ぺディグリーすかーれっと (葉虎)
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第1話

パルプンテが詰まったから、気晴らしに昔、Arcadiaで書いてたハンター物の続きを書き始めている。

正直、気晴らしなんで細かいことは特に考えていない。


「おぎゃぁ?」

 

目を開けると、見覚えのない天井が見えた。

 

いや、そんな王道的な感想は置いといて……

 

「おぎゃぁ!?おぎゃぁ!?」(なんだ!?何処だよここ!?)

 

ってか!?

 

「おぎゃ!?おぎゃぁ、おぎゃぁ!!」(って!?喋れてもいねぇし!)

 

そういえば、身体も動かない!?

 

なんで!?何が一体どうなってるんだよ!!

 

「あら?もうお腹が空いたのかしら?」

 

そんな感じで一人で混乱中に、聞こえてきた穏やかな女性の声。

 

俺の顔を覗き込んで微笑みを浮かべている。

 

「おぎゃぁ~おぎゃ、おぎゃぁ」(ほへぇ~、えらい別嬪さんじゃのぉ。優しそうだし)

 

色白の肌に、整った顔立ち。さらには赤みがかった茶色い瞳には慈愛を思わせるやさしい輝き。

 

そんな女性の用紙にうっとりと見惚れていると。

 

「お、おぎゃ!?、おぎゃぁ!!おぎゃぁ!!」(なっ、ちょっ!?うえぇええ!?)

 

なんと、徐に女性は着ていた着物の前を崩し、小ぶりだが形の良い胸を晒し…

 

「ふふ、たんとお飲み」

 

俺の口を胸元へと運んだ。

 

そして、俺の意思とは関係なく体が動き、むしゃぶる用にその胸に吸いつき、母乳を飲み始める。

 

もう大パニックだ。訳がわからない。某RPGでメタパニ喰らったら、こうなるんだろうな。

 

混乱の中、口元だけは動いており、しばらくして女性は軽く俺の背中を叩いてゲップをさせた後、再び布団に寝かせて去っていった。

 

 

 

しばらくの間、混乱した頭を冷やしてくると今の状況が何となく読めてくる。

 

信じられないだろうが、今の俺は赤子だ。

 

そして、さっきの女性は母親と推測する。

 

其処まで分かったところで最大の難問。何故この状況になったのか?その原因について考えてみたが…

 

「おぎゃぁ~」(分かるわけねぇじゃん)

 

いやだが、諦めるのは早い。とりあえず赤子になる前で最も新たしい記録を掘り起こしてみよう。

 

 

赤子になる前の俺の名は前沢巧、性別は男、21歳の大学生だった。

 

趣味はアニメやゲーム、漫画など俗にいうオタクだ。

 

そうそう、だんだんと思いだしてきたぞ。

 

確か、新作のエロゲーを買いに行ったんだよ。

 

んで、予約忘れてて内心諦めてた初回限定のポスターが手に入って、ウキウキ気分で帰路に着いてて…

 

横断歩道を渡っているときに、信号無視した車が突っ込んで来たんだ……

 

そこで記憶が途切れている。

 

 

もしかして…俺、死んだ?

 

いや、もしかしなくてもあの状況で避けられたとは思えない。

 

これが夢だって可能性も……いや、それはねぇな。

 

さっき、女性の腕に抱かれた時の感触は本物だったし。

 

となると…前にネットで見たSSの設定にあった…

 

転生したとか?

 

いや、ありえねーだろ!?でも、現にこんな現象が起こってるしなぁ…

 

……待てよ。もしかしてこれは運がいいのではないだろうか?

 

前沢巧は間違いなく事故にあった。最悪死亡しており、良くても五体満足では居られないだろう。

 

お先真っ暗だ……そんな矢先に赤子に転生。

 

一から人生をやり直せる!

 

さらに言えば、あの母親を見るに、俺は相当な美形に成長する可能性が高い。

 

さすれば、可愛い彼女もGET出来る!

 

うっほっー、いいことづくめじゃん!!

 

少々、短絡的な思考かとは思うが、ポジティブに考えなければやってられん。

 

ってな訳で、俺の第二の人生は幕を開けた。

 

 

それからの日々は恥辱と屈辱に満ち、また退屈だった。

 

家族構成は俺と母の二人だけ。父親は居ないみたいだ。死んだのか、別れたのかは定かではないがまぁ、態々聞くこともないだろう。

 

んで持って俺は赤子。一人ではなぁんにも出来ないのらー。

 

必然的に、シモの世話から何から全部あの別嬪のお母様がやってくださった。

 

わかるか?俺の精神年齢は二十歳過ぎの成人。

 

そんな俺が、そう年の変わらない…ストライクゾーンど真ん中の女性にケツの穴から、何から全部見られて…

 

も、もうお嫁にいけん…

 

羞恥から自殺でも図ろうか?などと馬鹿な事を考えたこともある。

 

さらに、辛かったのが退屈な日々。

 

毎日毎日、食って寝て、天井を眺める……マジ退屈だって―の!!

 

だが!?そんな日々もとうとう終わりを告げるのだ!!

 

ハイハイから直立。さらには覚束ないが言語をマスターし、もっと言うと足取りは危ないが二足歩行をマスターした。

 

今は、家の中のみだがそう遠くないうちに外に出る事になるだろう。

 

うぉおお!!自由が俺を待ってるぜぇーーー!!

 

っと、忘れてた。遅ればせながら俺の第二の名前はクランと言うらしい。美人のお母様の名前はトリス。ファミリーネームが無いというのは少々特殊だと思う。

 

まぁ、それを知るためにまずは自分の周りの世界を知るための情報収集だな!

 

 

 

三歳になり、俺は美人のお母様から外出の許可が出た。

 

ただし、あまり遠くへは行かない事や、お昼と夕方には必ず家に帰ってご飯を食べること!を約束された…まぁ、できる限りは守るつもりでいる。何せ、このお母様は俺を愛情を持って此処まで育ててくれたからだ。

 

「いってきまーす!!」

 

俺は笑顔で手を振り見送ってくれるお母様に元気よく返事を返し家から飛び出した。

 

 

 

元の世界の母親はガキの頃から殆ど家には居なかった。俺のことは放置プレイ。家にはカップラーメンが詰まった段ボールが数十個積んであり、好きな物を食えという感じだった。

んでもって、本人は若いツバメの元へといそいそと出かけていくのだ。マジで死ねばいいのに。

 

そして親父。うちの親父も接待だのなんだの言ってはいるが、不倫しているのがヴァレヴァレだね。ワイシャツに口紅の後や香水の匂い。さらには、キスマーク。隠す気があったのだろうか?はたはた疑問ではある。

 

互いに好きなことをやり放題。まぁ、どちらも気づいてて知らん振りしてたんだろう。離婚をしなかったのが不思議なくらいだが、きっとそれもメンドクサイとか碌でもない理由なのだろう。あんな親だし。

 

……今思うと、よくグレなかったな俺。

 

そんな事を考えながら歩いていると……

 

「!?痛っ!?」

 

バイィーンと何かにぶつかり弾き飛ばされた。

 

弾かれた拍子に尻もちをついてしまい、尻が痛い。

 

一体なんだと尻を摩りながら立ち上がってみると…

 

「……何もない?」

 

そう目の前にはただただ草原が続いているだけで何もない。

 

だが、確かに何かに弾かれたのだ。

 

恐る恐る指を伸ばし、ツンツンしてみる。

 

指先にはブニブニっとした感触。

 

間違いない、何かある。

 

見えない、透明な…それで居て弾力のある壁みたいなのが…

 

脇道にそれて先に進もうにも、同様に壁に阻まれる。

 

何が何だか分からないが、小癪な…我が自由への道を阻むか!

 

妙な感じでテンションが上がっている俺は、意地でも突破してやろうと。地面に落ちていた手頃の石を思い切り投げ!万が一弾きかえってきた場合に備えて、即地面に伏せるが…予想に反して…

 

「あれ?」

 

石は壁など無かったかの様にすっ飛んで行き、壁の向こう側に落ちた。

 

ぺたぺたと触ってみれば、やはり壁の感触がする。

 

石には反応しないのだろうか?

 

試しに先ほどよりも大きい、石を手に持って、壁に向かって打ちすえてみるが…

 

「のわっ!?」

 

やはり弾かれる。

 

どうやらこの壁は俺に反応しているみたいだ。

 

ならば!

 

「道具なんぞに頼らず、この身一つで突破してやろうではないか!」

 

何度も突貫しては弾かれる。

 

いつもならとっくに諦めるのだが、三回目位から小さな罅が入る音が聞こえたのだ。

 

可能性は0じゃないと思うと、まぁ、人間てのは頑張れる物で…

 

「ふーっ、ふーっ」

 

砂埃だらけで服は汚れてしまっているが、もうちょっとだ…。

 

罅が入る音がだんだん大きくなって行くのが聞こえる。

 

だが、その前にそろそろ休憩を入れたいと思う。

 

もう、喉がカラカラだ。

 

 

近くにあった綺麗な小川で水を飲もうと、しゃがみ込み…そこで水面に顔が映る。

 

そう、瞳が赤く染まった俺の顔が……

 

 

「……な、なんじゃこりゃーー!!」

 

元々の俺…クランの瞳は赤みがった茶色だったはず。しかし、今の俺の瞳は真赤…いや、正確に言えば緋色。

 

白目なら充血してると判断して、そんなに騒ぐ事はない無いとは思うが、瞳となると絶対にヤバイ。瞳の色が変わる病気で思い浮かぶのは、白内障しかり、緑内障しかり…ほっとけば失明に至る眼病だ。

 

ドンドン血の気が引いていく、第二の人生でいきなり失明なんて冗談じゃない!

 

とりあえず医者だ!!まだ間に合う!!こういうのは初期治療は大事なはずだ!

 

俺はお母様に病状を訴え、医者に行こうと急いで来た道を駆けだした。

 

 

 

家に帰って、泣き喚きながらお母様に病状を訴えるが…

 

「それなら心配することはないわよ」

 

女神のような微笑みで、俺の頭を撫でながら優しい声色で告げる。

 

「私たちの一族はね、興奮したりすると瞳の色が緋色に変色するのよ。だからこれは生まれ持っての体質。心配することはないわ」

 

なぁんだ。そうだったのか…HAHAHA!取り乱したりして、俺って奴は…てへっ!?

って、待てぇぇいい!!なんかどっかで聞き覚えのある設定なんですけども…

 

「ね、ねぇ、お母様。僕たちの一族って……何て言う一族?」

 

俺の問いに対する答えで、俺の疑惑は確信をもった。

 

何故なら、返ってきた答えは記憶の中にある。とある漫画の悲劇の一族の名前だったから。

 

その名前は……

 

「クルタ族よ」

 

緋色の瞳×クルタ族×ハンターハンターかよ!!

 

よりにもよってH×Hの世界だと!?

 

あの死が隣り合わせの危ない世界に転生してしまわれた…と、そういうことですか神様ぁ!

 

しかも、あのチート的強さの盗賊団、幻影旅団に狙われるクルタ族の人間かぁ…一族絶望フラグ……あっはっは♪終わったな俺の第二の人生!!

 

 

その後、元気のない俺を心配するお母様だったが、俺は「大丈夫!遊びに行ってくるね!」とカラ元気を見せ、家から飛び出した。

 

そして、先ほどの見えない壁まで続く道を、とぼとぼ歩きながら考えを巡らせる。

 

ちくしょ…せめて大人になって、お母様譲りのこの容姿で女の子とエッチな事を思う存分やりたかった。

 

もう、死ぬ前に目の前の美人のお母様を押し倒してしまおうか?でもなぁ、今のこの身体じゃ。そんな腕力も無いしなぁ。

 

っと、そこでハタと気がついた。

 

幻影旅団が襲ってくるのは何時なんだろうと…

 

現時点でクルタ族である俺やお母様が生存している事から、未来の出来事なんだろうが……

 

仮に…もし仮にだ、今から十年後とか、二十年後とかだったら?

 

俺は大人に成長し、念願の女の子との色々な事が出来てしまう…

 

いや、運がよければ俺が生きているうちの出来事ではないかもしれない。

 

天寿を全うできる可能性もある訳だ!

 

いいぞ、希望が出てきた。

 

となると、幻影旅団が何時頃攻めてくるまでにどの程度の猶予があるかを調べなければ、ライフプランも立てようがない。

 

正直、H×Hの時系列…ましてや原作以前なんて殆ど知らない……だが、ひとつだけ確定事項がある。

 

それはクラピカの存在。

 

H×Hの内容を思いだすと、旅団に襲われたのはクラピカが10~12歳位だった頃の話だったと思った。まぁ、俺の勝手な想像かもしれないがそんなに前後はしないはずだ。

 

仮にクラピカが生まれていなかった場合は、生まれるまでの年月+10年位までは旅団は襲ってこない…。

 

一筋の光明が見えた。

 

クラピカが居るのかどうかを確認せねば!

 

クルタ族は閉鎖的な土地で生きてきた少数の民族。この近くに他のクルタ族の人間が居るはずだ。

 

よし、そうと決まったら、あの忌々しい壁を突破し、虱潰しに探し回ってみよう。

 

願わくば、クラピカよ…生まれているなよ!!

 

 



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第2話

 

「うぉおおおお!!」

 

―ドカッ!!

 

「どえりゃあああ!!」

 

―ドゴォ!!

 

「ちぇすとぉおお!!」

 

―バキッ!!

 

「はぁ、はぁ…」

 

い、忌々しい壁めが…

 

お昼ごはんを平らげ、お昼寝をし、元気十分な状態で、再び見えない壁に神風アタックを何度となく慣行するが、今だ突破できず。

 

先に、こちらの疲労がピークに達し、大の字に地べたに転がる。

 

まぁ、あれだけ叫びながら体当たりをすれば疲れるよなぁ。

 

むしろ、ガキの身体でよく頑張った方だと思う。

 

ぶっちゃけ叫ぶことにより、一層体力を消耗したが、そこら辺は致し方がないと思う。

 

最初のうちは無言でただただ、体当たりをしていたが、だんだんと虚しくなってくる訳で…

 

何やってんだろ俺…ってな感じにどんどん鬱になっていく訳で…

 

んで、自分を鼓舞し、気合いを入れるために叫ぶ事にしたって訳で…

 

もう、そろそろ日が傾き始めた。暗くなる前に帰らないとお母様にどんなお叱りを受けるか……

 

ぶるりと身体が震える。

 

うちのお母様の躾はかなり厳しい。俺がお母様なんていう呼び方をしているのもその成果だ。

 

別に殴られるとかそういった体罰を受けるわけじゃない。ただただ、冷たい目でジッと見つめられるのだ。

 

美人なお母様のそんな視線はすごく迫力があるがそれだけじゃ、ここまで恐れはしない。仮にも精神年齢は大人だしね。

 

しかし、どういう訳か、理屈抜きでただただ恐ろしく感じてしまうのだ。

 

う~む、不思議ミステリーー!って、こんな事やってる場合じゃない。

 

早く、帰らないと!

 

ガバッと起き上がり、家に向けて歩き始める…が、数歩歩いたところで…振り返り。

 

「ふんっ、これで勝ったと思うなよ!!」

 

今日の宿敵(みえない壁)に捨て台詞を吐く。

 

そして、意気揚々と家路に……って、待て待て待て…

 

そこでハタと自分の格好に気がつく。

 

何度も体当たりをし、跳ね飛ばされて地面に転がった結果。砂だらけの埃まみれ……

 

午前中は一度や二度程度であまり汚さなかったため、転んだで済んだが、今の状況だと確実に説教コースだ。

 

「どうしよう…どうしよう……」

 

考えた処で、どうしようもなく。素直にお説教を受けるしかないのだが、やはり怖いものは怖い。

 

「くそっ、元はと言えば貴様がぁあああ!!」

 

そして、くるりと振り返り、壁に向かって駆け出す。

 

完全な現実逃避の責任転嫁だが、相手は壁だ。思う存分八つ当たりをさせてもらおう。

 

駈け出したままの勢いで大地を帰り、宙を舞う。

 

そして、今人生初の渾身の跳び蹴りが炸裂した!

 

―ビキッ!!

 

「ぜーぜー、おっしゃっ、手ごたえあり!!」

 

大きな亀裂の入る音が聞こえた。崩壊はもうすぐだ!

 

「ふっ、待っとれよ…。今とど「クラン」…を刺す……って、お母様っ!!」

 

意気揚々ともう一撃喰らわせたろうかと思いきや、聞き覚えのある優しい声……間違いなくお母様のもの。

 

若干、驚きながらも呼ばれたので振り返るがそこにいたのはにっこりと微笑を浮かべるお母様。しかし、目が笑っていない。

 

だらだらと嫌な汗が背中を流れる。

 

「もう日も暮れるわ。お腹すいたでしょう?帰りましょうか」

 

「そ、そうですね!帰りましょう。やれ、帰りましょう」

 

微笑みながらお母様は俺の手を握る。白くてスベスベで綺麗な手。

 

夕日に照らされ、中睦まじく手を繋ぐ親子の影……とても心温まるワンシーンだと思う。

そう、この言葉を聞くまでは…

 

「そうそう…クラン。夕食の前に少々お話がありますから♪」

 

ギュッと手を握る力が強まる。痛くはないのだが、心理的には途轍もない恐怖だ。

 

まるで逃がさないからねと言われているようで…

 

その日、夕食に有りつけたのはどっぷり日が沈み、月がかなりの高さに来てからであった。

 

 

 

「い、行ってきまーす」

 

翌日、昨日と同様に家を出る。

 

だが、日が暮れる前に必ず家に帰ってこようと自身に制約を立てるのは成長の証だろう。

昨日は滅茶苦茶怖かった……。何度ちびったか分からん。

 

美人がトラウマになりそう……いやいや、しっかりしろ。俺っ!?

 

「可愛い女の子が好きだーー!!」

 

「綺麗な女の人が好きだーー!!」

 

「美人なお姉様も大好きだーー!!」

 

よし、トラウマなんぞ何のその。段々とテンションが上がって来たぞ。

 

「巨乳も好きだけど、美乳は大好きだーーー!!」

 

客観的に見たら、朝っぱらからとんでもねぇ事を叫ぶエロガキだと思われること間違いなしの叫びを上げながら、昨日の場所までやってきた。

 

いや、正確には……

 

―バッィイイイン!!

 

「な、なんでじゃーー!」

 

昨日の場所より数メートル手前で見えない壁に行く手を阻まれた。

 

「ば、馬鹿なっ!」

 

俺の感覚が可笑しいのか?いやいやそれはない。この壁の向こう側には昨日の悪戦苦闘の痕跡が残っている。

 

壁を認知しやすいように壁の手前に穴を掘るなどの印を付けたのだが、ちゃんとその穴が壁の向こう側に見えるし……

 

しかも今日のこの壁は……

 

「昨日のよりパワーアップしてるっ!?」

 

そう弾力性が昨日の比ではないのだ。さっきもかなりふっ飛ばされたし。

 

「くそっ、忌々しい。どこまでも邪魔をしおって。いったい何なんだこの壁は!?」

 

悪態をつき、地面の石を蹴る。

 

こんな非常識な透明な壁。本当に突破出来るのだろうか……。

 

ともあれ、昨日と同じ方法では無駄な徒労となってしまうだろう。

 

しかし、この非常識な壁が何なのかが分からんことには対策の練りようが……

 

むっ、待てよ。非常識?

 

俺の中の常識とは、元々の世界の中の知識だ。

 

だが、此処は元々の世界ではない。H×Hの世界だ……。

 

H×Hに非常識な壁……念しかありえねぇ!!

 

誰の能力かは知らんが傍迷惑な話だ。いや、まだ確実に念と決まったわけじゃないが…

 

何れにしろ俺が念を覚えれば、この程度の壁……硬を込めた拳で楽々突破だ。

 

「ふむ、となるとまずは念を覚えるのが一番の近道か……」

 

元より、念には興味があった。何の因果かH×Hの世界に来たんだもん。そりゃ念は覚えるでしょ。

 

んでもって、覚えた念でハンター試験を楽々突破。原作ではハンター試験時に念が使えたのはヒソカとギタラクル…キルアの兄ちゃんの二人だったと思う。念というアドバンテージがあれば合格なんぞ楽勝だ。

 

んでもって、ライセンスを売っぱらって、後は薔薇色の人生だ。

 

沢山の可愛い、綺麗なメイドさんを雇って…イチャイチャしたり

 

美味しいご飯を腹いっぱい食べたり………

 

欲しいものは何でも買えるし……

 

人生の勝ち組決定だ!!

 

まぁ、それも幻影旅団を何とかしてからなんだが、遅かれ早かれ念は必要だ。

 

となれば……

 

「早速特訓開始だ!!」

 

 

 

……んで…

 

「念ってどうやって覚えればいいんだ?」

 

少し横道に入った草むらの上にどっこらしょっと座り込み、うんうんと頭を悩ませる。

 

原作では纏を覚えてからの修行を行っており、その辺りの知識はうろ覚えだがあるので何とかなるのだが、問題はどうやって纏を覚えるかだ。

 

ゴンとキルアは師匠であるウイングさんの念で、精孔を開いてそれを制御する事で習得していたが……

 

「そんな裏ワザ使えねぇって!」

 

第一、精孔を開いてくれる人がいない。つか、接点がある人物ってお母様しか居ない。

 

念を覚えているか定かではないお母様に一か八か訪ねて、頼んでみるというのも手だが、そもそも念を何処で知ったのかと聞かれたら、返答に困る。

 

嘘を付くにも、あの昨日のような冷たい視線で見つめられたら……自白するのは目に見えてる。うん、無理だね。嘘はやめよう!アハハハ…け、けしてお説教が怖いわけじゃないんだからね!

 

こほん、気を取り直して……となると後はズシみたいにゆっくり精孔を開いていくしかないのか……

 

だが、どれだけ掛かるんだろうか?

 

10万人に1人という、念の才能があるズシですら…三か月位だったっけ?よく覚えてないがそん位掛ったという。んじゃ、俺はどのくらい掛かるんでしょうかね…

 

「方便の方の燃なら自信があるんだけどな……」

 

まずは点…心を一つに集中、目標を定める。

 

そして舌。頭に思い描いた目標を言葉にする。

 

「美人なお姉さんとのエッチ!」

 

さらに錬!その意思を高める。

 

お姉さんとエッチな事!あんな事やこんな事!あわよくばそんな事!!

 

「うぉおおお!!」

 

ぶわぁぁあ!っと、ピンク色の風が草花を揺らす。

 

そして発!!実際に行動に移す!って、

 

「相手が居ねぇぇんだよ!!」

 

…………なんだろう。途端に虚しくなった。

 

つうか!こっちの燃に対して才能があっても嬉しくねえっての!

 

「はぁ、時間が惜しい。とっとと、念の修行に入ろう」

 

えっと、確かゆっくりと精孔を開くには瞑想なんかで、自分の周りのオーラを感じ取るんだっけ。

 

よし、瞑想だ!瞑想!!

 

胡坐をかき、目を瞑る。

 

心を無にして…無に…む……ぐぅ…Zzz。

 

 

 

「はっ!?」

 

パチッと目を覚ませば、もう太陽はかなり高くまで登っていたって、ヤヴァイ!!

 

「昼ごはんまでには帰らないと!!」

 

また、お説教が……それだけはごめんだ!!

 

全力で家に駆け出す。

 

どうにか昼食には間に合ったが、手を洗う際に洗面所で見た俺の瞳は緋色に染まっていた。

 

こんな事で発動してどうするよ緋の瞳。

 

 

昼食を食べ終え、午後も同じ場所で胡坐をかいて座る。

 

瞑想だ、瞑想。

 

 

……

 

………

 

「だぁああ!!無理だああ!」

 

目を開いて、吼える。

 

娯楽の満ち溢れた現代からやってきた現代人精神の俺に、この退屈は拷問とも言えよう。

オーラなんて、ちーっとも分からんしね。

 

いや、駄目だ。こんな事じゃ全滅フラグを乗り越えて、女の子…っと、美人な女の子とイチャ付いて暮らすという俺の目標が達成出来ないではないか。

 

そうだ、その為になら念ごとき…

 

決意を新たにし、深呼吸をして心を落ち着かせると再び瞑想に入る。

 

 

……

 

……うへへっ♪

 

「って、いかーーん!!」

 

気がつけば、綺麗な女の子とのエッチな事を想像してしまっていた。

 

うぅ、瞑想が妄想に……

 

しかし、俺の妄想とはいえ、あの女の子はいい乳してたなぁ…

 

美乳と巨乳を併せ持つというまさに至高の逸品……って、だから違うっての!

 

「うぅ、俺には念を覚えるのは夢のまた夢なのか……」

 

まさに前途多難である。



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第3話

そよそよと風が前髪を揺らす…。

 

心を一転に集中する。意識は内面に……

 

自分の周りに膜があるようなこの感じだ……

 

「見えた!」

 

そこでカッと目を見開く。

 

右手の平を見れば、ゆらゆらと揺れる青白い液体のような物が包み込んでいる。

 

オーラ。念の源となるエネルギー。

 

「ふふ…ふははは。あっはっはっは!!キターーーーー!!」

 

ついにやった。

 

苦節二年…。毎日、毎日…瞑想と妄想の狭間で…

 

睡魔という大群との攻防を経て…

 

ついに会得した。

 

纏…念の基本中の基本である始まりの第一歩。

 

俺はとうとうその第一歩を踏み出す事が出来たのだ。

 

「らんらんらー♪らんらんらー♪」

 

あまりの嬉しさにアルプスのとある少女に勝るとも劣らないスキップで家路に着く……

 

しかし、俺の浮かれ気分も此処までだった。

 

「お、お母様?」

 

何故なら、素敵な笑顔を浮かべながら目元は一切笑っていないお母様が、玄関先で出迎えてくれたからだ…

 

「クラン…少々大事なお話があります。いいですね?」

 

問いかけておいて、否定を許さないその眼差し。

 

返答を聞かないまま、お母様は去っていく。

 

そして、纏を覚えたから分かる。何故、あの見目麗しいお母様にあれほど恐怖を感じていたのか…

 

それはお母様が纏っているオーラだ。

 

別に禍々しさは感じないのだが、何と言うか……オーラが黒いのだ。

 

…さらには突き刺すような威圧感を感じさせる。

 

そして、お母様が纏うオーラが垂れ流しになっておらず、ちゃんと体に留まっている……間違いなく俺と同じ纏。

 

そう、お母様も念能力者だったのだ!

 

っと、云う事は俺のオーラを見えているわけでして…

 

現在の俺は、纏を使用したままの状態で居る訳で…

 

つまりは……

 

ガタガタと身体が震える。どうしよう!?やっぱ怒れるのかな?勝手に念なんか覚えちゃったし…

 

今の状態ならお母様のオーラに対して前よりは恐怖を感じなくなっているはずだから、そんなにお説教は堪えないのだろうけども……これまでの経験からトラウマ化している訳でして…

 

既に条件反射的に怖い!

 

もし、もしもだよ!?お母様がお説教モードで練、何ぞ使った日には…

 

「に、逃げ!「クラン!!早く来なさい!!」…ひゃぃ!!」

 

あの外面菩薩内面夜叉のお母様が声を荒げるなんて……

 

うぅ、幻影旅団なんぞよりよっぽど怖ぇよ。

 

だが、これ以上待たせてなお怒りを増加させるわけにはいかない。

 

俺は震える手足を、鋼の意思で動かしお母様の待つ居間へと向かった。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

居間にやってきた俺は、座りなさいとのお母様の言葉に無意識に正座をする。

 

が、一向にお母様は口を開かず、時計の秒針の刻む音だけが部屋に響く。

 

その長い沈黙の中で、俺はひたすら考えていた。

 

この時点で俺が念を知っていると言う事がお母様にバレては不味いのでは無いだろうか?と言う事を

 

お母様は念を知っていたが、今までお母様から念についての話題が出たことがない。

 

必然的に誰から念を聞いたという話になるだろう……。

 

この世界に来てから出会った人間はお母様だけだし……そのお母様からは何も聞いていない。

 

正直に転生の事を話して真実を告げるという手もあるが、信じては貰えないだろう。

 

嘘の人間をでっちあげるにしても、此処は閉鎖的な空間で、人が少ない独特な集団であるクルタ族。

 

適当な名前を言っても直ぐに嘘だとバレるだろう。

 

かといって、クルタ族で知っている人といえば、お母様以外ではクラピカしか知らない。

そのクラピカが仮に生まれており、俺がその名を出したとしても、原作ではハンター試験終了まで念の存在を知らなかった訳だし、結局嘘だとバレる。

 

……うん、お母様に俺が念の存在を知っているということはバレてはいけない!

 

俺が考えを纏めた処で、ようやくお母様がその思い口を開いた。

 

「クラン……あなたは聡明な子です」

 

「……へっ!?」

 

のっけから驚いた。てっきり、怒られると思ったのにそんな事を言うなんて……

 

どう反応すればいいのだろうか?素直に褒められた事を喜べばいいのだろうか?

 

「言葉遣いといい、振る舞いといい。とても五つになったばかりの子とは思えません」

 

まぁ、精神年齢は立派な大人ですしね。

 

お母様は其処で一息つくと…

 

「ですが…纏までその年で覚えるとは思いませんでした。母はまだあなたの才を過少評価していたようですね…」

 

いやいや過大評価も言いところですよ。ただ単に俺には原作の知識があり、念の存在を知っていただけで……つか、むしろ纏を覚えるのに二年もかかったし、才能は無いんじゃないかと思うけど…っと、ヤバ!誤魔化さないと…

 

「お母様?纏とはなんですか?」

 

「そうでしたね…まずはそこから…念について説明しなければいけませんね」

 

と、お母様は念についての説明を始める。大体は原作通りで、俺も知っている知識なので今、初めて聞いたというばかりの演技をする。

 

「それは……念とはすごいものですね……」

 

お母様が四大行の説明を一通り終えた処でそう返す。ふふん、どうだ、助演男優賞ものの演技力だろ。

 

ん?待てよ。お母様は念を使える。ということはなんらかの発があるはずで…

 

まさか…

 

「お母様、ちなみに聞きますが、お母様の発はなんなのですか?」

 

頼む、俺の予測よ外れててくれ

 

「私の能力ですか…。私の能力は【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】…周囲に球状の不可視の結界を張る事ができる能力です」

 

やっぱり!?あの見えない壁はあんたの仕業だったのかーーー!!

 

理由を尋ねたところ、子供の俺が遠くに行かないようにするための処置だとか…くっ、そんな風に言われたら怒るに怒れないじゃないか…

 

あぁ、何と言うお母様の愛。心配してくれるのはありがたいが、俺的希望をするならもうちょっと、放任しておいてほしい、まぁまだ俺はガキだし…親からすればそんなこと出来よう筈もないんだけどな…

 

「クラン、あなたの疑問にも答えたことですし、本題に入りたいと思います」

 

お母様の言葉に俺も背筋を伸ばす。そうだ、今までは基本的に俺の問いにお母様が答えていただけで、まだ俺が呼ばれた理由を聞いていない。

 

「クルタ族では15になるまでは念については秘匿するという決まりになっています。これは心が成長しきる前に念という巨大な力を与えてしまうことで起こる事件、事故などを避ける為の処置です。」

 

ほぅほぅ、なるほど、だからクラピカは念の存在を知らなかった訳ですね。

 

「ですが、生まれながらに念が使用できるもの……また誰にも教わらずに念を習得してしまう者などがごく稀に出てくることがあります」

 

俺は後者に当たる訳ですか……まぁ、俺は念の事を知っていたので完全に該当するという訳ではないが…

 

「そういった者が出てきた場合は、念に着いて正しく指導しなければなりません。放置すればそれこそ事件、事故に繋がってしまいますからね。ですから、纏を習得したあなたには正しく念の使い方を指導します。いいですね?」

 

それが、俺が呼ばれた理由ですか……

 

正直、その話はありがたい。俺としては独学をするのも限度があると思っていたからだ。

俺の知識は原作を読んだことで経たものだ。解釈が間違っているという事もあるだろうし、知らない事もあるだろう。そういった点から正しく念を理解している人に指導してもらうのは悪いことじゃない。

 

俺は姿勢を正し、まっ直ぐお母様の目を見て…

 

「はい、よろしくご指導の程お願いします」

 

深々と頭を下げた。

 

そしてこの日、親と子という関係とは別に師と弟子という新たな関係が誕生した。

 

 

 

 

お母様を師と仰ぐようになってからの俺は、午前中は基礎体力向上の為の筋トレや持久走、体術の特訓。午後には練の修行をするというスケジュールの下生活をしていた。

 

お母様の教えは厳しかった。修行には一切の私情を挟まず、甘えを許さなかった。

 

まず、始まりは早朝の体力作りからだ。俺が瞑想をしていた草原までやってくると…

 

「朝食まで後1時間です。その間にクランは30週走りなさい。出来なかったときは朝食は抜きとします」

 

そう言ってお母様は【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】を発動させる。

 

人、二人が通れるくらいのスペースを残して、内と外にそれぞれ異なる大きさの球状の結界を張ることで、トラックが完成。

 

しかもこの結界、俺が30週走ると消滅するという条件が付加されている。

 

っと言う事はだ、ズルは出来ないと言うことだ。

 

「ちょっ、お母様!」

 

俺の非難の声にも耳を貸さず、お母様は朝食を作りに家へと帰っていった。

 

「……やるしかないか…」

 

走りながら俺は後悔をしていた。何故、こうなったのだろうと…。

 

お母様曰く、念が使えてもその元となる身体能力が劣っていたら何の意味もないと言う。

そりゃ、確かに戦闘をするんだったらそうだろうよ。

 

だけど、俺が念を覚えようと思った目的はあの不可視の壁を突破したかったからだ。

 

んで、壁を突破しなきゃいけないのは幻影旅団によるクルタ滅亡フラグから逃れるための対策を練るために旅団が襲撃してくる、時期を予測するため。クラピカの情報を得ようと思ったからだ。

 

……考えてみたんだが、別に俺は身体を鍛える必要はないのではないだろうか?

 

あんな反則的な力の持ち主である戦闘集団から、まっとうな手段で生き残れるわけがない。

 

よって、一番理想的なのは隠れて遣り過ごすことやとっとと逃げるなど、奴らと遭遇しないというのが良いと思う。

 

とか、愚痴愚痴思ったが…

 

「結局は、お母様に見つかった時点でやらざるを得ないのだろうけども…」

 

確かに、戦闘能力があった方が万が一の時の逃げる手段となるし、俺が取る行動の選択肢も増えるだろう。また、この世界で生き抜きやすいしね。

 

そう考えると悪いことじゃないな!

 

無理にでもポジティブに思考を持って行き、余計な体力を使わないためにも喋るのをやめて走る速度を上げる。

 

 

その結果、朝食までにノルマは達成できたが、疲労から朝食は喉を通らなかった。

 

 

その後、午前中は筋トレや反射神経を鍛えるための訓練をし、昼食を経て…

 

「では、これより練の修行に入ります」

 

午後からは念の修行である。現在、纏をマスターしているので次のステップである練の習得に入った。

 

「練は体内でオーラを練って精孔を一気に開き、通常以上にオーラを生み出す技術です。よって、まず最初は体内でオーラを練り、次にその練ったオーラを開放、制御し纏として身体に留めなければなりません」

 

お母様はひとしきり練について説明すると、実際に練を見せてくれる。

 

「では、やってみなさい」

 

俺の今までの知識、お母様の説明、そして実際に実物を見たことで俺はとある事に気がついた。

 

イメージとしてはあの超有名漫画のあれだよな……

 

スッと腕を胸の前でクロスさせる。怪訝そうにこちらを窺うお母様の視線を感じるが…今は気にするな。イメージしろ。

 

某宇宙人に親友を殺されたあの名シーン。続いて名台詞を……

 

体内のオーラがどんどん増幅していくのを感じる。

 

後はそれを一気に外へ!!

