やはりオレの青春は間違っていた (マケ犬)
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俺の単位計算は間違っていた。
「このままだと留年だ」
この学校で一番怖いと有名な関屋体育教官に裏庭に呼ばれた最初に言われたのがそれだった。
「もうすぐ一年も終わる。お前は成績も良くない。授業態度も全くだ」
「はぁ」
「のくせ、担任と保健室の白山先生はお前の留年を気にしている。他の先生方もだ」
「……ありがたいっす。でも、なんで説教は関屋先生なんですか?」
担任に、保健室の女医に、泣き落としは男でも有効なようだ。両親の顔面スペックの高さに感謝だ。アーメン。
「生徒指導だ」
なるほど。生徒指導ってのは、こういう素行の悪い生徒に対しての指導も任せられるのか。
その割には嫌そうな顔を隠しもしない。仕事はしっかりしようよ、形だけでも。泣きそう。
「平塚先生も生活指導ですよね」
男子の憧れ美人教師である。静ちゃん。よくお風呂を覗かれる国民的小学生ではない。
「正確には生活指導だ。あれはあれで気になる生徒がいるらしい。それで俺に回ってきたんだ」
「めちゃくちゃ嫌そうっすね」
「問題児の世話なんぞ快く受け入れないだろが」
若干イライラしているガチムチサングラスの似合う体育教師。これが蛇に睨まれると言うことか。ファイヤーさんはあんなに安心できるのに。
とりあえず無難な回答をば。
「そうですよねー」
大体困ったときは同意しておけばいいのだ。たぶん。
「……どうする?」
どうする?とは留年の事だろうか。正直もう学校というコミュニュティーにはうんざりだ。しかしこの世知辛い学歴社会。中卒はなかなかリスキー。初見のスターフォックでカエル助けるくらい。超どうにでもなる。
「……まあ留年するくらいなら辞めて働きますよ」
一応あてまである。
「……そんなに嫌か」
「まあ、はい」
即答ではないが、間もあかない。嫌だ。拒絶の代名詞。
「……まだ問題が残ってるのか」
またイライラし始めた関屋先生だが、今度はそのイライラをオレに向けた訳ではないらしい。それくらい分かる。分からなければいけない。
「いや、それはもう大丈夫です。……いやまあ大丈夫では無いですが、マシにはなったんで」
俺の言う事がそんなに当てにならないのか、大分疑った様子の関屋先生。まあ正直説明もし辛い。
「……」
「ホントにもう直接的なのは終わりましたし、友達はいなくなりましたけど。まあこっちの方が身軽ってか、飯食う場所は困ってますけど」
「……そうか。白山先生が昼のたびにお前が来てると困ってるぞ」
白山先生とは保健室の美人……いや元美人の人妻系女教師だ。すでにお子さんが二人いて片方が成人している。本人を見て、まだ子供は中学生ぐらいなんだろうなと予想していたのでビックリした記憶が新しい。どうでもいいが保健室の先生とのラブロマンスとは本当にあるのだろうか。私気になります!ホントにどうでもいい。
「昼休み時間潰すの大変なんですよ」
そういうオレを見る関屋は、またイライラした雰囲気になる。マジでカルシウム足りないだろこの中年。
「はぁ……。一本いいか」
そう言いながらポケットに手を入れる中年教師。答えは聞いてないらしく咥えた煙草に火がつく。
長い溜息のような一服が終わると微妙な表情をしたオレを怪訝に見てくる。
「嫌か?」
「いや、いいんすか。外って言っても校内ですよ」
「大丈夫だ。こんな所誰も来ない」
「あとオレ生徒なんですけど」
「元生徒になりそうなやつだからな。かまわん」
「かまわんって……」
この教師は生徒指導でいいのか。最近は教育委員会も厳しいんですよ。厳し過ぎて、しんちゃんが見れないぐらい。
「それにお前も人の事言えないだろ」
「なんすか?」
「吸ってる奴の髪の毛はくせえんだよ」
「……吸ってんのは親父ですけどね。何すか。鼻の血管浮き出てますか」
「間抜けは見つけたな」
はっ、と鼻で笑われる。
「まあいいがな」
「……」
「それで本題なんだがな」
時計を確認し本題に入るってことはもう昼も終わるのだろう。おいおい、昼食べてないぞ。
「長く楽な方と、短くて苦しい方どちらがいい?」
●
真面目系クズとの言うのは楽な事をさらに楽をしようとし、その有りもしない裏道を自分なら見つけられると思っている。こんなどうしようもない連中だ。
オレも例には漏れずそうだった。つまり例に漏れていないので裏道ではないのだ。
関屋慎也体育教師に言われた時、オレは真っ先に楽で長い道のりを選んだ。一括払いよりリボ払い。借金生活の幕開けである。
「お前のギリギリな単位を何とかするには部活に入るか、ボランティア活動が必要だ」
