人とは思えない……憧れるよ)

 

 余談だが…村長がここまで覚悟をしたのはアンデッド(アインズ)の人を救いたいという意思を見たからだ…死者になったとしても自分を失わない存在がいる事を知ったからだ…

 

★ ★ ★

 

 時がたち今は葬儀の時間である。村長はなぜか渋るような態度があったが、アインズの「安らかに眠らせてやらないと……家族を守った者達を。私の事は気にせずに行ってあげてください」の言葉で納得していた。すぐに葬儀を行うのが学んだ常識のはずだがとアインズは考えていたがこの考えをすぐに放棄した。

 

 アインズは尽力したが、やはり救えない人物は存在した。特にネムの両親が亡くなっていたのは辛い。

 

 思わずネムに「すまない」と謝ってしまい姉を畏まらさせてしまった。辛い時にネムは「お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます」と泣きながら感謝された。頭を撫でていたら抱きついて泣いたが、されるがままにさせた。今は月光の狼(ムーン・ウルフ)に抱きつきながら葬儀の列にいる。

 

 アルベドが何か言おうとしていたが身ぶりで止めた。納得はしていないみたいだったから後で何とかしないと。

 

(本当に色々と情報を提供してくれたな。王直属の精鋭部隊を指揮する戦士長と戦士達、か……どれほどの強さか……それに生まれながらの異能(タレント)か。特にンフィーレア・バレアレか……こいつは危険だな。ネムが言っていたのもこいつだろう。後で詳しくネムに聞いてみるか。それにしても本当に十分な報酬(情報)を頂いたな……ひとまずエ・ランテルに誰かを送るべきだな……後でアルベド達と作戦を考える必要があるな。それと死者蘇生の実験も何れは必要だ。今行うか? ……いや情報が少なすぎる。止めるべきだ)

 

 少し自虐しながら自分の心と向き合う。

 

(それにも拘らず、私は亡くなった村人たちを蘇生させたいと考えている。だがこれ以上援助するのはまずい。情報も不足している……私は何だ。アインズ・ウール・ゴウンの名を背負う以上ナザリックの利益を一番に考えるべきだ)

 

「アインズ様。後詰の者が参りました。」

 後詰の者が世辞を言ってくるがそれを遮り続きを促す。

 

「400のシモベが到着しました。いつでも襲撃可能です。」

 

 今こいつは何と言った。一瞬怒りで沸騰するがすぐに鎮静化する。

 

「私は、この村を助けるために来たのだ! ……なぜそんな話になっている!」

 

 アルベドが怒りを止めようと話しかける。

「申し訳ありません! アインズ様! 守護者統括である私のミスでございます!」

 

「アルベドお前の責任ではない。セバスの伝達……」

 

 少しセバスへの命令を思い出す。

 

(……確かに助けるとは明言していないな……話の流れで分かると思ったが)

 

「すまない。アルベド、これは私の命令ミスだ。すまなかった」

 

 頭を下げる。するとアルベドも謝罪する。

 

「そのようなことはありません!アインズ様の御考えを理解しなかった我々が悪いのでございます!」

 

 このままでは埒が明かないと考えて……

 

「その話は後にしよう。アルベド。八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)、お前たちの指揮官は誰だ?」

 

「はっ。アウラ様と、マーレ様です。」

 

「そうか……ならアウラとマーレ、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)のみ周辺待機で他の者は帰還させろ。」

 

 命令に従い八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が下がる。

 

 そこでアルベドが話しかけてくる。頷き続きを喋らせる。

 

「ここで死者蘇生の実験をするのは如何でしょうか?」

 アインズはアルベドを見つめた。

 

「ユグドラシルから転移した事により様々な実験が必要になっております。そのためこの村の人間はアインズ様にに感謝の念を示しておられるので確実に裏切らないように恩で縛っては?」

 

(確かに何れはしないといけない事だがなぜ今進言してくる?アルベドなら情報が足りていない段階での死者蘇生は危険だと気付けるはずだが……いや私の考えを汲んでくれたのか)

 

 アインズは嬉しくなると同時に……自分を恥じた。

(仲間の子ども達に俺は何を言わせている。俺がしっかりしなくてどうする!)

 

 自分を叱咤する。

 

「アルベド。私の意を汲んでくれた事感謝する。しかしだ、現状ではナザリックへの利益が少なく危険が多い。今回はやめておこう。すまんな迷惑をかけて」

 

「迷惑だなんて!私たちはアインズ様に従うために存在しているのです!迷惑などではありません!」

 

「ありがとう。なら、今回は死者蘇生の実験は行わない。命令だ」

「……畏まりました」

 

「ところでだ、アルベドよ、人間は嫌いか?」

 

「……アインズ様がお助けするのをみて申し上げるのは失礼ですが、あまり好きではありません」

 

「そうか……しかし演技は大切だぞ……アルベド、ここではできる限りやさしく頼むぞ」

 

 アルベドが頷く。

 

(それにしても不思議だ……なぜ死の騎士(デス・ナイト)一体は消えていないのだ。死体を使えばずっと消えないのか? これも要検証だな。月光の狼(ムーン・ウルフ)の方は神器級(ゴッズ)アーティファクトを用いた特別な召喚だから帰還させない限り残るのは分かるんだが……もう暫く出しておこう)

 

 アインズは葬儀の方向を嫉妬する者たちのマスク越しに眺める。その背中はなぜか自分に存在しない何かに対して嫉妬しているようにも見えた……

 

 

★ ★ ★

 

 葬儀が終わり、また村長宅で続きの話をしてある程度の常識を学び終える頃には夕陽が浮かんでいた。

 

(美しいな……夕陽というものは、みんなと一緒に見たかったな……)

 

 少しセンチメンタルになりながらアインズはこれからの事を考える。

 

(この村で学べる事はもうないだろう。より情報を手に入れるためにも早急にナザリックに帰還して情報を共有すべきだ。)

 

 様々な事を熟考しながらアインズはアルベドに命令する。

 

「この村でするべき事は終了した。アルベド、ナザリックに帰るぞ」

 

 柔らかい雰囲気を出したアルベドが

 

「承知しました」

 

(アルベドの柔らかい雰囲気は私が命令したから浮かべているのだろうか…もし自発的にしてくれているなら…)

 

 そこで考えを切る。

 

(これ以上ナザリックの支配者に相応しくない事を考えるべきではない。NPC達に失望される可能性がある事は避けるべきだ)

 

 アインズは村長達に別れを告げるために探し出す。途中でネムを見つける。ネムもこちらに気づいたのか近づいてくる。月光の狼(ムーン・ウルフ)も一緒だ。

 

(ずいぶん仲良くなったように見えるな)

 

 そしてネムに話しかける。

 

「ネム私たちはそろそろナザリックに帰ろうと思う。」

 

 ネムが驚いている。

 

「……もう帰られるんですか?」

 

「あぁ……私がここでできる事は終わったからな……」

 

 ネムが寂しそうにしている……月光の狼(ムーン・ウルフ)と別れるのが辛いのだろうか……

 

「ネム……そう寂しそうな顔をするな。また会える。それと月光の狼(ムーン・ウルフ)、私がいない間しっかりネムに仕えるんだぞ?」

 

 それにネムが驚きながら「アインズ様!ありがとうございます!」

 

「構わない。ところでネム、村長はどちらかな?」

 

 そう聞くと「こっちです!」と大きな声で話しながら、月光の狼(ムーン・ウルフ)と一緒に歩き出す。アインズ達も後ろから追いかける。そのとき警戒に出した月光の狼(ムーン・ウルフ)から二つの集団がこちらに近づいてきたとの報告がある。

 

(また敵か……この村を滅ぼすつもりか……)

 

 周りを見ると村人たちはアインズに感謝を述べながら、全力で様々な作業に取り組んでいる。

 

(……なぜ、この村を滅ぼそうとするんだ! 彼らはその日その日を全力で生きているだけだろう!……なぜ彼らを苦しめるんだ!)

 

 アインズは、彼らに命の輝きを見た。鈴木悟のころには無かった人間の光を……

 

(俺はナザリックの支配者だ。これは変わらない。……確かに十分な報酬は頂いたがこれ以上ナザリックに危険を招きかねない行動は慎むべきだ……)

 

 そして村長の下に辿り着く。何人かの村人達と真剣に話し合っている。もしかしたら危険が迫っている事に気付いたのかもしれない。

 

「何かありましたか、村長?」

 

 村長達の顔が明るくなる。

 

「おお、アインズ様。実は戦士風の者達が近づいているらしいのです。」

 

 村長達は少し遠慮がちに伝えてくる。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないという感情が伝わる。しかし手を借りなければ生き残れないのも分かっているのだろう。村長が意を決して話しかけてくる。

 

「アインズ様! ご無礼は重々承知です! 何度も手を借りるのは間違ってるのも分かっております。ですがお願いです! ……女と子ども達を逃がしては頂けないでしょうか?」

 

 ……意表を衝かれた。村の助けを求めるとばかり考えていた。村人たちも何か覚悟を決めた眼をしている。

 

「なぜ私に助けを求めないのです?そこの死の騎士(デス・ナイト)を使えば、おそらくあなた方全員を救えるはずです。」

 

「我々は、アインズ様に返しても返しきれないほどの恩を受けました!これ以上ご迷惑をおかけしたくありません!……それなのに女子供を助けてくださいと願うのは間違いなのは承知しています!ですがどうかお願いします!」

「「お願いします!アインズ様!」」村人たちも村長に続いて思いを述べる。

 

(……この村人達を、見捨てる?女子供を救うために、命を捨てる覚悟をしている者達を?私にこれ以上迷惑をかけずに、解決しようとしている者達を?)

 

 ネムが前から見上げてくる。

 

(……もしここで彼らを見捨てれば俺はたっちさんに顔向けできない。……ウルべルトさんは『悪』というものに括っていた。もしかしたら国家からするとこの村を滅ぼす事が正義なのかもしれない……なら俺は『悪』としてこの村を救おう! 構いませんね、皆さん!)

 

 頭の中で大切な仲間達に村を救うと宣言する。

 

「頭を上げてください皆さん。村人達を村長宅に集めてください。」

 

 村長が「しかしこれ以上恩を受けるわけには」と述べるが手で止める。

 

「私は、あなた達から適正な報酬以上の物を頂いた。今回救うのはそのお釣りですから気にしないでください。さぁ速く行動を開始してください!」

 

 村長達は納得いかないのだろうが行動を開始する。

 

 村人達が村長宅に集まるなか、男たちは鍬等を持ってこちらに近づいてくる。

 

「アインズ様!ご迷惑と思いますが、私達も一緒に戦わせてください!これ以上何もできずに守られるだけなんて…自分を許せないんです!」

 

 アインズは集まってきた者たちの目を見る。全員が覚悟を決めた目をしている。

 

「良いのですか?今度こそ死ぬかもしれません。助かった命を捨てるつもりですか?」

 

 それに対して

 

「私たちは既に何も残せずに死んだはずだったんです! アインズ様がいたから私たちは何か(家族)を残すために戦えるんです! 足手まといですが、どうかお願いします! 楯にぐらいなってみせます!」

 

(……人間とは、かくも偉大な者だったのだな……)

 

「……分かりました!共に闘いましょう!死の騎士(デス・ナイト)は村長宅の警護だ!」

 

 思念を通して警戒に出した月光の狼(ムーン・ウルフ)2匹を集める。1匹はネム達の周辺警護だ。

 

 ネムが「アインズ様。無事に帰ってきてくださいね……」と話す。

 

「ああ。必ず無事に帰ってこよう。ほら、ネムも村長宅に向かいなさい」

その言葉に後ろを振り替えりながら村長宅に向かう。

 

 そしてアインズは

 

「それでは皆さん、敵を待ち構えましょう!」

 




カルネ村守護者ルート始まります(白目)

お読み頂きありがとうございます!

さてアインズ様がカルネ村に固執した理由は上手く描写できていたでしょうか?

これは質問なんですが月光の狼(ムーン・ウルフ)実際はどうなんでしょうね?特別な召喚以外は時間制限があるらしいですが、今作では神器級(ゴッズ)アーティファクトですので特別な召喚とさせていただきました!


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第3話 憤怒

ちくしょう。早くモモンガ様とネムのいちゃいちゃを書きたいよ~そこまでの道のりが長い……

さて一応なのですが,、アンチ・ヘイトタグを追加させて頂きました。

では本編をどうぞ!


 ガゼフ以下戦士達は急いでいた。

 

 ガゼフ以下戦士達には使命がある。無差別に殺戮されている、村人たちを救う事だ。これはガゼフ達にしかできない事だ。

 

 いやガゼフを殺すためにこれほどの事をしているのだから村人を救出する事は義務だろう。

 

 

 辺境の村では魔物が出ても誰も手を差し伸べてはくれない。金がなければ冒険者を雇うこともままならない。貴族は一部を除き助けてくれない。

 

(だからこそ、村人を救う存在がいる事を絶対に示さなければならない)

 

 ガゼフは願う。間に合ってくれと。これ以上犠牲が出ないようにと……

 

「戦士長!次の村が近づいてきました!」

 

 副長が話しかけてくる。

 

「そうか…各員戦闘準備! 必ずこれ以上の殺戮を止めるぞ!!」

 

 ガゼフ直轄の戦士達が同意の返事を力強く返してくる。

 

 そして村が見えてきた。村の広場の辺りに来るとガゼフは困惑を隠せなかった。村人達が敵意を向けた視線を向け鍬等を武器のようにこちらに向けている。

 

 村人の一人が「これ以上お前達から家族を奪わせたりしない!!」と叫んでいる。また近くにはアンデッドの騎士と思われる物や、奇妙な仮面を被った――おそらく魔法詠唱者(マジック・キャスター)――者がいるから彼が使役していると考えるべきだろう。

 

 さらに狼と思われる物が2匹唸り声を上げて警戒を露わにしている。

 

 また全身を黒の甲冑で覆った者は、魔法詠唱者《マジック・キャスター》の従者だろうか?

 

(まずい!)

 

 ガゼフが見たところ死の騎士は自分と同格と捉えるべきだろう。それを使役する魔法詠唱者(マジック・キャスター)も逸脱者と同格かそれ以上と捉えるべきだろう。

 

 そして2匹の狼にも勝てる存在は1対1ではガゼフだけだろう。黒の甲冑の者は力が分からないのが恐ろしい。

 

 ここは死地と言える。村人も我々に武器を向けている。しかし引く訳にはいかない。ガゼフの後ろで驚愕を滲ませた戦士達の整列が整うのを待たずにガゼフは

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノ―フである!王命により近隣を荒らす騎士たちの討伐のために村々を回っている!我々は君達の敵ではない!」

 

 

★ ★ ★

 王国戦士長の声を聞き周りではざわめきが起こる。アインズは村長に聞いた話の中に王国戦士長の話があった事を思い出す。王直轄の精鋭を指揮する戦士らしい。

 

(しかしなぜ戦士長が来たのか……名を騙ってる人物ではないか?)

 

 そう考えアインズは村長に質問する。

 

「目の前の人物は本物ですか?」村長に尋ねるが、実際に見た事は無いらしい。

 

 戦士団に武器を向けている村人たちにも大きな声で同じ事を尋ねるが返事がない。分からないのだろう。

 

 戦士長が村長に話しかける。

 

「隣の人物が誰か教えて頂きたい」

 

 村長がどうすればいいか悩んでこちらに顔を向ける。アインズは

 

「……それには及びません。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村を騎士たちから救った者です」

 

 その返事を聞きガゼフは馬から降りて、武器を向ける村人達の視線を受けながらアインズに近づく。村人達からどうすれば良いかと視線で投げかけられるが、首を横に振り手を出さなないように指示をする。一応近づくだけでなく不審な動きがあれば動くようにアルベド達に命令する。そして近づいてきた戦士長は

 

「この村を救って頂き心から感謝する!」

 

 一瞬の静粛の後、村人たちから動揺が起こる。当然だろう、特権階級と思われる者が身分不明の者に頭を下げるのだから。

 

 アインズは村人達に指示をする。

 

「……みなさん武器を下ろしてください。王国戦士長と言うのに偽りはないでしょう。……しかし欺くための罠という事も考えられます。みなさんは下がってください」

 

 村人達は多少疑いの目を向けながら後ろに下がり武器を下ろす。その間にアインズはアルベドに近づき戦士長に聞こえないように小声で問いかける。

 

「……アルベド、その戦士の強さはどれぐらいか?お前なら勝てるか?」

 

「簡単でございます。その程度の男が精鋭とはこの周辺には人材がいないと見えます」

 

 驚く返事がされる……

 

(……偽物か?王直轄の精鋭を指揮する人物がその程度とは考えられない。いや、力を隠している可能性もあるか? もしかしたら強力な生まれ持った異能(タレント)を保有しているから戦士長なのか?)

 

 長い間ではなかったが、少しの間ガゼフは頭を下げ続けた。

 

「……失礼な話をしているのですが、何も言わないのですね?」

 

 それに対してガゼフは頭を上げる。

 

「この村は騎士に襲われている。警戒があっても仕方がない。……それにしても村人達はゴウン殿を信頼しているな……」

 

 村人達から「アインズ様は私達を騎士から助けてくださった!」「死にかけている者にポーションを振る舞い、救助活動も手伝ってくださった!」

 

 村人から声が飛んでくる。それを聞いたガゼフは驚愕を露わにする。

 

「……そこまでしてくださったのか……本来は我々がすべきことだが……ゴウン殿。我々の代わりにそこまでして頂き感謝する。掛かった費用を教えてくだされば用意しよう」

 

「それには及びませんよ……報酬は既に村人達から頂いている」

 

「報酬?とすると冒険者なのかな?私は寡聞にしてゴウン殿の名前を存じないが……」

 

「旅の途中でしてね?名前は売れてないでしょう」

 

 予想していた質問なので上手に誤魔化して強い情報の流出を避ける。

 

「……旅の途中か。ゴウン殿のような仁徳ある方の時間を奪うのは心苦しいが、時間を頂いても?」

 

「構いませんよ。騎士達の事等説明も必要でしょう? 大半はそこの死の騎士に奪わせましたが」

 

 戦士長は納得の表情を浮かべながら

 

「なるほど、ではそちらの狼もゴウン殿が召喚したのかな?」

 

「えぇ。鼻が利くので敵の警戒に召喚しました。中々優秀でしてね?」

 

 実際に相手が近づいてきたのを発見した方法を教える。

 

 戦士長は少し考え込む。

 

「…それではもう一つだけ聞かせて頂きたい……その仮面は?」

 

「敵になる可能性がある人物に顔を見せるのは危険ですから……呪術の中には顔が分かれば呪いをかける物もあるかもしれませんし。名前を教えたのはかなりの譲歩ですよ?」

 

 つまりまだ自分達はお前を疑っていると伝える。

 

「……なるほど」

 

 相手が疑いを晴らす方法を考えている間に話を進める。

 

「ところで戦士長殿。私が召喚したシモベが見つけた集団は二つ。一つがあなた達で、もう一つの集団がいます」

 

 現状では少ない札を切る。それを聞いた戦士団達の顔が驚愕する。ガゼフは顔は変わらないが雰囲気で驚いたのが分かる。

 

「単刀直入に聞きます。あなた達は本当に村人の味方ですか?もう一つの集団が村の味方ですか?……それともどちらも敵ですか?」

 

 アインズの言葉で死の騎士(デス・ナイト)月光の狼(ムーン・ウルフ)達が警戒心から敵意を露わにし臨戦態勢に入り、アインズの命令で飛びかかれるようになる。黒の騎士も僅かに動き何かあればアインズを庇えるように動く。

 

 それに威圧されたのか後ろの戦士団が武器を手にかける。

 

 村人達もアインズの言葉に武器を構える。ガゼフが叫ぶ。

 

「お前達! 武器を下ろせ! 我々は本当にあなた方の敵ではない! 信じてくれ!」

 

 ガゼフの返事にアインズは自分の考えを述べる。

 

「……では、その集団は王国戦士長を殺すための集団ですかな? 多少この村を見たところ、なぜ虐殺されたのか分からない。……しかしあなた達をおびき寄せるために虐殺したのなら理解はできる」

 

 それに対してガゼフは表情を隠せず震えた声で呟いてしまう「……なぜそれを?」

 

 非常に小さい声だったがアインズは聞き逃さなかった。

 

「なるほど。この考えは正しかったか……では戦士長殿、すぐにこの村を立ち去って頂きたい……あなた個人はとても素晴らしい人物だ。身分不明な私に対しても頭を下げるね……もし出会いが違えば、友になるのを願ったかもしれない」

 

 ここでアインズは一度言葉を切り。

 

「しかしだ……お前達はこの村に政治的な争いを持ちこんだ……彼らは一日一日を懸命に生きているだけなのに。政治の都合で村は虐殺された……彼らは戦争にも出てない。何も悪い事もしていないだろう?  もしかしたら大勢の為という視点なら正しいのかもしれない。多数の為にと言いながら少数を切り捨てる事はよくある事だ。……だからこそ私は『悪』としてこの村を救う!  お前がこの村の味方になろうとして、本当に村を救おうと行動しているのなら、今すぐこの村を去れ! ……これ以上政治の都合を、この村に持ち込むな!」

 

 

 戦士長は頭を伏せて沈黙している。少し経つと「すまなかった」と呟き馬の下に戻る。戦士達も何か思う所があるのだろう。全員が静かだ……

 

 ガゼフ達は何も言わずに村を立ち去ろうとした。しかし一歩遅かった。一人の戦士が近づいてくる

 

「戦士長! 周囲に複数の人影が、この村を囲む形に接近しております!」

 

 アインズが

 

「……どうやら警告を出すのが遅かったな……」

 

 ぽつりと呟く。

 

 村人達から視線でどうすればいいかと問われる。

 

 アインズが考える。何が最善かを……どうすればナザリックに利益を出しながら、この村を救えるかと……

 

★ ★ ★

 

 その後アインズは一先ず村人に村長の家の周辺に集まるように指示する。

 

 緊急事態なので戦士長達もそばにいる。村長も近くにいる。何かあった時にすぐに村人達に指示するためだ。無論アルベドが近くにいるため自分の安全も確保できていると言えるだろう。

 

「なぜスレイン法国の特殊工作部隊群の六色聖典たちが……」

 

「知っているので?」

 

「詳しくは知らないが……貴族共を動かし、武装をはぎ取り何の罪もない村人を殺してまで、私を殺そうとするとはな……彼らは人類の守護者を自任しているはずだが……なぜこのような事を!」

 

 戦士長が怒りを滲ませる。アインズが鼻で笑いながら話す。

 

「それが政治では?無辜の民(少数)を犠牲にして何かを掴もうとする……」

 

「それに人類の守護者?表の顔でしょう?」

 

 つまりアインズは法国もどこにでもある利益を追求する国と断じているのだ。実際人類の守護者がなぜ無辜の民を殺すのかアインズには理解できない……

 

――これはアインズは知らない事だが……王国には罪がある。王や貴族、戦士長のみならず、無辜の民にさえ存在するものだ。

 

 人類は法国がいなければ確実に滅んでいるだろう。これは厳然たる事実である……実際に竜王国という国はいつ滅んだとしてもおかしくない程にぼろぼろだ……法国の秘密裏の支援がなければ確実に全ての人間が生きたまま食べられるという地獄を味わっただろう……

 

 そして王国の罪は重い。王国の隣にある帝国は腐敗を乗り越えて正常な国家への道のりを歩み出している。帝国が人類の国を滅ぼそうとするのが正しいかは分からないが…

 

 しかし王国の腐敗は、法国に王国を滅ぼす事を容認させてしまった。貴族と王族は政争に明け暮れ、どれだけの民が飢えて死のうとも相手派閥が弱れば解決できると現状を容認している。また麻薬を裏の産業にまで発展させ周辺国家に輸出している。

 

 たとえ法国が全力を出し切ったとしても人類の滅びを回避できるかは分からない。そんな現状を理解せずに同じ人類同士で争い麻薬を作り、犯罪組織が表にまで進出している。

 

「ふざけるな!!」法国は叫んでも許されるだろう。

 

 そして王国の上級階級に君臨する者たちにはより許されない罪がある。なぜならガゼフ自身も認めているのだ。『冒険者』がいなくなれば、王国は滅びる事になると。だから王国は冒険者に無理難題を強いれない。彼はここまで理解しているのだ。これは六大貴族と呼ばれる者達も理解しているのだ……国が常に滅びの可能性を占めている事に対して自分達の手で身を守れず、所詮傭兵という要素が強く王国を去ろう思えば去れる者達に国の国防の一つを任せきりにしている。

 

 確かに冒険者がいるから何も手を打つ必要はない。住み分けは大事という考えもあるかもしれない。

 

 しかしだ……ガゼフ(平民出身)はガゼフだけは本当に理解する事ができたかもしれないのだ。冒険者がいても王国がいつ滅んでもおかしくない事を。

 

 辺境の村では魔物が来て、冒険者を雇えなければ、頭を低くして通り過ぎる事を願うしかできないのだ……

 

 冒険者は適正な報酬が無ければ動く事はできない。それが冒険者のルールである。これは冒険者の実力を考慮して実力に見合った敵と戦わせる、冒険者を守るという点で正しいと言えるだろう。

 

 それが何十年も続いたらどうなるだろう?

 

 王国は税金がかなり高額だ。残った物では生きていく事がギリギリできるかどうかだ……そんな現状で魔物が来て、辺境の村々が払う報酬があるだろうか?そもそも依頼を出す時間的余裕はあるのだろうか?

 

 塵も積もれば山となる、ということわざがある。少しずつ村はなくなり王国は領土を失うのだ。

 

 ほとんどの貴族が村人を助けない。税金は払え、労役につけ。この現状が続けば王国の民が住める場所は減少する。帝国ではなく、魔物によって。依頼が無ければ不幸な遭遇戦以外冒険者は動いては行けないのだから。大都市では黄金の姫(怪物)の政策により多少改善傾向にあるが……

 

 王国は帝国ではなく、魔物に滅ぼされる可能性すらある。他の人類国家を巻き添えにして。

 

 また人類の切り札と言われる通常のアダマンタイト級冒険者は難度にして90前後。この世界にはアダマンタイトを鼻で笑える存在が数えきれないほどいるのだ。そんな化物を相手に法国は単独で抗い続けている。

 

 スレイン法国からすれば、そんな現状で何も行動をしない、民も民だろう。現状を容認してしまっているのだから。もし誰かが立ち上がれば現状を好転させる事が可能だったかもしれないのに……確かに不可能に近いだろう。不可能と断言してもいいかもしれない。そんな事をするのは後先考えない愚か者だけで、実際に行動すれば馬鹿にされすぐに鎮圧されるだろう。

 

 しかし法国だけはそれを馬鹿にはしないし、それを不可能と断じないだろう。スレイン法国は人類を救ってくれた六大神亡き後、人類滅亡という確定事項を覆し続けているのだから……

 

 そんな現状を変えるために法国は動いた。この事を責める事ができる者がどれだけいるだろう?王国と人類の惨状を考慮すると、法国が少数(王国)を切り捨て(人類)を救うと決断したのを責める事はできない。切り捨てられる側(王国)も批難する事は許されない。そんな行動をしなければならない程、法国を追い詰めたのは王国なのだから……全てを知れば、まともな人間なら、法国とともに行動するしかないだろう。――少数を切り捨てるという感情面を排除すればだが――人の観点でみればスレイン法国は正しいのだから。

 

 しかし残念な事にアインズは法国の行動を理解する情報を持たなかった。

 

 もしもこの時点で人間の光をみたアインズと対話する事ができれば、手引き者と上層部の犠牲だけで法国と手を取り合う事も不可能ではなかったかもしれない。カルネ村はアインズに人の光を見せた。

 

 そして法国も人類の光を見せる事は可能だった。常に人類の生存競争の最前線に立ち続け、後方では政治的腐敗をなくして前線をサポートできるように動く彼らを見れば。

 

 アインズはまだ知らない事が多すぎる。

 

 この時点で陽光聖典がアインズと手を取り合えない事で法国の将来は確定しているのだ。人類を懸命に救おうとした者達は、カルネ村に光を見たアンデッドに滅ぼされるのだ……光を見せてもカルネ村の方が大切なため問答無用で滅ぼされたかもしれないが――

 

 

 

 

 

 

 

 その後ガゼフ達は自分達の責任で村が虐殺された責任を負うために、アインズに村人を頼むと言い特殊部隊に戦いを挑んだ。結末は決まっている。装備を剥ぎ取られたガゼフではこの戦力差を覆す事は出来ない。

 

 しかしカルネ村には戦力差を覆させる人物が存在する。

 

 ガゼフは敗北を覚悟した時、視界が変わりそばには農具を持った村長がいた。話を聞くと入れ替わるように姿が消えたらしい。ガゼフは力を抜く。この村の滅びは回避されたと思いながら。

 

 

★ ★ ★

 

 そしてアインズは特殊部隊達と対峙した。

 

 アインズは彼らの言に怒りのままに言葉を放った。離れた村人たちにも聞こえるぐらいの叫びで

 

「クゥ、クズがぁあああああああ!!貴様らは俺が救った者達を、俺に憧憬の眼差しを抱かせた村人達を殺すと言ったのだぞ!……俺がようやくたっちさんに恩を返せたと思える人達を殺すとだ!許せるかぁ!許すものかぁ!!」

 

 憤怒が鎮静化される。後ろではアルベドも怯えていた。アルベドに「すまんな……」と言い敵を見つめる。

 

 敵は固まっていた。

 

 そして恐怖劇(グランギニョル)が始まった。

 

 

 

 

 

 戦いが始まり敵はすぐに切り札を取り出す。

 

「最高位天使を召喚する!時間を稼ぐのだ!それしか勝ち目はない!」

 

 敵の隊長が叫ぶ。それにたいしてアインズが冷静さを取り戻し

 

「アレは……アルベド全力で戦う必要があるかもしれん。その場合お前は私の(タンク)になれ」

 

 アルベドから了承が返る。また追加で「敵がセラフ以上のクラスの場合マーレ達にも援護するように伝えろ」と命令して召喚を待つ。もっとも召喚された物は期待外れだったが……

 

 

 

 

 

 ニグンは絶望していた。最高位天使の攻撃すら通じずに最高位天使が殺されたのだから……

 

 そして無様に命乞いするが許される事は無かった。そして今まで仮面をしていた魔法詠唱者(マジック・キャスター)が仮面を外した。

 

 その素顔を見たとき、陽光聖典は息を飲んだ。自分達は知っているのだ。伝承の姿の八欲王に殺された神を……

 

 ニグンは「スルシャーナ様」と呟こうとするが声が出ない。声を出す一瞬前に

 

「貴様らにはただの死すら生ぬるい……この村に殺戮を招いた事を、私が飽きるまで永遠の絶望に身を包ませて後悔させてやる」

 

 その声を最後にニグンは意識が落ちていった。最後に自分達はしてはならない事をして神に捨てられたのだと理解しながら……次に目が覚めた時に彼はアインズの言うとおりに地獄で目が覚めた……

 

 その後の陽光聖典の末路を知る者はナザリックの面々しかいない。

 

★ ★ ★

 

 あの後アインズは「また来てもよろしいでしょうか?」と村長に尋ねると「いつでもお越しください!お待ちしております!」との返事を聞き別れを告げられて、ナザリックに帰還した。一応戦士長達を村に泊めるように助言しておいた。下手をすれば何者かが戦士長を泊めなかったと難癖を付ける可能性があるからだ。ばれなければ問題は無いから保険だが……村に泊める事にも高潔な人物と思われるため問題は無いだろう。

 

 途中ネムに抱き付かれて、「……また会えますよね?」と問われた。アインズは「あぁまた会おう」と答える事で返事にした。

 

 一応月光の狼(ムーンウルフ)に戦士長や何者かが敵対行動をカルネ村にとれば、すぐ知らせるように命令を下す。

 

 その間後ろのアルベドが怖かった。

 

 

 ナザリックに帰還したアインズは至上命令を下し、今は宝物殿に来ていた。アルベドに自分が人間達にどのような思いを持っているかの口外を禁じて。本来ならカルネ村の件をすぐに話し合うつもりだったが、その前に確認すべきとアインズは思ったのだ。

 

 もしかしたらアルベドはカルネ村の件で自分に失望している可能性すらあるのだから、思われていなくとも人間の輝きに憧れる等と言えば自分が支配者に相応しくないと思われるかもしれない。

 

 そのためにNPC達に自分の思いを話した時、裏切らないかどうかを知る必要がある。自分の思いを話してどういう態度にでるかを……

 

 ここにいるNPCなら外に出られないため時間は稼げるだろう。裏切りという最悪の事態の……

 

 途中合言葉で戸惑い時間を使ったが無事にたどり着いた。

 

 そこにはかつての友人の姿に変身しているNPCが……

 

「戻れ。パンドラズ・アクター」

 

 その言葉に従い本当の姿が出てくる。二重の影(ドッペル・ゲンガー)であり、アインズが創り出したNPCだ。

 

 パンドラズ・アクターには様々な設定を施しており、一種の黒歴史だろう。

 

(認めたくないな……自分自身の若さゆえの過ちは)

 

「ようこそお見えになりました! モモンガ様! 私の創造主よ! このたびはどのようなご用件で? もしや私の力を振るう時が来たのですかな?」

 

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」

 

 この返答は予想していなかったのが黒歴史が驚愕していた……

 

「……それは一体どのようなことでございますでしょうか?」

 

「そうだな……まずは現状の説明をする。」

 

 アインズは今までに起きた事を要点を摘まんで黒歴史に語る。黒歴史も真剣に聞いているが。重要な事を話すたび「なんと!?」等とオーバーなリアクションをするため説明は難航した。……主にアインズの鎮静化で……

 

 アインズが黒歴史と話すという苦行を何とか終える。

 

「……では、アインズ様とお呼びいたします。それで私はどのような任務を拝命されるのでしょうか?」

 

「その前に一つ聞きたい事がある」

 

 黒歴史が襟を正しながら敬礼する。「どのようなことでもお聞きください!」仰々しい動作で一瞬止まりかけるが、その程度で止まれる状況ではないので流す……

 

「お前は私にどれほどの忠誠を捧げている?」

 

「私の全てを! たとえ他の至高の方々を殺せと命じられても迷いなく実行できます!」

 

 アインズは仲間すら殺せると聞き、一瞬固まるが続けて質問をすると黒歴史が止まった。

 

「……そうか。ならば、もし私がナザリックの支配者として相応しくない行動をした場合、お前は私に忠誠を誓えるか?もしお前を失望させる行動をとっても、その忠誠は変わらないか?」

 

 黒歴史が少し固まった後話しかけてくる。

 

「……何がございましたか?」

 

「まず私の質問に答えよ」

 

 万が一の場合、口封じする覚悟をしながら……そう考えていると、黒歴史が軍靴の音を鳴らして綺麗に敬礼する。

 

「失礼を、承知で言わせて頂きます。……何をふざけた事をあなた様は仰るのですか?」

 

 黒歴史は怒気すらこめて言い放った。これに驚くが話が続く。

 

「アインズさ……いえ、あえてモモンガ様とお呼びさせて頂きます」

 

「もしモモンガ様がナザリックの支配者として、相応しくないと言う者がいるのでしたら、どのような手を使ってもそいつを殺しましょう。モモンガ様以上にナザリックの支配者に、相応しい方などいないのだから。他の方々はどのような理由であれ、ここを捨てたのだから……ナザリックにおられるだけでモモンガ様はナザリックの支配者なのです」

 

 何を言っているのか理解できない(理解したくない)

 

「私がモモンガ様を裏切る? そんな事絶対にありません。たとえモモンガ様がどのような行動を取ろうと私の忠誠は揺らぎません。私がモモンガ様に対して失望する? ふざけないで頂きたい。モモンガ様がたとえ愚かな存在であろうと、忠誠を誓い続けます。モモンガ様が何かを成し遂げるのに邪魔な存在があれば全て取り除きます。仮に世界級(ワールド)を破壊すると仰れば、必ず破壊する手段を見つけ出します」

 

 黒歴史がここまで言い切ると一瞬ではあるが静粛が戻ってきた。ここで一拍おかれる。

 

「……もしモモンガ様がナザリックが邪魔になったと仰るのであれば、私が先頭に立ち邪魔する者、全てを殺害し自害いたします。」

 

 モモンガは我慢できなくなり、自分の思いを吐き出す。

 

「……なぜそんなこと言えるのだ!お前達は私が何者かを知らないだけだ!……私は愚かなただの人間だ!お前に忠誠を尽くされるような存在ではない!」

 

黒歴史(パンドラズ・アクター)が途中で話を遮ろうとするが無視する。だって我慢できないのだから。

 

「私は、ただの人間だ! どこにでもいる社会の歯車でしかない。この姿は(ゲーム)の姿でしかない! ユグドラシルなんてのはな、ただの幻想(遊び)なんだ! いやだったんだ! 今でこそお前達は自ら動き喋るがこの世界に転移する前はお前達はただの置物(フィクション)に過ぎなかった!……お前達と喋られるのは嬉しいさ! でもな、俺がお前達に何をしたんだ!……俺はお前達に何もしていないだろう!ただのゲームだったんだぞ! 一度も話したことは無いだろう!……お前はそんな奴に忠誠を誓うのか!何でお前達はそんな奴に忠誠を誓うのだ!」

 

何度も鎮静化が起こるが、そのたびに自身の思いが憤怒のようの燃え上がる。モモンガは長くて短い時間に疑問に思っていた事を全てをさらけ出した。

 

★ ★ ★ 今日の守護者統括

 

(何故ですか、アインズ様! なぜ、そんな小娘に抱きつかせるのですか! まさか本当にその小娘を妃にするつもりですか! ……冷静になるのよアルベド。アインズ様が私をすてる訳ないじゃない。そうよ私はあの場で胸を触って頂いたんだから! 状況が落ち着けばきっと! はっ! もしやこれは放置プレイというものですか、アインズ様!)

 

 アルベドはずっとアインズを強い視線で見ていた……

 

 これがアインズがアルベドを怖がった真相である……強い視線を怒りと勘違いしたのである。




如何だったでしょうか?

矛盾点は無いと思うのですが……

何かあれば教えて頂けると幸いです。

そして、まさかの日刊ランキングに乗っておりました!皆様のおかげですありがどうございます!

二次創作で黒歴史がカッコヨクなるのは当然だよね(白目)

10月23日 追記

 ある方から、ナザリック視線を入れた方がいいのでは?とアドバイスされ、自分も入れた方が良いと考えて、投稿段階で削った、アルベドを怖く感じた真相を追加しました(笑) 削った理由はカッコいいパンドラの後にこれを入れていいのか悩んだからです(白目) 少しずつナザリック視点を追加していきます!


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第4話 光と闇

お待たせしました!第4話です!どうぞ!


 悪夢の一日が終わり、現在カルネ村では戦士長達がいた。

 

(なんでお父さん達を死に追いやった人が村にいるの?)

 

 戦士長が来たときのアインズの話は全ての村人に聞こえていた。それほど大きな声で憤怒に交じっていた。ネムには難しい事は理解できなかったが、父や母を奪った原因が戦士長とは理解できていた。

 

「行こう」

 

 アインズ様からお借りした(シフ)に話しかける。――アインズ様が「好きに名前を付けるといい」と言われたから精一杯カッコいい名前を考えてつけた――言葉が分かるのか付いてくる。そしてネムは戦士長に近づいていく。近くには村長や村人、戦士達もいる。何か険悪な空気が漂っている。戦士長はネムの接近に気づいたようだが何も言わない。そしてネムは話しかける。

 

「ねぇ。アインズ様が仰ってた事は本当なんですか?」

 

 暗い表情で問いかける。それに対して戦士長も辛そうに

 

「……そうだ」

 

「…………なら、なんでこの村にいるんですか!お父さんとお母さんを返してよぉ!」

 

 ネムが泣きながら叫ぶ。村人たちは目上の人物に無礼な事を喋っているのを咎めない。全員心の中で同じ事を思っているからだろう……戦士達は辛そうに目を背けていた。戦士長は辛そうの表情をしている。

 

「……すまない」

 

 謝っているのだろう。でも納得がいかない。家族が奪われたのだから当然だ。

 

「……でてって。カルネ村から出てって! この村にいないでください……」

 

 村人達も同じような視線を戦士達に向けている。この村から消えてくれと……

 

「……分かった。お前達、行くぞ」

 

 そして戦士達は村を去った。去る直前に馬の上から頭を下げていた。

 

(……許さない)

 

 これは全ての村人が感じた事だろう。もし村の救世主であるアインズ様がいなければ自分達も死んでいたのかもしれないのだから……

 

 戦士達が去った後、村人たちは広場に集まっていた。議題はこれからどうするかだ。

 

「……アインズ様の助けで思ったより死人は少なくなった。しかし村としての機能を維持するのは難しい。移住者を募るべきか?」

 

 村長の発言に

 

「……いやだ!他の人間なんて信じられない!」

 

 その声が大きく、村人達の総意と言えるだろう。村長とて同じ気持ちだろう。ただ村長という立場から押さえているだけで。

 

「……村の復興のためにも仕方ないだろう。……それに村を同じように襲われないためにも、人を増やして防衛設備を整えなくては……」

 

 ネムはどうするべきなのだろう。小さいから何もできない。そんな言い訳はしたくない。そして閃いた。そしてすぐにシフと走り出そうとして

 

「ネム!? どうしたの!」 「すぐに戻ってくるよ! お姉ちゃん!」

 

 急いで家に帰りアインズ様から頂いた笛を持って広場に戻る。

 

「アインズ様から、身を守るようにってこの笛をもらったんだ!吹いたら小さいモンスターさんが現れて守ってくれるんだって!」

 

 エンリも思い出したのか、「そうだった!」と言っている。村に人達も期待に満ちた目をしている。しかし何人かは「しかしこれ以上恩を受けるのは」と言う。

 

 この言葉に全員が目を伏せる。それほどまでに恩を受けたのだから。しかしそれ以外に方法も無いのも事実である以上吹くしかない。一応頂いたものなのだから。代表して村長がネムに言ってくる。

 

「……ネム、吹くのをお願いしてもいいかな?何かあれば私が責任を取るから……」

 

 ネムにはよく分からなかったが「うん!」と頷いて笛を吹いた。そして――――

 

 

 ゴブリン達が召喚されてから3日程経過した。召喚されたゴブリン達はネムに忠誠を誓っていた。現在は村の復興や村人達を鍛えるのに尽力してくれている。村人達も彼らを受け入れ、必死に名前を覚えようとしている。亜人である彼らの顔はなかなか見分けが付かないからだ。

 

 ネムも自分でも役に立てたと思えてとても喜んでいた。ただ悶着が無かった訳ではない。彼らゴブリンはネムの事を「ネムの姐さん!」と呼んだのだ。それに対してネムは「ほえ?私お姉ちゃんじゃなくて妹だよ?」と返事したが彼らが言いたかったのはシフの事らしい。ネムが抱きしめても何の問題もないのを確認したのか。

 

「驚いた。そいつは、俺たち全員で挑んでも勝てるか分からないですぜ?」

 

 これに村人たち全員が驚いた。ネムも同じだ。とても強そうに見えるゴブリン達よりも強いなんて。ネムが

 

「アインズ様、ゴブリンさんだけでなくて、シフも残してくれるなんて!」

 

 村人達も喜んでいる。

 

「……分かりやした。そのシフですかい?俺達と同じでネムの姐さんに命令に従う?って事で納得します。それで俺達は何をすればいいんで?」

 

 

 ゴブリン達は精力的に働いた。今では完全に村の一員として受け入れられている。共に柵を作る等の共同作業の成果でもあるだろう。ネムは子どもなのでゴブリン達への指示は主に村長が行う事になっている。

 

 現在のネムの仕事は家の手伝いが終わった後は、カルネ村に近づく存在がいないかの警戒だ。ネム一人なら不可能だがシフが一緒なのでできる作業だ。

 

 最近の移動時にはシフに跨っている。シフが速いためネムが付いていけないからだ。何かあれば、村の方へ走りだして、ネムが叫ぶ事になっている。……ゴブリン達は何か言いたそうにしていたが、「村の人たちを助けてあげて!」とお願いすると渋々納得していた。理由を聞くと私を危険に晒すような真似は避けたいらしい。

 

(でも危険は……向こうから来るんだもん)

 

 今は見回り中だ。3日という短い時間だがとても仲良くなったと思う。

 

「シフは速いね!」

 

 風が気持ちいい。何だが辛い事も忘れられるほどだ……ネムは最近人前では泣かずにシフと二人きりの時だけ泣いている。姉にも心配させたくないのだ。今は村の危機なのだから。そんな時いつも慰めてくれるのだ。話せはしないが、意思の疎通は完璧だ。

 

 シフの背中に顔を埋める。毛皮が気持ちいい。

 

 そんな風に時間が過ぎていくとシフが何かを感じ取ったように走るのが止まる。ネムが

 

「どうしたの?」

 

 ネムもシフが見ている方向を見る。ただネムは危険な事は無いと感じていた。もし危険で有れば、シフはすぐに駆けだしただろうから。

 

 そして見えてきた。骸骨だ、ローブを纏った。その姿に

 

「アインズ様!」

 

「元気にしていたか?ネム?」

 

「はい!」

 

 そしてアインズの後ろを見て驚いた。

 

 後ろを見れば綺麗な女性と、石の動像とシフの仲間達がいた。

 

「綺麗!アインズ様のお嫁さんですか!?」

 

 

 

 

 モモンガは固まってしまった。後ろではユリが少し顔を赤らめている。

 

(何とか、誤解を解かなくては!)

 

「……違うぞ。ユリはな……そうだな姪みたいなものだ。それにだネム、私をよく見てごらん?」

 

 その言葉にネムがこちらを凝視している

 

「私は骸骨だぞ?結婚してる訳ないだろう?」

 

「そうなんですか?」

 

 ネムが驚いている。そこまで驚くような事だろうか。

 

「そうなんだよ。それで村長はどこかな?」

 

 その言葉に

 

 

「はい!こっちです!」

 

 シフと一緒に村長の方へ案内してくれる。

 

(本当に仲良くなったな)

 

 モモンガにとっても悪い事ではない。この少女の事は気に入っているのだから……

 

 途中ネムが「アインズ様。ごめんなさい! アインズ様から頂いた笛を使っちゃいました……」と言うと

 

「別に気にしないぞ?元々ネムにあげたものだからな。……それでゴブリン達はしっかり働いているか?」

 

「うん!みんな一生懸命に村の人たちと働いてくれています!みんなで一緒に村の周りに柵も作ってるんだよ!」

 

「ほう。確かに防衛には必要だな。ところでネムは何をしていたのかな?もしかして遊んでたのかな?」

 

 これにネムが少し剝れて

 

「むぅ~アインズ様違います!シフと一緒に見回りしてるんです!」

 

「これは失礼したな」

 

 などと話していると村人や村長、ゴブリン達が見えてくる。

 

 こちらに気づいた者がしている作業を中断して頭を下げてくる。それに対して「大事な作業ですから、皆さん続けてくれて構いませんよ」と話すと渋々作業を再開している。

 

 そして村長がこちらに近づいてきて

 

「ようこそ、お出で下さいました!アインズ様!」

 

「いえいえ、この間途中で帰ってしまったのが気になりましてね?あの後問題は何も起こらなかったですか?」

 

 それに対して少しネムや村長から気まずい空気が流れる……

 

(……あの後何があったんだ? 一応危険は去ったと思ったんだが……)

 

「……アインズ様。実はネムが戦士達を追い出しちゃった……」

 

 村長ではなくネムが話してくる。

 

「え」

 

 何が起きたのか詳しく聞くと状況は把握できて、「まぁ。仕方ないか」としか浮かばない。

 

「……彼の責任でもありますし、その事でこの村に不利益が起こる事は無いでしょう……一応高潔な人物なようですし。……その話は止めにしましょう!」

 

 空気を変えるつもりで大きな声を出す。

 

「今回来たのは、あなた達にこのゴーレムを贈るためです。このゴーレムは命令に従って黙々と作業に勤しみます。この村のために役立ててください」

 

 これに村長達が驚愕する。

 

「ありがとうございます。しかしこれ以上、ご迷惑をおかけするのは……」

 

「迷惑なんかではありませんよ。あなた達のおかげで私は人間の意思の輝きを知る事ができた……それに」

 

(……家族ができたとは、さすがに言えないよなぁ)

 

「如何なさいました?アインズ様?」

 

 途中で黙ったからだろう。村長が聞いてくる。

 

「いえ何でもありません。とにかくこれでもあなた達への感謝は足りないぐらいです。ユリ、挨拶を」

 

「畏まりました。ボク……失礼しました。私アインズ様のメイドであり、ユリ・アルファと申します。御見知り置きを」

 

 美しい所作で挨拶をした。近くにいた村人全てが男女に関係なくユリを見ている。――最初はユリではなくルプスレギナを連絡役にしようとしたのだが、アルベドから「ルプスレギナは真面目に仕事に取り組みますが、少しS(サディスト)な気質ですのでアインズ様お気に入りの村の連絡役には適さないかと。ユリ・アルファが適任かと思われます」と言われ変更した。――その時に「感謝する」と伝えて翼がばさばさ動いた事は気にしない事にした――

 

 アインズは話を進める。

 

「今回ユリを連れてきたのは、カルネ村との連絡役にするためです。さすがに常駐させるわけにはいきませんが、私が来られない時は、彼女に伝えてくれればできる限り村の事を援助します」

 

 村長が驚愕しているようだが、立ち直り

 

「しかし……よろしいのでしょうか?そこまでして頂いて?」

 

「構いません……そうですね、ではこうしましょう。私もまた遊びに来ますのでこの村の発展具合を私に見せてください。もし収穫祭等の祭りがある時は私を招待してくれると嬉しいです」

 

「……分かりました!アインズ様をしっかりお招きできるように頑張らさせて頂きます!」

 

「楽しみにしています。それでは今日はこの辺で失礼します。石の動像(ストーン・ゴーレム)は村長と……そうだな、ネムの命令に従うようにしておきます。……ではユリ帰るぞ。しっかりこの村との連絡役をこなすように!」

 

 ユリが返事をする。

 

 村の人たちも口々に「お気を付けて」と話してくる。頷く事で返答にして振り返り歩き出す……

 

(そういえば、ゴブリン達は近づいて来なかったな。次回は話したいものだ……)

 

 後ろからネムが追いかけてきた。

 

「途中までお見送りします!」

 

「……嬉しいぞネム」

 

やさしく頭をなでてやる。気持ち良さそうにしている。するとネムが

 

「そういえば、アインズ様はどちらに住まれているんですか?」

 

「そうだな……よし!もう少し状況が落ち着いたらネムを私の家に招待しよう。その時までどこに住んでるかは内緒だ。楽しみにしているように?」

 

「はい!楽しみにしてます!」

 

「ああ。私もネムを招待できる日が楽しみだ。それとシフの食料は足りているか?」

 

「はい!ジュゲムさん達のおかげで、問題ありません!」

 

「そうかそうか。なら次回来た時にはジュゲム達に聞かないと行けないな。増えても食料に問題は発生しないか」

 

「……?えっと、どういうことですか?」

 

「何この2匹のムーンウルフ、ダイとフクもネムに仕えさせようと思ってな……さっネムにも仕事があるだろうから、この辺で帰りなさい」

 

「楽しみにしてます!…はい!では失礼します!アインズ様もお気を付けて!……約束忘れないでくださいね!」

 

 そう言ってシフに跨り駆けていった。アインズは見えなくなるまでネムを眺めていた。

 

「どうなさいましたか?アインズ様?」

 

「……いや何でもない。それではナザリックに帰るぞ。ユリ」

 

「はっ」

 

 アインズは考えていた。

 

(狼と戯れる少女か……あの光景を、ぺロロンチーノさんが見たら泣いて喜んだだろうな、きっと。……ぶくぶく茶釜さんに怒られただろうな……)

 

その目は少しさびしそうに見えた……

 

 

 

 

 

★ ★ ★

 時間はモモンガがカルネ村にもう一度行く前に正確には宝物殿まで遡る。

 

 モモンガは自分の内にあった黒い感情を吐き出した。いや、吐き出してしまった。

 

(……失態だ。ユグドラシルとリアルの事まで言うなんて、俺は何を考えていたんだ!裏切ってくれと言うようなものだろう!)