 

俺はカッと目を見開き…

 

「クリ○ンの事かーー!!」

 

クロスさせた腕を広げて、その言葉を叫ぶ。

 

その瞬間、練られていた全てのオーラが爆発するように体外に開放した。

 

そして其のままイメージする。宇宙最強と言われた黄金の戦士の姿を…

 

「うわぁ…」

 

スゲェ、纏よりはるかに巨大なオーラが俺を包んでる。

 

「……驚きました…。クラン、それが練です。まさかこうも早く練を…」

 

……えっ!?マジっすか?

 

此処まで上手くいくとは…読んどいてよかったぜあの漫画。

 

「では、続いて凝の習得に入ります。クラン、そのままオーラを目に集中させてみなさい」

 

「はい」

 

よっしゃ…この流れで一気に凝までマスターだ。

 

意識を目に…オーラを集中させる…

 

「……クラン、私の人差し指の先に何が見えますか?」

 

お母様がピッと人差し指を立てながら問いかける。

 

「…す、数字の……5?」

 

俺の言葉に、お母様は微笑みを浮かべながら、近づくと。

 

「正解です。よくやりましたね」

 

と、頭を撫でてくれる。

 

あぁ、白くて長い指がとても心地いい。

 

「若干、発動までの時間が遅いですが…反復練習を重ねれば解決するでしょう。とりあえずは練と凝は習得とします」

 

おぉ、マジかよ!!

 

ゴンとキルアでさえ1日では習得出来なかったのに…

 

やば、俺って天才!?

 

お母様に褒められ、調子に乗る俺だったが、次の日……その考えは木端微塵に打ち砕かれた。

 

 

次の日の午後は絶の修行。

 

全身の精孔を閉じ、自分の体から発散されるオーラを絶つ。気配を絶ったりする時に使われる技術だ。

 

幻影旅団から逃げるなら是非とも覚えなくてはいけない技術だろう。

 

だが…

 

気配を…絶つ!!

 

 

……

 

………っ!?

 

「っぷはぁーー!!はぁ、はぁ…」

 

こ、呼吸が…

 

「……クラン、私は呼吸を止めろとは言っていませんよ」

 

若干、戸惑うようなお母様の声。

 

いや、だってさぁ……気配を絶つって言ってもパッとしないんだもん。

 

よく、何かから隠れるとき息を潜めるっていうじゃん。だから、止めれば気配を絶てるかなと…

 

はぁ~参ったなぁ。

 

練の時みたいにイメージじゃどうにもならなそうだ。

 

通常状態で精孔は開いてる訳で、纏も練もその状態からオーラを留めたり、増やしたりしてたのに対し、絶は完全に対極する技術。

 

原作の知識を漁っても、ゴンは森で遊ぶうちに野生の獣並みの気配を絶つ技術を身につけた。

 

キルアも尾行の訓練をすることにより気配を絶つ技術を身につけ、それらは結果的には絶に繋がった。

 

こりゃ、思ったより時間が掛かりそうだ。



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第4話

スッとそのまま気配を消し……

 

そろり…そろりと近づく。

 

射程内に獲物が入った瞬間に地を蹴る。

 

そして……

 

「兎ちゃんゲット~~」

 

草むらに隠れていた野兎チャンをとっ捕まえた。

 

 

絶の修行を初めて早一年。

 

ようやく絶を習得することができた。

 

と言うのも、お母様のお使いで家の裏にある森の中で食材を探すようになり、肉を習得するため野生の動物と追いかけっこをしているうちに、気がついたら使えるようになっていた訳だが…

 

「ふっ、これも愛のなせる業か…」

 

愛しいお母様の頼みだ、果たさない訳にはいかない。

 

もう俺はお母様にメロメロだ。あの人が言うなら神だって殺せそうだ。

 

今日の兎の耳を獲ったどー。状態でがっしり掴んで意気揚々と帰路に着いた。

 

 

纏、絶、練。念の初歩である四大行を収めてきた訳ですけれども、残すところは最後の一つ。

 

夕食後、俺はお母様の前の前に正座で座っていた。

 

目の前には水の入ったグラス。水面に葉っぱを浮かべて…

 

「では、これより発の修練に入ります」

 

とのお母様の凛々しい声の元、行われるのはあの水見式である。

 

うっわ、マジ緊張する。とうとうこの時が来ちゃったよ!!

 

自分の系統が分かっちゃうわけだよ。

 

個人的には操作系希望!何が何でも操作系!!理由?んなもん女の子にいけないことし放題ヤホー!!に決まってるやんけ!

 

従順な子にするように操作したり、ツンデレ風に操作したり……

 

ブラボー、操作系ブラボー!!

 

っと、落ち着け~落ち着くんだ俺。

 

深呼吸をし、気分を落ち着かせる。

 

「では、クラン。グラスの脇に両手をかざして練を行いなさい」

 

うっし、んじゃやりますか…。

 

「はぁあああ!!」

 

掛け声とともに練を行う…

 

操作系の証は、水に浮かんでいる葉っぱが動く。

 

なので…

 

葉っぱ動けー!葉っぱ動けー!!

 

そう念じながら、ひたすら水に浮かんでる葉っぱを凝視する。

 

 

……水の量、変化なし。強化系セーフ。

 

……水の色、変化なし。放出系もセーフ。

 

……不純物、現れず。具現化系もセーフ。

 

……葉っぱ、動かず!!って、えぇ!!そ、操作系のゆ、夢が……。いや、まだだ、まだ終わらんよ。

 

「クラン、練を止めて水を舐めて…「いえ、お母様!まだです!まだ練が足りません!!」…そ、そうですか…」

 

俺の必死具合に若干戸惑いを見せるお母様を横目に、俺は一層気合いを入れるが…

 

やはり、葉っぱは動かず……。

 

お、終わった。俺の操作系……。

 

俺は絶望感に浸りながらも、お母様に言われて水を舐めてみるが…

 

この味、知ってる……

 

カル○スだ!!

 

しかも、気合いを入れまくって練を行ったためか水で薄めていない状態の。

 

懐かしいなぁ…後で薄めて飲もうかな……。

 

しばしカルピスに感激し、先の絶望感を忘れかけていた処で…

 

「水の味が変わるのは変化系の証です。ふふ、クランは私と同じ変化系ですね」

 

お母様に残酷な現実を突きつけられた。

 

そして、六角形を書きながら各系統についての説明を行っていく。お母様。

 

変化系のところに100と書いて、それぞれ隣り合う強化系と具現化系の所に80、放出系の所に60、特質系に0と書いていき、変化系から最も遠い位置にある、俺が望んでいた操作系の所に40と最後に加えた。この数値は自分が属する系統と他の系統の習得度の割合を数値化したものである。

 

はぁ、よりによって一番遠い変化系かよ。

 

放出系あたりなら80はイケるから、放出そっちのけで操作系の修行も出来たんだろうが…40じゃなぁ。

 

人間どころか生物すら操作するのも難しそうだ。精々、無機物を動かすくらいだろう。

 

っと、いかん。落ち込むのは後にして説明を聞かないと。

 

とはいえ、説明の内容は原作にある知識と似たような物。ようするに変化系を中心に相性のいい、具現化、強化系に属するような能力を考えなさいってな訳だ。

 

続いて制約と誓約の説明を受ける。まぁ、ようするに使用時に自分でルールを決めてそのルールが厳しかったり、破った場合の罰が重ければ重いほど、強くなるよ。っていう説明だ。

 

んで、ひとしきり説明を終えると…お母様は俺にこのまま座して待つように告げ、カ○ピス味の水が入ったグラスを持って部屋を出て行く。

 

はて?なんじゃろか。つか、それ捨てちゃうの!?後で飲もうと思ったのに……まぁ、後でまた作ればいいか…

 

とまぁ、そんな事を考えながらも黙ってお母様の帰りを待つ。

 

お母様はさほど時間をかけず、直に戻ってきた。

 

手には、先ほどと同じく水見式で使った葉っぱを浮かべた水が入ったグラス。そして、脇には木でできた籠のようなものを抱えていた。

 

お母様は俺の体面に座って水を置き…

 

「発の修行の前に…クラン、あなたに話さねばならないことがあります。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

籠からガサゴソと物音が聞こえるのが、凄く気になる。

 

「ですが、その前に…クラン。あなたにはもう一度、水見式をやってもらいます。正し…」

 

お母様が籠の中を開けて、中身を取り出す。その中に入っていたのは……

 

「ひっ!?」

 

チロチロと長い舌、ウネウネと気持ち悪い身体に目つきの悪い目。

 

俺がこの世で最も嫌いな生物である…

 

「へ、蛇!!」

 

声を上げると共にズザザッと距離を取る。

 

お母様は、俺の反応を見てから蛇を再び籠に仕舞うと…

 

「クラン!今の状態で水見式を行いなさい!」

 

と、俺に急かした。

 

何が何だか分からないまま、意識の7割を蛇の入った籠に向けつつ練を行う。

 

すると…なんという事でしょう!

 

先ほど、あれだけやっても動かなかった葉っぱがクルクルと動き始めた。

 

いや、変化はそれだけでなく、水の色は白くなり、シュワワっと泡が発生し、グラスからはドバドバと白く、泡が入った水が溢れ出したではないか!

 

「一体、何がどうなって…」

 

「クラン」

 

困惑気味にお母様に問いかければ、お母様は懐から手鏡を取り出し、俺の姿を写す。

 

うぅ~ん、お母様譲りの中々の美形じゃて…って、ちゃうわ!

 

着眼点は其処ではなく、俺の瞳の色である。

 

そう、俺の瞳は見事な緋色に染まっていた。

 

 

 

瞳の色が落ち着き、水見式の後始末をして再びお母様と対峙する。

 

「クラン、これから話す事は私達クルタ族が持つ緋の眼の秘密についてです」

 

そう言ってから話始めたお母様の話は、俺の想像を遥かに超えていた。

 

 

緋の眼……発動時の眼球は七大美色の1つに数えられており、鑑賞品としての価値があるため、闇市場において高値で売買されている。これは原作にでも触れられていた部分だが、それはあくまで表向きの話。

真の価値は、原作でクラピカがウボォーギン相手に披露したあの能力。

 

絶対時間【エンペラータイム】全ての系統の力を100引き出せる。という能力にあった。

 

これはクラピカのみならず、クルタ族は緋の眼発動時に特質系となり、この能力が発動するらしい。

 

ゆえに……クルタ族はあらゆる念の研究機関から狙われているそうだ。

 

通常1系統しか極められないとされ、自らの才能に左右される念の系統がだ、その全ての系統を極められるとしたら?そのメカニズムを解明しようとするのは当然だろう。

 

そう言った者たちから逃れるために、クルタ族は集落を作り隠れ住んで居るのだという。

 

説明が終わり、お母様が

 

「あなたの能力は自分自身で見つけなさい。自分の身を守れるように…」

 

との言葉で締めくくった。

 

 

 

そして、その夜は当然寝られる訳もなく、俺は寝床で今後について考える。

 

ちょっ、ちょっっと待ってくださいよ!

 

幻影旅団を退けたとしても……念の研究者だって!?

 

捕まったらきっとホルマリン漬けに……いやいや冗談じゃない!

 

絶対にバレないようにせねば!

 

って、そもそも目下最大の懸念である旅団の皆さんを何とかしなければ元も子も無いじゃん!

 

最近、念に夢中ですっかり忘れてたけど……一刻も早くクラピカの情報を収集し、生存対策を練らないと。

 

最悪の場合は、生存確定のクラピカと一緒にいれば生き残れるんじゃね?とも考えたが、仮にクラピカ一人しか生き残れない方法だった場合は即座にアウトだし……。そもそも、お母様を残して自分だけ生き残る位なら、自爆テロ敢行して即座に後を追うがね。

 

でもなぁ、自分一人だけならまだしもお母様も一緒となると難易度は段違いに高くなる。

旅団の襲撃を確定事項と捕えている俺は、先手が取れるし、準備もできるが。お母様になんと説明したもんだろう。っとなる訳だ。

 

つーか、お母様なら自らを盾に俺を逃がす。位の事はしそうだ。まぁ、だからこそ俺はお母様が大好きなんだけどな。

 

一番のハッピーエンドは旅団を逆に壊滅させるって事だ。後顧の憂いも少なくなるし、だけど…絶対に無理。俺がどんなイカス発を考えたとしても、団員は複数いるしなぁ。

 

それこそ、発動終了時に死ぬ。位の制約を念に付与する必要がある。

 

ま、いい面もあったけどな。

 

緋の眼がもたらす恩恵。全部の系統の力を100%引き出せる。

 

そう、全部の系統のだ。もちろん操作系も!!

 

ふっ、天運は我にあり!!

 

それが唯一の励みとなる。旅団を退けた暁には念でエロいことし放題というご褒美が待っているのだ。

 

辛い事は忘れ、ウハウハの未来に着いて思いを馳せつつ、俺は眠りへと落ちて行った。

 

 

 

翌日から、四大行をマスターした俺の鍛錬は若干変化した。

 

まず、凝の応用技である流を用いた組み手。原作でゴンとキルアがやってたやつ。相手はお母様。

 

ビスケが行っていた修行方法をそのままパクリ、相手をお母様にお願いした。お母様は効率がいい修行法ですねと褒めてくれたが、パクリであるため内心複雑である。まぁ、頭を撫でて貰えたからいいや。

 

流は念を使う上で非常に大事なオーラ配分の技術だし、頑張って技術を磨かないといけない。今んとこ、滅茶苦茶アバウトだがね。だって、何パーセントを右足にとか…測定器もないのにそんなん感覚で行うしかないし。

 

んで、次に周…これは家の手伝いで斧ではなく包丁を借りて、薪割りを行うという修行法を思いついた。包丁でスッパスッパと薪が割れるのはかなり気分がいいが、調子に乗って何度かぶっ倒れては、お母様に無理をするなと怒られた。

 

あと系統別の修行も行っている。これもビスケのやっていた事をパクリ、オーラを変化させて数字を作ったり、石割りをしたり、変化系、強化系の系統の修行をしている。具現化系については、クラピカみたいにイメージ修行を行うべきなのだが、生憎と何を具現化させるか決めていない為、そこから考える事にした。

 

ビスケの言っていた通りに、一日一系統。変→強→変→具→変のローテーションで行っている。

 

そして最後、一日の最後には練を持続させるという応用技。防御の要である堅の時間を伸ばすという修行を行っている。

 

これは寝る直前に、ぶっ倒れるまで練を続けるという何とも身体に悪そうな鍛錬をしていたりする。

 

 

こんな感じで日々、メキメキと俺の力が向上していくのを手ごたえとして感じ、苦しいがとても楽しく、充実した毎日を送っているが………あれ?

 

なんか、忘れてるような……



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第5話

 

発……俺の発……

 

今日も今日とて念の修行。その合間に俺は自分の能力について考えていた。

 

具体的には現在、入浴中である。

 

俺の系統は変化系だがまだ、操作系の能力を極めることを諦めた訳ではない!!そう、可愛い女子を思いのままにし、エッチな事をする為に!!

 

イメージとしては、身も心も操作して従順な女の子、積極的なエロい女の子、素直になれないツンデレ…などにする!おぉ、考えただけですんばらしーー!!

 

しかし、心もとなるとやはり難しいだろう。なので最初は身体だけ操作して、ヤリタイ放題というのも考えた。

 

だがしかし!だがしかし!!そんなのはレイプと変わりがないと気がついた!!

 

嫌がるのを無理やりっていうのは俺の趣味じゃない。そもそも、無理やりでいいんなら別に操作系の能力を覚える必要もない。

 

何故なら、念を使えない一般人の女の子を念を使用した状態で普通に襲えばいいからである。

 

つか、別に身体の操作は要らないんじゃなだろうか?と先の仮説から考えた。

 

心が俺の事を好き好き状態なら別に身体を操作することなく、合意の上でイチャイチャ出来るのだ!

 

うむっ、見えて来たぞ。俺の求める能力が!!

 

即ち心を操る能力だ。能力名は…

 

【これ何てエロゲ?(フラグクリエイト!!)】

 

よし、決定!ってな訳で早速、特訓開始!!

 

 

……差しあたっては緋の眼を自由に出せるようにならんとな。

 

能力を使用するにあたっての制約には緋の眼発動状態以外は使用不可を付与するつもりだ。その状態じゃないと操作系の能力は半端じゃなく精度が悪いしね。

 

どっちみち、緋の眼状態じゃないと使えないのなら制約をして、能力の底上げをした方が効率的ってもんだ。俺、あったまいぃー!

 

ってな訳で…

 

「よっしゃ行くぜ……緋の眼!!」

 

………よし、もういいかな。

 

そろそろ色が変わったかなと、湯船に映った自分の顔を覗き込んでみる。

 

「……どうみても変わっとらんな…つか、凝使ってるし!」

 

目に意識を集中させてみたが、色は変わらずに、ただオーラが目に集まり凝の状態に!

 

原作でクラピカは訓練したとかほざいていたが…

 

「ええぇい!!訓練方法ぐらい書いとけよ!」

 

だが、諦めん!諦めんぞ!!

 

 

 

「うぉおおお!!はぁ、はぁ、くっ、やるじゃねぇか……だがっ!?って、何!?うわっ、馬鹿。動くなって……ひっ!?おぇ!!こ、こっち来るなよーーー!!」

 

ズザーーっと距離を取る。くそ、あの野郎。

 

翌日、俺は今まで経験したことのない死闘を演じていた。

 

そう、相手は俺がこの世で最も嫌う爬虫類に属するあの野郎だ。

 

緋の眼を発動させ。その感覚を体で覚える。んで、徐々に自分の意思でその感覚に近づける!

 

それが、俺が思いついた訓練法。その為に、奴を利用する事にしたのだ。

 

本当は心底嫌なんだが、これも己の願望を成就するため。その為の試練なのだ!

 

そんなこんなで無謀にも、奴を捕まえようと森の中に入り、獲物を見つけたのだが……

 

無理っ、無理っす。助けてママン!!

 

滅茶苦茶気持ち悪い。そのうえ、捕まえる?あれを?触るの?

 

ちょっと、心が折れそう。

 

「せっかく、鏡まで借りてきたのに…」

 

お母様から借りてきた手鏡。当然、緋の眼であるかどうかチェックするため使用する。

 

懐から手鏡を取り出し、覗き込んでみる。

 

すると、なんということでしょうか。鏡に映ったのは…

 

「ひ、緋の眼!?」

 

そう、既に緋色の状態になった俺の瞳だった。

 

すっ、直に感覚を覚えないと!

 

そう考えたのだが…徐々に瞳の色は薄れていき、元の色に……

 

「……うぉおおっ、もう一回じゃー!」

 

思えばお母様に蛇を出された時も、ただ見ただけで色が変わった。と言う事はだよ、捕まえなくても希望はあるって事だ!

 

決意を新たに俺は、再び強大な敵の前にその身を晒すのだった。

 

 

そして…月日は流れていき……

 

「き、キタたぜ…」

 

鏡に映ったのは緋色の瞳の美少年。

 

ついに、ついに俺は自分の意思で緋色の瞳になる事に成功した。

 

が……一つ問題に気がついた。

 

それは緋の眼の発動時間。

 

目安は大体三分くらい。この間は問題なく行使できる。

 

だが、三分超えた処で徐々に身体が重くなり、動悸が激しくなってくるなど、身体に違和感が生じてくるのだ。

 

「Nooooo!!」

 

終わった……今度こそ、俺の夢は潰えた。

 

三分間で何ができる!!

 

アルファベットで言うと。Aは問題ない。舌まで入れられるだろう。雰囲気その他もろもろを度外視し、場所を選ばないなら。

 

次はB。これも問題ない。揉みしだき、吸いつくことだって可能だ。まぁ、其処に至るまでの過程を完全にすっ飛ばす必要性があり、同じく場所を選ばないならだ。

 

問題は最終段階だ。これは無理だろう。いくらなんでも短すぎる。

 

準備だけでもそれ以上の時間が掛かりそうだし、そういう事をする場所にまで女の子を連れ込まないと行けないのだ。

 

連続で緋の眼になり、能力を使用するという手もあるが…それも不可能だ。一回、限界まで緋の眼になったら、ちょっと休まないと身体に物凄い負担がかかる。

 

暫く、本気で塞ぎこんでいたが…

 

其処でハタと気がついた。

 

「………いや、まだだ…そうだよ。まだ俺の夢は終わらない」

 

そうだよ。原点に帰ればいいんじゃないか…。

 

例え、操作という裏ワザが使えなくてもまだ正攻法がある!

 

俺は変化系能力者だ…これは変えようのない事実。

 

そして、原作の変化系能力者の使用する念にはどんなものがあったか、考えた時に一人の人物が浮かび上がったのだ。

 

その名は、ビスケット=クルーガー。云わずと知れたゴンとキルアのお師匠さんである

 

彼女の能力【魔法美容師(マジカルエステ)】は、エステティシャンであるクッキィちゃんによる至福のマッサージだ。

 

エステティシャンであるクッキィちゃんを作る能力は具現化系に該当する。

 

まぁ、変化系のお隣さんに位置する具現化系ならば、それくらいの芸当は出来るってわけだ。

 

問題は次だ、クッキィちゃんを動かしているのは操作系の能力…

 

変化系とは相性が悪い系統である。

 

さらに、もう一人。キルアの爺ちゃんであるゼノさん。

 

彼も変化系能力者だが、オーラをドラゴンに変化させて空飛んだり、ドラゴンを飛ばして攻撃したりしていた。

 

ドラゴンを操っている部分は操作系の能力だと考えられる。

 

これらの点から見て、俺が推測したのは、苦手な操作系の能力でも自身の念の操作は可能なのではないかということだ。

 

本来、操作系の神髄は相手や物を自由自在に操る……敷き詰めていえば自身の力が及ばないものをだ。

 

それに比べて念はあくまで自分の力だ。意志によって御しやすいだろう。

 

つまりはだ、具現化系で俺好みの美少女を具現化し、操作してエッチな事をしてしまおうと…

 

「……って、それじゃ一人でしてるのと変わりないやんけーー!!」

 

……また、振り出しに戻ってしまった。そして、いい加減に俺は悟った。

 

念なんかに頼る事がそもそもの間違いなんじゃないかと…

 

「俺にはお母様譲りのこの容姿がある!!」

 

そう、今の俺…クランは美少年なのだ。

 

ゆくゆくは美青年だ。今の状態で現実世界に存在したとすれば、芸能人にだってなれる。

「そうだよ。念なんかに頼らず、普通に口説けばいいんじゃないか!」

 

これでまた、俺は生きていける……

 

 

 

んでもって、その日の夜。操作系の習得に向けての執念を切り替えた処で…

 

「あーーーー!!」

 

とんでもない事に気がついた。

 

操作系の事で頭がいっぱいで…スコーンっと幻影旅団の事を忘れていたのだ。

 

まじゅい…まじゅいよ…

 

あまりの衝撃に幼稚化してしまう。

 

だって、対策はなぁんも練ってません。念を覚えたくらいかな…AHHAHHA!そんくらいで逃げらるんなら苦労はしないっての!!

 

くっそー、この貴重な一年をだらだらと過ごしちまった…。

 

明日からだっ!そう、明日から動かねば!!

 

そして好都合な事に…

 

 

 

「学校ですか?」

 

俺と年齢があまり変わらない子供たちを集めての勉強会。

 

いわゆる、学校に行くようにとお母様から言われたのである。

 

いかに閉鎖的なクルタ族でも学校はあるみたいだ…

 

それもそうか、原作を見た感じクラピカは頭が良かったし、よもや独学ではないだろう。

「クラン。あなたは確かに聡明な子です。どこで知識を覚えてくるのか母も不思議に思うほどの……」

 

でしょうねぇー。日がな一日外をすっ飛びまわっているし……勉強なんて確かにまったくやっていませんしね…

 

「知識を深めることは良いことです。何をするにもまず知らねば、効率の良い結果は望めません。クラン、知っているということはそれだけで強力な武器になるのです。」

 

それは俺も同意だ。念という存在を知っていたために、今の年齢で基本を身につけることが出来た訳だし…

 

「より幅広く、様々な知識を身につけるためにも学校に行って欲しい。また、同年代の子供が集まる学び屋で友を見つけて欲しい。母はそう願っているのです。」

 

そうなんだよなぁ。思えば俺はこの世界に来てから、お母様以外に殆ど知り合いがいない。

 

というのも俺の家は、少々離れた場所にあるため、普段あまり人が来ない。

 

まぁ、時々手紙などを持ってくるおっさんなどが来るし、お母様は買い物などによく出かけているが…

 

俺はと言えば、念の修行に明け暮れ、当初の目的を完全に忘れていた為に家の周りから離れた事がないのだ。

 

これを機に原作ではあまり触れられていなかったクルタ族に関しての情報を集めるのも悪くはないし、クラピカの情報を得るという目的は達成しやすい。

 

よって、俺はお母様に学校へ行く事を承諾する旨を伝えるのだった。

 

 

 

んで…やってきましたよ。初登校の日が。

 

まぁ、登校って言っても、元の世界でお馴染みの校舎などは見えるはずもなく…

 

俺の家よりも広いお家にやっていた。

 

っというのも、先生を引き受けている人の家で授業を行うからである。

 

若くて美人の女の先生がいいな~~。

 

とか思いつつ、来訪を告げ待っていると。

 

「よく来たの。ワシが今日からお主の先生となる。ジェロというものじゃ」

 

出てきたのは、杖をもった、白ひげがイカス、ハゲた爺。

 

どこぞの仙人だよ!?と思わずには居られない爺さんだった。

 

爺さんはしげしげと俺を見ると…

 

「ふむ…お主、使えるようじゃな……」

 

そう漏らす。

 

使えるというのは念の事だろう。

 

念が使えるかどうかを見極めるのは結構簡単だ。と言うのも、念能力者は常時、纏で居ることが多いのである。

 

普段垂れ流しているオーラが勿体ないし…纏を使用することにより老化を遅らせる事ができるためである。

 

ゆえに…

 

「そういうジェロさんも…」

 

この纏を行っている爺さんも当然使えるって訳だ。

 

「挨拶が遅れて申し訳ありません。クランと言います。本日よりここで学ばせていただくことになりました。よろしくご指導のほどお願いします」

 

ぺこりと頭を下げる。自分でも礼儀正しくなったもんだとしみじみ思う。これもお母様の教育の賜物なのだ。

 

「ほっほっほ。まだ幼いのに礼儀ただしい小僧じゃの。お主なら悪しき事に念を使うことなどはないじゃろう」

 

満足そうにほほ笑む爺さんだが、その言葉はぐっさりと心に突き刺さった。

 

ごめんなさい……悪しき事、目茶目茶考えてました。

 

「して、分かっておるとは思うんじゃが…」

 

「はい、念の秘匿ですね?」

 

以前、お母様に言われていた事である。

 

俺の答えに満足そうにジェロ爺さんはほほ笑み、いくつか世間話を交わしながら、これから勉強を学ぶ部屋へと向かうのだった。



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第6話

Arcadiaに投稿してた分は此処まで。

ストックは後2話ほどあるからボチボチ挙げていこうと思っています。




……幻影旅団対策の第一歩として襲撃の時期を予想しなければならない。

 

そのため、クラピカの情報を入手しその時期を割り出そうと情報収集をしようと思っていた訳だが…

 

「僕の名前はクラピカって言います」

 

目の前で女顔の物凄い美少年が若干緊張しながら自己紹介をしている。

 

性格はまったく異なっているが、原作で見たクラピカの面影がヒシヒシと伝わってくる。

すなわち…

 

「な、ナンデストーーー!?」

 

 

大声をあげた俺は当然の如く、ジェロさんに説教された。

 

んで、説教が終了し帰路に着いている。

 

今日は共に学ぶ者たちとの顔合わせと自己紹介で、明日から本格的に勉強を始めるらしい。

 

まぁ、それはいい。それはいいが…

 

こんな不意打ちあるかよ……

 

俺は歩きながら今日会った事を整理する。

 

と言っても単純だ。

 

学校へ行き、教室に続々と生徒が集まってきて……その中にどっかで見覚えのある奴がいるなーと思っていた処で自己紹介が始まり…

 

その俺の疑問は見事解消された訳だ。

 

そして、肝心のクラピカの情報。

 

見た感じ俺と同年代。性格が多少原作と異なっているのは、子供という部分があるのと、原作のクラピカは虐殺という経験から形成された性格のためと思われる。

 

まぁ、後者はどうでもいい。問題は前者。俺と同年代という部分。

 

以前考えていた、クラピカが生まれる前に転生して生まれるまではのほほんと生きる。

 

あわよくば天寿を全うと言う。考えは脆くも崩れ去った。

 

幻影旅団の襲撃が、大体クラピカが10~12歳程度の頃だと原作から推測し、そこから逆算すると…

 

猶予は後、3~5年…

 

早急に幻影旅団対策を練る必要が出てきた。

 

 

 

翌日から始まった授業。と言っても俺が学ぶのは文字とか歴史くらい。

 

算術や理科のような事も学ぶのだが、仮にも前の世界でその辺りは学んできたので正直、学ぶ必要がない。

 

文字や歴史は元居た世界と違うので新たに勉強する必要があるのだ。

 

そんな訳で、算術や理科の授業中は幻影旅団対策に頭を悩ませる時間となっていた。

 

ここ数日でいくつか案は考えたのだが…

 

案1

 『戦って殲滅!』

 

結果的にはこれがい一番いいのだ。後顧の憂いも無くなるしな。

 

だがしかし!実際問題としてそれは不可能だ。

 

いくら念を覚えたからと言ってあんな変態的強さを持った集団に勝てるわけがない。

 

いや、一人、二人なら何とかなるかもしれない…

 

何故なら、俺は奴らの能力を知っているというアドバンテージがあるからだ。

 

フィンクス、フェイタン、ウボーギン……あんな戦闘用の念能力を使用する奴らではなく

パクノダとかコルトピとか…そういった活動を補助する連中ならば俺の発次第で勝機はある。

 

問題は相手が集団だって事だ。

 

仮にタイマンで奇跡的に一人を倒しても次の奴に負ける。

 

まぁ、こちらもクルタ族という集団で奴らと相対するのだが…原作でウボーギンが言っていたように善戦はするだろうが結果的には全滅する。

 

はっきり言って戦力差があり過ぎだ。

 

よって実行不可能につきこの案は却下。

 

戦うと選択肢がない場合、生き残るために取れる手段は一つしかない。

 

すなわち逃げる。

 

この案は直にでも実行可能だ。とりあえずカラーコンタクトで緋の眼を隠せばクルタ族だという事がバレずに生活できる。

 

問題となるのが、生きるための金…なのだが、念を覚えた俺には当てがあった。

 

天空闘技場…

 

200階まで勝てば2憶円手に入るということと、200までは念がなくとも勝てるというのは原作でも分かっている。

 

まぁ、そのほかにもハンター試験を受けてライセンスを売っぱらうという手もある。

 

ハンター試験も天空闘技場同様。念を使えないものが多い。

 

ゴン達が受験した時も、念が使えたのはヒソカとギタラクル…つかイルミの二人位だしな。

 

これらの案から金を入手するのはさほど難しくない。

 

ならば、すぐさま逃げるべきなのだろうが…

 

お母様を置いて行く訳には行かないしな……

 

俺は己の力を過信してはいない。念を覚えた処で出来ることは限られている。

 

放置すればクルタ族はクラピカ以外は皆死に絶える。が、それを救おうとは思わない。そんな正義感も力も俺には無い。

 

いつかくる別れのために必要最低限の会話を避け、人との接触も行わないように心掛けている。情が移らないように…

 

だが、お母様だけは違う。この世界で俺がただ一人愛し、守りたいと思う大切な存在。家族なのだ。

 

だからこそ、お母様だけは助けたい。

 

しかし、お母様はここから動くつもりは無いようなのだ。

 

その気持ちは分かる。今まで暮らしてきた土地と捨てるには相応の理由が必要だろう。

 

幻影旅団の襲撃というのはその理由に十分当てはまるだろうが、信憑性が無いし、説明のしようがない。

 

さて…どうしましょ……

 

 

 

俺が学校に通う事になってから数か月…

 

一人部屋でため息をつきながら旅団対策について考えていた。

 

だが、有効な対策は思い浮かばず…収穫と言えば……

 

【強欲な小学生の巾着袋(ジャイアニズムポーチ!)】

 

かの名言の一部。俺のものは俺のもの。から生まれた名称である。俺の具現化系の能力だろう。

 

具現化したのはオレンジの巾着袋と、黒いノート

 

互いは紐で繋がれおり、まずはノートを手に取って開く。

 

見た目は名前を書かれたら死ぬという某ノートに似ているが、これにはそんな大層な能力はない。

 

パラパラとページを捲り、カテゴリの項目から飲み物を選ぶ。

 

といっても、水、カル○スもどき、カ○ピスソーダもどき、お茶くらいしかないのだが…

 

そこから、気分的にカル○スソーダもどきにしようと思い、ノートを閉じる。

 

今度は、巾着袋の中に手を突っ込み…

 

「カルピ○もどき~~」

 

国民的に有名なダミ声で宣言!

 

すると…なんということでしょう!

 

巾着から手を抜けば、その手にはグラスに注がれたカルピスソーダがあるではありませんか!

 

俺の具現化系能力【強欲な小学生の巾着袋(ジャイアニズムポーチ!)】は、巾着袋に入れたものを、入れた時の状態そのままで無限に収納できる能力だ。いや、だった。

 

最初に具現化に成功した、巾着袋に様々な物をぶち込んでは取り出し、「うぉお!便利じゃね?」とかはしゃいでいたのだが…

 

何が入ってるか忘れちゃうんだよねー(笑)

 

んで持って生まれたのがあの黒いノート。能力は単純、ただ入れてある物の名称が勝手に記載されていくだけ。

 

まぁ、それだけじゃなんなので、検索、ソート、カテゴリ別に分類。などの機能も搭載したのだが、念としてはそんなに難易度が高い訳ではなく比較的容易だった。

 

 

ノートは巾着と連動しているため、ひとつの能力とした。これが

 

【強欲な小学生の巾着袋(ジャイアニズムポーチ!)】である。

 

結構使い勝手がいい能力だが、能力自体は結構すんなり付加する事が出来た。まぁ、ある程度の制約はあるけど…

 

具現化系に必要なのはイメージ。そして、俺のオタク脳には、かの有名な青狸型…じゃなかった…ネコ型の青狸ロボットのポケットがあったためだ。

 

まぁ、そこであの青狸は膨大な道具の数々をすべて記憶しているという衝撃な事実に、直面し、数日間苦悩したのだが……その程度で、概ねスムーズに覚えることができた。

 

ちなみに、俺が覚えた念能力は未だこれだけ。メインディッシュである変化系の能力は覚えていない。

 

その理由はこれまで行ってきた基礎修行にある。

 

俺の属性は変化系。ゆえに変化→強化→変化→具現化→変化のローテーションで系統別の基礎修行を行ってきた。

 

変化形はオーラを数字の形に素早く変化させる訓練。

 

強化系は一個の石を強化し、他の石を次々と割って行く。

 

そして、具現化系だが…

 

はっきり言って、ビスケ先生が系統別修行の際に具現化系に関する部分に触れていなかった……いや、もしかすると触れていたのかもしれないが、俺が覚えていなかった為に、クラピカみたいにイメージ修行を行うことにしたのだ。

 

んで、思い立ったのがどっかのSSでみた能力。物が無限に詰め込める物を具現化してたやつ。

 

ちょうど、家にあった巾着袋(お母様の香り付き)を見つけたので、それをベースにすることにした。

 

それから…巾着袋を被ろうとしてみたり、食べようとしてみたり、舐めまわしたり、弄り倒したり、匂いを嗅いだりと…傍から見たら奇行極まりなく、病院行け!と突っ込まれそうな修行をし……

 

その甲斐あって、俺は巾着袋の到達点に辿り着くことができ、具現化に成功したのだ!!

