アナザーラバー (なめらかプリン丸)
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1話

この日も束は、授業中にも関わらず一人でパソコンをいじっていた。

 

その事に、周りの生徒はおろか、先生すらもちゅういをしようとはしなかった。

 

束(はぁ…やっぱり、学校なんてつまらない所に来るんじゃなかったよ。ちーちゃんとクラスも違うし、もう明日から来るの止めようかな。)

 

束は日頃から退屈していた。

小学生には似つかわしいその頭脳のせいで、千冬以外だれも自分に話し掛ける事すらしない。

 

そんな環境におかれたからなのか、千冬とその弟の一夏、そして妹の箒以外は人とすら思わない程だった。

 

ふと先生の方を見ると、その先生は束から目をそらした。

 

束(本当に下らない。なんでちーちゃん達以外の奴と同じ空間にいなきゃならないんだよ。)

 

だが今日のこの日に、束のこれまでを覆すある一人の男に出会ったのだ。

 

「遅刻してすみません。あまりにも久々過ぎて、教室を忘れてました。」

 

扉を開けて入ってきた男に、皆の注目が集まった。

 

「ねぇあれって、誰だっけ?」

「知らないのかよ。ほら先生が前に言ってた入院中の…。」

 

教室がざわつてきた。

 

束(誰だあいつ?初めて見る顔かも知れない…。一応、クラスの奴の顔は覚えてるから、わからない知らないはずは無いけど…。)

 

この男の事を、束が知らないのも無理はない。

 

この男が登校してきたのは、実に1年ぶりくらいだからだ。

 

先生「こ、幸太郎君。もう登校して良いんだね…。」

 

幸太郎「はい!今日は体調が良いんで来ました。」

 

先生のしゃべり方や顔色を見て、この男も自分と同じ様に歓迎されていない事を、束は感じた。

 

だが、それでも少し気になったくらいでそれ以上は関係無いと思っていた。

 

幸太郎「そう言えば先生、俺の席はどこですか?」

 

丁度同じタイミングで、授業の終了を告げるチャイムがなった。

 

先生「さ、さて皆さん授業はこれでおしまいです。帰りの会は良いので速く帰りましょう。」

 

そう言って足早に教室から出ていってしまった。

 

他の生徒も、唖然としてはいたがあまり気にする事なく帰りの支度をして下校を始めた。

 

皆が下校を始める中、束は未だにパソコンをいじっていた。 

千冬と一緒に帰るので、千冬が来るのを待っているのである。

 

幸太郎「ねぇ、君は帰らなくて良いの?もう教室に残ってるの俺達だけだよ?」

 

突然話し掛けられ束は驚いたが、幸太郎の方を見る事なくパソコンの画面を見続けていた。  

 

幸太郎「ねぇってば、俺の話聞いてるの?

どれどれ…、うぅ~ん、なんだか難しそうな画面だね。」

 

幸太郎は、パソコンの画面を覗きこんだ。

そしてパソコンの画面に写る、難しい数式や図形に驚いていた。

 

束「はぁ…、鬱陶しいなお前。束さんはお前の相手をしてる程暇じゃ無いんだよ。

お前こそさっさと帰れよ。」

 

幸太郎「ねぇねぇ、これってパソコンって言うやつだろ?凄いな…本物だ。」

 

束の話をお構い無しに、幸太郎は束のパソコンをジックリと見ていた。

 

束「本当に鬱陶しいよ!最新のやつだけど、そんなに珍しく無いだろ。」

 

幸太郎「だってパソコンなんて、話で聞いたくらいだから。

それよりも、君の名前は?」

 

幸太郎の言っている事がわからない束だったが、名前を聞かれたので答える事にした。

 

幸太郎「篠ノ之 束って言うんだ。いい名前だね。俺の名前は寿 幸太郎(ことぶき こうたろう)。よろしくね。」

 

幸太郎は笑顔で束に握手を求めた。

そんな幸太郎の笑顔を見て、束はなぜか幸太郎の事が気になりだしていた。

 

そして幸太郎の手をたどたどしながら、握った。

 

幸太郎「良し!これで俺と束は親友だ。これからよろしくね束。」

 

束「し、親友だと!いきなり何を言い出すんだお前は!」

 

幸太郎「だって、自己紹介をして握手を交わせば親友になれるって、本に書いてあったよ?」

 

無邪気に首を傾げる幸太郎を見て、束はなぜか恥ずかしくなり赤面してしまった。

 

束「いきなり親友って、お前はバカなのか!」

 

口では悪態をつきながらも、親友と言う単語が嬉しかった。

 

それにこの男となら、仲良くなれると束は感じ取っていた。

 

束「ま、まぁしょうがないから、お前の親友になってあげるよ。よ、よろしく…幸太郎//」




皆様、本当に末長く見守って下さい!

必ず皆様を満足させる作品にします!
そして完結させます!


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2話

千冬「すまない束。帰りの会が長引いてしまった…、って誰なんだお前は?」

 

教室の扉を開け入ってきた千冬は、束と楽しそうに話している幸太郎を見てそう言った。

 

束「あっちーちゃん。丁度良かったよ、紹介するよ今日から親友になった幸太郎だよ。」

 

幸太郎「はじめまして。束から紹介があった通り、束と親友になった寿 幸太郎です。

君は束が言ってた、大親友の織斑千冬だね?よろしく。」

 

束の時と同じ様に、幸太郎は千冬に握手を求めた。

 

千冬「あぁ、こちらこそ束共々よろしく頼むぞ。」

 

千冬「全く、私がいない間に、こんないい男をゲットしてるなんて隅に置けないな束。」

 

千冬は束を茶化すように、そう耳打ちをした。

 

すると束は、耳まで真っ赤にした。

 

束「ち、ちーちゃん!なんて事言うのよ!べ、別に幸太郎の事なんて、何とも想ってないんだからね!

それよりも、速く帰らなきゃいっくんとの練習の時間が無くなるよ。」

 

千冬「そうだったな。もうそんな時間になったか、速く帰らんと一夏はうるさいからな。

そうだ!おい幸太郎、お前も一緒に束の家に来るか?」

 

千冬にそう聞かれた幸太郎は、嬉しそうに笑いながら束の手を握った。

 

幸太郎「遊びに行っても良いの!?本当に良いの!?」

 

そんな嬉しそうな幸太郎を見ると、断る事は出来なかった。

 

幸太郎「やった!実は親友の家に遊びに行くの、憧れてたんだ!

えへへ、今日は凄く幸せな日だな。ありがとう束!」

 

束「わかったから、いつまで手を握ってるつもりなの//」

 

幸太郎「あっ、ごめん。じゃあ速く行こうよ!先に下駄箱でまってるよ。」

 

そう言って幸太郎は、教室から出ていった。

 

束「はぁ、なぜか幸太郎の笑顔を見ると、断れないよ…。それにドキドキするし。」

 

千冬「大丈夫だ。一目惚れも、立派な恋の始まりだ。」

 

千冬は束の肩に手を置きながら、そう言った。

 

~~~篠ノ之家~~~

 

幸太郎「ここが束の家か…、凄く大きな神社だな。て事は、束は巫女さんだな!」

 

千冬「お前は日本に来たばかりの外国人か?それよりも、一夏が道場で待ってる筈だ行くぞ。」

 

そう言うと千冬は、足早に道場の方へと歩いていった。

その後を、束と幸太郎はついていった。

 

千冬「すまん一夏、待たせたな。」

 

道場の扉を開けると、既に自主連をして汗を流している一夏と箒がいた。

 

一夏「別に待ってないよ千冬姉。それよりも、その人誰なの?もしかして千冬姉の彼氏?」

 

束「いっくん、それは違うよ?この人は寿 幸太郎。束さん達と今日から親友になったんだよ。」

 

束は一夏に近づいて、目を見ながら言った。

 

一夏「へぇ、そうなんだ…。あ、あと束さん、目が怖いよ…。」

 

箒「寿 幸太郎ねぇ…。」

 

箒は幸太郎をジックリ見た後、幸太郎の前に立った。

 

箒「不束な姉ではございますが、今後ともよろしくお願いいたします。」

 

そう言いながら箒は、幸太郎に深く頭を下げた。

 

束「箒ちゃん!そんな言い回し、どこで覚えてきたの!?止めてよ恥ずかしい//」

 

幸太郎「姉って事は、君は束の妹さんだね。言葉の意味は良くわからないけど、こちらこそよろしくね。

それにしても、かわいい妹さんだね。」

 

幸太郎は、箒の頭を撫でながらそう言った。

 

自分より先に、幸太郎にかわいいと言われている箒に束は、少し嫉妬してふくれていた。

 

一夏「ねぇねぇ千冬姉。俺あんな乙女な束さんを見たのは、初めてだよ。」

 

千冬「心配するな一夏。私も初めてだ。

だが、これがキッカケであいつもまっとうな人間関係が築けれる筈だ。恋する乙女って不思議なものだな。」

 

ふと幸太郎の顔を見てみると、顔色が悪く汗をかきだしていた。

 

束「幸太郎、顔色があんまり良くないけど、大丈夫なの?」

 

幸太郎「えっ…、あ…あぁ、だ…大丈夫だ…よ、このく…らい…。

なん…ともな…い…よ。」

 

とは言っているが、顔色は悪くなる一方で足がおぼついていない。

 

幸太郎「ゴホッ!ゴホッ!ハァ…ハァ…ハァ…。」

 

咳を抑えた手をはずすと、手のひらに血がついていた。

 

束「全然大丈夫じゃ無いよ!箒ちゃん、速く救急車呼んできて!」

 

幸太郎「だ…だか…ら、だいじ…ょう…」

 

言い切る前に、幸太郎はその場に前のめりに倒れ混んでしまった。




束が、なんだがかわいいヒロインに見えてきますね…。

そして幸太郎の大ピンチ!
はたして幸太郎は大丈夫なのか!?


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3話

幸太郎が倒れ混んで直ぐに、黒いスーツを身につけたガタイの良い男が数人と、白衣を着た女性が入ってきた。

 

男1「所長、D-4の点滴を使いますか?」

 

女「まだ大丈夫な筈よ。まずはB-6を使って。その後に、解熱剤を与えて。」

 

女性がそう指示を出すと、男達は幸太郎を抱き上げた。

あまりの突然の事で、呆気にとられていた束達だったが、すぐにハッとなった。

 

束「ちょっと貴方達何者なの!それに幸太郎をどこに連れてくつもりなのよ!」

 

女性は束の顔を見た。

 

女「なるほど…貴方達がね…。おいお前ら、速く幸太郎を連れてくのよ!事態は一刻を争うわ!」

 

男達「はっ!」

 

そう言うと、男達は外に止めてあった黒塗りのベンツに幸太郎の一緒に乗り込み、発進していった。

 

束「おい!誘拐だぞお前ら!警察呼ぶぞ!」

 

女「幸太郎の事なら、心配しないで。それよりも、速く貴方達も行くわよ。」

 

そう言って女性は、束達を赤いランボルギーニに案内した。

 

信用できないが、今はそれしか方法が無いとわかっている束達は、女性の言う通りにランボルギーニに乗った。

 

~~~ランボルギーニ内~~~

 

女「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私の名前はマイルナ・マーガレットだ。」

 

マイルナは、運転しながら束達に自己紹介をした。

 

千冬「マイルナさん、それよりも幸太郎はどこに行ったのですか?」

 

マイルナ「そうね、今からする話は信じられないかも知れないけど、全て真実だわ。」

 

そう前置きをして、マイルナは話を続けた。

 

マイルナ「まず、私達の事だけど、さっきの男達は今から向かう研究所の所員で私はそこの所長なの。

そこの研究所では、日々医学の研究を続けているわ。」

 

束「貴方達が誰かはわかったわ。じゃあ幸太郎とどう関係があるのよ。」

 

マイルナ「実は幸太郎は生まれつき、大きな病を患っているの。

しかも、原因も治療法も何一つ解明できていない難病なの…。」

 

そうこうしている間に、その研究所についた。

 

マイルナ「さぁついたわ。詳しい話は、研究所の中でする方が良いわ。」

 

束達は、マイルナの案内で研究所の中へと入っていった。

 

~~~研究所~~~

 

マイルナに案内されて、研究所の中を歩いていくと沢山の部屋の前を通った。

 

薬を保存する部屋、沢山の資料が置いてある部屋、そして薬品の研究をする部屋など。

 

するとマイルナの前に、一人の研究員が走ってきた。

 

研究員「し、所長!幸太郎くんの容態は、なんとか落ち着いてきました。

この調子なら、来週にでも目を覚ますと思われます!」

 

マイルナ「そう、それは良かったわ…。これで峠は一旦は越えたわね。」

 

研究員の報告を聞いて、マイルナは安堵の表情をした。

そしてその研究員に、なにか指示を出してまた歩き出した。

 

そして一つの部屋の前に止まった。

 

マイルナ「ほら、あそこで寝てるのが幸太郎くんよ。」

 

そこには、呼吸器を口に付け沢山の点滴に繋がれ目を閉じている幸太郎がいた。

 

束「ねぇ、本当に大丈夫なの!なんだか、大丈夫には思えないけど…。」

 

マイルナ「大丈夫よ。その事についても、今からしっかりと話すわ。」

 

そう言うとマイルナは、束達を休憩室に案内した。




まさか、幸太郎が病気だったなんて!
しかもなんだかヤバめです。

目覚めるのが、来週かもって所も、不安ですね…。


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4話

今回は台詞多めです。
ご了承ください。




~~~休憩室~~~ 

 

マイルナ「さてと、どこから話せば良いのかな?貴方達は、何から聞きたい?」

 

束「そんなの決まってるでしょ、幸太郎の病気についてよ!いつからなの!どうすれば治るの!」

 

束は、体を乗り出しながらマイルナに聞いた。

 

マイルナ「まぁまぁ落ち着いて。そうね、いつからって質問の答えは、さっきも言ったけど生まれつきなのよ。

元々、彼の両親はここの前所長と旧友だったの。その繋がりで、前所長は幸太郎の病気について知ったの。」

 

マイルナ「幼い時は、ただの発熱だけだったんだけど、彼が成長するにつれ筋肉の衰え、免疫力の低下、吐血等も増えてきたわ。」

 

千冬「そうだったのか…、でもこんな大きな研究所だから、対策法の一つや二つ見つけてる筈だろ?」

 

千冬がそう聞くが、マイルナは悔しそうに首を横に振った。

 

マイルナ「残念だけど、対策法はおろか原因すら今の医学ではわからないの。

しかも、最近は心拍数の低下が著しく目立つわ。このままだと幸太郎は…。」

 

束「じ、じゃあ今幸太郎にしてる治療は、全く無意味って事なの?」

 

マイルナ「無意味と断言出来る訳では無いが、逆に効果があるとは言い切れないわ。」

 

マイルナがそう言うと、休憩室に静かな空気が漂った。

 

マイルナ「それにしても、今日は本当に驚いたわ。幸太郎が学校に行きたいってワガママを言ったと思ったら、こんな美人なお友達をつくってなんてね。」

 

マイルナに美人と言われ、束と千冬は恥ずかしくなった。

 

マイルナ「まぁ、幸太郎は状態が状態で学校にはあまり顔を出せないけど、それでもこれからも彼の大切なお友達でいてあげてね。」

 

マイルナは束と千冬に向かって、頭を下げた。 

 

そして、ポケットから一枚の紙を取り出した。

 

マイルナ「これ、私の電話番号とメールアドレス、そしてLINEのIDよ。

もし幸太郎のお見舞いに来るときは、一言連絡してくれれば、迎えに行くわ。」

 

千冬「わざわざ、すみません。でも、心配しないで下さい。例えマイルナさんが何と言おうと、私達は幸太郎の親友です。

まぁ…束はそれ以上を望んでますけど…。」

 

束「ちょ、ちょっとちーちゃん!いきなりなんて事言うの!

でも、望んでない訳じゃ無いけどさ…、まぁ出来ればこ、こい…恋人に…って、なに言わせるの//」

 

そんな二人の掛け合いを見て、マイルナは安心して微笑んだ。

この二人なら、幸太郎を大切にしてくれる。

 

そう確信したのだ。

 

マイルナ「恋する乙女は素敵な事よ。でもね束ちゃん、幸太郎は外の事を全然知らない、いわゆる世間知らずよ。

そんな幸太郎のハートは、なかなか射止めれないわよ?」

 

茶化した様にマイルナが笑うと、束は余計に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にした。

 

一夏「そう言えば、マイルナさんって幸太郎さんと、どんな関係があるの?

もしかして、幸太郎の彼女とか!?」

 

一夏の質問に、束の目の色が変わった。 

 

マイルナ「今の話の流れで、そんな質問するなんて。一夏くん、君は将来は恋愛事で大火傷するわ。」

 

マイルナ「別に、何も特別な関係は無いわ。ただ、彼の治療をする一人の女医ってだけよ。

だから、安心してね束ちゃん。」

 

束「な、なんで私に話をふるんですか//」




なんか、ほのぼのな様なそうじゃ無いような…。

まぁ、クヨクヨしても意味無いですよね。

関係ない話ですが、マイルナは18歳の設定です。


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5話

あれから毎日、束は幸太郎のお見舞いに行っていた。

そして既に、6日が過ぎていた。

 

束(もうすぐ、6時間目が終わる時間かな…。はぁ…、こんなにも授業中が長かったなんて、思いもしなかったな。)

 

 

1分1秒と時を刻む時計を見ながら、幸太郎に会える事を考え束はうっとりしていた。

それと同時に、ソワソワともしていた。

 

そんな束を、クラスの皆は不思議そうに、そして恐ろしそうにしていた。

 

いつもは、パソコンとにらめっこをしている束が、ここ最近は教室につくと、ずっと時計を見ているからである。

 

だが、誰も束に話しかける事はしない。

先生だって、気味悪がっているだけである。

 

束(けど、やっぱり退屈な所だなぁ。幸太郎がこないクラスなんて、本当に無意味ね。)

 

そう嘆く束だったが、幸太郎のお見舞いの条件として、毎日登校する事をマイルナと約束しているのだ。

 

幸太郎と会いたい束は、例え無意味な場所でも登校しなければならないのである。

 

そして6時間目の終了のチャイムがなり、簡単な帰りの会が終った後、束から離れたい一心で皆は足早に帰っていった。

 

束(人の顔色伺って、本当につまらないやつらだよ。言いたい事があるなら、直接言えば良いのに。)

 

なんて考えていると、教室の扉が開き千冬が入ってきた。

 

千冬「なんだお前。また時計ばっかり見てたのか?全く、少しは授業に参加したらどうだ?」

 

束「こんな簡単な勉強、わざわざ参加する必要も無いよ。それよりもちーちゃん、速くお見舞いに行くよ!」

 

今まで見た事の無い束の笑顔を見て、千冬は少し嬉しく思った。

 

千冬「その事なんだが、今日は外せない用事があって私と一夏は行けない。

すまないがお前と箒の二人で行ってくれ。」

 

束は残念に思ったが、幸太郎に会えるのは変わらないので二人で行く事にした。

 

~~~車の中~~~

 

マイルナ「毎日毎日、お見舞いに来てくれて本当にありがとうね。」

 

束「いえいえ!私が好きで行ってるだけですから!そんなお礼なんていらないですよ。」

 

箒「そうですよ。それに、毎日家で幸太郎さんの事を幸せそうに話す姉さんを見れて、私も嬉しいです。」

 

家での事をばらされて、束はあわてて箒の口を手でふさいだ。

 

束「ち、違うんですよ!別に、毎日してる訳じゃ//」

 

マイルナ「そんなに恥ずかしがる事は無いでしょ?誰かを好きになるって素敵な事だし、それが幸太郎だなんてね。

幸太郎は私にとって弟みたいなの、だからもし貴方が結婚したら、感覚としては私と姉妹になれるかな?」

 

束「義姉さんか…、なんか凄く良い響きだなぁ//」

 

箒「マイルナ義姉さん!こんなおっちょこちょいな姉ですが、これからも私共々よろしくお願いします!」

 

車内が凄くホッコリとした所、マイルナはある事を思い出した。

 

マイルナ「そうだった。束、研究所に行ったら驚く事があるわ。」

 

束「驚く事って何なの義姉さん?」

 

マイルナ「それはついてからのお楽しみよ。」

 

~~~研究所~~~

 

マイルナ達は、幸太郎の入院している部屋の前に到着した。

 

マイルナ「さぁ、ここを開ければ驚きのあまり言葉を失うわ。」

 

束「なんの事だかわからないけど、箒ちゃん入ろっか。」

 

扉を開け、中に入った束はマイルナの言った通り言葉を失った。

 

幸太郎「あっ束に箒、来てくれたんだ。」

 

なぜなら、幸太郎が目を覚ましていたからだ。




いきなり義姉さんって、気が早いですね。

皆様はどの様な授業態度でしたか?
私は基本寝てるか、窓の外を眺めてました。

それか、束と一緒で時計をじっと見てたりもしてましたね。


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6話

束「こ、幸太郎!もう体の調子は大丈夫なの!気分が悪いとかは?体が痛いとかは無いの?」

 

病室に入った束は、真っ先に幸太郎の所に駆け寄り、幸太郎の心配をした。

 

幸太郎「随分と心配かけて、本当にごめんね。マイルナさんに聞いたけど、毎日お見舞いに来てくれたんだってね。

ありがとう束、凄く嬉しいよ。」

 

そう言って幸太郎は、束に微笑みかけた。

その顔を見て、束は嬉しそうに笑った。

 

束「べ、別に私が来たかったから来てただけだからね!勘違いしないでよね//」

 

照れ隠しをする束を、マイルナと箒はニヤニヤと見ていた。

 

マイルナ「それよりも幸太郎、そろそろ散歩の時間じゃない?まだ点滴の時間までは長いから、束と行ってきたら?」

 

幸太郎「そっか、もうそんな時間か…。ずっと眠ってたから、久しぶりに散歩するか!

良し!束に箒、二人も行こうよ。」

 

ベッドから降り、外行きの服装に着替えながら幸太郎は二人を誘った。

 

箒「折角のお誘いごめんなさい義兄さん。実はこれから、義姉さんとお話があるんです。」

 

そう言って箒は、マイルナの腕を組んだ。

 

幸太郎「そっか…、それはしょうがないね…あれ?義兄さんに義姉さん?」

 

束「ほ、ほら!速く行かないと、時間無くなるよ!」

 

義兄と義姉の意味を、幸太郎に気づかれなくない束は、急いで幸太郎の手を掴み部屋から出ていった。 

 

マイルナ「全く、幸太郎相手に義兄さんはちょっと速すぎると思うわ。」

 

箒「そんな事無いですよ。幸太郎さんが私の義兄さんになるのは、時間の問題です。」

 

~~~中庭~~~

 

幸太郎「ここがこの研究所の中庭だよ。いつもここを散歩してるんだ。」

 

幸太郎と束は、研究所の中庭に来ていた。

 

この中庭はとても広く、散歩をするのに最適なのかも知れない。

 

幸太郎「じゃあ、散歩開始。」

 

幸太郎は束を手を握りながら、楽しそうに散歩を始めた。

 

幸太郎に手を握られた束は、恥ずかしかったがそのまま手を繋ぎ続けた。

 

広い中庭を歩きながら、幸太郎は束と色々な事を話した。

内容は他愛もない話だが、それでも幸太郎は嬉しそうに話をしていた。

 

そんな幸太郎を見て束は、改めて自分は幸太郎の事を愛していると感じた。

 

束(こんなにも、楽しそうに話をしたのっていつぶりだろう?でも凄く楽しいわ。

幸太郎か…、私の事を気味悪がなかった人。それに、優しい人。

やっぱり私は、幸太郎の事が好きなんだ//)

 

そんな事を考えていたら、束は赤面してしまった。

 

幸太郎「どうしたの束?もしかして疲れたの?

だったら、あそこのベンチに座ろっか。」

 

幸太郎は近くにあったベンチに、束と隣同士で座った。

 

幸太郎「ふぅ、久しぶりに歩くとやっぱり疲れるね。」

 

束は緊張のあまり、それ以上会話が続かなかった。

 

箒「姉さんも奥手ね。二人きりなんだからもっと迫っても良いのに。」

 

そんな二人を、マイルナと箒は離れた場所から見ていた。

 

マイルナ「そうよね。若い二人なんだから。折角二人きりにしてあげたのに。」

 

マイルナと箒は、二人を見ながら少しガッカリしていた。

 

幸太郎「さっきから何も話してないけど、大丈夫なの束?」

 

幸太郎は束の顔を覗きこみながらそう言った。

 

束(今は、幸太郎と二人きり…。回りには誰もいない。しかも、箒ちゃんと義姉さんは私に気を使ってくれてる。

そうよ、そうよね!私の想いを伝えるのは、今しかないよね!うん決めた!)

 

すると突然、束はベンチから立ち上がり幸太郎の前に立った。

 

束「こ、幸太郎!私は貴方と出会ってから、まだそんなに月日はたってない。

マトモに会話をしたのも、今日で二日目だわ。」

 

束「でも、でも!私は貴方の事が大好きなの!世界中で誰よりも愛してるの!」

 

幸太郎「束…、俺だって束の事が好きだよ。」

 

束「えっ、本当に!」

 

幸太郎「うん本当さ。束も千冬も一夏も箒もマイルナさんもここの所員の皆も、皆の事が好きだよ。」

 

幸太郎の言葉に、束は言葉を失った。

 

幸太郎に好かれて嬉しい半面、その好意は親友としての好意であるあらだ。

 

だがそれでも、自分が嫌われていないとわかり、今はそれで満足だった。 

 

束「そう、ありがとう。それよりもそろそろ戻りましょう。」

 

束は幸太郎の手を取ると、幸せそうに歩き出した。




私が書く話の主人公は、龍亞といいリアといい幸太郎といい、鈍感な人ばかりですね…。

束が物凄く恋する乙女ですね。
なんだか、可愛いです。


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7話

~~~休憩室~~~

 

マイルナ「二人とも疲れたでしょ?ほら、この麦茶でも飲んで。」

 

幸太郎「ありがとうマイルナさん。久しぶりの散歩だったから、喉がカラカラだよ。」

 

そう言って幸太郎は、マイルナから麦茶を受け取り、飲んだ。

 

幸太郎に続いて、束も麦茶で喉を潤した。

 

マイルナ「そう言えば貴方達は、来年で中学生ね。なにか夢でもあるの?」

 

マイルナからの突然の質問に、幸太郎は腕を組ながら考えていた。

 

マイルナ「まぁ、束の夢は幸太郎のお嫁さんだと思うけど、出来ればそれ以外で頼むわ。」

 

マイルナは、幸太郎に聞こえない様な小さい声で、束にそう耳打ちをした。

 

束「な//何を言うんですか義姉さん//確かに…、幸太郎のお嫁さんになれたらなぁ…って、願ってますけど、他にもありますよ//」

 

箒「もう姉さん、恥ずかしがりすぎ。顔が真っ赤ですよ。」

 

マイルナ「フフッ、青い春ね。それで束、ほかの夢って何なの?」

 

マイルナがそう聞くと、束は一つの資料を取り出した。

 

その資料には、沢山の計算式や機械の設計図などがビッシリと書かれていた。

 

マイルナ「あら、随分と難しそうな資料ね。どれどれ…、来年中学生の子供が、こんな難しい考えが出来るなんて、末恐ろしいわね。」

 

束「これは、私が開発中の宇宙空間で使うマルチフォーム・スーツ《インフィニット・ストラトス》の設計図です。

これを作って、宇宙をもっと身近な存在にしたいんです。」

 

マイルナ「宇宙空間か、なるほど。それは素晴らしい夢だわ。」

 

幸太郎「そうだよ!やっぱり束は凄いな。俺には、宇宙なんて壮大すぎてわかんないよ。」

 

初めて千冬以外の人間に、肯定されたので束は恥ずかしくもあり、誇らしかった。

 

幸太郎「じゃあ次は箒の番だよ。」

 

箒「夢って聞かれても、今はパッと出てこないけど、出来ることなら人の役に立てる様に、特にその…い、一夏の役に立ちたいな//」

 

束「そっか、箒ちゃんはいっくんの事が大好きだったね。いっくんの役にか、以外と箒ちゃんも乙女だねぇ。」

 

箒「べ、別に一夏の事なんか!な、なんとも想って無いんだから//」

 

これまでの仕返しか、束はニヤニヤと箒を見ていた。

 

箒「そんな事より、次は義姉さんの番ですよ?」

 

マイルナ「私の夢か。私は貴方達みたいな、大きな志しは無いけど、強いて言うなら幸太郎の病気を完全に治す事かしら?

それが、先代の所長の夢でもあるからね。」

 

そう言ってマイルナは、幸太郎の頭を撫でた。

 

束「義姉さん…、それは私も願ってる事です。もし私が力を貸せる事があるなら、是非教えてください!」

 

マイルナ「ありがとう束。今はその想いだけで嬉しいわ。

じゃあ次は幸太郎の番よ?幸太郎は何か夢はあるかしら?」

 

幸太郎「夢か…、夢ね…。」

 

幸太郎は、自分の夢についてじっくりと考えてみた。

 

幸太郎「これは、夢じゃ無いかも知れないけど、俺は大好きな皆とこれからも仲良く過ごしたい。

例え病気が治らなくても、最後まで皆と楽しく笑っていたいんだ。」

 

幸太郎の想いに、マイルナ達は目頭が熱くなっていた。

 

マイルナ「幸太郎、それは夢じゃ無いわ。」

 

箒「そうですよ!だって、今だって楽しく過ごしているわ!」

 

束「それに、貴方が病気だろうと関係ない。私達も貴方が大好きです。

だから、いつまでも仲良く過ごせるわ。」

 

三人の言葉を聞いて、幸太郎は安心した。

 

幸太郎「そっか、じゃあ俺の夢は無いね。やっぱり、大切な人達って良いね。

これからもずっと、よろしくね!」

 

幸太郎が差し出した手を、三人は優しく握った。




なんだか、心暖まるお話ですね。

いや、やっぱり良いですね友情と愛情は。

次回からは、少し話が飛んで一夏達がIS学園に入学後になります。
ご了承下さい。


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8話

千冬「はぁ、新しい用務員ですか?」

 

学園長「その通りなんだよ。なんでも、君のクラスに一言挨拶がしたいと、申し出があってね。」

 

1組のクラス代表戦の次の日、千冬は職員室で学園長に話しかけられた。

 

なんでも、今日から新しく用務員が入ってくるらしい。

 

千冬「それで、その用務員の名前や写真は無いんですか?」

 

学園長「すまない。相手側からは、何も情報提供が無かったんだ。

だがその代わり、電話の相手は君の知り合いだと言っていたぞ?」

 

学園長がそう言うが、千冬には心当たりが全く無かった。

 

それどころか、自分の知り合いを装い近づいてくる、面倒なファンの仕業とも考えていた。

 

千冬「わかりました。例え相手が誰であろうとも、関係ありません。」

 

そう言って千冬は、職員室から出ていった。

 

~~~1組の教室~~~

 

千冬「本日から、新しい用務員が入ったらしい。そして、どうやらこのクラスに挨拶があるとの事だ。

だから、心しておくように。」

 

一夏「でも千冬姉、その用務員の人はどこにいるんだよ?」

 

千冬「先生と呼べ。なんども言わせるな。」

 

そう言った千冬だが、自分も時計を確認した。

もうすでに、朝のHRも終わり、一限目が始まろうとしている時間だからだ。

 

それなのに、未だにその用務員は姿を現さなかった。

 

自分の知り合いの中に、そんな礼儀知らずは束だけだと、千冬は考えていた。

 

千冬「まぁ、時期にすぐ来るだろう。それよりも一夏、今日からお前はクラス代表だ。

気を引き秘めて行けよ!」

 

セシリア「そうですわ!私も、精一杯のサポートをいたします。

一緒に、頑張って行きましょう。」

 

箒「セシリアの言う通りだ。まぁ、私も協力してやらんでもないぞ//」

 

そんな会話をしていたら、一限目の開始のチャイムがなった。

 

千冬「それでは、授業を始める。」

 

だが一限目が終わっても、その用務員が来る気配はなかった。

 

それどころか、二限目、三限目と、時間が過ぎていた。

 

いい加減、千冬は我慢の限界に達していた。

 

千冬(本当になんなんだ!既に四限目に入っているのに、来る気配が無いじゃないか!)

 

するといきなり、教室のドアが開いた。

 

幸太郎「いや~すみません遅れちゃって…。言い訳に聞こえるかも知れないけど、色々あったんですよ。」

 

開いたドアから、幸太郎が申し訳なさそうに頭を下げながら入ってきた。

 

千冬「こ、幸太郎なのか!どうしてお前がここにいるんだ!?」

 

箒「そうですよ義兄さん!どうしてですか!」

 

見知らぬ人物の登場と、千冬と箒のリアクションから、教室はザワつきだした。

 

幸太郎「おっ、久しぶりだね箒に一夏、それに千冬も。

あれ?ここに束はいないんだね。」

 

千冬「それよりも、お前がいる理由と遅れた訳を教えてくれ!」

 

幸太郎に詰め寄る千冬だったが、幸太郎の背後の人間に止められた。

 

マイルナ「一旦落ち着きなさい。理由なら、私の口から説明してあげるわ。」

 

箒「お、義姉さんまで!」

 

マイルナ「幸太郎がここに来たのは、幸太郎がここの新しい用務員だからよ?

そして、遅れた訳は二ヶ月前から一時間前まで倒れてしまってたからよ。」

 

マイルナにそう言われ、千冬は改めて幸太郎の顔を良く見てみた。

 

幸太郎の顔色は、あまり良くは無かったのだ。

 

千冬「そうだったのか…、じゃあマイルナさんはどうしているのですか?」

 

マイルナ「私か?私もここの保健員になったからよ。それよりも、幸太郎の為に速く挨拶をすまして良いかしら?」

 

千冬「あ、あぁかまわないが…。」

 

千冬がそう言うと、幸太郎は張りきって教壇の前に立った。

 

幸太郎「えぇ、皆さん初めまして!この度、IS学園の用務員になりました、寿 幸太郎です!

まだ至らない事ばかりでISの事も、良くわかりませんが、マイルナさん共々仲良くしてください!」




幸太郎とマイルナが、無事にIS学園に仲間入りです。
用務員に保健員、なかなか地味なような違うような…。

わりとさらっと流されましたが、二ヶ月前から一時間前まで倒れてたって、凄く心配な事ですね。


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9話

~~~食堂~~~

 

四限目が終わり、生徒達は食堂に昼食を食べに集まりだしていた。

 

幸太郎「へぇ、ここが学食ってやつだね。凄く人が集まるんだね。」

 

幸太郎とマイルナは、既に席に座りながら、集まってくる生徒を見ていた。

 

すると、幸太郎達の方に千冬と箒と一夏とセシリアが近づいてきていた。

 

千冬「おい幸太郎!なんでお前がここにいるのか、理由を聞いてないぞ!」

 

千冬は机を叩きながら、幸太郎に問い詰めた。

 

マイルナ「さっきも言ったけど、一旦落ち着きなさい。

それより、貴方達も座れるように席はとってあるわ。

まずは座りましょ?」

 

マイルナがそう言うと、千冬は渋々席に座った。

 

千冬に続く様に、一夏達も順番に着席をした。

 

千冬「さぁ座ったぞ!私が納得出来る、訳を聞かせてくれ!」

 

幸太郎「訳って言われても…。」

 

幸太郎は、腕組みをしながら必死に考えていた。

 

幸太郎「俺って、中学に進んで無いから学歴や世間体?では、ダメ人間じゃん。

だから、せめて就職して確りと働いて、マトモな人生をおくりたいんだ。

これじゃ、ダメかな?」

 

幸太郎の説明に、千冬はあまり納得はしていなかった。

 

マイルナ「そうだ、幸太郎今なら列も少ないし、何か頼んできなさい。

その代わり、塩分や糖分の高いもの、油っこいものは頼んじゃダメよ?」

 

幸太郎「はぁい、そんなのわかってるよ。」

 

そう言って、幸太郎は席を立ち昼食を注文しに列に並んだ。

 

千冬「マイルナさん!貴方はどうして幸太郎を止めなかったんですか!

明かに、幸太郎の調子は悪いんでしょう!」

 

幸太郎に聞こえない位置に移動したのを見計らい、千冬はマイルナにも問い質した。

 

マイルナは、一瞬幸太郎の方を確認した。

 

マイルナ「貴方の言う通り、幸太郎はずっと調子が悪いわ。あの状態では、とても仕事は出来ないわ。」

 

千冬「わかってるならどうして!」

 

マイルナ「もう一度言えば、わかるかしら?幸太郎は“ずっと調子が悪いわ”」

 

同じ事を言われ、千冬はマイルナが何を言っているのかわからなかったが、すぐにマイルナの言いたい事が理解できた。

 

だが、その事実を認めたくは無かった。

 

千冬「ま、まさか…幸太郎は!」

 

マイルナ「えぇ…貴方の理解通り、あまり長くは無いわ。

私達の導き出した計算では、あと一年もつかどうか…。」

 

箒「そ、そんな!それじゃあ、義兄さんはあと一年しか生きられないって訳なの義姉さん!」

 

マイルナ「体力や食欲の低下や脈拍の低下、そして貧血等で倒れる回数で計算した結果よ。

私は、幸太郎には幸せに生きてほしいの。だから、あの子が望むなら止める事は出来なかったのよ!」

 

マイルナは大粒の涙を流しながら、千冬達に言った。

 

千冬「その事は、もう幸太郎や束には伝えてあるの?」

 

千冬がそう聞くと、マイルナは首を横に振った。

 

マイルナ「まだ幸太郎には伝えてないわ。その宣告は、あまりにも残酷で私には出来ないわ。

それに束とは、連絡がつかないの。でも、もし連絡がついたとしても、彼女にも伝える事は出来ないわ。」

 

すると、幸太郎が帰ってきた。

 

幸太郎「あれ?なんだか、空気が重いような?なんの話をしてたの?」

 

慌ててマイルナは、涙を拭い幸太郎の方に振り向いた。

 

マイルナ「べ、別に。何も無いわよ?それよりも、何を頼んできたの?」

 

幸太郎「フフッ、ジャジャ~ン!俺の昼食は、温かい蕎麦です。食べきれるか心配だけどね…。」

 

そう言って幸太郎は、自分が持ってきたお盆を、机に置いた。

 

机に置かれた蕎麦を見て、言葉を失った。

 

なぜならその蕎麦は、量が少なく普通に食べれば三口で完食してしまう程度の量だったからである。

 

マイルナ「そ、そう…。もし残しちゃっても、私が食べてあげるから、心配しないで。」

 

幸太郎「わかったよ。なんだか最近、マイルナさんや所員の皆が、妙に優しくなった様な…まぁ良いか。

それじゃあ、いただきます。」

 

美味しそうに蕎麦を食べる幸太郎を、マイルナ達は静かに見守る事しか出来なかった…。

 




なんだか、思ったよりも幸太郎の様子は悪いみたいですね…。

少しだけ、雲行きが怪しくなってきています…。


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10話

昼食を済ませた後、千冬達は午後の授業にマイルナは保健員の仕事に行ってしまった。

 

幸太郎「それにしても、凄く広い学園だなぁ。歩くのに、一苦労だよ。」

 

幸太郎は、一人で学園内を歩いて散策していた。

 

中庭についた幸太郎は、疲れが来たのかベンチに腰かけた。

 

幸太郎「はぁ…考えてみたら、こうやって一人で過ごすのは、初めてかも知れないな…。

俺が倒れた時も、マイルナさんや所員の皆が周りにいてくれたしな。」

 

そんな事を考えた幸太郎は、なぜか孤独感に教われていた。

そして少しだけ、涙を流していた。

 

幸太郎(一人か…。でも、社会人になればこんな孤独感は、日常になって当たり前か。

でも…それでもやっぱり、一人は寂しいよ。)

 

幸太郎「ゴホッゴホッ!!」

 

幸太郎は咳をしながら、吐血をしてしまった。

 

その吐血を幸太郎は、何かを認める様に見ていた。

 

幸太郎「最近、こうやって血を吐く回数が増えてる。マイルナさんや所員の皆は隠してるけど、やっぱり俺の残りの命は、そんなに長くないのかな…。」

 

幸太郎はそう呟き、ベンチから立ち上がった。

 

そして貧血と疲れでふらつく足を引きずりながら、また園内の散策を開始した。

 

散策をしながら、幸太郎はこれからの事を考えていた。

 

無事に用務員になれたが、この体調ではマトモに仕事はこなせないだろう。

それでも、自分がマイルナに無理を言って決めた道だと、幸太郎は自分に言い聞かせた。

 

幸太郎「ハァ…ハァ…、結構ヤバいね…。なんだか、目がチカチカして目の前が歪んで見えてきたよ。」

 

既に、壁にもたれ掛からなければ立っている事も、困難になってしまっていた。

 

だが、いつもよりは調子が良いと幸太郎は少し安心していた。

 

それでも、気を抜けばすぐに倒れてしまう事には変わらない状況である。

 

ふと気づくと、一夏達のクラスの近くまで来ていた。

このまま教室に入れば、千冬や一夏や箒が心配しマイルナに伝え、自分は治療して貰えるだろう。

 

だが、幸太郎はそこから一歩も教室に近づく事はしなかった。

 

幸太郎(お、俺はこれまで自分の病気で、マイルナさん達に沢山の心配や負担をかけていた。

自分の命が短いのはわかってる、だからこれからは皆に余計な心配は絶対にかけない!)

 

そして幸太郎は、学園が用意してくれた自室に戻ろうとしだした。 

 

幸か不幸か、マイルナと幸太郎の部屋は別々になっている。

 

こうして幸太郎は、他の誰かに見られる事無く無事に自室に辿り着いた。

 

自室のドアを開け、中に入った幸太郎は真っ先にマイルナに渡された処方箋を飲んだ。

 

飲んだすぐには効果は無いが、それでも幸太郎の気持ちは少しだけ楽にはなった。

 

幸太郎「だ、大丈夫だ…。少し横になれば、なにも無かった様に、目が覚めるはずだ…。」

 

そう自分に言い聞かせ、幸太郎はベッドに横になった。

 

幸太郎「絶対に、病気なんかには負けない!必ず病気を治して、皆と同じ様に過ごすんだ!」

 

幸太郎は写真立てに入っている写真を見ながら、改めてそう誓った。

 

その写真には、幼い頃の幸太郎とマイルナと束と箒、そして千冬と一夏が写っていた。

 

そして幸太郎は、そのまま深い眠りについてしまった。

 




やはり、自分の体の事は自分が良く知っているんですね。
例えマイルナが内緒にしていても、幸太郎は気づいていますね。



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11話

千冬「おい幸太郎、いるのか?」

 

この日の夜、千冬とマイルナは幸太郎の部屋の前に来ていた。

そしてノックをしてが、中から物音が聞こえなかった。

 

マイルナ「おかしいわね?幸太郎なら、部屋に帰ってる筈だけども…。」

 

すると、二人の脳裏には想像もしたくない、最悪の状況が思い浮かんでしまっていた。

 

マイルナ「幸太郎、幸太郎!大丈夫なの!?大丈夫なら、ちゃんと返事をして!」

 

千冬「くっ、こうなったらやむを得ない。部屋に入るぞ!」

 

そう言って、ドアを無理やり壊そうとしたが、鍵が開いてるのを確認し、ドアを開けた。

 

千冬「幸太郎、大丈夫か!」

 

中に入ると、シャワー室から全裸で出てきた幸太郎がいた。

 

幸太郎「ふぅ、サッパリしたよ。でも、部屋にシャワーがついてるなんて、凄いな。

あれ?どうしたの二人とも?」

 

幸太郎は、二人の方に体を向けながらそう言った。

 

千冬「なっ、な!?こ、幸太郎!どうして全裸なんだ!」

 

幸太郎の下半身に、千冬は視線が行ってしまい、凄く赤面してしまった。

 

幸太郎「どうしてって、シャワー浴びた後だからに決まってるじゃん?」

 

幸太郎は不思議そうに、首をかしげた。

 

マイルナ「全く、また着替えを持って浴びなかったのね。あれほど言ったでしょ?」

 

そう言ってマイルナは、クローゼットから寝巻きを取り出した。  

 

そして幸太郎は、マイルナが渡してくれた寝巻きに着替えだした。

 

マイルナ「それに千冬、何をそんなにアタフタしてるのよ?貴方程の女なら、男の下半身の一つや二つ、見慣れてるでしょ?」

 

千冬「ばっ、バカ者!見慣れてる訳が無いだろう!そ、それに…あれは…。」

 

マイルナ「まぁ確かに、幸太郎のは凄く大きいわね。中々のサイズよ?」

 

そんな話をしていると、幸太郎は着替え終わっていた。

 

幸太郎「で、二人は何しに来たの?」

 

千冬「そ、そうだったな。実は、今から束に電話をしようと思っていて。

だったら、お前の声も聞かせてあげよう。と思ったんだ。」

 

幸太郎「束に電話か…。良いね!速く電話をしようよ!」

 

千冬は自分のポケットから携帯電話を取りだし、束の番号に電話をかけた。

 

そして2コールがなった後、束が電話に出た。

 

束『ちーちゃんから電話をしてくるなんて、物凄く珍しいね?どうかしたの?』

 

千冬「あぁ、別にたいした様は無いんだが…。」

 

そして束と千冬は、少しの間二人だけで話を続けていた。 

 

マイルナ「ねぇ、いつまで話してるの?速く幸太郎に代わらないと、また幸太郎のを見せるわよ?」

 

マイルナの提案に、千冬はふと幸太郎のを頭に思い浮かべ、恥ずかしくなった。

 

束『あれちーちゃん?もしかして、周りに他の人もいるの?』

 

マイルナは、千冬の持っている携帯電話を無理やりとった。

 

マイルナ「久しぶりだね束。調子の方はどうなの?」

 

束『も、もしかしてこの声…、義姉さん!お…お久しぶりです!』

 

マイルナ「そんなに堅くならないで。まぁ募る話もなんだけど、他に紹介したい人がいるから、代わるわ。」

 

そう言ってマイルナは、携帯電話を幸太郎に手渡した。 

 

幸太郎「え~もしもし?聞こえてる束?俺は幸太郎だけど、覚えてるかな?」

 

束『えっ…、本当に幸太郎なの!?』

 

すると、電話の向こうで誰かが倒れる音が聞こえた。

 

幸太郎「お~い束?どうかしたのか?」

 

束『ご、ごめんね幸太郎。あまりにもビックリし過ぎて、倒れただけだよ//でも、幸太郎と義姉さんがまさかIS学園にいるなんて。』

 

幸太郎「うん。これで一端の社会人だぜ。」

 

幸太郎は束と楽しい電話での会話をした。

 

こうして、幸太郎のIS学園初日は無事に幕を下ろしたのだった。

 

 




皆さんは、お風呂の後は裸族ですか?
私は裸族です。

幸太郎のは、凄く大きいんですね。
凄くうらやましいです!


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12話

あの日以来、束と幸太郎との電話のやり取りは、束が暇さえあれば毎日電話をしていた。

 

と言っても、幸太郎は未だに携帯電話を所持していないので、マイルナの電話を経由してだが。

 

そんなある日の朝、幸太郎とマイルナは朝食をとるために食堂に来ていた。

 

幸太郎「やっぱり、朝だけども生徒の数は多いね。」

 

マイルナ「まぁそうでしょうね。でも、そんな些細な事は気にしなくても良いのよ。」

 

二人は席に着いて食事をしていると、一夏と箒が近づいてきた。

 

幸太郎「あれ?セシリアと鈴音は一緒じゃ無いんだね。なんだが、珍しい光景だね。」

 

一夏「それが聞いてくれよ!最近は、箒に朝早くから剣道に付き合わされてるんだよ!

おかげで、体がクタクタだよ。」

 

一夏は幸太郎に救いを求める様に、幸太郎の手をとった。

 

箒「それも、お前のだらけきった体を鍛え直す為だと、何度も説明してるだろうが。」

 

一夏「それでも、もう限界に近いんだよ。」

 

箒と一夏の痴話喧嘩を、マイルナは呆れながら見ていた。

 

マイルナ「でも、その剣道のおかげで最近貴方、随分と体力がついたじゃない?

何も悪い事ばかりじゃ無いでしょ?」

 

マイルナの発言に、一夏はぐうの音も出なかった。

 

確かにマイルナの言う通り、最近の一夏は体力と筋力が増えてきているからだ。

 

幸太郎「でも剣道か…。思い返して見れば、初めて一夏と箒に会ったのも、道場だったな。

あの時は倒れちゃったけど、出来る事なら俺も剣道をやってみたいな。ねぇマイルナさん?」

 

マイルナ「そうね。最近はデスクワークばかりで体が鈍ってるから、たまには運動も良いわね。」

 

二人がそう考えていると、一夏はふと一つの疑問が出ていた。

 

一夏「そう言えば、ずっと思ってた事なんだけど、どうして幸太郎さんはマイルナさんに対して“さん”付けなんだ?言ってしまえば、昔からの知り合いなのに?」

 

箒「確かにそうだわ。義兄さんは、どこか義姉さんにたどたどしい様な気もするわ。」

 

一夏と箒の疑問に、幸太郎はふとその理由を考えてみた。

 

幸太郎「理由ね…、考えた事も無かったよ。でもやっぱりマイルナさんは、俺の病気を治そうとしてくれてる言わば“恩人”だから、そんな馴れ馴れしい言葉遣いは出来ないよ。」

 

幸太郎はそう言ったが、マイルナの表情は優れなかった。  

 

幸太郎の言い分は良くわかっている。だが、弟だと思っている幸太郎に、そんな風に思われているのは、正直納得していないのである。

 

箒「そうだ!この際だから、義兄さんも義姉さんの事を、お姉ちゃんと呼んでみたら良いと思うわ。その方が、より親しい関係になれるはずだから。」

 

幸太郎「より親しい関係か…。そうだね、その方が良いよね!

うん、これからもよろしくねお姉ちゃん!」




今回は少し短めです。

一応時間軸は、グラス代表戦の後になってます。
あしからず。


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13話

マイルナ「お姉ちゃんか…、お前にそう言われるとなんだか、凄く嬉しいものだな。こちらこそよろしく頼むぞ弟よ?」

 

千冬「おや、幸太郎達も来てたのか。」

 

幸太郎達が食事を終わらせると同時に、千冬がやって来た。

 

千冬「それよりも一夏、一時間目から実技の授業なんだぞ?速く着替えなくて良いのか?」

 

千冬がそう言うと、一夏は時間を確認した。

 

一夏「ヤバッ!もうこんな時間じゃん!更衣室も遠いし、着替えに時間がかかるから、先に着替えようと思ってたのに!」

 

そう言って一夏は、急いで更衣室へと走っていった。

 

箒「さて、私もそろそろ行きます。義兄さん、義姉さん、お先失礼します。」

 

幸太郎「うん。行ってらっしゃい。」

 

幸太郎は、箒に手を振った。

 

千冬「全く一夏の奴は、相変わらず計画性が無いな。これじゃあ、アイツの将来が心配だ。」

 

千冬は軽く、ため息を吐きながら呟いた。

 

マイルナ「まぁ、そんなだけど女子人気は高いじゃない?もしかしたら、玉の輿になるかもよ?」

 

千冬「それが一番嫌なんですよ。一夏には、しっかりと大黒柱をしてほしいんです。」

 

千冬のボヤキに、マイルナは苦笑をした。

 

幸太郎「それよりも千冬、さっき言ってた実技の授業って何の事なの?」

 

千冬「そういえば幸太郎は知らなかったな。実技の授業では、ISを使った授業をするんだ。」

 

千冬の説明に、幸太郎は目を輝かせた。

まるで、玩具を貰った子供のようだった。

 

幸太郎「その授業、凄く面白そう!もし良かったらその授業を、見学しても良いかな?

それに、俺も一夏達みたいに着替えたい!」

 

千冬「いや…、そう言われても…。」

 

千冬はマイルナの方を見て言った。

 

マイルナ「まぁ、見学だけなら大丈夫でしょう。もし心配なら、私も同伴するわ。」

 

幸太郎「ほら!お姉ちゃんからも許しがでたし、大丈夫でしょ千冬?」

 

幸太郎の期待の眼差しに、千冬は勝てなかった。

 

千冬「わかったから、そんな身を乗り出さなくても良い!ほら、これが更衣室の地図だ。そこに着替えは置いてある。自分のサイズのやつを着るんだぞ。」

 

幸太郎「わかった!じゃあ行ってくるよ。」

 

そう言って幸太郎は、更衣室へと移動していった。

 

マイルナ「幸太郎が無茶を言ってごめんなさいね。でも、幸太郎は入院生活ばかりで中学にも進んでないわ。だから、こんな授業に憧れているの。」

 

千冬「わかってますよマイルナさん。それに、謝る事はありせんよ。それよりも、マイルナさんも速く着替えてこなきゃ。」

 

~~~グラウンド~~~

 

既にグラウンドには、一夏達生徒は集まっていた。

そして千冬と山田先生もいた。

 

マイルナ「遅れてごめんなさい。少し着替えに戸惑ってしまったわ。」

 

歩いてきたマイルナを見て、生徒達はザワつきだした。

 

なぜなら、スラッとした長身に千冬や山田先生並のスタイルの、ハイレベルなプロポーションだったからだ。

 

一夏「す、スゲェ…、さすがは外国の人だな…。」

 

千冬「こら一夏!そんなイヤらしい目で見るんじゃない!」

 

千冬が一括したが、それでも一夏はマイルナから目が離せなかった。

 

マイルナ「こんなにも、体のラインが出るなんて知らなかったわ。意外と、恥ずかしいわね…それにしても遅いわね幸太郎…。」

 

千冬「そうですね…、そんなに時間がかかる距離じゃ無いはずですが…。」

 

ふと二人は、物凄く重大な事に気がついた。

 

こんなに体のラインを出すこのスーツを、幸太郎が着てきたらどうなるか、と言う事である。

 

幸太郎「ごめんごめん。この服、凄く着にくくてね。」

 

千冬がすぐ隠そうとしたが、時既に遅し。

 

生徒全員の視線は、幸太郎の下半身に注がれてしまったのだった…。




なんか、幸太郎が無意識に変態な状態の様な…。
でも、仕方ないですよ。大きいんだから。

まぁ悪いのは、私ですがね!



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14話

幸太郎「何で、俺だけジャージをはかなきゃいけないんだよ…、俺だって皆と同じ格好で授業に参加したいのに。」

 

マイルナと千冬に、無理やりジャージをはかされた幸太郎は、体育座りをしながらイジけていた。

 

千冬「しょうがないだろ?あのままの格好だと、生徒達が集中出来んからな。」

 

山田「そうですよ!ここにいる殆どの生徒は、男子に免疫が無いんです。

それなのに、あんなのを見せられたら…。」

 

山田先生は、顔を赤らめながらそう言った。

 

マイルナ「どうやら山田さんは、むっつりですね。良いですか?良き女たるもの、殿方のモノがどれ程のモノでも受け止める者です。」

 

千冬「マ…マイルナさん、そんな大きな声で言わないで下さい!生徒に聞こえます。」

 

山田「それに、私はむっつりではありません!まぁ、女性は子供を産むので、あのサイズならなんとか…。」

 

マイルナ「むっつりと言うより、ド変態になってきてますよ?」

 

幸太郎「ねぇねぇ、さっきから何を話してるんだよ?それよりも、速く授業始めたら?」

 

幸太郎に言われ、千冬は慌てて実技の授業を始めた。

 

一夏達、専用機持ちがISを展開し空を飛んでいるのを、幸太郎はじっと見ていた。

 

ISという存在は、軽く話には聞いていたが実際に見てみると、驚きや感動ばかりだった。

 

幸太郎(凄いなISって。まるで魔法の乗り物みたいだよ。このISを造った束と親友だなんて、俺って恵まれてるんだなぁ。)

 

幸太郎はしみじみ、そう感じていた。

 

最近パソコンのキーボードで、アルファベットを入力出来る様になった幸太郎には、別次元の様に感じていた。

 

千冬「どうだ幸太郎、これが授業だ。まぁ、その様子だと満足してるな。」

 

マイルナ「そうね、これなら幸太郎に見学させた甲斐があったわね。」

 

目を輝かせながら見ている幸太郎を、千冬とマイルナは嬉しそうに見ていた。

 

まるで、我が子を見守る母の様な気持ちになっていた。

 

マイルナ「それよりも、貴方はISに乗らないのかしら?元世界選手権覇者のテクニックを、是非とも幸太郎に見せたかったんだけども。」

 

千冬「覇者だなんて、そんな大層なモノでもないさ。それに、私はもう指導者だ。

自主的に乗る機会は、あまり無いだろう。でも、いつかは幸太郎に見てもらいたいものだな。」

 

優しく微笑む千冬を見て、マイルナは少し満足していた。

 

自分の最愛の弟は、こんなにも皆に大切に想われている。

それを実感していた。

 

マイルナ「今更かも知れないけど、貴方や束には本当に感謝しているわ。」

 

千冬「いきなり何を言うんですか。照れくさいですよ。」

 

マイルナ「幸太郎に外の世界を見せてくれて、ありがとう。それに、幸太郎の親友になってくれて。

私達所員では出来なかった事を、貴方達は行ってくれたわ。

貴方達がいてくれるお蔭で、幸太郎は独りでは無くなったわ。感謝してもしきれないわ。」

 

そう言ってマイルナは、千冬に頭を下げた。

 

千冬「や、止めてくださいよマイルナさん!速く頭をあげてください!

それに、感謝される様な特別な事はしてません。幸太郎のあの優しさは、人を惹き付ける魅力があります。」

 

千冬「それに感謝するのは、こっちの方ですよ。あの人間嫌いだった束を、恋する乙女にしてくれて、本当に感謝してます。」

 

マイルナ「そう…。ならお互い様ね。束と幸太郎の結婚式には、友人代表で貴方に出てもらいたいわ。」

 

そんな和やかな話をしながら、実技の授業は無事に終了した。




千冬とマイルナには、友情の様な素晴らしい繋がりがありますね。二人とも格好いいです。

デュエルリンクス、ダウンロードしました!
面白い!最高ですね!



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15話

授業が終わり、幸太郎は更衣室に来ていた。

 

幸太郎「ふぅ、今日は見学だけだったけども楽しかったな。まだ一限目なのに、凄く満足してるよ。」

 

一夏「全く、呑気な事を言ってますね。それよりも、用務員としての仕事をしなくても良いんですか?」

 

一夏と幸太郎は、着替えをしながら他愛もない会話をしていた。

 

幸太郎「ふふっ、心配はご無用だよ。こう見えても、ちゃんと仕事はしているよ。

最近、廊下や教室が綺麗になってるでょ?それ全部、俺が頑張って掃除したんだ。」

 

確かに幸太郎の言う通り、最近廊下や教室は今まで以上に清掃が行き届いている。

 

一夏「そうだったんですか!やっぱり、幸太郎さんは凄いですね。」

 

幸太郎「ありがとうね。何か、褒められると照れるね…、ゴホッ、ゴホッ!」

 

するといきなり、幸太郎は辛そうに咳をした。

そしてその手には、血が付いていた。

 

一夏「こ、幸太郎さん!大丈夫ですか!」

 

幸太郎「ハァ…ハァ、だ、大丈夫だ…よ。心配…しな…ゴホッ!ゴホッ!」

 

明らかに大丈夫では無い事は、一夏にも直ぐにわかった。

顔色がいつもよりも悪く、目の焦点も合っていないからだ。

 

一夏「全然大丈夫じゃ、無いですよ!今すぐに、千冬姉やマイルナさんを読んできます!」

 

一夏がそう言って更衣室から出ようとすると、幸太郎が一夏の服を掴んで止めた。

 

一夏「どうして止めるんですか!」

 

一夏が幸太郎の腕を振りほどくと、幸太郎はフラフラと後退りをしてそのまま座り込んでしまった。

 

一夏「すぐに誰かを呼ばなきゃ、ダメな事くらい俺でもわかりますよ!」

 

幸太郎「だ…ダメなんだ…よ…そ、それ…が。もう、誰に…もし…心配をかけな…いって、誓ったん…だよ。だか…ら、一夏はなにもみ…見てない…んだ。」

 

そう言って幸太郎は、無理やり立ち上がった。

 

一夏「そんなのって、間違ってますよ!誓ったって、そんなの関係無いですよ!」

 

だが一夏は、幸太郎の真剣な、誠実な目を見て幸太郎の本気を感じた。

ゆえに、幸太郎の想いを踏みにじる事が出来ない。

 

それでも、幸太郎を助けたいと想っている一夏は、葛藤していた。

 

一夏「俺は…、俺はどうすれば良いんですか!幸太郎さん!」

 

幸太郎「だから言っただろ?何も見てないし、俺に何も起きてない。」

 

そう言う幸太郎だったが、未だに顔色が良くない。

それでも、一夏に心配をかけまいと笑う幸太郎の想いを、一夏は無駄に出来なかった。 

 

一夏「わかりました。今回は、幸太郎の想いに負けました。

でも、次はこんな事はしません。貴方が何を言っても、必ず誰かを呼びます!」

 

幸太郎「そうか…。ありがとうな一夏、やっぱりお前は優しいな。さてと、速くしないと次の授業に間に合わなくなるぞ?」

 

幸太郎は更衣室から出ようとしたが、まだ足下が於保付いていた。

 

そんな幸太郎を見て、一夏は幸太郎に肩を貸した。

 

一夏「心配しなくても、千冬姉達の所まではこんな事はしません。

本当はしたいけれど…すみません。」

 

せめてもの看病に幸太郎は、少し涙ぐんでしまった。

 

幸太郎「ありがとう一夏。本当に君は優しい男だよ…。」

 




なんだか、幸太郎の体調が本格的にヤバイです!

このままで本当に大丈夫なのでしょうか?


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16話

幸太郎を部屋に連れてから授業に参加した一夏は、当然授業には遅刻をしてしまった。

 

一夏「スミマセン遅れました!」

 

千冬「遅いぞ一夏!既に20分の遅刻だぞ。」

 

千冬からの出席簿攻撃を受けた後、一夏も授業に加わった。

 

だが、授業を受けている最中にも幸太郎の事が心配になり、一夏は授業の内容が頭に入ってこなかった。

 

そしてどこか、上の空になっていた。

 

千冬「おい一夏、遅刻をしておいてそんな授業料態度とは…、随分と偉くなったものだな。」

 

一夏「千冬姉!違うんだよ…、その…ゴメン!」

 

一夏はすぐに謝罪をしたが、それでも幸太郎の事が気になっていた。

 

そんな一夏の様子から、千冬はある程度の事情を察した。

そして授業終了後、一夏を職員室に呼んだ。

 

~~~職員室~~~

 

一夏「千冬姉、俺をわざわざ職員室に呼んで、何の用なんだよ。」

 

一夏はとぼけていたが、千冬には意味が無かった。

 

千冬「おい一夏、幸太郎の身に何かあっただろ?正直に話してくれ。」

 

どうしてバレたのか、一夏にはわからず焦りと混乱が襲ってきた。

それでも、あの時の幸太郎の瞳を裏切る事は、一夏には出来なかった。

 

一夏「何をバカな事言ってんだよ千冬姉。別に幸太郎さんに何も無かったし、俺が上の空だったのはただの疲れだよ。」

 

千冬は一夏の様子から、これ以上は何を言っても真実は話さないとわかった。

 

千冬「そうか…なら問題はない。それと、一夏。」

 

一夏「何だよ千冬姉?」

 

千冬「先生と呼べと、何度言えばわかるんだ!」

 

そう言って一夏に、デコピンを喰らわせた。

一夏は痛そうに、自分のオデコを押さえていた。

 

千冬「用はそれだけだ。さっさと戻って、次の授業の準備をしていろ。

次も遅刻したら、今度こそただではすまさんぞ。」

 

千冬にそう言われ、一夏は逃げる様に職員室から出ていった。

 

マイルナ「本当に、姉弟そろって頑固者ね織斑姉弟は。」

 

一夏が出ていったのを計らって、一夏と千冬のやり取りを見ていたマイルナがよってきた。

 

千冬「マイルナさん、一夏が隠している事って…。」

 

マイルナ「えぇ、貴方の考えている通りの可能性が高いわ。

多分幸太郎自身が、自分の病状の悪化に気づいたんでしょう。そして私達を心配させまいと、一夏に内緒にしてくれと、釘をさした。

それで間違いないわ。」

 

マイルナは呆れながら、そう言った。

 

マイルナ「全く…、単純で分かりやすいと言うか…、正直と言うか。

私達が、分からないとでも想ってるのかしら?」

 

千冬「でも、これから幸太郎に対してどうするつもりなんですか?」

 

マイルナ「彼がそう考えている以上、今まで通りに接してあげて。

下手に気を使うと、余計に幸太郎を傷つける事に繋がるわ。」

 

マイルナ「それに、貴方が心配する事は幸太郎の事じゃ無いでしょ?

明日から、新しい転校生が2名くる。そっちの方が、貴方にとって大事なはずよ?」

 

そう言うとマイルナは、千冬に手を振り自分の仕事へと戻って行った。

 

そして千冬は、手元にある二枚の資料を見て深くため息をついた。

 

その資料には、明日この学園にくる二名の生徒の情報が書かれている。

 

一人は、世界で二番目の男性IS操縦者。そしてもう一人が、千冬の元教え子の、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

千冬(ハァ…まさかラウラが来るとはな。これから、面倒な事にならなければ良いが…。)

 

千冬は授業の用意をして、職員室を出ていった。




幸太郎の病状の悪化が、普通にバレてますね。
まぁ、最初からマイルナは知っていたんですが…。

そしていよいよ、ラウラとシャルロットの登場です。
まぁ、楽しみにしていて下さい。


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17話

次の日、幸太郎とマイルナは二人で見回りを兼ねて、廊下を歩いていた。

 

幸太郎「そう言えばお姉ちゃん、一夏達のクラスに転校生が来てるんでしょ?」

 

マイルナ「あら?どこからその情報を入手したのかしら?」

 

廊下を歩く二人は、とても仲が良さそうで本当に姉弟の様だった。

 

幸太郎「どこからって、普通に職員室で話題になってたよ?なんでも、代表候補生がくるんだってね。

もうすぐ一夏達のクラスだから、ちょっと覗いて行こうよ。」

 

楽しそうに歩いている、幸太郎の後ろ姿を見ていると、とても病魔に犯されているとは想えなかった。

 

そして幸太郎が教室を覗いた時、それはとても間が悪いタイミングだった。

なぜなら、ラウラが一夏を叩いた瞬間だったからだ。

 

~~~教室~~~

 

一夏がラウラに叩かれ、教室の空気が凍っていた。

だが、そんな空気もハッとなった一夏によって壊された。

 

一夏「いきなり何をするんだよ!」

 

ラウラ「うるさい!お前みたいな軟弱な男が、教官の弟なばかりに!」

 

クラスのアイドル的存在の一夏が叩いた事により、クラス中の女子達がラウラに軽い敵意を向け始めていた。

 

一夏「俺が千冬姉の弟で、何が悪いんだよ!俺だって、少しでも千冬姉に近づける様に、毎日努力してるんだよ!」

 

ラウラ「そんな教官に甘えた考えが、教官の重荷になっている事に、どうして気がつかんのだ!」

 

千冬「お前達!いい加減にしておけ。今は、自己紹介の時間だ。ラウラ、元の位置に戻れ。そして一夏、お前も早く座れ。」

 

千冬の一喝で、ザワついていた教室が静かになった。

そして千冬は扉の方を見た。

 

千冬「コソコソ見てないで、入ってこれば良いだろ幸太郎。」

 

幸太郎「いやだって…、中々入れそうな雰囲気じゃ無かったし。」

 

千冬に呼ばれ、幸太郎は恐る恐る教室に入ってきた。

 

千冬「紹介しておこう。今日から転校してきた、シャルル・デュノアと、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

幸太郎「へぇ、ラウラちゃんにシャルルちゃんか、俺の名前は寿 幸太郎。以後お見知りおきを。」

 

そう言って幸太郎は、お決まりの握手を求めた。

 

シャルル「シャ…シャルルちゃんって!僕は、男です。」

 

そう言いながらも、シャルルは幸太郎の手を握った。

 

幸太郎「そっかシャルルちゃんじゃ無くて、シャルルくんだったんだね。それは失礼だったね。

じゃあ改めてシャルルくん、俺達は今日から親友だ。よろしくね!」

 

幸太郎の独特のテンションに、シャルルはタジタジになっていた。

 

幸太郎「それで、そっちのラウラちゃん?で合ってるのかな?君も今日から親友になろうよ。」

 

改めて幸太郎は、ラウラに握手を求めた。

必ずこの子も、自分と親友になってくれると信じていた。

 

ラウラ「お前が、教官の言っていた男か…教官、この男のどこが強い男なんですか。

こんな顔色の悪くて、すぐに倒れそうな貧弱な男。こんな男のどこを見習えと言うんですか!」

 

ラウラは、幸太郎には一切目もくれる事無く千冬に責めよった。

 

ある種、初めての対応に幸太郎は頭がついていかなかった。

 

千冬「す、すまない幸太郎!お前の事は、ドイツ軍にいた時に皆に話していたんだ。

私の親友に、とても強くて見習うべき人がいると…。」

 

幸太郎「い、良いんだよそんなの…、確かにラウラちゃんの言う通り、顔色の悪い軟弱な男だよ…。

だから、気にしてな…ゴホッゴホッ!」

 

マイルナ「幸太郎、無理しなくても良いのよ?私がついているわ。」

 

マイルナは、幸太郎の涙と汗を拭いた。

 

マイルナ「さぁ幸太郎、あんまり長居はしちゃダメ。仕事に戻りましょ。」

 

マイルナは幸太郎に肩をかしながら、教室から出ようとしていた。

 

マイルナ「おいドイツの小娘、お前が一夏を叩こうが私は気にしない。

でも、幸太郎を困らせる事をするならそれなりの対応をするわ…。」

 

マイルナの強い気迫とオーラに、千冬すらもビビってしまっていたのだ。

 




マイルナさん、怖すぎです!
千冬をビビらずなんて、そうとうですよね。

なんかラウラが、あまりにもツンツンし過ぎですね。


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18話

~~~職員室~~~

 

千冬「幸太郎、さっきは本当にすまなかった。ラウラも悪気があった訳じゃないんだ。」

 

先程の自己紹介の事を、千冬は自己紹介でもう一度謝罪した。

 

幸太郎「別に、気にして無いから。それよりも、あのラウラちゃんは、どういった子なの?」

 

幸太郎は日誌を書きながら、千冬に聞いた。

そしてマイルナは、ラウラの情報が書かれている紙を見ていた。

 

千冬「どういった子とは、どういう事だ幸太郎?」

 

マイルナ「何でラウラは、あんなにも他人に対して当たりが強いのか。

それが知りたいんでしょ幸太郎は。」

 

マイルナの言葉に、幸太郎は頷いた。

 

そして千冬は、どう説明すれば良いのか、言葉を探し始めた。

 

そして数秒後、言葉を見つけた千冬が口を開いた。

 

千冬「ラウラは…あいつは私に憧れているんだ。それも、誰よりも強く有りたいと願いそれを実現させて来た、モンド・グロッソで優勝したあの頃の私にな。」

 

と、千冬は寂しげに話した。

 

誰かを護る為には、誰よりも何よりも強く無ければならない。

そう想っていた過去の自分を、千冬は嫌っていた。

 

マイルナ「力こそ全てね…、ある意味シンプルで良いわね。でも、その力が何なのかを間違えると、物凄く厄介だわ。」

 

幸太郎「そっか…、じゃあやっぱり俺はラウラちゃんと親友になる!

