遊戯王GX ~氷結の花~ (大海)
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一年目 第一部 学び舎
第一話 咲き誇る氷結の花


初めまして。
以前別のサイトに投稿していたものを加筆、修正して投稿させていただいております。
誤字脱字、矛盾もあるかもしれませんが、とにかく楽しんで頂く事を祈ります。
それでは、行ってらっしゃい。



視点:???

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ……ざわ……ざわ……

 

 ……ざわざわ……

 

 

「……」

 

 目を覚ました時、周囲からざわめく声が聞こえてくる。

 大勢の、若い少年少女の声。

 ある者は興奮し、ある者は明るい声を出したと思えば、ある者はショックなことがあったのか、大変項垂れています。

 その理由は分かっています。そして、座った状態のままうっかり眠ってしまっていた私もまた、その事柄の順番を待つ者の一人。

 眠っていたままの体勢でジッと座り、その時が来るのを待ちます。

 

 その間、周囲からの多くの視線が私を襲います。当然理由も分かっていますし、こういう事にも慣れているので今更気になりません。

 今はただ、静かに時を待つだけです。

 

 そして、遂にその時が来ました。

「受験番号1-B番、準備して下さい」

 

 受験番号1-B番。私のことです。

 ひざの上に乗せた、白く光るデュエルディスクを手に立ち上がり、控室から出ます。そして廊下を歩き、デュエル場の前に立った時、先程以上に多くの、興奮の声が私を包む。

 

 ここは未来の決闘者(デュエリスト)達を育てる、デュエルモンスターズの養成学校、『デュエルアカデミア』の試験場、『海馬ランド』。大勢の少年少女達が、一流の決闘者を目指し集う場所。

 試験の内容は、一に筆記、二に実技の成績を見ます。確か実技での受験番号は、筆記での成績で決まります。

 私は受験番号1-B。

 随分特殊な数字ですが、何でも私と共に筆記で一位を取った方、1-Aの方がいて、今私の前でデュエルを行っているということです。

 目の前には灰色の制服を着た少年が、黒い服を着た試験官さんと向かい合っています。

 彼の前には、仮想立体映像(ソリッド・ヴィジョン)で具現化されたモンスター『ブラッド・ヴォルス』と一枚のセットカード。そして試験官さんの場には、『起動砦のギアゴーレム』を始めとした、守備力の高いことで知られるモンスター達。一見少年は八方塞がりのようにも見えますが……

 彼は余裕な様子でデュエルディスクに手を伸ばします。

 

「罠発動、『破壊輪』!」

 

 その声と同時に、ブラッド・ヴォルスの首に手榴弾の付いた首輪が掛かります。

 『破壊輪』は、フィールド上のモンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージをお互いに与える。

 『ブラッド・ヴォルス』の攻撃力は1900、そして二人のライフは……

 終わりですね。

 

「ぐあー!!」

 

 試験官さんの悲鳴が上がり、同時にライフはゼロに。

 最後に立っていたのは、灰色の制服の少年でした。

 

 

 

視点:三沢

「見事なデュエルだった」

「ありがとうございます」

 デュエルを終え、試験官と握手をする。少なくともこれで合格は間違い無いだろう。

 気になるのは、筆記で俺と同率一位、俺と同じく満点を取ったという受験番号1-B番の存在。もっとも、控室で待っていた間に大方の目星は付いた。

 そいつはかなり目立つ格好をしていた。ほとんどの人間が制服姿である中、一人だけ私服だった。いや、あれは私服と呼んでいい物なのかすら怪しいが。

 そして何より、みんなが緊張や興奮といった感情を露わにしていたにも拘わらず、そいつは余裕だというように居眠りを決め込んでいた。それが余裕なのか、それとも疲れなどから来たものなのかは分からないが、とにかく、色々な意味で面白い存在だ。

 

 そんな存在を頭に浮かべていた時、『彼女』は目の前に立っていた。

「やあ」

 軽く声を掛けると、彼女はこちらに目を向ける。

 ずっと座っていたから分からなかったが、身長は思った通り、俺より頭一つ分短いくらいだろうか?

「やはり君が1-B番か。そんな気はしていたが、正直少し驚いているよ」

 そう言うと、彼女は無言で笑顔を見せた。

 大きく光る目、小さな鼻、艶やかな唇、白く輝く肌。思わず見とれてしまうほどの美しい笑顔だ。いや、美しいのは顔だけじゃない、とにかく、彼女は全てが美しかった。

 顔と同じく、透き通るように白く光っている、首や手といった露出した部分の肌。後ろで一本に縛ってある腰の辺りまで伸びた黒髪も、艶があり光っている。

 そして何よりも目立つのが、青色に輝く、着物。青色の布地にいくつも施された白い花の刺繍が輝いていて、一瞬彼女が妖精に見えてしまう。雪の結晶の形をした髪飾りもそう見せているのかもしれない。姿と雰囲気から、本当に雪の妖精のようで、とにかく美しかった。

 

「受験番号1-B番、デュエル場へ」

 

 その声で、一瞬呆けていた俺は我に返ることができた。

 彼女は俺に話し掛けようとしたようだが、呼ばれたことで試験官の方を見ている。

「じゃあ、頑張ってくれ」

 一言だけ言い、急いで観客席へ走る。

 向き合い、話してみて分かった。

 彼女はとても強い。雪のように透き通る美しさの中に、確かに俺は感じた。

 これからきっと、凄いデュエルが見られると。

 

 

 客席に着くと、何とか間に会ったようだ。彼女はまだデュエルディスクを手に持ったままだ。

「綺麗な人だなぁ……」

 目の前に立っている、眼鏡を掛けた水色髪の少年がそう言った。

 そう言ってしまうのも分かる。彼女は本当に美しいのだから。

 

「名前と受験番号を」

 

 そう彼女に声を掛ける試験官も、どこか声が浮ついているように聞こえる。それによく見れば、周りに座っている、男女問わず生徒のほとんどは彼女に見惚れている。彼女がどれだけ美しいのかを嫌でも再認識されてしまうな。

 そんなことを考えながら彼女に目を向けた時、彼女は口を開いた。

 

「受験番号1-B番、『水瀬(みなせ) (あずさ)』です。一応申しておきますが、男子ですよ」

 

 

 

視点:万丈目

 

『男ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!??』

 

 水瀬梓。

 あの男の発言に、デュエル場は騒然となった。

 まあ確かに、あいつはどう見ても男子には見えない。服装から容姿から、全てが明らかに少女のそれだ。

 ただ、声だけは違う。

 やや高めではあるが、それでも明らかに少年の声をしている。

「男……あの美しさで……男……」

「そんな……バカな……」

 左右に座っている取巻き二人もショックを受けている。

 哀れだな。

 俺にはよく分からんが、とにかく男であることが相当ショックだったらしい。まあ、あんな和服美人と付き合うのは、男としてハッピーかもしれんが、どの道俺には興味が無い。俺には既に、心に決めた人がいるのだからな。

 

「で、では早速、デュエルを開始する」

 

 試験官も、驚いて呆けていたのがようやく元に戻ったようだ。

 どの道、直前の三沢大地もそうだが、水瀬梓、受験番号1番になるほどの頭脳の持ち主。

 まあエリートである俺にはあまり関係の無いことだろうが、実力がどれほどの物か見せて貰おうじゃないか。

 

 

 

視点:梓

 やはり、どこでも反応は同じですね。まあ、好きでこんな格好をしている上に、昔から顔も女性そのものなのだから仕方が無いと言えばそれまでなのですが。

「で、では早速、デュエルを開始する」

「はい」

 返事をし、私は左腕にディスクを装着し、左腕の袖から青色のデッキケースを取り出します。

 しかし、それを見た瞬間、昨日まで感じていた不安が、今になってまた蘇ってきました。

 

 このデッキは、試験の二週間ほど前に出会ったカード群で構成されたデッキ。それまで使っていた物とは明らかに違う物。

 しかし、彼らと出会った時、確かに私は感じた。彼らと私の間には、何か切ることは出来ない大切な、絆のような物があると。同時に彼らとは、共に戦っていかなければならないと。だから私はそれまで使っていたデッキを置き、彼らと共に行くことを誓ったのです。

 しかし、やはり不安です。

 いくら絆を感じたとはいえ、出会って半月ほどしか経っていない。もちろん、私なりに彼らの特性を活かすため、今日まで試行錯誤してきました。かといって、それで彼らは応えてくれるのか。本音を言えば、今このケースに入っているデッキさえ、まだまだ未完成なのだから。

 怖い……

 負けることや、試験に落ちることがではない。

 負けることで、彼らの期待を裏切ることになるのではないか。

 私の感じた絆は、そこで絶えてしまうのではないか。

 それがとても怖い。

 二週間という短い時間でも、彼らにはそれを感じさせる何かがある。その何かを失うことが、私は堪らなく怖い……

 

「……大丈夫か?」

 

 遠くから聞こえた気がしました。そして、そちらを見ると、試験官さんが心配そうに見ていました。

「デュエルはできるのか?」

「……あ、はい、申し訳ありませんでした」

 慌てて返事を返しました。それと同時に見てみると、どうやら客席にいた人達も、私の様子がおかしいことを気にしたらしく、一様に心配そうな目を浮かばせています。

 その時、思い出しました。

 そうだ。不安など、形はどうあれ今日ここにいる人達全員が感じている。それに、自慢したくはありませんが、私は受験番号1番という、誉れある称号を与えられた身。そんな私が、不安ごときに負けるわけにはいきません。

 

 怖いことは変わらない。ですが、私は、その恐怖を乗り越えます。

 

 

 

視点:亮

 どうやらもう心配は無さそうだ。

 水瀬梓といったあの少年、デッキを見ながら、何かに苦しんでいるような顔を見せていた。しかし、試験官に話し掛けられ、その直後に周囲の生徒達を見て、その表情から不安は消え、変わりに強い決意が伝わってくる。

 何を不安に感じていたかまでは分からないが、それを断ち切る覚悟を決めたようだ。

 

「ようやく、彼のデュエルが見られそうね」

 

 隣に立つ一年女子、『天上院 明日香』が話し掛けてくる。

 俺は頷き、明日香と共に水瀬梓に集中した。

 

 

 

視点:梓

 ケースからデッキを取り出し、ディスクにセットし、試験官さんと向き合います。

「準備が出来ました」

「よし。では始めよう」

「はい!」

 お互いにデッキから五枚のカードを引き、手札を作る。

 

決闘(デュエル)!!』

 

 

試験官

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

「先行は私だ。ドロー」

試験管

手札:5→6

試験官さんがカードをドローした時、私も自分の手札を見ますが……

 これは……

「行くぞ。私はフィールド魔法、『伝説の都 アトランティス』を発動する」

 足元に大量の海水が発生し、あっという間に私や試験官さん、そして周囲の人間を沈め、同時に風景が海の底の、古代神殿に姿を変えます。

「アトランティスがフィールドに存在する限り、手札とフィールド上の水属性モンスターのレベルは一つ下がり、フィールド上の水属性モンスターの攻撃力、守備力は200ポイントアップする! 私は手札より、レベル5から4に変わった『ギガ・ガガギゴ』を召喚!」

 

『ギガ・ガガギゴ』

 レベル5→4

 攻撃力2450+200

 

 鉄の鎧に包まれた、トカゲでしょうか? そんな感じの殿方が目の前に立ちました。

「先行は1ターン目での攻撃は不可能。私はカードを1枚伏せ、ターンを終了しよう」

 

 

試験官

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『ギガ・ガガギゴ』攻撃力2450+200

   魔法・罠

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

    セット

 

 

 試験官さんがエンド宣言をするまで、私は食い入るように手札を見ていました。

「私のターン、ドロー」

 

手札:5→6

 

 今引いたカード……

 そして、この手札……

 そうですか。それがあなた達の、私への答えなのですね……

「私は今引いた速攻魔法、『サイクロン』を発動!」

 目の前にカードを掲げた瞬間、フィールドに竜巻が巻き起こる。

「試験官さんのセットカードを破壊!」

 竜巻に巻き上げられたカードは、『激流葬』。

 危ない所でした。やはりこのデッキは……

「私は永続魔法、『ウォーターハザード』を発動!」

「……君も水属性デッキか」

 試験官さんがそう呟いたのが聞こえました。まあ、誰でも分かることですよね。

「このカードが存在する限り、私の場にモンスターが存在しない時、手札からレベル4以下の水属性モンスターを特殊召喚することができます。この効果で、私は手札の『氷結界の水影』を特殊召喚!」

 私の前に大きな水柱が発生し、その中から紫色の服を着た、金髪の忍者が姿を現しました。

 

『氷結界の水影』

 レベル2→1

 攻撃力1200+200

 

「そしてこの瞬間、速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動!」

「な!? そんなことをしたら!」

 試験官さんの口から驚きと、何やら呆れた風な声が漏れました。まあ、無理も無いかもしれませんが。

「相手の場にモンスターが存在する時に攻撃力1500以下の『氷結界の水影』を特殊召喚したことで、私はデッキより、新たに『氷結界の水影』を二体、特殊召喚します。試験官さんの場には『ギガ・ガガギゴ』が一体、手札かデッキから、同名カードを可能な限り特殊召喚願います」

 

『氷結界の水影』

 攻撃力1200+200

『氷結界の水影』

 攻撃力1200+200

『氷結界の水影』

 攻撃力1200+200

 

『ギガ・ガガギゴ』

 攻撃力2450+200

『ギガ・ガガギゴ』

 攻撃力2450+200

『ギガ・ガガギゴ』

 攻撃力2450+200

 

「プレイミスかね? わざわざ三体にしてくれるとは。おまけにアトランティスの効果で攻撃力がアップしているとはいえ、それでは『ギガ・ガガギゴ』には勝てない。それなのに攻撃表示とは」

 

 

「何やってるんだあの人?」

「どうしてわざわざ相手の場に上級モンスターを?」

「プレイミスかよ」

「これであの人も終わったな」

 

 

 そんな声が周囲から聞こえますが、関係ありません。

 なぜなら、私は確信しているからです。このカード達。彼らとの絆、繋がり、それらは全て、本物だったと。私の信頼に、彼らは確かに応えてくれました。

「『氷結界の水影』の効果、自分フィールド上にレベル2以下のモンスターしか存在しない時、相手に直接攻撃することができます!」

「なに!?」

 彼らが応えてくれるなら、私は何も怖くない。

 共に行きましょう。今はまだ形すら見えぬ、しかし確かに存在する、私達の目指すべき場所へ。

 

「『氷結界の水影』三体で、試験官さんにダイレクトアタック!」

 

 三人の水影の姿が消えた、その瞬間、私の足元が突然凍りつきました。

 氷はあっという間にフィールドを飲み込み、全てを氷の世界へ。まるで私を中心に、氷の花が咲いたように。それは妖しくも美しい、涼しげながらもどこか暖かい、幻想的な空間。

 その空間で、私はもう一度叫びます。

 

「氷結・斬影の形!」

 

「三!」

(ズバ!)

「うお!」

 

「連!」

(ズババ!)

「がは!」

 

「斬!!」

(ズバァ!)

「ぐあああああああああ!!」

 

試験官

LP:4000→0

 

 

『ワンターンキル……!!』

 

 

 最後の試験官さんの悲鳴とほぼ同時に、水影達は私の前に戻って参りました。

 そして、三人は私を一瞥し、消えていきました。

 同時に仮想立体映像である氷の世界も消え、辺りは通常の決闘場に戻ります。

 

「……」

 怖がる必要も、不安を感じる必要も、始めから無かったのですね。

 あなた方は始めから私のことを信じ、勝利を与えてくれた。

 改めて、私と共に戦いましょう。私の愛するデッキ。私の愛するカード達……

 

 

 

視点:外

 決闘に勝利した直後、梓は左手の決闘ディスクを抱き締めるように胸に抱き、右手をデッキに添え、目を閉じた。その表情にはうっすら微笑がうかがえる。

 たったそれだけの動作に、決闘場に集まった視線は、一瞬にして彼に注がれた。

 

「う、美しい……」

「きれい……」

 並んで立っていた二人の少年、『三沢 大地』と『丸藤 翔』。

 自身でも気付かぬうちに漏らした一言だった。

 梓の容姿はもちろんのことだが、表情、立ち居振る舞い、そして何より存在自体。それら全てが、美しく輝きを放っているように見えた。

 まるで、決闘場という鉄の塊が広がる場所から、手を押し広げるように咲いた一輪の青い花のように。

 仮にデュエルの女神という物が存在するとするならば、彼にこそその言葉は相応しいのかもしれない。梓の性別は男だが、そんなことは気にならないほどの輝きを、デュエル場にいる者全員が感じた。

 

 

 そして、その美しさの正体。それに、形はどうあれ気付いた者も数人いた。

(どうしてかしら? 今までデッキと向き合っているという決闘者は大勢見てきたつもりだけど、彼ほど明確に、カード達への愛情を感じる人は初めて見たわ……)

 中等部女子のナンバーワンに君臨する少女、『天上院 明日香』。彼女はその美しさの中にあるカードへの愛、それを、敏感に感じ取った。

(そうか。彼はデッキを愛しているのはもちろんだが、彼もまた、デッキに愛されている。だからカードと触れ合った姿が、あんなにも輝いているのか……)

 決闘アカデミアで『カイザー』の称号を欲しいままにする実力ナンバー1、『丸藤 亮』。彼もまた、その美しさの正体に気付いていた。

 

 

 そしてここにもう一人、その美しさの正体に気付いた人物。

(……! く、いかん! 俺まで一瞬奴の美しさに見とれてしまった。まさかここまで、決闘を愛し、決闘に愛されている人間が存在するとは……)

 左右で梓の姿に無言になってしまっている取り巻きを前に、『万丈目 準』は一人、悔しさと、嫉妬を芽生えさせていた。

 中等部でトップの成績を維持し、エリートとして君臨し、その身には既に実力随一の寮、『オベリスクブルー』の制服に身を包んでいる。

 だがそんな彼でさえ、決闘を愛することはできても、決闘に愛されるという境地には未だ到達できずにいた。

 そんな万丈目にとって言えば、同い年ながら目の前で輝く梓の存在は、感動を通り越して嫉妬を、そしてそれさえ通り越し、怒りさえ芽生えさせる存在と化していた。

(おそらく奴はそう遠くないうち、アカデミア最大の脅威となる。だが、負けてたまるか! 入学したてである奴に、アカデミアのエリートである俺が負けることなどあってはならない!!)

 

 

 そうして、梓を中心に、それぞれがそれぞれの思いを抱いた空間に、その空気を壊す声は響いた。

 

「すいませーん!!」

 

 廊下から聞こえたその声に、梓は反射的に振り返る。その瞬間、黒の学生服を着た少年とぶつかり、上下に向かい合う形で仰向けに倒れてしまった。

「痛てて、大丈夫か?」

「ええ……あなたは?」

「俺は大丈夫だけど」

 上下に向かい合いながら、そう気軽に会話を始めた。

「そういやお前、決闘見てたけどすっげえ強えんだな!」

 少年は興奮を隠しきれない様子で、倒れた体勢のまま立ち上がろうともせずそう話し掛ける。

「カード達が応えてくれたお陰です」

「ああ。お前のデュエル見て、カード達に好かれてるのがすっげえ伝わってきたぜ!」

 梓もまた、現在の体制を直そうとはしない。ただ気軽に会話をするだけ。

「俺は『遊城 十代』。よろしくな!」

「『水瀬 梓』と申します。よろしくお願いします」

「ああ。お前みたいな強い奴を見てると、それだけでワクワクしてくるぜ!」

「それは嬉しい言葉ですね。私より強い人というのは大勢いるでしょうが。もしかして、あなたもその一人ですか?」

「お、分かるかぁ?」

 

「ゥオッホン!」

 

 二人の会話を中断したのは、そんな咳払いだった。

「あなたガータ、いつまでそんな体勢でいるつもりナーノ?」

 かなり癖のある口調に、真っ白な肌と青の制服。実技担当最高責任者『クロノス・デ・メディチ』は顔を赤く染めながら、二人に怒りの声を上げていた。

「そんな体勢って?」

「何か問題でも?」

「問題大アリナノーネ!! 早く立たないと公然猥褻(わいせつ)罪で警察を呼びまスーノ!!」

 能天気に尋ねる二人にまたクロノスは叫ぶ。

 クロノスの怒りももっともだ。梓も十代も、現在の自分達の状況を分かっていない。

 十代が上になり、梓がその下に倒れている。おまけにぶつかった拍子に着物が乱れ、梓の白く光る胸元が、細身な二の腕が、そして太腿が、エロティックに露出してしまっている。

 まるで十代が梓に襲い掛かり、梓は無抵抗のまま成すがままにされているかのように。

 実際クロノス以外にも、それを見ている者全員が一様に顔を赤らめていた。

「警察って……何だよ、何とかわいせつ罪って?」

「公然猥褻罪というのはですね……」

「ンガー!! いいから早く立つノーネ!!」

 結局二人とも釈然としないまま、クロノスの悲鳴に立ち上がった。

 梓が着物を直していると、また十代は梓に話し掛けた。

「なあ梓、今度俺と決闘しようぜ!」

「ええ。アカデミアで会いましょう。十代さん」

 最後にそう会話し、梓は去ろうとしたが、

「あっ」

 何かを思い出し、踵を返して客席とは逆方向へ走った。

 そこは、試験官達の座る席。その前をしばらく歩きながら、ついさっきデュエルをした試験官を見つけ出した。

 

「良きデュエルを、感謝致します」

 

 礼を言いながらお辞儀をし、今度こそ客席へ。

 その一連の行動に、礼を言われた試験官はもちろん、そこにいた試験官全員が笑顔を見せた。

 

 

 その後、受験番号110番『遊城 十代』は、実技担当最高責任者でありながら、試験用のデッキではなく、自分のデッキを手に試験官として対面した『クロノス・デ・メディチ』を下した。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ」

 

「格好良いー」

「どうやら、1-B番以外にも、警戒するべき人間はいたようだな」

 

「遊城十代、面白い奴」

(……)

 

(まさか110番の落ちこぼれが、クロノス教諭を倒すとはな)

 

 遊城十代。彼もまた、多くの生徒達に多くの思いを芽生えさせた。

 そして、梓もまた。

(本当に、これからが楽しみです)

 本当に楽しそうにデュエルをする十代の姿に、そして、ようやく思いを分かち合うことができた自分のデッキに、未来への希望を抱いていた。

 

 

 

 




お疲れ様でした。
梓の見た目ですが、おそらく皆さんが真っ先に思い浮かんだ『梓』で問題無いかと。ポニテにして着物着せて下さい。ただし、CVは全く違います。
三話辺りでCVが発覚すると思うので、ちょっと待ってね。


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第二話 アカデミアへ

二話目~。
決闘は無いよ~。
一応、この話で梓の性格が大体分かるんじゃないかなと。楽しんでくれるかな。
それでは、行ってらっしゃい。



視点:梓

 今私は、大海原を渡る船の上にいます。肌には風が心地よく吹き、耳にはカモメの声や波の音が心地よく響きます。

(それにしても、視線を感じますね)

 まあ、それも自業自得と言えましょう。全員が制服でいる中、私一人が試験の日と同じ、青色の着物を着ているのですから。

 

「やあ、1-B番」

 

 突然、そんな声が聞こえました。振り返ると、あの時とは違い、黄色の制服を着た少年。

「あなたは、『三沢大地』さん」

「覚えてくれていたか?」

 彼は笑顔で返事をして下さいました。なので私も笑顔を作ります。

「私のことは梓で構いません。大地さん」

「そ、そうか/// じゃあそう呼ばせてもらうよ /// 梓///」

 なぜだか顔を赤くしながら、大地さんはまた笑顔を見せて下さいました。良き友達となれそうです。

 

 

 

視点:三沢

 やれやれ。男だと分かっているものの、やはり見惚れてしまう美しさだ。彼の笑顔を見た瞬間、思わず抱き締めてしまいそうになった。

「それにしても、随分目立っているようだな」

「ええ。制服は落ち着かないので着物で来ましたが、失敗でした」

 彼は服装のことを気にしているが、それだけじゃないだろう。

「それだけじゃない。君は入学でいきなりブルーだからな。まあ、君の決闘を見れば納得だが」

「え? 何のことですか?」

 梓は顔に疑問を浮かべながら、俺の顔を見ている。く、いちいち可愛い仕草だ。

「もしかして、寮のことは知らなかったのか?」

 その質問に、梓は困ったように頷く。どうやら本当に知らないようだ。

 仕方が無い。俺は梓に、成績と寮について説明を始めた。

 決闘アカデミアの高等部には、全部で三つの色に別れた寮が存在する。生徒はそれぞれ試験時の成績で区分けされ、在籍する寮がそのままその生徒のステータスとなる。

 アカデミア中等部で成績優秀だった者が在籍する寮、『オベリスクブルー』。

 入学試験で優秀な成績だった者が在籍する寮、『ラーイエロー』。

 劣等生の集まる『オシリスレッド』。

 ちなみに女子は全員ブルーに入れられる。そして男子で、中等部に在籍しておらず、高等部からアカデミアに入学した者は、どんなに優秀な成績でもラーイエローとなる。筆記の成績が梓と同率一位だった俺がイエローであるのが証拠だ。まあ、実技の内容は比べるべくも無いが。

 つまり、高等部入学でいきなりブルーである梓の存在は異例中の異例と言える。そんな異例だからこそ、既にこの船にいる人間は全員それを知っている。

 

「では、私は私と共に学年一位であった大地さんを差し置いて、トップであるブルーに……」

説明を終えると、急に梓は哀しげな表情を浮かばせた。

「お、おい梓、どうかしたか?」

 泣きだしそうな顔がかなり可愛いが、そんな思いを抑えながら話し掛ける。

「私は、正規の手順を踏まずに、たった一度の試験でブルーとなってしまった。これでは、私以外にアカデミアに入学した方々にあまりにも失礼だ。すぐに校長先生に頼んで、私をレッドにして貰わなければ……」

「いや待て、落ち着け! 確かに正規の手順とは言えないが、実際こうなることにはあの場にいた全員が納得しているんだ。でなければ入学からブルーなどにするわけが無い」

 しかし、そんな俺の言葉にも、梓は頭を横に振った。

「アカデミアという学び舎に入学したのは、決闘に強くなりたいから。その思いは全員が同じ。順位や成績で決めて良いものではありません。私はたまたま、運に恵まれていたというだけのこと。それだけでブルーという、皆さんが目指す場所へ直行するなど、あまりにも、皆さんを冒涜してしまっている。その事実を思うと、私は……私は……」

 そして梓は目に両手を当て、泣きだしてしまった。

 ……おい、これは(はた)から見ると、俺が梓を泣かせているように見えないか?

 いや、実際周りにいる生徒は俺をそんな目で見ているじゃないか! 

 見るな! そんな目で俺を見るな!! 

 

「おいお前!! 何してるんだよ!!」

 

 !!

 

 

 

視点:十代

 甲板で出会った翔と仲良くなった俺は、二人で歩きながら色々なことを話し合っていた。そんな時、周りにいる生徒達がざわめき始めた。そしてみんなの目線の先を見ると、黄色の制服を着た男子の前で泣いてる、青い着物を着た男子。

 ありゃ梓じゃねーか! 

「おいお前! 何してるんだよ!!」

 そう叫んだ時、黄色の男子はこっちを見た。あれは確か、

「三沢! 何で梓を泣かせてるんだ!?」

「ち、違う! 俺じゃない!!」

 三沢は否定してるが、こんな状況じゃどう見てもお前が泣かしてるじゃねーか! 

「大地さんではありませんよ……」

 三沢を睨んでいる俺に、梓が涙ながらにそう訴えてきた。

「お気になさらず。私がただ、一人で泣いていただけですから……」

「梓……」

 梓は最後に目を拭い、目が赤い状態で笑顔を浮かべた。

「十代さん、無事合格できたようで、嬉しいです」

 一応は元気になった、のか? 

「お、おう。これからよろしくな」

「はい」

 笑顔で返事をしてくれた。まあ、とりあえず元気になったみたいで良かったぜ。

 あと、何で三沢と翔は顔が赤いんだよ……

 

 

 

視点:梓

 決闘アカデミアに到着した後、私は早速寮の自室に足を運びます。

 とても広く贅沢で、おまけに一人部屋。確かイエローは一人部屋でもここまで広くなく、レッドは古い建物の部屋に一人から三人の部屋だと聞きました。

 その話しを思い出しただけで、まだ出会ってすらいない方々に比べ、自分がどれだけ恵まれた身分なのかを思い知らされます。

 やはり、今からでも校長先生にお願いし、私をレッドにして頂くべきでしょうか。

 しかし、同時に大地さんの言ったように、それだけ私の力を高く評価して下さっているというのもまた事実。そこでレッドに入れろというのも、ある意味で言えばこれからお世話になる先生方に失礼かもしれません。

 私はどうすればいいのでしょう。

 部屋にいるだけでは答えはいつまで経っても出ませんね。

 少し、外を歩くとしましょうか。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ……迷いました。

 広いアカデミアの中を無作為に歩いているうち、迷子になってしまったようです。

 ここはどこなのでしょう。考えても分からないのでひたすら歩くしかありません。そうすればいずれ、人のいる場所に辿り着くかもしれませんし……

 そう思った時でした。

 

「ダメだ……!」

 

 そんな声が聞こえ、私はそちらへ走りました。

 

 

 

視点:万丈目

「別に良いじゃねえか、減るもんじゃなし」

「ここはオベリスクブルー専用の決闘場だ。落ちこぼれのオシリスレッドが立ち入っていい場所じゃない!」

 決闘場に入ってきたレッドの二人に、取巻きの二人が出ていくよう言っている。俺自身も、レッドがこんな場所に居座られるのは気分が悪いし目障りだ。

「兄貴、もういいから、移動しよう」

 小さい方が遊城十代にそう言って、決闘場から出ようとした、その時だった。

 

「あの、申し訳ありません」

 

 聞き覚えのある声だ。その声がした方を見ると、意外な人物がそこにいた。

「ああ!! あなたは!!」

「水瀬梓さん!!」

 二人はレッドの存在など忘れたように、水瀬梓に駆け寄っていく。

「私のことを知っているのですか?」

「もちろんです! 入学でいきなりブルーなんて、さすがですね」

「それにしても、今日は一段とお美しい」

 今日はって、入学試験の時に一度見ただけだろうが。

 こいつらは二人とも、あいつが男子だと分かった後も、あいつの決闘の後で見せた姿に酔いしれてしまったらしく、完全に奴の虜となっていた。おかげで今日までも、何かあれば水瀬梓の名前を出していた。所詮は筆記と実技の成績が最高だっただけの男だというのに、二人とも惚気過ぎだ。

 

「おーい、梓!」

 

「あ、十代さん!」

 水瀬梓は遊城十代の名を呼びながら、そのまま近づいていった。そう言えば今思い出した。あの試験の最後、遊城十代は突然現れたかと思うと、水瀬梓を押し倒していた。そのせいで二人してクロノス教諭からかなり文句を言われていた。

 あの時何かを話していたし、どうやらその時に仲良くなったらしいな。

「お前もデュエルしに来たのか?」

「いえ、恥ずかしながら、歩いているうちに道に迷ってしまって……」

「何だ、迷子かよ」

 まるで俺達の存在を忘れたように、普通に会話をしている。

 そんな二人に俺達を思い出させる意味も込め、俺は水瀬梓に対し、思っていた疑問を問うことにした。

「水瀬梓」

「はい、何ですか? 万丈目準さん?」

 なに? 

「俺の名を知っているのか?」

「ええ。ブルー一年生のエリートであると評判ですから」

 ほう、ブルーで入学したものだからどこか生けすかない奴かと思えば、中々しっかりしている部分もあるらしいな。

「まあ良い。それより……何だ! お前のその格好は!!」

 水瀬梓は自分の服装を見て、もう一度俺に顔を向けた。

「ここは決闘アカデミアだ! なぜ制服を着ていない!?」

 そう叫んだ時、一気に困ったような表情を見せる。

「すみません。制服は落ち着かなかったものですから。しかし、既にクロノス先生から許可は頂いておりますよ」

『許可?』

全員が疑問の声を上げ、それが重なる。

「はい。先程、ここに来る前にクロノス先生に出会ったのですが……」

 

 

 

視点:外

「マンマミーヤ! あなたはセニョーラ……いやセニョール梓!?」

「ああ、クロノス先生」

「何なんでスーノ、その格好は!! 制服はどうしたノーネ」

「す、すみません。制服は着てみたのですが落ちつかなくて……」

 

「ダメでしたか?」

 

「ンニョ! /////」

 

「ダメ、ですか?」

 

「ンン~~~~~~~……//////」

 

「ダメ……ですか……?」

 

「ンガ~~~~~~~~~//////////」

 

「……」

 

「し、仕方がないノーネ。特別に許可して差し上げルーノ」

「クロノス先生……」

 

 

「といった感じで」

『(クロノス教諭……)』

「とても優しい先生で、安心致しました」

『(いや、違うから……)』

「へえ、良かったじゃねえか」

 一人分かっていない十代に言われながら、無垢なる表情を浮かべる梓に対し、全員何も言えずにいた。

 だが、一人だけ言える人間がいた。

「ふん。どうせ全てはお前の外見からだろうな」

 万丈目のその一言に、全員の視線が一気に集まる。

「ちょ、万丈目さん……」

「お前達は黙っていろ。誰かが言わねばならんことだ」

 そして、万丈目は梓の前に立ち、指差し、叫ぶように言う。

「試験の結果は確かに優れていたが、ブルーに所属できたのは明らかに見た目が良いからだろうよ。でなければ、いくら何でも、入学時点でいきなりブルーなど普通はあり得んからな。所詮貴様など、見た目だけで地位を約束されただけの裸の王様だということだ!」

 その発言に、当然怒りを露わにする人間もいた。

「万丈目!!」

「さんだ!」

「おい、いくら何でもそれは無えだろう! 梓の決闘を見てなかったのか!? 梓には実力があったんだ! 見た目だけでブルーに入れるかよ!!」

「そうっすよ! いくら何でも梓さんをバカにし過ぎっす!!」

 怒りを露わにする翔と十代。そして、

「万丈目さん、俺もそれは無いと思います!」

「梓さんが可哀想だ!」

 取巻きであったはずの二人も、万丈目に向かって叫んでいた。

 だがそんな中でも、万丈目は平然としていた。言うべきことを言い、何よりエリートである自分に、何を誰から言われようとも気にはならなかった。

 だが、例外もあった。

「やめて下さい、皆さん」

 文句を言う四人をそうなだめたのは、誰あろう、否定された梓本人。

「良いのです。彼の言ったことは事実なのですから」

 笑いながらそう言い、全員を見据えるが、その目には、哀しみを浮かべていた。

「その通りです。私は昔からそうでした。私と出会った大抵の人は、外見ばかりを見ました。自分で言うのも何ですが、何かを成し遂げるために、時には人並み以上の努力をしたこともあります。なのに、皆さんは私ではなく、私の外見を見るのです」

「あなたの言ったように、きっと今回も同じでしょう。おそらく私の外見が華やかだから、ブルーに置くことにしたのでしょうね。一応、アカデミアに入学するため、私なりの努力をしてきました。ですが、やはり今回も同じようです……」

「……何か、ひどい話だな」

 そう十代が言った後で、梓に誰も、何も話し掛けることができなくなってしまった。そして、そんな中でも、梓は笑顔を浮かべた。

「今の言葉で、やっと気持ちの整理がつきました。実は、このままではあまりにも他の生徒の皆さんに失礼なので、レッド寮に入寮させて下さるようお願いしようと思っていたのです」

『え!? 』

 十代と万丈目以外の声が唱和した。

 それも当然だろう。成績の悪化、問題を起こす、寮を降格されるとしたら大抵はこれらだが、それらによる降格ならばいざ知らず、入学したてにも関わらず、自分から進んで寮を、それもブルーの生徒がレッドへ降格させて貰おうなど、前代未聞の事態だった。

「そうだな。貴様のような愚か者、レッドに行くべきだろうな」

 そんな事態にも、万丈目は冷静な声で声を掛けた。

「はい、その通り……」

「そうやって周囲ばかりに目を向け、簡単に楽な場所へ逃げようとする愚か者はな!」

 梓が全てを言い切る前に、万丈目がその言葉を遮った。

「逃げるなど……私はただ、このままではあまりにも不公平であると……」

「それを逃げていると言っているのだ!!」

 また梓の言葉を遮り、そして叫ぶ。

「ブルーに入れたのは確かに外見が主な要因だろうが、少なくともそれ以外の実力は、そこのレッドが言ったように本物だった! 決闘の後で貴様の放った輝きは、決闘に愛されている者だからこそ放つことができる輝きだ! それだけで貴様には、悔しいが、ブルー寮に入れるだけの力がある。例え貴様が定石どおりイエローに入ったとしても、ブルーに入るのは時間の問題だったろう」

「それをだ! たかだか外見での優遇ごときで恐れ慄き、あまつさえレッドへの降格を願う! そうやって今の自分の在り方を否定することを逃げと言わずして何と言う!? 裸の王であることが恥ずかしいのなら、家に隠れるのではなく、そこから一着ずつでも服を探していこうとなぜ考えん! そんな心構えこそが、周囲の生徒への侮辱だということが分からんのか!!」

「万丈目……」

「さんだ!」

『万丈目さん……』

 十代も、翔も、取巻き二人も、全員がその話しに聞き入っていた。

 そして、誰よりもその話しに目を輝かせているのが、

「私は……」

 

 

 

視点:万丈目

 水瀬梓は突然俺様の手を取り、顔を近づけてきた。

「そうでした。私は大切なことを忘れていました。周囲への慎みばかりを考え、なぜ今の自分があるのかを忘れていました。慎みを理由に逃げる。それは、慎み以上に侮辱でしかない。そうなのですね」

「ま、まあな……」

 俺の左手を両手で握り締め、顔をずいっと近づけてくる。俺はただ、エリートとして言うべきことを言っただけなのだが……

「決めました。私はこのままブルーにいます。そして、本物のブルーとして、自分で自分を認められる人間を目指します!」

「そ、そうか……////」

 どうやら悩みは吹っ切れたようだ。だが、それ以上顔を近づけるな。

 くそっ、何度見ても美しい顔だ。止めろ! そっちの趣味は無いがおかしな気分になる! 

「だから、今後とも同じ寮の仲間として、よろしくお願いします。準さん」

 まあ、そのくらいは……ん? 

「準、さん?」

「ええ。万丈目準さんという名前ではありませんでしたか?」

 いや、そうだが、俺のことは万丈目さんと……

 あぁー!! そんな上目遣いで俺を見るなー!!

「ま、まあ良い……////」

「私のことは、ぜひ梓と」

「あ、ああ……////」

 

「良かったなあ、梓!」

「さすが万丈目さん!」

 レッドの二人が梓に近づき、取巻きの二人もいつものように俺の左右に立つ。

 水瀬梓、何となくやりづらい男だ。

「梓、早速俺と決闘しないか?」

「な、だからレッドのお前らは……!」

 

「何をやっているの!?」

 

 また別の、女子の声。しかも、この声は……

「て、天上院君……////」

「もうすぐ歓迎会が始まるわよ。遅れない方が良いんじゃない?」

 く、レッドに身の程を教えてやろうと思ったが、仕方が無い。

「お前達、行くぞ」

『はい!』

 何やら二人の態度が今まで以上に明るくなった気がするが、気にせず俺は歩いた。

 

 

 

視点:外

「あなた達も早く自分の寮に戻りなさい」

「あっ!?」

 明日香が言った直後、急に梓が声を上げた。

「どうしたの?」

「私、迷子になっていたのでした。男子寮までの道のりが分かりません」

「はぁ……ちょっと待ってなさい」

 明日香は呆れたように生徒手帳を取り出し、しばらくいじった後でもう一度梓と向き合った。

「今万丈目君達に連絡したわ。すぐに迎えが来るだろうから、待ってなさい」

「ほぉ、そんな機能があったのですね」

「て、知らなかったの?」

「機械はあまり得意ではなくて……」

「おぉ! 俺と一緒だな!」

「兄貴、それ喜ぶ所じゃないっす」

 呆れている明日香と、それに困る梓、そして十代と翔。

 そこに、取巻きの片割れが笑顔で走ってきた。

 

「それでは、またお会いしましょう」

 

「おう!」

「ばいばーい」

「やれやれ」

梓が笑顔で手を振り、後の三人も手を振り、それぞれの寮へと戻っていった。

 

 

 

 




お疲れ様です。
決闘は次話になります。上手いこと書けるかな~。
けどこれだけは言わせて欲しいんだ。
ちょっと待ってね。


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第二話 アカデミアへ ~決闘~

決闘入りま~す。ただあまり長くはありませんが。
まあここでグダグダと話していても仕方ないし。
とにかく楽しんで下さいな。
行ってらっしゃい。



視点:万丈目

 歓迎パーティーの間、ほとんどの生徒は梓の周りに集まっていた。いつも俺の左右に立っていた取巻きも、今では少しでも奴の近くに寄ろうとしている。さっきも天上院君から連絡を受けた時、どちらが迎えに行くか本気で揉めていたからな。結局決闘で決めようとしたのを引き止め、ジャンケンで決まったが。

 それにしても、俺もそれなりにカリスマはあるつもりだが、梓の場合はカリスマというより、人気アイドルの放つそれだ。それもカリスマと呼べるのか? よく分からん。

 だがそれはともかく、あの梓という男、着物で分かり辛いが、顔が女子なら体も女子並みにかなり細いぞ。せっかくの料理も先程からほとんど手を付けていない。普段から小食なのか?

 

 まあいい。俺にはこの後するべきことがある。そのための準備をしておかなければ。

 

 

 

視点:梓

 歓迎会が終わった後で部屋に戻り、私は改めてこれからお世話になる部屋を見渡します。

 広くて良いお部屋ですが、ふむ……もう少し私好みに改装しても罰は当たらないでしょう。

 そう考えた時、

 

 ピーピー……

 

 私の学生手帳が鳴ります。差出人は、『天上院 明日香』。先程の金色の髪をした女子生徒の方ですか。

 慣れない手つきで開いてみると……なるほど。

 私は急いでお部屋を出ました。

 

 

 

視点:十代

「行くぜ! 万丈目!」

「万丈目さんだ!」

 

「待ちなさい!」

 

 これから決闘を始めようという時に、そんな止めに入った声。

「明日香」

「時間外の決闘は禁止よ。それにアンティルールもね」

「何だよ、邪魔するなよ明日香」

 

「待って下さい!」

 

 また声が聞こえた。今度は誰だ?

 そいつは急いだ様子で走ってきた。

「あ、梓さん!」

「どうしてここに!?」

 取巻きの二人が梓に聞いた。俺も同じ疑問を感じてる。

「お二人が決闘をすると明日香さんから連絡を受けたので……」

 それで、明日香と一緒に止めにきたってのかよ?

「これは私も参加しないわけには行かないと」

 て、そっちか!?

「ちょっと梓、どういうこと!?」

「これから生徒同士の初決闘が行われるのです。これは勉強になるでしょう」

「えぇー……」

 明日香が頭を押さえてる。どうやら思ってたこととは別のことが起きてるみたいだな。

「そういうことでしたら……」

 笑顔で喋ってた梓に、万丈目と一緒にいた内の一人が話し掛けた。

「俺と決闘しましょう!」

「『取巻(とりまき) 太陽(たいよう)』さん」

「いや、俺とぜひ!」

「『慕谷(したいたに) 雷蔵(らいぞう)』さん」

『お願いします!!』

 そして二人は手を差し出す。おいおい、まるで愛の告白じゃねえか。ていうか、あの二人ってそういう名前だったんだ。

「そうですね……では」

 そう言いながら梓が取った手は……

 両方?

 

「三人で、私とあなた達、二対一のバトルロイヤルルールで行いましょう」

 

 

 

視点:明日香

 な、何を言っているの!?

 一緒に万丈目君達を止めるために、梓の力を借りようと彼を呼んだのだけど、梓は何を勘違いしたのか自分も決闘をしたいと言う。しかもそんな彼の前には万丈目君の取巻きの二人。挙句、二人の手を取って、二対一のバトルロイヤルルールですって!?

「その、良いんですか? 二対一って……」

 彼の疑問ももっともだわ。彼らも一応はブルー生徒。そんな二人に、入学したての生徒が一人で挑むなんて、言っては悪いけど、無謀でしかない。

「もちろん、厳しい戦いになることは分かっています。しかし、私はブルーに残り、強くなることを選びました。強くなるためには、自ら進んで過酷な道を進むことも必要です。例え敗北がほぼ確定してしまっている決闘であっても、その敗北が私を強くしてくれます。だから、ぜひお二人に協力をお願いしたい。お二人でなければダメなのです」

 ああ……梓の最後の一言で、二人は完全に堕ちたわ。

「分かりました! やりましょう!」

「いや、ぜひ二対一でやらせて下さい!」

 ……水瀬梓、恐ろしい男だわ。しかも厄介なのが、彼自身が無自覚にそういう言葉を使っているということね。一応自分の外見に関しての自覚はあるみたいだけど、こういうことは分かってないのね。

 

「……何か、向こうは向こうで盛り上がってるな」

「……さっさと始めるぞ」

 

『決闘!』

 

 十代と万丈目君も、三人に呆れながら決闘を始めた。

 はあ……もう全員、勝手にしてちょうだい。

 そう思いながら、私と同じで呆れてる翔くんの隣に立った。

 けど、これはある意味好機かもしれない。実を言えば、梓にはずっと興味があった。

 入学試験、あの時梓は試験官を相手にワンターンキルを行った。使ったカードは全部で六枚。『サイクロン』、『ウォーター・ハザード』、『地獄の暴走召喚』、そして、『氷結界の水影』が三枚。

 そのうち三枚の魔法カードは私も知ってる。けど、唯一のモンスターである『氷結界の水影』、あれは私も知らないカードだった。

 他にもあるのかしら。それを確かめる意味でも、これは見届ける価値がある。

 

「では、始めましょう」

『はい!!』

 

『決闘!』

 

 

取巻

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

慕谷

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

 始まった。

「まずは俺の先行! ドロー!」

 

取巻

手札:5→6

 

 一巡目、最初は確か、取巻君だっけ?

「俺は『岩石の巨兵』を守備表示で召喚!」

 

『岩石の巨兵』

 守備力2000

 

「そしてカードを二枚セット。ターンエンド!」

 

 

取巻

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『岩石の巨兵』守備力2000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

慕谷

手札:5→6

 

 今度は慕谷君。言っては悪いけど、二人とも名前が覚え難いわね。

「俺は『怒れる類人猿(バーサークゴリラ)』を攻撃表示で召喚!」

 

『怒れる類人猿』

 攻撃力2000

 

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

慕谷

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『怒れる類人猿』攻撃力2000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 そして、遂に回ってきた、梓のターン。

「参ります。私のターン、ドロー!」

 

手札:5→6

 

 引いたカードは?