「ブック…」

 

回想に浸りながら、カルピスソーダを飲み一息ついたところで、巾着とバインダーを消す。別にブックとか言わなくても消せるんだが、まぁ、グリードアイランドぽい雰囲気を出してみた。

 

でも、グリードアイランドか……

 

「行ってみたいな。恋愛都市アイアイに…」

 

速攻で女の子と仲良くなれる……まさに夢の都市。

 

えっちな事し放題に違いない。

 

ん?待てよ。これって…

 

「旅団対策に繋がるんではないだろうか?」

 

確かグリードアイランドは、現実世界で念を使用しまくったことで実現しているゲームである。

 

プレイヤーは、グリードアイランドが入ったジョイステーションの前で発を行う事で、グリードアイランドの舞台となっている島にテレポートする事が出来る。

 

すなわち、一瞬で此処から逃げられるということだ!

 

さらに言えば、旅団がグリードアイランドの存在を知ったのは原作で、クラピカが色々旅団に対してちょっかいを出した後である。

 

と言う事はだよ。現時点で世界で一番安全なのではないか?

 

何せ、道端でばったりと旅団に遭遇と言うリスクがなくなる。

 

それに、正規の方法でグリードアイランドから出る場合は、登録してある港にテレポートして貰える。

 

逃げるに打ってつけだ!

 

「おぉ、まさに安息の地!果てなき理想郷(アヴァロン)ではないか!」

 

恋愛都市アイアイにも行けるし、一石二鳥である。

 

そのゲームにお母様も誘えば……二人で逃げられるしな。

 

真実を知らない、お母様はテレポートとは思わずにゲームの中に入ってしまったと考えるはずだし……しつこく頼めば一緒にやってくれるだろう。

 

最後にジョイステを隠してしまえば、旅団にもバレないだろう。おぉ、まさに完璧な作戦。

 

「こうしてはおれん。詳細を詰めないと!」

 

巾着の中から筆記用具を取り出し、計画をまとめていく。

 

計画は大体こんな感じ…

 

フェイズ1

 ジョイステ&グリードアイランドを入手。

 

フェイズ2

 ジョイステを隠すための時限式の装置を作成

 

フェイズ3

 お母様を説得し、グリードアイランドをプレイさせる。

 

フェイズ4

 装置を作動させ隠す準備を整えた後、お母様の後を追う。

 

 

……ふむ、一番の問題はフェイズ1だな。

 

ジョイステは兎も角、グリードアイランドの入手。

 

発売価格幾らだったっけ…確か、56憶?

 

子供の小遣いで買えるレベルではない。となると……

 

「パクるしか無いか……」

 

正直、気は進まないが生きるためだ…手段は選んでいられない。

 

だが、まだ問題はある。

 

「どうやって、お母様に長期外出の許可を取るかだよなぁ……」

 

しかも、最近風邪を拗らせたのか元気がなく、咳をすることが多いし……

 

「とりあえず、お母様が元気になってからだな」

 

それまでにもっと強くなって、戦闘用の念を覚えないと。

 

グリードアイランドがパクるにパクれない。流石に、巾着袋だけじゃ心もとない。つか、無理。

 

まぁ、今後の方針が決まっただけでも良しとしますか!



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第7話

前言い訳

スランプ時に書いたからちょっとおかしい所があるかも。

正直、妥協した。

拘ると気晴らしに書いてるのに止まっちゃうから。

とりあえずやりたい様に突っ走る。

プロットなんてものはない。




俺は甘く見ていた……。

 

【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】の能力を。

 

ただ、結界を作るだけじゃない。その能力の真骨頂は、お母様が緋の眼を発動した時に発揮された。

 

まず、変化形に属するこの能力は通常時ならば、お母様の手から離れた時点で徐々に劣化していく。

 

オーラを手元から切り離すのは放出系に該当する能力だからだ。

 

しかし、緋の眼発動時に作成した結界はその限りではなく、維持し続ける事が可能である。

 

それだけならまだいい。問題はここから…、真骨頂は操作系と特質系の能力にあった。

 

緋の眼発動時、お母様はその両系統の能力で応用することで結界の中の環境を好き勝手に操作できるのだ。

 

正確には【幸福の青い鳥の鳥籠】とは別の能力で、

 

【鳥籠の幸福空間(ケージオブエンヴァイロメント)】という能力らしい。

 

つまり、どういうことかというと…

 

「お、重い……苦しい……、し、死ぬ…」

 

結界内の空気の量、重力を操作。そして四次元空間に。

 

さらには時間操作。こっちの中と外の時間の流れが異なり、こっちの1日は外では1時間。

 

その結果、これ何て精神と時の部屋?の完成である。

 

制約として、結界内にいる人間全員が操作する環境の内容に同意しないといけないので、戦闘では使えないのだが…。

 

 

つか、何で俺はこんな過酷な訓練をしているのだろうか?

 

 

事の起こりは数日前の事である。

 

 

 

旅団に対する死亡フラグに対して、俺の取った方針は、戦闘ではなく逃走である。

 

その為の第一歩として、外の世界でグリードアイランドをパクって来ようと考え、

体調が回復したお母様に外出の許可を願い出たのだが…。

 

にっこり、見惚れるほどの綺麗な笑顔で…却下された。

 

切々と外の世界がいかに危険か…ましてや緋の眼を持っている俺らにとっては、なおさら危険な事を語られた。

 

しかしだ。この男クラン。如何に美女に弱く、お母様の頼みなら二つ返事で聞き届けてしまうほどの愛情を持ってしても、その頼みだけは聞くことはできない。

 

何故ならば、お母様自身の命に関わるのだから…ついでに俺も。

 

……あれ?優先順位逆じゃね?ま、まぁともかくだ。そんな理由で食い下がった。

 

何時もなら素直にいう事を聞くのに珍しくも我儘を引っ込めない俺に驚いていたものの、かと言って一人息子を外に出すことを許容できるはずもなく。

 

お母様自身は外に出る気はない。

 

結果、平行線である。

 

 

このままでは分が悪いと感じ、正直気乗りはしなかったが、夜遅く俺はこっそりと家を出て、一人旅立つことにした。

 

お母様は怒るだろうか?それとも泣いてしまうのだろうか?

 

後ろ暗い気持ちになったが、此処は心を鬼にする。

 

死亡フラグさえ折ってしまえば、後は何でもいう事を聞くし、好きなだけ怒られるつもりだ。

 

そうして、意気揚々と、現在位置も分からず、適当に同じ方向に走れば、道に出て道に沿えば町に着くだろうと、甘い考えで駆け出そうとした所で……。

 

お馴染みの結界にバィイインと弾かれた。

 

だが、此処で諦める訳には行かない。

 

念は使用者の心の機微に左右されることがある。

 

今までにないほどの決意を固めた俺の念は、火事場の馬鹿力と言うべき力を発揮し、

 

俺のオーラを集中し、硬で強化した俺の拳は結界を突き破った。

 

肩で荒くする呼吸を整えつつ、いざ出発しようとした所で…

 

「こんな遅くに何処へ行くのですか?」

 

凛とした、よく通る聞き覚えのある声が耳に届いた。

 

ギギギっと首を動かし、声の発信源たる背後を振り向けば。

 

綺麗な微笑み…しかし眼だけは笑っていないお母様の姿が……。

 

ってか、眼が緋色になっているんですが?

 

「な、なんで…」

 

「私の結界は円の役割も果たします。触れたものが居れば把握できますよ。」

 

ましてや、あんな強引に結界を破ればなおさら…との事。

 

ま、マジか……。

 

だ、だが、諦める訳には行かない。まだ大丈夫だと、逃げようとするが無慈悲にも…

 

【幸福の青い鳥の鳥籠】

 

俺が渾身の力で突破した結界を再度作成されて…。

 

「さて、クラン。話があるので付いてきなさい。」

 

お母様の柔らかい掌が俺の手を掴み、そのままズルズルと引きずられるように家まで連行された。

 

俺の見通しは甘かった。そして悟った。

 

お母様からは逃げられない。

 

そして始まるお説教。ブリザードのような冷気を感じつつも、俺は素直にそれを受ける。

 

黙って行こうとした事は確かに俺に非があるからだ。

 

だけど…

 

「…それでも……俺は外に行きたい」

 

此れだけは譲るわけには行かない。

 

そんな俺の態度にお母様は一つ溜息を吐くと…条件を満たせば外の世界に出ても良いと許可をくれた。

 

その条件とは、お母様を倒す事である。

 

「外に出ても問題ないように強くなりなさい」

 

そんな約束を交わしたのだった。

 

 

当然、現状では勝てる見込みなどは無く。お母様が修行を付けてくれる事になり…

 

その結果、以前よりもはるかに厳しさが増して…

 

「現状に至る……っと」

 

つまりは自業自得…。

 

現在は週に三回。実戦訓練と称し、修行前にお母様との模擬戦がありそこでお母様に勝つことが出来れば俺は外に出られる訳なのだが…。

 

「遠い……な」

 

正直、話にならないレベルである。

 

お母様強すぎ。

 

現状、お母様との戦闘は殆ど体術のみで行っているのだが、何をやっても無効化される。

 

お母様の戦闘スタイルは相手の力を利用し、受け流したのちのカウンターだ。

 

カウンターも拳というより手の掌を利用した内部浸透系の攻撃。

 

ほぼそれで毎回やられる。

 

だが、俺も進歩していない訳じゃない。

 

お母様から体術を学び、そしてこの過酷な環境での修行と念の向上。

 

その結果、最初は一瞬で一発カウンターで伸されていたのに、今では少しは持続するようになった。

 

って言っても、こっちの攻撃は相変わらず通らないんだけど…。

 

やはり発を開発するしかないのか?……いや、駄目だそれでは後悔する。

 

正直、俺は戦闘系の能力など欲していない。

 

死亡フラグを折ってしまえば、後はハンターライセンスでも売って、のんびりとニート生活を送る予定だ。

 

その際には彼女が欲しい。

 

そう、俺の能力はそういう生活面での補助関連で作るべきなのだ。

 

断じて、戦う為ではない。

 

確かに死んだら元も子もないかもしれん。

 

だが、それでも此処で安易に発に頼るわけには……行かないのだ。

 

大丈夫だ。俺は変化系……隣り合う強化系の能力を駆使すればどうにかなる。

 

だって、相手も変化系で戦闘用の発じゃないんだもの。此れならなんとかなる……はずだ。

 

それにこの訓練だってそう。

 

当初、お母様は結界を作る時に空気だけ薄くして心肺機能を鍛えようとした。

 

その説明を受けた時に俺は、前世の漫画知識から精神と時の部屋を思いつき、重力の操作と空間の操作と時間の操作を付け加えた。

 

んで、出来上がったのがこの精神と時の部屋もどきだ。

 

時間操作を加える際、お母様は良い顔しなかったが、学校へもきちんと通う事を条件に渋々追加してくれた。

 

つか、時間操作は必須だ。何故なら俺に残された時間は少ない。

 

つまるところ、現在のこの状況は自業自得と言っていいだろう。

 

重力はまだ精々1.5倍程度なのだがそれでも辛い。

 

100倍?無理。あいつら人間じゃねーよ。あ、サイヤ人…って宇宙人でしたね~。

 

そんな事を考えつつ、今日のノルマを消化したので、結界から出る事にする。

 

この結界から出る際にの正しい手順は、お母様が設定した出口から普通に出ることが出来る。

 

凝を使えば結界の一部分のオーラの色が違って見えて、其処が出口。

 

因みに出口を設定しないっていう事も可能らしい。

 

弱い念能力者ならばそれで閉じ込める事も可能。幼少の頃の俺のようにね。

 

 

話を元に戻す。そんなこんなで、修行を続けていたのだが…流石、漫画の世界と言えばいいのか、恐らく才能なんてないであろう俺でさえ驚異的なスピードで進歩しつつある。

 

そしてその力量差に唖然とした。

 

今までは気が付かなかった。

 

別にお母様はオーラを隠してなどおらず自然としてそこにある。

 

だが、修行の成果で徐々に強くなっているせいか感じ取れるようになったのだ。

 

お母様の保有する莫大なオーラの量を。

 

俺の基準は自分を始め、学校に行く途中の道すがらで見かけた人達なんだが、その人達のオーラの量に比べて、俺のオーラの方が格段にあった為、若干の優越感に浸っていたのだが…

 

お母様は次元が違った。

 

 

これなら、お母様なら旅団を返り討ちに出来るんじゃないだろうか?とも思ったが、旅団の人間も…まさかとは思うがお母様と同等…あるいはそれ以上のオーラを持っていたりするのだろうか?

 

会った事は当然ながらないため、判断に苦しむが…もしそうだった場合、俺は一目散に逃げる。

 

それほどまでに違う。

 

オーラの量が全てという訳では無いが…突き詰めれば小手先の技術よりもパワーである。

 

長年念の研鑚を続けてきた…技術なら世界最高峰のネテロ会長が、生まれて一年もたたない蟻の王に負けたように。

 

当然の如く俺は惨敗した。

 

 

 

翌日、修行の疲れが取れないまま、俺は学校へと歩いていた。

 

「あ、おはよう!クラン!!」

 

そんなよろよろな俺にバシンっと後ろから背中を叩いてきたのは…

 

「…おはよう…って、相変わらずガサツな女だな」

 

しかも手に凝使ってなかったか?

 

俺の背中を叩いてケラケラ笑っている女の名はリエルという。

 

長い金髪に碧眼。透き通るような白い肌。そして詰め物をしているかのような頬とお腹。

 

そう彼女はぽっちゃりさんである。いや…もうデ○と言っても良いかもしれない。

 

この女との馴れ染めは、ただ単に俺と同様、念が使えるってだけで多少話す程度だ。

 

念が使えるかどうかは一目見ればわかる。何故なら大体の人間が纏をしているから。

 

纏をわざと使っていない人がいる可能性もあるので、完ぺきとは言えないが……ともかく、リエルは纏を使っているので念能力者だ。

 

因みに系統は知らない。

 

基本的にあまりクルタ族の人間とは関わらないようにしている為、情報が少ないのだ。

 

まぁ、リエルの場合は向こうから何かとちょっかいを掛けてくるのだが適当に流している。

 

下手に仲良くなっても……待ち受けているのは悲しい別れだ。

 

自分の能力は弁えている。すべての人間を救うなんて出来ない。つか、お母様一人どころか、現状では自分の命すら危うい状態なのだ。

 

他の人間まで救う余裕なんてない。

 

しかしお構いなしにリエルは話しかけてくる。

 

「そんな事言っていると、女の子に嫌われるよ?」

 

「…望むところだ。何ならリエル。お前ももう話しかけてくれなくていいぞ。」

 

「またそういう事言う!!私以外に友達なんて居ないくせに!!」

 

「……悪いがお前も友達とは思っていない。つかあまり近寄るな。暑苦しい」

 

我ながら酷い言葉のオンパレードだ。

 

嫌われるために業とやって入るんだけど。

 

最初は愛想悪く対応してたのだが、話しかけるのを止める気配が無かったので、思い来て

拒絶した。

 

それからというもの事あるごとに嫌われるように暴言を吐きまくっているのだが…

 

あいつは寄ってくる。まさか…このとしてMに目覚めてるんじゃなかろうな?

 

「ひっどーい!!」

 

「悔しかったら痩せてから……って、待て!硬は止めろ!!」

 

硬で強化され振るわれた右拳を、当然のように避ける。

 

つかこの女も大概だな。

 

泣く位の事は言っていると思うのだが…あれか?Mなのか?

 

そんな事を考えつつも、二発目を放とうと拳を振りかぶったので、慌てて逃げ出す。

 

リエルも逃すまいと追っては来るが、差は一瞬で開きどんどん広がる。

 

伊達にあの訓練をこなしちゃいない。ましてや、女…さらには肥満体系になんて追いつかれてたまるか。

 

でも、学校で鉢合わせたら煩いんだろうなとか考えつつ、そのまま速度を落とすことなく駆けて行くのだった。

 

 

 

駆けて行くあいつを必死になって追いかける。

 

けど、その差は見る見る開いて…あっという間にその姿を捉える事が出来なくなってしまった。

 

な、なんて速いのよ…

 

私は追いかけるのをやめて、一旦立ち止まり呼吸を整えつつ考える。

 

考えるのは…あいつ……クランの事だ。

 

私があいつに興味を持ったのは入学当初。私と同じようにオーラを身に留めている男の子……クランの姿を見たからだ。

 

私が念に目覚めた後、同世代の事は一緒に遊ばなく…ううん、遊べなくなった。

 

念の事は他言無用。さらに、まだ念の制御が覚束ない私は誤って他者を傷つけかねないからだ。

 

初心者の拙い念は、同じ能力者から見れば大した事ないけど、非念能力者は違う。

 

一歩間違えれば死の危険がある。

 

そんな理由で念を使えない人との接触は能力が制御できるまで避けてきた。

 

ある程度、慣れてきて両親から許しを得ても…私は何か間違えて他者を傷つける事が怖かった。

 

そんな時だ。あいつと会ったのは。

 

あいつは念が使える。しかも私よりも綺麗な纏をしていた。

 

だから、あいつならば大丈夫なのではないか?

 

そう考えて私は、あいつに話しかけてみたのだ。

 

 

「私リエルって言うんだ。宜しくね」

 

「クラン…」

 

なのにあいつは…精一杯勇気を振り絞って…意を決して話しかけたのにそっけなかった。

 

それからというもの、私は事あるごとに話しかけ続けた。

 

あいつは無視こそしなかったものの、一言、二言返事を返すだけ……。

 

そんな状態がしばらく続いた後……。

 

「…うぜぇ……話しかけてくるな」

 

何時ものように話しかけた私に対して、あいつが初めて悪口を言った。

 

ショックだった……。

 

その日、家に帰って泣いている私に両親が心配し事情を説明した。

 

「ふふ…リエル。お父さんちょっと芝刈りに行ってくるよ」

 

そう言って、お父さんは納屋から鉈、斧、鎌などを持ってくると、それを大き目な布袋に入れ始める。

 

練を使っているのかオーラが凄い事になっている。

 

準備を整え、今すぐ駆け出そうとした所で、お母さんがフライパンにオーラを纏わせて、お父さんを叩いた。後で聞いたら、周という応用技らしい。

 

そして、気絶したお父さんを放置して、お母さんは優しく私に話しかける。

 

「ふふ、その子はね。きっとリエルの事が好きなのよ」

 

「え?」

 

そんな訳ない。だって、好きならあんな酷い事は言わないはず…

 

「男の子はね。恥ずかしがり屋さんなの。恥ずかしくて、つい好きな子を苛めちゃうのよ」

 

きっと、リエルとお話しするのが恥ずかしくて、そんな事を言ったんじゃないかしら?

 

とお母さんは言う。

 

そういえば…同じクラスのシン君が、クラスで一番可愛いアルちゃんに毛虫を見せたり、スカートをめくったりして苛めている。

 

でも、他の人がアルちゃんに意地悪しようとすると、その前に立ちはだかってアルちゃんを庇おうとする。

 

そして、顔を真っ赤にしてアルちゃんにお礼を言われて、そっぽを向いているのを見たことがある。

 

あれも、そういう事なの?

 

「だからね。悪口に惑わされたら駄目よ」

 

そうお母さんは微笑んだ。

 

そっか……。

 

あ、あいつ……私の事が…。

 

うん。だったら許してあげよう。

 

でも、ちょっとくらい反撃してもいいよね♪



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第8話

徐々にチートパート。

展開が急すぎるのは作者の実力の限界。

そして、段々と速度が上がってきた。


 

速く…もっと速く!

 

お母様との模擬戦。重力修行もソコソコ慣れて、今は3倍の環境で修行中である。

 

能力は格段に向上している。

 

お母様を倒すならば、あの柔術じみた体術を突破しないと駄目だ。

 

技術面では勝負にならない。パワーでも柳の如く受け流される。

 

ならば…速度ならどうだ!?

 

通常重力下で、以前よりも格段に速くなった俺の体術。

 

さらに蹴り足時にオーラを足に集中させることで、高速の移動術を身に着けた。

 

イメージ的には瞬動術だ。

 

「…くっ」

 

そんな俺の攻撃は何時もと同様に受け流…いや、違う。

 

流されてない。これはガードされた?

 

いけると判断するよりも、若干の違和感を感じる。

 

だが…その一瞬の隙をついて、お母様の掌に顎先を撃ち抜かれて意識が暗転した。

 

 

 

 

 

大丈夫……まだ、大丈夫。

 

私は愛しい息子であるクランを膝の上に乗せ、その髪を撫でる。

 

クランが何故、里を出たいのかは分かりません。

 

ただ、外の世界には危険がたくさんあります。まして、私たちはクルタ族。その緋色の眼を狙う者達も出てくることでしょう。

 

そういった者達を退ける為にも、力が必要です。

 

それに私の身体の事も……。

 

ゆっくりと…病に蝕まれている身体。

 

普通に静かに過ごすだけなら、数年は生きることが出来るでしょう。

 

しかし、オーラの消耗が激しい発を使用すれば、その分、時を削ることになります…。

 

ですが、私はクランに伝えねばなりません。

 

私の……いいえ、私の家系に受け継がれる全てを。

 

 

 

最近、お母様の顔色が悪い気がする。

 

隠してはいるが、夜に声を殺して咳をしている事も俺は知っている。

 

風邪だろうか?もしくはもっと悪い病気とか…。

 

正直、医療技術であまりクルタ族は頼れない。

 

俺が前に風邪を引いたときには、クソ苦い…毒なんじゃないか?と思わせる丸薬を飲まされた。

 

聞いた話によると、森で撮った数種の薬草を炒って作ったらしいが……。

 

そんな効いているかどうか分からない薬をお母様に試すわけには行かない。

 

なので…。

 

俺の本来の能力…変化形の能力を開発した。

 

その名も…。

 

【モグリの医者の愛用薬(ケミカル・オブ・ブラックジャック)】

 

効果は自身のオーラを薬物に変化させる能力。

名前の由来は、手術料に高額なお金を請求するモグリの天才外科医とトランプのブラックジャックから。

 

変化させられるのは、トランプのA~Kまでの13種類と特殊な条件下でのみ変化可能な、

JOKERたる1種類の系、14種類の薬効だ。

 

この能力にした事は後悔していない。

 

お母様を治す際にひらめいたインスピレーションもそうだし。俺もこの先、病気が怪我をしないとは言い切れない。

 

それに…催淫剤や精力剤と言ったそっち方面でも活躍する事、間違いなしだからだ。

 

さらに、さらに変化系は系統的に放出系から若干離れていることもあり、通常はオーラを身体から話した際に能力が劣化するのだが、緋の眼がそれを解決してくれた。

 

つまり、何が言いたいかってい言うと、緋の眼状態で能力を使用すれば保存が効くのだ。

 

薬の効果は、変化させたオーラを対象の身体にぶっかければ発言する。

 

緋の眼未使用時は直接俺が触れながらやらないと行けないんだが、使用時は瓶などに詰めたオーラを振りかければOKである。

 

この能力により、修行の効率も格段に上がった。

 

しかし、お母様の体調は治らない。

 

風邪じゃなかったんだろうか?

 

一応薬効はその辺で適当に捕まえた動物類で試したり、自分の身体で試している。

 

いや、最初は全部動物で試そうとは思ったんだけどね、風邪とか分からなかったんだ。

 

だから、動物で試せるのは動物で試して、無理なのは…ちょっと怖いが自分の身体で試した訳だ。

 

風邪位ならそんなにリスクは無いし。

 

いずれにせよ、お母様に飲ませる前に自分の身体で効果は調べる予定である。

 

流石にいずれは死ぬとは言え、そこら辺のクルタ族の人間を人体実験に使うのは気が引けるしな。

 

将来的に此処から出られたら、犯罪者などを捕縛して実験してみるのがリスクが少なくて良いかもしれない。

 

ほら、なんだっけ?えっと…あのハンター試験でゴン達と試合してた奴らみたいに。

 

あいつらみたいな非念能力者なら捕まえるのは容易だしな。

 

「時間です。もういいですよ」

 

っと、呼ばれたので考え事を止める。

 

ふむ…正直気乗りしない……というか面倒臭いんだが。

 

「どうしました?もうみなさん隠れていますよ?」

 

うん。それは分かってる。だから、とっとと終わらせるために。

 

「じゃぁ、行ってきます」

 

円を使うか……。

 

現在、クルタ族…俺の通う学校では、レクリエーションの一環なのか…鬼ごっこを進行中。

 

今回、面倒くさくも鬼になってしまった。クラン事、俺は鬼としての責務を果たすため、学内を捜索する事にした。

 

 

別に円を使わなくても、子供の気配…ましてや絶を使用していないのだ。簡単に見つける事ができる。

 

しかし、あえて円を使う。こっちの方が早い上に練習にもなるからだ。

 

取りあえず使ってみたところ、範囲内に数人いるみたいだ。その中で生意気にも絶を使っている奴がいる。

 

恐らくリエルだろう。

 

しかも近い……。どうやら俺の動きを観察しているらしい。

 

ふむ…。

 

何かと絡んでくるリエルだ。此処は無視をして、適当にそこらの子供を捕まえるのがいいだろう。

 

だけど……駄目だな。これは俺の性格だ。

 

絶を使って完全に油断しているだろう…あいつの驚く顔をみてみるのもいいな。

 

 

 

やる気がなさそうに歩いているあいつの姿を、隠れつつ伺う。

 

今の私はオーラを絶っている…所謂、絶の状態だ。

 

そうそう見つける事が出来ない。

 

なのに……。

 

「ほい、タッチ。」

 

曲がり角を曲がって、あいつの姿が見えなくなり、その後を追おうとした所で後ろから声を掛けられた。

 

なんで?どうして?絶を使っていたのに。

 

私の絶は完ぺきだった。そもそも絶は得意だ。お父さんからも褒められた。

 

あいつにその理由を聞こうとしたが、もう姿はない。

 

気配も感じない……恐らく絶を使われた。

 

上等だ。やられたらやり返す。

 

そして、どうやって私を見つけたのか洗いざらい吐かせてやる。

 

その後、時間いっぱい。私は鬼としてあいつを探し続けた…。

 

他の子を見つけても捕まえる事もせずに。

 

結局見つからず。先生からは真面目に鬼をやらなかったとして怒られた。

 

 

 

 

止めとけばよかった…。

 

「で?どうやって見つけたの!?絶を使ってたのに!」

 

学校帰り、ほんのちょっとの茶目っ気を出したせいで、一層リエルに絡まれていたりする。

 

あぁ、この性格が憎い。

 

何時ものように若干きつめの暴言を吐いて、追いやろうとするのだがまったく聞く耳持たない。

 

仕方がない…しつこいし…。

 

「円だよ。円を使ったんだ」

 

「円?」

 

怪訝そうな顔をするリエル。ふむ、まだ円が使えないのか。

 

「念は何処まで覚えた?」

 

「今は、練を練習中だけど…」

 

なるほど…応用技はおろか、四大行もまだなのか。

 

「そうか…円は纏と練の応用技だ。」

 

「……私にも使える?」

 

「分からん。取りあえず、まずは基本の四大行を修めてからだな」

 

話は終わりだとばかりに歩き出す。それにそろそろ分岐点……リエルも自分の家に帰……。

 

「って、なんで着いて来るんだよ?」

 

「私に念を教えなさいよ」

 

「だが断る。人に教えるほど念を修めた訳じゃないし。俺も自分の修行がある」

 

リエルの頼みをきっぱり断って、俺は家に着くなり修行を開始するのだった。

 

最も、最近はお母様を倒すための修行というより、治す為の発の修行を重点的に行っている。

 

っていっても、お母様を倒す修行も並行して続けている。基本的に堅や流などを初めとする応用技は毎日行い、系統別のローテーションで、

変→強→変→具→変の際に変化形の修行時に治すための発の練度を挙げ、強化、具現化の修行時に各応用技をさらに修行するようにしている。

 

だが……お母様の具合はよくならない。

 

むしろ、徐々に悪化していっているように思える。

 

やっぱり、普通の風邪じゃない。

 

正直、能力を使うのも辛そうなので、使わせないようにしている。結界の中の環境は変わらないままだが、お母様の命を削る訳には行かない。

 

そんな日々を送っていたのだが……その日、俺はお母様に呼び出された。

 

「クラン、あなたの発で今まで作った薬を全部出しなさい。」

 

何故だ?能力を一通り説明して、お母様の病に関係ありそうなのは試してみたが、効かなかったはずだ。

 

そう、怪訝に思うも、具現化した巾着袋から薬を取出し、並べていく。

 

そしてすべて並べ終えた事を告げると、お母様は話を続けた。

 

「さて、クラン。今日呼んだのはあなたに重要な事を話さなければならないからです。」

 

「重要な事ですか?」

 

「はい、それは私の家系……この血に受け継がれた能力と義務についてです。」

 

そしてお母様は語りだす。

 

事の始まりは、お母様の祖父。俺の曾爺さんにあたる人だそうだ。

 

その人は若くして念に目覚め、それ以降研鑚を積んできた。

 

その能力は途轍もなく協力で並ぶ者は無しと言われていたらしい……。あくまでクルタ族の間でだけだが……。

 

だが、念能力は奥が深い。学べば学ぶほど、その終着点は見えない。

 

いくら念により寿命が向上した所で限りがある。生あるものは何時かは死ぬ。

 

なので、曾爺さんは最後に自身の残りの全てを費やし、ある一つの能力を完成させた。

 

それは、自身の念能力の全てを後世に継承する能力。

 

念を極める。そんな壮大で無謀ともいえる夢を後世に託したのだ。

 

「では、お母様は曾爺様、爺様に続く三代目の継承者なのですか?」

 

「いいえ、私は二代目です。」

 

話を聞くと、曾爺様は最初、お婆ちゃんに当たる人に能力の継承を行うつもりだったらしい。

 

何故、お婆ちゃんかというと、この能力の条件に継承できるのは能力を使用した血縁者のみ。

 

俺の爺ちゃんは婿だったそうで、曾爺様との血のつながりがない。

 

その為に爺ちゃんは継承ができない。だから、婆ちゃんを継承者にしようとした。

 

だが…婆ちゃんはお母様を生んだ後に亡くなってしまい。

 

血縁者はお母様一人になってしまった。なので、お母様が継承をしたということだ。

 

「あなたが三代目です。そして、あなたも妻を得て子を無し、後世に伝えて行かなくてはなりません。」

 

そして、お母様は目をつぶり短く息を吐き練を行う。

 

それと同時に開かれた目…その瞳の色は緋色に染まっていた。

 

【受け継がれる神様の特典(ネンハイチダイニシテナラズ)】

 

いや、違う。練じゃない。

 

お母様から迸る莫大なオーラ……それが錬に見えるだけだ。

 

そのオーラは胸の前で翳した両手の中間の空間に集まって行き。

 

バレーボールくらいの球体となる。

 

あれ?なんか既視感……こんなのどっかで見たことあるぞ。

 

漫画で……確か同じ原作者の。

 

そんな俺の疑問は…お母様からゆっくりとまるでパスをするように球体が渡されて。

 

俺の身体に吸い込まれていった。

 

「……これで終わり?」

 

なんかあっけない。別段変わったような事は…っ!?

 

「ぐぁっ!?」

 

唐突に…パァンと弾けるように額が割れる。

 

な、何…っだ…これ…

 

「ぐぁあああっ!?」

 

熱い…そして痛い。

 

身体が膨張するような感覚。そして、一気にそれがはじけ…。

 

あちこちで皮膚が弾ける。

 

立っても居られず、膝を付く。

 

そして、流れ込んだ来る情報の数々。

 

何がなんだか……分からない。

 

だが、体中を蝕む数々の痛み。

 

その痛みから逃れようと這うようにして、予めお母様から出して置くように言われた、俺の能力で作り出した薬のへ行き片っ端から薬を浴びていく。

 

だが、収まらない痛み。

 

余りの激痛に気を失う事も出来ない。

 

俺は痛みと流れ込んでくる情報で混乱し、現実がなんなのかもよく分からなくなり…。

 

本能的に…ただただ薬を浴びながらのた打ち回った。

 

 

 

 

どれほど、そうしていただろう。

 

段々と気が狂いそうになる。

 

だが、流れ込んできていた情報…それが止まり、今は身体を蝕まむ痛みだけが残っている。

 

そんな俺の視界にある一つの光景が目に入る。

 

あれはなんなのだろう?

 

何かがある。白い何かが…。

 

あそこにある動かない白いナニカ。

 

いや違う…あれは見覚えがある。

 

そう、あれは服だ。見慣れた……俺の一番大切な人が着ている服。

 

何故、あんなところに服が落ちているんだ?

 

いや違う…服じゃない。盛り上がっている。

 

あれは…人なんじゃないか?

 

あの服を着ているのは大切な…お母様何じゃないのか?

 

何故?お母様は動かないのか……。

 

流れ込んでいた情報が整理され、それは曾爺様とお母様の念に関する知識だと知り…。

 

その中には能力に関する知識もあった。

 

そして…そこにはお母様が先ほど使った能力に関する知識も当然にあった。

 

【受け継がれる神様の特典(ネンハイチダイニシテナラズ)】

 

自身の念能力の全てを血縁者に受け継ぐ能力。

 

そして…その使用者は……。

 

念能力の全てが無くなりオーラを使い切った状態となる。

 

つまりは…

 

「お、お母様?…」

 

ポツリと声が漏れる。

 

オーラを使い切る。それがどういった状態なのか……。

 

念を覚える際の方法は二つある。ゆっくり起こすか…無理やり起こすか。

 

そして、無理やり起こす場合の方法を取った場合。

 

無尽蔵にあふれるオーラを纏で留める事が出来ないと、オーラを使い切った状態となり。

 

死に…至る。

 

「お母様…お母様!?」

 

その無事を確認しようとするが…。

 

「ぐっ…痛っ。」

 

痛みで身体が上手く動かない。

 

なんで…

 

「…け」

 

俺は行かなくちゃいけないんだ。

 

「どけ…」

 

カッと頭の中が真っ白になる。

 

「邪魔するな…どけぇえええ!!」

 

叫びと同時に立ち上がる。

 

それに呼応するように俺のオーラが爆発し…。

 

気が付くと痛みは既に無く。

 

俺はお母様を抱きかかえていた。

 

「お、お母様…?」

 

それは見る影もなかった。

 

あの白く若々しかったお母様は皺枯れ…骨と皮のようになり。

 

それでもその顔は満足そうに…

 

息を引き取っていた。

 

「なんで?俺はこんな能力よりも……」

 

あなたに生きていて欲しかったのに…

 

「うぁ…うぁあああああ!!」

 

この日…

 

俺は莫大な力を得ると共に……。

 

この世で最も最愛な母を失った。




能力がバンバン出ております。

最初はもっと制約と付けようとしたんだよ……。

つか考えたんだよ。

でも、説明文を書いてて分かりずらかったんだ。

だからいいや…といっそのこと制約なんて知るものかと。

原作でもカルトみたいな本物のチート能力者いるしいいよね?とか思っちゃったんだ。


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第9話

書いてて楽しくなってきた。

自分で言うのもなんだが、近々の執筆速度はいつもに比べて異常だと思う……。

感覚が戻ってきたかな。




 

なんだろう。

 

胸に大きな穴がぽっかりと開いた感じ…。

 

あの後、お母様を埋葬し……。

 

俺は、部屋の片隅で唯々座り込んでいた。

 

死んだらこんな苦悩からも解放されるのだろうか?