あの娘は多分だけど、まだクラスの皆と仲良く出来てないと思うからね。」

 

マイルナ「まぁ、あんな事をしたんだからそうでしょうね…ってもういないわ。あんなに走ると、体に障るのに。」

 

幸太郎は早速、ラウラを探す為に職員室から出ていってしまった。

 

マイルナ「さてと、幸太郎も行っちゃった事だし、私も行こうかしら。」

 

千冬「マイルナさんも、何か用でもあるんですか?」

 

マイルナ「えぇ、もう一人の転校生にね。」

 

~~~中庭~~~

 

昼休み、ラウラは一人で中庭にいた。

 

ラウラ「はぁ…、なんて不甲斐ない奴らなんだ。本当にあいつは、教官の弟なのか。」

 

幸太郎「やっと見つけたよ。もう、食堂にいないからあちこち探したんだよ?」

 

声のする方を見ると、お盆を持った幸太郎が立っていた。 

 

ラウラ「またお前か、私に何の用なんだ。」

 

敵意を向けているラウラにお構いなしに、幸太郎はラウラの隣に座った。

そして自分が持ってきたお盆を、ラウラに差し出した。

 

幸太郎「特に用は無いけど、君ご飯食べて無いでしょ?何が良いかわからなかったから、グラタンにしたよ。

これなら、お箸を使わないから食べやすいと思ってね。

こっちのサンドイッチは、俺のだからね。」

 

そう言って幸太郎は、一緒のお盆に乗せてきたサンドイッチを食べ始めた。

 

だがラウラは、そのサンドイッチの小ささに驚いた。

明らかに、小さい。

 

幸太郎「どうしたの?早く食べないと、冷めちゃうよ?」

 

ラウラ「フン、せっかくだから頂こう。」

 

グラタンを一口食べたラウラは、そのグラタンの味に驚いた。

今まで食べた事が無いほど、美味しかったのだ。

 

ラウラ「うまい…、さすがはIS学園の食堂だな。」

 

幸太郎「フフッ、喜んでくれて嬉しいよ。このグラタン、実は俺が作ったんだ。」

 

ラウラ「本当か!こんな美味しい料理を作るなんて、お前は凄いな。」

 

この後、他愛もない会話をちらほら交わしながら、二人は食事をしていた。

 

最初は敵意むき出しだったが、美味しい料理と幸太郎の不思議な雰囲気に、既に敵意は無かった。

 

幸太郎「そっか、君は千冬が大好きなんだね。」

 

ラウラ「あぁ、教官は私の恩人であり目標なんだ。いつか、教官の様な強い女性になりたいんだ。」

 

ラウラ「まぁ…その…、あの時はすまなかった。一夏相手に怒っていた時だったから、お前にもあたってしまった。

お前は凄い男だ。それに教官が言っていた以上に、何かしら雰囲気な魅力がある。あの時は手を取れなかったが、よろしくな。」

 

そう言ってラウラは、幸太郎に握手を求めた。

 

幸太郎「ラウラちゃん…、ありがとう。俺からもよろ…ゴホッ!ゴホッゴホッ!」

 

突然咳をし、幸太郎は苦しみだした。

そして吐血をしてしまった。

 

ラウラ「おい!大丈夫なのか!おい!」

 

そのまま、幸太郎は気を失ってしまった。

 




吐血だけじゃなく、気を失うなんて幸太郎の体調が心配ですね。

このままだと、本当にヤバいですね。


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19話

~~~保健室~~~

 

シャルル「あの…、マイルナ先生何か用ですか?」

 

放送で保健室に呼び出されたシャルルは、なぜ呼ばれたのかわからなかった。

 

マイルナ「用って程じゃ無いけど、まぁ立ち話もなんだから座って。」

 

マイルナは、シャルルを椅子に座らせると冷蔵庫から缶のオレンジジュースを差し出した。

 

マイルナ「突然呼んで悪かったわね。実は、貴方と少し話がしたかったのよ。」

 

シャルル「話ですか…、その…何の話ですか?」

 

面識はおろか、自己紹介の時に少しだけ顔合わせをしただけなので、シャルルは緊張していた。

 

マイルナ「単刀直入に聞くわ。どうして貴方は、男装なんてしてるの?」

 

いきなりの質問に、シャルルは驚いてしまった。

なぜなら、自分が男装している事がバレてしまったからだ。

 

シャルル「男装って、いきなり何を言うんですか。僕は男ですよ。」

 

必死に言い訳をするシャルルだが、マイルナには意味が無かった。

 

マイルナ「私は保健員よ?貴方が女の子って事くらい、すぐにわかるわ。

貴方の資料にも、男の子って書いてあるから、国ぐるみで偽ってるのが気になっただけよ。」

 

マイルナの言っている事は、全て合っている。

 

なので、シャルルはどうすれば良いのかわからなくなっていた。

 

自分に課せられたある種の任務は、下手をしたら国際的な問題になってしまうのだ。

 

マイルナ「まぁ、ある程度予想はつくわ。大方、男性操縦者の一夏に近づき、一夏か一夏のISの情報収集でしょ?」

 

シャルル「いや…その…あの…。」

 

マイルナ「その分かりやすい動揺で、全てわかるわ。でも、誰にも言わないから安心して。

ただ、理由が知りたかっただけよ。」

 

そう言ったマイルナに、シャルルは少し安心した。

 

すると、保健室のドアが勢いよく開いた。

 

ラウラ「誰か、幸太郎を助けてやってくれ!」

 

そこには、幸太郎をおぶさったラウラが息を切らしながら立っていた。

 

マイルナ「幸太郎!これは少しヤバいわね…、シャルル棚の中にあるC5って書かれた瓶を頂戴!」

 

マイルナに言われ、シャルルは急いでその瓶をマイルナに渡した。

 

そして幸太郎をベッドに寝かし、その瓶の中身を幸太郎に注射した。

 

ラウラ「細身の私でも、背負えるくらい幸太郎は軽すぎる!本当にこれで、幸太郎は大丈夫なのか!」

 

ラウラは、幸太郎に何かの機械を着けているマイルナに、心配そうに聞いた。

 

マイルナ「わからないわ…、血圧の低下が今までよりも酷いわ。それに、脈が弱い…。

貴女達、F2を頂戴!急いで!」

 

急いでラウラは、マイルナが言った点滴の袋を渡した。

 

マイルナ「今はこれで、様子を見るしか無いわ。それよりもラウラ、貴女いつの間に幸太郎と仲良くなってるのよ。」

 

ラウラ「別に、深い意味はない!」

 

恥ずかしそうに赤面しながら、ラウラはそう言った。

 

マイルナ「さて貴女達、もうすぐ授業が始まるわ。速く教室に戻りなさい。」

 

ラウラ「たが、このまま戻る訳には…。」

 

マイルナ「幸太郎の事なら、何も心配はいりません!私がついています。だから、行きなさい。遅れると、千冬に怒られるわよ。」

 

マイルナがそう言うので、シャルルとラウラは名残惜しそうに保健室から出ていった。

 

マイルナ「ふぅ…、あぁ言ったものの、いよいよ本格的に幸太郎が危ないわね。」

 

マイルナは、幸太郎の無事を祈りながら呟いた。




シャルの男装が、すぐにバレてましたね。
さすがマイルナです。

幸太郎が、なんだか危ない状態になっていますね。
このままで、大丈夫なのでしょうか…。


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20話

あれから3日が過ぎたが、幸太郎の容態が良くなる事は無く、目を覚ましていなかった。

 

ラウラは、毎日幸太郎のお見舞いに来ていたのだった。

 

ラウラ「マイルナさん、今日も幸太郎のお見舞いに来ました。」

 

千冬「おぉ、ラウラか。マイルナさんに聞いたぞ、お前毎日来てるんだってな。」

 

そこには、マイルナだけではなく千冬も座っていた。

 

ラウラ「教官も、来ていたんですか。」

 

マイルナ「わざわざ、お見舞いに来てくれてありがとうね。今からお茶でも入れるわ。」

 

そう言ってマイルナは、お茶を入れるため席を立った。

 

残された千冬とラウラに、少しだけ気まずい雰囲気が漂っていた。

 

千冬「だが、まさかお前が幸太郎のお見舞いとはな…。私としては、嬉しい事でもあるが速くクラスに馴れるのが先だと思うが…。」

 

ラウラ「別に良いんですよ。それに今は、教官が言っていた幸太郎の強さが、何なのか解って来てる気がするんです。」

 

ラウラは、花瓶の水を変えながらそう言った。

 

マイルナ「でも、もうすぐ学年別トーナメントだけど大丈夫なの?確か二人のタッグでの参加何でしょ?」

 

お茶を入れ終わったマイルナが、二人にお茶を渡しながらそう聞いた。

するとラウラは、気まずそうに顔を反らした。

 

マイルナ「全く、そんな状態じゃ幸太郎に怒られるわよ?もし誰もパートナーがいないなら、私が出てあげよっか?」

 

千冬「バカな事を言わないで下さい。学生でも無いし、もし貴方に何かあったら、誰が幸太郎の病の対処をするんですか。」

 

無茶な事を言うマイルナに、千冬は軽く呆れ気味だった。

 

ラウラ「パートナーについては、自力で何とかしてみせます。それに、私は何としても強くなりたいんです。」

 

千冬「強くか…。それはどうしてだ?もしかして、私の事で一夏にでも復讐する気か?」

 

ラウラ「少し前なら、そう考えていたかも知れません。ですが、幸太郎に出会ってから強さとは力だけでは無いと、理解しました。

私は強くなって、私なりの強さを見つけたいんです!」

 

ドイツ軍にいた頃とは比べ物にならない、覚悟を決めた目に千冬は満足していた。

 

幸太郎との出会いが、自分意外親しい相手がいなかった束だけでは無く、間違った力に憧れていたラウラの人生すらも、良い方向に変えているのだ。

 

ラウラ「今は一夏に対して、恨みも憎しみもありません。あるのは単純に勝ちたい、という想いだけです。」

 

千冬「お前を、幸太郎に会わせるのは正解だった様だな。ならば、もう私からは何も言う事は無い。」

 

マイルナ「そうね。今のラウラに必要なのは、パートナーを見つけるコミュニケーション力だね。」

 

マイルナの軽いジョークに、三人は和気あいあいとしていた。

 

マイルナ「まさか、束だけじゃ無くラウラまで幸太郎に恋するなんてね。

自覚が全く無い分、本当に魔性の男だね幸太郎は。」

 

マイルナの発言に、ラウラは顔を紅くさせた。

 

ラウラ「べ、別に幸太郎に恋など//私はただ、幸太郎の生き方と強さに、憧れているだけだぞ//」

 

赤面しながら否定するラウラに対し、マイルナは微笑ましそうに頷いていた。

 

マイルナ「まぁ、今はどっちでも良いわ。それに私としては、重婚もありだと思うわ。」

 

千冬「何を言ってるんですか!マイルナさんは、意外と危ない考えをしますね。」

 

すると、休み時間の終了を告げるチャイムがなった。

 

千冬「さて、私達は授業に戻るとするか。それではマイルナさん、幸太郎を頼みます。」

 

ラウラ「お願いします!」

 

ラウラは深く頭を下げながら、ラウラと千冬は保健室を後にした。




幸太郎は依然、眠ったままですがラウラ達は良さげな雰囲気ですね。  

束のライバルはラウラですか…、まぁまだそうと決まった訳では無いですが。


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21話

授業も無事に終わり、放課後となった。

 

ラウラは幸太郎のお見舞いに行こうと、教室を後にした。

 

ラウラ(マイルナさんにあぁ言われたが、今さら私とタッグをくんでくれる人なんか…。)

 

そんな事を考えながら歩いていたラウラは、前を意識しておらず不注意で人にぶつかってしまった。

 

ラウラ「すまない!少し考え事をしていて、前を見ていなかった。」

 

箒「別にきにしてはいない。それよりも、お前の方こそ大丈夫なのか?」

 

ぶつかった相手は、箒だった。

 

箒とも、あまり話した事が無いラウラは少し気まずくなり、その場を急いで去ろうとした。

 

箒「おいラウラよ、そんなに急いでどこに行くのだ?部屋なら、逆方向だぞ。」

 

ラウラ「いや…その、教官に用があるんだ。」

 

なぜだかラウラは、幸太郎へのお見舞いを誤魔化した。

 

倒れて眠っている幸太郎を、知られなく無いと思っていた。

 

箒「はぁ…、そんな誤魔化さなくてもわかっている。幸太郎さんのお見舞いだろ?

織斑先生から、幸太郎さんが倒れたのは聞いている。それに、お前は毎日お見舞いに行って、夜も寝てないんだろ?このままだと、お前も倒れるぞ。」

 

自分の行動がマルバレで、ラウラは恥ずかしくなった。

 

ラウラ「それはわかっている。だが、なぜか私は幸太郎の側にいたいんだ。

側にいれば心が暖まるし、離れていると心苦しいんだ。」

 

ラウラのその言葉、その表情で幸太郎に対する想いを箒は感じ取った。

 

姉である束が、幸太郎に向けている感情と同じ。

そして自分が一夏に向けている感情と、同じモノであるとすぐにわかった。

 

だが、その感情をわかっていないラウラには、それが何かは言わないつもりである。

 

箒「そうか…そうだ!ラウラ、お前はまだ学年別トーナメントの、タッグは決まって無いんだろ?」

 

ラウラ「まぁ、当たり前だな。転校初日に、一夏にビンタを喰らわせたんだ。

私がクラスで浮いた存在だという事は、嫌でもわかっている。」

 

自分でそう言い、ラウラは気持ちが落ちていた。

 

自分が目指す力、目標にしたい強さがわかったのだが、それを目指すにはあまりにも、孤独なスタートだった。

 

箒「そうか、なら私とタッグを組まないか?」

 

ラウラ「な!いきなり何を言い出すんだ!私の様な人間と組んでも、何も得はないぞ!

それにお前は、一夏の事を好いているんだろ。だったら、余計に私の事を嫌ってる筈だ。」

 

箒「確かに私は一夏が好きだ。一夏を叩いた時のお前に、激しい敵意を向けた。

だが、理由がわかった今はそんな事は関係無い。それに、お互い相手は違えど恋する乙女。私は貴方と仲良くなりたいの。」

 

そう言って箒は、タッグ了承を意味する握手を求めた。

 

ラウラ「こ、恋する乙女だと//別に私は、幸太郎の事を愛してるのではない//た、ただの憧れ…そう憧れなんだ!でも…。」

 

ラウラ「こんな私とタッグを組んでくれるのなら、喜んでその申し出を受けよう。

こちらこそ、よろしく頼むぞ篠ノ之。」

 

箒「誰も愛してるまでは、言っていないが…。まぁ良い、これで私達はタッグだ。」

 

そう言いながらラウラと箒は、固い握手を交わした。

 

箒(ごめんなさい姉さん。本当なら貴方の恋を応援したいけども、目の前にいるラウラも私や姉さんと同じ様に、恋をしているわ。

だから、姉さんには悪いけど私は姉さんだけじゃなくて、ラウラを応援するわ。)

 

ラウラ「さて、私達はタッグになった事だし、早速幸太郎のお見舞いがてら、マイルナさんや幸太郎に報告しよう!」

 

箒「全く…、報告はオマケでしょ?」

 

そう言いながらも、幸太郎に会うのを楽しみにしているラウラを見て、満更でもない箒だった。




無事にラウラのタッグが決まりましたね。 
いや~よかったよかった。

恋する乙女に限らず、誰かを好きになるって美しい事ですね。


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22話

それから数日間、箒とラウラはISの特訓に勤しんでいた。

 

ラウラはより、自分の目指す強さの為に、箒は周りの専用機持ちに追い付く為に、努力をしていた。

 

そんな二人に、一つの朗報が入った。

 

ラウラ「幸太郎の心肺が、安定しているのは本当なんですか!」

 

マイルナ「えぇ、本当よ。この調子ならすぐにでも、そうね…学年別トーナメント前後には、目を覚ますかも知れないわ。」

 

ラウラ「そうか…、それならば良かった。」

 

幸太郎の無事が分かり、安堵したラウラだった。

そしてその安心からか、それとも幸太郎が目覚める喜びからか、今まで以上に学年別トーナメントへの熱意が沸いてきた。

 

マイルナ「それもこれも、毎日貴方がお見舞いに来てくれたお陰よ。私からも礼を言うわ。本当にありがとう。」

 

そう言ってマイルナは、ラウラに深く頭を下げた。

 

ラウラ「そんな!頭を上げてくださいマイルナさん!別に私は、何もしていません。」

 

マイルナ「そう…、貴方がそう言うならもう何も言わないわ。それよりも学年別トーナメント、頑張ってね。私もしっかりと応援するわ。」

 

ラウラ、箒「はい!」

 

こうして二人は、決意を新たに学年別トーナメントへの特訓にうちこんだ。

 

~~~教室~~~

 

一夏「そう言えば最近、箒が特訓に付き合ってくれなくて、少し寂しいな。」

 

シャルル「しょうがないよ。箒さんだって、自分のパートナーとの特訓もあるし、中々一夏だけにかまってる余裕は無いと思うよ。」

 

セシリアと鈴は、タッグを組み自分達の特訓をしている時に、不慮の事故でISに相当のダメージを追ってしまい、トーナメントの参加及び一夏への特訓に参加できなくなってしまった。

 

ゆえに、幼なじみである箒が自分より転校生のラウラを取った事に、少しだけ嫉妬していたのだった。

 

箒「なんだ一夏、お前はシャルルとタッグを組んだんだろ?だったら、いつまでも私達に頼ってばかりでは無くシャルルと特訓をすれば良いじゃないか。」

 

一夏「いや…、そうだけどよ。けど…。」

 

ラウラ「はぁ…相変わらず情けない男だな。男なら、何としてでも強くなるものだろう!

全く、軍の男もそうだが、やはり幸太郎に敵う男はいないな。」

 

ラウラの発言は、正しく幸太郎を特別扱いしている発言。

そして、幸太郎に対して好意的な発言だった。

 

箒「やっぱり、ラウラは幸太郎さんが好きなのね。素直じゃ無いわね。

あの人は、回りくどいアピールじゃ通用しないわよ?」

 

ラウラ「だから!誰が幸太郎を好きだと言ったんだ//

そうか、回りくどいのは駄目なのか…。でも、直接は恥ずかしいし//

って、何を言わせるんだ!バカモノ//」

 

転校初日からは、想像も出来なかったラウラの乙女の顔に、教室にいた全ての生徒が驚いていた。

 

そして恥ずかしくなったラウラは、自分の席に戻っていった。

 

箒「姉さんも、幸太郎さん相手だと意外と奥手だったし、本当に似てるわね。

それじゃあ一夏、学年別トーナメントはもうすぐだ。もし戦う事になっても、私達は一切手加減をしないからな。」

 

一夏「おう望むところだ!こっちこそ、全力で戦ってやるからな!」

 

こうして、運命の学年別トーナメントが始まろうとしていたのだった。




いよいよ、学年別トーナメントが開催されます!
戦闘描写は無し、とタグがありますが多分ですが少しあります。

ラウラが本当にヒロインをしてますね。
まさに、ツンデレてすね。


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23話

マイルナ「ごめんなさいね。学年別トーナメントが始まると言うのに、応援にいけなくて。」

 

ラウラ「良いんですよ。マイルナさんが幸太郎の側にいてくれるからこそ、私は何も心配しないで試合に望めますから。」

 

そう言ってラウラは、マイルナに深く頭を下げた。

それは、幸太郎の事を任せるという意味と、応援に感謝する意味もある。

 

そして眠っている幸太郎の側に立ち、ラウラは幸太郎の頬に優しく触れた。

 

ラウラ「幸太郎よ、私はお前に誓おう。必ずこのトーナメントに優勝して私の信じた強さ、そしてお前の強さを証明して見せる!」

 

そう固く誓い、ラウラは幸太郎のオデコにキスをした。

 

ラウラ「それではマイルナさん、幸太郎の事を任せました。」

 

マイルナ「待ってラウラ。貴方に渡したい物があるの。」

 

部屋から出ていこうとしていたラウラを止め、マイルナは半分に割れたハートのついたペンダントを手渡した。

 

ラウラ「マイルナさん、これはいったい…。」

 

マイルナ「これは幸太郎が幼い時に作った、大切な人を守ってくれる御守りみたいな物よ。

貴方はもう、幸太郎にとってとても大切な人になったわ。だからこれをあげるわ。」

 

マイルナ「本来なら、束にあげた対の物だけど、貴方なら幸太郎も喜んで譲ると思うわ。」

 

幸太郎からの手作りの御守りは、安っぽい材料で作られた代物だが、ラウラにとっては何よりも高価で大事な物だ。

 

ラウラ「ありがとうございます。この御守りと幸太郎に恥じない戦いをします!

ですので、見守っていて下さい!」

 

ラウラはもう一度頭を深く下げ、保健室から出ていった。

 

マイルナ「本当にあの子は、素直で素敵な子ね。速く目を覚まして、色々と話をしたいでしょ幸太郎。」

 

幸太郎の頭を撫でながら、マイルナは優しく微笑んだ。

 

~~~トーナメント会場~~~

 

トーナメントが始まり、ラウラ・箒ペアは順調に勝ち進んでいた。

 

圧倒的な力でぶつかる訳ではなく、全ての攻撃に優しさや愛を込めていた。

 

箒「特訓を頑張ったかいがあったなラウラ。」

 

ラウラ「そうだな!この調子なら、優勝は間違いないな。」

 

箒「でも、次に戦う一夏・シャルルペアは油断出来ないわ。シャルルは専用機持ちだし、一夏も強くなっている筈だ。」

 

ラウラ「わかっている。だが、今の私には何よりも心強い希望がある。」

 

ラウラは御守りを握りながらそう言った。

そうする事で、幸太郎の優しさを感じる事が出来る。

 

箒「おや?そのペンダント、確か姉さんもつけていたな。幸太郎さんじゃ無くて姉さんとお揃いだなんて、少し複雑な気持ちでしょ?」

 

ラウラ「全くもって、その通りだ。この御守りは、幸太郎と私を繋ぐ物だと思っていたのに、別の女性、しかも篠ノ之 束だなんて。

それに、篠ノ之 束の方が先に貰っているだなんて、妬けてしまう!こんな気持ちは、産まれて初めてだ!」

 

ラウラの戸惑いに、箒は嬉しく感じていた。

少しずつだが、あんなに堅物だったラウラが恋する乙女としての感情を得始めたていたからだ。

 

そして、試合準備の合図がなった。

 

箒「その気持ちは、追々理解するわ。今は一夏達に勝つ事を考えましょう。」

 

ラウラ「そうだな。良し!この試合も、私達の力で勝利を飾ろう!」

 

ラウラと箒は、お互いに気持ちを高めた。

 




幸太郎の御守り、貰ったラウラにしてみれば嬉しいけど、複雑な気持ちになりますね。

それに、この事を束が知ったら同じ複雑さになるんでしょうね。


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24話

試合が始まると、一夏とシャルルのコンビネーションにラウラと箒は苦戦していた。

 

全力を出せば、間違えなく一夏達を返り討ちに出来るが、それでは今大会に参加した意味が無くなってしまう。

そんな葛藤が、余計にラウラの動きを悪くしていた。

 

箒「ラウラ、ここは私が耐えるから今は冷静になれ。」

 

そう言って箒は、一人で一夏達に向かっていった。

 

だが、相手は専用気持ちである。

いくら特訓を重ねた箒でも、二人同時に相手をするのは少し無理があった。

 

箒「クッ!やはり私一人の力では、二人相手に太刀打ち出来ないのか。」

 

ラウラ(一夏相手に苦戦するなど、考えてもいなかった。だが、彼奴は教官の弟。

強いのは当たり前か。でもそんな彼奴に勝つ事で、私は目標の強さに近づける!)

 

今までの冷静さを取り戻したラウラは、急いで箒の援護に向かった。

 

ラウラ「すまない箒、お前一人に負担をかけてしまった。だがもう心配はいらんぞ!」

 

箒「そうか…なら、私達のチームワークを一夏達に見せてやろう!」

 

二人の連携は、徐々に一夏達を追い詰めていった。

ラウラの元々の地力は高く、固い決意を持っているラウラを止める事は出来なかった。

 

ラウラ(やはり、私が目指している強さは間違ってはいないんだ!

このまま順調に勝ち続け、優勝すれば私は幸太郎と…)

 

すると突然、ラウラのISに秘密裏に内蔵されていたVTシステムが暴走に勝手に作動した。

 

そしてラウラの周りを、黒い何かが覆い被さった。

 

箒「いきなり何が起こったんだ!おいラウラ、どうしたんだ!」

 

突然のラウラの変化に、箒は心配になり近づいた。

 

一夏「あっ、箒危ない!」

 

近づいた箒に、その黒いモノはいきなり攻撃を仕掛けてきた。

いち早くそれに気づいた一夏が、箒を助けたがその一撃には、手加減や容赦が無かった。

 

シャルル「箒さんに一夏、大丈夫なの!?」

 

箒「あ、あぁ私は大丈夫だ。それよりも、ラウラに何が起きてしまったんだ。」

 

明らかに様子がおかしいラウラに、箒達はどうすれば良いのかわからなかった。

 

すると一夏達に、千冬から通信が入った。

 

一夏「どうしたんだよ千冬姉。まさか、あれの正体が何かわかったのか!」

 

千冬「あぁ、一応な。あれはVTシステムと呼ばれる物だ。簡単に説明すれば、システムの使用者の体を無理矢理動かし、より強力にさせる物だ。」

 

箒「そんな!どうしてそんな物が、ラウラのISに搭載されているんですか!」

 

千冬「VTシステム自体、本来は開発が禁止されている。それは、使用者の体に強大な負担をかけるからだ。

多分だが、軍がラウラには伝えずに勝手に搭載したんだろう。」

 

そんな話をしている時にも、VTシステムは一夏達に無差別に攻撃を仕掛けてきた。

その無差別攻撃が、観客席にまで被害を広げていた。

 

一夏「クソッ!なら千冬姉、そのシステムは俺達でどうにか止める事は出来ないのかよ!」

 

千冬「出来ない事は無い。だが、今のお前達では抵抗すら出来ない。

今は避難を優先してくれ。」

 

箒「それは出来ません!私はラウラのパートナーです。パートナーが苦しんでいるのなら、助けるのが務めだと思っています!」

 

箒の真剣な言葉に、千冬は否定をしなかった。

 

千冬「わかった。なら、あれの止め方を教える。VTシステムとは言え、ISである事に変わりはない。

彼奴を倒す事が出来れば、VTシステムを止めラウラを助ける事が出来る筈だ。」

 

箒「わかりました。一夏にシャルル、お前達は速く避難をしてくれ。」

 

一夏「ふざけるな。俺だって彼奴を助けたいんだ!」

 

シャルル「僕も、一夏と同じ気持ちだよ。」

 

箒「そうか、なら私達で力を合わせて、ラウラを救い出すぞ!」

 

箒達は、ラウラを助ける為暴走しているVTシステムへと向かっていった。




ハーメルンの様な、小説投稿サイトでは原作ではあり得ない、言わばIFのストーリーを創る事が出来ると思っています。

例えそれが、キャラ崩壊をしていても原作をまるっきり無視していても、そんな話を創れる事が魅力であり、楽しさだと思います。

もしかしたらこの作品を読んで下さっている人の中にも、キャラの違いや話の違いに文句や怒りを覚えているかも知れません。

ですが、それを踏まえて楽しんでいただけるのが、私の何よりの願いでもあります。


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25話

VTシステムに操られながらも、ラウラの意識はハッキリとしていた。

 

そんなラウラが目の当たりにしていたのは、自分の攻撃で破壊されていく会場、そして傷ついていく箒達の姿だった。

 

ラウラ(違う!私が望んでいた力じゃ無い!こんな強さは欲しくないんだ!

なのに…なのにどうして私は動けないんだ!)

 

必死にISを操ろうともがいて見るが、まるで体を拘束されたかの様に、ピクリとも動く気配がない。

 

そして皮肉にも、VTシステムの破壊と圧倒的な力は、幸太郎に会う前に望んでいた、誰よりもただ強く全てを力のみで越えたいと願っていた、あの頃の理想その物だった。

 

ラウラ(誰か助けて…、誰か私を止めてくれ!教官、箒、マイルナさん、こうた…。)

 

この瞬間ラウラは、冷たくまるで底無しの泥沼に沈んでいく様な異様な感覚が襲ってきた。

 

この感覚を、ラウラは本能的に危険な物だと理解した。

 

この感覚に飲み込まれれば、二度と元には戻れない。

二度と幸太郎達には会えないと、何故だか理解できた。

 

必死にその感覚から逃れようとするが、そんなラウラを嘲笑うかの様にその感覚はラウラを少しずつ飲み込んでいった。

 

飲み込まれるにつれ、ラウラの心の中にある暖かいモノが消え、逆に憎しみや怒りそして虚しさが込み上げて来ていた。

 

ラウラ(嫌だ…怖い!寒い、凄く寒い。これは、幸太郎の優しさとは真逆、私の望みとは逆。

このままだと、私が私じゃ無くなってしまう!)

 

だがそんなラウラの考えも、少しずつだが憎しみや怒りと共に薄まっていた。 

感情の無い、目に映る物全てを破壊する兵器に近づいていた。

 

ラウラ(何だろうこの感覚は…。頭の中が静かだ…、何も考える事が出来ない…。

でもなぜだ?この感覚は気持ちが良い…、このまま私は無になるのか…。)

 

ラウラはもう何も考える事すら出来ない程にまで、VTシステムの侵食が進んでしまっていた。

 

そしてVTシステムがラウラの全てを侵食しようとしたその瞬間、ラウラの胸の当たりから暖かな何かが来ていた。

 

ラウラ(何だこの暖かさは…、優しくて気持ち良い…。)

 

ラウラが胸の方を見てみると、そこにはマイルナから渡されたペンダントが首から下がっていた。

 

幸太郎の想いが詰まっているペンダントが、ラウラをVTシステムから護るためにラウラの心を暖めていた。

 

ラウラ(そうだ、私は知っていたでは無いか!真の強さと力を!

私には、幸太郎の優しさと想いがついているでは無いか!そんな私が、こんな事で自分を失う訳には行かない!)

 

自分を取り戻したラウラに、VTシステムの侵食が収まり始めていた。

 

そして、ラウラは自分が抱いていた幸太郎への想いに気がついた。

 

ラウラ(そうか、私は幸太郎の事を愛しているんだ、今の私の心を支えているのは、幸太郎だったんだ。

なら、私は無事に戻りトーナメントに優勝して、幸太郎に私の想いを伝えなければならないんだ!)

 

少しずつ体の自由が効いてきたラウラは、目の前に見えてる明るい光に手を伸ばそうとしていた。

 

そしてその光に手が届いた瞬間、ラウラのISが解除されVTシステムからラウラは解放された。

 

ラウラ(やった!これで私はまた戦える!これで私は、幸太郎に会える…。)

 

ラウラはあふれでる幸福を噛み締めながら、その場で気を失った。




どうも皆様、明けましておめでとうございます!

原作との大きく話しが異なりますが、深く気にせず楽しんで頂けたら本当に幸いでございます。

これからも、アナザーラバーを宜しくお願いいたします。


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26話

ラウラ(あれ…、ここはどこなんだ…。)

 

ラウラが目を覚ますと、そこには見覚えのある天井が見えていた。

転校してから毎日幸太郎のお見舞いに参っていた、保健室の天井である。

 

ラウラ(そうか、私はあのまま気を失ってしまったのか…。)

 

そうしてラウラは体を起こそうとしたが、体に激痛が走った。

 

千冬「あまり無理はするなラウラ。一応治療は施したが、まだダメージが残ってる。」

 

右側を見てみると、千冬が座っていた。

 

ラウラ「教官、そうですか教官がわざわざ治療をしてくださったのですか…。」

 

千冬「治療の礼なら、そっちの阿呆に言ってやれ。全く、病み上がりで動くなと忠告したのに!」

 

千冬に言われた方を見ると、そこには椅子に座りながら眠っている幸太郎がいた。

 

幸太郎「…あれ?目が覚めたんだねラウラ。大丈夫?痛い所は無いか?気分は大丈夫か?」

 

明らかに顔色が戻っていない幸太郎に心配され、ラウラは涙を流した。

 

ラウラ「こ、幸太郎!お前こそ大丈夫なのか!どれ程に私が心配したと思っているんだ!」

 

ラウラは、体の痛みなどお構い無しに起き上がり幸太郎に抱きついた。

そして今までの寂しさと愛しさを込めて、強く抱き締めた。

 

幸太郎「そんなに強く抱き締められると、凄く痛いよ。それより、千冬にある程度の話は聞いたよ。

そのVTシステムって言う物のせいで、大変な目に合ったんだね。」

 

マイルナ「貴方達、病み上がりなんだからこれでもノンで、大人しくしてなさい!」

 

そう言ってマイルナは、ラウラと幸太郎に紅茶を差し出した。

その紅茶を一口飲み、ラウラはVTシステムに侵食されていた時の事を思い出していた。

 

力に憧れ、力に溺れていた愚かな自分。そんな自分のせいで、あの様な惨劇が起きてしまったと、ラウラは心から悔いていた。

 

千冬「あまり気にする事は無いぞ。VTシステム自体が、お前には内緒で搭載されていたんだ。

お前は全く悪くはない。お前が責任を感じる事は無い。」

 

千冬がそう励ましても、ラウラの心が晴れる事は無かった。

理由や経緯はどうあれ、自分起こした事である。

 

そんな落ち込んでいるラウラの頭を、幸太郎は優しく撫でた。

 

ラウラ「な!いきなり何をするんだ幸太郎!」

 

幸太郎「ラウラ、君が過去に強い力、圧倒的な強さに憧れたのは聞いたよ。

確かに、人をただ傷つけるだけの強さはいけない。」

 

ラウラ「そんな事は十分わかっている!やはり、私の様な出来損ないが誰かの様になりたいと思う事が、間違いだったんだ!」

 

幸太郎「そんな事は無いよ。現にラウラは、それが悪い事だって知ってて、正しい事が何かも知ってる。

誰かになりたいって憧れるのは、悪い事じゃ無いよ。」

 

幸太郎「俺だって、千冬みたいに強くなりたいし、束みたいに賢くなりたい。でも、いくら憧れてたって他人は他人だ。

どう頑張ってもその人にはなれない。」

 

幸太郎「だからそんなに深く考える必要は無いよ。だってラウラはラウラだもん。誰も君にはなれない。

まぁ、十人十色って言う奴だね。」

 

幸太郎の言葉を聞いて、ラウラの中で何かが変わった。

今までは、憧れた他人の強さに少しでも近づこうと必死だった。

 

だが幸太郎の言う通り、どう頑張ってもラウラはその人にはなれない。

その言葉だけで、ラウラの心にあった大きなつっかえが消えた。

 

ラウラ「そうだな…、確かに幸太郎の言う通りだな。

良し決めたぞ!私はこれからは私らしく生きていく!」

 

幸太郎「うん、それでこそラウラだよ。」

 

こうして学年別トーナメントは、中止になってしまったが、無事に終幕した。




久しぶりに幸太郎の復活です!
本当に久しぶりですね。

これでいよいよ、本格的にラウラと幸太郎の絡みが増えるかな?


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27話

幸太郎「さてと、ずっと眠ってたままだったから、速くお風呂に入ってくるよ。

たしか、大浴場に入れる様になったんでしょ?」

 

千冬「そうだな。幸太郎、今の時間なら一夏もシャルルもいる。話せなかった分、存分に話してこい。

そして風呂から出たら、荷物を纏めて一夏の部屋に来てくれ。」

 

千冬にそう言われ、幸太郎は了承した。

そして嬉しそうな足取りで、大浴場へと向かって行った。 

 

マイルナ「一夏だけじゃ無くて、幸太郎も一緒に入るんでしょ?大丈夫なのシャルルちゃんは?

なんたって、千冬も驚いた程のものよ?」

 

千冬「まぁ、何とかなるでしょう。それに、もしかしたら今回の事で、幸太郎に羞恥心が生まれるかもしれないですし。」

 

~~~大浴場内~~~

 

大きくて広い大浴場で、一夏とシャルルは背中合わせで湯に浸かっていた。

お互い、風呂の熱さと恥ずかしさで顔が赤くなっていた。

 

シャルル「学年別トーナメント、中止になったね。」

 

一夏「そ、そうだな…。俺達なら優勝出来ると思ってたなに、残念だったな。」

 

二人がそんな話をしていると、大浴場の扉が開いて幸太郎が入ってきた。

無論、タオル等は巻いていなかった。

 

幸太郎「おおっ、誰が入ってるかと思ったら一夏とシャルル君じゃん。

まぁ、二人しか男子がいないから当然か。」

 

シャルル「こ、幸太郎さん//前隠して!」

 

シャルロットは、自分の顔を手で隠しながらそう言った。

 

幸太郎「何で?男同士なんだから、恥ずかしがる事無いのに…ねぇ一夏。」

 

一夏「いや…シャルの場合は特別で…ってそれより、もう起きて大丈夫なんですか幸太郎さん!」

 

一夏は幸太郎に駆け寄った。

 

幸太郎「おう、この通りバッチリ元気だぜ。本当に皆には、凄く心配をかけたな。」

 

そう言って幸太郎は、頭や体を洗うためシャワーの所に座った。

そして頭を洗い出した。

 

シャルル「そ、それじゃあ一夏、僕はもう先に出てるね!」

 

シャルロットは逃げる様に、風呂場から出ていった。

 

幸太郎「どうしたんだろうねシャルル君は?様子がおかしかったけど。」

 

一夏「まぁ、深い事は気にしないで下さい。それより、体洗いますよ。」

 

そう言って幸太郎の体を洗い始めた一夏は、幸太郎の体を見て言葉を失っていた。

 

大人の男性の体とは思えない程、ガリガリに痩せている体や入院ばかりで、日の光を浴びてないのか色白な肌。

 

これまでの幸太郎の苦労を、一夏は想像する事さえ出来なかった。

幸太郎「そう言えばさ、風呂から出たら一夏の部屋に行けって、千冬から言われてるけど理由わかる?」

 

一夏「千冬姉がそんな事言ってたんですか。知らなかったです。」

 

こうして幸太郎は、風呂にしっかりと浸かり体を温めた。

そして荷物を纏める為に、自分の部屋へと向かって行った。

 

~~~一夏の部屋~~~

 

一夏の部屋の前についた幸太郎は、部屋のドアをノックした。

 

幸太郎「お~い一夏、荷物が纏まったから来たよ。」

 

千冬「来たか幸太郎、ドアの鍵は空いてる。勝手に入ってきてくれ。」

 

中から聞こえてきた千冬の指示に従い、幸太郎は部屋の中に入っていった。

 

一夏「それで千冬姉、話って何なのさ?シャルを別の部屋に移動させた位だから、相当な話なんだろ?」

 

千冬「何を考えてるんだ馬鹿者が。シャルルは、ラウラと同室になっただけだ。」

 

一夏「そうなんだ、じゃあ幸太郎さんを呼んだのって。」

 

千冬「あぁ、これからはお前と幸太郎が同室で過ごして貰う。理由は色々あるが、男同士なら同じ部屋が良いだろ?」

 

千冬は本当の理由を、言おうといたが止めておいた。

 

幸太郎の病状が悪化した時に、すぐに気づける為だと言えば、幸太郎が嫌がるからである。

 

幸太郎「まぁ、俺は別に一夏と同室でも気にしないけど。」

 

一夏「俺も気にしませんよ。それに、千冬姉の意図もわかった。」

 

姉弟だからか、千冬が言いにくかった事を、一夏は何となく理解した。

 

千冬「ならば、今日から同室で過ごしてくれ。」

 

幸太郎「宜しくな一夏。先に言っておくけど、俺は朝は凄く弱いからな。」

 

こうして、一夏と幸太郎の同室が始まった。




関係ない話ですが、オカダ・カズチカとケニー・オメガの戦いは、本当に素晴らしいプロレスでしたね。

周りの人の中には、プロレスはショーと言う人もいますが、それでもプロレスは見ていてハラハラしますしレスラーの動きや技を見ていると、感動します。

ちなみに、私がしてみたい技はジャーマン・スープレックスです。


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28話

一夏「それじゃあ幸太郎さん、ベッドは好きな方を選んでください。」

 

幸太郎「そう?じゃあお言葉に甘えさせて貰って、扉側のベッドにするよ。

窓側の方だと、朝冷えて俺の体には響くからね。」

 

幸太郎は笑いながらそう言ったが、とても笑える内容では無く一夏は少し困惑した。

 

だが、幸太郎の気持ちを考えて何も聞く事はしなかった。

 

幸太郎「さてと、一夏には明日も授業があるから速く寝るとしようか。」

 

一夏「そうですね。それでは、寝ましょう。」

 

こうして、一夏と幸太郎は眠った。

 

そして次の日、まだ朝日が昇り始めた朝方に一夏は何かの物音で目が覚めた。

 

一夏(何の音だ?扉が開いた様な音がしたけど、もしかして幸太郎さんが起きたのか?

でも、朝が弱いって言ってたし…。)

 

一夏は眠気眼を無理やりお越し、音のした幸太郎の方を見てみた。

 

すると、幸太郎の掛け布団が大きく盛り上がっていた。

 

一夏(なっ!何が起きてるんだよ!この盛り上がり方は、誰かが入ってるはずだけど、こんな朝っぱらに誰なんだ!)

 

一夏は不安と恐怖を感じながらも、その盛り上がりの原因を調べる為に、幸太郎の布団をめくった。

 

ラウラ「布団をめくるなんて、何の様なんだ一夏?」

 

そこには、何故か全裸のラウラがいた。

 

一夏「ば、バカ!お前こそ、そこで何やってるんだよ!しかも全裸で!」

 

ラウラ「何って、幸太郎の嫁として当然の嗜みだ。日本では、夫婦はこうやって眠ると聞いたぞ?」

 

一夏「そんな分けないだろ!それより、速く自分の部屋に戻れよ!」

 

幸太郎「も…もう、うるさいよ一夏…。」

 

あまりの驚きで、大声を出してしまった一夏のせいで、幸太郎の目も覚めた。

 

幸太郎の顔色は、血色が悪く本当に朝が弱い様だ。

 

一夏「あっ!ごめん幸太郎さん、それよりもラウラが!」

 

幸太郎「え?ラウラがどうたのさ?」

 

幸太郎は、一夏に言われた通りラウラを見た。

だが、寝起きで頭が働いて無いのか無反応だった。

 

一夏「幸太郎さん!しっかりしてください!速くラウラを注意してください!」

 

ラウラ「私は何も注意される事は、していないぞ!」

 

一夏とラウラは、少し討論になってしまっていた。

 

そんな二人の声を、幸太郎はうるさそうに耳をふさいだ。

 

幸太郎「もう!お前達うるさい!朝から、大声を出させるな!」

 

幸太郎の一喝で、二人は静かになった。

 

幸太郎「大声出したから、頭がクラクラする…。それよりラウラ、裸で寒くないの?」

 

そう言って幸太郎は、ラウラごと自分に布団をかけた。

そしてそんなラウラを抱き枕の様に抱きながら、再び眠りについた。

 

一夏「はぁ…、まさか幸太郎さんが怒るなんてな、なんか凄くショックだ。」

 

ラウラ「幸太郎がこうやって注意しないと言う事は、私の行動は了承された訳だ。

と言うわけで、今日から毎日朝にくるからな。」

 

ラウラは、幸太郎に抱き締められて嬉しいのか、頬を紅く染めながらそう言った。

 

そんなラウラと、眠っている幸太郎を起こさない為に一夏は深くため息を吐いた。

 

一夏「なんだか、俺まで頭がクラクラしてきた。もう少し眠っとこ…。」

 

釈然としない一夏だったが、これ以上言う事は出来ないので、眠る事にした。

 




ラウラの嫁発言来ました!

自分は朝は強い方ですが、低血圧だと本当に辛いそうですね。
部活の先輩に、低血圧の人がいました。


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29話

~~~教室~~~

 

山田「と言う事で、シャルル・デュノアくんはシャルロット・デュノアちゃんと言う事です。」

 

朝のHRでの、シャルロットが女性だったと言う暴露で、教室はざわついていた。

 

女子「ちよっと待って!ならシャルロットちゃんは、一夏くんと同じお風呂に入ったって事よね!?」

 

一人の女子の発言で、よりざわつきは大きくなった。

 

千冬「はぁ…お前達、そんな下らん事でわざわざ騒ぐな。このままだと、HRがいつ終わる事やら…。」

 

千冬の言葉に、生徒達は静かになった。

 

千冬「それよりもラウラ、さっき一夏に聞いたが幸太郎の布団に忍び込んだんだってな?」

 

ラウラ「はい!教官のおっしゃる通りです!ですが、幸太郎は私の嫁です。

ならば、私が布団に入るのは当然の行いです!」

 

千冬「幸太郎が嫁だと?誰がそんな事をお前に教えたんだ?」

 

ラウラ「日本では、好きになった相手を嫁と呼ぶと、クラリッサに教えてもらいました。」

 

千冬「なるほど、クラリッサの影響か…。まぁ、お前が普通の女子らしい生活が出来てるのなら問題は無いんだが。」

 

千冬は頭を少し抱えながら、ため息を吐いた。

そしてラウラの嫁発言に一番驚いていたのは、他でもない箒だった。

 

姉を有利にしない様にラウラに協力したが、まさかここまで話が大きくなっているとは思っていなかったのである。

 

箒(一応、恋する乙女を応援はしたが、同じ布団で寝るほどの仲に発展するなんて。

もしこの事を姉さんが知ったら、私はどうすれば良いんだ!)

 

ラウラの無理やりとは知らず、少し勘違いをして解釈していた。

 

千冬「さて、連絡がある。約2週間後に臨海学校に行く事に決まった。一応授業の一環として行くのだが、海の綺麗な所だ。

泳ぐ時間はたっぷりあるから、水着の準備をしておけ。」

 

幸太郎「臨海学校か…そして海か…、凄く楽しみだな。ねぇお姉ちゃん。」

 

マイルナ「そうね、海水浴なんて久しぶりの事だし楽しみね。でも、水着着れるかしら?」

 

千冬「幸太郎にマイルナさん!いつの間に来てたのですか。」

 

ドアの方からいきなり声が聞こえ、千冬は驚いて幸太郎達の方を向いた。

 

千冬「それに、今回の臨海学校は授業の一環ですから…、二人はついてくるつもりですか?」

 

幸太郎「うんそのつもりだけど、もしかして問題でもあるの?」

 

千冬「いや…、問題は無いが…。二人は一応、この学園の職員だからな…。」

 

千冬はそう言ったが、幸太郎の無邪気な瞳を見ていると、大きく否定が出来なかった。

 

千冬がそんなジレンマに悩んでいると、それを見抜いたのかマイルナが近寄って耳打ちをした。

 

マイルナ「まぁまぁ、そんなに深く悩む事は無いわ。幸太郎は産まれてから今まで、病院から出た事があるのは小学校かこの学園だけなの。

だから、海が楽しみで仕方ないのよ。」

 

千冬「それはわかっています。ですが、IS学園の教師としてどうかと思いまして…。」

 

マイルナ「それなら心配いらないわ。今回の同行は校長先生から了承済みよ。

まぁ、幸太郎の思い出作りだと思えば良いのよ。」

 

そう言ってマイルナは、幸太郎の元に戻って行った。

 

幸太郎「よし!そうと決まったら、放課後に水着を買いにいこう!」

 

楽しそうにしている幸太郎とマイルナの言葉で、千冬は二人の同行を認めたのだった。

 




IS学園の長なので、校長先生じゃ無くて学園長なのかも知れませんが、物語に関係無いと思うので間違いでも気にしないで下さい。

いよいよ、臨海学校がスタートしそうですね。
と言う事は、満を持して束が登場しますね。


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30話

~~~放課後~~~

 

幸太郎「よし!やっと放課後になった!長かったなぁ…、それじゃあ一夏、水着を買いに行こうか。」

 

授業終了のチャイムがなると同時に、幸太郎が教室のドアを開けた。

 

一夏「いや…、別に俺は良いんですが、シャルと買いに行く予定があるんですが。」

 

幸太郎「そうなのか。だったら、三人で行こう。」

 

そう言って幸太郎は、一夏とシャルロットの腕を引っ張って教室から出ていった。

突然の事で、クラスの生徒達は騒然としていた。

 

~~~学園外~~~

 

既に千冬から、外室許可を貰っている幸太郎達は意気揚々に学園を後にしていた。

 

幸太郎「なんだか、久しぶりの外の空気な気がする。まぁ、昨日まで眠ってたから仕方ないよね?」

 

一夏「幸太郎さん、全く笑えないです。ここまで走って来るなんて、少しは自分の体を労って下さい!

また倒れたらどうするつもりですか!?」

 

一夏に叱られ、幸太郎は少しショボンとしていた。

 

シャルロット「まぁまぁ、そんなキツイ言い方しなくても良いでしょ一夏。」

 

一夏「いやそんな事無い。幸太郎さんは、周りの為に動きすぎなんです!ですから、今日は俺とシャルが幸太郎さんをエスコートします。」

 

幸太郎「エスコートねぇ…、良くわからないけど、一夏がそう言うならお言葉に甘えさせて貰うよ。」

 

こうして三人は、水着を買うためにショッピングモールを目指して歩き出した。

 

そんな三人を、隠れて見ている人影があった。

セシリアと鈴音とマイルナである。

 

鈴音「シャルロットたら、随分と一夏と仲が良いわね…。」

 

セシリア「えぇ仰る通りです。クゥ!羨ましいです。」

 

セシリア「私と鈴音さんがいるのはわかりますが、マイルナさんはどうしてここにいるのですか?」

 

セシリアは、隣で心配そうに幸太郎を見ているマイルナに聞いた。

 

マイルナ「だって、ショッピングモールなんて人混みの多い所に行くのは、初めての事なのよ?

もし幸太郎が、ガラの悪い人に絡まれたら…、途中で一夏達とはぐれたら…。」

 

鈴音「そんなに心配なら、マイルナさんも一緒に行けば良かったのに。」

 

マイルナ「私も幸太郎にそう言ったんだけど、幸太郎が大丈夫だって言ったから…。」

 

とは言いつつ、今にでも飛び出して行きそうなマイルナを、二人は軽く呆れながら見ていた。

 

ラウラ「どうしたんだ皆して?何か面白いモノでも見えるのか?」

 

端から見れば怪しい三人に、後ろからラウラが声をかけてきた。

 

ラウラ「おっ!嫁と一夏達ではないか。そうか、水着を買いに行くと言っていたな。」

 

するとマイルナは、ある事を思い付いた。

 

マイルナ「良いことを思い付いたわ!ラウラ、今すぐ幸太郎達と一緒に水着を買いに行って!

そして、幸太郎を側で護って欲しいの!」

 

マイルナの提案に、否定する要素が一つもないラウラは二つ返事で了承した。

 

ラウラ「任された。それに一度、買い物デートと言うモノをしてみたかったんだ。

そうと決まれば…、おぅい嫁よ!」

 

ラウラは、嬉しそうに幸太郎の方へと走っていった。

 

マイルナ「これで良し…、でももしラウラが側にいられない場合が起きたら…。

貴方達、今すぐ私達も追いかけるわよ!」

 

セシリア「ちよっと待ってください…、行ってしまわれました…。」

 

鈴音「まぁ、私達も一夏とシャルロットをある意味監視をしたいし、行くしか無いわね。」

 

こうしてマイルナ達も、幸太郎達にバレない様に尾行を開始した。




心配性ですねマイルナさんは。

でも、幸太郎の病状を考えれば仕方ないと言えば仕方ないですかね?

皆様、大雪でしたが大丈夫でしたか?


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31話

~~~ショッピングモール~~~

 

ショッピングモールについた幸太郎達は、少しだけ近くのベンチに腰を掛けた。

なぜなら、幸太郎の調子が悪そうだったからである。

 

ラウラ「嫁よ、体調は大丈夫なのか?顔色が良くないぞ。」

 

幸太郎「ありがとうラウラ。初めての人混みで、少し気分が悪くなっただけだよ。」

 

幸太郎がそう言うと、ラウラはポケットから一錠の飲み薬を取り出した。

 

ラウラ「ならば、これを飲め。これでだいぶ良くなるはずだ。」

 

ラウラにお礼を良い、幸太郎はその薬を飲んだ。

 

シャルロット「ねぇラウラ、どうして貴方がその薬を持っているの?」

 

シャルロットの質問に、ラウラは答えに困ってしまった。

なぜなら、この薬は先ほどマイルナに貰った薬だからである。

 

それを答えてしまえば、マイルナが尾行している事が幸太郎にバレてしまう。

 

ラウラ「ま、まぁこれくらいは夫としての、当然の嗜みだからな。」

 

無理やり答えたラウラを見て、シャルロットは全てを理解した。

 

シャルロット(なるほどね、よほど幸太郎さんの事を心配しているんですね。)

 

シャルロット「そうなの。流石はラウラだね。」

 

そして少し休憩をはさんで、幸太郎達はショッピングモール内へと入っていった。

 

鈴音「あっ!一夏達が中に入って言ったわ。中に入って、鉢合わせしたらどうするつもりなんですか?」

 

マイルナ「フフッ、その点なら何も心配いらないわ。ちよっと待っててね。」

 

そう言ってマイルナは、ピンマイクを取り出した。

 

マイルナ「実は、ラウラの耳に小型の無線機をつけてあるの。だからこのマイクを通じて、連絡を取り合うのよ。」

 

セシリア「本当に、呆れる程の姉バカと言いますか…。」

 

幸太郎達は、広いショッピングモール内を散策していた。

 

幸太郎「凄い…、これがショッピングモールか広くて人がいっぱいいるよ…。」

 

一夏「そうですね、ここは近場でも有数の広さがありますからね。必然的に人は多くなりますよ。

さてと、水着売り場は4Fですね。」

 

こうして4Fを目指す為に、幸太郎達はエスカレーターに乗った。

未だに体調が優れない幸太郎の為に、エレベーターは避けたのである。

 

すると、ラウラの無線機にマイルナからの連絡が入った。

 

マイルナ『ラウラ聞こえる?もし聞こえても、驚かずに平常心で答えて。』

 

突然聞こえてきた声に、ラウラは驚いたがマイルナの言葉通り周りに、特に幸太郎にバレない様にした。

 

ラウラ「はい聞こえますマイルナさん。ですが、いつの間にこんな無線機を?」

 

マイルナ『そんな小さな事はどうでも良いわ。それより、私達は幸太郎達と鉢合わせしない為に外で待機してるわ。

だから、この無線機で幸太郎の様子を随時報告して欲しいの。』

 

ラウラ「報告ですか…、わかりました!その重大な任務、この私にお任せください!」

 

幸太郎「ラウラ、何してるの?速く来ないと置いてくよ?」

 

マイルナ『それじゃあ、しっかりと頼んだわよラウラ!』

 

こうしてラウラは、マイルナの言う通りに報告をする事にした。

 

マイルナ「これで、何とか一安心だわ…でも、もし無線機が壊れてしまったら!

それか、電波がいきなり届かなくなったら!」

 

鈴音「はぁ…、この調子じゃ幸太郎離れは当分無理そうね。」

 

千冬「ショッピングモールに入らずに、外で何をしてるんですか?」

 

突然、後ろから声をかけてきた千冬を見て、またマイルナが何かを思い付いた。

 

そしてこれまでの経緯を、全て説明した。

 

千冬「なるほど…、それで私に中での尾行を頼みたいんですね。」

 

マイルナ「さすが千冬、話が速いわ。それで、やってくれるかしら?」

 

そんなマイルナの提案に、千冬は少しため息を吐いた。

 

千冬「私も水着を買いに来たので、ついでにですが様子は見てきますよ。」

 

そう言って千冬は、ショッピングモールに入っていった。

 

マイルナ「これで、安心だわ。」




さすがに心配し過ぎですね。
そのせいで、気づかれずに無線機を取り付けるなんて、凄すぎです!


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32話

千冬「なんだ、お前達も来ていたのか?」

 

4Fの水着売り場に到着した幸太郎達に、後ろから千冬がわざとらしく声をかけてきた。

ある程度状況を理解してるシャルロットと、無線機から聞いたラウラだけは、驚かなかった。

 

幸太郎「千冬も、水着を買いに来たんだ。でも、こんな広いショッピングモールでばったり遭遇するなんて、珍しい事もあるんだね。」

 

無邪気にも感心している幸太郎を見て、なぜか千冬は後ろめたくなる感覚だった。

 

千冬「ま、まぁここは品揃えが良いからな。それよりも幸太郎、お金はいくら持ってきてるんだ?」

 

千冬は無理やり話題を変えてみた。

 

千冬にそう聞かれ、幸太郎はポケットから財布を取り出して中身を確認した。

 

幸太郎「今日の為に、お姉ちゃんがお金を用意してくれたんだ。」

 

そう言って幸太郎は、千冬に財布の中を見せた。

そこにはなんと、10万以上の大金が入っていた。

 

千冬「マイルナさん、この金額はさすがに多すぎると思いますよ…。

心配なのはわかりますし、私も心配ですがさすがに過保護過ぎですよ。」

 

呆れぼやく様に、千冬は静かに呟いた。

 

一夏「じゃあ千冬姉と合流した事だし、ちゃちゃっと水着を決めようぜ。」

 

ラウラ「そうだな、速く買って学園に戻り、嫁とラブラブしたいからな。」

 

こうして幸太郎達は、男女別々に別れて水着売り場に入っていった。

 

マイルナ「もう!しょうがないとしても、幸太郎の護衛が一夏だけ危ないでしょ!

あぁ!今すぐにでも、突入していきたい…。」

 

男女別れた事を聞いたマイルナは、悔しそうに拳を握りしてていた。

 

セシリア「護衛って、目的が変わってはいませんか?」

 

鈴音「こんなにも幸太郎が心配だったら、幸太郎に彼女や結婚の約束が出来たら、発狂ものね。」

 

マイルナ「それなら大丈夫よ。さすがにそこまでは、幸太郎に関与しないわ。

彼が選んだ女性なら、私も大賛成だわ。」

 

マイルナの笑顔を見て、セシリアと鈴音は一種の安心があった。

 

セシリア「そうですわよね。それに、幸太郎さんとラウラさんの仲は、マイルナさん公認ですからね。」

 

マイルナ「えぇ、ラウラも束も、そうね…分かりやすく言うなら、一次試験は突破してるわね。」

 

マイルナの発言に、セシリアと鈴音は思考が一瞬だけ止まった。

 

鈴音「えっ?一次試験?それってどう言う意味なんですか?」

 

マイルナ「そのままの意味よ。本当に幸太郎の相手に相応しいかは、私がこれから直々に判断していくわ。

だってそうでしょう?私の大切な幸太郎が、ダメな女と一緒になったら幸太郎が可哀想でしょ?」

 

先ほどの発言と矛盾しているマイルナの発言に、二人は背筋が凍る様な恐怖を関していた。

 

優しい声で、凄く危険な事を言っているマイルナに、絶対に逆らってはいけない!

と、本能的に察した。

 

一夏「それで幸太郎さんは、どんなタイプの水着を買うつもりなんですか?」

 

幸太郎「どんなタイプね…、今まで水着なんて着た事無いから良くわからないよ。

一夏のオススメみたいなのはあるの?」

 

幸太郎は、目の前にある水着を手当たり次第に選びながら一夏に聞いた。

 

一夏「別に幸太郎さんが、気に入ったやつを買えば…。」

 

一夏はそう言ったが、幸太郎がピッチリとしたタイプの水着を見ているので、慌ててその水着を取り上げた。

 

一夏「そ、そうだ!幸太郎さんには、こんな水着が似合うと思いますよ!」

 

そう言って一夏は、トランクスタイプの水着を差し出した。

 

一夏「サイズもありますし、ひとまず試着してみて下さい。」

 

幸太郎「何をそんなに慌ててるんだよ。試着ねぇ、わかったよ。」

 

そう言って幸太郎は、この場で服を脱ぎ始めた。

 

一夏「こ、幸太郎さん!試着は、あの試着室でするんですよ!」

 

幸太郎「そうなんだ、試着は初めてだから知らなかったよ。じゃあ行ってくる。」

 

幸太郎のハチャメチャぶりに、一夏は心配になっていた。




マイルナが、心配を拗らせて凄く怖いです!

ラウラと束が今の時点で一次試験突破なら、二次試験突破はどれ程ハードルが高いんでしょうか…、考えるだけでなぜか恐ろしいです。


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33話

幸太郎「水着も決まった事だから、ちょっとトイレに行ってくるよ。」

 

一夏「ですが幸太郎さん、トイレの場所わかんですか?それに一人で行動するのは、危ないんじゃないですか?」

 

一夏の心配を降りきり、幸太郎は一夏の肩を叩いた。

 

幸太郎「そんなに心配する事ないよ。トイレの場所くらいわかるし、一人って言ってもほんの数分もかからないくらいだから。」

 

そう言って幸太郎は、水着売り場から出ていった。

 

その頃、外で待機していたマイルナだったがもう我慢の限界に到達していた。

 

マイルナ「セシリア、鈴音!これ以上外にいるのは耐えられないわ!

今から私達も中に入るわよ!」

 

鈴音「えっ!でもマイルナさん、今日は幸太郎さんの気持ちを汲んであげるんじゃ無かったんですか。」

 

鈴音がそう聞くと、マイルナはニッコリと笑った。

 

マイルナ「えぇ、貴方の言う通り幸太郎の気持ちは裏切らないわ。だから私達も、千冬と同じで水着を買いに来たの。」

 

セシリア「買いに来たと言いましても、私達は既に水着は持っていますが…。」

 

マイルナ「もう一度言うわ。私達は水着を買いに来たの…わかった?」

 

声や顔は笑っているが、目が笑っていないマイルナに二人は反論出来なかった。

 

マイルナ「そう、物分かりが良い子は好きよ。それじゃあ、私達も行きましょう。」

 

意気揚々とショッピングモールへと向かっていくマイルナの背中を見て、この人には絶対に逆らってはいけない!

と、肝に命じた二人だった。

 

幸太郎「ふぅ…、ちょっと迷ったけど無事にトイレに到達出来たよ。」

 

トイレをすました幸太郎は、一夏の待つ水着売り場に戻ろうとした。

 

だが、肝心の帰り道を忘れてしまっていた。

 

あまりの人混みに、道行く店舗も見れなかったし周りには、目立った物もない。

 

幸太郎は迷子になってしまっていた。

 

幸太郎(確か、こっちから来たはずだな…。)

 

幸太郎は、自分が来たと思う道を引き返す事にした。

 

そして歩いていると、突然誰かにぶつかってしまい、幸太郎はその場に尻餅をついてしまった。

 

幸太郎「いたた…、何が起きたんだよ…。」

 

目の前を見てみると、二人組の女性が立っていた。

幸太郎とぶつかった女性は、予想外な事が起きた様な顔をしていた。

 

女性1「お、おい!何ぶつかってきてんだよ!今ので少し、ケガしちまったじゃねえかよ!」

 

その女性は、凄い剣幕で幸太郎に問いただしていた。

その女性達は、いわゆる当たり屋の様な行為をしてきたのだ。

 

だが、本来なら自分が倒れるはずだったが、幸太郎が尻餅をついたので予定が狂ったのだ。

 

幸太郎「そうですか!大丈夫ですか?」

 

女性2「大丈夫も何も、こっちはケガしてるんだよ!まずは慰謝料だろ、慰謝料!」

 

女性1「そうだよ。それに、今のご時世であんた達男が、私達女に逆らって良いと思ってるわけ?」

 

ISが出来て以来、世界中で女性の地位が劇的に上がった。

そのせいで、この女性達の様な悪質な嫌がらせをする女性が増えているのである。

 

幸太郎「でもこのお金は、お姉ちゃんから水着を買う様に渡されたんです。

ですから、すぐには払えないです。」

 

女性1「つべこべ言わずに、さっさと金を出せば良いんだよ!」

 

そう言って女性1は、幸太郎に殴りかかった。

 

ラウラ「ほう?慰謝料が必要な程のケガをしてるのに、随分と動ける様じゃないか?

それに嫁に殴りかかるなんて、そんなにも私を怒らせたいのか。」

 

女性達の後ろから、ラウラが声をかけた。

 

女性1「何よ!あんたに何も関係無いじゃない!」

 

女性2「ねぇ止めなさいって!この人、代表候補生の…。」

 

マイルナ「やっぱり、こんな一般人にも知れわたってる何て、有名人なのねラウラは。」

 

マイルナが、幸太郎を立たせた。

 

女性1「チッ!覚えてなさいよ!」

 

女性達は、その場から立ち去った。

 

幸太郎「何だったんだろうね?それよりも、お姉ちゃん達も水着を買いに来てたんだ。」

 

マイルナ「えぇその通りよ。じゃあ、早く水着売り場に行きましょう。」

 

そう言って幸太郎とマイルナは、先に歩いていった。

 

鈴音とセシリアは、ラウラに近づいていった。

 

セシリア「そのですね…、これから大変だとおもいますが。」

 

鈴音「私達は応援してるからね!」

 

ラウラ「いったい、何の事を言っているんだ?」

 

二人が言っている事を、ラウラは理解していなかった。

 

 




最終的に、強行手段に出ましたねマイルナさんは。
本末転倒な気もしますが、さほど幸太郎も気にしてないので、大丈夫かも知れないですね。

セシリアと鈴音が、ラウラを応援したい気持ちマイルナの考えを聞いた後ですから、わかりますね。


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34話

~~~水着売り場~~~

 

幸太郎達が水着売り場につくと、既に一夏達は買い物を終えて外で待っていた。

 

一夏「遅いですよ幸太郎さん。やっぱり迷ってたんでしょ…、て鈴音達も来てたんだな。」

 

千冬「マイルナさん、どうして貴方がここにいるんですか。外で待機するんじゃ無かったんですか!」

 

マイルナ「まぁ、女心と秋の空って言うでしょ?細かい事は気にしない。

それよりも、買い物がすんだなら早く学園に戻りましょ。」

 

そう言ってマイルナは、幸太郎をおんぶした。

突然の事で、周りの一般人達も驚いていた。

 

幸太郎「お、お姉ちゃん!いきなり何するんだよ!恥ずかしいから、早く下ろしてよ。」

 

幸太郎はそう頼んだが、マイルナは気にせず歩きだした。

 

マイルナ「私に隠し事は無理よ。貴方はもう疲れてるはずよ?

こんな時くらいは、お姉ちゃんである私に甘えても良いの。って言うより、甘えて欲しいの。」

 

マイルナの言う通り、幸太郎は久々に沢山歩いた疲労や、人混みでのストレスや緊張感で足がふらついていたのである。

 

幸太郎「お姉ちゃんがそう言うなら、今はいっぱい甘えるよ。でも、誰かにおんぶされるのって、初めてだな…。」

 

幸太郎はそのまま、マイルナの背中で眠ってしまった。

 

マイルナ「皆、ぼーっとしてどうしたの?早く来ないと、置いてくわよ。」

 

マイルナに言われハッとした一夏達も、マイルナの後に続いて歩きだした。

 

マイルナ(それにしても、幸太郎のこの軽さ…まさかここまで軽いだなんて。

まだ大丈夫のはずだけども、最悪の事態を速めに想定する必要があるわね…。)

 

こうして一同は、帰路へとついた。

 

~~~学園~~~

 

一夏「わざわざ、部屋まで運んで下さって本当にすみません。」

 

マイルナ「良いのよ。まだ幸太郎は寝たままだから、このまま寝かせておきたいしね。」

 

そう言って、マイルナは幸太郎をベッドに運び寝かせた。

 

マイルナ「そう言えば一夏、幸太郎の水着はどんな柄なの?」

 

一夏「柄ですか?柄は、こんな感じですね。」

 

買い物袋から、幸太郎が買った水着を取りだしてマイルナに渡した。

その水着は、ハイビスカスが描かれているハワイアンな水着だった。

 

マイルナ「なかなか、ハデハデな水着ね。まぁ、これ位ならまだマシね。」

 

そう言って水着を、一夏に返した。

 

マイルナ「私はまだ仕事が残ってるから行くけど、後の事は頼んだわよラウラ。」

 

ラウラ「はい!任せてください!」

 

ラウラは自分の服を、全部脱ぎながらそう言った。

 

一夏「ば、バカ!いきなり何をしてるんだよ!早く服を着ろよ!」

 

ラウラ「お前こそ、何を言ってるんだ?嫁の布団に入る時は、全裸で入るのが日本の嗜みだろう?

私はクラリッサに、そう聞いたぞ?」

 

マイルナ「まぁ、幸太郎の眠りを妨げなかったら、格好はどうでも良いわ。

それよりラウラ、もし貴方が魔が差して幸太郎を襲ったりしたら…。」

 

マイルナの鋭い視線に、ラウラ緊張が走った。

 

別にそんな事は考えていなかったが、千冬以上の強い圧力にラウラは圧倒されていた。

 

ラウラ「だが、マイルナさんにも正式に許しを戴いたんだ。私が全裸な事に文句は言えないぞ一夏。」

 

ラウラはそう言い、幸太郎のベッドの中に入っていった。

そして幸太郎に抱きつきながら、幸せそうに目をつぶった。

 

マイルナ「やれやれ…、この事を束が知ったら大変ね。あの子の事だから、遅れを埋める為に強行手段をとるかもね。」

 

一夏「なんでそんなに冷静何ですか?もしかしたら束さんが、幸太郎さんを襲うかも知れないんですよ。」

 

マイルナ「束はそんな事はしないわ。もしされても、幸太郎は気にしないけど、束は幸太郎に嫌われたく無いし幸太郎に負担はかけたく無いと思ってるわ。

じゃあそろそろ行くわ。後はよろしくね一夏。」

 

そう言ってマイルナは、部屋から出ていった。




一応マイルナから正式に、ラウラの全裸で布団潜入が認められましたね。
半分あきれた感じではありますが…。

いよいよ、臨海学校がスタートします!久々の束登場、そして幸太郎をめぐる修羅場に突入です!
お楽しみに!


