血界戦線――The monster who packed the weakness of the human―― (金パックン)
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第一話 異常で超常で通常な日常(前編)

どうも、皆さん、金パックンです。
血界戦線にはまってついつい駄文を投稿してしまいました。
こんな駄文でも見てくださる方は下に進んでください。
もちろん、かなりの駄文ですので、ここでブラウザバックをしてくださってもかまいません。
むしろ私個人としてはそちらのほうを推奨したく思います。



…覚悟はできているでしょうか?
それでは、どうぞ、ご覧くださいませ。


 そこは、何もない白い空間だった。

 誰もいない、何もないその空間で、一人の女性とおぼしき人間がたたずんでいた。

 一般的な感性を持つ人間ならば間違いなく見ほれるであろう美貌の女性なのだと思うのだが、どういうわけか、途方もないほどに認識がしづらい。

 男なのか、女なのか?人なのか化け物なのか?生きているのか死んでいるのか?

 いや、そもそもそこに、何かあるのだろうか?

 そもそもここには見た限り何もないのだから、ここに何かあるわけが、ましては誰かがいるわけがないだろう。

 じゃあ、あそこに見えるものは何なのだろうか?

 ほんとうにあの女性?は存在しているのだろうか?

 その存在を視認した瞬間私の脳裏に浮かぶその疑問に、答えてくれる人は誰もいない。

 

(あの女性は、一体誰なのだろう?)

 

 そこまで考えて、私はふと考えた。

 

(あれ?それよりも…

 

 

 

 今、あの人を見ている『私』は…一体誰なのだろう?)

 

 

 そこまで考えた瞬間、突然その白い空間は真っ黒に染まってしまった。

 何も見えない、何も聞こえない…誰もいない。

 先ほどの少女も…いつの間にか闇に飲まれて消えてしまっている。

 ここはどこだ?私は今どこに…いや、そもそも『私とは』一体誰だ?

 私とは誰のことを示す?あれ、おかしいな…私は私、それ以外の何物でもないはずなのに…

 その『私の顔』がわからない。

 私は一体どんな性別で、どんな性格で、どんな顔をして笑って、どんな人たちと一緒に居たのだろう?

 

(わからない…わからない!

 助けて!誰か…私を教えて!私は…私は…

 

 

『誰!?』)

 

 

 

 …そうだ、わからないのなら、もういっそ、考えるのなんて、やめてしまおう。

 考えなければ、『私』を見る必要も、世界を見る必要もないんだから。

 深い、深い闇はどんどん空間を埋め尽くす。

 そしてきっと、世界からこの空間は消えるのだろう。

 そうすればきっと…

 

(楽に…なるよね…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、闇がすべてを覆いつくすその瞬間

 小さな光が突然その空間に現れた。

 

『約束だ、もしも、お前がこの世界から消えたとしても、お前が『お前』を消したとしても、俺はお前を覚えてる。俺がお前を覚えていれば、お前が何度消えたとしても、この世界から存在しなくなることなんてない。そうだろ?』

 

 その光は、徐々に徐々に広がっていく。

 そしてそれに比例するかのように言葉は続いていく。

 

『世界中のだれもが、お前を知らないなんて言っても、俺だけは

 

 お前の名前を、声が枯れるまで叫び続けてやるよ。だから、もしお前がお前を見失いそうになったら、その時は

 

 俺の声を探せばいいさ。つーか、今消えられると俺が困る。部屋の主がいないと俺が部屋片づけなきゃならんだろ。こんなゴミ屋敷、俺は掃除なんざしたかねぇぞめんどくせぇ…』

 

(…そうだ、思い出した…。私が誰かを知っている人。私の名前を、呼んでくれる人。

 ずっと、私を覚えてくれている人。)

 

「…私と、ずっと一緒に居てくれる 大切な人。」

 

『私』がそう呟くと暗闇の世界にヒビが入り、やがて世界は光と色を取り戻した。

 そう、たとえ『私』が『私』を忘れ、世界から黒く塗りつぶされたとしても…

『アイツ』が私を覚えているのなら…『私』がアイツを覚えているのなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、何度でも世界に存在することができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

『ジリリリリリリリリリィィィィィ!!!』

 

「……ん」

 

 けたたましい目覚まし時計の音がとある部屋の一室で鳴り響く。

 それに反応するかのように一人の女性が、軽く声を上げた後、ガサガサと部屋に乱雑に置かれまくっているゴミの山を片手で探索し始めた。

 ゴミと手が、時にゴミとゴミが擦れ合い、ビニール特有のあの乾いた音が部屋に時計の音とは別に響く。

 

