資源再利用艦隊 フィフス・シエラ (オラクルMk-II )
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1 フィフス・シエラ
研究員の日記


初投稿です。小説初心者ですが頑張ります。


第六艦娘技術実証研究所

 

研究日誌...第8639号

 

 

〇〇月**日 記録者 渡 徹(わたり とおる)

 

深海棲艦と呼ばれる、生物?との戦いが始まってはや数十年。

現在人類は「艦娘」と言う生体兵器を用いることにより、拮抗、いや、優勢に戦うことが出来ている。

しかし、ここ数年で増えてきている、轟沈艦の残骸を処理するため、「サルベージした、轟沈、死亡した艦娘の遺体を利用したリサイクル艦娘」なるものの研究、建造の依頼が横須賀鎮守府から届いた。

明日から久しぶりに忙しくなりそうだ。

 

 

〇〇月◆◆日

 

さて、今日からリサイクル艦なるものを作ることになったわけだが、我々は艦娘の遺体の解剖や研究こそやったことはあるが、蘇生などやったことはない。

というか可能なのか?という訳で、艦娘の建造等を任されている「妖精」という、これまた人間とは違う生き物を呼んできて、どうすればいいか聞いてみた。

まとめると「細かい作業は私たちがやるからとりあえず複数の艦娘の遺体を持ってこい」ということを言われた。

今度取り寄せるか。

 

〇〇月@@日

 

言われたとおりに各地の鎮守府、泊地からそれぞれの場所で保管されていた新鮮な艦娘の遺体を取り寄せた。

妖精からは「まず、欠損の激しい遺体は程度の良い部分だけ切り取り、そしてそれらを組み合わせて「五体満足の死体」を作れ」とのこと。

言われた通りに死体を作る。

このフランケンシュタインみたいな死体は外見上パーツを繋げただけで、血管や神経は繋がっていないがいいのか?と妖精に聞くと「難しいことは考えなくていい。後は私たちの仕事だ」と言い残し、建造所に死体を運んでいった。

こんなに適当で大丈夫なのか?

 

 

◆◆月××日

 

ひとまずリサイクル艦娘については我々の仕事は終わった。

以前のように別の研究に没頭していると研究室に妖精がやって来た。なんでも当初の予定に狂いができたらしく、色々とうまくいっていないらしい。

それで、何の用事だ?と聞くと、「研究所で保管している深海棲艦の細胞が欲しい」と言ってきた。それがあれば最後の工程が完了するらしい。

こちらとしても、大御所の鎮守府から受けた依頼なので「なんの成果も得られませんでした」では少し困る。

悩んだが、研究所の所長や同僚と話した結果、GOサインを出すことになった。

 

 

◆◆月**日

 

ついに建造が終わった。

妖精がそう言ったので、研究室の同僚たちと出来上がった艦娘を見に行った。

透き通った、しかし血の気の引いた病的に白い肌、完全に色素の抜けた白い髪、うっすらと紫色に光る瞳。

なんだこいつは。

まるで深海棲艦ではないか。妖精にこれはどう言うことだと聞けば、深海棲艦の細胞を使って作ったのだ。こうなるに決まっている、などと返された。

まったくふざけた話だ。

状況がよくわかっていないのか、それとも生まれたばかりで初めて見る外界に興味を示したのか辺りをキョロキョロ見回している「艦娘」の前で悪態をついた。

 

 

◆◆月##日

 

想像した通りの結果が起きた。 落胆していてもどうしようもないので、依頼主の横須賀鎮守府に「艦娘」をつれていくと、そんな得体の知れない艦娘もどきが使えるか!と怒号が飛んできた。

まあ当たり前だろう。こんな深海棲艦だか艦娘だかわからんようなヤツを「頼まれていた研究成果です」と見せられても困るだけだ。

鎮守府の門をくぐる時も向こうの艦娘に深海棲艦と勘違いされて撃たれそうになるしろくなことがなかった。

帰りの車の中で、「艦娘」がこちらに話しかけて来た。「お前が怒鳴られたのは私のせいなのか?」と聞かれたのであぁそうだよ。と言うと「ごめんなさい」と言われた。

昨日と今日でずっと無言だったので喋れないのかと思ったがどうやら違ったらしい。ま、どうでもいいことか。

 

 

@@月$$日

 

横須賀に研究成果を見せた日から少し経って、例のリサイクル艦娘の性能テストを行った。

結果は「元になった艦娘の2/3程度の能力を持つ」ということが解った。

また、驚くことに、 リサイクル艦娘では長いので一号と呼ぶことにする 一号は元になった艦娘のすべての艤装が使えるということが判明した。

また艤装こそ使えないが潜水までできるときた。普通の艦娘は妖精が建造時に設定した艤装しか付けれないのだが...

それに変な話だ。これでは「スクラップになった車と飛行機と舟を組み合わせてレストアしたら全ての乗り物の用途に使えるものが出来た」と言っているようなものだ。

まあ艦娘もまだ解明されていないことは多々あるが...

ちなみにこれを横須賀に報告したところ、前のことは謝るから、あと二体ほど建造してくれ。と言われた。

どうやら死亡した艦娘の遺体という資源で作れることと、その低コストに見会わない汎用性に目をつけたようだ。

 

@@月×・日

 

研究所の仲間たちの間で、一号の見方が最近変わってきている。

同僚は、外見が不気味なだけで話してみれば普通に良い子だ。と言う。

たしかに話しているぶんには普通の人間だし、最近は一号に研究の手伝い等をやってもらうことも多く、何より様々な仕事をやらせても文句一つ言わないので扱いやすいところもウケたのだろう。

あとは今日、休憩時間に本棚に無造作に置かれてあった花の図鑑を見ながら暇潰ししていると、私の読んでいた本に興味を持ったらしく、貸してくれないかと言ってきた。

あまり気にしたことはなかったが一号も一応「女の子」だからこういったものに興味を示したのか?

 

@@月%*日

 

頼まれていた残りのリサイクル艦の二号と三号の建造が終わった。

三号は一号と同じくまた深海棲艦のような外見だ。が、どういうわけか二号は辛うじて人間と言い張れなくもないといった見た目をしている。

これだから艦娘は解らない。建造時の条件は全て一号の時と変わらなかったはずなのだが...

考えてもしょうがないと思い、気持ちを切り替えるために隣で見ていた一号に「一応、姉妹艦になる二号と三号だ。面倒を見てやれ」と言う。一号は「わかった」と一言だけ言って、二人を連れて所長の所に報告に行った。

最近私の仕事が少し減っている気がするのは気のせいか。

 

 

%%月◎◆日

 

所長や他の研究班の人間から、一号、二号、三号ではあまりにもドライじゃないか?と言われ三人に名前を付けることになった。

同僚はチェスの駒の名前にしよう!と言って所長に却下され 女の研究員は天体の名前はどうか?と言い他の人間に盛大に反対され、その他の人間も特にいい案がないということで一番三人の面倒を見ていた私がつけることになってしまった。

私は一号から順に以前読んだ図鑑に載っていた「ウツギ」、「アザミ」、「ツユクサ」、と花の名前を付けた。

てっきり却下されるかと思ったが採用されてしまい、しかも一号は貰った名前が気に入ったらしく今まで見たことがないような笑顔で「ありがとうございます」と言ってきた。とりあえずは気に入ってもらってよかった。

 

 

☆☆月*$日

 

三人が建造で現れてからもう少しで3ヶ月を迎える。

三人の観察をしていると結構、艦としての性能や人としての性格に違いがあって面白い。

 

ウツギは、基本的にいつも無表情で口数も少ないので無愛想かと思えば気を許した相手には途端に愛想がよくなる。そして素材となった駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、一部の空母の艤装が扱えるが、本人曰く空母は扱いが難しくあまり使いたくないらしい。

 

アザミは話し掛けたり挨拶をすればちゃんと返事がくるが、どういうわけか片言で喋ったりウツギ以上に無表情だったりで何を考えているかがいまいち解らない。使える艤装は駆逐艦と戦艦という両極端な組み合わせだが三人の中で一番戦闘能力が高く、本来の艤装から性能低下を起こしているとは考えられない立ち回りをする。

 

最後にツユクサだが...どうも彼女は一番人間くさいような気がする。毎日の食事で好き嫌いがあると落ち込んだり、前にやったトランプゲームで負けて拗ねたり、逆に勝つと目に見えて機嫌が良くなったりする。正直私よりも喜怒哀楽がはっきりしているのではないだろうか?戦闘に関しては駆逐艦と軽巡洋艦、重巡洋艦の艤装が使えるが...これはウツギにもいえるのだが決して強いわけではない。アザミが突出しているだけだろうか。

ちなみに以前日誌に書いた「潜水」ができるのはウツギだけだった。

 

だらだらと書いているといつもより長くなってしまった。ここで切ることにする。

 

 

☆☆月##日

 

横須賀から指令が来た。

三人を配備する鎮守府が決まったので期日にそこに行けとのこと。

わりかし長く付き合ってたやつらなので少し名残惜しいが、上の命令とあれば仕方がない。三人も特にゴネたりすることもなく予定の日に指定された鎮守府で働くことになった。

少し気になってその鎮守府のことを調べる。第五横須賀鎮守府と言う場所で、どうやら新しくできたばかりで着任する人間も新人らしい。

悪いヤツでなければいいんだがな。

 

▼▼月〇〇日

 

三人を見送る時がやって来た。

技術班や仲間と三人の荷物や艤装のチェックをしているときに横須賀から荷物が届いた。何かと思い開けてみると艦娘の制服が入っていた。

が、しかしこの制服は「真っ黒なセーラー服」だった。

嫌がらせか?こんなものを着せたらただでさえ深海棲艦と誤認されかねない三人が他の艦娘の眼に入ったときどうなるかわかったもんじゃない。

他の同僚たちも同じことを思ったらしく結局こちらで用意していた洋上迷彩柄の作業着を三人に持たせることになった。

別れの挨拶と見送りを済ませた後に、私は流石に腹が立ったので制服の入った段ボール箱を海に投げ棄ててやった。彼女たちに何事もなければいいのだが......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

廃品を利用して作られた彼女たちの艦種は「資源再利用万能艦」。無駄に立派な艦種名を付けられた、ウツギたちの未来は、使い潰されたのちまた棄てられるか。それとも多大な戦果を挙げ、名声を得るのか。

 次回「着任」  任務を開始します。

 




全部で30~40話で終わる予定です。


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着任

前まで読み専でしたが、いざ小説を書いてみると作家さんの苦労がわかりますね......


 

 

 

 分厚い雲に覆われて薄暗い、あまり天気の良いとは言えないある日の早朝。「鎮守府」の門の前に一台のミニバンが停車する。運転していた白衣の男、渡 徹 (わたり とおる)は助手席と後ろの席に乗っていた三人の艦娘に確認するように言う。

 

「何かあったら、すぐに研究室に連絡してくれ。忘れ物、するなよ」

 

「ワタリ、もう三回目だぞ。心配してくれるのは嬉しいがちとしつこい」

 

 助手席に乗っていた艦娘、「資源再利用艦一番艦」のウツギが苦笑いしながらそう返す。そんなに言ったか?と渡はとぼけながらまた口を開く。

 

「すまんな。こう、それなりにお前らとは付き合いが長いから心配になっちまって。っと、そろそろ時間だ。じゃ、元気でな」

 

「お世話になりました」

 

「......元気......してロ......」

 

「ありやとごさいやしたっ!」

 

 今まで黙っていた二番、三番艦のアザミ、ツユクサを加えた三人が別れの挨拶を返す。それを聞いた渡は、三人が車を降りたのを確認すると、寂しそうな笑顔を浮かべながら、自分の職場である研究所に戻るために車を発進させた。

 

 

 

 

 

    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 さて、今日から艦娘としてここで働く訳だが......ウツギは歩きながら目の前の建物を見つめる。新しく建てられたからなのか、はたまたどこも同じ設計なのか。どうも想像していたよりも小さい建物だ、と思っていた。大きさは地方の郵便局クラスといったところか。そんなことを考えていると横からツユクサが声をかけてくる。

 

「いやぁ楽しみっスねぇ~ここの提督さんってどんな人なんスかね?ウツギは気になったりしないんスか?」

 

「......別に、余程の能無しでもなければ上の人間だし従うだけだ。あとその喋り方はどうにかならないのか?」

 

「話し方なんてどうでもいいじゃないっスか~というか、本当にウツギはお喋りしても面白くないっス。アザミは何かないんスか?」

 

車を降りてから、ウツギは聞き流していたがずっとべらべら喋っていたツユクサとは対照的に、ずっと黙っていたアザミにツユクサが問いかける。アザミは眉一つ動かさずに

 

「......興味......無い......ウツギ......同ジ...」

 

と返した。(ちなみに彼女は建造されてからずっとこの調子で喋る。)ツユクサはあぁ...ウツギ以上に面白くないの忘れてた......等とのたまい項垂れている。そんな無駄話を ほとんどツユクサの独り言になっているが 続けていると、これから自分達を指揮する「提督」がいるであろう執務室に着いた。こんなに早く着くとは。やっぱりここは少し小さくないか?中に入った感想は結構広いな、などと思ったのだが......そんな考えを胸に仕舞い、ウツギはドアをノックした。

 

「入れ」

 

部屋の中から低い男の声が聞こえる。

 

「失礼します」

 

 ウツギたちは渡から教わった礼儀作法のやり方を思い出しながら部屋に入った。先程部屋に入るように促したと思われる男が椅子の横に立っている。随分身長の低い男で、150もないのではないだろうか。顔は三十代を思わせる出で立ちだ。ウツギは、資料で見たよりも老けているな、などと考えていると男が口を開く。

 

「ほう、なるほど。確かに普通の艦娘とは違うみたいだな。っン、これからお前たちの指揮を執る 深尾 圭一 (ふかお けいいち)だ。今後ともよろしく」

 

「資源再利用艦のウツギです」

 

「......アザミ」

 

「同じくツユクサッス!」

 

「お前たちのことは徹から聞いたよ。なんでも艦娘の残骸を利用したリサイクル艦だってな」

 

「ワタリを知っているのか?」

 

フカオ、......提督の口からワタリの名前が出てきたので気になって質問してみる。

 

「知ってるも何も、学生時代の友人さ。俺の学校じゃあいつは有名人でね。学生のくせに論文で博士号なんて取りやがったヤツさ」

 

なるほど、と相づちをうつ。トモダチなら知ってて当然だな。そう思っていると今度は提督から質問が来た。

 

「それよりお前たちと、あともう一人ここに来る予定のはずなんだが......もう時間を過ぎてるのに来ないんだが何か知らないか?」

 

「もう一人?そんな話聞いてないぞ」

 

その時、バタン!と勢いよくドアが開き、近くにいたツユクサがドアに当たり「ギャッ」と間抜けな声を出して吹っ飛ばされる。

 

 

「やっべぇチョー遅れたぁ!ご主人様チィーーッス!!」

 

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 ふぅ......やったぜ。寝坊したけど時計見たらギリギリ間に合ったからセーフだよね。ご主人様にも挨拶出来たし一石二鳥!......あれなんかご主人様プルプルしてんだけど。漣?これ漣が悪いの!?ドア蹴り飛ばして入っちゃったから!?ねぇねぇ!

 

「......色々言いたいことは山ほどあるが、まず聞こうか。お前の名前はなんだ?」

 

おっ早速ご主人様から質問キタコレ!マニュアル通りに自己紹介せねば!

 

「綾波型駆逐艦「漣」です、ご主人さま。こう書いてさざなみと読みます」

 

よし!バッチリだべ、名前書いたメモ書きも見せたしね!

 

「イテテテ......一体なんなんスか今の......」

 

「ん?」

 

アレ?なんか後ろから声が聞こえる。なになに一体どんな人が後ろに............石膏みたいに白い肌に、真っ白な頭髪に、薄く光る赤い目......え、え、え

 

「わあああぁぁぁぁぁぁぁ深海棲艦!!?深海棲艦ナンデ!?」

 

「ええっ!嘘っ!どこスかっ!」

 

えっ何コイツ、なに深海棲艦のくせにいっちょまえにとぼけちゃったりしてんの?

 

「やかましい!!」

 

痛い!なんかご主人様にチョップされた!酷くない?だって後ろ向いたら深海棲艦が居たんだよ?びっくりして当然っしょ!

 

「ご主人様早く逃げてください!こいつは危険です!」

 

「話を聞けこのバカちん、というかそのご主人様ってのはなんだ?あとそいつらは無害だ」

 

「無害なワケないじゃん!?だって深海棲艦ヨ!?」

 

「えぇい話にならん、お前はだぁって廊下に立ってろ!」

 

いや痛い痛い!なんかゴスゴス蹴ってくるよご主人様!私Mジャナイヨ!ってなんかドアにカギ掛けられた!漣なんか悪いことしたノー!?

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「......随分賑やかなやつが最後の一人みたいだな」

 

「もう少し静かで常識のあるやつが良かったんだがな」

 

率直な感想を述べるとかなり疲れた顔で提督が返してくる。ちなみに今この執務室は、今入ってきて追い出された漣とかいうやつがドアを叩く音と部屋の中に入れてくれと言う叫び声で非常ににぎやかだ。というかうるさい。

 

「さて、邪魔なやつが居なくなったからやっと言えるな。お前たち四人は今からすぐに出撃してもらう。俺も仕事を片付けないといかんのでな」

 

「......アレとまともに共同作業ができるのだろうか」

 

「できるできないじゃない、やるんだ」

 

「......了解」

 

提督がため息をつきながら、命令してきた。前途多難だな。ウツギはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

鎮守府に配属された三人のリサイクル品と一人の正式な艦娘。ウツギたちの存在に納得のいかない漣。ぎこちない連携行動を取りながら彼女たちは初めての実戦を経験する。

 

次回「シェイクダウン」。 ウツギたちの戦いは始まったばかり。

 




開始早々の二話にしてはっちゃけました


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シェイクダウン

作者が艦これアーケードしかやったことがないということをいいことに戦闘はやりたい放題です。


 

 相変わらず鉛色の空のせいで薄暗い今日という日の昼前。海上を四人の艦娘が滑るように移動している。編隊を組んで移動しているのは先頭から 漣、ウツギ、ツユクサ、アザミだ。

しかしそんな部隊の旗艦を任命された漣は不機嫌そうな表情で目の前に広がる水平線を見つめている。そんな漣にウツギが声をかけた。

 

「いい加減機嫌を直したらどうなんだ。もう少しで敵に遭うかも知れない。」

 

「漣の機嫌が悪いのは大体があんたらのせいなんですがねぇ......」

 

「それにいったい何さリサイクル艦って......話聞いたらただのフランケンじゃん......パッチワークじゃん......きしょいっつーの!」

 

漣がウツギに向けて、自分は今機嫌が悪いのだぞ、ということを隠そうともせずに嫌味たっぷりに返す。正直自身の深海棲艦じみた外見や建造の経緯から、こういう対応を艦娘にされたのは数えきれないほどあるので大して気にもしないが、ウツギは「またか」と内心呆れながら溜め息をつく。そして今度は自身の後ろに居るツユクサにも話しかけた。

 

「お前もいい加減許してやったらどうなんだ」

 

提督への挨拶のときに漣の蹴っ飛ばしたドアに当たって転んでから、朝、嬉々として無駄話に花を咲かせていた姿はどこへやら。ツユクサもずっと機嫌が悪い。

 

「絶っっっっ対にイヤッスね!!大体あんなことを人にしておいてごめんなさいも言えないなんて非常識ッス!!」

 

「えっ、あなた人だったの?大スクープキタコレ!」

 

「なっ......ウツギ聞いたッスか今の!?こいつぶっ飛ばさないと気がすまないッス!!」

 

 漣に煽られたツユクサが赤い目を光らせながら怒ってわめきちらす。さっきから二人はずっとこの調子である。ウツギは「誰か助けてくれ」という想いと「この先大丈夫だろうか」という不安で心配だった。

 その時レーダーに反応があり、すぐにウツギは思考を切り替えて漣に報告する。

 

「熱源反応を感知した。すぐに戦えるように準備するんだな」

 

「わかってるっつーの。ていうか何その電探?見たことないんだけど?」

 

電探?あぁレーダーのことか。一瞬考えてウツギが返答する。

 

「ワタリから貰った。それよりもう来るぞ」

 

「ワタリって誰さ......全くもう!」

 

ウツギの報告と自身の電探にも反応があったのか、漣が渋い顔をしながら戦闘態勢に入る。続いてツユクサも渋々砲を構えて戦闘に備える。いざというときは自分とアザミだけで連携をとる必要があるかもな。ウツギはギスギスしている二人を見てそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数は二つ......どっちも駆逐艦か。この程度の相手ならまだ大丈夫か。四人の目線の先、そこそこ遠いところに鯨のような真っ黒い生き物が居る。 深海棲艦の......確かイ級とかいうやつだったか。漣が砲撃を開始したので、ウツギも自身が装備している駆逐艦「暁」の艤装の一部である、装甲板と一体化した砲を敵に向けて散発的な砲撃を行う。

 当てるつもりは無い。というのも漣に花を持たせてやろうという彼女なりの接待連携攻撃である。しかし隣のツユクサはそんなことを知るわけもなく、漣に張り合って駆逐艦「五月雨」の、砲身が青みがかったピストル型の砲を乱射している。大切な砲弾をそんなに無駄遣いしていいのか、とウツギが考えていることはもちろん知らない。

 

「沈むッス!当たるッス!そして吹き飛べぇぇぇ!!」

 

「マッハで蜂の巣にしてやんヨ!!」

 

 二人とも元気に撃ちまくっているが照準がダメなのか、ほとんど有効なダメージを敵に与えられていない。 強いて言えば漣のほうが敵に当てている......ような気がする。 しかもこちらの砲撃で流石に感づいたのか、イ級からも砲撃が跳んでくる。

 せっかく一応は奇襲できたからこれで終われば楽だったのに。 ウツギは回避行動をとりながら心のなかで愚痴を言う。

 頭に血が昇り冷静さを欠く二人を見かねたのか、はたまたなかなか相手に当てないことに痺れを切らしたのか。アザミが戦艦「比叡」のX字型の艤装を展開して三回だけイ級に向かって砲撃した。ちなみに彼女の装備している艤装は本来四本あるアームの先に、それぞれ砲が取り付けてあるが、今は一つの砲だけ残し他は強引に取り払って無理矢理軽量化した状態である。

 

「お前ら......いらない......きえロ......」

 

呟くようにアザミがそう言ったあと、彼女の砲撃がイ級に当たる。当たり(どころ)が悪かったのか、そのまま二匹のイ級は悲鳴のような唸り声をあげて沈む。完全に敵が沈黙した事を確認するとアザミがさっきまで砲を乱射していた二人の方を向く。

 

「なにヨ......自分がMVPだから誉めろっての?」

 

漣がばつが悪そうにそう言う。するとアザミが彼女にしては珍しく自分から口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「砲弾......貴重......乱射......ムダ......こんど......同じこと......お前ら......()ス......」

 

 

「「すいませんでした!!」」

 

 

 

 

 

 アザミが能面のような表情で二人に言う。彼女の威圧感に()されたのかツユクサと漣が海上で土下座した。その様子を見てウツギは、今日何度目かわからない溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて......言い訳を聞かせてもらおうか」

 

 鎮守府の艤装保管室にいる四人の艦娘の前にいる深尾がにっこりと笑顔を浮かべてそう言った。それを聞いたウツギとアザミはそれぞれ漣とツユクサの後ろに立つと、全く同じ動きで二人を両手で突き飛ばす。

 

「ちょっと何すんのさ!?」

 

「な、なんスか?」

 

「それは、此方(こちら)の台詞だよツユクサ君、漣君?」

 

深尾が顔面に貼り付けたような不自然すぎる笑顔をさらににっこりさせて続ける。アザミはどう思っているかわからないが、ウツギはちょっと恐いと思った。

 

「5と0。何の数字か解るかい?」

 

「ご主人様なんの話~?」

 

「わかんないッス!」

 

 漣は心当たりがあるのか目が泳いでいる。ツユクサは本当に知らないのかテンションが高い。まさかとは思うがツユクサはこれから説教が始まるということに気づいていないのだろうか。深尾は体がわなわなと震えている。

 

「そうかそうか。解らないか。ふぅぅ~......」

 

深尾が深呼吸して間を置いてから一喝。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら二人の砲の残弾数だよこんのバカチンがぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 

「「ぴぃっ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

2バカが素っ頓狂な声をあげる。

 

 

 

 

 

「おかしいだろ!?駆逐艦二隻相手にこっちは四隻で戦艦まで居るんだぞ!?何故だ!?いったいどこにそんなにバカスカ弾を使う必要性が出てくるんだ!?しかもツユクサ!お前は弾切れときたもんだ!!漣お前もだ!残り五発だぞ五発!充分異常なことだ!お前の使っていた装備はマシンガンじゃないんだぞ!?教えろ!いやむしろ教えてくれ!いったい何をやったんだぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 鎮守府に小男の魂の叫びが虚しく響く。一通り言いたいことが終わったのか深尾ははぁはぁぜぇぜぇと少し息があがっている。そこに目をつぶって耳を塞いでいた漣が余計な発言で追い討ちをかける。

 

「ま、まあまあご主人様、怒らないでさぁ、怒ったら寿命縮んじゃうよン?」

 

何を言っているんだこいつは。ウツギとアザミは漣に侮蔑の眼差しを向ける。すると深尾が漣のセーラー服の肩を掴む。いったいなにをするつもりだろうか。

 

「いやぁんご主人様のえっt」

 

言い終わる前に漣はスパァン!!と深尾の見事な、格闘技の教科書のお手本のような手さばきで床に叩きつけられ泡を吹いて気絶した。そしてその気絶した漣を深尾は何処かへ運ぶのか、三人の前から立ち去ってしまった。目の前で漣に起こった恐ろしい出来事が自分の身にも起こるのではないだろうか。そう思ったのかツユクサが震えた声でウツギに話しかける。

 

「う、ウツギ、アタシはどうすればいいんスか......」

 

「知らん私の問題じゃない」

 

「アザm」

 

「うるさイ......」

 

ツユクサは涙目になりながら床に突っ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

鎮守府の暮らしにも少しずつ慣れてきた。

そう思っていたウツギたちへ、大本営から「大規模作戦」への参加命令が来る。

戦いの結果は生きるか死ぬか。ただそれだけ。

彼女たちは生きて勝者となれるのか。

 

 次回「充電」 装備チェック、オールクリアー。発進準備よし。

 




最低でも一週間に一回投下します


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充電

お待たせしました


 

 

 

「こっちの書類は片付いたぞ。残りは?」

 

「もう終わったのか。後は俺がやるから遊んでていいぞ」

 

 

 四人の艦娘と一人の提督がここ第五横須賀鎮守府(名前だけ立派で横須賀からは遠く離れた場所だが)に来て二週間がたった。

 ウツギたちリサイクル艦と漣の関係は最初の頃こそうまくいっていなかったが、今やすっかり打ち解けて、親友もしくは戦友と呼べるような間柄になった。もっとも漣が深尾提督にどこかへ連れて行かれた後にまるで人が変わったかのように親しみやすい人物になったのが一番の原因だが。

ウツギはあまり考えないようにしていたが目の前の小男が漣にいったい何をしたのか気になっていた。聞いても答えてくれないのではと思って結局聞いていないが。

 

「そうか。じゃあこのままこの席で本でも読もうかな」

 

 ウツギは作業着のポケットから文庫本を取り出す。今彼女は鎮守府の執務室にて、提督の補佐役である「秘書艦」の仕事を終わらせた所だった。

押し花の栞を挟んだページを開き、前はどこまで読んだだろうと文字を目で追う彼女に向かって深尾が質問を投げ掛けてきた。

 

「お前、仕事が早いよな。デスクワークは得意なのか?」

 

「研究所で雑用係だったから......少し慣れている」

 

深尾は「そうか。邪魔して悪かったな」と言ってまた書類やパソコンとのにらめっこに戻る。

ウツギは今の深尾の質問で自身がまだ研究所で暇をもて余していた頃、よく研究員の実験の手伝いや書類仕事を任されたことを思い出す。よくよく考えてみれば、こういうことのために自分にああいったことを教えていたのだろうか、などと考えを巡らせる。が、ウツギはどうせ考えても結論なんて出ないと早々に思考を放棄して読書に集中した。

 今彼女が読んでいる本は二日前に研究所から送られてきた物で、なんでも最近人気が出てきた作家の最新作らしい。内容は簡単に言うと「とんでもないお金持ちの財閥のお嬢様が冴えない職に着き、自分の世間知らずっぷりに困惑する」というストーリーだ。人気がある作家が書いたと言うだけあってか、内容もさることながら時間を忘れて引き込まれる面白さがある。

 ウツギは十ページほど本を読み進めて、ふと横を向いた。目線の先の深尾がなにやら緑色の封筒をじっと見つめている。

 

「その封筒がどうかしたのか?」

 

「ん?あぁ見ていたのか。これか?これはな......」

 

 

 

 

「大規模作戦の参加命令書だ」

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「大規模作戦~?」

 

 軽巡洋艦の艦娘「天龍」が嘘を疑うような変な表情で食堂の机に頬杖をつきながらそう言った。

 彼女はちょうど一週間前にこの鎮守府で建造された艦だ。ちなみにウツギがいままで会ってきた艦娘の中で、唯一初見でウツギたちリサイクル艦を見たときに拒否反応を示さなかった艦娘である。ウツギはそんな天龍の人を外見で差別や判断しないところが気に入っていた。

 

「ウツギそれ本当に言ってんのか?まだここ機能して二週間とちょいしか経ってねぇぞ?」

 

「提督が言ってたし、自分も書類を見させて貰った。間違いない」

 

ウツギの返答にまだ納得がいかないのか天龍はつまらなそうな顔で続ける。

 

「だってよぉ、俺らがその作戦に参加して何になるってんだ?足引っ張るような真似しかできねぇだろ?」

 

天龍の言うことは間違っていない。なにせ、まだここには自分を含め、お世辞にも前線で日々鍛えられている歴戦の艦と肩を並べられるような手練れは一人も居ない。......一応アザミぐらいの強さならまだなんとかなるかも知れない......かもと言う程度だ。天龍の発言にまたウツギが返答する。

 

「なにも参加する部隊は全部最前線に送られるわけじゃないらしい。送られてきた書類によれば前で戦う予定の先輩方の後ろで援護しろとのことだ」

 

「はぁ~、大御所の強~い先輩方が前で守ってくれるってか。それならまだ大丈夫......か?」

 

「てっきり自分は「お前たちのような雑魚は他の重要な艦娘の弾除けにでもなっておけ」とでも書かれてるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたよ」

 

ウツギが苦笑しながら言う。天龍もどうやら似たようなことを想像していたようで「実際はほとんど真逆で良かったな」と言って笑った。

 

「なぁツユクサ。お前はどうおも......」

 

天龍は隣に座っていた、珍しくずっと黙っていたツユクサに意見を聞こうと話し掛けた......が彼女はヘッドホンで音楽を聞いていた。

 

「なぁ、ツユクサ」

 

「真夏の~フフフーン~♪乾いた~フフフフーン~♪」

 

「なぁ、おい」

 

「溜め息~フフフーン~♪」

 

「............」

 

天龍が何度も呼び掛けるが音量が大きいのかツユクサが反応しない。すると天龍はヘッドホンのコードが繋いであったスピーカーを持ってくると音量の部分を最大に設定した。

 

「こうだっ!」

 

「壊れるほd......み゙ゃ゙あ゙ああ゙あ゙あぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!??」

 

ツユクサが絶叫してヘッドホンを放り投げる。

 

「なんだなんだ!何!?故障ッスか!?」

 

「故障してるのはお前の頭だこのバカチン!」

 

「えぇ!いきなり酷くないッスか天龍!?」

 

『『あ、あ~。ウツギ、アザミ、ツユクサ、漣、天龍。全員執務室に来い。』』

 

 天龍とツユクサの会話に深尾の館内放送が割って入る。多分全員集めて話すことは例の大規模作戦のことだろう。

 

「お呼びだな。まっ、どーせ内容はアレだろうけど。行こうぜウツギ」

 

「わかった」

 

「え、アタシは?」

 

「知らね。勝手に付いてくれば?」

 

天龍の冷たい対応にツユクサが「うそ~ん?」と間抜けな返しをしてその後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「全員集まったな。じゃあ始めるか」

 

 執務室に長机とパイプ椅子が並べてあり、まるで会議室のようになっている今、五人の艦娘は椅子に座って提督の話が始まるのを待っていた。

 

「俺たち第五横須賀の部隊が、一週間後の大規模作戦に強制参加することが決まった。これから細かいことについて説明する」

 

深尾の発言に漣とツユクサが「マジで!?」と声をハモらせて反応した。仲良いなコイツら と天龍とウツギが内心突っ込みを入れる。アザミは相変わらず鉄仮面のように無表情だ。もっともウツギもあまり表情豊かなほうではないが。

 

「内容はこうだ。まずここの海のど真ん中に見つかった深海棲艦の基地。これを吹っ飛ばすのが今回の目標だ。で、細かい段取りはと言うと......」

 

深尾が横に用意したホワイトボードに色々と書き込んでいく。

 

「まずこのA地点に展開しているらしい敵の部隊を精鋭の艦娘達が陽動。そしてB地点とC地点で待機したこれまた精鋭が手薄になった本陣に奇襲をかける。お前らの持ち場はここ、D地点だ。いたって単純な陽動作戦だな」

 

そう言う深尾に天龍が挙手をして質問する。

 

「具体的には俺たちはどういう仕事が割り当てられるんだ?」

 

「お前たちはこのD地点にある無人島の浅瀬の岩場で待機、先輩方の取り逃がした敵の各個撃破と後退してくる負傷した艦娘の手当てがメインだ。まぁ衛生兵か雑用係みたいなもんだな」

 

天龍は質問の答えを聞いて「良いように使われてんなぁ俺ら」と呟く。深尾が苦笑いしながら続ける。

 

「まぁなんでこんな出来たばっかりの新人組にこんな話が回って来たのかは大体察しがつくがな」

 

「ご主人様そりゃどーゆう?」

 

「ウツギたち資源再利用艦の最後の実戦テストだろうさ。ご丁寧に参加する少し前にウツギとツユクサのために重巡「青葉」と「摩耶」の艤装を送ってくるらしい」

 

ウツギは漣の質問を返す深尾の話を聞いて少し驚いた。随分と丁重なおもてなしだ。意外なことに自分達は大本営から大切にされているようだ。

 

「あぁ、あと最後に一つ」

 

深尾が思い出したように話を切り出す。今回の作戦では多くの艦娘たちが参加するため、識別と所属の確認のために「艦隊名」と言うものを設定しなければいけないらしく、なんでもそれを深尾が考えてきたらしい。

 

「さすがにただ「第一艦隊」じゃ味気ないし、他と絶対被るだろうからな」

 

深尾が一呼吸置いてから続ける。

 

「まず第五横須賀の「第五」と......お前らの部隊は申請したとき第一横須賀から数えて、19番目に出来たってことでフォネティックコードの「S」から取って......」

 

「フォネティックコード?」

 

小声で隣の天龍にウツギが聞く。

 

「無線の用語だよ。アルファベットの暗号だ」

 

「どうも」

 

小声で礼を言ってまた深尾の話を聞く。

 

「「第五」と「S」両方合わせて」

 

 

 

 

 

 

「フィフス・シエラ。お前らの艦隊名だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

艦娘の死因の第一位、それが大規模作戦。

これは戦い、後方は安全などとうぬぼれた者は命を落とす。

これは戦い、気を抜くことなど一秒たりとも許されない。

 

 次回「拠点防衛部隊陽動」 お前も艦娘なら戦場で死ぬ覚悟は出来ているな?




タイトル回収、新レギュラー登場回でした。


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拠点防衛部隊陽動

相変わらず戦闘に関してはやりたい放題です。


 

 

 

 大規模作戦決行の日。

 シエラ隊メンバーの五人の艦娘が鎮守府の港で艤装の最終チェックを行っていた。

 点検箇所の確認をいち早く全て終えたツユクサが、すでに三日前ほどから慣らし運転を終えた「摩耶」の艤装を装備して海上に立ち上がり、体を動かしてストレッチした後、「あっ」と、突然何かを思い出したのか作業中の漣に質問する。

 ちなみに今彼女を含む五人は普段の服装ではなく、全員戦場でもすぐに他の艦娘との見分けがつくようにと深尾が人数分用意した「Fifth/Sierra」(フィフス シエラ)と書かれた青黒ツートンカラーのウインドブレーカーを着ている。

 

「ウチらが行っちゃったらここスカスカじゃないッスか?危なくない?」

 

「おぉそう言えばツッチーの言う通りだけどご主人様大丈夫なのかな?」

 

ツユクサと漣の会話を聞いていた天龍が「お前ら話聞いてたのか?」と呆れたように切り出す。

 

「提督はちゃんと言ってたぞ。近くの他の鎮守府から今回の作戦に参加しない艦娘を何人か鎮守府の警備に回してもらうってな。ったく話ぐらいちゃんと聞いとけっての」

 

 天龍が恐らく話を聞いていなかったであろう二人に教える。漣が「ナイスよてっちゃん!」と言って天龍からデコピンを食らう。そんなことをしているうちに全員の準備が終わる。

 

「全員準備終わったな。じゃあ出発する」

 

 こうしてウツギたち「フィフス・シエラ」の面々は目的地へ向かって海上を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海の真ん中にひときわ目立つ巨大な船、その中にウツギたちは居た。今回の作戦のために用意された前線基地の役割を果たす船である。

 たった一つの、それも一日で終わる作戦のためにこんなものまで用意するのか。ウツギがそんなことを考えながら、今まで座ったこともない高級そうなソファに腰かけていると、眼鏡をかけた、いかにも事務仕事を得意としそうな雰囲気の艦娘が名簿を持ってこちらにやってきた。

 

「お手数ですが、所属と艦隊名をお聞きしたいのですが」

 

「第五横須賀鎮守府所属、艦隊名フィフス・シエラです」

 

眼鏡の艦娘の表情が一瞬曇る。しかし名簿を書き終えるとまたすぐに営業用の笑顔に戻り、何処かへ歩いていった。表情が一瞬曇ったのは新米のウツギたちの参加に不満があるのか、それともリサイクル艦への拒否反応か、大体そんなところだろうな。等とウツギは勝手に結論付ける。

 

「どいつもこいつも変な目で見やがって。俺たちゃ見せ物じゃねぇっての」

 

 眼鏡の艦娘が他の場所へ去っていったあと同じくソファに座っていた天龍が愚痴をこぼす。他の艦娘たちの視線を集める原因は言わずもがな、ウツギ、アザミ、ツユクサの容姿である。もっとも当人たちは誰一人として気にしていないが、しかし自分達のせいで漣や天龍に迷惑がかかってしまっているのは間違いないとウツギがソファから立ち上がり天龍に言う。

 

「すまない。少し間を離すか」

 

「な~に言ってんのウッキー。漣たちは仲間よん?気にすることないって」

 

「そうそう。気にしなくて良いっての。漣お前もたまにはいいこと言うんだな」

 

「たまにはってなにサ!?酷くないてっちゃん!?」

 

「当たり前のことをいって何が悪いんだ?」

 

「二人の言う通りッスよウツギ。せっかくこんないい船に乗せて貰ってるんスからもっとリラックスしないと!」

 

「ツユクサ......お前は危機感と遠慮が無さすぎだ」

 

 申し訳なさそうに切り出したウツギに漣と天龍が大丈夫だと返す。漣の発言に「ウッキーはやめてくれ。猿の鳴き声みたいで嫌だ」とウツギが返答するが、内心彼女は、漣と天龍の言葉を少し嬉しいと感じていた。あとツユクサは天龍に苦言を呈された。

 その時船内放送が入り、周りに居た艦娘たちが移動し始めたので、ウツギたちもついていく。今回のシエラ隊と同じく「D地点」で行動する艦娘の作戦のブリーフィングが行われる第三会議室と書かれた部屋にぞろぞろと二十人ほどの艦娘たちが入ってゆく。もちろんそのなかにはウツギたちシエラ隊も含まれている。

 ウツギは他の部屋へ入っていく「主力の艦娘」たちと比べて自分たちD地点組の艦娘の数が目に見えて少ないことに気付くが、あまり気にしないことにした。

 

「時間だな。全員居るか?」

 

「問題ありません」

 

 広々とした部屋の中には先程こちらの部隊名を聞いてきた眼鏡の艦娘と、妙に背の高く痩せこけた男が居た。周りの艦娘たちは一見したところあまり戦い慣れしているような者は()らず、ざわざわと世間話に花を咲かせている。そんな艦娘たちを前に、痩せた男が彼女たちの私語を止めようともせずに口を開く。

 

「じゃー説明するぞ~。お前ら新米どもはここ、このD地点って設定された島で待機~。今横で作戦会議してる偉~い人たちのとこの艦娘の補給がメインの仕事だ~。あぁ気ぃ抜くなよ~、ボケ~っとしてたら抜け出してきた敵さんにコロコロされちまうからな~。あぁあとなんか最近ここの近くで新型の深海棲艦が見つかったって噂があるから気ぃつけてね。以上。」

 

 とんでもなくやる気のないしゃべり方で男が説明を終える。こんなに適当なブリーフィングでいいのか?とウツギが思っているとやはり同じ事を思っていたのか横に居た漣、天龍、ツユクサが眉間にシワを寄せていた。アザミだけ無表情だが多分同じことを考えているだろう。しかし他の艦娘たちはそんなことは気にせずまた無駄話をしながら部屋を出ていく。

 ウツギたちも部屋を出ていこうとすると、突然ウツギが誰かに腕を掴まれる。何かと思い振り替えるとあの痩せた男が自分の腕を掴んでいた。

 

「言うの忘れてた。お前さん一人だけで別の仕事頼みてぇんだけど良いかな」

 

「......なぜ私なのでしょうか」

 

「今言ったじゃん。忘れてたから適当に選んだ」

 

 眼鏡の艦娘が「ゴホッ!」とわざとらしく咳き込み、シエラ隊のメンバーが唖然とするなか  漣だけ「大抜擢キタコレ!」などと言っているが  ウツギだけ別行動を命じられてしまう。ウツギは心のなかで特大の溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦時間だ。ハッチ開けてくれ」

 

『どうぞかも!』

 

 ヘリコプターのバラバラバラというローターの音が響く。ウツギは自身の「青葉」の艤装にパラシュートがしっかり取り付けられているのを確認して機内に艤装を固定し、機体から身を乗り出しスナイパーライフルを構える。

 「離れた場所でヘリコプターから、対深海棲艦用に作ったライフル銃で敵の密集している所に狙撃、敵を分散させて前線の艦娘の負担を軽減させろ」。痩せた男のいう仕事の内容だ。ヘリコプターなんて敵の攻撃を食らえばすぐに落ちるのでは?と質問したが、心配するな。最新型の大型ヘリだぞ。などと少しズレた返答しか返ってこなかったのを思い出す。

 不安に思いながらもウツギはライフルを構えたまま機体を操縦している艦娘「秋津洲」に通信を入れる。

 

「狙撃なんてやったことがない。当てられる自信は無いぞ」

 

『目的は敵を散り散りにすることかも!必ずしも当てる必要は無いよ!』

 

「そうか。通信は切るなよ」

 

『了解かもー!』

 

 既に作戦は始まっており、ウツギの目線の遠く離れた先では砲撃戦が始まっている。 

 彼女は試しにとスコープを覗きこんで、艦娘たちから離れていて、かつ深海棲艦の固まっている場所にライフルを撃ち込む。

 

 

 すると着弾地点には肉眼で観測できるほどの爆風が発生した。

 

 

 凄まじい威力だ......なぜ今までこの銃は普及していなかったんだ?とウツギが驚きながら今度は双眼鏡を取り出し着弾地点を見てみる。

 .........何事も無かったかのように深海棲艦たちが爆風を抜けてくる。前言撤回、どうやら無駄に爆風だけでかい見かけ倒しだったようだ。これじゃあ実用は程遠いな。そんな事をウツギは考えていたが爆風の影響か、敵があちこちに散っていることも同時に確認する。一応目的はこの武器でも果たせるのかと続けて敵の固まっているところへ何度か狙撃を行う。

 七発ほど撃ち込み、弾丸の装填をしようとしたとき大きく機体が揺れた。流石に何発も撃って敵も気付いたのか、ヘリコプターに向かって砲弾が飛んでくる。それなりに弾幕を形成しながら飛んでくる砲弾の雨の中で、致命的な被弾をしないように機体を制御する秋津洲の操縦技術と、このヘリコプターの対弾性に感嘆しながら、そろそろ潮時かとウツギが思ったときに通信が入る。

 

『そろそろ降りてくれないとまずいかも!』

 

「解ってる。降下するぞ」

 

 艤装のハンガーに何かの役に立つかと弾を装填し直したスナイパーライフルを取り付け、ウツギが降下しようとしたとき、また通信が入る。

 

『ウツギちゃん、ちゃんと帰ってきてね』

 

「......?どうした急に?」

 

『せっかく運んであげた人に死なれちゃ後味が悪いってだけかも!』

 

「そうか。ありがとう。お前も帰りは気を付けろ」

 

『当たり前かも!』

 

 

そう言ってすぐに、ウツギはヘリコプターから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

降下したウツギと、別行動をとっていた漣たちがポイントDにて集結する。

そこへ、()(てい)の敵部隊が通りかかり、少しでも戦果を稼ごうと

敵部隊を迎撃するシエラ隊に不穏な黒い影が迫る。

 

 次回「小柄な死神」 血のにじむ腕に勝利を。

 




ここおかしいやんけ!!という場所を指摘されると作者は喜んで修正作業を始めます。


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小柄な死神

なんか文章が捗ったのでいつもより早く投稿です。


 

 

 

「おーおーやってるやってる」

 

「派手にやってんなぁおい。花火みてぇだ」

 

 ウツギがヘリコプターから狙撃を行っている頃、漣たちは指定された無人島の浅瀬で、遠方で戦う他の艦娘たちを見ながら待機していた。彼女たちの傍らには大量の燃料と修復材と呼ばれる液体が入ったポリタンクと弾薬が入った箱が積んである。

 これらを見てわかる通り、今D地点の島は補給所替わりに使われていた。いまのところ作戦は順調に進んでいるらしく、時折流れてくる無線の情報によれば、あと数十分で敵基地の制圧が完了する予定らしい。

 漣は大規模作戦と言っても、こんな裏方仕事じゃたいしたことないな。等と思っていると横の天龍が自分の肩を叩いて報告してきた。

 

「前線から連絡だ。駆逐が1、軽巡が2匹こっち来るとよ」

 

「ほいさっさ~と。あぁマンドクセ」

 

 今日初めての戦闘に少しだけウキウキしながら漣が砲を構える。数秒後、報告通りにやってきた敵に攻撃するとあっけなく爆沈した。味方から手痛いダメージを受けていたのか、所々から黒い煙が出ているぼろぼろの敵は数発当てただけで沈んでしまう。

 あ~あ、つまんねぇ~の。まるで張り合いがないなと漣が再度、この作戦は楽だ、などとと考えていると今度はツユクサから報告があった。

 

「さっちゃん、今度は味方が三人中破したから補給しに来るみたいッスよ」

 

「うぃ~っす。修復と補給ね」

 

 ツユクサの声を聞いて周りにいた他の鎮守府の艦娘たちもポリタンクを持って味方の到着に備える。アザミだけはそのまま周辺を警戒中だ。

 

「ねぇ天ちゃんちょっと」

 

「なんだ?無駄話なら無視するぞ」

 

 漣が天龍に話しかける。というのも気になったことがひとつあったからだ。

 

「漣たちのご主人様さぁ、ウッチーたちの実戦テスト代わりにこの作戦に駆り出されたかもって言ってたじゃん」

 

「そう言えばそんなこと言ってたな」

 

「全然テストできてなくねぇ?」

 

「確かにせっかく重巡の装備なのに活躍する場がないッス」

 

「そりゃアイツのアテが外れただけだろうよ。あとウツギは一応前で戦ってるんじゃないのか?......っと、味方が来たぞ」

 

 天龍が強引に会話を切り上げる。

 遠くの方から聞こえる砲撃の爆音をバックにこちらへ向かってくる艦娘を視界に捉えると、漣はため息をついて近くのポリタンクを持って味方の補給に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........どこを見ても敵だらけだな」

 

 砲撃音がそこかしこで鳴り響く海上を重巡用の大口径の連装砲を肩に担ぎスナイパーライフルを抱えたウツギが全速力で滑っていく。

 ヘリコプターから降下してから正確な計測などはしていないが、ウツギは無線に付いている時計を確認し、海を漂い初めて約十分ほど経過していることを把握する。

 ウツギはD地点の島に向かうために道中、時折味方の援護をしながら後退していた。名も知らぬ艦娘からまた一言「助かった」と礼を言われるが、そんなことなど気にせずさっさと漣たちと合流するため一直線にウツギは島へと向かう.........ことがなかなかできずにいた。

 というのも単純に敵の数が多いのだ。いくら前で戦う艦娘たちが手練(てだ)れとはいえ数では相手が勝っているのをいいことに、何匹か陽動部隊を突破してきた深海棲艦が邪魔をしてくる。

 

「悪いな。お前たちに構っている暇はないんだ」

 

 ウツギは自身の持つライフルの弾から放たれる謎の大爆発をうまく利用して、怯んだ相手を効率よくなるべく連装砲の弾を使わずに倒す。そしてそんなウツギの元にもたまに援護射撃が飛んでくる。

 

「新人さんにしてはなかなかやりますね」

 

「......先輩にそう言ってもらえるなら光栄ですね」

 

 支援攻撃をしてきた巫女服の艦娘にいきなり話しかけられて、一応ウツギが礼を言う。

 

「お世辞はいいですよ。それにあなたの管轄(かんかつ)はここじゃないんでしょう?早く下がりなさい。ここは私たちが押さえます」

 

「......どうも」

 

 巫女服の艦娘と他数名が敵は自分達に任せろと言ったのでウツギはそのまま島の方向へ反転し海上を滑っていく。

 が、強力な味方の援護があるとはいえ、それでも相変わらず味方の間をすり抜けてくる敵はそこかしこに居るし、手負いの状態とはいえ流石に三十匹以上の敵を倒し、味方の援護と敵の牽制までこなすとなれば砲弾の残弾数が心許(こころもと)なくなってくる。

 

(予備の弾はなるべく使いたくなかったが......仕方がないな)

 

 こんな場所で弾切れはマズいな、とウツギが予備弾倉の砲弾を砲に装填しながら思っていたときに、電源を入れっぱなしにしていた無線機から、あと少しで敵基地の制圧が終わると言う音声が流れてくる。これが本当ならこのとんでもない数の深海棲艦はうまくこちらの陽動に引っ掛かった結果によるものらしい。

 もっともウツギは個人的には成功しすぎて味方が相手をする敵が多すぎるのも問題があると考えていたが。そんなことを考えているとやっと島の補給部隊が見えてくる距離までやってきた。よく見ると漣が自分に向けて手を振っている。

 これが大規模作戦か......ウツギは大規模作戦に参加して戦うというその厳しさと辛さを噛み締めながら、なんとか激戦区から自分の「本当の」持ち場である補給所へ無事に辿り着けたことに安堵(あんど)していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいよウツギ。お疲れさん」

 

「ありがとう。少し危ないところだったんだ」

 

 天龍から燃料の入ったポリタンクを受け取ったウツギが艤装の給油口を開けて、燃料を補充する。頻繁に敵に遭遇こそしたがほとんどダメージは受けていないので修復材は使わなかった。続けてウツギが弾の補充をやろうとしたときに天龍が言う。

 

「敵の基地の攻略が終わったってよ。あとはこの辺うろついてる奴ら片付けて帰るだけだ」

 

「そうか。......ちょうどあそこに逃げていく敵が居るな」

 

 ウツギの目線の先に黒い煙を噴き出しながらノロノロとこちらから遠ざかっている敵が見えた。その発言にちらりと海を見た他の艦娘たちは、しかし気にせず既に帰り支度を済ませようとしているとき、天龍が問いかけてくる。

 

「追いかけるか?」

 

「いや、あの距離ならここから少し前に出れば狙える。少し浅瀬に出るぞ」

 

「りょーかい」

 

 砲撃の射程に敵を入れるためにシエラ隊が全員砂浜から浅瀬に出る。そしてウツギが砲を担ぎ、撃とうとしたその時だった。

 

 

 

 

 いきなりウツギはいままで体験したことがない浮遊感と衝撃に襲われ、後ろに吹き飛ばされる。

 

 

 

 ぐしゃり、と嫌な音を響かせてウツギが浅瀬から突き出した岩に叩きつけられる。彼女は一体今何が起きたのかわからなかった。

 

「がぁっ...かはっ......なっ!?」

 

 口から血を吐きながら前を見るウツギの目の前にフード付きのレインコートのようなものを着た見たことがない深海棲艦が居た。こいつ一体どこから...!?というウツギの思考は、「そいつ」の続けて繰り出された重い一撃により中断される。

 

「ふぅぉっ......!?」

 

「............」

 

 とっさにウツギが殴りかかってきた「そいつ」の攻撃をいなすために担いでいた連装砲を盾にする。すると「そいつ」の腕があたった砲が粘土で出来ているかのようにぐにゃりとひしゃげる。

 

「ウツギィィぃぃぃ!!」

 

 ツユクサが砲を乱射しながら背中から「そいつ」に殴りかかる。が、まるで後ろに目でもついてるかのように「そいつ」がウツギの方を向いたままツユクサの腕を引っ掴む。

 

「ウツギから離れるッスよ!!」

 

「ツユクサぁ!手ぇ離すなよ!!」

 

 腕を掴まれたツユクサの後ろから、今度は天龍が「そいつ」に刀で突きを放つ......が振り返った「そいつ」が素手で天龍の刀を受け止める。

 

「てっ......てめぇ!」

 

「............」

 

 ギャリギャリと火花を散らしながら刀を掴んだ「そいつ」が、刀ごと天龍を島の方へ投げ飛ばす。「おぉぉぉわあぁぁぁぁ!!?」と叫びながら投げ飛ばされた天龍に唖然としていたツユクサの手を離すと、「そいつ」がツユクサから背中を向けて逃げる。

 

「逃がさないッスよ!」

 

「ゴホッ......ツユクサっ!駄目だ!そいつは普通じゃない!!」

 

 咳き込みながら声を出すウツギの呼び掛けを無視して、ツユクサが「そいつ」を追いかけ......ようとしたときに「そいつ」が凄まじい勢いで後ろにバックする。そしてツユクサの鳩尾に肘を入れると、怯んだツユクサの腕をまた掴んで振り回し、別の岩に叩きつける。

 

「おわぁっ......!?ごはぁっ......!」

 

「............ 」

 

 大きな岩に体がめり込むほどの勢いで、ぐしゃりと生々しい音を響かせ背中から岩に叩きつけられたツユクサが豪快に吐血して海面に倒れる。

 そこへ「そいつ」へ向かって砲撃が来る。撃っているのは漣とアザミだった。

 

「......お前......許さなイ......」

 

「あ、あっち行けぇ!このバケモーン!!」

 

「.........」

 

 アザミの砲撃が当たり、「そいつ」が少しだけニヤリと笑う。ここまでか......ウツギが目眩のする視界のなかそう考えていると「そいつ」は突然反転して水平線へ向かって去っていった。見逃した......?いったい何のためだ?と思ったときにアザミと漣が駆け寄ってくる。

 

「ウツギ......立てル......?」

 

「......少し厳しいな.........」

 

「な、何だったんだろねアレ......いきなり水面から出てくるとか初見殺しっしょ!?」

 

 漣が震えた声で喋りながら、緊急時に入れる無線で船に連絡を入れる。ウツギは血の味が広がっている口の中に不快感を感じながら、ふらふらと立ち上がり自分から少し離れた場所で倒れているツユクサに声をかける。

 

「............」

 

「いつまで......ふぅ...気絶したふりをしてるんだ」

 

「......首の骨が折れたッス............」

 

 ツユクサが海面に寝っころがったままそう言う。派手に血を吐いて倒れた割には元気なヤツだ......アイツが見逃してくれなければ自分達は全滅していたな。ウツギは島の方で自分達のこの有り様をみて腰を抜かしている艦娘たちを見てそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

自身の持つ運のなせる技か。全滅の危機を凌ぎきったシエラ隊。

後味の良くないものとはいえ、結果的には作戦は成功した。

つかの間の安らぎを振りきって、ウツギたちはまた次の戦場へ。

 

 次回「ビター・メモリー」 大規模作戦初勝利は苦いチョコレートの味。

 




毎回書いている次回予告は適当です。


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ビター・メモリー

ツユクサ「お腹すいたッス......」
ウツギ「食べるか?」
ツユクサ「なんスかそれ?」
ウツギ「食用ミルワームだ」
ツユクサ「絶対にいらないッス!!」


 

 大規模作戦が艦娘側の勝利に終わった日から二日後。シエラ隊の面々は船で手当てを受けたあと、ウツギとツユクサは破損した艤装を詰め込んだコンテナを背負い、駆逐艦の艤装で第五鎮守府に帰投していた。

 二人は今、鎮守府の艤装保管室でシエラ隊が二日間鎮守府を空けていた間に配属された工作艦の艦娘「明石」に「青葉」と「摩耶」の艤装の修理が可能かどうかを聞いていた。三人の周りには深尾や他の部隊メンバーも居る。

 

「うえぇ~悲惨......。何されたらこんな壊れかたするんですか......」

 

「直りそうか、明石さん?」

 

「大丈夫ッスか?」

 

「ちょっと厳しいですねぇ~......って言うか船で何か言われなかったんですか?」

 

 明石がドライバーと普段日常では目にしないような大きいペンチで無理矢理壊れた艤装を分解しようと四苦八苦する。作業を続けたまま、彼女が二人の艤装の破損具合に顔をしかめながら聞いてきたのでウツギが答える。

 

「......それが」

 

「修復材じゃ直せないって言われたッス」

 

言葉に詰まるウツギの代わりにツユクサが答えると、その返事を聞いた明石が持っていたドライバーを放り投げて溜め息をついた。

 

「それ、遠回しに無理だって言われてますよ。ここよりあの船設備整ってますから」

 

「なるほど。確かに、あの船は前線基地の代わりまでできるからな。こんな新設されたばかりの弱小鎮守府より良い設備があって当然か」

 

「あ、いや...提督そんな意味じゃなくて......」

 

「いや、良いんだ。当たり前なことだしな。それより使えそうな部品なんかは残っているのか?」

 

 今度は深尾が強引に分解された艤装の部品を手に取ると、それを弄りながら明石に質問する。

 

「これだけ滅茶苦茶にされてたら......言いづらいですけど両手で数えられるぐらい残ってたら万歳するレベルですね......。正直こんな状態で海に浮けること自体が奇跡に近いです」

 

「そうか...解った」

 

 深尾は手で弄んでいた、あり得ない方向へ折れ曲がった連装砲の砲身をもともと置いてあった場所へ戻す。そんな深尾を見ていたウツギが口を開く。

 

「提督、すまない。自分の不注意で艤装がめちゃくちゃだ。始末書でも雑用でもなんでも言ってくれ」

 

「ん?なんだ、いきなり?」

 

「なんだ?って.....。この艤装は上が送ってきた物で、自分の物じゃない。然るべき罰が私には......」

 

「プッ...あっはっはっはっはっはっは!」

 

ウツギはいきなり笑いだした深尾に驚く。そして何が可笑しいのかがわからず、首をかしげる。

 

「はっはっはは......ふぅ、相変わらず真面目だなお前は。逆だよ逆、上はお前とツユクサ......いや、お前らシエラ隊を褒めてたぞ」

 

「はぁ?「あいつ」に手も足も出ないどころか全滅しかけたのにか?」

 

 深尾の発言を聞いて天龍が「あり得ない」と言う。ウツギも何故自分達のような無様に敵に蹂躙された艦娘の集まりのどこが上に気に入られたのか検討がつかなかった。「なんでお偉いさんがお前たちを褒めるのかがわからんって顔してるな」と、深尾がこちらの心を読んで続ける。

 

「っと。これ、何なのかお前たちも知ってるよな」

 

深尾が近くに置いてあった漣の艤装から何かを取り外す。

 

「何って、艦載カメラですよねご主人様?」

 

「そう、お前の言う通り艦載カメラだ。演習の反省や、新人に実戦の流れを教えるためとかに、手練れの艦娘なんかが自分の海戦の様子の録画に使ったりする機器だ。お偉いさん方がな、お前たちが船で怪我治してるときに......ウツギとツユクサ、あと天龍のはぶっ壊れてたから観れなかったらしいが、周りで観てたお前とアザミ、島で腰抜かしてた艦娘達の録画映像を見て顔を真っ青にしたそうだよ。そして「よく生きて帰ってきてくれた。この資料のおかげて新たな脅威に対して対策が練れる」ってね」

 

「そう言うことか......自分達はちょうどいいサンドバッグ役になったわけだ」

 

 ウツギは理由を知ってため息をつく。深尾も「まぁこれを知って嬉しいと思うやつは少数派だろうな」とひきつった笑みを浮かべて言う。

 

「あとは今回出てきた見たことないヤツだが、上が正式に「戦艦レ級」って付けたそうだ。そしてそれとはまた別に名前をもうひとつ。どうやら他の艦娘も少しだけ交戦したらしくてな、航空機を持ち、魚雷が撃てて、近接攻撃までお手の物と来たあいつのことを「完璧かつ、たった一人の艦隊、P F(パーフェクト フリート)」だとさ。まったくフザけた話だ」

 

「あぁ~駄目だっ!もう無理です」

 

 深尾が長々と説明しているとき、黙々と分解作業をやっていた明石が汗をぬぐって工具箱にペンチを投げ入れてそう言う。

 

「まだ半分もバラせてなくないか?」

 

「無茶言わないでくださいよ!もうこれ以上は無理です!」

 

 深尾が持って帰ってきたままの状態とほとんど変わっていない艤装を見て疑問を口にすると、明石が顔を真っ赤にして怒鳴ったので深尾が気圧される。

 

「う......!そ、そうか、無知なクセに口出ししてすまん」

 

「あっ...!あぁいや......その......すいませんでした!!」

 

「いやいいんだ。俺が何も知らないのに変なことを言ったのが悪い」

 

 怒鳴ったことを謝る明石と、その明石にも謝る提督のやりとりを無視して、ウツギはぐちゃぐちゃに壊れた「青葉」の艤装をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ウツギが今日の秘書艦を任されていたツユクサの代わりに執務室に来いと深尾から言われていたので部屋の前にやって来る。

 部屋に入り、挨拶を済ませたウツギはすぐに深尾が座っている席の隣の机の椅子に座ると、慣れた手つきで書類を捌いていく。仕事を続けたまま、ウツギは気になっていたことを深尾に聞いた。

 

「今日の秘書はツユクサだったはずだ。なんで自分を呼んだんだ」

 

「あいつは仕事ができないからだ。以上」

 

 まったく抑揚の無い棒読みで深尾が返答する。何かを察したウツギは「そうか」とだけ言って、仕事に集中した。もっとも頭のなかにはぐちぐちと文句を垂れながら書類に悪戦苦闘するツユクサの様子が浮かんだが。

 そんな邪念は気にせず、ウツギは処理する書類を半分ほど終わらせた頃、隣の深尾がパソコンの画面をみて「なんだこれ?」と言うのが聞こえた。またなにか面倒事だろうか。

 

「なんだ?また何か厄介な事にでも巻き込まれそうなのか?」

 

「......悪いがその可能性が高そうだ」

 

 そう答えた深尾が横を向いてウツギを見るとあからさまに嫌そうな顔をしていたので一瞬びくりとする。が、すぐに心を落ち着かせた深尾が放送で、ウツギ以外の艦娘を全員執務室に呼ぶ。

 

「また面倒な事に付き合わされるのか......」

 

「......何かごめんな」

 

「いやいい。戦うのが自分達の本当の仕事だしな。それで何が送られてきたんだ?」

 

 眉間に少しシワを寄せたままウツギが深尾に聞いた。

 

「救援要請のビデオメールだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室に集められたシエラ隊と明石が目の前のパソコンの画面を覗き込んでいる。全員居ることを確認した深尾が、「じゃあ、再生するぞ」と言って、ビデオメールの再生ボタンを押した。

 

 

 # # # #

 

『緊急通信!!こちら高速艇アレックスだぜ。エリア27区の無人島の近くで攻撃を受けている!!誰か助けに来てくれ!!』

 

『木曾、なぁに焦ってるクマ~もっとリラックスするクマ~』

 

『いや撃たれてるって!?』

 

『撃たれてるなんて物騒なもんじゃないクマよ~きっと歓迎の花火のどでかいやつクマ』

 

ドゴーン!!

 

『うわぁおぉ!?そんなわけあるかぁ!!この砲弾の雨が花火だってか!?姉貴頭おかしいんでねぇの!?』

 

『なぁに、当たっても最悪どーせ死ぬだけクマ~』

 

『死んだらおしまいじゃん!!っ!?うわぁぁぁヤバイ!!ミサイル!ミサイル飛んできてる!!』

 

『ヴォォォオオオ!?こんなとこで死にたくないクマァぁぁぁ!!』

 

『球磨姉さっきと言ってること違うじゃねぇかぁぁぁぁ!!』

 

『『き、緊急脱出ぅぅ!!』』

 

 # # # #

 

 

 動画を見た全員が真顔になる。部屋が完全に静まり返ってから十秒ほどたってからツユクサが口を開いた。

 

「なんか非常事態の割には楽しそうだったッスね」

 

 ツユクサのもっともな発言に深尾が頭を抱える。すぐ隣に居たウツギは深尾の「なんで俺のとこにはこんなのばっかり...」という愚痴が聞こえたが無視した。

 

「......エリア27はここからそう遠くない。助けに行ってやれ......あぁ、明石も連れていってな。怪我してるかも知れない二人を手当てしてやれ......」

 

「了解」

 

 深尾が頭を抱えたまま、シエラ隊に出撃命令を出す。ウツギはなるべく何も考えないようにして、出撃するため部隊員を引き連れて部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

SOSを発信した艦娘の救援のため、ウツギ達はエリア27へ。

そこで会った艦娘の、ある「依頼」によって、

彼女たちはまた新たな戦地へ赴くことになる。

 

 次回「汚濁」 腐敗、ここに極まれり。




次回から新章です。


オマケ アザミのビジュアルです。


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2 黒い鎮守府の熱帯夜
汚濁


キャラ崩壊とちょっとえげつない表現が含まれます。注意!
あといつもより文の量が多いです。


 

 

 

 

 エリア27区。今は無人島になっているこの海域の孤島は、その昔良質な鉱山資源で栄えていたが、深海棲艦の登場により過疎化が進み、今では時折訪れる艦娘が残された採掘設備を利用して資源を持ち帰るときぐらいしか人間の姿が見えない(正確には人間では無いのかもしれないが。)。それと合わせて、戦略上それほど重要な場所でもなく、さらに追い討ちを掛けるように、今ではもう採れる資源も少ないため地図上の「資源回収可能区域」のリストから消されてしまっていることから、通称「アウトエリア27」などと呼ばれている。

 

 そんな寂れた島に上陸する人影がある。ウツギ、アザミ、ツユクサ、漣、天龍、明石の六人で構成されたシエラ隊の面子だ。こんな所に彼女たちが居る理由は別の鎮守府に所属していると思われる艦娘からの救援要請があったからだ。また、救援を頼んできた艦娘の治療用にと今回は全員、修復材の入ったポリタンクを背負っている。ウツギたちが上陸して数分後、海岸に流れ着いていた、高速艇の残骸を見つけた漣が喋り始める。

 

「うわぁ~お、こりゃまた酷いことになってんね。蜂の巣じゃん?」

 

「船底に四角い穴が開いてんな。脱出は成功したのか」

 

「へ?なんでそんなことわかんの?」

 

「大規模作戦の時の船の中でこれと同じのが積んであるのを見たんだよ。この型の高速艇、かなり装備が充実してんだ。緊急時に船底からちっちゃい潜水艇で脱出できるんだぜ」

 

 敵の砲撃に晒されたと思われる穴だらけになった船の船底に、不自然に綺麗に四角く切り抜かれたような穴があるのを見て天龍が言う。さらに続ける天龍の補足によれば「脱出用に使う潜水艇は居住スペースが狭すぎてすごく乗り心地が悪い」らしい。それはさておき、天龍の言うことが本当ならその潜水艇も近くに停まっているかもしれないな、とウツギが思っているとアザミが声をかけてくる。

 

「ウツギ......あそコ......」

 

「ん...?......天龍、その潜水艇って言うのはアレのことか?」

 

「あ?おぉ!アレだよアレ!良かった、多分生きてんだなあの二人組」

 

 アザミが指を指した方を見ると、船の残骸からそれほど遠くない場所に、ガラス張りの球体にスクリューが二基取り付けてある奇妙な外見の乗り物が停まっていた。ウツギたちが少し近寄って眺めてみる。

 

「な~んか変な乗り物ッスね。ガチャガチャのカプセルみたい」

 

「最新鋭の潜水艇ですね、これ......。高そうだなぁ」

 

 明石が「カタログでしか見たことないですよこんなの。」と言い、ツユクサがガラスの部分を拳でコンコン叩いている、その時だった。

 

「お前らそこで何して......」

 

「何?」

「ッスか?」

「んんん?」

「あ?」

「......?」

「誰ですか?」

 

「ひゃぁぁぁぁぁあああああああ深海棲艦!!??なんでここにぃぃぃぃ!!」

 

 ウツギとツユクサを目にして腰を抜かす眼帯の艦娘が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ携帯圏外クマか!?携帯使えないとかイカれてるクマ!!携帯無いと死んじまうクマァ!!」

 

「とても死にそうな状態には見えないがな」

 

 スマートフォンを片手に地団駄を踏んでいる艦娘「球磨」に、ウツギがそう投げかける。

 

「あ、駄目だクマ。球磨は死んじまったクマ。正確には、今目の前に居る深海棲艦にリンチされて、もぐもぐされて、こんな何もない島で人知れず殺されちまうクマァ!!」

 

「ひどいッス!!偏見ッス!!あと深海棲艦じゃないッス!」

 

 そう反論したツユクサに向かって球磨が物凄い剣幕で両手を振り回しながら怒鳴り始める。

 

「酷いも何もあるかぁ!いきなり海で深海棲艦に襲われて、必死に脱出したらこんな誰も来ないような島に着いて、しかも目の前にはまた深海棲艦だ!これを嘆かずにいられるかってんだ!あーあー死にたくねぇよぉ~とびっきり美味い海鮮丼食べたあとに安楽死するのが夢だったのにぃ!!」

 

「そうか。残念だがお前はまだ死なないぞ。あと自分は深海棲艦じゃない」

 

「お前みたいな、なまっ白いオバケみたいなやつに何がわかるんだ!艦娘になってもう5年も経つのにあんのクソ野郎が録に給料寄越さねぇから美味いもんなんて食ったことが片手で数えるほどしかないんだぞ!?この悲しみが解るか!?」

 

「わかるッス!毎日楽しみにしてる夜ご飯が冷凍食品だったらアタシはちゃぶ台返ししたくなるッス!」

 

「だろ!?あのクソ、提督でもないクセに後方ででっかい椅子にふんぞり返りやがって、あぁ思い出しただけでも腹が立つぜ!!」

 

「白熱してるとこ悪ぃがもういいか?あと球磨姉語尾忘れてるぞ」

 

 球磨とウツギとツユクサが罵り合い(?)を続けているところに、先程砂浜でウツギたちを見て腰を抜かした軽巡の「木曾」が割って入る。「おっと、失敬クマ」と球磨が乱れた呼吸を整えて、あらためてウツギと向き合う。

 

「ふぅ~落ち着いたクマ。さぁ煮るなり焼くなり好きにするクマ。あ、でもなるべく苦しまないヤツでお願いするクマ」

 

「球磨姉、覚悟を決めるのはいいが、こいつら深海棲艦じゃないぞ」

 

「は?......木曾、姉ちゃん嘘は駄目だって言ったはずクマよ」

 

「いやだから嘘言ってどうすんだよ」

 

「うんとさ、いつまでこのコント見てればいいのかな?」

 

 全くといっていいほど話が進まないことに痺れを切らしたのか、天龍がいつもと違うしゃべり方で切り出す。近くにいた漣は大あくびをし、明石は足元にいた蟹を棒でつついている。

 

「......そういえばなんで艦娘も居るクマ?も、もしかしてこのサンゴの死骸みたいに白いのも艦娘クマか!?」

 

「いやさっきから言ってただろうよ!?」

 

 天龍が球磨に突っ込みを入れる。が、彼女がまだ信じられないといった表情で「な~んか胡散臭いクマ......」と言ってきたので、ウツギは作業着のポケットから階級証を取り出して「これでいいか?」と言って球磨に見せる。

 

「確かに本物クマ。でも何でそんな見た目クマ?」

 

「話すと長くなる。怪我は無いみたいだし、まずは自分たちの鎮守府に来てくれ。ここから近いんだ」

 

「悪いけど球磨も木曾も艤装が無いクマ。そこんとこどうするクマ?」

 

 なぜこの二人が艤装もなく海を高速艇で渡っていたのかが気になったが、ウツギはその考えを後回しにしてどうやって連れて帰るか考える。するとアザミが突然、球磨の股下に頭を突っ込み球磨を肩車した。なるほどこの手があったか。

 

「わ、わ、わ、何するクマァ!?」

 

「うるさい......大人しくしロ......」

 

 アザミが球磨を肩車したまま言う。

 

「こうする......運ブ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「第三横須賀鎮守府、艦隊名セレクトRK3所属の球磨だクマー」

 

「同じく木曾だ」

 

「ようこそ、第五横須賀鎮守府へ。提督の深尾 圭一だ」

 

 場所は球磨と木曾がシエラ隊に救出された島から変わり、第五鎮守府の食堂。球磨と木曾の所属を聞いた深尾が、二人を元の鎮守府へ帰すために第三横須賀へ電話を入れることを二人に確認して、なぜか執務室ではなく食堂にしかない固定電話で連絡を取ろうとする。ちなみに全員食堂に集めたのは電話のあるここで話をするのが、わざわざ場所を移動しなくて済むという深尾の判断だ。

 

 ウツギは通話中の深尾と、助けた二人組を交互に見る。どういうわけか、元の居場所に無事に帰れることに喜んでもいいはずの二人組の表情はどことなく暗かった。

 

「......はい......はい....はぁ......?」

 

「っ......!わかりました。こちらで引き取ります......」

 

通話が終わった深尾が受話器を置いて、一息つくと、身を翻し球磨と木曾に向き合う。ウツギは電話を切るときに深尾が言った「こちらで引き取ります」という発言が引っ掛かっていた。

 

「......お前たち二人は俺の艦娘になった」

 

「はぁ!?なんだそりゃ!?」

 

「あぁやっぱりクマ」

 

深尾の発言にまるで意味がわからないと言うふうに突っ込む天龍を遮って球磨が言う。曰く、「自分と妹は元の鎮守府が嫌で逃げてきた。」と。球磨の衝撃的な一言を聞いて漣が質問する。

 

「なんで逃げてきたの?あと島で言ってた「クソ野郎」も関係あったり?」

 

「おぉ!まさにそれクマ!その「クソ野郎」の蛮行に耐えかねて出てきたクマ」

 

「ひとつ聞きたいことがある。第三の提督は今なにやってるんだ?」

 

深尾が漣と球磨の間に割り込んで喋る。シエラ隊の面々は深尾の発言の意味が解らず首を傾げていると、今度は木曾が質問に答える。

 

「提督なら病気で療養中だ。まぁ一度も見たことねぇんだけどな。今あそこを仕切ってんのは一人の艦娘だ」

 

「へぇ~変わった鎮守府ッスね。んで、提督さん、この二人をうちで引き取るってどう言うことッスか?」

 

「向こうの指揮を取ってる艦娘、お前とは違う天龍が電話に出てこう言ったんだよ」

 

 どうやら向こうの鎮守府は天龍が指揮を取っているらしい。別に同じ艦娘が複数いることは珍しくも何ともないが、「シエラ隊」の天龍の表情が険しくなる。そして天龍の顔をちらりと見てから深尾が続ける。

 

「球磨と木曾?あぁあの使えないゴミか。そっちで勝手に処分してくれ。ってな。自分の耳を疑ったよ。」

 

「おぉうそりゃまたスゴい挑発的な発言......」

 

深尾の言葉で空気が凍りつく。もっとも漣だけいつもの調子の返しを入れたが。そんな悪い雰囲気に包まれた食堂で天龍が球磨に話しかける。

 

「なぁ、球磨......だっけ?俺を見て何とも思わないのか?」

 

「え?何言ってるクマ?」

 

「何って、だって向こうで提督替わりやってる天龍が嫌で逃げてきたんだろ?俺も天龍だし、嫌じゃないのかなって......」

 

「天龍!?お前がか!?」

 

二人の事を心配しての天龍の発言に木曾が目を丸くする。どう言うことだ?とウツギが思っていると、同じく驚いていた球磨が口を開く。

 

「天龍?お前がクマか?全然見た目が違うクマ。あっちの天龍はもっと汚れた目をしてて、髪がボサボサで、なんか高そうな服着て威張り散らしてたクマ」

 

「ちょっと想像できないな......」

 

 基本的に天龍に良いイメージしか持っていなかったウツギがそうこぼす。ツユクサや漣も同感だったようでイマイチ想像できないと言ったあと、球磨が第三鎮守府の天龍について喋り始める。

 

「あいつは本当に酷かったクマ。給料はろくに払わず自分で浪費したり、建造された生まれながらの艦娘と志願してきた元人間の艦娘って知ってるクマね?その元人間の艦娘に、自分達建造艦よりも劣等種だ!とか抜かして暴力は日常茶飯事。しかも最近はたちの悪いことにリンチした艦娘ん使って深海棲艦化実験までやってるクマ」

 

「えぇぇぇぇぇ!?大問題じゃないですかぁ!?」

 

 いままで黙って話を聞いていた明石が怒鳴り声に近い驚きの声を漏らす。そんな彼女の姿を見たウツギは「深海棲艦化実験」という自身の知らない単語を明石に聞く。

 

「その、なんとか実験というのは何なんだ?」

 

「生きたままの艦娘に深海棲艦の細胞を投与して、無理矢理人体改造するっていう技術です。人道に反するって言われて禁止になった手術ですよ」

 

「人道に反する......?そんなことを言ったら自分のような死体を弄んで作ったリサイクル品も人道に反する存在じゃないのか?」

 

そう返すウツギに明石は丁寧に、ウツギ以外の周りにも向かって説明する。

 

「そりゃウツギちゃんたちもちょっとアレな存在かも知れないけど....でも、「工程」が全然違うんだよ。資源再利用艦の死体はちゃんと他の鎮守府の提督や姉妹艦、元が人間のなら親御さんの「許可」を貰って取り寄せたものなんだよ。臓器提供の延長線みたいな感じかな。でも実験のほうは許可もなく生きた艦娘を麻酔もなしにいじくり回すの。まぁ許可なんて取れるわけが無いよね。だってわざわざ自分の妹や娘がもがき苦しむような実験に送るわけがないし。そして、一番の違いは......」

 

明石が一呼吸置いて続ける。

 

「素材になった子が苦しむか苦しまないか。そこに尽きるかな。」

 

「......そうか。ありがとう明石さん、丁寧な説明でわかりやすかった」 

 

 明石の説明を聞いてシエラ隊、球磨と木曾の二人、そして深尾の表情がより一層険しくなる。そんな更に重くなった空気のなか球磨が深尾に向かって言う。

 

「深尾さん、頼みたいことがあるクマ」

 

「なんだ?」

 

「あいつをどうにかして僻地に飛ばしてやれないクマか?」

 

「やってやりたいとは思うさ。今のお前さんと明石の話を聞いたらな。でも無理だ。俺たちはまだ新参、権力もコネもなしに上に噛みつけるとは思えん」

 

「......そうクマか。ごめんなさいクマ、今の発言は忘れてほしいクマ」

 

 深尾のもっともな返答に球磨が申し訳なさそうに頭を垂れる。深尾がとりあえず執務室に戻ろうと、席を立ち上がったとき、電話が鳴った。深尾が受話器を取って喋るところを八人の艦娘が見守る。数分後、通話が終わったのか深尾は受話器を戻し、球磨に背中を向けたまま言う。

 

「良かったな球磨。お前の願いは叶うかもしれないぞ。噂の第三鎮守府サマからの電話だった」

 

「クマ?」

 

「戦艦レ級って知ってるか?最近出た新しい深海棲艦だ。そいつの討伐部隊が第三鎮守府で結成されることが決まったらしい。そしてその部隊員は他の鎮守府から徴兵するらしいんだが、そいつと初めて交戦したって部分を買って」

 

 

 

 

 

「向こうがうちのウツギとアザミを名指しで指名してきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

深海棲艦化技術に着目し、極秘に研究を進めてきた第三横須賀。

被験者たちの生活や安全は、当然保証されない。

身体と心を蝕まれた彼女たちに救いの手を。ウツギとアザミは

血塗られたディストピアへと向かう。

 

 

 次回「セレクト EX-1」 ウツギ、危険へ向かうが本能か。




妄想捗りました。


オマケ ツユクサの容姿です。下手ですんません! 


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セレクト EX-1

お待たせしました。今回もキャラ崩壊マシマシなので注意!


 

 

 

 

「静かにしろぉぉぉぉ!!」

 

 カーキ色の軍服を着た艦娘、「天龍」の怒鳴り声が響く。三十人ほどの艦娘が集められ、非常に賑やかなこの場所は「第三横須賀鎮守府」の屋外集会場だ。

 既に第三鎮守府から召集されていた、ウツギとアザミはそれぞれ「E08」「E09」と書かれた黄色いライフジャケットをいつもの迷彩柄の作業着の上から着こんで、この場所に立っていた。話に聞いていた通り俗物の香りがするヤツだな、とウツギが壇上で喋る天龍を品定めしていると、続けて怒鳴り声で「ヤツ」が喋る。

 

「今日からお前たち「セレクト EX-1」の面倒を見てやる天龍だ!!俺がお前たちの上に立ったからには安心しろ!!んん、質問があるならこのあと俺のところに来い!!わかったな!!」

 

 言葉通り行動するなら悪いやつじゃないんだがな......ウツギは既に彼女の数々の蛮行を球磨や木曾から聞いていたため目の前で堂々と喋る女の事をまったく信用していなかった。ウツギが隣のアザミに視線を向けてみると、心なしか普段より更に無表情な気がした。考えている事は同じだな。

 ウツギがそう思っているといつの間にか天龍は降壇し、周りがまたざわつき始める。そのときウツギに声をかけてくる艦娘が居た。

 

「よう。覚えてるか」

 

「.........?あぁ大規模作戦の時に......」

 

 数秒ほど記憶を(さかのぼ)って目の前の艦娘と大規模作戦で会っていたことを思い出したウツギがそう返答する。

 

「当ったりぃ、あん時は助かったぜ。変な見た目の割にはちゃんと援護してくれてよ」

 

「変な見た目は余計だ」

 

「わりぃわりぃ。んじゃ、改めて。アタシは「摩耶」ってんだ」

 

「ウツギだ。隣は自分と同じくリサイクル艦のアザミだ」

 

「......どうモ.........」

 

「へぇ、お前はまだ普通の見た目なんだな。っとこれから同じ部隊になるらしいしヨロシクなっ!」

 

 気さくで取っつきやすそうな艦娘だな、とウツギが思っていると、彼女は手を差し出し握手を求めてきたのでウツギは素直にそれに応じた。摩耶か......確かツユクサの元になった重巡の艦娘だったな。さっそく心強い味方ができたかもしれない、とウツギが打算的な考えを浮かべていたところへまた一人艦娘が来る。

 

「摩耶、探したわよ、なにやって......誰?そいつら」

 

「あ?んぁ曙か。前に言った大規模作戦で援護してくれたやつだ」

 

「ウツギだ。こっちはアザミ」

 

「ふ~ん...この白いのがね。私は「曙」。せいぜい足引っ張らないようにね」

 

「善処する」

 

 曙と名乗った艦娘がウツギに釘を刺す。こちらは摩耶とは違って取り入るのは少し難しそうだ、とウツギがまた打算的な考えを浮かべているとき、「E07からE12までのヤツは作戦会議室に来い!!」と無駄にやかましい放送がかかる。ウツギ、アザミ、摩耶、曙の四人に、更にウツギには名前のわからない二人の艦娘が移動を始める。歩いている途中の「あいついちいち怒鳴らねぇと喋れねぇのか?」という摩耶の発言にもっともだとウツギが思っていると、部屋の前に着く。先頭に居たウツギには名前のわからない艦娘がドアをノックして部屋に入る。以下五名が続いて部屋に入ると、はたして例の天龍が部屋の真ん中に居た。その隣には何やらまたウツギには見たことがない人物が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「陽炎、ウツギ、アザミ、摩耶、曙、由良。全員居るか。今後の君たちの動きを説明する。」

 

「こちらの御方は、現在第一大湊警備府(おおみなとけいびふ)の提督である、緒方(おがた) 亮太(りょうた)閣下だ!!くれぐれも粗相のないように!!」

 

「天龍くん、大丈夫だ。あぁ君たち、堅苦しいのは好きじゃない。肩の力を抜いて俺の話を聞いてくれ」

 

「えっ?あっ...んん、そうだお前ら、肩の力を抜いて聞け」

 

 一体粗相をしているのはどっちだろうな。そう考えながら、ウツギは目の前に居る体格の良い男、緒方提督の話を聞く。

 要約すると、自分たちセレクトEX-1は総勢24名の艦娘で構成される大艦隊であり、その中でもE07番からE12番の艦娘で構成された(ウツギとアザミは08と09なので当然含まれる)部隊は個別に「アルファ隊」と呼び、このアルファ隊を中心に作戦が展開されるらしい。

 なぜこんなあまり火力が無さそうな艦隊が中心なのかとウツギが考えていると、尚も説明を続ける緒方によれば、どうやら「指揮を取るのが天龍だから」という理由があるからだった。冗談がきついな......と心の中で悪態をつくウツギに説明を終えた緒方が話し掛ける。

 

「ウツギとアザミ...で、合ってるよな。初めてPF(ピーエフ)と交戦したと言うのを聞いたが、その感想が聞きたい。」

 

「感想と言われても......自分はただ無様にやられただけで、なにもできなかったから...」

 

「強い......それだケ......」

 

「ふむ......二人とも資料によれば新人にしては戦果を稼げているようだが......まるで歯が立たないか......伊達にPFなどとつけられていないか」

 

 肩の力を抜け、と言われたのでウツギとアザミがとくにかしこまった口調ではなく、いつもの調子で答える。そこにあの天龍が質問してくる。

 

「あの~、閣下。そのPFと言うのは?」

 

「パーフェクトフリート。上が付けたレ級の別称だ。天龍、そんなことも知らないで奴の討伐部隊を任されて大丈夫なのか?」

 

「名前の通り、何でもできるSFの艦船のような......人間ならスーパーマンのような奴だからPFなんて呼ばれているんだろうな」

 

 緒方に苦言を呈された天龍にウツギが補足で説明をする。するとそれを聞いた天龍がウツギに問い詰める。

 

「てめぇ、知ってるくせになんで教えなかった!」

 

「「話の通じる相手」なら教えていたさ」

 

「なっ...!?こ、こいつ!」

 

 変に突っかかってくる天龍に、ウツギは普段しないようなニヤリとした笑みを浮かべて、わざとらしく目の前の女を挑発する。案の定激昂(げきこう)してウツギの胸ぐらを掴む天龍を緒方が制止する。

 

「やめろ天龍、ウツギも何があったのかは知らんが挑発なんかするんじゃない。会議は終わりだ。皆、各自の部屋に戻るように。」

 

「っ......!!チッ......解りました......」

 

「......」

 

 今にもウツギに殴りかかりそうだった天龍は緒方の言葉を聞いて舌打ちをし、襟首を掴んでいた手を放す。やることは全て終わったので六人の艦娘と緒方提督が部屋を出ていく。そのとき、(かす)かだが部屋を出るウツギには不思議とはっきり「ヤツ」が(つぶや)く声が聞こえた。

 

 

 

「潰してやる......」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議が終わって、召集された艦娘用の部屋へ向かうため廊下を歩いていたウツギを、彼女を追い掛けてきた摩耶が話しかける。

 

「お前度胸あんなぁ。知ってるか?あいつ、気にくわないやつを大勢で囲んで半殺しにしたとか噂が出てるんだぞ?」

 

「別にどうってことない。こちらもあいつが嫌だった。それだけだ。それに、摩耶のような立場も戦闘も強い艦娘の近くにいれば問題ない」

 

「お前なぁ......」

 

 摩耶が呆れた顔でウツギを見る。その会話の後も、今後の身の振り方は考えて行動したほうがいいぜ?などと摩耶から釘を刺されながらウツギが廊下を歩いていると、すぐ近くのドアが開き中から艦娘が出てくる。ここは鎮守府なので特に珍しいことでも何でもない。

 もっとも、

 

 

 

部屋から出てきた艦娘は両足が無く、少し地面から浮いていて、服の間から覗く肌がほんの少し青みがかった真っ白で、黒く光る生物的なデザインの艤装をつけているというとても「普通ではない」状態だったが。

 

 

 

 その艦娘を見たウツギと摩耶の思考が、一瞬、完全に停止する。そして咄嗟に身構える二人にその謎の艦娘がごく普通に挨拶をしてくる。

 

「こんにちワ。」

 

「っ!?こ、こんにちは......」

 

「ちっ、ちーっす......」

 

 戸惑いながらもウツギと摩耶が挨拶を返すと、その艦娘(?)は屈託の無い笑顔で二人にお辞儀して、書類の束を持って廊下の奥へと消えていった。数秒ほど固まっていた二人のうち摩耶が先に喋る。

 

「見たよな、今の?」

 

「あぁ。なんだアレは......」

 

「どう見ても深海棲艦......だよな?お前の親戚とかじゃなくて......」

 

「馬鹿言わないでくれ、自分はあいつのような......艦娘は初めて見た。いや、そもそも艦娘だったのか?」

 

 内心、酷く動揺しながらウツギが摩耶にそう返す。第三者視点からの自分はあんな感じなのか?という場違いな感想を心の片隅に置いて、ウツギは物思いにふける。

 そしてこのとき、正直なところ、本当に違法な実験などやっているのか?と球磨や木曾の言葉を疑っていたウツギは己を恥じた。

 なぜなら、彼女の中での「第三は天龍主導のもと、危険な実験をおこなっている『かも』しれない」という疑念が

 

 

 今、目の前を通った艦娘を見て「確信」に変わったからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

セレクトEX-1の初陣が始まる。

しかし部隊は天龍の作戦ミスにより、壊滅の危機に陥る。

そんな時、ウツギに天龍は、ある「命令」を下す。

 

 次回「死線」 砲が唸り、空気が吠える。




ゲス天龍登場回でした。


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死線

大変お待たせ致しました。急ピッチで仕上げたので文章がおかしいかもしれません。


 

 

 

 

『もしもーし。球磨だクマー』

 

「ウツギだ。今、時間あるか?」

 

『こんな時間にどうしたクマか?』

 

 謎の艦娘と会ってから数分後、ウツギは割り当てられた自室の電話で第五鎮守府に居る球磨と連絡をとっていた。電話の内容はあの「深海棲艦のような足が無い艦娘について」だ。

 

「ついさっき廊下を歩いていたら、自分のような容姿の艦娘が居たんだ。どんなヤツなのか少し詳しく教えてほしい」

 

『ん~、球磨が知ってるだけで三人ほど頭に浮かんだんだけど、どんな子だったクマか?』

 

 あんなのが少なく見積もって三人も居るのか......。ウツギは少し戸惑うがそのまま通話を続ける。

 

「さっき見たのは......両足が無くて、少し地面から浮いてたな」

 

『あ~はいはい、わかったクマ、それ春雨ちゃんクマね。あの子は頑張りやさんでいい子クマよ~』

 

「その言い方だと友達か何かでよく喋ってたりしたのか?」

 

 ハルサメ......駆逐艦の艦娘か。確かに足が無くて全体的に白かった事を覗けば、元の姿と同じだな。ウツギが手元に用意した艦娘の名前と姿が載っている資料を引きながらそんなことを考える。それと同時に、なんだか妙に球磨が嬉しそうに喋り始めたので、ウツギが疑問に思って聞いてみる。

 

『仲が良いも何も、球磨は何度もその子に命を助けられたクマ~。多分、そこで一番強い子だクマ~』

 

「......何だと?」

 

 電話越しの球磨の口からさらりととんでもない発言が飛び出したので、ウツギが慌てて質問する。

 

「この鎮守府で最高戦力だと...?さっき見たがここは戦艦や空母だって充実してるんだが......」

 

『いやいや、ウツギ、あんな天龍にすり寄って甘い汁をすすってる奴等とは比べ物にならんクマ。......皮肉なことに春雨ちゃんは深海棲艦になってから桁違いに性能が上がった子なんだクマ』

 

 若干受話器越しの球磨の声のトーンが落ちる。あんまり言いたくないことだったのか、不味かったな。ウツギは何となく察して次の話題に切り替える。

 

「そうか......わかった。あと、さっき言ってたな。残りの二人について教えてくれ」

 

『わかったクマ~。ええっとまず......』

 

 通話が終わったウツギはそっと受話器を戻し、特にやることもなく、夜も遅かったので床についた。そして

 

 

 

「許すわけにはいかないな......あの女」

 

 

 

 そう呟いてから、ウツギはベッドの上で眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ウツギは朝食を早めに済ませると、あらかじめ取り寄せていた暁の艤装を装着して集合場所の海上に立っていた。集合時間に余裕があったので、大規模作戦の時から使い続けているスナイパーライフル(レ級に唯一壊されなかった武器だったので、例の痩せた男に返そうとしたが「どうせ使わないからやるよ」と言われて貰ってきた)の手入れをやっていると五分ほどしてから、アザミや摩耶たちも集合場所にやって来る。

 

「集まったかぁてめぇら!!じゃぁ行くぞォォ!!」

 

 最後にやって来た天龍が自分の周りに戦艦の艦娘を陣取らせて、相変わらずの怒鳴り声でセレクトEX-1の艦娘たちを引き連れて海を進む。

 

「わざわざ前線に出んのかあいつ......意外だな」

 

 ウツギの隣で摩耶がそう発言する。ウツギも後方で指示を出すのかと思っていたので意外に思っていた。すると横に居た摩耶のさらにその隣に居た曙がこんなことを言い始める。

 

「自分も艦娘だから現場にいるほうが指示しやすいってことじゃないの?」

 

「あぁ、そう言うこと」

 

「まったく、少し考えればわかりそうなものだけど?」

 

「なっ!?お前相変わらず可愛くねぇな!」

 

 二人を見ながら仲の良さそうなやつらだな、とウツギが思っていると、急に部隊の行進が止まったのでウツギたちアルファ隊の面々もその場で停止する。考え事をしながら海を進んでいたため気づかなかったが、ウツギが前に居る艦娘たち越しに前方を見ると、戦艦の艦娘を引き連れた天龍の後ろに廃墟がある人工島が見える。全員居るかの点呼と隊列変換が終わったあと、例によって天龍が怒鳴り声で説明を始める。

 

「いいかぁ!!てめえら!!ここからこの廃墟で夜まで待ってからここの近くに溜まってるらしい敵に奇襲をかける!!」

 

「あのぅ......昨日と話が違いませんか?」

 

 軽巡の艦娘、由良が昨日の会議と全く違うことを喋り始めた天龍に突っ込みを入れると、天龍のそばにいた戦艦の艦娘にいきなり腹を蹴り飛ばされる。

 

「あぐぁっ...!?」

 

「あ゛?黙って聞けよゴミ」

 

 天龍が鬱陶しそうにそう言って、倒れた由良を何度も蹴りつける。いきなりとんでもないことをしだすやつだ......ウツギが止めに入ろうとしたとき、摩耶が眉間にシワを寄せて割って入る。

 

「おい、大丈夫か?てめ......んん、指揮官殿、何もここまでする必要はないんじゃないっすかね......」

 

 間に入った摩耶が、散々蹴られたせいで胃液を吐いている由良の背中をさすりながら天龍を睨み付けてそう言う。すると天龍の近くに居た由良を蹴ったのとはまた違う戦艦がヤツに耳打ちするのがウツギから見えた。

 

「提督代理、こいつらは一応他の鎮守府の借り物です。あまり痛め付けないほうがいいかと......」

 

「......今日は機嫌が良いから止めてやる」

 

 天龍は流石にマズいと思ったのか蹴った由良を放置して、説明を続ける。ここまで噂通りの下衆だといっそ笑えてくるな。ウツギの中でぐんぐん第三の天龍の評価が下がっていたが、そんなことはもちろん知らずに天龍は怒鳴り声で説明を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が暮れて、すっかり辺りも暗くなった頃。ウツギは天龍が指定したポイントにアルファ隊のメンバー......にプラスして天龍たちの部隊と一緒になって陣取っていた。ちなみにこの場所は天龍が勝手に拠点にすると提案した場所からかなり敵の陣地に踏み込んだ場所だが、まだ誰も敵の姿を見ていないという不自然かつ異様な雰囲気が漂っていた。 

 こんなところで固まっていて後ろから敵に囲まれでもしたら一大事だな。そう考えながら索敵を行っていたウツギがすぐ後ろに居る天龍に報告する。

 

「熱源反応、前方に敵が固まっているみたいです」

 

「ウツギ......先に行って敵を引き付けろ」

 

「......自分一人で、ですか?」

 

「当たり前だ......」

 

 天龍が下品な笑みを浮かべながら、ウツギに命令する。周りにいる戦艦の連中も見下すような笑顔を浮かべており、非常に気味が悪い。その戦艦組の後ろに居た摩耶や他の艦娘たちは何も言えず歯を食い縛っていた。アザミだけは無表情だったが天龍を見る目がどこか冷たい気がする。

 

「......了解」

 

「フフフッ......そうだ......そのまま突撃して敵を引き付けろ......」

 

 ウツギが無表情で艤装の盾を構えてそのまま一人で敵陣に向かって前進する。天龍たちの視界からウツギが見えなくなった頃、天龍とその取り巻きがいっそう下品な笑みを濃くするのを見た曙が突っ込みを入れる。

 

「すみません、指揮官殿」

 

「あ?なんだよ」

 

「流石に彼女一人だけでは陽動すら出来ずにやられてしまいます。せめてもう一人つけるべきでは...」

 

「ウツギ......危なイ......」

 

「ふん、ほうっとけ」

 

「それともうひとつ」

 

「あぁん?今度はなんだよ」

 

「ここは敵陣のほぼ真ん中です。後ろも警戒したほうが良いかと...」

 

「レーダー見たかお前?前にしか反応がねぇんだから前見てりゃいいんだよ」

 

「っ......了解」

 

 話にならないと判断した曙が素直に従うふりをて、天龍たちに対して背中を向ける。その時だった。

 

「ん?」

 

 何かを察して後ろを見た戦艦の上半身が消し飛ぶ。

 

「きゃああぁぁぁぁ!?」

 

「て、敵!?囲まれています!!」

 

「何だとぉ!?こいつら一体どこから!?」

 

 天龍たちの後方から凄まじい砲弾の嵐がやってくる。不意打ちだったためか、既に五名ほどの艦娘が再起不能レベルの負傷を負ってしまい、それを見た摩耶が舌打ちをして砲を構えて臨戦態勢に入る。

 

「チッ、クソが!言わんこっちゃない」

 

「撤退!撤退だ!!」

 

 いきなりの敵の攻撃に動揺した天龍がまだ何もしていないのに撤退命令を出す。それを見て、アルファ隊の面子は砲を構えながらあきれ果てていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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まんまと敵の罠にかかったセレクトEX-1。

そこへ、違和感を感じて戻ってきたウツギが合流する。

彼女たちはこの危機を乗り越え、鎮守府へ帰れるのか。

 

 次回「ワン・オペレーション」 無能な味方はただの荷物。




ゲス天龍が大活躍だよ!やったね!(白目)


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ワン・オペレーション

遅れを取り戻すため連投。


 

 

 

 

「何も無いな......」

 

 天龍の命令通りに単身突撃してきたウツギが呟く。レーダーの反応通りならこの辺りは既に一面敵だらけでもおかしくないのだが、どういうわけか蟻一匹見つからないほど廻りは静まり返っている。

 

「ん...?これは......」

 

 ウツギが目の前に死んでいる重巡級の深海棲艦を見つけた。ふと気になってその死体を触ってみる。ついさっきまでは生きていたのか、ほのかに暖かい。まさか......

 

「当たり......だな」

 

 夜の闇で暗い辺りをよく目を凝らして見てみる。予想通り、周囲には駆逐艦から戦艦まで幅広い深海棲艦の死体が転がっていた。しかもどういうわけかどの死体もほのかに暖かい。レーダーはこれを誤認した訳か。そうウツギが判断して戻ろうとした時だった。彼女がもと来た方向から凄まじい爆発音と悲鳴が風にのって聞こえてくる。

 

「やっぱりか......!」

 

 ウツギはすぐに来た道を戻ろうとする......が、自分が今駆逐艦の砲しか敵に有効な武器を持っていない事を思い出す。砲撃音の数からして相当の敵が居ることを把握したウツギは、これだけでは弾が足りないかも知れない。そう思い、何か使える物がないかと廻りを見る。

 

「損傷は無い......使えるか?」

 

 最初に見つけた重巡リ級が腕に固定していた砲を無理矢理ひっぺがし、ウツギは元々持っていたライフルと砲を背中のハンガーに取り付けると両手にリ級の砲を持ち、砲に付いていたベルトで腕に固定する。意外と軽いな、等と考えながら試しに砲を真上の空に向けて引き金らしきものを引く。普通の艦娘は深海棲艦の艤装は使えないらしいが......大丈夫だろうか。そんなウツギの考えは杞憂に終わり、砲からはしっかりと砲弾が発射された。

 

「問題ないか......ありがたく使わせて貰おう」

 

 一応、リ級の死体に礼を言ってから、急いでウツギは味方の居る方へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こいつ速っ...」

 

「助けてくれっ!!し、死にたくなっ......!?」

 

 突然後ろから現れたレ級と、レ級率いる敵部隊の不意打ちに、天龍の周りに居た戦艦の艦娘が艤装で防御する前に蹂躙され、訳もわからないうちに吹き飛ばされる。あまりにも役に立たない天龍護衛部隊に、摩耶が毒をはく。

 

「クッソ、あいつら戦艦だろ!何でこんな弱いんだよ!」

 

「大方、録に実戦出てなかったんでしょきっと。だから防弾のやり方も知らないし、集中砲火なんて受けるのよ」

 

「役......立たない......荷物メ......!」

 

 辛うじて襲撃を察知し攻撃をうまく切り抜けたアルファ隊の面々が弾幕を形成して後退する。そこへ、レ級が一人で摩耶に向かって突進してくる。その顔に楽しそうな笑みを浮かべながら。

 

「っ...!こっち来んなっての!」

 

 事前にウツギとアザミから接近戦は危険だと知らされていた摩耶がレ級に向かって対艦用の手榴弾を投げつける。一瞬だけ怯んだ隙を見て、急いで後ろにバックして砲撃を叩き込む。が、摩耶はあまりダメージか通っているようでは無さそうだと感じていた。と言うのも、砲撃の爆炎が晴れたと同時に今度は天龍の方へとレ級が向かっていったのだ。

 

「指揮官殿、そっち行きやしたぜ!」

 

「うわっうわぁぁぁ!!来るなぁぁ!!」

 

 天龍が顔を青くしながら、滅茶苦茶にレ級に向かって砲を乱射する。もうほとんど至近距離と言ってもいいような距離ですら砲撃を外しまくる天龍に摩耶が呆れていると、その時、突如レ級の背中で大爆発がおこる。何事かと振り返ったレ級の目線の先にはスナイパーライフルを構えたウツギが居た。

 

「はっ、早く始末しろぉぉ!!」

 

「お前の相手はこっちだ」

 

 完全に腰を抜かして、尚も当たらない砲撃を繰り返している天龍を無視して、ウツギは片手に盾、もう片手に持っていたライフルを背中に仕舞うとリ級から拝借してきた重巡の大口径砲を構える。ウツギを視界に捉えたレ級が顔面に張り付けた笑顔をよりいっそう濃くして、ウツギに向かって突進してくる。

 

(攻撃は当たっている......傷も出来ているが消耗している様子がないな......)

 

 相手に近づかせないようにと、内心焦りながら必死に弾幕を張るウツギの額には冷や汗が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大規模作戦の時の経験をもとに、ウツギは絶対に距離を詰めさせてなるものかと突っ込みながら尻尾のような部位から砲撃を行ってくるレ級から距離を取りながら盾で砲弾を受け流す。

 しばらくすると、何故かレ級が突進を止めてその場に停止するので、不審に思ったウツギもその場に止まる。何時の間にずいぶん遠くまで来てしまったな、などとウツギが考えていると、レ級が話しかけてきた。

 

「その盾...頑丈だな。とても駆逐艦の装備だとは思えん」

 

「......喋れたのか」

 

「失礼なヤツだな、俺を他のやつと一緒にするとは」

 

 意外と饒舌なやつだな、とウツギが考えながら、持っていた盾をさする。レ級の言う通りウツギが持っている暁の艤装の盾は普通の物ではなく、大規模作戦の時に破壊された青葉の艤装を潰して作った装甲材で補強してある。流石に戦艦級の砲撃を、角度をつけて弾いたとはいえ、何度も無茶をさせてしまったためか装甲の表面が深くえぐれている。

 

「あの島の時以来だな」

 

「随分と物覚えが良いみたいだな」

 

「覚えているさ......俺が初めて吹き飛ばしてやったのがお前なんだから」

 

「......そうか」

 

 言うが早いかレ級がまた砲撃を繰り出してくる。また受け流そうとウツギが盾で砲弾を弾くが、流石に限界が来たのか、足した部分の装甲がそのまま吹き飛ばされる。弾の当たった衝撃で仰け反るウツギに向かって、ここぞとばかりにレ級が殴りかかってくる。

 

「もらったぁぁぁぁ!!」

 

「......ッ!!」

 

 レ級の拳がウツギの銅に深く突き刺さる......寸前に素早く背中からスナイパーライフルを取り出したウツギが、引き金を引く。すると例によって大爆発が起き、いきなりの出来事にレ級がたまらず距離を取る。

 

「ぐっ...!?姑息な手をっ!」

 

 煙が晴れて、レ級が辺りを見回す。どういうわけかさっきまですぐ近くに居たウツギの姿が消えている。あいついったい何処に行った......そんなレ級の思考はウツギの後を追いかけてきた摩耶達の砲撃によって中断される。

 

「5対1......流石に分が悪いな......」

 

 不意打ちまでやったのに全滅するとは......弱い奴等だ、と味方の悪口を言いながらレ級は身を翻し、夜の闇へと消えていった。

 

「クッソ、逃げたか!曙、他に敵は?」

 

「さっきのあいつで全部よ。まったく、ひどい目にあったわ」

 

「ウツギ......遅かったか......畜生、いい奴ばかり早死にしやがって......」

 

「勝手に殺さないでくれ」

 

 摩耶が項垂れているところへ、何処からか声が響く。

 

「へっ?」

 

「っ......と、また艤装がめちゃくちゃだ......」

 

 摩耶の近くの水面からウツギが這い出てくる。レ級の攻撃を受けた艤装のシールド部分は激しく損傷しているが、本人は至って元気そうだ。

 

「えええぇぇ!?お前潜水艦でもないのに潜れるの!?」

 

「?言わなかったか?戦闘は無理だが潜るだけなら出来るぞ」

 

「へぇ~ずいぶん便利な体してるのね」

 

 曙が疲れた顔でそう言ってくる。摩耶やアザミが砲を降ろしているのを見て、作戦が一応終わったことを察したウツギが摩耶に聞く。

 

「......アルファ隊の艦娘しか居ないが天龍たちはどうしたんだ?」

 

「あのクソ指揮官ならあっちで腰抜かしてるわよ」

 

「あぁ。そうそう、あと取り巻きの戦艦連中はみんな爆散したぜ」

 

 摩耶と曙が疲労の色をいっそう濃くした顔でそう説明する。それを見たウツギはため息をついてから鎮守府に帰投する旨を知らせる無線を入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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辛くも死線をくぐり抜けたセレクトEX-1、アルファ隊。

今の艤装のままではまだレ級には勝てない。

そう結論付けたウツギはある人物へと協力を仰ぐ。

 

 次回「チューン工房N」 実戦セッティング開始。




腰抜かしても戦い続けるゲ天ちゃん健気(白目


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チューン工房N

漣「ご主人さま、漣の出番まであとどんくらい?」
深尾「当分先だな」
漣「え゛!?」


 

 

 

 数日前に天龍が召集した艦娘を集めて演説を行った、第三鎮守府の屋外集会所。そこに、先日の天龍の作戦ミスにより敵の強襲を受けてなお生き残ったセレクトEX-1の艦娘達が集められていた。何人かの艦娘は体の至るところに包帯が巻かれてある痛々しい姿で、それと合わせて、怪我を負っている負っていないに関係なく、ほとんどの艦娘が、自分達から少し離れたところで項垂れている天龍を睨み付けている。集会所の壇上に登った男 つい二日ほど前に作戦の説明などをやった緒方提督 が全員集まったことを確認したあとマイクのスイッチを入れて喋りだした。

 

「諸君、作戦は無事......というわけでもないが一応終わった。ご苦労。そして私から言わなければいけないことがある」

 

「今回の作戦で、指揮系統の最上位に居たのは、君たちも知っているそこの天龍君だ。彼女を」

 

 

 

「現時点をもって提督代理の任を解く」

 

 

 

 緒方の発言に艦娘たちがザワつく。そこに......ウツギの予想通りに元気よく質問する艦娘がいた。あの天龍である。

 

「閣下!そ、それはどういう......」

 

「わからないのか?戦艦4、重巡2、軽巡1、駆逐6。今回の君の指揮を受けて散っていった艦娘たちだ。」

 

 自分の知らないところでおそろしいほどの大損害が起きていたんだな、とウツギが思う。そんなウツギのことなど気にせず 当たり前だが 緒方が続ける。

 

「この部隊は、各鎮守府から選ばれてやって来た選りすぐりの精鋭を集めて作った部隊だ。そんな戦力として貴重な艦娘を、よりにもよって初陣で、しかも半数に及びかねない数の人員が戦死したんだ。君の率いていた戦艦の艦娘は元々ここの所属だったようだがまあ些細な問題だ。他でもない君の指揮でこれだけの損害が出たのは変わり無いのだからな」

 

 緒方提督の話を聞いた天龍は歯を食い縛り、拳を握って震える。そんな状態の天龍が緒方へ向かって喋り始める。

 

「......処罰されるのは......俺だけなんですか」

 

「なに?」

 

「こいつらは......とくにこいつらは俺の命令を無視して独断行動をしました!処罰するべきです!」

 

 天龍が震えた声で喋りながら、ウツギたち、アルファ隊のメンバーが固まっている場所を指差す。天龍の言葉を聞いた緒方はというと、すこし疲れたような顔をして返答した。

 

「天龍、却下だ」

 

「え?な、なぜ...... 」

 

「お前に対する苦情も数えきれないほど寄せられている。お前の指揮能力に対する不信任だ!!」

 

 緒方が怒鳴りながら続ける。

 

「そしてお前の命令を聞かなかったと言ったな?聞いたぞ、アルファ隊の彼女たちからな。曰く、お前の命令通りなら部隊は全滅していた。曰く、お前がとても部隊を指揮できるような状態ではなかったから各自自己判断で動いたと!!これだけ言わないと解らないのか!?」

 

 緒方の発言に天龍は......なんと言うかウツギからは今にも泣きだしてしまいそうな状態になっているように見えた。一通り天龍への説教を終えた緒方が、今度は死亡した艦娘に代わる補充要員の発表を始める。しかしウツギは、これからレ級をどう攻略するか、提督代理を降ろされた天龍はどうなるのか、などという考え事をしていたので緒方の話が耳に入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーーーーッス!!おひさーーウツギ!!」

 

「うるせーぞツユクサ」

 

 集会が終わって部屋に戻ろうとしていたアルファ隊の前に、ウツギとアザミのよく知った顔の艦娘が現れる。どうやら補充要員とやらには自分の鎮守府の天龍とツユクサが含まれていたようだ。......どういうわけか天龍はいつもと服装などが色々違うが。

 

「どうしたんだ天龍、いつもの眼帯と服は?衣替えの季節だったか?」

 

「お前ってジョークとか言うんだ......ってちげぇよ。ここの天龍の評判がわりぃって聞いたからわざわざこんな格好してんだよ」

 

 苦笑いしながら、天龍は着崩した白いカーディガンをいじりながらそう返答する。髪もわざわざゴムで後ろに縛ってまとめていて、なんだか(まと)っている雰囲気まで変わっている......ような気がする。という感想をウツギが浮かべていると、隣に居た摩耶がなんともいえない微妙な顔でウツギに質問する。

 

「えっとさ、この二人ってお前の同僚なの?」

 

「そうだ。」

 

「ツユクサッス!仲良くしてくれるとうれしーッス!」

 

「天龍だ。なんかあんまりここで評判良くない艦娘だから来たくなかったんだけどな」

 

 ツユクサが相変わらずすっとぼけたハイテンションで、天龍は愚痴に近い自己紹介をする。すると天龍の自己紹介を聞いた摩耶、曙、陽炎、由良がどういうわけか溜め息をつく。なにか問題でもあったのだろうか。そうウツギが考えているとため息をついた四人が摩耶から順に天龍に向かって質問し始めた。

 

「天龍だよな、本当にお前天龍なんだよな?」

 

「いや、今言ったじゃん」

 

「趣味は?」

 

「えっ?......えっと、料理......とか」

 

「後輩に威張り散らした回数は?」

 

「まず威張る後輩が居ないし......」

 

「質問した相手を蹴飛ばす衝動には駆られますか?」

 

「いや怖い怖い怖いなにそれ!?」

 

「「「「いぃよっしゃぁぁぁ!!普通の天龍だぁぁぁぁ!!!」」」」

 

「えぇ......?」

 

 とくに何も考えずに自然体で返答した天龍に対して四人が狂喜乱舞する。「そんなにヤバイやつなのかここの天龍って?」と天龍が聞いてきたので、ウツギは「あの無能のせいで死にかけた」と返した。「マジかよ...」と言って頭を抱える天龍を見ながら、正直、躍り狂っている四人の気持ちもわからなくはないな、とウツギは「ヤツ」の顔を思い浮かべながら、自分の部屋へ向かって歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、俺ついてく必要あんの?」

 

「なにかあったときにすぐに逃げて他のやつに伝える人間が必要だ」

 

「へいへい、わかりました」

 

 すっかり日が暮れて、他の艦娘たちも寝静まっているような時間。ウツギと天龍は「ある艦娘」に会うために、鎮守府から少し離れた海に向かって進んでいた。今二人の手には普段海戦で使う砲や盾の類いではなく、何に使うのか夕食の残りのサラダの入ったタッパーが握られていた。

 目的地についたウツギがその場に停止し、天龍も止まる。停まった場所は、海から岩が二つ突き出ている以外は何もない場所で、天龍はウツギが何のためにこんなところへ、しかも夕食の残り物を詰めたタッパーを持って来たのかがわからず、ウツギに質問する。

 

「なぁ、ここに何があんだ?」

 

「会いたい人物が居るんだ。赤いボタン......あった、これか」

 

 ウツギが岩に埋め込まれていた、あきらかに人工物と思われるスイッチを見つけて何の躊躇いもなく押す。ビー! という何かの警報のようなものが静かな夜の海に響き渡る。そして

 

 

 スイッチを押した岩のすぐ下の水面から、ゴボゴボと音を立てて一人の深海棲艦が現れた。

 

 

 

「えっ......ひ、姫級の......」

 

 天龍は目の前に現れたこの深海棲艦を、艦娘に支給される図鑑で前に見たことがあった。該当する艦は自分の記憶が正しければ......

 

 

深海棲艦最強の艦種、「姫級」の「南方棲戦姫」だ

 

 

「わあああぁぁぁぁぁぁ!?出たぁぁぁぁぁ!?」

 

「天龍、大丈夫だ。敵じゃない」

 

「えっ?」

 

 初めて見る姫級の威圧感......のようなものを勝手に感じ取って悲鳴を上げる天龍をウツギがなだめる。そうだ、よく考えれば敵とわかってて来るわけがない。なにやってんだ俺......そんな事を考えながら天龍が乱れた呼吸を整える。すると目の前にいる南方棲戦姫が周りを見回してからこちらに話しかけてきた。

 

「ん~、囮捜査じゃないね。さ、早く貸して」

 

「は?」

 

 相手の言っている事が理解できなかった天龍が思わずそう溢す。するとウツギが南方棲戦姫に応対する。

 

「初めまして、陸奥さん。第五横須賀鎮守府所属のウツギと申します。今日は挨拶に来ました」

 

「あら、よく見たら一見さん?......あれ?でもなんで陸奥って知ってるの?」

 

「球磨から聞きました」

 

「あら~そうなの?いま球磨ちゃん元気?」

 

「ピンピンしてますよ。多分」

 

「ええっと......あのさ」

 

 二人の会話についていけない天龍が割って入る。

 

「えっと、この......陸奥...さんでいいのかな?何者?」

 

「球磨の言ってた、深海棲艦化実験の被験者だそうだ」

 

「そうそう。実験失敗で戦闘能力無くなったんだけどね~」

 

 けらけらと笑いながら陸奥がさらりと重大な事を言う。やられたことの割にはあんまり悲壮感の無い人だな......と思いながら、続けて天龍は聞きたいことがあったので陸奥とウツギに質問する。

 

「ウツギ、この持ってきたサラダは?」

 

「陸奥さんの好物だそうだ」

 

「え、何、差し入れ?お姉さん嬉しいわぁ~」

 

「はぁ~。あ、あとここで何してるんすか?」

 

「あれ、知らないのに来たの?」

 

 天龍の質問に陸奥が少しだけ間を置いて答える。

 

 

「ここは秘密ショップ、チューン工房N。食べ物持ってきてくれた子に、武器の改造をしてあげてるの!」

 

 

 はにかみながら、陸奥は得意気にそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

陸奥に艤装の改造を依頼したウツギ。

さらに対レ級のためにと、着々と彼女は準備を進める。

そんな準備中のウツギのもとへ、大規模作戦以来の「アイツ」が訪ねてくる。

 

 

 次回「とびきりのチューンドマシン」 ヤツに勝つため。セッティングに終わりはない。




というわけでちょっとだけおふざけ回でした。
第五鎮守府の天龍→女子力が高い
第三ゲス天龍→ゲス力が高い(笑)


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とびきりのチューンドマシン

お待たせしました。投下します。


 

 

 

 

「で、レ級に勝つために何するよ?」

 

「そりゃ、集中攻撃とか?」

 

「そんな簡単にうまくいったら楽なんですけどね......」

 

 ウツギが陸奥に暁の艤装の改造を頼んだ翌日。第五鎮守府所属の艦娘とアルファ隊の艦娘、合わせて8人が、第三鎮守府の艤装保管室に集まって無駄話に時間を費やしていた。というのも、例の作戦による被害により多くの艦娘が負傷したせいで、艦娘の治療用入渠ドックが順番待ち状態、艤装の修理も人員不足で追い付いていない状態であり、セレクトEX-1の艦娘は全員待機を命じられたため、ウツギたちは暇をもて余していたのである。もっともウツギは一人だけ作業中であったが。

 

「ウツギ、それって使い心地とかどうなんだ?」

 

「意外と悪くなかった。流石に拾ったままだと少しマズいからこんなことをやってるわけだがな」

 

 黙々と作業をこなしていたウツギに天龍が聞いてくる。ウツギは回収してきたリ級の艤装にペンキで色を塗っていた。なんでそんなことをしているのかと問われれば、簡単な話で、「これをそのまま使っていれば下手をすれば味方から敵と誤認されるから」だ。

 ウツギは割り当てられた自室に置いてあった戦闘機の雑誌に載っていたスプリッター迷彩の写真のページを開き、それを見ながら元は真っ黒だった艤装の装甲部分を白系統の塗料で塗りつぶす。やっと全面的に白一色で塗り終わったので、塗料が乾いたあとに模様を入れようとウツギが装備を壁にたてかけたとき、がちゃり、という音が響き、一人の艦娘が扉を開けて部屋に入ってきた。

 

「あのぅ、ここにまだ艤装の修理が終わってない人が居るって聞いたんですけど......」

 

 入ってきた艦娘の姿を見て、陽炎、由良、曙が少しだけ驚いた顔をする。というのもこの艦娘、深海棲艦じみた肌の色に、ばかでかい手袋?をつけた普通の艦娘からすれば妙ちくりんな格好をしていたからだ。......もっともウツギやツユクサという前例が居たせいか皆あまり驚かなかったが。ウツギは記憶を遡って前にいる艦娘の名前を思い出す。球磨の話に聞いた......夕張...だったか?とりあえずこいつで三人全員と顔を合わせたことになるな、と思っていると曙が夕張に話しかける。

 

「予定だと今日は六人ぐらい先客が居るって聞いたんだけど、もう終わったの?修理」

 

「あ、いえ、昨日整備班が増員されたんで、少し余裕が出来たんですよ」

 

 夕張がでかい両手を自分の前で絡めてもじもじしながら説明する。そのでかい手で艤装の整備と修理なんてできるのだろうか、とウツギが考えていると曙が続ける。

 

「へぇ......わかったわ。あと、アンタ名前は」

 

「あ、えぇと......軽巡ツ級といいます」

 

「ふ~ん。ねぇ聞きたいんだけど、ここの鎮守府ってなんで深海棲艦が働いてるのかしら?」

 

「っ......!えーと、えーと......ぼ、亡命してきたんですよ!......ちょっと向こうで虐められてるのに嫌気がさしたっていうか......」

 

 夕張......ツ級が曙の質問に対しておどおどしながらぎこちない返答をする。どうやら彼女や春雨は表向きはこちらに寝返ってきた深海棲艦ということになっているらしい。......と言っても既に事情を知っているウツギ、アザミ、ツユクサ、天龍はともかく、あまりにもツ級がまごまごして発言したものだから「亡命してきた」というせっかくの建前が摩耶たちにとって怪しさ満点であったが。

 返事を聞いて何かを察したのか、曙が「そう。変わった奴ね、アンタ」と言ってそこからはツ級を深く問い詰めずに自分の艤装を渡す。曙の中破した艤装を受け取ったツ級は「自分に任せてください。前よりも最高の状態にしてあげますよ!」と言って、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~このクレープ誰が作ったの?」

 

「自分だ。マズかったか?」

 

「いや逆逆、いままで食べたことないぐらいおいしいからちょっと感動しちゃった」

 

 前日と同じような深夜帯、ウツギと天龍は例の岩場で陸奥に会っていた。用件はもちろん改造する暁の艤装を渡しに来たのだ。渡された艤装を手にとって眺めながら、陸奥がウツギに聞く。

 

「で、どうしてほしい?火力を上げるとか、砲撃の連射ができるようにするとか。私に任せるっていうのもあるけど」

 

「あなたに任せる、を選ぶよ」

 

 ウツギの返事を聞いた陸奥が少し驚いた顔をして、聞き返してくる。

 

「任せるって......別にいいけど、本当に大丈夫?自分で決めたほうがいいんじゃないの?」

 

「いや、自分は艤装のことなんてなにもわからないから......任せたほうが良いかなっ...て」

 

「ふーん。わかった、明日までには仕上げてあげる。あ、あとさ、二人とも夕張ちゃんにはもう会った?」

 

「あの、すごく手のでかい軽巡のことか?」

 

 陸奥の質問に疑問形で天龍が返すと「そうそう、その子」と言って陸奥が続ける。

 

「もし、もしもだけど、改造した艤装が気に入らなかったら夕張ちゃんにも相談してみて。あの子なら多分あなたにピッタリの艤装に調整してくれるかもしれないから」

 

「随分信頼してるんだな。夕張のことを」

 

「そりゃ、もちろん。結構仲良かったからね~。二人仲良く戦えなくなってから、必死に整備の勉強して、みんなの役に立たなきゃっ、て頑張ったし」

 

 陸奥がどこか寂しそうな表情でそう言う。元は戦艦と軽巡の艦娘なのに艤装について精通していたのはそれが原因か、とウツギが考えていると隣の天龍の体が震えているのに気づく。なんだ?と思って顔を見ると、目元には涙が浮かんでいる。

 

「どうしたんだ、天龍?」

 

「いや......さ。こんないい人を酷い目に逢わせたアイツが許せねぇって思って......」

 

「えぇ~?心配してくれるなんてお姉さん嬉しくて笑顔になっちゃうゾ♪」

 

 泣きそうになっている天龍を茶化すように陸奥が言って、更に続ける。

 

「確かに今まであっちの天龍には酷い目に逢わされた......けどね、一つだけ感謝してることもあるの」

 

「アイツに感謝してることだと?」

 

 ウツギは陸奥の言うことの意味がわからないと思い首をかしげる。そんなウツギを笑いながら、陸奥が一呼吸置いて理由を喋り始めた。

 

「だって......さ」

 

 

 

 

「この姿になって......この場所に居るようになったから......だから貴女たちと会えて、こうやって楽しくお喋りできる運命に巡り会えた。そう考えるとほら、少しだけ嬉しくなるのよ。わかる?」

 

 

 

 

 言い終わった陸奥は、いつかの春雨が見せたような屈託のない笑顔を、その顔に浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、ウツギは目が覚めて素早く着替えを終えると、艤装保管室に向かった。例のリ級の艤装に施す塗装作業が終わっていなかったので、今日中に終わらせようと考えていたのだ。パックの栄養ゼリーを飲みながら廊下を歩いていると、ウツギがなんとなく窓から外を見る。すると妙に外に集まっている艦娘が多いことに気づく。あの場所は...ヘリポートがあった所か。何かあったのか、とウツギが思い、気になっていると、ちょうどよく外に出るところだった陽炎を見つけたので声をかける。

 

「こんなに大勢集まって、何が始まるんだ?」

 

「え?あぁウツギか。って私に聞かないでよ、ただなんか賑やかだから混ざろうかな~って......」

 

 質問したが陽炎も何の集まりなのかは知らなかったようで、ウツギから目をそらしてそう答える。すると数分後、バラバラバラ......という独特なローターの回転駆動音を響かせて一機のヘリコプターがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。アレは......大規模作戦の時に自分が乗ったのと同じやつか。艦娘たちが群がっているヘリポートに着陸しようとしている大型の輸送ヘリを見て、ウツギがそんなことを思い出す。どんなやつが何の用事で来たのだろうか。そうウツギが考えているとヘリコプターのドアが開き、自分の知っている艦娘が出てきた。秋津洲だ。

 また知り合いか......等とウツギが思っていると、辺りをキョロキョロ見回していた秋津洲がこちらに気づいて、歩いて寄ってくる。

 

「やっほーウツギちゃん!お久し振りかも!」

 

「......?自分に用があるのか?」

 

 いきなり自分のほうへ歩いてきた秋津洲にウツギが聞くと「ふっふっふ~......用事があるのは秋津洲じゃなくてあっちの人かも!」とヘリコプターを指差す。他にも乗っていた人間が居るのか、とウツギが秋津洲の指差す方向を見る。するとヘリコプターから出てきたもう一人の人物は、これまた自分のよく知る人間だった。

 

「久しぶりだな、ウツギ。元気か?」

 

「なっ......ワタリ!?なんでここに...?」

 

 輸送ヘリから出てきたのは、自分たちリサイクル艦を建造した男。(わたり) (とおる)だった。彼との久しぶりの再会にウツギは驚くと同時に疑問に思う。何故なら彼は軍人ではなく、研究所勤務の学者である。本来ならこんな軍事施設には来ないような人間なのだ。そんなウツギの疑問に渡が答える。

 

「いやぁなぁに。ちょっとウチの研究所で作ったロールアウト寸前の艦娘用の装備があるんだがね......ウツギがレ級に苦戦してるって聞いたんでこれ持って飛んできたんだ」

 

 秋津洲と渡がニヤニヤしながら、ヘリコプターから積み荷を降ろし、中身を取り出す。

 

 

 

 

「艦娘の艤装を半自動制御にする「サブコンピューター」だ。うまく使ってくれ。期待しているぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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陸奥の手によって改造された艤装、そして渡がもたらした補助制御CPU。

準備は整った。あとは実戦にて実践するのみ。 

これらの装備はウツギの役に立てるのか。

 

 次回「死神、三度(みたび)」 幸運を。死に逝く者へ、敬礼を。




ツ級ってかわいいよね(錯乱


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死神、三度

お待たせしました。自分の文才の無さに絶望した第14話、始まり始まり~(白目)


 

 

 

 

 

 

「こちらアルファ、E07、クリア」

 

『ブラボー了解、こっちもすぐに終わります』

 

『こちらチャーリー。敵が多い、支援してくれ』

 

『デルタぁ、チャーリーの援護に向かうッス!』

 

 どこまでも青空が広がる快晴の日の昼過ぎ。今、セレクトEX-1の艦娘たちは作戦行動の真っ只中だった。作戦の内容は至って簡単、「レ級が潜伏していると思われる海域の敵をしらみつぶしに殲滅して目標をあぶり出す」と言うものだ。

 前の大損害から、アルファ隊の中で一番レ級との交戦経験があるから、という理由で旗艦に任命されたウツギが敵艦隊の撃破報告を他の分隊へ済ませると、後ろに居た陽炎が声をかけてきた。ちなみに部隊メンバーは前と据え置きで、補充要員のツユクサと天龍はデルタ隊の方へと出張っている。

 

「で、どうなのソレ?使い心地は」

 

「良好だ。今のところはな」

 

 白と青のツートン迷彩柄の深海棲艦の艤装を指差して言ってきた陽炎にウツギが返答する。なかなか便利な物を貰ったな。ウツギが自身の持っていた砲に取り付けてある白い箱のような物を見ながらそんな事を考えていた。

 艤装後付け式・補助制御CPUシステム。別称、サブコンピューターと呼ばれる渡から渡された改造パーツだ。艦娘の装備する艤装の制御システムに強引にハッキング、CPUにあらかじめ設定しておいた部位を自動制御にする。ウツギが渡がいっていたパーツの説明を思い出していると、CPUのアナウンスが鳴る。

 

『熱源反応を感知しました。メインシステム、戦闘モード起動します』

 

「敵だ......構えろ」

 

「へ~い、りょーかい」

 

 アナウンスとレーダーの反応を見たウツギが摩耶や他の部隊員に命令して編隊を組みながら砲撃戦の用意をする。敵が視認できる距離まで来た頃、また続けてアナウンスが入る。

 

『敵艦隊スキャン開始...完了。戦艦1、軽巡3、駆逐2』

 

 またハズレか......スキャン結果を聞いてウツギが心の中で悪態をつく。すでに三回ほど敵の小規模艦隊と戦闘を行い殲滅しているが、まだレ級は出てこない。しかし敵には変わりないのでウツギは砲を構えて敵戦艦に、他の艦娘も思い思いに標的に設定した相手に砲撃を行う。

 

「よーく狙って......」

 

「ったく、ちょこまかと!」

 

 じりじりと敵とアルファ隊の距離が近づき、既にこちらの攻撃で相手の駆逐を二匹沈めたとき、またウツギの艤装に取り付けたCPUがアナウンスを発する。

 

『射程距離に入りました。副砲、発射します』

 

「頼んだ...」

 

 ウツギの持っていた副砲から自動制御で砲弾が発射される。流石はコンピューター制御と言ったところか、まだ練度の低いウツギには到底不可能な凄まじい精度の射撃が相手に当たる。ほどなくして敵艦隊が全滅すると、またウツギが味方に無線を入れる。

 

「こちらアルファ、N14クリア。依然として目標は現れず」

 

『ブラボー了解、弾が切れたので退却します』

 

『こちらチャーリー、デルタと合同で敵と交戦中。出来ればそっちも来てくれるとありがたい』

 

『デルタ、チャーリーに同じッスぅ!』

 

「了解。そこから遠いが援護に向かう」

 

 味方からの救援要請を受託してウツギが無線を切ると、ウツギに向けて摩耶が口を開く。

 

「あ~あ。もう一時間もウロウロしてんのに出てこねぇとかさ、もうここにレ級なんて居ねぇんじゃねぇの?」

 

「かも、な。それよりチャーリーが敵の軍勢とやりあっているらしい。行くぞ」

 

 味方を助けに向かうため、ウツギが部隊員の艦娘を先導しようとした時。

 

 ふと何処からか翔んできた砲弾が曙に直撃する。

 

「っうあぁぁ!!?何よ!?」

 

「っ......!?何処からだ?」

 

 ウツギが辺りを見回すと、水平線に小さな黒い点を見つける。まさか......とウツギが思ったとき自分の艤装から発される無機質な機械音声が海に響き渡った。

 

 

『高熱源反応を感知、識別...可能、該当データ、戦艦レ級です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもいつも面倒なときに出てくるヤツだ......ウツギはレーダーに映る高速でこちらに接近する敵反応を見て愚痴を言いそうになる。大破した曙は由良と陽炎の二人を付けて撤退させたため今のアルファ隊はウツギ、アザミ、摩耶の三人である。

 

「あの距離で当ててくんのかよ......化け物が......」

 

「摩耶、気を抜くなよ。あいつは普通じゃない」

 

「......強さ......関......無い......殺ス......」

 

 近づいてくるレ級に備えて三人が砲を構える......が、しかしレ級は何を考えているのか、近づいてくるばかりでさっきから一発も撃ってこない。なんだ......何が目的だ?とウツギが思っていると、もうレ級とわかるほど相手が自分達の近くまで来る。そちらが撃たないのなら、とウツギたちが砲を撃とうとしたとき、レ級が話しかけてきた。

 

「紛い物の艦娘!三度目だな!」

 

「......無駄話に付き合うほど自分達は暇じゃない」

 

「そうか、三度目までは俺も想定済みだ。だが四度目は無いと思え!」

 

「どうかな...摩耶っ!」

 

「っ当たれえぇぇぇ!!」

 

 30mほどの距離でウツギに話しかけて来たレ級に不意打ちを狙って、摩耶が砲撃をお見舞いする。直撃コースだ、ただでは済むまい。そう摩耶が確信していると、爆風が晴れて出てきたのは、レインコートの右袖が無くなっているもののほとんど無傷で......いつもの通り楽しそうな笑みを浮かべているレ級だった。

 

「おいおい、セコンドの乱入は反則だろう?次はこっちだ!」

 

「ったく相変わらず硬ぇ野郎だ!!」

 

 レ級の砲撃が引き金となり3対1の砲撃戦が始まる。

 まずウツギが接近させないように副砲、主砲合わせて四門の砲で弾幕を張り、ウツギの左右に構えた摩耶とアザミで攻めあぐねたレ級を狙い撃ちする。前二回より今はかなりこちらに有利な条件だ、いけるか?そんなウツギの考えは砲撃戦が始まって五分ほどたったころ、少しずつ崩れていった。

 なぜなら今日のレ級は前にやってきた「積極的な接近」をやらずひたすら引き撃ちに専念してきたのである。しかし予定と大きく違う動きにも関わらず正確に相手の砲撃をかわしながら反撃して、自分を支援する摩耶とアザミに、流石、自分とは違うな。とウツギが感心する。

 だがウツギは焦っていた。このままジリジリと持久戦に持ち込まれれば、こちらが弾切れの可能性が出てくる。運良く相手も弾切れだとしてもそんなことは関係ない。まず間違いなくあの殺人パンチが飛んでくるからだ。どうすべきか......ウツギが次の手を考えていると無線が入る。

 

『こちらチャーリー!アルファ、こちらに来れそうか?』

 

「レ級と交戦中だ。後にしてくれ」

 

『レ級!?そこにいっ......』

 

 戦闘に集中するためにウツギが途中で無線を切ったその時だった。

 

「ウツギ!危ねぇっ!!」

 

「何っ!?」

 

 摩耶の言葉にとっさにウツギが砲を盾替わりにして身を守る。するとウツギが左手に持っていた砲が腕に固定するためのベルト部分を除いて吹き飛んだ。なんて威力だ......これを曙は食らったのか......ウツギはレ級の砲撃の威力に戦慄しながら、しかしすぐに思考を切り替えて背中に背負う暁の艤装に取り付けていた盾付きの連装砲を持つ。

 さて、陸奥はどういう改造を施したのだろうか。ウツギが取り出した砲を持ってこれを改造した人物の顔を頭に浮かべながら引き金を引く。ズガガッ! という音が響き砲から砲弾が三連射される。

 

(三点バーストか、なるほど。しかし反動が大きいな。) 

 

 もう数分ほど砲を連射しっぱなしのせいで痺れる手に顔をしかめながら、ウツギが体にムチをうちだましだまし砲撃戦に参加する。隣に居る摩耶とアザミの顔にも汗が浮かんでおり、特に摩耶はかなり苦しそうな顔をしている。ウツギが右手に持っていた砲の弾が切れたため予備弾倉から弾を補充しようとしたとき、いきなり摩耶がレ級に向かって突撃し始めた。

 

「クソがっ!至近弾で沈めてやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「摩耶!駄目だ、すぐに戻れ!!」

 

 摩耶が一人だけ突進し始めると、引き撃ちを続けていたレ級が一転してニヤニヤしながら摩耶に向かって進んでくる。こんな事をされたら摩耶に当たってしまうかもしれないから撃てないな......、フレンドリーファイアを起こしてしまう危険があるためとウツギとアザミが砲撃を一旦中止する。

 

「でえぇぇい!!」

 

「......っ♪」

 

 どんどん距離が詰まってくるレ級に何度も摩耶が砲弾を当てる。しかし......摩耶に表現させれば、薄気味悪いことに、何発も砲弾を当てられて体のあちこちから血を流すレ級の狂気的な笑顔が段々と濃くなっているような気がした。しかも何故かレ級はこっちに向かってくるようになってから砲撃をやめてノーガードで突っ込んでくる。

 

(気持ちの悪い野郎が......!)