 

 

 モモンガは一度ここから逃げようと考えた。今なら逃げられると……しかし実行には移せなかった。黒歴史(パンドラズ・アクター)の語ってくれた自分への思い。たとえユグドラシルが幻想(ゲーム)であったとしても、彼の言葉に嘘は無いように思えた。

 

 そしてカルネ村で見た村人達の死を覚悟して進む意思……

 

(……目を背けては駄目だ。ここで逃げたら何かが終わる)

 

 先程から黒歴史は静かだ。まるで何かを考え込むかのように。どれだけその静粛が続いただろう?長時間かもしれないし、ごく短い時間だったかもしれない。

 

 そしてモモンガに語り出した。

 

「…………ユグドラシルがゲーム、ですか」

 

 何を考えているのだろう。もしかしたら自分達の存在をゲームと呼ばれて怒ってるのかもしれない。人間と言う事に怒りを感じているのかもしれない。そしてモモンガは信じられない事を聞いた。

 

「なるほど。そういう事でしたか。言われてみれば確かに思い当たるフシがあります。モモンガ様が話しかけてきても、我々は返事をできませんでした。いえ、ただ不敬だからしていないだけと考えていましたが、そちらの方が不敬ですしね……」

 

 モモンガは止まっていた。なぜ怒りの感情を自分にぶつけないのか分からず……

 

「……今回モモンガ様が来られたように、自分から話しかける事も出来ませんでした。確かに私は置物でありました。命令されなければ何もできない……」

 

「しかし、それではこの記憶は何なのでしょう? この新たな世界に移動するまで、私は置物であった事は理解できましたが、なぜユグドラシルの頃の記憶が存在しているのでしょう? ……何か心当たりはございますか?」

 

 予想も出来ない事で話を振られた。

 

「……分からない。この世界に転移した日ユグドラシルは終了して、お前達も私のこの姿も、泡沫の夢として消えるはずだった……それがいきなり現実の世界になったからな。法則にも変化が見えている。分からない事だらけだ……」

 

「……さようでございますか。ではこの事を現状で、これ以上考えるのは無意味でございますね……」

 

 一呼吸置かれる。モモンガも今度こそ怒りをぶつけられると予想する。

 

「……モモンガ様はリアルの世界に帰られたいと思わないのですか? 超位魔法や世界級(ワールド)を使用すれば可能かと考えますが……不可能な場合を考えてこの世界で帰還のためのアイテムを探されるので?」

 

 またもや予想を裏切られる。

 

「……リアルに未練はない。家族や友人もいない、それにあの世界は地獄だからな」

 

 そしてリアルの世界の事を語る。黒歴史(パンドラズ・アクター)も静かに聞いている。

 

「……リアルとはそのような世界でしたか……」

 

 静かに考え込む。モモンガは我慢できず自分から踏み込む。

 

「パンドラズ・アクター。お前は私に騙されたと感じないのか?本当の私は脆弱な人間なのだぞ?」

 

「そのようなこと、決してありません。先程語った事が全て真実であります」

 

「……なぜだ?ユグドラシルの記憶があるらしいがそれは偽りかもしれない。それに私はお前に何もしていないだろう?」

 

 黒歴史(パンドラズ・アクター)がすぐに返答を返す。

 

「何もしていない? いいえ! モモンガ様は私に掛け替えのない物をくださいました! ……私を生み出してくださいました! たとえそれがゲームの一環だとしても、それだけは真実であり、それだけで私がモモンガ様に忠誠を尽すには十分でございます!」

 

「……」

 

 モモンガは考える。何度思い起こしても彼からモモンガを詰る言葉が出てこない。

 

「……私は確かにお前を生み出したかもしれない。しかしずっとここに閉じ込めてきた。怨まないのか?もし別の階層に配置すれば、偽りの記憶だとしても他のNPC達との会話もあったかもしれない。常に一人でいる事もなかったはずだ」

 

「……なぜ怨まないといけないのでしょうか?モモンガ様。私は命令を下され、宝物殿の守護者として、モモンガ様にとって、一番大事な場所を守護するように命令されたのです。何よりもモモンガ様の命令です」

 

一呼吸置かれる。

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)!私はどのような命令でも喜んで実行いたしましょう!」

 

 パンドラズ・アクターは言いたい事を全て述べたのだろう。敬礼をしながらモモンガの言葉を待つ。

 

 パンドラズ・アクターは、自身にとって辛いはずの出来事を乗り越えている。これ以上彼の忠誠を疑うのは間違いだ。なにより彼には鈴木悟にはない意思を感じた。そう、まるでカルネ村の人々が見せた輝きを。

 

「お前の考えは分かった。そしてお前の忠誠を疑ってすまなかった。」

 

 モモンガは頭を下げる。パンドラズ・アクターが何かを言おうとしたが止める。

 

「そしてだ……お前のユグドラシルの頃の記憶は確かに偽りなのかもしれない。だからこそ、この現実で共に生きよう。……本物の記憶(思い出)を作ろう」

 

 静寂が舞い戻る。……そしてパンドラズ・アクターの嗚咽が聞こえ始める。慰めるために頭を撫でる。

 

「……我が神よ。ありがとうございます。」

 

「感謝するのは私の方だ、パンドラズ・アクター。お前のおかげで私は黒い感情を払拭する事ができた。それとだ、パンドラズ・アクター。私はこれからお前の事をパンドラと略して呼ぶ。いちいち全部呼ぶのは長いからな……」

 

「もちろん構いません!モモンガ様」

 

 モモンガは考える。

 

(黒歴史か……いや、違うな、パンドラズ・アクターは俺の希望()だな。俺でも強い意志を持てるかもしれない可能性を見せてくれたのだから。だったら)

 

「パンドラよ。そこまで畏まるな。私がお前を創ったのだから、我々は家族のようなものだ……これからは私がお前の父なのだから……お前が認めてくれればだが……」

 

パンドラズ・アクター(希望の光)が深く頭を下げた。

 

「畏まりました。父上。私が認めぬ訳ありません。感謝いたします」

 

「ふふ。それにしても人生は面白いな。リアルで一度も恋人がいなかったのにまさか子持ちになるとはな?」

 

「確かに。面白い物がありますな父上。私が現実の者になるのですから」

 

 二人して大きく笑う。

 

「それとだ、パンドラよお前は私の子どもなのだからユグドラシルの頃の設定全てに従ってはならないぞ?それでは私の子どもではなく、変化のないNPC(置物)と変わらないからな?」

 

「……承知いたしました、父上。必ず変わってみせましょう!」

 

「楽しみにしている。それでだ、ここに来たのは、アルベドにどう話せばよいか、お前に質問しに来たのだ?何か意見はあるか?」

 

 パンドラが熟考する。やはり難しいのかと考えていると

 

「恐らくですが……全てのNPCに今の事柄を語ったとしても、モモンガ様への忠誠は変化しないかと……」

 

 モモンガは考える。自分が全てを話した後のナザリックを。パンドラの言う通りなら、きっと重圧を感じずに、もしかしたら、仲間達がいた頃のように過ごせるかもしれない、と。

 

「……いや、駄目だな。真実を話していいのは、NPCの創造主だけだ。私が彼らに語るのは、裏切りだろう。パンドラ、お前とて私以外から、真実は語られたくないだろう?確かに私はアインズ・ウール・ゴウンとしてナザリックの代表ではあるが、彼らの本物の創造主にはなれない」

 

「他の御方々もこの地におられるので?」

 

「分からない。しかし奇跡のような事があるのだ、信じて待ちたいのだ」 

 

 その言葉にパンドラが考え込む。

 

「……それでしたら、何れ死に行くはずの人間が発した瞬間的な輝きをカルネ村の者が発して、美しく見えたから救った、もう少し見てみたい、と語ればよろしいのでは?」

 

「……そうだな、それでいいのであればそうしたい。しかし人間に肩入れしすぎた感がある。もしかしたらナザリックの支配者に相応しくないと考えるかもしれないぞ?……やはり私が人間であった事だけでもアルベドに語った方が良いか?」

 

「……それは無いでしょう。他のNPCからすればモモンガ様は最後の至高の方。たとえどのような命令でも従うでしょう。……先ほど述べましたが、他の方々には捨てられたと考えているはずです。最後に残られた慈悲深き方と捉えているはずです。……他の方々の帰還を願ってはいるでしょうが。……仮に人間であった事を、アルベド殿に話した場合、なりゆきで全てを、語らなければならないかもしれませんので、モモンガ様が秘密にされると言うのであれば、真実を知るのは我々だけにすべきです……今のところは」

 

「……そうなるのか? そうなるのであれば、現状でも何とか、支配者を演じ切れるか。私にとってここは友達との思い出が詰まってるからな、何とか残したいからな。……最悪の場合NPC達だけでもいいが……」

 

 モモンガはここですべき事は終わったと考えた。パンドラがそういうのであれば信じられるからだ。

 

「では、パンドラ。私はアルベドに説明に行く。お前はアルベドに見つからないで私の傍で助言できるか?」

 

「……命令を必ず果たしてみせましょう」

 

 難しそうに返答するがその返事は可能と断じる。

 

「では必要なアイテムを持って宝物殿の外に出るぞ? 彼らの武器も一時的にお前に貸し与える。お前の実力がどれほどか父に見せてくれ?」

 

「畏まりました! 父上!……それと私達の呼び方は二人だけの方が良いでしょう。他の者に恨みを買う可能性があるので。」

 

 確かにパンドラは、ただ一人創造主がいて創造主から子どもと認定される。現状では不和の元になりかねない。

 

「分かった。では普段はアインズと呼べ。では行くぞ」

 

 そしてアルベドと話し合ったが、別にカルネ村の件は何も問題にならなかった。

 

 むしろ二人だけの秘密ができて嬉しいと言われた。

 

(少し悪い事をしたかな。他にも知ってる存在がいる事を隠したのは)

 

 そしてナザリックは動き出した。

 

 

★ ★ ★ 今日の守護者統括

 

「ふふふ」

 

 アルベドはとても機嫌が良かった。デミウルゴスに心配(不安に)させる程に。最終的にアインズ様がおられるから問題ないと自分に言い聞かせ、命令をこなす為に出立した。

 

(シャルティアも出立した……私とアインズ様だけの秘密もある……私がアインズ様の妃になる障害は存在しないわ!……この間に二人で愛を育みましょう! アインズ様!)

 

 ちなみにアルベドの目論見は、アインズの影として従う、パンドラズ・アクターにより阻止されるのだった……




とりあえずネムを強化しました!

そしてパンドラの方の描写に違和感はなかったでしょうか?

ちなみにシフと名付けたのは、狼と言えばどうしてもこの名前しか思い浮かばなかったからです……ちなみに出典はフロムの悪意で有名なフロムソフトフェアのダークソウルです!

名前を作る能力が欲しい……

ちなみに別タイトルはもののけ姫ネムでした!


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本編
第5話 片鱗


完成しました!自分の間違いや勘違いがあればご指摘いただけるとありがたいです!

では、本編をどうぞ!


 現在ンフィーレアはカルネ村に向かっている。本来は行く予定はなかったが、噂で帝国の騎士達が王国の村々を虐殺して回ってると聞いたのと、王国戦士長が失意の色を隠せずに、エ・ランテルを訪れていると噂で聞いたからだ……

 

 そんなことないと信じたいが、絶対とは言えないため好きな人(エンリ)の無事を確認しに行くのだ。名目の依頼は薬草採取だが……

 

 今回は急いでいたのと今まで雇っていた冒険者が現在いなかったため『漆黒の剣』と言われる銀級冒険者を雇った。

 

 そしてカルネ村が見える位置にまで来るとンフィーレアは叫んでいた。

 

「……おかしい! あの村に何が起きているんだ!」

 

 ンフィーレアが叫ぶ。それに対して漆黒の剣のリーダー、ぺテルが叫ぶ。

 

「落ち着いてください!ンフィーレアさん!我々にも分かるように説明してください!」

 

「……あの村には柵なんて元々存在しなかったんです!……それだけじゃない。あんな頑丈そうな塀は無かった!ただの村人に短時間であれだけの作業を行えるなんて思えない!」

 

「……確かに完成はしていないみたいですけど、あれだけの作業を行うなら、年単位は掛かりそうですね……」

 

 問題が起きたのは間違いない。虐殺されたのだから……彼らは知らないが……

 

「……とりあえず、何が起きているのかの確認が必要ですね……」

 

 漆黒の剣達が話し合う。雇い主をどのように守りながら、村の状況を調べるかを……もしかしたら一度撤退すべきかと冒険者たちで話し合っていたが、状況が動いた。亜人達が秘密裏に近づいてきていたのだ。冒険者達は異常事態に混乱していて気づくのが遅れたのだ……

 

「武器を捨ててくだせぇ。あんた達の会話は聞こえていたから、カルネ村の敵じゃないとは予測できますが、確証じゃない。敵かどうか判断できない場合、あんたらをどんな手を使ってでも殺します」

 

 小鬼(ゴブリン)は流暢な言葉で伝えてきた。

 

「……武器を捨てた場合、命の保証は?」

 

「敵じゃなければ、保証しますがね?」

 

 漆黒の剣のメンバーが黙りこくる。一体何が起きてるのか理解できない、付いていくのは本当に正解なのか。一番良いのは退却する事だろうが、全員が無事に退却できるか分からない。いや全滅を覚悟するべきかもしれないのだ。

 

「あんた達には村の近くまで行って姫さんに会ってもらう。敵じゃないかの判断の最終判断は姫さん達が行うんでね」

 

「……姫さんとは誰ですか?僕はこの村に何度も来ているけど、そんな人聞いたことない!」

 

 

「悪いが、名前を言う訳にはいかねぇな。俺達は詳しく知らねえが、魔法には名前を知ってるだけで、発動する魔法もあるらしいからな?」

 

 ゴブリン達が目で問うてくる。これが最後通牒だと……

 

 ンフィーレアがゴブリン達に問う。

 

「……君達はカルネ村の敵じゃないんだね?」

 

 それに周辺にいるゴブリン達全てが頷く。

 

「分かりました。連れていって下さい。皆さんはここに残ってください」

 

 これに漆黒の剣達が反対する。

 

「いいえ、私達も付いていきます!  彼らの指示は全員が付いていく事です。それに何かあった時に護衛が必要です。私達で切り抜けられうかどうかは分かりませんが。できる限り努力します!」

 

 そして冒険者達とンフィーレアは覚悟を決めてゴブリン達に付いていった。

 

★ ★ ★

 

ネムはシフに跨って村長と一緒に村の少し外で待っていた。最初お姉ちゃん達は私が戦いに行こうとするのを止めていたが、

 

「ううん。私も怖いけど、私がゴブリンさん達の主人なんだから、私も一緒に戦う!」

 

 もちろんネムが気づいていないだけで、ゴブリン達はネムに戦闘に参加させるつもりはない。ただ確認させるだけだ。本来ならそれも止めたいところだが、自分達より強いシフがいる。……それにシフとネムだけなら最悪魔法詠唱者(マジック・キャスター)の下に逃げられると考えたのだ。エンリの義姉さんや村人達を見捨てるのは嫌と考えていたが。……この事は村長にも話しているが万が一の場合、ネムだけでも生き延びてほしいと同意を得ている。

 

そして対面の時がやってくる

 

「……え?ネム、ちゃん?」

 

 ネムはとても暗い表情でンフィーに問いかける。

 

「……ンフィー君?  今度はンフィー君達が私達から奪いに来たの? ……させない。これ以上私達から家族を奪わせない……絶対に!」

 

「落ち着いてくだせぇ!姫さん!こいつらは敵じゃないって言ってます!気持ちは分かりますが落ち着いて!」

 

「彼らの言う通りだ、ネム!……我々も家族を奪われたからその気持ちはよく理解できる。しかしンフィーレア君は昔からよく村に来ていた。それに彼は君やエンリの友達だろう?」

 

 ジュゲムさん達と村長が冷静になるように諭す。そしてその間にンフィーレアが話しかけてくる。

 

「……そうだよネムちゃん!僕達は敵じゃない!この村には薬草を取りに来たんだ!……何があったのか聞かせて貰えないかな?」

 

 

 

「……本当に敵じゃないの? これ以上私から、家族を奪ったりしない?」

 

「……しないよ。そんな事……」

 

 そしてネムは全てを語った。この村に何が起きたのかを……所々村長が補足しながら

 

「……そんなことがあったんだ……」

 

 冒険者達も絶句していた。王国戦士長を殺すために貴族が行動していた事を。一人の冒険者は

 

「これだから、あの豚達(貴族)は!村人を私達(村人)を何だと考えているんですか!」

 

 ネム達が驚く。

 

「……お兄ちゃんも何かされたの?」

 

「……ニニャと言います。私は(貴族)に最愛の姉を連れていかれました……ロクデモナイ噂しかない奴にね……必ず助け出すって決めてるんです」

 

「……そっかニニャさんも家族を奪われたんだね……私達と一緒だね……うん。良いよ村に入って……いいですよね?」

 

 村長にも聞いてみると

 

「……構わないよ……なぜ王国は私達を苦しめるのか……」

 

 ネムが村の奥に入るのを許可した。村長が何かを吐き出すかのようにうめく。そこにすかさずゴブリン達が

 

「おっと。武器は俺達に預けてもらいますぜ?今の村人たちは一部の例外を除いて余所者を受け入れませんので?」

 

 そして彼らは村に入っていった。

 

 

 

 

 現在ンフィーレアはエンリと村の外れで二人で話している。

 

 ネムから詳しい話を聞いたがエンリからも聞きたかったからだ。村人達は最初警戒していたが、自分の事とニニャの話を聞いた事で多少態度を軟化させていた。

 

 ネムはニニャさんと話している。

 

 ネムから両親を殺された事は聞いた。そしてエンリとネムが旅の魔法詠唱者(マジック・キャスター)に助けられた事を。そして目的は戦士長を殺すことだという事も。

 

(……ふざけてる。王国の上層部は何を考えてるんだ! ……もしかしてエ・ランテルが兵士を派遣しなかったのも、戦士長を殺そうとしていたから? …………もし貴族達が王国戦士長を政治の都合で謀殺しようとしていた事を、ただの村人が知ったら、王国の上層部はどうする?)

 

 背中に冷たい物が走った。こんなことをした者達なら確実に、カルネ村の人間を皆殺しにして口封じするという確信を得て 

 

 エンリの方に向き直る。エンリは泣いている。きっとその時の恐怖を思い出しているんだろう……

 

「……ごめんね。ンフィーレア、泣いちゃって。……でももう大丈夫よ」

 

「何も悪くないよ。家族を亡くしたんだから当然だよ……でもね、エンリ。大丈夫って言ってるのに涙が出てるよ?」

 

 それにエンリが反応したのかぽろぽろと涙が後から後から湧き出てくる。

 

「エンリ。僕達は長い付き合いだよね。……僕の前で隠し事はしないでほしいな。きっと泣いてないんでしょう?エンリは強いからね……」

 

 そしてエンリは自分の前で泣きだした。

 

「あ゛た゛しね……ネムを連れて逃げるようにってお父さ゛ん達に言われたのに逃げ切れなかった。ア゛インズ様が助けてくれなければ二人とも死んでた!……な゛のにあ゛たしはアインズ様が助けてくれたと理解できなくて恐怖に混乱してただけ!……ネムはしっかりお礼を言ってたのに。本当は私が最初にしなくちゃいけなかったのに!私は礼儀も弁えていなかった!お姉ちゃんなのに!」

 

 エンリは目の前で何かを出し切るように泣き続けている。

 

 気づけば僕はエンリを抱きしめていた。エンリも抵抗しない。

 

「私が守らないといけないのに。たった一人の家族なんだから。……守れなくても一緒にいたいのに。どうして私はネムの隣にいれないの……どうして私は弱いの……」

 

 エンリは言いたい事を言い切ったのだろう。自分の胸の中で泣いている。

 

(僕は目の前にいる好きな人(エンリ)に何ができるだろう……きっと王国の奴らは彼女達を殺しに来る。……僕と一緒にエ・ランテルに逃げても無駄だ……きっと隠しきれない……だったら)

 

「……ごめんねエンリ、その時僕が一緒にいてあげられなくて。きっと僕がいればアインズ様が助けに来るくらいの間、時間を稼げたはずなのに」

 

 今までの会話から救ってくれた人に敬称を付ける。

 

「ンフィーレアは何も悪くない! 悪いのはあいつらよ!」

 

「……そうだね。でも僕にも罪はある。だって……好きな人を泣かせて、守れなかったんだから」

 

 心臓は先程からバクバクしている。

 

(でも、もう逃げない。)

 

 エンリが「……え?」と泣きはらした顔で言ってくる。……そしてその顔にキスをした。

 

「……………………ンフィー?」

 

 エンリは茫然としている。いきなりキスをされたのだから当然だろう。

 

「エンリ。僕は君の事がずっと好きだった。今まで恥ずかしくて言えなかったけど、ね」

 

 呆然としたまま立ち直れないエンリに、自分の思いをさらに伝える。

 

「エンリが僕の事をどう思ってるかは分からない。でも僕は君と結婚したいんだ。」

 

 エンリが目を腫らしながら、少し顔を赤くして「……え?っえ?な、何で今なの?」

 

「僕はね、エンリが充分ネムちゃんを守ってると思うよ。ネムちゃんとの会話から、それだけエンリへの愛情を感じたんだ」

 

 エンリが少し怒りだす。

 

「……でもそれじゃ、危険なことから、私はネムを守れないじゃない!」

 

「僕が守るよ。エンリができない事は僕がする。ネムちゃんが危険な目にあうなら僕も一緒に行くよ。そして守るよ。必ず、エンリの許に一緒に帰ってくる。…………エンリには、僕とネムちゃんの居場所を守ってほしいんだ」

 

 さっきから僕の顔は火が出るように赤い。

 

「……で、でもエ・ランテルはどうするの?ンフィーはここの住民じゃないでしょ?……私達は引っ越せないよ」

 

「僕が引っ越すよ」

 

「でもそれじゃンフィー、他の物を捨てることに……」

 

「僕が一番欲しいのはエンリだよ。エンリを手に入れるためなら他の物は捨ててもいい。おばあちゃんが反対しても、ね。……エンリは僕の事をどう思ってるの?」

 

 それにエンリは顔を赤くして俯きながら

 

「…………分かんないよ。私には……でも嬉しい、かな?」

 

「……そっか。だったらエンリが結婚に頷いてくれるまで、この村で暮らしてもいいかな?」

 

「……ごめん。私には分からないや……」

 

「それもそうだね。だったら僕は今から村長さんの所に行って、ここで暮らしていいか聞いてくるよ」

 

 そして僕は歩き出す。エンリと少し距離が開いている所で……

 

「……エンリ!僕は君が大好きだ!」

 

 と叫んで、村長の下に向かった。エンリが何か言ってるようだが聞こえなかった。

 

(後で、もう一度聞かせてもらおうかな……)

 

★ ★ ★

 

 

 

 

 現在アインズは執務室に普段は姿を隠しているパンドラといる。

 

 アルベドが出ていくのを渋っていたが……「一人で熟考する」と言って報告書だけを提出させ追い出した。

 

 もちろん理由はある。報告書や組織作りに付いて分からない事だらけの自分に、パンドラから教えを請うためだ……

 

 パンドラの教え方は実に上手で、詳しく聞くこともできる。父親失格と思ったのは数えきれない。

 

 当初の予定ではアインズは冒険者としてエ・ランテルに旅立ち、ンフィーレアと接触する、プレイヤーの情報等を収集する、名声を得るつもりだったのだが、パンドラに質問してみると……

 

「確かにそのンフィーレアという者には接触を図る必要があるでしょう。プレイヤーの情報も必要でしょう……しかし現状では、より気にするべき事があります……父上の話によれば元々ユグドラシルではフレンドリーファイアーが存在しなかったとのこと。そのような差異を明確にするために父上は暫くナザリックから、遠く離れるのは避けるべきです。罠等もどのように変化したのかを、調べる必要があるかと。……父上に何かあれば彼らも苦しむ事になります。外に出る者達を信頼して任せるべきです」

 

 (実際、誰かが悪戯で何かを仕込んでいる可能性はあるからな……特にるし★ふぁーさん)

 

(それに、彼らの敬愛に応えるためにも、ここにいるべきだな……お前達を信頼していると示さないとな……できるなら、時々出るオーバーな動きは止めたいな……真面目モードの時はいいんだが……)

 

 パンドラは常に真面目モードであるが、やはり時々、動作が心を抉るのだ……たとえ宝だとしても……

 

 真実を話した後パンドラは、アルベドと話す時に見つからないという離れ業をやってみせた。確かに武器等もかつての友から借りたが、他のNPCに今まで見つかっていないのは、偉業と言えるだろう。

 現在パンドラに任せている任務は多種多様である。自分が分からない事を教えるのはもちろん、現実になったNPC達がどのように動き、どのような考えを持ち、どのような知識を持ち、どのように会話するか、ユグドラシルの頃の記憶をどんな形で保持しているか等の事柄を秘密裏に収集及び分析をさせている。そのため現時点でもパンドラの正体は誰にも明かしていない。パンドラから、できる限り知られない方が任務をやりやすいと言われたためである。

 

 また息抜きもかねてパンドラにユグドラシルやリアルの事を話したり、パンドラの知識から接近戦のいろはも教えてもらう。実戦経験は無いが、知識としては保持していた。

 

(正直、プライベートに当りそうで嫌だが、俺が支配者を演じるなら必要になるからな……俺をどんなふうに彼ら(子ども達)が見ているのか)

 

 そして最後に任せてる任務が自分が召喚した傭兵モンスター、ハンゾウやエイトエッジアサシン、シャドウデーモン等の情報収集に優秀と思われる者たちの、指揮を任せて外部の情報収集も任せている。

 

 ちなみにエイトエッジアサシン達は自分に護衛がいなくなるのを危惧していたようだが、パンドラが自分が護衛するから問題ないと言って、部屋からも追い出している。

 

 エイトエッジアサシン達を別の任務に付けた事を知ったアルベドが煩かったが命令する事で従わせた……納得はしてなかったが……正直命令するのは嫌だが彼らの主に相応しくなるのに必要な事なので実行した。

 

 また集めた情報の内、裏に属すると思われる以外の情報は、カルネ村ですり合わせをするつもりだ。彼らの常識で真実か否かを判断して貰うつもりでいる。

 

 そしてシャルティア達守護者が外に出る時に何体か付けて、問題があれば独自の判断で援護する者達と、守護者達にも伝えている。

 

 付随して時々自分に聞こえない程度の声で、部下とメッセージのやり取りをしている。

 

 シャルティアを初めよく理解していない者もいたが、アインズ(本当はパンドラ)直轄という事は理解できたのだろう。

 

 デミウルゴスだけが「……畏まりました。必ず御命令を成し遂げてみせます」と改まって宣言していたが、何かあったのだろうか? 

 

 またデミウルゴスには低位のスクロールの素材集めと、裏の情報収集を任せている。なぜか「全て理解しております」みたいな顔だったが特に問題は無いだろう。

 

(やれやれ、デミウルゴスやアルベドの考えはよく分からないな……詳しくパンドラに聞いてみるか? ……それにしても、これじゃ本当に父親失格だな。……早く一人前にならないとな!)

 

 そしてパンドラから報告や講義を受けている時、シフから何者かが近づいている、と召喚者との繋がりで報告を受けたアインズは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)でカルネ村を見ていた。途中からはンフィーレアの監視を含めてエンリと二人を見ていたのだが……

 

(……無粋だな、これ以上覗き見するのは)

 

 アインズはエンリの思い、ンフィーレアの思いの全てを聞いてしまった。ンフィーレアも一世一代の告白をのぞき見されてるとは思わないだろう。

 

(悪い事をしたな。あの村に暮らす事になるみたいだし、埋め合わせはしよう。それにしても恋か、素晴らしいものだな……私も一度してみたいな……でも今の俺アンデッドだし……アルベドやシャルティアならできそうだが……いやいや、彼女はタブラさんの娘で、俺が設定を勝手に書き換えた訳だし……シャルティアもぺロロンチーノさんの娘だしな……それにあの二人怖いし……)

 

 心が鎮静化される。

 

(あ~止め止め……それにしてもネムが前線に立とうとするのはな……危険な行動だが、あれだけの村を守るという意思を見せられればな……村の男達も周囲に隠れていたが、何かあればネムを庇えるようにしていたみたいだし……ゴーレムを前線に出せばよかっただろうに…)

 

(それにしても、俺は何をしていたんだか。あれだけ小さい子でも、あれ程の覚悟を持てるのに……)

 

 アインズは鈴木悟に対して幻滅する。

 

(もし俺にあれほどの意思があれば、仲間達は今ここにいてくれただろうか?)

 

 少しナイーブな気持ちになり、抑制されたため、別の事を考える。

 

(……それにニニャだったか。絶対に姉を救い出してみせる、か……見事だな。絶対に勝利する事ができないはずの貴族(支配者)を相手にする意思。素晴らしいな……そして彼の仲間達も…………王国の上層部が屑なのもよく理解できた……私に光を見せてくれたのは、彼らが特別だからだな……まるでリアルの世界と同じだな、搾取する者、される者か……)

 

 その考えも振り払う。

 

(仮に冒険者が彼や彼らみたいな存在ばかりなら……)

 

「……はは。パンドラよ、私も冒険者になってみたくなったぞ?」

 

 そして話は終わらずに続ける。

 

「それとカルネ村を見るのは大体7日ぶりか?ゴーレムまで貸した訳だし、ある程度復興できているようだな」

 

 一緒に見ていた家族に問いかける。

 

「……状況が落ち着けば構わないと思いますが、現状ではお止めしたいですな。さて、それでは父上のお気に入りの村の無事の確認と、復興具合の確認もできたことですし、講義を再開いたしましょうか?」

 

「ははっ。スパルタな教師を持ったものだ……よし、では講義の再開を頼む」

 

(慣れてはきたが、やはりパンドラの行動は、何か込み上げる、ものがあるな。早く慣れないとな……慣れて良いんだよな? 慣れて良いはずだ! 父親なんだし……間違いじゃない! ……それにきっと成長してくれるから大丈夫だ。俺はお前を信じてる! 今の苦しみが一時的なものだと!)

 

 

 そして講義が再開される。次々と自分が知識を理解していっているのが理解できる。ただ所々パンドラが言い淀む事がある。それがなぜか頭に残った。

 

★ ★ ★

 パンドラズ・アクターはアインズと共にカルネ村を見ている。

 

(……父上は本当にこの村が好きなのですな……ナザリックの方をより愛してるとは思いますが、あちらには父上が常に感じている重圧感が無い)

 

 その証拠に今のアインズの顔はナザリックの者に向ける顔よりも、リラックスして楽しそうだ。恐らく自分に向けてくれるものと同等だろう。

 

(ナザリック内で父上が本心を出せるのは私だけ、それ以外は常に重圧を背負っている。……カルネ村の者たちよ。もし父上に助けられた事を、本当に感謝しているのであれば、父上の憩いの場である事を願います……それともう少し強大な防衛力も必要かもしれませんね……できればナザリック外の者で、人間を下等生物と思わず、常駐可能なもので……)

 

 パンドラの考えは止まらない。

 

(父上が、他の者にも真実を話させれれば、一番良いかもしれませんが、父上自身が「真実を言ってていいのは彼らの創造主だけ」と仰っていますしね……)

 

 そして時が流れンフィーレアがこの村に住むと村長に言いだしに行くあたりで……

 

(一つ懸念事項が消えましたな……)

 

 恐らく彼は父上の好きな村と敵対する事は無いだろうとパンドラは判断した。こちらに好意を抱いている事も。

 

(……問題は彼をどのように、父上に忠誠を誓わせるか……そういえばこちらの世界のポーションは青とエ・ランテルに送った者達から報告が来てましたな……ユグドラシルのポーションを見せてみるのも良いかもしれませんね……)

 

 パンドラは常に配下の誰かとメッセージで連絡を取っている。大体の場合はパンドラからの一方通行だ。異変が生じた場合に部下から連絡が来る手筈になっている。

 

 そして定時連絡で、エ・ランテルに向かわせた部下の報告を聞いた。何者かがアンデッドを作り続けていると。

 

(……裏の者ですか……ナザリックと父上に有用な情報を持っていると良いのですが……)

 

 部下に秘密裏に、首謀者と思われる者全員を捕まえてナザリックに一度帰還するように命令する。ナザリックで自分の直轄であるエイトエッジアサシン達に受け取りに行き、拷間官に情報を引き出させるように命令を下す。その後は各々の任務に戻れと命令して。

 

 またシャルティアに付けた部下からは血の狂乱を発動させ、何人か取り逃がしていると知らされ……

 

(……まったく何をしているのか。父上の命令を守らずに油断するとは……これは引締めが必要かもしれませんね……?)

 

 部下に適切に後始末をするよう命じる。ちなみにアルベドを外での情報収集に向かわせなかったのは、自分が動く時に護衛させるためだ。

 

 これらを全て並列して行いながら、講義を再開する。途中デミウルゴス主導の実験や報告書等の説明に僅かに言い淀む。

 

(…………法国ですか……父上と話し合った結果普通のプレイヤ―ならば、法国の建前の目標を信じて助力しそうですな……一番の強敵は法国になりそうですね…………万が一彼らの証言が本物の場合、父上に伝えるか?……話さない方がいいでしょう。カルネ村の方が大事でしょうからね。父上の重荷になりそうな物は、できる限り私で握り潰しましょう)

 

 講義を続けながら、パンドラの考えは並列的に構築される。

 

(……そしてなぜか、ナザリックは世界征服に向かっている……父上にそれとなく確認したところ、世界征服は望んでいない……どこかで多少の軌道修正をする必要がありますが……さすがに一人では厳しいですね……)

 

 そして時間が過ぎていくと、ドアがノックされる。

 

「パンドラ、一旦中止だ。姿を隠せ」

 

 命令に従い姿を借り特殊技術(スキル)を使い完全に見つからないようにし父上の後ろに立つ。

 

「入れ」

 

「失礼致します。アルベドにございます」

 

 そしてアルベドが新たな報告書を持って部屋に入ってくる。

 

「良く持ってきてくれたな。アルベドよ感謝する」

 

「感謝なんて、当然の事をしたまでです!……もし本当に感謝なされているのであれば、私にも報告書を読むのを手伝わせて下さいませ!」

 

 これに対して父上は

 

「お前には本当に感謝している……しかし一人の方が効率が良いのだ。そちらが目を通した分だ。そのとおりに実行せよ」

 

 アルベドが非常に残念そうに

 

「…………承りました。それでは失礼いたします」

 

 そして挨拶をしながら出ていく。

 

「……アルベドか、私は彼女を汚してしまったんだな……」

 

「そのような事はないかと。設定を変更されておらずとも、父上を愛していたでしょう」

 

「……そうか」

 

 納得してない感じで呟かれる。

 

(アルベド殿は父上の第一妃になるつもりで、プレアデスの一部も協力しているようですが……最終的に選ぶのは父上なのですし……一先ずあなたが父上の妃に相応しいか見極めましょう。そういえば、シャルティア殿も目指しているとか……やれやれ……ですが、そろそろ姿を隠しているのも難しくなってきましたな……彼らも多少ながら違和感を覚え始めている。そろそろ表に出るべきかもしれませんね)

 

 現状ではアルベドは妃候補としてギリギリ合格点というところか。

 

(むしろ、メイドのお嬢様の方が相応しいのでは?)

 

 パンドラは様々な事を同時にこなしている。そしてシャルティアに付けていたハンゾウから緊急の連絡が来る。「シャルティア様敗北」の報が届いた。

 

「なっ!?」

 

 思わず叫んでしまう。父上が驚いているが

 

(血の狂乱を発動させるほど油断していたとは言え、まさか敗北するとは……)

 

 ちなみにシャルティアのミスで逃げた者は捕らえるか処分したとの報告も上がっている。

 

「父上。シャルティア殿が敗北したようでございます!ニグレド殿に魔法の発動の御命令を!今すぐに現状を把握すべきです!……私も現場に急行致そうと思います!」

 

「……なに!…………待て!ニグレドの件は了解したが、なぜお前が向かう必要がある!シャルティアが敗北したのであれば動くべきではない!」

 

「シャルティア殿の敗北は父上の命令を守らずに、油断をしていたからでございます! その油断をつかれ、何らかのアイテムを使われ、生きているにも拘らず無力化されました! そして階層守護者がどのような命令であれ、守らないのであれば、私が出るべきでございます! それに偵察に一番優れているといえるのは御方の姿等を借りられる私でございます! ……父上の護衛はアルベド殿が適任かと! 彼女であれば裏切りの可能性はないでしょう! 同時に外に出ている守護者たちを一時的に撤退させ集合を! もしかすれば、このまま決戦になる可能性もございます!」

 

「……分かった。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い二人で1階層に転移するぞ!その後お前は指輪を私に預けて現場へ向かえ!……やられるなよ!」

 

「無論でございます!……危険と判断すれば部下を囮に撤退いたします!」

 

 そして二人は行動を開始した。

 

 パンドラは指輪を預けシャルティアの下に、敵対勢力の目視での発見に向かった。全ては家族のために……

 

 それが一体何を意味するのかを現状では誰にも分からなかった。

 

 一つだけ確定しているのは法国にとって好ましくない展開なことだ……

 

 

★ ★ ★ 今日の守護者統括

 

(なぜアインズ様は私を追い出すの! 私は守護者統括としてアインズ様の隣で補佐すべきなのに!)

 

 アルベドは苛立っている。近くにいるメイド達は怯えながら離れていく。そこにナーべラルが近づいてくる……

 

「アルベド様。苛立ちをお鎮め下さい。皆が怯えております」

 

 その言葉に我を取り戻して

 

「……ごめんなさいね? 少し我を忘れていたわ……それにしてもなぜアインズ様は私を追い出すのかしら? 何か考えはある?」

 

「至高の御方の考えを理解するなど私には不可能でございます。アルベド様は何かお分かりにならないので?」

 

 それに少し考える……

 

「護衛の者まで追い出しているわ……それに先程アインズ様を訪ねた時、アインズ様以外の気配があったわ……まさか私以外の女性を連れ込んで、御寵愛を授けてらっしゃるの!」

 

 恐らく今までで一番の怒りである。ナーべラルでさえ後ずさっている……

 

(もし、本当にナザリック外の者で、泥棒猫がいるなら………………アインズ様に見つからないように……)

 

 そこで急に「アルベドはどこだ!」とアインズ様の声が聞こえたので我に返りその方向に向かう……危険な考えを残しながら……




漆黒の英雄誕生せず!

今回の話はどうだったでしょうか?

批評お待ちしております!

p.s
なぜ私はモモンガ様とネムではなくてエンリとンフィーのラブコメを書いているのだろう?

少し修正追記しました。ナザリック側も描かないとね(白目)


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第6話 後悔

お待たせしました!


 パンドラと別れた後アインズは、すぐに5階層に転移して、ニグレドの下に向かった。

 

 メンバーのギミックが始まるが時間が惜しい。手早く済ませて

 

 「シャルティアが何者かにアイテムを使用されて敗北した。生きてはいるから、今すぐにシャルティアの現状と周辺を調べろ。警戒を怠るな!」

 

 それだけ語り第9階層に移動する。急に出てきたからか、メイド達が驚くが無視して

 

 「アルベドはどこだ!!」

 

 大声で叫ぶ。多少怒りと焦りが混じったが、気にする余裕はない。

 

 そして声を聞きつけたのか、アルベドがこちらに参る。そして

 

「これはアインズ様。一体どちらに? 執務室から出られたご様子ですが? 出歩かれる際は供を……」

 

 アインズはアルベドの声を遮る。余裕がないからだ。

 

 「そんなことは今はどうでもいい! 今すぐ外に出ている全階層守護者をナザリックに帰還させろ! シャルティアが何者かに敗北した!」

 

 その言葉を聞いたメイド達は意味を理解できないのか呆然として、アルベドは驚愕している。

 

「……早く行動を開始しろ! アルベド、今なら敵対者を発見、追跡する事も可能なのだ! 時間は有限だ!」

 

 「ただちに行動を開始致します!……姉さんには何と命令いたしましょう?」

 

 「すでにシャルティアの周辺を見張るように命令している! 急ぐのだ! セバス達は帰還させずに配下の者を増員せよ!」

 

 アルベドが行動を開始した。

 

 

 

 その後ニグレドからメッセージで鎧の者がシャルティアと戦っている事を報告された。

 

 かなりの激闘だったらしい。最終的に鎧の者はぼろぼろになり退却したとのことだ。後で詳しく報告を受けるべきだろう。

 

 またアルベドから全階層守護者のナザリック内への撤退も、遠くに派遣していたデミウルゴス以外完了したとの報告が来た。

 

 そして現状の把握のためにアインズはパンドラズ・アクターに連絡を取る。父親として、ナザリックの最後のプレイヤーとして……

 

★ ★ ★

 

 パンドラズ・アクターは、一人の御方の装備と姿を借りて、全速力で現場に急行していた。

 

 どうやら配下の者の内、ハンゾウは生き延びているようだ。恐らくまだ発見されていないのだろう。他のシモベ達を犠牲にして、ハンゾウのみ生き延びるように命令を下したのだから当然だ……

 

 そしてパンドラズ・アクターは部下と合流を果たした。自分の姿に驚く事は無い。既に知っているのだから。

 

「報告を」

 

「はっ。先程も報告いたしましたが、敵対者は強力なアイテムと思われる物を使い、シャルティア様を無力化。現在集められた情報の中では、この世界にしては、全員がかなりの物を装備していました」

 

「…………シャルティア殿に行使したアイテムはどのような物で?」

 

「チャイナドレス風の物だと思われます」

 

 パンドラズ・アクターは何が最善か少しの間考え

 

「……あなたは撤退しなさい。そして必ずアインズ様に情報を報告しなさい。私は今から敵対者の追跡に移ります」

 

「……お一人で追跡するのは危険ではございませんか?」

 

「これは階層守護者が失敗した話です。監査役として、その失態を見過ごせません。何よりアインズ様の危険を取り除くためにも追跡するのみです」

 

 そうなのだ、万が一父上にそのアイテムを、使われたとしたら、ぞっとする。

 

「しかし、あなた様がアインズ様のNPCである以上、私が追跡すべきかと思います」

 

「それほどの力を持つ者ならば、あなたでは力不足になりかねない。……方向はどちらですか?」

 

「……あちらになります」

 

「では、あなたは捕えた者を連れてナザリックに帰還なさい」

 

 

 そしてパンドラは追跡を開始する。ナザリックのため、ひいては家族()のために……

 

 

 

 

 

 そして追跡を始めて、暫く立つと気配を感じ始めた。この世界では異常と思われるほどの力を……

 

(近づいてきましたね。今すぐに攻撃は……するべきではありませんね。そしてこちらの方角は法国ですか……確証とは言えませんが、法国出身者の可能性が高い?とすれば父上から伺った六色聖典と呼ばれる、特殊部隊の可能性が高い、か……今度は何を王国でするつもりだったのか?)