「速攻魔法『サイクロン』! これで……取巻さん、あなたのリバースカードを破壊!」

「はっ!」

 発生した竜巻は取巻君のフィールドへ向かい、セットされたカードを破壊する。

「くぅ!」

 破壊されたのは『万能地雷 グレイモヤ』。攻撃時にしか発動しないカードだけど、一応は当たりのようね。

「更に私は、手札より『氷結界の交霊師』を特殊召喚!」

 

『氷結界の交霊師』

 レベル7

 攻撃力2200

 

「なに! レベル7のモンスターをいきなり特殊召喚!?」

「『氷結界の交霊師』は、相手の場のカードが自分の場のカードよりも四枚以上多い時、手札から特殊召喚できるのです」

 なるほど、バトルロイヤルルールだから二人のカード全てが対象になるわけね。

「更に、『氷結界の守護陣』を守備表示で召喚!」

 

『氷結界の守護陣』

 守備力1600

 

 思った通り、氷結界というのはシリーズ名のようね。

「バトルロイヤルルールにより、最初のターン全てのプレイヤーは攻撃できません。カードを三枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

LP:4000

手札:0

場 :モンスター

   『氷結界の交霊師』攻撃力2200

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

取巻

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『岩石の巨兵』守備力2000

   魔法・罠

    セット

 

慕谷

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『怒れる類人猿』攻撃力2000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 これで一巡目は終了。次からは攻撃が可能になる。さあ、どうなるか……

 

「梓さん、遠慮はしませんよ! 俺のターン、ドロー!」

 

取巻

手札:3→4

 

「俺は『岩石の巨兵』を生贄に捧げ、『守護者(ガーディアン)スフィンクス』を召喚!」

 

『守護者スフィンクス』

 攻撃力1700

 

 取巻君の前に、金色に光るスフィンクスが現れる。ステータスはそれほどでもないけど、中々強力な効果を持っているわ。

「更に、生贄に捧げた墓地の『岩石の巨兵』を除外! 『ギガンテス』を特殊召喚!」

 

『ギガンテス』

 攻撃力1900

 

 どうやら彼のデッキは『岩石族』のようね。

 岩石族は一見地味な存在だけど、探してみると強力な効果を持つカードが多い。取巻君のフィールドに立つカードがその例よ。

「最後に魔法カード『エネミーコントローラー』! 二つある効果のうち一つを選択して発動! 俺は一つ目の効果を選択! 梓さんのフィールドの『氷結界の交霊師』を守備表示に変更!」

 

『氷結界の交霊師』

 守備力1600

 

 中々やるわね。今梓のフィールドに、この二体の攻撃に耐えられるモンスターはいないわ。

「バトルフェイズに移行! まずは『ギガンテス』で、『氷結界の守護陣』を攻撃だ!」

 

 ……

 

 ……あら?

「……なぜだ? なぜ『ギガンテス』は動かない?」

「……『氷結界の守護陣』の効果です。自分フィールド上にこのカード以外の氷結界モンスターが存在する時、あなた方は守護陣の守備力以上の攻撃力を持つモンスターでは攻撃できなくなります」

「そんな!」

 フィールドに二体以上モンスターを出さないとダメとはいえ、中々強力な効果ね。

「カード効果は確認しなければダメですよ。公開情報なのですから。言ってくれればお教え致しましたのに」

「……」

 困ってるわね、取巻君。

 梓、あなたの言うことももっともだけど、実際それだけお互いに離れて立っていると、そういうことは確認し辛いのよ。想像してみたら凄く間抜けな光景だし。

 まあ、私もそうやって効果が分からなかったせいで、失敗したことが何度かあるのだけれど。はあ……

「……仕方が無い。このままメインフェイズに移行。『守護者スフィンクス』を自身の効果で裏守備表示に変更。カードを一枚セットし、ターンエンド」

 

 

取巻

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    セット(『守護者スフィンクス』守備力2400)

   『ギガンテス』攻撃力1900

   魔法・罠

    セット

    セット

 

慕谷

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『怒れる類人猿』攻撃力2000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

LP:4000

手札:無し

場 :モンスター

   『氷結界の交霊師』守備力1600

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

慕谷

手札:3→4

 

「ドローフェイズにリバースカードオープン! 罠カード、『サンダー・ブレイク』!」

 手札一枚をコストに、フィールド上のカード一枚を破壊できるカード。当然狙いは……

「梓さん、『氷結界の守護陣』は破壊させてもらいます!」

 その言葉の直後、守護陣の頭上から落雷が落ち、破壊された。

「そして、『激昂(げきこう)のミノタウルス』を召喚!」

 

『激昂のミノタウルス』

 攻撃力1700

 

「そして、『怒れる類人猿』を守備表示に変更!」

 

『怒れる類人猿』

 守備力1000

 

「え、どうして!?」

「え? どうかしました? 明日香さん」

 隣に立つ翔君は理解していないみたいね。

「『怒れる類人猿』は、守備表示になった時破壊される効果があるの」

「え? てことは、あの人はわざとゴリラを? プレイミスっすか?」

 そう会話してる間に破壊される『怒れる類人猿』。私もミスかと思ったけど……

 

「『サンダー・ブレイク』のコストに捨てたカード……」

 

 え? 梓、今何て……?

「さっすが梓さん! 良い読みですね。その通り! このカードは自分フィールド上の獣族が戦闘以外で破壊された瞬間、1000ポイントのライフを払い、手札か墓地から特殊召喚できる! 『森の番人グリーン・バブーン』を特殊召喚!!」

 

慕谷

LP:4000→3000

 

 慕谷君の叫びと共に、地面が砕け、そこから巨大な手が、顔が、そして胴体と足が順に現れる。その手には巨大な棍棒を持った、緑色の怪物。

 

『森の番人グリーン・バブーン』

 攻撃力2600

 

 まさかそんな方法で上級モンスターを呼び出すなんて、さすが伊達にブルーに所属しているわけではないわね。

 それにしても、場と状況を見てこうなることを瞬時に読み取った梓も凄いわね。彼もまた、伊達にブルーに選ばれたというわけではないということか。

「まだまだあ! 罠発動! 『リビングデッドの呼び声』!」

 勢いよく叫びながらディスクのボタンを押すけど、

 ……また?

「え? 何だ? また?」

「……『氷結界の交霊師』が場にある限り、相手は一ターンに一度しか、魔法・罠を発動できません。あなたは既に、ターンの始めに『サンダー・ブレイク』を使用しています」

「そんな!!」

 後悔した顔を見せる慕谷君。まあ、効果を確認しておくべきだったかもね。

 

「すみません!」

 

 そんな慕谷君、そして取巻君に対して、梓は急に頭を下げた。

「さっきの守護陣の効果と言い、私が召喚した時に効果を説明するべきだったのです。それを、分かったふうに公開情報などと……本当に申し訳ありませんでした!!」

 そう言ってなお更頭を深く下げる。

「あ、いえ、良いんです、気にしないでください!」

「確認しなかった俺達も悪かったですから!」

 直前まで悔しそうにしてたのに、梓の顔を見た途端完全に緩みきってるわ。

「……本当に、すみませんでした」

 何だか今にも泣きだしそう。それだけ純粋ということなのね。とてもいい子だわ。

「まあそれはもう良しとしましょう。『激昂のミノタウルス』がフィールドに存在する時、俺の場の全ての獣族、獣戦士族、鳥獣族は、守備モンスターの守備力を攻撃力が越えていた時、その分のダメージを与える貫通効果を得る!」

「バトル! 『激昂のミノタウルス』で交霊師を攻撃!」

 武骨な牛の巨人が女性である交霊師に向かっていく。そして斧を大きく振り上げた瞬間、ミノタウルスは突然動きを止めた。

「な、なぜだ!? どうして攻撃を止めた!?」

 私も同じ疑問を感じていたけれど、フィールドを見て納得した。なぜなら、梓のフィールドには……

 

『氷結界の守護陣』

 攻撃力200

 

「申し訳ありませんが、バトル前に発動していました。『リビングデッドの呼び声』です」

 よりによってそのカードを……

「ぐぅ……」

 今まで以上に悔しそうな顔だわ。まあ、使おうと思ったのを止められて、それと同じカードを使われたのだから、当然でしょうね。

「俺はこれでターンエンド!」

 

 

慕谷

LP:3000

手札:2枚

場 :モンスター

   『森の番人グリーン・バブーン』攻撃力2600

   『激昂のミノタウルス』攻撃力1700

   魔法・罠

    セット(リビングデッドの呼び声)

 

LP:4000

手札:無し

場 :モンスター

   『氷結界の交霊師』攻撃力2200

   『氷結界の守護陣』攻撃力200

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

    セット

 

 

 そして梓のターン。

 氷結界。どうやらほとんどのカードが相手の行動を制限させる効果を持っているみたいね。あの二人はタイプこそ違うけど、どちらも攻撃型の速攻デッキ。そんなデッキの攻撃をことごとく妨害するなんて、相当な防御力だわ。

「私のターン、ドロー!」

 

手札:0→1

 

「私は『強欲な壺』を発動! カードを二枚ドロー!」

 

手札:0→2

 

「まずは魔法カード、『精神操作』を発動します! 対象は、取巻さんのフィールドの『守護者スフィンクス』!」

 梓の叫んだ瞬間、取巻君のフィールドにセットされたカードが移動した。

「『精神操作』で奪ったカードは攻撃できず、生贄にもできない。しかし、表示形式の変更と、効果の使用は可能!」

「そんな!」

「あなたがスフィンクスの効果発動を狙っていたのは分かっていました。おそらくそのリバースカードは、スフィンクスを守るための、戦闘を回避するカード、そうですね」

 取巻君の顔が歪む。どうやら図星のようね。梓も中々性格が悪い所があるわ。

「私は『守護者スフィンクス』を反転召喚! そしてこのカードが反転召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスターは全て手札に戻る!」

 表になり、実体化したスフィンクスの目が光った。その光が取巻君と慕谷君のフィールドを包み、彼らのモンスターが全員姿を消した。

「くそ!」

「こんなことが!」

 そりゃ信じられないでしょうね。私だって、同じ立場なら同じ反応をしてるわ。

「さて、どの道スフィンクスでは攻撃できませんし、このまま戻すのも危険でしょう。ですので、スフィンクスを自身の効果で裏守備表示に変更。これで『精神操作』との関係は切れ、あなたのフィールドに戻ることも無くなりました」

「なぁ!」

 アフターフォローも忘れてない。何度も使えるスフィンクスの効果を逆手に取られたわね。

「く……永続罠『光の護封壁』を発動!」

 取巻君が顔を引きつらせたまま、カードを発動させた。

「1000ポイント単位のライフを支払うことで、その数値以下の攻撃力を持つ相手モンスターの攻撃を封じる! 俺は3000ポイントのライフを支払う!」

 

取巻

LP:4000→1000

 

「そして、バトルロイヤルルールであるこの場合、二人は俺に対する攻撃のみ封じられる!」

「ちょ、ずりぃ!」

 

「えっと……つまり、どういうことっスか?」

「要するに、梓の場には攻撃力3000以上のモンスターがいないから、『光の護封壁』で守られてる取巻君には攻撃できないけど、慕谷君には攻撃できるってこと」

 

「いずれにせよ、取巻さんに攻撃できないことは分かっていました。なので……慕谷さん!」

「は!」

「『氷結界の交霊師』を攻撃表示に変更」

 

『氷結界の交霊師』

 攻撃力2200

 

「慕谷さんに、直接攻撃!」

 向かっていく交霊師。けど梓、彼のリバースカードを忘れていないかしら?

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』! 対象は『怒れる類人猿』だ!」

 彼の場に召喚される『怒れる類人猿』。わざとダメージを受けて次に繋ぐこともできたでしょうに、どうやら取巻君とは逆に、ダメージを最小限にとどめることを選んだようね。

 

「それを待っていました!」

 

「え?」

 え?

「手札から速攻魔法、『エネミーコントローラー』! 選択は二つ目の効果! 『氷結界の守護陣』を生贄に捧げ、『怒れる類人猿』のコントロールを得ます!」

「そんな!」

 凄い! まさか最後の手札があのカードだったなんて! 『精神操作』を発動した時点からここまで計算に入れていたの!?

 

「改めまして、交霊師と類人猿で、慕谷さんにダイレクトアタック!」

 

「ぐあああああああああ!!」

 

慕谷

LP:3000→0

 

 慕谷君のライフがゼロになったのを見て、梓は取巻君の方に向き直る

「ひっ!」

「バトルフェイズを終了し、罠カード発動! 『ナイトメア・デーモンズ』!」

 な! また知らないカード!

「このカードは私の場のモンスター一体を生贄に捧げ、相手の場に攻守2000の『ナイトメア・デーモン・トークン』を三体特殊召喚するカード。生贄は『氷結界の交霊師』!」

 梓の場の交霊師が光になった。それが三つに別れ、取巻君のフィールドへ。そして三体の、子供かしら? そんな感じの悪魔に姿を変えた。

 

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

 

 て、ちょっと待って、攻撃力2000!? それって相手が有利なんじゃ!! しかもどうしてわざわざ攻撃力が上の交霊師を!?

「そのトークンが一体破壊される度、あなたは800ポイントのダメージを受けます」

「800ポイント……まさか、その最後のリバースカード……」

 そのためにトークンを!?

「良い読みです。罠発動! 『激流葬』! モンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚時、フィールド上の全てのモンスターを破壊します!」

 一気に流れる水と、それに飲み込まれていくモンスター達。そして『ナイトメア・デーモン・トークン』が破壊された時、彼らから白い塊が浮き出てきて、取巻君に襲い掛かった。

(お、俺に残されたカードは前のターンに伏せた、除外された岩石族を特殊召喚する永続罠『化石岩の解放』。ダメージを防ぐ手立ては、無い……)

「一体につき800ポイント、合計2400ポイントのダメージです!」

 

「うわあああああああああああ!!」

 

取巻

LP:1000→0

 

 

 二人が座り込み、最後に立っていたのは梓。

 見事だわ。あれだけの攻撃にノーダメージだなんて。

 

 それにしても、彼の決闘を見て感じたのは、何と言うか、変わった戦い方だという印象。入学試験の時とはまるで違う。デッキや決闘者には様々なタイプがいるのは当然だけど、彼のような戦い方は初めて見たわ。

 彼の相手をした取巻君や慕谷君は、普通に攻撃タイプ。おそらくほとんどの決闘者はこの部類に入るわね。私もそうだし。

 けど梓の場合は言わば、相手の力や戦術を利用して戦うタイプ。もちろん攻撃はするけど、するのは必要最低限、足りない分は相手を利用するといった感じね。実際梓は『氷結界の交霊師』くらいしか上級モンスターは使っていない。その交霊師さえ、レベルの割に高い攻撃力は持っていない。効果は中々凶悪なものだけど。

 それだけじゃない。彼はかなりカードに関しても知識が広いみたい。グリーン・バブーンの出現を読んでいた時と言い、『精神操作』でスフィンクスを奪った時と言い、カード効果を知っていなければできることじゃない。梓は分からなければ聞けとは言っていたけれど、少なくとも梓は二人には聞いていなかったし。

 ただ、正直なところ、運が良かったから、という事実も否定できないのよね。

 最後のターン、『強欲な壺』の効果で引けたのが『精神操作』と『エネミーコントローラー』だったこと、最後のコンボが決まったのだって、取巻君が『光の護封壁』を使ってライフが減っていたからだし。

 そう考えると、運もかなりの物だわ。

 

 

「お二人とも、素晴らしい決闘でした」

 気が付くと、梓は項垂れている二人に近づき、話し掛けていた。

「今日のこの決闘で、私はまた一つ強くなることができました。どうかこれからも、同じ寮の仲間として、互いに競い合いながら成長していきましょう」

『梓さん……』

「良き決闘を、感謝致します」

 

 うわぁ……

 私から見ても眩しい笑顔ね。あんな笑顔を見せられたら、大抵は男も女もイチコロだわ。あの二人も。どうやら隣の翔君もそのようだし。実際、今日の歓迎会、女子寮でもほとんどの子が梓の話しをしていたもの。恋人はいるのかとか、好きな女性のタイプはどんなだとか。まったく、何のためにアカデミアに来たんだか。

 ……え? 私? 私は特に気にならないわ。梓は面白い人だとは思うけど、恋愛対象として見られるかと言われると、それは無い。むしろ、綺麗なモデルを見てる気分になる。別に恋愛に興味が無い訳じゃないけど、もしするなら面白くて、且つもっと身近な存在でいられるような人が良いわ。

 

 たとえば……あいつみたいな……

 

「罠発動! 『異次元トンネル-ミラーゲート-』!」

 

 !!

 

 

 

視点:梓

 お二人との決闘も終わり、三人並んで十代さんと準さんの決闘を見ている時でした。

「警備員が来るわ!」

 明日香さんが突然叫びました。

「時間外の決闘は校則違反よ。アンティルールも禁止されてるし、このままじゃ退学もあるかもしれないわね」

「え? マジ!?」

「え? 本当ですか!?」

 思わず十代さんと同時に叫んでしまいました。

「はあ……あなた達、生徒手帳は読まないの?」

 言いながら生徒手帳を見せる明日香さん。だから機械は嫌なのですよ。

 とまあ、言い訳をしていても始まりませんね。どうにか使いこなさなければ。

「お前達行くぞ。こいつの実力は分かった。どうやら入学試験はマグレだったようだ」

「っておい! まだ決闘は終わってねえだろう!」

 十代さんがブーブー言っていますが、我がままはダメですよ。そうなだめようとしたのですが、

 

「行きましょう梓さん!」

「急がないと見つかります!」

 

 え、いや、そんな、手を引かないで下さい! まだ十代さんが、あぁ……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 結局、二人に引っ張られ、私は準さん達と四人で夜道を歩いております。

「梓さん、また決闘しましょうね!」

「え、ええ、もちろん……」

「絶対ですよ!」

 お二人の言葉は嬉しいのですが、それよりも十代さん達が心配です。無事に逃げられたのでしょうか。

 

 無事に三人が逃げたことを祈りながら、私はブルー寮へと戻ったのでした。

 

 

 

 




お疲れ様です。
上手く書けてたかな? ミスや矛盾があったらどんどん言ってくらさい。修正不可能なもの以外はどうにか直しますゆえ。
次は三話で会いましょう。ちょっと待ってね。


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第三話 女子寮での激闘

おそらくこの回で梓のCVがはっきりするのではと。まあ分かる人にしか分からんネタではありますが。
あとは、新キャラが出ます。ちょこっとリアルファイトが入ります。
言うこたこれだけかな? 多分これだけだ。
それでは行ってらっしゃい。



視点:梓

「魔法カードは全部で六種類。通常魔法、装備魔法、永続魔法、フィールド魔法、儀式魔法、速攻魔法があり、それぞれ用途が異なります。使い方は、自分のターンで相手よりも優位に立つために使用する場合が主です。様々な効果を瞬時に使用できる通常魔法、主にモンスターを強化する装備魔法、場に残ることで効果が発揮される永続魔法、場に残り続けるのは同じですが、永続魔法とは違いお互いに効果を及ぼし、またお互いに一枚しか場に残らず、セットする場所が他とは違い、二枚目が発動されれば古い方は破壊されてしまうフィールド魔法、手札の儀式モンスターを呼び出す儀式魔法。そして速攻魔法は、自分のターンならほぼ好きなタイミングで手札から、伏せておけば相手のターンにも使用することができます。ただし、他の魔法カードが伏せたターンも使用できるのに対し、速攻魔法の場合は一度伏せてしまうと相手ターンに移らなければ使用できなくなることに注意しなければなりません。速攻魔法の主な使い方としては……」

 

「も、もう宜しいノーネ! 座って下サーイ!」

 

 私は今、クロノス先生から「魔法カードの特性を述べよ」という問題を刺され、それに答えていた所です。こんな答えで宜しかったのでしょうか? 速攻魔法の説明がまだですし、まだ全体の半分も話し終えていないのですが。

 

(さすが梓さん)

(素敵。見た目も良くて頭も良いだなんて)

(もう、何から何まで美しい)

(ああ、お持ち帰りしたい)

(あんな可愛い子が女の子の訳が無い!)

(ウホッ! 良い男)

 

 周囲から何やら声が聞こえてきます。チラッと見てみたのですが、何やら数人の生徒が嫌らしい目をしているのは気のせいなのでしょうか?

 ……うぅ、なぜか鳥肌が……

 

「それデーハ、セニョール翔!」

「は、はい!」

 私の隣に座っていた翔さんが立ち上がりました。かなり固くなっていますね。

「フィールド魔法について説明してみるノーネ」

「え、え~と……」

 それだけ言って固まってしまいました。

 

「そんな小学生レベルの問題も答えられないのか~」

 

 そんな言葉と共に起こった嘲笑。誰かは知りませんが、一生懸命考えているのにそれはあんまりですよ。

「……翔さん……」

 さすがに見ていられなくなり、小声で翔さんに話し掛けました。

「……落ち着いて、先程の私の答えを思い出して下さい……」

 その一言で、翔さんは必死に考えています。

「ふぃ、フィールド魔法は、発動した後も場に残り続け、お互いのプレイヤーに様々な効果を及ぼし、お互いのフィールドに一枚しか存在できない魔法カードです!」

 よし、かなり大雑把な説明ですが答えることができました。

 

「セニョール梓、余計なことはしないノーネ!」

 

 あら? ばれてしまいましたか?

「もう宜しいノーネ! 早く座りなサーイ」

 翔さんは答えることができたのに、落ち込みながら座ってしまいました。

「まったく、こんな基本的な問題も一人で解けないなンーテ、さすがは落ちこぼれのオシリスレッドなノーネ」

 落ちこぼれだなんて、そんな……

「セニョール梓も、そんな落ちこぼれをわざわざ助ける必要無いノーネ」

「それは……私はただ、一生懸命考えている翔さんを放っておけなくて……」

 そう言った時、ようやく分かりました。クロノス先生があんな酷い言い方をする理由が。

「いえ、そうでした。私は助言を行うことで、翔さんが一人で考える機会を握り潰してしまったのですね。彼が成長する機会を、私は妨げてしまった……」

「な! 何も泣くことないノーネ!」

(うわぁ、梓さんが泣いたからみんながクロノス先生を睨んでるよ……)

「良いのです。悪いのは私です。せっかくのクロノス先生のご厚意を、私は手助けと言う形で否定してしまったのですから……」

(ご厚意って、ただ問題を当てただけナーノ……)

「申し訳ありませんでした。クロノス先生……」

 先生は敢えて嫌われ役に回ることで生徒を導こうとしているのです。それは口にするだけ野暮という物。だから私は、ただ先生に謝罪することしかできません。そんな自分が情けなくて、愚かしくて、授業中に流すべきではない物が、止め処なく溢れてきました。

 

(マ、マズイノーネ、生徒達からの視線が痛いーノ……)

(はあ、また梓の悪い癖が出たわね。本人に悪気は無いんだろうけど……)

(もう少し自分の行動が起こす周囲への影響という物を自覚して欲しいものだ……)

(彼の美しさ故に起こる現象だな。しかし、最近の俺は存在感が薄いような……)

(で、結局梓さんは何で泣いてるんスか?)

 

「そう泣くなよ梓!」

 泣いている私に対し、声を上げたのは十代さんでした。

「落ちこぼれでも、強い奴だっているんだ。実際俺もレッドだけど、入学試験でクロノス先生に勝ってるしなぁ」

 そして、笑いが起こりました。

 凄いですね十代さん。これだけの影響力は私には持てません。ただ、クロノス先生が凄く悔しそうな顔をしているのが気になりましたが。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 体育の時間です。私達は体操着に着替えて、先生が来るのを待っています。

「梓、お前、頭のそれは取らなくていいのか?」

 十代さんがそう話し掛けてきました。雪の結晶の髪飾りのことですね。

「ええ。これはお気に入りなので」

「ふーん。にしても翔は何やってるんだ?」

 確かに遅いですね。トイレに行っていたようには思えましたが、それにしても遅すぎるような……

 おっと、先生がいらっしゃいました。

「体育を担当します、鮎川です」

 

 

 

視点:十代

 体育を終えて制服に着替えて、放課後。俺は今、ブルー寮の梓の部屋にいる。何でも、授業の時のお礼にぜひお茶していって欲しいってことだ。

 けど俺何かしたっけか? まあ良いけど。

 ここに来る前に何人かのブルー生徒に止められたけど、梓が説得してくれた。二言三言言っただけで説得できたのは凄かったぜ。何か説得された生徒はみんな顔が赤くなってたけど。

 にしても、何ていうか、凄い部屋だな。

「ブルー寮の部屋ってこんな和風だったんだな」

 思わず声に出ちまった。だって本当に、絵に描いたような和室だからさあ。

 床は畳だし、壁には掛け軸や生け花なんかまで飾られてる。窓なんてカーテンじゃなくて(すだれ)が掛かってるし、初めて見たけどかなり驚いたぞ。そんな和風な部屋なのに、何でベッドなんか置いてあるんだ?

「ああ、いえ。これから三年間お世話になるので、私なりに改装したのです」

「改装!? これ、お前がしたのかよ!?」

「ええ。証拠に本物の畳は無理だったので床はシートですし、ベッドはいじれないのでそのままなにしているのです。布団でなければ眠れないので物置変わりくらいにしか使ってはいませんが」

 笑いながら畳のシートを剥がしてみせてる。だとしても、一人でこれだけ部屋を変えるのは凄えよ。元の部屋を知らないから何とも言えないけど、だとしても、これは……

「今からお茶を淹れますね」

 あ、そうだった。ちなみに俺は今座布団の上に正座してる。別にそうしろって言われた訳じゃないけど、こんな場所だからかな? しなきゃいけない気がしたんだよな。

 そして梓は俺の前にお盆、というか板を置いた。そこには黒い急須と、抹茶の粉末が入ってる土瓶に、湯呑み茶碗……おいおいお茶って、かなり本格的じゃねーか!

 そんな俺の思考なんて知らずに梓はお茶を淹れ……いや、()て始めた。

 茶碗に粉末を入れて、そこにお湯を入れて、名前は知らないけど、かき混ぜる奴でかき混ぜてる。手慣れてるなあ。何度かテレビとかで見たことはあるけど、生で見るのはこれが初めてかもしれない。その時の梓は様になってるっていうか、いつも以上にかなり綺麗に見えた。

 

「できました。お茶菓子と一緒にどうぞ」

 そう言って出されたけど、綺麗だなあ。お菓子もお茶も。すっげぇ美味そう。けど……

「俺、こういうの初めてで、どうすれば良いか分からないんだけど……」

 正直にそう言ったら、梓は笑顔を見せた。

「そう固くならずに、これはお礼なのですから。お好きに飲んで下さって結構ですよ。それか、もしよろしければ、飲み方お教え致します」

 そうしないといけない気がしたから教えて貰うことにした。

 まずはお菓子から食って、その後にお茶を飲む。茶碗の絵柄が外側になるように手に平の上で三回回して、一気に飲み干す……と。

 はあ、緊張して味なんか分からねえよ。

「すみません。もっと普通にお茶やお菓子を出すべきでしたね」

 そう言った梓を見ると、哀しそうな目で笑ってた。

「こういう環境で育ったものですから、ついこのような形でお出迎えしてしまって、十代さんには余計な気を遣わせてしまったようですね」

「あはは。別に気にしてねえよ」

 そう笑って返した後で、俺は気になってたことを聞くことにした。

「そう言えばお礼って言ってたけど、何のお礼だ? 俺お前に何かしたっけ?」

 すると、また梓は哀しそうな目を見せながら笑っていた。

「先程の授業で、私が悪くしてしまった教室の雰囲気を、十代さんが良くして下さったことです」

 え? 俺がクロノス先生に言ったことか?

「私が泣いたことで雰囲気は悪くなってしまったというのに、私はそれを直そうともしないで、ただ泣くことしかできなくて……けど、十代さんはそれを、たった一言で笑いに変えて下さいました。私には、あんなことはできなかったから。だから、私がしなければならなかったことをして下さった十代さんに、ぜひお礼をしなければと思ったのです」

 途中赤くなりながら、それでも俺の顔を真っ直ぐ見つめて話した。

「余計なことでしたか?」

「いや、そんなことない! けどさ、別にあれは礼を言われるほどのことじゃないだろう」

「良いのです。私がそうしたかっただけですから。そうしなければならないと思ったから。それだけ、十代さんに感謝の気持ちを感じてしまいましたから」

 ふーん、感謝か。ちょっと大げさな気もするけど、それでもちょっと嬉しく感じるな。

「そっか。じゃあどういたしましてだ」

「はい」

 そう会話した瞬間、

「ぐおぉ!」

 急に、足に激痛が!!

「今になって、足が痺れて……」

 そう言えば、正座してたの忘れてたぁ!!

「どうぞ崩して下さい。良ければマッサージ致しましょうか?」

「頼む」

 そうして、梓から足のマッサージを受けながら、俺達はその後も楽しく会話した。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 部屋の外が暗くなって、そろそろ帰ろうと思った時、

 

 ピーピー……

 

 俺の学生手帳が鳴ってる。

「何だ?」

 そして、聞いてみると……

「翔を預かったって!?」

「えぇ!?」

「返して欲しければ女子寮にって……」

「これはまさか、誘拐……」

 俺と梓の間に、緊張が走った。けど……

「くそ! 待ってろ翔! 絶対に助けてやるからな!」

「私も行きます!」

 そう言ってくれた梓を見ると、あれ? 何だか雰囲気が変わってる。

「許さない……犯人は誰だろうと許しはしない!」

 ……何か、口調まで変わってる。何だか、怖いぞ梓……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そして俺達は二人でボートを漕ぎ、女子寮に到着した。

「翔!」

 翔の姿が見えたから叫んだら、そこには腕を後ろで組まされた状態で捕まってる翔と、明日香を含めた三人の女子がいた。

 

「え? 何で梓が?」

「え? 梓さん!?」

 

『きゃー!!』

 

 明日香以外の女子が盛り上がってるみたいだけど、とにかく翔を返して貰わないと! そのためにはまず話しをしないとな。

 

「貴様らか……」

 

 俺が口を開く前に、隣に立つ梓がそう言った。見てみると何だか、紫色のオーラが出てるように見えるのは気のせいか?

「十代……」

「な、なんだ?」

 あれ? 呼び方まで変わってるし。さっきまでは十代「さん」だったのに。

「そこを動くな……」

「は?」

 俺が聞き返した時には、梓は消えていた。そして……

 

 

 

視点:明日香

 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! 『俺達が翔君を押さえていたら梓が翔君を放り投げた』な……何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった……頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

「釈明は考えついたか?」

 

 混乱して思考がおかしなことになっていた俺……私達に、梓が話し掛けてくる。

「だが聞く気も無い」

 とりあえず分かるのは、明らかにいつもの梓とは違うということ。

 まず、見た目は、いつも可愛らしい形をしていた目が、今はカミソリみたいに細くなってる。口調もかなり乱暴だし、紫色のオーラみたいなものが見える。

 そして何より、左手にはどこに持っていたのか、鞘に納まったままでも真剣だと分かる長い日本刀。とにかくいつもと違って、かなり怒ってる。そんな梓に私だけじゃなくて、ジュンコとももえも脅えてる。

 

「翔!!」

 

「はい!?」

 

 急に梓が叫んで、自由になった翔君も飛び上がった。

「貴様が望むなら、今すぐこの者共を惨殺する許可を私に!!」

「惨殺!?」

 惨殺!?

「さあ、今すぐ翔に(こうべ)を垂れろ。(ゆる)しを望んで乞い願え。そして、首を刎はねられろ……」

 ダメだわ、こんな状態じゃとても話し合いなんて無理! けど、このままじゃ、私達は本当に……

 

 こんな時、あの子がいてくれれば……

 けど、今はいない……

 

 そして、梓が日本刀の柄に手を掛け構える。

 

 ああ、終わったわ……私達の人生……

 今までの人生が走馬灯のように蘇る……

 

 

 その時だった。

 

 

 

視点:十代

 

 ガッキーン!!

 

 そんな金属音と一緒に梓の前に現れたのは、茶色い髪に、黄色い髪止めを着けた女子だった。そいつが両手に着けた黄色の手甲で梓に殴りかかって、梓はそれを刀で受け止めたんだ。

 

「誰だ貴様は? 一兵卒が遮るな!」

「私が一兵卒ならあんたは何? 明らかに彼女達無抵抗だよね?」

 

 何を話してるのかはよく聞こえなかったけど、しばらく鍔迫(つばぜ)り合った後、梓は明日香達から離れて、現れた女子は明日香達の前に立った。

 

平家(へいけ)さん! 来て下さったのね!」

 

 二人の女子の内、黒髪の方がそう言った。『平家』って名前なのか、あの女子。

「どうしても彼女達に手を出すなら、私の後にして」

「邪魔だ! 貴様の首など欲しくはない! どけ!! 私は今、すこぶる機嫌が悪い」

「奇遇だね、私もそう。あんたみたいに弱い者いじめをする奴は一番嫌いなんだ」

 そう会話した後で、二人とも、無言で睨みあう。

「……良いだろう。気が済むまで斬滅してやる。首筋を晒してここまで来い」

「良いよ。あんたに私の首が取れるかな? でもその前に、私があんたを粉砕してあげる」

 その会話を最後に、二人が構えた。そしてまた梓から紫色のオーラが、それに、平家って女子からも、黄色いオーラが出てる。そして、二人が消えた。

 

 ガキ!!

 ガッ!! ガッ!!

 ガッキーン!!

 

 す、すげえ……まるでスタイリッシュ英雄アクションだ……二人はさっきから空高く跳んだり、時々姿が見えなくなったりしながら闘ってる。

 梓はさっきから刀を抜いてるんだろうけど、抜き身がほとんど見えない。それだけ早く抜刀と納刀を繰り返してるのか。おまけに足も、下手すりゃ馬とか車より速いんじゃ。

 だけどそんな梓と互角に渡り合ってる平家もすげえ。スピードは梓の方が圧倒的だけど、梓より遥かに腕力が強い。殴られた地面は凹んでるし、コンクリは砕けてるし。

 そんな闘いだから、周りの被害も尋常じゃない。地面にはでかい凹みや斬り跡が残ってるし。さっきなんか、明日香達の前に立ってた電柱が縦に真っ二つ斬られて、その直後には俺達の乗ってきたボートがパンチ一発で粉々に砕けた。今は夜だから人はいないし良かったけど。

 ていうか、そもそもこいつら、本当に人間かよ……

「……これ、僕のせいっスよね……」

 隣に立っていた翔が呟いた。確かに、根本的な原因は翔にあるんだよな。

 

 そして、しばらくやり合った後で二人は地面に降りた。あれだけ動いてたのに息切れ一つしてないって、何かもうついていけねえよ。

 そんなことを思ってたら、二人から出てるオーラがなお更強くなった。

 おい、これはまさか、必殺技でも出す気か……

 

(やいば)(とが)を!! (さや)(あがな)いを!!」

「淡く微笑め……東の(しょう)!」

 

 

「ストーップ!! そこまでだ梓!!」

「平家さんも落ち着いて!! これ以上やったら女子寮がめちゃくちゃになる!!」

 俺と翔で梓を、明日香達三人が平家をどうにか押さえてその場を治めた。

 

 

「どけ! 十代! 奴らの償いはこれからだ!!」

 梓はまだ怒りを抑えられないらしくてめちゃくちゃに喚いてる。そうやって暴れてる梓を俺と翔は必死に押さえてる。

「やめろって梓! 女子にそれはやり過ぎだって!!」

「罪に女も、子供も老いぼれもあるものか! 奴らは翔を、友を傷つけた! 私はそれを許しはしない!!」

 梓のその言葉で、平家以外の三人はまた小さくなった。

「そうだ怯えろ! 目の前の私の姿に!!」

「……やっぱり、息の根を止めた方がよさそうだね」

「平家もいちいち挑発すんな!!」

「女! その失言に絶望しろ!!」

 刀を出すな柄に手を掛けるな紫のオーラを出すなあ!!

「許さない! 許さない!! この世の全てを許しはしない!!」

「いいんスよ梓さん!! 僕は全然気にしてないっス!!」

 翔がそう言った瞬間、梓から急に力が抜けた。

「そう……なのですか?」

「は、はい……」

 口調も元に戻った。顔も元に戻って、いつもの梓だ。

 手を離すと、梓は女子達の前に立って……

 伏せて地面に額をくっつけた!?

「申し訳ありませんでした! 理由を聞こうともせず、ただ感情に任せた行動だけをとり、命を奪いかけたことを!!」

「そんなこと……あるわね」

 あるな。あのままじゃ間違いなく一人は死んでたぞ。明日香の言葉にジュンコとももえ(明日香から名前を聞いた)も納得してるし。平家が現れなきゃどうなってたか。

「謝るだけで許される、なんて思ってないだろうね」

 うわあ、平家も黙ってないし。まあ確かに謝って済むようなことじゃないけどさ。

「当然、償いは致します。この命を捧げて!!」

 そう言ってまたどこに隠してたのか刀を取り出して……

 て!!

「やめろ梓!! 死んだら全部終わりだぞ!!」

「離せ十代!! 私はその終わりを、今まで明日香達に与えようとした!! その罪は、重い!!」

 また口調が変わった!!

 

 結局、明日香達が気にしてないって言うまで、俺と翔で梓を押さえていたのは言うまでも無い。

 

 

 

 




お疲れ様です。
決闘は次だから、ちょっと待ってね。
あと誰か『かき混ぜる奴』の名前教えて。


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第三話 女子寮での激闘 ~決闘~

お待ちかね、決闘パート~。
て、誰も待ってないかな。
まあ楽しんでもらえりゃ何でもいいや。
行ってらっしゃい。



視点:明日香

 梓が落ちついた後で、私達は事情を説明した。

 翔君がお風呂を覗いて、私達がそれを捕まえたと言うこと。まあ彼がそんなことをする人じゃないのは分かるけど、彼を利用して十代を呼び出し、決闘をしようと考えたわけ。

 もっとも、それで梓までやってきて、危うく女子寮が全壊の危機に晒されるなんて思いもしなかった。

 

「なん……です、と……」

 理由を聞いた梓はそう言って、しばらく放心状態になった。

「……翔……」

 まずい! 名前から『さん』が抜けてる! また凶王(十代命名)になってる!?

「……さん」

 あ、違うみたい……

 

 バッ

 

 そう思った瞬間、梓は翔君の胸倉を掴んだ。体を震わせて、声も震えてる?

「なぜ……なぜ……」

「いや、僕は、覗いてなんて……」

 

「なぜ私に一言相談して下さらなかった!!」

 

 ……へ? 相談? 梓に?

「こんな行動までして性欲の解放を望んでいたのなら、まずは私に言って欲しかった!! 私なら、少なからずとも翔さんの力になることができたのに!!」

「えっと、意味が分からないんスけど……」

 私も同意見。どうやらみんながそう思ってるわね。

「私とて不本意ながら、周囲から外見の美しさは認められている身!! でなければ、いくら好きでもこんな格好などできません!! だから本物には敵わずとも、せめて女性の変わりを買うことはできました!! 友人ならば、一言相談して欲しかった!! それともやはり本物の女体でなければダメですか!? 私では興奮できませんか!? 私の裸体では、あなたの性欲の捌け口にはなり得ませんか!?」

「梓さんの裸体……」

『梓さんの裸体……』

「梓の、らたい?」

「梓の裸体……」

 ……

 …………

 ………………ブッ!

 いけない! 想像したら鼻血が……

 見てみると、ジュンコとももえも鼻を押さえながらハンカチを取り出していた。翔君も。

 にしても、凄い自信だわ。外見に関して自覚があったのは分かってたけど、まさかそこまでの自負があったなんて。私達ごときには負けないっていうの? まあ、だから私達も今こうして鼻血を流してる訳なんだけど。とは言え、さすがに女としてのプライドが……

「らたい?」

 十代はどうやら裸体という言葉の意味を理解してないみたい。というか理解してたとしても、あいつがそんなことに興奮するとも思えないけど。

 よかった……て、何で?

「分かったら、次からは私に一言ご相談下さい。この小説が18禁に指定されない程度のことはして差し上げます」

「はい……じゃなくて! 覗いてないんだってば!!」

 あ、思い出したみたい。何だか梓が変なことを言った気がしたけど、多分気のせいね。

「覗いていない?」

「はい! 天地神明、デュエルの神に誓ってやってないっす! 何なら首筋や手首を晒して梓さんの部屋に泊まってもいいっスよ!!」

 す、凄い覚悟の言葉ね。けど翔君、事情の知らない人が聞いたら、何だか卑猥な言葉に聞こえるわ。

「……そうですか。なら私はあなたを信じましょう」

 梓はそう言って笑顔を見せた。いちいち綺麗な笑顔よね。また二人が見とれてるし。

 ……っと、忘れる所だったわ。

「まあ、私も彼がやったとは思えないけど、二人の手前どうしてもこのまま返す訳にはいかないのよ。だから十代、私と決闘して」

「俺と?」

「ええ。それであなたが勝てば翔君は見逃すわ。ついでに梓の暴走も水に流してあげる」

 ……あ、私の言葉でまた梓が凹んだわ。まあ、凶王化は梓も気にしてたみたいだし。

 

「ここでやるの?」

 

 そう私に話し掛けてきたのは、平家さんね。

「ここじゃ見つかっちゃうわ。ボートに乗って湖の上でやりましょう」

「え? それは無理だ。さっきのこいつらの戦いで俺達のボートは粉々だぜ」

 あ……

「……すいません」

「いいわよ。もう一台出せば済む話だから」

 謝る平家さんにそう声を掛ける。まあこれ以上は気にしなくていいわ。それと、ずっと黙ってたんだけど……

「平家さん……」

「え?」

「いい加減、鼻血は拭いたら?」

「あ……」

 

 

 

視点:梓

「サンダー・ジャイアントの攻撃! ボルティック・サンダー!!」

「きゃあー!!」

 

 十代さんが勝利しましたか。お二人とも、とても良い決闘でしたよ。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「ねえ」

 船を着けてしばらく話した後、帰ろうかとオールを持った時、急に平家さんが話し掛けてきました。

「はい?」

「わたしとも決闘しようよぉ!」

「え? これからですか?」

「うん! 二人の決闘見てたら私もしたくなっちゃったよぉ!」

「……十代さんは今やったばかりですし、そういうことなら私がお相手しましょう」

 それになぜか、十代さんも翔さんもボーっとしておりますし。どうかしたのでしょうか?

「えぇ? 本当に?」

「ええ。私では不足ですか?」

「ううん。やろうやろう!」

 そういうことで、私達は立ち上がりました。

 

 

(平家の奴、何だかさっきとキャラ変わってないか?)

(梓と同じ。普段はこうだけど、怒るとさっきみたいになるの)

(梓さんは気ならないのかな? 第一、仮にもさっきまで殺し合ってた仲なのに)

(きっと似た者同士だから、気にならないんじゃないかしら)

 

 ……?

 

 

 

視点:十代

「いくよ、梓くん! 実は君には少なからず恨みがあるのだ!」

 恨み? 梓にか?

「恨みですか。先程のこととは違うことですか?」

「そう。まあ大したことではないけれど、君がいて地味に嫌な目に遭ってきたから」

「そうですか。大体の想像はつきますね」

「え? 分かるの?」

 何だよ梓、覚えがあるのか?

「先程から親しそうにしている明日香さん達が、あなただけを名字で呼んでいる所を見れば」

「あぁ、そうなの……」

 え? どういうことだ?

「ああ、なるほど」

「翔、お前分かったのか?」

「うんまあ、多分そうだと思うっスけど」

 えぇ、何だよ? 明日香達は知ってるみたいだし、分かってないの俺だけかよ!

 

「では始めましょう」

 

 まあいいや。今は二人の決闘だ。

 

『決闘!』

 

 

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

平家

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

「私の先行、ドロー!」

 

手札:5→6

 

 梓はしばらく手札を眺めた。手札事故かな? しばらく考えて、やっとカードに手を伸ばした。

「モンスターを裏守備表示でセット! そしてカードを二枚セットし、ターンエンド!」

 

 

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「わたしのターン! ドロォー!」

 

平家

手札:5→6

 

 平家がカードを引いた。何だか笑える口調だな。

「わたしは永続魔法『六武の門』を発動!」

 宣言したと同時に、湖からでっかい門がせり上がってきた。何だあの門?

「『六武の門』は、『六武衆』と名の付くカードが召喚か特殊召喚される度に『武士道カウンター』が二つ乗る! わたしは『六武衆-イロウ』を召喚!」

 

『六武衆-イロウ』

 攻撃力1700

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

 平家の前に、全体的に黒っぽくて、サングラスみたいなのを着けた侍が出てきた。ちょっと格好良いな。

「更に、フィールド上に六武衆がいる時、このカードは特殊召喚できるのです! 『六武衆の師範』を特殊召喚んん!!」

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

 すっげ。一気に二体のモンスター揃えた。

 

「バトル、いきます! イロウでセットモンスターを攻撃! そして、イロウが裏守備表示モンスターを攻撃した時、ダメージ計算を行わず裏側のまま破壊するよ!」

 そして、裏側のままモンスターは墓地へ。あ、でも仮想立体映像は表示されるのな。破壊されたのは……雪だるま?

「『スノーマンイーター』はリバースした時、フィールド上の表側のモンスターを破壊できます。しかし、裏側のまま破壊されたので効果は使えません」

「おお! イロウを召喚して正解だったよ!」

「どの道、できたのは精々師範の攻撃を止めることくらいですが。師範を破壊した所でほとんど無駄撃ちですし」

「え? 師範の効果知ってたの?」

 盛り上がってる所悪いけど、会話が全然分からない。

「師範は相手のカード効果で破壊された時、墓地の六武衆と名の付くモンスターを手札に戻す効果があります。師範自身も六武衆なので何度でも手札に戻るのです」

 ああ、なるほど。わざわざ解説サンキューな、梓。

「では! 師範で梓くんにダイレクトアタック!!」

「罠発動! 『ガード・ブロック』!」

「はい?」

 師範が刀で梓に斬りつけたけど、梓を斬る前に刀が弾かれちまった。

「止めるのは不可能ですが、受け止めることはできます。『ガード・ブロック』は、戦闘ダメージを一度だけ0にし、カードを一枚ドローするカード」

 

手札:3→4

 

 へぇー、良い効果だな。

「うむむ……わたしは『六武の門』の効果を発動! 門から四つの武士道カウンターを取り除いて、六武衆を一枚デッキか墓地から手札に加える!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

「わたしはデッキから『六武衆-ザンジ』を手札に加えるよ」

 

平家

手札:3→4

 

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「エンドフェイズにリバースカードオープン!」

「はい?」

「速攻魔法『サイクロン』により、あなたのセットカードを破壊!」

「えぇええ!?」

 破壊されたのは『攻撃の無力化』か。破壊しといて正解だぜ。

 これって確か、『エンドサイク』って言うんだっけ?

 

 

平家

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『六武衆-イロウ』攻撃力1700

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:0)

 

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

手札:4→5

 

「魔法カード『強欲な壺』を発動させます! デッキから二枚ドロー!」

 

手札:4→6

 

「魔法カード『コストダウン』を発動! 手札一枚を墓地に送り、手札のモンスターのレベルを二つ下げます。更に魔法カード、『クロス・ソウル』発動! 相手フィールド上のモンスターを召喚のための生贄に捧げます! 対象は『六武衆の師範』!」

「え、それって……」

 平家が何か言う前に、師範は光になって消えた。あれ? でもそんなことしても……

「これは破壊ではなく生贄なので、師範の手札に戻る効果も使用不可です」

 ああ、破壊じゃなくて生贄ね。

「私はレベル5となった『氷結界の虎将 ガンターラ』を召喚!」

 

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 レベル7→5

 攻撃力2700

 

 色黒のいかついおっさんが出てきた。うわ、見た目からしても強そうだなおい。

「『クロス・ソウル』を発動させたターン、バトルフェイズは行えません。カードを二枚伏せターンを終了しますが、ガンターラはエンドフェイズ時、墓地からガンターラ以外の『氷結界』一体を特殊召喚できます。『氷結界の虎将 ライホウ』を特殊召喚致します」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 守備力2300

 

 『コストダウン』で捨ててたのか。にしてもまた『虎将』か。意味がある名前なのかな?