 

 摩耶が心のなかで愚痴を言ったとき、もう目の前といってもいいぐらいの距離まで近づいてきたレ級が自分に向かって殴りかかってくる。ウツギは駄目だと言っていた、でもこれを避けて後ろに回り込めれば!そう考えた摩耶が風をきる音を出しながら繰り出されたレ級の拳を体を捻って避ける。

 

(ここだっ!!このまま後ろに......!)

 

 全体重を掛けて殴りかかってきたレ級が、自分のパンチが不発に終わり、そのまま前のめりによろける。すかさずレ級の後ろに摩耶が回り込んで至近距離で砲撃を当てる。

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 「レ級が自分の前に居ない」。おかしい。自分はいま確かにあいつの攻撃を避けてそのまま後ろに回り込んだ。おかしい。あいつはどこに行った。摩耶の頭の中で警報が鳴り響く。駄目だ、すぐに体を翻してあいつを探さないと。

 

 

 

 瞬間、摩耶は背中からレ級の砲撃の直撃を受けてウツギたちのほうへ吹き飛ばされた。

 

 

 

「あっ......がっ......」

 

「摩耶!!大丈夫か?」

 

 吹き飛ばされたきた摩耶を、とても自分で動けるような状態ではないと判断したウツギが担ぐ。

 摩耶がレ級の後ろに回り込もうとしたとき、レ級が足で水面を蹴って、回り込もうとした摩耶の更に後ろに回り、そしてそのまま背中を見せた摩耶に背中のリュックサックのようなものから取り出した魚雷を叩きつけて吹き飛ばした。摩耶は自分がなにをされたかまったく解っていなかったが、ウツギはそうやってレ級に吹き飛ばされた摩耶を後ろから見ていた。

 

「ごめん......ウツギ...」

 

「心配するな。すぐに撤退する」

 

「そう簡単に逃がすと思っているのか?おめでたいな」

 

 逃げよう、と言ったウツギにレ級が傷だらけの体で......しかし相変わらずの笑顔で言ってくる。二対一、しかも自分は怪我人を背負った状態......そして相手は手練れの艦娘をいとも簡単に重傷まで追い込めるレ級。逃げ切れるか...?そうウツギが思ったときだった。

 

 ウツギとアザミの後方から、レ級に向かって砲撃が飛んでくる。誰だ、他の分隊の艦娘か?後ろを向いたウツギの目に入ったのは

 

 

 

 

「こちらパープルフィアー、援護しまス」

 

 

 

 

 あの足がない艦娘(春雨)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

レ級の一撃により重傷を負った摩耶、

戦力差が広がり絶対絶命かと思われたウツギたちのもとへ、

春雨がたった一人で援護に来た。

そしてウツギは、「紫色の恐怖」を目にすることになる。

 

 次回「コードネーム・パープルフィアー」 ターゲット、ロック・オン。




難産でした......あぁ疲れた


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コードネーム・パープルフィアー

毎度お馴染み、遅れを取り戻すための連投です。


 

「なんだお前は......またお前も紛い物か?」

 

「紛い物?どういう意味でしょうカ?」

 

「お前も深海棲艦もどきかと聞いているんだ!!」

 

「もどき......違いますヨ。私は深海棲艦でス。今は......ネ」

 

 言い切ったな......こいつ。自分から艦娘じゃないなんて言うとはな。

 ウツギが気絶した摩耶を背中に抱えて、自分達を助けに来た艦娘......彼女曰く深海棲艦の、今目の前でレ級と喋っている春雨を見ながらそんなことを考える。春雨の返答を聞いたレ級が続ける。

 

「ふん、艦娘の味方をする深海棲艦だと?ふざけたやつめ!」

 

「どうとでも言ってくださイ」

 

「まあいい、後ろの紛い物ごと片付けてやる!!」

 

 そう言うと、レ級が春雨に向かって砲撃を行う。

 普通に考えれば春雨は駆逐艦、戦艦の砲撃などまともに当たれば一発でも致命傷になる。攻撃をかわしながら、一体どんな戦い方をするのだろうか。そう思いながら少しウツギが春雨たちから距離をとって砲撃戦の様子を見守る。

 すると春雨はその場から動かず、ただじっと自分に向けて撃たれた砲弾を眺めていた。一体何をやっているんだ、死にに来たのか!?ウツギが思ったときには春雨の姿は砲弾の爆風の中に消えた。

 

「っ......?なんだこいつは?」

 

 あまりにあっけなく砲撃戦(と呼べるのかはあやしいが)が終わったことに、レ級がそう溢す。この言葉にはウツギも同意見で、こいつはいったい何をしに来たんだ......と思った時だった。爆風が晴れて

 

 

 中から満面の笑みを浮かべた春雨が出てくる。

 

 

 

「うっ......ふっ......あハッ」

 

「あはははハハははハハハ!」

 

「ひャアアアあああッはっハッはっハハハヒヒヒはハハはは♪」

 

 

 

「ッ!?......何がおかしい!!」

 

 煙が晴れてから、いきなり狂ったように春雨が笑いだす。するとそれを見たレ級は、いままでウツギが見たことがないような少し焦った表情を見せると、砲を春雨に向けて何度も発射する。

 

「気でも狂ったのか、この生ゴミめ!!」

 

 連続して三発ほどレ級が春雨に砲撃を当てる。しかし、また煙が晴れたときの春雨は至って元気そうに笑顔を浮かべている。 もっともその笑顔は口角を不自然につり上げた不気味なものだったが。

 なんでだ。なんでこいつはピンピンしているんだ。今まで俺の砲撃を受けて大丈夫だったやつなんて見たことがない。レ級は内心動揺しながら、しかしまた懲りずに春雨に砲弾をお見舞いする。

 

「っこれで!!」

 

「っ!!」

 

 四発目、最初の砲撃から数えれば五発目の砲弾が春雨に当たる。

 

 ごしゃり、と鈍い音が辺りに響く。

 

 砲弾は爆発せずにそのまま春雨の顔面に当たり、そして春雨は砲弾が当たった頭を上に向けて、だらりと両手を後ろに垂らし、胴の部分は簡単にいうとイナバウアーに近い体制で仰け反り、しかも少し水に体が沈み混んでいるようにも見える。まさか......死んだのか?ウツギがそう思っていると、レ級が口を開く。

 

「......ははっ、なんだ、もう死んだか!つまらんや.........」

 

「キひっ......♪」

 

「なっ!?」

 

 バカな、ありえない。こんなに打たれ強い奴が居るわけがない。レ級は困惑していた。

 いままで戦ってきたやつらにここまで体が頑丈なやつがいたか?いや、居ない。そもそも自分の砲撃をまともに受けて大丈夫だなんて深海棲艦の姫級ぐらいしか......「姫級」?まさか......!!

 レ級が動揺していると、春雨が形容しがたい不気味な笑顔を浮かべて喋り始める。既に辺りは日が傾き、少し薄暗く、そんな景色の中で春雨の紫色の瞳が妖しく光る。

 

 

「アァ......痛()ナァ......トッても......♪」

 

 

「痛イ......きヒッ......うットりシチゃウ♪」

 

 

「モット......遊ボう......ヨ......?」

 

 

「っ!!ひっ.........!?」

 

 瞬間、レ級の背筋に悪寒が走る。なんだ......この感覚は......、体の震えが止まらない......?レ級は生まれて初めて感じる「恐怖」という感覚に驚き、震えながら思わず春雨から距離を取ろうと後退りする。春雨は、後ろに仰け反った体をゆっくりと前に持ってきて続ける。

 

 

「......なンデ......逃ゲるノ......?」

 

 

「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ!!ふうぅっ!!」

 

 

「ア......ハッ......♪」

 

 

「焦ッテるノ?......カワ()イ♪」

 

 

「モシ......カしテ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       怖      イ       ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アはッ......♪怖イ......?僕ハ......淋し()......」

 

 

「淋シい淋シイ淋シイ淋シイ淋シイ淋シイ淋しイ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイ淋シイ淋しヰ淋シい淋シイ淋シい淋シイ淋シイ淋シイ淋シイ淋シイ淋しイ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイ淋シイ淋しヰ淋シい淋シイ淋シイ淋シイ淋シイ淋シイ淋しイ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイ淋シイ淋しヰ淋シイ淋シイ淋シイ淋シイ淋しイ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイ淋シイ淋しヰ淋シイ淋シイ淋シヰ淋シイよウ~♪」

 

 

 

 

「ダカら......モっト......遊ぼウ......?」

 

 

 

 

「うっ......死ねえええええ!!」

 

 春雨の言葉でパニックに陥ったレ級が砲を撃とうとする......が、砲弾が発射されない。ウツギたちと持久戦を行ったことが起因しての弾切れだ。

 

「何......で...弾が出ない!!??」

 

 もう発狂寸前まで精神的に追い詰められたレ級が泣きそうな顔でそう言う。いつものレ級なら、砲弾が切れたら、ここですかさず相手に近づいて得意の肉弾戦に持ち込んだだろう。しかし既に思考回路が「恐怖」と「危険」という単語に満たされた彼女は、それをせず、身を翻してその場からの逃走を敢行した。

 

 

「逃ゲル......ツまんナイ......くヒッ......♪」

 

 

「クソックソックソッ!!殺してやる!!殺してやるからな!!!!」

 

 

 そう捨て台詞を吐いて、レ級は夕闇の水平線に向かって、自分が出せるありったけの全速力で逃げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうぅ~、やりましタ!......あっ、はじめまして、駆逐棲姫と申しまス!」

 

 レ級が逃げたあと、春雨がウツギとアザミの方に体の向きを変えるとVサインをしながらそう言ってきた。

 

「何だったんだ......今のは......」

 

「エ?」

 

「さっきまでと随分雰囲気が違うじゃないか」

 

 ウツギが......内心びくびくしながら春雨に聞く。正直なところ、ウツギも目の前でレ級を追い払ったこの艦娘が怖いと思っていたのだ。隣にいたアザミも表情にこそ出ていないが顔に汗が浮かんでいるのがウツギから見えた。彼女も怖かったのだろう。

 

「えーと、言ってることがよくわかりませン」

 

「さっきの不気味なしゃべり方について聞いているんだ」

 

「あ~アレですカ。ただのハッタリですヨ」

 

 にんまりと、春雨が先程のまるで何を考えているか知れない不気味な笑顔とは正反対の可愛らしい笑顔でそう返答する。もっともついさっきの様子を見たウツギにはこの笑顔も表情通りには受け取れなかったが。

 あのレ級が恐怖でまともに考え事すらできなくなったアレが演技だと......?ウツギが驚く。はたから見ればどこからどう見ても理性のタガが外れた狂人の言動そのものだったからだ。......そして気になった事がまだあったのでウツギが春雨に質問する。

 

「どうして芝居うってまであいつを追い払ったんだ?そのまま攻撃すれば倒せただろう?」

 

「あぁ、えート......恥ずかしいんですけど、私体が頑丈なだけで、強くはないんでス......だから倒せないんだったら追い払うしかないなぁ~なんテ......」

 

 春雨がにっこり笑ってそう返す。ウツギは、一先ず自分達は助かったな、と溜め息をついた後、他の分隊の旗艦に無線で、帰投する旨を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りッスぅウツギ!あれ、誰それ?」

 

「挨拶は後だ。摩耶が怪我をしてるんだ、ツユクサ、頼む」

 

「え、ちょっ、とと、入渠させてあげればいいんスか?」

 

「そうだ。頼めるか?」

 

「まぁかされたッスぅ!!」

 

 すっかり日が暮れた頃に、摩耶を背負ったウツギ、アザミ、そして春雨......駆逐棲姫が鎮守府に帰艦する。少し疲れすぎたな......自分も入渠させてもらうか、とウツギも入渠ドックに向かおうとしたとき、もともと第三鎮守府に居た駆逐艦の艦娘たちがウツギとアザミのところに群がってくる。

 

「ウツギさんお帰りなさいなのです!!」

 

「アザミさんご飯作ってよ~」

 

「駄目だよ!アザミさんは先に僕がご飯作ってっていったんだから!」

 

「はわわ、喧嘩は駄目なのです!!」

 

「そうよ、先にウツギさんが私にクレープ作ってくれるって言ってたんだから!」

 

「わ、わかった、すぐに食堂に行くから、群がるな」

 

「邪魔......苦しイ......」

 

 飯は作ってやるから食堂で待っててくれ、とウツギが言うと「はーい!」と声をハモらせて、駆逐艦の艦娘たちがぞろぞろと出撃待機所から出ていく。その様子を見ていた天龍が二人を茶化すようにこう言ってきた。

 

「ずいぶん人気者じゃんお前ら。何やったんだよ?」

 

「ここの食堂が得体の知れない肉の缶詰めしかあいつらに飯を与えてなかったから、前にアザミと勝手にキッチンを借りて料理を振る舞ったんだ。そしたらこのザマさ」

 

「ご飯......大事......元気......無くなる......一大事......」

 

 「そいつぁ災難だったなぁ」と言って天龍がにんまり笑う。「笑い事じゃない、今じゃ給仕係もどきだ」と、ウツギが天龍を睨みながら言うが、しかし「へいへいそりゃあ大変でしたね~」と言って天龍はどこかに行ってしまった。

 休めるのはまだまだ先になりそうだな......ウツギは艤装を降ろすと、アザミと一緒に溜め息をつきながら食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

今までで最高のコンディションだった。

でも、自分は何も......二人の足を引っ張っただけじゃないか。

レ級に完敗したウツギは戦うためのモチベーションを失う。

そんな様子を見かねた摩耶が、ある提案をウツギに持ちかける。

 

 次回「次の準備」 一人じゃない。仲間が居る。




おまけ...チューン工房N ひみつCM

南方棲戦姫(暗闇で眼だけ)「シーッ!......うーんと、そこのアナタ。」
南方「武器の改造を.......えー、したいの?でも、資源も無いしメカニックの知り合いも居ない?」
南方「ならウチに来ない?チューン工房N。」
南方「フルオート連射チューンから、消音、炸裂弾、グレネードオプションまでアナタ次第、しかも早くて安くて、そしてなんといってもヒミツ厳守。」
南方「普通の明石ちゃんがやってくれる改造なんかに満足しないでさぁ~思い出してよ~チューン工房N。」
南方「勿論連絡先は、ヒミツ♪」


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次の準備

怒濤の三日連続投稿。あといつもより分量少なめです。


 

 

 

 

 

 レ級との三度目の戦闘から三日ほどたった日の昼頃。セレクトEX-1の艦娘たちは、また次の作戦の決行まで待機を命じられていた。他の艦娘たちが今日から三日後に設定されたレ級討伐作戦に備えて訓練などに打ち込んでいる頃、ウツギは港の堤防に座り、ぼうっとしながら海を眺めていた。

 

「............」

 

「何やってんだ?ウツギ」

 

「......?......摩耶か」

 

 死人のような目をしながら、ウツギが振り返って声をかけてきた人物を確認すると、また海の方に向き直る。すると摩耶はウツギの隣に座ると、ウツギと同じように海を眺めながら口を開いた。

 

「なぁ、どうしたんだよ?そんな精気の抜けきったような顔して」

 

「一人にしてくれ......私は自分に自信がなくなった」

 

 摩耶の質問に掠れた声でウツギがそう返事をする。何やらただ事じゃないな、と思った摩耶が、しつこく食い下がる。

 

「元気ねぇなぁ、一体何があったんだよ?」

 

「......自分は弱いな、と思ったんだ」

 

「は?」

 

 ウツギの返答に摩耶が面食らう。海を眺めながら、ぽかんとした顔の摩耶を無視してウツギが続ける。

 

「レ級と戦ったとき......アザミと摩耶は、うまくいけばあいつを倒せるぐらい追い詰めていたじゃないか。」

 

「でも自分は......一回目は不意打ちでやられて、二回目は防戦一方、そして前はただがむしゃらに撃ってただけで、何もできなかった。」

 

「今だってそうだ。ワタリに貰ったCPUが無ければ満足に敵に砲撃を当てることすら出来ない。」

 

「雑魚なんだ、自分は。所詮はリサイクル品だ。摩耶たちみたいな強いやつと並んで戦うなんて無理だったんだ......。」

 

「逃げようとした時だって、駆逐棲姫が来なければ、自分なんて簡単にレ級に殺されていた。忘れられない......この敗北感......」

 

「なんだよ、心配して損したわ。元気じゃねぇか」

 

「何?」

 

 摩耶の言葉の意味が理解できなかったウツギが横を向いて摩耶の顔を見る。摩耶は横を向いたウツギの顔を見て、微笑みながら続ける。

 

「いつもそんなにしゃべんねぇじゃんか、お前。そんなにべらべら口が動くんならまだ元気な証拠だ」

 

「......全然元気なんかじゃ」

 

「それに」

 

 摩耶が喋ろうとしたウツギの言葉を(さえぎ)って続ける。

 

「だれもお前さんを弱いなんて思っちゃいねぇよ。むしろアタシは何度も助けられたし」

 

「そんな...ただの偶然さ」

 

 どうにか摩耶がウツギを励まそうと話しかけるが、ウツギはまともに取り合おうとしない。さすがに少し頭にきた摩耶が少し声を荒げて、ウツギに言う。

 

「だあ~っもう、なんでそんな卑屈になってんだぁ?もっとドンと構えろよ!?」

 

「さっきも言っただろ。ほっといてくれ」

 

「ぐうぅっ......。あっそうだ!!」

 

 急に何かを思い付いた摩耶がウツギの腕を掴んで強引に立ち上がらせる。そしてそのまま嫌がる彼女を何処かへ連れていこうとする。

 

「な、なんだ、何をする気だ」

 

「黙ってろっての。どーせ暇なんだろ?ちょっと気分転換させてやろうかなって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「油温、110まで上昇。ブースト圧、1.5。次は?」

 

『オッケー、そのまま続けて』

 

「わかった。このまま行くぞ」

 

 同日の昼頃。ウツギは、もう何度も使用して使い慣れている暁の艤装に、大量の計測メーターと新型のエンジンを載せて、鎮守府近海をクルーズしていた。

 「今デルタ隊に居る艦娘、「島風」用の彼女自身が発注した新装備のテスト。それの手伝いをやってくれる艦娘をツ級が探していたから付き合ってやれ。」ウツギを無理矢理引っ張ってきた摩耶の言っていた「気分転換」の内容である。

 

「油温、尚も上昇中。もう少しで130だ」

 

『は~い、じゃ、ラジエーターのスイッチ入れてクーリング航行に入って』

 

「了解した......。油温90、ブースト0.3まで下がったぞ」

 

『わかった......はい、好きな速度で行って!』

 

「承知したッ......!!?」

 

 ツ級に好きな速度で行け、と言われたウツギが全速力で海を駆ける。一瞬、圧倒的な加速で後ろに仰け反りそうになった体を前に倒して、全身にかかる風とGに抵抗する。

 三分ほど全開航行をやって、油温計の数字が上昇し始めるのを確認したウツギがまた航行速度を落とす。そして、何となくウツギが無線機越しにツ級に声をかける。

 

「......ツ級、聞こえるか」

 

『え?何かあったの、ウツギちゃん?』

 

「......スゴいな......お前たちは。こんなに凄い物を作れるなんて。自分にはとても真似できない」

 

『それは違うよ、ウツギちゃん。』

 

 ツ級を褒めたウツギにきっぱりと、ツ級......夕張が言い返す。

 

『どんなに私たち技術屋が良いものを作っても......結局は使う人次第だよ。スゴいのは、ウツギちゃんたちみたいな、前線で戦う人だよ。』

 

「そうか...ありがとう」

 

 ツ級の言葉を聞いて、礼を言ったあと、ウツギが無線を切る。......そしてウツギは、このテストクルーズの中で、いままで自身が感じたことのないような、ある高揚感に囚われていた。

 

(カタログスペック上はこのエンジンの方が、馬力が普段のエンジンの半分も無い。だから、何時もの自分のような重装備はこのエンジンでは不可能。だが......)

 

(この圧倒的な加速力......そして今まで感じたことのないこの高揚感は何だ......?)

 

(ツ級は......夕張は、普段の自分が使っているエンジンに少し手を加えた程度の違いと言っていたが......。それだけでここまで変わるものなのか......)

 

(楽しい。ただ海を駆けていくだけでこんなに楽しいのは初めてだ)

 

 ウツギは、レ級に負けてから下がり続けていた自分のモチベーションが、確かに、少しずつだが復活していくのを自覚していた。

 

(誘ってくれた摩耶にも礼を言わないとな......)

 

 ウツギははにかみ笑いを浮かべながら、鎮守府へ向かって海を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん。どーだった?」

 

「楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」

 

「こっちも良いデータが取れました!ご協力ありがとうございます!!」

 

 鎮守府に戻ってきたウツギを摩耶とツ級が出迎える。とても有意義な時間を過ごせたな......とウツギが思っていると、いつの間にか摩耶はどこかへ行ったのか、艤装保管室は自分とツ級の二人きりになっていた。ちょうどいい機会だ、少し話してみるか、とウツギがツ級に話しかける。

 

「おい、夕張」

 

「はいは......!?なんでそれを!?」

 

 すごく驚いた顔で振り向いた夕張を見てウツギが軽く吹き出しそうになる、が、そのまま続ける。

 

「そう警戒しなくていい。球磨から聞いたんだ。」

 

「球磨さんから!!??球磨さん生きてたんですか!!??」

 

「勝手に殺すな。今は自分の鎮守府で......多分元気にやっている」

 

 前のめりに顔を近づけながら大声で聞いてくる夕張に気圧されながら、ウツギが返答する。すると「ふえぇぇ......」などとのたまいながら、夕張が泣きはじめてしまった。

 

「どうしたんだ?いきな......」

 

「うぅっぐすっ、よがっだぁぁぁ!!ぐまざんがいぎでるぅぅ!!びえぇぇぇぇええん!!」

 

 ウツギの声を遮り、夕張が(せき)をきったように大声で泣き出した。......これは色々と聞くのは後になりそうだな。号泣する夕張の背中をさすりながら、ウツギはそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

摩耶や夕張との交流により、ウツギは本来の調子を取り戻して行く。

そして迎える第三回レ級討伐作戦。

ウツギは仲間たちと組み上げた艤装と

「とびきりの秘策」を持ってレ級に挑む。

 

 次回「とっておきの一手」 自分の役割。それを果たすだけ。




ツ級かわいいよツ級(白目


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とっておきの一手

もう少しで2章は終わる予定です。(絶対とは言ってない。


 

 

 

 

 

 

 

「よ~しよし。これで落ち着いたかも?」

 

「うっ......ぐずっ...ずびっ!!ずびばぜん......秋津洲ざん......」

 

「謝ることなんて無いかも!!......ちょっと暇だったし......」

 

 ......面倒なことになった。ウツギは目の前で夕張の背中を撫でている秋津洲を見ながらそう思っていた。

 ウツギが、球磨からツ級は元夕張だということを聞いた、と夕張に言ったところ、彼女が急に泣き出してしまい、つい先程まで背中を撫でて介抱していた。すると二人きりだった艤装保管室に、......前から何故か第三鎮守府に滞在するようになった秋津洲が来てしまい、シエラ隊内で秘密にしていた「この第三鎮守府に居る深海棲艦は亡命してきたわけではなく元艦娘である」ということがばれてしまったのだ。

 どうするべきか......よりによって一番口が軽そうな知り合いにバレてしまったな、と、ウツギが秋津洲に対して失礼な事を考えながら、そのまま話しかける。

 

「秋津洲......頼むからこのことは秘密にしてくれよ」

 

「......もしかして秋津洲って口が軽いって思われてるかも?」

 

「かもじゃない。思ってる」

 

「ちょ!?傷つくかも!?」

 

 ウツギのストレートな発言にそれは心外だ!と秋津洲が語気を強めて反論する。

 

「こう見えても!秋津洲は炊事、洗濯、掃除、整備、指揮、デスクワーク、各種乗り物の運転、操縦、お悩み相談からDIYまでこなせる大本営所属のパーフェクト艦娘!!口の固さは折り紙つきかも!!」

 

 前にツユクサがテレビで観ていた、戦隊ものでよくやっていた背景で爆発が起きる演出が起きそうなぐらい自信満々の決め顔だな。目の前で高らかに自分の有能さを演説する秋津洲にウツギがそんな感想を抱く。もっとも自信満々の言葉のあとに小さく「戦闘は無理だけど......」と秋津洲が言ったのも聞き逃さなかったが。

 

「......わかった。信用する。そもそもそんなに口の緩いやつが大本営で働けるとも思えないしな」

 

「ふふん!わかってくれたなら許してあげるかも!」

 

「そうか。さっきは悪かった。で、だ」

 

 そろそろ本題に入ろう、とウツギが話題を切り替えるために夕張に話しかける。

 

「もう落ち着いたか?なんで球磨が死んだと思っていた?」

 

「すう~......はぁ~......。球磨さんは...私の恩人なんです」

 

 

 

 

 # # # #

 

 

 

 

「っと、よいしょ。っと、......おっとト......」

 

「夕張~何してるクマぁ?」

 

「もう...夕張じゃないですヨ」

 

「なぁにワケのわからんこと言ってるクマ。肩貸してやるからその松葉杖寄越せクマ~」

 

「えっ、あっちょっト...」

 

 実験が失敗して艤装が使えなくなった日の次の日。体中が痺れてうまく歩けなくて杖を持ってよろけながら廊下を歩いていると、そんな私を見た球磨さんがわざわざ肩を貸してくれたんです。しかもその日だけじゃなくて何日も何日も。

 球磨さんは私が深海棲艦になってから何か困っていると、その度に色々と手伝ってくれるようになったんです。最初はすごく嫌でした。艦娘だった頃はそこまで仲が良かったわけでもないですし、それに私と違って「建造艦」でしたから。

 

 

「はい、夕張。リンゴ剥いたから食べるクマ~」

 

 ある日、他の艦娘の子達から虐められて、それで次の日に全身が痛くて寝込んでいると、またどこかでそれを聞いてきた球磨さんがお見舞いに来てくれたんです。そしてその時に聞いたんです。

 

「......なんでこんな産廃に優しくしてくれるんですカ」

 

 その頃......今はもうわかんないんですけど、私はみんなから「産廃」とか、「戦力外」って言われてたんです。当たり前ですよね、実際何もできなかったから、周りからは文字通りのゴミ扱いです。すると私の質問を聞いた球磨さんは、突然真顔になって棒読みみたいな感じでこう言ったんです。

 

「自分のことを産廃なんて言うなクマ。自分って言う人間はもっと大事にするもんだクマ」

 

 その答えに......なぜか腹が立った私は、こう言ったんです。「どうせ周りとの話題作りのための点数稼ぎでしょウ?貴女に優しくされる度に私は惨めな気分になるんでス。いっそ死んだほうがましダ」ってね。途中まで黙って聞いていた球磨さんは、死んだほうが......の辺りでいきなり怒ってこう言ったんです。

 

「甘ったれたこと言ってんじゃねぇぞ!!こんどまた死にたいなんて言ったらひっぱたいてやる!!」

 

 そう言って、皮の剥き終わった梨を皿に盛った後に球磨さんは部屋を出て行きました。......怒鳴ってきた時の球磨さんは怖かったんですけど......どういうわけか、みんなが私を罵倒してくるのとは違う感じがしました。気のせいだったかもしれないんですけどね。

 次の日、少し痛みが引いたので図書室で陸奥さんと艤装の勉強でもやろうと廊下を歩いていると球磨さんに会いました。

 

「おはよークマ。夕張~、ゴホッゴホッ......あ゛~痛ぇクマ」

 

「......っ!?どうしたんですか、その怪我!?」

 

「ん?あぁ心配ないクマ。ちょっと派手に転んだだけクマ~っ!イタタタ......」

 

 廊下で会った球磨さんは、ギプスで腕を吊って、片足は包帯ぐるぐる巻き。松葉杖でよろけながら歩いてるっていうとんでもない大怪我をしていたんです。なんで入渠しないんですか?と聞いても転んだなんて理由で入れるわけないだろ?って返すだけで......。

 後から知ったんですけど、球磨さんは姉妹艦の木曾さんを連れて二人で私を虐めていたグループの子達と喧嘩をやって怪我をした......って聞いたんです。

 

 驚きました。

 

 なんでこの人は私のために、こんなに色々と面倒を見てくれるのだろう、なんでこの人は赤の他人のためなんかに自分が傷つくようなことを実行できるのだろう。

 気になって仕方がなかったので、その次の日に球磨さんに肩を貸しながら聞いたんです。

 

「いやぁ~夕張のおかげで歩くのが楽クマ~♪」

 

「球磨さン」

 

「ん?何クマか?」

 

「どうしてこんな目に遭うのがわかってて、グループの子に喧嘩なんて吹っ掛けたんですカ?」

 

「......球磨は弱いものいじめが大嫌いだクマ。だから許せないからぶっ飛ばしてやったクマ~」

 

 ふらふら歩く球磨さんが得意気に言いました。そして

 

「それに」

 

 

 

 

 

「「ともだち」のために大怪我できるなんて、誇らしいことクマ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでいいばなじがもおぉ!!!」

 

 ここまでの話を聞いた秋津洲が泣き始める。また状況が逆戻りだ......と思ったウツギだったが、少し涙腺に来る話だったのも事実だったので黙っておく。

 

「それで、そこからどうして球磨が死んだと思うところに繋がるんだ?」

 

「あ、それちょっと気になったかも」

 

 ハンカチで涙をぬぐいながら秋津洲もウツギに乗っかって夕張に聞く。

 

「それはですね......」

 

 

 

 # # # #

 

 

 

「夕張、球磨はここを脱走しようと思うクマ」

 

「え!?正気ですか!?」

 

「球磨は本気だクマ。流石にもうあのクズ野郎の暴挙に耐えられないクマ」

 

 色々なことがあってから、私と球磨さんは友人と呼べる関係になりました。......球磨さんは艦娘だったころから私を友達だと思ってたみたいですけど。でも、ある日突然そんな事を言い出したものですから、焦りました。頭に血が昇っていたのか、球磨さんの言ってくれた脱出の手筈は穴だらけで、成功の確率が低いような計画だったんです。これではいけない、球磨さんが居なくなるのは悲しいけど、せめていままでの恩返しぐらいは......そう思った私は、行動を起こしました。

 まず、鎮守府の近くにあった銀行に、人が居ないようなときに駆け込んで艦娘の頃の給料を全部引き出しました。そして......恥ずかしいんですけど、何かあったときのためにと、見世物小屋ってあるじゃないですか。ときどき鎮守府を抜けてそういうところで稼いだお金も総動員させます。

 そして有り金を全部提督替わりをやっていた天龍に渡して、「他の鎮守府の視察が来たときに、クルーザーでも置いておけば、自分の財力や威厳を示せるのでは?」なんてことを言っておだてたんです。

 ......理屈も何もない暴論でしたが、案の定数日後には鎮守府の港にそれなりに豪華な高速艇が停泊するようになりました。

 準備は整った。後は見送るだけって言うときでした。決行の日に、船に乗り込みながら球磨さんがこう言ってきました。

 

「夕張、いい子にしてるクマ。これからきっと良いことがあるクマ」

 

「球磨姉、見張りが居ないうちに早く港から出るぞ!!」

 

「おっと、それじゃ、すぐにあのクズ野郎を失脚させてやるから楽しみに待ってるクマ~!!」

 

「姉貴声でけぇって!」

 

 深夜、静まり返った海を進んでいく高速艇を見送ったのを覚えています。

 球磨さんと木曾さんを見送った日から......確か三日後だったかな。こんな噂が鎮守府に流れ始めたんです。

 

「ねぇ、聞いた?あの話」

 

「聞いた聞いた。提督代理のボート盗んで逃げた球磨と木曾でしょ?」

 

「あ~そっちじゃなくて、無人島にその船の残骸が見つかったんだってさ」

 

「え~ウケるんだけど?なにそれ」

 

 

 

「船で逃げた球磨と木曾は、途中で攻撃を受けて死亡。死体も見つかったから生存は絶望的」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。その噂を聞いて球磨が死んだと思っていたのか」

 

「うん......でも二人とも生きてるんだよね?」

 

「あぁ、うちの提督が引き取った。今は近海警備でもやってるんじゃないのか」

 

「...良かった......本当に良かった...よしっ!!」

 

 突然ガッツポーズでそう言った夕張が近くに置いてあったウツギの使っていた艤装を手に取る。何をする気だ?ウツギがそう思っていると夕張は大きい手で器用に艤装を分解し始める。

 

「なんだ、何をするんだ?」

 

「二人がちゃんと生きてるって教えてくれたお礼。前にウツギちゃんが言ってたでしょ?長時間撃ち続けても手が痺れない砲がほしいって。私がやったげる!!」

 

 そう言って分解した艤装を置いて、夕張が部屋の奥からなにやら見たことのない銃のような物を取ってきて、陸奥お手製の三連バースト式に改造された砲のシールド部分に取り付け始める。

 

「おい、大丈夫なんだろうな...」

 

「大丈夫!大丈夫任せて!よおーしっ!!」

 

 

 

「レ級なんてメじゃないとびっきりの艤装を作るぞぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

大海原には「魔」が潜むと言われている。

一部の艦娘はこの「魔」を無意識に避けて、

そしてまたさらに一部の艦娘はこの「魔」に強く惹かれる。

しかし大多数の艦娘はそんな「魔」に気づきもしない。

 

 次回「一撃」 淡い残像、両目に焼き付けて。




次回は戦闘回です。


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一撃

なぜか非常に文章が捗るこの一週間。明日俺死ぬのかな(白目


 

 

 

「......」

 

「今日は喋らないのか」

 

 時刻は夕方。第三回レ級討伐作戦が決行されたこの日、ウツギは海上でたった一人でレ級と向き合っていた。いままで通りならもちろん勝ち目は限りなく薄いだろうが、しかし今日は雰囲気が違っていた。ウツギに対するレ級は、体の部分部分から血を流し、砲が取り付けてある尾からは黒い煙が出ている。いつものように自分に向かっておしゃべりしないのか、と聞いたウツギに対して、レ級が小声で返答する。

 

「.........めだ」

 

「何......?」

 

「遊びはここまでだ。お前の首だけでも貰っていく」

 

 今までの軽口のようなおしゃべりとは違い、明確な殺意を込めたコメントをレ級がウツギに向けて溢す。ウツギは、自身の艤装に取り付けたサブコンピューターに秋津洲がプログラムした動作ディスクを挿入しながら、レ級に向かって喋る。

 

「あいにくこんな場所で殺される予定はない」

 

「そうか。ならばメモ帳にでも書き足しておけ。ここがお前の死に場所だとな!!」

 

 言うが早いか砲撃してきたレ級に対して、冷静にウツギが左腕の盾で砲弾を受け流す。盾で半身を守りながら、ウツギは夕張の改造によって新たに手持ちグリップが追加された三点バーストの連装砲を構えて、CPUで制御される背負った艤装に固定されている砲と右腕の砲でレ級を迎撃する。 攻撃を当てられたレ級は、いつもなら血まみれになろうがなんだろうが楽しそうな笑みを浮かべているところだが、今は砲撃をしながら、これっぽっちも余裕が無いといった苦悶の表情を浮かべている。

 

(効いている......そしてCPUもヤツの動きに付いていけている......秋津洲に夕張め、いい仕事をする...!)

 

 

 

 

 # # # 

 

「はいこれ!ウツギちゃんへ」

 

「......これは何に使うディスクだ」

 

 レ級との戦いからちょうど三時間ほど前。

 秋津洲が突然謎のCDのようなものを自分に手渡してきた。いったいこれをどうしろと言うんだ。そう思ったウツギが秋津洲に聞く。

 

「ふふ~ん、聞いて驚くかも。そ・れ・は......」

 

「この秋津洲自らがプログラムしたCPUの動作ディスクかも!!」

 

「動作ディスク?」

 

 聞きなれない単語にウツギが眉間にシワを寄せて首を傾げる。ますます意味がわからなくなったと思っていると秋津洲が説明する。

 

「正式名称はオペレーションディスク。ウツギちゃんが使ってるサブコンピューターのロジック......うーんと、例えば予測射撃の補正とか、射撃のインターバルの設定なんかを(つかさど)る部品かも」

 

 秋津洲の説明で何となくだがディスクのことがわかったウツギは、しかしなぜわざわざ彼女が新しくディスクを作ってきたのか疑問に思ったので続けて聞いてみる。

 

「やってくれるのはうれしい。だが、なんでわざわざ新しいのを用意したんだ?デフォルト設定で不都合でも起きたのか?」

 

「ん~と、ウツギちゃんの艤装に積んであった艦載カメラの映像を見さして貰ったんだけど、ちょっと純正ディスクの動きじゃ相手に追従できてないと思ったかも。だから、秋津洲が夜なべして作ったかも!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ!そんな豆鉄砲ごとき!!」

 

「.........っ!!」

 

 中破状態のレ級の苛烈な攻撃をいなしながら少しずつ......本当に少しずつウツギが砲撃をレ級に当ててダメージを蓄積させる。勝てる......しかし気を抜くな。ほんの少しでも気を抜けばすべてが台無しになる......!

 ウツギは極限の緊張感の中でレ級と砲撃戦を繰り広げながら、作戦行動前に緒方から言い渡された命令を思い出していた。

 「これまでの傾向から、レ級はウツギに執着している事がわかる。そこを付くため、ウツギ(自分)が単独でレ級を(おび)きだし、そこを複数の艦娘で叩く」。いままで二回行われた作戦結果から読み取れることをフル活用したいい作戦だ、とウツギは思っていた......が、しかし、討伐部隊はことごとく返り討ちに合い次々と撤退。それが原因でこうしてウツギとレ級の一騎討ちが始まった訳だ。

 

「ぐっ......うぅおわっ!?」

 

「...やった......!」

 

 ウツギの砲撃がレ級の尾に着弾、すると軽い爆発を起こしてレ級がよろけ、さっきまで少ししか出ていなかった黒煙がより多く、濃く出るようになる。

 もう少しだ......もってくれよ「暁」......。ウツギが自分の艤装に呼び掛けるようにそんなことを言ったとき、レ級が激怒しながら、背中のリュックサックから取り出した魚雷......ではなく砲弾を凄まじい勢いで投げつけてくる。

 

「舐めるなぁぁぁ!!」

 

「っ!?しまった!」

 

 一瞬の隙を突いたレ級の攻撃でウツギの背負っていた艤装に取り付けていたサブコンピューターが撃ち抜かれ......部品にテープで貼り付けていた、いつも料理を振る舞っていた駆逐艦の艦娘から貰った花束から花弁が散る。

 

 

 

『花束?こんな時にか?』

 

『いつも美味しいご飯を作ってくれるお礼なのです。』

 

『カランコエか......綺麗だな......』

 

『花言葉は「あなたを守る」。ウツギさん、死なないで......』

 

『当たり前だ。絶対に帰ってくるさ』

 

 

 

「ぐうぅっ!?あっ......!!」

 

「戦闘中に考え事か!?紛い物ぉ!!」

 

 CPUと花束を撃ち抜かれて動揺したウツギは、そのままレ級が続けて投げつけてきた魚雷で右腕を吹き飛ばされる。激しい痛みに一瞬、意識が飛びそうになるがすぐに残った左手の盾で身を守る。

 

「はははは!!終わりだぁ!!」

 

 勝利を確信したレ級がそのまま全速力でウツギの方へと突撃し、必殺のパンチを繰り出そうと、どういうわけか自分の方へと盾の裏側を向けるウツギに思い切り振りかぶって殴りかかる。

 

 終わった。これでこいつは死ぬ。

 

 そう確信したレ級だったが、次の瞬間には

 

 

 

 

 

 彼女の胴には風穴が空いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガフッ......かひゅー...かひゅー...」

 

 

「はあ......はあ......終わった...のか......」

 

 

 吹き飛ばされた右肩を押さえながら、ウツギは目の前で腹から大量に血を流しながら倒れたレ級を見つめる。

 「ハープーン・ガン」。夕張が盾の裏側に取り付けた武器だ。

 特殊な高硬度金属で作られた(もり)を発射する銃で、まともに当たればレ級でもただでは済まないだろう。ただし極端に射程距離が短く、撃てる回数も両手合わせて二回しかないから大事に使え。

 夕張の言っていた事を思い出しながら、最後の最後に辛くも勝利をもぎ取ったことを噛み締めながら、ウツギは瀕死のレ級にある質問をする。

 

 

「どうして艦載機を使わなかった」

 

 

「がっ......ふふふ......どうして...だと思う......?」

 

 

 もう少しで死ぬと言うのに、やけに爽やかな顔でレ級がそう返す。そして、少し間を置いてから話し始めた。

 

 

「俺が求めるのは......楽しい戦いだ......ただただ蹂躙するだけじゃあ面白くない...ゴホッ、ゴホッ!......ふぅ~......」

 

 

 口からとめどなく血を吐きながら、尚もレ級は続ける。

 

 

「楽しい戦い......お前と殺し合うのが一番楽しかった......そんなヤツをすぐに殺しちゃ......つまらないだろう?......ふふふ......楽しかったよ......お前とは......」

 

 

 そう言ったあと......レ級は満足そうな顔のまま目を瞑る。

 死んでも海上に浮き続けるレ級の死体を見ながら、ウツギは無線を入れる。

 

「......アルファリーダーから各艦へ。任務を完了した、だがこちらの傷が大きい。医療班を寄越してくれ」

 

『了解かもー!で、ウツギちゃん大丈夫なの?』

 

「平気だ。右手が吹っ飛んだがな」

 

『ええぇぇ!?それ一大事か......』

 

 無線の奥で大騒ぎする秋津洲に構わずウツギは無線を切る。そして、大きい溜め息をつくと、レ級の隣に座り込んで、味方の到着までぼうっとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

レ級を撃破するという大金星を挙げたウツギ。

こうしてセレクトEX-1は任務達成と同時に解体が決定される。

しかし...フィフス・シエラの戦いはまだ終わらない。

ウツギに向けて「ヤツ」からの不審な依頼が来る。

 

 次回「錯綜と凶夢」 音を立てて崩れてゆく......

 




二章の終わりまでカウントダウン!


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錯綜と凶夢

いよいよ二章もクライマックス!というように書けてるといいな......(不安マシマシ


 

 

 

 

 

「すげぇなぁ、ウツギは。あのレ級をぶっ飛ばしちまうんだからよ」

 

「買い被りすぎだ。摩耶や曙たちがヤツを消耗させてなかったら勝てなかった」

 

 ウツギがレ級を撃破した翌日。入渠して治った、治したばかりで少し動かしづらい右腕を眺めていたウツギに向かって、食堂の机に頬杖をつきながら摩耶がそんな事を言う。

 目標を達成したセレクトEX-1部隊は今日で解散、集められた艦娘たちは数日後にそれぞれ自分達の鎮守府へ戻ることが決まった。皆、全員無事と言うわけにはいかなかったが、ご苦労だった。次の大規模作戦まで、ゆっくり休んでくれ。

 緒方提督が言っていた言葉を、右腕の動きを確認しながらウツギが思い出していると、机の向かい側に座っていたツユクサが突然叫び始める。

 

「オ゛ッエ゛エェ!ま゛っず!?なんスかこれ!?」

 

「っひ!?いきなり叫ぶな、びっくりしちゃっただろ!!」

 

「いやだって天ちゃんこれ人の食いもんじゃないッスよ!?何の肉だこれ......」

 

 ウツギとアザミが食堂で艦娘たちの食事を管理するようになってから、大量に食堂の端に積まれるようになった、前までここの鎮守府で艦娘たちに配られていた謎の肉の缶詰めを食べた率直な感想。それをツユクサが、彼女の隣に座っていた天龍に言う。

 

「うっぷ......もう無理ッス、天ちゃん食べて......」

 

「ハァ!?なんで不味いって解ってんのに......ったくしょうがねぇなぁ~......」

 

 ツユクサに缶詰めを押し付けられた天龍が渋々食べかけの缶詰めに手をつける。周りに座っていた艦娘たちが見守るなか、天龍が缶詰めを食べる。すると、彼女が急激に顔を蒼くしながらこうコメントする。

 

「う゛ぅ゛......!?ゲッホッゲホッ、信じらんねぇ......」

 

「どういう味なんだよ......」

 

 缶詰めを食べて咳き込む天龍に摩耶が質問すると、天龍が食べたものを水で流し込んでから説明する。

 

「いや、こう......まず噛んだらなんかジャリジャリしてて、すっごく渋くて、あと滅茶苦茶塩っからくて磯臭い」

 

「な、なるほど」

 

 徹夜明けの学生のような顔で説明する天龍に摩耶がひきつった顔で納得した、と返す。ぼんやりとウツギが三人の様子を見ていると、作業着のポケットに入れていたスマートフォンが鳴る。電話...?誰からだ?と思い、ウツギが画面を確認する。

 

 相手は目の前にいる天龍ではなく第三横須賀鎮守府の「ヤツ」だった。

 

『俺だ、天龍だ』

 

「もしもし、なんのご用でしょうか。天龍「元」提督代理殿」

 

「「「えっ」」」

 

 わざとらしいウツギの通話中の声を聞いて、周りの艦娘たちがザワつく。

 

「どういったご用件で?敵の大群に自爆特攻ですか?それともトイレで貴女の尻拭いでも?」

 

『ウツギ、その......渡したいものがあってよ...ちょっと来てくれないか?』

 

「渡したいもの、ですか。」

 

 ウツギが不快感をたっぷりと込めた声で言う。

 

「何でしょう、鉛の傘ですか?または自爆する艤装?それともカミソリ入りの手袋?はたまた毒入りケーキバイキングでしょうか?」

 

『まて、まて、謝る!前のことは謝るから!......その、緒方提督に言われてよ......他の奴等に謝って回ってんだよ』

 

「......わかりました。でも一人では行きません。それでも?」

 

『あ、ああ、いいよ別に。じゃあ、すぐに資材保管庫に来てくれ』

 

 通話が終わり、ウツギが電話を切る。すると、天龍が......ウツギの受け答えで大体は察していたが、電話の内容をウツギに聞く。

 

「......誰からだよ」

 

「あいつ...お前と違う天龍からだ。あと」

 

 

「アザミ。一緒に来てくれると嬉しい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「資材保管庫......ここか」

 

「......アイツ......怪しイ......」

 

 天龍の電話から数分後、指定された部屋の前に着いたウツギとアザミが扉をあけて中に入る。意外と広くて......鉄の匂いがする部屋だな、とウツギが思いながら、コンテナが沢山積まれている部屋のなかを進んでいく。

 しかし、数秒ほど歩いて、ちょうど部屋の真ん中辺りに来ても天龍の姿が無い。また何か、謝ると言うのはウソで、罠でも仕掛けたか?ウツギがそう思っていた時だ。

 

 ぼとり、と二人の背後から何かが落ちてきたような音がした。

 

「何だっ......ッ!?」

 

「...ウツギ......やっぱリ......!!」

 

 後ろを見ようと振り返った二人の視界に入ったのは

 

 

 

 艦娘と思われる首なし死体だった。

 

 

 

 ......罠か、外れてほしい予測だったがな。ウツギがそんなことを思いながらすぐにもと来た道を引き返し、部屋から出ようとする。が、しかしこれまた予想通り扉が開かない。完全に閉じ込められたか......他の艦娘に電話でもしようか。そう考えたウツギはスマホの電源を入れて、以前摩耶が教えてくれた番号を入力する。

 

「っ、摩耶......」

 

「ウツギ......少し......まテ......!」

 

 通話しようとしたウツギに、普段無表情なアザミが、珍しく険しい顔でそう言う。なんだ?と思いウツギが前を見ると......

 

 

「ヒャハハハハハハ!!切り刻んでやるにゃしぃ!!」

 

 

 狂ったように笑う、包帯まみれで顔が見えない艦娘たちがチェーンソーを唸らせながら、こっちへ向かってきていた。

 

「っ......!ずいぶんといいおもてなしじゃないか......!!」

 

「冗談......場合......じゃなイ......!!」

 

 五人ほどの、チェーンソーを振り回して追い掛けてくる艦娘たちから二人が倉庫内で逃げ回る。どうする......武器は...キャンプ用のナイフぐらいか...これで流石にあんな物とやりあいたくは無いな......!そうウツギが思っていると、数分一緒に隣で走っていたアザミがその場に止まって、気色の悪い笑い声を響かせて追い掛けてくる艦娘たちの方を向く。

 

「いひひひひひっ!!バラバラァ!!」

 

「アザミ!」

 

「心配するな......任せロ......」

 

 咄嗟に何かを察したウツギは、アザミに持っていたナイフを渡す。

 

 バチン!と、指鳴らしを数倍鋭くしたような音が響き、一瞬怯んだ先頭の艦娘目掛けてアザミが突っ込む。そして包帯で顔が見えない艦娘の手首を浅く切りつけて、強引にチェーンソーを奪ったアザミが致命傷にならないような場所を狙って艦娘の足などを切る。

 

「悪く......思うナ......」

 

「アヒゃッ!?」

 

「ぐぅッ......」

 

 両足を切りつけて動けなくした艦娘を蹴り飛ばし、アザミはそのまま次々と他の艦娘たちの手や足を切りつけて戦闘不能の状態にすると、短く溜め息をついてチェーンソーを放り投げる。自分にはできない見事な手際に感嘆しながら、ウツギがアザミに話しかける。

 

「流石...だな。お前の指弾術は」

 

「褒める......後......助け......早く......」

 

 ウツギは、研究所時代からの彼女の得意技である護身術......指でコインなどを弾き飛ばす「指弾術」の腕前を褒める。が、アザミのもっともな発言に、「ああ、すまない」と言って、ウツギは摩耶に電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひでぇ......なんだよこれ......」

 

 開かなくなった扉を砲で強引に吹き飛ばして中に入ってきた摩耶が、手足を切られて尚、けたけたと笑い声をあげてのたうちまわる、二人を追いかけ回してきた艦娘と、最初に出てきた首なし死体を見てそう溢す。

 

「この症状って......まさか麻薬か何かかな......」

 

「......野郎、フザけやがって...!」

 

 ウツギのエマージェンシーコールを受けて摩耶が他に連れてきた艦娘たちのうち、整備班とは別に救護班にも所属しているツ級......夕張が笑っている艦娘の腕に、痛々しい注射の痕などを見つけてコメントすると、天龍は、自分とは違うほうの天龍の行いについて静かに怒りを(あらわ)にする。

 ウツギとアザミが見た、天井から降ってきた首なし死体は、デルタ隊に所属していた天龍によると駆逐艦の「島風」だと言うことがわかった。「あいつ」がなぜわざわざ島風を殺して利用したかは解らない。しかしこれで「あいつ」を(ほうむ)る理由が出来たな。そうウツギが思っていると、ドアが壊れた部屋に秋津洲が駆け込んでくる。

 

「ウツギちゃん!大変かも!!」

 

「どうした、秋津洲?」

 

「こっちの天龍が取り巻きを連れて鎮守府から逃走したって!!」

 

「はぁ!?なんだそれ!!」

 

 シエラ隊の天龍がそう言うのとほぼ同時に、ズガン!!と誰かが思いっきり壁を殴り付ける音が部屋中に響く。一瞬体を震わせた天龍が音が聞こえた場所を見ると......壁を殴ったのはツユクサだった。

 

「..................。」

 

「っつ、続けるかも......」

 

 音の大きさから考えて、相当な勢いをつけて壁を殴り付けたツユクサをちらりとみてから、秋津洲が続ける。

 

「緒方提督から、その逃げた天龍たちの部隊を追撃して拿捕(だほ)しろって言われたかも。出れる艦娘総出で追いかけるって」

 

「......っ、全く面倒なことを増やしてくれる」

 

 ウツギが愚痴を言うと、ずっと黙っていたツユクサが口を開く。

 

「あのクソ野郎を追っかけるのは......アタシにやらせてくれると嬉しいッス......」

 

「えっ...?えと、別に誰がやるって指定はされてないかも......」

 

 つい数分前まで食堂を賑わしていた様子とは百八十度違う雰囲気を纏ったツユクサが秋津洲に言う。明らかにいつもと調子が違うツユクサについて、ウツギは天龍に小声で質問する。

 

「どうしてあんなにツユクサは怒っている。自分に心当たりがない」

 

「あぁ、お前は知らないよなそういや。あの、首なしになっちまった島風とアイツ......結構仲が良かったんだよ。今ごろ(はらわた)が煮えぐりかえるってやつだろうぜ?」

 

 うつむきながら答える天龍に礼を言ったあと、ウツギは話を終えた、戦闘に出られる艦娘たちと艤装保管室に向かって走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

逃走した「アイツ」らを追って、

「春雨」と「夕張」を加えて臨時結成されたシエラ隊が夜の海へ。

痛かっただろう、苦しかっただろう......

そんな思いを抱いて逝った友のために。

 

 次回「黒い鎮守府の熱帯夜」 ツユクサ、友のために立つ。




さてさて、どうでしょうか。ゲス天龍が息をし始めましたよ?(ゲス顔


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黒い鎮守府の熱帯夜

過去最高の文字数になります。そして閲覧数2000越えの辺りから胃がキリキリし始めた今日このごろ(小心者


 

 

 

 麻薬とドーピングまで投与したってのに、ったくあの使えないゴミどもが。

 第三横須賀鎮守府に所属「していた」天龍が、いつかの作戦で使った人工島の廃墟で連れてきた仲間とコーヒーを飲みながら、二人の始末に失敗した艦娘......チェーンソーでウツギとアザミを追いかけ回した睦月たちに対してそんな事を考えていた。

 どうしようか......他の鎮守府のやつら揺すって傭兵でもやって食ってくとするか。インスタントの味わいも何もない苦いだけの安物コーヒーを口に含み、天龍がこれから先の事を考える。そんな彼女の、はたから見れば思い詰めたような表情を心配して、彼女の斜め向かいにいた艦娘が口を開く。

 

「隊長?何かありましたか?」

 

「あ?何でもねぇよ。俺を誰だとおもってんだ、提督代理をやってた天龍サマだぜ?先のことぐらい考えてらぁ」

 

「流石です。ずっと着いていきますよ」

 

 とりあえずは、今日はここに寝泊まりするか。そう思って天龍が立ち上がった時だった。突如、廃墟内に取り付けた警報器が鳴り始める。追っ手がもう来やがったのか!?舌打ちしながら天龍は他の艦娘の指揮を執る。

 

「クッ、もう来たのか!!」

 

「なんでここが!?」

 

「慌てんな!!持ちきれねぇモンはここに捨ててさっさと外に出んぞ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 ったくいちいち行動の早いやつらだ......。心の中で愚痴を言いながら、天龍は艤装を装着し、「普通の天龍」が持っている刀ではなく自身の使い慣れているツルハシを持って、すぐに廃墟から出ると、廃墟の近くの崖を滑り降りて海に着水する。レーダーに映る敵反応の多さに顔をしかめながら、自分に続いて崖を降りてきた艦娘たちに天龍が命令する。

 

「チッ、数が多いな......お前ら!!囲まれる前にバラけて敵を振り切れ!!逃げたヤツから島の反対側に集まってこっからずらかるぞ!!」

 

「了解!」

 

「承知した!」

 

「わかりました!」

 

 追いかけてきた艦娘たちを味方に任せ、天龍は単身島の反対側へと向かって海を駆けていく。

 

 

 

 数分後、自分が指定した場所に着いた天龍は時計を確認しながら、味方の到着を待つが、なかなか来ない。

 

「ちっ、自分だけ逃げんのも考えねぇとな......」

 

 さあて、次はどこで兵隊を補充しようかねぇ......などと天龍が考えていると、自身の艤装の警報器がやかましく鳴り響く。どこからだ、と天龍が咄嗟に近くの岩に身を隠す。すると、一人の艦娘が島の崖から海に向かって飛び降りて来た。ツユクサだ。

 

「お前が天龍か......」

 

「違うっつったら逃がしてくれんのか?あぁ?」

 

 思わぬ敵の襲来に、味方が全滅してしまったかと天龍は一瞬思ったが、レーダーを見ても敵は今来たツユクサ一人だけだと言うことがわかると、途端に余裕そうな態度で悠々とツユクサに話しかける。

 

「しっかしこんなに早く追い付かれちまうなんてなぁ。ここに来るのは流石に安直すぎたか」

 

「............」

 

 いつもの作業着ではなく、ランニングシャツの上からライフジャケットを着込み、両手に軽巡の艦娘、「川内」のアームカバーという出で立ちの、少し前から日差し避けにと着けるようになったスキー用のゴーグル越しにツユクサの目が煌々と赤く光る。

 

「チッ、だんまりかよ。まっ、ここでてめぇをかるく始末して......!?」

 

 天龍が喋っている途中に、彼女が隠れていた岩目掛けツユクサが凄まじい勢いで、「シエラ隊の天龍」から借りてきた刀を振り上げて突っ込む。あっという間に粉微塵に吹き飛ぶ岩から距離を取る天龍が冷や汗をかきながら独り言を呟く。

 

「クッソ、めんどくさそうなのが来たもんだ......!」

 

「......ッ!!」

 

 逃げようとする天龍にすかさずツユクサはアームカバーに取り付けられた砲を発射して天龍を足止めする。

 

「ぐうっ!?クソがっ!!」

 

「逃がさない......!!」

 

 じとりとした熱帯夜。ツユクサと天龍の一騎討ちが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「準備はいいか?合図で出るぞ」

 

「わかりましタ。いつでもどうゾ」

 

 単独天龍を追いかけたツユクサと違い、ウツギたち追撃部隊は取り巻きの艦娘と戦闘中だった。自分の潜水能力を活かして、水中で息を潜めていたウツギと、少しでもこちらの数を揃えるため、とウツギが連れてきた春雨が同時に水面から浮上して、相手に躍りかかる。

 

「何っ!下からだと!!?」

 

「お前たちの相手は私だ」

 

 ウツギが目の前に居た紫色の服を来た艦娘に砲撃を当てる。が、そのまま両手で顔を守りながらその艦娘が突進してきて、体当たりを食らったウツギは不意打ちをしたにも関わらず冷静に対処してきた相手に驚くも、すぐに盾を構えてまた砲撃を行う。

 

「無駄だ!」

 

「何っ!?」

 

 砲撃を当てるウツギにまた接近してきた艦娘は、今度は手に持っていたツルハシをウツギが構えていた盾に引っ掻けて吹っ飛ばすと、防御が疎かになったウツギに至近距離で砲を放つ。

 

「っ......、居るじゃないか、いい腕のヤツも......!!」

 

「お褒めいただき感謝す......るっ!!」

 

 間一髪残ったもう一枚の盾で砲弾を弾いたウツギが、以前の戦艦たちとはまるで違う戦い慣れている目の前の艦娘に称賛の言葉を贈る。しかしこれを相手にするのは少し骨が折れそうだ......そう考えていると、何故か目の前の艦娘の動きが止まった。

 

「うっ......がぁっ......」

 

「ごめんなさイ」

 

 よく見ると紫の服を着た艦娘の

 

 腹から春雨の手刀が貫通していた。

 

 ウツギが呆気に取られていると、春雨は艦娘の腹から手を引き抜き、もう片手で首根っこを掴んでいた気絶していた別の艦娘を放り投げる。......何が自分は弱いです、だ。目の前でとんでもない芸当を見せつけてきた春雨を見ながら、ウツギは後方に控えさせていた救護班の夕張に無線を入れる。

 

「......ツ級聞こえるか。急患だ、二人な」

 

『は~い。すぐに行くね』

 

 ウツギが、春雨が気絶させた艦娘の治療のために救護部隊への連絡を済ませると、今度はレーダーと自分の視界で他に敵が居ないことを確認する。単独で突っ込んでいったツユクサが気がかりだったので、春雨に後を任せて自分も先に進もう、とウツギが貫通させた手刀の血を拭っていた春雨に話しかける。

 

「駆逐棲姫、後は頼めるか?ツユクサを追いかけたいんだ」

 

「了解しましタ。任せてください、はイ!」

 

「ありがとう。背中は頼んだ!」

 

 戦場と言う場所にはおよそ似つかわしくない、眩しい笑顔で返答してきた春雨にその場を任せると、ウツギは急いで島の反対側へと進む。

 

「嫌な予感がする......当たってくれるなよ......」

 

 背中に嫌な汗が一筋流れるのを感じながら、ウツギは夜の海を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「ぐううおぉっ!?クッソォ!!」

 

 ツユクサの強烈なタックルを正面から受けて、天龍は周囲にある海から突き出た岩に叩きつけられる。そして尚も何も考えていないような直線的な動きで自分へと突っ込んでくるツユクサに、すぐに体勢を立て直し天龍は砲撃を当てて怯ませようとする......が、当のツユクサは、顔に砲弾が当たろうが、肩に当たってよろけようが全く意に介さずに刀を振り上げて突進してくる。

 

「うううぅおおおおおおぉぉ!!!」

 

「っ!!舐めてんじゃねぇっ!!」

 

 突撃してきたツユクサに、前傾姿勢で天龍がタックルをかまして怯ませると、そのままツユクサが持っていた刀にツルハシを引っ掻けて投げ飛ばそうとする......が、ツユクサはそのまま勢いよく引っかけられた刀を放り投げたため、逆に天龍の手に持っていたツルハシが後方へ投げ飛ばされる。

 そして動きが止まった天龍にツユクサが殴りかかるが、すぐにまた距離を取る天龍にツユクサの拳が空を切る。

 

「っはん、まだ捕まるかよ!てめぇ一人ごときになあ!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁ!!!!」

 

 天龍が岩に叩きつけられた時に駄目になったのとは別のもう一門の砲で相変わらず無計画に突進してくるツユクサを迎撃する。ツユクサは両手で自分に向けて撃たれる砲弾を弾き飛ばしながら天龍に肉薄すると、残っていた天龍の艤装の砲を左手で引っ掴むとそのまま力任せに握りつぶす。

 

「どうしたよォ......随分元気じゃねぇか......」

 

 みしみしと音をたてながら潰されていく自分の艤装を見ながら、すぐ目の前にいるツユクサに天龍が話し掛ける。

 

「ははぁん、解ったぞ、お前もしかして、身内でも死んだかぁ!?」

 

「っ!!黙れぇぇぇ!!」

 

 図星を突かれたツユクサは、目の前の自分の友の仇に向かって艤装を握っていたのとは別の手で殴りかかる、が、天龍は両手で冷静にツユクサの拳を封じると、また続けて口を開く。

 

「身内のため?敵討ちぃ!?ヘドが出るぜそんな言葉はよォ!!」

 

 ぷつり、とツユクサの中で何かが切れる。ツユクサは握っていた砲を引きちぎると、自由になった両手で殴りかかってきた天龍の手を掴んで体勢を崩し、前につんのめる天龍を滅茶苦茶に殴り始める。

 

「オマエはアタシが()る!!それだけだぁぁぁ!!」

 

「おぉっごっ......!?」

 

「痛いかぁ!?辛いかぁ!?これがっこれがっ!!島風の痛みだあああぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぐぅっ......オラァ!!」

 

「ッ!!」

 

 間一髪一瞬の隙をついて天龍はツユクサの鳩尾(みぞおち)を殴って拘束を逃れる。何度も殴られた影響で口から血を吐きながら、天龍はそのまま急いで逃げようと後退する。が......

 

「っ!死なねぇぞ、俺は生き延びて......っ!?」

 

「ヤッタナァ......」

 

 ツユクサがゆらり、と立ち上がり目をギラギラと赤く光らせて天龍のところへ文字通り「すっ飛んで」来る。

 

 

「お前も痛くしてやるうううぅぅ!!!!」

 

 

 海面を蹴って突っ込んできたツユクサの体当たりで、天龍は体ごと島の崖の岩壁に叩きつけられる。しかし......

 

「クソ......がぁ......」

 

「戦場でぇ...敵討ちなんて狙うマトモなやつなんてのはな......すぐに死んじまうんだよオォ!!」

 

 まだ自分の敗北を認めない天龍は、朦朧とする意識と土煙で悪い視界のなか、背負っていた艤装から短刀を取り出して手に持つと、ツユクサの脇腹目掛けて刺そうとする。

 

 カァーン!という高い金属音が海に響き渡る。

 

 何だ......今の手応えは......。頭の中で目一杯の危険警報が鳴る天龍の視界に入ったのは

 

 アームカバーに取り付けられた艦載機を発射するためのレールで短刀を受け、目を爛々と輝かせたツユクサだった。

 

「良かったッスね......」

 

 

 

 

「オマエはマトモでえぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 ツユクサが近くに落ちていた岩塊を持ち上げると、そのままそれと崖の壁で天龍を押し潰そうと圧迫する。

 

「ぐぅっ......うっ......おぉぉ!?」

 

「潰れろおおおおぉぉぉ!!」

 

「ぐふっ......ひひひ、一人で......なんか......死ぬかよ......!!」

 

「何!?」

 

 圧迫されて潰されそうになる天龍が、自分の艤装に仕込んだ

 

「自爆装置」を起動させる。

 

 

 

 

「お前も道連れだあああぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

「ツユクサアアァァ!!」

 

 

 二人の元へと駆けつけたウツギの目の前で大爆発が起きる。

 そんな......間に合わなかった......。ウツギがそう思った時だった。爆炎の中から、服がぼろぼろになった、五体満足のツユクサが出てくる。天龍を押さえつけていた岩塊が盾替わりになったのだ。

 

「ツユクサっ!!」

 

「平気ッス。ウツギ」

 

 

 

「「アタシは」生きてるッス」

 

 

 

「っ......そう、だな。「お前は」生きてる」

 

 

 燃え上がる炎の中から出てきたツユクサは、静かに泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

長いようで短かった第三鎮守府での任務が終わる。

だが、この鎮守府に「ヤツ」がつけた爪痕は大きい。

しかしそれを直すのは自分達ではない。

シエラ隊は、一先ず自分達の鎮守府へ。

 

 次回「事後処理」 この胸に空いた穴が今、親友(あなた)を確かめるただ一つの証明。




今までで一番書いてて楽しいお話でした


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事後処理

第二章完結!


 

 

 

 

「う~ん美味しい~♪で、これはどういう状況なのかしら?」

 

「謝罪パーティーだ」

 

「ふ~ん。まあ私は美味しいご飯さえ食べられればそれで良いんだけど」

 

 南方棲戦姫......陸奥が、自分がここに所属していた頃ですら使ったところを見たことがないという第三鎮守府の宴会場。そこのテーブルに置かれた特大の皿にこれでもかと盛られたサラダを食べながらウツギに質問する。

 

 脱走した天龍の一味は全員身柄を拘束。主犯の天龍は隠し持っていたと思われる「深海棲艦化手術実験」のサンプルデータを組み込んだ自身の艤装と運命を共にして爆死。鎮守府に残されていた資料以外は全て灰になってしまった。

 そして彼女が根城にしていた執務室から見つかった資料によって事態は急変する。なんと元々この鎮守府の指揮をとっていた「萩本(はぎもと) 秀介(しゅうすけ)」提督は既に他界、彼が入院していた事になっていた軍病院と第三鎮守府は共同で実験を行っていたという。

 これを知った緒方提督はただちに大本営から部隊を派遣させ、鎮守府......天龍との癒着が明るみになった病院を仕切っていた関係者一同を拘束、今はどのような処罰を下すかの調停中だという。

 そして今。緒方提督が自ら自腹を切って開催した、今回の騒動......病院の地下に巧妙に隠された実験施設から救助された、不当な理由により実験に巻き込まれた被験者たちへの謝罪の意を込めた宴会の最中だった。ウツギは自分が座っていた席から、広い宴会場を眺める。よくよく目を凝らしてみると、部屋の隅には泣きながら用意された料理に手をつけている深海棲艦......被験者の艦娘たちが集まっている。

 

「こんなに居たんだな......被験者は......」

 

「うん。まだ少ない方だけどね......私が居たときは、戦災孤児まで引っ張り出してたから」

 

 陸奥が特に何も考えていないような至って普通の表情でウツギに教える。

 

「あいつに昔何があったのかは知らないけど、とにかく人間嫌いだったからね~。そのお陰で私もこのザマだし?」

 

 そう言った後に陸奥は、自分が着ていた胸元に「betrayer(裏切り者)」と刺繍されたスタジャンを弄りながら、ウツギに微笑んでくる。ウツギは相変わらず悲壮感漂うことを言うわりにはいつも楽しそうに喋るやつだ、等という感想を抱きながら、ちょうどいい機会だ、と陸奥に聞きたいことがあったのと、重い話題をそらすために質問する。

 

「春雨のこと、知ってるよな」

 

「うん?そりゃもちろん知ってるけど」

 

「あいつのハッタリ術は......アレは自分からやりはじめたことなのか?」

 

 初めて彼女の演技を見たとき、かなり手慣れているようなものを感じてどこか引っ掛かっていたウツギが陸奥に聞く。すると......

 

「なんのことかな?ちょっとお姉さんわかんないかなぁ~......」

 

 話題を振ったところ明らかに不自然に陸奥が視線を逸らす。これは絶対何かあるな。そう確信したウツギが目を細くしながら陸奥に問い詰める。

 

「そんなにあからさまな反応されるとますます気になる」

 

「いやぁ......その......」

 

 いつも飄々としている陸奥が珍しくどもりながら答える。

 

「春雨ちゃんがね、「こんな体にされてどうしたらいいの」って言ってきたことがあったの。その時に「じゃあその見た目をフル活用できる何かをやろうよ」って、ちょっとピンチの時に相手を怖がらせるような演技をおふざけで教えたんだけど」

 

 貧乏ゆすりをしながら、落ち着かない様子で目をキョロキョロ動かして陸奥が続ける。

 

「まぁ......結果から言うとね、あの子それにハマっちゃって......。実用できるどころか、ちょっと私も腰抜かしそうなぐらい演技が上手になっちゃって......」

 

「お前が原因か......」

 

 呆れた、と陸奥の答えを聞いたウツギが溢す。

 ......特にこのまま宴会に参加していてもやることがないな。そう思ったウツギは席を立ち上がり、宴会場を出ようとする。

 

「どこ行くの、ウツギちゃん?」

 

「海でも眺めてくる。それだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「......すぅ~はぁ~」

 

「なにやってるんだ?」

 

「ひゃいっ!?なんだウツギッスか」

 

 外に出たウツギが、いつかに自分が座った堤防のある場所に行くと、ツユクサが先にその場所で海を眺めていた。ウツギはツユクサの隣に座ると、夜の海を見ながら横のツユクサに話し掛ける。

 

「お前がすぐに宴会を抜けてきたから追いかけてきた。気分は晴れたか?「アイツ」をやったのはお前なんだろ」

 

「でも、結局やる前に自爆されちまったッス」

 

「......そうか」

 

 友人を殺された怒り......か。自分も同じような状況に立たされれば怒るのだろうか、と出撃前は自分もあまり見たことがない無表情になっていたツユクサを思い出しながら、ウツギがそんな事を考える。

 

「あれ、先客ですカ」

 

「ウツギちゃんにツユクサちゃんかも、何してるの?」

 

「......どんどん人が増えてくな」

 

 春雨と秋津洲というあまり接点の無さそうな組み合わせの二人組がやって来たのを見てウツギが言う。

 

「私は日課で来ただけですヨ。ここの夜景が綺麗なのデ」

 

「秋津洲は仕事が終わったから遊んでたかも。そしたらさっきそこで春雨ちゃんに会って」

 

 春雨は相変わらずの優しげな笑顔で、秋津洲は若干目の下に隈ができているがあまり問題なさそうな様子でそう言いう。

 四人横並びで海の方向を向いてから数分。誰も喋ろうとしない中で、ウツギが口を開く。

 

「春雨」

 

「はい、なんでしょウ?」

 

「どうしてお前はいつも笑顔なんだ。戦場でニコニコしてる奴なんて少数派だろう?」

 

 ウツギの質問を聞いて、ほんの少しだけ口角を下げた春雨が答える。

 

「笑顔の理由、ですカ」

 

「簡単な話ですヨ」

 

 

「死んだ姉さんに言われたんでス。「笑顔を絶やさないで。楽しくても辛くても、笑っていれば良いことがある」っテ。」

 

 

「そしてこうも言われたんでス。「たとえ僕が死んでも笑い続けて。今を精一杯楽しんでいるのを見せて。落ち込んでたりしたら呪っちゃうぞ」、ト。」

 

 

「......教えてくれてありがとう」

 

 話を聞き終えたウツギが、視線を同じく話を聞いていたであろうツユクサに移す。目線の先の彼女は

 

 

今出来る限りの最高の笑顔で、涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 この約一ヶ月間。色々な事があった。

 

 私は忘れない。満足そうに逝ったレ級の事を。

 

 自分は忘れない。錯乱しながら凶器を振り回し、追いかけ回してきたあいつらを。

 

 アタシは忘れない。死に際まで呪詛を吐き続けた「アイツ」を。

 

 「アイツ」は大勢の人間を巻き込んで、それにも関わらず逃げ切ってしまった。それは許されることではないのだろう。

 

 しかしこの鎮守府を直して......治していくのは自分達の仕事ではない。

 

 帰るか。自分達の居場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。一ヶ月ぶりに ツユクサと天龍は半月ぶりほどだが 第五鎮守府に帰ってきた四人は、皆それぞれの生活に戻っていた。定期的な近海警備、民間の輸送船の護衛、四人の遠征前と何ら変わらない任務をこなす日々だ。強いて言えば「レ級を撃破した功績」のおかげで少し待遇が良くなった程度だろうか。

 

「提督、終わった書類は置いておくぞ」

 

「おう、いつも早くて助かる」

 

 執務室。すっかり定期秘書などというシステムが廃止されて、固定秘書にされたウツギがデスクワークを終えて読書に移る。するとその時、ウツギたちがいない間に深尾が勝手に執務室に取り付けた固定電話が鳴る。

 電話を終えた深尾によると、あと少しでここに前から打診していた新しく配属される艦娘が来るらしい。今の戦力情況を考えるに、多分戦艦か空母かな。そんな予想をしながら、ウツギは身支度を整えて深尾と執務室を出る。

 

 

「いやぁ~どんな子が来るんだろね?キャラ被りは勘弁してほしいな!」

 

「お前みたいな変人と被るなんてよっぽどだな」

 

「木曾っちヒドス」

 

 配属される艦娘の顔を一目見ようと、鎮守府の外に所属していた艦娘一同と提督である深尾が集まる。ほどなくして1台のセダン車が敷地内に入ってきて停車すると、運転席から出てきたのは......秋津洲だった。便利屋か何かとして使われているんじゃないだろうか。ウツギが失礼な事を考えていると、深尾と秋津洲は敬礼したあとにお互いに話始める。

 

「責任者の深尾です」

 

「第一横須賀鎮守府所属、庶務課主任の秋津洲かも!」

 

 そんな役職だったのか。と言うよりもそんな役職があるのか、とウツギが思っていると、話を終えたのか秋津洲が乗ってきた車のドアを開ける。出てきた艦娘は......

 

「「元」白露型駆逐艦五番艦の春雨です、はイ。雑用はお任せください……でス!」

 

 お前だったのか......。と、後ろに居た球磨と木曾が呆けている中でウツギが思っていると、もう一人の艦娘が車から降りて挨拶をしてくる。

 

「駆逐艦、若葉だ」

 

 若葉、と名乗った艦娘はつかつかとウツギのところに歩いてくる。何だ?とウツギが思っていると、若葉が口を開く。

 

「久しぶりだな。ウツギ」

 

「......何だと?」

 

 全く面識のない相手から久しぶり、と言われて動揺するウツギを見て、けらけらと笑いながら「若葉」が続ける。

 

「んふふフ......そうだな。わかるわけがないか。じゃあ、教えよう」

 

 

 

 

「俺だよ。戦艦レ級だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

新たな仲間を二人加えて再編成されるフィフス・シエラ。

自らをレ級と名乗る若葉の正体とは......

そして第五鎮守府の艦娘たちは上層部から褒賞として、

リゾート施設「ポクタル・アイランド」へと招待されるが......

 

 次回「楽園までの距離」 次の戦いが、自分を待っている。




第3章へ続きます。ちなみに2章は予定より長くなってしまいました。


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3 ポクタル・アイランド
楽園までの距離


第三章へと突入です。


 

 

 

 

 

「......本当に信用して良いんだな」

 

「くくくク......当たり前だ。逃げるつもりならとっくにそうしているさ......それに、こわ~い見張りが居るからなァ......」

 

「別に......何もなければこちらからは動きませんヨ」

 

 鉛色の空の下、海上を駆ける六つの人影がある。先頭からウツギ、若葉、春雨、漣、ツユクサ、アザミの六人で新しく再編成されたシエラ隊の面々だ。

 回収されたレ級の死体と、また各地から調達された艦娘の死体を使って作られた「四人目の資源再利用艦娘」。それが若葉の正体だった。そして春雨は単純に第五鎮守府の戦力の増強と合わせて、若葉の監視役として派遣されてきたらしい。

 どうしてこいつは既存の艦娘と同じ容姿なのか。それについては建造した研究所ですらわかっていないらしく、しかも解析の結果容姿だけではなく本人の艦娘としての性能も「駆逐艦 若葉」に準ずるものらしい。秋津洲から聞いた説明を思い出しながら、ウツギは自分の後ろでニタニタとなんとも薄気味悪い笑みを浮かべている女を見る。因みに「外見と性能が若葉だから若葉と呼ばれている」だけであって、本当なら書類上は「資源再利用艦 四番艦 サザンカ」と言う予定だったらしい。まぁどうでもいいか。

 考えても仕方がない、それに万一此方を攻撃しようものなら春雨が何とかするだろう。ウツギがそう結論付けたとき、自分の暁の艤装の、破損してからまた取り寄せたCPUからアナウンスが流れる。

 

『熱源反応感知。スキャン......完了。戦艦Ta1、軽巡To2、重巡Ri1、駆逐Ha2』

 

「来たか。元は味方だがやれるのか?」

 

「んふふフ......味方、ねぇ。味方と思ったことはないな。あんな雑魚どもは......」

 

「戦艦相手に雑魚呼ばわりッスか......」

 

 ウツギの問いに顔に薄ら笑いを貼り付けた若葉が答える。はたから見ればビッグマウスとも取れる発言にツユクサが顔をしかめる。

 

「ねぇウッチー、こいつ本当に大丈夫なの?」

 

「面倒を見ろと言われたんだから仕方がない。......来るぞ」

 

 漣が若葉のことをちらちら見ながら聞いてくる。漣の疑問は当然と言えるものだったが、ウツギは上の命令なんだから仕方がない、と切り捨て、六人は自分達に向かってくる敵に向けて二人ずつ散開して戦闘体制に入る。

 

「私が盾になりまス。後ろからどうゾ」

 

「......良いのか?」

 

「平気ですヨ。体だけは丈夫ですかラ!」

 

 春雨はウツギの前に出ると、砲撃してきた相手の攻撃を何も持っていない両手で弾きながら、宣言した通りに盾役になる。まぁ、本人が大丈夫と言うなら問題ないか。そう思ったウツギは言われた通りに大人しく後方から敵の戦艦に向けて砲撃を行う。

 

 

 

「うふふフ......さぁ、楽しい殺し合いの時間だ......♪」

 

 

 

 若葉......レ級のそんな一言は、砲撃の音で掻き消されて、他の艦娘達の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「徹底的にやっちまうのね!」

 

 経験積んでレベルアッポしたのはウッチー達だけじゃないのヨン!ウツギたちと離れていた一ヶ月間、多くの実戦をこなした漣はそんな事を考えながら、ウツギから借りたスナイパーライフルを適当に撃って敵の軽巡の動きを鈍らせる。そして......あまり信用していなかったが一応援護してくれていた若葉からの砲撃に魚雷を乗せて発射し、相手にとどめを差す。

 へぇ~こりゃすごく使いやすいや。予想以上に反動や銃身のブレが起きないライフルに感心しながら、相手の撃沈を確認した漣が他の敵に矛先を変える。ツッチーとあっちゃんは......大丈夫そう、ウッチーちょっちキツそうね、手伝うか!漣は春雨の後ろで戦艦タ級を相手にしていたウツギの援護に向かう。

 

「ウッチー手伝うヨン!」

 

「助かる。流石に戦艦相手はキツいからな......」

 

 前で、まるでゴールキーパーのように動き回って砲弾を弾いて、此方に被害が出ないように配慮していた春雨にウツギが呼び掛ける。

 

「春雨、防御はもういい。攻撃に移ってくれ」

 

「了解!」

 

「っしゃア!沈めるゥ!チームワークでぇぇ!!」

 

 突然叫び始める漣に、いったい何事かとウツギと春雨が唖然とする。が、すぐに二人は気を取り直し、三人で戦艦に砲を向ける。狙いが甘い相手の砲撃を掻い潜って漣がライフルで牽制、そこに春雨が左腕をすっぽりと覆う形状の連装砲を撃ち込み、最後にウツギが魚雷を打ち込んでダメージの蓄積した敵戦艦を撃沈する。

 

「っ......。終わったな。残りは......重巡が一つと......ツユクサ達がやりあってる駆逐が一つだな」

 

「んじゃさ、重巡は囲んでボコ殴りにしちゃおうよ」

 

「この若葉にやらせろ」

 

 戦艦を沈めた後に、砲に弾を込め直していた三人に若葉が割って入る。

 

「やらせろって......アンタ駆逐艦ヨ?重巡相手に一人って......」

 

「問題ないな......あんな雑魚一匹、左手だけでも殺せる」

 

 にちゃり、と音がしそうな獰猛な笑みを浮かべて、心配そうに聞いてきた漣に若葉が「なんの問題もない」と返す。確かにレ級時代の能力があれば重巡リ級一匹程度はどうにでもなるかもしれない、だが、今は駆逐艦の若葉に一人だけで倒せるだけの力があるのだろうか。そうウツギが考えていると、春雨が口を開いた。

 

「わかりましタ。どうぞ、行ってくださイ」

 

「ほう?止めないのか?」

 

「ええ、任されたのは貴女の監視だけですかラ」

 

「んっんっン......♪。そうか。じゃあ行ってくる」

 

 満足そうな顔で若葉は左手に持っていた砲を背中に仕舞うと、全速力で少し離れた場所に居た重巡目掛けて一直線に海を駆けていく。ほどなくして若葉に気付いたリ級が、ターゲットをツユクサからより近くまで接近してきた若葉に変更して砲撃を開始する。

 狙いが甘いなぁ、まるでシャボン玉だ。そんな感想を抱きながら、若葉は踊るように砲弾を避けてリ級に接近する。近づくにつれて、何か喋っているリ級の目と鼻の先まで近づいた若葉が砲を持っていた右手で相手を殴り付けようとする。が......

 

「<¥>[¥'>[ーーーーーッ!!」

 

「......うん?」

 

 相手に拳をかわされた若葉は

 

 そのまま何かを叫ぶ目の前のリ級が持っていた艤装の生物の口のような部分で腕を噛まれる。

 

「ぐっ......ぅっ!!」

 

 激痛に顔を歪める若葉に、すかさずリ級が砲を向けて至近距離で目の前の艦娘を沈めようとする。しかし

 

「くっ......ふふふフ......」

 

 

 

 

  

 

 

 

             死  ね(よ わ い)

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い切り振りかぶって放たれた若葉の左手のパンチが

 

 リ級の胴をぶち抜く。

 

「ふん、脆い体だ......この程度で手がめちゃめちゃじゃないかぁ......」

 

 自分の力に耐えきれず、あり得ない方向に骨が折れた自分の手を見て、若葉が他人事のようにそう言ったあと、さらに続ける。

 

「だが......悪くない。良いね、この感触......レ級の時には味わえなかった......「自分の手が折れる痛み」なんて......んふふフ......♪」

 

 リ級の体から左腕を引き抜いて、激痛に顔を歪めるどころか笑顔を濃くしながら、若葉は初めて骨折した感想を言う。そして今度は目の前で沈んでいくリ級に向けて若葉が話しかける。

 

「楽しかったよ。リハビリにはちょうど良かった」

 

「だがなぁ」

 

 

 

 

「蟻が恐竜に勝てると思ったか?」

 

 

 

 

 若葉の言葉は、既に絶命したリ級の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「な、何やったんですかこの腕!?粉砕骨折ですよ!?」

 

「敵をぶん殴っただけだ......自分の体を自分の意思で傷つけて何が悪い?」

 

「大アリです!!入渠で治るとはいえ自分の体ぐらい大事にしてください!」

 

 帰還して早々に、港で出迎えた明石に、若葉が骨がぐちゃぐちゃに折れて所々皮膚を突き破っている状態のとても直視できないような左腕を見せたところ、「無茶するんじゃない」と説教を食らう。明石が若葉を叱っている後ろで、漣がウツギに話しかける。

 

「すごかったね......アイツ。前はもっとヤバかったってこと?」

 

「......かなり心強い味方が出来たかもしれないな」

 

 若葉の戦いを後ろから見ていた漣とウツギが......特にウツギは前と何ら変わらない彼女の戦いぶりに驚いていた。駆逐艦の拳一発で重巡を倒せる......か。敵じゃなくて良かったな。そうウツギが思っていると、がちゃり、とドアを開けて誰かが部屋に入ってくる。球磨だ。

 

「うっちゃんお疲れさまだクマ......うぉっ!?何その手!!?」

 

「あ、球磨さんこんにちは。聞いてくださいよ、この子敵を殴ったら腕の骨が折れたって言うんですよ!?」

 

「それ一体どんな馬鹿力で殴り付けたんだクマ......」

 

 ウツギに労いの言葉をかけようとした球磨が、若葉の「リ級に噛みつかれて血だらけの右手」と「粉砕骨折でぐにゃぐにゃの左手」を見て驚くが、明石から話を聞いてすぐに落ち着く。そして落ち着いた球磨は、手に持っていた何かのチケットをヒラヒラさせる。なんの真似だ?とウツギが思っていると、ツユクサが球磨に質問する。

 

「なんスかそれ?商品券?」

 

「ふっふっふ~......ツユちゃんお目が高いクマ~。これは......」

 

 実はお疲れさまを言いに来たんじゃなくて、これを皆に渡しに来たクマ~。と言って一呼吸置いてから......

 

 

 

 

 

「上層部から褒賞として届けられたリゾートホテルの宿泊券だクマアアァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 目をキラキラさせながら、球磨はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

その昔、ある大企業が島から造り上げた超大型リゾート「ポクタル・アイランド」。

レ級撃破と第三鎮守府の天龍を処罰した褒賞として、

第五横須賀鎮守府に所属する全員がそこでの休暇を言い渡される。

しかし彼女たちを待っていたのは......

 

 次回「休息」 真面目と、狂気の、ヘブン。

 




二章は結構重かったので三章は軽くしてぇなぁ~(遠い目


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休息

若葉「......フフフフ♪」
深尾(若葉がニコニコしながら肉をさばいている......)
若葉「飽きないなぁ......肉を切り刻むのは......」
深尾(どんな理由で炊事係やってんだぁコイツはぁぁ!?)


 

 

 

 

 今は昔の話だが、深海棲艦が現れてから五年ほど経った日。とある大企業が深海棲艦の無差別攻撃によって、住む場所を失った難民たちに仕事と土地を与えよう、と、半ば慈善事業じみたプロジェクトを立ち上げる。

 その企業の圧倒的な科学力と資金力によって創られた島、「ポクタル島」に難民達は避難し、彼らはその企業をまるで神か何かのように崇めるようになった。

 この島は半分を大型リゾート施設に、そしてもう半分を移民たちの居住区にしており、リゾート運営は住民たちのライフワークとなると共に、立ち上げた企業と住民たちに多大な富をもたらした。

 そしてそのままこの島は、今日まで駐在するようになった艦娘たちによって守られる「地球上で最も安全なリゾート地」と呼ばれ、いまだに人気の衰えない最高の娯楽施設として有名になった。

 そんな地上の楽園に、第五横須賀鎮守府の面々は、他の鎮守府の部隊に自分達の持ち場を任せて、大本営から渡された褒賞である「特別優待券」を使って休暇を過ごしに訪れていた。そしてウツギたちは......

 

「さっちゃん見てみて!スゴくないッスか!?超大盛りパフェだって!!うちらの身長ぐらいあるッス!!」

 

「やっべぇ!ハンパねぇ!ちょ、ツッチーあそこ!!輸入品物産展だって!!」

 

「花の香りの自然素材のクレープ......惹かれるな」

 

硝子細工(がらすざいく)......綺麗......欲しイ......」

 

「アザミが笑ってる......れ、レアだ......」

 

「つまらん......戦いが出来る場所はないのか」

 

「若葉、アレとかどうクマ?」

 

「ほう?艦娘模擬戦アリーナだと?面白い......」

 

「超硬ワイヤーカッター!?レア物じゃないですかぁ!!」

 

「球磨姉ぇ!見ろよアレ!海賊遊覧船だって!!」

 

 完全に浮かれていた。と言うのも、元々人間だった漣は別だが、他の艦娘たちは今まで見たことがない「外の様子」に心を奪われてしまっていたのだ。いつも無表情かつ大抵のことには無関心なウツギとアザミも例外ではなく、道の周りに大量に展開されている屋台や露店に興味津々だ。いつも騒がしい漣やツユクサはともかく、ウツギやアザミまでまるで遊園地に連れてきた子供のような状態になっているのを見て、天龍が若干引いていると、そんな浮かれている自分達の艦娘たちに向かって深尾が口を開いた。

 

「あ~、お前ら。楽しみにしてるとこ悪いがもう少し待っててくれ。先に行かないといけない場所がある」

 

「ご主人様、それは一体どんな?」

 

「漣......遊戯施設に行く訳じゃないぞ......」

 

 目を輝かせて聞いてきた漣に深尾が眉間にシワを寄せながら返す。

 

「表向きは休暇じゃなくて、ここの警備部隊の視察だ。駐屯地の提督に挨拶したら、時間まで遊んでこい」

 

「へ~い......」

 

「提督、聞きたいことがあるんだ」

 

「ん、何だ?」

 

 先程クレープ屋の屋台を見ていたウツギが、少し俯きながら深尾に質問する。自分の容姿のことについてだ。

 

「その......自分のこの見た目で町を出歩いて大丈夫なのか」

 

「問題な......」

 

「大丈夫ですヨ」

 

 ウツギの疑問に答えようとした深尾を遮って、後ろから付いてきていた春雨がいつもの笑顔で答える。

 

「ここは、毎日仮装パレードをやってるんでス。それの関係者って言い張ればどうとでもなりますヨ」

 

「春雨の言う通りだ。どういうわけか深海棲艦の仮装をやってる人も多いみたいで。......春雨、ここに詳しいのは予習でもしてきたのか?」

 

 そのままでも大丈夫だ、と言われてウツギがホッとしていると、自分を遮って説明した春雨に深尾が聞く。そんなんじゃないですヨ、と春雨は言った後更に続けて......

 

 

「ここに私の実家があるんでス」

 

 

 屈託のない笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ふっんっ...!んっ、ようっ...こそっ......!!ふぅ......ポクっ...タルっ、警備府へっ......!!ふっ......!!」

 

「は、初めまして、第五横須賀鎮守府の深尾 圭一です......?」

 

「......同じく、秘書艦のウツギです」

 

 なんだなんだこの筋肉ダルマは。自己紹介中なのに何をやっているんだ。

 ポクタル島の艦娘たちを率いる提督。目の前で自己紹介の最中にもかかわらずダンベル片手に筋トレを行うマッチョなその男を見て、ウツギがそんなことを思っていると、目の前の男が秘書艦と思われる艦娘から注意を受ける。

 

「提督、いくらなんでも筋トレしながら挨拶は失礼じゃないかな?」

 

「むっ、そ、そうか。時雨、すまん」

 

 艦娘から苦言を呈されたムキムキな男が、手に持っていたダンベルを地面に置いて、改めて自己紹介する。......尤もウツギは、すごく重たい音を出して地面に置かれたダンベルが気になって仕方がなかったが。

 

「さっきはすまなかった。改めて、ここ、ポクタル警備府の提督を勤めている 藤原 直海(ふじわら なおみ)だ」

 

「僕は秘書艦の時雨(しぐれ)。よろしくね」

 

 お互いに自己紹介が終わり、深尾は藤原提督と、ウツギは時雨と握手する。時雨......春雨の姉妹艦だったな。自分の記憶が正しければ。ウツギが資料で見た艦娘の姿と、目の前の時雨を重ね合わせる。ちなみに隣で藤原提督と握手していた深尾は......体格が違いすぎて藤原提督がすこし屈んで握手をしていた。その様子を深尾の後ろで見ていたアザミ以外の面々が笑いを堪えているのをウツギが目にする。

 ......深尾が小さいのもあるがこの藤原という男でかいな、一体何を食べて生きていればこんな体格になるのだろうか。と、ウツギが思っていると、自分達の鎮守府よりもかなり広く造ってある執務室に、一人の艦娘が入ってきた。

 

「時雨さん、改二艤装の点検終わりました~」

 

「もう終わったのかい?すごいね、こんなに早いのは初めてだ」

 

「いえいえ。これが仕事ですから」

 

「ふ~ん。その大きい手でよく作業ができるね」

 

「慣れ、ですかね」

 

「......なんで夕張がここに居るんだ」

 

 部屋に入ってきたのはウツギのよく知っている、特大の手袋をはめたような深海棲艦......夕張だった。前に第三鎮守府で見たオレンジ色の作業着ではなく、「マシン・オブ・インフェルノ」とでかでかと書かれた、緑色のファイアーパターンの入った白い作業着姿の夕張に、ウツギが話しかける。

 

「あっ、ウツギちゃん久しぶり......と、ごめんね、まだ整備の仕事が残ってるから後でね」

 

「そうか。すまない」

 

 そそくさと部屋から出ていく夕張を見ていたウツギに、先程挨拶と握手を済ませた時雨が話しかけてくる。

 

「知り合いなのかい?」

 

「ん?っ、ええ、前の作戦で少し」

 

「へぇ、大本営所属のスゴ腕整備士って聞いてたんだけど、そんな彼女と知り合いってすごいね。君の練度はいくつなんだい?彼女に見てもらえるぐらいなんだから高いんでしょ?」

 

「練度......ですか。47です」

 

 大本営所属になったのか。やっぱり夕張はすごいな、とウツギが考えながら、特に何も考えずに時雨に自分の練度を聞かれたので教える。すると、時雨は先程まで浮かべていたにこやかな笑顔を、まるで此方を嘲笑するような蔑んだ笑顔に交換して返してくる。

 

「47......ねぇ。視察に来たって聞いてたからもっと高いと思ってたんだけど......それで明日の演習で僕たちに勝てるの?」

 

「......貴女たちは実戦に出たことが無い、と、そう聞いていたのですが」

 

「関係ないない。練度が僕の半分以下すらないなんて勝負にならないと思うよ?」

 

「時雨、深尾提督を案内する。こっちに来い」

 

「うん、わかったよ提督。ウツギさん......だったかな?演習楽しみにしてるよ」

 

「............どうも。」

 

 藤原提督に呼ばれた時雨が、藤原提督、深尾の二人に付いていく形で部屋を出る。声量が小さかったので今の会話はウツギ以外には聞こえていなかったが、ウツギは、何とも言えないモヤモヤを抱えたまま、用事が終わったので他の艦娘を連れて部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ウツギ」

 

「なんだ。レき......若葉」

 

「神様っていうのを......信じているか」

 

「......らしくないな。どうしたいきなり」

 

 島の中心部にあった、島全体を見渡せるような大型の観覧車。そのゴンドラの中で、今ウツギは......自分でもどうしてこうなった、と思っていたが、若葉と二人きりで景色を楽しんでいた。

 春雨は実家へ挨拶に、ツユクサ、漣、天龍の三人はテーマパーク全域巡り、球磨、木曾、明石の三人は軽く廻って直ぐに深尾の元へ、アザミは春雨の実家が硝子細工(ガラスざいく)工房だと聞いて付いていったため、「売れ残った」若葉はウツギに押し付けられてしまったのが。

 なんともいえない気まずい空気の漂うゴンドラの中で、突然若葉が、しかも柄でもないことを聞いてきてウツギが内心ギョッとしながら返答すると、若葉はいつものニタニタ笑顔ではなく、真顔で続ける。

 

「お前は、本が好きか」

 

「......人並みには読む方だとは思うぞ」

 

「そう...か。人並み......ねぇ」

 

 本当にどうしたのだろうか。いつもの何を考えているかわからない笑顔はどうした、とウツギが思っていると、目の前に広がる景色ではなくどこか遠くを見つめながら若葉が言う。

 

「最近鎮守府で本を読んだんだ。その前は自炊と言うものやって、更にその前は鏡の前で笑ってみたんだ」

 

「何が言いたい?」

 

「そうだな......何が言いたいんだろうな。若葉は......」

 

 一向に話の内容が見えてこないことにウツギが困惑する。しかしお構いなしに若葉は話し続ける。

 

「人間の真似事で......本を読んで......すがるものがあるって、良いなって思ったんだ。」

 

「人間は......本当にどうしようもなくなった時に「神頼み」ってやるんだろう?深海棲艦にはそんなものはない。信じられるのは自分だけ。」

 

「だからいつも必死だった。こっちだって死にたくなかったからな。強い体を貰っても心は小動物だったわけだ。」

 

「だからせめて表面上だけでも強そうに振る舞おうって思って、顔面に艦娘どもを見て覚えた見よう見まねの笑顔を貼り付けてたんだ」

 

「そしたらどうだ、若葉の心はすっかり戦闘狂さ。まったくお笑いだ。一人は嫌なのに、もう友人の作りかたなんぞわからんよ」

 

「......問題ない」

 

「ん?」

 

 若葉の話を聞いたウツギが、口を開く。

 

 

「友達なら自分がなってやる。だから問題が無いと言った」

 

 

「なんだ、殺されかける寸前までいった奴を友達?酔狂なや......」

 

 

「もう殺し合う仲じゃない」

 

 

 若葉の言葉に割って入る形でウツギが喋る。

 

「......そうだな。少なくとも「今は」......だがな......ンふふフ......」

 

 一週回り終わったゴンドラが止まり、ウツギはドアを開けて外に出ようとする。そこへ、若葉がウツギの先を越すように外に出ると、すれ違い様にこう言った。

 

 

 

 

 

 

       「ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

休暇の二日目。

シエラ隊は警備部隊との演習の予定を組んでいたため演習場へ。

しかし豪雨と濃霧により演習は中止に。

が、待機中の彼女たちの元へ時雨がある提案を持ちかける。

 

 次回「雨の日の挑発」 若葉、出撃。

 




だんだん文字数が増えてる気がしますが気のせいです(滝汗


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雨の日の挑発

お待たせしました。......めっちゃ文字数少ないですがドゾ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「演習は中止......なるほど」

 

「流石にこの雨と霧だからな。何か面倒な事があったとき対処できなかったらマズいから待機だとさ」

 

 休暇......表向きは島の警備隊の視察という目的でやって来た第五鎮守府の面々は、二日目に予定されていた警備部隊との演習のため、駐屯地に来ていた。外が凄まじい豪雨だったのでどうなるか、と思っていたウツギに、天龍が深尾の伝言を伝える。

 流石にこれじゃあ中止か。さて、これからどうやって過ごそうか。とウツギが考えていると、漣が口を開く。

 

 

「しっかし暇ねぇ~こんな大雨じゃ観光なんて出来ないし」

 

「ふふふふ......さっちゃんこれ見るッス!」

 

「なになに......「屋内遊戯施設PLAY!」ポクタル店、国内最大規模のゲームセンター!?」

 

「お前らさぁ......あんだけ遊んでまだ遊び足りねぇの?」

 

「あったりまえよ天ちゃん!せっかくのお休みなんだから骨折れるぐらい遊ばないと!!」

 

「本当に骨折ったらシャレになんねぇぞ......」

 

 雨で今後の予定が変わるかもしれない、と聞いた漣とツユクサが早速遊ぶ予定を組もうとニヤニヤしながら話始める。その様子を見た天龍が、昨日散々二人に連れ回されて疲れているのか、少し頬がこけた顔で突っ込む。

 

「にしても昨日のパレード凄かったよね!!火吹き芸とか綺麗だったし!!」

 

「ッスね~アレが毎日やってるとか信じらんねぇッスわ」

 

「漣、ツユちゃん、これもどークマ?」

 

「何々、雨が降っても大丈夫、島の名物ブロッケン現象を楽しもう?」

 

 聞いたことがない単語が書かれた球磨の差し出したチラシを見て、漣が何やらあまり日常で見ないような工具を弄っていた明石に質問する。

 

「明石さん、ブロッケン現象ってなんぞ?」

 

「へ、何?ゴメンもう一回」

 

「このブロなんとかってなんスかね」

 

 ツユクサから再度質問を受けた明石が、漣の持っていた観光案内を受け取って読み始める。

 

「ん~?ポクタル島の海は特殊な性質を持ち、雨天時には化学反応を起こし小雨でも濃霧が発生します......雨の日は島の各地でブロッケン現象を楽しむことができます......へぇ~」

 

「何かわかりますぅ?」

 

「え~と、ブロッケン現象って言うのはね、霧に光が入って虹が出来ること......だったはず」

 

「えぇ!?じゃあ今日虹見放題ッスか!?行こうよてっちゃん!!」

 

「嫌だ木曾と行け俺疲れてんだよ」

 

「はぁ!?なんで俺が!」

 

 みんな楽しそうだな......。そう思いながら、ウツギはちらちら漣たちを横目に特にすることもなく暇だったので、本を読もうと作業着のファスナーを開けようとする。すると、自分達が待機していた警備府の広々とした客室に、渋い顔をした深尾が入ってきた。

 ......また何かあったみたいだな。深刻そうな深尾の表情をみて察したウツギは、特大の溜め息をしようとしたが呑み込んで、自分の上司の言葉に身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この雨と霧でもやるんですね。少し意外です」

 

「何も問題ないさ。レーダー設備にこっちは君たちと違って高練度揃い、少しぐらい数が減ったって近海警備には問題ないし」

 

「......自信満々ですね」

 

「当たり前さ。僕はここの旗艦だよ?」

 

「姉貴ィ、ちょっとそりゃ言い過ぎじゃンか?」

 

「江風は黙っててよ。これは君には関係のない話だ」

 

 ここまで自分に自信のある艦娘は初めてだ。ウツギは さっきまで自分達が居た部屋から替わってこれまた広々としたエントランスホールで 目の前で意気揚々と自分の有能さと練度について説明する時雨に、弱冠辟易する。

 深尾が渋い顔をしていた理由はこうだ。「ここの秘書艦の発言に圧された藤原提督が、単艦同士なら演習は予定通り組んでもいい」と言ってしまい、立場が弱い深尾は反対できず押しきられてしまったことを、ウツギたちに謝りに来たのだ。

 後ろで苦笑いしている警備隊の艦娘......時雨の姉妹艦である、ついさっきウツギが自己紹介してもらった江風のことなどお構いなしに、また時雨が大口を叩く。

 

「で、そっちは誰が出るんだい?僕一人に総出でも負ける気はしないけど」

 

「自分は遠慮しますよ......」

 

「あぁなんだ。やっぱり大したことないんだね。失望したよ」

 

「何......?」

 

 時雨の発言にウツギが眉をひそめる。

 

「怖いんでしょ?この雨と霧が。でも無理もないね、練度の低い君にこの濃霧の中で的確な砲撃も出来ずに僕に無様にやられちゃうなんて、考えただけでも屈辱的だものね?」

 

「姉貴!」

 

「おい、お前」

 

 さっきまで一人だった自分の後ろから、突然聞こえてきた声にウツギが振り返る。

 

 そこには、涙を流すピエロのフェイスペイントを顔に施した若葉が居た。

 

「......なんだい君は?ここはお遊戯会の場所じゃないけど」

 

「そんなにでかい口を叩くなら若葉とやらないか?」

 

「......君みたいなふざけた格好の子が僕に勝てるのかい?」

 

 時雨の挑発を聞いた若葉が、黒い口紅を塗った口元を歪ませて言い放つ。

 

「......ンフフフ.........勝てるのかい、だと?違うな。逆に言ってやる」

 

 

 

 

 

 

「『お前ごとき』が若葉に勝てるのか?」

 

 

 

 

 

 

 いきなり現れて会話に割り込み、そしてあからさまな挑発と取れる言葉を、けたけた笑いながら言う若葉に、時雨が目元をヒクつかせながら返す。

 

「ごめん、ちょっと僕も頭にきちゃった」

 

 

 

 

「もう謝っても許さないから覚悟してね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『艤装の調子はどうだ?』

 

「問題ない」

 

『そうか。無理はするなよ』

 

「あんな身の程知らずの雑魚一人に無理することは無い......ふふふフ......」

 

 降りしきる雨と濃霧で絶望的に視界が悪い海上。不気味なピエロ顔の若葉が無線でウツギと演習開始まで、お互いに連絡......と言うよりかは無駄話に近かったが、会話をしていた。

 無線機越しのウツギが若葉に質問する。

 

『その......お前のその化粧はなんなんだ?』

 

「ああ、なんだそんなことか」

 

 若葉がはにかみ笑顔で......もちろんウツギには見えていないが、返答する。

 

「『ゲン担ぎ』ってヤツさ。少し違うがな」

 

『......そうか。あともうひとつ』

 

「なんだ?」

 

『どうして名乗りを挙げたんだ?また体が動かしたいとかそういう理由か?』

 

「...くくク......まあそう捉えて貰っていい」

 

『......まったくこの戦闘狂が』

 

「ンふふふ......誉め言葉だな。そろそろ切るぞ」

 

『わかった。......勝てよ』

 

「何度でも言う。当たり前だ」

 

 無線を切った若葉が、深呼吸をする。そして限界まで口角を吊り上げた笑顔でこう呟いた。

 

「まぁ、理由はもうひとつ......あるんだがねぇ......うふふふ......」

 

 

 

 

 

 

 

「友達を侮辱した奴にはいた~いおしおきが必要だ。なぁ時雨?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

霧の中からの見えない変幻自在の攻撃。

時雨の苛烈な攻撃に晒される若葉は、しかし顔に貼り付けた顔をますます歪ませて、

虎視眈々と攻略の機会を伺う。

そして演習の結果は......

 

 次回「ビッグマウスの時雨」 何も知らない。敗北を知らない。だからこその強さ。




私事によりめっちゃ投稿遅れました。スンマセン(小声


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ビッグマウスの時雨

あぁ映画観てぇ(ぼやき


 

 

 

 

 

 

 さぁて何処から来る。前か、後ろか、右か、左か。もしかしたら下か上からというのも、あれだけ自信があるやつなら有り得るなぁ。まぁ関係ない、どこから来ようが若葉が勝つことには変わらない。

 

「この若葉の腕に似つかわしければいいんだが、な。んっくっくっクッ......♪」

 

 真っ白な景色が広がり、数十メートルすら視界が利かない海の上で、両手に砲を持った若葉がひたすらじっと目をつぶって相手の攻撃を待つ。雨に濡れる不快感などは特に感じず、静かな白い闇の中で若葉は精神を統一する。

 こんなろくに何も見えない場所で、それに相手のホームエリアで下手に動き回るなぞただの自殺行為だ。なんの確証も理屈もないただの持論に過ぎない。しかし自分なりにそう考えて、目を瞑っていた若葉の背後から砲撃が飛んでくる。

 

「...後ろか............ふフっ......」

 

 演習用のペイント弾が付着した制服の袖を見て、若葉が口角を吊り上げる。

 そして身を翻しすぐに両手の砲を、砲撃が飛んできた方向へと滅茶苦茶に撃ちまくり、辺りは大雨と濃霧、さらに今の砲撃の煙でさらに視界が悪化する。

 

「ふん、食らえ......」

 

「隙だらけだよ」

 

「何?」

 

 若葉が砲弾をありったけ撃ち込んだ方向とは反対の、また背後から時雨の声が聞こえたと思った瞬間、若葉の持っていた連装砲に何かが引っ掛けられる。

 これは......糸......?あぁそうだ、ワイヤーとか言うやつか。

 砲をワイヤーに巻き取られ、そのまま持っていかれたにも関わらず若葉が他人事の用にそんな事を考える。

 

「んふふフ......面白い曲芸だ......」

 

「喋っている暇は無いよ?」

 

 砲を持っていかれた若葉の耳に、また何処からともなく時雨の声が聞こえてくる。そしてそれとほぼ同時にまた自身に向けて正確な砲撃が飛んでくる。

 

「成程、成程。んふふフ......結構やる......」

 

「......回避行動すら取らないってどういうことだい?」

 

「ん?簡単な話だ。『ハンディキャップ』ってやつだ」

 

「っ......!馬鹿にするなああぁぁぁ!!」

 

 若葉の挑発に激怒した時雨が、今度は若葉の艤装に取り付けられた魚雷発射管を引っ剥がす。

 「お~お~不味い不味い。丸腰になってしまう。」そうとぼける若葉に苛々しながら時雨は次々若葉の艤装の部品を剥がして、砲撃を当てて若葉にダメージを与えていく。

 どこまでも僕を馬鹿にして......低練度の駆逐艦が......。それに僕は、雨さえ降れば戦艦だって敵じゃないんだ!!

 いままで数百回に及ぶ演習で未だ負け知らずの時雨が、相手からぶんどった魚雷を放り投げると、またワイヤーを投げて若葉がもう一つ持っていた砲を巻き取ろうとする。

 

 

「でももう見切っ......」

 

 

「獲った!これで君は丸腰だよ!!」

 

 

 何かを言おうとした若葉を遮り、時雨がワイヤーを引っ掻けた砲を手繰り寄せる。

 なんだ、大口を叩くだけで大したことないのはそっちじゃないか。今までで一番つまらない演習だ。時間を無駄にしたな。

 考えていることとは裏腹に、時雨があっけない勝利 まだ勝ったと決まっていないにも関わらず にニヤニヤ笑う。

 

が、

 

 

 

 

 

           つ ~ か ま え た ♪

 

 

 

 

 

 

まだ時雨の戦いは終わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ......ぐぅっ......!?」

 

 な、何だ、一体何が起きた?ワイヤーの感触と重さは確かに砲一つ分だったのに......?

 若葉に殴り飛ばされ、軽いパニックに陥った時雨のもとに、ゆっくりと......下から覗いた能面のような笑顔の若葉がつかつか歩いてくる。

 

「ん~?どうしたそんな顔をして?変なものでも見たか......?......くくくク......」

 

「な...んで、ごほっ!、僕の居場所が......?」

 

 殴られた衝撃で口の中を噛んでしまい、血を吐いてむせる時雨に若葉がからから笑いながら、口を開く。

 

「うふふフ......わざわざ説明する阿呆がどこに居る?」

 

 顔の真っ白い化粧で、笑顔の不気味さに拍車がかかった若葉が、海上に座り込んだ時雨を見下ろしながら笑う。

 

「ん~、じゃあとどめで......」

 

「......だだ」

 

「ん?」

 

「まだ負けた訳じゃない!!」

 

 目の前で悠々と砲の照準を合わせる若葉に向かって、時雨がワイヤーを砲から射出して若葉を拘束する。

 

「おっと、こういう使い方もできるのか......ンふフフ......」

 

「油断したね。さぁ、もうこれで動けないわけだけど?」

 

「う~んそうだなぁ......これは困った......」

 

「ッ......!そのお喋りな口を黙らせて......」

 

 ワイヤーで縛られ身動きが取れなくなった若葉に、時雨が背中から展開した砲の照準をあわせて引き金を引こうとしたとき、

 

 

 

 

 

「誰も動けんとは言ってないが?」

 

 

 

 

「え」

 

 

 

 

そう言った若葉が全体重をかけて背中から海面に倒れこむ。

 

「うわあぁぁぁぁ!?」

 

「ふん、雑魚が......」

 

 予測できなかった若葉の行動に、そのまま時雨が振り回され若葉の背後の水面に叩きつけられる。

 そしてしこたま海水を飲み込んでしまい、時雨がその場にむせる。海面に叩きつけられた拍子にワイヤーの拘束を緩めてしまい、自由になった若葉は素早く時雨の頭を引っ掴むと、そのまま砲を投げ捨てて一応手加減しながら素手で時雨を殴り始める。

 

「はいい~ち~、に~い~、さ~ん~♪」

 

「がっ......!ぐぁっ......ぃっ......!?」

 

「なんだぁ?たった三発で終わりかぁ?......ウツギより打たれ弱い......」

 

「......あぁ......け...ぐぅっ!?」

 

「あーあーもういいぞ。飽きた」

 

 

 何かを言おうとした時雨の腹に、若葉が拳をめり込ませ気絶させる。

 

 

 多少は楽しめたが......あっけなさすぎる。あと駆逐艦の体で良かった。でなければこいつは死んでいたな。

 若葉がそう考えながら、鼻血を垂らして気絶した時雨を背中に抱えたとき、制服の胸ポケットに入れた無線が鳴る。

 

「なんだ?」

 

『若葉、やりすぎだ!時雨のカメラ映像見たあっちの艦む......』

 

『うっちゃん代わるクマぁ!若葉よくやったクマ!球磨はあのビッグマウス野郎がぶっ飛んで清々したクマ!』

 

『どーすンだよ姉貴やられちまったぞ!?やべぇってあのナンとか隊の人達に謝らねぇとォ!!アタシたち殺されちまうよォ!!』

 

「ちっ煩いな......」

 

 さっさと帰るか。無線の奥で喧しく叫ぶ球磨たちを無視して、若葉は無線機を握りつぶして放り投げる。そして退屈そうな無表情で、若葉は時雨を抱えて島の警備府がある場所へ向かって海を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉がご迷惑をおかけしました!!申し訳ありませンでしたァ!!」

 

「......どうしました?いきなり」

 

 演習が終わって、若葉が気絶した時雨を抱えて帰ってきてから数分後。モニターで若葉の艤装のカメラ映像を眺めていた、第五鎮守府の面子に向けて江風が大声で謝罪の言葉を口にする。

 ......なんだ、何もされた覚えはないけど。ウツギが疑問に思って、目の前で直角にお辞儀している江風に質問する。......江風の後ろでは警備隊の駆逐艦たちが涙目で震え上がっていたがなるべく気にしないようにした。

 

「あの、頭上げてください。どうしたんですか急に?」

 

「姉に代わって謝りに来ました!!」

 

「......?時雨さんが何か?」

 

「えっ......いや、あの......あなたに悪口言ったりだとか、そこの御方をカタワ呼ばわりしたとか、雑魚が調子に乗るなとかいっ」

 

 江風がそこまで喋った時、アザミが机を少し強めに叩く。無表情で机を叩いたアザミがよっぽど怖かったのか、江風は「ひっ!?」と言ったあとしゃがみこんで泣き出してしまった。

 

「ごめんなさいごめんなさい許して許して命だけはぁぁぁぁ!!!」

 

「......あノ~」

 

「ひぃっ!?すみませンすみませンごめンなさいごめンなさい......」

 

 部屋の高級そうなカーペットに、頭を擦り付けながら土下座する江風に春雨が話し掛ける。が、逆効果だったのか江風はますます錯乱して謝罪の言葉を垂れ流すだけのスピーカー状態になってしまい、春雨が困った表情で天龍へ投げ掛ける。

 

「天龍さん、どうしましょウ?」

 

「えっ俺っ!?えっと......提督と若葉が来るまで待つしかなくね?」

 

 いきなり会話に参加させられた天龍が、どもりながら春雨に提案する。

 ......そういえば何でアザミは机を叩いたんだろ。江風の証言に少し腹を立てたものの、物に当たるほどではなかった天龍は、机の向かいに座っていたアザミに聞く。ちなみに江風はまだ誰もいない空中に小声で謝り続けていた。

 

「なぁ、アザミ。なんでさっき机叩いたの?」

 

「その......赤いの......うるさイ。だから......黙る......させタ.........」

 

 相変わらず何考えてんのか全然わかんねぇ......つか怖ぇよ。

 目の前でコーヒーを飲んでいるアザミと、ぶつぶつ何か言っている江風を交互に見る。早く若葉か提督帰ってこねぇかな。そう思う天龍だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

無事......とは言えないかもしれないが演習は終わる。

初めての挫折を味わった時雨は、

第五鎮守府の艦娘たちへと、ある行動をとる。

そしてその標的には若葉が選ばれるのだった......

 

 次回「折れない心」 挫折して、また強くなる。




劇場版艦これってどれぐらいの人が観に行ってるんすかね


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折れない心

ふと思いましたが今の艦これって敵味方合わせてどれぐらいキャラクター居るんですかね。


 

 

 

 

 

「若葉......いや、サザンカさん!!僕を弟子にしてください!!!!」

 

「......ん?」

 

 演習も終わり、濡れた服を着替えて広々とした客室でウツギたちとのんびりしていた若葉が......他にもアザミ以外の第五鎮守府の艦娘達が、自分達の知らないうちに目の前にやって来ていきなり意味のわからないことを言い出した時雨に面食らう。

 なぜこいつはそっちの名前を知っている。それにさっき痛めつけてやったばかりなのに......意外と打たれ強い奴なのか。

 

 面白い。

 

 若葉がそんなことを考えながら、口元だけ笑った顔で時雨に聞く。

 

「サザンカ、と言うのは誰から聞いた?」

 

「深尾司令官から御聞きしました!」

 

「こんな気狂いに弟子入りしたいなんて酔狂な奴だな」

 

「いいえ、僕はサザンカさんとの演習で自分の弱さを知りました!!ありがとうございます!!」

 

 二人の様子を隣で本を読みながら見ていたウツギが少し呆れた顔で横やりを入れると、時雨は何も問題ありませんといった心情が滲み出ているような顔で返してくる。

 弄って楽しそうな物質が増えた。どう使おうか、ただ壊さないようには気を使うか。内心では満面の笑みを浮かべて、制服の胸元の花の刺繍を弄りながら若葉が続ける。

 

「勝手にしろ。だが若葉からは何もしないぞ......ふフ......」

 

「ありがとうございます!!」

 

 若葉の返事に、訓練中の兵隊のような声量で礼を言う時雨にウツギが顔をしかめる。

 そして時雨は今度はロボットのような動きで体の向きを変えて、第五鎮守府の艦娘達に謝罪を述べる。それももちろん訓練兵のような大声で。

 

「シエラ隊の皆様、この度は大変、誠に申し訳ございませんでした!!私、ポクタル警備府総旗艦時雨は、今回の失態を教訓として、二度と同じ過ちを繰り返すことのないように肝に銘じます!!また身勝手な御願いではありますが、これに懲りず、今後ともよろしくお付き合いくださいますようお願い申し上げます!!」

 

 時雨の長々とした、妙にかしこまった謝罪に天龍や球磨が少し引いているのをウツギが目にする。アザミは無表情、春雨は心配そうな顔をしている。

 ......嫌味ったらしい奴かと思ったが意外とさっぱりした性格なのだろうか。と、演習前とは180度言動が変わった時雨にそんな考えをウツギが浮かべているとき、アザミが一切の感情を削ぎ落としたような顔で呟く。

 

「うるさい......また来た......もうやダ.........」

 

 アザミの小さなぼやきは誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり日も暮れて辺りが暗くなった頃。雨も止み霧も晴れた外で、江風が上を向いて空の三日月を眺めながら独り言を喋り始める。

 

「あ~あ。つまんねぇ~の。せっかくお客さン来たってのに、ぜんぜんお喋りできなかったじゃンかよォ」

 

「にひゃくっ......いちっ......!にひゃくっ......にっ...!」

 

「......いやぁでもウツギさンかっこ良かったなァ、敬語が似合うくーるびゅーてぃーってやつ?」

 

「にひゃくっ......じゅうっ......!にひゃくっ......」

 

 独り言を呟く江風の隣には時雨が片手で腕立て伏せを行っていた。

 ......なんか今日の姉貴おかしいンだけど。何かあったンかな。そう考えながら気になった江風が時雨に質問する。

 

「なぁいきなりどうしたンだよ姉貴?何?直海提督じゃねぇのにさぁ、ムッキムキになりてえのォ?」

 

「うっ......る...さいっ......!......サザンカさんやウツギさんに追い付くには死ぬ気で頑張らないと.........!」

 

 散々暴言に近い言葉を浴びせた相手を「さん」付けで呼び始める姉に、江風がにやりと笑って時雨をおちょくり始める。

 

「おっ?さん付け?先輩リスペクト?」

 

「なんっ......かっ......文句でも......!?」

 

「えっ?いやいや、別に。上下関係をしっかりするのはいいと思うよ?うンうン。山風姉もそう思うよな?」

 

「えっ......まぁ......そうなんじゃない......」

 

 江風が隣に居て同じく空を眺めていた、これまた江風の姉である「山風」に話を振る。

 いきなり話題を振られた山風はどもりながら返答する。......時雨姉の手伝い......しようかな。そう思った山風は視線を夜空から腕立て伏せをやっている時雨に移す。そして

 

「にひゃくっ......ごじゅうっ......!」

 

「............」

 

「にひゃくっ......」

 

「んしょっ」

 

「ごじゅういっ......んがぁっ......!?」

 

 山風がトレーニング中の時雨の背中に勢いよく腰掛ける。突然の出来事にたまらず時雨が押しつぶされてしまい、あわてて山風が謝る。

 

「ご、ごめん、時雨姉。頑張ってるから手伝おうと思って......」

 

「......き、気持ちだけ受け取っておくよ。山風。......でも今は遠慮しとくかな......」

 

 汗が滴る顔で時雨は苦笑いしながら、自分の背中に座る山風にそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ウツギ......だったか。お前の部隊宛の荷物が来てるぞ」

 

「私達宛、ですか?」

 

 翌日、食堂で第五鎮守府の艦娘たちと深尾が朝食を取っていると、筋骨隆々の大男、藤原提督からそんな報告をウツギが受ける。

 荷物......いったいなんだ。宅配便なんて頼んだ覚えは無いぞ。ツユクサか漣の荷物か?、そう思ったウツギは少し離れた場所に座ってばかでかいパフェを食べていた二人に聞く。

 

「ツユクサ、漣。荷物だぞ」

 

「へ?漣なんも頼んでないけど?」

 

「アタシも知らねッス」

 

「......なんだと?」

 

 予想が外れて面食らうウツギに、藤原提督が机に置いた荷物の荷札を読み上げる。

 

「差出人は......『須藤(すどう) 千暁(ちあき)』と書いてあるが」

 

「えっ、お父さン!?」

 

「春雨ちゃんの親父さんクマ~?」

 

 藤原提督の読み上げた名前に春雨が反応する。

 須藤......春雨の元の名前か。こんな場所で聞くことになるとは思わなかったな、と、どうでもいいような事を考えながら、ウツギが春雨の了承を経て箱を開ける。中身は......

 

「花束......造花か?......いや違うな」

 

「わぁ、ガラス細工の花束じゃないですか!!」

 

「......どこから出てきた」

 

「あ、どーぞ気にしないでください」

 

 突然現れた時雨にウツギが突っ込む。

 

「すっげ何これ、マジで作りもんなのこれ?」

 

「綺麗......」

 

「はるちゃんのオヤジさんマジハンパネェ!」

 

「職人の技ってやつですね......すごい......」

 

 箱の中の見事な芸術品に他の艦娘達が見とれているなか、ウツギは箱の底にも何かが入っているのを見つける。

 これは......封筒か。中身はなんだ?と何気なく封を切って中身を取り出す。......入っていたのは春雨、アザミ、そして春雨の父親と思われる、がっしりした体格の頭に白いバンダナを巻いた男性の三人が写っている写真だった。

 

「写真か」

 

「うわぁアザミちゃん相変わらず無表情クマね~」

 

「無表情?笑顔ッスよ?」

 

「は!?これでクマか!?」

 

「あ~これを送るついで、ですかネ。こレ」

 

「ついで!?ついででこんなもんくれんの!?」

 

「私も同じものは作れますヨ。慣れれば簡単でス」

 

「マジで言ってんのかよ......」

 

 さすが職人の娘、と天龍と木曾が驚いていると

 

 

 建物内にけたたましくサイレンの音が響き渡る。

 

「来た......!殺りあう時間だ......!!」

 

「警報...敵か。提督、どうする」

 

「藤原提督、私たちは?」

 

 警報を聞いて嬉々とする若葉を無視してウツギが深尾に自分達への指示を扇ぎ、深尾が藤原提督に自分達はどうすればいいのか聞く。

 

「こっちの部隊を出す。君たちは後ろで万が一の時のために控えて貰っていてもいいか?」

 

「提督、僕らよりもウツギさんたちのほうが実戦には慣れているけど......」

 

「時雨、緊急事態とはいえ彼女たちは休暇で来た艦娘達だ。出来る限り俺たちでやるしかない」

 

「......了解」

 

 藤原提督に説得された時雨が、渋い顔をしながら藤原提督と共に食堂を出ていく。

 な~んだ今日の予定潰れるかと思って焦ったわ、と言う漣を「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ」とチョップする天龍を見ながら、ウツギはどうも漠然とした嫌な予感がしたが、指示通り待機するために艤装保管室へと向かって食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

実に七年ぶりの島にやって来た敵と交戦する警備部隊。

積み重ねた演習の効果は実戦でも発揮できるのか。

しかしウツギと時雨の二人は、

偶然にも同じような「嫌な予感」を抱えて、戦闘に挑む。

 

 次回「胸騒ぎ」 この、ざらついた感触は、何。




最近寒いですね。(書くことが無い


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胸騒ぎ

大変お待たせいたしました。インフルエンザでめっさダルいですが投稿(同情を誘う人間の屑


 

 

 

 

 雲ひとつない快晴の空の下。海上では轟音が響き渡り、砲弾が宙を舞っている。 時雨率いる警備部隊は実に七年ぶりに島へと侵攻してきた敵部隊と交戦中だ。実戦経験が皆無とはいえ毎日の演習で鍛えられていた部隊員の艦娘たちは、初めての実戦でも上手く立ち回っていた。が......

 

 

「はぁ、はぁ......敵艦撃破!次!」

 

「クッソ、弾が切れた!姉貴先戻ってるわ!」

 

「江風、なるべく早く戻ってきてくれるとうれしいなっ......!!」

 

 やはり「死ぬときは死ぬ」という実戦の空気にあてられたのか、無駄弾を撃ってしまい補給に戻る艦娘が多く、初めは12人いた部隊員の内既に残っているのは時雨を含めた5人だけだった。

 さらにこれに合わせて敵の数も多い事が彼女たちの緊張と焦りを増幅させていた。空母や戦艦の敵が居なかったものの、何匹かの駆逐艦級の深海棲艦は防衛ラインを突破し島の設備を攻撃していると言う。

 優に目測だけでも50を超える敵を何とか食い止めるために、縦横無尽に海上を動き回って敵を撃っていた時雨が額の汗をぬぐった時、無線から怒号が飛んでくる。

 

『レーダー二基損壊!!迎撃部隊は何をやっているんだ!!』

 

「こっちだってやってるよ!!......敵の数がッ!!」

 

『コンデンサ大破、発電施設の被害拡大!!』

 

「補給中の子に言ってよ!!こっちはこれっぽっちの余裕もない!!」

 

 レーダー施設と発電所のスタッフへ怒鳴り声で時雨が返す。

 いったいどれだけ倒せば打ち止めなんだろうか。もう何匹沈めたのか自分でもわからないや。

 最後の予備弾倉から砲弾を補充した時雨が、疲れきった体にムチをうちながらそんな事を考える。

 

 しばらく時間がたち、更に2名補給に戻り、海上には時雨と戦艦「山城」、軽巡「川内」だけが残っていた。しかし敵はもうすでに片手で数えるほどしか残っていないことを確認した時雨が、ほんの少し余裕を取り戻して呟く。

 

「......数は減ってる、これを全部やれば!」

 

「う~んやっぱり夜じゃないと調子でないなぁ~」

 

「川内、あと少し頑張れば補給に行った子も戻るから!」

 

「ね、ねぇ時雨。アレ......」

 

「山城もあと少しのしんぼう......!?」

 

 話しかけてきた山城を激励しようと時雨が後ろを向く。体の向きを変えた時雨の目に入ったのは、

 

ざっと100機ほどの深海棲艦の戦闘機だった。

 

「っ!これはジョーダンきつくないかな......」

 

「もう少しだと思ったのに......不幸だわ......」

 

 空母は居ないって聞いてたのに、まったく僕はどこまでも運がないな......!