と、関屋から聞いたとき、何だ簡単だなと思ったオレを殴りたい。しかしこの先青い狐はどこからも出てこない。タイムマシーンも。
「1番いいのが生徒会執行部への仮入部だ」
体に非常に有害な煙をまき散らしながら言う姿はなかなか様になっていた。てか臭いっす。
「生徒会っすか…」
「ああ。仮入部中の活動なら個人のボランティアとしても評価され、部活の活動評価にもなる。これはほかに言うなよ。お前にしか適用されん」
「…何か嫌なこと聞きました」
つまりどうしようもない時のどうしようもない処置なのだろう。俺だから何とか適用らしい。じゃなければ皆仮入部の生徒会員になる。
「生徒会は3年が引退してから人手不足だからな。ホントこの学校の生徒は帰宅部ばかりだ」
偏差値の高い学校特有の部活への入部自由は帰宅部員の数を大幅に上げているらしい。オレも帰宅部だ。
「お前が良ければ野球部でもいいんだがな」
「勘弁です!」
だからそんな期待した目で見ないで欲しい。泥臭い汗と涙の青春は積み重ねて意味があるのであり、ぽっと出にはとても厳しい。てか、何だその少年の瞳は可愛いじゃな…てか野球部の顧問だったな。この中年教師は。
「そうか。野球部も内申いいぞ、もしだったら大学にも入れてやれる。お前は無理だが」
「じゃあ何で言ったんですか…」
なぜオレが除外されてる事を最初に言わないのだろうか。倒置法のせいで無駄に期待してしまった。
「まあ、だから生徒会に入って適度に雑用しろ。今だと三年の卒業文集や終業式の準備でそれなりに忙しいだろうからな」
「…うっす」
拒否権はないのである。この時のオレの心境を言うとサボって適当に回そうぜ!魔力の消費抑えろ。って作戦だったと思う。これは酷い。
「ちなみに生徒会に入ったとしても体育のマジックは2だ。良かったな優勝間近だ」
「川へ入水の準備しときますね。千葉ですけど」
軽口を返すがもう本当にヤバイ状況だった。商店街が優勝セールの準備を既に終えてる段階だ。何ならパレードもある。これ生徒会入らないとどうなってたの?怖いわーマジ怖いわー。
「飛び込むのは新1年生の輪の中だがな。大丈夫だ、飛び込むときは背中を押してやる」
トドメじゃないかそれ?
ドヤ顔決めた少年の目をもつ体育教師にオレは生徒会の仮入部と体育のラスト一回のサボリを聞いたのだった。休める分は休んどくさ。
「ちなみに次サボったら問答無用でオレと二人っきの3000メートル走だ。ちなみに2回測定する」
真面目に出ます。やはり真面目系って大事だよね。うん。今時は真面目系。
「じゃあ終わりだ。生徒会には話してあるから放課後まで待ってろ」
何本目かのタバコに火を付け始めた関屋にハエを追い払う動作で手を振られながらオレは教室に戻ることになった。飯食ってないぞオレ…
しかしチャイムはいつも通りに正確だった。俺の腹には無情なのである
自分が読んでも読みにくい
あと数話で原作一巻あたりに
俺ガイルアニメも小説も面白いので買おう。な?
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そして彼は孤立した。
なかなか勝手がわからなく、感想頂けたのが嬉しくて泣ける。ありがとうございます
保健室は良く行った。
何本目かのタバコが消えるころ、遠くでチャイムの音が聞こえた。
昔は嫌で仕方なかったこの音がまさか仕事の一部になるとは、昔の自分は思いもしないだろう。
「はぁ……」
煙が風に流され薄れ消えていく。考えているのは例の問題児の事だった。
内野凜太郎。それが問題を起こさない問題児の名前だった。
●
その生徒を初めて見たとき、楽しそうな奴だと思った。
入学して間もない日、体育は身体測定がメインになっていた時だ。
内野は長距離の測定で友人に負けた事を本気で悔しがり、また負けた友人へ笑いながら次は負けないと言っていた。
笑顔で友人に囲まれながら自然体で楽しむ彼は、青春の象徴なのだろう。
高校生らしい高校生だった。
高校生でいる事をまるで演技のように振舞うのではなく、自分らしく、そして大人と子供の間らしかった。
その後、彼を気にし始めたのは夏頃だった。
体育に出なくなった彼を怪訝に思った。
風邪にしては期間が長く、何よりもクラスの彼らの様子が一番よく問題を表していた。
教師と言うのも人間だ。子供というのはどうも大人を舐めている傾向にあるのか、子供の問題に大人が気づいてないと思っている。
気づいているさ。当たり前だ。大人と言うのはその子供の社会を超えたモノの称号であり、姿なのだ。
いじめ。または何かしらのいざこざがあったのだろう。クラスでも特に騒がしい連中が内野の名前を出し、そのことで周りが笑っている。
これが心配の言葉などならまだ微笑ましいし、サボりではないのかとこいつらに問い詰める事も出来るが、あからさまな陰口だとそうもいかないのだ。