「ライホウが場にある限り、あなたのフィールド上で発動されるモンスター効果は、手札を一枚墓地に送らなければ無効となります。さあ、あなたのターンです」

 

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の虎将 ライホウ』守備力2300

   魔法・罠

    セット

    セット

 

平家

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『六武衆-イロウ』攻撃力1700

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:0)

 

 

「むむぅ、わたしのターン! ドロー!」

 

平家

手札:3→4

 

「永続魔法『六武衆の結束』を発動して、手札から『六武衆-ザンジ』を召喚!」

 

『六武衆-ザンジ』

 攻撃力1800

 

「六武衆が召喚されたことで、門に二つ、結束に一つ武士道カウンターが乗るよ!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

 

「ザンジは攻撃したモンスターをダメージステップ終了時に破壊する効果がある! そして、フィールドに二体の六武衆がいることで、手札から『大将軍 紫炎』を特殊召喚!」

 

『大将軍 紫炎』

 攻撃力2500

 

「出ましたわ! 平家さんのエースカード!」

 モモエが叫んだ。こいつがエースか。かなり強そうな武将だな。

「行くよ! まずはザンジでガンターラを攻撃!」

 攻撃力が低いのに!? そう言えば破壊効果があるって言ってたな。ザンジでガンターラを破壊して紫炎でライホウを戦闘破壊か。ザンジでもライホウを倒せるけどそれだとガンターラは戦闘で倒せないからな。

「速攻魔法発動、『月の書』」

 梓が静かにカードを発動させる。あれはどんな効果だ?

「フィールド上のモンスター一体を裏守備表示に変更します」

 なるほどな。それでザンジか紫炎を……

「対象はイロウです」

 って何でそっち!?

 

「うぅえぇえええ!?」

 

 突然平家が絶叫する。ていうかいちいち笑える口調だよなあいつ。けど、何がそんなに問題あるんだ?

「ザンジの効果、というより六武衆の効果は、自分フィールド上に同名カード以外の六武衆が存在する時のみ発動可能。ならば、それを裏守備表示に変えてしまえば……」

 光の薙刀(なぎなた)で突撃したザンジだけど、逆にガンターラに殴られて返り討ち。うわぁ……

 

平家

LP:4000→3100

 

「あうぅ~……」

 涙目になってる。そっか。仲間がいなきゃザンジの効果は使えないのか。

 

「平家さん、さっきから行動が裏目に出てるわね」

「それが梓の戦い方なのよ。相手の行動を封じつつ、その力を利用して、効果的にダメージを与えていく。単純な攻撃頼りのデッキにとっては、とても厄介な戦術と言えるわ」

「まさに『柔よく剛を制す』。日本の精神ですわ~」

 

 明日香達がそう話してるのが聞こえた。ところで、ももえだっけ? 何か顔が赤くなってるけど、どうしたんだ?

 けどそっか。それが梓の戦い方だったのか。

 

「うぅ~、ターンエンド」

 

 

平家

LP:3100

手札:1枚

場 :モンスター

    セット(『六武衆-イロウ』守備力1200)

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:2)

    永続魔法『六武衆の結束』(武士道カウンター:1)

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の虎将 ライホウ』守備力2300

   魔法・罠

    セット

 

 

「なぜ紫炎でライホウに攻撃しなかったのですか?」

「え?」

 ……そう言えばそうだな。紫炎の攻撃力なら十分なはずのに。セットカードの警戒か?

「……はっ!」

 忘れてたのか。ザンジの効果が使えなかったのがよっぽどショックだったんだな。

 

「……私のターン!」

 

手札:0→1

 

 あ、気にせず続けるのか。

「ライホウを攻撃表示に変更」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 攻撃力2100

 

「バトル! ガンターラで紫炎を攻撃! 凍撃輪舞(とうげきりんぶ)!」

 

平家

LP:3100→2900

 

 ガンターラの回し蹴りが紫炎をぶっ飛ばした。紫炎は一瞬で凍りついて、そのまま砕けた。

「あぁ~、せっかく呼んだのに、効果も有効に使えなかったよ~」

 紫炎の効果って、どんなだったんだ?

「続いて、ライホウでセットモンスターを攻撃! 冷奏円舞(れいそうえんぶ)!」

 ライホウはその場で扇子を持って踊ったかと思うと、セットされたイロウはこま切れにされた。

「これでターンエンド。エンドフェイズにガンターラの効果が発動しますが、墓地に氷結界は存在しないので効果は発動せず終了です」

 

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100

   魔法・罠

    セット

 

平家

LP:3200

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:2)

    永続魔法『六武衆の結束』(武士道カウンター:1)

 

 

「さっすが梓さんっス! このまま行けば勝てるっスよ!」

 盛り上がってる翔には悪いけど、

「いや、そうでもないと思うぜ」

「どうしてっスか?」

「見てみろよ。平家をさ」

 さっきから何度も泣きごと言ったりオーバーリアクションを取ったりしてるけど、

「あいつは、全然諦めてねえ」

 

「そろそろ、あなたの本気が見たい」

「良いでしょう! ここから逆転したら最高に格好良いもんね!」

(とは言っても、手札は一枚。フィールドのカードも、これだけじゃまだ足りない。何とか、逆転に繋がるキーカードが欲しい)

「ドロー!」

 

平家

手札:1→2

 

「『強欲な壺』! カードを二枚ドロー!」

 

平家

手札:1→3

 

「……わたしは『六武衆-ヤイチ』を召喚!」

 

『六武衆-ヤイチ』

 攻撃力1300

 

「二枚のカードに武士道カウンターが乗るよ!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

「『六武衆の結束』の効果! このカードを墓地に送って、このカードに乗ってる武士道カウンターの数だけデッキからカードをドローできる。元々二個までしか乗らないけどね。という訳で二枚ドロー」

 

平家

手札:2→4

 

 新たにドローした二枚のカードを見て、平家は、笑った!

「このターンで、梓くんのモンスターを全部倒す!」

 

『え!!』

 

 全員驚いて声を上げたけど、梓は笑っていた。

「見せて下さい! あなたと武将(もののふ)達との絆を!」

「うん! わたしは魔法カード『戦士の生還』を発動! 墓地の戦士族モンスター一体を手札に加える。わたしは墓地の『六武衆の師範』を手札に加える!」

 師範を!? どうして紫炎を戻さねえんだ!?

「そしてそのまま師範を特殊召喚! これで『六武の門』の武士道カウンターは六つ!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→6

 

「ヤイチの効果! 場にヤイチ以外の六武衆がいる時、相手の場のセットカードを破壊できる!」

「ライホウの効果! 手札を一枚捨てなければその効果は無効となります!」

「分かってる。わたしは手札から『六武衆の御霊代』を墓地に送るよ!」

 

平家

手札:3→2

 

「く……」

 破壊されたのは罠の、『ナイトメア・デーモンズ』? 聞いたこと無えな。

 ……あれ? 明日香は知ってるのか嫌な顔してる。ひょっとしてこの前の夜の時か? あの時は万丈目との決闘に夢中で、全然見てなかったんだよな。

「わたしは『六武の門』の効果を発動! このカードに乗ってる武士道カウンターを六つ取り除いて、墓地から『大将軍 紫炎』を特殊召喚!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:6→0

 

 そんな効果があったのか! 再びフィールドに現れる紫炎。やっぱ凄え貫禄だ。

「そして魔法カード『死者蘇生』! これで『六武衆の御霊代』を蘇生!」

 

『六武衆の御霊代』

 攻撃力500

 

 青い鎧を着た幽霊が現れた。あ、でも一応戦士族なんだな。

「これでまた、『六武の門』に武士道カウンターが二つ乗る!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「御霊代の効果! フィールド上の六武衆一体に装備できる。ライホウの効果で最後の手札を捨てて、師範に装備! 師範の攻撃力をアップ!」

 

平家

手札:1→0

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100→2600

 

「最後に『六武の門』の効果! 武士道カウンターを二つ取り除いて、わたしの場の『六武衆』か『紫炎』一体の攻撃力をエンドフェイズ時まで500ポイントアップさせる! 対象は紫炎!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→0

 

『大将軍 紫炎』

 攻撃力2500+500

 

 す、凄え! 本当に逆転しやがった!

「行くよ! バトルフェイズ! まずは師範でライホウを攻撃! 壮凱(そうがい)の剣勢!」

「ぐっ!」

 

LP:4000→3500

 

 梓に初ダメージだ!

「戦闘破壊したことによって、御霊代の効果で一枚ドロー!」

 

平家

手札:0→1

 

「続いて、紫炎でガンターラに攻撃! 獄炎・紫の太刀!」

「ぐあぁ!」

 

LP:3500→3200

 

「最後に、ヤイチでダイレクトアタック!」

「っ!」

 

LP:3200→1900

 

「カードをセットして、ターンエンド!」

 

 

平家

LP:3200

手札:0枚

場 :モンスター

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   『六武衆の師範』攻撃力2100+500

   『六武衆-ヤイチ』攻撃力1300

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:0)

    ユニオン『六武衆の御霊代』

    セット

 

LP:1900

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「……まさか、ここまでとは、予想外です」

「君のことだから、紫炎の効果も分かってるんだろうね」

 紫炎の効果? そう言えばさっき言ってたな。

「……紫炎が場にある限り、私は一ターンに一度しか魔法・罠を発動できない効果。そして紫炎が破壊される時、フィールドの六武衆を代わりに破壊し自身の破壊を免れる効果」

 げ! 何だよそのとんでも効果!

「つまり今の私は、常に魔法か罠を一度しか使うことが許されず、おまけにヤイチの存在からリバースカードさえ意味を成さず、最低二度の破壊に耐えられる紫炎と、自身の効果に加えて御霊代のユニオン効果で同じく破壊耐性を持つ師範、そしてヤイチを相手にしなければならない。そういうことですね」

「その通り!」

 平家が嬉しそうに言った。梓のシリアスな雰囲気が台無しだな。まあ、それが平家なんだろうけどさ。

「君の言った言葉を返してあげよう! 君の本気が見たい!」

「良いでしょう」

 梓は笑顔でそう返事を返した。うん。あいつもまだ諦めてねえ!

 

「私のターン……ドロー!」

 

手札:1→2

 

 梓の手札は今引いたカードと合わせて二枚。どうする?

「……参ります!」

 笑った。何か策があるのか!?

「モンスターをセット」

 また裏守備。今度もリバース効果狙いか?

 

「そして、魔法カード『ミラクル・フュージョン』を発動!」

 

『ミラクル・フュージョン!?』

 

 全員が声を上げた。だって、あの魔法カードの効果って、

「フィールドか墓地から必要な融合素材を除外し、『E・HERO』を融合召喚致します! フィールドにセットした『E・HERO アイスエッジ』、そして『スノーマンイーター』をゲームから除外!」

 セットされてたアイスエッジと、墓地から現れる『スノーマンイーター』。

 でも、アイスエッジだって!? そんなE・HERO、今まで聞いたこと無いぞ!

 現れた二体のモンスターは飛び上がって、光になる。

 

「融合召喚! 現れよ! 『E・HERO アブソルートZero』!!」

 

 梓が叫んだ時、光の中から雪が降ってきた。

 そしてそこから現れたのは、氷を思わせる鎧を纏って、真っ白なマントをひるがえす、雪のような純白のヒーロー。

 また俺の知らないカードだったけど、それを理解するのが遅れちまった。だって……

「綺麗……」

 隣に座る翔が呟くのが聞こえた。俺も、同じことを思ってた。

 真っ白に輝くアブソルートZero。主人である梓を守るように、梓の前に立ってる。まるで本当に、お姫様と、それを守ってるヒーローみたいだった。その光景がとにかく綺麗で、見入っちまったんだ。

 

「アブソルートZeroで、『大将軍 紫炎』に攻撃!」

 

「はっ!」

 はっ! 梓と平家の声でようやく我に返った。

 

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500

 

 て、紫炎に攻撃!?

「えぇ!? 攻撃力は紫炎と互角だよ!!」

「アブソルートZeroは、フィールド上のZeroを除いた水属性モンスター一体につき、攻撃力を500ポイントアップする効果があります。あなたのフィールドには、水属性のヤイチがいます。よって、攻撃力は3000です!」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+500

 

 凄え! これなら戦闘では負けない! 破壊耐性効果で紫炎は倒せなくても、確実にヤイチか師範は倒せる!

 

瞬間氷結(フリージング・アット・モーメント)!!」

 

「させない! 速攻魔法『突進』! 紫炎の攻撃力を700アップ!」

 

『大将軍 紫炎』

 攻撃力2500+700

 

 そ、そんな!

「迎え撃て! 獄炎・紫の太刀!!」

 ぶつかり合う、Zeroの氷と、紫炎の炎。けど、徐々にZeroが押されて、最後には真っ二つにされた。

 

LP:1900→1700

 

「やった! 次のターンで勝てる!!」

 梓……

 

「……アブソルートZeroの効果発動」

 

 え? まだ何かあるのか?

「Zeroがフィールドを離れた時、相手フィールド上のモンスターは全て破壊されます」

「うそぉ!!」

 平家の絶叫と同時に、猛吹雪が起こった。

「うわぁ! ちょ、ちょっと待って、ひぃ!」

 平家のフィールドのモンスターが、湖ごと全部凍っていく。

 

氷結時代(アイス・エイジ)!!」

 

 梓が叫んだ直後、凍ったモンスター達が砕けた。

「そぉ~んなぁ~~~~~!!」

 平家は放心状態だ。

「私はこれでターンエンド!」

 

 

LP:1700

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

平家

LP:3200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:0)

 

 これで互いに手札もモンスターもゼロ。先に強力なモンスターを呼び出せた方の勝ちだ。

「わ、わたしのターン! ドロー!」

 

平家

手札:0→1

 

「……わたしは『紫炎の足軽』を召喚!」

 

『紫炎の足軽』

 攻撃力700

 

「足軽で梓くんにダイレクトアタック!」

「……」

 

LP:1700→1000

 

 やべえな。足軽の攻撃にはまだ耐えられるけど、もう一体出されたら決まっちまう。

 

「ターンエンドだよ!」

 

 

平家

LP:3200

手札:0枚

場 :モンスター

   『紫炎の足軽』攻撃力700

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:0)

 

LP:1000

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「私のターン」

 

手札:0→1

 

「……私は魔法カード発動します。『死者蘇生』! 対象は、平家さんの墓地の『大将軍 紫炎』!」

「え……えぇ~えぇー!!」

 

『大将軍 紫炎』

 攻撃力2500

 

 梓の場に紫炎が現れた。服装のせいか、こっちの方がしっくり来るな。

「……」

 て、あれ? 何だか梓、やけに紫炎を見てるけど、どうかしたのか?

「参ります!」

 お、戻った。

「『大将軍 紫炎』で、『紫炎の足軽』に攻撃! 獄炎・紫の太刀!」

「くぅ……」

 

平家

LP:3200→1400

 

「……この瞬間、『紫炎の足軽』の効果発動! このカードが戦闘で破壊された時、デッキからレベル3以下の六武衆と名の付くモンスターを特殊召喚する! 『六武衆-ヤリザ』を特殊召喚!」

 

『六武衆-ヤリザ』

 攻撃力1000

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「……私はこれでターンエンド!!」

 

 

LP:1000

手札:0枚

場 :モンスター

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

平家

LP:1400

手札:0枚

場 :モンスター

    『六武衆-ヤリザ』攻撃力1000

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:2)

 

(梓くんのライフは1000。ヤリザの攻撃力もぴったり1000。ヤリザは他の六武衆がいる時、ダイレクトアタックできる。このドローで六武衆を引くか、六武衆を特殊召喚できるカードを引くしかない!)

「わたしのターン……ドロー!」

 

平家

手札:0→1

 

「……」

「……カードをセット。ヤリザを守備表示に変更!」

 

『六武衆-ヤリザ』

 守備力500

 

「ターンエンド!!」

 

 

平家

LP:1400

手札:0枚

場 :モンスター

   『六武衆-ヤリザ』守備力500

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:2)

    セット

 

LP:1000

手札:無し

場 :モンスター

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

 

 何を伏せた……?

「私のターン、ドロー!」

 

手札:0→1

 

「速攻魔法『サイクロン』! そのセットカードを破壊!」

「あぁ~~~~~~~~!!」

 あずさが絶叫してる間にカードは破壊される。破壊されたのは、『リビングデッドの呼び声』。

「紫炎でヤリザを攻撃!」

「あぁ~~~~~~~~ぅ!!」

「ターンエンド!」

 

 

LP:1000

手札:0枚

場 :モンスター

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

平家

LP:1400

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:2)

 

 

「わ、わたしのターン!」

 

平家

手札:0→1

 

(『六武衆の(ことわり)』……自分の場の六武衆一体を生贄にして、自分か相手の墓地から六武衆を特殊召喚できる速攻魔法……この状況じゃ意味がないよ~……)

 

「ターンエンド!!」

 

 

平家

LP:1400

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:2)

 

LP:1000

手札:無し

場 :モンスター

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

 平家、何もできなくて、今にも泣きそうな顔してるけど、決闘への闘志は捨ててねえ。その心意気は見事だぜ!!

 

「私のターン、ドロー!」

 

手札:0→1

 

「私は『E・HERO オーシャン』を召喚!」

 

『E・HERO オーシャン』

 攻撃力1500

 

 また俺の知らないE・HERO! 

 って、終わったな。

「せめて、とどめは私のモンスターで……」

 

「バトル! オーシャンで、平家さんにダイレクトアタック!」

 

「うわぁ~~!!」

 

平家

LP:1400→0

 

 

 

 




お疲れ様です。
『』はカードの正式名称、またはカテゴリ名が初めて出た時だけに付けてます。

例:
 付ける⇒『氷結界の虎将 ライホウ』、『六武の門』、『E・HERO』(初回)
 付けぬ⇒ライホウ、門、E・HERO(二回目以降)

読み辛くないですかね?
まあいいや。次話までちょっと待ってね。


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第三話 女子寮での激闘 ~決闘後~

三話目完結編~。


……


うんまあ言えるこたそれだけだ。行ってらっしゃい。



視点:明日香

 決闘が終わって、私達はまたボートを着けていた。

 梓と平家さん、凄い決闘だったわ。梓の決闘を見たのは三度目だけど、今までの二度の決闘を、梓はノーダメージで勝ってきた。それを、ライフを1000まで削ったうえに、あともう少しの所で追いつめるなんて。梓が『E・HERO アブソルートZero』を出さなければ間違いなく平家さんの勝ちだった。

 

「まさか梓くんがE・HEROを使うなんて、思ってなかったよ~」

「本当だぜ。それにお前の使ったE・HERO何なんだ? 三枚とも俺も知らないカードだったぜ!!」

 十代は相変わらずだし。けど十代も知らないなんて意外ね。私も知らないカードだったけど、十代なら知ってるかと思ってた。

 

「……ところで平家さん?」

「へ?」

「ふと気になったのですが、最後にドローしたのは何のカードだったのでしょう?」

「え? えっと、『六武衆の理』だけど」

「……え?」

 平家さんの返事に、梓はなぜか呆然と目を見開いた。

「梓?」

「どうかしたの?」

「……」

 梓は呆然とした表情のまま、ぶつぶつ何かを呟いた後、ゆっくりと口を開いた。

「えっと、その……今更こんなことを言うのもどうかと思うのですが……」

「え? なに?」

「何だ?」

 どうしたのかしら?

「その……」

 

「今の決闘、平家さんの勝利でした」

 

『……』

 

『はぁ!?』

 

 いきなりの言葉に、梓以外の声が重なった。だって、あの状況で、平家さんが勝ってたですって!?

「ど、どうやって!?」

 平家さんは慌てた様子で聞いてる。そりゃ当事者なんだから当然よね。十代達も興味津々って顔して梓を見てる。あと、ジュンコにももえも、あと多分、私もね。

「えっとですね……私が『サイクロン』を発動した時、『リビングデッドの呼び声』を黙って破壊されていましたよね?」

「う、うん。無理に発動して特殊召喚しても、どうせ破壊されたらモンスターも一緒に破壊されちゃうし」

「ええ。ですが、あなたの場には『六武の門』がありました」

「うん……うんっ!?」

 あら? 突然平家さんが、何かに気付いたみたいに硬直した。

「あの時、『六武の門』には武士道カウンターが二つ乗っていました。あの時『サイクロン』にチェーンして『リビングデッドの呼び声』を発動すれば、特殊召喚自体は可能なので、適当な六武衆を特殊召喚しただけで『六武の門』の武士道カウンターが四つに増え、その後に破壊されます」

「うんうん」

 なぜか十代が相槌を打ってる。

「その後で梓さんがターンを迎えて『六武衆の理』をドローし、門の効果で適当な六武衆を手札に加えて通常召喚を行えば、門に再び武士道カウンターが乗ります。そこで理を発動して墓地から『六武衆-ヤリザ』を特殊召喚すると、門の武士道カウンターが再び四つに増えます」

「それで?」

「紫炎は既に発動しているカードの効果に対しては制限を与えないので、ここでまた武士道カウンターを四つ取り除き、墓地に眠る『六武衆の師範』を手札に加え、特殊召喚して更に門に武士道カウンターを二つ乗せます」

「それで、えっと……平家のフィールドは、ヤリザと師範の二体か」

「はい。後は、師範がいるのでヤリザの効果で直接攻撃を行うか、門から武士道カウンターを二つ取り除き、師範の攻撃力を2600に上げ、紫炎を戦闘破壊した後、無防備になった私にヤリザで直接攻撃を行えば……」

 

『……』

 

 本当だ。確かに、梓の言う通り、全ては結果論とは言え、そうすれば平家さんが勝ってた。

「なぜ武士道カウンターだけでも乗せようとせず、ただ『リビングデッドの呼び声』を破壊されたのか、どうしても疑問だったもので、その……」

「……」

「平家さん?」

「……うぅ」

 

「うぅわあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」

 

 平家さんが壊れた!!

「平家さん! ど、どうか落ち着いて!」

「気にすることねえって! あの状況で普通そんなこと誰も思い付かねえよ!」

「私だってたった今梓に言われて気付いたんだもの! それに、『六武衆の理』を引くことだって確定してなかったし、仕方が無いわ!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「いやぁ~、取り乱して申し訳ない……」

 五分くらい慰めたかしら。ようやく落ち着いてくれた。

「ところでさ、結局梓への恨みって何だったんだ?」

 え? このタイミングでそれを聞くの?

「あぁ、あれね……」

 あ、話すんだ。

「実は、わたし……名前が、『平家 あずさ』って言うんだ」

「え? 同じ名前だったのか!?」

(やっぱそういうことっスか……)

「一応、漢字と平仮名っていう違いはあるけどね。中等部までは普通だったのに、梓くんが入学して目立っちゃったから、色々間違えられたりからかわれたりして、地味に嫌な目に遭ってきたんだよ」

「そうだったのか?」

 十代が私に話し掛けてきた。

「ええ。お陰でそれまでは私達も名前で呼んでたのに、本人が嫌がるから名字で呼んでたの」

「やはり、そうでしたか……」

 あ、梓が落ち込んだ。

「私の存在が、一人の生徒に嫌な思いを抱かせたのですね……」

「いいよ。もう気にしてないよ。君との決闘は楽しかったし、お相子だよ」

 そう言った時、梓の顔が段々晴れやかなっていった。

「本当ですか?」

「うん。これからは名字じゃなくて、名前で呼んでもいいよ。梓くん!」

「……あずさ、さん」

「うん!」

 満面の笑顔で言ってる。何だか久しぶりに見た気がするわ。

「じゃあ、俺達もそう呼んでいいか?」

「私達も、元に戻っても良い?」

 十代とジュンコが話し掛けた。

「もちろん! よく考えたらたかが名前だもんね。あ、でも紛らわしくても自己責任てことで」

 みんなが笑顔で頷いた。もちろん私も。やっぱり名字じゃ、少し堅苦しいものね。

 

「それじゃあ、もう遅いし、帰りましょうか」

 私がそう言ったことで、みんなが一斉に動き始めた。十代と翔君が、こっちは私と、あずさがオールを持った。

 そして、漕ごうと手を動かした、その時、

 

「あの」

 

 急に、梓が声を出した。

「へ?」

「どうかしたのか?」

「いえ、実は、ぜひ、その……あずささんに、お願いしたことがあるのですが」

「わたしに?」

「はい。出会ったばかりで申し訳ないのですが、あずささん以外にはお願いできないことでして……」

 笑顔だけど、困ったようにうつむいてる。そんなに頼み難いことなのかしら。

「うん。いいよ」

 やっぱり即答よね。あずさの性格なら当然か。

「本当ですか?」

「うん。わたしにできることなら何でも言って」

 あずさは笑いながら立ち上がって、梓達の乗るボートと向かい合った。

「では……」

 梓も立ち上がって、あずさと向かい合うように立つ……字を変えないと本当に紛らわしいわね。

 そんなことを思った瞬間、梓があずさの手を両手で取って……

 

「私とお付き合いして下さい!!」

 

 

 

視点:あずさ

「……はい?」

「私の恋人になって下さい!!」

「……へ?」

「私をあなたの恋人にして下さい!!」

 

 ……

 …………

 ………………

 !!

 

「えぇ~えぇー!!」

 

 い、いきなり何を言い出すんですかこの人は!? ちょっ! そんな綺麗な目で真っ直ぐ見つめられても困るよ~!!/////////

 か、顔が熱くなってきた//// 真っ直ぐ目を見られなくなったから目をあちこちに泳がせて、みんなの顔が見えたけど、みんな驚いてる。

 当たり前だよ! あの梓くんがだよ! あの綺麗で強くて入学試験トップで有名な梓くんが、わたしにだよ~!!////////

「ちょ、ちょっと、一回、手を離そうか」

 そう言ったら離してくれたけど、目はわたしを見たまま。凄く真剣な目だよ~////

 

十代「梓、お前……」

翔 「梓さん……」

 

ももえ 「まあ、梓さん……」

ジュンコ「やだ、本当に……?」

明日香 「大胆……」

 

 みんなが思ったことを口にしてる。何だかそれがラブソングに聞こえてきたのは気のせいだよね~///////

「えっと、その、色々聞きたいんだけど……わたし達って、今日が初対面だよね?」

「はい」

「会ったのは、お互いさっきが初めてで間違い無いよね?」

「はい」

「それなのに、何で急にそんなことを?」

「私も初めての経験ですが、一目惚れです」

 一目惚れ!? わたしに!?

「あなたと出会い、感じました。あなたと闘い、分かりました。あなたとの決闘で、確信しました。あなたと話しをして、自分を抑えられなくなりました。私にはあなたしかいない。あなた以上の女性と出会うことなど無い。だから今、私は思いを伝えることを決めました」

 また真剣な目で言ってる。うぅ、その目が弱いんだってばぁ……//////

「で、でも、わたし、梓くんのこと何も知らないし、梓くんだって、今日会ったばっかでわたしのこと知らないんじゃ……」

「ええ、何も知りません。私も、今自分がどれだけ常識外な発言をしているのか、あなたから見てどれほど不快な行動を取っているかは自覚しております」

 別に不快ではないけど……

「しかし! だからこそ今しか無いと感じました!! あなたは美しく、そして素晴らしい女性です!! だから今後、他の男性方があなたを放っておく訳が無い!! あなたの隣に、私以外の男性が立っている。そんな光景を想像しただけで胸が張り裂けそうになる!! だから今、あなたを私だけの物にしたい!! そして私も、あなただけの物になりたい!!」