 

 そして姿が見えた。敵はこちらに気づいていない。死亡した者と思わる存在が2人、重傷の者が一人だ……

 

(あの、アイテムは危険ですね。至高のお方々が集めた世界級(ワールド)並です)

 

 これは他の者では気付けないかもしれないが、宝物殿で同等の物を見てきたからこそ、気付く事ができたのだろう。

 

(そして恐らく隊長格と思われる者とその装備は……あれらも警戒すべきですね。最低でも神器級(ゴッズ)が存在しますか……世界級(ワールド)は一つだけ? ……いえ、それ以上に持っていても、おかしくありません。下手な先入観は捨てるべきです)

 

 隊長と思われる者は部隊の中央に位置している。恐らく伏兵を警戒しているのだろう。あれであればどちら側にも対応する事ができるだろう。パンドラの現在の姿と装備でなければ……

 

 そしてかなり慌てているのも理解できる。急いで帰還しようとするあまり、隊長以外は注意力が落ちている……

 

(恐らく、あのアイテムは使い手を選ぶのかもしれません。もし選ばないのであれば、あの者を捨て置き、服だけ剥ぎ取って帰還するのが、この場では最善のはず……死亡した者達も捨てていかないという事は、彼ら自体も価値が高いという事ですか……)

 

 そろそろ森を抜ける。恐らく森が無くなっても問題なく追跡できるが……

 

(決断すべきですね。追跡を続けるか撤退をするか……一撃だけ与えすぐに撤退しましょう。できればアイテム使用者だけは、この手で仕留めたいですが、さすがにあの隊長格が邪魔ですね……最後尾の者を殺して、追手が来たと警戒させましょう)

 

 決断すればパンドラの行動は速かった。敵の後方に位置する者に近づき暗殺する。敵の隊長と思われる者が気付いたようだが、既にその場を離れている。

 

(これであの者達も、伏兵を警戒して動きが遅くなるでしょう。アイテム使用者は十分致命傷でしたから、少しの遅れが命取りになる)

 

 そしてパンドラはナザリックに帰還を開始を始める。途中

 

『パンドラよ!無事か!?』

 

『無事に御座います。父上!今は追跡を切り上げ、一時的にナザリックに帰還を開始しております!』

 

 ナザリックの支配者である、父上からメッセ―ジが届く。

 

(一先ず敵の機先は制しました……守護者たちの召集が間に合えば、決着を付ける事も可能でしょう……できるならあの者たちは捕えて情報を吐かせたい……)

 

『こちらはデミウルゴスを除く全ての階層守護者をナザリックに帰還させた! デミウルゴスも帰還を開始している! …………ニグレドに監視をさせていたところ、シャルティアと戦う者がいたようだ……シャルティアが勝利して敵は撤退したようだが、フル装備で戦ったようだ……』

 

『……まさか、さらに敵対勢力が存在するとは……』

 

(……追撃は止めにすべきですね……情報が少なすぎる)

 

 これはパンドラとしても考えていない事だった。ナザリックと戦う事ができる者が2勢力も存在するとは。

 

『そちらの状況も報告せよ』

 

『……こちらは追跡したところ、世界級(ワールド)並のアイテムを1つ、また神器級(ゴッズ)を所持しているようでした……今まで集めた情報と比較しますと、異常な強さです』

 

『なに!?』

 

 父上も驚いているが当然だろう。世界級(ワールド)は規格外の存在なのだから

 

『チャイナドレスのような物でございました。恐らくそれでシャルティア殿を無力化したのかと。知識にございますか?』

 

『…………いや、私は知らない。一先ず私自身でシャルティアの状況を確認してみる』

 

『確かにシャルティア殿の状況を一番理解できるのは父上ですな……私が理解できるのであれば一番良いのですが……』

 

『構わない。お前だけを危険に晒して、父親が安全な所にいるのは自分が許せん』

 

『……畏まりました。そして感謝いたします父上…………それと敵対者は法国出身かと思われます……』

 

 そして父上から怒りが巻き起こったのが理解できる。

 

『…………カルネ村の者を殺そうとしただけでなく、ナザリックにまで手をだした、か……屑共がぁ!まだ私を怒らせたりなかったのか! 絶対だ、絶対に滅ぼしてやる……』

 

『父上の言うとおりですが、まずはシャルティア殿をどうするかです……敵が世界級(ワールド)を所持している可能性が高く、裏にプレイヤーが存在する可能性がある状況です。本来なら守護者達や高位のシモベで追撃をかけて、シャルティア殿を救うつもりでしたが、状況が変わりました……シャルティア殿を救うのに世界級(ワールド)を使うのはリスクが高すぎます……父上がシャルティア殿を把握した後、よろしければ私が殺害いたしますが?』

 

 父上は黙り込んでいる。きっと悩まれておられるのだろう。世界級(ワールド)を使って救いたい。しかしリスクが高すぎる事に付いて。

 

『…………そうだなシャルティアは殺害すべきだ、な。シャルティアの殺害は私が一人で行う。異存は無いな?』

 

 異存ならある。しか世界で誰よりも、父上を理解しているのは私だ。

 

(恐らく、自分が世界級(ワールド)の存在を、思い浮かべなかったからと、お思いでしょう。それとぺロロンチーノ様の娘であるシャルティア殿と、父上の息子が殺しあう姿を見たくないのでしょう……)

 

『…………畏まりました』

 

『急いで帰ってきてくれ。一応今からアルベドと共に、シャルティアの下に向かい、超位魔法で救えないか試してみる。救えなければ敵対者が世界級(ワールド)所持者と確定だ』

 

 そしてメッセージが終わる。

 

(願わくば、父上が自分を許せる日が来ますよう)

 

 

 

 結果としてシャルティア殿にかけられた物は、精神支配である事が父上から伝えられた。恐らく相討ちになったから空白の状態なのだろうと教えられた……

 

★ ★ ★

 

 現在アルベド、コキュートス、そしてパンドラズ・アクターがデミウルゴスの帰還を待っていた。3名の間に会話は無い。至高の御方の武器は父上に預けている。そして2名は自分が何者かを目で問うている。

 

(私が仲間というのは理解しているようですが……)

 

「……私の事が気になるようですが、2度手間になりますので、デミウルゴス殿が来られるまでお待ちいただきたい……」

 

 そして時間が過ぎる。デミウルゴス殿がこちらに来るが私の事は無視して、守護者統括と言いあいをして、最後に荒々しく席に着いた。

 

「話は付いたようですので……私はパンドラズ・アクター、宝物殿領域守護者にして、財政面の責任者でもあり、アインズ様に創造されたNPCでございます!以後お見知りおきを!」

 

 舞台俳優のように身ぶりを交えながら自己紹介をする。

 

「……あなたがそうなの?」

 

 守護者統括が聞いてくる。他の2名もだ。そして大きな身振りをずっと続けながら話を進める。

 

「はい!私アインズ様の命令で守護者の方々の、監査役のまとめ役をしておりました!」

 

 この言葉に守護者たちが固まる。

 

「……ナルホド。エイトエッジアサシン達ガアインズ様ノ護衛ヲシテイナカッタノハソノタメカ。シカシ、アインズ様ノ護衛ガイナイノハ問題デハ?」

 

 コキュートスが護衛の事について尋ねてくる。

 

「問題ございません!私が常にアインズ様の護衛として傍に仕えておりましたので! またアインズ様はあなた方を疑うのを嫌がられておりましたが、転移した事で様々な法則が変化しております! エクレア殿の事もありますので、監査役をおくように進言させて頂きました!」

 

 大きく頭を下げる。

 

「……なるほど。あなたはアインズ様に信頼されているのね。そんな重要な役を、守護者統括の私ではなくて、あなたに命じるのだから」

 

 少しアルベドの声に嫉妬が混じっているようだ……

 

「いえ、私が選ばれたのは消去法によるものでございます! デミウルゴス殿が外に、アルベド殿がナザリック内の管理をする以上、必然的に他の者を監査役におくしかありませんから!」

 

 実際にパンドラが監査役をやっているのは消去法に過ぎない。ユグドラシルとリアル、父上の真実を知っているか否か、の消去法だが。

 

 一応もしかしたら母に成りうる人物なので、少しだけだがフォローしておくと

 

「……あなたは!良いのですか!自分の創造主が危険に晒されて!今ならまだ間に合います!二人でならアルベド達を突破する事も可能なはずです!」

 

 デミウルゴスが進言してくる。コキュートスは警戒音を鳴らしている。

 

「……あなた方は一つ大きな勘違いをされておられる!なぜ、アインズ様が一人で戦われるのかを!」

 

 やはり大げさに身ぶりを交える。これに対してアルベドが

 

「勘違い?私がアインズ様から聞いた事が、全てではなくて?」

 

 演技を続けながら

 

「ええ! 違いますとも! アインズ様はあなた方を、この地を去られた方々の子どもと、認識され愛されております! つまり、あなた方の殺しあう姿を見たくなかっただけなのです! 理由を立てようと思えば幾らでも立てられますが、それが真実であります!」

 

 この発言にここにいる3名の者から驚愕が走る表情が見えた。

 

「アインズ様は、本来あなた方が危険な目にあうのを、恐れられております! そのため今回の件では自分が世界級(ワールド)アイテムの存在を認識していなかった事に、大きな遺恨を残しておられます! 自分が深く考えていれば、こんなことにはならなかったと! ……この事で御自身をお許しになる事は無いでしょう……」

 

「違います!アインズ様のせいではありません!敗北を喫したシャルティアが、我々が悪いのです……」

 

 デミウルゴスが俯きながら「アインズ様は悪くありません」と何度も呟いている。

 

 アルベドは何もできない自分に対して、悔しそうに顔をしかめている。

 

 コキュートスも同じだろう。

 

「さて、私がこの事を語ったのはこれからの事を考えるためです。……ニグレド殿が発見した鎧の者については分かねますが、シャルティア殿を敗北させたのは、法国の者達です。私が単独で強行偵察を実施した所世界級(ワールド)を最低でも一つ所有しておりました」

 

 この言葉に全員が顔を上げてパンドラを見ている。恐らく自分ただ一人で動いた事にだろう。

 

「配下の者から、シャルティア殿敗北と伝えられまして、現場に急行して後を付けたところ、判明しました。恐らくにはなりますが、洗脳の世界級(ワールド)アイテムでチャイナ服でありました! これは確定でしょう。どうやら、使い手を選ぶ物であるらしい事まで確認しました。ただしこちらは未確認ですのでご注意を。そして敵の隊長格と思われる者はおそらく神器級(ゴッズ)を装備しておりました! また我々と強弱を競う事ができるほどの存在でもあります!」

 

 そして自分が知りうる、情報について語る。

 

「……まさかそのような物が……」

 

 デミウルゴスが茫然と呟く。他の者達も同じだ。当然だろう今回のシャルティアのように自分がなる可能性もあるのだから……

 

「……アインズ様のもとにそいつらが来る可能性は?」

 

 アルベドが問うてくる。先程までの主の勝利を信じる顔ではなく、万が一を心配する顔だ。敵対者が戻ってくるのではないかという。自分達と強弱を競えるという事は、戦術次第で我々を倒す事も不可能ではないのだ……通常のこの地の者と違い…

 

「大丈夫でしょう。奴らには一度奇襲をかけて被害を与えましたので、こちらに戻ってくる余裕は無いでしょう。それに世界級(ワールド)世界級(ワールド)は一部の例外を除き効果が発揮しませんので!」

 

 全員が感心したようにこちらを見てくる。

 

「さすがは、アインズ様の創造になられたNPCですね……」

 

 デミウルゴスが感心したように呟く。

 

「いえいえ、もう一度同じ事をしろと言われても難しいでしょう……ところで皆様方、これで私がこの場にいる事を認めてくださいましたかな? なぜ領域守護者がここにおられるか、疑問に思われたかもしれませんから?」

 

「元よりそんな事思ってはいないわ。NPCは全て役職に違いはあっても本来対等なのだから……」

 

 アルベドがやさしい笑みを浮かべながら話しかけてくる。

 

「それは良かった!…………では皆様方これ以上、現地の者達を侮るのは止めて頂きたい」

 

 パンドラズ・アクターは先程からの道化のような者から変わる。怒りを滲ませた者へ。今までの落差から3人が驚いている。

 

「……今回シャルティア殿が敗北を喫したのは相手を侮っていたからです。アインズ様の御命令で油断するなと命令されながら、血の狂乱を発動させる……」

 

 全員が驚愕している。まさかそんな事をしでかしていたのかと……

 

「本来、敵がこの地で考えられない程の、強敵と理解できた時点で、シャルティア殿は撤退すべきでした。しかし無理をして、このような結果になっております」

 

「この世界には、生まれ持った異能(タレント)なる力も存在します。あなた方にも報告が行っていると思われますが、とても危険な物が存在します。我々を即死させるようなものも、あるかもしれない。もしかしたら裏にプレイヤーが隠れている可能性もあるのです。そのような可能性がありながら、油断をする……あなた方に同じ轍を踏まれては、困るので、進言させて頂きます」

 

「もしこれ以上アイン…いえ、あえて、モモンガ様と呼ばせて頂きましょう。もしあなた方がモモンガ様に、これ以上自責の念を感じさせるのであれば、私の手で処刑させて頂きます。たとえその後、モモンガ様に処刑されようとも」

 

 それで話は終わった。全員が深く考え込んでいるが長くは続かなかった。

 

 アインズ・ウール・ゴウンとシャルティア・ブラッドフォールンの戦いが始まったからだ。

 

 

 

 

 パンドラは勝敗が決する全てを見ていた。

 

(なるほど、そこまで考えておられましたか……私も全ての能力を使いこなせるようにならなければなりませんね……父上は御自分を過小評価のしすぎのようですね……御方々の特殊技術(スキル)の使い方も教授して頂いた方が良いかもしれません……私では全てを扱う事はできませんが……私に向いた戦法も開発しなければなりませんね……御無事で何よりです)

 

 他の者達も勝利を喜んでいる。

 

 

 

 そして時間は流れ……

 

★ ★ ★

 

 その後シャルティア殿は蘇生された。

 

 そして守護者達で言い合っていたところに、アルべド殿が父上を守護者の間に連れていく。

 

(父上の感情を見抜かれたか……しかしやはりそこには支配者と被支配者との壁がある。……仕方ないのでしょうが、ね)

 

 

 父上が本当に手に入れたい物が無い事が口惜しい……そう思うと他の者たちに、怒りが湧き上がる。逆恨みと理解しながらも……

 

 そして話はナザリックの強化の話に移る。

 

「我々と戦える存在が最低でも2勢力あると考え、ナザリックの強化を考える必要がある……」 

 

 その言葉に守護者統括殿が

 

「それでしたら、リザ―ドマンの集落を滅ぼしては如何でしょう?」

 

★ ★ ★

 

「それでパンドラよ、これからどうすべきか、お前に考えはあるか?私としては即刻報復をしたいが……」

 

 御自分でも危険な事を理解しながら問いかけてくる。

 

「……まずは戦力の拡充を図るのは必須でしょう……鎧の者の横槍も考えて、足場固めが大事かと?後は現地の通貨を手に入れるために我々が、この地で手に入れた物でアイテムを作成して、売りさばくの如何でしょう?」

 

「ふむ?確かに現地の通貨はより多く手に入れたいが、どうやって売るのだ?……それに敵に情報を与える結果にならないか?」

 

 深くお辞儀をしながら

 

「カルネ村に来ていたンフィーレアを利用しようと考えております。状況把握に優れているようなので、カルネ村に何割か手数料を払えば、より復興も進むかと思われます……情報につきましてはあえてランクが下の物を流して、こちらの力を誤解させるように仕向けたいと考えております」

 

 なぜか父上が一瞬だけ、苦しそうな表情を見せていた。

 

「……よい提案だ!そこまで考えているのであれば、私から言う事は何もない。私よりお前の方が賢いのだし、な。全て任せる……解説と報告だけ頼む……」

 

「お任せを。それとあの村にですが、ナザリックのシモベ以外で信頼できるものを、配置しようと考えておりますが御許可願えますか?」

 

(しかし……父上御自身の過小評価もどこかで改めさせる必要がありますね……)

 

 少し考え込むそぶりを見せて

 

「構わない。……それと私にもあの村の強化には考えがある。……問題は無いか?」

 

 少し手を頭に当て考える。

 

「…左様でございますか。ではそれらを含めて、実行したいと思います」

 

 パンドラは父を見る。そこには笑顔があった。

 

(……それにしても何の罪もない者を虐殺するのは、法国と同じで嫌がられるかと思いましたが……いえ、リザ―ドマンを人と扱ってないのかもしれませんね。…………もしくは人間から、アンデッドになった事で悪影響が出ている可能性もありますね……ナザリックの支配者としては良いのかもしれませんが……少し注意しておいた方が良いでしょう)

 

(それとカルネ村は遠からず、王国から滅ぼされる事になりかねません。なにしろ上層部の意向を偶然とはいえ知ってしまったのですから。戦士長と言われる者がカルネ村での状況を隠蔽していれば別でしょうが……隠蔽しても無駄ですね。既にあの村以外の者も知ってしまいましたし。父上のお気に入りにもなっている様子ですから口封じも出来ませんしね。攻めて来ると考えて、防衛計画を考えるべきですね。報告はその後にしましょう)

 

 そしてナザリックは、コキュートスを指揮官にして、部隊を派遣した。法国と同じく、一日一日をただ懸命に生きていると思われる者たちの下へ……

 

 

 

そして父上が少し陰りがある表情で 

 

「…………パンドラよ。シャルティアの謹慎を解く事は出来ぬか?……十分に反省しただろう」

 

「…………反省はされておられるでしょうが、容認しかねます。ここで罪を清算させねば、最悪第2第3のシャルティア殿を出す結果にもなりかねません……」

 

 深く考え込んでいる。

 

「……お前がそういうのであれば、正しいのだろうな……分かった。お前に任せよう」

 

 少し空気が重くなる。その空気を変えるため

 

 

「……そういえば、カルネ村の少女……確かネム嬢で御座いましたか? 御招待する約束があったかと思われますが?」

 

「……確かに状況が落ち着けば招くと言ったが、まだ落ち着いていないだろう」

 

 

 

「……確かに状況は落ち着いておりませんが、このような時こそ父上は楽しまれるべきでございます。父上がそのご様子では他の者達も辛いのです……ナザリックの者達のためにも、父上は楽しまれるべきでございます」

 

(シャルティア殿への自責の念は強い。少しでも和らげるようにしなければ……)

 

「…………ナザリックの支配者である私が人間を招いて構わないのか?」

 

「……明美様はエルフでございましたが、招かれておりました。桜花聖域の守護者も人でございます。ナザリックに敵対していない以上。構わないでしょう」

 

「…………そうか。確かにトップがこんな空気を纏っていては駄目だな……委細は任せて良いか?」

 

「はっ! 畏まりました。それから現在のシャルティア殿の件なのですが、やはり、かなり落ち込んでいる様子。謹慎を解く訳には参りませんので、ネム嬢を招く日は、業務も一時的にストップすることになるでしょう。多少業務はあるかもしれませんが、その程度であれば私の判断でこなせましょう。故にシャルティア殿の許にアルベド殿とアウラ殿を遣わせて、御慰めになられては?」

 

(父上はネム嬢を気に入っている。それをアルベド殿の勝手な嫉妬で、父上が楽しまれる場を邪魔させる訳にはいきませんからね……) 

 

 復活した後シャルティアは、自室で謹慎処分になった。本来アインズは自分の責任なので許そうとしていたのだが、パンドラが進言したのだ。

 

「確かにアインズ様にも罪はあられるかもしれませんが、一番の要因はシャルティアの殿の油断でございます。もしここで罰さなければ、アインズ様のみに罪が存在する事になります…………それを容認する事はできません!」

 

 この発言で一先ず自室謹慎になったのだ。それらを思い出していると……

 

「……お前に全て任せる」

 

「畏まりました……では明日にでもネム嬢を招くように手配いたします」

 

 そしてパンドラは動き出した。

 

(願わくば、父上の御心の慰めになって下さいますよう、願います)

 

 家族が元気づけられる事を願いながら。

 

 

★ ★ ★

 

 時間は少し遡る。アインズが去り、シャルティアを除いた守護者たちが集まっている。

 

「3方には先程挨拶申しあげましたが、知らぬ者たちもおられるので、もう一度。私パンドラズ・アクター!アインズ様に作成されたNPCでございます!」

 

 父上に設定された動作をより洗練、昇華(成長)させながら挨拶をする。

 

「ええ! アインズ様が御創りになられたの!」

 

 アウラ殿が驚かれている。

 

「その通りでございます! 本来私は唯一創造主が残られた者であるため、皆様も複雑な感情を抱かせてはならないと思い、影に徹して、あなた方と顔合わせをするつもりはありませんでした! しかしながら今回の、シャルティア殿の件で表に出るべきと判断致しました!」

 

 全員が少し苦い顔をしている。そこにマーレ殿が

 

「あ、あの、えっとパンドラズ・アクターさんはどんな仕事をしているんですか?」

 

「よくぞ聞いて下さいました! 本来私の仕事は宝物殿の領域守護者でございますが、緊急事態ですので、あなた方がどのように働かれるかの監査をしております! 最終的に誰が一番よく、アインズ様のために働いたか報告をさせていただきますので、しっかりと働かれてください…………逆もありますので」

 

 最後のみ威圧感をこめて言うと、全員が理解したのだろう。シャルティア殿の二の舞を踏むなと言う事を……

 

「さて、その他の仕事としまして、アインズ様の秘書のような役割もさせて頂いております……本来はアルベド殿の役割でしょうが、緊急事態ですので、ご了承ください」

 

 何か考えるかのようにしていたアルベドが

 

「……一つだけ聞かせて、アインズ様が女を連れ込んでいた訳ではないのね?」

 

 マーレが怯えるほどの威圧感を出している。嘘を言えば……今にも襲いかかってきそうだ

 

「そのような事は決してありません!……しかしアルベド殿。アインズ様が私に愚痴でアルベド達のケンカが怖いと仰られておられました。……それではお嫁にいけませんよ?……現時点で私がアインズ様の妃に相応しいと考えているのは、アウラ殿かメイドの方々です。この意味お分かりになりますね?」

 

 横で「ええ!私!」とアウラ殿が叫んでおられるが

 

「……つまりアインズ様の妃にだれが相応しいかも、あなたが見定める訳?」

 

「いえいえ、最終的に選ぶのはアインズ様でございます……しかしあまりにも酷いようであれば、反対させて頂きます……私がアインズ様のお傍で補佐するのに異論はございませんね?」

 

 少し統括殿が考えているようだが……

 

「……ええ。分かったわ。……しっかり私がアインズ様の隣に相応しいところを理解させてあげます」

 

 とても美しい笑顔で言い切っているが威圧感が込められている。

 

(なるほど、父上が恐れる訳です)

 

「ええ! アインズ様が幸せになるところを私も見たいので……他の方々も異論はありませんね?」

 

 それに異論がないのか全員が頷く。

 

「でも、シャルティア落ち込んでたね……」

 

 アウラ殿が心配そうに声を上げる。それに

 

「仕方ありませんよ、アウラ。アインズ様の御命令を守らずに敗北して、敵対してしまったのだから……」

 

「マッタク、アインズ様ノ御命令ヲ無視スルトハ……」

 

「……もう一度念押しさせて頂きますが、これ以上アインズ様に自責の念を抱かせない事を、全ての者たちに願います。とはいえ、シャルティア殿も慰める必要があるでしょう。アインズ様に相談して参り、アルベド殿に御慰めに行って頂こうと思いますが」

 

 少しばかり、アルベドと視線で会話する。

 

「分かったわ……しっかりと慰め(説教し)てきます。守護者統括として」

 

 しっかりと裏の意味を理解してくれたようだ……そこに

 

「……あのさ~私も一緒に、付いていっていいかな? やっぱり気になるって言うか……」

 

 少し目を統括殿と合わせるが……

 

「畏まりました。アインズ様に進言させて頂きます。およそ2日ぐらい時間をかけてお願いします……それとデミウルゴス殿、少々お話ししたい事がありますので……任務の地に戻られる前に、バーで話す事は出来ますかな?」

 

 デミウルゴスが少し目を細めながら考えている。なぜ自分だけなのかを……

 

「…了解したよ。確かに君とは話す機会が無かったからね。二人で親睦を深めようじゃないか?」

 

「ええ! 他の皆様方とも個別で親睦を深めたいものですな! ……ではアインズ様を待たせておりますので! 皆様、御機嫌よう! それと私の存在を他のNPCに周知して頂ければ幸いです!」

 

 大きく頭を下げてその場を去る。

 

(アインズ様の妃ですか……あなた方には荷が重い。もしそれでもなられるのを望むのであれば……支配者と被支配者の壁を崩して頂きたいものです……可能性があるとすれば、アウラ殿か、ルプスレギナ嬢でしょうね……難しいでしょうがね……)

 

 そして自身の存在を全ての階層守護者に認めさせた、パンドラズ・アクターは動き出す。全ては家族のために……

 

★ ★ ★ 今日の守護者統括

 

 今アルベドはパンドラズ・アクターの存在をメイド達に伝えて回っていた……

 

(……それにしても、私よりアウラやメイド達の方が妃に相応しいですって?……確かに大切な仲間ではあるけど……到底認められないわ!)

 

 頭の中で様々な事を考えているためか、メイド達は怯えながら話を聞いている。

 

(いえ、冷静になりなさい。パンドラズ・アクターの話によれば、アインズ様は私とシャルティアのケンカに怯えていたとのこと……ふふふ、上手くいけばアインズ様にシャルティアの姿をトラウマにさせる事ができるのではなくて? そうすれば恋敵も減るし、アインズ様に自責の念を抱かせた件もあるし、丁度良い罰になりそうだわ)

 

「パンドラズ・アクターという者が、暫くアインズ様のお傍に仕えます……セバスの代わりと思いなさい…」

 

(……メイド達の方がふさわしい、ね。)

 

 そしてアルベドは他の者達の下へ向かう。解放された者たちは安堵で深呼吸していた。




読了ありがとうございます!

さて、今回は如何だったでしょうか?

とある方からアドバイスでナザリックの描写をした方が良くなると言われ、私自身そうだと思い守護者関連の話を追加しました。(本当にありがとうございました!)

前話まででナザリックの変更点が少ない場面も、守護者統括様の考えを追記しました!

皆さまからのアドバイスもお待ちしております!

またアインズ様がクレマンティ―ヌと戦ってないのにシャルティアに勝てたのは、前話で少し描写したとおり、接近戦のイロハをパンドラの知識から教わったからです!すこし違和感があるかもしれませんので、見つからないように模擬戦をしていたと変更するかもしれません!



さて小ネタになりますが、実は当初の考えでは、ここでパンドラズ・アクターさんに退場して頂こうと考えていました。その場合隊長の武器がロンギヌスという事にして相内、通常の手段で復活できなくして、アインズ様を絶望させようかと考えてました。

それを主人公と考えていたネムがオーバーロードのメインヒロインあるアインズ様を絶望から救う話にしようかと考えていたのですが……どうやっても不可能と考えを改めました!

以上小ネタでした!

次話はようやく!デート回です!お楽しみに!デミウルゴスとの会話は暫く先で回想として出します!そちらもお待ちください!


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第7話 訪問

前編後編となります。本文に入る前に注意をお読みください。

注意1タグに存在しますが、独自設定や独自解釈が存在します。

注意2今まで働いていなかったロリコンのタグが微妙に活躍します。この作品を見て下さっている方は紳士の皆様と思われますので、大丈夫だと思われますがご注意ください。
 

注意3他作品のネタが出ます。まずいと感じた場合、後ほど修正するかもしれません。


警告!

今回の話を守護者統括様に教えるのはお止め下さい。危険な化学反応を起こし、死者が出る可能性がございます。教える場合問題のない部分だけを教えて下さい。

大事なことなのでもう一度。危険な化学反応が起きますので、教えるのは絶対にやめてください。この物語の終わりがバットエンドしかなくなります

……よく読みましたね?では本編へどうぞ!

最初はパンドラです!


 今日ネムはアインズ様のお家に招待されている。

 

 話は前日に遡る。頻繁に来られるアインズ様のメイドのユリさんが訪れた。

 

「ネム様。アインズ様のご予定が付いたようです。明日来て欲しいとのことですが、御都合は問題ありませんか?」

 

 そう言われ、お姉ちゃんにも相談して何の問題もなかったので訪ねに行く事になった。

 

 実はまだンフィー君もいる。ニニャさん達もだ。あの人たちは本当にいい人たちだった。村のみんなも、村の外の人たちにも少し信頼できるようになった。

 

(でもあの人たちが、特別なだけかもしれない)

 

 お姉ちゃんが一番いい服をネムに用意してくれている。お姉ちゃんやシフ達と家の外に出てユリさんを待っている。そしてユリさん達が訪れた……初めて見る人がいる。その人の顔は変わっている。目と口の部分が無いのだ。あるのは黒い穴のみ……冒険者の人たちが何故か武器を手に掛けている。ンフィー君はお姉ちゃんを庇うように立っている。離れていたゴブリンさん達も何故か近づいてきている……近くにいた村の人も何故か農具を手に持っている。

 

(みんな何をしてるんだろう?)

 

 ネムには他の人たちの行動の意味が理解できなかった。

 

「みんな、何してるの?」

 

 その言葉に、ンフィー君が慌てて話しかけてくる。

 

「ネムちゃん!早く下がって!」

 

 ゴブリンさん達も同じように下がる事を促している。そこでようやくネムはみんなが怯えている事を理解した。なぜ怯えているかは理解できなかったが……

 

「なんで怯えてるんですか?」

 

 誰もその言葉に返事を返さない。まるで目の前から目を離したら危険だと考えているかのように……ネムはシフと一緒に歩き出す。その人のもとに……途中みんなが何か叫んでるが無視した。

 

「初めまして!アインズ様のお友達の方ですか!」

 

 

★ ★ ★

 

 パンドラズ・アクターは驚いていた。

 

(まさか、この少女が最初に話しかけてくるとは……)

 

 パンドラズ・アクターは今回ンフィーレアと顔通しをするために訪れていた。その過程で自分の容姿の事で一悶着あると理解していたが、何の問題も無いと考えていたのだ……自分の正体が父上に連なる者と理解させれば何の問題も無いだろうと……ただ一つだけ誤算があったとすれば、招待する少女が自分から話しかけてきた事だ。長く黙っているのも不自然なため踵をならして大きな動作で敬礼をする。

 

「お初にお目にかかります! 私パンドラズ・アクター! アインズ様の……そうですねシフと同じ認識で構いませんよ!」

 

「そうなんですか! 御友達の方かと思いました!」

 

 会話をしていると、冒険者達が近づいてきて話しかけてくる。

 

「……あなたは人を襲ったりしないんでしょうか?」

 

「もちろんでございます!」

 

 無論襲う事もあるが伝える必要性は無い。そしてネム嬢に向き直り話しかける。

 

「ところでネム嬢。何故私が怖いと思わなかったのですかな? 他の者達は皆怯えておりましたが?」

 

 何故自分を恐れなかったのか疑問を晴らす行動に出る。

 

「? なんで怯えないといけないんですか? ユリさんと一緒に来ているのに……それにシフも何もしてないです! ……それに怖い雰囲気が無かったです!」

 

 ネム嬢がこちらを見上げている。

 

 

(………父上がこの娘を気に入る訳ですね……とても純粋な意思で見てくる……それに父上から聞いた話を総合すると、ネム嬢こそ私が父上と家族になれた恩人でもありますね……)

 

「感謝いたします、ネム嬢!」

 

 なぜ感謝されたのか理解していないように頭に?を浮かべている。

 

「ではネム嬢。少しあちらでお話ししてもらっていて構いませんかな? あちらの方に話したい事がありますので」

 

 その言葉に頷いてユリ嬢のもとに向かっている。自分は目的のンフィーレアのもとに近づいていく。近づいた先にはエンリ嬢とンフィーレアがばつの悪そうな顔を浮かべている。近くに冒険者達がいるが問題は無いだろう。

 

(上手くいけば、彼らも利用できるかもしれませんしね……)

 

「先程も自己紹介致しましたが、お初にお目にかかります。私パンドラズ・アクターと申します!あなたは?」

 

 少し戸惑いながら目標が返答を返す。

 

「……先程は失礼しました。僕はンフィーレア・バレアレと申します」

 

「ネムの姉のエンリ・エモットです。すみませんでした……」

 

「構いませんよ! 実際人間から見れば警戒されても仕方ないですしね……聞いたところンフィーレア君は魔法詠唱者(マジック・キャスター)と聞いておりますが、普段は何を?」

 

 ンフィーレアに話しかける。冒険者たちは護衛として話す気は無いのだろう。

 

「はい。普段はエ・ランテルの町で薬師として働いています……それとエンリ達を助けて頂いて本当にありがとうございました!」

 

「了解しました!アインズ様に確かに伝えておきましょう!」

 

(……これならポーションの話をしても問題なさそうですね)

 

 ポーションの話を切り出すタイミングを考えていると、ンフィーレアが話しかけてくる。

 

「……パンドラズ・アクター様。助けて頂いた方にお願いするのは失礼かもしれませんが……お願いがあります」

 

 とても強い瞳でこちらを見て来る。

 

「お願いの種類によりますので……詳細をお願いします!」

 

「……僕を鍛えて下さいませんか……アインズ様に連なる方なら、お強いのも理解できます……お願いです! 僕をエンリを守れるよう鍛えて下さい!」

 

 周りが大声を出したためかこちらを見ている。エンリ嬢は顔を赤くして俯いている。冒険者たちは顔を赤くするかニヤニヤしている。

 

(これは、好都合ですね)

 

「…………幾つか条件がありますが、良いでしょう!君を鍛えましょう!」

 

「……いいんですか!ありがとうございます!……それでその条件とは?」

 

 その言葉に持っていたポーションを取出す。すると少し雰囲気が変わった。

 

「……それをどこで!」

 

「これはアインズ様の部下がお作りになられた物です。あなたは作れますか?どんな物か魔法で確かめてください」

 

 そして魔法を使い、ポーションを調べたのだろう……震えを隠せずにいる。

 

「…………いいえ。僕には作れません」

 

「では道具や材料を貸しますのであなたか、あなたの信頼できる者に作らせて頂きたい、この村でね。情報の流失も避けて頂きたい。それができるのであれば構いませんよ」

 

 少し考え込んでいるようだが……

 

「……分かりました!おばあちゃんもポーションの事を言えば必ず、協力してくれると思います!……でも皆さんが……」

 

 その言葉に冒険者が話しかけてくる。

 

「雇用主の秘密は守ります。冒険者として当然です……あ、でもポーションを安く売ってくれるのは大歓迎です」

 

 少し笑いながら冗談を言っている。

 

「皆さん……ありがとうございます! 普通のポーションであれば、この村に来て頂ければ安く売りますよ!」

 

「…では私の弟子になるなら、ンフィーレアと呼びましょう!詳しい話は、後ほど。それではユリ嬢手筈通りに!」

 

 転移の準備を行う。冒険者やンフィーレアが驚いていたので、他言無用にと彼らにだけ威圧感をだしながら伝えた。

 

「それでは、ナザリックに参りましょう。ネム嬢は私についてきて下さい。ユリ嬢は当初の予定通り、この場で護衛を……」

 

 ナザリックへネム嬢をエスコートしながら向かった。

 

 

 

 

 その場に残った者達は全員談笑をしていた。

 

「でも、凄いですね……転移まで行えるなんて……」

 

「本当にな。ニニャもンフィーレアさんと同じで、弟子入りさせてもらうのはどうだろう?」

 

「……魅力的ですけど……どんな条件が分かりませんから、遠慮しておきますよペテル……ところでルクルットは?」

 

 黙っていたダインが話しかけて来る。

 

「先程からユリ女史の所に突撃しているのである!」

 

 3人が困った顔を見合わせている。その近くではエンリとンフィーレアがお互いに顔を赤くしていた。

 

「……それにしてもアインズ様は凄い方なんだね……」

 

「……そうだね。ネムが御迷惑をかけていないと良いんだけど……大丈夫そうだね……今回も私と違って、パンドラズ・アクター様の事をしっかりと認識していたし……」

 

 エンリが落ち込み始める。ンフィーレアが慌てて話を変えようとする。

 

「……大丈夫だよ!……それにしてもユリさんはとても綺麗だね。もしかしたらアインズ様はおうぞ……どうしたのさ、エンリ!」

 

 エンリが泣き出している。 

 

「そう、だよね。私なんかより、ユリさんの方が綺麗だもんね……ンフィに私は吊りあわないよね……」

 

 周りの冒険者がンフィーレアに目で文句を言っている。「慰める時に別の女性の話題をするな!」と。

 

 最終的にンフィーレアは大勢の人の前で、エンリを愛していると叫んで抱きしめる結果になった……

 

 ネムがいない彼らの日常はこのように過ぎていった……

 

★ ★ ★

 

 ネムは茫然としていた。アインズ様のお住いに来ているからだ。その場所はまるでお姫様が出てくる夢の世界のようだった……そして…

 

「いらっしゃいませ」

 

 周りにはユリさんにも劣らないような、綺麗なメイドさん達がいる。床には塵一つなくて、天井にはキラキラ輝く物がぶら下がっている……そして視線の先には村を救ってくれたアインズ様がいる。ネムは感情の赴くままに大声を出しながら走り出した。

 

「凄い!凄い!凄い!」

 

 そしてアインズ様の下に辿り着く。

 

「アインズ様! アインズ様のお住い凄いです! 今日はこんなすごい所に連れてきてくれてありがとうございます!」

 

 骸骨なのに嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「ははは。構わないよ。ネム。凄いだろう、この場所は?」

 

「うん!凄いです!アインズ様が作られたんですか!?」

 

「そうだ。私の大切な仲間たちと一緒にな」

 

「凄いです!アインズ様も!お仲間の方達も!」

 

 一拍置かれた後アインズ様が大きく顔を笑わせる。 

 

「…そうだろう!…そうだろう!」

 

 頭をアインズ様が撫でながら…

 

「よし。このまま私達の家を見て回ろう!」

 

「はい!お願いします!」

 

「そうだな、まずは雑貨店に行こう!ここにはな様々な店もあるんだよ!……それと私達の供はパンドラズ・アクターがするから、お前達は解散しなさい」

 

 アインズ様がメイドの方たちに命令をしている。

 

「よし!では行こうか!」

 

 

 

 

 

 そして雑貨店に行くまでにも綺麗で凄い物がたくさんありそのたび「凄い!」と口から出る。

 

 アインズ様も常に「そうだろう!そうだろう!」と相槌を打たれる。

 

 雑貨店と言われる所に行くとかわいいお人形さんがたくさん置いてあった。

 

「かわいい!これもアインズ様達が作られたんですか!」

 

「そうだぞ!私は人形には余り関わっていないが、材料は一緒に集めたんだぞ?」

 

「すごーい!」

 

 そして奥に行くと、とっても大きくて口に、大きな剣を銜えた狼さんがいた。

 

「かっこいい!」

 

「そうだろう! 私も詳しくは知らないんだが確か、亡き友の墓を荒らす、不届き者達から墓を死ぬ時まで守り続けた、忠実な狼らしい……そういえば、確か彼の勇姿を保管したムービーがあると言っていたな。よし、後で彼の勇姿を見てみよう!」

 

「うん! 私も彼が動くところ観てみたいです!」

 

 そうしてそのム―ビ? を後で見る事が決定して、次の場所に連れていって貰う。

 

「すごーい!綺麗なお洋服がいっぱいある!」

 

「すごいだろう!ここはな、ブティックと呼ばれる場所で、綺麗な洋服から服を彩る雑貨まで置いてあるんだよ!綺麗だろう?」

 

「うん!とっても綺麗です!」

 

「……そうだな。よしさすがにここの物は仲間達と共同の物だからあげられないが、ここにいる間貸してあげよう!……さて何が良いかな?」

 

「いいんですか!ありがとうございますアインズ様!……それとアインズ様のお仲間の皆様!」

 

「ははは! …構わないとも! 仲間たちだって、使ってもらって嬉しいだろう! ……そうだな、私にはよく分からないからパンドラ! ネムに何か見繕ってあげなさい!」

 

 常に何もしゃべらずに傍にいた、パンドラズ・アクター様が動き出す。

 

「畏まりました! ではネム嬢。こちらの花飾りはいかがでしょう?こちらであれば、今後の予定にも差し支えずにすぐに付けられ、お似合いかと思われます」

 

「わぁ!ありがとうございます!パンドラズ・アクター様! アインズ様」

 

「構いません!」

 

「ははは! 私は何もしていないさ! ……似合ってると思うぞ? では次に行こう」

 

 次の場所に案内される。その場所は

 

「ここは、ネイルアートといってな、手や足の爪にお化粧をする場所なんだ?分かるかな?」

 

「お化粧?知らないです?」

 

 残念な事に知らない事だった。でもなんだかキラキラした爪がたくさん飾られている。

 

「うーむ。知らないか……いや生活水準を考えれば当然か……よし今日はネイルアートもしてみよう!いいかな?」

 

「……はい!私も試してみたいです!」

 

「いえ、ネイルアートは爪にする物ですから、ネム嬢には適さないかと……普段の作業が行いにくくなる可能性がございます……」

 

「そうなのか……すまないなネム。私は見ての通り骸骨だから詳しくないのだ……そうだな代わりと言っては何だが後で顔にでも、化粧をメイドか誰かにネムにさせよう」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 少し残念だが仕方ない。普段の仕事に影響が出るのは問題があるのだから。

 

「……では次の場所に向かおう!」

 

 それに元気よく応える。

 

「うん!」

 

 そして暫く歩いていると……

 

「……おいしそうなにおい! アインズ様、これなんてお料理なんですか?」

 

「……そうか。今はメイド達が、食堂で昼食をとる時間だったな。間違いないな、パンドラ?」

 

 パンドラズ・アクター様が大きく敬礼をする。

 

「はい!間違いございません!」

 

 その言葉にアインズ様が何かを振り払う様な動作を見せて、考え込む……

 

「……よし!ネムもお腹がすいただろう! 飛び入りで参加しようじゃないか?」

 

「いいんですか!わーい!」

 

「勿論だ! 構わないな?パンドラ」

 

 深くお辞儀をしながら返事が返る……

 

「無論でございます! しかし、よろしければ食事は特別な物をご用意いたしますが?」

 

 それにアインズ様が少し考え込み……

 

「……いや、特別なメニューは夜だ!ネムもそれで構わないかな?」

 

「うん!お願いします!」

 

「ははは! ……よし、では行こうか?」

 

 

 そしてアインズ様達と食堂に入っていった。入るとこちらに気付いたメイドさん達が一斉に食べるのを止める。

 

「アインズ様!?」

 

 同時に立ち上がって綺麗な姿勢になる。

 

「構わん。お前達もそのまま食事を続けなさい」

 

 それに対してメイドを代表してか赤髪の綺麗な人が「し、しかしそれは不敬では?」

 

 後ろに立っていたパンドラズ・アクター様が

 

「ルプスレギナ嬢。確かに普段であれば、不敬にあたりますが、あなた達が普段どのように過ごしているかの、査察の目的もあります。あなた達がどのように会話しているのかなどね? よってアインズ様は、この場にいない者としていつも通り過ごしなさい」

 

「……了解っす!」

 

 そして食堂の騒ぎが少しずつ戻ってくる。みんなおいしそうに食べている。

 

「……私としてはそんなつもりは無かったんだが……」

 

「そうでも言わなければ、彼女達はアインズ様に忠誠を見せるために、食べるのを止めておりました。それにアインズ様も、彼女達が普段どれだけ仲良くしているか、気になりますでしょう?」

 

「確かに、そうだな……よし、それでは私は空いている席をとっておくから、ネムと一緒に食事を取ってきなさい」

 

「畏まりました。ではネム嬢、食事をとりに行きましょう。ここでは好きな物を好きなだけ食べて良いのですよ?」

 

 少し驚くが納得する。促されるまま食べ物を取りに行く。

 

 そこには色とりどりの食べ物が置いてあった。

 

「凄ーい!パンドラズ・アクター様!ここにあるものって全部食べられるんですか?」

 

「勿論です。ただし、何度でもおかわりしてもよろしいですが、とっていいのは食べ切れる分だけです。それがここのマナーです。よいですね?」

 

「はーい!」

 

 様々な食べ物をパンドラズ・アクター様にどんな料理か教えてもらいながらとっていく。そして取り終わると、アインズ様がいる席に向かう。

 

「どうだい。ネム。選べたかな?」

 

「うん! みんなおいしそう! ほんとに食べて良いんですか!」

 

「勿論だ! それとここのマナーで食べる時は頂きます、と言ってから食べるんだぞ?」

 

 よく分からないが返事をする。

 

「はーい!」

 

「それでは、食べるといい。パンドラ。ネムがナイフとフォークを上手く使えない時はフォローしてやれ」

 

「畏まりました。ではネム嬢、頂きましょう」

 

「はーい!頂きまーす!」

 

 使いなれないナイフとフォークを教えてもらいながら一口食べる。

 

「おいしい!」

 

 どれも普段食べた事のない物ばかりだ。

 

「そうだろう?ここにいる料理人達はな、みんな一流なんだぞ? 凄いだろう?」

 

「凄いです!」

 

 頑張ってたくさん食べる。途中口が汚れた時には……

 

「ネム、口に食べかすがついているぞ?」

 

 ハンカチでアインズ様が拭いてくださる。なぜかその時周りが静かになったが、パンドラズ・アクター様が大きく咳払いをすると声が戻ってきた。

 

「ありがとうございます!アインズ様!」

 

「ははは。構わないさ。ゆっくり食べなさい。喉に詰まらせたら大変だ」

 

「はーい! そういえばアインズ様は食事はされないんですか?」

 

「ふむ?ネム私をよく見てみなさい?骸骨が食事できる訳ないだろう?」

 

「そうなんですか?……えっと魔法か何かで食べたりできないんですか? アインズ様とも一緒に食べたいです!」

 

 横からパンドラズ・アクター様が話しだす。

 

「確かに、アインズ様も一時的にホムンクルス等に、変身されるとよろしいのでしょうが……料理人達もアインズ様に召し上がって頂きたいでしょうし?……何か考えた方がよろしいかと?」

 

 その言葉にメイドさん達も静かになっている。アインズ様は深く考えておられる。

 

「………………確かに彼らのためにも、何か考える必要があるかもしれないな……そうだな、何か考えてみよう」

 

 その言葉に食堂が一気に騒がしくなる。特に料理を作ってくれる方達が大喜びしている。

 

「お前達。そこまで喜ぶな。照れるだろう。ほら食事を再開しなさい」

 

 そしてネムを含めて食事を再開する。先ほどよりも食堂が明るくなった気がする。

 

 最後に牛乳を飲みほす。

 

「ごちそうさまでした!」

 

 アインズ様に教わった挨拶をする。

 

「もう良いのか?おかわりしなくて?」

 

 アインズ様がそう言って下さるが、これ以上食べる事はできそうにない。

 

「もうお腹いっぱいです!おいしかったです!」

 

「そうか。私も嬉しいよ」

 

 メイドの方達はみんなまだ食べている。そこで少し気になった事を聞いてみた。

 

「そういえば、ここにいるメイドさん達もみんなユリさんと同じで、姪子さんなんですか?」

 

 食堂の空気が変わった。まるでこちらを一斉に全員が見ているようだ……

 

「そうだよ。彼らは私の大切な家族だ」

 

 食堂のみなさんが泣き出した。

 

「おっおい。お前達どうしたんだ!急に泣き出して?」

 

 私と同じくアインズ様も驚いていた。するとパンドラズ・アクター様が立ち上がる。

 

「アインズ様。ここの収拾は私が付けておきますので、ネム嬢と一緒に次の場所に向かってください。すぐに追いつきますので」

 

「そっそうか?ではネム。ここはパンドラに任せて二人で向かうぞ!」

 

「……はい!」

 

 二人でなぜか逃げるように食堂から立ち去った……

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ。あなた達。気持ちは分かりますが……」

 

 その場にいた全員を集めてパンドラは話を始めていた。

 

「でも、アインズ様から直接家族と言って頂けるなんて!」

 

 メイドの一人がそう言って全員が追従する。

 

「分かりました。分かりましたから、食事を再開して、業務に戻ってください。それこそ、アインズ様に対する感謝を示す事です」

 

「畏まりました!」

 

 そして全員が食事を再開する。一部プレアデスの者達が動いていたが、「アルベド様に今日の事は、私から伝えておくので、あなた達も食事を再開なさい」と釘を刺しておく。

 

(無いとは思いますが、今嫉妬にまみれた視線で乱入されるのも困りますしね。それに彼女には怪しい点がありますし…………少しですが、父上のお気持ちが晴れたようで良かった……ネム嬢感謝いたします)

 

 そしてパンドラはアインズ達の下へ歩いていく、今日一日、大切な家族が楽しめる環境を作り出すために。

 

 

 

 

 話はメイド達に戻る。

 

「本当にアインズ様はお優しいですね!」

 

 メイド達が嬉しそうに話す。

 

「本当ですね! ……そういえばアルベド様がおっしゃっておりましたが、現在パンドラズ・アクター様はセバス様の代わりで、アインズ様のお傍に付き従っておられるらしいですが、普段は何を?」

 

 これにプレアデスのナーべラルが応える。

 

「そうね……私も詳しくは知らないんだけど……財政面での責任者でもあるらしいわ」

 

「結構いろんな所に出没してるらしいっすけど?私も人づてに聞いた話っすけど……何でも守護者の方達の監査役もやってるらしいっすよ?」

 

「そういえば、シャルティア様の敗北にいち早く気付いたのも、パンドラズ・アクター様らしいわ。アルベド様から聞いた話だけど。とても怒っていらしたらしい」

 

 どんどんパンドラズ・アクターの話になる。そしてシズが聞いてくる。

 

「…………何に怒ってたの?」

 

「アインズ様を悲しませるような、真似はしないで頂きたいって。アインズ様は私達みんなを宝物と思ってくださっていて、私達が傷つくような真似は止めて頂きたいって」

 

 それにプレアデス以外のメイド達が泣き出す。

 

「そういえば、アルベド様に人間を下等生物と侮るのは止めるように言われたっすね」

 

「……話によると、油断からシャルティア様は人間に敗北したそうよ」

 

 ルプスレギナが顔を大きく顰める。

 

「あちゃー。それは大きな失態っすね……」

 

「……私達も気を付ける」

 

 この場にいる3人が頷く。

 

「そのとおりね。アインズ様を悲しませる訳にはいかないわ……でもパンドラズ・アクター様は何でアルベド様に、伝えないように釘を刺したでしょう?」

 

「……それに関連ありそうな事を聞いたっすよ!……何でもアインズ様の妃に相応しいのはアウラ様か私達メイド達誰かの方が相応しいって言ってたらしいっすよ!」

 

 全ての者達の時間が止まっていた……

 

「……それは本当?」

 

「本当っすよ!……だからあの人間は私達に向けての何らかのテストだったのかもしれないっす!……この場に来られたのも私達を見定めるためかもしれないっすよ!」

 

 ルプスレギナの話で食堂はよりカオスになっていった……

 

 メイド達の会話は弾んでいき、終わる事を知らなかった。最終的にその場にいた全員がメイド長に叱られた……

 

 

 

★ ★ ★

 

「やれやれ。少し急いだが、お腹の調子は大丈夫かな?痛くなったりしてないかい?」

 

「はい!大丈夫です……あっ、でも少しお手洗いに行きたいです……」

 

 少し恥ずかしいが用を足しに行きたくなったので、アインズ様に聞いてみる。

 

「何?そうか、ではトイレに案内しよう」

 

 そして綺麗な物をたくさん見ながらトイレに案内される。途中パンドラズ・アクター様も合流される。

 

「ではネム。こっちが女子トイレだ。使い方は分かるよな?」

 

「勿論です!行ってきまーす」

 

 そして中に入ると別世界が存在していた。最終的にどうすれば良いか分からずに、アインズ様に聞きにいった。

 

「……え?いや、そうかトイレ事情も違うのか……メイドを呼ぶのは間に合いそうにないし……パンドラ少し見張っておけ」

 

「畏まりました」

 

「では。ネム私も途中まで一緒に入って仕方を教えたら外で待ってるからな?」

 

 そしてアインズ様と一緒にトイレに入る。

 

「いいかいネム。下着は私が出てから脱ぐんだぞ?……用を足したら、このボタンを押すんだ。そうすると温水が出てきて洗えるから。そして濡れた所をここの紙で拭いて、拭き終わった物は中に落として、このボタンを押してからでて来るんだ」

 

 用を足した後言われたとおりにボタンを押したら「ひゃ」と少し驚いてしまった。その後言われたとおりにトイレを出る。

 

「アインズ様のお家って、おトイレも凄い!」

 

「そうだろう?……普段はどうしているんだ?」

 

「普段は家の近くに、壺を置いていてそこにしてます!」

 

 少し考え込むような仕草を見せて

 

「まぁ今は良いか。よし次の場所に案内しよう!」

 

「はーい!」

 

 そして、次に図書館という本がたくさん置かれた場所に案内される。実はその間に通った場所の方が気になったのは内緒だ。

 

「凄ーい!」

 

「ネム。喜んでくれるのは嬉しいが、ここでは静かにするのがマナーなんだ」

 

 少しアインズ様に注意される。

 

「はい。ごめんなさい」

 

「分かればよろしい。そういえば、物語は好きかな?」

 

「はい、好きです。ゴブリンさん達の名前もジュゲム・ジューゲムっていう物語から付けてるんですよ」

 

 少し二人とも、何かを考え込むかのようにしている。

 

「ネム。その物語の作者は知っているかな?」

 

「ごめんなさい。知らないです。お姉ちゃんや、ンフィー君なら知ってるかもしれないです」

 

 アインズ様とパンドラズ・アクター様が何かを話し合っている。

 

「では任せたぞ……確かあった。これはトム・ソーヤーの冒険という物語なんだが読んでみるか?」

 

「ごめんなさい。私、文字が読めないんです。物語は村のみんなから教えてもらったんです」

 

「そうなのか? ではここにいてもつまらないな。次に向かおう!」

 

「そんなことないです! こんな凄い所に連れてきて貰ってるのにそんなこと言いませんよ!」

 

「ははは!失礼したな、では次に向かおうか?」

 

「はーい!」

 

 そして次に来た場所は……

 

「ここはスパリゾートナザリックだ。体を洗う場所や浴槽がたくさんあって、楽しい所だぞ……そういえば普段は体はどうやって洗ってるのかな?」

 

「?えっと普段は濡れたタオルで体を拭いています」

 

「なに? そうなのか? ……ふむ、パンドラ、確かここの査察は終了していなかったな?」

 

 アインズ様が何かを聞いている……

 

「はい。スパリゾートナザリックの情報収集は最低限しか調べ終わっておりません。メイド達が入る事に関してはの安全は確認済みですが」

 

「……そうか。全ての危険性の確認が終わっていないなら、メイド達と一緒に入らせる訳にもいかないな……先程のメイド達の様子から一緒に入らせるのもな……ネムはまだ小さいし構わないだろう……どうせなら感想はその場で聞きたいしな……ネム。私と一緒で良ければお風呂というものを味わってみるか? 裸にならないといけないが、恥ずかしくないか?」

 

「いいんですか! お願いします!……大丈夫です!」

 

 そして3人で向かうかと思ったら……

 

「ではアインズ様とネム嬢で行かれて下さい。私の裁量で可能な業務を終わらせてきますので」

 

「そうか? では私の部屋から何かネムの着替えを見繕って持ってきておいてくれ。せっかく綺麗になるのだから新しい服があった方がいいだろう?」

 

「畏まりました。それなりの物を用意いたします」

 

「頼んだ。例の件にも関わるからな」

 

 私に向き直る。

 

「では行こうか」

 

「うん!」




「モモンガさん……ぺロロンチーノさんではなく、あなたがそんな事をするなんて……自首してください……まだ間に合います」

「…………見事な社会通念上の『悪』だな……」

「ちくしょー!そこを変われ、モモンガー!」 「弟、黙れ……残念です……ギルド長」

「「「………ギルド長………」」」 「ゴーレムスタンバイ!!」

よっしゃあ!ついにここまで来ました!

この作品を書いた目的の一つはネムとモモンガ様を一緒にお風呂に入れたかったからなんです!

おそらくネムとモモンガ様を一緒にお風呂に入れる作品は初だと自負しております!……もしいたらごめんなさい……

上の方でゴーレムスタンバイさせてる方がおられますが……マナー違反はしないので問題ないですね! 子どもと一緒に入るのはマナー違反ではないはず!お互い性的目的も無いですしね!……現状では

ところで皆さまの中に、カルネ村の人達のトイレ事情を知っている方はおられませんか?自分は分からなかったためこのように描写しました! 設定が分かれば変更するかもしれません!