教師はいじめに気付かない。そんな事は視野の狭い子供の言う事だ。
いじめに気付かない教師は少ない。しかし、それと反対に、いじめに対処しようとする教師は少ないのだ。
結局体育の授業中に内野が戻ることもなく、心配している生徒もいなかった。
ただ話題の中だけではよく名前が出ていたのが、いない筈の彼を強く気にしてしまった。
この夏の暑さの中、走る生徒たちの起こす砂埃は風に飛ばされ消えていった。
●
人間が生活するうえで欠かせないのが睡眠である。寝ることによって人は記憶を整理し、体力を回復する。
寝ないことによって引き起こされる問題は多い。集中力の低下、ホルモンバランスの乱れ。高校生の性の乱れ……は、違うか。
つまり学業よりも睡眠が優先されるのだ。
「失礼しまーす」
授業開始の少し前、最後の授業と睡眠を天秤にかけたら勢いよく睡眠の方に傾いたので俺は保健室に来た。歩きで来た。
保健室の周りと言うのは何だか別世界のようで、静かで閑散としていて、ひんやりとした雰囲気だ。ちなみに雰囲気は変換できる。読めないけどな。空気的な意味で。
ノックの後一言かけながらドアを開くと消毒液の匂い。病院の匂いと言った方がいいだろうか。その匂いが鼻をついた。
中では女子生徒が一人ソファーに座りながら携帯を弄っていた。
サボりは俺だけでは無いみたいだ。
一人PCで作業しているのは顔見知りではない。どうやら違う養護教諭のようだ。
「おやおや、またかい」
「どーも、白山ちゃんは?」
白衣を着た妙齢の女性は俺を見ながら、またかと言う顔をしながら見る。
俺の質問に答える時も呆れたような物言いだった。
「職員室に呼ばれてるよ」
「へー、なら奥のベット借りますね」
そう言いながらベットに向かおうとするオレに養護の先生が呼び止める。
「一応体温ぐらい測っていきなさい」
「はーい」
一応と言うあたり、俺のサボりは完璧にバレているらしい。ちなみに新潟の高校だと体温を自己申告で37度4分以上で帰宅を許される。ここ千葉だが。
女子生徒の座っている反対のソファーに座りながら、体温計が鳴るのを待つ。しかしこの対面に座ったのが悪いのか、目の前の女子生徒がチラチラと視線を向けてくるのが気になる。どうしたオレに2000%恋しちゃったか。
そのままチラチラと少し見られるものの、必殺目を瞑って時間を待つで体温計が鳴るまでの沈黙を耐えた。保健室利用者は一番嫌いな時間なんじゃないのか?
体温計の温度は全くもっての平温だったので、自己申告で微熱を言う。
「また微熱かい?もうそれが平均体温なんじゃないかい?」
「雪国では微熱でも軽視しちゃいけないんですよ先生。ここ千葉ですけど」
呆れの溜息と視線は貰ったものの、どうにか奥のベットは使わせて貰えるようだ。
俺がベットに入ると女子学生と養護教諭がおしゃべりを始めた。俺は邪魔者だったらしい。ごめんね、てへぺろ。
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この学校にいじめはない。それはどこの高校でも言っている事だ。しかし、いくら偏差値が高くても、県で一番の進学校でもいじめがないなんてありえないだろう。
当たり前だ。さかなクンが飼ってる魚ですら集団になるといじめが起こるのだ。生物の宿命とも言えるだろう。あとサンを付けろよデコ介。
始まりに意味はない事が多い。体臭、容姿、考え、性格。本当に意味がないのだ。たとえ体臭を消そうと、整形しようと、一度起きたいじめはなくならない。
なぜなら冗談で投げつけられたプリントを投げ返すだけでいじめは起こるのだから。
●
保健室で寝るのってあれだよね。髪型崩れちゃうの気にするから爆睡できないよね。
「内野君。もう放課後だけど」
うん。そうなんだ。爆睡したんだ。
「もう放課後だから寝るなら家帰ってねなさい」
そう言うのは美人人妻系養護教諭の白山先生だ。物凄いソフマップ臭。
白衣のソフマップ女優……白山先生はそのままカーテンを開け、席に戻って行く。
「体育だけ休もうと思ってたんですけどね」
起き上がり、カーテンを抜け、備え付けの鏡を見ながら髪を整える。
「はいはい、イケメンイケメン」
「えー」
そんな自分に野次を飛ばしてくる。いや、大事ですよ髪型。特にキョロ充にとっては。
「そんなのいいから早く教室行って帰りなさい。掃除の子達来るから」
「うっす」
そんな訳で保健室から追い出された俺は、素直に教室に向かった。
急いでるので後々変更あるかも。
俺ガイル買ったら『あやかしがたり』も買おうか。
自分も二巻までしか持ってないが。
今読んだらホント実りのない話だなぁ
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