 そう心のなかで悪態をつく時雨が敵の戦闘機に砲の照準を合わせて引き金を引こうとする。しかし何か様子がおかしい。というのも飛んでいる複数の戦闘機が何やら板のようなものを懸架しているのを時雨が目にしたのだ。

 なんだろうアレ......爆弾か何かか?と、3人が板に向かって砲撃を行うが、懸架されていた板は凄まじく頑丈で、素人目でもわかるほど攻撃は弾かれダメージが入っているようには見えなかった。

 そしてそのまま板を懸架した戦闘機が時雨たちの近くまでやって来ると

 

板から深海棲艦が降下してきた。

 

「......っ、随分と凝った演出の登場だね」

 

「ひ、姫級......!」

 

 空から降りてきた五体の深海棲艦は、戦艦タ級が1、レ級が1、ル級が2。そして

 

最後に降りてきたのは深海棲艦の最強格、姫級の「装甲空母姫」だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「急げよてめぇら!!燃え広がる前に消せ!!」

 

「先輩危ないですよ!下がったほうが!」

 

「女のガキどもが前で命張ってんだ!!俺らがビクビクしてられっかよ!!」

 

「お水持ってきました!」

 

「おうでかしたデカ腕!!」

 

「誰がデカ腕ですか!夕張です!!」

 

 時雨たちが前線で敵を食い止めている頃。レーダー設備施設の職員と、暇を持て余していたために施設スタッフの手伝いをやっていた夕張は、防衛ラインを突破した深海棲艦の攻撃で破損したパラボラアンテナの消火活動に追われていた。

 あちこちに砲弾が飛び交う場所で臆することなく指示を出す職員に、「デカ腕」と呼ばれ少し頭に来ていた夕張が、その自身をデカ腕呼ばわりした頭にバンダナを巻いている男にあと少しで艦娘が護衛に来ることを報告する。

 

「良かったですね、あと2分で護衛が来るみたいですよ!」

 

「あぁ!?いらねぇよそんなもん!!」

 

「はい!?何言ってんですかこんなときに!?」

 

 普通なら喜びような報告にしかめっ面で返答する職員に夕張がまるで意味がわからないと返す。

 

「あんなガキに守られちゃあ漢じゃねぇ!!いざってときはこの鉄より硬ぇ俺のコブシで......」

 

 言い終わらないうちに、その職員の頬すれすれを砲弾が掠め、作業中の職員たちの背後にあった貯水タンクが吹き飛ぶ。

 

「ごめん前言撤回、はやく来てぇぇぇぇ!!!!」

 

「それ見たことか!」

 

 すぐに態度を変え、挙動不審になって慌てる職員に夕張が突っ込む。

 不味いかも、誰か早く来ないかな......。と、もう目で見える距離まで敵の駆逐艦が迫っているのを確認した夕張がそう考えていると、一匹の駆逐艦が爆発と同時に叫び声を上げて沈んだ。

 あれ、予定より早い......?夕張が困惑していると、自分からすぐ近くの水辺に一人の艦娘がやって来た。

 

「うおっしゃぁー!アタシが一番乗り!!」

 

「ツッチーあぶなーい!!」

 

「んぇ?ほんぎゃあっ!?」

 

 颯爽と駆け付けて敵駆逐艦を撃破したツユクサが夕張の方を向いて笑顔でピースしたと同時に被弾する。

 ......大丈夫なのかなこの人。夕張が敵を目の前にとんでもない隙を見せ、砲弾を顔面キャッチしたツユクサのことをそう思っていると、海面にずっこけたツユクサの元に漣が駆け寄ってくる。

 

「ツッチーダイジョブ!?」

 

「さっちゃん、心配ないッスよ。それより......」

 

 ツユクサがゆっくり立ち上がり、ニコニコしながら目を赤く光らせ、また新しく取り寄せて装備した重巡摩耶の砲を構えて突撃する。

 

「やりやがったッスね、あんちきしょう......」

 

 

 

「100倍にしてお返ししてやるぜええええええぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 あ、心配なかったかも。すっごい強そう。

 頭に血が昇った状態で敵の群れに突っ込んでいくツユクサを見てそう思う夕張だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「われら、楽園警護部隊強襲撃滅特別攻撃艦隊!!」

 

「「「「百花繚乱・明鏡止水!!!!」」」」

 

「レ級!遅れたぞ!!」

 

「も、申し訳ありません姫様!!」

 

 先程戦闘機が牽引していた板から降りてきた深海棲艦が横並びに隊列を組み、そう名乗り口上を挙げる。

 ......なんでだろう、姫級の深海棲艦なのにまるで怖くないのだけれど。

 時雨が前に資料で見たときとは違い、全員が何故かタキシード姿で砲の類いを一切持っておらず両手に西洋刀と思われる物を持ち、戦場と言う場所ではおよそ似つかわしくない妙な行動を取った目線の先の深海棲艦に面食らう。

 すると、そんな時雨を見ながら装甲空母姫が口を開いた。

 

「ふっ......どうした?この私を見て恐怖で怖じ気づいたか?」

 

「流石です姫様!戦わずして相手の闘争心を削ぐとは!」

 

「ふん、世辞はいい。何か言っておくことはあるか、艦娘よ?」

 

 余裕たっぷりに、目線の先で好き勝手言い始めた装甲空母姫に、何故か腹が立った時雨が言い返す。

 

「ひとつ、いいかい?」

 

「なんだ?私の部下にでもなりたくなったか?」

 

「さっきの挨拶の事だけど」

 

 

「ここはお遊戯会の場所じゃないよ?」

 

 

 機嫌が悪そうに眉間にシワを寄せながら時雨が発した言葉を耳にして、装甲空母姫が顔に青筋を浮かべる。

 

「き、貴様!!我々を愚弄するのか!?」

 

「姫様気にする必要はありません!たかがネズミ一匹の戯れ言です!!」

 

 顔に青筋を浮かべ、眉をヒクつかせる装甲空母姫をル級がなだめる。

 

「ふう~。ありがとう、ル級。だがここまでこの私をコケにしてくれた輩は初めてだ......」

 

「隊列変換、魚鱗の陣!!」

 

 そう言った後、装甲空母姫とその取り巻きが陣形を組んで時雨たちの元へと突っ込んでくる。

 

 

「愚かな艦娘どもに裁きを下す!!」

 

 

「山城、川内、来るよ......!」

 

「いやぁ、ちょっと挑発する必要は無かったんじゃないの!?」

 

「姫相手だなんて......やっぱり不幸だわ......」

 

 剣を構えて突っ込んでくる装甲空母姫たちに、時雨、山城、川内が残り少ない砲弾を使って砲撃を行う。が、撃った弾は装甲空母姫に届く前に取り巻きの戦艦に切り払われてしまう。

 

「はははっ、無駄無駄ぁ!!」

 

「っ......自分でやったわけでもないのに偉そうに!」

 

 引き撃ちに徹する時雨たちに元気に突っ込んでくる敵に、時雨が悪態をつく。

 さっきからの計算が合ってたら......もう何秒もしないうちに弾が切れる......どうするべきか。

 そう考えながら冷や汗をかきながら時雨が正面の敵を見据える。すると

 

 いきなり装甲空母姫が大爆発を起こして後ろに吹き飛んでいった。

 

「きゃあああぁぁぁぁ!?」

 

「ひ、姫様あああぁぁ!?」

 

 一体何が......?相手ほどではないがいきなりの出来事に時雨が混乱する。

 ......っそうか、援護が来てくれたんだ!!そう確信して時雨が後ろを向く。彼女の視界に入ったのは

 

 

「元気か?時雨。」

 

「んふふフ......戦闘開始、だナ......」

 

「ウツギさん、サザンカさん......!!」

 

 

 スナイパーライフルを構えたウツギと、背中から打刀を取り出している若葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

時雨の前に現れた、装甲空母姫。

警備隊とシエラ隊は共同で彼女に立ち向かう。

そして若葉......サザンカは

一人淡々と刀の使い方を学ぼうと、敵に突っ込む。

 

 次回「山茶花舞う」 困難に打ち勝つ、ひたむきさ。

 




映画見てからインフルになりました。やっぱりいま時期に人の多いところはダメだったんですかね......あと映画は面白かったです(小並感


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山茶花舞う

豆腐って美味しいですよね(激しくどうでもいい一言


 

 

 

 

「えーと、はい弾薬とワイヤー」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 弾が底を尽きかけていよいよか、と、身の危険を感じていた時雨が何とか間一髪助けに入ったウツギ達から、燃料と弾薬を受け取って補充する。

 天龍から貰った砲弾を背中から伸ばした砲に詰め込み、自分用にいつも演習で使っていたワイヤーガンのグリップを握りながら、時雨が前であわてふためいている深海棲艦たちを見る。

 

「......うっぐぅ......ぉぉ」

 

「姫様ァ!!気を確かに!!」

 

 数秒前にウツギの攻撃で盛大に吹き飛ばされ気を失っているのか、昔時雨が見たカートゥーンアニメの登場人物のように目の焦点が合っていない装甲空母姫に何やら敵の一人が呼び掛けている。

 す、すごい。姫級がたった一発の攻撃でダウンするだなんて。僕にはとても真似できない、と時雨が考えていると、すぐ隣にいたウツギが声をかけてくる。

 

「なぁ時雨」

 

「はい!何ですか!?」

 

 声をかけた瞬間、食事の時間の子犬のように目を輝かせて返事をしてきた時雨に一瞬気圧されるが、気にせずウツギが持っていたライフルをさすりながら質問する。

 

「この武器は......その、ほとんど殺傷能力がないんだが。なんであいつはあんな状態に......」

 

「えっ......冗談はいいですよウツギさん!!」

 

「冗談じゃないんだが......」

 

「なァ......さっさと始めたいぞ」

 

「若葉、補給を済ませるのが先だ。丁度今何故か敵がモタついてるしな」

 

 早く戦いたいと言ってくる若葉を止め、ウツギが砲弾の装填に手間取っている山城を手伝いながら、前の敵を目線に入れる。

 ちょうど補給と時雨たちの艤装の応急措置が終わった頃、相手もようやく意識が回復したらしく、装甲空母姫がよろけながら煤で汚れた顔でウツギに話しかけてきた。

 

「き、貴様ら......もう絶対に許さん......!!」

 

「別に最初から許してもらうつもりも何もない」

 

 どういうわけか今一迫力のない装甲空母姫にウツギがそう切り返す。

 

「っええい、野蛮な艦娘どもめが!まぁいい、隊列変換!!」

 

「.........?」

 

 なんとなくで言ったウツギの返事を聞いた装甲空母姫がそう高らかに宣言して隊列変換を行う。

 ......なんだ?敵の目の前でこいつらは何がしたいのだろうか?とポーカーフェイスで考えていたウツギのことなど露知らず、続けて六人の前にいる五人の深海棲艦が、時雨たちにやったようにまた名乗りを挙げる。

 

 

 

「われら、楽園警護部隊強襲撃滅特別攻撃艦隊!!正義の裁きを受けよ!!」

 

 

 

「「「「勇往邁進(ゆうおうまいしん)・意思け......」」」」

 

 

 装甲空母姫の言葉に続いて、彼女の両側に並んだタキシード姿の戦艦の深海棲艦たちが格言のような物を言おうとするが

 

 

 

 

 全部言い終わらないうちに一人のル級の顔に砲弾が当たり、そのまま後ろに崩れ落ちる。

 

 

 

 

「ぐはぁっ......!?」

 

「ル級うううううぅぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 ウツギが、何が起きたかと後ろを向く。

 

 そこには砲口から煙が上がっている単装砲を持って困惑している天龍がいた。

 

 

「えっ...ちょっ......撃っちゃ駄目だったのこれ......?」

 

「さあ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「んフっ......若葉はあのレ級をやる。いいか?」

 

「好きにしろ。流れ弾には気を付けろよ」

 

「くくクく......りょーかい......」

 

 

 うふ......ふはははは......

 

 わはははははははははは!!待ちに待った殺し逢いだ!!血がたぎる!!

 

 

 そう、心のなかで盛大な笑い声を挙げる若葉が、ウツギの了解を経て打刀(うちがたな)片手に敵に突っ込む。

 レ級だ。あいつならこの若葉に釣り合う敵に違いない。

 そう思いながら刀を大上段に振り上げて突撃する彼女の顔を見て、装甲空母姫の隣で砲撃を受けたル級を介抱していたレ級が、急いで両手の二刀で防御の構えを取り装甲空母姫の前に立ちはだかる。

 

「っぐ、一度ならず二度ま」

 

「姫様御下がりくださっ......んぐぉっ......!?」

 

「ん~?少し鍛え方が足りないんじゃないのか?」

 

 若葉の尋常ではない馬鹿力で降り下ろされた刀を受けたレ級が、自身では完璧だと思っていた防御の体勢を崩されそうになり、軽いパニックに陥る。

 そしてそんなことなどお構いなしに、若葉は取っ組み合いになったレ級を装甲空母姫から離れた場所へとどんどん押し出していく。

 

「こ、こいつなんて馬鹿力っ......!」

 

「馬鹿力~?違うなぁ......お前が弱いだけだ......くひヒ......」

 

「レ級、手伝おう!!」

 

「おっと来てたのは知ってるぞ?」

 

 少しずつ圧力を掛けてレ級の防御を崩そうとしていた若葉の後ろから、天龍の砲撃を受けて顔にヒビが入ったル級が不意打ちを仕掛けてきたが、若葉は降り下ろされた刀を

 

 

 「角度をつけた自分の腕をわざと相手に切らせ、骨と刀の間で摩擦を発生させて」止めた。

 

 

 みちみちと肉や腱の裂ける生々しい音が響き渡り、血の匂いが辺りに漂い始める。

 

 

 相手の奇天烈すぎる対処法に驚いていたル級が、そのまま隙を突かれて若葉に蹴り飛ばされる。

 

「おおわあぁぁっ!?」

 

「ル級!」

 

「いいねぇ......心地いい痛みだぁ......」

 

 あーあーまたやってしまったな。ケガしないようにって、これを持たせられたのを忘れていた。他人事のように考えながら若葉がぼろぼろの腕と、反対の手に握った打刀を交互に見ながら思考に更ける。

 そして血が滴っていて、血管や削げた肉が垂れ下がり、凄まじい状態になった右手を眺めながら恍惚の表情を浮かべている若葉に、レ級が酷く動揺していた。

 

 なんなんだこの艦娘は。痛くないのかそんな状態の腕で?なんで......なんで笑っていられるんだ。

 そう、目の前の艦娘に戦慄していたレ級に、若葉が声をかける。

 

 

 

「ん~サァ、続きをやろう......♪」

 

 

 

 

 レ級が感じた感情は、奇しくも過去に若葉が春雨に抱いたものと同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「レ級!ル級!!うわぁっ!?」

 

「ヨソ見してる暇はないぞ」

 

「姫様、ここは私にお任せください!!」

 

 ちょうど若葉がレ級とル級を手玉に取っていた頃。ウツギは残った他の艦娘と装甲空母姫......の取り巻き二人を相手にしていた。

 華麗な剣さばきで砲弾を切り払いながら近づき、横凪(よこな)ぎに剣を払ってくるタ級にウツギが冷や汗をかく。

 何度も当てたせいで、ライフルが威力がそれほどでもないことを見抜かれてしまい、どうしようものかと考えながら、ウツギが五回ほどリ級の艤装で剣撃を受けきった時、タ級が口を開く。

 

「生白い艦娘!我が剣の錆びになるがいい!!」

 

「お前も白いクセによく言うよ」

 

「その口を塞いでやると言っているのだッ!!」

 

 そう言った後、タ級が弾いたのとは別の剣で突きを放つ構えを取り始める。

 マズいな、ただでさえそこまで戦闘が得意じゃない自分に奴の得意な間合いは危険すぎる。

 そう考えて背中にライフルを仕舞い、今度は同じく背中に仕舞っていた、ウツギが何となく倉庫から勝手に持ち出してきた駆逐艦「叢雲(むらくも)」の槍を手に持って相手の攻撃に備えていたウツギの所へ、天龍が割って入ってくる。

 

「手伝わせろよウツギ!」

 

「天龍、そいつ相手に近づいたら......!」

 

「ええい、邪魔だ!そこをどけぇ!!」

 

「敵にどけって言われてどくほど親切じゃないんでね!」

 

 割り込んできた天龍が、タ級の放つ突きを持っていた刀の峰で受け流し、激しい金属音が何度も辺りにこだまする。

 その天龍にもう一方の刀で斬りかかろうと、タ級が大上段から降り下ろした剣をウツギが槍で止めると、タ級は頭に血が昇り始めたのかべらべらと喋り始めた。

 

「貴様らに構っている暇は無いのだ!!」

 

「構っているのはこっちのほうだ。さっさと帰ってくれるとこちらは嬉しい」

 

「なんだと!?」

 

 挑発に近い言葉を浴びせて相手の集中力を欠かせてやろう、とウツギが考えていると、案の定激昂したタ級が両手の剣を滅茶苦茶に振り回し始めたため、天龍とウツギがたまらず距離を取る。

 

 これなら砲も通るか? 

 

 先程砲弾を跳ね返されてしまったことから接近戦を余儀なくされたウツギが、艤装の副砲をタ級目掛けて撃ち込む。

 が、怒って精細さを欠くどころかますます冴えた太刀筋でこちらの撃った弾を受け流したり切り飛ばして無効化するタ級に、天龍とウツギが驚いていると、件のタ級が自分達の方へと海面を蹴って加速しながら突進してくる。

 

「クソが、なんてヤツだ......!」

 

「剣だけでここまでやるのか......」

 

「何度やろうが無駄だ!艦娘!!」

 

 やはりこれでやるしかないのか......。槍を片手にウツギが前から突っ込んでくる敵を見つめる。

 

すると

 

 

 

 

「そこだよ!!」

 

 

「なっ......!?」

 

 

 

 タ級が移動する直線上に入った時雨が、すれ違い様にタ級を二本のワイヤーで拘束する。

 

 

「っ......く、駆逐艦のネズミがぁっ......!!」

 

「ウツギさんやっちゃって!!」

 

「.........!」

 

 

 時雨に拘束されて身動きが取れなくなったタ級の所へ、天龍とウツギが得物を構えて近づいて行く。

 

 

「うっ......ううぅぅ!!」

 

 

 

 

「ひっ姫様あああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 体を二ヶ所、貫かれ絶命したタ級の断末魔が、虚しく海に木霊(こだま)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

少しずつ圧されていく味方に、焦りを見せ始める装甲空母姫。

そして数的有利にたったウツギたちは、

ここぞとばかりに追い打ちをかけてゆく。

更に戦場には、快晴にもかかわらず雨が降り注ぎ......

 

 次回「フォグシャドウ」 濃霧発生中につき、視界不良にご注意。




インフルエンザ流行ってるんですね最近。皆様御体にはお気を付けて。


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フォグシャドウ

三章はあと少しで終わりです。


 

 

 

 

 

 嘘だ。こんな事が有り得るものなのか。これは嘘だ。私は......このレ級は、装甲空母姫様に選ばれた精鋭なんじゃないのか?

 じゃあ目の前にいる、私を追い詰めているこの駆逐艦の艦娘は何だ。腕の肉を削いでやった。まだ向かってくる。砲を一つ使えなくしてやった。まだ向かってくる。残った腕を切り飛ばしてやろうとした。逆に自分の左手を持っていかれた。

 師であり、私の友だったル級は目の前のこいつに成す術もなく首を切り飛ばされて沈んだ。彼女は自分よりも剣術に()けていた筈だ。

 

 駄目だ。

 

 

 まるで勝てる気がしない。

 

 

 勝てる要素も無い。

 

 

 

「う~ふ~ふ~♪楽しいねぇ殺し逢いは......」

 

「ぐっ......うぉわッ......!!」

 

「なんてったって時間を忘れて打ち込める......んっくッ......」

 

「ッ!」

 

 何なんだこの艦娘は。なんで命のやり取りの途中にそんなに笑ってられるんだ。とても正気とは思えない。

 

 ああ、そうか。

 

 

 こいつは正気じゃないんだ。

 

 

「どうした?反応が鈍くなってるぞ?」

 

「ふっ、せいっ......!!」

 

「おっとト、危ない危ない......ふふふ......♪」

 

「そんなっ......!?」

 

「なんだ?意外と張り合いがいが無いなァ......?」

 

 

 

 駄目だ。

 

 駄目だ駄目だ駄目だ無理だ無理だ無理だ。自分はここで殺される。

 左肩の痛みに気をとられていれば、相手はすかさず此方が怯んだ処に畳み掛けてくる。でも、斬り合いに集中すればするほど、鋭い痛みが突然やってくる。

 同じ条件。同じ条件なのにだ。同じ条件......?いや違うな。

 そうだ。断じて同じ条件なんかじゃない。だって相手は削がれた肉が垂れ下がった片腕の事などまるで忘れているかのように私の命を刈り取ろうと刀を振ってく......

 

 

「......飽きた」

 

「ッ、何」

 

 

 数分ほど、若葉に押され続けていたレ級の思考はそこで中断される。

 

 手加減しながらの斬り合いに飽きた若葉は刀を放り投げ、動かせる手を顔の横に持っていきながらレ級の目の前まで移動すると、得意の馬鹿力による直突(じかづ)きをレ級の鼻面に叩き込み、彼女の「意識」を刈り取る。

 

「っぁ......ぅぅ......」

 

「......終わった。つまらん」

 

 

「雑魚が」

 

 

 若葉が、倒れたレ級を前にそう吐き捨てる。

 

 

 ふと周りを見渡せば、若葉が気付かないうちに周囲には小雨が降り注ぎ、それによって昨日の演習の時のように霧が立ち込めていた。

 用は終わった。あいつらの手伝いでもやってやるか。それにあの姫とかいうやつはこいつよりも強そうだった......。

 気絶したレ級を小脇に抱え、投げた刀を拾うと、若葉は濃霧の中を砲撃と金属同士を打ち合う音を頼りに、ウツギたちの元へと向かっていった。

 

 そして、勿論彼女の顔には薄ら笑いが浮かんでいたことも追記する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「んもー剣で砲弾弾くな!大人しくやられろっての!」

 

「はははっ!それは私に対する恫喝か艦娘!!」

 

「砲門が潰された......不幸だわ......」

 

 周囲に霧が立ち込め始めた頃。タ級を相手にしていた三人、ル級とレ級を弄んでいた若葉とは別に、川内と山城は弾幕を張って装甲空母姫とル級から距離を取っていた。

 

「全く、こりゃ近づかれたらアウトだよぉ!!」

 

「そんなこと言ったって......あぁ、扶桑姉さま......」

 

 砲を撃ちながら空いた手に短刀を持って注意を促してくる川内に、山城がぼやきながら、ル級が時たま此方へ投げつけてくる「独鈷(とっこ)」を持っていた飛行甲板を盾にして防ぐ。

 「仏教道具を武器に使うとかバチあたりじゃんか」と、剣を片手で風車のように回転させて砲弾を弾きながら、隙をみて投げナイフ代わりに独鈷を跳ばしてくるル級に川内が山城の隣で愚痴を溢す。

 

「どうした艦娘!怖じ気づいたァ!?」

 

「姫、援護します!!」

 

「わわわっ、距離詰めて来たよ山城!」

 

「えっちょっ......」

 

 ふ、不幸だなんて言っている場合じゃないわ。どうしよう!

 山城がとにかく向かってくる装甲空母姫とル級から距離を取るために、背負っていた主砲から三式弾......散弾を発射する。

 

「これなら!」

 

「山城ナイス!」

 

 薄い霧で少し薄暗い海上で、川内がガッツポーズをする。

 これだけバラける弾なら流石に弾ききれないし効くでしょ!楽観的に考えていた彼女の予測は、

 

 

 残念ながら外れることになる。

 

 

「無駄ァ!!散弾ではなぁ!!」

 

 

「えぇ......」

 

「......ウッソーん」

 

 打つ手ナシ、じゃん? 

 

 どうだ見たか!と言わんばかりに得意気な顔で弾幕を全て切り払って爆風を潜り抜けてきた装甲空母姫に、目の前まで近づかれた山城が顔を青くしながら咄嗟に飛行甲板を盾にして、防御の構えを取る。

 折角整備長から貰った装備、こんな使い方したら怒られるかな。等と言う考えが飛ぶほど激しい剣撃と盾にしている飛行甲板越しに伝わる衝撃に山城が顔をしかめ、額から止めどなく汗が(したた)り落ちる。

 

「いつまで耐えられるかな!」

 

「うぅ......」

 

 霧が出てきて味方の場所もわからなくなってしまったし、目の前には自分一人ではどうにもならないような敵。あぁ......不幸だわ。

 そう考えながら、ただひたすら相手の攻撃を山城が耐えていると、

 

 鋭い金属音が響き、ふと目の前の敵の攻撃が止まった。

 ......?いったいどうしたのかしら?

 不思議に思った山城が、恐る恐る目を開けて状況を確認する。さっきまで装甲空母姫が立っていた場所に居たのは

 

 

「どうにか追い払ったな」

 

「生きてる?山城」

 

 

「し、時雨ぇぇ......!」

 

 

 相手が持っていた剣の一本を手に持った、旗艦の時雨と、駆逐艦叢雲の槍を構えているウツギだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 ええい、何故だ!?何故こうもあと少しの良いときに邪魔が入るのだ!!

 山城にしつこく斬撃を見舞っていた装甲空母姫が自分の間に割って入ってきたばかりか、ワイヤーで持っていた剣の一本を絡め取って奪ったウツギと時雨の二人を睨み付けながら、そう考える。

 そんなとき、怒りながら思考に更ける彼女の元へル級が合流し、口を開く。

 

「姫、御無事で?」

 

「私は平気だ。それよりお前が相手をしていた軽巡はどうした?」

 

「はっ、申し訳ございません。タ級が足止めをしていた艦娘どもに水を差され......」

 

「っ......タ級がやられたのか......」

 

 忌々しい艦娘どもめ......私の可愛い部下をよくもッ!!

 怒りが頂点へと達した装甲空母姫が失った西洋刀の代わりにと、予備として腰に着けていたエペ剣を抜いて再び二刀流の構えを取り、時雨達が居た場所へと単身霧の中を突っ走って行く。

 

「......?姫様、一体何を?」

 

「この装甲空母姫が相手だ駆逐艦の艦娘ッ!!」

 

「姫!?あなた一人では!!」

 

 ル級の制止を振り切って装甲空母姫が構わず時雨を探しに、辺りを探索する。

 

 

 

 来た。今だ。

 

 音が反響してよく聞こえる。座標はここから22の14辺り......!

 時雨が音を頼りにワイヤーを射出し、的確に装甲空母姫の持っていた剣に引っ掻けて飛ばそうとする。

 

「ぐっ......またか!出てこい艦娘!!卑怯ものめぇ!!」

 

「数で攻めてきたくせに、自分のことは棚にあげるのかいっ......!」

 

 相手の言葉に少し苛つきながら時雨が返し、ワイヤーをかけた剣を飛ばそうとする......が、相手の力が強いのかビクともしない。

 そこへ天龍が加勢に入る。

 

「これ引っ張りゃいいんだろ?」

 

「えっ?はっはい!」

 

「うしっ、いくぜぇそれっ!!」

 

 掛け声と共に、二人が体重をかけて背中から倒れ込み、相手の持ち物を遠くへ投げ飛ばす。

 

 そして

 

 

「っ味なマネを!」

 

「そこまでだ」

 

「な」

 

 時雨から相手の居場所を聞いたウツギが、装甲空母姫のすぐ目の前まで近づき

 

 

 至近距離から彼女の顔を撃ち抜く。

 

 

「うわあぅっ!?お、オノレェェ!!」

 

「っ、駄目かッ......!」

 

 直撃だ、ただでは済むまい。そう思っていたウツギだったが、結果はガラスが砕けたような音と共に相手の右目の辺りが割れただけだった。

 レ級に輪をかけて頑丈な奴だ、倒すのは骨が折れそうだな。

 一先ず相手から距離を取りながら、ウツギがそう考えていると雨が止んでから時間が経っていたためか、霧が晴れてきた。

 次はどう行動すべきか......ウツギが時雨の隣に来た時、時雨の無線機が鳴る。

 

「誰だい?こんなと......」

 

 

 

『姉貴ィ!!射線空けてくれェ!!』

 

 

 

 無線機の江風の声に従い、急いで時雨、ウツギ、天龍がその場にしゃがむ。次の瞬間、凄まじい爆発音と共に、後方から砲弾の嵐がやって来た。

 

 

 

「うへぇ、何、何、何が起きてんだ!?」

 

「援護か!」

 

「ウツギさん当たり!」

 

 轟く砲撃の轟音の中で、時雨が勝利を確信し思わず笑顔になる。

 突然自分達へと凄まじい砲撃が飛んできたことに混乱しながら、装甲空母姫は顔を押さえながら急いで撤退しようと後方へと下がって行く。

 

「姫!このままでは......!」

 

「解っている、てった......」

 

 目元から青い血を流しながら、撤退の二文字を宣言しようとした彼女の足元に、何処からか何かが投げられてきた。

 

 片腕を欠損したレ級だった。

 

「......ぅぅ............」

 

 

「レ級!?しっかりしろ!」

 

 

「忘れ物だ。届けに来たぞ?」

 

 

 レ級を瀕死まで追い詰めた張本人、何時の間に装甲空母姫の前にやって来た若葉が、砲弾の嵐の中で涼しい顔をしながら言う。

 自分の部下を「忘れ物」扱いされた装甲空母姫が怒りのあまり若葉に立ち向かおうとするが、後ろで見ていたル級が止めにはいる。

 

「冷静さを欠いてはいけません姫!ここは直ぐに退くべきです!!」

 

「どうした?来ないのか?」

 

「ぐっ......うぅっ......」

 

 ル級の発言に踏みとどまった装甲空母姫はレ級を抱き抱えると、身を翻してル級と一緒に艦娘達から逃げて行く。

 

 

「すまん、タ級、ル級......弱い私を許してくれ......」

 

 

 惨めだな。私は。  

 敗走する真っ只中で、装甲空母姫は自分をそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

危機は去った。

敵を退け、味方の勝利に貢献したシエラ隊の休暇も終わり、

彼女たちは鎮守府へと帰還する。

また新たな戦いがわざとらしい足音をたててやって来ていることを、ウツギたちは知らない。

 

 次回「たのみごと」 遠くへ行ってしまう前に、伝えなきゃと思いながら。

 




予告しておくと四章はニ章を越える胸糞の予定です(何時もながら絶対とは言わない


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たのみごと

PV14000、UA4500......ヒャアアアアアアッホオオオウ\(^o^)/(錯乱


 

 

 

 

 

「ツッチー......」

 

「さっちゃん......」

 

「「なんだこれええええええ超すげえええええええ!!!!」」

 

 ポクタル島警備府の、海岸を見渡せる庭にて。乗用車一台ほどの長さの机四つにところ狭しと並べられた料理を見て、漣とツユクサが仲良くどでかい驚きの声を、隠そうともせずに挙げる。

 時雨たち警備隊とシエラ隊が結託して装甲空母姫を退けた日から数えて三日目。休暇の最終日だったこの日、藤原提督は送別会と称して宴会を開いたのだ。

 礼節も何もあったもんじゃない、と、周りから言われそうな動作で料理にがっつく漣とツユクサを横目に、ウツギが置いてあった肉料理に手を付けていると、藤原提督と深尾が何か喋っているのを目にする。何か喋っている、とは言うものの本人は近くに居たが、しかし喋る言葉がことごとく食事に夢中の二人に掻き消されてしまっていた。

 

「藤原提督、何もこんなに豪勢な会を開かなくても......」

 

「三日前は客人に出張らせてしまったんだ。これぐらいしなくては申し訳が」

 

「うめえぇぇぇ!!」

 

「ツユクサ、いま藤原提督が話して」

 

「いや良いんだ深尾。俺のことは気にせ」

 

「ぴょおおおぉぉぉぉ!?」

 

「......漣いい加減に」

 

「うんんんまぁぁぁあい!!」

 

「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙たまらねぇぜ!!!!」

 

「............はぁぁぁぁ......」

 

 話を遮られて三回目、深尾が溜め息をつく。御愁傷様。提督。そう、他人事だと思ってドライに考えながら二人の叫び声を背景音楽にウツギが静かに水を飲む。

 リゾート地とは言え、この一週間。自分にはあまり合わない土地だったな、早く自分達の鎮守府へ戻りたい。とホームシックに近いような、少し違うような感情を抱いていたウツギに、後ろから尚も騒音を響かせる阿呆とは違う、明確にこちらに話し掛けてくる艦娘がある。時雨だ。

 

「ウツギさん!!麦茶です!!」

 

「......ありがとう」

 

「だ~れか~おかわりくださいッス~」

 

「お持ちしましたツユクサさん!!マルゲリータです!!」

 

「うぇっ!?はやっ!?......ど、どもッス」

 

 ......完全に執事か家政婦のそれだな。弟子入りしたのは若葉の下だったはずだが...... 。こんなによくしてもらって良いのだろうか、とウツギが貰った麦茶を飲みながら考えていると、ちょうど時雨がその事について聞いてくる。

 ちなみに若葉は宴会のことを「つまらん」と吐き捨て、最低限の食事を取った後は会場の外に出ていったのをウツギは見かけていた。

 

「なぁしぐ」

 

「ウツギさん!!」

 

「な、なんだ」

 

「サザンカさんはどちらへ行ったのでしょうか!?」

 

「若葉ならあっちに......」

 

「ありがとぉございます!!」

 

 前に、謝罪を述べた時のように訓練中の兵隊のような声量で礼を言った後、駆け足で時雨はウツギの指した方向へと去っていった。

 

 

「まさかとは思うけど、あの子こっちの部隊に転属とかしないよね。クマ?」

 

「知らん自分の管轄外だ」

 

 

 「理由はどうあれ元気があるのは良いことなんじゃないか」。球磨の疑問に、適当にそう答えてウツギは食事に意識を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「342......343......344......345......」

 

「んん゙っ!!ぐっ......!!」

 

「350......351......352......」

 

「んふふ......まさかッ、付き合ってくれるとはッ、思わなんだ......!」

 

「別に......鍛える......ふっ......良い......こト......んっ......」

 

「ほどほどにしてくださいネ。やりすぎは御体に障りますヨ」

 

 夕暮れ時、宴会も盛り上がっていた頃。普通の人間ならば良いデートスポットになりそうないい雰囲気が漂う海岸沿いの公園で。若葉とアザミが二人仲良く上着を脱いで鉄棒に足を引っ掻け腹筋運動に勤しみ、その二人の近くで春雨が景色を楽しんでいた。

 ただでさえ暑い島の気温に加え、トレーニングで身体も段々と暖まり汗だくになりながら腹筋をする二人の隣に、何時の間にやら、もう一人自主トレに励む艦娘が増えている。時雨だ。

 

「ふっ!ふぅ......ん゙っ!ふぅぅ......ふっ!」

 

「......なんだぁ?一人増えているな。ふふフ......」

 

「あっ、サザンカさん、僕もお供します!」

 

「別にかまわんよ。しかし良いのかな?お仲間は宴会だろう......?」

 

「大ッ丈夫っ......ですっ!ああいう場所っよりっ......鍛えるほうが性に合ってますからッ!」

 

 鉄棒からぶら下がったまま、体を直角に曲げて静止し、体幹トレーニングでもやっているような体勢で頭に血が昇らないようにしていた若葉の質問に、時雨が腹筋をしながら答える。

 最初は口先ばかりの阿呆だと思っていたが。まあ前の時もちらりとみていたがそれなりにやる奴じゃないか。少し侮っていた、と時雨にほんの少し感心した若葉が尚も筋トレを続けている時雨に言う。

 

「時雨、とか言ったな」

 

「どうかっ、しましたっ、かっ!?」

 

「雑魚と言って悪かった。認めてや......」

 

「本当ですかぁ!?おわぁっ!?」

 

「っと、気を付けてくださいネ」

 

「っ、すいません。ありがとうございます。春雨さん」

 

 若葉が称賛の言葉を贈った瞬間、気が緩み鉄棒から落ちた時雨を春雨が抱き抱えて、地面に彼女が落ちるのを阻止する。

 とっさに落ちた人間一人を苦もなくキャッチした......やっぱりシエラ隊の皆さんには敵わないや。と、どこかズレた認識をますます膨らませた時雨が、一先ずトレーニングをやめて、春雨の隣に座って彼女にならって景色を眺める。

 

「おい......お前......」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 鉄棒にぶら下がり続けている若葉の隣に居たアザミが、遊具から降りて時雨に話しかけてくる。

 

 

「自分の置かれた状況を冷静に判断して、悪い所はよく反省する。」

 

 

「それは、当たり前かもしれないけど。もっと上を目指したいならちゃんと意識するべき。」

 

 

 説教か格言じみたものを時雨に言うアザミに、三人が唖然とする。

 

「......なんダ?......お前ら......顔......変......」

 

「え?あ、いや、そノ......」

 

「お前が普通に喋ったもんだから。駆逐棲姫と時雨がビビったんだろうさ......くふフ......」

 

「ハル......お前......失礼......」

 

「ごめんなさイ......」

 

 春雨を薄く睨んだあと、すぐにまた無表情になったアザミは、二人の隣で夕日を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホテルに忘れ物は無いな?」

 

「サービスに確認したが大丈夫らしいぞ提督」

 

「そうか。じゃ、船着き場まで歩くぞ」

 

 送別会と称した宴会が開かれた日の翌日の早朝。第五鎮守府の面々が鎮守府に帰るために身支度を済ませ、島の船着き場へと向かっていた。春雨の父親から贈られてきた硝子の花束は既に鎮守府に配送しており、そこまで多くない手荷物を片手にウツギたちが深尾の後を付いて歩く。もっとも漣、ツユクサ、明石の三人は両腕で抱えるほどの、大量に島で買い込んだ荷物をもって四苦八苦していたが。

 

「うぅおぉぉ......重てぇッス...... 」

 

「ツッチー前見えてる?ダイジョブ?」

 

「漣ちゃんも人のこと言えないんじゃない?」

 

「明石さんこそ言えねぇだろ......。アンタらどんだけ満喫してたんだよ......」

 

 大きめの紙袋を一つだけ持って歩いていた木曾が、顔を赤くしながら大量の荷物を持って戦車のように歩く三人組を、複雑な感情が入り交じった変な表情で眺める。一番土産が多い明石に至っては手が空いていた天龍や、春雨、アザミにも荷物を持たせる始末だ。

 

「あの、もっと荷物持ちますヨ?」

 

「春雨ちゃん、駄目だクマ。馬鹿に優しくするとつけあがるから」

 

「アタシは賢いッス!!」

 

「だからそういう問題じゃねぇって」

 

「みんな酷いッス!あ、若葉!片手空いてるなら手伝って!」

 

「若葉はこれで手一杯だ」

 

「はぁ!?新入りは大人しく先輩の命令を聞けと教えられなかったッス......」

 

 ツユクサが全部喋らないうちに、若葉が持っていた小さな箱をツユクサが持っていた荷物の山の頂上に背伸びして置く。すると盛大にツユクサが前にずっこけた。

 

「お゙も゙っ!?なにコレバカじゃねーの!?」

 

「解ったか?若葉はこれで手一杯だ......ふふフ......」

 

「わかったから!わかったから早くどかして!」

 

「何が入ってんだよ......」

 

「木曾」

 

「なんだ?」

 

「あいつに突っ込んだら負けだ」

 

「......だな。」

 

 朝っぱらから元気な奴等だな、とウツギが無表情で考えていると、深尾がその場に止まる。見れば既に船着き場に着いていたようだ。目の前には島へやって来たときに乗ったものと同じ豪華......と付くかはわからないが客船が停まっている。

 なんだか随分と長く感じる休暇だったな。そう思っていると、ウツギが眺めていた船の乗り場から自分の知っている艦娘が降りてくる。黒いセーラー服に、二ヶ所がハネている特徴的な髪型......時雨である。

 

「あ、おはようございます。第五鎮守府の皆様」

 

「......なんでここに?」

 

 客船の護衛にでも付くのか?と思っていたウツギが、何かの手続きをやっている深尾をちらりと見ながら時雨に質問する。返ってきた答えは

 

 

「あれ、聞いてないんですか?僕は、」

 

 

 

 

「一ヶ月の期限つきで、第五鎮守府に所属することになりました!よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

鎮守府へと戻ったFS隊。

そこへ、大御所の客からのある依頼が入り、

彼女たちはとある輸送船の護衛任務に付く。

それが、また新たな戦いの引き金となることなど知らずに......

 

 次回「機密物資護衛」 漂うこの香り。ずばり、死の芳香。

 

 




これにて第三章は終わりになります。


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4 汚濁再び
機密物資護衛


さてさてウルトラシリアス(の予定)の第4章の始まりだぜ!!


 

 

 

 ......なんだここは。見たことがないが......花畑か......?

 

 空は鉛色で今にも雨が降りそうで、辺り一面に白い花が咲いている平原。まるで記憶に無い場所に自分が居ることに困惑しながら、ウツギが周りを見回し、花が咲き誇る地面に一本だけあった細い道を歩いていく。

 とりあえず歩いたが。なんだ。来たことがない場所なのに......不安になるどころか心が落ち着く......?......意味がわからない。なんなんだこの場所は......。

 全く知らないにも関わらず自分に安らぎを与えるこの場所に、ますますウツギが混乱する。しかしそんな感情は表に出さず、無表情で道を歩いて五分ほどたったときだろうか。ウツギの視界に人間の姿が映った。

 体格と格好から見て女か。そう思いながら歩いていると、すぐにその人間の近くまでウツギがやって来る。

 

「............」

 

「......やっと来た。まったく、レディをこんなに待たせたらダメなんだから」

 

 会話ができる程度の距離まで人影に近づいた時。無言のウツギに背中を向けている、セーラー服に帽子を被った女が、体の向きを変えずに話し始める。その女に話し掛けられたウツギも口を開いた。

 

「......待っていた?誰をだ」

 

「とぼけるの?貴女に決まってるでしょ」

 

「......自分はアンタとは面識が無いんだが」

 

「当たり前よ。でも、貴女の一番近いところに何時も居たんだけど?」

 

「......一番近いところ?」

 

 何を......言っているんだこの女は。でも、確かに。確かに会ったことも一度もない筈なのに、この女の声を自分は知っている気がする。本当になんなんだ。このよくわからない妙な場所に来てから変な考えに囚われて仕方がない。

 頭に軽い頭痛を覚えるウツギの前に立っていた女が、体の向きを替えて、帽子を弄りながらウツギと向き合う。

 

 

 ......!! お前は...............!

 

 

「でも、わからないならしょうがないわ。自己紹介しないと」

 

 

 

 

「特III型駆逐艦1番艦の「(あかつき)」よ。はじめまして。ウツギ。」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 ......そういう意味だったのか。「自分の近くに何時も居る」という表現は的を獲ているだろう。

 ウツギが目の前に居る艦娘、「暁」を見ながら、つい先程の暁の言葉を思い出す。

 一番近く、か。当然か。だって彼女は自分という艦娘を構成する艦娘の一人なんだから。

 不思議な感覚を不思議なこの場所で抱きながら、ウツギが考え事をしながら暁に聞く。

 

「何か聞きたい、って顔してるわね」

 

「ここは何処なんだ。夢の中か?それとも自分の精神世界か何かか?」

 

「夢の中。が、一番近いわ。んもう、すぐに当てちゃうなんてつまんないの」

 

 暁が少しむっとしながら不機嫌そうにそう言う。

 

「もう一つ聞きたい。なんでここに自分は居るんだ。私の無意識なのか?それともお前が呼んだのか?」

 

「............」

 

 ウツギの問いに、暁は何も言わず、しかし顔は不機嫌そうな表情からはにかみ笑顔に切り替えて、数秒の後に切り出す。

 

「このお花」

 

 暁が、一面に咲いている白い花を指差す。

 

 

「知ってる?」

 

 

「......何?」

 

 

 暁の問いに、ウツギがその場にしゃがんで花の一つを摘む。知っている。この花は

 

 

「スノードロップ。彼岸花科。花言葉は希望、慰め、逆境の中の希望、恋の最初のまなざし。」

 

「ただし贈り物にするときの花言葉は」

 

 ウツギが一呼吸置いてから続ける。

 

 

 

 

       あなたの死を望みます......だ。

 

 

 

 

 

「......お花、好きなの?」

 

「.........本でよく読むぐらいには」

 

「ふ~ん」

 

「それで。この花に何かあるのか?」

 

 辺りに咲いている花、スノードロップについて一通り話した後、いまいち目の前の小柄な彼女の言いたい事が解らなかったウツギが問う。暁は口を歪ませて、しかし目は笑っていない表情で

 

「ここはね。貴女に関わりのある人が貴女に抱いている感情によって咲く花が変わるの」

 

「つまり誰かさんは私に是非とも死んでくれ、と思っているわけだ」

 

「そうかもしれないし、違うかもしれない。ここでこんなお花が咲いているのを見るのは初めてだから」

 

「はっきりしないな。何度でも言うがそれがどうかしたのか。こんな見た目の自分だ。人から恨みを買うことなんて慣れている。それに死んでほしいなんて他人から思われていようがまだ死ぬつもりもない」

 

「......これだけは言えるわ。この先貴女に......貴女以外の誰か、例えば貴女のお友だちに。とっても辛いことが起こる。なぜかそんな気がするの」

 

「......それを伝えたかった。という事か」

 

 花の咲く平原にウツギを呼んだ目的を言う頃にはすっかり真顔になった暁に、ウツギが切り出す。

 

「そうか。ありがとう暁」

 

「礼はいいわ。......気を付けて」

 

 心配そうに言ってきた暁に、ウツギが薄く笑って返す。

 

 

「修羅場は慣れてる。心配要らないさ。お前も付いているなら尚更。」

 

 

 そう言った後。ウツギは意識が遠退き、その場に眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な夢だった。「これから辛いことが起こる」。か。用心しないといけないな。

 

 目が覚めて、身支度を整えて食堂で朝食を摂っていたウツギが、起きたときに自分の手に握られていた一輪のスノードロップの花を思い出す。

 食べ終わった食器を片付けようとウツギが席をたった時。食堂の扉を開けて小柄な男......深尾が入ってきた。食堂に居た艦娘たちの視線が全て自分へと向いたのを確認した深尾が喋り始める。どうやらまた仕事の話のようだ。

 

「朝早くからすまんな。お偉いさんから仕事の依頼だ」

 

「また遠征か?」

 

「いや、違う。民間の船の護衛だな。第一呉鎮守府ってトコの田中(たなか) (けい)女史って人からだ。そこの鎮守府で戦術アドバイザーをやってる人だとさ」

 

 食器を洗いながら話を聞くウツギや他の艦娘へと深尾が続ける。

 

「正確には以来主はナカヤマ・インダストリィって会社。そこの無人輸送船が横須賀に行く途中までの護衛だ」

 

「結構有名な会社ですね」

 

「明石さん知ってるんスか?」

 

「ウツギちゃんが使ってるスナイパーライフルの製造元だよ。それ以外にも色々艦娘用の装備の開発と生産をやってるんだとか」

 

「そんな凄い所から依頼が来るなんてスゴいじゃないですか!!僕感激しました!!」

 

 いつのまにやら、すぐ隣に来て目を輝かせていた時雨にウツギが顔をしかめながら、今度はウツギが深尾に質問する。

 

「それで、提督。編成は?変えずにいつも通りか?」

 

「おお、その事なんだがな。今回は向こうから制限を言ってきた。何でも極秘の任務らしくてな、四人までしか護衛を付けるなってさ」

 

 深尾の答えに若干あやしい顔をしながら、ウツギが気になった事を聞いてみる。自分達のような艦隊に極秘任務?何かが引っ掛かる。そう、夢の事もあってか変に感じたためだ。

 

「こんな弱小部隊に極秘任務なんて変な話だな」

 

「そうか?いきなり大規模作戦に駆り出すようなお偉いさんならやりかねないと思うがね。それに」

 

「駄目だな」

 

 ウツギの疑問に答えていた深尾を遮って、壁に寄っ掛かって腕を組んでいた若葉が言う。

 

「俺を殺した奴等が弱いはずが無い。ウツギ、自分を下に見るな。お前は強いんだ」

 

「若葉......」

 

「いいことじゃないですカ。ここもちゃんと上から見ても戦力に組み込まれてるってことですヨ!......多分」

 

 若葉と春雨が喋った後に、深尾がウツギが聞いてきた編成や作戦の詳細を発表する。

 

「......で。納得できたか?」

 

「......任務了解。護衛任務の時間は?」

 

「今夜からだ。編成はお前と若葉、春雨、時雨。安直だが練度と戦闘記録の優秀な四人ってことで選んだんだが......いいか?」

 

「わかっ......自分を入れるのか?」

 

「馬鹿か。自分に自信を持てとさっき言ったのを忘れたか?友よ.........くふふ......」

 

「そうですよ!!ウツギさんとサザンカさんが居れば無敵です!!!!」

 

 う、うるさい。朝なんだからもう少し静かにしてくれ。時雨の声にそう思ったが、しかし激励の言葉には違いないのでウツギがほんの少し気をよくする。もっとも「うるさい」という感想のほうが大部分を占めていたが。

 準備。しておくか。ウツギは机に置いていたスノードロップの花を持って、艤装の準備のために食堂を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

極秘と銘打たれた任務につく四名の艦娘。

補給地に着いた輸送船に近づく敵影。

たった二つの敵反応。

そして輸送船の積み荷は......

 

 次回「強襲」 海風が、不吉な薫りを運んで遣ってくる。

 

 




不穏な雰囲気......がちゃんと漂ってたらいいな(不安を隠せないダメ作者


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強襲

戦闘開始よ~


 

 

 

 

 

 

 深夜。よく晴れたおかげで、月明かりに照らされ、時間の割には視界がきく状態の海上を、一隻の無人自動操縦のコンテナ船と、それを挟むように時雨と春雨の二人が航行している。残りの二人、ウツギと若葉は船の上、一番大きなコンテナの上に陣取って周囲を警戒していた。

 ......それにしても。何時も思うが、生まれ持った物とはいえ不便な目だ。これじゃあ隠密行動の意味がない。ツユクサからゴーグルでも借りてくるべきだったか。

 目元に手を持ってきて、自分の瞳が薄く紫色に光っていることを確認したウツギが、こればかりはどうしようもない自分の体質に心の中で愚痴を垂れる。

 そう言えば春雨も同じように目が光るんだった。彼女はこの事についてどう思っているのだろうか。周囲を警戒しながら、そんなどうでもいいような事を考えていたウツギに無線が入ってくる。ちょうど今頭に思い浮かべていた艦娘、春雨からだ。

 

『目的地の補給所まであと五分でス。問題なく終わりそうですが、気は緩めないデ』

 

「わかってる。こちらも敵反応は今のところ無し。引き続き警戒を続ける」

 

「まあ誰が来ようが若葉が殺すがな......ははは......♪」

 

『時雨、索敵終わりました。敵反応はないです』

 

「わかった。ここまで敵襲はないが気は抜くなよ」

 

『勿論です』

 

 二十分おきの定期連絡を済ませたあと、ウツギが何気なく前を向いたときに視線の先に、控え目な明るさのサーチライトで照らされた薄暗い海上基地が真夜中の海に、ぽつん、と佇んでいるのを見つける。どうやら予定より早く着くようだ。

 何事も無く終わりそうだ。良かった。

 そう、内心安堵していたウツギに、横で刀の手入れをやっていた若葉が話し掛けてきた。

 

「つまらんな......この若葉を超える強者は現れず。か。なぁウツギ。其処らを荒らし回ろうか?」

 

「......それは冗談で言っているのか?目的地も近いんだ。変な真似は寄せよ。あそこに着いたら他の鎮守府の艦娘に護衛を引き継いで大人しく帰還だ」

 

「ふフフ......つれないなぁ。ただの「じょうく」だよ。んフふふ......」

 

 顔に施した道化師のような化粧で、何時ものケタケタ笑いが相乗効果で何倍も不気味になっている若葉に、ウツギが少し呆れたような顔になる。

 そしてそうこうしているうちに、いつのまにか船は補給基地に到着。右舷を港に着けたために左舷側に居た春雨の隣に来た時雨をコンテナの上からウツギが確認すると、若葉と二人で梯子をつたってコンテナから降りる。

 さっさと引き継ぎを済ませて帰ろう。こんな寂れた基地に長居する理由もない。ウツギは他の鎮守府の部隊が来るまでぼんやりしながら積み上げられたコンテナの一つを眺めていた。

 

 

 

 

 

 が、どういうことだろうか。既に補給が終わった船は依然として基地から動かず、三十分ほどたっても他の艦娘の姿や反応が無い。

 明らかな異常事態にウツギが下の二人に無線を入れようとしたときだった。

 

 

 ウツギの持ち込んだリ級の艤装のCPUから警報が鳴る。

 

 

 それと同時に時雨から無線が来た。彼女も敵襲に気付いたようだ。

 

『ウツギさん敵反応だ!!』

 

「こちらも確認した。数は............なんだ?......たったの2?」

 

『こっちの一匹は任せて!ウツギさんとサザンカさんは基地側のヤツを!』

 

 時雨たちが向いていた方向から一つ、そして基地側の方向から一つ。合計二つ......襲撃部隊と言うにはあまりにも数が少ないことにウツギが困惑する。しかしそんな事はお構いなしに、敵が猛スピードで近づいてくる警告アナウンスが鳴り、四人はいやがおうにも戦闘態勢をとらざるを得なくなる。

 ......こんなにも面倒ごとに巻き込まれるなんて、自分には呪いでも掛かっているんじゃないのか?そんな、しかめっ面でリ級の艤装とスナイパーライフルを構えたウツギに、若葉が敵が向かってきている方向を見つめながら、口を開いた。

 

「下に降りる。お前は後ろで適当に援護しろ」

 

「......一人で大丈夫なのか?」

 

 

 

 

「誰に向かって言ってる?若葉を嘗めるなよ......クフふふはははは!!」

 

 

 

 

 完全に狂人のそれと言って差し支えない笑顔で顔を飾り付けた若葉が、そう言って、船から基地へと単身降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「来まス。船に近づかせないようにしましょウ」

 

「了解、積み荷に被弾なんてしたら......」

 

 事前に船の積載物は火気厳禁と聞いていた春雨と時雨が、船から距離をとろうと前進。こちらへ一直線に向かってきた敵......重巡ネ級へと砲撃を行う。

 重巡相手ですか......火力が足りないですね。

 そう思った春雨が一人で敵に向かって行く。

 

「敵に取り付きまス。援護射撃お願いしますネ」

 

「わかりました。僕に任せてください!」

 

 時雨から承諾を経て、春雨が両手で顔を庇いながら突撃する。

 

 

 ......?撃ってこない......?

 

 

 自分達の砲撃で既に相手に自分の存在がばれている筈なのに、全く砲弾が飛んでこない事が春雨は気になったが、直後に暗闇でも黙視できる距離に相手が迫る。どうやら考え事をする暇は無さそうだ。

 暗いせいでよく見えないが、自分の身長を超える長さの「何か」を構えていたネ級に春雨が取っ組み合いに持ち込もうとそのまま突っ込んで行く。そして砲を持った左手の裏拳で相手を怯ませようとするが

 

 砲の砲身部分を「何か」で切断され、裏拳の勢いを殺された。

 

 刃物の類いですか。大きさから見て野太刀とかいうやつでしょうか?

 春雨は破損した砲を放り投げて、今度は反対の腕で相手を殴るが、こちらは相手が蹴りで相殺してきた。どうも接近戦がお得意な深海棲艦のようだ。

 このまま手刀だけで終われば楽なのですが......。そう思った春雨に、目の前のネ級が話し掛けてきた。

 

「深海棲艦が船の護衛ですか。妙な事をしますね」

 

「今は艦娘ですヨ......!」

 

「......!?......そういう事ですか......哀れです」

 

「哀レ.........?それはどういう意味でしょうカ?」

 

「貴女は利用されているんですよ。アイツに......!!」

 

 何の話を......?それに、妙に饒舌な深海棲艦ですね?

 こちらの攻撃を受け流した後に距離をとり、背中から生えている尾の部分から取り出したグレネードランチャーを撃ってくるネ級に、春雨が違和感を感じていた。

 さっきから一度も砲の類いを撃ってこないこともそうだが、艦娘相手に効かないとわかっていて歩兵用の武器を撃ってくる事や、先程の発言のせいだ。

 

 

 ......違う。この「人」はただの深海棲艦なんかじゃない。

 

 

 特に苦もなく相手の攻撃をかわしながら春雨が考える。そんな考え事で注意力が散漫になっていた春雨にネ級が近づいて、正眼の構えから太刀を降り下ろしてきた。

 

「ごめんなさい......!!」

 

「.........おっト」

 

 春雨が咄嗟に相手が狙ってきた自分の首もとに力を入れる。すると、

 

 

 

 激しい金属音とともに火花が散り、相手の刀が弾かれる。

 

「なっ......!?」

 

「あれ、斬れそうなのは見た目だけですカ?」

 

 にちゃり。そんな擬音が似合う妖しい笑顔を、春雨が浮かべて挑発する。

 

「......っ、それで勝ったつも...きゃあっ!?」

 

 大きく後ろに仰け反った姿勢を立て直そうとしたネ級の顔に砲弾が当たる。春雨が頼んでおいた時雨の砲撃が当たったのだ。

 時雨さん、ありがとうございます。今なら!

 隙が出来たネ級の懐に春雨が潜り込み、上半身を後ろに倒しその体勢から思い切りバネのように勢いをつけて両手で相手の肩を殴り付ける。

 

 

 ごぎり、と。鈍い音が静かに鳴り、ネ級の両肩が砕ける。

 

「がっ...あっ......!?しまっ......!!」

 

 

「大人しくしてくださイ。殺すつもりはありませン」

 

 

 激痛と同時に動かなくなった腕を後ろに垂らしてネ級が海上に倒れ込む。もちろんこの隙を逃さず、春雨は馬乗りになりネ級の首もとに魚雷を突きつけて、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「縛り終わりました。いいんですか?」

 

「何か訳ありげな相手だったのデ」

 

 両肩の外れたネ級を、春雨の後に駆けつけた時雨が春雨に言われて、自分の装備であるワイヤーガンの交換用の予備のワイヤーを縄の代わりにしてネ級が身動きできないよう縛り上げる。

 

「......なんで沈めないのかしら?」

 

「単刀直入に言いまス。あなた」

 

 

 

「「被験者」ですよネ?」

 

 

 

 春雨の一言にネ級がびくり、と一瞬反応したのを春雨は見逃さない。

 

「被験者......?何ですかそれ?」

 

「深海棲艦化実験の被験者ですヨ。この人は」

 

「えっ......その、わかるものなんですか?」

 

「すぐにわかりまス。実験に失敗して出来た深海棲艦の人は、海に浮くための装備は使えまス。が、砲撃に使う武器が原因不明の動作不良を起こス......。だから彼女は砲を持ってないんでス」

 

「......ちょっとごめんね。......本当だ......刀と歩兵用の武器ばかり......」

 

 春雨の言葉を聞いた時雨が寝っ転がっていたネ級の尾を観る。彼女の言う通りこの深海棲艦はおよそ艦娘や深海棲艦に歯が立たない、サブマシンガンやライフルと言った武器ばかりを、尾の部分にベルトで固定していた。

 ずっと黙ったまま、水面を見つめているネ級に春雨が続ける。

 

「............」

 

「どうしてあの船を狙ったんですカ?」

 

「......その様子だと。知らないのね。あの船の積み荷が......」

 

「積み荷......?僕らが聞いた話じゃただの艦娘用の装備......」

 

 

 

「そんな生易しいものじゃありません!!アレに積まれているのはッ............!!」

 

 

 時雨の発言に、ネ級が凄まじい剣幕で喋り始めた次の瞬間。

 

 

 

 

 ドオオォォォン!!と、三人の後方から戦艦の砲撃のような激しい爆発音が響いてきた。

 

 

「な、なんだい今の!?」

 

「っ......!?船が......!!」

 

 

 ふと、急に後ろが明るくなっていることに気付いた二人が後ろを向くと、コンテナ船が激しく炎上しているのを確認する。

 

「一体何が!?」

 

「様子を見てきまス!!」

 

「えっ、ちょっと!?」

 

 時雨の呼び掛けを無視して、春雨が船の方向に向かって海を駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 自分達の知らないところで何かが起きている。そんな事は、まだ彼女たちは知るよしも無かったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

謎の大爆発により炎上する輸送船。

駆けつけた春雨の目の前には......。

ウツギとサザンカの前に現れた敵。

凄まじい力量でサザンカすら煙に巻く相手の正体とは。

 

 次回「辻斬りと道化師」 夜の(とばり)が、汚れを包み隠す。

 




最近PS2のドラクエ8を始めたんですが......すげぇ面白い(小並感


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辻斬りと道化師

UA5000......嬉しすぎる......


 

 

 

『気を付けろ。基地を突っ切って来てる』

 

「くどいな。陸から来ようが空から来ようが潰すだけだ......」

 

 春雨と時雨がネ級と交戦していた頃。若葉は一人遮蔽物(しゃへいぶつ)の殆んど何もない薄暗い無人基地に佇み、ウツギは船上でスナイパーライフルを構えて敵を迎え撃つ準備を整えていた。

 刀を腰に付けていた鞘に収め、両手に連装砲を持ち、これから始まる戦闘が楽しみなのか、口角が限界まで吊り上がった笑みを浮かべる若葉が視界に敵の姿を捉える。

 

 

 

 

 

 

              来た。殺す♪

 

 

 

 

『艦娘......?敵反応なのに艦......』

 

「............ん~。そこだァ、死になァ~♪」

 

『なっ......!?若葉!!待っ......』

 

「うるさいなぁ邪魔だ」

 

 ライフルのスコープ越しに相手を確認したウツギの報告を無視して、若葉が砲で精密射撃を行う。

 まだだ。この程度で死ぬなよ?楽しみはこれからだろう、なぁ?

 ウツギの怒鳴り声を拾い続ける無線機を握り潰して放り投げ、若葉は舌舐めずりをしてまた砲を構えて撃つ。しかし砲弾が発射されなかった。

 こんな時に目詰まりか。使えん。まあいい、若葉にはまだ「これ」がある。

 弾が出なくなった連装砲を二つとも投げて、若葉が鞘から刀を抜いた瞬間、

 

 

 「レ級」としてのカンが成せる技か、それとも生まれ持った戦闘センスの良さなのか。砲撃の爆風を抜け、認識できない速度で目の前に突っ込んできた相手の攻撃を間一髪、若葉が半ば反射的に振った刀で弾いた。

 

 

「......ッ!?......フンッ!」

 

 金属同士を打ち付ける音が響く。

 

「へぇ。やるじゃない。今のを弾くなんて」

 

「んふフ......お褒めに預かり光栄......」

 

「......変な化粧ね。気持ち悪い」

 

「心外だな、若葉のアイデンティティーさ......くくく......」

 

 駆逐艦の砲と、ナックルガード付きの妙な持ち手の日本刀を持ち、小豆色の着物を着ている艦娘が若葉に話し掛けてくる。

 危ない危ない。危うく若葉の首が斬り飛ばされるところだった。しかし......いいね、強敵の予感がする。

 そう考えながら、間髪入れずに、突き、横凪(よこな)ぎ、袈裟斬(けさぎ)り、とこちらの事など考えず(当たり前だが)次々と繰り出してくる相手の剣撃を、若葉が技で攻めてくる相手とは対照的に、力任せにぶん(まわ)すやり方で弾いて防御する。相手の攻撃から身を守ると同時に相手の腕を痺れさせてやろうという魂胆だ。

 

「ん~......軽いな。羽でも触ってるような感触だ。本気でやっていないな?」

 

「.........」

 

「んふ、ふふフ......それとも受け流しってやつか......」

 

「べらべら(うるさ)いわね」

 

「失敬、お喋りは嫌いだったか......」

 

 妙に手応えの無い着物の艦娘の攻撃に、余裕を感じた若葉が名も知らぬ相手に話し掛ける。

 

 これだ。この全身の血が沸騰して脳が震える感覚......これこそ殺し合いの醍醐味だ......。楽しいなぁ何時までもこの時間が続いてほしい。

 

 そしてまた何度目か解らない動きで敵の刀を弾くと、着物の艦娘が急に若葉から距離を離す。何かやって来るな。そう若葉が身構えたとき、着物の艦娘の足元が爆発する。

 あれは......あぁ、ウツギか。ふふふふ......隙が出来た!!

 コンマ一秒にも満たない時間で、直ぐに爆発の正体を味方の援護と判断した若葉がここぞとばかりに一撃おみまいしてやろうと敵に近づく。が

 

「来ると思った。見えてますよ」

 

「ん......?」

 

 着物の艦娘は怯んだように見せ掛けて、背中から地面に倒れ込みながらウツギが居る方向へと砲を撃ってくる。そして射線上に入ってしまったが、咄嗟(とっさ)に若葉は腰をお辞儀するように曲げて回避すると、そのまま相手の腹を目掛けて突きを放つ。

 

「っと......!!」

 

「何.........?」

 

 しかし今度はその攻撃は相手にバク転で避けられ、逆に若葉は前方に突き出してしまった刀に相手の切り上げを食らって後ろに仰け反る。

 

「しまっ......!?」

 

「終わりね」

 

 

 

 

 った。と。でも言えば油断するだろう?

 

 

 気づかないうちに砲を手離し、両手で構えた刀で斬りかかってくる着物の艦娘に

 

 若葉は逆に体重を掛けて後ろに倒れ込み、地面に刀を突き刺して体の動きを停止させると、素早く突き刺さった刀をバネにして起き上がり、そのまま逆手持ちにした打刀で大上段から体重を載せて降り下ろされる刀を弾く。

 

「きゃあぁっ!?」

 

 

「んふふ......死ーね。」

 

 

 今度はもう打つ手などあるまい、サァ死ね。まっ、楽しかったよ。

 右手を大きく振り上げた体勢で仰け反り、防御が出来なくなった襲撃者に若葉が刀を逆手で持ったまま逆袈裟斬りをやろうとする。

 

 しかしこれでは終わらない。

 

 ほんの一瞬、暗い場所にも関わらず着物の艦娘の口許が笑っているのが、若葉には何故か鮮明に確認できた。

 瞬間、初めて春雨に会ったときと同じ悪寒が若葉の全身を駆け巡り、思わず若葉が敵への歩みを緩めるがもう遅い。

 

 

 着物の艦娘は振り上げた刀を自分の頭越しに背中へと回し、刀を手から離す。そして自由落下する刀を事前に背中に回していた左手で掴むと、そこからぐるりと刀を一振り。

 

 

 

 ああ。やられてしまった。な。

 

 

 

「............流石にこれは読めなかった。か。」

 

「......うふふ......見事...だ.........」

 

 

 両腕を切断され、腹部も浅く斬られた若葉が膝をつき、そのまま横に倒れる。

 

 着物の艦娘は若葉に止めを刺さず、その(そば)を悠々と歩いて船の方へと向かってゆく。

 

 

 

 

「ごっほっ、ごほっ......笑わせる。」

 

 

「手加減されていたのは自分とは、ね。くくく......」

 

 

 吐血しながらの若葉の自虐的なその発言は、誰も聞いておらず、ただ、夜の闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 冗談じゃない。なんだあの艦娘は。

 

 光に晒されて刀身が赤く光る不気味な刀を持つ着物の艦娘と相対したウツギが激しく動揺する。

 無理、だな。若葉があそこまで完全にやられる相手を、自分は見たことがない。......時間稼ぎすら出来るかどうか。

 ゆっくりとスローモーションで歩いて、棒立ちしていたウツギに着物姿の艦娘がやって来る。数十秒ほどの、着物の艦娘の余裕を持った見せ付けるようなその行動が、ウツギには何時間にも感じられた。

 そんな、心の準備が出来ていなかったウツギに、着物の艦娘が口を開いた。

 

「あなた」

 

「深海棲艦よね?」

 

「船の護衛に就いているのは艦娘が四人って聞いたんだけど」

 

 何気ない言葉の一言一言がやけに重いものに感じられたが、ウツギは平静を装って出来る限りの無表情で返す。

 

「よく間違えられる。こんなナリだが艦娘だ」

 

「そう。関係ないけどね」

 

「どっちだろうとこの船の積み荷が狙いだ、と?」

 

「逆よ。全部壊しに来たの。全部灰になるぐらい、ね」

 

 言い終わると同時に着物の艦娘が刀を構える。ウツギは先程目の前の女の恐ろしい精度で放たれた砲撃で壊されたスナイパーライフルを放って、ナイフとリ級の艤装を構え、相手が近付く前に連射がある程度きく副砲を撃とうとする。

 しかし

 

「無駄です」

 

「っ......!?」

 

 目にも止まらぬ速度で船の甲板を駆け抜けてきた艦娘に、刀で艤装の砲を潰され

 

「速っ.........」

 

「.........」

 

 取り出した瞬間に、駆逐艦暁のシールド付きの連装砲は盾ごと真っ二つに切断される。

 

「遅い......さっきの若葉のほうが強いわ」

 

「ふうおっ.........ぐっ!!」

 

 速い、動きが自分には目で追えない......実力が違いすぎる......!

 破損した艤装でどうにか防御したものの、左肩を浅く斬られ、蹴り飛ばされたウツギが船の甲板に倒れる。

 

「さっきのがなかなかだったから少し危ないと思ってた......でも良かった。強いのは若葉だけみたいね」

 

「......雑魚で悪かったな。負けだ。積み荷は火をつけるなり好きにしろ......」

 

「へぇ、負けを認めるの?みっともない。艦娘なら敵に最後までかかってきなさい」

 

「あいにく同士討ちに持ち込む程の度胸も命令への忠実さも無い。どうとでも言ってくれ」

 

「......じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 悪いな、深尾。恨むなよ上層部。任務の失敗の責任は時間を守らなかった貴方達にも多少はあるはずだ。

 予想を遥かに超える強さの襲撃者に、首もとに刀を添えられたウツギが負けを宣言して乗り切ろうとすると、着物の艦娘はウツギの艦娘としてのやり方を酷評しながら、積み上げられたコンテナに何処からか取り出した砲の照準を合わる。

 任務失敗か。駄目な奴だな。自分は。

 体を起こして、船からウツギが降りようとしたとき

 

 

 

 

 突然コンテナが大爆発を起こし、着物の艦娘とウツギが船の中央へと吹き飛ばされる。

 

 

 馬鹿な、あいつはまだ撃っていなかった筈だ、なんだ今の爆発は?

 時限爆弾でも積まれていたのか?と考えながら、全身に破裂したコンテナの破片が刺さり(うずくま)っていた着物の艦娘に、運良く爆風で吹き飛ばされただけで済んだウツギが駆け付ける。

 

「けほっ、......大丈夫か!」

 

「う......ぁ...なん......で」

 

「喋るな。っ、どうする......!」

 

 腹部や肩に深々と破片が突き刺さり、傷だらけの着物の艦娘を抱えたウツギが考える。

 海側......燃えている、基地の方も炎が挙がっている、八方塞がりか......!!

 尚も爆発するコンテナの音が響き、挙がる火の手がどんどん大きくなる船の上に取り残されたウツギの焦りが加速していく。

 

 生きたまま焼かれると言うのは......どういう感覚なのだろうな。

 

 そんな、余りにも達観した場違いな事を考えながら自分の命を諦めかけた時、ウツギの耳に炎の音とは違う聞き覚えのある人物の声が届く。

 

 

 

「ウツギさン!!」

 

「春さ......!?」

 

 燃え盛る炎を突っ切ってきた春雨に、ウツギは抱えていた着物の艦娘ごと抱き抱えられ、春雨と同じく海側の燃える船の甲板へと進んでいく。

 

「息を止めテ!肺をやられますヨ!!」

 

「ん......!」

 

 春雨の言う通りに素直にウツギは息を止める。そして三人は炎の中に飛び込み......ほんの数秒後、船の上から飛び出し、海上を滑空する。

 

「っ、飛んで......」

 

「飛んでませン。カッコつけて落ちてるだけ、でス。はイ」

 

 ウツギの発言に春雨が優しく笑って返答する。

 

 自分の悪運に感謝、だな。

 

 どうにかまた生き残れたことに、ウツギはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない?本当にか?」

 

「嘘を言ってどうするかも。秋津洲は何も知らないかも」

 

 炎上する船を背後に、ウツギが秋津洲の返答を聞いて眉間にシワを寄せる。

 

 若葉と春雨が自分の鎮守府の所属になったときに、「何かあったらいつでも呼んで!」と、教えてもらった秋津洲の携帯の番号にかけ、お得意の大型輸送ヘリコプターで大本営から駆けつけた秋津洲と夕張に、この極秘任務のことをウツギが聞く。結果、二人とも知らないと言ってきた。

 一体どういうことだ。予定では確かに引き継ぐ部隊は大本営の所属だった筈だ。

 本当に意味がわからないことばかり続いて頭が痛くなる。そう考えていた時、夕張から応急手当を受けていた着物の艦娘が、寝たままの姿勢で声をかけてきた。因みに春雨と時雨が拿捕したネ級は、その隣で不機嫌そうに、縛られたまま座っている。

 

「どうして助けるの?敵なのに」

 

「あれだけ強かったら私を直ぐに殺せた筈だ。それをやらなかったから......貸しを無くした。そんなところか」

 

「......変なこと、するのね」

 

 着物の艦娘は続ける。

 

「知らないわよ......こんなことして元気になった私に殺されても」

 

「それは無いな」

 

 止血だけ済ました、まだ両手を欠損したままの若葉が割り込んで喋る。

 

「若葉はいま生きている。それはお前が止めを刺さなかったからだ。そしてお前の目は」

 

「関係の無いヤツは殺さない。そんなことを言っているぞ?」

 

「......わかるの、そんなこと?」

 

「解るさ。本気で殺し会えばそいつのことは大体解る。持論だが、ね。......うふふ......」

 

 ブラフなのか本気なのか。掴み所のない態度で笑いながら言う若葉の言葉を、着物の艦娘が聞き流す。

 そんな時、秋津洲へのエマージェンシーにも使ったウツギのスマートフォンに電話がかかってくる。

 かけてきたのは......深尾か。ウツギが電話に出る。

 

「もしもし」

 

『ウツギ、大丈夫か!!何か無かったか!?』

 

「何か、はあった......」

 

『本当か!?無事か!?』

 

「無事じゃなかったら電話なんて出られんよ。それよりどうした、やけに切羽詰まって?」

 

『そ、そうか良かった』

 

『なら、ウツギ。落ち着いて聞いてくれ』

 

 

『たった今、依頼主の第一呉鎮守府が』

 

 

 

 

『深海棲艦の大部隊の攻撃にあって、施設を放棄したらしい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

艦娘、神風。

彼女はどうして船を狙ったのか。

そして依頼主の居ない謎の任務をこなしていたウツギたち。

謎解きの時間が始まる。

 

 次回「濁り水」 推理、推理、推理。見えてくる物とは。

 




右肘のケロイドの手術というものをやりました。
利き腕使えないのめんどくせぇ......


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濁り水

多分今年最後の投稿でござい!


 

 

 

 

「第一横須賀鎮守府所属、佐伯(さえき) (わたる)と申します。第五横須賀鎮守府の深尾さんとウツギさんで間違いありませんね?」

 

「どうも」

 

「ウツギです。よろしくお願いします」

 

 謎の極秘任務から夜が明けた日の昼過ぎ。

 鎮守府に戻ってきた四人と、拘束されたままの着物の艦娘とネ級、今回の騒動の調査に大本営からやって来た男......金髪で、すらりとした体格に、顔立ちの整った男、佐伯 渉についでに調査に付き添う形で、鎮守府に滞在することになった秋津洲と夕張、そして鎮守府に所属する全員の人間が、鎮守府で一番広い場所である食堂に集まる。

 髪の毛の色から見てチャラついたやつかと思ったが、そう言う訳でもないのか。全く着崩さずに紺色のスーツを着て真面目そうに敬語で喋る佐伯に、そんな事をウツギが考えていると、佐伯が続けて口を開く。

 

「焼け跡から見つかった第一呉鎮守府の通信ログと、貴方のパソコンの履歴を少し調べさせて貰いましたが、照合したところ、確かに田中 (けい)から依頼の旨を伝えるメールが見付かりました」

 

「ログでは、二日前の深夜に田中はメールを送信。深尾さんは送信された翌日の朝にそれを確認した。間違いありませんね?」

 

「ええ、あっていると思いますが......」

 

「では、ウツギさんに質問をします。護衛の依頼を頼まれた船の積み荷の中身は把握していましたか?」

 

「いえ、事前に提督から聞いて、覗くな、と言われていたので、火気厳禁の爆発物と言うことしか知りませんでした」

 

「深尾さん、覗くな、と言ったのは?」

 

「メールの内容からですよ。極秘任務で、更に積み荷も内容は教えられないから見るな、と言うことが書かれていたので」

 

「成程。なぜウツギさんは爆発物だと解ったのですか?」

 

「積み荷のコンテナに大きく火気厳禁、とか、caution(コーション)マークがこれ見よがしに書いてあったんです。それで爆発物だろう、と」

 

 ウツギの言葉に佐伯が何かを考えているような仕草をとり、会話が途切れる。

 数秒ほどたってから、佐伯が気を取り直してウツギに質問してくる。

 

「ウツギさん、報告書には突然コンテナが爆発した、とありますが、間違いありませんか?見間違いや誤射によるトラブルの可能性は?」

 

「ないと思います。暗かったですがしっかり見ていましたから。でも」

 

 佐伯の質問に、ウツギが縛られたままうつむいている着物の艦娘に視線を移してから続ける。

 

「彼女のほうが、知っていると思いますよ。目の前で見ていましたから」

 

「彼女、ですか」

 

 佐伯は少し渋い顔をするがすぐにポーカーフェイスに表情を戻して、少し離れた場所にいた着物の艦娘の前に座ると、彼女から話を聞くために質問を投げ掛ける。

 

「駆逐艦の......「神風(かみかぜ)」さんですよね?ウツギさんの言っていることに、異論はないですか?」

 

「............」

 

「無言は肯定とみなしますが」

 

「......解りました。コンテナは勝手に爆発した、と」

 

 黙ったままの「神風」への質問を終え、佐伯がウツギと深尾の前に戻ってくる。そして溜め息をつきながら、(ふところ)から小型のタブレット機器を取り出して操作した後、佐伯はそれを机に座っていた二人の前に置いて、話し始める。

 

「......?これは?」

 

「破損した呉鎮守府のコンピュータからサルベージした田中の通信履歴です。あなた達への依頼の後に田中は突如行方をくらましていまして、今我々が奴の足取りを調べている途中なのですが、その時に見つかった物が」

 

「この、ナカヤマインダストリィから大量の時限式の爆薬を取り寄せたっていうデータ、ですか」

 

「はい。目的は不明ですが、ウツギさん達が行っていた護衛任務ですが」

 

 

 

 

「初めから仕組まれていた「罠」と見て間違いないかと。そして田中は海軍への明確な敵意も(あわ)せ持っていると思われます」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「結局、さ。何がしたかったんだろね?田中なんとかって?顔すら解んないからちっともイメージ沸かなくない?」

 

「田中 恵だ、漣。それに逃げられたんなら流石にお偉いさんにもわからんだろうさ。そして上がわからないなら尚更下っぱ兵士の自分達に解るわけがない」

 

 一通りの情報交換が終わり、佐伯が秋津洲と拘束した二人を引き連れて、彼女たちから何かを聞き出すため、と、尋問のために鎮守府の空いている部屋に行ってから、それなりに時間を置いて質問してきた漣にウツギが返す。

 

「考えても解らないなら考えないほうが良いクマ。そんな事しても疲れるだけクマ~」

 

「そんなに適当でいいのだろうか......」

 

「ウっちゃんは真面目すぎだクマ。も少し肩の力抜けクマ。それに......」

 

「お久し振りクマァァァ!!夕張ぃぃ!!」

 

「わあっ!?あ、危ないですよ球磨さん!」

 

 問題は一先ず置いといて、と言った球磨は、久しぶりの親友との再会がよほど嬉しかったのか、他の艦娘が見ている前で躊躇なく夕張に飛び付く。その夕張もウツギには、困っていながらどこか嬉しそうに見えた。

 

「いやぁ、親友が大本営勤務だなんて。球磨も自慢できる事が増えたクマ!」

 

「いえ、まだまだ未熟者ですよ私は。整備のウデもぜんぜんですし」

 

「あっ、そう言えば」

 

 夕張がちらりと時雨を見て、思い出したように切り出す。

 

「時雨さん、艤装の調子はどうでしょうか?」

 

「問題ないです!!むしろ今までで一番絶好調です!!!!」

 

「ひゃうっ...!?」

 

「っ......。時雨、声がデカすぎだ」

 

「えっ、あっ!すいません......」

 

 全く必要性のない大声で返されたせいで少しショックを受けていた夕張を見てウツギが時雨に注意する。

 ......そう言えば、秋津洲は佐伯に付いていったが夕張はなんで残っているのだろうか、と今さら気づいたウツギが夕張に質問する......前に天龍がその事について夕張に聞く。

 

「なあ、さっきの四人に付いてかなくて良かったのかお前?」

 

「え?えぇ、私の仕事じゃないですし」

 

「......?じゃあ何のために来たんだ?」

 

「えーと、上層部の伝言を伝えに......」

 

 夕張が前と同じ「マシンオブインフェルノ」とロゴが入った白い作業着のポケットから一枚のメモ用紙を取り出して、上層部の伝言なるものを喋る。

 どうでもいいことかも知れないがその変なロゴ入りの作業着は何なのだろうか。ウツギがそう思っていたことは勿論夕張は知らない。

 

「上の失態で面倒な事に巻き込んでしまった。謀反を見抜けなかった我々からの償いとして、良い機会なので本鎮守府の設備の強化と整備員の増員をさせてもらう、と」

 

「ほぇ~大盤振る舞いッスね」

 

「助かります。私と他の子のお手伝いだけじゃちょっとキツかったんで......」

 

 なんだ、結構こちらの心配もしてくれるのか。......良い仕事場に就いていたんだな自分は。

 ウツギが今一度上層部への認識を改めた時、開きっぱなしになっていた食堂の入り口から、やけに顔がげっそりした秋津洲が入ってくる。あまりにも具合が悪そうな酷い表情の秋津洲に集まっていた艦娘たちは驚き、夕張が慌てて彼女の傍に駆け付ける。

 

「ど、どうしたんですか秋津洲さん!?どこか調子悪いんですか?」

 

「いや、......夕張、心配ないかも......」

 

「それよか......」

 

 

 

「ウツギちゃん、これ結構マズいことになってるかも......」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「マズいとは具体的になにがだ」

 

「まず、あの二人について説明するかも」

 

 佐伯が食堂に居たときとは似ても似つかない、残業続きのサラリーマンのように疲れきった顔になった秋津洲が食堂に集まった艦娘に向け口を開く。

 

「まずネ級の子は元重巡洋艦「高雄」だって解ったかも。そしてあの神風と高雄が元の所属が旧舞鶴鎮守府ってこともね」

 

「「旧」舞鶴鎮守府?どこだそこ?」

 

 秋津洲の口から知らない場所の名前が出てきたことに、木曾が首を傾げる。その、木曾の隣では、時雨が目を見開き唖然として体を震わしている。

 変に思った木曾が時雨に聞くと......

 

「どした、知ってるのかお前さん?」

 

「......僕の記憶が正しければ」

 

 

 

「深海棲艦の攻撃で壊滅、所属していた人間は艦娘含めて全員死んだって......」

 

 

 

「えぇ!?ま、マジッスか......」

 

「時雨ちゃん当たりかも。私も戦死した艦娘や提督さんは全員荼毘(だび)()されたって聞いてたんだけどね......」

 

「......ならどうしてあの二人は生きてる」

 

 佐伯から渡されたタブレットの中身を確認しながら、頭を抱えていた深尾が秋津洲に聞く。その深尾も秋津洲に負けず劣らずの不機嫌かつ疲れきったような表情だ。

 

「いやぁ、その......それが田中のお陰で自分達は生きているって」

 

「ハァ?また田中なんとかッスか?本当にそいつナニモンなんスかね」

 

 海軍に敵対しているらしい田中に、軍属の二人が命を救われた?漣じゃないが田中は何がしたいんだ?

 変な人間だ。顔が見てみたい、と、顔も見たことがない一人の女への不信感と疑念を(つの)らせる。しかしウツギは一番聞きたい質問が一つあったので、隙をついて秋津洲に聞きたかった事を聞く。言わずもがな、二人がコンテナ船を狙った理由だ。

 

「質問いいか秋津洲」

 

「うん?どうしたかも、ウツギちゃん?」

 

「あの二人が船を襲った理由は聴いたのか?春雨にネ級が言ったらしい言葉が気になるんだ」

 

「勿論聴いたかも。あの二人.........って言うか、神風が教えてくれたかも」

 

 ......食堂でだんまりだった奴等なのに、四人になった途端にべらべら喋ったのか。......聞かないでおくが自白剤でも使ったのだろうか、とウツギが思っていると秋津洲は予想外の答えを出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中をぶっ殺すために船を襲ったって。言ってたかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

行方不明の騒動の仕掛人、田中 恵。

そして佐伯の頼みから、ネ級、高雄を引き連れてFS隊は二人が拠点にしていたという

隠れ家へと向かう。

その隠れ家のある場所はFS隊が初めて球磨と木曾に会った場所、アウトエリア27だった。

 

 次回「汚濁再び」 素晴らしいと思えるように。醜さに気付いてみよう。

 




台詞まみれ回でした。


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汚濁再び

大変お待たせ致しました。高雄と神風についての説明回でござ!


 

 

 

「あ~あ~めんどくせぇ~ッス......録り貯めたドラマ観ながら優雅に過ごす予定だったのに......。ったく、アウトエリア27、ッスか。また行くことになるとは思わなかったッス」

 

「黙れ......任務......集中......」

 

「へいへい。ったくアザミはうるせぇッス」

 

 同日のまた同じく昼。佐伯の頼みで高雄を連れて二人が潜伏していた隠れ家に行ってくれ、と、何時かに球磨たちの救援のために行ったエリア27へと向かっていたシエラ隊。小雨混じりの海の上で、特に意味もなく愚痴を垂れながら、前に行ったことのある場所へのコメントをして、どこか遠足気分で浮かれているツユクサにアザミが凄む。

 ウツギ、ツユクサ、アザミ、漣、天龍に、目的地への案内役の高雄、と、高雄を除けば結成されたばかりの頃と同じ編成ということにウツギが懐かしさのような物を感じていると、前を進んでいた武装を解除されている高雄が口を開く。なんで自分は縛られていないのか、という話だった。

 

「あの......すいません」

 

「どうした?高雄」

 

「拘束なしで良いの?」

 

「あっ、ちょっとそれ漣も気になってた!」

 

「縛られたいなら縛るが」

 

「漣......佐伯さんの話聞いてたのか?......ステゴロで、しかも5対1で逃げられるワケ無いだろ、っつー上の判断ですってよ」

 

 ウツギの反応に補足しての天龍の発言に「それもそうね」と言って高雄が引き下がる。

 それにしても。田中を殺すために船を襲った、か。高雄と神風はいったいどこでその情報を手に入れたのだろうか。隠れ家とやらで電波ジャックでもやっていたのか?

 暁の艤装は各部が破損し、部品の疲労も溜まっていたため修理とメンテナンスが必要だから、と夕張に言われ、今回は軽巡「長良」の艤装を装備していたウツギが思案に更ける。

 そんなウツギの後ろを付いてきていた天龍が先頭の高雄に話し掛ける。話題は「鎮守府務めの時はどうだったのか」だ。

 

「あの、高雄?さんだったっけ。艦娘だったときはどんな感じで?」

 

「どんな感じと言われても......普通だったけど」

 

「いやぁ、その......刀を使う重巡なんてあんまり聞かないな~......なんて」

 

「貴女も剣持ってるじゃない。そんなに変?」

 

「え?えと、俺のは飾りみたいなモンだし」

 

 あまり昔の事は言いたくないのかどこか機嫌が悪そうな高雄を相手に、弱気な天龍の発言にウツギが突っ込む。

 

「飾り?装甲空母姫の時にちゃんと使ってたじゃないか」

 

「いやさ、あんとき結構俺怖かったんだよね。コレまともに使ったの初めてだったし」

 

「刺しっぱなしで腐らせるよりは全然良いじゃないか。道具は使ってこそだ」

 

「......良いこと言うのね。でも、私も剣術は全然。神風さんのほうが......」

 

 高雄の言葉でウツギは、若葉が為す術もなくやられてしまった神風のあの恐ろしい刀捌きを思い出す。

 確かにあのレベルの剣術に敵う奴は、素人の自分から見てもそうは居ないとは思った。またあんなのを相手にするのまっぴら御免だ。

 そんなことを考えていた時。ウツギが胸に付けていた無線機から声が届いてくる。声の主は先行して敵を殲滅しながら同じくエリア27に向かっていた艦娘、佐伯の指揮する部隊の航空戦艦「日向」だ。

 

『目的地に着いた。あとどれぐらいで着きそうだ?』

 

「予定通りなら五分ほど......島は既に見えています。道を開いてくれたこと、ありがとうございます」

 

『この程度の仕事で礼はいらないよ。......高雄は暴れたりしていないか?』

 

「大人しいですよ。特に問題は今のところ......」

 

『そうか。島に一ヶ所しかない砂浜に居る。そこで待ち合わせだ』

 

「解りました。切ります」

 

 無線のスイッチを切り、作業着の胸ポケットに仕舞いウツギが前に居た高雄に声をかける。

 

「言い忘れていたが島に先行した部隊が待っている。何か問題は?」

 

「え?えと、別にないですが......」

 

「......そうか。島に着いた後も案内頼む」

 

「了解です」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。島に一ヶ所しかない砂浜に居る。そこで待ち合わせだ」

 

「......返事はなんと?」

 

「予定通りにここに着くとさ。噂通り、見た目は変だが中身は普通の真面目な艦娘だ。問題もないだろうさ」

 

「...そう」

 

「............知ってるか。加賀」

 

「......はい?何ですか突然。それに何がですか?」

 

「おっと、言葉が足りなかった」

 

 ウツギへの連絡を終えて、先に島に到着していた日向が同じく先に島に着いていた部隊メンバーの、特に仲の良い空母の艦娘の「加賀」に暇潰しの話題を振る。

 

「例の神風と......高雄の話さ。......まだ舞鶴が生きてた頃に。それはそれはつよ~い、下手をすれば大本営の艦娘よりも強い艦娘が二人居たという......」

 

「......それがあの二人なの?見たところ普通の駆逐艦と深海棲艦だったけど」

 

 加賀が背中に弓を仕舞いながら、興味が無さそうな無表情で続ける。

 

「で。それで話は終わりなの。日向」

 

「もう少し時間をくれ。あの二人には通り名があってな。それを知ってるか、と聞いたんだ」

 

「知らないわ。あそこが無くなって確か十年。私は建造されて五年。詳しいことなんて全然」

 

「そう......悪かった。無駄話に付き合ってもらって」

 

 「知らない」と言った途端になんだかしょんぼりしだした日向を見て、罪悪感を感じた加賀が「続きを聞かせて」と日向に言う。よりも先に日向が喋りだす。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 ここから先は独り言だ。適当に聞き流してくれ。

 

 「(わだち)の通り魔」と「蒼いかまいたち」。人間から艦娘になった同期であの神風と高雄を知らない奴はまず居ない。

 

 始めはただのウワサだった。基本的に砲撃で戦う艦娘だが、腰に刺した刀一本でどんな艦種の敵でも切り伏せる艦娘が舞鶴に二人居る。

 話を聞いたばかりの時は思ったよ。そんなバカな話があるか。刀なんぞただの飾りだ、そんなことをしようものなら近づく前に敵に撃ち殺されるだろう。

 

 だが見てしまった。

 

 昔の大規模作戦で、先行していた舞鶴から救援を受け取って、援護しに行った時の事だ。やけに敵の数が少なくて不振に思っていたら戦艦のバラバラ死体が海に浮かんでいたんだ。刃物でなければ再現できない、砲撃なんかじゃ作れない野菜のブツ切りみたいな死体さ。

 

 まさか。あのウワサは本当だった?そんな事があるはずが。そんな考えは直ぐに消えた。その死体から目を離した目線の遠く先には......

 

 軽く百は越えそうな深海棲艦相手に「刀と脇差しの二刀で斬殺死体を量産する着物の艦娘」と「当たり前のように野太刀で砲弾を弾き返す青い服の艦娘」が居たのさ。離れていたのに、やけに鮮明に見えたのを覚えている。

 

 

 味方の作った航跡の上に立ち塞がって、追い掛けてきた相手を片端から斬り殺して生ゴミに変えて行くから「轍の通り魔」。

 

 着ていた服の色が残像を描くような動きで、神風が討ち漏らした敵をその大きな太刀でまとめて両断するから「蒼いかまいたち」。

 

 

 後から聞いた二人の通り名の由来さ。

 

 名前負けするどころかそれよりも恐ろしい奴だと思ったよ。あの二人は。

 

 

「......随分詳しいのね。あの二人について」

 

「まあ、な」

 

 一通り喋った日向に加賀が言う。その言葉を聞いた日向は腰に携えた刀の鞘を撫でながら、口を開いた

 

 

 

「「これ」を持っている全ての艦娘の憧れ。そんな存在だったのさ。あの二人は」

 

 

 

 日向他、島に先に到着していた艦娘たちの視線の先には、約束通りぴったり五分後にやって来た、ウツギ達の先頭に立って海を進んでいたネ級の高雄の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

高雄の案内で、彼女と神風が根城にしていたアジトへと向かう艦娘たち。

そこで彼女らは二人の仲間のもう一人の艦娘と会う。

そしてその場所で語られる田中の正体とは。

 

 次回「リトリビューション」 殺す。斬る。潰す。それだけを考えて生きてきた。

 




やっと利き腕が自由に動かせるようになりました。


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リトリビューション

間違って一回全部消してえらい目にあいました............


 

 

 

 

「ここです。隠れ家......って言うのは初めてですけど......」

 

「......成程。使われなくなった炭坑施設、か。セーフハウスにはうってつけだな。中はどれくらい?」

 

「全員入れるほどには広くはないです。余裕を持つなら三人ほどかと」

 

「......ウツギと私と高雄で、残りは敵が来ないかの見張り。それでもいいだろうか?」

 

「......自分、ですか?大本営の方が適任だと思うのですが」

 

「上司の言うことには従え。お前は私と高雄に付いてこい。良いな?」

 

「............了解」

 

 全員が島に着いてから、高雄の案内で佐伯から言われていた二人の隠れ家に着いた合計13名の艦娘のうち、日向の提案で......というよりも半ば強引にウツギは施設の調査に付き合うことになった。

 なんというか、鎮守府で見たときには静かな人だと思ったが、意外と強引に押してくるタイプの人だ。

 そうは思いつつも嫌な顔は極力せずに、ウツギは懐中電灯を持って、邪魔な艤装を外して炭坑のトンネルに入っていく高雄と日向の後に付いていく。

 

 トンネルはウツギの予想より長く、彼女の感覚ではもう五分は歩いた時だろうか。

 やはり栄えていた炭坑なだけあって、大きな場所なんだな。ウツギが考えていた時に日向が話し掛けてくる。

 

「ウツギ」

 

「なんですか」

 

「無駄話は好きか?」

 

「......え?その、聞くぐらいなら......」

 

「そうか。なら遠慮なく」

 

 「上司の言うことには従え」発言の通りにウツギは大人しく彼女の話を聞くことにする。

 

「大海原には「魔」が潜むと言われている。一部の艦娘はこの「魔」を無意識に避けて、そしてまたさらに一部の艦娘はこの「魔」に強く惹かれる。しかし大多数の艦娘はそんな「魔」に気づきもしない」

 

「............第一横須賀の食堂にある本棚の、一番分厚い本に載っている一文なんだがね。この「魔」というのは何を指していると思う?」

 

「.........姫級の深海棲艦......では?」

 

 どういう意味があるのか......意味深だな。それに本当に意味のない話などする人なんだろうか。掴み所のない不思議な人だ。そう考えながらウツギが返答すると

 

「う~ん。そうか」

 

「私が前に通った道だ。ふふ......」

 

 日向がはにかみ笑いを浮かべてからかうようにそう言ってくる。ほどなくして高雄が歩みを止めた。目的地に着いたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「着きました。このドアを開けば」

 

「ん、案内感謝する」

 

「......あの、一番先に私が入っても良いですか?」

 

「......まぁ、その程度は許そう」

 

「ありがとうございます」

 

 ......見られてマズいものでもあるのだろうか。......ありそうだな、勝手な推測だが。

 高雄が炭坑跡に後付けしたと思われる扉を開いて中に入った後に続いて、日向とウツギが部屋に入る。

 三人の目に映ったのは飾りっけの無い白いベッドが三つ、ごく普通の小さな机が置いてある空間だ。

 

もっともベッドには一人誰かが寝ていたが。

 

 隠れ家までやってきて具体的に何をするのかまでは教えて貰っていなかったウツギが、その「誰か」を見て一瞬硬直する。しかし横の高雄と日向が眉ひとつ動かさなかったのを見て、いつも通り、ウツギは無表情で二人のアクションを待つ。

 扉の音に気づいたのか、寝ていた人間が顔だけを動かして、こちらへ話し掛けてくる。

 

「誰......ですか......?」

 

「春風さん、今戻りました」

 

「その声は......墨流(すみながし)さんですか?......後の御二人は誰ですか?......姉さん?」

 

 「春風」と呼ばれた女は顔が病的に白く、両目が隠れるようなアイマスクを着けており、左手と左足に血の滲んだ包帯が巻いてある痛々しい姿だった。

 恐らく彼女も被験者なのだろうな。ウツギがそう仮定して話を聞く。

 

「君の姉さんは私たちの鎮守府に居るんだ。あぁ、勘違いしないでくれ。少し君たちについてのお話を聞かせて貰っている」

 

「......何をしにいらっしゃったんですか」

 

「君を(さら)いに来た。「田中 恵」。この名前を知っているか?」

 

「あの人の仲間なんですか?......もう体を弄られるのは嫌です......」

 

「春風さん、大丈夫です。この人たちはあいつを捕まえるために頑張ってくれている方たちです」

 

「......信じていいんですか」

 

「私が嘘をついたことがありましたか?つくことがあっても。それはあいつを殺った後と決めました」

 

 ......なんだか、様々な事情を知らないのは自分だけらしいな。

 目の前で意味深な会話をする三人を見ながら、ウツギが適当に部屋の角を見ながら時間を潰す。

 

 数分後、高雄は「春風」と呼んでいた深海棲艦を抱えて部屋から出ていく。

 

「彼女一人で良いんですか?私が見張りましょうか?」

 

「いやいい。それよりウツギ」

 

 

「仕事開始だ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「鎮守府に居たときにちゃんと説明しなくて悪かった。ここに来た理由は第一にここの物色。そしてもう一つはさっきの深海棲艦......元艦娘を連れて帰ってくることさ」

 

「神風と高雄に「自分達のことは何でも喋るからあの子だけは連れて来させてくれ」と泣いて頼まれてね」

 

 成程。秋津洲たちと四人きりになったとたんに色々と話した裏にはそんな事があったのか。ウツギが一人で納得している途中に日向が続ける。

 

「しかし、調べるって何処をです?寝具と机しかありませんが......」

 

「ここだ。この下......これか」

 

 日向がそう言って小さな机を退かすと、収納スペースのような扉が現れる。中を開けると一冊の薄汚れたノートが入っていた。

 

「日記......ですね。神風の」

 

「物色といってもこれだけさ。田中についてと、ここ数年の三人の事が載っているらしい。持ち帰って読むとするか」

 

 目当ての物も手に入れたということでさっさと日向が部屋から出ようとする。そんな日向をウツギが呼び止めた。件の田中についてだ。

 

「すみません、ちょっといいですか」

 

「何だ?」

 

「田中について、知ってることだけでいいんです。教えて貰えないでしょうか?」

 

 ウツギの言葉に、日向の表情が曇る。彼女でも田中については知らないのか、それとも話したくないことがあるのか。表情だけではウツギには解らなかったが、数秒ほどの時間を空けて日向は口を開いた。

 

「田中について、か。君はどこまで知ってる?」

 

「呉で戦術アドバイザーをやっている、という所までは」

 

「そうか」

 

 

 

「ウツギ。お前は第三横須賀の天龍は知っているんだよな」

 

「田中は......いまのところ推測に過ぎないが、あいつらを指揮して深海棲艦化実験の主導者をやっていた可能性が出てきている」

 

「......二人から聞いたんですか?」

 

「............問題はここからさ。奴はね」

 

 

 

「人間に変装した深海棲艦かもしれないってさ。まったくバカげてるよ」

 

 

 

「何者...なんでしょうね。田中というのは」

 

「さあね。とりあえず趣味は悪そうだ」

 

「......ですね」

 

 人間に化けた深海棲艦......か。そんな特技、自分も覚えたい位だ。ウツギが自分の見た目の事を思い出していた時、日向が首から下げていた無線機が鳴る。

 

「ん、外の加賀からだ」

 

「...どうした?」

 

「............それは今すぐ?......少なくとも今週中、ね」

 

「......そうか。まったく忙しくなるな」

 

 

 

「第三鎮守府の近くにある島の、基地跡。そこに田中が行った痕が」

 

「どうして見つかったんです?」

 

「色んなとこの空母の艦娘が、これまた色んな鎮守府の周りをしらみつぶしにローラー作戦。見つからないほうが不思議さ。まあ、ここまで見つからなかったのは頑張ったほうかな」

 

 「捕まるのも時間の問題だ。さ、帰るぞ」。そう言う日向の後に続いて、ウツギは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

ついに追い詰めた。そう思った時には、

また行方をくらます田中。

一説には禁忌とされた技術を推奨する指導者、

また一説には変装した深海棲艦。謎は深まる。

 

 次回「小休止」 ウツギは考える。

 

 




不完全ですがすいません......ちょっとずつ修正する可能性大です。


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小休止


明石「徹夜で作業......疲れた......」
ウツギ「どうぞ」つクレープ
明石「.........!? お母さんの味だ!?」
ウツギ「え......?」


 

 

 

 

 

@@月 -%日

 

 

 手術で動けなくなった春風と

 どうにか刀だけでなら戦える墨流(すみながし)を連れて

 この島に着いた

 考えることはただひとつ

 田中 恵

 私から

 私たちから全てを奪ったあの女を殺す それだけだ

 

 

 

 

$¥月 &#日

 

 島に住むようになってもう半年だ

 部屋に持ち込んだラジオで傍受(ぼうじゅ)した情報を頼りに

 ここ数日であいつに関係する船を二人がかりで片端から切り刻んで沈めてやった

 しかし残念なことに 用心深いやつなのかあいつは乗っていなかった

 船から強奪した歩兵用の武器は墨流に持たせることにした

 自分も弾薬が心許なくなってきた頃だ

 深海棲艦から取ってくるか

 

 

 

 

=^月 /_日

 

 「あなたたちは見逃してあげる。そのほうが楽しそうだから」 

 あのふざけた嘲笑の言葉が毎晩夢に出てきて非常に精神衛生的によろしくない

 それに聞いた話ではまだあいつは違う鎮守府で働いているらしいではないか

 腹が立ってしようがなかったので島に通りがかった駆逐艦をバラバラにしてやった

 ストレス発散に加えて弾の補充も出来た

 上々の結果だ

 

 

 

 

$>月 &"日

 

 ついにこの日が来た 

 ここからそう遠くない場所にある鎮守府

 第五横須賀鎮守府があの女の乗った船の護衛をやるという情報を得た

 護衛は四人

 聞いたことのない名前の艦娘が一人居たがたいして問題にもならないだろう

 待っていろ田中

 お前は私が直々に夕霧(ゆうぎり)でバラバラにしてやる

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「.........な~んか、さ」

 

 島の調査に行った二日後。いつかに使った会議室にて、ウツギが日向に頼んで作らせた神風の日記のコピーを読んだ天龍が何とも言えない表情で呟く。

 

「ものっそい負の感情っていうかなんてゆーか......」

 

「言いたい事は解る。それよりも......球磨と木曾は中々の運を持っていたようで」

 

「言えてる。あの二人がこんな状態のあいつらに会ったら何されてたか......」

 

 「島に斬殺死体が二つ人知れず埋められてたかも」。そんな事を言って、知らないうちに危機を回避していた二人にウツギと天龍が溜め息をつく。考えてみれば艤装も無しに何キロも海を航行していた時点で解りきったことだったが。

 日記のコピーを一通り見終わった天龍が、次は高雄の経歴やプロフィールの載っている書類の束を手にして読み始める。向かい合う席にいたウツギは、机に積まれた鎮守府の設備強化についての書類を捌いていた。

 

「艦娘になる前の名前、井上 墨流。戦災孤児で、神風の親がやってた剣道場で養子になって生活......墨流ってまた変な名前だな」

 

「神風が付けた名前だとさ。元は名前も知らずに行き倒れていた孤児の少女。それが高雄。墨流は書道の技法の名前らしい」

 

「ふ~ん。にしても剣道場ねぇ......刀持ちはそこからか」

 

 天龍は高雄についての書類を放って、次は神風の事が書かれたコピー紙の塊を手に取る。

 

「人間時代は......なんだこれ、神風心刀流(かみかぜしんとうりゅう)を現代に伝える道場、神鳴舘(しんめいかん)の......師範代!?そんなにスゴい奴だったのあいつ!?」

 

「それだけじゃない。日向に聞いたが大本営の艦娘にもファンが居たほどの手練れの艦娘だったらしいぞ」

 

「うえぇマジかよ......なんで若葉はそんな奴とやりあって生きてんだ......」

 

「呼んだか?」

 

 話題に挙げた若葉の声が突然自分の後ろから聞こえた事に、天龍が変な声を出して驚いて膝を机に強打する。すごく痛そうだ。

 

「あったたた......びっくりしたぁ、いつから居たお前?」

 

「『うえぇマジかよ』から居たぞ......ンフふ......♪」

 

 膝を押さえてひいひい言う天龍を見て、彼女を(あざけ)るように若葉が顔を歪める。そして「面白そうな物を持っているじゃないか。見せろ」と言って天龍が机に置いた書類に目を通し始めた。

 

「神風心刀流。通常の剣道のような武術ではなく「とにかく勝つこと」に重きを置いた流派。用いる刀剣や構えは特殊な物が多い......ね。なるほどなるほど.........奴の刀もその一種と言うわけだ。......くふふ.........」

 

「日記の最後に乗ってた夕霧ってのは?俺気になったんだけど」

 

「神風の持っている刀の名前らしい。今の技術でも解析不能な謎の刀、と明石さんは頭を抱えてボヤいてたよ」

 

「ふフふふ......それはそれは......こわーい一品だナ......?」

 

 そう言うと、どこへ仕舞っていたのか。若葉は背中から一振りの刀を取り出して、それを書類で埋まった机の上に置く。ウツギと天龍が驚いた顔でそれを見つめる。

 

「なんで持っていたんだ?」

 

「んふフフッ......こいつで人を斬りたくなった」

 

「てめぇ......!」

 

「おっと、冗談冗談。何時ものが刃こぼれしたんでね。今度からこいつを使うことにしたのさ」

 

 若葉の冗談に聞こえない冗談を流し、二人が机に置かれた刀......「夕霧」をまじまじと眺める。一見すると日本刀に見えるがどういうわけか握る部分は西洋の剣のようにナックルガードが取り付けられており、刀身が妖しく赤色に光っていてなんとも不気味な美しさを放っている。

 

「......「妖刀」って表現が合いそうな武器だな。俺はやだねこんなの使うのは」

 

「自分もだ。あと、若葉」

 

「......使っていいと許可は出たのか?」

 

「別に、うまくやればバレやしないさ。それに」

 

「持ち主は連行されて大本営。勝手に使わせてもらうよ......うふふ.........」

 

 若葉は机に置いた刀を鞘に仕舞って、部屋を出ていった。数分間二人が呆けていると、館内放送がかかる。

 内容は「新しく鎮守府にやって来る整備員の出迎えをする」と言うものだった。

 

「......部屋、出るか。ウツギ」

 

「そうだな」

 

 こうして、二人も若葉に続いて部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

鎌田(かまた) 康平(こうへい)です。よろしくお願いします」

 

田代(たしろ) (そう)っす。頑張ります」

 

 夕方に差し掛かった昼過ぎ、鎮守府の駐車場にて。長身で顔立ちの整った男と、背丈は普通で目付きが悪い眼鏡の男が自己紹介をする。

 本当なら深尾が出迎える予定だったらしいが、今は書類と格闘中だということで、ウツギ他特にやることもなく暇だったツユクサ、アザミ、天龍、漣が挨拶をする。

 

「ウツギです。施設のご案内を」

 

「あ、大丈夫ですよ。建物の間取りは確認してきたので」

 

「......そうですか。では」

 

「ちょっといいすか」

 

 鎌田と名乗った男に案内はいいと言われ、ウツギが退がろうとした時に今度は鎌田の隣に居た田代に呼び止められる。

 さっきから思っていたが目力が......その、睨み付けて来るような人相はどうにか出来ないのだろうか。ウツギが田代の目付きの悪さに心の中で悪態をつく。

 

「なんでしょう?」

 

「ツユクサさんに話があるんです」

 

「へっ?アタシ?」

 

「..................」

 

 話がある。そう言ったにも関わらず、田代はツユクサの前にたった途端に無言になる。やりたいことがあるなら早く済ませてくれないだろうか。仕事が残っていたため急いでいたウツギがそう思っていると、漣達が何やらこそこそ話している。

 

「お、愛の告白かな......?」

 

「馬鹿.........その......訳.........無イ.........」

 

(聞こえるってもっと声小さくしろ!)

 

 天龍、残念だが聞こえているぞ。ウツギがそう思っていると田代が言う。

 

「ツユクサさん」

 

 

 

 

「俺の彼女になってください!!!!!」

 

 

 

 

「え」

 

 

 

 

瞬間、空気が凍り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

突然の告白にたじろぐツユクサ。

この言葉に込められた田代の真意とは。

オーバーホールが完了した暁の艤装を持って、ウツギ、シエラ隊は近隣の部隊の救援へ。

そこで若葉に異変が起こる。

 

 次回「夕霧」 沈む夕陽の光に照らされて。

 




ずっとやりたかった話だったのでスッキリしたぜぇ!!(白目)


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夕霧

お待たせしました。もう少しでPVが20000を越えそうな事に震えがとまりません。(チキン


 

 

 

 日が傾き、外が朱色に染まる時間帯。鎮守府の空いていた部屋のベッドに男が二人腰かけている。その内の一人、眼鏡の男......田代(たしろ) (そう)が顔を押さえて項垂(うなだ)れながら(うめ)き声をあげる。隣では彼よりも年上の男、鎌田(かまた)が田代を(なぐさ)めていた。

 

「............ぁぁ......」

 

「.........元気出してください。聡さん」

 

「先輩......俺は恥ずかしさで死にそうっす......」

 

 顔中のシワが中央に寄ったような凄まじい表情を浮かべて田代が言う。一般人なら誰もが口を揃えて「怖い」と言いそうな表情だったが、前から職場が同じで彼と行動を共にしていた鎌田は気にせず田代に声をかける。

 

「大体なんであんな人が集まっている時に言ったんです?しかも『第三鎮守府で見たときから一目惚れしました。俺と付き合ってください!』なんてわざわざ二回目に言い直し」

 

「やめてくださぃぃ......死にたくなります......」

 

 田代が眼鏡を外し、涙で(うる)んだ目元をハンカチで(ぬぐ)う。やっぱりいきなりすぎたんだ。あぁ、なんて自分は乙女心が解らないダメ男なんだ............。そんな考えばかりが頭を(よぎ)り、拭いたばかりの目からまた涙が流れてくる。

 

「聡さん。今は失恋の悲しみよりも、出撃したウツギさん達の無事を願うほうが良いのでは?」

 

「せんぱぁいぃ.........」

 

「それに、断られたとしても。これからゆっくりと交友を深めれば。きっとチャンスは有ります」

 

「先輩......」

 

 あぁ、テンパりすぎて「先輩」しか言えねえ......俺はなんてゴミみたいな後輩なんだ......。そうは思いつつも、田代は鎌田の優しさに感謝しながら、取り合えず風にでも当たろうと部屋を出るため座っていたベッドから立ち上がる。

 

「何処に行くんですか?」

 

「ちょっと、海見てくるっす」

 

「そうですか。では僕も」

 

「......?一緒に来るんですか?」

 

「聡さんは慌てん坊ですから。海に落ちたら僕が引き上げないと」

 

「俺そんなふうに思われてたんすか.........」

 

 田代は鎌田のコメントに項垂れ猫背になりながら、対照的に鎌田は姿勢よく歩いて部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「こちらシエラリーダー。バードストライク隊、聞こえますか?」

 

『ウイングワン、敵に囲まれています!援護お願いします!』

 

「すぐに到着します。それまで持ちこたえられますか」

 

『なるべく早くお願いします!!』

 

「了解」

 

 夕陽で目が眩みそうな景色が広がる朱色の海上を、いつも自分達が留守の時に鎮守府の警備を頼んでいた部隊からの救援を聞き付けて出撃してきたシエラ隊が駆けて行く。

 いつもの無線機ではなく、砲撃戦の途中でも通信が行えるようにとヘッドセットを着けてきたウツギが、隣でゴーグルで隠れて目元こそ見えないものの、夕日に照らされているのとは明らかに違う色で、顔を紅くして落ち着かない様子のツユクサに声をかける。

 

「ツユクサ、大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないかも知れないッス......」

 

 .........まあ、配属されてきた田代とかいうあの男にいきなりあんな事を言われては当然か。第三で初めて会ったと言っていた......夕張があの時言っていた増員された整備員の一人だったのか。にしても、自分達のこの見た目を気味悪がるどころか告白してくるなんて随分変わった......と言うよりももはや変人ではないだろうか。

 内心ウツギが田代に散々な評価を下していると、後ろに居た球磨と木曾がツユクサに向けて口を開く。

 

「でもツユちゃんが彼氏持ちになるだなんて予想外だクマ~。うりうり♪」

 

「やめてぇ......恥ずかしいッス......」

 

「.........やめてやれよ球磨姉、ツユクサが困ってる。それに断ってたじゃん」

 

「いやいや、思いっきりのびのびと出来るときに恋愛はやるべきだクマ!!いままで五人はフッた球磨ちゃんが言うんだから間違いないクマ!!」

 

「......向こうから離れてっただけじゃね」

 

「あ゙?」

 

「何でもない聞かなかったことにしてくれ」

 

 もうすぐ戦闘に入るというのに和気藹々(わきあいあい)としている後続の三人をウツギが眺める。アザミと若葉は会話を無視して無表情だ。

 レーダーに敵反応が合ったと同時に、ウツギの艤装のCPUのアナウンスが流れる。

 

『大規模な熱源反応を関知。メインシステム、戦闘モード、起動します』

 

「お喋りは終わりだ。味方に当てないように気を付けて。行くぞ」

 

「「「了解」」」

 

「「承知」」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「援護します。遅れてすいません。榛名さん、で合ってますか?」

 

『シエラ隊の皆さん、状況はかなり悪いです。敵の戦闘機を落として貰えますか?』

 

『あっかーん!!ちょっちピンチすぎやぁ!!』

 

「了解。アザミ頼んだ」

 

「承知しタ......」

 

 救援信号が出ていたポイントに着いたウツギ達が、上空を飛び回る敵の艦載機を......主に散弾を持ってきていたアザミが落としていく。

 ......いったいどういう原理で飛んでいるんだろうか。ウツギがそう思いながら空に浮かびながら銃弾の雨を降らせてくるエイのような形状をした物体と、それよりも奇妙な球体の形をした飛行物体を撃ち落としながら、愚痴を言う。

 

「っ、堅いな。あの丸いの」

 

「しかも速いときたクマ。こりゃ時間がかかるかもなクマ~」

 

「......少し退がって味方と合流しよう」

 

 レーダーに映る反応の設定を敵の熱源から味方の発信器に変更して位置を確認したウツギが、球磨達を先導して榛名達と合流しようと海を滑っていく。

 既に見えてはいたが、艤装からもうもうとおびただしい量の黒煙を上げている艦娘達の群れとシエラ隊が遭遇する。

 

「もうダメよ......オシマイだわ......」

 

「うち、もう疲れたわ......」

 

「龍驤気をしっかり!!あぁもうバカばっかり!!」

 

「味方が来ました!!皆さん、あと少しの辛抱です!!」

 

 疲労の溜まりきった顔で汗だくになりながら砲で艦載機を撃ち落としている艦娘達の前に、ウツギが割り込んで対空砲火を行うと同時に味方に指示を飛ばす。

 

「......援護します。各艦散開」

 

「......!?し、深海棲艦!!」

 

「違うんスけどね......ははは......」

 

「はぁっ!?何でそんな紛らわしい見た目なのよこのクズっ!!」

 

「口を動かす暇があるなら手を動かせ」

 

「うるさいっての!!」

 

 「敵と誤認しても知らないぞ」と罵詈雑言(ばりぞうごん)を吐いてくる、救援を寄越(よこ)した部隊では唯一損傷無しだった駆逐艦の艦娘を(なだ)めながら、ウツギが一番怪我の酷かった戦艦「榛名」の前に陣取って、彼女を狙ってくる艦載機とアザミが討ち漏らした手負いの「ボール」を撃ち落とす。

 

「数が多いな。いったいどこからこんなに沸いてくる......」

 

「ふん......五月蝿(うるさ)いハエが......」

 

「若葉、何をするつもりだ?」

 

「「親」を殺せばこいつらは黙るんだ。だから斬ってくるとするよ......くふふ......」

 

 親......これを発進させてきた空母の事か。一理あるかも知れないがこの弾幕を一人で潜り抜けていくのか?

 心配になったウツギが榛名の護衛を木曾に頼み、アザミを呼んで突撃していった若葉を追い掛ける。若葉はウツギには見えなかったがニヤつき顔で刀を抜く。

 

瞬間

 

 

凄まじい激痛が頭に走り、反射的に頭に手を当てその場にうずくまって動きを止めてしまう。

 

 

 何だ今のは。

 そう若葉が思った時、彼女に向けて機銃を撃ってきた戦闘機を撃ち落としながら駆け寄ってきたウツギに、若葉はそのまま手を引っ張られながら海を進む。

 

「足を止めるな。それよりどうしたんだ、具合が悪いのか?」

 

「......なんともない。手を離せ」

 

 不機嫌そうな顔で若葉がウツギの手を振り払う。

 .........なんだったんだあの形容しがたい不快感は。全く腹が立つ。まあ良い。さっさとハエどもを切り刻んで帰ろう。

 

 気を取り直した若葉と、それを追い掛けるウツギとアザミの三人は沈む夕日を背景に、朱色の海を駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

明らかに体調が優れない若葉と

彼女を気遣うウツギとアザミが敵に斬り込む。

少しずつ味方が押していき、戦闘終了も時間の問題。

そう思った矢先。アイツがやって来る。

 

 次回「闇に(はし)る赤い残光」 (やまい)のように。夜が心を、そろそろ(むしば)む。

 




4~30話で終わるっつってたのに詐欺になったなぁ(白目
あと次回予告が一番書くの楽しい(錯乱


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闇に奔る赤い残光

お ま た せ(おまたせしました)『エコー』


 

 

 

 

 

 

「............」

 

「.........囲まれた。な」

 

「あぁ。......確かに、抜けるのは少々難儀しそうだねぇ......うふふ......」

 

 敵の戦闘機を撃ち落としながら、この妙な形状の非行物体の発信源である空母の深海棲艦を探して約三分ほどたった時だったか。

 時折フラつく若葉と、それを追う形で行軍してきたウツギとアザミの三人は、水平線に太陽が沈みかけ、夕焼けの朱色からすっかり青黒い夜の景色へと変わって行く海上にて、大小様々な大きさの駆逐艦級に周りを囲まれてしまっていた。しかも撃ち漏らした敵艦載機のオマケ付きだ。

 ウツギが深呼吸をする。

 覚悟を決めるか。運が良いのか悪いのか。周りは全て駆逐艦、そして僚艦は自分達の中でも最強レベルの二人。これならなんとかなる。

 ウツギがなるべく平静を保って状況を判断したとき、若葉が刀を握り直して口を開いた。

 

「まぁ、いいや。これを使うときが来た......こいつらはなます切りにしようか。......背中は任せた......うふふ.........♪」

 

「当たり前だ。一人で捌ける量の敵じゃない。......ごめん、アザミ」

 

「別に......気にする......なイ.........」

 

 「殺戮(さつりく)開始♪」。若葉の楽しそうな一言と同時にウツギとアザミが砲を構えてそれぞれ駆逐艦と戦闘機に照準を合わせる。

 敵の十字砲火を致命傷は避けるように、時にはわざと回避せずに両腕の盾で弾いたりして防御しながらウツギが温存していた魚雷と砲弾を惜しみ無く敵に向けて振る舞う。

 

「¥|"){6}¥0¥?")|!!?」

 

「giiiiiiyaaaaaaaa a a a!!」

 

「......行ける、このまま強行突破する!!」

 

 自分の攻撃が当たり、炸薬に引火でもしたのか、大爆発を起こし獣の咆哮(ほうこう)のような騒音をあげて沈んで行く敵を見て、ウツギが少し強気になって一匹の駆逐艦の(ふところ)に潜り込む。そして、以前レ級用に取り付けてそのままにしていた、盾の裏側のハープーンガンの引き金を引いて、同時に二匹の駆逐艦の胴を貫いた。

 

「取った......!」

 

「.\"[)"\.*6=}^%.!)[.:@!!」

 

「@¢%*#&℃£!?」

 

「悪いな。此方(こちら)も命懸けなんだ」

 

『ターゲット、残り6』

 

「アザミの方は......終わったのか。よし......」

 

 残りの敵の数を報告するCPUアナウンスを聞き流し、ウツギはアザミが敵の戦闘機を全て撃墜した事を確認すると、そのまま敵の囲みを抜けて味方が居る場所まで戻ろうとする。

 そんなとき、ウツギが着けていたヘッドセットから、後方で味方の援護をしていた球磨からの通信が届く。

 

『ウッちゃーん、味方が帰ったクマ~。そっちはどークマ?』

 

「任務完了か。ならすぐに撤退する」

 

『了解だクマ』

 

「アザミ、若葉!!逃げるぞ!!」

 

「まだ斬るべき物質が残っている」

 

「知るか。早く来い」

 

 すっかり暗くなった景色に、きらきら赤く光る方向から発された若葉の言葉に激を飛ばして強引に命令に従わせる。「残念。良い使い心地だったのに」と愚痴る若葉を無視して、ウツギが青い景色の中、球磨たちを探す。

 

 ふと、ウツギが視界に一匹の深海棲艦を捉える。同時に彼女は特大の溜め息をついた。

 

「球磨、聞こえるか」

 

『クマ~、どうしたクマ?』

 

「もう少しかかる。こっちに来れるか?」

 

『......?解ったクマ』

 

「.........」

 

 通信を終えたウツギが、自分達へと向かってきた深海棲艦へと目を向ける。

 

 

 

 

「話は終わったか。白い艦娘」

 

「あぁ。何か用か」

 

「お前らを殺しに来た」

 

「それはそれは......くっふフ......」

 

 

 その一匹......一人の深海棲艦は、ポクタル島で会ったスーツの装甲空母姫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 なるほど、な。あの変な飛行物体の本体はこいつだったわけだ。装甲「空母」姫、だものな。何もおかしくない。

 夜の暗さによく映える彼女の赤い目の光を見ていたウツギに向けて。装甲空母姫が口を開く。

 

「また会えるとは思わなかったぞ艦娘。部下の(かたき)、討たせてもらう」

 

「そうか。帰ってくれると嬉しい」

 

「そう易々と逃がすと思うなぁッ!!」

 

 率直な一言を述べたウツギに、真っ直ぐに装甲空母姫がエペ剣と細身のサーベルを構えて突進してくる。咄嗟に盾で身を守るウツギだったが、その一撃は隣から割り込んできた若葉によって防がれた。

 

「ん~。お前とは一度やり合ってみたかッたんだ......フふっ......」

 

「邪魔立てするなら容赦せんッ!!」

 

 ギャリギャリと耳障りな音をたててサーベルと刀が擦れ合い、鍔迫(つばぜ)り合いの状態からもう片手の突剣(エペ)で若葉の首筋に突きをやろうとした装甲空母姫に、彼女から距離をとったウツギとアザミから放たれた砲弾が当たる。その隙を見て、若葉には距離を離されてしまう。

 

 ―――いつもいつも、私の邪魔をする目障りな艦娘ッ!!―――

 

 

「豆鉄砲が......」

 

「効くとおもうなァッ!!!!」

 

 

「何っ......!?」

 

 以前ウツギの砲撃を受けて砕けた右目の(あな)から赤い光が漏れている装甲空母姫が、砲撃をしてきたウツギ目掛けて全力で持っていた突剣を投げ付ける。それはウツギの背負っていた艤装に付いていた肩部の連装砲に突き刺さり、砲は小規模な爆発を起こして破損してしまった。

 

『背部砲門破損、スリープモードに移行します』

 

「...............!」

 

「まだまだァ!!」

 

「どこに行くんだ?」

 

 武装が一つ破壊されたウツギにとどめを刺そうとする装甲空母姫を、絶妙なタイミングで若葉が割り込んで止めに入る。

 

「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!ジャマだぁぁぁ!!」

 

「......ははひゃはは!そうだもっと来いよ!」

 

「死ねええええええェェェ!!!!」

 

「殺ってみろよぉ殺れるものならぁ!!」

 

 何度も自分の行動を阻害された装甲空母姫は、我を忘れて力任せに滅茶苦茶に剣を振り回して若葉を殺そうとする。対する若葉は冷静に狂っているとでも言うべきか。目が血走った状態でありながら、的確に相手の剣撃を赤い残像を描く夕霧で弾き返す。

 危なかったがなんとかなった。また砲撃を......

 そう思い、暗闇でよく目立つ赤い光へ目掛けて砲を構えたウツギに通信が入る。相手は正確な場所は解らないが近くにいるアザミからだった。

 

『ウツギ......弾......切れタ......』

 

「っ......そうか。球磨たちと合流するといい」

 

『ごめン』

 

「謝るな。こっちも隙を見て逃げる。早く!」

 

『了......』

 

 通信を終えたウツギは、自分の服の腰にキャンプ用のナイフが仕舞ってあることを確認して深呼吸をする。

 

 

「すうぅぅぅ、はぁぁぁ......」

 

 

「やるしかないのか。アレを、たった二人で......」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「しゃあっっッ!」

 

「おぉっ......!?」

 

「殺す......殺す殺す殺す殺すッ」

 

「そればかりだなッ......っ、......ん~腕がシビれるね............」

 

 重い......ただの突きや切り上げが岩みたいだ。神風が「技」ならこいつは「力」か。良いよ良いよ若葉を楽しませておくれよ.........。

 爛々と目が輝く目の前の女との斬り合いを若葉が楽しむ。

 

 そうだ。良いことを思い付いた。アレを真似してみるか......ンッふふふ......♪

 

「そこだァッ!!」

 

「しまっ.........!?」

 

 若葉が何かを思い付いたと同時に、装甲空母姫の、その細い腕のどこから出ているんだと言いたくなる馬鹿力による切り上げを押さえ込もうとして、右手を振り上げて大きく後ろに仰け反る。

 

「まずは一つ」

 

「串刺しだぁぁぁぁ!!」

 

 満面の笑みを浮かべて、こちらへ向かってくる装甲空母姫の姿が、若葉にはコマ送りのビデオ映像のように感じられた。

 

 

 

 

 

 か か っ た

 

 

 

 

 

 若葉は

 

 振り上げた刀を自分の頭越しに背中へと回し

 

 刀を手から離す。

 

 そして自由落下する刀を事前に背中に回していた左手で掴むと、

 

 そこからぐるりと刀を一振り。

 

 その一連の行動は、神風がやった、若葉の両腕を切り飛ばしたあの斬撃である。

 

 

 

 

「なっ.........あ.........」

 

「ちっ......まだ練習がいるか」

 

 完全に油断しきっていたこの女の腕一本ぐらいなら取れたかな。

 そう思った若葉だったが、流石に見よう見まねでは無理があったのか。「背廻し斬り」は装甲空母姫の胸元を傷つける程度に終わる。

 

 まぁいいか。楽しかったよ。あの小豆色よりは弱かったが......これ以上は贅沢になってしまう......フふふ♪

 

 若葉は胸を押さえて苦悶(くもん)の表情を浮かべる装甲空母姫に引導を渡そうとする。が、しかしそれは叶わなかった。なぜなら

 

 

 

 彼女の脳髄に、またあの形容しがたい頭痛と、全身の血が逆流するようなおぞましい吐き気がやって来る。たまらず若葉は口を抑えてその場に踞る。

 

「お゙ぶっ.........うっぐ............?」

 

 そして勿論、そんな絶好の機会を逃すわけもなく。装甲空母姫は体中から殺気を放って、無言で若葉に斬りかかる。

 

 (もっと)も、例によってまた邪魔が入るのだが。

 

 

「足を止めるなと言っただろ。若葉」

 

「どけ」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「お前ごとそこの艦娘をたたっ斬る!!」

 

 

 

 誰だ?......あぁ。ウツギか。......視界が霞んできた。

 ずっと割り込むタイミングを探していたウツギの乱入によって、若葉は助けられたが、当の彼女は尋常ではない頭痛と吐き気でそれどころでは無かった。

 

 そんな若葉の頭に、「声が響く」。

 

 

 

―――軽率に私に触れた愚かな人の子よ―――

 

―――その体を献上せよ―――

 

「.........この刀から゙......か?」

 

―――さあ、私の新たな()(しろ)となるがいい―――

 

 その、頭痛に響く声と共に、刀からミミズのような触手が這い出てくる。そして若葉の左手首を覆うと、頭痛が更に酷くなる。

 

「ぐっ゙......あぁっがっ.........!?」

 

 若葉は激痛に(もだ)え苦しみ

 

「はぁ......はひ......んっふふフフふふははは」

 

 突然笑いだした後

 

 

 

 

 

 

「はははははははは!!従うものかよ!!!!」

 

 

 「左手で触手に絡まれた右手を抉った」。

 

 

 

 

 

 

―――貴様、何を?―――

 

 

「はぁ、はぁ。ふううぅぅぅぅゥゥゥ......」

 

「残念。若葉は人の言いなりになるのは大ッ嫌いなんだ」

 

「お前は「道具」なんだ......「道具は大人しく使われろ」」

 

―――...............。―――

 

 その言葉を口にした途端、若葉の頭痛と吐き気が消えていく。

 そうだ。それでいい。......ふううぅぅぅ、無駄な時間を過ごした。ウツギを追い掛けなければ。

 

 彼女の血だらけの右手に握られた「夕霧」は、静かに赤く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

復讐の念に取り付かれた装甲空母姫を相手に、

ウツギは圧されながら座礁した船の残骸に辿り着く。

一か八か。彼女はこれを利用し

装甲空母姫に奇襲を仕掛ける。

 

 次回「妄執(もうしゅう)の行き先」 血の味で、ウツギは戦場を認識する。

 




車のプラモデルを作って認識する、ガンプラのスゴさを噛み締める今日この頃。


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妄執の行き先

兄貴いいいいい!(鉄血のオルフェンズを見た感想


 

 

 

「良いことを教えてやる」

 

「自分はお前の部下を、二人やった」

 

 ウツギの発言に、装甲空母姫が一瞬目を丸くしたかと思うと、次には体を震わせ怒りを露にしていた。

 

 季節の変わり目。ここ最近から肌寒くなり始めた今日この頃、月明かりがぼんやりとウツギと装甲空母姫を照らす。ウツギは今、気温が一段と低くなったこの時間帯でも、ぐっしょりと汗に濡れていた。

 相手からの殺意、相手からの気迫、夜の闇、自ら放ったハッタリ、自分が相手と一対一。全てが悪い方向に向かっている。ウツギのそんな考えと連動して引き起こされる冷や汗が、激しく動き回ってかいた汗に上乗せされる。

 ウツギの発言に、静かに怒る装甲空母姫が返す。

 

「そうか」

 

「.........」

 

「なら」

 

躊躇(ちゅうちょ)なく殺せるッ!!」

 

 そう言うと、装甲空母姫は猛然と、眼の赤い光で残像を描きながら突進してきた。

 第一段階は成功か。さて、どこまで時間を稼げるか。

 装甲空母姫がウツギの挑発に乗ったことにより、突然嗚咽(おえつ)を漏らしてその場に倒れた若葉が立ち直るための時間稼ぎの策が、とりあえずはうまくいったことにウツギが内心ニヤリと笑う。が、同時に彼女には余裕は無かった。

 魚雷は弾切れ......背面砲は壊れた。ハープーンもこれだけ動き回る相手に当てる自信は無い。......ナイフと三点バーストだけか......。

 相手の剣の必中の間合いを避けて、機関部の出力を最大にして後退するウツギが考え事をしながら左手を右手に添えて砲撃を行う。

 

「逃げるなぁッッ!!我に貴様を殺させるォォ!!」

 

「っ......どういう日本語だ......」

 

 完全に錯乱した状態で言葉遣いが怪しくなりながら、鬼のような剣幕で斬りかかってくる相手から必死でウツギが逃げる。

 こう、遮蔽物の何もない場所じゃあ不利か......追い付かれてバラバラにでもされたら笑い話にもならない......!

 ウツギはスリープ状態に入った艤装のCPUの音声入力をオンにすると、ヘッドセットのマイクを通して機械に喋る。

 

『音声入力、開始』

 

「......近くの障害物」

 

『サーチ......近くの障害物、を、ピックアップしました』

 

『距離.2000、解析......完了。タンカーの残骸を確認しました』

 

(2000か......よし)

 

「どうした装甲空母姫!お前は逃げ回るだけの女一人殺せないのか!!」

 

「調子にのりやがってええェェェ!!」

 

 いい子だ。しっかりついてきてくれよ......!

 

 ウツギの決死の「作戦」が始まった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「チィッ、何処に行った......!生白い艦娘......!」

 

 挑発だというのは薄々気づいていたが......。口ばかりの雑魚めが、どこに隠れた......!!

 浅瀬に乗り上げて朽ち果てた船の残骸付近で、散々煽っておきながら暗闇に姿を消したウツギを装甲空母姫が探す。

 ふん、信条に反するが仕方がない。どうせそこに居るんだ。これで(あぶ)り出してやる。 装甲空母姫が腰から小型の単装砲を取り出して、当てずっぽうに船の残骸を撃ち抜き始める。

 

「そこに居るのは解っているぞ!!隠れたつもりか!!」

 

 三十回ほど引き金を引いて、ひとまず砲撃をやめて彼女はそう言った。しかし船の崩れる音以外は物音はせず、辺りは静まり返ったままだ。

 ......いいだろう、誘いにのってやろうじゃないか!!!!

 

 

 # # #

 

 

 

 落ち着け。集中しろ。機会は一度きり。これを逃せば自分は死ぬだけだ。

 先程の装甲空母姫の砲撃で頬から血を流し、肩すれすれを砲弾が掠めたウツギが、ひたすらじっと敵の到着を船の残骸の中で待つ。

 

 どこから入ってくる。右か、左か。

 

 座礁船の、浸水した貨物室と思われる場所でウツギが左腕に残されたハープーンガンを構える。

 

『出てこないのならこちらから殺しに行ってやる!!』

 

 しめた。そうだ、来い。

 ウツギが外から聞こえてきた女の声に、より一層感覚を研ぎ澄ませてその時を待つ。そして、装甲空母姫は、

 

 

ウツギの予想に反し、船の天井を突き破って彼女の目の前に降りて入ってきた。

 

 

「そこっ!」

 

「何だっ!?」

 

 

 ウツギが、背中を向けていた装甲空母姫目掛けて、ハープーンを射出する。

 

 (もり)状の弾頭は女の頬を掠めて、錆びて朽ち果てた船の壁に穴を空けて飛んでいった。

 

 

 終わった。

 

 

「しまっ......!?」

 

「ふふっ、ふふはははは」

 

 

 

「死んでしまえよおおおお!!」

 

 

 

 起死回生の一撃が不発に終わり、呆然としていたウツギが装甲空母姫の回し蹴りをまともに受けてしまい、船の壁に強かに背中を打ち付ける。

 

「うぐぅぅ......!?」

 

「あはははは!!それで終わりかぁ!?小娘えぇぇ!!」

 

 まだだ......まだ負けた訳じゃないっ!!

 装甲空母姫はウツギの腰に股がり、真っ直ぐに彼女の首もとに剣を降り下ろす。が、寸での所で、ウツギは取り出したナイフの溝で剣を受け、自分の首が()ね飛ばされるのを防ぐ。

 

「ぐっ......ぎぎ......ッ!!」

 

「 無 駄 な あ が き は よ せ よ♪さっさとくたばれ!!」

 

 まるで遊んでいるかのような楽しそうな笑顔で、女はウツギの首を貫こうと剣に込める力を段々と強めていく。

 何か、何か出来ることは......!

 段々と強まる、眼前で基地外染みた笑みを浮かべる装甲空母姫の力を押さえきれず、剣が首の皮膚を破り、肉に食い込み、ウツギの首から一筋の血が流れる。

 

「はああぁぁぁぁ?いつまで粘る気だ?」

 

「んん......ん......ぐ......!」

 

「なんだしゃべる余裕も無いか!?なら......」

 

 

 

「一思いに串刺しにしてやる!!」

 

 

 

 装甲空母姫は、ナイフに挟まった剣を引っこ抜くと、そのまま今度はウツギの額へとそれを降り下ろす。

 そして、

 

「死」

 

「うおおおおお!!!!」

 

 一瞬の隙を見逃さず、ウツギは無我夢中で右手の砲の引き金を引いた。

 

「ッ......豆鉄」

 

 豆鉄砲ごときでこの私は死なんよ!!

 そう言おうとした装甲空母姫の言葉は欠き消された。

 

 

 砲から六発放たれた砲弾は、座礁船の燃料に引火し、大爆発を起こす。

 

 

「なんだと...!?」

 

 爆発と共に飛んできた鉄製コンテナの破片が、左腕に深々と突き刺さり、同時に爆風に吹き飛ばされた装甲空母姫が苦悶の表情を浮かべる。しかし、尚も目の前の仇を抹殺しようと、彼女はまだ使える右手で剣を振り上げて、ウツギと相対する。

 

「腕は二本あるんだぁぁ!!」

 

「はぁ......はぁ......!」

 

 相手と同じく爆風で船の入り口近くまで吹き飛ばされたウツギが、焼けただれた左手を押さえながらふらふらと外に出ていく。

 

「待てよ......まっ!?」

 

 追い掛けようとした装甲空母姫は、連鎖的な爆発を起こす燃料タンクの爆煙と、それによって崩落してきた瓦礫に行く手を阻まれる。

 ......何故だ。

 何故だ何故だ何故だ何故だ何故なにもかもがこの私の邪魔をするんだぁぁぁぁ!!