アルベドを遠ざけるようにしたのも、全てはこの為だったんだよ!

次回完成しているので、作者が「この変態やろうが!」と罵られる覚悟ができた時点で投下します! え?十分変態だって? 聞こえませんね!

お待ちください!


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第8話 一緒に

決して、間違いなんかじゃないんだから!←作者の純粋な気持ちです


「では入るとしようか、ネム?」

 

「うん!」

 

 そしてタオル等を持って暖簾をくぐった。そこも別世界だった。

 

「わぁ!」

 

 少し部屋に見とれて足が止まってしまう。

 

「どうしたネム?」

 

「何でもないです!広くてきれいで驚いただけです!」

 

「そうか!そうか!……よしではこのロッカールームで服を脱いだら、風呂場に行こうか?中は床が水で濡れているから、走ったりはしないようにな?転んだら大変だからな?」

 

「はーい!」

 

 二人で服を脱いで風呂場に向かう。

 

「凄い凄い!」

 

 入った瞬間に空間の広さやお湯による湯気により驚いてしまう。

 

「そうだろう? ここは仲間達と一緒に作った物の中でも、特にお気に入りなんだ! ……まずはジャングル風呂に行こうか? 走らずに付いてきなさい」

 

「うん!分かりました!」

 

 アインズ様が様々な事を教えてくれる。

 

「この場所は、昔私達が住んでいた場所にある、アマゾン川をモチーフにして作成されている」

 

「それとネムは初めてだから、知らないかもしれないが、湯船につかる前には体を洗わなければならない。特に大風呂の場合はたくさんの人が入るから、体を綺麗にしなければならないからだ。それでは体を洗うとしよう。そこから液状石鹸という物が出てくるから、体とタオルをしっかりお湯で濡らすんだぞ? ……それと私は洗うのに周囲が汚れるから少し離れるといい」

 

 そう言われ一つ離れた所にイスと桶を置いて、お湯を溜める。そしてアインズ様がしているようにお湯を被る。

 

「……あったかい」

 

 そうなのだ。村の暮らしではお湯を作る事すら大変な作業なのだ……

 

(アインズ様はやっぱり凄い人なんだ……)

 

 理解していた事を改めて理解した。

 

 タオルに石鹸を付けて身体を洗い始める。初めての感触だが気持ちいい。まるで今までの汚れが全て落ちるようだ……そこにアインズ様から躊躇った様子で言葉が掛かる。

 

「……それと股の部分はやさしく、丁寧に洗うんだぞ? そこは清潔じゃないと病気になるかもしれないからな?」

 

 

「はーい! アインズ様達って凄いです!何でも知ってます!」

 

 少し照れくさそうにしている。

 

「ははは。知ってる事しか知らないさ。私より仲間達の方が詳しいしな?」

 

「それでも、そんな人たちと一緒にいられるアインズ様も凄いです!」

 

「……そうか!嬉しいよ、ネム」

 

 その間にも身体を洗う手は止まらない。

 

 ふと隣を見て見るとアインズ様が背中を洗いにくそうにしているのを気付いた。

 

「アインズ様! 私がアインズ様の背中を洗います!」

 

「……そうか。嬉しいぞ。ではこのブラシで洗ってくれ。タオルでは洗いにくいからな」

 

 アインズ様が背中を私の方に向けたので丁寧に洗い始める。

 

「上手じゃないか」

 

「ありがとうございます!アインズ様!」

 

 少し声を出して笑ってしまう。

 

「うん?どうしたんだいネム?何か嬉しい事でもあったかな?」

 

「はい!あります! いつも助けて貰ってばっかりのアインズ様のお手伝いが出来てます!」

 

「ははは!……いやいや、こちらこそ君達からいろんな物を頂いているが、そう言ってくれると嬉しいな……」

 

 そんな会話をしながら洗うのを続行する。途中「ここは洗いましたよね?」「ああ。しっかり洗ってくれているよ」等の会話を交わす。

 

 背中の部分を洗い終わると…

 

「ありがとう。ネム、それじゃ今度は私がネムの背中を洗ってあげよう。遠慮はしなくていいぞ?」

 

 するとアインズ様は私の脇に手を入れてくるんと回してイスに座らせた。そして私のタオルを手に持って洗い始めた。

 

「大丈夫かな?痛くはないかい?」

 

「うん!丁度良くて、気持ちいいです!」

 

 背中を洗い終わる。

 

「前は自分で洗うんだぞ?」

 

「はーい!」

 

 そしてさっきまで洗っていなかった部分を洗い始める。さきほどアインズ様に言われたとおり股の部分もやさしく丁寧に洗う。すると股の部分から不思議な感覚がした……

 

 

(何だろう?)

 

 自分でもよく分からなかったが、嫌な感覚ではなかった。むしろ気持ちが良かったのでゆっくり丁寧に洗った。

 

 十分に洗ったらお湯で石鹸を流す。

 

「洗い終わったみたいだな。気持ち良かったかな?」

 

「うん!とっても気持ちよくて、初めての感覚でした!」

 

「仲間たちと一緒に作ったもので喜んでくれるのは私も嬉しいよ!……さて私は洗い終わるのに、時間が掛かるから少し待っていてくれ」

 

 そう言われ、数分間隣で待っていた。

 

「さて待たせてすまなかったな。それでは湯船に浸かりに行こうか?」

 

「はーい! 付いていきます!」

 

 お湯が一面に張られた場所に到着した。

 

「わぁ! これ全部お湯なんですか?」

 

「そうだ。湯気が出ているだろう?……それでは入るとしよう」

 

 アインズ様が入られる。私も入ろうとするが、初めてなのでゆっくり足を入れていき「わっ!」少し驚いた声を出してしまう。そして少しずつ体全体をお湯に入れていき、肩まですっぽりと入った。

 

「……気持ちいい」

 

 我知らず声が漏れてしまう。

 

「そうだろう。お湯に浸かるというのはな、体に溜まった疲れが出ていくんだ」

 

「アインズ様のお仲間の人達が開発したんですか?」

 

 きっとキラキラした目でアインズ様を見ている。

 

「……そうだぞ!仲間達がナザリックで初めて作ったんだぞ!」

 

 小声でアインズ様が「……たぶん。でもこの世界でも、これだけすごい物はないから間違ってないはず……」何かを呟いていたが聞こえなかった。

 

「凄ーい!」

 

「…凄いだろう? それと長時間入っていたらのぼせてしまうから、途中で休憩を入れながら全体を回ろうか?」

 

「はい!お願いします!」

 

 暫くお湯につかった後…

 

「さて、それでは次の場所に向かおうか。のぼせてないな?」

 

「……はい!大丈夫です!」

 

 一旦お湯から出て次向かった場所は

 

「さて、次はここだ。詳しくは知らないが、大昔にあった国の一つローマをイメージした風呂らしい。では冷える前に入ろうか?」

 

 そしてそこでも温まった後……

 

「……どうだい、気持ちいいかな?ネム」

 

「うん!……そういえばあのライオンさんは作り物だったんですか?」

 

「そうだぞ。ここにある物は全て私達が力を合わせて作った物だ!」

 

「凄い!凄い!」

 

 とりとめない話をしている。

 

「よし次はゆず湯に行こう」

 

 また次の場所に向かう……

 

(どれだけ広いんだろう?)

 

 ゆず湯は思ったより深くて溺れかけた。

 

 それに気づいたアインズ様が…

 

「大丈夫か!」

 

「……はい。大丈夫です。でも私ここには入れそうにありません……」

 

 少し悲しい。アインズ様に勧められたことができないのは……

 

「……う~む……よし!ではこうしよう!」

 

 するとアインズ様が脇に手を入れて私を持ち上げて、アインズ様の膝の上に座らされた……

 

「これなら溺れないだろう。おしりは痛くないかな?骨だからごつごつしてるかもしれないが」

 

 ごつごつしているが痛くは無い。その事を正直に言う。

 

「そうか。それなら良かった。ネムはお客様だからな……主人として少しでも、もてなさないとな……この風呂は気持ちいいか?」

 

「うん。とっても気持ちいいです! なんだか身体の奥がポカポカします」

 

「そうだろう! ここを主導して作り上げた人はベルリバーさんといって、彼が言うにはゆず湯は身体に良くて、風邪等の予防ができるらしい。確か他にも幾つか効果があったはずだから、ネムにとってここが一番有益かもしれないな……」

 

「そうなんですか!? だったらもっと入っていたいです!」

 

「よしよし。それでは暫くここに浸かっておこう」

 

 時間は流れる……

 

★ ★ ★

 

「ふわー。気持ち良かったです!」

 

 あれから暫く立ち、二人はリラクゼーションルームに来ていた。残念な事に全てを回る事はできなかったらしいが、「次の機会の楽しみにしておこう」といわれ喜んだ。また来てもいいと言ってくれているのだから。

 

 今は浴衣と言われる物を着て、気持ちがいいイスに座っている。

 

「私としても、お客様をもてなせたようで良かったよ……」

 

 浴衣を着たアインズ様はとても機嫌が良さそうだ。……時々嬉しそうにしている時に、いきなり何も感じてないような表情になるのは何なんだろう?疑問に思っているとアインズ様に何かを差し出される。

 

「飲みなさい。お風呂の後に牛乳が定番らしい」

 

 と差し出され、飲んでみる……

 

「……おいしい!」

 

 なぜかお昼の時に頂いた牛乳よりも美味しく感じた……

 

「お昼に頂いた時よりもおいしく感じます!」

 

「それはな、火照った身体を牛乳が冷やしてくれるからだよ」

 

「……やっぱりアインズ様は物知りです!」

 

「ふふふ。当然だろう?なにしろ私はここを作った者達の仲間なんだから!」

 

「凄い!凄いです!」

 

「ありがとう……そうだ。その椅子にはボタンがあるだろう?それを押すとマッサージを自動でしてくれる。試してみると言い」

 

「はーい!」

 

 その言葉に従いボタンを押してみる。

 

「……くすぐったいです」

 

「なに? そうかネムにはまだ早かったか……もう少し大きくなってからもう一度試してみよう」

 

 そしてアインズ様がボタンを押して止めた。

 

「さて、一休みもできただろう? それにしても長く浸かってしまったな……のぼせてはいなさそうだな……それでは丁度お腹がすく頃合いだろう。お風呂から出て先程ネムに約束した特別な料理を食べに行くとしよう?…私もそばにいるから感想を聞かせてくれ」

 

「はい!分かりました! ありがとうございます!」

 

「ははは。構わないさ! さて服はパンドラがロッカールームに持ってきているだろう。では行くとしよう」

 

 言葉に従い立ち上がる。ロッカールームに来てみると見た事のない程上等な服と下着が置いてあった。普段では決して着る事のできないような物だ。服の色は私の髪色と同じ赤色だ。普段の下着はドロワーズとお姉ちゃんが言っていた物だが、形が違う。色は白色だ。

 

「ふむ。なるほど、さすがパンドラだ。ネムに似合いそうな物を選んでいる。遺産級(レガシー)なら丁度いいな」

 

 その言葉に驚いた。自分がこんなに上等そうな物を着て良い事に。

 

「……本当に着ても良いんですか!」

 

「勿論だ。それにその服と下着はネムにあげよう。私が持っていても宝の持ち腐れだしな」

 

「…本当に! 本当に良いんですが!…ありがとうございます! 大切にしますね!」

 

「ネムみたいな、かわいい子が着てくれるのは私も嬉しいよ」

 

 下着を身に付けて、服を手にとり着ようとするが……

 

「あれ?アインズ様、サイズが合いませんよ?」

 

「ああ。そうか知らないのか。それらはマジックアイテムの一種だから自動的に着用者のサイズにあうようになっている。騙されたと思って着てみなさい」

 

 言葉に従い服を着て見ると……

 

「本当だ! 私にピッタリになってる! 凄ーい!」

 

「さてネムの疑問も解決できたみたいだし、行くとしようか?」

 

「はーい!」

 

★ ★ ★

 

 またアインズ様達が作った凄い通路を通りながら、アインズ様のお部屋に案内された。中にはパンドラズ・アクター様と、犬の頭のメイドの方が一人おられた。

 

「わぁ! ここがアインズ様のお部屋なんですか!? 凄いです!」

 

「凄いだろう?……パンドラズ・アクター、仕事は終わったか?」

 

 敬礼をしながら返事をされる。

 

「はい! 完了いたしました! それと先程ネム嬢に化粧をすると約束されておられましたので、メイド長をお連れ致しました!」

 

「……なるほど。しかし他のメイド達の統率は大丈夫なのかペストーニャ?」

 

 それに対してペストーニャと言われた人が返事をする。

 

「……実は他の者達が食事の時間が過ぎても、仕事に戻らなかったため、少し説教を致しました……わん。そのためアインズ様のお客様にお仕えするのに、失礼があってはならないと思い、パンドラズ・アクター様と相談の上、私が参りましたわん。部下の統率ができず申し訳ございません」

 

「…………やはり休みがない事が問題か? 後ほどアルベド、パンドラズ・アクター両名と相談して適切な休暇を設けるようにしてくれ。ペストーニャ」

 

「……畏まりましたわん」

 

「それではネムに化粧をしてやれ……そうだな私も同席させてもらおう。ある程度ドレスルームも片づけたからな、そこでしよう。ネム付いておいで。パンドラズ・アクターは夜の料理の準備を頼む」

 

「畏まりました」

 

 アインズ様に連れられて、ドレスルームに案内された。

 

「ふむ…位置が変わっている物があるが、パンドラが探した時にずれたのか?……今考える事ではないな。さて、では私はここで見ていよう。始めてくれ」

 

「畏まりましたわん。ではネム様こちらのイスにお座りください」

 

 座り様々な物を付けられていく。30分ぐらいたっただろうか。全てが終わって鏡を見ると茫然とした。

 

「……私?」

 

 目の前の人物が私には見えない。とても綺麗になっている。すると後ろから拍手が鳴り響いた。

 

「見事だペストーニャ。ネム、より可愛くなったな」

 

 茫然としていて答えられない。

 

「むっ。どうした?何か嫌だったか?」

 

「違います! 私ってこんなに綺麗になれたんだ……」

 

「ははは。元々可愛かったさ。さてリビングルームに向かおうか。そろそろ食事の準備ができるはずだ。ペストーニャは普段の業務に戻ってくれ」

 

「畏まりましたわん」

 

 ペストーニャさんと別れて、二人でリビングルームに向かった。そこにはすでに料理が並べられていた。

 

「……わぁ! お昼よりおいしそうです!」

 

「本日のコースの最初のメニューはピアーシングロブスターになります。ネム嬢早速お召し上がりください!」

 

 パンドラズ・アクター様が大きくお辞儀をしながら仰る。

 

「アインズ様! 本当にいいんですか!」

 

 なぜかアインズ様が頭を抱えた動作を少ししていたが……

 

「……もちろんだ! 私の分までおいしく食べてくれ。それとパンドラよ、食事前にそれほど大きな動作はするな。ネムの料理に埃が入ったらどうする?」

 

「これは申し訳ありません! 以後自重いたします」

 

「あぁ…本当に、自重してくれると嬉しい。……さてネム、今回は我々だけだからテーブルマナーに気を遣う必要はないから、好きに食べるといい」

 

「いえ、折角ですので私がより詳しく教え致しましょう。今後もアインズ様がお招きになるのであれば、理解しておく必要があるでしょう。よろしいですね?ネム嬢……それとアインズ様か私だけの時は名前を略して頂いて結構でございます!」

 

「はーい! 教えてください、パンドラ様!」

 

「ふむ? しかしそれでは私が食べ物を食べられる種族に変身した時困るな? 私は知らないしな?」

 

「本来なら、なくてもよろしいでしょうが、大勢の前で食べる時にマナーを知らないとネム嬢を他の者達が侮る結果になりかねません。ですので基本を押さえて貰いたいのです……次回から必要ない時は煩くは言いませんので御容赦を」

 

「……なら仕方ないな」

 

 様々な事を学びながら、食事を頂いた。ナイフやフォークは外側から使う事や、食べてる途中にパン等を食べる時は八の字に置く事。一つの料理を食べ終えた時は揃えておくと食べ終えた合図等だ。全て初めての事で難しかったが、楽しかった。

 

 料理の中にはあま~い物やドラゴンのお肉まであった。全ておいしく頂いた。今は食後の飲み物を頂きながらアインズ様とお話ししている。

 

「アインズ様! 今日は本当にありがとうございました!」

 

「ははは! 構わないとも! それだけ私達が作った物を喜んでくれたんだからね……ネム今日は泊っていかないかね? もう時間も遅いし、折角だからもう少し私も話したいしね? どうだろう」

 

 この言葉に驚くが嬉しい!

 

「いいんですか! ……でもお姉ちゃんが心配します……」

 

「あぁ。それならパンドラ、ユリにメッセージを送って私がネムを、家に泊めたいと言ってると伝えさせてくれ」

 

「畏まりました…………………………エンリ嬢から許可が出たようでございます!」

 

「……本当にいいんですか! ありがとうございます! アインズ様、パンドラ様!」

 

 それに対して少し照れた仕草をしている。

 

「構わない。それでだネム、大事な話がある」

 

「?何ですか?」

 

「実はこの間冒険者が来た時だが、シフから私に伝言が来た。何者かが近づいてきているとな……それで私も魔法でネム達を見ていたんだが、なぜ最前線に立ったんだ? お姉ちゃんを悲しませる行為だぞ?」

 

 少し咎めるような声だ。

 

「ネム達の安全を考えるのであれば、シフとゴブリン達だけで奇襲させるべきだったと思う。それが最善だったはずだ」

 

「……」

 

「確かに今回は敵ではなった。しかし世の中にはだ、私にすら匹敵する存在がいるかもしれない。そんな時に前線に出ていれば、助かる事はできないぞ?」

 

 アインズ様は優しく諭すように言い聞かせる。危険な行動は慎むべきだと……

 

「…………それでも、もう守られるだけは嫌なんです。……あの時も、お父さんやお母さん、お姉ちゃんも私を守ろうとしてくれました。でも私には何もできなかったんです……」

 

 

★ ★ ★

 

(ネムは強いな……)

 

 シフもゴーレムもアインズが与えた存在だ。それは事実だ。だとしても彼らと一緒に戦おうとする。大切な人たちを守ろうとする。……たとえ力があっても難しいだろう……ネムに限って言えば非力だ……

 

「……すまないなネム、泣かせてしまって」

 

 優しく抱きしめる。まるで宝石(自分にはなかった物)に触れるように。

 

(私にはこの力があるからNPC(子ども)達を守ろうと行動できる。もしなかったら私にはネムと同じような行動ができただろうか…………守られるだけになっていたのではないか……それを認める事はできないな……)

 

「もうネムが戦おうとするのを、止めはしないよ……私も応援しよう。そうだな、まずはこのネックレスだな」

 

 そして小さな鳥の翼を象るネックレスを首にかける。

 

「そのネックレスに意識を集中してみなさい」

 

 ネムが少し赤くなった目でネックレスに集中をしている。

 

「え?私、浮かんでる?」

 

 茫然と呟いているのが見える。

 

「そうだ。そのネックレスの力で意識を向ければ空を飛べるようになる……訓練がてら、この部屋の中で移動するときは浮かんでいなさい……」

 

 それから様々なアイテムを与える。騎乗している場合に自身と動物の能力を上昇させる指輪。防御力を高める指輪。能力上昇系や魔法抵抗力上昇、移動阻害の指輪等を9つ付ける。また頭にも盲目化や精神に対する干渉を防ぐ効果がある、ティアラを付ける。そこまで大きくは無く、なぜか柔らかいので、眠る時にも邪魔にはならないだろう。また今まで履いていた靴も脱がせ、足の速さを高め、防御力もある革の靴をはかせる。全てアインズには不要な物だ。(この世界から見た場合大変な価値がある物ばかりだが……)

 

 「最後にこれだ。維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)だ。これを付けていれば肉体的な疲労などが無くなる……普段は必要ないかもしれないが危険な時には、付けるんだぞ?」

 

 優しく手渡す。

 

「本当に……いいんですか?」

 

「構わない。それで自分の身と家族を守るといい」

 

「……ありがとうございます! アインズ様!」

 

 そしてネムは大事そうに維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)も指に付ける。

 

「ふむ? ネム維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)は有事の時だけ付けた方が……」

 

「そんな! アインズ様から頂いた物を付けないなんてことできません!」

 

「まぁ。ネムがそう言うならいいか……それとシフの上で戦うなら武器が必要だな」

 

 そしてどんな武器が相応しいか考えて……

 

「……そうだな。ネムには鞭が相応しいだろう」

 

(恐らくレベルが上がればアウラの職業に近い物になるだろうし……)

 

 考えながら遺産級(レガシー)の鞭を取り出す。

 

「この鞭もネムにあげよう。村に帰ったら特訓するといい。確か特殊効果に騎乗していた場合にボーナスがあったはずだから……シフに乗りながら戦えるように、訓練するといい」

 

「それと先程あげた服はできる限り着ておくんだぞ? 確か似た物が、幾つかあったはずだからそれも明日あげよう」

 

 大体ネムにする事は終わった。次にするべき事は……

 

「そうだな。私と仲間達の冒険の物語を聞きたくないかな?」

 

 そうだ。大切な仲間と言ったが、どんな冒険を繰り広げたかは教えていなかった。

 

「……聞きたいです! アインズ様とお仲間の方々の物語」

 

「ははは! そうだろう! ……よし、パンドラ。少し準備をしてきてくれ」

 

(……それにしても、鎮静化は有用でもあるが、邪魔でもあるな……完全なる狂騒は数が少ないし、自身で鎮静化をON、OFFできないのは痛いな……それに私も料理を食べてみたいし………一時的に変身できる物を本格的に探すべきだな……一度パンドラ達と酒を飲み交わしてみたいしな……)

 

「畏まりました。ネム嬢にお見せするのですね? 本日はたっち・みー様でよろしいでしょうか?」

 

「頼む!さて、では場所を変えるとしよう。ネムが寝たい時にすぐに寝れるようにな」

 

維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)があるとはいえ、眠りたくはなるだろう。子どもなのだからな……アウラ達にも何か考えた方がいいな……)

 

 

 

 客用寝室に向かう。ネムが見開いている。恐らくあれだけ大きなベッドを見るのが初めてなのだろう……

 

「さて、今日ネムが眠る場所があそこだ……」

 

 呆然としている。

 

「……いいんですか? 何だか物語のお姫様になったみたいです……」

 

「確かゴブリン達から「姫さん」と呼ばれていただろう?ネムもお姫様の一人さ……さぁ遠慮せずにベッドの感覚を確かめるといい。」

 

 その言葉に空をフラフラと飛びながら、ベッドに降りる。靴を履いたままだが、メイド達が綺麗に床を掃除している上に、新しい靴で空を飛んでいるから問題ないだろう。

 

「……凄い。凄い!凄い!凄いです!こんなふかふかなベッド私初めてです!」

 

「凄いだろう?……暫くベッドの感触を楽しむと言い」

 

 その言葉に従ってかベッドの上を転がって遊んでいる。途中パンドラから『たっち・みー様の装備を持って戻ってまいりました!』とメッセージが来るので、私が合図をしたら入ってくるようにする。

 

 ネムも落ち着いたのかこちらを見上げている。

 

「さて……何から話したものか。そうだな私達の出会いの話をしよう! ネムも聞きたいだろう?」

 

「はい!聞きたいです!」

 

「そうか!……あれはずっと昔の事だ。私がまだまだ弱い時の頃だ……その頃私はアンデッドという理由で何度も殺されそうになっていた」

 

「アインズ様を殺そうとするなんてひどいです!」

 

「ははは。まぁ確かにその通りだ。……私は絶望していた。……そして奇跡が起きたんだ。私が止めを刺されそうになった時」

 

 ネムが少し泣きながらこちらを見上げているので、頭を撫でながら答える。

 

「大丈夫だ。私は死んでいない。私はたっちさんに救われたんだ。……そしてたっちさんに救われた恩を返そうとして、ネムやカルネ村の者たちから様々な物を頂いた……」

 

「……私達が、アインズ様にあげた物? ……何ですか?」

 

 頭に?を浮かべた表情で見上げている。

 

「そうだな……それは内緒だ」

 

「ええ! 教えてください!アインズ様!」

 

「また今度だ。さて話を続けよう」

 

 渋々納得しながら聞く態勢にネムが戻る。

 

「たっちさんの口癖だったんだが「誰かが困っていたら助けるのは当たり前」その言葉にどれほど救われたか……たっちさんに連れられて、四人の仲間達と出会い私とたっちさんを含めた6人でチームができたんだ」

 

 まるで自身の思い出を知って欲しいかのように、言葉は止まらない。

 

「私のように弱かった人達を含めて9人のチームが出来上がった。私が住むナザリックの原点だ。聖騎士……刀使い、神官、暗殺者、二刀忍者、妖術師、料理人、鍛冶師、そして私。最高の仲間達だ……さて、ネムに問題だこの中で私を救ってくれた人とは誰だと思う?」

 

「…………聖騎士さん?」

 

「ほう!なぜそう思ったのかな?」

 

「だって「誰かが困っていたら助けるのは当たり前」って人を助ける言葉を言うのは聖騎士さんだと思ったからです!」

 

「ふむ? 確かにそうだな? しかしそれなら神官でも構わないんじゃないかな?」

 

 まったく悩むそぶりを見せずに……

 

「だってアインズ様、聖騎士さんの事を言う時だけ、より嬉しそうになってました!」

 

「……ははは! …そうか! …そうか! ……そうだな。その通りだ。今日は特別にたっちさんの姿を見せてあげよう!」

 

 ドアが開けられて、たっちさんに変身をしたパンドラが入ってきた。正義降臨のエフェクトを浮かべながら……

 

「……かっこいい! あの人がアインズ様のお仲間さんですか?」

 

 アインズは答えられなかった。確かにパンドラは似ている。しかしやはり何かが決定的に違う。

 

「……アインズ様?」

 

 ネムが見上げてくる。

 

「……ああ、そうだ。あれがたっちさんの姿だ。パンドラ、もう戻れ」

 

 そして一瞬立つとそこには、パンドラに戻っていた。

 

「わっ!パンドラ様だったんですか!」

 

「……その通りでございます!ネム嬢!私はアインズ様を含めたお仲間方全てに変身する事ができるのでございます!」

 

「凄ーい!……アインズ様?どうしたんですか?…………泣いてるんですか?」

 

 何も答えられない……するとネムが浮かんで、優しく私の頭を撫でている。しばらくたつとネムは私を抱きしめてきた。……されるがままにさせていたが、嫌ではなかった……ネムの温もりを感じられて……

 

 

★ ★ ★

 

「すまなかったなネム。少し昔を思い出して茫然としていた。ありがとう」

 

「私こそ、いつもありがとうございます!」

 

 父上とネム嬢が話しておられる。

 

「……それでは、私達の冒険の続きは次回にして、昼ごろ約束した、灰色の大狼のムービーでも一緒に見ようか? いつでも眠れるように、ネムはベッドに横になりなさい」

 

 それにネム嬢が少し躊躇いながらお願いをする。

 

「……アインズ様。その一人で眠るのは怖いです…………一緒に眠って頂けませんか?」

 

 目を伏せがちにお願いしてくる。

 

「なに? ……いや、そうだな。私が無理やり引きとめた訳だしな……いいだろう。では用意をしてから一緒に横になろう」

 

「…いいんですか?ありがとうございます!」

 

「では、眠る前に行かなくて済むようにお手洗いに行っておきなさい。向こうのドアを開けたらあるから。使い方は覚えているな」

 

「はーい!大丈夫です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が行動を開始している。ネム嬢が見えなくなった辺りで声を父上に声をかける。

 

「では、父上。私も今日はこの辺で、失礼しようと思います」

 

「ああ。たっちさんの予備の装備は宝物殿に戻しておいてくれ」

 

「畏まりました!」

 

 深々とお辞儀をして部屋の外に向かう。

 

(ネム嬢……いえネム様。父上を元気づけて頂きありがとうございます)

 

 自分が変身した時、父上は寂しそうな表情を見せた……やはり本物のたっち様と違うからだろう……大丈夫かと思ったが、最後にはネム様のお陰で問題はなくなっていた。

 

(私では、御慰めできない事も、ネム様は成し遂げてくださった…………恐らく現状で精神的に父上に一番近いのはネム様でしょう……ネム様こそ私の母になる方なのかもしれませんね……父上が幸せになれるよう、私も全力で応援させて頂きましょう!)

 

 パンドラは決意を新たにして、装備を見つからないように宝物殿に戻す。そして、現状での危険要素が存在する者(アルベド)の部屋に、誰にも見つからないように内偵に向かう……そこでパンドラズ・アクターが見たものは……




覚悟完了!

如何だったでしょうか? これぐらいなら問題ないはずだ! 原作でも押し倒すシーンがありますしね! 下着を濡らすシーンやお風呂シーンもありますもんね!

ちなみにネムの服のイメージはリリカルなのはのヴィータからとっております。何故か?これ以外に赤髪ロリでピンと来る物が無かったんですよ!

考えて見て下さい。ヴィータみたいなゴスロリ服を着たネムがシフに跨り鞭を装備する…………こう何か込み上げてくる感情がありませんか?

下着に関してはWEB後編にて紳士な貴族が「下着を着ていてあれだというのであれば」のセリフから下着を付けていない人もいるのではないかと考えました。しかし現地の人の下着を奪って値段を決めるシーンもあるので、それなりの人であれば一般的な下着を着用すると考えました。

カルネ村は農村なので、ドロワーズにしましたb

なぜドロワーズなのか?簡単です……作者の趣味です(真顔)

維持する指輪を付けると成長に悪影響が出るかもしれないと書かれておりました!……これでエターナルロリータに近づきました!

次回はアルベドやパンドラ達の裏側を描きたいと思います!


最後に一言……決して現実では真似しては行けません!

p.s くろきし様から素晴らしい挿絵を頂きました! 許可を貰えたので乗せました!

上手くのせられているかな?


【挿絵表示】


くろきし様よりコメントです
【注】
(局部は湯気で隠してますけど肌色は多いので嫌いな人はスルーでお願いします。)
とのことです! つまりそう言う事です! 大事な部分は隠れているのでR18ではないです! ちなみに湯気無もあるとの事です!

本当にありがとうございました!


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第9話 裏側

お待たせしました!

シャルティアの口調が難しい……

一部言葉足らずで誤解させる描写が出ます。ご注意ください byパンドラ


 現在アルベドは慰め(説教)のために、シャルティアの部屋をアウラと訪れていた。

 

「シャルティア……あなたは自分が何をしたのか本当に分かってるの?」

 

 シャルティアが頭をさらに俯かせる……

 

「アルベド、確かにその通りだけど、今回はアインズ様の御命令でシャルティアを慰めるために来てるんでしょう?……私もアインズ様を傷つけたシャルティアに思う所はあるけど……私達も御命令を守らないと……」

 

 アウラがシャルティアを庇う……

 

(確かに表向きはそうよ。実際は二度と同じ間違いをシャルティアにさせないように、守護者統括として説教するために、パンドラズ・アクターと決めた事なのよ!)

 

 何度そう叫ぼうかと思ったか……しかし、事実アインズ様の御命令を逸脱していると言われても仕方ないため、何度もこのような事を繰り返している……

 

(……それにしても何故アウラが妃に相応しいと、パンドラズ・アクターは言ったのかしら……今考える事ではないわね)

 

 関係ない事を考えていると、シャルティアのシモベが話しかけてくる。……3人の雰囲気に恐れて及び腰になっているが……

 

「アルベド様……パンドラズ・アクター様がお見えです。アルベド様、アウラ様、シャルティア様とお話をしたいとの事でした。如何なさいますか?」

 

 アルベドは少し考え込む。なぜ、パンドラズ・アクターがここに見えたのかと……

 

(確か、今日はアインズ様の心を晴らすために催し物をするって言っていたけど……私を参加させないのは……違うわね、私にも罰を与えてるのかしら……守護者統括なのに、階層守護者にアインズ様の命令を守らせる事ができなかった事に対して……)

 

 それを考えるとパンドラズ・アクターには私の仕事を奪った事に不快感を。シャルティアには怒りを覚える……アインズ様の心に深い傷を残した事に対して……

 

「……オッケー! 通してよ! 話も進んでないしね……構わないよねアルベド?」

 

 何も喋らない私に代わりアウラが返事をする。頷く事でアウラへの返答にする。シャルティアには聞かないのはアウラも怒りを持っているからだろうか……

 

 パンドラズ・アクターが入ってくると、大きなアクションをしながら言葉をかけてくる。

 

「皆さま! 話は進んでおられますかな?」

 

 頭を下げて挨拶したのだろう……すぐに本題に入ってくる。

 

「全然……アルベドがすぐに怒って、慰める段階にならない……気持ちは分かるけどさ……」

 

 アウラの言葉にシャルティアが震えていた……だが誰も反応はしない。恐らく他のNPCでも同じだろう。シャルティアは許されない事をしてしまったのだから……

 

「……なるほど、ではアルベド殿本来の目的である、シャルティア殿の説教は行っておられないのですね?」

 

 その言葉にアウラが目を見開いて驚き、シャルティアが恐怖の表情を見せる。

 

「……そうなのよ、一応言わないでいたからね」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!アインズ様の御命令はシャルティアを慰める事じゃないの?」

 

 その言葉にパンドラズ・アクターが頷く。

 

「ええ。その通りでございます! しかし任せると言われているので……先に説教を行って頂いてから慰める手筈でございました!」

 

 アウラが少し考え込みながら疑問を口にする。

 

「……でも、それってアインズ様の御命令を逸脱してない?」

 

 パンドラズ・アクターが大きな動作をしながら疑問に答える。

 

「確かに。その通りかもしれません。しかしながら、アインズ様はお優しすぎる……私の進言がなければシャルティア殿を無罪放免にしようとされておられました。もし表だって説教のためと言えば、却下されていたでしょう……それが悪いとは言いませんが、アインズ様を打倒できる可能性を持つ存在が身近にいるのです……シャルティア殿にはその罪をしっかり認識して頂きたい……ところでアウラ殿、シャルティア殿。ここに私が録画しました、アインズ様とシャルティア殿の戦いのムービーがございます……シャルティア殿の罪を認識して頂くためにも、ご覧になって頂きたいと思います。統括殿、構いませんね?」

 

 その言葉に大きく頷く。アウラは近くにいたが会話全てを聞いていないから庇うのだろう……ほとんどのNPCが目を逸らすだろうが……自分の創造主こそが彼らにとって一番に変わりは無いのだから。

 

「もちろんよ。私としても今回の失態は流すのは許されない事と認識しているわ……しっかり自覚させなくちゃね?」

 

 

 

 ム―ビーを見る……

 

★ ★ ★

 

「さて、シャルティア殿。御気分は如何ですかな?」

 

 真っ青だった顔がさらに青くなっている。アウラ殿も放心しているようだ……

 

「アウラ。これで理解できたでしょう? あなたは近くにいたけど、全ての会話を聞いていた訳ではないから気付けなかったでしょうけど、シャルティアの問題は、あなたが思っている以上に深刻なの……もしパンドラズ・アクターが動いてなければ、犯人の目星すら付けられなかったのよ?」

 

 やさしくアウラ殿に言い聞かせるように統括殿が話している。

 

「その通りでございます! さてシャルティア殿、何か言いたい事はありますかな? この事態はあなたがアインズ様の御命令をしっかりと、守っていれば防げたはずの事です」

 

 シャルティアは威圧感を覚えているだろう。デミウルゴス辺りは、この後に起こる出来事に気付いて、会話を中断させようとしたかもしれない。同じく気付けるアルベドは、止めない。

 

「…………何もありんせん。全て私が悪いでありんす」

 

(……シャルティア殿……私はあなたに対して怒りを抱いている……ぶつけさせて頂きましょう……怪しさが存在するアルベド殿に対する牽制のためにも、ね)

 

「さて、では私があなたに対して一番怒っている事は何だと思いますか?」

 

 シャルティアは顔を俯かせて答えない……代わりにアウラが答える。

 

「……アインズ様の御命令を守らずに、アインズ様と敵対した事じゃないの?」

 

「確かにそれもあります。しかし私が一番怒っているのは……「あの御方の方が優れている証明」……でしたか?」

 

 アウラも顔を俯かせる……シャルティアの言葉を否定する事はできないのだから。

 

「なるほど……確かに自分の創造主が一番優れていると考えるのは必然でしょう……しかしそれは心に秘めておくべきものです……あなたが自分の意思で言った訳ではない事も理解しております……それでも言わせて頂きましょう……この地を捨てた方とモモンガ様を比べるなぞ、厚かましいにも程がある!!」

 

 空気が変わった。シャルティアとアウラが殺意をこちらに向けている。唯一変化を見せないのはアルベドだけだ。

 

(……やはり、アルベド殿には何か隠し事があるようですね……本来なら怒りを抱くのが当然の言葉のはず……メイド達も部屋に入れていないとの事ですし、私室の内偵も必要かもしれませんね?)

 

「黙れ!! 置いていかれた事も無いのに、勝手な事を言うな!!」

 

 怒りの咆哮であった。誰もが同じ反応を示すだろう……パンドラズ・アクターだけには、創造主が残っているのだから。しかし何も動じる事は無い。彼らとは立ち位置が違うのだから。

 

「ええ!その通りでございます!……モモンガ様は誰よりもお優しい! あなた方に全力で家族として愛情を向けられている!……私がナザリックを捨てるべきだと進言しても、却下されるぐらいにね?」

 

 その場にいた者全ての空気が死んだ……アウラも、シャルティアも、アルベドも、近くにいたシモベ達も……

 

(……見極めさせて頂きましょう、アルベド殿の真意を)

 

「……………今、あなたは、何と、言ったの、かしら」

 

 アルベドが、今にも死んでしまいそうな表情で問いかけてくる。

 

「この地を捨てるべきだとモモンガ様に進言しました。邪魔立てする者があれば、私の手で処分するとも」

 

 誰も動いていない……ただ自分を見つめている。何を言っているのか、理解したくない顔で凝視している。

 

「はっきり申し上げましょう。私の心は今でも、モモンガ様はこの地を捨てるべきだと考えております!」

 

(この地におられれば、支配者としてしか暮らす事ができない……であるならば、支配者ではなく等身大の父上になれる存在を探しに、旅立ってもらうのが最善なのでしょうがね……至高の御方々がおられれば何も問題は無いのですが……もしくはあなた達が父上の等身大の姿を見つめれば良いのですがね?)

 

 アウラ、シャルティアは何を言ったのか理解できないのだろう。ナザリックの者達が侮る人間達が、理解したくない事を理解しないように。アルベドだけは認識した上で、殺意を見せる。

 

 パンドラズ・アクター、アルベドはその意味で異端と言えるだろう。前者は至高の方に自分を捨てるように進言できる点で。後者は理解しないのではなく、殺意を向ける点で……方向性は違うが、他の者達の行動とは違うのだから。

 

「……黙れ! 黙れ! 黙れ! 私からモモンガ様を取り上げるな!」

 

「ほう? 私から、ですか? モモンガ様はあなたの物ではありませんよ?」

 

 統括殿は失言を悟ったのか黙られる。

 

「……そこまで心配する必要はありませんよ? モモンガ様はこの地とあなた方を愛しておられる。たとえどれだけ私が進言しても、その考えを翻す事は無いでしょう……」

 

「……なら、何でこの場でそんな発言をするのよ!」

 

「簡単でございます……そこにいるシャルティア殿に罰を与えるためでございます……それほどまでに自分達を愛して下される方を、裏切ってしまったという罪悪感をね?」

 

 表向きの理由を理解したのか、シャルティアは泣き出している……自分がどれだけしてはならない事をしてしまったのか正しく認識したのだろう……アウラまでも泣いている……

 

「本来この話はするつもりは無かったのですが……説教がまだ終わっていなかったとの事でしたので、お二人にも多少の反省を促すために話させて頂きました……さてアルベド殿、後はあなたに任せてもよろしいですかな? これからするべき事もありますので」

 

「…………分かったわ。シャルティアやアウラを含めて、二度とアインズ様を裏切らないように、徹底させます」

 

「よろしくお願いいたします。それと慰めもお願いしますね? ……この件の口止めも、ね? 万が一必要が生じた者がいた場合、同じ話をしますので」

 

 一呼吸置く。

 

「では、皆さま御機嫌よう!」

 

(さて、ネム嬢の衣服の用意をしませんといけませんね……化粧を行う者の選抜も必要です……捕虜の件は夜行いましょう…………アルベド殿の私室も調査する必要がありますね……やはり彼女には危険な香りがします……気のせいであればいいのですが……)

 

 そこでパンドラズ・アクターは大事な事を思い出した。

 

(……そういえば最近マジックアイテムに触れておりませんね……時間はあるでしょうから、折角ですしネム嬢の服を選ぶ時に触れあいをさせて頂きましょう! 重要な任務を実行する以上、私自身のストレスを解消しないといけませんしね!)

 

 パンドラズ・アクターはアインズの部屋に移動する。装備を探す事を名目にアイテムと触れ合う。精力的にアイテムと触れ合った彼は、様々な仕事をこなすために出歩く。

 

 彼の歩く姿をみたメイド達は、パンドラズ・アクターがとても機嫌が好さそうに見えたという……

 

★ ★ ★

 

 パンドラズ・アクターが去った後の部屋には、シャルティアとアウラの泣き声だけが響いていた

 

 

(……まさか、そんな発言をしていたなんてね……パンドラズ・アクターは何を考えているの? ……分からないわ……でもアインズ様が永遠にこの地を、統べて頂けるのだけは確かだわ……それを聞けた事だけはシャルティアに感謝しないといけないわね)

 

 アルベドは二人に話しかける。

 

「……二人とも泣き止みなさい」

 

「……アインズ様がそれほどまでに愛して頂いているのに、私は命令を破ったでありんす……」

 

「……アルベド……私達はどうすればいいのかな?……どうしたらアインズ様に御恩を返せるかな……」

 

 アウラがアルベドに問いかけてくる。シャルティアも泣きながら、こちらを見ている。

 

「……決まっているわ……過ちをせずにアインズ様の命令に従うだけだわ」

 

 シャルティアが問いかけてくる……

 

「……私はどうすれば良いでありんしょう。……より重い罰を与えて頂きたいでありんす……」

 

「……それは駄目よ。シャルティア。私としては、あなたに重い罰を与えて頂いて、罪を昇華してほしいわ……でもね、パンドラズ・アクターはあなたに永遠に苦しめと言っているの……」

 

 二人が泣きながらこちらを見ている。

 

「………何でパンドラズ・アクターはアインズ様に、この地を去るべきだと進言した事を話したと思う?……本来ならそこまで言わないで、あなたに罰を与える方法は幾らでもあったわ……アインズ様は私達に罰を与えるのを嫌がっている……つまりアインズ様に罰を与えて下さいと進言せずに、永遠に自罰して苦しめと言っているの……アインズ様がシャルティアを殺した事を永遠に苦しまれるように……」

 

 シャルティアが絶望的な表情をしている。アウラは私を凝視している。

 

(……もしかしたら他にも理由があったのかもしれないけど……現状では情報が足りないわね。それに十分シャルティアに罪を自覚させたし、慰めなきゃね……かわいそうだし、ね)

 

 アルベドは立ち上がり、シャルティアの下に向かう。二人が見ているが無視してシャルティアの傍に立つ。そして抱きしめる。

 

「辛かったわね。シャルティア。アインズ様に敵対してしまって……傷つけてしまって」

 

 優しく抱きしめて、子どもをあやすように言葉をかける。シャルティアは最初戸惑っていたが、声を出して泣き出した。

 

「よしよし。辛かったわね……」

 

 アウラもこちらに近づいてきているので、アウラも抱きしめる。アウラもシャルティアと一緒に泣いている。

 

 

 

 

 しばらく時間が経過した。シャルティアもアウラも少し照れくさそうにしている。

 

「……ありがとうでありんす」

 

「アルベド、ありがとう!」

 

「構わないわ。でもねシャルティア。あなたはこれから苦しい立場におかれるわ……恐らく他のNPC達の好感度も下がっている……私もできる限りフォローするけど、同じ過ちをしては駄目よ?」

 

 その言葉にシャルティアが頷く。

 

「分かってるでありんす。わたしがそれだけの過ちをしてしまったのは十分に理解してるでありんす」

 

「私もできる限り、シャルティアを助けるからね!」

 

 アウラの言葉にシャルティアが複雑な表情をしている。

 

「…………ありがとうでありんす」

 

「それにしても……パンドラズ・アクターは、なぜアインズ様にそんな事を問いかけたのかしら? 彼は怖くないのかしら……アインズ様に……捨てられる事が……」

 

 二人がその言葉に怯えている……

 

「……分かんない。怖くないのかな……パンドラズ・アクターは……」

 

 全員が彼の言葉に怯えている……怯えながらもアルベドは考える……

 

(……もし、彼を私の味方に付ける事ができれば、確実にアインズ様の妃になれるわね……彼の行動には何かの考えがあるはず……もしかしたら、他の奴らの点で味方にできるかもしれないわ……でもアインズ様にこの地を捨てるように発言しているんだから…………最後の手段の方がいいかもしれないわね…)

 

 現状では益のない事を考えながら、次の話題に移る。シャルティアが少しでも辛い事を忘れる事ができるように……

 

 

★ ★ ★

 

 アインズ、ネムと別れたパンドラズ・アクターは、誰にも見つからないようにアルベドの部屋に潜入をしていた。

 

(…………これは)

 

 そこにあった光景はパンドラズ・アクターとしても想定外の物であった……

 

 本来なら入口に飾られている、アインズ・ウール・ゴウンの旗が尊敬の存在しない姿で床に転がっていたのだ……

 

 代わりに飾られているものは……父上の旗だ……

 

(………………危険ですね。父上の望んでいる物を彼女は壊してしまう可能性がある……私としても、彼らに思うところはあるのですが……仮に真実を知らなければ彼女と手を取り合う事もあったかもしれませんね……この件をどうする?……父上や他の者にも伝えるか?…父上に伝えれば自分が設定を書き換えたせいだと、御自分の責任にするはず。これ以上、父上の御心労を重ねさせる訳にはいかない……彼女が父上に、支配者としての立場を押し付けていなければ、別の道もあったのかもしれませんが……遠ざけるべきですね……父上とネム様のためにも……ネム様がおられれば、父上が本当に欲しい(家族の温もり)が手に入るようですから……何とかデミウルゴス殿とも協力を取り付けましょう……)

 

 彼はその場から痕跡を残さずに去る。

 

(彼女を父上からどう遠ざけるか……もしくは……これは最後の手段ですね……父上にも多大な痛みを与える結果になるでしょう……本末転倒です)

 

 パンドラズ・アクターはひたすらに思考する……どうすれば自分と同格の知能の持ち主を、遠ざける事ができるかを……最後の手段を取らずにいられるかを……

 

「アウラ殿、ルプスレギナ殿……あなた達ならそれぞれの特性で、壁を完全に壊す事ができるかもしれません……父上と共に歩める存在に……被支配者ではなく、家族としての温もりを父上に与えてくれる事を願いましょう…………私に、最後の手段の決断をさせないで頂きたい……無理かもしれませんがね」

 

★ ★ ★ 

 

 

 潜入を終えたパンドラズ・アクターは、シャルティアが逃がしてしまい、部下に捕まえさせた捕虜のもとにいる。彼は今まで眠らせていた。エ・ランテルで捕虜とした者たちの尋問に時間が掛かっていたからだ……

 

(……明日辺りにはそちらからも情報が上がってくるでしょう……まずはこの者、ブレイン・アングラウスでしたか? なぜあの場にいたのかを聞き出さなければ……起こしましょう)

 

 

 捕虜に近づき拘束具をはずして起こす。

 

「……ここはどこだ?」

 

「お目覚めのようですね?」

 

 その言葉に弾かれたように起き上がる。武器に手をかけようとして、無い事に気付いたのか……こちらをみている。

 

「状況は覚えておられますか? ご自分がどうなったか?」

 

 現状を思い出したのか震えだす……

 

「俺は……あの化け物から逃げ出したはず、そして何かに……」

 

「その通りです! シャルティア殿は私の同僚です! あの方が失敗をしないように部下に見張らせておりました……見逃すわけには行きませんからね?」

 

 何かを諦めたようにこちらを見ている……

 

「そうか……俺の努力は無駄だと理解したはずなのにな……強い奴は生まれた時から強いってな……なんで逃げられると考えたんだか……俺はこれからどうなるんだ……」

 

(……少し聞きたい事が増えましたね)

 

「それは貴方の返答次第です……まずお聞きしたいのですが、なぜあなたはあの場所におられたのですかな?」

 

 ポツリポツリと自身の事を語り出す。

 

「……俺は数年前に行われた御前試合でストロノ―フに負けた……悔しかった。あいつに勝ちたいと思った。そのために、人生を剣に捧げた……どんなことだってした……俺はあいつに憧れていたんだろうな……今なら理解できるよ……殺してくれ」

 

「シャルティア殿との戦いを教えて頂きたい……それが終わればあなたの望み通りにしましょう」

 

 絶望した表情で虐殺の事を語る。必殺の一撃は爪で弾かれた、努力が無意味だと嘲笑われた事を……

 

(……少しやりすぎたかと思いましたが、まだ足りませんでしたね……知らないとは言え父上や他の方々も馬鹿にするとは……)

 

「……よろしいでしょう。あなたを楽にしてあげましょう……最後に一つ。あなたは本当に諦められたのですか?」

 

何故そんな事を問うのかと目で聞いてくる。

 

「……楽にしてくれ……俺はもうこの世界で生きていたくない……お前達(生れながらの強者)をみていたくない」

 

 完全に絶望している。普通なら立ち直らせる事は不可能だろう……

 

(……これは利用できますね……少し同情できますし、ね)

 

「……確かに私やシャルティア殿は、生まれながら強者として作られました……しかし我々をお作りになられた方はその昔、あなたよりも弱かった」

 

 こちらを見上げてくる。

 

「至高の方々は幾多の冒険を乗り越えて、強くなり、アイテムを得られ、我々をお創りになられた……」

 

「嘘だ! ……そんな事! あってたまるか! 俺達虫けらが、お前達にみたいに強くなれるものか!」

 

「ええ! 最初から諦めていれば不可能ですね? あなたは本当に諦めますか? もしあなたが少しでも強くなる気があるなら、私の手を掴みなさい! 条件はありますが……あなたが強くなれるように私が協力しましょう!」

 

 顔を俯かせて何かを考えている……

 

「……何でお前は俺が強くなるのを、協力しようとしてくれるんだ……お前には何のメリットは無いだろう……」

 