「…うるさ」

 

 だが、いつまでたっても時計が鳴りやむ様子はなく、元気に部屋のどこからかアラームを響かせる。

 それにイラついたのか、女性は小さく舌打ちをするとのっそりとベッドからはい出て

 

「…ッ!!」

 

 音がするゴミの山を思いっきり蹴っ飛ばした。

 ガサリガサリと壁にビニールがぶつかる音がする中、一つだけガシャン!!という気色の違う音が聞こえたと同時に、けたたましかったアラームがぴたりと止み、部屋に再び静寂が訪れた。

 女性はしばらくそのまま自身が蹴っ飛ばしぶっ壊した物の成れの果て…

 より正確にいうならば、時計の針や機械部分のネジなどの部品をぼーっと見続けた。

 そのまま数分ほど立ち尽くした後、女性はくるりと身体を回転させて、大きく伸びをした後

 

「身支度して、仕事行こ…」

 

 とりあえず仕事帰りに新しい目覚まし時計を買う決意を固めた。

 そして、ふと、何かを思い出したように

 

「なんだろ…なんか…とっても良い夢を見てたような、何か良いことがおこりそうな、そんな気分がする…。」

 

 と言って、なぜか少しだけ晴れやかな表情をして、足取り軽く洗面台へと向かっていった。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 秘密結社ライブラ。

 異界と現世が混じったことにより大分世界の均衡が傾き始めたしまったこのHLで、その世界の均衡を守るために結成されている組織である。

 この組織に取り締まられた犯罪組織や、異界住人、果ては『封印』された血界の眷属までいるため、そこら系統の者たちからは忌み嫌われる組織。

 もちろん、その仕事の重大さ故、情報はほとんど非公開であり、もしも構成員一人の情報が手に入ったりすれば、その情報に何千万という大金がかけられたりするほどである。

 そんなトンデモ組織の構成員である件の時計クラッシャーの女性

 チェイン・皇はライブラの待機場所であるとある建物の一室へと向かうため、エレベータに乗っていた。

 一つずつ、一つずつ階が変わっていくのをいつものように眺めている彼女が心の中で

(もうちょっと地上の近くに作ってくれてもよかったのに…)とその到着の長さにうんざりすること数分。

 ようやく到着を知らせるベルの音が響いたのと同時に、彼女はエレベータをおり、そのまま目の前に現れた大きな扉を開く。

 するとそこには

 

「今日こそくたばれ旦那ァァァァ!!」

 

 スーツをびしっと着込んだ強面の大男に飛び蹴りをかまそうとしている銀髪の類人猿がいた。

 その類人猿、ザップ・レンフロの蹴りが、その大男、クラウス・V・ラインヘルツのこめかみに当たるまさにその瞬間、

 

「…フッ!!」

 

 軽く、本当に軽い掛け声とともに、

 数十発の拳と数十発の蹴りがザップの身体という身体に打ち込まれた。

 

「ゴバガゴフッ!?」

 

 そしてなんとも情けない声を上げながらザップは床へとうつぶせに倒れ込む。

 それを見たチェインは、何のためらいもなく軽くジャンプをした後、

 

「…ギャガ!!?」

 

「おはようございますミスター・クラウス。」

 

「ん、おはようチェイン。」

 

 ザップの頭を思いっきり両足で、全体重を乗せて踏みつけた。

 はたから見たら目が驚きで点になるような行動だが、それを見たクラウスは表情一つ変えずにチェインに挨拶をした。

 その様子を見ると、クラウスは彼女が部屋に入っていたことには気が付いていなかったようである。

 とはいっても、彼女が意図的にそうしているので、知覚できないのもしょうがないのだが。

 そして、彼女がクラウスがチェインに挨拶をした直後、後ろから再びドアが開かれる音がし、金髪長身に眼帯に赤いコートという奇抜すぎる格好の女性が部屋に入ってきた。

 

「おっはよー…って、朝っぱらあいかわらずねーザップっち…クラっち、あなた嫌なら一度徹底的にやった方がいいわよ?」

 

「大丈夫さ、これも毎朝の日課のようなものだよk・k。最近では、朝に彼が攻撃してこないと逆に落ち着かなくてね。」

 

「…ねぇクラっち…それって」

 