 

だけど…

 

「それだけは…絶対に出来ないな」

 

それをやったらお母様の死を汚すことになる。

 

継承した念の知識で分かる。あの能力は使う側も、使われる側も負担がでかい。

 

俺なんてまだまだ未熟なガキだ。正直、モグリの医者の愛用薬が無かったらそのまま死んでいてもおかしくない。

 

通常ならもう少し俺の成長を待って施すはずだ。それをこんなリスクが高い…一か八かの方法を取ったという事は…

 

「俺の思ってたより、調子が悪かったのかな…」

 

これ以上、悪化したら能力が使えなくなるほどに…。

 

自分の死期を早めてまで、俺に能力を継承させた。

 

なら……俺も

 

「引き継がなきゃな。後世に」

 

俺がお母様の望みならば。

 

目標が出来た事によって、瞳に火がともる。

 

身体に力が入る。

 

俺は立ち上がって…

 

「そのためにもまずは此処から逃げないと」

 

まずは、死亡フラグの回避だ。

 

正直、継承した能力があれば旅団を倒せる。

 

それほど、俺の爺さんの能力は凄い。

 

ただ…今の俺には圧倒的に経験値が足りない。

 

オーラの量、メモリ、能力を使うための条件は揃っており、使おうとすれば多分使える。

 

だが、あくまで多分だ。

 

知識としてどんな能力で、何が起こるかは知っている。

 

だが、実際に使ったことがない能力を土壇場で使うのは自殺行為だ。

 

それに爺さんの能力は凄いが致命的な欠点がある。

 

それは能力発動までの条件。

 

別に制約がきついわけじゃない。ただ、多少時間が掛るのだ。

 

発動すれば恐らく無敵。だが、今の俺にはその時間を稼ぐ術がない。

 

安心して時間を稼げる前衛が居れば話が別なんだが…。

 

だからこそ…当初の目的通りに俺は逃げる事にする。

 

取りあえず、家の中の物を強欲な小学生の巾着袋に詰めていく。

 

そして、一通りの準備を終えた後……。

 

「……ごめんよ。母さん」

 

正直、後ろ髪を引かれる思いがあるが…

 

俺は生まれてからお母様と過ごしてきた家に火を付けた。

 

それは俺が居た痕跡を消すためである。

 

旅団には居なかったと思うけど…もし俺のDNA情報などからレーダーのようなもので追跡が出来る念能力者が居たとしたら、居場所がばれるからだ。

 

まぁ、バレた所で態々追いかけてまで殺しに来るかどうかは疑問だが、念には念を入れるべきだ。

 

後は、俺の情報が漏れるとすれば接点のある人間からだが…正直、同族を殺すなんて事は俺にはできそうにない。

 

結局は見殺しにするので虫のいい話かもしれないが…自分の手を汚す勇気がない。

 

旅団にはパクノダが居るのでもしかしたら俺の顔くらいは割れるかもしれないが。

 

まぁ、居場所がばれる訳でもないし大丈夫だろう。

 

……大丈夫だよね?

 

いいんだ。どのみち俺には口封じなんて出来ないし。

 

っと、とりあえず人が集まってくる前に行くか。

 

 

 

 

……さて、これからどうしようかねぇ。

 

取りあえず里からは抜けてきた……と思う。

 

つか、どこからどこまでがそうなのかが分からない。

 

ついでに現在位置も分からない。森の中……。

 

適当に俺の家から同じ方向にまっすぐ歩いてきたわけだ。

 

前途多難である。

 

目下の予定は取りあえず、人がいる場所に行って衣食住を確保しなければならない。

 

一応、絶の修行の時に狩りをしてたから食料の確保は出来るはずだ。円を覚えた今なら格段に効率よく行えるだろうし、強欲な小学生の巾着袋があるから保存も効く。

 

寝る場所も、母さんから継承した幸福の青い鳥の鳥籠と鳥籠の幸福空間を使えば、そこそこマシな環境で寝れる。結局は野宿だが、雨風は防げる。

 

とはいえ、やっぱり人並みの生活がしたい。

 

それにひとつ手に入れなきゃいけないものがある。

 

それは、カラーコンタクトだ。

 

言うまでもなく緋の眼を隠すためである。

 

発動後は言わずもがな、発動前でもクルタ族という事がばれる可能性が……あるのかどうか正直分からない。

 

発動前のこの瞳の色がこの世界で普通なのかどうか…。

 

判断が付かないのだ。周りがクルタ族ばっかだったから。

 

とりあえずはカラーコンタクトを手に入れるまで、人前では目を細めていようと思う。

 

……自分でも馬鹿らしいとは思うが…ちょっとの我慢だ。

 

まぁ、いい。それは置いといて何はともあれ。ある程度な都会……町を目指さねばな。

 

同じ方向に走って行けば、街道なり、川なり、海なり……何かしらあるだろう。

 

街道があるなら道沿いに行けば何処かしら人がいる。

 

川があるならその流れに沿えば人がいる筈……川で洗濯をするお祖母さんとか

 

海があるならば、海岸沿いに移動すれば……多分人がいる。漁猟をしている人とか。

 

そう考え俺は歩き始めた。

 

まずはこの森を抜けよう。

 

森を抜けた先には…果たして何が待つのか。

 

出来れば街道がいいなぁ。多分人里に行くなら一番確実だ。

 

 

 

 

 

「……ジーザス」

 

別に前世がアメリカ人という訳でもないが思わず…口にした言葉。

 

つか、ちょっと懐かしさを感じる。

 

……現実逃避は止めよう。

 

適当に狩りをしつつ、俺は森を抜けた。

 

そして、目の前に広がるのは……。

 

荒れ果てた……荒野だった。

 

ええぇぇ!?いや、そりゃね。街道があるなんてそんなご都合主義は無いだろうとは思ってたよ。

 

だけどね。荒野……荒野って。

 

一気に食料確保が難しくなった。

 

森は良い。動物沢山、果物沢山、野菜沢山。

 

海や川もまぁ妥協点だ。昔の女王はこう言った。肉や野菜が無ければ魚を食べればいいじゃない。

 

でもなぁ、荒野って。

 

何があんの?テレビではサイとか鹿みたいなのとか…それを狙うハイエナとか狼とか居るみたいだけど……。

 

美味いのか?鹿はまぁ、食えそうだが。

 

水は問題ない。

 

雨が降れば補給できるし、最悪の場合は奥の手がある。って、奥の手じゃないか結構な頻度で使ってるし。

 

っと、そろそろストック無くなって来たし…やるか。

 

 

強欲な小学生の巾着袋から水瓶を取り出す。

 

ただし中身は普通の水ではなく、あるものが入っている。

 

取りあえず、その水瓶を置いて準備を始める。

 

「……っと、最近だんだんとコツがわかってきたんだよなぁ」

 

数分後、俺の眼は緋色に染まり。オーラの質も変化する。

 

そして、そのままその水瓶に向かい。練を行った。

 

暫くすると、ボコボコと水瓶から甘い匂いとシュワシュワと炭酸が弾ける音が聞こえ、黒い液体があふれ出してきた。

 

そう、俺の飲料水の確保方法は練である。

 

緋の眼の状態で行えば強化系のオーラも含まれている為、量が増えるのだ。

 

以前の水見式から度々、この練で変質した水…というか味はカルピ○ソーダだった…が飲みたくて行っていたこともあり。

 

飲み水の確保で真っ先に思いついた。

 

だが…

 

継承により俺のオーラの質が変化したのか……。

 

依然と反応が違うのだ。

 

強化系は水の量が増える。これは前と同じ。

 

放出系は水の色が変わる。これは前は白かったんだが、今は黒い。

 

操作系は葉っぱが動く。これはあんまり関係ないと思う。乗せてないから不明。

 

変化系は水の味が変わる。これも前と変わった。まぁ、甘くなるというのは前と同じ。

 

具現化系は不純物が現れる。これは前と同じ。多分これにより炭酸が生まれている。

 

特質系は上記以外の変化。これも前と同じ。俺の場合、水の温度が低くなる。ベストな冷え具合。

 

総合すると前はカル○スソーダだったのに。

 

一口飲んでみる。うん…懐かしい。

 

前世でよくファーストフードで頼んでいた。

 

「コ○ラだ…」

 

ペプ○なのか○カなのかまでは知らないが…味がそうなのだ。

 

個人的な好みから言えば、如何に冷えててもコー○は氷が無いと駄目。っていうスタンスだったんだが。

 

贅沢は言っていられない。冷えているだけいい。

 

温いよりマシ。常温よりマシ。

 

そんな感じで温くなる前にとっとと増やした○ーラをしまっておく。

 

ちなみに…緋の眼を使う前の変化は炭酸の抜けた○ーラに水の味が変わる。変化系の変化だ。

 

継承した所で系統は変化形のままらしい。

 

此れはホッとした。変わったら困る。

 

最も、俺もお母様も変化系。爺様は多分…特質系。変わるとしたら爺様の影響なのだが…。

 

つか、爺様が変化系じゃなくてよかった。もし、変化系だったら…うちの家系はきまぐれで嘘吐きばっかりという事になる。……根拠はないけど。

 

そんなアホな事を考えつつ、再び歩き始める。

 

歩き始めて暫くして。

 

俺は散々悪態を付いたが、森よりも荒野の方が良い所もあった。

 

それは、障害物が少なくより広い範囲で視界が確保出来ることだ。

 

つまり、何かがあったらすぐに気が付ける。

 

まぁ、そのおかげで取りあえず見える範囲は一面代わり映えのない荒野だっていうのが嫌でも分かったんだが。

 

はぁ…と一つ溜息を吐き。また歩き始める。

 

一体いつになったら着くのだろうか?




どうも…最近とみに暴走気味の作者です。

この辺りから書いてて楽しくなってきた。

パルプンテ~よりも読者が少ないので気が楽っていうのはあるかもしれない。

次話辺りで一回、タグ見直そうかと思っている。

原作キャラはクラピカ一人だけしか出ていないという罠。

それも一瞬だけ。

オリキャラ多数……は要らないよね?

何人か出したが初戦モブだし、メイン級はお母様位だし。


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第10話

なんか知らないけど読者が突然増えた。

……なんで?

昨日の3連続が何らかの化学反応を起こしたのだろうか……


 

荒野を進むことしばし。

 

ようやく町に着いた。

 

結構大きい街だ。まぁ、俺の住んでたところに比べると大概都会なのだが…それでもそこそこ栄えているように見える。

 

取りあえず家にあったお金でカラコンを購入する。

 

……何色がいいだろう。やっぱり黒かなぁ。

 

あまり色素が薄いと緋の眼になった時にカラコン越しに瞳の色が変わった事を察知されるかもしれないし。

 

カラコンを何セットか購入して取りあえず公衆トイレで装着する。

 

ふむ…前世からコンタクトなんてつけた事ないからつけるときは凄いビビったし、付けた後もなんか違和感があるが…まぁそのうち慣れるだろう。

 

さて…次は

 

「やっぱり金稼ぎかな。それに住居も……」

 

あまり手持ちはなしな。

 

そして、俺はその両方を一片に手に入れられる都合のいい場所を知っている。

 

それは天空闘技場。

 

此処で200階まで行けば相当な額のお金が手に入る筈だし、確か住居も用意されている筈。

 

正に一石二鳥である。

 

取りあえず、天空闘技場へ向かうための交通手段を調べに電脳ネットが使える店に向かった。

 

店員に使い方を聞きながらどうにか調べた所、天空闘技場へは飛行船で行けるらしい。

 

その為のチケットも電脳ネットから手配できることが分かった。

 

だが…支払いは口座からの引き落とし。

 

そういえばそうだ。今後生きていく上でも銀行口座は必要になってくる。天空闘技場のファイトマネーもそこに支払われるし。

 

そして、改めて口座を作り。そこに幾ばくかの残り少ないお金を預けて。

 

チケットを手配する。もう手持ちは殆どない。

 

だが、折角なのでグリードアイランドについても調べようとしたのだが……

 

「……まともな情報がないな」

 

やっぱり、ハンター専用サイトじゃないと駄目なのだろうか?

 

だが、一般人でも知り得るだろう幾つかの情報が入手できた。

 

バッテラとかいう大富豪が買いあさっている事とかも。

 

そして、ヨークシンのオークションで毎年何本か競売に出されている事も。

 

グリードアイランドはどうにか一本だけでいいから欲しいな。

 

いざという時の逃走手段に使えるし。

 

だって、発を行えば一瞬でグリードアイランドへワープできるんだぜ?しかも出るときは国内の好きな年に送って貰える。

 

グリードアイランド→離脱のコンビネーションでその手の能力が無くても瞬間移動が可能なのだ。

 

それにグリードアイランド内のアイテムにも興味あるし。

 

「ま、でも目下のところは生活基準を人並みにしないとな」

 

とりあずはグリードアイランドの事を考えるのは一旦止めて、俺は天空闘技場へと向う事にするのだった。

 

 

 

さてさて…

 

飛行船に揺られて、天空闘技場へと到着した俺は早速手続きをし、一回戦を迎えた。

 

「なんだぁ?こんなガキが相手かぁ?」

 

対戦相手はレスラーのようなガタイのいいおっさん。

 

よかった…ちょっと不安だったんだ。

 

念能力者と当たったらどうしようって。まぁ、その場合は速攻で棄権するが。

 

ふむ…どうするか。

 

取りあえず、住居が用意される100階までは速攻で行きたい為、瞬殺の方向で。

 

100階以降は段々と苦戦するようにし、200階手前で勝ったり負けたりを繰り返してお金を稼ごうと思っている。

 

方針はそんな感じだが。どうやって戦おうか決めかねている。

 

俺の戦闘経験はお母様との訓練のみ。しかも念能力込みの。

 

流石に非能力者に念を使うわけには行かない。殺しかねないし、万が一生き残っても念に目覚められたら問題になりそうだし。

 

まぁ、纏は使うけど…。

 

多分、普通にやれば楽々倒せる相手だ。だが、それでは何の意味もない。

 

何事もやるからには何らかの自分の経験になるようにしたい。

 

だから俺は模倣する事にした。

 

目を瞑る。

 

思い出すのはお母様の流麗な動き…そして相手の力を利用しての…

 

開始の合図と共に突っ込んできた相手の服を取り、そのまま地面に叩きつける。

 

「し、勝者クラン!!」

 

駄目だな。今のは力技で強引に投げに行ったに過ぎない。

 

むぅ…難しい。

 

「君は10階まで行きなさい」

 

「……あ、はい」

 

呆けていると声を掛けられたので言われた通りに10階へと向かう事にする。

 

それからの試合。

 

俺は相手の悉くをお母様とは雲泥の差の半ば強引な投げで沈めていき。

 

1週間で100階に到達し、個室を得た。

 

「ふぁああ…幸せだ」

 

久しぶりの布団。ふかふかのベットにダイブし俺は幸福に浸る。

 

里を出てからは野宿の毎日。

 

天空闘技場へ来てからも、泊まる金なんて無いので……公園などでやっぱり野宿。

 

なんだろう……やっと文明人としての尊厳を取り戻した気がする。

 

とりあえず今日一日はゆっくり休んで。

 

明日から試合と…念の修行を再開する事にしよう。

 

今までは中断してた。まぁ、系統別の修行で纏と練くらいは行っていたが。

 

だが、拠点を得た今…再開しても良いだろう。

 

お母様から託されたこの力を後世に継ぐ際に…俺自身念の練度を高めなければならない。

 

別に継承自体は子供さえ作れば可能だ。だが、しかしである。

 

爺様、お母様の念能力の練度に比べて俺はまだ未熟。

 

子供にお父さんの念はしょぼい…なんて思われてしまうかもしれない。

 

それは嫌だ。俺にも人並みのプライドってもんがある……。

 

だからこそ、俺は後世に受け継いでも恥ずかしくないように磨きを掛けねばならない。

 

それだけじゃない。これは俺の身を護る事にも繋がる。

 

この世界は危険と隣り合わせ。目下の死亡フラグであった旅団から逃げたとしても…俺が生きていくうえで、緋の眼がある以上、他の人間よりも狙われる可能性が高いのだ。

 

だから、自分の身を護る為の力がいる。

 

俺は町に出て適当な空き倉庫を借りる。

 

別に広さは無くてもいい。

 

自分で作るから。

 

緋の眼状態になり…

 

【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】

 

目の前に慣れ親しんだドーム状の結界を作り出し…

 

【鳥籠の幸福空間(ケージオブエンヴァイロメント)】

 

結界の中を操作する。

 

取りあえず重力は三倍、空気は通常の薄さの三分の一の四次元空間に。

 

時の流れは変えない。

 

何れも俺が受け継いだお母様の能力だ。

 

若干の寂しさを感じつつも、俺は結界の中に入った。

 

 

 

結界の中に入った俺は、その場に座り込み。自身の能力を把握する事から始めた。

 

爺様、お母様から受け継いだ能力を含めて…俺が使える念能力は現在6つ。

 

 

【強欲な小学生の巾着袋(ジャイアニズムポーチ!)】具現化系

 

【モグリの医者の愛用薬(ケミカル・オブ・ブラックジャック)】変化系

 

俺が覚えた能力。

 

【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】変化系

 

【鳥籠の幸福空間(ケージオブエンヴァイロメント)】変化系

 

お母様の能力。

 

何れも効果は分かっているし、お母様の能力は実際に使っているところも見たのである程度の使い方は分かる。

 

問題は爺様の能力。

 

【受け継がれる神様の特典(ネンハイチダイニシテナラズ)】特質系

 

俺に使われた念能力を継承する能力。此れに関しては今はいい。血縁者に使えない以上、今は使用不可だし。

 

……名前に若干のつっこみどころがあるがひとまず置いておく。

 

そして問題はもう一つの能力。

 

【永遠の中二病(エターナルオブドリーム)】特質系

 

……うん。もうちょっと何とかならなかったのだろうか?名前。

 

ま、まぁいい。重要なのは名前よりも中身なのだ。

 

 

とりあえず使ってみる事にする。

 

この能力は特質系の為、緋の眼状態じゃないと使えない。

 

先ほどの緋の眼の状態のまま使ってみる。

 

【永遠の中二病(エターナルオブドリーム)】

 

能力により具現化された本……というより、あんちょこが手に現れる。

 

別にこの本には殆ど能力がない。言うなれば能力を使う為に必要なものが記述されているというか…いや、使う際に必ずしも此れが必要かと言えば不要と言えるだろう。

 

暗記できれば。

 

「………」

 

パラパラと記述されている内容を眺め……そっと閉じた。

 

うん。予感はしてたけど…確信に変わった。

 

「爺様は…俺と同じ転生者だ」

 

あんちょこの中身の文字は見慣れた日本語、所々に英語、ドイツ語が混じっている物だったのだから。

 

【永遠の中二病(エターナルオブドリーム)】

 

その能力は唱えた詠唱の効果がその原作通りに発揮されるという物。

 

前提条件はない。例えば詠唱以外に何らかの条件が必要だった場合それは無視される。

 

必要なのはオーラと詠唱のみ。それで原作で本来の術者が使用する効果と同等の効果を発揮する。

 

……うん。

 

「こんなの俺みたいな転生者じゃないと意味分からないって」

 

第一、日本語なので詠唱が読めない。それに原作とか言われてもなんのこっちゃである。

 

再度、あんちょこを眺める。

 

其処には俺の知っている…詠唱もあれば知らない詠唱もある。

 

能力的にはこのあんちょこに載って居ないものも使えるのだが、肝心の詠唱を俺は覚えていない……つか、覚えてるやつがどうかしてる。

 

爺様は覚えていたのだろうか?

 

つか予測だが、爺様は転生時に何らかの能力を神様辺りから貰ったのではないだろうか?

 

受け継がれる神様の特典……この名前がまんまだし。

 

つか何この差。俺には何もなかったのに。

 

あれか?前世の俺の家が特にこれと言って神教って訳じゃなかったからか?仏教も齧ってたからか?どこの家も大半はそんなもんだろ。

 

……もういいや。

 

今日から修行と意気込んだが…なんかどっと疲れたので帰って寝る事にした。




うちの爺さんはチートだった物語。



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第11話

 

翌日、気を取り直して…能力を使ってみる事にした。

 

大体の効果はあんちょこの横に書いてあるのだが実際に使ってみないと…ぶっつけ本番は怖い。

 

んで、結果を言えば試してよかった。

 

能力が使えなかったのだ。

 

その原因も分かっている。

 

「こんなのすらすら言えるかーーーー!」

 

詠唱を間違えるのである。

 

あんちょこを見ながらとは言え、正確に読むのは至難の業だ。

 

俺は声優さんじゃねぇし。

 

なので…まずは普通のノートに詠唱を書き写し、音読をすることから始めた。

 

毎日、毎日、朝昼晩ぶつぶつと。

 

その際の念の修行は基本から応用を一通り繰り返し、系統別の修行は自身の能力の練度を挙げるべく薬を作り続けた。丁度、ストックも切らしちゃってたしね。

 

正直、念の修行よりも詠唱の方が精神的にきつかった。

 

俺はもう中二病は乗り越えていたのだ。

 

なのに此処に来て……あの暗黒時代に逆戻りだ。

 

まぁ、詠唱すると能力が発動する訳だから中二病じゃないのかもしれないが。

 

この練習を始めてから眠りが浅くなり、夢の中まで自分の音読が聞こえてくる事もあった。

 

なんか、別の病気に掛りそうである。

 

そんな苦難を乗り越え、どうにか間違えずに言えるようになった呪文を試してみる事にする。

 

 

―――

 

かれその神避りたまひし伊耶那美は

Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba

 

 

出雲の国と伯伎の国 その堺なる比婆の山に葬めまつりき

an der Grenze zu den Ländern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen.

 

 

ここに伊耶那岐

Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,

 

 

御佩せる十拳剣を抜きて

das er mit sich führte und die Länge von zehn nebeneinander gelegten

 

 

その子迦具土の頚を斬りたまひき

Fäusten besaß, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.

 

 

 

 

創造

Briah―

 

爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之

ここにあまつかみのみこともちて、ふとまににうらへてのりたまひつらく。

 

 

「……おぉ!?」

 

テンションが上がる。すげぇ。

 

唱え終えた俺の身体は炎に包まれていた。

 

だが、熱くもなく。服も燃えていない。

 

そう、今の俺は炎に包まれているのではなく炎となっている。

 

俺は腰を落とし、正拳付きの構えを取り…

 

「炎拳!!」

 

拳を付きだすと同時に炎を放出する。

 

ぶわっと一直線に放たれる炎。おぉぉ、感動的だ。

 

その後も炎を出しては形を変えてみたり、手から放して自由に動かしたりしてみる。

 

おぉ、自由自在だ!!

 

きゃっきゃと能力が切れるまではしゃいだ。

 

 

 

「……こほん」

 

誰が効いているわけでもないのに、わざとらしく咳払いをする。

 

我に返り湧き上がってきた羞恥心を誤魔化すためだ。

 

気を取り直して能力の検証を続ける。

 

今の能力の仕様でオーラの大体7割くらい持って行かれた。

 

やはり効果が高い反面消耗も激しいのだろう。

 

継承前の俺本来のオーラは今保有しているオーラの0.5割程度。

 

爺様とお母様のオーラは全て俺に継承されているわけで…。

 

生前、爺様がこの能力を問題なく使っていたとすれば…。

 

計算すると爺様が生前保有していたオーラって。

 

「化物かよ爺」

 

もはや妖怪の類ではないか?

 

まぁ、その能力はまんま俺が引き継いだのでそのままだと自分の首をも絞めかねないので考えないようにする。

 

まぁ、何はともあれ通常の状態でこの能力が使えるのは1回のみと考えていいだろう。

 

まだ他の詠唱で発動する能力も多分同じだろう。

 

燃費の悪さはあの能力の凄まじさを見れば仕方がない。

 

だが、問題は…。

 

「発動までに時間が掛りすぎるな」

 

しかも現時点では足が止まった状態で詠唱をしてどうにか成功する。

 

実際、あれほど長時間足を止めていたら殴られ放題だろう。

 

動きながら詠唱を完成させる必要がある。

 

まぁ、これは練習すれば恐らく可能だ。

 

だが、問題は今の俺の身体能力ではたとえ、動きながらの詠唱が可能だったとしても相手の攻撃を裁き切れないという事だ。

 

詠唱途中で喉を潰されたら終わり。そんな回りくどい事をしなくても、詠唱完成前に殺されてしまう可能性もある。

 

その点を踏まえて、今後の俺の修行は攻めよりも守りに重きを置くべきだろう。

 

俺のほかにもう一人……時間を稼いでくれる頼りになる前衛が居たら話は別なのだが……。

 

ない物を強請っても仕方がない。

 

 

 

 

天空闘技場に着て一か月が経とうとしている。

 

試合の方は150階~180階の間を行ったり来たりしている。

 

おかげで資金はがっつり手に入った。口座には見たとこもない桁数に達した数字が記されている。

 

念の修行の方も新たにメニューを構築し順調だ。

 

応用技である流を重点的に鍛え、系統別の修行では変→強→変→特→変。というローテーションで行っている。

 

具現化系の修行の代わりに特質系…あんちょこに記載されている詠唱の効果を一つ一つ確認している。

 

説明的にヤバそうなのは使っていない。

 

そして寝る前に堅の持続時間を延ばす修行をする。

 

こんな感じで念能力の向上を図っている。

 

そして念の修行の何処かで必ず緋の眼になるという訓練も行っている。

 

此れは緋の眼への変化の時間を短縮する事と持続時間を向上させるのが狙いだ。

 

まぁ、こんな事をして効果があるのかどうかは分からない。

 

だが、効果が発揮された場合、格段に戦術の幅が向上する事だろう。

 

理想はナルトの写輪眼みたいな感じで緋の眼を運用する事なのだが。

 

……大丈夫だよね?使っても失明とかしないよね?

 

それが心配だ。

 

ま、まぁいい。取りあえず上記の修行を今は重力五倍、空気の薄さは重力五倍が相当辛いので、変えていない。そして、時間の流れは若干変えている。

 

大体、こっちの一時間が中では一日に当たるようにしている。

 

その分、年は取るが。出来るだけ早く自身を護れるだけの状態にしなければならない。

 

老けてもグリードアイランドで魔女の若返り薬を使う事を画策しているので、あまり気にしていない。

 

最初は魔女の若返り薬の為にゲームクリアが必要か?結構大変だな…と思ったのだが、別にクリアして持ち帰りのカードに含めなくても、グリードアイランドの中でカード化解除して使えば良いんじゃね?という考えに至ったのだ。

 

なので、並行してグリードアイランドの情報も集めている。

 

その結果、9月にあるヨークシンのオークションでグリードアイランドが出品されるという情報を入手した。

 

今は6月だから…3ヶ月後。

 

買うなんていうのは当然無理なので、やはりバッテラ氏からパクろうと考えている。

 

爺さんの能力を使えば、襲撃は容易だ。

 

しかも爺さんの能力は奇襲で絶大な効果を発揮する。

 

なぜなら、詠唱完了状態で先手が取れるから。

 

それにバッテラ氏にはそこまで強い能力者は付いていないと思う。

 

フィンクスとフェイタンにあっさり奪われたこともそうだが。

 

そもそも、そんな強い能力者がいるならグリードアイランド攻略をしていても不思議じゃない。

 

でも、バッテラ氏の下で一番強いのは多分ツェズゲラさんである。

 

それまでは天空闘技場でこれまで通り、金稼ぎと修行をしようと思う。

 

あと、考えておくべきなのはハンター試験か。

 

別段ハンターライセンスを取らなきゃいけない理由は無い。

 

天空闘技場である程度…豪遊しなければまぁ暮らしていけるだけの金を稼いだ以上、ライセンスを売る必要もないしな。

 

だが、その恩恵は魅力的だ。

 

様々な特権に加えて…一番俺が欲しいのは。

 

ハンター専用サイトへのアクセス権だ。

 

情報収集するならば、このサイトへのアクセスできるメリットはかなりデカい。

 

今後、何があるか分からない。何かあった時に必要な情報を収集するための環境はあった方が良い。

 

受けるならばゴンと同じ時期に受けるのが合格率が高いだろう。何故ならば試験の内容を知っているのだから。

 

いちおう忘れないように何年か前にノートに原作の覚えている限りの内容は書き留めている。

 

そのノートを取り出して内容を確認する。……うん。取りあえず試験内容は網羅してあるな。

 

だが問題はそれが今から何年後か……時系列が分からない。

 

流石に第何期の試験とか…そんな事は覚えちゃいないのだ。

 

あともう一つ問題がある。これは受験者に関してである。

 

注意すべき人物に関してちゃんとチェックが入っていた。薄れている今の俺の記憶でもこいつらの名前は覚えている。

 

注意すべきは3人。

 

まずは言わずもがなヒソカ……。あの変態である。

 

俺にはそっち系の趣味は無いうえに、戦闘狂でもない。

 

目を付けられたら速攻で逃げの一手だ。

 

次はイルミ。

 

こいつはヒソカ程、好戦的じゃないが…やっぱり危険だ。

 

それにこいつもどっかオカシイ。つか、ブラコンすぎて気持ち悪い。

 

そして、最後の一人。こいつは場合によっては上記2人よりもやっかいな相手だ。

 

「へびつかい……バーボン」

 

あの忌々しい生物を操る。俺からすればこいつも精神異常者だ。

 

ある意味俺の天敵とも呼べる相手だろう。

 

こいつを殺してくれた女……ポンズには感謝してもしきれない。

 

原作通りならポンズに殺されてしまうとはいえ、関わり合いにはなりたくない。

 

 

「……ふむ、ずらすか」

 

それらの点から如何に試験内容を知っているとはいえ、避けるのが無難と言える。

 

今年申し込んで、来年受験すれば流石にゴン達と時期がズラせるだろう。

 

取りあえず申し込みはしておこう。

 

 




声優さんてすごいよね?

噛まず、トチらずすらすら言えるんだぜ?

とりあえず連休も終わりましたね。

連休中かなり書いた……。

此処からは執筆速度が少し低下するかも。

いちおう、今の仕事は定時に帰れてるから前よりは時間があるので今のうちに頑張って、書けるところまで書きたいと思う。


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第12話

ランキング効果すげぇ。

あっという間にアクセスが1万を超えた。

連載当初は当分かかると思っていたんですがねぇ。

感謝、感激、ありがとうでございます。




 

さてさて…

 

天空闘技場に着てからそろそろ三ケ月が経とうとしている。

 

今の俺は190階クラス。

 

一回くらい200階で念能力者との戦闘経験を積んどこうかなとも思ったんだが…試合内容を見て止めた。

 

念は使ってはいるが明らかに格下。

 

四大行も覚えてない奴らが居たりする。纏と発だけで戦っている奴らとか。

 

ただ練を使っていないだけかもしれないが……。

 

発を見てもそこまで脅威を感じる能力者は居なかった。隠してるのかもしれないけど。

 

そもそもこんな衆人環境の中、念を使いたくはない。

 

これらの理由から此処で戦う事は止めたのだ。

 

そしてそろそろヨークシンへ向かおうと飛行船を手配した。

 

じゃないとオークションへ間に合わないからね。

 

そんな訳で…

 

「さらば、天空闘技場」

 

俺は此処を後にした。

 

 

 

 

 

そしてやってきたのはヨークシン。

 

以前とは違いお金があるのできちんとホテルに泊まる。

 

グリードアイランドをパクるタイミングはバッテラ氏がグリードアイランドを落とし、車で商品を移動している時であろう。

 

旅団の二人と同じ手段を取らせてもらう。一番警備が甘いと思うし、ないよりプロの盗賊だ。ノウハウをまねるのは悪い事じゃない。

 

まぁ、そこまであの二人が計算してたかと言われると自信はないが。

 

そして注意すべき点は俺の正体を知られないようにすること。

 

報復でゾルディック家に暗殺の依頼をされたら洒落にならない。

 

金持ちなので依頼するだけの余裕はあると思うし。

 

取りあえず姿を隠すためのローブと、オークション会場に入る為のスーツを買ってこよう。

 

 

 

 

オークション会場にて、バッテラ氏がグリードアイランドを競り落とすのを見届け。

 

絶を使いながらバッテラ陣営の動きを伺う。

 

バレてはいないようだ。

 

つか、警戒心薄いな……。

 

そしてグリードアイランドを積み込んだ車を特定し、ローブを纏って、その車を追跡しながら…詠唱を開始する。

 

ーー

 

私が犯した罪は

War es so schmählich,――

 

 

心からの信頼において あなたの命に反したこと

ihm innig vertraut-trotzt’ ich deinem Gebot.

 

 

私は愚かで あなたのお役に立てなかった

Wohl taugte dir nicht die tör' ge Maid,

 

 

だからあなたの炎で包んでほしい

Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer;

 

 

我が槍を恐れるならば この炎を越すこと許さぬ

Wer meines Speeres Spitze furchtet, durchschreite das feuer nie!

 

 

 

創造

Briah―

 

 

雷速剣舞・戦姫変生

Donner Totentanz――Walküre

 

 

バチバチっと雷光が走る。

 

今の肉体は雷に変換されている。

 

それにより、雷の速さでの移動が可能となり。

 

一瞬、雷光と共に前方の車を追い越し…。

 

目当ての物を奪うと共に……。

 

その雷の余波で、車は炭化し。

 

そのまま振り返らず一気にその場を脱出した。

 

 

 

「…案外あっけなかったな。」

 

能力を解除し、手元のグリードアイランドを確認してみる。

 

念でガートされているし、直接攻撃したわけでもないので大丈夫だとは思うが、壊れていないか確認するためだ。

 

うん、問題なさそうだな。ちゃんと動いている。

 

取りあえず強欲な小学生の巾着袋に仕舞っておく。

 

しっかし…

 

「初めてこの手で人を殺したんだけど……何も感じないな」

 

俺はどこか壊れてしまったのだろうか?

 

正直、初めての狩りでこの手でウサギを仕留めた時の方がよっぽどきつかった。

 

まぁ、同族を何人も見殺しにしておいて、今更…見ず知らずの赤の他人に対してショックを受けるのも変な話か。

 

さて、ひとまず部屋に戻ろう。

 

当面の目的も達したし、明日からはちょっと息抜きをしよう。

 

折角なんで、ヨークシンで買い物をしようと思う。

 

その後は、当座の目的であるグリードアイランドはあっさりと手に入った訳だが。

 

直ぐにでも行こうかと思ったが、ハンター試験に申し込んでしまった。

 

試験は来年。多分、大丈夫だとは思うが万が一、グリードアイランドから出られなかった場合、試験を見送る事になってしまう。

 

別段、急いでいる訳でもないのでちょっと観光でもしてみようかと思う。

 

行きたい国もあるしな。

 

それはジャポンである。

 

転生したとはいえ、前世は日本人。

 

お母様は料理は上手かったが……和食は流石に出てこなかった。

 

そう、俺は和食が食べたいのである。

 

寿司、すき焼き、ばんざ~い。

 

ついでに富士山、芸者……あるかどうかは分からんが。

 

和食を買えるだけ、買い込んで強欲な小学生の巾着袋に仕舞っておくのである。

 

此れで、何時でもどこでも和食が食べれる。

 

……ビバ。念能力。

 

そんな訳でっと。

 

ちゃちゃっと飛行船の日程を確認して、チケットを手配する。

 

行くぜ、ジャポン!!