「メリットならありますよ。私はシャルティア殿を嫌っている。シャルティアが虫けらと思っていた存在が強くなるのは、彼女にさらに恥をかかす結果になる……他にも目的はありますが……決断なさい。それさえできないのであれば、協力しても強くはなれない」

 

 覚悟を決めたのか俯かせていた顔を上げる。

 

「……本当に強くさせてくれるんだな? 俺はお前達のように強くなれるんだな!……何だってする!」

 

 パンドラズ・アクターの手を強く握る。

 

「これで契約はなりました! さて、まずはこれを装備しなさい」

 

 首輪を取出してブレインに渡す。

 

「この首輪は自身の能力を減少させる代わりに、自身が強くなる速度を増加させるものです」

 

 少し嫌そうな顔をするが、強くなるためと納得して首輪を付ける。

 

「そしてこの装備をお付け下さい。肉体疲労や睡眠、飲食が不要となります……この意味理解できますね?」

 

 驚愕の表情を見せた。

 

「……本当に良いのか?」

 

「構いません! 他にもあなたにしてもらう事がありますしね! ……では付いてきて下さい。今からあなたに詳しい契約の内容を話しながら、最初に戦う敵のもとに向かいます」

 

 二人は歩き出す。詳細な情報を持ち出されないために目隠しをしてだが……

 

「それで、俺は何をすればいいんだ?」

 

「簡単に言えばあなたには、とある方と、とある村の護衛をして頂きたい」

 

「……理解できないな……お前達がいる周辺は安全だろう……」

 

 彼からすれば当然の疑問だろう。自分達の強さを知っているのだから……

 

「最悪の場合、敵はシャルティア殿達になる可能性があります」

 

「……は?」

 

「ここに住む物達は極少数の例外を除いて、人間を下等生物、おもちゃ、エサとしか考えていない……そして極少数の例外には我々の主が含まれている」

 

「……いや、待てよ! それなら主が命令すれば問題ないんじゃないのか?」

 

「当然の疑問ですね……残念な事に主にとって一番大事な物はこの場を共に作られた親友の方々、次にシャルティア殿達のような親友の娘達。次にあなたに護衛を任せる人間達です……人間を愛していられるのは間違いないですが、強く望まれれば捨てざるを得ないでしょう……私はそれを避けたい」

 

「……なんで避けたいんだ?」

 

「簡単です。ここにいる者達では主の心の奥底の望みである、温もりを与えてくれる存在……家族になれる可能性が低い。あの方は支配者としてでなく、家族として接したいと考えている。それをシャルティア殿達が望んでいないため、心労を重ねている。……可能ならこの地の者にも温もりを与えて欲しいのですがね……心労を取り除く事が可能なのが、あなたの護衛対象達です。……彼らを一言で言うならば、人類を救う者達です。彼らと主が出会う事がなければ、私も他の者たちと同様に、主が世界征服を望んでいると、勝手な考えを押し付けていたかもしれない」

 

 話が大きくなりすぎたのか、理解に時間が掛かっているようだ。

 

「…………世界征服?」

 

「主の真意を何故か世界征服と曲解して、世界を手に入れようとしているのです。主が知れば子ども達の願いなら、と受け入れるでしょう…………数多の人間達が死ぬと理解し、罪悪感に苦しまれるかもしれませんが」

 

「…………」

 

「私は彼らを監視して、内部から彼らの考えを改めさせ、被害を最小限にしなければならない……しかし愚かな王国は人類の救世主を殺す方向で動くでしょう」

 

「……どういう事だ?」

 

「彼らは偶然にも王国戦士長を暗殺するための生贄に選ばれた」

 

「……はっ? あいつが殺されそうになったのか!?」

 

 絶叫をあげる。自分の目的が知らない所で殺されかけたのだから当然だろう。

 

「ええ。政治の都合でね。彼は運よく生き延びたようです」

 

 安堵のため息が漏れる。

 

「……村人達は偶然にも政治の都合で王国戦士長を殺そうとした事を知ってしまった……上層部がそれを知ればどうすると思いますか?」

 

「…………確かに知れば口封じをしようとするだろうな……だが知られるのか?」

 

 首を横に振る。

 

「分かりません。それに先程も述べましたが、最悪の場合、敵は内部の者の可能性もある。備えは必要なのです……一部本当に怪しい者もいますからね」

 

「……あんたの考えは理解できたが……俺にあいつらと戦えるのか?」

 

「短期間で戦えるようになって頂くのです……最悪足止めを行える程度には……喜びなさい。あなたは短期間で強くなる事ができる」

 

★ ★ ★

 

 現在部下には目標の場所を探させている。部下からの連絡で分かった位置にブレインと近づく……最初ブレインもいきなり現れる存在に驚いていたがなれたようだ。

 

「さて! あなたの最初の敵はここにいる物です。難度で表した場合、あなたより多少上の存在でしょう。今から能力上昇の魔法をかけます……最終的に敵は倒さずに捕縛して、あなたとの訓練と護衛にも使いますので殺さないように。最終的に素の状態で上回って頂きます!」

 

 

 ブレインの目に止まらぬ速さで、変身して魔法を使う。

 

「どうですか?」

 

 途中返した刀を素振りをする等して動きを確かめている。

 

「……この装備で落ちた能力より、上昇しているな……」

 

「それは良かった!  それに目標にも近づいてきました。覚悟はできましたか?」

 

「……当たり前だ!!」

 

「良い返事です! では私にその覚悟を見せて下さい!」

 

 

 そして敵が現れる……自分の前方にいたブレインに攻撃が加えられる……警戒をしていたのだろう、見事に受け流してみせた……

 

「それがしの攻撃を受け流すとは! 見事でござるよ!」

 

「はん! そっちこそ見事な攻撃だな……それで、隠れているだけか? 攻撃力に似合わず、臆病だな? それともあいつの強さにビビったか?」

 

「言うでござらぬか!……それがしの姿とくと見るがよいでござるよ!」

 

 そして敵が現れる……

 

「なるほど……今の俺には丁度いい強さだな。俺はブレイン・アングラウス。見果てぬ頂きを目指し続ける者だ! お前は?」

 

「それがしは森の賢王でござるよ!……では命の奪い合いをするでござるよ!」

 

「二人で一騎打ちをどうぞ……私は暫く離れて見ているので」

 

 邪魔にならないように離れて観察する。

 

 二人は一騎打ちを始めた……表の世界での最高峰といえる決戦の一つが始まった……

 

 

 敵は体当たりを敢行してくる。ブレインは横にステップする事で回避する。途中刀を切り付けるがほとんどを毛皮に防がれる。

 

(こいつは目を狙うしかないか? だがあいつに殺すなと言われている以上……攻撃を受け流して、少しずつ削るしかないな。今の俺なら楽勝だ)

 

「なかなかやるでござるな!」

 

 精神的魔法を使ってくるが、首を振り霧散させる。しかしその隙をついて、接近戦をしかけてくる。爪を使った振りおろし、突き、盲目化の魔法、多様に組み合わされた攻撃。普通の冒険者ならとっくに敗北しているだろう。ブレインは驚異的な技量で全てを受け流す。受け流しの隙間を突いて刀での切りつけを行い、微々たるダメージを与え続ける。

 

「ちくちくと煩いでござるよ!」

 

 もう一度体当たりを敢行してくる。

 

(ここだな)

 

 ブレインは目に狙いを定めて刀を構える。途中で狙いを察したのか、体当たりを止めて後ろに下がる。

 

「どうした? 体当たりはしないのか? 当てれば簡単に倒せるぞ?」

 

(捨て身の体当たりさえ封じれば負けは無い)

 

「挑発には乗らないでござるよ! そちらの技量で体当たりをすれば目を狙われて負けてしまうでござるよ! 人間社会でもさぞ名前が売れた御仁なのでござろう?」

 

「……かもな。そっちから来ないなら俺から行くぞ?」

 

「悪いでござるが、接近戦は御免でござる!」

 

 離れた距離から尻尾での攻撃を敢行される。

 

「無駄だ。俺にそれは当たらない」

 

 相手がどこを攻撃してこようと、刀を使い受け流し少しずつ接近する。途中、尻尾を使いながら体当たりをしようとしてきたが、隙を作れない事に気付いたのか、体当たりを止める。

 

 最終的に体力勝負に出たのか、接近戦を相手も仕掛けてくる。

 

 二人は戦い続けた。森の賢王には数えきれないほどの傷が付いている……それに対してブレインは無傷だ……というより肉体能力の違いで、一撃でも直撃を食らえば勝敗は決するため、ブレインが避けきったのは見事と言えるだろう……この世界ではだが。

 

 

「ふぅふぅ……むう……それがしの攻撃を全て受け流し、傷を付け続けるとは…それにその無尽蔵の体力……それがしの体力が先につきそうになるとは、見事でござるよ!」

 

「……ありがとよ……だがこれじゃ駄目だな……こいつが無けりゃ、とっくに俺が負けてる」

 

 装備を見せつけるように見る。

 

「……よく分からぬでござるが……こちらも命をかけて、決着を付けさせて貰うでござるよ! ……そちらの御仁はどうするでござるか?」

 

 時間が足りなくなってくるため、決着を付けにパンドラズ・アクターは戻ってきていた……

 

「そうですね……そろそろ時間ですので、終わりにしましょう。ブレイン、今から殺気を放ちます。耐えてみなさい!」

 

 殺気を解放する。森の賢王は即座にひっくり返り降伏している。

 

 ブレインは何とか立っているが、今にも膝を突きそうだ……

 

「さて、ブレイン。頂きの高さを知りましたね? 見事に近づいてみなさい……諦めますか?」

 

「…………誰が! 俺は絶対に諦めたりなんかしない!」

 

 ブレインが震えながらも叫ぶ。

 

「よろしい。さて森の賢王よ。降伏するのであるならば、私の命令に絶対服従して頂けますね?」

 

「無論でござるよ! それがし、殿の命令に絶対服従するでござるよ!」

 

「よろしい。ではあなたにも、してもらいたい事を話すとしましょう。まず鍛冶等の原材料を探しに行きます。案内なさい」

 

(万が一ない場合のために先程マーレ殿に余力があれば石材を作って頂きたいとお願いしているので問題ないでしょう)

 

★ ★ ★

 

 現在ンフィーレアはエンリと一緒にいる。あの後ネムをナザリックに泊らせても良いかとユリさんに聞かれ、エンリが頷いた。その後夜も遅くなったので、分かれて眠る場所に移動しようとしたのだが……

 

「……ンフィー。一緒にいて……一人は嫌……怖いの……」

 

 ンフィーは困った。嬉しいのだが、彼女のお願いは家族を亡くしたトラウマからきている……

 

(一人にはしたくない……でも僕が一緒にいるのは……)

 

 エンリも自分が言った言葉がどう受け止められるか理解したのか顔を赤く染める……自分も同じだろう。

 

 冒険者達はニヤニヤしている……覚悟を決めて返事をする。

 

「……分かったよ……エンリの傍にいるよ……」

 

 そして現在エンリは布団に入っている……ンフィーレアはエンリの手を握りながら椅子に座っている……

 

(わぁ! 僕は一体何をしているんだ!……落ち付け…落ち付け、僕。エンリはただ寂しいだけなんだ……今僕が感じている感情は表に出しちゃだめだ!)

 

「……おやすみ、エンリ……」

 

「……ありがとう、ンフィー。お休みなさい…………椅子じゃなくても良かったのに

 

 エンリはすぐに眠り出す……

 

(きっと今まで、精神的に追い詰められていたんだな……エンリは)

 

 自分が傍にいる事で、疲れをさらけ出してくれるのは嬉しい……自分をそれだけ信用してくれていることなのだから……

 

「絶対に一緒にいるからね……守るからね、エンリ」

 

 ンフィーレアも次第にウトウトし始める……




これでもう、ヒドインなんて言わせない! これは確実にメインヒロインです!

アルベドの最大の敗因は抱きしめる相手を間違えた事です。もしシャルティアが洗脳されて苦しんでいる時にアインズ様を母のように優しく抱きしめていれば……まぁそうなるとこの作品の存続が難しくなるんですけどね(笑)

それとどっかでマーレは石材を作れると読んだ気がする……どこだっけ? この点は変更するかもしれません。

下記に本編では描写しなかったパンドラのお楽しみタイムを載せます!本編に入れなかった理由はシリアスが壊れるからですw また一部不適切な描写があります。実際に行われた訳ではありません!


キャラ崩壊します。覚悟がある方はどうぞ!

さすがは父上の部屋のマジックアイテム! クンカクンカすーはすーは!

ああ! 最高です! 特にこの伝説級の装備、ランクが落ちますが最高です!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ

…………能力的にもネム嬢に最適ですね! これにしましょう!

p.s
やっぱり妹が男の人と眠るんだからお姉ちゃんも男の人と寝させないとね(笑)
服を脱いで寝るのが当然の世界で、好きな女性と同じ部屋で手を出さないンフィーレアは漢の鑑。

そういえば原作ではエンリさんに絞られていますが……疲労無効の装備を付けたら、エンリが気絶するまでできるのかな(ゲス顔)


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第10話 約束

「プロットが…死ぬ? 何!?」

 作者は開き直ります!

 答えは後書きに!

 ※一部他作品を一方的に見た場面があります。


 ネムはアインズ様と一緒にベッドに横になって大きな狼のムービーを見ている。名前を知れなかったのが残念だ。

 

 彼はとてもかっこよかった。必ず友の墓を守ってみせる! 強い意思が感じられた。

 

 狼さんは何度も侵入者に切り付けられた。それでも諦めずに戦い続けている。

 

「狼さん! 負けないで!」

 

 狼さんの耳は既に垂れている……足もふらふらしている……剣の重たさに何度も倒れている……それでも諦めずに立ち上がる……

 

 そして決着の時が訪れた……侵入者の凶刃に彼が倒れたのだ……

 

 大きな声で泣いてしまう。

 

 アインズ様に慰められながら……いつしか意識が遠のいていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムービーを見終わった後、ネムは泣き疲れたのか眠ってしまった。

 

(……あれは駄目だろう……むしろ、あれを子どもに見せた、私のミスだな)

 

 少し狼と自分を重ねて考えてしまう。

 

(もし、ナザリックにドブネズミが来たら…………必ず殺してやる)

 

 恐ろしい考えとは裏腹にアインズは優しくネムの頭を撫でていた……

 

(それにしても俺、ネムに抱きしめられたんだよな…………今の俺の寂しさを慰めてくれたんだよな)

 

 過去の仲間をみて寂しい感情が湧いたのだ……もし人間なら泣いていただろう……

 

 アインズにとって、一番はギルメン達だ。これは間違いない。続いてNPC達を愛している。守るためなら、たった一つの例外を除いて、何でもしてみせるだろう……それでも寂しさを感じてしまう。どうしても『壁』があるのだ。自分とNPC(子ども達)との間には。彼の姿を見てまた認識してしてしまったのだ……例外はパンドラズ・アクターぐらいだろうか? …別の意味で『壁』を感じてしまうが。

 

(……父親として、この状況はな……仕方ないのだろうがな……俺はどうするべきなのだろうか? 真実を他のNPC達に言えば、支配者として暮らす必要は無くなる……それこそ、駄目親父として彼らと暮らせるのかもしれない……だがそれは彼らの想いを裏切る結果になる……すまないな、パンドラズ・アクター、駄目な父親で……お前に迷惑をかける)

 

 アインズはネムを眺める……かわいい寝息をたてている……

 

(……俺に子どもがいたら、こんな事をしていたのかもな……もしアウラ達がお願いしてきたら、してみるか……俺が親代わりだしな……さすがにパンドラとするのは嫌だな……風呂にでも二人で入るか)

 

 アインズの思考はネムが目覚めるまで、続く事になる……

 

★ ★ ★

 

 ネムはまどろみながら目を覚ます……最初自分がどこにいるか分からなかったが……

 

(……思い出した。昨日はアインズ様のお家にお泊りして、アインズ様に一緒に眠ってもらったんだ…)

 

「おはよう、ネム。よく眠れたかな?」

 

(……何でだろう?胸の奥がドキドキする)

 

「……おはようございます! アインズ様! はい! 気持ちよく眠る事ができました! 一緒に眠ってもらってありがとうございました!」

 

「構わないよ。私も色々と考える事ができた……朝食も食べていきなさい。それと寝汗もかいているようだからシャワーを浴びて汗を落していきなさい……使い方は昨日の大風呂に似ているから大丈夫だと思うが、一応説明しよう」

 

 起きあがり、空中を飛びながらアインズ様に付いていく。何度見ても凄い部屋だ。

 

「ここを回すとお湯が出る。逆側が水だ。服は脱がなければいけないが、指輪は常に付けたままにしなさい。服はマジックアイテムだから汚れは問題ないはずだ。下着だけ後で持ってこよう」

 

 アインズ様が外に出られたので、服と下着を脱ぐ。ティアラも一旦外すが指輪は言われたように付けたままだ……

 

 お湯を出して全身で被る。少し熱いが気持ちいい。全身をお湯で濡らす。タオルに石鹸を付けて身体を丁寧に洗う。頭も同じように綺麗にする。途中股の部分を洗う時に昨日感じたものと同じものを感じる……

 

(気持ちいいけど……何なんだろう?)

 

 もう少し触ってみようとしたが……

 

「ネム。下着を持ってきた。ここに置いておくぞ」

 

「っひゃい!」

 

「むっ? どうした? 何か慌てているようだが? 大丈夫か?」

 

「はい! 大丈夫です! すぐに上がります!」

 

「……慌てる必要は無い。ゆっくり入ってくれ。ではリビングで待っているぞ?」

 

 アインズ様が立ち去る……何故か慌ててしまった。鏡を見ると顔が真っ赤になっている。

 

(……内緒にしよう)

 

 秘密にする事にして、急いで身体を洗いお湯で流す。

 

 

 身体をタオルで綺麗に拭いて下着を身に付け、昨日頂いたドレスのような服を身に纏い頭にティアラを付けると、扉を開けてリビングに向かう。

 

「アインズ様! 終わりました!」

 

「そうか。早かったな? 慌てさせたか?」

 

「違います! 十分ゆっくり入りました!」

 

「……なら問題ない。では朝食を食べるといい?」

 

 テーブルにはすでに食事が並べられていた。昨日の昼食で頂いたオムレツといわれる料理やベーコン、野菜をたくさん使ったスープ。おいしそうなサラダも置いてある。何よりも目を引くのが白色のパンだ。

 

「おいしそう!」

 

「そうだろう。では冷める前に食事を始めなさい」

 

「はい!頂きまーす!」

 

 昨日パンドラ様に教わったナイフとフォークを上手く使い食べ始める。パンだけはナイフとフォークを置いて手で千切って食べた。オムレツはナイフとフォークで一口サイズに切り分け、背筋を伸ばしたまま食べた。ベーコンも同じだ。スープはスプーンで音をたてずに綺麗に食べたと思う。

 

「綺麗に食べるな……ここでは二人しかいないから好きなように食べても良いぞ?煩い奴(パンドラ)もいないからな?」

 

「大丈夫です! パンドラ様から教わった事はできる限り実践します!」

 

「ふむ。それでもいいが……自宅ではいつものように食べなさい。マナー等気にしないでな?」

 

「はーい!」

 

 そして食べ終わるタイミングでパンドラ様が何かを持って入室される。

 

「おはようございます!……おやネム様、好きなように食べてもよろしかったですのに?」

 

「せっかく、教えて頂いたから実践してみたかったんです!」

 

「……なるほど。ではこちらのデザートでも実践をお願いします!」

 

 果物を置かれる。しかし果物を切り分けるのは難しすぎた。

 

「……駄目でした」

 

「ふっふっふ! 果物は特に難しいのです! さて私が教えますので覚えて下さい!」

 

「いや、パンドラよ! 十分だろう? そこまでできれば……お前の事だ、昨日ネムが喜んでいた、ケーキも持って来ているんだろう? 果物はまた今度で良いだろう?」

 

「……畏まりました! 申し訳ありませんネム様! 私、少し焦りすぎていたようでございます! 少々お待ちを!」

 

 パンドラ様が部屋の外に出られてすぐに戻ってくる。そこにあった物は……

 

「こちら果実を使ったタルトと紅茶でございます! 御賞味くださいネム様! 紅茶は熱くなっておりますのでご注意ください」

 

 出された物は昨日食べた物と少し違っていた。上の方が甘そうなのは変わりがない。しかし下の部分が何故か堅そうなのだ……

 

 デザート用のナイフとフォークで切り分けようとした時に簡単に切れず少し手こずる。切った物をフォークで口に運んで食べる。

 

「……おいしい!!」

 

 堅そうと感じた部分はカリカリしている。甘い部分との組み合わせが最高だ。そのまま一気に食べてしまう。

 

「おいしかったです!」

 

「よろしゅうございました!」

 

「本当に美味しそうに食べたな……やれやれ。少し羨ましいな……さて飲み物も飲んでしまうといい」

 

「はーい!」

 

 紅茶の受け皿を手に取る。口に近づけて、カップを手にとり一口頂く。

 

(温かくて美味しい!)

 

「本当に上流階級のようだな……パンドラ、少し教えすぎたのではないか?」

 

「いえ、確かに上達は御早いですが、まだまだ見直すべき所はあります!……しかしこれ以上改善させる必要も暫くは無いでしょう」

 

「そうか……さてネム、飲みながらでいいから少し談笑でもしようか?」

 

「……はい!」

 

「そうだな……ネムは将来の夢はあるのかな?」

 

「将来の夢ですか? 村を守りたいです!」

 

 アインズ様が難しそうな顔をしている……

 

「……確かにそれは大事な事だが、そうではなくてだな……将来なりたい職業とかだ」

 

 その言葉に自分の将来を考える……今までなら普通に家族と一緒に働いて、誰かと結婚するものだと考えていた……

 

(……アインズ様みたいに大切な御友達が欲しいな……)

 

「アインズ様達みたいに大切なお友達を作って冒険してみたいです!」

 

「……ははは! そうだな。大切な仲間達がいたからこそ冒険は楽しかった!……よし機会があれば一緒に冒険してみよう!」

 

「え!? 良いんですか!」

 

「構わない! ふむ……ならネムがある程度自衛できるようになり、状況が落ち着いたら、マジックアイテムを探しに行こう! 構わないなパンドラ?」

 

「畏まりました! ではこの国周辺の地図を入手をしようと存じます。暫くお待ちください!」

 

「……いや。地図は自分たちで作ろうと思う。それこそが冒険だからな! それとネム。困った事があったら私かパンドラに言うといい。力になろう」

 

「ありがとうございます!」

 

「ははは……それにしてもネムは可愛いな……良いお婿さんが見つかるだろう……もし見つけたら、一度私の所に連れてきなさい……ネム?」

 

 アインズ様の言葉に胸が痛くなった……

 

(何で……胸がズキズキするの?)

 

★ ★ ★

  

 ネムがとても悲しそうな表情をしている。泣くのを堪えているように答える。

 

「……はーい……」

 

 近くにいたパンドラズ・アクターに小声で叫ぶ。

 

「……パンドラ! どうしてこうなった! 私はどうすればいい! 私はこんな時の対処法を知らない!」

 

 心からの叫びである。

 

「……そうですね。横抱きをしてあげれば機嫌も御直りになるかと?」

 

 そんな事で機嫌が良くなるのか疑問に思ったがパンドラに従いイスから立ち上がりネムを抱っこする……少しきょとんとしていたが……

 

「……わぁー! アインズ様ありがとうございます!」

 

「構わない。それとネムは笑顔でいた方が私は良いと思うぞ?」

 

「……分かりました!」

 

 ネムは機嫌が直ったのかニコニコしている。

 

「さて、ではそろそろ御別れかな? お姉ちゃんも心配しているだろう?」

 

「はーい……また来ても良いですか?」

 

「もちろんだ! また招待しよう……よしパンドラよ。私がこのまま門の所まで連れていこう」

 

「……畏まりました! 先導致します!」

 

「では、行くとしよう。しっかりつかまっているように」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 パンドラの道案内に従う形で扉を出る。途中メイド達の何人かとすれ違うと、ありえない物でも見たかのようにこちらを凝視して固まっているが、無視する形で進む。

 

「さて、これを潜り抜けるとカルネ村に帰れるぞ。ここからは、飛んで帰るといい」

 

「はい分かりました! アインズ様に頂いた物きっと使いこなしてみせますね!」

 

「あぁ。楽しみにしている。それと、この短杖(ワンド)をンフィーレアに渡してくれ。私が謝っていたと伝えてくれ」

 

「? 分かりました! ンフィー君に伝えますね!」

 

「あぁ頼んだ」

 

「ではアインズ様、私もネム様に付いていこうと思います。私がいない間、4名ほどシモベに護衛させますが、お許しください」

 

「分かった。そこまで長くならないなら、構わない。ではまた会おう、ネム。今度は家族も一緒に招待しよう」

 

 アインズは自分で気づく事は無かったが、ネムを横抱きしている時、緊張はあったが、笑顔であった。それだけでなくネムといる間のほとんどを……ナザリックの者たちと過ごす時の重圧も無くなっていた……パンドラはそれを見逃す事は無かった……

 

★ ★ ★

 

 ネム達はカルネ村に帰って来ていた。

 

(アインズ様のお家が凄かった事を伝えなくちゃ!)

 

「パンドラ様! 本当にありがとうございました!」

 

「構いません! それより……」

 

 言葉が一旦切られて大きく敬礼をしている。

 

「こちらこそ感謝いたします! ネム様のおかげでアインズ様が楽しまれる事ができました!……アインズ様は常に御心痛を感じられておられます……アインズ様に仕える者や、私では取り除く事ができません……」

 

 顔を歪ませ辛そうな表情をされる。自分の力不足を嘆くかのように。

 

「ですからこそ、その御心痛を和らげて下さった、ネム様に感謝致します! これからもアインズ様の事をよろしくお願い致します!」

 

「……はい! 分かりました!」

 

 難しい事は理解できないが、アインズ様が何かに苦しまれている事と、私が苦しみを取り除く事ができる事は理解できた。

 

「私、頑張ります!」

 

「ええ! お願いします! 母上……さて御家族の方が見えてきましたよ? 挨拶に行かれては?」

 

「はい! 分かりました! ただいま! お姉ちゃん!」

 

 お姉ちゃんとンフィー君が見えてくる。シフも隣にいる。二人とも驚いた表情をしている。

 

「……ネム? どうしたの、その服?……それに指輪と鞭? それに飛んでる?」

 

「アインズ様から頂いたんだ! 凄いでしょう! アインズ様のお家凄かったよ! 今度はお姉ちゃんも一緒に招待してくれるんだって! 私アインズ様のおかげで飛べるようにもなったよ!」

 

「え?……え? 貰ったの? 招待? 飛べるようになった?」

 

「うん! それとンフィー君! アインズ様からンフィー君にあげてくれってお願いされたんだ! それとンフィー君達に謝ってたと伝えてほしいって」

 

「……え? 僕に? このアイテムを? それに謝る?」

 

「一日ぶりでございます! その辺りの話は私が致しましょう! シフもネム様に会えて喜んでいるようです。武器の基礎も教え致しますので、少々シフと遊んでいて下さい」

 

「……はーい! シフ! 行こう!」

 

 シフに跨る。それを合図にシフも走り出す。一日ぶりなのに、暫くの間乗っていない気がする。

 

「どこに行こうか、シフ?……あ、ジュゲムさんだ! ただいま!」

 

「おかえりなさい! 姫さん!……その服と鞭はどうしたんで?」

 

「アインズ様に頂いたんだよ! 凄いでしょ! 後でパンドラ様が使い方を教えてくれるんだ!」

 

 ジュゲムさんと雑談していると、ニニャさんが見える。

 

「ニニャさーん! おはようございます!」

 

「…ネムさん。おはようございます……その、服や武器はどうしたんですか?」

 

「アインズ様から頂いたんです! 後でパンドラ様が使い方を教えてくれるそうです!」

 

「……それは凄いですね」

 

 ネムはアインズ様の家がどんな所か話しだした……ニニャも相槌を打ちながら驚いている。

 

 ジュゲムや他の冒険者達は二人を邪魔しないように遠くから見守る形になっている。

 

 

★ ★ ★

 

「さて、ネム様も離れられたようですし、話を再開しましょうか」

 

「……パンドラズ・アクター様! ネムが何か失礼な事をしませんでしたか! まだ小さい子なんです! お許し下さい」

 

「いえ、何も怒っておりません。むしろ感謝しております!」

 

 一呼吸置いて頭を下げる。

 

「アインズ様を御慰め頂き、本当に感謝致します!……アインズ様の心労を取り除いて頂きありがとうございます!……あなた達にはこれからも、アインズ様の救いとなられる事を願います……それとネム様はもしかすると頻繁に招く事になるかもしれません……御許可願いますか?」

 

「…………こちらこそ、ありがとうございます!……でもアインズ様の救いですか?」

 

「あなた達のおかげでアインズ様は救われている! そのままでいて頂きたい!」

 

「……………分かりました。……ネムの服や装備も本当に頂いたのですか?」

 

「ええ! アインズ様がネム様におあげになりました……それだけアインズ様にとってネム様は大きな存在なのです……後ンフィーレアやあなたにも関連する事もあります」

 

 その言葉に今まで黙っていたンフィーレアが話しだす。

 

「……僕にですか?」

 

「ええ! 実はこの間あなたがこの村に訪れた時シフから連絡が来ました。何者かが近づいてきていると。そのため、アインズ様と二人で魔法を使いこの村を監視しておりました。何かあれば駆けつけられるように」

 

 二人が目を見開いている。

 

「それでですね。そのアイテムはあなた達に対するお詫びなのは……実は君の事を最初監視しておりました。その過程でンフィーレアの熱烈な告白を見てしまいました。誠に申し訳ない」

 

 目を見開いていた二人が同時に顔を真っ赤にする。冒険者達が近くにいたら、からかわれていたかもしれない。

 

「お詫びの品の短杖(ワンド)は第5位階の魔法が込められています。あなたのタレントなら使えるでしょう」

 

「……第5位階!?」

 

 顔を赤くしていた、ンフィーレアが悲鳴を挙げる。

 

「……どれだけ凄いのンフィー?」

 

「どれだけって言ったら……僕が使えるのが第2位階までで、第3位階が才能がある人が到達できる最高位なんだ。第5位階は英雄と言われる、ほんの一握りの人達が到達できる領域なんだ! 今僕達の目の前にあるのはそれだけの価値がある物なんだ!」

 

「ンフィーレア。あなたは私の弟子になったのですから、最低でも第5位階程度は使いこなせるようになって頂きます」

 

 ンフィーレアが絶句した表情を見せる。

 

「……第5位階程度……ですか?」

 

「あなたはエンリ嬢を守りたいのでしょう? そうですね、ここからは私とンフィーレア、二人の会話としましょう。訓練の仕方等、血生臭い話もあります。エンリ嬢は聞かない方が良いでしょう。申し訳ないがエンリ嬢、ネム様達のところに行ってもらって構いませんか?」

 

「……分かりました」

 

 ンフィーレアの方を少し不安そうに眺めていたが、エンリは最終的にネム達の方へ向かった。

 

「さて、それでは話の続きをしましょう。仮にです。私がこの村を滅ぼすと行動した時、どれぐらいの難度があれば時間を稼ぐ事ができると思いますか? あぁ! 心配しなくとも結構。ただの例え話ですから」

 

 震える唇で自分の考えを述べてくる。

 

「…………ミスリル級の冒険者の方達が難度に換算すると……第5位階の魔法を使えるのが、人類の切り札と言われる人達だから……第5位階をその程度と言えるなら……130くらい必要なんですか?」

 

「仮に私を足止めするなら、難度で210は必要でしょう。エンリ嬢を逃がす事を考えるなら240は必要です。最低でもね?」

 

 何を言っているのか理解できない表情で呆然としている。やがて意味を咀嚼できたのか……

 

「……僕はそれだけ強くなれるんですか?…………もしかして強くなる必要があるんですか?」

 

「…………我々は今まで引きこもっていたため、周辺の情報をほとんど所持しておりません。そのため各地に情報収集を見つからないように行っておりました。その最中、私と同格の者が敗北を喫しました。この村に虐殺者を送り込んだ者達に、ね」

 

「………………え?」

 

 ンフィーレアが絶句する。

 

「君はこの村の危険性を、正しく理解しているものとして話を進めます。カルネ村は政治の都合を知ってしまった。それを知れば、王国の上層部達がそれを見逃すとは考えられない。この点は理解してますね?」

 

「……はい」

 

「そして暗殺者の手引き者は法国です。彼らは自分達を人類の守り手を自任しているらしい。なのに王国の村に暗殺者を送り込んだ……自分達にとって都合が悪い情報を握っている者達を、見逃すと思いますか?」

 

「……いいえ。思いません」

 

 足は震えて顔には涙があふれている……それでも決して視線は逸らさない。

 

「……すでにこの村は王国以上の脅威に晒されている。私としてもアインズ様の救いとなる村を守りたい。しかし手が足りない状況です。敵対勢力の情報収集も行わなければならない。ンフィーレアにはその点でも協力して貰いたい」

 

「…………分かりました……カルネ村を捨てて、どこかに逃げだすという選択肢は無いんですか?」

 

「現状では無いですね。情報が足りなすぎる。我々も一枚岩ではないのです。アインズ様にお仕えする者たちの中には過激派もいる。君のタレントが危険だから殺すべきだと言う者もね?」

 

「……え?」

 

「君のタレントはそれだけ危険という事です。むしろ今まで無事だったのが信じられない……私のような穏健派は極少数です。君には敵が多すぎる。私は内部の者達が愚かな行動をしないように見張る必要もある……たとえ、アインズ様の配下だとしても油断をしてはいけない……信頼できるのは、この場に来ているユリ・アルファ以外だとセバス・チャン、ペストーニャ・S・ワンコぐらいです。それ以外の者が来たら警戒を強くしなさい。それと情報収集中に得た協力者を、カルネ村の護衛とします」

 

「彼らと、君、そしてネム様には強くなって頂きます。最悪の場合、私が駆け付けるまでの時間を稼げる程度には。理解できましたね?」

 

「…………僕が強くなる必要がある事は理解できました。協力者が必要になる事も。でも何でネムちゃんも必要なんですか? 彼女はまだ子どもですよ? もしかしてあの装備をアインズ様が与えたのも、戦わせるためですか?」

 

 怯えながらも怒りの表情を見せている。

 

「違います。アインズ様が彼女に武器を与えたのは彼女の村を守りたいという気持ちに共感して、少しでも危険を減らすためにです。何の装備も無く戦うよりは、とね。……しかし彼女を殺そうとする者は内部の者たちに幾らでもいるのです」

 

「……何でですか」

 

「単純な嫉妬です」

 

 何を言ったのか理解できなかったのか、もう一度聞いてくる。

 

「…………すみません。よく聞こえなかったです」

 

「単純な嫉妬です。ネム様は現在アインズ様に精神的に一番近いでしょう。それを認められない者が多いのです。アインズ様は彼女達を信じているのでマイナス面の感情には気付けないでしょう……そのためアインズ様に見つからないように実行する可能性も0ではない」

 

 首を大きく振り溜息をつく。

 

「……ンフィーレア。正直私は内部の者達がアインズ様の命令を破ってまで、あなたを殺そうとする可能性はとても低いと考えている……逆に嫉妬でネム様を殺そうと考える者に何人か心当たりがあります……今回も万が一を避けるために、危険人物達を別の罪で謹慎処分に致しました……少し仕事が多すぎますね」

 

 愚痴が出てしまい、彼は困った表情をしている。

 

「さて、少し横道にそれてしまいましたね。一先ずンフィーレアは第3位階の魔法を覚える事を目標にしましょう。では私に付いてきなさい。……少しですが訓練をしましょう」

 

 パンドラズ・アクターは村の外に向かう。ンフィーレアも追従して森の中に入る。

 

★ ★ ★

 

「この辺りでよいでしょう。始める前に確認です。どれほどの目に遭おうとも、愛する女性を守るという気持ちに嘘はありませんね?」

 

「……もちろんです。僕は、何があってもエンリを守ってみせます! 村が襲われた時に何もできなかった分まで……」

 

「……理解しました。その短杖(ワンド)も使って頂いて結構です。私に一撃を与えてみせるか、避けてみせなさい」

 

 その言葉を最後にンフィーレアには理解できないものが流れ出す。

 

「……あ」

 

 ンフィーレアが感じている感情は恐怖だ。それ以外考えられない、手も足も意思とは関係なく全てが震えている。

 

「……守るというのは嘘ですか? この程度で倒れるようでは守る事はできませんよ? 嘘なら早めに教えて頂きたいですね? あなたも一応は護衛対象ですから、エンリ嬢と一緒に守られては」

 

 その言葉に一瞬諦めかける。これほどの存在が守ってくれるなら、安全なのは間違いないだろう。同格の存在が敗北したというのも嘘だろう。ネムもエンリもンフィーレアが危険な目に遭う事もないだろう。

 

 だが否定する。

 

「……僕が、エンリを、守るんだ……守ってみせる!」

 

 今も身体は震えている。それでも決して目だけは逸らさない。

 

「ふむ? ではもう少し上げましょう」

 

 彼はオーバーなアクションをしながらさらに殺気を放つ。まるで見せつけるように…………ゆっくりと近づいてくる。

 

「どうしました? あなたは後衛でしょう? 私に接近されて対処する方法があるのですかな?」

 

 自分の力を使い短杖(ワンド)を使用しようとする。だが恐怖で上手く使用できない……

 

「ゲームオーバーですね?……良い事を教えてあげましょう。アインズ様がこの村を気に行ったのは死を覚悟してでも何かを守ろうとしたからです……どうやらあなたは期待外れのようでしたね。これではエンリ嬢も生き延びられないかもしれませんね?」

 

 その一瞬、確かに恐怖を全て忘れた。

 

「……エンリを、死なせたりなんかしない!」

 

 短杖(ワンド)の効果を発動させる。

 

龍雷(ドラゴン・ライトニング)!!」

 

 魔法は確実に直撃した。その証拠に煙が立っている。しかし…

 

「ふむ?」

 

 無傷だ。何のダメージも与えられていない……

 

「……合格にしましょう」

 

 急に殺気が消える。それに従い自分も前に倒れて大きく息を吸う。

 

「力の差が理解できましたか? あなたは私に少しでも近づかなければならない。ネム様もです。不意の嫉妬による死から逃れるために。エンリ嬢はそれだけの覚悟があれば守れるでしょう! アインズ様もあなたの事をより気にいるはずです! 喜びなさい」

 

「……先生達は一体何者なんですか……赤いポーションやこれだけの力を持っているのに、今まで何で無名だったんですか?」

 

 背中を見せて、手で帽子を押さえながらこちらを見てくる。

 

「……天と地の狭間には、あなた達が理解できない事が存在しているのです……そうですね。簡単に理解できるように言うのであれば……人間の輝きに希望を見た、人の輝きを愛する魔王と、自分達だけを見て欲しい、実の親に捨てられた子ども達、ですかね……」

 

 「冗談ですがね」笑いながら言ってくるが、その言葉が頭から離れる事は無かった……

 

★ ★ ★

 

「では、村に戻りましょうか」

 

「はい。先生」

 

「それとあなたは、一度エ・ランテルに戻るのですね?」

 

「はい。一度おばあちゃんにも事情を説明しないといけませんから……それとポーションを一時的におばあちゃんの所に持っていっていいですか? 見れば確実に協力してくれると思います」

 

(……秘密裏に護衛兼監視役を付ければ問題ないでしょう……)

 

「……良いでしょう。但し、その人物以外には絶対にばらさないで頂きたい!」

 

「もちろんです!」

 

「ではあなたから見てあの冒険者たちは信頼できますか?」

 

 少し考えている……

 

「……信頼できると思います。ニニャさんの事もありますし」

 

「貴族に家族を奪われた少女ですね?」

 

「……え? 少女?」

 

「おや、気付いていなかったのですか? 男として振舞っているようですが、まだまだです。私の目を誤魔化す事はできません」

 

「……そういえば、いつも大きく手を動かされたりしてますけど……普段は何をしていらっしゃったんですか?」

 

「役者ですよ! 私の本質は役者、演技です! ……では冒険者達にもご協力頂けるように動きましょう。彼らに話すのは王国がこの村を滅ぼすかもしれないという点だけです……よろしいですね?」

 

「分かりました。他の点は危険すぎますもんね……特に法国の事は……」

 

「ふむ? それにしても嘘と疑わないのですね? てっきり疑うと思っていましたが……」

 

「……もしかして、先生達が自演をしている可能性ですか?」

 

「そうです。あなたの言うとおり、いきなり湧いて出た存在です。疑うのが必然でしょう?」

 

「……確かに先生は普段過剰な演技をしてるように見えます……でも先程エンリに感謝をしていたのは真実だと思います」

 

 髪に隠れた目が一瞬見える。その目には間違いじゃないという確信が見えた。

 

「……なるほど……」

 

 話が終わり、二人で冒険者たちのもとへ向かう……ゴブリンやネムにエンリ、ユリもいる。

 

「皆さま! 実は私から大切なお話があります!……そうですねネム様とエンリ嬢、ユリ嬢は少し離れて頂けますかな? 男達の話ですので」

 

 ユリ・アルファは少し怒った様子を見せている。思えば以前も見せていた。

 

「……承りました。お二人とも参りましょう」

 

「ええ! どんなお話をするんですか! 一緒に教えて下さい! パンドラ様!」

 

「ネム! 我がまま言わないの! すいません、すぐに離れますので……」

 

(やれやれ……略するのはアインズ様か私だけの約束だったんですが……未来の母親候補です、良しとしましょう……ほぼ確定でしょうし)

 

 ネムも渋々とだが離れていく……

 

「さてゴブリンよ? あなたの名前は」

 

「俺達まで残したのは何でですかね? ……ジュゲムでさ……」

 

「そこまで警戒しなくて良いですよ? これから大事な話をするだけですから」 

 

 胡散臭げにしていたが話を聞く体勢になる。

 

「それで私達、漆黒の剣まで残したのは何ででしょうか?」

 

「簡単です。あなた達にお願いしたい事があるのです……」

 

★ ★ ★ 今日のメイド達の一幕

 

「アインズ様にお姫様抱っこされるなんて!」

 

「羨ま……不敬です!」

 

 アインズ達を見ていたメイド達は羨ましいと感じていた。表向き不敬と非難していたが……

 

「おやおや。みんな御冠っすね!」

 

「ルプスレギナさん!」

 

 プレアデスのナーべラルさんとルプスレギナさんが近くにいた。   

 

 

「よく考えるっすよ! パンドラズ・アクター様は私達を審査してるっす! アルベド様が駄目と言われたのは嫉妬してるからすよ! あなた達も同じっすよ?  それに昨日の事を考えてみるっす! あの人間の一言で、私達は家族と言って貰えたっすよ! 感謝するべきっす!」

 

(うひひひひひ。何故か分からないっすけど、アインズ様はあの小娘を気にいっているみたいっす!……パンドラズ・アクター様の審査もある以上、皆と反対の立場をとってここは味方をするべきっすね!……もしかした私がアインズ様の正妃に…うひひ)       

 

「……そうなのかしら。ところで顔をどうにかした方がいいわ……よだれがはしたないわ……」

 

「……失礼したっす!……でもお姫様抱っこすか……私もされたいっすね!」

 

 メイド達の話は弾む。         

 

「このままじゃ昨日みたいにメイド長に怒られるわ……早く仕事に戻りましょう」

 

「そうっすね! 昨日は嬉しくて無駄話してしまたっすもんね! それじゃしっかりお仕事っす!」

 

「……そうですね。でもアインズ様のお部屋に泊られるなんて……」

 

「おやおや、また嫉妬すか?」

 

 ちなみに止めようとしていたナーべラルも興味があったのか、その場にいた者達でお喋りは続き、昨日と同じようにメイド長に怒られる結果になる。

 

 余談だがメイド達の会話はシモベの1体がパンドラの命を受けて聞いていたため、誰がどのような行動をしたかはパンドラの耳に入る事になる。




 第3版プロットの半分が崩壊しました……何とか軌道修正を図って半分にすんだと言えるのだろうか?

 アルベド様に絶対に知られてはいけない事は、お風呂に入った事。トイレに入った事、添い寝した事。この3つが知られたら問答無用でBADENDです。なので上記の完全プロット崩壊バージョンでもすぐには死人は出ません。ただパンドラズ・アクターに死亡フラグが立つだけです……連鎖してBADENDになりそうですが……

 半分のプロット崩壊は主人公が変更になりました! パンドラズ・アクターです! それに伴いタイトルを『覇王少女ネム育成計画』に変更及びあらすじも変更いたします!

 今までもほとんどパンドラが主人公みたいだったから良いよね?

 ネムがヒロインなのにも変わりは無いですしね!

 それとダークソウルを愛する方々!誠に申し訳ありません!


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第11話 布石

お待たせしました!