「それって逆に大丈夫じゃないような気がするんですけど…なんか歪な中毒性が出てますよそれ。」

 

「「「ッ!?」」」

 

 突然k・kの後ろから別の声が聞こえたのを耳にした三人は、一瞬驚いたように肩を震わせ、k・kに至ってはその場から飛びのいて、後ろを振り返った。

 するとそこには、もじゃもじゃした頭と糸目が特徴的な背の低い少年が立っていた。

 

「うわッ…レオっちぃー…いるならせめて声かけなさいよもー!一瞬びっくりして銃の引き金ひいちゃうとこだったわぁ。」

 

「いや、僕もさっき来たばっかですし…ていうか、驚いた拍子に引き金ひくとかやめてくださいよ。条件反射なのかもしれないですけど、めちゃくちゃ危険です。ていうか、皆さん本当に僕に気づいてませんでした?」

 

 そういって自身を指さすレオと呼ばれる少年を見て、クラウスはその大きな体を申し訳なさそうに縮こませた。

 

「すまない、レオナルド君…k・kの身長に隠れて君の姿が確認できなかったのだ。」

 

「ちょ…クラっち!?」

 

 申し訳なさそうな表情で言外に『ちっさすぎて見えなかったよ』と言ったクラウスに同調してコクコクと首を振るチェイン。

 そんな彼女を見て、さらに慌てた様子を見せるk・kは咄嗟に後ろの少年へと振り返った。

 

「ちょっとあなた達…!ち、違うわよレオっち。別にあなたが小さすぎるとかじゃなくて!私の身長が高すぎるだけだから!あなたは別に小さくなんかないわよ!だから元気出して!」

 

「k・kさん、それ励ましにならないです…」

 

 あたふたとフォローをいれるk・kを見てがっくりと肩を落とすレオ。

 そんな彼を見て『そんなつもりじゃなかったのに…!』とそわそわし始めるクラウス。

 と、そんないつも通りのライブラの日常が繰り広げられて…

 

 

「ってぇ…いい加減俺から降りやがれこの雌犬がァァァァ!!」

 

 いる最中に、今の今までチェインに踏みつけられていたザップが頭を勢いよく上へと上げた。

 が、それとほぼ同時にチェインは再び彼から飛び降り、華麗に着地をして見せる。

 

「あら、生きてたの?てっきりそこら辺の糞モンキーから排便された薄汚れた汚物かと思ってたんだけど。あ、ていうか、汚物を踏んだせいで私の靴の裏が汚れた…クソ銀猿、弁償しなさい。」

 

「誰がするか!?人の顔踏みつけてさらに金むしり取ろうとするなんて、てめぇは外道か!?」

 

「アンタが人間?バカも休み休み言いなさいよ。アンタなんて食い物食べて排気ガスまき散らすだけの汚物でしょ?お師匠様公認の。」

 

「師匠の悪口で罵ってくんな!まだ地味に心に傷が残ってんだよこっちは!」

 

「ちょっと肉袋、臭い排気ガス出さないでくれないかしら?世界が腐るわ。」

 

「俺の吐息が排気ガスか!?」

 

 互いに互いを罵倒しあう二人を見て唖然とする…わけでもなく普通にスルーした三人は怒鳴りあう二人をよそに、それぞれの定位位置に座り込む。

 クラウスは自身のデスクに、レオとkkは従業員がよく使うそこそこ高そうな椅子にそれぞれ座る。

 それと同時に、レオとkkの目の前にある机に二つのティーカップがおかれた。

 

「あ、ギルベルトさん、おはようございます!いつもいつもすいません。」

 

「いえいえ、どうかお気になさらずに。」

 

 レオが頭を下げるのを見て笑顔で手を横に振るのは包帯だらけの執事、ギルベルト・F/アルシュタインである。

 優しく、温厚な執事なのだが、そのハロウィンの仮想のような包帯のせいでミイラにしか見えないかわいそうな執事である。

 だが、彼の淹れる紅茶やコーヒーはかなりおいしいため、ライブラでも評判である。

 

「うーん、やっぱおいしいわねぇ…これを飲むと缶コーヒーなんてまず過ぎて飲めなくなっちゃうわよもう…!」

 

「それはそれは。もったいないお言葉です。」

 

 kkも、一口カップに口を付けた後、幸せそうな笑みを浮かべてギルバートのコーヒーを褒める。

 

「あれ、そういえば…スティーブンさんがいませんね…あとツェッドさんも。」

 