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35話

臨海学校当日の朝6時前、生徒達は校庭に集められていた。

その中に、マイルナと幸太郎もいる。

 

千冬「これより本日は、臨海学校を開始する。目的地までは、およそ3時間を予定している。

各々忘れ物が無いかを確認し、クラス事にバスに乗れ。」

 

千冬の合図と共に、沢山の生徒達は一斉に移動を始めた。

 

千冬「朝早くだから仕方がないとは言え、大丈夫なのか幸太郎?」

 

千冬は横を見て幸太郎に聞いたが、幸太郎はその場に寝込んでいた。

 

マイルナ「もう、こんな朝に集めるなんてある種の拷問よ?」

 

そう言ってマイルナは、幸太郎をお姫様だっこで持ち上げた。

 

一夏「やっぱり幸太郎さんは、朝が弱いんだね。まだパジャマのままじゃん。」

 

幸太郎「大丈夫…大丈夫…、寝てない寝てない…。」

 

幸太郎は寝ぼけたまま、返事をした。

そんな幸太郎を、いとおしそうにラウラが見ていた。

 

ラウラ「あの嫁の寝顔、そして寝ぼけた声。可愛いなぁ…。

それに、嫁をお姫様だっこするなんてうらやましいなぁ。」

 

箒「ラウラ、お前は恋を知ってから本当に変わったな。はぁ…、姉さんにこの事を何て説明すれば良いんだか。」

 

こうしてマイルナと幸太郎は、一夏達と同じバスに乗り込んだ。

 

千冬「良し、全員乗っているな。それではこれより、目的地に向かう。

だがお前達、今回はあくまでも授業の一環だと言う事は忘れるな。わかったか。」

 

生徒達「はい!」

 

寝ている幸太郎に気を使ってか、千冬はマイクを使わずに静かな声を出した。

 

そして生徒達も、同じ様に小さな声で返事をした。

 

バスの移動中、マイルナは幸太郎を着替えさす為にパジャマを脱がし始めた。

 

シャルロット「ま、マイルナさんいきなり何をするんですか!女子が沢山乗ってるんですよ!」

 

マイルナ「あらシャルロット、顔が真っ赤ね。まぁ、幸太郎のを風呂場で見たのなら、しょうがないわね。

ラウラ、着替えを手伝って。」

 

マイルナの言葉で、シャルロットは大浴場での事を思い出して余計に赤面していた。

 

シャルロット「あ、あれは事故であって…、それに男性のなんて見た事が無かったから…。」

 

あたふたしているシャルロットを見て、一夏と千冬はマイルナがドSだと言う事を改めて実感していた。

 

一夏「ラウラは、恥ずかしく無いのか?幸太郎さんのは、男の俺でさえ見ていて恥ずかしくなるぞ。」

 

ラウラ「何をバカな事を言うんだお前は?私は幸太郎の夫だぞ?夫足るもの、嫁のを恥ずかしがる必要は無いだろ。それに私の裸を見られている。お互い様だ。」

 

マイルナ「貴方達、変な妄想はしないで欲しいわ。脱がすのは服だけで、下着は脱がさないわよ。

全く…、それに恥ずかしいなら見ないでね。」

 

そう言いながらマイルナは、幸太郎からパジャマを脱がして、持ってきていた服に着替えさせた。

 

幸太郎「うぅ…、ありがとうお姉ちゃん…。」

 

寝ぼけながら幸太郎は、お礼を言った。

そしてラウラの膝に、膝枕をされる様に倒れていった。

 

マイルナ「昨日の買い物で、そうとう疲れていたのね。悪いんだけど、幸太郎が起きるまでそのままで良いわねラウラ。」

 

ラウラ「はい!嫁を膝枕出来るなんて、夢の様です!任せて下さい。嫁が起きるまで、私が嫁の安眠を護ります!」

 

こうして、幸太郎の目が完全に覚めたのは目的地につく数分前だった。




朝6時からは、普通にキツイですよね。
しかも朝が弱い幸太郎からすれば、そうとうの事ですね。

いよいよ次回、束が登場します!
お楽しみに!


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36話

~~~旅館~~~

 

千冬「ここが、私達がお世話になる旅館だ。くれぐれも粗相をせず、IS学園の生徒として恥ずかしくない行いをしてくれ。」

 

女将「始めして皆さん。私がこの旅館の女将です。」

 

生徒達「よろしくお願いいたします!」

 

生徒達の返事を、女将は微笑ましそうに見ていた。

 

千冬「それではお前達、今から重要な話と特別なゲストに来てもらう。ついてこい。」

 

そう言って千冬達は、移動を始めた。

 

千冬「さて、確かこの辺りだったかな…。よしお前達、今回の臨海学校がどの様な目的で行われるかわかっているか?」

 

一夏「たしか自然の中で色々学ぶ為と、気持ちのリフレッシュだったはずだよね?」

 

一夏は、記憶が曖昧になっていたので恐る恐る答えた。

 

千冬「一夏の言う通りだ。だが、リフレッシュと言ってもお前達はまだ学生だ。

まぁ…、若干二名ほど例外はいるが。」

 

千冬「羽目を外しすぎる事なく、学生としての自覚をしっかりと持って行動してくれ!」

 

すると空から、何かが一夏達の近くに向かって落ちてきた。 

そしてその物体は、大きな揺れと砂ぼこりをおこしながら一夏達の目の前に着陸した。

 

一夏「き、巨大なニンジンのロケット?でもどうしてこんなのがここに…。」

 

千冬「はぁ…、ハデな登場をするとは聞いたが、これはハデと言うより迷惑だぞ。」

 

巨大ニンジンロケットのドアが開くと、中から篠ノ之 束が出てきた。

 

束「どうも皆さん、ISを造り出した大天才篠ノ之束さんで~す。

久しぶりだねちーちゃん、私に会えなくて寂しかったでしょ?」

 

生徒A「篠ノ之束って、あの篠ノ之束!?」

 

生徒B「政府が血眼になって探してるって話なのに!」

 

意外な特別ゲストの登場に、生徒達は驚きを隠せなかった。

 

束「こんな所に束さんを呼ぶなんて、どんな用事があるのちーちゃん?」

 

千冬「そうだった、お前に会わせたい人がいるんだ。」

 

そう言って幸太郎の方を見てみると、そこには機嫌が悪そうにしているマイルナがいた。

 

束「マイルナさん!どうして貴方がここにいるんですか!」

 

マイルナ「そんな事はどうでも良いわ。それより束、貴方のそのハデな登場のせいで、幸太郎にもしもの事が起きたらどう責任をとってくれるのよ!」

 

幸太郎「別に気にしてないから、大丈夫だよお姉ちゃん!

それよりも、こうして直接会って話すのは本当に久しぶりだね束。」

 

束「こ、幸太郎まで来てたの//そ、そうだね久しぶりだね。えっと…その…、何を話して良いのかわからないね//」

 

久しぶりの再会に、束はタジタジになっていた。

 

そんな束と幸太郎を見て、ラウラはムッとしていた。

束との関係はマイルナに教えてもらっている。

 

だが、自分の方が今の幸太郎と長く過ごしているし、幸太郎が他の女と親しげに話しているのを見ると、心がモヤモヤしていた。

 

ラウラ「あのすみません!貴方が嫁が親しいのはわかりますが、少し近すぎです!」

 

束「うん?誰なのお前。私と幸太郎との仲に、お前は関係無いだろ…嫁?

おい!幸太郎が嫁ってどうゆう事なのよ!」

 

ラウラの発言を、束は聞き逃さなかった。

 

幸太郎「それよりも、速く海で遊ぼうよ。」

 

箒「姉さん、この子はラウラと言って…。」

 

困惑している束に、箒が全てを話した。

 

束「なるほど…、この子は私のライバルって訳ね…。それよりも、その嫁発言がマイルナさん公認って事が一番驚きよ!」

 

ラウラ「ふん!当たり前だろう。私の嫁に対する愛情は、世界一なのだからな。」

 

箒と千冬が心配していた様に、束とラウラの口論が始まり収拾がつかなくなってしまった。

 

そしてこの口論を終わらせたのは、他でもないマイルナだった。

 

マイルナ「二人とも!そんな口論なんて今すぐ止めなさい!幸太郎が海で遊びたがってるよ!わかったら、速く準備するわよ。」

 

セシリア「やはり、一番強いお人はマイルナさんでしたわね。」




束とラウラの初接触!
やはり、和気あいあいとはいきませんでしたね。

ですが、この二人なら仲良くやっていける気がしますね。
そして鶴の一声ならぬ、マイルナの一括です。


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37話

~~~海水浴場~~~

 

一夏「いや~考えてみたら、こうやってのんびり過ごすのって、久しぶりな気がするぜ。」

 

水着に着替えた一夏は、広大に広がる水平線を眺め大きな伸びをしながら言った。

 

セシリア「それよりも一夏さん、今日は日差しが強いので、出来れば日焼け止めを塗っては頂けませんか?」

 

シートの上でうつ伏せになっているセシリアは、水着の紐をほどきながら、一夏を誘惑した。

 

鈴音「そんなに塗って欲しいなら、私がタップリ塗ってあげるわ。」

 

セシリア「ちょっと鈴音さん、手で温めてからじゃないと…そ、そこは…いや//」

 

セシリアの思惑は、見事に失敗してしまった。

 

一夏「それにしても、箒のやつ束さんと二人きりで話があるって言ってたけど、何の話をしてるんだろうなぁ。」

 

一夏はさっきまで自分達がいた、ニンジンロケットが落ちてきた所を見ていた。

 

~~~ニンジンロケットの場所~~~

 

箒「姉さん、この前電話で話したあの件はどうなったの?」

 

束「そんなに心配しなくても良いんだよ箒ちゃん!ほらご覧なさい!」

 

そう言って束が見せたのは、真っ赤なIS『紅椿』だった。

 

箒「これが、私の専用機になるISか…。強そうな見た目だな。」

 

束「強いのは見た目だけじゃ無いよ。なんとこのISは、世界初の第4世代型なんだよ!

本来はこんなの作らないけど、他でもない箒ちゃんの頼みだからね!」

 

そして束は、紅椿にパソコンをつなげた。

 

束「今から箒ちゃんのデータを入力するから、ちょっと待っててね。」

 

そう言って束は、静かに黙々と作業を開始した。

 

そのあまりの沈黙に耐えれなかった箒は、束に前々から気になっている事を話しかけた。

 

箒「そう言えば姉さん、姉さん程の科学力があるなら義兄さんにも専用機を作れると思ってたけど、作らないの?」

 

束「あぁ、その事ね。確かに、今の束さんにかかればこの紅椿よりも高性能なISを、幸太郎の専用機に出来るよ。

でも、例え大きな動きをしなくてもISは体に沢山の衝撃を与えるわ。幸太郎の体を考えれば、作れないわ。」

 

束の考えを聞いて、箒は納得したのかそれ以上何も聞かなかった。

 

束「それよりも箒ちゃん、私からも聞きたい事があるの。」

 

箒「いきなり何を改まって。私に答えれる事なら何でも答えるぞ。」

 

束「そう…、じゃあ遠慮なく答えてもらうよ。」

 

そう言った束だったが、凄く聞きづらそうにしていた。

これを聞いて、もし自分が考えている答えが帰って来たら…そう思うと束は言い出せなくなっていた。

 

束「正直に答えてね。あのさ…、もしかしたらだけど幸太郎の病状は確実に悪化してるよね?」

 

束の質問に、箒も答えに困っていた。

 

束を心配させまいと、幸太郎の今の病状については一言も教えてなかったのだ。

それなのに束は、勘づいていた。

 

束「隠さなくても大体わかるよ。毎日続いた電話が無くなったし、やっと電話がかかって来たらと思ったら、幸太郎は苦しそうな声…。

これだけ分かれば、幸太郎の病状についてはある程度分かるわ。」

 

箒「姉さんの言う通り、義兄さんの病状は本格的に危険な状態だって義姉さんが言っていた。

でも、義兄さんが心配をかけまいと姉さんには内緒にして、って言われてたんだ。」

 

束「そうだと思ったわ。でもそうなら、私の心は決まったわ…。」

 

箒「何が決まったんだ姉さん?」

 

束「今は内緒、それよりもデータ入力は終わったよ。それよりも速く紅椿を待機形態にして、私達も泳ぎに行こうよ!」

 

良く良く見てみると、いつの間にか束は水着に着替えていた。

 

束「幸太郎に会える今日の為に、新調した水着なんだ。はぁ…速く幸太郎に見せて、綺麗って言われたいな//」

 

箒「わかったわかった。じゃあ私達も早速皆の所に行こう。」

 

そう言って束と箒は、仲良く海水浴場に向かって歩き出した。




幸太郎の病状が、束にマルバレですね。
まぁ、束程の人ならすぐ見抜けるでしょう。

そして箒は無事に、紅椿をゲットしました!
これで後は、海水浴場での束とラウラの修羅場だけかな?


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38話

一夏「さても、体操もすんだ事だし早速泳ごうぜ!」

 

鈴音「そうね。そうだ一夏、彼処のブイまで競争しましょうよ。」

 

二人が意気揚々と海に入ろうとすると、幸太郎とマイルナが歩いてくるのを見つけ、入るのを止めた。

 

一夏「遅かったですね二人とも。それにしても、随分と重装備ですね幸太郎さん。」

 

幸太郎「だって、泳ぐの初めてだから泳げないし、お姉ちゃんが絶対に持っていけって。」

 

幸太郎は、浮き輪とサンバイザーをしっかり着用していた。

 

マイルナ「それじゃあ幸太郎、ここにうつ伏せに寝転がって。」

 

マイルナは、セシリアの隣を指差してそう言った。

そしてマイルナに言われた通り、幸太郎はそこに寝転がった。

 

幸太郎「寝転がったよお姉ちゃん。今から何するの?」

 

マイルナ「今から日焼け止めを塗るのよ。こんな日差しの強い時に、外に出たのは初めてだから少しでもスキンケアをしとかなきゃいけないの。

それにそのサンバイザーは、絶対に外しちゃダメよ?直射日光は体に良くないから。」

 

そう言ってマイルナは、幸太郎に日焼け止めを塗ろうとした。

 

ラウラ「ちょっと待ってください!その作業、出来れば私が代わります!」

 

シャルロット「もう、走ってくから何があったのって思ったら、そんな事だったのね。」

 

マイルナ「あら?ラウラにシャルロットね。代わりたいですって?」

 

幸太郎「ラウラにシャルロットじゃん。凄く似合ってるねその水着。とっても可愛いよ。」

 

幸太郎はニッコリと笑いながら、そう言った。

 

ラウラ「そ、そうか//もし、嫁に似合ってないと言われたらどうしよう…、と想っていたが杞憂だったな。

嫁こそ、その水着は似合っているぞ。」

 

すると遠くから、箒と束もこちらに向かって来ていた。

 

箒「すまない皆、遅くなってしまった!だが、用事は既に終わらせて来た。」

 

箒は、目の前で起きている状況を一瞬で判断した。

 

箒「一夏よ、速く私達は泳ぎに行こうか。」

 

一夏「えっ?まぁ…、別に良いけど…。」

 

そう言って箒は、一夏とセシリアと鈴音とシャルロットをつれて、この場から離れて行った。

 

箒「姉さん、後は一人で頑張って欲しい。」

 

束「箒ちゃん!?頑張るって何を!?」

 

残された束も、寝そべっている幸太郎とマイルナが持っている日焼け止めを見て、状況を把握した。

 

幸太郎「束の水着も、凄く似合ってるよ。可愛いって言うよりは、綺麗だね。」

 

束「き、綺麗//そ、そんな…いきなり何を言うの幸太郎//綺麗か…フフッ//幸太郎に綺麗って言われた//」

 

突然の誉め言葉に、束は顔が赤くなってしまった。

 

そして自分は可愛いなのに、束は綺麗と誉められていてラウラはムッとした。

幸太郎に特別な他意は無い事はわかっているが、やはり気に入らなかった。

 

ラウラ「それよりも!私が代わりますので、マイルナさんは休んでいて下さい!」

 

束「代わるですって!私が代わるわ!貴方はいっくん達と遊んで来たら?」

 

ラウラ「なんだと!ISの開発者だか知らないが、今の私の方が今の嫁の事を詳しく知っているんだぞ!

幼なじみだからって、イイ気になるんじゃ無い!」

 

束「なんですって!貴方みたいなお子様に、幸太郎は釣り合わないわ!

それに、私は幸太郎にとって初めての親友…つまり、運命の相手なの!だから後から出てきた貴方に、入り込む余地なんて無いのよ!」

 

ラウラと束は、口喧嘩をしながらいがみ合っていた。

 

幸太郎「ねぇお姉ちゃん。俺も一夏達と一緒に、速く遊びたいよ。」

 

マイルナ「そうね、それじゃあちょっと待っててね。」

 

そう言ってマイルナは口喧嘩をしている二人の前に立った。

 

マイルナ「貴方達、いい加減にしなさい!さっきから聞いてれば、幼なじみだとか今の方が詳しいだとか、そんな下らない喧嘩なら、もっと遠くでしてちょうだい!

貴方達の下らない喧嘩のせいで、幸太郎に迷惑がかかってるの。

二人で仲良く塗るか、他所で喧嘩するかさっさと選んで!」

 

マイルナの気迫に、完全に押されていた。

 

束「本来なら、まだ貴方とは話したい事がいっぱいあるんだけど。」

 

ラウラ「今は嫁の為に、協力をしよう。」

 

こうして、二人仲良く幸太郎に日焼け止めを塗ったのだった。




こ、怖えぇぇ…、
やっぱり、マイルナが怒ると怖いですね。

そして案の定、喧嘩になりましたね。
ですが、その調子ですと仲良くなりそうな雰囲気ではありますね。


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39話

幸太郎「良し!いよいよ、人生初の海水浴だ!」

 

マイルナ「その前に、まず準備体操をしっかりとしときなさい。足がつったら一大事よ。」

 

逸る気持ちを押さえて、幸太郎は事故防止の為に念入りに準備体操を行った。

その後ろで、束とラウラは自分の手を見ながら惚けていた。

 

ラウラ「考えてみたら、あんなに嫁の体を触ったのは初めてだ//」

 

束「うん//幸太郎の体って物凄く、柔らかくてスベスベしてた//」

 

マイルナ「貴方達も惚けて無いで、泳ぐなら泳ぐよ。」

 

マイルナにそう言われ、二人はハッ!となり幸太郎達の後に続いた。

 

一夏達は、随分と深い方へと泳いでいってしまってる為、幸太郎達は浅い所で遊んでいた。

 

遊んでいたと言っても、ただ波にゆらゆらしている幸太郎の周りで、楽しく話をしているだけだった。

 

幸太郎「ふぅ…、海水って聞いてた通りしょっぱいんだね。それにこうやって、波にゆられるだけでも楽しいね。」

 

ラウラ「そうだな。それよりも、体調の方は大丈夫なのか嫁よ。もし異変を感じたなら、すぐに私に伝えてほしい。」

 

束「なによ!幸太郎、こんな小娘より私を頼って欲しいの。私の方が、幸太郎の為に何でも出来るわ!」

 

またしても二人は、些細な理由で口喧嘩を始めてしまった。

マイルナが今回も、注意をしようとした瞬間幸太郎が口を開いた。

 

幸太郎「さっきから二人とも、喧嘩ばっかりでつまんない。」

 

この幸太郎の一言は、他のなりよりも二人の心にダメージを能えた。

 

束「つ、つまんない!そ…そんな。」

 

ラウラ「嫁に愛想をつかされるなんて…。」

 

そして二人は、お互いに顔を見合わせて目で何かの合図を送りあった。

 

束(私達はまだ、仲良くなっていないけども。)

 

ラウラ(私達のすべき事はただ一つ。嫁を満足させる事だ!)

 

束「いや~、今まで喧嘩腰で悪かったね。別に悪気があった訳じゃないんだよ。」

 

ラウラ「こっちこそ、すまなかった。嫁の幼なじみが羨ましかったんだ。」

 

幸太郎「良かった。これで二人とも仲直り出来たね。うん!やっぱり、喧嘩は良くないよ。」

 

マイルナ「全く、こんな二人が幸太郎の支えになってると思うと、苦労が絶えないわ…。」

 

マイルナがそう言うと、幸太郎は恥ずかしそうに慌ててマイルナの口をふさいだ。

 

幸太郎「お姉ちゃん!恥ずかしいから、その事は言わないって約束したでじょ!」

 

束「心の支えって?それってどう言う事なの?」

 

ラウラ「そうだぞ嫁よ!私達に内緒の隠し事はいかんぞ!」

 

二人に迫られて、幸太郎は観念した。

 

幸太郎「その…、俺は産まれた時からこの病気のせいで、周りに友達も出来なかったし遊ぶ相手もいなかった。

でも、そんな俺に初めて出来た親友が束なんだ。」

 

幸太郎「そしてIS学園に来て、一夏達と再会したけど、一夏達も一人前の大人。すでに出来上がってる繋がりの中に、入る事は出来なかった。そんな時に、俺にとって束とは別の特別な繋がりがラウラなんだ。」

 

幸太郎「だから、束とラウラには喧嘩をしてほしくない。だって二人が喧嘩して仲が悪くなったら、俺は嫌なんだ!」

 

初めて聞いた幸太郎の想いに、束とラウラは心が温かくなっていた。

そして、幸太郎にそこまで想われてるととても恥ずかしくなっていた。

 

幸太郎「それに、俺はお姉ちゃんにも感謝してるんだ。幼い頃に一度、人生を諦めようとしてた俺に生きる希望を与えてくれたのは、お姉ちゃんなんだ。

だから俺は、三人には感謝の気持ちでいっぱいなんだ。」

 

マイルナ「幸太郎…、フフッ一端に言っちゃって。私は感謝される様な事はしてないわ。

それよりも、今は遊びましょう。」

 

突然の感謝の言葉に、普段は冷静なマイルナもタジタジになっていた。

 




良いですね。お互いが想い想われの関係。
そして幸太郎の感謝の言葉。

やはり、幸太郎と束とラウラはお似合いですね。
重婚でも良いですよね?と想います!


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40話

一夏「幸太郎さん、一緒にビーチバレーでもしませんか?」

 

先に上がっていた一夏が、手を振りながら幸太郎を呼んだ。

そして幸太郎達も、海から上がった。

 

幸太郎「ビーチバレーか…、折角のお誘いだけど俺は遠慮しとくよ。さすがにこの炎天下で動いたら、倒れちゃうしね。」

 

マイルナ「それじゃあ幸太郎、貴方はパラソルの下で休憩をとりましょう。」

 

そう言ってマイルナは、幸太郎をパラソルまで連れていった。

 

千冬「ほぉ、ビーチバレーか。面白そうだな、ぜひ私も混ぜて欲しいな。」

 

束「あっ、ちーちゃんも泳ぎに来たんだね。それにしても、相変わらずナイスバディだね。」

 

マイルナ「千冬ね…そうだわ!貴方達五人と、私達四人で戦いましょう。これなら、問題はないわ。」

 

このマイルナの発言で、五対四のチーム戦を行う事が決まった。

そしてマイルナチームが集まって作戦会議をしている時、ラウラは自分の胸に手をおき劣等感にかられていた。

 

それに気がついたマイルナは、ラウラの頭を撫でた。

 

マイルナ「そんなのは、気にしなくても良いのよ。胸の大きさなんか、幸太郎は気にしないわ。

大切なのは、幸太郎を愛する想いの大きさよ。」

 

ラウラ「べ、別に気にしてなんかいませんよ//それよりも、速く作戦を決めましょうよ//」

 

恥ずかしくなったラウラは、誤魔化す様に話をそらした。

 

ラウラ「そうか…、幸太郎は気にしないのか…。フフッ、それなら安心だな。」

 

周りに聞こえない様に言ったつもりだったが、マイルナ達にはしっかりと聞こえていた。

 

束「ふん!だからって、私よりも幸太郎への愛が大きいとは、限らないんだからね!」

 

ラウラ「な、聞こえていたのか//クッ…恥ずかしい//だが、それはお前だってそうだろう!」

 

二人はまた、軽い口喧嘩を初めてしまった。

 

千冬「はぁ…、ゲームの前からこれだと、先が思いやられるな…。で、どうしますかマイルナさん?」

 

マイルナ「全く、幸太郎を好いてくれるのは嬉しいけどね。

貴方達、いい加減にしなさい。これ以上喧嘩するなら、私が怒るわよ?」

 

マイルナの言葉に、束とラウラは口喧嘩を止めた。

そして恐る恐るマイルナの方を見た。

 

ラウラ「喧嘩だなんて、人聞きが悪いですよ…。」

 

束「そ、そうですよ。これはちょっとした、交流ですよ…。」

 

マイルナの鋭い眼光と、静かな声に二人は逆らえなかった。

言われた訳ではない千冬も、恐怖で鳥肌がたってしまった。

 

マイルナ「そう。なら良いけど…、じゃあ作戦会議に戻るわよ。

と言っても、細かい作戦なんて無いわ。強いて言うなら、このゲームにもし勝てたら、今日は特別に幸太郎と寝ても良いわよ。」

 

このマイルナの発言に、ラウラと束のやる気は一気に上昇した。

 

千冬「さすがはマイルナさん。二人に最適な言葉を、見事に言うなんて…。」

 

マイルナ「まぁ、これでなんとかなるでしょうね。」

 

そしてビーチバレーが始まった。

 

結果は、マイルナチームの完全勝利に終わった。

それも束とラウラだけの力で、勝利したと言っても過言ではない。

 

マイルナ「まさか、ここまでやるとは思わなかったわ…。でも約束どおり、今日は幸太郎と寝ていいわ。」

 

こうして幸太郎達は、午前中を楽しい海水浴で過ごしたのだった。




マイルナさん、怖いですね…。
千冬までビビるなんて、やっぱり相当なモノですね。

やる気になったラウラと束は違いますね。
まさに、無敵状態です。



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41話

幸太郎は旅館の、自分の部屋で休んでいた。

一夏達は、授業の最中なので他にやる事が無いのである。

 

幸太郎「はぁ…、お姉ちゃんも、もしもの付き添いに行っちゃったし暇だなぁ…。」

 

すると、部屋のドアを誰かがノックをした。

 

束「あの、幸太郎いる?良かったら、お話でもどうかな…て思ってね。」

 

幸太郎「おっ!ちょうど良いところに来たね!さぁ入ってよ!」

 

幸太郎がそう言うと、ドアの向こうで束はガッツポーズをとった。

そして、ドアを開けて中に入っていった。

 

幸太郎「ふと考えたら、束と二人で話すのなんて小学校いらいだね。」

 

束「そ、そうだね//それよりも今日は、幸太郎にどうしても聞きたい事があるの!」

 

幸太郎「俺に聞きたい事?俺なんかが答えられる範囲だったら、何でも答えるよ。」

 

幸太郎の返事を聞いた束は、少し残念そうな顔をした。

 

束「まぁ、質問はいつでも出来るから今は普通のお話をしましょう。」

 

幸太郎「そうだね…。そう言えば、昔に話し合った事だけど、夢を叶えられたんだね。

凄いよ!今やISは世界の一部分と言っても過言じゃないよ。」

 

愛する人に誉められて、束は赤面した。

良くも悪くも、世界の常識になってしまった自分の発明品であるIS 。

 

その大きすぎる影響力に、束は少し自信をなくしていたのだ。

 

束「でも、おかけで女性が強い社会になっちゃったし、単に喜べないよ。

それに、今のISは軍事目的の為に利用されようとしてる。もしISが戦争に使われたらと思うと私は…。」

 

不安そうに話す束の頭を、幸太郎は優しく撫でた。

 

幸太郎「大丈夫だよ。ISって、女性しか使えないんでょ?だったら、そんなに心配する事ないよ。

それにISは、束の夢の結晶だ。その想いを、皆わかってくれるよ。」

 

優しく、温かい幸太郎の言葉に束の目からは涙が流れてきた。

それを誤魔化すかの様に、束は幸太郎に抱きついた。

 

幸太郎「よしよし。誰にも悩みを打ち明けられなくて、辛かったんだね。

こんな俺の胸なら、いつでも貸してあげるから今は我慢せずに泣くと良いよ。」

 

それから5分、今まで溜まっていた辛さを洗い流すかの様に、束は涙を流していた。

 

束「ありがとね幸太郎。まさか、こんなところで泣くなんて、私そうとう疲れてたんだね…。

でももう大丈夫よ。もし幸太郎が良かったら、またツラくなって来たら、またむねを借りても良いかしら?」

 

幸太郎「うん!それくらい、お安いご用だよ。それより、俺への質問って何なの?

もうそろそろ、教えてくれよ。」

 

束「そ、そうね…。」

 

束の顔色は、悪くなっていた。

 

いずれ聞かなければならない事だが、いざ真実を知ってしまうと思うと、勇気が無くなってしまう。

 

束「その…、凄く聞きにくい事なんだけども…幸太郎、貴方の病状は良く無いはず。

しかも、とても危険な状態の筈よ!」

 

幸太郎「なんだ、その事か。その事なら心配いらないよ。だってほら俺は凄く元気だし。」

 

束「誤魔化さないで!誤魔化しても、貴方の事ならわかるのよ!だって私は貴方を愛してるから!」

 

束「私はこれまで、貴方の側にいてあげれなかった。今でも悔やんでいるわ…。

だからこれからは、貴方の為になりたいと想ってるの!」

 

束の心からの涙に、幸太郎は観念した。

 

幸太郎「たしかに束の言う通り、俺の病状は凄く悪くなってる。もしかしたら、明日死んじゃうかも知れない程だ。

でも、それでも俺は生きていれる今を楽しみたいんだ!だから例え束がなんと言おうとも、俺はこのまま生活をする!」

 

束「そう…幸太郎がそう決めたなら、私は何も言わないわ。でもこれだけは言わせて。」

 

そう言って束は、幸太郎に近づきそのまま幸太郎の口にキスをした。

 

突然の事に、幸太郎は唖然としていた。

 

束「私は、貴方を全力でサポートするわ。フフッ、私の初キス//幸太郎にあげちゃった//」

 

恥ずかしそうにそう言うと束は、部屋から出ていった。

 

幸太郎「キス…、束が俺にキス…。俺も初キス…。」

 

あまりの事に、幸太郎はその場で気を失ってしまった。

 

 




寝オチしたので、文がおかしいかも知れません。ですが、まぁご了承下さい。

それにしても、本当に乙女ですね束は。
初キスをして、ラウラより一歩リードしてますかね?

もしですが、私がツイキャスをした場合、皆様は見てくれますか?


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42話

ラウラ「嫁よ!やっと授業が終わった!これで、心置き無くイチャイチャ出来るな!」

 

千冬「その前に、今から晩飯の時間だ。幸太郎と束は既に、移動してるぞ。」

 

授業が終わったラウラ達は、晩御飯を食べる為に大きな客間に移動していった。

 

幸太郎「あっラウラ。授業終わったんだ。」

 

マイルナ「あれ?そう言えば、束はどこにいるの?」

 

マイルナの質問に、幸太郎はあの時のキスを思い出してしまいどもってしまった。

 

幸太郎「えっと…その…、トイレって言ってたよ…。」

 

束「ふぅ…、ちーちゃん達も来てたんだ…。」

 

トイレから帰ってきた束も、さっきのキスで幸太郎の顔を恥ずかしくて見れなくなっていた。

 

その二人のちょっとした変化を、マイルナは見逃さなかった。

 

マイルナ「束、正直に話したら許してあげるわ。貴方、幸太郎に何をしたの?

あんな幸太郎を見るのは初めてよ?相当の事をしたんでしょうね。」

 

マイルナは束の目を真っ直ぐ見て、そう問いただした。

 

目が笑っていないマイルナに、束はとてつもない恐怖を感じていた。

 

幸太郎「お姉ちゃん止めてよ!束は何も悪くないんだよ!それに、束はお母さんになるんだから、乱暴はダメ!」

 

一夏「お、お母さん!束さん、俺達がいないのを見計らって幸太郎さんを…。」

 

箒「本当に見損ないましたよ!それじゃあ、姉さんは犯罪者です!」

 

ラウラ「この獣!嫁の初めては、私が貰おうと思ってたのに!」

 

マイルナに睨まれたラウラは、シュンとなった。

そして、マイルナは束の両肩を掴んだ。

 

マイルナ「ねぇ束、貴方が幸太郎を好いてくれるのは良くわかってるわ。でもやって良い事と悪い事の区別は出来るわよね?

私の大事な弟を傷物にして、どう責任をとるつもりだ?」

 

口調が荒くなり、マイルナは明らかに怒っていた。

 

束「ち、違います!皆勘違いしてるけど、私はそんな事してません!幸太郎、誤解を招く事を言わないでよ!」

 

幸太郎「誤解って、俺は間違った事言ってないつもりだけど…。」

 

マイルナ「束、誤解だとか間違いだとか良いから、さっさと何をしたか言いなさい。」

 

千冬「マ、マイルナさん…ちょっと落ち着いた方が良いんじゃ…。」

 

普段は優しいマイルナからは、到底考えられない程の威圧感と恐怖のオーラでこの場にいる幸太郎以外の人間は恐怖を感じていた。

 

束「そ、その…私がしたのは、キスです!それ以上は、何もしてません!」

 

少し涙目になりながら、束はそう言った。

束の発言から、マイルナは少し考えて幸太郎の考えている事を理解した。

 

マイルナ「成る程ね。安心しなさい幸太郎、キスをしただけで子供は出来ないわ。」

 

幸太郎「そうなの?じゃあ子供はどうやって出来るの?キス以外だと、何も想像出来ないよ。」

 

一夏「キスをしたら妊娠って、純粋過ぎますよ幸太郎さん!」

 

今まで入院続きで、勉学をろくに受けていない幸太郎は、学校で習う様な一般知識は皆無だったのだ。

 

マイルナ「それに関しては、また追々教えてあげるわ。」

 

ラウラ「ズルい!束だけ嫁にキスしたなんてズルい!」

 

そう言ってラウラも、幸太郎に近づいて行きそのまま幸太郎の唇にキスをした。

 

このままでは束と同じと思ったラウラは、舌を絡ませた。

 

ラウラ「これで、私が嫁を上書きしたぞ。」

 

幸太郎「ラ…ラウラまで、お、俺に…」

 

幸太郎はまた、その場で気を失ってしまった。

 

マイルナ「ラウラ!貴方何をしてるの!それに束、キスだけなら大丈夫って訳じゃ無いのよ!」

 

マイルナの雷をうけたラウラと束は、1時間程正座で説教をくらったのだった。




まさに鬼ですね…。
ブラコンも、拗らせると恐怖になります。

一番怒らせちゃならないのは、マイルナですね。

活動報告でもお知らせしたのですが、今週の木曜日にツイキャスをします。
ぜひ、見てください!


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43話

食事を無事に済ませた幸太郎とマイルナは、自室に戻ろうと廊下を歩いていた。 

 

すると目の前に、怪しそうに千冬の部屋を盗み聞きしている鈴音とセシリアがいた。

 

幸太郎「二人とも何してるんだろう?おーい!何か面白いものでも聞こえるの?」

 

セシリア「声が大きいですわ幸太郎さん!」

 

鈴音「そうよ!今は、それどころじゃ無いのよ!」

 

少しキツイ言い方をした二人は、幸太郎の後ろにいたマイルナに気付き血の気が引いた。 

 

ショッピングの時、そして先ほどの件でマイルナを怒らせてはならないとわかってたからだ。

 

マイルナ「そんなに怖がらなくても良いわ。それよりも、千冬の部屋に聞き耳なんか立てて何が聞こえるのかしら?」

 

そう言ってマイルナも、扉に耳を近づけた。

 

千冬「や、やっぱりお前にしてもらうのは、気持ちが良いぞ//」

 

一夏「そうだろ千冬姉、だって凄く溜まってたみたいだから、今日は頑張るぜ。」

 

中から聞こえてくる声に、マイルナは事情を理解した。

それでも、勘違いをしている二人にイタズラをしたくなった。

 

マイルナ「これは、お前達が考えている通りの“あれ”だな。全く、一夏も若いんだな。」

 

鈴音「や、やっぱり//私達がいくらアピールしても気づかないのは、千冬さんが相手だったからなのね。」

 

赤面しながら慌てる二人を見て、満足したマイルナはそのまま扉を開けた。

 

マイルナ「一夏に千冬、マッサージも疲れをとるのに最適だけど、情けない声が外に漏れてるわよ?」

 

セシリア「マ、マッサージ…、マッサージですって//」

 

鈴音「そんな、一夏達は“あれ”をしてるんじゃ…マイルナさん!わかってたなら、何で嘘をつくんですか!」

 

マイルナ「幸太郎に対しての、あの言い方の報復よ。」

 

笑顔で答えるマイルナに、やはりこの人に逆らってはいけないと実感した。

 

幸太郎「わぁ、マッサージか。ねぇ一夏、俺にもマッサージしてよ。」

 

突然の訪問者に、一夏と千冬はキョトンとしていた。

 

一夏「別に良いですけど…、それよりも皆さんはどうしてここに集まって来たんですか。」

 

千冬「はぁ、おい鈴音にセシリア。お前達は今すぐ箒とシャルロット、そしてラウラと束をここに呼んでこい。

束の誘い方だが、幸太郎が呼んでるかマイルナさんが呼んでると言えば、必ず来る。」

 

千冬に頼まれた通り、鈴音とセシリアは四人を呼びに行った。

 

幸太郎「それじゃあ一夏、早くマッサージをしてよ。こっちは準備万端だから。」

 

いつのまにか、幸太郎はうつ伏せの状態で待っていた。

 

マイルナ「一夏、あんまり幸太郎を待たせないでね。それに、ちゃんとマッサージをしてあげてね?」

 

マイルナからのとてつもないプレッシャーを感じながら、幸太郎へのマッサージが始まった。

 

そして約五分後、千冬の部屋にメンバーが集結した。

 

束「幸太郎が私に話があるって聞いたけど、どうやらちーちゃんにはめられた様だね。」

 

束は、マッサージの気持ちよさで眠りについている幸太郎を見ながら言った。

 

千冬「人聞きの悪い言い方をするな。それよりも一夏、今からお前は幸太郎を部屋に連れていって来い。」

 

一夏「えっ、でもいきなり何でなんだよ?」

 

マイルナ「今から女だけの話し合いをするのよ。少しは察しなさい。

それよりも、幸太郎を起こさない様に運んでね。」

 

こうして一夏は、寝ている幸太郎をおぶり部屋から出ていった。

 

そして残されたメンバーで、熱いガールズトークが幕を開けるのだった。




大人が三人いる時点で、ガールズじゃ無いかも知れませんが、そこは御了承下さい。  



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44話

マイルナ「でも、いざガールズトークをしようと思うと、話題が見つからないわね。」

 

そう言いながら、マイルナは缶ビールの蓋を開けた。

 

箒「義姉さん、ビール飲むんですね。イメージでは、ワインとか高級そうな感じですけど。」

 

千冬「そんな事よりも、お前達を集めたのは他でもない。お前達、一夏の事を好いているんだろう?」

 

千冬のこの発言に、箒とシャルロットと鈴音とセシリアは、赤面した。

 

鈴音「い、いきなり何を言い出すんですか千冬さん!まぁ…、嫌いでは無いけど//」

 

箒「そうですよ!今その話は、関係無いですよ!」

 

千冬「そうか?女子が集まってする話と言えば、恋ばなしかないだろう。

それに、もしかしたらこの中の誰かが私の義妹になるかもしれん。だったら、色々と話をしたくてな。」

 

慌てている四人を見てラウラは、自分の初めはあんな感じだったのかと、実感した。

 

千冬「だが覚悟しておけよ?一夏の家事スキルは、そこいらの女子よりも高い。

だからと言って、気を落とすなよ。」

 

すると、マイルナが千冬の肩を掴んだ。

振り向くと、既にマイルナは酔っていた。

 

マイルナ「一夏の家事スキルが高いですって?そんなの、私の可愛い幸太郎の方が高いに決まってるでしょ!あのね、あの子はね凄く優しい子なの。私達所員の誰かが風邪をひいたら、付きっきりで看病してくれるのよ。」

 

マイルナ「それにこの前なんて、私に四つ葉のクローバーをくれたのよ!

もう//本当に可愛すぎるわよ//」

 

酔ったマイルナは、ブラコン全快になっていた。

 

千冬「まぁ…、その話は追々。それよりもマイルナさんは、ラウラと束に話を聞かないんですか?

大切な弟の嫁候補ですよ?」

 

マイルナ「ラウラと束の事は、十分認めてるわ。でもね、私としては幸太郎には清い交際をしてほしいのよ。

私がいない時を狙って、キスする人。そして大勢の前でキスする人…。」

 

そう言ってマイルナは、束とラウラを順番に見た。

 

束とラウラは、気まずそうにマイルナから目をそらした。

 

マイルナ「でも、幸太郎を任せられるのは今のところ、ラウラと束の二人しかいないわ。」

 

ラウラ「マイルナさん…。」

 

束「義姉さん…。」

 

マイルナの最後のフォローに、二人は感動していた。

 

千冬「その心配、凄くわかります!私も一夏には、しっかりとした職についてもらって、幸せな家庭を築いて欲しいんです!」

 

お酒が入って来たからなのか、千冬も上機嫌になってきていた。

 

そして千冬とマイルナは、そのまま姉トークを初めてしまった。

 

残されたラウラ達は、自分はとこに惚れたのかや、どんなデートがしたいか等を話し合っていた。

 

マイルナ「ふぅ、もうこんな時間ね。私はそろそろおいとまさせてもらうわ。

あっ…そうそう千冬、一夏の事はわかるけど先に自分の相手を見つけなきゃね。」

 

千冬「ウグッ!で、ですがマイルナさんだって、幸太郎にお熱じゃないですか!」

 

痛いところをつかれ、千冬は少し強気に返してみた。

するとマイルナは、笑っていた。

 

マイルナ「教えてなかったけど、私じつは結婚してるわよ?」

 

「ええええぇぇぇ~~~~~~~!!」

 

今年一番の驚きを味わった、マイルナ以外だった。




まさか、結婚してたとは!
以外ですね…。ただのブラコンじゃありませんね。

果たして、マイルナの旦那は誰なんでしょう?


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45話

幸太郎「うぅ…ん、あれここは?」

 

一夏「起きたんですね幸太郎さん。あのまま、寝ちゃったんですよ。覚えて無いんですか?」

 

少し記憶を遡り、幸太郎は思い出した。

 

幸太郎「そうだったね。それよりも、もう一人で歩けるから降ろして。」

 

幸太郎がそう言うと、一夏は幸太郎を下に降ろした。

 

そして二人は、たわいのない会話をしながら廊下を歩いていた。

すると一夏は、ふと思い出した様に外を見た。

 

一夏「そう言えば幸太郎さん、今日は満月らしいですよ。どうですか今から見に行きませんか?」

 

幸太郎「満月だって!それは急いで見に行かなきゃ!」

 

夜の外出はおろか、外出をあまりした事のない幸太郎にとって、一夏の提案は素晴らしい提案だった。

 

一夏「風が吹いていないだけ、寒くないですね。ですが幸太郎さん、もし寒くなったら我慢しないでくださいね。」

 

幸太郎「もう、一夏は本当に心配性なんだから。そんなにやわな体じゃないよ。」

 

幸太郎は冗談っぽく笑ったが、それでも一夏の心配は消えなかった。

 

幸太郎「いざ外に出てみたけど、お月様見えないね。」

 

一夏「そうですね。昼間はあんなに晴れてたから、大丈夫だと思ったんですが、こんなに雲がかかってるなんて、想定外でしたね。」

 

二人は近くの岩に腰を下ろし、空を見上げていた。

 

ラウラ「どこにいるのかと思ったら、こんな所にいたのか嫁よ。随分と探したぞ。」

 

束「そうよ。幸太郎の部屋に行ったら、誰もいないからびっくりしたのよ?」

 

幸太郎「ラウラに束も来たんだ。二人も満月が出てくるのを、待ってようよ。」

 

束「そうね。じゃあいっくん、私達が来たからもう大丈夫よ。」

 

一夏「えっ!?大丈夫って言われても…。」

 

困った一夏だったが、顔は笑っているが何か黒いオーラが出ている束に逆らえなかった。

 

一夏「そ、それじゃあ幸太郎さん、俺はもう行くよ。満月は三人で楽しんでね!」

 

一夏はこの場から、逃げる様に急ぎ足で立ち去っていった。

 

幸太郎「どうしたんだろう一夏?あんなに急いで、何か用事でもあるのかな?」

 

束「まぁまぁ、深い事は気にしなくても良いのよ。」

 

ラウラ「そうだとも。それよりも、隣に座らせてもらうぞ。」

 

そう言って二人は、幸太郎を挟む様に隣に座った。

 

二人は対抗意識を燃やしていたが、幸太郎の横顔を見たらそんな気も失せていた。

 

すると、月にかかっていた雲がずれて満月がゆっくりと顔を出し始めた。

 

そして満月からの月光が、三人を照らし出した。

 

そのあまりの美しさに、幸太郎はその場から立ち上がった。  

 

幸太郎「ラウラ、束!凄いね、これが満月か…。二人とも、月が綺麗だね…。」

 

月が綺麗。何気ない幸太郎の感想だったが、別の意味を知っている束、その意味をクラリッサから教わったラウラは、顔が真っ赤になっていた。

 

ラウラ「月が綺麗か…、たしかにそうだな//嫁よ、月が綺麗だな//」

 

束「もう幸太郎たら、大胆なんだから//そうね、月が綺麗ね本当に//」

 

こうして幸太郎達は、目の前の満月を満喫して、宿場へと戻っていった。

 

千冬「こそこそせずに、幸太郎の前に行っても良かったんじゃ無いですか?」

 

マイルナ「私は幸太郎を溺愛してるけど、出てって良い雰囲気か否かは、理解してるわ。」

 

いつからか、後ろから幸太郎を見ていたマイルナと千冬も、宿場に戻っていった。




月が綺麗、誰かに言ってみたいですね!
まぁ、そんな甘酸っぱい恋をしたこと無いですし相手はいないですがね。

それにしても、マイルナは本当に神出鬼没ですね。
幸太郎いるところに、マイルナあり!ですね。


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46話

~~~幸太郎の部屋前~~~

 

満月を満喫した幸太郎達は、就寝する為に部屋の前に来ていた。

 

マイルナ「あら?三人とも、こんな時間にどこに行ってたのかしら?幸太郎がいないから心配してたのよ、ねぇ千冬。」

 

千冬(本当にこの人は、白々しい…。)

 

幸太郎「あっお姉ちゃん、俺達はさっきまで満月を見てたんだ!凄く綺麗な満月だったんだよ!」

 

楽しそうに、生き生きと話している幸太郎を見てマイルナも優しそうに微笑んだ。  

 

幸太郎「そう言えばさ、今から寝るんだけど束とラウラは、部屋に戻らないの?」

 

ビーチバレーでの事を知らない幸太郎は、二人に首をかしげながら聞いた。    

 

マイルナ「幸太郎は知らないかも知れないけど、この二人も幸太郎と一緒に寝るのよ。」

 

幸太郎「そうなんだ。それじゃあ、眠たくなって来たから早く寝ようよ。」

 

マイルナ「ちょっと待って幸太郎。」

 

そう言ってマイルナは、幸太郎に一つのスイッチを手渡した。

  

マイルナ「もし、睡眠を邪魔される様なら押して。すぐにかけつけるわ。」

 

幸太郎「もう大袈裟だよ…。でも、心配してくれてありがとう。」

 

そう言い、幸太郎は部屋の中へ入っていった。  

 

束とラウラも、幸太郎の後を追って部屋に入ろうとした。

だが、そんな二人の肩をマイルナが掴んだ。

 

突然の事に、二人は心拍数が急上昇した。 

 

ラウラ「あ、あの…マイルナさん、早く入らないと嫁が待ってますが…。」  

 

束「そ、そうですよ。それに私達が、幸太郎の眠りを妨害する訳無いですよ。」  

 

マイルナ「そうね。貴方達が無駄に喧嘩をしなけば、私は余計な心配する必要は無いわ。

あの子は、睡眠を邪魔されるのが一番嫌がる事だわ。嫌われたくなければ、大人しくする事ね。

あぁそれと…。」  

 

そう言ってマイルナは、二人に顔を近づけた。

 

マイルナ「月が綺麗で良かったわね。」  

 

ボソッと耳元でささやくと、楽しそうな顔をして自分の部屋に戻っていった。

 

自分達が、少しだけ調子にのっていたのがマイルナにバレている。

その事実が判明した事で、束とラウラの顔色は一層と悪くなった。

 

千冬「まぁ、あの人もお前達の邪魔をする気は無いと言っている。

そう深く気にする必要は無いと思うぞ。それよりも、幸太郎が待っているんだろ?早く、一緒に寝てやれ。」

 

千冬も、呆れながら自分の部屋へと戻っていった。

 

千冬(まったく、あの人は根っからのサディストだな…。私がターゲットじゃ無くて、本当に良かった。)

 

束「幸太郎が待ってるわよね?」

 

ラウラ「そうだな。今は過去の事は気にせず、未来の事を考えよう。」

 

二人は、マイルナへの恐怖心と逆らえない感情を高めながら、部屋に入っていった。

 

幸太郎「もう遅いよ二人とも。さぁ、布団は敷き終わってるから、早く寝よっか。」

 

幸太郎は、既に布団の中で横になっていた。

 

束「そうね。幸太郎が真ん中で、私達が横で寝れば寒さを少しは和らぐわよねラウラ…!」

 

束はラウラのいる方に振り返りながら、同意を求めようとした。

だが、いつの間にか裸になっていたラウラに驚いていた。

 

束「貴方なにをしてるのよ!まさか、そのまま幸太郎に添い寝するつもり!」

 

ラウラ「いつもこうしてるから、今日もそうするつもりなんだが…。

それが、何か問題でもあるのか?」

 

束「大有りよ!そんなはしたない格好で幸太郎を誘惑して、恥をしれ!」

 

ラウラ「はしたないだと!これは、私と嫁の間柄だからこその、私なりの愛情表現の一つだ!

それをばかにされる筋合いはない!」

 

二人は、また口喧嘩を初めてしまった。

 

すると既に軽い睡眠に入っていた幸太郎が、不機嫌そうに起きてきた。

 

幸太郎「うるさい!いい加減にしないと、このスイッチ押すよ!そんなに騒ぎたいなら、とっとと部屋から出てけ!」

 

そう言って、また眠りだした。

 

ラウラ「お前のせいで、嫁に怒られたじゃないか。」

 

束「私のせいですって…っと、これじゃあ繰り返しね。今日の所は、幸太郎の為にこれ以上は何も言わないわ。でも!」

 

束「私だって、貴方には負けないわ!」

 

そう言って束も、裸になった。

 

束「これで、条件は同じね。これ以上お前の好きにはさせないわ。」

 

ラウラ「ふん、こっちこそ負けない。それよりも、私達も早く寝よう。」

 

裸の束とラウラは、寝ている幸太郎を挟む様にして布団に入り眠ったのだった。

 




束も大胆!と言うか、幸太郎は気にして無いですが、圧倒的なサービス状態ですね。  

そしてマイルナはやっぱり、怖いし逆らえないですね。

最近、ヤンデレを登場させたいと考えていますが、今のままなら新作で出しそうですね。


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47話

千冬「それで、なんでわざわざ外で待っているですか?」

 

次の日の朝、マイルナと千冬は幸太郎の部屋の前で立っていた。

 

マイルナ「あの子は、基本的に8時まで寝てないと寝起きが悪いのよ。あと5分ね…、さてそろそろ入りましょうか。」

 

そう言ってマイルナは、腕時計を確認しながら部屋のドアを開けた。

 

中にはいると、裸のラウラと束に双方から抱き付かれ寝苦しそうにしていた幸太郎がいた。

 

それを見た瞬間、ラウラと束はマイルナに怒られるな。と、千冬はわかった。

 

千冬「その…、仲良さそうに寝てますね、ハハハ…。」

 

マイルナ「余計な気遣いはいらないわ。さて…、幸太郎もう朝よ?起きなさい。」

 

幸太郎「う…うぅん…。あっお早うお姉ちゃん…。なんたが、凄く眠たいよ。」

 

ラウラ「あぁぁ、よく寝た。教官にマイルナさん、お早うございます!」

 

束「あれ?なんで私裸なのかしら…あっ//」

 

マイルナ「幸太郎、顔を洗って着替えてて。私達は外で待ってるから。」

 

そう言ってマイルナは、ラウラと束を外に連れ出した。

 

幸太郎「ねぇ千冬、なんでお姉ちゃんは怒ってるの?」

 

千冬「幸太郎よ、世の中には知らなくて良いこともあるんだ。」

 

そうだけ言い、千冬も外に出ていった。

 

ドアの前では、ラウラと束は正座をさせられていた。

 

千冬「マイルナさん、今から何が始まるかわかるのですが、まず二人に服を着させた方が…。」

 

マイルナ「そんなことは、後で良いわ。それよりも二人とも、なんで私が正座をさせてるかわかる?」

 

束「その…、私達が裸で寝てたからですか?」

 

マイルナ「違うわ。そんな事じゃ無いわ。貴方達が裸でも、幸太郎に手を出してないのはわかってるわ。

それに、貴方達はもう大人。いずれ幸太郎とはそんな事をするでしょう。」

 

マイルナのまさかの回答に、千冬は驚いていた。

 

ラウラ「でしたら、どうしてマイルナさんはお怒りになってるのですか?」

 

マイルナ「私が昨日、貴方達になんと言って別れたか覚える?それを思い出せば、自ずとわかるはずよ。」

 

二人は、昨日の事を必死に思い出していた。

だが、昨日で思い出すのは幸太郎と見た満月と、マイルナに見られていた事だけだった。

 

マイルナ「はぁ…、これだからまだ幸太郎を任せられないのよ。私が言ったのは、幸太郎の睡眠を邪魔しないで。と言ったのよ?」

 

マイルナ「それなのに、貴方達ときたら自分達の幸せな睡眠で幸太郎に抱き付き、幸太郎が寝苦しそうにしてたのよ?」

 

マイルナの言葉に、二人は背筋が凍る様な恐怖を感じていた。

 

マイルナ「まぁ、過ぎた事をグチグチ言うのは好きじゃないわ。それより早く服を着なさい。

はぁ、やっぱり幸太郎はあの子にしか任せられないのかね?」

 

ため息混じりに呟いた言葉を、着替え中の二人は聞き逃さなかった。

 

束「そ、その義姉さん!幸太郎を任せられる人って、誰の事ですか!」

 

ラウラ「そうですよ!この女なら兎も角、他の女に負けるとは思いません!」

 

マイルナ「あら?聞こえてたのね。そうね…、言っても良いのかしら。まぁ、言いか。」

 

マイルナ「その子は私の旦那の妹、つまり私の義妹よ。」

 

千冬「でもマイルナさん、昨日のガールズトークで、幸太郎を任せられるのは二人しかいないって…。」

 

マイルナ「そうだったかしら?もし期待させたのなら、ごめんなさい。私酔ってたから、あんまり覚えてないわ。」

 

そう言ってマイルナは、部屋の中へ入っていった。

 

ラウラ「私達以上に、マイルナさんに認められた女…。」  

 

束「でも、まだ完全に負けた訳じゃ無い!」

 

二人は、まだ見ぬ強力なライバルに激しい対抗意識を燃やしていた。




まさかの新キャラ登場のフラグです!

あのマイルナが認めている、旦那の妹とはどんな人物なのでしょうね?
まさに、最強のライバルですね。


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48話

本来なら、この後銀の福音が登場してひと悶着あるのですが、銀の福音は一夏達IS所有者が学年別トーナメントよりも、主役になってしまうので省きます。
ご了承ください。


幸太郎「それにしても、もう臨海学校は終わりか。楽しかったけど、物足りない気もするな…。」

 

マイルナ「その空しさも、臨海学校の楽しさの一つなのよ?それに、明後日には出張中だった旦那が帰ってくるんだって。」

 

マイルナがそう言うと、一夏は驚いてマイルナの方を見た。

 

一夏「旦那ってマイルナさん!ご結婚なさってたんですか!それって、信じられねぇ。」

 

千冬「お前達!いつまでも話をしてないで、早くバスに乗れ。」

 

千冬の指示で、次々と生徒達はバスに乗り込んでいった。

 

ラウラ「お前とは、そこそこ仲良くなれたと思っているのだが、今日でお前とはお別れだな。少しだけ寂しいな…少しだけだぞ!」

 

幸太郎「そっか、明日から束に会えないのか…。久しぶりに会ったのに、すぐにお別れなんて嫌だよ。」

 

恥ずかしそうに照れているラウラと、今にでも泣きそうな幸太郎を見て、束は笑った。

 

束「そんな心配はいらないよ!なんと、ちーちゃんと話をして私も、学園の職員として幸太郎達と一緒にいられる様になってるんだ。」

 

束の発言に、事情を知っている千冬とこうなる事を予想していたマイルナ以外は驚きを隠せないでいた。

 

マイルナ「でも意外だわ。束の事だから、ご自慢の科学力を使って幸太郎を隠れ家に連れてく。

そこまでは考えてたのに…。」

 

千冬「そんな事したら、マイルナさんに確実に息の根を止められますよ。」

 

マイルナ「もう!そんな恐ろしい事しないわよ。その代わり、二度と太陽は拝めないし、幸太郎の事を綺麗さっぱり忘れて貰うわよ…なんて冗談よ。」

 

と、いたずらに笑うマイルナであったが束は顔が真っ青になっていた。

 

マイルナの言葉は、冗談には聞こえないくらいの迫力と恐怖があった。

 

ラウラ「や、やはり私達が乗り越えるべき壁は、まだ見ぬライバルではなく、マイルナさんしかいないな。」

 

束「そうね。義姉さんに許しを得れば、確実に幸太郎と一緒になれるわ。

そうと決まれば、私達は今だけ同盟を組むべきね。」

 

マイルナに聞こえない様にそう言うと、二人は固い握手を交わした。

 

幸太郎「束もIS学園にくるって、今すぐくるの?でもそれなら、あのニンジンのロケットはどうするの?」

 

束「あぁ、あれの事ね。一応荷物もあるし、隠れ家に私の家族みたいな子もいるから、一度隠れ家に帰るつもりよ。用意もあるから、学園につくのは明後日になるわね。」

 

箒「それよりも姉さん!学園の職員になるって、本当の事なんですか!

そんな重要な事政府が知ったら、学園に世界中から姉さんを探してる人が押し寄せるんですよ!?」

 

束「確かに箒ちゃんの言う通りよ。それが嫌で、今まで隠れてたわ。

でも、そんな理由で愛する人と離れる訳にはいかないわ!愛する人と別れるくらいなら、そんな事気にならないわ!

私の幸太郎を愛する気持ちは、何よりも優先するべき事なの。」

 

ラウラ「嫁に対する、本気の想い。やはり、お前はライバルだが良い女だな。

お前となら、上手く戦っていける気がするな。」

 

マイルナ「そんな事よりも、バスに乗った他の生徒の事もあるから、一旦お開きにしましょう。詳しい話は束が学園についてからね。」

 

こうして、幸太郎にとって忘れられない臨海学校は無事に終了してした。

 

これから、幸太郎達に大きな障害がおそって来るなんて、今の幸太郎には想像も出来なかった…。

 




なんと、束も学園入りです!
これって実際なら、大事件ですね。

そしていよいよ、マイルナの旦那が登場します!
はたしてどんな男なのか!?

そしてマイルナが認める、旦那の妹とは!?
とうご期待。


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49話

~~~二日後~~~

 

臨海学校から二日後の日曜日、今日から束が正式にIS学園の職員として勤務する事になっている。

 

千冬「さて、そろそろあいつがくる時間なんだが…、初日から遅刻とは図々しいやつだな。」

 

マイルナ「まぁ、移動のトラブルかも知れないし遅刻くらい多目に見てあげて。」

 

二人は、職員室の時計を見ながらそう話していた。

 

千冬「そう言えば、幸太郎はどうしたんですか?あいつの性格なら、いの一番に束を待つと思ったんですが。」

 

マイルナ「幸太郎は体調が優れないのよ。だからラウラに看てもらってるわ。」

 

すると、職員室のドアが勢い良く開き大きな荷物を持った束と見知らぬ少女が入ってきた。

 

束「ごめんねちーちゃん!政府の人間にばれない様に移動するの難しくて!」

 

マイルナ「そんな無駄な心配はいらないわ。どうせもうばれてるはずよ?

それよりも、その子は誰なの束?もしかして貴女の隠し子かしら?

だとしたら、幸太郎への態様を考えてもらうわよ。」

 

マイルナの静かな恐怖に、束は背筋がゾクゾクしていた。

 

束「そんなんじゃありません!クーちゃん、誤解を解くためにも自己紹介宜しく。」

 

そう言って束は、隣に立っている少女の背中を軽く押した。

 

「初めまして千冬様、マイルナ様。私は束様のメイド兼助手をしているクロエ・クロニクルです。

以後、お見知り置きを。」

 

そう言ってクロエは、ペコリと頭を下げた。

 

マイルナ「クロエちゃんか…、その子もラウラと同じ試験管ベビーね。少し訳ありみたいね。

私はてっきり、束と知らない男との隠し子かと思ったわ。」

 

束「私が、幸太郎以外の男の子供を産むわけ無いですよ!もう義姉さん、酷すぎる言い掛かりですよ。」

 

二人のやり取りを見て、クロエは何かを確信していた。

 

千冬「どうしたんだ?あの会話を聞いて、何がわかったんだ?」

 

クロエ「いえ、日頃から束様は、恋の最大の壁がなかなか越せない。とぼやいておりました。

それがマイルナ様だと、本日わかりました。確かに、束様が苦戦するのも無理ないですね。」

 

クロエ「恋の壁と言えば、束様の愛しの幸太郎様はどこにいるのですか?

話だけしか聞いた事が無いので、自己紹介を兼ねてお顔を拝見したいと思っていたのですが…。」

 

クロエのこの言葉を、マイルナは聞き逃さなかった。

 

マイルナ「幸太郎の顔を見たいんだね。だったら、私が取っておきの写真を見せてあげよう!」

 

そう言ってマイルナは、自分の机からアルバムを取りだし、その中から一枚の写真を抜き取った。

 

マイルナ「これが、臨海学校の時の楽しそうに笑っている幸太郎だ!

どう?かっこ良くて、可愛いくて、愛くるしいでしょ?」

 

クロエ「ほぉ…、このお方が幸太郎様ですか…。マイルナ様や束様が言うように、素晴らしいお方ですね。」

 

千冬「マイルナさん、いつの間に写真なんて撮ってたんですか?それに、アルバムを見せてもらったんですが、幸太郎だけしか写ってないですよ。」

 

マイルナのブラコンぶりに、千冬は呆れていた。

 

自分もブラコンの部類に入ると自覚している千冬だったが、上には上がいる事を実感した。

 

校長「やぁやぁ、君が篠ノ之 束さんだね、初めまして。私はこのIS学園の校長です。」

 

束「こちらこそ、採用していただき、本当にありがとうございます。」

 

マイルナ「相変わらず、ここの校長はまったりとしたおじいちゃんね。」

 

校長「それはそうと、なんでも政府の人が束さんに用事があるそうですよ?」




束とクロエ到着です!

ここでも、マイルナ節?が炸裂しましたね…。
深読みしすぎですね。

初日で、政府にバレてますね。
これからどうなってしまうんでしょうね?


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50話

束「政府の人が私に?それよりも、義姉さんの言う通りに、バレてたわね。」

 

マイルナ「腐っても政府機関よ?それなりの情報網は持っているはずよ。さて、どうせ貴女の勧誘でしょ。

私も、政府の連中と話をつけたい件があるから、私も行くわ。」

 

そう言ってマイルナ達は、政府からの使者がいる校長室に入っていった。

 

~~~校長室~~~

 

校長室に入ると、少し小太りでスーツ姿の男が待っていた。

 

役人「いやいや、初めまして篠ノ之博士。私はこう言う者でございます。」

 

男は低い姿勢で名刺を差し出したが、それに目を通す事無く束はその名刺を破り捨てた。

 

束「こんな下らない能書きはいらないよ。どうせお前の名前なんか、覚える気なんてさらさら無いからね。」

 

役人「それは失礼いたしました。私も、名刺を差し出すのが癖になっていましてね。」

 

明らかに束の様子を伺う様な態度に、束とマイルナはイラついていた。

 

役人「おや?誰かと思えば、マイルナ所長ではないですか。お久しぶりでございます。覚えていますか?14年前に一度お会いしたんです…。」

 

マイルナ「知らない。お前みたいな人間は知らないし、覚えていても関係ないわ。」

 

男が言い終わる前に、マイルナが話を終わらせた。

 

千冬「そ、それよりわざわざ政府の役人が何しに来たんですか?そんな挨拶だけじゃ無いだろう?」

 

役人「そうでしたそうでした。実は、私達は今とある機械を作っていまして…。

これがその設計図です。」

 

そう言って男は、一枚の設計図を取り出した。

 

束「ふぅん、お前達低レベルでここまで考えられるなんてね。でも今のお前達の科学力じゃ、実現は100年かかっても無理だよ?」

 

役人「それは重々承知でございます。ですので、私達のこの計画に是非とも篠ノ之博士の、その卓越した頭脳と神憑りな科学力をお貸しして欲しいのです!」

 

男は、机に額をつけながら束に頼んできた。  

 

束「下らない…。本当にお前らって下らないね。幸太郎が誉めてくれた、私の夢の結晶のISを兵器呼ばわりしておいて、今度は私に兵器を作れって?

都合が良いにも程がある。お前達みたいな連中といると、本当に虫酸が走るよ!」

 

役人「そうですか…、それはとても残念です。それに、兵器とは聞こえが悪いですよ。これが完成した暁には、外国への抑止力になると期待されているんですよ?それに、私達が想定している抑止力は、これだけじゃ無いんですよ?ねぇマイルナ所長。」

 

束に断られ、残念そうにしていた男はマイルナに向かって不気味な笑みをした。 

 

マイルナ「全く、お前達はまだ諦めてなかったのか?」

 

役人「当たり前です!あれは、武器を持たぬ私達からすれば、夢の様な代物ですよ!」

 

男が話すたびに、マイルナに怒りがたまって来ているのを、束と千冬は察知した。

だが、何に対して怒りを覚えているのかを聞かなければ、話は始まらない。

 

束「そ、その…義姉さん、そいつらは何を計画しているんですか?」

 

束の質問に、マイルナは一瞬束を睨んだ。 

 

マイルナ「はぁ…、いずれは貴女達に話さなければいけないわよね。 

こいつらは、幸太郎の病気を使って生物兵器を作ろうとしているのよ。」

  

マイルナの答えに、束は聞いた事を後悔した。

 

役人「生物兵器とは言い掛かりですよ。ただのワクチンですワクチン。あれしか生きられないのなら、相当の抑止力になるでしょ?」

 

男は、幸太郎をまるで物のような言い種で話していた。 

 マイルナ「確かに、あの病気は幸太郎じゃなければ、かかった瞬間に即死だわ。でもお前達に幸太郎を渡せば、幸太郎はお前達に殺されるわ。」

 

マイルナ「それに、お前達の幸太郎を侮辱する態度が前々から大嫌いだったのよ!」

 

そう言って席から立ったマイルナを、千冬と束は慌てて座らせた。 

 

千冬「マイルナさん!いったん落ち着いて下さい!」 

 

束「そうですよ!気持ちは痛いほどわかりますが、まずさ落ち着きましょう!」

 

すると、校長室の扉が開いた。

 

幸太郎「お姉ちゃん…、どうしよう…。なんだが熱が出てふらふらするよ…。」

 

そこには、明らかに体調を悪くしている幸太郎が立っていた。




ヤバいですね…。
これは確実に一悶着ありますよ。

と言うか、マイルナが大暴れしそうな勢いですね。
役人は生きて帰れるのでしょうか?


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51話

ラウラ「すみませんマイルナさん。嫁が熱を出したので、私ではどうする事も出来ないと思ったので来ました…、どうやらお取り込み中でしたか…。」

 

マイルナ「そんな事は無いわ。それよりも幸太郎、ほら体温計で今の体温を計って。」

 

そう言ってマイルナは、ポケットから体温計を取り出し幸太郎に渡した。

 

そして幸太郎を椅子に座らせた。

 

幸太郎「ごめんねお姉ちゃん…、ちょっとフラフラするから、寄り掛かっても良い?」

 

マイルナ「えぇ、私なんかで良かったらいつでも寄り掛かって良いわ。」

 

体温計が計測終了の音を鳴らした。

 

そして体温計を見てみると、38.2℃を示していた。

 

マイルナ「なるほど、見たところ普通の熱っぽい様子だから、薬を飲んでゆっくり休めばすぐに治るわ。

さぁ幸太郎、この薬を飲んで。」

 

幸太郎「ありがとうお姉ちゃ…、ゴホッゴホッ!」

 

幸太郎が咳をすると、男は慌てて口をハンカチでふさいだ。

その行為を見て、マイルナの怒りがまた溜まり出していた。

 

マイルナ「お前は何をしてるんだ?お前のその行動は、幸太郎を侮辱しているんだぞ。」

 

役人「いや~本当にすみません。ですが、そんなのと同じ部屋で、しかも元々ある病原菌以外にウイルスを持っているなんて耐えられないですよ。

もし、私にも感染したらどうするつもりですか?」

 

男がそう言った瞬間、束と千冬はすぐに座っているマイルナを押さえた。

 

そしてラウラは、幸太郎を避難させる様に自分の方へと移動させた。

 

マイルナ「そんなの?それ?病原菌?感染?お前は何を言ってるんだ?おい。」

 

二人に、しかも世界最高レベルのスペックを持つ二人に押さえられているにも関わらず、マイルナはゆっくりとその場から立ち上がり始めた。 

 

千冬「な!私達が押さえているのに、こんなにあっさり立ち上がるなんて!」

 

束「義姉さん!落ち着いて下さい!ここは大人しくして下さい!」

 

マイルナ「ねぇ二人とも。さっきから邪魔ばっかして、何がしたいの?

もしかして、二人もあいつと同じ意見なのかしら。」

 

そう言ってマイルナは、二人を振りほどき胸ぐらを掴んだ。 

その優しさのない冷酷な言葉、ハイライトが消え全てを飲み込む程の恐怖を与える目。

 

束と千冬は、まさに死の恐怖を味わっていた。

 

千冬「そ、そんな事あるわけ無いですよ!私だって、怒りでいっぱいです!」

 

束「そうですよ!それに義姉さん、怒りに我を忘れている様ですけど、ここには幸太郎もいるんですよ!」

 

束にそう言われたマイルナは、我に帰り幸太郎の方を慌てて見た。

 

初めて見るマイルナの怒りの恐怖に、幸太郎はラウラの後ろに隠れていた。

 

マイルナ「ち、違うのよ幸太郎…、こ…これは貴方を想っての事で…、その…貴方を怖がらせるつもりはなかったわ。だから、ね?」

 

そう言って幸太郎に近づくが、近づけば近づくほど幸太郎は、マイルナから遠ざかっていった。

 

そんな幸太郎の行動に、マイルナは後悔と悲しみによりその場から崩れる様に膝をついた。

 

役人「どうやら、緊急事態の様ですね。厄介事に巻き込まれたくないので、私はこの辺で帰ります。」

 

そう言って男は、逃げる様に部屋から出ていった。  

 

そして、緊張と熱のせいで幸太郎は気を失ってしまった。




これは、最悪の事態ですね。

幸太郎にとって、優しいお姉さんのマイルナ。
でも、そんなマイルナの誰もが恐れる側面を初めて見たせいで、熱のせいもあってビビってますね。

これは政府がもたらした、マイルナへのダメージは計り知れませんね。

しかも、マイルナは超が付くほどのブラコン。
今後の展開が、凄く怖いです。


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52話

~~マイルナの部屋~~~

 

マイルナ「あぁぁぁぁぁ!!どうしよう、確実に幸太郎に嫌われちゃったわ!

これまで幸太郎の前では、優しいお姉ちゃんで過ごして来たのに!

うわぁぁぁぁん!!」

 

千冬「落ち着いて下さいマイルナさん!流石にあれは、仕方がないです!