(あなた達には王国をとるための先鋒になって頂きます。カルネ村の根本的危険を無くすためにも……)

 

「私が集めた情報によると、王国は二つの派閥に割れて争っている。アインズ様が戦士長に聞いた話では、貴族達が武装を剥ぎ取ったらしい。貴族派閥は根も葉もない噂を王が流したとして、退位を迫るのと同時に不敬罪でこの村を殲滅するでしょう! 真実を知られないために!」

 

 役者のように語りかけるパンドラズ・アクターを誰もが注目していた。彼は体全体を使い感情を表現している。目を離す事ができない、舞台役者の演技を見ているかのように。彼の(演技)にただ引き込まれる。

 

「他方、王派閥は内乱を阻止するために、他国の謀略としてこの村を殲滅するしかない。もし内乱になれば、帝国に滅ぼされるのは明白なのだから! つまり王派閥、貴族派閥のどちらかにこの村の情報が知られた時点でこの村には軍が派遣されます。私の予想に間違いと思われるものはありますか?」

 

 無言が続く。だが全員がしっかりと認識したのだろう……この村の末路を。貴族達に食い物にされる運命を。

 

「……あの豚達(貴族)許さない……」

 

「…………確かにあり得る話です。ふざけた話でもある……しかし我々はたかが銀級の冒険者にすぎません。あなたは私達に何を依頼しようとしてるのですか?……それに俺は漆黒の剣のリーダーです。リーダーとして仲間を危険に晒す訳にはいきません……」

 

「おいおいペテル? さすがにそれは可哀そうだろう?……それに転移まで使える人からの依頼だ。報酬は期待できるだろう?」

 

「ルクルット! これはパーティの死活問題なんだ! 俺一人なら協力しても良い! だけどニニャは姉さんを助け出すんだぞ! お前はニニャを死なせてもいいのか!」

 

「……確かにぺテルの言う通りであるな……」

 

「…………ぺテルの言う通りだと僕も、思う……僕はこの村を助けたい……でもみんなを危険に晒す真似はしたくない…………卑怯者になっても僕はみんなを死なせたくない……姉さんを見つけたい……」

 

「……ニニャ……」

 

 彼らは本当の家族のようにお互いを心配し合っている……そこに上下関係はない。あるのは対等な『関係』だ。パンドラズ・アクターがNPC達に望むのは、この関係である。

何よりも家族が共に歩む存在を望んでいるのだから……

 

 

 冒険者達の話し合いを見守っていたパンドラズ・アクターが話しだす。

 

「まずは私の依頼内容をお聞きください! あなた達に依頼する事は単純です。この村の事情を話さない事……それとこれを見て下さい」

 

 パンドラは用意して今まで隠していたマジックアイテムを見せる。総計で100個ぐらいあるだろうか。

 

「……え?」

 

 ンフィーレア以外の全員が呆然としている。それだけ価値のある物なのだ……この世界では。第5位階が人類の限界と言われているのだから当然の反応とも言える。

 

「……このアイテム達をどこで?」

 

「昨夜私が作りました。この森で集めた物しか使っておりません!」

 

 ンフィーレアを含めた全員が絶句している。ンフィーレアとしても一日で作ったのには驚いたのだろう。

 

「私があなた達に依頼したいのは、このアイテム達をンフィーレアと協力して、私の代わりに売って欲しいのです」

 

「……どういう事ですか?」

 

「私はこの村を守りたい! ここで大事なのが冒険者です! ええ! 一見何も関連がないと思うかも知れません!」

 

 冒険者達が目で続きを促す。

 

「あなた達、冒険者は人と人の争いには関わらないのが建前です。それを利用して、この村を冒険者の者達にとって有用なアイテムの供給所とします」

 

「アイテムの供給所……ですか?」

 

「ええ! 多少知恵が回る貴族であれば、これ程のアイテムを売りさばく者と敵対する事の危険性は理解できるでしょう……それに冒険者組合がこの村を守るために行動する可能性も0ではない」

 

「それは無いんじゃないでしょうか? あなたも言っていたように人と人の争いに関わらないのが冒険者ですし……」

 

 冒険者の理念を思い出しながら、答える。やるせなさを感じさせながら……当然の事と認識しているが、目の前の存在を救えないのは辛いのだ……中には冒険者から脱落してでも、人々を守ろうとする存在もいるが、彼らには決断はできない。割り切る事も出来ないのだ。

 

「重要なのは、ほんの少しでも貴族達を疑心暗鬼にすることです……それに貴族達からすれば、権力に屈しない者達は邪魔な筈ですから、いつか潰そうと動くはずです。……ご安心を。実際に潰せるとは思えません……しかし一瞬でも貴族に思わせる事ができれば時間を稼げる」

 

 自分達は重大な出来事に関与しようとしているのではないか。不安そうな冒険者達を安心させるように誘導する。実際パンドラズ・アクターは彼らに重大な仕事をさせようとしているのだが。

 

「仮に王国がカルネ村に討伐軍を派遣した場合、少数では敗北する程の戦力は私がいなくとも、すでに存在します! 大軍を出した場合、民兵がほとんどの王国ならば士気の低下を狙えます! また討伐に時間をとられれば帝国との戦争に負ける可能性が高くなる! そう考えさせて躊躇させます! その間に、この村の防衛設備を整えます!」

 

(我々がこの程度か、少し上ぐらいのアイテムしか持っていないと、法国に誤解させる事ができる……我々の本当の戦力に気付けない……万が一の場合、カルネ村の者達をナザリックの6階層に避難させて、総力を挙げれば壊滅できるでしょうし……アインズ・ウール・ゴウンの名を広めるためにも、地の利を作らねば……)

 

「あなた達に報酬として……そうですね……格上との戦いのために第4位階の魔法が込められた短杖(ワンド)をあげましょう……こちらは口止め料ですので今差し上げます!」

 

 ニニャに手渡すと少し手が震えている。

 

「……いいんですか?」

 

「構いません。 姉を救うためには権力者と戦う必要がある以上、力と逃げ場所は貴方にも必要でしょう?……どうか力を貸してほしい。カルネ村を守るために!」

 

 理を語りながら頭を下げる。強者が頭を下げる事に驚く雰囲気がある……リーダーが代表して聞いてくる。

 

「……一つだけ聞かせて下さい。……正直なところ、あなた方がいれば、王国が攻めてきても十分に撃退できるんじゃないでしょうか……」

 

「良い質問です! ……確かに私が表に出て戦えば、簡単にこの村を守れるでしょう……しかしそれでは駄目なのです……カルネ村の者達は、自分達かそれに類する者達の手で、この村を守らなければならない……私が全面的に関わってしまえば、私達が去った時に何もできなくなる恐れがあります……」

 

 全員が静かにこちらを注視している。

 

「この村を守るための協力者があなた方以外にもいます……村を守るための援助なら幾らでもしましょう……しかし、私は人間ではない。あまり表立って行動すべきではないのです……私は影に徹するべきなのです……仮に私を倒せる存在が数十近く出てくれば別ですが……」

 

「……転移の魔法を使える存在に召喚された存在である、あなたを倒せるような存在が数十出てくれば、世界は滅びますよ」

 

「分かりませんよ? 世界は広いのですから!」

 

「いやいや、狭いんじゃねえの? 辺境の村に転移を使いこなせるマジックキャスターの配下がいるんだから!」

 

 ルクルットが軽口を叩き、つられて全員が笑いだした。

 

「確かにその通りです! ではお願いしてもよろしいですかな?」

 

「……自分達に火の粉が振りかからない範囲でですが、分かりました!」

 

「感謝致します! ジュゲム達も理解できましたね?」

 

 いままで聞き役に徹していたゴブリンも疑問を提示する。

 

「……俺たちゃ、この村を守るために、村の皆さんを鍛える。防衛方法を考えるってことで良いんですかね?」

 

 頷く事で返事とする。

 

「では、時間は有限です! さっそく行動を開始しましょう!」

 

★ ★ ★

 

「先生、本当にアイテムを売っても大丈夫なんですか?」

 

 あの後願いを受け入れた彼らは用意していたアイテムを馬車に乗せて、ンフィーレアと村を発つ準備をしている。

 

「問題ありません! このアイテムは何れ攻めてくるであろう、法国の者達にこちらの力を誤認させるための物ですから! ……この地の情報を集めたいのも事実ですので、あなたには持ってるであろう商人達との伝手をより大きくして頂きます!」

 

「……分かりました! どんな情報を集めれば良いんですか?」

 

「強者と呼ばれる者達と、生活水準、この地における鉱石等でどれほどのアイテムを私が作れるか……検証したい事は山程です! それとゴブリンの勇者や人間の英雄譚もお願いします! ……カルネ村の生活を向上できると、あなたが考える物も買ってきて頂けると幸いです!」

 

「分かりました! エンリ達を、お願いします!」

 

「お任せを! あなたがいない間、協力者に護衛させます! 彼の力は王国戦士長に匹敵するとの事! 大抵の事なら問題ありません!」

 

「……安心しました」

 

「帰ってきたら、すぐに王国戦士長並には成れますよ……覚悟しておきなさい」

 

 ンフィーレアがどんな特訓をされるのか恐怖に震えだす。

 

 やがて村から出発する時間が訪れる。

 

「できる限り早めに戻るからね、エンリ」

 

「うん……待ってる」

 

 ラブコメもあり、ネムはキラキラした目を冒険者は微笑ましい者を見る目をする者と、何かを堪えるような者に分かれた。

 

 事情を理解したゴブリン達も急ピッチで防衛設備と、村人の訓練計画を練り出す。

 

 合間に一度ナザリックに帰還して、ナザリックから帰還する時に渡しそびれていた、ネムの着替えを準備し、2匹のムーンウルフも門を潜らせゴブリン達とも会わせる。その後シフ、ダイ、フク、ネムと森に行き鞭の使い方を教える。

 

「ネム様。鞭はこのように使うのです」

 

 パンドラが鞭を目標の枝に振るう。枝は容易く折れる。

 

「凄い!」

 

「ネム様も私と同じように、できるようになって頂きます……では早速あの枝を目標にして振ってみて下さい」

 

 鞭を手渡すと早速鞭を振るう……しかし、鞭の特性を操りきれずに目標をそれてしまう。何度か振るうが目標に当てられず、自分に当たりそうになるが……

 

「鞭は振り方により自分に当たる可能性もあります。鞭は曲線を描いて攻撃するため目標を下手な外れ方をすると御自身に当たります。注意して使わなければなりません……ただ目標に向けて振るえれば、相手が圧倒的格上でない限り、避ける事はほぼ不可能です」

 

 パンドラが優しく鞭を受け止め、鞭の特性を講義する。

 

「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

 

「問題ありません!!……では少し失礼致します……」

 

 パンドラがネムの手をとり、鞭を振るう。すると目標に当たる。

 

「今から何度か同じ事を繰り返しますので、感覚を御掴み下さい」

 

「……はい!」

 

 十数回繰り返した後、手を離す。また一人で鞭を振るいだす。

 

 パンドラの教えで慣れたのか、目標は外れるが自分には当たらなくなる。さらに5分ほど振るうと慣れたのか目標に当てる事が可能になる。さらに続けると自由自在に振るえるようになった。

 

「パンドラ様! できるようになりました!」

 

「ええ! それほど操れるのであれば、十分でございます!……では次の訓練に移りましょう……まずシフにお乗りください」

 

 パンドラの言葉に従いシフに跨る。ちなみにシフには移動能力向上のマジックアイテムを装備させている。

 

「今からシフが走り出します。その中で、鞭を振るう訓練を致します! シフが走りながらになりますので、バランスが悪くなりますからお気をつけを! 落ちそうになった場合私が受け止めますのでご安心を!」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 シフが目標に向かい駆けだす。それに合わせて鞭を振るおうとするが、上手く振るえずにシフの毛皮に掴まり目標を越してしまう。シフが反転して、もう一度目標に向かいネムも振るおうとするがバランスを崩して落ちてしまう。

 

 パンドラが受け止めようとするが、マジックアイテムの力で自分で浮いて、シフに跨りなおす。

 

(これは……飛行は完璧のようですね……)

 

 ネムは何度も繰り返す。落ちそうになればマジックアイテムで浮かぶ。間に合わなそうであれば、パンドラが優しく受け止める。

 

 何度も繰り返しているとシフから落下せずに鞭を振るい目標に当てる事ができた。

 

「できました! 助けてくれてありがとうございます!……シフもありがとう!」

 

(ふむ? これはライダーの素質もありますね……限定的ながら意思の疎通もできているようですし、テイマーもありますか?)

 

「構いません! では次は動く目標と行きましょう! そうですね……シフに乗りながら私に攻撃下さい!」

 

「え!? 危ないですよ!」

 

「問題ありません! ネム様の鞭の腕では当てる事は叶いませんから!!」

 

 その言葉に少しむっとしたのか……顔を膨らませる。

 

「……当たっても知りませんよ!!」

 

「構いません! 当てる事ができれば、何かプレゼントを致しましょう! それとダイとフクにも命令を下して、私の妨害をさせて下さい! 私に鞭が当たるか、ダイとフクが私を捕まえれば、ネム様の勝利です! 私がネム様に手を当てた場合、ネム様の敗北です! では始めましょう!」

 

 パンドラの掛け声に応じて、シフが円を描くように走り出す。

 

 ネムがすぐに攻撃を仕掛けてくるが最小限の動きで避ける。最短距離でネムの手に手を軽く当てる。

 

「はい、ネム様の敗北でございます!」

 

「……負けちゃった……」

 

「左様です! 次は2匹に命令を下して私を簡単に近づけないように!」

 

「……次は負けません!」

 

 試合が再度開始される。ネムはシフを走らせながら2匹に命令を下す。が、初めてなので効果的な命令を下せない……

 

「また負けちゃいました……」

 

「さすがに訓練一日目で負けると立つ瀬がありませんからね!!……そうですね今日の訓練はこの辺りにしましょう……」

 

「……はーい」

 

 少し残念そうな顔をしている……

 

(やはりまだ子どもですね。感情のコントロールができていない……だからこそ、アインズ様に近づけたのですか……ナザリックの件も濁して聞いてみましょう……何か解決への手掛かりが得られるかもしれません……ですがその前に)

 

「ネム様! がっかりなされないで頂きたい!! これからダイとフクに上手く命令を下す事ができるように、ボードゲームを教えましょう! ……実際の戦いとは違いますが、応用が利きますので!」

 

「……はい! 次は負けません!」

 

「その意気でございます!! では村に帰りましょう!!……姉君も心配している頃でしょうし!!」

 

「はい!」

 

「ですがその前に……」

 

 ネムの顔は運動で赤くなり、汗がでているため、パンドラはタオルとピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター(お湯)を取出す。

 

(疲労無効等の装備を付けているため、問題は無いでしょうが……清潔にして頂かなければ、埃も纏わりついているでしょうし)

 

「こちらで汗を拭い下さい! 多少動かれましたので、汗をおかきになられたでしょう……こちらからはお湯が一定量でますので……その後こちらのタオルでお湯で濡れた身体をお拭き下さい。それとこちらは服と下着の替えでございます! 身体を清潔に保つため、汗をかかれた後等は下着をお着替えください! できれば毎日!」

 

「……はい! 分かりました!……でもこれは?」

 

 ネムが聞いてきた物は、スポーツブラジャーと呼ばれる物だ。

 

「おや? 初めて見られますか? アインズ様も渡しておられなかったのですね……ネム様。こちらは女性が胸に付ける下着でございます……胸が正しく成長するように補助する物とお考え下さい」

 

「胸の成長? お姉ちゃん達みたいに大きくなるんですか? ……そういえば、お姉ちゃんも何か胸に布を当ててたと思います!」

 

「布、ですか……なるほど……カルネ村全体の生活環境改善も必要ですね……はい! ネム様はそれをお付け下さい!」

 

「はい!」

 

「ところでネム様? 一つお尋ねしたい事があります!」

 

「? 何ですか?」

 

 パンドラズ・アクターはナザリックの事を濁して聞いてみる。

 

「仮に、仮にです。ネム様に好きな人ができたとしましょう!」

 

「ふぇ!?」

 

 身ぶりを交えながらパンドラは質問を伝える。

 

「仮にです! 好きになった方……仮称Mとしましょう……そこに、Mを私の方が昔から好きだった! と乱入してきた人物……Aとしましょう。……MにとってAは娘のような存在です! 悲しませたくは無く自分の思いを殺してもよいと考えている。しかしMが本当に幸せになるにはネム様と結婚しなければならない……そんな条件の時ネム様はどうしたいですか?」

 

 最初赤くなっていた顔が徐々に難しい事を聞いたと目を回しだしている。

 

「そこまで難しく考えずにお答えください! 仮にの場合ですので!」

 

「……やっぱり私は好きになった人と結婚したいです……でもなんでAさんとMさんが結婚したら本当に幸せになれないんですか?」

 

「それはですね、彼女は実の親に捨てられて、Mの所有物になり永遠に支配されたいと考えているのです、……M様は家族を欲しいと願っておられるのですが……」

 

「……だったら皆で家族になればいいと思います!! 私もMさんもAさんも、お姉ちゃんもンフィー君も、村の人とも!……みんなで冒険してみたいです!! アインズ様達みたいに仲良くなりたいです! 村を襲った人達とは嫌ですけど……」

 

「…………」

 

「どうしました? 変だったですか?」

 

 何か間違えてしまったのかと不安そうに見上げてくる。

 

「……はは。ははは! はははは! なるほど! なるほど! そう考えますか! 変な質問をして申し訳ありませんでした! ご協力ありがとうございます! では我々は少し離れておきますので、お着替えください!」

 

 少し離れながらパンドラズ・アクターは今後の事を考える。考えながら声には出さないが、頭の中で笑い続ける。

 

(ははは! やはり私の目に狂いは無かった! ネム様こそ父上の妻に相応しい!! 彼女なら父上の寂しさを必ず取り除いて下さる! ……ナザリックの者達が、家族になる下地を作るのは私の役目ですね!! さて、どうしましょうか? まずはメイドの誰かと父上を交えて、3人で仲良く会話をさせるようにしてみましょう! ルプスレギナ嬢が最善ですかな? 彼女であれば、父上とネム様の仲の良さを見て、同じ事をしたいと考え行動できるかもしれません。食堂で普段通りに動いたのも、彼女が最初でしたし彼女がどう動いているか部下に聞かなければ!)

 

(そうですね、話題は……ネム様はこの世界の文字を知らないとの事。文字を調べて、父上、ネム様、ルプスレギナ嬢に同時に教えてみますか?)

 

(アウラ殿達とネム様が、仲良くなれるように働きかけてみるのも良いかもしれません! 少しずつ、少しずつですが、壁を取り除く段取りを作りましょう! ネム様と父上の関係性を見れば、『壁』を脆くして、自力で壊せる者が出てくるはずです!……問題は)

 

 比較的容易に行える事を考え終えた後、本丸を考え始める。

 

(アルベド殿をどうするか考えましょう。前提条件として彼女を殺して解決を図る事はしてはいけない……。旗の件もあるため、父上に知られる事も出来ない……知れば自分のせいだと言う以上に、彼女の殺意を理解すれば最悪の事態になりかねない……昨日の結論では、デミウルゴス殿と協力して彼女を遠ざけるつもりでしたが……ネム様の言うとおり、全員を家族にするのであれば……さてどうしましょう? 他の方々の件を改めて貰うのは当然として、行き過ぎた嫉妬を止めて頂かなければ、確実に死人が出ます)

 

 腕を頭に添えて大きく悩む。

 

(ええい! 本当にどうするべきだ!……父上に愛してるぞ、とでも一度囁いて……確実に暴走しますね……一旦別の事を考えましょう)

 

(……確かリアルの世界では一夫一妻のようですが、この世界ではそうではないでしょうし……数人いても構わないでしょう……問題は誰を正妻に……無論ネム様でしょう。私に排除ではなく、別の可能性を呈示してくれたのですから! それに父上に御負担をかけて、ネム様がそれを取り除いていたと言えば、ある程度理性的な者なら説得できるでしょう! ……問題はアルベド殿ですね……確実に暴走しますね……) 

 

「……はぁ。やはりそこに辿り着きますか……」

 

 肩と腕が大きく落ちる。身体が全て動かずに止まる事がない事が、彼の思考の膠着具合を現している。3匹は変な物を見る目でパンドラを見ているが気付かない。

 

(私個人では不可能ですね……誰かに協力を依頼するとして、可能性があるのは、デミウルゴス殿ですか? 彼なら父上が真の意味で家族になりたいと願っていると、いつか辿り着けるはず……辿り着いても不敬と断じそうな気もしますが……やはり攻略不可能では……待ちなさい? 確かアイテムの中に完全なる狂騒という精神耐性があるアンデッドにもかかるアイテムがありましたね?)

 

(それを改良して、一時的に父上が望む状態を生み出しますか? ……ふむ。これは要検討ですね。一度使えばアルベド殿も気付けますか? ……彼女の感情(ヤンデレ具合)がそれで終わるとも限りませんね……一先ずブレインを鍛えて、カルネ村の備えをさせながら、二人にも相談してみましょう)

 

 アルベドの解決策を未来の自分と仲間達に放り投げる事にしたパンドラはマーレにメッセージを飛ばす。

 

 

 

『マーレ殿! 今少しよろしいかな?』

 

『……え、えっと。は、はい! 大丈夫です!』

 

『昨日の件はありがとうございました!』

 

『至高の御方々にお仕えするために創造された者達が協力するのはと、当然だと思います』

 

(……お仕えする者、ですか……諦める訳にはいきませんね! 必ず、必ず、壁を破壊してみせましょう!)

 

『……左様でございますか……ではマーレ殿にこの森で我々の協力者となれる者及び、それなりの強さを持った敵の探索をお願いしたい……本来はアウラ殿の仕事ですが、現在シャルティア殿の件がありますので……』

 

『わ、分かりました! でも、敵ですか?』

 

『ええ! ナザリックの強化を行うのが我々の仕事です! ……情報収集中に我々の協力者になりうる者を見つけたので、現地の者がどれほど強くなれるかの実験をね……一応私の部下に探索させてますが、目は多い方がいいでしょうし……御理解いただけましたかな?』

 

『は、はい! 大丈夫です!……えっと、質問があるんですけど……』 

 

『何でしょう!? 私が答える事ができる事ならできる限りこたえましょう!』

 

『え、えっと、アインズ様の御妃様の事なんですけど……』

 

『ふむ? あなたの姉が何故、妃に相応しいと思ったか聞きたいのですか?』

 

『そ、それもあるんですけど……その、僕もアインズ様の御妃様になりたいです! どうすればアインズ様に相応しくなれますか!?』

 

『…………は? いえマーレ殿は男の子だったと思われますが……』

 

『性別で御妃様を選ぶのは間違いだと思います! アインズ様に命令されれば誰だって、一緒に眠るべきだと思います!』

 

『あっ……はい……分かりました……マーレ殿の意見も考慮したいと思います……何が必要かはご自身で御考え下さい』

 

『が、頑張ります!』

 

『では、失礼します』

 

 マーレとのメッセージを終えたパンドラは目眩を起こしそうになりながら、呆然としていた……暫く時間が経過して再起動を果たしたパンドラは震えた唇で呟く。

 

「……やはり父上にはナザリックをお捨て頂いて、ネム様と駆け落ちして頂いた方がいいかもしれませんね……別の意味で……一先ずネム様を呼びましょう。そろそろお着替えも終わっている頃でしょうし……」

 

 疲れた雰囲気を察した3匹も今度は心配そうに見上げていた……

 

★ ★ ★

 

(何だったんだろう?)

 

 好きな人と言われ少し顔を赤くしたネムは少しの間、結婚の事を考えていた……

 

(……早く着替えよう)

 

 木陰に隠れて服と下着を脱いで気付いた。

 

(……え? 濡れてる? 嘘……何で?……そうだ!……お湯を溢した事にしよう!)

 

 隠す算段を付けたネムは、服を脱ぐその時……

 

「ぅん?」

 

 服を脱ぐ時に胸の一部分に当たると奇妙な感覚を感じる……

 

(股の部分を洗った時と似てる?……え? 大きくなってる?)

 

 服を脱いで気付くと、胸の一部分が膨らんでいた。

 

(え? 何?)

 

 試しに指で軽く突いてみる。

 

「ひゃ」

 

 先程以上の感覚を感じて、思わず声を挙げる。恥ずかしくて周りを見回してみるが、誰もいなかった。

 

(……早く身体を拭こう……)

 

 腕や脚を拭き始める。拭き終わると、脇やお腹、背中を拭う。

 

 脇やお腹を拭いた後……変な感覚のする胸を軽く拭う。来ると分かっていたので、声を挙げないで我慢できた。

 

 そして股の部分を拭くと、今までの以上の感覚が身体を走る。

 

(何!……昨日から感じてる……もう少し触ってみよう)

 

 ネムは優しくタオル越しに触り始める……暫く触っていると、大きな波みたいな感覚が近づいてくるのが分かる……そこに遠くから声が掛かる。

 

「ネム様! お着替えは終わられましたか!?」

 

「ひゃい!」

 

「む? 大丈夫でございますか?」

 

「は、はい! 大丈夫です! すぐに行きます!」

 

 ネムは急いで服を着始める。胸の下着を付けた時は擦れなくなった。

 

(……これなら大丈夫!)

 

 下の下着も付けて、服を着る。タオルや着替えた物を持って、急いでパンドラ様の下に向かう。

 

「お待たせしました! ……何かあったんですか?」

 

 どこか疲れた様子で頭を少し抱えたパンドラ様がいた。

 

 

「ああ。いえ……少し仲間達の事で想定外の事がありまして……何も問題はありません! ふむ? 少し顔がお赤いようですが……そうですね! こちらで水分補給をお願いします!」

 

「ありがとうございます!」

 

 持物を地面に置いて、グラスを受け取り、水を飲む。

 

「おいしいです!」

 

「それは良かった! ではカルネ村に帰りましょう!」

 

「はい!」

 

 ネムは荷物を持って、シフに跨る。

 

★ ★ ★

 

 訓練が終わり、村に帰ってくると、エンリやゴブリン達が少し心配そうにネムを見ていた。

 

「お姉ちゃん! 私アインズ様から頂いた鞭を使えるようになったよ!!」

 

 荷物を地面に置いて、試しに空間に鞭を振るい皆に見せている。全員に驚いた空気が流れる。

 

「凄いでしょ!」

 

「……うん。ネムは凄いね」

 

 ネム様を抱きしめている……目には薄らと涙が見える。

 

「お姉ちゃん?」

 

「何でもない……何でもないのよ、ネム」

 

 エンリは何かをネムに謝り続けているように見える。

 

(……これは、ンフィーレアが早めに戻らないと、少し大変な事になりそうですね)

 

 危険な雰囲気を感じ取ったパンドラは空気を変える。

 

「ところでエンリ嬢。ンフィーレアとの御結婚はいつですか?」

 

「うえ!? ええっと、ま、まだ決まってないです」

 

 悲しそうな表情が一瞬で吹き飛び、真っ赤になる。

 

「お姉ちゃん! いつ結婚するの!?」

 

「ま、まだよ。ネム。き、決まったら教えるから」

 

「ではお決まりになったら、私にも教え頂きたい……結婚祝いに何かプレゼントしましょう!!」

 

「え!?」

 

「それと……あなたにはネム様をお育てするための協力をして頂きましょう!」

 

 エンリが驚いた表情をしているが、少しずつ嬉しそうな顔をする。ネムを手伝えるのが嬉しいのだろうか?

 

「ネム様には、指揮官としての役割もお教えします! 難しい物ではなく! 簡単なゲームです! ですが頭の回転をよくするのに有用です! お二人にはルールを覚えて頂きます!」

 

「……分かりました! 私もネムが強くなれるように協力します!」

 

「お姉ちゃん! ありがとう!」

 

 姉妹が嬉しそうに、じゃれあっている。ゴブリン達も微笑ましい物を見る目をしながらも険しい目をしている。

 

 ネム達が訓練をする必要性があるのを認識しているが、耐えられないのだろう……

 

「後は……こちらのネム様のお洋服の洗濯などをお願いいたします! 次回来る時には布を用意して参りますので、村の人達と協力して衣服をお作り下さい!」

 

「……私達も頂いていいんですか!」

 

「ええ! さすがに全員分を用意できると思えませんが……その辺はあなた方で御相談下さい!……ではチェスのルールをお教えいたしますので、ネム様達の家に案内して頂いても構いませんかな? 必要な物は用意していますので!」

 

 二人が同時に頷く。

 

「では、案内をお願いします!」




更新完了! 長くなりすぎたので分割。他の面々は次回。

次回の更新は、千秋楽に!(多少前後する可能性はあります)


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第12話 思い

お待たせしました! 少しずつ地の文の修正作業等を行っております! 今話は多少改善されたのではないかと思いますが……ご指摘いただけるとありがたいです!


 パンドラズ・アクターは二人の家に案内された。

 

「ではこちらをご覧ください!」

 

 チェスの盤と駒を見せてルールを説明する。二人も苦戦していたが、集中を見せて僅かな時間で覚えて見せた。教える最中、エンリは疑問を浮かべていた。これで指揮官の練習になるかが分からないように……指揮官とは何かを理解できていないので当然のことである。本来なら軍人将棋の方がよい訓練になるのだが、文字を教えるのには時間が掛かるため、こちらで代用する。

 

「エンリ嬢。なぜ、指揮官の訓練になるか分からない顔をしていますね?」

 

「あっ……すみません!」

 

「構いませんとも! では解説いたしましょう!」

 

 パンドラズ・アクターは演技を使い分かりやすく解説を始める。多少時間がかかったが、二人とも理解する事ができたのだろう。頷いている。……ネムは多少怪しい部分があるが問題は無いだろう。実際に彼女が戦う場面になれば、ほぼ詰みといえるのだから。

 

「……解説したとおり、戦いとは如何に相手のしたい事をさせず、自分のしたい事を相手に押し通すかです。こちらはゲームですので完全には再現できませんが、どう対応するか、こう動けば、相手はどう動くか、動かせさせるかの訓練にはなります!」

 

「……実戦だったらさらに不確定な要素が加わるんですね?」

 

「その通りです! エンリ嬢良く理解できましたね! 付け加えるなら、指揮官はどんな時でも絶望を見せてはならないという事ですね! 指揮官が諦めてしまえば、勝ち目は0になりますから!」

 

 エンリが指揮官としての適性を見せた事には、パンドラズ・アクターも驚いていた。この妹にして、この姉ありである。正しくはこの姉にして、この妹ありだろうか? また不確定な要素に関しては心当たりがるのかもしれない。カルネ村が騎士に襲われた時、アインズに救われたのは不確定要素と言えるだろう。

 

「では、お二人とも紹介したい者がおりますので外に向かいましょう!」

 

 ネムが元気よく返事をしながら外に出ていくように誘導する。ネムがいては、エンリの疑問を晴らす事ができないのだから。

 

「……ご安心を、ネム様が戦場に立つような事がないように、尽力いたしますので……」

 

「……パンドラズ・アクター様は、不確定要素を恐れておられるんですか?……また誰かがこの村を襲う可能性があるんですか?」

 

「……その通りです……私やアインズ様であれば大抵は守りぬけるでしょう。しかし私達はこの村に常駐する事はできない。そのため護衛の者達も用意しましたが、万全とは言えない……あなたやネム様、村の者達には私達がいなくても時間を稼げるようになって頂かなくては」

 

「……私も全力でネムに危険がきた時に、対処できるように頑張ります!」

 

 エンリは何か覚悟を決めた瞳でネムの後を追う。パンドラズ・アクターが語っていないだけで、多少の不確定要素が起こっても、ブレインだけで守り抜けるだろう。……法国かナザリックの者が攻寄せない限り。

 

(しかし……この家も改築しなければなりません……家族との思い出でしょうから、新しく家を作る方が良いでしょう。防衛力を高め……新しい家に恒常的に父上の部屋に門を開けるようにすれば、頻繁に招く事も容易になりますしね)

 

 外に出る。時間的にそろそろナザリックに帰還しなければいけない。本来ならもう少し時間をとって、カルネ村に必要な物を調査したいが、ナザリック(アルベド)が気がかりなため、これ以上の時間をカルネ村に投入するのは止めるべきである。

 

「村の者達よ! 大事な話があります! 各員傾聴して下さい!」

 

 パンドラズ・アクターの大声に村人の多くが集まり始める。一体何が起きるのかワクワクした目で見る者と、何か問題が起きたのかと警戒を露わにする者たちである。前者は主に子どもが多い、筆頭はネムである。

 

「パンドラズ・アクター様。一体何事でしょうか?……まさかこの間みたいに何者かが……」

 

「ご安心を! 今回は護衛の者をあなた達に紹介するためです! ……私達も頻繁に来られる訳ではないので、この村に住み込みで護衛する者を用意しました!」

 

『ブレイン! こちらに来なさい!』

 

★ ★ ★

 

 ブレインはただひたすらに、仮想敵と戦い続ける。いつの日か、見果てぬ頂きに手をかけるために。

 

 現在の仮想敵はシャルティアだ。何度切りつけても、どこを狙っても、全てを弾かれる。小指の爪一つで。パンドラズ・アクターに聞いた通りであれば、奴がフル装備をすればより強化されるという。何度も不可能の文字が頭を過る……頭の中に出てくる言い訳を切り捨てる。

 

「……俺は絶対に諦めない! 必ずだ……必ず到達してやる! 諦めなければ、必ず夢は叶うと俺は信じる!……何度倒れようともだ!」

 

 求道者は咆哮をあげる。ただ、我武者羅に前だけを見続ける。自分を見下す視線を睨み返す……またブレインがシャルティアに殺される結果に終わる。何度繰り返しても、結果に変化は訪れない……

 

(……こいつは俺の想像でしかない。……本当のあいつは数倍以上に強いはずだ!)

 

 これでは駄目だと自分自身を叱咤する。森の賢王が隣で何か言っているが、無視してもう一度仮想敵と戦おうとする、そこに……

 

『ブレイン! こちらに来なさい!』

 

「……賢王。あいつがお呼びだ。村に向かうぞ」

 

「……了解したでござるよ! ブレイン殿。話しかけたら、返事をして欲しいでござるよ!」

 

 ブレインは仮想敵との殺しあいで刀に付いた血を振る事で落とす。仮に本当に血があった場合、多くの者が眉を顰めるほどの返り血を浴びているだろう……見る者がみればこの地を戦場と勘違いするかもしれない……それほど濃密な殺気がこの地には漂っているのだ。……別の見方をすれば、それほどブレインは追い詰められているのだ。

 

「……悪いが、俺には余所見をしてる暇は無いんだ……お喋りがしたいなら、村の奴らとしてくれ」

 

「仲間と話す事が余所見でござるか! 共に村を守るのでござろう!」

 

「……痛いとこ突くな……悪かった……善処する……急いで村に向かうぞ? あいつに怒られたくないだろう?」

 

「むぅ……誤魔化しに乗ってやるでござるよ! ……殿に怒られるのは嫌でござる」

 

 二人は無言で走り出す。ここで奇妙な事が起きる。ブレインが余力を残して走っているように見えるのに対して、賢王は全力で走っているように見えるのだ。確かに昨晩の戦闘でブレインは賢王に勝った。疲労無効を考慮しても単純な素早さでは、賢王が上の筈だったはずなのに。

 

「まだまだだ……こんなんじゃ、あいつには届かない」

 

 ブレインは命をかけ続ける特訓により急成長を果たしている。現在のブレインは昨日の稽古で難度にして105ぐらいに成長しただろうか? 仮にガゼフと戦っても、1対1なら負けは無いと確信できる程に。……頂きにいる者たちから見れば鼻で笑われるだろうが。

 

「来ましたね……あちらにいる者達が、この村に住み込んであなた方を護衛する者達でございます!」

 

 村人達が二人に威圧されている。当然だろう。賢王のおかげでこの村は生存できていたのだから……隣には殺気が飛び散っている存在もいるのだから……

 

「……ブレイン! 今すぐにそれを収めなさい! あなたの役目はこの村を守る事ですよ! 契約を忘れましたか!!」

 

「……すまん。悪かった」

 

「まったく。あなたは……村人の皆さん! ご安心を! 確かに恐ろしく見えるかもしれませんが、彼はただ強くなる事に情熱をかけているのです! そのために私と契約した身! 村を守る事はあっても、敵になる事はありません!」

 

「悪いな……あいつの言うとおり、俺の仕事はこの村を守る事だ……」

 

「まったくブレイン殿は! 殿の御命令を遵守しないとは! それがし森の賢王でござるよ! 困った事があったら、何でも聞いてくれて良いでござるよ!」

 

 ざわめきが起こる。『森の賢王』。この名称はカルネ村にとって特別な物だ。村長がアインズに語った通り、カルネ村が何の防衛対策もとらずに存続できたのは、『森の賢王』が防波堤代わりになっていたからである。

 

「……あなた様は、周辺の森を支配していらっしゃる、森の賢王様でございますか?」

 

「左様でござるよ! それがしがその賢王でござる! 今は殿に従属しているでござる! ブレイン殿と共に、この村を護衛するように命令されているでござるよ! 困った事があれば、言ってくれると嬉しいでござる! 手伝うでござるよ!」

 

 村人達は全員パンドラズ・アクターが強者だとは肌で感じていた。どれほどの高みにいるかは認識していなかったが。今理解できた情報を組み合わせると、『森の賢王』をいとも簡単に従属させる事が可能という事だ……

 

「さて、顔合わせも済みましたね。我々もそろそろ帰還しないと行けません。二人ともしっかりとカルネ村を護衛して下さい! ……村の方もご安心を! ブレインはともかく、賢王の方は礼儀正しいので!」

 

「……おいおい。それは言いすぎじゃないか? 確かに俺は武骨者だが、さすがにこいつに負けるのは御免だぞ?」

 

「ブレイン殿こそ、失礼でござるよ! それがしは確かに、ブレイン殿に力では負けるでござるが、賢さで負ける気はないでござるよ!」

 

 村人達は唖然としている。森の賢王より、ブレインと呼ばれる男の方が強いという事と、軽口を叩きあっている事に……二人の間には細いが確かに絆が存在しているのだと理解させられたのだ……

 

「……仲が良くて、大変よろしい! では皆様! 本日はこの辺で失礼致します! ゴブリン達よ、彼らとの打ち合わせは任せました! ユリ嬢、帰還致しますよ!」

 

 帰還が開始される。「パンドラ様! ありがとうございました!」村人とは思えない程の服と指輪、鞭を装備した子どもが、帰りゆく者達に挨拶をしている……彼女の装備には場違い感がある。まるでどこかの貴族のようだ。二人が帰還するのを見届けた少女が、自分達に話しかけてくる。……怖くは無いのだろうか?

 

 

「えっと。初めまして! ネム・エモットです!」

 

 彼女の言葉で疑問の一部が氷解する。ブレインはパンドラズ・アクターに言われていたのだ。

 

「良いですか? あなたが護衛する優先順位は、ネム・エモット様。続いてネム様の姉である、エンリ嬢。続いて村人達です」

 

 彼女の装備が護衛対象なら当然だと納得できた。彼は明言こそしていないが、命を捨てでも守れと言っているのだから。そして別の疑問が湧いてくる。

 

(……こいつが俺の最大の護衛対象か……もしかして、あいつの主はロリコンか? こんな子供を最大の護衛対象に……いや、もしかしたら子どもでも亡くしていて、似ているのか?……どっちにしても俺がやる事は変わらないな)

 

 ロリコンと思われた事をアインズが知れば間違いなく、鎮静化が行われる。後者を聞いても、自分の職業(童貞)を思い出し結果は同じだろう。パンドラズ・アクターを息子と認識していても職業に変化は無いのだから。仮に両方知れば、精神的に追い詰められすぎて、自害を選ぶかもしれない……まぁナザリックの面々が止めるだろうが。

 

「……ああ。初めまして。俺は、ブレイン・アングラウス……」

 

「それがし、森の賢王でござるよ!」

 

「初めまして! アングラウスさんは、パンドラ様のお友達なんですか?」

 

(……ははは。あいつの名前を略して嬉しそうに呼ぶか……頂きを知らなかった頃の俺以上に怖いもの知らずだな……)

 

「……いや、どちらかと言えば、俺はあいつの弟子になるな」

 

「お弟子さんなんですか! ンフィー君と一緒です!」

 

(ンフィーレア・バレアレか? 確か協力しろと言われた奴だな……情報を集めさせるとか言ってたか?)

 

「そうだな。それにしても人間に襲われたらしいから、もう少し俺の事を警戒するかと思ってたんだが? それに殺気をだしてしまったしな……」

 

「……パンドラ様が連れてきた人だから大丈夫です!」

 

 村の人間も同じような事を言っている……ただ殺気の事に関しては説明を求めている。いきなり来た人間が殺気を出しているのだから、疑念の目で見られる程度で済んだのは驚きである。

 

「……さっきのは、宿敵(シャルティア)との戦いを思い出していたんだ……何もできずに、殺される運命だった……な」

 

 何かを思い出す雰囲気が見られる。恐らく、村人が虐殺された時の状況を思い出しているのだろう……何人かから怒り以上の意思が見られる……虐殺をした存在は違う。立ち位置もブレインと彼らでは、まったく異なる。唯一の共通点が、何者かに襲われ、無力を味わった事だ……

 

「……ブレイン殿も村人達も怒りを鎮めるでござるよ! それがし達は殿の御命令通りにそこのゴブリン達と話しあうでござるよ!」

 

「……そうだな……とりあえず俺と、こいつの二人なら大抵の危険からは守れる。安心しな……」

 

 村の人間達から否定の声が上がる。

 

「俺達だって村を必ず守ってみせます!」

 

「……お前たちじゃ足手まといだ……理解できてるだろ?」

 

「……そうだとしても! もう村の危機に何もしないなんて、自分が許せません! 楯ぐらいにはなりますよ!」

 

 全員が強い瞳を見せている……幼い子供でさえ……頂きにいる者から見れば、ミリ単位の差だろう。しかし自分でもこの村レベルなら蹂躙する事ができるほどに彼らは弱い。なのに……

 

(何で、弱いのに、大きく見えるんだ?)

 

「もう! 誰も死なせたりなんかしないよ! ネムも戦えるんだから!」

 

 護衛対象が鞭を器用に操ってみせている……装備を考慮すれば最低でもミスリル級冒険者複数で掛からなければ勝ち目はないだろう。傍にいる魔獣を含めればオリハルコン級でも厳しいかもしれない。

 

(…………俺は、こいつらと一緒にいれば、もっと強くなれるかもな……それにネムは装備を考慮しても鞭の扱いが上手い…………あいつの主が気にいる訳だな……はは。この村が滅びれば人類が滅びるか……俺も気合いを入れて世界を救うか!)

 

「……はっ! お前達が戦いの準備を終える前に、全て終わらせてやるよ! これでも人間ではかなりの腕だ。任せろ」

 

 今まで聞き役に徹していたゴブリン達も話しだす。村を守るために……

 

「確かにあんたは強い。……俺達も鍛えて頂けませんかね? 村を守るために」

 

「だったら俺達も!」

 

「いや、自警団の人達は俺らの訓練を受けた方がいい。今は……俺達の訓練に慣れたら、格上との戦いの仕方を実地で教えて貰いやしょう」

 

「その通りだな……お前達はまず戦いを見て貰う……そうだな……賢王。デモンストレーションと行こうか?」

 

「了解でござるよ! ブレイン殿!」

 

「お前達には戦いの空気になれて貰う……一先ず俺とこいつの戦いを見せる……範囲攻撃はなしだぞ?」

 

「無論でござるよ! それでは殿の命令である、護衛の意味が無くなるでござるよ!」

 

 二人はお互い怪我しないよう、周りに被害がでないように接近戦を行う。ちなみに賢王はブレインを全力で殺しに掛かっているが、全てブレインに防がれるか、受け流す作業が続く。

 

 賢王がパンドラズ・アクターに降伏した後。アイテムを作るための材料を二人で探している間、作っている間、パンドラズ・アクターに召喚された死の騎士(デス・ナイト)とブレインは殺しあいを続けていた……倒すとさらに再召喚……最終的には2体を相手に防戦主体なら生き延びられるようになった。

 

(さすがに昨日の訓練は大きいな……死の騎士(デス・ナイト)との6連戦の後に2体同時はさすがに死ぬかと思ったが……途中から強化魔法も無くされたしな……俺より強い奴は幾らでも居る……それを認識したうえで、必ず、頂きに辿り着いてやる……あいつが内部の方向転換を失敗した場合、この村と世界を救うために、シャルティアと再戦する可能性もあるからな……違うな。無くてもあいつに再戦を挑むのみだ! 今度は爪ぐらい斬り飛ばしてやる!)

 

 森の賢王の爪の振り下ろしを、ブレインは紙一重で避ける。それを何度も繰り返す。ブレインには決して当たらない。まるで自分と森の賢王の力の差を見せつけるように……刀を森の賢王の目にに突き付けると、村人達から歓声が湧きあがる。二人の戦いは熱気の興奮に包まれていた。森の賢王も同じだ……唯一氷のように淡々と戦った、ブレイン以外。内心は熱くなっていたが。

 

「凄い!」

 

「まだまだだ……あいつには届かねぇよ」

 

「確かに殿は別格でござるが……ブレイン殿も十分でござるよ!」

 

 全員がブレイン達の戦いを見て、興奮を覚えている。心情的に近い物も存在するため、彼らは順調に打ち解けていく。

 

 ――余談だがブレインと賢王は家に住まず、常に外で暮らす事になる。ブレインに至っては村人が話しかければ答えるが、話しかけないと雨が降っていようとも、休む事も食事もせずに常に鍛錬をしている。何かに追われるように……時々村の仕事を手伝ったり、不器用な優しさを見せているが……

 

 ただ彼の強さに憧れた、子ども達や男達が彼を見ていたり、彼の強さと不器用な優しさに恋に落ちた女性は多い。恋人や結婚をしていた者、エンリとネム以外全員が恋に落ちたと言えるかもしれない。

 

 賢王は元の縄張りを案内してくれる事で薬草の位置を村人に教えてくれた。獲物をとる事で村に貢献もしてくれている。縄張りを案内してくれる事で、木材の入手も容易になった……全ての村人はさすがは森の賢王とほめ称えたと言う。……一人だけ「これじゃ、仕事上がったりだ」苦笑しながら呟くレンジャーもいたが……

 

 村人と護衛達の絆は少しずつ深まっていった。

 

 彼を連れてきてくれた、パンドラズ・アクターやアインズに対する感謝の念がさらに深まったのは当然と言えるだろう。

 

★ ★ ★

 

 ナザリックに帰還したパンドラは、部下から話を聞いた後メイド達を集めていた。

 

「さて、私が何故アルベド殿達が妃に相応しくないと考えたか、理解しておりますか?」

 

 メイド達が息をのんでいる……ナザリックのメイドに相応しくない程に全員の顔に緊張が走っている。これから何が起きるか察しているのだろうか?

 

「まず一つ目が嫉妬が過ぎた事です……あなた達も怖い思いをしたでしょう?」

 

 全員が首を縦に振っている。嫌いではないが、殺気に近い物を受けた者も多いのだから……

 

「そのため今回はあなた達が人間に対して、どれぐらい嫉妬するかアインズ様に内緒で調査しました……アインズ様はナザリックの者達に脇が甘いので、多少アインズ様の行動を誘導させて頂きましたが……ルプスレギナ! 前へ」

 

「はいっす!!」

 

 尻尾があれば振っているぐらいの喜びを露わにしている。他の者達は「失敗した!」と表情に出している。

 

「現在私がナザリック内で、アインズ様の妃に一番相応しいと考えているのはあなたです」

 

「そうっすか!」

 

「ですので、あなたにアインズ様の専属メイドになって貰うよう進言するつもりです。アインズ様のお許しがでしだい、仕事を始めて頂きます!」

 

 メイド達が大きくざわめく……現在はパンドラズ・アクターがアインズの傍に仕えているため、メイド達が仕える機会がない。それをただ一人のメイドに与えるように進言すると言うのだから、正妃が確定したと感じているのかもしれない。

 

「但しまだ確定ではありません。そして、アインズ様の妃になるのであれば、何が必要か御自分で考えなさい……それが理解できない限り、あなたは妃になれない……アルベド殿とも相談の上で、あなた達には休みを与えます。それを利用して、他の者達も自分がアインズ様の妃になると考えた場合、何が必要になるかを考えなさい!」

 

「…………了解したっす!!」「「分かりました!!」」

 

「それと今回の話はアルベド殿には御内密に……恐らく彼女が知れば暴走しそうですので……被害をあなた達だけで解決できるのであれば、問題ありませんが」

 

 今までの彼女を思い出しながら全員が首を青くしながら頷いている。デミウルゴスやセバスが見れば、ナザリックに相応しくないと発言する程に、大きなざわめきが流れていた……

 

(さて、これでアルベド殿が暴走しても、ルプスレギナに全て嫉妬が向かうでしょう。暫くの間はネム様の安全が確保できますしね……その間にNPCの意識改善とアルベド殿の考えをどう改めさせるか考えなければ……さすがにアルベド殿もNPCを嫉妬で殺す事も……どうなんでしょう?)

 

 パンドラズ・アクターが話した通りの業務も行わせるのは、パンドラズ・アクターの中で決定している。ネムとアインズの話しあい等を見させて、自発的に壁を壊させるために。またルプスレギナは、より重要な任務を知らない間に任される。それこそ、死ぬ可能性が0ではない、アルベドの嫉妬を一身に背負うという任務を……

 

(どうせアルベド殿に今日の事は知られるでしょうし。木を隠すなら森と言いますしね……最悪の場合、高位のシモベとNPC達で取り押さえましょう)

 

★ ★ ★

 

 アインズはパンドラズ・アクターのいない時間、報告書を読んで少しでも多く理解しようとしていた。またシモベの存在があるため、支配者として相応しいと呼べる態度をしている。

 

(いくら何でも、息子に頼りっぱなしは嫌だ。少しでも多く理解してあいつの負担を和らげないとな)

 

 普段パンドラが自分の傍にいるのは、シモベやメイド達が常に自分の傍に控えさせないためだ。自分が凡庸な人間だったと理解してくれているため、重圧に弱い事を察してくれているのだ……またパンドラ自身も別の部屋に移動している事もあるため、十分休む事ができる。

 

(……普段から他のシモベ達も同席させて、重圧に少しでも慣れるようにするべきか?……ネムのおかげで随分リラックスできたみたいだし…)

 

 アンデッドであるため一定以上の感情の揺れは鎮静化されるが、少しずつ小さい感情が積み重なっていたのだ。その分を解消する事ができた。

 

(本当に感謝するべきだ……シャルティアの件も少し冷静に考えられるな……油断から負けた……つまり我々ですら油断すれば負ける可能性がある事をシャルティアは教えてくれた……コキュートスの件次第で知識面での成長が可能かが分かるな……メイド達にスキルがない事ができるかも実験させなくては……私自身もやってみるか)

 

 リラックスしたためか、柔軟に働く脳みそ(語弊があるが)で自分ができる事を思考している。どれぐらい時間が経過しただろうか? 執務室の扉が叩かれる。

 

「誰だ?」

 

「ただいま帰還致しました。アインズ様!」

 

「入れ」

 

 扉が開かれ、一番信頼できる存在が帰還する。

 

「お前達は外に出て通常の業務に戻りなさい」

 

 命令に従い護衛の者達が外に出る。何故だろう……オーバーなアクションがかっこよく見えてきている自分がいる。自分も成長しているという事なのだろうか? (ただの現実逃避である)

 

「良く帰ってきたな。パンドラ」

 

「ただいま帰還しました父上! いくつか御報告させて頂きたい事がございます!」

 

「……カルネ村の件か? 私も報告を聞きたいな……ンフィーレアとは話が付いたのか?」

 

「無論でございます! カルネ村の為ならと、協力を惜しまない様子でございます! またカルネ村に常駐する護衛の者2人を引き合わせて参りました!」

 

「そうか。それで護衛の者はどういった人物だ?」

 

「二人とも王国戦士長に匹敵する者でございますので、桁外れの強者が出てこない限り問題は無いでしょう! またブレイン・アングラウスという者なのですが、強くなる事に情熱を燃やしているため、昨夜パワーレべリングを行ったところ、戦士長を圧倒できる程度には成長したと思われます!」

 

「……つまり、現地の者でも、我々に匹敵できる可能性があるのだな?」

 

「やもしれません。しかしあの者が裏切る事は無いでしょう。我々の協力がなければ現地で効率よくパワーレべリングを行うのも難しいため、我々を利用するでしょう! またンフィーレアにもパワーレべリングを行い、差があるのか、職業選択がどのように選ばれるかの実験をしようと考えております!」

 

「確かにお前の言うとおりだな……ユグドラシルと今の違いを調べなければ。それに悪いとは言わないが、ナザリックの者達は、人間を下等生物と侮り過ぎるきらいがあるからな……」

 

「その通りでございます! 上手く成長すれば、ナザリックの者達が油断する事も無くせるでしょう! 現地の者でも、やり方次第で我々を追い詰める事が可能だと!……さすればシャルティア殿のように人間を侮り敗北する者もいなくなるでしょう!」

 

 シャルティアの敗北、世界級(ワールド)の存在で一部は改められているが、完全ではないのだから。

 

「……見事だ! カルネ村を強化しながら、複数もナザリックの益になる事を実行するとは」

 

「恐縮でございます!……ではそろそろ講義を行おうと思います! よろしいですか?」

 

「無論だ。それとこちらは私が読み込んだ物だ。幾つか理解できない点があるため、補足説明を頼む……その前に質問なんだが、私自身重圧に慣れるために、普段から誰かを控えさせた方がいいと思うか?」

 

「畏まりました!……その点に関しては私も進言しようと考えておりました! ルプスレギナ嬢が最善かと思われます!」

 

「そうか……では講義を頼む」

 

 話が付いた後パンドラは手早く、報告書を読み込んで講義を始める――名実共に端倪すべからざるという、ナザリックの至高の支配者に近づいているのは間違いないだろう。それがいい事か悪いことかは現時点では判断できないが……NPC達の被支配者の壁を崩そうとする、パンドラズ・アクターからすれば自分で難易度を上げている事を理解していなかったので、悪い事なのだろうが――

 

★ ★ ★ 今日のプレアデス

 

「……私がいない間に随分変化が起きたみたいね……まさかルプスがアインズ様の妃候補に挙がるなんて……」

 

 ユリ・アルファはカルネ村にいることが多くなっていたため、ナザリックの変動を察知する事ができなかった。妹達に聞いた話では、メイド長にメイド達が怒られたらしい。また妃のところでは我知らず声が大きくなってしまった。

                          コツコツ

 

「うひひ。いやー私の普段の行いが良かったってことすかね!」

                          

「ないと思う」

「ないと思うわぁ」

「……ない」

「……みんなの言う通りね」

 

「みんなひどいっすよ!」

 

 現在ナザリックにいるプレアデス全てから否定の声が上がる。全員がルプスレギナに対して思う事は一つだ。

 

「だからこそ分からないわ。パンドラズ・アクター様がルプスがアインズ様の妃に一番ふさわしいって言った事が」

                          コツコツ

 

「もしかして、アインズ様はルプスみたいな性格の女性が好き?」

 

「そうかもしれないわぁ」

                          コツコツ

「……でも私達が妃になる可能性もあるらしい」

                

 そうなのだ。パンドラズ・アクターの話によると、何かに気付かなければ妃になる事は無いと言っているのだから。

                          彼女達は今すぐ逃げなければ

「……正妃の座は渡さないっすよ!」 

 

 ルプスレギナは調子に乗っているのだろう。至高の41人の頂点の正妃になれる可能性があると知ればナザリックの全ての者達が強弱に差はあれど、その座を望むだろう……仮に自分達が同じセリフを言われれば、やはりルプスレギナと同じようになる可能性が高い。

 

                          恐怖の権化が接近しているのだから

 

「……はい! お喋りはそこまで! それとルプス。あまり調子に乗るべきではないわ。浮かれていて失敗をしたらどうするの?」

 

 姉として妹を窘める。

 

                          ピタ  すでに後ろに

 

「…………問題ないっす! 時と場所は弁えるっす!」

 

                          ユリは窘めるのが遅すぎた、だって

 

「あらあら。ルプスレギナが一番正妃に近い? 私がいない間に、何があったか、詳しーく聞かせていただけないかしら? お・う・ひ・さ・ま?」

 

                          全てを聞かれていたのだから

 

 そこには、美しい、あまりにも美しすぎる笑顔を浮かべた、守護者統括がいた。隣には普段と様子の違う、6階層守護者の片割れがいる。その顔が怒りに歪んでいるように見えるのは錯覚だろうか?