「ツェッドっちはともかく、あんな腹黒男のことなんて気にしなくていいのよレオっち。あいつがいなければ世界は平和なんだから。」

 

(扱いがひどい…)

 

 忌々しそうに唾を吐くkkをみて苦笑するしかないレオだったが、その言葉を聞いたチェインはいつの間にかまた踏みつけていたザップの頭から降り、スマホで時間を調べ始めた。

 

「確かに、ツェッドやスティーブンさんが遅刻っていうのは珍しいですよね…いつもは定刻よりも早く来るほど真面目な二人なのに…」

 

「どーせどっかの魚屋に目ぇつけられて三枚におろされてんだろ?案外昼飯時に立ち寄った飯屋に居たりしてな!ギャハハハハッブ!?」

 

「それ以上言ったら本当に蹴り殺すわよ銀猿。」

 

「もうすでに蹴り入れてんじゃねぇかこの雌犬!」

 

 いきなり顔面に蹴りを入れられたザップが鼻を抑えながら叫ぶが、チェインは無視を決め込んでそのまま言葉を続ける。

 

「スティーブンさんは魚屋なんかに負けたりしないわ。」

 

「クソ魚類の方に決まってんだろ!誰が好き好んであの人のこと罵倒するかよ!命がいくつあっても足らんわ!」

 

「理由が雑魚すぎですよザップさん。」

 

「うるせぇ陰毛頭!じゃあてめぇはあの人の悪口言えんのかよ!?」

 

「僕は人の悪口を言ったりはしません…ザップさん以外」

 

「そこを付け足すんじゃねぇよクソガキがぁぁ!!」

 

 

 ザップがレオの首を絞めながら大きく彼の身体を揺さぶっていると、不意にギルベルトのポケットのあたりが震え始めた。

 それに気づいたギルベルトがレオを救出するためにチェインがザップの頭上に再び現れているのを尻目に、少しだけ皆と距離をとり、ポケットに入っていた携帯電話を取り出して耳にあてた。

 それから数分間、相槌を打つようなしぐさをしていたギルベルトは、携帯電話を耳から離した後、顔をゲシゲシとチェインに踏みつけられているザップとそれを爆笑しながら見ているレオやkk達の方へと向けた。

 

「皆さま、お愉しみのところ申し訳ありませんが、たった今そのスティーブン様から連絡が来ました。」

 

「ギルベルトさん…アンタ、これがお愉しみしているような状況に見えんのかよ…」

 

「現在、HLの都市内で血界の眷属(ブラッドブリード)一体が出現。周囲の人間の捕食、転化、および建造物の破壊を繰り返しているようです。」

 

「無視ですか!?サラーっとスルーですか!?」

 

「今、スティーブン様とツェッド様がこちらに向かうのを中断し、現場へと急行中とのことです。周囲の被害の規模や、転化したグールの数を考えると…」

 

長老級(エルダークラス)血界の眷属(ブラッドブリード)…」

 

「…恐らくは。至急、現場に向かいましょう。今、車の手配を」

 

 深刻そうな顔をしてつぶやくクラウスに同調し、速足で部屋を後にするギルベルト。

 そして、彼につられるかのように続々とメンバーが立ち上がり始めた。

 

「はぁ…ついこの間長老級を倒したばっかだっていうのに、まぁた同じような奴が出てくるのね…。ザップっち、今からアンタんとこのお爺ちゃん呼んで滅殺してもらえないかしら?」

 

「冗談よしてくれよ姐さん。俺はもう二度とあの腐れぼろ雑巾には会いたくないんすから。つーか、それでなくても知りませんよ、じじいと連絡つける方法なんて」

 

「使えないクソ猿ね。ついでに吸血鬼に殺されてしまえばいいのに」

 

「ほんとですよね、ただでさえ人間の屑なのに役に立たないなんて、最低ですザップさん。」

 

「怒っていい…俺は今絶対に怒っていいぞ…。てめぇらこの仕事が終わったら覚悟しとけよ…!」

 

「ザップ、その怒りはこれから闘う敵へとむけるといい。それでは諸君、行くとしよう…

 

 

 

 

 悪しきものから、世界を救いに…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「しっかし…あれだな、新人の洗礼にしてはちと厳しすぎる任務だなぁ。いきなり長老級との戦闘なんて。」

 

「いえ、大丈夫です…慣れていますから。」

 

「はは、それならばよし。頼りにしてるよ、新人君」

 