 

 ~~~!?//// ~~~~~~~~!!////// //////////

 

十「す、すげえ……いつも静かで冷静な梓が、めちゃくちゃ熱いぜ……!」

翔「これが恋っスか、凄いっス……」

 

も「まぁまぁまぁまぁ……////」

ジ「ど、どうするの、あずさ……////」

明「大胆……////////」

 

 あわわわわわわっ、どうしよう!//// 本当にどうしよう!!//////

 恥ずかしいし梓くんは真剣に見てるしみんなは面白がってるし梓くんは真剣に見てるし////// 大事なことだから二回……何回でもいいよ!!////////

 へ、返事しなきゃ//// か、顔が熱い//// あた、あた、頭が回らない////

 お、落ちついてわたし!//// まずわたしは梓くんをどう思ってるか考えよう////

 

 梓くんは……

 凄く綺麗だし、決闘は凄く強いし、怒ると怖いけど普段は凄く優しいし……

 成績は良いし着物が似合うし喧嘩も凄く強いし……

 髪も綺麗だしお肌は綺麗だし近くに寄ると良い臭いがするし……

 

 か、完璧だ。完璧超人だ。全く非の打ちどころが無い。

 いや、でもだからって、それで好きってことでもないし、わたし自身が梓くんのことどう思ってるかだよね////

 わたしは、えっと、梓くんが~~~~//////

 

 

「……そうですか」

 

 

 ……へ?

 

 急に梓くんは目を閉じて、一歩後ろに下がった。

「すみません。そうでしたね。初対面だというのにこんなこと、あまりに非常識でしたね」

 え? いや、その……

「何より、私は先程まで、あなた方を斬滅しようとしていた人間。始めから、こんなことを言える立場ではありませんでした」

 今それを言うの!? もう気にしてないよ!! わたしだって君を粉砕しようとしてたのは同じなんだから!!

「ただ、一つだけ……」

 一つだけ……?

「これからも、変わらず友達でいてくれること。それだけは、許していただけますか?」

 

十「梓……」

翔「梓さん……」

 

も「梓さん……」

ジ「梓さん……」

明「梓……」

 

 それは……

「もちろん、良いよ」

 そう言ったら梓くんは、さっきまでと同じ、いつも見せてくれてる笑顔を見せた。

「良かった。これで思い残すことはありません」

 そう言って、腰を下ろした。

「皆さん、時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。また明日、授業でお会いしましょう。お休みなさい」

 そう言い残して、ボートを漕いで帰っていった。

 

 

『……』

 残った女子四人とも、何も言わない。それだけ、たった今起きたことが衝撃的だったってことだよね。

「良いんですの?」

 そう話し掛けてきたのは、ももえちゃん?

「梓さん、一方的に振られたと思い込んで、諦めてしまっていますわよ」

 それは分かってる。早く返事をしなかったわたしも悪かったよ。

「……でも、本当に急だったから。返事をしたくても、全然わたしの気持ちなんて分からなかったし、言葉を整理する前に行っちゃったし……」

「そうですわね。だとしても、梓さんを振るか、梓さんを受け入れるか、どんな返事であれ、きちんとあずささんの口から答えてあげるべきですわ」

 ……やっぱり、そうだよね。

「うん。いつになるかは分からないけど、わたしなりに考えて、梓くんにちゃんと返事するよ」

 でも、本当にいつになるんだろう。梓くんのことは好きだけど、それって恋愛なのかな……?

 

 

 

視点:外

 その夜、二人の(あずさ)は各々眠れずにいた。

 

 

(うぅ~~眠れない。今思い出しても恥ずかしいよ~////)

 

(……眠れない……ずっと、あの人の姿ばかりが浮かんでくる……)

 

(ここまで恥ずかしいってことは、やっぱり好きなのかな~////)

 

(忘れなければならない……なのに、愛しいという気持ちばかりが湧いてくる……)

 

(あぅ~、梓くん……可愛いし決闘は強いし着物が似合うし私より強いし~////)

 

(あずささん……とても愛らしく、決闘も強く、笑顔が似合い、そして私より強い……)

 

(あぁ~、告白の言葉が忘れられないよ~////)

 

(今思えば、恥ずかしい言葉を次々と……それだけ彼女が愛おしかったのですが……)

 

(梓く~ん……////)

(あずささん……)

 

 

 こうして、二人とも眠れぬうちに夜は更け、やがて陽が昇ったのであった。

 

 

 余談だが、朝を迎えた直後、女子寮前の船着き場が半壊していたことで騒ぎが起こったことは言うまでもない。

 

 

 

 




お疲れ様です。
ちなみにあずさの外見ですが……
言うまでもないか。
まあ敢えて言わせてもらうとすりゃ、日本一有名な梓を誰よりも愛するウンタンだ。
言うこたそれだけだな。
んじゃ、次は月一試験編だからね。ちょっと待ってて。


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第四話 月一試験開始 ~前日~

月一試験編、は~じま~るよ~。

そいじゃ、行ってらっしゃい。



視点:梓

 女子寮での一件から数日経ちました。

 今日はいつにも増して生徒達が騒がしいように思えます。どうかしたのでしょうか?

 

「梓」

 

 その声に振り返ると、明日香さんです。

「さすがに余裕みたいね。みんな慌ててるのに」

「はあ……一体、皆さんは何をそんなに慌てているのでしょう?」

 そう尋ねてみると、明日香さんはなぜかジト目で私を見つめてきました。

「……もしかして、忘れてる?」

「何がですか?」

「……明日の月一試験よ」

「月一試験?」

 月一試験……

「ああ、そう言えば、そんな物もありましたね」

「忘れてたんだ……」

 また呆れてうつむきました。完璧に忘れていましたよ。

「勉強はしなくていいの?」

「勉強……しなくてはダメでしょうか?」

 そう聞いたら、明日香さんはもはや話すのが疲れたという顔を見せました。

「……私に聞いてどうするのよ。まあ、勉強しなくても大丈夫なら、しなくていいんじゃないの?」

「はあ……」

 そうですか。今のままでもそれなりの点数を取れる自信はあるのですが、一応一通りの復習はしておいた方が良いでしょうか?

 

「明日香ちゃ~ん」

 

 おや? この口調と、今にも泣き出しそうなこの声は……

「あら、あずさ」

「ここ教えて……」

 目が合いました。

「こんにちは。あずささん」

「え? あ、うん。こんにちは……///」

 普段通りの笑顔を見せたのですが、なぜ顔が赤いのでしょう?

「そうだ。梓」

 急に明日香さんが何かを思いついたように、私に話し掛けてきました。

「はい?」

「そんなに余裕があるなら、あずさに色々と教えてあげたら?」

「!?」

「構いませんよ。私などで役に立つなら」

 人に何かを教えるのは慣れていますし、お安い御用です。

「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれたまえよ明日香くん!//////」

 あずささんが話し掛けてきました。何やら口調がおかしくなっていますね。

 

 ……ああ、そうでした。

 

 

 

視点:明日香

「すみません明日香さん。私には無理です」

「え? どうして?」

「……この間のこともありますし、本人も嫌がっているようですし……」

「え!?」

 また勘違いしてるわ。あずさは嫌がっている訳じゃなくて、梓と一緒にいるのが恥ずかしいだけよ。

 けど、誰でもそうだろうけど、特に梓は人の態度や見た目、事実ばかりを気にして心情をあまり見ようとしないから、よくこうして間違った解釈をしてしまうみたい。

 特に今回は前のこともあるし、自分のことだから、なお更自分にとって悪い方向に取ってしまっているということね。

「別に、嫌じゃないよ! 梓くん!」

 あら、あずさが梓に向かって……やっぱり紛らわしいわ。とにかく叫んだ。

「別に、嫌な訳じゃなくて、その……ほ、ほら! わたしなんかが梓くんみたいな人に聞くなんて、畏れ多いと言いますか、そんな感じに思っただけなのだよ、本当に」

 必死にごまかしてる。口調も変だし、誰でも変だと思う。

「そんなことですか」

 けど、変だと思わないのが梓なのよね。微笑ましそうに笑顔を浮かべてるわ。

「私達は友人同士ではないですか。だからいつでも頼って下さって構いません。私の力が必要なら、いつでも助けになりますから」

「……////」

 また顔が赤くなってる。まあ、面と向かって梓の綺麗な笑顔を見せられたら無理も無いわ。周りを見ると、私以外の女子も男子もほとんどが赤くなってるもの。

「よろしければ、これから私の部屋にいらっしゃいますか? 勉強のついでにお茶をお出ししましょう」

「え!?」

 かなりさり気なく部屋に誘ったわね。梓のことだから下心なんて無いんだろうけど、あずさは誤解してないかしら。

「////(コクコク)////」

 ……本当に誤解してないかしら。よく分からないわ。

 それにしても、あの告白から、あずさはずっと梓を意識してる。梓は一方的に振られたって勘違いしてるから普通に接してるけど、あずさは未だに答えが出てなくて、ずっとその答えを探してる。だから梓のことをかなり意識してる。

 (はた)から見たら、もう好きで良いと思うけど、あずさ自身はその気持ちに自信が無いみたい。まあどちらにしろ、きちんとした答えを見つけられる日が来るのを祈るしか無いわ。

 

 

 

視点:あずさ

「梓くんの部屋です!」

「そうですが、どうかしましたか?」

「う、ううん、何でも無いよ///」

 という訳で、梓くんの部屋に誘われて、そこで勉強しているわたくし、平家あずさですが、この部屋には驚きました。

 畳に(すだれ)に掛け軸生け花。わたしの住む女子部屋のことを思い出せば、他とは明らかに違うことは一目瞭然。いつも着てる着物と言い、とことん和風なんだね。

「では、さっそくどこが分からないのか教えて下さいますか?」

「う、うん。ここ……」

 わたしがノートを見せると、梓くんは笑顔を見せた。

「ここはですね……」

 そして、笑顔のまますらすら解いてくれた。

 梓くんの教え方は凄く丁寧で優しくて、普段勉強はあまり好きじゃないわたしも、いつまでも聞いていられそうなくらい、聞いてて気持ちの良い指導だった。

「では、次は一人でやってみましょうか」

「う、うん」

 梓くんから教わって、できると思った。

 けど……やっぱりイメージだけだね。

「そこにこれを当てはめて下さい」

 横から優しい声が聞こえて、指を指された。言われた通りやってみる……

「うわ! できちゃった! できちゃったよ梓くん!!」

 そう言って、顔を梓くんに向けたんだけど、

「……」

「//////」

 か、顔が近過ぎる!! いつの間にそんなに近くにあったの!? あとちょっと近寄ったらできちゃうじゃん!! せ……せ……せっぷ……

「他に分からない所はありますか?」

 はっ!

 そうだった、勉強しなくちゃ。梓くんは何も感じてないみたいだし……ちょっと寂しい。

 まあいいや。この際、分からない所は全部聞いちゃおっと。

「えっと、次はね……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そんなこんなで、あっという間に時間が過ぎていった。そして気が付くと、

「うわぁ!! もうこんな時間!!」

「……おや、本当ですね」

 梓くんは落ち着いてる。でも、正直わたしは辛い。

「晩御飯食べ損ねちゃった~……」

 今じゃ食堂も閉まっちゃってるよね……

 

 グゥ~……

 

 嘆いた直後、お腹から大きな音が。うぅ……梓くんの前なのに、恥ずかしい。

「……少し、くつろいでいて下さい」

 梓くんはわたしにそう言って、立ち上がって部屋の奥に入っていった。

 すると、部屋の奥、台所から色んな音が聞こえた。包丁で刻む音、食器同士のぶつかる音、火を着ける音、何かを焼く音、茹でる音なんかも聞こえる。それと一緒に、とても良い匂いがしてきた。

 大体二十分くらい経ったかな。梓くんは大きなお盆を持って戻ってきた。

「あり合わせですが、良かったらお召し上がり下さい」

 そう言われて出されたのは……

 な、何これ!!

 ご飯はさすがに普通だ。けど、それ以外には、お吸い物にお魚、後は卵焼きだったり漬物だったりだけど、よくテレビで見るような料亭で出されるような出来栄えだよ!!

「これ、本当に食べて良いの!?」

 あまりにも食べるのが勿体ないんですけど!!

「……? はい。どうぞ」

 梓くんは何も気にしてない。そりゃいつもこんな料理作ってたら何も感じないよね。

「じゃあ……いただきます」

 キチンと挨拶をして、箸に手を伸ばした。そして、一口食べてみたら……

「美味しい……」

 それ以上、言葉が出なかった。本当に美味しかった。

「おかわりもありますから、お好きなだけどうぞ」

 そう言ってくれた。その言葉が嬉しくて、何より味が美味し過ぎて、お箸が止まらなくなった。

「おかわり!」

 空のお茶碗を渡すと、すぐに新しくご飯をよそいできてくれた。何だかお米も美味しい。もしかしてこのお米も特別なお米なのかな? その辺の知識はあんまり無いけど、とにかく美味しい。もちろんお米だけじゃなくて、お吸い物もお魚も、全部が美味しい。和食ってもう少し難しいイメージがあったけど、こんなに美味しいものだったんだ。

「幸せ……」

 気が付いたらそう言っちゃった。言った後で恥ずかしくなって、梓くんを見てみたら、梓くんは嬉しそうにわたしを見ていた。

 梓くんも、わたしが食べてることが嬉しいのかな……?

 

 そして、全部平らげて、お茶碗もお皿も綺麗になった。

「ごちそうさまでした」

 キチンと手を合わせる。何だか今日ほど食事に感謝の気持ちを持ったことも無いよ。

「お粗末様でした」

 梓くんも挨拶をした。

「凄く美味しかったよぉ」

「喜んで下さって光栄です。お口に合いましたか?」

「もう合い過ぎ! 毎日食べたいくらい」

 ……あれ? こんな告白、昔テレビで見たことあるような……

「それは嬉しい言葉です」

 梓くんは普通に笑ってる。よかった。また顔が熱くなりかけてた。

「よろしければ、食後の甘いものなどは?」

「え! デザートもあるの!?」

「はい」

 返事をした後で、梓くんはまた台所へ行った。そしてその手には、漆塗りの赤い厳かな小皿と、その上に……お花?

「練り切りで作った、生菓子です」

 練り切りって、あの職人さんが作るお花や木の実なんかのお菓子のこと?

「初めて食べるよ」

 添えられた竹(正式名称が分かんない)を取って、まずは見てみた。

 綺麗……花弁一本一本が細かく作られてる。遠くから見たら本物のお花にしか見えない。先が尖ってるから痛そうに見えたけど、竹でつついてみたら、かなり柔らかい。竹を刺してみたら、何となく固そうな見た目とは違って、スッと刺さって、簡単に半分に切れた。

 一口大に切って食べてみると……

「美味しい!!」

 食べたのは初めてだけど、本当に美味しい。甘いんだけど、甘すぎないとても上品な甘さで、その甘さがゆっくり口に広がっていくみたい。しかもケーキみたいにいつまでも口に残る甘さじゃなくて、飲み込んだ瞬間スッと溶けていく感じ。

「玉露もどうぞ」

 言われて出されたお茶も一口飲む。

 はあー、まだ少し残ってた甘みが程良く溶けていく。

「美味しい……」

「喜んで下さって何よりです」

 お菓子が美味しくて嬉しい。お茶が美味しくて嬉しい。梓くんが笑ってるのが嬉しい。

 もう、ここでの全部が嬉しいよ。

「これどこのお店で買ったの?」

 あんまり美味しいから、また食べたくて聞いてみた。でも、こんなに美味しいんじゃ、きっと高いんだろうな。

「いえ、これは私の手作りです」

 なーんだ。それじゃとても買えないや……

 ……

 え!!

「作ったの!? 梓くんが!?」

「はい。やはり、男子がお菓子作りをするのはおかしいでしょうか?」

「おかしくないよ!! むしろお店出せるくらいの出来だよ!!」

 わたしは和菓子のことは詳しくないけど、見た目も味も凄いよ!!

「そこまで評価して下さるとは、光栄です」

 うぅ……梓くんは結局そういう人なんだから。自分がどれだけのもの作ったのかの自覚が無いのかな……

 あれ? そう言えば……

「梓くんは食べないの?」

 わたしがいても、一緒に食べても良かったのに。

「私はそれほど空腹ではありませんので」

「そうなんだ。ちなみに普段食堂へは行くの?」

「ほとんど行きません。何かを食べる時は自分で作ります」

「やっぱり自炊してるんだ。すご~い。普段からこんな料理やお菓子が作れるなんて、羨ましい」

「普段はあまり。そもそも普段はほとんと食べませんし」

 へ?

「それって……その、一日何食くらい食べてるの?」

「一食……むしろ必要が無いので水だけの日の方が多いですね」

 えぇ~えぇー!!

「ダメだよ! ちゃんと食べないと!!」

 だから女子より体がほっそりしてるんだ!?

「よく言われます。けど昔から空腹はあまり感じなくて。食べる時間があれば、他にしなければならないことに費やした方が有意義ですし」

 そんな……

「どうしてお腹空かないの?」

 そう聞いたら、梓くんは少し無言になった。そして、

「……幼い頃から、空腹の状態こそが日常だったから、でしょうか」

「え?」

 聞き返したけど、梓くんはいつもの笑顔を見せた。

「どうかお気になさらず。それより、もう遅いので、女子寮までお送り致します」

「え? 良いよ、悪いよ……」

「お送りさせて下さい。あずささんのような素敵な方を、一人で歩かせるのは心配ですから」

 /////////

 そ、そんな恥ずかしい言葉をストレートに、君という人は////

 また顔が熱くなった。間違い無く今のわたしの顔は真っ赤だ////

「す、すみません! 失礼なことを……」

 梓くんもさすがに恥ずかしかったみたいで、顔を横に向けた。ちょっと可愛い////

「では、行きましょう。明日は試験もあります。早く寝た方が良いですよ」

 はっ! そうだった!

「うん、すぐに帰ろう!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「女子寮前です!」

「……誰に話し掛けているのですか?」

「気にしてはいけない、そういう存在の人達だよ」

「? ……分かりました。気にしません」

 それで良いんだよ。梓くんのような純粋な人は、気にしてはいけない。

「ここまでで良いよ。ありがとう」

「いえ。こちらこそ、こんなに長い時間引き止めてしまって、申し訳ありませんでした」

「ううん。明日の試験、お互い頑張ろうね」

「はい。では、さよなら」

「また明日~」

 手を振りながら、徐々に見えなくなっていく梓くんの顔を見続けた。

 

 

 そして、見えなくなって、部屋に戻った後、梓くんのことを思い出した。

 

 やっぱり、お互いのこと全然分かってないんだな。

 梓くん、どんな人なんだろう。普段から全然食べないなんて。

 本当に、どんな人なのかな……

 

 

 

視点:梓

 ……

 …………

 ………………ブハァ!!

 

「恥ずかしい////////!!」

 

 ゴロンゴロンゴロンゴロン……

 

 今思い出しても恥ずかし過ぎる////!!

 勉強を教えている間、あまりにも顔が近距離にありました。その度に顔から火が出そうな気持ちでしたが、私の顔は普通でしたでしょうか。彼女の顔を思い出すだけで、凄く胸がドキドキしてしまいます////

 何より、あずささんが素敵なのは本当のことですが、それをわざわざ言葉にしてどうする!? そんなことを言っても、あずささんの気を悪くしてしまうだけだというのに!!////

 ただでさえあの告白で彼女からの印象は最悪なものになっているというのに、これ以上失礼なことを言ってどうするのですか!?

 彼女といつまでも友達でいるために、余計な言葉を慎まなければ……

 

 それにしても、あずささんが、私の作った料理やお菓子を食べて下さった。しかも、毎日私の作った料理を食べたいと。

 とても嬉しいです。嬉し過ぎて、卒倒しそうな言葉でした。昔から、よく求婚の言葉としても使用される言葉です。当然そんな意味は無いのでしょうが。

 やはり、今でも夢見てしまう。あずささんと一生を添い遂げる。夫婦の契りを結ぶ。永遠に来るはずの無いそんな日を、私は切望している。

 いい加減諦めなければ。私はあずささんに振られた身。その思いは全て、心から消し去って然る物。いつまでも持っていても女々しいだけです。

 

 ……と、言葉ではいくらでももっともらしいことを言えます。実際今日まで何度も実行しようとしました。なのに、消えません。あずささんに抱いてしまった、この(よこしま)な思いを、消すことができない……

 

 なんと、弱い人間なのだろう。私という、水瀬梓という男は……

 

 ……とにかく今は眠らなければなりませんね。明日の試験のためにも。

 

 

 それにしてもあずささん、明日は大丈夫でしょうか……

 

 

 

 




お疲れ様です。
決闘はまだ先です。
だが今はこれしか言えねえ。
ちょっと待ってね。


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第四話 月一試験開始 ~当日~

今回はちょっと短めです。
決闘前のちょっとしたほのぼのシーンです。
早く決闘を見せろって? うん。謝る。ごめんね。
謝ったから許しておくれ。
許されたところで、行ってらっしゃい。



視点:梓

「おはようございます。梓さん////」

「おはようございます」

「梓さん、おはようございます!////」

「おはようございます」

「今日も素敵なお召し物ですね!////」

「ありがとうございます」

 

 私は今、早朝の女子寮前で、女子の皆さんに話し掛けられています。こんな場所にいる理由ですが、あずささんを待っています。

 昨日の様子から、寝坊をしないかとても心配です。

 きちんと一人で起きられるのでしょうか。いやむしろ、教えたことがきちんと頭にあるかどうかも心配です。彼女は少し抜けている部分がありますから、少し心配なのですよね。もちろん、そんなことは私が心配するまでもないことなのでしょうが……

 

「あら梓、おはよう」

 

 聞き覚えのある声がしました。私を唯一呼び捨てにする女子。もはや確認は不要ですね。

「おはようございます。明日香さん」

「女子寮の前で、どうかした?」

「ええ、その……あずささんは?」

 少し声が落ちてしまいました。あずささんの名前を出しただけで、顔は赤くなっていませんでしょうか。

「そう言えば、今朝はまだ見てないわね」

「やはり、寝坊ですか?」

 恐れていた事態になりましたか? すると、明日香さんは私に微笑みかけました。

「まるでそうなるって分かってたみたいね」

「ええ、その、昨夜少し様子がおかしかったので、きちんと眠れているか心配なのです。それに、教えた身としても気になるところですし」

 私の不用意な一言で気分を害されてしまったようですし、何より私の話をした直後、様子がおかしかった。理由は分かりませんが、心配していた通りのことが起こってしまいました。

「……」

「どうかなさいましたか?」

 先程からずっと微笑んでおりますが。

「ううん。梓って、本当にあずさのことよく見てるなって思って」

「そりゃあ、友達ですから……」

 そう。友達ですから。それだけです。友達として、心配するのは当然のことですよ。

「……」

 おや、今度は哀しげな顔を見せていますね。

「どうかしましたか?」

「ううん。それじゃあ、私があずさを迎えにいってくるわ」

 あ、いえ、それは……

 

 ガシッ

 

「?」

 反射的に、明日香さんの手を取りました。

「え、なに?」

「もうあまり時間もありませんし、明日香さんは先に行った方が良いでしょう」

 

 

 

視点:明日香

 あずさを迎えに部屋へ行こうとしたけど、突然梓に腕を掴まれて、先に行けと言われた。

「でも、あなたはどうするの?」

「私は彼女が現れるまで待っています」

 え? でも、それじゃあなたこそ遅刻するんじゃ……

「こうなってしまったのは私にも責任があります。だから、彼女がテストに遅れて点数が取れないというなら、その罰は私も等しく受けなければなりません」

 梓、そこまであずさのこと……

「それに、私ならば大丈夫です。ここから学園まで、三十秒もあれば到着しますから」

 ああ……納得。あの夜あれだけのスピードだったし、確かに普通に走っても速いでしょうね。正直なところ、私じゃ自転車や馬に乗っても勝てる気がしないもの。

 ……て、何で馬が浮かんだのかしら?

「分かった。じゃあ、先に行くわ。けど、ちゃんと来るのよ」

「ええ。ご健闘を」

 その言葉を最後に、私は梓と別れた。

 

 それにしても、本当に梓は純粋な人だと思う。あずさはよく寝坊をする方ではあるけど、今回はそれを昨夜一緒にいた自分のせいだと思って、それだけで試験よりもあずさを待つなんて。彼は友達だからって言ってたけど、普通は友達だからってできることじゃないわ。

 彼は諦めてるつもりみたいだけど、やっぱり今でもあずさにゾッコンみたい。

 まあそれはともかく、今は二人が試験に間に合ってくれるよう祈るだけね。

 

 

 

視点:あずさ

 ピンチです!! 平家あずさ、アカデミア生活始まって以来のピンチです!!

 とにかく落ち着いて!! ええと、忘れ物は無い、デッキオッケー、決闘ディスクオッケー、筆記用具オッケー、カバンもオッケー、荷物全部オッケー。

 忘れ物は無い。よし! 靴履いて鍵閉めて、出発!!

 今からじゃ走っても間に合わないかな?

 いや!!

 諦めるなわたし!! 人にはやらねばならない時がある!! 今がその時!!

 さあ目覚めよ! わたしの中の揺るがぬ絆よ!! 女子寮を出て、目指すは学び舎!!

 あずさ第一の絆を見よ!!

 

 

「おはようございます」

 

 揺るがぬ絆~~~!?

 

 ドッスン! ズザザ~~~~!!

 

「だ、大丈夫ですか?」

 いや、まあ、うん。顔から滑ったけど平気。それより……

「何で梓くんがここに……」

 そう聞こうとした瞬間、梓くんはわたしをひょいっと背負い上げた。両手には、梓くんとわたしの荷物を持ってる。

「へ!? な、なに!?」

「お静かに。舌を噛みますよ。私から絶対に手を離さぬよう……」

 なに? そう聞き返そうと思った瞬間、物凄い……

 

 Gぃぃぃいいいいいいいい~~~~~~~~~~~~~!!

 

「うわあぁぁぁぁああああああああああああ~~~~~~!!」

 

 

 

視点:十代

 急げ急げ急げ! まさかこんな日に寝坊なんて! ていうか、翔のやつも起こしてくれても良いだろう!

 時間は……何とか間に合うか……

 って思ってる矢先に目の前にトラックを押してるおばさん。

 ああー!! 俺こういうの弱いんだよなぁ!!

「手伝うぜ、おばさん!」

「おや、あんたテストは?」

「困ってる人は放っておけないぜ!」

 そう言いながらトラックを押すけど……くそ、中々重てぇ、思ったように進まねえ!!

「あたしは良いから、あんたは早く言った方がいいよ」

 そう言ってくれてるけど、でも、放っておけないし……

 

「じゅ~~~だ~~~いく~~~~~~ん!!」

 

 あれ? この声、あずさ!? そう気付いて振り向いた時、あずさは梓に背負われながら、こっちに猛スピードで近づいてくる。

 

「ど~~~い~~~て~~~~~~~~!!」

 

 そして、大きく下げて構えてる右手には……

 て、あの黄色の手甲!!

「おばさん! 避けろ!!」

 おばさんが何か言う前に、俺はおばさんを押して道から逸れた。そして、梓がトラックの目の前まで来て、

 

「飛んでけ!!」

 

 ガッ!!

 

 あずさの右手が、あんなに重かったトラックを一気に前に進めて、学校前に着いちまった。そしてそのまま、梓とあずさは校舎の中に走っていった。

「……」

「……」

 おばさんと俺、しばらく呆然としてたけど……

「あ! あんた、テスト!」

「あぁ! そうだった!!」

 おばさんの言葉で思い出して、俺は走り出した。

「さっきはありがとうねー。さっきの子達にもお礼を言っといておくれー」

「おー! おばさんも気を付けろよー!」

 そして、俺も試験会場へ急いだ。

 

 

 

視点:梓

 約半分の時間遅刻してしまいましたが、正直簡単な問題ばかりで、残りの半分の時間で見直しまで完了してしまいました。

 「『サイクロン』の説明をせよ。」という問題が出た時は、あまりのバカバカしさに危うく抜きかけましたよ。

 おそらく完璧ではないかと思います。

 あずささんは……

 

 シュ~~~~~……

 

 真っ白になって燃え尽きていますね。ああ、頭から煙が……

「スゥ……」

 逆に十代さんは余裕ですね。私達よりも遅く到着して、五分もしない頃には眠ってしまいました。あ、明日香さんが起こした。

 

「あずささん、大丈夫ですか?」

「……ふぇ?」

 話し掛けてみましたが、随分辛そうです。

「うん、多分。梓くんが教えてくれたところは完璧に解けたよ……」

 一応笑顔を見せて下さいました。その言葉は嬉しいのですが……

 あずささんとお話しするために、隣の席に座りました。

「やはり、私は教えるべきでは無かったでしょうか」

「え?」

 聞き返してきました。まあ、当然でしょうね。

「昨夜、あなたの様子がおかしかったので、眠れなくなるのではないかと思いました。だから、それで寝坊でもしてしまった時、お詫びにあなたをアカデミアへ送ろうと、あそこで待っていました」

「そのために、女子寮の前に……?」

 そんな目で私を見ないでください。これは当然の償いです。

「こんな事態を引き起こしてしまって、申し訳ありませんでした。これからは、こんなことにならないようにします。二度と、あなたを教えません」

「ちょっ、違うよ! 梓くん誤解してるよ!」

 随分必死に否定しています。その優しさだけで十分です。

「確かに昨夜は眠れなくなっちゃったけど、遅れたのは寝坊じゃないよ!」

 え? 違うのですか?

「実は……余計なお世話かなって思ったんだけど……////」

 あずささんは何やら言い辛そうに、顔を赤くしながら、カバンを机に置きました。

「梓くん、多分今日も朝ごはん食べてないでしょう?////」

「ええ。例によって空腹にはならなかったので」

「それでね、それじゃあいけないって思って、早起きして、梓くんにお弁当作ってきたんだよ////」

 そして取り出したのは、お弁当箱。

「これを、私に?」

「うん。料理は久しぶりだったから、すっごく時間が掛かっちゃって////」

 その話しを聞いて、たった今気付きました。あずささんの指に、何枚かの絆創膏(ばんそうこう)が貼られていることに。

「さすがに梓くんの料理には敵わないけどね。一応、あんまり食べない梓くんのお口にも合うようメニューを考えたつもりなんだけど」

 そしてまた、笑い掛けてくれています。

 

「……」

「あ、梓くん!?」

「……すみません。嬉しくて……」

 あまりに嬉しくて、涙が流れました。

 こんな、私のために、あなたに迷惑を掛けた私などのために、こんな指になるまで……

 けど、嬉しいと思うと同時に、また別の思いまで感じてしまいます。私が自分の身の上話などしたせいで、梓さんをこんな目に。それがまた、私の心を締め付けます。

「えっと、気にしないで」

 また、あずささんが話し掛けてきました。

「その、もし違ってたら謝るけど、自分を責めることなんて無いよ。わたしは確かに、梓くんの話しを聞いて眠れなくなったし、それがきっかけでお弁当を作ったけど、でも、これはわたしがそうしたくて、梓くんのために何かしてあげたいからそうしたんだ。梓くんに喜んで欲しくて、喜んでくれなくても、せめて、ちょっとは梓くんの役に立つことできたらなって。それで、少しでも梓くんが元気になってくれたら、それがわたしには一番嬉しいことだったから。だから、もし今責任を感じてるなら、全然気にしなくて良いんだよ」

 それはまるで、私の心を見透かしたような言葉でした。

 そして、とても嬉しい言葉でした。

 あまりに嬉しくて、私はあずささんの、弁当箱を持つ手を取りました。

「あ、梓くん……?」

 動揺していますが、これだけは言わせて下さい。

「ありがとうございます。あずささん……」

「……どういたしまして」

 あずささんも、笑顔でそう言って下さいました。そんな素敵な笑顔を見せて下さる。私にとってはそれだけで、仮に今空腹を感じていても、きっと満たされてしまいます。

 

 

 

視点:明日香

 幸せそうに話してる二人の(あずさ)を見ながら、私は微笑ましい気持ちを感じていた。

 

「天上院君」

 

 話し掛けてきたのは、ラーイエローのトップ、三沢君。

「もしかしてあの二人、付き合っているのか?」

 教室には今私達と、あの二人の四人だけ。私達だから良かったけど、他にも誰かいたら大事になってたかもね。

「いいえ。付き合ってはいないわね」

「そうか。いやすまない。あまりにも仲睦まじいというか、恋人同士の空気を感じてね」

「……ええ。私も同じよ」

 そう言うと、三沢君は不思議そうに私を見た。まあ、別に口止めされてる訳でもないし、話してもいいかしら。

「本当はね、梓が、水瀬の方ね。平家あずさに一目惚れしたらしくて、この間会った時、すぐに告白したの」

「ほお。あの梓が……」

 あ、あんまり驚かないのね。

「けどその時、あまりにいきなりだったからあずさは、平家の方ね。答えられなくて、それで梓は、一方的に振られたと思って、平家あずさは今も梓のことをどう思ってるのか分からなくて、水瀬梓はあずさとは友達として接してるの」

「……何だか複雑な関係だな。おまけに名前が同じなせいでかなりややこしいし」

 まあ、そうよね。私もかなり話し辛かったし。今度から説明する時は敬称を使うべきかしら。梓君とか、あずささんとか。

「けどまあ、あの様子なら、そう遠くないうちに結ばれる日も来るかもしれないな」

 そうね。けど、そうなる日が来るには、やっぱりあずさの方から言わないとダメでしょうね。梓は今でもあずさが好きみたいだけど、必死でそれを愛情から友情に変えようとしてるみたいだし。早くしないと、どちらかが誰かに盗られちゃうかもしれないわ。

 

「……誰なんだろうね」

「まったく」

 

 あら、十代と翔君が帰ってきた。

 

 ……

 ……十代は……誰かに盗られる心配は……

 

 って! 何で私がそんなこと心配してるのよ!!////

 

「天上院君、顔が赤いがどうかしたか?」

 

 !!

「何でもない! 本当に何でもないから!!」

「そ、そうか……」

 そうよ、本当に何でもないわ。

 二人を見てて羨ましいとか、私も誰かとああなりたいなとか、それが十代だったらなとか……

 

 て、だから何なのよー!!////

 

 

 

視点:外

「あ……」

 梓が弁当を食べようと蓋を開いた時、中身は既に、悲しい事態となっていた。

「ここまで来る時、背負って走った時に……」

 混ざってしまっていた。

「……すみません」

「ううん! 梓くんが気にすることないよ!」

「……いただきます」

「あ……」

 止めようとするあずさにも構わず、梓は弁当を一口食べた。

 

「……」

(ドキドキ……)

 

「美味しいです。とても」

 その笑顔での梓の言葉に、あずさの顔にも、これ以上無いほど喜びに満ちた笑顔が浮かんだ。

 

 

 

 




お疲れ様です。
次が決闘だからね。
ちょっと待っててね。


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第四話 月一試験開始 ~決闘~

決闘だよ~。
月一試験の決闘や~。

……やばい。書くこと無くなってきた。

だがこれだけは言わなきゃな。
行ってらっしゃい。



視点:クロノス

「え? 私が、三年生とですか?」

 私の提案に、セニョール梓は疑問を浮かばせていまスーノ。その提案トーハ、セニョール梓の相手を、オベリスクブルーの三年生にしてもらうということでスーノ。

「あなたの実力デーハ、普通の一年生とでは釣り合いが取れないのでスーノ。だからせっかくの機会ナノーデ、三年生とやってみるノーネ」

「はあ……しかし、私は一年生なのですよ。そんな私が、三年生のお相手などしてよろしいのですか? あまりにも、三年生の方に失礼というか……」

 まーたこの人は、何か自分に関する良いことがあるとすぐこれナノーネ。

「……セニョール梓、前から思っていたのでスーガ……」

 この際、はっきり言っておいた方がよさそうナノーネ。

「はい?」

「あなたはスコーし、自分のことを下に見過ぎていまスーノ」

「下にって……私はあなたや三年生の方々に比べれば、立場はかなり下ですが」

「そういう意味では無いノーネ」

 やはり分かっていないノーネ。立場や年齢はこの際置いておきまスーノ。

「あなたーは、周囲ばかりを見過ギーテ、自分のことに関して否定的になり過ぎているノーネ」

「否定的、ですか……」

「そのトオーリ。それは周りを気遣うと同時に、自分を下に置くことで、自分を甘やかしているということでもあるノーネ」

 この間の授業でのセニョール翔との事と言い、今までの実技決闘でも、そうやって相手ばかりを気遣う態度が目立っていまスーノ。まあ、それでも決闘には全て勝ってきているターメ、少なくとも負けん気だけはあるようでスーガ。

「もう少し自分と向き合って、自分のことも気にする人間にならなければなりませーん。そうすることーで、あなたは今よりも確実に強くなれますーノ」

 人を気遣うことが悪いこととは言わないノーネ。また、その優しさこそがセニョール梓のアイデンティティであることもまた事実。

 しかーし、このままではいずれ、相手が泣き落としでもすれば、わざと負けてしまうような決闘者にもなりかねないノーネ。そうならないよう、今の彼に足りない物、それは、自分もまた気遣うべき人間であーり、自分のことも優先すべきであるという気持ち。

「これも経験ナノーネ。この際立場は気にせず、思い切りやってみまスーノ」

「……分かりました。私も決闘者。相手が誰であろうと、手を抜く気はありません。やってみましょう」

 ふむふむ。それでよろしいノーネ。これで彼もまた、決闘者としてだけでなく、人間的にも一つ成長することができそうナノーネ。

 あとーは、セニョール万丈目に与えたカードで、ドロップアウトボーイの敗れる光景を眺められレーバ、言うことは無いーノ。

 ヨホホホホホホホ……

 

 

 

視点:万丈目

 さて、今回の決闘、俺の相手はオシリスレッドの遊城十代。

 ブルーのエリートである俺が、レッドなどに負ける気は無いが、クロノスは念を押してか大量のレアカードまで渡してきた。よほどあの遊城十代が気に入らないらしいな。

 だがまあ、おかげで理想のデッキも完成した。せいぜい俺の遊び相手になってくれよ、遊城十代。

 ククク……

 

「準さん」

 

 デッキを手に座っていた俺に、突然話し掛けてきた。俺の名前をさん付けして呼ぶ人間は、このアカデミアには一人しかいない。

「梓か。何か用か?」

「いえ、大した用ではありませんが……」

 そう言いながら、顔を赤くする。くっ、相変わらずいちいち可愛い顔をしている。

「その……頑張って下さい」

「それを言いに来たのか?」

「はい」

 応援するのは構わんが、俺の相手が誰だか分かっているのか。

「俺の相手は遊城十代だぞ。お前は友人同士ではなかったか?」

「ええ。彼とは友人です」

「十代の応援はいいのか? 第一、俺はお前と友人になった覚えは無いが」

 少し冷たく言い過ぎたろうか。だが、それでも梓は笑っていた。

「十代さんは、私が何か言ったところで何も変わらないでしょうから」

 確かに……あいつの性格ならその通りか。

「ただ準さんには、どうしても決闘前に一言お話ししたくて」

「だからなぜ俺だ?」

 そう尋ねると、また顔を赤くした。一体何だと言うのだ。

「準さんは、私の憧れの人ですから……」

 なに?

「俺が、お前の憧れ?」

「ええ」

 何だ? 訳が分からん。

「なぜ俺だ? 確かに俺はエリートだが、お前はおそらく俺より優れている。実際お前と決闘して負ける気は無いが、苦戦するのは間違い無いだろう。そんな俺に、なぜお前が憧れなければならん?」

 憧れられるのは慣れているから何とも思わんが、今回ばかりは本当に疑問に感じた。

 認めたくはないが、梓の決闘者センスは俺より遥かに上だ。おまけに決闘に愛されている。下手をすればむしろ、俺の方こそ梓に憧れてしまいそうになるくらいだ。

 そんな梓が、俺に憧れているだと?

「準さんは、私には無い強さを持っています」

「何だそれは?」

「心の強さを」

 心の強さ?

「準さんは、自分が強いと信じて疑わず、時に傲慢であるくらいに、自分に自信を持っておられます。それは、今まで私には持つことのできない強さでした。どれだけ決闘に勝ったところで、到底私には持つことのできない強さです。そんなあなたに、私は憧れました」

 とても純粋な目。俺のことを本気で憧れの目で見てくれている。

 

 心の強さか。確かに、俺は自分を常にエリートであると思い、その思いを(かて)にここまでやってきた。実際にエリートとなったことで、自分に自信を持ってきた。それはそうならなければならないという事実もあったからだが、実際にそうなることができたという自負心が大きい。

 俺は強い。この気持ちに間違いなく支えられている。それが、俺がエリートであるがゆえと、エリートであり続けるがゆえの理由だ。

 

 梓はそれに憧れているということか。自分には無く、そして持てない部分だと。

「ならば、お前も勝ち続けることだ」

 正直、俺がこいつに教えてやれることなどたかが知れている。が、エリートとして必要なことくらい教えることはできる。

「決闘に勝つのはもちろんのことだが、本当に勝つべきはライバルでも、対戦相手でもない。誰だか分かるか?」

「それは……」

「最も勝たなければならない相手、それは自分自身だ」

「自分自身、ですか?」

「そうだ。人間て奴は少しでも弱気になった時、そんな自分に身を委ねそうになる。それがそれ以上苦しまないために最も楽な道だからだ。だがそんなことではいつまでも弱い自分から成長することなどできん。今ある自分の弱さに打ち勝つ。それができた時、間違い無くその人間の強みとなり、心もまた強くなる」

「だからお前も勝ち続けろ。例え決闘に負けても、自分にさえ負けなければ、今の決闘で敗者になろうとまた戦える。それこそが、心の強さという物だ」

 俺の経験で言った俺の考える、だがな。

 梓は、どうやら納得し、おまけに感激してくれているようだ。

「分かりました。私も、自分に勝てる人間になってみせます」

 ふ。優秀な人間ではあるが、そういう部分はまだまだ可愛げがある。まあ、お前が望むのならば、俺の考えを望むだけ聞かせてやろうではないか。

 

「セニョール梓! 決闘場に上がるノーネ!」

 

 クロノスの声が聞こえた。俺より前にこいつだったか。

「では、行って参ります」

「ああ。勝てよ」

 そう言うと、笑顔を浮かべて決闘場に出ていった。

 クロノスから誰を相手にするかは聞いている。三年生を相手にどんな決闘をするか、じっくり見せて貰うとしよう。

 

『きゃ~~~~~!! 梓さ~~~~~~~~~ん!!』

『うおおおおおお!! 梓さぁああああああああん!!』

 

 ……

 

 

 

視点:梓

 

『きゃ~~~~~!! 梓さ~~~~~~~~~ん!!』

『うおおおおおお!! 梓さぁああああああああん!!』

 

 ……突然そんな、耳をつんざくような声が聞こえてきました。

 その……さすがに耳が痛いです。

 

「やあ、水瀬梓君」

 

 声援とは別の声が前から聞こえたので見てみると、オベリスクブルーの男子が一人立っています。何というか、雰囲気が既に偉そうですね。

「そう固くならずに、僕が君の相手だ。よろしく頼むよ」

 一応は礼儀正しいようですね。

 しかし、何というか、礼儀正しい態度の中に嫌な物を感じます。普通の人なら分からないでしょうが、何度もこんな人を見てきたので分かります。今私は、見下されていますね。

「……こちらこそ、よろしくお願い致します」

 まあ、それもまたこの人の在り方なのでしょうから、何も気にはしませんが。

「ではさっそく始めよう。このままずっと君の姿を見ていたい気もするが、やはり決闘者であれば、決闘している姿こそが至高だからね」

「はあ……」

 見下している上に私は目の保養ですか。まあ、それも慣れているので構いません。

「では、参ります」

 

『決闘!』

 

 

三年生

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

「僕の先行、ドロー」

 

三年生

手札:5→6

 

 手札を見ながら、少し思案しています。そして、決まったようですね。

「僕は『ピラミッド・タートル』を守備表示で召喚」

 

『ピラミッド・タートル』

 守備力1400

 

 アンデット族のリクルーター。デッキは『アンデット族』ですか。リクルート対象は守備力2000以下のアンデット族。範囲はかなり広い。

「カードを伏せて、ターンエンド」

 

 

三年生

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『ピラミッド・タートル』守備力1400

   魔法・罠

    セット

 

 

「私のターン」

 

手札:5→6

 

「速攻魔法『サイクロン』! あなたのセットカードを破壊!」

 破壊されたのは、カウンター罠『ツタン仮面』。フィールド上に表側表示で存在するアンデット族一体を対象とする魔法、罠の発動を無効にするカード。

 それほど重要なカードではありませんでした。

「聞いていた通り、『サイクロン』が好きなようだな」

 好きと言うか……まあ、便利で使い勝手が良いので重宝してはおりますが。

 それよりも、リクルーターは確かに厄介な存在ですが、この手札ならさほどの脅威ではありません。

「私は魔法カード『天使の施し』を発動します。カードを三枚引き、二枚を捨てる。そして、フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』を発動!」

 入学試験の日と同じ、足元が海水に浸かった瞬間、周囲は海底へと姿を変えました。

「フィールド上の水属性モンスターの攻守を200ポイントアップさせ、手札とフィールド上の水属性モンスターのレベルを一つ下げます」

 これで準備は整いました。

「魔法カード『クロス・ソウル』を発動! あなたのフィールド上のモンスター一体を召喚による生贄とします!」

「な!」

 驚きの声を上げた瞬間には、『ピラミッド・タートル』は光となって消えてしまいました。

「手札のレベル6となった『氷結界の虎将 ガンターラ』を召喚!」

 

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 レベル7→6

 攻撃力2700+200

 

「く、一ターン目から……」

「『クロス・ソウル』を発動させたターン、バトルフェイズは行えません。カードを伏せターン終了。そしてこのエンドフェイズ、ガンターラの効果で墓地から氷結界と名の付くモンスターを特殊召喚致します。墓地の『氷結界の大僧正』を、守備表示で特殊召喚」

 

『氷結界の大僧正』

 レベル6→5

 守備力2200+200

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700+200

   『氷結界の大僧正』守備力2200+200

   魔法・罠

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

    セット

 

三年生

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「こちらのリクルーターを封じた上、レベルが下がっているとはいえ、一ターンでレベル6と7のモンスターを揃えるとは……」

「さあ、あなたのターンです」

「一年生だと正直油断していた。素直に間違いを認め謝罪しよう。そして、改めて勝たせて貰う。僕のターン!」

 

三年生

手札:4→5

 

 妙な所は紳士的ですね。

「僕は『手札抹殺』を発動! お互いに手札を全て捨て、捨てた枚数ドロー」

 

三年生

手札:5→4

 

 手札交換……アンデットには好相性なカードですが、私にとっては吉と出るか凶と出るか……

「僕は手札より、『精気を吸う骨の塔(ボーンタワー)』を守備表示で召喚」

 

『精気を吸う骨の塔』

 守備力1500

 

 なっ! よりによってそのカードですか!? 

 現れ、と言うより、出現し、周りの風景を変化させつつ、天井の高さを超える骨の塔。大きい~~~~~……

 なぜこれがモンスターなのでしょう? どう見てもフィールド魔法にしか……

「その様子だと、どうやら知っているようだね」

 えぇえぇ、知っていますとも。

「更に魔法カード『生者の書-禁断の呪術-』を発動だ」

 うぅ……

「墓地のアンデット族モンスターを一体特殊召喚。その後、君の墓地からモンスター一体を除外する。僕は墓地から、二体目の『精気を吸う骨の塔』を特殊召喚!」

 

『精気を吸う骨の塔』

 守備力1500

 

 召喚されたと同時に、私は墓地のモンスターを見せます。現在墓地に眠るモンスターは、『氷結界の交霊師』と『氷結界の水影』の二枚。

「『氷結界の交霊師』を除外だ」

 当然の選択ですね。交霊師は墓地ではなく、袖の中のデッキケースに仕舞います。

「そして、骨の塔の効果だ。アンデット族モンスターの特殊召喚に成功した時、君はデッキから二枚のカードを墓地に送ってもらう」

 言われた通りにします。

「そして、骨の塔はこのカードの他にアンデット族がいる時、このカードへの攻撃はできない。骨の塔が二体いることで、君は攻撃そのものができないよ」

 ええ。分かっています。

「残りのカードを伏せてターンエンドだ」

 

 

三年生

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『精気を吸う骨の塔』守備力1500

   『精気を吸う骨の塔』守備力1500

   魔法・罠

    セット

    セット

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700+200

   『氷結界の大僧正』守備力2200+200

   魔法・罠

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

    セット

 

 

 まさか『デッキ破壊』とは。アンデットと聞いて少し誤解していました。

「私のターン!」

 

手札2→3

 

 さて、骨の塔を主軸としたデッキ破壊となると……

 

「罠発動!」

 

 む……

「『死霊ゾーマ』!」

 罠発動と共に、彼の前に死霊が現れました。

 

『死霊ゾーマ』(罠モンスター)

 攻撃力1800

 

「このカードはモンスターカードとなり、僕のフィールド上に特殊召喚される。二体の骨の塔の効果で、デッキからカードを四枚墓地に送って貰おう」

 言われた通り、デッキの上から四枚を墓地へ。

「そして、『死霊ゾーマ』が戦闘破壊された時、こいつを破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを君は受ける」

 また厄介な。まあ、今はそれほど脅威でもありませんが。

 二体の骨の塔に、あの残った一枚の伏せカード。ならば……

「私は『氷結界の大僧正』を生贄に捧げ、『氷結界の虎将 ライホウ』を召喚!」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 レベル6→5

 攻撃力2100+200

 

「ライホウが場にある限り、あなたは手札を一枚墓地に送らなければ、フィールド上で発動するモンスター効果は無効となります」

「なっ、なに!」

「戦闘破壊できない効果は永続効果なので無効にはできませんが、私のデッキを破壊したければ手札を一枚、骨の塔は二体なので計二枚捨てることです」

「く、面倒な……」

「カードを伏せてターンエンド。そして、ガンターラの効果で再び大僧正を特殊召喚」

 

『氷結界の大僧正』

 レベル6→5

 守備力2200+200

 

「ちなみに、大僧正が場にある限り、氷結界達は魔法・罠の効果では破壊されません」

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700+200

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100+200

   『氷結界の大僧正』守備力2200+200

   魔法・罠

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

    セット

    セット

 

三年生

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    『精気を吸う骨の塔』守備力1500

    『精気を吸う骨の塔』守備力1500

    『死霊ゾーマ』(罠モンスター)攻撃力1800

   魔法・罠

     通常罠『死霊ゾーマ』

     セット

 

 

「……僕のターン、ドロー!」

 

三年生

手札:0→1

 

「『強欲な壺』。カードを二枚ドロー」

 

三年生

手札:0→2

 

「永続魔法『生還の宝札』を発動。これで僕の墓地からモンスターが特殊召喚される度、僕はカードを一枚ドローする」

 手札補充。まあ、アンデットと聞いて入っているとは思いましたが。

「罠発動『リビングデッドの呼び声』。対象は『ピラミッド・タートル』」

 

『ピラミッド・タートル』

 攻撃力1200

 

「『ピラミッド・タートル』の特殊召喚に成功したため、まずはカードを一枚ドロー。僕は手札を二枚捨て、君はデッキの上から四枚墓地に送って貰うよ」

 言われなくとも捨てますよ。

 

三年生

手札:2→0

 

「そして、『ピラミッド・タートル』でライホウに攻撃」

 自爆特攻……

 

三年生

LP:4000→2900

 

「『ピラミッド・タートル』の戦闘破壊により、デッキから守備力2000以下のアンデット族モンスターを特殊召喚する。これは墓地からの発動だから手札を捨てる必要は無いよ」

 まあ、さすがにそこは分かっていますよね。

「僕はデッキから『カース・オブ・ヴァンパイア』を特殊召喚」

 

『カース・オブ・ヴァンパイア』

 攻撃力2000

 

 ……なるほど。そういうデッキですか。

「手札が0だから骨の塔の効果は発動できない」

「バトルフェイズ! まずは『カース・オブ・ヴァンパイア』でライホウを攻撃だ」

 

三年生

LP:2900→2700

 

「そして、『死霊ゾーマ』でライホウを攻撃」

 

三年生

LP:2700→2500

 

「ぐぅ……そして、君はライホウの攻撃力分のダメージだ」

「うぅ……」

 

LP:4000→1900

 

「ターンエンド」

 

 

三年生

LP:2500

手札:0枚

場 :モンスター

   『精気を吸う骨の塔』守備力1500

   『精気を吸う骨の塔』守備力1500

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

LP:1900

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700+200

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100+200

   『氷結界の大僧正』守備力2200+200

   魔法・罠

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

    セット

    セット

 

 

 骨の塔を守りながらデッキを破壊しつつ、アンデットの蘇生と高攻撃力で相手を蹂躙する。パターンが決まれば厄介なデッキです。

 どの道、このままでは毎ターン、デッキが破壊されてしまいます。どうにかせねば。

「私のターン!」

 

手札:2→3

 

「……ライホウを守備表示に変更し、ターンエンド。そして、ガンターラの効果で墓地より『氷結界の水影』を守備表示で特殊召喚」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 守備力2300+200

『氷結界の水影』

 守備力800+200

 

 

デッキ:23枚

LP:1900