 

 

 

 

「幸せだぁ……」

 

ずずず…とお茶を啜りながらそう呟いた。

 

俺は今、ジャポンのとあるお寿司屋さんに居た。回って居ないので結構お高い。

 

あれから、ヨークシンで服や携帯電話を買ってからジャポンへと移動した。

 

携帯電話はとりあえず買ったはいいが、電話帳を開けば…一面綺麗な真っ白。

 

考えてみれば、連絡を取る相手なんておらず。

 

若干、へこたれたが…それでもいずれ、番号を交換する際には必要だと自分を鼓舞し、

そのチャンスが何時になるか分からないので充電は怠っていない。

 

まぁ、それは置いておいて。

 

ジャポンについた俺はお腹もすいていたこともあり、早速寿司屋に入った。

 

店の大将は平然と生魚を見事な箸使いで食べている、見た目外人の俺に驚ろきつつも、見事なプロの技で次々とお寿司を握ってくれた。

 

ネタに関しては前世の寿司ネタとほぼ変わらなかった為、安心して注文できた。

 

そして思う存分お寿司を堪能し、お茶でまったりしているところだったりする。

 

ふむ、やはり永住するなら日本かな。

 

将来…嫁さんを貰ってこの国に一軒家を立てるんだ。

 

そんな妄想をしていると……。

 

「いや~お客さん。良い食べっぷりだねぇ」

 

「いやいや、大将こそ。流石の握り。滅茶苦茶美味かったよ」

 

大将に話しかけられ、そのまま世間話をする。

 

「ジャポンへは観光で?」

 

「うん。この国の料理は美味しいからね。あ、大将。よかったらおすすめの料理屋教えてくれないか?」

 

「いいけどよ。うちにもまた来てくれよ?」

 

「寿司が食いたくなったらまた来るよ」

 

そんな話をしつつ、色々お店を教えて貰い。

 

礼を言って、店を後にした。

 

 

店を後にした俺は今日宿泊する宿を確保し、ブラブラと散歩をしていた。

 

道の先々で桜の木を見かける。

 

惜しむべきは今の季節が夏ということだ。

 

今度来るときは春に来て、満開の桜を楽しむのもいいな~~。

 

そんな事を考えながらのんびり歩いていると…

 

「き、きゃぁああ!!」

 

「……は?」

 

目の前でひったくりが発生した。

 

びっくりして一瞬動きが止まったが、半ば本能的に追いかける。

 

……はて?何故俺は後を追いかけているのだろう。

 

考えるよりも先に体が動いていた。

 

そして、もう一人……犯人を追って駆ける女性…というよりも少女が居た。

 

俺よりも先を駆けていた少女。俺の方が速かった為か何時の間にか並走する形になる。

 

そこで初めて顔を伺う。

 

意思が強そうな勝気な瞳。

 

烏の濡れ羽色といってもいいような長く美しい黒髪。

 

陶磁器のような白い肌。

 

将来、美女となる事を確約されたような美少女である。

 

年齢は俺と同じくらいだろうか……戸籍年齢上の。

 

俺は修行で時間を操作して居た為、戸籍上の年齢+3歳分年をとっている。

 

まぁ、とりあえずだ。

 

少女は和服姿で追いかけており、走りにくそうだ。いや、そんなそぶりは見せてないから断言はできないが。

 

でも、彼女が追いかけるよりも俺の方が速く走れるだろう。

 

そう考えて、走るペースを上げる。

 

伊達に高重力下の酸素が薄い環境で修行してした訳では無い。

 

「あ…」

 

少女が短く声を出したのが耳に聞こえ、

 

そして少女を追い越した……かと思いきや…

 

「なっ!?」

 

少女もペースを上げたのかまたしても並走する形になる。

 

横を見れば勝気な瞳は俺の姿を一瞬、確認し再度犯人へと視線を戻す。

 

差は徐々に詰まっている。

 

犯人は障害物の多い細かい道を走っているので半ば障害物競走染みている。

 

此処までやって逃がすのも癪なので、円を使用する。此れで姿が見えなくなっても追跡は可能だ。

 

その分、俺も全力で走れないのだが…。

 

つか、速いよ。犯人といいこの少女といい。

 

絶対に一般人じゃない。

 

けど、ちょっとイラッとくる。

 

全力ではないといえ、あの厳しい修行をしてきた俺と同じ速度だと?

 

………上等だ。

 

逃げられるものなら逃げてみろ。

 

着いてこられるものなら着いて来い。

 

さらにペースを上げる。

 

最小限の動きで障害物を避けながら…犯人との距離が見る見るうちに近づいてくる。

 

ふ、どうだ、逃げ切れまい。

 

俺は勝ち誇った顔をし、もう一人の競争相手である少女の位置を…って、

 

「……マジかよ!?」

 

後方に居るかと思いきや、少女はまた隣に居た。

 

その表情には余裕はない…だが着いて来る。

 

少女と視線が合い。少女は笑った。

 

その笑みの意味は分からない。

 

だけど……。

 

いいだろう。

 

俺は円を解く。こっからは正真正銘の全力疾走だ。

 

何処まで着いてこれる!?

 

 

結局…

 

俺と少女のデットヒートは……

 

犯人を追い越して。

 

無理が祟った少女が転倒するまで続いた。

 

 

 




原作組もいないので、

特にイベントなどもなく。

天空闘技場、ヨークシン終了。

グリードアイランドもあっさり強奪完了。

主人公が他の念能力者を低く見ていますが、強さの基準がお母様だからです。

発が使用不可能とはいえ、爺様の念を継承したお母様です。



さて、今回2つ目の詠唱を出しました。

まぁ、元ネタで詠唱しているのは同じ人なんですが…中の人的に。

個人的にベイ中尉やシュライバーが好きなので能力を出したいんですが…

使い勝手が難しいです。特にベイ中尉。

他の…黒い人とかなら真っ先に思いついたのですが…

キメラアント編で。

ネテロ会長の攻撃を受けてもピンピンしていた王様ですが、黒い人の能力なら倒せます。

だが、当たれば。っという条件が付きますが。

出来るだけ多くの能力を出したいなとは思うのですが、今回出した能力はちょっと贔屓してちょくちょく出そうかと思っています。

ベアトリス…好きなんで。

ではでは。

ストックが切れたので、更新間隔が空くと思います。

申し訳ありませんがお待ちくださいませ。


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第13話

活動報告でも述べたけど。

データが消えるという危機に遭遇した。

怖いので書き溜めはやめて、投稿しようと思う。

データが消えるという現象は半ばトラウマになってるんだよなぁ。

幼少の頃…ドラクエ5で。

何回消えたことか…。

あのBGMもそうだよ。あれ、不吉すぎるだろ。


あ、話を戻しますが長くなったので2話に分けました。


 

「どうしてくれるのですか?犯人を逃がしてしまったではないですか…」

 

少女が叱責をする。

 

言われてもしょうがない。

 

当初の目的を完全に忘れて犯人そっちのけで追いかけっこをしていたんだ。

 

だけど…

 

「いや、君もだよね?」

 

それはこの少女にも言える話だ。

 

「し、仕方がないではありませんか……あんなこれ見よがしに私の少し前を走られては」

 

負けるのは嫌なので追いかけざるを得ないと少女は言う。

 

「まぁ、でも結局は俺の勝ちだけどね」

 

「……はぁ?何を言っているのです?勝負は引き分けでしょう」

 

は?何故そうなるんだ?

 

「どちらも犯人を捕まえられなかった以上。引き分けです。」

 

いやいや、単純にどっちが速かったかじゃないの?

 

転んで、怪我して走れなくなった君の負けだろ?

 

そう思ったが口に出すのをなんとか堪えた。

 

この子はあれだ…所謂負けず嫌いという奴だ。

 

しかも相当厄介な。

 

仮に明確な勝負を改めて行い、俺が勝ったとしても勝ち逃げを許さず。

 

その時は自分の負けを認めても、最終的に自分が勝つまで止めないタイプだ。

 

「あぁ、じゃあ引き分けだな。んで、大丈夫か?」

 

あの速度から派手にすっ転んだからなぁ……。

 

「だ、大丈夫です」

 

そう強がる少女。だが…

 

「……なら、立ったらどうだ?」

 

「た、立ちます。立ちますとも……ほ、ほら立ちましたよ」

 

よろよろと立ちあがる少女。

 

ただし、左足一本で。

 

さらに血で白い靴下が赤く染まっている。

 

ったく。

 

「なんでそんな無理するのさ」

 

言いつつ、ちょんと少女を小突き、体制を崩させた後そのまま、抱きかかえて、地面に降ろす。

 

「な、何をするのです!ま、まさか私の身体に欲情して……」

 

なにやらブツブツと被害妄想染みている少女を無視して、怪我の具合を確認する。

 

骨は…大丈夫そうだな。捻挫と後はあちこち傷だらけだな。

 

う~ん。まぁいいか。久々に見た美少女だしな。……まぁ、美しさは母様には劣るが。

 

【モグリの医者の愛用薬(ケミカルオブブラックジャック)】を発動させる。

 

この能力で変化できる薬の種類は全14種。それぞれ薬効が違う。

 

区別化の為、薬効ごとに名前を付けている。

 

そして、今回変化させるのは。

 

ありとあらゆる傷を治す。すごいきずぐすり

 

肩凝り、捻挫などに聞く。サロンパァァス

 

この2種類。

 

順番に患部に振りかける。

 

すると…

 

「なっ、痛みが…」

 

見る見るうちに腫れが引き、傷が塞がる。

 

元々、俺のこの能力は継承前は此処まで効き目は無かった。

 

精々、市販の薬よりも治りが速いくらい。

 

しかし継承後は変化系だったお母様のノウハウを引き継ぎオーラの量が増え、一回能力を使う際に使用するオーラの量を増やしたせいか。

 

格段に効き目が向上したのである。

 

「此れでもう立てるだろ。」

 

「な、何をしたのですか!?」

 

驚く少女を改めて、見てみる。

 

あれ…

 

この子…もしかして念を知らない?

 

……マジ?それなのに俺に着いて来れたの?

 

いや、オーラは走る際に使ってなかったけどさぁ。

 

「あー…えっと…ち、超能力?」

 

く、苦しい……

 

「……超能力ですか。確かに和尚も幽霊が見えるとか仰っていましたし。ボケが始まってしまったのかと戦々恐々して信じて居なかったのですが、現実に私の怪我が治りましたし…。世の中は不思議な事で溢れていますね」

 

信じたーーー!!なんだこの子。見た目は美少女なのに実は残念な子なのでは?

 

「あ、えっと…できればこのことは内緒にしてもらうと助かる。ほら下手に知られるとさ……色々と」

 

「そうですね…心無い者に知られれば…これほどの超能力です。我が物にしようとする輩も出てくる事でしょう。分かりました…他言はしません。」

 

「じ、じゃぁ。俺は此れで…」

 

そそくさと去ろうとする。あまり関わりあいにならない方が良い。

 

だけど…

 

がっしと腕を掴まれる。

 

「待ってください。まだお礼が住んでいません。受けた恩にはしっかり報いるのが…シラヌイの家の家訓です。」

 

知らないのか?美少女からは逃げられない。

 

 

 

 

無駄だと思いつつも犯人を捜しながら道中を歩く。

 

そして…少女。名をオウカ・シラヌイ嬢に案内されたのは和風建築の一軒家。

 

豪邸…とまでは行かないが、広い庭に道場まで付いている。

 

かなり裕福そうな家に見える…が……。

 

「あ、靴はまだ脱がないでください。床がささくれてて危険ですから」

 

思いのほか建物が古かった。

 

確かに…よく見れば結構年季が入った建物だ。

 

しかし補修もままならんとは……。

 

っとと、あんまり不躾に見るのも失礼だな。

 

そう考え、きょろきょろするのは止めて少女の後に大人しく続く。

 

「ととさま、かかさま、ただ今帰りました。」

 

この先は畳だからと靴を脱ぐように言われ、その靴を脱いでいるとオウカが部屋の外から声を掛け、一寸待ってから両手で静かに襖を空けた。

 

そして中にはダンディーなお髭を持ったおっさんと、黒髪を結い上げた着物が似合う女性が出迎えてくれた。

 

その女性に息を飲む。

 

自己主張を忘れない豊満な乳房にキュッと引き締まった腰…安産型のお尻。

 

優しそうな瞳は温和な雰囲気を醸し出し、左の目元には泣き黒子。

 

錯覚か?

 

藤の色をした和服なのに…黒い…喪服に一瞬見えた。

 

な、なんとういう俺の理想の未亡人。

 

ど、どストライクです。

 

夫が居るから未亡人じゃないけど……で、でもでも。

 

そんな風に目を奪われ、固まっていると…

 

「…かかさまを邪な目で見るな」

 

隣にいたオウカにどつかれた。

 

そんな俺達を尻目に中の二人は…

 

「さ、サクヤ!サクヤは何処だ!!」

 

「先ほどからずっと隣にいますわよ」

 

「お、おおお、おおおオウカが男を釣れてきた。じゃない…連れてきたぞ!」

 

「そのようですねぇ。とっても綺麗な男の子……オウカったらメンクイだったのね♪」

 

「な、ななな何を落ち着いている!?は、はやく結納の準備だ!!」

 

「あらあら」

 

……なんか不穏な事を言っているぞ?

 

「見た目はあんなにも可憐な少女に育ってくれたのに…オウカときたら剣以外に興味を持たず…男友達はおろか、女友達ですら殆ど居なかったんだぞ!?はっきり言って、剣以外に取り柄がない娘なんだぞ!?」

 

ひ、ひでぇ…。父親の余りの言葉に唖然とする。そしてプルプルと顔を赤く染めながら震えるオウカ。

 

「分かっていますよ。お料理は材料を消し炭にしますし、お洗濯をすれば衣類をボロキレに……お掃除を任せたら逆にゴミが増える始末…」

 

ま、マジか?ちらりとオウカを見る。俯いてしまい。その表情はうかがえない。

 

だが、耳まで赤くなって来て…震えも一層増す。

 

「うちは一人娘だ。剣一筋で見合いをしようにも隣近所や親類の男どもが敬遠してしまっているオウカだ」

 

「やはり、最初のお見合いで真剣を抜いたのが悪印象を与えてしまったのでしょう」

 

拳を構えるオウカ。やはり震えている。

 

あぁ、八つ当たりは勘弁してね。殺るなら回れ右だ。

 

「あぁ、婿の為り手が見つからない今、オウカの代でシラヌイ流剣術もシラヌイの血も絶えてしまうと…そう危惧してたところにだ…男を連れて帰ってきたんだ!いいか?婿殿を絶対に逃がす…へぶっぅ!!」

 

「……今、この手に刀がない事を幸運に思う事です」

 

は、速ぇ。

 

神速の踏込。

 

一瞬姿がぶれたように見えたぞ。

 

先ほどからえらい言いようで、見た目のダンディーさが欠片も無くなったおっさんは、オウカに殴られ、畳に沈み。

 

「わ、私は夕飯の支度をしてくるわね」

 

母親の方はそそくさと部屋を去って行った。

 

え…えっと…

 

「クラン…此処には老害どもが居ます。道場の方へ行きましょう」

 

いや…老害って

 

実の父親をKOした拳を見せられ、無表情でそう告げられ、断る勇気は俺にはなかった。

 

 

 



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第14話

突っ込みどころは多々あると思う。

だが、歩みは止めない。

神の一話は俺が極めるんだ。

どんな形にせよ。完結……とはまでは行かないかもしないが。

原作には入って見せる。

この作品でなくてもよい。

最終的に…1話……1話だけでいいから。

アニメでいう神回……のような素晴らしい話を書いてみたいものである。


 

だけど…

 

「どうしてこうなった?」

 

連れてこられた道場。

 

その中央で俺とオウカは木刀持って相対していた。

 

「第二ラウンドです。足の速さは残念ながら引き分けに…引き分けに終わってしまいましたから」

 

二度言うな。つか、オウカ自身負けを認めてるんじゃないだろうか?

 

つか…

 

「剣で勝負って……ちょっと卑怯だろ」

 

どう考えてもオウカが有利だ。まぁ、念を使えば話は別だが…

 

「そうですか?あなたならば大丈夫だと私の勘が言っています。よく当たるんですよ?それにクラン…あなたには強者が持つ独特の気を感じます。」

 

……それって念の事だろうか?念を知らないのにオーラは感じ取っている?

 

念を知らず、オーラを見る事が出来なくても念能力者のオーラを感じる事が出来る奴が居る。

 

つか、ある程度の生存本能がある奴なら感じ取ることが出来るのだが…

 

「行きますよ…」

 

言うや否やの踏込!

 

咄嗟の判断で木刀を捨て、腕で受ける。

 

振りなれていない木刀では防御が間に合わないと思ったからだ。

 

その結果…

 

「…ぐっ」

 

嫌な音がし、受けた腕の骨は砕かれていた。

 

……おいおい、マジかよ。

 

堅は使っていないとはいえ、纏は使っているんだぞ?

 

なんのオーラの籠っていない木刀の一撃で此処までのダメージを受ける理由が分からない。

 

幾ら鋭く、重い一撃でも…それでもオーラが籠っていない状態でオーラを纏った身体に傷をつけるのは難しい。

 

「…駄目ではないですか。木刀を捨てては」

 

呆れたように言うオウカの姿を伺う。

 

やはり纏は使用していない…だが……

 

「なっ!?」

 

木刀が薄らとオーラで覆われている。周を使っているのだ。

 

ちっ、油断した。

 

纏を使っていなかったせいだ。確かに意図的に纏を使わないという事は出来るし、纏を使用している居ないで念能力者を判断するのは聊か早計だったかもしれない。

 

【モグリの医者の愛用薬(ケミカルオブブラックジャック)】

 

能力を使用し骨折を治す。

 

今回変化させるのは名称ホネナオール。骨折全般に効く薬だ。

 

「……そうでした。あなたには超能力があるのでしたね」

 

白々しい。

 

「もう誤魔化さなくていいよ。まんまと騙された。」

 

一本気な…嘘がつけなさそうな性格だと思っていたが、とんだ食わせ物だ。

 

「騙すとは人聞きの悪い事を言いますね。そもそも何の事です?」

 

「念だよ。知ってるんじゃないか」

 

そうと決まったら、こっちもマジだ。

 

オーラを爆発的に開放し、堅を行う。

 

そして、増幅したオーラの3割を目に集中させ、凝を行う。

 

「もう隠さなくてもいい。何が狙いか分からないけど…」

 

流石に頭に来た。

 

基本はヘタレで逃げ腰な俺だけど…

 

此処までコケにされたら黙っちゃ置けない。

 

それに、念を見たところ俺よりも練度は低そうだ。

 

だからと言って油断はしないが……能力次第で優位はあっさりひっくり返る。

 

目下、俺が一番危険視しているのは操作系の能力者だ。

 

なんの条件で自身が操作されるか分からない。

 

隠を警戒して凝を使い、相手の様子を伺ったところで…

 

異変に気が付く。

 

「あ…あ……ああ…」

 

顔を真っ青にし、ブルブルと震えるオウカ。

 

俺の堅に対して、いまだに纏を使っていない。

 

これは自殺行為だ。

 

堅は練を維持する応用技。つまりは今の俺は通常よりも遥かに多いオーラで全身を覆っている。

 

防御力は言うまでもないが、この状態では攻撃力も通常より向上している。

 

そんな状態なのになんら対策を講じていなのだ。

 

それどころか俺のオーラに当てられつつある。

 

まさか…

 

「お前…本当に念を知らないのか?」

 

俺の問いにゆっくりとだがオウカは縦に頷いた。

 

……マジか?

 

ならさっきの周はなんだ?

 

………もしかして。

 

此処で一つの考えが浮上する。

 

念能力者の中にはそれと知らず念を使っている人間が少なからず居る。

 

世間一般では天才とかそれこそ超能力者とか言われている人種だ。

 

念の修行は当然しておらず、基本の四大行うち発のみを使っている人間も居たりする。

 

代表的なのでいえば、占い師であったネオン・ノストラードがそれに当たる。

 

オウカも念を知らないが…発……というか周を無意識のうちに行っているのではないか?

 

そんな仮説が浮かんだ。

 

つか可能なのか?

 

周は応用技だ。基本技を覚えていない状態で使うなんて…

 

まぁ、実際に周は使ってるんだ。本当に念を知らなかったんなら可能なのだろう。

 

っとと、ヤバいな。

 

そこで、堅をしっぱなしで無意識に殺気の籠ったオーラでオウカを威圧していたことに気が付き、堅を解除する。

 

念の為、円は使用して置く。

 

俺の回避が間に合う範囲の円だ。

 

「あ~~そろそろ止めにしね。色々勘違いしてたみたいだしな。怖かったろ?」

 

周を使っていたとはいえ、防御力からみれば殆どゼロに等しい。

 

微弱なオーラを浴びただけでも大怪我しかねない。

 

「こ、怖くはありません。こ、これは…む、武者震いです!!」

 

「いや、涙目になってるからな」

 

ふ~む。どう見ても演技には見えんな。

 

俺の指摘にゴシゴシと目元を擦るオウカを見てそう思う。

 

「そ、そんな事より、またネンとか言っていましたね?それにあの威圧感。……何か隠していますね?」

 

「い、いや……別に…ほ、ほら俺、超能力使えるからさ」

 

「……」

 

ジト目で見られる。

 

……はぁ、正直、迂闊だったかな。

 

さて…どうすっか。

 

このまま黙って居るべきか…でもなぁ。

 

「なぁ、一つ聞いていいか?オウカは最近、立ち合いとかはしてるのか?」

 

「なんです?藪から棒に……」

 

「大事なことだ。教えてくれないか?」

 

「まぁ良いでしょう。ここ数年…立ち合いなどはせず、一人で剣を振るっていました。」

 

「あのお父さんは?」

 

「父は怪我のせいでもう剣は握れない身体になっており…立ち合いなどは…」

 

ふむ…間一髪だったわけか。

 

あの自覚がない状態で立ち合いをしたら…非念能力者はひとたまりもない。

 

下手すりゃ稽古で死人が出かねない。

 

当面の目的は果たしたし…。

 

ハンター試験まで時間はあるしな……。

 

何より…オウカは性格こそちょっと残念なところはあるが…

 

貴重な黒髪和風美少女だしなぁ。

 

悪い奴には思えないし…

 

それに体術的には俺よりも遥かに上にいるオウカ。

 

念を覚れば結構な使い手になる。

 

組み手を行えば、俺の不足している対人戦闘の経験値もなるだろう。

 

「分かった。教えてやるよ念について」

 

取りあえず基本的な事を教えていく。しかし…説明を終えたところで

 

「信じられませんね」

 

まぁ、いきなりオーラだのなんだの言われてもそうだろうね。でも…

 

「う~ん…ほら、オウカの怪我が治ったろ、あれは俺の念能力だ。普通じゃありえないだろ?」

 

「そ、それはそうですが…それでも私にそんな力があるなど。」

 

超能力は信じたのにとも思ったが…そういう事か。

 

自分にも力があるという事が信じられないのか。

 

じゃぁ、自覚して貰おうか。

 

「ちょっと着いてきて」

 

俺はオウカを連れて、道場から庭へと移動する。

 

「あの木にさっき俺に放ったような一撃を打ってみて。ただし、直前で寸止めしてコツンっと軽く小突く感じで」

 

「……あれをですか。正直、あの技は体力の消耗が激しいのですが」

 

「何?やっぱりあれなんか特別な一撃だったの?」

 

「あれは剣を己の一部とした私が放てる最高の剣戟です。もっとも、体力と精神力が共に万全な状態で…しかも日に何度も打てるものではありません。先ほどの一撃も開始早々で体力が万全だったからこそ放てた一撃です……ですが、まぁ、あと一撃位ならどうにか…」

 

オウカは軽く目を閉じ…短く息を吐いたと思うと…

 

注文通りの一撃を放ってくれた。

 

寸止めした瞬間、木刀を纏っていたオーラが四散し始めたが、それよりも気に当たる方が速く。

 

チョンっと触れた瞬間、バキッと木の一部分が割れた。

 

「なっ!?ちょっとつついただけなのに…」

 

「ああ、今のはオウカの剣戟は完全に死んでた。本当に木刀で少し小突いた程度だ。それでもこの威力。分かったろ?これがオウカが無意識で使っていた念能力だ。」

 

「すごい……凄い!凄い!!」

 

子供のようにはしゃぐオウカ。こんな姿は初めて見た。だが、キチンと釘を刺しとかないと。

 

「分かったろ。この威力。念はむやみやたらに振るえば人を殺すことが容易にできる。だから、本来念は秘匿しなきゃいけない」

 

殺すだけならいい。よしんば手加減でもして相手が生き残った場合、相手が念に目覚める可能性もある。

 

無暗矢鱈に念能力者が増える事は好ましくない。

 

「さっきの念に無自覚なオウカなら意図せず人を殺してしまう可能性があった。だから、俺は念を教える事にしたんだ。だから教えるにあたって一つ約束だ。念をむやみやたらに広めない事。出来るか?」

 

「出来ます!!」

 

シュバッっと手を挙げて答えるオウカ。なんかキャラが違うぞ…。

 

「それで、どうすればいいの?」

 

「明日からにしよう。周を使って若干だが消耗しているから」

 

不満そうなオウカを宥めつつ、夕食が出来た事を告げに来た…理想の未亡人。サクヤさんの声で夕食をご馳走になり、宿に帰る。

 

明日10時くらいにまたオウカの家に行く約束をして……。

 

ふむ、それにしても。

 

オウカの父親は未だに意識を失っていたのだが…

 

大丈夫なのだろうか?

 

まぁ、オウカもサクヤさんも心配している様子はなかったで平気なのだろうが。




念を知らないのに発が使える人が居るならば…

周が使えてもいいじゃなーい。

といった感じで設定を盛り込んでみた。

周は普通に念を使うより疲れるのにいいの?とも自分で思ったりしたが。

剣の試合ってそんな長時間かかるものじゃないだろうと勝手に考えた結果。

敢行した。

あと、グリードアイランド編に向けて色々調べてるんだけど…。

指輪ってゲーム内に最初に入った段階で貰えるんだってね。どっかのサイトに書いてあった。

まぁ、それは良いとして、誰か魔女の若返り薬の入手方法を知っている方は居ませんかねぇ。

ってか、大半のカードの入手方法が分からないんですが…。

あれかねぇ、自分でイベント考えるしかないのかねェ。


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第15話

時系列がおかしいかも…。

一応、年表はネットで見たんだけど…。

つかハンターハンターの年表に富樫さんの誕生日まで記されてたのには驚いた。


 

あ~…やってらんねぇ。

 

オウカに念を教える事になって早四日。

 

俺はやさぐれていた。

 

今俺はオウカの家に居候という形でお邪魔している。

 

部屋数は余っているし、宿から態々通うよりも効率がよく、さらにお金も浮くからとの事。

 

さらに、教えて貰っておいて何も返せないのも嫌だという事でオウカから提案され、俺もサクヤさんと……まぁ、あとおまけにオウカといく美人母娘と一緒に一つ屋根の下という環境に抗えずにお邪魔している。

 

あぁ…おっさんが邪魔だなぁ。

 

そんな事を考えつつも、ちゃんとやる事はやった。

 

別段、環境に不満は無い。

 

ではなぜ、俺がやさぐれているかと言えば、それはオウカにある。

 

あいつ…三日で纏を覚えやがったのだ。

 

三日である。

 

なんなの?もうやってらんないんですけど。

 

元々、周が使えたからかもしれないけど

 

嫌だ嫌だ。天才様と言うのは…

 

そんな感じでブツブツ言っていると

 

「はぁ…何を言うかと思えば、あなたがそれを言いますか。」

 

確かにね。俺の保有するオーラ量は普通に考えれば念能力者の中でもトップクラスだと思う。

 

なんせ、三人分。それも…爺様の保有していたオーラは恐らく規格外。

 

俺以上にオーラを保有している奴がごろごろいるとは到底思えない。

 

下手すりゃ、キメラアントの王様にも買ってるんじゃないかとも思ったりもする。見た事ないから断言は出来ないが…。

 

だが、それは所詮もらい物である。

 

俺が開発した能力。

【モグリの医者の愛用薬(ケミカル・オブ・ブラックジャック)】も多いオーラを無駄に使っているおかげで高い効能を発揮しているだけで…。

 

はっきり言って、継承前の状態の俺じゃ、まだまだだね。レベルだったのだ。

 

継承が無かったら、今の効能を発揮するまでどれだけ時間を費やしたことか…。

 

さらに、発だけではない。他の応用技も同様だ。

 

特に堅なんてもろに継承の恩恵を受けていたりする。

 

「何時まで拗ねているのですか、今日の鍛練を始めてください。」

 

ちくしょう。いいんだ……天才様にはどうせ俺みたいな凡人の気持ちなんて分からないんだ。

 

「はぁ、じゃぁ練でもやるか。あぁ、その前に纏の練習として毎日、纏の状態で生活する事を心がける事。あ、ただ漠然と纏をするのではなく、オーラの流れを意識して、粗がないか逐一チェックするんだ。俺も纏の状態で居るから参考に見比べてみてくれ」

 

これはお母様に言われた事。

 

俺はお母様の纏を参考に自分の纏を洗練させてきた……つもりだ。

 

「さて、その纏と並行して練を行う訳だけど。練は纏で使うよりも多いオーラを練りこんで放出し、纏で留めるイメージ」

 

「えっと…」

 

眼を閉じて身構えるオウカ。

 

「溜めて…」

 

「……っ」

 

「まだだ、まだ溜めて…」

 

「…っつ」

 

「!?今!!」

 

「っ!?はあっ!!」

 

ぶわっとオーラを放出するオウカ。そしてどうかそれを留めるが…

 

「留めるのが遅い。オーラが四散しちゃってる。それに練りこみも甘い。」

 

「初めてなのだから仕方がないでしょう!?」

 

それもそうか…

 

「あぁ、練の修行と並行して凝の修行も行う。纏を覚えた今のオウカなら俺のオーラも視認できるだろ?だけど、念が使えてもオーラを見えなくする高等技術がある。これは隠っていうんだけど…」

 

ピッと人差し指を立て、隠を使いながらオーラをある文字に変化させる。

 

「今、俺の指先からオーラを出して、ある文字に変化させているんだけど…見えないだろ?」

 

「……えぇ、悔しいですが」

 

「これが凝を使う事で見えるようになる。こんな感じ。」

 

見本で凝を行って見せる。

 

「こんな感じ。最初はきついかもしれないけど、慣れてくれば凝を行った状態でも戦闘が可能。つか、凝を使用した状態で戦闘が出来ないなら念能力者と戦うのは避けた方が良い」

 

堅、凝、流の練度がある程度高くないとあっさり死にかねない。

 

「まぁ、これは凝を覚えてからの話だから一先ず置いておく。んで、話を戻すけど練で増幅したオーラで凝を行い、俺のオーラが見えるようになったら練と凝はクリア。」

 

それが終わったら発だな。

 

絶に関しては教える必要がなかった。

 

なんか当たり前のように

 

「気配断ちの事ですか?それならできますが」

 

とすんなり絶を披露されたからだ。

 

……嫌だ、嫌だ天才様は。

 

どうせ練も直ぐに覚えるんだろ?

 

 

その俺の予感は二日後…

 

ピッと指を立て…

 

「と…とぅーす。と書かれているように見えます。どういう意味ですか?」

 

あっさり当たった。

 

嫌だ嫌だ。本当天才ってのは…。

 

 

「はぁ…んじゃ、次は発の修行に入る。」

 

よいよ発である。つか、此処まで来るのに約一週間て…

 

止めよう。もう考えるのは。

 

そう考えつつ、六性図を書き系統に付いて説明する。

 

「で、その系統を知るために行うのが水見式だ」

 

「このグラスに対して練を行えばよいのですね?」

 

はてさて、オウカの系統は……。

 

 

チロチロと水が溢れだした。ふむ、強化系か。

 

薄々そんなような気がしてたが…性格的に。

 

「水の量が増えるのは強化系だ」

 

「強化系……いいですね。最も私に適していると思います。ちまちましたのは好きじゃありませんし、やはり勝負するなら正々堂々。斬るか、斬られるかです。」

 

ふんすーと気合を入れるオウカ。やめてくれ折角の美少女が台無しじゃないか。

 

あぁ、見た目だけなら大和撫子なのに。

 

「所でクランは何系統なのです?」

 

「あぁ、俺は変化系だ。」

 

あっさり答える。【モグリの医者の愛用薬(ケミカル・オブ・ブラックジャック)】を見られている以上、隠していても仕方がないからだ。

 

「あぁ、一つ言っておく。自分の系統は他言するな。もちろん俺の系統も他者には黙っておけ」

 

「……?何故です?」

 

「系統がしられると戦闘面で不利になる。ほら、ことわざでもあるだろう。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』己はどうしようもないけど、自分の情報…相手にとっては敵の情報になるわけだが、それを知らなければ、百戦危ういって事だ。」

 

まぁ、知られた所で対策の練りようがない能力を作れば、問題ないと言えば無いんだけどな。

 

「なるほど…納得しました」

 

「よし、んじゃ後は纏と練を繰り返して、練度を挙げろ。水見式でもっと爆発的な変化が起こるようになれば発はクリアだ」

 

まぁ、こいつなら後一週間もすればものにしそうだが…。あ、そうだ。

 

「あと今日は俺の能力の実験台になって貰う。あぁ、そう身構えるな。危ないとかそういう事は無いから。まぁ、念能力がどれほど恐ろしくて理不尽な物か参考になると思う」

 

一つ試したいことがあった。

 

それは、爺様の能力で詠唱を唱えたはいいが、能力の確認が出来なかった為だ。

 

まぁ、確認のためには相手が必要だった訳で。

 

「あっとその前にトイレに行ってくるからちょっと休憩な」

 

そう告げ、道場を出る。

 

そして、戻る際にこっそり詠唱を完了させておく。

 

 

ーー

 

ものみな眠るさ夜中に

In der Nacht, wo alles schläft

 

 

水底を離るることぞうれしけれ。

Wie schön, den Meeresboden zu verlassen.

 

 

水のおもてを頭もて、

Ich hebe den Kopf über das Wasser,

 

 

波立て遊ぶぞたのしけれ。

Welch Freude, das Spiel der Wasserwellen

 

 

澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし

Durch die nun zerbrochene Stille, Rufen wir unsere Namen

 

 

緑なす濡れ髪うちふるい

Pechschwarzes Haar wirbelt im Wind

 

 

乾かし遊ぶぞたのしけれ!

Welch Freude, sie trocknen zu sehen.