 HLのとある都市のとある場所。

 そこで二人の男性が歩きながら談笑をしていた。

 一人はピシッとしたスーツと顔にある傷が特徴的な長身の男性、名をスティーブン・A・スターフェイズ。

 ライブラの中でも冷静沈着にして冷徹冷酷な、いわば影の功労者のような人物である。

 もう一人は…なんといえばいいのだろうか、魚を人型に変えたような姿をした人間?だった。

 名前をツェッド・オブライエン。

 つい最近ライブラに(とある人物によって半強制的に)籍を置いた新人の半魚人である。

 はたから見れば、なんてことはない風景だ。

 男性二人が並んで町を歩く光景は。

 彼らの周囲に破壊されたビルの跡であろう瓦礫の山と

 眼前に広がる死者の群れがなければ、の話ではあるが。

 

「まるで映画だな…これが現実でなければ、ポップコーンでも食べながらのんびり鑑賞してたいところなんだけど…」

 

「スティーブンさん…何分ですか?」

 

「そうだな、ギルベルトさんの運転技術なら…最低でも5分ってところかな?」

 

「わかりました…5分ですね。」

 

「お、余裕そうじゃないか。僕なら思わず天を仰ぎみてしまいそうになるけどな、5分もたすなんて考えたら」

 

「余裕なわけないでしょう…命がけの5分間です」

 

「…だよな」

 

 そういって苦笑したスーツの男は、一呼吸置いた後、表情を真剣なものへと変える。

 まとう空気も、それに伴い緊迫したものへと変わっていく。

 殺気や覚悟、様々な感情が入り乱れたこの空間は、彼らにとっては日常のようなもの。

 幾千の死者に立ち向かうのも、命を懸ける覚悟を決めるのも、

 

 

 死を覚悟して戦うことも。

 

「エスメラルダ式血凍道!」

 

「斗流血法、刃身の伍!」

 

 

 

 

絶対零度の地平(アヴィオンデルセロアブソルート)

 

『突龍槍!』

 

 彼らがそう叫んだ瞬間、死者の群れの足は一瞬にして氷漬けとなり、身動きが取れなくなった死者たちはいつの間にか投降された紅い色をした槍によってその身を貫かれていった。

 死者たちは貫かれたその穴から鮮血や腸のような臓器を出しながら倒れていく。

 何十人という死者を貫いたというのに、その槍の速度は落ちることはなく。次々と死者たちの身体に風穴を作っていっている。

 さらに

 

『空斬糸・龍搦め!』

 

 ツェッドがそう叫ぶと、投降されていた槍が突然無数の糸へと変化した。

 その糸は残っていた死者たちに伸びていき、全員を雁字搦めに拘束した。

 そして

 

『密集!』

 

 その死者たちが、糸により全員一か所へと集められる。

 死者たちは苦しそうにもがいてはいるが、押せども引けども糸は切れないし、密集したこの状況から脱出することもできない。

 そんな死者の群れに、スティーブンはゆっくりと、白い息を吐きながら近寄っていく。

 そして、

 

絶対零度の剣(エスパーダデルセロアブソルート)

 

 彼が死者を蹴りつけたと同時に、集められた無数の死者たちは、一瞬にして氷像へと姿を変えた。

 それを一切の感情を廃棄したような表情で見つめていたスティーブンは、一度大きくため息を吐く。

 そのため息が白くなり、空へと消えた後、彼はゆっくりと後ろを振り返り、笑みを浮かべてこちらへと歩いてくるツェッドへと声をかけた。

 

「やるなツェッド。ザップと違って、お前は一緒に戦いやすくて助かるよ。」

 

「シナトベはカグツチよりも戦闘補助の技が多いですからね。それに、あの人はだれかをサポートするなんて考えるような人じゃありませんからなおのことでしょう。」

 

「そう嫌味を言うなよ。こと戦闘に関しては、あいつはクラウスの次に頼りになるやつなんだ。本当なら、俺はあいつと今この場を変わってほしいくらいなんだぞ?シナトベとカグツチ、斗流血法の本来の戦闘方法ができれば、長老級とでも戦えるだろうし。」

 

「…そう簡単に相手どれるのであれば、ここまで苦労はしてないでしょう?」

 

「…それもそうか」

 

 相変わらず表情をあまり変化させずにそう答えたツェッドは返事を聞いて顔を俯かせたスティーブンは、またもや大きくため息を吐いた後ゆっくりと顔を上げた。

 