手札:3枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700+200

   『氷結界の虎将 ライホウ』守備力2300+200

   『氷結界の大僧正』守備力2200+200

   『氷結界の水影』守備力800+200

   魔法・罠

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

    セット

    セット

 

三年生

LP:2500

手札:0枚

場 :モンスター

   『精気を吸う骨の塔』守備力1500

   『精気を吸う骨の塔』守備力1500

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

 

 残りデッキ枚数と、彼のライフポイントから……

 

 最大、残り5ターン……

 

 

 

視点:あずさ

 まずいよ! 梓くんがピンチだよ!

「今梓くんのデッキって……」

「23枚。骨の塔と『カース・オブ・ヴァンパイア』の効果で、あと5ターンね」

「……て、どういうことだ?」

 十代くんは分かってないんだ。

「えっとね、『カース・オブ・ヴァンパイア』は戦闘破壊された後の自分のターンに、ライフを500ポイント払って墓地から特殊召喚できるんだよ。しかも攻撃力を500ポイントアップさせてね」

「てことは、毎ターンヴァンパイアを呼ばれて、『生還の宝札』の効果とドローフェイズで合計二枚カードをドローできるから、その度にデッキからカードを四枚捨てさせられる」

「しかも戦闘破壊される訳にはいかないから、ガンターラは攻撃表示にしておくしかない」

「どっちにしろ、このままじゃ梓さんはデッキ0で負けちゃうっス」

 

「僕のターン!」

 

 はっ!

 

三年生

手札:0→1

 

「このスタンバイフェイズ、ライフを500払い、墓地より『カース・オブ・ヴァンパイア』を、攻撃力を500ポイントアップさせて特殊召喚する。これも墓地での効果だから、無効の対象外だ。宝札の効果で一枚ドロー」

 

三年生

LP:2500→2000

手札:1→2

 

『カース・オブ・ヴァンパイア』

 攻撃力2000+500

 

「そして手札一枚を捨てて、骨の塔の効果で二枚を墓地に送ってもらう」

 

三年生

手札:2→1

 

デッキ:23→21

 

「同時に、墓地に送られたカードの効果が発動だ」

「墓地に……まさか、そのカード……」

「さすがに知っているね。相手のカード効果により手札からこのカードが墓地に送られた時、このカードは墓地より特殊召喚される」

 

 

「梓くん!!」

「まずいわ!!」

「え? なに?」

「何だよ?」

 

 

「墓地より、『闇より出でし絶望』を特殊召喚だ!」

 

『闇より出でし絶望』

 攻撃力2800

 

「宝札の効果で一枚ドロー!」

 

三年生

手札:1→2

 

「そして骨の塔の効果発動! 手札一枚をコストに、君のデッキから二枚捨てる!」

 

三年生

手札:2→1

 

デッキ:21→19

 

 遂に半分を切っちゃった!?

 け、けど、まだ枚数は半分近くあるし、何より『闇より出でし絶望』の攻撃力じゃ、フィールド魔法で攻撃力のアップしてるガンターラは倒せないよね……

 

「……その残った一枚のカード……」

 

 あれ? そう言えば、さっき二枚手札にあった時点で、骨の塔一体の効果は使わずに、わざわざ一枚残した、て、ことは……

「ふ……魔法カード『ポルターガイスト』発動! このカードの発動と効果は無効化されず、相手フィールド上に存在する魔法、罠カード一枚を手札に戻す! 対象はアトランティスだ!」

 その宣言の直後、カードから三匹の幽霊が現れて、アトランティスのカードを包んだその瞬間、フィールドが海底から普通の決闘場に戻った。

 

手札:3→4

 

『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

『氷結界の虎将 ライホウ』守備力2300

『氷結界の大僧正』守備力2200

『氷結界の水影』守備力800

 

 攻撃力が戻った!

「バトル! まずはヴァンパイアでガンターラに攻撃!」

 

三年生

LP:2000→1800

 

「そして、『闇より出でし絶望』で再びガンターラを攻撃だ!」

 

LP:1800→1700

 

 これでガンターラの蘇生効果も使えない。次のターン、抑止になってるライホウが破壊されちゃうよ!

「これでもデッキ破壊だけが取り柄じゃないよ。さあ、君のターンだ」

 

 

三年生

LP:1700

手札:0枚

場 :モンスター

   『闇より出でし絶望』攻撃力2800

   『精気を吸う骨の塔』守備力1500

   『精気を吸う骨の塔』守備力1500

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

デッキ:19枚

LP:1800

手札:4枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ライホウ』守備力2300

   『氷結界の大僧正』守備力2200

   『氷結界の水影』守備力800

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「梓さんが負けちゃう」

「さすがに三年生には勝てないか」

「ここまでなのかな……」

「まあ相手は三年生だし、仕方ないな……」

 

 周りからはそんな声ばかり。

 もぉ~! 梓くんは必死で闘ってるのに、勝手なことばっかり言わないでよ!!

 頑張って! 梓くん!!

 

「私のターン!」

 

手札:4→5

デッキ:19→18

 

「『強欲な壷』発動。カードを二枚ドロー」

 

手札:4→6

デッキ:18→16

 

 ああ、またデッキが減っちゃった。でも、この際出し惜しみはしてられないよね……

「……」

 

「……すみませんが、このターンで終わらせて頂きます」

 

「……え?」

 え?

「手札より魔法カード、『洗脳-ブレインコントロール-』を発動。ライフを800ポイント支払い、『精気を吸う骨の塔』のコントロールを得ます」

「な!」

 

LP:1800→1000

 

 骨の塔が、梓くんのフィールドに移動しちゃった!!

 ……て、あんなに大きい塔がズルズルと移動するのって、何だかシュールだなぁ……

「速攻魔法『エネミーコントローラー』。二つ目の効果を選択し、私の場の骨の塔を生贄に捧げ、あなたの場の骨の塔のコントロールを得ます」

「な! いや、ちょ……」

 梓くんのフィールドにいた骨の塔が消えて……ああ、またズルズルと……

「ライホウを攻撃表示に変更。そして『死者蘇生』を発動! 墓地の『氷結界の虎将 ガンターラ』を特殊召喚!」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 攻撃力2100

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 攻撃力2700

 

「そして『精気を吸う骨の塔』と、『氷結界の水影』を生贄に、『氷結界の虎将 グルナード』を召喚!」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 攻撃力2800

 

 三体目の虎将!?

 すごい、『氷結界の虎将』が三体揃ってる!

「そして魔法カード『収縮』発動! 『闇より出でし絶望』の攻撃力を半分に!」

「そ、そんな……」

 

『闇より出でし絶望』

 攻撃力2800→1400

 

「せっかくなので駄目押しです。手札に戻った『伝説の都 アトランティス』を再び発動します」

 またフィールドが海底に変わった。

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 レベル8→7

 攻撃力2800+200

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 レベル7→6

 攻撃力2700+200

『氷結界の虎将 ライホウ』

 レベル6→5

 攻撃力2300+200

『氷結界の大僧正』

 レベル6→5

 守備力2200+200

 

 先輩はただ呆然としてる。これ、逆転は……無理だよねぇ……

 

「えっと、ちょっと待っ……」

「すみません。最近耳の調子が悪いもので……バトルフェイズ!」

「うわぁ!!」

「『氷結界の虎将 グルナード』で、『闇より出でし絶望』を攻撃!」

 梓くんの叫びと同時に、グルナードの周りにたくさんの氷の剣が現れて、それが円を描きながら回る。

 

数多氷妖刀乱舞(あまたのひょうとうらんぶ)!!」

 

 たくさんの氷の剣が、『闇より出でし絶望』を串刺しにした。

 

三年生

LP:1700→300

 

「そんな……こんな……」

 

「ガンターラとライホウで、ダイレクトアタック!」

 

「うわぁああああ~~~!!」

 

三年生

LP:300→0

 

「良き決闘を、感謝致します……」

 

 

「梓くんが勝っ……!」

 

『きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!』

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 うわ! うるさい!!

「すげえ! さっすが梓だ!」

「あそこから逆転なんて、凄いっス!」

「けど、あそこから洗脳に『エネミーコントローラー』って……」

 ああ、明日香ちゃんは引いてる。確かにえげつないよね、あの流れ。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 梓くんが決闘場から出てきたところを、わたしと明日香ちゃんと、十代くんと翔くんで迎えました。

「凄かったなあ、梓!」

「いえ、運が良かっただけですよ」

 相変わらず謙虚だね、梓くん。先輩は泣きながら帰っていったのに……

「そう言えば、最後に残った二枚の伏せカードは何だったの?」

 あ、それ私も気になってた。

「あれは、『激流葬』と『ナイトメア・デーモンズ』です」

 

『……』

 

 ……

「どうかしましたか?」

 どうもこうも、全員呆れて声も出ないよ。

「つまり、あのまま攻撃が通らなくても、相手のターン開始時には終わってたっスね……」

「しかも大僧正の効果で氷結界モンスターが『激流葬』で破壊されることも無いし……」

「むしろフィールドが骨の塔の二体だけだったターンに発動しておけば、『カース・オブ・ヴァンパイア』の効果も止められてたんじゃない……」

 翔くん、わたし、明日香ちゃんの順で言いました。

「ふふ……」

 笑ってる。梓くんて、意外と性格悪いなぁ……

 

「きっと、梓さんからのお弁当のお陰ですね」

 

「……え!?」

 きゅ、急に何でそんな話しが出てくるの!?

「梓さんのお弁当が力をくれたから、今言った四枚のカードは墓地へ送られることは無かったのだと思います」

「そそそ、そんなこと! 梓くんの実力だよぉ!////」

 もぉ、また顔が赤くなっちゃうよぉ!!////

 

(あの二人、結局どうなってるんスか?……)

(梓は振られてるって思ったままだし、あずさはまだ答えを出せてないみたいなの……)

(何だかなぁ……)

 

 ??

 

 

 

 




お疲れ様です。
骨の塔の大きさは大海の勝手なイメージだよ。
多分『王立魔法図書館』とか『髑髏の寺院』もフィールド魔法的なでかさなんだよきっと。
んじゃ、次話までちょっと待ってね。


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第四話 月一試験開始 ~心氾~

四話完結~。

……
本当に書くこと無いな……

……
……うん。

行ってらっしゃい。



視点:万丈目

 

「万丈目!!」

 

 !?

「これでお互いライフは1000ポイントずつ。でもここで俺が攻撃力1000以上のモンスターを引いたら面白いよな~?」

「何を戯言を!! そう簡単に……!!」

「でも引いたら面白いよな~!?」

 くっ、そんな簡単に引けてたまるか! 奴の使うE・HEROはほとんどが低攻撃力のモンスター。奴が今まで使ったカードを考えれば、確率は……

「ドロー!」

 どうだ……

「……ふ」

 !!

「俺はこのカード、フェザーマンを召喚し、プレイヤーにダイレクトアタック!!」

 バカな!!

 

「ぐあぁぁぁぁ!!」

 

 そんな……この俺が、レッドの十代ごときに……

 

 

 情けない、情けない……

 そんな気持ちばかりが湧いてくる。

 ブルーのエリートであるこの俺が、レッドの落ちこぼれである十代に負けた……

 しかも、ただ負けただけではない。あれだけのレアカードを使って負けた……

 今まで俺様は強いと、自分を信じてここまで来た。おかげで俺はエリートになれた。

 今まで負け無しだった。誰にも負けなかった。

 

 なのに今日、オシリスレッドの遊城十代に負けた……

 

 俺は今まで、何をやってきたんだ……?

 

 俺は今まで、間違っていたのか……?

 

 あまりの情けない気持ちに、体から力が抜け、ひざが床へ落ちていく……

 

 

「……さん……」

 

 ……!!

 

「準さん……」

 

 突然、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

 この声、知っている。

 俺に憧れ、俺を応援してくれた男。誰よりも純粋な目で、俺のことを見ていた男の声だ。

 心配してくれているのか? 決闘前に、あれだけ大層なことを言っておいて、結局敗北してしまった俺のことを……?

 

 その時、俺は思い出した。俺が奴に語った言葉。

 

(人間て奴は少しでも弱気になった時、そんな自分に身を委ねそうになる)

 

 そうだ。今の俺がまさにそれだ。

 負けたことで心が折れそうになり、そのまま自分でへし折ってしまおうとしている。そうしてしまえば一番楽だから。自分に言い訳もしないまま、苦しむ必要も無い。そうしてしまえば、屈辱と落胆とを引き換えに、心の平穏を迎えることができるからだ。

 

(例え決闘に負けても、自分にさえ負けなければ、今の決闘で敗者になろうとまた戦える)

 

 ……そうだ。俺は今、自分に敗北しようとしている。そうやって敗者としての全てを受け入れ、楽になろうとしている。

 

 ダメだ! ここで心が折れれば、俺は二度と自分を取り戻せなくなるぞ!

 こんなことでは、あいつに合わせる顔が無い!

 俺に本気で憧れているあいつに……

 俺を本当のエリートだと信じ、そんな俺を目指してくれているあいつに……!

 俺の方こそ憧れそうになるほど、誰よりも純粋に決闘や人と向き合えるあいつに!

 

 

 地に着きそうになった手足を何とか踏ん張り、俺はそのまま仁王立ちの体勢を作る。

「まさか、貴様がここまでやるとはな」

 悔しくてたまらない。本当は認めたくない。

 だが、心を強く持て。

 俺様は、万丈目準だ。

「今日の所は勝ちを譲っておいてやる。だが、次にやる時はこうはいかない。その日を楽しみにしておくことだ」

 そう言い放つと、十代は俺に笑顔を向けた。

「おお! また決闘しような!」

 ……ふ、やはり頭はガキのようだな。たった今まであった悔しさの気持ちが、一気に軽くなっていく。

 まあいい。覚えておくといい。この次は負けんぞ!

 

 そしてその直後、鮫島校長が十代のラーイエロー昇格を決定する旨を発表した。

 

 

 

視点:梓

 準さん、とても気高いです。やはりあなたは私の目標だ。改めて、尊敬申し上げます。

「十代くん強かったね~」

 あずささんが言ってきました。そうですね。友人の勝利もまた、喜ばしいことです。

 

「それデーハ! 続いて女子の部を開始致しますノーネ!」

 

 おっと。

「いよいよあずささんの出番ですね」

「うん! わたし頑張るよ!」

 言いながらガッツポーズを見せるあずささん。

 可愛いです……////

 

「始めーに、セニョーラ平家、決闘場に降りるノーネ!」

 

 て、いきなりですか……

「おぉ、トップバッターだ! じゃあ梓くん、行ってくるね」

「はい。頑張って下さい」

 そしてあずささんは私に手を振りながら、決闘場へと降りていきました。

 

 はぁ……やっぱり可愛い~////

 

 

 

視点:あずさ

 梓くんと別れて決闘場に降りた後、対戦相手と向かい合いました。

 

「……」

 

 ……なぜか、さっきからすっごい睨まれてます。

「えっと、どうかした?」

「……」

 何も答えない。けど、これだけは分かる。この人、凄く怒ってる……

 

「あなた!!」

 

「はい!?」

 いきなり叫ばれた! なに? わたし何かしたっけ!? えぇっと、えぇっとぉ……

 

「あなた、梓さんとはどんな関係なの!?」

 

 へ?

「その、水瀬梓さん?」

「他にどの梓さんがいるっていうのよ!!」

 ……わたし、平家あずさです……

「どんな関係って……一応、友達だけど……」

「本当かしら?」

「う、うん。どうして?」

「なら聞くけど、あなたは今日、どうして梓さんと一緒に遅刻してきたの?」

 それは……

 

 /////////

 

 本当のことなんて恥ずかしくて言えない////

 とっさに考えた嘘を言うことにしました。

「その、たまたま二人揃って寝坊しちゃって……」

 

「うそ!! 私は普通の登校時間、女子寮前で梓さんと話してるわ!! 私だけじゃなくて大勢の女子がね!!」

 

 うそぉ!!

 

「そうですわ! 梓さんは誰かを待っているかのようでしたわ!!」

「まさか、あなたじゃないわよね!!」

「どういうことなのか説明しなさい!!」

 

 うわぁ、周りからも大声が……

 でも、そんな時間からわたしのこと待ってくれてたんだ。

 嬉しい……

 

 て、それ所じゃなくて!!

「それだけではなく、あなたはここに来る直前まで梓さんと親しげに話していたわね!」

「いや、だからそれはただ友達だから……」

「本当にそれだけ!?」

 怖いよ! そんなに怒鳴らないでよ!!

「本当だってぇ~、怒らないでよぉ~……」

 

「泣くんじゃない!! 泣いて許されることではないの!!」

 

「梓さんとはどんな関係なの!?」

「本当にただの友達なわけ!?」

「ごまかしてると承知しないわよ!!」

 

 みんなが一斉に叫んできた。クロノス先生はオロオロしてるだけだし。

 あぁ~、どうしよぉ~……

 

 

「静まりなさい!!」

 

『……!!』

 

 突然、そんな声が決闘場に響いた。

 その声の方を見ると、梓くんが立ち上がっていた。

「今騒いでいた方々全員にお聞きしたい。あなた方は今、何のためにここにいるのです?」

 それはとても高く通る声で、さっきと同じ、決闘場に響いていた。

「ここにあなた方は決闘をしにきたのではないのですか? それとも、ただ私を見にきたのですか? もしそうなら、私ごときで良ければいくらでもお見せしましょう。今すぐ決闘ディスクとデッキを置いて、私のそばまで来て下さい!」

 とても真剣な顔してる。それは凶王化してた時とは違う意味で、とても怖い顔だ。

「これから決闘をしようという人を、ただ見たい物と関わっていたというだけで(さげす)み、動揺させ、(はずかし)める。そんな下らない行為で決闘者の心を傷つけるあなた方は、私の前で決闘者でいること事体おこがましい!! ただ私のことが気になるというのなら、決闘などせず私を見ていればいいのです!! それがあなた方の望みなのでしょう!?」

 

「さあ、今すぐここまで来なさい!!」

 

『……』

 

 ……凄い迫力。会場中が沈黙に包まれてる。

 あれだけ騒いでた女子達が、梓くんを見て何も言えなくなっちゃってる。

 梓くんは言いたいことを全部言い終えたのか、今度はわたし達の前にいる、クロノス先生に目を向けた。

「クロノス先生、すみませんが私はこれで失礼致します。ここにいては皆様方の邪魔になるようなので」

 それだけ言って、梓くんは歩き始めた……

 ……え? 本当に行っちゃうの!?

 

「いや、わたしは全然気にしてないよ!!」

 

 気が付いたら、梓くんに向かって叫んじゃってた。

「そりゃ、正直みんなに怒られたのは怖かったけど、別にそこまで深刻なことじゃないし、梓くんが怒るようなことじゃないよ!」

 そう笑いながら言ってあげる。けど、本心は違った。

 梓くんには、梓くんだけには、わたしの決闘を見て欲しかった。梓くんとの決闘以来、梓くんと少しでも並んで立ちたくて、それまで何となくしかしてこなかった勉強をたくさんした。

 それに、梓くんにはどこにも行って欲しくなかった。わたしの近くにいて欲しいって思ったんだ。

「だから、機嫌直して座って、ね? わたしは大丈夫だから」

 大丈夫だから、わたしの決闘を見てて。お願い……

 

「……」

 

 梓くんは答えなかった。代わりに、席に座り直した。

 良かった。

 わたしはホッと胸を撫で下ろしながら、相手の子と向き合いました。

「じゃあ、始めよう」

「……その、悪かったわ」

「ううん、気にしてないよ! それより早く始めよう!」

 素直に謝ってくれて良かったよ。さあ、楽しい決闘しようね。

 

『決闘!!』

 

 

女子

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

あずさ

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

 

視点:十代

 やれやれ。さっきの梓にはビビったぜ。梓が怒鳴る所なんて凶王化以来だから忘れてた。

 

(……)

 

 急に、隣に座ってる梓から声が聞こえてきた。ジッと決闘を見てるみたいだけど、何かブツブツ呟いてる?

 何だと思って、耳を澄ませると……

 

(……許さない……あずささんを傷つけた者共を許さない……一人残らず斬滅してやる……一人残らず(ひざまず)かせ這いつくばらせ泥を食わせ、羞恥と屈辱を与え苦しめのたうち回した(のち)に殺す。許さない、許さない、許さない、許さない……)

 

「……」

 

 やべぇええええええええええええええ!!

 梓の奴、軽く凶王化してんじゃねーか!!

 今は多分ブツブツ言って自分を抑えてんだ。けど、このままじゃ大暴れかねないぞ!!

 

 何とか勝ってくれ!! あずさ~~~~~!!

 

 

 

視点:あずさ

「先行は私よ。私のターン! ドロー!」

 

女子

手札:5→6

 

 さて、この子のデッキは……

「私は手札から『切り込み隊長』を召喚!」

 

『切り込み隊長』

 攻撃力1200

 

 おお! ()しくも『戦士族』デッキ対決だ!

「『切り込み隊長』の効果! 召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター一体を特殊召喚する。私は二体目の『切り込み隊長』を召喚!」

 

『切り込み隊長』

 攻撃力1200

 

 え! 一ターン目からいきなり!?

「『切り込み隊長』が場にある限り、あなたは『切り込み隊長』以外の戦士族モンスターを攻撃できない。『切り込み隊長』は二体いるから、あなたは攻撃できないわ」

 うぅ……戦士族だから攻撃型かなって思ってたけど、いきなり防御を固められた。

「二枚伏せてターンエンド」

 

女子

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   魔法・罠

    セット

    セット

 

「わたしのターン!」

 

あずさ

手札:5→6

 

 うぅ……今の手札にあのロックを崩すカードは無い……

 が!!

「わたしは永続魔法カード『六武の門』と『六武衆の結束』を発動するよ!」

「『六武衆』デッキ……」

 ふふふふ、前準備は整った。

「更に『二重召喚(デュアル・サモン)』を発動! これでわたしはこのターン、二回の通常召喚ができる! 手札から『六武衆-ヤイチ』と『六武衆-ヤリザ』を召喚!」

 

『六武衆-ヤリザ』

 攻撃力1000

『六武衆-ヤイチ』

 攻撃力1300

 

(六武衆……私のデッキとはあまり相性が良くないわ……)

「二体の六武衆の召喚に成功したから、二枚のカードに武士道カウンターがそれぞれ乗る!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→2

 

「『六武衆の結束』の効果! このカードを墓地に送って、乗ってる武士道カウンターの数だけカードをドロー!」

 

あずさ

手札:1→3

 

「まずはヤイチの効果! フィールドにヤイチ以外の六武衆がいる時、セットカード一枚を破壊するよ!」

 ヤイチの矢がセットカードを貫く。破壊したのは……『炸裂装甲(リアクティブ・アーマー)』! やった! 当たった!

「そして、ヤリザの効果! 場にヤリザ以外の六武衆がいる時、このカードはダイレクトアタックができる!」

「くぅ!」

「ヤリザでダイレクトアタック! 鋭槍全貫(えいそうぜんか)!」

「きゃ!」

 

女子

LP:4000→3000

 

「カードを伏せて、ターンエンド!」

 

 

あずさ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆-ヤイチ』攻撃力1300

   『六武衆-ヤリザ』攻撃力1000

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:4)

    セット

 

女子

LP:3000

手札:2枚

場 :モンスター

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   魔法・罠

    セット

 

 

 『切り込み隊長』を破壊しなくても、このままヤリザで攻撃していけば……

 

「私のターン!」

 

女子

手札:2→3

 

「このカードが破壊されなかったのはついていたわ」

 ……へ? 残ってるカード、『炸裂装甲』より便利なカードなの?

 でも、ヤリザの攻撃には反応しなかったよね?

「私は手札から『封魔の伝承者』を召喚!」

 

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700

 

 ボロボロの服装と、大きな袋を背負った剣士。

 何だろう? あまり見かけないカードだ。

「そして罠カード発動! 『連鎖破壊(チェーン・デストラクション)』!」

 え!?

「攻撃力2000以下のモンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、そのプレイヤーのデッキに存在する同名カードを全て破壊する。私のデッキにはもう二体の『封魔の伝承者』がいる。よってこの二枚を破壊、墓地に送る」

 それが、『炸裂装甲』以上に重要なカード? でも、カードを墓地に送るだけじゃ意味なんて……

「『封魔の伝承者』の効果発動。このカードの召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、属性を宣言する。宣言された属性のモンスターに攻撃する時、そのモンスターはダメージ計算を行わず破壊できる。そして宣言は、墓地の『封魔の伝承者』の数だけ行う!」

 !! そのために『連鎖破壊』!?

「六武衆は属性がばらついているから、この子とはあまり相性が良くないのよね。まあ攻撃力はこっちの方が高いからそこは良いんだけど」

 それで六武衆を見て嫌な顔してたんだ。

「そうね……炎と、光属性を宣言」

 光属性はザンジ、炎は……紫炎!

 迷ってるようで六武衆の切り札を分かってるよこの人!

「バトル! 伝承者でヤイチを、『切り込み隊長』の一体でヤリザを攻撃!」

 

あずさ

LP:4000→3400

 

 うぅ、数少ないロックを突破するカードが……

「そして、もう一体の『切り込み隊長』でダイレクトアタック!」

「うわぁ!!」

 

あずさ

LP:3400→2200

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

 

女子

LP:3000

手札:0枚

場 :モンスター

   『封魔の伝承者』攻撃力1700

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   魔法・罠

    セット

    セット

 

あずさ

LP:2200

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:4)

    セット

 

 

 『切り込み隊長』で守って、『封魔の伝承者』で確実にモンスターを破壊かぁ。何気にバランスが取れてるなぁ

「わたしのターン!」

 

あずさ

手札:2→3

 

 『大将軍 紫炎』……

 伏せてある『諸刃の活人剣術』でヤリザとヤイチを呼び出せばすぐに特殊召喚できるけど、攻撃できないし、エンドフェイズには破壊されて、攻撃力分のダメージを受けちゃう。

 あのロックを崩すには……まずい。何も思い浮かばない。

 あ、でもあのカードなら……

「わたしは『六武の門』の効果。武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキから六武衆を手札に加える。デッキから『六武衆の師範』を手札に加えるよ!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

あずさ

手札:3→4

 

「『六武衆の侍従』を守備表示! 効果で『六武衆の師範』を特殊召喚!」

 

『六武衆の侍従』

 守備力2000

『六武衆の師範』

 攻撃力2100

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→4

 

 よし、これで一応の守りは万全。

 伝承者の効果で宣言したのは光と炎。仮に効果を使われたとしても、師範は相手のカード効果で破壊されたら手札に戻る効果がある。侍従は守備力が2000。師範もいるから一ターンは生き残る。

「カードを伏せて、ターンエンド……」

 

「エンドフェイズに罠発動!」

 

 え?

「『強制脱出装置』。『封魔の伝承者』を手札に戻す」

 

女子

手札:0→1

 

 わざわざ手札に戻すって……あ!!

「一度召喚したら、宣言した属性そのままで戦っていくって考えてたでしょう」

 うぅ、おっしゃる通りです……

 

 

あずさ

LP:2200

手札:1枚

場 :モンスター

   『六武衆の侍従』守備力2000

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』(武士道カウンター:4)

    セット

    セット

 

女子

LP:3000

手札:1枚(封魔の伝承者)

場 :モンスター

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   魔法・罠

    セット

 

 

「私のターン!」

 

女子

手札:1→2

 

「『封魔の伝承者』を再び召喚! 宣言は地と炎!」

 

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700

 

 やっぱそうだよね……

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』! これで墓地の『封魔の伝承者』を特殊召喚!」

 

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700

 

 二体目!?

「宣言は一回。地属性を宣言」

 ここで地属性を宣言するってことは、師範の効果を分かってる上で、伏せカードも読まれてる!?

「続いて『強欲な壺』を発動! カードを二枚ドロー!」

 

女子

手札:0→2

 

「速攻魔法『魔法効果の矢』を発動! 相手フィールド上に表側表示で存在する魔法カードを全て破壊し、破壊した数につき500ポイントのダメージを与える! 『六武の門』は破壊させてもらうわ!」

「うぅ……」

 

あずさ

LP:2200→1700

 

 うぅ、これでサーチもできなくなっちゃった……

「永続魔法『連合軍』! 自分フィールド上の戦士族、魔法使い族一体につき、自分フィールド上の戦士族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする! 私のフィールドの戦士族は4体、よって、800ポイントアップ!」

 まずい!

 

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700+800

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700+800

『切り込み隊長』

 攻撃力1200+800

『切り込み隊長』

 攻撃力1200+800

 

「このターンで決めるわ! 『封魔の伝承者』で、『六武衆の師範』を攻撃!」

「罠発動! 『和睦の使者』! これでわたしの受ける戦闘ダメージは0になって、モンスターは戦闘では破壊されない!」

「けど、伝承者の効果でどのみち破壊してもらうわ!」

 伝承者に切りつけられて、やられる師範。

 そうなんだよ。『和睦の使者』で戦闘破壊とダメージからは守れても、効果破壊までは守れないんだよぉ~。

「師範の効果。このカードが相手カードの効果で破壊された時、六武衆と名の付くモンスター一体を手札に加える。わたしはこの効果で、師範自身を手札に加えるよ」

 

あずさ

手札:1→2

 

「もう一体の伝承者で、侍従に攻撃!」

 こっちも破壊された!

「このターンで決められるって思ったけど、まあいいわ。次こそ倒す。ターンエンド」

 

 

女子

LP:3000

手札:0枚

場 :モンスター

   『封魔の伝承者』攻撃力1700+800

   『封魔の伝承者』攻撃力1700+800

   『切り込み隊長』攻撃力1200+800

   『切り込み隊長』攻撃力1200+800

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    永続魔法『連合軍』

 

あずさ

LP:1700

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

 うぅ、どうしよう……

 手札は紫炎と師範の二枚だけだし、『切り込み隊長』のロックが効いてて攻撃もできない。そもそも『連合軍』で攻撃力が上がってて戦闘破壊だって難しいし。

 このロックを一気に突破できるカードなんて……

 あぁ! ある!!

 んだけど……『六武の門』も破壊されちゃって、このドローでそれを引く確率なんて……

 あぁー、また凡ミスだよぉ!! どうしてさっきカウンターが四つ貯まってたのに、破壊される前にサーチしなかったんだろぉ~!!

 

「諦めて降参(サレンダー)する?」

 

 対戦相手の人が話し掛けてきた。

 降参……まあ、それも一つの手だよね。だって、実際にもう手が無いし。ここから逆転なんて、奇跡でも起きない限り無理だよ。

 

 

 ……あれ? 確かこういう場面、前に見たことあったような……

 確か、手札は今のわたしより少ない、一枚しかなくて、フィールドにはモンスターも魔法・罠も無くて、なのに、ずっと自信満々で、しかも、たった一度のドローで全部ひっくり返した。

 ……

 はっ!

 わたしはとっさに、梓くんの方を見た。

 梓くんは、わたしを見て笑ってる。わたしのこと、信じてくれてるんだ。

 

 ……そうだ。梓くんは、いつでもデッキを信じて闘ってた。昨夜も言ってたもん。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「梓くん、決闘者に一番必要な物って何なのかな?」

 勉強の合間に聞いてみた、答えの無い質問。でも、梓くんは迷わず答えた。

「カード達との絆、でしょうか」

「絆?」

「ええ。共に戦うと誓い、幾千とあるカードの中から選び抜き、四十枚にまとめることで完成したデッキ。今まで様々な苦難を共に乗り越え、共に戦ってきたデッキのカード達。そんな彼らと築き上げてきた絆。それを信じることができるなら、自然とデッキは応えてくれる。少なくとも、私はそう信じながら決闘をしております」

「絆……」

「ありきたりな答えで申し訳ありません」

「ううん、全然だよ……」

 

 

 とても、梓くんらしい答えだと思う。けど、そうだよね。わたしだって、絆の力の強さは知ってる。それを信じて、ずっと六武衆達と戦ってきたんだもん。こんなところで降参して、カード達との絆を無下にしていいわけ無いよね!

 

 

(体中を殴り蹴り穿ち縛り上げ締めつけ間接という間接を外し髪を引き抜き生爪を剥がし全身の皮を剥ぎ両腕を捩じり足股を裂き二十本の指を折り鼓膜を破り両耳を削ぎ落とし両の目を抉り舌を引き抜き腹を裂き(はらわた)を引きずり出し心臓を握り潰し頭を割り脳髄を抉り殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……)

 

(もうやめて~、梓、お願いだからそれ以上はやめて~)

 

 

「続けるよ。ドロー!」

 

あずさ

手札2→3

 

 引いたカードは……

 ……きてくれた!!

「このターンで、君のモンスターを全部倒す!」

「な!」

「わたしは、『六武衆の露払い』を召喚!」

 

『六武衆の露払い』

 攻撃力1600

 

「そして、罠発動! 『諸刃の活人剣術』!」

 目の前が光ったと思ったら、そこから光る弓矢と、光る槍を持った二人の武将。

 

『六武衆-ヤイチ』

 攻撃力1300

『六武衆-ヤリザ』

 攻撃力1000

 

「な、何でこの二体が!?」

「『諸刃の活人剣術』の効果は、墓地から二体の六武衆を攻撃表示で特殊召喚できる。ただ、エンドフェイズに破壊して、攻撃力の合計分のダメージを受けちゃうけどね」

「『切り込み隊長』効果で攻撃もできないのに、自滅する気!?」

「ううん。破壊する前にフィールドから離れればダメージは受けないんだよ」

「え?」

「『六武衆の露払い』の効果! フィールド上のこのカード以外の六武衆を生贄に捧げることで、相手フィールド上のモンスター一体を破壊できる!」

「そんなっ!」

「わたしは『六武衆-ヤリザ』を生贄に捧げて、『切り込み隊長』を破壊!」

 露払いの脇差で、『切り込み隊長』は静かに刺し貫かれた。

 

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700+600

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700+600

『切り込み隊長』

 攻撃力1200+600

 

「まだだよ! ヤイチを生贄にして、『封魔の伝承者』を破壊!」

 今度は伝承者。その表情は痛みとかじゃなくて、ただ驚いて倒れた。

 

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700+400

『切り込み隊長』

 攻撃力1200+400

 

「伝承者が……」

「『封魔の伝承者』は確かに強力な戦闘での効果があるけど、こっちから攻撃する分には無防備になっちゃう。だから『切り込み隊長』で守りを固めたんだよね」

 返事はしてくれないけど、代わりに顔が歪んで、その答えが正しいって教えてくれてる。

「わたしは手札から『六武衆の師範』を特殊召喚!」

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100

 

「そして、六武衆と名の付くモンスターが二体いるから、手札から『大将軍 紫炎』を特殊召喚!」

 

『大将軍 紫炎』

 攻撃力2500

 

「バトル! 『六武衆の師範』で『切り込み隊長』を攻撃! 壮凱の剣勢!」

「うっ!」

 

女子

LP:3000→2500

 

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700+200

 

「続いて、紫炎で『封魔の伝承者』を攻撃! 獄炎・紫の太刀!」

「くぅ……」

 

女子

LP:2500→1900

 

「最後に、露払いでダイレクトアタック! 疾切華(とうせっか)!」

「きゃ!」

 

女子

LP:1900→300

 

「これがわたしと、六武衆達との絆の力だよ! ターンエンド!」

 

 

あずさ

LP:1700

手札:0枚

場 :モンスター

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   『六武衆の露払い』攻撃力1600

   魔法・罠

    無し

 

女子

LP:300

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『連合軍』

 

 

(絆……)

 

 

 

視点:女子

 絆……

 

 私にだって!!

「ドロー!!」

 

女子

手札:0→1

 

「魔法カード『戦士の生還』! 墓地から戦士族モンスターを一枚、手札に加える!」

 私が選ぶのは、今日までずっと一緒に戦ってきて、ずっと一緒にいてくれた、最愛のカード!

「『封魔の伝承者』を手札に加えて、そのまま召喚!」

 

『封魔の伝承者』

 攻撃力1700+200

 

「墓地の伝承者は二枚! 属性は地属性と炎属性!!」

「ここでまた召喚するなんて、すごい……」

 私だって、絆の強さなら負けないわ!

「バトル! 紫炎に攻撃! 封魔聖斬剣!!」

 向かっていく伝承者。私のエースカードで、彼女のエースカードだけは倒してみせる!

 

「……紫炎の効果発動」

 

 !!

「紫炎が破壊される時、フィールド上の六武衆一体を代わりに破壊できる。わたしは『六武衆の露払い』を破壊!」

 紫炎の前に立ちはだかり、伝承者に斬られる、露払い。

 

 紫炎を……倒せなかった……

 

 もうどの道、私に手は無い。

「……ターンエンド」

 

 

女子

LP:300

手札:0枚

場 :モンスター

   『封魔の伝承者』攻撃力1700+200

   魔法・罠

    永続魔法『連合軍』

 

あずさ

LP:1700

手札:0枚

場 :モンスター

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   魔法・罠

    無し

 

 

「わたしのターン!」

 

あずさ

手札:0→1

 

「『六武衆-カモン』を召喚!」

 

『六武衆-カモン』

 攻撃力1500

 

「フィールド上にカモン以外の六武衆がいる時、相手フィールド上の表側表示の魔法・罠を一枚破壊できる。『連合軍』を破壊!」

 カモンの投げた爆弾で、爆発する『連合軍』。

「ねえ」

 

 ……?

 

「とっても楽しかったよ! またやろうね!」

 

 ……ふふ。私も楽しかったわ。全力で戦って、あなたも最後まで全力で相手をしてくれた。悔いは無いわ。

 不意に、『封魔の伝承者』を見る。

 笑っているように見えた。あなたも楽しかったのね。

 けど、ごめんなさい。あなたを勝たせてあげられなかった。

 次は絶対に負けない。だから、これからも一緒に戦っていきましょう……

 

「紫炎で伝承者を攻撃! 獄炎・紫の太刀!」

 

女子

LP:300→0

 

 

 

視点:あずさ

 

『わぁあああああああああああ!!』

 

 わたし達の決闘に、みんながすごい拍手を送ってくれた。さっきまでわたしに怒鳴ってた女子達も、今は笑ってくれてる。

 わたしは最後に対戦相手の人と握手をして、その場を離れた。

 あ、名前聞いてないや。まあ、いいか……

 

 

「梓くーん」

 梓くんの隣の席に戻ると、梓くんはいつもの笑顔を見せてくれた。

 はぁ~、この笑顔を見ただけで癒されちゃうよ~////

 ただ、気になったのが、ここに来る途中、十代くんの顔色が妙に青くて、何だかほっとしてたことかな。風邪でも引いてたのかな?

 

 その後、明日香ちゃん達の決闘も終わって、月一試験は無事に終了しました。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 

「梓くん! どうしよう!」

「どうしたのですか、あずささん!? まさか、筆記で赤点でも……」

「筆記で満点取っちゃった!!」

「極端な人!!」

 

 

 

 




お疲れ様です。
この後少し本編から離れて、何話かオリジナル入れていきたいと思ってます。
ん? 本編をやれ? 堅いこと言うない。
うんじゃら次まで待っててね。


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第五話 制服を着ろ

五話目~。
内容は、まあタイトル通りですわ。

一人TFキャラが出ます。ただTFしたこと無いから性格違うかも。
その時は……

許せ。

あとは、軽く原作に無い展開が入るかも。

ほんじゃ、行ってらっしゃい。



視点:あずさ

 

 シャカシャカシャカシャカ……

 

 わたし達は今、梓くんの部屋にいます。

 ちなみにわたしを含めて部屋にいるのは九人。十代くん、翔くん、隼人くん、明日香ちゃん、ももえちゃん、ジュンコちゃんが並んで正座して、その前で梓くんがお茶を点てています。

 そして、最後の一人ですが……

 

「どうぞ」

 お茶を作り、梓くんはその最後の一人にお茶を出しました。

「頂戴致します」

 お茶を受け取ったのは、緑色の髪に眼鏡を掛けた、一年生の委員長、『原 麗華』ちゃんです。

 麗華ちゃんはお茶を取ると、手の平で回して一気に飲み干します。その一つ一つの動きが凄く丁寧で、とても上品に見えました。

「結構なお手前で」

 何と言うか、全部が全部礼儀正しいなぁ。そこのところは見習いたい。

「それで、私にお話と言うのは?」

 ここでやっと本題。

 そもそもここへは、私が麗華ちゃんから梓くんのことを聞かれて、部屋を案内することになったんですが、その時たまたま明日香ちゃん達三人も同行することになった次第なのです。ちなみに十代くん達はわたし達の来る前から遊びに来ていました。

「お話は一つ。梓さん、あなたの服装に関してです」

 うん、まあ、予想通りと言うか、真面目な麗華ちゃんの考えそうなことだよね。

「この服装は、まずいですか?」

「当然です」

 毅然とした態度で、正座したまま梓くんを真っ直ぐ見つめる姿、何だか格好良いな。

「この学校では制服が指定されていることはご存知ですね?」

「もちろん。この学校ほど制服に特徴の見られる場所も珍しいですから」

 確かにね。季節用って訳でも無しに制服が三つも四つもある学校なんてそうそう無いよ。

「しかもあなたはオベリスクブルーのはず。なのに、どうして制服を着ないのでしょう?」

 別に寮は関係ないような気もするけど。

「私は元々、家族全員が普段から着物を着ているような家系で育ってきて、制服のような洋装はほとんどしてこなかったものですから。実際に制服は着てみましたが、とても落ち着かなかったので、クロノス先生に御許可を頂き、こう言った服装をしている次第です」

 家族全員着物なんだ。どんな家系なんだろう。

「家庭の事情にとやかく言うつもりはありません。しかし、ここが学園である以上、最低限のルールというものは遵守しなければなりません。制服はその一つです。私や、あなたが生徒である以上、ルールは守らなければなりません。着てみたら落ち着かなかったというのは、ルールを破って良い理由としては、少し弱いかと思われます」

 さすが委員長。言うことが真っ当で反論の余地が無い。

 と思ったけど、梓くんは笑いながらまた言った。

「確かにルールは守らなければなりません。しかし、私はそのルールを破る許可は頂いておりますし、ルールを破ったことでの最低限の責任は果たしているつもりです。何より、確かに制服は定められているとはいえ、強制されている訳でもない。実際に学生手帳を見てみましたが、服装に関してもそれほど強い決まりはありませんよ」

 梓くん、成績トップだしね。それに、十代くんなんかも着崩してるし。

「つまり、あなたはあくまで制服を着る気は無いと」

「一言で言えば、そうなりますね」

 麗華ちゃんは真剣な顔だけど、梓くんは終始笑顔で対応してる。けど、何だか二人の間に火花みたいな物が見える気が……

「……良いでしょう。これ以上は話し合いでは解決できそうにありません。なので、私と勝負して下さい」

 やっぱりそうなった。

「良いでしょう」

 

 

 ~十分後~

 

 パチ

 

「王手。これで積みです」

「く、やはりあそこで飛車を取られたのが痛かった……て、何で将棋をしているんですか!!」

「勝負をして欲しいと言われたので」

「誰が将棋をしようと言いました!?」

「ああ、確かに。すみません」

 

 

 ~更に十分後~

 

「チェックメイト」

「く、まさかチェスまでたしなんでおられるとは……」

「理屈は将棋と同じですからね」

「特にルークの使い方がお見事で……て、何でチェスなんですか!!」

「これもダメですか?」

「そもそもボードゲームで勝負すること無いでしょう!! ここは決闘アカデミアですよ!!」

「確かにそうですね。ではカードで決めましょう」

「始めからそうして下さい」

 

 

 ~そして三分後~

 

「スペードのロイヤルストレートフラッシュ。私の勝ちですね」

「そう思いますか?」

「当然です。これ以上の役などありません」

「……どうやらあなたは忘れているようだ。『ジョーカー』という存在を」

「なっ!! 9の、ファイブカード!?」

「私の勝ちのようですね」

「くぅ、まさかカードでも負けるなんて……カードですけど!!」

「さっきからどうしたのですか?」

「ここは決闘アカデミアですよ!! 何かを決める際は普通決闘でしょう!!」

「それならそうだとはっきり言って下されば良かったのに。他にも囲碁に花札、麻雀も用意もしておりましたのに」

「どれも分かりません!! 第一麻雀は四人でする物でしょう!! あと二人はどうする気ですか!?」

「何のためにあずささん達と一緒にいらっしゃったのですか?」

「少なくとも麻雀をたしなむためではありません!!」

「まあとにかく決闘の準備を行いましょうか」

「お話はここまでですか!? 今までのお話しはスルーする気ですか!?」

「時間は一時間後、決闘場で行いましょう」

「……本当にスルーするんですね」

 

「終わったか?」

 十代くんが眠そうに尋ねた。わたし達は七人全員、とっくに正座も崩して適当にくつろいでる。

「ええ。では確認致しましょう。あなたが勝った場合、私は明日から制服を着ることをお約束します」

「そうして下さると助かります」

 麗華ちゃんも普段通りに戻ったみたい。

「そして私が勝った場合、あなたは明日一日を着物で過ごして頂きます」

 ブッ!!

「な、なぜそうなるんですか!?」

「決闘に賭けごとを持ち込むのなら、お互いに何らかの利益不利益があって然るべきです。なので、あなたにも相応の代償を背負って頂かなければ。そうでなければ、私もこの決闘には応じかねます」

 人に何かを頼むなら同じ条件でってことか。何だか梓くんらしくない。そんなに制服が嫌なのかな。

 って、そうなるとさっきまでの勝負って……

「……分かりました。明日一日だけですよね」

「ええ。幸い明日は休日ですし、ちょうど良いのでは?」

「……では、今から一時間後、決闘場で」

 そして麗華ちゃんは出ていきました。

 

「私達も行きましょうか」

 明日香ちゃんがジュンコちゃんとももえちゃんに話し掛けた。

「ええ? まだ梓さんとあまりお話しておりませんのに……」

 ももえちゃん、気持ちは分かるけど……

「ここにいたら梓くんの邪魔になっちゃうよ」

「そうよ。麗華の様子も気になるし、早く行きましょう」

 

「じゃあ、俺達も行くか」

「そうっスね」

「んだなぁ」

 十代くん達も立ち上がった。決闘者にとって、決闘前の時間は凄く大事だってみんな知ってるもん。

「それでは一時間後、決闘場で」

「おお! 頑張れよ!」

「応援してるっスよ」

 十代くんと翔くんがそう話し掛けて、わたし達は部屋を出ました。

 

 

 

視点:外

 十代達が梓の部屋を出て数分後、アカデミアでは、ある騒ぎが起きていた。

 

「委員長と梓さんが決闘をするそうです」

「梓さんが負けたら、明日から着物はやめて制服を着るって」

 

「梓さんが、制服!?」

「そんな……梓さんが着物を着なくなるの!?」

 

「梓さんの制服……」

「梓さんが制服……」

 

『梓さんの制服……』

『梓さんが制服……』

 

 

『絶対見たい!!』

『絶対ダメだ!!』

 

 

 

視点:あずさ

 一時間が経ち、決闘場に来ました。真ん中に梓くんと麗華ちゃんが向かい合っていますが、その前から既に凄いことになっています。

 

「委員長! 勝って下さい!!」

「梓さんに制服を!!」

 

「梓さん! 勝ってくれ!!」

「梓さんは着物を着てこそですわ!!」

 

 みんな凄いなあ。制服派は女子がほとんどで、男子もちょっと混じってるな。着物派は男女が入り混じってる。

「梓さ~ん!」

「頑張ってくださ~い!」

 ジュンコちゃんとももえちゃんは普通に梓くんを応援してる。十代君達も、もちろんわたしも梓くんを応援します。

 

「では、始めましょう」

「お願いします」

 

 始まる!

 

『決闘!!』

 

 

麗華

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

「先行は私です。私のターン!」

 

麗華

手札:5→6

 

「私は永続魔法『悪夢の拷問部屋』を発動。そして魔法カード『デス・メテオ』発動! 梓さんに1000ポイントのダメージ! そして拷問部屋の効果で更に300ポイントのダメージです!」

「いきなりですか」

 

LP:4000→2700

 

「更に魔法カード『昼夜の大火事』! 梓さんに800ポイントのダメージ! 拷問部屋の効果で更に300ポイントのダメージ!」

 

LP:2700→1600

 

「まだまだ! 永続魔法『波動キャノン』発動! そして『プロミネンス・ドラゴン』を召喚!」

 

『プロミネンス・ドラゴン』

 守備力1000

 

「そして装備カード『ミスト・ボディ』をプロミネンス・ドラゴンに装備! これでプロミネンス・ドラゴンは戦闘では破壊されません。ターンエンド。そしてエンドフェイズ時、あなたに500ポイント、『悪夢の拷問部屋』の効果と合わせ800ポイントのダメージを与えます」

「これはこれは……」

 

LP:1600→800

 

「一ターン目で手札全てを使い切りますか……」

「ターンエンド」

 

 

麗華

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『プロミネンス・ドラゴン』守備力1000

   魔法・罠

    永続魔法『悪夢の拷問部屋』

    永続魔法『波動キャノン』

    装備魔法『ミスト・ボディ』

 

LP:800

手札:5枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「『波動キャノン』は墓地に送ることで、発動から経過したスタンバイフェイズの数だけ1000ポイントのダメージを与える。つまり、私に残されているのは……」

「あと一ターンです」

 

 す、すごい。麗華ちゃんがバーンデッキを使うっていうのは聞いてたけど、ここまでの火力があるなんて。梓くんがあそこまでライフを削られるところ、初めて見た。

 

「委員長さすがです!」

「勝負ありですわー!!」

「梓さんの制服姿//////」

 

「梓さん!! 諦めるなー!!」

「頼む!! 勝ってくれー!!」

「梓さんが制服姿……」

 

 周りは相変わらずだし。でもどちらにせよ、梓くんはまだ諦めてないよ!

「私のターン」

 

手札:5→6

 

「さて、前のターン中に私を倒せなかったことは失敗でしたね」

「……?」

 失敗?

「どれだけ強い火力で熱したところで、燃やし尽くせない炎では意味がありません。現に、あなたの手札は0。もはや燃やすための種火すら残っていない」

「……その状態で何を言われても、負け惜しみにしか聞こえませんよ」