それよりも、これで涙を拭いてください。」

 

そう言って千冬は、マイルナにハンカチを差し出した。

差し出されたハンカチでマイルナは、涙を拭った。

 

千冬(あのマイルナさんが、ここまで精神的に弱っているなんて、よほど幸太郎に見られていたのがショックなんだな。)

 

始めて見るマイルナの泣き顔、そして弱りきっている姿を、千冬は見ていられなかった。

 

千冬「そんなに、弱気にならないで下さい。幸太郎は、そんな事くらいでマイルナさんを嫌う人間じゃ無い事くらい、貴方ならよく知ってる筈です!

それに、貴方は私にとって憧れの人で…目指すべき目標なんです!」

 

マイルナ「私が目指すべき目標ですって…、だとしたらそれは今すぐ止めるべきよ。

私は、貴方が憧れる様な人間じゃ無いわ。弟に嫌われる、そんな程度の低い人間なのよ…。」

 

明らかに卑屈な物言いに、千冬は我慢が出来なくなった。

 

千冬「マイルナさん、それ以上言うと私が怒りますよ!貴方が何と言おうと、私の憧れはマイルナさんだけなんです!

貴方の凛としたその姿、何事にも動じない心の強さ、そして大切な弟の為に自分の全てを捧げるその優しさが、私の目標なんです!」

 

千冬の魂のこもった言葉に、マイルナは少し感化されていた。

 

マイルナ「そっか…、私の事をそんなにも評価してくれてたのね。なら、さっきみたいな卑屈な発言は謝るわ。

でも、貴方は既に立派な人よ?」

 

千冬「そんな事は無いです。私なんて、まだまだですよ…。一夏の為にと頑張って来たけど、いつもあいつに気苦労をかけてばかりで…、強いお姉ちゃんでいようと努力した結果、あいつが誘拐される原因になってしまった。」

 

マイルナ「なるほど、それが貴方の心のわだかまりなのね。私からすれば、気にしすぎだと思うけど…。貴方達は仲が良いから。

まぁ、周りから見れば私と幸太郎も同じ様に見えるのかしらね。」

 

すると、マイルナの部屋の扉がノックされた。

 

マイルナ「誰かしら?鍵は開いてるわ。入って来て。」

 

そこには、熱で顔を真っ赤にした幸太郎が立っていた。

 

マイルナ「こ、幸太郎何してるよ!薬は飲んだの!?それよりも、こんな所にいちゃだめよ!早く暖かい格好をして寝なきゃ!」

 

突然の幸太郎の訪問で、マイルナはてんてこ舞いになっていた。

 

幸太郎「そ、その…、俺…お姉ちゃんに謝りたくて。」

 

マイルナ「謝るって、何の事よ?」

 

幸太郎「さっきは、俺のために怒ってくれてたのに、俺ってお姉ちゃんの怒った顔初めて見て、ビックリしてお姉ちゃんから遠ざかっちゃった…、

本当にごめんなさい!」

 

涙を流しながら謝罪する幸太郎を、マイルナも泣きながら優しく頭を撫でた。

 

マイルナ「そんな事を謝るなんて、貴方は本当に優しい子ね。謝るのは、私の方よ。ごめんなさい、こんな姉で。」

 

そう言いながら、二人は抱き合った。

 

千冬「まったく…、人騒がせな姉弟だな。でも、仲直りして本当に良かった。」




無事に、仲直りしました!
良かった!やっぱり、幸太郎とマイルナは仲良くなければなりませんね!

でも、あのマイルナがなくなんて相当な事ですね。
流石最強のブラコン…。


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53話

~~~IS学園前~~~

  

?「ここが噂のIS学園か…。それにしても凄くデカイな、おい。

さてと、そろそろ行くぞ。」

 

?「はい。いよいよですね。待っていて下さい幸太郎様//」

 

~~~マイルナの部屋~~~

 

マイルナ「まったく、そんな体でこなくてもいいのに。」

 

マイルナは、幸太郎をベッドに寝かせながらそう言った。

 

幸太郎「えへへ…、どうしても早くお姉ちゃんに謝りたい一心だったから。」

 

マイルナ「もう…本当に可愛い子ね貴方は!やっぱり貴方は、世界で一番素晴らしい最愛の弟だわ!」

 

そう言ってマイルナは、幸太郎の頭を撫で回した。 

 

先ほどまで、幸太郎に嫌われたと想い絶望していたとは思えない程の、テンションで千冬は少し困惑していた。

 

千冬(でも、マイルナさんが笑顔になったのなら、良しとするかな。)

 

?「世界で一番とは、なかなか傷つく事言うなマイルナ。」

 

声のする方を見てみると、長身で赤髪の男が立っていた。

 

マイルナ「あぁ、そう言えば貴方が来るって言ってたわね“アル”」

 

幸太郎「アル兄!久しぶりだね!」

 

アル「おぉ幸太郎、久しぶりだな。見たところ、体調が悪そうだから、ゆっくり寝ておけ。」

 

謎の男の登場に、千冬はついていけなかった。

 

千冬「マイルナさん、あの長身の男は誰なんですか?幸太郎も知ってるみたいですし、部外者と言うわけでは無いと思いますが…。」

 

マイルナ「そう言えば紹介がまだだったわね。あの男は、アルベルト・エリック・フォーデュノ。私の夫よ。」

 

千冬「へぇ、マイルナさんの夫ですか…え、夫?えぇぇぇぇ!この人がマイルナさんの夫!?」

 

あまりの驚きに、千冬は大声を出してしまった。

 

アル「なんだか知らないけど、驚かして悪かったね。俺はアルベルト。めんどくさいから、アルって呼んでくれよな。」

 

千冬「えっと、あの…織斑千冬です。よろしくお願いします…。」

 

そう言いながら辿々しく、千冬とアルベルトは握手をした。

 

アル「織斑千冬って、聞いた事ある名前だと思ったら、あの何とかって言う大会の覇者だろ?

そんな有名人がいるなんて、このIS学園は見た目以上に凄いんだな。」

 

幸太郎「ねぇねぇアル兄、俺大きくなっただろ?あれから、カルシウムいっぱいとったんだ!

もう少ししたら、アル兄に追い付くからね。」

 

アル「そうだな。確かに背が伸びたな。でも、俺に勝とうなんてまだまだ先の話だな。」

 

幸太郎とアルベルトは、楽しそうに会話をしていた。

 

マイルナ「それにしてもアル、どうして突然ここに来たのよ?仕事に追われてる貴方がここにいる事自体凄いのに。」

 

千冬「あの、アルベルトさんはどんな仕事をしてるんですか?」

 

アル「アルで良いって。そうだな…俺の仕事か。説明が難しいな。

簡単に説明すると、まぁ大手企業の社長かな?」

 

千冬「社長ですか!?マイルナさんは、世界的に有名な医学者だし、この夫婦凄すぎだな…。」

 

アル「それよりも理由だろ?実はよ、あいつが幸太郎に会いたいってうるさくてな。

それに、お前の話だと幸太郎に女の友達?彼女?が出来たんだろ?

このままだと、嫉妬と会いたい気持ちで殺傷沙汰になるからな。」

 

アル「おい、外で待って無いで早く入って…あれ?いねぇ。」

 

?「幸太郎様幸太郎様幸太郎様幸太郎様幸太郎様幸太郎様幸太郎様幸太郎様//

はぁ//夢にまで見た本物の幸太郎様だわ//」

 

いつの間にか、一人の女が幸太郎に抱きついていた。

 

アル「はぁ…やっぱりこうなったか。おい幸太郎は体調が優れないんだぞ?

早く離してやれ“ルアネール”」




マイルナの旦那登場です!

幸太郎との仲も睦まじく、マイルナが選んだのもわかりますかね?

そして噂の、妹も登場です。
初っぱなから、危ない感じですが大丈夫なのでしようかね?


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54話

束「大丈夫なの幸太郎!」

 

ラウラ「そうだぞ嫁よ!何かあったのか!」

 

いきなりドアを開けて、束とラウラが入ってきた。

 

急いで走ってきたのか、二人は息が上がっていた。

 

千冬「どうしたもこうしたも、お前達こそそんなに慌てて、何があったんだ?」

 

束「いや…あのねちーちゃん、今さっき私達の存在を脅かす予感がしたの!」

 

ラウラ「そうです!ですから、急いで状況を確認したくて…。」

 

二人がそう話していると、ルアネールは二人に冷たい目線を浴びせていた。

 

ルアネール「ふぅ~ん…貴方達がマイルナ様が言っていた束にラウラね…。

どうせ、幸太郎様の見た目だけかマイルナ様の地位を狙って、好きなふりをしてるだけでしょ?」

 

ルアネールの発言に、ラウラと束は表情が一変した。

 

ラウラ「おいお前…。初めて見るお前が誰かは、今は関係無い。

だが、見知らぬお前に私の…、私と束の嫁を想う気持ちを貶す権利があるのか!」

 

束「そうよ!お前こそ、どうせ幸太郎の優しすぎる人柄や、その魅力を知らないんでょ!

このペテン師!」

 

こうして三人は、お互いを罵倒しあう言い争いに発展していってしまった。

 

幸太郎「皆、理由はわからないけど、喧嘩は止めてよ。喧嘩より、皆仲良くしようよ。」

 

幸太郎が止めようとするが、既にヒートアップしてる三人には幸太郎の声は届いていなかった。

 

マイルナ「無駄よ幸太郎。今のあの子達には、何を言っても止まらないわ。」

 

アル「ハッハッハ!まさに、『私のために争わないで!』の状態だな!

これが修羅場か…、初めて見るが凄いな。」

 

口喧嘩をしている三人や、心配でオロオロしてる幸太郎に比べ、この夫婦は何故か落ち着いていた。

 

千冬「あの…マイルナさん?あれを、止めなくて良いんですか?あのままだと、口喧嘩だけじゃすまなそうですが…。」

 

マイルナ「まぁ良いんじゃない?別に、幸太郎を貶してる訳じゃ無いし、幸太郎を愛してるからそこの口喧嘩だし。」

 

アル「そうそう。若い内に、ああゆう自分の気持ちを打ち明けられる親友の存在は、必要だぞ?

それに見た感じ、あの三人なら仲良く出来そうだしな。」

 

幸太郎「お姉ちゃんやアル兄がそう言うなら…、止めないけどさ…。

なんだが、釈然としない様な…。」

 

アル「お前の言いたい事もわかる。だが、俺達みたいにもう少し大人になれば、嫌でもわかるさ。」

 

そう言ってアルベルトは、幸太郎の頭を撫でた。

 

束「ふん!お前が何を言おうとも、私は幸太郎にとって、“初めて”の親友なんだよ!

言うなれば、幸太郎の幼馴染みだ!年季も愛情も違うんだよ!」

 

ルアネール「それが何だと言うのですか!?それを言うなら、マイルナ様の方が時間は長いわ!

私なんて、幸太郎様のファーストキスをいただいたのよ!」

 

ラウラ「ファ…ファーストキスだと!羨ましい…じゃ無くて、私なんて嫁と毎晩同じくベッドで、毎日抱き合いながら寝ているのだぞ?」

 

ルアネール「幸太郎様は、自分のお体が悪いにも関わらず、いつも周りを優先できる心を掴まねばお持ちになった、素晴らしい人なのです!」

 

ラウラ「その通り!出会った日に、きつい態度をとった私なんかにも、優しく…そして愛をもって接してくれる。

嫁は、世界一素晴らしい嫁だ!」

 

束「そうよ!幸太郎は、クラスで浮いていた私なんかに、声をかけてくれた。

そして私の夢であったISを褒めてくれた。

幸太郎は誰よりも、私達を幸せにしてくれる!だから、私はその優しさ以上の愛で応えているの!」

 

いつの間にか、口喧嘩が幸太郎の良いところを褒める状態になっていた。

 

認めたくはないが、お互いに幸太郎の事を十分に理解し、そして本当に愛している。

この瞬間、“敵”から“ライバル”へと変わっていった。

 

ラウラ「私はラウラ・ボーデビッヒだ。

先ほどは、熱くなっていたと言え失礼な事を言ってしまった。」

 

束「私は篠ノ之 束よ。

ラウラ以外にも、ここまで幸太郎のことを愛してる人がいたなんて知らなかったわ。」

 

ルアネール「謝るのはこちらです。私も、二人の事を知らずに、幸太郎様への気持ちを貶してしまいました。

ルアネール・デルトネス・フォーデュノです。

よろしくお願いいたします。束様、ラウラ様。」

 

こうして三人は、仲直りの握手を交わした。

 

 




一触即発の初対面も、気づけば仲良くなれましたね。

仲良くなるきっかけが、幸太郎への誉め言葉だなんて、本当に幸太郎の事を好いているんですね。

ルアネールのキャラが、若干クロエとかぶってますね…。
しかも、何となくつけた名前ですが、アルみたいに略すと、ルアですね…。
今さらですが、少し困りましたね。


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55話

ラウラ「そう言えば、ルアネールが誰かはわかった。だが、そこのお前は誰なんだ?

さっきからマイルナさんと親しくしているが…。」

 

ルアネールとの握手が終わったラウラが、ふと思い出したかの様にアルベルトの方を向いて尋ねた。

 

アル「俺か?そうだったな、お前らの口喧嘩のせいで自己紹介が遅れてたな。

俺はアルベルト。まぁ、本名が知りたければマイルナにでも聞いてくれ。」

 

マイルナ「それじゃあ半分程度しか、自己紹介出来てないわよ?貴方が私とどんな関係かも、しっかり説明してよね。」

 

アル「相変わらず、お前は細かいな…。まぁそんな所も、愛してるんだがな。

俺とマイルナの関係は、普通の夫婦だ。そしてルアネールの兄だ。」

 

それを聞いた二人は、驚きを隠せないでいた。

その反応を見て、千冬はやはり最初は驚くんだなぁ…、と感心していた。

 

束「確かに義姉さんが結婚しているって、臨海学校の時に聞いたけど、まさかこんなイケメンだなんて!」

 

ラウラ「そうだな。まさかマイルナさんが、面食いだったなんてな。それも驚きだぞ!」

 

マイルナ「誰が面食いよ。私とアルの出会いは、貴方達と幸太郎の出会いみたいにドラマチックなのよ。

それに、顔なんかで選んでないわよ。」

 

そう言ってマイルナは、ラウラの頭を軽く小突いた。

 

ラウラ(ちょっと待てよ?マイルナさんの夫って事は、嫁の義兄さんになる…。)

 

束(と言うことは、義兄さんにアピールすれば他の奴よりも、一歩リード出来る!)

 

そんな少し邪な考えを、ルアネールは瞬時に見抜いた。

 

ルアネール「無駄ですよラウラ様、束様。お兄様はそんな事で人を判断しませんわ。

それに、真に攻略するべきはマイルナ様ですわ。」

 

アル「おっ?俺に幸太郎の嫁としてのアピールでも、考えてたのか?

確かに、ルネの言う通り俺にアピールしても無意味だぞ。」

 

アル「俺は幸太郎が選んだ相手なら、例え男でも犯罪者でも人外の存在だろうと義妹として歓迎するさ。

それが兄としての、覚悟と責任だと思うぜ?」

 

アルベルトの言葉に、ラウラと束、そして幸太郎がアルベルトの男気に感動していた。

 

千冬「そう言えば、アルさんはどうしてここに来たんですか?やっぱり、仕事ですか?」

 

アル「そうだな、今回来日したのは、ルネを連れてくるのと、仕事の商談だな。それに、何日かは滞在する予定だぜ。」

 

束「仕事って、義兄さんはどんな仕事をしているのですか?」

 

アル「そうだな…。正確にはもっと複雑だが、ISの整備や点検の会社の社長だな。」

 

束「男が社長のそんな会社あるなんて、IS開発者の私でも聞いた事ないわ。」

 

束がそう言うと、アルベルトは少し申し訳なさそうな顔をした。

 

アル「ま、まぁ元々は頼まれたら何でもする様な、会社だからな。」

 

さらにアルベルトは、自分の会社の事を詳しく話した。

 

アルベルトの会社は、世界中に支部を持つ世界でもトップに入る程の大きな会社で、その本社の社長をしてるとの事である。

 

ラウラ「だとすれば、嫁はいずれその会社を継ぐわけか。凄いな嫁よ!」

 

幸太郎「いや、俺はアル兄の後は継がないよ。俺は将来、医者になって俺みたいな病気の人が出来ない様にするんだ!」

 

幸太郎の言葉に、何故かマイルナは幸太郎を優しく抱き締めた。

 

アル「さてと…そろそろ時間だから行くわ。それじゃあ言ってくるよ。」

 

マイルナ「そう。まぁ、頑張ってね。」

 

マイルナが素っ気なく言うと、アルベルトは首をかしげた。

 

アル「おいおいマイルナ。何だよその素っ気ない態度は?俺がアメリカに渡る時は、泣きながら呼び止めてくれたのに…。」

 

アルベルトがそう言うと、マイルナは顔を紅くしてアルベルトの口をふさいだ。

 

マイルナ「ア、アル!こんな所で、そんな事言わないでよ//」

 

アル「そっか、恥ずかしかったんだな。やっぱり、お前は最高の女だな。それじゃあ改めて行ってくるよ。」

 

アルベルトはマイルナにキスをした。

 

マイルナ「も、もう!いきなり何するのよ!もう…、貴方のそんな所が私は嫌なのよ//

そういうのは、誰もいない所でしてよ…。」

 

あのマイルナの、乙女の顔に幸太郎とルアネール以外は、驚いていた。

 

そして、ブラコンだが夫の事も愛しているのがわかり、三人は安心した。

 

千冬(あのマイルナさんでも、ここまで乙女になるものなのか。結婚か…私もいずれ、マイルナさんみたいに一夏よりも、自分の全てを捧げられる人に会えるのだろうか…。) 

 

千冬は、まだ見ぬ将来の旦那に想いをよせていた。




マイルナとアルベルトのラブラブっぷり。
まさにバカップルですね。

いくら最強のブラコンでも、旦那の事はしっかりと愛しているんですね。

マイルナの乙女の顔か…、見てみたいですね。


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56話

~~~風呂場~~~

 

束「それにしても、ここ最近は色々な事がありすぎて、疲れちゃうよね。」

 

ラウラ「そうだな。臨海学校では銀の福音の暴走、お前のIS学園入り、そしてマイルナさんの夫とリネ。

ふぅ…、本当に濃い学園生活面だ…。」

 

二人は湯船に浸かりながら、ため息をついた。

 

ラウラ「それに、私と一緒に入るなと前々から言っていただろ。」

 

束「あら?そんな事言ってたかな?でも、どうして嫌なのよ?私達、結構仲良くなってきたと思うけど。」

 

束がそう聞くと、ラウラは少し答えずらそうにした後、観念して口を開いた。

 

ラウラ「教えてやろう!お前と入ると、惨めな気持ちになるからだ!」

 

束「惨めな気持ち…、あぁ!」

 

ラウラの言いたい事を、束は理解しラウラの胸元に視線がいった。

 

束「まぁまぁ、胸の大きさなんて幸太郎は気にしないって、義姉さんが言ってたでしょ?

それに、貴方はそれで良いじゃない。そのロリボディで。」

 

悪意のない束の言葉。ラウラを励まそうとしたその言葉に、ラウラは我慢の限界に来てしまった。

 

ラウラ「だれがロリボディだ!!お前は大きいからって、良い気になるなよ!」

 

そう言ってラウラは、束の胸を鷲掴みにした。

 

ラウラ「こんなもので、嫁を誘惑して!どうして私の周りには、大きい人しかいないんだ!

教官しかり、マイルナさんしかり!

こんなの不公平だ!」

 

束「落ち着きなさいラウラ!気持ちはわからなくは無いけど、いったん落ち着きなさい!」

 

二人が風呂場で大騒ぎしていると、風呂場の扉が開いてリアネールが入ってきた。

 

リネ「ラウラ様、束様!お風呂場で騒いで、何をしてるのですか!お風呂場は疲れを癒す場所、騒ぐ場所ではありません!」

 

入ってきたリアネールの胸元を見て、ラウラはリアネールの肩を触った。

 

ラウラ「その…、すまなかったな同士よ…。」

 

リネ「同士…あっ!」

 

二人が騒いでいた理由を知っているリアネールは、ラウラの言う同士の意味が瞬時に理解できた。

 

リネ「ラウラ様、私だって気にしてるんですよ!昔から、幸太郎様に喜んでもらえる様にと、大きくしようと努力してきたのです!

なのに…、なのに効果は全く出ないんです!」

 

ラウラ「わかる、わかるぞ!その気持ち!やはり、いくら努力しようとも、これは産まれながらの宿命かもしれん。

だって、箒も大きい。クッ!しょせん、私達には無駄な努力だと言う事だ!」

 

束「なんで、私が悪者で貴方達が被害者みたいな感じにしてるのよ。」

 

ラウラ「それに、日本には『大は小を兼ねる』と言う諺もある。

つまり私達は、すぐに消されてしまう運命なのだ!」

 

ラウラとリアネールは、謎のテンションになってしまい、もう束の手にはおえなくなっていた。

 

そして束が諦めようとした時、また風呂場の扉が開いた。

 

マイルナ「お前達!さっきから下らない事で、ギャアギャア騒ぐな!

外まで丸聞こえだぞ!」

 

少し怒り気味に入ってきたマイルナに、三人はすぐに静かになった。

 

そしてマイルナを見て、三人とも言葉を失った。

 

ラウラ「や、やはりマイルナさんが一番凄い…。」

 

束「えぇ、まさにパーフェクトボディだね…。」

 

リネ「さっきまで騒いでいたのが、バカらしくなりますね…。」

 

こうして三人は、上には上がいる事。

 

勝てない相手が、すぐそばにいる事を改めて理解したのだった。




私自身は、あまり気にしないのですが、やはり胸の大きさは大事なものなのでしょうか?

まぁ、女性とお付き合いが殆ど無かっただけかも、しれませんが…。


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57話

~~~男湯~~~

 

一夏「ふぅ…、今日も疲れたな…。それにしても、いつも以上に千冬姉が厳しかった様な気がするよ。」

 

一夏はお湯に浸かりながら、深く息を吐いた。

 

いつもの授業と、放課後のISの特訓で疲れきった体に、お風呂の温かさが染み渡った。

 

一夏「でも幸太郎さん、さっきまで熱だったのに大丈夫なんですか?いくら熱が下がったとは言え、一日くらい休んでも…。」

 

幸太郎「心配要らないよ。ちゃんとお姉ちゃんの了承も得てるし。

それに、もし危なかった場合は一夏がいるしね。」

 

一夏「幸太郎がそう言うなら、これ以上何も言いませんよ。」

 

一夏はそう言うと、天井を見つめた。

そしてすぐと、幸太郎の方に視線を向けた。

 

一夏「千冬姉に聞いたんですが、そっちはそっちで、色々あったんですね。政府の人とかマイルナさんの旦那さんの事とか。」

 

幸太郎「政府の人って?まぁ、何の事だか知らないけど、アル兄が来たのには、本当に驚いたし嬉しかったよ!」

 

まるで子供の様にはしゃぎながら話す幸太郎を見て、一夏もホッコリとした気分になった。

 

そしてまだ見ぬマイルナの旦那に、早く会いたいと思った。

 

すると、風呂場の扉が開いた。

 

アル「おっ、幸太郎も入ってたのか。にしても広い風呂場だな!」

 

幸太郎「アル兄!仕事終わったんだ!お疲れ様。」

 

そう言って幸太郎は、アルベルトの方に駆け寄った。

 

アル「おいおい、そんなに走ると危ないぞ?全く…、困った義弟だな。

そして君が噂の一夏君か…。ほぅ…、なかなか良い面構えじゃないか。」

 

一夏「面構えですか…。」

 

アル「あぁ、あの偉大な姉のお飾りじゃ無く、自分を強く持っている。

それに、幾つかの試練を乗り越えてきたな。」

 

一夏「試練って程じゃ無いですよ。それに、乗り越えてこれたのは、俺一人の力じゃありません。

周りで支えてくれた、皆のおかげです。」

 

一夏の答えを聞いたアルベルトは、満足そうに微笑んだ。

 

アル「ふっ、格好いい解答だね。挨拶が遅れたな、俺はアルベルト。

ご存知かも知れんが、マイルナの旦那だ。」

 

そしてアルベルトは、自分の素性を全て一夏に説明した。

 

そして三人は、お湯に浸かっていた。

 

幸太郎「ねぇアル兄、仕事は無事に終わったの?今日はどんな仕事だったのか教えてよ!」

 

アル「今日の仕事か?そうだな…、出来はまずまずだな。もう少しで契約金が30億になりそうだったのになぁ…。」

 

聞き慣れない単位が飛び出してきて、一夏は驚きのあまりその場で立ち上がった。

 

そして恥ずかしくなり、すぐに座った。

 

一夏「30億ですか!?凄い単位が動くですね…。

やっぱり、アルさん程だと次元が違いますね。」

 

すると隣の女湯から、束達の声が聞こえてきた。

 

アル「デカイ声だなぁ~おい。この声は、束とラウラとリネか。随分と盛り上がってるな。

にしても、もう仲良くなったのか、それは良かった。」

 

一夏「ですが、騒いでる内容が内容ですね…。聞いてるこっちが恥ずかしいですよ。」

 

束達の騒いでる声を聞いて、アルベルトは嬉しそうに微笑み、一夏は照れながら赤面していた。

そして幸太郎は、内容を理解できていなかった。

 

すると突然、騒ぎ声が静かになったと思ったら、マイルナの声が聞こえてきた。

 

一夏「マイルナさん、凄く怒ってますね…。」

 

アル「まぁ、静かになったのはそれだけじゃ無いだろ。さっきまでの内容からすると。」

 

アル「それよりも、大きさといえば一夏君、君は幸太郎のをどう思うかね?」

 

一夏「なっ!いきなり何を言うんですか!まぁ、幸太郎さんのは、凄く羨ましいですが…。

って、何を言わせるんですか!」

 

アル「ハッハッハ、素直でよろしい!確かに凄いよな、幸太郎のは。

まぁつのる話は、風呂上がりにでもするか!」

 

アルベルトとの初めての対面で、一夏は豪快な人だと感じた。

そして、マイルナがどこに惚れたのかわかる気がした。




今回は風呂、ボーイズ編です。

まぁ、束達とは違いおしとやかな感じですね。  
 
ですが最終的にサイズの話になるのは、風呂場の宿命なのかも知れないですね。


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58話

~~~幸太郎と一夏の部屋~~~

 

アル「プハァァ~、やっぱり風呂上がりの酒は最高だな!」

 

先ほどまで、風呂に入っていた七人は幸太郎の部屋に集まっていた。

 

そしてアルベルトは持参した、焼酎を飲んでいた。

 

一夏「アルベルトさんが焼酎を飲むなんて、イメージに合いませんね。」

 

アル「そうか?なら、何がイメージに合うんだ?

言っておくが、俺は発泡酒系は嫌いだぞ。」

 

一夏「俺のイメージでは、ワインとかの格好いいのを、優雅に飲むイメージでしたよ。」

 

束「いっくん、それ良くわかる!義兄さんって、お洒落なバーとかで飲んでそうよね。」

 

わいわい騒いでる二人を見て、アルベルトとマイルナは少し呆れていた。

 

アル「一応、お前らがイメージしてる酒も飲むぞ?だが、皆で楽しくのむんだから、これが一番だろ?」

 

そう言ってアルベルトは、一夏とラウラ以外の人のコップに焼酎を注いでいった。

 

アル「まぁ、一夏とラウラと束とは今日あったばかりで、お互いよくわかってないかも知れんが、楽しく飲もうぜ!乾杯!」

 

アルベルトの音頭で、乾杯をした。

 

マイルナ「幸太郎、貴方はジュースにしなさい。貴方には、まだはやいかも知れないからね。」

 

こうして、少しの間雑談をしながら、飲んでいた。

 

アル「そう言えばラウラ、マイルナから聞いたんだが、お前全裸で幸太郎の寝てるんだってな。」

 

アルベルトからの質問に、ラウラの背筋が伸びた。

 

マイルナは一応認めてはくれているが、アルベルトに怒られるかも知れない。

ラウラは、そう思ったからである。

 

ラウラ「は、はい!アルベルトさんの言う通り、服は一切着ておりません!

ですが、嫁の眠りを妨げる事や、邪な考えは…。」

 

怒られるのを覚悟して、ラウラが話しているとアルベルトは、笑い出した。

 

アル「そんなに怖がらんでも良いよ。別に怒ってる訳じゃねぇよ。

マイルナが許可してるなら、旦那である俺も許可してるのと同じだよ。」

 

アル「だがよ…、もしその行為自体を面白がってたり、冗談でしてるなら俺は許さんぞ。

俺やマイルナと幸太郎は、血縁上や戸籍上ははっきり言って赤の他人だ。」

 

アル「それでも、マイルナにとって大事な弟である様に、俺にとっても大切な弟なんだ。

だからよ、幸太郎を悲しませる行為は絶対に緩さねぇ…わかったかラウラ!束!リネ!」

 

アルベルトの一括に、三人はビシッと気を引き閉めた。

 

そして、そんな事は絶対にしない。

そんな強い想いを込めて、アルベルトの目を見ていた。

 

アル「フッ…、良い目をするじゃねぇかよ。あのマイルナが許す訳だ。

お前らなら、幸太郎を幸せにしてやれるな。期待してるぜ。

それに、俺的には重婚もありだと思う。」

 

そう満足しながら言うと、またコップに焼酎注いで一気に飲み干した。

 

一夏「か、格好いいですアルベルトさん!俺、将来はアルベルトさんみたいな、格好いい大人になりたいです!」

 

アル「俺みたいだと?そうか、そう言って貰えるのは嬉しいな!

ようし!今日からお前は、俺の弟子第一号だ!」

 

そう言ってアルベルトは、一夏の肩を叩きながら笑っていた。

 

束「義姉さん、もしかして義兄さんはもう酔ってるですかね?」

 

マイルナ「それは絶対に無いわよ。だってあの人、お酒に凄く強いのよ。

というか、さっきから幸太郎が静かだけどもう眠っちゃったのかしら?」

 

ふと、マイルナは思い出し幸太郎の方を見てみた。

 

そこには、ジュースのコップと焼酎が入ったコップを間違えて飲んでしまい、見事に酔ってしまった幸太郎がいた。

 




アルベルトの人柄が、少しずつ出てきましたね。
格好いいお兄さんって感じですね。

アルベルトに憧れた一夏の気持ち、わかりますね。

そして次回、酔ってしまった幸太郎の登場です!
波乱の予感ですね。


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59話

マイルナ「幸太郎!あれほどお酒は飲まないでって言ったのに!大丈夫なの?ほらお水よ。」

 

幸太郎「大丈夫だよ~。酔ってなんきゃ、いにゃいよ♪」

 

顔を真っ赤にして、呂律が回ってない幸太郎は、確実に酔っていた。

 

ラウラ「大丈夫か嫁よ!私はまだ未成年で酒は飲めないが、嫁も酒には弱かったんだな。」

 

心配そうにラウラが近づいてくると、幸太郎はそのままラウラの肩に手を置いた。

 

そして、両手で顔を固定するとそのまま唇にキスをした。

 

突然起こった光景に、束達は凍り付いてしまった。

 

幸太郎「えへへ//いつものお礼だよ。ラウラの唇って、柔きゃいね//」

 

ラウラ「な、よ、嫁から、キ、キスだと…//」

 

そのまま、ラウラは気を失ってしまった。

 

幸太郎「さてと、次は…。」

 

そう言って幸太郎は、束の方に近づいていった。

 

そして束とリアネールの唇にも、キスをしていった。

 

束「も、もう//幸太郎ったら大胆なんだから//」

 

リネ「幸太郎様…、こんな私に口づけをして下さるなんて//」

 

嬉しそうにしていた二人だったが、ふと我に返り恐る恐る後ろを見てみた。  

 

幸太郎からとはいえ、幸太郎とキスをしたとなればあのマイルナが黙って無いと、すぐに理解したからである。

 

マイルナ「あ、あ…こ、幸太郎が…幸太郎が女誑しになってしまった!

これまで、女性関係は私が全力で動いて来たのに…!」

 

あまりのショックに、マイルナは朝の時のように泣き出してしまった。

 

アル「おいおい、そんな泣く事は無いだろ?こいつらはと幸太郎の仲は、お前も認めてるんだろ?

それに、幸太郎は酔ってるんだ。言いたくは無いが、何しでかすかわからん中で、キスくらいは…。」

 

マイルナ「それとこれは別です!幸太郎と誰かが結婚するまで、私としては幸太郎に清い関係でいて欲しいんです!それなのに結婚前のあの子が…。」

 

マイルナ「それにアルベルト!酔った勢いでなんて、もってのほかです!

もし私がいなかったら、そのままこの女共に襲われて、妊娠して、結婚して!」

 

そう言って、マイルナは束とリアネールを睨み付けた。

 

マイルナの鋭すぎる眼光に、二人は冷や汗をかいていた。

 

アル「落ち着けバカ。お前も随分酔ってるじゃねぇか。考えすぎだぞ。

さすがに、そこまではしないだろ?なあお前達…。」

 

優しい口調のアルベルトだったが、その目はマイルナと同じくらい鋭かった。

 

マイルナ「元はと言えば、貴方がお酒なんか持ってくるからよ!貴方はいつもそう!私が幸太郎の為を想って行動してるのに、それを無駄にする!

なんで幸太郎は、こんな男に憧れてるのかしら。」

 

一夏「幸太郎さん、大丈夫ですか?あらら、寝ちゃってるよ。

マイルナさん、幸太郎さん寝ちゃったんで、ベッドに運びますよ…聞こえてないや。」

 

一夏は、眠ってしまった幸太郎とラウラをベッドに運んだ。

 

アル「お前は昔から、幸太郎の事になると過保護になりすぎだぞ?

子供の時なら兎も角、あいつはもう立派な大人なんだぞ?」

 

マイルナ「そうやって貴方は、幸太郎をすぐに甘やかす。私だって、幸太郎には自由に過ごして欲しいわ!

でも、そう思えば思うほど心配でならないのよ!」

 

そう言いながらマイルナは、一升瓶に残っている焼酎を一気に飲んだ。

 

アル「飲み過ぎだぞおい…。お前も、そんなに酒に強くないだろ?」

 

マイルナ「それに、貴方はいつだって仕事仕事で!たまに帰ってしたと思ったら、幸太郎の心配ばっかり…。

私だって、幸太郎達みたいに貴方とイチャイチャしたいのよ!デートもしたいし、キスだってしたいのよ!」

 

泣きながら部屋から出ていこうとしたマイルナだったが、その前に力尽きて眠ってしまった。

 

アル「はぁ…なんか嫁が迷惑かけたな。今日はこの辺でお開きにするか。

じゃあなお前ら。さっさと寝ろよ?」

 

アルベルトは、寝ているマイルナをお姫様だっこをして部屋から出ていった。

 

一夏「マイルナさん…、物凄く乙女でしたね…。」

 

束「そうだね…。なんか意外すぎて、あんな義姉さん見たくなかったよ。」

 

こうして、この日は無事?に終わった。

 

次の日、幸太郎とマイルナとラウラは、ショックと酔いのせいでこの日の事を深く覚えてはいなかった。




酔った幸太郎恐るべし!

酒の力って、本当に恐ろしいですね…。
下手したら、殺傷沙汰になりますよ。

そして、乙女マイルナ!
ブラコンなだけでは無いみたいですね。


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60話

~~~次の日~~~

 

幸太郎「うぅ~ん…、凄く頭が痛いよ。それに、気分も悪い…。」

 

ラウラ「あぁ、それに昨日の夜の事をあんまり覚えて無い…。

なにか幸せで、最高な事があった気がするが…。」

 

この日幸太郎は、初めての二日酔いで最悪な目覚めを迎えていた。

 

一夏「やっぱり、二日酔いになりましたね。幸太郎さん、水と薬です。

一応これで、少しは楽になるはずです。」

 

一夏に差し出された薬を飲むと、深く息を吐いた。

そして顔を洗うために、洗面所に向かった。

 

ラウラ「それで一夏よ、昨日は何があったのか教えてくれないか?

お前は覚えているのだろう?」

 

ラウラに聞かれた時、一夏はどう答えようか考えていた。

教える事は簡単だが、昨日の出来事は幸太郎からの不意打ちで、それがラウラの初キスだと知ったらどう思うか。

 

そう思うと、言うに言えなくなっていた。

 

だが、束とリアネールは覚えている。

それはあまりにも、不公平だと一夏は考え素直に教える事にした。

 

一夏「あ、あのな…昨日起こった事なんだが、聞いても驚くなよ?過ぎた事だし。」

 

そう言って一夏は、昨日の事を全て話した。

 

すると、今まで見た事のない位にラウラの顔は赤くなっていた。

 

ラウラ「そうか…嫁が私にキスをしてくれたのか//しかも、一番初めに私からキスをしてくれたのだな!!

それはなんて最高なんだ!

ならば、また嫁を酔わせれば…。」

 

一夏「バカな事言うなよ。もし次に同じ事があったら、今度こそマイルナさんに怒ら…殺されるぞ。」

 

そう言って一夏は、ラウラを軽く小突いた。

 

ラウラ「そうだな…。さすがに一度きりの幸せだったのか…。

だが、酔ってたとは言えあのマイルナさんがそんな乙女な事を言ってたなんてな。

余計に惜しい思い出だ。」

 

その時、洗面所から幸太郎が帰ってきた。

顔色はあまり変わってないが、見た感じは大丈夫そうだった。

 

ラウラ「よ、嫁よ//大丈夫か//」

 

ラウラは恥ずかしくなり、幸太郎を直視できなかった。

 

幸太郎「うん…、少しは楽になった気がする…。じゃあ、お姉ちゃんの所に行くけど一緒に行く?」

 

ラウラ「え…、あぁ!!その…、よろしくお願いします//」

 

一夏「今でこれなら、先が思いやられるな…。」

 

部屋の外に出ると、マイルナをおぶってるアルベルトがこちらがわに歩いてきていた。

 

アル「おっ!無事に起きれた様だな。これなら安心だ。おい起きろ。目的地についたぞ。」

 

そう言ってアルベルトは、マイルナに話しかけたがマイルナは無反応だった。

 

一夏「うわ…、完全にダウンしてますね。まぁ、あれだけ飲んでたら、こうなりますよね。」

 

アル「あぁ。こいつ、一人で歩けない位だよ。なのに、幸太郎が心配だって言うから、わざわざおぶって来たんだがな。」

 

幸太郎「お姉ちゃん大丈夫…には見えないけど…。」

 

幸太郎が話しかけると、マイルナは幸太郎の方を見たがすぐに目を閉じた。

 

ラウラ「嫁が話しかけてこれなら、そうとう飲んだみたいだな。これだと、夫婦と言うよりは親子だな。」

 

アル「さて、目的もすんだし俺達は部屋に戻るわ。お前らもさっさと朝飯をすませるんだな。」

 

そう言ってアルベルト達は、来た道をゆっくりと帰っていった。

 

そして一夏とラウラは、アルベルトにおぶられてるマイルナの、見た事ない程幸せそうな笑顔を見て、やはりマイルナは乙女であり、本当にアルベルトの事を愛してるのだと、感じたのだった。




結果的に、アルベルトとイチャイチャ出来てますね。
よかったのかどうかは、知りませんが…。

酔いが覚めて、全てを思い出した時のマイルナも見てみたいですね。

ここまで酒に関する話でしたが、私はまだ未成年ですので、正直酔っぱらうと言うのはわかりません!


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61話

~~~放課後~~~

 

一夏は、箒達にアルベルトの存在をしっかりと説明した。

そして箒達が、絶句したのは想像に固くない。

 

そして放課後、一夏は幸太郎の事が気掛かりになっていた。

 

千冬「どうした一夏、そんなにそわそわして?もしかして、幸太郎が心配なのか?」

 

一夏「何で千冬姉が知ってるんだよ?まぁ、幸太郎さんも職員だから、一応職員室で聞いたのか。」

 

一夏は、そう納得した。

すると、千冬が近づいてきて一夏にデコピンを食らわせた。

 

千冬「何度言えばわかるんだお前は。先生と呼べ、先生と。

それよりも、他人の心配より自分の特訓の心配をしたらどうだ?」

 

セシリア「そうですわ!今日は、今までよりも厳しくいきますわ!」

 

箒「そうだぞ一夏!今日という今日は、みっちり鍛えてやるからな!」

 

こうして一夏は、セシリアと箒に引っ張られ教室から連れ出されていった。

 

千冬「やれやれ…あの様子だと、将来尻にしかれるな一夏は。

さて、私達は保健室に行くか。今だと、マイルナさんもいるはずだしな。」

 

ラウラ「はい教官!」

 

こうして二人は、保健室へと向かった。

 

~~~保健室~~~

 

保健室のドアを開けると、目の前には異様な光景が広がっていた。

 

一つのパソコンの画面を見て話し合う、束とアルベルト。

皆のお茶を入れてるであろう、リアネール。

 

そして明らかに不機嫌になっているマイルナと、それを慰めている幸太郎がいた。

 

束「あっちーちゃん!ねぇ見てよ、さっき義兄さんの話しを聞いてデータを組み直したら、既存のISの最大出力が30%も上がったんだよ!」

 

アル「やれやれ…、限りなくグレーに近い俺達の技術で、開発者が喜んでくれてるなら、嬉しい限りだよ。」

 

マイルナ「そうね 嬉しい限りね!良かったじゃ無いの 」

 

目の前の状況を理解した千冬は、仕方がないとは言えマイルナに同情した。

 

千冬「マイルナさん、心中察します。私の駄友が本当にご迷惑をおかけしました…。」

 

そう言って千冬は、マイルナに頭を下げた。

そして千冬の行動を見て、ラウラもすぐに理解した。

 

マイルナ「別に何とも思ってないわよ!どうせ私じゃ、話し相手にならないわよ!」

 

幸太郎「お姉ちゃん…、何でそんなに機嫌が悪いの?何か嫌な事でもあったの?」

 

幸太郎がそう言うと、マイルナは幸太郎を抱き締めた。

 

マイルナ「やっぱり、貴方が一番だわ幸太郎…。どうせ私なんて…私なんて…!」

 

リネ「そんなに自分を追い込まないで下さい。それよりも、お茶でも飲んで落ち着いて下さい。」

 

リアネールは、千冬とラウラの分まで用意していた。

お茶を飲んだマイルナは、少しだけ落ち着いた。

 

そうしている内にも、束とアルベルトはISの話に夢中になっていた。

 

千冬「大丈夫ですよマイルナさん。マイルナさんが、アルさんを愛してる様に、アルさんもマイルナさんを愛していますよ。」

 

マイルナ「でも、あの人の会社の社員…全員女性なのよ!あの人は真面目だから、誑かされて女共に襲われたら…!

そう思うと、張り裂けそうなのよ!」

 

ラウラ「もしかして、まだアルコールが残ってるんですか?」

 

幸太郎「いや、もう大丈夫だよ。でもお姉ちゃんって、アル兄の事になると、人が変わった様になるんだ。」

 

二人は、マイルナに聞こえない様に耳打ちをした。

 

そんなマイルナに気づいたのか、アルベルトがこちらに近づいてきた。

 

アル「まったく、さっきから聞いてたら下らん言葉ばっか言いやがって…。」

 

そう言ってアルベルトは、マイルナの顎に手をおき顔をあげ、そのまま大人のキスをした。

 

少し長いキスをしたあと、お互いに恥ずかしいのか赤面していた。

 

アル「お、俺は死ぬまでお前一筋だ//だから、浮気なんてするわけ無いだろ//」

 

マイルナ「もう!いきなりなにするのよ!恥ずかしいじゃない//

でも…、凄く嬉しいわ//」

 

そんな二人のやり取りに、見ている方が恥ずかしくなっていた。




マイルナが乙女過ぎですね。 
始めの頃の、クールデューティーなイメージは完全に崩れましたね。

ですが、今のマイルナの方が可愛くて良いですよね。


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62話

まだお昼を回っていない日曜日の11時45分、幸太郎達はIS学園近くの結婚式場に来ていた。

 

事の始まりは、一昨日までさかのぼる。

 

~~~一昨日~~~

 

アル「そう言えば幸太郎、明後日少しだけ時間あるか?」

 

この日の放課後、まだ生徒達が残る教室で、アルベルトは幸太郎に話しかけた。

 

幸太郎「別に…、特に忙しい事は無いけど?もしかして、仕事の手伝い?」

 

アル「そうなんだよ。すまんな、実は近くの式場で今度ウエディングドレスとタキシードの試着を兼ねた撮影があるんだ。

それに是非、参加してもらいたいんだ!」

 

そう言ってアルベルトは、幸太郎に頭を下げた。

 

幸太郎「タキシードか…かっこ良さそうだな。うん!わかったよ。

それに、アル兄の頼みだったら断れないしね。」

 

幸太郎の言葉に、ラウラと箒とセシリアの目付きが鋭くなった。

 

ラウラ「アルベルトさん!嫁が参加するのなら、この私が参加するのは当たり前の事ですよね!」

 

セシリア「幸太郎さん一人だと、モデルとして寂しいですよね?でしたら、私と一夏さんも参加いたしますよ?」

 

箒「セシリアのいう通りだ!それに、義兄さんが参加するって事は、姉も参加する。

つまり、私はストッパーとしても一夏と参加すべきですよね!?」

 

三人の圧倒的な威圧感と圧力に、アルベルトは少し圧されていた。

 

アル「あ…あぁ、別に参加しても良いが…。その…何て言うか…、お前ら怖いよ。」

 

一夏「ちょっと待ってください!俺も、強制的に参加なんですか!」

 

反対しようとしたが、セシリアと箒に睨まれ、承諾するしか無かった。

 

~~~式場~~~

 

こうして、幸太郎ご一考は式場に到着したのだった。

 

支配人「遠路はるばるお疲れ様です社長。ではでは、立ち話もなんですので、こちらに。」

 

アル「わかった。お前ら、俺は少しだけ仕事の話をしてくる。それまでマイルナ、こいつらを頼んだぞ?」

 

そして、アルベルトは席を外した。

 

マイルナ「さて、私の許可無しで幸太郎とウエディングツーショットを撮ろうと考えてる人は、誰かな?」

 

マイルナの、優しくそしてドスの聞いた口調にラウラと束とリアネールは顔色が青くなった。

 

マイルナ「まったく、まだ結婚前だってのに幸太郎に、こんな仕事を頼むなんて、あの人は相変わらずわからないわ。」

 

千冬「そうですかね?でも、マイルナさんのお気持ち、痛いほどわかります…。」

 

そう言って千冬は、セシリアと箒を見た。

 

セシリアと箒も、ラウラ達と同じ様になっていた。

 

千冬「でも、いずれ大切な弟も仕事では無くて、本気の結婚をして、私達の下を去っていくんですよね。」

 

マイルナ「そうよね…。それって、とても嬉しい事でもあるけど、それ以上に寂しい気持ちの方が大きいわね。」

 

同じブラコンの二人は、ブラコンならではの悩みを共感しあっていた。

 

アル「すまん、話はやっと終わったぜ。お前ら、これから撮影の前に支配人のご厚意で、結婚式で振る舞われる料理を食わせてもらえる。」

 

一夏「そうですか。良かった、俺朝からなんも食べてなくて、腹ペコなんですよ。」

 

すると、この仕事をすると決まってからずっと疑問だった事を、幸太郎は口にした。

 

幸太郎「そう言えばアル兄、何でわざわざ俺達に頼んだの?

試着と撮影だったら、お姉ちゃんとアル兄で済ませれば良かったのに。」

 

マイルナ「それもそうよね?私達、結婚式はまだあげてないから、私もウエディングドレスには憧れてるのよ?」

 

すると、アルベルトは恥ずかしそうにした。

 

アル「まぁ…な。実はよ、最初はウエディングドレスだけの試着で、マイルナにって依頼だったんだよ。

しかも、用意出来るタキシードのサイズじゃ、俺には合わなくて無理なんだ。」

 

アル「でよ…、いくら仕事とはいえ、俺以外の男にお前の横を…、しかもウエディングドレスでの横なんて、絶対に渡したくなくてよ//」

 

照れながら話すアルベルトに、マイルナはキュンキユンしていた。

 

マイルナ「アル//もう、皆の前で照れるじゃない//私だって、貴方以外の人の隣は嫌よ//」

 

セシリア「本当に、あれがあのマイルナさんだとは思えませんね…。」

 

一夏「そうだよな。あまりにもギャップが激しすぎて、ついてけねぇぜ。」

 

すると、千冬が一夏の背中を押した。

 

千冬「私達は、早く料理を頂きに行くぞ。」

 

二人の邪魔をしないように、千冬達は先に移動をした。




ラブラブ過ぎですねこれ。

仲良すぎを通り越して、凄すぎです。
なんだか最近、この乙女マイルナがお気に入り過ぎて、乙女マイルナが主役の話が頭に浮かんでいますね。

それほどに、私の中で最高のキャラになってます。


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63話

今回の話は、セリフ多目です。

そして軽いアンチ…と言うよりは、賛否が別れるかもしれません。
ご了承ください。


食事が終わり、幸太郎達は撮影の時間までゆったりしていた。

 

すると、アルベルトの携帯に一件の着信が入った。

 

アル「なんだよ、非通知か…。非通知は嫌いなんだけどな。」

 

そう言ってアルベルトは、携帯に出た。

 

アル「はい、もしもし…あぁ誰かと思ったら、亡国機業のスコールか。

いつも、ご贔屓にありがとうございます。」

 

アルベルトが発した名前に、千冬と束は驚き、その場から立ち上がった。

 

だが、そんな二人をマイルナが座らせた。

 

アル「電話だと履歴で足がつくから嫌だって…だから非通知か。

で、わざわざ電話してなんだ?久しぶりの挨拶って訳じゃ無いだろ?」

 

アル「あぁ、知ってるよ。確か、イギリスの大富豪だろ?仕事柄、何度か面識はあるよ。

息子?あぁ見た事あるぞ?それが…成る程、誘拐…いやお前達風に言えば、拉致か。」

 

アルが言葉を発する毎に、一夏達の表情は暗く、険しい顔になっていた。

詳しい話はわからないが、良からぬ話という事だけは理解できるからである。

 

アル「で、依頼金と締め切りは?ふぅ~ん…20億と一週間か。えらく積んだな。

一週間か…今は別の仕事が入ってるから間に合うかわからんが。」

 

アル「良し!契約成立だな。任しとけって、あんたら組織と、俺との仲じゃねぇかよ。

あぁ、あぁ。それじゃあ良い報告が出来る様に頑張るよ。」

 

そう言ってアルベルトは、電話を切った。

 

千冬「ア…、アルベルトさん…、その、電話の相手って…。」

 

千冬が恐る恐る聞くと、アルベルトは普通に答えた。

 

アル「そうだよ、あの亡国機業だぞ?あぁそっか、一夏を誘拐したんだったな。 

昔の仕事で、あんまり覚えて無かったよ。」

 

アルベルトが答えると、千冬はアルベルトの胸ぐらを掴んだ。

 

千冬「その言い種は、一夏が誘拐されたのはお前も絡んでるって事なんだな!

くっ!お前のせいで…、お前達のせいで!」

 

そう言って千冬は、アルベルトを殴ろうとした。

一夏が急いで止めようとしたが、間に合わずにその拳は、アルベルトの右頬をとらえた。

 

アル「お前の言う通りだ。俺達が、一夏の情報をあいつらに売った。

それは紛れもない事実だ…だがな。」

 

千冬「うるさい!この人でなしのクズ野郎!」

 

そしてもう一発殴ろうとしたその瞬間、千冬は地面に転かされていた。

 

アル「ふぅ…、そう熱くなるなよ。」

 

そう言って、アルベルトは席に座った。

 

一夏「アルベルトさん、俺が誘拐されたのは貴方のせいって事はわかりました。

それにさっきの電話の内容…。

どうしてそんな事をするんですか!」

 

アル「理由か?簡単だよ。それが、俺の会社の仕事だからだ。

金を貰えば、支援活動もするし盗みもする。最悪、戦争の手伝いもする。」

 

一夏「そんな…、そんな理由で…。」

 

アル「お前に何がわかるんだ!束さえ知らん裏社会を知らないお前に、俺達の事をとやかく言われる筋合いはない。」

 

これまでの、優しくて頼れる兄貴分だったアルベルトとは違い、まさに仕事人の顔になっていた。

 

束「義兄さん…、あの噂って本当だったんですね。」

 

アル「良い機会だ。お前らに、教えてやる。」

 

アル「俺達の仕事は教えただろ?だが、これが民間企業レベルなら問題ない。

だが、俺達はISが出来る前から世界シェアの企業なんだ。」

 

アル「ある国は、他国の情報を求める為に自国を俺達に売った。

またある国は、戦争をしたいが為に俺達に金を払う。

こうして、世界中と太く…複雑なパイプで結ばれているんだ。」

 

アル「だが、その国のなかにはその関係を壊したい国もある。しかも、俺達は世界中の国々の裏の情報を握っている。

それは、良く言えば抑止力だ。だがな、俺達の情報や全てが、どこかの国に渡れば、それこそ戦争になるかもしれん。」

 

アル「だから俺達は、仕事をするんだ。少しでも関係が拗れると、そこからなし崩しに関係も崩れかねん。

俺達が今の状態を維持するには、こうするしかないんだ。」




もしかしたら、今回の話でアルベルトは物凄い悪人と思うかもしれません。

それに、ストーリーが気に入らない人もいるかもしれません。
ですが、こんな所も含めて、私の作品です。

認めてとは言いません。ですが、それだけはわかって下さい。


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64話

アル「と言っても、今回の仕事は受けないつもりだ。」

 

一夏「それって、どういう事ですか!?さっきまでの話だと、仕方がないんじゃ…。」

 

アル「まあな。あの頃は、ISの登場で、裏社会の市場は大荒れだったからな。

貰える仕事は、嫌な仕事でも何でも請け負ってたんだよ。

でも今は、仕事を選べる位に大きくなったからな。」

 

アルベルトはそう言うと、マイルナに近づいていき肩に手を置いた。

 

アル「それに俺は、休暇中だ。大事な嫁さんに会いに来てるのに、そんなバイオレンスな仕事するかよ。

さてと…、場の空気を重くしちまったな。俺はこのまま帰るわ。

お前らも、撮影が終わったらさっさと帰ってこいよ。」

 

そう言ってアルベルトは、席を立ち部屋から出ていこうとした。

 

アル「そうだ。忘れてた。おいマイルナ、千冬の事は許してやれよ?」

 

そう言い残すと、アルベルトは出ていってしまった。

その時の、寂しそうな…申し訳なさそうな表情を、一夏は忘れなれなかった。

 

束「その…義姉さん。義兄さんが言ってたちーちゃんを許すって話は…何の事なんですか?」

 

束が聞くと、マイルナは恐怖のオーラが出るほどの怒っていた。

 

マイルナ「あの人の胸ぐらを掴んだ事。それに加えて、数々の暴言…。

本来なら千冬、お前は死よりも恐ろしい想いをしてもらうんだけど、あの人がそう言ったから今回はこれくらいで、多目に見てあげるわ。」

 

そう言ってマイルナは、千冬に近づいていき千冬の右頬を力強く平手打ちをした。

 

マイルナ「貴方達姉弟の言い分もわかるわ。でも、アルにだって背負ってる覚悟や使命、そして命もあるのよ!」

 

千冬「わかってる…、それはわかってます。あの時は頭がカッとなっていて、自分でも何もかもがわからなかった。

アルベルトさんの言っている事はわかってるんですが、それを良しとしない心が!」

 

幸太郎「だったら、アル兄としっかり話し合いなよ。事情は良くわからないけど、帰ってく時のアル兄の顔、凄く哀しそうだったよ。

喧嘩したままはいけないよ。すぐに一夏も一緒に仲直りしてきなよ。」

 

幸太郎の、純粋で幼稚な提案。

大人になればなるほど、たどり着けないその提案に、千冬は少しだけ心が軽くなった気がした。

 

千冬「そうだな…。誘拐された事も含めて、私は嫌な過去から逃げようとしていた。

だからアルベルトさんと話すことで、その過去達とケジメをつけるべきだな!」

 

マイルナ「はぁ…、しっかりと意思は出来たようね。でも、もしもの時は私はアルの味方につくわ。

それは胆に命じておいてね。」

 

こうして、肝心の撮影は各々が撮りたい人とツーショットを撮る形で、解決した。




GWは仕事で、更新する時間がありませんでした。
本当に申し訳ございません!

しかも、今回は短めです。
頭の中で、話がすっきりと纏まっていませんでした。

次回からは、今まで通りの長さになります。
ご了承下さい。


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65話

IS学園に戻ってすぐに、千冬と一夏は幸太郎に言われた通り、アルベルトと話をする為にマイルナの部屋の前に来ていた。

 

一夏「千冬姉…、本当に今からアルベルトさんと話をする気なの?

明日でも良いんじゃ…。」

 

千冬「そんな弱音を吐くな。私達は、私達の人生を変えたあの出来事に対して逃げていた。

もういい加減、正面から向き合うべきなんじゃないか。」

 

千冬は深く深呼吸をして、ドアノブに手をかけた。

 

そして、心の中で強く檄を飛ばしてドアを開けた。

 

ドアを開けて中に入ると、二人が来るのを予測していたのか、アルベルトとマイルナが立っていた。

 

アル「事情はマイルナに聞いたぜ。あれ以上話す内容はねぇ気がするがな。」

 

千冬「その、アルベルトさん。今回は…。」

 

千冬が話を切り出すと、アルベルトは話を遮った。

 

アル「ここじゃあ、他の生徒に聞かれるかも知れん。詳しい話は、屋上でしよう。」

 

~~~屋上~~~

 

アル「今日は、心地いい風が吹いてるな。故郷を思い出すぜ…。」

 

マイルナ「そうね。あの日も、こんな風だったわね。フフッ、懐かしいわね。」

 

二人は少しの間、干渉に浸っていた。

 

アル「すまねぇな。で、俺に何を聞きたい?出来る限りは答えるぞ?」

 

アルベルトがそう聞くと、一夏は勇気を出して話し出した。

 

一夏「その…アルベルトさん!一つだけ質問があります!

俺の誘拐の手伝いの依頼を請けた時、アルベルトさんはどんな気持ちだったんですか?」

 

アル「なるほど…、その質問か。いずれ聞かれると思ってたが、いざ聞かれると戸惑うもんだな。」

 

アルベルトは、ばつが悪そうな顔をして腕組みをしながら、考え出した。

 

アル「今から答える事に、気を悪くしないでくれよ一夏。

誘拐の依頼を請けた時、初めに思ったのが『可愛そうだな』って同情だ。」

 

アル「俺達にとって、その手の依頼は日常茶飯事。それに、どうしても大きな仕事が欲しかったんだ。

二つ返事で了承したよ。だがな、過去の俺にも今の俺にも…、いや今は少しあるか。

まぁ、お前に対しての謝罪の気持ちはハッキリ言って無かった。」

 

アルベルトの発言に、千冬は反応したがそれでも、アルベルトの話を最後まで聞こうと決めていた。

 

アル「見知らぬ子供より、俺を慕ってくれてる社員の方が大切だったんだよ。

質問には答えたぞ。俺を罵るのも殴るのも、構わないぜ。」

 

一夏「そんな事はしませんよ…。聞きたかった事が聞けたので、今は満足です。」

 

アル「そうか。それはすまなかったな。一夏、お前は随分と大人の様だな。

それで、今度は千冬の番だ。何が聞きたい?」

 

千冬「私の聞きたい事は決まってます。アルベルトさんが式場でしていた話や、今した話は頭ではちゃんと理解してます。

人には人の、どうしても抗えない事情がある。それはわかってます。」

 

千冬「でも、わかっていても許せないんです!

どうしたら良いんですか!」

 

千冬は、少し涙を浮かべながらすがるようにアルベルトに尋ねた。

 

アル「どうすれば…か。それは俺にもわからん。もしお前がここで許せても、亡国機業の連中が目の前に現れたら、お前の怒りは押さえきれないだろう。

仕事柄、そんな関係を何度も見てきた。」

 

アル「許すなとは言わん。許せとも言わん。だが、これだけは胆に命じておけ。

世の中、誰かの事故や不幸がきっかけで大きく動くもんだ。

白騎士事件や、一夏の誘拐。もっと極端に言えば、ISの登場もそうだ。」

 

アル「俺の仕事は、そんな事をしながら世界を調整出来る。そんな仕事だな。

フッ、その仕事のせいで世界中に恨みを買ってるなんて、なんとも皮肉なもんだな。」

 

千冬「そうか…、ならこれ以上は何も聞かない。だが、私達は強く生きる!

何が合っても、強く生きてみせる!」

 

千冬の強い熱意に、アルベルトはなぜか救われた様な感覚だった。

 

アル「そうか、それなら安心だな。それと、一つ頼みがある。

今回の仕事を断ったせいで、もしかしたら俺の関係者…、多分幸太郎が亡国機業に狙われるかも知れん。

あいつは、俺の仕事にはなんの関係も無い。だから、あいつだけは守ってやってくれ!」

 

そう言ってアルベルトは、深く頭を下げた。

 

千冬「任せて下さいアルベルトさん。一夏の誘拐の件は、私の中で決着はつきました。

ですから、そんなに気にしないで下さい。幸太郎を守る、それは当たり前の事です!」

 

アル「そうか…、ありがとな千冬…。」




なんとも世の中は、難しく複雑な存在ですね。

アルベルトが悪なのか、それはわかりませんが、一つ言えるのは、アルベルトも歯車の一つに過ぎないと言う事ですかね。


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66話

屋上から戻ってきた千冬は、職員室の自分の机に座り、頬杖をついていた。

 

アルベルト及び、亡国機業の一夏誘拐に関しては、自分の中で決着をつけた。

だが、次の問題に頭を悩ませていた。

 

千冬(ふぅ…、確かに狙うとしたらISを動かせずアルベルトさんに関係のある幸太郎しかいないか…。

今日一日で、亡国機業について色々な事を聞いて頭がパンクしそうだ。)

 

千冬が大きく溜め息を吐くと、その様子を見ていた山田先生が心配そうに駆け寄ってきた。 

 

山田「どうかしたんですか織斑先生?アルベルトさんのお手伝いから帰ってきたと思ったら、そんな浮かない顔をして。

なにか悩み事ですか?」

 

千冬「いや、別に大した事じゃないさ。ただ、最近疲れたなぁ…と思っただけだ。」

 

アルベルトから聞いた話を、無関係な山田先生には教えられないと考えた千冬は、なんとかごまかした。

 

千冬(一夏には口止めしてあるが、亡国機業の事を生徒に教える訳にはいかないか…。

それに幸太郎にも、余計な不安はかけたくない。)

 

千冬「山田先生、少し用事を思い出した。」

 

そう言って千冬は、勢い良く席を立った。

 

~~~幸太郎の部屋~~~

 

千冬が幸太郎の部屋に入ると、中に幸太郎はいなく、束とラウラとリアネールしかいなかった。

 

リネ「そんなに慌てて、何かあったのですか千冬様?幸太郎様でしたら、マイルナ様の所にいますが。」

 

千冬「幸太郎がいないなら、都合が良い。それよりラウラ、今から大切な話がある。

少しの間だけ、席を外してくれないか?」

 

千冬の頼みに、穏やかではない事をラウラは察した。

 

ラウラ「嫁がいない方が良い、そして私を除いた大人のみでの話。

それは、嫁に関する…、嫁の身に善からぬ事が起きるって事ですよね。」

 

ラウラの鋭い洞察力と推理力に、千冬は何も答えなかった。

それは、肯定を意味している。

 

ラウラ「お言葉ですが教官、私はまだ学生で社会的にも強い何かを持っている訳ではありません。

ですが、それでも嫁を護りたいと想う気持ちは、誰にも負けません!譲れません!

ですから、私もその話を聞きます!例え教官がなんと言おうとも、この部屋から一歩も動きません!」

 

ラウラの覚悟と、幸太郎を想うその気持ちを聞いて、千冬は観念した。

 

千冬「どうやら、私はお前の事を見くびっていた様だな。いつのまに、そんな立派な女になっていたんだ。

これも、幸太郎のお陰か。」

 

そして、千冬は亡国機業に幸太郎が狙われるかも知れない、という事を説明した。

 

束「なるほどね、亡国機業ってテロ組織みたいなもんだから、可能性は大だね。」

 

リネ「そうですね。しかも、今回は仕事を断られたと言う建前があります。

下手をしたら、このIS学園自体に攻撃してくるかも知れませんね。」

 

ラウラ「あぁ、だがそいつらはとても重要な事を知らんみたいだな。」

 

束「そうだね。私達がいる限り、幸太郎に手を出したらどうなるか…。」

 

リネ「骨の髄まで教え込む必要があるみたいですね。」

 

怪しく笑う三人を見て、当分の間は幸太郎に危機が迫る事が無い事を、千冬は感じた。

 

束「それに、義姉さんがいるんだから…。」

 

束の言葉に、千冬達は納得した。

そして、もし幸太郎が誘拐されマイルナが怒ったらと考え、恐怖に震えていた。




例え亡国機業が相手だろうと、幸太郎を守護するいわば、親衛隊がいる限りは大丈夫ですね。

それにあのマイルナがいるんですから、心配は無さそうですかね?


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67話

あれから数日後、マイルナの表情は日に日に暗く、そして悩みでいっぱいになっていた。

 

時々つくため息、哀愁の漂う背中。

そのどれもが、マイルナの精神的異常を伝えてくれる。

 

束「ねぇちーちゃん。義姉さんって、最近元気が無いというより、おかしいよね?」

 

千冬「あぁ…。やはり、幸太郎が狙われるとわかったからな。マイルナさんも気が気で無いんだろうな。」

 

二人がそう納得していると、職員室のドアが開きアルベルトが入ってきた。

 

アル「違うぞ二人とも。あいつがあんなのになってるのは、幸太郎が最近一人で外に出掛けてるからだよ。」

 

千冬「幸太郎が一人で?いったい何処にいってるんですか?」

 

マイルナ「それが…、それが教えてくれないのよ!

ついて来ないでって言われてるし、理由を教えてくれないから、心配で仕方ないのよ!」

 

マイルナは泣きながら、千冬にしがみついてきた。

 

千冬「落ち着いて下さいマイルナさん。私に言っても、何もわかりませんよ。」

 

山田「もしかして、学園外で彼女でも出来たんじゃ無いですか?

ほら、駆け落ちするカップルって、親に内緒で会うじゃ無いですか?」

 

山田先生の発言に、その場の空気が凍った。

そして千冬と束は、すぐにマイルナを止めれる様に身構えた。

 

マイルナ「山田先生…、世の中には言って良い事と悪い事があるですよ?

教育者足るもの、それくらいわかりますよね?」

 

明らかに怒りを露にして、マイルナは山田先生に近づいて行った。

その恐怖と迫力に、山田先生は後退りをする事しか出来なかった。

 

束「義姉さん!落ち着いて下さい!幸太郎がそんな事する訳無いじゃないですか!」

 

千冬「そうですよ!マイルナさんが、幸太郎を信じてあげなかったら、どうするんですか!?」

 

アル「全く、外に出るくらいでこれとは…。知らずに楽しんでる幸太郎は、ある意味幸せ者だな。」

 

アルベルトのこの発言を、マイルナは聞き逃さなかった。

 

マイルナ「ねぇアル?貴方のその言い方、幸太郎の外出の理由を知ってるのね?」

 

アル「まぁまぁ、一旦は落ち着けよ…。お、おい…。

怖いなこれ。お前らがマイルナを怒らせたくない訳だぜ。」

 

アル「別に口止めはされてないが…、どうせだったら直接見たらどうだ?

明日も、どうせあいつ出かけるだろうし。こっそり尾行すればバレないかもな。」

 

そう言ってアルベルトは、職員室から出ていった。

 

マイルナ「尾行か…、そうよ、そうよね!大事な弟を汚ならしい雌狐から護るためだものね。」

 

千冬「ですが、尾行なんかしてもし幸太郎にバレたら、嫌われるかもしれませんよ?」

 

マイルナ「何言ってるのよ千冬。私が尾行なんてするわけ無いでしょ?