 

「くそっ、くそっ、くそっ......あああぁぁぁぁ!!」

 

 執念だけで動く女は、燃え盛る瓦礫を次々に切り飛ばし、蹴り飛ばし、出口へと向かう。

 そこには、もう、部下の仇の姿は無かった。

 

「......くしょう」

 

 

 

 

 

 

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 一匹の深海棲艦の叫び声が、夜の闇に虚しく響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

装甲空母姫の猛攻を切り抜け、

ウツギは部隊員と鎮守府へ帰投する。

しかし、休む間もなく。

大本営からの緊急の依頼が舞い込む。

 

 次回「開始の合図」 無駄だ。ここは最初から楽しい地獄だ。

 




あと少しで四章終わりです。予定と大分違うなぁ(白目


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5 海軍の長い夜
開始の合図


お待たせしました。


 林業関係者以外は立ち寄らないような林の奥深く。今は深海棲艦の攻撃により焼け落ちてしまいもう無いが、その場所に『神風心刀流』道場の「心鳴舘」はあった。

 

 神風が所有していた刀 「夕霧」は、古くからこの道場に納められていた業物(わざもの)であり、その刀身が赤いのは「数々の、この刀で切り殺された人間の血液が浸透して染まったから」という逸話がある。

 

 また、この一振りの鉄の塊が厳重に保管されていたのは、「この刀を一度握れば、この刀に殺された怨念に見入られ、体の主導権を奪われ。自然、所有者は死に急ぐ」という道場の言い伝えからである。

 

 このお伽噺(とぎばなし)が正しいのならば、この「夕霧」はまさしく『妖刀』と呼ぶに相応しい逸品だろう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらん」

 

 不機嫌そうに、しかし顔はにやけた状態の若葉がそう吐き捨てる。

 味方の救援に向かった日の翌日。鎮守府で誰よりも早く起床した若葉は、まだ日が昇らない暗いうちに会議室で神風についての資料を漁っていた。

 目当てであった夕霧の関連書類を読み、若葉がつぶやく。

 

「妖刀、か。実にくだらない」

 

「道具は所詮、それによって使用者を手助けするツールでしかない。所持者に牙を剥くなど、それは道具として失格だ」

 

 だが残念な事に――、こいつはただの道具なんかじゃあない。何か明確な意思を持っているということは認めよう。そうでなければあの頭痛吐き気に、幻覚、「声」の説明がつかない。

 持論の独り言の後、若葉は資料の束が積まれた机の横に自分が置いた一本の刀を見て、そう考える。

 

「おい......聞いているんだろう、返事はいらん。が、言っておく」

 

「」

 

 赤く鈍く光っているような気がする刀に、若葉が投げかける。

 

「今の言葉を聞いてどう思ったかは知らんが......若葉はこの考えを改めるつもりはない」

 

「」

 

「......もしも。若葉に使われるのが嫌なのなら。『ご主人』以外に触られたくないとでも思ったのなら部屋から出ていくんだな」

 

 「もっとも道具のお前にそんな芸当ができるかな......んふふ......。」 そう言った後に、若葉は視線を窓の外から夕霧に移す。

 

 

 しかし、置いてあったはずの「道具」は、どこにも見当たらなかった。そればかりか、すこし目線を動かせば、入ったときに閉めたはずの会議室の扉が半開きになっている。

 

 

「......ん~......道具のクセに、自己主張が激しすぎるな......んくク......」

 

 とりあえず、だ。夜明けまで時間を潰そう。そう思った若葉は本棚から適当な一冊を引っ張り出して読書を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ナカヤマインダストリィ、代表取締役社長の中山(なかやま) 康一(こういち)だ。先日は済まなかった。相手を選ばず商売をやった我々の責任だ......!」

 

「秘書の中山(なかやま) 雪菜(ゆきな)です。私からも、心からお詫び申し上げます」

 

「あ、頭下げたりしないでください!それに犠牲者は一人も......」

 

 

 

 

「う~ん♪大手社長直々の謝罪ktkr!!」

 

「......何の騒ぎだ?」

 

「あ、ウッチーおはよー!」

 

 朝の八時過ぎごろ。

 珍しく寝坊してしまったウツギが、起きてすぐにカーテンを開けると何やら外に観たことがない大型トラックを見つけて、急いで着替えを済ませて外に出る。そこには自分達の提督と、スーツ姿の貫禄のある恰幅のいい男、男の付き添いと思われる......前にウツギが見た空母の加賀に似ている女の三人が何かを話していた。

 

「何かね~社長さんがきたんスヨ」

 

「......もっと詳しく頼む」

 

 おちゃらけた様子で雑な説明をする漣をウツギが少し睨む。

 

「あ~ん~、なんかさ、ウッチーが前に受けた田中ナントカの任務あったじゃん?」

 

「あったな。神風と高雄の件についてか?」

 

「そーそー。その罠用の爆弾を田中に売っちゃったから謝りに来たった!ってサ」

 

 ......それはそれは。でも、それは会社の過失ではない気がするが。それにこの程度の事でわざわざ会社の頭が出張ってくるなんて。

 いい心掛けだとは思うがそこまでするか、と、ウツギが思っていると、いつの間にか後ろに来ていた社長の秘書が話しかけてきた。

 

「貴女がウツギ様、ですか?」

 

「......合ってますよ」

 

「お待ちしておりました。こちらへ」

 

「あの~漣もご一緒しても?」

 

「いいですよ。それでは私に着いてきてください」

 

 どこに連れていかれるのだろうか。後ろで目を輝かせながらぶつぶつと何かを言っている漣を無視して、ウツギが秘書の女の後について歩く。

 ほどなくして目線の先には、一般車二台分ほどの駐車スペースを占拠している、自分の部屋からも見たトラックが目に入った。

 

「少々お待ちください。すぐに終わりますので」

 

 パンツスーツ姿の女はそう言うと、トラック後部の扉を開けてコンテナの中に入っていった。

 

「お?お?サプライズプレゼントかな?」

 

 この流れだと否定できない。......何故か悔しい。

 ウツギが漣の言葉にそんな感想を持ったとき、言葉通り一分としないうちに女が荷台から出てきた。手には何やら大きめの箱を持っている。

 

「こちらを」

 

「ん......!結構重いですね......中身は何でしょうか」

 

「はい、こちらはお詫びの品として支給させて頂きます」

 

 

 

「わが社の新製品です。今後とも我々ナカヤマインダストリィを宜しくお願い致します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「商標登録名・VSDS-SPR-『Yoichi(ヨイチ)』......カテゴリ・多目的ライフル、オプションは中距離用バレル、狙撃補助センサー、レーザーサイト、二脚銃架etc......」

 

「何をしているんだい?ウツギさん」

 

「時雨か。届いた荷物の確認だ」

 

 艤装保管室、修理可能な装備の整備などを行う作業台の上に、大量の重火器を並べていたウツギに部屋に入ってきた時雨が......前にウツギに言われたので、しゃべり方を敬語から普通の調子にして声をかける。

 「N-K-I」とロゴの印刷された段ボール箱に入っていた説明書に目を通しながら、ウツギは貰ったスナイパーライフルを組み立てる。

 

「前に使ってたのとは全然形が違うね。......ライフルじゃなくて板みたい」

 

「ナカヤマの新製品らしい。前に自分が使っていたライフルの問題点だった攻撃力を底上げして、より実戦向きになっている、とさ」

 

「へぇ、そんな凄いのをくれるなんて。懐が大きいんだね。社長さん」

 

「ん、社長から貰ったと言うのは誰から」

 

「漣から聞いたよ。もう帰っちゃったけどトレーラーから積み荷を降ろすところに立ち会ったって」

 

 「そうか」、とウツギが言って、会話が途切れる。

 ......漣には「さん」を外すようにしたのか。自分が呼ばれるときに「さん」が外れるのはいつになるかな。

 武装の組み立てと動作確認をしながら、時雨とは「上司と部下」のような間柄ではなくあくまで「友人」として付き合いたいと考えるウツギが、時雨の方を視る。彼女はウツギの視線に気づかず、段ボールの中を覗いていた。

 

「ウツギさん、他に入ってるこれとそこの箱は?」

 

「うちの艦娘全員分の追加武装。ご丁寧に名札まで付けてある」

 

「......それは、本当に言ってるのかい?」

 

「嘘を言って......確かに普通じゃあ考えられないことかもな......」

 

 「嘘を言って何の得が自分にある」、と言おうとしたが踏みとどまり、ため息混じりにウツギが言う。

 まさかとは思うがこれも何かの罠じゃ......いや考えすぎ......であってほしいな。それに気の休まる時に嫌な考え事は駄目だな。罠ならその時はその時でなんとかするしかないか。

 あまりにも大盤振る舞いなN社の支援について、改めてウツギが考えていると、館内放送がかかる。

 

『ウツギ、ウツギ。屋内に居るなら執務室まで』

 

「呼ばれたな。自分の分は勝手に見ておいてくれ」

 

「わかった。僕のは......」

 

 

 今日の仕事は何だろうな。そんなことを考えながら部屋を出て、パックの栄養ゼリーを飲みながらウツギは短い廊下を歩いて執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日もまた戦に身を投じる。

しかし今度の戦はこれまでとは一味違う。

田中を追っていた部隊が消息を絶った。

その生存者探索。そんな依頼が舞い込んでくる。

 

 次回「白昼夢」 カウントダウンが始まった。

 

 




はい、と言うわけで予告を無視して第五章(白目


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白昼夢

大変お待たせいたしました。


 

『緊急の依頼だ』

 

『田中恵が潜伏していると思われる、第三横須賀鎮守府の旧艦娘艤装ガレージ跡地に、我々は大規模な地下施設を発見した』

 

『施設には六名の調査員を艦娘の護衛をつけて送ったのだが、つい先程原因不明のトラブルが発生。調査隊との連絡が途絶えた』

 

『最後の通信記録によると、調査隊は「生物のような機械のようでもある何か」の攻撃を受けたらしい。それ以外の状況は全くの不明だ』

 

『大至急生存者の探索を頼む。数々の困難な任務を成し遂げ、生存率100%を誇る君たちにしか出来ない任務だ』

 

『尚、施設内部の構造や敵の情報は未知数。何が起こってもおかしくない、装備、編制は万全を整えて望んでもらいたい』

 

『お願いだ。どうか彼女たちを助けてくれ』

 

 

 

 

 

 

 

「大本営様の部隊の救出。荷が重すぎやしないか提督」

 

「それだけ期待されてる証拠さ」

 

「......だといいんだけどな」

 

 放送で深尾から呼び出しを食らったウツギが、執務室のPC画面を除きこみ、上層部から送られてきた、やけに早口な音声依頼を聞いてそう垂れる。

 内心嫌々ながら表面上は真顔でウツギが深尾に聞く。

 

「すぐに向かえばいいのか」

 

「ああ。メンバーはお前が決めてくれ」

 

「......じゃあ、天龍、ツユクサ、アザミ、若葉、春雨、しぐ」

 

「お前さんは強制だ」

 

「............なんてことだと思ってたよ」

 

 あきらかに危険な香りのするこんな仕事は嫌だ、と思ったウツギが自分の居ない編制を提案して却下されたことに、額に指を当てて精一杯眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をする。

 ......時雨か天龍を自分と差し換えるか。......時雨を外そう。補充人員(実際は志願して無理矢理入ってきたのだが)のあいつに何かあったら問題になる。

 

「貰った装備は持ち込み可能で?」

 

「もちろん。というより万全の態勢で、と言われているからな。絶対持ってってくれ」

 

 「気を付けろよ」。そう言ってきた深尾に「了解」と短く一言だけ返答して、ウツギは準備のためにそそくさと部屋から出ていった。

 ......これをきっかけにまた面倒な事が起きなければいいんだが。廊下を歩きながらウツギはそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウツギさん、お久し振り......なのです!」

 

「しばらくだ」

 

 太陽が空の真上に上がり、普通の会社員や学生ならば休憩をとっているような時間。自分達の鎮守府からそれほど遠くない第三まで、二十分ほどで到着したウツギ達が第三の秘書艦である......以前料理を振る舞った駆逐艦の一人である「(いなずま)」と顔合わせをする。

 

「すごいじゃないか電。ただの駆逐艦娘から秘書に登り詰めるなんて」

 

「誤解なのです。電は昔からここにいるから選ばれただけで......」

 

「ん~......たしかにこいつは弱そうだねぇ......」

 

「若葉......余計......いらなイ......電、気にする......」

 

 ウツギと喋っていた電に割り込んで、変なことを投げ掛ける若葉をアザミが(たしな)める。

 

「いや失敬失敬。お喋りな口が滑ってしまって......ンフふ......」

 

「いえ、若葉さんの言う通りなのです。電はほとんど事務仕事専門なので」

 

 ケタケタ笑いながら、相手をおちょくるような調子で話す若葉に嫌悪感などは見せずに電が対応する。そんなとき、ウツギは電の背後から一人のワイシャツ姿の男がこちらに向かってくるのが見えた。どうやらここの司令官が遅れてやって来たようだ。

 

「お待たせしました。電さ......こちらが第五横須賀の方でしょうか?」

 

「あ!司令官さん、遅いのです!もう予定より二分も遅れて」

 

「申し訳ありません。上との連絡に戸惑っていまして......あ、初めまして皆さん。本城(ほんじょう) (たけし)と申します」

 

「フィフス・シエラ隊、旗艦のウツギです。よろしくお願いいたします」

 

 銀縁メガネに七三分け、仕事で寝不足なのか目元に隈が浮かんでいる真面目そうな男にウツギが挨拶をする。

 

「仕事の件ですが、状況は?」

 

「その事なんですが......来てもらって早々にすいません、時間が押しています。すぐに浮島まで向かってもらいたいのですがよろしいでしょうか?」

 

「了解です」

 

 見るからに仕事人間といった風貌の人間だが、見かけによらず時間にルーズなやつなんだろうか。

 本城に言われた通りに身を翻して島の方向へと部隊員を連れて歩く途中に、ウツギは眼鏡の彼についてそんな事を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「地下部に進入を開始した。頼むぞ。オペレーター」

 

『はいなのです!』

 

 午後0時ちょうど。生存者の探索のためにとやって来たシエラ隊が、暗い地下施設へと入っていく。

 ヘッドセットの電源を入れ、ウツギが無線の奥の電に話し掛ける。

 真っ暗で何も見えん。予想以上だなこれは。そんな事を思いながらあらかじめ持参してきた光度の強い懐中電灯のスイッチを入れ、埃っぽい施設内を歩くウツギにツユクサが話し掛けてくる。

 

「暗くて寒いッスねここ......お化けとか出てきそ......」

 

「出てくるって思っているから出てくるんだ。何も考えるな」

 

「えぇ、そんなぁ......」

 

 暗い場所が怖い、と言ってきたツユクサを適当にウツギが流す。そんなツユクサに......ウツギが「来なくていい」と言ったが結局ついてくることになった時雨が言う。

 

「大丈夫だよツユクサ。お化けなんて僕がやっつける」

 

「あ、手伝いましょうカ?」

 

魑魅魍魎(ちみもうりょう)(たぐ)いとは切断できるかね?......ンくふ......」

 

 ......こんな奴等に喧嘩でも売ったら、幽霊でもタダでは済まされなさそうだ。

 電器で前を照らして歩きながら、背後で「お化けなんぞ怖くない」と言っている時雨、春雨、若葉の三人に、ウツギがそんな感想を抱く。

 

 生存者探索を初めて十分ほどが経過した時。入念に来た道にあったドアや小部屋を調べて回っていたウツギの耳に、地上の電から通信が入る。

 

『中々深いところまで来たのですね......』

 

「ん、ここまで手がかりナシか。......電、こう暗いと少々面倒だ。何か電灯無しで明るくする方法は無いだろうか」

 

『少し待ってて下さい......あ...!有ったのです!!』

 

「何がだ」

 

『熱源反応なのです。近くに電源設備があるはずです』

 

 いいことを聞いたな。そう思ったウツギが、電の案内を聞きながら歩みを進める。ほどなくして一行は今まで見つけた部屋の中で一番大きな部屋に辿り着いた。ドアの横に掛けてあったぼろぼろの札には「電管室」と書いてある。

 

「電管室って書いてあるッス。なんか大きいッスねこの部屋」

 

「入るか......これは」

 

 一同がよく周囲を警戒しながら部屋に入る。ウツギの目に飛び込んだのは、部屋に入ってすぐの壁にこれ見よがしにあった「非常用電源」のスイッチだ。

 「何があっても大丈夫なように」と背負いっぱなしにし、火器を懸架(けんか)させたままにしていた艤装の、艦載カメラがしっかり作動している事を確認して、ウツギが無線機越しに電に喋る。

 

「見えてるか電。これを押しても?」

 

『問題は無いはずなのです。電力供給システムはまだ生きているのでちゃんと作動すると思うのです』

 

 返事を聞いたウツギは、レバーを下げて電源設備を起動させた。

 

 すると、ズウゥゥン......と何とも言い難い重い音が辺りに響き始める。

 

「ひっ、な、何の音ッスか!?」

 

「通電の音ですネ。電気が流れてる証拠でス」

 

 春雨がそう言ったのとほぼ同時に、部屋の天井に取り付けてあった薄汚れた蛍光灯に明かりが灯り始めた。どうやら正常に作動したようだ。

 

「おお、明るくなったッス」

 

「これで少しは楽に」

 

 

 

「うわああぁっ!?」

 

 

 

「ぴゃあっ!?なんスかいきなり!?」

 

 電気が点き、周囲が明るくなったとき、突然大声を挙げた時雨にツユクサが腰を抜かしそうになる。

 

「時雨、どうした?」

 

「あ、あ.........」

 

「ウツギ......あれ......見テ......」

 

「......?あっちに何があ......ッッ!!??」

 

 明らかに落ち着かない様子の時雨に変わり、アザミが指差す方向をウツギが見る。視線の先には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べったりと血糊が付着した赤黒い壁と、人間の足が三本落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

得体の知れない施設に侵入し、

以来主の部隊員を探すウツギたち。

この不気味な施設はいったい何なのか。

そしてここはどんな事が行われた場所なのか。

 

 次回「ケミカル・ラブ」 真実は、余りにも惨たらしい。

 

 

 




不穏な空気がアップを始めました。


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ケミカル・ラブ

お待たせしました。
あとR-15タグが息をし始める描写があります。注意!


「なんスかこれ......きっしょ......」

 

「............血と足だ。人間の」

 

「いや見りゃ解るッスけど......」

 

 古ぼけた蛍光灯の明かりがときどき点滅してチラつく、薄暗い電管室の壁で起こっている惨状を見て、ツユクサが吐き捨てる。

 ウツギは尚も嫌悪感たっぷりのコメントを呟くツユクサを無視して、床に転がっていた足を素手でつついてみる。

 

「............」

 

「えっ、ちょっ......素手で触って大丈夫なんスか?」

 

「硬いな......死後硬直でもない」

 

「は?」

 

 ウツギの発言に、ツユクサが意味が解らないとばかりに変な表情で声をあげる。

 

「言ってる意味がわかんねぇッス、どゆこと?」

 

「硬すぎるんだ、この死体が」

 

 肌が黄ばみ、何故か湿っている人間の足をつねったり押したりしながらウツギが続ける。

 

「研究所に居たときに人間の死体に触ったことがある」

 

「死後硬直なんてメじゃないぐらいこの足は硬くなってる。そして所々湿っているし、一滴も断面から血が出ていない......」

 

「何かの溶液に浸けられて保存されていたんだろう。状態からしてきっと調査隊の誰かさんの足じゃない事は確かだ。そこは安心だな」

 

「はぁ、なるほド......」

 

 ウツギが自分の考えを一通り述べ、春雨が感心したように呟く。時雨はさっきからずっと口を押さえて具合が悪そうな顔で、その隣では若葉が血塗りの壁をじっと見つめている。

 その若葉と一緒になって壁を見つめていたアザミが、首を傾げながら口を開く。

 

「......これ......変......おかしイ」

 

「んっクっくッ......奇遇だな。若葉もそう思ったところだ」

 

 吐きそうになっている時雨の背中をさすりながらツユクサが......自身も若干気分が悪くなりながらも二人に問いかける。

 

「何がッスか?」

 

「血糊が途切れているんだ。不自然にぷっつりと、ね......」

 

「......あっ...!」

 

 若葉の返答にツユクサがあまり見たくはなかったが、赤黒い壁を眺める。すると明らかに不自然な、赤い塗料の上から白いペンキでも塗ったかのように綺麗に血が途切れている部分を見つけた。

 

「何で......あっ、そうッスよ!誰かがここを拭いた」

 

「お前......馬鹿......冗談......?」

 

「えっ、違うの?」

 

「ん~......そうだな、じゃあこうしよう」

 

 「誰かが血を拭き取ったのでは?」と言ったツユクサにアザミが毒を吐く。そんな様子をみた若葉は

 

 助走をつけて壁を思い切り殴った。

 

 すると、

 

 

「え?」

 

「......なるほどな」

 

「予想通りあったねぇ......隠し通路ってのが......ウふふ......」

 

 若葉が殴り飛ばした壁が音をたてて崩れ落ちる。崩れた壁の中はがらんどうになっており、下り階段が続いていた。

 今の行動で自分の手の皮がすりむけたのを眺めてニヤついている若葉をちらりと一回見たあと、ウツギが発言する。

 

「......進もう。あまり気乗りしないが」

 

「この先に何が......うぅ......」

 

 時雨は喉元まで昇ってきた胃液を無理矢理押し込めながら、そう言ってウツギ達の後に続いて階段を降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分は?電」

 

『だ、大丈夫なので......うっぷ......』

 

「無理はしないほうがいい。いっそしっかり戻したほうが楽になる」

 

『お言葉に甘えるのです......おぇっ......』

 

 流石にあんなものを見たら仕方がないか。自分も直視するのは抵抗があるくらいだし......。

 まだ鎮守府に着任する前。研究員の手伝いで解剖医の真似事のようなことをやっていたので「死体」を見ることにあまり抵抗がないウツギが、普通ならあんな光景を観れば気分が悪くなって当然だ、と、無線機越しでも解るほどに狼狽している電の声を聞いてふと思う。

 

「にしてモ」

 

 ウツギの隣に居た春雨が言う。

 

「長すぎませんか、この階段......もう五分は経ちますヨ?」

 

「不気味ッスね......お~こわ......」

 

 身震いするツユクサを尻目に、確かにこれはいくらなんでも長すぎる、とウツギが思ったとき。目線の先に二枚の扉が見えた。

 

「いったそばからこれか。......錆びてるのか?重いな。アザミ、そっちを」

 

「......ッ、硬イ......」

 

 重い扉を、ウツギとアザミが体重をかけてゆっくりと押してこじ開ける。観音開きの扉が地面と擦れ、ギ、ギ、ギ、と耳障りな音をたてて開く。中には

 

「......なんだいこれ?」

 

「これどっかで......あ!!アレだ!!くっそマズイ缶詰ッス!!」

 

 埃っぽい部屋に入った時雨が、足元に大量に転がっていた缶詰の一つを手にとって眺める。それを隣から見ていたツユクサが大声で「前に見たことがある」と指摘した。

 

「中味はなんなんだい?赤いラベルが貼ってるだけで解らないや」

 

「すごく不味い謎の肉らしいぞ」

 

「ふ~ん。......僕、思ったんだけど」

 

 持っていた物を適当に缶詰の山に放り、時雨が口を開く。

 

「なんでこんな場所に食べ物が転がっているんだろう?さっきの足といい、ますますなんの施設なのか解らない」

 

「さあな。自分にもさっぱり。......電、見覚えあるな?」

 

『はいなのです。......嫌な思い出しかないのです』

 

「......悪い」

 

『気にしなくていいのです。あと、ここはもしかしたら缶詰の加工工場なのかもしれないのです』

 

「こんな変な場所に食肉加工場か」

 

『......聞かなかった事にしてください。ウツギさん』

 

「いえ、意外と間違いでもないかもしれませン。ほら、こレ......」

 

 ウツギが携帯を無線機に接続してスピーカーから電の声が聞こえるように設定すると、それを聞いた春雨が部屋にあった二枚のドアのうち一つを開けて、他の仲間に中を見るように誘導する。

 そこには、おぞましい量の段ボール箱が積まれており、中身はやはり例の缶詰が入っていた。

 

「ひゃー、何個あるんスかこんなマズイもんが?」

 

「すごい......量......」

 

 目の前に広がる光景にアザミとツユクサが目を丸くしながら呟く。

 まさか、本当に缶詰の工場なのか?なら調査隊に何が......。ウツギが倉庫と思われる部屋を後にし、もう一つの、少し大きな扉のドアノブに手をかけ、そのまま開けてみる。

 

 ここはどこに通じてる?

 

 次の部屋に入ったウツギの目に入ったのは

 

 

 缶詰が規則正しく運ばれている、三列のベルトコンベアだった

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「......電」

 

『......ウツギさん』

 

「本当にここは加工工場なんじゃ......」

 

『まさか、なのです......いやでも......』

 

 ヘッドセットの奥で電が何かをぶつぶつと呟いているがウツギの耳に入る。

 恐らく誰に聞いても「食品工場」と答えるような光景にウツギが面食らう。たがしかしここはただの工場ではない。何故ならウツギの考えが正しければ、島の入り口から降りて降りて進んだここはすでに海の底だからだ。こんな変な場所に工場なんておかしい。

 それに、だ。多分だがここは「あの天龍」が関わっていた場所ではないだろうか。だとすれば絶対にただの工場なんかであるはずがない。

 そう思いながらとりあえずは無人の缶詰の流れるレーンの周りを見ていたウツギに声をかけてくる艦娘が居る。時雨だった。

 

「なんか変な気分だ。ウツギさんは?」

 

「自分もだ。味方の救出とここの調査に来た目的を忘れそうになる」

 

 「これじゃあまるで工場見学だな」。そう言うウツギに、後を付いてきた若葉が投げ掛ける。

 

「ただただつまらんよ。若葉は。血があったからなにか物騒な出来事でも起こるかと心待ちにしていたんだがね......」

 

「面倒に巻き込まれるのはお前一人で充分だ」

 

「おおっと、気に障ったかナ......んフフ......いや、こいつを持ってきた意味がないな、と思ってねぇ......」

 

 ウツギに毒を吐かれた若葉が、それを気にせず涼しい顔で、腰に付けたナカヤマから受領した黒い軍刀をさする。

 

「......ん、あそこにまたドア......シャッターとかいうのがあるが?」

 

「......行ってみるか。どうせ進むしかない」

 

 若葉が指を指した方向に「関係者以外立ち入り禁止」とかかれたシャッターの降りた通路を目にし、ウツギがまだ部屋に来ていなかった春雨、アザミ、ツユクサを呼ぶ。

 そして全員集まったのを確認して、ウツギがシャッターを上げて六人は先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「............面倒な事になりそうだな。全く嫌になる」

 

 ウツギが、ベルトコンベアのレーンの隣でえずく時雨の背中を撫でる。隣ではツユクサが口を開けて、まさに「放心状態」と言っていいような表情で棒のように立っている。

 

 

 

 

 

 

シャッターの奥の部屋のベルトコンベアには

 

 

 

 

 

 

 

血の滴っている人間と深海棲艦のバラバラ死体が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

普通の人間であれば直視などできないだろう。

そんな凄まじい光景に出くわしたウツギたち。

人肉缶詰工場。

ここは一体......

 

 次回「加速する悪夢」 耳鳴りが消えない。

 

 




しばらく胸糞の予定です。お付き合いください。


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加速する悪夢

お待たせしました。


 ......全く。自分は趣味の悪そうな奴等と関わることが多いな。例の天龍に、田中に......味方で一応友人だが若葉もかな......。

 キコキコキコ、ガチャコン......と、音を立てる「肉」が流れているレーンを背後に、過呼吸気味で、顔を白くしてえずいている時雨を介抱しながら、ウツギが考え事をする。

 

「......聴いてるか。電」

 

『......ぅ............ぅぅ.........』

 

「やっぱり、ね」

 

 自分の艤装のカメラの電源を一旦落として、ウツギが電と連絡を取ろうとしたが、無線の機械は具合の悪そうな唸り声を拾うばかりだ。無線の奥の声の主とはまともな会話が望めそうな状況ではなさそうだった。

 鉄の臭いが充満する部屋に見つけた、恐らく先に進む通路へと続く扉に手をかけ、ドアの先にあった廊下のような空間に時雨とツユクサを置いて。ウツギはこの光景を観ても平気だった三人と、嫌々ながら部屋を調べる。

 

「気は進まないが......何か無いか観て回ろう」

 

「気が進まない?どうしてかな?」

 

「......自分はお前と違ってデリケートなんだ」

 

「嘘だな......デリケートならこの景色を見た瞬間地面を吐瀉物(としゃぶつ) で濡らすと思うが?......んふふ......♪」

 

 揚げ足とりのような若葉の言葉を無視して、ウツギは他に扉などが無いか部屋を調べる。

 「いや......にしても絶景だねこれは......なかなか観れない貴重な空間」。とのたまう若葉に、確かにもう二度と「絶」対にみたくない「景」色だ。などという感想をウツギが思ったとき。春雨が声をかけてきた。

 

「ウツギさん、これハ?」

 

「なんだ?......地図?」

 

 春雨から手渡された一枚の黄ばんだ大きな紙切れをウツギが広げてみる。

 

「...ここの構造図......。貰っておこう、役に立ちそうだしな」

 

「収穫は有りましたネ。......早く出ましょウ」

 

「だな」

 

「ちょっと待てよ」

 

 流石に気分が悪くなってきたウツギが春雨とアザミを連れて部屋を出ようとすると、ずっとベルトコンベアを凝視していた若葉が呼び止める。

 何の用事だ、早くしろ。そう言いたいのを我慢して不機嫌そうなしかめっ面で、ウツギが若葉を見る。

 

「何だ。その光景が観たいなら一人で勝手に......」

 

「違う、そうじゃない。この流れ......ちと気になることがある」

 

 若葉の言葉に、ウツギは観たくもない血まみれの三列レーンに視線を向ける。

 ......当分肉類は体が受け付けなくなりそうだ。場違いな変な考えを浮かべた時、若葉が口を開いた。

 

「さっきからこいつを眺めていて思ったんだ......」

 

「「頭」だけ一向に流れてこないんだよ。何故だ?」

 

「知るか。さっさと出るぞ」

 

「ンフフフ......つれないねぇ......まぁいいや。そろそろ飽きてきたところだ」

 

 ............。見習いたくはないが。こういう時ばかりはこいつのような精神力が欲しくなる。時雨とツユクサを待たせている、出るか。

 胃液が昇ってきた喉をとんとん叩きながら、ウツギはそそくさと部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

『電さんが体調不良を訴えたため、私、本城が代わりを勤めさせて頂きます』

 

「了解。......味方の反応はまだ探知できませんか」

 

『はい、残念ながら......そのまま前進してください』

 

 勘弁してくれ。もうここに潜って三十分近いぞ。そんな愚痴をぐっと飲み込み、ウツギが重たい空気のなか、相変わらず蒼い顔をしている時雨を励ましながら、生存者を探す。

 

「......気分は?大丈夫か時雨」

 

「うん」

 

「そうか。無理はしないでくれよ。この先も何があるか......」

 

 いつもの、若葉とはまた違った余裕そうなはにかみ笑顔はどこに行ったのか。顔面蒼白の、頬がこけたようにも見えるやつれた無表情で、機械的に質問に応答する時雨を、ウツギが心配そうに見つめる。

 気持ちを切り替えよう、と、長い渡り廊下の途中にあった何枚かの扉を六人で手分けして開けて中を確認しているとき。ウツギはふと視界の(すみ)に、春雨が変な表情で固まっているのが見えた。

 

「......どうした春さ......手術室だと......?」

 

 春雨の隣に立ったウツギが部屋の扉の札を見て呟く。

 

 まさか。

 

 春雨が部屋に入るのに続く形でウツギも「手術室」に入る。

 

 彼女の予想は当たった。

 

 

「ここは......」

 

「......何か見覚えがあると思ったんでス」

 

 

 

「深海棲艦化実験の施術(せじゅつ)のための施設だったんですネ。ここハ」

 

 

 

 青い液体と赤い液体で白いシーツが染められたベッドと、駆逐艦級と思われる深海棲艦が入っている、黄色い液体が充満した水槽を見て、春雨が物憂(ものう)げな表情で呟く。

 床も壁も血塗れだというのにも関わらず、アルコール消毒液のような匂いが漂う部屋で、ウツギが春雨に問いかける。

 

「見覚えがある。と言ったな。上から入ってきたときにはそう思わなかったのか?」

 

「この手術台と水槽、あの長い廊下だけ覚えているんでス。......施術を受けたときは意識が朦朧(もうろう)としてて......はイ」

 

 春雨の返答を聞いたウツギが、少し間を置いて続ける。

 

「春雨。すこし思い付いたことがあるんだ」

 

「......?なんでしょウ?」

 

「明石さんから前に聞いたんだ。手術には「段階」が三つあると。具体的には、「深海棲艦の細胞が適合せずにそのまま死亡する者」、「適合しても艤装が使えなくなる者」、そして「成功して凄まじい戦闘力を得る者」。」

 

「............」

 

「そしてこの施設は......多分だが例の天龍が管理してたんだろう。場所からして、な。そしてあいつは金や利益にガメつい奴だと言うのは知ってる」

 

「で。そこから発展して奴は「無駄が嫌い」という性格でもあったんじゃないかと思ったんだ」

 

「あの......話が見えて来ないんですガ......」

 

「......そろそろ締めるか。つまりだよ、自分が言いたいのは――」

 

 

 

「ここはただの施術施設なんかじゃない、手術で死んだ奴の死体を「もっとも効率よく処分して再利用する施設」じゃないのか?」

 

「あ......」

 

 

 

「考えたくないが。こんなフザけた話は。......いくらなんでも趣味が悪すぎる」

 

「多分成功した奴は例の軍病院に、薬でも打って眠らせて送りつけていたんだろう。そして、残った「失敗作」は死体処理も兼ねて缶詰に加工する......」

 

「艦娘への食費も浮くし、気に入らない奴も殺せる。それに砲撃戦で死ぬ艦娘が遺体も残らず吹っ飛ぶことだって珍しいことじゃない。こんな施設を管理するほどの権力があるなら書類の偽造なんて簡単なんだろう」

 

「そして背後には例の「田中 恵」。大規模な鎮守府のアドバイザーなんて職をやってて、それに一企業とのコネだって持っていた女だ。きっと権力もそれなりにあったはずだ」

 

 一通り話し終えたウツギに、春雨が瞳から紫色の鈍い光を放ちながら視線を飛ばす。

 怒っているのか......。でも自分達にはどうしようもない。そうドライに物事を捉えるウツギが、春雨の手を握って口を開く。

 

「......余計な事だったかも知れない、すまない。仕事に戻ろう、今も助けを求めている奴等がいるかもしれない」

 

 その言葉に、春雨は静かに頷いて部屋を出る。

 

 田中。一体お前はこんな事をして何がやりたい?ウツギも密かに会ったこともない女への怒りを感じながら、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ここで最後だな」

 

『味方の反応はありません......全滅、でしょうか』

 

「まだ解りません。ここを探してから結論を出しましょう」

 

『そうですね。失礼しました』

 

 地下実験施設に侵入してからもう一時間。時折若葉が飛ばす気が狂っているとしか思えない軽口が心地よく感じるほどの重たい空気を引っ提げ、シエラ隊がウツギが持っていた地図に記された行き止まりに辿り着く。

 既に若葉以外の五人は、この施設を作った人間の狂気としか思えない数々の光景に神経を()り減らし、妙な息苦しさを感じていた時。ツユクサが表面上平静を装って口を開く。

 

「にしてもなんなんスかねこのでっかいプール。まさか深海棲艦の()()?」

 

「冗談に聞こえないや......ははは......」

 

「あ!ご、ごめん......」

 

 疲れた笑顔で力なく笑う時雨にツユクサが自分の失言を謝る。

 この最後の部屋はスポーツの屋内競技場のように異常に広い、そしてほぼ部屋の全てがプールで占められていると言う妙な構造をしていた。

 にしてもツユクサの軽口は本当に洒落(しゃれ)にならない......こんなに色々揃ったトラップハウスならそれぐらい完備していそうだ......。マイナス思考気味になっていたウツギが水が張ってあるプールの上を滑る。

 黄緑色の水に潜水して中を探索していた春雨が、浮上してきて五人に告げる。

 

「何もありませんでしタ」

 

「死体すら無いのか?」

 

「はい、何もない......水の色は変ですがただのプールですネ」

 

 調査隊は一体何処へ?それに、依頼のメールにあった「生物のような、機械のようでもある」敵は見当たらないが......。

 ウツギが不審に思ったとき、本城から連絡が入る。

 

『ただ今をもって、調査隊は全滅と判断されました。お疲れ様でした、帰投してください』

 

「......了解。戻るか」

 

 「後味が悪いッスね」、「またあそこを通るのか......」。ぶちぶちと愚痴を垂れるツユクサや時雨に、流石に今日ばかりは同情しながら地上へ戻るために、ウツギが身を翻す。

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、凄まじい轟音が背後から響いてきた。

 

 

 

「また会った!!待ったかいがあったものよ!!」

 

「ッ!?、冗談じゃない!!」

 

 また面倒が沸いて出てきやがった。ウツギの機嫌の悪さとストレスが最高潮に達する。

 

 何故なら、天井をぶち破りながら出てきたのは、あの装甲空母姫と、それが率いる四体の深海棲艦だったのだから。

 

「さぁ、艦娘どもよ」

 

 

 

 

 

 

「三度目は無いと思え!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

さあてみなさんお立ち寄り。

ここは狂気の実験施設。血が跳び、悲鳴が上がり、狂気が蔓延する。

そんな地獄の一角で、

砲撃の嵐が巻き起こる。

 

 次回「瀕死の騎士」 なぜ、どうして......?

 

 




説明回は書いていて楽しかったり。


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瀕死の騎士

江風「仕事が終わんねェ......」
山城「不幸だわ......」
山風「時雨姉......ハードワークすぎ......」


 

 

 

「何が目的だ?」

 

「知れたこと。お前たちの首を獲るためよ!!」

 

 穴の空いた天井の真下に横一列に並び、列の真ん中に居た装甲空母姫が余裕そうな笑みを浮かべながら、ウツギ達へ持った剣の切っ先を向けて得意気にそう言う。

 

 話が終わるまではこちらへ突っ込んでくることは無さそうだ。と、彼女のクセを知っているウツギが、べらべらと言葉を垂れ流す女を前に新品のミドルレンジライフル(スナイパーライフルのバレルを取り外し、接近戦に対応できるように予め用意していた)を背中から取り出し、腰から何時も使っていたナイフに代わって受領した手斧を持ちながら発言する。

 

「見逃す気は?」

 

「あるわけがないだろう!!フザけているのか!?」

 

「......やるしかない、か。時雨、ツユクサ、いけるか?」

 

「んッふふフふ......バッチリさ......」

 

「お前には聞いていない」

 

「やるっきゃない、でしょ?ウツギさん、サザンカさん」

 

「ッス。覚悟は出来たッス」

 

 大丈夫、と言ってうなずく二人がそれぞれ砲を持って戦闘態勢をとる。装甲空母姫もどうやらそろそろ痺れを切らしたようで、こう言ってきた。

 

「切り刻まれて魚のエサになる覚悟はできたかな?艦娘どもよ」

 

「行くぞお前たちっ!!」

 

「「「「御意!!!!」」」」

 

「ッ......来るぞ」

 

 

 

 

「はいは~い♪ちょ~っと待ちなさいなぁ」

 

 

 

 

 今、まさに戦闘開始という時。気の抜けた女の声が、プール部屋に響き渡った。その声に装甲空母姫たちは動きを止め、ウツギは目線を動かして声の発信源を探す。

 すぐにウツギは声の主を見つけた。そいつは敵が降りてきた穴の近くの壁にあった、何に使うのかよく解らないハシゴの上に立っていた。

 

「血の気が多すぎよ~装甲ちゃん。楽しみがなくなっちゃう」

 

「せ、戦艦棲姫様!?なぜここに......?」

 

「いやぁね。ちょっと手伝ってあげようかと思って」

 

 白衣に銀縁メガネといった容姿の長身の女は、そう言った後に軽く20mほどはあるハシゴから飛び降りて、黄緑色の水面に着地(着水?)すると装甲空母姫の隣まで歩く。

 

「誰だあいつは」

 

「ん?あぁ初めまして~シエラ隊の子達、だったかしら?」

 

 白衣の女が、呟くようなウツギの声に敏感に反応して応対する。

 聴覚が優れている......それになんでこの女、自分達のことを? ウツギが思ったとき、女は自己紹介をする。

 

「私、こう見えても結構有名人なんだけどね」

 

「知らないな。自分はアンタみたいな人は」

 

「あら、ウツギちゃんだったっけ?あなたのことも知ってるわ。リサイクル艦娘の一番艦、期待されていなかった廃品利用なのに華々しい戦果を挙げてるそうね?」

 

「............」

 

「あらいけない。悪い癖が出ちゃった。じゃあ、改めまして」

 

 

 

 

「私、田中(たなか) (けい)って言うの」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「何だと............!?」

 

 とんでもない悪の親分がお出ましじゃないか......。ウツギが顔を歪ませながら愚痴を言う。

 ウツギの他にもどこか間抜けな驚いた顔をしている春雨、時雨、ツユクサのことは気にせず、田中が隣に居た装甲空母姫と会話をする。

 

「さて、じゃあ早速お仕事といきましょうか」

 

「戦艦棲姫様......手助けなど要りません、この者共は私自らが引導を......」

 

 装甲空母姫の言葉に、田中がとぼけたような顔をして首を傾げながら口を開く。

 

「ん?んん~それはどういう?」

 

「いえ、ですから貴方の手を(わずらわ)わせる必要は無いと」

 

 「あっ、そうなの?」、そう言う田中に背を向けて、改めて装甲空母姫がウツギ達へと向き直る。

 

 

 その時、バチン! と放電現象のような音が辺りに響いた。

 

 

「......え?」

 

 

 謎の音がしたと同時に、自分の右肩から先に激しい痛みを覚えた装甲空母姫が、自分の腕が無くなっていることに気づく。

 

「がっ......!?」

 

「姫様!?」

 

「うふふ♪、いやさ、誰があなたのお手伝いなんてやってあげるって言ったかな?」

 

「な、何を......どうして......?」

 

「いや、だって初めから消すつもりだったんだよね。だからさ」

 

 

「大人しく死んで、ね?」

 

 

 

 

 

 

 なんだ、仲間割れ?......なんにせよ逃げるのは今がいいか。

 様子がおかしい相手から視線を離さないようにしながら、ウツギが部隊員を連れて部屋から出ようとする。

 

「あ、逃げちゃう系?どーぞどーぞご自由に~♪」

 

「......なんなんだ......あいつ」

 

 言い様のない不快感を感じながら、ウツギがもと来た道を戻る。が、何故か若葉が身を翻して装甲空母姫達の場所へと駆けていく。

 慌ててウツギが怒鳴る。

 

「若葉!!何をして......」

 

「ストレス発散ぐらいさせろ。まぁ安心しろ......すぐ戻るよ......それにこわーい敵さんが追っ掛けてこないように足止めするのさ」

 

「っ、勝手にしろ......死ぬんじゃないぞ!!」

 

「誰が死ぬものかよ。......ウフフふ.........」

 

 若葉の言葉を聞いて尚走り続ける他の艦娘に、時雨が聞く。なぜ連れ戻さないか、だ。

 

「ウツギさん、サザンカさんをとめなきゃ......」

 

「大丈夫......」

 

 ウツギに向けられての発言だったが、アザミが返答する。

 

「......っそんな無責任な」

 

「事実......それニ」

 

 

「あいつ......殺す......死ななイ......。だから、心配......なイ......」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ......どうして......?」

 

「なぜぇ~どぉしてぇ~、それは簡単な話。」

 

 困惑し、瞳が震え、酷く動揺する装甲空母姫を相手に、彼女の言葉をフザけながら真似して戦艦棲姫が返答する。

 

「あなた使えないんですもの。そんなのさっさと消し炭にしたほうがいいし」

 

「ッ、言わせておけばァ!!!!」

 

 自分の(あるじ)に危害を加えた女めがけ、その言動にも頭に来たネ級が手持ちの剣を突き刺そうと突進する。

 

「あら、元気あるのね~。若いっていいわ♪」

 

「何!?」

 

 ネ級の突き出した剣は、ガリガリと音と火花を散らしながら女の白衣を切り裂く。が、どう見ても致命傷は与られていなさそうだった。

 そして何故か首の薄皮一枚ほどしか斬っていない剣が、女の首から外れないことにネ級が戸惑う。

 

「っ......!?ぬ、抜けん......?」

 

「駄目じゃないの。こんなことやったら謝らないと」

 

 

「謝罪も出来ない悪い子にはオシオキだね?」

 

 

 ニイッと口角を上げて笑う戦艦棲姫に、ネ級の首筋に悪寒が(はし)る。その、女の妙な言葉と表情で、直感的に何かを察したル級が叫ぶ。

 

「ネ級!!すぐに離れるんだ!!」

 

「で、でも剣が!!」

 

「早くしろォ!!」

 

「ごめん、」

 

 

 

「タイムオーバーだわ」

 

 

 

 戦艦棲姫が指を鳴らしてそう言う。すると彼女の背後で大きな水柱が上がった。

 

 

 

「ばいばい。ネ級♪」

 

 戦艦棲姫の顔が、よりいっそう狂気を(はら)んだ笑顔になっていく。

 

「な」

 

 ネ級は、背後から現れた、

 

謎の巨大な、体の各部に砲台が取り付けられた化け物に「食われた」。

 

 

 

「なんだ......あの化け物は......!」

 

 自分の友人を食らった、戦艦棲姫の「生物のような、機械のようでもある」艤装を見て、ル級他三人が戦慄する。

 ......何を自分は怖がっている。姫を......なんとしても姫様を守るんだ。それが自分の使命だ。ル級が震える手で、鞘から西洋刀を引き抜き、得意の正眼の構えをとる。

 

 その、ル級が一種の覚悟を決めたとき。装甲空母姫達の背後から近づく影がある。

 

 

 

 

「ほォ~~、これはこれは。んっ......」

 

「ふふふふははははは!!殺しがいが有りそうなのが出てきたねぇ!!」

 

 

 

 

 突然背後から響いてきた狂ったような乾いた笑い声に、装甲空母姫、ル級、タ級、レ級の目線が走る。

 

 

 

「この若葉が助けてやろう。雑魚ども」

 

 

「そして久しぶりだ。戦艦。」

 

 

 

始めようか。楽しい楽しい鮮血飛び交う祭りの時間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

殿(しんがり)を勤めると言いながら、何故か装甲空母姫の味方をする若葉。

その行動に込められた彼女の真意とは。

命をかけて主君を守り抜こうとする親衛隊。彼女らの未来は。

 

 次回「赤く染まる視界」 いつも夢の中で、痛みから逃げている。 

 




若葉&装甲空母姫隊vs戦艦棲姫


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赤く染まる視界

なんだかちょっとハチャメチャな話になりました(いつもの事だけど


 

 

 

「何をしに現れた」

 

「ん?聞こえなかったのか......」

 

「お前たち......装甲空母姫とかいう奴等の側に若葉が付く、と言ったんだ......」

 

 艦娘であるにも関わらず、敵対陣営の自分達に味方をすると言っている若葉に、ル級が不信感を露にする。そもそもなぜこちらに付くのかすら解らないと思ったル級が若葉に聞く。

 

「解らない......どうして深海棲艦の味方をする」

 

「そこのデカブツ」

 

 若葉が眼前に鎮座する巨大な怪物と戦艦棲姫を指差し、口を開く。

 

「と、そこの女に用が有るんだよ......」

 

「忘れたとは言わせませんよ......戦艦棲姫・サ・マ?うフフ......♪」

 

 まるで戦艦棲姫に会ったことがあるような物言いをする若葉に、ル級が「何を言っているんだこいつは?」と怪しい顔をする。

 すると、刀と砲を交互に持って戦闘の準備をする若葉へ、戦艦棲姫が友人と談笑するように親しげに切り出す。

 

「ん~、ごめ~ん。覚えてないんだけど」

 

「......言うと思ってたさ。貴女ならば。「Rの三号」と言ったらどうかな?」

 

「あ!わかったわかった!!貴女レ級ちゃん!!え~と......確か今は「サザンカ」だっけ?」

 

「何だと......?」

 

 若葉の事を「レ級」とよぶ戦艦棲姫に、会話の意味が理解できなかった装甲空母姫たちが変な顔をする。

 

「ご名答......若葉はレ級を使って作られた廃品利用がその一人......」

 

「俺はよく覚えているよ......建造されて喋ることもままならない俺を前線にすっ飛ばしたことをね......」

 

「しかし。......まぁどうでもいいんだそんなことは......若葉は暴れられればそれでいい♪」

 

 一般的に見れば「可愛らしい」と評価されるような笑顔で、思い切り刀を振りかぶって若葉が怪物に斬りかかる。

 怪物は微動だにせずそのままされるがままに若葉の攻撃を受ける。もっとも異常に固い表皮に阻まれて、刀は弾かれるのだが。

 

「固いねぇ......刃零れしてしまうなぁ......」

 

「だぁめだぁめ。そんなんじゃ効かないったら」

 

 何度も刀を自分の艤装に叩きつけられるものの、全く傷ひとつつかないことに余裕綽々といった態度をとる戦棲姫に、傍観していたル級とタ級が斬りかかる。

 

「隙だらけだ!!」

 

「あ、ゴメン。構ってちゃんだったの君たち?」

 

 ル級が投げてきた独狐を軽く素手で弾き飛ばす戦艦棲姫へ

 

「そこだぁっ!!」

 

「ん?」

 

 背後からタ級が飛び上がりながら女の脳天に剣を突き刺そうとする。

 ずぐり。と骨ごと肉を突く独特の感触がタ級の手に伝わってくる。

 やった!!倒した!!

 

「痛いじゃないの」

 

「は?」

 

 なんで......頭を割って脳を突き刺したのに......?。動揺するタ級のそんな思考は、途中で中断されることになった。

 

 何故なら彼女もまたネ級と同じ末路をたどったからだ。

 

 ごきり、がりがり、ぐちゅり、等と言う耳を塞ぎたくなる嫌な音が響く。タ級はネ級と違い、上半身を怪物に念入りに咀嚼されて即死した。

 

「タ級!!」

 

 目の前で次々と部下が殺されていくのに黙っていられなかった装甲空母姫が、残った左腕に持った剣を頼りに、戦艦棲姫へといきり立って襲いかかる。

 

「このぉぉぉぉ!!」

 

「姫様、そのお怪我では!」

 

 レ級の制止を降りきって、装甲空母姫は戦艦棲姫の元へと跳んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「若葉を無視して......ナメたマネしてくれるな......くふふ......」

 

 散発的に砲撃と魚雷による攻撃を織り混ぜながら艤装......怪物に斬りかかっていた若葉は、自分を無視してタ級を食べに行った目の前の獲物の行動に、腹が立っていた。

 

「ん~......刀は駄目か。なら次はこれにしようか......」

 

 若葉は素早く刀を鞘に収めると、そのまま相手に向かって突っ込みながら腰から手斧を取り出して、怪物の肩のような部分に降り下ろす。

 

「......!!」

 

 両手で目一杯の力を込めて降り下ろした斧は、火花を散らしながら怪物の肩に当たる。もっとも若葉は斧から発された「ぴしり」という嫌な音を自分の耳が拾ったことに眉を潜め、不機嫌そうな表情になる。

 

「つかえんなぁ......いや、これが固すぎなのかな?」

 

 飛び退りながら、へらへらしながら若葉は一度使っただけで呆気なくヒビが入った斧を酷評しながら、適当に放り投げる。

 

「無駄無駄。何やっても無理だって」

 

「それはそれは......ますますどうやれば壊れるか試してみたくなるねぇ......」

 

 ル級、レ級、装甲空母姫の猛攻を涼しい顔でいなしながら横やりを入れてくる戦艦棲姫に、若葉がそう返事をする。

 

「無駄だってのにしつこいな......そう思わない?」

 

「何をォォ!!」

 

「あぁ~もう聞いちゃいないねこれはァ~」

 

 血眼になりながら片腕の剣をぶんぶん振り回して突っかかってくる装甲空母姫を、めんどくさそうに白衣の女は異常に頑丈な自分の両手で弾いていなす。

 

「ラチがあかないな~あ、こうしようか」

 

 何かを思い付いた戦艦棲姫が、傍らの艤装によじ登り、怪物の頭に当たるような部位に座る。

 

「艤装に乗った......?一体何を」

 

 

「しゃアぁぁぁッッ!!」

 

 意味がある行動なのかを吟味するル級の発言を遮って、若葉が奇声を発しながら艤装の上の標的に刀の切っ先を向けてすっ飛んでいく。

 馬鹿は高いところが好きと言うのは本当だったのか。わざわざ狙いやすい場所に来るとは阿呆だ。

 若葉が濁った笑顔で刀を振り上げて跳躍する。

 

「死ー」

 

「はいアウト♪」

 

 

 ......?何が起きた......?

 全身にかかる重力が倍になったような感覚と、一瞬で自分の視界が切り替わったことに、若葉が珍しく動揺する。

 

「避けろ艦娘!!」

 

 ......何を?

 と思ったが、若葉が咄嗟に背負った艤装から盾を取り出して構えると、そのまま盾が吹き飛び、背後で大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 速すぎる。なんだあの動きは。

 ル級の感想はその一言に尽きた。

 若葉が斬りかかった時、戦艦棲姫の乗った艤装は、その鈍重そうな外見から想像できないほどの速度で若葉の後ろに回り込む。そしてその大木のような腕で彼女を投げ飛ばし、すかさず砲撃を叩き込んで、自分達から距離を離した。

 

「いや、今のは少し良かった......また経験したことのない体験をさせて貰った......ふふふ......♪」

 

 死にかけたのに笑っているのか......狂人が......。ル級にそんなように思われているとは勿論知らずに、若葉が続ける。

 

「お前が初めてだよ......若葉に盾を使わせたのは......」

 

「はいもういっちょ」

 

 喋っている途中に行われた砲撃を難なく交わして、若葉がル級達の隣に来る。

 

「ダメじゃないか......人の話をさえぎっちゃぁ......」

 

「いやもう面倒臭くて。速く終わらせたいからさぁ」

 

「んーむ、そうか......それは失礼......うふふ......」

 

 と、余裕を演じてみたが。どうする。あのガチガチな装甲を抜くのはちと骨が折れる......。会話をしながら、内心焦る若葉が考えるその時だった。隣に居た装甲空母姫がよろけてその場にしゃがむ。

 

「っ......ぅぅ......!?」

 

「姫!!どうなされました!?」

 

「失血の量か......」

 

 女の、無くなった肩から滴り落ちる血を見て、若葉がそう発言する。そして若葉が視線を戦艦棲姫へと戻すと、

 

 若葉には  射角では解らない筈なのに、何故かはっきりと装甲空母姫を戦艦棲姫が狙っているのが見えた。

 

 一発砲撃の音が響く。

 

「避け」

 

 おい、避けろ。と言ったところで動けるような状態ではなかった装甲空母姫を体当たりで弾き飛ばした

 

 

レ級の腹に、特大の串のような砲弾が突き刺さる。

 

 

 

「がっ......あ゙っ......あぁァ゙ァ゙.........!!」

 

「れ、レ級......!どうして......どうして私を庇った!!」

 

「ちっ」

 

 また兵隊が減った。もうこれじゃああいつには勝てん。装甲空母姫とレ級のやり取りを聞きながら、若葉が思考に更ける。すると、一瞬レ級を見てすぐに視線を戻したル級が声をかけてくる。

 

「艦娘」

 

「なんだ」

 

「......頼まれてくれないか」

 

「モノによるな」

 

「姫を連れて逃げてくれ」

 

「......そんなお人好しに見えるのかな?」

 

「見える」

 

「.........」

 

 若葉が、嗚咽を漏らして泣きながら物言わぬ死体を抱いている装甲空母姫を、彼女が抱いていたレ級ごと脇に担ぐ。

 

「きっ、貴様何を」

 

「黙れ」

 

 機関の出力を最大にして、若葉はウツギ達が出ていった通路へと、プールを駆けていく。

 

「あら、逃がすと」

 

「ヨソ見は許さん。私が相手になってやる......!」

 

「......本当に相手になんてなるのかな?」

 

「やってみなければ解らないだろう」

 

 背中を向ける若葉に砲撃を行おうとした戦艦棲姫に、ル級が捨て身の覚悟で斬りかかる。

 

「離せッ......離せと言っているんだ艦娘!!ル級が!!」

 

「くっ......ンふふふ......あいつの覚悟を無駄にしたくないなら......大人しくするんだな......」

 

 無事に出口にたどり着いた若葉が、駆け足で通路を行く。そして、ふと後ろを向く。

 

 

戦艦棲姫が操作したのか、閉まっていくシャッターの、奥の景色ではル級と戦艦棲姫が対峙している。

 

若葉は、ル級がこっちを向いて、口を動かしているのが見えた。

 

また、どういうわけか、距離が離れすぎて聞こえるはずのないル級の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後は頼んだぞ。サザンカ、とか言う奴。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

無事に全員脱出した第五鎮守府所属、シエラ隊。

しかし、地下施設にて遭遇した田中 恵......戦艦棲姫を示す熱源反応が、

若葉の脱出と同時に消滅してしまう。

そして事態は意外な進展を遂げる。

 

 次回「冷える心」 絶対に、カタキは討つんだ。そう誓う。




久々の連日投稿ですた。


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冷える心

五章中盤戦突入だぜぃ。


 

 

 

 

 

「にしても、面倒な事を持ち込んできたもんだ......」

 

「迷惑をかけるな......ふふ......」

 

 「まったくだ」、と。自分達から十分ほど遅れて施設から装甲空母姫と死亡したレ級を抱えて出てきた若葉に、ウツギが言う。

 この付属品、どう言い訳したものか。地下施設の出入り口のすぐ近くにいる自分達から離れた場所で、調査隊全滅の報を聞き泣き崩れている男とその男の部下と思われる艦娘たちを見ながらウツギが考える。

 

「被験者、と言うことにしませんカ。この人。それならどうにかなるかもしれませン」

 

「いや、無理だろう。自分のカメラはこいつが出てきた時に作動していた。押し通すにせよそんな行使できる権力も自分達は......」

 

「言い訳の一つ用意できない、か......頼りないねぇ......君たちは......」

 

 弁論は難しいと言う仲間へ毒を吐いて酷評する若葉に、ウツギが質問をする。

 

「そう言うということは、何かアテがあるのか?」

 

「簡単な話だろう......こいつの捕虜としての有用性を証明すればいい。それだけで馬鹿で愚かな人間どもは食いつくさ......」

 

「いくらサザンカさんでもそれは......」

 

「...............いや、改めて考えてみたが案外どうにかなるかもしれない」

 

「ウツギさんまで......いくらなんでも言い訳なんて無理があるんじゃ?」

 

 「何の話か全然わかんねッス」と能天気に、近くに置いてあったドラム缶に座って携帯食料を口にしているツユクサを無視して、ウツギがふと頭に浮かんだ考えを時雨に伝える。

 

「こいつに尋問でもして戦艦棲姫......田中の事が聞ければそれだけで活路が見えてくる。.........ただでさえあいつに関する情報が少ないんだ、引き出せる情報があるならそれは計り知れない価値がある」

 

「......言うほど大切な情報を、そんな簡単に手放すのかな。僕はそう思えないや......あのお姫様は口が固そうだ」

 

「万が一、だ」

 

 時雨の、ウツギの言葉に対する見解を遮って、ウツギが尋問が駄目ならば、と続けて持論を述べてみる。

 

「例え有用な事が引き出せなくても、だよ。見方を変えてみればこう考えることも出来る。「若葉は姫級深海棲艦を鹵獲してきた」とも、な。」

 

「......?やっぱり意味わかんねぇッス」

 

「あっ......そうか、そうだよね。姫級を生け捕りなん...て.........もしかしてこれって快挙なんじゃ......!?」

 

「勝手に話を進めて......誰が従うなんて言ったんだ。艦娘」

 

 仰向けにコンクリート製の地面に転がっていた装甲空母姫が、固まって自分の処遇について話していたシエラ隊に体の向きを変えずに言葉をかける。部隊員の視線が一斉に彼女に向かったのは言うまでもない。

 

「怪我の具合はどうなんだ。装甲空母姫」

 

「頭がぼうっとしている......血が足りん」

 

「そうだろうな。前の若葉並に酷い怪我だった」

 

 応急処置と止血はとりあえずやっておいたものの、消耗が激しいのか小さな声で話す女に、ウツギがしゃがみこみながら声をかける。

 

「レ級は......どうなった」

 

「死んだよ。ここに運ばれた時はもう駄目だった。重要器官を、あの妙な槍みたいな砲弾に潰されて即死だ。......やけに幸せそうな死に顔だったがな」

 

「......そうか」

 

 顔すら動かさないことから、かなり衰弱していると予想がつく状態に陥っている装甲空母姫の質問にウツギが答える。

 すると、音をたてず、声も出さずに女が泣き始めた。

 

「.........もう、疲れた」

 

「......?どうしたんだいきなり?」

 

 以前「敵討ち」と称して襲いかかってきた時とは程遠い、どこか遠くを見ているような、それでいて何もかも全てを諦めてぐったりとしたような表情で、泣き終わった後にそう言う装甲空母姫に、ウツギが問い掛ける。

 

「疲れたと言ったんだ......煮るなり焼くなり解剖するなり好きにしてくれ。行くところもない身だ、死んだところで何も無い。......もう疲れた......うんざりするほど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「お咎め無し、ですか」

 

「ええ、本部は施設内調査と生存者の探索、及び重要参考人の確保をご苦労、と」

 

 夕方、地下施設のある島の廃墟を利用して作られた作戦本部に呼ばれたウツギが、本城から作戦の事後報告を受けて、少し驚いていた。

 重要参考人、ね。本部は余程田中の事について知りたいと見える。......しかしアレが素直に協力するとは思えないが......。

 ウツギが、あの後すぐにやって来た特殊部隊のような格好の男たちに担架で運ばれていった装甲空母姫のことを思い出す。

 

「......では、私たちは第五に戻って良いのでしょうか」

 

「それが......例の食肉加工プラント等の調査と、消えた戦艦棲姫の熱源反応の追跡に立ち会って欲しい、と本部から入電がありまして......」

 

「............」

 

 本城が持っていたプリントから視線をウツギに移すと、彼女は眉間にシワを寄せながら目をギラギラと紫色に光らせていた。

 

「っ!?も、申し訳ありません......」

 

「......!!え、いえ、失礼しました」

 

 しまった。久しぶりに考えていた事が顔に出たか......。

 「あんな光景をまた見るなんて嫌でたまらん。」と思って、顔を嫌悪感と怒りが混じった感情で歪めていたウツギが、慌てて本城に謝罪する。

 変な空気になったその場を濁すため、ウツギが本城が持っていたコピー紙を手にとって話し始める。

 

「立ち会って欲しい、と言うことはどこかの部隊の付き添いでしょうか」

 

「はい、......しかしその部隊員の内訳なのですが......」

 

「......?何か問題が?」

 

 

「神風さんと高雄さんが居るんです」

 

 

 ............。田中、戦艦棲姫を直々に殺しに来た、と言うことか。恐らく二人で上に直談判でもやって無理矢理編制に入ったんだろうな。

 剣豪二人の名前を聞いて、ウツギが勝手な憶測を頭に浮かべたとき。突然鎮守府内に、警報が響き渡る。

 

『緊急警報、緊急警報、鎮守府に大型の熱源反応が接近中!!繰り返す、鎮守府に大型の熱源反応が接近中!!』

 

 

「すぐに出ます。貴方は避難を」

 

「え?ウツギさ......」

 

 気の休まる暇が無いな。ウツギは本城に避難するように伝えると、急いで艤装を取りに、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか、僕らの部隊はイベント盛り沢山だね。ウツギさん」

 

「お祭り騒ぎはもう腹一杯だ。休む時間をくれと言いたいよ」

 

 夕方と夜の合間のような時間の海で、もはや愛機とすら呼べるほど使い続けている暁の艤装に合わせ、銃身を換装したスナイパーライフルを二挺小脇に抱えた重装備で敵の迎撃に備えるウツギが皮肉を言う時雨に答える。

 ......軽口を叩けるぐらいには気分も良くなったみたいだな。良かった。

 ウツギが時雨のボヤきを聞いてそう思ったとき。ツユクサがかけていたゴーグルを手で弄りながら口を開く。

 

「なんスかね。こうねつげん?はんのーって」

 

「......何が来るのかは大体予想が付くのが怖い」

 

「へ?」

 

「同ジ......」

 

「ですネ」

 

「僕も」

 

「クくく......いいじゃないか。何が来ようが上等だぜ」

 

 皆考えることは同じか。散々ひどい目にあってきたせいでネガティブ方面の勘が冴えるウツギが、一人解っていないが無視して思考を続ける。

 ウツギがヘッドセットの電源を入れて、オペレーターを勤める軽巡の艦娘に連絡を取ろうとしたとき。前方からスピーカーか何かで拡声した声が響いてきた。

 

 

《ちゅううぅぅぅもおおぉぉく!!》

 

 

「来たな......予想通り、あの女か」

 

「.........」

 

 女の声が聞こえて来た方向を、ウツギがライフルのスコープを双眼鏡がわりにして観測する。はたして、そこには田中 恵...戦艦棲姫が、地下で見たときと同じ格好でメガホンを片手に海に浮かんでいた。横には巨大なよくわからない生物が居るのも確認する。

 

 

《第三鎮守府!及び集結部隊へ告ぐううう!!》

 

 

《私いいぃぃ!!戦艦棲姫はああぁぁ!!》

 

 

《第五横須賀鎮守府・第一艦隊・資源再利用艦混成万能攻撃部隊・フィフス シエラにいいぃぃ!!》

 

 

 

《六対一での実弾を使用した演習を申し込みマああぁぁぁすぅ!!!!》

 

 

 

 

 

 

 

「「「「は?」」」」

「「ハ?」」

 

 

 

 何を言っているんだ。シエラ隊の全員が同じ感想を持った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「実弾使用の演習」と称し、決闘を申し込んできた戦艦棲姫。

ざわめく本陣。

そして準備が出来るまで待つ、と言う奴へ

ウツギはとある質問をする。

 

 次回「島風の血」 希望に似た花が、女のように笑うサマに手を伸ばす。

 




50話来ちまいました。こんなに長く続く予定だったかなぁ(白目


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島風の血

戦闘のシーンって書くの楽しいですよね。


 

 

 

《準備かんりょーまでええぇぇ!!十分待ちまああぁぁす!!》

 

《作戦会議どぉぉぉぞおおぉぉ!!!!》

 

 

 

「.........本城提督、聞こえますか」

 

 流石にこんなときはどうすればいいのか解らない。......本当に待ってくれるのかあいつは。

 明らかにふざけている様子で勧告してくる戦艦棲姫へ、対処に困ったウツギが本城に無線を入れる。

 

『     』 

 

「応答なし......ちっ......」

 

「さっさと突撃してぶっ殺そう......」

 

「......!いや少し待て」

 

 相手の、こちらを惑わすような発言で本陣でパニックでも起きたか。応答がない相手に舌打ちをし、ウツギの近くに居た若葉が舌を出しながら刀を引き抜いた時。ほんの少しだが時間を置いて相手から返信が来た。

 

『------------------.........。』

 

「......了解」

 

「何て来たんだい?」

 

「......受けてやれ、と。本部に「部外者が乱入した場合本陣を、島ひとつ吹き飛ばせる爆弾を仕掛けておいた地下施設ごと爆破する」と脅しが来たらしい......」

 

 震えた声でヘッドセット越しに説明してきた本城の言葉を、ウツギが五人に伝える。

 それにしてもだ。なんでわざわざ自分達を指名してきた。他にも艦娘の部隊はたくさんあるだろうに。

 疑問に思ったウツギが、艤装に最初から取り付けてある、無線が故障した時に使う拡声器のスイッチを入れ、戦艦棲姫に質問を飛ばした。

 

「「戦艦棲姫、十分待つと言ったな」」

 

《なああぁぁにいぃぃ?》

 

「「なぜ自分達と戦いたいんだ」」

 

《ええぇぇっとねええぇぇ、楽しそおおぉぉだからあぁ》

 

 ......すごく腹の立つしゃべり方だ。人を苛立たせる天才かあいつは。

 それに答えになっていない。と、やけにわざとらしく間延びした女の声を聞いてウツギが思っていたとき。時雨と春雨がある提案をしてきた。

 

「ウツギさん、あの......缶詰工場のこととか聞いてみたらどうかな?......正直僕はもう行きたくないんだ、聞いて終わる話なら終わらせたいな、なんて......」

 

「私も賛成でス。アレに関わっていたなら何か知っているかも知れませン」

 

「......解った。やってみよう」

 

 「いつまで待てばいいんだ」と、貧乏ゆすりをしながら苛立っている若葉を尻目に、時雨の言うことには同感だ、と思ったウツギが提案を受け入れて女に二度目の質問をする。

 

「「女、まだ聞きたいことがある」」

 

《あと三分だよおおぉぉ、なああにいいぃぃ?》

 

「「地下施設は何のために作った。缶詰のためだけなのか?」」

 

《ああぁぁぁんとねええぇぇ》

 

《今いくからちょっとまっててええぇぇ》

 

 そう言ってきた相手が、夕闇の中から自分達へと近づいてくるのがライフルから取り外したスコープ越しにウツギに見えた。

 数秒後。全メンバーの肉眼でも見える距離まで戦艦棲姫が近づいたとき。彼女が何かを隣に居た艤装から取り出しながら口を開く。

 

「お待たせ~。約束の十分越えて説明して良いなら言うけど?」

 

「......それを設定したのはアンタだろう。こっちは二十分でも一時間でも待ってやる」

 

「おい何を勝手に」

 

「黙ってろ」

 

 そんなに待っていられるか、と視線で訴えてきた若葉を押さえつけ、ウツギが女に喋らせる。

 

「あ、そうなの?じゃ、遠慮なく......これ何か解るぅ?」

 

 親しみやすい笑顔で話しかけてくる敵に言い様のない不快感と不気味さを感じながら、ウツギ他シエラ隊の面々は女が手に持った白い箱を見つめる。

 ......アレは......なんでこいつが。何に使うんだ?

 ウツギは自分の艤装の拡張部位にも取り付けてある、見慣れたその機械について言及する。

 

「サブコンピューター......なんでお前が?」

 

「あ、ごめ~ん。サブコンじゃないんだな~これが」

 

 相変わらずのおちゃらけ口調に、連日の激務でストレスが溜まっていたウツギが顔に薄く青筋を浮かべながら言う。

 

「そんなに人を苛立たせて楽しいか」

 

「ウツギさん......!」

 

「ん......。それがあの趣味の悪い施設と何が関係しているんだ」

 

「まぁそう慌てないで......ちょっと喉乾いたからまってて~な~♪」

 

 「んちゃ、カフェオレで一服」と、目の前で余裕たっぷりに水筒......おそらくカフェオレが入っているものを口に付ける女に、流石に腹が立ったのか。

 

 若葉がノーモーションで素早く女に照準を合わせると同時に砲の引き金を引いた。

 

金属が破裂する鋭い音が辺りに響く。

 

「ちょっと~あぁもったいない...」

 

「さっさと言うことを言え殺すぞ」

 

「待ってていったのになぁ~。まぁいいや。あそこねぇ、まぁ缶詰の為だけじゃないよね」

 

 予備動作がなく繰り出された若葉の一撃を、苦もなく持っていた魔法瓶をぶつけて弾き返した戦艦棲姫が続ける。

 

「コンベアの部屋って通ったんでしょ?プールまで来たってことはさぁ」

 

「あの悪趣味な工場レーンもどきか。お前のせいで当分肉が食べれないよ」

 

「悪趣味だなんてヒドいなあ~私考案のアレほど合理的て効率いいスバラな実験施設は他にないと思うケド?......でさ、な~んか可笑しいところ無かった?あそこ」

 

「とんでもないものだらけでわからんよ」

 

 

「......「頭」が生物レーンに流れていなかった、かな。......んふフ......」

 

 

「あっ!サザンカちゃん正解!!いや、すごいねぇ花丸あげちゃう」

 

「............!?まさかッ......!!」

 

「う~んと、ウツギちゃんの予想は多分外れだぁね。これ、中身はさ」

 

 

 

「島風ちゃんの脳ミソ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「は......?」

 

「ツユクサちゃんだったっけアナタ~。想像通り、「その」島風ちゃんね♪」

 

 飄々とした態度を取り続ける女の口から出た言葉に、......ウツギが横を向くと、そこではツユクサが眼を見開き、口を半開きにして唖然としていた。

 

「しーちゃん......?」

 

「天龍が逃げた時可笑しいとか思わなかったの?だぁってあの島風ちゃんの首から先がまだ見つかってない何て変だと思わないの?あの天龍がさぁ......わざわざ首もって海に捨てるなんて考えられないって結論にたどり着くと思ってたけど」

 

「テメェ............な...んで島風の脳を.........」

 

「あっとまだ説明してなかったか」

 

「変なことはするなよツユクサ.........」

 

 ......怒っている。確実に。薄暗い中で爛々と赤く光っているツユクサの瞳を見て、それが彼女の機嫌が悪いことのシグナルであることを知っているウツギが思う。

 

「まずあの施設だけど......私が作っていたのは」

 

 

「「バイオマシンコントロールデバイス」。豊富な戦闘経験がた~っぷり詰まった艦娘ちゃんのおミソで艤装を駆動させる素敵なCPUデバイス♪」

 

 

 それこそサブコンなんてメにならない性能を発揮する超、超、ちょ~すっごく高性能な......と、ウツギの艤装を見ながら高らかに女が言ったとき。

 

 ツユクサの全身から、赤みを帯びた瘴気のような物が発されるのが、彼女以外の全員の目に、確かに映った。

 

 

 

 

「てめぇが島風を......」

 

「そう♪」

 

「......ねぇ」

 

「お?」

 

 

 

 

 

 

「許さねええええぇぇぇェェェェ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てツユクサァ!!」

 

 あのバカ一人でッ!!

 目から発される赤い光で残像を描きながら敵に突っ込んでいったツユクサを、急いでウツギが追いかける。

 

「沈めぇェェ!!」

 

「やる気ぃ?二人で相手してあげるよ♪」

 

 炎のように立ち昇るツユクサの瘴気に少し驚いたものの、すぐに戦闘に意識を集中させる戦艦棲姫が艤装に跨がり高速移動をしながらツユクサの砲撃を避け......

 

「どおおおおらぁぁぁッ!!」

 

「無駄無駄。当たるわけッ......!?」

 

 

 損ねて被弾する。

 

 

「あの動きに追従できるだと.........?」

 

「す、すごい............」

 

「見とれてる場合か!追うぞ!」

 

 乱射しているかのようなペースの砲撃でありながら、駆逐艦以上のスピードで動く相手に正確に砲弾を叩き込むツユクサに、若葉と時雨が思わず見とれてしまうが、すぐにウツギの指示に従って、引き撃ちを行う敵を追いかけるツユクサに追従する。

 

「いや、自分の艤装が頑丈なことに感謝だねぇ......この動きで当ててくるかい?」

 

「おおおおおォォォ!!」

 

「ありゃ聞いてないか。じゃあ本気出させて貰おうカナ......」

 

 そう発言した戦艦棲姫の瞳が、妖しく赤く光る。そして、より一層加速しながらツユクサの背後に回り込み、砲撃をかます。

 

「後ろっ......!?」

 

「ばいばい。ツユクサちゃん」

 

 ツユクサに向けられた怪物の姿をとる艤装の砲から、レ級を一撃で殺害した「槍」が射出される。が

 

 

 

 

 

 

 

「させませんヨ......!!」

 

「......無茶......するな......阿呆」

 

「ハルちゃん......アザミ......?」

 

 まずい、と、目を覆ったツユクサの前に割り込んだ春雨が、両手で槍型の砲弾を受け止め、その背後でアザミが砲弾を受け止めた衝撃で後ろに飛ばされそうになる春雨を押さえつけ、ツユクサを守る。

 海軍軍自部門の開発したばっかの新型砲弾を素手で受け止めた......!?頑丈だとは聞いてたけどちっと予想以上。

 そんな事を考え、一瞬だが見逃せない隙が出来た女の艤装の「口」に

 

 

若葉に放り投げられたウツギが「入り込む」

 

 

「なっ」

 

「よそ見とは」

 

 

 

「感心しないな。」

 

 

 

 艤装の内部に体をねじ込んだウツギが、ライフルと背部艤装の射撃で弾丸と砲弾をありったけ放り込み、最後に魚雷発射管から取り出した魚雷を銃で撃ち抜き、わざと爆風に吹き飛ばされ、そこを時雨のワイヤーで回収される。

 

「んフふ......流石、度胸がある。......それでこそ若葉の目標に相応しい......」

 

「ごほっ......!はぁ......ツユクサ、春雨。大丈夫か?」

 

「問題ありませン」

 

「平気ッス......」

 

「そうか。一人で考えナシに突っ込むな。何の為に自分達が居ると思ってる」

 

「ごめん......」

 

「わかればいい。後で春雨に謝......!?構えろ!!まだ生きてる!!」

 

 燃え盛る炎と煙により姿は見えないが、CPUの警報で相手の生存を確認したウツギが、すぐに両脇に担いだライフルを構え直し味方に指示を飛ばす。

 

「ちょっとぉ~酷くない!?せっかく白衣着てきたのにボロボロよ」

 

「頑丈なやつだ......アレで殆どダメージが通っていないだと......?」

 

 だが......効かないなら効かないなりに頭の悪い戦法でも取ってやろうか。

 そう考えたウツギが、とにかくありったけ撃ち込んでやろうと片手のライフルを砲に持ち換え、身を守るために盾の裏側についているボタンを操作して背中からもう二枚の盾を展開した時。体のあちこちが焦げているものの、まだ元気な戦艦棲姫が口を開いた。

 

「潮時かねぇ......ちょっと調子乗りすぎたか。んじゃ!」

 

「......!逃がさねェッス」

 

 明らかに逃げようと反転する相手に、砲の照準を合わせてツユクサが追いかけようとする。すると、戦艦棲姫が艤装から何かを撃ってきたため、それをツユクサが手の甲で弾くと、中からはおびただしい量の煙が出てきた。

 

「ギフトは置いとくから許してぇん!!」

 

「スモーク......!視界が......」

 

「ま、待てよ!!このォっ......!!」

 

 視界が全く利かない目の前に、当てずっぽうでツユクサが砲を撃つ。数秒後。煙が晴れた海上には。

 

 

 

 

既に戦艦棲姫の姿は無く、島風の脳がパック詰めされた狂気の産物だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

後日。過労を心配され、シエラ隊の代わりに施設に部隊が派遣される。

爆弾を処理し、そこで見つかった資料。

それが第五鎮守府に送られてくる。

そして手元に残った「島風」を手に、ツユクサは何を思う。

 

 次回「愛と哀と」 静かな眠りを妨げ、がなるタイマー。




少し強引ですがシエラ隊vs戦艦棲姫でした。


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愛と哀と

怒濤の説明回です。もちっと早くやりゃ良かったカモ......


 

 

 また、ここか。花の蜜の香り......。暖かい空気。基本的に静かだが、騒がしいほどでもなく時たま聞こえる小鳥のさえずり。何をとっても心が落ち着く不思議な場所だ。

 

 任務完了後、流石に立て続けに過激な仕事を押し付けるのは悪いと思われたのか。シエラ隊は第五鎮守府に戻っていた。

 目を覚ますと、ベッドの上ではなく、辺り一面がリンゴに似た香りを漂わせる白い花が咲いている草原であることを確認したウツギが、暁と出会ったあの場所だと理解する。

 

 

「また、会えた。調子はどう?」

 

 

「............良くはない」

 

 背後から聞こえた少女の声に返答しながら、ウツギが立ち上がり体の向きを変える。予想通り、そこには暁が優しい笑顔を浮かべながら立っていた。

 

「良くない......か。そうよね。あんなものを見たから......」

 

「貴女も見ていたのか」

 

「うん。時雨ちゃんが口を押さえてた」

 

 自分が見ている視界の情報は彼女と無意識に共有しているのだろうか。......あれを見れば嫌な気分にもなるか、と。考えながら、苦笑いとも、見方によれば無表情とも取れる微妙な顔で言う暁に向け、ウツギが口を開く。

 

「暁。前に言っていた。......とても辛いこととは何を指すんだ。多すぎて自分にはもうわからない......」

 

「...............」

 

 ウツギの発言に、暁は帽子を目深にかぶり直し、目元を見えないようにして黙ってしまった。

 

 ほんの数秒。だがどうもウツギには何時間にも感じられた沈黙の後で。暁が口を開いた。

 

 

「...島風ちゃん......のこと、かな。......アレはウツギちゃんじゃなくて......ツユクサちゃんにとっての「辛いこと」なのだから.........」

 

 

..............................。

 

「どうすればいい」

 

 唐突にウツギが暁に投げ掛ける。

 

「えっ」

 

「どうやって私はツユクサを慰めたらいいんだろうか。教えてくれ暁。......精神的に傷ついた人間を励ますなんて、自分は人生経験が少なすぎてわからないんだ」

 

「そんなこと無いよ」

 

 その一言に、ウツギが下を向いていた顔を上げる。すぐ目の前には、少しむっとしたしかめっ面の......不思議と何故か笑顔にも見える表情を浮かべる彼女がいた。

 

「シャキッとしなさい。前の意気込みはどうしたの?「修羅場は慣れてる」、ってただのカッコつけ?違うなら、きっと」

 

「きっと。できるよ。ツユクサちゃんを立ち直らせることは。」

 

「......ありがとう」

 

 ウツギが苦笑いしながら続ける。

 

「......駄目だな。自分は。これから人を励まさなきゃいけないのに、逆に励まされるなんて。これじゃ本末転倒だ」

 

「......最後に聞いていい?」

 

「? 何を?」

 

 

 

「このお花の名前。」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 これはまた。中途半端なところで目が覚めたな。......カモミールの花、か。花束の名脇役、花言葉は親交...仲直り...逆境に負けない強さ......。

 「逆境に負けない強さ」......また面倒事の前触れか。

 

「......ずいぶん明確に予言する花が咲いてたんだな。」

 

 ウツギが、目が覚めると自分の手に握られていたカモミールの花を見て、考えながら呟く。

 

 身支度を整えいつもの作業着に着替えたウツギが部屋を出て、朝食を摂るために食堂へと続く廊下を歩いていく。今日もまた意味もなく晴れているな。そんな事を考えていると食堂の前に着く。

......ツユクサはどうしているだろうか。

あんな事があった手前、彼女のことを心配しながらウツギが部屋に入る。

 

「おはようございます。......提督だけか」

 

「ん、おはようウツギ」

 

「......どうしたんだ。顔色が悪いぞ。私みたいに」

 

「なんだその変な自虐は.........」

 

 いつも通りならそれなりに賑やかなはずの食堂が、深尾という小男一人しか人間が居なかったことにほんの少しの違和感を抱きながら、ウツギは深尾の向かいの席に座り、彼が手に持ってヒラヒラさせていた書類の束を受け取って眺める。

 

「生体CPUシステムの所有権を譲渡する......佐世保が受け取りを拒否しただと?」

 

「あぁ。「今さらそんな物貰っても困る」だとさ」

 

「解らなくもないが......そうだな。確かに気味が悪いパーツには違いない、か......」

 

「恐ろしいハナシだよ......戦闘経験が豊富に蓄積された艦娘の脳を用いた生体コンピュータ......。中枢ユニットに使用される脳から発される電気信号を介して艤装をサブコンピューターよりも正確に駆動させる、超高性能艤装コントロールシステム......」

 

「.........!!提督、この書類ウソなんて載ってないよな」

 

 深尾が口から垂れ流す説明を聞きながら、ウツギが書類に載っていたある記述に顔をしかめる。

 

「どうした?」

 

「こんな......こんなイカれたモノが地下施設から32個も見つかっただと......?」

 

「うん......そのお陰で、お前が前に居た研究所に送りつけてやろうと思ったんだがね。「いくら深尾の頼みでももういらない」と徹に返されたよ」

 

「......吐きそうになる話だな。戦艦棲姫サマはどうも人をオモチャにするのが好きなようで......どこに置いてあるんだ?」

 

「ん?艤装保管室......」

 

 深尾の返答を聞いたウツギが、朝食を摂るためにこの場所に来たことなどすっかり忘れて、艤装保管室に向かおうと席を立つ。

 

「何を?」

 

 

「少し実物を見てくる。どうせツユクサもいるはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理......ッスか」

 

「ゴメンね。規格が合ってないからちょっと......」

 

「何を話しているんだ?」

 

「あっ......ウツギ」

 

 部屋に入ったとたん......正確には入る前にも既に聞こえていたが、何かを話していたツユクサと明石の間にウツギが割って入る。

 聞くまでもなく十中八九、例のコンピュータの話だろうな、とウツギに大体の予測はついていたが。

 

「ウツギちゃん......ツユクサちゃんが、これを自分の艤装に取り付けれないか、って」

 

「......?わざわざ敵が作ったこれを、何で使おうと思ったんだ」

 

 自分ならとても使おうだなんて思わないな、と思ったウツギが、口を結んで拳を握り珍しく真顔になっているツユクサに問う。

 ウツギから見ると少し瞳が潤んでいるようにも見えたツユクサが、少しの間を置いてから喋りだした。

 

「しーちゃんをこんな風にしたアイツは勿論許せないッス」

 

「............」

 

「でも......何だかわからないッスけど「この子」と一緒なら、あのクソ女をぶっ飛ばせる気がするッス」

 

 

「それに......アタシは島風と一緒にあいつをやりたい」

 

 

「............。そうか」

 

 鉄板張りの床に置かれた箱形の物言わぬ「彼女」を撫でながら言うツユクサの言葉を、じっとその場でウツギと明石が聞く。ウツギは明石に「規格が合わないから取り付けられない」ことについて突っ込んでみる。

 

「明石さん。取り付けられない理由を教えてくれないか」

 

「......ウツギちゃんは「艤装の加護」って知ってるよね?」

 

「勿論。艦娘を建造した妖精が艤装に施す処理......だったか」

 

「その通り。これがあるから艦娘は深海棲艦の攻撃にも耐えられるし、艤装さえ着ければ重いものとかだって持てるようにもなる」

 

「自分達は混ざりものだからか装備がパワーダウンするがな......」

 

「あはは......まぁそれは置いといて、これ実は欠点もあって......加護を施された艤装を装備した艦娘は艦種に応じた武装以外は......」

 

 ウツギが説明を続ける明石に、この部分は知っていると言う代わりに説明の続きを言う。

 

「刀や槍みたいな単純な物は例外だが、銃や精密なギミックをもつ火気類は動作不良を起こしたり、極端な性能の低下を起こしてまともに使えないものになる」

 

 「ご名答」と、明石を遮って言ったウツギの言葉に、説明を止められた本人が言って更に続ける。

 

「で、ここからなんだけどね。ウツギちゃんとかが使ってるスナイパーライフル......あれはちゃんと動くでしょう?」

 

「......そう言えば確かにそうだ。どうして?」

 

「まだブラックボックスが多い艤装のシステムだけど......何年も戦争するうちに解析が進んで出来た、特殊な電磁波を発振して加護とケンカしないようにする部品がついてるんだよ。ウツギちゃんのライフルやCPUにはね」

 

「......付いていない訳だ。島風には......」

 

「そう。だからこれを付けたら......CPU系統の部品は艤装をハッキングして動かしてるから、動作させた途端に動かなくなる何て事だって考えられるし......」

 

「一度バラして部品を組み込み直すのも難しいか......脳なんて言う精密機器が詰まっていたらな......」

 

 問題は山積みか。ウツギがそう思って溜め息をついたとき。勢いよく、ウツギが入ってきたのとは違う扉を開けて誰かが入ってきた。

 

 

 

 

 

「盗み聞きしてすいませんでした。俺、やりますよ。規格の調整。ツユクサさんのためなら。」

 

 

 

 

 

「......田代...........?」

 

 

 部屋に入ってきたのは、人相の悪い眼鏡の......ツユクサに恋をした男。田代だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

愛する者の願いのために。

寝食を惜しんで、田代は見たこともない精密機器の分解作業を行う。

そんな姿を見て。ウツギは

とある知り合いに協力を仰ぐ。

 

 次回「流星の行き先」 やっと役に立てるんだ。この仕事、必ず成し遂げる。

 




というわけで52話(ネタを除けば49話)でした。
結構やりたかったお話でしたので書いてて楽しかったです。


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流星の行き先

あまり本編に関係の無い小話って意外と筆が進んでしまったり......


 

 

 

 

 

 夜の第五鎮守府。季節はもう冬に近いためか虫や動物の鳴き声などはもう聴けず、施設内でも暖房が欲しくなる肌寒いこの場所の作業室で、額に脂汗を浮かばせながら、カッターナイフのような工具を片手に昼からずっと白い箱形の機械の分解作業に悪戦苦闘していた男に、ウツギが話し掛ける。

 

「夜ご飯、置いておきますよ」

 

「えっ、あぁ!?すいませんウツギさん」

 

「......頑張るのも良いですけど、ちゃんと休んでくださいね。過労で倒れたりしたらツユクサも悲しむと思うので」

 

「ウツギさんの言う通りです。聡さん、そろそろ休んだほうが良いと思います」

 

 プラスチックの弁当箱に料理を積めた物を田代が作業をしていた机に置き、ウツギが注意する。と同時に、別の場所での仕事を終えた鎌田も、同じくずっと作業を続けていた田代を気遣い声をかける。顔立ちの整った男のその顔は曇った表情で、相手を心から心配しているようにウツギには見えた。

 額に冷却シートを付け、気合いを入れるためなのか白いタオルをバンダナ代わりに頭に巻いていた田代が言う。

 

「気遣ってくれて有り難うございます。でも今日はもう少しやってから終わるっす......」

 

「そうですか......ウツギさん、この部品の発注お願いします」

 

 鎌田から下敷きと一緒にクリップ止めされた書類をウツギが受け取る。

 

「了解です。整備、お疲れ様でした」

 

「いえ。......それよりも装甲板の張り替え、やらなくて良いんですか」

 

「いつも派手に壊して来るのは自分ですから。簡単なことですし」

 

 本当は用途が違うと電から聞いたが、何の疑問もなく毎回シールドとして使っている艤装の、両手に装着する金属の板を思い出しながらウツギが言う。

 

 

 毎度の事ながらボロボロになるまで酷使する盾の表面を交換するため、ウツギが作業室を出て艤装保管室へ向かう途中。ふと、あることを思い付く。

 

 『あいつ』なら田代の手伝いも出来るかも知れないな。あと『あの人』と......。自分にはツユクサを「励ます」のは難しいがこれで「手伝い」にはなるだろう。

 

 ウツギは作業着の胸ポケットのジッパーを開けて、スマートフォンを慣れた手つきで操作して『あいつ』に電話をかけた。

 

 

「もしもし。ウツギだ、しばらくだな......頼みたいことがある」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「............しーちゃん。......今日は星が綺麗だよ」

 

「......邪魔......すル。......いイ?」

 

「あ......アザミッスか」

 

「......アンドロメダ」

 

「は?」

 

 夜の十時。寒い空気をはらんだ海風が吹き付ける港の堤防にあぐらをかいて座り、夜空を眺めていたツユクサへ、突然アザミが言う。

 発言の意味が解らず混乱するツユクサなど知らないとばかりに、続けてアザミが喋った。

 

「真ん中。北極星......。すぐ近くのアンドロメダ、ペルセウス、カシオペヤ、おひつジ.........」

 

「いや、ちょ、ちょっと!?」

 

「......何ダ............?」

 

 珍しく自発的に、しかも長々と喋り始めたかと思えば、変な単語を次々に口にするアザミに発言を止めるようにツユクサが突っ込む。

 

「なんスかいきなり......頭でも打ったんスか?」

 

「............ッ」

 

 どうにも頭の悪そうな表情ですっとぼけた問いかけをしてくるツユクサに、アザミが無表情で、ほんの少し言葉に怒気を含ませながら口を開く。

 

「励ます......思った......のニ。......バカちン.........」

 

「はぁ?......意味わかんね......」

 

「星」

 

 アザミは夜の暗闇に浮かぶ星たちを指差しながら、子供に絵本を読み聞かせるような落ち着いた......それでいてはっきりとした声のトーンで話し始める。

 

「星が綺麗だって言った。だから教えてあげたのに」

 

「.........!......そりゃどーも。」

 

「こういう寒い日は空気が乾燥する。空が澄んで、星......綺麗に見える」

 

「......ふーん。......詳しいッスか、星座?」

 

「趣味」

 

「ほー」

 

「星......好キ?」

 

「あんまし」

 

 久し振りに普通に喋るアザミを見たな、と思った後に。ツユクサは何も考えず頭を空っぽにして、特に意味も無いやり取りをアザミと交わす。

 

 刹那、やけにはっきりと輝く一つの流れ星を、二人が目にする。

 

「あっ流れ星」

 

「消えタ............」

 

 

 ......人が死んだときに流れ星になるって話があったよな。確か。

 

 

 妙に激しい自己主張をしながら消えていった宇宙の塵に。アザミの知るところでは無かったが、......ツユクサはなんとなく、友人の面影を重ねてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ん......ぁ......?......朝か......」

 

 知らないうちに寝ちまってたっすか。早く調整してツユクサさんに渡さなきゃ......あれ、毛布......?

 窓から射し込む光で目を覚まし、徹夜で作業をやろうとしていたが、知らないうちに落ちていた田代が、自分の肩に毛布がかけてあったことに疑問を持つ。

 

「誰が...先輩すか。......あ」

 

『あまり頑張りすぎないでね   ツユクサ』

 

 昨日、部品を張り合わせた跡すら見つからないため、アクリルカッターで慎重かつ強引に何度も分解しようと格闘していた部品に、ツユクサからの書き置きが貼り付けてあるのを見つけた田代が、だらしなく顔を緩める。

 

「ツユクサさん......うっし!」

 

「今日も一日頑張れるって?」

 

「当たり前っす!ツユクサさんの為に超スピードで仕上げ」

 

 

 あれ、今誰か......?、田代が聞いたことのある女性の声を聞き、顔ごと視線を横に向ける。居たのは机に頬杖をついて楽しそうにニヤニヤ笑顔を浮かべている、ウツギの連装砲を三点バースト型に改造した元艦娘、現深海棲艦の陸奥だった。

 

 

「やっほー♪元気?」

 

「せぃっ!?」

 

 彼女の姿に驚いた田代が裏返った変な声をあげ、椅子から落ちそうになる。

 

「せっ、整備長!?なんでここにいるんすか!?」

 

「あら、居たら悪いの?」

 

「えっあっ......その...ちがっ」

 

「うふふ♪......意地悪してごめんなさい。頼まれて来たのよ。「可愛い部下を助けてやれ」って」

 

 頼まれた......?一体誰がこの人との繋がりを持ってたんだ......?。田代が寝起きということも相まって回らない頭にムチを打ち、懸命に考えてみる。「ダメだわかんねぇ」と、無意識に言葉が口から漏れたとき。背後から「何がです」と声をかけられ、誰かと振り向くとウツギと時雨の二人が立っていた。時雨は何故かどこか落ち着かない様子だ。

 

「おはようございます。田代さん」

 

「っす、ウツギさん。時雨さん」

 

「「ダメだわかんねぇ」とは何のことでしょうか?」

 

「へ?えぇと、ウチの整備長と知り合いの人なんてこの鎮守府に居たんだなぁ......なんて」

 

「整備長......?陸奥を呼んだのは私ですが」

 

「え」

 

 田代の思考がその言葉で停止する。

 口を半開きにして、いつもの怖そうな顔から一変、コメディドラマのお笑い役者のような顔をしている田代に、ウツギが首を傾げながら田代に質問する。その後ろでは尚も笑顔で手を振る陸奥が見える。

 

「......どうかしました?」

 

「ウツギさん......自覚持とうよ......」

 

「.........?何を?」

 

 地団駄に近いような貧乏揺すりをしていた時雨が、震える声で色々と解っていないウツギに説明を始める。

 

「大本営お抱えの艤装整備チーム、「マシン・オブ・インフェルノ」......南方戦棲姫に似た容姿を持つ三代目整備長、独学で鍛えた整備、改造のカンと天性のセンスを持つスゴ腕整備士。......ついたアダ名が「ジェッティングの陸奥」」

 

「......長いな」

 

「長いなじゃなくて!こんな凄い人とタメ口で喋れるウツギさんが恐ろしいよ僕は!」

 

 嬉しいんだか怒ってるんだかわからない物言いをするな。......どうでもいいか、と時雨の大声での発言をさらりと流し、ウツギは陸奥に声をかけた。

 

「忙しいところ悪いな。今さらだが大丈夫か?」

 

「ぜーんぜん。最近暇だったし、元帥のおじ様は最近機嫌悪いしでちょっと居心地悪かったしぃ?」

 

「そう......」

 

 陸奥と談笑していたその時。ウツギは鼻の奥を弱く刺激する、嗅いだことのある柔軟剤の匂いを感知する。

 

 来たか。あいつが。ウツギが振り向くと......ウツギ他三人の目に映ったのは、何かの機器を両手に下げた、汗臭そうな肥満体の男が部屋の入り口に立っている光景だった。

 

 

 

 

 

 

「ふうぅ......元気かい?一号ちゃん」

 

「久しぶりだ。所長」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ツユクサの為に、研究所所長、天才整備士といった面々が集まる。

彼らの助力で田代は苦戦しながらも順調に仕事をこなす。

そんな折、「ヤツ」から

全国と海軍へ向けての宣戦布告が告げられる。

 

 次回「海軍の長い夜」 決戦前夜。




アザミは割りとロマンチストです。(どうでもいい


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海軍の長い夜

大変お待たせしました。


 

 

 

 

 

「......ウツギさん、この脂ぎったオッサンの殿方は誰なんだい?」

 

「えぇ!?いきなり酷いなぁ......」

 

「ピザなのは事実だろう?時雨。自分が居た研究所の所長だ」

 

 目の前に現れたウツギの事を1号呼ばわりしたへらへらしている肥満体の男に、嫌悪感を隠そうともせずに時雨が暴言を吐き、ウツギが追撃をかける。

 そんなに悪口を言われるのが嫌なら飯の量を減らせば良いのに。あと運動か。そんな事を考えながら、ウツギは自分で所長と呼んだ、今の二人からの心ない発言に項垂れているメタボ気味の中年の男と会話をする。

 

「久し振りに電話なんて来たから喜んでここ来たのにあんまりだ......」

 

「本当は呼びたかったのはワタリなんだが。......アンタは腕は確かだからいいんだがな」

 

「徹くんは最近忙しくてね。所長ってのは意外と暇な職業なのさ」

 

 「じゃあアンタも仕事手伝ってやれよ、だからデブるんだ」。という暴言を心の中に仕舞い、ウツギは目の前の男を陸奥と田代に紹介する。

 

「私が居た研究所の土井(つちい)です。田代さん、こき使ってやってください」

 

土井大輔(つちい だいすけ)ね」

 

「え!?」

 

「あら、あらあら♪田代くん部下が出来ちゃったの?」

 

 「どうぞこき使ってね。こんなオヤジで良ければ。」と力なく、情けない笑顔で言う肥満体の男におろおろしている田代を、他人事だと思って、土井をけしかけた張本人でありながら無表情でウツギが眺める。隣の時雨が「無責任すぎる......」と言うのが聞こえたが無視した。

 太った男、土井が切り出す。

 

「じゃあ、早速始めるかい。分解作業」

 

「えっと......継ぎ目がないから時間かかるっすよこれ?」

 

「問題ないわ。私がこれ持ってきたから」

 

 そう言った陸奥が、自分が座っていた椅子の横に置いていた特大サイズの工具箱から、細長いそれなりの大きさがある箱とくっついたスプレーガンのような、変な形状の機械を取り出して田代に見せる。「これっ......レーザー溶断機っすか!?」田代が今日三度目の驚いた表情で口を開く。

 

「そ。アクリルカッターなんかじゃ無理っぽいならこれで」

 

「すげ......あ、でもこんなん使ったら中に傷でも付けたら」

 

「そこで僕のこれでサポートさ」

 

「なんすかこれ?」

 

「正式名称は......なんだっけかな?まぁ音波を発振して開けれない箱の中身の大きさ測ったりする機械なんだけどね。これでまず中を測定してからなら安全に解体できるって寸法さ」

 

 

 

 

 その道の専門家二人が入ればなんとかなるだろう、自分が出来るのはここまでだ。後も頑張れよ田代。

 小さい箱を前に何かを話し合っている三人を見て、ウツギがそう思いながら時雨と部屋を出ようとしたとき。朝の挨拶でもしに来たのか、ランニングの上に蛍光色のゼッケンというスポーツ選手のような季節外れの格好をしたツユクサがやって来た。

 

「タッシー調子は......げっ!?なんでデブオヤジが居るッスか!?」

 

「おはよう3号ちゃん」

 

「うおっ......さ、寒気が......」

 

 そんな格好だからだろう、とウツギがツユクサに言おうとしたとき。何やら切羽詰まった深尾の声の館内放送がかかった。

 

 

『緊急連絡だ、職員全員は速やかに執務室へ!繰り返す、職員は速やかに執務室に来てくれ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァーイ、元気ぃ~?いい子のみんなぁ~戦艦棲姫だよ~♪』

 

『今日は私から~とおぉぉおぉっておきのサプライズがありまぁぁぁぁす!』

 

『ん、喉乾いた。えぇ~と......あ、サイダーあるじゃん!しばし待たれよ視聴者諸君』

 

 執務室に集まった全員が、テレビから流れる映像を見て絶句する。......中にはたまたま今日この日に鎮守府に居ただけの陸奥と土井も混じっていたが。

 ............。本当に腹が立つ振る舞いをする女だ......。なんて、思っている場合では無さそうだ。......テレビ局の回線に割り込んでいるのかこれは?。執務室にある大型の液晶テレビから流れる嫌みったらしい深海棲艦のおしゃべりと、机に両肘をついて具合が悪そうな顔をしている深尾を交互に見ながら、ウツギが考える。

 

『ま、そんな事は後にして~今日は私の紹介する無能な海軍の略歴を~......』

 

「......どう反応しろと?提督」

 

「御隣さんの鎮守府から電話がかかってきてな......急いでテレビ付けたらこれだ」

 

 「もう三十分も前から「全国の全部のチャンネルで」放送されているらしい」と言って深尾が頭を抱える。......。こんな物が公共の電波で放送されていれば軍関係者なら誰でも頭を抱えるだろうな。こんな調子の事ばかりで胃に穴でも開いたらどうしようかとウツギが深尾の体を心配する。

 

『と、言うわけでぇ~ヤバイよね~海軍さん。だぁってか弱い私みたいなコソドロ一人取っ捕まえられないオマヌケさんたちの集まりだしぃ~?』

 

「.........よく言う」

 

「なんだか好き勝手言ってやがるぜ。クソが」

 

 「今度見つけたら泣く暇も無く殺してやる。」ウツギの言葉に次いで顔中のシワを眉間に寄せ歯軋(はぎし)りをしながらそう呟いたツユクサに、天龍の顔がひきつるのがウツギから見えた。

 そんな時。画面越しの女がフリップを取り出しながら発言する。一丁前にリポーターにでもなったつもりかこのマッドサイエンティストは。何人かの艦娘が画面を見て思ったとき。何を言い出すかと思えば、女が言い放ったのは

 

『はい!ではではサプライズプレゼントのお知らせね!』

 

『三日後の明朝!......じゃねぇや日本語おかしいか.........とりあえず!!えぇこちらに書かれた時間ね』

 

「11月10日の午前4時......四日後か」

 

『この日時の座標29-21に、えぇわたくし戦艦棲姫は~』

 

 

 

 

『総勢二万の深海棲艦でカチコミをかけまーす!じゃあ頑張ってねぇ海軍のおじちゃんたちぃ。アディオス!』

 

 

 

「っ!?......座標29-21って......」

 

 

 時雨が震えた声でそう言い、言葉に詰まる。

 

 座標29-21。これが何を指すのか。

 

 

 

 

 第五横須賀鎮守府がある場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「とんでもねえ事になっちまったなぁ......」

 

「全くだ。襲撃の前にアイツに心臓発作でも起きてくれれば良いのにな......」

 

「ないっしょそれは......つかウッチーそれ何?」

 

 何の予告もなくゲリラで流された海軍への宣戦布告のテレビ放送を見た後。近海警備に外に出た艦娘と、パーツの解体をするメンバーとそれに立ち会うと言ったツユクサを除き、ウツギ達は最近半ば雑談室と化している食堂に集まっていた。

 駄弁っている最中、机にパソコンを置いて何かをやっていたウツギに、漣が聞いてくる。

 

「ただのノートパソコンだ」

 

「何やってるのってことさね」

 

「CPUのオペレーションディスクの調整だ。秋津洲の設定は優秀だがあんな超スピードで動く標的に当てるんなら、またロジックを見直さないと無理だからな」

 

「なにそれすごい」

 

「.........解ってないだろ」

 

「うん」

 

 こいつ......即答しやがった。わざわざちゃんと答えた自分が阿呆だったか。とウツギが漣に呆れたような視線を向ける。

 

「......若葉は何処だ?」

 

 事務仕事の手伝いになるか、と、最近取得したブラインドタッチでディスクの内容を書き換えるための文字列を入力しながら、ウツギがふと思い出して天龍に聞く。

 

「あれ、そういやどこ行ったあいつ?」

 

「別に良いじゃんあんなキチガイ。ご主人様がここに置く事が今でも理解できないっし?」

 

「お前なぁ......」

 

「誰が基地外だって?」

 

 「ぴゃあっ!?」 気配を消して後ろから声をかけてきた若葉に驚いた漣が、間抜けな声を出して膝を机に強打する。あ、前の俺だ。天龍が以前の会議室での自分を思い出す。

 

「んふ......随分言ってくれる......」

 

「気が狂ってんのは否定しねぇんだな」

 

「気狂い?違うな、若葉は趣味が殺しなだけさ......うふふ」

 

「......いっつも思うケドその顔何よ?」

 

 よほど思い切りぶつけたのか、薄く内出血が起きている膝をさすりながら漣が恨めしそうにピエロ顔の若葉に聞いてみる。

 

「趣味だ」

 

「キモッ」

 

「ふふふ......いや、もっと深い理由を......こっちのほうが落ち着くのさ。肌が紅いのは性に合わん」

 

「............?何言ってんだお前?」

 

 うふふ、と癖である笑い声を漏らしながら、若葉が黒い口紅を塗った口唇をひきつらせて三人に説明する。

 

「肌が白いほうがいいのさ。「昔」がそうだったから」

 

「......深海棲艦に近い見た目だからか。自分とは真逆だな、こんな見た目で良いことがあった試しがない。今だに味方から誤射を食らっていないのが自分でも不思議なぐらいだ」

 

「くくク......」

 

 ......本当に、何を考えているのか理解に苦しむやつだ。友人だとは言ったが向こうがこちらをどう思っているかがわからない。

 溜め息とも深呼吸ともとれる息をはく動作をして、ウツギはまたタイピング作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

襲撃時刻の一時間前。

第五横須賀鎮守府全面に敷かれた防衛ラインに三千人の艦娘が集まる。

数では圧倒的に不利な海軍。

いくら精鋭と言えども、七倍近い敵戦力に勝てる見込みはあるのか。

 

 次回「コンサートマスター」 おはようを始めよう。一秒前は死んだ。




次回から戦闘が続きます。


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コンサートマスター

お待たせしました(もはや定型句)


 

 

『サインズ、配置に着いた』

 

『クローバーナイト展開完了』

 

『了解、アーマイゼ01現在待機中......』

 

『02チェック中......クリアー。装備に異常無し』

 

 

 

 

 

「壮観だな......」

 

「ッスね。すげー数......前の大規模より多いッス」

 

 早朝三時、早朝とは言ったもののほぼ深夜である時間のため、真っ暗な景色が広がる海上。それを艦娘のサーチライトの白色が埋め尽くしていく光景を見てウツギとツユクサが圧倒される。

 元帥直轄の超がつく精鋭部隊が五つ......他、十は下らない他の鎮守府や泊地から来たそれぞれの第一、第二、第三と連なる者をかき集めて3000......。

 今回集められた自分達の味方の数を、ウツギが心の中で復唱していると、ツユクサがゴーグルを額から目元に降ろしながら口を開く。

 

「でもクソッタレどもより少ないッス。勝つけど。」

 

「............。しょうがない。上は発言を鵜呑みにすれば危険だと他にも全国に戦力を分散させていると聞いた。これだけ集まっただけでも御の字だ」

 

 数日前から戦艦棲姫への敵意が体中から滲み出ている、淀んだ空気を纏ったツユクサの発言にウツギが返答する。

 ......とは言え不安に感じるのも事実か。......相手が全て駆逐艦なら楽だが。

 ツユクサとの会話から数十分ほどしてから、「二万」という、なんとも実感が湧かない程の物量で攻めてくる予定の相手へのカウンターとして集められた味方に対してのコメントを、ウツギが考え事をしながら口にする。

 

「......相手は七倍近い物量差。どうも想像つかんな」

 

「一人七匹叩けばすむ話よ」

 

「私と神風さんが先行します。後ろから適当に撃ってください」

 

 ウツギの発言に、アザミとはまた違った無表情で神風とネ級の高雄が、それぞれの得物である刀二本と太刀を手に、淡々とそう口にする。

 

「頼もしいな。貴女らは」

 

「別に。......事前に言った通りよ。私と墨流で道を開く。そこに貴女たちと分隊が合流して中央突破。あのニヤケ面を見つけ次第沈める。それだけ」

 

「時間との勝負です。迅速に動かなければ全方向から相手の増援が殺到するでしょう。それをお忘れなく」

 

「解ってる。フレンドリーファイアの危険は?」

 

「そんなもん気にせず撃ちまくりなさい。当たるやつが悪いのよ」

 

 「んふふ......では遠慮なくやるか......」。避けれない奴が悪い発言にそう返す若葉を尻目に、ウツギは無線で離れた場所にいた......数日前に漣、天龍、球磨、木曾、春雨、時雨の六人で組まれた自分達の第二艦隊、「ガーベラ隊」の漣たちと連絡を取る。

 

「聞こえるか。体調は?」

 

『大丈夫だぜ』

 

『おうよ』

 

『僕は何ともないかな』

 

『問題ないク』

 

『問題ナッシン!これからのドンパチにwktk(ワクテカ)!!』

 

『遮んなクマァ!!』

 

『ははハ......』

 

「......ちゃんと話せ。遊びじゃないんだ」

 

 ピンピンしているのは確かか。......もう少し緊張感を持って欲しいが、まぁ春雨も居る。そこは安心か。

 球磨の応答の邪魔をして妙な単語を並べた返事をぶつけてきた漣に、心の中で苦言を呈しながら、ウツギが今回の作戦の為にと取り寄せた駆逐艦用の対艦ロケットランチャーを担いだとき。

 ウツギには声だけしか今のところは知らない、海軍元帥。その低く威厳のある声とその補佐の艦娘の声が無線越しに聞こえてきた。

 

『熱源反応多数、来ます!』

 

『各艦散開!!一匹たりとも逃すな!!』

 

 時間か。薄く明るんでいる空に視線を向け、ウツギはこの日のために用意したディスクをCPUに挿入し、機械の電源を入れる。

 上手く作動すると良いんだが。

 テスト無しのぶっつけ本番で使う品物に不安を感じながら、ディスクを変更したことで連動して変化した聞きなれたものとは違う機械的なアナウンスをウツギが聞き流す。

 

『セントウシステム......キドウ......』

 

「............敵討(かたきう)ち......か」

 

 無理はするなよ。ツユクサ。ウツギたちシエラ隊と、予定通りに突撃する艦隊が一斉に前進する。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

『......どうも。よろしくお願いします』

 

『なんで今さら敬語なの?普通に喋りなさい』

 

『......解った。神風に高雄......頼りにしている』

 

 時間は三日前の昼に遡る。

 作戦に参加し、尚且つ本人二人自身の要望で第五の部隊に入りたいと上に打診、はるばるやって来たと言う神風と高雄にウツギが挨拶をする。

 わざわざここに来たのは、戦艦棲姫を倒すための助言でもしに来たのだろうか。

 ウツギが久しぶりに会った、目の前で光の無い眼をした着物姿の剣豪に話をしてみる。

 

『どうしてここに来たんだ?』

 

『夕霧を取りに来た。あとツユクサって子。ここに居るんでしょう?言っておきたい事があって』

 

 壁に寄りかかりながら携帯をいじって何かをやっていたツユクサが反応する。

 

『アタシッスか』

 

『田中の事だけど。普通の攻撃は効かないわ。それは知ってる?』

 

『効かない?前にウツギが取り付いた時はうまくいったが?』

 

 効かない......?じゃあ自分がやったときのあれは何だ?。ウツギは、自分が相手の艤装に潜り込みながら火気類の一斉発射を行った時を思い出す。

 すると神風の発言に、それは違うと若葉が入り、神風は無表情を崩さずに切り返した。曰く、「条件が揃ったときにだけ攻撃が通る」らしい。

 

『中からの攻撃でしょう?あなたが随分無茶やったって言うのは聞いたわ。でもそうじゃない。あいつは普通の距離から撃った砲弾を無力化するの。得体の知れないバリアを貼ってね』

 

『......それで近接攻撃という訳か』

 

 発言をしながら、「ヤツを砲撃でツユクサにやらせるにはどうすべきか」をウツギが考える。

 

『砲撃で殺りたいなら、まずは......そうね、あいつを油断させることよ』

 

『油断......』

 

『あいつの艤装は......原理は知らないけど、気を抜いているときは肉質が変化するの。そして障壁も展開されない』

 

 『そして、油断しきったあいつの』。そう言って、一呼吸を置いてから神風が口を開く。

 

『あいつの艤装には前に私が付けた古傷がある。そこを狙いなさい。それ以外に方法は無いわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「.........右も左も敵だな。後ろ、頼む」

 

「応......」

 

 百人ほどの艦娘達の中で、ウツギが、速度を出すためにと駆逐艦「弥生(やよい)」の艤装で今回出撃しているアザミと背中合わせで海上を平行移動しながら、神風と高雄が突貫して開いた道に突っ込み、両肩に担いだ火気類の弾を惜しみ無く、敵が集まり黒くなっている地点に見舞う。

 

「ジャマ......するナ.........!」

 

「受けとれ」

 

「>">\#0+*13~^!!」

 

 っ......いい武器だが弾が少ないな。これは。

 早くも撃ちきったロケット砲を投げ捨て、また別の同じものを担いだウツギが、攻撃を行いながら周囲を眺める。視線の先にはツユクサが居た。

 

「>¥>|¥|--_|)+&&%:@!?」

 

「......うるせぇなァ......ぶっ殺されてェか!!」

 

 ......ツユクサが先に進みすぎか。追わなければ。

 人間の言葉ではない何かを発しながら突っ込んできた相手に、滅茶苦茶に摩耶改二の砲を撃ちまくるツユクサをウツギとアザミが援護する。

 恐ろしいほどの数で殺到してきた砲弾に弄ばれ、原型をとどめずに弾け飛んだ相手に、ツユクサが瞳から炎のような光を発しながら呟く。

 

「]_-:^:,]@,:<:!!」

 

「ちっ......慰めにもなんねぇ......」

 

「足を止めるなよ。その瞬間フクロだ」

 

「わかってるッスよ」

 

 景気よく大量の砲弾やロケットを垂れ流しながら、ウツギが砲撃音に掻き消されないように声を張り上げてツユクサにそう言った時。切羽詰まった声の無線がウツギの耳に届く。

 

『突撃班に通達!すぐ近くに大型の熱源反応を確認!気を付けて下さい!』

 

「......早いな。まだ五分かそこらだぞ」

 

「...............。」

 

「やってやろうじゃねぇか......」

 

 敵の大将が直々にお出迎え......アイツならやりかねないか。

 最新鋭の高威力な武器が効いているのか、目に見えて数が減って行く敵の大群を見ながらウツギが呟く。

 すると数秒後。どういうわけか自分達の近くに群がっていた深海棲艦達が後退していく。「何だ?」と、咄嗟に自分の口から出そうになった発言をウツギが呑み込む。何が起こるかは大体予想が付いたからだ。

 

 

 予想通り。後退していった深海棲艦の軍勢の下の海面から、豪快に水飛沫を挙げて、巨大な艤装に乗った、以前とは違って深海棲艦らしい見た目をした「ヤツ」が出てきた。

 

 

 

Hello(ハロー) human(ヒューマン)♪」

 

 

「.........人間ではないんだがな」

 

「んふふ......面白くなってきた......」

 

 水中から浮上してきた戦艦棲姫の第一声にウツギが皮肉を飛ばし、何処からか合流した若葉が、これまた今回のためにと刀に代わって持ち込んだ十文字槍に近い形状の薙刀(なぎなた)を手に、舌なめずりをする。

 若葉は置いておくとして......流石は手練れの味方。いきなりコイツが出てきて呼吸一つ乱れていない......。

 戦艦棲姫の妙な発言を右から左へ流し、ウツギ他、その場に居た艦娘全員が相手の動きを待たずに砲撃を行う。

 

「みんなげん」

 

 

「撃てえええぇぇぇ!!!!」

 

 

 敵の言葉に上書きする、怒号に近い一人の艦娘に呼応して、他の艦娘達が砲撃を行う......(もっと)も、煙が晴れて出てきたのは傷ひとつ無い戦艦棲姫だったが。

 

「酷いじゃないのぉ~♪人の話は最後まで聞かないと。ね?ツユクサちゃん?」

 

「.........」

 

 呼び掛けられたツユクサは何も答えない。変化があったと言えば眼から発される光が強くなったぐらいだろうか。

 

「あれれ?無視?無視とかひどぃぃ~」

 

「.........」

 

「それにたぁぁっくさん部下の子置いといたのにやられちゃったし」

 

「.........だ」

 

「......ん?何か言った?」

 

 ツユクサの声を聞き取れなかった戦艦棲姫が、わざとらしく右耳に手を当てて耳を澄ます動作をする。

 

 ツユクサは口を開いてこう言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツ ギ ハ   オ マ エ ダ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言うが早いか。全身から赤い光を発しながら、ツユクサは女の元へと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

肉片一つ残らず磨り潰す。

「二人がかり」で機械的に「作業」を行うツユクサをウツギとアザミ、そして若葉が支援する。

が、しかし。ウツギはこの戦いにある違和感を感じ取る。

それは一体何を示すことになるのか。ウツギ達はまだ知らない。

 

 次回「烈火のごとく」 この炎、燃やし尽くすまで止まらない。




戦艦棲姫との第二ラウンド開幕。


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烈火のごとく

二回も全部消すとか(白目


 

 

 

 

 午前4時数分。薄暗い海上は、群れをなす蟻のように集まった深海棲艦と艦娘たちの間に挟まれる怒号と砲声と悲鳴が飛び交っていた。

 突撃部隊とは違って後ろに詰めていた大勢の艦娘たちに紛れて、第五鎮守府の部隊......神風と高雄がシエラ隊に一時的にだが入るため、溢れた六人で組まれた、識別用にと久しぶりに全員が青黒ツートンのウインドブレーカーを着たガーベラ隊の面子が、各自連携を取りながら敵軍に攻撃を行っていた。

 

「'"|}""¥]¥##!!」

 

「やったァ!もういっちょ!!」

 

「ただ突っ込んでくるだけか?お前らの指揮官は無能だな!!」

 

 単艦で体から黒煙を巻き上げながら突進してきた戦艦級の深海棲艦に、漣が連装砲とウツギの物と同じライフルを使って牽制。すかさず木曾がよろけた相手に魚雷を撃ち込んで撃破する。

 撃てば当たるという程に固まって動く相手にまた攻撃を敢行しようと、漣が腰に着けていたライフルの交換用の弾倉を手に持ちながら、味方に呼び掛ける。

 

「みんな生きてるー!?」

 

「ナメんなクマァ!!」

 

「一人で行くなバカちん!」

 

「ンだとぉ!?」

 

「あ、危ないですよ球磨さン!」

 

 おーおーみんな元気いいっすねぇ......まぁ大丈夫っしょこれなら!

 目線の先で勇ましい顔をしながら滅茶苦茶に砲を乱射する球磨を援護する天龍と春雨を見て、調子が出てきた漣が照準すら合わせずに敵の居る方向に重火器を撃ち込む。

 

「お邪魔虫はお呼びじゃないのヨン!」

 

「""|¥]"]"99**¥_¥zz!!??」

 

「漣の本気を見るのです!!」

 

「00-djmp g2mt.@!!!!!」

 

「オヒョオオォォォ!!汚物は消毒だああぁぁい!!」

 

 はん、汚ねぇ花火だ!......一度言ってみたかったんだよねコレ!!

 およそ女性がやってはいけないような表情をしながら、炎上しながら轟沈した敵に奇声を発した漣がそんなことを考える。隣で木曾と時雨が引いていたのは勿論知らない。

 

『突撃班に通達!すぐ近くに大型の熱源反応を確認!気を付けて下さい!』

 

「おっ?」

 

「いよいよ、だね。少し早い気がするけど......」

 

 服のポケットに電源を入れたままにしていた無線機から流れてきた音声に、時雨が呟く。

 

「大丈夫かな。ツユクサのやつ」

 

「景気付けに音楽でも流すかい?」

 

「は?」

 

 足を止めずに砲撃を行いながらに言われた天龍の発言を拾って漣がそう返すと、天龍が攻撃の手を休めずに疑問の声を漏らす。

 そんな天龍の顔をニヤつきながら眺めていた漣が、事前に自分の艤装に強力な接着剤で固定してきたスピーカーのスイッチを入れ、大爆音で音楽を流す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おおわぁっ!?何だぁ!!?」

 

「何かが胸で~♪叫んでるのに~♪」

 

「とめろバカヤロウ!!死にてぇクマ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「嫌よ!」

 

「なんですかこの変な歌ハ!?」

 

 漣の背負っていた艤装から流れてくる大音響のファンファーレとギターの音に、春雨が瞳を光らせながら文句を言う。

 漣が音楽にノリながら返答する。それも音楽に張り合って凄い声量で。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「えぇ~?ハルちゃんジェッダーロボ知らないの?」

 

「知らないですよそんなノ!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 えぇー......なんかショックだわ......とそれはともかく、ツユちゃん大丈夫かな。

 「気でも狂ったんじゃないの......」という時雨の発言を無視し......正確には砲撃の音に匹敵するレベルのバックミュージックに掻き消されて聞こえなかっただけだが、漣はまた砲戦に意識を集中させる。......心なしかこちらに飛んでくる砲弾が増えたような気がしたが気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

《メインシステム・戦闘モード、起動します》

 

 

 ツユクサには懐かしく感じる「彼女」の声のアナウンスが、自分の背負っていた艤装のCPUから聞こえてくる。

 

「おおおオオオォォォ!!!!」

 

「わわわわっ!!ちょっ!?」

 

 絶対にこの場で殺す。

 背負っていた艤装に固定していた「島風」を起動し、ツユクサが海面を蹴って戦艦棲姫の居る方向に跳んでいく。

 そのまま彼女は、瞳の色が尾を引く速度で海面すれすれを滑空しながら右腕に装着した砲を発射、敵が眼前に迫った瞬間に着水し、もう一度跳躍して怪物の脳天目掛けて拳を突き出す。

 しかし事前に神風が言った通りに戦艦棲姫が発動させた「壁」に阻まれ、突撃して放ったツユクサの拳と砲の接射が、金属板に物を当てたような音をたて、何もない空間に火花が散る。

 

「シャラくせぇんだよォ!!潰れろォォ!!」

 

「私も死にたくないからねぇ、許して♪」

 

「ちぃっ!」

 

 怪物の真上に陣取っていたツユクサが、相手に大口径砲の照準を合わされたために、一先ず飛び退り、余裕を見せた戦艦棲姫が口を開く

 

「ふふふ~♪攻撃なんて効かな」

 

「敵はあいつだけじゃないんだぜ」

 

「............!」

 

「わぶっ!?痛いじゃないの!」

 

......と同時にウツギ達が援護で放った砲弾が彼女に着弾する。

 ......?弾かれなかった?これはどういうことだ......。

 不意を突く形になったとはいえ、すんなりと攻撃が通ったことにウツギとアザミが疑問を持つ。がすぐに構えを直して続けて砲撃を行う。

 

「通っタ.........?」

 

「......動きが鈍い......?」

 

「うフふふ......どうでもいいさ......このままやってしまおう」

 

 「適当に後ろで垂れ流してろ」。ウツギにそう言った若葉が薙刀と連装砲を構えてツユクサの居る場所に向かう。

 味方は......成る程。ツユクサ......や、自分達のために他の敵を離してくれているのか。......まぁ敵が多すぎてこっちの援護まで手が回っていないという可能性もあるが。

 がむしゃらに突っ込む二人と格闘している戦艦棲姫に攻撃をしながら、ウツギが一瞬だけ後ろを向いて状況を把握する。

 

「あああぁぁぁ!!!」

 

「そぉんな直線的な動きで当たるわけ」

 

「クく......当たるんだなぁこれが......」

 

「痛っ!!」

 

 鬼のような形相で飛び掛かって、懲りずにまた接射をやろうとしたツユクサの攻撃を見えない壁で防御する戦艦棲姫に、何故かまた若葉の砲撃が防がれずに直撃する。

 

 

 おかしい。なんであいつは壁を出して弾こうとしない。

 

 

 以前に一度戦ったときと行動パターンが違う戦艦棲姫に、ウツギが妙な違和感を感じる。

 ......少し確かめてみるか。

 何かを思い付いたウツギがアザミに指示を飛ばし、砲をスナイパーライフルに持ち換えながら移動する。

 

「アザミ、自分がヤツの右に回る。左に行ってくれ」

 

「......解っタ.........」

 

 ......これが正しければあいつは。 

 ウツギはどことなく笑顔に見える表情を浮かべながら、ライフルの照準を相手に合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ふふフ......解ってきた」

 

「何がッスか!」

 

 両手で数えきれないほどに何も考えずに敵に突っ込み続けていた若葉が、相手が巨体を揺らしながら放ってくる砲弾を避けながら、目元がぼんやりと赤く光っているツユクサに言う。

 

「まだ確証は無い......頼めるか?」

 

「何をだよ!」

 

「若葉が行ったら時間をズラして......「若葉が行ったのと違う方向から突っ込め」。解ったな」

 

 言い終わると同時に若葉が薙刀の切っ先を向けて、直線的な動きで戦艦棲姫に突きを繰り出す。言わずもがな、攻撃はまた透明な壁に阻まれて届かない。

 

「ねぇ~何回目さ?いい加減覚えたら?」

 

「ふフふ......そのハッタリ、いつまで続く?」

 

 

「ウツギ!!」

 

 

 若葉が右を向いてそう発言した瞬間。数秒だが釣られて戦艦棲姫も同じ方向を向き、連動して動く艤装も同じ方向に顔(?)を向ける。視線の先には戦艦棲姫にシールドの先を構えたウツギが居た。

 ウツギは待っていましたとばかりに、女に向けてハープーンを射出する。

 

が、それも見えない壁に防がれて、発射された銛は空中で静止してしまった。続けて跳んできたアザミが放った砲弾も、空気に当たって爆発するだけに終わる。

 

「.........ッ!!」

 

「そ......んな」

 

「チィッ...!」

 

 その結果にウツギは唖然とした顔をし、アザミは珍しく歯を食い縛って不愉快そうな表情を浮かべ、若葉が顔を歪めて舌打ちをする。そんな彼女たちの様子を見た戦艦棲姫は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「え~と、これで何回目だろ。無理だって言うの。もうマグレで当たることなんて無いから♪」

 

「......打つ手は無いのか」

 

 ふふふふ.........困ってる困ってる。まぁ攻撃が何も効かないなんて、そりゃ絶望しても仕方ないよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思っているその隙が命取りだ。

 

 戦艦棲姫は気付いていなかった。若葉とウツギが顔を下に向けてはいるものの、その表情が口角を吊り上げた笑顔だったことに。

 

 

 

「やっと近づけた」

 

 

 

「.........え?」

 

 

 

 何度も突撃を敢行したものの、「壁」 に阻まれて相手に取りつけなかったツユクサが、何故か「壁」をすり抜けそのまま戦艦棲姫の艤装の口に全ての砲門を突っ込み、一斉射を行う。

 攻撃が当たった場所......戦艦棲姫が座っていた怪物の口が爆発し、おびただしい量の黒煙が立ち込め始める。

 やっぱりだ。予想が当たった。あいつは「壁」が出せる方向に制限がある、全面すべてをカバーしきれていない。......どうしてお得意の超スピードで動かないのかはまだ謎だが。

 ウツギが考えていた時。そのままツユクサが戦艦棲姫を素手で殴り始める。

 

「ふん゙ッ!ぐっ......オ゙ォ゙ラァッ!!」

 

「うぐっ...!?がっ!」

 

「ッ......!!」

 

「ひっ、や、やめっ......!?」

 

 肘鉄を顔面に食らわされた戦艦棲姫が鼻血を垂らして倒れ......るのを許さずツユクサが膝で蹴り上げ、強引に女を立たせる。

 すると

 

「ぐっ......このぉ!!」

 

「ッ......」

 

最後の抵抗なのか。戦艦棲姫が乗っていた艤装の腕でツユクサを掴んで放り投げた。が、すぐにツユクサは軽い身のこなしで海面を跳ねながら、艤装の半分が吹き飛ばされたせいなのか壁が出せなくなった女をまた力任せに殴る。

 

「舐めやがってェ!!」

 

「ごっほッ.........」

 

「今のアタシはァ!!テメェを殺すことしか考えられねェ!!」

 

「ぶっ......ぅうぇ.........」

 

 怪物に背中から寄りかかり、戦艦棲姫が顔中を血で濡らした状態で動かなくなる。それを見たツユクサは女から後ずさりをして距離を取ると

 

 

「硬いヤツへのトドメの一撃は......」

 

 

 自分の腕の指をゴキゴキと鳴らしながら拳を握り、腰を深く落とした。

 

「間合いと......」

 

 そして右腕の砲の向きを後方に寄せ振りかぶり

 

「踏み込みとッ......!」

 

 

 

 

 

 

「気合いだああああぁぁぁぁァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 助走をつけて、全力を出した右ストレートが戦艦棲姫の腹を貫通した。

 

 

 

 

 

「.........気は済んだのか」

 

「うん......」

 

 血だらけの戦艦棲姫の前に立っているツユクサにウツギが声をかける。表情はどちらもどことなく暗い。

 敵の大将はやった。あとは残党の処理だけか。ウツギがそう思ったとき

 

 死んだと思っていた戦艦棲姫がケタケタと笑い始めた。

 

「っ......フッフッフッ......」

 

「くけかかはははへははははひほへはは!!!!」

 

「ッテメェ!?まだ生きて!!」

 

 

「愚かだ」

 

 

 突然気味悪く笑いだした女に蹴りをやろうとしたツユクサが、相手の発言で寸でのところでそれを止める。

 

「役目は......果たしました......姫様......」

 

「...............!!?お前一体何を」

 

 ツユクサが何かを言おうとしたとき、ウツギの耳に通信音声が届く。

 

 

 

『突撃班!!すぐに戻ってください!!』

 

 

 

 

 

『二体目の戦艦棲姫が出現しました!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

偽者だった戦艦棲姫。

そして後方に控えていた艦娘たちとガーベラ隊へ

「本物」が研ぎ澄まされた牙で襲いかかる。

攻撃が効かない相手。どう倒せと言うのだ。

 

 次回「自分のために」 嘘で何が悪いか、目の前を染めて広がる。




二回目の全消しをやったときはスマホ割りたくなりました(


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自分のために

来たぜ......5章で一番描きたかったお話でございます。(どうでもいい


 

 

 

 

 

 そういうこと、か。道理で......こんなに呆気なく倒せたわけだ。こいつが影武者だったとは......。

 いつの間にか、砲撃戦の主戦場となっている地点から少し離れた場所に立っていたウツギが、聞こえてきた無線に舌打ちをする。「自分がやったのは敵討ちでもなんでもなかった」ことに逆上したツユクサに、原型がなくなるまで潰された影武者を見ながら、ウツギは急いで漣たちと合流すべきか、と考える。

 

「」

 

「......ふぅぅ、ふうゥゥゥ............」

 

 息を荒くしながら、自分が殺した青い挽き肉を見つめていたツユクサにウツギが呼び掛ける。それと同時に三人を引き連れてそのまま海上を移動し始め、連絡通りに後退する。

 

「漣達が危ない、すぐに退くぞ」

 

「承知......」

 

「くくく、りょーかい」

 

「............」

 

 いつもなら軽口の一つでも飛ばしてくるんだが。......大丈夫だろうか。

 先程の怒り心頭といった表現が適切な顔から、落ち込んだような暗い表情でただ黙って付いてくるツユクサにウツギが不安を感じる。

 

 ......とにかく急ごう。本物の「ヤツ」なら何をしでかすか。検討もつかないし何か恐ろしいことをやらかしてくれそうだ。

 そのまま四人は砲を構えて、ガーベラ隊と合流するために敵の群れへと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「何......あのデカいの......?」

 

「さあ。......でも見るからにヤバそうだ......!」

 

 ウツギ達が無線を聞いて後退を始めた頃。

 突然「空から降ってきた」、戦艦棲姫の従えている怪物の首をもう一本増やしたような双頭の化け物を背後にし、全体的に体が赤く光っている深海棲艦に、ガーベラ隊の全員とその近くに居た艦娘達が横一列になって砲を構えていた。

 

「~♪~~♪」

 

 戦艦棲姫......とはまた何処かが違う外見をしている深海棲艦が、人差し指で手招きをするような動作をして挑発してくる。

 こちらを煽っているのだろうか、と漣が考えていた時。球磨が背中の艤装から伸びた砲門付きのアームを肩に乗せながら口を開いた。

 

「「来いよ」......って言ってるクマ?」

 

「......どちらにせよ強そ」

 

 

「主砲、撃てぇ!!」

 

 

 時雨が何かを言おうとすると、近くに居た艦娘達が砲撃を開始する。

 

「う~ん......取り合えず、やるなら徹底的にやっちまうのね!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 味方の行動に乗じて、ガーベラ隊の面々もそれぞれの火気類を相手のいる方向に撃ち込む。

 ......っと、やってみるけど......多分効いてないよなぁ。漣が神風の言っていた事を思い出して心の中でそう考える。

 想像通り、砲撃の爆煙が晴れると傷ひとつ無い敵が海上に佇んでいた。

 

「やっぱり、堅いですネ」

 

「......どうする?」

 

「.........ッ!?」

 

 一応最低限の回避行動として海上を適当に隊列を組ながら動いていると、時雨が何か驚いたような表情をしていたのを天龍が目にする。

 

「.........どうしたよ?」

 

「天龍、いやみんな」

 

 

「女が居ない......!」

 

 

「!」

 

 時雨の発言を聞いた、先程砲撃開始の合図を出した戦艦の艦娘が、急いで「ヤツ」が何処に行ったのかを探そうと首を動かして回りを見渡す......が、何処をみても普通の深海棲艦しか見当たらない。

 どこに行った、と戦艦が考えていた時。誰かが自分の肩を叩いてくる感触がある。

 

「山城。今は索敵を......」

 

 彼女は初め、肩を叩いてきたのは自分の妹だと思っていた。しかし自分の背後にいて肩を叩いてきたのは妹などではなく

 

 

 非常に気味の悪い満面の笑みを浮かべた「ヤツ」だった。

 

 

 「ヤツ」が右腕で自分に殴りかかって来るのが、戦艦の艦娘の瞳にはビデオのコマ送りのように映る。

 

 

 

 

ばいばい。戦艦ちゃん。

 

 

 

 

 戦艦の艦娘の顔に、そう呟いた「ヤツ」の拳が吸い込まれるように叩き込まれる。戦艦の艦娘の意識はここで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ......今の......?」

 

 首がおかしな方向にねじ曲がり、砲から発射された弾のような速度で、破損した艤装の部品をばら蒔きながら水平線に消えていった味方を見た木曾が、震えた声で言う。

 瞬間移動でもしたのかという動きで艦娘を殴り飛ばした後に距離を離した相手を、いち早く呆けた状態から戻った春雨が砲の照準を合わせて単独で追う。

 

「皆さん援護頼みまス」

 

「春雨、お前一人じゃあ!?」

 

 「無理だ!せめて二人がかりで......」と続いた木曾の言葉を流し、春雨はそのままへらへらとしている憎たらしい表情を浮かべた女の元に散発的攻撃を行いながら接近する。

 戦艦の人があんなになった戦艦棲姫の拳......でも自分ぐらい体が頑丈なら時間稼ぎ位は......!