 

 

創造

Briah―

 

 

拷問城の食人影

Csejte Ungarn Nachatzehrer

 

 

 

「さて……それじゃ行くぞ」

 

俺は身構えるオウカに無造作に近寄る。

 

「……?何をする気ですか?」

 

「大丈夫。痛いとかそういう事は無いから」

 

えっと、位置を調節して……よし。

 

「ふむ…オウカ。動いてみ」

 

「?……なっ!?身体が……」

 

能力はちゃんと発動しているみたいだな。

 

 

拷問城の食人影

チェイテ・ハンガリア・ナハツェーラー。

 

効果は「自分の影に触れた者の動きを止める」だ。

 

だが…

 

「し、正直凄まじい能力だとは思いますが……戦闘中、此処まで接近するのは困難かと」

 

そうなんだよなぁ。しかも影の出来具合にもよるし。

 

戦いの中で相手に自分の影に触れさせるののはえらく難しい。

 

つか、できるならこんな回りくどい力は使わず、他の能力を使うだろう。

 

……残念ながらこれは封印だな。

 

 

俺は能力を解除し、付き合ってくれたオウカに礼を述べた。

 

 

 

そしてその頃…

 

クルタの里では…

 

幻影旅団のクルタ族虐殺が行われていた。

 

俺がそのことを知るのは、暫く後の事になる。




みんな大好き合法ロリ…ルサルカお婆ちゃんです。

ですが、能力は微妙な感じ……。

あれなんですよね。ルカルカの能力は創造+影を自由に操れる魔術のコンボがあるからこそ絶大な効果を発揮するわけで…。

創造はあくまで相手の動きを止めるだけの能力。ですのでこの詠唱で発言するのはそれのみ。
影を操るのはまた別の能力が必要……たぶん、操作系の能力で自分の影を操る能力を開発すれば、使えるようになると思われ。

原作知らない人はごめんなさい。別の能力で影を操る力があって、それは再現できないんだー。程度の認識でいてください。





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第16話

ちょっと短め。

キリがいいので一旦切ります。

つか、執筆時間一時間弱。

何これ怖い。

クオリティという言葉は最近、私の辞書から消えました。


 

クルタが滅んだか……。

 

俺がそれを知ったのはテレビでニュースを見たからだ。

 

グリードアイランドを手に入れた後、直ぐに戻れば念能力者は助けられたかもしれない。

 

だが…それをしなかったのは俺のエゴだ。

 

原作が大きく変わることが怖かった。

 

後、己の保身のため……クルタ族が滅ぶという事実が欲しかった。

 

緋の眼を狙っている奴らは無数に居る。いくらカラーコンタクトをしていたとしてもどんな不測の事態があるか分からない。

 

だが、クルタ族の滅亡が世間に知れ渡ればどうなるだろう。

 

少なくとも、いま緋の眼を狙っている奴らの何人かは諦めるだろう。

 

結果的に敵が減る。

 

俺にこんな感傷に浸る資格などない。

 

だけど…

 

「ごめんな…」

 

ポツリと…己の罪の意識を軽くしたいがために詫びた。

 

その詫びの言葉は、里の大勢の同胞へ…ではなく。

 

俺に何かとちょっかいを掛けてきた少女。

 

リエルに向けて放った一言だった…。

 

 

 

 

それから…。

 

オウカの念の修行は進み…時は流れ……。

 

「行ってしまうのですか……」

 

「あぁ」

 

ハンター試験の受けるため、俺はジャポンを発つことにする。

 

「このヘタレめ!!」

 

……何故だか、オウカの父親であるおっさんからは謂れもない中傷を受けていたりするが…

 

「いったい、何日あったと思っている!?夜這いの一つもしないで……ちん○ん付いてるのか貴様!!」

 

なんつぅ父親だ。

 

「そうねぇ…無駄になっちゃったわね」

 

はぁっと懐からなんか…簡単に手で開けられそうな袋で中に丸いナニかが入っている物をポケットから出すサクヤさん。気になるのはなぜか開け口が開けてあり、セロハンテープで止められ、補修されている点だ。

だめだ。母親も負けてねぇ。

 

「ううむ。こうなったら…もう一人頑張ってみるか!」

 

「はい。あなた♪」

 

あ~

 

「………」

 

気持ちは分かる。気持ちは分かるよ。だけどね。

 

「オウカさん、硬は…というか念は止めとこうか。」

 

右手にオーラを集中…硬を使っているオウカを慌てて止めに入る。

 

この両親は念の事は知らない。というか俺達が毎日道場で何をやっていたかも分かっていない。

 

2人の邪魔は出来ないとか、そんな野暮なまねはしないとかよく分からん事を言ってはいたが…。

 

俺の説得でどうにかオーラを使わず、両親二人を拳で鎮め…というより沈めたオウカは再度俺に向き直り…

 

「また、会えるでしょうか?」

 

「多分。いつかな…」

 

「いつか…ですか。そうですね……あなたのような強者が居るならば武者修行の為に外に出てみるのも悪くはないかもしれません。その時は…ついで…そう、ついでにあなたを探してみるのも一興でしょう」

 

いいつつ、プイッと顔を背けるオウカ。

 

そのツンデレ具合に笑みを零しつつ…

 

「あぁ、じゃ…またな」

 

そう言ってシラヌイ家…ジャポンに別れを告げた。

 

 

 

 

そして…やってきたのはハンター試験会場。

 

なんか大学の講義をするような部屋。

 

う~ん、人数が多いなぁ~。

 

それでも周りに居る人間たちを確認していく。

 

一番の危険キャラ変態ピエロの姿は見えない。

 

そして、俺以外の念能力者も居ない。

 

こりゃ貰ったな…。

 

内心、ほくそ笑みつつ試験の開始を待つ。

 

そして…試験会場に坊主頭の眼鏡をかけた小太りの中年が入ってくる。

 

「さぁ、何処でもいいから席に着くように」

 

指示通り席に着く。なんだ?試験の説明でもするのか…

 

想像通りに試験の説明が始まる。

 

その内容を理解した瞬間…俺の笑みは凍りついた。

 

「はい、渡りましたね?制限時間は2時間半とさせて頂きます。」

 

配られたのは数枚の紙。そして何本かの鉛筆と消しゴム。

 

「上位100名を一次試験合格とします。それでは始めてください。」

 

一声に紙を捲る音と鉛筆を走らせる音が会場に響く。

 

俺の思考は未だに停止したまま。

 

だって…そうだろ?

 

なんで…

 

なんで……

 

ペーパーテストなんだよーー!!

 

マジか?マジなのか?

 

そりゃ、試験内容は試験官が決める事になっているらしいけど……

 

でも…でもさぁ

 

「ちょっ、ちょっと待てよ!!なんでテストなんだよ!俺はブラックリストハンターになりてぇんだ。テストなんて関係ないだろう!!」

 

おっ、いいぞ。

 

一人の勇気ある受験生が俺の気持ちを代弁してくれた。

 

その問いに、試験官はふっと見下すような笑みを浮かべ…

 

「理由か?理由はな……馬鹿にハンターは務まらねぇンだよ!!」

 

身もふたもない事を言いだした。

 

「いいからやれ…失格にされたいのか?」

 

そういわれて渋々机に向かう受験生。

 

駄目だ。此処では完全に試験官が上位の存在。

 

俺達、受験生は逆らうことが出来ずただ、従うしかないのだ…失格にされちゃうからな。

 

仕方がないので問題を確認してみる。

 

問題は歴史や経済など…所謂社会の問題だった。

 

うん…殆ど分からない。

 

考えてみれば、碌に学校で勉強とかしていなかったしなぁ。

 

どうしよう…。

 

途方に暮れる。だが、頭のどっかで引っかかる。

 

何かこれと同じ状況に覚えがある。

 

……そうだ。確かカンニングする事が正解だみたいな。

 

ははん、読めたぞ。これは知識もそうだが情報収集能力も審査の対象になっているんだな?

 

つまり、ばれないようにカンニングをしろと。

 

俺は目にオーラを集中させる。

 

念を見破るのではなく、単純に視力強化のためだ。

 

そして、如何にも頭が良さそうな近くの見た目がり勉君の答案を拝見させて貰う。

 

その結果……。

 

 

 

「……落ちた」

 

見た目がり勉君も同様に。

 

見た目だけかよこんちくしょーー。

 

つか、あっさり……あっさり一次試験で落ちたんですけど……。

 

舐めていた……。俺はハンター試験を舐めていたよ。

 

念を使えれば行けるんじゃね?と軽く見ていた過去の俺をぶん殴りたい気持ちで一杯である。

 

……何はともあれ、これからどうしよう。

 

ハンター試験は年に一回。一応、来年の分も忘れないうちに申し込んではおいたが……。

 

オウカの所に帰る?……いや、それは絶対に出来ない。馬鹿にされる。

 

つか、仮にも俺は念の師匠だぞ。まぁ、オウカ自身はそう思っていないかもしれないが……。

 

だが、威厳ってものがある……筈。

 

 

……行くか。

 

本当は受かってからにしようと思ったんだけど……。

 

今からなら丁度1年近くあるし…。

 

来年の試験前には帰ってこれるだろう。

 

取りあえずの目的は魔女の若返り薬と……

 

「アイアイだな」

 

恋愛都市アイアイ。

 

俺の傷ついた心を癒すには持って来いの都市である。

 

 

 

さて…

 

ハンター試験会場から最寄りの町でセーブ用のカードを買って、ホテルにチェックインをし、いざ、行かんとした所ではたっと気が付いた。

 

俺が居なくなったらグリードアイランドは無防備になるのでは?

 

 

グリードアイランドは言わずもがな高級品である。

 

盗難の危険性がある。

 

このままホテルの一室に放置したら拙いのではないか?

 

そう考え、ホテルをチェックインし、俺が居なくなっても見つからないようにグリードアイランドが入ったジョイステを隠すことにした。

 

そして、隠す場所は……。

 

深夜…。

 

円で周囲に誰も居ない事を確認しつつ、俺はこの町のはずれにあるソコソコ大きな湖へとやって来た。

 

そして…

 

【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】

 

自分の周囲に結界を張り、ザブザブと湖の中に入る。

 

結界で水が弾かれているので俺が濡れる事は無く、窒息する事もない。

 

といっても酸素は限られるが。

 

なので若干早足で湖底を移動し、湖の中央部。最も深い場所でグリードアイランドを取出し…練を行う。

 

こうする事で、俺が居なくなっても、湖の奥底にグリードアイランドを隠しておけるという寸法だ。

 

まさかこんなところにジョイステがあるなんて誰も思わないだろう。

 

念でガードされているので、水で壊れる事は無い。

 

結界は緋の眼状態で作っていないので時間が経てば自然消滅する。

 

っとと、準備も整ったし

 

「行きますか…」

 

練を使い、俺はその場から消えた。




合格?させねぇよ…

クルタ族に関してあっさりしすぎかも…とも思ったが…。

同族とはいえ、赤の他人の死にそこまで責任感じるのも…どうだろう?と思ったのでこうなった。

シリアスが書けないという事もある。

もういい突っ走る。半ば暴走気味。

さて、次回はグリードアイランドの予定ですが…

期待している人かもしれませんが、今回は特にがっつり書きません。

何故かといいますと、カードデータって外に出たら指定ポケットは10日。フリーは即消えてしまうので…。

真面目に攻略してもハンター試験が始まったら、現実に帰らなければならず。

10日で終わる保証がないので…今回は真面目に攻略しません。



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第17話

 

シソの木内部にてナビゲータのエレナさんからグリードアイランドの説明を受け、指輪を貰った。

 

そして、其処を出ると見渡す限りの草原。

 

さて……どうしよう……。

 

「取りあえず北に行ってみよう」

 

サクサクと草原を歩き始める。

 

なんか久しぶりだなぁ…こういうの。

 

道中、見知らぬ人何人かにスペルカードを使われた。

 

グリードアイランドのスペルには対象を害するようなような無いはず。

 

多分、調査系のスペルカードだ。

 

ならば問題ない。

 

今回、俺はまともにグリードアイランドを攻略するつもりは無い。

 

欲しいのは魔女の若返り薬だが…カードじゃなく実物が欲しいのでバインダーに仕舞うつもりもない。

 

だから何を知られても別段困らない。

 

とはいえ、やっぱり煩わしい。

 

スペルをキャンセルするカードが手に入り次第使っておこうと思う。

 

そして、草原から北に歩く事しばし…

 

町に着いた。

 

懸賞都市アントキバ。

 

まずやる事は…金稼ぎだろう。

 

何をするにもお金は必要。だが、手持ちのジェニーは使えない。

 

方法は…やっぱりゲームっぽく。

 

モンスターを倒して売るとしよう。

 

 

アントキバから北の岩石地帯。

 

取りあえず遭遇したモンスターを片っ端から倒していく。

 

【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】で結界を張っているので、誰か来たら直ぐに分かる。

 

どうやら、この辺りにプレイヤーはいないようだ。

 

結界には円の効果があるので誰かが来たら直ぐに分かる。

 

なので、とりあえずプレイヤーは気にせずモンスターを倒すことに集中する。

 

しっかし…

 

「思いのほか強かったんだな。俺」

 

この辺りで苦戦するようなモンスターは居なかった。

 

フリーポケットの容量が埋まるだけモンスターを倒して、アントキバに戻り換金する。

 

そのお金で島の地図、マサドラへの行き方とアイアイの行き方を聞き、地図上で大体の場所を確認する。

 

その後は食料と水を買い込んで…

 

「んじゃ…行きますか」

 

とりあえずマサドラへと向かう。

 

道中、ちょっと気になる事があったので実験してみた。

 

上手くいけば、クリアしなくてもアイテムを持ち帰れると思ったんだが…

 

「……やっぱり甘くないか…」

 

試したかったこととは【強欲な小学生の巾着袋(ジャイアニズムポーチ!)】にこの中で手に入れたアイテムを入れたらどうなるか?だ

 

そこら辺の石をカード状態とカード化解除状態の両方で試してみたが…

 

「…入れた瞬間、消滅してるみたいだな」

 

何らかのセキュリティが働いているんだろう。

 

念の為、確認したがグリードアイランドの外で巾着袋に入れた食料などは普通に取り出せた。

 

「まぁ、今はこの恩恵だけで良しとしよう」

 

ある程度、買い為て置いたので多少の節約が出来る。

 

「アントキバで食料買ったのは勿体なかったかな」

 

 

 

マサドラへ着き…余った金でスペルカードを購入してみる。

 

離脱のカードこそ手に入らなかったが、道標が手に入った。

 

そのままトレードショップに行き、魔女の若返り薬のNoについて聞き…。

 

「道標オンNo.065」

 

さて…まずは魔女の若返り薬を手に入れるとしよう。

 

 

 

 

俺が此処に来てから半年が経過した。

 

そしてようやく…

 

「魔女の若返り薬…ゲットか」

 

ゲットしたはいいが、限度化枚数が超えていたのかカードにならなかった。

 

だが、問題ない。

 

俺が欲しいのは実物だから。

 

魔女の若返り薬…というか魔女系のカードの入手方法は、とある場所に一人で住んでいる魔女を訪ね、その魔女の出す願いを叶えつつ、薬の材料を取ってくるというクエストをこなさなければならなかった。

 

「……長かった。ちくしょう…あの婆ぁ…こき使いやがって」

 

だがそれも今日までだ。

 

ようやく…手に入れたぞ。

 

確か一粒で1歳若返るんだったな…。

 

取りあえず一粒飲んでみる。

 

「……ふむ」

 

飲んでから色々試してみたが、若返るのは肉体のみ。

 

知識や記憶はそのまま。

 

念に関しても向上した分はそのまま残っていた。

 

本当に若返るのは肉体のみのようだ。

 

そのせいで、筋力はほんの少し衰えたが……。

 

「……今は飲まず、もうちょっと年取ってからの方が良いな」

 

折角手に入れたが、無駄足になりそうだった。

 

今飲んだら修行した分が無くなりそうだ。

 

なので年を取り始めた頃…それこそ衰え始めたら飲んだ方が良い。

 

今更気が付いたが、お年寄り向きの薬だった。

 

「なんだったんだろう…俺の三ケ月」

 

まぁ、各地を回ったので地図は埋まったし、様々な情報も手に入ったが…。

 

「もういいや。癒されよう……再来オン…アイアイへ!」

 

そして……そこはまさしくパラダイスだった。

 

年上、同い年、年下。

 

爆乳、巨乳、貧乳、無乳。

 

ロング、ショート、ツインテ、ポニテ

 

挙げればきりがない。

 

が…そこには男の夢があった。

 

 

 

 

アイアイに来てからどれほど経っただろう。

 

取りあえず三人ほど攻略してみた。

 

攻略とは告白を相手が受けてくれるまでで…

 

それが成功すると、攻略した女の子のカードが手に入るのだ。

 

……こちらも期待外れだ。

 

「システム上…仕方がないとはいえ……むなしいな…」

 

ショックだったのは1人目の宿屋の年上のお姉さんを攻略したのち、二人目のパン屋のウエイトレスを攻略していた時だ。それを目撃したのは。

 

それは、俺の告白を受け入れてくれた。一人目のお姉さんが……別の男と仲睦まじくしているではないか。

 

当然、俺の事は覚えておらず……。

 

分かってた……分かって居たさ。

 

所詮はゲームのキャラだ。リセットされ…他のプレイヤーと恋に落ちるのも……。

 

まぁ、今は割り切れてるんだけど……。

 

問題はそこじゃない。

 

一番文句を言いたいのは…

 

「告白で終わりって……」

 

偶々、そういうキャラなのだと思い、三人を攻略してみたがやっぱり、告白どまりなのだ。

 

こちとら、その先のムフフな展開も期待してたっていうのに。

 

だが希望はある。それは…

 

「どうだクラン氏調子は?」

 

「あぁ、やっと…三人だよ」

 

声を掛けてきたこいつ…自称アイアイマエストロ。

 

オリバーだった。

 

細い体に眼鏡をかけた……オタク系の男子である。

 

そして何かと馬が合い。今ではそこそこ仲の良い友達という関係。

 

そんなオリバーからの情報で…

 

クリアした女の子のカードを十枚貯めたのち、アイアイのショップに売っているフォトアルバムの最初のページに1枚、残りのページに9枚をセットする事で……。

 

9枚の女の子カードを犠牲にし、最初のページの女の子とその先の展開……真ルート…

R18イベントもあるよ?に突入すると言うのだ。

 

「まだ3人かい?もうちょっと攻略のペースあげたら?何時、真ルートに行けるか分からないぞ」

 

「とは言っても…」

 

「ほら、念の修行してるっ言ってたろ?その時間を女の子に使ってさ。同時攻略すれば……」

 

「いや、それは無理。」

 

なんか転生し、念を覚えてから殆ど毎日やってたせいか。

 

やらないと落ち着かないのだ。

 

「まぁ、その辺りは自由だけどな。あぁ、そうそう。今度、年越しパーティーをやるんだ。よかったら来ないか?」

 

ふむ…年越しパーティーか……。って、えっ?年越し?

 

「……今、何て言った?」

 

「だから、年越しパーティーやるから来ないかって?」

 

……しまったーーー!!

 

ハンター試験の事……忘れてた。

 

……いや、今からなら間に合う。

 

だが、問題はカードデータが消えてしまう事だ。

 

「……オリバー。お前を同士と見込んで頼みがある」

 

「ん?なんだ藪から棒に…」

 

「俺は今からグリードアイランドを出る。外で用があるからだ……。でだ……預かってはくれないか?」

 

「……なっ!?それはお前の……そうか。俺をそんなに信頼してくれるのか……。いいぜ、此処で断ったら男じゃねぇ」

 

俺は渡す。アイアイに来てからの成果……。

 

攻略した三人の女の子のカードを…。

 

「頼んだぜ?オリバー」

 

「あぁ!行って来い。同士クラン!」

 

グッとサムスアップして…

 

俺はグリードアイランドから出る為に港へと向かった。




グリードアイランドは真面目に攻略するつもりがないので、特に細かく書きませんでした。

また後で…今度は真面目に攻略する際に書こうと思います。



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第18話

人生はままならないものなのさ


 

グリードアイランドから無事、出てきた俺は。

 

二回目のハンター試験を受けていた。

 

またペーパーテストだったらどうしよう…。

 

そんな戦々恐々としていると一次試験が始まる……。

 

今回の一次試験は体力測定染みた試験。成績が良い順から上位100名が抜けられる。

 

その試験にホッとしつつ、俺は楽々突破した。

 

そして二次試験である。

 

「二次試験の内容を説明する。まず、くじを引き二人一組になって貰う。そして、目の前にある森の中で一週間サバイバルをしてもらう。その間、こちらが指定した魔獣を狩って貰う。指定する魔獣には何らかの材料の素材が取れるのでそれを取ってくる事。後、ペアが一人でも欠けたら失格だ。あぁ、そうそう一応リタイアも出来るぞ。その時はそのペアも自動的に失格となるが…」

 

2人一組かぁ……。女の子が良いなぁ。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!!なんでペアなんだよ?そいつが使えなかったら俺まで失格になるじゃねーか!」

 

試験官の質問に一人の男が食って掛かる…

 

「ハンターとなって仕事をする際には、チームを組む事もある。当然、人それぞれ能力、性格が違う。だが、一緒に仕事をし、成功させる以上…即席チームでチームワークが求められることがあるんだ。これはそれを見るための試験だ。」

 

ほうほう…。

 

つまりはコミュ力も試されるという訳ですな……。

 

……あれ?欠片も自信がないんだが…

 

 

「………」

 

「何を見ているんだね?そうか、君も僕の美貌に見とれてしまっているのだね?だがすまない。いくら恋多き僕でも…男は守備範囲外なんだ……」

 

……なんてくじ運が無いんだ俺……。変なのと組んでしまった。

 

此れでイケメンならまだ許せる。だが…

 

「どうしたんだね?」

 

別にイケメンという訳では無い。不細工という訳でもないんだが……。まあいい…一週間の辛抱だ。

 

「俺の名前はセタンタ。宜しく」

 

取りなえず名乗る。偽名だが……。

 

俺は前世から偽名が使えるならば偽名で名前を書くことが多かった。つか、殆どそうだった。

 

カラオケしかり、レストランしかり…

 

なんか本名を見知らぬ人間に知られるのが…嫌だったからだ。

 

なので、ハンター試験でも偽名を使っている。

 

偽名の由来は、クラン→クランの猛犬→セタンタだ。蒼い槍兵の兄貴の名前を借りた。

 

「そうか…僕の名前はジョルジュという。」

 

簡単に自己紹介を済ませ…俺達は森へと入って行くのだった。

 

「さて…早速だけどこれからどうする?」

 

「何にしてもまずはサバイバルだ。水、食料の確保が最優先だろう」

 

ふむ、その意見には賛成だ。

 

最も【強欲な小学生の巾着袋(ジャイアニズムポーチ!)】の中にストックはあるから俺にはその必要がないんだが……。

 

まぁいい、付き合おう。

 

「では手分けして探すとしよう。」

 

「……いや、それは危険じゃないか?まだこの森にはどんな生物が居るか分からない。」

 

俺は念が使えるから大丈夫だが…ジョルジュ…君の身が。

 

「なんだ?セタンタは臆病者だな。ならば僕が一人で探してくるからそこで待っているといい。」

 

「……は?いや、ちょ…待っ」

 

ガサガサと森を掻き分けて行ってしまう。

 

後を追う事も考えたが、あそこまで自信満々に言い切るんだ。大丈夫だろう。

 

それでも不安なので円を展開してみる。

 

今の俺の円は最大300メートルまで行ける。

 

けど…

 

「……拙いな」

 

どれがジョルジュか分からない。

 

ちらほらと他の受験生の動きは感じるが識別する方法がないのだ。

 

進行方向上に居るかと思えば、居ないし…どうやら道を逸れたらしい。

 

「此処で俺まで動いたら…合流できなくなりそうだな」

 

取りあえずこの場で待機する事にし、ジョルジュが来るのを待った…。

 

そして待つことしばし…

 

誰かがこちらに向かってきている。

 

恐らくはジョルジュ。ふぅ無事だったか…

 

「おかえりジョルジュ…無事だった……か?」

 

だが、出てきたのはグラサン、黒いスーツの男。

 

嫌な予感がする…。

 

「受験番号263番のセタンタさん、受験番号313のジョルジュさんがリタイアを申告したため、失格とします」

 

……What?

 

…………え?

 

……え?

 

な、何してくれてるのジョルジュぇ!

 

無理そうならそう言えよ。この野郎。

 

まだ始まってからなにもしてねーぞ。

 

俺らリタイア一番乗りなんじゃねーの……。

 

こうして…

 

俺の二回目のハンター試験は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

癒されよう。

 

あれから俺は試験のショックを引きずりつつも、なんとかグリードアイランドに戻ってきた。

 

外に出てしまったのでカードはすべて消えてしまったため、面倒だがモンスターを倒し、多少のお金を得てスペルカードを買い。

 

「磁力オン…オリバー!」

 

磁力を使用する。だが…

 

「……対象のプレイヤーが存在しません。磁力は破棄されます」

 

……なんだって?

 

慌てて、名簿を使用してみる。

 

オリバー ●

 

「……ナニィイイ!?」

 

なんだ?なにがあったんだオリバぁーーー。

 

あ、他の同士は居る。何か知ってるかも。

 

でも、磁力はもうない……。

 

あ、でも…

 

「交信オン…サクラバ」

 

別に直接会う必要はない。話すだけで十分。

 

しかし、サクラバに話を聞くも知らないという。

 

他の同士も知らないらしく、むしろ逆に聞かれた。

 

なんでも、俺も同時期に外に出ていたので二人して何かあったのだと心配していたらしい。

 

礼を述べて、交信を終了する。

 

「何があったんだ…オリバー」

 

せめて、生きて外に出たんならいいんだが…。

 

 

それから、俺はオリバーという友を失った悲しさを埋めるように…

 

アイアイで遊んだ。

 

女の子と遊んでは、空いた時間で念の修行をする毎日。

 

瞬く間に時間と攻略した女の子のカードは溜まって行き……。

 

気が付けば、一年が過ぎ……、ハンター試験の試験日も過ぎてしまい……。

 

その甲斐あってか、十枚コンプリートを果たし、宿屋のお姉さんのムフフなイベントも堪能したが…

 

どこか…悲しかった。

 

ヤルこともやったので、外に出て今度こそハンター試験を受けようとも思ったが…。

 

申し込みをしておらず、その年の試験は受けられず……。

 

 

 

 

「……どうしてこうなった」

 

避けようと思っていた原作のハンター試験を受ける羽目になってしまった。

 

何故分かるかって?だって、視線を感じるんだ。

 

居るんだよ。

 

あの変態ピエロが…。

 

あとカタカタいってる人も居るし…

 

そんな中…

 

「失礼します…お久しぶりですね」

 

声を掛けられた。

 

その透き通るような声の持ち主を確認して息を飲む。

 

綺麗な黒髪ロング。

 

和服越しでも分かる豊満な乳房。

 

透き通るような白い肌。

 

折れるかと思うような細い腰。

 

そして意思を感じさせるような切れ長の瞳…

 

そんな美貌を持つ女性は笑みを浮かべてそこに立っていた。

 

誰かに…似ている。

 

それも気になったが、もうひとつ気になった。

 

眼が笑っていない。

 

「ちっとも連絡がつかず。消息も知れず……。とある目的の為、ハンター試験を受験をし、ついでにあなたの情報も集めてみようと思っていたのですが…よもや…こんな場所で何をやっているのでしょう?まさか…まだ受かっていなかったとか?

……なるほど、聞きしに勝るハンター試験……あなた程の実力者が落ち続けるとはよっぽどの難関なのでしょう。まぁ、それはよいです。こうして会えたのですから僥倖とも言えます。」

 

な、何だろう。

 

何でこの女性は殺気立っているのだろう。

 

そしてその殺気に反応し、どこぞの変態がトランプを投げつけてくるが…女性は事もなげに、手に持った日本刀でそれを細切れにする。

 

そして何事も無かったのように…

 

「……携帯電話はどうしましたか?」

 

そんな質問を俺に投げかけてくる。

 

へ?携帯……そういえば…

 

最初にグリードアイランドに入る際に、

【強欲な小学生の巾着袋(ジャイアニズムポーチ!)】に仕舞っておいた携帯電話。

 

別段、使用する機会がないのでそのまま忘れていた。

 

それを巾着袋から取り出すのを見るやいなや

 

ヒュンっと風切音がする…

 

「ーーっ!?」

 

「……紙一重ですか。鈍ったんじゃありませんか?」

 

……避けた。避けたはいいが……何故斬りかかってくる?

 

「いきなり何を…」

 

「何をですか…いいえ、この数年。連絡が付かずに心配していたいたいけな少女を思えば……思わず斬りかかっても仕方がないもの。ましてや、その相手が腑抜けになっているとは……殺しても良いと思いません?」

 

ふふふ…と笑みを浮かべる女性。

 

相変わらず目は笑っていない。

 

そして…

 

膨れ上がっていく殺気。

 

それに呼応するかのように別方向からも禍々しいオーラを感じるが…それは後回しだ。

 

「お、おい…」

 

先ほどとは違い、日本刀に周を行っている時点で女性の真剣さが伺える。

 

ん?なんかパズルのピースが…

 

和服の黒髪美人。

 

携帯電話…

 

日本刀に……周。

 

………あぁ、もしかして

 

「……オウカ?」

 

「何故疑問形なのかはさておき、そうですよ。ひょっとして今、気づいたんですか?」

 

あぁ、やっぱりそうなのか…

 

考えてみれば、俺の電話の番号知ってるのってオウカ位だし……。

 

……あれ?泣きたくなってきた

 

「ちょ、ちょっ…私に会えたのが嬉しいのは分かりますが何も泣くことは…」

 

不覚にも涙を流したらしい俺に狼狽するオウカ。

 

殺気と共にオーラも四散し…

 

「はぁ……わかりました。許してあげますから。まったく、こんなにヘタレに成り下がっているとは…」

 

はぁ…とため息と共にそう漏らしたのだった。




主人公暗黒時代。

主人公がどんどん屑みたいな人間に……。

それを更生させるのがヒロインの愛の力なのさ!(此処、エコーお願いします)

さて、果たして主人公は真人間になれるのか?

そして、お決まりのこのセリフを言わせて頂こう。

合格?させねぇよ…


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第19話

唯でさえ注目を集める容姿をしているオウカ。

 

だが、先ほどのやり取りで尚も注目を集めてしまっている。

 

しっかし…

 

「なんですか?」

 

いやはや…サクヤさん見てたし、その片鱗はあったけど美人になったなぁ…こいつ。

 

此れで性格がおしとやかなら完璧なんだが……。

 

しっかし惜しいな…

 

初対面なら多分惚れていたかもしれない。

 

だが…昔、一緒に暮らしていたこともあり…

 

オウカはなんというか……妹という感覚が強く女性として見る事が出来ない。

 

まぁ、やたらと婿だのなんだの進めてくるおっさんが居たせいで半ば辟易していた事もあるが……

 

「いや、どうするんだよ。注目の的じゃねーか。」

 

「他者の視線など…気にしていても仕方がないでしょう。いいえ、むしろ他者の視線があるからこそ、シャンとしていなければなりません。ほら!」

 

「…日本刀で小突くのは止めろ」

 

そこに…

 

「くくく…いいねぇ~。二人とも美味しそうだ♡」

 

来た……奴が来た。

 

思わず身構える。俺とオウカ。

 

「……あなたですね。先ほどのトランプは」

 

「……凝は怠るなよ」

 

「分かっています」

 

教えた事は身に付いているようだ。

 

それを嬉しく思いつつ、見据える。

 

うげぇ…なんかあそこが盛り上がってるんですけど…

 

「ますますいい♡あぁ、そう身構えなくても良いよ。いま戦う気はないから。君たちはもっと時間を掛ければ美味しくなりそうだし♢」

 

じゃあ何しにきやがった変態。

 

「僕の名前はヒソカ……ちょっとした挨拶に来たんだ♤君たちは?」

 

「む?名乗られたからには名乗り返すのが礼儀ですね……私はオウカ・シラヌイです」

 

「……俺は名乗りたくない」

 

こんな変態に名前を覚えられたら大変だ。

 

俺の言葉を聞いて、本当に戦う気は無かったのだろう。

 

つれないなぁ…と呟いてヒソカはあっさりと引き下がった。

 

「…この礼儀知らず……私だけが名乗ってしまったではないんですか」

 

いや知らんがな。自分で名乗ったんでしょ?

 

「あぁ、いちおうこの試験中は俺、セタンタってなのってるから呼ぶならその名前で宜しく」

 

「偽名まで使っているとは……まぁ、何か事情があるのでしょう。細かい事は聞きませんし、無暗にあなたの名を広げる事もしません。安心してくださいクラン」

 

……態とやってるのかこのアマ。

 

まぁいい。

 

取りあえずオウカの事は置いておいて、受験生を確認する。

 

目下、注すべきは念を覚えている奴らだ。

 

まずヒソカ、次にそこでカタカタやってる…中身ゾルディック家。

 

そして、オウカと……

 

「ん?」

 

あんなの原作に居たか?

 

もう一人…纏を使っている女性が居た。

 

その女性は長い金髪にサングラス。

 

ジーンズにTシャツ…その上から薄手の上着を羽織っている。

 

そのジーンズが彼女の細い足と腰を強調しているように見える。

 

胸はあまり大きくはないが…スレンダーという言葉が似合うだろう。

 

サングラスで目元は見えないが…相当な美人と伺える。

 

そんな女性の様子を伺っていれば、俺達と同様ヒソカがちょっかいを掛けに行き……

 

どんなやり取りをしたのか、ヒソカは機嫌良さそうに去って行き、女性は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていた。

 

そうやって注意すべき人間を伺っていると…

 

「よう…久しぶりだなあんちゃん」

 

見覚えのあるおっさんに話しかけられた。

 

「あぁ、テンパさん」

 

「トンパだ!まぁいい、暫く見かけなかったが懲りずにまた受けに来やがったんか…」

 

さぁ、そうそうトンパだ。

 

過去にハンター試験を受けた時に何度か話したことがある。

 

「まぁいいや。お互いに頑張ろうぜ。あぁ、そうそうジュースがたくさん余ってるんだ一本どうだい?あぁ、安心しろよ。手の内を知ってるあんちゃんだ。変な物は入れていない。」

 

……信じられる訳もない。

 

「いや、自前のものがあるからいい」

 

「あ、私にも下さい。久しぶりに飲みたくなりました」

 

「……似たようなのは売ってると思うけど」

 

「あなたのは味が微妙に違うんですよ」

 

いいつつ、巾着袋からコ○ラの入った水筒とコップを2人分取り出す。

 

言わずもがな強欲な小学生の巾着袋である。

 

最近は常時具現化しっぱなしで腰にぶら下げていたりする。

 

いや、下手に出したり消したりするのを見られても言い訳が面倒だからな。

 

この能力はオウカも知っており…

 

「相変わらず…便利な能力ですね」

 

手渡すとオウカは早速ストローでちゅ~とすする。

 

ううん。ギャップが…

 

「お前の恰好ならお茶とかの方が似合いそうだけどな」

 

言いつつ俺も一口すすり……一次試験の始まりを待つのだった。

 

 

 

そして試験官が到着し、一次試験が始まる。

 

一次試験は試験官に着いていく…耐久マラソン。

 

俺とオウカも周りの受験生に習い走っている訳だが……

 

「……こうしていると初めて会った時の事を思い出しますね……」

 

「そうだな……」

 

並んで並走しながら、試験官を追いかける。

 

「………」

 

「………」

 

だからだろう。

 

何時の間にか中盤位に居た俺達は…

 

トップ集団に躍り出る。

 

示し合わせたわけでもない。

 

だが…じわじわと走るペースが上がってゆく。

 

俺が上げればオウカが並び…

 

オウカが上げれば俺も追いすがる……

 

「……ふふ…」

 

「…あは」

 

何だろう。久しぶりに楽しい……。

 

「……あの頃の私とは違いますよ?」

 

「……確かに…。けど前のあれが俺の全力だとでも?」

 

互いに目を合わせる。

 

言葉は不要。

 

やりますか?

 

やるか?