私がするのは、幸太郎の護衛よ?言葉を間違えないでちょうだい。」

 

マイルナは不気味な笑いを浮かべていた。

 

~~~次の日~~~

 

この日も、例のごとく幸太郎は外へと出掛けていった。

 

マイルナ「さて千冬に束。急いで幸太郎を追いかけるわよ!

昨日も言ったけど、これは尾行じゃ無くて護衛だからね。」

 

そう言ってマイルナ達は、幸太郎を見失わない様に後をつけていった。

 

アル「あいつら、本当についていきやがった…。はぁ…、面倒事にならないと良いけどな。」

 

溜め息を吐いたアルベルトは、幸太郎の目的地までの近道を歩き出した。

 

歩いている幸太郎は、辺りを警戒する事なく楽しそうな足取りだった。

 

マイルナ「鼻唄なんか歌ってるわ。そんなにそいつの会うのが楽しみなのね。

フフッ、私の大切な幸太郎をたぶらかすなんて、死にあたいするわよ?」

 

そして幸太郎は、河川敷の橋の下へと入っていった。

 

幸太郎「今日も会いに来たよ。もうそんなに慌てなくても、ちゃんと遊んであげるよ。

もう!そんなに顔を舐めないでよ。くすぐったいよ。」

 

幸太郎の言葉に、我慢の限界だったマイルナは大急ぎで幸太郎のいるところに飛び出していった。

 

マイルナ「私の大切な弟を弄ぶなんて、良い度胸だな!

今すぐここで、私が殺してあげる…よ…。」

 

目の前の幸太郎の相手に、マイルナは怒りと勢いを無くしてしまった。

 

幸太郎「お…お姉ちゃん!なんでここがわかったの?」

 

なぜなら、その相手は幸太郎が抱き上げている、産まれたばかりの、小さな豆柴だったからだ。




女だと思ったら、犬でした!
って、わかりますかったですかね?

ですが、これでひとまずは大事件は避けられた様ですね。


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68話

幸太郎「可愛いワンちゃんでしょ?こんなにも、俺になついてくれてるんだよ。」

 

そう言って幸太郎は、楽しそうに豆柴を撫でた。

 

マイルナ「貴方が外に出てた理由はわかったわ。でも、何で内緒で出ていったりしたのよ?」

 

アル「それは、お前に怒られると思ったからだよ。」

 

いつの間にか、マイルナ達の後ろにアルベルトがたっていた。

 

マイルナ「私が怒るって、どういう事よ?私が、幸太郎に怒るわけ無いでしょ?」

 

幸太郎「だってお姉ちゃん、昔俺が犬を飼いたいって言ったら、物凄く否定してきたじゃん。

だから、お姉ちゃんは犬が嫌いかなって思って…。」

 

幸太郎にそう言われ、マイルナは過去を思い出そうとしていた。

そして、その時の状況を思い出した。

 

マイルナ「あの頃は、貴方の体調が著しく無かったし、病状も今ほど把握して無かったのよ。

だから、その状態で他の生き物と触れ合ってもしもの感染症が起きたら…って、心配だったのよ。」

 

幸太郎「そうだったんだ。じゃあ、今はこの子を飼っても大丈夫だよね!?」

 

目の前で起きている事に、千冬と束は置いてきぼりをくらっていた。

 

束「って、いつから幸太郎はこの犬に出会ったの?こんな捨て犬、簡単に見つけられるものでも無いし。」

 

幸太郎「実はね、一週間前にアル兄と出掛けた時に、偶然出会ったんだ。

寂しそうに鳴きながら、こっちを見てたんだ。」

 

アル「で、優しい幸太郎がその犬を無視できる訳無いさ。

その日以来、この犬に会って遊ぶようになったって訳さ。」

 

こう話している間にも、豆柴は幸太郎に甘えた声で鳴きながら、体を刷り寄せていた。

 

千冬「それにしても幸太郎、お前がそんなに動物に好かれるなんて、知らなかったぞ。

お前に好意を示すのは、変わり者ばかりだからな。」

 

千冬はそう言いながら、束を見た。

 

マイルナ「ふぅん…変わり者ね…。だったら、私は一番の変わり者って事ね。

随分と言う様になったわね千冬?」

 

千冬「えっ!ち、違いますよ!その…、言葉のあやと言いますか…、表現の一つと言いますか…。」

 

千冬は、自分の軽はずみな失言を弁解しようと焦っていた。

 

アル「謝る事無いだろ?だって、超ブラコン姉に、テロ組織のサポーターの兄。

変わり者よりも、酷いもんだろ。」

 

軽い自虐を混ぜながら、アルベルトは笑いながらそう言った。

 

アル「それよりもマイルナ、この豆柴を飼うのはどうなんだ?」

 

マイルナ「どうって言われても…。この犬が安全かわからないし…。」

 

するとアルベルトは、マイルナの耳元に口を近づけた。

 

アル「幸太郎の病状は、未確定で危ういんだろ?だったら、今は幸太郎の望みを叶えてやるのが、俺達夫婦の最善の行動だろ?

言い方は悪いが、あいつは今まで病室に閉じ込められてた。自由になった理由としても、賛成してやったらどうだ?」

 

マイルナ「貴方にそんな事言われなくても、元々賛成のつもりよ。

幸太郎、その犬飼っても良いわよ。」

 

マイルナがそう言うと、幸太郎は嬉しそうに喜び、豆柴を抱き上げた。

 

幸太郎「やった!これで今日から君は、俺と一緒だ!

これから宜しくね、えっと…、名前はどうしよっか?」

 

マイルナ「名前なら、私が考えてあげるわ。

そうね…、アーノルドはどう?」

 

マイルナの答えに、幸太郎以外の人間は目が点になっていた。

 

マイルナ「何よ、文句あるの?だったら、エドワードは?それかスミスは?」

 

呆れたアルベルトは、マイルナの肩に手を置いた。

 

アル「お前、柴犬にそんな洋風な名前は無いだろ?

お前にネーミングセンスが無いなんて、知らなかったわ。

もし子供が産まれても、お前に名前は考えさせねぇ。」

 

アルベルトにそう言われたマイルナは、恥ずかしそうに顔を紅くした。

 

マイルナ「だったら、貴方が考えてよね!

私にそこまで言うんだから、それは最高の名前を考えてくれるわよね?」

 

アルベルトは、少し考え込んだ。

 

アル「大和って名前はどうた?カッコいい日本って感じの名前だし、昔は戦艦の名前にもなった程だ。

なりは小さいが、勇ましい犬に育って欲しいって感じかな。」

 

幸太郎「大和か…、うん凄くカッコいい名前だよ!

良し!今日から君の名前は、大和だ!

宜しくね大和。」

 

幸太郎が名前を呼ぶと、大和は嬉しそうに幸太郎の顔を舐めた。

 

アル「我ながら、中々のセンスだな…ん?」

 

よく見たら、その豆柴がメスだった事に気がついたが、マイルナにあぁ言った手前、自分も人の事が言えないと思い、黙っておく事にした。




皆様お久しぶりです!
すみません、仕事が忙しく更新が遅れてしまいました。

幸太郎に新しい家族?が増えました!

メス犬に大和って、合わないですかね?
自分的には、大和撫子って言うくらいですので、合うような気もしますが、戦艦大和で考えると、合わない様な気もしますね。


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69話

幸太郎「大和、ほらお手。凄い!見てよアル兄、大和はお手も出来るんだよ!」

 

アル「わかったわかった。お手もお座りも出来るんだろ?もう三回目だぞ。」

 

幸太郎は、まるで恋人が初めて出来た様なハシャギ方をしていた。

 

そんな幸太郎と大和の事を、マイルナと束はじっと見ていた。

 

マイルナ「くっ!最近幸太郎と知り合った癖に、あんなにも幸太郎と触れ合ってるなんて!」

 

束「そうですよ!でも…、あんなに輝いてる幸太郎の嬉しそうな笑顔を見ると、やはり私達は無力なんですね!」

 

束の言葉に、マイルナと束は拳を握り締めて悔しがっていた。

 

千冬「そんなに深く気にする事は無いですよ。たかが、幸太郎と犬が仲良く遊んでるだけじゃ無いですか?

初めてペットを飼った時は、あれほど気分が上がるものですよ。」

 

マイルナ「何をバカな事を言い出すのよ千冬…。」

 

そう言ってマイルナは、千冬の肩に手を置いた。

その手は、物凄い力で千冬の肩を握っていた。

 

マイルナ「私が重要視してるのは、大和がメス犬って事なのよ!世の中には、動物しか愛せない性癖の人もいる。動物を可愛がり過ぎて、人間に興味が無くなった人もいるわ。」

 

マイルナ「もし幸太郎がそんな人間になったら、どう責任をとってくれるのよ!」

 

マイルナの行き過ぎた考えに、束と千冬は少し引いていた。

 

束「さすがに私はそこまで考えて無いけど、自分の愛する人が、他の事に気をとられ、しかも笑顔になってるのは、嫉妬するよ!」

 

アル「束のその考え、良くわかるわ。てか、実際に俺はよく受けてるわ。」

 

束にさんどうしたアルベルトは、深く頷いていた。

 

千冬と束は、一瞬何を言ってるのかわからなかったが、超ブラコンのマイルナを思い出し、納得した。

 

マイルナ「何よアル?もしかして、幸太郎の事を言ってるのかしら?

でもしょうがないでしょ?幸太郎は私にとって、大事な弟なのよ?」

 

千冬「アルベルトさんも、案外恋愛面で苦労してるんですね…。」

 

千冬はため息を吐きながら、呟いた。

 

アル「口ではあぁ言ってるがよ、マイルナは俺の事を愛してるからよ、別に何とも思ってねぇさ。

それに、弟想いな所も俺がマイルナを愛してる理由の一つなんだしな。」

 

アルベルトがそう言うと、マイルナの顔は物凄く真っ赤になっていた。

そして、何か言おうとしていたが、恥ずかしさのあまり口が上手くまわらなかった。

 

アル「な?こうゆう、初な所も可愛いだろ?俺の自慢の嫁さんだ。

誰にもやらねぇからな?」

 

マイルナ「もう!いきなり、何おかしな事を言い出すのよ//」

 

アル「なんだよマイルナ。嫌だったのか?それとも、俺の事は愛して無いのか?」

 

マイルナ「そんな事無いでしょ//嬉しいわよ//それに、貴方の事を愛してるに決まってるでしょ//」

 

そう言ってマイルナは、恥ずかしそうにアルベルトに抱き付いた。

 

幸太郎「ねぇ皆。もう疲れたから、学園に帰ろうよ?」

 

幸太郎が近づいてくると、慌ててマイルナはアルベルトから離れた。

その時のマイルナの顔は、もの足りなさそうな顔をしていた。

 

アル「すまねぇな幸太郎。さて、俺達も用事はすんだし、さっさと帰ろうぜ。」

 

アルベルトの合図で、幸太郎達はゆっくりと帰路についた。

 

アル「おいマイルナ。そんな顔すんなよ。続きは、帰ってからな?」

 

マイルナ「もう!別にそんなんじゃ無いわよ!」

 

マイルナ「その//絶対だからね//今までよりも、甘えちゃうわよ?」

 

アル「おう!気にせずどんどん甘えてこい。」

 

アルベルトの答えに、マイルナは満面の笑みを浮かべた。

 

そんなマイルナを見て、千冬と束はアルベルトの言っていた、マイルナの可愛さが良くわかったのだった。




ヤバイ!凄くマイルナは可愛い!

マイルナの可愛さと、アルベルトの男前さが、まさに最高の夫婦ですね。

マイルナみたいな人が現実にいたら、ギャップ萌えとか言うやつで、皆をイチコロにするかもですね。

私はされる自信しかないです!


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70話

~~~次の日~~~

 

一夏「へぇ、これが幸太郎さんが拾ってきた犬の大和か…。小さくて可愛い犬だな。」

 

そう言って一夏が手を伸ばすと、大和は一夏に威嚇をした。

 

箒「全く、お前は犬のあやし方を知らんのか?犬は上から撫でてはいけない。

犬を撫でる時は、下から手を伸ばすんだ。」

 

そう言って箒も、大和に手を伸ばすが、変わらずに大和は威嚇を続けていた。

 

アル「俺達も試してみたが、結果は同じだったよ。どうやら、幸太郎以外にはなつかない様だな。

これが人間だったら、独占欲が強い女になるな。」

 

アルベルトが笑いながらそう言うと、マイルナはアルベルトを睨み付けた。

 

セシリア「そう言えば、幸太郎さんはどうしたのですか?今朝からお姿を見かけていませんが…。」

 

マイルナ「幸太郎なら、部屋で寝ているわ。心配しなくてもいいわ。

一年に数回、起きられない時があるのよ。」

 

鈴音「それはわかったけど、こんな朝っぱらから私達を集めて何の用があるのよ?

集められたのは、見たところ幸太郎さんに関わりのある専用機持ちだけど。」

 

アル「その事なんだがな…昨日の夜、わが社の情報員から、亡命機業が何やら慌ただしい動きを見せている。

俺の勘では、近いうちに幸太郎に接近してくるだろう。」

 

アルベルトがそう言うと、一夏達に緊張が走った。

自分達は専用機を持っているとはいえ、相手はテロ組織。

 

もし戦う事になったらと考えると、身震いしていた。

 

アル「そこで、俺と束で相談した事なんだが、わが社のデータを使って、お前達のISの基本性能をバージョンアップさせる。」

 

束「そうだよ。義兄さんの技術を使えば、最大でも10~20%の増量は見込めるよ。」

 

シャル「ですが、その行為は法律では規制されている筈しゃ無いんですか?

いくら束さんでも、法を犯せば政府が黙ってませんよ。」

 

シャルロットは、的確な心配をついていた。

 

確かに束は、政府や世界にとって重要な人物であるが、法を犯したのをきっかけに政府から脅しをかけられたり、下手をしたら政府に捕まり良いように使われる可能性もある。

 

アル「その心配なら何もいらんよ。その為に、俺がいるんだからな。

さてと、そろそろ時間の筈だな…。俺達も応接室に行くか。」

 

アルベルトは、腕時計を見ながら呟いた。

 

~~~応接室~~~

 

応接室に入った一夏達は、そこに待っていた人物に驚きを隠せないでいた。

 

なぜなら、そこに待っていたのは総理大臣だったからだ。

 

総理「私をこんな所に呼ぶなんて、いったい何が目的なんだ。私はお前の様なコウモリを、信用していないんだ。」 

 

アル「コウモリとは、また的確な例えだな。まぁ、金さえ貰えば俺達は誰の味方にもつくからな。」

 

そう言ってアルベルトは、ソファーに腰掛けた。

そしてアルベルトの横に、マイルナも座った。

 

アル「お前達も突っ立ってないで適当に座りなよ。」

 

アルベルトの言葉に、一夏達はハッとなり椅子に座った。

 

総理「篠ノ之博士や、織斑千冬やマイルナ所長までいるなんて、用件が本当にわからないな。」

 

アル「お前みたいなクソ人間にも、分かりやすく教えてやる。

俺達はこれから、ISの違法改造をする。お前達政府は、それを承認し黙って見て見ぬふりをする。

わかったか?」

 

総理「い、違法改造だと!そんなもの、黙っている訳にはいかないだろう!

それに、お前達を捕まえて手中に納めれれば、私達日本が世界を牛耳る事が出来る。

そんな我々にとって上手い話を、みすみす逃すと思うのか?」

 

総理は、鼻で笑いながらそう言った。

 

すでにアルベルト達を手に入れた気でいるのか、勝ち誇った顔をしていた。

 

アル「はぁ…、やはり無能なお前じゃあ俺の言いたい事がわからないか。」

 

アルベルトはため息を吐きながら、一枚の写真を総理にだけ見える様に、少しだけちらつかせた。

 

その写真を見た瞬間、総理の顔色が急変した。

 

総理「そ、その写真…。アルベルト、お前は何が言いたいんだ。」

 

アル「本当にわからず屋だな。これは取引だ。お前が俺達の行動を黙っていれば、この写真は陽の目を見ない。

どうだ?分かりやすくて簡単な話だろ?」

 

総理は、額に汗をたらしながら唸り声を上げていた。

 

総理「…わかった。私は何も聞いていない。

だが、約束は守って貰うぞ!」

 

アル「あぁ、この写真は封印しておこう。まぁ、仲良くしてこうや。」

 

アルベルトは、悪い笑顔をしていた。

 

こうして、政府の行動を抑止する事に成功したのだった。

 




世界中の裏のコネクトがあれば、脅しの一つや二つはやはりあるんですね。

総理大臣さえも黙らせるなんて、アルベルトが見せた写真は相当な代物だったのでしょうね。

やはり、裏の社会に根を張り巡らせている、アルベルトの会社を敵に回すのは恐ろしいですね…。


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71話

アル「さてと、総理も帰った事だしさっさと、事を始めるか。」

 

そう言ってアルベルトは、ここにいる専用機持ちの人数と同じ台数のパソコンのスイッチを入れた。

 

一夏「アルベルトさん、そんなにパソコンを起動させて、どうするんですか?」

 

アル「あぁ。ISの核自体は、束が開発したモノだ。けど、それぞれの装備や装甲なんかは各国のオリジナルとも言える。

だからよ、その材料を調べあげてギリギリのラインまで、性能をあげたいんだ。」

 

束「なるほど、それで各国のメインコンピューターに同時ハッキングをするんだね。」

 

束が納得している間も、アルベルトは全てのパソコンを操作していた。

 

アル「おいお前ら。データを送信しなきゃいけねぇから、ISを待機状態にして渡してくれ。」

 

アルベルトに言われた通り、一夏達は自分達のISをアルベルトに手渡した。

 

アル「ちょっと待ってろよ…、良し!イギリス、中国、フランス、ドイツ、日本のハッキングに成功と。

さて、ここからが正念場だな。あまり能力を上げすぎると、ISが耐えられずにパンクするからな。

その絶妙なさじ加減を計算しながら…。」

 

そう言ってアルベルトは、パソコンの画面を見ては手元のメモ用紙に計算式を書いていた。  

 

束「それにしても、私は世間から天才って言われてるけど、義兄さんを見てると、その評価が恥ずかしくなるよ。」

 

千冬「そうだな。あれだけのパソコンを同時に、しかもあんなに簡単にメインコンピューターをハッキングするなんて、人間業じゃないな。」

 

マイルナ「驚くのはまだ早いわ。アルは、少なくとも10歳の時に、あれだけの事は出来たわ。

しかも、全部独学でよ?凄いでょ?」

 

マイルナの言葉に、それを聞いていた千冬と束は驚きのあまり言葉を失っていた。

 

一夏「そう言えば、千冬姉に話を聞いてふと疑問に思ったんですけど、幸太郎さんの病状はまだ良く分からないことばかりなんですよね?」

 

マイルナ「えぇそうよ?それがどうかしたのかしら?」

 

一夏「じゃあ、どうしてアルベルトさんが来た時に来てた役人は、幸太郎さんの病気が他人に移ったらどうなるかを、知ってたんですか?」

 

束がIS学園に来た時に来ていた、役人との大まかな話を千冬に聞いていた一夏は、ふと疑問だった事を聞いてみた。

 

その瞬間、タイピングばかりをしていたアルベルトの手が止まり、マイルナの表情が怒りの無表情になった。

 

アルベルトは、ひとつ大きな咳払いをして作業を続行した。

 

マイルナとアルベルトから漂う、ただならぬ雰囲気と怒りと恐怖。

そのオーラのせいで、タイピングの音だけが静かに響いていた。

 

さすがに空気の読めない一夏でも、自分が何を仕出かしたかを、瞬時に理解した。

 

マイルナ「ねぇ千冬?貴方って、本当にお喋りな子ね?それに一夏もね?

どうすれば二人は余計な事を、言わなくなるのかしら?口を縫い付ければ良いの?それとも、舌を引っこ抜けば良いの?ねぇ?教えて?」

 

冗談ではない、本気のトーン。

 

マイルナの本気に、一夏と千冬は死を覚悟する程の恐怖を味わった。

 

アル「この際だからよ、話すしか無いんじゃないか?ちょうど、あの人もここに来るんだからよ?

遅かれ早かれ、政府の連中に知らされるよりかは変な語弊を無くせるしな。」

 

マイルナ「でも…、わかったわ。でも話すかどうかは、あの人に判断してもらうわ。」

 

アル「わかってるさ。さすがに、俺達が勝手に話すわけにいかないさ。」

 

ラウラ「あの…、さっきから言っているあの人って、誰の事なんですか?」

 

アル「言ってなかったな。これから来るあの人ってのは、幸太郎の親父さんだ。」




一夏は無謀というか、怖いもの知らずというか…。
ですが、確かに一夏の疑問通りですよね?

そして次回、幸太郎のお父さんが登場です。

お父さんの口から語られる、真相とは!?


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72話

一夏「幸太郎さんのお父さんですか!?お父さんに聞くなんて、何だか気が退けると言うか…。」

 

アル「そう思うなら、最初から聞いてくるなよ。まぁ、あの人の事だから言うんじゃないか?

それに、もう15年になるしな。」

 

アルベルトは、その出来事を思い返していた。

そしてマイルナは、怒りと憎しみが溢れだしていた。

 

アル「さて、データの更新に少し時間がかかりそうだし、もうそろそろ来る筈だから、移動するか。」

 

マイルナ「貴方達、絶対に失礼な態度はとらないで、粗相の無い様にしてね。」

 

こうしてアルベルト達は、部屋を出ていった。

そして、アルベルトとマイルナの部屋に来ていた。

 

マイルナ「お茶請けの準備はバッチリね。それに、掃除も完璧。

身だしなみも、おかしな所は何一つ無いわ。」

 

鏡を見ながら、髪を整えているマイルナを見て、束達は幸太郎の父親がどんな人なのか気になって仕方がなかった。

 

束「そう言えばリネ、貴女は義父様に会った事はあるの?」

 

リネ「いえ、まだお会いした事はありません。ですので、今はドキドキしております。」

 

ラウラ「それよりも束、義父様だなんて気が早すぎるんじゃない?

まだ嫁の父上の顔を知らないくせに。」

 

束「私と幸太郎の仲は、義姉さんと義兄さんにも認められてるんだよ?

それなら、私が義父様と呼ぶのも当たり前でしょ?」

 

束の言葉に、ラウラが反応しようとした瞬間、マイルナが止めた。

 

マイルナ「貴方達、騒ぐんだったら外でして!ついさっき、粗相の無い様にって言ったでしょ!」

 

マイルナがそう言った時、マイルナの携帯がなった。

 

マイルナ「到着したようね。アル、私はご案内するから、ちょっと席を外すわ。」

 

アル「あ、あぁ、気をつけて行けよ。」

 

こうしてマイルナは、到着した幸太郎の父親を迎えに行った。

 

待たされているアルベルトは、貧乏ゆすりやため息、辺りをキョロキョロと見回して、落ち着きがなかった。

 

そんなアルベルトの姿に、一夏は驚きと同時に、あのアルベルトをここまでする人物に、興味が湧いていた。

 

そして数分後、部屋のドアが開くのと同じタイミングで、アルベルトは席を立った。

 

アル「お久し振りです。本来なら、こちらからご挨拶に伺わなければならない所を、わざわざお越しくださいまして…。」

 

「アルくん、前から言っているけど、そんなに畏まらなくても良いんだよ。私は、そんなに大した人間じゃないんだから。」

 

アル「そんな事ございません!松陽さんに何度助けられた事か。」

 

「全く…、マイルナちゃんもそうだけど、君達は頑固な所があるね。

まぁ、それを含めてしっかりとした人間だから、幸太郎を任せられるんだけどね。」

 

「えっと、この子達が今の幸太郎と親しくしてくれてる子達だね?」

 

マイルナ「はい。その通りでございます。」

 

そう言って父親は、千冬達の方を向いた。

 

「挨拶が遅れたね。既に二人から聞いてるかもしれないけど、私は幸太郎の父、寿 松陽(ことぶき しょうよう)と言う者です。

以後、お見知りおきを。」

 

ニッコリと笑った松陽の顔や暖かさは、まさに幸太郎の父親といえる程、幸太郎とそっくりだった。




幸太郎の父親、松陽さんの登場です!
アルとマイルナが、ここまでなるなんて、松陽さんはどんな人なんでしょうかね?

まだまだ、謎だらけです。


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73話

千冬「松陽…だと?どこかで聞いた事がある名前だな…。

どこで聞いたのだろうか?う~ん、思い出せない。」

 

束「松陽…、寿 松陽…、松陽?松陽!

もしかしてですけど、義父様ってあの、紅グループの会長ですか!?」

 

束が思い出したかの様に松陽に尋ねると、松陽は少し困った顔をした。

 

松陽「これは、困ったモノですね…。あなた方の様な若者にも知られてるとは…うん?義父様?」

 

その瞬間、マイルナが束の頭を軽く小突いた。

そして急いで頭を下げさせた。

 

マイルナ「申し訳ございません!失礼の無い様にと言い聞かせたのですが!

こら束、余計な事を言わないでって言ったでしょ!」

 

松陽「こらマイルナちゃん!女の子が、すぐに暴力をふってはいけません!

それに、何とも思って無いですよ。ただ、驚いただけです。」

 

千冬「そうだ思い出した!どこかで聞いたと思ったら、紅グループの会長の名前だ!」

 

一夏「千冬姉、さっきから言ってる紅グループって何の事なの?

それって、そんなに有名なの?」

 

アル「はぁ…、すみません松陽さん。あの少年が、織斑一夏と申しまして、あまり頭が良くなくて…。」

 

松陽「アルくんも、そんな汚い言葉を使ってはならないと、教えたはずです。

それよりも皆様、詳しい話はこれからするとして、まずは座ってお茶でも飲みましょう。」

 

松陽の合図で、一夏達は椅子に腰かけた。

 

そして松陽は、お茶を入れようとしていた。

 

マイルナ「しょ、松陽さん!そんな事は、私がしますので、松陽さんも長旅でお疲れかと思うので、座っていて下さい!」

 

松陽「心配はいりません。それに、久しぶりに他人にお茶を振る舞ってみたいと思っただけですよ?

それよりも、マイルナちゃんはアルくんと一緒に、皆様に話をしてあげて下さい。」

 

松陽の願いに、マイルナは何も言えなくなり、大人しく席に戻っていった。

 

アル「さて、松陽さんからも許しが出た事だしな…。どこから話そうかな?」

 

一夏「じゃあアルさん、さっき千冬姉達が言ってた紅グループってなんですか?

その紅グループと松陽さんって、どんな関係があるんですか?」

 

アル「はぁ…、お前は本当に何も知らんのだなぁ。じゃあ、まずは何も知らない一夏の為に紅グループについて説明する。」

 

アル「紅グループってのは、簡単に言えば巨大な財閥だな。その規模は、世界一の総資産と影響力を持ってる。俺の会社は裏社会のトップだが、紅グループは表だけじゃ無く、裏社会にも巨大な力を持ってる。」

 

アル「はっきり言って、裏社会は俺の会社と紅グループの二つでほぼ独占してるって事だな。」

 

アルベルトの説明に、一夏は驚きのあまり呆然としていた。

 

一夏「で、でもアルさん、その巨大財閥と松陽さんにどんな関係が…まさか!?」

 

アル「そう、さっき束が言った様に、松陽さんは紅グループの会長だ…、正確に言えば元会長だ。

しかも松陽さんは、たった一代でここまでにしたんだぞ?」

 

マイルナ「ここまでは、千冬達も知ってるわね?でも、もっと驚く話があるわ。

今の会長、すなわち二代目は幸太郎なのよ?」

 

マイルナの言葉に、千冬達は声を出して驚いた。

 

松陽「そんなに驚かないで下さいよ。恥ずかしいじゃ無いですか?

それよりほら、お茶が入りましたよ。」

 

そう言って松陽は、皆の前にお茶を並べていった。

だが、緊張のあまり誰も飲もうとしていなかった。

 

アル「ふぅ、相変わらず美味しいです。考えてみれば、こうやって松陽さんのお茶をゆっくり味わったのは、十年前の孤児院のパーティー以来ですね。」

 

千冬「孤児院って、どういう事ですか?」

 

アル「行ってなかったか?俺達兄妹とマイルナは、場所は違うけど、松陽さんが建てた孤児院出身なんだぞ。

しかも松陽さんは、俺達の祖国の内戦まで終わらせた、俺からすれば恩人以上の人なんだ。」

 

 




色々と衝撃です!
世界一の財閥の元会長で、沢山の孤児院を建て、しかも内戦まで終わらせるなんて…。

ハイスペック通り越して、神がかってますね。
そりゃあ、アルもマイルナもこうなりますわ。



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74話

松陽「そんな事はないよ。私はただ、自分に出来る事をしたまでですよ。」

 

アル「謙遜しないで下さいよ。それに、松陽さんがなんと言おうとも、俺の中では英雄なんですよ!」

 

アルベルトの熱演に、松陽も観念したのか、軽く微笑んでいた。

 

千冬「それで松陽さん、今日はどの様な用件があって、IS学園にいらっしゃったのですか?

まさか、世間話をするために来たわけじゃ無いですよね?」

 

松陽「そうだね。もうすぐ、幸太郎が誕生日だからお祝いにと思ったけど、今日はあの日だからね。」

 

松陽が言うあの日とは、幸太郎が目を覚まさない今日の事である。

 

そう言って松陽は、キレイにラッピングされた袋を取り出して、机の上に置いた。

 

一夏「これってもしかして、幸太郎さんへのプレゼントですか?」

 

鈴音「あの紅グループの元会長だから、そうとう値のはる物でしょうね。」

 

一夏と鈴音が想像していると、松陽はそれも想定していた様に、優しく微笑み袋を空けた。

 

松陽「残念ですが、二人が想像している様な物ではありませんよ。それは、私が手作りしたチョコチップ入りのクッキーです。

このクッキーは、幸太郎が好きな物なので、気合いが入りましたね。」

 

袋の中には、手作りとは思えない程、キレイで美味しそうなクッキーに、マイルナとアルベルト以外は驚いていた。

 

先程のお茶と言い、このクッキーと言い、松陽はあの紅グループの元会長とは思えないギャップがあった。

 

マイルナ「今年はクッキーなんですね。確か去年は、手編みのマフラーで、一昨年は自家製のお茶っ葉でしたよね?」

 

一夏「あの…松陽さん、こんな事は言いたくは無いんですが、幸太郎さんの誕生日にあんまり高価な物は用意しないんですか?」

 

一夏がそう聞くと、松陽は腕を組んで少しだけ考え出した。

 

松陽「そうですね…。お金があるから使うという考え方は、ずれていると思うんですよ。

紅グループ全ての資産は、幸太郎が本当に使いたい時に使える様に、私が無駄遣いをするわけにはいきませんよ。」

 

松陽「それに、私が紅グループを作ったのも、私が死んでしまっても、幸太郎に不自由なく暮らして貰える様にと、妻と一緒に作ったのですよ。」

 

箒「そうだったんですか…。義兄さんの為に、ここまで大きな財閥を作るなんて、本当に義兄さんは愛されているんですね。」

 

松陽「義兄さん?幸太郎の事ですよね?」

 

マイルナ「そうでした、まだお話してませんでした。」

 

そしてマイルナは、束とラウラとリアネールが幸太郎の事を好いている事を、話した。

 

松陽「そうですか…、貴方達が幸太郎の事を…。」

 

そう言って松陽は、ラウラ達に近づいていった。

 

松陽に怒られるかも知れない。そう思い、周りの空気が少し静かになっていた。

 

すると、松陽はニッコリと笑った。

 

松陽「そんなに身構え無くても大丈夫ですよ。マイルナちゃんとアルくんが認めてるなら、私からとやかく言うつもりはありませんよ。

私は仕事仕事で、あまり幸太郎に直接愛を与えてあげれなかったけれども、貴方達のその真っ直ぐな眼を見れば、その心配は無さそうですね。」

 

松陽「病弱で、どこかずれている息子ですが、どうか心から愛してあげて下さい。」

 

そう言って松陽は、三人に向かって頭を下げた。

 

リネ「そんな事、わざわざ頼まれなくてもわかっています。」

 

束「そうですよ。それに、頭を下げるのは私達の方です。」

 

ラウラ「こんな騒がしくてめちゃくちゃな私達ですが、こちらこそ宜しくお願いします。」

 

ラウラ達も、松陽に頭を下げた。

 

松陽「そうですか。こんなに愛してくれる人がいて、幸太郎は幸せ者ですね。」

 

そう言った松陽の目には、涙がこぼれていた。

 

 




良いお父さんですね!

私が作ってる小説で初めて、立派で子供思いの親ですね。

双子両親は、救いようのない屑野郎ですしね。


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75話

今回は、なぜ政府が幸太郎の病気の恐ろしさを知っているかの回答です。

セリフ多めになります。
ご了承ください。


松陽「すまないね。歳をとってくると、涙腺が緩くなってしまう。

さて、一夏くんが聞きたかった話は何だったかな…、そうだった。幸太郎の詳しい病状を、なぜ政府が知ってるか…だったね。」

 

松陽がそう言った瞬間、マイルナとアルベルトの顔に緊張が走った。

そして何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。

 

アル「松陽さん、その事は俺達が説明しますから松陽さんの口から言わなくても…。」

 

松陽「気を使ってくれてありがとう。でも、この事だけは私の口から説明したいんだ。

それに、束ちゃんとラウラちゃんとリアネールちゃんには、幸太郎の全てを知って貰いたいんだ。」

 

松陽に名前を呼ばれた三人は、覚悟を決めた。

それは、どんな理由があろうとも、幸太郎への愛を捨てないでほしい。

 

そんな松陽の想いを、受け入れたからだ。

 

松陽「どこから話そうかな…。そうだね、君達が産まれてくる前の日本は、世界の中でも立場が低かったんだ。

と言っても、公には欧米列強とは対等な関係だったけどね。」

 

千冬「それはやはり、核の保有や軍隊の有無に関係があるんですか?」

 

松陽「千冬ちゃんの言う通りだ。それで日本政府は、どうにかして世界に核に変わる抑止力が欲しかったんだ。

武力を持てば、国外は元より国内からの批判があるからね。

でも、そう簡単に見つからなかったんだ。」

 

松陽「そこで政府が目をつけたのが、生物兵器なんだ。

これなら、目には見えないから国民には知られにくいし、それに感染した患者を標的国に送り、そこで感染させれば、決定的な証拠は残らない。

そして欧米列強に、大きな兵器としてアピールも出来る。」

 

松陽の言葉に、千冬と束は心から失望していた。

政府の事ははなから信用して無かったが、ここまで酷いとは考えたもなかったからだ。

 

松陽「そして政府は、様々なウイルスを研究したが、どれも上手くはいかなかった。どのウイルスも、ワクチンや予防法が簡単に出来てしまい、とても兵器と喚べる代物は出来なかった。

政府がこのプロジェクトを諦めかけた時に、私達夫婦の間に幸太郎が産まれたんだ。」

 

松陽「幸太郎の体内の病原体には、世界中のあらゆるワクチンも特効薬も聞かない。だから政府は、それに目をつけた。

でも、その病原体の感染力や他人に感染した時の効果を政府はまだ知らなかった。

人体実験をするにも、世間の目がある。そこで選ばれたのが…。」

 

束「ま、まさか…嘘ですよね。」

 

松陽「束ちゃんの予想通り、私達夫婦だった。政府としては、私達紅グループが邪魔だったんだろう。

裏社会の人間を雇い、私達夫婦と他数名を拉致したんだ。」

 

アル「その頃に、俺達の会社はまだ無かったんだ。だから…だから!

助けることが出来なかったんだ!」

 

そう言ってアルベルトは、拳を握りしめ涙を流した。

 

松陽「だから、そんなに自分を責めるなと言ってるだろう?

話を戻そう。そして政府は、私達を感染させ実験を行ったんだ。

その実験で…。」

 

そこまで言うと松陽は、体を震わせながら大粒の涙を流しだした。

 

マイルナ「松陽さん、それ以上は!」

 

松陽「大丈夫だよ。ここまで来たからには、話さなくてはね。

その実験で、私は臓器の幾つかと、右目の失明。私の妻、そして幸太郎の母である奈々は、死んでしまったんだ…。」

 

松陽が話した真実に、千冬達は言葉を失い、同時に絶望した。

 

アル「そして政府は、その機関を表向きは取り締まり、関係者を裁いた。

けど真実は、政府がその機関がバレない様に吸収しただけだ。だから実験結果も、全て政府に渡ってるのさ。」

 

松陽「本当なら、今すぐにでも政府に復讐してやりたい。でも、私が成すべき事は復讐ではなく、幸太郎を護ることだと思っている。

それが、奈々の最後の言葉でもあるからね。」

 

松陽は、涙を拭いながら話終えた。

 

 




何処までも、救いようのない政府ですね。
自分達の為だけに、奈々さんを殺すなんて!

本当に最低な政府ですね!


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76話

思った以上に重く辛い話に、この場の空気がシンと静まってしまった。

 

そしてこの場をどうにか変えようと、一夏が動いた。

 

一夏「そ、そう言えば奈々さんってどんな人だったんですか?

写真か何かが、残ってたりしないですか?」

 

いつもなら、空気が読めない一夏に皆は困っていたが、この時ばかりはそんな一夏に感謝していた。

 

一夏の考えを感じた松陽は、気持ちを切り替える為に一夏の考えにのった。

 

松陽「そうだね…、一言で奈々を説明するのなら、愛される人。だな。」

 

そう言って松陽は、1枚の写真を取り出し一夏達に見せた。

 

そこには、松陽と幸太郎と思われる赤ちゃん、そしてとても美しい女性が写っていた。

 

一夏「この人が奈々さんか…。凄く美人ですね…。」

 

箒「こ、こら一夏!何を鼻の下を伸ばしているんだ!」

 

セシリア「そうですよ一夏さん!もしかして一夏さんは

人妻がお好きなのですか!?」

 

一夏の事を好きな箒達が、一夏に詰め寄った。

 

その光景を見て、松陽は微笑んだ。

 

松陽「やはり、奈々は魔性の女だね。今まで奈々を見た総ての人が、奈々に対して恋に落ちる。

現に一夏くん以外の皆も、そうなんだろ?」

 

松陽の質問に、皆は下を向いた。

それは肯定を意味する行動である。

 

アル「そんな心配するなよ。俺達の孤児院では、奈々さんを見て恋を知る。

と、言われたくらいだからな。俺もマイルナも、初恋は奈々さんだ。」

 

マイルナ「そうよ。奈々さんは、言葉には表せない魅力があるわ。

その魅力の前では、性別も年齢もカップルも夫婦も関係無くなるわ。」

 

松陽「二人の言う通り、奈々は素敵な女性だった。そんな奈々が、こんな私を選んでくれたんだ。

それが、私が産まれてから一番の幸運だったね。」

 

そう言った松陽の顔は、恥ずかしそうに照れながら真っ赤になっていた。

 

松陽「幸太郎は、本当に奈々にそっくりだよ。あの優しさに笑顔、そして愛される。

私に似て無くて、本当に良かったと常々感じるよ。」

 

アル「そんな事ないですよ。誰かの為に、自分を犠牲にして助けるのは、松陽さんにそっくりですよ。

それに、あの無邪気な所は松陽さんです。」

 

松陽「そんな事はないよ。私なんて、元々はごみ溜めに住んでた様な、下級の人間さ。

奈々と出会わなければ、腐った精神で死んでいく。

そんなダメな男ですよ。」

 

千冬「松陽さんって、もしかして孤児だったんですか?」

 

松陽「孤児なんてレベルでは無いよ。産まれてから人権の無い、存在すら認知されない様な場所、言わば社会の闇で産まれたのが私ですよ。」

 

束「社会の闇…、やっぱり戦争が原因なんですよね。でも今は、義父様が作った孤児院のお陰でそんな子供は減っているんですよね。」

 

マイルナ「えぇ、貴方の言う通りよ。松陽さんは、二度と自分の様な暗い寂しい時間を、子供達に過ごして欲しくない。

そんな願いで、世界中に孤児院を建てたのよ。」

 

一夏「そうだったんですか。じゃあまだ聞きますけど、松陽さんと奈々さんの出会いって、どんな感じなんですか?」

 

松陽「出会いですか…、そうですね…どこから話そうか。きまりました。」




男も女も惚れさせる、奈々さんは本当に魔性の女ですね。
幸太郎の周りは、本当にハイスペックの集まりですね。

次回は、松陽と奈々さんの出会いを簡単に少しだけ説明します。
お楽しみに!


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77話

今回も、台詞多目でお送りします。

後、短めです。


松陽「私が産まれた土地は、はっきり言ってこの世の地獄でした。

飢饉に伝染病、政府からの弾圧で私達に希望などありませんでした。

生きて行くには、盗みか最悪誰かを殺めなければ明日も生きられない。それが、私の産まれ故郷です。」

 

松陽「そこの皆が、未来を諦めて次々と息をひきとって行くなか、私はどうしても生きて外の世界に出たかったのです。

こんな所で死ぬなんて、まっぴらゴメンでした。」

 

松陽「私が11になった頃、私だけになった故郷に奈々と、後に義父様になる宗次郎氏が現れたんです。」

 

千冬「寿 宗次郎と言えば、少し前まで世界一と言われた程、財力と影響力を持っていた人ですよね。

と言うことは、奈々さんは本当のお嬢様って事ですよね?」

 

松陽「えぇ、千冬ちゃんの言う通りですよ。ですが、その事を奈々に言うと、嫌な顔をされます。

奈々は、親の脛をかじったり寿家の名前を出すのを嫌う、しっかりとした子でした。

そんな奈々は、私を見ると宗次郎さんに何か耳打ちをしました。」

 

松陽「そして宗次郎さんは、私に『我が家で働かないか?』と誘ってくれたのです。

外に出たかった私は、二つ返事で了承しました。そして私は、奈々専属の執事として寿家に住む事になりました。

これが、私と奈々の出会いです。本当なら、最も複雑で長いお話ですので、今日は短めにしました。」

 

一夏「なるほど…、それでお嬢様と執事の恋が始まり、二人は結婚したんですね。

ふぅ~ん、凄くロマンチックな出会いですね!」

 

松陽「フフッ、ロマンチックですか。私にとって奈々や寿家は、命の恩人であると同時に、名付け親でもあります。元々名前など無かった私に松陽と名付けたのが、奈々でした。

私は奈々の旦那として、そして寿家の執事として、寿家の後継者である幸太郎を護っていかなければならないのです。」

 

そう言った松陽の顔からは、ただならぬ覚悟が感じられた。

 

松陽「ですが、幸太郎の事は息子としても愛していますよ。良き父であると同時に、私の使命を果たさなければならない。

それが、私が生きている理由ですね。」

 

箒「まさか、そこまでお考えになってるなんて…。それでは、心に重圧が多すぎて松陽さんが潰れそうですけども、大丈夫なんですか?」

 

松陽「確かに、時々精神的な疲れは襲ってきます。それこそ、押し潰されてしまいそうな程です。

ですが、それ以上に幸太郎の笑顔を見ると、そんな疲れも全て吹き飛んでしまいますよ。」

 

その瞬間、部屋の扉が開いた。

 

そして、そこには顔色が優れず体調も悪そうな幸太郎がいた。




松陽と奈々の出会いを、簡単ではありますが説明しました。
詳しい事は、またいずれアルベルトとマイルナの出会いと同時に、番外編を作りますのでお待ちください。


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78話

マイルナ「幸太郎!無理して起きてこなくても良いって、言ったでしょ!」

 

幸太郎「ゴメンねお姉ちゃん…、でもパパの声が聞こえて…。」

 

幸太郎は、ふらつく足でゆっくりと部屋に入ってきた。

 

一歩一歩歩くたびに、松陽の顔に焦りと心配の色が見えてきた。

 

松陽「大丈夫なのか幸太郎!痛いところは?熱があるんだろう?そんな状態で、歩いて来たのか!

気分は悪くないか?目眩は?頭痛は?もし辛いんだったら、お父さんに言いなさい。」

 

さっきまでの紳士的の振る舞いとうって変わって、幸太郎の為にあたふたする姿は、まさに父親そのものだった。

 

幸太郎「大丈夫だよパパ。それよりも…。」

 

そう言って幸太郎は、松陽に抱き着いた。

 

幸太郎「エヘヘ//久し振りのパパの匂いだ。ねぇパパ、今日はどんな用事があって来たの?

何か面白い話があるなら、聞かせてよ。」

 

松陽「ふぅ…、しょうがない子ですね。良いですよ、タップリ聞かせてあげますから、ソファーに座りなさい。」

 

そして、ソファーに座った幸太郎を横たわらせ、松陽は膝枕をした。

 

松陽「これなら、少しは楽になると思いますよ。でも、少しでも体調に異変があるならば、すぐに私に言いなさい。」

 

幸太郎「うん!エヘヘ、久し振りのパパの膝枕だ。凄く嬉しいな。」

 

嬉しそうに笑う幸太郎の笑顔は、束達が見たことの無いほど、輝いている笑顔だった。

 

一夏「それにしても、松陽さんの変化と言うか、変わりようは凄いですね。」

 

アル「そうだろ?幸太郎の前での松陽さんは、まさに言葉通りのお父さんだ。

子煩悩で優しく、愛情タップリで接するあの姿。普段の凛々しさとこのギャップが、松陽さんの素敵な所なんだよ。」

 

そう熱弁するアルベルトの姿は、まさに憧れのヒーローを前にした子供だった。

 

マイルナ「もう、幸太郎が来たときは、本当に驚いたのよ!?

でも、精神的に癒しとリラックスが出来れば、少しは病状も安定してくると思うわ。」

 

幸太郎と松陽の姿を、一夏は羨ましそうに見ていた。

 

そんな一夏を見た千冬の顔は、後悔と悲しさが感じられた。

 

束「ちーちゃん…、ちーちゃんは悪くないよ。それにちーちゃんは、いままでいっくんの事を大切に育てて来たじゃない。

いなくなった両親の代わりに、いっくんの為に尽くしてきた。だから、ちーちゃんがそんなに傷つく事はないよ。」

 

千冬「ありがとう束。だが、幼かった一夏に必要だったのは、親代わりの私では無く、本当の両親からの愛情だったんだ。

そのせいで、一夏には寂しい想いを沢山させてしまった。」

 

一夏「千冬姉!俺は別に、寂しいだなんて思った通り事は無いよ。

確かに、昔はちょっと寂しいって想う時もあったけど、千冬姉がいたから俺はここまで来れたんだ。」

 

一夏がそう言うと、千冬は一夏をギュッと抱き締めた。

 

千冬の目には、うっすらだが涙が浮かんでした。

 

アル「一夏の言う通りだぞ?産んでくれた両親も大切だがよ、本当に大切なのは自分に愛情を注いでくれた育ての親だ。

そうだ!ついでだからよ、俺のガキの頃の話をしてやるよ。ちと、重いかも知れないけど、気にせず聞いてくれ。」




圧倒的お父さん!
やはり松陽は、理想のお父さんです!

こんなに愛されて育ったからこそ、幸太郎はこんなにも立派になれたんですね。

次回は、アルベルトの幼い頃の話です。
どうやって孤児になったのか、どうやって松陽に会ったのかを、紹介します。
お楽しみに!


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79話

今回も、セリフ多目です。

しかも、内容が少しだけ重いかもしれません。
ご了承ください。


アル「さっきも話したと思うが、俺の故郷は内戦で酷い有り様だった。

しかも、俺の親父は軍人だったが部下に反乱をおこされ、処刑されちまった。母親は、そんな軍人相手に体を売る仕事をしてたのさ。」

 

アルベルトの話に、一夏と千冬は戦慄していた。

 

一夏「体を売るってことは…そう言う事ですよね?」

 

アル「一夏の考え通りさ。おかげで、俺の遺伝子上の父親は処刑された親父じゃ無いかもな。」

 

笑いを交えながらアルベルトは話したが、とてもでは無いが嗤える内容ではない。

 

アル「話を続けるぞ?それでまだ赤ん坊だった俺を、仕事の邪魔だって事で、母親は暗い路地裏に捨てようとしたんだ。

そこで現れたのが、松陽さんと奈々さんだ。」

 

アル「自分と同じ子供を増やしたく無い松陽さんは、想像できない位烈火のごとく怒ったらしいが、それでも母は俺を手放した。

そして俺は、松陽さん達の孤児院に引き取られたんだ。」

 

千冬「母に捨てられたですか。それは随分と悲しい事ですね。

私達も両親がどこかに行ってしまったので、お気持ちは察します。」

 

アル「思い出があるお前らには負けるよ。で、俺が松陽さん達に初めて思ったのが、偽善者だ。

孤児院だって金持ちの道楽、孤児達を集めて優越感に浸ってるんだと、本気で思ってたんだ。」

 

アル「もしかしたら、政府から援助金を貰ってるなんて、最低な考えばかりが、たまっていったんだ。

だがな、そうやって一方的に敵意剥き出しだったアルベルト少年は、ある日その愚かな考えを悔いる事になるんだよ。」

 

アル「その日松陽さんと奈々さんが、二人で出掛けてくのを見た俺は、後を追ってみたんだ。

そしてふたりは、りっぱに作られた一つの墓の前に来てたんだ。」

 

千冬「そのお墓って、誰のだったんですか…まさか!?」

 

アル「あぁ、その墓は俺の親父のだったんだ。その日は親父の命日だったらしく、二人でわざわざ参りに来たらしい。

しかもその墓は、松陽さんが作ってくれたんだってな。」

 

アル「墓に手を合わした後、親父に向かって俺の成長や孤児院での生活ぶりを、楽しそうに報告する二人を見て俺は、はじめて心から涙を流したよ。

後々聞いたんだが、世界中にある孤児院にいる、両親を失った孤児全員の親の墓をたててくれて、しかも命日に必ずお参りに今も行ってるらしい。」

 

一夏「全員って事は、相当な数ですよね!?それを自腹で墓をたてて、しかも命日に墓参りまで行くなんて、本当に凄いですね。」

 

アル「凄いなんてものじゃねぇ。あの人は…あの人達は本当に優しい人なんだよ。

だからよ、そうやって沢山愛してもらった恩返しとして、今度は俺達が幸太郎を護ってやるのさ。」

 

そう言ったアルベルトは、松陽と楽しそうに話している幸太郎を見た。

 

その目には、強い意志が感じられる。

 

アル「まっ、俺の過去はこんなかんじだな。母親とは今でも連絡は取れないし、正直生きてるかどうかも知らない。

でも、俺は二人に拾われてとっても幸せさ。松陽さんと奈々さんに、会えたし、愛する妻とも出会えたしな。」

 

そう言ってアルベルトは、マイルナの頬にキスをした。

 

マイルナ「い、いきなり何するのよ!もう、みんなが見てるじゃない。恥ずかしい//」

 

乙女の様に赤面するマイルナを見て、一夏達はこの夫婦は本当に相性が良いんだと、改めて実感した。




アルベルトの過去話です。
そ、壮絶な幼少期ですね…。

中々ハードですね。


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80話

それから少し時間が過ぎ、病み上がりどころか体調がまったく優れない幸太郎は、話疲れたのもあり松陽の膝枕で眠っていた。

 

膝枕をしている松陽は、眠っている幸太郎の頭を優しく撫でながら、微笑ましそうに笑っていた。

 

松陽「やはり、いくつになっても愛する我が子の寝顔というのは、癒されるものですね。」

 

ラウラ「確かに、いつも私が見ている寝顔と違って、安心しているというか、童心に帰っているというか…。

確実に言えることは、嫁は松陽さんを信じきっていると言うことだな。」

 

と、得意気に言うラウラを見て、松陽はラウラの頭も撫でた。

 

ラウラ「し、松陽さん//いきなり何をするんですか!私には、嫁という心に決めた人が!」

 

松陽「いや、いきなり申し訳ない。ですがドヤ顔?と言うんですか?それをしていたラウラちゃんが、幸太郎に雰囲気が似てたのでつい…。」

 

束「何を焦ってるんだよラウラ?義父様に撫でられるなんて、本当なら物凄い事なんだよ。」

 

リネ「そうですよラウラ様!出来る事なら、私が代わりたいですよ!羨ましい!」

 

松陽「こんな事で喧嘩しないで下さい。こんなおじさんでよければ、束ちゃんとリアネールちゃんも撫でてあげますよ。」

 

松陽からの提案に、二人はその提案に賛成した。

 

松陽に撫でられている二人は、まるで犬の様に嬉しそうになっていた。

 

そして二人を撫で終わると松陽は、腕時計で時間を確認した。

 

松陽「さて、私はこれでおいとましますよ。」

 

そう言って松陽は、寝ている幸太郎をお姫様だっこでもちあげた。

 

松陽「幸太郎の部屋はどこですか?幸太郎もすっかり疲れていると思うので、そろそろふとんで寝かしてあげましょう。」

 

アル「それでしたら、俺が幸太郎を連れていきますよ。松陽さんもお疲れかも思いますし、変わりますよ。」

 

松陽「お気遣い感謝します。ですが、寝ている我が子をふとんに運ぶのも、父親としての仕事ですので、私にさせてください。

…そうだ、思い出しました。」

 

部屋から出ていこうとした松陽は、なにかを思い出したのか部屋の方に振り返った。

 

松陽「皆さん、来週は予定を開けておいて下さい。」

 

一夏「良いですけど、なにか用事でもあるんですか?」

 

松陽「えぇ。もうすぐ幸太郎の誕生日ですので、宗次郎さんが今年は盛大な誕生パーティーを開くので、よければ皆さんにも参加していただきたいと思ったんです。」

 

宗次郎の名前に、大人組と幸太郎を愛するラウラとリアネールに大きな緊張が走った。

 

なぜなら相手は、あの生きる伝説とまで言われた事のある本物の寿 宗次郎だからだ。

 

松陽「服装等は、いつも着ている様な楽な服装でかまいませんよ。それでは、来週またお会いしましょう。」

 

そう言って松陽は、部屋から出ていった。

 

~~~一週間後~~~

 

そして一週間後、一夏達は松陽が指定した駅前に来ていた。

幸太郎と松陽は、後から合流する事になっている。

 

一夏全員、スーツ等の正装をしていた。

 

千冬「ほら一夏、ネクタイが曲がっているぞ。もっとシャキッとしないか!」

 

一夏「もうこんな堅苦しい格好しなくても、松陽さんは普段着で良いって言ってたじゃんか。

こんなしっかりとしたスーツなんて、俺には似合わないと思うぜ?」

 

一夏がそうぼやくと、千冬は一夏にデコぴんをした。

 

千冬「バカ者!相手を考えろ。相手は一般人とは違うんだぞ!

まったく…、それよりも駅の中もそうだがここに来るまでの道中、なぜか賑やかに飾られていたな。」

 

マイルナ「松陽さんが言ってたでしょ?今年は盛大なパーティーにするって。

先に言っておくけど、この東京全て寿家の所有地と言っても過言じゃ無いわよ。」

 

マイルナの発言に、一夏達が大いに驚いたのは簡単に想像出来た。

 

すると一夏達の前に、一台の車が停車した。

中から、執事姿の松陽と幸太郎がおりてきた。

 

千冬「おはようございます松陽さん。松陽さんは、執事の格好なんですね。」

 

松陽「えぇ。私は宗次郎さんの義息である前に、寿家の執事ですからね。

これが寿家に伺う時の、私の正装です。

それでは皆さん、これより寿家に向かいますので車に乗ってください。」

 

こうして一夏達は、松陽の運転で寿家への出発したのだった。




東京全てが所有地だなんて、寿家恐るべし!
いや…凄いなんて生易しいレベルじゃないですね。

まさに、世界一の寿家ですね。


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81話

~~~車内~~~

 

寿家に向かう道中、車内は妙な静けさに包まれていた。

 

幸太郎の祖父母に会うのを、緊張している人。

世界一の有名人に会えると、楽しみにしている人。

 

そして、回りの空気に感化されている人。

 

ある意味、車内は期待通りの空気になっていた。

 

松陽「それにしても、わざわざそんな正装をしてこなくても良かったのですよ?

貴方達皆さんは、幸太郎の親しい関係。つまり、私達からすればお客様なのですから。」

 

一夏「ですよね?俺も普段着で行こうと思ったんですが、千冬姉がこれを着ろってうるさくて・・・」

 

一夏がそう言った瞬間、千冬は一夏の頭をおもいきりチョップした。

女性がするチョップとは思えない鈍い音がし、運転している松陽は心配そうに振り返った。

 

松陽「大丈夫ですか一夏くん!?明らかに、痛そうな音がしましたよ!」

 

束「そうだよちーちゃん。大きな音を出して、幸太郎が起きたらどうするつもりなんだよ。」

 

一夏「えっ!?心配するのそっち!?」

 

一夏は涙目になりながら、チョップされた場所を押さえていた。

 

千冬「心配はいらんぞ一夏。そんな簡単に人の頭は割れたりはせん。

それに、例え松陽さんが楽な服装でも良いといおうが、正装をしてくのが招待してもらった方の、最低限の礼儀だぞ。

それにな・・・」

 

涙目の一夏に千冬は、デコぴんをかました。

 

一夏「な、なにするんだよ千冬姉!まだ頭の方も痛いままなんだよ。」

 

千冬「先生がと呼べと、何度も言ってるだろ。今日は学校行事ではないが、私はお前達の責任者、教師として行くんだ。

公私をしっかりと弁えるのも、一社会人としての常識だぞ。

それにおまえは・・・」

 

ラウラ「教官、今日くらいはそれくらいで済ましても良いのでは無いですか?

嫁の誕生日パーティー前に、暗い気分になってしまいます。」

 

このままだと、一夏へのお説教が長引いていまうと感じたラウラは、すぐさま千冬をクールダウンさせた。

 

千冬「まぁ・・・そうだな。だが、学園に帰ったら、存分に言いたい事を言わせてもらうからな。」

 

松陽「フフッ、やはり貴方達姉弟は、仲がよろしいんですね。その掛け合いを、是非とも宗次郎さんの前でも見せて欲しいものですよ。」

 

と、松陽が楽しそうに笑うと、千冬は少し焦っていた。

 

千冬「そ、そんな無礼な事は出来ないです。人様に見せる様な、大層なものでも無いですし、相手があの宗次郎氏です。」

 

松陽「それなら、心配は無いです。宗次郎さんは、とても豪傑な御方です。逆に気を使いすぎると、それこそ機嫌を悪くされますよ。

ですので皆さん、宗次郎さんの前に立ったら、ちょっとした冗談話でもしてください。

それの方が、宗次郎さんも喜ばれます。」

 

一夏「なんだ。ちふ・・・、織斑先生や束さんが緊張するくらいだから、どんな人かと思ったけど、話だけ聞くと気さくそうな人なんですね。」

 

箒「こら一夏!さっき織斑先生が言った事を、もう忘れたのか!お前の想像してる気さくさと、社会人の常識の範囲の気さくは、訳が違うんだぞ!」

 

鈴音「そうよ!あんたの間違った態度で、宗次郎さんの怒りに触れでもしたら、私達全員消されるかもしれないのよ!」

 

一夏「さすがに、それは言い過ぎだろ?相手が誰であろうと、お前達は代表候補生だし俺達はIS学園の生徒だぞ?」

 

箒と鈴音の心配がわからないのか、一夏は呑気な返事をした。

 

セシリア「わかって無いのは、一夏さんの方です。鈴音さんが言った事を簡単に行えるのが、寿家の力なのです。」

 

事の重大さ、そして寿家の凄さを感じてきたのか、一夏は恐る恐る千冬の方を見た。

 

それは、三人が言っている事が本当か確かめる為でもある。

 

千冬「はぁ・・・、ここまで社会を知らんとは。まったく、呆れてモノも言えん。

三人が言ってる事は本当だ。それより、その程度で済めば良いんだがな。」

 

千冬の言葉に、一夏は顔面を真っ青にした。

 

松陽「皆さん、そんなに一夏くんを脅かしてはいけません。確かに宗次郎さんにかかれば、その程度の事は瞬時に出来ます。

ですが、それくらいでそんな事をしていては、寿家の当主は勤まりませんよ。

さぁ、ようやく目的地の寿家が見えてきましたよ。」

 

こうして一同は、無事?に寿家に到着することが出来たのだった。




一夏は無知と言いますか、フレンドリー過ぎてそれが仇にあるのかなぁ・・・って感じですね。

それが一夏の良いところであり、逆に悪すぎるところでもありますね。


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82話

車を駐車場に停めて、一同は松陽の案内で入り口に向かっていた。

 

幸太郎「それにしても、久しぶりにおじいちゃんとおばあちゃんに会うな。なんか、緊張じゃ無いけどそわそわするねパパ。」

 

松陽「そうですね。かんがえてみたら、幸太郎が宗次郎さんと桜華さんと会うのは、大体一年ぶりくらいでしたね。

御二人とも、今日幸太郎と会うのを楽しみに待っていますよ。」

 

そう言って松陽は、幸太郎と手を繋いで歩きだした。

手を繋いでいる幸太郎は、無邪気な子供のように嬉しそうに笑っていた。

 

一夏「アルさん。さっき松陽さんが言ってた桜華さんって、誰のことなんですか?」

 

アル「御前は・・・、本当に何も知らねぇんだな。話の流れで、大体はわかるだろ?

桜華さんは宗次郎さんの奥さん、つまり幸太郎の祖母だ。」

 

マイルナ「そうよ?それに、桜華さんも宗次郎さんに負けず劣らず凄い人なのよ。

寿家の繁栄に、桜華の力あり・・・、って世間では言われてるわ。

それにあやかって、華の寿家なんて昔は呼ばれてたのよ。」

 

マイルナとアルベルトの話が、いまいちパッと来なかった一夏は曖昧な返事を返した。

 

そんな一夏の態度を見た二人は、呆れた様にため息を吐いた。

 

アル「おい一夏、お前は世界初の男子IS操縦者なんだぞ?もしかしたら、これから世界中のVIPや著名人に良くして貰うかも知れないのに、相手が誰か知りませんじゃ、大問題だぞ?

千冬に束、お前らももっと前の段階からいろいろな教えておけよ。ISの操縦より先だろ?」

 

アルベルトの言葉に、図星だと思った千冬と束はぐうの音も出なかった。

 

松陽「まぁまぁ、そんなに三人を責めてはいけません。その誰が相手だろうが恐れない無知さが、一夏くんの強みでしょう。」

 

一夏「うぐっ、意外と松陽さんも厳しい事を言いますね。無知さか・・・、学園に帰ったらしっかりと、勉強しようかな。」

 

そうしている内に、一同は入り口の前に到着していた。

 

見るからに豪邸とわかる大きな入り口に、さすがの一夏も緊張していた。

 

「お待ちしておりました皆様。ここからは、私がご案内致しますので、よろしくお願いいたします。」

 

松陽「わざわざお迎えなんていらないと、あれほど言っておいたのに。

お前は相変わらず、堅いなリズ。」

 

リズ「さすがに、師匠をお迎えに行かない訳にはいきません。」

 

松陽「紹介します。この男は、リズリー・ネイフィールと言い、簡単には言いますと、二代目の寿家専属執事です。」

 

リズ「ご紹介にあずかりましたリズリー・ネイフィールです。以後お見知りおきを。」

 

リズは、ブカブカと頭を下げた。

 

アル「相変わらず、お前は良い子ちゃんだね?昔からドジばっか踏んでたお前が、今じゃ松陽さんの後釜とは。」

 

リズ「何が言いたいんだアホベルト。お前こそ、相も変わらず悪さばかりで、すごしているんだろ?」

 

アル「んだと!?誰がアホだ!?」

 

リズ「アホにアホと言って、何が悪い!?」

 

さっきまでの強かな雰囲気から一転し、今すぐにでも喧嘩をしてしまいそうな程、二人は火花を散らしていた。

 

ラウラ「い、一体何が起きてるんですか?」

 

マイルナ「言ってなかったわね。アルもリズも、同じ孤児院出身なのよ。それに昔から、顔を合わせると口喧嘩ばかりで。

しかも内容もしょうもないのよ。」

 

アル「俺の方が、幸太郎の為になってるね!その証拠に、俺は幸太郎の兄なんだからな!」

 

リズ「お前みたいな野蛮人が近くにいては、幸太郎様に悪影響なんだ!本当に幸太郎様の為になるのは、私なのだ!」

 

松陽「はぁ・・・、二人とも口喧嘩は止めようね。」

 

松陽が少し低いトーンで話すと、二人は口喧嘩をピタリと止めた。

 

松陽の表情は笑顔だったが、確実に恐怖のオーラが出ていた。

 

松陽「幸太郎を想ってなのは、嫌というほど伝わりました。ですが、今は私達を案内するのが先でしょう?」

 

リズ「は、はい!すみません!」

 

松陽の一言で、リズは案内を開始した。

 

一夏「松陽さんも、怒ると怖いんですね。ていうか、幸太郎さんの周りの人って、なんであんなに怖いオーラを出すんだろうな。」

 

一夏の率直な疑問に、誰もが同じ意見だった。




無事に到着です!

そして新キャラ、リズ登場です。
ポジションとしては、アルの悪友?ですかね。

そして名前だけですが、桜華さんも登場です。
夫婦そろって、規格外です・・・。

怒ると怖いね、松陽さん。


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83話

リズリーの後について歩いていると、犬の鳴き声が近づいてきた。

 

幸太郎「あっ、大和だ。ごめんね大和、本当はずっといたかったんだけど、注射とか色々しなきゃいけないみたいだったんだ。

でもこれからは、一緒にいられるね。」

 

幸太郎は、愛犬である大和に顔を舐められながら嬉しそうにしていた。

そんなようすを見たリズリーは、少し羨ましそうに見ていた。

 

リズ「あの犬は、幸太郎様の犬だったのか・・・。クッ!幸太郎様のまぶしい笑顔。

いつみても、癒されるものだな。」

 

アル「なんだ?もしかして、犬相手に嫉妬でもしてんのか?

相変わらず、心が狭い男だな。」

 

そう言いながらアルベルトは、リズリーの尻を軽く蹴った。

 

すぐに反撃しようとリズリーは振り向いたが、松陽に見られて前を向き直した。

 

一夏「それにしても、凄く長い道ですね。ゴールがまったくみえないぜ。」

 

千冬「こんな程度で音を上げるとは、まだまた鍛えが足りない様だな。」

 

すると千冬は、躓いてしまいこけそうになっていた。

だがその瞬時、リズリーが優しく体を支えていた。

 

リズ「大丈夫ですかお嬢さん。転けてしまわれますと、折角のお召し物が汚れてしまいますよ。」

 

千冬「あ・・・ありがとう。助かりました//」

 

そして再び、リズリーは先頭に戻った。

 

普段、世間からは強い人間と祭り上げられ、勝手に尊敬され、うんざりしていた千冬にとって、ここまで女性として扱われる事は、なれない事だった。

 

アル「悪いことはいわねぇ。リズみたいな男は止めとけ。あいつは、俺と同じくらい性格が腐ってるからな。」

 

千冬「べ、別にそんな事じゃありませんよ//私はただ・・・」

 

恥ずかしそうにモジモジしている千冬は、まるで乙女のような顔をしていた。

そんな普段見ることが出来ない表情に、一夏達は茫然としていた。

 

ラウラ「まさか、教官があのような表情をするなんて。これが、噂の恋の魔法と言うやつなんだな。」

 

鈴音「千冬さんからみれば、あんたもおんなじ様なものよ。でも良かったじゃない一夏。

このまま上手くいけば、あのリズリーって人が義兄さんになるかも。」

 

鈴音がそう言うと、一夏は渋そうな顔をした。

 

一夏「いや・・・、俺だって千冬姉に幸せになって欲しいけど、あんまり素性も知らない男に、千冬姉を渡すのもなぁ。」

 

一夏がそう呟くと、千冬は一夏にチョップを繰り出した。

 

千冬「私を物みたいな発言は止めて貰おう。それに、織斑先生と呼べ。お前もだ、ラウラに鈴音。」

 

そのまま、ラウラと鈴音にもチョップをした。

 

アル「どうだリズ、織斑千冬は?なかなかおもしろい女だろ?それに、モンドなんたらって大会の優勝者だしな。」

 

リズ「確かに、あの女性は強くて凛々しい人だ。だが、大切なモノをまもる強さももっている。

それに、意外と女の子らしいところもある。そうゆう子は、タイプだな。」

 

マイルナ「出た、リズお得意の人間観察。それの嫌な所って、間違ってないところよね。

ほんと、リズの洞察力には驚かされるわ。」

 

リズリーにタイプと言われた千冬は、もっと恥ずかしそうに赤面していた。

 

すると、和服姿の女性が近づいてきた。

 

「予定より遅いじゃないリズ。宗ちゃんが心配してたわ。」

 

リズ「すみません桜華様。こいつのせいですよ。」

 

そう言ってリズリーは、アルベルトの背中を押した。

 

アル「違いますよ桜華さん!俺は何も悪くないですよ!?」

 

桜華「はぁ・・・、何でも良いわ。どうせ、二人の口喧嘩で遅くなったんでしょ?宗ちゃんも、わかってるわ。」

 

幸太郎「久しぶりおばあちゃん!会いたかったよ。」

 

幸太郎は、どうみても齢70を越えているとは思えない程、若々しい女性、寿 桜華に抱きついた。




皆さん、豆柴の大和を忘れていませんか?

はっきり言うと、私は忘れてました。

いよいよ、桜華さんの登場です!?
70に見えない程若々しいなんて、まさに美魔女ですね。

そして、千冬にやっとフラグが立ちました!
もしこのままゴールインすれば、幸太郎の周りは本当に凄い人で固められますね。


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84話

桜華「あら幸太郎。こんなに大きくなって。おばあちゃん、本当に感激だわ。」

 

そう言って桜華は、静かに微笑みながら抱きついて来た幸太郎を、やさしく抱き締め返しながら頭を撫でた。

 

幸太郎「もうおばあちゃん//そんなに頭を撫でないでよ。凄くくすぐったいよ。

そう言えばおじいちゃんは?」

 

桜華「宗ちゃんなら、貴方の誕生パーティーの準備をしてるはずよ?

でも、もう終わってると思うわ。

だから、早く私達も行きましょ?さぁ幸太郎、今度はおばあちゃんと手を繋ぎましょ。」

 

松陽「あっ、桜華さん。それなら、私が幸太郎を連れていきますよ。

わざわざ、桜華さんのお手を煩わせる訳にはいきません。」

 

桜華「貴方はいつまでたっても、執事だった時と変わらず頭が固いままね。そんな事、 何とも想って無いわよ。

それに、たまには自分の立場を忘れて可愛い孫と過ごしたい祖母心よ。」

 

桜華がそう言うと、松陽は納得せざるを得なくなり、そのまま一同は先頭を歩く桜華と幸太郎の後につづいて歩みを進めた。

 

そして長い廊下を数分間歩いて行き、桜華は1つの部屋の前で止まった。

 

桜華「この部屋に宗ちゃんがいるわ。さて、宗ちゃんいる?」

 

桜華がドアをノックすると、中から渋い声で返事が聞こえてきた。

 

宗次郎「あぁ、ずっと前から待ってたぞ。全く、全然こないから心配してたんだぞ。」

 

桜華「さぁ皆、中へ入りましょう。」

 

桜華に案内され中に入ると、見るからに高級そうな立派な椅子に腰かけた、桜華と同じく70を過ぎているとは思えない男が座っていた。

 

宗次郎「ようこそ皆さん、我が寿家の屋敷へ。俺が寿家現当主、寿 宗次郎だ。」

 

宗次郎はそう言って千冬達の方へと、近づいていった。

 

宗次郎が近づくにつれて、千冬達は緊張と恐怖、そしてある種の喜びの心が芽生えていた。

 

そんな中、一夏だけは宗次郎の顔を見て何か考え事をしていた。

 

そして一夏は、思い出した様に多きな声を上げた。

 

千冬「なんだ一夏、突然大きな声なんか出して。宗次郎さんの前で失礼だろ。」

 

一夏「思い出した・・・思い出したんだよ!!あんた、二年前に駅で迷ってたあのおっさんだろ!」

 

千冬「おい一夏!!何度も言っているだろう!お前はどうして、そこまで無礼なんだ!

しかも相手は、あの寿 宗次郎だぞ!」

 

箒「そうだぞ一夏!お前は、千冬さんの言っていた事を、理解していなかったのか!」

 

千冬達は、一夏を追い詰めようとした時に宗次郎は手を叩いた。

 

宗次郎「そうだ思い出したよ。あの時、俺に未知を教えてくれた少年だったな!

いや~、あの頃より随分と大人になってるから、見ただけではわからなかったぞ。」

 

宗次郎「あの時は、本当に助かったぞ少年。あの日は、皆に内緒で幸太郎に会おうとしたんだが、まいごになってな。」

 

そう言って宗次郎は、愉快そうに笑い一夏の肩を叩いた。

 

千冬「あの・・・、一夏の態度に怒ってはいないのですか。」

 

宗次郎「当たり前だろ?恩人だし、若者ならそれくらいの恐れを知らない態度がなければ、これからの世界を任せてられないさ。」

 

桜華「そうよ。それに宗ちゃんは、この程度の事を許せない様な小さい男じゃないわ。寛大な心を持って無いと、ここまで寿家を大きく出来ないわ。

それよりも、早くパーティー会場に行きましょう。」




皆様、お久しぶりです。お盆のいそがしさも終わったので、更新再開です。

まさに豪傑な男ですね。
世界一の男らしく、わきまえているんですかね。

そしてそんな宗次郎を助けただなんて、ちゃっかり凄い事をしてますね一夏は。


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85話

宗次郎「それもそうだな。早い所パーティーの主役が行かないと、待たしてる客達にも失礼だからな。」

 

宗次郎のことばで、一同は部屋から出ていった。

そして、パーティー会場でもある中庭に向かう途中、先頭を歩く宗次郎は、いきなり止まり振り返った。

 

リズ「どうかなされてのですか旦那様。何か忘れ物でもしたのですか?」

 

宗次郎「いやなに、お前達にも言い忘れた事があってな。既に少年には関係ないが、今日は無礼講だ。

存分に幸太郎を祝ってくれ。」

 

一夏「そんな事、言われなくてもわかってるさ。俺たちは元々そのつもりで来ているんだから。

心配しなくても大丈夫だよおっさん。」

 

一夏がそう言うと、宗次郎は嬉しそうに笑った。

 

宗次郎「ガッハッハ!やはり、お前は面白い奴だな!気に入ったぞ!

IS学園とやらを卒業したら、俺の下で働かないか?

ここにいる男衆は、皆堅物ばっかでよ・・・。どうだ?悪い話じゃないだろ?なぁアルベルト。」

 

アル「そうですね。寿家という大きなスポンサーがつけば、ISでくっていくにも、困らないですし、ある程度の事ならやりたい放題ですね。」

 

宗次郎「そうだろ?どうだ少年。なんなら、お前の家族全員でも良いぞ?」

 

すると桜華が、宗次郎の耳を引っ張り話を止めた。

 

桜華「宗ちゃん!そんな話は、明日にでも出来るでしょ?それよりも、早く進みましょう。

早くしないと、宗ちゃんだけおいていくわよ。」

 

宗次郎「わかったわかった。まぁ、そう言う事だから、考えておいてくれよ少年。」

 

こうして、また歩きだした。

 

~~~中庭~~~

 

中庭についた一夏達は、その中庭の広さに驚愕していた。

 

IS学園の中庭とは、比べ物にならない。もしかしたら、IS学園そのもの並に広い大きさだった。

 

そして既に中庭には、大勢の人が待っていた。

 

鈴音「ねぇセシリア。あの目の前にいるタキシードの男性って、どこかで見たことない?」

 

セシリア「えぇ・・・!!あれは正しく、私の祖国イギリスのカリスマアーティスト、フレディー・マッカートニーですわ!」

 

箒「あぁ!それにあそこにいるのは、最近テレビに引っ張りだこの、俳優ではないか!」

 

参列している沢山の著名人達に、一夏達は興奮していた。

 

一夏「やっぱり、これも寿家の財力と権力のおかげかよ。」

 

リズ「それもありますが、一番の理由は、ここにいる殆どの方は師匠の孤児院出身が多いのですよ。」

 

マイルナ「そっ、だから自主的に幸太郎の誕生日を祝おうと、毎年連絡をくれるらしいわ。

そしてここにいるのは、選ばれたごく一部って訳よ。」

 

二人の答えにも、驚愕していた。

 

そして同時に、孤児院を作った松陽と奈々の偉大さと凄さも改めて実感した。

 

そして宗次郎は、マイクを手に持って壇上に上がった。

 

宗次郎「さて、待たせてすまんな。これより、寿家次期当主でもある、我が孫、寿 幸太郎の誕生パーティーを開催する!