 

「.........ッ!!」

 

 戦艦棲姫......と仮定した相手の背後に居た怪物の砲撃を受けても少しよろける程度で、得意の頑丈な体による強行突破で女に肉薄した春雨が、自身と同じく頑丈に出来ている自分専用の連装砲で相手を殴り付ける。

 

「これデ......!」

 

 次は手刀をこの人の腹部に...............!?

 手応えがあったためそのまま今度は指で敵の体を抉ろうとしたとき。春雨が目を見開いた。

 

 自分が叩いた相手が違う深海棲艦に刷り変わっていたからだ。

 

「7}\9[^..##!!??」

 

「何処ニ......」

 

 春雨が後ろを向く――――

 

 

「あれれぇ~?どこを狙ったのかなぁ?」

 

 

 前に。突然首に激痛が奔り、脇腹に衝撃を覚えたと思った時には、春雨は木曾や漣達が居た場所に転がっていた。

 全く感知できない速度で背中に回られ、自分がやろうとした手刀を首に一撃。次に回し蹴りを食らって吹っ飛ばされた春雨を球磨が介抱する。

 

「春雨!!くっそぉ!」

 

「あんにゃろぅ!!」

 

 苦痛に顔を歪めている春雨を視界の隅に、漣、天龍、時雨、木曾の他にも、最初に吹き飛ばされた艦娘の部隊員が女に集中砲火を見舞う。が......

 

「クソッ...クソッ、当たんねぇよクソがッ!!」

 

「何なんだいあの動き......!」

 

 フィギュアスケート選手の動きを早送りしたような出鱈目な動きで縦横無尽に海を駆ける女に、砲撃をしていた中で一番練度が高い時雨の精密射撃をもっても攻撃が掠りもせず、発射された砲弾が全て虚しく水平線に消えていく。

 

「~♪~~~♪」

 

「動きが読めない......気持ち悪い...!」

 

 サザンカさんよりも予測がつかない動きなんて......僕に当てられる訳が!

 時雨が自分が全く弾を当てられないことに焦っていたその時。また女の姿が視界から消えた。不味い。そう考えて横を向くと

 

天龍のすぐ隣に女が肩を並べているのを見たため、半ば反射に近い怒声を天龍に飛ばした。

 

「天龍!!危ない!!」

 

「何......ヴぅッ―――!?」

 

 粘ついた笑顔の女に腹を蹴りあげられた天龍が、持っていた武器類全てと艤装の部品を盛大に飛ばしながら宙を舞う。

 

「お゙ォ゙......ぁぁ......」

 

「てんちゃああああぁぁん!!」

 

 親友がだらしなく開けた口から血を流しながら倒れる光景を見た漣が、顔に青筋を浮かべながら天龍を襲った女に突撃する。

 

「てめぇぇぇぇ!!」

 

「ていっ♪」

 

 考えなしに突っ込んでしまったため、回避行動など頭に無かった漣の右肩に、女が拾って投げ付けてきた天龍の刀が刺さる。あまりの激痛と相当な勢いで飛んできた得物のせいで失速してしまった漣は、そのまま頭を女に掴まれて

 

「うわあぅっ!!?」

 

「よいしょ」

 

「は、離せ......このすっとこどっこい......!!」

 

 

「ふうぅぅぅッ!!」

 

 

 背中に強烈な肘鉄を貰う。背負っていた艤装は跡形もなくめちゃめちゃにひしゃげ、使い物にならなくなり、強い衝撃で頭が揺れた漣が気を失って海面に倒れこむ。

 

「がはっ............」

 

「あっまだよ。これをこうして......」

 

「あっ、あいつ何を...?」

 

 倒れた漣を持ち上げた女に、凄く嫌な予感が働いた木曾と時雨が出来る限りの最高の早さで砲を連射するも、やはり相手の動きが速すぎて当たらない。

 気絶した漣の胸ぐらを掴んで、女はそのまま自分の艤装が待機していた場所に放る。

 

 放り投げられた漣に、怪物の大口径の主砲の照準が合わされる。

 

 

「出前一丁入りまぁ~す♪」

 

 

「なっ!」

 

「あぁ......!?......やっ」

 

 

 

 

「やめろおおおおおおおおおおおぉぉぉぉォォォ!!!!」

 

 

 

 

 球磨が叫ぶ。すると

 

 

 彼女の後方から「何か」が投擲され、そのまま「何か」が怪物の主砲に突き刺さり、砲身が詰まった主砲が爆発。砲撃が不発に終わった。

 

「.........おろ?」

 

「えっ」

 

 何が起きた...?

 球磨が、時雨が、木曾が、春雨が、他にも女を標的に砲を向けていた全ての艦娘が後ろを向く。

 

 

 

 真っ白い女が立っていた。

 

 

 

 完全に色素が抜けきったような膝まで届く長髪と、同じく石膏のように白い肌。に、薄く光る赤い瞳。着ている服は戦場には似つかわしくない、演奏団の指揮者のような黒い燕尾服で、背中には九本の棒状の物体を背負い、両手には剣が握られている。

 

 

 

「ん、んん~?なんでかな」

 

 

「なんでここに居るの?装甲空母姫ちゃん?」

 

 

「お久しぶりです。戦艦棲姫.........いえ、そのお姿は戦艦水鬼様」

 

 

「私は「なんでここに来たの」って聞いたんだけど?」

 

 

「なぜ来たか、ですか」

 

 

 

「教えてやるよ」

 

 

 

「サザンカ殿、そして私を温かく迎えてくれた海軍の方々への恩義に酬いるため......」

 

 

「我が命を繋ぎ止めてくれた部下たちの無念のため」

 

 

 

 装甲空母姫が深呼吸をして......目を見開いて宣言する。

 

 

 

 

「お前の野望のための部品だった装甲空母姫は死んだ!!」

 

 

「私は建造番号200000086番、ナンバーはRD(アールディー)......シエラ隊のRD!!」

 

 

「自らの意思で真なる敵、戦艦水鬼を討つ!!そのために!!」

 

 

 

 

「貴様の前に(まか)り出た......剣使いの女だ......!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

本当は......いや、ほんの少し前までは敵だった筈だ。

しかしこいつらは何故か私に親切にする。

この温かさは何だ。この沸き上がる気持ちは何だ。

そして装甲空母姫は決意する。

 

 次回「こころ」 (ひと)と、艦娘(ひと)と、深海棲艦(ひと)と。違いなど無いのかもしれない。

 




描ききったぜ......(燃え尽きた


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こころ

第五章も佳境に入ってきました。


 

 

 

 

 

「うぅ......う?」

 

「ーーーーーー!」

 

 あ、あいつは......クソッタレが......また面倒な敵が増えやがった。俺たちはここで死ぬのか......。

 戦艦水鬼の膝蹴りを貰って血を吐きながらえずいていた天龍が、意識が朦朧としているせいで歪む視界に、ウツギ達から話で聞いていた装甲空母姫の姿を捉える。姫級が二匹、それに立つことすらままならない自分はここで死ぬのだろうな、と思い最後の悪あがきとして運よく一つだけ無事だった砲の狙いを定めようとする......しかし誰かに砲身を手で塞がれた。球磨だった。

 

「て......めぇ...何を」

 

「怪我人は黙ってろクマ」

 

 黙ってろっつったってよ......このままじゃみんな殺されちまう、と思った天龍が怒鳴る......事が出来ずに咳き込みながら呟く。

 

「ふざっ...ゴッホッ!......あいつは敵」

 

「敵じゃない......らしいクマ」

 

 真剣な顔をしてそう言う球磨に圧されて、天龍が視線を装甲空母姫へと向けて口をつぐむ。敵じゃないとはどう言うことだ。そう思ったとき。装甲空母姫と戦艦水鬼が何やら話し出す。

 

 

「え~っと。そりゃ私の敵になるってことでおk?」

 

「............」

 

「無言は肯定、ってやつだね?気にくわないなぁ」

 

 自分の問いに、自分の顔を睨み付けてくるという返答で返された戦艦水鬼が、へらへらした顔から、遊びに飽きた子供のような不機嫌そうな表情に変わる。

 

「んじゃ質問を変えよう。理由は?」

 

「......理由、か」

 

 いつの間にか。気付いたときには戦艦水鬼の周りで砲撃を行う者が艦娘、深海棲艦問わず誰一人居なくなっていた、不自然に静かな空気の中で装甲空母姫が口を開いた。

 

「研究所、と言う場所......貴女が私を殺そうとした場所だ。そこで見つかった貴女が書いたノートを......人間の彼らから拝見した」

 

「んんんん?解んない。なんでそんな機密のカタマリを見せてもらえたのかな?」

 

「......ならばそれも教える」

 

 装甲空母姫が持っていた剣ごと右手を上げて、それを左で持っていた剣でなぞる。

 

シュイン、と包丁を研ぐときのような音が辺りに響き

 

彼女の背後の海面から、次々と軽巡から戦艦までの全てが人型をとっている姿の.........何故か全員が音楽隊の格好をしている深海棲艦が表れ、その場に居た艦娘全員が顔を蒼くする。そして

 

 

「「「「ーーーーーーー」」」」

 

 

浮上してきた深海棲艦たちは艦娘と装甲空母姫に深々と腰を折って礼をする。

 

 

「こ、これって...え?」

 

「何が起きてるのかな......僕の目がおかしくなった?」

 

「時雨さん、私にも見えていますヨ。」

 

 異様な光景に木曾の他にも、意識があったガーベラ隊の五人が口々に意味がわからないという旨の発言をし、他にも訳のわからない状況だと顔で判る程に艦娘達が狼狽(うろた)える。そんな様子を見ながら、装甲空母姫が続ける。

 

「お分かりいただけたか。前から貴女が私と同じく「産廃」と呼んで差別していた......「素材」にしようとしていた者達だ。彼女らを全て味方に付けると言って実行したら快く「機密事項」というものも海軍の人々は教えてくれた」

 

「...へぇ、そうなの......」

 

「「より多くの人間を殺し、そしてより自分が強くなるために最高のコンピュータの素材となる艦娘と深海棲艦を探して殺す」......それが貴女.........貴様の目的だ」

 

「............私には解らない.........なぜ同胞をこうも躊躇(ちゅうちょ)なく殺せるのか」

 

「それに。戦艦水鬼。貴女から教わった事は全て嘘だった。」

 

「虐殺を楽しみに酒を()み、血を見て(おど)り、銃声に歓声を挙げる......そんな人間は居なかった。情報の提供が条件でもたらされたこととはいえ、みな暖かく行き場を失った私を受け入れ、それどころか居場所を作ってくれた」

 

 

「教えろ。戦艦水鬼。貴様のこの戦いの目的は一体」

 

「........................」

 

 

 

 

 

「鼠ってさ。潰すといい声で鳴くよね。知ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「..................何」

 

「あれ、聞こえなかった?だぁかぁらぁ~」

 

「鼠ってぇプチっとやるとぉ~なっさけない声だしてぐちゃぐちゃになるのぉ。もぉたまんない♪」

 

 「まぁ何が言いたいって言うとぉ」。女が嫌みったらしくねっとりと、体をくねらせる腹立たしい動作をしながら発言する。

 

「............」

 

「だぁかぁらぁ~♪」

 

 

「弱いものいじめってさ、(たの)しくない?」

 

 

発言に顔をしかめ、そのまま装甲空母姫が突剣を構えて海面を蹴り、突撃しようとしたとき。戦艦水鬼の言葉に横やりが入る。

 

「いや、わからんなぁ......まったく、そして全然わからん」

 

「あら?」

 

 「いつのまに」。戦艦水鬼が、ガーベラ隊と合流してきたシエラ隊の、会話に割り込んできた若葉の方を向く。傍らには勿論ウツギ達も居た。

 

「......どういう状況だこれは。どれを狙えばいい?」

 

「ウッちゃん。とりあえず白い方とオシャレな方は敵じゃないみたいクマ」

 

「そうか」

 

 状況がよくわかっていなかったが、天龍と同じく球磨からの言葉で一先ずウツギが照準を装甲空母姫から戦艦水鬼にずらす。

 懐から瓶入りの白い顔料を取り出し、それを掌に出してそのままそれを顔に塗ったくりながら、若葉が言う。

 

「この若葉が望むのは一対一の、互いの生死を賭けた、紙一重でギリギリの殺し()いよ......そんじょそこらの雑魚一匹磨り潰して満足するほど単純じゃあないんだ......」

 

「弱いものいじめして楽しいのか......滑稽(こっけい)だねぇ......哀れだねぇ......クッ...うふフふ......♪」

 

「あららら。てっきり戦闘狂らしいサザンカちゃんなら解ってくれると思ってたのになぁ。......じゃ、」

 

「とりあえずこの子は消すってことで?」

 

 戦艦水鬼が自分の艤装の前に倒れていた漣に、残っていた砲で止めを刺そうとする。......が、漣が見当たらない。「あれっ?」。そう言って視線を装甲空母姫達の軍勢に戻すと、一人の潜水艦の深海棲艦が気絶した漣を抱えて浮上してきたのが見えた。

 

「回収しました。お連れの方で御座いますね?」

 

「え......おっ、おう......」

 

 自分の足元から現れた長い髪の毛で顔の半分が隠れている女から、おっかなびっくりといった態度で木曾が漣を抱き抱える。

 ......とりあえず。装甲空母姫と共同で戦艦棲姫をやればいいのか。その場の空気でなんとなくそうすべきと判断したウツギが、不機嫌そうに貧乏ゆすりをしている戦艦水鬼を見ながらCPUのスイッチを入れる。

 

「それに、だよ」

 

 若葉が白い顔に笑顔を浮かべながら敵に啖呵を切る。

 

 

「艦娘になってから、若葉が必ずやってきたことがある」

 

 

「「友達の敵」は「やっつける」って。ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん......?」

 

「目ぇ覚めたか?」

 

「あ......木曾っち......」

 

 えーと......あんにゃろうに肘入れられて気絶して......そっから記憶がないっすねぇ.........。つかどこですかねここは。

 木曾に肩を貸されている状態で海の上を滑っていた漣が目を覚まし、辺りを見回す。そこには自分と同じ格好で春雨に担がれている天龍と、三匹の深海棲艦が仲良く自分達と並走しているのが見えた。

 

「わっ、深海魚!?」

 

「深海魚ってなんだよ......。こいつら敵じゃねぇよ。全部味方だ。......俺も訳わかんねぇけどよ」

 

「んぇ?どゆこと?」

 

 先程まで気絶していたとは思えないような元気な声で、漣は担がれたまま喋った天龍に疑問の声をかける。よく見れば何故か春雨を入れない三匹は、装飾の施された演奏団のような服装なのが気になったが考えを後にする。

 

「わかんねえっつっただろーよ。敵じゃない。これだけでジューブンだろ」

 

「んん......ウッチー達は?」

 

「戦艦水鬼と戦うために残りましタ」

 

「ええぇ!?すぐ戻って」

 

「その怪我でよく言う。艦娘とは無鉄砲な生き物なのか?」

 

「はぁ!?ナニヨ!?」

 

 援護に戻ろう、と口走った漣が、近くで彼女の護衛をしていた黄色い目をした深海棲艦に嗜められてしまう。

 

「あんな化け物相手じゃウッチー死んじゃ」

 

「その化け物に突っかかって殺されかけたろ」

 

「天ちゃん、でも......!」

 

「違うやり方、というものもあるでしょうに。貴女たちにも出来ることが」

 

「どうしろと?」

 

「言わなければ解らないので?............仲間のために祈る。それで充分でしょう?」

 

 ......こいつも腹立つなぁ。でも言い返せない!くやしいでもかん(ry

 妙な事を考えながらも、漣が、先程発言したのとは違う深海棲艦の......どことなく嫌味を含んだ敬語に耳を傾ける。すると、自分に肩を貸していた木曾が指を組んで目を瞑って。早速祈り始めた。

 

「......何やってんだ?」

 

「何って、ウツギとかアザミのために祈ってんだよ。わりーのかよ」

 

「なんか木曾っちが女の子っぽいとこ初めて見たかも」

 

「失礼なやつだな......」

 

 

 .........帰ってきてね。ウッチーにあっちゃんにツユちゃんに......あと気に食わないけど若葉も。

 明るくなっている空を見上げながら、漣も目を瞑って祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ウツギ、アザミ、ツユクサ、若葉、球磨、時雨、装甲空母姫。

相対するは戦艦水鬼。7対1という変則デスマッチ。

常軌を逸した機動と苛烈な一撃を見舞う相手。

これを討ち取ったとき。初めてツユクサの復讐は終わる。

 

 次回「地獄でなぜ悪い」 ただ地獄を進むものが、悲しい記憶に勝つ。

 




5章 残り2話(予定


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地獄でなぜ悪い

お待たせしました。


 

 

 

『テキ、ハイゴ』

 

「ふッ!!」

 

「おぉっ!?スゴいスゴい!!ちゃんとついてきてるじゃん!!」

 

「............!」

 

 ......オペレーションディスクを交換して良かった、ということか。......じゃなきゃあ自分は今頃挽き肉だ、が、しかし状況が良いって訳でもない......。自分の体力が尽きるのが先になるな。

 

 考える時間さえあればそんな事を思っていたであろうウツギが、喧しい音量で鳴るCPUの警告アナウンスを頼りに、何度目かわからなくなるほどに自分の背後から来る戦艦水鬼の拳を盾と手斧を駆使して弾き返して、受け身を取りながら後ろに飛ばされる。

 

「ふふふ......♪。どこまでもつかな?すぐにバイバイしてあげるよ♪」

 

「余所見とはッ!」

 

「よそみぃ?違うねぇ余裕だよ」

 

 相手の馬鹿力に吹き飛ばされながら砲撃をするウツギの背後から、装甲空母姫が戦艦水鬼に振りかぶって斬りかかる。が、それも難なく交わされた挙げ句、女は装甲空母姫の剣を掴んで宙を舞いながら、彼女を殴り飛ばす。

 

「ていっ♪!」

 

「ぶっぐぅぅ!?」

 

 顎に強烈な一撃を受けた装甲空母姫が吐血しながら海面を転がり......それを眺めていた戦艦水鬼に砲撃が命中する。撃ったのはツユクサだ。更に反対側に居たアザミ、二人を両手にする位置に陣取った若葉が十字砲火を行い、邪魔にならないようにとウツギが急いで後ろに下がって砲撃に参加する。

 

「動きが止まってんぞォ!!」

 

 「死ねぇ!!」というツユクサの怒号が聞こえてくる。

 まぁ......当たらないだろうな。内心そう思っては居たが牽制にはなるかとウツギがライフルと砲のダブルトリガーで弾幕を張る。

 予想通り、女は海面から飛び上がり......どういう理屈なのか、空中で訳のわからない動きをしながら砲撃を全て受け流すか弾くかの動作で乗りきり、しかもそのままツユクサの居た場所に文字通り「降ってきた」。

 

「ひゃっほーい!!」

 

「艦娘、受けとれッ」

 

「サンキュっ......!」

 

 狂った笑みを浮かべて空から降ってきた女に相対するツユクサに、装甲空母姫が背負っていた剣の一本を投げて渡し、ツユクサがそれで相手の殺人拳を受け止める。拳と剣が接触した瞬間、激しく火花が散った。

 

『損傷15%......出力低下に注意してください』

 

「あれ、使ってるんだそれ?」

 

 ツユクサの背中に見えた白い機械を見た戦艦水鬼が言う。

 

「使って......何が悪い!!」

 

「ふーん、それってさ......やってることは私と同じだぁね?」

 

「あぁそうだよ!!!!」

 

「んおっ!?とと、ちょっと意外」

 

 挑発に乗って怒るかと思いきや、逆に開き直って砲の狙いを定めてきたツユクサから戦艦水鬼が急いで飛び退るが、避けきれずに何発かの砲弾が女の顔に当たる。

 

 ――このまま押し込んでぶっ殺す!!――

 

 装甲空母姫から「艤装から離れている時は壁が出せない」と聞いていたツユクサが、明らかに焦った顔をしていた戦艦水鬼に今度は剣を鞘から抜いて斬りかかる

 

「うふふ、」

 

「後ろにご注......」

 

「知ってるよ」

 

 前に、女に背をむけて後ろに振り返ったツユクサが、どこからか飛んできた砲弾を撃ち落とし、また振り替えって戦艦水鬼と相対する。相手は目を見開いていて、顔には脂汗が浮かんでいた。

 

「うっそぉ......?」

 

「不意打ちなんて効かねぇッスよ」

 

 ツユクサは満面の笑みを浮かべながら、自分の艤装が撃った砲弾を撃ち落とされて唖然としている女に、再度斬りかかる。

 

「手加減なんて」

 

 

「出来ね」

 

「ツユクサ避けろォォォ!!!!」

 

「は?」

 

 

 これで全てが終わるんだ。そう思ったツユクサがウツギの叫び声を聞き横を向く。

 

そして背中に鈍い痛みが走ったと同時に。

 

ツユクサの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「は......は、は」

 

「やっ」

 

「貴様ああああぁぁぁぁ!!!!」

 

 海面に倒れたツユクサを尻目に、彼女を水中から飛び出して背中から襲った、体中から血を流し満身創痍となっている深海棲艦に装甲空母姫が両手の剣で突きと袈裟斬りを同時に見舞う。

 

「がふっ......ふふ......はは」

 

「っ、艦娘、大丈夫か?」

 

「...............」

 

 ツユクサに心配そうに呼び掛ける、が、返答がない。

 

「水鬼様ばんざぁぁぁい!!」

 

「うっ......!?」

 

 数秒ほどでツユクサを攻撃した深海棲艦の撫で斬りにし、倒れたツユクサを抱えようとしたとき。装甲空母姫がさらに水中から這い出てきた深海棲艦達に囲まれる。

 

「ちいっ......貴様ら、何故だ!」

 

「ふへっ...ほへひははははふほは!!」

 

「何故?何が!?」

 

 目の焦点が合っていない深海棲艦達を相手に、装甲空母姫は彼女たちに剣が急所に当たらないようにしながら、怒鳴り声に近い声で質問を投げ掛ける。

 

「何故だ、あいつは!!お前たちを死んでもいい生き物だと思っているんだぞ!?」

 

「だから?」

 

「ッ!?替えのいい部品扱いされて、何も思わないのか!!」

 

「がっ......ふひっひひ!!」

 

 狂っている。あいつも、あいつの部下のこいつらも。

 要領を得ない受け答えをして壊れたように笑う狂人たちに手加減するのをやめ、女たちを切り刻みながら装甲空母姫が叫ぶ。

 

「ばんざぁぁ......」

 

 

「ばかやろおおおおぉぉぉぁぉ!!!!」

 

 

「そうやって自分の命すら大切に出来ないからっ!!誰の命でも平気で奪えるのか!!」

 

「この命、戦艦水鬼様のために!!」

 

「ぐぅっ......!?」

 

 両腕を欠損した女の体当たりを受けて少しよろけた装甲空母姫が、突っ込んできた深海棲艦を投げ飛ばし、怒りで瞳を真っ赤に輝かせながら滅茶苦茶に暴れ始める。

 

「貴様ら.........ッ」

 

「なんで、なんで平気そうに自殺できる?「死ね」と命令されて死ねる?お前らは殺されるために生きているのか?そんな地獄があってたまるか!!」

 

「地獄でなぜ悪い?」

 

 相手にしていた深海棲艦の一匹が言ったその言葉に。何かが切れた装甲空母姫が出せる限りの声量で叫んだ。

 

 

「死を強いる指導者のどこに真実がある!!?」

 

 

 

 

「寝言を言うなあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツユクサ!」

 

『テキ、サゲン』

 

「おっほほ~い♪」

 

「!!」

 

 さっきまで焦ってたクセに......調子の良い女だ。にしても。レ級と殴りあった経験が活きてくるな......ほんの少しだが目が慣れてきた。

 一瞬で左に来て笑い声をあげて自分の脇腹を蹴ってきた戦艦水鬼に、ウツギが二枚に重ねた斧で女の足を抑えながら心の中で悪態をつく。

 

「いやぁ、持つべきものはいい部下だねぇ」

 

「ただの捨て駒だろう」

 

「そうだけど?」

 

 ..................。こいつは人間の......深海棲艦のクズだな。

 ウツギが相手を睨みながらそう思っているうちに、アザミと若葉が、いきなり沸いて出てきた敵の壁を突破してウツギに加勢する。

 戦艦水鬼は鬱陶しそうにアザミの砲撃を避けもせずに受け止め、嬉々として薙刀を片手に飛んできた若葉の得物の刃を素手で掴む。

 

「あ、あ~。神風ちゃんの受け売り?」

 

「ほう、わかるのか」

 

「この「引いて斬る」動作......あの子そっ」

 

 

「喋ってる暇があったら手を動かす事ね」

 

「馬鹿め......と言って差し上げますわ」

 

 

 右と左から聞こえてきた声に。戦艦水鬼がツユクサに斬られかかった時以上の汗を顔に浮かべる。

 声の主である......仕事であった敵を引き付ける役目を終えたのか、ウツギたちに合流した神風と高雄に戦艦水鬼が太刀と赤い刀で体を貫かれ、腹と肩から青い血が流れ落ちる。

 

「ずっとこの時を待ってたわ。心中してでも殺してやる。「田中 恵」」

 

「ごほっ......ほふ...フフフフ......!」

 

「っ、まだ動けるなんてね」

 

 体を二ヶ所貫かれ血を吐きながらでも殴りかかってきた戦艦水鬼から二人が距離を取る。

 神風は短刀と夕霧を構えて女に体を横にして向き直り、高雄は自分の身長ほどある太刀で八相の構え。若葉は神風から教わった正眼の構えを薙刀で形作り、アザミはその後ろで砲撃の準備、ウツギは武術など知らないので斧を適当に構え、空いた手に砲を持って戦艦水鬼と相対する。

 

「ははは......ひゃぁぁははは!!砲撃で消し飛ばして」

 

「艤装のこと?もう壊したけど」

 

 血まみれになりながらそう宣う戦艦水鬼に、神風がそう告げる。ウツギがその言葉に少し戦艦水鬼の背後に視線を向けると、かなり離れた場所で黒い煙が挙がっているのが見えた。

 

「終わりよ。あんたは」

 

「.........」

 

 

「!!」

 

 

 目を見開きながら戦艦水鬼が海面を蹴って跳躍する。

 あいつ一体何を?

 俯いた状態からいきなり狂ったような笑顔を浮かべて、何処かへ飛んでいった戦艦水鬼を、さっきまで囲んでいた全員が追いかける。先にあったのは

 

倒れていたツユクサの体だ。

 

「まず一人」

 

 

「とぉどめえええぇぇぇ!!」

 

 

 倒れていたツユクサの背中に戦艦水鬼は拳を叩き込もうとする。全速力でウツギがそれを止めようとするが追い付きそうになく、親友の体が素手でめちゃめちゃにされるのを目にするのが恐ろしくなり、咄嗟に目をつぶる。

 

 

 

「はぁはははは!!死体蹴りだぁぁぁ!!」

 

「何勝手に殺してんスか」

 

 戦艦水鬼の腕が、水面に突っ伏したままのツユクサに後ろ手で掴まれ失速する。

 

「生きてるぜ。アタシはよぅ?」

 

「な、何で生きて!?」

 

 戦艦水鬼の腕を掴んだままツユクサは水面から起き上がると、そのまま女の腕を掴んだ手で捻りながら戦艦水鬼に正面に向かい合わせになる。女から見たツユクサは、あらゆる感情を削ぎ落としたような無表情だったが、何故かとても恐ろしい表情に見えた。

 腕をネジ切られそうになり苦痛に顔を歪める戦艦水鬼に、ツユクサが口を開いて呟く。

 

「うっがぁっ......!?」

 

「いっちょ」

 

 

「殴らせろや」

 

 

 ツユクサが思い切り振りかぶり、全身のバネで女をぶん殴る。掴んだままだった腕がぶちぶちと千切れ、片腕が無くなった戦艦水鬼が吹き飛ばされる。

 

「ツユクサ......」

 

「ッス!ウツギ!」

 

「このっ!」

 

「びゃっ!?」

 

 ツユクサの元に駆け付けたウツギが、彼女の頭を軽く叩き「いきなりなんスか!?」と怒鳴られて答える。

 

「生きてるなら返事ぐらいしろ!......良かった......!」

 

「へへへ......しーちゃんが最後に守ってくれたッス」

 

 ウツギが、そう言うツユクサの背中を見る。背負った艤装の丁度中央に取り付けていたCPUが大きく凹んでいるのを見て、これがたまたま衝撃を吸収したのだろうと結論付けた。

 二人から離れた場所で、数秒前にツユクサに手痛い一撃を貰い、海面を転がった戦艦水鬼が負傷の影響で咳き込みながら、残った手を支えにして立とうとしながら言う。

 

「はぁ.........はぁ.........味方は何を」

 

「私が全て片付けたよ」

 

 よろけながら立ち上がり助けが来ないことに悪態をつく戦艦水鬼に軽巡級の深海棲艦の切れ端が投げられてきた。飛んできた方向には傷だらけの装甲空母姫が立っている。

 

「助けなんて期待しないことだ。他は全て私の部下と艦娘達が抑えている」

 

「......役にたたないガラクタ共があっ...!!」

 

「ガラクタ?違うな。皆立派に戦った。主義主張こそ狂っているが覚悟は本物」

 

「うがぁぁぁぁ!!」

 

「............」

 

 

 所詮は獣か。人の言葉も解さん怪物だ。.........今まで自分はこれに従ってきたのか。

 咆哮のような叫び声を挙げる戦艦水鬼に装甲空母姫が剣を構えて備える。......が彼女が向かったのは、ウツギとツユクサの二人が固まっている方向だった。

 

「一番弱いやつから道連れにぃぃぃ!!」

 

「.........!!」

 

 動きが追える

 

 見切った。

 

 ウツギは相も変わらず猛スピードで突っ込んできた戦艦水鬼が、「自分の目の前」まで近づいたとき。右足を軸にして体当たりを交わした瞬間に自分の左足の膝を突き出して女の腹に当てた。

 

「ヴぅぅおぉぉ゙ッ」

 

「ぐっ.........」

 

 ウツギは強引に女の動きを止めることに成功するものの、恐ろしい勢いで突っ込んできた物体を抑えた影響で骨にひびが入った自分の膝から伝わる鈍痛に顔をしかめる。

 

そして

 

 

「球磨!!時雨!!」

 

 

ウツギの声に呼応するように何処からともなく飛んできた砲弾が顔に当たった戦艦水鬼に、更にこれまた何処からか発射されたワイヤーが絡み付く。やったのは、強引に敵を掻き分けてきたせいで肩で息をするほど疲労してはいるものの、得意気に笑みを浮かべる球磨と時雨だ。

 

「直撃とったクマァ!」

 

「僕を忘れたのかい?」

 

「ぐっ......うううう!!」

 

 ワイヤーでがんじがらめにされた戦艦水鬼が、自分を拘束したそれをほどこうとするも、ツユクサ、球磨、アザミの三人に体を押さえ付けられ身動きが取れなくなる。

 

「きっ、貴様らァ!!」

 

「離さねぇぞォ!!」

 

「大人しく......しロ......」

 

「クマァ!!」

 

 そこに、装甲空母姫と神風、高雄、最後に若葉の、全員が何か刃物を持っている艦娘が集まり、各々の得物で戦艦水鬼を刺殺せんと走って来る。

 

「終わりだ......」

 

「死んで」

 

「大人しくなさい」

 

「終わりか......うふふふ、楽しかったよ」

 

 青い血飛沫が飛び散り、女を囲っていた全員にそれが掛かる。

 四ヶ所......先程の傷も含めれば六ヶ所刺された戦艦水鬼は、まだ持ち前のしぶとさで残っていた意識でこの場にウツギだけが居ないことに気づく。

 

 

 

 

「ばいばい、と言ったな。少し前に」

 

 

「そっくりそのままお返しだ」

 

 

 

装甲空母姫たちに刺される前に。海中に潜ってハープーンを構えたウツギが、自分の真上に居る戦艦水鬼に......片側だけの口角を吊り上げたニヤリとした表情で、相手に聞こえるわけが無かったが言う。

そして相手が四人に刺されたのを確認して、ゆっくりと銛の引き金を引いた。

 

 

 

 

『テキ、チョクジョウ』

 

 

「BYE-BYE。戦艦水鬼♪」

 

 

 

駄目出しに撃たれた銛で股下から頭までを一直線に貫かれた戦艦水鬼は、今度こそ絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

夢を見た。

作戦が終わった後。ツユクサがそう呟いてきた。

その声に耳を傾けるウツギは何を思う。

そして冬に突入する第五鎮守府。彼ら彼女らを待ち受けるものとは。

 

 次回「友達なら当たり前の」。 また会う日まで、少しのお別れ。

 




決着ついたぁ~。駆け足気味だったけど大丈夫かな......


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友達なら当たり前の

最終話(五章の)


 戦艦水鬼撃破後。彼女が率いていた深海棲艦たちの残党を処理するのに合計で三日間費やされた迎撃戦が終わり、疲れきった体を引き()って。シエラ隊とガーベラ隊は、無事に誰一人欠けることなく鎮守府へと帰ることができていた。

 作戦終わりから数えて二日の朝。帰投したメンバーのうち、ウツギとツユクサが深尾の車を使って勝手に出掛けようとしていた。因みに運転は研究所に居たときに渡に無理矢理免許を取らされたウツギがやることになった。

 遠出するためと飲み物と軽い朝食を持ち込んだ二人が、荷物の確認をしながら適当に会話をする。

 

「飯は......あるな。忘れ物は?」

 

「無いッスよッ......!?っいててて......」

 

「気を付けろ。傷、治ってないんだろ」

 

 戦艦水鬼を倒した後も補給と出撃を繰り返し、修復材が切れてしまったため腕の骨折がそのままになっている、左腕をギプスで吊っているツユクサを心配して、自分も顔の何ヵ所かにガーゼを貼っているウツギがそう言う。

 

 

 車を発進させて三十分ほど経ったとき。スポーツカーなんて運転するのは初めてだな、等とどうでもいい事をウツギが考えていると、助手席のツユクサが話し掛けてくる。

 

「カッコいいッスけど、変だよねコレ」

 

「......?なんのことだ?」

 

「この車ッス。なんか後ろ乗れなくなってるし......」

 

 普通の乗用車と違う、体に合わせた形になっているシートに、計器類の上にポン付けされたメーター三つ、極めつけは本来は四人乗りの車の後部座席に網の目のように張り巡らされた謎の水色の鉄パイプを見ながらツユクサが疑問を口にする。

 

「なんで後ろに鉄骨なんて組んでるんスかね」

 

「さあ?ただ前に深尾が『俺のR32はレース仕様だ!』って自慢してきたことはあったけど」

 

 それと関係しているのだろうか。と、内装以外にも、やけに角ばってゴツゴツした形状の部品で飾ってある......R32という名前らしいこの車についてウツギが考える。

 ふと、信号待ちの時間に自分の足元にあった荷物を見て、ウツギが話題を吹っ掛ける。

 

「......墓参り、か。なんで二人だけって限定なんだ」

 

「恥ずかしくて...」

 

「...?恥ずかしい?」

 

「こんなことするの初めてッスから。他のやつに知られたらからかわれないかな~みたいな」

 

「じゃあなんで私に声をかけた。と言うよりアザミとかならそんなことしないだろ。あと天龍」

 

「免許持ってんのウツギだけじゃないスか」

 

「打算的だな」

 

「悪いッスか?」

 

「別に」

 

 一丁前に、こいつも羞恥心(しゅうちしん)なんて有るんだな。......いつも漣とかとハチャメチャに暴れているものだから無いのかと思っていたけど。やっぱり島風と戦艦水鬼絡みの事の影響か。

 高速道路の料金所で自分の顔色の悪さに驚いたのか、少し顔をひきつらせていた職員に支払いを済ませ、そんなことを考えていたとき。「なんでこの車にETCが無いんだ」とウツギが文句を垂れると、ツユクサが口を開く。

 

「......あいつの部下に背中を撃たれた時なんスけど」

 

「うん?......あぁ、うん」

 

「...夢を見たッス」

 

「夢?」

 

 たまに自分も見る暁との会話のような物の話だろうか。大体の憶測を付けたウツギが一瞬だけ目だけをツユクサに向け、運転のためにまた目線を前に戻して彼女の話を聞く。

 

「その......笑わないッスか?」

 

「何で笑う。続けろ」

 

「.........しーちゃ......島風に合ったッス」

 

 予想が当たったか。ウツギがそう思っていることは知らずにツユクサが続ける。

 

「なんか...リンゴみたいな匂いの花が咲いてて、ちょっと歩いたらなんか光ってる場所があって......で、そこまで歩いたら横に島風が立ってたッス」

 

(リンゴに似た香りの花......カモミールか)

 

「そうしたら......「どこに行くの?」って言われたッス」

 

「何て答えたんだ」

 

「しーちゃんの行くとこならどこでもっ、て。.........久し振りにお喋りしたり競争したりしたいな、なんて......」

 

「...............」

 

「でもしーちゃんはこう言って来たッス。「私任せじゃなくて自分で決めなよ。私と違ってツユクサにはまだ待ってる人が居るんでしょ、だから早く」って」

 

「それで」

 

「ウツギたちの所に行くっつったら目が覚めて......後ろにあいつが居たからぶちのめしたッス!」

 

 ツユクサが言い終わった時には車は森の中を走っていた。ウツギは看板の表示に従って細い路地に車を進める。程なくして少し木々が開けた場所に到着する。

 

「着いたぞ。看板に艦娘団体霊園の文字......間違いない」

 

「ッス。あんがと」

 

「気にするな。どうせ暇だったんだ」

 

 車に積んでいた紙袋をそれぞれ一つずつ持って、二人は車を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「広いッスね」

 

「当たり前だ。戦死した艦娘で研究用に解剖する提供された遺体以外は全部ここに眠ってるんだ。それに艦娘以外の普通の霊園としても使ってるらしい」

 

「ふ~ん。......綺麗だな」

 

 不謹慎だぞ、と言おうと思ったが、実際広々とした霊園の景色は手入れの行き届いた樹林が青々としていて、かなり景観が良く、自身もそう思ってしまったウツギが口をつぐむ。

 数分ほど墓地を彷徨(うろつ)き、やっと目当ての、かなり大きな小豆色(あずきいろ)の磨き抜かれた墓石が使われた、大きさのせいで墓と言うよりも慰霊碑(いれいひ)のような墓を見つけ、二人がその前に立つ。

 

「佐世保鎮守府・艦娘之墓......ね」

 

「これか。しかし大きいな」

 

 墓石の両端に設置された表面が黒く塗ってある花崗岩(かこうがん)の板に、いくつか連なって彫られている艦娘の名前の中に「島風」の二文字の彫刻を確認して、ツユクサは紙袋を地面に置いて中から花束を取り出す。

 

「よっ......と」

 

「何の花を持って来たんだ?」

 

「ガーベラっス。冬の仏華(ぶっか)らしいッスから」

 

「わざわざ調べたのか。珍しい......」

 

「失礼ッスね、それぐらい考えるわ」

 

 橙色(だいだいいろ)、白、桃色、紫といった色が集まった花束を、ツユクサがウツギの発言にそう反論しながら墓に備え付けてあった花瓶に挿す。

 

 そしてそのまま二人は両手を合わせて黙祷(もくとう)をする。

 

 計測すれば二分にも満たない時間だったが、ウツギには、目をつぶっているこの時間がやけに長く感じた。

 

 

「.....................」

 

「......帰るか。」

 

「うん」

 

 二人がもと来た道を戻って駐車場に行こうと身を翻したその瞬間。「やべっ!?」と誰かの声が確かに耳に入る。この声は......

 

「...え?......今の」

 

「!!」

 

「あっ、ちょっと!?」

 

 声が聞こえた方向に向かって、ウツギは空の紙袋を両手に走っていく。後ろでは地面に敷かれた砂利に何かがぶつかる音と「痛ってぇぇ!!」という悲痛な叫びが聞こえてきたが無視して、速度を緩めずにそのまま走る。

 角に合った墓を曲がった場所に居たのは

 

 

「............」

 

「あっ.........て、てへぺろ☆?」

 

「......はぁ......ツけられてたのか」

 

「えへへ......ご主人様たちも居るヨン?」

 

 だろうな。

 大きな墓石の陰で(かたわ)らに松葉杖を置いてしゃがんでいた人物......漣を見つけたウツギが溜め息をついて、少し離れた場所でも隠れていた自分の上司や戦友達の姿を見てそう溢す。

 さて。......勝手に車を使ったことにどう言い訳をしようか。一日前は全員が疲労困憊(ひろうこんぱい)といった様子だったので午前中に戻れば大丈夫だろう、と軽く考えていたウツギが弁論のネタを考えていると、此方に歩いてきた深尾が口を開いた。

 

「どう言い訳しようかって顔してるな」

 

「出てたか?」

 

「いや適当に言っただけだ。安心していい、別に叱りに来たんじゃないんだ。俺の車でバカンスでも行ってたんなら話は別だったがな」

 

「墓参りだからいいと?」

 

「おう」

 

「いいのか。こんなに優しくして......」

 

 ウツギが少しばつが悪そうにそう言うと、深尾は優しそうな笑顔で言い返した。

 

「良いんだ。いつも仕事頑張ってくれてるじゃないか。正直あそこまでハードワークなお前ならバカンスでも許してたかもな」

 

 「少しくらいヤンチャしたって構わないさ」。深尾がそう言ったとき、先程転んで怪我をしている部分を打って痛みにのたうち回っていたツユクサがウツギの後ろに来る。更に今度は深尾の背後に、アザミ、天龍、球磨、木曾、明石、若葉......と続々と集まり、季節も相まって殆ど人が居なかった霊園がほんの少し騒がしくなる。

 

「ウツ」

 

「ストップだ時雨。静かだ。静かに言え。ここは墓場だ」

 

「.........!...ウツギさん、なんでツユクサと二人だけで行ったんだい?」

 

「ツユクサ、出番だ」

 

「えっ!?......いや、その......なんか恥ずかしくて」

 

 「はぁ?」。その場に居た人間の半数ほどがそう言う。ウツギの予想通り、「ツユクサが墓参りなんて変だ」等と笑う者は皆無だった。天龍の「何が恥ずかしいんだよ」という言葉にツユクサが返す。

 

「いや、ガラでもない事やってっから笑われないかな~と思って......」

 

「ふん」

 

「あだっ!何すんだ若葉!」

 

 ギプスで固定されたツユクサの腕を軽く叩いて、若葉が周りにいた漣や田代といった面々を見ながら発言する。

 

「お前も大概バカだな。バカもバカのオオマヌケだこのバカチン」

 

「ンだと!?」

 

「何が笑われるだ。そっちのほうが笑えるぜ。ナァお前ら?......ンフふふ♪」

 

 若葉の発言に、ウツギとツユクサを除いた全員が深く頷き、天龍がツユクサに向けて口を開いた。

 

「誰も笑うわけねーじゃねーかよ。つか笑ったやつはブッ飛ばすわ」

 

「うン......」

 

「そうヨ!だってさ、ツユちゃんと私達ってさ」

 

 

「友達じゃん?」

 

 

「相手に最低限の礼儀ってモンを尽くすのは友達なら当たり前のことっしょ!」

 

 

 漣の発言にツユクサが涙を流し始める。

 

「......ぅ...」

 

「あぁ!?ツっ、ツユクサさん大丈夫すか!傷が開いた!?鎌田先輩!!」

 

「いえ聡さんそれは違うと思いますが......」

 

「っ......ッス。タッシーアタシは大丈夫ッスよ」

 

「やーいやーい漣が泣かせた」

 

「えぇ!?しぐっちそれ酷くない!?」

 

 ツユクサが泣き出したのを切っ掛けに、どっと......まではいかないが場が賑やかになる。それを見ていたアザミが毒を吐き、そんな彼女の隣にウツギが来て喋る。

 

「......どいつも......馬鹿......」

 

「だな......でも悪くないと思う。こういう空気」

 

「............」

 

 いい友達が沢山居るじゃないか。良かった。ツユクサ。

 ウツギの視線の先で、ツユクサは動かせる腕で涙を拭い、こう言った。

 

「みんな」

 

 

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

着任一年目の艦娘全てが強制参加となる特別任務、

「冬季北海道遠征」の参加書類が届く。

極寒の北の大地、白い水平線。

シエラ隊を、厳しい冬の自然が待ち受ける。

 

 次回「RD」。 凍りついた記憶が目覚める瞬間。

 




終わった~。余談ですが五章はもっと長引く予定でした。


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6 凍土激闘
RD


超絶怒濤の勢いで延びるUAに腰を抜かしそうになった作者です。(震え声


 

 

「判子は押した。確認頼む」

 

「ウツギ次はこっちだ」

 

「解った。春雨そっちは?」

 

「今半分ほど終わりましタ」

 

「うっちゃ~ん、時雨からお手紙だクマ~」

 

「適当に置いといてくれ。後で読む」

 

 次から次へと......机の底が見えないぞ。これは今日中には終わらないな。夜中の一時に寝れればいいほうか。......砲弾飛び交う海で死にかけるよりはデスクワークのほうが数万倍マシだが。

 

 戦艦水鬼......田中恵に関係する一連の騒動が終わって一ヶ月が経った第五横須賀鎮守府のある一日。深尾、ウツギ、春雨の三人が机を埋め尽くさんばかりの書類やPCの画面と睨み合いを続けて、はや半日。書類の数が多すぎて二人では追い付かないと判断した深尾が三人体制を提案したものの、それも焼け石に水といった様子だった。

 そんな時、球磨に続いて部屋に入ってくる艦娘がある。その影を見た瞬間。ウツギと深尾は超特大の溜め息をつきそうになる。

 

「しれぇー!しれぇー!」

 

 来たか。今日も。

 「鳴き声」を聞いた二人が丹田(たんでん)に力を入れる。

 

「しれぇーってばー!ねー!おーい!きこえてないのー?ぅおーい!」

 

「時津風、提督は今職務中だ。後に......」

 

「トーフには聞いてないもん!」

 

「..................。」

 

 誰が豆腐だここに来た理由を忘れてるのかこの愛玩犬め。目の前で堂々と自分に暴言を吐いてきた少女に、ウツギが口を固く結んで白い目を向ける。

 

 作戦が完了して数日経った頃。期間が過ぎた時雨と、同じく「復讐(しごと)」が終わって別の鎮守府に行くらしい神風と高雄の三人を見送り、自分達もそろそろ一息つけるかと思った矢先。突如、第五に大量の艦娘の配属を知らせる書類が届くということがあった。理由は単純、「戦艦水鬼を撃沈した英雄の鎮守府で是非とも仕事がしたい」という願書が本営に殺到したせいだとか。

 その「願書」が叶って自分達の鎮守府に来ることになった艦娘の一人......現在ツユクサや

漣以上に問題児である時津風に、深尾が疲れた顔をしながら口を開く。

 

「時津風、頼むから後二時間は待ってくれ」

 

「えぇ~!?待てないぃ~!!」

 

 昨日から寝ないで机に向かっている深尾が、冷却シートを貼った自分の額に手を当てて苦虫を噛み潰したような渋い顔をしている。

 どうやってこいつを引き離そうか、とウツギが考えていると。今度は教育係の「あいつ」が入ってきて時津風を抱き抱える。

 

「時津風殿、提督殿は仕事中であります。私とあちらで遊びましょう」

 

「えぇー!?私はしれぇと遊びたいのー!!」

 

 そそくさと部屋に入ってきて時津風の身柄を確保した白い肌に音楽隊姿の女......例の装甲空母姫と共に鎮守府に所属することになった深海棲艦のうち一人のル級に深尾が礼を言う。

 

「悪いなル級。頼む」

 

「ハッ!仰せのままに!!」

 

「も、もう少し肩の力を抜いても良いんだぞ?」

 

「いえ、私が自ら望んだ事であります!!お許しください!!」

 

 前の時雨を彷彿とさせる、軍隊の訓練生のようなばかでかい声と固い態度で、ル級は深尾といまいち噛み合っていない言葉のドッジボールを終えるとそのまま時津風を抱っこして部屋を出ていった。

 

「............ふううぅぅぅ。」

 

「賑やかになりましたネ。ここモ」

 

「賑やかすぎて病気になりそうだよ」

 

 球磨、ル級と時津風の三人が部屋を出て数秒としないうちに、はにかみ笑顔を浮かべながらの春雨の発言に疲れきった表情で深尾が返答する。と言うのも、部屋の中が三人に落ち着いても廊下が騒がしいのがすぐに解るほど扉越しに騒音が響いてくるのだ。

 そんな上司の様子を見たウツギが、口角を吊り上げてニヤリとしながら彼に意地悪でこんな言葉を飛ばした。

 

「安全地帯で椅子に座ってるだけでそんなに疲れるか?」

 

「ぐっ!......ウツギ、流石にそれは心に刺さる」

 

「すまない」

 

「許す」

 

「うふフ.........♪」

 

 「微笑ましいですネ」。二人の様子を見た春雨がそう溢す。再び二人が書類仕事に戻った時、ウツギの手が止まる。蛍光塗料の赤で染められたやけに自己主張の激しい封筒を見つけたのだ。封をきって中を見てみる。入っていたのは

 

「......?なんだこれは」

 

「あっそれっテ」

 

「知ってるのか」

 

「はイ。それハ」

 

 

「冬季北海道遠征の強制参加の命令でス」

 

 

「............。冬季北海道遠征......?」

 

疑問の感情を含んだ声でウツギはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうそんな季節なんですネ。早いなァ」

 

「なんだそれは」

 

「着任一年未満の艦娘が招集されて行われる......一種のブートキャンプってやつでス」

 

 北海道か。どんな場所なのだろう、と、旅行雑誌の写真でしか観たことがない土地の事を考えながら、もう一つの質問を書類を捌きながらウツギが春雨に投げ掛ける。

 

「目的やねらいは何なのだろうか」

 

「精神や体を鍛えるためらしいですヨ。寒い場所ならではのトラブルなんかを経験させて、戦場での柔軟な対応力を鍛えるため、とも聞いたことがありまス」

 

「...............」

 

 書類に何かを書き込んでいく動作を止めて、率直な感想をウツギが言う。

 

「自画自賛になるかもしれない」

 

「......?何がですカ?」

 

「この半年間、散々な目にあってきたお陰で相当鍛えられた自信がある」

 

「それは......あはハ......」

 

 夏に若葉に四回殺されかけた事に始まり、装甲空母姫を二回撃退。最近だって頭のネジの外れたマッドサイエンティスト気取りの女と命のやり取り.........。短期間でこんなに死にかけてよく生きているな自分は。

 客観的に見ても中々酷い目に遭っているな、とウツギが自己分析をしていると、隣でブルーライトカットが入ったメガネをかけてPCと格闘していた深尾が声を掛けてくる。

 

「良いじゃないか。学ぶことが一通り身に付いてるなら思いきって観光気分で楽しんでしまえばいい」

 

「そんな自由時間なんて取れないだろう。遊びじゃないんだ」

 

「いえ、それが意外と楽しいんですよこレ」

 

「どういう事だ?」

 

「この訓練、というよりもこの食堂のご飯がすっごく美味しいんでス!」

 

 「そうか」と言ってウツギが横を向いて少しひきつった顔になる。想像していた五割増しの笑顔だった春雨に驚いたのだ。北海道の飯は相当美味いらしい。

 少し気になったウツギは封筒に入っていた紙の中身を少し読んでみる。

 行かなければいけないのは自分に、漣、アザミ、ツユクサ、天龍、若葉......

 

「............!」

 

 ふと、ウツギが椅子から立ち上がり、自分の後ろにあった本棚から一枚の紙切れを取り出して、それと遠征についての紙を交互に視る。

 

「.....................。」

 

「どうしたんですカ?」

 

「......ここを読んでくれ」

 

 言われた通りに、春雨はウツギから渡された紙の記述の一部を朗読する。

 

「資源再利用艦・一番艦ウツギ、素体に使用された艦は駆逐艦・暁三番個体、軽巡洋艦・長良七番個体、重巡洋艦・青葉四番個体、軽空母・瑞鳳(ずいほう)二番個体......」

 

「次はこっちだ。ここを」

 

「訓練教官、駆逐艦Верный(ヴェールヌイ)......略歴・〇〇年◇月/日、暁(三番個体、〇●年∀月ゝ日戦死)と同時に入隊、元人間、暁の実妹に当たる......エ?」

 

 春雨が召集令の紙とウツギから渡された紙を交互に見て確認する。そう、この任務で教官を勤めるらしいВерныйという艦娘は......

 隣で話を聞いていた深尾が二人の間に入って言う。

 

 

「研究所に遺体を提出したやつか......Верныйってのは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠征出発の当日の朝。ウツギは招集された面子で、艤装を入れたコンテナを背負って鎮守府が見える海の上に居た。

 格好はいつもの作業着の上から春雨の警告で事前に用意した防水のウインドブレーカー上下、更にその上からこれも防水の紺色のベンチコートにネックウォーマーという完全防備である。

 隣で似たような格好をしていたツユクサが口を開く。

 

「暑くないッスか?ウツギ」

 

「我慢しろ。経験者が言うには死ぬほど寒いらしいぞ」

 

「マぁジで?」

 

「そんなんでもないよん。ツッチー」

 

 ピンク色のスキーウェアに身を包んだ漣が割り込んでそんな事を言ってくる。その発言にツユクサが気になって漣と話し出す。

 

「え、さっちゃん北海道行ったことあんの?」

 

「行ったことも何も道民ヨ!」

 

「マぁジで!?」

 

「マジよマジ大マジ」

 

「マジでぇ?道民とかマジはんぱねェッス!」

 

 なんだその脳みそが足りてないようなやり取りは。そう思ったウツギ、アザミ、天龍の三人が、ただ騒ぎたいだけの若者のような会話をする二人を呆れた顔で見る。

 そんな仲良し二人は無視して......どういうわけか日章旗を抱えていた天龍がウツギに話し掛ける。因みに若葉は大漁旗、ウツギは生地にでかでかと「海軍」と書かれた旗を持っている。

 

「あいつらはどーでもいーとして......これ何に使うんだ?」

 

「さあ?装甲空母姫に持って待ってろと言われてそれっきりだ」

 

「あいつが?」

 

「いい加減出発しないのか。じっとしているのは性に合わん」

 

「まだ待て。もうすぐ来るらしい......と。いったそばから来たな」

 

 ボヤき始める若葉を他所にウツギが後ろを見ると、全身が真っ白な女が海上を走ってくるのが見えた。

 数秒後。真っ白い女...装甲空母姫が六人の近くまでやって来て口を開いた。

 

「遅れた。では行こうか」

 

「自走するのか?」

 

「いや違う。旗は?」

 

 三人が持っていた物を見せて天龍が発言する。

 

「この通り持ってるぜ。......えーと」

 

「RDだ」

 

 装甲空母姫が自分の手の甲に入っていた「R.D.」の二文字を天龍に見せながらそう言い、自分のいった通り三人が旗を持っていることを確認する。

 

「持ってるならいい。艦娘、......少し離れていてくれ」

 

「......?おう」

 

 女の言うことに従って六人が装甲空母姫......RDから五メートルほど距離をとる。その様子を見たRDは前に向き直り、その場に方膝をついて両手を組み、祈りでも捧げているような姿勢になる。

 何をしているのだろうか。六人がそう思ったとき。

 

豪快に水飛沫を挙げて、海中から何かが出てきた。登場してきたモノに六人が少し驚いた表情になる。

 

 

「これって......戦艦水鬼の艤装!?」

 

「違う。これは私物だ」

 

 何とも言いがたい形状の胴部に大きな口があり、両側から巨大な灰色の腕が生えている怪物を見た天龍の感想にRDがそれは違うと返答する。

 今度はウツギが違う質問をRDに聞いてみる。

 

「こんなものがあって何であの時使わなかったんだ?」

 

「.........戦闘能力がこいつには無いんだ」

 

 ......何だと?聞き間違いだろうかと思ったウツギが続ける。

 

「......?艦載機が出せるんじゃ無いのか?」

 

「なんの話だ?」

 

 ......じゃああの時の戦闘機はたまたま近くに違う深海棲艦が居ただけだったのか。

 味方の救援に向かった帰りに目の前の女と戦闘になったときのことを思い出しながら、「本当にこいつは装甲「空母」姫なのだろうか」とウツギが疑問に思う。

 そんなことを思われているなど勿論知らず、RDが喋る。

 

「乗れ。艦娘」

 

「は?どこにッスか」

 

「解らないのか?ここだ」

 

 RDが自分の呼び出した艤装の口にあたる部分を指差す。それを見た漣とツユクサが青い顔になった。

 

「食われろってこと!?」

 

「いいから早く入れ」

 

 文句を言ってきた漣を、RDはいつかの深尾のような、流れるような動きで手際よく足を引っ掻けて転ばせると、そのまま怪物の口に彼女を放り込んだ。女の一連の動作と白い顔をしながら食べられた親友の姿を見たツユクサが絶叫したのは言うまでもない。

 

「さっちゃぁぁぁぁぁん!?」

 

『助けてぇ!!食べられ......アレ......?』

 

『すっげー!何ここ!?超広い!!快適!!』

 

「嘘だろオイ......」

 

 .........また今回も退屈はしなさそうだな。ひと悶着あるのは退屈の三倍は嫌だが。

 飲み込まれていった漣の声で一先ずは大丈夫だろうと踏んだウツギは、引きながらそう呟いた天龍を流して、自分から艤装に乗り込みながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

豊かな海産資源、一面の雪景色、肌を刺す寒さ。

どれを取っても新鮮な北海道という土地にシエラ隊が心をときめかせる。

そしてまたウツギは新たな「出会い」を経験することになる。

 

 次回「氷付けの海」。 ここは、彼女の心が眠る場所。

 




と言うわけで六章に突入しました。
四、五と重い話が続いたので軽いお話を続けさせる予定です。


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氷付けの海

洋画鑑賞にハマっている今日この頃の作者です。


 

 

「艦娘」

 

「どうかしたか」

 

「少し話し相手になってくれ」

 

「.........解った」

 

 流石に冷えてきたな。ちょうどそう思ったとき、呼び掛けられたウツギは隣に座っていたRDの方を向く。

 艤装から生えている二つの腕に日章旗と大漁旗、残った海軍の旗が適当にガムテープで固定されている怪物の上に乗っていたRDの隣に、今ウツギは居た。

 どうしてそんな場所に居るのかと問われれば、数時間ほど前に艦娘から艦載機による爆撃を受けそうになり、ウツギと天龍が青い顔になりながら二人で発煙筒を焚いて事なきを得たという事態が発生したので、ウツギが「識別用に旗を持たせてはいるが、万一他の艦娘と会ったときに敵と間違われても困らないようにしよう」と提案し、今実践していたためだ。

 

「ウツギ、とか言ったな」

 

「そうだ」

 

「......この戦争。いつ終わると思う」

 

 また重い質問が来たな。そう思いながらウツギが答える。

 

「......答えかねる。...自分かお前が生きているうちに終われば良いほう...じゃないか?」

 

「..................」

 

「......アンタの納得の行く答えを、私は出せないと思うぞ」

 

「いや、良いんだ。悪かった......」

 

 RDがどことなく影のある笑顔を見せてそう言ったあと、また二人の間に沈黙が訪れる。

 ――そう言えば。――

 何かを思い出したウツギが隣で目を瞑っている女に聞いてみる。

 

「どうして艦娘のほうに寝返ったんだ。相手は元は味方だろう」

 

 三ヶ月ほど前に若葉に似たような質問をしたときをぼんやりと思い出しながらウツギが言う。少し間を置いてからRDの口から返事が返ってくる。

 

「そうか。お前には言っていなかった.........裏切られたんだ」

 

「.........」

 

「あの御か......戦艦水鬼から、「人間は私たち深海棲艦を殺すことを娯楽として楽しむ種族だ、生かしてはいけない」と扇動されてそそのかされて今まで生きてきた」

 

「だが違った」

 

「......そうだ。その言葉を鵜呑みにして、自分達は「積極的防衛」を掲げて今まで人間に攻撃を仕掛けた。いや違うな......「仕掛けてきた」」

 

 「笑える話だ。侵略者は自分達のほうだったのだから」。力なく、かつ自虐を多分に込めた発言と共に、RDが俯いてその顔に影がかかる。

 

「もう少しで」

 

「終わると思うんだ」

 

 RDが言う。曰く、彼女が掛け橋となって続々と武力行使をやめている深海棲艦達が増えているのだと言う。その発言に疑問を持ったウツギは「そんな簡単に話が付くものなのか」、と聞いてみる。

 

「簡単に、か。簡単だったかな......深海も人間側もどれだけの血がこの海に流れたか......」

 

「話を聞くぶんにはトントン拍子で和平に進んでいるように感じるが」

 

「......皆、実は疲れていたのだろう。たった一人......もしかしたらまだ協力者が居たのかも知れないが......「弱いものいじめが出来る生活を、より長く続けるため」等と言う自己満足極まりない理由で何十年も続いた戦争だ。いい加減さっさと終わらせたくなっても何らおかしいことではない」

 

「戦争なんてそういうものだろう。上に立つ人間のふとした行動や理念で簡単に勃発する。末端の兵士には真実は何も伝わらない」

 

「......そうか。......有り難う。有意義な時間が過ごせた」

 

 「交代の時間だろう。中で暖を取ると良い」。RDにそう言われたウツギが腕時計を見ると、自分がこの場所に居るようになってからちょうど二時間が経過していた。

 ......戦争が終わる、か。その時は何をやって食っていこうか。そんな事を考えながらウツギは怪物の口の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 しかし......一体どういう構造になっているんだここは。

 中は広々として大きなソファが向い合わせで二つ並び、どういうわけか中に電気が通っているらしく暑すぎない程度に暖房が入り、冷蔵庫やテレビといった家電製品まで置いてある装甲空母姫の艤装の中に、ウツギがそんな感想を持つ。

 

「いくらこれが大きいといっても外からはここまで広いように見えないが」

 

「細かいこと気にしたらだめでゴザルよ?」

 

「......そうかな」

 

「そそ。くつろげるときは限界までダラダラと......」

 

 (妙な喋り口調なのは無視するか......)言っていることは正しいとは思うが......いくらなんでもその体勢はどうなんだ。

 ソファに横になってテレビに釘付けになりながらこちらを見ようともせずにそう言ってきた漣に、少しウツギが困惑する。が、すぐにいつもの通りの無表情になって読書でもしようかとコートのポケットから小説を出してページを開く。

 どこまで読んだか、と栞を挟んだ場所を探していたとき。椅子の背もたれに両肘を引っかけ、足を組んでふんぞり返っていたツユクサが声をかけてくる。

 

「何読んでるッスか」

 

「推理小説だ。東之敬語って知ってるか」

 

「聞いたことあるような無いような............他に持ってる?」

 

「あと一冊なら」

 

 「貸して」、と言われたので特に嫌な顔もせずにウツギがツユクサにもう一冊の文庫本を「汚すなよ」と言ってから渡す。

 

 

 

「起きろよ~。もうすぐ着くらしいぜ」

 

「ん......解った」

 

 何時の間に。自分は寝てたのか......駄目だな、書類仕事ばかりだったとはいえ殆んど寝ていないのが原因か。

 天龍に声をかけられ、目元を軽く擦りながら軽く欠伸をしてウツギがソファから立ち上がり、自分が入ってきた入り口の黒いカーテン......外気を遮断する役割があると思われるこれを掻き分けて外を見てみる。

 

瞬間、凄まじい寒気が彼女の肌に突き刺さる。が、ウツギはそれ以上に、目線の先に広がっていた、既に時刻は夜で暗いはずの海が、陸地の雪が反射した電灯の灯りでぼんやりと幻想的に光っている景色に目を奪われていた。

 

............綺麗だな。

 

 ほどほどに離れた場所にある、雪が積もり真っ白に染められた大地を見て。ウツギは単純にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ第二単冠湾(ひとかっぷわん)泊地へ。教官のВерный(ヴェールヌイ)だよ。Верныйでも響でも好きな方で呼んでね」

 

「第五横須賀鎮守府から参りました。第一艦隊で旗艦を務めています、ウツギと申します。二週間、よろしくお願いします」

 

 似ているな。暁に。上陸してすぐにこいつだと解った......。

 目の前に居る、綺麗な銀髪に白い帽子と白いジャンパーという出で立ちで、RD程ではないにせよ「真っ白」な女と挨拶と握手をしながら、ウツギが抱いた感想だ。

 

「いや、でも凄いね。結構長くここにいるけど姫級の艤装で来たのは君たちぐらいかな?」

 

「......経費削減の為でして...」

 

「出過ぎた真似でしたか。申し訳無い」

 

「いや別に良いんだ。......今日はもう遅いし、明日も早いから休むといい」

 

 しまった、やはり悪目立ちすぎたか。とВерныйの周りの艦娘たちが自分達を奇異の目で見ていることを感じてウツギが即席で言い訳をし、シエラ隊を運んできたRDも謝罪をするが、Верныйは気にしなくていいと言ってウツギに部屋の割り当て表を渡す。

 

 「連絡は終わり。じゃあ、明日からよろしくね」。そう言ってどこかへВерныйが行った後。適当にウツギが漣や天龍と言葉を交わす。

 

「綺麗な場所だな」

 

「でっしょ!?北海道は空気が綺麗で良いとこヨ!」

 

「でも寒くねぇか?スカートとか穿いてたら死んじまうぞ......」

 

「それは言い過ぎだろう」

 

 辺りを見回しながら、三人がそんなどうでもいいような会話をしていると。いきなりツユクサがその場に踞り、唸り声を挙げ始める。

 

「ぅぅ......ぉぉッ...!」

 

「......?どうしt」

 

 

「くっそ寒いいいいいいい!!!!あああ゙あ゙あ゙!!死ぬ死ぬ死ぬ!!」

 

 

「............」

 

「「「「!?」」」」

 

 ツユクサは突然そう叫んだかと思うと、ウツギが持っていた部屋の割り当てを引ったくりそのまま基地の建物へと走っていく。他の六人はコンマ数秒ほど固まったがすぐに我に帰り急いでツユクサを追い掛けた。

 

 

 

 

 そんなシエラ隊のバタバタした様子を見ていた一人の艦娘が居る。先程ウツギと挨拶をしたВерныйだ。

 

 

「......似てる...かな。話し方とかはちょっと違うけど」

 

 

 そう呟いて。彼女も自分の泊地へと戻るために、雪を踏み締め歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

気温マイナス5℃、湿度70%。

風が肌を刺し、冷えすぎた空気が目に染みる。

極寒の地で、かつ特殊条件下の元に行われる演習に、

シエラ隊は実力を発揮できるのか。

 

 次回「コールド・ウォー」。 町を閉ざす、ガラス色の雪が積もる。

 




閲覧数が四万を越えました。嬉しくて泣きそうです。


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コールド・ウォー

お待たせしました。昨日は寝落ちして更新詐欺になりました......スンマセン(小声


 

 半日ほどかけてやってきた北海道の泊地での朝。窓から差し込んでくる日の光......ではなく、じんわりと体に染み込んでくるような寒さでウツギは目を覚ます。隣を見れば自分と正反対と言った様子で気持ち良さそうにツユクサが寝ている。

 

(暖房でも点けておいてやるか。寝て起きてこの寒さならこいつなら駄々をこねそうだし......)

 

 そう思ったウツギが部屋の入り口近くに設置されてあったエアコンのスイッチを入れ、いつもの作業着姿に着替える。

 

「窓が二重......本当なんだな」

 

 漣が道民と言うのは嘘じゃなかったらしい。

 「寒い空気を入れないように、また暖かい空気が逃げないように北海道の建物は窓が二重になっている」、という漣の道民豆知識なるどうでもいいようなそうでもないような事をウツギが思い出しながら、外の雪景色をぼんやりと眺める。

 

(.........暇だ。ツユクサの分の荷物も(まと)めておくか)

 

 隣で口を半開きにしながら寝ている女のベッドの近くに散乱している荷物を、ウツギが部屋にあった机の上にまとめて置き始める。

 

(まだ時間があるな......テレビでも観るか)

 

 腕時計を見て朝食の時間までまだ一時間近くあることを確認したウツギがニュース番組を観ながら適当に時間を潰す。

 ............。映る場所がどこも一面真っ白だ。流石北海道。

 天気予報の合間に流れる北の大地では一般的な景色に少し面食らうウツギだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっげー.........」

 

「バイキング形式......また豪勢だな」

 

 ツユクサが起きてから、すぐに朝食の時間に間に合わせる為に部屋を出て会場についた二人は、自分達の鎮守府の倍は軽く超す大きさの食堂の奥に並んでいる、料理が置いてあるワゴン数台を見て軽い溜め息を吐く。

 部屋の隅に固まっていた艦娘たちの中に天龍とアザミ、漣に若葉の四人を見つけたウツギが、ツユクサを連れて四人が座っていた机に向かって歩く。

 

「おはよう。みんな早いな」

 

「ウッチーおっはよ!」

 

「おはよう。ツユクサが起きなかったのか?」

 

「そんなところ」

 

「みんなが早すぎるだけッス......」

 

 ......装甲空母姫はどこに居るんだ?

 姿が見当たらない一人についてウツギが仲間に聞いてみる。

 

「RDは?」

 

「ここの提督と挨拶だとさ。他の艦娘に誤射でも食らったら一大事だから、だとさ」

 

「なるほど」

 

 とは言ったものの......例の作戦で戦った後に広がった噂で知ってるやつのほうが多いんじゃあなかろうか。

 昨日、(みなと)で奇異の目で見られこそしたもののそれだけで終わった事、戦艦水鬼との戦い以来、すっかり有名人になってしまった自分達と装甲空母姫についてウツギが考える。

 まぁどうでもいいか。このあとはすぐに演習。さっさと飯を済まそう。ウツギが、天龍たちが予め取り置きしていたという皿に盛られた刺身に手をつけようとしたとき。知らない女に声をかけられた。

 

 

「あら、貴女方が。噂の「英雄」さんですの?」

 

「.........どなた?」

 

「失礼、私、熊野と申しますわ」

 

「どーも」

 

 「英雄」か。ただ死にたくないから頑張っていただけだが......。そう思いながら話しかけてきた艦娘にウツギが素っ気なく返事を返す。これで会話は終わり、と思いきや熊野と名乗った艦娘が続けて質問をしてきた。

 

「貴女達の艦種、教えてくださらない?演習相手の一番でしたの」

 

「はあ......そうですか」

 

 正直少し面倒だな、と思いながらもウツギは椅子から立ち上がり、作業着のポケットからメモ帳とボールペンを取り出して「駆逐×3 軽巡×1 重巡×1 戦艦×1」と書いて相手に渡す。すると......

 

「............ふっ......」

 

「......?どうかしましt......」

 

 

「カス揃いですわ」

 

 

 わざとらしく手から紙を滑り落としながら、熊野がそう言う。

 .........こいつ......前の時雨と同じような......。ウツギが相手の発言にそう思ったとき、ツユクサと若葉が口を開く。

 

「......あ゙............?」

 

「ほう......?」

 

「空母が不在の艦隊だなんて......多分私たちとは勝負にならないと思いますわよ?」

 

「てめっ......」

 

「良いねぇ......そう言うの。悪くない。粋がるザコほど(なぶ)るといい声を出す.........♪」

 

 

「何をやってるんだ?」

 

 

 熊野の暴言に腹を立てたツユクサを手で制し、ずっと黙っていた若葉が待っていましたとばかりに逆に相手を挑発すると。熊野の後ろから声をかける者が来る。朝食に遅れてやってきたRDだ。

 自分よりも首一つ分ほど身長が高く、かつ威圧感がある相手に驚いたのか。熊野はしどろもどろになりながらその場を後にする。

 

「な、なんでもありませんわ!......それではごきげんよう」

 

 明らかに動揺しながらどこかへ行った熊野を漣が馬鹿にしてこんなことを言う。

 

「RDにビビって逃げてやんのw」

 

「当たり前だろ。姫級だし」

 

「......普通に接しただけなのだが............」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を摂り終わったため、自分達の使う艤装の点検でもしようか、と、ひんやりした空気が充満している廊下をシエラ隊の6人が歩いていたとき。先程大胆に啖呵を切ってきた熊野に対する感想を天龍が溢す。因みにRDは港に着けていた自分の艤装が他の船などの邪魔にならないように動かしてくると言って外に出ていた。

 

「しっかしあんなイヤミなオジョーサマが相手、ね。嫌なこった」

 

「第一大湊(おおみなと)・ガングリフォン隊旗艦、重巡熊野。緒方提督の部下なんだな」

 

「緒方提督......?誰だっけ?」

 

「第三横須賀に行ったときがあっただろう?あの時の」

 

 「あぁ~......あの貫禄あるオッサンか」。今回の遠征に参加している艦娘の名簿を見ながらのウツギの発言に、彼のことを思い出した天龍が軽く相づちをうつ。

 程なくして、この場所の艤装保管室に着いたウツギ達は、シートが被せられた各々の艤装が置いてある場所に行き、点検を始める。

 

はずだったのだが......

 

 

「これは......」

 

「..................!?」

 

「さっさと終わらせ......え......?」

 

「.........ククク............」

 

 装備に被せてあった白い布を取り、整備と点検をやろうとしたウツギ、アザミ、ツユクサ、若葉の手が止まる。何事かと残りの二人が四人の艤装を観てみると......

 

 そこにはぐちゃぐちゃの鉄クズが置いてあるだけだった。いや、正確には「めちゃめちゃに壊された艤装」が転がっていたのだ。若葉の物だけは何故か武器類だけが壊されていたが。

 

「酷い......誰がこんな」

 

 

「あら?また会いましたわね?」

 

 

 こいつか。

 漣がそう言った途端に後ろから表れた女を冷たい目で見ながら、ウツギが心底軽蔑して内心呟く。横を向けば、ツユクサは目が赤く光り、アザミは少し怒っているような真顔に。若葉は目を細くして笑顔になっている。

 

「あら、そこのガラクタはなんですの?」

 

「よせよ熊野。貧乏人だからきっと装備がボロいんだ」

 

「えぇ~?エーユーなのにぃ~?かぁっこわるぅい~♪」

 

 あからさますぎる挑発をしてくる相手の部隊構成員を凄まじい表情で睨み付けながら、ツユクサが歯軋(はぎし)りしているのをウツギが目にする。

 数分後、自分達の装備を持って熊野達が出ていったため、部屋に居るのがシエラ隊のみに戻る。ずっと何も言わずに我慢していたそれぞれが口を開いた。

 

「流石にハラが立つねぇ......ウふふ...♪」

 

「絶対あのクソ女ッスよ.........ワザとやりやがったな.........ムカついたァ.........!」

 

「あぁ......にしてもよく殴りかかったりしなかったな」

 

「この後演習ッスから。そこでギタギタにしてやるッス」

 

「......絶対......許す......ものカ............」

 

 リサイクル艦二人のその言葉に、漣が突っ込みを入れる。

 

「ちょ、ちょっと!仕返ししたいのはわかるけどさ、こんなんじゃ演習参加できないっしょ?」

 

「......何で?」

 

「いや何でって......こんな壊されたらもう直せなくない?」

 

「あぁ、そのことッスか」

 

 「漣、天龍。あいつらは一つ重大なミス......と言うより大切なことを一つ忘れているじゃないか」。ウツギの発言に、アザミとツユクサが顔を見合わせてニヤリと笑う。そして疑問を口にした二人にウツギが口角を吊り上げながら、一言、こう言った。

 

「重大なミス?」

 

「そうだ。それは」

 

 

「自分達はリサイクル艦だと言うことさ」

 

 

 ウツギが、第二単冠湾泊地に所属している艦娘のリストの、「ある部分」に印をつけて漣に渡す。「あっ......!そういうこと......じゃ、いっちょあいつらにギャフンと言わせちゃう?」。名簿を見た漣が発言する。名簿にはこう書かれていた。

 

 

所属艦娘一覧

 

 

  Верный  不知火

  「青葉」    清霜

  千代田   「五月雨」

  「弥生」    卯月

  Pola    Zara

  長門    「若葉」

  初春    赤城

  隼鷹    「瑞鳳」

  鬼怒    阿武隈

  「比叡」   金剛...

.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

圧倒的、ひたすら圧倒的な火力で押すことを重視して、

編成された部隊、ガングリフォン。

相対するは元はただの寄せ集めであるシエラ隊。

どうにか他の艦娘から借りた艤装で戦う彼女たちを見くびる女たちに。「災厄」が降りかかる。

 

 次回「テイク・オフ」。 アザミが怒れば誰にも止められない。

 




次回、アザミ無双。


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テイク・オフ

お 待 た せ 。(迫真) ちょっと長いです(警告)


 

 

「ど......どうして......?」

 

「どうして?何がですか?」

 

「とぼけないでくださいましっ!!貴女達の艤装はわたっ.........」

 

「「私」がどうかしたッスか?」

 

「っ......なんでもありませんわ」

 

 艤装保管室での出来事から数分後。他の艦娘に頼み込んで借りてきた装備で足並みを揃えて港にやって来たウツギ達を見た熊野が、何やら言ってくる。

 せっかくの完全犯罪を自分からバラそうとするなんて相当な阿呆だな、と、ウツギが正面から見た能面のような無表情で熊野を見つめながら、事前に知らされていた集合場所に五人を整列させて待機する。

 それから何分かが経ち、続々と演習に来た艦娘達が集まり、最後に教官のヴェールヌイがやって来て全員が居ることを確認してから口を開いた。

 

「全員いるね。じゃあ、演習を始めるよ。ルールは特に変わった事は無しの殲滅戦で、残った子が多いほうが勝ち。普通に弾はペイント弾で、当たり判定が轟沈か大破の人は行動不可能。.........質問がある人は挙手」

 

「失礼しますわ!」

 

「どうぞ」

 

「あの方達、借りた装備で参加するそうですが」

 

 またなにか言いがかりでもつけてくる気か。

 思い切り嫌味なあの女に指を指されたウツギが、指を指してきた熊野に冷ややかな視線を送る。そんなことは微塵も気にせずに熊野が発言する。

 

「自前の物ではないのはルール違反ではなくて?」

 

「持ち主から承諾を取ってるから大丈夫だよ。自分のが壊れてるならしょうがないし。これでいいかい?」

 

「......っ、解りましたわ」

 

 ざまぁみやがれってんだ。そう聞こえてきそうな表情で、親指を下に向けて熊野を挑発するツユクサの足を、ウツギが靴で踏んづけて止めるように伝える。

 納得がいかないような表情ですごすごと引き下がる熊野を気にせず、ヴェールヌイが続けて演習に出る艦隊の組み合わせを読み上げる。

 

「最後の連絡ね。事前に言ってたけど確認するよ。第一試合は」

 

 

「第五横須賀鎮守府、フィフス・シエラ隊と、第一大湊警備府、ガングリフォン隊。どっちも頑張ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『フン!!借り物の装備で、(わたくし)たちに勝てるわけがありませんわ!!』

 

『あんなオンボロ部隊でイケると思っているのか?』

 

『英雄だか何だか知らないけど。名が知れてるのなんてたかが知れてるのよ実際は!』

 

 

 全く好き勝手言ってくれるな。というよりもあの根拠のない自信は一体何処から沸いているんだ?

 激しく動いてもずり落ちないように、と、テープで頭に固定したヘッドセットから流れてくる相手からの悪口を聞き流しながら、ウツギは背中に背負った軽空母「瑞鳳」の艤装の矢筒から矢を数本取り出して、艦載機の種類を確認しておく。

 飛ばせるのは......全部流星改だと......?また随分上等なのを使っているな、等とウツギが思っていたとき。前にいたツユクサが無線で相手に暴言を吐いていた。

 

「そんだけ好き勝手言ってよォ、負けたら赤っ恥だよなァ?あ゙ぁ゙!?」

 

『おいおい、駆逐艦が何か言ってるぜ?』

 

『無視してくださいまし』

 

「ふふっ......ふフふ......♪よせ、ゴミに何を言ったところで人の言葉はわからん......」

 

『何だと......?』

 

『長門さん、その辺にしたほうが......』

 

 売り言葉に買い言葉。ツユクサ、若葉の二人と相手との(ののし)り合いがエスカレートしていくのを遮り、ヴェールヌイからの警告が無線に割り込んでくる。

 

『試合開始のカウントを始めるよ。位置についてね』

 

『ちっ......せいぜい悪あがきするんだな』

 

「ンだとォ!?っ......あいつら切りやがったッス!」

 

「ホント腹立つぜ......どう思うウツギ?」

 

「天龍、しゃがんでくれるか」

 

「......?いいけど......?」

 

 ツユクサ程ではないにせよ、散々悪口を言われていい気分では無かった天龍が、着ていたMA1ジャケットを弄りながらウツギに今の心境を訪ねる。すると、唐突にそう返され、意図は理解できなかったが取り合えず言われた通りにその場に方膝をついて、彼女の次の行動を待つ。

 「ありがとう」。そう言ってウツギが天龍の肩に何かを乗せる。何だろう?、と、視線を自分の肩に向けた天龍が目にしたのは、ウツギがよく使っているスナイパーライフルだった。完全に偶然だったが、装甲空母姫の艤装の中に置きっぱなしにしていたので壊されずに済んだのだ。

 

「あぁ......なるほどね......試合前から狙いをつけとくのか」

 

「卑怯な手は心が痛むけど......いや全く痛まないがな。この際致し方ない」

 

「ウッチー、二つ目貸して?」

 

「漣、相手に空母が二人居る。飛行甲板を狙ってくれ」

 

「りょ!あっちゃんゴメンね?」

 

「別に......良イ............」

 

 さて、狙撃はあまり得意じゃないが......上手くいくかどうか。こればかりは運か。

 ウツギは首から紐をつけてぶら下げていたもう一挺のライフルを漣に渡し、受け取った漣も銃身がブレないようにアザミを銃架の替わりにしてスコープを覗く。

 

『カウント始めます。3......』

 

 ニィ、イチ......と、続く、審判を務める艦娘の声を聞きながら、ウツギと漣はスコープ越しに呑気に世間話でもやっているような素振りを見せる相手の空母の飛行甲板に狙いを定める。

 

 

『Go!』

 

 

ビーッ、と、試合開始のブザーが鳴ると同時に二人がライフルの引き金を引く。二人合わせて七発ほど放たれた銃弾は吸い込まれるように相手の飛行甲板状の艤装に着弾し、空母の艦娘の服と艤装は緑の蛍光塗料で染まった。

 

 

『ぐ、グリッド2、飛龍中破、瑞鶴中破!!』

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「キタコレッ!!?」

 

「当たった......!」

 

 第一関門突破か。次は......。

 スコープを覗いた先で、かなり慌てている相手に改心の笑みを浮かべながら、ウツギは素早くライフルを天龍に手渡して自分の背中から弓を取り出すと、慣れない手つきで弓に矢をつがえて相手に向かって射る。

 

「妖精さん......頼んだ。」

 

「―――――!」

 

 弓の経験がある人物や空母の艦娘が見れば、悲鳴を挙げそうな滅茶苦茶な構えで適当に放たれた矢は、空中で一瞬火を散らして飛行機の形に変形するとそのまま相手に向かって飛んでいく。

 自分は艦載機なぞ上手く使えないから......ただの気休めにしかならないだろうな。ウツギが片っ端から矢を弓につがえて発射しながらそう考えていると、アザミが声を掛けてきた。

 

「ウツギ......突っ込む......いイ?」

 

「気を付けてな。若葉とツユクサも連れてけ」

 

「ありがとウ.........」

 

「うおっしゃー!ぶっ潰す!!」

 

「ふふ、ふふふクく......お供するよ......」

 

 気合い充分といった様子で絶賛混乱中の相手に向かって三人が突撃していくのを眺めながら、漣は砲とライフル、天龍も同じく二つを構えてウツギから指示を待つ。

 

「大将、次は?」

 

「演習エリアぎりぎりまで後退だ」

 

「三人だけで大丈夫か?」

 

「いや、逆にあの三人に勝てるくさいやつ相手にいねぇっしょ?」

 

「......確かに」

 

「そう言うことだ。こっちはもう見てるだけでいい。......一応三人がやられそうになったら援護に入る。いい?」

 

「「了解」」

 

 

 散々こちらを馬鹿にしたツケは払ってもらう。覚悟しておけ熊野。

 悪役のような笑顔を顔面に貼り付けたウツギは、内心そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラ!!しみったれた攻撃なんかしてんじゃねェぞォ!!」

 

 なんで......なんで......なんで......!?

 

「何で当たらないんですのぉぉぉ!!?」

 

 熊野は今とても焦っていた。

 

 名家の生まれと言うこともあり、金を詰んで入手した艦娘用の最新鋭装備のリニアレールガンによる砲撃が一発も相手に当たらなかったのである。

 バヂン!バヂン!と静電気の放電現象を数倍大きくしたような独特の発射音を出しながら、持っていた武器から高速で射出される弾丸を苦もなく回避しながら、ツユクサが相手とは対称的に、駆逐艦五月雨の砲を連射して熊野に当てていく。

 先程ウツギと漣に狙撃された空母の二人は既にツユクサとアザミの雷撃をまともに受けて撃沈判定、勝負は3対4の変則的な......3の方に時たまウツギの艦載機による援護射撃が飛んでくるというものへと移行していた。

 

 そんな中。まともに照準すら合わせずにレール砲を乱射する熊野を無視して、若葉は刃の部分に演習用にとゴムが被せてある薙刀で、熊野の周りに居た戦艦にちょっかいをかけていた。

 

「ふっ......フフフ......」

 

「うおっ!?......チィッ、ちょこまかとっ!」

 

 片足を軸にして半回転、その場にしゃがみながら前進、真横に側転と、変則的に動いて相手の攻撃を交わしながら、時たま隙を見つけては薙刀で突きを放って敵を怯ませる、という戦法......と言うよりは若葉には遊びでしかない行動で戦艦の艦娘を煙に巻く。

 

「見える見える......遅すぎてアクビが出るねぇ......♪」

 

「舐めるなぁ......!」

 

 怒っているな......。短気な馬鹿ほど頭に血が昇るのは早い、か......うふふ♪。

 口から漏れる吐息が白くなる、ここが零下五度の場所であることなどすっかり忘れて、若葉が尚も海面を変則的に動いて水を被りながら、余裕たっぷり、言葉巧みに相手を挑発する。

 彼女が狙っていたもの。それは......

 

「伊勢!挟んで狙い撃ちだ!」

 

「オッケー!」

 

 

 くくく。馬鹿が雁首揃えて乗って来たか。

 

 白い厚化粧を施した口を愉悦で歪めながら、若葉が相手の言葉が聞こえなかったフリをして、そのまま相手の戦艦の艦娘......長門と伊勢の間に 割って入る。

 そんな事をすればどうなるか。解ってはいたが当たり前のように相手が若葉に向かって砲撃をかましてきたのを

 

 若葉はあえて薙刀で弾を切り払わずに、イナバウアーでもするように腰を背中に折って回避した。するとどうなるか。

 

 

相手が勝手に自爆して終わりである。

 

 

「「あ」」

 

 

 底抜けの間抜けだな。若葉がそう思ったときにはもう相手は特大のペイント弾で上半身をピンク色に染めていた。

 

 

『グリッド2、長門、伊勢、誤射により大破!!』

 

 

 

 

 

 

 

 形勢逆転。でも手は抜かない。絶対許さない。

 五分としないうちに2対6(実際は2対3だが)に追い込まれ、顔を白くしながら当てずっぽうに砲撃を繰り返す相手に冷ややかな視線を送り、アザミが海面を跳び跳ねながら考える。

 ウツギの艦載機とツユクサの砲撃や機銃をまともに受けて、体に塗料がない所を探すほうが難しいほど全身緑色に染まった熊野が震えた声で叫ぶ。

 

「ゆ、夢でも見てるんですの......?」

 

「こ、こんな......これは何かの間違いですわ.........」

 

「.........!」

 

 知るか。

 心のなかで棘のある突っ込みを返しながら、そろそろ相手の攻撃を避けることが面倒になってきたアザミは、何を思ったか、熊野の隣に居た最後の戦艦の艦娘へと突撃し始める。

 

「Oh!?飛んで火に入る夏のバグネー!!」

 

「......五月蝿イ.........」

 

 妙な言葉遣いの艦娘がアザミに砲の照準を合わせ、轟沈判定を取ろうと射撃を行う。飛んできた砲弾を、

 

アザミは手に握っていたコインを(はじ)き当てて、弾の軌道を反らした。

 

「ホワッ......!?」

 

「............」

 

 信じられないことが起こったと目を見開いて狼狽する戦艦の前でアザミが海面を蹴って跳躍。そして、空中で一回転して勢いをつけながら、自分を見上げていた相手の顔に強烈な踵落(かかとお)としを叩き込んだ。

 

「あ゙ッ.........!?」

 

「っ.........!」

 

 そのまま白目を剥いて背中から倒れていく相手を容赦なく蹴飛ばしてまた水面に着地(着水?)したアザミは、

 

「ひっ......!?」

 

「............」

 

「く、来るなああぁぁぁぁ!!!??」

 

 泣きながら、砲身をもつ手が震えるせいで掠りもしないレール砲を撃ってくる熊野に歩きながら近付く、

 

「............」

 

「み、見えなっ......!?」

 

ように見せ掛け、急に速度を上げて相手の背後に回ると

 

 

 

「恐れるナ」

 

 

死ぬ(負ける)時間が来ただけダ」

 

 

 

 熊野の後頭部に単装砲を密着させて三回ほど引き金を引く。哀れなことに......アザミは一ミリ足りともそうは思っていなかったが、恐怖で気が狂った熊野はその場に気絶して海面に突っ伏し、動かなくなってしまった。

 

 

『ぐ、グリッド2、熊野、金剛、戦闘続行不可につき、大破判定!』

 

『勝者、グリッド1、フィフス・シエラ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

演習が終わり、一息つこうか、等と思っていたとき。

ウツギへとヴェールヌイが接近してくる。

彼女のルーツとも言える暁という艦娘。

その妹である彼女の想いとは、何。

 

 次回「勿忘草(わすれなぐさ)」。 背伸びして溢した、大人びたセリフを思い出す。

 




無双って書くのムズいですね(白目


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勿忘草

ウツギvs響(舌の)


 

 ひと悶着あった演習がシエラ隊の「圧勝」で終わり。港に戻ってきて、気絶してみっともなく白目を剥いている熊野と戦艦「金剛」が担架で運ばれている様子を眺めながら。ツユクサが口を開いて勝利の言葉を呟く。

 

「ふふっふふふ......やったぜ......ぶぇっくし!!」

 

「うわっ、きったね!?」

 

「ツッチー大丈夫?」

 

 「ああぁぁ......やっべぇくっそ寒いッス......」。ツユクサが鼻水を足らしながらそう言って体を震わせ、そんな彼女に漣は持っていたポケットティッシュを渡す。頭に血が昇ってすっかり彼女は忘れていたようだがここは冬の北海道、知らずに水飛沫で体を濡らして体温を奪われていたのだ。

 そんな彼女に。何処からか現れたヴェールヌイが拍手をしながら声を掛けてきた。

 

「すごいね。圧勝だよ。こんなに大差をつけて勝つ人たちは久しぶりかな」

 

「どうも......」

 

「あと、寒いなら早く中に入るといい。お風呂が沸いてるから好きに使って」

 

 「マァジッスかあぁぁ!?」とヴェールヌイの発言を聞いたツユクサが、声を張り上げて建物の方向へと一目散に駆けていく。

 いい加減に落ち着くと言うことを覚えたらどうなのだろうか。軽い溜め息を吐いてからウツギが他の四人を連れ、ツユクサに続いて施設に入ろうと歩き始める。と、またヴェールヌイが話し掛けてくる。

 

「ごめん、ウツギさんだけは残っていてくれないかい?話がしたい」

 

「はぁ......別に構いませんが」

 

 特に急ぐ用事も無かったウツギは相手の言うことを呑んで、四人が泊地の建物に入っていくのを見送ったあとに、ヴェールヌイの後に付いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「この辺でいいかな。じゃあ、改めて。よろしく」

 

「......よろしくで......」

 

「敬語なんていいよ。タメ口で喋って」

 

「......解った」

 

 ガソリンスタンドが近くに見える、除雪した雪の置き場所になっている駐車場まで連れてこられたウツギが、ヴェールヌイ......響の次の言葉を待つ。

 どういう会話が始まるかな。

 ウツギが考えていると、響がポケットから煙草と100円ライターを取り出して喫煙しようとする。が、ライターがなかなか点火しないのを見たウツギが、ベンチコートの裏からP.O.C.R(ポクタル)とロゴの入ったオイルライターを取り出して彼女が咥えていたそれなりに有名な銘柄のタバコに火をつける。

 

「......どうぞ」

 

「ん......身内に喫煙者が居るのかい」

 

「いや、デザインが気に入ったから。土産物屋で買っただけだ」

 

 「そうなの。ありがとう」。素っ気なく響がそう返答して、そのまま彼女は煙草を吸い始める。この間、響とウツギの間に会話は無かった。

 

 十分ほど時間が経つ。

 

 いい加減何か喋らないのか?

 横に突っ立って、煙草の煙か外気で冷やされた吐息か解らない白い息を吐いている響にウツギが視線を送っていると、やっと彼女が口を開いた。

 

 

「メロンは好き?」

 

 

「............は?」

 

 

 何が?ウツギがそう思いながら眉を潜めるのを見ながら、響が尚も煙草を吹かしながら続ける。

 

「あとマグロとししゃもにシャケと......」

 

「待ってくれ、何の話か意味がわからない」

 

 何を言い出すかと思えば......なんなんだこいつは。軽く頭痛を覚えて混乱するウツギに、響が真顔で説明する。

 

「農家や護衛してる漁師の人が沢山贈ってきてくれるんだ。自分達だけじゃ食べきれないからいつもこの時期に皆に渡してるんだけど......」

 

「......まさかそれを言うためだけに呼んだんじゃないだろうな」

 

「......?駄目なの?」

 

 ...............冗談だろう?自分の前世についての話じゃあないのか?

 重い話題が来ると身構えていたらとんでもない肩透かしを食らった、とウツギがどうも纏まらない思考を中断して響と話をしてみる。

 

「もっと、こう......無いのか?」

 

「何がだい?」

 

「.........自分の「元」を提供したのはアンタだと聞いたが」

 

「どうでもいいよそんなことは。世間話がしたかっただけだし。......そうだ、趣味はなんなんだい?」

 

「......料理と読書だ。あとガーデニング......」

 

「陰キャだね」

 

「悪いか」

 

「いや、あんな凄い戦果を挙げるものだから、筋トレでもやってるのかなって」

 

「みんなそう言ってくる。運が良かっただけだよ。いつ死んでもおかしくないことばかりだった」

 

 若葉、天龍、神風に、RD、田中。全部気を抜いたら簡単に自分は逝っていたな。と小声で呟いた後に、響が「それは違う」と否定してこう返してくる。

 

「運も実力のうちだよ。どんなに強くても死んだら意味がない。死にかけてでも、いや、逆に死ぬ気で帰ってくることが一番だ」

 

「......」

 

 吸い終わった煙草を携帯灰皿に仕舞い、また新しいのを取り出して咥えた響に、数分前と同じ動作でまたウツギがライターの火を差し出す。

 

「どうも.........私も買おうかな。オイルライター」

 

「手入れが大変だぜ」

 

「いちいち安物を使い捨てるほうが面倒じゃないか。長く使えば愛着も湧きそうだし」

 

「そう。.........そろそろ戻っていいか」

 

「あ、いいよ。ありがとう。無駄話に付き合ってくれて」

 

 ふううぅぅ、と副流煙を撒き散らしながら、響はにこやかにそう言う。......が、何故かウツギにはその表情にどこか影が落ちた寂しそうな物を感じとる。

 なんとなく、帰りたいと言ったのが悪いように感じたウツギは、響にこう言ってみた。

 

「響」

 

「ッ...!!......なんだい?」

 

 

「また無駄話に付き合ってもいい」

 

「......じゃあ遠慮なく。またどこか連れてくかも」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉さん、だよね......。変な話題を吹っ掛けたらどもるとこも、インドア趣味なのも......の、クセしてやけに強くて頼りになって、なのに自己評価が低くって.........だめだ、この考えは止めよう。

 頬を一筋の液体が流れるのを感じた響が、帽子を目深に被り直してから、ゆっくりと煙草の煙を吐き出す。

 

「あ~~響さんです~♪こんなところに~」

 

「......なんだポーラか」

 

「なんですって~?人に向かって~なんだとはなんですかぁ~?」

 

 そろそろ戻るか、と身を翻した瞬間に声をかけてきた重巡の「Pola」を、響がぞんざいに扱ったために、相手が気の抜けるような間延びした話し方で反論してくる。

 

「もう酔っぱらってるのかい?」

 

「チューハイ一本じゃあ~酔うに酔えませんよ~」

 

「ふーん。そう......」

 

 まあ、いいや。こんな呑んだくれは無視するか。仲間に向かって失礼なことを考えながらそのまま響は吸い殻を仕舞って、歩を進める......とまたポーラが声をかけてきた。

 

「あぁ~待って~♪」

 

「なに?」

 

「見てました~。響さんと~ウ~なんとかさんのお話~♪」

 

「......盗み聞きとは感心しないね」

 

「気付いてなかったのは響さんだけだと思いますよー。白い人はこっちを見てましたから」

 

 ......自分としたことか、注意力が落ちてたみたいだ。

 声の調子を変えて喋り始めるポーラを少し睨みながら響が考える。ポーラが、持っていた酒の缶を近くの地面の雪を少し足で避けて置いてから続ける。

 

「楽しかったですかー。おねぇさんと喋って」

 

「まあ、それなりに......」

 

「の、割には~......結構楽しそうでしたー。久し振りに見ましたよ~響さんの笑顔~♪」

 

「...............」

 

「うふふ~♪だいぶ戻ってきました~昔の響さんに~」

 

「良いことだろ」

 

「そうですね~。少なくとも、提督さんに「私は艦娘という兵器なんだから是非とも使い潰せ」~なんて言うよりかは万倍マシですよ~って......あれぇ?」

 

 ......逃げられちゃいました。

 目を離したうちに、自分の近くから消えた響について弱い溜め息をつき、ポーラは地面に置いた酒を拾ってぐっと口に含んでから、その場から灰色の海を眺める。

 

 

 # # #

 

『いいかい、艦娘っていうのは兵器なんだ。人間じゃない「モノ」なんだよ。さっさと使い潰せばいい』

 

『No!!チャンビキ、何を言い出すかと思えば!どうしたんだYo?』

 

『茶化そうとしたって無駄だぜ』

 

『HEY、HEY、HEY。なるほどな。なら言う通りに「モノ」として使ってやローじゃないの』

 

『そうかい。な』

 

『た・だ・し。よく聞いとけYo』

 

 

『チャンボクは道具は大切に使う主義だ。そして道具ってのは定期的に「メンテナンス」が必要だロ? 「長く使い潰す」ために衣食住はこれまで通りに保障しちゃうYo?オーケェイ?』

 

 # # #

 

 

「提督さんも~頭が回りますよね~。屁理屈には屁理屈で対抗すると......。響さんもこれから良くなってくといいんですが~」

 

 自分達の上司である......年中アロハシャツ姿でレゲエとヒップホップが好きなDJ口調の変わり者の顔を思い浮かべながら、ポーラは薄く氷が張っている海を眺め、安酒を飲みながらそんなことを呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

それは冬と春にかけて咲く、小振りのお花。

外国のしんみりした童話にも登場するちょっと悲しげなお花。

別名はミオソティス。

そんな、勿忘草の花言葉をご存知でしょうか。

 

 次回「賑やかな雪景色」。 正解は「真実の愛」、「私を忘れないで」。

 




ギャグのような、そうでもないような......


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賑やかな雪景色

PS4が欲しい(願望


 

 午後四時。自分達がいた場所ではまだ夕方の時間だというのに、既に辺りが真っ暗になっていることに少し衝撃を受けながら。シエラ隊の六人は、午後の訓練と称された除雪作業に従事していた。

 真っ暗、といっても、除雪車や外灯の光を雪が反射してぼんやりと明るい泊地の道をスコップ片手に歩きながら、ツユクサが口を開く。

 

「壮観ッスね~」

 

「だな」

 

 五台の重機がやかましい音をたてながら氷と雪を粉砕して運んでいく、異国の地にでも来たのかというような光景を目の前に、ツユクサが溜め息をつく。

 その、ツユクサと一緒になって、除雪車が作業をしているのを眺めていたウツギに。天龍が尋ねてくる。

 

「......ひとついい?」

 

「どうした天龍」

 

 前で大きな駆動音を響かせ、巨大なフォグランプで道を照らしながら悠々と走り去っていく、トラクター型の車体に大型のブレードが取り付けられた形状のブルドーザー除雪車を見ながら。天龍が眼帯を外した顔をウツギに向けながら言う。

 

「漣があんなの運転できるとか聞いてねぇぞ......」

 

「......実家に居たときに乗せられてたらしい。こっちじゃ出来てトーゼンって」

 

「さらっととんでもねぇ......無免許運転が当たり前ってか?」

 

「私有地だから関係ないって話らしいッスよ」

 

 「それもそれで問題があるような......」。プラスチック製の除雪スコップで、漣が乗ったブルドーザーが取りこぼしていった雪を雪壁に寄せながら天龍が言う。

 しかし......たかが雪を退かすだけと侮っていた。結構体力仕事だなこれは......。

 除雪作業を初めてからもう五時間ほど。外気で体温が奪われていくのかと思いきや、水気を含んで重たい雪を運ぶ肉体労働で逆に汗だくになりながら、ウツギがそんな事を考える。

 

「う~む......お前さんの艤装でこいつを押し出せないのか?」

 

「やってやろうか?......道路がズタズタになってもいいなら」

 

「絶対NGだろそれ、大目玉食らうぞ」

 

 アルミ製のスコップでアイスバーンを叩き割りながら、面倒そうな顔で、これを艤装で抉って取れないだろうか等と若葉が、(参加者でもないのにただ飯食らうのは駄目だろうと勝手に雪掻きの手伝いをしていた)RDと相談をしていた時。

 

 

「ア゙ア゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁ!?」

 

 

「なんだ?」

 

「ん......?ぶっw、さっちゃんw!」

 

 いきなり左方向から聞こえてきた叫び声の方向に六人が顔を向ける。そこには、一台の除雪車に追いかけ回されている艦娘が居た。例の熊野と、追い込んでいるのは漣の運転していた車だ。

 わざわざドアを開けて熊野の顔を見ながら、そこはかとなく腹が立つ表情を浮かべながら巧みにレバーを操作して車を動かす漣を見て、ツユクサが声をあげて笑う。

 

「アー、アー、止まれねぇー避けてー」

 

「ぎゃああぁ!?あっ、貴女どこを見て運転してるんですのぉぉぉ!!」

 

「メンゴメンゴ」

 

「とおぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!??」

 

 .........いい気味だな。運動にもなるだろうし。あと五分ほど放っておくか。

 いつもなら止める立場のウツギが、流石に朝の仕打ちに腹をたてていたためにそんなことを考えながら。青ざめた顔で走り回る、除雪車に引かれかけている熊野を仲間と一緒になって笑顔で眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練終了。お疲れ様。各自、自分の部屋で待機。ご飯の時間まで自由時間だよ。じゃ、解散」

 

 

 

「で、どうする」

 

「風呂行こうぜ。汗かいちま」

 

 

「そこの貴女!!」

 

 

 また来た。無視だ無視。

 除雪任務が終わり、泊地の建物入り口のホールで簡単なミーティングと連絡が終わって、七人がこれからどうしたものかと相談していた時。顔を真っ赤にした、いかにも怒り心頭といった様子の熊野がどすどす歩きながら声をかけてきたので、ウツギが無視して漣と会話をする。

 

「浴場はどこだったか」

 

「あっちじゃなかったっけ」

 

「ちょっと」

 

「腹へったッス」

 

「あと一時間ぐらい待てるだろ」

 

「ちょっと!」

 

「くくく......早く実戦訓練がしたいものだよ.........ウふフ...♪」

 

 

「ちょっとぉぉ!!聞いてるんですの!?あ・な・た・たちに言ってるんですのぉぉぉ!!」

 

 

 ウツギが視線で訴えたのを感じとり、シエラ隊の全員が熊野を居ないものとして無視をしていたが、道を塞ぐように熊野の仲間が現れ、流石にだんまりを決め込むだけにはいかない状況になる。

 

「なんです?鳩時計みたいにピーヒャラと」

 

「はとっ...!?......は、初めてですわ......私をここまでコケにする方たちはッ......!!」

 

「はぁ......すいませんでッ!?」

 

 ウツギにとって、熊野という人間と話すことがストレスになりつつあったので、皮肉たっぷりに相手を罵倒してから謝ったところ、ウツギへ向かって熊野の部隊の戦艦の艦娘が横から殴りかかってきたのを、咄嗟に左手で顔を庇いながら状態を倒してお辞儀の姿勢をとってかわす。

 危なかった。と思いながら。ふと、ウツギが目を左に動かすと若葉の顔が視界に入る。「あっ......」。ウツギの口からそんな言葉が漏れる。というのも

 

目線に入った若葉の顔が、ずっと欲しかったオモチャをやっと親に買い与えて貰った子供のような満面の笑顔になっていたのだ。

 

 

 ............。御愁傷様。

 

 

自分達に因縁をつけてきた誰かさん達へ、ウツギはそんな言葉を心の中で掛けた。

 屈託のない、外見相応の少女らしい笑顔の若葉は、ウツギをぶん殴ろうとした戦艦の艦娘の腕を掴むと

 

「貴様......何をっ...!?」

 

 それを得意の馬鹿力で引っ張って相手の体勢を崩して、「えい♪」と一声あげてからその女の顎に拳を叩き込む。

 「んびゃっ」と間抜けな声を出して、戦艦の艦娘はこれまた白目を剥いて間抜けな顔で背中から床に倒れ、ぴくりとも動かなくなる。

 

そこからは早かった。

 

 戦艦の艦娘......「長門」と言うらしいそいつが呆気なくやられたことに仰天していた他の艦娘も気を取り直して、熊野を除いた四人が一斉に若葉に躍りかかる......前に、それぞれがアザミ、ツユクサ、漣、天龍に足を引っ掛けられてみっともなくすっ転び、互いに頭をぶつけて、突然の痛みに頭を抱える。

 

「イッ......ち、ちくしょう!!」

 

「あ゙?まだやんのか?」

 

 額を押さえながら、八つ当たりぎみに空母の艦娘がツユクサに回し蹴りをやろうとしてくるが、

 

「残念ッスけど」

 

 

「アタシは喧嘩は慣れてんだよォ!!」

 

 

 難なくこれを受け身を取っていなすと、今度は若葉がやったように相手の足を引っ掴んで地面に仰向けに叩きつける。片足立ちですぐにバランスを崩した空母の艦娘は、可愛そうなことに、ツユクサに腕を捻られて悲鳴をあげる。

 

「いっ、痛い痛い痛い痛い!!」

 

「どうだ!」

 

「離してよっ...んもぅっ!!」

 

「逃がさン」

 

「...!............。」

 

 ......。まさかアザミまで乗り気だったとは......これは不味いな。ツユクサと同じように、襲い掛かってきた相手を、護身術の手本でも見せるような流れで袈裟固めに持っていって拘束したアザミや、拘束どころか若葉と同じく相手を気絶させた漣、ニコニコしながら捕まえた相手が泡を吹いている天龍を見て。「暴漢」を手際よく取り抑える一連の動作にどういうわけか「おぉ......」と歓声と拍手を掛けてくる艦娘たちにウツギが頭を抱える。元はと言えば熊野が全ての原因だったがそんなことはもう頭になかった。

 

 

 

 

「これ、何の騒ぎだい?」

 

 .........どう言い訳しよう。困った。

 周りで一部始終を見ていた他の艦娘たちを掻き分けて騒ぎを見に来た響へ。内心助けを求めるウツギだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

着々と溝が深まるウツギ達と熊野達。

しかし時間は気にせず進んで時刻は翌日。

一風変わった戦闘演習にて、どういう巡り合わせなのか。

ウツギと響のドッグファイトが開始される。

 

 次回「ビエールイアフターイメージ」。 白い残像が尾を引く。

 




ギャグ回。


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ビエールイアフターイメージ

お待たせしました。一風変わった演習の始まりでさァ


 

 

 

 シエラ隊が、色々と問題だらけな熊野たちと演習をして喧嘩もやった一日の翌日。

 窓から見える外が吹雪(ふぶ)いていて、霧がかったように真っ白な景色が広がっている今日と言う日に、ちょうど、シエラ隊は熊野たちと騒ぎを起こした泊地の玄関ホールに集まっていた。

 あくびをしながら、目の下に隈を作ったツユクサが口を開く。

 

「あ゙ぁ゙......くっそ眠たいッス.........」

 

「何時間寝れた?」

 

「三時間ほど、かな」

 

「よく平気だなウツギ......」

 

「書類仕事は馴れてるからな」

 

 同じく白い顔をしながら聞いてきた天龍に、ウツギがなんともなさそうに至っていつも通りの真顔で返答する。

 

 喧嘩騒ぎがあったあのあと。なんでこんな騒ぎになったのか、と聞いてきた響に要点をぼかしながら説明していたウツギの横から、ツユクサが「自分達がやられたことの仕返しをやった」と言ってしまい、事情聴取が始まる。結果、長い時間の質問攻めと多少の始末書を処理する時間に追われて。ウツギたちは......正確にはデスクワークで就寝時刻が遅くなりがちだったウツギ以外の五人は寝不足で不調だった。(RDは部外者なので普通に過ごした。)

 そんな彼女たちに駆け寄ってくる人物がいる。事情を聞いて響が呼んだ、第五から秋津洲の協力を経てヘリコプターですっとんできた、戦艦水鬼絡みの件以来すっかりツユクサと仲が良くなった男。田代だ。

 

「おはようございます。みなさん!」

 

「おっ、おう......おはようさん」

 

 顔の所々が黒く汚れてツユクサ以上に濃い隈を作り、見るからに健康状態が悪そうにも関わらず、田代がニタつきながら挨拶をしてくる。天龍が若干引く。

 そんな元気はつらつな男の後ろから遅れてやってきた秋津洲にウツギが挨拶をし、アザミが秋津洲に質問を飛ばす。

 

「おはよう」

 

「おはようかも!」

 

「直っタ.........?艤装......」

 

「勿論です、前より快調に動くと思いますよ!!」

 

 秋津洲へ質問したはずのアザミに向かって、異様なハイテンションで田代が返答する。

 なんでこいつは朝からこんなに元気なのだろうか、と思ったウツギが秋津洲に聞いてみる。聞くと、「彼女のために徹夜して仕事してたかも」と返ってきたので、察するものがあったウツギが、視線の先でツユクサに抱きつかれて顔が赤くなっている男へとひきつった笑顔を向ける。

 

「タッシーナイスぅ!!大好き!!」

 

「ひぇあっ!?ツァっ、ツユクサさん、色々当たってます......!!」

 

「アテてるんスよ♪」

 

 

 

「砂糖吐きそう」

 

「あれが人間の「相思相愛」と言うものか......」

 

「いつからだっけ。あいつらがあーなったの」

 

「マッド女を沈めた後だ」

 

「あぁ.........なるほど、ね。」

 

 そのうち結婚でもするんじゃないだろうか。目の前で見せ付けるようにいちゃつく二人を見てウツギがそう思っていると、ホールに続々と今日の訓練に参加するための艦娘達が集まってくる。

 あいつらは......居た。.........随分辛そうだな。

 どこかに熊野たちは居ないかと目を動かしたところ、ウツギは全員が白い顔に隈を作ってげっそりしているガングリフォン隊を見付ける。どうやら夜更かしと説教は慣れていなかったようだ。

 

 数分後。昨日と同じように少し時間を空けてから響がやって来て、点呼をとってから彼女が喋り始めた。

 

「みんな居るね。体調が悪い人は......居ないのか。じゃあ移動するからついてきてね」

 

 熊野たちは見事に無視されたな。......今日も一日頑張るか。指の関節を鳴らしながらウツギは他の艦娘と同じように彼女の後について行く。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「随分変わった演習場だな......」

 

「何するんスかね」

 

 一旦外に出てから、泊地の地下に入ると現れた、綺麗に整備された用水路の迷路のように入り組んだ特別演習場という施設。そこに、響に案内されて他の艦娘たちとシエラ隊は居た。

 響の隣に居たもう一人の訓練監督の艦娘から配布された資料によると、元々は使わなくなった下水路を再利用した施設らしく、区間区間で隔壁が設置されている場所とのこと。

 こんな変な場所で行う訓練とは何なのだろうか。ウツギ以外にも天龍や漣等も考えていたとき。この演習用水路の入り口あたる少し広い場所で、また同じように点呼を取ってから説明を始める。

 

「みんな静かに。今日みんなにやってもらうのはちょっと特別ルールの訓練メニューだよ」

 

「特別ルール?」

 

「私たちは「スタミナ比べ」とか「持久」って言ってるんだけどね。用は、この狭い用水路をいったり来たりして勝ち負けを競うの。」

 

「詳しくはね......配った紙見て欲しいんだけど......。ルールは、まず隊から一人ずつ出てきて一対一の状態から始まる。そして先行と後追いを決めて、先行は出口近くの、ここと同じような広場までひたすら逃げて、後追いは二秒だけ待ってからそれを追いかけて轟沈判定を出すように頑張るっていう訓練なんだけど」

 

 なるほど。早い話が鬼ごっこか。しかし持久とはどういう意味だろうか。

 ウツギが考えていたとき、天龍が手を挙げて響に質問をする。

 

「先行は逃げ切れば勝ちなんすか?」

 

「まだ話は終わってないよ」

 

「あっ、すんません」

 

「でもいい質問だ。この訓練の一番大事なところだけど」

 

 

「先行の人は逃げ切っただけじゃ勝ちにならないから。」

 

 

 響の発言でほんの少し集まった艦娘たちがザワつくが、すぐに収まって、皆が彼女の言葉を待つ。熊野たちはそれどころじゃなさそうな位に眠気と格闘しているのがウツギから見えたが。

 

「簡単に言うと、後追いが勝つまで永遠に続くんだ。正確に言うと、先行が逃げ切ったらお互いが役割を交代して、今度はまたスタート地点を目指して最初に追い掛け役をやった人が逃げる。そしてまた交代して......って続けるんだ。先行が勝つのは後追いが弾か燃料が切れたときだけ」

 

「......だから「スタミナ比べ」、か。.........」

 

「いいッスね、体力は自信あるッス!」

 

 指を鳴らし、軽めのストレッチをしながら得意気にツユクサが言う。

 

「あぁ、あと最後に。」

 

「一度通った場所は隔壁が降りて通れなくなるから。どんどん通れる場所が制限されていくから覚えておいてね」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「大体はこんな所かな。質問ある人」

 

「はい」

 

「どうぞ」

 

 あらかたの説明が響の口からもたらされ、取りあえずはこの特別メニューのことを理解したウツギが、気になったことがあったので教官に聞いてみる。

 

「艦種によって出せるスピードに差があると思うのですが。それはどうするんですか」

 

「いい質問だ。じゃあ答えるね。彼女が言った通り、ここには戦艦から駆逐艦の子まで沢山いる。いま言った艦種同士の組み合わせになったとしたら、駆逐艦の子が有利すぎるから今回は「ハンデ方式」を取るよ」

 

「こういった、艦種で速度に差が出る子は、先行になったときに最高で五秒まで後追いに追加で待ち時間を指定することができるよ」

 

「「指定できる」ってことは、じゃあハンデなしも指定できるってことッスか?」

 

「え?......いや、出来るけど、やる人はほとんど居ないかな」

 

 ほとんど、と言うことはそんなやつも居たのか。

 ()頓狂(とんきょう)なようでいて、それなりに大事でもあるようなツユクサの質問に対する響の答にウツギが考える。

 

「他に質問ある人......居ないのか。組み合わせはくじ引きで決めるから、ここから引いてって」

 

「............」

 

「あ、君はダメ」

 

「............は?」

 

 何だと?響が差し出した缶に刺さったくじの棒を引こうとすると、それをさっと引っ込められてそう告げられたウツギが変な顔になる。

 

「練度が一番高い人は特別扱いでね。デモンストレーションで最初に私とやってもらうことになってるんだ」

 

 

 

「練度89のウツギさん?」

 

 

 

「はちッ......!?」

 

 響の言い放った言葉に、熊野が白い顔から蒼い顔になる。遠征に参加する艦娘のリストは練度の表記が省かれていたとはいえ、どれだけ自分達が無謀な喧嘩を吹っ掛けたのかを今更自覚したのだ。

 

 数分後。人払いを済ませた訓練開始地点にて。後方でギャラリーとして待機中の艦娘達がひしめいている中、ウツギが響とハンデについて話し合う。因みに最初の先行はウツギがやることになった。

 

「自分が先行か」

 

「後追いだね。ここになれてるから、初めは四秒待ってあげる。周回するごとに一秒ずつ減らすから。そっちが追うときは基本の二秒だけでいいよ。それでいいかい?」

 

「問題ない」

 

 「負けんなよウツギー!!」「ウッチー頑張れー!!」と飛んでくる仲間たちの野次に笑顔で返事をしてから。ウツギが前に向き直る。

 

『カウント始めます』

 

『5...4......3』

 

 響。一体どれぐらいの強さの艦娘なのだろうか。

 

『2......1』

 

 ウツギが、田代の徹夜の頑張りで修復された、余計な装備を外して出来るだけ軽くした暁の艤装を駆動させる。

 

 

『GO!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

遂に始まった「姉妹」対決。

慣れない場所での「鬼ごっこ」に苦戦しながらも、

ウツギは持ち前の対応力で響と互角に渡り合う。

そして耐久バトルは意外な方向へと進むことに。

 

 次回「ガラクタの意地」。 ハートの強さが勝負を征する。




Watch dogsというゲームを知人から借りてやりはじめました。面白いですねコレ。


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ガラクタの意地

主人公補正の掛け方って難しい......


 

 

 

 っ.........所々氷が張っているな。滑りづらい......なんなんだここは......。

 耐久勝負の開始から20秒ほど。綺麗に整備されたコンクリート製の壁が続いている浅く水が張った回廊を、時折現れる分岐に入ったり入らなかったりすると同時に、水路内が薄暗いせいで水と見分けがつかない氷で足をとられないようにと神経を研ぎ澄ませながらウツギが滑っていく。

 

「っ...と......」

 

 後ろはまだ追い付いてきてないな。......とにかく今は勝負は無視して、この場所に慣れることに集中するか。

 駆逐艦の取り柄である高速移動が制限される、曲がり角が連続しカーブの出口の水が凍っている場所を、時折後方を確認しながら。流石に六秒も貰ったハンデで大きく相手が遅れていることを悟ったウツギが、前を向いて進むことだけに全ての意識を集中させる。

 

 数分後。最後まで逃げ切ったウツギの元に、数秒遅れて響が到着。役割を入れ換えて二本目が始まる。

 

「二本目、始めるよ。じゃあお先。」

 

「............」

 

 響の発言にウツギが無言で頷き、それを見た彼女が身を翻してウツギから逃げるためにもと来た道に消えていく。

 無機質なブザーの音が二回鳴り、そのあとにやってくる訓練監督の艦娘の「GO!」という声を聞いてから、鬼役のウツギが発進。響が水面に付けていった航跡を辿って追い掛けていくと、程なくして彼女の姿をウツギが捉える......が、ウツギは砲を撃つどころか構えすらしなかった。

 

(まだ撃ったら駄目だ。慣れるまで無駄弾は撃てない。あと二回ほど周回してからが勝負だ.........)

 

(それに......無理だとは思うが)

 

(やるからには「勝ち」たいしな。)

 

 冷静に、相手の動きを観察しながらウツギがハイペースで逃げていく響を追う。

 

 

 

 自分の背後から聞こえてくる、ウツギの艤装の音が付かず離れずに追従してくることを察知した響が、後ろを振り返らずに思考に更ける。このとき、既に彼女は、なんでウツギがまだ砲を撃ってこないのかの理由の検討がついていた。

 

(なるほど。下手に撃ってくるよりも、ここのやり方を勉強しているのか。......久し振りに長い戦いになりそうだな)

 

 行動の意味をほとんど予測されていることなどは勿論知らず......解っていてもそうしただろうが、ウツギは尚もただただ先をいく響を追い掛けることに意識を向ける。

 

(この迷路は中心部に近付けば近付くほど路地とブラインドコーナーが増えて、そこは駆逐艦なら艤装の限界速度の半分も出せない......)

 

(そんな場所で鬼を撒くには、ただひたすらここに馴れて無駄な動きと減速の回数を減らし、出来る限り加速に移るタイミングを早めるだけ)

 

 そこに気付いているのかいないのかは知らないけど。早めに適応しようとするなんて最適解を導きだして実践している......。なるほど、確かに実戦を沢山潜り抜けた強者だねこれは。

 大抵は逃げ切って立場が入れ替わった途端に、早く決着をつけようと自分を狙い撃ちしてくる艦娘が多いことを、今まで教官をやってきた経験で知っていた響がそう考える。

 

(にしても)

 

 問題の水路中心部の中低速セクションに差し掛かったとき。一瞬だけ後ろを向いてウツギの顔を見たあとに、響がこんなことを思った。

 

(よく付いてこられるね。この人......)

 

(砲の狙いを定めて、撃った反動で減速する一連の動作をかなぐり捨てて無駄がないとは言え......もう普段なら振り切っているところなんだけどな)

 

 時折後ろから聴こえてくる、服が擦れる音や金属が削れるような物音から、壁に体を擦り付けながら必死に自分を追い掛けてくるウツギを響が想像する。

 

 

『第二ラウンド、開始します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『全隔壁の閉鎖を確認しました。これより閉鎖された隔壁を開放します』

 

「ふぅ.........十一本目、行くぞ」

 

「うん」

 

 

 

「すげーッス。ウツギのやつ......」

 

「もう十本ねぇ......」

 

 場所は変わって最初に二人がスタートした、待機中の艦娘達がこの訓練の観戦をしている水路の入り口付近。もう耐久勝負の開始から三十分近くの時間が経ち、全てのルートの隔壁が閉鎖されるほど周回してもなお、まだ決着が着かなかったことに。ツユクサや漣が驚いていた。

 

「これ勝負つくのかな?」

 

「そりゃつくだろ。あんなグネグネ道を行って帰って、しかも同じ道は通れなくなるからそれもしっかり覚えておかないといけない......よく集中力が続くもんだ」

 

「..................」

 

 水路の中のいくつかの箇所に設置された定点カメラから、持っていたスマートフォンに送られてくる、体のあちこちの致命傷判定にならない場所を塗料で汚したウツギを響が追い回している映像を見ながら、天龍が言う。

 

 

『............十二本目ね』

 

『ハァ、ハァ............応......!』

 

「おー、ウッチーまた逃げ切った」

 

「勝てるんじゃね!?これ!?」

 

「............どうかナ」

 

 この場所をよく知っている相手に善戦する友人の姿を見てはしゃぐ漣とツユクサを、アザミが心配そうに見ながらそう溢す。「どゆこと?」と聞いてきた二人へ、アザミはこう説明した。

 

「ウツギ......疲れてル.........」

 

「?そりゃそうッスよ」

 

「馬鹿か。相手を見ろよ......ふふ......」

 

「相手......ヴぇ...ヴェル......なんとか?」

 

「そウ」

 

 アザミと若葉が言っていたことをよく覚えておきながら、三人がカメラ映像を眺める。そして何分か経ってから先程のウツギと同じように、逃げ切った響が自分達の前に到着し、遅れてウツギがやって来る。

 

『第七ラウンド!』

 

「ハァーーッ、.........十三!」

 

「............」

 

 

「あ~、成る程......ッス」

 

「解ったかな?」

 

「息が乱れてないなアイツ......」

 

 息が上がっているウツギの言葉に何も言わずに、彼女が行ってから二秒後に追跡を開始した、ウツギとは対照的に周回を重ねても平然としていた響を見て、ツユクサと天龍が相づちを打ちながら呟く。

 

「あいつはねぇ......弱くはない。が、いかんせん体力があるわけでもない......」

 

「そうっスね。突っ込むのはアタシらッスから」

 

「それに加えて地元のアドバンテージか......」

 

 「勝てるのかな。ウツギのやつ」。何となく不安に思いながら、天龍が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 被弾した部分は......左肩と右足の脛、あと背中のどこか......一枚だけでも盾は持ってきた方が良かったかも。あと三発ほど直撃すればこっちの負けか。

 十三本目の水道往復。速度がのる薄暗い直線区間を、ウツギは回避行動代わりに体をふらふらさせながら滑っていき、相手の攻撃にひやりとしながら、事前に「頭に一発か胴部に四発以上で轟沈判定にする」と聞いていたため自分の体のどこに塗料が付着しているのかを確認する。

 

(来たか......ここが一番の泣き所だ......)

 

 簡単に振り切れれば楽なんだがな......。水路中心部に差し掛かり、額の汗を拭ってから路地にウツギが入る。次々と現れる曲がり角を、この水路の往復に慣れていくうちに考えた「わざと体の一部を壁のヘリに引っ掛けて体の向きを変える」という荒業で出来るだけ減速せずに曲がっていく。この行動が祟ってウツギの服の袖はボロボロになり、肩には青アザが出来ていたが、そんな事を気にしている場合ではない。

 

(十一で真ん中を通った......帰りは左だから、右は塞がっている。から、左が正解か)

 

 集中力が無くなってきている。次に決められなかったら負ける。腹をくくるしかないか。

 背後からペイント弾が飛んでくる中、十字路を左に曲がりながらウツギが考え事をする。しかし

 

 

その先は隔壁が降りて道が塞がっていた。

 

 

 ッ!!マズい!!

 

「しまッ......!?」

 

「終わりだよ」

 

 七メートル......砲撃戦なら目と鼻の先ほどの距離までウツギが響に距離を詰められ、そんな言葉をかけられる。が......

 

「......まだッ」

 

――負けてない――

 

 ウツギは減速するどころか逆に壁に向かって加速すると、滑り込むように背中から水面に倒れ込む。そして壁に足が付くと、それを全力で蹴った反動で後方へ進む。

 すぐ後ろにいた響が、突然のウツギの奇行を予測できなかったため、砲弾を外してしまい、それが壁に当たったのを見計らってウツギも壁に向かって砲撃を行う。煙幕ならぬ「塗料幕」で視界が遮られた響のすぐ横を滑り抜けて、ウツギが正解のルート目掛けて全速力で彼女から逃げる。

 

 

 

『GO!』

 

「ッ............」

 

 咄嗟の機転で窮地を切り抜け、そのままなんとかウツギがゴールまで逃げ切り、十四本目の往復運動が始まる。止めどなく自分の額から滴り落ちる汗に顔をしかめながら、ウツギが艤装の出力を上げながら響を追い掛ける。

 

(疲れているのは自分だけじゃない。......動きが怪しくなってるな......そろそろ仕掛けるか)

 

 表面上では平静としていたものの、明らかにフラついている相手を見て。未だに十発程しか撃っておらず、乱射しても大丈夫なほどに弾が温存された砲を響に向けてウツギは引き金を引く。

 

(......来たね。やっぱり疲れてる事が見抜かれてる)

 

 それにここまで長引くなんて。でもそう簡単には負けない......こっちだって地元でやってて教官なんて肩書きだってあるんだ。

 後方から三発ずつ発射されてくる砲弾を、疲労が蓄積した体に鞭を打って勘で回避しながら、響が路地に滑り込む。追従するウツギは逃げるときと同じく体を壁に擦って曲がりながら、数を撃てば当たるとばかりに砲を乱射する。

 

(落ち着け。チャンスは必ずやってくる。よく狙ってから引き金を......)

 

 撃った砲弾がことごとく屈伸運動などで避けられ、二発ほどしかまともに当たらなかったために一旦ウツギが連射をやめる。

 最初と最後......それぞれに長い直線がある。そこで勝負を仕掛けるんだ。そう思ってウツギが響の追跡に専念しようとした時。

 

(射撃を止めた......ストレートで決めようって魂胆かな)

 

(っと......この先は......右が正解のはず。さっきみたいなミスは私にはな――)

 

 響が記憶を便りに考えながら道を曲がると、金属が何かにぶつかる音と同時に前を向いた視点が水面に向かう。

 

(何が)

 

 何が起こったんだ。

 集中力が切れた一瞬、水面に貼っていた氷に足を取られた事など、疲れきった脳味噌で解るわけもなく、響が転倒しながら水面を滑っていく。

 今しかない。ウツギが響に砲を向ける。そして予測射撃のために目線を響の少し先に向けると

 

 

 職員のミスか。通過していない道の隔壁が響に向かって降りていくのが見えた。

 

 

「危ない!!」

 

「え?」

 

 

 咄嗟の判断でウツギが響を体当たりで突き飛ばす。ずっと俯いていた響は、また自分が何をされたのか把握できず、されるがままに回廊の道を転がっていく。

 

「大丈夫?」

 

「っ......あぁ。ありがとう」

 

 壁が降りてきてたのか。

 水面から立ち上がり、状況が解った響がウツギに言う。そして自然と動いた目に映ったのは

 

 降りてきた隔壁で左腕が切断された、自分の命の恩人だった。

 

 

「っ!!??」

 

「驚いているより早く手当てしてもらえると嬉しい」

 

「ご、ごめん」

 

 引き分け、か。......こんどは左か。

 動揺して震える声で、携帯電話を操作して仲間と連絡を取る響を見て、ウツギは千切れた腕などそっちのけで、勝負についてそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

前も似たような事があった。

そう、ウツギに姉を重ねる響が語る。

自分を構成する暁という女。

懐かしそうに話す響を、ウツギはどう思う。

 

 次回「姉の面影」。 私になんでも教えてくれた貴女は、消えぬシルエット。

 




エイプリルフールなのにネタを提供できなかった!(白目


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姉の面影

お待たせしました。ゲームにうつつを抜かしすぎた......


 

 

 

 

 午前11時。訓練中の事故で負傷したウツギは泊地の医務室で治療を受けていた。

 千切れた腕と断面が綺麗に残っていたため、修復材は極力使わないようにと行われた左腕の縫合(ほうごう)が終わり。局部麻酔を打たれてベッドに横になっていたウツギが、手術を担当した白いジャージの上から白衣を羽織った艦娘から怪我についての緒注意を聞かされる。

 

「終わりました。もう起きていいですよ。今日一日はあまり動かしたりできないと思います......。あ、あとお風呂は明後日まではガマンしてください」

 

「どうも。......これ、ちゃんと繋がっているんですか」

 

 綺麗に真っ二つとは言え、こんな短時間で簡単にくっつくものなのか。

 上着を脱いで黒いランニングシャツ姿だったウツギは、ギプス代わりの雑誌が巻かれて固定された、自分の二の腕にある厳つい縫合跡の上に貼られたガーゼを弱くつねったり撫でたりしながら、ジャージの艦娘に聞いてみる。以前、反対の腕が吹き飛んで入渠で治したことがあったが、千切れた腕を縫合するなんてことは初めてだったので少し心配になったのだ。

 

「繋がってますよ。えーと......正確には今日繋がります」

 

「はぁ......」

 

「傷の断面に修復材を塗布してから縫ったんですけど......艦娘の修復材って、傷を合わせる接着剤みたいな役割も有るんですよ。知ってました?」

 

 「でもこれだけの大怪我を見たのは初めてですけど......」。ジャージの艦娘が苦笑いをしながらそう言ったので、愛想笑いを返しながら、本当に大丈夫だろうかと尚もウツギが傷跡を見ながら不安になる。

 そんなとき、扉越しにツユクサの声が聞こえてきた。手術中も待っていたようだ。

 

『すんませーん、入っていいスか?』

 

「あ、はーい。良いですよ」

 

 珍しく真面目そうな顔のツユクサと、ウツギの腕が犠牲になった原因である響が部屋に入ってくる。響の方はどこか具合が悪そうな顔をしていた。

 

「失礼します。ウツギ、大丈夫ッスか」

 

「なんともないよ」

 

「ごめん。誤操作した子にはキツく言っておいたから」

 

「そんな、大袈裟じゃないですか?」

 

「いや、これはこっちのけじめだから。シャッターも軽くて強度が弱いのに交換することになった」

 

 「そうですか」、と返事をしたものの。内心、やりすぎじゃないのか?とウツギが思う。一般的に見れば腕の切断など大事故だったが、いままで幾度となく死にかけたせいで少しマヒした彼女の感覚では軽いものに思えたからだ。

 

「上着、お返ししますね。あと、こっちが鎮痛剤と止血剤です。もし......無いとは思うんですけど、縫った場所が取れたりしたら、二の腕に止血剤を注射してください。かなり強力な薬なので興味本意で使ったりしないでくださいね」

 

「わかりました......訓練はどうなったんですか?」

 

「そんなもん中止だよ」

 

「中止......ですか」

 

 てっきり血まみれになった道を通行止めにして続行するのでは?と考えていたウツギが顔に表情が出ない程度に驚く。

 

「うちの司令官がうるさいんだ。特にこーいうことがあった......」

 

 響が何かを言おうとしたのを遮り。部屋の扉の先から妙ちくりんな怒号が聞こえてきた。

 

 

『Nooo!!チャンビキの恩人は!?無事なのカイ!?』

 

『提督、ここ医務室ですよ!?お静かに!!』

 

『Youも大声出してるジャンかYo!!』

 

 

「ホラ、言ったそばから」

 

「............」

 

 どんな奴だ。

 外から飛んでくる軽薄そうな声を聞いて。ウツギは眉を潜めツユクサは真顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイアマッ、ナンバワンアドミラァーッ~♪城ッ島(じょうしま)大智(だいち)だYo♪」

 

「一般ピィーポォーは俺の事を伝説の提督......「J(『城』島)D(『大』智)」って呼んでるぜ。シ・ク・ヨ・ロ・Na!」

 

「嘘は良くないよ司令官。「自称」伝説でしょ」

 

「non・non。ビキが知らないだけSa。チャンボクのアツいビートは深海のヤツラだって熱狂するんだゼ?」

 

 

「「...............」」

 

 どう、反応すれば正解だ......?......こんなフザけた男が海軍に居たとは.........そういえば装甲空母姫が会って挨拶を済ませたと言っていた......彼女はどう思ったんだろうか。

 目の前でリズムにノリながらふらふらしている......サングラスにオールバックにしたドレッドヘア、季節外れのアロハシャツという姿の......一見しただけではどう見ても軍属には思えない男を見て。ウツギとツユクサは思考が止まっていた。

 

「っと、無駄話は終わりだ。君がチャンビキの命の恩人だロ?」

 

「......命の恩人なんて。体が勝手に動いただけですよ」

 

 チャンビキ......?.........あぁ、「響ちゃん」か。

 サングラスを外しながらそう言ってきた男の、妙な言葉遣いにたじろぎながらも。ウツギが、堀が深く外国人的な雰囲気が漂う目の前の男に動かせる右手を振りながら返事を言う。

 

「Oh~~、勝手にだって?ますます気に入っちゃうねぇこいつぁ~♪なかなか居ないYo、ウツギチャンみたいな自己犠牲が簡単にできる子はサ」

 

「自己犠牲なんかじゃ無いですよ。......私は、流石に死にはしないだろうなと思ったからやっただけで......」

 

「でも怪我はした」

 

「え?あ、はい」

 

「こりゃケジメだ。悪かった。俺らの不注意でな。訓練なんぞサボっていい、この場所で観光でもしてってくれ」

 

 相手がそう言って手を差し出してきたので、特に嫌でもなかったウツギは握手に応じた。そして次に彼が言ってきた言葉は......