「そうでしょうね。ではお見せしましょう。一滴でも水を残した炎がどうなるか」

 それだけ言った直後、梓くんは手札からカードを一枚取った。

「このカードは、メインフェイズ1の開始時でしか発動できません。魔法カード『大寒波』を発動!」

「『大寒波』!?」

 梓くんがカードを掲げた瞬間、猛吹雪が起こる。そのまま二人のフィールドと、魔法・罠ゾーンがカードごと凍っちゃった!

「お互いに、次の私のドローフェイズ時まで、魔法・罠の効果の使用及び発動・セットを封じます」

「そんな! しかし、私の場には『プロミネンス・ドラゴン』がいます! それに、効果の使用が封じられるのは起動効果のみ。装備魔法と永続魔法による永続効果は無効になりません!」

 

 ???? ……えーと、どういうこと?

「要するに、発動とセットと、効果の使用の宣言が必要な『悪夢の拷問部屋』や『波動キャノン』を墓地へ送る効果は封じられるけど、『波動キャノン』のターンカウントと、既に発動されて効果が適用されている『ミスト・ボディ』効果は『大寒波』では無効にならないの」

 さっすが明日香ちゃん! 解説ありがとう!

 

「このカードは、相手フィールド上に存在するカードの枚数が私のフィールド上のカードより四枚以上多い場合、手札より特殊召喚できます。私の場は0、そしてあなたの場は4、よって、手札より『氷結界の交霊師』を特殊召喚!」

 

『氷結界の交霊師』

 攻撃力2200

 

「いきなりレベル7……」

 麗華ちゃんも顔をしかめてる。明日香ちゃんから聞いてはいたけど、すごい迫力だよ。

 

「そして、交霊師を生贄に捧げます!」

「な!」

 えぇ! せっかく呼んだレベル7なのに!?

「『氷結界の虎将 ライホウ』を召喚!」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 攻撃力2100

 

「あなたが私を燃やし尽くすのが先か、私があなたを凍らせるのが先か。いずれにせよ、このターンでできることはここまでです。ターンエンド」

 

 

LP:800

手札:3枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100

   魔法・罠

    無し

 

麗華

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『プロミネンス・ドラゴン』守備力1000

   魔法・罠

    永続魔法『悪夢の拷問部屋』

    永続魔法『波動キャノン』

    装備魔法『ミスト・ボディ』

 

 

 そっか。ライホウを呼びたかったんだね。

「少ない水でどれだけ厚く氷を張ろうと、私が全て蒸発させます! 私のターン!」

 

麗華

手札:0→1

 

(『火炎地獄』。相手ライフに1000ポイントのダメージを与え、自分は500ポイントのダメージを受ける。梓さんの残りライフは800ですが、『大寒波』の効果で発動はできない。それに、梓さんのフィールドにはライホウ。あれはこちらの手札を一枚捨てなければモンスター効果を無効にされてしまう。『プロミネンス・ドラゴン』を利用し、私の手札を消耗させるのが狙いですね……)

 

 麗華ちゃん、かなり考えてる。ライホウも交霊師も多分効果が知られちゃってる。わたしも知ってるしね。

 

「(どの道、次のターンで『波動キャノン』が使える。仮に破壊されたとしても、私のデッキなら、800ポイント以上のダメージを与えられるカードが来る確立は高い。しかし、確実に次で仕留めるために今は……)私はこのままターンエンド。エンドフェイズ、ライホウの効果で手札を捨て、『プロミネンス・ドラゴン』の効果で500ポイントのダメージです」

 

LP:800→300

 

 

麗華

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『プロミネンス・ドラゴン』守備力1000

   魔法・罠

    永続魔法『悪夢の拷問部屋』

    永続魔法『波動キャノン』

    装備魔法『ミスト・ボディ』

 

LP:300

手札:3枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100

   魔法・罠

    無し

 

 

 拷問部屋が凍ってるおかげでギリギリ助かった。でももう梓くんのライフは風前の灯火だよ!!

「私のターン」

 

手札:3→4

 

 これでお互いに魔法カードが使える。

 

「魔法カード『天使の施し』を発動! カードを三枚ドローし、二枚を捨てる。更に、『死者蘇生』を発動! 『氷結界の交霊師』を特殊召喚!」

「なっ!」

 それがあったんだ! だからわざわざ交霊師を生贄に……

「交霊師を生贄に捧げ……」

 ってまたぁ!?

「『氷結界のロイヤル・ナイト』を召喚!」

 

『氷結界のロイヤル・ナイト』

 攻撃力2000

 

「このカードの召喚に成功した時、相手フィールド上に『アイス・コフュン・トークン』を攻撃表示で特殊召喚します」

 ロイヤル・ナイトが麗華ちゃんに向かって槍を構えた瞬間、麗華ちゃんのフィールドに氷の棺が現れた。

 

『アイス・コフュン・トークン』

 攻撃力1000

 

「これは、まさか的ですか!」

 なるほど。あの氷に攻撃すればダメージを与えられるからそのために!

「その通り。ただし、普通の的では終わりませんよ。私は墓地の交霊師、そしてたった今墓地へ送った『氷結界の水影』の二体を除外。現れよ冷狼(れいろう)、『フェンリル』を特殊召喚!」

 

『フェンリル』

 攻撃力1400

 

 おお! また新しい氷結界以外のモンスターだ!

 

「『フェンリル』!? そんな……」

 

 麗華ちゃんが急に声を上げた。え? どうしたの?

「まさかここで『フェンリル』を呼ぶなんてね」

 え!? 明日香ちゃんも知ってるの!?

「あのカードを呼ぶなんて、梓さんも中々……」

「ちょっとえげつないんだなぁ……」

 えぇー!?

 翔くんに隼人くんも知ってるの!? ももえちゃんとジュンコちゃんも分かってるって顔してるし、分かってないのってわたしと十代君だけ!?

 

「『フェンリル』で、『アイス・コフュン・トークン』を攻撃!」

 

 は!?

 

冷爪牙斬(れいそうがざん)!」

 

麗華

LP:4000→3600

 

 綺麗に斬られる氷の棺。真っ二つになって、砕けちゃった。

「私はカードを一枚セットし、ターンエンドです」

 

 

LP:300

手札:0枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100

   『氷結界のロイヤル・ナイト』攻撃力2000

   魔法・罠

    セット

 

麗華

LP:3600

手札:0枚

場 :モンスター

   『プロミネンス・ドラゴン』守備力1000

   魔法・罠

    永続魔法『悪夢の拷問部屋』

    永続魔法『波動キャノン』

    装備魔法『ミスト・ボディ』

 

 

「私のターンですが……」

 

 どうしたのかな? デッキからカードを引かないと……て、デッキが凍ってる!?

 

「……『フェンリル』が戦闘破壊した次の相手ターン、つまり私のターンのドローフェイズはスキップされます。メインフェイズ……」

 

 えぇー!? そんな効果あったの!?

「すげぇ!! 梓の奴、あんなカードまで持ってたのか!?」

 本当だよ!!

「何言ってるんスか? 兄貴」

 ん? 翔くんが十代くんを、呆れ顔で見てる?

「十代、あれは少なくともバトルシティ直後には出てたカードなんだな。みんな知ってるし、レアリティもそれほど高くないから、多分誰でも持ってるんだな」

 ……え? それ本当?

「かなり有名なカードよ。どうして知らないの?」

「うぐ……いいじゃねえか! 俺はE・HERO使いなんだから!」

 真っ赤になってる十代君。

 わたし……何も言わなくてよかった……

 

「く……ですが、いくらドローを封じられようと! メインフェイズ時、『波動キャノン』を墓地へ送り、発動後迎えたスタンバイフェイズの数×1000ポイントのダメージを……!」

「リバースカードオープン!」

「え?」

「速攻魔法『サイクロン』。墓地へ送る前に『波動キャノン』を破壊させて頂きます」

「なっ……!」

 毎度おなじみの万能速攻魔法! 『氷結界』に継ぐ梓くんの代名詞キター!!

「くぅ……ですが、それが手札にあったなら、なぜ前のターンに使わずわざわざセットなんて……」

「それは、その……」

 あれ? 急に梓くんは口ごもっちゃった。

「梓さん?」

「いえ、その……ただ破壊してしまうより、使う寸前で破壊した方が、面白い反応が……などということは、一切、考えてなど……」

「……」

 

『……』

 

 梓くんが黒い……

 

 

 

視点:麗華

 ……こほん。

 『フェンリル』、今倒しておかないと厄介なことになるかもしれませんね……

「私は『プロミネンス・ドラゴン』を攻撃表示に変更! バトル! 『プロミネンス・ドラゴン』で、『フェンリル』を攻撃します!」

 『フェンリル』に向かっていく『プロミネンス・ドラゴン』……

「……え?」

 なぜか『プロミネンス・ドラゴン』が立ち止まったかと思ったら、その体には長い体の生き物が巻きついています。

 

『プロミネンス・ドラゴン』

 攻撃力1500-500

 

 な! おまけに攻撃力まで下がってる!?

「墓地の『キラー・ラブカ』を除外し、効果を発動しました」

「まさか、『天使の施し』の時の二枚目のカードが……」

「その通り。こちらのモンスターが攻撃されたとき、このカードを除外することでその攻撃を無効にし、更に攻撃モンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせます」

「そんなカードが……ターンエンドです!」

 

 

麗華

LP:3600

手札:0枚

場 :モンスター

   『プロミネンス・ドラゴン』攻撃力1500-500

   魔法・罠

    永続魔法『悪夢の拷問部屋』

    装備魔法『ミスト・ボディ』

 

LP:300

手札:0枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100

   『氷結界のロイヤル・ナイト』攻撃力2000

   魔法・罠

    無し

 

 

 削れない……たった300ポイントのライフが削れない……まるで、もう少しで蒸発しそうな水が、いつまで経っても残っているみたいに……

 

「私のターン」

 

手札:0→1

 

 違う。水どころじゃない。火なんてとっくに消えてる。火が消えて、段々凍って、その氷が、私の足元まで迫ってきてる!

 

「速攻魔法『サイクロン』!」

「に、二枚目!?」

「対象は『ミスト・ボディ』!」

 『サイクロン』が『ミスト・ボディ』を吹き飛ばしたその瞬間、ずっと霧丈の体をしていた『プロミネンス・ドラゴン』が、実体を持った普通の炎の龍に姿を変えた!

「『フェンリル』で、『プロミネンス・ドラゴン』を攻撃」

 『フェンリル』の方が小さいですが、大きなドラゴンの体に噛みついて、そこから凍らせて倒した!

 

麗華

LP:3600→3200

 

「ライホウで、麗華さんへダイレクトアタック! 冷奏円舞!」

 現実じゃない、単なるイメージなのは分かってる。けれど、確かに見えました。私の足元から、徐々に体中へと広がっていく氷が。

「きゃっ!」

 

麗華

LP:3200→1100

 

 そしてたった今、完全に氷つきました。

 

「……これが、一滴残った水の力ですか……」

「たとえ一滴でも、温度が下がれば物を凍らせることはできます。そこから広がることができれば、どんな物でも凍らせられます。ただ強いだけの炎で、全てを溶かすことは無理がありましたね」

 く……

「敗因は、ライホウの効果で捨てた『火炎地獄』。あれを捨てず温存し、前のターンで発動させることができれば私の負けでした」

 ……そう。私はあの時、冷静に考えていたようで、実は焦っていた。早く燃やさなくては大変なことになる。それが分かっていたから、目先のダメージばかりを意識して、冷静な判断ができていなかった。

 火力も時には調節しなければならない時もある。それを、忘れていました。まさに、自分で自分の火に焼かれた訳ですね。

 

「終わらせます。『氷結界のロイヤル・ナイト』で、ダイレクトアタック!」

 

 ……完敗です。

 

麗華

LP:1100→0

 

「良き決闘を、感謝致します」

 

 

 

視点:あずさ

 梓くんが勝っ……!

 

 

『きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!』

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 

 うわ!!

 

 

「梓さん! さすがです!」

「やった! 梓さんが勝った!」

 

「梓さんの制服姿が……」

「ぜひ、見たかった……」

 

 

 ……みんな、考えることは同じってことかな。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「そして一日後!」

「なに? あずさ、どうかした?」

「ううん。何でも無いよ明日香ちゃん」

 昨日と同じメンバーで、今梓くんの部屋にいます。

 

「完了しました」

 

 浴室の方から梓くんの声が聞こえました。

 ……にしてもよく考えたら、男子の梓くんが、女子の麗華ちゃんの着付けをするのに誰も何も言わないって……

 これが梓くんクオリティってやつか!

「さあ、ご披露しましょう」

 先に梓くんが出てきた。

「や、やはり少々落ち着きませんね……」

「それは私が制服を着た時と同じ気持ちです」

 梓くんの言った後で、麗華ちゃんは出てきた……

 

「おぉー!」

「あら、似合ってるじゃない」

「可愛いよ! 麗華ちゃん!」

「似合ってるっス」

「んだなぁ」

「綺麗ですよ」

「中々良いじゃない!」

 

 みんなが口々に感想を言ってる。

 麗華ちゃんは顔を赤くしてるけど、その緑色の着物凄く似合ってるよ! 着物に似合うよう髪型も変えて、髪止めで飾り付けもしてる。

 やっぱり和服って良いよね~。

「これで、今日一日過ごせばいいのですね////」

「ええ」

「良いな良いなぁ」

「よくありません! 恥ずかしいだけですよ……////」

「どうしてだよ。凄く似合ってるのに」

「う、嬉しくありません……////」

 そんなに恥ずかしがらなくても、似合ってるのに。十代くんなんか羨ましそうに見てるし。

「よければ十代さんも着てみますか?」

 

『え!?』

 

 全員の声が唱和した。

「お! いいのか?」

 十代くん以外はね。

「はい。ただあいにく、女性用しかありませんが」

 やっぱり。でも、二回目になるけど梓くん、男子なのに女性用だけって……

「いいって! 梓の着る服なら多分俺でも着れるだろう。それに、委員長を見てたら俺も着てみたくなってきたぜ!」

「兄貴……」

「十代……」

 翔くんと隼人くんは呆れてるよ。まあ、普通そうだよね。

「せっかくだ。二人も着てみようぜ!」

『えぇ!!』

 翔くん達も!?

「いいっすよ! 僕じゃ身長が低くて無理っス!」

「俺は体がでか過ぎるんだなぁ!」

「大丈夫ですよ。何とかできます」

 梓くん、満面の笑みだ。着付けってそんなに楽しいものなのかな?

「よし! じゃあ着せてくれ。二人とも行こうぜ!」

「兄貴~~~~」

「十代~~~~」

 そうして、三人は浴室に入っていきました。

 

 

「に、似合ってる/////」

 赤色の着物を着た十代くんに、明日香ちゃんが赤くなりながら言ってる。

 うん。元々中世的な顔立ちだし、それを差し引いても凄く似合ってるよ。

「そうか! 似合うか!」

「隼人さんが完了しました」

 今度は隼人くん。

「ど、どうかな?////」

 おぉ~。

「可愛いじゃねえか!」

 体は大きいけど、元々コアラみたいに可愛い顔してたし、ピンクの着物がその可愛いさを引き立ててる。

 そうやって、しばらくみんなで盛り上がってる内に、また梓くんの声が。

「翔さんが完了しました」

「随分時間が掛かったな」

「ええ。とても着付けのしがいがありましたよ」

 それだけ大変だったってこと? そう思ったけど、出てきた翔くんを見て、すぐに違うって分かった。

 

『だ、だれ!?』

 

 全員分かってるんだよ! 翔くんが着物を着てるっていうのは十分に! でも、本当に別人みたいに変わってたんだもん!

「みんな、どうかしたんスか?」

 その声と言葉で、改めて翔くんだということを認識できた。けど、やっぱりさっきまでとは全然違う。

 翔くんの髪の色に合わせた水色の着物だけど、着物だけじゃなくて、他もいじってる。髪の毛はオールバックにして後ろで一本に縛って、前髪で隠れてたおでこを全部出して、その髪に色々飾り付けして、眼鏡を外してる。

 いじってるのはたったそれだけなのに、とにかく梓くんとは違うタイプの、可愛い女の子に見えた。

 翔くんて、意外に目が大きかったんだなぁ。おまけに肌も白くて滑々だし。

「翔、鏡見てみるんだなぁ」

 言いながら隼人くんが手鏡を手渡して、翔くんはそれを見てみたけど、目を細めながら何度も鏡を前後に動かしてる。

「……眼鏡が無いからほとんど見えないっス」

 あちゃー……さすがに梓くんもコンタクトレンズは持ってないだろうからね。

 

「翔君……////」

 あれ? ももえちゃんが凄くうっとりしてる。

「翔……」

 十代くんもボオーっとなってるや。もしかしてあんなタイプが好きなのかな?

 ……何ていうか、変な気を起こさないといいけど……

 

「梓!!」

 うわ! 急に明日香ちゃんが声を上げた。

「わ、私も着たいわ!!/////」

 顔を赤くしてる。どうやら、翔くんに見とれてる十代くんを見て、焦ってるみたい。

「何をそんなに焦っているのですか?」

「!!/////」

 梓くんは笑ってる。まあ、分かり易いもんね。

「この際、全員で着てみますか?」

「そうね」

「ぜひ、お願いします」

 ジュンコちゃんとももえちゃんも承諾した。もちろん、わたしも着てみたいしね。

 

(あずささんの着物姿/////)

 

 あれ? 何だか梓くんの顔が赤いような……

 

 

「ももえちゃんもジュンコちゃんも凄く良いよ!」

 それぞれジュンコちゃんが黄色、ももえちゃんがオレンジの着物を着てる。やっぱ凄く似合ってるよ。

「あずささんに明日香さんも、よく似合っていますよ」

 ももえちゃんに言われた。

「ど、どうかしら、十代/////」

「おお! めちゃくちゃ綺麗じゃねえか!」

「//////」

 十代くんの言葉に、白い着物の明日香ちゃんは真っ赤になってる。十代くん、無邪気なだけに罪だねぇ。

 ちなみにわたしは紫色。

 でも……

「梓、少しきついみたい……」

「実は、わたしも……」

 わたしと明日香ちゃんには少し小さかったのかな?

「少し大きめの物を選んだつもりでしたが、お二人ともどこがきついのですか?」

 う……

 答え辛いけど……

「えっと……お腹が……」

「わたしは胸が苦しい」

 

 ズゥーン……

 

 どうしてだか、明日香ちゃんが部屋の隅に座り込んだ。落ち込んでる?

 そこに十代くんが話し掛けて、元気になったから良かったけどね。

 

「あずささんは、気痩せする人なのか、見た目以上に胸が大きいですからね」

 

 え!?

「な、ちょ、いきなりなに言うの!?////」

「ちなみに大きさはどのくらいで?」

 えぇ~えぇー!?////

「いや、それは……////」

「大きさは?」

「だから、それは……////」

「どのくらいで?」

 ///////

「……F////」

「正直にお願いします」

 ///////////////

「…………G/////」

「よろしい」

「よろしいじゃないよ!! 言わせないでよ恥ずかしい!! ていうか何で私のカップ数分かったの!?/////」

「今までも着付けの経験はありましたから、見れば大体は分かります」

「じゃあ何で聞くかな!?/////」

「恥ずかしがるあずささんが可愛らしくてつい////」

 /////////////////

 もぉ~~~~~~~!!//////////

 

「梓さん、普通にセクハラっスよ……」

「やっぱり少し、性格悪いんだなぁ……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そして、わたし達はこの格好で学園を歩くことになりました。

 

「あれは、委員長!? 凄くお綺麗です!」

「あ、明日香さんが着物を着ている!!」

「十代、何だその格好!? あははは!!」

「可愛いぞ隼人! ふふふふ……」

 

 それぞれ声を掛けられて、十代くんなんか笑顔で手を振ってる。

 でも、一番の注目を浴びているのは二人。一人目は……

 

「あ、あの美少女は一体……」

「あんな可愛い子が、アカデミアにいたのか?」

 

 言わずもがな翔くんです。眼鏡が無くて真っ直ぐ歩けないからももえちゃんに手を引かれてる。

「みんな誰のこと言ってるんスかね? みんな美少女だと思うっスけど」

 周りが見えてないもんだから、自分が今大注目されてることに気付いてない。

 ももえちゃんはさっきから満面の笑顔で翔くんを見てるけど、これは……

 

 そして、もう一人はというと、

 

「きゃー!! 梓さーん!!」

「イイ!! もの凄くイイです!!」

「ああ、私をだ……」

「ウホッ! 良い男!」

 

 先頭を歩く梓くん。みんなが着物を着てる以上、自分も知らんぷりをしてる訳には行かないって、制服に着替えた。制服に合わせて髪型も変えてる。何だか色々間違ってる気もするけど。

 でも、制服姿の梓くん、着物を着てる時とは違って、綺麗だけど凄く格好良い////

 

 こうしてわたし達は、まるで大名行列みたいに、梓くんを先頭にしながら学園を歩きました。

 

 ……

 …………

 ……………… 

 

 

 そしてそれ以降、アカデミアではしばらく、謎の水色の髪の美少女の存在が話題になりました。

 正体はどこの誰なのか。

 そしてその答えは、翔くん以外の私達と、あなただけしか知りません。

 

 

 

 




お疲れ様です。

そんなわけで、梓のせいで無意識にフラグを建てたうえに話題にされた翔くんでした。

ちなみに『キラー・ラブカ』の効果はアニメ効果ね。
OCGじゃ、水、魚、海竜の三種族限定。『フェンリル』は獣族だから本当は無理。
まあ氷結界なら水族や海竜族もいるから使えないことも無いけれど。

んじゃ、次話まで待っててね。


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第六話 慟哭

こんにちは~。
六話やで~。

いや~大変だったよ~。
何が大変だったかは読みゃ分かるんじゃないかな。

あと、一人懐かしい名前が出てくるよ。だ~れじゃ~ろかい。

てなわけで、行ってらっしゃい。



視点:梓

 

「うぅ……あぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「うぅああああああああぁはぁああああああああああああああうぅ……」

 

 ただ、怒りと悲しみと、後悔の念に苛まれ、涙を流しながら、地面を叩くことしかできない。地面に涙が落ちる。赤い……

 

「梓くん……」

 

 その時、後ろから私を抱き締める、暖かい感触。

「梓くんのせいじゃない……梓くんだけのせいじゃないから……」

 その慰みの言葉が、静かに胸に響く……

 私は……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それは、数日前のこと……

 

 

「梓さん! 今日もお邪魔してもよろしいですか?/////」

「私も////」

「俺も////」

「もちろん。構いませんよ」

 麗華さんとの一件以来、私がお茶を点てることが他の生徒の皆さんに広まり、それ以来私のお茶を飲みたいと言う方が増えました。なのでよくこうして声を掛けられ、その方々をお部屋にお招きし、簡単なお茶会を催すようことが増えました。

「ちょうど新作のお菓子を作ったところですので、よろしければ味見をして頂けますか?」

「え? 梓さんがお菓子を!?////」

「はい。やはり男子がお菓子作りというのはおかしいでしょうか?」

「いえ! 全然ですわ!!////」

 なら良かった。今日もお茶会が決まりましたね。

 

「梓さん」

 

 突然、この人達とは違う、男子の声が聞こえてきました。

「はい?」

 見ると、そこにはブルーの生徒が一人立っていました。オレンジ色の髪に、ケガでもしているのか白の眼帯を右目に着けています。

「ちょっと頼みたいことがあるんだけど、今は無理かな?」

 頼みたいこと……

「皆さんごめんなさい。今日の所は、どうか……」

 先にお約束をしておいて心苦しいのですが、彼を放っておくわけにもいきません。

「いえ、気にしないで下さいまし」

「お茶会はまたできますから」

 そう、気を落としながらも笑顔で言って下さいました。

 本当に、ごめんなさい……

 

 彼女達が離れたところで、改めて彼と向かい合います。

「確か、『井守(いもり) ヒルト』さん、でしたね」

「覚えててくれたんだ」

 笑顔で返事をして下さいました。彼はブルー生徒の中で、大変明るい方だという評判です。以前誰かから聞いたお話によりますと……

 

「はっきり言って明る過ぎる。ギラギラしてる。近づいただけで日焼けするぜ」

 

 とのことでした。そんな明るい性格なので、彼のことを慕う友人も多いとか。

「それで、お願いとは?」

 聞いてみましたが、何やら言い辛そうにそっぽを向きました。

「ここじゃちょっと……移動しても良い?」

「もちろん」

 そんなわけで、私達は移動しました。

 

 

「ん? あれは、梓?」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 さて、誰もいない教室までやってきました。

「それで、お願いとは?」

「実は……」

 井守さんは、何やら背中から取り出しました。黒い……鞭でしょうか?

 

「これで俺を思い切り叩いてくれ!!」

 

 

 

視点:井守

 ああ……ようやくこの日が来た。

 水瀬梓。

 この人に会って以来、俺はずっと思っていた。

 

 この人に、睨まれたい! 罵られたい! 叩かれたい!

 

 と。無論、彼にこんなことを頼んだところで無理であろうことは分かっている。だからせめて、俺のことを、変態だという引いた目で見て貰いたい。それだけでも俺は満足だ。

 彼のような純真無垢な人から、穢れたものを見る目で睨まれる。想像しただけで俺は……

 

 アッーーーーー!!

 

「……えっと……」

 さあ引け! そして俺を睨んでくれ!!

「こ、この鞭で、あなたを叩けばよろしいのですか?」

 アッー……ん?

「そ、そう……」

「……分かりました。なぜそんなことをしなければならないかは分かりませんが、私にしかできないことだと言うなら、やってみましょう」

 まさかの承諾!? まさか、梓さんはこの手の話題に疎いのか?

 だとしたら嬉しい誤算だ。睨まれるだけで良かったが、実際に俺を殴ってくれるなんて。

「では、頼む」

 俺は梓さんに向けて背中を向け、四つん這いになる。

 さあ、頼む!

「では、参ります」

 いざ……

 

「ダメー!!」

 

 急にドアが開いたかと思うと、そんな絶叫がこだました。そして、叫んだ女子と、天上院明日香さん、イエローの三沢大地、レッドの、丸藤翔だったか? の三人だ。

「梓くん!! ダメだよ!!」

「えーっと……」

 く、邪魔しやがって。梓さんもなぜ邪魔されたか分かっていないようだし。

 くそ! せっかくのチャンスだったのに。

「私はただ、彼に頼まれたことをしようとしただけなのですが……」

「だからそれがダメなんスよ!?」

「あのね、梓……」

「待て天上院君、俺が話す」

 三沢が遮ってきた。まあ、女子に説明させるわけにはいかんわな。そして三沢は梓さんに、今から起ころうとしたことを説明し始めた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「つまり、特定の人物に肉体的、精神的に傷つけられることで性的快楽及び性的解放を得る。えすえす、『えすえむぷれい』とはそういう行為だということですか?」

「……まあ、そういうことだな……/////」

 

『……//////』

 

 梓さんの分かり易い説明に、三沢も説明していて恥ずかしかったんだな。顔が赤い。残りの三人もな。

「そんな……」

 梓さんは顔を伏せ、悲しげな声を上げた。

 くっ、まあ当初の予定はこれで遂げられたし、ここは睨みで妥協しておくか。

「……井守さん……どうして……」

 よっしゃ来い!! 睨んでくれ!!

 

「どうして自傷行為など!!」

 

 ……は?

「なに……?」

「自傷……」

「行為……」

「何で?」

 四人が順に言った。順番は省略。

 それよりどうして自傷行為に? まあ、自傷と言えば自傷ではあるが。

 そんなことを考えている俺の両肩を持ち、梓さんは迫ってきた。

「自らを傷つけ、その痛みによって解放を得ようなど、そんなことで苦しみから脱しようなどとなんとバカげたことを!? それほどまでにあなたを苦しめる物とは何なのですか!? それは痛みによってしか無くすことのできない物なのですか!? それほどまでに、あなたは今苦しんでいるということですか!?」

『……』

 涙を浮かべながら聞いてきてる。

 つまりこの人は、単なるSMプレイを自傷行為だと勘違いし、俺がそれほどまでに何かしらのことで苦しんでいる。そういう風に解釈したというわけか。

「いや、梓くん、だから……」

 またさっきの女子が何か言いかけたが、これは好機だ。

「ああ、そうさ」

 何か言われる前に、先手必勝ってな。

「俺は傷つかないといけないんだよ。そうしないといけない。そうしないと、俺はいつまでたっても前に進めないんだ。そしてそれは、優しい君にしか頼めない!!」

 梓さんの肩を取り、諭すように話を始める。

「俺の苦しみは、誰に言ったって理解されはしないだろう。だから、本当は嫌だったけど、君に頼むしかなかった。本当なら自分でやるべきことだけど、怖くてできなかった。誰かにやってもらうしかなかった。そして、優しい君なら、きっとやってくれると思ったから。だから、俺は、君に傷つけて欲しいんだ! そうしないとダメなんだよ!!」

「井守さん……そこまでの覚悟を、なぜ……」

「それは言えない。けど、そうしないとダメだから」

「まさか、その右目も……」

「ああ」

 ただの物貰いだがな。我ながら俺もよく舌が回るもんだ。お陰でSMを知らない梓さんもすっかり信用してる。

「……分かりました。私にしか頼めないのなら……」

 よし!

「いや、ダメだって!!」

 またこの女子かよ。

「あずささん、止めないで下さい。これは、私にしかできないことなのですから」

 ……この女子、梓さんと同じ名前だったんだな。

 でもまあ、梓さんは承諾してくれたようだし、結果オーライってな。

「そりゃ君はそれでいいかもしれないけど、わたしだって、梓くんがエ……じ、自傷行為の手伝いをするなんて嫌だよ! 梓くんが誰かを傷つける所なんて見たくないよ! だから、絶対ダメだよ!!」

 一瞬SMって言いかけたな。言葉を選んで必死に止めてやがる。

「分かって下さい、あずささん。私には、彼の気持ちが分かります。痛みでしか証明できない物。悲しくとも、確かにあるのです」

 え? 分かる? けど、恐らくSMとは関係無いことだろうな。だとしたら一体……

「じゃあ、えっと……い、井守くん!」

「お!?」

 いきなり呼ばれて驚いた!

「わ、わたしと決闘して!!」

「は? なぜそうなる?」

「いくら梓くんが承諾してても、わたしは梓くんがそんなことするのは嫌だから、だから、わたしが勝ったら、この話は無しにして!!」

「……いや、梓さんが承諾した時点で俺はそれを受ける必要ねーだろう」

 冷静にそう返すと、あずさはハッとした顔になった。

「……確かに、その手もありましたね」

 と、そんな時に梓さんが声を出した。

「私も、本当はあなたを傷つけたくない。けど、あなたはそうすることを望んでいる。承諾はしましたが、本当は今も迷っているのです。だから、その答えを誰かに委ねるのも一つの手段かもしれません」

 おいおい、面倒なことになってきたなおい。

 

「……仕方ない」

 このままじゃ、結局睨まれることもできないからな。

 しゃーねぇ! やってやるか!!

「うし! さっそく決闘場に移動だ!!」

「おおー!!」

 あずさも叫んだ。そんな俺達三人を、残った三人はずっとジト目で見ている。

 まあ、傍から見ればアホらしいことこの上無い光景だからな。

 

 

 

視点:あずさ

 絶対に負けられない! 梓くんは、わたしが守る!!

 のは良いんだけど……

「何なのこれ……」

「すまん。全員俺の友人達だ」

 何だか申し訳なさそうにしてるけど……

 

「ヒルトー!! いっけー!!」

「負けるなー!!」

 

「すごい人気だね」

 ちなみに私の方も、いつの間にやら十代くんに隼人くん、ジュンコちゃん、ももえちゃんが揃ってた。

「……さっさと始めるか」

「うん」

 

『決闘!!』

 

 

あずさ

LP:4000

手札:5

 場:無し

 

井守

LP:4000

手札:5

 場:無し

 

 

「わたしの先行、ドロー!」

 

あずさ

手札:5→6

 

 あまり展開してもしょうがないし、まずは守りに徹しよう。

「『六武衆の侍従』を守備表示」

 

『六武衆の侍従』

 守備力2000

 

「カードをセット。ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『六武衆の侍従』守備力2000

   魔法・罠

    セット

 

 

 けど、こんな時に何だけど、あの人ってそんなに明るいのかな? 話してても普通だったし、噂ほど明るい人には思えないけど……

 

Are(アー) you(ユー) ready(レディ) Guy’s(ガイズ)!?」

 

Year(イェー)!!』

 

 うわ!! なに!?

 

Put(プット) ya() guns(ガンズ) on(オン)!?」

 

『Year!!』

 

All(オー) right(ライ)!! 今からこいつを倒しにイクぜー!!」

 

『ヒッ(ル)トー!!』

 

 ……

 

 ……明る~~~~~……

 

 そう言えば元々帰国子女だって誰か言ってたね。

Let's(レッツ) party(パーリィ)!! My(マイ) turn(ターン), Draw(ドロー)!!」

 

井守

手札:5→6

 

Ha()!! Activate(アクティヴェイト)(発動) the() Continuous(コンティニアス) Spell(スペル)(永続魔法)!! 『Convulsion(コンベーション) of(オブ) Nature(ネイチャー)』!!」

「な!! 英語は分かんないけどそれって!!」

「こいつがField(フィールド)(場)にある限り、お互いにデッキを裏返してプレイする。You(ユー) see(シー)?」

「ぬぅ……素直に『天変地異』って言えば良いじゃん……」

 そう言いつつデッキを裏返す。

 はっきり言ってピンチだ! あのカードを相手にしたことなんて無いよ!!

 う~、デッキトップが丸分かりって、何でか妙に恥ずかしい……

「もう一枚だ。『Archfiend's(アーチフィンズ) Oath(オース)』!! 500のライフを払い、カード名を宣言! デッキトップがそのカードだったなら、手札に加えられる!!」

 え? でも『天変地異』の発動下ってことは……

「デッキトップは『Masked(マスクド) Dragon(ドラゴン)』。こいつは手札に加えるぜ」

 

井守

LP:4000→3500

手札:4→5(『Masked Dragon』)

 

 これって、実質ライフ500で毎ターン二枚のドローってこと!?

「このまま『Masked Dragon』をNormal(ノーマル) Summon(サモン)(通常召喚)。カードを三枚Set(セット)End(エンド) of(オブ) My(マイ) Turn(ターン)

 

 

井守

LP:3500

手札:1枚

場 :モンスター

   『Masked Dragon(仮面竜)』Def 1100

   魔法・罠

    Continuous Spell『Convulsion of Nature(天変地異)』

    Continuous Spell『Archfiend's Oath(デーモンの宣告)』

    Set

    Set

    Set

 

あずさ

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『六武衆の侍従』守備力2000

   魔法・罠

    セット

 

 

「もお~!! 素直に日本語で言えば良いじゃん!! カードもわざわざ英語版で揃えちゃって!! 用語とか英語名とか、発音まで調べてルビ振らなきゃいけない作者の身にもなりなよ!!」

「Ha!! そんくらいする覚悟が無くて小説なんか書けるかよ!! 何の苦労もせずに書ける小説なんざ、読む方にも書く方にとっても面白くも何ともねー!! それに海外版も、円高不況のご時世だから国産よりも安く揃えられるしな!! 恨むなら不景気な世を恨みな!!」

 ぬぅ~、そんなこと言われたら何も言えない。

 この不景気の世の中が憎い!! 日本政府は何やってるの~!!

 

 

「あの二人、何の話ししてるんだ?」

「さあ。前半はなぜだか一言も聞き取れなかったけど、今の日本の景気について話してるようね」

「今不景気っスからね……」

「百年に一度の大不況と呼ばれる昨今……」

「総理大臣はコロコロ変わって……」

「挙句震災でダメ押し……」

「私達、将来就職できますでしょうか……」

 

『はぁ……』

 

「???」

 

 

「わたしのターン! うぅ、デッキトップがまる見えだよ……ドロー!」

 

あずさ

手札:4→5(『六武衆の結束』)

 

(これだけでかなりの情報アドバンテージだよ。けどまあ、条件は同じだし、やっていくしか無いね)

「永続魔法『六武衆の結束』を発動! そして『六武衆-ニサシ』を召喚!」

 

『六武衆-ニサシ』

 攻撃力1400

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

 

「場に『六武衆』がいるから、このカードを特殊召喚するよ。『六武衆の師範』を特殊召喚!」

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

「『六武衆の結束』を墓地へ送って、カードを二枚ドロー!」

「この場合は一枚ずつドローしてもらう」

 どの道全部知られちゃうじゃん!

 

あずさ

手札:3→5(『六武衆-カモン』、『諸刃の活人剣術』)

 

 あ、でもこの次のドローで紫炎を引ける。

「このままバトル! ニサシで『仮面竜』を攻撃! 風刃(ふうじん)(はじめ)太刀(たち)!」

 ニサシの剣撃。武骨な見た目だけど以外に素早い。

「『Masked Dragon』の効果! こいつが戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の龍を呼び出す! Special(スペシャル) Summon(サモン)(特殊召喚)the Next(ネクスト)『Masked Dragon』!!」

 

『Masked Dragon』

 Def 1100

 

「でも、ニサシは場にニサシ以外の六武衆がいる時、二回の攻撃ができる! もう一度『仮面竜』に攻撃! 風刃(つぐ)の太刀!」

「Special Summon the Last(ラスト) 『Masked Dragon』!!」

 

『Masked Dragon』

 Def 1100

 

「『六武衆の師範』で攻撃! 壮凱の剣勢!」

Great(グレート)! なら、俺は効果で『Twin(ツイン)-Headed(ヘッディド) Behemoth(ベヒーモス)』をSpecial Summon」

 

『Twin-Headed Behemoth』

 Def 1200

 

 とことん守備を固める気?

「カードを一枚セット、これでターンエンド!」

「エンドフェイズにActivate the Continuous(コンティニュアス) Trap(トラップ)(永続罠)!!」

「!!」

「『Xing(シン) Zhen(ツェン) Hu(フー)』!!」

「な!?」

「こいつはあんたのFieldにSetされた二枚のカードをSelect(セレクト)(選択)し、こいつがFieldに存在する限り発動を封じるカードだ! 最初のターンにSetしたカード、そして今Setした一枚をSelect!」

「そんな!!」

 

 

(そうか。内容が分からない一ターン目の手札のうち、判明しているのは『六武衆の侍従』、ニサシ、師範、そしてあのセットカード。結束は前のターンのドローフェイズに引いたカード。正体不明の残り二枚両方が罠だとは考え難い。だとすれば、あの伏せカードは十中八九、『諸刃の活人剣術』)

 

 

(やっぱり分かるよね~。非常用の活人剣術が封じられた。もう一枚の最初のターンに伏せた『攻撃の無力化』も使えないや……)

 

(そういや親戚に一人、学生時代にこいつで一度魂を吸われたって男がいたが……まあフィクションだろうな……)

 

「ちなみに実際の表記なら、Xingのgは余分なんだぜ」

「へぇー。Hong(ホン) Kong(コン)(香港)みたいなものか」

「ついでにもう一枚だ! 『Solemn(サルム) Wishes(ウィッシズ)』!!」

 うぅ、また永続罠……

 

 

あずさ

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『六武衆の侍従』守備力2000

   『六武衆-ニサシ』攻撃力1400

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   魔法・罠

    セット(封印)

    セット(封印)

 

井守

LP:3500

手札:1枚

場 :モンスター

   『Twin-Headed Behemoth(ドル・ドラ)』Def 1200

   魔法・罠

    Continuous Spell『Convulsion of Nature』

    Continuous Spell『Arch fiend's Oath』

    Continuous Trap『Xing Zhen Hu(心鎮壺)』

    Continuous Trap『Solemn Wishes(神の恵み)』

    Set

 

 

「My Trun、Draw! 『Solemn Wishes』の効果で回復だ」

 

井守

LP:3500→4000

手札:1→2(『Horn of Heaven』)

 

「『Archfiend's Oath』の効果でライフを500払い、デッキトップを宣言」

 

井守

LP:4000→3500

 

 これで毎ターン、ノーコストで二枚ドローじゃん。

「デッキトップは『Dweller(ドゥウェラー) in(イン) the() Depths(デプス)』。こいつはそのまま手札に加える。こいつはドローじゃねーから回復は無しだがな」

 

井守

手札:2→3(『Dweller in the Depths』)

 

「そしてそのままNormal Summon」

 

『Dweller in the Depths』

 Atk1500+600

 

 『龍脈に棲む者』って、分かり辛いけどあんな見た目だったんだ……

「こいつは俺のFieldのContinuous Spellの数だけ、攻撃力を300ポイントアップさせる。Battle(バトル)!! 『Dweller in the Depths』でニサシにAttack(アタック)(攻撃)!!」

「うぅ……」

 

あずさ

LP:4000→3300

 

「この瞬間、Activate the Normal(ノーマル) Trap(トラップ)(通常罠)!! 『Conscription(コンスクリプション)』!!」

「え、『徴兵令』!?」

「相手のデッキトップを確認、そいつがNormal Summonオーケーのモンスターなら、俺のFieldにSpecial Summonされる。紫炎のおっさんは頂くぜ!!」

 な!!

 

『大将軍 紫炎』

 攻撃力2500

 

「紫炎のおっさんで師範の爺さんをAttackだ!!」

「うわ!!」

 

あずさ

LP:3300→2900

 

「くぅ……」

「最後にカードをSet。End of My Turn」

 

 

井守

LP:3500

手札:1枚

場 :モンスター

   『Twin-Headed Behemoth』Def1200

   『Dweller in the Depths』Atk1500+600

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   魔法・罠

    Continuous Spell『Convulsion of Nature』

    Continuous Spell『Archfiend's Oath』

    Continuous Trap『Xing Zhen Hu』

    Continuous Trap『Solemn Wishes』

    Set

 

あずさ

LP:2900

手札:4枚

場 :モンスター

   『六武衆の侍従』守備力2000

   魔法・罠

    セット(封印)

    セット(封印)

 

 

 うぅ、あの伏せカード、多分あのカードだし、絶対あれ使われちゃうよ……

 

 

「何だか凄いっスね。お互いに手札に何のカードがあるかほとんど分かってるから、その上で取るべき行動を考えながら戦ってる」

「だが実際のところ、あのデッキで闘い慣れている井守の方がかなり有利だ。デッキトップを分かっているとはいえ、あそこまでのプレイングは至難の技だ」

「どの道このままではあずさが危ないわね。戦い慣れていない状況なうえ、手札もばれてるから全然自分の決闘ができていない」

「今相手に知られてないカードって何枚だ?」

「お互い手札に一枚ずつ。勝負を分かつとすれば、その一枚が鍵になるでしょう」

 

 

「わたしのターン!」

 

あずさ

手札:4→5(『六武衆の露払い』)

 

 どうせ知られてるんだし、どうにでもなっちゃえ!!

「えーい、ままよ!! 『六武衆-カモン』を召喚!!」

 

『六武衆-カモン』

 守備力1000

 

「フィールドにカモン以外の六武衆がいる時、相手の場の表側の魔法・罠を破壊できる!」

「……Activate the Counter(カウンター) Trap(トラップ)(カウンター罠)、『Horn(ホーン) of(オブ) Heaven(ヘブン)』!!」

 やっぱり……

「『Twin-Headed Behemoth』をTribute(トリビュート)(生贄に捧げる)。そしてあんたのモンスター一体のNormal Summon、Flip(フリップ) Summon(サモン)(反転召喚)、Special Summonを無効にして破壊だぁ!!」

 ドル・ドラが『昇天の角笛』で綺麗な音色を奏でた直後、カモンと一緒にゆっくり天へと昇っていっちゃった。

 

Yeaaaaar(イヤーーーーーー) Haaaaaaa(ハーーーーーーー)!!」

 

『ヒッ(ル)トー!!』

 

 みんなで勝利の雄叫びかな。でも、そう簡単にはいかないんだよね。

「わたしは墓地のニサシとカモンを除外!」

What(ホワット)!?」

「『紫炎の老中 エニシ』を特殊召喚!」

 

『紫炎の老中 エニシ』

 攻撃力2200

 

「そいつは、残り一枚の手札か!!」

「そう。このカードは通常召喚できないけど、墓地の六武衆と名の付くモンスター二体を除外して特殊召喚できる。そして一ターンに一度、フィールド上のモンスター一体を破壊できる。君の場の……紫炎を破壊だよ!」

 うぅ、ごめんね紫炎……

「エニシの効果を発動させたターン、エニシは攻撃宣言できない。私は『六武衆の侍従』に、装備魔法『漆黒の名馬』を装備! 守備力200ポイントアップ! 更に侍従が破壊される時、代わりにこのカードが破壊される!」

 

『六武衆の侍従』

 守備力2000+200

 

「魔法カード『戦士の生還』を発動。墓地の紫炎を手札に戻すよ。ターンエンド」

「ちぃ」

 

 

あずさ

LP:2900

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆の侍従』守備力2000+200

   『紫炎の老中 エニシ』攻撃力2200

   魔法・罠

    セット(封印)

    セット(封印)

    装備魔法『漆黒の名馬』

 

井守

LP:3500

手札:1枚

場 :モンスター

   『Dweller in the Depths』Atk1500+600

   魔法・罠

    Continuous Spell『Convulsion of Nature』

    Continuous Spell『Archfiend's Oath』

    Continuous Trap『Xing Zhen Hu』

    Continuous Trap『Solemn Wishes』

 

 

(よし。私の手札には『六武衆の露払い』がいる。このカードを召喚して、場に六武衆が二体揃ったところで紫炎を特殊召喚して、露払いの効果で侍従を生贄にして『龍脈に棲む者』を破壊すれば、みんなの総攻撃で勝てる。幸い、エニシの攻撃力は『龍脈に棲む者』を超えてる。井守くんのデッキトップは『火竜の火炎弾』。『デーモンの宣告』で引ける二枚目が侍従かエニシを倒せるカードじゃなかったら、わたしの勝ち!!)

 

「My Turn、Draw!!」

 

井守

LP:3500→4000

手札:1→2(『Dragon’s Gunfire』)

 

 二枚目は……『タイラント・ドラゴン』!

 やった!! 攻撃力は高いけど呼び出す手段が無い!

 

「さーて、エニシを呼んで、装備カードを使ったのは良かったが、ワンターン遅かったな」

 

 ……はい?

 ……は! まさか、残りの一枚!!

「勝つための準備は全て整ったぜ!!」

 

 

「出るぞ! ヒルトの最強カード!」

「ああ、来るぜ!」

 

「え、なに? なんスかこの盛り上がり?」

「一体何が?」

「……まさか」

 

 

「な、なに?」

「ふ……Activate the Normal(ノーマル) Spell(スペル)(通常魔法)、『Dragon’s(ドラゴンズ) Gunfire(ガンファイア)』! 自分フィールド上に表側表示の龍が存在する時、相手に800ポイントのダメージを与えるか、守備力800以下のモンスター一体を破壊する。俺はあんたのライフに800のダメージを与える!」

「うぅ……」

 

あずさ

LP:2900→2100

 

「そして……Are you ready guys!?」

 

『Year!!』

 

「Put ya guns on!!」

 

『Year!!』

 

Guy(ガイ)!! よく見ときな!! この俺の戦いを!!」

 

『ヒッ(ル)トー!!』

 

「Acrivate!! The Normal Spell!! 『Dragon's(ドラゴンズ) Mirror(ミラー)』!!」

 

 

「やはり!!」

「うそ! まさか、あのカードを!?」

「呼び出すというのか!?」

 

 

 え!? 梓くんと明日香ちゃんと……み、三沢くんが驚いてる。なに? なんなの!?

「こいつはField及びGraveyard(グレイブヤード)(墓地)から融合素材になるモンスターを除外し、融合モンスターの龍をFusion(フュージョン) Summon(サモン)(融合召喚)させるカードだ」

「え? でも、えっと、井守くんの墓地のカードって……て、それでどうやって融合召喚させるの!?」

「分からねーか? My graveyardには三体の『Masked Dragon』と『Twin-headed Behemoth』。そして、Fieldには『Dweller in the Depths』が一体。龍の合計は、五体」

「だから……ん?」

 その時、私は何か、重大なことを思い出した。

「あれ? ちょっと待って? えっと、ドラゴン族が五体、それで融合……」

 ……

 …………

 ………………

 んぇ!?

「Ha! やっと分かったか?」

 思い出した瞬間、わたしの体がガクガクと震え始める。

「逆境が何だ!! 龍は滝を昇る物だ!! Fieldの『Dweller in the Depths』、Graveyardに眠る三体の『Masked Dragon』、『Twin-headed Behemoth』を除外!!」

 五体のドラゴンが、現れたでっかい鏡に吸い込まれていく。

 そして、その中から、徐々に現れるのは……

 

「Fusion Summon!! My Supremacy(スプレマシー)!! 『Five(ファイブ)-Headed(ヘッディド) Dragon(ドラゴン)』!!」

 

『Five-Headed Dragon』

 Atk 5000

 

「でっか……こ、攻撃力5000てあーた……」

「しっかし、英語のカードを使うのは良いんだが、どうにもこいつの英語名だけは気に入らねーな。まあ英語圏じゃ、God(ゴッド)なんて単語は滅多なことじゃ使えねーことだし、しゃーねーがな」

 まあ、宗教のこととか色々あるもんね……

 ……そうやってわたしは、この状況から絶賛現実逃避中です……

「さて、楽しかった決闘、終わりにしようぜ」

 そして、わたしの方を見る。

「いくぜ!! 『Five-Headed Dragon』、エニシのおっさんにAttack!!」

 五つの口にそれぞれ、エネルギーが溜まる。そして、エニシをジッと見てる。そして、井守くんが、手を上げた。

 

This(ディス) is(イズ) !! Five(ファイブ)-God(ゴッド) Dragon(ドラゴン)!!」

 

「普通にゴッドって言ってるじゃん!! うわぁーーーーーーーー!!」

 

あずさ

LP:2100→0

 

I(アイ) can't(キャント) lose(ルーズ)……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「ごめん。負けちゃったよ」

「良い決闘でした」

「全然だよ。今思えば、ライフを一ポイントだって削れなかったんだから」

「いいえ。手札もデッキもほとんどが筒抜けのあの状態で、よくあれだけ戦えたものです。そこは自信を持つべきですよ」

「そう、かな……」

「ええ。素晴らしかったですよ」

「……うん。えへへ/////」

 梓くんに褒められちゃった。それだけで元気が出てきたよ。

 

「あずさ」

 

 笑ってる時、井守くんの声が聞こえた。梓くんのことを呼んでるのかと思ったけど、

「良い決闘だったぜ。『Five-God Dragon』を使わされたのは久しぶりだ。最高に燃える決闘だった」

「井守くん……(またゴッドって……)」

 そして、右手を差し出してきた。わたしもそれを握る。

 

 パチパチパチパチ

 パチパチパチパチ

 

 みんなが握手をしてる。わたし達のこと、称えてくれてる。

 

「よくやったぞー!」

「まさかヒルトに切り札を出させるなんてな!」

「これからも一緒に頑張ろうぜ!」

 

 暖かい言葉を掛けてくれるみんなに、わたしも笑顔を返した。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「さて、約束は約束だ」

「やはり、しなければなりませんか?」

「ああ。そういう約束だからな」

 ……決闘に夢中で忘れてた。

 うぅ、結局梓くんのSMプレイを止められなかった。ちなみにわたしの他には、翔くんと明日香ちゃんが並んで見てます。三沢くんは見たくないみたいで、一人帰っちゃった。

「では、いざ……」

 そう言って、鞭を振り上げる梓くん。けど、鞭を持つその右手は、異様に震えてる。

「……やはりできない!! こんな、無意味に人を傷つける行為など!!」

 そう言って鞭を下ろす梓くん。この前、わたし達のこと斬滅しようとしなかったっけ?