途中俺から、重大発表もある!最後まで盛り上がっていこう。乾杯!」

 

一同「「乾杯!!」」




いよいよ、パーティー本番です!
世界的スターが、集まるなんて寿家もそうですが、やはり孤児院を作った松陽と奈々さんも凄すぎますね。

フレディー・マッカートニーは、フレディー・マーキュリーと、ポール・マッカートニーから取りました。


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86話

そしてパーティーが始まると、参列してる著名人達が入れ替わり立ち替わりに、幸太郎に近づいて来て祝いの言葉とこれまでの感謝の言葉をかけていた。

 

あまり慣れない事に、幸太郎は恥ずかしそうに照れていた。

 

アル「やれやれ、こんなんで恥ずかしがってたらよ、この先宗次郎さんの後を継いで寿家の当主にはなれねぇぞ?」

 

マイルナ「でも、誰が相手だろうと分け隔てなく接する事が出来るのは、幸太郎の素晴らしい所よ。」

 

松陽「えぇ、これからの寿家は皆に恐れられ、特別視されるのではなく、みんなに愛される寿家になるはずです。

それこそ、奈々が望んだ夢でもありますから。」

 

幸太郎の保護者とも言える三人は静かに、そして嬉しそうに幸太郎を見ていた。

そして松陽は、ズボンのポケットからブローチを取り出した。

 

そのブローチには、幼い幸太郎を抱いた奈々と松陽が写った写真がしまわれていた。

 

松陽「奈々・・・、見ていますか?私達の愛する幸太郎は、こんなにも愛される人間に育ちましたよ。

これで少しは、父親らしい事は出来たでしょうか?」

 

すると、まるで狙っていたかの様に風が吹き松陽を包み込んだ。

 

松陽「ありがとう、ありがとう奈々。これからも、天国で幸太郎を易しく見守っていて下さい。」

 

松陽は大粒の涙を流しながしていた。

 

そんな松陽を宗次郎は、横目で見ながら満足感そうな顔をしていた。

 

宗次郎(やはり、奈々が選んだ男だ。あそこまで、奈々と幸太郎を愛してくれてるとはな。

さらにこの俺の、専属執事までこなしてきたんだ。やはり、俺の目に狂いはなかったな。)

 

宗次郎「おい松陽。こんなめでたい時に、何を辛気くさい顔をしてるんだ。今は幸太郎を祝う事が一番だろ?

おい学生ども。お前達も楽しんでいるか?」

 

松陽の肩を叩きながらそう言った宗次郎は、すぐに一夏達の方を見た。

 

宗次郎のフォローに松陽は、涙をグッとこらえてなんとか笑顔になった。

 

松陽(ありがとうございます宗次郎さん。)

 

一夏「はい!すっごく楽しんでます!それよりも、この料理凄く美味しいですね。

こんな美味しい料理は、なかなか味わえないですよ!」

 

鈴音「こら一夏!そんなにはしゃがないで!周りに凄い人達がいるのよ。恥ずかしいじゃない。」

 

宗次郎「良いよ良いよ!楽しんでるのなら、関係ないさ。たしかにこの料理は上手いだろ?

これ全部、桜華が丹精込めて作ったんだぞ?」

 

一夏「えっ!これすべて、桜華さんが作ったんですか!でも、こういうのってコックさんとかがやるんじゃないんですか?」

 

桜華「この屋敷には、コックはいないわ。元々、私は料理が大好きなの。それに、宗ちゃんには私の手料理を食べて欲しいものなの。

まだ沢山あるから、遠慮しないでどんどん食べてね。一夏くんは食べ盛りだから、足りないかも知れないわね。」

 

一夏「はい!おっ、あそこのテーブルの料理も、旨そうだな・・・」

 

箒「一夏!お前は遠慮というものを知らないのか!」

 

箒が一夏の肩を掴んで止めると、一夏は少し嫌そうな顔をした。

 

一夏「おい箒、桜華さんがあぁ言ったんだから食べない方が、逆に失礼だろ?」

 

箒「うぐっ、た、確かにそれはそうだが・・・」

 

そう言うと一夏は、再び料理を取りに出た。

 

一夏の言葉に、納得はしているが釈然としていない箒だった。




宗次郎夫婦も、なかなかのラブラブっぷりですね。

マイルナ、アルベルトといい、松陽、奈々さんといい、この作品の大人カップルは、羨ましい程ですね。


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87話

宗次郎「今から、お楽しみの重大発表がある!幸太郎、壇上に上がってくれ。」

 

宗次郎がそう呼ぶと、何も知らされていない幸太郎は首を傾げた後に、ゆっくりと壇上に上がっていった。

 

そして壇上を見守参列者にも、少し緊張がはしっていた。

 

宗次郎「え~、本日の誕生パーティー終了をもって、この俺寿 宗次郎は、寿家当主を引退する。

そして後継者である寿 幸太郎を、寿家の当主とする!」

 

宗次郎の発言に、会場はざわめき始めていた。

 

松陽「宗次郎さんのご意見は、私は賛成です。ですが、今は時季が悪いと思います。

いきなり過ぎますし、アルくんの話ではあの亡国機業に狙われるかもとの話ですし・・・。」

 

宗次郎「そう言えばそうだったな。だが、寿家の当主になる。それは、世界一になるということ。

常に狙われる可能性や、危険とは隣り合わせになるだろう。

だがな、そんなあまえたことを言っていたらいつまでたっても、未来に繋ぐ事は出来ん!」

 

宗次郎「俺は寿家をここまで大きくした。そして幸太郎にこれからを託すんだ。

そして幸太郎は、俺の凡てを受け継がなければならない!ならお前らは!?お前らの役目は何だ?

お前らは、それを円滑に出来る様に繋ぐのがやくめだろ!?」

 

宗次郎の強い言葉に、皆は言葉が出なかった。 

そして同時に、自分達の愚かさを痛感した。  

 

松陽は、奈々の分まで幸太郎を守る。

そして孤児院出身の人達は、松陽達への恩返しとして幸太郎の為に生きる。

 

その誓いを今一度、心に刻み込んで強い意思をもった。

 

幸太郎「そうだよパパ。それにおじいちゃん。いつか継がなくちゃいけない事だったんだ。

でも、今の俺には当主としてはまだまだと思ってる。だから、皆で一緒にこれからの寿家を作っていこうよ!」

 

一同「「ウォォォォ!!幸太郎様万歳!!幸太郎様万歳!!」」

 

幸太郎の宣言に、参列者達は大きな拍手や歓声を上げて祝福をした。

その熱量、その勢いに一夏達は圧倒されていた。

 

全て一体になった雰囲気を見て、宗次郎は満足そうに笑っていた。

 

桜華「あら宗ちゃん?なんだか、嬉しそうじゃない。そんな満足そうな顔は、久しく見てなかったわ。」

 

宗次郎「そうか?だが、これで俺は表舞台からは引退だ。俺みたいなじいさんがいつまでも居座るよりも、幸太郎達みたいな若い連中が新しい時代を創って行くんだよ。」

 

そう言って宗次郎は、桜華の肩に手を置いた。

そして桜華は、それに答えるかの様に置かれた手に自分の手をのせて、宗次郎に近づきもたれかかった。

 

桜華「いつもちゃらんぽらんな事ばっか言ってるのに、意外としっかり考えてるのね。」

 

宗次郎「当たり前だろ?お前が選んだ男だぞ?

おいお前ら、まだ誕生パーティーは終わってねぇぞ!だから、まだまだ盛り上がっていこうぜ!」

 

 




これで、幸太郎が正式に寿家の当主になりました!!

そして参列者の一体感は、やはり幸太郎が愛されている証拠ですね!



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88話

その後も、パーティーは盛り上り続けていた。

 

一夏はその持ち前の元気と、フレンドリーさで参列者達と仲よく雑誌等をしながら楽しんでいた。

 

そんな一夏の姿を、千冬は少し寂しそうに眺めていた。

 

リズ「どうしたのですか?なにかご不満な点でもございましたか?」

 

そんな千冬の元に、リズリーはワイングラスをふたつ持ちながら近づいてきた。

そして千冬に、グラスを差し出した。

 

差し出されたワインを一口飲んだ千冬は、静かにため息を吐いた。

 

千冬「別に、そんなんじゃ無いですよ・・・。ですが、宗次郎さんのさっきの話を聞いたら、なにかモヤモヤするモノが心にあるんです・・・。」

 

リズ「モヤモヤですか・・・。私達にとっては、とても素晴らしい日なのですが、千冬様のお気持ちはわかりません。」

 

そう言ってリズは、千冬の隣に腰を下ろした。

突然の事でドキドキしている千冬だが、それがバレないように顔をそらした。

 

千冬「私だって、今日がとても重要な日だって事は重々理解しているつもりです。

でも・・・、それでも何かが引っ掛かるんです。」 

 

宗次郎「それは簡単だよ。教えてやろうか?」

 

すると二人の目の前に、宗次郎と桜華が立っていた。

 

リズ「桜華様、宗次郎様。この度は、ご引退お疲れさまです。」

 

そう言いながら立ち上がろうとするリズリーを、宗次郎は止めた。

 

宗次郎「良い良い、座ったままで良い。今日は無礼講だと言っただろう?」

 

宗次郎の言葉に、リズリーは仕方なしに座り直した。

 

千冬「それよりも、私の胸のモヤモヤが何かわかっているって、本当なんですか!?」

 

宗次郎「あぁ、折角だから教えてやる。どうせ決断しなくちゃいけない時期がくるしな。

お前のモヤモヤは、引退の事だ。」

 

宗次郎「若い世代に託そうと俺は引退を決意した。それはさっき話したよな?それでお前も、引退を考え・・・いや、心の何処かにはずっと自分の引退の事を、考えてたんだろう。」

 

千冬「で・・・ですが、私はまだ誰かに何かを託せるほど、人生は歩んでいなません。幸太郎と同い年ですし・・・。」

 

宗次郎「確かに、それはあんたの言う通りだ。だが、何かを託す人間は何もヨボヨボの年寄りだけじゃ無い。

分かりやすく言えば、時代を造り上げた人間が託す人間になる。

俺はこの寿家を発展させ、今の時代のトップにして完全な存在にした。おまえはどうだ?」

 

宗次郎「この時代の代名詞ともいえるISを、大いに盛り上げて、Is業界では一つの歴史そのものになった。

だが、いずれ歴史は変わる。お前も感じてるんだろ?自分がいつまでも前線に立っていられない事を。」

 

宗次郎の言葉に、千冬は顔を下に向けていた。

自分がぼんやりと感じていた事を、全て言い当てられてしまっているからである。

 

宗次郎「そんなお前にアドバイスだ。人びとにとって、自分の功績が過去の物と思われ始めた時点で、もう手遅れなんだ。

その時点ですでに、世界は次の流れになってしまっている。その前に、次の歴史を創る若人を育て上げ見まもるのが、俺達託す者の使命なんだ。」

 

千冬「託す者の使命ですか・・・、ですがこれからのISを引っ張って行く人間は、まだ私は見つけていません。

一夏達がそれに当たると思うのですが、まだその段階ではありません!」

 

宗次郎「心配しなくても、引退するべきタイミングはその時になったら、自然と理解しているもんだ。まぁ、その時を待ちな。

さて、少し長話だったな。それじゃあ後は若いお二人で。」

 

そう言いながら、宗次郎と桜華は千冬から離れていった。




託す者ですか・・・。
確かに、千冬は確実にそっち側の人間ですよね。

そしていずれ、幸太郎も誰かに託す人間になるんですね。
それが、人としての成長と人生のゴールなのかもしれません。


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89話

幸太郎の誕生パーティーも、もうすぐ終了しそうな雰囲気になっていた。

それはすなわち、幸太郎が寿家の当主になる瞬間でもある。

 

それのせいか、参列者達は二代目当主襲名を祝いたくて、ウズウズしだしていた。

 

宗次郎「さて、名残惜しいとはおもうがいつまでもパーティーをしてはいられん。

よって、そろそろパーティーは終わりにする。そして、いよいよ幸太郎の二代目襲名記念パーティーを始める!」

 

宗次郎の音頭で、参列者達も大いに盛り上がりを見せた。

 

宗次郎「幸太郎、お前はいまから寿家の当主になる。まだ右も左もわからんと思うが、ここにいる全ての人間がお前のサポートをしてくれる。」

 

幸太郎「うん。俺頑張って、おじいちゃんみたいに皆の役に立てる人間になるよ。」

 

宗次郎「良く言った。それでこそ、寿の人間だ。さて、最初の公務として、参列者に挨拶に回ってこい。」

 

そう言って宗次郎は、幸太郎の背かを軽く叩いた。

それは、寿家を任すといった想いがこもっていた。

 

それを幸太郎は理解したのか、覚悟を決めた表情で挨拶周りに向かった。

 

一夏「それにしても、俺達は凄い瞬間に立ち合えてるのかもな。」

 

ラウラ「かもでは無い。今日は、まさしく歴史が変わった日になったんだぞ。」

 

箒「それよりも、どうして私達はここに集められているのだ?」

 

箒の言葉通り、一夏達学生組は幸太郎達から少し離れた場所に、集められていた。

 

一夏「さぁ?おっさんにここに来いって言われたんだろ?理由は俺達にはわかんねぇよ。」

 

すると、宗次郎が近づいてきた。

 

宗次郎「すまんな。少し、挨拶や話に時間がかかってな。」

 

一夏「それは良いですけど、俺達をここに集めた理由は何なんですか?」

 

一夏がそう聞くと、宗次郎は真剣な表情になった。

 

宗次郎「大人達は、何も言わずとも理解している。だが、君達は各国の期待の人材とは言え、まだ子供だ。

だから、俺の口から直接伝えようと思ってな。」

 

宗次郎「今日で晴れて、幸太郎は寿家の二代目当主となった。この事は、すぐに世界中に知れ渡る事だ。それほど、今日の事は世界的大ニュースなんだ。

それに幸太郎は、紅グループの会長でもある。すなわち、歴史上で幸太郎は、最も権力と財力、そして影響力を手にしたんだ。」

 

宗次郎「だが、それは敵を作ってしまう事でもある。俺や松陽、アルベルトが地位を手にする過程で作った敵の全ても、幸太郎に託さなくてはならん負の遺産だ。

だから、せめて君達に幸太郎はピンチになった時には助けて上げて欲しいんだ!」

 

そう言って宗次郎は、一夏達に深々と頭を下げた。

 

シャルロット「その・・・頭を上げて下さい!!」

 

セシリア「そ、そうですわ!私たちに頭をお下げになるなんて!」

 

狼狽える女性陣とは違い、一夏だけは狼狽える事なく真っ直ぐ宗次郎を見ていた。

 

一夏「わざわざ、言わなくても大丈夫だよおっさん。俺達が幸太郎さんの力になれる事なんて、微々たる事かも知れないけど、幸太郎さんが困った時に助けるのは、当たり前の事だよ。」

 

宗次郎「そうか・・・、そう言って貰えるなんて、やはり幸太郎は皆に愛されているんだな。

なら、そのことばを信じよう。それにラウラと言ったかね?俺は君達と幸太郎の仲は、認めている。

だからなるだけ早く、ひ孫の顔を見せてくれ。」

 

ラウラ「ひ、ひ孫ですって//は、はい!必ず嫁は幸せにします!」

 

こうしてラウラ達の幸太郎への想いも、宗次郎公認となった。

 

そして宗次郎は、他の人に見られない様に一夏に近づき、一枚の紙を差し出した。

 

一夏「なんですかこの紙は?ここに書いてあるのってまさか。」

 

宗次郎「そう、俺のプライベート用の番号だ。お前はISが台頭しているこの時代で唯一の男性操縦者だ。

当然お前を狙う輩も多いだろう。だからもし助けが必要な時は、遠慮せずにかけてこい。」

 

そう言いながら宗次郎は、踵を返していった。

 

宗次郎「そうそう、俺のもとで働きたくなった時にも電話しろな。」

 

本当の目的は、そっちでは無いかと思った一夏であった。




これにて、幸太郎の誕生パーティーが終了しました。
そして、二代目当主です!


紅グループと寿家の二代目となり、完全に世界一になった事で、敵だらけになるかもですね。


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90話

幸太郎が寿家の当主になってから、世間ではそのニュースで持ちきりであった。

 

既に一週間が経とうとしているが、報道番組や特番等で寿家についてがテレビで流されていた。

 

一夏「それにしても、いつまでこのニュースをやるんだろうね?同じような内容でもう飽きちまったよ。」

 

弾「人ん家のテレビを見ながら、何いってんだおまえは。まぁ、お前はIS学園にいたから詳しく知らないと思うけど、これでもだいぶ収まったんだぞ。」

 

この日一夏は、中学の頃からの親友である五反田 弾の家に遊びに来ていた。

 

そして政府のお偉いさん達は、必ずと言って良いほど寿家についてマイナスイメージを国民に植え付けるかのような発言ばかりをしていた。

歴史の影で暗躍してきた秘密組織、世界転覆を目論んだ等、そんな政府の姿は、真実を知る者からすれば滑稽に見える。

 

幸太郎の病原体を、ウイルス兵器にしたいからか幸太郎の病気に関しては、何も語ることは無かった。

 

一夏(でも、これでマイルナさんやアルベルトさんも簡単に手出しは出来ないのかもな。

下手に政府に手を出したら、それこそ政府の望み通りの悪者になっちまうもんな。)

 

そしてまた、政府の会見が始まろうとした時に一夏はテレビのチャンネルを切った。

 

弾「なんだ?聞かないのか?」

 

一夏「なぁ弾、お前は寿家の事をどう思うんだ?政府が言うように、悪い存在だと思うか?」

 

一夏の真剣な問いかけに、弾は腕を組み少し考えた。

 

弾「そうだな・・・、俺はその寿家ってのをテレビでしか情報をゲット出来ないから詳しくは分からねぇけど、あの会見を見てるとなんか必死になりすぎかなぁと思うな。

けど、お前の知り合いなら大丈夫だろ。」

 

弾の回答に、一夏はなぜかホッとした。

 

自分の親友がメディアを鵜呑みにしていないこと、自分を信用していること。

この二つが、堪らなく嬉しかったのだ。

 

弾「まぁ、こんな暗い話題はおいといて、学生らしい話をしようぜ。IS学園でハーレム状態の一夏、そろそろ彼女の一人や二人は出来たんじゃねぇの?」

 

一夏「なんかトゲのある言い方だな。それにハーレムなんかじゃないよ。皆が俺に良くしてくれるのは、世界初の男子操縦者だからだよ。分かりやすく言えば、身近にパンダがいるのとおなじ。

すぐにこの状況になれて、俺に飽きるさ。」

 

鈴音の想いを知っている弾は、一夏の唐変木っぷりに半分嫌気がさしていた。

だが、それは一夏らしい事でありそんな所が女子を引き寄せるのかも知れない。

 

一夏「俺の事は良いだろ?それより、お前の方こそどうなんだよ。」

 

弾「俺の方は相変わらずだよ。はぁ~、俺も一度でも良いから、お前みたいに女子に囲まれる人世を歩みてぇ。」

 

それから二人は、他愛もない会話で盛り上がっていた。

 

弾「お前は本当に凄い男だよな。テレビで引っ張りだこの寿家の、先代当主の電話番号を知ってるなんてな。」

 

一夏「まぁな、さてそろそろ時間だから俺は帰るよ。今日は久しぶりにお前と話せて楽しかったよ。」

 

そう言って一夏は立ち上がり、ドアに手をかけた。

 

弾「おう一夏、その先代に比べれば金も権力も何も無いけどよ、もし何か合ったときは、俺にも相談してくれ。

本当に微力かも知れないけど、力になるよ。」

 

一夏「あぁ、もしもの時は誰よりも頼りにしてるよ弾。」

 

そして一夏は、弾の方に振り向く事なく右手を上げた。

そしてIS学園への帰路についた。




一夏と弾の仲の良さ良いですね。
部屋から出るときも、多くは語らずみたいな。

自分も親友と、酒を交わしながら色々と語り明かしたいですね。


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91話

~~~職員室~~~

 

山田「・・・せい、織斑先生聞いていますか!?」

 

突然の山田先生の声で、千冬はハッとなった。

 

千冬「すまない山田先生。少しだけぼんやりしていただけだ。それで、話とはなんなのだ?」

 

山田「ですから、今日の授業に関しての打ち合わせです。

もう、しっかりしてください。」

 

千冬「あぁ、そうだったな。」

 

千冬は、生返事のまま授業に向かった。

 

~~~教室~~~

 

千冬「さてお前ら、今から出席をとる!」

 

そう言って千冬は、出席簿を手に取った。

その瞬間、教室が少しだけざわついた。

 

一夏「千冬姉、手に持ってるの出席簿じゃなくて教科書だぜ?」

 

千冬「あれ?出席簿・・・出席簿が無い!すまないお前達、職員室に出席簿を忘れたみたいなので、いそいで取ってくる!」

 

そう言って千冬は、大急ぎで教室から飛び出していった。

 

一夏「取ってくるって、机に置いてあるのに。」

 

アル「まさかデートのセッティングをしただけで、あの織斑千冬がここまで動揺するなんてな。やはり、女心は理解できんな。」

 

一夏「アルさん、いたんですか。それよりも、デートのセッティングってどういう事ですか!?

まさか、あの千冬姉がデートするって言うんですか!?」

 

一夏は、少し焦ったように大きな声を出してアルベルトに問いかけた。

一夏の大声と、見知らぬ男が教室にいるとで、生徒達はざわつき始めていた。

 

アル「まぁあれだ、詳しい話は放課後になってからだな。時間になったら、部屋まで迎えに行くわ。」

 

そう言ってアルベルトは、教室から出ていった。

 

そして授業が始まってからも、千冬はどこか上の空だった。

そのせいで、らしくないミスを連発したまま放課後を迎えた。

 

千冬(はぁ・・・私としたことが、まさかこんな事で動揺するなんて・・・)

 

山田「大丈夫ですか織斑先生?まだこんなにも書類が残っていますよ?」

 

千冬「そうだったな。ありがとう山田先生。今すぐ終わらせるよ。」

 

千冬が書類作業に取り掛かろうとした瞬間、職員室のドアが勢いよく開き、アルベルトが入ってきた。

 

アル「おいおい千冬、何を呑気に仕事をしてるんだ?速くしないと、待ち合わせの時間に遅れるぞ。」

 

千冬「そうだが・・・まだ私には仕事が残って・・・。」

 

アル「そんなもん校長に許可をとってある!書類なんて、1日サボったくらい、何ともない。

それよりもデートの約束をすっぽかす方が、大事だろ?セッティングした俺の面子ってもんも考えてくれ。」

 

アルベルトはそう言いながら、強めに千冬の肩を叩いた。

そして少し考えた後、千冬は立ち上がった。

 

千冬「わかった。なら、言葉に甘えさせてもらう。」

 

そう言って千冬は、職員室から出ていった。

 

山田「あの織斑先生!ってもう行ってしまいました。」

 

アル「そんな深く心配すんなって。同じ職場に働く同姓なら、先輩の恋路を応援してやりな。」

 

アルベルトは、くしゃみをひとつした後に、一夏の部屋へと向かった。

 

~~~IS学園前~~~

 

アル「にしても、せっかくのデートなのに普段のスーツ姿とはな。こんな日くらいお洒落な格好するとか考えないかな仕事脳は。」

 

一夏「まぁ、千冬姉にとって仕事が人生の全てって感じでしたから。そんな考えに至らないと思いますよ。

それに、もしかしたらそんなお洒落着は持ってないかも。」

 

二人は、物陰に隠れながら腕時計を何度も見ている乙女な千冬を見ていた。

 

すると千冬の顔が、とても明るくなった。

 

リズ「すみません千冬様、少し遅れてしまいました。」

 

千冬「い、いやそんなこと無いですよ。それに、待ってる時間もいとおしい//」

 

あまりに恥ずかしそうに話したせいで、後半の言葉はリズリーに届いていなかった。

 

リズ「では、早速ですが出発致しましょうお嬢様。」

 

そう言ってリズリーは、千冬の手を取り歩きだした。

 

アル「なんだよ、リズの野郎もタキシードじゃん。お互い、仕事着って。どんなデートだよ。」

 

一夏「そんな事よりも、速く追いかけましょう!」

 

 




リズと千冬のデートが始まりました。

水着回の時は、つけられていた一夏ですが今度はつける番です。
堅物二人のデートですから、どんなデートになるか楽しみですね。

まぁ、千冬は既に乙女になってますが。


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92話

それから千冬とリズリーは、軽く雑談を交えながら目的地の宛もなく歩き始めた。

 

アル「ったく、良い大人のデートだってのにこれじゃあ、職場の備品の買い出しだぜ。つまらん、なんなら邪魔しに行こうか?」

 

一夏「まだ5分もたってないですよ。飽きるの早すぎです。でも、確かに少し物足りない気もしますね。」

 

ほぼ1分ごとに退屈で文句を言うアルベルトをなだめながら、一夏達は二人の尾行を続けていた。

 

そして二人は、そのまま商店街に来ていた。

 

千冬「ここが、私がいつもお世話になっている商店街です。」

 

リズ「なかなか、雰囲気の良い場所ですね。こんなに良い場所で育ったので、千冬様や一夏様は素晴らしい御方に育ったのですね。」

 

千冬「そ、そんな事無いですよ//私なんて、リズさんと比べれば平凡な人生ですよ//」

 

リズリーに誉められて恥ずかしいのか、千冬は顔を赤くしてリズリーから顔をそらした。

 

そして気をそらすために、近くの雑貨屋さんへとリズリーの手を引いて入っていった。

 

中にはいった千冬は、自分がしている事に気がつき余計に赤くなった。

 

リズ「地域の商店街にしては、品揃えが良いですね。」

 

千冬「突然手なんて繋いでしまって、すみません//自分でも何をしているのか・・・」

 

リズ「それくらい、なんとも無いですよ。それよりも、今日は私がエスコートする筈でしたのに、それこそ申し訳ございません。」

 

そう言ってリズリーは、千冬の右の手の甲にキスをした。

 

リズ「おや?これは素敵な髪飾りですね。そうです、お詫びとしてこの髪飾りをプレゼントしますよ。」

 

リズリーは、花柄の髪飾りを手に取りそう言った。

 

外で待っている一夏達は、中の様子が見えずに一夏は不安に、アルベルトは退屈に襲われていた。

 

アル「外で待ってなきゃならんのも、暇で暇でしょうがないな。中の様子が気になるな。」

 

すると、ふたりが出てきた。

髪飾りをしている千冬、そして自分の右手の甲を見ながら惚けている姿を見て、アルベルトは中で起きたことを瞬時に理解した。 

そして一夏の肩に手を置いた。

 

アル「あの様子だと、時間の問題だな。今のうちに覚悟をきめておけよシスコン君。」

 

そう言ってアルベルトは、二人の尾行を続けるために歩き始めた。

 

一夏「アルさん、時間の問題ってなんですか!?それに覚悟を決めろって!?」

 

アルベルトのことばの意図に気がつかない一夏だったが、今は尾行を続けることにした。

 

そして商店街を歩いていると、二人は八百屋に声をかけられた。

 

八百屋「誰かと思ったら、千冬ちゃんじゃないか?ワシらが知らんうちに、そんな男前を捕まえてるなんてな。」

 

千冬「なにを言うんですか!?別に、捕まえてるだなんて//」

 

八百屋「照れんでええ。それよりも彼氏さん、あんたの名前は?」

 

リズ「自己紹介がまだでしたね。千冬様の彼氏をさせてもらっている、リズリーともうします。」

 

リズリーがそう言った瞬間、アルベルトの顔つきが変わった。

 

八百屋「おお!そうか!それでリズリーさんよ、あんたは千冬ちゃんの事を、ちゃんと愛してるんか?」

 

リズ「はい。この世の誰よりも愛していますよ。」

 

千冬「もう恥ずかしいから止めてくれ!私達はもう行きますから//」

 

そう言って千冬は、リズリーを引っ張り走り出した。

 

アル「う、嘘だろ・・・。まさかリズが・・・」

 

~~~ショッピングモール~~~

 

千冬達は、ショッピングモールのフードコートに来ていた。

 

そして尾行組も同じように、遠くの席に座っていた。

だが、さきほどの八百屋との会話から、アルベルトの様子がおかしかった。

 

一夏「いきなりどうしたんですかアルさん?リズさんが何かおかしい事でもしたんですか?」

 

アル「いや・・・すまん!!少し落ち着いてくる。」

 

そう言ってアルベルトは、席を立った。

 

マイルナ「全く、ふたりでこそこそ学園から出ていったと思ったら、デートの尾行だったのね。」

 

一夏が後ろを振り向いたら、買い物袋をもったマイルナが立っていた。




リズリー大胆すぎ!
まさに、ジェントルマンですね。

そしていきなり様子が変わったアルベルト。
いったい、原因はなんなのでしょうね?


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93話

今回と次回は、セリフ多目でお届けします。
ご了承ください。


マイルナ「二人して、こそこそしてるのかと思ったらデートの尾行だなんてね。貴方達暇なの?」

 

一夏「暇じゃないですよ。これも、今後の事を考えれば必要な行動ですよ。それよりも、マイルナさんに聞きたい事があるんですけど・・・」

 

そう言って一夏は、アルベルトのようすが突然変わった経緯と現場の状態を話した。

 

するとマイルナは、少しだけ考え出した。

 

マイルナ「なるほどね。理由はなんとなくわかるわ。でもそれは私の口からは言えないわ。 

ほんとうに知りたいのなら、本人かアルに聞いて。」

 

マイルナはそう言うと、買い物袋を手に取り帰路へとついた。

 

一夏(マイルナさんのあの様子、なにかそうとうな理由があるんじゃないかなぁ。もしかしたら、千冬姉に迷惑がかかるなんて事ないよな。)

 

そんな事を考えているあいだにも、二人は席を立ち移動を始めてしまった。

アルベルトも席をはずしている今、一夏は迂闊に移動できないでした。

 

すると、ちょうど良いタイミングでアルベルトが帰ってきた。

 

一夏「遅いじゃないですかアルさん!二人とも、移動しちゃいましたよ。」

 

アル「それは心配いらん。千冬に気づかないように、小型のGPSをつけてある。だから場所は一目でわかる。

それよりもお前には、リズに関して話しておかなければならない事がある。」

 

一夏「それって、アルさんの様子が変わった事に関係してるんですか?だったら、聞きたいです。」

 

アル「そうだな・・・、俺とリズは同じ孤児院出身地だって話は前にしただろ?俺はその孤児院最初の人間で、彼奴は同年代で最後の人間だった。

彼奴が孤児院に来た理由は、なんでも彼奴が10歳の頃に父親がリストラした影響か、リズと母親に暴力をする様になった。

そして身体を壊した母親は、父親から逃げるためと治療のためにフランスに帰ろうとしたんだが、経済的にそんなに余裕がなかった母親は、奈々さん経由で孤児院の話を聞いたらしい。」

 

アル「それでリズの事を考え抜いた結果、母親はリズを孤児院に預けたのさ。その時、泣きながら松陽さんに頼んでいた。」

 

一夏「リズリーさんって、フランス人だったんですね。」

 

アル「あぁ、父親は日本人だぞ。まぁ、今でも母親とは手紙でやりとりをしているさ。羨ましい事だな。」

 

一夏「それって羨ましいんですか?」

 

アル「そりゃあそうだろ?例え、どんな状況だろうが自分を愛してくれる家族がいるってのは羨ましい限りだ。親との思い出が無いのは、あの孤児院じゃあ、俺と松陽さん位だぜ?

まぁ話を戻そう。リズは昔から、自分を軽んじる傾向にあった。自分が誰かと同じ立場にはたてない。

誰かと同じ態度や言動は出来ないってな。」

 

アル「しかも極め付きは、自分の中の父親像は暴力をふるう父親だから、自分は父親にはなれない。

自分が、人を愛する事は絶対にないって堅く誓っていた。

今回のデートで、ほんの少しくらいは解消されるかなと思ったんだが、まさかあそこまで堂々と言えるなんてな・・・。」

 

アルベルトは、少し寂しそうに笑っていた。




父親からの暴力だなんて、以外と重いですね。   

自分の中では、マイルナの過去もしっかり考えてはいますが、中中の重さになってしまいます。


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94話

千冬とリズリーは、夕日がよく見える見晴らしの良い場所に来ていた。

 

千冬「ここは、私のお勧めのスポットだ。どうだ?夕日が綺麗に見えるだろう?」

 

この場所から見える夕日を見て、なぜかリズリーは涙を流していた。

 

千冬「ど、どうしたんですか!?もしかして、あまり好きじゃ無かったんですか??」

 

リズ「いや、こちらこそすみません。実は、昔の事を思い出していましてね。」

 

千冬「そうなんですか・・・。そう言えば、リズさんの過去ってどんなのなんですか?」

 

リズ「私の過去ですか?そうですね、この際ですし私の全てをお教えしますよ。」

 

こうしてリズリーは、自分の子供時代の話をした。自分が虐待を受けていた事、自分が孤児院に入った経緯を話した。

 

リズ「私は、いや・・・私達はどこかしら、アルベルトに対して優越感や同情をしていました。なぜなら、私達には片親がいる人、両親に愛されていたが、訳あって孤児院に来た人しかいなかった。

アルベルトは、私達とは違い親の愛を全く知らずに生きてきました。」

 

千冬「そうだったんですか。だから、リズさんはあんなにもアルベルトさんと仲が良くないんですね。」

 

リズ「いえそれは違います。私がアルベルトに抱いている感情は、憧れです。」

 

千冬「違うって、どういう事ですか?それに憧れって・・・」

 

リズ「そうですね。私は、孤児院に入った時に思ったことは『自分はとても不幸な人生を送っている』それだけでした。

同年代最後に来たので、先に入っていた方々は私を受け入れる様に、気さくに話しかけてくれました。

ですが私は、そんな皆の態度を同情や慰めだと感じ皆と距離をとっていました。」

 

リズ「ですがそんな中、アルベルトだけは私に興味を示していませんでした。聞いた話でしたが、アルベルトは初めに孤児院にいた様で言うなれば、私は見慣れた光景だったんです。

そんなアルベルトに私は、逆に興味を引かれ自分の生い立ちを話しました。」

 

リズ「すると彼は、私に対してとても恵まれている。と言いました。私には意味がわかりませんでしたが、彼の生い立ちを聞けば理解できました。そして、今も自分を心配してくれる母がいる幸せも理解しました。

それから私は、彼をお兄様と慕い彼にベッタリでした。」

 

リズ「愛を知らない筈なのに、周りには愛を与える姿が、次々と親達に引き取られていく仲間を見ても、笑顔で見送っていたその姿が、わたしにはとても眩しかった。なぜあんな人生なのに、今も笑いながら誰かを愛せるのか!!

私は彼になりたかった。全てを愛する事の出来るお兄様になりたかった!少しでも、お兄様の見ている景色を見たかった!!」

 

リズ「悪態をついている時、彼と対等になれた。こんな私でも、お兄様と言葉上では同じなんだと納得させています。こうでもしなくては、私は劣等感で潰されていまいました。

ですが、これでもお兄様に近づいてはいません。そして出た答えは、私もお兄様と同じ様にだれかを愛してみようと想い、今日に至った訳です。私の勝手な考えだけで貴女を振り回してしまって申し訳ございません。」

 

そう言って頭を下げたリズリーは、自分の想いをぶちまけた為か大粒の涙を流していた。

 

千冬「大丈夫です。私は迷惑だなんて思っていません。それに、私も今回のデートをとても楽しみでした。

貴方と歩いた道、貴方と話した会話の全てが私にとってかけがえのない思い出です。

その・・・、順序が可笑しいと思うんだが//こんなわたしで良ければ、よ、宜しくお願いします//」

 

千冬は、赤面しながら左手を差し出した。

それが何を意味するのか理解したリズリーは、優しくその左手を握った。

 

リズ「こちらこそ、これからもご迷惑をお掛けすると想いますが、末長く宜しくお願いいたします。」

 

そう言ってリズリーは、ポケットから指輪を取り出し、千冬の左手薬指にはめた。

 

リズ「これからは義理の弟になるわけですね一夏様・・・、いえ他人行儀じゃいけませんね。

これから宜しくね一夏くん。」

 

一夏「なんだ、最初からバレてたんですね。」

 

リズリーに呼ばれ、一夏は草影から出てきた。




悪態をつこうが、本音を話せばお兄様と呼ぶなんて、リズは心からアルを慕っているんですね。

そして急展開!!これにて、リズと千冬はめでたくゴールインです!!
もしかしたら、批評や物申しがあるかもしれませんが、出来れば暖かく見守っていただけたら幸いです。


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95話

一夏「いつから、つけていた事に気づいていたんですか?」

 

一夏がそう聞くと、リズリーは少しだけ思い出すかのように空を見上げた。

 

リズ「そうですね、私と千冬・・・いきなり呼び捨てで呼ぶのは照れますが、千冬と待ち合わせた場所の時点で既につけていたのでしょう。そして、私達のデートを隠れて見ていたつもりかもしれませんが、一夏くんは素人なので気配を消しきれていませんよ?」

 

リズリーの見事な推理に、一夏はぐうの音も出なかった。

だが、ある一つの疑問も生まれた。

 

一夏「そう言えばリズリーさん、俺がつけてるのは気づいてた見たいですけど、もう一人にはきづいてるんですか?」

 

リズ「もう一人とは?」

 

アル「俺の事だぞ?にしても、聞いてるこっちが恥ずかしい事言いやがって。」

 

一夏の後についで出てきたアルベルトに、リズリーは顔を合わせる事が出来なかった。

なぜなら、先ほど千冬に話した自分がアルベルトに体する想いが聞かれていたと思うと、恥ずかしさよりも情けなさが出てしまったからだ。

 

リズ「お兄・・・貴方ほどの人なら、気配を消すことが出来ますね。

それに聞かれてたのですか・・・」

 

それから、二人の間に気まずい沈黙が流れた。

その沈黙を破ったのは、アルベルトの方だった。

 

アル「まぁ、良いんじゃないか?お前は昔から自分の事はあまり話さなかったからな。」

 

リズ「ですが!お兄・・・アル!」

 

アル「ほら!!何のプライドがあるのか知らんが、わざわざ呼び方を変える必要は薙いだろ?お前は既に、一人の立派な男だからな。

おまえのやりたい様に、呼びたい様にすりゃ良いだろ?」

 

アルベルトのことばに、リズリーは少し涙を浮かべた。

 

リズ「そうですね。ではお兄様、私はあの頃より少しでもお兄様に近づく事は出来たのでしょうか!!

私はお兄様の隣を歩ける人間になれたのでしょうか!!」

 

リズリーの心からの叫びに、アルベルトは大きく息を吐いた。

そしてリズリーに近づいていき、リズリーの頭に軽いチョップを当てた。

 

アル「バカかお前は?そんな事をずっと気にしてたのか?さっきも言ったが、お前は既に一人前の男だ。

俺に近づいたんじゃなく、お前はお前なんだ。それに・・・」

 

そう言うとアルベルトは、リズリーの胸の所に握りこぶしを当てた。

 

アル「俺はお前ほど素晴らしい男は見たことないぜ。だから、自信をもて。

お前はこれから、千冬の旦那として強く生きてかなければいけないんだぞ。」

 

リズ「うん、わかった・・・わかったよお兄様。でも、やっぱり私にとってお兄様は憧れなんです。

お兄様がどう思おうと、私は貴方の背中を追い続けます!」

 

アル「そうかい勝手にしろ。それより一夏、さっさと帰ろうぜ。後は若いもん同士でいちゃつかせとけ。」

 

アルベルトは欠伸をしながらそう言った。

 

一夏「待ってよアルさん!じゃあ俺も帰るけど、詳しい話はまた今度にするよ千冬姉。」

 

そう言って一夏は、アルベルトの後を追っていった。

 

リズ「良い弟さんですね。私達の関係を否定しないなんて、どこかお兄様に似ていますね。」

 

千冬「そんな大層な者じゃないさ。ただアホなだけです。それよりも、ふたりの間のわだかまりも解消できてよかったですね。」

 

リズ「そうですね・・・私達も帰るとしましょう。では、お手をどうぞ。」

 

リズリーは、千冬に右手を差し出していった。

 

その行動に、赤面しなからも答えるように千冬は左手で手を繋いだ。

 

千冬「そ、そうですね//帰るとするか//」

 

こうして、堅物二人のデートはハッピーエンドで終了したのでした。




これにて、デート編は終了です!
甘酸っぱいですね!
青春ですね!

この事が学園内に知れ分かったら、おもしろい事になりそうでね。


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96話

次の日、朝のHRが始まるまでの時間一夏は気が気ではなかった。 

その原因は千冬とリズリーの事である。

 

二人が付き合い、しかも結婚までするとなると確実に学園中で話題になり、平穏な日常が遅れなくなるからだ。

 

一夏(はぁ・・・、こんな事になるなら昨日アルさんと一緒に、尾行なんてするんじゃ無かったよ。でも、さすがに千冬姉も仕事とプライベートは分けて、指輪を外してくるはずだ。はずだと願うよ。)

 

一夏は大きなため息をはいた。

 

女子生徒「ねぇ一夏くん、昨日来てたあの人、今日も来てるんだけど・・・。」

 

その方向を見てみると、楽しそうに何かを待っているアルベルトが教室の後ろに待機していた。

 

恐らく、千冬の事でクラスが大騒ぎするのを直接見たいのであろうと、一夏にはすぐわかった。

 

一夏「大丈夫だよあの人は、ただの性格の悪い大人だから。」

 

アル「丸聞こえだぞ一夏。」

 

一夏「聞こえるように、わざと大きな声で言ったんですよ。」

 

一夏がそう言うと、アルベルトは近づいてきた。

 

アル「おいおい、何をそんなに気を落としてるんだ?これから、面白い事になるんだぞ?」

 

一夏「だからですよ。はぁ・・・どうしよう。」

 

シャル「朝からため息なんて、どうかしたの一夏?そんな事じゃ、また織斑先生に然られちゃうよ。」

 

セシリア「そうですよ一夏さん。ですが、何か悩み事があるのでしたら、私達もお力になりますので相談してください。」

 

いつものメンバーが続々と集まりだすと、アルベルトは我慢できなくなりにやけていた。

 

箒「義兄さん、そんなにニヤニヤしてどうしたんですか?もしかして、昨日一夏と出掛けた事に関係するんですか!?」

 

アル「いや~すまんすまん。やっぱ、人生って楽しいな。」

 

そう言ってアルベルトは、元の場所に戻っていった。

 

シャル「どういう意味なんだろうね?何か意味深な様な気もするけど。」

 

するとチャイムがなり、千冬が教室に入ってきた。

一夏は立ち上がって千冬の左手薬指を確認したが、ちょうど出席簿を持っていて、隠れて見えなかった。

 

千冬「お前達速く席につけ。それに一夏、何を立っているんだ?」

 

一夏「ごめん千冬姉・・・ハッ!」

 

焦りと心配からか、先生と呼べなかった一夏はまた怒られると思い、身構えた。

 

千冬「そうか、なら速く座れ。欠席扱いにするぞ。」

 

千冬の態様に、クラス中が唖然としていた。

いつもあれほど注意している筈なのに、何事もなかったかの様な受け答えに疑問しかなかった。

 

千冬「どうたんだお前達?それより、出席をとるぞ。」

 

千冬には、しっかりと指輪がはめられていた。

それをいち早く見つけた一夏は、ばれないようにと祈るしか無かった。

 

一夏(なんで指輪してきてるんだよ!ヤバイ、これは確実にばれるよ・・・。いや?もしかしてあまりに自然すぎるからばれないかも?んな訳ないだろ!もう、どうか神様!!皆にばれませんように!!)

 

ラウラ「ん?教官、左手薬指に指輪をしていますが、どうかしたのですか?」

 

ラウラの言葉で、生徒達はまるで時間が止まったかのようになった。

 

千冬「この指輪か?その・・・なんと言うかだな//婚約指輪ってやつだな//っていざ口に出すと、は、恥ずかしいな//」

 

生徒達「こ、婚約指輪!!!」




みごとに簡単にバレましたね。
まぁ時間の問題と云えば時間の問題でしたがね。

アルの気持ちわかりますね。
クラスがざわつくのを、間近で見たいものですよね。


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97話

箒「ですが、相手はどこの誰なんですか!?それに、いつのまに婚活をしてたんですか!?」

 

千冬「そうだな・・・写真は何かあったかな。」

 

そう言って千冬は、ポケットやカバンの中を探し始めた。

生徒達は、どんな男の写真が出てくるのか、気が気では無かった。

 

千冬「すまない。写真でも見せようかと思ったが、何も見つからなかった。」

 

すると、教室の後ろから定期入れが千冬に投げられた。

その定期入れには、リズリーの写真が入っていた。

 

アル「ほら。特別にこの写真をやるよ。思う存分見せつけてやれ。」

 

一夏「なにしてるんですかアルさん!!このまま、穏便に済まそうと思ってたのに!」

 

アル「かわいい弟分の晴れ舞台だぞ?背中をおしてやるのが、俺達兄弟の使命だぞ? 

全く、お前はそろそろ姉離れをしなきゃならんな。」

 

やれやれと言いながら、アルベルトはため息をはいた。

 

女子生徒A「それよりも織斑先生、その噂の男の写真を見せてください。」

 

女子生徒Aのこの一言で、急かす声で教室はまたざわつき始めた。

 

千冬「しょうがなかいな。ほら、これが私の結婚相手のリズリーだ。よく見てくれ。」

 

意気揚々と千冬は、写真を皆に見せつけた。

写真を見た生徒達は、リズリーの写真を見て格好いい等の歓声の声を上げていた。

 

そしてリズリーを知っているラウラ達は、納得した顔をしていた。

 

ラウラ「成る程、教官とリズリーさんならお似合いです。これで、嫁の周りは知人で埋め尽くされていますね。」

 

シャル「それよりも一夏、一夏はこの事を前もって知ってたんだよね?」

 

一夏「あぁ、つい昨日の事だからな。」

 

ラウラ「この事は、嫁は知っているのですか?」

 

アル「さぁな?マイルナの事だから、なんとなく察してるとは思うけどな。

それよりも千冬、今から一夏借りてくぜ?」

 

千冬「今からですか?でもこれから授業が始まるんですが。」

 

アル「心配すんな。授業では味わえない程の、刺激的で為になる事を教えてやるつもりだ。おい一夏、さっさと出掛けるぞ。」

 

そう言ってアルベルトは、教室から出ていった。

 

一夏はどうすれば良いのかわからず、千冬の方を見てみた。

すると千冬は、一夏の気持ちを察したのか静かに頷いた。 

 

一夏「さてと、待ってくださいよアルさん!」

 

アルベルトに連れられるまま、ついていった一夏は高級料亭に来ていた。  

 

アル「さて一夏、今からお前にこの国の担い手の真実と、この国の末路を見せてやるよ。」

 

一夏「それってどういう事なんですか?って待ってください!」

 

そして二人は、個室に案内された。

 

「いや~遅いから、何かあったのかと心配になりましたよアルベルトさん。」

 

アル「お前の心配事は、俺の安否じゃ無くて契約についてだろ?」

 

一夏は、目の前で起きている状況に驚きのあまり、声が出せないでいた。

なぜなら、アルベルトと話している相手は、総理大臣だったからだ。




皆様、今さらですが明けましておめでとうございます。
本年も、なめらかプリン丸をよろしくお願いいたします。

そして新成人の皆様、成人おめでとうございます。
私も新成人して、これこらも頑張りますので共に頑張りましょう!


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98話

一夏「アルさん!あの人って、総理大臣ですよね!どうして、そんな人と面会出来るんですか。」

 

一夏は、驚きを隠せないのか少し興奮ぎみにアルベルトに聞いた。

するとアルベルトが答えるよりも早く、総理大臣が立ち上がり近づいてきた。

 

総理「誰かと思いましたら、織斑一夏君ではありませんか。いや~あなたの御活躍は耳にしておりますよ。

ISが台頭する時代に、あなたの様な若者が活躍してくださり、私達も大変誇りに思っております。」

 

そう言って握手を求めようとしたが、すんでの所でアルベルトに止められた。

 

アル「下らん世間話が目的なら、俺達は帰らせて貰うぞ。一応、お前と会うのが今回の仕事の大まかな依頼だからな。」

 

総理「これは失礼しました。まぁ、立ち話も何ですので、まずはお食事でもしませんか?

話はそれからでも構いませんよね?」

 

総理は二人を席まで案内した。

 

そして三人が囲むテーブルに、料理が運ばれてきた。

 

総理「アルベルトさん、私の選挙では随分とお世話になりました。あなたのお力がなければ、私は総理大臣にはなれませんでしたよ。」

 

アル「あっそ・・・。それよりも、このボディーガード達を部屋の外に出せよ。

鬱陶しくてイライラするぞ。」

 

総理「そうはいきませんよ。仮にも私は、日本のトップです。万が一に備える必要がありますので。ささっ、堅苦しい話は一旦置いときまして、早く食べましょう。」

 

そして三人は、運ばれてきた料理を食べ出した。

その間、これと言った会話は無く総理が一方的に世間話をして、それに対しアルベルトは軽い相槌を射つこと無く無言だった。

 

この異様なムードに、一夏はどうすれば良いのか分からなかったが、不思議と不安は無かった。

これ程まで、一夏にとってアルベルトは頼れる存在だったからだ。

 

食事が終わると、アルベルトは総理に軽く睨みを効かせた。

 

総理「さて、本題なのですが・・・、その前に幸太郎様の当主就任おめでとうございます。私達共、心よりお祝い申し上げます。」

 

アル「心にもない事はどうでも良い。さっさと話を始めろ。」

 

総理「では単刀直入に言います。私達日本政府に、紅グループの権利全てを譲っては戴けませんか?

幸太郎様はまだ幼い。紅グループ会長と寿家当主の二足わらじは無理があります。ならば私達が紅グループを引き受けます。

こうして私達日本政府と寿家は、友好的な関係を築いていき、これからの日本を支えて行けると思っています。」

 

総理の言葉を聞いたアルベルトは、一夏が今まで見たこと無い程の相手を見下しまるで、ゴミを見るような目をしていた。

 

アル「ぐだらん。政府ってのは、ここまでアホなんだな。お前らに、紅グループをやると思ってんのか?

それに友好的な関係??勘違いすんな。お前らと幸太郎が同じ立場だとか、考えが浅はか過ぎるんだよ。

おい一夏、さっさと帰るぞ。」

 

そう言ってアルベルトは席を立った。

すると総理は、ボディーガード達にアイコンタクトを送った。

 

そしてボディーガード達は一斉に、アルベルトと一夏に銃口を向けた。

 

総理「あなたこそ浅はかですよ?私が何の対策を取っていないとお思いですか?これは頼みでは無く、命令です。」

 

アルベルトは深くため息を吐くと座り直し、ポケットから一錠の薬を取り出した。

そして一夏に手渡した。

 

渡された一夏は、何かはわからなかったがその薬を飲み込んだ。

それを確認したアルベルトは、別のポケットからカプセルを取り出した。

 

アル「駆け引きが下手すぎるぞ。このカプセルには、死亡確率100%のウイルスが入っている。俺と一夏には抗体があるがお前達が死ぬのは確実だろうな。」

 

アルベルトの言葉に総理の顔に緊張が走った。

 

総理「さっきのは、その為の薬だったのか・・・。」

 

そして少し沈黙が起きた。

 

総理はもう一度ボディーガードにアイコンタクトを送ると、ボディーガードは銃をおろした。

 

アル「物分かりが良いな。それじゃあ、今度こそ帰らせて貰うぞ。」

 

アルベルトと一夏は、そのまま部屋から出ていった。

 

~~~帰り道~~~

 

一夏「アルさん、いつのまにそんな危険な物を持ってたんですか?」

 

アル「こんなもんハッタリに決まってんだろ?あいつらは利益よりも、自分の命を優先する連中だからな。

言っただろ?駆け引きが下手くそだってな。」

 

そう言ってアルベルトは、イタズラをしたこどもの様に笑っていた。




総理があほなのか、アルベルトが強かなのかわかりませんが、駆け引きにすらなりませんでしたね。

それに政府の考えは、確実に幸太郎サイドの人間を敵に回しますね。


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99話

それから二人は、時間を潰すためにアルベルトの案内でやって来た喫茶店で休憩をしていた。

 

だが、この店の雰囲気やシステム、そして客達のオーラから一夏は変な勘が働いてしまっていた。

 

一夏「あの・・・アルさん、この喫茶店って一見様はお断りのお店何ですね。こんな喫茶店があるなんて、知らなかったですよ。」

 

苦笑いをしながら一夏が話すと、アルベルトは口に運ぼうとしていたショートケーキを皿に戻した。  

 

そして嬉しそうに笑いだした。

 

アル「そうだろ?でも、お前が聞きたいのはそんな事じゃ無いだろ?ほら、周りを見渡してみろ。ここにいる輩がどんな連中かお前ならわかるとおもうがな。」

 

周りにいる客は、自分が関わってきた分類の人間ではなかった。

だが、一夏にはその分類がなんなのか嫌でも理解できた。

 

いや、直感として感じた程度だったが、ここにいる客全てはアルベルト、そして自分を誘拐した亡国機業の人間に近かった。

 

それを口に出して良いのかわからない一夏は、下を向きながらことばに詰まらせていた。

 

アル「全く・・・おい!このガキにチョコレートパフェ1つだ。後、コーヒーのおかわり。」

 

そう言ってアルベルトは、さっきの食べ掛けのショートケーキを食べた。

 

アル「お前の想像通り、ここの客全員が国際過激派組織や犯罪グループなんかの、裏社会を生業にしてる連中ばっかりだ。

だからよ、俺抜きでここにきたら最後、誘拐されるか殺されるぞ?」

 

一夏「ですが、ここは日本ですよ!?こんな堂々とした場所にこれだけの人数がいるのに、警察や政府は黙ったままなんですか・・・まさか!?」

 

アル「そっ、お前の推理通りさ。ここにいるのは、“日本政府公認”の人間だけだ。

だから最初に、この国の末路を見せてやると言っただろ?ここが世界の闇であり、日本の灰汁でもあるんだ。」

 

一夏は言葉が出てこなかった。

アルベルトの話にショックを受けただけではなく、客の中には自分と年が変わらない位の女子や、年増の行かぬ子供もいたからだ。

 

アル「受け入れろ。そして噛み締めろ。これが今の世界の現状であり、お前達が想像しきれない裏社会の実態だ。

社会が発展する程、裏社会は酷くなっていく。お前らがISに一喜一憂してる間にも、か弱いガキは銃を手に人を射って命を繋いでいるんだ。」

 

そう言ってアルベルトは、ショートケーキを全て食べ終わりコーヒーも飲み干した。

そしてため息を吐いて、一夏にデコピンをした。

 

アル「お前が思い詰めた所で、何も変わらん。こればかりは、例え世界各国のトップが動いても簡単に終わる話じゃない。

だが同情はするな。共感はするな。それは裕福な心がもたらす一つの侮辱だ。」

 

アル「だからお前は、気にする事はねぇ。けど、頭の片隅にだけはトドメテおけ。

それがせめてもの行動だ。」

 

アルベルトの言葉に何かを思ったのか、一夏の目には涙が浮かんでいた。

 

一夏「前々から気になった事があるんです。」

 

アル「気になった事ってなんだ?俺の年収か?それなら兆を簡単に越すから聞くだけ無駄だぞ。」

 

一夏「俺の誘拐に関する事は、前にも聞きました。ですが、他の時はどうなんですか!

今回みたいに政府に敵対する様な態度で、周りに敵ばかりを増やして、どう思ってるんですか!?」

 

一夏の真剣な表情に、アルベルトも真剣な表情になった。

 

アル「俺が思ってる事か・・・」




やはり、平和と破滅は表裏一体なのかも知れませんね。

なんだが、私の思考が片方によっていると思われる人もいるかも知れませんが、私は右でも左でも無いと思っています。


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100話

アル「お前は、本気で他人を殺してやろうと考えた事、そしてホントに殺した事はあるか?」

 

アルベルトからの質問に、一夏は驚いてしまった。

自分が聞きたかった答えとは全く違う答えが帰ってきたからだ。

 

一夏「それは・・・、あるわけ無いじゃないですか。確かに、ムカつく事や嫌な人なんかもいたけど、さすがに実行した事は。」

 

アル「それだ。その感覚が、お前の知りたかった答えだ。」

 

一夏はアルベルトの言いたい事が、余計わからなくなってしまった。

 

アル「まぁ、分かりやすく噛み砕いて説明するとな・・・、ここにいる連中は他人を殺す事に躊躇いや罪悪感はあるかもしんねぇが、そんな連中ばかりだ。

おい一夏、人殺しは悪い事だと思うか?」

 

一夏「そんなの、当たり前じゃないですか!人として駄目ですし、法律で罰せられる事ですよ。」

 

アル「それがお前達の世界の常識だ。だが、俺達の世界は違う。俺達はお前達の常識から離れた場所で生きている。故にそんな法律だの、人としてだの、そんな一般的な考えでは動いていない。」

 

一夏「だからって!じゃあ、どうして人を殺せるんですか!」

 

一夏は大声を出して、興奮を隠せないでいた。

周りからの視線を気にせず、身を乗り出しながらアルベルトに聞いた。

 

アル「それでしか、それでしか自分の大切な存在を護れないからだ。裏社会では周りが全て敵だと言っても過言ではない。玄関をでたら友達が、家族が、妻が殺られる事も日常だ。

だから護るためには、権力的にも影響力的にも大きくならなければならない。だからどんな汚れ仕事でも引き受けなければ、裏社会では生きていけないんだよ。」

 

一夏はショックだった。

自分が憧れ、カッコいいとまで思った男の言葉が現実に起きている。

それを知らずに、自分達は生活している。

 

その事実が一夏には、受け入れられなかった。

 

一夏「じゃ、じゃあアルさんも汚れ仕事として人を・・・、人を殺めた事があるんですか!」

 

後悔していた。

帰ってくる答えは分かっていたのに、どうしても自分が聞きたい回答がくるのを、期待していたのだ。

 

アル「俺の会社は、裏社会トップの会社だぞ?ここにいる連中のスコアあわせても、何倍、何十倍にしても釣りが出るのは確かだ。

だが、その結果で幸太郎や今のお前らを護れているその事実なんだ。全てを受け入れろとは言わん。だが、自分が生きている社会はそんな現実に支えられている事は理解しておけ。」

 

一夏「罪悪感や後悔は無いんですか」

 

アル「無いことは無いんだが、俺を慕ってる社員や家族を護るためには必要な事なんだよ。さて、そろそろ迎えの車が来てるはずだ。

おいマスター、釣りはいらねぇ。」

 

アルベルトは机にお金を置き、席を立った。

 

~~~店の外~~~

 

アル「そうだ、この質問を松陽さんにはしない方が良いぞ。あの人の感覚は、裏社会よりも狂ってるからな。」

 

アルベルトの意味深な言葉は、一夏には分からなかった。

だが、聞いては駄目な事だと言うことは理解できた。

 

一夏「そう言えばアルさん、貴方は仕事以外で人を殺めた事はあるんですか。」

 

一夏がそう聞くと、アルベルトはフッと笑いながら振り向いた。

 

アル「お前はどっちだと思う?まぁ、答えが知りたければIS学園に帰って教えてやるよ。」

 

そう言って二人は、車に乗り込んだ。




仕方がないの言えば、仕方がないのでしょうか? 
やはり裏社会の事は私達には、違う世界なのかも知れませんね。

アルベルトが言った、松陽が狂ってる訳とはどういう意味なのでしょう。


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101話

~~~車内~~~

 

アル「いや~、忙しい時にわざわざ迎えの車なんかさせちまって、なんか悪いな。」

 

「何言ってるんですか。社長直々の頼みですから。そこは、喜んで足になりますよ。」

 

アルベルトは、社員でもある運転手と楽しそうに和気あいあいと話していた。

 

そんな二人を他所に、一夏はずっと浮かないかおをしていた。

その理由が何なのかわかっているアルベルトは、あえてなにも聞かずにいた。

 

「そう言えば社長、またボーナスがはいってましたよ。俺達社員は言いましたよね?ボーナスはいらないですから、その金をマイルナさんの為に使って下さいって。」

 

アル「良いって良いって。俺からすれば、そんなのははした金だ。あっても無くても変わらんよ。」

 

すると一夏は、決心したのかアルベルトの法を向いた。

 

一夏「アルさん、言いたい事があるんですけど。」

 

アル「俺の答えは却下だが、聞くだけ聞いておく。」

 

一夏「俺をアルさんの会社で働かせて下さい!」

 

アル「はあ・・・どうせそうだと思ったがよ。理由を言ってみろ。」

 

一夏「俺は今日、裏社会の事情を知ってしまった。知ったからには、改善していきたいんだ!

俺だって、平和の為に役に立ちたいんだ!その為にも、アルさんの会社に入らなければ・・・」

 

言い終わる前に、アルベルトは一夏にデコピンをした。

 

アル「お前がどう思おうとも、何をしようとも変わらん。それに、お前には資格がない。」

 

一夏「そんな!俺だって最近は体力もついてきたし、ISの操縦も様になって来てるんですよ!」

 

アル「だったら、そのISであそこのおっさんを殺してみろ?」

 

そう言って指差した先には、ベンチで一休みしているおっさんがいた。

そんな事一夏には出来るはずもなく、ただ下を向いていた。

 

アル「俺らの仕事はこんなんばっかだ。このロゼットだって、お前と同い年だが既にそこそこの数をすましてる。

お前みたいな熱血正義が通用するほど、常識の世界じゃ無いんだよ。」

 

アルベルトはそう言うと、なぜか衝撃に備える体勢に入っていた。

 

アル「だがまぁ、お前がほんきだったら、幸太郎の右腕に推薦してやるよ。」

 

すると車は、急ブレーキがかかり一夏は助手席に大きく体をぶつけてしまった。

 

ロゼット「どういう事ですか社長!!兄貴の側近には俺を推薦してくれるんじゃ無かったんですか!

それなのに、こんな人の血の色も知らない様な青臭いガキだなんて、いくら社長でも兄貴に失礼ですよ!!」

 

一夏「イッタ・・・急に何なんだよ。それに、兄貴って幸太郎さんの事ですよね?それってどういう事なんですか。」

 

アル「ロゼットは幼い頃から、幸太郎や松陽さんの世話になっててな。その頃から幸太郎を兄のように慕ってるんだよ。

それより、早く車出せよ。」

 

アルベルトがそう言うと、ロゼットは納得していなかったがとりあえず車を走り出させた。

 

車内には言葉に出来ない不穏な空気が流れていたが、事の発端であるアルベルトは我関せずな態度をしていた。

 

~~~学園前~~~

 

アル「さて、やっとついたか。思ったよりも長かったな。」

 

そう言ってアルベルトは、さっさと学園に向かって歩き出した。

一夏も後を追おうとしたが、ロゼットに肩を強く捕まれた。

 

ロゼット「お前が社長や兄貴と仲が良いのは聞いている。でもな、兄貴の側に立って兄貴を護ってくのは、俺の役目だ!

お前みたいな野郎には、荷が重すぎるんだよ!!」

 

ロゼットの言いたい事はわかっているが、なぜか一夏は引こうとは思わなかった。

 

一夏「そうかもな。でも、俺にだって護りたい正義があるんだ。その為だったら俺は、どんな事だろうが引く気は全くない!」

 

ロゼット「そうかよ。まぁ精々無駄に足掻くんだな。いずれ、自分が浅はかだって知るんだからな。」

 

そう言ってロゼットは、車に乗り込んでいった。




意外な所でライバル出現ですかね?
幸太郎が兄貴だなんて、なんだか違和感があるような。

ロゼットが運転出来ているのは、アルベルトの会社の影響力のお陰と思ってください。
一夏と同い年なら、車の免許取れないですが。


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102話

その日の夜、一夏は憂鬱な気分になりながら廊下を歩いていた。

目的地は、千冬の所である。

 

~~~回想~~~

 

アル「そうだ一夏。おまえが本気かどうかは別にして、さっきの事は千冬に言っておけ。」

 

一夏「千冬姉に!?でも、そしたら心配かけちゃうかもしれないし。」

 

アル「それがお前にとって、最初の難関でもある。それに始めに言っておく。」

 

アル「お前は他人の為に動ける男だが、動かせる人間じゃない。それだけは心に刻んでおけ。」

 

~~~~~~~~~

 

一夏(はぁ・・・。今から千冬姉の所か、気が滅入るな。それにアルさんの言ってた事って、どういう意味だったんだよ?)

 

そうこう考えている内に、千冬の部屋の前まで来ていた。

そしてドアのまえで大きく深呼吸をして、ドアをノックした。

 

一夏「千冬姉、ちょっと良いかな?どうしても話したい事があるんだ。」

 

千冬「こんな遅くになんだ?まぁカギは開いている。入ってこい。」

 

千冬にそう言われ、一夏はゆっくりとドアを開けて中へと入っていった。

 

千冬「それで、話ってなんなんだ?こんな時間に来るくらいだから、相当な内容なんだろうな?」

 

一夏は、今日の出来事全て、そして今の自分の心境を千冬に話した。

 

話を聞いた千冬は、少しため息を吐いた後に咳をひとつすると、一夏の眼をじっと見つめた。

 

千冬「お前の言いたいこと、考えている事は良くわかった。だが、アルさんが言った様に、お前には素質というか・・・、センスは全く無いと思う。」

 

千冬にそう言われ、一夏は下を向いた。

もしかしたら、千冬なら自分の考えを肯定してくれると思っていたからだ。

 

だが、やはり自分には無茶な夢だったのかと一夏は感じていた。

 

千冬「それでも、お前が本気で叶えたいのなら私は全力で応援したいし、私に出来る事があるなら全力でサポートする。お前にその覚悟と、やり抜く信念があるのか一夏?」

 

一夏「確かに今までの俺の人生は、流されてばかりだった。亡国機業に誘拐された事、IS学園に入ったこと、裏社会を知ったこと、全部他人の力だった。

でも、この夢だけは自分が決めたんだ!誰に言われた訳でも無い!自分自身の揺るぎない信念なんだ!」

 

一夏の目には、例えどんな事があろうと変わらない強い想いを感じる事が出来た。

 

千冬「ふっ、いっちょまえな事を言える様になったんだな。なら私はもう何も言わん。お前の進みたい道を進んでいけ。」

 

一夏「うん、わかったよ千冬姉!それじゃあ!」

 

そう言って一夏は、部屋から出ていった。

 

千冬「ハァッ・・・ついこの前まで、千冬姉、千冬姉と自分では何も出来ない子供だったのにな。

いざ一人立ちされると、寂しいものだな。」

 

アル「それが成長ってもんだせ?それを感じたんなら、お前も成長出来たって事だ。

お前だってリズと結婚する身だ。何時までも一夏に構ってる事も出来んぞ。」

 

千冬「聞いてたんですかアルさん。でも、そうかも知れませんね。私自身も一夏に少し依存してたのかも知れません。」

 

千冬がそう言うと、アルは微笑ましそうにしていた。




これで後は、一夏の努力しだいですね。
これからどなることやら。

まぁ、一夏なら善くも悪くも頑張れると思いますけど。


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103話

一夏とロゼットは、アルベルトに連れられて寿家に来ていた。

 

アル「お前らに初仕事だ。ここにある手紙は、寿家と契約したい連中や、幸太郎と面会したい連中が送ってきた手紙だ。

最終チェックはこっちでするが、それを選別してくれ。」

 

そう言ってアルベルトは、へやから出ていった。

 

一夏(まったく、ついてこいって言ったと思ったら、こんな難しい事を頼んで来るなんてな。しかも、ロゼットと二人きりだなんて、気まずくて仕方がねぇな。)

 

そう言いながらも一夏は、近くに置いてあった手紙を数枚ほど手に取った。

その手紙の送り主は、一夏でも知っている程の世界各国の著名人や、政治家等々のビックネームだった。

 

一夏(すげぇな。さすがは寿家って事か。でもスゴすぎて俺には何を選別すれば良いのかわかんねぇや。

そういえばロゼットは、どう選別してるんだろう?)