 

(あ……私、死んだっす)




修羅場NOW\(^o^)/


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第13話 分岐点

注意……この話は洒落にならないぐらい危険要素を含みます。

この話が、プロットが崩壊した全ての元凶です。パンドラズ・アクターを主人公にするしか無くなった話です。

ほのぼのは、前半にしか存在しません……

では、どうぞ


 冒険者とンフィーレア達はエ・ランテルに向けて、移動を開始していた。ンフィーレアはエンリ延いてはカルネ村のために。冒険者は仲間のために……カルネ村に同情したのも一因だが。

 

 道中何度か魔物に襲われることもあったが、ニニャが所持している短杖(ワンド)の試用実験に利用させてもらった。

 

「……本当に第4位階なんて」

 

「なんだーニニャ。疑ってたのか?」

 

「そういう訳じゃないんですけど……」

 

「そう言ってやるなルクルット。お前も気持ちは分かるだろう?」

 

「まぁそうなんだけどな」

 

 依頼で辺境の村に訪れたら、重大な問題に巻き込まれ、強大なアイテムを貰う。

 

「本当、一体どんな確率なんだろうな」

 

「…………無駄話が過ぎるようである」

 

 おしゃべりをしていた3人がバツの悪い顔を浮かべる……現在護衛しているのはンフィーレアだけでなく、ンフィーレアが売るためのアイテムもあるのだから。下手をすればンフィーレアよりも価値が高い物と言えるかもしれない。

 

「どこに売るか決めているんですか?」

 

「……種類が分かれていますから、専門の商人のところに持ち込むつもりです。武器に関しては、冒険者組合に直接持ち込もうかと考えています……」

 

 パンドラズ・アクターの考えでも大きく取り上げられた方がいいのだから。

 

(……許さない……法国も王国も……)

 

 ギリっと、思わず歯を噛み締めてしまう……雰囲気を察したのかルクルットが軽口を叩く……

 

「……それにしても、早く娼館に行きてぇーな! そうだ、ンフィーレアさんも一緒にどうですか?」

 

「うぇ!」

 

「あれ? もしかして経験ないんですか? これから彼女と結婚するんですから、彼女を喜ばせる技術ぐらい……いた!」

 

 ルクルットの話は途中で終わる。ペテルに殴られたからだ。

 

「いてーな、何すんだよ!」

 

「ンフィーレアさんを変な事に誘うな! ……それにユリさんにアタックしてただろう?」

 

「……脈が一つも無かった。もし嫁にしたいなら、主人の許可をとれって……それにお前達も行くだろう? なにせ、昨日からずっと我慢してるんだから」

 

「うっ。それは、その……仕方ないだろう! ……無意識的とはいえ、ずっと生存本能を刺激され続けられてたんだから……村人の皆さんも、家の外に聞こえるぐらい、激しくしてた人もいるみたいだし……」

 

「……そうであるな……最初は何も理解できなかったのである……しかし彼の傍にいる時間が、増えるほど寒気が増してきたのである……一体どれほどの高みにいるのであるか……」

 

 力が離れすぎていると正確に理解する事は出来ない……例えばブレインは最初シャルティアとどれほどの差があるか理解できていなかったように……しかし例外もある。長時間接し続けたせいで、身体が慣れて多少なりとも理解できたのだ。敵に回してはいけないと……そのせいで生存本能が今すぐに逃げろと囁き続けていたのだが……

 

「でも、悪い人? じゃないと思いますよ」

 

 いつの間にか冒険者達での話に移り変っている……確かに生存本能を著しく刺激されると、性欲が高まると聞いた事がある。

 

(……えっと、なら昨日の夜エンリも影響されてたのかな? ……僕も影響されてたと思うけど)

 

 ンフィーレアは昨夜、何とかエンリを押し倒さずに済んだ。……エンリと結ばれるのは強くなってからと決めたのだから。

 

「……もしかして、昨日あの娘と合体! しちゃいました? 女性の方から誘って、何もしないのは相手に恥をかかす事なんだから……」

 

「……え、そうなんですか!?」

 

「あちゃー。本当に初心者なんですね……よしここは俺がとっておきのテクニックと恋愛のイロハを……いて、またかよ!」

 

「ルクルット、いい加減にしないか! ……とりあえず、あの娘はンフィーレアさんにぞっこんのようですから、このままで問題ないと思いますよ」

 

「その通りである。あれだけ熱い告白をしているのであるから、何も問題ないはずである」

 

 ンフィーレアに3人の冒険者達が様々な事を吹き込んでいる……だから誰もニニャの暗い表情と呟いた言葉を聞けなかった。

 

「………ずるい………」

 

 すぐにその表情は消えるが……時々抑えきれないかのように出始めていた……自分でも完全に理解できないまま……

 

★ ★ ★

 

「……疲れたー」

 

 ンフィーレア達は帰りついて検問所を抜けると、すぐにンフィーレアの家に向かい祖母に事情を話して協力を要請した後、すぐに仕事に取り掛かる。現在一仕事以上終えて家に帰ってきている。冒険者組合に向かう途中、何者かがこの町で大規模な事件を起こした事を知った。大量のゾンビ等が出現したが、秩序を持った行動ではなくバラバラであったため、ミスリル級の冒険者達を導入する事で早期に解決できたらしい。首謀者は見つかっていないが、ズーラーノーンではないかと、疑われているらしい。

 

(……先生のお仲間がやった訳じゃないよね?)

 

 少し不安になるが、すぐにそれは無いと考え直す。彼の強さならそんな弱いモンスターではなく、より強大な存在を召喚する事も可能だろうから、お仲間も同じだろう。

 

(それに……先生がそんな事するとは思いたくない……でもお仲間の誰かが暴走した可能性はあるのか)

 

 思い出すのは彼の姿。常に道化のように振舞いながら、主のために動くと明言した時のセリフ。あの言葉に嘘は無いと思えたのだから。

 

(……僕はエンリを守る。必要な事はそれだけだ……一応聞くだけ聞いてみよう)

 

「ンフィーレアやーい。一先ず商人達と話を付けてきたよー」

 

 自分一人では手が回らないためおばあちゃんにも協力して貰っている。赤色のポーションを見て、魔法をかけて確認した後、カルネ村に引越せば、道具を提供してくれることを伝えると、引っ越す事にすぐに同意した。条件を話しても何も変わらなかった。予想通りである。

 

「ありがとう。おばあちゃん」

 

「なんの。ポーション生成に係わる全ての者が夢見る完成形が手を伸ばせば、届く場所にあるんじゃ! 協力するのは当然じゃ……ンフィーレアの嫁も見たいしの……できるなら曾孫もみたいものじゃな……引っ越す表向きの理由はそれじゃしの」

 

 彼女は冒険者達からンフィーレアがどのような告白を行ったのかを聞いているのだ……

 

「……おばあちゃん!」

 

「おお怖い怖い……じゃ別の商人と話してくるよ。金もできる限り用意する必要もあるようじゃし……鉱石の注文もしてくるよ」

 

 顔を真っ赤にしながら怒鳴ると祖母がすぐに出ていく。自分より働いているかもしれない。それほどまでに赤色のポーションは夢なのだ。ポーション生成に係わる者にとって……自分はエンリを選んだが。

 

(……安全が確保できたら、僕も手伝おうかな?)

 

 現在漆黒の剣とは別行動をしている。組合長に引きとめられて話し合いをするからである。終わったら、娼館に向かうらしい。男なのだから仕方ないだろう。ニニャがどうするかは分からないが。

 

(やっぱり気になるんだろうな……)

 

 大きな事件が起きたのだ。強力なアイテムを売るための自演ではないかと、疑われたのは当然かもしれない。自分の名前と、冒険者達の援護もあり、事なきを得て無事に売り付ける事ができた……定期的に売買して欲しいと言われたが、特に問題は無いだろう。簡単に作れるらしいから……

 

 そんな事を考えているとニニャが入ってくる。3人と別れて時間を潰しに来たのだろうか?

 

 

「……失礼します」

 

「あれ? ニニャさん。話し合いは終わったんですか?」

 

「……はい。終わりました」

 

 ……様子がおかしい……思い返せば、冒険者組合にいた時からだ……ただ緊張しているだけと考えていたが……

 

「何か、ありましたか?」

 

「……何か精神を安定させる物を頂けないでしょうか?」

 

 暗い表情だ。下手をすれば壊れてしまいそうな……あの時のエンリを彷彿させる。

 

「……分かりました。何か用意します。中にどうぞ」

 

 言葉に従い奥に入ってくる。椅子に座るのを見届けてから、薬とお酒を取りに行く。

 

「これをどうぞ……それとこっちはお酒です。よかったら」

 

「……ありがとうございます」

 

 薬と酒を飲んで暫くすると、落ち着いたのだろう。暗い表情が薄れた。しかしこれでは根本的解決にはならない。

 

「みなさんはどうされていますか?」

 

「……娼館に行きましたよ」

 

 複雑な表情だ。自身が女性だから思うところがあるのだろう。理解はしているのだろうが。

 

「……そうですか……ニニャさん。何かあったんですか?」

 

「…………」

 

(これは、重症かな?……きっと冒険者の皆さんには言えない、何かで) 

 

 実際ぺテル達はニニャの様子に気づいて心配して声をかけたが、一人にして欲しいと声を荒げられ別れていたが。

 

「……僕でよければ相談にのりますよ……誰かに話すだけでも、気持ちが晴れるかもしれません」

 

 薬で落ち着いていたのに、表情がまた暗くなっている……意を決したのか、酒を飲みほしてニニャは自分の思いを語り出す。

 

「……分かってはいるんです。ただの逆恨みだって……あの村を助けたいと言う気持ちも本物なんです……でもどうしても消えてくれないんです……何でネムさん達は助けられたのに、私達は助けられなかったのかって。分かってはいるんです! 巡りあわせが悪かっただけだって。でもどうして私達は助けて貰えなかったんですか! 何でカルネ村の人達だけ助けて貰えたんですか……」

 

 彼女の暗いものが噴き出す……それは逆恨みとしか言えないだろう。怨むべきなのは貴族達なのだから……

 

「何でエンリさんには助けてくれる幼なじみがいるんですか! 何で、お姉ちゃんを助けてくれる人はいないんですか!」

 

 理不尽な怒りだ……だが彼女はエンリ達の可能性の一つでもあるのだ。もしアインズに助けられていなければ、死んでいただろう……アインズ達がいなくて生き延びたとしても、苦しい未来しかなかったかもしれない……もしかしたら目の前の少女のようになっていた可能性もあるのだから……

 

「……辛かったですね」

 

「……あなたに何が分かるんですか! あなたは食べる物にもお金に困ったことも無いでしょう! 私達と住む世界が違うのに……」

 

 ニニャの目からは大粒の涙が流れだしていた。自分達の人生を振り返っているのだろう。彼女も王国の被害者だ。見過ごす事ができず、ンフィーレアはニニャに近づいて優しく抱きしめて、同じセリフを呟く。

 

「……辛かったですね……」

 

 ニニャは泣きながら自分の胸を叩いている。どうしてと姉と自分の不幸を嘆きながら……地味に痛いが我慢すべきだろう……

 

 どれくらいニニャは泣いていただろう? 泣き疲れたのか自分の胸で眠り出している。ンフィーレアはニニャを持ち上げてベッドに連れて行き、横に眠らせる。自分のベッドだが我慢して貰うしかないだろう。

 

(……男装してたのは、誰も信じられなかったからかもしれないな……)

 

 漆黒の剣は素晴らしいパーティだ。それでもニニャは信じ切れなかったのだろう。信じて裏切られた時に辛くなるから……

 

「……ンフィーレアさん」

 

「……みなさん」

 

 部屋に戻ると、漆黒の剣がいた。深刻な表情を見る限り、ニニャの話を聞いていたのだろう。

 

「娼館には行かなかったんですか?」

 

「……仲間が苦しんでる時に、そんなとこに行くなんてできませんよ……」

 

「……あなた達はやっぱり良いパーティですね……」 

 

「……だと良いんですけどね……仲間が苦しんでる時に何もできないのに」

 

 彼らの表情から無力感が漂っている。なぜ苦しんでる仲間を助ける事ができないのかと……

 

「これから、どうしますか? 良ければ、僕から先生に事情を話しておきますけど……」

 

 ニニャはカルネ村を救いたいのも本音の一つだろう。だけど、傍にいれば自身も苦しむ結果になるだろう。それなら離れた方がお互いの為になるはずだ。

 

「…………少し時間を頂いても良いですか? ニニャを含めて話し合いたいと思います……どちらにしてもエ・ランテルにいる間は手伝いますよ……」

 

「……分かりました。でも今日はニニャさんは眠らせて上げた方がいいと思います」

 

「……お願いします。ルクルット、ダイン、一先ず離れよう」

 

 3人が離れていく。これからどうすべきか話しあうのだろう……

 

(……リ・エスティーゼ王国、か)

 

 ニニャの悲劇は王国では自分が知らないだけで、どこででも起きているだろう。エンリの悲劇も探せば見つかるだろう。そもそも悲劇ではなく、ただのありふれた日常なのかもしれない……

 

「……許さない。絶対に……」

 

 それは誰に向かい、誰の為に呟いていたのか、自分でも分からなかった。もしかしたら今まで何もしてこなかった自分にかもしれない……

 

★ ★ ★

 

 部屋に光が差し込みニニャは頭を押さえながら起き出した。

 

「……痛い……」

 

 今まで飲む機会が少なかったのに、大量に飲んだのが原因だろう。

 

(……ここはどこだろう?……昨日何があったんだっけ?……確か昨日……あ)

 

 思い出したのだ……昨日の暴言を。ニニャがカルネ村に自分達を重ねて、守りたいと考えているのは本物だ。同時に自分達がなぜ助けて貰えなかったのかという、不条理な嫉妬も持ってしまっていた……我慢できたはずだった。しかしネムの装備を見て、自分が貰った物が本物と理解できると、心に暗いものが浮かび続けていたのだ……それをンフィーレアの前で爆発させてしまったのだ……

 

「……どうしよう……」

 

 あんな事を言うつもりは無かった、薬を頂いたらすぐに去るつもりだった……でも認識してしまったのだ。エンリが羨ましいと。助けてくれる幼なじみがいる事に。付随して、ンフィーレアに吐いた暴言も……頭を抱えてしまう……二つ名を名乗られた時以上に、頭を抱えているのが理解できる。そのせいか、周りに対して意識が散漫になっていたのか接近に気付けなかった。

 

「……おはようございます、ニニャさん……」

 

「……あっ、おはようございます……その、昨日はすみませんでした」

 

「大丈夫ですよ……おかげで自分がどれだけ浅はかな人間だったか理解できましたから」

 

「浅はか、ですか」

 

 思わず聞き返してしまう。最初は自分に対する嫌味かと考えたが、どうも違うらしい。

 

「ええ。ニニャさんの話を聞いて、王国ではそんな事が日常的に起きてるって、気が付いたんです……ヒントはエ・ランテルにも幾らでもあったはずなのに……」

 

 実際エ・ランテルものスラム街を歩けば似たような光景を見つけるのは容易いかもしれない……だがそれとどう関連するのだろう? 

 

「……もしかしたら僕の大事な人が同じ目に遭ったかもしれない……僕はそんな事を認識せずに生きていました……今までなら、それでも良かったのかもしれない。でも僕は変わる必要があるんです。守るためにも」

 

 髪の毛に隠れていたはずの目が見えている。前髪を切ったのだろう。強い瞳が見える。仲間たちとも違う。ただ見惚れてしまうような、強い意志をそこに幻視した。

 

「っとすいません。一応手拭と水を持って来ました。寝汗もかいているでしょうし、どうぞ」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

「それと昨日は僕のベッドですみません。本当なら、おばあちゃんのベッドの方が良かったんですけど、おばあちゃんに事情を伝えて良いのか分からなかったので……」

 

 違和感を感じた……

 

「……えっと。何でリイジーさんのベッドなんですか? 僕は男ですよ?」

 

「……実は先生からニニャさんが性別を隠しているのを聞いちゃって……」

 

 気まずい雰囲気が2人を包み込む……

 

(……知られちゃったの! ど、どうしよう。口止めしないと)

 

「大丈夫ですよ。誰にも、話しませんから」

 

「……ありがとうございます」

 

「それと、後でお姉さんの名前をお聞きしても良いですか?」

 

「何で、ですか?」

 

 思わず声に鋭いものが混じる……なぜその事を聞いてくるか理解できなくて……

 

「先生の話で、カルネ村を守るために、こちらの情報を多少流す事になっています……その一環で、ニニャさんのお姉さんの情報も、商人の人に尋ねてみようと思うんです」

 

「…………いいんですか!」

 

 声を荒げてしまう。自分がしても効果は少ないだろう……しかしンフィーレアがするのであれば効果は段違いのはずだ……そう、姉を見つける事も案外早くできるかもしれない……

 

「……構いませんよ。それじゃ、僕は離れておきますので……」

 

 頷きを返した後。ンフィーレアが部屋を離れる。彼は自分を女性として扱っているのだ……

 

(……あれ? 昨日、私ンフィーレアさんに抱きしめられた?)

 

 酒を飲んでいておぼろげな記憶を思い出すと、顔を赤面させる……ンフィーレアが逞しく見えたのだ……

 

(……いいなーエンリさん。ンフィーレアさんの恋人になれて……違う違う)

 

 頭を振って、変な考えを捨てる。自分に必要なのは姉を見つける事なのだから。軽く身体を拭いてンフィーレアの下に向かう。

 

 いつのまにか、負の思考は無くなっていた。

 

 ――――その後、ニニャは漆黒の剣に心配されながらも依頼を続行したいと伝え受け入れられる。ニニャが姉と再会する未来は遠くは無いだろう。また自身の本当の性別を告白する日も……余談だが、ニニャはンフィーレアにだけには、全てを知られているためか、漆黒の剣と同じかそれよりも近い関係で接する事になる――――

 

 ンフィーレア達の護衛等の任務を受けていた、パンドラズ・アクター配下のシモベは借り受けた精神に作用するアイテムを仕舞い定時報告を行う。

 

『失礼致します。ンフィーレアはパンドラズ・アクター様のお考えの通り、より深く王国への憎悪を深めたようで御座います』

 

『……………………』

 

 返事がない。しかし雰囲気から、非常事態が起きた事を察する……

 

『……如何なされました?』

 

『……いえ、何でもありません……それでは、あなたに新たな任務を下します』

 

『畏まりました……どのような任務で?』

 

『ンフィーレアに接触し、早めにカルネ村に戻るように伝えなさい。急変が起きた、と。その後私がカルネ村を訪ねるまであなたが、ンフィーレアとブレインを鍛えなさい。またネム様を護衛なさい。たとえ、誰の命令であろうとも、ネム様を守りなさい。良いですね? …………私に万一の事態が起きた場合、ネム様達を連れて逃げなさい……その後アインズ様より連絡があるまで隠れていなさい……もしアインズ様からも命令が無い場合―――――――』

 

『……承りました』

 

 それで定時連絡は終了する……ただのシモベである自分には理解できないが、まるで嵐の前の静けさのようであった……

 

★ ★ ★

 

 時間はアルベド達がルプスレギナに嫉妬を見せる前に巻き戻る。

 

 アルベドとアウラはシャルティアの部屋を離れて報告のためにアインズ様の執務室に向かっていた。その最中アルベドがアウラに話があると言って、アウラの部屋に立ち寄っていた。

 

「それで、何の話かな、アルベド?」

 

 不機嫌そうだ。絶対の支配者に報告する時間を割かせているのだから当然だろう……もしかしたら別の事で不機嫌になっているのかもしれないが……

 

(……パンドラズ・アクター。誰にも、アインズ様の一番は譲らない……あなたの言葉、利用させて貰うわ)

 

「ねぇアウラ?」

 

「なに、アルベド?」

 

「アインズ様の妃の件なんなんだけど……二人で協力しない?」

 

「え!?……でも最終的に決めるのはアインズ様でしょ?……それにパンドラズ・アクターは私や、メイド達を応援してくれるらしいし」

 

 少し胡散臭げな顔でこちらも見ている。当然だろう。パンドラズ・アクターの後ろ盾があれば自分と協力しなくとも妃になれる可能性はあるのだから……

 

「……ええ。確かにパンドラズ・アクターはあなた達を応援しているらしいわね? 原因は私とシャルティアのお互いの嫉妬らしいわ……あなたはまだ若いから分からないでしょうけど、嫉妬はね、いい殿方にしか出ないものなの。 つまりそれだけアインズ様が素晴らしい殿方という事なの。理解できたかしら?」

 

「……でも、アインズ様は二人のケンカに怯えてたらしいよ?」

 

「そうね、少しやりすぎたと自分でも後悔しているわ。だからこそ私たち二人が手を組むの」

 

 訳が分からない顔をしてる。だからこそ説明(誘導)するのだ。真実でもあるのだから。

 

「確かにメイド達も妃になるのを私も反対はしないわ……でもね、至高の支配者たるアインズ様の目的の過程で、妃が表に出る事も必要になるの。そんな時メイド達では危険が大きいわ。油断していたとはいえ、シャルティアを敗北させる事が可能な者がいるのだから……」

 

「……プレイアデスのリーダーはどうなの? 彼女は私達と同格って聞くけど?」

 

「確かに彼女はその点はクリアしているわ……でもあの場所を離れられないから第1妃、第2妃には向かないわ」

 

 納得したのか、少し躊躇いながらシャルティアを話題に出す。自分でも理解している事なのに……

 

「……ならシャルティアは?」

 

「……アウラも分かっているでしょ? シャルティアが妃になるのをパンドラズ・アクターが絶対に認めないわ。あの時の怒り方で分かるでしょ?……おそらくアインズ様が自らシャルティアを選ばないように誘導するわね……それに、シャルティア自身も妃になる資格は無いと考えてるはずだわ」

 

(もし考えていないなら……私の手で一思いに……止めを刺してあげましょう……アインズ様の一番は他の誰にも渡さない……)

 

 アウラが俯いている。一番の友達の境遇を嘆いているのだろうか? 彼女の存在理由ではシャルティアと仲が悪くなければいけない。そこも利用できるかもしれない。

 

「…………」

 

「それに私もシャルティアを哀れだと思うけど、アインズ様の御命令を無視する者が妃になる資格は無いと思うの……あなたはどう思う、アウラ?」

 

「それは、そうだけどさぁ」

 

「シャルティアも駄目なんだから、私達しかアインズ様の第1妃、第2妃に相応しい者はいないわ……それに私達が妃になった後に、シャルティアも側室として入れて貰えるよう嘆願しても良いわ。彼女のこれからの働き次第だけど」

 

「…………シャルティアの事は仕方ないのかもね……なら第1妃は誰になるのか、教えて欲しいな。アルベド?」

 

 何かを吹っ切れたのか、顔をあげてこちらを睨みながら見てくる。

 

「アルベドの話じゃさ、誰が第1妃になるのか分かんないんだけど?」

 

「もちろん第1妃は私よ? 考えてもみなさい。アインズ様は魔法詠唱者。前衛を務め守護できる私が相応しいわ」

 

「確かに前衛としての力はアルベドよりは落ちるけどさ、相手を状態異常にしてサポートするのも相応しいと思うけど?」

 

「ふふふ。年を考えなさい。あなたはまだ子どもよ? もしアインズ様が夜のお相手を求められたら、あなたでは無理よ?」

 

「うっ……でもさ、アインズ様が小さい方が好きって事もあるんじゃないの?」

 

「確かに否定はできないわ。だからこそ私達が手を組むの。折角だからどっちも堪能して頂きましょう?」

 

 アウラが想像したのか顔を赤くしていく……

 

「……だっ騙されないよ、アルベド。それじゃどっちが第1妃か決まってないじゃない!」

 

「そうね、もし外交を行う時、どちらが第1妃としての威厳があるか考えてみなさい? あなたの見た目じゃ侮られるわね? それはアインズ様が侮られるのと同義よ?」

 

「ぶーーー!……分かった。第1妃はアルベドで良いよ。……さっき抱きしめられた時嬉しかったしね」

 

「あら、私の胸はアインズ様専用よ?」

 

「私はシャルティアじゃない! ……ただ、ぶくぶく茶釜様に抱きしめられたみたいで嬉しかったの……その、こんな事を言うと、ぶくぶく茶釜様に不敬かもしれないけど何て言うか、アルベドがお母さんみたいで……」

 

 少し寂しげな表情をしている。パンドラズ・アクターの言葉が胸に響いているのだろう。

 

「パンドラズ・アクターは、何でアインズ様にナザリックを捨てるように進言したのかな……もしかして、私達が知らないところでアインズ様に御迷惑をおかけしているのかな……」

 

「……かもしれないわ。だからこそ、他の方々に捨てられた私達は、アインズ様に捨てられないように、シモベとしてしっかり御仕えして、少しでも御迷惑を減らさないと行けないの」

 

「……………………そっか。そうだよね。私達は捨てられたんだよね……」

 

 目が赤くなって涙が滲んでいる。パンドラズ・アクターの話で逸らし続けていた真実を見つめたのだろう。そう今までだって、捨てられたとは理解していただろう……慈悲深いモモンガだけが捨てないでくれた事も……無意識的に……しかし直接明言されたため、意識的にそれを認識せざるを得なくなったのだ。

 

(…………私達だけでなく、モモンガ様までも捨てた者達。必ず後悔させて殺してやる。愛する方を傷つけた者達!)

 

 あの言葉を聞けば、ほとんどのNPCが理解したくないと考えるだろう……そして理解すれば、全力で排除に掛かるかもしれない……だがモモンガはそれを拒絶した……故に今すぐに、という事は無いだろう……しかし、

 

 ――パンドラズ・アクターの言葉は劇薬だ……そう。彼を殺してモモンガをナザリックに縛りつけようとする者が出るのは当然なのだ……そしてその選択をする者が大多数に上るはずだ。自分の存在意義を無くさないために――

 

 アルベドは優しくアウラを包み込む。

 

「よしよし。アウラ。周辺には誰もいないわ。今だけは泣いたらいいわ。私が傍にいるから……」

 

 最初は我慢していたアウラが、遂に大きな声で鳴き始める。アルベドの考え通りに……

 

「……どうして、私達を、お捨てに、なったんですか、ぶくぶく茶釜様! 捨てないでください! 捨てないでください! 置いて行かないで!」

 

 アウラは捨てないで欲しい、置いて行かないで欲しいと叫んでいる……まるで今までの澱みを出し切るように。

 

(アウラを私に依存させて、私に忠実に従うようにしましょう……ふふふ、アウラを裏切らないようにしてみせる……アウラが奴らに恨みを持つようにしてみせる……アインズ様だけの忠実な駒は多い方がいいのだから……それに、パンドラズ・アクターがモモンガ様をナザリックを捨てさせようとするなら……彼の力は不明なんだから、戦力は多い方がいいものね……)

 

 アルベドは聖母の笑みを浮かべながら優しくアウラを撫でる。画師が見れば、二人の絵を残したくなるぐらい様になっているだろう。

 

(感謝するわ。パンドラズ・アクター。あなたの発言を利用して、多くの者をモモンガ様だけの奴隷にしてみせるわ……あなたは殺してあげる……モモンガ様に私を捨てさせようとした事……たっっぷり後悔させてあげる……まずはアウラで実験しないとね……)

 

「よしよし。私やアインズ様は、絶対にあなたを捨てたりはしないわ……一緒にアインズ様の妃になって御情けを頂きましょう……」

 

 優しく、優しくアルベドは自分の胸にアウラを包み込む。先程はシャルティアもいたから独り占めできなかった分を取り戻すように涙を流しながらアルベドの胸に甘えている。

 

「えへへ」

 

「ふふふ。そうだわ、アウラ。私と同じでリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを頂けないか後でお願いしてみましょう……それにアインズ様の妃になるんだから……男装もやめて、可愛いお洋服を着ましょうね?」

 

「えっでも……ぶくぶく茶釜様との……」

 

 創造主との最後の絆である、男装を止めたくないのだろう。だからこそ、その絆を断ち切る。普段なら不可能だが、幼く作られていて、精神的に不安定である今ならば、可能だ。一度断ち切れば、罪悪感でさらに深みに墜とせるのだから……

 

「大丈夫よ? ここの服はぶくぶく茶釜様が用意してくれているのだから、たとえ創造主にゴミとして捨てられたとしても、最後の絆が切れる訳じゃないわ……安心しなさい。それにアインズ様に綺麗と言って頂きたいでしょう?」

 

「…………うん。そっか。そうだよね……女の子の服を着たら、綺麗って言って下さるかな、アルベド?」

 

「もちろんよ。もしかしたらそのまま二人で、ベッドに連れ込まれるかもしれないわ。二人でアインズ様に体の隅々まで征服されて蹂躙されましょう」

 

「……本当? そうすれば、アインズ様に捨てられない?」

 

「ええ。そうね……捨てられて、悲しい事をアインズ様に伝えれば必ず、アインズ様だけの『所有物』にして下さるわ……」

 

「……アルベド、どの服が良いと思う?」

 

 アルベドの手を引張りながら、服が置かれている場所に連れていく……アウラは目から涙を流してはいるが笑顔である……

 

(上手くできたわ……このまま少しずつ、絆を裂きましょう。私に依存させきったら、モモンガ様も私達と同じで、あいつらに捨てられたと伝えましょう……必ず成功させてみせるわ……その後は、シャルティアも追い詰められているのだから、実行できそうね……シャルティアは戦力として必要だもの……その後はマーレね。アウラと同じで幼く創られているのだから……焦っては駄目ね……少しずつ、少しずつ、丁寧に実行しなくちゃね……失敗は許されないのだから……しなくちゃいけない事がたくさんあるわね……)

 

「この服なんかアウラに似合うと思うわ……スカートだから、下着をずらせば何時でも御情けを貰えるわ……」

 

 想像して顔を真っ赤にしているが、今までの服を脱ぎ、着換え出す……そう、自らの手で絆である服を脱いだのだ。アウラはまだ自分が何をしているか気付いていない。気付いた時、誘導次第で完全に壊れる。

 

「お化粧もしましょうね。アウラ……」

 

「うん、よろしく!」

 

(……たっぷりと痛めつけて殺してやる……たっち・みー様。モモンガ様を助けて頂いた事に感謝いたします……あなただけは優しく殺してあげますね?……やっぱりルベドも必要になるかしら?)

 

 アルベドはまるで聖女のような笑顔を浮かべながら、アウラに着付けしていく……二人の関係性を知らない者を見れば家族と勘違いしたかもしれない…………

 

(待っていてくださいね。私の全てをあなた様に捧げます……障害となる物は全て排除いたします! あなた様ではなく、他の奴らに絶対の忠誠を捧げる者を無くしてみせます。私達の愛を阻む物は殺します! 楽しみにしていてくださいね、モモンガ様)

 

「くすぐったいよ」

 

「あらあら。ごめんなさいね?」

 

(ふふふ。アインズ様との間に子どもができた時の丁度いい予行演習にもなるわ)

 

「アインズ様の下に参りましょうか?」

 

「早く行こう、アインズ様に褒めて貰わなくちゃ!」

 

「そうよ……しっかりアインズ様に見せて、褒めて頂きましょうね?」

 

 二人はアインズに会いに向かう。まるで仲の良い親子のように……

 

 ――――そう、パンドラズ・アクターは、アルベドの警戒に集中し過ぎていたのだ……あの時のセリフは、シャルティアへの怒りもあった。だがそれよりも、アルベドの真意を見つけるために実行した要素の方が大きい……実際パンドラズ・アクターは彼女の危険な思想を見つける事ができた……しかしだ。アルベドはパンドラズ・アクターに匹敵する智者だ……最初は混乱するだろう。

 

 だが、立ち直ればその発言を利用するのは当然なのだ……アルベドと二人きりでの会話であれば、アルベドかパンドラズ・アクターの言葉を聞いても他のNPC達も認める事は出来なかっただろう……だが残念な事に2人……シモベも含めればそれ以上に証人がいるのだ。

 

 アルベドやアルベドに影響されるNPCはどんな手段を使ってでも、モモンガをナザリックに縛りつけようとするだろう……だってモモンガに去られれば、彼らの存在意義はなくなるのだから……アルベドを含めたNPC達の『壁』を取り除く事に集中するパンドラズ・アクターは後手に回るしかない……なぜなら彼は自分の発言をどのように利用されたか、まだ知らないのだから……

 

 パンドラズ・アクターは彼女の想いを、一番正確に理解していただろう……だからこの結果は、アルベドが彼の予想を上回っただけだ……代償は大きすぎる……なぜなら、彼は現時点で最低でも、レベル100NPC3人を敵に回しかねないのだから……モモンガが一番恐れる、NPC同士の内乱の可能性を作ってしまったのだから……

 

 モモンガが気付けば止める事も可能かもしれない……だがそんな愚をアルベドは犯さないだろう……そしてパンドラズ・アクターはモモンガに伝える事ができない……被害なく収拾できる時期を逸してしまったのだから……仮にモモンガが気付いたとしても、それがNPCの総意であるならば、受け入れる可能性すらあるのだから……自分の心を完全に殺して……受け入れない場合、全てのNPCをその手で殺す事態に発展するのだから。

 

 パンドラズ・アクターの過ちはただ一つ。アルベドを追い詰め過ぎたのだ……仮に彼女がアインズの傍に侍る事だけでもできていれば……結末がどうなるかは誰にも分からない。アルベドが邪魔者を殺害して自分を頂点にしたモモンガの為だけのハーレムを築くかもしれない……もし立ち止まり、モモンガが家族を欲していると気付けば、アルベドとアウラだけで、擬似的な家族関係を演じるかもしれない……もしかしたらモモンガすら殺して、永遠に二人きりになるのを求めるかもしれない……ただ一つだけ確定しているのは、パンドラズ・アクターとアルベドが共に手を取り合う時期を逸した事だけだ。

 

 その事実をパンドラズ・アクターはまだ知らない……そう、知らないのだ――――

 

(私がアインズ様の一番になるのを……傍に侍るのを阻む物は全て……殺して殺るわ……そうすればきっと、本当の名前をお呼びする事も出来るわ)




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第14話 後悔噬臍

…………お待たせしました。

……最初は作者の現実逃避です……その後が本編です。

アウラ、ルプスレギナ、本当にごめんね……

これがオバロファンののやることかよぉぉぉぉぉ! みたいな内容です……

なお後書きにて作者から今後のこの作品の見通しを発表します。ネタバレも存在するため、御注意をお願いします……


 ネムはエンリにアインズの家がどれほど凄かったか、語り続けていた……夜中なのに……エンリも相槌を打ち続けているが、眠そうだ。

 

 ネムはアインズに貰った装備のおかげで、何の問題もないが、エンリは別だ……

 

「……それで、一緒に大きな、お湯に浸かれるお風呂に一緒に入ったんだよ! ……お姉ちゃん?」

 

 気付けば、エンリは眠りに就いていた……椅子の上で。それで自分が頂いたアイテムの事を思い出したネムはエンリに無理をさせていたのだと気が付いた……

 

(……ごめんね。お姉ちゃん……)

 

 ネムは静かにベッドから布団を持ってきて、エンリに掛けると家の外に出る……本当は自分も眠るべきなのだろうが、眠る気分にはなれなかった……シフ達が後ろからネムに付いてくる……少し心配そうにしながら……

 

 家から離れると何かを切裂くような音が聞こえる……気付けば、シフ達3人が自分の前に出ていた。少しずつ近づいてみると、ブレインが空間に向かい、武器を振るい続けていた……自分に気付いたのだろう……

 

「……こんな遅くにどうしたんだ? 子どもは寝る時間だろう?」

 

「……眠りたくないんです……ブレインさんは眠らないんですか? 賢王様は眠ってますよ?」

 

 ネムが起きている事に注意を促してくるが、簡単に反論を言って、疑問を聞き返す。実際、ブレインは起きているが、森の賢王は深い眠りに就いているのだから。

 

「……俺はパンドラズ・アクターから睡眠や疲労を無効にする、アイテムを貰ったから必要ないんだ。ネムはどうして眠れないんだ?」

 

「アインズ様のお家の事をもっと喋りたくて……それと私もアインズ様から、睡眠が必要なくなるアイテムを貰いました!」

 

「……やれやれ。力のケタが違うのは理解していたが、子どもにもそれ程までの物を与えられるとはな……」

 

「……凄い事なんですよね?」

 

「あぁ。疲労無効のアイテムだけで、国宝だろう……俺は鑑定士じゃないから正確な値段は分からないが、ネムが貰った装備を含めれば、国でも持っていないだろう……それで、アインズ…様の家はどんなとこだったんだ? 凄いところだったんだろう?」

 

 どうやらブレインは、自分の話し相手になってくれるようだ。武器を仕舞うと、地面に座っている。

 

「ありがとうございます!」

 

 ネムも地面に座ろうとするが、気付くと地面の感触ではなく、毛皮の感触がした。自分が座ろうとする一瞬の間にシフが地面と自分の間に入り込み、椅子になってくれているのだ……

 

「……ありがとう、シフ」

 

 そしてネムは語り出す。キラキラした天井や、キレイな人形、残念ながらできなかった爪の御化粧や、食べ放題の料理や、綺麗なメイド達の事やたくさんの本の事を……ブレインは相槌を打ちながら興味深そうに聞いてくれる……そして話は……

 

「それで、アインズ様と一緒にお湯で身体を洗って、お湯に浸かれるお風呂に一緒に入ったんですよ!」

 

「…………は? もしかしてアインズ様は女性か?」

 

「……多分男の人だと思いますけど……それがどうかしたんですか?」

 

「…………いや、何でもない……」

 

「? 変なの……それで、アインズ様と洗いっこしたんですよ。お湯の中で抱っこもして貰いました!」

 

「そ、そうか……」 

 

 先程からブレインがおかしくなっているが、ネムはその後の事も話し続けて、一緒のベッドで眠った事も自慢した。自慢してしまった……

 

(……真正のロリコンかもな……まぁ何も言うまい……それにそいつがロリコンのおかげで、俺が強くなれる……引いては、世界が救われるなら……感謝しないとな……)

 

 ブレインの勘違いは暫くの間、続く事になる……またその事を知った、エンリ達と一騒動あるのは別のお話……

 

★ ★ ★

 

 アウラとの会話(洗脳)を終えたアルベドは二人でアインズの下に向かっていた。

 

「アルベド~」

 

「なにかしら、アウラ?」

 

「えへへ、なんでもない……でも本当に、この服で大丈夫かな? 嫌われないかな?」

 

 やはり不安なのだろう……だが、アウラを完全に依存させることこそが目標である、アルベドからすれば望むところなのだ。

 

「ええ。大丈夫よ。私を信じなさい。アインズ様は必ず褒めて下さるわ」

 

「……分かった!」

 

 そして二人は歩き続ける……まるで本当の親子のように……アルベドもアウラも笑顔を浮かべている。しかしその表情は崩れる事になる。

 

「……まさかルプスがアインズ様の妃候補に挙がるなんて」

 

 そう、そんな言葉が聞こえたからだ……二人で顔を見合わせる。

 

「静かに近づいて、詳しーくお話ししましょうか。アウラ?」

 

「……当然だよね。アルベド。でもその顔じゃまたアインズ様に怖がられるよ?」

 

「……そうね。この顔じゃ駄目ね」

 

 アルベドの顔が笑顔になる……第三者が見れば般若に見えたかもしれないが……

 

「では行きましょうかアウラ……あなたも気を付けないと駄目よ?」

 

「もちろん」

 

 二人は少しずつメイド達に近づく……その間にもメイド達の会話は尽きない……そう怒りの燃料を投下しているのだ……だがアルベドは怒りだけでなく別の目的も隠し持っていた……

 

(……上手く利用できる良いんだけれど……)

 

「あらあら。ルプスレギナが一番正妃に近い? 私がいない間に、何があったか、詳しーく聞かせていただけないかしら? お・う・ひ・さ・ま?」

 

 空気が止まった。こちらを振り向いたプレアデス全てが何かに怯えるように表情を引き攣らせる。そのなかでもルプスレギナは段違いだ……

 

「あ、ある、アルベド、様……」

 

「どうしたの? 顔を引き攣らせて? 何か私に言えない事でもあるのかしら、お・う・ひ・さ・ま?」

 

 無言だ。ただ無言を貫く……それに比例してアルベドの顔はさらに深い笑顔になる……

 

「何故答えられないのかしら? なんでだと思う、アウラ?」

 

「……分かんない。でも私達がいない所で、そんな話になってるのは許せない、かな?」

 

「……当然ね。さて、早く答えなさい……そうね、ルプスレギナと、ユリ以外は離れてていいわよ? それとも姉二人と一緒にいたいかしら? 選んでいいわよ?」

 

 満面の笑顔で言い切ると、3人が後ずさっている。どうやらユリが離れるように手で指示をしているみたいだ……ルプスレギナはただただ固まっている……

 

「さて、3人が離れたみたいだし……そろそろお話を始めましょうか?……できれば、早めに話してくれると嬉しいけれど……どうかしら?」

 

 3人が離れる間に用意していた武器をアルベドとアウラがともに構える……口を割る気になったのだろう。

 

「い、言え、ないっす……パンドラズ・アクター様の命令で、アルベド様に、伝えるなって、言われてるっす……だっ、だからその……」

 

 恐らくルプスレギナは真実を話したら、死ぬと思っているのだろう……必死に責任を転嫁しようとしているが……

 

「もう一度だけ聞くわ、何があったか言いなさい。なぜ私を差し置いて、あなたが正妃になろうとしてるのかしら? アウラは私に譲ってくれたわよ? あなたも私に譲るのが筋ではなくて?」

 

「そうだよ。ルプスレギナ……あなたは正妃にも第2妃にも相応しくないよ?……早く答えて欲しいかな~?」

 

 アウラが空間に向かい鞭を振るう。空気が引き裂かれる音が周囲に響き渡る……気付けば、他のメイド達も騒ぎを聞きつけたのか、こちらを向いている。決して、近づいては来ないが……よく見れば、逃げたはずのプレアデス達もこちらを心配そうに見ている……いつまでたってもルプスレギナが答えないため、標的を変える。

 

「ユリ? あなた達は確か私に協力してくれると言ってくれたわよね? 悲しいわ。まさかあなた達が裏切るなんて……何があったか、早く言いなさい!」

 

 ビクッと二人が、肩を揺らす。それでも何も言わない……ただ恐怖で話せないだけだが、アルベド達はそう取らなかった……

 

「早く言いなさい? 死にたいのかしら?」

 

 殺気を直接向けられていないはずのメイド達が何人か恐怖で膝をついて腰を抜かしている……その中でも気の弱い者達は気絶して倒れる。殺気を直接受けているルプスレギナは、戦闘メイドのためか気絶する事ができずに、腰を抜かして怯えている……するとルプスレギナの周りに水溜りができ始める……

 

「へぇ? 私の質問には答えられないのに、トイレはできるのね……そこまで死にたいなら……いいわ。望み通りに……」

 

「そこまでです! お前達!」

 

 気付けば、アルベド達の周りに、パンドラズ・アクターと配下のシモベ達が武器を構えて集結していた……そうアインズを連れずにパンドラズ・アクター達だけで……アルベドの願い通りに……

 

(くふふ、あなたならきっっと来てくれると信じてたわ……パンドラズ・アクター……アインズ様も来られていないようだから……刺し違える必要もないわね……アインズ様がいらっしゃれば、まだ勝敗は分からなかったわ……でもいらっしゃらない。私の勝ちよ)

 

 妖艶に微笑んだ。まるで全てが自分の予想通りに進んでいると言わんばかりに……まだパンドラズ・アクターは気付けないでいた。彼女の真意を……

 

★ ★ ★

 

 パンドラズ・アクターは父上に講義を続けていた。

 

「……なるほど。そう理解すればいいのか……」

 

「その通りでございます! 父上も理解が進んで参りましたな!」

 

「お前のおかげだ。パンドラがいなければ、こんなに早く理解する事も出来なかっただろう……これで彼らの望みである支配者としての演技ができそうだ……」

 

「……父上、申し上げにくいのですが……本当にそれでよろしいのでしょうか?」

 

 訳が分からないような顔をしている。父上にとって、彼らの気持ちに応えるのが当然なのだろう……

 

「……彼らの望みである、支配者を演じる事でございます。確かに彼らはそれでも幸せかもしれません……しかし父上と家族になれる方が彼女達も喜ばれると思われます……それに現状では父上が本当の幸せを手に入れる事は至難の業でございます……」

 

 黙ってこちらを暫く見つめると、寂しそうに笑い、首を横に振る。

 

「彼らはな……仲間達の子どもなのだ……俺も彼らと家族的な関係を築きたいと考えてはいる」

 

「でしたら!」

 

「話は最後まで聞くものだぞ? ……だがだ、彼らは私に支配者として君臨してもらう事を望んでいるのだ……それを裏切る事はできない……俺に残された唯一の宝物なのだから……それに、俺には頼りになる息子がいるからな。家族がいて、宝物がある。それだけで十分だ……可能なら仲間たちと再会したいがな……」

 

「……感謝いたします……お仲間の方々は必ず見つけてご覧にいれましょう!」

 

(そして勝手ながら、彼らの望みを、支配者ではなく、家族としていて貰いたいと言わせてみましょう!)

 

「……感謝する……だが、無茶はするなよ? お前は仕事が多すぎるからな……そうだな、何かでリフレッシュした方が良いのではないか?」

 

「ありがとうございます……それでしたら、ネム様との冒険の時に共に、アイテムを探しに行きたいと思います」

 

「……あはは! やっぱりお前は俺の子どもだな……俺もレアなアイテムを収集したいよ……だが暫くは無理だろう? 今は大丈夫なのか?」

 

「……そうですね……では何か探してみようと思います……」

 

 二人の間に心地よい、沈黙が訪れる……だがそこに、無粋なメッセージが入る……

 

『アルベド様、御乱心! ルプスレギナ様達に武器を向けておられます。このままでは、御二人が殺されます!』

 

「……それでは、父上。今日のところは失礼致します」

 

「そうか? そうだな。ではまた明日も頼むぞ?」

 

「は! では」

 

 父上に緊急事態が起きた事を悟らせずに、その場を去る。現状を認識できていないため、危険地帯に父上をを連れていく訳には行かないからだ……それに内部の争いは父上が一番恐れるものなのだから……

 

 ドアを閉めると全力で走り出す。周囲にいる、部下に命令を下しながら……

 

「2名はアインズ様の部屋の前で護衛を。私以外誰も通すな。他の者達は私に続きなさい」

 

 すぐにアルベド達の姿が見えてくる……そう威圧してるだけと信じたいが……武器を構えている……アルベドだけでなく、アウラまで……アルベドならまだ理解はできるが、アウラも同調しているのは信じる事ができない。

 

(……一体何が……まずは止めるべきです!)

 

「へぇ? 私の質問には答えられないのに、トイレはできるのね……そこまで死にたいなら……いいわ。望み通りに……」

 

「そこまでです! お前達!」

 

 部下達が二人を囲む……自分はアルベド達と、二人を分けるように立つ……安心したようにルプスレギナが気絶する。ユリは腰を抜かして倒れ込んでいる……自分に気付いたアルベドが微笑む……そして一瞬、一瞬だが、ただ憎い敵を殺すための殺意を感じる……まるで父上以外の至高のお方々に向けているような物を……

 

(アルベド殿は一体何を考えている! 父上がこんな事をするのを許さないのは、あなたとて分かっているだろうに!)

 

「……あなたは何をしているのですか、アルベド殿!」

 

「…………何かって? 私を差し置いて正妃になろうとしている者に罰を与えてるのよ?」

 

「…………それだから、私はあなたが正妃になるのを反対しているのですよ…………」

 

 アルベドが怒りのままバルディッシュを自分に振り下ろそうとしている……機先を制して言葉で攻撃をする。

 

「あなたは何かあれば、怒りのまま、アインズ様を殺すように感じるから、あなたは妃に相応しくないと言っているのですよ……何か弁明はありますか?」

 

 パンドラズ・アクターに命中する直前で、攻撃が止まる……どこか笑いを堪えるように……

 

「あら、私のどこがアインズ様に怒りのまま、攻撃を仕掛けると言うのかしら?」

 

「全て、ですよ……今の御自分を御覧なさい。同じくアインズ様に仕える者にさえ、嫉妬から殺そうとする。もしアインズ様が見ればお嘆きになり、嫌われますよ。頭を冷やしなさい……そして、アウラ!」

 

 アウラがビクッと震えている……自分がしている事を理解したのだろうか?

 

「なぜ、アルベドに同調している! 私があなたがアインズ様の妃に相応しいと言ったのは、アルベドとは違うと考えていたのも、その一つです! なのになぜ!」

 

「……あっ」

 

 様子がおかしい。良く見れば普段の服装ではない……マーレの色違いの服になるだろう……

 

「……アウラ?」

 

「ごめんなさい嫌わないで捨てないでごめんなさい嫌わないで捨てないでごめんなさい嫌わないで捨てないでごめんなさい嫌わないで捨てないでごめんなさい嫌わないで捨てないで」

 

 ――アルベドが微笑んだ……まるで自分に感謝するように、そして唇だけを動かして自分に言葉を投げかける「ありがとう……手伝ってくれて」と――

 

「……大丈夫よ。アウラ……あなたを捨てたりなんかしないわ……」

 

「捨てない……あっ。アルベドアルベドアルベドアルベドアルベド」

 

 優しくアウラを包み込んでいる。アウラも母を求めるように抱きついている……こんな場面でなければ素直に感心したかもしれない……

 

「それにアインズ様もあなたを捨てる事はないわ……パンドラズ・アクターから聞いたでしょ? 彼がナザリックを捨てるようにアインズ様に進言しても、アインズ様はこの地をお捨てにならなかったのだから……」

 

「……え」

 

 ユリ・アルファが、恐怖から解放されたかのように、自分を凝視している。そして気絶をしていない一般メイド達全員が息を飲むのが聞こえる……配下のシモベ達にはある程度事情を話しているため混乱は見受けられない……なぜその話を今するのかが理解できない……アルベドの言葉を徐々にだが理解した、ユリやプレアデス、一般メイド達からの視線に…………

 

(まさか、まさか、まさか!)