 

「で、この件とは別に頼みたいことがあってだネ......」

 

「嫌です」

 

「ヘェアッ!?」

 

 あ、やってしまった。......どうしよう............。疲れてるのかな?

 大方ろくな事じゃないんだろうな、と内心決め付けて、それが外に出てしまったウツギの額から冷や汗が流れる。するとツユクサが空気を読んですかさずこう切り返す。ウツギは心の中でツユクサに称賛と拍手を送った。

 

「頼みって?なんスか?」

 

「えぇぁ、あの.........軍きっての有名人のサインが欲しいなって......」

 

 .........それだけ? 

 アロハ男が色紙とサインペンを取り出して見せてくる。何か重要な案件だろうと思って考えた予想に反し、意外と大した頼みではなかったことに肩透かしを食らうウツギだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。また付き合ってもらっちゃって」

 

「問題ない」

 

「......ふーん。」

 

 泊地玄関ホールにある喫煙スペースにて。

 響から、またお喋りに付き合ってくれと言われ、二つ返事で了承したウツギは、ツユクサや例のDJ提督と別れてこの場所に来ていた。

 時刻は昼飯時真っ只中ということもあり。喫煙所にあった椅子に座り、数分前に秋津洲が気を利かせて片手で食べられるようにと持ってきたサンドイッチを味わいながら、ウツギが何気ない会話を響と交わす。

 

「今日は何について話すんだ。謝罪はいいぞ。聞きあきたから」

 

「謝らないと気が済まないと言ったら」

 

「......勝手に言えばいい」

 

「じゃあ.........本当にありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 利き腕じゃないとはいえ、片手が不自由なのは不便だな。会話と食事を交互にやりながらそんなことをウツギが考える。ふと彼女が横を向いて響の顔を見たとき。目と目が合う。

 

「.........何か顔に付いてる?」

 

「いや別に」

 

「......すぅ~.........ハァァァ......」

 

 喫煙所に響の口から吐き出された副流煙が蔓延する。性能のいい空気清浄機が何台か設置されていたとはいえ、狭い曇りガラス張り部屋の中にタバコの匂いが充満し、ウツギが少しむせそうになる。

 

「前にさ」

 

 唐突に響が告げ、ウツギが彼女の声に耳を傾ける。

 

「似たようなことがあったんだ」

 

「......似たようなこと?」

 

「聞きたいんでしょ。姉さんのこと」

 

 「暁のことか」。ウツギの呟きに響が無言で頷き、そのまま彼女が煙草を吸いながら続ける。

 

「ちょうど一年前。遠方進軍作戦だとかでこっちに来てた部隊が居てね。敗走するその子達の尻拭いに出たときだったんだけど」

 

「なんて言えばいいんだろう。とにかく色々あって私を庇って死んだ」

 

「..................」

 

 存外、淡々と言ってしまうんだな。......言葉を飾ることに意味はないと言ったところか。

 実の姉の死を、何てことのない思い出話の一つのようにあっさり言う響へ。ウツギが考え事をしながら声をかける。

 

「悲しくなかったのか」

 

「悲しかったさ。あまり思い出したくないけど......今日、思い出す出来事が起きた」

 

「......ごめんなさい」

 

「なんで謝るのさ。助けてくれたのに」

 

「......しかし...」

 

 吸い終わったタバコを、机にあった灰皿に押し付けて火を消し、ゴミ箱に放ってから響が口を開く。

 

「これはさ。神様からの警告なんだ」

 

 

「忘れようとした私への罰なんだよ。きっと」

 

 

 言い終わると、そのままそそくさと響は喫煙所を出て何処かへ行ってしまう。

 

 

 

「...............」

 

「暁。............響を......貴女ならどう励ます。教えてくれ」

 

 本人は果たして気づいていなかったが。響の頬を、一筋の涙が伝っているのを。ウツギはしっかりとその目に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一年前の今頃。全てに絶望してただ風雪にうたれていた。

今日の朝。姉に似た女に救いの手を差し伸べられた。

氷付けの魂が、ゆっくりと溶けていく。

 

 次回「白い水平線」。 あの雲の向こうまで、行けるかな。

 




しんみりした話にしない予定がしんみりした話に......


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白い水平線

来週忙しそうなので連投する予定です。


 

 

「.........どこだ。ここは」

 

 寒い。体の芯まで凍るみたいだ。.........雪が積もった......平原だろうか?

 目を覚ますと、一面の雪景色が広がる場所に自分が横たわっていた事を確認してから。ウツギはゆっくりと立ち上がる。吐く息は白くなり、じんわりと体に染み込むような寒い空気漂う雪原に体を震わせながら、じっとしていても仕方がないと考えたウツギが適当に歩き回ってみる。

 

「...............」

 

 どこを見ても雪、雪、雪......たまに枯れて横たわった樹があるだけ。数キロ先が白くなっていて見えない、永遠に続いているような気がしてならない地平線めがけ、ただウツギは無心で歩く。

 

「あっ.........」

 

 突然、膝まで積もった雪に足をとられてウツギが前のめりに転んでしまう。頬や首筋に入って肌に触れた雪が、自分の体温を奪っていく感触をただ受け入れる。

 

「......冷たい」

 

 雪の上に横たわったまま、なんとなく目を瞑ってみる。

 .........あれ?

 目を閉じて数分後。だんだんと寒さが和らぎ、寒いとも暑いとも言えない温度に周囲の気温が変化したのを感じ、ウツギが目を開いて体を起こす。見渡す限りの雪原が、青々と草が繁る草原に変わっていた。

 

「これは......」

 

 

「おはよう。」

 

 

「......おはよう.........」

 

 毎度の如く、自分の背後から声をかけてきた少女へ、ウツギは立ち上がり体の向きを変えながら返事をする。

 

「......驚かないの?」

 

「驚いたほうが良かったか?」

 

「ううん。そういうわけじゃないわ。ただ、平気なんだなぁって。」

 

「知っている筈だ。......死体は見慣れてる。無惨なのも、綺麗なのも......ね」

 

 振り向いた先に居た女......

 

 

上半身の左半分が何かに抉られたように欠損した......断面から近い部分の服が赤く滲み、傷から血が滴っている暁へ。ウツギは努めて真顔で会話をするように注意する。

 

 

「そうか。そういう訳だったのか......響が貴女と自分を重ねるわけだ」

 

「っと、言うと?」

 

「それが、死んだときの姿なんでしょう。今日の自分と同じ、「左腕を失って」死んだ。......違うか?」

 

「当たりよ。響を庇って......こうやって。私は死んだの」

 

 「そうか」。一言、暁の返事にそう投げて。ウツギは、次はどう切り出せばいいかと、解らなくなってしまい、結果数分の沈黙が訪れる。

 先に口を開いたのは暁だった。

 

「ねぇ。」

 

「どうした」

 

「少し、目を閉じていてくれない?」

 

「......承知した」

 

 見るからに痛々しい姿の、それでいて、痛みを感じていないのか、怪我の割には不自然なほど平然としている暁の言葉を素直に聞き入れ、ウツギは瞼を閉じる。

 

「...............」

 

「もういいわ」

 

「...............ッ」

 

「どう?」

 

 美しい。自動的に口からそんな言葉が飛び出す。

 白い景色、一面が緑色。そう、どこか殺風景だった二つの景色と違って、今度は、よく手入れが行き届き、様々な色合いの花が咲き乱れる大きな花畑へと周囲が変化していた。少し遠くを見れば大きな柳の樹が生え、また暁も五体満足の姿に戻っている。

 

「初めからその姿で出なかったのは......何か理由が」

 

「驚かせたかったの」

 

「............」

 

「嘘よ。もうっ、冗談が通じないんだから」

 

 拳を軽く握って、可愛らしい動作で怒っている事を表現する暁を流し。以前彼女からこの場所で咲く花の法則について聞いたウツギが、しゃがみこんで、規則的に地面に植えられた花を観察する。

 二色のゼラニウム、三色のガーベラ、マーガレット。マリーゴールド、ワスレナグサ。大きく見て五種類の花がこの場所を占めていることが解ったウツギが、暁に言う。

 

「随分と相反する感情を抱いているヤツが居るみたいだ」

 

「もうわかってるんでしょ?」

 

「......響だ。そうに違いない」

 

 ゼラニウム、ガーベラ、マーガレット。この三種に共通する花言葉は「信頼」や「親しみ」。そしてマリーゴールドとワスレナグサは「見放された」、「絶望」。だが.........。

 

「そう。残り二つは私が原因。私のせいで。」

 

 マイナスの花言葉を持つ二種類は、暁絡みが原因だろう。そう言いかけたウツギに先回りして、暁が言ってくる。

 

「また、問題を吹っ掛けられたものだ」

 

「お願いがあるの。聞いてく」

 

「当たり前だ」

 

 自分の心を読まれた仕返しとばかりに、ウツギが食い気味に、声を張りながら即答する。

 

「いつも世話になってる身だ。引き受けるさ」

 

「......響を......助けてあげて。良くはなってるみたいだけど。あんな、自殺しに行きそうな雰囲気のあの子は見ていられないから」

 

「.........」

 

「本当はね。私がやりたいけど。もう、出来ないから.........」

 

 少しウツギが目を離した隙に。また暁の姿が、左手を無くした物へと戻っていた。

 地面を少しずつ自らが垂れ流す血で染めていく、そんな見るも無惨な姿の彼女へ。ウツギは嫌悪感など微塵も感じさせない笑顔でピースサインをしながら。

 こう、言い放つ。

 

 

「任せろ」

 

 

 

「姉として。妹は守る」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「............ん」

 

 ここは......そうか、車の中だ。確か今日は......。

 

「で~......どこに行きますゥ?シャチョさん?」

 

「ラーメン食いに行きてえッス!!」

 

「いいねぇ、なまら旨いとこ知ってるから行ったげる!」

 

「マジッスか!?」

 

 耐久鬼ごっこ訓練の次の日。事故の埋め合わせとしてアロハの提督から急遽充てられた、異例の「遠征中の休暇」になったこの日は、シエラ隊は漣が運転するミニバンで遠出することになっていた。提案したのは勿論イベントと遊びが好きな漣とツユクサだ。

 初めにこの話を聞いて漣に突っ込むと、運転免許は艦娘になるときに取得したと聞き、また、負傷で訓練にも参加できず暇だったことから、特にこの外出を嫌と思わず乗り気だったウツギが、隣に座っていた天龍と世間話をする。

 

「まさか休暇になってしまうなんてな」

 

「しかも俺ら全員と来たもんだ。いい性格してやがるぜ、あの城島って人は」

 

「車まで貸してくれたッスからね」

 

「見た目は変だがな」

 

「それ......自分達モ......」

 

「確かに」

 

 たまには......良いかもな。こうやって、馬鹿みたいな内容の無い話をするのも。

 何かと気を張り詰める事が多く、それが重荷になっていたウツギが。他愛ないやり取りを仲間同士やりながら、そんな事を考えてゆったりと車のシートに腰掛ける。

 

「にしても、よく付いてきたな。お前さん.........てっきり休日返上して演習に突っ込んでいくかと思ってたわ」

 

「あの女の目の届く場所にいるとムカムカする」

 

 天龍が自分の後ろに座っていた、RDの膝に頭を乗せてシートに横になっていた若葉へと声を掛けると、そんな返事が返ってくる。「あの女」が誰を指しているか何となく解っていたが、ウツギが一応聞いておく。

 

「熊野か?」

 

「そいつだ」

 

「へぇ、気にしてないかと思ったわ」

 

「理解不能だ。なんでアレは勝てないとわかったヤツに、しかも無策で突っ掛かってくるんだ」

 

「若葉もたまには普通っぽいこと言うんスね」

 

「うふふ......意外か?」

 

「あ、戻った」

 

 喧嘩腰で話してくることばかりだった熊野へ、至極もっともな評論を下す若葉に意外そうにツユクサが言った途端に、すぐにまたいつもの調子に戻ったので漣がそう溢す。

 

「......あ、もうちょいで着くよ~」

 

「楽しみッス」

 

「......人間の食文化......期待できるだろうか...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~♪美人って言われたッス♪」

 

「お前、黙ってれば綺麗だもんな」

 

「へへっ、照れるッス♪」

 

「あんま誉めてねぇけどな......」

 

 漣おすすめの店での外食の後は大型のショッピングモールで買い物。最後にゲームセンターと回り、外はすっかり暗くなっていた。

 前のポクタル島での買い物と同じく、大量に漣とツユクサが買い込んだ荷物が満載された車に乗り込みながら。ここ一週間で気になったことをウツギが呟く。

 

「いつも思うが......どうして北海道は夜でも明るいんだ」

 

「お、気になる?」

 

 艦娘として配属される前は地元民だったという漣が車を発進させると同時にニタつきながらうんちくを語る。

 

「雪があるから水蒸気が空気に沢山舞ってるんだよね。んで、だからそれが月明かりと乱反射して空が明るく見えるっつーわけよ!」

 

「へぇ~......お前の口から頭良さそうな言葉が出てくるなんてな」

 

「これでもアッシはガッコの首席でして......」

 

 漣の口から漏れ出た発言にウツギと天龍が「はぁ!?」と切り返す。いつもツユクサと馬鹿をやらかす彼女が、そんな経歴の訳がないだろうと思ったのだ。

 

「いやぁさ、いっつも居眠りしちまってね?挽回するためにガリ勉してたらテストで満点ばっか取っちゃって......」

 

「寝言は寝て言エ」

 

「いや本当だし!.........うし、ならあっちゃん達をスゴいとこつれてっちゃるよん!!」

 

 アザミの毒を受けて、何かに火がついた漣がアクセルを踏む力を強め、車が少しずつ加速していく。

 窓の景色から、段々と明かりも無い道に自分達が進んで行っていることを理解した天龍が、不安そうに運転手に質問する。

 

「なぁ、オイ。山みたいなトコに入ってるけど」

 

「それが?」

 

「どこ行く気だよ?」

 

「ふっふっふ......それは着いてからのお楽しみ.........」

 

 言っている間にも車は進み、どんどん周りの景色は雪壁と木だけになっていく。数分後、予告もなしに漣が車を停車させ、全員に車から降りるように勧める。

 

「何だ。何が?」

 

「............」

 

「みんな準備おっけー?」

 

「だから何が」

 

「ちょっと上観てみて」

 

 意図は解らなかったが、全員が言われた通りに空を見上げる。

 

周囲が暗く、空気の清んだ山の中でしか観られない満天の星空が広がっていた。

 

 天体観測の趣味などは持ち合わせていなかったが、ウツギも含めた全員が、セピア色の明るい夜空に散らばったきらびやかな星達に心を奪われる。

 

「......漣。ごめン......」

 

「いいよいいよ別に。気にしてないから♪」

 

「すっげー.........」

 

「綺麗だ」

 

 こんな場所があるんだな。心中で素直に漣に感謝をしながら、ウツギが夜空をじっと見つめる。

 

「............」

 

「どうした」

 

 隣で星を観ていたRDが泣いているのを見た若葉が、不思議に思ってそう投げ掛ける。

 

「星空とは......ここまで心を打つものか」

 

「.........くっ......ふふふ♪」

 

「何がおかしい」

 

「存外ロマンチストなんだな、とね......うふフ♪」

 

「茶化すな。艦娘」

 

 ......こいつらも、随分丸くなったな。時間が成せる技なのか、それとも......景色のせいなのか。

 二人の微笑ましいやり取りを見てウツギがそう思う。

 最後に良いものが観れた。楽しい一日だったな。運転手に感謝だ。今日の出来事を思い返しながら、ウツギ達は車に乗り帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

休暇という与えられた時間の中で

ウツギは響との交流について思案を巡らせる。

そんなとき。戦艦水鬼の残党が襲来。

泊地に緊張が走る。

 

次回「氷城」。 ただ一度の人生、悔いのない旅を。

 




九時~十時に投下します。


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氷城

済まぬ兄者、遅れた(某実況者並感


 

 

 

 外気は相変わらず肌に突き刺さるほどの低温でも、雲一つ無い快晴になった今日。シエラ隊他、遠征に参加している艦娘達が泊地の道路脇に固まって並んでいた。

 城島提督から言い渡された休暇三日間を散々遊び倒した充実したものとして終え、傷の抜糸も終えて準備万端のウツギが、前で仲良く漣やアザミとストレッチをしていたバスケットボール選手のような薄着姿のツユクサに話し掛ける。

 

「朝っぱらから元気だな。寒くないのか」

 

「今はクソ寒いっスけど。走ったら暖まるッスから!」

 

 他の艦娘達も同じような考えである程度は薄着で居たものの、明らかに一番寒そうな格好をしている自分が周囲の視線を集めていることなど露知らず。今日の訓練メニューの外周......言い換えればマラソン大会への闘志を燃やしているツユクサが、ストレッチを終え、すっかり彼女のトレードマークになったスキー用ゴーグルを装着して大きく伸びをする。

 

「んん~~~っと。ッシャア、行くかァ!!」

 

「一位取っちゃう?取っちゃう!?」

 

「ッス!さっちゃんとアタシでワンツーフィニッシュッスよ!」

 

「いっちょやったろーぜ!」

 

 本当に仲がいいな。この二人は。周りの艦娘達が思っているうちに、カウントダウンが始まる。

 

『位置について』

 

 よーい、どん。と開始を意味する銃声と共に艦娘達が走り出す。ウツギの予想通り。ツユクサはゴーグル越しに目を発光させ、漣は気合いに満ち溢れた顔をしながら。先頭集団に体をねじ込んでいった。

 

 

 

 

 

「ふっ......ふぅっ......」

 

「はぁ、はぁ......あとどんくらいだっけ?」

 

「十五分ッ......この速さなら、あと三キロ程だ」

 

「ふぅ~っ......ちっとペース上げるか」

 

「解った......ッ」

 

 ほんの少しブランクが出来たとはいえ......少し体が鈍ったか。先頭は無理でももう少し気合いを入れるか。

 不参加のRDはともかく、体力自慢の四人は既に目線から消え失せ、自分のペースで天龍とランニングコースを並走していたウツギが、周囲を走っていた艦娘が自分達を含めても片手で数えるほどしか居ないことに危機感を覚えたので、少し走るペースを上げる。

 

 天龍と走る速度を上げて数分。体が暖まっていたということで、響との鬼ごっこでボロボロになった作業着に替わり、ウツギが田代から受け取って着ていた新調した作業着のチャックを少し下げていたとき。少し先の方で肩を喘がせ、ふらついている艦娘を見つける。

 アレは......もしかして......。ウツギと同じことを考えていた天龍が走りながら喋る。

 

「アレ......熊野じゃね......」

 

「......バテてるな」

 

 大方、録に後先を考えずに先頭集団に着いていったのだろうな。長距離を走るときはご法度の筈だが。

 今まで吐かれた暴言や振る舞いの数々から、何となく彼女の性格を分析したウツギが、完全に体力を使い果たして脇腹を押さえてよろけている熊野を見る。

 

「はぁーっ、はぁーーーーッ!!」

 

「「............」」

 

「あっ!まっ、......こんのぉ......」

 

 ウツギと天龍の二人が無言で通り過ぎるのを見た熊野が、よせばいいのに、ひいひい言いながら速度をあげて二人を抜かし......た瞬間に「ふぁぁっ!?」と勢いよく風船から吹き出た空気のような音を口から出して足を止める。

 ......とてもじゃないが見ていられないな。そう思ったウツギが、両膝を押さえてみっともなくぜえぜえ言っている熊野の腕を引っ付かんで、相手に自分の肩を貸しながら走り出す。

 

「えぁっ!?なっ、何を!?」

 

「もう走れないのでしょう。艦娘同士、連携は大切です」

 

「っ......恩に着ますわ」

 

「天龍」

 

「......チッ、貸しだかんな。後でキッチリ返せよ。お嬢様」

 

 ウツギに名前を呼ばれ、意図を察した天龍も、嫌々ながら熊野に肩を貸し、三人が横並びで走り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「流石にさ~優しすぎじゃない?」

 

「何が?」

 

「いや、だからあのオジョーサマのお手伝いやったんでしょ?」

 

 「アタシなら御免被るッスね!!」 長距離走を完走して一息ついて飲み物を飲んでいたウツギへ、宣言通りにツユクサと一位二位と連続してゴールした漣がそう言ってくる。ツユクサはウツギがどうして熊野なんて助けたんだと愚痴を溢していた。

 

「よくあんな嫌味ったらしいやつに貸しなんてつくったよね」

 

「あまり......賢い......思わなイ......」

 

「人に親切にしたら返ってくるって言うだろ」

 

「返って......くる...のか?」

 

「そういう事にしておいてくれ」

 

 「酔狂なことだ......」。言ってきた若葉に「ほっとけ」とばつが悪そうにウツギが溢す、そんなとき。何やら遠くの方が騒がしくなっていた。何だろうか、と六人が頭を動かすと、RDの姿が見える。

 

「何だ?」

 

「ちょっと見てこようぜ」

 

「賛成だ」

 

 かいた汗をタオルで拭きながら、RDに近づいたツユクサが彼女に何事かと質問を飛ばす。

 

「どしたんスか」

 

「ん......ツユクサ、とか言ったな。これをどうにかしてくれ」

 

「え?」

 

 

 

「チイッ!!ええぃっ、放せッ!!この下衆めっ!!」

 

「この私が......RDごときにぃ!!」

 

 

 

 ......なんだかよくわからないがやかましいやつらだな。目の前で簀巻きにされてなお、暴れているネ級と名前の解らない深海棲艦に、ウツギが目を細める。

 

「......なにこれ?」

 

「泊地に向けて砲撃してきた深海棲艦だ。積み上げた雪でできた氷に着弾したお陰で被害は無いみたいだがな」

 

「聞こえんのかァ!!放せと言っている!!」

 

「こちらに出張らせていた私の部下が捕らえたらしい」

 

「放せ!!放さんかこのコンニャクイモ!!」

 

「そんな悪口初めて聞いたぞ」

 

 こちらを赤い瞳で睨み付けてくるものの......拘束されて身動きができないせいでどうも迫力のない、洒落た格好の深海棲艦がRDに暴言を吐く。

 

「初めて見た......何だこいつは。弱そうだ......」

 

「なんだとぉ!?駆逐艦風情がこのリコリ」

 

 若葉へ何かを喋ろうとして、名前のわからない深海棲艦が思い切り舌を噛んで悶絶する。

 ......なんだかデジャヴだな。涙目になっている彼女を見てウツギが思う。

 

「~~!!~~ッ!?」

 

「...............」

 

「続ける。そいつは「リコリス棲姫」。戦艦水鬼にゴマをするのが特技だ」

 

「貴様ァ!!番号持ちの分際で、寝返ったばかりか戦艦水鬼様のことをぐ¥.'[>.")<(;99#*##~!!」

 

 ......何て?......まぁいいか。

 「リコリス棲姫?」「初めて聞いた」「知らね」。口々にそう言う艦娘達の声を聞いて、呂律が回らない様子でリコリス棲姫ががなりたて始める。

 そんな、見た目の割りに残念な振る舞いをする女を他所に、ウツギがRDと話す。

 

「因縁があるのか」

 

「私が番号を持つようになってからしょっちゅう悪口を言ってきた奴だ」

 

「その「番号持ち」とはなんだ」

 

「説明していなかったか」

 

 RDが、口許に手を当てて何かを考える仕草をし、数秒、間を置いてから口を開いた。

 

「深海棲艦の「序列」と言うものが、何が指標にされていると思う?」

 

「簡単だ。「何匹艦娘と人間を殺したか」、だ。私と、寝返った部下は全員それがゼロだ。複雑だよ。だからこそ人間に受け入れられたが、海に居た頃は最下層の扱いなのだからな」

 

「そしてそれを見分けるためのシステムが「番号」だ」

 

「私はRDだが......初陣で敵を一人も倒せなかった者は、みな必ず体のどこかに数字かアルファベットの刻印がある。そして、戦艦水鬼が残したノートにもその記述が残っていたから......私は晴れて艦娘扱いだ」

 

「「「............」」」

 

 なるほど。そういえばポクタル島は被害こそあったが、死者はゼロ。それに、虐げられていた立場なら工場での出来事で田中に対する不満が爆発するのも当然か。

 RDの発言で、彼女がすんなりと寝返れたこと、戦艦水鬼と刃を交えたことの合点がいったウツギが、相槌をうつ。

 

「こんなところか。あと警告しておくが、こいつらの後続がいる可能性が高い。準備はしておいたほうがいいぞ」

 

「わかった」

 

「援護は任せろ。......早めにな。ユウジ、エイム。来てくれ」

 

「「了解」」

 

 敵として恐かったぶん......なんとも頼もしい仲間だ。

 頬に「UG」「AM」と書かれた、例によって音楽隊の格好をしたリ級とヲ級を引き連れて海に出るRDを見送り、自分の艤装を取りにとウツギ達は建物に向かって走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

RD他、数名の深海棲艦との共同戦線。

大規模作戦ほどとはいかずとも、数を揃えてきた相手に

シエラ隊が奮戦する。

しかしこの戦いに死地を見出だした彼女は......

 

 次回「真顔の淑女」。 沈む夕日が頬を染める。

 




少しトラブって遅れました。なんとか今日中に貼れた......


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真顔の淑女

お待たせしました。RD回です。


 

「索敵、終わりました。数はそれなりで散開しています」

 

「............指揮官殿、ご命令を」

 

 インカム?ヘッドセット?......名前を忘れた。にしても機械は慣れないな。

 敵の増援を見越して艦娘達に先立ち、弱い吹雪が発生していた海に部下と陣取ったRDが、隣に居たヲ級の報告を聞き。慣れない手付きで城島提督から借りてきた無線で彼と連絡を取る。周囲には少しずつ準備を整えて出撃してきた艦娘が集まっていたが、自分がよく知るシエラ隊の姿は見えなかった。

 

『Uh~~、なるべく奴さんをバラけさせないようにしてくれYo。港に被害が出たら漁業組合がうるさいからナ』

 

「了解」

 

 一ヶ所に集めて殲滅しろ、か。城島の命令をそういう意味で受け取って。降りしきる雪に顔をしかめながら、RDは背中に挿した12本の剣の内から細身のサーベルとエペを抜き、自分の両隣に居たリ級とヲ級に次に取る行動を指示する。

 

「散開しているといったな。どの程度だ」

 

「この視界いっぱいほどです。両端はそれほど遠くには居ませんでした」

 

「そうか。............ユウジは右。エイムは左から。艦娘たちと回り込んで相手を寄せてくれ。私が突っ込んで注意を引く。ただ、砲撃戦の音が聞こえてくるまでは待機してくれ」

 

「御意に」

 

「............」

 

「ユウジ聞いてたか」

 

「えっ?あっ!は、はい!!......姫様、御武運を」

 

 しっかりしてくれないと困るな。このクセさえ無ければいいやつなんだが。

 ぼうっとしていて話を聞いていなかったリ級を優しく注意し、「今は姫ではないよ」と返事をしてから。得意技である海面を蹴っての高速移動で、RDが敵に肉薄する。

 ごま粒ほどにしか見えなかった敵の姿が接近したことで段々と大きくなる......昔は仲間であった深海棲艦達へ。思うところがあったRDが名乗りを挙げて呼び掛ける。

 

「そこの深海棲艦。......私は装甲空母姫だ」

 

「全軍撤退するか降伏しろ。命は取らん」

 

「押し通るというならば斬る」

 

 どう出る。......そう簡単に引き下がるとは思えないがな。

 以前に戦ったことで、戦艦水鬼に着いている深海棲艦たちが、聞く耳を持たない、妄信的に彼女に付き従っているだけ、と言うことがわかっていたのを根拠にRDがそんなことを考える。

 その考えは正しかったようで、果たして彼女の眼前に居た深海棲艦隊達は、薄気味悪い微笑を浮かべながら砲や魚雷の類いをRDに向けてきた。

 

「衝突は......避けられないか。可哀想だがこちらも引き下がれない」

 

 一度は解いた構えを再度取り直し、RDが固い表情で片手の剣の切っ先を敵に向ける。すると、相手の方から話し掛けてくる者が居た。声の主の姿を見た途端にRDが弱く舌打ちをする。

 

「久し振りじゃないの~装甲空母姫~♪」

 

「やはり.........お前か。軽巡棲鬼」

 

 元々砲撃の腕前がからっきしだったため剣にこだわるようになり、ポクタル島での敗北で「番号持ち」になって、元来低かった立場に漬け込んで散々自分とその部下を虐めてきた深海棲艦.........目の前の軽巡棲鬼にいい思い出が一つもないRDが、相手を睨み付ける。

 「弱いものいじめと悪口が好き」と公に公言するような奴だ。戦艦水鬼に同調するのも当然か。

 前に出てきた女は、気に入らない部下はすぐに切り捨て、人の悲鳴をエサに生きているようなやつ、と、海に居たころによく知っていたRDが。特に意味はないが、ほんの仕返しの悪口を言ってみる。

 

「仕える主が死んでもまだ抵抗を続けていたか。殊勝な心掛けだな」

 

「使える主?そんなもの、また新しいのに着けばいいだけさ。いい人殺しスポットを教えてくれるお得意さんが出来てね......なかなか楽しい日々......」

 

「得意先、ね。誇りはないのか」

 

「ン~フフフフ♪ この軽巡棲鬼......雇われて仕事をする。それの、何が悪い?」

 

 いつまで喋っても平行線か。......そうだな、喋っていても始まらない。やるか。

 RDの瞳がぼんやりと光り、降る雪で白くなった空間を薄く赤色に照らす。

 

「そうか。解った............私も」

 

 

「仕事の時間だ。」

 

 

 言うと同時にRDは軍勢に切り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 は、始まった......!艦娘さん達の足手まといにだけはならないようにしないと......。

 RDから「ユウジ」、と呼ばれていたリ級が命令通り、砲戦が始まったと同時に艦娘達に追従して相手を囲い始める。

 

 味方の方が数が少ないとはいえ。統率もとれていない、練度も低い相手を作戦通りに包囲して一ヶ所に集める追い込み漁は上手くいっていた。 そんな中、それなりの練度と言っても、まだ実践経験が不足しがちな味方の艦娘をリ級が何度か隙を見計らって助ける。

 

「大丈夫ですか?」

 

「す、すいません......!」

 

 捌ききれなかった敵が撃ってきた砲弾を腕で弾き飛ばし。礼を言ってきた艦娘の一人に笑顔で答えて、またリ級が砲戦に意識を戻す。

 ......自分のほうが強いのか?......これは、前に出たほうがいいかもしれない。

 数分砲撃に参加して、戦闘に慣れているのは艦娘達よりも自分だと判断したリ級が、一人だけ前進して相手の注意を引き始めた。

 

「一人じゃ危ないですよ!?」

 

「問題ありません。敵を引き付けます、狙い撃ちしてください」

 

 

「.........姫樣、私が援護に参ります......!」

 

 

 

 

 

 

「旗色が悪くなったら、鞍替え、逃亡。節操がないことだ」

 

「節操がないねぇ......そっくり寝返った君たちのほうが節操がナいんじゃないの?」

 

「私欲を満たさんとするためエサで釣られて雇われた貴様に何が解る」

 

 リ級とヲ級がそれぞれ挟撃を開始した頃。RDも敵と交戦を始めていた。

 気に食わない相手。と思ってはいても、自他共に認める砲撃の名手である軽巡棲鬼の砲撃を、回避は無理だと悟って、ひたすら砲弾を切り払うことでRDがいなす。

 三十回ほど砲弾を切り飛ばした時。前にあったように、何人かの深海棲艦が水面から浮上して自分へ攻撃を仕掛けてきた。

 また伏兵か。芸のない奴等だ。全く驚く素振りすら見せずに、相手にRDが応対する。

 

「ひゃっはぁ!!し――」

 

「............」

 

 喋る暇すら与えずに、RDは、迂闊に自分の得意な間合いに突っ込んできた軽巡の胸にサーベルを貫通させ、素早く刺さった敵の体を蹴り飛ばして剣を引き抜くと同時に海面を跳ぶ。そしてそのまま、滴る血が尾を引いているサーベルで周囲に居た戦艦の肩に飛び乗って頭を串刺しにすると、そこから飛び降りて、場所がわかっていた潜水艦の体目掛けて水中にエペを突っ込む。哀れなことに、誰の目にも映らない場所で潜水艦は体の中心に突剣が通って絶命した。

 

「おぉっ!?」

 

「............ッ!!」

 

 僅か数秒で三人を葬ったRDへ。へらへら笑いながらも、どこか焦ったような表情を軽巡棲鬼が顔に浮かべる。

 

「フフフ、こりゃ凄い......死にたくないから逃げ」

 

「逃がさんぞ」

 

 敵前逃亡を宣言した女へ、RDが剣の切っ先を二つとも相手に向け、両手を交差させながら突っ込む。間一髪、軽巡棲鬼は頑丈な自分の腕で攻撃を防いだが、そんなことはお構い無しとばかりにRDが武器に込める力を強くしていく。

 

「そう易々と逃がすわけにはいかない」

 

「手厳しい......ね」

 

 鍔迫り合いに似た状態にもつれ込まれた相手が、至近距離から砲撃をしようと下半身の砲の向きを変えた事を察知し、一旦RDがその場から飛び退りながら先程と同じように弾を切り払う。そしてこれまた先にあったことと同じく、新手が水の中から這い出て妨害を行ってくる。

 (らち)があかないな......味方をもう何人かつけてくるべきだったか。抜かった......!

 何度か宿敵に肉薄することは出来ても、その度に外野から邪魔が入ってはなぎ倒しを繰り返すRDが考える。

 こう、雪とやらで視界の利かないまま戦ってもジリ貧になるだけだ......どうしたものか。努力して体に刻み込んだ戦闘技術で機械的に敵を相手取っていた時。突然一人の戦艦が、顔面が爆発して倒れる。

 味方が来てくれたか。自分の部下のリ級の姿を確認して、RDが強張った表情筋を緩めた。

 

「姫様、援護します」

 

「ユウジか。艦娘は?」

 

「敵は総崩れです。全滅も時間の問題と判断して来ました」

 

「助かった。頼めるか?」

 

「お任せください」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔だァ!どけェ!!」

 

「させませんよ」

 

 姫様から頼まれた仕事......期待には答えなければ!

 ならず者のようなしゃべり方で激を飛ばしてきた相手へ、両手の砲を向けながらリ級が考えていたとき。こんな言葉が飛んできた。

 

「ふん、人間ごときに尻尾を振って寝返った(ごみ)が、我々に勝てるわけが......」

 

 この一言が、リ級の逆鱗に触れた。

 

 

「人間ごとき、だと?」

 

 

 リ級の体から、黄色みを帯びた光が発され、周囲が明るくなる。

 

「てめぇらに」

 

「一人でも人間らしいのが居たのか!!」

 

 たかが一人の重巡と完全に侮っていた戦艦の首が飛ぶ。そのまま敵に悲鳴すら挙げさせず、頭に血が昇ったリ級はがなりたてながら、砲撃と拳による殴打を繰り返して文字通り相手を血祭りに挙げ始めた。

 

「人はッ!行き場を失った我が主に、手を差し伸べた!!」

 

「――――――!!!?」

 

「それが貴様らはどうだ!?抵抗できないことに漬け込み、散々やりたいように掻き乱しやがって......!!」

 

「   」

 

 砲撃の動作などすっかり忘れて。死亡した相手を放り、次に手負いになっていた敵の空母の肩をリ級が引っ掴んで逃げられないようにする。

 

「血も、涙も、情も無い鮫共に説教される筋合いはねェ!!」

 

そしてそのまま空母の頭部艤装から生えている触手を引きちぎり、よろけた相手の鳩尾(みぞおち)に全力で拳を打ち込んで相手を倒す。

 

「はぁ、はぁ......手間かけさせやが」

 

 

「アツいねぇ君。惚れ惚れする」

 

 

「ッ!!」

 

 後ろ............!!

 完全に油断しきっていたところを、軽巡棲鬼に背後を取られて。リ級の全身から嫌な汗が吹き出る。

 

「油断はダメだよ?」

 

 死ぬ――――

 そう思ってリ級が振り向きながら目をつぶりそうになったとき。

 

自分の敬愛する上司の声が聞こえた。

 

 

「どこに行く気だ?」

 

 

 

 

 

 

「ひっ、姫様!」

 

「もう姫ではないと何度言ったら......怪我は?」

 

「何ともないです!!」

 

 目の前で、背中から腹部にかけてサーベルが突き刺さった軽巡棲鬼を他所に。RDとリ級が、粗方、周囲の敵を片付けたことを確認して、お互いに安否の確認をする。

 やっぱり......凄いな。姫様は......。この人に着いていって良かった。

 たった今......正確にはそれ以前にも何回かはあったが、命の恩人になった装甲空母姫へ。リ級が尊敬の眼差しを送っていたとき。まだ辛うじて息があった軽巡棲鬼が、何かを呟く。

 

「フフ.........」

 

「!?まだ息が!!」

 

「いやいい。どうせこいつはもう動けん」

 

「......随分...強くなったじゃないか.........私の仕事が台無しだ......」

 

「......お前には解るまい」

 

「お前も、戦艦水鬼も。自分以外を道具と見て切り捨てられる者には」

 

 淡々と......昔自分を(けな)した相手へ、自分自身にも言い聞かせるように。RDが口を開いて言う。

 

「非情な判断は時として必要だ......だが、それをいつでもやるのは、人心も、自分も、何もかも離れていく」

 

「背負うものがあるから。強くなれるんだ」

 

「部下の命も、自分の命も大事だ。等しく守り通して初めて、将を名乗る資格がある」

 

 RDの言葉を、仰向けで空を見て雪に打たれながら聞いていた軽巡棲鬼が、吐血し、掠れた声でこう返事をした。

 

「がはっ......はは......いつまでやれるかな......その生き方...」

 

「フフ......進むが...いいさ......その.........き......は...............」

 

 軽巡棲鬼の瞳から、光が消え失せる。その亡骸(なきがら)の上に汚れを包み隠すように雪が積もっていく様子を、無言でRDとリ級が見つめた。

 

「......ユウジ、艦娘たちの所に戻れ。残存部隊が居ないか確認だ」

 

「了解!姫!」

 

 命令を聞いて、リ級が身を翻して、まだ砲撃の音が止まない戦闘地域に向かって雪降る海上を滑っていく。

 

「..................」

 

「いつまで、か。」

 

 

 

「死ぬまでだ。」

 

 

 

 RDの答えは。軽巡棲鬼に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

RDの露払いにより、戦況は艦娘側へ。

しかしそんなとき。遅れて出撃したシエラ隊とガングリフォン隊

そして泊地の警護部隊の前に強敵が現れる。

名を挙げようとしてミスを連発する熊野を庇い、響が危機に陥る。

 

 次回「銃師卯の花」。 壊れた景色に、お似合いの思い出。

 




もう少しだけ続くんじゃ


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銃師卯の花

大ッ変長らくお待たせして申し訳ありませんでした。超長くなりました(文が)


 雪が酷くなってきたな......こんな事なら、ツユクサの真似をしてゴーグルを着けてきたほうが良かったかもしれない。

 降りしきる雪が目に入ったり、入らなかったり。それを非常に煩わしく感じながら、ウツギが前を行く響や熊野の後に付いていく。

 

 昼から始まった泊地の防衛戦が、敵が減るにつれて殲滅戦へと移行し、また時間の経過で日も傾いて周囲が薄暗くなる時間帯。準備で出遅れたシエラ隊、ガングリフォン隊、そして響の部隊からの人員が均等に混ざりあった混成部隊が、海上に展開して作戦行動を取っていた。

 時間がないので集まった者から順に出撃しろ、と言われた結果に出来上がった、ウツギ、アザミ、響、ポーラ、熊野、長門という、なんともちぐはぐなメンバーで構成された艦隊が敵の残党を処理する。

 

「¥'>"['[}"!!!!」

 

「敵、撃破。次だ」

 

「次はあっちだ。みんな着いてきて」

 

「承知.........」

 

 一匹一匹は大したことがないが......田中の時ほどではないにせよ、数が多いな......。

 RDから全艦娘に通達された、「敵の指揮官と思われる深海棲艦を撃沈した」という通信で、てっきりすぐに終わる戦闘かと思いきや、時間が経つ度に何処からともなく沸いて出てくる敵を。すっかり慣れた様子で、ウツギが牽制をしながら、アザミが精密砲撃を叩き込むという戦法で二人が容赦なく水底に突き落とす。

 

「はぁ、はぁ......轟沈を確認しましたわ...!」

 

「下がって~。前に出すぎですよ~」

 

「あっ、は、はいですの!!」

 

 シエラ隊とは練度の差がありすぎて勝負にならなかったものの、何の策もなく突撃してくる深海棲艦相手には、熊野も戦力として充分に機能していた。が、しかし。流石に三時間ぶっ続けの戦闘などは経験したことがないのか、息が上がっているのを見かねたポーラが彼女を心配して隊列を入れ換える。

 

「ラチがあきませんねぇ」

 

「どうしたんだいポーラ。今日はやけにはっきり喋ったりなんか」

 

「こんなに賑やかだと、酔いも覚めちゃいますよ~」

 

『こちらRD。残党の総数を把握した。残り30だ』

 

「っと...あと少しだね。頑張って」

 

 RDからの無線を聞き、響が新人二人をそう励ます。その様子を見ていたウツギが、艤装に付けていたレーダーの感知した情報を伝える。

 

「教官。このまま進むと敵反応が少数しか居ない方向に進みます。一度補給に戻るか、方向転換すべきかと」

 

「ん、そう。なら戻ろうか」

 

 まだまだ長丁場になりそうだしな。方向転換をしながら、残りの敵の数を把握しても尚、そうウツギが考えていたとき。

 

何故かとてつもなく嫌な空気を感じて、咄嗟に後ろにいた長門を体当たりで突き飛ばす。

 

「......!!」

 

「うわぁっ!!貴様何をォ!?」

 

長門を体当たりで突き飛ばした途端、その場に大きな水柱が上がった。

 

 

 

「チッ。外したか。艦娘風情が、鋭いじゃないか」

 

 

 

 間一髪、か。山勘も馬鹿に出来ないな。

 先程まで長門が居た場所で首を捻って、どこかで見た覚えのある粘ついた笑顔を浮かべる、金色の目をしたル級を見て。ウツギはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「............」

 

「ほうほうほうほう......なるほどォ」

 

「こんな奴等が......戦艦水鬼様を。許せんなぁ」

 

 音もなく......またどういうわけか、ウツギとアザミが装備していた、多機能レーダーのソナーシステムにも引っ掛からずに、水中から不意討ちを仕掛けてきたル級が、そう呟く。

 

「たった一人で勝てるとでも」

 

「...............」

 

「誰が一人と言った」

 

 仕草や言動から、恐らくは手練れと思われる相手に、ハッタリでウツギがなんともなさそうに砲を構えてそう言ったとき。今度は突然自分の艤装から警報が鳴り、ウツギが盾を構えて敵の攻撃に備える。

 ウツギの予感通り、ル級と同じく水中から浮上して飛びかかって来たレ級の右ストレートを、何とか盾で弾き返す。が、酷くひしゃげた装備を見て。ウツギは軽く舌打ちをした。

 

「キァーッハッハッハァッ!!......カラスの王が相手してヤる...!」

 

「!!」

 

「逃げるかァ?逃がさねぇよ......キハヒヒッ!!」

 

 高笑いをしながらの奇妙な自己紹介とともに、続けてジャブで自分を殴り殺そうと近付いて来たレ級から、冷や汗を掻きながら急いでウツギが距離を離す。

 ル級、レ級......あとタ級か。これは非常に不味いことになっているのでは無いだろうか。

 ル級、レ級の攻撃をどうにか凌いで後退し、同じく一度下がっていた味方と合流したウツギが、助けはしたものの、続けて現れたタ級にぶちのめされて気絶した長門を抱えたポーラを見て、自分達の旗色が悪くなったことに焦る。

 

「キヒャヒャッ.........水面(みなも)を這うケモノが、天を舞うカラスに勝てるものか......」

 

「はっ。終わりだよ。艦娘どもよ」

 

「艦載機......本格的に追い詰められたか」

 

「ッ、迎撃ですわ!!」

 

 レ級が、ウツギ達を逃がすまいと放ってきた艦載機を、身動きが取れる五人が必死で迎撃する。しかしわらわらと殺到してくる飛行物体は、かなり良い動きをするばかりか数も多く、まともな攻撃ができる人員が少なかったのもあり、少しずつウツギ達が押されていく。

 どうすればいい......持ちこたえられるのは、このままならあと数秒が限界だ。

 増援を要請しようにも、無線の電源に手を伸ばす暇などなく、また荷物を抱えて満足に攻撃に移れないポーラを流し見し、ウツギが懸命に考える。

 

「当たらない......もっと近くに」

 

「!!......熊野何をしている!!近づくんじゃあない!!っ、アザミ!」

 

「援護する.........行け......早ク......」

 

 こんなときに......若葉かツユクサが居てくれれば......!

 敵を倒すことに執着したか、疲れで頭が回らないのか。砲撃の射程に敵を入れようと無謀な突撃を敢行し始めた熊野を、アザミに空を飛び回る戦闘機を任せて、雪と砲弾が降る中ウツギが追い掛ける。

 想像通り。もともと砲撃が得意ではないことに加え、焦りと疲労で録に照準がさだまらないせいで、熊野の砲撃がほとんど敵に当たらないのを後方から見て、急いでウツギが追い掛ける......が、非常に嫌らしいタイミングで爆弾や弾丸をばら蒔いては去っていく艦載機のせいで、熊野になかなか追い付けない。

 そんな、全滅への最悪な道を隊が辿ろうとしているなか、運の悪いことに、熊野のレール砲が整備不良で自壊する。

 

「バレルが!?」

 

「熊野!!下がれ!!聞こえないのか!!」

 

 思いもよらないハプニングで軽い錯乱状態に陥って動きが止まったのを見逃さず。遠くで様子見程度に砲弾を垂れ流していたル級が、基地外染みた笑みを引っ提げ、艤装を放り投げて熊野目掛けて走ってくる。

 

「に、にげっ......きゃあっ!!」

 

「おいおい、雑魚は前に出張るもんじゃない」

 

「はっ、放しなさい!!」

 

「出来ない相談だ」

 

 壊れた武装を捨てて逃げようとする熊野が、タ級の砲撃で釘付けにされ、そこをル級に首を捕まれて身動きが取れなくなってしまう。

 言わんこっちゃ無い......くそ、あんなに距離が近いと狙いが.........!

 狙撃でル級を引き離そうか。ウツギが考えるが、別に自分は狙撃の名手ではない、と、砲の引き金を引く指が強張る。そのときだった。

 

白い髪をたなびかせながら、響がウツギの横を通って熊野のもとへと海を滑って行く。

 

 

 

『あんな、自殺しに行きそうな雰囲気のあの子は見ていられないから―――――』

 

 

 

まさかあいつッ―――!!

 

 

 考え事なぞ全て放り投げ、機関部の出力を最大にしてウツギが響を猛追する。

 

 

「命乞いなぞ無駄だ。じわじわといたぶってから殺してやる」

 

「ひっ......あっ...がっ......」

 

 熊野の首を掴む手の力を強めながら。ル級が、彼女の腹部に蹴りを見舞おうと足を上げる。

 

「まずは一回!!」

 

 

「どいて」

 

 

 熊野を、ウツギがやったように体当たりで突き飛ばし。響がル級に腹を蹴られて、血を吐きながら後方に吹き飛ばされる。

 

 

「ぐぅっ......ぅぅっ!?」

 

「ちっ、また外した。見上げた自己犠牲精神だな?」

 

「ひっ......」

 

「ん......お前はいつでも殺せそうだな。よし、あいつを先に沈めるか」

 

 焦点の定まらない目で響を見ながら。彼女にとどめを刺そうとル級が歩く。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「教官......響!!」

 

「おっと~。ここは通さない」

 

「...............!!」

 

 取っておきたかったが......仕方がないか。早くしないと...!

 先を急ぐウツギが、盾に装備されたハープーンガンで立ち塞がってきたタ級を狙撃。数秒で相手を撃ち殺して、熊野を無視してル級が殺しにいった響を追おうとする。

 しかしタ級の次には、今度はレ級が的確な砲撃をしながら邪魔をしてきた。それも、距離を詰めながらというおまけ付きでだ。

 

「キヒヒヒ......タ級をヤっちまうたぁ...強いなぁてめぇ」

 

「............ッ」

 

 これじゃあ進めない......かといって、引き撃ちをやめれば自分は挽き肉だ......。.........5対3から実質2対2か。しかも相手は格上。一旦逃げるか?いやダメだ、確実に響が殺される......。

 考え事で注意力が散漫としていたウツギが、左腕の盾をレ級に砲撃で引き剥がされる。

 

「ヒャアアアァァァ!!」

 

「ふぅおッ!?」

 

「ホラホラ、集中しねぇと死んじまうぞ~?」

 

 どうする......どうすれば......。

 若葉の上をいく狂人の表情を浮かべて追い掛けてくるレ級を相手に、ウツギが引き撃ちで注意する障害物などがないかを確認するため、一瞬後ろを向く。彼女の思考が停止する。

 

後方から、おびただしい量の深海棲艦の艦載機が飛来してくるのを見つけたのだ。

 

............。運命か。すまない、暁。約束は果たせそうもない。

 今度ばかりは死んだな。戦意を喪失したウツギがそう思った。しかし何故か飛んできた艦載機は自分に攻撃をしてこなかった。

 何が?意味がわからなかったウツギの無線から通信の音声が流れる。

 

『RDの部下の者です。ウツギ様、お下がりください』

 

 味方が来てくれたのか!安堵しながら、ウツギが盾で顔を庇いながら増援と連絡を取る。

 

「強いぞ......頼めるか?」

 

『お任せください』

 

「.........ありがとう!」

 

 よく見ると黒一色ではなく、航空迷彩が施してある戦闘機の攻撃で怯んだレ級の横を素早く迂回して、ウツギが響のもとへと急ぐ。

 獲物を逃がしたと、笑顔は変えずに内心不機嫌になったレ級の前に、顔に「AM」と刺青のようなものが入ったヲ級が現れる。

 

「ヒヒッ、てめぇか。邪魔しやがってよ。すぐに土下座でもすればスッキリ楽に殺してヤるぜ?」

 

「あの艦娘には恩がありますから。貴女を足止めさせて頂きます」

 

「キヒッ、まぁイい。貴様の血肉。俺たちが食い散らかしてやろう......」

 

 レ級が右手を上げ、大小様々な大きさの駆逐艦級の深海棲艦が現れる。それを見たヲ級はというと、持っていた杖を水面に置き、背中から一本の剣を取り出した。

 

「そんな棒切れでカラスを殺せるか?」

 

「カラス......?......まぁ、やってみるさ。姫様の技を受けることを光栄に思え」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『要心しろ。生き残りは全員、各地を転戦して艦娘を殺してきたプロ......人間で言う、傭兵とか言う奴等だ』

 

「情報が......遅いよ。全く...」

 

「しぶといな白い艦娘。まぁ虫の息だろうが」

 

 ヲ級がウツギに道を作る手伝いをしていた頃。響は、熊野を庇って鳩尾に強烈な蹴りを貰ってから、続けてル級から殴る蹴るの暴行を加えられ、死なない程度に痛め付けられていた。

 自分が死なないのはお前のせいだろう、と思った響が、ル級にこんなことを言ってみる。

 

「......しぶといなんて......。あんたが嘗め腐って手を抜いているヴぅッ......!?」

 

「ああそうだよ」

 

 恐ろしく無表情な顔をしながら、ル級が響を手加減しながら殴る。それでもやはり痛いことに変わりはなく、響が顔を苦痛で歪める。そしてひとしきり殴ったあと。ル級がどこかへ行った。

 逃げようにも艤装を壊された。もう無理だ。死ぬしかない。そんな事を響が考えていると、暴力でもって彼女を痛め付けるのに飽きたのか。ル級が捨ててきた艤装を持って戻ってくる。

 

「悲鳴の一つもあげないからな。飽きてしまった」

 

「............」

 

 

 姉さんの真似事であんな事をやったけど。痛いなぁ。死ぬのも......怖いな......。

 

 全身くまなく殴る蹴るの暴力を受けて意識が朦朧として水面に倒れていた響に、ル級が艤装の大口径砲の照準を合わせる。

 

 

 

遂に......私の番か。姉さん。今行くよ。

 

 

 

 ル級の艤装から、爆煙と共に砲弾が発射される。しかしこれが響の首を撥ね飛ばす事はなかった。

 

 

 

「姉.........さん...........?」

 

「...間に......合った...!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 全身全霊で響を追いかけて。響を撃ち殺さんとするル級を見て、悟られないようにと水中に潜り。砲撃の瞬間にウツギが水から飛び出し、自分の左手を犠牲にして砲弾を弾いて軌道を逸らしたのだ。

 

 姉さんだ。姉さんが。助けに来てくれた......。

 

 目の前でル級に立ち塞がるウツギに、姉の姿を重ねながら。そのまま響は気を失った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「うぅぅぅぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「おぉぉっ、何をォ!?」

 

 砲弾を弾いた無茶で左腕を無くしたウツギが、間髪入れずにル級を体で後方へと押しやる。

 返さずに持っていて良かったな。止血剤と鎮痛剤......まさかこんなことで役に立つとは。

 怪我の痛みで普通なら立つことすらままならない状態を、薬品を事前に投与していたことで克服したウツギが、響から距離を離すためと押し出したル級から一先ず距離をとる。

 左に持っていた武器は全部弾が切れていた。そう言う点でも好都合だ、等と、綺麗に縫合した後から先を吹き飛ばされた腕を見てウツギが考えていたとき。相手がこちらを睨み付けながら口を開いた。

 

「チッ、チッ、チッ......また外した。こんなことはあってはならないことだ」

 

「殺せなかったことが不服か」

 

「その通りだ!」

 

 鬼のような形相でル級が突っ込んでくるので、ウツギが身構える。主砲の威力に防御は、一発で盾が駄目になるから、と判断して副砲のみを防御してウツギがひたすら相手を引き付ける。

 そろそろ来てくれるかな......。ウツギが思ったときに、ル級にどこからか飛んできた砲弾が着弾する。その様子を見たウツギが微笑を浮かべながら横を向く。期待通り。アザミが立っていた。

 

「ウツギ......手伝ウ......」

 

「ちいっ!!ちまちまちまちまとぉ!!邪魔だ貴様らぁ!!」

 

 ありがとうアザミ。これで距離を取れる。

 追い掛けてきたル級の注意がアザミに向いた瞬間、急いでウツギが後退。そして熊野に無線で連絡を飛ばす。

 

「熊野聞こえるか、響を連れて逃げろ!!」

 

『えっ?へぁ!?』

 

 一度死にかけたことで呆けていたのか。へんな応対をしてきた熊野を、ウツギが怒鳴り付ける。

 

「早く!!今すぐにだ!!」

 

『りょ、了解ですわ!』

 

 よし。これで後は......。ウツギがその場から動かず、アザミにちょっかいを出していたル級へと口を開いた。

 

「撃ち殺して」

 

「よく聞け、ル級!!」

 

「ッ!」

 

 

「お前の愛する戦艦水鬼を殺したのはこの自分だ!!」

 

 

 ウツギがそう宣言すると。ル級が、呆けたような顔をしたかと思うと、次の瞬間には顔中に殺気を漲らせてこちらへ向かってくる。そしてさらにウツギがこう挑発した。

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

「素手でも殺せるだろう!?見ろ!!私は片腕が無いんだぞ!!」

 

「お望み通りに殴り殺してやる!!!!」

 

 狙い通り、乗ってきた......。あとは耐え忍ぶ......!

 熊野を殴りに行ったことから、ル級は格下と見た相手に手を抜く悪癖があると見抜いたウツギの予想通り。凄まじい剣幕でル級が砲を捨て、肩の副砲を乱射しながら走ってくる。

 これに耐えきれれば。ウツギが盾で顔を庇っていると、CPUから警告のアナウンスが流れる。

 

『損傷50% 艤装ダメージが増大しています』

 

「何を......ッ!!まだまだっ!!」

 

 額から流れ落ちる血と空からの吹雪。さらに飛んでくる砲弾で渋い顔をしながらも、ウツギが虎視眈々と......ル級が近付いてくるのを見計らって。

 

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「......!」

 

 

 ウツギが、左足を前に出して背中から水面に倒れ込む。そして、殴りかかってきたル級の腹に足がめり込み、相手が突っ込んできてくれたおかげで足に乗った慣性で倒れずに済んだウツギが、ル級を足と右手で挟んで動きを封じる。

 

「うっぐっ......!!」

 

「なぁっ!?放せぇ!!」

 

「アザミ来てくれ!!」

 

「よシ......」

 

 ウツギだけならまだ脱出できたかもしれなかったル級が。ウツギよりも遥かに力が強いアザミに羽交い締めにされ、今度こそ完璧に身動きが取れなくなる。

 

「こっ、殺してやる!!殺してやるぅぅぅ!!」

 

「.........うるさイ.....」

 

 暴れようにも、どうにも出来なくなったル級へ、至近距離からアザミが砲を撃ち込み、ル級の右手が消失する。そして痛みで錯乱するル級に。ウツギがハープーンの残り一発が込められた砲の口を彼女の顔に向ける。

 

「うわっ!?うわあああぁぁ!!??」

 

「...............」

 

 アザミがル級を放した瞬間。ウツギが引き金を引き、ル級の胴体と首が別れた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『敵反応の全消滅を確認しました。皆様お疲れ様でした』

 

「はぁ、はぁ......はああぁぁぁ......」

 

 やっと終わった。......疲れた。

 アザミの協力もあり。どうにかル級を葬ったあと。作戦完了の無線を聞き、戦闘の疲れがどっとやってきたため、ウツギが海面に横になる。

 ......あのヲ級に礼を言わなければ。彼女がいなければ響を助けられなかった。ウツギが思ったとき。いきなりアザミが自分を担ぎはじめる。

 

「休む......後......早く帰ル......」

 

「済まない」

 

「なんで謝ル...。.........それよリ」

 

 

妹......元気......見せロ......(妹に元気なとこを見せてやれ)

 

 

「!」

 

 ......アザミにも言っておくか。お礼を。

 アザミの背中に担がれながら、ウツギが呟く。

 

「いつもありがとう。アザミ」

 

「......どうしたしましテ」

 

 アザミがほんの少しだけ口角を上げて笑顔でいることは、ウツギには見えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

友情、信頼、情緒、愛。

人間的な......あまりにも人間的な、

そんなものは自分に要らない。でも、あいつは

私ににじり寄っては言葉を投げ掛ける。

 

 次回「六等星」。 いつからだろう。(あなた)を追い掛ける私がいた。



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六等星(写真有り)

先週がアレだったぶん、今週は更新頑張ります。


「...ん...............」

 

「目が覚めたか。気分は?」

 

「..................」

 

 ......なんで私は生きているんだろう。あの、フラグシップのル級に撃たれた筈なのに。海の底に居なければおかしい......いや、そんな所に居たら目も覚まさないか。

 雪が降り、冷えすぎて肌が凍るほど寒かった冬の夕方の海から、暖房で程よく暖かい空気が充満する泊地の医務室に、自分のいた場所が変わっていることは取り合えず置いておいて。起きてすぐに、ベッドの傍らに椅子をおいて座っていたウツギの顔を伺いながら、そんな事を響が考える。

 

「おなか、空いていないか。リンゴと梨があるから剥こうか」

 

「............」

 

 薄目を開いて、じっと視線を飛ばしていることに気がついているのか、それともあえて無視しているのか。響にはわからなかったが、ウツギは馴れた手つきで、器用に洋梨の皮を果物ナイフで剥き始める。

 そのまま、自分の横に居る女を視線で殺すようにまじまじと見つめ続けながら。響が起こした体をまたベッドに戻して、口を開いた。

 

「............誰が助けたの」

 

「熊野だ」

 

「嘘ばっかり。そんな訳があるはずがない」

 

 抑揚が無い......それでいて怒気を孕ませたような棒読みで、響が続けて喋る。

 

「言っちゃあ悪いけど。あんな実戦経験も不足してしかも錯乱してたあの子が出来るわけがない」

 

「あいつなりに頑張ったんだよ」

 

 っ......あくまで嘘をつき続けるのか。こいつ。掴み所のない態度でのらりくらりと回避するウツギに、内心腹が立った響が、いきなり上体を起こして怒鳴る。

 

「いつまでしらを切るんだい!?」

 

「......っと。いきなり叫ぶな」

 

「ッ......!............!!」

 

「無茶をするんじゃない。体に障るぞ」

 

 体に障るだと......?何を言っているんだ。高速修復材で傷なんて直ぐに治るのに。そう思いきや、叫んだ途端にじんわりと内出血を起こした場所が痛み、言葉が途切れる響を見ながら。綺麗に四等分に切り分けた梨を皿に盛って、ウツギが口を開く。

 

「残念だったな。修復材は足りなくなったから、お前は普通の治療を受けた」

 

「.........そ」

 

「これは嘘じゃない。......ホラを吹いて悪かった。助けたのは自分だ」

 

「......なんで助けたの」

 

 剥いてもらった梨につまようじを刺して、それを口にし。今度はリンゴを剥き始めたウツギを見ながら、響が呟くように答う。

 

「本当に......なんで助けたの......」

 

「............」

 

「私は......死にたかった......!...やっと、会えると......思っていたのに.........!」

 

「友人の受け売りだがな。簡単に死にたいなんて言うものじゃない」

 

「......貴女に......何がわかる」

 

 掠れて、今にも消えてしまいそうなほど小さな声量で呟きながら、感情が昂ったのか。響が泣き始めてしまう。

 皮を剥き終わったリンゴを梨と同じ皿に盛って、その次に、ウツギが作業着のポケットからハンカチを取り出して響に渡そうとする......が、突っぱね返される。

 

「小賢しいんだよ......なんなんだ貴女は......一丁前に、姉さんの真似でもしているつもりなのかい.........」

 

「...............」

 

 

 聞く耳を持たないだろうな。このまま喋ったところで。......卑怯かもしれない。でも「アレ」しかないか。

 

 手で退けられたハンカチを仕舞い、ウツギが軽く自分の喉を叩く。響を立ち直らせる、その目的のための「秘策」を使うのに必要な行動だった。

 

そして、準備が整ったウツギが。こう呟いた。

 

 

 

 

「レディとの約束を忘れたの? 響。」

 

 

 

「........................!?」

 

 信じられないものを見たような表情で、こちらに釘付けになった響へ。(ウツギ)が続ける。

 

「駄目よ。響。一人前のレディは、約束を破ったりなんてしないんだから。」

 

「.........ッ、なんだい......それ......」

 

 目の前で、ずっと、自分の心の支えになっていた人物の声で話す女に......懐かしさと、不愉快さと、嬉しさが混ざりあって訳がわからない心境になった響が、口を開く。

 

「ふざけているのかい......そんな下らない芝居に乗るとでも.........」

 

「芝居なんかじゃないわ......。暁に頼まれたもの。響を励まして......って。」

 

「死人が、口をきくのかい......!?.........嘘に決まっている......そんなこと......まだあって一ヶ月も経たない貴女なんかに、こんなふうにおちょくられるなんて恥でしかないよ......死んだほうがま」

 

 声色を変えて話し始める(ウツギ)に、明らかに落ち着かない様子で、響が髪をかきむしりながら次々と言葉を並べ始める。

 

 

その響を。身を乗り出して、そっと、(ウツギ)が抱き締める。

 

 

「......死なせないわ。」

 

 

「......暁の思いを無駄にするもの。.........勝手に死ぬなんて許さないんだから」

 

 

「何回でも、何度でも、どこにいても.........たとえ海の底に潜ってでも助けるんだから」

 

 

「あぁ.........ぁぁぁぁ.........!!」

 

 

 耳元で、なつかしいあの声でそう告げられた響が、堪えきれなくなり、声を押し殺し、嗚咽を漏らしながら泣き出した。

 

 そんな妹を。嫌な顔などするわけがなく。ただ泣き止むまで、(ウツギ)は優しく抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「...............」

 

「............どこに向かっているんだい」

 

「内緒だ」

 

 泊地防衛戦と医務室での一件の日から数えて、ちょうど一週間が経った日の夜中。

 明日は自分達の鎮守府に帰る日だというのにも関わらず、ウツギは、響を連れ、漣の運転する、無断で拝借した車に乗って泊地を出ていた。

 あのときの事以来、不仲になった訳でもないが、何となくお互いの空気が気まずくなり。どういうわけか、やけに自分に近づいてきては、料理を振る舞ってきたりするウツギから距離を置いていたところ。今日突然シエラ隊に囲まれ、距離を置いていたウツギから「車に乗れ」と拉致に近い連れられ方をしていた響が、不機嫌そうに喋る。

 

「また何か......パフォーマンスでもする気かい」

 

「近からず遠からず、だ」

 

「...............」

 

 何をする気だ、って顔だ。......あんなやり方じゃ仕方がないか。

 帽子を目深に被っているせいで表情が見えない、居心地が悪そうに車のシートで揺すぶられている響を見て、ウツギが考える。

 

 何も喋っていなくとも、時間がたつのは意外と早く感じるもので、ウツギと響のお互いの予想以上に短時間で、目的地に車が到着。ハザードを付けて車が道に停車し、後ろに乗っていた二人へ、漣が声をかける。

 

「ヘィ、シャチョさん、お待ちどう!」

 

「ありがとう漣」

 

「いいよいいよ。それよりさ、楽しんできてね!」

 

「うん」

 

「.....................?」

 

 山の中......本当に何をしに来たんだろうか。

 周囲を見ながら、ますます謎が深まり、響が首をかしげる。が、考えてもどうしようもないと思い。何に使うのか、丸めたブルーシートを持って林の中に入っていくウツギを、響が追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と奥まで来たけど。何をするの」

 

 白い吐息を口から漏らしながら、響がつまらなさそうに言う。車から降りて五分。少し木々が減って、雪が積もっていた場所にウツギがブルーシートを敷いているのだが、何のための行為なのか見当がつかなかったためだ。

 

「............よし。ここに来て目をつぶってくれ」

 

「...............」

 

「そのまま、顔を上にしてシートに寝てくれ」

 

 言われた通りに、響が行動する。そして、雪の上に敷かれたシートに体を横にしたのを確認して、響のとなりに、同じようにウツギが寝る。

 

「.........まだ?」

 

「もういいぞ目を開けて」

 

 一体何が......。ゆっくりと、響が閉じた瞼を開いて空を見る。

 

「......どうだ?」

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「あ......ぁぁ............」

 

 声にならない......って、こう言うことなのかな......。綺麗だ......。

 空気が澄みきり、雲一つない夜空を見て、吐息か感嘆の声か判別が付かない音を口から漏らしながら。響が空に瞬く星達に心を奪われる。

 

「何て......すごい......言葉にできないや.........」

 

「ふふ.........語彙(ごい)が少ないんだな。......響。」

 

 こんな場所があったなんて......こんなに綺麗に見える夜空は初めて、かな......。

 外見相応の少女らしく......一等星から六等星まで、夜空に浮かぶほぼすべての星が見えるのでは、と錯覚しそうな景色に、響が心をときめかせる。

 そんな興奮冷めやらぬ内に。隣のウツギが、夜空を指差して、淡々と語り始める。

 

「あれが、ベテルギウス......シリウス......」

 

「間にある、三個の連なった星を繋げれば.........有名な、オリオン座になる......」

 

「そこから伸ばしていって、こいぬ座のプロキオンを結べば、今度は冬の大三角形になる............」

 

 星空に夢中で、ほとんどが右から左へと流れていたが、機械的に相槌をうちながら。響がウツギの説明を適当に聞く。

 

「......こんな所か。教えて貰ったのはこれで最後.........響にしてやれることも、これで最後だ。」

 

「えっ」

 

「時間を割いて、話に付き合ってやること。体を張って守ってやること。暁の真似をすること。料理をすること.........そして」

 

 

「この場所で星を見せてやること。」

 

 

「響を立ち直らせる......そのために私が出来ることだ」

 

 そう、ウツギが言い終わった後。一筋の涙が響の頬を伝う。

 

「ねえ」

 

「ん」

 

「私は、姉さんが好きだった」

 

「そうか」

 

「貴女も、今好きになった」

 

「.........どういう所が好きになったんだ?」

 

「......優しいところ。かわいいところ。......姉さんに似てて、変に自分を下に見ているところ。.........困っているときに助けてくれた、ヒーローみたいなところ。」

 

「ヒーローなんて......言い過ぎだ」

 

「そういうところも」

 

「あっ」

 

「ふふっ......」

 

 死にたい、か。あんな事を言っていたのが、なんかあほらしく感じてくる......っ!そうだ、これを.........渡さないと。

 特に意味が有るとも思えない会話をしながら、響が懐から何かを取り出して、出したものをウツギの腹に乗せた。

 

「はい。これ」

 

「......帽子?」

 

「姉さんが使っていたんだ。持っててもしょうがないし。あげる。」

 

「いいのか?」

 

「うん」

 

「...............」

 

 響から受け取った、錨の刺繍が入れてあり、ローマ数字の三の形をしたバッヂが取り付けてある帽子を、早速被ってみて。ウツギが横を向く。

 

「似合ってる?」

 

「あんまり」

 

「......外すか」

 

「嘘だよ。似合ってる」

 

「そうか............ありがとう」

 

「どういたしまして......私からも、ありがとう」

 

「どうも」

 

 二人が、同時に横を向き、顔を見合わせる。

 寒い空気で体が冷えていくことなんて、最早どうでもいいことに感じられていて。そのまま二人は、満足するまで、ただひたすらじっと夜空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

元の居場所に戻り。睡眠をとったウツギの前に

また、「彼女」が現れる。

解読の難しい、詩的な言い回しに混乱しながらも。

ひとときの休息を、ウツギが堪能する。

 

 次回「対決」。 今日のために。明日のために。

 




次回から新章に突入。


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7 ともだち
対決


お待たせしました。重大発表があります。


 

 

 

 

「こんにちは。会えると思ってたぜ。.........暁」

 

「...............うん!」

 

 四回目......で、やっと先手で挨拶ができた。......くだらないな、なんだこの低レベルな達成感は。......報告をしなければ。

 来るのはこれで四度目で、そろそろ、この花の咲き乱れる平原の景色を見ることに慣れたウツギが。目が覚めると、すぐ目の前に背中を向けて立っていた暁に声をかけながら、そんな事を考える。

 響から受け取った帽子のつばを手で弄りながら、ウツギはにこやかな笑顔で続ける。

 

「仕事は果たした......約束通り」

 

「うん。ありがとう。似合ってるよ。その帽子。」

 

「ん......どうも」

 

 短く礼を言ってから、ウツギが話題を咲いている花のことに切り替える。

 

「それにせよ......いいな、この場所...............」

 

「知っているの。この木と、この小さなお花?」

 

「あぁ。自分の好きなものだ。それに、相手がどう思っているか...は。花でわかる.........綺麗だ」

 

 自分の好きな花である......草原を埋め尽くさんばかりに咲いている、皇帝ダリアの木と、ベイビーズブレス((カスミソウとも言う。))を見て。どちらも、「感謝」、「幸福」といった意味を示唆している事を察して、ウツギが言いながら、一番手前にあった花を摘むと同時に、ダリアの木を見上げる。

 

「皇帝ダリア......実物を観るのは初めてだ。.........こんなのが生えてるなんて。よっぽど感謝してくれているやつがいるらしい」

 

「またカッコつけちゃって。わかってるクセに......」

 

「貴女と長く喋っていたいから、ぼかしてるのさ」

 

「「死なせないさ......」」

 

「やめてくれ。なんだか恥ずかしい」

 

 よくもまぁ......あんなクサい事が言えたもんだよ。自分という艦娘が。

 持っていた花と暁を交互に見ながら、暁の発言で、医務室のやりとりを思い出して。気恥ずかしくなったウツギが頬を赤く染める。

 

「本当に......ありがとう」

 

「いつも励ましてくれた。だからお礼だ」

 

「励ますなんて......私はなにもしていないわ。できることをしただけ」

 

「そんな、なら、自分もやるべきことをやっただけだ......お互い様だな」

 

 毒にも薬にもならない他愛ない雑談をし、二人が隣り合ってしゃがんで、竹のように細くて背が高いダリアの木を見上げる。

 

「綺麗ね」

 

「あぁ。...............」

 

 心を落ち着かせる香りを漂わせる花たちを見回しながら......ただぼうっと時間がたつことを暁が楽しむなか。ウツギが口を開いてこんな事を呟く。

 

「でも、一つだけ。......気がかりなんだ」

 

「なぁに?」

 

「あいつを......響を残したこと。.........またぶり返さないか......」

 

「ふふっ......大丈夫だって。また何度でも会って励ましてあげて?」

 

 暁の言葉はもっともだ、と思ったものの。同時に現実的ではないとも考え、ウツギが苦笑いをしながら返答する。

 

「無茶を言う。こっちだって暇じゃない。そうほいほいと......」

 

「ちがうちがう。今も会っているじゃない」

 

「...............?」

 

 暁の発言の意味を図りかねたウツギが、怪しい顔になり、隣でくつろぎながら座っている少女の顔を覗き込む。

 「今も会っている」......どういうことだろう。......詩的な、矛盾が含まれた言い回しだ、などとウツギが考えていると。数秒の間を挟んで、暁が答えた。

 

「陸地は、山があって、川があって、そして海があって......隔たれているけれど。」

 

 

 

「空は繋がってるでしょ?......いつでも、ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 と。ここで終わりか......嫌だな、どうもあの人との会話は楽しい。夢の終わりが寂しく感じる。

 曇り空が外に広がっていた今日という、遠征から帰ってきて一週間が経過していた日。

 起きてすぐ、自室にある机の上の花瓶に生けてある、ダリアの枝とベイビーズブレスの束を見ながら、ウツギが思う。

 

「......時間があるな」

 

 仕事のスケジュールでも見ておこうか。時計の針が7時半を指しているのを見て、業務の開始は8時だと知っているウツギが、花瓶のすぐ近くに無造作に置いてあった薄汚れたノートを手に取り、適当にめくって目を通す。

 特に変わったことはなく、来客もナシ......平凡な一日だ。そう考えたいたウツギが、ノートに何かが挟まっていることに気づく。

 

「......?手紙?」

 

 ページの間に挟んであった、封が切ってある封筒から中身を取りだし、内容を読む。

 

 

『to ウツギ樣

 

先日は、有意義なお手合わせを誠にありがとうございました。

貴女方とのコミュニケーションにて、私たちが貴重な経験を授かり、実戦にて生かされることを想像いたしますと、心が躍ります。

艦娘としての完成まで精一杯努めます。また、終了後には心温まるおもてなしにあずかり、重ねてお礼を申し上げます。

思い出に残るひとときを過ごすことができ、感謝いたしております。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

         

FROM:西円寺(さいえんじ) 典子(のりこ) (艦)重巡 : 熊野』

 

 

「うっそだぁ」

 

 手紙の内容を読み、熊野の性格と人となりを、表面的にでも把握していたウツギが、柄でもないことを口走る。

 絶対......絶対にこれは嘘だろう。お世辞かご機嫌とりで送っただけだろうな。

 手紙の送り主へ、あまりにもあんまりな評価と予測をぶっかけながら。白い作業着姿に着替えて、ウツギは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........なんだコレは」

 

「んっ......?おぅ、おはようさん、ウツギ」

 

「おはようございます。.........提督、この荷物は?」

 

 朝食を摂ろうと食堂へ向かったものの、給仕係の艦娘が居らず、適当にあり合わせでサンドイッチを作り。それを持って執務室の前に来たウツギが、変な顔で、部屋の前に積まれた段ボール箱を見つめる。

 何の荷物だろうと考えていると、ちょうど部屋から顔を出してきた深尾へ、ウツギが聞いてみる。

 

「西円寺ってやつから届いてたんだ。なんか知ってるか?」

 

「.....................」

 

 ま......さ、か。なぁ。本当にやってくれるとは思わなんだ。

 「西円寺」という名前に、心当たりがあるどころか、今朝見たばかりだぞとは言わず。上司へ向かって「知らないな」と流れるように口を動かしてうそぶくと、ウツギは箱を開けて中身を確認してみる。

 

「インテークマニホールド用の固定ボルトに、追加ラジエーター......で、これは...ハープーン用の炸薬と弾頭か」

 

「見事に艤装の消耗品ばかりだな。それも費用がかさみそうなのを重点的に」

 

「......銛の一発の値段はいくらだったか...提督わかるか」

 

「一発200000円だな」

 

 おーう。そこは、流石はオジョーサマと言ったところか。......乱射しても心配なさそうな数があるな......毎日ぶっ放しても三ヶ月分ほどか?

 一発一発が殺人的な値段のせいで、強力とはいってもウツギがあまり撃たないようにしていたハープーン・ガンの弾頭が、歴史ドラマでよく見る、積み上げられた弓矢のように段ボールに積めてあるのを改めて確認して。熊野......西円寺財閥の財力に、ウツギが舌を巻く。

 そんな時、ウツギがぼかしたせいで、送り主の詳細を知らずに終わった深尾が、不安そうにウツギにこう言ってくる。

 

「だが、ウツギ......下手に使わないほうがいいんじゃないのか?」

 

「......?......それはどういう」

 

「送り主不明なんだ、爆発物でも入っていたらどうする?」

 

「知り......あっ............」

 

 ......嘘なんて言わなければ良かった。どうやって弁解と説明をするべきか......。

 微量の冷や汗をかきながら、ウツギが箱の中を覗いた姿勢のままで思考に更ける......そんな時。廊下の奥から、誰かが走ってくる音が聞こえてくる。

 誰だ? 顔をあげて横を向いたウツギの目に入ったのは、球磨の姿だった。

 

「ウッちゃあああァァァン!!」

 

「はぁ、ハァ、や、やっと見付けたクマァ!」

 

「朝っぱらから元気だな。どうしたんだいったい?」

 

 顔中を汗でぐちゃぐちゃにして、息があがっている球磨へ、ウツギが言う。

 

球磨の口から出た言葉は、深尾とウツギの予想もしなかったものだった。

 

 

 

「いいかクマ、二人ともよぉく聞いとくクマ.........」

 

 

 

 

「若葉が、漣を人質にして脱走したクマ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

若葉という艦娘を考えてみる。

性格は?気狂い?臆病?勇敢?友達思い?

前世は深海棲艦、現在は艦娘。その心の有り様は?

考え付くもの全てが彼女であり、違うとも言える。

 

最終回 「昇る朝日」。  狂って、狂って。フザけた場所でまた会いましょう。

 

 

 

 

 



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昇る朝日(終)

 

 

 

 

 

「たーすけてーーウッチーーー」

 

「.....................」

 

「きゃーー乱暴されちゃうーーー」

 

「....................................。」

 

 鎮守府のすぐ近くの海上にて。誰よりも早く現場にやって来たウツギが、若葉に羽交い締めにされ、首もとに刃物を突きつけられている漣を薄目で睨む。

 ウツギが、若葉ではなく、あえて漣をめんどくさそうな表情で見つめる理由は明確だった。......そう。何かの演技だと言うことがすぐにわかってしまったのだ。

 

「............ドッキリか何かか?」

 

「へ!?な、なんでわかったの!?」

 

「とんだ大根役者で残念だな......若葉」

 

 お得意の化粧で顔面を白く染め、何の意味があるのか、顔の三ヶ所に目の模様を書き入れていた若葉が、軽く舌打ちして漣を放す。

 わざわざ芝居なんぞうって......何が目的なのだろうか。ウツギが考えていた時。ため息と笑い声混じりに若葉が話し始める。

 

「くくく......ん~...もう少し粘ってくれれば良かったんだがね......」

 

「ごめんちゃい」

 

「もういいぞ。下がってろ......ウツギ、なんで呼ばれたのかわからないって顔だナ?」

 

「そりゃあそうだ。何がしたい」

 

「簡単に言おうか」

 

 若葉は持っていたナイフ......よく見ればパーティ用のジョークグッズの類いのそれを漣に渡して、後方の海上に停まっていたボートまで彼女に下がらせると、声を張ってウツギにこう言った。

 

「若葉でも、サザンカでもなく、だ」

 

 

「レ級として、お前と喧嘩がしたいんだ......うふふ。引き受けろよ?」

 

「..................」

 

 

 なるほど。演習がやりたい、と。そういうことか。

 「どうせ誘っても蹴るだろうからな、引きずり出してやったんだ」。若葉の口から出てきた言葉に、確かに、と一人納得しながら。ウツギが帽子を被り直しながら返事をする。

 

「......わかった」

 

「ならいい。すぐにやるぞ?」

 

「弾を交換してくる。実弾使用は禁じられ」

 

「ウフふハはは......♪。ジョーダンよせよ......優しい優しいお前のことだ、痛かないよーに......って、どーせ最初から塗料弾だろ?」

 

「............!」

 

 しまった。バレてたか。砲弾の交換を口実に逃走する算段が、ものの数秒で崩れ去ったことに、ウツギが冷や汗をかく。

 そしてそう考えていたのも見透かしてか、若葉が続ける。

 

「それにだ。ウツギ......後ろをよく見てみるんだ......ンフふ♪」

 

「後ろ?」

 

 言われた通りに、首を動かしてウツギが後ろを見てみる。視線の先には、鎮守府に所属しているほぼ全員が笑顔で、横並びで旗を振っているのが見えた。どうやら逃がすつもりは無いらしい。

 .........しょうがない。やるしかないか。

 溜め息をつくと同時に、ウツギは空いていた左手にスナイパーライフルを持って、戦闘に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ.........ごほっごっほ...ぐっ.......!」

 

「ふフ............どうした、もう終わりか」

 

 

 元気なもんだ。一体何時間やってると思っているんだ......。流れ落ちる汗を飲んでしまい、咳き込みながら、ウツギが心の中で口をこぼす。

 演習......というよりは、若葉のわがままで始まった一騎討ちは、開始からすでに8時間程が経過していた。頑なに引き撃ちを続けるウツギを若葉が追従するという形での戦いだったため、決着がなかなかつかなかったからだ。

 常軌を逸した超長期戦は、お互いに水を飲み、艤装の燃料補給を挟んでまで続き。朝から始まったのにも関わらず、周囲は日が暮れて薄暗くなっていた。

 流石に体力の限界が近づき。この終わらない喧嘩にうんざりしていたウツギが、若葉にこんなことを言ってみる。

 

「フゥーッ......若葉、もう終わりだ。夜間演習は準備に時間がかかる」

 

「..................♪」

 

「若葉聞いてたか」

 

 返事を返さなかった若葉が、右手を上げる。すると、突然周囲が何かで明るく照らされる。「何だ?」。ウツギが空を見上げると、五台ほどのヘリコプターが巡回しており、更に今度は後方を見てみれば、艦娘達が小型クルーザーの上でサーチライトを抱えているのが見えた。その中に球磨にどやされながら、電気を担いでびくびくしているリコリス棲姫を見つけたが無視した。

 こんな大掛かりなセット......一体この演習は自分の知らないところで、いつから準備されていたんだ.........。ローターの駆動音を響かせて飛び回るヘリコプターへ、白い目を向けながら。ウツギが疲れきった脳味噌でそんな事を思う。

 

「大型サーチライト付きのヘリに、これまた電飾付きのボート......いつから用意してたんだ」

 

「くクくふふ.........是非とも、準備を手伝わせて欲しいって奴が居たのでねぇ.........」

 

「援助だと......?一体だれが......」

 

『ふっふっふー......私かも!!』

 

「......なに?」

 

 無線から流れてきた秋津洲の声に、ウツギが顔をしかめる。飛んでいた中で一番大きいヘリコプターを見ながら、「余計なことをしやがって」と彼女が思ったのは言うまでもない。

 

『ウツギちゃんたちの、軍への貢献度は計り知れないかも。元帥のおじさまも、その程度のわがままは呑んでやれ。って、言ってたかも!』

 

「..................」

 

「フフふフ.........どうだ、ヤル気になったか?......まだ暗くて見えん、と言うなら、潜水艦どもに水中から照らさせるが?」

 

 .........もうヤケだ。終わるまでやってやる。

 両手で顔を軽く叩いてから。ウツギが叫ぶ。

 

「.........っ、上等!!」

 

「それでこそ!!」

 

 心の底からこの戦いを楽しんでいると思われる、こちらに突っ込んでくる若葉へ。視線を飛ばしながら、ウツギは身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 三点バースト、弾切れ。背中の砲、弾切れ。銛は外してきた。魚雷、弾切れ。ライフル、若葉に真っ二つ......全部弾切れ。残ったのは錨と斧ぐらいか。

 開始から8時間、そして日が落ちてから30分。とうとう引き撃ちのための砲弾が全て無くなって。ウツギは若葉からいくらか距離を取った場所で一旦止まって、腰に手斧が固定されいる事を確認してから、持っていた重火器を全て海に放り投げた。

 そんなウツギの様子を見て。若葉が一瞬驚いたような顔をしたかと思えば、またすぐに基地外染みた笑顔に表情を戻して、こう言ってくる。

 

「ほ~♪......弾が切れたか?」

 

「そうだ......ともッ」

 

 あっ......ぶない。

 口を開きながら、相手がこちらに突っ込んできて振り下ろしてきた薙刀を、寸でのところで、ウツギは両手に持った手斧で食い止める。

 その鍔迫り合いに近い状態から、ウツギは十字型の槍先を斧で引っ掻けて吹っ飛ばそうとする......が、そこにばかり気をとられていたため......また疲労で正常な判断が厳しかったこともあって。相手がこちらを蹴り飛ばそうとしてきたことに気付けず、鳩尾を蹴られて数メートルほどウツギがライトアップされた海面を転がる。

 

「......ゲホッ...ゴッ......!」

 

「まだまだァ!!」

 

「ふぅぉぉ.........!?」

 

 以前、装甲空母姫と船の残骸の中で戦ったときのように。寝そべった状態のまま、ウツギは飛びかかって来た若葉が喉元に下ろしてきた刃物を、また斧の溝に噛ませて勢いを殺す。

 

「楽しいねぇ、ウツギ.........喧嘩とはやはりこうでなくては面白くない.........!!」

 

「楽っ......しい.........ワケっ!」

 

 仰向けの状態から、今度はウツギが若葉の真似をして、腰に跨がっていた相手の顎を容赦なく膝で蹴り飛ばす。

 「モゴァッ!?」と、なんとも形容し難い妙な悲鳴をあげ、若葉が持っていた得物を手から落とし、上半身を仰け反らせて痙攣する。

 これで反撃に移れる。ウツギが起き上がろうとすると。

 

 

バネ人形のような気持ちの悪い動きで、凄まじい勢いをつけて若葉が頭突きをしてきた。

 

 

 大量の汗と鼻血を垂らしながら、ウツギが海面に倒れる。

 

 

 ウツギのその様子を見て。若葉は立ち上がり口から血を吐き出すと、今度は得意気に話し始める。

 

「プッ......フウゥゥゥゥ.........」

 

「...............」

 

「喋る気力もないと?」

 

「...............」

 

「はっハはは♪......そうか、若葉の勝ち.........かッ......♪」

 

 喋り終わった途端に、若葉もまた疲労が蓄積していたためか。ゆっくりと、ウツギの隣に盛大に水飛沫を立てて崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「満足したか」

 

「あぁ......引き分けか。つまらんなぁ......」

 

「馬鹿か。お前の勝ちだろうに。疲れすぎて、頭まで狂ったか」

 

「狂っているのはもとからさ」

 

「それもそうだな」

 

「ウフフふ.........なぁ、ウツギ」

 

「何?」

 

「いつもありがとう。」

 

「どうしたいきなり。気持ち悪い」

 

「ふふ、礼を言っただけでこれとは......手厳しい......ぐっ、ごほッ!!」

 

「大体、何の礼だ。そこがわからないよ」

 

「友達になってくれたこと」

 

「なんだ、たったそれだけか?」

 

 

「たったなんてもんじゃ無い......。若葉の本質は臆病者さ。......それこそみっともなく、いきなり小便漏らしそうなほど」

 

「毎日ビビりまくりだ......ガクガク震える足元から崩れていきそうなぐらい、毎日ビビってる」

 

「悩んでも、怖くても、死にかけても、泣いて......はいないか。お前となら笑って越えられた―――」

 

 

「だから礼を言った......どうかナ?」

 

「なら、そんな態度取るんじゃない。何度騙されたことか.........わりと、励まされていたのは自分のほうなんだが?」

 

「くくく......なるほど。お互い、知らずに助け合っていたわけか」

 

「......ふぅ、帰るぞ。いい加減にな。」

 

 

「...ウツギだ。.........疲れすぎて立てない。誰か来てくれ」

 

 

「五分後に、ツユクサ達が来る.........あと。若葉」

 

「どうした」

 

「............これからも。背中を頼む」

 

「......フフフッ......ははハはは♪.........任せな」

 

 

 

 

 

 




最終回でした。
まさか初投稿でこんなにロングラン、そして閲覧、評価、感想がつくなんて全然思ってなかったので、作者は嬉しさで泣きそーです。
約半年間、閲覧者の皆様。評価、そして感想を送って頂き。本当に御愛読ありがとうございました。























――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 むせ返る湿気。怒号。毒蛇。闇からの銃弾。楽園などとは程遠い、緑に覆われていても、ここは地獄だ。パラオの島にきわどく涼しい風が吹く。コラボレーション企画、「蹴翠雛兎(けすい ひなと)の艦隊戦録」。
 資源再利用艦隊 フィフス・シエラ、新章『パラオ攻略戦』。お楽しみに。



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人物紹介

完全なオマケです。シエラ隊に入った人物のみのキャラ紹介になります。


ウツギ

 

 

好きなもの 花、甘味、本

 

嫌いなもの 威張り散らす人、きゅうり

 

 主人公。様々な艦娘の遺体を繋ぎ会わせた物に深海棲艦の細胞を投与し、妖精の技術で蘇生させて建造された「資源再利用艦」の一番艦。素材になった艦娘の艤装を全て使用可能だが、100%の性能は引き出せない。また「素体」となった艦娘の面影が殆んど無い容姿をしているが、死体を接いだ痕が体のあちこちに残っている。

 本人自身、あまり戦闘では強くないことを自覚しており、基本的に海戦ではサポートに回ることが多い。しかし、レ級との合計四度にもなる死闘と、多くの戦闘を経験して少しずつではあるが確かに実力は伸びている。

 「兵器」として見れば高い汎用性を持つ彼女たちリサイクル艦は、その特性から何かと便利屋代わりに各地の激戦区に呼び出しを食らうことが多々あるが、元々そこまで争い事が好きではない彼女はこの事実に少し辟易している。

 

 

 

 

アザミ

 

 

好きなもの 静かな人、自炊すること

 

嫌いなもの うるさい人、匂いの強い食べ物

 

 ウツギに次いで、ツユクサと同期に建造されたリサイクル艦。三人のなかでは戦闘能力が抜きん出ており、手練れの艦娘と肩を並べるほど。駆逐艦と戦艦の艤装を使えるが、基本的にはいつも強引に軽量化を施した戦艦の艤装で戦う。彼女のみ二人とは違い、まだ肌の色が人間に近い。

 信頼できると認めた相手以外には必要最低限しか喋らないウツギよりも更に無口で、しかも常時無表情なせいで、周囲からは何を考えているか解らないヤツ、と思われがち。本人も別にそれを気にしている訳でもないが、最近春雨から笑顔のやり方を教えて貰っている。

 指に握り込んだコインやベアリングを飛ばす「指弾術」の腕が凄まじく、相手が撃ってきた砲弾の起動を逸らすなんて当たり前なほど。因みにこの特技は、研究所時代にカンフー映画好きな研究員から教わったらしい。

 

 

 

 

 

ツユクサ

 

 

好きなもの おしゃべり、肉類

 

嫌いなもの 冷凍食品、友達に危害を加える人

 

 アザミと同じ時期に建造されたリサイクル艦の第三号。とにかくお喋り好きでいつも誰かと無駄話に花を咲かせている。かなり感情豊かで友達思いな性格であり、友人に危機が迫ったときには平然と自分を犠牲にするほどで、それと連動して激怒した際にはアザミに匹敵するかそれを越すほどの身体能力と戦闘力を発揮する。

 興奮したときに目が赤く光ることがあるが、深尾から日差し避けにと渡されたゴーグルは、これを隠す目的で渡されたことに本人は気がついていない。

 よく、黙っていれば美人と言われる。田代が一目惚れしたのもそのせい。

 

 

 

 

若葉(レ級、サザンカ)

 

 

好きなもの 自分より格上の相手との戦い、鍛練、戦闘中に負った傷の痛み

 

嫌いなもの 自分より格下の相手との戦い、人を選ぶ武器・道具、グレープフルーツ

 

 三人から少し期間を空けて建造されたリサイクル艦。しかしてその実態は回収されたレ級の死体と艦娘の遺体の掛け合わせでウツギたちと同じ手順で建造されて現れた艦娘。

 レ級の頃の記憶を引き継いでいたり、既存の艦娘と全く同じ容姿など、建造した研究者たちにもわからないイレギュラーが発生している。

 一応外見こそ同じなので「若葉」扱いされているが当初の予定では「サザンカ」という名前だった。その名残か彼女の来ている黒い制服の胸元には山茶花の刺繍が入っている。

 一応、人間の指示には従ってはいるものの、殆どの艦娘が大なり小なり持っている「世のため人のため戦う」などというポリシーは彼女には存在せず、ただ「戦いと殺しを楽しむ」という目的のために深海棲艦と戦う享楽主義者である。

 

 

 

 

深尾 圭一

 

 

好きなもの 仕事ができる人、学生時代から乗っている愛車

 

嫌いなもの 何をするかわからない人、無茶ぶりを吹っ掛けてくる人、トマト

 

 曲者揃いの艦娘たちに振り回され気味な第五鎮守府で提督を勤める身長160cm未満の小男。

 手際よく書類を捌いたり、自分を気遣ってくれているウツギと良好な関係を築く。しかしあくまで仕事の上司と部下の関係だと思っているので恋愛感情などはナシ。

 実は提督になったのは高給に任せて愛車の改造パーツの購入と税金を払うため。念願のスポーツカーを自由に乗り回せる今の現状に。彼は今、非常に満足している。

 

 

 

 

 

好きなもの 一緒にワイワイできる人、ピンク色のなにか

 

嫌いなもの 規則に厳しい人

 

 シエラ隊発足前から第五鎮守府に所属する初期艦。北海道出身の元人間。

 初めはウツギ達の事を気味悪がってよく思っていなかったが、深尾の「説教」によって妙にフレンドリーになる。

 艦娘に志願したのは、大家族で稼ぎが少ない両親の負担を減らすため。

 ツユクサとかなり仲が良く、しょっちゅう彼女と騒いでいる。

 

 

 

 

天龍

 

 

好きなもの 乙女心をくすぐるもの

 

嫌いなもの 第三横須賀の天龍、玉ねぎ

 

 第五鎮守府で最初に建造された艦娘。他の鎮守府の天龍よりも女子力が高くて大人しいらしい。

 見た目のせいでなにかと距離を置かれるウツギとツユクサを最初から仲間と認めたり、誰とでも分け隔てなく接することができる艦娘の鑑。

 口は悪いが全然怖くない。それどころかよってくる人間が多い。

 

 

 

球磨

 

 

好きなもの 魚介類、夕張(ツ級)

 

嫌いなもの 第三横須賀の天龍

 

 建造されてから五年目のそこそこベテランの艦娘。

 元は第三横須賀所属の軽巡部隊の旗艦だったが、鎮守府のあまりの風紀の悪さと天龍の恐怖政治に嫌気がさし、脱走して第五横須賀に保護される。

 それなりに場数は踏んでいるが後方勤務が多かったためか、決して強くはないものの、そこは持ち前の根性と粘り強さでカバーしている。

 

 

 

木曾

 

 

好きなもの 球磨、海賊を彷彿とさせるもの

 

嫌いなもの 無謀な事をやる人、第三横須賀の天龍

 

 球磨と同じく元の所属を抜けて保護された艦娘。

 オラオラ系に見えて意外と中身は小心者。文房具が好き。死ぬほど好き。

 同時にアウトローに憧れており、本棚はクロ〇ズの漫画とアウト〇イジのブルーレイで埋まっている。

 

 

 

春雨

 

 

好きなもの 野菜、本

 

嫌いなもの 特になし

 

 特殊な手術を受け深海棲艦になった元艦娘。

 いつも笑顔でほんわかした雰囲気を漂わせるその姿とは裏腹に、戦艦級の砲撃が顔に直撃しても動じず、素手で鋼鉄をネジ切り、高雄が振るう、並の深海棲艦を両断できる刀を首筋で受け止めるなど、完全に艦娘の領域から逸脱した体の頑丈さを誇る。

 リゾート施設で有名なポクタル島出身。本名は「須藤はるな」。

 

 

 

時雨(改二)

 

 

好きなもの シエラ隊、ポクタル島の観光名所

 

嫌いなもの 演習の相手にならない弱い艦娘、たくあん

 

 リゾート施設用の人工島、ポクタル島の警備府から期間限定でシエラ隊に所属していた艦娘。

 天才的な戦闘技能と、緻密な作戦プランで、五年間一度も演習で負けたことが無かった。が、リハビリがてらにと喧嘩を吹っ掛けてきた若葉に一蹴され、更なる鍛練を積むという目的のために配属先を変更した。

 部隊内では文句なしの最高練度で、なんと150。純粋な戦闘能力はトップクラスで、実践経験が足りない状態でありながら、敵の襲撃から島を守りきったことからも彼女のその強さが合間見える。

 

 

 

RD(装甲空母姫)

 

 

好きなもの 剣の手入れをすること、勉強、自分を慕ってくれる部下

 

嫌いなもの 戦艦水鬼、炭酸飲料水

 

 深海棲艦、「装甲空母姫」。ただし書類上は艦娘扱い。シエラ隊に配属された中で唯一の純粋な深海棲艦。

 自らを慕っていた部下や、自らを「道具」として扱っていた戦艦水鬼に反旗を翻し、総勢二千名程の深海棲艦と海軍に投降する。

 非常に情に厚い面があり、得意じゃないと広言しながらも、助けてくれた若葉に多少は恩を感じている。

 まだシエラ隊と敵対していた時に死亡した部下については、ウツギ達を咎めることはなく、「敵同士だったのだから仕方がない」と、ドライに捉えている。

 射撃の腕が元々からっきしということもあり、戦闘は主に、自身の体の頑丈さに任せて強引にインファイトに持ち込むスタイル。この時に使用する二刀は、基本はいつも帯刀している自分用のものだが、時折部下の形見の八本分のものを予備として持つこともある。

 

 

 

 

 

 

 



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おまけ
不定期開催小ネタ集 1


次話が難航しているので溜めたネタを投下。
ネタ580%なので生暖かい目で適当に読み流してください(白目


 

 

 

 

 

1 若葉のモニタリング作戦

 

 

 

若葉(やぁ、人間ども。若葉だ。ところで唐突だが若葉はウツギが好きだ。)

 

若葉(なぜかと言えばこの若葉を一度倒した唯一無二の艦娘だからだ。奴には本当に感心するよ)

 

若葉(と、言うわけで)

 

 

若葉(奴の入浴を覗く)

 

 

若葉(おっと、けっしてやましい気を起こした訳じゃないぞ?あいつにいつか勝つためにはあいつの事を全て熟知する必要があるからだ。いいね?)

 

若葉「フヒヒヒヒ......既にあいつの部屋のバスルームには陸奥とかいう深海棲艦に作らせた耐水監視カメラを168個取り付けた......」

 

伊168「ぶえっくしょい!!」

 

若葉「そしてこの特注品の160インチの特大高解像度モニターでリアルタイム中継される仕組みだぁ......」

 

若葉「グヘヘヘヘスイッチを押せばあいつの建造されたままの姿が......」

 

若葉「スイッティィ・オンッ!!」

 

 

ウツギ『......なんだ?今日はシャワーの出が悪いな。明石に言っておくか』

 

 

若葉「ぶ っ ふ ぉ !?」鼻血噴射

 

若葉「我が生涯に一片の悔いなし!!!!」バッターン!!

 

 

 

ワカバーハイルクマヨー

 

ウワアーワカバガタオレテル!?ダレカアカシヲヨベー!!

 

 

 

後日、カメラとテレビは没収されました。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

2 木曾の休日

 

 

木曾「ごちそーさん」

 

球磨「あれ、木曾もう食べ終わったクマ?......アレの日クマか?」

 

木曾「うん。ごめんな球磨姉」

 

球磨「適当に時間潰しとくから一時間ですませろクマ~」

 

 

ウツギ「なぁ、球磨。木曾のアレって?」

 

球磨「......聞いてたクマか?うっちゃん、世の中には知らなくて良いこともあるクマ」

 

ウツギ「......?そうか」

 

 

ウツギ(とは言われたもののやっぱり気になるな)

 

ウツギ(部屋を覗いてみるか)

 

ウツギ「木曾、入るz......」

 

 

 

木曾「あぁ......ボールペン......なんて甘美な響きなんだ......」

 

木曾「ボールペン......俺はお前に出会えて幸せだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

木曾「愛してるぜベイビィィィィィィイイイ!!!!!!!!!」

 

 

 

ウツギ(部屋のなかには)

 

ウツギ(「全裸でボールペンに埋もれている」木曾が居た)

 

ウツギ(そっとしておこう.........)

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

3 春雨の演技セミナー

 

 

 

春雨「演技の練習、ですカ?」

 

ツユクサ「うぃッス!!よろしく頼むッス!!」

 

春雨「その、なんで私から演技を教わりたいのでしょうカ?」

 

ツユクサ「いやぁ~その、こう、奥の手ってカッコいいじゃないッスか?」

 

春雨「成程......わかりましタ。じゃあ早速やりましょウ!!」

 

 

 

漣「敵来たよ、ツユちゃんヨロ(・ω・)スク!!」

 

ツユクサ「フッ......軽い仕事だ......お前たちの手は借りん......」

 

漣「......なんかキャラ変わってね!?つか何そのでっかい刀?」

 

若葉「......気に入らんな。その無表情さ、が、な」

 

ツユクサ「このツユクサに笑えと言うのか?」

 

ル級「ハッハァ!隙アリィ!!」

 

ツユクサ「.........!」

 

ル級「なん......だと......」ズシャアッ

 

ツユクサ「春雨心刀流・弐ノ段」

 

 

     藍華(あいばな)

 

 

ル級「フフッやりおるわ......」

 

ツユクサ「弱者の言葉......聞こえんな......」

 

駆逐古鬼「あわわわわわ......」

 

ツユクサ「......斬られたくなければ」

 

 

     去れ。

 

 

 

 

漣(なんだこのイケメンども)

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

4 花壇コンテスト

 

 

青葉「ども!恐縮です~青葉です!!今日はこちら、鎮守府対抗花壇コンテストで見事三位を獲得した第五横須賀鎮守府に来ております!!」

 

青葉「いやぁ素晴らしいですね、この一面に咲き誇る白いお花!まるで花嫁のバージンロードみたいです!!」

 

青葉「それでは花壇係のウツギさん、今のお気持ちをどうぞ!!」

 

ウツギ「嬉しい」

 

青葉「ほうほうなかなかシンプルですね。では、こちらのお花の解説なd......」

 

 

 

ウツギ「これはカルミア・ラティフォリア。英名では、マウンテン・ローレル(山の月桂樹)として知られるツツジ科の植物だな。晩春にピンクと白の花を咲かせ、ペンシルバニア州とコネチカット州の州花であり、アメリカの東部ではどこでも見られる。美しい花だが、その優美な見た目とは裏腹に、人を死に追いやる危険な植物でも有名だ。含まれる毒物は、グラヤノトキシンIとアルブチン。とくにグラヤノトキシンIには注意が必要だ。大量に摂ると、WPW症候群と言われる危険な病態を造り出し、心拍がコントロールできなくなって死んでしまう。少量の場合は、まず最初に嘔吐が来る。頭部の穴という穴から液体が流れだし、1時間後には呼吸がゆっくりになり、筋弛緩し、昏睡して死ぬ。花を食べなくてもこれらの中毒にかかる可能性がある。ミツバチがこの花の蜜を捕ってきて、そのハチミツを食べると花を食べたと同じことになるので注意が必要だ。かつてギリシャでは「狂気の蜜」と呼ばれ、紀元前400年にアテネのクセノポンを倒すために使われたという逸話がある。まあしかし見る分には問題ないし、外見も可愛らしい花だ。なかなかここまで育てるのは辛かったがちゃんと花が咲いてくれて私は嬉しい」

 

 

 

ウツギ「そしてこっちはアリッサム。油菜(あぶらな)科の学名はLobularia maritima Lobularia : ロブラリア属maritima : 海のLobularia(ロブラリア)は、ラテン語の「lobulus(小さなかけら)」が語源と言われている。地中海沿岸原産で、公園とかによく植えられている比較的眼にすることも多い花だ。春と秋に、芳香のある白い小花がいっぱい咲く。ここに植えてあるのは白いものだがピンクや紫もある。ちょっときつめの香りだからあまり近くで匂いを嗅ぐのはやめたほうがいいだろう。別名は「庭薺(にわなずな)」や「スイートアリッサム」。花壇には定番の花だなちなみに花の付きかたは紫陽花(あじさい)、似ているのにはイベリスなんかがある」

 

 

 

青葉(やっべえ何しゃべってんのか全然わかんねぇ)

 

 

 

 

 

 




まったく笑えねぇぞこんちくしょう!!という人はご免なさい。(土下座


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不定期開催小ネタ集 2

シリアスに突入する前にシリアルを撒いていくstyle!!


 

 

 

 

5 映画を観に行こう!

 

 

 

 

装甲空母姫「お前たち!映画を観に行くぞ!!」

 

ル級「いきなりどうしたんですか姫様?」

 

レ級「何を観に行くんです?」

 

装甲「ふっふっふっ......聞けばどうやら艦娘どもの生態をこと細やかに描写した映画を人間たちが作っているらしい」

 

装甲「つ・ま・り。これを見れば打倒艦娘など朝飯前よ!」

 

ル級「なんと!?流石です姫!!」

 

レ級「早速支度を始めましょう!!」

 

 

 

 

 

 

\デモ、キサラギチャンガ!!/

 

\ソレハ、ツラク、クルシイコトダカラ....../

 

 

\オ~ボ~エテ~イテ~♪/

 

装甲「.........」ポップコーンモグモグ

 

ル級「.........」ジュースズルズル

 

レ級「.........」ホットドッグハミハミ

 

 

装甲 ル級 レ級「「「えぇ話やぁ......」」」(大号泣

 

 

 

 

 

 

どっかの提督「如月、お前宛に花束が届いてるぞ。送り主は......なんだこれ『装甲女騎士』だってさ」

 

如月「私に......ですか?」

 

睦月「きっと如月ちゃん宛のファンレターにゃしぃ!!」

 

如月「えぇ?そんなまさか......」

 

 

 

※その通りでした。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

6 暴れツユクサ

 

 

 

ウツギ「.........」(読書中

 

ウツギ「.........」

 

ツユクサ「ひいぃぃぃぃぃ!!」ドタドタドタ

 

ウツギ「.........?」(目だけ動かす

 

 

 

 

 

天龍「ウツギ!ツユクサどこ行った!?」

 

ウツギ「......玄関に向かっていったぞ」

 

天龍「玄関か!んんなろぉぉぉぉ!!!!」ドタドタドタ

 

ウツギ「......?」

 

 

 

 

 

球磨「うっちゃん、ツユクサはどこか知らないかな?」ニコニコ

 

ウツギ「......!?」ビクッ

 

ウツギ「ツユクサなら玄関に......」

 

球磨「ありがとう。......いっちょシメるか......」

 

ウツギ「」

 

ウツギ(何だったんだ今の寒気は......)

 

 

 

 

 

 

ウツギ「............」

 

ミツケタァユルサンゾツユクサァ!!

 

ウワァミツカッタァ!?モウオシマイダァ!!

 

クラエ!!クマ・タツマキセンプウキャク!!

 

ホオオオオオワアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!??

 

ウツギ「......もうこんな時間か。花に水をやらないと」

 

 

 

 

ウツギ「.........」E:ジョウロ

 

ウツギ「......?なんだこの看板は?」

 

『私は花です。ほっといてください』

 

ウツギ「......どういう意味」視線ずらし

 

 

 

ツユクサ「

   (\    _

    | )   / )

    / |  ( /

   / /   ||

   / |   ||

   \ \  / |

    \ \/ /

   _|   /__

     ̄三三三二 ̄   」

 

 

 

ウツギ「」

 

 

ウツギ「......変わった花が咲いてるな」(思考放棄

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

7 ハッカーむっちゃん

 

 

 

南方棲戦姫(陸奥)「ハッカーのアビリティを特定中......スキャン完了よ」

 

ツ級(夕張)『Ok、ハッキング成功ね』

 

夕張『じゃ、適当な所でバックドアウイルスをインストール、プログレスホイールを展開して』

 

陸奥「待って。隠れ場所......この茂みがいっか」

 

陸奥「よし、インストール開始」スマホON

 

夕張『インストール開始ね。100%まで逃げ切って!』

 

陸奥「わかってるわ。楽な仕事よ」

 

 

 

 

 

夕張『インストール75%。ホイールが縮小するわ。気を付けて』

 

陸奥「......早速動きがあったわ。場所を駅の下に移す」

 

夕張『待って、ジャミングよ。見つかったかも!』

 

陸奥「......じゃ、停電でもおこしましょうか!」スマホON

 

ギュウウウゥゥゥゥン......ビシュン!!

 

陸奥「ふふっ。慌ててる慌ててる」

 

夕張『インストール100%!お疲れさま』

 

陸奥「イメージ通り。楽勝だったわ」

 

 

 

 

 

ウツギ「何をやっているんだアレは?」

 

木曾「漣のスマホをハッキングして遊んでんだとさ」

 

ウツギ「あっ......」(察し

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

8 若葉のモニタリング作戦-その2

 

 

 

若葉(やぁ、人間たち。暗いところから失礼。若葉だ)

 

若葉(何?若葉が今何処に居るかだって?それは)

 

 

 

若葉(ダクトの中さ!)

 

 

 

若葉(この若葉の身体能力があれば、換気扇からダクトに入って浴場を覗きに行くなど朝飯前さ......)

 

若葉「さて。そろそろ浴場の上に出るはずだが......」

 

若葉「む、湯気が出ている。あそこか」

 

 

 

 

ウツギ「フゥ~。今日も疲れたな......」

 

漣「ウッチーおばあちゃんみたいねw」

 

ウツギ「なんとでも言え」

 

 

 

 

若葉「ぶうううぅぅぅぅ!!??」(鼻血噴射

 

若葉(あっ、しまっ力が抜け......)

 

 

 

 

ドグワッシャァァーン!!ザパァァァン!!

 

アッヅァアアアアアイ!!??

 

ウワァ!!アネキィ、ソラカラワカバガ!!

 

ノゾキハシュクセイスルクマ!!

 

チョッ、マッ、ウ ワ ラ ハ ゙ !!

 

 

 

 

※後日、ダクトの改修工事が行われました。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

9 オサレなファッソン

 

 

ウツギ「......遅いな。ツユクサは何をやっているんだ」E:ベンチコート

 

漣「お出掛けだからおめかししてるんじゃないのん?」E:ジーパン+パーカー

 

天龍「あいつが化粧なんてするのか?」E:スカジャン

 

アザミ「格好......どうでも......いい......」E:迷彩ジャンパー

 

若葉「そうだ。さっさと来ればいいのに」E:ダッフルコート

 

天龍「俺としてはお前が来ることのほうが驚きだよ......」

 

 

ミンナーマタセタッスゥー!!

 

 

ウツギ「来たな。おいツユ......」

 

 

 

ツユクサ「いやぁちょっと服選びに時間食っちゃったッス!」E:純白のゴシックドレス

 

 

 

ウツギ「」

漣「」

天龍「」

アザミ「」

若葉「プッw」

 

 

ツユクサ「?どうしたんスかみんな?」

 

 

ウツギ「それはない」

漣「に、似合ってるよ」

天龍「石膏像みたいだなお前」

アザミ「阿呆」

若葉「プッwwwクッフフフフwwwwww」

 

 

 

 

※お出掛けの目的がツユクサの私服選びにシフトしました。

 




あぁ次は本編だ......


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明けた瞬間始まる小ネタ集 3

あけおめええええええええええええええええ!!!!!(THE☆深夜テンション


 

10 春雨のキチ笑顔講座

 

 

 

 

漣「は~るちゃん!敵を威嚇するコツ教えてちょ!」

 

春雨「威嚇する練習......?」

 

漣「ほら、アレヨ。レ級追っ払ったことあるんでしょ?」

 

春雨「あぁ、アレですカ。じゃぁ、私の後を真似して下さいネ」

 

漣「おっしゃバッチコイ!」

 

 

 

春雨「スウゥゥゥ............」

 

 

 

 

春雨「あァ......哀し()ナァ」

 

春雨「哀し()......水に映ッタ自分の姿を視タダけで私ハ哀しくナる......♪」

 

春雨「貴女......哀シミに溢レて()るネ......()ィ」

 

春雨「()ぃなぁ......素晴ラシイ哀しみダ......クフフフッ、笑えテこな()?」

 

 

 

春雨「んぐっ.........」

 

春雨「んギィぃ......ぐふっ......キヒッ............」

 

春雨「キヒャッ......クふふふ.........ふハっ.........はヒャはハ」

 

 

 

春雨「ンひゃぁァァァっはっはッはっハっはァァぁっはっひゃッはっハッハ!!!!」

 

「うエェぇぇェあぁァァっひゃっひャッヒャッ!!!!」

 

「アッヒャっヒャっひゃッひャひゃッヒゃっ!!!!」(グポーン

 

 

 

漣「」

 

漣(アカン)

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

11 若葉のモニタリング作戦 その3

 

 

 

若葉「ふふふ......ふふっ、はははは」

 

若葉「うわぁぁぁはっはっはっ!!やったぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

若葉(おっと失敬、視聴者の諸君。若葉だ)

 

若葉(それよりも貴様ら。これを観てくれ。素晴らしいだろう?給金の全てをつぎ込み、この若葉は部屋を大小様々な大きさの58個のモニターで埋めた!!)

 

伊58「へっくち!」

 

若葉(このモニターはこの若葉の巧みなセッティングにより、この鎮守府のありとらゆる部屋、廊下、床に仕掛けられているカメラからの映像をリアルタイム中継する!!)

 

若葉(これさえあれば、あの、この若葉のウツギ観察の邪魔(ただの自分のヘマ)をしてきた球磨とやらにもこの若葉の覗きは止められん!!)

 

若葉(更に更にざ・ら゙・に゙ィ!!ウツギが外出しようものなら、夕張とやらに作らせた合計19個の自動操縦のドローンが奴を追跡してR・E・Cィィィイイ!!)

 

伊19「くしゅんっ!」

 

若葉「あぁ......素晴らしい......。涙と鼻水と涎と笑いが止まらんぞ............」

 

若葉「おっと満足している場合ではない。これらは実際に使ってこそ威力を発揮するぅぅ!!!!」

 

若葉「システム・起動ッッッ!!」ポチットナ

 

 

 

ウツギ『ん......んぅ、天龍、まだやるのか?』

 

天龍『おっ、なんだ?ここか?ここがいいのか?』ヒザマクラ

 

ウツギ『ひぅっ!?、耳掃除ぐらい自分でやるのに......』

 

天龍『いつも頑張ってるお前へのご褒美、サ♪』

 

 

 

若葉「」()

 

 瞬間、若葉に電流走るッ......!!

 

 若葉の脳内を駆け巡る脳内麻薬、ドーパミン、エンケファリン、β-エンドルフィン、これらの作用により、若葉は素晴らしい快楽に包まれた!!

 

 しかし!あまりの幸福の情報量過多により若葉の脳はショート!!自然、ストレスを感じた際に分泌される、ノルアドレナリンが若葉の体を乗っとり、彼女は

 

 あぁ!なんということか!!彼女は窓から外へフライアウェイ!!

 

若葉「無限の彼方へ」

 

 

 

若葉「さ あ ゆ く ぞ !」

 

 

 

ガッシャーン!!ドチャリ!!

 

ウワァァァクマネェェマタワカバガフッテキタ!!

 

シッカリシロォメヲアケロヨワカバァ!!

 

 

後日、若葉は全治二週間の大怪我をしたにもかかわらず、その顔は幸せそうな笑顔だったと言う。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

12 若葉軍団のモニタリング特大作戦

 

 

 

 

時雨「サザンカさん、準備完了しました!!」

 

若葉「よし......」

 

筑摩「すいません、遅れました......」

 

大井「いや、大丈夫。時間より五分速いから!」

 

千代田「全員集まったわね......作戦開始よ!!」

 

 

 

若葉(やぁ諸君。若葉だ)

 

若葉(ん?若葉が今何をしているかだって?んっふっふ......観ればわかるだろう?)

 

 

 

若葉(覗き大作戦さ!!!)

 

 

 

時雨(説明が足りなさすぎるから僕が説明するね)

 

時雨(いま僕らはここ、第一大湊警備府に居るんだ。何でかって言うと、ウツギさんたちが前にお世話になったっていう緒方提督から、お正月の宴会にご招待されたんだ)

 

時雨(そして。サザンカさんがここで意気投合した筑摩さん、大井さん、千代田さんにこう持ち掛けたんだ)

 

 

時雨(宴会で浮かれている今なら、お前らの恋人の隠し撮り写真取り放題だぞ? と)

 

 

時雨(それで触発された三人がとんでもない急ピッチで準備を進めて今に至る。こんなところかな)

 

 

筑摩「はい時雨ちゃん、提督のダッジヴァイパーの鍵!」

 

時雨「えっと車の鍵ですよね?」

 

大井「何を今更言ってるんですか!しっかり頼みますよ!!」

 

時雨「任せてください!!」

 

 

 

 

 

若葉「若葉、配置に着いた。どーぞ」

 

筑摩『筑摩、停電の準備は整いました!』

 

若葉(よし......時雨が車で壁をぶち破ってダイナミック入店。そして混乱が収まらぬうちに筑摩が停電を起こし、暗闇に怯えるウツギ達を激写......これだ!!)

 

大井「あっ......」

 

千代田「どうしたの大井?」

 

若葉「今更怖じ気づいたか?...んふふ.........」

 

大井「壁、発泡スチロールに交換しておいたんだけど......」

 

 

大井「あの子にどこの壁を交換したか言ってないんだけど......」

 

 

 

ドゴォォォォォオオオン!!!!グワッシャーン!!!!

 

 

 

若葉「時雨ぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

『キサマラァァァァァ!!カンネンシロ!!オマエラノタクラミハバレテイルゾ!!』

 

筑摩『追っ手が......すいません、私はここまでです......』

 

筑摩『後は頼みました......皆さん......!!』

 

 

大井「そんなっ......筑摩!......筑摩ぁぁ!!」

 

千代田「二人の死は無駄にはしない!!」

 

若葉「突撃する!!」

 

 

 

 

 

球磨「もう観念しろクマ!!」

 

木曾「覗きは駄目だぜ」

 

若葉「ふふふ......まだだ!!まだ今回の若葉には強い味方が二人......」フリムキ

 

 

『お腹痛いんで帰ります 大井』

 

『姉とガキ使観に行くんで 千代田』

 

 

木曾「二人?お前一人だぞ」

 

若葉「」

 

若葉「ははっ......ははは.........ちくしょう......」

 

 

 

 

 

  __,冖__ ,、  __冖__   / //      ,. - ―- 、

 `,-. -、'ヽ' └ァ --'、 〔/ /   _/        ヽ

 ヽ_'_ノ)_ノ    `r=_ノ    / /      ,.フ^''''ー- j

  __,冖__ ,、   ,へ    /  ,ィ     /      \

 `,-. -、'ヽ'   く <´   7_//     /     _/^  、`、

 ヽ_'_ノ)_ノ    \>     /       /   /  _ 、,.;j ヽ|

   n     「 |      /.      |     -'''" =-{_ヽ{

   ll     || .,ヘ   /   ,-、  |   ,r' / ̄''''‐-..,フ!

   ll     ヽ二ノ__  {  / ハ `l/   i' i    _   `ヽ

   l|         _| ゙っ  ̄フ.rソ     i' l  r' ,..二''ァ ,ノ

   |l        (,・_,゙>  / { ' ノ     l  /''"´ 〈/ /

   ll     __,冖__ ,、  >  >-'     ;: |  !    i {

   l|     `,-. -、'ヽ'  \ l   l     ;. l |     | !

   |l     ヽ_'_ノ)_ノ   トー-.   !.    ; |. | ,. -、,...、| :l

   ll     __,冖__ ,、 |\/    l    ; l i   i  | l

   ll     `,-. -、'ヽ' iヾ  l     l   ;: l |  { j {

   |l     ヽ_'_ノ)_ノ  {   |.      ゝ  ;:i' `''''ー‐-' }

. n. n. n        l  |   ::.   \ ヽ、__     ノ

  |!  |!  |!         l  |    ::.     `ー-`ニ''ブ

  o  o  o      ,へ l      :.         |

           /   ヽ      :

 

 

 

 

 

 

 




ネタは書いてて楽しいッス(ツユクサ並感
(ここから当分ネタは挟みません)


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不定期開催小ネタ集 4

評価バーが赤い......評価バーが赤い!!!??(驚愕)
ひっさびさのネタです。重い話が続いたんだから少しは軽くしないと......


 

13 高雄の変

 

 

神風「墨流、この鎮守府の艦娘があなたの過去が知りたいって」

 

ネ級(高雄)「私の、ですか?面白くないですよ」

 

神風「でも一応触れるぐらいはしておきましょう?」

 

高雄「そうですね......あっ、ちょっと手を伸ばしてください」

 

神風「......?こう?」

 

高雄「あっ、このポーズで......そうです。もう少し指先をピンと......」

 

 

  \〇ゝ \〇ゝ

   神    高

   /|   /|

 

 

(推奨BGM  本能○の変、byエグ〇プ〇ージョン)

テン・テン・テンテンテンテン♪

 

 

二人『高雄の変♪ 高雄の変♪ 高雄の変♪』(軽快なダンス

 

二人『た~か~お~の話♪』

 

 

高雄「今から十年、もっと前かな?とにかく昔に起こった出来事」(キレッキレのダンス

 

高雄「神風に孤児の高雄が」

 

高雄「あ・こ・が・れ・る・ハナシ♪」

 

 

神風「どぉしてぇん?♪ どぉしてぇん?♪ どぉして高雄は憧れたん?」(不思議な踊り

 

ヘェイッ!!♪

 

高雄「高雄さんは孤児だったから、神風さんから名前を貰う」(キレッキレのロボットダンス

 

高雄「そんな大事な貰った名前は」

 

高雄「・・・・スミナガシ♪」

 

 

神風「どぉしてぇん?♪ どぉしてぇん?♪ どぉして高雄は憧れたん?」(不思議な腰振りダンス

 

ヘェイッ!!♪

 

高雄「神風さんは行き倒れていた高雄を拾って道場へ」(キレッキレのry

 

高雄「そ~こで勿論孤児の高雄は」

 

高雄「娘(神風)と一緒に武者修行♪」

 

 

神風「どぉしてぇん?♪ どぉしてぇん?♪ どぉして高雄も武者修行?」(不思議なry

 

ヘェイッ!!♪

 

高雄「ちょうどその頃流行ってい~た、海軍主導の艦娘キャンペーン」

 

高雄「それに乗っかり恩返しのため」

 

高雄「神風もろとも武者修行♪」

 

 

神風「変じゃなぁい?♪ 変じゃなぁい?♪ 恩返しって変じゃなぁい?」

 

高雄「変じゃなぁい♪・変じゃなぁい♪・仕送り送る、変じゃなぁい♪」

 

神風「変じゃなぁい?」 

高雄「No変じゃなぁい♪」 

神風「変じゃなぁい?」 

高雄「No変じゃなぁい♪」 

 

変! 変♪ 変! 変♪ 変 変 変 変 変 

 

 

 

『こ

 ・

 れ

 ・

 が』

 

 

 

『高雄の変♪ 高雄の変♪ 高雄の変♪』

 

『た~か~お~の話♪』

 

 

『高雄の変♪ 高雄の変♪ 高雄の変♪』

 

『た~か~お~の話♪』

 

 

 

高雄「うろ覚え♪」b

 

 

 

 

 

 

 

 

ウツギ(すごい仲良いんだなこの二人)

 

 

 

 

 

14 木曾の優雅な休日

 

 

 

木曾「......!......!」キョロキョロ

 

ツユクサ「木曾っち、なしたんスか?そんなに挙動不審で?」

 

木曾「ん?あぁツユクサ。あのさ、万年筆落としたんだけど見なかったか?」

 

ツユクサ「あ、これッスか?」

 

木曾「あああぁぁぁぁ!?それだよソレ!!ありがとな!!」

 

 

 

 

ツユクサ「~♪~~♪......ん?」E:ヘッドホン

 

ドア<アァ......ン゙ア゙ァアアアア......

 

ツユクサ「......唸り声?」

 

ツユクサ(札は......木曾ッスね。なにやってんだろ?)

 

ツユクサ「......、ムフフ......ちょっと失礼......」(覗き見

 

 

 

 

木曾「イエエエエエエエエエエエエエエエ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙!!!!」全身インクまみれ

 

ツユクサ「」ビクッ!

 

木曾「空っっっ前・絶後のおおおおおおおお゙お゙お゙お゙お゙!!!!」

 

木曾「超絶怒と」

 

 

 

 

 

 

ガチャ バタン

 

扉<ブンボウグヲアイシ!!ブンボウグニアイサレタオンナ!!

 

扉<ソウ ワレコソワアアアアアアアア!!!!!

 

ツユクサ「」

 

ツユクサ「............」

 

ツユクサ「......そっとしておくッス」

 

 

 

 

 

15 ゆうしゃうつぎのぼうけん

 

 

 

ウツギ「......」E:デー〇ンスピア

 

は〇れメタル「......」

 

 

ウツギ(朝起きたら何故か自分は槍を背負って草っぱらに突っ立っていた)

 

ウツギ(どこだここは......それに目の前のこの得体の知れない液体金属のような生き物はなんなんだ)

 

〇ぐれメタルがあらわれた!

 

はぐれメタ〇が襲いかかってきた!

 

ウツギ「やるしかないのか......」

 

 

 ウツギ   たたかう←

HP426    おどかす

MP202    にげる

Lv47     さくせん

 

 

こうげき とくぎ←

じゅもん どうぐ

ぼうぎょ ためる  

 

 

チーム呼び   五月雨突き

疾風突き    ジ○スパーク←

雷光一閃突き  

凪ぎ払い

 

地獄からいかづちを呼び寄せる槍の秘術

 

 

 

はぐれメ〇ルのこうげき!

 

ウツギに20のダメージ!

 

 

ウツギのこうげき!

 

ウツギは地獄からいかづちを呼び寄せた!

 

 

\ハァーイシレイカン!!/ \ハワワ!!/  \ツヨイダケジャ ダメダトオモウノ!!/

  \ワタシガイルジャナイ!!/\コノシュンカンヲマッテイタ!/

 \イカヅチヨ!/\モーットワタシニタヨッテイイノヨ!!/

  \ダレカトマチガッテナイデスカ?/ \ゲンキナイワネー ソンナンジャダメヨ!!/

\イタイゾ!ダガワルクナイ!!/

 

 

どこからともなく現れたいかづちたちによる地ならし攻撃!

 

はぐ〇メタルに150のダメージ!

 

 

はぐれ〇タルをやっつけた!

 

ウツギは20100の経験値を獲得

 

テレレレッテッテッテッテ~♪

 

ウツギ「...?ファンファーレ......?」

 

 

ウツギのヤリスキルが上がった!

 

ウツギはゴッドオブランサーになった!

 

 

 

 

 

ウツギ「!!」ガバッ

 

ウツギ「.........夢か」

 

 

 

 

 

 

16 鉄人佐伯

 

 

 

 

佐伯(この私、佐伯渉はここ横須賀鎮守府にて、他の鎮守府の査察、海軍の広報などの仕事に従事している)

 

佐伯(母が異国の血を持つため、生まれつき金髪。それによってチャラついた奴などと悪い印象を受けたことも多々あったが、今はこうして安定した職に就き、平和に過ごしている)

 

佐伯(たが一つ。私には懸念すべき課題と言うか、最近気にしている問題がある)

 

佐伯(それは......)

 

 

 

金剛「ヘーイ!!渉サァーン!!ティータイムにしまショーー!!」ダキツキ

 

北上「お、いいねぇ~じゃあ北上さまも入れてもらおうかな?」ウデクミ

 

佐伯「えぇ、私なんかでよければご一緒しますが......」

 

 

佐伯(そう、ここに所属する艦娘たちとのスキンシップというやつだ)

 

佐伯(彼女たちは日々戦場から戻ってきた疲れの解消と癒しを求めて......友人によれば、世間一般で見て「イケメン」と呼ばれる顔立ちらしい私に寄ってくるのだ)

 

佐伯(これは良いことではない)

 

佐伯(彼女は元帥殿の部下であって、決して私の部下ではない。強いて言えば同僚と言ったところか。そんな彼女たちと浮わついた関係を築くべきではないのだ)

 

佐伯(更には......)

 

 

金剛「サァー!談話室に行きまショー!!」

 

佐伯「えぇ。.........」フリムキ

 

 

 

比叡<●><●>

 

大井<●><●>

 

 

佐伯(「彼女」たちが観ているのだ。下手なアクションを取れば自分の命はこの世の物では無くなる)

 

佐伯(このティータイムは、毎日やってきては私に断続的な胃への鈍痛をもたらす、埋伏の毒なのである.........)

 

佐伯(腹を......くくる)

 

 

 

ステップ1.ボディタッチの対処法

 

 

佐伯(第一の関門。それは二人の過剰なボディタッチだ)

 

佐伯(金剛は恐らく明確な好意の表現として......そして北上は性別の垣根を越えて平然と私の腕に自分の腕を絡めてきたり)

 

佐伯(ではこの二人の行動をどう切り抜けるか......それは)

 

 

佐伯(無になればいい)

 

 

佐伯(感情と言うものはあらゆる行動の原動力となるが、それは必ずスキを生み、人間の弱点となる......そう)

 

佐伯(必要なのは「ゼロの心」だ!)

 

 

金剛「ーーーーーーー!!」

 

北上「ーーーーーー~♪」

 

佐伯「えぇ、確かにいい紅茶です。和菓子にも洋菓子にも合う......深くて、それでいてしつこくない......上品な味わいです」

 

金剛「ーーーーー♪」

 

北上「ーーーー」

 

佐伯「はい。皆さんとても頑張っていますから......息抜きは大切です。働きづめでは過労で倒れてしまいます」

 

 

佐伯(語学に勤しみ、数多の書物を読んで培った語彙力を総動員させて、「ちゃんと解っているようでただ無難な言葉を並べたコメント」を機械的に流すことでお茶を濁す)

 

佐伯(完 璧 だ !)

 

 

 

 

ステップ2.常に柔軟な発想で先を読む

 

 

 

佐伯(そしてボディタッチを越えて。第二の壁が現れる事がある。予測が正しければ今日はその日......)

 

 

金剛「渉サン、お願いがあるんデスが......」

 

 

佐伯(来たっ!!)

 

 

金剛「渉サンの持ち物が欲しいナァーなんて......」

 

佐伯「持ち物...ですか」

 

 

佐伯(事前に予習と周期の予測をしていた通りだ。彼女たちは一定の期間で私の持ち物を所望してくるということがこれで確定した)

 

佐伯(持ち物をくれと言ってくる......そして渡した後はどうなるか。昔、仕事の違う友人から女性のことについてこんな話を聞いたことがある)

 

佐伯(なんでも、多くの女性から好かれている男性の持ち物を貰う、その男性と関係をもった等といった「特別」になってしまった女性は「派閥」において壮絶なイジメを受けることがあるという)

 

佐伯(そんなこと風紀の乱れによるトラブルは合ってはならない、いや、起こさないためにも。私が今日用意してきた物。それは!)

 

 

佐伯「こういった物でしたら。差し上げる事は出来ますが......」

 

つチョコレートの詰め合わせ

 

金剛「」

 

北上「」

 

 

佐伯(そう。)

 

佐伯(手軽に食べれられる御菓子だ)

 

佐伯(手元に残るものは不味い......ならばすぐに形が無くなってしまう食べ物。それもより「特別」感を薄めるため、一般的に市販されているものを渡す。流石に相手は女性なので、甘味類など、ほんの少しはお洒落な物を選ぶ)

 

佐伯(完 璧 d...)

 

 

北上「佐伯っち~、他になんか無いの?」

 

佐伯「!!」

 

 

佐伯(し、しまった!!)

 

佐伯(何かを渡せばそこで彼女たちは引き下がると思っていたが、こんなケースは初めてだ......!)

 

 

佐伯(「追撃」してきた!!)

 

 

金剛「ネーネー」

 

北上「ねぇねぇ」

 

佐伯「」(滝汗)

 

 

秋津洲「入るかも!金剛、北上。元帥のおじ様が呼んでたかも!」

 

佐伯「!!」

 

 

秋津洲(よく耐えたかも!後は秋津洲に任せるかも!)アイサイン

 

佐伯「............!?」フリムキ

 

 

比叡 b

大井 b

 

佐伯(比叡さん...大井さん...秋津洲さん.........)

 

 

圧倒的......感謝ッ.........!!

 

 

 

後日、佐伯は三人に菓子折を渡しながら土下座した。

 

 

 

 

 




頭の中がスッカラカンでも書けるのでネタは楽です(白目)


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不定期開催小ネタ集 5

シ☆ョ☆ー☆タ☆イ☆ム☆だ☆!


不定期開催小ネタ集5

 

 

 

 

 

 

 

 

17 ナガト・ナガト・ナガト

 

 

 

 

ウツギ(ヤツは......ヤツはどこに?)