 

そう思い一夏は、選別に取りかかろうとしているロゼットを見てみた。

 

するとロゼットは、手に取った手紙を読む事なく、何の躊躇いもなく真っ二つに破り始めた。

 

そして何枚も続けて破っていたロゼットを、慌てて一夏は止めに入った。

 

一夏「おい!アルさんが俺達に頼んだのは、手紙の選別だぞ!それをこんな風にするなんて、何を考えてるんだよ!」

 

ロゼット「お前こそ何を言ってるんだ?俺は社長に言われた通りにしてる。兄貴に直接出向いて来ない時点で面会だなんて、虫酸が走る。それに、何を気安く俺に指図してんだよ。」

 

一夏「指図したつもりは無い。それにお前だって幸太郎さんの為に働くのなら、少しは考えて行動しなきゃ!」

 

するとロゼットは、一夏が言い終わるか否かのタイミングで一夏の胸ぐらを掴んだ。

かつてラウラにも敵意を向けられたが、それとは比べ物にならないほどロゼットからは敵意だけではなく殺意がかんじられた。

 

ロゼット「お前に何がわかる・・・。お前たちの様に恵まれた環境で育ってきた連中に俺の何がわかる!」

 

そう言ってロゼットは、一夏を殴ろうと拳を振りかざした。

 

アル「ロゼット!!拳を納めろ。そして一夏の胸ぐらから手を離せ。」

 

扉を開けて入ってきたアルベルトにそう言われ、ロゼットは舌打ちをしながら一夏から離れた。

 

ロゼット「チッ!邪魔が入ったか。じゃあ社長、少しずつ頭を冷やしてきますよ!」

 

ロゼットは乱暴に扉を閉めながら出ていった。

 

アル「すまんな一夏。お前と二人にすればこうなるのは必須だったんだかな。はぁ・・・これじゃあ先が思いやられるな。」

 

一夏「アルさん、一つ聞いても良いですか?なんでロゼットはあそこまでピリピリしてたんですか。」

 

アル「この際だ。お前には話しておくか。あいつは望まれて産まれた子じゃなかった。

両親には常に虐待されて、物心つく前から見も心もボロボロだった。」

 

アル「そんなある日、ふとしたタイミングで両親を刺し殺してしまった。当然ガキだったあいつは大きな罪には問われなかったが、それ以来親戚にはたらい回しにされあいつは孤独になっていた。」

 

アル「だから、両親の愛を受け大きな苦労がなかったお前らが疎ましく、眩しくてしょうがないんだよ。

奈々さんを失い、自身も沢山苦しい思いをしながらも周りに希望を抱かしてくれる幸太郎が眩しすぎて、あいつは幸太郎という巨大な火に身を焦がそうと願う一匹の虫なんだよ。」




皆様お久しぶりです。仕事が忙しくて、中々更新出来ませんでした。

一夏とロゼットは、険悪なムード全快ですね。
アルが止めて無ければ、どうなっていたことか。

確かに、私からも幸太郎は眩しく輝いてます。
ロゼットの気持ちはわかりますね。


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104話

アル「だがまぁ・・・あいつの、必要な事なら簡単に切り捨てられる所は、今後の幸太郎を支えて行くには必要な要素でもあるんだがな。けどあいつはやり過ぎな所もあるからな。ぎゃくにお前みたいなやつにストッパーになってもらおうと思ってるんだ。」

 

アル「お前ら二人がしっかりと協力してくれるのなら、今後の寿家。ひいては幸太郎の為になるんだが、あいつは似てるんだよ。」

 

アルベルトは首筋を撫でながら、深くため息を吐いた。

 

一夏「似てるって、誰に似てるんですか?」

 

アル「あぁ、それはな・・・悪い意味で松陽さんに似ているんだよ。けどまぁ、松陽さんと比べれば可愛いもんだが。」

 

そう言ってアルベルトは、昔の話をし始めた。

 

~~~昔の話~~~

 

確か15年くらい前になるかな。詳しい事は言いたくないが、マイルナをバカにしやがったクソ野郎どもがいてな、俺は怒りのあまりにそいつらを結果として殴り殺してしまってな。

 

それは松陽さんが色々してくれて、うやむやになったんだがそのことを松陽さんに直接謝りにいったんだが・・・。

 

アル「すみませんでした。今回は俺のせいで。」

 

松陽「大丈夫ですよ。アルくんやマイルナちゃんになんにも被害が起きてないなら、どうでも良い話ですよ。」

 

アル「どうでも良いって!!俺は殺人を犯したんですよ!」

 

松陽「でもそれは二人には、まったく関係のない物だったんだよね?だったらたかだか三人程度、あっても無くても変わりませんよ。」

 

 

~~~~~~

 

アル「あの時の、他人を人と見ていないあの人の目。暗くておぞましいハイライトが無い目だったよ。」

 

一夏はアルベルトの話が信じられなかった。

 

あの紳士的だった松陽が、そんな事を言うなんて有り得ない事だからである。

 

一夏「そんな・・・、松陽さんがそんな事を言うなんて!!」

 

アル「お前の言い分はわかる。だが、お前も聞いたと思うがあの人が産まれ育った場所では、命の大切さ、生きる事の道徳が意味を為さない程、人が死にすぎている。

あの人にとっては、他人が死ぬことなんて日常茶飯事なんだよ。」

 

一夏「そんな、それじゃあ松陽さんは本当は悪い人なんじゃ。」

 

アル「言っておくが、自分の物差していどで世の中の善悪を決めない方が、この先長生きできる。

おまえがどう感じたかは知らんが、松陽さんは俺の恩人にかわりない。そんな下らない善悪を考えるのは止めておけ。

それよりも、早いところロゼットの所に行くか。」

 

一夏「それもそうですね。今の話を聞いて、俺達の今後をしっかりと話し合わなきゃいけませんしね。」

 

そう言って二人は、部屋から出ていった。




まさか、あの松陽さんが。
ですがあの環境ならば、仕方がないのかも知れませんね。

気がつけば、主人公である幸太郎が最後に登場して約半年程たっていますね。
主人公が出てこない話って、小説としてどうかと思いますが・・・。


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105話

ロゼット「まったく、あいつと話してるとイライラしてくるぜ。」

 

ロゼットは、中庭のベンチに腰掛けながら貧乏揺すりをしていた。そんなロゼットの後ろに、一人の人間が近づいていた。

 

桜華「誰かと思ったら、ロゼットじゃないの。こんな所で黄昏て。もしかして、また屋敷の人間と喧嘩でもしたんでしょ?

あなたは昔から、喧嘩っ早いんだから。」

 

優しい声をかけながら、桜華はロゼットの右肩を優しく手を置いた。

 

それによりロゼットは、後ろを振り向き少し恥ずかしそうにして、少し小さなため息を吐いた。

 

ロゼット「そんな事言っておいて、本当は誰と喧嘩したのか桜華さんなら全てお見通しなんでしょ?俺ももう、子供じゃ無いんですから普通に言っても平気ですよ。」

 

桜華「そう?なら遠慮せずに言うわ。私はどうも思わないけど、あの子は宗ちゃんが気に入ったんだから、悪い子じゃないと思うわ。それなのに、何が気に入らないの?」

 

桜華の質問に、ロゼットはなぜか嬉しそうに笑っていた。

 

ロゼット「どうも思わないか・・・。やっぱり、寿に惹かれる人間は、どこか無慈悲で恐ろしいんだな。」

 

ロゼット「理由は簡単ですよ。俺は、若い日のあなたと同じです。自分の全てを捧げようも決めた人間の為に、その人を慕う全ての人間の中で一番になりたいだけですよ。兄貴は、幸太郎様は俺の全て。俺の生きる希望であり、目的であり、死ぬための道しるべです。俺なら幸太郎様に全てを捧げる事が出来る・・・いや、俺にしか出来ない事なんです!」

 

ロゼット「俺がやらなければいけない!俺だけが幸太郎様のお側で朽ち果ていく使命がある!

俺よりも覚悟が劣る人間に、その立場は絶対に譲らない。譲ってはいけないんだ!それが一番の幸太郎様への、幸太郎様の人生への侮辱なんだ!」

 

ロゼット「幸太郎様を慕う人間の数は、計り知れない。だが、そのほとんどが、幸太郎様の権力が目的。幸太郎様の本質を理解してはいない。だから俺なんだ!俺しかいないんだ!」

 

ロゼットの言葉を、桜華はだまって聞いていた。

 

桜華「なるほど、私と同じって言ったわよね?確かに、私と同じだわ。

あなたには、その資格は十分にあるわ。いえ、あなた以外に適任者はいないわね。」

 

ロゼット「その通りです!だからあんな一夏なんて軟弱ものが、その気になっている事が間違いなんです!あんな男には相応しくない!あんな男に俺の使命が、幸太郎様の心が奪われるのは腹立たしい!だから俺はあいつを認めない!認めるわけにはいかないんです!」




ロゼットの想いと覚悟は、並のものではありませんね。
このままでは、一夏の命までとってしまいそうな勢いです。

それほどまでに、幸太郎を慕っている証拠でもありますね。


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106話

桜華「なるほど・・・ロゼットの気持ちは痛いほど理解出来るわ。」

 

桜華「なら、この話を聞いてあなたはどうしたいのかしら一夏くん?あなたの意見も聞きたいわ。」

 

桜華が振り向いた所には、一夏とアルベルトが立っていた。

 

桜華「さて、後は若い者たちに任せて私たちは中に入ってましょ。」

 

そう言って桜華は、アルベルトの肩を叩いた。

桜華の考えを理解したアルベルトは、なにも言わずに桜華の後についていった。

 

二人残された一夏は、今まで一番気まずい状況になっていた。

自分は、よく言えば誰とでも気さくに話せる人間だと言うのは、周知の通りだが、さっきまでのロゼットの言葉を聞いて何を話せば良いのかわからなかった。

 

それを察したのか、ロゼットはため息を吐きながら一夏に近づいてきた。

 

ロゼット「言っておくが勘違いするなよ?お前が良い人間だってのは、さすがに俺だってわかってる。兄貴が認めてるんだ。それはわかる。」

 

一夏「じゃ、じゃあ俺達は仲良く出来ないのか?俺はお前とも和解していきたいんだ。」

 

ロゼット「それは無理だ。お前が兄貴の右腕になる気なら、俺はお前を殺してでもそれを止める。俺がお前を嫌っている理由はそこだからな。」

 

一夏「だったら、俺が右腕じゃなければ良いんだな?俺だって幸太郎さんの為に働きたい。でもそれには、俺一人じゃダメなんだ。

俺とお前じゃ無ければ、幸太郎さんを支えれないんだ。俺とお前が協力すれば、どんな敵が相手だろうと絶対に負けないんだ!」

 

一夏は同意を求める意味で、ロゼットに手を差し出した。

 

そしてふたりの間に静かな時間が流れた。

数秒しかなかったが、まるで何時間かのように一夏は感じた。

 

するとロゼットは一夏の手をはね除けた。

 

ロゼット「お前の言いたいこと。そしてそうした方が正しいのはわかっている。」

 

ロゼット「わかった・・・。お前の提案受けてやる。その代わり、俺が兄貴の右腕。お前はただのサポートだ。それだけは忘れるなよ。」

 

一夏「あぁ!お前がそれで納得してくれるのなら、俺はそれで十分だ。その代わり、俺だってやるときにはお前よりも頑張っていくからな!」

 

そう言って二人は、お互いの手を取りあった。

 

お互いに様々な想いが交差した握手であったが、二人は決して目を離す事なく、お互いの目を見ていた。

 

その目には、言葉に出来ない熱い想いが二人には感じ取れた。

 

ロゼット「俺が言えた立場じゃ亡いが、お前も思ったよりも頑固で譲れねぇな。」

 

一夏「当たり前だろ?なんたって俺は、世界初のIS男子操縦者だぞ?中途半端な気持ちじゃ生きてねぇよ。」




これで、めでたく二人は和解しましたね?
果たしてこれが和解と言えるのかはわかりませんが・・・。

まぁ、ロゼットも一夏事態を否定してる訳じゃありませんしね。


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107話

~~~マイルナの研究所 集中治療室~~~

 

この日、幸太郎をよく知る面々には今まで以上に緊張感と終わりのない不安感に教われていた。

なぜなら、幸太郎の病状が悪化してしまい峠に入って入るからだった。

 

一夏「なぁ千冬姉、幸太郎さんは大丈夫なんだよな?」

 

千冬「え・・・あ、あぁ。当たり前だ。なんたってマイルナさんが付きっきりなんだ。大丈夫だ心配するな。」

 

まるで、自分に言い聞かす様な口調で千冬は言った。

 

すると、集中治療室の扉が開きマイルナが出てきた。

 

束「義姉さん!!幸太郎の様子は!?」

 

ラウラ「嫁は!嫁は大丈夫なんですか!!」

 

マイルナ「皆少しは落ち着いてね。この研究所全ての医学を施したわ。今のところは、最悪の事態は避けれたわ。」

 

マイルナの言葉に安堵する皆をよそに、アルベルトだけは曇った表情をしていた。

 

アル「お前の予測で何日だ?お前の事だ、もうある程度わかってるんだろ?隠さず言え。それがお前の義務だ。」

 

少し怒りを感じられる口調に、マイルナは唇を噛み締めた。

 

ルアネール「それはどういう事ですかお兄様。」

 

マイルナ「わかったわ。はっきり言うから覚悟しててね。」

 

マイルナの言葉に、皆の緊張は増していた。

 

マイルナ「今以上に危険な状態になってしまったなら、間違いなく私達・・・いえ、誰も幸太郎の命を繋ぎ止めておけないわ。

それに、今のままでも1か月持つかどうか・・・」

 

皆の顔に、絶望が走った。

これ程までの絶望は、恐らく今後二度と味わう事はないだろう。

 

アル「ふぅ・・・、ウジウジしても幸太郎は変わらん!!俺達に出来る事は何も無い!わかったら、さっさと学園に戻れ!」

 

アル「あと、一夏と千冬とロゼット。お前らは残ってくれ。大事な話があるんだ。」

 

なぜこの三人なのかだれもわからなかったが、アルベルトの言う通り、自分たちには何も出来ないと痛感し、大人しく帰る事にした。

 

残った連中は、研究所の応接室に来ていた。

 

ロゼット「この残った面子で、ただ事では無いのは理解しました。何かあったのですか社長?もしかして、秘密の仕事ですか?」

 

アル「亡国機業からの報告だが、ここ数日世界各国の要人達の動きがおかしいらしい。どうやら、日本政府を中心としたあるプロジェクトが秘密裏に進行しようとしている。」

 

一夏「秘密裏に、プロジェクトがですか?」

 

マイルナ「まさか!!そのプロジェクトって!」

 

アル「そう。幸太郎の病原体の化学兵器活用。そして、病原体の確保だ。このプロジェクトに、わかってるだけでも10ヵ国の先進国が賛同してる。代表候補の母国も、もれなく賛同済みだ。」

 

千冬「それで、彼女達には話さなかったんですね。ですが、アルさんの力を使えば、今すぐ中止にでも。」

 

アル「それは難しい。日本政府を信用してねぇから、上層部に部下を入り込ませ切れなかった。今わかってんのは、奴らは幸太郎をどんな手を使ってでも手に入れるつもりだ。

恐らく、邪魔をするものには容赦しないだろうな。」

 

一夏「そ、そんなバカな話があるかよ!!じゃあ、俺達は黙って指を咥えて見てろってのかよ!!」

 

アル「心配すんな。と、言いたいが今の俺には後手後手の行動だけだ。だが、会社全ての力を結集して迎え撃つ。恐らく、相手は各国の特殊部隊だろう。

そして、決戦は学園付近だ!!それだけは心しておけ!!」

 

 




幸太郎が、まさに危険な状態にありますね。
久々の登場だと思ったら、大変な事になっています。
 
そして、世界各国がそんなプロジェクトを起こしているとは。


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108話

リズ「なるほど、それでここ最近お兄様はバタバタしてたのですね。」

 

千冬「なんだ。リズも来てたのか。」

 

部屋に入ってきたリズリーの左手の薬指を見て、まだ慣れてないのか千冬は少し恥ずかしそうにしていた。

 

アル「これで、協力者は全員出揃ったな。じゃあお前たち、見当を祈っているぞ。」

 

そう言ってアルベルトは、部屋から出ていこうとした。

 

そんなアルベルトを、リズリーは肩を掴んで止めた。

 

リズ「一つ聞きたいのですが、今回の件で幸太郎様を守れた後、世界各国の要人達をどうするおつもりですかお兄様?」

 

アル「そんなの決まってるだろ?全世界生中継で、殺すさ。」

 

一夏「ちょ、殺すって!そんなのダメに決まってるでしょ!!」

 

アルベルトがあまりに簡単に殺すと言ったのに、一夏と千冬は驚きを隠せないでいた。

 

千冬「そうですよアルさん!そんな事しなくても、そのプロジェクトを白紙にすれば、解決じゃないですか。」

 

アル「はぁ・・・、甘い。甘いんだよ。これだから、一般的な善悪論は大嫌いなんだよ。」

 

そう言ってアルベルトは、スーツから1丁のピストルを取り出した。

 

アル「いいか?幸太郎をクズ共から守った後に必要なのは、プロジェクトを白紙にする事じゃない。

確かに、それも大切だ。白紙にすりゃあ、ある程度はクズ共を押さえる事が出来る。」

 

一夏「だったら、それで良いじゃないですか!」

 

アル「だがそれではダメだ。本当にするべき対処は、クズ共にこのプロジェクトに参加した事を後悔させること。そして、二度と俺達・・・いや違う。寿家二代目当主 寿 幸太郎に逆らわない様に。そのために、見せしめとして殺す。

当然の事だろ?それに、誰もお前たちに殺せと頼んでるんじゃねぇ。そういう作業は俺が請け負う。」

 

アル「持ってろ。護身用のピストルだ。一応弾は6発だ。有意義に使えよ?」

 

取り出したピストルを一夏の手に渡した。

 

アル「さて、そろそろお開きとするか。そうだ、もしかしたら政府連中からお前ら代表候補生達に帰国命令か、何かしらの圧力がかかるはずだ。

その時は、なるべく逆らわない様にしてやれ。そうすりゃ、あいつらに被害が飛び火する事は恐らく無いだろう。」

 

それだけ言うと、アルベルトは今度こそ部屋から出ていった。

それを皮切りに、ロゼットとリズリーも部屋から出ていった。

 

マイルナ「あなた達の言いたいも理解できるわ。でも、私達は幸太郎を守る事が使命なの。

そのためなら、危険な事や法を犯してまで出来る事をやるわ。」

 

マイルナ「それでもアルの考えを受け入れる事が出来ないなら、二人は今回の件から抜けていいわ。

今回の件で必要なのは、幸太郎を守る事もそうだけど、悪人を徹底的に罰する覚悟も必要なのよ。」

 

そう言ってマイルナは、二人の目を見てニッコリと笑い、部屋から出ていった。

残された二人は、お互いの顔を見合っていた。

 

千冬の目には覚悟が、一夏の目には迷いがあった。




当たり前のように処刑宣言。
しかも全世界生中継とは!

さすがと言いますか、なんと言いますか。
当然と言えば当然の報いでもありますがね。


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109話

次の日一夏は、授業に出ていたが考え事をしていて心ここにあらずだった。

普段なら千冬から注意されるのだが、事情を知っている千冬はあえて何もしなかった。

 

アルベルトは世界各国の要人を殺すと言っていたが、どうしてもそれだけは許せなかった。

かつて自分が亡国機業に誘拐され、殺されるかもしれない恐怖を味わったからこそ、他人に同じ想いをしてほしくないからだ。

 

一夏(はぁ・・・、俺はどうするべきなんだよ。俺も幸太郎さんを守りたい。けど、アルさんみたいに他人を平気で傷つける事は出来ない。なんで千冬姉は覚悟を決めてれたんだよ。人を傷つけるかも知れないんだぞ!?)

 

誰かにこの事を相談したかったが、この学園の代表候補生達には勿論、親友である弾に相談して巻き込む訳にもいかない。

悩めば悩むほどに、一夏は自分が追い詰められているように感じていた。

 

そうこうしているうちに、終了のチャイムがなっていた。

 

いつもの元気がない一夏の姿を、周りの生徒達は心配していたが良からぬ気配を感じ取っていたのか、だれも声をかけようとはしなかった。

そんな周りの気遣いが、今のところは一夏にとっては心から嬉しかった。

 

授業が終わり、一夏はほぼ無意識に近い状態で自分の部屋へと戻っていた。

 

一夏(どうすれば良いんだよ。本当に誰かを傷つけなきゃ幸太郎さんを守れないのかよ!?俺には覚悟ってのが無いだけなのかよ!?」

 

ふと一夏は、引き出しに入れてあった1枚の紙切れを思い出した。

それは、幸太郎の誕生日、そして二代目当主に就任した記念パーティーで宗次郎からもらった宗次郎のプライベート用の番号が書かれた紙である。

 

一夏「そうだよ。今の俺が相談出来る相手ってのは、おっさんだけじゃねぇかよ。

それに、困ったら電話してこい!って言ってたしな!」

 

そうして一夏は、紙に書かれていた番号をダイヤルした。

 

いざかけてみると、相手は引退したとは言え元々は世界一とも言える寿家の当主である。

さすがの一夏も少し緊張していた。

 

プルルル、プルルル。

と2コールがなったあと、宗次郎が電話にでた。

 

宗次郎「おう!待ってたぞ少年。どうした?もしかして、俺の下で働きたくなったのか?

そうかそうか!それなら今すぐに来い!それなりのポストを用意してやる。」

 

一夏「違いますよ。実は、どうしても相談したい事がありまして。」

 

一夏の真剣な声色に、宗次郎はそうとう真面目な話だと直ぐに理解した。

 

宗次郎「そうか。今はIS学園にいるんだろ?今すぐに迎えの車を手配する。少し待っていろ。」




いよいよ、一夏も今回の件について向き合っていかなければなりませんね。
相談相手にあの宗次郎を選ぶとは、中々素晴らしいチョイスですね。

まぁ、他にいないだけでもあるんですが。


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110話

今回はセリフ多めになっています。
ご了承ください。


一夏を乗せた迎えの車は、宗次郎が待っていると思われる高級料亭に来ていた。

 

あまりに自分には敷居の高すぎる料亭を前に、緊張のあまり足がすくんでしまっていた。

案内された個室の扉を開けると、そこには宗次郎と警護の人が待っていた。

 

宗次郎「おう、遅かったな。まぁ、今日は俺がこの店を貸し切ってる。好きなだけ騒いでもいいぞ?」

 

一夏「か、貸し切りですか!?さすが元とはいえ寿家の当主なだけありますね。」

 

そう言って一夏は、宗次郎と机を挟んで座った。

 

宗次郎「さて、大切な話があるみたいだがまずは飯にするか。腹が減ってはいくさは出来ん。腹が減っては話が出来んってな。」

 

そして二人は、少しの間料亭の綾里を堪能しながら他愛もない世間話に花を咲かせていた。

 

一夏「こんな旨い飯は食った事なかったよ。ありがとなおっさん。」

 

宗次郎「じじいの暇潰しの一環だ。きにするな若造よ。で、話ってなんなんだ?」

 

そして一夏は、自分の悩みである幸太郎を守るためにアルベルトの考えに賛同すべきかを宗次郎に打ち明けた。

 

宗次郎は腕を組ながら一夏を見た。

そして深いため息を吐いた。

 

宗次郎「なるほど・・・、世界各国の要人を処刑か。あいつの考えそうな事だな。がっかりするかも知れんが、はっきり言っておく。

俺は賛成だ。」

 

一夏「そんな!!確かに、幸太郎さんを守らなきゃいけないのはわかるけど、だからって殺すのはやりすぎだろ!」

 

宗次郎「お前の言い分も痛いほどわかる。人殺しは犯罪だ。非人道的かも知れん。だが、幸太郎を守り要人どもを止めたところで無意味だ。」

 

宗次郎「要人どもを法で裁くのは不可能だし、もし逃がしたところで奴等はまた攻めてくる。今度はより攻撃力にな。」

 

一夏「でも、勝てないとわかってるなら攻めてくるとは・・・」

 

宗次郎「命の心配がないからな。自分達は安心安全。肝心な作戦は使い捨てで替えが大量にある兵士ども。それに、今は同意してない国も安全と分かれば参加するだろう。

だから見せしめが必要なんだ。無意味な殺しじゃない。幸太郎を守り続ける為に最低限必要な殺しなんだ。」

 

宗次郎「それに武力を使ってくる以上は、こちらも武力で対抗しなければならない。要人どもはわかってないが、それが戦いにおける礼儀であり作法だ。」

 

宗次郎の言いたい事は、一夏はわかっている。だが、どうしてもあと一歩心が決めきれないでいた。

 

宗次郎「かつてお前は、大切な中間を守るために無人機を2体ほど倒したそうじゃ無いか。考えてみろ?もしそれに誰かが乗っていたら。そうだったらお前は攻撃を躊躇するのか?もしその躊躇で自分が守りたい存在が守れなかったら?

殺しはいけないかもしれない。だが、その程度の倫理観や法律と自分が本当に守るべき存在を天秤にかけるな。それは侮辱であり、本当に守りたいと思ってない証拠だ。」

 

宗次郎「まだ20年も生きていない程度の人生経験で、正義や悪を決めつけて行動するな!自分が動く言い訳に下らん事をあれこれ考えるな!

何が正しくて、何が悪いかなんて知らん!人生に正義と悪は存在しない!!自分がどうするべきか、どうしたいかそれだけだ!他人のために自分をかけるのに理由はそれだけで十分だ!わかったか!!」

 

一夏「!!自分をかける理由・・・。人殺しはしたくない。でもそれでも幸太郎さんを守りたい!!今は俺に出来る事だけをしてみせる!!」

 

そう言って一夏は、清々しい顔をして出ていった。

 

宗次郎「ふぅ、中々いい顔をするじゃないか。人殺しか・・・、昔が懐かしいな。」




これにて一夏も参戦決定ですね!!

それにしても、やはり宗次郎は経験豊富なだけあって言葉の重みが違いますね。


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111話

料亭から出た一夏は、宗次郎が手配していた車には乗らずに歩いてIS学園に帰ることにした。

今は少しでも色々と考える時間が欲しかったのだ。

 

宗次郎の言葉一言一言には、予想もしていなかった重みと説得力があり相談して良かったと、一夏は心からそう思えた。

 

そんな一夏を狙っていたかのように、一台の車が一夏の進路を妨害し、中からいつぞや学園に来ていた役人が降りてした。

 

役人「これはこれは、織斑一夏様ではありませんか?私のことを覚えていますか?」

 

一夏「えぇ、一応は。」

 

正直、今までのアルベルト達の話からなるべく政府連中にはあまり関わりたくないと思っていた一夏は、露骨にいやな顔をした。

 

役人「おやおや?その顔は、あの計画を耳に挟んだのでしょう。ですが、今日はその事でお話があるですよ。」

 

そう言って役人は、一夏を車の中に案内しようとしたが一夏は拒否した。

 

それも想定内だったのか、役人はあまり気にしていない様子だった。

 

役人「あなたがどの様に聞かされたかはわかりません。ですが、私達も本当なら武力での解決は望んではいません。我々があれを狙うのは世界平和の為なのです。」

 

幸太郎をあれ呼ばわりする態度に嫌気がさした一夏は、迂回して別ルートで帰ろうとした。

だが、役人に肩を捕まれてしまった。

 

役人「もしよろしければ、あなたには我々のスパイになっていただきたいのです。そちらがわの準備段階や作戦を我々にリークし、嘘の上方を流して欲しいのです!!」

 

一夏「生憎だけど、俺にそんな卑劣な役目は無理だよ。他を当たってくれ。」

 

役人「あなたの行動で、よけいな負傷者を出さずにすむのですよ!?誰かが傷つくのは嫌なはずです。ならば、この定員は魅力的なものだと思っていますが?」

 

確かに、よけいな負傷者が出ないのは魅力的だった。

誰も殺さずに事が解決するのは、一夏の望みだった。

 

それは少し前までの一夏なら、の話だが。

 

一夏「今の俺は、覚悟が出来てるんだ!そっちが幸太郎さんを狙うんだったら、俺は負けない!!そんな口先だけの言葉なんかには、もう惑わされない!」

 

一夏の言葉に、役人の顔色が急変した。

そして一夏を力ずくで言い聞かせようとしたとき、スーツ姿の女性が役人を止めた。

 

アル「ナイスだナターシャ。おいクズ野郎、それ以上は止めときな。各国の要人の前におまえを殺すぞ?」

 

ナターシャと呼ばれた女性はそのまま役人の背中を蹴り飛ばした。

 

役人「くっ!お前まで来ていたのか。このばは帰らせてもらいますよ。」

 

そう言って役人は車に乗り込み、そのまま車を発車させた。

 

ナターシャ「良いのですか社長?奥様にご報告なさらなくても。」

 

アル「まぁ、別に良いさ。それよりも一夏。」

 

一夏「なんですかアルさん?」

 

アル「今のお前、かっこよかったぞ?すっかり覚悟が決まったみたいだな。

それじゃあ、学園に帰ったらお前には徒手格闘術を教え込む。」

 

一夏「徒手格闘術ですか?でもなんで?俺には白式があるんですが。」

 

アル「もし今みたいな状況に陥ったらどうする?それに相手はISの展開を待ってくれる程優しくない。自分の身を守るためにも必須なすぎるだよ。」




忙しい時期も終わり、これからはなるべく速く更新が出来るとおもいます。

一夏も無事に覚悟を決めましたね。
さすがはIS主人公です!


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112話

~~~アリーナ~~~

 

学園に帰った一夏達はその足ですぐさま、アリーナに来ていた。

 

一夏「徒手格闘術を教えてくれるって話ですけど、アルさんが直々に教えてくれるんですか?」

 

アル「そうとも言うが、違うとも言う。それよりももう一人呼んでるんだが。」

 

するとアリーナの入り口からロゼットが入ってきた。

 

ロゼット「まったく、自主連の途中だってのに何のようですか社長・・・ゲッ!ナターシャさんも!!」

 

ロゼットはナターシャを見るなり、嫌そうな顔をした。

その反応を見たナターシャは、にっこりと微笑んだ。

 

ナターシャ「自主連とは関心ですね。ですがロゼ、あなたは最終試練も終えていないのですよ?もっと危機感を持つべきです。

それに聞いた話によると、あなたは・・・。」

 

そのまま、ナターシャはロゼットに説教を始めた。

 

ロゼットの萎縮した姿を見て、一夏は目を丸くして驚いた。

 

一夏「まさかあのロゼットが、ここまで言われる何て。アルさん、あの女性は誰なんですか?」

 

アル「あいつは俺の秘書兼、教育係だ。それじゃあ時間ももったいないからさくっと始めるか。じゃあ一夏、いまからナターシャと組手をしてもらう。 

お前がナターシャに触れる事が出来れば、第一関門突破だ。」

 

ロゼット「えっ、いきなりそれですか?社長、さすがに無茶じゃ。」

 

アル「時間がねぇんだ。さて、ルールは簡単に時間無制限、一夏がナターシャに触れれば即終了だ。」

 

アルベルトがそう言うと、ナターシャは慣れた様子で一夏の正面に立った。

 

ロゼット「一夏、アドバイスとしてだが。死ぬなよ。」

 

ロゼットは、苦い顔をしながら一夏の肩を叩いた。

 

一夏(なんだよ、死ぬなだって大げさすぎるだろ?要は触ればいいんだろ?だったら!)

 

そう言って一夏は、タックルの要領でナターシャに駆け寄っていった。

ふと、ナターシャの足元を見てみると右足が一夏の視界から消えていた。

 

一夏(あれ?さっきまで右足があったのに。どうなっ・・・!!)

 

一夏はいきなり自分の頭に襲ってきた衝撃に耐えきれなくなり、その場に倒れこみ気絶してしまった。

 

なぜなら、その衝撃の正体はナターシャによるかかと落としだったからだ。

 

アル「あ~あ、だろうと思ってたけど瞬殺か。ナターシャ、やりすぎ。」

 

ナターシャ「すみません社長。ですが、私が想定していたよりもあまりに隙だらけでしたので。ですがこれでもものすごく手加減をしたのですが。」

 

ロゼット「ほぼ素人相手に、あそこまで綺麗なかかと落としを決めるとは。やっぱり、ナターシャさんは鬼だな。」

 

アル「感心してる場合じゃねぇぞ?お前も速くクリアしねぇといけないんだぞ?ちゃちゃっとやって、ちゃちゃっと落ちてこい。」

 

その後、ロゼットもナターシャに挑んだが一夏とおなじくナターシャに触れる事なく物の五分で気絶させられてしまっていた。




まさかの強さですねナターシャさんは。
アルベルトの秘書にしてこの強さとは!!

もしかしたら、千冬を越える戦闘力かも知れませんね。


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113話

~~~アルベルトの部屋~~~

 

アル「それにしてもお前、思ってた以上に弱いなおい。」

 

一夏「違いますよ。確かに、喧嘩とかはしたことないですけど、ナターシャさんが強すぎるんですよ。」

 

目が覚めた一夏はら頭に氷嚢を乗せていた。

まだクラクラするのか、どことなく焦点が合っていなかった。

 

アル「だが、これでお前に教える事が決定した。」

 

一夏「教える事ですか?もしかして、今すぐナターシャさんに勝てる必勝法とかですか!?」

 

アル「お前には、防御を徹底的に教え込んでやる!!まぁ、詳しくは武道場で話すよ。」

 

そう言ってアルベルトは、一夏を担ぎ上げて武道場へと向かっていった。

 

~~~武道場~~~

 

アル「徒手格闘術、ひいては他人との戦いには大きく別けてに種類ある。相手に反撃の隙を与えず勝利する攻撃型と、相手の攻撃を避けて隙を見つける防御型だ。。」

 

アルベルトは、竹刀を片手に準備運動をしながらそう言った。

 

一夏「なるほど、で俺に教えてくれるのはその防御型って訳だね。それよりも、なんで千冬姉までいるんだ?」

 

千冬「武道場を使うのにも、一応教員の許可がいるからな。それに、アルベルトさんがどんな教え方をするのか気になってな。」

 

アル「そう言うこと。さて一夏、ISを展開してもいいから今から5分間、俺の攻撃を避けてみろ。」

 

そう言われた一夏は、何が始まるのか良くわからなかったが言われた通りにISを展開した。

 

その瞬間、アルベルトは一夏に向かって竹刀を振り上げた。

 

何とか紙一重で避けた一夏だったが、当然のことでしりもちをついてしまった。

 

アル「意外に反射神経は悪くないな。じゃあ今からスタートする。おい千冬、タイマーよろしくな。」

 

一夏「ちょっ!!いきなり何を!!って!」

 

5分後、ISを展開しているにも関わらず一夏はアルベルトに、竹刀でボコボコにされていた。

 

アル「おいおい・・・、予想以上に弱すぎるぞお前。もっと避ける事に集中しろよな。」

 

一夏「いたた・・・、いきなりやられたら反応なんて出ないいですよ!それよりも、この特訓は何ですか!?新手の体罰ですか!?」

 

ハァ、とため息を吐いたアルベルトは、倒れている一夏と同じ目線になるようにその場に屈んだ。

 

アル「今のお前に、相手を圧倒する戦闘力をつけるのは時間がかかりすぎる。だからよ、せめて相手の隙を見つけられる様にする方がよっぽと楽だと思ってよ。

さて!休憩終わり!!今からが本番だ。これをお前がノーダメージでクリア出来るまで五分を永遠に繰り返す。」

 

そう言ってそのまま、アルベルトは再開するように一夏に竹刀の先を向けた。

 

そして二時間が過ぎた頃、あまりのダメージに一夏はとうとう動けなくなっていた。

 

アル「ISだからって、油断しすぎだぞ?本当なら、生身でやらなきゃならんのだぞ?相手が動いてから動いてるようじゃ、格好の的になるだけだ。俺はまだその気のその字も出してないんだぞ?」

 

アル「相手の動きを常に予想して、よけなきゃならねえ。もっと相手を観察して体も頭もフルに使ってかなきゃ、終わらねぇぞ?」

 

一夏「そ、そんな!!予想するだなんて、そんなの無理に決まってるよ!!」

 

アル「だからこそ、実戦あるのみだ!!あと30セットだ!いくぞ!!」

 

この日、武道場からは一夏の悲痛の叫びが止まなかったという。




まさに、スパルタですね。
時間がないにしても、過酷すぎますね。

私が思うには、一夏はどちらかというと防御型だと思います。
ですから白式は相性が悪すぎるようにも思います。

だって白式って、勧善に攻撃重視すぎる装備ですしね。


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114話

次の日も一夏は、朝早くからアルベルトから同じトレーニングを受けていた。

ただ機能と違うのは、今日はIS無しの生身だと言うことだった。

 

二日目にして、生身の緊張感と持ち前のセンスからか昨日よりは竹刀による攻撃を避けれる様にはなっていた。

 

アル「俺の予想よりも、なかなかの上達具合だな?でも、まだまだ動きに無駄がありすぎる。せっかく授業を休ませてやってるんだから、もっとがんばれ。」

 

一夏「それはわかってますけど、難しいですよ!!」

 

アル「へこたれるな。それに、俺は甘い方だぞ。松陽さんなら、本物の日本刀でしてくるからな。」

 

一夏はもし日本刀でやられていたらと考えると、鳥肌がたっていた。

 

そして昼頃を迎えたときには、さすがの一夏もヘトヘトになっていた。

 

千冬「様子を見に来たら、この前と同じだな一夏。」

 

アル「まぁ、これでもだいぶ形にはなってきてるぞ。これでも。」

 

千冬「ですが、さすがにスパルタ過ぎるんじゃ無いんですか?これだと、一夏が壊れてしまいますよ。」

 

アル「お前の言いたい事はわかる。俺だって、もっと段階を踏んでやりたい。けど、情報によるとあと二、三日で各国の要人どもが行動を開始するらしい。

だから、今は時間が足りないくらいなんだよ。」

 

アルベルトのことばを聞いた一夏は、震える足を無理やり立ち上がらせた。

 

一夏「そ、それを聞いたら、休んでなんていられません!!こっからは、休憩なしで来てください!!」

 

アル「ふっ、さすがは織斑一夏だ。ならば、お前の覚悟にこたえてやろう!いくぞ!!」

 

そして一夏が攻撃を完全に避けれる様になったのは、2時間後だった。

それまで、休憩なしのぶっ通しだったが要人達の攻撃が間近に迫っていると聞いた一夏は気迫のこもった動きだった。

 

アル「これにて、特別レッスンは終了だ。だが、ここからが本番だ。その前に予行練習にいくぞ一夏。」

 

そう言って、疲労で動けない一夏をアルベルトは無理やり引っ張り出していった。

 

~~~IS学園の外~~~

 

アルベルトに連れられて、一夏は暗い路地裏に来ていた。

 

一夏「ここで何をするんですか?それに予行練習って・・・」

 

アル「ここら一帯は、不良のたまり場らしい。よってそいつらに喧嘩で勝てばいい。それだけの話だ。」

 

すると、二人の回りにいかにもな格好のお兄ちゃん達が集まり、囲まれていた。

 

不良1「おいおい。ここらは俺達の縄張りだぞ!?」

不良2「調子乗ってっと、ころすぞアァン!?」

 

不良達の手には、鉄パイプが握られていた。

そして一夏達の答えを待たずに不良達は殴りかかってきた。

 

ヤバい!!と一夏は身構えていたが、不良達の攻撃が物凄く隙だらけに見え、一夏は簡単に不良達をいなしていた。

 

そして、怒りが溜まってきたのか不良達の攻撃がどんどん大振りなりより隙が出来ると、一夏は攻撃を避けたあとにカウンターを決めることが出来た。

 

そしてそのまま、二人程を倒したときに他の不良達は一夏にビビってしまい一目瞭然に逃走していった。

 

一夏「あの、アルさん。あの人達の行動が俺には隙だらけに見えたんですけど、これもあのトレーニングの成果なんですか?」

 

アル「そう言うこと。これが、前に言った防御型の戦い方だ。さて、後はナターシャに触れるだけだな。」

 

こうして二人は、学園へと帰っていったのだった。




まぁ、アルベルトの攻撃を死に物狂いで避けてたのですから、そこいらの不良どもの攻撃なんて、見え見えでしょうがないですよね。

そして、いよいよ世界各国の要人が動こうとしています。
決戦の火蓋が切って落とされるのはもうすぐですね。


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115話

アル「明日は、学園を特別休校にして生徒達を帰宅させろ。」

 

職員室に入るなり、アルベルトは千冬につげた。

理由はわかっているが、あまりにも唐突な発言に唖然としていた。

 

千冬「ですが、いきなりそう言っても色々と準備があると思うんですが。」

 

アル「心配すんな。その為に海外から来てる奴や地元を離れてる奴の為に近くのホテルを買ってある。それに、学園長の許可もとってある。これで文句はないだろ?」

 

千冬「それなら大丈夫ですが・・・。じゃあなるべく早めに生徒達を帰らせます。」

 

そう言って千冬は職員室から出ていった。

 

~~~その夜~~~

 

今回の襲撃を知っている人間以外いない学園はいつもよりもひっそりとしてまるで時が止まっている様に感じていた。

 

そんな中一夏は、部屋で一人寝れずにいた。

 

一夏「はぁ、明日にはいよいよ本番か。覚悟は決めていたけど、いざとなると緊張すると言うか・・・。」

 

すると、部屋の扉がひらきロゼットとアルベルトが入ってきた。

 

ロゼット「やはり、寝れないのか。まぁ、初陣だからな。俺もそうだったしな。」

 

アル「起きてたんならちょうどいい。お前に渡しておきたい物があったんだよ。ほらわが社特製のスーツだ。」

 

アルベルトから渡されたスーツは、一見普通のスーツとは何ら変わらないスーツだった。

 

だが良く触ってみると、腕の部分が硬めに設計されていた。

 

アル「これで、頭と心臓を守っておけば、撃たれても最悪即死は免れる。俺達に必要な事は生きて仕事を遂行する事だからな。」

 

一夏「なるほど・・・。これに袖を通せば俺もいよいよ覚悟を固めなきゃダメなんですね。」

 

仕事を遂行する。その一言で、一夏は自分達がしようとしてること。これから起こることの重要さを改めて痛感した。

 

アル「さて、そろそろお前たちは寝た方が良い。そうだロゼット、面倒だからお前もここで寝ておけ。」

 

一夏「アルさんはまだ寝ないんですか?」

 

アル「俺はまだやることがあるからな。ここからは大人の時間って訳だ。じゃあななるべく速めに寝ておけよ。」

 

そう言ってアルベルトは部屋から出ていった。

 

寝ておけと言われたが、やはり一夏は気持ちが変に昂って眠れなかった。

 

ロゼット「なにやってんだ?社長も言ってた通りさっさと寝ておけ。」

 

一夏「ロゼット、お前はこの状況でも落ち着いて寝られるのか?」

 

一夏の質問に、ロゼットは何を言ってるんだ?と言わんばかりの顔をしていた。

 

ロゼット「当たり前だろ?俺にとっちゃ慣れた事だ。それに、最悪殺さなくて良いんなら、気兼ねなく仕事出来る。」

 

一夏「最悪か。やっぱりお前でも人を殺すことに躊躇いがあるんだな。」

 

ロゼット「まぁな。これでもまだガキだからな。出来ることなら、殺しは勘弁とおもう。だが、それでも戦わなきゃならないんだよ。それが兄貴を守る事だし。」

 

ロゼット「俺が進んで選んだ生き方だから。おまえもいずれ分かる日がくるさ。さもなきゃ兄貴の右腕、俺のサポートは勤まらない。」

 

それだけ言うとロゼットは、布団に入りすぐ寝てしまった。

 

一夏「選んだ生き方か・・・。確かにそうだな!俺も自分の意思でここに残ったんだ。それに、幸太郎さんの右腕は俺だからな。」

 

そう言って一夏も、布団に入り寝ることにした。




ロゼットにも、年相応な幼さが感じられますね。
まだ一夏と同い年ですから、子供と言えば子供ですしね。

いよいよ物語も終盤と思うと、名残惜しさ?からなかなか筆が進みません。
ある種の作者としてのジレンマですかね?


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116話

~~~次の日の早朝~~~

 

まだ日が昇ってすぐの時刻、一夏はアルベルトに呼ばれ職員室に来ていた。

すでに他の面々が終結しており、始めてみる人も多々いた。

 

アル「よし、これで全員そろったな。これより、本作戦の最終報告を行う。その前に、この無線機をつけてもらう。」

 

そう言って渡されたのは、片耳だけイヤホンと胸につける小型のマイクだった。

 

回りの人が付けているのを見て、一夏も同じように無線機を装着した。

 

アル「もうすぐ幸太郎とマイルナが到着する。二人が到着次第、各々は配置についてくれ。」

 

一夏「ちょっと待ってくれ!到着って、ここに幸太郎さんを連れてくるんですか!?」

 

アル「あぁ。場所がバレてないとは言え、研究所まで襲撃されたら手が回らんからな。ここなら、戦闘経験豊富な人材がいるし、世界一安全ってわけ。」

 

すると、職員室のドアが開きマイルナが寝ている幸太郎をベッドごと押して入ってきた。

 

マイルナ「無事に到着したわよ。それじゃあ、私とそうね・・・千冬はここで幸太郎の様子を見ておくわ。」

 

アル「苦労かけたな。じゃあ、作戦通りに配置についてくれ。以上!解散!!」

 

アルベルトの発言に敬礼したあと、一夏とロゼットを残して職員室から出ていった。

 

アル「そんじゃあ、二人は俺と一緒に行動するか。」

 

ロゼット「はい!一夏、怖じ気づいてるんなら、来なくていいからな。」

 

一夏「いまさら怖じ気づくかよ。ここまで来たら、なるようになれだよ。」

 

そうこうしているうちに、学園の外には沢山の兵隊が武装していた。

 

その数は、ざっと見ただけでも百はゆうに越えていた。

 

「中にいる人間につぐ!!今すぐ我々にターゲットを渡しなさい!そうすれば我々もすぐに立ち去る。もし断るならば、武力行使に出るぞ!!」

 

アル「ようやくお出ましか。スピーカーはこれか。」

 

アル「そっちこそ、さっさと帰れ!!そうすれば、痛い思いもしなくてすむ。まだ温かい飯を食って良い女を抱いてたいだろ?死にたいんなら、よろこんで殺してやるけどな。」

 

『社長。狙撃部隊、配置につきました。発砲許可があれば、いつでもいけます。』

 

無線から聞こえてきた声で、一夏の心臓はバクバクしていた。

だが、恐怖からではなく、これから始まる事への武者震えからだった。

 

一夏「そう言えば、こんな大事になってたらメディアがだまってないはずですよね?でも全くニュースにすらなってないって、可笑しくないですか?」

 

アル「偉く余裕があるな。心に余裕があるならいい。各メディアには俺からの口利きで黙らせてある。それに半径50メートル内全ての人間は避難させ立ち入り禁止にしてある。これで、いくら暴れようと大丈夫って訳。」

 

すると、外でも動きがあった。

 

「ならば、五分後に我々は攻撃を開始する!!」

 

アル「さて、天下のIS学園も五分後には戦場と化すのか。これはある意味歴史的快挙になるな。

狙撃部隊、奴等が動き出したら即発砲だ。その代わり、1分間だけだ。それが終わったら、別の場所で待機だ。」

 

『了解しました。』

 

そして五分後、ついに兵隊達がIS学園へ向けて前進し始めた。

 

それを火種に、激しい発砲音が鳴り響き、兵隊達が一人、また一人とその場に血を流して倒れ出した。

 

倒れた人間に見向きをせず、前進する兵隊に一夏はある種の恐怖とかつて宗次郎がいっていた使い捨てで替えがある。その意味を痛感した。

 

アル「ダミーの準備は出来てるか?」

 

『はい。ダミー全て準備完了しています。』

 

アル「良し。なら一夏とロゼットは2階に移動しろ。そこで奴等を迎え撃て。」

 

ロゼット、一夏「はい!!」




いよいよ、はじまりましたね!

兵隊の性なのか知れませんが、任務遂行の為なら前進しなければならないのは、悲しいものでね。
ですが、もうどちらも後には引けませんね!!


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117話

~~~職員室~~~

 

千冬「マイルナさん、いくらアルベルトさん達が外にいるからって護衛も無しでは、さすがに無防備すぎでは無いですな?」

 

幸太郎の看病を二人でしていた時、千冬は少し焦りながら聞いた。

 

だが、それを聞いたマイルナはまるで心配事がないかのようにきょとんとしていた。

 

マイルナ「そんな事なら心配のしの字もない。この部屋は、紅グループの科学力で、部屋の外からはいっさい感知されないなよ。それに、護衛なら取って置きのスペシャリストがいるわよ。」

 

~~~二階~~~

 

一夏「外の銃声が消えてから早5分、相手のうごきが無いけど、もしかして諦めたのか?」

 

ロゼット「窓際と壁の近くから離れておけ。痛い目見るぞ。」

 

そう言うとロゼットは、一夏を廊下のほぼ真ん中に連れ出した。

 

それとほぼ同時刻、大きなばく爆発音と共に壁や窓が破壊された。

 

一夏「おい!いきなり何が起きたんだよ!!」

 

ロゼット「あらかた、ミサイルが爆弾でもつかって強行突破でもするんだろ?それよりも戦闘の気構えだけでもしておけよ。」

 

空いた壁や窓から兵隊が10人ほど侵入していた。

 

そして二人に向けて銃を構えた。

 

兵隊「無駄な抵抗は止めろ!!大人しくって子供じゃないか!!」

 

二人のおさなさに驚いた兵隊達はどうするべきが戸惑っていた。

 

ロゼット「おい一夏お前、泣く演技は出来るか?」

 

一夏「いや、出来ないわけじゃ無いけど・・・。ここで突然は無理かな。」

 

ロゼット「じゃあ左の四人はやるよ。空いての顎か目を狙え。急所を狙えば、攻撃素人のお前でもプロに勝てるよ。」

 

ロゼットは首をコキリとならすと、兵隊にゆっくりと近づいていった。

 

ロゼット「助けてください!!僕達、ここに取り残されたんです!!」

 

泣きながら近付いてきたロゼットに、兵隊達は一瞬戸惑ったがすぐに助かるために構えをといた。

 

兵隊「大丈夫だったかい君。でもこれでだいじ・・・」

 

言い終わる前に、ロゼットは兵隊の目を突いた。

そして隣にいた兵隊を思い切り殴り付けた。

 

ロゼットの攻撃行動に一夏側にいた兵隊がときかけていた銃を再び構えようとしていた。

その一瞬の隙をのがさず、一夏は兵隊との距離を縮めた。

 

そして腕だけ白式を展開させ、なるべくよけいなダメージを与えないように、しっかりと顎を狙いすまし攻撃した。

 

近付いてきた一夏に対し、肉弾戦を挑もうとしたが既にアルベルトとの特別訓練をこなした一夏には、プロの兵隊の動きでさえも攻撃を当てる事が出来ず、拳が空を切るばかりであった。

 

そして攻撃の合間をぬい、カウンター気味に顎を狙い残りの兵隊も確実に気絶させた。

ロゼットの方を見てみると、すでに片付いており腕がおかしな方向に曲がっている兵隊すらいた。

 

ロゼット「すぐさま銃の狙えない射程圏内に入るなんて、初陣にしては上出来だな。てか、ISは狡いな。素人のパンチでも失神させれるなんてよ。」

 

一夏「何をさっきから物色してるんだよ?銃なら床に転がってるだろ?」

 

ロゼット「こいつらに無線かレーダーの類いでもあれば、相手の動きがわかりやすいと思ってたんだが・・・、持ってないところを見るに、こいつらも捨て駒扱いってわけだな。」

 

そう言うとロゼットは物色を諦めた。

 

ロゼット「さて、こっからどう動こうかな。」




敵の強行突破を予測するなんて、さすがはロゼット。
場数が違いますな。

そして初陣とは思えない一夏の立ち回り、ある意味才能ありありって感じですかね。


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118話

アル「おっ、騒がしい音がしたと思ったら、お前らか。にしても、やり過ぎだろ?可哀想だね~。」

 

ロゼット「倒れてる兵隊を躊躇なく踏みつけておいて、良く言いますよ。それに、スーツに返り血がついてますよ?」

 

それを指摘されたアルベルトは、少し恥ずかしそうに笑った。

 

アル「にしても、初陣にしちゃ上出来じゃないか一夏。」

 

一夏「えぇ。伊達にアルさんにしごかれてませんからね。それにしても、どうしてアルさんはここにいるんですか?」

 

アル「暇潰し。」

 

アルベルトが自信満々にそう言うと、ロゼットと一夏はズッコケそうになった。

 

アル「て言うのは冗談で、各階の状況確認と見回りが主な理由だ。まぁ、暇なのは事実だかな。」

 

そんな事をしていると、突然アルベルトの携帯に一件の着信が入った。

 

アル「おうどうした?そうか、それで。そうか、ならご苦労だった。後は、摘発通りに。そうだ。あぁ、こっちも順調だ。待ってるぞ。」

 

電話を切ると、アルベルトは無線のスイッチを押した。

 

アル「皆に朗報だ。喜べ、この戦闘もあと二時間弱頑張れば終了する。だが、最後まで気を抜くなよお前ら。」

 

 

『了解しました!!』

 

一夏「後二時間弱で何が起こるんですか?」

 

アル「そう言えばお前には言って無かったな。俺が派遣した別動隊が、今回の作戦に加担した世界各国の要人を拉致ってここに連れてくるんだよ。」

 

そう言うとアルベルトは、壁に空いた大きな穴を眺めていた。

 

アル「今後の未来を切り開いていく子供達の学舎に、こんな穴を開けるのは・・・。野蛮極まりないねホント。」

 

ロゼット「そこを戦場にした人が言える言葉ですか。」

 

ロゼットが的確なツッコミを入れると、満足そうにアルベルトは笑った。

 

アル「皮肉な事を言うようになったな。まっ、どうでも良いけど。」

 

~~~職員室~~~

 

マイルナ達がいる職員室のドア付近に、沢山の足音が近づいて来ていた。

 

そして、ドアを抉じ開けようと攻撃している音がしていた。

 

千冬「どうして、ここがバレたんですか!!まさか、誰かが密告したんじゃ。」

 

マイルナ「そりゃあ、相手はここの地図くらいは把握してるわ。地図があるのに、ドアがなきゃ怪しいと思うわ。」

 

マイルナ「それに、私達の中に密告なんてするような愚か者は誰一人いないわよ。裏切りが起こるのは、それだけ上に立つ人間が支えるに値しないって事よ。」

 

マイルナ「でも、私達は違う。ある人は宗次郎さんや桜華さんに、ある人は松陽さんや奈々さんに、ある人は幸太郎に生きる希望、生きる理由、生きる素晴らしさ、生きる場所を創ってもらったの。そんな私達が裏切りなんて・・・いえ、疑うことすら死罪に値するわ。」

 

その時、爆発音と共に職員室のドアが壊され銃を構えた兵隊が職員室に流れ込んできた。

 

兵隊「お前達は完全に包囲されている。例のブツをこちらに差し出せば、命だけは助けてやる。」

 

そう言って二人に銃口を向けた。

 

千冬「マイルナさん、私が盾になります。その隙に幸太郎をつれて、なんとか逃げてください。

現役を退いたとは言え、これくらいの数なら逃げ道くらいはつくれます。」

 

マイルナ「盾になる・・・ね、そんな事をしたら流石の貴方でも確実に死ぬわよ?」

 

千冬「ここで幸太郎を渡してしまったら、親友に顔向けが出来ませんし、それに最後は華やかに散りたいじゃないですか。」

 

兵隊「話は終わったようだな。渡さない様なら、やむを得ない。構え!!」

 

千冬はマイルナの前に立ち塞がり、歯を食い縛った。

だが、兵隊の銃が発射される事はなかった。

 

リズ「それ以上、私の最愛の妻に物騒な物を向けるのは止めていただけないですか?」




皆様、お久しぶりです。お正月期間は、仕事が忙しすぎたので、更新が出来ませんでした。申し訳ありません。

千冬の覚悟、そして妻をまもったリズリー!!
カッコいい!!惚れ惚れしますね。

ただいま、完全オリジナルの新作を制作中です。一応、近日公開予定です。そちらも、よろしければよろしくお願いします。


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119話

兵隊「お、お前はリズリー!!」

 

リズ「私の名前を、気安く呼んでほしくはないんですが・・・。それよりも千冬、怪我はありませんか?」

 

千冬「あ、あぁ大丈夫だ。私もマイルナさんも幸太郎も何も問題はない。」

 

千冬がそう言うと、リズリーは微笑んだ。

そして銃を構えた兵隊にゆっくりと歩み寄っていった。

 

兵隊「お、お前達何をしている!!速くこの男を撃て!!」

 

そう言う前にリズリーは、近くにいた兵隊を盾にした。

 

そしてその兵隊が持っていた銃を奪い取り、その兵隊の頭に向けた。

 

リズ「これ以上妙な真似をしたら、こいつの頭を吹き飛ばす。そして次は君だ。」

 

そう言って銃口を別の兵隊に向けた。

 

リズ「ですが、このまま何もせず散ってくれるのなら、あなた達の命は保証しますよ?」

 

兵隊「は、ハッタリだ。こいつにこの状況で撃てはしない。」

 

その瞬間、リズリーは盾にしている兵隊の腹部を撃ち抜いた。

突然の事で、兵隊は唖然として動けなくなってしまった。

 

リズ「さて、これで私の言葉が嘘かどうか理解してくれましたね?もう一度言います。さっさと、私の前から消えてくれませんか?」

 

兵隊「くっ、お前たちここは撤退だ。」

 

構えを説いた兵隊達は、一目散にリズリー達の前から撤退していった。

 

マイルナ「千冬の心配だけはして、私はどうでも良いって言うのかしら?」

 

リズ「そう言う訳では無いのですが・・・。」

 

マイルナがイタズラっぽく笑いながら言うと、リズリーは苦笑いをした。

 

マイルナ「でも、一人も殺さないなんて貴方らしく無いわね?」

 

リズ「流石の私でも、あのまま殺り合えば皆さんを無傷で護れる自信はありませんよ。それに、」

 

リズ「これから人の親になるかもしれない自分が、千冬の前で血生臭い事をするのも、少々気が憚れるものです。」

 

そう言ってリズリーは、職員室に入り椅子に腰かけた。

 

千冬「人の親って!!まだ気が速いんじゃ!!でも、私達もいずれ・・・でも///」

 

耳まで真っ赤にして千冬は、はずかしそうにしていた。

そんな微笑ましい風景を見てリズリーは、嬉しそうに微笑んでいた。

 

だが、すぐに真剣な表情になりマイルナを見た。

 

リズ「貴方の過去はお兄様から聞いています。酷な話ですが、早くお兄様との子供をつくるべきです!!それが今まで貴方のために奮闘してきたお兄様のためになります!!」

 

リズリーがそう言うと、マイルナは少し怒りの表情でリズリーに近づいていった。

 

マイルナ「一人前の事を言うじゃないリズリー?死にたいの?」

 

リズ「マイルナさん!!もうすぐあの男が出所します!!そうなれば、お兄様は確実にそいつを殺します。そうなれば、幸太郎様の言葉でもお兄様を止める事は出来ません!!もしそうなってしまえば貴方は・・・、いえ、お兄様は二度と戻れなくなってしまいます!!」

 

リズリーがそう言うと、マイルナは涙を流した。

 

マイルナ「・・・ってるわよ。私だってわかってるわ!!でも、私のからだはすでに汚れてるのよ!?それを、それをあの人に見せれる訳無いじゃない!!」

 

マイルナはその場に泣き崩れてしまった。

 

リズ「大丈夫です。お兄様は愛しています。それも、ずっとです。今まで見てきた全ての愛よりも、貴方の事を愛してるはずです。お兄様は必ず貴方を受け入れてくれます。だから、あの人を止めたいんです。」

 

 




リズリーが言う出所してくる男とは!?

マイルナが言った汚れてるの意味とは!?
まだ謎が多いですね。


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120話

アル「ハッ、ハッ、ハクション!!ったく、誰かが俺の話をしてやがるな。」

 

ロゼット「社長はいい意味でも、悪い意味でも有名人ですからね。それは必然でしょう。」

 

激戦の最中なのだか、二人で楽しそうに雑談している様子に一夏は苦笑いをするだけだった。

 

一夏「でもアルさん、もうすぐさっき話してた世界各国の要人達がここに来るんですよね?そしたら、この戦いも終戦なんですか?」

 

アル「そりゃそうだろ?ただでさえ、兵隊たちが本部と連絡がとれなくなって慌ただしくなって来てるしな。

さてと、校内の雑魚どもも一掃した事だし、待ち時間はマイルナ達と合流して暇でも潰すか。」

 

そう言ってアルベルトはアクビをして、頭をかきながら歩き出した。

 