 

……そう、閃いてしまった……この(アルベド)はナザリック全ての者達に自分を殺害させようとしているのだ……父上にナザリックを捨てさせようとしたから……だからナザリックの総意で殺害しようとしているのだ……それができないなら誰かを誘導して暗殺させるつもりだろう……そして父上の意思を無視して、ナザリックに縛り付けるつもりなのだ……

 

(そのために、わざとプレアデスを殺そうとしているように、偽装したのか!……そしてアウラ殿を手駒にするために……心を壊した…か)

 

 パンドラズ・アクターは自分がアルベドにした誘導をしたように、誘導されたのだ……アウラを壊すために……そしてメイド達から好感度が下がっていた全てを帳消しにしたのだ……悪感情全てをパンドラズ・アクターに向けさせたのだ……

 

 ――パンドラズ・アクターは気付くのが遅すぎた。そして、彼女の心を甘く見過ぎていたのだ……――

 

「みんなもごめんなさいね……頭に血が上り過ぎていたわ……後で彼女達にも謝らないとね……パンドラズ・アクター止めてくれてありがとう。後一歩で、絶対にしてはいけない事をしでかしかけてたわ……ほらアウラも頭を下げなさい……」

 

「……止めてくれて、ありがとう。パンドラズ・アクター……聞いても良いかな?」

 

 アルベドに抱きしめられて幾分か冷静さを取り戻した、目に光のないアウラが自分に質問をしてくる。

 

「……私で答えられる事なら……」

 

「……ありがとう。パンドラズ・アクター、私達はアインズ様にご迷惑をかけていたんだよね……どうしたら、(所有物)して貰える資格ができるかな……」

 

「…………アウラ、それは自分で答えを出さないと行けないのです……誰かを参考にするのも良いでしょう……しかし最終的に御自身で気付かないと行けないのです……」

 

「……うん。分かった。頑張る」

 

「ええ。私も頑張るわ……誰もが認めるアインズ様の妃になれるように」

 

 真意は認めぬ者は排除する、だろう……つまり至高の御方々と自分を殺すと宣戦布告だ……いや、至高の御方への殺意を、自分が知っているのは知らないはずだから、自分を殺すと宣言したのだろう……

 

「さぁ。アウラ、アインズ様にシャルティアの件を御報告に上がりましょう……」

 

「…………私も同席させて頂きますよ?」

 

「構わないわ。それであなたは、今回の事を御報告するのかしら?……そうそう、シャルティアへの慰めはしっかりしてきたわよ? あなたなら……分かるわね?」

 

 もし報告するのであれば、シャルティアにした越権行為も報告すると言っているのだろう……そうなってしまえば、自分もアルベドも遠ざけられる結果になると見越して休戦にしようと言っているのだ……もし飲まなければ、私もアルベドも動けなくなる代わりに、自分は時間を失う……現状、時間はアルベドの味方なのだから……既に主導権はアルベドにあるのだ……ここからの逆転は……ない。

 

(……私をこのまま排除しないのは、窮鼠を警戒しているからですか……若しくは、この地における、敵対存在の件があるからですか? ……飲むしかないですね……ここで下手に動けば、このまま始まるでしょう……)

 

「…………いえ、止めておきましょう……ルプスレギナの面倒は私が見ましょう……よろしいですね?」

 

「……ええ。構わないわ……では向かいましょうか?」

 

(……せめてもの抵抗です……ルプスレギナまでも彼女達に引きずらせる訳にはいきません……彼女は幸いに気絶していて、聞いてはいないですからね……)

 

「ええ。お前達、ルプスレギナを私の部屋に運んでおきなさい……」

 

 パンドラも一応予備の部屋を与えられている……今まで使った事は無いが……部下に命令すると3人でアインズの部屋に向かう……その間お喋りはまるで存在せず、奇妙な緊張感だけが存在した……

 

★ ★ ★

 

 パンドラズ・アクターが去った後、アインズは図書館から借りて来ていた書籍を読んでいた……パンドラが幾つか借りてきてくれたため、支配者像を崩さずに済んだのが幸いと言える……すると扉がノックされる……

 

「誰だ?」

 

「アインズ様、パンドラズ・アクターでございます! アルベド殿達が任務を終えてアインズ様の下へ向かうのを見つけたため、共に参りました……」

 

「……入れ」

 

 ドアを開けてパンドラズ・アクター、アルベドとアウラが入室する。何故かは分からないが、アルベドとパンドラズ・アクターから不穏な空気を感じた。訝しく思いながらも話を進める。

 

「二人とも御苦労だったな」

 

「御苦労だなんて! アインズ様の御命令を遂行するのは当然であり喜びであります! アウラもそうよね?」

 

「もちろんです!」

 

 二人が元気よく返事をする。今までより仲が良くなっているように見えるのは気のせいだろうか?

 

(……アウラはいつもより笑顔だな……だが目に光がない気がするのが心配だが……それに普段の服装もしていないようだが……アルベドは、何だあの笑顔は……)

 

 ぞく、アンデッドなのに寒気を感じる。――この時点でアインズが事態に気付けていれば、アウラを助ける事も不可能ではなかった……今ならまだ未来に起きる、最悪の結末を回避できたかもしれないのだ。例えば、アインズがアルベドに自分の思いを、打ち明ける事ができれば……パンドラズ・アクターがなぜナザリックを捨てさせようと理解したため、別の手段もあったかもしれない……しかし情報も伝達されていない。さらにアルベドの美しさが、怖くて深く考える事ができなかったのだ……パンドラズ・アクターはただ影に徹している……何かを観察するかのように、打開策を探すように……だから奇跡は起きないまま時だけが進む――

 

(笑顔なのに、笑顔じゃない! 私が今感じている感情は恐怖か? 馬鹿な、私はアンデッドだぞ!)

 

 その笑顔に何かを感じたのか、パンドラズ・アクターが視線を遮る……まるで自分を何かから守るかのように……

 

「あら、どうしたの? いま私はアインズ様とお話ししているの。視線を遮らないで頂戴……パンドラズ・アクター」

 

「……ふぅ。今のあなたの目は獲物を捕食する前の、動物のようですよ?」

 

「失礼ね。捕食するのは私じゃなくてアインズ様よ?……ですよね、アインズ♡」

 

 違う。絶対に違う。そう叫べたらどんなにいいだろう……

 

(……一体何が起きている! …………何も問題は無いとして話を進めよう)

 

 必死に自分に言い聞かせてから口をだす。

 

「……一部誤りがあるが、まぁ良いだろう。パンドラズ・アクター、私の横に……」

 

 声が震えなかった事を自分でも褒めたい。一体アルベドに何があったのか理解できない……

 

「……畏まりました」

 

「誤りでございますか? アインズ様?」

 

 アルベドが怖い……下手な事を言うと、本当に捕食されそうだ……

 

「な、何でもないぞ、アルベド……ところで任務は、シャルティアの件だな? どうなった?」

 

(話を進めろ。話を進めるんだ、俺! 逃げる事はできない!)

 

「はい! シャルティアは温情にとても感謝しておりました! これからは失敗をしないように努めるとの事でした」

 

「……そうか。ならパンドラズ・アクターにも相談した上で、謹慎処分を解こう」

 

 横にいるパンドラズ・アクター重々しくだが、頷いているから問題は無いだろう……それに自身も罰を与える事を望んでいないのだから……

 

「温情に感謝いたします」

 

「シャルティアを許してくれて、ありがとうございます、アインズ様!」

 

「構わない、元は私の失策だからな……」

 

「「そんなことありません、命令を守らないシャルティアが悪いんです!」」

 

「だが……」

 

「アインズ様だけが私達をお捨てにならなかっただけで、我々は救われているのでございます」

 

 アルベドの言葉の刃が胸に突き刺さる。自分以外この場にいないのだから……自分しかこの場にいないのだから……

 

「アインズ様。シャルティアの命令違反で、私達を見捨てないでくれてありがとうございます…………」

 

 気付けばアウラは涙目になっていた……アウラやマーレは幼く作られている以上他の者よりも、堪えるているのだろう……

 

(…………捨てられた、か。アウラもそう思っているんだな……事情を知らないんだからな……もう少し、アウラやマーレと触れ合う時間を作った方がよさそうだな……)

 

「……あぁ。私はずっと、ナザリックと、お前達と一緒だ……だから泣くなアウラ。可愛い顔が台無しだ」

 

 アインズはアウラを持ち上げて自分の膝に座らせ、持っていたハンカチでアウラの目を拭う。骨なのは我慢して貰うしかないだろう……アルベドが少し睨むような形になっている……アルベドの頭も撫でると急に恐怖が無くなった。が…

 

「アインズ様、私もお願いします!」

 

「……お前は大人だろう?……アウラは子どもだから良いが」

 

「……アインズ様、私もタブラ・スマラグディナ様の娘でございます!」

 

「いや、しかしだな……」

 

「アインズ様、あたしからもお願いします!」

 

 アウラとアルベドの視線が交差する。目で会話をしているようにも見える。

 

(……慰めの件でより仲良くなる事ができたのか……そうだな、さすがに添寝は駄目だが……)

 

「……分かった。さすがに持ち上げるのは許してくれ……」

 

 アルベドが嬉しさを堪え切れないかのように、アインズの上に座る。

 

「……そうだな、私の命令に従ったのだから何か褒美を与えないと行けないな。二人とも何かあるか?」

 

 二人に聞くと、少し目を合わせた後……アウラがお願いしてくる。

 

「アインズ様。私、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが欲しいです!」

 

「ふむ? ……いいだろう。だが、ナザリック外への持ち出しは許可しないぞ?」

 

「もちろんです! 奪われたら大変ですもんね!」

 

「ああ。だが危険な目にあったらすぐに逃げ出すんだぞ? お前達が危険な目に遭うのは私にとって、とても辛い事だからな……」

 

「はい! ありがとうございます……ずっとずーっとナザリックにいて下さいね……私達の支配者でいて下さいね?」

 

「ああ。アウラは心配性だな?」

 

「えへへ」

 

 子犬のようにアウラが自分の手に頭を擦りつけてくる……アインズは気付けない。パンドラズ・アクターの驚愕を――極少数であるが、真の意味でアインズの家族となりうる者はナザリックにも存在した……ルプスレギナやアウラである……しかしアウラが家族に成りえるのは子どもゆえの無邪気さとも言える……力の方向が狂えば、墜ちていくのだ。アルベドも可能性ならあった……しかし――

 

「そういえば、アウラ。その服はどうしたんだ? 普段と違うようだが?」

 

「……えっと……似合っていますか?」

 

「ああ。私は服に詳しくないから、アウラにとても似合ってると思うぞ?」

 

「……ありがとうございます、アルベドが選んでくれたんですよ!」

 

「……ふむ。そうなのか?」

 

 アウラの反対側に座るアルベドを観察する……何か褒めて欲しそうに見える……

 

「さすがはアルベドだな……普段からアウラは可愛いが、より一層可愛く見えるぞ?」

 

「ありがとうございます、アインズ様……ですが服に詳しくないなどと嘘を言われずとも……」

 

「いや、本当に服には詳しくないのだ」

 

 納得していないようだがアルベドが引き下がる……隣のアウラを見るといつの間にか不機嫌になっていた……

 

「……どうしたのだアウラ?」

 

「……何でもないです……」

 

「あらあらアウラったら……アインズ様、アウラはかわいいではなくて、綺麗と言って欲しかったのです」

 

「……そうなのか?」

 

(……成長期って事で良いのかな? やっぱりNPC(子ども)達は生きているんだな……俺が親代わりとして頑張らないとな)

 

「ああ。とっても綺麗だよ。アウラ」

 

「……ありがとうございます、アインズ様!」

 

「構わない。お前は……お前達は私の宝物だよ……」

 

 何も恥ずかしがる事は無い。だって真実なのだから……アウラとアルベドが泣き始める……

 

「おっおい。どうしんだ!」

 

「……アインズ様。私ずっと、アインズ様のお部屋から遠ざけられていて、寂しゅうございました……捨てられるのかと思いました……他の方々と同じように……」

 

「……捨てる訳がないだろう? ただ非常事態だから、お前には部下への指揮に専念して貰いたかっただけだ……」

 

「ありがとうございます……永遠に我々をお捨てになられないでください……永遠に支配者として君臨いただけますよう……お願い申しあげます……」

 

 ただ静かにモモンガはアルベドとアウラを慰め続ける……――その光景はパンドラズ・アクターが望んでいたものに近いかもしれない……二人はただ父親に捨てられたくない子どもなのだ……そして、モモンガ(父親)は娘二人を必死に慰めている……傍から見れば家族だろう……だが何かが決定的に違うのだ……そしてこの結果が覆る事は無い。パンドラズ・アクターはアウラだけでなく、元々壊れていたアルベドを、修復不可能にまで壊してしまっていた事にようやく気付いたのだ――

 

 アインズは二人が満足するまで、慰め続けた。名残惜しそうに二人も自分から立ち上がっている。

 

「……アインズ様……実は私もお願いがございます」

 

「む? なんだ言ってみなさい。できる限り応えようじゃないか」

 

「ありがとうございます……暫くの間だけではありますが、アウラやマーレを手伝ってもよろしいでしょうか?……また他のNPC達がシャルティアのような間違いをしないように、視察をして参りたいのでございます」

 

「…………分かった。好きにするといい」

 

「感謝いたします……ではアウラ、行きましょう?」

 

「…………」

 

 アウラが沈黙を保っている……何かまだ用事があるのだろうか?

 

「……一緒に眠って欲しいです……」

 

(……はっ? え? ……父性愛か……ネムにもしてあげたし……アウラやマーレになら構わないんだが……)

 

 ちらりとアルベドを見ると、笑顔を浮かべている……間違いなく一悶着あるだろう……

 

「……そうだな。それはまた次回にしよう。その代わりぶくぶく茶釜さんの声が入った時計だ……」

 

 アウラが呆然としながら受け取る……細かな注意事項を言うが、頭に入っているだろうか?

 

「お任せ下さい。アウラには私から詳しく言って聞かせますので」

 

「そうか? では頼んだ……アルベドも何か考えていると言い」

 

「……ありがとうございます。では失礼いたします……アウラ、行きましょう」

 

 アウラが挨拶をしながら扉の外に出ていく……

 

 ――アインズは気付けなかった……自らアウラが壊れる、最後の引き金を引いていた事を……パンドラズ・アクターは動けない……自分の罪を明確に認識してしまって――

 

★ ★ ★

 

「……ははは。まさかアウラが甘えてくるとはな……」

 

 父上は機嫌がとても良さそうに見える……全てを知らなければ、まるで家族のように甘えてきてくれたのだから当然ともいえる……

 

「……だが二人があれほどまでに、追い詰められているとは……これは他のNPC達もそうかもしれないな……何か考えた方が良いかもしれないな……」

 

「……父上の言う通りかと……私も少し浅はかでございました……アルベド殿の気持ちを考えず、アルベド殿の職務を奪っていたのですから……何かフォローをしておくべきでした……」

 

「……仕方ないだろう……私が支配者として振舞うためには、お前の力が必要なんだから……お前が気に病む事じゃない……」

 

「……はっ……それから父上。宝物殿のアイテムの持ち出しを御許可願いたいのですが……」

 

「……お前の事だから必要な事なのだろう? そうだな……仲間達の武具でなければ許可しよう……」

 

「……感謝いたします……伝説級(レジェンド)以上は持ち出しませんので。では、失礼致します」

 

(私がアウラ殿を壊してしまったのですね……いえ、アウラ殿だけではない。他のNPCも……アルベド殿も……)

 

 今のパンドラズ・アクターの胸の内は後悔だけだ……アルベドが暴走したのは、パンドラズ・アクターの存在により遠ざけられたことに起因するのだから……恐らくこの事がなければ、彼女がより深く壊れる事もなかったのだから……

 

 ――ここに一つの結末が定まった……パンドラズ・アクターがアルベド達NPCに殺されるのは間違いない……モモンガはパンドラズ・アクターが殺されれば、怒り狂うだろう……だがそれでも、彼にはNPCを捨てる事はできないのだ(ギルメンを殺されれば別かもしれないが)……現状、彼の敗北を覆す手段は存在しない……後はどのような敗北を選ぶか……どのような死に方を選ぶかだ……

 

 敗因はただ一つ、彼はアルベドを軽視し過ぎた……もし彼女に、デミウルゴスに話した内容を伝えていれば、この結末は避けられただろう……なぜ自分がアインズの隣で彼女の代わりにいたのか……パンドラズ・アクターとデミウルゴスの間で合意された事を伝えられていれば……だが彼女はもう止まれない。

 

 パンドラズ・アクターがモモンガにナザリック(自分達)を捨てさせようとした事を知ったNPC全てはアルベドに同調する。せざるを得ない……彼さえいなければ、モモンガに捨てられる事は無いと信じて……温厚である、ユリやメイド長も変わらないだろう……セバスはこの地にいなかった……故にアルベドか、パンドラズ・アクターか、どちらかが先に接触するかで、立場が変化するかもしれない……

 

 唯一、パンドラズ・アクターの味方だと断言できるのは、デミウルゴス一人だ……そう、たった一人しか味方がいないのだ……そして極少数では……何もできない――

 

 彼は指輪を使い、宝物殿へ転移する……その背中は何かに打ちのめされた老人のようであった……




読了ありがとうございました! 最近寒くなってきましたが、如何お過ごしでしょうか?

さて、前置きはこの辺にして本題に入ります……

恐らく、今話を読んで下さった皆様は理解頂けたかと思いますが……

BADENDが確定しました! もう覆すのは無理です!

本当にどうしてこうなった? きっといつの間にか作者が深淵を覗いて、深淵に覗き返されて発狂していたのでしょう……

今まで読んで下さった皆様に感謝を! 

ここからは、NPCがアウラがアルベドがパンドラズ・アクターがアインズ・ウール・ゴウンがどのような悲劇を迎えるかをご覧ください……

でもさすがに、自分の考えていた話の展開がほとんど消えてしまいました……それを認めるのは苦しいです……

よって! こんどこそ! ネムとモモンガ様が主役の、覇王少女をリメイクしようと思います!

作者が本当はどんな物語を望んでいたのか……今回の話が一体どれほどずれているか見比べて頂けると、天国と地獄が味わえるかもしれません……(登場人物の生存的な者で……)

なおこちらでは、心機一転! 愉悦部に入部した気持ちで続きを書きたいと思います。

リメイク作はほのぼのです。誰が何と言おうとも、ナザリック勢にも死人が出ない優しい作品にしてますとも!

本当に、本当に申し訳ありませんでした!


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第15話 味方

前2話を読んだ作者の感想……なぜ自分が書いた作品でSUNチェックする羽目になってるんだろう?(´・ω・`)

今まで投稿した物を読み返した作者の感想。ありのまま起こった事を話すぜ。ほのぼのを書こうと思っていたらいつの間にかBADENDが確定していた……恐ろしい物の片鱗を味わったぜ。

なお感想は読んでます……来週あたりにまとめて返信しますので御容赦を。

また後書きにて作者が少しネタばらしをするため、お嫌な方は本編を読み終わった後、ブラウザバックしてくれると嬉しいです。

追記
感想返しはまたさせて頂きますが、とりあえず2点だけ。

まずなぜBAD確定なのかと言いますと、そもそもアルベドを粛清しないといけない時点で作者がBADと考えてるからです。また本文でも書きましたが、アルベドを殺そうとした場合、アウラも殺さないといけません。まあこれは現状判明している事だけでですがね?


またタイトルに関してなぜ覇王少女ネム育成計画なのかと言えば、これからさらにネムが強化されていくからです。


 パンドラズ・アクターは宝物殿へ転移して、本来の守護領域に戻ってきていた……今までに溜まった、澱みを無視しながら……しかしここは宝物殿。自分しか存在しない場所だ……

 

 現在リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持っている存在が、何人か存在するが彼女達は訪れないだろう。特にアルベドはNPCを壊すのに忙しいのだから……故に、全ての感情をパンドラズ・アクターはさらけ出す……

 

「……私は! ナザリックで父上の家族になってくれる可能性がある者を殺してしまった! それだけではない! 全てのNPCを壊してしまった! 父上に申し訳が立たない!」

 

 咆哮があがる……自分のミスを認識してしまった。彼の口から……全て吐き出せば何かが変わると信じて……

 

「どうすればいい! どうするのが最善だ!……ネム様がいれば父上を幸せにしてくれるでしょう……それを他の者達にも見せて、アインズ様が本当にお望みである物にも気付いて貰うつもりだった! 家族に近づいて貰うつもりだった! アウラ殿なら時間はかかろうとも可能だったはずだ!……アウラ殿だけではない……アルベド殿も気付く事ができたはずだ……私は彼女を……まさか」

 

 パンドラズ・アクターは恐ろしい事に気づいてしまう……確かに彼女の部屋は、父上が望まないものだった……だがアルベドがそれを実行したのはいつだ? 自分が、アインズの傍に付き従い始めて、アルベドが父上に捨てられる可能性を抱いてからなのでは……

 

「……私は……私は何ていう事を……そもそも警戒すべき存在なんていなかった……いや、違う、違うはずだ……それを認めてはいけない……」

 

 パンドラズ・アクターは必死に目を逸らす……もしそれを受け入れてしまえば、自分が何もできなくなる事を考慮して……

 

「……父上はナザリックを捨てられない……NPCに彼らの面影を見ているから! 御自身の心を殺されている…… 殺されるしかない。支配者として君臨して貰う事こそ彼女達の願いなのだから! 私は父上の御負担を減らすために行動したはずだ……だが全てが裏目に出た!」

 

 後悔に思考を飲まれそうになる……いや実際飲まれているのだろう……

 

「…………思考を止めるな……後悔は、後でできる……今するべきは何が必要か考える事だ!」

 

 必死に自分を鼓舞する。何が必要か。どう行動するのが最善かを……

 

「ナザリックの者達で父上と本当に家族になれる者はもういな……いやルプスレギナがいますか……問題は彼女をどうこちらの味方にするか……ですね。そうなるとアルベド殿からどう守るかも考える必要がありますね……」

 

 必死に考える。ナザリックの崩壊を防ぎながら、カルネ村やルプスレギナを守り、ナザリックの者達を正気に戻すかを……

 

「アルベド殿の部屋の事を父上や、全てのNPCに伝えたとしましょう……仮に父上がアルベド殿を殺す決断をなされた場合、アルベド殿が間違いなく父上を殺そうとするでしょう……故にこの選択はできません……NPCに話して彼女の言葉を受け入れるなと言っても……無駄に終わる可能性がありますね……現状なら、アルベド殿が一時の気の迷いや、自分達や父上を捨てた者達を許せなかったと言えば……それに私の言う事が真実と受け入れられる可能性は低いですね……下手をすれば私の謀略とされかねない……アルベド殿の暗殺は不可能でしょう……私ではNPC複数人を同時に殺すのは不可能です……たっち・みー様の力を十全に振るえれば別ですが……やはり駄目ですね……」

 

(……私は間違いなく殺される……それに後悔は無い。しかし現状を認める事はできない……私の死後、代わりを務めてもらう人物が必要ですね……私を蘇生させるのは……アルベド達が反対するでしょうし……) 

 

 ……声に出しながら様々と考える……だが何も浮かばない。当然だ。既に盤面は詰みなのだから……故に決断を下す。最後の決断を……

 

「…………父上。お許しください。私はこれより、父上の御命令に逆らいます…………」

 

 パンドラズ・アクターは今だけ、全ての後悔を捨て去り覚悟を決める……家族の望まぬ形で決着を付ける事を……

 

 己の考えに従い、現状唯一の味方と断言できるデミウルゴスに連絡を取る。

 

『デミウルゴス殿ですか?』

 

『パンドラズ・アクターかい? 君から連絡とは……何かあったのですか?』

 

『……安心しました……あなたにはまだ連絡が言っていないのですね?』

 

『……何を言っているんだい?』

 

『……緊急事態が起きました……30分後に私がゲートを開きます……その門を通って、帰還して頂きたい。誰にも分からないように……』

 

『……しかし、アインズ様の御許可なくこの地を離れるのは……』

 

『アインズ様の御命にも関わる事です! 詳しい事はあった時に話しますが……現在ナザリックにいるNPCがアインズ様に反旗を翻す可能性が出てまいりました……』

 

『……一体何があったのですか! アインズ様はその事を御承知なのですか!』

 

『……アインズ様はお知りになりません……知ればきっと御自身の御心を殺されるのです……どうか手を貸して欲しい……既に私が殺されるのは確定事項でしょう……それも仕方ないと納得しております……それでも! アインズ様……いえ、父上の幸せを守りたいのです!』

 

『……今、父とお呼びになりましたか……分かりました……誰にも見つからないように行動しましょう……』

 

『……ありがとうございます! それともう一人味方になれる可能性のある、ルプスレギナも同席させます……そこで全てを、お話ししましょう……』

 

『分かりました……では後ほど……』

 

 デミウルゴスとの会話が終わる。必要になるアイテムを所持して、宝物殿を出る。その前に霊廟に向かい一言呟く……

 

「……至高の御方々……私はナザリックを破滅に導いた……大罪人です……しかし、父上の幸せをお望みくださるなら、どうか私に力を! どうかこの世界におられる事を……どうかナザリックを……父上を御救いくださいますよう……願います!」

 

 転移が実行され誰にも見つからないように隠密行動を開始する……彼にだけ許された至高の姿の一つで……

 

(……可能性は低いでしょうがね……どうかネム様……父上の心の支えであり続けて下さい……)

 

★ ★ ★

 

 パンドラズ・アクターは誰にも見つからないように密かに行動をしていた……ルプスレギナを連れて……現在アルベドの部屋にいる……アルベドはここにはいない……

 

(……熱は熱いうちに打てと言いますし……恐らくアウラを壊しているのでしょう……アウラ……私のせいです……申し訳ない)

 

「……どうしたんっすか? パンドラズ・アクター様?」

 

「……敬称は不要です……」

 

 ルプスレギナが自分の感情を読んだようだ――ルプスレギナに着替える時間を与えられなかった事が申し訳ない――ルプスレギナは旗の扱いを見て、怒り狂いそうになっていたが、デミウルゴスが着た後に話すから待てと頼んでいるため彼女自身も不機嫌そうだ……

 

「……そろそろ……時間ですね……門を開きます……」

 

 パンドラズ・アクターはルプスレギナの死角に移動して、ゲートを使う……

 

「……お待たせしました……それで一体何があったかお教え……あれは一体?」

 

 デミウルゴスから殺気が滲む……注意深く観察していたため、すぐに旗の扱いに気付いたのだ……

 

「……ここはどこですか? まさかあなたが……」

 

 デミウルゴスが戦闘態勢に入る……下手に答えれば、デミウルゴスも敵になるだろう……

 

「……あなたなら分かるはずです……この部屋を、もう少し注意深く御覧下さい……」

 

「……あれは、アインズ様の人形……まさか! ルプスレギナ、ここは誰の部屋ですか?」

 

「……我々を立ち入り禁止にした、アルベド様のお部屋で御座います……」

 

 ルプスレギナも普段の口調を改める……恐らく、事態の大きさに合わせた言葉遣いに直したのだろう……デミウルゴスが外に向かい出す……怒りの表情を滲ませながら……

 

「どこに行かれるので?」

 

「決まっています。アインズ様に御報告に行き、アルベドを討伐するように進言いたします」

 

「……無駄ですよ……アインズ様は御許可をだされない……仮に出した場合、アルベド殿に同調してアウラやルプスレギナ以外のプレアデス……シャルティア、恐らくはマーレ……下手をすればあなた方以外の全てのNPCが捨てられると認識して、アインズ様に牙を向き幽閉しかねない……いえ、恐らくはそうなるでしょう……」

 

 絶句だ……二人とも絶句している……何が起きたのか理解できずに絶句するしかないだろう……だってナザリックのNPC達の忠誠は不滅の筈なのだから……

 

「……一体何があったのですか?」

 

「……そうですね……まずどうしてこんな事態になったかを説明しましょう……先日、カルネ村から少女を招きました……ルプスレギナは覚えていますね?」

 

「……はい……何の関係が?」

 

「……私はアルベド殿に危険な雰囲気を感じておりました……それゆえ、彼女を一時的にシャルティアへの説教に行くように誘導しました……モモンガ様が、あの少女と楽しまれている間に……私もその場に行きました……彼女の真意を確かめるために」

 

 二人が注意深くパンドラズ・アクターの声に耳を傾ける……特にデミウルゴスは全てを読むかのように思考をフル回転させているのだろう……

 

「私は、彼女の真意を見つけるために、アウラやシャルティアの前で、叫びました……『この地を捨てた方とモモンガ様を比べるなぞ厚かましいにも程がある!』とね……」

 

 ……ルプスレギナから危険な香りがする……デミウルゴスには以前話しているため、問題は無い……過ちを理解しているパンドラズ・アクターは丁寧に話す事を心がける。同じ間違いをする訳にはいかないのだから……

 

「……話を続けます……シャルティア殿が怒りを上げた後『あなた方に全力で家族として愛情を向けられている!……私がナザリックを捨てるべきだと進言しても、却下されるぐらいにね?』…………この発言にお二人はルプスレギナのように呆然としました」

 

 それが当然だ……理解したくない事は理解しないのだ……それはナザリックの者達も同じだ……実はアインズが支配者に相応しい頭を持っていない事なのだ……直視すれば、デミウルゴスやアルベドは気付ける筈なのだから……

 

「……アルベドは違ったんだね?」

 

「……ええ。私からモモンガ様を取り上げるなと……そのため危険性の確認の為、彼女の部屋を査察しました……彼女は……この旗を見る限り、モモンガ様以外の御方々を怨んでいる……恐らく殺害を秘密裏に実行するでしょう……」

 

「……そこまで理解していながら、なぜアインズ様にお伝えにならなかった!」

 

「……モモンガ様は、アルベド殿の御方々への殺意を自分の責任と認識するでしょう……モモンガ様に御心労をかけないためにも……私はアルベド殿の事実を隠して、遠ざけるつもりでした……」

 

 二人の会話を静観していたルプスレギナが疑問の声を上げる。

 

「……だから、アルベド様に伝えるなと、我々に伝えられたのですか? 私をアインズ様のお傍に仕えさせようとしたのも、そのためでしょうか?」

 

 ルプスレギナが神妙な顔付だ……彼女からすれば、アルベドを遠ざけるためのだしとして利用されたと思って当然だろう……

 

「……それもあります。しかし、真の狙いは別にありました……時にお二人とも、モモンガ様の願いは何か知っておられますか?」

 

「……世界征服では…………まさか、あの時君は、モモンガ様は世界征服を望んでいないと言いましたね?」

 

 以前デミウルゴスとBARで会談した時に伝えた事を思い出したのだろう……

 

「……ええ」

 

「……私はそれを主の真意を考えて行動すべきと返事を致しましたが……それは現状では望んでいないという比喩ではなく……真実だったのですか?」

 

 デミウルゴスの声が震える……自分が主の望みを勝手に歪曲していたことに気付いたのだろう……

 

「……その通りです……だからこそ、私は世界征服を中止にするべきだと、私とあなたの間で合意したのです」

 

「……私は、何て愚かな事を……モモンガ様の真意を捏造するなんて……許される事ではない」

 

 デミウルゴスが自責の念を抱き始める……彼らからすれば、絶対の支配者の真意を捏造するなんて許される事ではないのだから……

 

★ ★ ★

 

 デミウルゴスの頭は絶望でいっぱいだった……当然だ……自分の浅はかな考えのせいで……主を苦しめる結果を招きそうになったのだから……

 

「……あなたが内で、私が外で汚れ仕事をするというのも……そのためだったんですね? 君がアルベドの代わりを務めたのも?」

 

「……その通りです……モモンガ様はあなた達が望む、絶対の支配者を演じる事を決意なされた……そのためにも私が、彼女の代わりを務める必要があったのです」

 

「……でも、それでしたら、アルベド様でも良かったのでは?」

 

 確かにその点は疑問だ……だってモモンガ様は見事に我々を支配しているのだから……

 

「……その点は、後で話しましょう……まずはモモンガ様の本当の望みを話しましょう……よろしいですね?」

 

 ルプスレギナの質問を先送りにし、自分達に問いかける……恐らく先送りにした内容は、今回の話の核心なのだろう……

 

「……当然です……これ以上モモンガ様の真意を理解しないで行動する事は、許されざる事です……」

 

「……私も同じです……」

 

「……モモンガ様は……共に歩いてくれる、『家族』を欲しているだけなのです」

 

 空気が止まる……予想だにしないセリフだったからだ……

 

「しかし、あなた達の願いは支配者として君臨して頂く事……そのために御自身の心を殺されている……」

 

「…………君が、モモンガ様にこの地を捨てさせようとした、本当の真意が理解できたよ……そうか……我々は知らず知らずの内に、モモンガ様をずっと苦しめてたんだね?」

 

「……ええ」

 

「だから……ルプスレギナとアウラだったのか……確かに二人なら、被支配者の『壁』を壊せたかもしれない……しかしアルベドも可能性は……いえ、それも理由の一つですか? 彼女が冷静に考えれば、気付く事もできたはずでしょうから……だから遠ざけたのですか?」

 

「さて、私にも分かりかねます」

 

 辛い表情だったはずの、パンドラズ・アクターがそこだけ強い口調で否定に近いニュアンスで返事をする……触れて欲しくないのだろう。

 

「……そういう事にしておくよ……それで、その少女に何の意味が? ここまでで関連性が特に見えないが……態々出したんだ……重要なんでしょう?」

 

「……その通りです……現状でモモンガ様に精神的に一番近いのは彼女です、至高の方々がいらっしゃれば別ですが……」

 

「……それは認めたくない事だね……だが君が言う事だ……真実なんだろう……ルプスレギナ……あなたはその少女を見ましたか?」

 

「……はい……確かにアインズ様と親しい御様子でした……考えてみれば、我々よりも……親しげだったかもしれません……あの少女に対しては威厳をだして、接していなかったと記憶しています」

 

「その通りです……私は彼女をNPC達に見せて、見習わせるつもりでした……外部の人間が、モモンガ様と親しげにしていれば、或いは気付く者が出てくると信じて……」

 

「……そうだね……アルベドが冷静であれば、気付けたかもしれない……君はヒントを出していたからね……」

 

「……ヒント、ですか」

 

 ルプスレギナはあの時、あの場いなかった……知らなくて当然だ……その後直接明言はしていないのだから……

 

「彼は『アインズ様はあなた方を、この地を去られた方々の子どもと、認識され愛されております!』とシャルティアが洗脳された時に明言していたんだ……私は何て愚かな……深く考えれば、この時点で気付けたはずだ……」

 

 デミウルゴスの悲痛な声に、ルプスレギナがより悲痛の声を上げる……人間に敬称を付けながら……

 

「……それなら私の方が愚かでございます……あの少女……ネム様の質問に、アインズ様は我々の事を『家族として愛してる』と明言されたのですから……」

 

「……それは、確かに人間と侮っては駄目だね……パンドラズ・アクターが、ネム様が一番モモンガ様に精神的に近いと明言するはずだ……我々は、一体何を……」

 

「……モモンガ様は常に心で泣いておられる……至高の御方々が去られた事に……あなた達が、『被支配者』として接する事に……その心を唯一慰める事ができたのが、ネム様です……ルプスレギナがネム様、モモンガ様と一緒に過ごされれば、いつかは自分で気付いてくれると信じていたのです……」

 

「……自分で、ですか?」

 

「……私はモモンガ様より『真実』を聞かされたため、モモンガ様の味方になる事ができます……妃になる者には途中まで自分で気付いて貰いたかったのですが、余裕がなくなりました……」

 

「……真実とは、一体? いえ、その前にアルベドが、一体何をしでかしたのか、我々に教えて頂きたい」

 

 その真実こそルプスレギナの質問で先送りした、事なのだろう……だからこそ先に、アルベドが何をしでかしたのか知らなければならない……

 

「……私の言葉でアルベド殿はさらに一歩、狂気に走ったのでしょう……『捨てられた』この言葉を利用して、アウラの心を壊し、自分の手駒にしたのです……」

 

 確かにそれだけ条件が揃えば、アルベドなら可能だろう……自分でもできるかもしれない……そんな事絶対にしないが。

 

「……そして、ルプスレギナを殺す振りをして、私を誘導した……」

 

「待って頂きたい……ルプスレギナを殺そうとした?」

 

 思わず声をだして止めてしまう……それほどまでに信じられない事だったのだから……その時の事を思い出したのかルプスレギナは震えている。

 

「……はい……私がモモンガ様の隣で常に付き従う時の話を聞かれて、お二人に殺されそうになりました……」

 

「……何てことを……」

 

「……しかし全ては、アウラを壊すための偽装でした……すでに彼女は創造主に命じられた服装すら止めている……恐らく、自分が何をしているかも気付いていないでしょう……モモンガ様に伝えた場合、そのまま反乱がはじまる可能性が高いため、伝える事はできませんでした……」

 

 アウラは幼く作られている……彼の発言で精神的に不安定になった時に、壊したのだろう。

 

「……さらに私は、アルベドと同じ行動を叱責した……それで彼女はより深く壊れた……アルベド殿に壊すのを手伝ってくれてありがとう、と感謝されましたからね……」

 

「……私が気絶した後にそんな事が……」

 

「ええ……そしてその場にいた全てのNPC達に、私がモモンガ様にナザリックを捨てさせようとした事を……アウラを慰めながら発言しました……」

 

 理解が進む。確かにそれなら、全NPCが彼を殺そうとするだろう……仮にモモンガが自分達を捨てようと少しでも行動すれば、どんな手段を使っても幽閉するだろう……

 

「……理解できました……確かに君の目的からすれば、この盤面は詰んでるね……もう、アルベド達がモモンガ様の家族になる事は無いでしょう……」

 

 もしなったとしても、それは家族という名の奴隷に過ぎないのだから……

 

(……彼が元気がないのも理解ができました……全て自分の責任と考えているのでしょう)

 

「……パンドラズ・アクター……あえて言いましょう。この事はあなたの責任ではない……君のヒントに気付けなかった我々が悪い」

 

「……しかし、私は……ナザリックを壊してしまった……」

 

「最低でも私は……私達はあなたの味方です……ですね、ルプスレギナ?」

 

 頷く事でルプスレギナは返事としたのだろう……デミウルゴスはここで慰めるのを止める。後は彼が自分の中で解決するしかないのだから……

 

「今までの君の発言を総合するなら、ルプスレギナはモモンガ様のお傍に仕えて、『被支配者の壁』を壊し家族になる……私は……君に代わり打開策を見つける……君が殺された場合は、君の代わりを務めるという事で良いのかな? 特にネム様は守る必要があるでしょう……モモンガ様の御意志を知らせて下さったのですから……そう簡単に、君を殺させるつもりは無いけどね……」

 

 彼が殺された時に、モモンガの心も完全に死ぬ事になるだろう……蘇生もアルベド達が阻止する筈だから……

 

「……よろしくお願いします……現状ネム様の護衛も付けていますが、我々には歯が立たない……それにアルベドの嫉妬で容易く殺されかねない程脆弱だ……ネム様が御自分の身を守れる程度にお育てせねば……」

 

「……分かりました……確かにネム様もモモンガ様の妃に相応しいだろうからね……間違いなくアルベドの嫉妬対象だ」

 

 パンドラズ・アクターは今まで、ただ独りで孤軍奮闘をしてきたのだ……第1功だろう……そして同じ仲間として彼を見捨てる事はできない……デミウルゴスはあまり話をした事が無いパンドラズ・アクターに親しみを感じているのもようやく理解していた。

 

(……この感情はもしかしたらウルべルド様から受け継いだのかもしれませんね)

 

 デミウルゴスは自分が彼に対しての親しみを……セバスに対しての敵意をそう解釈した……

 

「ところで、なぜセバスには言わないのかな? こちらからゲートを開く事はできるんでしょう?」

 

 実際アインズも部屋から、カルネ村を救いに行く時に転移してるのだから可能だろう……まして自分は敬愛する主と同じ行動で来たのだから……

 

「……セバス殿は信頼はできますが、信用ができません……カルネ村にモモンガ様が救援に行かれた時、アルベドや他の者達に救援に来た事が伝わっていなかったとの事ですし……それに、彼ではアルベド殿に対する憎悪を隠せないでしょう」

 

「……確かにその通りだ……ルプスレギナは……正妃の座を狙うライバルとして振舞わなければならないから、多少アルベドに敵意をだしてもばれないだろうからね……」

 

「……分かりかねます……もしかしたら本当に死ぬ事になりかねない……」

 

 ルプスレギナが覚悟を決めた目でパンドラズ・アクターに視線を飛ばす……何があってもやり遂げるという意思がそこには存在した……

 

「……やらせて頂きます……モモンガ様のために……」

 

「……申し訳ない……私の過ちで……」

 

「……それでだ……そろそろ『真実』とは何かを教えて貰いたいですね?」

 

「………………」

 

「パンドラズ・アクター?」

 

 パンドラズ・アクターから苦悩する感情を感じる……恐らく……それほど重要な事なのだろう……

 

「…………今から話す事は……父上から、決して話してはならないと言われた事です……この事をNPCに話していいのは……NPCの創造主だけだ、と……私から聞けば、後悔されるかもしれません……裏切りになるとも……それでも聞かれますか? あなた達はすでに他のNPCと敵対する道を選ばれた……今までの会話で十分だと私は感じました……ここで止めても、問題は」

 

「あるのでしょう? きっと『真実』を知らなければ、真の意味で『叔父上』の味方になる事はできない」

 

「……デミウルゴス……あなたは」

 

「私は、真の意味で家族となり共に歩む事はできません……しかし、だからこそ『叔父上』と認識してモモンガ様に仕えるつもりです……これからは」

 

 これがデミウルゴスにできる最大限の譲歩だ……自分では完全に『被支配者』の壁を壊す事はできない……それでも、絶対の神として仕えるか、身内と認識して仕えるかを選ぶ事はできる……

 

「……えっと、私も叔父さんのために頑張るっす! あれ、でもそうなると私が妃になると……近親相姦っすかね?」

 

「……ははは……はははは! いや、実際に血は繋がってないから問題ないでしょう! 繋がっていても問題ないかもしれませんね!」

 

 今までの暗い雰囲気を吹き飛ばすようにパンドラズ・アクターは笑い続ける。 

 

「……やれやれ、私が方法を間違えなければ、ここにアルベドもいたのかもしれませんね……ですが今だけは現状を見据えて、あなた方に真実を話しましょう……よろしいですね?」

 

「ええ」

 

「お願いするっす」

 

「……まずはどこから……そうですね、まず大前提として、我々が至高の御方と認識している方は……リアルの世界では人間でした……」

 

「……続けて下さい……」

 

「……その世界は末期で、外を出歩くこともできず、食べ物も碌に作れない世界でした……その中で支配階級は娯楽としてユグドラシル等のゲームを提供します……」

 

「ゲームっすか?」

 

「その通りです。我々はこの世界に転移するまで、ただのプログラムに過ぎなかった……心当たりは?」

 

「………………言われてみれば、思い当たる節がありますね……なるほど、我々に話すなと命令される筈です」

 

 この真実は劇薬だ……至高の御方が人間で、自分達がただのプログラムと言われているのだから……しかし二人はその程度を乗り越える覚悟は既に決めている……

 

「……そして至高の御方々は……自分達が生き延びるために、この地を離れなければならなかった……決して捨てたくて、捨てた訳ではない事だけは……理解して頂きたい」

 

 捨てられた事に悔いが一つもないとは言えない……だが自分達のせいで捨てられた訳ではないと聞かされれば、少しは心も軽くはなる……だが疑問も湧きあがる。なぜモモンガだけが、ナザリックに来る事ができたのかを……

 

 なぜ自分の創造主はこの地に来られなくなったのか……

 

「……父上がこの地に通い続けられたのは、家族もなくずっと独りきりだったからです……守るべき者が無かったから……」

 

「……ウルべルド様はなぜ?」

 

「……聞いた話によると、たっち・みー様とのリアルでの確執が原因だと思われます……」

 

「……確執とは?」

 

 パンドラズ・アクターが難しそうな表情を作る……言っていいのか悩んでいるのだろう……しかし沈黙に耐えきれず、小声で呟く。

 

「……分かりやすく言うのであれば……たっち・みー様はリアルの世界で勝ち組……支配階級に近い存在でしょう……対して父上やウルべルド様は、負け組。搾取される側だったと、認識して頂ければ分かりやすいかと」

 

 なるほど。言いにくい訳だ……創造主が負け組だったと伝えるのは心苦しいだろう……そして閃いた……

 

「……では、モモンガ様は……私の考えるような、知恵者ではないと?」

 

「……その通りです。報告書等もよく分かられておられません……そんな中、あなた達の望む支配者になろうと決意された……そのために私が傍に仕えるしかなかったのです……」

 

「……そうでしたか……私は本当に愚かだったのですね」

 

 後悔の念が後から後から湧いてくる……もしここで真実を知らなければ永遠に知る事ができなかっただろう……空間に重い空気が垂れ込む……それを吹き飛ばすようにルプスレギナが明るく語る。

 

「えっと! 私の創造主様はどんな方だったんすか?」

 

「……申し訳ない……あなたの創造主の事は詳しく聞いてないのです……父上のお傍に仕える間に聞いてみると良いでしょう……昔の思い出話ができて、とても喜ばれる筈です」

 

「……はいっす!」

 

「ルプスレギナ。君の仕事は大変重要だ……これからパンドラズ・アクターはモモ……叔父上の傍に仕える事が難しくなるだろう……私もできる限り、分かりやすい報告書を上げるようにするが……君も共に考えるんだ」

 

「……いやーそれ。私には向いてないんじゃないっすか? でも、頑張るっす」

 

 ……ここで話すべき事柄は、大体終わっただろう……後はこの場から見つからないように去らなければならない

 

(……まぁ簡単ですね……しかし彼の力は一体)

 

「……ところでパンドラズ・アクター君の力は一体どのような物かな? 有事に備えて、戦力を正確に把握しておく必要があると考えるんだが」

 

「そうですね……ここまで話した以上問題ないでしょう……私は父上達の8割の力を振るう事ができます……つまり等しく変身する事ができます……まぁたっち・みー様の力は無理なんですがね……」

 

「……それは何というか……君は文字通り影武者だったんだね?」

 

 パンドラズ・アクター……絶望の後に希望を演じる者……最初名付けられた時は違ったかもしれない……だが今はそうだ……仮に自分達を味方に引き込めなかった場合、文字通りNPC全てが災厄になり、彼だけが希望になっただろう……

 

「……ええ。影武者としての役目もあるでしょう……ですが私が今こうして、父上のために働く事ができるのも、ネム様達のおかげです……もし父上と彼らとの出会いがなければ、私もあなた方のように全てを押し付けてたかもしれません……」

 

「……ネム様達には……心から感謝をしなければなりませんね……彼女達の存在がなければ……」

 

 きっとモモンガが自分の心をさらけ出せる存在がいないと言う、不幸な結果になったかもしれない……それは望むものではない。

 

「……ルプスレギナ……役目上あなたの方が、ネム様とお会いになる機会も多いでしょう……感謝を忘れてはなりませんよ……」

 

「……もちろんでございます」

 

 いつの間にか彼女の言葉遣いが真面目なものに戻っていた……彼女にも思うところがあるのだろう……

 

「……ネム様はあのままお育ちになれば、父上の救いになり続けるでしょう……ルプスレギナは見習ってみるのも良いかもしれません……」

 

「分かりました……いえ、分かったっす。二人で……叔父さんの救いになって見せるっす!」

 

 ここで話すべき事は本当に無くなった。後は行動を開始するだけだ……

 

「……これで後顧の憂いは無くなりました……では解散としましょう……ルプスレギナは父上のもとへ……私は密かに動いて、現在のナザリックがどの辺りまで壊れているかを把握いたします……」

 

「……私は外にいる事になっているから……アルベドから連絡があった場合、同調した振りをして内部から何とかできないか試してみましょう……」

 

「……私は叔父さんの傍に仕えて、アルベド様達の牽制っすね! 他にも諸々がんばるっす」

 

「……あなたの役目が一番重要です。それと人間から、アンデッドになられた事で、何らかの異変が生じる可能性もあります……その点も見て頂けると幸いです……」

 

 ――――こうして3人の対談が終了した……パンドラズ・アクターはようやく孤軍奮闘をする必要が無くなったのだ。2人は全てを受け入れた上で、家族と思って下さる方に応えるために行動を開始した……そう他のNPC達との対立を理解しながら……敵はアルベドを筆頭に多数に上る……既に盤面は詰みの状況だ……それでもなお3人は抗う……ルプスレギナは姉妹たちとも戦う必要が出てくるかもしれない……唯一モモンガの傍に仕える事になるのだ……捨てられる可能性を認識してしまった誰もが、彼女に憎悪するだろう……それでも彼女は引けない……一部の真実ではなく、全ての真実を知ってしまったのだから……もう彼女はアルベドに殺気を向けられても、同じように気絶する事はないだろう――――




はい。色々ともっと後で使おうと考えていたネタをここで使用しました……

後、デミウルゴスとの会話を描写してないのは仕様です。だって彼との会話には今後の展開のほぼ全て描かれてましたからね! 一応リメイクも考えていますし。


作者は本当はナザリックのNPC全てをモモンガ様の家族にしようと考えておりました。

この作品のテーマは『愛』と『家族』でした。(あ、後『ロリコン』ですがここでは述べないです)見る影がありませんが……

そのためどうすれば、家族になれるかを考えた結果……NPC以外で一番親しいネムに白羽の矢が上がりました。またそれだけでは厳しいため、カルネ村の出会いを通してモモンガ様とパンドラズ・アクターを家族にして、少しずつナザリックの意識改革ができたらと考えておりました。

ほのぼの路線で進んでいれば、アルベドの嫉妬は軽い物になったかと思われます(まぁ100レベルの嫉妬だからそれでも死人が出そうですが……)

本当どうしてここまでねじれちゃったんだろう? 作者も不思議です。きっとカミーユみたいに発狂していたのでしょう。

嘘です。ごめんなさい。実は心当たりがあります。

作者は12月25日までに一区切りを付けたいがために急いで執筆をしすぎました……過程で途中を深く考えなかったため、こんな展開になりました。(後、やっぱり恋のライバルも必要と少し考えて気付いたら、ついついやり過ぎてました。本当はここまでにする予定はなかったんです……リメイクの方でどうぞ)

あと、鬱展開がお望みの皆様、今回は物足りないと考えた方もおられるのではないでしょうか?そんなあなたのためにある方から言葉をお借りします。

『恐怖というものには鮮度があります――――希望が絶望へと切り替わる瞬間……』

 次話はアルベド回だと思われます(´・ω・`)

 後現在のネムがどんな様子かも描写しようと思います。

 なお暫く作者は更新はしないで頭を冷やそうかと思いますので、ご了承ください。

 ハッピーエンドと絶望エンドでは先にハッピーエンドを終わらせようと考えています……お互いに引きずられたら大変ですしね……

 もちろんこちらでは愉悦部員の一人として丁寧に書くのでお楽しみに!



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