 

チョンチョン

 

ウツギ「?」フリムキ

 

 

長門<●><●>「駆 逐 艦 だ ぁ ♪」

 

 

< ギャアアアァァァァァァ!!!??

< ニ ガ サ ン ゾ ?

 

 

 

長門「うぅぅぅぅつうぅぅぅぅぎぃぃちゃぁぁぁぁん!!遊びマしょおぉぉぉぉぉ!!」(ブリッジ歩き

 

ウツギ「た、助けてくれ!!奴は変態だ!!」

 

 

球磨 木曾 漣「」

 

漣「な、何あれ」

 

木曾「長門......だよな。ちょっと前に入ってきた......」

 

球磨「変態だクマ」

 

 

 

 

 

ウツギ「はぁ、はぁ......はっ!?」

 

長門「フフフフククケケケケコココケケケケwww 」

 

ウツギ「ひいっ!?」

 

 

 

この一部始終を見ていた艦娘がある。

 

若葉(若葉だ)

 

若葉(若葉は今恐ろしい)

 

若葉(この若葉の動体視力をもってしても、あの、長門とかいう女の動きが見えないのだ)

 

そしてこの結論に行き着く。

 

若葉「あ、あいつまさかッ......!」

 

 

若葉「変 態 な の か !?」(驚愕

 

 

若葉「逃げなければ......あの女の目の届かないところまで......」

 

長門「では私の部屋に隠れるといい」

 

若葉「あぁ、そうさせてもら」

 

 

若葉「!?」フリムキ

 

若葉「なんだ気のせ」

 

長門<●><●>

 

 

若葉「」

 

若葉(ば、馬鹿な...!この若葉が恐ろしさのあまり体が動かないだとォ!?)

 

若葉「やっやめ......」

 

 

 

 

 

長門「逃 が さ ん ぞ ?」ニッコリ

 

 

 

クチクカンダァ ヤワラカイゾォォォォ!! カワイイゾォォォ!!

 

ギャアアアアアァァァァァ!!!!!.........

 

 

 

※数時間後、無事長門は春雨に簀巻きにされて憲兵隊に突き出されました。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

18 そして、コンビニへ......

 

 

 

 

響「今日の訓練を始めるよ」

 

冬季遠征組「アイマム!!」

 

響「各班はこのクジを引いて訓練の内容を決めるよ」

 

ウツギ「............」スッ

 

 

つコンビニバイト

 

 

ウツギ(......まさかの職業訓練!?)

 

 

###

 

 

コンビニ : カシマート

 

 

ウツギ「お待ちのお客様、どーぞ」

 

客「.........」ドサドサドサ

 

ウツギ(多いな......)

 

客「(すげぇ肌白い人だなぁ......)おでん頼みたいんだけど」

 

ウツギ「あっ、わかりました」ピッピッ

 

ウツギ「どれにしますか?」

 

客「卵十個」

 

ウツギ(卵だけをそんなに!?)

 

客「あぁあと汁多めの......カラシ無しで。あ、味噌はつけてね」

 

ウツギ「かしこまりました。大きい器と中くらいの器、どちらにしますか?」

 

客「おっきいので」

 

 

~2分経過~

 

白髪ツインテ店長「もう少し早く回せない?」

 

ウツギ「すいません......」

 

白髪ツインテ店長「ほら、例えばあの子みたいな」

 

ウツギ「......?」

 

 

 

 

客「コレ、オネチィース」

 

ツユクサ「チス、コレッスネ、ウィッス」

客「ウィ」

 

ツユクサ「……」ピッピ

 

客「オウェ!?ウェウェウェ、ウィウィウィ」タタタッ

 

ツユクサ「?」

 

客「コレモ、シャス」

 

ツユクサ「ウスウス、オケス」

客「サイセン」

 

ツユクサ「イェイェ、ゼンゼ、ジョブッスシ、イースイース」ピッ

 

客「ウィァ…」

 

ツユクサ「ィー…コチャーノコノミャキ、アタタッスカ?」

 

客「ソッスネ、チンシテッサイ」

 

ツユクサ「ワカリャッシタ、アタタッス」バタン

 

客「…ノウェ」

 

ツユクサ「ィェアーット、ゴテンデ、ケーサーゼーニナリャッス」

 

客「サゼッスカ、ンジャゴセッデッ」

 

ツユクサ「ア、ウェイウェイウェイ、マチァッシタ、サンゼッハピーイェンッス、シャイセン」

客「イッスイッス、ゴセッドゾ」

 

ツユクサ「ゴセッカラディ-…セーニャッエンノカーシッス」

 

客「ウィ」パーン!

 

ツユクサ 客「ウェア!?」

 

ツユクサ「…アチー、マーネズワスッタ、ハレッシチィシタカラ、カエテキャッス」

 

客「ア、イスイス、ジョブッス」

 

ツユクサ「シャセンッシタ、アザス」

 

客「ウェイ」ピロリンピロリン、ガー

 

ツユクサ「ザッシター」

 

客「ア、シートワスッタ、シット!」

 

ツユクサ「ッ、チアニナリアッス」つレシート

 

客「ッス、ドモス」

 

ツユクサ「ッザシター」

 

※この間僅か三十秒。

 

 

ウツギ(すげぇ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19 言葉の壁

 

 

第五鎮守府 食堂

 

 

プリンツ「?]:,`]:^:=;>+;,[+\+”‘|〉”〕!」

 

天龍「何語なのアレ......」

 

ウツギ「トラブルか?」

 

天龍「プリンツがよ、ずっとなんかぶつくさ言ってんだよ」

 

 

プリンツ「q5h73@34h61*"'}'9431"'".........」

 

 

ウツギ「.........ドイツ語じゃないのか」

 

天龍「それがよ、グラーフも聞いたことねぇって」

 

ツユクサ「なしたんスか二人とも」

 

天龍「どーせお前じゃ無理だよなぁ......」

 

ツユクサ「はぁ!?いきなり失礼ッスね?」

 

天龍「じゃああいつと喋ってみて」

 

 

プリンツ「72h7@!!"5[>[$`;/〇〆…〆」

 

 

ツユクサ「お安いご用ッス!見てろよてめぇら!」

 

ウツギ 天龍(無理だろ)

 

 

 

ツユクサ「ヘロー!!」

 

プリンツ「※→▲●▼→☆○▽」

 

ツユクサ「あぁ~なるほど。ん゙ん゙っ」

 

 

ツユクサ「こごでなにばしてい゙きやしたんだが?も゙し、よがゆいればわたサおぎかせけろ」

 

プリンツ「い゙すまるぐお゙まはどさいったはんでしか」

 

ツユクサ「おなごはいま、じごとでこごばはな゙れてでゃ。がえてぐらのはおそきやぐみがごだびょん」

 

プリンツ「そったらさたなぐごどはできませ!い゙ますぐサぎゃおなごサあいわだねばわだぎゃさびしでしんでしまでゃ!」

 

ツユクサ「なさぎゃいね。それぐゃやいがましなが。わらしだばねんだかきや」

 

プリンツ「たしゃかサんだんじ。てげサづきあいわだせてすじょいせんでした」

 

ツユクサ「んねっ、もんだいへね」

 

 

 

天龍 ウツギ(何語なんだろう)

 

 

 

ウツギ(翌日、ツユクサから聞いたところ、二人が話していたのは津軽弁だったらしい。)

 

ウツギ(プリンツはどうやら青森県民だったようだ......)

 

 

 

翻訳(ツユクサ監修)

 

 

ツユクサ「ここで何をしていらしたのですか?もしよければ、私に聞かせてください」

 

プリンツ「ビスマルクお姉さまはどこ?」

 

ツユクサ「彼女は今仕事でここを離れています。恐らく、三日後に帰ってくるでしょう」

 

プリンツ「そんなに待てない!!今すぐビスニウムを摂取しなければ死んでしまうわ!!」

 

ツユクサ「駄目ですよ。子供じゃないんですから、それぐらいは待てないと」

 

プリンツ「はっ!?す、すいませんでした」

 

ツユクサ「いえいえ。」

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

20 ブンボーグ・オブ・我が人生

 

 

 

 

ウツギ(木曾の特殊性癖を知ってから二ヶ月)

 

ウツギ(恐らく知っているのは球磨と自分だけだろうが(注 ツユクサもしってる)、他のやつに見られたら不味いんじゃあ無いだろうか)

 

ウツギ「とは思っていても......仕事の用事を伝えなければ」

 

 

《木曾's☆house》

(人が増えて鎮守府が増築されたので球磨と相部屋から個室になったよ!)

 

 

ウツギ「...すううぅぅ...はあぁぁぁ......」ゴクリンチョ

 

ウツギ「木曾、入るz」

 

 

 

扉を開けるとそこは、

 

カラオケボックスでした。

 

なんということでしょう! 匠の手により、彼女の部屋はミラーボールの光が壁一面に広がるきらびやかな空間に早変わり!

 

その美しく七色の光で照らされた壁には、ジェットストリーム(ボールペン)、フリクション(ボールペン)、クルトガ(シャープペン)、MONO(消ゴム)のポスターが部屋の雰囲気を引き締めています!

 

 

木曾(恍惚のヤンデレポーズ)「あぁ......すばら゙しい゙......うえ゙え゙、シ・ア・ワ・セ」

 

 

ウツギ「」

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

バタァン!!

 

 

 

ウツギ「......」

 

ウツギ「..................」

 

ウツギ「すごーい!あなたは文房具が大好きなフレンズなんだね!」(思考停止)

 

 

 

 

 

 




やっちゃったぜ!(白目


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不定期開催小ネタ集 6

ネタです。


21 診断

 

 

ウツギ「仕事終わ......なんだこれは?「サイコパス診断」?」

 

深尾「ほら、前にやった心理テストみたいなやつだ」

 

ウツギ「あぁ、あれか。見ていいか」

 

深尾「見るもなにも、統計取っといてくれ。誰が何問正解したかを上に報告しなきゃならないんだ」

 

ウツギ「そうか。承知した」(封筒から書類を取り出す

 

ウツギ(自分は何を書いたか......覚えていないな。そう言えば)

 

第一問 あなたは長年多くの人を殺してきたが、ついに捕まり、裁判官に「どうして殺人を犯したのか?」と聞かれた。どう答える?

 

ウツギ(そうだ、少し思い出したぞ。こういう少し気味の悪い質問が多いんだった)

 

ウツギ(正解は......「明確ではなく、かつ、日常生活と同じように殺人を捉えているような答え」か。なるほど。確かにそんな答えなら常人じゃあないな)

 

ウツギ 職業が殺し屋だから

アザミ 自分が短気な性格で抑えがきかなくなるから

ツユクサ 気が付いたら相手が死んでいた

漣 なんとなく

 

ウツギ(  )

 

ウツギ(おい漣とツユクサおい)漣ν

 

ウツギ(ツユクサや自分も大概だが、漣がピンポイントで当たっている......まぁいい次だ)

 

第二問 あなたはヒッチハイクをしている女性を自分の車にのせた。その女性はとても態度が悪く、不快に思ったあなたは彼女を懲らしめたいと思った。しかしあなたは最後まで彼女を家まで送り届けた。なぜ?

 

ウツギ(正解は「送り届けることで、殺す現場の下見が出来るから」......背筋が凍るな。正解者は)

 

ウツギ 我慢した

天龍 別のことを考えて気をそらした

若葉 親切心で送ってやった

球磨 現場の確認ができるから

 

ウツギ(クマーーー!!)

 

ウツギ(正解だ!多分正解だよコレ!!殺る気マンマンだよ!!)球磨ν

 

ウツギ(いや、なかなか怖いアンケートだホントに......)

 

第三問 同席していた恋人が、事故で自分の体に火をつけてしまった。あなたの行動は?

 

ウツギ(正解は「何もせずに見ている」ね。)

 

ウツギ 水をかける

若葉 消火器を浴びせる

RD 助けを呼ぶ

漣 ほっとく

木曾 綺麗なのでそのままにする

時津風 なかなか見られない光景なので観察する

 

ウツギ(ち ょ っ と 待 と う か)

 

ウツギ(漣は一先ず置いといて......木曾と時津風に一体何があったんだ!?)漣、木曾、時津風ν

 

第四問 あなたはこれから、ずっと憎かった相手を殺しに行きます。刃物を買うため、買い物に行きました。300円の刃物と3000の刃物。300円のほうを購入しました。どうして?

 

ウツギ(「安い、切れ味の悪いほうが相手を痛め付けられるから」......)

 

ウツギ 安物でも殺人は実行できるので金をかける必要がなかったから

若葉 適当に選んだ

アザミ お金が無かった

漣 ヤツをいじめれるから

ツユクサ 自分の力ならどうにかできると思った

 

ウツギ(漣よう......お前さんは何問正解したら気がすむんだ......)漣ν

 

ウツギ(もういい次だ)

 

第五問 あなたが男の子にサッカーボールと自転車をプレゼント。ところがその男の子は喜ばなかった。なぜか?

 

ウツギ(正解が「その子に足がなかったから」か。回答は......)

 

ウツギ もう持っているものだったので喜ばなかった

球磨 男の子に嫌われていたから

天龍 足を怪我していたから

漣 サッカーより野球派だった

春雨 その子に足がなかったから

 

ウツギ(...............どうすればいいんだこれは)

 

ウツギ(天龍が近いことを言っているのは解る......だがよりによって春雨お前かぁ......)アタマカカエ

 

ウツギ(まさか似たような事を経験したから実体験を元にしたとかじゃないだろうな)※当たりです

 

ウツギ(ペケは付けないでおこう。うん)

 

~十分経過~

 

ウツギ(............三十問中、漣は二十六問正解していた。因みに自分は三つだ)

 

ウツギ(というよりも......若葉が一問も正解していないのが意外すぎるぞ。ああ見えて常識人なのか?)

 

深尾「終わったか?」

 

ウツギ「え?あ、うん。......はい」つ書類

 

深尾「...............」

 

深尾「」

 

ウツギ(青くなってる......)

 

ガチャリ

 

漣「おっす!仕事終わった?」

 

深尾 ウツギ「」ビクッ

 

ウツギ「あ、あぁ。今終わった」ダラダラダラダラ

 

漣「あっ、じゃあ、ウッチーご飯食べに行こ!」

 

ウツギ チラッ

 

深尾(行ってらっしゃい)アイサイン

 

ウツギ(ちきしょう!!)(察した

 

 

 

 

食堂

 

 

ウツギ「...............」

 

漣「ねぇ」

 

ウツギ「ひっ!?なっ、何?」

 

漣「.........?今日は何の仕事してたんすかね」

 

ウツギ「アンケートの統計だ」

 

漣「アンケート?」

 

ツユクサ「そんなのやったっけ?」

 

ウツギ「やったんだよ。あ、そうだ」

 

ウツギ(ここで一題出して、それも正解なら漣から距離を置くことにしよう。そうしよう!)

 

ウツギ「調べれば出てくる有名なアンケートなんだ。ここにいるみんなでやってみるか?」

 

漣「えっ、面白そう!」

 

 

~数分後~

 

 

ウツギ「何々.........「あなたはアパートで殺人を犯しました。死体はどこに隠しますか?」」

 

球磨「なんか変なアンケートクマね」

 

木曾「バラして冷蔵庫に詰めるとか?」

 

球磨「木曾、ねーちゃんはそんなサイコな妹に育てた覚えはないクマ」←五問正解

 

春雨「ベランダなんてどうでしょうカ?」←三問正解

 

RD「.........箪笥(タンス)の中だ」←二問正解

 

アザミ「クローゼット」←全問不正解

 

若葉「フフフ......そうだな、風呂を沸かして死体を煮る、なんてどうだい......?」

 

天龍「煮る?なんでそんなことすんだ?」←一問正解

 

若葉「簡単さ。煮込んでグズグズにすれば、それこそ水道なんかにだって流せる」←全問不正解

 

木曾「うっわ......本当にサイコだなお前.........」←十五問正解

 

漣「キモッ!」←二十六問正解

 

ウツギ(お前らのほうがよっぽどサイコだよ!!)←三問正解

 

ウツギ「漣は?」(さぁ、なんて答えるんだ?)

 

漣「うーん。ベッドに放置して違う家に逃げるとか!」

 

ツユクサ「隠さないんスか?」←六問正解

 

漣「別に隠さなくても逃げれば良くない?」

 

天龍「隠せって言われてんのに屁理屈だろそれ」

 

ウツギ「.........「ベッドの上」だな?」

 

ウツギ(頼む......不正解であってくれ......)携帯をスクロール

 

 

回答

【一般人】ベットの下、風呂場など。(隠そうとする)

 

※これは元々はアメリカの推理小説家協会が50人の作家に問うた質問であり、

作家は職業柄か胃に納めたり、風呂を沸かして煮くずしたりと、

奇をてらった回答で雑誌の読者を喜ばせた。

 

この質問をある作家が取材の為にアポを取ったルーマニアの殺人犯に聞くと、

彼はすぐに『ベッド』と答えた。見つからないところに隠さないのか、

と作家は聞き返したが、彼は意外そうな顔で答えた。

「俺だったら、死ぬときはベッドの上がいいね」

 

 

ウツギ「...............」

 

ウツギ「...........................」

 

ウツギ(............つまり?)

 

 

 

 

 

【サイコパス】 ベッドの上(隠す気がない)

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

ウツギ 

【挿絵表示】

 

 

天龍「......ウツギ?おいウツギ!?大変だ!!こいつ息してねぇぞ!?」

 

<オイ,ダレカ!!アカシヲヨベ!!ハヤク!!

<ウッチーヘンジシテ!!

 

 

 




本編とは二ミリ程しか関連がありませんが、深尾の車です。


【挿絵表示】


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パラオ攻略戦(蹴翠雛兎の艦隊戦録コラボレーション企画)
出向


お久し振りです(すっとぼけ

盛大に最終回詐欺をやらかした作者です。
さて、今回から番外編として、蹴翠雛兎様の作品、「蹴翠雛兎の艦隊戦録」とのコラボレーション企画として 新章「パラオ攻略戦」を投稿します。
また今回の章ですが  「超展開」  が多い可能性があります。ご注意ください。
それでは ドゾー


 

 

 日照時間が目に見えて増え、寒い日も少なくなってきていた季節の某日、第五横須賀鎮守府の執務室にて。

 この、当初からは見違えるほどの、立派になった建物の顔である提督の秘書を勤めていた、資源再利用艦一番艦のウツギは、自分の上司の隣に来て、仲良く一台のパソコンの画面とにらめっこを繰り広げていた。

 

「視察任務の部隊......」

 

「に、抜擢された......か」

 

 まるで周りに誰も居らず、独り言でも呟くように二人が言う。

 別に、視察に行くこと事態は特に問題でもなんでも無いことだった。事実、ここ何ヵ月かに恐ろしい戦果を叩き出してしまったウツギ達は、本部からの待遇もぐんと良くなり、片手で数えるほどではあったが、近くの基地への視察に従事したこともあったからだ。

 ならば、何故この二人が難しい顔をして、液晶画面と不毛な争いを繰り広げていたのか......それは送られてきた電子メールの内容が原因だった。

 

「必殺の霊的国防兵器......」

 

「別世界から召喚された人間が提督を務める......」

 

「艦娘に引けを取らない戦闘能力と擬態能力.........」

 

「「なんだこれ」」

 

 大量に羅列された、今回視察に赴く鎮守府の提督を務めている......蹴翠雛兎と言うらしい、一風変わった名前のその男の情報を見て。二人は頭を抱えていた。

 液状越しに並んでいる、まるで、ファンタジー小説の登場人物の紹介のような、男の情報を、もう何度目かわからない回数で眺めながら。ウツギが口を開く。

 

「提督。まさかだとは思うが」

 

「ん?」

 

「本部の粋な計らいか?季節外れの四月バカじゃないだろうな」

 

「.........頭の固いお偉いさんがそんなことすると思うか?」

 

「......思いたい」

 

「俺もだ」

 

 まったく、なんでこう毎度毎度変な仕事ばかり回されるんだ......。二人が同じ思考を脳に巡らせながら、また頭を抱える。

 頭を抱えていてもしようがない、一先ずこんがらがった頭を冷やそう。そう思いながら、ウツギはメールの内容を声に出さないで、心の中で朗読してみる。

 

 

『視察対象 氷川(ひかわ)鎮守府(独立基地のため、番号の記述は無い)

 

蹴翠雛兎(けすい ひなと) 男

 

階級 憲兵隊長(元帥に匹敵する、独自行動の特別免許を所持)

 

備考

 

現在、深海棲艦との和平に向け進んでいる海軍に蔓延(はびこ)る、汚職官僚の一掃を目的とし、陰陽師(おんみょうじ)系統艦娘により平行世界より召喚された「必殺の霊的国防兵器」。

平行世界より召喚された人間の特徴として、高い身体能力と、それを利用し艦娘に匹敵する戦力として戦闘に介入することが可能。

また、非常に精巧に女体へと変装する能力も併せ持つ。』

 

 

「しかし読めば読むほど眉唾物だ。そう思わないか」

 

「ん~......それが、意外と納得してるんだよ。俺は」

 

 「何?」。深尾から返ってきた、予想外の返事にウツギが怪しい顔になる。そしてすかさず次の質問をぶつけてみる。

 

「こんな、ファンタジーの住民に納得できるのか?」

 

「少し脱線するかもしれないけど。いいか?」

 

「......?...どうぞ」

 

「俺の学生時代に広まってた噂があってだな。なんでも、「元帥の正体は異世界からやって来た人間だ」とか、そういう類いのオカルトなんだが」

 

 そりゃあ、まあ......でも、さすがにそれだけで信じる気になるのか?

 理由として弱いと感じたウツギが、深尾に突っ込みを入れる。

 

「たったそれだけで?弱すぎないか」

 

「いや、それが意外とバカにできない話も出回っててな。その一つが「艦娘を作ったのは、科学者と奇術師があくせく創った魔方陣から召喚された異世界人だ」って、言うもんなんだが」

 

「また異世界人か」

 

「考えても見ろ、空母の艦載機はどーやって変形している?艦娘の砲はあの口径でなんであんなに破壊力がある?......他にも色々あるけど、お前たち艦娘も何だかんだでメルヘンな存在だからな。テクノロジーが発達した今でも、これだけ訳の解らないヘンなとこがある」

 

「.........あぁあぁあぁ、なるほどな」

 

 確かに。それは盲点だった。

 灯台もと暗しってやつか......少し違う気もするが。勝手に一人で納得していたところ、そんなウツギへ深尾がこう言ってくる。

 

「で、どうする。引き受けるか、蹴っ飛ばすか」

 

「引き受けるしかないだろう」

 

「そうか?お前さんほど、会社に貢献したなら無視してもバチは当たらないだろ?」

 

「おいおい、主任が休みを強制するのか?普通は逆だろう?」

 

 お互いに冗談を飛ばし合い、二人は笑いながら、また書類を捌く仕事へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれ」

 

「昔、私があの女(戦艦水鬼)から贈呈された戦袍(ひたたれ)だ。どうせ使わん、お前にやる」

 

 どうしろと。

 視察に行けとのメールが上層部から届いた日から飛んで、氷川鎮守府があるという「幻島(おぼろじま)」なる場所へシエラ隊が出発する日。

 突然後ろからやって来たRD(装甲空母姫)に呼び止められ、真っ黒なマントを受け取らさせられたウツギが、反応に困っていたところだった。

 

「使い道が思い付かないんだが」

 

「何も言わないで羽織ってみろ」

 

「...............」

 

 太陽が容赦なく照り付け、肉が焼けそうなほど熱くなっているコンクリート製の港の地面に突っ立っていたウツギは、なんだか途端に周りの視線が気になり初める。

 囲むように立っていたツユクサや漣といった面々が、目を輝かせてこちらを見ているのを......心を無にして、気にしないようにしながら。ウツギは渡されたマントを羽織ってみた。

 

「おおぉぉぉすっげぇぇぇ!?かっこいい!!」

 

「......マジカッケー!」

 

「似合ってるぜ」

 

「ほう............?」

 

 やっぱりこーなった。だから嫌だったんだ......。

 周りの部隊員......主に漣やツユクサが、子供のような屈託のない笑顔で騒ぎ立てているのを見て、ウツギが多少うんざりして溜め息をつく。

 胸元に「(しょく)」と金色の刺繍(ししゅう)が入り、背中に大きくとぐろを巻く白い百足の刺繍が入った、この華美で派手な羽織について、ウツギがRDに質問をする。

 

「このマント、何に使えと」

 

「視察とやらに行くらしいな」

 

「あぁ。それに必要なのか?」

 

「そうだ。......あの人間に聞いたが、なんでも強い人間が相手らしいな?なら、それでも着てけば、ちょうどいい威圧になるだろう」

 

「そんなことをする必要が」

 

「ある。絶対にだ。視察とやらで、明確に上下を教えてやるんだ。特殊な能力とやらが本当なら、それを鼻にかけて調子に乗っているかもしれん。徹底的に叩いてつぶ」

 

「ストップだRD。そんな物騒なことしに行くわけじゃねーんだからさ.........」

 

 RDの過激な発言に、天龍が割って入ってお喋りを阻害する。

 まあでも......いいな、これは。防水性で丈夫、見てみたら内側に多少は収納があるし、意外と使い道があるかもしれない。

 かっこつけのようで苦手だな、と思いながらも、戦袍の着心地の良さにウツギが評価を下していると。視線の奥の海から、島まで自分達を運んでくれる予定の船がやって来るのが見えた。

 

「ん、時間か。全員荷物は?」

 

「バッチしぃ!」

 

「問題ないぜ」

 

「そうか。じゃ、行くか」

 

 「留守は任せておけ」。そう言ってきたRDにガッツポーズで返事をしながら、ウツギは港に着いた船に乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

視察任務の一日目。

非常に若い男の仕事の様子を見ながら、

ウツギは淡々とチェック項目を確認していたそんなとき。

上層部の依頼が舞い込み、異色の共同戦線が展開されることに......

 

 次回「召喚された男」。 ゴングが鳴る。

 

 




軽めのお話でした。割りと全体を通して軽いお話にする予定です。(フラグ
活動報告にキャラクター人気投票を開催しております。よければ皆様、参加していただければ嬉しいです。


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召喚された男

コラボ先のキャラクターを動かすのは神経使いますね......
ですが意外と筆が進んだりします。


 

 

 

 容赦なく照りつけてくる太陽、白い砂浜、そして南国を思い起こさせるようなヤシに似た木々。......に、不釣り合いな妙に適温に保たれた気温に、それを快適に感じて受け入れながらも言い様のない気持ち悪さを感じながら。今シエラ隊の六人は氷川鎮守府があるという幻島に到着し、その土を踏みしめながら目的地へと歩いていた。

 そんなとき、ウツギのすぐ後ろをついて歩いていた漣が、なんとなく意識がここに無いような変な顔をしながら、前をいくウツギに話し掛けた。

 

「......ウッチー、さっきの見たよね?」

 

「見てない」

 

「ウッソー!?」

 

「いや信じたくないの間違いかな」

 

 まさかあんな超常現象を見ることになるなんて......。

 忘れようとしていた事を、漣の質問で呼び起こされてしまったウツギが、眉間にシワを寄せて渋い顔をしながら考える。

 

 彼女たちに何があったかと言えば。それは数分前、シエラ隊が島に上陸する前まで遡る。

 乗ってきた船の操縦を任されていた艦娘によれば、この幻島は特殊な「膜」に被われ、それの効能のせいで「そこにあるはずなのに、道を行く者には感知されない」という特性があると言われて全員で笑い飛ばしていたところ。

 いきなり海上で船が急停止。そして船を操縦していた赤い服の小柄な艦娘が、何かの呪文らしき言葉を呟くと、突然目の前に島が現れるという腰が抜けるようなアハ体験を受けていたのだ。

 

 

「でもさ、ウツギ」

 

「天龍か。どうした?」

 

「資料を見た俺の記憶が正しければさ、その、蹴翠さんだかって島ごと召喚されたわけじゃん?」

 

「ヤバイッスよね」

 

「たかが一人にそこまでするか普通?」

 

「それだけ期待されてるって事じゃないのか」

 

 後ろを振り向かずに、そのまま道に転がっていた石や枝を蹴飛ばして歩き続けながら、ウツギが天龍に返事を飛ばす。

 確かに天龍の言う通り。元帥クラスの特務免許に、こんな天然の要害まで貰って、向こうはこの幸運に感謝すべきだな。なんて事を、歩きながらウツギが思う。

 そうして考えているうちに結構歩いたようで、ウツギ他残りの五人も視線の先に目的地と思われる建物を見つける。

 

「うっわ......でっけーな」

 

「くくく...若葉が来たばかりのお前たちのより大きいんじゃないのか.........?」

 

「小さいほうが良いこともあるんだぞ」

 

「例えば」

 

「掃除がラク」

 

「ぶっほw」

 

「.....................」

 

 大規模な和風の旅館を思わせる建物の前で、どうでもいいようなやり取りをウツギと若葉がやっていると。

 

突如として、全員がその場から動けなくなる。

 

「「「...............ッ!?」」」

 

 なんだ.........何がおきたんだ。金縛りってやつか?こんな突然に?

 いきなり自分の体がその場に「固定されたように」動かなくなり、ウツギが冷や汗をかきながら思考を巡らせていた時だった。

 

 

「おい、誰だあんたら」

 

 

 全員の耳に若い男の声が聞こえてくる。是非とも体の向きを変え、声の聞こえてきた方向に目線を向けたかったシエラ隊だったが、体どころかまばたきすらできない状態だったので、その行動を起こせなかった。

 

「で、雛兎(ひなと)。どうするの、こいつら」

 

「ボディチェックでもしましょうか?」

 

「あぁ、そうしてくれ」

 

「了解ネー」

 

 男の声に続いて、今度は艦娘だと思われる女の声が聞こえてくる。そして次には、ぴくりとも動けなくなったウツギの目の前に、事前に資料で確認していた駆逐艦「叢雲」がずかずかと歩いてきて、自分の体をまさぐり始めた。また通りすぎていった他の艦娘......「金剛」、「飛鷹」、「筑摩」といった面々も確認する。

 そしてウツギの目の前にいたツリ目の女は、彼女の胸元から一枚の書類を引っ張り出して、それを自分の提督に見せながら声を張って発言する。

 

「この深海棲艦、何か持ってたけど?」

 

「見せてくれ」

 

「はい」

 

 それは......確か本部から受け取った、査察に来たことを証明するための自分の血判を押した紙だったような......。

 ウツギが考えていると、これまた突然金縛りが切れ、あまりにそれが唐突だったので、前につんのめって転んでしまう。

 

「............っ」

 

 そしてやっと動かせるようになった体を動かし、立ち上がると同時に男の姿を確認してみる。

 目線の先には、容貌からかなり若いと推察できる男が、青い顔をしながら立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「本当にすいませんでした!!」」」」

 

「ホントよ!これだからゆとりは......」

 

「.........ふン!」

 

「あ゙っだ!?」

 

 「島にやってきた侵略者なのでは?」などという相手の誤解が解け、やっと鎮守府に入れたシエラ隊を待っていたのは。ウツギの予想通り、相手の謝罪だった。調子にのって暴言を吐いた漣は足をアザミにかかとで踏まれた。

 涙目で爪先を抱えながら右往左往する漣と、それを心配そうに見つめるツユクサを無視して、羽織っていたマントを脱いで畳みながら、無表情でウツギが言う。

 

「頭を上げてください。仕事ができません」

 

「えっ?あっ、はい、すんません!」

 

「あの、どうして敬語なのでしょうか......貴方のほうが階級は上ですよ?」

 

「おっと......ん、いや本当にごめん。こっちの早とちりでさ」

 

「構いませんよ。馴れていますので」

 

 ウツギの返答に「え?」と言ってきた蹴翠(けすい)提督が口を開くのを阻止するため、すかさずウツギは仕事についての説明が書かれた書類と、相手に提出する書類を取り出して、事務的な態度で淡々と話し始める。

 

「こちらが私達の情報についての書類になります。申し遅れましたが、私、資源再利用艦一番艦、第五横須賀鎮守府・第一艦隊・資源再利用艦混成万能攻撃部隊・フィフス シエラ隊の旗艦を務めております、ウツギと申します。また彼女らは左からアザミ、ツユクサ、漣、天龍、若葉です。期間中は出きるだけ仲良くしてやってくださると私の胃へのダメージが軽減されます」

 

「ちょっ」

 

「業務についてですが、我々は査察という名目で本日氷川鎮守府まで足を運んだ次第ですが、上層部からは蹴翠特務元帥及びその指揮下にある艦娘の方々へのデスクワーク業務の指導についても面倒を見るようにと通達を受けてきました」

 

「あの」

 

「また何か御不明な点がございましたら、私か隣の天龍、アザミに聞いていただければ解消できると思います。その時は親切に、念入りに、時間をかけて、理解を深め、かつ迅速に、効率的に指導にあたるつもりですので、解らないことがあれば、遠慮なく、どーぞ遠慮なく聞いてください理解して頂けたでしょうか?」

 

「......うっす」

 

 ふう。疲れた。

 内心、地味に苛立っていたウツギは、早口言葉の練習をするニュースキャスターのような平坦かつ明瞭な声での説明をこなして、こちらを見るや否や有無を言わさず奇襲(?)を仕掛けてきた相手への報復を完了する。

 流石にこの口撃でウツギの内心を察知したのか。すこし元気が無くなった顔で、蹴翠提督が話題を変更しようと、鎮守府を案内することを提案してくる。

 

「仕事は把握した。じゃ、建物の構造案内するからさ。ついてきてくれ」

 

「はい...。......ッ♪」

 

「...............www」

 

 提督に付き従う四人の艦娘の後を、シエラ隊の六人がついていく。自分達の背後で、ウツギが仲間へと得意気な顔をしながらピースサインをし、それを見た漣達が笑いを堪えていた事は、蹴翠提督たちは勿論把握していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 書類をめくって内容を確認・的確な返事を記入・必要事項をもう一度確認・最後に終わった書類をカゴに入れて秘書の確認を待つ。この一連の動作を完了するのに僅か1分......いや、恐ろしいことに30秒もかかっていないだと......?

 

「......早いですね」

 

 机に座り、眼鏡を掛けて、白い部分がほとんどないほど文字だらけの回りくどい説明が書かれた書類と格闘する叢雲を他所に。召喚された人間が持つと言う「能力」とやらの恩恵なのか、完全に人間に不可能な早さで書類を捌いている蹴翠提督へ、ウツギが声をかける。

 

「あの、もう少しゆっくりでも良いんですが......」

 

「いや、失礼な事したのこっちだしさ。へーきへーき」

 

 ............一応、悪かったとは思ってくれてるのか。......会ったばかりの時の漣やあの連中とは大違いだな。

 どんどんカゴに放り込まれていく書類を、相手ほどではないにせよ慣れた様子で手早く確認しながら、北海道での熊野達やシエラ隊結成前の漣の事をウツギが思い出す。

 そんな折、蹴翠提督が声をかけてきたので、ウツギが手を止めて相手の声に耳を傾けた。

 

「あの、聞いていいか」

 

「何でしょう?」

 

「答えたくなかったら別にいいんだけど。なんでそんな肌白いの? 君と、あとあのツユクサって子」

 

 早速来たか。絶対に聞いてくると思った。

 待っていました、と。こちらの情報がちゃんと相手に届いていなかったことから、絶対にこれは聞かれると思って事前に準備していた答えを、ウツギが話す。

 

「話すと長くなりますが。簡潔にまとめたほうがよろしいでしょうか?それとも全部を?」

 

「好きな方で」

 

「では............。なんと言うべきか......そうですね、持病です。生活に支障......は多少ありますが」

 

 「見た目で差別されたり、ですかね。今はほとんどですが」。そう言うと、「ん、ありがとう」と返ってくる。てっきり根掘り葉掘り質問されることを想定していたウツギは、男と艦娘が引いてきたことに、「空気を読むやつらなんだな」などと感想を抱く。

 

 数分後。

 それほど多い量でもなかった為か、すぐに書類仕事が全て終了し、大体のことも二人に教え終わったウツギは席を立って部屋を出ようと行動する......前に、一つ気になった事を二人に聞いてみる。

 

「お疲れ様でした。......いきなりで申し訳ありませんが、夕食の準備はどなたが行っているのでしょうか」

 

「俺がやってる」

 

「そうですか。あの、今日は私が担当してもよろしいでしょうか」

 

「おっ、やってくれんの?」

 

「自炊についても指導を頼まれたもので」

 

「へぇ~楽しみだわ。雛兎のご飯は味が薄くて......」

 

「うっせっての。これでも頑張ってんの」

 

 仲が良いんだな。蹴翠提督と叢雲の二人へ、はにかみ笑顔で会釈しながら、ウツギが部屋を出る。

 さて、今日の献立は何にしようか......。夕食に頭を悩ませる主婦のような事を考えながら、ウツギはこの旅館のような建物の食堂へと向かって廊下を歩いていった。

 

 

 

 

この男の艦隊とシエラ隊の合同部隊が、海軍に蔓延る闇に切り込むことになるのをウツギが知るのは、もう少し先の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

敵の血潮で濡れた肩。地獄の部隊と人の言う。

南の海、元は平和だったこの地にその悪名を轟かせる

海軍南方地域防衛特務隊 O-1。

またの名を、「ブルー・ショルダー」。

 

 次回「情報収集」。 そいつらは、狂暴で、残酷で、制御不能。

 




この調子でガンガン投稿できたらええな......


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情報収集

活動報告にて、キャラ人気投票を開催中です。
参加してもらえると、作者は涙を流して喜びます。

ではコラボ3話です。ドゾ。


 

 とある高層ビルのエレベーターが、上層階に向けて稼働していた。

 その中で、壁に寄っ掛かって腕を組んで立っていた......派手なデザインのTシャツの上から白い軍服を羽織った男、城島大智(66話 姉の面影 参照。)が、自分の隣に立っていた秘書艦のВерный(ヴェールヌイ)に話しかける。声ははきはきとしていて明るかったが、男の目は笑っていなかった。

 

「チャンビキ、こりゃ、なかなか(こじ)れそうなネタだYo。そうは思わないかい?」

 

「同感だよ。奴さんがどう出てくるか......」

 

「ブルーショルダーに割く予算の増加申請。キナくさいとはこのことだNa」

 

「まぁなんにせよ。とりあえずは相手の出方を見守る、でしょ?」

 

「ハハハ、解ってるジャンか。頼むぜ」

 

「勿論」

 

 ベルが鳴り、エレベーターが停止。アナウンスとともに開いたドアから城島と響が狭い室内から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「では、反対意見が無ければ。富川(とみかわ)大佐の予算案は、本総会において可決されるものとなります。他に、意見は」

 

 上映前の映画館を彷彿とさせる、大勢の軍人とその秘書艦がひしめく薄暗い大会議室に、司会を務めていた紺色スーツの長身の男、佐伯渉(34話 濁り水 参照。)の声が響き渡る。「他に意見は」の発言に呼応し、円上に並べられた机と椅子の一つに響と並んで座っていた城島が、待っていましたとばかりに挙手をしながらマイクを口に近づけて喋り始めた。

 

「私は反対です」

 

「城島中佐、どうぞ」

 

「ありがとう。では、失礼して反対意見をば......」

 

 にこにこと愛想のよさそうな顔で......しかし虎視眈々と一人の男に狙いを定めながら、書類が挟まったクリアファイルを片手にドレッドヘアの男が発言する。

 

「予算案の見直し、艦娘への訓練費用と増員申請の部分ですが。これ、かかりすぎだと思いました。今は深海棲艦とも和平に向かっている状態ですし、少し削っても良いのでは」

 

 いつものラップ調の少しふざけた言動から、真面目な態度に切り替えて話す城島の後に続いて、響が畳み掛ける。

 

「同感です。戦争も一段落がついて穏やかな状態が続く今、これは必要な事でしょうか」

 

「それに......失礼ですが、富川大佐のブルーショルダー隊の情報は余りにも少ない。申請を通すには、もう少し内情の開示について、説明して頂きたいのです」

 

「.........では、大佐。これについては?」

 

 城島と響が座っていた席の、ちょうど向かいに座っていた白髪が目立つ痩せた男に、佐伯が聞く。老け顔の男は机に置いていた自分の帽子を手で弄りながら、微笑を浮かべて口を開いた。

 

「特務部隊の機密保持については......発足時に、この議場において結論が出ていた筈です」

 

 

「事情は変わったんだYo」

 

 

 朗らかな雰囲気からは一転して、城島はいつもの口調に戻ると同時に痩せた男......富川謙太郎という名前のこの男を睨み付けながら、その場に立ち上がり、一枚の書類をファイルから取り出して続ける。

 

 

「アンタの部隊は毎年、とんでもねぇ額の費用を注ぎ込んで、隊の増員をやってる。それも、何故か、問題起こしまくった札付きの悪タレの艦娘ばっかりNa」

 

 

「そればかりじゃねぇヨ。そんだけ派手なことやっといて、こちとらだーれもアンタの組織の全貌を知らねぇ。査察も突っぱね返すもんだから、誰一人としてだ。コレ、おかしくないかナ?」

 

 

「中佐!貴方の言葉遣いは本議場に似つかわしく......」

 

 

 城島の、およそ目上の人間に話すような言葉遣いでは無かったのを佐伯が制止するのを遮って。富川が尚も余裕がありそうな顔で話す。

 

「過去の記録が物語る通り、私の自慢の艦娘たちは鎮守府の防衛、敵地の攻撃など。任務を問わずに完璧に機能致します」

 

「また失礼ながら、言わさせて頂きますが」

 

「前回発言してくださった、そちらのお方の言葉は本当に信用に足るものなのでしょうか?」

 

 富川はそう言って、穏やかな顔をしながらある人物へと視線と顔を向ける。先には、深海棲艦との橋渡し役として活動し、軍の会議にも度々呼ばれるようになっていた女。RDが居た。

 

「装甲空......失敬、今はRDと言いましたな。正直な話、私は彼女の言う和平について懐疑的です。というのも、あなたは......言い方は悪いが、スパイの可能性だって未だに拭えていない。信じろと言うほうが難しいでしょう。よって、危険に対する軍備の拡大を兼ねて、今年も我が隊の兵員の確保を提案しました」

 

「...............」

 

 目をつぶって、佐伯の隣で黙って富川の話を聞いていたRDが、相手に問いかける。

 

「なるほど。富川大佐の言うことはもっともでしょう」

 

「ご理解いただき、感謝します」

 

「では、何をすれば、ひとまずこの場は信用していただけるでしょうか?」

 

「.........では」

 

 

「自分の手を、こう、その腰に付けた剣で刺す、なんてどうでしょう。」

 

 

 富川が言い終わった瞬間。素早くその場から起立したRDは、ずかずかと歩いて富川の前に立つと

 

富川の席に自分の右手を叩きつけ、机ごとその腕を突剣で串刺しにした。

 

 腕から伝わってくる痛みのせいで、額から脂汗を垂らしながら。極力無表情で、RDは腕から剣を引き抜きながら、目の前に居た男に向けて口を開く。

 

「これで......っ、どうでしょうか」

 

「......なるほど。軽率な発言でした。そこまで覚悟してのお言葉だったとは」

 

「ええ......嘘はつけない性分なもので」

 

 「お目汚し、失礼しました」。机を血で汚したことを謝罪して、他の人間や艦娘たちが唖然として言葉を失っているなか、RDは自分の席へと戻っていく。

 我に返った艦娘の一人が、持ち合わせていた布でRDの傷の応急処置をし、もう一人の艦娘は富川の机を拭くという、妙な光景が広がるなか。富川が口を開く。

 

「話題が逸れましたな。では、私が部隊の情報を機密として伏せていることについてですが......」

 

 たまたま机の血で濡れなかった部分に置いていたファイルから一枚の紙を取り出して、富川が城島と響へ説明をし始める。

 

「去年は我が軍の深海棲艦への攻勢が活発だった年だと言うのは、皆様ご存じの通りだと思います。そしてまた一つ、大事な出来事が多数、起きましたよね?」

 

「大事な出来事?」

 

「おや、ご存じないですか。記憶に新しい事件があるじゃあないですか」

 

 

「そう。第五横須賀鎮守府が、場所を特定されて襲撃される、という案件です」

 

 

「これ以外にも、ポクタル島警備府、第二単冠湾泊地など。探せばまだあるでしょうが、基地の場所を正確に特定して相手が攻勢を仕掛けてくるなど、今までは珍しいことでした」

 

「これらの事態に対する調書を見て、私なりに考えたのですが、もしかすると、あの例の「田中恵」のような人間がまだ軍に居るかもしれない、と言った仮説が立てられます」

 

「結論からいいますと、そうした不確定要素がゼロとは言い切れない訳です。たとえ味方である軍内部においても、みだりに情報を提供すれば、弱点を敵に与えることになるのではないかと。よって、我がブルーショルダーの機密は厳重に守られるべきである、と信じる次第であります」

 

「......城島中佐、どうですか」

 

「......ッ。撤回します。先程の非礼、申し訳ありませんでした」

 

「いえいえ。この程度は気にしませんので」

 

 歯を食い縛り、謝罪をしながらも相手を睨み付けながら、城島が席につく。

 

「反対意見は......ありませんね。それでは、富川大佐の予算案は可決されたものとします」

 

「.........感謝します」

 

 ニヤリ、と笑いながら。会議が終わったと同時に、誰よりも早く、上着と帽子を着て富川は会議室から出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「.........うまく逃げられましたね」

 

「Ah~......こりゃ、ボロが出るのは当分先かもNa」

 

 本当は予算の話し合いなどではなく。艦娘を、条約を無視した使い方をする......一般の言葉で言えば、ブラック企業に似た制度が敷かれていると噂される、富川の鎮守府についての内情を吐かせるための会議が終わって数分。話しかけてきた佐伯へ、ため息をつきながら城島が言う。

 

「諜報員も潜り込ませる隙がなく、普段の行動も不透明......それに口も達者ときたものです」

 

「これ以上、軍の持ち物の筈の部隊を私物化されちゃ、困るん・だ・が・Na~......」

 

「.........アレを使ってみればいいんじゃないか」

 

「......?何をだい?」

 

 刺し傷に包帯が巻かれたRDが口を開く。

 

「必殺の霊的国防兵器、とか言う人間だ。こういうときのために呼び出したんだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「羨ましいよなぁ......いや、ほんと」

 

「何がデスか?」

 

「この建物だよ。露天風呂を模した妙に洒落っ気のある入渠ドックに、自前の資源採掘場......そしてこのでっけぇ建物」

 

「温泉は確かに魅力的ッスよねぇ」

 

 深海棲艦染みた容姿のツユクサを特に敵視することもなく。彼女の、氷川鎮守府を羨ましがる発言に、金剛が表情を緩める。

 

 シエラ隊が幻島に到着し、蹴翠提督の部隊とのいざこざがあった日の翌日。お互いの親睦と交流を兼ねて、と言うことで、シエラ隊と蹴翠提督傘下の艦娘が食堂で雑談を楽しんでいた。因みに蹴翠提督と叢雲、ウツギ、アザミは厨房で朝食の準備をしていたので世間話の席には居ない。

 氷川鎮守府の、なんとも風情のあるお洒落な設備の数々を、天龍とツユクサがしきりに誉め、それを聞いた金剛や叢雲が得意気に笑うという流れができはじめていたとき。若葉がこんなことを言い出す。

 

「利点に、羨むことばかり、でも無いだろうさ。ここはねぇ.........んふフ♪」

 

「......?どういうことですか?」

 

「体育館だか、運動場とか言ったか。あれが無いのが退屈でしようがないね......」

 

「お前しょっちゅうツユクサとバスケやってるもんな」

 

 ここには無いが、自分達の鎮守府には室内運動場があるんだぞ、等と今度は若葉が負けじと第五の良さを話し始めた時。料理が盛られた皿を両手に持った四人が食堂の奥から現れる。

 

「何の話だ?ずいぶん楽しそーだったけど」

 

「皆さんの鎮守府の特色デース。結構違いがあるらしいデス」

 

「へー。まぁ、俺たち島から出たこと無いしなぁ」

 

 机に料理を並べながら、蹴翠提督が金剛と何気ない会話をかわす。そこへ、自分の携帯を覗き込んでなにかを見ていたウツギが割り込んでくる。

 

「蹴翠提督、来客が来るみたいです」

 

「え、また?」

 

「はい。しかもなかなかの大御所ですよ?」

 

 蹴翠提督が、ウツギが差し出してきたスマートフォンの画面を見てみる。そこには、「依頼主 第一横須賀鎮守府・元帥補佐 佐伯 渉」の文字が並んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

本部から直々に島へと赴き、

佐伯はとある鎮守府について、蹴翠提督とウツギに話す。

パラオ泊地、富川という男、ブルーショルダー。

そして肝心の「仕事」の内容とは。

 

 次回「疑惑」。 狙いを定めて、引き金を引く。

 




ドンパチ合戦はもう少し先になります。


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疑惑

コラボ主様の活躍が近づいて参りました。
では、どぞ。


 

 

 

 

 

「お初にお目にかかります。蹴翠特務元帥。第一横須賀鎮守府で元帥殿の補佐を務めております、私、佐伯 渉と申します」

 

「佐伯の秘書、日向です。よろしくお願いします」

 

「蹴翠 雛兎です」

 

(蹴翠提督、手が反対です)

 

「えっ、あっ.........やっべ」

 

「ふふ......良いんですよ。そこまで固い話をするつもりはありません」

 

 .........そういえば、まだ17歳とか言っていたな。礼儀作法も教えておいたほうが良かったか。

 仕事の話がある、と、シエラ隊に続いて幻島に上陸した佐伯率いる本部の部隊と、鎮守府の建物の玄関にあたる場所の外で、顔合わせと挨拶をしていた蹴翠提督の敬礼のミスを見て、ウツギが蹴翠提督に耳打ちをしながら思う。

 同時に、査察中の部隊に仕事が舞い込むという前例のない事態に、なんとなく疑問を持ったウツギが、佐伯に質問をする。

 

「お久し振りです。佐伯補佐官。仕事、とはどういったものでしょうか。今は元帥殿の査察任務中ですが」

 

「詳しくは中でお話しします、ウツギさん。蹴翠司令、失礼ながら、鎮守府のご案内をよろしくお願いします」

 

「うす。じゃあ、あの、ついてきてください」

 

「了解です」

 

 慣れない敬語でぎこちなく話す蹴翠提督のあとを、佐伯が三名の艦娘を引き連れて着いていく。しかし、なぜか佐伯を追いかけず、その場に突っ立っていた日向に、これを不思議に思ったウツギが話しかけようとすると、相手が薄ら笑いを浮かべながら先手をとってきた。

 

「ひゅ......」

 

「聞きたいことがある」

 

「......なんです?」

 

 ......やっぱり.........なんか苦手だ。この人は。ポーカーフェイスでそんな事を考えながら、ウツギが日向の言葉を待つ。

 

「蹴翠について、どう思った?」

 

「......いい人、じゃないでしょうか。それに嘘も苦手そうですし、信用できると思います」

 

「ほー。ありがとう。じゃ、中に入ろうか」

 

 ......どーにも。この人ほど何を考えているかわからない艦娘も珍しいよなァ。

 いつも無愛想そうなムスッとした顔の自分を棚にあげて、口をへの字形に曲げながら、ウツギは日向に続いて鎮守府の中へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「憲兵隊長として、の......仕事ですか」

 

「はい。詳細はこちらになります」

 

 来客用に、とウツギが急いで作った、お茶菓子代わりのクレープが盛られた皿が並べられた長机に座り、佐伯が鞄から分厚いファイルを取り出して、それを蹴翠提督に見せながら、説明を始める。周りではこれが氷川鎮守府が頼りにされている仕事ということで気になっていたのか、蹴翠率いる叢雲、金剛、筑摩、飛鷹の四人の艦娘がどこか落ち着かない様子だった。

 渡された書類を秒速で読み終えた蹴翠提督が、叢雲たちにもこれを確認するように言ってから、佐伯へと口を開いた。

 

「なんか凄いとこですね。この、パラオ泊地っての。所属している艦娘は全員が命令無視とか、犯罪に手を染めたことがある、前科者みたいなやつばっかで」

 

「ええ。仰る通り、司令を務める富川の意向で、ここはそういった問題のある艦娘ばかりを引き取って運用しています」

 

 蹴翠提督と佐伯が話していた時。飛鷹から回ってきた書類に、ウツギが目を通す。そして紙に書いてあることを黙読しながら、引き続き二人の会話にも耳を傾けた。

 

「艦娘の制服の右肩だけに青い布を使っていることからついたアダ名が「ブルー・ショルダー」......なんかかっこいいかも」

 

「高い戦果を稼ぐことから本部の評価も高い部隊でもありました」

 

「......「ました」、ですか」

 

 佐伯の口から出てきた言葉が過去形だったことに鋭く反応して、ウツギが首を突っ込む。すると、佐伯ははち切れそうになっているファイルからもう何枚かの紙切れを取り出し、机に並べる。

 

「......これを見て頂ければ解ると思います」

 

「......なになに...?」

 

 大量に数字が羅列された、見ているだけで目が痛くなるような書類に目を通し。蹴翠提督の表情が徐々に怪しくなっていく。

 一体何が書かれていたのだろうか。ウツギが思っていると、蹴翠提督が書かれていた事を音読し始めた。

 

「五月に徴集した艦娘が合計30人。元々いたのが120で、九月の定期人員数調査で合計部隊員が119名?」

 

「......えっ?」

 

 蹴翠提督の隣に立っていた叢雲が、なにかおかしい物事を聞いたと疑問の声を出す。

 

「なんで?呼び込んだのがそっくりそのまま全員戦死したってことなの?おかしいじゃない」

 

「......叢雲、一ヶ所だけじゃない何ヵ所もある」

 

 頭に手を当てながら、蹴翠提督は机にあった筆立てから蛍光ペンを一本取り出し、それでいくつかの箇所にラインを引いた書類を、叢雲に手渡す。彼女もまた、書類を読んだ自分の上司同様に顔を青くして、書類に書かれた事への疑問を口にする。

 

「な、何よこれ......一年間に、70人以上の子が轟沈ですって!?冗談でしょ!?」

 

「残念ですが......蹴翠元帥への仕事とは、この、パラオ泊地への強行偵察を依頼したいのです」

 

「強行偵察って......アンタたちこんなことやってる奴等をいままで黙って見過ごしてたって言うの!?だらしないとかそう言う以前の問題だわっ!!」

 

「叢雲!!」

 

「ッ......」

 

 艦娘たちが謎の失踪か戦死か......詳細が不明なものの、大勢がこの世にいないという事実が書かれた紙をぐしゃぐしゃに丸めて投げ捨てて、叢雲が佐伯に怒鳴り散らす。のを、さすがに見かねた蹴翠提督がひとまず落ち着かせようと制止する。

 

「すいませんでした......」

 

「いえ、返す言葉もありません......今度はこちらを」

 

 上官である自分に説教をたれた叢雲を咎めるどころか、逆に謝りながら、佐伯はタブレット機器を操作し、ある動画を流し始めた。

 

 それは、富川と城島の舌戦が繰り広げられた、予算審議の様子を録画した動画だった。

 

 

『過去の記録が物語る通り、私の自慢の艦娘たちは鎮守府の防衛、敵地の攻撃など。任務を問わずに完璧に機能致します』

 

『結論からいいますと、そうした不確定要素がゼロとは言い切れない訳です。たとえ味方である軍内部においても、みだりに情報を提供すれば、弱点を敵に与えることになるのではないかと。よって、我がブルーショルダーの機密は厳重に守られるべきである、と信じる次第であります』

 

 

 ......なるほどな。相手もなかなかに頭が良さそうだ。

 正論に見えるような言葉を並べて上手く逃げ切るばかりか、自分のやりたいことを通してしまった、動画に映る富川を見て。画面に釘付けになった自分の仲間と蹴翠提督の部下を交互に見ながら、そんなことをウツギは思った。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「......俺、難しい事とかはよくわかんないんですけど。多分、その、佐伯さんも、中を探ろうとしたことがある......ですよね?」

 

「...............」

 

 動画を全て見終わり。映像に度々流れた「和平」のキーワードから、深海棲艦でありながら会議に参加していたRDの立場はなんとなく把握したためにそれは言及せず、蹴翠提督は佐伯にそんな質問をする。

 

「15、です」

 

「えっ」

 

「今まで内情を探ろうと、送り込んだ諜報員の艦娘です。彼女らは、誰一人として帰還することはありませんでした」

 

 淡々と佐伯の口から出てきた文字の列に、その場の空気が凄まじく重たいものへと変わる。

 そんな重い空気を打開すべく、口を開いた人物がある。蹴翠提督だ。

 

「俺、やりますよ。頼まれれば」

 

「元帥が、ですか?しかし男性の貴方では......」

 

 目の前の若い男は、普通の人間とは比べられない規格外だとは知っていても、性別の壁はどうしようも無いのでは。そう考えた佐伯の思考を、召喚された際に得た能力で読みとった蹴翠提督が、ほんの少しだけ口角を上げて笑いながら、呟いた。

 

 

「ステラ、出番だ」

 

 

 そういったとたんに、男の体を青い光が包み込む。

 

 何だ......何が始まるんだ?

 以前に、激怒して全身から赤い光を出して暴れまわったツユクサをウツギが思い出す。激しい光から目を背け、発行現象が収まってから、ウツギが男のいた方向へと向き直ると......

 

どういう理屈なのか。全く彼女には理解できなかったが、男の姿が、黒いコートを羽織り、中は水着に近い格好。長い黒髪を左右で長さの違うツインテールにした、深海棲艦や自分ほどではないにせよ、肌が白い若い女の姿に変わっていた。

 

「うわ......すっげー」

 

「どーなってんの.........?」

 

 事前のレポートでは「変装」と書かれていた蹴翠提督のこの特技だが、体格もなにもかもが変わるこれは「変身」としか説明がつかないだろう。そう考えながら、今まで静観を決め込んでいたツユクサや漣が唖然としながら発言する。

 

「これなら、大丈夫。でしょ......艦娘って、言い張れる。かも」

 

「......え、えぇ。...これはすごい、これほどとは」

 

 いつもはきびきびと職務をこなす佐伯も、流石にこれには面食らったようで、華奢な体格の女に外見を変えた蹴翠提督(?)をまじまじと見詰める。そんな様子を見て、ウツギは口を開く。

 

「一つ、良いでしょうか」

 

「何?」

 

「聞けば、相手は相当自分達の機密を守ることに注意を払っているとのこと。姿を艦娘に似せても、溶け込むのに異常な戦闘力を見せつけては警戒されてしまうのでは」

 

「......だから?」

 

「我々からも一人、偵察......いや、調査に参加する者を決めるべきかと。そうしたほうが動きやすいですし、万が一動きがばれてもフォローに回ることが出来るかもしれません」

 

「......なるほど。しかし、この危険な任務に誰を」

 

「佐伯補佐官、そのタブレットに動画を撮る機能はありますか?」

 

「.........?ありますが......」

 

 何を言ってるんだろうか?そう思いながら、佐伯がタブレットのカメラを起動し、録画モードにしてウツギを撮り始める。その様子を確認したウツギは、得意気な顔で蹴翠提督(?)にこんな事を聞く。

 

「蹴翠提督、でよろしいのでしょうか?」

 

「ん、私...ステラ。っていうの」

 

「ではステラさん。食堂の備品に傷がつくかもしれません。良いですか?」

 

「.........?別に」

 

「そうですか。じゃあ、」

 

 

「アザミ。頼む」

 

「よシ」

 

 

 ウツギの言葉に。何を思ったのか、突然助走をつけてアザミは彼女の顔に拳を叩き込んだ。

 回りに居た者全てが、突然の出来事に硬直し、思考が停止する。しかしそんな事はお構いなしに、アザミは殴られて倒れたウツギを無理矢理引っ張って起こすと、今度は彼女の腹を蹴っ飛ばし、そのまま無抵抗だったウツギは二メートルほど後ろによろけて盛大に転倒する。

 

「あっ、アザミ何やってんスか!?」

 

「ゲッホッ...ゲホッ......いいんだツユクサ。佐伯補佐官、撮れましたか」

 

「......あ、はい。ばっちりです」

 

 少し引きぎみの佐伯の返事を聞いて、口から唾液と一緒に垂れてくる血を腕で拭いながら。ウツギは笑顔で話し始める。

 

「これで理由付けは完璧です。アザミとステラさんは私をリンチして怪我を負わせました。問題児を引き取る鎮守府が見つからないので、二人はパラオ泊地に引き取られる訳です」

 

 ウツギの説明に、これまでの展開を詰まらなさそうに見ていた若葉が、一気にいつもの表情に顔をセットして割り込んでくる。

 

「フフフ......なんでそいつなんだい。強さなら若葉でも勤まると思うが」

 

「お前じゃ無理だ。アザミは他人に合わせるのが得意だ。この中じゃ誰よりもな。それに素の実力もあるし、ステラさんの役にも立てるはずだ」

 

「..................」

 

 ウツギが、自分の目論見を全て暴露する。

 その場にいた全員が見守る中で。アザミはステラの前に立つと、彼女に握手を求めた。

 

「これから......よろしク......」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ブルーショルダーの本拠地、パラオ泊地へと潜入することになった、

アザミとステラという二人組。

そして配属先で早々に課される大規模演習。

しかしてその実態は......。恐るべき真実を、二人は目の当たりにする。

 

 次回「皆殺し訓練」。 身も凍る恐怖が、この世にはある。

 




コラボ主様の変身形態のお披露目でした。
外見はブラッ〇☆ロッ〇シューターです。

おまけですが、いつも応援してくれている友人からこんな画像を貰いました。


【挿絵表示】

なんてオシャンティーなんだ......


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皆殺し訓練

アンチヘイトタグが機能し始めるかもしれないお話になります。
注意!


 

 

 

 

 

 午前5時12分。分厚い雲がかかったパラオ泊地上空を行く、大型兵員輸送ヘリの中に、アザミと、変身した上で更に軽巡五十鈴に化けた蹴翠提督は居た。

 最低限の荷物だけを持ち込み、ひたすら目的地まで寝ていたアザミの隣にいた艦娘が、窓から外を見ながら仲間と駄弁り始める。

 

「チッ、駄目だ。こう雲が厚くっちゃあ何も見えねぇ」

 

「知ってるか?ここの大気には特殊チャフとスモークがばら蒔かれていて、衛生写真すら撮れねえらしいぜ」

 

「吸血部隊の本拠地らしいや。生きて帰れるか、心配だぜ......」

 

 そんな、仲間内で喋っていたうちの一人が、寝ていたアザミを見つけると、彼女に指を指しながらこんなことを言い出す。

 

「ん......?おいおい、もう死にかけてるやつが居るぜw」

 

「ヘヘッ。こりゃ傑作だw」

 

「...............」

 

 うるさい。黙って乗ってろ。

 ならず者たちの笑い声で目を覚ましたアザミが、内心そんなことを考えていると。会話が始まる切っ掛けになった艦娘に肩を掴まれる。

 

「どうしたぁ?口も聞けないんでちゅかぁ~?」

 

「やめなさいよ」

 

「.........あ゙?」

 

 ......よせばいいのに。別に気にしてないし。

 アザミがそう思っていたこととは知らず、彼女をいびり始めた艦娘へ、対面するように座っていた五十鈴の姿をしたステラが止めに入る。やはりと言うべきか。注意を受けた艦娘は頭に来たらしく、ステラの胸ぐらを掴んで怒鳴り始める。

 

「てめぇもっぺん言ってみろ」

 

「これから仲間になる奴でしょうに。くだらないから止めろって言ったの」

 

「知ったような口きくんじゃねぇ!!」

 

 艦娘がステラに殴りかかったその時。機内に着陸を予告するアナウンスが流れ、舌打ちをしながら艦娘は席に戻る。

 

『シートベルト着用、これより着陸する』

 

「......チッ。覚えとくぜ。そのムカつくツラ」

 

「...............」

 

『着陸後、速やかに艤装格納庫へ向かうように。新人演習を行う、遅れるな』

 

「あぁ...!?マジかよクソッタレ」

 

「めんどくせぇったらありゃしねぇや」

 

 ついた早々に新人演習......。事前の調べからして、絶対に普通のではないのだろう。

 相変わらず紫がかった真っ白な景色が見えるだけで、窓からは何も見えない外を見ながら。アザミはシートベルトを締めているときにそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『急げ!!10分以内に地上に出ろ!!』

 

「...............」

 

 基地の所用施設が地下に埋まっている、まさに秘密基地という例えがしっくりくるパラオ泊地に入ってすぐ。

 館内に響き渡るサイレンに「やかましい」などと感想を抱きながら、アザミとステラはヘリコプターの中で言われた通りに、艤装格納庫へと駆けつけていた。

 

「何が始まるんだろうね」

 

「...............」

 

 少し不安げに声をかけてくるステラへ、無表情の顔面を向けて返事をすると、一言も発さずにアザミは用意されていた弥生の艤装を背負う。

 そしてステラと互いに装備の確認を済ませて、二人は格納庫の奥に設置されていた、恐らくは貨物輸送に使うような粗末なリフトに乗り、地上を目指す。

 

「駆逐、軽巡、重巡......大型艦はあまり居ないんだね」

 

「...............」

 

 自分達と同じくリフトに乗って上に登ってくる艦娘たちを見て、手すりに肘を乗せながらステラが呟く。

 ほどなくしてリフトの上の天井が開き、地上についたため上昇が停止。何となくその場の空気で登ってきた艦娘たちと二列で整列をし、アザミとステラが次の命令を待つ。

 大体数は20ぐらい。装備は...普通か。相手はどうか解らないな。

 味方の数におよその目星をアザミがつけていたとき。演習場の海の底から何本も突き出ていた、スピーカー付きの鉄塔から音声が流れてきた。

 

『右手二キロほどに敵部隊が散開。突破して目標地点に到達したものから帰還するように』

 

『模擬戦闘だからといって、気を緩めるな。発進!!』

 

 スピーカーの男の声に従い、その場にいた全員は鉄板張りの床から水面に降りて、目標地点に向かって海を滑っていく。

 数秒後。集団の先頭にいた、アザミに突っかかってきた一人が、特に意味もないぼやきを口から垂れ流し始める。

 

「ったく、本人確認すらせずにいきなり模擬戦だぁ?どーなってんだよ」

 

「俺が知るかよ。っあぁ、めんでぇな」

 

「それによ、見たか武器の中。実弾だぜ」

 

「整備の連中が間違ったんだろうよ。まっ、関係ねぇがな」

 

「はははは!!いいなそりゃ!!」

 

 ......本当だ。少し下がるか......。

 問題児たちの発言に、アザミも一度砲の中身を開けて覗いてみる。先頭集団の狂言ではなく、本当に実弾が込めてあるのを見て、アザミはとてつもなく嫌な予感を感じ、ステラと後方に移動した。

 数分後、今度は相手を務める艦娘たちの姿を確認し、またならず者の一人が楽しげに話始める。

 

「来やがったぜぇ......」

 

「いっちょ脅かしてやるかぁ?」

 

「へへっ、乗ったぜ」

 

 そして、アザミの肩を掴んできた艦娘が、砲を構えて撃とうとしたその時。

 

 

「どうせ空砲だ、目一杯ブチこんでやろうぜ!」

 

 

 横並びに展開していた相手の艦娘の武装から

 

 

 一斉に実弾が飛んできた。

 

 

「.........何?」

 

 艦娘の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっ......」

 

「ぎゃあっ...!?」

 

「なっ、何だ!?何が起きて!?」

 

 やっぱり......そう来たか。

 最悪の予想が当たってしまったな。アザミが相手の放ってくる攻撃を回避しながら、考える。

 先頭に居たことが最大の不幸となり、およそ40を越える敵の集中攻撃で、見るも無惨な姿になって死亡した艦娘の生首が飛んできたことに、配属された艦娘たちは一気にパニックに陥った。

 あるものは状況が理解できないまま蜂の巣にされ、またあるものは悪友の死に錯乱して足を止めたところを狙撃され......。先程までは軽口が飛び交っていた演習場が、叫び声と悲鳴が木霊する地獄へと変貌していた。

 

「うぅっ!?うわっ、うゎぁぁぁぁぁ!!」

 

「助けてくれ!!ぎゃあああぁぁぁ!!??」

 

『ナンバー4、大破。ナンバー8、機能停止』

 

『ナンバー3、大破。ナンバー10、大破』

 

「...............っ!」

 

 なるほど。物扱いして殺しているのか。

 スピーカーから淡々と流れてくる声に苛立ちながら、凄まじい精度でこちらを狙い撃ちしてくる敵に、アザミが顔をしかめていたとき。同じく、「能力」があるとはいえ、実戦に慣れていないことが祟って、あからさまにやつれた顔をしているステラが話しかけてくる。

 

「ねぇ、ちょっと......うわっ...!...これ模擬戦なんかじゃない!!あいつら皆殺しにする気だ!!」

 

「......逃げる......狙われる.........突破すル...!」

 

「へっ!?で、でも」

 

「着いて来イ!!」

 

「えっ!?ちょっと!!きゃあっ......!」

 

 その場に転がっていた駆逐艦用の装備を引っ掴み、身を低くして突撃を始めるアザミを、汗で顔を濡らしながらステラが必死で追う。

 両手の砲を交互に撃つことで、なるべくリロードの隙を無くしながら、ジグザグに海上を滑って敵に向かってアザミが接近していた時。胸に付けていた無線機が、相手の通信の声を拾ったらしく、こんな会話が流れてきた。

 

『5番やけに動きがいいぜ~......』

 

『13号も付いてきやがる』

 

『ふふっ、ぶっ殺せ!!』

 

「...............!」

 

 そう簡単に死んでたまるか.........。

 対艦用ロケットバズーカ、ミサイル、駆逐艦の砲撃に、大型艦の副砲の弾といったものが雨あられと降り注ぐキルゾーンを縦横無尽に動きながら。外道の仕打ちに流石に頭に来たアザミは、陣形の中央に居た艦娘の顔目掛けて砲の引き金を引く。

 

「うぅおわっ!?こっ、こいつ!」

 

「...............!!」

 

 そして、自分の顔に飛んできた砲弾に相手が怯んだ一瞬の隙をついて、そのすぐ隣にいた艦娘をタックルで突き飛ばし、いままでのお返しとばかりに振り向き様に何発かの砲弾を相手に見舞ってから、アザミはステラと一緒に目的地まで一目散に逃走する。

 

「......や、やれた...?.........怖かった...」

 

「.........っ!まだ......気......抜くナ......」

 

「え?」

 

『おい、何してる!逃げたぞ!!』

 

『あの野郎!!フザけやがってぇ!!』

 

『ハンバーグよかひでぇミンチにしてやる!!』

 

 ルール無用に、命令無視か。ならず者らしい行いだな。

 赤い旗の立っていた目標地点を通過したにも関わらず、怒りに任せてこちらに何人かが向かっていることを、無線からの音声で把握して。アザミが心中で悪態をつく。

 

「ここで戻る......危なイ......もう少し」

 

 

「こんなとこに居やがった!!ぶっ殺せぇ!!」

 

 

「先回りされた...!?」

 

「引き付ける......隠れてロ......」

 

 鉄塔や防弾パネルといった海上にある障害物をうまく利用し、進んでいた先に回り込んできた三人の艦娘を見て、アザミは素早くステラに指示を出すと、また相手と平行に移動しながら、砲撃を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそ......なんだこいつは。こんなに動きのいいやつが来るなんて聞いていないぞ。

 命令違反をして、アザミとステラを追いかけてきた艦娘の一人......駆逐艦の「磯風」が、比較的連射のきく自分の砲をアザミ目掛けて乱射しながら、そんな事を考える。

 

「っいぃ、クソ、当たんねぇ!」

 

「もっとよく狙うんだ!」

 

 自分と意気投合して、八つ当たり気味に相手を殺そうとついてきた、同じく駆逐艦の「嵐」と重巡の「加古」に指示を飛ばし。磯風と嵐の二人は砲と合わせて、背負っていた艤装に改造で取り付けたロケットランチャーを発射し、加古は持ち前の大口径砲をアザミに向けて砲弾を発射する。

 

「............!?」

 

「ッハン、死んじまいなぁ!!」

 

「終わった!」

 

 ロケットが足元で爆発し、よろけた相手の隙を見逃さず、磯風がアザミの持っていた単装砲を撃ち抜き、装備の爆発でアザミがたまらず前のめりに転倒しそうになる。

 これでおしまいだ。まぁ頑張ったほうか。こいつは。

 笑いながら、転ぶアザミに三人が止めを刺そうとしたそのとき。

 

 

アザミは倒れ込む瞬間に、壊されなかった方の武器で水面を撃ち、体制を立て直した。

 

 

 下を撃った反動で立て直しただと......ォ!?

 とても普通の艦娘が咄嗟に真似できるモノではない芸当をこなし、危機を脱出したアザミに驚き、動きを止めてしまった磯風が、今度は逆にアザミに武器を撃ち抜かれ、爆発でその場に倒れこむ。

 

「うっぐっ......見たか?」

 

「何てヤロウだ......」

 

「クソッ!!」

 

 自分と同じく、ロケットと魚雷を撃たれ、爆風で転倒した嵐が悪態をつき、まだ攻撃を続行できる加古のみが砲撃を続ける。しかし......

 

「............」

 

「なっ、あいつ逃げ」

 

 

「こっちも忘れてもらっちゃ困る!!」

 

 

「っ!?」

 

 片腕を怪我で動けなくさせたとはいえ、まだ元気に逃げ回るアザミにすっかり気をとられていた加古は、背後に回っていたステラの接近に気付かず。武器類と背中の艤装にしこたま砲弾を叩き込まれてしまう。

 

「うぅぅぅおぉぉわっ!?」

 

「加古!」

 

 武器が破損して飛び散った炎が燃料に引火し、大爆発を起こして木っ端微塵に吹き飛んだ艤装を、急いで外して放り投げて。なんとか爆死せずにすんだ加古は、受け身を取りながら海面を転がる。

 

「ハァ......ハァ.........」

 

「夢でも見てんのか......俺ら」

 

「...............」

 

 何者だ。あいつは......。

 装備類を余すことなく全てめちゃめちゃに壊された三人は、ただ目の前を悠々と逃げていく二人を睨み付けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

辛くも、必死の奮戦で「共食い」に生き残った二人。

そして晴れてブルー・ショルダー構成員として、

アザミ、ステラは富川に認められる。

そんな二人に近づく三つの黒い影が......

 

 次回「札付き」。 アザミ、牙城を崩せ。

 

 




はい、と言うわけでお気に入り件数がごっそり持っていかれそうなお話でした。
ブラ鎮だし多少はね?(白目


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札付き

無念、四日連続投稿ならず......


 

 

 

 

 

「...............」

 

「.........うぅ...ひっぐ...」

 

 ......これから、どうなるんだろう。とりあえず生き残ることはできたけど......。

 新人たちがことごとく殺されていった、地獄の演習......アザミやステラに言わせれば演習などではなく、「どれだけ死にづらいかを確かめる実戦」を越えて。二人は今、待機を命じられ、埃っぽいあまり使われていなさそうな小部屋に居た。

 他にも、恐らくは辛うじて敵前逃亡に成功して生き残ったと思われる艦娘と、胸と顔から血を流してぐったりとしている艦娘といった者も居り、ステラは倒れた艦娘を見て顔をしかめ、アザミはすすり泣いている艦娘の背中を撫でていた。

 

「......みんな...みんな死んだ.........!」

 

「..................」

 

「...何が適性検査よ......立派な大量殺人じゃないのよ......ぅぅ......」

 

「..................」

 

 自分の前で死人のように血まみれで黙って寝ている艦娘を前に、目の回りが赤く腫れるほどずっと泣いていた艦娘の言葉を聞き。アザミは彼女の背中を撫でながら、静かに怒りを燃やしていた。

 持ち込んだカメラで戦闘の録画はやった......あとは適当に調べて脱出するだけ。

 さて、暴露してここが崩壊するのが楽しみだ。アザミがそんな事を考えていたとき。部屋の扉が開き、背が高く体格のいい男が何人か入ってきた。よく見れば、佐伯が見せてきた動画に映っていた「ヤツ」の姿もあった。

 入って来たうちの、富川の部下と思われる人相の悪い男が口を開く。

 

「「共食い」の結果、帰還者二名、他生存者二名。しかし一人重傷で助からんでしょう。21名中、3名。1/7の確率の生存者は、まぁ最近ではマシなほうでしょう。いかがですか司令?」

 

「......駆逐と軽巡だけか?」

 

「ええ。戦艦は集中砲火で蜂の巣、重巡は背中を向けたせいで、それは無惨な姿で死にました」

 

 男達に、アザミとステラが白い目を向ける。が、どうやら二人ともそれが表情に出てしまっていたらしく、察知した男の一人が怒鳴る。

 

「気おつけェい!!」

 

「..................」

 

 もとから立っていたステラが嫌々相手に敬礼。座って艦娘の面倒を見ていたアザミは面倒くさそうに立ち上がり、礼をせずに富川に視線を飛ばす。

 

「貴様!富川司令に礼を」

 

「いやいい」

 

「は?」

 

「いいと言っている。少し彼女と話がしたい」

 

 アザミに向かって怒鳴る部下を制し、富川はその近くに寄って、楽しそうに顔を歪めながら声をかける。

 

「......君のことは見ていたよ。上からじっくりとな」

 

「............」

 

「素晴らしい腕前だ。君のような人材を、ぜひとも欲しいと思っていたところだ。我が隊には駆逐艦が少ないのでね」

 

「............」

 

 やさしく語りかけてくる痩せた男へ。軽蔑の眼差しを向けながら、アザミは一言も発さずに、ただ、棒のようにその場に動かずに立つ。返事すらしないというのは、普通に考えれば目上の人間に対しては失礼極まりないことだったが、そんなことは全く気にする様子も見せず、富川は尚も笑顔で続ける。

 

「今日から晴れて君たちは、正式にブルーショルダーの構成員となった。おめでとう」

 

「「...............」」

 

「部屋を出てすぐに受付をする場所がある。そこで質問はすべて受け付ける。登録を済ませ、指示を待つといい」

 

「「..................」」

 

 これで、自分達は犯罪者どもの仲間入りか。これからが楽しみだな。

 大声で、嫌味と皮肉たっぷりにそう言いたいのを我慢しながら、アザミとステラは微動だにせず、部屋を去っていく男達の背中をその場からじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「すっかり有名人みたいね。私たち」

 

「...............」

 

 必死だったとはいえ......流石にマズかったか。「溶け込むのに異常な戦闘力を見せつけては警戒されてしまうのでは」、か。面倒なことになるか......。

 職員から支給された、右の袖だけが蛍光色の青色で、他は軍服らしい暗い緑色の制服を着たアザミが、同じ服を着てついてくるステラに言われ、周りを見渡し。廊下から見える二階の手すりに寄っ掛かって、こちらを興味深そうに見てくる艦娘たちを確認して、アザミはウツギが言っていた言葉を思い出す。

 

「じゃあ、私こっちだから」

 

「...............」

 

 部屋が違うため、廊下の奥に進むステラに軽く手を振って別れてから、アザミは割り当てられた自室に入る。

 

「.................................」

 

 入った場所からでも見える、これ見よがしに取り付けられた監視カメラが三個、カーテンだけで仕切られたシャワー、鉄格子の嵌まった窓に、薄汚れた教本が三冊だけ入った本棚とこれまた粗末なシングルベッド。

 

「...............」

 

 何もかもが、自分の予想と違っている。

 少ない荷物の詰まったスポーツバッグを床に放り、土足のままベッドに横になりながら、アザミはシミが目立つ灰色の天井に視線を向け、思考に更ける。

 ここは鎮守府なんかじゃない。「刑務所」や「収容所」といったほうが正しいんじゃあなかろうか。それに、こう監視されているなら、脱出だけでなくウツギとどう連絡を取るかも考えないと。下手をすれば電波ジャックでこちらの情報を奪取されることも考慮しなければ。

 上を向いて考えながら、今この瞬間もあのいけ好かない富川に監視されているという事実に、薄ら寒い物をアザミが感じていたとき。

 

 

突然ベッドの下から伸びてきた腕に顔を掴まれ、アザミはベッドから引き摺り下ろされた。

 

 

 ッ!誰だ......?

 見ると、部屋に忍び込んできて自分に襲い掛かってきたのは、演習でこちらを追い掛けてきた三人の一人の磯風だった。そして反撃に移る間もなく、アザミが身を起こした瞬間に今度は嵐と加古に部屋の扉に体を押さえつけられ、磯風に顔と鳩尾に肘を入れられて激しくえずく。

 

「フンッ!!」

 

「ッ......!」

 

 しかしアザミも黙っていなかった。

 磯風の不意打ちで、三人に自分を気絶したように見せかけると、押さえつけられていた左肩を振り払い、嵐の顎に肘を入れて殴り飛ばす。そしてそのまま前に居た磯風を蹴り飛ばそうとする。が......

 

「ナメんなぁっ!!」

 

「...............ぐッ!?」

 

 相手の数が多く、また磯風の不意打ちで体に力が入らないこともあってか、アザミは加古に、廊下の壁に叩きつけられて再度押さえ付けられ。顔を殴られて切った唇から血を流していた嵐に、内蔵が潰れそうな勢いの右ストレートと膝を腹に叩き込まれ、あまりの苦痛に身動きができない状態になってしまう。

 

「チッ。手間ぁとらせやがって」

 

「運ぶぞ」

 

「えーい」

 

 倒れて咳き込むアザミを、両手と足を持って三人が何処かへ運ぼうと歩みを進める。

 ......来て早々、まさか死ぬことになるのだろうか。

 所々が殴られた影響で内出血を起こした顔のアザミが、どこか他人事のように、自分のこれからを考えた。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「殺しゃあしねぇよ。ただのお喋りさ」

 

「大事な事を話すときはいっつもここだ。部屋や廊下じゃカメラだらけで筒抜けだからな。覚えておきな」

 

「...............」

 

 大事なお話、ねえ。......何を聞いてくるのか。

 尋問するため、と、ボイラーの点検用通路と思われる場所に連れ込まれたアザミを、三人がニタニタと薄気味悪い笑顔を浮かべながら取り囲む。

 そんなならず者の一人。嵐が胸元からバタフライナイフを取り出して素早く刃を出すと、それの先でアザミの頬を撫でながら、彼女へ質問をする。

 

「名前は?」

 

「......アザミ」

 

「前はどこにいた?」

 

「......第五横須賀鎮守府......第一艦隊...フィフスシエラ.........」

 

「ほぉ。英雄サンかい。何してここに来た?」

 

「......答える......必要?」

 

「聞いてんなぁこっちなんだよ。さっさと答えな」

 

 目の前の嵐の横にいた加古に凄まれ、アザミが顔をしかめる。そんな彼女の、ナイフで薄く切られた頬から血が流れ落ちる。

 

「......気にくわない奴...殴ってやっタ.........」

 

「あぁ?その程度かよ」

 

 「もっとやべぇのを待ってたのに、期待はずれだぜ」。そう愚痴を垂れてため息をついて、嵐がナイフを畳んでポケットに仕舞い、磯風が質問の意味について答え始める。

 

「悪かったな。ここの所長が悪趣味でね」

 

「所長?」

 

「ここの司令さ。全員そう呼んでる。運と実力を備えた最強の軍団を作りたいってんで、腕さえよければサイコパスだろうがなんだろうが欲しがるんだ。例えば殺しのプロなんかをな。」

 

「......自分...殺し屋じゃなイ」

 

 

「何やってるの...やめてあげなさいよ」

 

 

「ん?」

 

 この声は......?

 「お喋り」をしていたアザミが横を向くと、何故か自分と同じように顔にアザを作ったステラが居た。

 よろけながら立っていた彼女を見て、三人は舌打ちをすると同時に、ボイラー通路から出ていく。

 

「なんも。大したことじゃね~よ」

 

「はん、命の恩人の手当てをしてやんな」

 

「ッ...あいつら......」

 

「..................」

 

 へらへらしながら、狭いドアから廊下に出ていく三人を睨んでいる五十鈴姿のステラへ、気になったことをアザミが聞く。

 

「...なんで...ここニ......?」

 

「いきなり不意打ち食らってさ。返り討ちにしようかと思ったけど、ぶちのめしたら不自然かと思って」

 

「怪我ハ」

 

「治った。能力さまさまだね」

 

 ......そう言えば、奴等はここは監視の目が届かないみたいな事を言っていたな。

 最後に一つ気になったことを蹴翠提督へアザミが質問する。

 

「ここ.......カメラ...とか.....無イ...?」

 

「ん......透視した限りは」

 

「どうモ」

 

 なるほどな。色々考えるに、ここは使えそうだ。

 蹴翠提督へ礼を言い、アザミはスマートフォンの電源を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

パラオ泊地での生活が始まる。

吸血部隊、返り血部隊などと恐れられる者たちとの共同生活、

そこでアザミとステラは互いにこの場所に探りを入れる。

しかし。その二人へ、富川の目が迫る。

 

 次回「観察」。 その女たちの右肩は、敵の返り血で染まっていた。

 




次の更新まで間が空くかも知れません。


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観察

最近あったお話です。

友人A「ブラウザのほうの艦これでイベントやるってよ。今度北海道だぜ!?」
作者「へー俺らの地元じゃん」
友人A「しかもさ、部活敬語のキャラ追加されるんだよ!」
友人B「......あのさ」
作者「うん?」
友人B「どっちもお前の小説で先取りしてね?」
友人A 作者「「!?」」


 

 

 

 

 

 アザミとステラがブルーショルダーに入隊してから二週間が経ったある日。

 パラオ泊地内部にある、基地の自前の艤装の整備工場の監視室にて、ガラス越しに装備の自主点検を行っている艦娘達を見ていた富川へ、部下の男が口を開いた。

 

「あれから二週間が経ちましたが、特にこれといった動きは二人にありません。それどころか、模範生と取れる行動ばかりを、奴はとっています」

 

「続けろ」

 

「はっ。まず五十鈴ですが、基本的には朝の8時に起床し、午前中の大半を訓練に費やし、午後は空き部屋で読書に励んでいます。まるで面白味のない毎日を......」

 

 監視カメラ越しに得られた情報が綴られた書類の束を片手に話す男へ、富川が抑揚の無い声で割り込んで話の流れを止める。

 

「それじゃあない」

 

「は?」

 

「もう一人の駆逐艦の事が聞きたいのだ」

 

「はぁ...アザミの、ですか」

 

 富川の言葉に、強面の男は紙を何枚か捲り、アザミの日常についての観察シートを見つけると、それを目を細めながら読み上げる。

 

「彼女は......少し変わって...いや、むしろこの環境の中では変人の部類に入るでしょうな」

 

「勿体ぶらず、教えてくれ」

 

「は。まず、毎朝の6時に必ず起床、あまり艦娘の連中がやりたがらない給仕係を率先して引き受け、朝食を用意。そして昼食の用意も同時に済ませてから、様子見程度に訓練に参加し、夕食の準備へ......この際、毎日ではありませんが、食堂でピアノの演奏を行っています」

 

「ほう。なるほど」

 

「なかなかに芸達者なようで、訓練で疲れた者からは、このコンサートは心が落ち着くなどと好評です。また、彼女が給仕係を務めるようになってからは、不味かった飯が上等になった、などとこれも受けが良いようで」

 

「む......」

 

「他にも、司令が今ご覧になっている整備実習での怪我人の手当てをする救護係も兼任しているとのことです。それに加えてあの腕なので、おかげで現場ではかなり頼りにされている存在になっているようです」

 

 「が、しかし......」。書かれていた緒情報をほぼ全て読み上げた後、持っていた書類を睨み殺すように鋭い目で見つめながら、男が今度は持論を述べ始める。

 

「司令。私は不思議でなりません」

 

「......続けたまえ」

 

「観察を続ければ続けるほど、解ってきたことがあります」

 

 

「それは、彼女が、上が送った諜報員ではないか、ということです」

 

 

 男の言葉に、富川が何かが嬉しそうに笑顔になる。上司のそんな顔を見てから、そのまま男は続ける。

 

「規則正しい生活リズム......職務に忠実で、素行に問題なし。そして周囲の期待に応えての仕事ぶりと、豊富なボランティア精神......。どれひとつとっても、とても問題のある艦娘だとは思えません」

 

「司令の意向で、これまでの連中は、薬に、暴力に、命令違反など......それが日常茶飯事でもおかしくない連中ばかりを配属させるよう仕向けました。ですが奴はそんな問題を起こす素振りすら見せない......「居場所を間違っている」ような違和感を、私は持ちます。たった二週間と言えども、そんな感想を私は抱きました」

 

「......なかなかいいところに目をつけたな、矢部。ちょうど私も気になっていたところだ」

 

「司令も、で、ありますか」

 

 部下の男が書類を見ていた頭を上げると、横には、自分の上司が楽しそうな笑顔でこちらを見ていたことに気づく。

 富川は手すりに掛けていた自分の上着を手に持ち、尚も愛想のよさそうな笑顔で口を開く。

 

「戦闘の腕は確かだが......ボロを出さないように、と優等生ぶった行いが逆に目立っていることに、私も時々違和感を感じていた。だがそんな演技の下手な内偵がいるものか、と自分をごまかしていたんだ」

 

「では何故?」

 

「おおかた、共食いで生き残れない者が多く、凄腕が必要になったのだろうな。内偵の経験など皆無でも、ほんの少しでも情報が取れれば御の字、と考えて送り込まれたとでも思えば合点がいく......あの強さは手放すには惜しいが、機密を漏らすわけにもいかんしな」

 

 「あまりにも「善人」すぎたのが運のつきだったな」。富川が続ける。

 

「磯風、嵐、加古を管制塔に呼べ。奴を始末させる」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼び出しかよ。俺らが何したってんだ」

 

「おいおい、思い当たるものが多すぎて解らないの間違いじゃないのか?」

 

「へへっ、違えねぇ」

 

 なんて、軽口を叩いているが。あの所長が何を言ってくるか、まるで想像が出来ないのがなんとも不気味だ......まぁ、死んだらその場の運とするだけか。

 古ぼけたエレベーターの中で、館内放送で管制塔への呼び出しを受けた磯風が、仲間の嵐と加古と他愛ない会話を楽しみながら、そんなことを考える。

 数秒後、最上階に着いたエレベーターが停止し、開いたドアから三人が出る。黄色い電球の光が広がるモニター部屋には、三人のよく知る屈強な男たち数名と、富川が居た。

 富川へ、詐称を含めた言い回しで磯風が挨拶をした。

 

「これはこれは所長!」

 

「こっ、ここは収容所ではない!司令官と呼べ!」

 

「おっと、では司令官殿。直々にお呼びとは、何か用がおありですかな?」

 

 にんまりと笑顔を作りながら、それでいて目は笑っていない様子で磯風が言い、お返しにと富川も彼女へ笑顔で返答した。会話に立ち会った人間は富川の部下以外の四人が笑顔だったが、漂う空気は重いものだった。

 

「私の目標......最強の艦隊を作るために、運、知恵、技術......そして時には汚い手段も平気で行える人材を欲していることを、お前たちも知っているだろう?」

 

「おかげで私たちは七年間もここでクサーい飯を食っております?」

 

「きっ、貴様らぁ!?」

 

 上官に向かって平然と暴言に近い皮肉を垂れ流す磯風に、部下の一人が流石に見過ごせず大声を出すが、それを持っていた教鞭で制して、富川が本題に入る。

 

「君たちを呼んだのは他でもない。始末してもらいたい奴がいるのだ」

 

「始末してほしいヤツ?」

 

 眉を潜める三人へ、富川が部屋にあったコンピューター機器の一つを操作し、モニターに写真が映る。そこに映し出されたアザミを顔を見て、三人が少し驚いたような顔になった。

 

「っ!こいつか......」

 

「ただのコック担当ですぜ?」

 

「知っている。こいつにはスパイ疑惑が出ていてな。君たちが処理してくれ」

 

「言うことを聞くとでも?」

 

「ふふ、手厳しいな......だが、こうはどうだ?そうだな......こいつを殺した後は、今後どれだけ暴れまわろうが私は見ていない」

 

「乗った」

 

 富川から提案された「報酬」を聞き、三人が意気揚々と部屋を出ようとする......が、富川はそれを引き留めて説明を始めた。

 

「まだ待て。懸念事項があるのでな」

 

「懸念事項?」

 

「こいつの戦闘力だ。少し過去の記録を漁ったが、なかなかに恐ろしいものが出てきた」

 

 「これを見ろ」。そう言って富川が機械のボタンを押すと、モニターに映っていたアザミの顔の上に、白地の文字列が現れ始める。

 しかし、三人は書かれた出来事を読んで笑う。彼女が大きな戦果を稼いだなどという象徴的な記録がなかったからだ。

 

「何が恐ろしいんです?大した戦歴もない!」

 

「下をよく見てみろ。特にここだ」

 

「......戦場の平均被弾率73%に対して、自己被弾率10%以下...」

 

「なるほど。確かに普通じゃねぇ」

 

「しかし奴はまだ軍に入って一年です。戦歴が浅いからそういう結果になっているのでは?」

 

「見ろよ、ペーペーだから助かったんだ......」

 

 富川の指摘も、自分達の考える「恐ろしいもの」には届いていない。そう考えて磯風と加古が大したことがないと言う。しかし富川は彼女たちのそんな行動を予測していたようで、得意気な顔をしながらボタンを押し、ページを切り換える。

 

「そう言うだろうと思っていた。これは去年の第五鎮守府防衛戦の記録だ。ここを見ろ」

 

「......!?...推定戦力比10対1の戦いで被弾ゼロ......?」

 

「まさか!?敵だらけの海ん中で一発も当たってねぇだと...?......ッハン、何かの間違いだ」

 

「アタシらに任せれば本物かどーかなんてすぐに見分けられますが?......ただの逃げじょーずの可能性だってありやすぜ?」

 

 

「......果たしてそうかな?」

 

 

 加古の言葉への返事の富川の発言に、笑顔だった三人の顔が一気に険しくなる。

 

「私は心配だ。共食いでも手玉にとられて、君たちが皆殺しにされはしまいか......とね」

 

「.........ジョーダンじゃない」

 

「自分達が生き残ってきたのはウデがあったからこそだ。こんな新米、あっという間にバラバラにだってできる」

 

 磯風の発言の後。最後に嵐が舌打ちをして、三人はエレベーターに乗り込み、部屋を後にする。

 

「.........司令官、大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だ。ブルーショルダーの最高練度が相手では、流石に死ぬはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

あろうことか、基地内で銃撃戦を行う三人。

そして逃走する影が二つ。

前代未聞の逃走劇が始まり、それは、

しかし意外な方向へと発展することに。

 

 次回、「地図書き換え」。 ここから先は、ショウ・タイム。

 




春イベの海防艦のステみてびっくりしたのは俺だけじゃないはず(白目


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地図書き換え

明日の午後十一時、活動報告で行っているキャラ人気投票の集計に入ります。
「あ、そんなのやってたの?参加したい!」という心優しい方はお急ぎください。


 

 

 

「ん......?」

 

「おっ、おい......なんだアレ...」

 

「「「...............」」」

 

 富川から仕事の内容を聞き、今。磯風、嵐、加古の三人は、それぞれがバズーカ砲、軽機関銃、サブマシンガンと重火器を担いで廊下を歩いていたところだった。

 そんな彼女らの異様に殺気を漲らせた様子をみて、思わず後ずさりして道を譲る艦娘たちを何とも思わず。三人はアザミの部屋の扉の前に到着する。

 

「......よし、いいぜ」

 

「解った」

 

 部屋の入り口近くに立て掛けてあったシャベルで磯風がドアの窓を叩き割る。そしてすかさず加古がそこに手榴弾を投げ込み、部屋の中で大爆発。ドアが吹き飛び、独居房のような部屋内は黒焦げになる。しかし......

 

「......?......居ねぇな」

 

「どこ行きやがった」

 

 部屋の中に誰もいなかったため、嵐が廊下を歩いていた艦娘一人を捕まえて質問する。

 

「オイ、アザミの野郎はどこいった」

 

「知るかよ。食堂か図書室じゃねーの?」

 

「......よし、その二つに行ってみるか」

 

「りょーかい。ボス」

 

 「おい何するつもりだよ」「何だあいつら......」。アザミの部屋を襲撃したことへの周囲の感想を聞き流しながら、三人は駆け足で図書室へと向かう。

 

 

 

 場所は変わって図書室。三人から命を狙われているなどとは勿論知るはずもなく、アザミは料理のレシピが載っている本を立ち読みしていた。

 醤油で味付けする和風ロールキャベツか。使えそうだな。そんな、平和な事を彼女が考えていると。

 

彼女の背後から、突然、嵐の嬉しそうな怒号が飛んできた。

 

 

「居たぞ!!ぶっ殺せェ!!」

 

「.........!?」

 

 

 いきなり何の用だ?そんな考えが起きる時間もなく。突然嵐が本棚を三つほど挟んだ場所から機関銃を構えて乱射してきたため、慌ててアザミがその場に匍匐(ほふく)する。

 ......とうとうバレたってことか。......逃げるしかないな。

 棚と本が障害物となり、運よく精確な照準は付けられずに済んだアザミは、撃ち抜かれた家具や書物の破片が降り注ぐ中、同じ体勢のまま這って部屋の窓まで近づくと、素早く立ち上がってガラス戸に飛び込む。そして窓を突き破って廊下に出て、勢いを殺さずに駆け足で三人から逃走する。

 

「チッ、クソが!」

 

「追うぞ!」

 

「当たり前だ!」

 

 新米が......逃げられると思うなよ。

 嵐が、機関銃の銃身を交換するを待ってから、二人を引き連れてバズーカ砲を担いでアザミを追い掛ける磯風が、険しい顔でそんなことを考える。

 アザミが突き破った場所から三人が廊下に出てすぐ。丁度通路の角を曲がるところだったアザミ目掛け、磯風がバズーカの狙いをつけ、躊躇いもなく引き金を引く。

 

「そこだぁ!!」

 

「なっ、何!?」

 

「危なイ!!」

 

 アザミが廊下を走っていると、たまたま鉢合わせた......共食いで運よく逃げ切って生存した「山風」の肩を引っ掴んで一緒に倒れ込み、受け身をとって、飛んでくる壁の破片と爆風を凌ぐ。

 あいつら......見境なしにやる気か......!

 この子だけじゃ危ない。仲間などお構いなしに、ロケットをぶっ放して来た相手にそう思ったアザミは震える山風の手を握り、全速力で廊下を駆ける。

 

「な、何なの......!?ほっといて......!!」

 

「うるさい......死ぬ......嫌......来い......解っタ?」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 一体何が起こっているのか状況が理解できていない山風を強引に説き伏せ、三人の無法者から二人が逃走する。

 

 

 

 そんな様子を偶然見ていた人物がある。五十鈴に化けて潜入していたステラだ。

 バレたみたいだ。助けなきゃ......!

 二人を追い掛ける三人をさらに追う形で、ステラもまた廊下を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラ、もっと飲めよw」

 

「うぉ~酒がうめぇなw」

 

 相も変わらず、酒臭い......でも流石にここなら。廊下を駆け抜け、二人が食堂に入る。

 ここまで人が多くて、それに被害があったら困るような場所なら流石に銃なんて撃ってくるはずが。アザミのそんな考えで選ばれた逃げ場所だったが......

 

 

「居た!あそこだ!!」

 

「危ねぇぞォ!!」

 

 

 彼女の企みは呆気なく崩れ去る。

 ......ジョーダンでしょ。こんな場所で機関銃なんて撃つの......?

 珍しく焦ったような表情を浮かべながら、アザミは大勢の艦娘たちにお構いなしに機関銃を撃ちまくる嵐から、山風を引き連れて、入ってきた方向とは反対側の廊下に出て壁を盾にする。

 銃弾で粉砕されていくグラスや酒の缶が飛んでくる中で、唐突に弾の雨が止む。

 しめた、ジャムか銃身の交換か。

 今しかない。そう思ったアザミが入隊者全員に配られていたオートマチック拳銃を取り出し、壁から体を出したその瞬間。

 

ぞっとするほど冷たい目で笑っていた磯風が、自分目掛けてバズーカを発射してくるのが見えた。

 

「死ねぇ!!」

 

「.........!!」

 

 最初からこれが狙いか。

 隣で啜り泣いていた山風を強引に立たせ、またアザミが廊下を駆けていく。背後では大爆発が起き、破片が足元まで飛んできた。

 もし今でもあそこに座っていたら......。冷や汗をかきながら、アザミは山風を励ましながら走る。

 

 

 

「はぁ、はァ.........!」

 

「いっ、行き止まり!」

 

 やってしまった......どうやらうまく自分は追い込まれていたらしい。

 山風と仲良く三人から逃げ回ること数分、使われなくなった格納庫に辿り着いてしまい、アザミは立ち往生をしていた。

 どうにか進めないか......?

 閉じていた巨大な扉を体重をかけて引っ張ってみる。すると、少しずつではあるが、開いていくのが確認できた。

 

「山風......そっチ......」

 

「うん」

 

 

「そこまでだ!!」

 

 

「............!」

 

 追い付かれた......!どうすれば...。

 アザミの顔から汗が流れ落ち、横の山風が青い顔をして絶望していたとき。

 

追い掛けてきた三人の頭上から銃弾が降り注ぎ、三人がその場に寝そべって上を向く。

 

 アザミと山風の二人も上を向いて、誰が何をしたのかを確認する。見れば、どうやって昇ったのかまでは解らなかったが、二階からアサルトライフルで威嚇射撃を行うステラの姿があった。

 

「クソッタレがぁ!!」

 

「逃げル......」

 

「わ、わかった!」

 

 ステラが時間稼ぎをしてくれていることを感謝しながら、二人が扉の隙間から奥に進む。追走を止められた三人はといえば、言わずもがな、全員が顔に青筋を浮かべながら、足止めをしてきたステラに殺す気で銃弾をお見舞いしていた。

 

「貴様も死にてぇかァ!!」

 

「食らえ!!」

 

「...............ッ」

 

 仰向けに寝た体勢のまま加古がサブマシンガンを斉射、続けて磯風が立ち膝をついてバズーカを撃ち、たまらずステラがその場から逃げる。

 チッ、邪魔が入った。まぁいい。どうせここならもう逃げられん。

 五十鈴(ステラ)が逃げたことを確認し、そんな事を考えながら。磯風は二人が逃げるときに開けていった扉をより大きく開いてから中に入る。

 中に入った瞬間、不意打ちなどさせるものかという意味合いで嵐が機関銃を乱射し、また銃身を交換する、そんなとき。二階からの五十鈴の声が三人の耳に入った。

 

「どうして、磯風!アザミになんの恨みがあるの!?」

 

「仕事さ!所長に殺せって言われたんでね!!」

 

「ザコは引っ込んでな!!」

 

 質問に暴言で嵐が返答したあと、加古が手榴弾のピンを引き抜きながら、暗闇へ向かって口を開く。

 

「聞いてるかアザミ?今までは運良く生き残ったみてぇだがな、そうはいかねぇぞ!!」

 

 あてずっぽうに投げられた手榴弾が爆発する。すると、積んであったスクラップの崩れる音に混じって、鉄板張りの床を走る足音も聞こえたことに、三人が薄気味悪い笑顔になる。

 

「......逃げたな」

 

「あぁ」

 

「よし、アタシが上から回る。注意引いて」

 

「任せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 全く。なんてやつらだ。自分を殺すためならなんでもアリか?

 怯える山風の背中を撫でながら、アザミがハンドガンを片手に、部屋に響く物音や足音に全神経を集中させて周囲を警戒する。

 コン、と、自分のすぐ上から聞こえた音に敏感に反応してアザミが上に銃口を向ける......が、すぐに構えを解いた。居たのはステラだった。

 

「......私よ!」

 

「...............」

 

 良かった。味方が増える。

 相手の姿を確認したアザミがほんの少しだけ安心感を覚える。

 

「で、どうするの。狙われてるけど」

 

「......あの......動けない......やつ......出来ル?」

 

「「目を会わせる」ことさえできれば......」

 

 アザミとステラがそんな会話を交わしている最中。三人が隠れていた場所を機関銃の弾とバズーカの弾が掠め、近くにあったスクラップの山が粉々に砕け散る。

 

「っと、ここにずっと隠れているのもまずい......」

 

 

 ステラがそう呟いた途端に、アザミが彼女へ銃を向けて引き金を引く。

 

 

 一体何を......!?

 ステラが疑問を持つ間もなく、発射された銃弾は彼女の頬を掠める。そして外れた弾は、その背後の上にいた加古の肩に命中した。

 気付かれるとは思っていなかった加古は、肩を撃ち抜かれた影響で持っていた武器を落とし、体勢を崩して三人が隠れていた場所に落ちる。

 

「っがぁ!!てっ、テメェ!!」

 

「.........危なイ」

 

「...ありがとうッ、来てるよ!」

 

「頼んダ」

 

「任せて」

 

 二人分の足音がこちらに向かっていることを察知し、ステラが隠れていた積み廃材から身を乗り出す。はたしてそこには、火気類を構えて走ってきていた磯風と嵐の姿があった。

 

「わざわざ出てきたァ!?」

 

「手間ァとらせやがって!!」

 

 銃声を味方の物だと間違ったらしく、ステラが物陰から出てきたのを加古のやったことだと結論付けて、元気よくこちらを撃ち殺そうと武器の銃口を向けてくる相手へ。

 

ステラが「目を会わせる」。

 

 

「「...............!?」」

 

「ふう。終わった」

 

「もう大丈夫」

 

「ほ、本当に?」

 

「うン」

 

 アザミも島で一度掛けられた、ステラの「目を会わせた人間が、その場から動けなくなる」能力で微動だにできなくなった二人から、アザミが武器を奪い、それを並べて持っていた銃で撃ち抜いて壊す。

 これで大丈夫か。もう相手が何も持っていない事を確認したアザミが、ステラに金縛りを解くように言う。

 

「もう......いイ......」

 

「わかった」

 

「............ッ!!??」

 

 固定されて立っていた二人がその場に転び、すかさずアザミとステラが持っていた銃を向ける。

 ......ここからどうしようか。

 アザミが今後の動きについて考えようとしたとき。部屋のどこかに付いていたスピーカーからこんな声が響いてきた。

 

『どうした。早く始末しろ』

 

「ご覧の通りです。逆に殺されそうですが?」

 

『命令に背くと言うならば、貴様らの命もないぞ!!』

 

「......!?何だと!!」

 

 スピーカーを中継しての磯風と富川の会話が終わったあと。

 

 

部屋のガス管が大爆発を起こし、室内の壁や天井が崩落し始めた。

 

 

「............!!」

 

「えっえっ!?何なの!?」

 

「あの野郎......最初からこうするつもりだったのか!!」

 

 ............。取り合えず逃げるか。素早く結論付けたアザミは、肩を撃ち抜かれて倒れていた加古に肩を貸しながら急いで出口へと走る。

 そんな彼女の様子を見て、ステラが変な顔をして走りながら質問をする。

 

「そいつ敵よ!?」

 

「逃げる......味方......多いほう......良イ。......手伝わせル」

 

「ケッ、誰がテメェなんかに」

 

「そうか?私は乗ったぞ」

 

「ハァ?」

 

 崩落する天井や鉄パイプが降り注ぐなか、なぜか楽しそうな顔をしながら、走ってアザミを追う磯風に、嵐が意味がわからないとぼやく。

 

「ここの生活も飽きてきたところだ。所長も気にくわなかったしな」

 

「チッ......勝手にしやがれ」

 

「それで、どこにいくんだ?」

 

「格納庫」

 

「近道がある。ついてこい」

 

「............どうモ」

 

「構わんさ」

 

 .........正直一緒に行動したくないが......仕方がないか。

 先頭を走る磯風に着いて、廃棄格納庫を脱出しながら、アザミはそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ついに泊地から脱出を果たす二人とその付き添い四人。

爆発騒ぎと脱走騒ぎ、そして銃弾飛び交う暴動が発生し、

事態は意外な方向へと進んでいく。

 

 次回、「血染めの青い肩」。 これがブルーショルダーだ。

 




というわけで鬼ごっこ(捕まったら死ぬ)回でした。


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血染めの青い肩(挿絵有り)

御待たせしました。次でコラボ回は終わる予定です。


 

 

 

 磯風が逃走中に立ち寄った部屋の電源設備を滅茶苦茶に破壊したせいで停電を起こし、電気や監視カメラの機能が落ちた廊下を、ならず者三人、スパイ二人、ついでに巻き込まれた一人の計六人が駆けていく。

 最短距離で格納庫に着いた六人は、たまたま訓練終わりでその場に居合わせた艦娘達をなぎ倒して、各々の艤装を見つけて装備する。

 

『アザミ、磯風らの艤装装着を許すな!!』

 

『射殺しろォォォ!!』

 

「......ふん、もう着けちまったぜ?」

 

 予備電源を使用しての館内放送に、相手にはもちろん聞こえないが、嵐が返事をする。

 「弾と武器は持てるだけ持ってけ」という磯風の忠告に従い、アザミが格納庫に置いてあった火気類を艤装の積載量の許す限りの数を分取り、ステラと山風の三人でリフトに乗って地上を目指す。

 なるべく楽に脱出できたらいいな。アザミがそんな事を考えていると、リフトの上昇が止まり、全員が地上に到達する。

 

「ついたか。どこから出る?」

 

「............!」

 

「えっ?アザミ?」

 

 外に出るや否や、誰よりも早くその場から海に降りてどこかへ行くアザミを、ステラが呼び止める。五人が何事かと海を滑っていく彼女を見守るなか。

 

「............」

 

 アザミは艦娘用のバズーカ砲を担いで管制塔に狙いを定め、遠慮なく引き金を引いた。

 

『ん...?しっ、司令官!!』

 

『何だ?...なっ!?』

 

 発射された弾頭は煙を巻き上げて飛んでいき、そのまま吸い込まれるように司令室に着弾。轟音を響かせて、塔に取り付けてあったアンテナやスピーカーといった設備が海面に落下していく。

 

「............」

 

 そしてそこから流れるような動きで他の監視塔に向かって次々とロケットをぶっ放すアザミを見て、あまりの手際の良さに気持ち悪さを感じながら、山風が口を開く。

 

「な、なに、やってるの......あれ」

 

「気でも狂ったのか?」

 

「いやそうじゃない。奴等の目をツブして回っているんだ。これでもう何やったって知ったこっちゃ無いって事さ!」

 

 よほど泊地での生活に不満があったのか。嬉しそうに喋りながら磯風が逃走の算段などすっかり後回しに、基地の設備に向かって砲を向け弾をばら蒔く。

 訓練から基地に戻る途中の艦娘に容赦なく砲弾の雨をお見舞いする味方へ、若干軽蔑の眼差しを送りながら、ステラが山風を引き連れてアザミの後を追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「手伝うよアザミ」

 

「いイ。早く......逃げル」

 

「でも、あの人たち」

 

 演習場内から見える監視塔を全て潰したあと、アザミが持っていた武器を投げ捨て、加勢に来た二人に言う。しかし山風が指を指した方向を見て、アザミとステラは頭を抱えたくなった。

 

「はーはっはっはっ!!」

 

「やっちまぇぇ!!」

 

「ブッ飛ばす!!」

 

「「............」」

 

 あんのトリガーハッピーどもめ......。

 増援やその他の危険を見越し、さっさと逃走することを優先しての行動が無駄にならないか、と、アザミが、騒ぎを聞いてやってきた艦娘たちに砲撃を行う三人に向かって叫ぶ。

 

「何してル!!」

 

「全部ぶっ殺したほうが逃げやすいだろ?」

 

「黙って来イ...!」

 

「チッ...うるせーな」

 

 「ベチャベチャ言うならテメェらだけで逃げろよ」。そう言ってきた嵐に舌打ちし、アザミが二人を連れて逃げようと反転したとき。破壊した塔の一つがまだ生きていたらしく、スピーカーから、これもどうやら殺すまでには至っていなかった富川の怒号が聞こえてきた。

 

『暴動になる。自動防衛機構を使え』

 

『え?いや、しかし味方が......』

 

『構わん!一軍以外は替えが利く!動くものは全て敵だ!!』

 

 .........言わんこっちゃない。

 抹殺命令の放送を聞いて青くなるどころか、ますます嬉しそうに「楽しくなってきやがった」、「殺りがいあるねぇ」などとのたまって水中や壁から出てきたトーチカを撃っている三人から、アザミ達が距離を取る。

 

「みっ、味方です!」

 

「な、なんだ!?無差別にやる気か!?」

 

「あああぁぁぁぁ!!!!」

 

 本当に味方ごと殺す気なのか......?......正気の沙汰じゃない......。

 増援として出てきたところを無人操縦の砲台に撃たれて倒れる艦娘たちを見て、思わず助けに向かいそうになるステラを、アザミが肩を掴んで強引に連れていく。......が、二人が頭で考えていることは同じだった。

 

「放して!助けに」

 

「......駄目」

 

「どうして!」

 

「逃げなきゃ......犠牲......増えル」

 

 アザミの発言の意図を察して、ステラが歯軋りをしながら、爆発音と悲鳴が聞こえてくる後方を睨む。

 そんなやり取りや考え事を逃走者達がやっている最中も、絶え間なく増援やトーチカから放たれる砲弾が飛び交い。ついさっきまでは静かだった演習場が、共食いの時を思い起こさせるような、艦娘達の阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる状態になっていく。

 

 

 何分経ったのか。

 血のように赤黒い夕焼けの光で見た目も血の池のような色になっている水面を、ただひたすら敵を無視してジグザクに三人が滑っていると、後方から砲声とは明らかに違う人間の声が聞こえてきた。

 

「やっと追い付いた。着いてこい」

 

「従う必要が?」

 

「ここは外壁に囲まれててな。一ヶ所だけ脆い部分があるからそこを壊して出ていこう」

 

「............」

 

 先頭を進む磯風の背中を真顔で見つめ、アザミが不機嫌そうなステラと震える山風を宥めながら、その後を着いていく。

 ふと、何かを感じたアザミが頭を右に傾けた。すると頬を砲弾が掠め、目線の先で大爆発を起こす。一瞬だけ振り向いて後ろに目を向けると、何人かの艦娘が綺麗に隊列を組みながら追い掛けてきていた。どうやら、ならず者三人が振りきれなかった追っ手も一緒になって追い付いてきたようだ。

 

 .........本当に、こいつらはちゃんと逃げるつもりはあるのか?

 

 ニタニタと気持ちの悪い笑顔を浮かべて、両肩にロケットランチャーを持って後ろを向く嵐を見て。アザミは舌打ちをしそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「とんでもねーことんなっちまったナァ.........」

 

「これも運さ」

 

「.....................」

 

 包囲網を突破し、何とか六人が壁を越えて脱出に成功した頃には、完全に日が落ちて周囲は暗闇に包まれていた。

 基地から数十キロ離れた地点で人数確認や武器の交換のためにと一先ず停止し、まるで他人事のように呟く三人に苛々しながら、アザミは持ち込んだ予備弾倉を砲に装着していると。加古が眠そうな顔をしながら質問をしてきた。

 

「で。どーすんだいこっから。逃げる算段はできてんだろ?」

 

「味方......呼んダ」

 

「準備万端かい。こりゃ命の心配は無さそーだナ」

 

「どの口が言うのかしら。あんたらが暴れたせいでしょ」

 

「..................そっくり返すぜ」

 

「なんですって」

 

「やめとけ。こんなところで仲間割れしてる場合か」

 

 口論を始める加古とステラの間に磯風が仲裁に入った時だった。

 

 

いきなり周囲が真っ昼間のように明るくなり、六人が眩しさに目を細める。

 

 

 何だ?アザミが腕で影を作りながら前を向くと、そこには横一列に並んでこちらを威圧する、ブルーショルダー達が立っていた。

 この光景を目の当たりにした瞬間。山風はかつてないほどに青ざめ、他の五人は全身から冷や汗が吹き出た。

 いったいどこからこんなに湧いて出てきた......。明らかに120人以上の数がいる相手を見て、前の第五鎮守府防衛戦よりも遥かに兵力差がある状態に立たされ、動悸が激しくなるのが自分でもわかるほどに狼狽するアザミに配慮する訳もなく。前方にいた艦娘たちの声を拾った無線から、艦娘と富川のやり取りが聞こえてきた。

 

『アザミ、五十鈴、山風、磯風、嵐、加古の六人を発見しました。逮捕しますか?』

 

『殺せ!欠片も残すな!』

 

『『『了解!!』』』

 

 

「......へへっ、潮時かねぇこりゃ」

 

「運命かな。どうしようもない」

 

「そう言っとけばなんとかなると思ってんのか?」

 

「来ル」

 

「わかってんよ」

 

 覚悟を決めねば。全員がそう思って、所持していた武装全てのセイフティーを外し、適度な距離を保っての連携攻撃をしようと編隊を組もうとする。が、同時に全員が相手から違和感を感じ取った。

 

(......撃ってこない?)

 

 こちらが捕捉されてから一分が経過しようとしているのに、副砲の弾一発すら敵部隊が飛ばしてこないことに、六人が不思議な気持ちになっていたとき。

 傍受した無線から、若い女の声が聞こえてきた。

 

 

『パラオ泊地の部隊に告ぐ。直ちに武装を解除しろ』

 

『繰り返す。直ちに武装を解除し、事情を.........』

 

 

「......誰の声だ?」

 

「知らないな。上の人間か?」

 

 あいつか。声の主が誰なのかを知っていたアザミが、ほんの少しだけ口角を上げたのを見た磯風が相手の事について聞く。

 

「..................♪」

 

「......お前、知ってるのか」

 

「味方......行ク......!!」

 

「は?」

 

 味方だ、と発言すると同時に、動きが止まっていた相手目掛けて、艤装に取り付けるタイプのロケット砲を一斉発射しながらアザミが艦娘の壁に突進。慌てて五人が半ば自棄を起こしながら、同じように弾の許す限りに火気類を乱射しながら敵陣に突っ込んだ。

 

「.....................!」

 

「うわぁっ!?なっ、正気かあいつ!!」

 

「っ!弾幕で狙いが!」

 

 全弾を撃ちきる勢いで発射された弾があちこちで爆発し、猛烈な爆煙が巻き起こる夜の海上を、煙にむせながら六人が突破。振り向き様に煙幕をありったけ振り撒いて、全速力で逃げる。

 

 ......後は頼んだ。

 暗い海の中で、一点だけ赤く光っている場所を見ながら。アザミが敬礼をした。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら逃げれたみたいだ。あとはこいつらをどうするか、か。

 アザミ達が蒔いた煙が段々と晴れていき、先程と同じくこちらをライトで照らすブルーショルダー隊の艦娘達と相対しながら、女が考える。

 全員が、自分へ凄まじい剣幕で視線を向けてくることに、少し不快感を女が感じていたとき。相手の艦娘の一人が持っていたスピーカーから、富川の震えた声が聞こえてきた。

 

『......なんのつもりですかな?RD代表殿?』

 

「これはこれは富川大佐。いや、少し貴方の泊地に忘れ物をしてしまったもので。取りに来たのです」

 

『忘れ物、ですか』

 

 富川のこの発言が出た途端に。並んでいた艦娘達が一斉にRDへと砲を向け狙いを定める。

 

「......これは、どういう事ですか?お出迎えは必要ありませんよ。すぐに帰りますから」

 

『シラを切ろうというのか。この期に及んで。このクソアマめ。諜報屋の始末は止めだ。貴様だけでも海の藻屑にしてくれる』

 

「とうとう正体を見せたな。それが素か?富川謙太郎。それに残念だがこんな場所で死ぬ予定は組んでいない」

 

『どうせ貴様のせいで私はもう失脚が確定した。最初に見たときから気にくわなかった。今日は私にとっての記念日となるのだよ。刑務所に入る前の最後の、「いけすかない女を殺して心置きなく快眠できる」というな』

 

「.....................」

 

『どうした。死ぬ覚悟を決めているところか?可哀想だがあと数秒も待っていられんぞ』

 

「二度目を言わせないでくれ。私は死ぬつもりも無いし、自殺しに来た訳でもない」

 

 RDは腰に差した二本の剣を抜き、体の力を抜いた楽な姿勢をとる。それを艦娘の持っていたカメラ越しに見ていた富川は、あからさまに余裕そうな態度の相手に苛立ちを隠せない様子で喋る。

 

『おめでたい脳みその女だ。この状況で勝って逃げおおせるとでも思っているのか』

 

「.....................死ねるか。戦いで死ぬのは結構だが、下衆の人形相手に命を落としたくはないな」

 

『.........やれ。肉片ひとつ残らない灰にしてしまえ』

 

 

 艦娘達の砲が一斉に火を噴いて、自分のもとへと砲弾の雨が殺到する。

 それを、特に苦もなく回避か切り払うかでやり過ごし。RDは呟いた。

 

「......言ったはずだ。死なんよ」

 

『ばっ.........』

 

「あと、この状況で逃げれると思っているのか、だったか。......思っているとも」

 

 

 

 

「進退(きわま)まろうと、気概があれば活路は開ける。......殺せるものならやってみろ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

次回、「解体」。 死神が死ぬときがやって来た。

 




キャラ投票で一番だったRDの挿絵を入れました。
どうでしょうか......?(心配


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解体(終)

大変お待たせしました。
投下と同時に投票の結果発表です。

・同率→ウツギ、響、春雨、城島提督
 北海道編の人人気やな......

・一位→RD(装甲空母姫)
 砲雷撃や艦載機なぞなんのその。多対一でガン=カタしまくるのがウケたのでしょうか。堂々の一位です。まさかこんな人気があるとは......

では本編どぞ。


 

 

『何をやっている!たかが姫級が一匹だぞ!?』

 

「し、しかし」

 

「..................」

 

「っ!!くっ、来るな......」

 

 いかに手練れと言えど......動揺が広まった状態で統率のとれた動きはできまい......今のうちに数を減らすか。

 RD十八番の砲弾切り払いを目にしたせいで、敵部隊の完璧な連携行動に隙ができ、すかさずRDがそこを突いて次々と動きが甘くなった艦娘の肩や足を剣で刺し行動不能にして回る。

 

「撃て、撃ちまくれ!必ず死ぬはずだ!生物ならば!」

 

『数はお前らのほうが上だ!包囲して蜂の巣にしろ!』

 

「...............」

 

 いちいち喋らないと動けないのか。ピーチクパーチクうるさいやつらだ。

 少しずつ自分を取り囲み、四方から砲弾を飛ばしてくる艦娘達へ。恐怖よりも「面倒」という感情を抱きながら、RDは至って冷静そうに、出来て当然と言わんばかりに真顔で砲弾を剣で弾き、動きを止めた敵を刺して回る。

 ふと、後ろから誰かが近付いてくる気配を察知し、RDは袖が焦げてボロボロになったスーツの上を脱ぎ捨てる。そして予想通りに不意打ちを掛けようとしていた艦娘が背後に居て、その顔に布が被さったのを確認して彼女の両足の筋を剣で割く。

 

「あぁっがっ......!?」

 

「悪く思うな」

 

 恨むなら自分の上司を恨むんだ。

 そんなことを考えながら、数分間続けたこの作業が少し面倒になってきたRDは何かを思い付いて、今両足を刺して身動きを取れなくした艦娘の肩を掴んで立ち上がらせ、首筋に西洋刀を突き付けながら、敵の大群へ向かってこんなことを提案した。

 

「いかがですか。富川中佐。これ以上は時間の無駄だと思いますが」

 

『構わん!やれ!』

 

「「「了解!」」」

 

「............なるほど」

 

 味方ごと殺す事もいとわない、か。

 ため息をつきながら、RDは素早く拘束していた艦娘を開放し、どういうわけか彼女を背中に乗せ、口を開いた。

 

「えっ.........?」

 

「しっかり掴まってろ。こんな所で死ぬ必要は無い」

 

 背中の艦娘に笑顔でそう言うと、忠告通りに彼女が腕に力を入れる感触が伝わり、準備が出来たRDは人間一人を背負った状態で、先程と何ら変わらないパフォーマンスを相手に見せつける。が......

 20から先は数えていないが......あと100は居るな。殺さずに済むのは半分が限界だろうか。

 流石は海軍お抱えの精鋭と言うべきか。少しずつ自分の動きに対応し始めるブルーショルダー隊の艦娘と相対しながら、RDが考える。

 

「..................」

 

 右に10。前に30ほど。囲まれている事を考えると、十字砲火の後に後ろから更に十字に狙撃してきそうだ。背中からの物をこいつを背負ったまま弾き返せるだろうか?

 「荷物」で相手の砲撃から剣でカバーできる範囲が狭まったことを、RDが考えながらライトアップされた海上を立ち回る。

 不味いな。防御に回る時間が増えてきている。早く決着を着けねば。苛烈になってきた攻撃の最中に。RDは自分の背中から何かの反動の感触を感じとる。

 ........この子が手伝ってくれている?

 背負っていた艦娘の砲から煙が上がっているのを確認し、RDが彼女へ話し掛ける。

 

「......良いのか。味方だろう」

 

「死にたくないだけです。貴女を助ければ私の生存率は上がると見ました」

 

「現金だな。でも........」

 

 

「気に入った」

 

 

 周りが全て自分の敵だというのに、冷静かつ打算的に判断を下して加勢してきた背中の艦娘に短く返事をして、RDが少し口角を上げた表情になる。

 このまま短期決戦だ......。それにもうすぐあいつらも......。RDが滑らかな動きで剣を振っていると、背中の艦娘が口を開く。

 

「どうせこのあとは裁判にかけられて解体されて牢屋です。なら、せめて悔いがないように暴れてやります」

 

「......悲壮感たっぷりのコメントの割には楽しそうじゃないか」

 

「楽しいわけが。一周回って笑ってるだけです」

 

「............そうだな。じゃあこうする。お互い無事生き残ったら良い弁護士を紹介しよう。限界まで刑は軽くするよう手配する。こう見えて私は偉いんでね」

 

「本当に勝てると思ってるんですか」

 

「勝てるさ。負けると思わなければ」

 

 過酷な状況下で時間が経つほどに、火が入ったせいで消耗するどころかますます動きが洗練されていくRDに恐怖と格の違いを感じて顔色が悪くなっていく相手とは対照的に、薄い笑顔を浮かべて楽しそうに艦娘とお喋りをしながらRDが海上を滑る。

 そんな時。RDを取り囲んでいた艦娘達の背後から、拡声器越しの老人の声が響いてくる。それを聞いたRDはニヤリと笑い、ブルーショルダーの面々は更に顔が白くなった。

 

 

『全艦、直ちに攻撃を中止せよ!』

 

 

「.........やっと来たか。遅いんだよ」

 

 砲弾の雨が止んだ海の上で、RDはズボンに入れっぱなしにしていた無線機のスイッチを押し、口を開いた。

 

「時間がかかったじゃないか」

 

『悪い。RD』

 

「本当だ。死ぬかと思ったぞ」

 

『もう大丈夫だ。アザミと蹴翠提督も帰って、重要参考人も四人ほど着いてきた。富川はもう刑務所から出られんだろうさ』

 

「その言葉を待っていた」

 

 海軍元帥の声が聞こえてきた方向を見ながら、無線機から流れてくるウツギの声を聞いて、RDが頬を緩める。

 気を緩めた表情を浮かべるRDを見て、状況がよくわからなかった、彼女に背負われていた艦娘がRDに質問をする。

 

「終わった......ですか?」

 

「あぁ。約束は守る。顧問の弁護士を紹介するよ」

 

「......実感が沸きません。みんな黙りコクっちゃって......夢みたい」

 

「夢じゃないよ......生きてて良かったじゃないか」

 

 ふうぅぅぅ、とため息をついて体重をかけてくる艦娘にそう言ったあと。スピーカーとカメラを持っていたブルーショルダーの艦娘へ、RDが言う。

 

「まだやりますか。富川大佐......元帥に喧嘩を売る度胸があるならば......ですが」

 

 右肩が青い服の艦娘のスピーカーからは、男の唸り声しか聞こえてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったのか。裁判お疲れさま、アザミ」

 

「..................」

 

 洋上迷彩柄の作業着姿のアザミにペットボトルの水を渡して、ウツギが労いの言葉をかける。

 

 アザミ達が泊地から派手に脱出し、RDが単独で数百の艦娘を相手取った日から数えてちょうど一週間。ウツギは自分とアザミしか居ない執務室の机に積まれた書類の一つに目を通す。

 アザミが隠し撮りした「共食い」演習の様子、そして蹴翠提督が秘密に調査してきたパラオ泊地の情報。トドメに磯風、嵐、加古が提供した数々の機密の暴露により、富川は全ての官職を剥奪されて無期懲役、ブルーショルダー隊は解体された。

 そう書かれている書類を片手に、口をへの字型に固く結んでいるアザミへ、へらへらしながらウツギが切り出す。

 

「死刑でも終身刑でもなく、無期懲役なのが不満か?」

 

「..................」

 

「そうか.........でもしょうがない。奴の部隊は軍に凄まじい恩恵を与えていたんだ。どれだけ性根が腐っていたと解ったって、二つ返事で処刑なんぞ周りが通さなかったんだろう」

 

「..................」

 

 .........話題を変えるか。

 自分の言葉に、ただ無言で頷くだけだったアザミに、悪かったと思いウツギが話を切り換える。

 

「蹴翠提督はどうだった」

 

「......優しい......人」

 

「だろうな。敵も助けようとしたんだって?」

 

「うン」

 

 本当なら......立派な人だ。そういうやつばかりなら世の中楽だけど。

 今回の騒動のきっかけになった富川と、第三鎮守府を取り仕切っていた濁った目をしていた天龍のことを思い出しながら、ウツギはお茶を飲みながら別の書類に手を延ばす。蹴翠提督についての資料だ。

 変身、読心術、金縛り、戦闘技能......まだあるらしい能力。これは自分も悪さは働けないな、こんなのが来たらあっという間にしょっぴかれる、などとウツギが冗談で考えていると、部屋の扉をノックして春雨が入ってくる。

 

「失礼しまス」

 

「どうかしたか」

 

 浮かべていた笑顔が、どことなく愛想笑いのような無理に作ったものに見えたのでウツギが聞くと、春雨がひきつった笑いを浮かべたまま話す。

 

「その......新しく配属される人達ガ......」

 

「......犯罪者でも来るのか?」

 

「間違いのような合っているようナ......あはハ......」

 

 ......どういうことだろうか。春雨の発言に心なしか渋い顔をしたような気がするアザミを尻目に、ウツギが新しく配属されてきたという三人の艦娘を案内するように春雨に言う。

 数分後。部屋に入ってきた三人の艦娘を見て、ウツギはアザミと春雨が焦っていた理由を知った。

 

 

「今日から世話になる。磯風だ」

 

「嵐」

 

「加古ってんだ」

 

「...............初めまして」

 

 頼もしい以上にとんでもない問題児らしいのが三人もか.........余計な仕事がまた増えるかも。

 今日は別の仕事で深尾が鎮守府を空けており、自分が臨時の提督だと言うことを説明しながら。気持ちが悪いほどの満面の笑顔でアザミを見ている三人を見て、ウツギは軽い頭痛を覚えた。

 

 

 

 

 

 




はい、コラボ偏最終話でした。
最終回詐欺で始まった章でしたが、これで本当に終わりになります。(コラボ依頼とか来たらまた再開するかもしれません)
稚拙な文章を垂れ流していた作者ですが、いままで閲覧、感想、ご愛読頂き本当にありがとうございました。


オマケ


前話でRDのスーツの胸に付いているマークです。

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ゴーストアーミィ・ワイルドスイムズ(艦隊これくしょん~特自第一海上機動歩兵団コラボレーション企画)
時よ


皆様お久し振りです。

コラボ企画第二弾、今回はいつも感想を頂いていた早瀬誠晏様の作品、「艦隊これくしょん~特自第一機動歩兵団」とのコラボレーションになります。

作者様からは許可を頂いたため、今回も  超 転 回  になる可能性が大です。
ご了承ください。


 

 

 

 ウツギが、若葉との一対一の演習で一日を費やした日から数年。RDを仲介しての深海棲艦との停戦交渉も着々と進み、今、日本という国の海には平穏が戻りつつあった。

 そんな穏やかな日々が続くなか。ほどほどに晴れて、ちょうどよく涼しい風が吹く過ごしやすい気候の今日。少ない仕事を早々に終わらせてしまい、第五鎮守府の執務室で、ウツギは深尾と他愛ない無駄話に花を咲かせていた。

 

「暇だな。そう思わない?」

 

「良いことじゃないか。自分達に仕事が来ない、って事はそれだけ平和ってことだろう」

 

「いや、若葉が最近うるさくてな......」

 

「単艦で出撃でもさせればいいんじゃないか。二つ返事で了承すると思うが」

 

 「まさか。何かあったら上からドヤされるぞ」。おちゃらけたような苦笑いで返答してきた自分の上司に薄い笑顔で返事をし、ウツギは読んでいた本に意識を集中させる。

 ......これ、前に読んだやつだな。数行読んでそんな事を思いながら、ウツギが本を閉じたとき。部屋に置いてあった固定電話が鳴る。

 

「はい、こちら第五横須賀鎮守府です。ご用件は.........」

 

 ただでさえ最近暇なのに、ここに電話なんて久々だな。いつぶりだろうか。

 受話器に一番近かった深尾の応対を見ながら、ウツギは電話の内容についてと平行して考える。数分後、通話を終えた深尾の口から出てきたのは、こんな話だった。

 

「ウツギ、お客さんが来るとさ」

 

「珍しいな。また査察の依頼かと思ってた」

 

「俺もそー思ってたんだがね。またどうにもお偉いさんが来るらしい......」

 

 自慢じゃ無いが、自分達の大戦果で、すっかりその「お偉いさん」の仲間入りした深尾の上を行くお偉いさんね。まさか元帥レベルだろうか。

 相変わらずの仏頂面で、椅子に深く腰掛けながら、ウツギが、着崩していた軍服を直している上司を見ていたとき。ドアを軽く三回ノックして、セーラー服の上から緑色の防弾ジャケットを羽織った艦娘......磯風が入ってくる。

 

「失礼します.........所長、客が来てるぞ」

 

「......!? もう来たのか!?」

 

「あぁ。なにかやましいことでもやったか? スゴそうなのが来てるぜ?」

 

 前に居た部隊のクセが抜けきっていないのか、深尾を「所長」と呼んだ磯風が、口を弓型に歪めて楽しそうな顔になる。

 スゴそうなの......一体何がどう「スゴい」のだろうか。気になったウツギは磯風に聞いてみる。

 

「スゴいとはなんだ」

 

「マッポの首みたいなヤツさ。黒い服着て椅子にふんぞり返ってそーな。まだ若かったがな」

 

「.........マッポ??」

 

「おっと、サツとかおまわりって言ったほうが良かったかナ......まぁなんか胸にこれ見よがしにバッヂがジャラジャラだったから。気を付けといたほうがいいと思うよ」

 

 「護衛もなんだかクサかったから頑張って」。へらへらしながら、そう言って磯風はふらふらと部屋を出ていく。

 ......要約すると、警視総監みたいな人が来たってことか。......べつに何もないけど。一応、立ち振舞いは気を付けるか。

 「客」を出迎えるため、ウツギは椅子に掛けていた戦袍(ひたたれ)(外套の一種。せんぽうとも読む。)を羽織りながら、深尾と一緒になって部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

瀬川範政(せがわ のりまさ)"特将"だ。よろしく」

 

「お初にお目にかかります。第一艦隊にて、旗艦を勤めさせていただいております。ウツギと申します。遠路はるばる、お越しいただき、ありがとうございます.........」

 

 二人が部屋を出た数分後。来客を探すためにと鎮守府の外で深尾と別れたウツギの近くに停車していた、パールブラックの高級セダンから護衛の艦娘二人と共に降りてきた、若いながらもどこか貫禄と威圧感がある男へ。ウツギが挨拶をしてからお辞儀をする。

 ......敬語、これで合ってたかな。間違っていたらどうしよう......。

 襲撃者でも現れようものなら皆殺しにしてやろう、とでも言いたそうに目を爛々と輝かせて殺気だっていた護衛二人に、凄まじい悪寒と居心地の悪さを感じながら......努めて無表情で、ウツギが考えていると。男の方から声をかけられる。

 

「堅苦しい挨拶はいい。案内頼む」

 

「はい。ではこちらに......」

 

「「............」」

 

 いったい私が何をしたというんだ......なんでこんなに猟犬みたいな目で睨まれないといけない......。まさか言葉遣いが間違っていたか。

 心のなかでぶちぶちと文句を垂れながら。ウツギは帽子を目深に被り直し、背後から突き刺さる視線を出来る限り無視しながら、三人を来客室に案内する。

 

 背中からのプレッシャーのせいなのか、いつもは短く感じる廊下が、今のウツギにはなぜか永久回廊に感じるほど長く思えていた時。廊下の突き当たりで春雨と会った。

 

「あっ、おはようございまス」

 

「おはよう.........」

 

「後ろの方は......お客様でしょうカ」

 

「そうd.........」

 

 

「仕事の話で邪魔しに来た。瀬川範政だ。君は、駆逐棲姫だな?」

 

 

 .........? 春雨に用事があるのか?