「頑張れ梓さん! 俺を親の仇だと思って、思いっきりやってくれ!!」

「……親の……仇?」

 あれ? 梓くんの顔色が変わった。

「そう! 俺を親の仇だと思え!! 俺を罵り、大いに傷つけるんだ!!」

 うぅ、言ってること丸っきり変態だよ。

 

「親の……仇……」

 

 あれ? 梓くんの雰囲気が、段々……きょ……

 

 ガバッ

 

「え?」

 突然、梓くんは井守くんの襟を掴むとそのまま片手で持ち上げて、耳元に顔を近づけた。何か、段々足もとが地面から離れてるんですけど!!

「殺されると……償いに私に殺されると……刹那だけ待ってやる……言え!!」

 ひ!! 完全に凶王化してる!! 何で!? まさか本当に親の仇だと思ってるの!?

「はい……俺は……俺はあなたに、殺されます……」

 何だか興奮してる暇ないって声出してる!!

 梓くんはそれを聞いた直後、また地面に乱暴に投げつけた!!

 

 バッシゥッ!!

 

「ぐあ!!」

 な、なに今の凄い音!? 梓くんが鞭を井守くんの背中に振りおろした瞬間、教室中に大きな音が響いた!?

 

「にっくき井守を殺す私、私に殺されるにっくき井守……」

 

 バッシゥッ!!

「見ろ!!」

 

 バシバッシゥッ!!

「憎悪が!!」

 

 バシバシバシバッシゥッ!!

「永劫に!!」

 

 バシバシバシバシバシバシバシバッシゥッ!!

「輪廻する!!」

 バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ……

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:梓

 それ以来、井守さんは変わってしまった。

「井守さん……」

「ヒッ! お、おはよう、梓さん……」

 その表情には、あの頃のような明るさの面影すら見られない。私に脅え、全てに脅え、ただ恐怖し、全てから逃げている。そんな表情を浮かばせるだけ。

「その……」

「あ、じゃあまた、俺は行くから……」

「……」

 

 あの日以来、何度も話し掛けてはすぐに避けられてしまう。しかもそれだけでなく、あれだけ多くの友達に囲まれていたというのに、今ではその友達すら一人残らず彼から離れていったとのこと。

 かつての彼の友人に話しを聞いたところ……

 

「はっきり言って暗過ぎる。ジメジメしてる。近づいただけでカビが生えるぜ」

 

 などと、今までとは真逆の答えが帰ってきました。

 

 

「私は……井守さんの御為、願いを叶えたのではなかったのか? ……それとも、ただ傷つける意味を欲して……鞭を振るったのか……」

 

 

「うぅ……あぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「うぅああああああああぁはぁああああああああああああああうぅ……」

 

 ただ、怒りと悲しみと、後悔の念に苛まれ、涙を流しながら、地面を叩くことしかできない。地面に涙が落ちる。赤い……

 

「梓くん……」

 

 その時、後ろから私を抱き締める、暖かい感触。

「梓くんのせいじゃない……梓くんだけのせいじゃないから……」

 その慰みの言葉が、静かに胸に響く……

 私は……

「私が、あんなことをしたせいで……」

「わたしだって、お互い様だよ。わたしが勝ってれば、井守くんはああならなかった。わたしにだって、責任はあるよ」

「しかし……」

「だから、梓くん一人が苦しむことないよ。悪いのは、わたしも一緒だから……」

「……あずささん……」

 暖かい……全てを包んでくれるその温もり。

 悲しみも後悔も消えずとも、苦しみを和らげてくれるだけの癒しを与えてくれる……

「あずささん……」

 私の愛しい人……

 

 いつの間にか、流れていた涙は赤色から、透明色となっていた。

 

 

 

視点:翔

 こうして、井守君はしばらく痛みと梓さんの凶王化でのショックで立ち直れなくなり、一気に暗い性格になった。

 けど、あれから半月後には段々元に戻っていき、一ヶ月を過ぎた頃には完全に元の井守君に戻った。ただ、その後も梓さんを怖がって、その度に梓さんは落ち込んでいた。

 まったく。故意ではないにせよ、結果的に二人とも不幸になっちゃった。他人の趣味をとやかく言うことはできないけど、そういったプレイもほどほどにっていうことなのかもしれないっスね……

 

 

 

 




お疲れ様です。

……どうよ? 読みやすいか否かで言えばぶっちゃけどうよ?

紫炎の場違い感を出したくて和名は最初の一回しか出してないんだが、ずっとあった方が良かったかしら。

……まあそれはさておき、お話の中で誰が一番悪かったのかな? 大海には正直分からん。

まああれだ。皆さんも趣味の過多は要注意ってことで。

じゃ、七話まで待っててね。



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第七話 ボクと遊ぼう

七話目いくよ~。
今回もオリキャラが出ます。


行ってらっしゃい。



視点:あずさ

 

 チュンチュン……

 

 皆さん、おはようございます。平家あずさです。

 現在早朝五時。わたしは早朝トレーニングの真最中です。

 普段は朝に弱いわたしですが、時々目が覚めちゃうことってあるよね。そんな時、あなたはどうしますか? わたしは今のようにトレーニングを行っています。

 いやぁ、トレーニングは大切だよねぇ。いつ何が起こっても平気なように。

 ジョギングに始まり、筋力トレーニング、シャドー格闘技、板割りにバット割りにブロック砕き、岩石砕きに巨木倒しなどなど、定番のトレーニングをこなしていきます。

 中でも一番辛いのが、木を倒すのではなく引き抜く訓練。倒すのは殴れば簡単だけど、引き抜くには結構技術がいるんだよねぇ。わたしの場合は、まず木を殴って貫いて、そうして手を突っ込んだ状態のまま引っ張り上げます。昔は両手だったけど、今では片手で抜けます。これを片手で五本ずつ、計十本。

 ちなみに今の目標は、木を貫かずに片手で握って引っこ抜くことです。持つところが広いから握り締めるのが難しいんだよね。

 わたしってまだまだ握力弱いなぁ。リンゴや自然石は握り潰せるけど、木を握ることもできないんだから。もっともっと鍛えないと。

 

 そんなことを考えてるうちに、十本目の木を引き抜き終わっちゃった。ちなみに引き抜いた後はちゃんと元に戻します。自然は大切にしないとね。

 いやぁ良い汗掻いたぁ~。水浴びしようっと。

 森の中にちょうどいい滝壺があるんだよね。こんな時間に人はいないから服とか脱いじゃっても大丈夫だし。あ、でもこの間お猿は見たけど。まあ……お猿なら良いや。

 

 バシャ

 

 あれ? 滝以外の音だ。滝壺に何かいる? 魚かお猿でも泳いでるのかな?

 

 バシャ

 

 違う。音の大きさからして、少なくともお猿や魚よりずっと大きな物が水を叩いてる。多分人間だね。人の肌が水を叩いた時ってこんな音するもん。

 けど、わたし以外にこんな所に来る人なんて、誰なんだろう。

 そう思いながら、わたしはゆっくり滝壺に近づいて、岩に隠れながら眺めます。姿は見えないけど、気泡が昇ってるから、水中に潜ってるみたい。でも、わたしだけの穴場だと思ってたのに、ちょっとだけショック。

 なんて思ってる時に、気泡は段々大きくなっていく。そして……

 

 バシャ

「ふぅ……」

 

 て、梓くんじゃん!!

 梓くんはこっちの岸まで泳いで、地に足を着いて川から上がりました……

 って!! 全裸!!

「ぶはぁ……!!」

 は、鼻血が……ばっちり見ちゃったよ~!!//////

 

「おや、あずささん」

 

 しかもばれたし!!

「どうして隠れているのですか?」

 どうしてって//////

「あ、あ、あ、梓くん、まず服を着てもらえる?//////」

「服ですか? 分かりました」

 何だかよく分かってないって声出してるし。うぅ~、梓くんには羞恥心て物が無いの?

 そう思いつつ、もう一回チラッと……

「ぶはぁ……!!」

 まだ着てない! また見ちゃった! かなり綺麗な体してるよ!!

 ……それにしても、梓くんて、やっぱり体が細いなぁ。無駄な贅肉どころか、目立つような筋肉はほとんど付いてないし、肌なんて真っ白な上に滑々。男子と女子じゃ体の構造が違うけど、女子って言われても全然違和感無いや。多分わたしよりも細い……

 何だか悔しい……

 一応あれから時々お弁当を作って梓くんに渡してる。そしたらちゃんと食べてはくれるけど、やっぱり普段の食生活は変わってないみたい。

 けど、あんなにほっそりして綺麗な体なのに……意外と大っきかったな//////

 

「着替えました」

 

 !!

 その声で、わたしはゆっくりと岩から出た。

 おぉ! いつもの着物じゃなくて、かなり動きやすそうな浴衣着てる。まあ私もジャージだし、当然か。

「どうしたのですか? お鼻が真っ赤ですよ」

「なっ、何でもないよ! それより、随分早起きだね。お散歩?」

「いえ。毎朝行っている訓練後の水浴びです」

「訓練?」

 そう聞き返すと、梓くんは森の奥の方を指差した。そこには普通に気が並んで立ってる。と思ったけど……

「あれ?」

 何か変だな。何か分からないから、近づいてみる。

 何か、真ん中に線が入ってる? そう思いつつ、その木を触ってみると……

 

 バキバキバキ……

 ズンッ!!

 

「えぇ!?」

 木が、縦に割れた!?

 いや、割れたんじゃない! 綺麗に斬られてるよ!!

 それに気付かなかったけど、普通に立ってるようで、縦に割れてる木は一本や二本じゃない!!

「一日に五百本の木を斬る。それが訓練です」

「五百本!?」

「ええ。木を斬るために移動することで速度を、斬る際に踏み込みを入れることで足腰と脚力を、木を斬ることで抜刀の素早さ、腕力、肩の力を、それぞれ鍛えることができます。木を斬るという動作には、鍛えるべき部分を鍛えるための要素が全て詰まっているのです」

「へぇ、すごい!」

「やはり訓練はしておかないと。いつ何が起こっても平気なように」

 おぉ! わたしと同じ意見だね。

「実はわたしもトレーニングが終わった所なんだ」

「ほぉ、あずささんも早朝の訓練を?」

「うん。もっとも早起きは苦手だから、目が覚めた日だけなんだけどね」

 その話しに、梓くんは笑った。もう、気にしてるんだから笑わないでよ!

「どのようなトレーニングを?」

「えっとね、普通に走ったり筋力トレーニングだったり、岩を砕いたり木を殴り倒したり、木を片手で引っこ抜いたり」

「木を、片手でですか!? どうやって!?」

 そ、そんなに驚くことなの?

「えっとね……じゃあ見せてあげる」

 えっと、この辺に適当な木は……あった。

「見てて」

 まず思いっきり殴って貫いて、そのまま上に向かって引っ張って、持ち上げて、と……

「簡単でしょ」

 そう言いつつ、抜いた木を思いっきり上に投げる。

 って、いけない! 梓くんの方に……大丈夫だね。

 梓くんは平然と刀を取り出して(本当にどこに持ってたのかな?)木を真っ二つに斬っちゃった。うわ、相変わらず抜き身が全然見えないや。

「なるほど。これだけの訓練をしているからあれほど強いのですね。私が勝てない訳です」

 あははははは、うふふふふふ……

 

 ……え?

「え? 何で? 梓くんの方が強いよ」

「またそんなご謙遜を……」

「謙遜なんかじゃないよ! 梓くんこそ、わたしに気を遣うことなんて無いよ!」

「……私には分かります。あの夜のことは、覚えていますよね」

 あの夜……わたし達が初めて会った、女子寮でのことだね。

「あの闘いで、十代さん達に止められる直前、わたし達はお互いに向かい合いましたよね」

「うん」

「あの時は頭に血が昇っていましたが、あの後すぐに分かりました。私の刃が届く前に、私はあなたに砕かれていたと。あの闘いに負けていたのは私でした」

 いや、違うって!!

「逆だよ! あのまま打ちあってたら、私の拳が届く前に間違い無く真っ二つにされてたよ! あのまま続けてたら負けてたのはわたしだよ!!」

 

「……」

「……」

 

『ぷっ、あははははははは……!』

 

 二人で話しながら、最後にはそうやって大爆笑しちゃった。

「お互いに、相手が自分よりも強いと認め合っていたのですね」

「本当はどっちが強いか分からないのにね」

「ただ私は、もうあずささんとは闘いたくはありませんが」

「私もだよ。もうわたし達友達だしね」

「ええ」

 やっぱり梓くんと話してると楽しいよ。

 梓くんとずっと一緒にいたいなぁ。

 

 

 

視点:梓

 さて、今日も無事に授業が終わりました。

「梓ー」

 この声は、十代さん。振り返ると、翔さんと共にこちらに歩いてきました。

「この後何かあるのか?」

「いえ、特に予定はありませんが」

 いつも誰かに話し掛けられて開くお茶会も、今日はありません。

「じゃあ、この後俺達の部屋に来ないか?」

「十代さんのお部屋ですか? そういえば、私の方から出向いたことは一度もありませんでしたね」

「ああ。お前の部屋は何度か行ったことあるし、たまには俺の部屋にも来いよ」

「分かりました。では、お土産を持って参りますね」

 

「私も行きますわ!!」

 

 突然そんな声が響き、ももえさんがやってきました。そして、否応無しに翔さんの手を取ります。

「私もお邪魔させて下さい、翔君/////」

「は、はあ……どうぞ……」

 みんなで着物を着た日以来、ももえさんは翔さんに対して随分積極的になっています。翔さんのことを随分気に入ってしまったようですね。ただ、翔さんはあまり嬉しそうではありませんが。

 

「おぉ! わたしも行っていい?」

 

 !! あ、あずささん、一体どこから////

「あら、私もいいかしら」

 明日香さんまでいたのですか。ジュンコさんもいますが、ほとんどついでといった感じですね。

「いいぜ。みんな来い」

「では、お土産を取りに戻ってすぐに参ります」

「別にそんなに気を遣わなくてもいいって」

「いいえ、せっかく皆さんで集まるのですから」

 そんなふうに会話して、私は一旦皆さんと離れました。しかし同じ学園の寮とはいえ、他人の家に行くなど、考えてみると初めての経験ですね。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 さて、お土産を持ち、オシリスレッドにやってきました。なるほど、話には聞いていましたが……その、大変趣があります。

 

「返せ!!」

 

 な、何ですか!?

 

 

 

視点:外

「返せよ!! 俺のカード返せよ!!」

「バカか!お前みたいなゴミが持ってていいカードじゃねえんだよ。こんなカードを持って生意気起してねーで、屑カードをかき集めてカード遊びするのがお似合いなんだよレッドのゴミは!!」

 一人のオシリスレッドの生徒を、五人ものオベリスクブルー生徒が取り囲んでいた。

 

「おい! 何やってるんだ!!」

 

 十代が部屋からその生徒に向かって叫んだ。そして、明日香やあずさ、翔達と共に部屋から出てきて、彼らの前に立った。

「お前ら、自分が何やってるのか分かってるのか!?」

「分かってるさ。せっかくのレアカードをゴミが持つせいでゴミにならないよう回収してやってるんだ。こいつの言う大事なカードを有効活用してやるって言ってるんだぜ。感謝はされても文句を言われる筋合いは無えよ」

「てんめぇ……!!」

 いつの間にか、部屋からレッドの生徒達が次々と顔を出していたが、五人は気にしていない。

「……ちょうど良い。お前のカードもよこせ。お前確か、イエローに昇格できたのを断ってたよな。レッドのゴミの分際で、そんなこと許されるって思ってるのか? 罰としてカード全部置いて行けよ」

「何なんスか、その訳の分からない理屈は!?」

「さっきから言ってること無茶苦茶なんだなぁ!!」

「うるさい!! いいからカードをよこせ!!」

 そんな叫びと同時に、五人が一斉に十代ら七人を取り囲んでしまった。

「あなた達、自分のしていることが恥ずかしくないの!?」

 明日香が叫ぶが、男子達は卑しく笑うだけ。

「ちょうど良い。前々からお前のことも気に食わなかったんだよなぁ」

 五人の中心に立っている、鉄パイプを持った男子が、静かにその重低音の声を発した。

「何が一年のクイーンだよ。できる奴もできない奴も、女子は全員ブルーに入る癖に、そんな吹き溜りみたいな場所で一番になったからって、粋がってんじゃねーぞ」

「な、吹き溜りですって!?」

「喋るなよゴミが。ケガさせねーからカード出せや。でないとその顔潰すぞ」

 徐々に、口調から表情から、冷たい物に変わっていく。

 直前までは単純に人間を見下している顔をしていたのが、現在は見下すどころか、同じ人間としてすら見ていない。彼の言う通り、ゴミを見ている目。

「そんなに俺のカードが欲しいなら、俺と決闘しろ!」

 

 ゴッ!

 

「ぐっ!!」

『十代(兄貴)!!』

 十代が叫んだ直後、男子は手に持っていた鉄パイプで十代の腹を殴った。

「ゴミの癖に人間様に口聞いてんじゃねえよ。何で俺がお前みたいなゴミと遊んでやらないといけないんだ? あ?」

 十代はその痛みに顔を歪め、地にひざを着く。明日香も続いてにひざを着き、十代に寄り添った。そしてそんな二人を、男子は変わらず冷たい目と顔で、後の四人は卑しく笑いながら見ていた。

 

「あんた、よくも……」

 

 当然、それだけのことをされて、あずさが黙っていられるわけが無い。

(まずいわ!! あずさがキレた!!)

「何だ? 何か文句があるのか?」

 その問いに、あずさは応えない。応える代わりに、

 

 ドゴォッ!!

 

 黄色の手甲を着け、地面を本気で殴った。その瞬間地震が巻き起こり、あずさを中心に地面が陥没し、その場にいた生徒全員が倒れた。

「口で言ってもダメ。決闘で決めようとしたら暴力。だったら()も、腕力に物を言わせてもらっても文句は無いね」

 それは、梓と対峙した時に一度だけ見せた姿。梓の凶王化と同じ、あずさのキレた姿。

「……やっちまったなぁ」

 だが、男子は尻餅を着きながらも全く堪えておらず、脅えてすらいなかった。ただ笑いながらゆっくりと立ち上がり、服に着いた土をはらう。

「言っとくが、俺はお前には(・・・・)一切手を出してない。このまま被害届を出して、お前は間違い無く退学にしてやるよ」

「ふざけろ!! そんなバカな話が本気で通ると思ってんの!! こっちにはレッドの被害者だっているんだよ!! どうせ今回が初めてじゃないんでしょう!?」

 あずさがレッド生達を見ながら叫んだ。

 

『……』

 

 だが、レッド生徒は全員、顔を背ける。

「え、みんな、何で?」

 あずさの顔が疑問に染まる。そして、男子は変わらず、笑っている。

「そりゃあ全員、ゴミ掃除はされたくないだろうからな」

「ゴミ掃除?」

「……俺が一言親父に頼めば、お前達ゴミ共を全員、家庭崩壊させることなんて訳無いんだぜ」

「は?」

「……佐倉財閥。聞いたこと無い?」

「!!」

 あずさの顔が、同時にそこにいる全員の顔が驚愕を浮かばせた。

 『佐倉財閥』は、かの『万丈目グループ』に並ぶ大企業である。だが知名度だけで言えば、万丈目グループを遥かに凌ぐ。それは、この場にいる全員を黙らせるには十分過ぎた。

「分かったか? 佐倉さんにとってはお前達全員、本当のゴミなんだよ。俺達を潰せるもんなら潰してみろよ。その前に、一生生き地獄を見せてやるけどな! お前達じゃない。お前達の家族に、だけどな! あはははは!!」

「……」

 取巻きの一人が叫んだが、それを、佐倉は冷めた目で見ていることに誰も気付いていない。

 あずさも、明日香に十代達も全員が怒りに震えるが、何もできずにいた。

 間違っている。それは分かっているのに、佐倉以上の力が無いばかりに、何もできない。

 佐倉は、なぜかうんざりした様子で、一言話した。

「安心しろ。俺は優しいから、お前達全員カードを全部渡せば許してやる」

 その言葉に、全員の顔がわずかにだが緩んだ。

 だが、

「だが、お前はダメだ」

 あずさを指差し、卑しく笑う。

「お前は俺に手を出したからな。カードを全部渡して、俺達全員の相手をさせて、そのうえで退学だ」

「!?」

 そんな佐倉の言葉に、あずさの顔が一気に青白く変わる。

「当然だろう? ゴミが人間様に手を出したんだ。これでも全然足りないくらいなんだ。だがまあ顔や体はマシな方だし、これで許してやるんだから感謝しろよなぁ。ククク……」

 

 ポン

 

 佐倉が笑った時だった。突然後ろから、佐倉の肩に手が置かれた。

「もしよろしければ、私と決闘して下さいませんか?」

 

『梓(さん)!!』

 

 

 

視点:佐倉

 ほぉ、誰かと思ったら、今年期待の美人君、水瀬梓か。

「俺と決闘?」

 ふざけたことを。

「お前、自分が何言ってるのか分かってる?」

「もちろん。あなたにとって、私はゴミなのでしょう?」

 何だ。分かってんのか。

「だったら触るんじゃねえ。体が腐るだろうが。それに、誰がお前と決闘なんか……」

 

 カラン……

 

 言い切る前に、足元からそんな音が聞こえた。見てみると、ずっと手に持っていたはずの鉄パイプが、縦に真っ二つになっている。

 

 ジャキ

 

「……」

 その時、理由が分かった。鉄パイプは斬られたんだ。こいつ、水瀬梓は俺の首筋に刀を宛がう。

「断ると言うのなら、私はここで貴様を殺す」

 ……ほぉ。

「てめぇ! 自分が何言ってるのか分かってるのか!?」

 四人の取巻きの一人が叫んだ。だが、こいつの表情は変わらない。

「私はゴミだ。なら、たかがゴミが人間を殺した所で罪は問えまい」

「ふざけるな!! 自分が何言ってるのか分かってるのか!?」

 二回目。他に掛ける言葉は無いのか?

「貴様らを誅戮(ちゅうりく)すれば、全て帳消しだ」

 こいつ、本気か? 本気で俺のことを……

 

 ……くくく、面白いなぁ。今まで威勢ばかりが立派なゴミばかり見てきたが、こんな奴もいたんだなぁ。

「そうだな。俺も命は惜しい。受けてやるよ。その決闘」

 そう笑って言ってやると、水瀬梓は刀を鞘に納めた。

「これ以上こいつを怒らせるのは怖いし、さっきの話は無しにしてやるよ」

 さっき地面を殴った女子にそう言ってやると、緊張が解けたように地面にひざを着く。

 まったく、最近のゴミはこれだからダメなんだよ。

 ゴミでも粋がるっていうなら、最後まで毅然と抵抗してみろってんだ。何の抵抗も無しに、ちょっと力を示せばすぐに心までゴミになりやがって。これだから掃除したくなるんだ。

 

 

 俺達は互いに向かい合い、決闘を行う姿勢を作った。そしてその周りを、取巻きのゴミ共と、他のゴミ共が取り囲む。

「私が勝てば、私の持つカードは全てあなたの物だ。そして、アカデミアを去りましょう」

 

『梓(さん)(くん)!!』

 

 その目に嘘は無いようだ。ふふ、本当に面白い。ゴミにしておくには勿体ない覚悟を持ってやがる。

「良いだろう。お前が勝てば、ゴミ共から奪ったカードは全部返してやるよ」

『佐倉さん!?』

 取巻きのゴミ共が叫んでいるが、いちいち気にしない。四人とも、勝手に俺に付いて、好き勝手してただけだからな。

「当然、俺も退学の条件は同じだ。もちろん、この決闘では不正はしないと約束する」

「……」

「どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」

 さっきから俺の顔をジッと見てる。だが、それは単純に、対戦相手や仇を見る顔とは違う。

「私の勘違いなら謝罪しますが、あなたは明らかに、あの四人とは違う。なぜあのようなマネを?」

 何だ、そんなことか。

「さあ、何でだろうな」

 それだけ応えて、決闘ディスクを構える。水瀬梓も構えた。

 

 

『決闘!!』

 

 

 

 




お疲れ様です。

ちなみに梓の言っていた、木を斬ることでのトレーニング効果ですが、適当です。
一応その辺誤解しないでね。大海にも効果のほどは分からん。

決闘は次回。
ほんじゃ待ってて。


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第七話 ボクと遊ぼう ~決闘~

決闘パ~ト~。
ちなみに、オリカが出ます。つっても原作オリカだけどね。
一応そういうのは後書きで書いておくから。気になったら見てみて。
ほんじゃ、行ってらっしゃい。



視点:あずさ

 うそ……

 梓くんが、この決闘に負けたらいなくなっちゃう……

 

 いや……

 いやだそんなの!

 

 梓くんが来てくれたからわたしは助かったけど、それじゃ意味無いよ!

 もっと梓くんのこと知りたいよ! 話したいことだってたくさんあるんだよ! 梓くんと、ずっと一緒にいたいよ!!

 

 だから……

 

「梓くん!! 負けないでー!!」

 

 

佐倉

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

「俺の先行、ドロー」

 

佐倉

手札:5→6

 

「永続魔法、『凡骨の意地』発動。これで俺はドローフェイズ中に通常モンスターをドローした時、それを公開することで続けてドローできる」

 

「出た! 佐倉さんの必勝パターンだ!!」

 取巻きの一人が叫んだ。あのカードを使うってことは、彼のデッキは通常モンスター中心のデッキってことだね。

 

「『ジェネティック・ワーウルフ』を召喚」

 

『ジェネティック・ワーウルフ』

 攻撃力2000

 

「カードを伏せる。これでターンエンド」

 

 

佐倉

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『ジェネティック・ワーウルフ』攻撃力2000

   魔法・罠

    永続魔法『凡骨の意地』

    セット

 

 

 梓くん……

 

「私のターン!」

 

手札:5→6

 

「速攻魔法『サイクロン』! 対象は『凡骨の意地』!」

 やった! 『サイクロン』が『凡骨の意地』を吹き飛ばした!

「更に、『氷結界の舞姫』を召喚!」

 

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700

 

 梓くんの前に、紫色の服を着た、ツインテールの女の子が踊りながら現れた。

 うわぁ、綺麗……

 

「舞姫の効果。手札の氷結界を任意の枚数見せることで、その枚数分相手の場のセットされた魔法・罠カードを手札に戻します。私は手札の『氷結界の虎将 グルナード』を公開し、そのセットカードを手札に戻して頂く」

「……戻る前に使う。罠カード『強欲な瓶』。カードを一枚ドロー」

 

佐倉

手札:3→4

 

 手札が増えた! そっか、さっきの『凡骨の意地』とのコンボを狙ってたんだ!

 けど梓くんは変わらない。いつもと同じようにカードをプレイしてる。

「フィールド魔法『ウォーター・ワールド』を発動!」

 周りが水で囲まれた。アトランティスは海底だったけど、『ウォーター・ワールド』はまるで、水の遊園地みたいに、青くて綺麗な海が広がってる。あ、イルカ。

「これで水属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ポイント下がります」

 

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700+500

 

「バトル! 舞姫でワーウルフを攻撃! 雪斬舞踏宴(せつざんぶとうえん)!」

 舞姫が踊りながら、両手に持つ雪の結晶でワーウルフを斬り裂いた!

 

佐倉

LP:4000→3800

 

「カードを二枚伏せます。ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の舞姫』攻撃力1700+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

    セット

    セット

 

佐倉

LP:3800

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「やった! 相手のフィールドを空っぽにすることができた!」

 思わず叫んじゃった。だけど、明日香ちゃんに十代くんは、どうしてだか深刻な顔してる。

「ちょっと危ないかもしれないわね」

「ああ」

 え? 何で? 梓くんの方が有利じゃないの?

「佐倉の手札は次のドローで五枚。梓の伏せカードにもよるけど、最悪すぐに逆転される可能性もある」

「おまけに相手のデッキは通常モンスターが中心のデッキ。もしかしたら、梓の使った『ウォーター・ワールド』が(あだ)になるかもしれない」

 仇って……

 あ!! そうか!!

 

「俺のターン」

 

佐倉

手札:4→5

 

「何も『凡骨の意地』を使わなくても、いくらでも手はある。魔法カード発動『魔の試着部屋』」

 あれは!!

「ライフを800払い、デッキの上から四枚のカードをめくる。そしてその中の、レベル3以下の通常モンスターを全て特殊召喚できる。それ以外はデッキに戻しシャッフルする」

 

佐倉

LP:3800→3000

 

 デッキの上からカードを四枚めくって、結果は……

「俺はこの四体を特殊召喚」

 

『マッド・ロブスター』

 レベル3

 攻撃力1700+500

『ジェリー・ビーンズマン』

 レベル3

 攻撃力1750

『深海の長槍兵』

 レベル2

 攻撃力1400+500

『深海の長槍兵』

 レベル2

 攻撃力1400+500

 

「な! 四体のモンスターだと!!」

「ありえない!」

「い、イカサマしてるんじゃ……」

 

「隼人さん!!」

 隼人くんが言い切る前に、梓くんがそれを遮った。

「彼はそんなことはしない。それ以上の言葉は許しません」

「そんな……どうしてそんなこと言えるんだな?」

 本当だよ。あれだけ酷いこと言って、あれだけ酷いことされたのに、どうして?

「彼は決闘前に言いました。この決闘で不正はしないと。彼はそんな下らない嘘をつく人間ではありません」

「……」

 隼人くんは何も言わなくなった。梓くんは、あれだけ酷いことをした相手の言葉を信用してるってこと?

「続けて下さい」

「……バトル、『マッド・ロブスター』で舞姫を攻撃」

 相討ちにする気!? これで残りの攻撃を受けたら梓くんは……

「速攻魔法『月の書』! フィールド上のモンスター一体を裏守備表示に変更。対象は『マッド・ロブスター』」

 

 セット(『マッド・ロブスター』守備力1000-400)

 

 よし! 『マッド・ロブスター』が守備表示になった!

「さすがに簡単にはいかないか。速攻魔法『速攻召喚』発動。手札のモンスター一体を通常召喚する」

「まさか、既に手札に……」

 まずい!! あのカードが来ちゃう!!

「『マッド・ロブスター』と『ジェリー・ビーンズマン』を生贄に、『スパイラルドラゴン』を召喚」

 

『スパイラルドラゴン』

 攻撃力2900+500

 

「やはり、そのカードがありましたか」

「さすがに水属性使いなら知ってたか。じゃあ、バトルだ。『スパイラルドラゴン』で攻撃。スパイラルウェーブ」

 ドラゴンがヒレを大きく振って、そこから渦が巻き起こった! 危ない! 舞姫がやられる!!

「できればもっと先で使いたかったのですが……速攻魔法『エネミーコントローラー』! これであなたの『スパイラルドラゴン』を守備表示に変更!」

 

『スパイラルドラゴン』

 守備力2900-400

 

 『スパイラルドラゴン』が攻撃を止めて、守備表示になった。

「な、何とか助かった」

「でも、次のターンでどうなるか」

 翔くんとももえちゃんが呟いた。

「仕方ない。カードを二枚伏せてターンエンド」

 何か手はあるの? 梓くん!?

 

 

佐倉

LP:3000

手札:0枚

場 :モンスター

   『スパイラルドラゴン』守備力2900-400

   『深海の長槍兵』攻撃力1400+500

   『深海の長槍兵』攻撃力1400+500

   魔法・罠

    セット

    セット

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の舞姫』攻撃力1700+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

 

 

「私のターン!」

 

手札:1→2

 

「……私は魔法カード『クロス・ソウル』を発動!」

 おお! 今までも何度か使ってきたカードだね!

「これであなたの場のモンスターを生贄に、私はモンスターを召喚します。あなたの場の『スパイラルドラゴン』、そして私の場の舞姫を生贄に、『氷結界の虎将 グルナード』を召喚!」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 攻撃力2800+500

 

「ちっ、『スパイラルドラゴン』が……」

「『クロス・ソウル』を発動したターン、私はバトルフェイズを行えません。これでターンエンド」

「なら、エンドフェイズに永続罠『神の恵み』を発動。これで俺がドローする度、俺はライフを500回復する」

 そんなカードまで入ってたんだ! 『凡骨の意地』と合わせたら大変なことになってた!

 

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 グルナード』攻撃力2800+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

 

佐倉

LP:3000

手札:0枚

場 :モンスター

   『深海の長槍兵』攻撃力1400+500

   『深海の長槍兵』攻撃力1400+500

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

 

 とは言え、さすが梓くん。たった一ターンで『スパイラルドラゴン』を対処しちゃった。これなら勝てるよ!

 

「ドロー」

 

佐倉

LP:3000→3500

手札:0→1

 

(……まだ、デッキは応えてくれるか……)

「装備魔法『下克上の首飾り』。こいつを『深海の長槍兵』に装備」

「!!」

 あの装備魔法って!!

「こいつは通常モンスターにのみ装備可能。装備モンスターが自身よりレベルの高いモンスターと戦闘を行う時、そのモンスターとのレベルの差×500ポイント攻撃力がアップする。バトル、長槍兵でグルナードを攻撃」

 

『深海の長槍兵』

 攻撃力1400+500+3000

 

LP:4000→2400

 

「梓くん!!」

「……もう一体の長槍兵でダイレクトアタック」

 

LP:2400→500

 

「ターンエンド」

 

 

佐倉

LP:3500

手札:0枚

場 :モンスター

   『深海の長槍兵』攻撃力1400+500

   『深海の長槍兵』攻撃力1400+500

   魔法・罠

    装備魔法『下克上の首飾り』

    永続罠『神の恵み』

    セット

 

LP:500

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

 

 

「……ドロー!」

 

手札:0→1

 

(……まだ、諦めないか……)

「佐倉さん」

 ん?

「決闘をしていれば分かります。あなたはやはり、あのようなマネをする人間ではない」

「……」

「なぜ、あのようなことを?」

「……そんなこと、気にしてる場合じゃないと思うぞ」

「……そうですか」

(……そうさ。こんなこと、人に話して聞かせるようなことじゃない……)

 

 

 

視点:佐倉

 いつからだったか。

 俺が、他人のことをゴミだと思うようになったのは。

 

 大金持ちの家に生まれ、与えられたのは望みもしない人生だった。

 毎日毎日、親を継ぐための英才教育の毎日。娯楽と呼べるものなんか皆無だった。そんな環境だったから、勉強もスポーツも、人よりできるのが当たり前だった。

 だからだろうな。俺がどれだけ頑張って、努力した所で、周りは「それが当然だ」という目で見る。褒められたことも当然あるが、誰も俺自身を見ず、佐倉という名前ばかりを見ていた。どうせ本心じゃ、「できて当たり前」だと思っていたんだろう。この頃から、俺は自分以外の人間が、自分より遥かに劣る存在。そんな風に感じ始めていた。

 決定打になったのが、弟の存在。

 二つ年下の弟は、俺が小学生を終えようとした頃には、既に高校生の問題を解くようにすらなっていた。おかげで最初こそ俺を見ていた家族は全員弟を見るようになり、徐々に俺は、まるで家にはいない存在のように扱われていった。もちろん変わらず勉強はしたが、どの道誰にも見られない。仮に見られたとしても、無駄な努力、必死な抵抗、中には文具の無駄使いなんて陰口を叩かれたこともあったっけ。

 とにかく俺自身の価値を見いだそうとする人間は一人もいなかった。

 そして、それこそまるでゴミを捨てられるような感覚で、俺は決闘アカデミアの中等部に追いやられた。

 

 だが実を言えば、それが嬉しくもあった。

 アカデミアに来る以前から、決闘は好きだった。だから偶然とはいえ、初めて自分の好きなことができることに、心の中では歓喜していた。おまけにここに来たことをきっかけに、親は放任を決め込んだらしく、親にも何も言われず、好きにできる。そう思った。

 なのに、そこでも俺には佐倉の名前が付いて回った。

 いわゆる庶民の生徒ならともかく、ちょっと良い所で育った人間はすぐに佐倉の名に気付き、何を狙ってか俺を持ち上げるようになった。俺のことを知った上で俺を気にしなかった人間なんて、同じブルーの万丈目くらいだな。あいつだけは、似たような境遇もあって常に俺を対等の存在として見ていた。

 だが、それだけだ。特に仲が良かったわけでも無く、口を聞いたこともほとんど無い。お互いに顔と名前を知っているというだけの関係。

 他は全員、俺に何らかの利益を求めて関わってくるだけ。万丈目に継いで二位の成績を取っても、むしろそれが当たり前で、結局は佐倉の名前しか見ていない。

 佐倉の名前にも、あれだけ好きだった決闘にも、もううんざりしてしまっていた。俺を見ず、佐倉の名前しか見ない。そんな人間達を、俺は完全にゴミだと感じるようになった。

 

 気が付けば、俺はカードのカツアゲをしていた。どんな人間も、佐倉の名を出した途端何もしてこなくなくなる。間違っている、最低な行為だって分かってるくせに、少し脅して、佐倉の名を出しただけで、口応えさえしてこない。本当にゴミのように大人しく、腐っていくだけ。

 正直な話し、俺が親に何か言ったところで、親は相手さえしないだろうがな。

 月に明らかに必要以上の仕送りをしてくる。それはつまり、それだけあれば十分だろうから帰ってくるなという意思表示だ。

 実際、中等部に来てから今日までの四年間、必要なこと以外は電話一本、手紙さえ送ってよこさなかったしな。過去に一度だけ帰ったことはあるが、親からも使用人からも、あからさまに嫌な顔をされたのは今でも忘れられない。

 そして当然、俺だってカツアゲなんて行為が間違っていることくらい分かってる。親とか家での扱いとか、そんなことで正当化されるような行為でも無い。そして、そんな間違っていることを平気でしている俺の方こそ、人間の腐った本当のゴミだってこともな。

 分かってるのに、そうやって誰かを傷つけ、苦しめる以外、自分の存在意義を見いだせるものが無かった。そんな俺に、何とかおこぼれに預かろうと、四人の柄の悪いブルー男子は取巻きになった。別に拒絶する理由も無かった俺には、そいつらが何をしようとどうでも良かった。

 とっくに飽きて、嫌になった後も、俺はカツアゲをし続けた。

 

 だが、カツアゲを続けていたのも、もしかしたらこの水瀬梓のように、抵抗してくれるゴミ、いや、人間に出会いたかったのかもしれない。

 誰でも良い。腐りきったゴミである俺を、佐倉の名前だけが存在価値である俺を、好きなことをやっていたようで、結局はただ腐っていくだけの存在だった俺を、終わらせてくれる人間。

 

 水瀬梓。お前は俺を、終わらせることができるか?

 このまま俺は、最低なゴミとして生き続けるか、ここで終わることができるのか、その答えを、お前が教えてくれ。

 

 

「……魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドロー!」

 

手札:0→2

 

「『サイクロン』を発動! 『下克上の首飾り』を破壊!」

「……」

「『氷結界の武士(もののふ)』を召喚!」

 

『氷結界の武士』

 攻撃力1800+500

 

「武士で、『深海の長槍兵』を攻撃! 絶体冷刀(ぜったいれいとう)!」

 ……おお、すごい。長槍兵が三枚下ろしに。

 だが、

「永続罠『スピリットバリア』発動。俺の場にモンスターがいる限り、俺への戦闘ダメージは0になる」

「……ターンエンド」

 

 

LP:500

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の武士』攻撃力1800+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

 

佐倉

LP:3500

手札:0枚

場 :モンスター

   『深海の長槍兵』攻撃力1400+500

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

 

「俺のターン」

 

佐倉

LP:3500→4000

手札:0→1

 

「俺も『強欲な壺』を発動。カードを二枚ドロー」

 

佐倉

LP:4000→4500

手札:0→2

 

 ……っ! このカード……

 ……そうか。これがお前達の、俺への答えか。

 ……分かったよ。

「魔法カード『黙する死者』を発動。墓地の通常モンスター一体を、守備表示で特殊召喚する」

 

『ジェネティック・ワーウルフ』

 守備力100

 

 この効果で特殊召喚したモンスターは、フィールドに存在する限り攻撃することはできないが、目的は戦闘じゃないからな。

「『深海の長槍兵』と、『ジェネティック・ワーウルフ』を生贄に捧げ……」

 この答えが、俺にどんな未来を与えるのか。さあ、水瀬梓、これが(しるべ)だ。俺に未来を与えてくれ。

「『ホーリー・ナイト・ドラゴン』を召喚」

 

『ホーリー・ナイト・ドラゴン』

 攻撃力2500

 

「それは、俺のカード!!」

『!!』

 

 そうだ。ついさっき、レッドのゴミから取り上げたカードだ。いつの間に紛れていたのかは知らないが、それはまあいい。

「『ウォーター・ワールド』の効果は受けないが、武士を倒すには十分だ。バトル。武士に攻撃。聖なる炎」

 

LP:500→200

 

「ターンエンド」

 

 

佐倉

LP:4500

手札:0枚

場 :モンスター

   『ホーリー・ナイト・ドラゴン』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

 

 

「……えせ……」

 

 ん?

「返せ!! それは俺の、大事なカードなんだ!!」

 ゴミが叫んできた。

 うるせえな。言われなくとも返してやるよ。こいつが勝てば、だがな。

 にしても、やけにこのカードにこだわるな。確かに希少なレアカードではあるが……

 

「それは、父さんと母さんが、アカデミアの入学祝にくれたカードなんだ!! 返せ!!」

 

 ……下らない。

 ……いや、これは利用できるか。

「……バカだな。お前も。お前の親も」

「バカ?」

 このままカツアゲを続けるにしても、ここで終わるにしても、とことん腐りきったゴミでいなければ意味が無い。だが今、水瀬梓は、俺をそういう目で見ていない。こんな俺に、どこか人間らしさを見いだしている。

 それじゃあダメだ。最低な、それこそ人間味なんて皆無な腐りきったゴミ、そんな存在だからこそ、この決闘には意味があるんだ。だから、悪いが利用されてくれ。

「お前の親は知ってるのか? レッドが最下級のクラスだってことを」

「それは……もちろん……」

「レッドの落ちこぼれの息子にこんなレアカードを買い与えるとか、バカ以外の何なんだよ」

「!!」

「おい! お前何てこと言うんだ!!」

 十代とか言ったか? 黙れゴミ。今は俺が喋ってるんだ。

「事実だろう。親からどんなことをして貰おうが、所詮それに応えることもできない、レッドの落ちこぼれだろうが」

「ぐ……」

「そんなゴミであるお前もバカだが、それを与えた親もバカだろうが。そんなゴミのために金を使ってカードを与えて、そんなゴミをアカデミアに通わせるために無駄金を投資して、お前はそれに応えもしない。ただ落ちこぼれだっていう現実に甘んじて、無駄金を使わせながら勝手に腐っていく、本当のゴミだろう」

「……」

 もう泣きそうな顔をしてる。他の連中も同じような顔だ。もう少しか。

「お前や、お前達みたいなゴミが、俺と同じアカデミアに通ってるって考えただけで怖気が走る。どうせゴミとして腐っていくしか無いのなら、さっさと働いた方がよっぽど役に立つ。それがゴミにはお似合いだ。ゴミはゴミらしく土にでも埋まって腐るか、俺達人間の肥やしになるのがお似合いなんだよ。そんなゴミを生んだ、バカな親と一緒にな」

「……ぐぅ、うぅ……」

 遂に泣きだしたか。

「さっきから好き勝手なことばかり言いやがって!! 俺達はゴミじゃねー!!」

 ゴミが叫んでる。他の連中も全員、うなだれるか怒りに身を震わせてる。

「だからゴミが話し掛けるんじゃねーよ。ただでさえお前らゴミのせいで脅されて、こんなに疲れるゴミの相手をしてるんだ。これ以上俺を疲れさせるな。今すぐその口を閉じるか、ゴミ箱にでも入れよ」

「てんめぇ……」

 怒ってる怒ってる。後は……

「お前も、もうフィールド魔法が一枚だけで逆転は無理そうだし、さっさと降参したらどうだ? もう分かっただろう。ゴミは所詮、人には勝てない。結局は負けて腐る以外に無いんだ。言われた通り仕方なく相手してやったんだから、時間の無駄にならないようさっさと終わらせて学園から消えてくれよ。人間様に懇願した身としてそのくらいの責任は果たせよな。こう見えて俺は、いつまでもゴミの相手をしてられるほど暇じゃないんだよ」

 水瀬梓にそう言うと、なお更俺への視線が鋭くなるのを感じた。

 

 そうだ。それで良い。

 

 俺を恨め。これが俺なんだ。

 

 ゴミはこの世に俺だけでいい。

 

 

 ブチッ

 

 

 

 




お疲れ様です。
次回が決闘完結ね。

んじゃオリカ。


『速攻召喚』
 手札のモンスター1体を通常召喚する。

まあ、ライフコストの無い一度限りの『血の代償』だわな。
使えるっちゃ使えるかもしれんが、まあ、俺的には微妙だ。速攻魔法ってところだけは『二重召喚』より強力ではあるが……うん。それだけだし。

このくらいでいいか。

じゃ、次まで待っててね。


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第七話 ボクと遊ぼう ~ボク~

決闘完結~。
なお、今回も例によってオリカが出ます。
でもぶっちゃけ後書きの解説いるかな? よほどマニアックなカードでない限り必要ない気がするんだよね。
その辺の意見も聞きたいところ。
まあとりあえず、行ってらっしゃい。



視点:あずさ

 許せない……何なのあいつ!! 本気で自分以外を人以下だとでも思ってるわけ!?

 絶対に許せない……もう、梓くんの意見とか、財閥がどうかなんて関係無い……

 決闘を邪魔する気は無い。けど、決闘が終わった時、私はあいつを……

 

 ブチッ

 

 突然、そんな音が響いた。何かと思って見ると、梓くんが、髪止めを乱暴に引きちぎったのが分かった。

 一本に縛ってまとまってた髪が広がってる。

「……」

 何も言わない。無言で袖から新しいゴムを取り出して、それを、今までポニーテールだったのに、どうしてかツインテールに縛り直してる。

「……」

 ただ、わたしには分かる。梓くんは、わたしが今まで見た中で、一番怒ってるって。

 

「……ボクのターン……」

 

手札:0→1

 

 あ、あれ? 梓くん、今まで『ボク』なんて言わなかったよね?

 それに、何だか口調まで変わってる? 凄く、幼い?

 

「……ボクは魔法カード『命削りの宝札』を発動。手札が五枚になるようドローできる。五ターン後、手札全部を墓地に送らなきゃいけないけどね……」

 

手札:0→5

 

「一気に手札補充!!」

 明日香ちゃんが叫んだ。私も驚いてる。まさかここであのカードを引き当てるなんて。

「さあ……ボクと遊ぼう……」

 

 ニヤッ

 

 ひ!! なに!? 怖い……!!

 

 

 

視点:佐倉

 一体どうしたんだ? あれは、怒りに震えてるとか、そのせいでおかしくなったとか、そんなチャチなもんじゃない。髪型以前に、明らかに今までとは違う。同一人物であって別の人間。それが今、目の前にいる。

「ボクは墓地の『氷結界の武士』とグルナードを除外。現れて冷狼……『フェンリル』を特殊召喚」

 

『フェンリル』

 攻撃力1400+500

 

「そして、装備魔法『魔導師の力』。自分フィールド上の魔法・罠一枚につき、攻撃力を500ポイントアップさせる。ボクのフィールドには『魔導師の力』と『ウォーター・ワールド』。攻撃力は1000ポイントアップ」

 

『フェンリル』

 攻撃力1400+500+1000

 

「バトル、『フェンリル』で『ホーリー・ナイト・ドラゴン』を攻撃。冷爪牙斬」

「ぐぅ……『スピリットバリア』の効果でダメージは0」

「ボクは『氷結界の水影』を召喚して、ターンエンド」

 

 

LP:200

手札:2枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400+500+1000

   『氷結界の水影』攻撃力1200+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

    装備魔法『魔導師の力』

 

佐倉

LP:4500

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

 

 なぜ水影で攻撃しなかった? 先に召喚していればダイレクトアタックできたのに。

「……俺のターン」

 ……ちっ、デッキは凍りついてやがる。

「『フェンリル』の効果でドローフェイズはスキップされる。ターンエン……」

 

「え? 終わりなの?」

 

 なに?

「どうしたの~? ねえ~、このままじゃゴミに負けちゃうよ~。何もしないの~? 逆転するために何かしないといけないんじゃないの~?」

 ……! こいつ!

「ねえ、何もしないの? ねえ? ボクはゴミなんでしょう? キミは偉い偉い人間様なんだよね? だったら逆転しないと。ほら、ほらほらほらほらほらほら~」

「くぅ……ターンエンド!」

 

 

佐倉

LP:4500

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

LP:200

手札:2枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400+500+1000

   『氷結界の水影』攻撃力1200+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

    装備魔法『魔導師の力』

 

 

「本当に終わっちゃった。何もできずに終わっちゃったよ。ねえ見て! あれがボク達をゴミだって言ってる人間様の姿だって!」

 俺を指差しながら、ゴミ共に話し掛けている。全員動揺してやがる。当然だ。こいつは本当に、さっきまでと同じ、水瀬梓なのか?

「ボクのターン!」

 

手札2→3

 

「ボクは水影を生贄に、『氷結界のロイヤル・ナイト』を召喚するよ!」

 

『氷結界のロイヤル・ナイト』

 攻撃力2000+500

 

「このカードが生贄召喚に成功した時、キミの場に攻撃力1000の『アイス・コフュン・トークン』を特殊召喚する。さあ受け取ってよ、ゴミからのプレゼント」

「……」

 

『アイス・コフュン・トークン』

 攻撃力1000+500

 

「バトル! 『フェンリル』で『アイス・コフュン・トークン』を攻撃!」

 ちっ、『スピリット・バリア』の効果で戦闘ダメージは受けない。だが、どの道ロイヤルナイトの攻撃が……

「二枚伏せてターンエンド」

「なに!?」

 

 

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400+500+1000

   『氷結界のロイヤル・ナイト』攻撃力2000+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

    装備魔法『魔導師の力』

    セット

    セット

 

佐倉

LP:4500

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

 

「どうして、梓は攻めないの?」

「『フェンリル』の効果でカードが引けない。もう勝ちは決まってるのに、こんなことしても無駄じゃ……」

「……楽しんでる」

「あずさ?」

「梓くん、相手が何もできずに負けていくのを、楽しんでるんだ」

『……』

 

 そうだ。こいつは……そう、氷漬けにした俺ではなく、その周りの凍りを砕いて楽しんでやがる。そうやって動けずに、いずれ自分が砕かれることに恐怖を浮かべることしかできない俺を見て、楽しんでやがる。

 

「俺のターン……できることは無い。ターンエンド」

 くそ、本当にドローも何もできない……何も変わらない……作者がフィールド表示を省略するほどに……

「ねえ、どうしたの?」

 ……

「どうしてゴミにされるがままなの? ねえ、どうして?」

 ……口調も態度も、完全に幼い子供か。

「ボクのターン!」

 

手札:0→1

 

「罠発動! 『ナイトメア・デーモンズ』! 『氷結界のロイヤル・ナイト』を生贄に捧げて、キミの場に三体の『ナイトメア・デーモン・トークン』を特殊召喚するよ!」

 

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

 

 攻撃力2000か。だが、『魔導師の力』を装備した『フェンリル』には勝てない。

「バトル! 『フェンリル』で一体目に攻撃ぃ!」

 ちっ、戦闘ダメージは0……

「『ナイトメア・デーモン・トークン』が破壊された時、キミは800ポイントのダメージを受けるよ!」

 

佐倉

LP:4500→3700

 

 く、『スピリットバリア』のせいで無駄に長引く。

「ターンエンド。ほら、早く何とかしないと! ほら!! ほらほらほらほらほらほらほらほら!!」

 

 

LP:200

手札:1枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400+500+1500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

    装備魔法『魔導師の力』

    セット

 

佐倉

LP:3700

手札:0枚

場 :モンスター

   『ナイトメア・デーモン・トークン』攻撃力2000

   『ナイトメア・デーモン・トークン』攻撃力2000

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

 

 くぅ……普通の奴ならこれだけで発狂レベルだな。正直、俺自身もこいつと向かい合っていながら、まともに立っていられるのが不思議なくらい辛い。

 だが、これが俺への報いなら、逃げない。

「俺のターン。何もできん。終了」

 

「佐倉さんが、負ける」

「あの野郎、楽しんでやがる!」

「このままじゃ、せっかくのレアカードが……」

「そんなことさせるかよ!」

 

「ボクのターン!」

 

手札:1→2

 

「バトル! 『フェンリル』で……」

 

「おい待てこら!!」

 

 ん? 取巻き共の声?

 

「これを見ろよ!!」

 

 っ! あいつら!!

「それ以上しやがったらこいつら、どうなるか分かってるよな!!」

 四人がそれぞれ、レッドの十代に、ブルーの天上院と女子二人を抑えつけて、ナイフを顔に当ててやがる!

「やめろお前ら! 邪魔するな!!」

「あんたは黙ってなよ佐倉さん。これであんたは勝てるんだ」

「ふざけるな!! 俺はこの決闘で不正はしない。そう言ったはずだ!」

「あんたはな。けど、俺達が何もしないとは言ってないだろう」

「なにぃ!?」

「第一、あんたも勝手過ぎるんだよ。何で俺達のカードまで返さないといけないんだ?  あんたのカードじゃないんだよ! これは俺達のカードなんだ!! それをまるで自分のカードみたいに勝手なこと抜かすんじゃねえ!!」