「さてと、雑魚の掃除も終わったことだし…いよいよ、魔王との闘いに行くとするか…。」

 

「冗談が冗談に聞こえないとは、やはりここは狂っています。」

 

「何言ってるんだよツェッド、何を今更なことを言って…」

 

 スティーブンがそう言った瞬間、彼らの背後にあった瓦礫の山が、突然大きな音とともに吹き飛んだ。

 

「「…っ!!?」」

 

 突然の轟音に即座に後ろを振り返り、臨戦態勢をとる二人。

 その瞬間、突然二人の周りの空気が先ほどの数倍重くなり始めた。

 圧倒的なその存在感二人は思わず喉を鳴らす。

 二人の脳裏には、同じ叫びがこだましていた。

 

(ただ近くにいるだけで武者震いが起こる、やっぱりけた違いだな…)

 

(こんな者と今から戦わなければならないなど、まったく悪い冗談でしかない)

 

(ああ、どうか)

 

(この瞬間が)

 

 

 

 

((すべて夢であってくれ!))

 

 

 

 

 

 

「なるほどな、ただの人間かと思ったが、存外骨のある人間らしい…」

 

 立ち込める砂の煙、その煙が不自然に揺らめいたかと思うと、中から一人の男性が出てきた。

 見た目は黒いコートを羽織った普通の中年男性だ。

 しかし、その正体は人間、などとは比べ物にならないほどの化け物。

『血界の眷属』

 人間の姿をした吸血鬼。

 それは、世界を滅ぼせるほどの力を持った人類の敵そのものである。

 その姿をみたスティーブンは、額から冷や汗を流しながらも、その笑みを絶やさなかった。

 それはまるで、圧倒的な強さをもつ敵への、最後の抵抗にも見える。

 

「姿を現して早々に相手を褒めるとは、喜んでいいものかそれとも憤ればいいのか、悩むところだな。とりあえず、おほめにあずかり光栄だ…とでもいいのかな?」

 

「…誰だ、貴様らは?私は、貴様らになど話しかけてはいない。」

 

「?ならば誰と…!」

 

 ツェッドが目の前の血界の眷属に話しかけようとした瞬間、彼らの背後、違う言い方をすれば血界の眷属が視線を向けていた(・・・・・・・・・・・・・・)方向の瓦礫の山がまたもや轟音とともに吹き飛んだ。

それに驚いて、スティーブンとツェッドは瞬時に後ろを振り返る。

しかし、そこには衝撃により立ち込めた砂煙が舞うだけで、何があるのかを視認することはできない。

が、その砂煙から、一人の男の声が聞こえてきた。

 

「もしかして、それは俺に言ってくれてんのか?」

 

「そうだ、二つの荷を抱えながら我と戦い、いまだ生きている。実に素晴らしいことだ。誇っていいぞ、人間如きには、奇跡にも近いことだ。」

 

「…そいつはどーも。だが、おあいにく様だな。たかだか吸血鬼如き(・・)にそんな的外れ(・・・)な褒められ方されても、微塵もうれしかねぇよ。さっさとうちに帰ってトマトジュースでも飲んで健康的な毎日でも過ごしてやがれ。顔色悪すぎんだよ、吸血鬼でも不摂生がたたると不細工な面になるのかよ、初めて知ったわ。」

 

「……どうやら、身の程を知らん人間らしいな。」

 

そう言ってわずかに目を細める血界の眷属は、静かに手のひらを拳へと変化させる。

そして、それに呼応するかのように砂煙が徐々に晴れていく。

それと同時に、先ほどと同じ男の声が聞こえてきた。

 

「てめぇこそ身の程をわきまえろ。

人間の尊さも理解できねぇ吸血鬼風情が

 

 

人間様をなめんじゃねぇよ。」

 

その言葉が終わると同時に、砂煙は完全に晴れた。

そこに立っていたのは

ぼさぼさの黒髪に黒い瞳。

咥えたタバコに手入れのされていない無精ひげ。

さらに、両脇女性と男性を一人ずつ抱えた男が、傷だらけの姿で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日起こったこの男とライブラの出会いは…

そして、もう一つ起こるであろう

 

 

この男ととある女(・・・・)の再開は…

 

 

この混沌とした世界で、新たな物語を生み出すきっかけとなる。

 

 

 

これは、その数々の異常な日常の物語を記したものである。




こんな感じの駄文です。


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