 

そして過ちは繰り返される。

 

 

今回は徐々にではない。

 

視線を合わせた瞬間…ギアをフルスロットルに。

 

俺達は弾丸となって駆ける。

 

トップ集団を置き去りに…

 

試験官をぶち抜き……。

 

ただただ目の前の道を疾走する。

 

違うのは俺に余裕がない事

 

オウカめ……。

 

速いじゃないか…

 

今回はオーラも使用している。

 

はっきり言って、速度は前回の非じゃない。

 

なのにしっかりと着いて来る。

 

そして俺達の決着は……

 

「……行き止まりか」

 

「そうみたいですね。また引き分けですか」

 

道が途切れた事でついた。

 

「……んで、試験どうするんだよ?」

 

頭が冷えた事で現状について話す。

 

走っている際にいくつもの分かれ道があった。

 

正しい道は当然のことながら知らない。

 

流石にいい加減、受かりたいんだが…

 

「取りあえず来た道を戻りましょうか…」

 

「お前、円は?」

 

「あまり得意ではありませんね。」

 

「じゃあ俺が使う…。何らかの気配をキャッチしつつ、正しい道を探そうか…」

 

俺達は先ほどよりペースを落とし、合流すべく駆け出す。

 

そして…

 

どうにか…討ち死にしている受験生の気配を辿りつつ…

 

ルートを割して…

 

丁度、長い階段を上り始めようとしている集団に追いついた。

 

その中に…先ほどは人込みで分からなかったが見覚えのある一人の男を目撃する。

 

クラピカ……。

 

そして隣を走る汗だくなのはレオリオか?

 

そして…その脇を抜けようとした所で…

 

「ぜぇ、ぜぇ、あ、あいつら…な、なんで後ろから…」

 

「た、確かに…あの二人は前に居たはずだ」

 

2人の会話が聞こえてくる。

 

つかレオリオ…苦しいなら無理に喋らない方が良いぞ?

 

まぁ、それは置いといて、俺達はこの二人に覚えられていたらしい。

 

目立つからね。隣の残念大和撫子が…

 

「むぅ…?なんですか?何やら謂れもない中傷を受けた気がしますが」

 

相変わらず勘が鋭い奴だ。

 

そして階段を上りきり、試験官が説明を始める。

 

ヌメーレ湿原、通称…詐欺師の塒。

 

そこに…

 

「騙されるな!!」

 

試験官に似た男が偽物だと騒ぎ出した。

 

何人かは疑いの眼差しで、引率してきた試験官の方を伺っている。

 

「オウカ…どう思う?」

 

「どう思うも何も……あっちはあからさまに…っ!?」

 

話の途中で数枚のトランプが偽物だと騒いでいた男に投げられた。

 

いや、他にも数枚。

 

引率していた試験官。

 

俺。

 

オウカ。

 

金髪美女にそれぞれ投げられる。

 

「…さんきゅ。オウカ」

 

「必要はないとは思いますが…ついでなので」

 

俺の分は隣にいたオウカが自分に向けられた分と合わせて、刀を抜き細切れにした。

 

他の二人も無事な様子だ。

 

たった一人…

 

偽物だと騒いでいた男は猿へと姿を変え、

 

トランプがあちこちに刺さりそのまま絶命した。

 

くそ、あの変態め…なんで俺達まで……。

 

その変態は悪びれる態度を欠片も見せず…

 

試験官に次に攻撃したら失格にすると忠告を受けていた。

 

甘い…

 

甘いよ。この場で失格にしろ。

 

 

そうヒソカを注意した後、またマラソンが始まる。

 

ヒソカが殺気立っているので出来るだけ距離を取りつつ…

 

ちらりと視線を向ければ、当然のように隣を走っているオウカと視線が合う。

 

「………」

 

「………」

 

「…やんないよ」

 

流石に三度目の正直。

 

「……いつか必ず決着を…」

 

「あぁ…」

 

決着をつけるときが来れば、必ず勝てる手段…

 

死世界・凶獣変生を使おうと思う。

 

 

 

死世界・凶獣変生

ニブルヘイム・フェンリスヴォルフ。

 

 

その効果はどんな速度や行動であろうと必ず誰よりも速く動くことができるというもの。

 

……欠点はあれだな。

 

詠唱が完了するまでに時間が掛るって事だな。

 

そんな事を考えつつ、大人しく試験官の後に続き、二次試験会場へと向かうのだった。




さて、最後に能力名だけ出しました。

ウォルフガング・シュライバー。この能力をもともと使ってる人です。

Dies iraeの登場キャラです。

そして、主人公が好きなキャラです。

いいや、正確にはキャラが好きなんじゃなくて…

名前が好きなんですけど。

ウォルフガング・シュライバー……

なぜだろう。思わずいい発音で口ずさんでしまうのは…

カッコいいよねシュライバー

特にシュライバーが。

シュライバーだぜ、シュライバー…。


こ、コホン。すまん…興奮してた。

よいよ原作に突入。

回避?させねぇよ。

もっとスマートにできればよかったんだが、これが俺の全力全開。

さて出てきた金髪女性。

たぶん、気づいてるんじゃないかな正体に。

今後、先ほどからくどいくらいに連呼した名前からイを取った展開が発生するかも……。


あとヒソカなんですけど、トランプのマークのうち、クローバーだけ変換されないんだけど……。

どうしよう…。


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第20話

パルプンテに追い付き、追い越してしまった。


 

一次試験が終了し、二次試験が始まった。

 

課題は料理である。

 

「オレのメニューは豚の丸焼き。オレの大好物!」

 

ブハラと名乗った大男のお題は豚の丸焼きだ。

 

それくらいなら俺でも捕まえられそうだ。

 

そして各々…近くの森の中で豚の捕獲に乗り出した。

 

さてっと…

 

円を使用し、豚を探す。割とすぐ見つかった。

 

なんて便利なんだ円…。

 

つか豚?物凄い強暴そうなのですが…

 

だがまぁ関係ない。

 

フゴーーー!!っと突進してきたのをひらりと避け、適度に強化した拳をテンプルにお見舞いしてやる。

 

よし、仕留めた。

 

後は調理だな。

 

とと…近くを見れば俺に着いてきていたオウカも豚を仕留めている。

 

そして、二人でそれぞれ調理を開始したのだが…

 

「……ちょっ」

 

「なんです?」

 

いきなり豚を焼き始めたオウカ。

 

いや、血抜きとか内臓位取ろうよ。

 

……まぁ、喰うのは俺じゃないからいいけど…

 

そんなオウカに戦慄しつつ、自分の分を調理する。

 

そして…

 

 

「あ~もーおなかいっぱい」

 

豚の丸焼き…約七十頭完食しやがった。

 

……すげぇ…無駄に。

 

日々の食費が掛って大変だろうなぁ。

 

「もう全員合格なんて甘過ぎよ!でも、あたしは、ブラハと違ってカラ党… 審査も厳しくいくわ!」

 

そして二次試験の後半戦が始まる。

 

お題は…

 

「あたしのメニューはスシよ」

 

殆どの者が首を傾げている中、あからさまに喜んでいるハゲ。

 

お前忍者だろ。もっと表情隠せよ。忍べてないぞ。

 

「ふふん。大分困ってるわね……ま、知らないのもムリないわ。小さな島国の民族料理だしね」

 

美味いのに…勿体ない事である。

 

「スシはスシでもニギリズシしか認めないわ!それじゃスタート。あたしが満腹になった時点で試験は終了よ。その間に何コ作ってきてもいいわ!」

 

さてっと…

 

どうしようか?

 

寿司を知っているのはこの場に恐らく三人。

 

俺とハゲとオウカだ。

 

何より…

 

くいくいっと裾を引かれる。引いたのはオウカ

 

「なんだ?」

「ストック…ある?」

 

巾着袋を見ながらそう尋ねる。それと対になっているノートを開いて…。

 

「あるな……要るか?」

 

「要る…正直、材料があっても作る自信がありません」

 

……まぁ、別にケチる事ないだろう。結構たくさんあるし、

 

「良いぞ。でだ…ネタどうする?」

 

どうしよう…。

 

「アナゴ。私あまり好きじゃないから」

 

「駄目だ。俺、アナゴ好きだから…俺はイカにするかな。食えない事ないがそこまで好きなネタじゃない」

 

「じゃぁ…サバ」

 

サバか…まぁいいか。そこまで好きなネタじゃないし。

 

そう相談していると…

 

「魚ぁ!?お前 ここは、森の中だぜ!」

 

レオリオがそう叫んだ。

 

一声に魚確保に走る受験生。

 

これは好都合。

 

俺とオウカもその後に続き、人気がないのを確認して、皿と寿司を巾着袋から取り出して、それぞれイカとサバを盛り付ける。

 

んで、受験生たちが戻ってくる前に急いで試験官の元へ向かう。

 

まずは俺から…

 

「ほい、お題の寿司だ」

 

「!?速いわね…って、これは。あんた…いえ、あんたたち知ってたわね?」

 

驚くメンチ試験官。良いから食え。

 

「それに…イカよね……どうやって手に入れたの?」

 

「企業秘密だ。良いから食べてくれ」

 

「……良いわ。味を見てあげる。余りにも不味かったら…合格は……って、美味しい!?ネタとシャリのバランス。シャリは適度に握られていて、ほろほろと崩れる……。これはプロ業ねあんた、何者?」

 

「ただの受験生だ。んで、結果は?」

 

「……受験番号217番。あんたは合格よ」

 

おっし、楽勝。ありがとう大将。

 

「次は私の番です。どうぞ」

 

「こっちはサバ……。グルねあんたたち。まぁいいわ。手を組んじゃいけないっていうルールがあった訳じゃないしね。味も…こっちもプロが握っているわね。文句ないわ。受験番号320番。あんたも合格」

 

よし、二次試験クリアっと。

 

「アンタたち、スシの事は……」

 

「黙ってればいいんですよね?」

 

「話が早くて助かるわ。それじゃ、あんたたちは終わるまで自由にしてなさい」

 

……ふむ。

 

「どうするよオウカ…」

 

「見てたらお腹が空きましたね……。残ったネタを食べませんか?」

 

そうだなぁ。俺も腹は減ってる。

 

此処に来る前にステーキ定食を食べけどマラソンでカロリー消費してるしなぁ。

 

「いや、でも答えの寿司をあからさまに食べる訳にもいかないだろ。……う~ん…幸いコメはあるし。海鮮丼でも作って食べないか?」

 

「!?イクラ…イクラはありますか!?」

 

凄い喰いつきよう。あぁ、そういえばイクラ好きだったっけ?

 

「あるよ。俺はどうしよう……ウニとネギトロと…」

 

ヤバい涎が。

 

巾着袋からウニ、イクラ、ネギトロなどを取出し、どんぶりに用意された米を盛り、ふんだんに盛り付ける。

 

イクラは途中でオウカにパクられた……って…

 

「欲張り過ぎだ。溢れてるじゃねーか」

 

「ふふ…イックッラ♪イックッラ♪イクラちゃん~~♪」

 

ばぁーぶぅー。って、キャラ壊れているぞ。そこまで好きだったっけ?

 

って…うぉっ。声。

 

物凄い視線を感じてそちらを見るが、メンチさんがメンチを切っていた。

 

目で私にも寄越せと言っている。

 

取りあえず…見なかったことにする。

 

そして、わさびを適量添えて…

 

ぐるっとしょうゆをまわしながらかけて…。

 

「「いただきます…」」

 

2人で手を合わせてから匙で一口……。

 

……美味ぇええ。

 

「はふぅ~♪」

 

オウカの口からも何やら色っぽい嘆息が。

 

「よく…よく。この能力を作ってくれました」

 

そしてオウカは上気した顔で撫で回す……俺の巾着袋を。なんか卑猥だが比喩表現じゃないぞ。言葉の通り、腰にぶら下がっている巾着を撫でているのだ。

 

そこに…

 

ダン!っと大きな音がする。

 

その音の方を見れば…

 

「ひっ!?」

 

思わず声が漏れる。

 

怖い…怖いよメンチさん。

 

見れば、オーラを纏った箸がテーブルに突き刺さっていた。

 

そんなメンチさんをブハラさんが必死に宥めている。よし、ブハラ頑張れ…超頑張れ…。

 

我関せずと言った風でイクラ丼を食べ続けるオウカに続くように俺も海鮮丼を食べていると…。

 

ちらほらと受験生が帰ってくる。

 

帰ってきた受験生は試験中に普通に飯を食べている俺達を奇異の目で見たあと、自分の作業に戻って行く。

 

そんな中…

 

「あ、美味しそう。ねぇ、何食べてるの?」

 

物おじせずに声を掛けてくる一人の少年。

 

……ゴンだった。

 

主人公だった。

 

うん、つか……。

 

コミュ力高けぇぇぇ。

 

よく見知らぬ人にそう気安く声を掛けられるな。

 

しかもそんな純粋な眼で…。

 

「あ、うん。海の幸をふんだんに使った海鮮丼なんだけど…一口食べてみる?」

 

なんだろう…。

 

ゴンに釣られるようにそう返していた。

 

……自分で言うのもなんだが俺はそんな社交的な性格ではない。

 

つか、人見知りだ。

 

なのに…なんだこれは。

 

此れが主人公のスキルなのか?

 

「え、いいの?食べる食べる」

 

「おいゴン!知らねー人間に食べ物貰うな!!それにそんな得体の知れない物…プチプチした気持ち悪いもの…美味くなんてねぇって!」

 

「前半には同意するが…レオリオ、実際にそれを食べている人間の前で失礼すぎる。」

 

ゴンを止めて、暴言を吐くレオリオ。それを窘めるクラピカ。

 

レオリオが言っているのは恐らくイクラの事だろう。

 

オウカがさぞかし怒るだろうと表情を伺えば…

 

うわぁ、何その見下すような視線。

 

怒る価値もないと言った風のオウカ。まぁ、怒り狂われるよりいいが…。

 

まぁ、それよりも。

 

俺はクラピカの様子を伺う。二度目の接触だが…どうやら俺がクルタ族とは気づいてないみたいだ。

 

まぁ、里でも殆ど話してないし、眼の色違うし、年齢も修行のせいで何歳か老けてるから気付かなくても無理ないかもしれないが…。

 

「んで、どうするんだ結局。」

 

「貰うよ。美味しそうだし」

 

ふむ、いい子だね。ゴン君は。

 

俺は新しい匙を取出し、ゴンに渡す。

 

「美味しい……こんなの食べた事ないよ!」

 

そうだろう……結構いいやつだよそれ。お値段もそれなりにした一品達。

 

「マジかよ。俺にも一口くれよ。」

 

「えっと…キルアにもいい?」

 

「あぁ、いいぞ。」

 

「……本当だ。美味い。」

 

そうだろ、そうだろぅ…あぁ、今頃物欲しそうな顔してもだめだ。レオリオお前にはやらん。

 

キルアからどんぶりを返して貰いつつ…

 

「んで、のんびり食べてていいのか?試験の方は?」

 

「あ、そうだった。あれ?でも…えっと…」

 

「名前?俺はセタンタ。んで、あっちの一心不乱にどんぶりをかっ喰らってるのがオウカ」

 

「そっか…セタンタにオウカ。えっと、俺の名前はゴン」

 

「俺、キルア。さっきのマジでうまいな。どこ行ったら食えるんだ?」

 

「あぁ、ジャポンだ。もっといろいろな美味い物がある。一度行ってみるといい。」

 

「そうなんだ。一度行ってみたいなぁ~。じゃ、無くて、セタンタとオウカは試験は?」

 

「あぁ、俺達もう合格してるから」

 

ゴンとキルアに自己紹介をしながら質問に答える。

 

そしてその言葉に聞き耳を立てていたレオリオが反応する

 

「何ぃ!?それじゃスシって料理も…」

 

「当然知ってる。あぁ、でも教えないぞ。試験官に口止めされているから」

 

まぁ、結局はあのハゲが喋ってしまう訳だが…。

 

そして案の定…

 

「メシを一口サイズの長方形に握ってその上にワサビと魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが!こんなもん誰が作ったって味に大差ねぇべ!?」

 

「ざけんなてめー鮨をマトモに握れるようになるには十年の修行が必要だって言われてんだ!キサマら素人がいくらカタチだけマネたって天と地ほど味は違うんだよボゲ!」

 

ハゲ散らかしてくれたよ。ハゲが。

 

そんなやり取りが聞こえてくる。

 

そして…

 

そのハゲがばらした作り方を聞いた面々がスシを作って持っていき…

 

「こうなったら味で審査するしかないわねぇ…」

 

そんな不吉な言葉を発するメンチ。終わったなこの試験。

 

「握りすぎ、シャリが下の上で崩れないじゃない」

 

「触りすぎ、ネタが熱を持っちゃってて全然美味しくない」

 

「わ、ワサビ付けすぎ……あ、あんた態とやったんじゃないでしょうね!?」

 

持って行っては、駄目出しと共に撃沈されていく。

 

つか、あんたを満足させられるスシを握れるなら、受けてないよハンター試験なんて。

 

そして…

 

「ワリ!お腹一杯になっちった」

 

二次試験終了。

 

受かったのは俺とオウカのみ。

 

当然、納得のいかないのは受験生の面々。

 

その中でもヒソカが殺気立っている。

 

それに呼応するかのようにメンチさんとブハラさんも臨戦態勢のオーラ。

 

俺とオウカも念の為、凝を使用し警戒態勢。

 

だが、そこで空気の読めない賞金首ハンター志望のぽっちゃりさんがメンチさんに殴りかかった。

 

うわぁ、勇者だ。この空気の中ツッコめるなんて…

 

自殺行為。

 

そしてその自殺願望者はブハラさんの一撃で吹き飛ばされた。

 

ちゃんと手加減してオーラを微弱に態々している事でブハラさんの人の良さが分かる。

 

だが問題は解決していない。

 

納得できるわけがないのだ。

 

そこに…

 

『それにしても、合格者2人はちと厳しすぎやせんか?』

 

上空から声が聞こえる。

 

そして上空を飛ぶ飛行船から一人の老人が落下してきた。

 

ハンター協会会長のネテロさんである。

 

その後は原作通り…。

 

ネテロ会長の取り成しで改めて試験が行われることになり。

 

俺もクモワシの卵に興味があったので取りに行こうとすると…

 

「あんたは受かってるから必要ないでしょ。卵も数に限りがあるんだから」

 

メンチに止められた。畜生……食べたかったなぁ……ゆで卵。

 

「……ところであんた。さっき食べてたウニとか残ってる?」

 

「イクラは全部食われたけど、ウニとネギトロなら…」

 

「…此処に私の取ってきた卵があるわ」

 

ガシッと握手を交わす。

 

交渉成立。

 

こうして俺はクモワシの卵を手に入れた。

 

取っておいて、後で卵かけご飯にして食べよう。

 

 




二次試験終了~~。

そろそろ金髪さんとも絡もうかと思う。

前回のあとかぎで書いたが結構人気だねシュライバー。

まぁ、俺はベイ中尉の方がキャラ的に好きなんだけど。

つか、声がいいね。いい声してる。

曲もカッコいいし…

特にベアトリスラジオのあのテンションの高さが最高だった。

どうにかして能力使いたいんだけど……難しいんだよなぁ。

自分に弱点ができちゃうっていうデメリットもあるし。


余談だが、イクラちゃんで思い出したが、タラちゃんのあの敬語具合はすごいと思う。

サザエさん…実はかなりのスパルタ教育なんだろうか?

にしても、あんな小っちゃい子が家族に敬語って……。


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第21話

 

三次試験会場へ移動する飛行船の中。

 

試験官たちは食事をしながら、今期の受験生について話し合っていた。

 

 

 

「今年は豊作ですね」

 

試験を振り返り、一次試験官……サトツはそう話す。

 

身体能力的にも優れた面々が数多くいる事もそうだが、既に念能力者が5人も居るのだ。

 

「えぇ、個性的な粒ぞろいが沢山いましたね。ところで…所でサトツさんが注目している受験生は誰ですか?」

 

サトツの言葉に反応したのは二次試験官のメンチだ。

 

「そうですね。やはり…44番でしょうか」

 

サトツがそう漏らす。その反応にメンチ、もう一人の二次試験官ブハラも同意を示す。

 

44番…ヒソカ。

 

試験中、試験官に対してずっと殺気を送っていた男。

 

サトツに至っては直接攻撃を受けているし、メンチもその殺気に苛立ったせいで、二次試験が台無しになりかけた。

 

「……あと、217番と320番も興味深いですね」

 

サトツは思い返す。

 

一次試験の時、競い合うように物凄いスピードで自分を追い抜き、駆けて行った2人。

 

サトツ自身、全力で走れば大半の受験生を置き去りにしてしまう。

 

難易度調整の為、全力ではなくある程度の速度で走っていたが…

 

全力で走ってもあのスピードに…自分は着いていけるかどうか…

 

そして、あわや失格かと思いきや、何時の間にか最終集団に合流して、結局二次試験会場までたどり着いた二人。

 

「あ、あの二人。確かに見どころありますよね」

 

メンチもサトツどうよう二人を押す。

 

まさか、こんな場所できちんとしたプロの握った寿司が食べられるとは思っても居なかった。

 

「そういえばメンチ。あのスシはどうだったの?」

 

「美味しかったわよ。それに交換したこのウニも…」

 

ブハラにそう言って、卵と交換したウニを堪能するメンチ。

 

「へぇ…この辺りじゃ手に入らないけど……どうやったのかなぁ」

 

「多分、何らかの念能力でしょ?正直、私達美食ハンターからしたら喉から手が出るほど欲しい能力よ!」

 

興奮するメンチ。

 

先ほど食べたスシも今食べているウニも鮮度は抜群だった。

 

獲ってからさほど時間がさほど立っていないだろう。

 

しかし、この辺りに海なんてなく、試験中に捕獲する事は事実上不可能。

 

考えられるのは念能力。

 

瞬間移動のような能力で移動して、これらの食材を取って来たのか…

 

そう考え、メンチはそれを否定する。

 

試験中の短い時間にこれほどの物を用意する時間なんて無い。

 

恐らくは、なんらかの形で鮮度を損なわず、保存するような能力があるのだろう。

 

「あの二人…合格したら私たちのチームに誘ってみようかしら。腕もよさそうだし」

 

あの能力があれば、いつでもどこでも。

 

極上の料理を食べる事が出来るに違いない。

 

半ば本気でそう考えるメンチ。

 

受験生の話を中心に、試験官達の食事会は続くのだった。

 

 

 

 

 

三試験会場に到着した。

 

何やら建物の上に降ろされる俺達。

 

トリックタワーというらしい。

 

試験内容は72時間以内に生きて下まで降りること……。

 

「ふむ……さてオウカどうし…よ……う?」

 

居ないし!?

 

円を使用してみる。……居た。

 

どうやら、既に隠し扉を使用し、屋上から消えていたらしい。

 

速いよ。

 

「さて…俺はどうするか……」

 

考える。

 

思い出すのは前回のハンター試験。

 

ペアでの試験だった為……俺は落ちた。

 

あのバカ野郎のせいで……

 

名前なんだっけ…じょ…じょ……ジョジョーーー!!……なんか違うな。

 

と、とにかく。今回は前回の教訓を活かして…。

 

仮にチームプレイが必要なルートだった場合、勝手な行動はさせん。

 

気絶させ、引きずってでも…合格してみせる。

 

そう固く決意し、俺は入り口をの一つから中に入った。

 

 

そして…

 

「二人三脚の道ねぇ」

 

目の前には鎖でつながれた足かせ。

 

此れを俺とパートナーの足に着けないと扉は開かないらしい。

 

こうなると…オウカが居ないのはかなり痛い。

 

まぁ、居ないものはしょうがない。

 

俺はパートナーが来るのを暫く待った。

 

そして、来てくれたパートナーは……

 

「………」

 

おぉ、金髪グラサン美女(予想)来たぁああああ!!

 

何たる幸運。

 

使えない奴だったらどうしよう。

 

暑苦しい筋肉ムキムキのおっさんだったらどうしよう。

 

変態ピエロか針人間だったらどうしよう。

 

そう思っていた矢先の事である。

 

内心ヤッホーと喜んでいると…

 

説明を読んだ金髪美女さんから…

 

「早くつけなさいよ。愚図ね」

 

そんな暴言を吐かれた。

 

あぁ!?

 

この野郎。ちょっと顔が良いからって…

 

礼儀ってものを教えてやろうか?

 

此処はガツンと…

 

「あなた左側でいいわよね。ほら、早くしなさいってば」

 

「は、はい…」

 

……ヘタレ。

 

俺のヘタレ。

 

あ、あれだよ。

 

見知らぬ男だし警戒してるんだよ。

 

此処は警戒心を解いてもらって、楽しく下を目指すことにしよう。

 

「よ、よろしく。俺の名前はセタンタ。」

 

「……」

 

む、無視ですか…。

 

なんだよ…こっちが折角仲良くしようとしてるのに。

 

最低限の礼儀もないのかこいつには…。

 

駄目だ。いくら美人でもこれは駄目だ。

 

俺ははぁ…とため息を吐いて…一歩踏み出したところで…

 

盛大につんのめった。

 

ジロッと睨まれる。

 

「こういう時、最初は繋がれた方の足を出すものじゃないかしら」

 

「何それ?知らねーよそんなルール。

 

なら、最初に行っておけよこのアマ」

 

「……ケンカ売ってるのね。上等よ」

 

へ、俺、今…

 

「声に出てたわよ。」

 

いいながら、剣呑なオーラを纏わせる美女。

 

「ま、待て!此処で俺達がやりあって、どっちかが動けなくなったら…」

 

「あら♪大丈夫よ。あなたが動けなくなっても私が引きずって連れて行ってあげるから」

 

なんか、身に覚えのある台詞を言われた。

 

とはいえ、こちらも唯でやられるつもりは無い。

 

相手が臨戦態勢になった直後、凝を行っているし…同時に堅も行う。

 

そして、足が繋がれているので。

 

図らずもチェーンですマッチのような戦いになり。

 

お互い足を止めての打ち合いになった。

 

最初にしかけて来たのは金髪美女…いやもう金髪女でいいや。

 

オーラを纏わせた右拳。流石に硬をいきなり使うというリスキーな事はやらないらしい。

 

思いのほか鋭い拳は…

 

足の繋がれた今の俺の状態で躱せずに

 

ボディに突き刺さる。

 

一瞬、呼吸が止まる。だが…こっちも

 

「うらっ!!」

 

負けじとやり返す。当たったのは胸の辺り。……狙ったわけジャナイヨ?

 

「くっ、ちょっと、あんた女に手をあげる気?」

 

「知るか。俺はフェミニストって訳じゃないからな。やられたらやり返す。」

 

第一、俺が過去戦った相手は訓練という事も含めて、圧倒的にオウカが多い訳で…。

 

「そ、それに…どこ狙ってるのよ!?変態!!」

 

「はん。言う程ないくせに。悔しかったらオウカを見習うんだな。」

 

「なっ!?む、胸は大きさじゃないわ。形よ!!」

 

「そんなの服の上からじゃよく分からんしな。なんだ?証拠に見せてくれるのか?」

 

「そんな訳ないでしょ!!」

 

言い合いながら殴り合いを続ける。

 

お互い厚くなっていたこともあり、技術もへったくれもない。

 

単なるド突き合い。

 

最初は相手の身体を中心に殴り合いをしていたが、熱くなるごとに互いの顔をめがけて拳を振るうようになり…。

 

互いに痣が増えていく。

 

金髪女の方も、グラサンが割れ、煩わしそうにそのグラサンを放り投げた事でその素顔が伺えた。

 

その瞳の色は美しい碧だった。

 

やはり思った通りの美女だった。

 

そしてその顔を見た瞬間…俺の中で既視感が…。

 

しかしその感覚は相手に殴られたことで消え、こちらも殴り返す。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…な、なあ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、な、何よ。」

 

「一時休戦にしないか?このまま続けても…なんか不毛な気がしてきた」

 

「……そうね、こんなので不合格になったらバカみたいだし」

 

互いに身体を休めるため、ドサッと座り込む。

 

そして、できた傷を撫でる…

 

オウカといい、こいつといい。女の拳じゃねぇぞ。

 

そう思いつつ、巾着袋の中からストックして置いたきずぐすりと飲み物を取り出だす。

 

「ねぇ、あんた名前なんて言ったっけ?」

 

「あぁ…く……セタンタだ」

 

あぶねぇ…思わず本名を名乗るところだった。

 

「そう、セタンタ。私の名前はね…」

 

そして…俺はその名前を聞く。

 

「リエルって言うわ」

 

その懐かしい名前を…

 

思わず口に含んだ飲み物を吹き出す…

 

今、何て言った?

 

リエル?

 

え?……いやいやいや別人だろ…

 

……でも。

 

ジッとよく見る。

 

確かにパーツパーツはリエルに似ていなくもない。

 

……いや無いな。

 

ありえないだろ。あのリエルだぜ?あのぽっちゃリーニだぜ?

あれがこんな美女になるわけがない。

 

別人だ。別人。

 

そう考えつつ、薬を振り掛け傷を治す。

 

「んじゃ、とっとと行くぞ」

 

「ちょっと待ちなさいよ。こっちはあんたにやられた傷がまだ痛…って、あんたその顔。

……そうか、治癒の能力を持っているのね。」

 

なんだそのジト目は…

 

「私のも治して」

 

はぁ、何でだ?

 

……だが、待てよ。

 

このまま一緒に下まで降りたとする。

 

先にオウカが居た場合…。

 

リエルの怪我を見て邪推するだろう。

 

……オウカはどういう反応をするだろう。

 

あいつは剣を振るう事を始めた時から、相手を切る覚悟を決めたという。

 

そのこともあり、あいつは戦闘に関しては厳しい。

 

俺が女性をボコったとしても、そのことに関してでは怒らないだろう。

 

だが、その理由に正当な理由がなければ別だ。

 

喧嘩の原因は踏み出しが会わずにつんのめった事にある。

 

……ふむ。

 

俺は無傷。相手は怪我。

 

此れは傍から見れば俺が一方的にこの女性をボコったように見えるだろう。

 

しかもそんな下らない理由で。

 

オウカは俺の能力を知っているけど…果たしてあの猪突猛進…想い~込んだら♪一直~線♪なオウカがそんな冷静な判断が出来るだろうか……

 

無理だな……。

 

「ほれ、これを適当に振りかけろ」

 

巾着袋からすごいきずぐすりを取出し、ポイッと投げる。

 

そして傷を治した俺達はトリックタワー攻略に乗り出した。

 

今度は声を出しながら、結ばれている方の足を踏み出して…。




当初、三次試験はグリードアイランドをパクる時に使った

雷速剣舞・戦姫変生を使って落雷となって下まで飛び降りようと思ったんだけど没にしました。

そして、何故かこうなった……。


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第22話

 

無事、下までたどり着き…鎖を外す。

 

外されてすぐ、リエルはふんっと悪態を付き…何処かに行ってしまった。

 

清々したという意味なのだろうか。

 

あのアマ。

 

俺がやった事とはいえ、治してあげたんだ。

 

礼くらい言うのが礼儀なのだろうか?

 

はぁ…と息を吐く。

 

すると…

 

「遅かったですね?苦戦したのですか?」

 

「あぁ……ったく、お前が居ればもう少し楽だったのに…」

 

ん?なんだ殺気が…

 

その出所を見れば、何故かあの金髪女が……しかも怒っているようだ。

何故だ?……あぁ、あれか。もしかしてこの会話を聞いてた?

 

どっか行ったかと思いきや案外近く…でもないな。ん?オーラを耳に?

なんだ聞き耳立ててるのか。

 

なら、あれか?さっきの俺の台詞がお前じゃ役不足だったって取ったとか?

 

……まぁ、いいほっとこう。

 

役不足云々はさておき、オウカだったらもっと手っ取り早かったのは事実だろうから。

 

「………そ、そうですか。そういわれるのは悪くありませんね」

 

「何赤くなってんだ?照れてるのか?……って、止めろ!その構えを!」

 

言葉の途中でスッっと抜刀する構えを取るオウカを見て、慌てて止める。

 

そんなやり取りをしつつ、オウカとたわいもない世間話をしながら時間を潰し…

 

三次試験が終了する。

 

そして、間もなく四次試験が始まる。

 

四次試験は狩る者と狩られる者。

 

そう告げ、説明を続けていく。

 

「それではタワーを脱出した順にクジを引いて貰う」

 

次々にカードを引いて行き…

 

俺の番がくる。

 

引いたカードに掛れていた番号は……320

 

マジ?

 

見慣れた番号だ。

 

うん。オウカです。本当にありがたくもない。

 

うぇええ!?マジかよ!?うわ…なんてくじ運が悪いんだ!?

 

「それぞれのカードに示された番号の受験生がターゲットになる」

 

全ての受験生が引き終え、説明を続ける試験官

 

「奪うのはターゲットのナンバープレートだ。自分のターゲットとなる受験生のナンバープレートは3点。自分自身のナンバープレートも3点。それ以外のナンバープレートは1点」

 

……オウカを狙う?…うわっ、めんどくせぇ…。

 

「最終試験に進むために必要な点数は6点。ゼビル島での滞在期間中に6点のナンバープレートを集めろ」

 

適当に三人狩ろ。そっちの方が楽だ。

 

取りあえず、俺のプレートは巾着袋に入れて、具現化を解除しとこ。

 

これで、俺のプレートを奪える奴はいない。ケケケ…

 

 

三次試験のタワーを脱出した順にスタートする。

 

俺はスタートと同時に駆け出す。

 

とりあえず、中央付近を目指そう。

 

プランとしてはそこで円を使い、各受験生の位置を確認し、その後絶で緊急離脱だな。。

 

ふむ…取りあえず全部の受験生がスタートするまでは絶で姿を消しつつ、移動だな。

 

 

中央付近で円を使う。

 

 

……ふむ、一か所に何人か受験生が集まっているな。

 

一人は殆ど気配が隠せていない、一人は絶が甘く気配が若干漏れている、そして最後の一人は見事な絶。殆ど完璧と言える。

 

円なして発見するのは至難の業であろう。

 

……最後の一人はともかく、最初の二人は手安そうだな。

 

そう考え、絶を使用しながらその三人組の所へ移動する事にした。

 

そこに辿り着き、様子を伺う。

 

後方から弓で狙う受験生。

 

そして、放たれる弓。

 

その弓は間一髪で相手に交わされるが、軽い傷を負う。

 

「ふぅ…危ねぇ、危なぇ」

 

弓を躱し、笑みを浮かべながら背後を振り返る男。

 

油断なく剣を構えている。

 

そして、弓を放った方もあっさりと草むらから出てくる。

 

そして、暫くすると矢に当たった方の人間が倒れ…

 

「矢には即効性のしびれ薬が塗ってある。一週間はまともに歩くことは出来ないよ」

 

そう言いながら、プレートを探り…

 

「安心しな、水場はすぐそばにある。死にはしないさ」

 

探し当てたプレートを手で弄びながら

 

「こいつは貰っていくぜ…じゃあな」

 

意気揚々とその場を去ろうとする。

 

ふむ…

 

俺は絶状態からオーラを足に集中させる。

 

そして一気に間合いを詰めて…襟首を掴み。

 

強引に投げた。

 

油断しすぎ。

 

そのまま気絶した男から先ほど奪った分のプレートと、この男自身のプレートを二枚奪い。

 

急いで、その場を後にした。

 

 

 

駆けながら円を使う。

 

狩るのは1人。

 

2人円の範囲内に入ったのでその後を追ったが…その姿を見て狩るのを諦めた。

 

 

蛇使い…バーボン。

 

今の今まで視界から存在を消していたのにこんな所で会うとは…。

 

その後を付けているのは帽子を被った女の子。

 

その二人は洞窟の中にしけ込んでいった。

 

うん。次に行こう……。

 

そしてまた受験生を探しに行く。

 

その途中……尾けられてるな。

 

1人……いや、2人か。

 

1人目は正体は分からないが、恐らく俺がターゲットなのだろう。

 

そして、2人目。

 

離れたところからかなりのスピードでこちらに近づいてきている。

 

そして…

 

「ちょ、ちょっと何よアンタ!!」

 

「大人しく番号を……あ、クラン。もう一人はあなたでしたか。」

 

「お前らか……」

 

出てきたのはリエルとオウカだ。

 

「気が付いていたのですね?やはり円を?」

 

「あぁ、お前も使ってたみたいだけどな」

 

「いいえ、私の円はあなたに比べたら範囲は微々たるもの…。私はただ気配を察知しました。」

 

……え?