ロゼットと一夏はお互いに顔を見合わせ、能天気でマイペースなアルベルト、そして何とも言えない空気にため息をつきながらアルベルトについていった。

 

~~~職員室~~~

 

アル「なんだよリズリー、こんな所にいたのかよ?それにしても・・・」

 

アルベルトは、落ちている薬莢、そして地面に垂れている血の染みをみて、状況を瞬時にある程度理解した。

 

アル「おまえに脅されるなんて、可愛そうな兵隊達だよほんとに。同情するよ。顔も知らぬ兵隊さん。」

 

リズ「あなたにだけは言われたくありませんよ。お兄様もどうせずいぶんと暴れまわったんでしょう。」

 

アル「人聞きの悪いこと言うなよな。俺は普段通りのことをしただけだぞ?でもあいつらが弱くて脆くて。いや~、手を抜くのって難しいわほんとに。まじで。」

 

マイルナ「まったく、あなたは一回だれかにコテンパンにされた方が良いわよ。」

 

マイルナがそう言うと、アルベルトはニッコリと笑った。

 

アル「やれやれ、相変わらず俺には厳しい事を言ってくれるなおい。でもそれが愛情の裏返しってのはわかってるぜ?」

 

アルベルトがそう言うと、マイルナらミミまで真っ赤にして照れてしまった。

 

マイルナ「バッ//バカ言わないでよね//わたしは思ったことを言っただけよ。」

 

アル「わかってるよ。さて、時間までまだあるあら、ひとねむりでもするわ。輸送組から何か連絡があれば、知らせてくれ。」

 

そう言ってアルベルトは、職員室に勝手に持ち込んだ敷き布団のなかに入り眠りについてしまった。

 

一夏「いいんですかマイルナさん。これからが正念場だってのに、当の俺達の大将が眠りこけちゃって。」

 

マイルナ「良いのよ。この人は前々から忙しくて、ろくに睡眠もとれてなかったし。今くらいは、ゆっくりさせてあげて。

それにこの人は、寝てても話はちゃんと聞いてる器用な人なのよ。」




お久しぶりです。

軽いスランプと、新作の事ばかりが頭にあって更新が遅くなりました。
もう近々、新作を発表する予定ですので、それも合わせて楽しみにしていてください。


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121話

アルベルトが眠りについてから、約数十分がたった。

あまりに暇すぎる時間が永遠に過ぎていくかと思えたその時、アルベルトの携帯に1通の連絡が入った。

 

その瞬間、待ってましたと言わんばかりにアルベルトが飛び起きて、電話に出た。

 

アル「やっとか!!で、5分だと?その場所からなら、飛ばせば2分でつく。警察はすでに手に落ちてる。最悪、誰かを轢いても問題ない。さっさと来い。」

 

電話を切ったアルベルトは、さっきまで来ていた防弾仕様のスーツを脱いだ。

するとマイルナがクローゼットから、別のスーツを取り出し、アルベルトに着させた。

 

アル「一夏、ロゼット。最後のそう仕上げだ。校庭に出るぞ。」

 

アルベルトに連れられ、一夏とロゼットは校庭へと歩みを進めていった。

 

歩いている途中、一夏はふとあることが気になっていた。

 

それはアルベルトが、スーツを着替えたこと、そしてもうひとつ。

 

一夏(何だろうこの臭い、鉄の臭いのような・・・。どこかで嗅いだことのある嫌な臭いの記憶だけど・・・まさか!!)

 

ある確信に気づいた一夏は、アルベルトの顔を見た。

 

アル「ピンポーン。大正解。お前の思ってる通り、この臭いは血の臭いだ。それも、これまで俺が始末してきたやつらの反り血の臭いだ。」

 

アル「このスーツを着るときは、他人を始末する時って決めてるんだ。まぁ、一種のルーティンみたいなもんだな。」

 

アルベルトの答えを聞いた一夏は、これからアルベルトがしようとしている事に少し怖じ気づき、身震いしてしまった。

 

ロゼット「後悔しても今さらだ。ここまで来たのなら、嫌でも覚悟を決めて最後まで見届けるしか無いんだよ。それがこの戦いに参加したけじめってやつだ。」

 

そんな話をしている内に、三人は校庭に到着した。

一夏は目の前に広がる光景に驚いていた。

 

なぜなら、校庭にいた兵隊全てが武装解除していたからだ。

 

ロゼット「指示をだす人間全てがいなくなったんだ。当たり前の光景だ。そんな素人丸出しのリアクションしてんじゃねぇよ。」

 

一夏「素人だから仕方ないだろ。それよりもアルさん、電話の相手はまだ来てませんか?」

 

すると、一台のトラックが勢いよく校庭に入り込んできた。

 

そのトラックの荷台には、明らかに身なりが良さそうな男たちが手を縛られ、口を塞がれて乗せられていた。

 

アル「2分の遅刻か。まぁ、許容範囲内だな。ほれ一夏、それを耳につけとけ。」

 

一夏「ただの耳栓に見えるけど・・・。」

 

アル「ただの耳栓じゃねぇ。分かりやすく言えば、翻訳機だな。俺らは各国の言葉がわかるが、お前は英語すら危ういだろ?いちいち、説明するのも面倒だからな。」

 

荷台から降ろされた男たちは、アルベルト達の前に横一列に座らさせられた。

 

そしてアルベルトが合図を出すと、男たちの口が解放された。

 

アル「長旅ご苦労様だな。さて、今回のことは反省してくれたかな?」

 

「こんなことをして、許されると思ってるいるのか!!すぐに我が国に連絡して、お前達など・・・。」

 

アル「はぁ・・・、つくづく救い用のないカス共だな。」

 

そう言ってアルベルトは、懐から取り出した拳銃を男の額に当てた。




皆様、ほんとうにお久しぶりです。

ここ最近は、他店舗に転勤、入寮、会社の総会とバタバタし過ぎてたので、更新する暇がありませんでした。
その間に、オリジナル作品の頭の中での構想は最終話までいってしまいました。

ですが、ようやく落ち着きを取り戻して来たので、これからはちゃんと更新していきます。


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122話

周りの要人達は、アルベルトの取り出した銃を見て慌てて取り乱し始めた。

 

「まさか、銃を取り出すなんて!!」「ここは日本の筈だぞ!!」

「それで私達を撃つつもりなのか!!」

 

だが、銃口を向けられた男は依然済ました顔をしていた。

 

「ふん、それは脅しのつもりか?その程度の脅しに屈する私では無い。ここは日本。銃を持つだけで取り締まられる国だ。それに未来の英雄IS学園の織斑 一夏くんもいる。こいつに引き金を引ける訳がない!!」

 

男がそう言うと、アルベルトは銃口を外し笑いだした。

 

アル「さすがはA国の要人だな。良くも悪くも、修羅場を越えている。確かに一般人がいるこの場で、まさか殺人だなんて・・・」

 

“バン!!!”

 

最後まで言い終わる前に、再び銃口を向けたアルベルトは何の躊躇いも無く、男の眉間を撃ち抜いた。

 

アル「ここにいる時点で、無関係の一般人の訳無いだろバァカ。」

 

撃たれた男はその場に倒れこみ、そのまま動かなくなった。

即死だった。

 

あまりにもいきなりのことで、周りの要人達はよりザワつき始めた。

 

予想はしていたが、はじめて見た人殺しに目を背けたくなった一夏だったが、宗次郎との約束、そして自分の強い決意があるため目の前で起きている彼らにとっての日常を脳裏に焼き付けた。

 

アル「意外と強いな一夏よ。さて、次はお前にしようかな。」

 

そう言ってアルベルトは、右隣の人物に銃口を向けた。

 

「ま、待ってくれ!!わかった。私達の完全敗北だ!!お前の条件は何でも飲む。この通りだだから!!」

 

そう言って役人は、アルベルトの靴を舐めた。

 

アルベルトはニヤリと笑、そのまま役人を思い切り蹴りあげた。

 

アル「利口だな。他の奴らはどうなんだ!?まだ幸太郎に逆らって死にたい愚か者はどいつだ!?」

 

「私も完全降伏だ!!」「私も!!」「頼む!!殺さないで下さい!!」

 

役人達は、その場で這いつくばりまるで、土下座をしている様だった。

 

アル「なるほど。全員お利口さんだな。無駄弾を使わずにすみそうだ。だが・・・。」

 

アルベルトはお構い無しに、役人に発砲した。

 

アル「残念ながら、お前達の命にもはや無駄弾ほどの価値もない。」

 

アル「それに、お前達の国すべてには今回の事を許すかわりに、俺達・・・いや、2代目寿家 寿 幸太郎の下につく事が決まってる。今からは、粛清の時間だ。」

 

そう言ってなんとか逃げようとしている役人達を、アルベルトは容赦なく撃ち殺していった。

 

一夏の目の前で起きている光景は、まさに死屍累々。その言葉以外似合わない地獄絵図だった。

 

役人を撃っているアルベルトの顔は、怒り、憎しみ、楽しさ、喜び。

それらの感情が一切ない無表情だった。

 

まるで当たり前。自分達が呼吸する事に意味を考えない様な感じであった。

その顔を見て恐怖を感じない一夏は、自分がいよいよ普通の男子では無くなったんだと実感していた。

 

 




皆殺しですね。
まぁ、それだけの事をしたので、自業自得ですけどね。

これで一夏も、本当に後戻り出来ない舞台まで登って来ましたね。
ですが、それでなければ幸太郎を護る事は出来ませんし。


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123話

アル「さて、学園の校庭にこのゴミを放置する訳にはいかないな。おいお前ら、これ処理しておいてくれ。」

 

アルベルトがそう指示すると、撃たれた要人達をトラックの荷台に乗せて、走り去っていった。

 

一夏「あの・・・、あの人達はこれからどうなるんですか?見つかったら、流石に罪に問われるんじゃ。」

 

アル「ん?あれをか?さぁ?だってあれがどうなろうが、興味も無いし、仮に見つかってもどうでもいいさ。」

 

自分は死人扱い、アルベルトは物扱い。

その些細な違いに、表情に出さなかったが一夏は自分がまだ通常の思考をしていると思えた。

 

ロゼット「では社長、総理大臣に関してはどう対処する予定なのですか?」

 

ロゼットがそう言うと、アルベルトは携帯をいじりだし一つの速報を見てた。

そこには、総理大臣や沢山の政治家の電撃辞任。そして新たな総理大臣に寿 秋水(ことぶき しゅうすい)という人物が就任したと書かれていた。

 

ロゼット「げっ!秋水さんですか。まぁ、適任と言えば適任と言えますが。」

 

一夏「アルさん、この人も寿の姓をしてますが、幸太郎さんの関係者ですか!!」

 

アル「詳しい話しは後でするよ。お前に話したい事は一杯あるし、それで混乱するかもしれんしな。」

 

アルベルトは一夏に1枚の名刺を差し出した。

 

アル「とりあえず、後で大量のコピーを渡すが、これを持ってろ。お前やお前の知り合いに何かあったら、これを相手に見せれば万事解決だ。」

 

渡された名刺には、寿家直属国際連盟会長 織斑 一夏と書かれていた。

あまりにぶっ飛んだ内容が書かれていて、名刺とアルベルトを何度も見ていた。

 

アル「さっきの見せしめの効果で、全世界の国々が続々と寿家の下についた。お前にはそいつらのトップをしてもらう。」

 

ロゼット「よかったな一夏。ちなみに俺も会長だ。つまり二人で1つの権限って訳だ。」

 

一夏「えっ!!国際連盟っ!会長!!えっ!!」

 

アル「つまり、引退した宗次郎さんを別にすれば、この地球上で幸太郎や松陽さんに次ぐ権力や発言権を持つお偉いさんって訳だ。」

 

突然の事で、一夏は開いた口が塞がらない状態になってした。

確かに今の一夏には、寿 秋水の事を言われても理解できる状態では無かった。

 

ロゼット「諦めろ一夏。アニキをサポートしている俺らには、必要な事でもあり、ある種の試練でもあるさ。

これくらい勤められなきゃ、アニキのサポートなんて出来やしない。」

 

アル「幸太郎の目も覚めたみたいだし、さっさと帰って寝ようぜ。ここ最近立て込んでたせいで、すっかり寝不足だぜ。」

 

ロゼット「ですが社長、校舎の破損部分はどうするのですか?明日から通常通り生徒を通わせるのでしたら、多少の修復をした方がいいのでは?」

 

アル「良いの良いの。それは俺の管轄外。それに、何か聞かれたら、千冬や一夏が何とかするさ。」

 

そう言って、校庭に残っていた人間は続々と帰り支度をしていき雑談をしながら幸太郎のいる校舎へと歩いていった。

その姿は、先程まで人を殺めたとは思えないほど普通の日常をかもしていた。

 

一夏「はっ、はは・・・。はははは・・・。」

 

一夏は渇いた笑いをするだけで精一杯なほど、頭がこんがらがっていたのだった。




つい先程まで世界初の男性IS適合者程度だった一夏が、まさかいきなり物凄いお偉いさんになるとは。
戸惑うのも無理ないですね。

そして新たな総理大臣、寿 秋水とは一体何者なのでしょう。


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124話

次の日、いつものようにIS学園は通常通りに始まり教室には今までと同じ様な光景が広がっていた。

 

だが、一夏は浮かない顔をしていた。

それもその筈である。突然国際連盟会長を就任させられたからである。

 

そして一夏の机には、広辞苑を三冊まとめたと思える程の分厚い本が置かれ、それを数ページ読みながら一夏は深いため息を吐いた。

 

一夏「各国の情報や、加盟した動機や今後の方針が書かれたこれを読めって・・・。もう逃げられないんだなぁ。はぁ・・・。」

 

箒「どうした一夏?朝からそんな辛気臭い顔をして。それに昨日はどこで何をしてたんだ?」

 

シャル「そうだよ一夏。昨日ホテルを探したけど、何処にもいなかったじゃん。」

 

セシリア「そうですわ。それに、校舎の所々がめちゃくちゃになってますけど、それと関係があるのですか?」

 

次々と質問をされた一夏は、今置かれている状況と合わせてテンパってしまい、少しなみだめになってしまった。

 

千冬「お前達、チャイムの音が聞こえなかったのか?今すぐ座らなければ、わかっているな?」

 

千冬の一括で生徒達は自分の席に急いで着席した。

 

シャル「そう言えば織斑先生、ラウラの姿が見えないのですが。」

 

千冬「あぁ、アイツならもうすぐ来るはずだ。全く、本人も余計な心配はしなくても良いと言ってたのにな。」

 

千冬がそう言うと同時に、教室のドアが開いた。

そこには、幸太郎の肩を支えながら入ってきたラウラと束の姿があった。

 

幸太郎「ほら俺はもう大丈夫だから、ラウラは授業、束は仕事に戻らなきゃ。」

 

ラウラ「ダメだ!!嫁を守るのは、私の勤めなんだ。昨日まで眠っていた嫁の側には、私がいてやらねばいかん。」

 

束「そうだよ!!それに、マイルナさんから聞いたけど、昨日は側にいてあげられなかったんだよ?だからこそ、私が幸太郎を支えてあげなきゃ!!」

 

恐らく、ここに来るまでに散々幸太郎の取り合いをしていたのか、ラウラと束は何時ものように対立していた。

 

そして一夏は、幸太郎が入ってくると覚悟とある種の罪悪感に苛まれながら幸太郎の前まで歩いていった。

 

幸太郎「あっ、一夏。アル兄やお姉ちゃんから聞いたけど、なんか凄いお偉いさんになったんだってね。」

 

一夏「はい。幸太郎さんが眠ってる間に、俺とロゼットが国際連盟の会長になりました。幸太郎さんに負担はかけないつもりですが、知らぬ間に気苦労をかけるかも知れません。」

 

幸太郎「大丈夫だよ。アル兄の推薦なんだから、俺は何も心配してないよ。」

 

一夏「そう言って貰えるのなら、本当に幸いです。はぁ、一年くらい誰にも見つからない場所で静かに暮らしたいよ。」

 

いつもなら弱音を吐くなと言いたい千冬だったが、一夏の置かれている立場を考えると、とてもじゃ無いがその言葉が出ず、少し同情すら感じてしまうのだった。




普段通りの日常、いつもの平穏な生活に皆は戻りましたね。
まぁ、若干1名はノンストップで濁流に飲み込まれてますが・・・。

流石に一夏の置かれている立場を考えたら、誰もがそう考えてしまうのも致し方無いかも知れないですね。
がんばれ一夏。それしか言えません。


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125話

今回はセリフ多めです。
ご了承ください。


その日の夜、一夏は屋上に来ていた。

満天の星空を見上げ、携帯を取り出し一人の人物に電話をかけた。

 

2コール程したあとに相手は電話に出た。

 

一夏「こんな夜遅くに電話してすまん。」

 

弾「いや、別に気にしてないけど珍しいな。お前から電話してくるなんて。どうした恋の悩みか?」

 

一夏は、自分の置かれている状況、そして自分の悩んでいる事を親友に全て話した。

 

弾「成る程、正直話を聴いただけだと現実味がわかない話だけども、なんで俺なんかに話したんだ?」

 

一夏「いや、誰かに話をしたくてな。でも、周りの大人達は簡単に相談出来る相手じゃ無いし、箒達にも話しづらいし、気さくに話せる相手はお前しかいなかったんだよ。」

 

弾「そうか。元気だけが取り柄だったお前も、そこまで追いつめられていたんだな。一般人の意見しか言えないけど、無理ならする必要は無いんじゃ無いか?」

 

弾「只でさえ、男性初のIS操縦者として世間から嫌な注目を浴びてたんだ。ここで逃げ出しても、誰にも責められる筋合いは無い。お前だって、ちょっと前まではごく普通の中学生だったんだ。」

 

弾「そんなお前に、ここまで重荷を背負わせる方が悪いんだよ。それにその裏社会?ってのは、改善しようにも出来ないんだろ?だったら、お前がそこまで追いつめられる必要は無い。」

 

弾からの正論に、一夏は少し考えてみた。

 

確かに、自分が国際連盟会長になろうともあの日、アルベルトに告げられ、自分の眼で見た真実を変える事が出来るとは思ってもいなかった。

 

でも、それでもここで逃げ出してしまえば世界各国を敵に回してまでも誓った想い、そしてこんな自分を信じてくれたアルベルト、ロゼット。

そして自分がこれこらをかけて支えて行こうと誓った幸太郎を裏切ってしまう。

 

そんな想いが込み上げてきた。

 

一夏「わかってる・・・わかってるさ!!でも、それでも俺は逃げたくない!!確かに俺は流れでIS学園に入学した。世間から見世物のパンダの様に扱われてるかも知れない。それでも、裏社会に関わろうと決めたのは、自分の意思なんだ!!

誰にも強制された訳じゃない!!自分の想いで決めたことなんだ!!だから、俺は俺を信じてくれる人、そして自分の誇りを裏切ったり出来ないんだ!!」

 

思わず大声を上げてしまった一夏だが、電話越しで弾は嬉しそうに笑っていた。

 

弾「知ってるよ。お前が中途半端で投げ出すような半端者じゃないことくらい、俺がよく知ってる。」

 

一夏「じゃあ、最初からそう言うと知っててお前は。」

 

弾「あぁ。何でも肯定するだけじゃ、本当の想いを吐き出せないだろ。普段はろくでなしな俺でも、たまには親友らしい事でお前に激を飛ばしたいんだよ。」

 

弾「なんて、ちょっとくさ過ぎるかな。少し、キザなセリフってのに憧れてたんだよな。」

 

一夏「ありがとな弾。前にも言ったかも知れないけど、お前みたいな親友を持てて、俺は幸せ者だよ。」

 

弾「なんだ!?まさか俺にプロポーズか。止めてくれよ、流石に俺にはそっちの気はねぇぞ。」

 

一夏「ばか、俺にもねぇよ。」

 

二人は、子供のように笑いあっていた。

 

弾「俺に出来る事は何もねえけどよ、たまになら相談くらいは乗ってやるよ。」

 

一夏「すまん。やっぱ、お前は最高の親友だよ。」

 

弾「それに、早いところ彼女が出来た報告も欲しいしな。てか、俺にIS学園の生徒を紹介してくれよな。」

 

そう言って弾は電話を切った。

 

胸のつっかえが取れた一夏は、今まで以上にすっきりとした顔つきをしていた。

 

秋水「いや~、やはり青春と言うのはいくつになっても、輝かしく美しい素敵な時間ですね。感動しましたよ。貴方は良いご友人に恵まれているのですね。」

 

一夏の背後には、いつの間にか新たに就任したばかりの総理大臣、寿 秋水が立っていた。




カッコいい!!
弾が物凄くカッコいいですね!!

本作には深く関わっている訳ではありませんが、やはり弾も男の中の漢ですね!!

そして秋水と一夏の初コンタクトです。
実は前話で絡ませる予定だったのですが、秋水のキャラが掴みきれなかったのか、出番が1話持ち越しになってしまいました。

まぁ実際、今でも掴みきれてませんが。


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126話

一夏「貴方は確か、寿 秋水さん!?総理大臣がなんでここに!?それに、どうして今の時間に。」

 

秋水「質問が多いですね。時間は深く気にしないで下さい。職務に追われていて、この時間しか空いてなかっただけですよ。私もまだ就任したばかりの新米ですから。」

 

初めて秋水と対面した一夏だが、その人物像が全く読めなかった。

 

あの束と初対面した時ですら、何となくだが束の人間性を感じ取れた一夏だが、この男の目の奥は暗闇のようだった。

 

読めない相手に一夏は、恐怖と不信感から逃げたくなってしまったが、入り口は秋水に防がれている為、どうすることも出来なかった。

 

秋水「どうしました?そんなに逃げ腰になって?そうですね私がここにいる理由でしたね。

簡単ですよ。この日本も君が会長を勤める国際連盟の加盟国です。その会長が近くにいるので、少しご挨拶をとね。」

 

そう言って秋水は、握手を求めながらゆっくり一夏に近づいてきた。

まるで光の届かない底無しの暗闇が近づいて来ている感覚に襲われた一夏は、自分の前につきだされた右手を思わず払い除けてしまった。

 

その時の秋水の顔は、驚く訳でもなく、ましてや怒るわけでもない。

変わらない無表情に一夏は、嫌な汗がびっしょり出ていた。

 

一夏「ほ、本当の目的は何ですか!!失礼を承知で言います。貴方は普通じゃ無い!!俺だって、伊達にこれまで修羅場を潜ってきたわけじゃ無い。貴方からは、俺を誘拐した奴らの様な敵意も、束さんの様な他人への無関心さも、ましてや幸太郎さんの様な暖かさも無い!!貴方はいったい何者何ですか!?」

 

一夏がそう言った時、今まで無表情だった秋水がニッコリとし、高らかに笑いだした。

 

秋水「なんだ、なんだよ!!そこまでか。お前みたいなガキでも、そこまでは感じ取れるんだな!!

いや~最高だ。わざわざここまで来た甲斐があったってもんだな。」

 

突然の変わりように、一夏は困惑していた。

 

そして、今までは何も感じれない恐怖があったが、今の秋水からは単純に恐怖。

人間が原始的に感じる恐怖だけしか感じ取れなかった。

 

足が動かない一夏を見て、秋水は咳払いをした。

 

秋水「すみません。少し取り乱してしまいましたよ。本当ならもっと貴方とお話をしていたいのですが、どうやらタイムリミットみたいですね。」

 

そう言って秋水は、屋上から飛び降りていった。

 

それと入れ替わるように、屋上の扉を千冬が勢いよく開いた。

 

千冬「大丈夫か一夏!!何者かが、IS学園のセキュリティを無理やり突破して侵入した!!」

 

一夏「え、あぁあ、大丈夫だよ。」

 

秋水が飛び降りた所を覗いてみたが、暗闇だったからか既に見えなくなってしまった。

 

あのおぞましい男、寿 秋水。彼の存在は一夏の中で恐怖の象徴としてインプットされていたのだった。




掴み所が見えない所か、人間性すらわからない秋水。
これを読んでいる皆様以上に、一夏は恐怖を感じていたのでしょう。

この男は、果たして善なのか悪なのか。

関係ない話ですけど、ここ最近紹介された検索という物が有ることを知りました。
それで去年の11月に紹介をしてくださった電浪輝刃さん。この場でお礼申し上げます。
本当にありがとうございます。


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127話

次の日、一夏は困惑していた。

それもそのはず、昨日のあの男が教壇に立っていたからである。

 

なんでも、就任した仕事の一環としてIS学園に挨拶をしに来たのだという。

 

秋水「どうも皆様初めまして。私が新しく総理大臣に就任しました。寿 秋水です。色々と質問があるかも知れませんが、私と寿家との関係性については答える気はありません。」

 

この発言に幸太郎と関わりをもつ数人は少しざわついたが、とりあえず落ち着いていた。

 

セシリア「ではご質問があります。貴方はどうして総理大臣になったのですか?」

 

ごく普通の、ありふれた質問だったが秋水の本質を見抜きたい一夏にとっては、最高の切っ掛けになった。

 

秋水「そうですね・・・。結論から申しますと、男性の地位向上です。ISが台頭していらい、世界中で男性が虐げられ苦しい想いをしてきたと感じています。それにより、この中でも良い想いをした生徒もいるのではありませんか?」

 

秋水の言葉に心当たりがある生徒は、罪悪感や嫌悪感から下を向いていた。

 

秋水「ですが、ISが悪い訳ではありません。問題なのは、ISの地位を守りつつ、男性が過ごしやすい環境を整える必要があるのです。世界のトップは未だに男性が多く、それこそ政治の世界では男尊女卑が蔓延っていると言っても過言ではありません。それは遥か昔からの考えなのか、根本的に解決する兆しはありません。」

 

秋水「言い換えれば、ISも政治も大まかに言えば同じなのです。ですが、政治は寿家を中心にして国際連盟の下、1つに。そしていずれは男女の格差など無くなると思います。いえ、必ず無くなります。ではISはどうですか?女性のみが動かせる。その事実のせいで今後、今の現状は変わりません。」

 

秋水「ならば今一度、考えを変えて行かなければなりません!!女性のみが動かせるから凄いのではなく、ISは女性が動かせるだけの物と思えば良いのです。分かりやすく言えば、スカートやブラジャーと同じです。それを実現する事が、私に託された使命だと実感しております。」

 

秋水の熱弁に、教室には拍手が巻き起こった。

生徒も、心のどこかには今の世の中を変えたいと思っていた。

 

だが、女性である自分達がそんな事を言えば男性からの支持は得られるのかわからなかったからである。

 

秋水「さて、私の話はこれくらいですかね。では皆様、私のこの夢物語はすぐには実現しないかも知れませんが、いずれ必ず実現させます。それを楽しみにしていてください。」

 

そう言って秋水は教室から出ていった。

 

秋水の話を聴いた一夏だったが、どうしても秋水を信じきれなかった。

うそは言っていない。でも、どうしてもあの男は違うと確信していたからだ。

 

~~~廊下~~~

 

一仕事終えた秋水は、腕時計を確認していた。

 

松陽「相変わらずお前の話を聞いていると、吐き気がする。いい加減猫を被るのを止めたらどうだ。」

 

秋水「なんだ。誰かと思えばお前か。」

 

松陽に止められた秋水の顔は、先程まで自分の夢を語っていた男とは思えない程の顔をしていた。




秋水の一応のマニフェストがわかりましたね。
ですが、どことなく信用出来ない気もしますが。

そして松陽は秋水について何かしら知っているみたいですね。
まぁ、寿の姓を持つ人間ですので何かしらの関わりがあるのは当たり前ですか。


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128話

秋水「ふっ、ここだと生徒達に話を聞かれてしまう。ひとまず、中庭に行こう。」

 

秋水は不敵に笑うと、歩きだした。

 

~~~中庭~~~

 

秋水はベンチに腰掛け、松陽は秋水の前に立っていた。

そして秋水の胸元をつかんだ。

 

松陽「単刀直入に言う。幸太郎は、お前みたいなクズには渡さない!!」

 

秋水「ったく、汚ならしい下等野郎が気安く俺に触れるなよ。」

 

松陽「やっと化けの皮を取ったか。いくら取り繕っても、お前の本性は最低だ。」

 

秋水「俺が最低だと?ふん、父も母も、国もわからない様なお前みたいな奴に言われたく無い!!昔から、お前の存在自体が許せないんだよ!!」

 

松陽「やはり、奈々の事で俺を憎んでるのか。」

 

秋水「そうだ!!姉さんは完璧な人間、いや生きる神となるべき存在だった。誰からも愛される、素晴らしい存在だ。だが、お前みたいな汚物に惑わされたせいで姉さんは殺されたんだ!!」

 

秋水「お前がいなければ、姉さんは寿家をついで全世界の下民から愛されるはずだった!!お前が姉さんの全てを壊したんだ!!

姉さんがいないこんな世界、壊れてしまえばいいんだ。もうすぐ、あの男が出所する。それをアルベルトに教えれば・・・クッ、アハハハハハハ!!!そうすれば面白いだろうな。お前達から壊していけば、どれほど愉快で爽快だろうな!!ハハハハ!!」

 

まるで、狂気に囚われた様な姿を秋水は先程までとは違う。まるで無邪気な子供のようで、怒りに狂った獣その様か表情をしていた。

 

松陽「貴様!!そんなことをすればどうなるか、わかってるのか!!」

 

秋水「だからだよ?下らない、こんな姉さんのいない糞のような世界で少しでも楽しむために必要だろ?

でも、少しは心苦しいんだぜ?アルベルトが壊れれば、マイルナも壊れる。そうなれば、幸太郎も必然的に壊れしまう。それだけが、唯一の絶望だよ。」

 

秋水「お前の様なクズの存在価値は、あの幸太郎を産んでくれた事だ。あの子は、姉さんを越える存在だよ。あの子こそ、真に愛され愛す神に等しい存在だ。だが、姉さんと違いあの子は世界の汚れを知らない。まぁ、そのお陰で純粋な水晶の様な美しい存在になった訳だが。」

 

秋水「姉さんを失った世界に必要なのは、あの子の様な完璧な神の存在なのだよ!!あの子こそ、その存在にふさわしい!!世界が哀しみに包まれれば、あの子はそれを癒そうとする。いや、必ず癒せる。そうなれば、世界のクズはあの子を讃え、心から愛し全てを捧げる。それこそ!!あの子が生きながら完璧な存在になれる方法なんだよ!!」

 

秋水「フフッ、フハハハハハハ!!そうだ!!その為に俺が壊すんだ!!あの子を愛するために俺が壊す。それが、姉さんを失った世界に対する報復と、救済なんだよ!!」

 

松陽「狂ってる。お前は狂ってるんだ!!そんな事のために、幸太郎を利用させる訳にはいかない!!幸太郎は私が護ってみせる!!それが奈々と交わした約束なんだ!!」

 

秋水「ふん、せいぜいご託を並べてろ。どうせ俺が手を下さなくても、ISと言う下らない存在のお陰で、いずれ世界は破滅する。そうなれば、なにもしなくてもあの子は神になる!!あの子が神になるのは、時間の問題なんだよアハハハハハハ!!!」

 

秋水は高笑いをしながら、中庭から歩いていった。




政府の人間は悪人でしたが、この秋水は狂人。
この言葉につきますね。

しかも奈々の弟だったとは!!
まさしく、混沌とした世界になりそうですね。


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129話

~~~お昼休み~~~

 

箒「もう昼だと言うのに一夏はどこにいったんだ?」

 

シャル「今日も走り込みに言ったよ。ここ最近、自主トレの時間が長くなって来てるよね。」

 

セシリア「そうですわね。オーバーワークにもおもえるのですが、何を言っても今の一夏さんは止められないですわね。」

 

鈴音「そうね。あいつはバカだからね。」

 

想い人のいない昼食は、互いにライバルだと言うこともあり少しだけ気まずい雰囲気になっていた。

だが、仲が悪い訳では無いのでそこそこの会話を楽しみながら食事を済ましていた。

 

言うまでもないが、ラウラは幸太郎の所で束とルアネールとひばなを散らしては、マイルナに怒られていた。

 

~~~運動場~~~

 

アル「それにしても、毎日毎日馬車馬の様に走り込んで飽きもしないでいられるな。あいつみたいな若者は変化のない運動は嫌いそうだけどな。」

 

リズ「それはお兄様の偏見ですよ。ですが、国際連盟の会長になってから特訓に熱が入った様にも感じますね。」

 

二人がそんな話をしていると、走り込みを終えた一夏が汗を拭きながら歩いてきた。

 

一夏「アルさん、この後いつも通り組み手をお願いします。」

 

アル「ハァ、頑張るのは良いことだけどもやりすぎは逆効果だぞ?」

 

嫌々言いながらも、一夏の特訓に付き合っているアルベルトを見て、リズリーは微笑んでいた。

 

三人は道場に移動した。

そして一夏とアルベルトは、いつもの様に組み手をしていた。

 

組み手と言うよりは、アルベルトの猛攻を一夏が避け隙を見てアルベルトに攻撃をする程度ではあった。

 

アル「お前は、器用だな。運動にしても芸術にしても、少し教えればプロ顔負けのレベルの事は出来るみたいだな。」

 

一夏を壁まで吹っ飛ばしながら、アルベルトは染々呟いた。

 

リズ「そうですね。お兄様が付きっきりだったとは言え、ここまで攻撃をかわせるのは大した才能ですね。」

 

世界最高峰とも言える二人に誉められ、一夏は嬉しくもあり恥ずかしくもあった。

 

アル「それだからこそ、そこから限界突破してプロ以上の実力を出すのは人一倍難しいだろうな。それがお前の一番の課題だな。」

 

一夏「器用貧乏って所ですか。それは自覚してますよ。だから、こうして今までよりも量を増やしてるんです。」

 

アル「それよりも手っ取り早く、俺が闘争ってのを叩き込んでやる。」

 

一夏「本当ですか!じゃあお願いします!!」

 

そう言った瞬間、さっきまで立ち合っていたアルベルトの雰囲気が一変した。

 

明らかに荒々しさが消え去り、普段のアルベルトと差ほど変わらない常態になっていた。

 

だが、突然リズリーに服を引っ張られ一夏はその場にしりもちをついた。

 

あまりの事で困惑していた一夏だが、さっきまで自分の目の位置にアルベルトの指があるのをみて驚いていた。

 

リズ「いきなり眼を潰しにかかるなんて、やり過ぎですよお兄様。それも殺気すら出さないなんて。」

 

アル「言っただろ?本物の闘争を教えるってよ。さて、そろそろ昼休みも終わるな。じゃあ一夏、続きは放課後だな。待ってるぜ。」




プロ中のプロから本物の手解きを教えて貰えるとは、一夏も幸せ者ですね。
ですが、いきなり目潰しとは。

リズリーがいなかったらと思うと、スパルタ過ぎる様な気もしますかね。


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130話

~~~放課後~~~

 

アル「お前に、一流と二流、ついでに三流の違いを教えておいてやる。それさて知っていれば、少しは自分の身を守る時の助けにはなるはずだろ。」

 

一夏「違いですか・・・。それって、昼休みの時の攻撃に関係があるんですか?」

 

アル「大有りだよ。俺達の仕事は、喧嘩や決闘みたいな向かい合っての一対一になるのは希なんだ。街中でターゲットを仕留めるのが普通だ。」

 

アル「そんな中、殺気丸出しの奴がいたら怪しさしか無いだろ?殺気しか出せないやつは、三流の証拠だ。」

 

一夏「確かに。それは警戒しますね。じゃあ、二流ってのはどんな奴なんですか?」

 

アル「二流は気配を消すやつだ。気配を消せば、人混みに隠れやすいかも知れん。だが、ターゲットに近づけば気配の消えてる奴は怪しいだろ?ターゲットに近づいて気配を戻しても、人混みにさっきまで無かった気配がいきなり出現したら、それも相手にまるわかりだ。」

 

アル「だから、いかに普段道を歩いている時と同じように出来るかが、一流になるための条件なんだ。」

 

アルベルトの説明に、一夏は確かにと感心しっぱなしであった。

そして昼休みに言われた、自分がプロとしてはまだまだと言う意味も理解できた。

 

一夏「で、俺に何を教えてくれるんですか?感情を押さえる方法ですか?」

 

アル「いや、感情を押さえる必用はない。お前に先ずは殺気の篭った攻撃を避けてもらう。そのために。」

 

そう言ってアルベルトは、玩具の拳銃を取り出した。

 

アル「これには蛍光弾が入ってる。今から殺気を込めて撃つ。頑張って避けな。」

 

拳銃を構えながらアルベルトが言うと、いきなり身を引き裂く許どの殺気が部屋中を包んでいた。

 

あまりの殺気に一夏は、足がすくんで動けなくなっていた。

その隙にアルベルトからの砲撃を受けてしまった。

 

アル「どうした一夏!?その程度では、本物に襲われた時には瞬殺だぞ?」

 

一夏「わかってる!!よし、大丈夫・・・大丈夫だ!!」

 

まずは避けるのではなく、動くことを優先するために一夏は少しずつではあるがアルベルトからの殺気になれようとした。

 

睨まれた瞬間に死を覚悟する程だったが、恐れず目をそらさずにアルベルトの目を見ていた。

 

修羅場を潜ってきただけあるのか、ゆっくりとだが動くことが出来だした。

 

アル(ふぅ~ん、流石はセンスがあるだけあるな。この調子ならすぐにでも第一ステップもクリア出来そうかな?)

 

一夏の動きをみて、アルベルトは内面嬉しそうに笑っていた。




アルベルトからの一流になるための特訓がはじまりましたね。
これを乗り越えられれば、一夏もエリートになれますね。



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131話

次の日、一夏が特別レッスンをしていると聞き千冬は様子を見に来てみた。

 

そっと覗いてみると、何故か一夏は目隠しをしながらスクワットをしていた。

そしてその横で、スポーツチャンバラの刀を持ったアルベルトが立っていた。

 

余りの意味不明な光景のため、思わず千冬は中に入っていった。

 

千冬「特訓をしていると聞いたのだが、これは何をしてるんですか?」

 

アル「ん?あぁ、これは一夏の感覚を鋭くする為の秘密のレッスンだよ。」

 

そう言ってアルベルトは、一夏のこめかみめがけて刀を降った。

 

いままでリズムよくスクワットをしていた一夏だったが、目隠しをしているにも関わらずタイミングなどお構いなしに刀をスクワットの要領でかわした。

 

アル「な?凄いだろ?まさか、2日でここまでのレベルまでこれるなんてな。やっぱ、センスあるわお前。よし、休憩。」

 

一夏「ありがとうございます。アルさんの教え方が上手いんですよ。あ、千冬姉も来てたんだ。」

 

筋トレと感覚トレーニングの双方を兼ね備えた、ある意味自分では思い付かない様なやり方に千冬は感心していた。

 

一夏「今の俺なら、千冬姉の出席簿も簡単に交わせるかもよ?」

 

一夏が得意気に言うと、呆れながらアルベルトがツッコミを入れた。

 

アル「調子のんな。幼稚園児のプールで顔をつけれる様になったカナヅチが、太平洋を泳いで横断できると思ってるのか?」

 

一夏「幼稚園児の・・・って、まだそんな初歩的な部分しかいって無いって事ですか!?」

 

アルベルトの分かりやすく、ユーモアな例えに思わず千冬は吹き出してしまった。

 

千冬「そんなに私の攻撃が避けれると言うなら、いますぐ実行してみるか?何事も行動しなくてはわからないだろ?」

 

一夏「じ、冗談だよ。そんなに本気にしなくても・・・。」

 

アル「今お前がするべき事は、攻撃させるという感覚を覚えてそれに反応出来る様にならなきゃいかん。

それが出来なければ、はっきり言って無意味だからな。」

 

その為には、全身の筋力及び、反射神経、瞬発力を高める必要があるとアルベルトは付け足した。

 

一夏「そう言えば、ふと思ったんだけど、アルさんが見せた一流の攻撃って千冬姉にも通用するんですか?」

 

一夏の質問に千冬は意味がわからなかったが、アルベルトは腕を掴み組みながらふと考えた。

そして面白い事を思い付いた様にニヤリと笑った。

 

アル「確かに。それは面白いな。表社会最強と言っても過言では無い織斑千冬に、裏社会最強の実力が通用するか・・・。ものは試しようだな。

おい千冬、今からこの刀で攻撃するから旨く避けてみろ。」

 

千冬「はぁ、良くわからんがやるからには真剣にさせて貰います。」

 

ある程度の距離を取った二人は、たがいに向き合った。

十分警戒する千冬に対し、相変わらず様子が変わらないアルベルトに、一夏は流石としか思えなかった。

 

二人が対峙していくら時間がたったかわからなかった。

だが、アルベルトが素早く動き千冬の頭をやさしく叩いた。

 

アル「流石はブリュンヒルデ。中々隙が見当たらなかったぜ。」

 

千冬「い、いつの間に・・・。むかってくる気配すら感じなかった。まさか、これを一夏に目指させるつもりですか?」

 

アルベルトの技量への感服。そしてあまりの高等すぎるテクニックに千冬は心配そうに一夏を見た。

 

アル「んな訳。流石の俺でも、センスがあるこいつをここまでにするのは2~3年休みなく特訓しなきゃ、無理かもな。」

 

けらけらとアルベルトは笑いながら言った。

 

そして、千冬に勝ったアルベルトの技量を改めて凄すぎると一夏は痛感したのであった。




一夏秘密のトレーニングです。
確かに、目隠ししてスクワットって、訳を知らなければ異様な光景かも知れませんね。

そしてアルベルトVS千冬の夢の対決!!
アルベルトは、まさに最高峰と言えますね。そんな男に直接指導して貰えるなんて、贅沢極まりないですね。


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132話

宗次郎「すまんな、こんな格好で。それにこんなボロくさい道場なんかに呼び出して。」

 

秋水「いえとんでも御座いません。父上からの呼び出しとあれば、例えゴミ山であれ駆けつけますよ。」

 

寿家にある道場に、宗次郎は秋水を呼び出した。

スーツケース姿の秋水とは対照的に、宗次郎は柔道着を来ていた。

 

その立ち振舞いは、齢70を越えた老人には思えない程の凛々しさと逞しさが漂っていた。

 

宗次郎「ここじゃあこの格好じゃなきゃ、落ち着かないんでね。それよりも、安酒だが飲むか?」

 

秋水「柔道着姿の父上と安酒を飲む。これ以上の贅沢はありませんよ。お言葉に甘えさせて戴きます。」

 

宗次郎から渡されたグラスに酒をつぎ、二人は静かに乾杯を交わした。

そして会話をするわけでもなく、ただ静かに酒を飲みグラスに酒を注ぎあった。

 

秋水「俺は止まるつもりはありませんよ。」

 

呼ばれた理由を理解していたのか、宗次郎が本題を切り出す前に答えた。

その答えをわかっていたのか、宗次郎は表情を変えなかった。

 

宗次郎「お前は変わった。奈々が死んでから歯止めが効かなくなったな。まぁ、それでこそ寿とも言えるがな。」

 

宗次郎は笑いながら答えた。

 

秋水「父上に幼き頃から、『誇りを護るために、誇りを棄てる』その精神を叩き込まれましたから。俺なりの親孝行って奴ですよ。これでも。」

 

宗次郎「確かに。そう言い聞かせたな。己の誇りを保守した時点で、誇りでは無いと。その思いで俺はお前達を自由にしてきた。」

 

宗次郎「幸太郎の病気を治すのなら、寿家の病院に入院させればいい。奈々を護るためには、沢山のSPをつければ良かった。お前を止める為には、張り倒してでもこの家から出さなければすんだ。」

 

宗次郎「だが、それは愚かな選択だ。そんな事をすれば愛するお前達を殺す事と同義だ。お前達を愛しているのなら、俺は手を出す訳にはいかなかったからな。」

 

秋水「後悔は無かったのですか。その愛する息子が、こんなのになって。」

 

宗次郎「全く無い!!無理やり俺の思う秋水にしても愛を注げないさ。良い子が好きなんじゃない。お前達が好きなんだ。」

 

その言葉を聞いて、秋水は大笑いをした。

 

秋水「やっぱ、寿は・・・、俺達は狂ってるな。だからこそ、俺は寿家が大好きなんだよ。

俺は姉さんが死んでから、自分が死んだ。だが!幸太郎が産まれてから、俺にも護りたい誇りが産まれたんだ!!」

 

秋水「幸太郎を護り抜く。それが俺にとっての誇りだ。だから棄てる。護りたい誇りだからこそ棄てるんだよ!!父上がそうした様に、幸太郎がより幸太郎らしく。より逞しく。より美しく。より神々しく。より支配者らしくなるために、俺は幸太郎の敵になる。それが出来るのは、俺だけだからな。」

 

そう言って空になった酒瓶を宗次郎に投げた。

そしてその酒瓶を、宗次郎は手刀で割った。

 

宗次郎「哀しいな。そうでなければ、幸太郎の為にならない。お前が最も望んでいない邪道を進まざるをえないとはな。」

 

秋水「えぇ。世界の未来と、たった一人の心。天秤にかける気にもなりませんよ。俺しか出来ない事ですから。」

 

ニッコリと笑った秋水を見て、宗次郎は涙を堪えることが出来なかった。



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133話

幸太郎「あれ?秋水叔父さんも来てたんだ。久し振りだね。」

 

道場の扉が開くと、そこに件の幸太郎が立っていた。

突然の訪問に秋水は驚きを隠せなかった。

 

秋水「こ、幸太郎くん!?どうしてこんなむさ苦しい所に!?」

 

宗次郎「俺が読んだんだよ。ちょっと前まで病で寝てたらしいなら、息抜きもかねてな。てか、むさ苦しくて悪かったな。」

 

幸太郎「えへへ、秋水叔父さん。久し振りに旅の話聞かせてよ。」

 

秋水「そっか。幸太郎くんは、旅の話が大好きだったね。じゃあ特別に・・・、そうだなこれはドイツに行ってた時の話なんだけどね。」

 

さっきまでの覚悟を決めた顔つきではなく、そこには面倒見の良い叔父の顔になっている秋水がいた。

 

秋水の話を真剣に、時には笑顔で聞いている幸太郎を見ていると、先程までの会話が嘘のように感じる程だった。

 

秋水「と、言うわけでフランスでは車が故障して高速道路で立ち往生しちゃったんだよ。」

 

幸太郎「そうだったんだ。やっぱり、秋水叔父さんの話を聞くの大好きだよ。はぁ~いつか俺も、外国に旅行したいな~。だって、外国にママのお墓が在るんでしょ?」

 

幸太郎の言葉に、二人は眼を反らした。

 

宗次郎「そうだな。お前の体調が良くなったら、好きな国に連れてってやるぞ?なんなら、世界全ての国に旅行出来るぞ?」

 

幸太郎「ホントに?でも、外国って良く分かんないから当分は良いかな?いくとしたら、ラウラの故郷のドイツやルアネールの故郷に行ってみたいな。一応結婚するなら、ご挨拶?をするんでしょ?」

 

秋水「結婚!?えっ!幸太郎くん結婚するんですか!?そうですか、あんなに幼かったのに、気が付けば結婚か・・・。そうか。」

 

そう言うと秋水は、立ちたがった。

 

秋水「では、そろそろ私は帰ります。これ以上幸太郎くんと過ごしていると、折角のかくごが薄れて来ちゃいます。」

 

そう言って秋水は、幸太郎の頭を撫でた。

 

秋水「じゃあね幸太郎くん。次はいつ会えるか分からないけど、私は何時でも幸太郎くんの味方だからね。」

 

~~~屋敷の外~~~

 

屋敷から出た秋水は、携帯を握り締め深く深呼吸をした。

 

秋水(もう、後戻り出来ない。そう決めたんだ。幸太郎くんに会ったからって、揺らいでては成し遂げれない!!)

 

そして秋水は一人の人間に電話をかけた。

その人物はすぐに電話に出た。

 

秋水「お久しぶりです。いえ・・・お久しぶりでは無いですね。まぁ、形式的にですよ。今日電話をしたのは他でもありません。

貴方は私がこれからする事に気が付いている筈です。」

 

秋水「え?何でわかったかって?そんなの顔を見ればわかりますよ。これでも寿の端くれですから・・・。ええ、本題でしたね。はっきり言います。私のする事の邪魔をしないでください!!」

 

秋水「はい。どうなるかなんて、百も承知です。ええ、それでも邪魔はしないで欲しいのです。貴方にさえ許可が出れば、行動を起こせるんです。はい・・・。私も寿の男です。最後は愛する寿の未来のために使うのが本望ですから・・・。」

 

秋水「ふふっ、やっぱりですね。貴方程の人です。私の想いが分かれば断らないと思っていました。はい。大丈夫です。必ず遂行します。この命に変えて・・・えっ?一つ条件ですか?ええ、私に出来ることなら。」

 

秋水「・・・成る程。それは、その条件だけは飲めません。と言うより、どうなるか分かりません。が正しいですね。出来るだけその条件になるようにしますが、確証はありませんから。

はい。はい、ありがとうございます!!」

 

秋水は電話越しでだが、深く頭を下げていた。

そして電話が終わり、秋水は携帯を仕舞った。

 

秋水(これで良いんだ。これで・・・)

 

静かに歩き出した秋水の背中からは、静かで、それでいて美しさを感じるほど、決意、覚悟、哀しみにみちあふれていた。




お久しぶりです。
ここ最近、職場の研修にいってたので、色々と忙しくてストーリーを考える暇がありませんでした。

レポートって、めちゃくちゃめんどくさいんですね。
大変の一言ですね。


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134話

最近の一夏の日課は、アルベルトからの特別レッスンを終えた後に10分間のアルベルトとの組み手をすることが決められていた。

 

それは、一夏の攻撃のパターンや打撃力をあげるため、そしてスタミナをつけるためでもあったのだ。

 

既に組み手を初めてから数日が経っているが、一夏の攻撃がアルベルトに当たった事は一度もなく、軽くいなされてばなりだった。

今日も、組み手はいつもと変わらずのいなされぶりだった。

 

一夏「くっ~。今日もアルさんに攻撃を当てれなかったよ!何度か、行けるかも!?って場面があったのにな。」

 

アル「アホか。その見え見えの罠にはまって返り討ちじゃねぇかよ。」

 

大の字に寝転がっている一夏に、アルベルトは笑いながら対応していた。

その姿は、まさに師と弟子の姿その物だった。

 

それを見ていた千冬も、苦笑いをしていた。

 

千冬「一夏も始める前と比べて、格段とスキルアップしてるはずなんだがなぁ。相手が悪すぎるのか・・・。全然身になってない様にしか見えん。」

 

一夏「ちょ!千冬姉!それは酷いよ。これでも、筋肉とかもついてきてるんだぜ?」

 

アル「お前の攻撃には、意志が強すぎるんだよ。」

 

一夏「意志ですか?」

 

アル「そう。一撃一撃を当てよう。これを避けられたら・・・。って思いがこもりまくってるから、受けるこっちとしては避けやすいんだよ。いくら素早くて力強い攻撃でも、それじゃあ当たらんぞ?」

 

アルベルトにそう言われ、一夏は時分の右こぶしを見つめて を吐いた。

 

アル「まぁ、攻撃が見えててもそれをよけれる技術も必要だがな。」

 

そう言ってアルベルトは、休憩室に歩いて行った。

それを追いかける様に、一夏も立ち上がりアルベルトの後についていった。

 

一夏「俺にも、気配を消した攻撃って出来るんですか?」

 

アル「ん~。出来なくは無いけど、まぁ経験だな。」

 

~~~休憩室~~~

 

休憩室についた一夏は、特に見たい番組があるわけでは無かったが、流でテレビの電源をいれた。

 

大きく延びをしながら、面白い番組中が無いかザッピングをしていた。

 

ふと、とある一つのニュース番組に目が止まった。

 

一夏「へぇ~。面白いニュースやってるんだな。ねぇ、アルさん、見てみてくださいよ。」

 

この時、アルベルトを呼んでいなければ。すぐにチャンネルを変えていれば。

 

一夏は、後悔をすることになるなんて、考えもしなかった。

 

一夏「見てくださいよ。なんでも、無期懲役の男が釈放されたんですっ・・・て。」

 

アル「な、なんでこいつが・・・。なぜ!!」

 

さっきまでとは明らかに違う、まるですぐにでも爆発してしまう程のおぞましさをアルベルトから感じ取っていた。




お久しぶり!
やっとヘルパー2級取れました!

最後のアルベルトの代わりよう、果たして釈放された男とどんな関係があるのでしょうか。


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135話

一夏「ア、アルさん・・・。」

 

席から立ち上がり、ドアから出ていこうとするアルベルトの手を、一夏は咄嗟につかんだ。

ここでアルベルトを行かせてしまうと、折り返しがつかないと本能的に察したからであった。

 

アル「なにすんだ?まさかと思うが、邪魔をするつもりじゃ無いだろうな?」

 

一夏「アルさん、一旦落ち着いて下さい!!いきなりどうしたんですか!?」

 

アル「邪魔するなクソ餓鬼が!!」

 

アルベルトは一夏の手を振りほどき、一夏に攻撃を仕掛けた。

さっきまでの特訓とは違い、殺意しか感じられない攻撃に、一夏は特訓の成果が出てきたのか、すんなり避けることが出来た。

 

それがより怒りを溜めたのか、ついにアルベルトは拳銃を取り出した。

 

千冬「何をしてるんですか!!」

 

咄嗟にその拳銃を、千冬は奪い取った。

 

アル「なんだ、お前まで邪魔すんのか・・・。」

 

そう言うとアルベルトは、廻し蹴りを千冬に繰り出した。

突然の攻撃に千冬は反応できず、アルベルトを蹴りが腹に命中してしまい、壁に叩き付けられてしまった。

 

そして落ちた拳銃を広い、アルベルトは千冬のこめかみに拳銃を突き付けた。

 

アル「死ね。」

 

アルベルトが引き金を引こうとした瞬間、間一髪扉を開けたリズリーがアルベルトの手を銃撃した。

 

リズ「お兄様、お気持ちは痛いほどわかります。ですが、落ちつ・・・。」

 

アル「邪魔なんだよそこどけ。」

 

一瞬の隙をついて間合いを詰めたアルベルトが、リズリーの胸ぐらを掴みながらそう言った。

 

リズ「いえ!退けません!!貴方を人殺しにするわけにはいきません!!」

 

アル「いまさら関係ねぇ。あいつは俺が殺さなきゃいけないんだよ。その為に、技術を身に付けたんだからよ。」

 

あまりにも緊迫した空気に、一夏も千冬も動けなくなっていた。

 

リズ「どうしてもと言うなら、私を殺してからにしてください!!」

 

アル「お前ごときが、俺に勝てると思ってるのか?」

 

リズ「無理でしょうね。おそらく、お兄様が本気で私を殺す気なら、10分も持たないでしょう・・・。ですが、お兄様とマイルナさんを護る為にもここを退くわけには行きません!!」

 

アル「そうか・・・。なら死ね!!」

 

マイルナ「待って!!」

 

二人の衝突を、マイルナが寸前で止めることが出来た。

 

マイルナ「お願い。これ以上は、止めて・・・。私の愛するアルベルトのままでいて・・・。」

 

マイルナはすがるように泣きつき、アルベルトに頼み込んだ。

 

アル「すまない。俺のしようとしてる事が、破滅しか無いことくらい分かってる。お前やリズ、それに幸太郎にも迷惑がかかることもな。」

 

アル「だが、それでも良い・・・。幸太郎からの信頼を失おうが!俺を慕ってる一夏を傷つけようが!愛するお前からの愛を捨てようが、俺が奴を殺さなきゃ、俺がお前の因縁を絶ち切らなきゃならねぇんだよ!!」

 

そう言ってアルベルトは部屋から出ていった。

 

そんな様子を、物陰から見ていた一人の男が秋水に電話をかけていた。

 

秋水『そうですか。予定通り動き出しましたか。』

 

秋水『わかっています。必ず成功させますよ。それに、万が一の事が起きたとしても、幸太郎くんには被害を及ぼしませんよ。』

 

秋水『はい。では、許しを得ているので幸太郎くんを誘拐させて貰います。』




一触即発の状態ですね。このままだと、悲劇しか起きなさそうですね。

それに、秋水と電話をしている相手は誰なのでしょうか。
誘拐だなんて、ただ事では無さそうですけど・・・。


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136話

一夏「アルさんのあの豹変ぶり、釈放された人物って一体誰なんですか?」

 

取りあえず、場の空気を少しでも変えようと考えた一夏はこの状況下で、最も無難な質問をしてみた。

 

マイルナとリズリーは、互いにアイコンタクトを送りあっていた。

そして答えが決まったのか、リズリーは深呼吸をした。

 

リズ「あの男は、マイルナさんの実の父親なんです。」

 

一夏「ま、マイルナさんの父親だって!!」

 

一夏と千冬は、大声を上げて驚いていた。

 

マイルナ「ええ、あの男は間違いなく私の父よ。私は、あの男から酷い虐待を受けてたわ。それも毎日ね。そんなある日、私はアルと出会って一目惚れをしたわ。そんな私はアルに好かれようと色々アピールしてみたけど、父親の事、そしてそんな父に虐待を受けている事を知られたく無かった私は、それ以上踏み込めなかったわ。」

 

マイルナ「それでも、私達は友達以上恋人未満の様な関係になれたの。そんなある日、アルはわたしの父の事を知ってしまったわ。そして父に止めるよう言ったけど、アルの言葉を聞こうとしなかった父を・・・。」

 

リズ「お兄様は殺そうとしたんですよ。ですが、すんでの所で逃げられてしまい、それ事態は未遂に終わりました。そしてそいつは別件で逮捕されてしまい。」

 

千冬「今に至ると言うわけだな。」

 

衝撃の事実に、一夏は何を言えば良いのかわからなかった。

そしてアルベルトの豹変ぶりは、納得できていたのだった。

 

一夏「で、でもその人が今何処にいるかは流石のアルさんでもわからないでしょ?

だったら、早いところこっちも何かしら手をうたないと!あの様子なら、本当に殺しちゃいそうな勢いだったし!」

 

その時、リズリーの携帯が鳴った。

 

リズ「はい、もしもし・・・!何!それは本当ですか!!それを知っている他の人は!!そうですか・・・。その件は、私が請け負いますので、こちらからの連絡をまってください!!」

 

リズリーは電話を切ると、勢いよく部屋から出ていった。

 

一夏「なにかあったんですか?まさか、もう見つかったんじゃ!!」

 

マイルナ「それは無いわ。もし本当に見つかったのなら、真っ先に教えてくれるはずだからね。」

 

~~~学園外~~~

 

リズ(まさか、幸太郎様が誘拐だなんて!!有り得ない!療養中の病院は一般には知られてないし、護衛が、あのロゼットがいながら!!)

 

するとリズリーは、ある疑問が出てきた。

 

リズリー(妙にタイミングが良い。お兄様の単独行動、幸太郎様の誘拐。それに、幸太郎様は今では寿家の2代目当主。こんな事が起きたのなら、ニュースに。それか裏のネットワークに流れているはず・・・。)

 

リズリー(護衛がロゼット・・・。知られていない誘拐情報・・・。まさか!!)

 

リズリー(そんなはずはない!!そんなはずはないけれども、それしか有り得ない!!私の予想が正しければ、今回の首謀者、そしてその後ろ楯は!)




マイルナの父親だったなんて!!
しかも、そんな過去があっただなんて、慌ただしく。そして幸太郎の誘拐だなんて、雲行きが怪しくなってきましたね。

そしてリズリーは、どうやら真相にたどり着いたみたいですね。秋水の後ろ楯の意外な人物とは!!


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137話

~~~港の倉庫~~~

 

リズリーはとある倉庫に来ていた。

かつて、寿家が貿易業をしていた時につかっていた巨大な倉庫である。

 

リズ(恐らく、ここにいるはずです。でもどうして・・・。)

 

緊張と恐怖、そして不安をかかえながらも深く深呼吸をしてリズリーは倉庫の扉を開いた。

 

倉庫の中は外の光がはいっているが薄暗く、おどろおどろしい雰囲気を出していた。

 

そしてまるでリズリーの到着を待っていたかの様に、倉庫の明かりがついた。

 

秋水「いや~誰かしらは勘づくと思っていたけど、まさか君が初めに来るなんてね。案外ロゼット君もヒントあげるんだね。まぁ良い、良く来たねフェルティナ君。歓迎するよ。」

 

リズ「その名前はもう捨てました。今はリズリーの名を貰っています。予感はしてましたが、どうして貴方がこんなことを!」

 

すると秋水は明らかに表情が変わり、怒りを露にしていた。

 

秋水「リズリーだと・・・!?ふざけるな!!お前ごときがその名を名乗って良いと思っているのか!!だれだ!貴様にその名を与えた愚か者は!!」

 

あまりの剣幕に、リズリーは困惑していた。

 

「愚か者とは私の事か?その名は私が許可したのだ。無論、アルベルトの名もいっしょに。」

 

秋水「で、ですが!アルベルトもそうです!!こいつらにあの人達の名は相応しくない!!これは、ある種の侮辱ですよ!!」

 

「理由か?それは期待と希望・・・。そして一番は、未練と後悔からですかね。」

 

倉庫の奥から出てきた人物が説明したが、秋水は納得しておらず釈然としない顔をしていた。

 

リズリー「やっぱり、後ろに貴方がいたんですね。どうしてこの様な馬鹿げた真似をしたのですか!?それに幸太郎様は無事なのですか!」

 

「えぇ、幸太郎は無事ですよ。というより、病状が取り敢えず安定したので寿家へ戻っただけです。誘拐、だなんて大袈裟な事をいえば誰かしらここに来るかと思いましてね。」

 

秋水「全く、全部私に任せてくれると思ったんですがね。幸太郎くんに関しては、私よりも存じ上げいますから、適役だったかも知れませんね。」

 

「さて、今回の黒幕、そして幸太郎の無事は判明しましたね。ではリズリー、これからどうするつもりですか?私達ふたりを止めますか?今なら、最悪の事態だけは避けられるかも知れませんよ。」

 

リズ「・・・いえ、貴方が動いている。と言うことは、幸太郎様に危害が加わる心配は無いですから、私は動こうにも動けません。ですが、理由を、目的を教えてください!」

 

「そうですね、正解に辿り着いたご褒美に教えてあげても良いかも知れませんね。それにアルベルトには迷惑をかけていますから。」

 

松陽「これは幸太郎の為だけを考えた行動ですよ。」




ま、まさか松陽が関与してただなんて!!
驚きです!!

そして秋水が怒ったリズリーとアルベルトの名前の意味とは!?
今、松陽の過去話を別でつくっていますのでそこで説明します。

1話1話あげるのではなく、ある程度作ってから挙げますので待っていて下さい。


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138話

リズ「これが、幸太郎様の為!?これがどんな結末を迎えるか貴方ならわかるはずです!!」

 

松陽「えぇ、ハッピーエンドとは行きませんね。」

 

松陽「私は故郷で命の儚さ、そして死がどれ程違和感のない事かを知りました。そして戦場で、初めての友達を失う苦しさ、そして希望を知った。そして・・・奈々を失った事で愛する人を救えない無力さ、夫としての怒りをしってしまった。」

 

松陽「ならば最後は、父親としてを知らなければ行けない!!それが今回の私の行動理念です。それを邪魔するのなら・・・。」

 

そう言って松陽が右腕を上げると、隠れていた松陽の部下達がゾロゾロと出てきた。

流石のリズリーも、そのレベルの相手数人だと無事で済む保証は無かった。

 

そして降伏をするために、両手を上げた。

それを見た部下達は、リズリーの手足を拘束した。

 

松陽「さて、これで邪魔者はいなくなりましたね。それでは皆さん、予定通り行動してください。」

 

秋水「やれやれ、私にはあれほどダメだと忠告してたくせに、自分はするんですね。」

 

松陽「なんだ?文句でも?そんなに言うなら、力ずくでも俺をとめれば良いだろ。」

 

秋水「口調もあの頃に戻ってきてますよ。そうなったお兄様を止められる生命体は、存在しませんよ。

そう言えば、明日はあの日でしたね。」

 

松陽「あぁ、だから失敗するわけにはな。あいつらには永いこと待たせたからな・・・。おい、アルベルトを探しだして例の場所まで案内しろ。」

 

~~~IS学園~~~

 

一夏「リズリーさんも飛び出ていったきり、連絡が取れない・・・。こりゃ本当にただ事じゃ無さそうだな。」

 

マイルナ「それだけじゃ無いわ。他の誰に連絡しても返信が亡いし、ロゼットにすら連絡が取れないなんて、有り得ない事よ。」

 

すると、一件のLINEがマイルナの元に来た。

それは明らかに知らない名前からであったが、タイミングやそしてその技術から考えて今回の事に関係していると明白だった。

 

そのLINEを開いてみると、とある場所の地図と明日の午前8時と、指定された時間しか書かれていなかった。

本来ならこの手の情報は、徹底的に調べあげてから行動するのが正解なのだが、一夏達のおかれた現状や事態の不透明さ、そしてなによりアルベルトがマイルナの父親を殺してしまう。

 

そんな緊急を要する今は、例え罠であってもこの時間と場所に従うしか残された道は無かった。

それを3人とも理解していたのか、何も語らずに互いに顔を合わせて小さく頷くだけであった。




今回はちょこっと短めです。
いよいよ松陽の謎の計画が動き出していますね。

幸太郎がどうなってしまうのか、松陽の目的とは!
次回に期待?ですかね。


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139話

皆様、本当にお久しぶりです!!
まさか、こんなに時間がかかるとは思いませんでした!

人生初のスランプに合ってしまい、筆が進みませんでした。
本当に申し訳ありませんでした!!

これから本当のクライマックスに入るので、良ければお付き合い願います。


~~~寿家~~~

 

松陽「幸太郎、お前とは深く話していなかったね。お前は無事に寿家を継いで当主となった。お前の一言で世界は大きく動く事だってある。」

 

松陽「それでだ幸太郎、お前はどんな世界に変えていきたいんだ?それを聞かせてくれ。」

 

幸太郎「世界をどうするか?う~ん。」

 

松陽からの質問に、答えを用意していなかったのか幸太郎は腕を組んで考え始めた。

 

いまいち自分の立場に馴れていないのか、簡単には答えが出てこなかった。

 

幸太郎「パパの質問、少し難しいよ。どうするかなんて言われても、正直良くわかんない。でも、一つだけ言えるとしたら恩返しがしたい。」

 

松陽「恩返しだって?」

 

幸太郎「うん!今まで俺なんかの為に色んな人が動いてくれた。だから、今度は俺が皆が幸せになれるような世界をつくりたいんだ!」

 

幸太郎の答えに、松陽は驚いた顔をした。

だが、直ぐに微笑みながら幸太郎の頭を撫でた。

 

松陽「そうか。そんな世界か・・・。それは素敵だろうな。流石は奈々の子どもですね。」

 

幸太郎「何言ってるのパパ?俺はパパの子どもでもあるんだよ?」

 

松陽「そうでしたね。幸太郎、お前ならそんな世界をすぐに作る事が出来るでしょう。」

 

そう言うと松陽は真面目な顔つきになった。

 

松陽「ですが、幸せは誰かの不幸の上で成り立つ存在なのです。幸太郎の幸せのせいで、多くの無関係な人間が哀しみ、そして最悪の場合傷つく事があります。

平和を望めば、それだけの犠牲を出さなければ行動すら出来ない。貴方の為に、平気で他人を傷つける人間も星の数ほど存在する。そんなアンバランスな天秤をこれから操作していかなければならないんです。」

 

松陽「その操作を謝れば、全てが壊れる。貴方は文字通り生殺与奪の権利を握っている。そしてその覚悟が寿家の当主たる人間には必ず必要になっていく。その事だけは絶対に忘れないで下さいね。」

 

幸太郎「う~ん、難しい事は良くわかんないけど、大変だって事は良くわかったよ。」

 

首を傾げながら幸太郎が答えると、松陽は幸太郎の頬をさわった。

 

松陽「いずれ、命について大切なものはなにか。それがわかる日がやってきます。その時になったら、さっきの言葉を思い出せれば良い。」

 

すると、松陽の携帯電話がなった。

 

松陽「どうした?えぇ、わかりました。では手筈通りにしますので、あの場所に集めてください。」

 

松陽は電話をきった。

 

松陽「さて幸太郎、今から出掛けましょうか。」

 

幸太郎「どこにいくの?」

 

松陽「貴方がこれから生きていく中で、必ず見ておかなくてはならない。そんな光景をいまから見に行きます。」

 

そう言って松陽は、幸太郎の一緒に車に乗り込んだ。



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140話

次の日、一夏達はLINEで送られてきた指定の場所に来ていた。少し肌寒くなってきた朝の風が肌に刺さったが、妙な緊張とこれから何が起こるのかの不安のせいで、体は火照っていた。

 

一夏「一応時間までは、あと20分あるな。でも、回りには何も変わった物はないけどな・・・。」

 

アル「なんだお前達も来てたのか。」

 

声のする方を振り返ってみると、そこにはアルベルトがいた。

 

互いに驚いた表情をしていたが、やはりアルベルトも事情をしらなかったのか、少し不安そうな雰囲気を醸し出していた。

 

マイルナ「どうして貴方もここにいるのよ!?」

 

アル「見知らぬLINEが来たと思ったら、場所と時間の指定があったんだよ。しかも、ロゼットにも連絡が取れん。妙な胸騒ぎがしてな。」

 

すると、遠くから、車の音が近づいて来ていた。

 

大きな車が到着したかと思えば、その中からロゼット、秋水、リズリーが出てきた。

 

千冬「リズ、貴方まで!」

 

リズ「すまない千冬・・・。私が自分で首を突っ込んだばかりに、こんな事に。」

 

一夏「おいロゼット!これはどう言う事だよ!」

 

ロゼット「黙ってろ。これから起こることを静かに見届けるんだ。」

 

秋水「余計な無駄口を叩かなくても良い。さて、そろそろ来る頃かな。」

 

すると反対側から、もう一台の車がやって来た。

 

その車からは、幸太郎と松陽が降りてきた。

 

幸太郎「あれ?こんな朝早くから皆揃って、どうかしたの?パパが見なくちゃいけない物があるって言ってたけど?」

 

松陽「幸太郎、今からお前が・・・いや、お前に服従する事の意味と覚悟をみせるんだよ。さてアルベルト、こっちに来なさい。」

 

明らかに何時もの雰囲気とは違う松陽に、違和感があったが、アルベルトは言われた通りに近づいて言った。

 

そして一夏達と幸太郎達の中間らへんに来たとき、リズリーから一丁の拳銃を手渡された。

 

アル「お、おいリズ。これはなんの真似だ。」

 

そして松陽が指を鳴らすと、部下が一人の人間を連れてきた。

 

その男は、アルベルトが殺したいほど憎んでいたマイルナの父親だった。

 

アル「何をしようとする気なんですか松陽さん!」

 

松陽「お前に渡した拳銃には、弾が1発だけ入っている。それでその憎き男を撃ち殺せ。」

 

松陽からの提案に、一夏達は驚きを隠せなかった。

 

松陽「お前には選択肢、そして一つ条件をあたえる。」

 

松陽「もしそいつを殺さなければ、そいつは無罪放免。今後何をしようとも罪に問えず、マイルナと暮らしてもらう。」

 

アル「な、なんだと!!正気なのかよ!!」

 

松陽「そしてもう一つの選択肢だ。もしそいつを殺せば、お前は今後一切、幸太郎に近づくことを禁止する。」

 

幸太郎「え?それってどうしてなの!?」

 

松陽「良いかい幸太郎。もしアルベルトが自分の事情で動いたのなら、それから先お前か家族、それを天秤にかける日が来てしまう。」

 

松陽「だが、そんなレベルの人間は不必要だ。幸太郎・・・いや、寿家当主に服従する人間に、余計な感情はいらない。必要な事は当主の為だけに動くことだ。その為には、仲間だろうが家族だろうが捨て去り行動する。そんな人間だけいればいいんだよ」




まさかの事態です!!
 
愛する人の為の復讐か、支える人間への忠義か。
最悪と言って良い程の選択肢ですね!

これは・・・、どうなってしまうんでしょう!


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141話

松陽「さぁ、どうする?引き金を引くのか!引かないのか!」

 

松陽がそう言うと、アルベルトは銃口を男に向けた。

そして目を瞑った。

 

一夏「だめだ!!そんな事は間違ってる!!早まっちゃだめだよアルさん!」

 

マイルナ「そうよ。お願い・・・。」

 

アル「だが、俺はこいつが憎い!!なんども殺してやりたかった!こいつを殺さなきゃ、お前の汚点が!!」

 

マイルナ「そんな事は無いわ!!確かに私はその男に汚された。でも、貴方と過ごしてきたこれまでが、私に意味をもたらしてくれた筈よ!!

貴方を愛し、貴方に愛されたこれまでを無駄にしないで!!」

 

マイルナは大粒の涙を流しながら訴えた。

 

その言葉を聞き、アルベルトは血が出るほど強く唇を噛み締めていた。

 

マイルナ「私の過去も愛してくれた貴方が、そんな貴方のままでいて!そんな貴方を愛しさせて!!」

 

松陽「さぁ、そろそろ答えを聞かせて貰おう。殺すのか生かすのか!」

 

アル「俺は決着をつけなきゃならない・・・。その為に生きてきた。血塗られた俺に出来る、唯一の愛のお返しだと思ってる。」

 

そう言って男のこめかみに、銃口を突き付けた。

 

アル「この一発で俺の目的は果たせるんだ。」

 

男「ま、待て本気でうつきか!!止めろ止めてくれ!!」

 

アル「だがよ、今の話を聞いちまうとな・・・。どうしても引き金が重くなるんだよ・・・。これまで散々人を撃ってきたのに!!」

 

アルベルトは涙を流していた。

そして、銃をその場に捨ててしまった。

 

アル「俺はマイルナを愛してるつもりだった。でもよ、こいつを殺しちまうとよ、マイルナの過去を否定してるみたいって考えちまう。マイルナの全てが、俺のこれまでの全て。そしてこれからの全てなのによ!!」

 

アルベルトはそう言って、その場に泣き崩れてしまった。

そしてアルベルトの元に、マイルナは駆け寄り、泣きながら抱き締めていた。

 

松陽「見たね幸太郎。これでアルベルトは、本当に君を支えてくれる重鎮になったんだ。手荒かと思うが、こうでもして追い詰めなくちゃ、人間の本質は理解出来ないんだよ。」

 

そう言って松陽は、幸太郎の頭を撫でていた。

一時はどうなるかと思われた惨劇だったが、これにて無事に幕をおろした。

 

と誰もが思っていた。

 

男「ふざけるな・・・どいつもこいつも俺をなめやがって!!」

 

地面に捨てられていた銃を男が拾うと、その銃口を幸太郎に向けていた。

 

男「死ね!!!」

 

そして一発の銃声が、朝の港に響いていた。

 

銃弾は狙い通り、幸太郎目掛けて発射されてしまった。

 

誰もが突然の事に唖然とし、動き出しが遅れてしまっていた。

 

松陽「だ、だから言ったでしょう。貴方を護る・・・。それがどの様なものか。」

 

だが、銃弾は幸太郎に当たることは無かった。

放たれた銃弾は、すんでの所で文字通り身を呈した松陽に命中したのだった。




お久し振りです!
本当にお待たせしました!!

会社の研修やらなんやらで、文字通り創作意欲?が出ませんでした!!申し訳ありません!

いよいよ予定では、あと2話ほとで閉幕の予定ではあります。
ですが、閉幕しても後日談や短編なんかを出してく予定ではあります。
ぜひ、一応の最後までお楽しみ下さい


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142話

セリフ多めになってます。


幸太郎「パ、パパ!何で!どうして!!」

 

目の前で血を流しながら倒れて行く松陽に抱きつきながら、幸太郎はワンワンと泣き出した。

 

秋水「な、何をしてるんですか!!さっさと、その男を取り押さえて、救護班を!」

 

ハッとなった秋水の一言で、周りにいた人間達が男を動けないように押さえつけていた。

 

松陽「きゅ、救護なんかもう遅い・・・。それよりも幸太郎、怪我は無かったですか?」

 

苦しそうに、だがどこか和やかな表情をして幸太郎の頬に手を添えた。

 

松陽「わかっ・・・たでしょう。お前を護る。それは文字通りいのちがけですよ。」

 

秋水「お兄様!!これ以上喋れば、本当に助かりませんよ!!」

 

松陽「良いんだ・・・。もう良いんだ。私は長く生きすぎた・・・。秋水、お前には後日手紙が届く。そ、そこに書いてある通りにしてくれ・・・。」

 

幸太郎「ねぇパパ!死なないで!俺を・・・俺を独りにしないでよ!!」

 

松陽「フフッ、な・・きがおも、奈々そっくりで・・すね。だが幸太郎お前はもう独りじゃ無いですよ。ここに・・いる皆があ・・貴方の味方ですか・・ら。」

 

少しずつ顔から血の気が引いてきている松陽は、目が虚ろになりかけていた。

 

松陽「やっと・・やっとアイツらの所に・・。長い、本当に長い寄り道だった・・よ。土産話がここまで出来るなんてな・・。アルベルトに嫌味いわれ・・るか・・な?」

 

秋水「アル兄よりも、リズ兄が煩いと思いますよ。寂しがり屋ですからね。」

 

松陽の気持ちを酌んだのか、秋水は涙を流し笑顔を浮かべていた。

それを見て松陽も、嬉しそうにしていた。

 

松陽「幸太郎、これから先、貴方を護るために人は傷つきます。でも、そ・・れを無駄にしてはならない。哀しむだけ・・もダメです。貴方は、こ・・ことぶ・・き家の当主ですから。」

 

幸太郎「うん!わかったよ!これからは、強くなる!!誰にも怪我をさせないくらい、心も強くなる!!だから・・・、だから!!しっかり見守っててねパパ!」

 

泣きながら決意を固めた幸太郎の頭を、今までで一番嬉しそうに撫でながら松陽は、吐血した。

 

松陽「なな・・これです・・こ・・しは、父親らしいで・・ですかね?フッ、天国にいる奈々には、永遠にきけそ・・うに無いですね。私はまちが・・いなく地獄ですか・・ら。」

 

そう言って松陽は右手を空へと伸ばしていった。

 

松陽「ご・・めんな、奈々。いっし・・ょにいれな・・くて・・!奈々、何でお前が!!

そっか、むか・・え・・にか。みんなてんご・・くな・・の・・か。そっかお・・れもみんなにあ・・・」

 

そして、糸の切れたマリオネットの様に、伸びていた右手が下へと落ちてきた。

その表情は、全てに満足し全てを受け入れ、全てを手に入れた。

そんな清々しい表情をしていた。



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143話

辺り一面に静かな時間が流れる。それは哀しくも儚い、そして暖かい。そんな不思議な時間だった。

 

秋水「この男の処理は俺が!!お兄様を殺したこの屑を!!」

 

荒い口調になりながら、秋水は男に銃口を突き付けた。

 

幸太郎「待って!!」

 

これに待ったをかけた幸太郎は、松陽の元から離れ、秋水達に近づいた。

その目には、まだ涙が浮かんでいた。

 

秋水「ですが!!この男を生かしておけば、寿家への、いえ・・・お兄様への侮辱になります!!」

 

幸太郎「パパが言ってた、命の大切さ。そして寿家当主の想いが心でわかった。たがら、寿家当主として命令する!!その男に相応の報いを!!」

 

幸太郎の目は、覚悟と執念が込められていた。

そしてその命令は、ある意味後戻りが効かない事を意味してる。

 

それを誰もが理解していたのか、誰も幸太郎の顔を見ることが出来なかった。

 

ロゼット「わかりました。後は我々が。おいこいつを運び出せ!」

 

ロゼットの命令で男は、車に担ぎ込まれそのまま発車した。

 

一夏「すまんロゼット。俺も何か手伝いたいけど、どうすれば良いか・・・。」

 

ロゼット「気にするな。お前は幸太郎様の心のケアを。俺にはこんな血生臭い事しか出来ん。そんな俺とお前でこれからは幸太郎様を支えていかねばならん。」

 

こうして、長くて短い朝が終わってしまった。

 

大きな者を喪い、そして当主としての宿命を果たした。幸太郎にとって、二度と忘れる事が出来ない一日となってしまったのだった。

 

そして、幸太郎は世間に対して正式に二代目寿家当主であることを宣言し、ここに宗次郎の時代は終わり、文字通り一つの歴史に幕が降りることとなった。

 

~~~寿家~~~

 

宗次郎「聞こえるか?お前達の息子は、立派に俺を継いでくれた。この俺の全てを越えるのに、そう時間はかからんだろうな。これでジジイは文字通り隠居だな。」

 

桜華「そうね。貴方は激動の歴史でしたからね。これからは、若者達が世界を作っていくのが良いわね。」

 

二人は、松陽と奈々の墓に手を会わせながら語りかけていた。

その表情は寂しくも満足した表情をしていた。

 

宗次郎「そう言えば、幸太郎は?」

 

桜華「ええ。これからの事を話し合いたいって主だった者を集めて会議をしてるわよ。」

 

宗次郎「そうか・・・。はぁ、この俺が隠居か。案外寂しいと思ったが、そうでもねぇな。やっぱ、それだけ後続の連中がしっかりしてるからかな?」

 

桜華「そうね。私達に頼る事の無い。そんな力強い皆が、幸太郎を支えてくれますよ。」

 

そう言って二人は、手を繋ぎながらゆっくりと歩き出した。

 

~~~会議室~~~

 

一夏「全く、スーツはあんまり着たことないから、違和感が凄いな。」

 

ロゼット「そんな事、これから言ってはいられん。俺達が公の場に出る事は増えるからな。なぜなら、俺は幸太郎様の右腕。そしてお前は俺のサポートだからな。」

 

そう言ったロゼットを見て、少し釈然としなかった一夏は、ムッとした。

 

一夏「確かに前はそう言ったが、俺も幸太郎の・・・、いやもう呼び捨ては駄目だな。幸太郎様の右腕に相応しいかもよ?」

 

ロゼット「あ?お前ごときがだと?喧嘩売ってんのか?」

 

二人が一触即発になりそうになったが、そこをリズリーが拳骨を頭に与えた。

 

リズ「そんな下らない事は、後でしなさい!もうすぐ幸太郎様がお見えになる。失礼の無いように!」

 

そんな事をしてると、会議室のドアが開き、幸太郎が入ってきた。

 

幸太郎「遅れてごめんね?じゃあ、会議?を始めようか。」

 

こうして未来永劫語り継がれる、愛と平和を目指した二代目寿家の歴史は、始まったのだった。




これにて!これにて、無事に最終回です!
皆様!無駄に時間をかけて本当に申し訳ございません!!

ここまで応援してくださり、本当にありがとうございました。
皆様の応援が、モチベーションになっていました!

ここで最終回になりましたが、これからは後日談や過去話等を投稿していきます。
よろしければ、そちらも見てくだされば幸いです!

では、ここで一端の終わりとさせて戴きます。
本当にありがとうございました!


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