 案内の途中だったのが、春雨を見たとたんに足を止め、彼女に話を振る瀬川を見て、ウツギが気になっていると、男はそのまま続ける。

 

「良いところで会ったもんだ。客の俺が言うのもあれだが、着いてきてくれないか」

 

「...............?」

 

「今回の仕事が関係しているんだがね......君が一番適任なんだ」

 

「あ、あの......すいません、何がなんだか......」

 

 今回の作戦で春雨を突撃にでも使う気か?

 彼女の体質を知っているウツギが、瀬川の言葉に割り込みながら考える。すると瀬川は、自分に劣らずずっと仏頂面だった顔をほんの少しだけ笑顔にして、こう言った。

 

「詳しいことは部屋でだが」

 

 

「南方海域に現れた戦艦棲姫。そいつについての案件だ」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 鎮守府近海の水中。ウツギが、水面から差し込んでくる光をうっとおしく思っていると、目の前で自分と同じく水のなかに潜っていた艦娘...... 護衛についていた一人が口を開いた。

 

「呉鎮守府から来ました。航空母艦、加賀です」

 

「......どうも」

 

「初めましテ」

 

 一体何なんだろうな。この状況は......。自分と春雨、相対する加賀の三人が海に潜って話をしているこの状態に、違和感を感じながら、ウツギも口を開く。

 

「あの......なぜ水の中でお話ししなければいけないのでしょうか」

 

「これから話す内容のせいね。結構デリケートな話題なの。言いたくないけど、内通者とかが居たら大変でしょう」

 

「なるほど。ではもうひとつ......どうして貴女もこの場所で平然としていられるのでしょうか」

 

 体が人間よりかは深海棲艦に傾いている自分や春雨はともかく、こいつは艦娘のはずだ。潜水艦の艦娘でもなければ、艦娘というのは水中という環境に拒否反応を示すはずなんだが。

 水の中に潜って既に数分。常人ならもう息継ぎに戻る時間をゆうに越えていることについてウツギが加賀に突っ込むと、相手はこう返事をした。

 

「あら、今言おうと思っていたのだけれど......そうね」

 

 

「私も貴女と同じなの。資源再利用艦の一人よ」

 

 

「............!!.........どこで建造されたのでしょうか」

 

「貴女たち三人とは違うわ。呉の設備で私は造られたの。正確には「改造された」と言ったほうが正しいかしら」

 

「改造された......?」

 

「......昔は空母棲姫って名前だったわ。RDって名乗っている装甲空母姫がいるでしょう? それと同じ。私も降伏してきたのよ」

 

「「..................」」

 

「続けるわ。向こうのやり方についていけなくなって、逃げてきたわけだけど。失敗して、後ろから撃たれて瀕死で海を漂っていたの。そうしたら、呉の鎮守府に拾われて......」

 

「最初は酷い有り様だったらしいわ。覚えていないけど、四肢は焼ききれて損失。外傷が酷すぎて修復材も効果なし。じゃあどうしたか......本当に、人間の技術には感服するわ」

 

「貴女を作った研究所の技術......そして深海棲艦化の技術を統合して治療したそうよ」

 

「......と、言うと」

 

「艦娘から深海棲艦が作れるなら、逆もできると考えたのよ。春雨さん。あなたの逆になるわ。私という艦娘は。......みてくれだけで、この通り水の中で息をするなんて平気だけど」

 

 ......逆、か。そんなことができたんだな。

 最初こそ嘘かと思っていたが、彼女の頭にちらついている白い髪の毛と、手袋でもしているのかと思いきや、地肌が指先に進むにつれて黒くなっている腕を見て。本当かな、とウツギが思っていると。加賀が話題を変えて続ける。

 

「話を戻すわ。南方海域に現れた戦艦棲姫の撃退。それを貴女たちに頼みに来たわ」

 

「私たちである必要ガ?」

 

「あとで話すけど、ちゃんと理由があるわ。この深海棲艦......数ヵ月前に、降伏を装って基地を占拠して、周辺海域に睨みをきかせているらしいの。これを追い払うのに協力して頂戴」

 

「撃退、と言いますが、撃破、轟沈は?」

 

「もちろん許可が出ているわ......そう簡単に行くとは思えないけど......」

 

 加賀が話していたその時。ウツギが外套の中に入れていた防水のスマートフォンのバイブレーションが起動し、何かと思った彼女は、携帯の画面を覗く。そこには、鎮守府に戻るようにと、深尾からのメッセージが送信されていた。

 

「どうしたのかしら」

 

「鎮守府に戻るようにと。内通者や盗聴機等の確認が終わったので、こんな場所で話す必要も無くなったみたいです」

 

「そう。じゃあ、あがりましょうか」

 

「はイ」

 

「............」

 

 戦艦棲姫の撃退か。同じ深海棲艦がいることは別に驚くことでもないが......前ほど厄介な敵じゃないことを祈るか。

 「どーせ今回も一筋縄じゃいかないのだろう」。なんとなく、これまでの経験からそう考えながら。ウツギは水中で深く息をはく。口から漏れた空気が泡になり、それは水面にぶつかって消えていった。

 

 

「......頑張るか。」

 

 

 太陽光を反射して、水中からでもきらきらと光っている水面を見上げながら、ウツギは一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

唐突に現れた五人目のリサイクル艦、加賀。

基地に戻ったウツギは、彼女を擁する特殊部隊、

それへの編入を命じられる。

そして同時に、彼女は特将より「ある作戦」を授かる。

 

 次回「桜の森」。 「おしおき」が始まる。

 

 




いかがでしたでしょうか。

たった数週間ですが文章力がガタ落ちしてそーで怖い作者です(白目


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桜の森(挿し絵有り)

お待たせしました。

あるお方からリクエストがあったので、今回は「ヤツ」の挿し絵があります。


 

 

 

 海中での加賀との顔合わせの後。三人は濡れた服を着替えて、人を待たせているからと、少し駆け足で来客用の部屋へと向かっていた。

 一番最初に部屋に着いたウツギは、扉を三回ノックして中に入り、両手でドアを閉めてから、中で待っていた瀬川特将へ、口を開いた。

 

「ただいま戻りました」

 

「早いな。もう少し、ゆっくりしていても良かったんだが」

 

「性分でして。」

 

 机を挟んで深尾と対面するようにソファーに腰かけていた男と、その護衛の艦娘へ、ウツギが軽く会釈をする。

 加賀は一目で加賀と解った。が、こいつはなんという艦娘なのだろうか。

 目付きの鋭い、軽く見た容姿は駆逐艦吹雪に似ているが、体格が明らかに大人のそれである女の方を見てウツギが考えていると。深尾に席に着くように勧められたので、ウツギは上司の隣に座った。

 数分後、遅れて春雨と加賀が部屋に入り、全員集まったと言うことで、瀬川が「要件」を話し始めた。

 

「まず非礼を詫びさせてほしい。仕事とはいえ、粗探しのような事をしてすまなかった」

 

「いえ、仕方がないことですから。大丈夫です」

 

「そうか。......仕事の話に入ろうか。君がウツギ、そっちが春雨。間違いなかったかな?」

 

「合っています」

 

「良かった......。君たち二人には、加賀と共に敵基地に侵入する作戦に参加してほしい」

 

「......たった三人で? 流石に自信がありません」

 

「何も敵を殲滅してきてほしいわけじゃない。隠密作戦さ。それをこなす潜入部隊に、ぜひ二人が欲しいんだ」

 

 三人だけでの作戦参加。それに拒否反応を示したウツギと、口にはしなかったものの、少し嫌そうに眉を潜めた春雨へ、瀬川は噛んで含めるように説明を続ける。

 

「隠密部隊......便宜的に俺たちは「ゴースト・チーム」と呼んでいるんだが。作戦の概要は、要約すると「拠点爆破」だ。所定の位置に爆薬を設置して起爆させてほしい」

 

「爆破って......取られた基地を取り返しに行くのではないのですか? 設備被害は?」

 

「問題ない。好きなように破壊活動をしてくれ」

 

「..................設備にこだわって撃退に手間取るよりも、基地ごと吹き飛ばす。そういうお考えで」

 

「ふふ、頭がいいな君は。当たりだ。下手に気を使って作戦が長引けば、使う金も馬鹿にならないからな。早めに終わらせたいのさ」

 

「......人件費、高いですからね。私はまだ安いほうですが」

 

「漬け込む形になったのは謝ろう......だがこれだけは言わせてほしい。君たちの卓越した戦術眼と生存技能を見越しての頼みだ......資料を見て驚いたよ。君と組んだ艦娘に死者が一人も出ていないということに。加賀も安心すると思うんだ。幸運の女神が居てくれれば」

 

「.........買い被りすぎです。自分はそんな、ありがたい生き物じゃ無いですよ。ただただしぶとく生き残っただけで......」

 

「いや、違うな。出撃回数200以上で作戦成功率80%超え、そして何よりも生存率100%。誇っていいことだ」

 

「......ありがとうございます」

 

 なんだか、やけに自分を誉めてくる人だ。......だからといって、死ににいけとか言われても頷くつもりは無いが。

 目上の人間に称賛されたことは何度かあれど、度が過ぎていると感じたウツギが相手の言葉にうっとおしさを感じる。と、同時に言いたいこともあったので、瀬川にこんなことを言ってみる。

 

「一つ、いいでしょうか」

 

「なんだ」

 

「もう一人だけ、参加させては駄目でしょうか」

 

「.........それぐらいなら呑める。今、呼べるかな?」

 

「ええ勿論です。......では」

 

 良かった。駄目と言われたらどうしようかと思っていたところだ。

 承諾を得たウツギは、スマートフォンを操作して、「もう一人」を部屋に呼びつけた。

 

 ほどなくして、礼儀など知ったものかとばかりに、ノックすらせず、ウツギの呼んだ「もう一人」が部屋の扉を開けた。

 

「何の用だ」

 

「ノックぐらいしたらどうなんだ若......」

 

「......ほう、サザンカか。噂通りだ、すぐにわかった」

 

 部屋に来た若葉の無礼な振る舞いに、ウツギが苦言を呈するのを遮り、瀬川が興味津々と言った様子で若葉に声をかける。

 当の若葉は、一切の感情を削ぎ落としたような無表情で切り返した。

 

「誰だ貴様は」

 

「初めましてだ。瀬川範政と言う。噂は聞いているよ。君に作戦に参加してもらいたいんだ。この、加賀とな」

 

 瀬川の側に、扉のある方に背を向けて立っていた加賀が、若葉の方へと向き直る。が......

 

 

「.....................!!??」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「...............♪」

 

 今度は真顔とも笑顔ともつかない微妙な表情を浮かべていた若葉に。握手を求めようと振り向いて、その顔を覗き込んだ加賀は、背筋に電流のように流れた悪寒に思わず手を引っ込めた。

 

 ......何故だろうか。こいつの回りだけ、空気の温度が低い気がする。それに、この、頭に目一杯鳴り響く警報は......?

 

 説明の難しい気味悪さを目の前の小柄な駆逐艦から感じとり、加賀が自分の動悸が激しくなる感覚に戸惑っていると。若葉が先に口を開いた。

 

「どうか......しました......? 傷つきますねぇ......若葉が何か、しましたか?」

 

「......ッ、なんでもないわ。これからよろしく頼むわね」

 

「若葉でよければ......うふふ.........♪」

 

 恐る恐るといった様子の加賀とは対照的に、飄々とした、どこかふてぶてしいとも取れる態度で、若葉は相手と握手をする。

 

 瀬川、加賀、そしてウツギには名前のわからない艦娘の三人が部屋を出ていった後。ウツギは若葉に説教染みた声をかける。

 

「客に向かって殺気をぶつけるとはな。何様だ」

 

「......腹が立ったのさ」

 

「...何?」

 

 「暇潰しだ」。てっきりそんなような言葉が出てくるのだろう、と踏んでいたのに、予想外な言葉が出てきて、ウツギは怪しい顔になる。

 

「気持ちが良いものではなかろうさ......あんなにギラギラ自分の上司を睨んでくるなら」

 

「......深尾の事を思ってだったのか?」

 

「勿論」

 

「若葉.........」

 

 目を細くして笑顔になる若葉へ、深尾がまんざらでも無さそうな表情になる。どうやら護衛に数十分睨み付けられていたのが堪えたらしい。

 たまには良いことするんだな......いや良くはないか。ウツギが思っていたとき。

 

 

「嘘に決まってまス」

 

「バレたか」

 

 

 春雨の突っ込みに、すぐに本心を白状した若葉へ。一転してウツギは軽蔑の眼差しを向けた。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「.........ありがとう。セガワ」

 

「どうした急に」

 

「気を、使ってくれたんでしょう......私のために」

 

 第五鎮守府から、自分達の家代わりである呉鎮守府へと車を走らせる瀬川へ、助手席の窓に肘を乗せて頬杖をついていた加賀が声をかける。

 どういう意味だろうか。瀬川が考えているうちにも、加賀は続ける。

 

「出自のせいで孤立しがちな私のために......あの人たちを選んだんでしょう。それぐらいはわかるわ」

 

「......どうしてそう思った」

 

「例の部隊......ゴーストだったかしら。戦歴や腕前だけで選ぶなら、他にも候補はあったはずよ......それこそ、あの子達よりも手練れで度胸もある大本営勤務から何人か引っ張ってくる、とかね」

 

「......鋭いな」

 

「姫級をなめないで頂戴......この黒い腕のせいで、散々言われたもの。それを気にしていたのは自分だけじゃなかったのは、意外だったけど」

 

「気にするさ。お前だって俺の部下だからな。心配しない訳がない」

 

「..................本当に、人間とは不思議な生き物なのね」

 

 そっぽを向いて、窓の外に広がる、満開の桜並木が流れていく様子を見ている加賀へ。彼女には見えていなかったが、瀬川は楽しそうな笑顔になる。

 

「でも、良かったの。本当にあの子達で。言ったら悪いけど、あの子には荷が重いと思うのだけれど」

 

「問題はないと思うがね。吹雪はどう思った?」

 

 加賀の質問に、瀬川は返事をしたあと。後部座席に座っていた、普通の吹雪とは明らかに違う容姿をした、戦艦の艦娘に近い体格の、薄手のコート姿の艦娘へ投げ掛ける。

 

「少し心配ですけど......大丈夫じゃないでしょうか」

 

「例えば?」

 

「失礼ながら、ずっと殺気をぶつけてみたんです......動揺はしてましたけど、同時に堂々としていました」

 

「......あの子、あなたに睨まれたのに、あんなに平然としていたの!?」

 

「はい......ちょっと驚きましたよ。目で殺すのは慣れていたのに......」

 

「そんなことしてたのか吹雪......」

 

「すいません。でも、度胸も肝も据わってましたよ。あの人」

 

 笑いながら言う吹雪に、加賀がひきつった笑顔になる。

 吹雪に睨み付けられて動じない艦娘か。でも、ただ単に鈍感だっただけではないのか。そう思った加賀は、更に瀬川に聞いてみる。

 

「......度胸は丸。でも気概だけでこなせるほど、今度の作戦は甘くないと思うわ。特に個人の強さが試される今回は......」

 

「逆だ。弱いからこそ、強いんだ」

 

「......?? 意味がわからないわ。どういうことかしら」

 

 何をいっているんだこいつは。そう言いたげに視線を向けてきた加賀へ、得意気な顔で瀬川が説明する。

 

「強い奴ってのは、どれだけ注意していようが、心のどこかで敵を侮る......ウツギはそれが無いと思うんだ」

 

「基本的に自分より強い敵を相手しないといけない状況に立たされ続けた彼女だ。だから絶対に敵を舐めて真正面からいくような真似をしない......「(から)め手を使って勝つ」手段をいくつも考えて行動に移さないといけないわけだ」

 

「そしてそれは結構キツい事だ。安全策から博打に近い行動まで一通り作って、最適解に近いものを選び行動する......咄嗟に頭を使わなければいけないし、なにより失敗すれば、場合によっては死ぬことになるし、それで自分だけが不利益を被るならまだしも、他人を巻き込みかねなかったりな」

 

「そしてもう1つ、彼女には強い武器がある」

 

「......どんな?」

 

「それはな。「評判の割には、一人だと対して強いやつじゃあない」って噂がでてしまっていることさ」

 

「万が一今回の人事が敵に漏れてもいいわけだ。むしろ、情報を手に入れた敵が馬鹿なら、こっちを侮ってかえって作戦が楽になる」

 

「そんなところまで考えて......呆れた。利用する気満々ね」

 

「保険だよ。相手にも賢いのがいれば警戒されるしな......まぁ、とりあえずは素の実力もある三人だ。繰り返すが、組んで良かった、と思える相手を選んだつもりだがね。」

 

 .........それなりに長い付き合いだけど。心が読めない人間だな。この人は。

 半分ほど開いた車の窓から入ってくる桜吹雪を眺めながら、加賀はシートに深く体を預けて、仮眠でも取ろうかとまぶたを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

水中を潜航しての進軍を行う四人。

道中で野営を行いながら、彼女たちは親睦を深める。

元深海棲艦の若葉と加賀。

出自の同じ二人は何を話し、感じるのか。

 

 次回「化け物」。 誰も知らない。風が知っている。

 




サザンカ、どーでしょうか。不気味な感じが出ていれば、と思います。


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化け物

投下します。 ちょっと賛否両論入りそうな描写があります。ご注意ください。


 

 

 

 

 

『ほらリコ公、知ってること話すクマ』

 

『はい。では......』

 

『戦艦棲姫......あいつはなぜか「戦艦棲鬼」を自称していますが......作戦の立案、陣頭指揮、捕虜を活用した海軍への圧力。色々こなしてたやつですが、実は奴一人ならそこまで驚異ではない...です』

 

『問題は連れている部下。最低でも姫級が三人以上居ることを考慮する必要がある...ます。用心深い奴で常に誰か侍らせているが、特に護衛役の「重巡棲姫」、こいつが一番危険だ...です。戦艦棲姫に見つかるような事があっても、絶対にこいつに見つかってはいけません』

 

『「いじめと人殺しが大好き」。重巡棲姫はそう平然と広言するような性格だったし、これまで数々の艦娘や人間を手にかけてきたそうです。それも、「効率がいいから」なんて抜かして味方ごと撃ったり。ね.........挙げ句の果てには戦艦棲鬼に殺した人間の頭皮を持ち帰って、奴を閉口させたこともあるらしい...です』

 

『驚異ではない、とはいえ、もちろん戦艦棲鬼を警戒しないなんて下策はナシです。奴の策士っぷりは、部下にも伺うことができない程で、立てた作戦の全貌を把握するのは部下からのタレコミだけじゃ困難を極める。直接聞かないと......です』

 

『おまえたち......んん、RDのポクタル島電撃戦、田中恵の本土強襲作戦、そして深海棲艦傭兵たちによる北海道突撃......これらもあいつが独自に作った「兵法用法」なる作戦マニュアルに乗っ取って行われました。これは我々の作戦立案のバイブルにもなっています。目を通せば、馬鹿でも指揮官になれる、とね』

 

『件の基地占拠についても、ブルーショルダー隊の解散を機に、電撃作戦で強奪したらしい。武闘派でもないあいつが前に出てくるのはかなり珍しいが、停戦や和平で兵隊が減って人員不足なんだろうな。とは言えまったく、どこから部隊解体の情報を手に入れたのか。そのネットワークには謎が多い奴だ...です』

 

『とりあえず......知っているのはこれぐらいでしょうか』

 

『リコッちお疲れッス。はいお茶』

 

『ウッちゃん達の武運を祈ってるクマ~』

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 瀬川との作戦会議をやった日から数えて一週間。

 既に周辺は敵の勢力圏ということで、万一にも敵に悟られないようにと夜の海中を、RDの友人だと言う姫級の潜水棲姫に牽引されながら。ウツギは携帯の電源を入れ、リコリス棲姫が編集した敵についての情報が纏められた動画を見終わった所だった。

 策士・戦艦棲鬼。説明を聞く限りだと、今まで戦ったことがないタイプの敵になる。が、しかし、今回は表だってやりあう必要はない。適度に緊張感を保ちながら、いつも通りやろうか。

 

「もう少しで着くよー」

 

「承知した」

 

 考え事の最中に声をかけてきた潜水棲姫へ、軽い返事をして、ウツギは顔を前に向ける。

 目を向けた方向には、薄暗くてはっきりとは見えなかったが、事前に野営する予定を立てていた廃棄された海上基地跡地があり、ウツギは持っていた携帯を羽織っていたマントの中にしまう。

 数秒としないうちに、ウツギは潜水棲姫の艤装から延びていたワイヤーを服から切り離して基地に上陸し、続けて同じように春雨、若葉、加賀の順番で、作戦に参加する面々が基地に到達。

 全員居ることを確認したウツギは、ここまで自分達を引っ張ってきた潜水艦の艦娘達へ礼を述べた。

 

「ありがとう潜水棲姫。案内助かった」

 

「いいよいいよ。RDの頼みだし......気を付けてね」

 

「ご迷惑をおかけしましタ」

 

「礼はいらんでち。さっさと行けでち」

 

 夜の海へ体を沈め、闇に溶け込んで消えていった艦娘達を見送り、ウツギは泊まるのに使えそうな建物がないか周囲を確認する。

 放置されて数年がたった基地の建物はかなり老朽化が進んだものばかりで、びっしりと赤錆にまみれたガレージが多い中、コンクリート造りで比較的まだ基礎がしっかりしていそうな小屋をウツギが見付ける。ここにするか。そう決めた彼女は三人に口を開く。

 

「ここにしよう......何か問題は?」

 

「特に無いわ。早く食事を済ませて寝ましょう」

 

「そうか。......仕切りで中が別れているな。2・2で入ろう。加賀は誰と一緒がいいんだ?」

 

「若葉となら」

 

「若葉と......? ......解った」

 

 若葉と一緒がいい、か。普通に考えれば変なやつとなるけど、元深海棲艦同士、親近感でも沸いたのかな。

 艤装にくくりつけていた袋から取り出した寝袋二つと、春雨が背負っていたバッグから出した畳まれたエアーベッドを二人に渡しながら、ウツギはそんなことを考える。

 まあいいか。今日は早めに寝よう。

 春雨と建物の中に入ってすぐ。ウツギは栄養ゼリーの封を切り、中味を口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「奇特なやつだ......若葉を選ぶなんて......ね。うふふ......♪」

 

「同じ生まれのよしみよ。仲良くしましょう」

 

「ふふ......てっきりウツギのやつを選ぶと思っていたからなァ......少し驚いている......」

 

「最初にあったときはごめんなさい......あなたとはお話がしたかったの」

 

 ウツギと春雨はもう眠っていた時刻。二人は向かい合った状態で、ランタンの灯りに照らされながら、マグカップでコーヒーを飲んで談笑(?)をしていた。

 次はどういう言葉が出てくるかナ。若葉が思っていたとき、加賀が口を開いた。

 

「聞きたい事があるのだれけど。いいかしら」

 

「どーぞ。ご自由、に......」

 

「じゃあ......艦娘になって良かった、って思う事とか、有るかしら」

 

「ん~......? ......難しいね」

 

「......存外無かったりするの?」

 

「逆さ。沢山あるとも――」

 

 「例えばこれだ」。持っていたマグカップを指差して話す若葉へ、加賀は怪訝そうに顔を覗き込んできた。それを見た若葉は薄ら笑いを浮かべる。

 

「コップがどうかしたの。家具集めが好きなのかしら」

 

「んふふ......中味の事を言った............こういった物を楽しめること。それは人間の特権だしな」

 

「............」

 

 口許に手を置いて、何かを考えているような仕草をとる加賀へ、若葉は続ける。

 

「嗜好品の類いもそう。そして娯楽の類を楽しめること。......そして大っぴらに深海棲艦を殺せることか」

 

「......最後のは余計ね.........元は仲間なのに、抵抗ないのね」

 

「くふふ......刃物で肉を断つあの感触は何物にも代えがたい......それに仲間と思ったことなぞ、無いからねぇ.........」

 

「...............?」

 

「どいつもこいつもみな一様に敵を殺せ敵を殺せ......それ以外に言えないのかと、周囲の馬鹿共に煩わしさを感じてねぇ......敵対するのは特に苦にならなかった」

 

 「ウツギみたいな面白いやつにも会えたしな。そこは艦娘になれて良かったと思うよ」。穏やかな表情でそう締めくくる若葉を見ながら。加賀はコップの飲み物をすべて口に入れる。

 .........噂通りのただの戦闘狂かと思っていたが。案外、根は優しい性格の子なのかもしれない。そんな評価を加賀が若葉に下していたとき、今度は相手からこんな質問が飛んできた。

 

「若葉からも一ついいか」

 

「ええ勿論」

 

「お前の悩みごとを一つ聞かせてくれ」

 

「.........そう、ね......」

 

 

「人を殺した事があるのに、今のうのうと寝返って艦娘として生きていることかしら」

 

 

「ほう......?」

 

「あの人は......瀬川は私を受け入れてくれたわ。でもこの両手は人間と深海棲艦の両方の血液で濡れている......時折、私はどうして今生きているのかが解らなくなるの」

 

「............ふふふふ♪」

 

「......何がおかしいのかしら」

 

 自分の出した問いに対する加賀の独白を聞き、それを若葉は鼻で笑う。この対応に当たり前と言うべきか、少し頭に来た加賀が凄む。

 

「いや、なに......妙に哲学的に考えるやつだと、思ってね............」

 

「............」

 

「若葉だって殺したことはあるさ......艦娘をな。そして殺してくれてありがとうと言われた」

 

「............殺したのに感謝された......?」

 

「あぁそうとも。なにやら後から聞けば、そいつは身分の高さを鼻にかけた暴れ女だったらしい。死んで清々したと言っていたよ」

 

「......良かったわね。運が良くて。普通はそんなこと言われないでしょう」

 

「だろうねぇ......神のご加護に感謝だ.........。お前もそこまで悩む必要はないと思う」

 

「どうして。そんな楽観的にはなれないわ」

 

「非難する奴が居ればこう言ってやればいいんだよ......「元は敵同士だったんだ......そしてこれは戦争。隣のお友だちがいつ死んだっておかしくはないぐらいの心構えでいないお前が悪い」とかね......」

 

「......とんでもない。そんなこと言ったら刺し殺されるわ」

 

「うふふ、半分冗談だ......瀬川とか言ったか。あの男。お前を気にかけている......」

 

「............」

 

 

「そういう、一緒に悩んでくれる人間がいるならば......どうすればいいのか、時間が答えをくれそうな気がするがナ......まぁ若葉の人生じゃない。お前の人生だ。勝手に悩んでろ」

 

 

 若葉の「答え」を聞いて。加賀は下半身を寝袋に入れながら、呟いた。

 

「......投げたわね」

 

「正直答えかねたんでね......」

 

 着けていた電気を消して、二人は膨らませたベッドの上に横になる。南方方面ということもあってか、夜でも気温が高かったため、上は薄着だった。

 

「明日の仕事は頼むよ......元化物同士、仲良くやろう......」

 

 「じゃあおやすみ」。若葉の声を聞いてから、加賀は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高度に築かれたハイテクノロジー要塞。

そんな要害に潜入を試みるウツギ達「ゴースト隊」は

全員が集中力を研ぎ澄ませて作戦に当たる。

しかし。これが戦艦棲鬼との戦いの序章に過ぎないことは、まだ彼女たちは知らない。

 

 次回「エイミング・ダンス」。 加賀の瞳に映るものは、何。

 




次回、また挿絵をぶちこみます。


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エイミング・ダンス(挿し絵有り)

今週は更新頑張るぞォォ!!


 翌日。今ウツギは、南部特有の蒸し暑い熱気で目を覚まし、寝汗でぐっしょりと濡れた服に顔をしかめながら、身支度をするために寝袋から這い出たところだった。

 流石は南方海域。暑くてかなわないな。そんな事を考えながら、彼女は外に乾かしていた戦袍と防弾ジャケットを黒のランニングの上から羽織る。

 

 それから一時間としないうちに外に集まった三人を見回し、全員しっかり居ることを確認。ゴースト隊は艤装を着けて、目標の基地へと海を航行し始める。

 敵に占領された基地まであと五キロとない地点まで差し掛かった時。道中は口にしなかった事だったが、雲一つない快晴の空を見ながら、ウツギは愚痴を呟いた。

 

「参ったな......」

 

「何が、ですカ」

 

「こう天気が良いと見晴らしが良すぎる。曇天のどしゃ降りでも来てくれたほうが今回は都合がいい」

 

「なってしまったことを悔いてもしようがないわ。......もう少しで着く。気を引き閉めましょう」

 

「フふふ......りょーかい...」

 

 そんなお喋りの最中にも四人は前進を続けていたため、ウツギの計算が合っていれば基地まで二キロの地点まで到達する。

 一旦全員が停止し、打ち合わせ通りに加賀が艦載機で偵察を行う......が、ウツギの予想に反して、加賀は背負っていたリュックサックに括っていた矢筒からではなく、バッグから球状の物体を取り出して飛行させ始めた。よく見れば、前にシエラ隊も相手をしたことがある深海棲艦の艦載機だ。

 

「艦娘になってから使うことになるとは思わなかったわ」

 

「猫艦戦か」

 

「えぇ。飛行機よりもこっちのほうが便利なのよ。どろーん? みたいに空中で停止もできる」

 

「ドローンじゃ駄目なのか」

 

「ラジコンは苦手なの......行きましょう」

 

 本来は機銃や爆弾投下装置が付けられている部分に、可動式のカメラが取り付けられた猫艦戦が飛んでいった方向へ、片目を瞑りながらそれを追う加賀に追従する形で三人が航行する。

 加賀が偵察機を飛ばして数分。目視で基地が確認出来るほどに四人が目的地に近付いたとき。加賀が渋い顔をしながら口を開いた。

 

「......様子がおかしい」

 

「何か見つけたのか」

 

「携帯を覗けば解るわ」

 

 加賀の言葉に、ウツギ他三人は身を低くしながら、スマートフォンに入れていた、艦載機のカメラ映像を携帯とリンクさせるアプリを起動させる。

 猫艦戦からリアルタイム中継で送られてきた動画......それは酷くノイズや砂嵐が混じっていて、とても偵察に使えそうな物ではなかった。

 

「酷いノイズだ.........ECM(妨害電波発生装置)か......?」

 

「恐らくは。......艦載機用のジャマー装置、完成していたのね......しかも使ってるなんて」

 

「......駄目元でこっちも使ってみるか」

 

 ウツギはそう言うと、背負っていた艤装の、本来は爆雷を格納する部分から小型のドローンを取り出して操作する。

 ......こっちも駄目か。

 飛ばしてみた結果、これから送られてくる映像も酷く不鮮明な事を確認し、ウツギは飛ばしたドローンを手元に戻す。

 

「ここからもう妨害電波の範囲か。どうしたものか......」

 

「待って。動画に映ってる、この、回っている何か、見える?」

 

「......車屋の看板みたいなやつか」

 

「ええ。前に見たことがある機械だわ。これ、もしかして電波の発生源じゃないかしら。止めてもらえれば、偵察ができるわ」

 

「止めてくるか。加賀は?」

 

「ここから少し下がった場所にいるわ。何かあったら艦載機で援護します」

 

「わかった。春雨、若葉、どうする?」

 

「近づいてから、一人ずつそれぞれ三方向から侵入しましょウ。考えたくはありませんが、仲良く捕まったらそれでお仕舞いですかラ」

 

「......だな。加賀、援護はいい。何かあったらお前だけでも逃げろ」

 

「............気を付けてね」

 

「......どうも」

 

 ......問いに答えない。これは、自分達に何かあったら突っ込んでくるつもりかな。......ヘマはしないようにしないと。

 打ち合わせを終え、その場にしゃがみこむ加賀を一瞬見返してから。三人は、基地へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 基地の港から200メートルとない場所の海中で、予定通りに三ヶ所に陣取ったウツギ達は、突入前の最後の連絡を行っていた。

 味方が居るとはいえ。心細かったウツギは、今日二度目の愚痴を吐いていた。

 

「たった三人で突撃か。胃が痛いな......」

 

『ふふ、怖じ気づいたか?』

 

「あぁ......逃げ出したいくらいには」

 

『大丈夫ですよ。いざと言うときには私が囮になりまス』

 

「まさか。いくら春雨でもそんなことはさせれないよ」

 

『そうですカ......じゃあ緊急時に一手は取っておきまス』

 

「緊急時の一手......とは?」

 

『......顔で脅かす、とカ』

 

「例えば」

 

『こうやっテ...... エ ガ オ デ ♪』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ウツギが見ていた携帯の画面に、春雨から写真が送られてくる。そこに写っていた、目を見開き、口から八重歯が覗く笑顔の春雨に、ウツギは思わずひきつった顔になって身を引く。また彼女は知らない事になるが、このとき若葉は一瞬背筋に冷たいものを感じて身震いをしていた。

 

「っ.........」

 

『ひっ......』

 

『お喋りはこの辺りで切り上げましょう。ではお先ニ』

 

「.........了解」

 

 過去のトラウマが呼び起こされたのか、端末越しに変な声をあげた若葉の事は気にしないことにして。ウツギはゆっくりと水中を泳いで前進する。

 

 基地に到達し、砂浜や、バリアフリーの階段のように緩やかな傾斜になっている、水の張った港の浅瀬(?)に匍匐(ほふく)した状態になって、ウツギはスナイパーライフルを構える。

 

「.....................」

 

 

「-- - - - - - - - ?」

 

「*****##*#*+++##*♪」

 

 

 積まれた資材の手前に重巡......いや軽巡が二人か。呑気にお喋りとは。策士なのは組織の頭だけか?

 銃のスコープで敵を確認した後、体を横にして寝そべった状態から、ウツギは持ちこんだ「特殊な砲弾」を三点バーストの連装砲に込めて、ゆっくりと引き金を引く。

 指切りで二回に分けて一発ずつ放たれた弾はウツギの目論み通りに二人の深海棲艦に着弾。数秒後にその場に倒れた彼女たちの元へ、ウツギは近づいて脈を測るために駆け寄る。

 

「「...............zzz」」

 

「......しっかり寝てるな。すごい効き目だ......」

 

「0 - - - - -0R4zro94y.!!」

「- - - - - -!!」

 

「......逃げるか............おやすみ♪」

 

 和平が成立しそうな今の時期。おおっぴらな敵の殺害はまずいと作られた、深海棲艦用の注射針のような形状の麻酔弾が首と胸にそれぞれ突き刺さり、目を開けたまま寝息をたてている二人のまぶたを閉じてから、ウツギは砲声を聞き付けた増援が来る前にとその場から離れる。

 

「..................」

 

 駆け足で移動しながら、ウツギは思わず笑顔になっていた。というのも、悪巧みがうまくいっての嬉しさが顔に出ていたのだ。

 基地の入り口でわざと砲声を出して敵の侵入を相手に察知させ、警備を手薄にする考えがうまくいったとは。あとはECMを停止させてゆっくりと基地を攻略だ。

 そんなことを考えて、できるだけ身を低くしながら走ること数分。加賀の艦載機からの映像で確認していた、回転する外食店の看板のような機械を前に、ウツギは加賀に電話を入れる。

 

「ドローンジャマー確認。二人は?」

 

『連絡は無いわ。あなたが一番乗りよ』

 

「そうか。レバー下げるぞ」

 

『どうぞ』

 

 黒一色の、いかにも軍用といった機械の電源を落とし、ウツギはそそくさと近くの古ぼけた小屋のような建物に身を隠す。

 これで安全に偵察しながら行動できるな。そう思いながらウツギは携帯の画面を覗く。が......

 

「ッ............これは......!?」

 

『.........どうにも、簡単には行きそうに無いわね』

 

 

 対空ミサイル設備が10基、ドローンジャマーが他にも4基。大型滑走路施設に戦闘機とミサイルヘリコプターが5機ずつ。そして各所監視カメラと、電柱に設置された警報器が3つ。

 全てがしっかりと機能すれば、艦娘だろうが航空機だろうがそう簡単には攻略できない程に攻撃用の設備が満載のこの基地に、ウツギが青い顔になった。

 

「どうしたものかな......」

 

 

「本当になぁ?」

 

 

 自分のすぐ横から聞こえてきた女の声に、咄嗟にウツギは前転で小屋から脱出し、砲を構える。数秒後に爆音とともに粉々に吹き飛んだ建物の破片に顔をしかめながら、ウツギは視線の先に居る誰かを睨み付ける。

 そして煙が晴れて出てきた相手を見て、ウツギは冷や汗をかいた。

 

 

「一人か? 一人だけか?? 久し振りの人殺しなのに味気ないな!!」

 

 

 興奮気味に話す女、「重巡棲姫」は、そういいながら、ゆっくりとウツギに近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

死傷者ゼロ。そんな目標の遂行を妨げる強敵に

不運にも遭遇したウツギ。

生来の人殺し、享楽主義者(きょうらくしゅぎしゃ)

様々な名を持つこの女。さて、どれほどか。

 

 次回「太陽」。 シエラ、アウト。

 




キチ顔は描いていて楽しいです。


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太陽

大変お待たせして申し訳ありませんでしたァ!!
なんか日曜日が定期更新日みたいになってるのは気のせいです(白目


 

 

 

 うだるような暑い空気の漂う、南方海域の基地の中で。ウツギは今、体中を汗で濡らして全速力で敵から逃げている最中だった。

 コンクリート壁やトタン板が吹き飛び、ひしゃげる轟音を背景音楽にして逃げ回るウツギへ。加賀から連絡が入る。が、当たり前ながら彼女は焦りと緊張でそれどころではなかった。

 

『ウツギ、聞こえる?』

 

「加賀、後にしてくれ!」

 

『いいえ、今言わせてもらうわ、敵があなたの方に向かってる。心当たりは?』

 

 

「へへひははははは!! 鬼ごっこか! 逃がさんぞォ!!」

 

 

「......一つ思い当たるフシなら」

 

 艤装の高速移動が出来ない以上、陸地で戦うのは危険すぎる。とにかく水辺に出なければ。

 そう考えている最中も背後から聞こえてくる爆発音と奇声に顔をしかめながら。ウツギは一瞬後ろを見、CPUのスイッチに手をかける。

 

『データ照合......敵性反応を確認しました。重巡棲姫です』

 

『敵は、各距離対応の武器を装備。間合いによって攻撃が変化する戦闘スタイルと予測されます』

 

『特に高威力の近接武器に注意してください』

 

 近接武器......? そんな物どこに積んで?

 腹部から伸びている大砲付きの生体ユニット以外に、これといった武器を持っているようには見えなかった相手に疑問を持ちながら。しかし警戒は怠らずにウツギは前を向いて走り続ける。

 

 何分ほど走り続けたか。ウツギにはわからなくなっていたが、目の前に水の張った大きなプールのような設備を見つけ。これ幸いと彼女は水面に立ち、艤装を稼働させ、両手に砲とスナイパーライフルを持って、追っ手の来た方向に向き直る。

 

「お? おぉぉぉ?? やる気になったのか?」

 

「............」

 

 両手で砲の付いた部位を担ぎながら発言した相手の不意をつく形で、ウツギは武器の引き金を引き、砲弾を相手に見舞う。

 これで終われば楽なんだけど。絶対にこれだけでは終わらないだろうな。そんなことを考えていると、やはり予想通りに、爆煙の中から笑顔の重巡棲姫が出てくる。

 重巡棲姫は、今日、春雨が見せてきたような目を見開いた笑顔でウツギに砲を乱射しながら突っ込む。

 

「留守中に来てくれて嬉しいぜぇ!! 暇潰しに惨たらしく殺してやる!!」

 

「...嫌だね............!」

 

「......ん?」

 

「死にたくないと言った......!」

 

 ストラップで腕から外れないように固定していたライフルを手離し、咄嗟に構えた手斧の柄で殴りかかってきた相手の拳の勢いを殺してから、ウツギは急いで砲で弾幕を張りながら後退する。

 そんな近付かれては離れてのやり取りを三回ほど繰り返した頃。ウツギは、相手の凄まじい馬鹿力をいなした事が原因で引き起こされる、腕の痺れに顔をしかめた。

 なんて力だ......たった三回でこれか。いつもの事だけど、長引くとまずい。

 インパクトの余韻が残る腕を振りながら、ウツギが砲を構え直す......すると運の悪いことに。遠方から走ってくるのが見えた、この戦闘の音を聞き付けてやって来た増援に、彼女は軽く舌打ちをする。

 

「......背面、オート」

 

『認証。背部砲門、自動射撃スタンバイ』

 

 少しでも手数を増やすため、とウツギはCPUの音声認証で背中の砲を自動制御に設定すると、斧を腰に戻し、先程と同じくライフルを担いで二丁拳銃の体勢を取る。

 目の前の重巡棲姫に、その後ろのネ級と思われる深海棲艦の射撃を、角度をつけた両手の盾でいなしながら、ウツギが後退していたとき。砲弾の一発が足を掠め、ウツギが転倒しそうになり、それを見た重巡棲姫が全速力で駆け寄ってくる。

 

「ヒェェェハハハハ!!」

 

「............!」

 

 が、ウツギも勿論死ぬわけにはいかず。以前、ブルーショルダー隊を相手取った時のアザミのように、ウツギは海面にむけて砲を撃ち、反動で強引に体勢を引き起こし、その勢いに乗って重巡棲姫に砲弾を叩き込む。

 今しかない。逃げねば。

 火薬が炸裂した煙で姿を消した重巡棲姫から、これを機に逃げよう、と考えたウツギが体の向きを変える......が

 

 

「居たぞ!! 一斉射撃!!」

 

「賊を撃ち殺せ!!」

 

 

「............冗談じゃない......」

 

 ウツギは、振り返った先に居た、両手で数える程の数の敵を見て、軽い目眩を覚える。そしてすぐ砲弾の雨を掻い潜り、また両手の武器を構え直し、艤装を操作して背中から盾を展開したその時だった。

 

 何度も死亡寸前まで追い詰められた経験がある彼女のカンが成せる技か。非常に不快に感じる何かを背後から感じ、ウツギは咄嗟に体を横にひねる。すると

 

 後方からロケットのように飛んできた「何か」が着弾し。ウツギにはよく見えなかったが、一番自分に近い位置にいた敵の、軽巡と思われる深海棲艦の一人がバラバラ死体となって吹き飛んでいくのが見えた。

 「何か」......重巡棲姫は、頭に血でも昇っていたのか、見境なしに味方を殴りながら叫ぶ。

 

 

「じゃまなやつらわァァ」

 

 

「皆殺しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「じゅっ、重巡棲っ!? ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!??」

 

「..................!!」

 

 見境なく腕を振り回している女の腹部から伸びている武装の部分に付いていた、回転しているドリル状のパーツで肉を抉られている敵から目を背けながら、ウツギは戦慄する。

 ドリルだと......!? あんなもの当てられたら......!

 標的は違うものの、宣言通りに惨たらしく殺害され、恐怖に歪んだ顔のまま水没していくネ級の死体を見て、ウツギの頬に冷や汗が流れる。

 

「..................!」

 

「フゥゥゥゥゥゥ......スッキリしたぜぇぇぇ.........」

 

 

「最高だ人殺し!! この世にこれ以上の遊戯があるのか!?」

 

 

「ッ......気狂いめ......」

 

「気狂いィィ...? 誉め言葉だねぇ!!」

 

 ......今まで何度も基地外相手に戦ってきたけど......ここまで大っぴらに味方を殺す奴なんてのは、田中以来久し振りだな。

 目の前の女に、妙な懐かしさを感じる暇も無く。またばか正直に......しかしウツギには充分驚異となる突撃を敢行する敵へ、ウツギは砲口を向けて引き金を引く。

 しかし、ひらひらと掴めない動作で、滅茶苦茶に動くように見せかけて、的確にこちらの攻撃を交わし続ける重巡棲姫に、全くといって射撃で牽制すらできないことにウツギが危機感を覚えたとき。

 砲の弾が切れ、マガジンが自動で外れたのを見た相手に強引に距離を詰められると、そのままウツギは相手に組み伏せられてしまう。

 

「しまッ.........!?」

 

「あははははははっ!!! 小娘!! 自分の骨が砕ける音を堪能しながら、死んでいけ!!」

 

「ぐっぅ......!?」

 

 顔中を様々な要因でかいた汗で濡らしたウツギへ、何の躊躇いもなく重巡棲姫はドリルを駆動させて彼女に降り下ろす。

 顔めがけて降り下ろしたドリルは、なんとかウツギが身をよじったため、肩に目測がズレたものの。独特の駆動音を響かせて回転するドリルで艤装ごと肩を削られ、余りの苦痛にウツギは叫び声を挙げてのたうち回る。

 

「がっ...!? うわああぁぁぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」

 

「アハハハハ!! そうだ!! 叫べ! 泣け! そして......」

 

 

 

「「死ね」とでも言うつもりか?」

 

 

「なんだと!?」

 

「...............!!!!」

 

 泣き叫んでいたウツギは突然平時と同じような声で呟くと、弾切れを装っていたスナイパーライフルで重巡棲姫の顔を撃ち、相手が怯んだ瞬間を見逃さず急いで相手の体ごと上体を引き起こして立ち上がる。

 そしてそのまま重巡棲姫を押してプールサイドの建物の壁に叩きつけ、相手の服の袖をハープーンガンで壁に縫い付けてまた射撃を行う。ウツギが狙ったのは

 

 壁に取り付けられた、施設破壊用の爆弾だった。

 

 ある程度の距離を保っていたウツギすら、爆風の余波で吹き飛ばされる程の猛烈な大爆発に巻き込まれた重巡棲姫の叫び声が、爆炎からこだまする。

 

 

「ウゥゥボォオォオアアァアァアアァァ!!??」

 

 

 

 一風変わった悲鳴が飛んでくる、赤々と燃え盛る施設を眺めながら。ため息をつきながら、ウツギは何時のまにやら、背中に立っていた若葉に愚痴をこぼす。

 ウツギが敵を引き連れて戦闘を行っていた頃、守備が手薄になった基地に着々と施設破壊用の爆弾を設置して回っていた若葉は、春雨より先に爆弾のストックが最後の一つを残して切れたため、音を便りにウツギの元に駆けつけていたのだ。

 

「はぁ......はぁ......いつまで黙って見ているつもりだ。若葉」

 

「黙って、だってかい? 爆薬を設置して援護したのは誰だ?」

 

「はいはい......ありがとうさん。 まだ多分生きてる。頼んだ」

 

「んフッ、任せな♪」

 

 戦垉がまさか役に立つなんて。これがなかったらまた腕が千切れる所だった。

 数分に渡る逃走劇と敵の猛攻で、疲労の蓄積したウツギがその場を若葉に任せて。先程のドリルが、羽織っていたマントが巻き込まれて回転が鈍くなったお陰で、軽傷で済んだ事を思い出しながら、ウツギはプールから上がり、爆弾を設置するためにまた駆け足になる。

 

 一人残された若葉はと言うと。まるで悪霊の類いのような、凄まじい形相で、体のあちこちが焦げた重巡棲姫と対峙していた。

 退路の確保のためにも。こいつはここで殺しておくか。そんなことを若葉が考えていたとき。重巡棲姫は白目を剥きながら口を開いた。

 

「貴様ら......影も形も無くしてやる............」

 

「おやまぁ......お怒りかい...?」

 

 低い声で唸る相手を見て、若葉は空いていた片手に薙刀を構える。その顔には、逆への字を越え、V字に近い程に口の両端を吊り上げた笑顔が浮かんでいた。

 

「ただでは殺さん......じわじわと殺す......まるで蛇の生殺しのようになぁ!!」

 

「ほぉう? じゃあ若葉は君をいちょう切りにしてあげよう♪」

 

 方や鬼の形相。方や笑顔。表情こそ違えど、今、気狂い同士の一騎討ちが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

以前、神風から稽古をつけられた若葉の神風心刀流。

対する重巡棲姫は我流の突撃術で猛攻をかける。

焦る相手に対し、時間の経過と共に動きが洗練されていく若葉。

勝利の女神はどちらに微笑むのか。

 

 次回「(わだち)の通り魔」。 炸裂。丙式・朧月。

 




重巡棲姫にはまだ頑張ってもらいます。
加賀さん無双はもう少しお待ちください。


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轍の通り魔

お待たせしました。書き溜めてきたので今週こそは連投できます。


 

 

「全爆薬の設置完了ね......若葉の姿が見当たらないのだけれど?」

 

「私は存じませんが......何かあったんですカ。ウツギさン」

 

「..................。」

 

 どう、弁解したものか。慎重に言葉を選ぶか......いや、いっそ思いきって言うか。

 若葉と持ち場を後退して数分後。ウツギは、エマージェンシーの鳴り響く基地へ、持ち込んだ爆薬を全て設置したあと、加賀と春雨の二人に合流して基地を脱出していたところだった。

 二人から、なぜ若葉がここに来ていないのか、と疑問を投げられたウツギは、思いきって本当のことを言ってみる。

 

「......自分達を逃がすために殿をやるらしい」

 

「っ!? たった一人で!? 正気の沙汰じゃないわ......!」

 

 何度か同じ所属で戦闘に参加し、普段からの若葉の事を知っている春雨は置いておき。「いつもの彼女」をよく知らない加賀が、目を見開き、言葉と同じ信じられないといった表情になる。

 

「戻りましょう。今すぐに。見殺しになんて......」

 

「ダメだ。再侵入は許さん。ここか前の野営地で待機だ」

 

「......あなた正気? 駆逐艦一人が、あの場所から逃げられるわけがないわ」

 

 普通に考えればもっともな加賀の発言に。ほんの少しだけ笑顔になりながら、ウツギが切り返す。

 

「違うな」

 

「..................何がです?」

 

「若葉を嘗めないほうがいい。あいつは絶対生きて帰ってくる。絶対だ」

 

「...............」

 

「一応聞きますが援護ハ...?」

 

「いらない。野営地のあの場所で今日一日待っても帰らなかったらそのまま逃げる。いい?」

 

「了解」

 

 あいつならきっと大丈夫。たぶん。

 「本当に大丈夫なのかしら」。加賀の言葉を流しながら、ウツギはゆっくりと後退を開始した。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「ぐッ.........!」

 

「ふひっ、ひひひひひっ!!」

 

 おいおい。なんだこいつ。ケタケタ笑ってるだけの阿呆かと思ったが、案外なかなか強いじゃないか。

 先程重巡棲姫ごと爆破し、大きな炎をあげて炎上中の建物をフラッシュバックにして襲いかかってくる敵に。若葉は苦戦していた。

 得物の薙刀の長さを生かしての遠心力を使っての凪ぎが相手の硬い表皮に弾かれ、突きは交わされ、おまけに時折発射する砲弾の射線も予測されて避けられてしまう。さてどう攻略したものか、などと考えていた若葉へ、重巡棲姫は余裕そうに、とびきりの笑顔を浮かべて話しかけてくる。

 

「ちょこまか逃げてるだけかァ?? 」

 

「............ふん」

 

「おっと、同じ手はくわん」

 

 会話の最中なら通るか......なんて安直な考えはやはり読まれるか。

 

 面 白 い。

 

 それでこそ殺しがいがある強敵だね。

 周囲から見れば、重巡棲姫とは対照的な不機嫌そうな顔だったものの。若葉は内心では笑い声を抑えきれないような愉悦を感じながら、体に染み付いた経験で機械的に刃物を振るう。

 

「そんな棒切れで深海棲艦が殺せるかぁ?」

 

「........................」

 

「へへへっ、動きは悪かねぇ。さっきより上等だ」

 

 早くも弾が切れた武装を適当に放り投げ、若葉は殴りかかってきた相手の腕に薙刀の刃を噛ませて勢いを殺す。そこに更に延びてくるドリル付きのアームを、若葉は瞬時に片手で刀を逆手で抜いて弾き、相手から一定の距離を保つ。

 そしてこうした命のやりとりの一連の動作を繰り返すうち、彼女は同時に相手の観察も行っていた。

 

(砲を撃たない。距離も離さないし、ウツギの奴とやりあって切らしたか、トッテオキ代わりにとっといてるか)

 

「はははは! どこまで持つんだかなぁ?」

 

(それにさっき、あぁまで簡単に燃やせたなら、こいつは周囲にあまり気を配って闘ってないのかナ?)

 

 何度も強引に距離を詰めてくるやり方と、言動から大体の相手の性格を察して。若葉は脳を酷使して目の前の女をどう殺すか模索する。

 もう何度目かわからないほどに相手の攻撃を弾いた時。とりあえず考えがまとまった若葉は、両手で握っていた薙刀を片手で持ち直し、先程盾代わりに使った黒い軍刀を鞘から抜くと、RDを真似して、相手に自分の体の側面を見せて対峙する二刀流の構えを取る。

 

「一度やってみたかったんだ~二刀流♪」

 

「ヒャァアアアア!!」

 

「おっと。んん、相変わらずシビれるねぇ......」

 

 手数が増えるのは便利かもしれない。が、腕一本だからその分力が入らなくなるのが考えものだな。

 話の最中に飛びかかってきた相手を両手の刃物で受けた途端に、想像以上に腕に衝撃の負担がかかるのを感じながら、若葉は思わず冷や汗をかく。

 

 長引かせるのは賢いやり方じゃあないねぇ。若葉としてもそのほうが好都合か。

 

 そう思った若葉は、行動を開始した。

 まず彼女はこの戦闘中初めて自分から相手へと距離を詰めると、今までと同じように薙刀を振って相手を切りつけ、先程と同じく弾かれてしまう。が、彼女は火花を散らして跳ねた得物を力ずくで強引に反動を抑え込んでまた女に叩きつけ、相手が怯んだ所にすかさず持っていた刀を振り上げ、皮膚に突き刺す。が......

 

「無駄ァ!!」

 

「ンふっ、おいおい......刃こぼれしたら責任とれるのか?」

 

「知ったことかぁ!!」

 

 「線」で攻撃する切りつけは試したが弾かれ、「点」の攻撃の突きで突破口を開こうとしたものの、これもまた刀の切っ先が激しく火花を散らし、バネのような反動を発生させて弾かれてしまったことに。若葉は改めて相手の体の硬さに舌を巻く。

 

「ヒャヒヒヒヒヒハハヒハァアアアア?!?!」

 

「おっ......とォ...」

 

 ......力みすぎなのが原因なのか。あえて、いっそ撫で斬りでも試してみるか。

 瞬間的な判断で腰から取り外した、発射する弾頭が無くなった魚雷発射装置を敵のドリルに噛ませて。それが甲高い金属音を響かせて粉々に削れていく様子を眺めながら、若葉は次の策を考える。

 

「ギッヒ......」

 

「よいしょッ」

 

 数秒ほどドリルで装備が削られる様を眺め、一瞬だけ相手に隙を見つけた若葉は、今度は相手の体に刀を近付けた瞬間にわざとその勢いを無くして、刃の部分を重巡棲姫に当てる。そして腕や腹部の輪郭をなぞるように刃物を引き始めた。

 .........なるほど。火花こそ散るが少しはキズがつくか。よし、これでいこう。

 一体何をしたいんだこいつは? そう言いたげな顔をしている重巡棲姫をよそに、若葉はこの女を殺すための知略を巡らせる。

 

「何のつもりだぁ?」

 

「ふふ、お遊びお遊び♪」

 

「遊びだとぉ? の割にはつまらんがぁ!!?」

 

「ンッヒヒ♪ 娯楽って言うのは、自分さえ楽しめればそれでいいんだぜ? まさかおたく知らない?」

 

「死ねえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ッッ!? ち。 今のはちょいとイタいナ。 品の無いやつは話してて面白いくない......やっぱりウツギが一番♪」

 

 何度も交差する重巡棲姫の腕と、若葉の二刀が激しく火花と金属音を響かせ、その音で掻き消されてしまう会話の最中。若葉は女から距離を離し、敵にドリルで突かれた右肩をにやけ面で撫でたかと思うと、また懲りずに薙刀で突きを敢行する。

 が、怪我をしたせいで勢いに欠ける剣撃は容易く相手にいなされ、すぐに相手の拳が飛んでくることを予測した若葉は咄嗟に薙刀を投げ捨て、刀を片手から両手に持ち替える。

 予想通りに飛んできた左ストレートとドリルの付いた艤装を、血液の滴る利き腕に左手を添えて構えた刀で若葉が受け止める。しかしその薄ら笑いを浮かべた表情は、苦痛で少し曇っていた。

 

「はははは! そんな棒切れでここまで持ったやつは初めてだ!!」

 

「お褒めいただき、ありがとう」

 

「もうお前なぞ用済みだ!! だから死ね!!」

 

「ぐッ...............でぇいっ!」

 

 つばぜり合いの状態に持ち込まれ、行動に制限がかけられた若葉へ、重巡棲姫は彼女の右肩に張り手を見舞う。傷を叩かれた若葉は激痛で一瞬顔をしかめたものの、根性で持ちこたえて相手を突き飛ばし、敵から間合いを取る。

 いままでの余裕そうな笑顔から一転、荒い息を上げ、顔を脂汗で濡らして傷口を抑える若葉へ、重巡棲姫は、張り手をした手に付いた血を見ながら、口を開く。

 

「はぁ......はぁ.........」

 

「どうしたぁ!? 血が出てるぞぉぉぉ!!」

 

 勝ち誇ったように、重巡棲姫は掌の血を舐めとった。その時だった。

 

 

突然重巡棲姫の掌が真っ二つに裂け、青い血液が流れる。

 

「!!??」

 

「.........フフッ...♪」

 

 

 

 

 

「どうした? 血が出てるゼ。」

 

 

 

 

 

「ははっ、はははははははははははッハァーー!!!! 」

 

「フフン♪ 来いよ。何時間でも相手になってやる。」

 

 いいこいいこ。そのままこっちにおびき寄せて......。

 若葉は無我夢中でこちらに走ってくる重巡棲姫を、刀を正眼に構えて迎え撃つ。かと思われた。が、

 

 今まさに女の一撃が若葉の顔を捉える瞬間、若葉は体を捻って回避し、重巡棲姫は勢い余って彼女の背後にあったプールサイドの縁に引っ掛かりそうになり、寸前で体を仰け反らせてその場に停止する。若葉は、そのまま素早く相手の後ろに回り込んだ。

 

 

「うぅおっ」

 

「あっさりかかったなァ」

 

 

 

 

 

「この瞬間を」

 

 

「待っていた。」

 

 

 

 

 若葉は、刀を鞘に収めると、両手でプールの底に刺さっていた薙刀を引き抜いて構える。

 

 そして、持った武器を、ゆっくりと弧を描くような動きで頭上に振り上げる。

 なんの真似だろうか。重巡棲姫がそう思った時、ふと彼女は左手に鈍い痛みが奔るのを感じ、視線を移す。すると

 

 彼女は自分の左手の肘から先が無いことに気づく。

 

 

「......壱に腕を斬る」

 

 

若葉は、狼狽する女を無視して、続けて流れるような動作で薙刀を振るう。それに連動するように、重巡棲姫の全身から血が噴出する。

 

 

「弐に足を削ぐ」

 

 

「参に首を撫で」

 

 

「終いに心をひと突き」

 

 

 

 

はい、おしまい♪

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「 」

 

「ン~......結構疲れたな。まったく」

 

 神風から教わったこの技......丙式朧月(へいしきおぼろづき)とか言ったか。なんだ、結構使えるじゃあないか。剣道とやらもやってみるもんだ。

 

 始めにわざとらしく遅い動きで相手の視線を誘導し、そこから間髪入れずに剣を振ることで相手の認識にズレを生じさせた所を刀剣で斬る。

 一種の視線誘導術や目の錯覚を応用するらしいこの技が、綺麗に相手に決まったことに。若葉は少し驚いている所だった。

 

「にしても、まさか薄皮剥けた傷をなぞっただけで削げ落ちるとはねぇ.........」

 

「 」

 

「............もう息がないか。ふふふ、楽しかったよ。じゃぁ、」

 

 

 

「バイバイ♪」

 

 

 

 両手と両足、そして首と胴部に深く刻まれた傷口から血を流して死亡した重巡棲姫へ。若葉はそう言うと、駆け足で基地から逃走を始めた。

 

 

 

 数分後、基地は若葉と合流したウツギが起爆した爆薬で壊滅。深海棲艦たちは海域からの撤退を余儀なくされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ゴースト・チームの活躍により、基地が陥落する。

そんな帰投した四人のもとへ、更なる仕事が舞い込む。

仕事の案件。それは、

基地に不在だった深海棲艦、戦艦棲鬼からのメールだった。

 

 次回「ウィーク・エンド」。 誰かに声をかけて、無茶な口説きかたをして。

 

 




急いで次回を仕上げねば......(使命感


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ウィーク・エンド

まさかの描き貯めたデータが消し飛ぶ非常事態(白目)
仕事にお絵描きにシノアリスに執筆作業が加わって気が狂うほど忙しいんじゃ(白目


 

 

 

 .......................。どうしてこうなるんだか。本当、嫌になるな。

 

 重巡棲姫を一人で蹴散らした若葉と合流し、一日掛けてウツギ達ゴースト隊の四人は第五鎮守府に帰投していた。

 が、本来なら任務完了と言うこともあって、歓迎会ムードな筈のこの場所に充満した重たい空気に。ウツギは心のなかでため息をついていた。

 帰ってきて早々、「仕事」を頼まれたウツギは眉間にシワを寄せながら、深尾と応対する。

 

「.........なんで私が対応しないといけないんだ」

 

「向こうが指定してきたんだ」

 

「なんでまた自分が......」

 

「知らん。まぁ気を付けて」

 

 自分達のいない間に仕事に追われていたのか、額に冷却シートを貼って目の下に隈を浮かべていた上司へ。ウツギが無言で頷いてから、執務室へと歩みを進める。

 「戦艦棲鬼からテレビ電話が来ている。機械越しにウツギと面会させるようにも頼まれ、瀬川特将からも許可が出たから後は頼んだ」............。本当、なぜ特将や加賀でなく、自分なのだろう。

 「仕事」の内容を復唱し、尚も疑問と、少々の面倒くささを抱えながら。部屋の前に来たウツギは、巻かれたばかりで少し血が滲んでいる肩の包帯を撫で、心を落ち着けてから扉を開いて部屋に入る。

 

「......電源入れっぱなし......これか」

 

 どうしてここの場所がわかって、襲撃ではなくメールを飛ばしてきたのか。そしてまたなんで自分宛なのか。色々と気味が悪いな。

 ウツギは机に座り、置いてあった、電源が付けっぱなしになっていたノートパソコンを開いて、画面に映った白い顔の女と対面する。

 

「あ、あー......。聞こえましたか。初めまして、戦艦棲鬼さん」

 

『.........初めまして。あなたがウツギさんですか?』

 

「はい」

 

 ......さて、ここからどう続けようか。ウツギは、会話の最中も考えながら、慎重に言葉を選んで口にすると同時に、機器のスピーカーの音量を最大に設定し、パソコン内部に装備されているボイスレコーダーのスイッチを入れる。

 

「話の前に一つ聞いてもよろしいでしょうか」

 

『.........どうぞ。あと、話し方は丁寧じゃなくてもいい。お互い、その方が話しやすいだろう』

 

「............わかった。では......どうして話し相手に自分を選んだ。取引でも持ちかけるなら、偉い奴でも呼びつけたほうが揺すりがいが有るんじゃないのか」

 

 ウツギのカマをかけた質問に、液晶画面の奥の女は、若葉や重巡棲姫の物とは違う、優しそうな笑顔を浮かべる。普通なら安心しそうなこの表情は、ウツギにはかえって不気味に見えた。

 遠い場所からの電話の影響か、また一定の間を置いてから、戦艦棲鬼が答える。

 

『.........ふふふ......取引、か............答えよう。単純さ。お堅い話じゃなく、あなたとの一対一の、談笑に近い形の対談がしたかったんだ』

 

「........................?」

 

 談笑だと? 一体なんのために?

 ウツギが少し混乱していることなど露知らず。戦艦棲鬼の口から、こんな言葉が飛び出す。

 

『ん......しかし場を柔らかくするというのは無理だったか......仕方がないな』

 

 

『単刀直入に言わさせて頂く。我々は貴殿方に降伏を申し上げたい。』

 

 

「..................!?」

 

 ......そんな馬鹿な。意味がわからない。一体どういうことだ。ウツギの驚いた表情から、彼女の脳裏に浮かんだ文字を見透かしたのか、戦艦棲鬼が続ける。

 

『嘘じゃない。なんなら、こちらからそれを証明する人質でも派遣しよう』

 

「............待て、詳しく説明しろ」

 

『.........例えば? 答えられる範囲で返答しよう』

 

「どうして今になって降伏だ。あの規模の基地を簡単に占拠できるお前の抱えている兵力がまだあるなら、簡単に降伏するなんておかしい」

 

 それに、あんなことをしておいて今さら降伏だなんて。有利な交渉材料もない今なら、部下の立場が悪くなるだけだろうが。

 ウツギがそう続けようとするのを遮り、戦艦棲鬼が返答する。

 

『.........あれは、私が御しきれなかった部下が独断でやった事だ。重巡棲姫という者を知っているだろう? 私があの場に居なかった事が一応の証明だ。これで良いかな?』

 

「.........わかった。日時はいつだ」

 

『.........ふふ、受けてくれるのか......嬉しいよ。......人で言う、今週の土曜日の午後七時。待ち合わせ場所の座標はこちらから送る』

 

「そうか。最後に何個か聞く。何人送ってくる気だ? それによってこちらから出迎えに寄越す人数も変わる」

 

『一人だ。大丈夫、心配はいらないよ。なんなら百人ぐらいの限界体制でそっちが見張ってたって構わない』

 

「...............了解した。切るぞ」

 

『ただし』

 

 

『迎えに寄越すのは「第五横須賀鎮守府の艦娘限定」だ。嘘をつけば人質は寄越さない。いいな?』

 

 

『.........では、さようなら』

 

「........................」

 

 電話の終了と共に、自動で録音が終わったボイスレコーダーのタイマーが鳴る。

 これからどうしようか。ウツギがそう思ったとき。部屋のドアを開けて、ツユクサが入ってくる。

 

「いたいた。ウツギ、ご飯ッスよ」

 

「............食堂に集められるだけみんなを集めてくれないか?」

 

「............? ッス。」

 

 独断で向こうの願いを聞いてしまったが、さてどう怒られるかな。

 そんなことを考えながら、ウツギはノートパソコンを抱えて、ツユクサと部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 執務室での戦艦棲鬼とのやりとりの後。ウツギは機械から外して持ってきたボイスレコーダーを食堂の机に置いて再生する。ウツギの予想通り、元々居心地の悪かった空気が更に重くなるのを感じる。

 そんな状況を見かねてか、球磨、天龍、春雨が口を開いた。ちなみに深尾は寝不足で仮眠中、若葉は傷の治療でドックに行っていたのでこの場に居なかった。

 

「で、結局誰が迎えに行くクマ?」

 

「俺はやだね。罠に決まってら、こんなの。誘き寄せてドカンに違いねぇ」

 

「球磨もちょっと怖いクマ」

 

「すまない.........」

 

「ウツギはなんも悪くねーよ。こんなモン上で椅子にふんぞり返ってる奴等に任せようぜ? どうせ暇してるんだから」

 

「............「艦娘」限定なのか、「名目上の艦娘」も大丈夫なのカ。そこも気になりますネ」

 

「だな。本当に艦娘限定ならRDやAM(エイム)は出せないことになるし......春雨も怪しいか。まっ、RDは仕事でそれどころじゃないと思うケド」

 

 抜かった。やってしまったな......もっとしっかりあいつから詳細を聞いておくべきだった。

 机に置かれた大皿から小皿に惣菜を取りながら、ウツギが考えていた時。何気なく隣を見てみると、加賀が眉間に深いシワを刻み込んだ表情で貧乏ゆすりをしているのが目に入る。

 因縁の相手との決着がうやむやになるのが嫌なのか、はたまた罠を警戒して機嫌が悪いのか。ウツギにはわからなかったが、加賀は表情をそのままに、会話に参加する。

 

「本当に小賢しい女ね。此方の逃げ道を潰しつつ、必要最低限の事しか教えない......頭に来るわ」

 

「部下が勝手に暴れたって話だけどさ......それも本当かどうか。どー思うウツギ」

 

「さあ。これ以上頭を使いたくない......取り合えず飯を食い終わってから考えよう......深尾にも聞いとかないと」

 

 「っと、ゴメンよ」。そう謝ってきた天龍に、流石にドライな反応過ぎたかとウツギが申し訳なく思うと。次は椅子に深く腰掛けて静観を決めていたツユクサがこんな提案をしてきた。

 

「......暇だし、アタシが行こうか? ウツギ、まだ肩の傷治ってないし、いつも仕事で忙しいッス」

 

「大丈夫か? 何かあったとき対応できる?」

 

「バカにゃ無理だ」

 

「バカは余計ッスよ......」

 

 ......意外といい人選かもしれない。昔よりは多少頭も回るし、何より今動けない春雨や若葉にとって変われるだけの腕っぷしもある。

 天龍におちょくられて顔をひきつらせるツユクサヘ、決断したウツギは声をかける。

 

「......ツユクサ、任せる」

 

「え、いいの?」

 

「うん。ある程度喋れれば良いし、それにお前は私より強い。なにより信頼できるから。」

 

 ウツギの言葉の後に、加賀もまたツユクサへ応援の言葉を贈る。

 

「気を付けてね。あなたの噂は知ってるし、期待もしているわ。でも、本当に......気を付けて」

 

「......ッス。 任されたッス!!」

 

 二人からの激励の言葉を受け取ったツユクサは、目を細めて笑顔になると、全員へ向けてガッツボーズでアピールをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

指定された時間、場所へと赴くツユクサ。

現れた深海棲艦と、彼女は緊張した面持ちで対面する。

しかしそこへと忍び寄る黒い影が一つ。

意図せずして、それは新たな戦いのきっかけへと発展する。

 

 

 次回「目立つ罠」。 女は、悲壮な決意をする。

 




週一更新が最後の砦(三回目の白目


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目立つ罠

超展開です。お気を付けて。


 

 

 

 

 春から夏に移り変わる季節と言う事もあり、時間帯の割には明るい、某日の午後七時頃の海上。予定よりも早い時間のその場所に、ツユクサは天龍と木曾、磯風に嵐という、なんとも変わった艦娘たちを引き連れて立っていた。

 何かがあったときのための重武装に、全員が戦闘経験豊富という、シエラ隊に変わるグッドスタッフと言うことで組まれたこの五人が相手の到着を待つこと数分。時間を指定してきた相手が姿を見せないことに、元から気性が激しい性分の嵐は苛立ちを募らせていた。

 

「チッ......ムカッ腹が立つぜ。上から目線で指図しておいて遅れるなんてな」

 

「まだ五分かそこらだろ。気長に待とうぜ」

 

「フン......本当にちゃんと一人で来んのか。罠だったらズタズタにしてやるってェ、言いたいとこだがな。姫級四人以上でも来られたらシャレになんねぇぞ。」

 

「その時はその時ッス。ケツまくって逃げるだけッスよ」

 

「......なったとき、簡単に逃げられりゃ苦労しねぇんだがな......」

 

 嵐が不安そうにそう溢したとき。ようやく五人の視線の先にひとつの人影が現れ、会話を切り上げた五人はツユクサを除き、改めて気を引き締めて、人影へ向けて各々の持ち込んだ武装の砲口を向ける。

 悠々と歩いて来た深海棲艦......五人が初めて見る容姿の、一瞬見ただけでは雷巡チ級に似たような、そうでもないような女へ。ツユクサは挨拶をした。

 

「こんばんは。ツユクサッス。人質さん......スか?」

 

「当たり。ごめん、待った?」

 

「.........まぁ、そこそこ......」

 

 なんだか妙に馴れ馴れしい奴だな。女の謝罪を聞いてそう思ったのはツユクサだけでは無かったらしく。相手の態度を見た磯風と嵐の二人がわざとらしく大きな舌打ちをするのを聞き流し、ツユクサは続ける。

 

「まぁ、あの......とりあえず基地戻るから着いてきて。変な事したら承知しないッスよ」

 

「しないしない。何のために丸腰で来たと思って......」

 

「非力アピールはいらねぇんだよ。名を名乗んな」

 

「っと。戦艦棲鬼の元護衛役、雷巡棲鬼。道案内をヨロシク」

 

「そんな名前の奴は聞いたことねぇな」

 

「この格好で人前に出るのは初めてだからな。ちょっと前まではお前たちで言う雷巡チ級って奴......であってたかナ? ......これでよろしい?」

 

 流石は単独かつ非武装で人質として来ただけあってか、武器を突きつけて凄む嵐に全く怯えずに飄々とした態度を崩さない女へ。嵐は相手の服を引っ掴んで、無理矢理女の体を引き寄せると、丸腰というのが嘘ではないかのボディチェックを始める。

 体中をくまなくまさぐって、本当に相手が何も持っていない事を確認した嵐は。何を思ったか、雷巡棲鬼と名乗ったこの女へ、自分の持っていたバタフライナイフを手渡し、こう言い聞かせる。

 

「.........チッ。いちいちイラつく奴だぜ......護衛はやってやるが最低限だ。自分の身は自分で守りな」

 

「いいのかい? 武器なんて持たせて」

 

「ドスなんざ持ってても海戦で何の役にもたたねぇ。気休めさ......あとはテメーがそれを俺たちに使えば、テメーをぶっ殺す口実が作れる」

 

「......なるほど、ね。じゃ、死にたくないから返しとく......」

 

 遠回しに、「罠にでも嵌めようものなら命は無いものと思え」と言ってくる嵐へ、雷巡棲鬼が渡された刃物を大人しく相手に返そうとしたその時。

 

 雷巡棲鬼の後方から一発の砲弾が飛んでくる。そしてそれは、完全に油断していた彼女の左腕をもぎ取った。

 

 !! 事情を知らない鎮守府所属の艦娘か?

 目の前で痛みに悶絶し、傷口を抑えてしゃがみこむ雷巡棲鬼を他所に、ツユクサは川内の艤装の砲を構えて臨戦態勢になる。六人の前に現れたのは.........

 

 

 

「ひゃはははは!! 力入れすぎちまったァハハハハ! 潰れたかなぁ!?」

 

 

 

 若葉の刀を受けて死亡した筈の、重巡棲姫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「重巡......棲姫!? どうして生きて.........!?」

 

「生きてる? 生きてる、かぁ!? ハハハハ!! この体のどこからどこまでが生きてるんだかなぁ......!!」

 

 ......ウツギと若葉は殺したって、言ってた筈だけど。それにこいつのこの狼狽え様......まさかこいつごと罠に嵌められたということなのかな。

 目の前で気が狂ったような笑い声をあげ、上機嫌な、腹部の裂け目から機械の部品のようなものが覗いている重巡棲姫に、ツユクサがそんな事を考える。

 

「どうしてお前がここに......」

 

「はははは! もうじき死ぬお前らにまとめて教えてやる!! 捨てられたのさお前は!!」

 

「...............!?」

 

「なんでかってかぁ!? 簡単だよ......お前のような雑魚は戦艦棲鬼はいらないってぇ事だよォ......」

 

「嘘だ......そん...な.........」

 

 .........状況はよくわからないけど......この人を連れて早く逃げないと。

 先程の飄々とした態度はどこえやら、激しく狼狽する雷巡棲鬼の肩からの出血が止まる気配が無いのを見て。ツユクサはすぐに彼女を連れて全員で逃走する準備に入る。が

 待っていましたとばかりに、重巡棲姫が手を挙げて何かの合図を出すと、今までツユクサと天龍が幾度も見た、水中からの伏兵が現れる。数の暴力で押し潰してやる。そう言いたそうな顔で此方を見てくる重巡棲姫だったのだが......

 

 相手の仕草で逆にこの状況を予測できた五人は、海中から駆逐艦級の深海棲艦が出てきた瞬間に、相手の口に当たる部分に砲弾を撃ち込む。結果、数の有利はあっという間に崩れ去り、それどころか流れ弾が重巡棲姫に着弾。女は爆煙に包まれた。

 

 

「ウゥゥボォオォオアアァアァアアァァ!!??」

 

 

 先手必勝。同じ手が何度も効くかってんだ。変な悲鳴をあげて煙の中に消えた重巡棲姫にそんな事を考えながら。ツユクサは木曾、磯風、嵐に雷巡棲鬼を逃がすための指示を出す。

 

「さ、今のうちに。あいつはアタシと天ちゃんで釘付けッス」

 

「了解、ボス。ほら立てるか?」

 

「...っぐ......ごめん......」

 

「何謝ってんだよ。早く行くぞ。手当てしてもらえ」

 

「すまない......何から何まで......」

 

 火薬を増やしたタイプの弾がまともに相手に直撃したせいで、いまだに登り続ける煙と対峙する二人を後に、磯風は雷巡棲鬼の片手を自分の肩に掛けて、急いでその場から離脱する。

 

 

 四人が逃走すること数分。砲戦に参加できない磯風に代わり、護衛役をやっていた木曾と嵐は、女の傷から血が止まらず、ただでさえ悪い顔色が更に蒼くなっていくのを見かねて。応急処置として焼灼止血法で血を止めようとする。

 

「ぅぅ............ぐっ.........」

 

「......どうしよう」

 

「傷口焼くしかねぇな。磯風、燃料ちと寄越せ」

 

「はいよ」

 

 嵐は磯風から貰った予備の燃料タンクの中身を、持っていた砲の砲身にかけ始める。そしてそれにライターで火をつけると、数秒後に海水につけて火を消し、高熱をもった砲身を雷巡棲鬼の傷口に当てた。

 

「.........血、止めるぞ。かなりイテェが我慢しろ」

 

「うぐっ......ぁぁぁぁぁ.........」

 

「おーしいい子だ。我慢できたじゃねーか」

 

 血は止まったが、衰弱してやがる。時間がねーな。急がねぇと。

 そう思った三人は、艤装の出力を上げ、帰路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉ......どいつもこいつも重巡棲姫様の顔に傷をつけやがってぇぇぇ!!」

 

「お似合いだぜ? バケモンみたいな面のほうがよ」

 

「くそがぁぁあああああああ!!!!」

 

「来るぜ」

 

「うっス!」

 

 三人が雷巡棲姫を連れて逃げている頃。二人は、晴れた煙の中から出てきた、鬼のような形相で頭に血を昇らせた重巡棲姫との戦闘に入っていた。

 ツユクサと天龍が砲撃を行い、相手がそれを避けながら負けじと同じく砲撃でもって返事を返す。そんなやりとりが数分続く。形勢は二人のほうが有利だった。

 どういうわけか、ツユクサが聞いていたウツギや若葉の話とはうってかわって、動きに精細さを欠く重巡棲姫の攻撃はどれも当てずっぽうで、全く二人に当たらなかったのだ。

 明らかなこちらの油断誘いだな。二人がそう考えたとき。

 

「逃げてんじゃねぇよぉぉぉ!! クソ共がぁぁあああ!!」

 

「.........変ッスね」

 

「あぁ......俺もそう思ったとこ......!?」

 

 重巡棲姫はツユクサを放って、いきなり加速して天龍の元へと飛び込むと、腹部から延びている艤装を引きちぎり、中から何かを取り出す。

 

 

「こいつでズタズタにしてやらぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「!!」

 

 取り出したもの......装備の中に隠していた、異常な速度で駆動するチェーンソーで切りかかってくる相手に、天龍は冷や汗を流しながら、持っていた刀で応戦する。

 弾き返せばどうにかなるだろう。そんな天龍の甘い考えは、相手の武器であっという間に砕け散った刀を見て、すぐに雲散した。

 

「なっ............」

 

「ひひっ、ヒヒハナナハハハハ!!」

 

「雷巡棲鬼の後を追わせてやろうか? えぇ!? たまらないな人殺しというのは!!」

 

「............!!」

 

 チェーンソーとドリルという、身震いするような武器二つの二刀流で襲い掛かってくる相手に、天龍は持っていた武器を盾にして逃げの体勢に入ったとき。重巡棲姫は、背後に居た、すっかり忘れていたツユクサの砲撃をまた直撃で受け、体勢を崩す。

 

「アタシを忘れてんぞォ!!」

 

「サンキュー、ツユクサ!」

 

「ガアッ、く、いつもいつもいつもいつも邪魔なんだぁぁぁぁ!!」

 

「邪魔しに来たッスからね」

 

「クソォォオオオオオ!!!!」

 

 逆上した重巡棲姫は、今度はその場から跳躍したかと思うと、器用にツユクサの肩に飛び乗ると、持っていたチェーンソーを放り投げ、ツユクサの脳天目掛けてドリルを駆動させて降り下ろす。

 

「艤装もろとも、ぶっ殺してやる!!」

 

「うわっ!?」

 

「てめっ............」

 

「おおっと近付くんじゃねぇ!! こいつが死ぬぜぇぇ!?」

 

「卑怯者が......!!」

 

「殺し合いに卑怯もクソもねえぜ!!」

 

 アームカバーに取り付けられたレールで必死にドリルを食い止めるツユクサを、天龍が歯を食い縛りながら見つめる。

 一か八か......あいつの顔を目掛けて撃ち落としてやろうか。天龍が必死に頭を回転させて考える、そんなとき。

 

 

 

「後を着けてきた甲斐があったぜ.........」

 

 

「重巡棲姫、その艦娘とテメェも一緒に地獄に送ってやる!!」

 

 

「何?」

 

 ツユクサと重巡棲姫の前に、何処からか、恨みのこもった声と共に現れた一人の重巡ネ級が、二人めがけて砲を乱射し始める。

 よく見ればそのネ級は片腕が無い......、以前に基地で重巡棲姫の攻撃の巻き添えで重傷を負ったネ級と言うことは、ツユクサの知らないことだったが。彼女の思いがけない登場と行動で、一瞬攻撃が揺るんだ重巡棲姫に、これ幸いとツユクサは逆襲を開始する。

 

「あの野郎、これじゃあ自分までやられちま......」

 

「おい」

 

「!!??」

 

「何逃げよーとしてんスか」

 

 飛んでくる弾幕に、たまらずツユクサの肩から降りようとした重巡棲姫の足を、ツユクサは固く両手で掴んで降りられないようにすると

 

ツユクサは相手の攻撃を回避するどころか、逆に猛然とネ級に向かって突っ込んで行く。

 

「オォォラァァアアアア!!!!」

 

「な、何をするてめぇぇ!!??」

 

 それほど距離が離れていなかったというのもあり。多少は被弾したものの、軽傷で済んだツユクサは、重巡棲姫の体を相手目掛けて降り下ろす。この行動で、ツユクサごと重巡棲姫を始末しようとしたネ級は、受け身を取ろうとした重巡棲姫のドリルが当たり、体を砕かれてしまう。

 

「うわあああ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!?」

 

「ぐっうっ...ぅぅ.........う!?」

 

 

「「..................」」

 

 

 重巡ネ級が死亡した後。よろける重巡棲姫の腹の裂け目に、天龍は魚雷発射管から取り出した弾頭を二本差し込む。そして自分から距離を取り始める二人に、これから自分が何をされるのかを察してしまった重巡棲姫は叫び始める。

 

「まっ、待てお前ら! 降参だ! 降参す」

 

 

「グッドラック!」

 

 

 重巡棲姫の命乞いに耳など貸すはずもなく。ツユクサと天龍は差し込んだ魚雷目掛けて狙撃を行う。

 哀れなことに......二人は全くそうは思わなかったが。重巡棲姫は火薬の誘爆で、大爆発を起こして散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

騙されていたと知り、心を病む雷巡棲鬼。

罠を張った戦艦棲鬼の真意とは。

しかしてそれは、彼女の衝撃の行動と共に、

シエラ隊は知ることになる。

 

 次回「蒼き深海棲艦」。 深海棲艦へ、黄金の時代を。

 




ハチャメチャカオス回でした。


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蒼き深海棲艦

大ッッッ変お待たせして申し訳ありませんでした。
話の流れが合わないことに気付き、前話の次回予告を書き直しました。


 

 

 

 夜中の3時頃。

 ツユクサ含めた五人に仕事を任せ、近海警備のローテーションにも入っていなかったため。鎮守府で待機していたウツギは、片腕を無くした状態で連れられてきた雷巡棲鬼の接待をしているところだった。

 流石に夜も遅い時間だったので、建物の中は静まり返り、夜間警備の当番以外の殆どの艦娘が眠りに就いていたのだが。ウツギは、治療を終えてからというもの、ずっと俯きがちで、能面のような表情を浮かべていた彼女が心配になり。夜更かしにも慣れていたとあって、個人の時間を割いて世話をしていた所だった。

 

「...............」

 

「どうぞ。......食べないと、元気出ませんよ」

  

「.........いらない」

 

「じゃあ、せめて汁物だけでも」

 

「..............................」

 

 そんなに、上司に切られたのが堪えたのか。怪我したところを医務室に運んだ時の響みたいだ......。

 そんな事を考えながら。目の前で、のっそりとした動作で、有り合わせで自分が用意したスープを口に含む彼女を、ウツギは眺める。

 

「.........美味しい」

 

「それは良かった。まだありま......」

 

「でも、もういい。ありがとう」

 

 ウツギに表現させれば、なんと言うか、丈夫な紐でも与えれば今にも首をくくって自殺でもしてしまいそうな笑顔を浮かべて、女は皿を自分から遠ざけてそう言う。

 ............吉と出るか凶と出るか。ちょっと吹っ掛けてみるか。

 続かない会話や、食べ物も喉を通らないといった相手に、勝手ながら、少し苛立ちを感じたウツギは、察するに、女が慕っていたと思われる戦艦棲鬼についての話題を振ってみる。

 

「どれぐらいの付き合いなんですか。戦艦棲鬼さんとは」

 

「........................」

 

 地雷......踏んじゃったかもナ。答えようとしないか。

 だんまりを決め込む相手に、ウツギがそっと食器を下げようとしたその時。重い口を開いて、雷巡棲鬼は話を始める。

 

「............人で言う同期だ。上司と部下とじゃなく、友人として付き合いがあった」

 

「...ん...............なるほど」

 

「あいつが旗揚げしたときからずっと一緒に居たよ。でもとんだカン違いだった。友達だと、思ってたのは俺だけだったみたいだ......」

 

 

「私と同じね。貴女も」

 

 不意に聞こえてきた声の方向へ、ウツギと雷巡棲鬼は顔を向ける。そこには、壁に寄りかかって此方に目線を飛ばす加賀が居た。

 よくこんな遅くまで起きてたな。そう思ったウツギは、彼女に聞く。

 

「夜勤じゃないのに起きてたんだ」

 

「ええ。あいつへの秘密兵器の調整で。終わったから部屋に戻ろうと思ったら、何か話していたから」

 

「............俺を笑いに来たか空母棲姫」

 

「覚えていてくれたのね。嬉しいわ......そうよ、って言ったら?」

 

「............殺すぞ、とでも言われたかったか。残念だったな。そんな事をいちいち言っているほど今は心に余裕がない......いや、まぁ今言ったケド」

 

 本人的にはおちゃらけたつもりのようだが、生命力の抜けきったそんな顔で言われたら、こちらは返す言葉に詰まる。

 そう言いたくなるのをぐっと飲み込んで、ウツギは気になった事を続けて加賀に聞く。

 

「秘密兵器とは?」

 

「あいつを殺すのに用意した物があるの。私用の戦艦の艤装よ」

 

「.........戦艦の?」

 

「ええ。私の姫級の鉄屑を解体して作ったって。それで私がやるの」

 

 姫級の艤装ね。確かにあれに積まれている動力はかなり性能がいい物だとは聞いていたけれど。作り替える技術まで出来てたとは。科学ってすごいな。

 加賀の返事に、適当にそんな事を考えてぼうっとしていると。雷巡棲鬼が、先程の哀しみに満ち溢れた顔面を、何かを決意したような表情に切り換えて加賀へと口を開く。

 

「ひとつ、頼まれてくれないか」

 

「なにを?」

 

「............あのお方に......あいつに聞いてほしいんだ。俺を切った理由を。」

 

「もう知っているんじゃないの。」

 

「本人の口から聞きたいんだ」

 

「.........いいわ。でも、本当にいいのかしら。どうせ録な理由なんてないわ」

 

「それでもいい。あいつが本当に言ったことならいいんだ」

 

 涙で潤んでいるようにも見える瞳でじっと見詰められ、思わず加賀は女から目を反らしながら返答する。

 ......これだけしつこいって事は、仲が良かったんだろうな。.........自分がもし、漣や天龍から撃たれたらどうなるんだろうか。想像を絶するほど苦しくて悲しいかな。それとも何も思わないかな。今一想像できない。

 目の前の女の立場に、自分が立つことになったら、とそんな事を考えながら。ウツギは彼女が残した食べ物を口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「重巡棲姫、仕事、失敗した。もう...人に抵抗なんてやめるべき」

 

「また言うのか。これで何度目だ港湾」

 

 某所、同日の同時刻。

 部下の港湾棲姫からの報告と、それを聞いて声を荒げる中間棲姫を見て、戦艦棲鬼は小さなため息をついた。

 人間との徹底交戦を掲げてからというもの、何かと付けて降伏を進めてくる目の前の港湾と、それを叱る中間のいさかいを止めるのが面倒だったのだ。

 

「いい、中間棲姫。すこし下がってくれ」

 

「了解......ふん、腰抜けが......」

 

 首から延びている(とげ)で、顔の正面からは見えない口で舌打ちをして、捨て台詞を吐いて部屋を出ていく中間棲姫を曇った表情で見送ってから。戦艦棲鬼は諭すように港湾棲姫に言う。

 

「やめる訳にはいかないさ。私たちは戦艦水鬼の悲願を達成せねば」

 

「そうやって言って、みんな死んじゃった。もっと殺すの」

 

「耳が痛いな。でも今更降伏したところでもう遅い。人の戦国時代みたいに「なぜもっと早く降らなかった」とか言われて皆殺しにされるぞ」

 

「.....................」

 

 戦艦棲鬼の言葉に、女は大きな手で自分の額から生えている角を弄りながら、納得がいかないような表情になる。が、戦艦棲鬼は気にせず話題を切り替えた。

 

「仕事の話をしようか。これからの動きだ」

 

「取ったばかりの基地は壊された。とりあえずは、リークしたこちらの居場所から少し後退するような動きをわざとらしく相手に見せつけるか。それで追撃が来そうなら、様子を見て全隊で突っ込む」

 

「無謀」

 

「地の利......いや海の利がこちらにつく点がいくつかある。そこで奇襲すれば上手くいくさ。数じゃこっちが圧倒的に不利だし、局地的に勝つしかない」

 

「本当にやる気。それこそ間違いなくみんな死ぬ」

 

「なに。まだ策はあるさ。それに万一、こちらが勝つのが絶望的になれば、せめて味方の利にはなるように仕向ける手段も取ってある」

 

「教えてくれないんでしょ」

 

「ははは。また聞かれたくないとこを。情報漏洩はまず......」

 

 

「いつもそう。何か考えてるフリしてなんにも教えてくれない。雷巡棲鬼で釣りをやった事も後で言った」

 

 

「...............」

 

 雷巡棲鬼ごと艦娘たちを抹殺しようとした作戦を「釣り」と表現して批判する相手に。戦艦棲鬼は眉間にシワを寄せる。数秒の間を挟んでから、戦艦棲鬼は椅子から立ち上がり、部屋を出ようと足を動かす。

 

「夜風に当たってくる」

 

「勝手にしろ」

 

「おう。勝手にさせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 港湾と話をした部屋を出て数分後。戦艦棲鬼は基地の港に着くと、艤装の点検や、強奪して根拠地にしていた、この基地の設備を調べていた工兵係の深海棲艦に話し掛けた。

 

「こんばんは。ちょっと聞いていいかな?」

 

「あっ、戦艦棲鬼殿。こんな夜分に、何のご用件でしょうか?」

 

「今から作戦に使う海域の偵察がしたい。分取り品の中に使える船が無いか?」

 

「また行く気ですか? 何度も言いますが流石にあなた一人では危険です」

 

「だからこんな夜遅くに出るんだよ。いい子がお寝んねしてるうちにじゃないと悪巧みなんてできん.........で、無いのか?」

 

「............はぁ。あちらに、先程整備を兼ねて熱を入れた物が有ります」

 

「ありがとう。君のような物分かりのいい奴は好きだ。.........毎回言っているが、一日経って私が戻らなかったら中間に言っておけ」

 

「了解です」

 

「間違っても「許可したのは私です」、なんて言うなよ。死にたくなかったら「勝手に船使って抜け出した」とでも言って」

 

「わかってますよ。全く.........」

 

 工兵と笑顔でそんなやり取りを交わしてから。戦艦棲鬼は早歩きでそそくさと高速艇の止まっている場所に向かう。船に乗り込むと同時に、彼女の顔からは笑顔は消えた。

 

 ............。くそ。体の震えが止まらん......。これから死にに行くのがそんなに怖いのか戦艦棲鬼。.........情けねぇ。何日も、何ヵ月も、何年も前に決めてた事なのにな。

 

 

「............許せ。雷巡。中間。港湾。後は誰よりも強くて優しいお前たちに任せる。」

 

 

 そう呟いてから。戦艦棲鬼は、事前に火が入れられていた船に、自分の装備類を詰め込み、ひっそりと基地を出ていく。

 彼女が船を使ってこれからやりにいく事。それは偵察などでは無かったが、既に、以前何度かは船を使うことを許可したことのあった工兵は、そんなことは知るはずもなかった。

 

彼女がこれからやりにいく本当の行動は、

 

 

 

一人で海軍と戦いに行くことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

犯行予告と共に、夜の海にただ一人現れた戦艦棲鬼。

圧倒的な数の不利をものともしない彼女へ、加賀が接近する。

部下を駒として使ってきた女に真意を問う加賀。

返された言葉は......。

 

 次回、「高価な命」。 みんなの為に、この身を捧ぐ。

 




今回初めて敵視点を入れてみました。
なんで戦艦棲鬼は自殺に等しい行動を起こしたのでしょうか。
それは次回をお待ちください。


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高価な命

お待たせしました。戦艦棲鬼のやりたかったこと。それはもう少しお待ちください。


 

 

 

 

『戦艦棲鬼が計画している作戦の妨害を依頼したい』

 

『情報によると、戦艦棲鬼は近日中に都市部に対して無差別なテロ行為を行うつもりらしい』

 

『目標地点が被害を受ける前に、戦艦棲鬼が攻撃部隊に先だって送り込んでくる、こちらの目を撹乱する役の深海棲艦を撃破してもらいたい』

 

『我々の力を甘く見ているようだが、やつらの行動はこちらには筒抜けだ。やつらは機密の保持すらできていない。戦艦棲鬼率いる部隊の弱体化は明らかだ』

 

『武力を傘に思い上がっているやつらに、自分たちの力が万能でないことを思い知らせてやってくれ』

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 ウツギ、加賀、雷巡棲鬼が雑談をした日の午後6時。水平線に日が落ち、周囲の景色が薄暗くなっていた海上には、十数名ほどの艦娘が点々と展開されていた。

 軍の上層部が敵の襲撃の情報を奪取し、それをもとに、不意打ちで相手の出鼻をくじくためと集められた部隊だったのだが。どうにも人数が少ないことに、部隊員の中に混じっていたウツギは不満を漏らす。

 

「............集まったのはたった20人か.........」

 

「あぁ。しかもそのうち半分は俺らという......」

 

 改めて周りを見渡し、20人中10名が第五横須賀の艦娘であることを再確認し。ウツギと天龍は溜め息をつく。ウツギの聞いた話によれば、本土防衛のために人員は割くので、此方に余計な数は回せないとのことだったのだが。納得のいっていなかった加古が続けて愚痴をたれる。

 

「ふー。やる気あんのか上のジイさん? 兵隊すらマトモに集めらんないなんて」

 

「加古、周りに聞こえるだろ。それに集まらなかったワケじゃあない。人数制限だ」

 

「だからそれがバカじゃねーのって。アタシらが崩されたら奴さん雪崩(なだ)れ込んでくるしょ」

 

「......元帥を愚弄(ぐろう)するか」

 

「毒吐いてわりぃの。どうせ聞こえてねーんだしいいじゃん」

 

「貴様ッ......!」

 

 ......確かに、上の命令だとはいえ、どうしてこんな時に限って若葉が編制から抜かれているのか。それについてはこちらの戦力的にも不安がある。な。

 堂々と上の階級の人間への暴言を口にした加古に、上層部直属の艦娘が突っ掛かる。隣にいた磯風は形だけの制止でしっかりと止めようとはせず、嵐に至っては知らんぷりをして煙草(たばこ)を吹かしているのを見て、ウツギと天龍は頭を抱えたくなった。また二人は気づいていなかったが、近くに居た漣、球磨、木曾、アザミ、ツユクサは3人に白い目を向けていた。

 が、こんなくだらない事に悩んでいてもしようがない。襲撃の時間も近い、と二人が顔を上げる。その時だった。

 ふと、なんとなく視界に違和感を感じたウツギは、スナイパーライフルのスコープ越しにもう一度目線の先を見てみる。そして、何かを見つけたウツギは、無言で天龍にライフルを渡して、レンズを覗くように身振りをする。

 

「............天龍。見えたか」

 

「おう。怪しさバリバリって奴だナ」

 

 機械越しに見えた物。事前に民間の企業などには情報を流して封鎖した筈の航路を堂々とこちらに向かってくる小型の船舶を確認し、明らかな以上事態と判断した二人は、相談して指揮官へと報告することにする。

 

「なんだろうねあれ」

 

「やっぱり罠か?」

 

「密漁船とかの可能性もある。一応報告しておくか」

 

 すっかり使い慣れたヘッドホン型の機器を操作し、ウツギは視界の中には居たものの、少し離れた場所にいた旗艦の艦娘へ自分の声を届ける。

 

「指揮官様。封鎖した筈の航路から向かってくる謎の船がいますが」

 

『どの方向だ』

 

「自分の向いている方です」

 

『............確認した。部隊全員が確実に視認できる距離で避難勧告を行う』

 

「了解しました」

 

 

「なんて?」

 

「もう少し近づけてから注意喚起すると」

 

「ふーん。......目は離さないほうが良さそうだな」

 

「だね」

 

 言葉通り、船を観測した地点から目線をずらさないようにしつつ、二人は持ってきた火気類の安全装置を切り、ウツギは緊急時にいつも世話になっている手斧が、すぐに腰から外れるようになっているかの確認を済ませる。

 ほどなくして、迎撃部隊全員の視線が一点に集中する時間が来たとき。指揮官を務めていた艦娘は、以前ウツギも使った、艤装のスピーカーを通して船の操縦士へ声をかけた。

 

「「そこの船。ただちに停止しろ」」

 

「「ここは海上封鎖の最中だ。そのまま航行するなら、容赦なく撃沈する」」

 

 事情を知らない者からすれば、いささか過激すぎるような勧告を、指揮官の艦娘が発する。が、相手からの応答が無い。

 

「「......これで最後だ。もう一度だけ警告する、そのまま前進するなら撃沈する」」

 

「________」

 

「............了解した。貴艦を撃沈する。」

 

 淡々と、しかし威圧感のある声でそう艦娘は告げると、手を挙げて味方に相手を撃つように指示する。

 相手はただの個人でも所有している事があるような小型艇だったということもあり。全員の一発ずつの砲弾ですぐに全損し、沈んでいった。

 

ただひとつ、おかしいところがあったとすれば、

 

 

この船が異常な大爆発と共に爆散していったことだろうか。

 

 

 ただ「燃料に引火しただけ」とは説明がつかないような猛烈な爆発と、(まばゆ)い閃光を放って沈んで行く船に。非常に嫌な予感を察知したウツギは、激しい光に顔をしかめながら、咄嗟に周りの艦娘に指示を飛ばす。

 

「みんな構えろ」

 

「なっ、指揮官は私だ!!」

 

「言ってる場合か。早く動くんだよ!!」

 

 勝手な行動を起こしたことに激を飛ばす指揮官へ、緊急事態故仕方がない、と逆に天龍が怒鳴る。その間に、強い光で目が眩んだウツギは、目を瞑ったまま当てずっぽうに前方へと砲弾銃弾を撒いて後退する。

 さて、何が出てくる。レ級か、何故か生きてたらしい重巡棲姫か、はたまた例の.........。

 考え事をしながら、数秒後にやっと目が慣れてきたウツギは、まぶたを開く。すると、艤装からアナウンスと警告アラートが流れてきた。

 

『高熱源反応を感知。識別不能、該当データ、無し』

 

「..............アレは」

 

 なるほど。そう来るか。

 ウツギは爆風から単身抜け出てきた深海棲艦。戦艦棲鬼へ、武器の銃口を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここからが正念場だ。展開している中に加賀は......居ないな。数は予想より少ないとはいえ、弱い俺が、あいつの到着までもつかどうか。

 爆煙を抜け総勢20名の部隊へと突っ込んでいきながら、戦艦棲鬼は、艦娘の物に近い形状の艤装を始動させ、そんな事を考えていた。

 女は、持った武器を適当に乱射しながら艦娘達の壁を一直線に抜けると、その背後を取り、彼女たちの艤装の機関部を狙撃する。

 

「うわっ」

 

「てめぇ.........」

 

 半分ほど減らせれば良かったんだが......それは流石に贅沢か。

 迅速に動いたお陰で、ある程度は効果があった不意打ちの狙い撃ちも。相手がかなり戦い慣れた艦娘の集団ということもあり、大破状態で攻撃に参加できなくさせれた者は少ないと悟った戦艦棲鬼は、早々に弾が切れた幾つかの武装を棄てて身を軽くする。

 次はどうしよう。彼女が砲撃を掻い潜りながら考えていたとき。指揮官の艦娘が叫びながら砲を撃ってきた。

 

「たった一人で何ができる!」

 

「あんまり殺気立つな......棒立ちしてる君は狙い放題だな?」

 

「なにぃっ......!?」

 

「たかだか十数匹の雑兵(ぞうひょう)......俺一人で蹂躙(じゅうりん)できる」

 

 戦艦の艦娘だったということもあり。身軽な自分よりも動きが鈍かった相手を一方的に砲撃して、その艤装を機能停止まで追い込むと、戦艦棲鬼は彼女の胸元まで一気に距離を詰める。

 そして彼女の行動の意味が読めず、その場所で固まっていた戦艦の艦娘の鳩尾に肘を入れて投げ飛ばす。周りの艦娘は、戦艦にあたったらいけないと砲撃の手を緩めてしまうのだった。

 

「卑怯もの!!」

 

「殺し合いの場に卑怯な手なぞ存在せんよ。どれ、もう一度」

 

「ッァ......!?」

 

「ぬるいわ。 この戦艦棲鬼を止める豪の者は居ないのか?」

 

 二度目の艦娘投げ飛ばしを敢行し、順調に女は各個撃破を遂げていく中。三度目をやろうとしたときに、彼女の元へと、両手に鉄板を構えて突っ込んでくる艦娘がある。

 俺の射撃の腕前を見て距離を詰めてきたか。いい判断だ。

 体当たりをしてきた艦娘......ウツギへ、受け身を取りながら戦艦棲鬼はそんな感想を抱く。

 

「ウツギか。なるほど、いい腕だ」

 

「..............................!」

 

 間髪入れずに斧を振り回してくる相手に、女が至近距離で砲弾を見舞おうとすると、今度は周囲から十字砲火が殺到する。撃っていたのはシエラ隊だというのは戦艦棲鬼は知らなかったが、彼女は敵はウツギの仲間だろうと大方の目星をつけ、息のあったその連携を素直に称賛した。

 

「ほう。誤射を気にせず、か。出来たチームワークだ」

 

「誉めても何も出さん。何が目的だ。人殺しか?」

 

「人間などと言う下等な猿どもを、全てこの神聖な地球から一匹残らず絶滅させる事さ」

 

「地球はお前の持ち物じゃないだろう......ッ」

 

「ははははっ。 そうかもな、だが勝ったものが勝者であり選択するのだよ。 所詮それが全てだ」

 

「っ............!?」

 

 ウツギが振りかぶってきた斧の刃を、戦艦棲鬼は自由な手で掴むと、そのまま自分の握力に任せてそれを握り砕く。これは予想外だったようで、目を向いて驚くウツギを蹴り飛ばすと、戦艦棲鬼は彼女を無視して他の艦娘達に狙いを定める。

 

 フリをして、両手で装備の格納から出した煙幕を抱え、それを水面に叩き付けると、彼女は艦娘達には目もくれずに一直線に陸地のある方向へと進軍する。

 

 

「スモーク......!!」

 

「待て、このぉっ......!!」

 

「早く追え! 絶対に逃がすな!!」

 

「前が見えませんぜ。狙い撃ちされても知らねーよ」

 

「う、うるさい!!」

 

 

「......さようなら。先を急ぐ。」

 

 程よく混乱してくれているな。このまま陸へ......。

 そう、前を見て進む戦艦棲鬼の元へ。

 

「何か」が、凄まじい速度で飛来。自然と受け身を取った彼女は、飛んできた物の正体を確認し、眉を潜めた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「邪魔だ。空母棲姫............」

 

「邪魔しに来ましたから」

 

「そうかそうか......なるほど......」

 

 

「俺の前進を阻むのなら、今度こそ殺してやろう」

 

「...............!!!!」

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「お前が来るのはっ......!? ッ、判っていた」

 

「そう。察しがいいのね......殺してあげるわ」

 

 特別品の艤装の高出力モードが、排熱が追い付かず、それが青い光となって漏れ出ている加賀の、砲撃と機銃との凄まじい猛攻に圧されながら。戦艦棲鬼は、焦るどころか、何かを悟ったような表情で相手と会話をする。

 

「そう怒るな。私は弱い......手加減っ...してくれよ」

 

「...............!!!!」

 

「おっとと......ふふ、少し痛いな......」

 

 ............これだ、私がやりたかった事は。全ては彼女がやってくれる。

 加賀の砲撃、援護で飛んでくる艦娘達からの射撃。それらに自らの血肉を徐々に削り取られ、戦艦棲鬼は既に体の半分を血で濡らし、満身創痍となっていた。

 負けじと彼女もまた加賀へ反撃を行うものの、被弾などお構いなしに突撃を続ける彼女にはそれは効いて居ないようだった。

 

「......そうだ空母棲姫。お前の力を私に見せてくれ」

 

「..................!?」

 

 そんな、最後の抵抗のような戦艦棲鬼の放った砲弾が、加賀の脇腹を抉る。

 また更に加賀がとどめにと砲を戦艦棲鬼へと撃とうとしたとき。周囲の艦娘から援護で放たれた砲弾が、偶然加賀の持っていた砲に掠り、目測がずれたのだが。

 

何を思ったのか。

 

 

加賀が武器の引き金を引く瞬間を見計らって。戦艦棲鬼は、武器の砲身を手で掴み、自分の胸に押し付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ......俺もまだまだだ......ぐッ......」

 

「どうして......一体何を......!?」

 

「......ふふ......死ぬ前に教えてやる...............」

 

 「わざと」加賀に撃たれた戦艦棲鬼は、腹部に穴が空くほどの致命傷を負い、海上に倒れた。

 最後の行動の意味がわからない、と彼女が言うので、戦艦棲鬼は霞んでいく視界の中で、月の光を反射して青白く光っている女に向かって、血の味の広がる口を使って呟く。

 

「俺は臆病だから......部下を死にに行かせるなんて............出来ない......」

 

「だから......自分が死にに来たのさ......」

 

「そんな......」

 

「沢山.........嘘をついてきた...............これは本当さ.........」

 

「ッ......!!」

 

 自殺しに来た、とのたまった相手を、加賀はその長い髪の毛を掴んで無理矢理立たせると、怒気のこもった低い声で罵倒する。

 

「嘘よ。じゃあ私は、自殺志願者を殺したということなの?」

 

「本当だと......」

 

「嘘だと言いなさい。私を一度殺した貴方は......あのときの貴女はもっと狡猾で心の読めない......」

 

 加賀がそう言ったとき。

 戦艦棲鬼は、血が抜け、疲労や体調の悪化をものともしないような、満面の笑顔を加賀に向ける。

 

「......お前に...ら.........任せ......れる」

 

「........................?」

 

「全.........は......私の死で...わ............こと」

 

 喉に血が詰まっているせいでのくぐもった声と、そもそも女が衰弱しているせいで小さい声量、そしてその内容についての謎に、加賀が顔をしかめる。

 

「余計な.........罰...は......私が...............被れ............ぃ.........」

 

 

「......後は.........任せる...............俺よ......も.........立派な貴女.........ぃ..................」

 

 

「................................___________」

 

 

「...........................」

 

 一体、こいつは何を考え、企てていたんだ。ついにわからず仕舞いだなんて......。

 事切れた戦艦棲鬼の体をゆっくりと水面に寝かせ、そんな事を加賀は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

本土への進行作戦。そんな物は最初から予定していない。

全ては私の大切な部下(ともだち)を生かすため。

先立つ不幸をお許し下さい。全てはお前たちのために。

このプランは俺の死で完成する。

 

 次回『手紙』。 一足先に、自由になって待っている。



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手紙(終)

コラボ2回 最終話になります。
話がとっちらかってる可能性があります。ご了承ください。


 

 

 

 

 他所の鎮守府の、薄暗い、酒臭い空気の漂う宴会場の大部屋で。ウツギは、加賀と雷巡棲鬼の隣でアルコール度数の低いカクテルを口に含む。

 久しぶりの緊急出動。それに、戦艦棲鬼の部下全員の降伏という形での久方ぶりの大勝利とはいえ。わざわざ降伏した敵まで招いての大宴会とは、上の人間は趣味が悪いな。

 「親睦(しんぼく)を深める」なぞきっと意味のない建前に過ぎないだろう。そんな、顔を見たことがない高官への皮肉やら悪口やらを心中で吐露(とろ)していた時。ちびちびと酒を飲むウツギに、加賀が話しかけてきた。怒ったような真顔から、彼女もまた同じような事を思っているんだろうな、程度の感想をウツギが思う。

 

「......素直に喜べないわ」

 

「.....................そうか」

 

「ええ。お酒も、もともと好きではないし」

 

 加賀の言葉を聞き、なんとなくウツギは周りに視線を向ける。見れば、騒いだりしてこの会を楽しんでいるのは、階級の高い上のお抱え部隊の艦娘ばかりで、普段ならこういった(もよお)しを楽しむツユクサや漣といった面々も、なんだかよそよそしくしているのが、ウツギの目に留まった。

 流石に不審すぎる相手の死に、そして降伏してきた敵に見せつけるような不謹慎(ふきんしん)すぎるこの会に。疑問を持っているのは自分だけではなかったみたいだ。

 無礼講のように騒ぐ酔っぱらい達とは対照的に、静かに食事をしている降ってきた深海棲艦や、第五鎮守府の面々を交互に見てウツギが考える。

 そんなとき、隣の加賀が何を思ったか、酒を一気に(あお)り、軽く咳き込んでむせながらこんな事を呟く。

 

「......本当に、なんでみんなはこんな物を美味しそうに飲むのかしら。」

 

「酒がお嫌い?」

 

「はっきりいって嫌ね。今は水が飲みたいわ.........」

 

 しかめっ面で言う加賀に、ウツギはひきつった笑顔を向け、横に向いた顔を動かしてまた前を向く。すると、加賀のテーブルへ水の入ったワイングラスを誰かが置いた。三人が視線を動かすと、港湾棲姫が居た。

 

「......水、飲みたかったんでしょ」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 港湾棲姫はどこか影のある笑顔で返答し、テーブルを挟んでウツギの向かい側に座る。加賀は、水を飲みながら、恐る恐るといった様子でこう切り出した。

 

「............あなたは、私を殺そうとか思わないの」

 

「どうして?」

 

「戦艦を直接手にかけたのは私よ。知らなかったな......」

 

「...知ってた。でも、なんとも思わない」

 

「え?」

 

「理由がなんであれ、あいつは殺されてもしようがないことを貴女にした。だから、別にどうも思わない」

 

「......いい性格ね。そんなにキッパリ割り切れないわ......私だったら......」

 

 戦艦棲鬼を撃沈したという大功を挙げたものの。彼女の死が引っ掛かるものであったことや、妙に達観している港湾の答えがあまり気に召さなかったのか。項垂(うなだ)れる加賀に、港湾はこう言った。

 

「......ついてきて。見せたいもの、あるから。ほら、雷巡も」

 

「俺も、か」

 

「うん.........えーと」

 

「ウツギ。名前だ」

 

「あなたも来てもいいよ。どうする」

 

「............同行させて貰おう」

 

 どこに行くんだろうか。そして、どんな用件なんだろう。

 飲み終わったグラスをまとめたあと、ウツギは二人に少し遅れて、全体的に白い、手の大きな女の後ろをついていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴会が開かれていた部屋を出て数分。建物を出てすぐの港の堤防まで来たとき、港湾棲姫は立ち止まった。

 ここで話をするわけか。そう思ったウツギは、堤防の先に誰か、一人分の陰が立っているのが見えた。喪服と思われる黒色のスーツ姿に、長い白髪という容姿だったので、一瞬RDかと思いきや。こちらに振り向いて口を開いた女の顔を見て、ウツギは認識を改めた。

 

「やっと来たか......なんだ。空母も連れてきたのか」

 

「駄目?」

 

「どうなってもしらんぞ」

 

「それは加賀次第」

 

「............?」

 

 目の前で意味深な会話をするスーツの女、中間棲姫と港湾棲姫の顔を怪訝(けげん)そうに加賀が覗く。

 そんな、自分の様子を伺ってきた加賀へ。中間棲姫は、なんとなく哀しさが漂う表情で告げた。

 

「久しぶりだな。空母棲姫」

 

「......お久し振りです」

 

「雷巡とお前にしたい話がある.........一応聞くが、覚悟はあるか。」

 

「覚悟......? なんのために?」

 

「...............」

 

 少しの間を挟んでから。中間棲姫は続けた。

 

「戦艦棲鬼は......初めから本土の強襲などやるつもりは無かった、というのは。知ってるか」

 

「「「............!?」」」

 

「その様子だと知らなかったみたいだな。そしてもうひとつ」

 

 

「あいつは、お前たち二人を逃がすために一計を案じた、というのも、勿論知らないだろう?」

 

 

 中間棲姫の口から漏れる言葉に、二人が先程の落ち着いた様子から一転して、息が荒くなる。

 

「待ちなさい。それはどういうこと? 意味がわからないわ」

 

「そのままの意味さ。悲しいかな、彼女に一番信用されているのは私だと、思っていたんだけど......あいつはお前らを生かすために芝居をうっていたんだ」

 

「どこの何を根拠に言っているの。奴は私を後ろから狙撃して、雷巡は部下に言って殺そうとしたのよ」

 

「........................」

 

 語気を強めて話す加賀へ、中間棲姫は、服の内側から何かを取り出して相手に渡す。加賀には暗くてよくは見えなかったが、それは二枚組の何かのディスクだった。

 

「どうせ何を言っても言葉じゃ信用しないだろうとな、証拠を持ってきた。勝手に観てくれ。パソコンでもプレーヤーでも観れる」

 

「...............」

 

「それに全ての答えが入っている。じゃあな」

 

 ぶっきらぼうな物言いの後に。渡すものは渡したからと、中間棲姫は加賀の横を通って、建物のある方へと歩いていく。

 そして、四人から数メートルほど離れた場所で歩みを止めると。体の向きをそのままに、中間棲姫は言った。

 

「あぁ。あと最後に一つ。それを観るのにもまた心構えがいるかもな」

 

「............」

 

「特に加賀。お前は特に気を付けておけ。きっとお前は一生後悔して生きていくことになる。覚えておくんだな......」

 

 少し震えた声で言った後。今度こそ、中間棲姫はその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『信頼できるあなたたちへ告ぐ。』

 

 

『これを、港湾か中間か。どちらかまではわからないけど、あなたが見ている時、私がこの世にいる確率は限りなく無に等しいでしょう』

 

『端的に述べると、私は一人で海軍の方たちへ自らの首を差し出しに行った。全てはあなたたちに少しでも幸せになっていただくためだ』

 

『私が独自の連絡網で伝えた通り、海軍、世論は「多数の深海棲艦を先導し、操る独裁者」を、当人に死を与えて裁くことで、配下の者たちへは比較的風当たりを弱めることがあるというのは、みんなも知っていると思う。実際にこれは戦艦水鬼の死亡や、装甲空母姫の待遇などから、確証がとれている』

 

 

『私が本当にやりたかったこと。それは、戦艦水鬼の意思を継ぐことなんかじゃあない。私が抱えていた、「重巡棲姫を筆頭とする、過激派団体の処理」。そして、「私の身柄を差し出すことによるお前たちの立場の確保」だ。』

 

 

『素直に全員が陸の人々に頭を垂れて謝れればそれが一番良い一手だった。だが、戦いと殺しを第一に生きるあいつらを連れていては、いつか、必ず災いを呼ぶ。それは、巡りめぐって降伏した深海棲艦の立場を揺らがしかねない、と思って、こんな策を弄した次第だ』

 

『次に私自身が首を差し出す理由だが......それは、開戦するにあたり、私自身がその責任を取り、(にえ)になるためだ。まだ人間社会について勉強し始めたばかりのお前たちにはピンと来ないかもしれないが、海軍の方々は、戦争で負けた側には必ず何らかの責任を取らせてくる。その責任の形。色々と模索したんだが、私という危険分子の死と、お前たちという戦力が手に入る事、それが一番確実に丸く収まると考えたんだ』

 

『あとは......そうだな。俺は恐らくこの悪巧みで命を落とすだろう。でも、それで、人の軍や、艦娘たちを恨まないでやってほしい。個人的に調べた事だが、無駄にこの長い戦争は、私たちの祖先に当たる深海棲艦たちが起こしたものであって、艦娘たちは、ただ陸を守るために抵抗していただけなんだ。恨むのは筋違いだし、罪を被るのは私一人で充分だ』

 

『繰り返すが......俺を(した)っていてくれたお前たちには難しいかも知れないが、彼女たちを憎んだりはせず、俺が死んだと聞いた後は、大人しく降伏してくれ。これは最後の頼みだ.........この通りだ』

 

 

 

『............なーんて、堅苦しい話はやっぱり合わないな。運が良かったら、もしかしたら生きて帰ってくるかもしれない。その時は、人間のお偉方から、俺たちの立場を保証してくれるように言っておくよ。酒とか読書とか、色々と娯楽は教えたけどな、陸にはまだまだ海にはない楽しいことがイッパイある。楽しみに待っててくれ!』

 

『じゃあな! 港湾か中間。雷巡に会うことがあったら、かわりに謝っといて! なに、あいつは優しいから大丈夫。じゃっ』

 

 

『元気でな!』

 

 

 

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 某日。よく晴れた昼下がり。

 加賀は、動きやすい格好で、いつかのツユクサも訪れた団体霊園に訪れていた。

 目当ての墓石を見付けて、彼女はしゃがんで花束を添えると、静かに黙祷する。頬には一筋の涙が伝っていた。

 

「............ごめんなさい。こんな小さなお墓しか用意できなくて」

 

「稼いだお金は無駄にあるから......もっと立派にしたかった。でも、深海棲艦のために作るのは、この大きさが限界らしいの............つくづく、無駄に嫉妬深い人間が嫌になるわ」

 

「港湾は海上看護士をやって、あなたがやりたかった人助けをしてる。雷巡は同じ部署で海上警備。中間は、装甲と仲良く深海棲艦の親善大使みたいなことを。みんな、道は違っても前に進んでるわ」

 

「私は......艦娘のまま。何かの役に立つか......って、あてもなく資格の勉強ぐらいしかしていない......正直、だらしがない生活を送っています」

 

 自らの私財をなげうって建てた小さな墓標へ、淡々と、それでいてしっかりとした口調で、加賀は話す。

 

「......よく考えてみれば、私はあなたの事をちゃんと知らなかった」

 

「いつも気持ち悪い笑顔を浮かべて、何を考えてるか解らない人だなんて......とんだ誤解だったのね......」

 

 日の光を反射して鈍く光る墓石に水をかけ、磨いて汚れを落としながら。加賀は、中間と話した後に知った出来事を、一度読んだ小説を読み返すように、頭の中で確認する。

 

 

(戦艦棲鬼。彼女が空母棲姫と雷巡棲鬼を殺そうとした理由。それは、二人を他の深海棲艦たちから逃がすためだった)

 

(元々自分の領海さえ守れれば良いと、積極的な攻勢を控えていた戦艦棲鬼は。恐らく、自分達を指揮していた戦艦水鬼の本質が、ただの殺人衝動に駆られた狂人だと気付いていた。だとすれば、全ての不可解な行動の辻褄が合う)

 

(早期から自分達は、「戦争の続行派と穏健派に分裂し、内乱も起こるかもしれない」と危惧した戦艦棲鬼は、水鬼の死を切っ掛けに行動を開始する)

 

(最初に親友の空母棲姫へ。戦艦棲鬼はこの女の穏やかな性分を逆手に取り、勝てない戦争を続けようとする自分達を見せつけ、私に離反の意思を芽生えさせた)

 

(そして予想通りに海軍に投降しに行った私を確認し、戦艦棲姫は「わざと致命傷一歩手前まで」の攻撃を加える)

 

(続けて親友だとした雷巡棲鬼は、自分の命令であれば素直に言うことを聞く性質を使い、投降する替わりの人質に立てる。この際は、今度は自分の代わりに重巡棲姫を派遣し、同じく傷を負わせた)

 

 

(この二人を「ただ逃がす」のではなく、わざわざ「傷を負わせた」のは。戦艦棲鬼の最後の配慮だった)

 

 

(それは、人間の心理を突いた巧妙な策だ)

 

(初めて海軍に投降した深海棲艦のRD。彼女は、大勢の反戦主義の深海棲艦を軍に抱き込ませるという手段で手柄を立て、それにより軍での地位を確立した。でも、私と雷巡の二人にはそんな手土産などは無い。なら、どうやって身の安全を確保するか)

 

(簡単な話だったんだ。「身内からも敵からも狙われて可哀想だ」。相手は軍の人間とはいえ、そんな感情を抱かせれれば良かった訳だ。事実、私も雷巡も同情される事はあれ、敵意を向けられる事はなかった)

 

(それと並行して、戦艦は味方の選別を始める......終戦後に「また深海棲艦が人間と戦争を始めた」とあれば、穏健派の立場が揺らぐ。それを防ぐために、彼女は「奪取される事を前提に基地施設を接収し、そこの護衛に過激派の重巡棲姫たちを置いた」。結果はこの通り。瀕死で生きていた重巡棲姫もあえて蘇生して、間接的に行動を操ったシエラ隊を使って、止めを刺した)

 

(そして、最後にあなたが私に討たれた理由。それは____)

 

 

 

「............私に、気を使ってくれていたのよね......あなたは」

 

「私が、周りの艦娘から白い目を向けられていた事を......どうやってか、知ってしまったあなたは......」

 

 

「姫級の自身が殺されることで......私の戦績に花を添えたかった。そうなんでしょう?」

 

 

「......本当に、馬鹿な人............」

 

 顔の涙を拭って。ゆっくりと立ち上がり、加賀は口を開く。

 

「また来年。来ます......お元気で」

 

 墓石に向かって一礼すると。加賀は、車が停めてある場所まで、砂利を踏みしめ、歩いて行く。

 

 

 この季節。私は思い出す。あなたに背中から撃たれた日を。今際の際も笑って見せた事を.........。

 

 

 また、会う日まで。次は何の花を添えようか。青空を流れていく雲の先を眺めながら、加賀はそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最終話でした。

余談ですが、星野 源さんの「Friend ship」、TETSUさんの「いつもあなたが」、平井 堅さんの「ノンフィクション」という曲を聞きながら書きました。もしよければ聞いてみてください。全部名曲です(熱弁)。


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コラボのおまけ 挿し絵マシマシネタ集7

さぁ、ショータイムだ!!(白目痙攣


22 人は見た目が200%

 

 

 

12:00 ヨットハーバー

 

 

漣「天ちゃんと加賀っちってさ」

 

天龍 加賀 E.釣竿「うん」

 

漣「化粧品とかって何使ってるの?」

 

天龍「いっつも化粧水塗って終わりだな。たまに薄くやるぐらいで」

 

加賀「右に同じく」

 

漣「えーッ?」

 

天龍「いや、だって海水濡れになるし......デロデロになんじゃん」

 

深尾「そういうお前は化粧してるのか?」

 

漣「してねっす」

 

天龍 深尾「なんだと?」

 

 

ツユクサ「~♪ ~~♪」テクテクテクテク

 

 

漣「あっツッチー。化粧ってなに使ってるのん?」

 

ツユクサ「............化粧?なにそれ?」

 

深尾 加賀 漣 天龍「」

 

 

漣「え......まさかのスッピン?」

 

ツユクサ「.....................?」

 

天龍「............ツユクサ、ちっと俺たちに向かって斜めに立ってみて」

 

ツユクサ「........? .......こう?」

 

【挿絵表示】

 

 

加賀(なんかかっこいい///)

 

天龍(こいつ見た目は美人だもんな......)

 

漣(作業着姿なのに花があるもんね......)

 

深尾(バカだけど見た目は凛々しいな)

 

 

 

 

 

 

23 さいん

 

 

 

響「..................」

 

城島「チャンビキ、なに見てるんだい?」

 

響「.........姉さんから貰ったサイン色紙」

 

城島「ビキも貰ったのかい? 見せてくれヨ」

 

響「どうぞ」つ 色紙

 

城島「どれどれ」

 

 

 

色紙『      (うつ)      』

 

 

 

城島「   」

 

 

 

 

 

24 槍

 

 

天龍「若葉ってさ」

 

若葉「ああ」

 

天龍「いつも槍使ってるじゃん」

 

若葉「薙刀だ」

 

天龍「別にどっちでもいいだろ.........でさ、槍って、こう、世界中で使われてんじゃん?」

 

若葉「だな」

 

天龍「やっぱりそれだけ便利なのか?」

 

 

ツユクサ「投げ槍って競技もあるッスからね」

 

 

天龍「そんなものはない」

 

ツユクサ「あ」

 

若葉「ブッwww 」

 

 

 

 

 

 

 

25 若葉のハッキング作戦

 

 

21:00 第五鎮守府

 

若葉「..................」

 

時雨 響 長門 プリンツ 龍田 集積地棲姫「「「「「........................」」」」」

 

若葉「諸君」

 

 

若葉「時 は 満 ち た!!」

 

  \ウォオオオオオオ!!!!/

      \ウオオォォォォ!!!/ 

\ウオオオオオオオオオ!!!!!/

 

 

若葉「若葉と時雨、そして響はウツギ」

 

長門「私は駆逐艦!」

 

プリンツ「ビスマルク姉様!!」

 

龍田「私は天龍ちゃん♪」

 

集積地棲姫「装甲空母姫様の!」

 

全員「かんわいぃ寝顔の写メを盗って待ち受けにするぞォォォォォォ!!!!」

 

\ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!/

 

 

若葉「さて、集積地、午前0時頃に鎮守府を停電させる手筈は?」

 

集積地棲姫「ふん、その程度造作もない。人間の作ったマシンなど簡単にハッキング可能よ!」

 

若葉「そうかそうか。それは頼もしいねぇ......じゃ、若葉と長門は持ち場に就く。行くぞ」

 

長門「応!」

 

 

 

00:00 第五鎮守府 駐車場

 

 

若葉「そろそろか......」

 

長門「待ち遠しいな!」

 

若葉「ああっ! っ、正門の電気が消えた。突入す.........」

 

長門「おい.........」

 

若葉「なんだ怖じ気づいたか?」

 

長門「なんか様子がおかしくないか......? あれとか......」

 

若葉「?」フリムキ

 

 

\信号機がいきなり消えて車が事故ってるよ!/

 

\街灯が消えたよ!/

 

\町中真っ暗だよ!/

 

\なんか電線がパチパチしてるよ!/

 

 

 

長門「お、おい......これ、もしかして......」

 

若葉「 」ダラダラダラダラ(滝汗

 

 

長門「街ごと停電してないか......?」

 

 

若葉 長門「「/(^o^)\」」

 

 

 

※後日、鎮守府には公共事業クラスの損害賠償が届いた。あと7人には鋼鉄の変態というアダ名が付いた。

 

 

 

 

 

26 お口にチャック

 

 

 

<エエイ、クソニンゲンドモメェ!!

 

<コノ リコリスサマニ コンナ カタイクッキーヲ ヨコシヤガッテ!! 

 

深尾「......茶菓子のクレームはまだ続いてるのか?」

 

ツユクサ「ッス。一週間前からずっとあの調子ッスよ」

 

RD「人間。近隣住民から苦情が届いているぞ」

 

球磨「そりゃ、夜中もずっと叫び続けてるしな......クマ」

 

アザミ「...............」ツカツカ

 

球磨「あっちゃん何する気クマ?」

 

アザミ「話......すル.........」

 

 

 

 

リコリス棲姫「ええぃ、なんだこの石は!?こんな物を所望したのではないわ!!さっさとカントリーマ○ムを寄越せ!!」

 

アザミ「............」

 

リコリス棲姫「おお艦娘!いいところに! そうだ」

 

 

リコリス棲姫「気 晴

ら し に 一 発 な ぐ ら れ ろ !!」

 

 

四人 アザミ「!?」

 

ドカッ

 

ガッシャーン......

 

球磨(あっちゃんが窓を破って雨降る外に叩き出されたクマ......)

 

リコリス棲姫「ハーハッハッハッ!! いいきみだぜ!!」

 

アザミ 「...............」スクッ

 

リコリス棲姫「!?」

 

 

【挿絵表示】

 

アザミ「.........」≡つナイフに刺した固いクッキー

 

リコリス棲姫「モガッ!?」

 

アザミ「ヒェーッ!!」

 

シュバッ

 

ゴチン☆

 

ピシピシッ......ボキッ(歯が折れる音)

 

リコリス棲姫「  」シュゥゥゥゥ......プスプスプス......

 

アザミ「どうだ? 噛みきれただろ?」ニッゴリ

 

 

四人(  )

 

 

 

 

 

 

 

27 らんきんぐ

 

 

戦艦棲姫(別個体)「( ´∀`)~♪~♪」

 

戦艦棲姫「( ・∀・)?」

 

 

 

掲示板

 

海で出会ったら「げぇっ!」て言いたくなる深海棲艦ランキング

 

 1位 げえっ! ツ級!

 2位 ソ級

 3位 水母BBA

 4位 ナ級フラグシップ

 5位 空母おばさん

 6位 レ級

 7位 ダイソン-吸引力の変わらないただひとつの掃除機

 8位 中枢棲姫

 9位 防空棲姫

10位 若葉

 

 

戦艦棲姫「..................」

 

戦艦棲姫「(´・ω・`)」

 

時津風「あーっ!! ダイソン-吸引力の変わらないただひとつの掃除機だー!!」

 

睦月「ダイソン-吸引力の変わらないただひとつの掃除機にゃしい!! 記念に写メ撮るにゃし!!」

 

戦艦棲姫「( ゜_ ゜)」

 

戦艦棲姫「(´;ω;`)」

 

時津風「うわー! 泣き出した!」パシャパシャパシャ

 

睦月「泣き虫にゃしwww!」キラリーンキラリーンキラリーン

 

チョイチョイ

 

睦月「何奴! 睦月は今忙し............」

 

 

若葉「

【挿絵表示】

 

 

時津風 睦月「/(^o^)\オワタ」

 

 

ドガッ グシャッ メリメリメリ...... メメタァ ドジャァ~z_ン 

 

ギィィィィヤアアアアアア!!?? アバーッ!! グワーッ!! サヨナラ!!

 

 

若葉「( ^∀^)」

 

戦艦棲姫「( ゜Д ゜)」

 

時津/風 睦/月「「」」

 

戦艦棲姫「(;´_ゝ`)」

 

 

※気絶した二人は心優しい戦艦棲姫が医務室に運びました。

 

 

 

 

 

 

28 アルバイト加賀

 

 

 

ウツギ(次に買うのは......ポテトサラダとレトルトカレーか。コンビニで買うか)

 

ウツギ「...............」

 

 

テレレレレレーン~♪ LAWS〇N

 

白髪ツインテ店長「いらっしゃいませ~」

 

ウツギ(どこに有るんだ......あ、これとこれか)

 

ウツギ「会計.........ん.........?」

 

 

加賀「..................」ムスッ!

 

ウツギ(加賀......? 職業体験だろうか。にしても愛想の悪そうな顔で......)

 

 

熊野「..................」テレレレレレーン~♪

 

ウツギ(......アレ、私服だけど熊野だよな......家近いのかな)

 

 

熊野「............」ドサドサドサッ

 

加賀「............」ピッピッピッ

 

加賀「お会計、五点で2430円になります」

 

熊野「領収書お願いしますわ」

 

 

ウツギ(プレミア〇ロールケーキとパフェを経費で落とす気なのか!?)

 

 

加賀「お名前をお伺いしても?」

 

熊野「西円寺 典子(さいえんじ のりこ)ですわ」

 

加賀「すいません、漢字を......」

 

ウツギ(深海棲艦だものな。わからないよなそりゃ)

 

熊野「西って書いて、円高の円に、お寺の寺。辞典の典に子供の子ですわ」

 

加賀「..............」カキカキ

 

加賀「てん、の字が解りません......」

 

熊野「え~......目玉の目を横に倒して、たて棒を上につきだして......横棒と点を二つつければそれっぽくなりますわ」

 

ウツギ「プフッw」

 

 

加賀「............」カキカキ

 

熊野「ああっ!? なぜ縦に二つ打つ!?」

 

ウツギ「ブッフォwww 」

 

 

 

 




シリアスは死んだ! なぜだ!?

最近南方棲姫あたりが主役のお話をかきはじめました(^p^)


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