 

それって円を使ってないってこと?

 

そっちの方が凄くね?

 

そんな会話をしていると…

 

「……円…それにさっき…」

 

何やらブツブツと言っているリエル。

 

「そして…ねぇ、あなたの名前は?」

 

そんな質問を投げかけてくる。

 

「自己紹介はしたよな。俺の名前はセタンタだ」

 

「セタンタ?何を言っているのですクラン……あぁ、偽名を使うんでしたね。」

 

……おい、オウカよ。

 

台無しだよ。ぜぇんぶ台無しだよ。

 

まぁ、こいつの場合ずっとクラン、クラン言ってたからもしかしたら何人かにはバレていただろうが…

 

……だって、何度言ってもクランって呼ぶんだもん。

 

「ふ、ふふふ…」

 

何が面白いのかふと笑い始めるリエル。

 

だが、怖い笑みだ。オウカも怪訝そうに様子を伺う。

 

だが、凝は俺もオウカも行っている。「

 

そして…サングラスを取りながら…

 

「この顔に覚えはないかしら?」

 

サングラスの下は綺麗な碧眼。いや…徐々に

 

「瞳の色が…」

 

変わって行く。オレンジっぽい色に。

 

それと同時にオーラの質が変わる。

 

まさか…

 

「通常なら緋色に変わるのですが…私の場合、祖父の血を色濃く引いていまして……祖父は純粋な一族の人間ではないのですが…」

 

思わず…

 

「…リエルなのか?」

 

言葉を漏らす。その瞬間…リエルの姿が消える。

 

「なっ!?」

 

オウカが声を漏らす。

 

そして…

 

「うおっ!?」

 

目の前に現れたリエルに体当たりをされ…

 

そのまま押し倒された…

 

「……てた……きてた……生きてた…」

 

ポタリポタリと落ちてくる滴。

 

その涙に濡れた橙色の瞳は…

 

世界七大美色の緋の眼に勝るとも劣らない…。

 

綺麗な色だった。




ポックルさん…さようなら(生きてます)

なんかアリ編のアニメ見てたら、現在2回行われているオウカ、クランの追いかけっこにチードゥを加えた三つ巴展開を想像してしまった。

まぁ、クランの使える能力に、どんな速度や行動であろうと必ず誰よりも速く動くことができる。
死世界・凶獣変生があるから、勝負は決まってるんだけど…。

そう…シュライバーさんの能力です。


後、全然作品とは関係ないけど。

海皇紀の主人公。ファン・ガンマ・ビゼンもシュライバーと同じくらい名前の響きが好きです。

何故か記憶にに残る名前。


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第23話

 

私クランは今現在、零距離で女の子と接触しております。

 

押し倒されております。

 

アイアイで同じような状況になったが…。

 

なんだろう。

 

トキメキの度合いが違う。

 

お互いの吐息が掛る距離。

 

吸い込まれるような瞳……

 

俺達はその距離をさらに縮め…

 

「で、何時までやっているつもりですか?」

 

そんな俺の妄想は実現しなかった。

 

そう、此処にはもう一人居たのだ。

 

スルーされ続けていたこともあり、かなり不機嫌そうなオウカ嬢である。

 

だから、柄に掛りそうなその手を止めろ。

 

その言葉に、現在の姿勢を自覚したのだろう。

 

恥ずかしくなったのかバッとリエルが距離を取る。

 

「ご、ごめん。う、嬉しかったから……」

 

ゴシゴシと目元を擦るリエル。

 

なんだ?リエルが…可愛く見えるだと?

 

「でも…よかった……生きていてくれて……急に居なくなっちゃったから」

 

うっ…

 

「ねぇ、どうして居なくなっちゃったの?」

 

……言えない。

 

クルタ族滅亡の未来を知っていた為、逃げました。

 

だらだらと背中に汗を掻く。

 

……言えない。

 

しかも逃げた後は、天空闘技場で稼いだ金を使い美味い物を食べたりしてた。

 

「い、色々あって…ちょ、ちょっと旅に…」

 

く、苦しい。

 

「そうだったの…でもよかった。そのおかげであなたは助かったのだもの…」

 

やめてー。

 

その微笑みやめてーー。

 

どんどん削られていく。

 

ごめんなさい。ごめんなさい。

 

罪悪感が半端ない。

 

そこに…

 

「何やら色々と訳ありだそうですが。まぁいいです。取りあえず私の要件を果たさせてもらいます。」

 

割って入るオウカ…助かったーーー。

 

「…あなたは?」

 

「私の名はオウカ。オウカ・シラヌイと言います。」

 

「そう。私はリエル。それであなたはこいつとどういう関係なのかしら?本名を知っていたみたいだけど、知り合い?」

 

そう言われてオウカが俺を見る。

 

「……考えてみれば、私とあなたはどのような関係なのでしょう?」

 

ふむ…

 

「いちおう師匠ってことになるのか?」

 

「確かに…念はあなたに教わったので一概にはそう言えるかもしれませんが…私もあなたに剣を教えましたよ?あぁ、そういえば、あれからちゃんと鍛練は行っていたのですよね?」

 

にっこりと微笑むオウカから視線を逸らす。

 

念の修行の代わりに頼んでも居ないのに剣を強引にオウカから教わることになったのだが…。

 

この天才様は教える事にとことん向いていない。

 

感覚派なのだ。

 

バッと踏み込んで…スバッとやればよいのです。

 

……訳が分からねぇよ。それじゃ。

 

あれだよ?一応、天空闘技場で稼いだお金で刀を購入して、購入当初は俺もやる気満々だったんだ。

 

元日本人。刀に対する一種の憧れのようなものは転生した俺の中にもあったし。

 

でも、オウカに支持し殆ど上達しなかったこともあり…

 

今では巾着袋の奥底に封印されている。

 

俺の態度から悟ったのだろう…

 

「……分かりました。試験が終わったらまたみっちり仕込みます。逃げたら…」

 

「…逃げたら?」

 

チャっと刀を軽く揺するオウカ。

 

どうやら、命は無いらしい。

 

そんなやり取りをしていると…

 

「ふ、ふふ。」

 

「あ、あのリエルさん?」

 

錯覚かと思うが禍々しいオーラを醸し出すリエルさん。

 

体感的にヒソカの非じゃねーんだが…この禍々しさ。

 

だが、それは俺の錯覚だったようだ。実際には一瞬の事だった。

 

今見ても禍々しさは殆どない。何故か、殺気立ってはいるが…

 

「あの時…私が頼んだのに…この女には念を教えていたのね?」

 

あ~。そういえばそんな事もあったような気がする。いや、でもあの頃は俺も色々と…

 

「そうなのですか?私の場合、特に頼まずとも教えてくれましたが…」

 

何言ってるのーーー!?いやまぁ、確かに念について教えた時になし崩しにそうなったような覚えはある。

 

面と向かって、オウカから念を教えてくれと言われた記憶がないのだ。

 

あれ?

 

「ふふ、ふふふ……。ねぇ、クラン」

 

こ、怖ぇえええ。なんだこれ?これが俗にいう修羅場という奴ですか?

 

なんだ?なんで修羅場っているんだ?

 

こいつらもしかして俺に気があるのか?

 

いや、リエルは前はそうじゃないかなーとは思っていたんだけど、再会して間もない訳で…。

 

オウカの方も…今思えばそんな素振りがあったような。

 

アイアイで数々の経験を積んできた今だからこそ気が付いた訳だが…。

 

「私がね、何故此処に現れたのか…教えてあげるわ。それはね、あなたが私のターゲットだからよ。」

 

「…えっと、昔のよしみで見逃してくれたりは…」

 

「……そうね。さっきまではそう考えもした。でもね、個人的に聞きたい事もあるし…」

 

フッとリエルの姿が消える!

 

なんだ!?これ、俺より早…うぉっ!?

 

気が付けば目の前まで距離を詰められ、振るわれた拳を間一髪で避ける。

 

そして、尚も追撃をしようとするリエルを…

 

「瞬間移動という奴ですか。放出系でしょうか?」

 

迎撃したのはオウカだ。間に割って入り、相手を蹴とばした。

 

だが、リエルも咄嗟に腕をクロスさせガードする。

 

その結果、若干吹き飛ばされて俺達と距離が開き…。

 

俺を庇うようにして立っているオウカとリエルの二人が対峙する事になった。

 

「…邪魔をする気?」

 

「はい。私のターゲットはあなたなので…」

 

オーラの質が互いに変わる。

 

もう、完全にやる気…臨戦態勢という奴だ。

 

「お、おい止めろよお前ら!」

 

「……その女を庇う気!?」

 

「引っ込んでいてくださいませんか?」

 

止めに入るも、聞く耳持たず。

 

……もういいや、好きにしろよ。

 

まぁ、怪我したら治してやればいいや。

 

 

 

先手を取ったのはリエル。

 

また、フッと姿が消える。

 

多分放出系のテレポート能力化と思われる。

 

一瞬で距離を詰められ、さらにどこから来るか分からない…驚異的な能力だ。

 

だが…

 

「なっ…」

 

「芸がありませんね。それに同じ手を何度も使う物ではなりません。」

 

出現し、今度はナイフを手に持ち攻撃してくるリエルを簡単に裁くオウカ。

 

そう、俺もさっき攻撃を避けた事から気付いたが、出現から攻撃までの動作が若干遅い。

 

オウカは一応、俺と同等のスピードを持ち…さらに刀を使った近接戦闘は俺より上だ。

 

いや、過去の訓練時の対戦成績は五分なのだが、それは俺がオーラの総量や念の練度が上なのを利用し、強引に勝利を捥ぎ取っていただけであって、同じ条件下ならオウカの方が強い。

 

ゆえに、あれくらいの攻撃なら問題ない。あと一つ、問題があるなら瞬間移動で攻撃が何処から来るか分からないという点だろう。

 

しかしそれも…

 

「な、何で…」

 

「円です。そこのクランのように馬鹿げた範囲ではありませんが、自分の間合い程度の範囲の円なら私でも使えます」

 

そう、円で相手の出現を察知しているのだ。

 

リエルの瞬間移動からの攻撃よりもオウカの出現を察知してからの攻撃の方が速い。

 

なので…

 

「ぐっ…ごほっ…」

 

再度、瞬間移動からの攻撃を仕掛けたリエルだったが、今度はカウンターで腹部にオウカの掌打が叩き込まれた。

 

刀を抜かないのは加減をしているからなのだろう。一応、多少の冷静さは残っているようだ。

 

それほど、この二人には差がある。

 

攻撃時、防御時にきちんと流を行い、オーラの移動を適材適所に行っているオウカに対し、

 

リエルは常に一定。発こそ使ってはいるが、流を使用しているようには見えない。

 

さらには凝も使っていないのだ、念での戦闘の心得が無いのだと思われる。

 

俺とオウカは短い間だが組手も行っており、一応俺の知るすべての知識は叩き込んである。

 

この差はでかい。

 

「…ふぅ、プレートも頂きましたし…用はすみました。」

 

戦闘の合間に、何時の間にかプレートを奪っていたオウカがそう告げる。

 

「ま…まだ……負けてないわよ」

 

ふらふらと立ち上がるリエル。その間に割って入る。

 

「止めとけ、念の戦闘の心得のない。今のお前じゃオウカには勝てない。」

 

きつい視線を向けてくるリエルを無視しつつ、近づき薬を振り掛けてやる。

 

あらゆる傷に効くすごいきずぐすりと、腹部に関する怪我、病気を治す名称セーロガーンを使用する。

 

「あの巾着袋といい、つくづくあなたの能力は便利な物ですね。そういえば、身体の欠損部も治すことができるとか言っていましたよね?」

 

「いちおうあるにはあるけど、まだ人間に使った事は無いからな…」

 

因みにその薬の名称はピッコロサァァンだ。

 

「なら、手を抜く必要はありませんでしたね」

 

「いや、君、人の話聞いてた?」

 

刀に手を触れるオウカを見て若干引く。

 

唖然としながら自分の怪我が治った事を確認していた。リエルがはぁっと息を吐き…

 

「負け…完全に私の負けね。」

 

そう告げた。

 

「ねぇ、あんたに教わればそいつに勝てる?」

 

「あ~。さぁなぁ。でも今よりは確率上がるんじゃないか」

 

「……そいつに教えて私に教えないってことは無いわよね。」

 

ガシッと俺の腕を掴むリエル。

 

一度断っているせいだろうか?逃がすまいとしている。

 

はぁ…

 

「分かったよ。教える。教えますよ」

 

こいつに対しては後ろめたい事だらけだし…

 

冷たく接していたりとか…

 

暴言吐いたりとか…

 

見捨てたりとか……。

 

「……ごめん。なんかごめんなリエル。」

 

今までの自分の行動を振り返り、思わず謝ってしまう。

 

「前、断った事?い、良いわよ。今度教えてくれるんだし、だ、だからそんな顔しなくてもいいわよ」

 

いや…もう…ほんとごめんなさい。

 

「それで、これからどうするのです。クランはプレートは集まったのですか?」

 

「いや、俺はあと1点分。だから適当な受験生を見つけて狩ろうかと思ってるんだけど…リエルは?」

 

「私は今、持ち点ゼロよ。……今回のハンター試験は見合わせようかと思うの。あんた達二人からプレートを奪えそうにないし、6人も受験生を探して倒すのも大変だから。だから、クラン。あなたの試験を手伝ってあげる。その代り、点数集めたら残りの時間で早速念の事教えてね」

 

「あぁ。クリアしたら時間まで暇だしな」

 

ターゲットとして狩られる心配も、俺のプレートを狙ってたのがリエルだったから無いしな。まぁ、俺みたいに1点分のプレート欲しさに遭遇戦をする事があるかもしれないけど…。

 

そん考え、後1点分を狩ろうかと歩き出したところで、何故かオウカも着いてきた。

 

「どした?」

 

「私も手伝ってあげます。それに、そこの女が不意を衝いてあなたからプレートを奪う可能性もありますし…監視してあげます」

 

なんだろ…ピキっと亀裂が走った音が聞こえた気がする。

 

「ふふ、面白い事を言うじゃない。オウカさんだったっけ?」

 

「そうですか?クランの知り合いとは言え…疑うのは至極当然かと思われますが…」

 

互いに不気味に微笑む。

 

俺はそんな二人を放置して、とっとと狩りに行く事にする。

 

付き合ってたらこのまま落ちかねんからな。

 

そして…

 

名も知らない、念も使えない受験生を大人げなく3人がかりで包囲し、プレートを奪い。

 

人目を避けつつ、時間を潰し。

 

俺とオウカは4次試験を突破。

 

リエルは4次試験で不合格となった。



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第24話

 

四次試験を突破した俺とオウカ。そして離れる者かと無理やりついてきたリエル。

 

そして、俺は最終試験に向けてネテロとの面談を行っていた。

 

「受験生の中で一番注目しておるのは誰じゃ?」

 

「いい意味で405番と99番、悪い意味で44番と301番」

 

原作主人公ペアと危険人物コンビである。

 

「今、一番戦いたくないのは誰じゃ?」

 

「44番、301番、320番」

 

「…見事に念が使える連中じゃのぅ…一番と言うたのに…」

 

「一人に絞るなら44番かな」

 

44番ヒソカである。何にしろ変態だし。

こいつの場合、試合開始早々ギブアップしても聞き入れない可能性がある。危ない、怖い。

 

 

301番のイルミだが、こいつは意味なく殺しはしない……と勝手に思っている。試合開始早々ギブアップすれば無理に命を狙う事はされないだろう。

 

そしてオウカ。上記2人に比べて危険度は低いし。

 

 

 

 

面談を終え、暫くしたのち最終試験が始まる。

 

此処に居るのは最終試験に臨む受験生であり…

 

俺の隣でグラサンを外しているリエルは若干浮いている。

 

あ、そういえば。

 

「なぁ、リエル。お前、あのクラピカに見覚えってないのか?」

 

「え?言われてみれば何処かで会ったような気がするけど…思い出せないわね」

 

あまり接点はなかったのだろう。どうやら覚えていないらしい。

 

クラピカの方も別段リエルに気が付いている様子はない。

 

まぁ、こいつの場合見た目がなぁ。ぽっちゃりさんだったしな。気が付かないのも分かる。

 

そんな話をしていると第一回戦が始まる。組み合わせは原作通りゴン VS ハゲ

 

んで、結果も原作通りゴンを気絶させ、ハゲが棄権した。

 

そして二回戦。組み合わせはクラピカ VS ヒソカ

 

こちらも原作通り。暫くたたかった後、何かを囁いたヒソカが棄権した。そして、こっちを見ながらニヤリと笑みを浮かべる。

 

……鳥肌が立った。

 

続いて三回戦…ハゲ VS ジョルジュ

 

……ん?ジョルジュ?

 

…居たのかお前ーーー!?

 

全然気が付かなかった。

 

いや、無意識のうちに視界から消していたのかもしれない。

 

それにしてもよく此処まで残れたもんだ。リエルでさえ落ちたのに。運がよかったのか?

 

「ふ、君のようなハゲに僕のような高貴な人間が負けるはずがない。大人しく危険したらどうだね?」

 

挑発をするジョルジュ。相変わらずのようだ。本当によく此処まで残ったもんだ。

 

そんなデカい口を叩いたジョルジュだが、案の定。

 

あっさりとハゲに押さえつけられ、脅され、すぐさま棄権した。

 

ジョルジュぁ…。

 

そして四回戦。

 

ヒソカ VS オウカの試合。

 

「くくく♧君か…楽しめそうだね♡」

 

「楽しんでいるところ悪いのですが、棄権します」

 

あっさりと棄権するオウカ。

 

「連れないなぁ♢そんな事言わないで楽しもうじゃないか♤」

 

「お断りします。私も不戦敗は不本意なのですが…戦いたい相手が居るので」

 

そういって、さっさと舞台を降りようとするが…ヒソカからオーラが放たれ、それはオウカの腕にくっ付く。恐らく…【伸縮自在の愛(バンジーガム)】。

 

多分隠を使っている。俺は凝を使ってたから見えたけど。

 

すると、オウカは刀を抜き、一度だけ振るってまた納刀する。傍から見れば、虚空を薙いだようにしか見えないだろう。だが…

 

「へぇ…面白い能力だね♡」

 

「私に断てない物はありません」

 

オウカの刀はヒソカのバンジーガムを断ち切っていた。

 

断ち切られたバンジーガムはやがて四散する。

 

それを見届け、オウカはスタスタとこちらの方に歩み寄り…

 

「これで、久しぶりにあなたと戦えますね♪」

 

そう微笑んだ。

 

……忘れていた。

 

こいつの負けず嫌いな部分を。

 

そして一種の戦闘狂な部分を

 

いや、ここまで我慢していたことが成長の証なのだろう。

 

ジョルジュとキルアの試合はキルアの棄権で終了し…

 

次の組み合わせは…セタンタ VS オウカとなっていた。

 

 

 

 

はぁ…

 

無駄だと思うが、オウカにメッセージを送る。

 

ピッと指を立て、指先のオーラを変化させメッセージを送る

 

『また別の日にしないか?』

 

『こんな衆人環視の中で念を使ったら能力がばれる』

 

『しかも非念能力者もいるんだぞ』

 

そんな俺の提案は…

 

『問題ありません』

 

駄目だ……完全にやる気になっている。

 

はぁ、仕方がない。

 

此処は奥の手を使わせてもらおう。

 

「ふふ、さぁ、戦りましょう♪」

 

ふっ、すまんな…勝負はもう付いている。

 

俺は開始の合図で抜刀の構えを取るオウカを尻目に…

 

「棄権します」

 

あっさりと負けを認めた。

 

 

 

「どう考えても今のは真剣勝負の流れでしょう?」

 

言いながらかなり冷たい視線を投げかけてくるオウカ。だからさぁ。

 

「こんな人が大勢いる所で念使えないだろう」

 

それに…

 

「悪い。次は俺の番だ」

 

セタンタ VS ポドロ

 

試合相手はポドロ。

 

武道家って感じのおっさんだが、非念能力者だ。

 

力の差は歴然。

 

死なないように手加減しつつ適当にボコる。

 

中々ギブアップしないので傷ついていく一方だ。

 

しかもオウカとの試合をあっさり棄権した挙句、弱い物いじめのような感じになってしまっている俺の事を物凄い怖い目で見ているオウカ。

 

あ~早く降参してくれないかな。

 

「力の差は歴然だ。武道家たるもの潔く負けを認めるのも大事なんじゃないの?」

 

そんな事を言ってみる。

 

その他にも色々、武道家の矜持をつっついた説得を行った結果。

 

ようやく負けを認めてくれた。

 

ふむ、此れで俺もハンター試験合格だ。

 

思えば長い道のりだった。

 

ペーパーテストで落とされ…

 

ジョルジュの暴走で落とされ…

 

申し込みを忘れ…

 

だが、ようやっと合格したのだ。

 

後はなんか変装を解いたイルミとキルアの原作通りのやり取りが続き。

 

俺がボコったポドロさんにキルアが止めを刺して失格となり。

 

ハンター試験は終了となった。

 

 

 

 

ゴンとギタラクルのひと騒動がありつつも…無事合格者の説明会を終えた。

 

俺とオウカは外で待っているリエルと合流する為にその場を後にする。

 

オウカからは後で説教があるからと言われた。まだ怒っているようだ。

 

その際、二次試験でウニを分け与えたよしみでゴンと連絡先を交換する……。と言ってもゴンは携帯を持っていないので俺とオウカの連絡先のみだが。

 

ついでの流れてゴンと一緒に居たクラピカ、レオリオとも連絡先を交換した。といっても、レオリオの目当てはオウカのようだが…目線が胸に行ってるよ?

 

その後、ゾルディック家に向かうという三人と別れ、俺達はリエルと合流し、急いでその場を後にする。

 

「なんでこんなに急いでるのよ!?」

 

それは奴が来る前に離脱したいからだ。

 

変態ピエロに攻撃をされたらたまらない。

 

特にオウカとの試合は消化不十分だったし、十分あり得る話だ。

 

それらの理由から足早に街中へと俺達は逃げて行った。

 

 



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第25話

「どうしてこうなった?」

 

目の前にはやる気満々のオウカ。そして期待に目を輝かせているリエル。

 

場所は町からそこそこ離れた荒野である。

 

そこで俺達は向かい合っていた。

 

「今なら思い切り戦えますよね?」

 

最終試験の時の対戦を此処で仕切り直そうと言う話になった。

 

というかオウカが一方的にそう決めた。

 

リエルも乗り気…

 

もういい……諦めた。

 

取りあえず、【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】で結界を作る。

 

充分な広さを取り、準備完了だ。

 

「巾着袋に薬に…今度は此れですか。とことん便利ですね」

 

けど思い切りやれます。と喜ぶオウカ。

 

そして始めの合図は特になく、オウカが仕掛けてくる。

 

「……ふっ!」

 

素早い踏込からの袈裟切り。当然のように刀には周を使っている。俺はと言えば、その周よりも多いオーラで防…って、拙い!!

 

咄嗟に気づく。

 

周ならばより多いオーラで防御した時に刀が弾かれる筈だ…しかし、オウカの放った斬撃は俺のオーラを切り裂き、身体を通過する。

 

そして切り裂かれたオーラは四散し…直ぐに元に戻ろうとするが…その切り裂かれた部分が完全に無防備。オーラで守られていない状態になり

 

其処に返しの刀で左切り上げ。俺は咄嗟に右腕にオーラを集中し、受け止めた。

 

「え、えげつないコンビネーション。切り替えが早くなってないか?」

 

今のはオウカの発。本人は斬(ザン)とか言ってたな。

 

見た目は周を行った状態の刀と相違ない。だが完全に別物。

 

このオウカの斬はオーラ…相手の念能力を切り裂く。

 

ヒソカの伸縮自在の愛(バンジーガム)を断ち切ったのもこれだ。

 

最も、斬で切れるのは念のみ。肉体や物体は素通りする。

 

強化系の能力で斬撃を強化していき、極めようとしていた際に使えるようになったという。

 

本人いわく、掛けられた念も斬り裂くことで除念が可能との事だが、除念の場合、消す念能力と同等のオーラを自身も消耗するので自分の許容を超えるオーラの念は斬れない。

 

この斬と周を同時に使用した剣術がこいつの基本的戦闘スタイル。

 

周での斬撃は普通に斬る能力が上がっているので、こいつの攻撃力に劣るオーラで防御するとスパッと斬られる。

 

見た目じゃ分からないのですべてが周だと想定して、防御を展開しなくてはならない。じゃないと大ダメージ喰らうしね。

 

しかし斬だった場合、オーラは容易く斬られ、その部分は一瞬無防備状態になる。

 

そこに周の斬撃を喰らえば、当たった部分によっては一瞬であのあの世逝きだ…。

 

「つか…殺す気か?」

 

「安心してください。峰打ちです。」

 

いや、峰だろうがオーラを纏っていない部分に周の攻撃喰らったらヤバいから。

 

強くなったな…オウカ。

 

昔はそこまでの精度は無かったんだが…。

 

滅茶苦茶やり辛い。

 

……こっちも出し惜しみはしてられないか。

 

 

俺の能力で戦闘用の能力は【永遠の中二病(エターナルオブドリーム)】のみ。

 

詠唱さえ完了すれば、絶大な効果の能力が使用可能である。

 

しかし、詠唱に時間が掛る事が難点だ。

 

だが…それを補う方法がある。

 

俺は目を閉じ、緋の眼を発動させる。

 

長年の練習で発動時間、持続時間が格段に向上している。

 

そしてそのまま、【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】を俺の周囲にのみ発動させ、間一髪いれず、【鳥籠の幸福空間(ケージオブエンヴァイロメント)】で時間を操作する。

 

この二つの能力さえ展開すれば、詠唱時間を稼ぐのは容易だと気付き…。

 

以来、念の発動速度の向上に努めて来た。

 

今ではかなりの速度で発動が可能だ。

 

 

 

ーー

 

私が犯した罪は

War es so schmählich,――

 

 

心からの信頼において あなたの命に反したこと

ihm innig vertraut-trotzt’ ich deinem Gebot.

 

 

私は愚かで あなたのお役に立てなかった

Wohl taugte dir nicht die tör' ge Maid,

 

 

だからあなたの炎で包んでほしい

Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer;

 

 

我が槍を恐れるならば この炎を越すこと許さぬ

Wer meines Speeres Spitze furchtet, durchschreite das feuer nie!

 

 

 

創造

Briah―

 

 

雷速剣舞・戦姫変生

Donner Totentanz――Walküre

 

 

詠唱を完了させ、能力を発動する。

 

それと同時に結界を解き…

 

「……それもあなたの能力ですか?」

 

油断なく構えるオウカへと…

 

雷の如く駆けて攻撃を行う。

 

唯の拳打。だが、今の俺は雷。

 

加減はしているので、ちょっとは火傷を負うかもしれない程度の電圧。

 

円を使っていたのだろう。

 

間合いに入ってから、咄嗟に防御しようとした反応速度は素晴らしい物がある。

 

だが…

 

「それでも…俺の方が速かったな…」

 

能力を解除し、気絶したオウカを抱きとめながらそう呟いた。

 

 

 

 

「どうだった?」

 

取りあえず気絶したオウカを寝かせてリエルにそう尋ねる。

 

「正直、私とはレベルが違ったわね……」

 

悔しそうに言うリエル。

 

「そういえば、念は独学で?」

 

「……基本の四大行は両親から教わったわ。後は独学で能力を開発したりして……」

 

なるほど応用技はまだって訳ね。

 

話しながら多少の火傷をしたオウカにきずぐすりをふりかけて治療を施す。

 

程なくして、目を覚ましたオウカにジト目で睨まれた。

 

「あんな隠し技があったとはね…」

 

「まぁな」

 

「そういえば、前々から疑問だったのだけど…クラン。あなた昔私の身体を操作して動けないようにしたことがありましたね?」

 

拷問城の食人影を使った時の事か…。

 

「あなたは本当に変化系ですか?あれほどの強制力。操作系…もしくは操作系と隣り合う放出系や特質系としか思えないのですが…」

 

……オウカならいいか

 

「嘘は付いてない。俺は変化系だ……ただ」

 

カラコンを外し、緋の眼状態になる。

 

「その瞳は…」

 

「…緋の眼。俺…いやクルタ族は緋の眼発動時に特質系となり、全ての系統の力を100パーセント引き出せる。」

 

「そんな秘密が…」

 

……おい、何故リエルが驚いてやがる。

 

「クラン、あなたはクルタ族だったのですか?」

 

「あぁ、隠してて悪かったな。まぁ、色々あるんでな」

 

言いつつ、カラコンを付け直す。

 

「でさ、念の修行はするとして…これからどうするんだ?つか、お前らなんでハンター試験を?」

 

「私はとある刀を探しているのです。3年前…お世話になった刀鍛冶師の工房から盗まれた最高傑作である五月雨桜を……ハンターになれば刀の情報が手に入りやすいと思いまして…」

 

ふむ、オウカの動機は刀と…リエルは

 

ふと、リエルの方を見れば、瞳の色は変わり、殺気を醸し出していた。

 

「私は…ある男を殺すためよ。そのため情報収集の手段が必要だったの」

 

「……ある男っていうのは?」

 

「幻影旅団…全身包帯の男」

 

………もしかしてボノレノフ?

 

「本当なら幻影旅団を皆殺しにしてやりたいわ……。でも、私にはやらなきゃいけない事がある。旅団全員を殺すには私も命を捨てる覚悟が必要…死ぬ物狂いでやらなきゃいけない。それじゃ、母さんとした約束が守れないの」

 

「約束?」

 

「そう、約束。死ぬ前に母さんを交わした。それは私が好きな男の人と添い遂げて、子供を産んで…クルタの血を後世まで繋ぎ…幸せに暮らして欲しいと。」

 

懐かしさ、愛おしさそして哀しみ。母の事を語るリエルの表情からはそんな感情が読み取れた。

 

「本当ならもう、幻影旅団と関わり合いになる事を母さんは望んでいないと思う。だけど…あいつ…あの男だけは…父さんと母さんを殺したあの男だけは…」

 

再び凄まじい怒気と殺気に染まるリエル。

 

「絶対に殺す」

 

……どうするか

 

リエルの覚悟は本物だ。止めたところで止まりはしないだろう。

 

ただ、クラピカと違い…まだ目標に現実味がある。旅団全員は無理でも一人だけなら戦い方によってはどうにかなるかもしれない。

 

だが、今のままでは…

 

「…幻影旅団がどれほどの実力者の集団か分かりませんが、噂は遠く離れたジャポンにも聞こえてきます。相当な実力者なのでしょう。正直、今のあなたでは万に一つの可能性もありませんよ?」

 

そう、オウカの言うとおりだ。今のリエルで勝てる可能性は殆どない。

 

「分かってるわよ!だから、修行をしようとしてるんじゃない!!」

 

「そうですね。ですが、修行をしたところで勝てる可能性が出てくるかはわかりません。ですが…私と二人ならどうでしょう?」

 

オウカさん?

 

「何を言っているのあなた?」

 

「手伝うと言っているのです。此処であったのも何かの縁。死なれても後味が悪いですし…」

 

それに…っと微笑むオウカは…

 

「幻影旅団。是非とも一度手合せしてみたい相手ですね」

 

そっちが本当の動機だろ?このバトルジャンキーめ。

 

はぁ、仕方がない。

 

「俺も手伝うよ」

 

「クラン!?」

 

流石に二度もリエルを見捨てるのもどうかと思うし、オウカもほっといたらヤバいし…

 

何より、俺ならある程度旅団の動きが先読みできる。原作知識という反則技を使って…。

 

ただし…

 

「その包帯男だけな。他のメンバーとの接触は極力避けろ。…目を逸らすな!主にお前に言ってるんだよ!」

 

目を逸らすオウカに注意をする。

 

仕方がない。

 

「オウカ、他の人間に目移りする前に…まず俺に勝てよ。……負け犬」

 

「っ!?ふふ、それもそうですね。良いでしょう。その時が来るまで…あなただけを見ていましょう」

 

あ~。こんな美女に言われてみたかった台詞だ。あなただけ見ています。

 

……殺気立ってなきゃ最高なんだけどなぁ。

 

「二人とも…ありがとう。その代りに私も刀を探すの手伝うからね」

 

頭を下げるリエル。

 

「それでクランがハンターライセンスを取った理由はなんです?」

 

「あ~。俺は二人みたいに明確な目的がある訳じゃないんだ。ただあったら欲しい情報があった時に便利かなと思って…」

 

ごめんね。2人みたいな動機が無くて…。

 

それを誤魔化すために、早速ライセンスを使って情報収集をすることを提案し、近くのネカフェに入った。

 

「一応俺が、円を使っとくから」

 

ライセンス目当ての不届き物が居たら速攻で分かるだろう。

 

その間、オウカ…というよりリエルがオウカのライセンスを借りてハンター専用サイトにアクセスする。

 

「……機械は苦手です」

 

……オウカよ。

 

お前、ライセンス持ってても一人で情報収集できないじゃん。

 

まさか、店員さんにお願いする訳にもいかないし…。

 

カチカチと操作していき、いざ情報を得ようとした所でピタリとリエルの手が止まる。

 

「どうした?」

 

「それが…」

 

画面を確認する。そこには

 

『五月雨桜かい?情報料3000万ジェニー頂くぜ』

 

とバーテンダーの台詞が表示されていた。

 

「オウカさん、幾ら持ってる?」

 

「……五万ジェニーくらいですね」

 

少なっ!?

 

リエルに尋ねられて答えたオウカの金額に驚く。

 

「貸そうか?」

 

天空闘技場のお金がまだかなり余っている。

 

「結構です。親しき仲にも礼儀あり。お金の貸し借りはしない主義なので」

 

つってもなぁ、今五万だろ。

 

「……因みにリエルは幾らくらいあるんだ?」

 

「二十万ジェニーくらいかしらね。クランは?」

 

えっと…幾らくらい残ってたかな…

 

携帯で残高を確認してみる。ふむ…

 

「1億8千万くらいだな」

 

「「……え?」」

 

固まる2人。ふむ…まずは何にせよ金稼ぎか。

 

行くかなあそこ。

 

この時期…変態ピエロが居るけど…200階に行かなきゃ多分、大丈夫だよね?




再び天空闘技場へGO

能力は煉たんと迷ったけど、やっぱりベアトリス。

つか他の人の能力使いずらい。

威力が強すぎるか、弱点がやばすぎるとかで…。


弱点ヤバい組

聖餐杯 魂がむき出しになる。攻撃喰らったら一発でおしまい。能力の発動が原作での死亡フラグ。

シュライバー卿 人に触った時点でアウト。回復不能の致命傷を負うというリスクがある。

ベイ中尉 吸血鬼と同じ弱点が付く。何気に吸血鬼って弱点多し。

威力強すぎ組。

ザミエル卿 手加減難しい。すべてを焼き尽くす。攻撃範囲広すぎ。

マッキーナ 一撃必殺。生まれてから1秒でも時間がたっている物を破壊する能力。手加減とかそも      そも無理。

カインの兄貴 触れたものが腐食してしまう。やっぱり手加減とか無理。

後そのほか残っている能力は使いづらかったりする。

まぁ、威力が高いものは手加減不要な戦いには容赦なく使うが。

蟻兵士とかとの戦いとかにね。


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