 くそ! 分かってはいたが、本当のゴミは俺と、とっくに腐りきってるこいつらだったか……

 

「……『フェンリル』の攻撃」

 

 !

「ぐぅ……」

 

佐倉

LP:3700→2900

 

「おい!! お前何やってる!!」

「ターンエンド」

 

 

LP:200

手札:2枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400+500+1500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

    装備魔法『魔導師の力』

    セット

 

佐倉

LP:2900

手札:0枚

場 :モンスター

   『ナイトメア・デーモン・トークン』攻撃力2000

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

 

 水瀬梓は何も言わない。こいつ、俺しか見えてないのか?

 だとしたらまずい。大抵はハッタリだから特に危険は無いんだが、あいつらなら本気でやりかねない。

「……」

 俺はとっさに、さっき地面を殴った女子を睨みつける。ほとんどが水瀬梓にビビって動けない中、何とかできるとしたらあいつくらいだ。

 

「……!」

 

 よし。俺の視線には気付いたか。後は何とか頼む。

「ターンエンド……」

 

「あれぇー!?」

 

 ぐぅ……

「また終わっちゃった。ねえどうして? 人間様ならゴミよりも強いんだよねぇ? なのに何で何もできないのかなぁ?」

 く、本当に俺しか見えてない……

 

「おい!! いい加減に……!!」

 

「ボクのターン!」

 

「おいこら!!」

 

手札:2→3

 

「『フェンリル』で最後の一体を攻撃!」

 

佐倉

LP:2900→2100

 

「ターン、エ・ン・ド」

 

 

LP:200

手札:3枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400+500+1500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーター・ワールド』

    装備魔法『魔導師の力』

    セット

 

佐倉

LP:2100

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『神の恵み』

    永続罠『スピリットバリア』

 

 

「俺のターン……終了……」

 ……くそ。それなりの苦しみには耐えてきたつもりだったが、もう心が折れそうだ。

 

「……ドロー……」

 

手札:3→4

 

「……このスタンバイフェイズ、『命削りの宝札』の効果で全部墓地に送る……」

 

手札:4→0

 

 仮想立体映像(ソリッド・ヴィジョン)でギロチンが現れ、梓の手札が四枚とも真っ二つになった。

 

「……」

 

 さっきからかなり喋ってたのに、今は無言でうつむいてる。

 どうしたんだ? 手札がゼロになったからか?

 

「……どうして?」

 

 ?

 

「……キミはさっき言ったよね。無駄金使って学校に通わせてるって……」

 

 ……

 

「……当たり前でしょう。みんな自分でお金が出せないから親に出して貰ってきてるんだよ。それくらい分かるでしょう。キミはそうじゃないの……?」

 

 ……

 

「みんなさあ、そうやって自分達のために色々してくれる、家族に応えるためにも頑張ってるんだよ……みんなみんな、頑張りたい気持ちは一緒なんだよ……なのに……」

 

 ギンッ!!

 

 !!

 

「何でキミ達はそれを平気で邪魔するの!? キミ達のどこにそんな権利があるの!? キミ達がゴミだって言ってる人達はみんな頑張ってるんだよ!! キミ達よりよっぽど頑張ってるんだよ!! なのにそれを邪魔する権利がどうしてあるの!? キミ達がしてるのは何人もの人達の人生をメチャクチャにしてるってことだよ!! その人の人生家族の人生知人の人生恩人の人生!! 全部キミ達が壊してるんだよ!! 何でそんなことができるの!? キミはそんなに偉い人なの!? 人の人生を壊して良いくらい偉い人なの!? ゴミの人生だから!? そもそも何でみんながゴミなの!? ボク以外の人達まで何でゴミになっちゃうの!?」

「何で!? なんで!?」

「ねえ!? ねえ!!」

「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ!!」

 

 バタッ

 

 突然、そんな音がそこら中から響いた。

 あいつのどす黒いオーラに当てられたのか? 何人かの生徒が倒れてやがる。しかも、あの女が何かする前に、ゴミの四人まで倒れてる。正直、俺も倒れそうなんだが……

 

「……答えられないくらいならさ、始めから邪魔しないでよ。ねえ……」

 

 今まで以上に、おぞましい目で俺を睨みつけた。

 

「……消えちゃえ」

 

 !?

「罠発動『堕天使の施し』」

 な! そのために手札を!

「このターン、手札から墓地に送られたカードを手札に加える」

 

手札:0→4

 

「一枚セット。魔法カード『魔宝石の採掘』。手札を二枚捨てて、墓地の魔法カードを手札に加える。対象は『命削りの宝札』。そしてそのまま発動!」

「くっ……」

 

手札:0→5

 

「魔法カード『融合』!」

 融合!? そんなカードまで使うのか。一体何を呼ぶ気だ……?

「場の『フェンリル』と、手札の『E・HERO アイスエッジ』を融合!」

 『E・HERO』だと!? いや、それ以前にそんな素材で呼び出せるカードなんて……!

 

「『E・HERO アブソルートZero』を融合召喚!!」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+500

 

「バカな! どうして!?」

「ZeroはHEROと、水属性モンスター一体を素材に融合召喚されるHEROなんだ」

 バカな、属性のみを素材指定した融合HEROだと!?

「伏せカードオープン! 『融合回収(フュージョン・リカバリー)』! 墓地の融合一枚と、素材となったモンスター一体を手札に戻す! もう一度融合発動! 手札の『E・HERO オーシャン』と『氷結界の虎将 ライホウ』を融合!! 『ミラクル・フュージョン』!! 墓地のアイスエッジと『氷結界の水影』を除外して融合!!」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+500

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+500

 

「一ターンで、三体の融合召喚だと!?」

「まだだよ!! 墓地のオーシャンと、『氷結界のロイヤル・ナイト』を除外!! 『フェンリル』を特殊召喚!! 『死者蘇生』発動!! 『氷結界の舞姫』を特殊召喚!! Zeroの効果発動!! 場のZero以外の水属性一体につき攻撃力500アップ!!」

 

『フェンリル』

 攻撃力1400+500

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700+500

 

「こんな……まさか……」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+500+1000

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+500+1000

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+500+1000

『フェンリル』

 攻撃力1400+500

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700+500

 

 もう、声も出ない……報いだとか……終わりがどうだとか……そんな物の問題じゃない……

 ただ、目の前の光景に、そして水瀬梓の姿に、俺は恐怖し、動けない……

 

「す、すげえ……」

「これが、梓の本気なの……?」

「こんな……今まで人のこと何より思いやってた梓くんが……こんなの、梓くんの決闘じゃない……」

 

 そんな声が聞こえた。誰の声かなんて気にしていられない。

 

「ねえ、もう終わらせるよ。覚悟はできてる?」

 

 覚悟……覚悟か……そうか……

 そんな物、決闘前にできていたつもりだった。

 どんな恐ろしい目に遭おうと、それが報いなら全て受け入れようと思った。

 なのに、今はどうだ。目の前の光景に、動けない……声も出ない……ただ……怖い……

 

「バトルフェイズ!!」

 

 そして、来るべき瞬間が来た。

 せめて……せめて……

「待ってくれ……」

 最後くらいは見苦しく……

「勘弁してくれ……」

 同情の余地の無い、最低の人間として……

「俺が悪かった……」

 誰の記憶にも残らぬよう……残ったとしてもすぐに抹消されるよう……

「許して……」

 

「三体のアブソルートZero、フェンリル、舞姫でダイレクトアタック!!」

 

「ひっ!!」

 来る。終わりの瞬間が、迫ってくる……

 

 壊れる……俺が……壊れる……

 これが……俺の……未来……

 これが……終わり……

 

「ぐぅあぁぁぁああああああああああああ!!」

 

佐倉

LP:2100→0

 

 

 

視点:あずさ

 最後の梓くんの一撃で、相手はひざを着いた。

 ジュンコちゃんや、四人のブルー生徒、そしてほとんどのレッド生徒は気絶しちゃってる。普通に立ってるのはわたしと、十代くんと明日香ちゃん、翔くんと隼人くん、ももえちゃんの六人だけ。

 でも、翔くんとももえちゃんはお互いに支え合ってどうにか正気でいるみたいだし、みんな、今にも倒れちゃいそうなくらい、顔が真っ青になってる。

 

「これで終わりじゃないよ……」

 

 !!

 梓くんが、刀を出した!!

「お、おい梓! どうする気だ!?」

 十代くんの問い掛けに、梓くんは答えない。抜き身の刀を片手に、無言で佐倉くんに近づいてる!

「今までキミが苦しめてきた人達の分だけたくさん苦しんで、そのまま死んじゃえ……」

 佐倉くんは動かない……違う! ひざを着いたまま気絶してる!!

 わたしはとっさに走った。

 

「梓くん!! ダメ!!」

 

 ガッキーン!!

 

 デジャブかなって、感じた。あの夜と同じように、わたしの手甲を、梓くんは受け止めた。

「……」

 その時、梓くんはわたしを見て、顔が変わった。

「あずさ……」

 え? 梓くんが、わたしを呼び捨てに……

「……ちゃん」

 ん?

 そう疑問に感じた瞬間、梓くんは急に刀を引いて、地面に捨てて……

 

「あずさちゃ~~~~ん!!」

 

 ガバ!

 ぎゅ~

 

「うぇえぇえええええ!?」

 何で!? 急に何で抱き付いてくるの!? ちょっと……

「ん……!」

 

『ああああああああああああああああああああああ!!』

 

 十代くん達の絶叫が聞こえた気がした。でも、ほとんど聞こえなかった。

 それは、初めてだったけど、柔らかくて、あったかくて、ちょっと粘り気のある感触で……

 

 ……!! て、冷静に感想言ってる場合じゃないよ!!////////

 

「……ん、えへへ////」

 えへへじゃなくて!!////

「いきなり何するの!?////」

「ごめんね。あずさちゃんの顔見たら我慢できなくなっちゃった////」

「そんな赤面した顔で言われても困るよ!!////」

 可愛いけどダメだよ!!////

「今の決闘じゃいきなりボクが出てきてびっくりしたよね。//// 梓やみんながバカにされてるのが許せなくて、出てきちゃった////」

「出てきちゃったじゃないでしょ~~~~~~!!////」

 

 ……て、え?

「出て、きちゃった?」

「うん。梓はボクにとっても大切な人だから。梓はずっと辛い目に遭ってきて、それでも頑張ってきた強い人だけど、それでも、梓や梓の友達をいじめる奴は許せないから。だから……」

 

 バタッ

 

『梓(さん)くん!!』

 

 

 

 




お疲れ様です。
完結は次ね。

うんじゃらオリカ。


『命削りの宝札』通常魔法
 手札が5枚になるようカードをドローする。
 発動後、5回目のスタンバイフェイズに手札を全て捨てる。

めっちゃ欲しい。原作効果の『天よりの宝札』も良いが、大海は断然こっちだわ。相手にアド取られること無いし。皆さんはどっち派かしら。

『堕天使の施し』通常罠
 このターン、手札から墓地へ送られたカードを全て手札に加える。

『天使の施し』と合わせて使われるのがお約束のパターン。『手札抹殺』と合わせたらおっそろしいことになるね。
でもタイミングは限定されてるし、一概に良いとは言い難い。まあ強力には違いないけれど。


以上。次話まで待っててね。


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第七話 ボクと遊ぼう ~凄楚~

七話完結話。

何だかんだでこれも長かったね。

でもまあこれで終わりだ。

じゃ、行ってらっしゃい。



視点:あずさ

 決闘が終わった後、わたし達は梓くんを十代くんの部屋へ運んだ。気絶してた人達が目を覚ましたのはその直後だった。ブルーの四人だけはまた気絶させて、その間にレッドのみんなに取られたカードを回収させた。

 佐倉くんもすぐに目を覚ましたけど、気絶させる必要は無くて、あっさり取り上げたカードを全部返してた。最悪な奴だと思ってたのに、決闘中に人質を取られた時と言い、どうしてだか、どこか憎めない人だった。

 けど、彼は約束通り、あの後すぐに退学届を出して、アカデミアを出ていった。本人いわく、「もうカードを見るのも嫌だ」って。

 あんな梓くんの相手をして、あんな終わり方をしたのなら、当然だよ。そしてあの場を去る前に、わたし達に謝ってくれた。

 

 

 梓くんは、ベッドに寝かせてからまだ目を覚まさない。とっくに陽は落ちて、みんなで交代してご飯を食べにいってる。

 けど、わたしを含めて、何人かはいらないって言ってた。あんな梓くんを見ちゃって、食欲が湧かないんだろうな。

 

 けど、わたしは違った。

 梓くんがこんなことになってるのに、食事なんて喉を通らないよ。

 みんな、梓くんを見て何も言えずにいた。だって、本当に怖くて、今も混乱してるから。さっきの梓くん、本当に今までの、とても優しかった梓くんと同じ人なの?

 

 でも、そんなことどうでもいい。お願いだから、せめて目を覚まして。

 負けたら退学するって言った時と言い、人が変わった時と言い、眠ってる今と言いずっと、梓くんがどこか遠くへ行っちゃうっていう不安に襲われて、それは今も変わらない。

 

 いや……

 梓くんがどこかへ行っちゃうなんて、考えただけで……

 

 梓くんがいなかったら、わたし……

 

「……うぅ」

 

 !!

 確かに聞こえた! 梓くんが、声を出した!!

 みんなも聞こえたみたいで、一斉に梓くんの顔を見た。

 

「うぅ……ん……?」

 

「梓くん!」

 目を覚ました!!

「梓、大丈夫なのか?」

「気分は? 体は何とも無いっスか?」

「どこかおかしい所は何も無いか?」

 十代くん達が順に聞いた。

「ここは……私は……」

 あ、今『私』って!

「俺達の部屋だ」

 十代くんが答えた。

「なぜこんなことに……佐倉さんとの決闘は?」

 梓くんはそう聞きながら、体を起こした。

 いつもの梓くんだ。

 いつもと同じ……梓くんだ……

 

「!? あずささん、どうかしたのですか?」

 聞かれたけど、答えられない。目を覚ましたのが、戻ってきてくれたのが嬉しくて、わたしは何も考えずに、梓くんの胸に飛び込んだ。

「梓くん! う、うぅ……」

 涙が止まらない。安心と緊張の解けた気持ちがいっぱい湧いて、それが涙になって流れてく……

 

「あ、あずささん、一体……!/////」

「今はそのままにしてあげて」

「え?」

「あなたが気絶してる間、あなたのことを一番心配してたのは、あずさだから」

「……」

 

 不意に、わたしの頭に人の手の感触がした。一度手を握られたことがあるから、それが梓くんの手だってすぐ分かった。

 梓くんが、わたしの頭をなでてくれてる。それが、心地よくて、嬉しくて、いつの間にか涙は止まって、自然と笑顔が浮かんできた。

 

 

 

視点:十代

「……そうでしたか」

 あずさが落ち着いたところで、俺達は梓に事のいきさつを説明した。

 不思議なことに、梓は決闘してる途中、佐倉に『ホーリー・ナイト・ドラゴン』を呼び出された後、つまり、口調とかが変わった後のことを一つも覚えていなかったんだ。

「……決闘には、勝てたのですね」

 ツインテールに縛ってた髪をポニーテールに戻しながら、暗い口調でそう聞いてきた。

「ああ。けど、あの時の梓、何ていうか、凄く怖かったぜ……」

「……私がですか? それとも、私の決闘がですか?」

「それは……両方、だな……」

「今までのあなたは、相手の戦術を封じて、動けなくしながら、その力を利用して戦う、とてもスマートな決闘をしてた。そして何より、勝利しながら、相手を思いやる心を忘れていなかった。なのに、あの時のあなたは、相手を動けなくしたのは同じだけど、その後も、その姿を時間を掛けていたぶりながら楽しんで、その上で相手の心を壊すための言葉を繰り返した。おまけに、最後は必要の無い過剰な力でのオーバーキル。見ていてとても怖くて、とても嫌な決闘だった」

 明日香が、俺達が思っていたことを言葉にしてくれた。

 

 そう。明日香の言った通りだ。怖かった。

 初めて梓のE・HERO、アブソルートZeroを見た時は、とても綺麗で、その姿に感動したのは今でも覚えてる。

 けど、見るのはこれで二回目だったけど、あの時のZeroほど怖いと思ったモンスターも無かった。あずさの時みたいな、梓を守るためじゃない。佐倉を、殺すため。そんな殺意がめちゃくちゃ伝わってきたんだ。

 俺はHEROデッキ使いだけど、あんなにHEROを怖いと思ったことは無かった。

 

「……そうですか……そうでしたか……」

 梓はそう呟いた。そして、溜め息を一つ吐いて、俺達の方を向いた。

「それは、私の中にいるもう一人の私……ボクです」

 ボク!!

 その言葉に一瞬背筋が凍る。元に戻ってるって分かってるけど、その一人称だけでさっきまでの梓を思い出して、震えちまった。

「えっと……どういうこと?」

 あずさが聞き返した。

「……まだ幼かった頃のお話です。男の人が、私に対して罵倒し、暴力を振るいました。その時私は意識を失いかけましたが、そう思った直後に目を覚ましました。そして気が付くと、その男の人は目の前で血まみれになって倒れ、『殺して欲しい』、そう懇願していたのです。そして同時に、うわ言のように呟いていました。……ボクと」

 またボク! くそ、それだけでいちいちビビっちまう。みんなもそうみたいだ。

 ……いや、あずさだけは普通だ。

「その時はわけが分からず、怖くてすぐその場を離れました。しかし、その人の一人称はボクではなかった。その後、成長しながら段々その意味を知り、そして今、あなた方の話を聞いて、確信しました。ボクというのは、私だったのだと。そして、ボクとなった私が、その人を血まみれにしたのだと」

 まさか、梓がそんなことを……

 けど、さっきの姿を見れば、納得するしかない。

「……佐倉さん……佐倉さんは、無事なのですか!?」

 急に慌てた口調になって、俺達に聞いてきた。

「大丈夫。もう退学しちゃったけど、生きてるよ」

 あずさが慌てる梓を抑えて、佐倉について説明した。

「……辞めてしまわれましたか」

 どうしたんだ? そんなに気を落として。

「梓くん、佐倉くんのこと、助けようと思ってたんだね……」

 助けるって、どういう意味だ?

「……佐倉さんは、確かに非道な行いを繰り返してきました。決して許されないことを。しかし、決闘をしていて、感じました。彼は、本当はそんなことをして楽しむ人間ではない。むしろ、そんな自分を誰かに止めて欲しくて、そんな人に出会うために、あんなことをし続けていたと」

「誰かに止めて欲しかった?」

 明日香が聞き返した。確かに、おかしな話だ。

「……いえ、気にしないで下さい。佐倉さんがいなくなってしまった今、既に確かめるすべは無いのですから」

 そう言って目を閉じる。本当に、がっかりしてる。

 

「……皆さん、本日は、ご迷惑をお掛けしまして、申し訳ありませんでした」

 また俺達を見て、そう言って頭を下げてきた。

「あ、いや、気にするなって。話しを聞いたらお前のせいじゃないだろう。誰だって怒るのは当然なんだ。今回はそれが少し大げさだっただけだって」

「……そうね。実際に被害は無かったわけだから。そんなに気にする必要も無いわよ」

 実際、ボクが出てきた後は、何人か倒れたりしてたけどな。

 あずさなんて……

 ////

 けど、それは知らない方がいいかもな。梓が覚えてないのなら、何も言わない方がいいかもしれない。

「……もう遅いようなので、私はこれで失礼させて頂きます」

「何なら泊まっていくか?」

「いえ。もう大丈夫です」

「そっか。それなら明日香達も、もう帰った方がいいぜ」

「そうね。帰りましょうか」

 明日香があずさ達三人に話し掛けて、三人も頷いた。

「できれば、レッド寮の皆さんに謝罪したいのですが……」

「いや、もう何人かは寝てる奴もいるだろうし、明日の方がいいかもしれないな」

 それに、梓が部屋に来たら、みんなビビるだろうからな。

「それもそうですね。では、このまま帰らせて頂きます」

「ああ」

 そして、梓は三人の女子達と一緒に、ブルー寮へ帰っていった。

 

 

 

視点:あずさ

 女子寮に着くまで、梓くんが送ってくれた。わたしがいるんだから大丈夫だよって言ったんだけど、女子だけじゃ危ないからって、無理やりついてきた。わたしは平気だけど、みんなは、動揺してる?

「もうここまでで大丈夫だから」

 明日香ちゃんが、梓くんに向かってそう話し掛けた。

「ええ。ではまた明日」

 梓くんも返事をして、わたしも、三人とも梓くんに背を向けた。

 

「あの!」

 

 何歩か歩いた時、急に梓くんが話し掛けてきて、わたし達はまた梓くんを見た。

「あの……あずささん」

「はい?」

「……少し、お話したいことがあるのですが……」

 何だか凄く深刻な顔してる。どうしたのかな?

「……うん。いいよ」

 そんな梓くんが放っておけなくて、わたしは明日香ちゃん達に先に帰るよう促して、梓くんのもとへ向かった。

 

 

 どうにも人に聞かれたくない内容みたいで、わたし達は近くの森の中にいます。

「それで、お話って?」

「その……」

 相変わらず、言い難そうで苦しそう。

「梓くん、本当にどうしたの?」

 とても深刻な顔してるよ。そんなに辛いことなの?

「……実は、お聞きしたいことが……」

 やっと話してくれた。聞きたいことって?

「……私は、ボクに変わっていた時、あなたに何かしませんでしたか?」

「え?」

 何かって……

 

 /////////

 

 お、思い出したら顔が……////

 でも、幸運にも梓くんはそっぽを向いてた。

「……過去にボクになった時、記憶は全く残っていなかったのに、なぜか鮮明に覚えているのです。私は、あなたと、刀と手甲を交えていた。まさか、私は佐倉さんだけでは飽き足らず、あずささんまで手に掛けようとしたのでは!?」

「ち、違うよ!!」

 誤解してるよ梓くん!

「逆だって! わたしが、佐倉くんを斬ろうとした梓くんを止めるために、とっさに梓くんに殴りかかったんだよ! 梓くんはそれを受け止めたけど、それ以上は何もしてないよ!!」

 本当だよ。むしろあの時、梓くんは……

 ……

 

 ////////////

 

「本当ですか? 私は、あずささんを傷つけてはいないのですか?」

 わたしの顔が赤くなってるのは気にしてないみたい。

「うん。ほら見て、どこもケガしてないよ。わたしは梓くんに、何もされてなんかないよ」

 その場で体をクルクル回しながら、必死に無傷アピールをした。その度に、梓くんの顔から段々不安が無くなってくみたい。それが何だか、不謹慎だけど、可愛い。

 

「良かった……」

 そう呟いたと思うと、梓くんはその場にひざを着いた。そして、

「な! 何で泣いてるの!?」

 わたし、何かしたかな!?

「……怖かった……もし、またあずささんを傷つけてしまったら、私は……二度と……立ち直ることはできない……」

「え……?」

「……すみません。私がこんなことを考えるのはおこがましいことです……しかし、あなただけは……何があっても、絶対に傷つけたくない……例えボクでも、あなたを傷つけることだけは許せない……私は……あなたを……」

「梓くん……」

 そこまでわたしのこと……

 

 わたしも梓くんに合わせてひざを着いた。そして、頭を両手で持ってあげて、抱き締めた。

「……」

「大丈夫だよ~。わたしの強さは、梓くんが一番知ってるじゃん」

「……はい……」

「ね。もしまた梓くんが変わって、襲われたとしても、そんな簡単にやられたりしないよ」

「……はい……」

「だから泣かないで。わたしはいつだって、梓くんの味方だよ」

「……ありがとう……」

 とぼけた口調で話したり、頭をなでなでしたりしたけど、梓くんはずっと泣いてる。

 さっきわたしが泣いてた時、梓くんになでなでされて涙が止まったから、わたしもそうすれば泣き止んでくれるかと思ったけど、やっぱり個人差なのかな。

 

「……もう少しだけ、こうさせて頂けますか……?」

「うん」

 泣きたいだけ泣いてもいいよ。涙が止まるまで付き合うよ。さっき言った通り、わたしは梓くんの味方だから。

 

 だから……

 

 

 ……どこにも行かないでね。

 

 

 

視点:十代

 次の日、梓は授業の合間に、レッドの生徒一人一人に頭を下げていった。全員、やっぱり梓を見てビビってたけど、反省した梓を見て、ていうか、そもそもほとんどが梓のファンだったし、すぐに許すことにしたらしい。

 そして、この時の梓……ボクの存在は、俺達だけの秘密になった。理由は、言ったって誰も信じないってことは分かってるし、全員、そんな梓の姿を否定したかったからかもしれない。

 

 

 

 




お疲れ様です。

さすがにそろそろ本編エピソードをやれって声が出そうな気がする。

次の話はそうするから文句があっても許してね。

ほんじゃあ待ってて。


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第八話 五色のはね

八話目にして本編再開。
どんなもんかね。やっぱ伸ばしすぎたか。
まあ皆さんが楽しんで下さったことを祈る他ねーやな。
無論この話でもね。
ほな行ってらっしゃい。



視点:外

 

「おかえりなさい」

 

「……」

 

「どうでしたか?」

 

「……」

 

「そうですか……御苦労でしたね。ゆっくりお休みなさい」

 

「……」

 

「気にしないで下さい。むしろ、あなた方に任せるしかない私の方こそ、謝罪すべき立場にあるのですから」

 

「……」

 

「ええ。あなた方が見つけられないとなると、少なくともあちら側にはいないということですね。だとすると、やはりこちら側のどこかに……」

 

「……」

 

「ええ。しばらくは私一人で動きますが、またあなた方に頼むことがあるかもしれません。その時は……」

 

「……」

 

「そうですか。感謝に絶えません。ですが、その時が来るまではお休みなさい。もしかしたら、その時はすぐそこかもしれませんが」

 

「……」

 

「分かりませんが、少し嫌な予感がするのです。このまま何事も起きなければ良いのですが」

 

「……」

 

「ふふ、ええ。頼りにしています」

 

 ッス

 

「……」

 

「ええ。もちろん、分かっていますよ」

 

「……」

 

「あなたとの約束を、忘れた日はありません。ですが、同時に私にも、解決しなければならない問題が起きてしまっている。それが解決した時、必ず約束を果たします」

 

「……」

 

「……私も、あなたが大好きですよ」

 

「……」

 

「ええ。いらっしゃい」

 

「……」

 

「もちろん、必ず……」

 

「……」

 

 

 

視点:あずさ

 レッド寮での一件から、数日が経ちました。

 

「『氷結界の虎将 ライホウ』の攻撃!」

「ぐわぁあああああああ!!」

「良き決闘を、感謝致します」

 

『きゃあ~~~~~~~~!! 梓さ~~~~~~~~ん!!』

『うぉおおおおおおおおお!! 梓さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!』

 

 あれから、梓くんが変わってしまうことも無く、凶王化さえ起きない、平和な毎日が続いています。梓くんは相変わらず綺麗で優しくて、実技ではすっかりブルー寮のアイドルになってる。ていうか、もうアカデミアのアイドルだよね、これ。

「あずささん」

 そんな梓くんと友達であるわたしは、何だかんだいって一番話す機会が多いわけで、それに妬む人達もいるんだよねぇ。まあ、月一テストでのこともあって、あからさまにわたしに文句を言ってくるような人はいないからまだいいんだけど。

 そして、私はと言うと……

 

「バトル! 『大将軍 紫炎』でダイレクトアタック!」

「罠発動! 『魔法の筒』!」

「え? うわぁあああ!!」

 

「……負けちゃったよ」

「そう気を落とさずに、また頑張りましょう」

 元々あまり成績が良い方でもなくて、勉強をしてると言っても、やっぱり負けることはあるわけで。

 はぁ……梓くんとは対等でいたいんだけどなぁ。まだまだ先は長いや。

 

 そんな感じで、いつも通り授業も終わって、わたし達は寮の自室に戻った。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:梓

 目の前にあるのは、一つしか無いだけに明るく、そして、妖しく光る炎の灯りと、そんな灯りに照らされた、恐怖を浮かべる三つの顔。

 

「彼女は今でも涙を流しながら、自分が何者かも分からず、何のために生きているのかさえ分からないまま、亡くした夫のことを思いながら、どこかにいるという兄を捜し続けていると言います。暗く不気味な唄を詠い続けながら……」

 

『開け根の(こく) 根のやしろ……尋ね訪ねて 幾千里……あなた離れて 閻魔様……明日(あす)の行方を 尋ねや来られ……恋の行方を 尋ねや来られ……彷徨い入れ 底の宿……(せな)や震わせ 胸抱き……(はら)(くら)うは ()の根っこ…………死にゆく呻き 華の()う』

 

「さ、さすがレベル7なだけのことはあるな……」

「うぅ、今夜眠れないかも……」

「ま、まだ震えが止まらないんだなぁ……」

 どうやら気にいって下さったようですね。

 私達は今、カードをめくり、そのモンスターのレベルに応じた怖い話を話して聞かせるという遊びの真っ最中です。そして私のめくったカードが、レベル7の『氷結界の交霊師』。レベル7にふさわしい話かどうか不安だったのですが、それに見合ったようで良かったです。

 

「こんな遅くまで何してるのにゃ~?」

 

 おや、この声、そして特徴的な口調は……

「大徳寺先生」

 レッド寮の担任であり、錬金術の担当教師、大徳寺先生です。

「ブルー寮の梓さんまで一緒になって、何してるのにゃ~?」

 その質問に、十代さんがこの遊びについての説明をしました。

「ふむ。どれどれ~?」

 先生の引いたカードは、おお! 『F(ファイブ)G(ゴッド)D(ドラゴン)』、レベル12ですか。

「出た! 最高のレベル12!」

「ぜひ、お聞かせ下さい」

 私と十代さんで先生に尋ねました。翔さんと隼人さんは未だ震えていますが。

「それではお話ししますにゃ」

 おっと。

「森の奥に、今では使われなくなった特待生用のブルー寮がありますのにゃ~」

 

 先生が話して下さったのは、もう使われなくなってしまった寮について。そこでは昔から、何人もの生徒が行方不明になっているとのこと。

 そして、そんな話を聞いて、いても立ってもいられなくなったのですね。十代さんが肝試しをしようと、翔さんと隼人さんを連れて飛び出してしまいました。私も後を追います。

 

 

 そして、話題のブルー寮。しかし、そこには既に先客が。

「よう、あずさ」

「あ、十代くん達」

 あずささんです。何やら寮を見ながら、じっとしていました。

「どうかしたのですか?」

「それが……」

 

 あずささんのお話によると、明日香さんが急にいなくなり、ここまで探しにきた時、この中に入っていく明日香さんの姿を見たとのことです。

 

「それで、中には入ってみたのですか?」

「いや、それが、その~……」

 私の質問に、顔を背けてしまうあずささん。なるほど。

「怖くて一人では入れない?」

 そう言うと、顔を赤らめてしまいました。可愛いですね////

「よし! じゃあ俺達と一緒に入ろうぜ!」

 あらら、十代さんに先に言われてしまいました。

「いいの?」

「ああ。俺達もこの中に入ろうと思ってたところだしな」

「……うん。じゃあ、一緒に行こう」

 あずささんは笑って私達の横に並びました。しかし、

「……」

 まだ、少し震えています。その姿が可愛いのでもっと見ていたいのですが……

「怖いのなら、歌でも歌ってみてはいかがでしょう?」

「歌?」

「はい。良ければ私が歌ってさしあげましょうか?」

「……うん! 梓くんの歌聴きたい!」

 喜んで下さって光栄です。

「な、なあ、梓……」

 急に十代さんが、震えた声で話し掛けてきました。

「その歌ってまさか……」

 随分顔が青いですが……ああ。

「ご安心を。先程とは違うものですから」

「そ、そうか……」

 本気でホッとしています。左右の二人まで。よほど怖かったのですね。

 まあ、とにかく明日香さんが中にいるのなら、急いだ方が良いでしょう。

「では、参りましょうか」

 

 

 

視点:あずさ

「じょ~お~ね~つの~ あ~かい~ば~……」

 

 わたし達は今、廃寮の中を探索中です。

 中は色んな物が散らかってて、本当にただの廃墟みたい。

 壁には何だか変な絵が描かれてる。逆三角形に丸、これは鍵で、あれは天秤かな?

 

「おーい! こっち来てくれー!」

 

 突然、十代くんが叫んだ。どうやら写真を見つけたみたい。

 何か書かれてるけど……

 Fubuki、10、Join?

 どういう意味なんだろう?

 

「きゃー!!」

 

 !! 突然の悲鳴!!

「向こうからなんだな!!」

「急ぐぞ!!」

 わたし達は声のした方向へ走った。

 

「と~き~め~きの~ し~ろい~ば~……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 声のした方向にあった部屋に着くと、そこには大きい体をした人がいて……

 明日香ちゃんが、棺桶に眠らされてる!?

「お前、明日香に何しやがった!?」

 十代くんが叫んだ。

「私の名はタイタン。千年アイテムを所有せし闇の決闘者」

「タイタン?」

「闇の決闘者?」

「この娘には少々、私の闇の決闘を痛感してもらった」

 闇の決闘!?

 

「……貴様が誰かなどどうでも良い」

 

 うわ! 梓くん、予想はしてたけど凶王化してる!

「貴様は我らが友を傷つけた。その事実があれば十分だ!!」

 そのまま前に出てきて、刀に手を掛けた。

「おっと、私を殺すと言うのなら、この女も道連れにするまでだ」

「貴様……!!」

「ふぅん、私を殺したければ、カードで殺せ」

 顔を歪めながら、刀から手を離す。さすがに凶王化しても、人質を取られたら何もできないよね。

「私が用がある者、それはお前だ! 遊城十代!!」

「お、俺?」

 タイタンが十代くんを指差して、叫んだ。

「私と決闘をしろ。負けた方が消える、闇の決闘をな」

 負けた方が消える!? どういうこと!?

 

「……消えるのは貴様だ」

 

 また梓くんが言った。そしてその手には、決闘ディスク!?

「貴様には何も渡さない。これ以上友を奪われてたまるか! 十代と決闘したければ、私を殺してからにしろ!!」

「梓……」

 また叫びながら構えてる。殺してから……て、えぇ!!

「ふぅん、お前が何者かは知らんが、プロのビジネスの邪魔をせんことだ」

「貴様の事情など知るか!! 口答えは許さない!!」

「……」

「……」

「……ふ、良かろう。肩慣らしにお前を倒し、改めて遊城十代の相手をしよう」

 そして構える、タイタン。

「梓くん! 気をつけて!!」

 そう叫んだけど、梓くんは、聞こえて無い?

 

「私を殺せ!! 緋水(ひすい)の渋きを浴びせてみせろー!!」

「面白い。魚の餌にしてくれるわぁ……」

 

『決闘!!』

 

 

タイタン

LP:4000

手札:5

 場:無し

 

LP:4000

手札:5

 場:無し

 

 

「……あれ?」

 突然、十代くんが声を出した。

「どうかした? 十代くん?」

「いや、梓ってさ、いつも左の袖からデッキを取り出してたよな?」

 袖?

「……うん。左手にディスクを着けるから、セットし易いよう左から取り出してた」

「だよな。あいつ、今右の袖からデッキを取り出さなかったか?」

 右?

「それに、薄暗いからよく分からなかったけど、いつも青色のデッキケースだったのが、今回は紫だったような……」

 紫のデッキケース?

 

「私のターン」

 

 !! そんな場合じゃない。先行はタイタンだ。

 

タイタン

手札:5→6

 

「フィールド魔法『万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟-』を発動ぅ」

 周りの風景が不気味な空間に変わる。万魔殿ってことは、『デーモン』デッキ!

「更に、『シャドウナイトデーモン』を攻撃表示で召喚ん」

 

『シャドウナイトデーモン』

 攻撃力2000

 

「一枚セットし、ターンエンド」

 

 

タイタン

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『シャドウナイトデーモン』攻撃力2000

   魔法・罠

    フィールド魔法『万魔殿-悪魔の巣窟-』

    セット

 

 

 デーモンデッキ。結構厄介なモンスターが多いんだよね。どうするんだろう、梓くん。

 

「私のターン!」

 

手札:5→6

 

 でもよく考えれば、凶王化した梓くんの決闘を見るの、これが初めてだよ。

「速攻魔法『サイクロン』! セットカードを破壊!」

 うわ、やっぱり最初はこれなんだね。何を伏せてたのか確認する前に墓地に行っちゃった。

 

「……このターンで終わらせる」

 

 え!?

「なにぃ!?」

「何だって!?」

「終わらせる!?」

「えぇ!?」

 さすがにみんな驚いてる。一体どうやって? まさか、またこの間みたいにアブソルートZeroを呼び出すの?

 

「私は三枚の永続魔法を発動する! 『六武の門』! 『六武衆の結束』! 『紫炎の道場』!」

 

『六武衆!?』

 

 わたしだけじゃなくて、みんなが驚いた! だって、梓くんが、今まで氷結界デッキを使ってた梓くんが、わたしと同じ、六武衆!?

 しかも、『紫炎の道場』なんて、わたしも知らないカードまで!?

 て、驚く間もなく、梓くんは手札に手を伸ばした。

「私は手札より、『真六武衆-カゲキ』を召喚!」

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200

 

「真六武衆!?」

「どうした、あずさ?」

「だって、『真六武衆』なんて、わたし聞いたこと無いよ!」

「あずさも知らない六武衆だって!?」

 知らないよ! あんなカード……

 ……あれ? ちょっと待って? あの背中の腕に、あのステータスって……

 ……『六武衆の侍従』?

 

「六武衆を召喚、特殊召喚した時、それぞれ門に二つ、結束と道場に一つの武士道カウンターが置かれる」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1

 

「カゲキの効果! このカードの召喚に成功した時、手札のレベル4以下の六武衆一体を特殊召喚する! 『真六武衆-シナイ』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-シナイ』

 攻撃力1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:1→2

 

 あの青い鎧、『六武衆の御霊代』!? え、でも、あれは幽霊だし、あれ?

 

「カゲキは場にカゲキ以外の六武衆がいる時、攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

 

「これで結束に乗った武士道カウンターは二つ! 結束を墓地に送り、カードを二枚ドロー!」

 

手札:1→3

 

「『六武の門』の効果発動! 武士道カウンターを四つ取り除き、六武衆を一枚手札に加える! 私は『真六武衆-ミズホ』を手札に加える!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

手札:3→4

 

「このカードは場にシナイがいる時、手札から特殊召喚できる! 『真六武衆-ミズホ』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-ミズホ』

 攻撃力1600

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:2→3

 

 あの赤い鎧! それに、あの攻撃力は!

 ……何だっけ?

「そして、このカードは場に六武衆がいる時、手札から特殊召喚できる! 『真六武衆-キザン』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:3→4

 

 あれは!

 ……分かんない。

「ミズホの効果! 一ターンに一度、フィールド上の六武衆を生贄に捧げることで、相手フィールド上のカードを一枚破壊する! 私はキザンを生贄に捧げ、貴様の場の『シャドウナイトデーモン』を破壊!」

 キザンが消えた瞬間、ミズホがあっという間にシャドウナイトデーモンに向かう!

 思い出した! 鎧で顔の半分が隠れてるけど、あれはきっと、『六武衆の露払い』だ!!

 

「待った! 『シャドウナイトデーモン』が効果の対象になった時、サイコロを振る。3が出た場合、その効果を無効にし、破壊する」

 

 そうだ! 『チェスデーモン』にはそんな共通の効果があったんだ!

「ここではサイコロの代わりに、このルーレットを……」

 タイタンの手から、六つのボールでできたルーレットが現れた……

 

 ヒュッ

 

「な、何だこれは!?」

 何だか風切音がしたと思ったら、六つのボール一つ残らず、カードが刺さってる!?

 刺さってるのは、一から順に……

 『検閲』、『押収』、『真実の眼』、『マインド・ハック』、『リバースダイス』、『正々堂々』……

 そして、梓くんは何かを投げた姿勢を作ってる。あのカード、梓くんが投げたんだ!

 にしても投げたカードと順があれってことは……あいつがイカサマするってこと!?

「……」

 梓くんは無言で懐に手を入れて、取り出したのは、二つのサイコロと、小さな籠? これって、よく時代劇なんかで見る『丁半博打』!?

 梓くんはそれを掲げて、サイコロをしばらく回して見せる。「イカサマございません」てやつだね。そして、それを籠に放り投げて、地面に。

 

「……(ギッ!)」

 

「ぬぅ……!」

 梓くんの睨みに、タイタンが怯んだ。確率は六分の一……

 て、ちょっと待って。一つでいいサイコロが二つ……?

「ハンデをくれてやる。丁か半、どちらか当てたなら効果を適用させてやる」

「なっ!」

 えぇ!? てことは確立は二分の一じゃん!!

「くぬ、舐めているのか……」

「なら普通に振るか?」

「……後悔させてやる……半だ!!」

 えっと、確か二つのサイコロの目の合計が、半は奇数で、丁は偶数だったよね。

 思い出してた直後、梓くんの手が、ゆっくり上がる。サイコロの目は……

 

「……一・一(ピンぞろ)の丁。『シャドウナイトデーモン』を破壊!」

 

 立ち止まってたミズホが、一気に『シャドウナイトデーモン』を斬り裂いちゃった!!

「こ、こんなはずでは!!」

「そして『紫炎の道場』の効果! このカードを墓地に送ることで、このカードの上に乗った武士道カウンターの数以下のレベルを持つ六武衆、または紫炎と名の付いたモンスターを特殊召喚する! 武士道カウンターは四つ! レベル4の『真六武衆-エニシ』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-エニシ』

 攻撃力1700

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→6

 

 エニシ!? 間違い無い、あれは『紫炎の老中 エニシ』だ!

「エニシは場にエニシ以外の六武衆がいる時、攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 

『真六武衆-エニシ』

 攻撃力1700+500

 

「『六武の門』の効果! 武士道カウンターを四つ取り除き、墓地の『真六武衆-キザン』を手札に加える! そして特殊召喚! キザンは場にキザン以外の六武衆がいる時、攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+300

 

『六武の門』

 武士道カウンター:6→2→4

 

 ……そっか。思い出した。あの効果と攻撃力、あれは、『六武衆の師範』だ。

 あの真六武衆、みんな、今の六武衆の関連カード達の若い頃の姿だったんだ!

 

「門の効果! 残り四つの武士道カウンターを取り除き、武士道カウンター二つにつき、キザンの攻撃力を500ポイントアップさせる! 永続魔法『連合軍』を発動!」

 

 うわぁ……何なの、これ……

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+300+1000+1000

『真六武衆-エニシ』

 攻撃力1700+500+1000

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500+1000

『真六武衆-ミズホ』

 攻撃力1600+1000

『真六武衆-シナイ』

 攻撃力1500+1000

 

 たった一ターンで……後攻の一番最初の一ターン目で……こんなに……

「嘘、だろ……」

「こんな、ことって……」

「あり得ない……」

 三人とも、呆然としちゃってる。プレイングだとか展開力だとか、色々あるけど、こんなことができる梓くんがただ凄過ぎて、まともに声も出ないよ。

 

「ふ、ふははははは……」

 急に、タイタンが不気味に笑い始めた。決闘開始と同時に場に出したカードがフィールド魔法以外破壊されて、こんなことされちゃったんだから、もう笑うしか無いよね。

「ふははは……是非も無し……好きにせい」

 是非も無しって、確か仕方ないって意味だっけ? 何でまたそんな古い言葉を。

 

「バトルフェイズ!!」

 

 はっ! 梓くんの言葉と同時に、真六武衆の五人が構えた!

 

五色(いいろ)(はね)よ、私を抉れ!!」

 

 叫んだ瞬間、五人がタイタンに向かっていった!

 

「ぐぅっ、ブルゥアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

タイタン

LP:4000→0

 

「私の罪を憎む……」

 

 最後にそう呟いて、梓くんは残り一枚の手札をデッキに納めた。それはまるで、刀を鞘に納めるみたいだった。

 

 

『梓(さん)くん!!』

 全員の声が唱和して、梓くんに駆け寄った。

「……」

「何ていうか、すっげえな梓。まさかお前が、六武衆も使うなんてな……」

「しかも、宣言通り一ターンで終わらせるなんて……」

「凄過ぎなんだなぁ……」

 三人ともさっきのが衝撃的過ぎたんだね。顔が引きつって、声が落ちちゃってるよ。でも、わたしは別のことが気になってた。

「梓くん、あの真六武衆って……」

 どうしても知りたかった。わたしは六武衆デッキを使って長いけど、あんなカード群見たことも聞いたこと無かったから。

 

「……」

 

「あ、梓くん!?」

 梓くんは、わたし達の方を見た時、涙を流してた。

「……すみません。後はお願いします」

 そう言って、梓くんはわたし達に背中を向けて、その場を後にした。

「梓くん……」

「あずさ」

 急に、十代くんに話し掛けられた。

「事情はよく分からないけど、お前がついててやれ」

「わたしが?」

「ああ。梓のことだから、多分何かあっても話したがらないだろうけど、せめて誰かついてた方がいい。それなら、お前が一番だろう」

 ……そう、笑って言ってくれた。

「……ううん。わたしは、あの人運ぶよ」

「え? けど……」

「あんな大きな人、十代くん達じゃ無理でしょ。わたしなら楽勝だから」

 それだけ言って、これ以上何か言われる前に、気絶してるタイタンを片手でヒョイっと持ち上げた。

 

 ……わたしだって、本当は梓くんのそばにいたかった。けど梓くん、とても悲しんでた。わたしがそばにいたって、慰めになんてきっとならない。むしろ、変な気を遣わせちゃうだけだから。

 だからせめて、今は一人にしてあげよう。正直、たくさん聞きたいことはあるんだけど、もう、梓くんのあんな姿は見たくないから。だから、今夜のことは忘れて、明日もいつもと同じように、いつもと同じ日が続くように、いつも通りでいればいいんだよ。

 ね。梓くん。

 

 

 

視点:外

「けどさ、梓の奴、何でよりによってあの歌を?」

「さあ……多分あのアニメが好きなんじゃないっスか?」

「まあ、面白いんだなぁ。あのアニメ」

「あのアニメ面白いよねぇ」

 

『……』

 

「……けど、上手かったね」

「ああ。抜群に上手かった……」

「上手いのに、曲のチョイスが……」

「んだなぁ……」

 

『……』

 

 

 

 




お疲れ~。
皆さんはあのアニメは好きですか? 大海は好きです。
……まあそれだけだ。

にしても本編の方が短いってどうなのかな?
だが後悔はせぬわ!

ほな次話まで待ってて。


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第九話 退学の危機、凶王と帝王 ~凶王~

九話目や~。
内容はタイトルから大体分かるろ~。
しかし俺にはこれしか言えん。
行ってらっしゃい。



視点:外

 

『……』

 

「……すみません」

 

『……』

 

「私は、あなた方を……」

 

『……』

 

「……そうですね。分かっています。それは、とても嬉しいことです」

 

『……』

 

「……そうですか。そう言って下さいますか」

 

『……』

 

「……私も、楽しかった」

 

『……』

 

「……はい。ありがとうございます」

 

『……』

 

「慰めてくれるのですか」

 

『……』

 

「ありがとう」

 

『……』

 

「ええ。もう大丈夫です」

 

『……』

 

「構いませんよ。いらっしゃい」

 

『……』

 

 

 

視点:あずさ

「明日香ちゃんて、眉毛濃いよね」

「ええ。実はこれ……」

 

 ペリ

 

「奈良漬なの」

「ほぉー!!」

 

 

 ガバ!

 

 何だろう……物凄く嫌な夢を見ちゃったような……

 お陰で目が覚めちゃったよ。昨夜あんなことがあったからかな?

 あの後、わたし達はとりあえず倒れてた明日香ちゃんを運んで、タイタンは目が覚めた後でボコボコにして追い返した。と言っても、手甲は着けずに、手加減したんだけどね。

 その後すぐに帰って寝たんだけど……

 そう言えば、梓くんは大丈夫かな……

 

 コンコン

 

 ん? まだ朝早いのに、誰だろう。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:十代

 

「俺達が退学!?」

 

 俺、翔、あずさの三人が朝から呼び出されて、言われたのはそんな内容だった。

『あなたたちーが、立ち入り禁止の廃寮に入ったことは分かっていますノーネ』

『そこで、お前達三人を退学にすることが決定した』

 そんな……

「ちょっと待ってくれって! たった一回入っただけでそれはねーだろう!!」

『ルール違反を犯したあなた達が悪いノーネ!』

 ぐぅ、そりゃルールを破ったのは悪かったけどさ……

「じゃ……じゃあ、私達にチャンスをくれませんか?」

 隣で小さくなってたあずさがそう言った。

『チャンスですか……うむ。良いでしょう』

『校長!』

『彼らはまだ幼い。たった一度のルール違反で退学と言うのはいささか酷な物があります』

『そ、それもまあ、そうなノーネ』

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そんなわけで、あずさの言葉のお陰で、学園で用意した相手に俺と翔がタッグ決闘を、あずさが個人で決闘をすることになった。それに勝ったら退学は無しになるってわけだ。

「まさか、私のせいでそんなことになっているなんて……」

 明日香が俺達を見ながら、悲しそうにそう言った。ちなみに明日香と梓が何事も無いのは優秀なブルー生徒だから、隼人は建物の陰に隠れてて見つからなかったかららしい。

「気にするなよ明日香。俺と翔のタッグなら負けねーよ」

「その自信はどこから来るんスか……」

 翔は偉く落ち込んでるなあ。

「大丈夫だって。俺とお前のタッグなら無敵だ。あははははは」

 翔の決闘は見たこと無いけど、まあ何とかなるだろう。

「よし! じゃあ早速俺と特訓決闘だ!」

 そう言って、翔の手を引いて教室を出ようとした時だった。

 

「あれ? 梓くんがいない」

 あずさがそう言った。そう言えば、たった今まで一緒に話してたのにいなくなってる。

「梓なら、たった今トイレに行くって出ていったわ」

 明日香が教えてくれた。

「そっか。トイレか」

 

『………………………』

 

『まさか!!』

 

 

「わたし達は現在校長室に向かっています!!」

「何言ってんだよあずさ!! 急ぐぞ!!」

 そうこうしているうちに校長室に辿り着いたけど……

 な、何だこりゃ!? ドアが、真っ二つに斬られてやがる!! こんなことができる奴なんて、一人しかいねえ!!

「校長!!」

 呼びながら中にはいると、校長は呆然と椅子に座ってた。その前には、ドアと同じで真っ二つになった机が。

「ああ、君達か……」

 あずさがすぐに校長に近づいた。

「先生! ケガ無いですか?」

「ええ、何とか……」

「梓が来たんだろ!? 水瀬の方!!」

「ええ。まさか、彼にあんな一面があったとは、普段の姿からは想像もできませんでした」

「梓はどうした? どこへ行ったんだ!?」

「私から倫理委員会の居場所を聞き出すと、すぐに出ていきました」

「まさか、教えちまったのか!?」

「申し訳無い。嘘を言っても彼には通用せず、御覧の通り机を斬られて脅され、つい本当のことを……」

「それで、場所は!?」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:倫理委員会委員

 

 カタカタ……

 

 カタカタ……

 

 カタカタ……

 

 キンッ

 

 私が仕事でPCを叩いていた時、静かな音が突然響いた。はて、何かの金属音のようだったが……

 

「貴様か……」

 

 今度はそんな、暗い少年の声。何事かと見てみると、そこには青い着物を着た、少女のような顔をした少年が、日本刀を片手に私を見ている。

 こいつは確か、水瀬梓。噂は聞いている。

「こんな所に何の用だ? ひとまずその物騒な物をしまえ」

 そう言ったが、水瀬梓は無視して徐々に近づいてくる。

「おい! 聞こえな、あっ……」

 私が言い切る前に、いつの間に抜いたのか、日本刀を私に突きつけた。しかも、喋っている最中の口に、刃の先を挿し入れる形でだ。

「私の友を退学にしようとしている者、それは貴様かと聞いている……」

 退学と言うと、遊城十代達のことか?

 それを理解したと同時に、こいつの目を見た時、感じた。この男、本気で私を……

「あが、あが……」

 返事をしたいのだが、口に刀を入れられていて喋れない。下手をすれば、刀で口を切ってしまう。

「……」

 そんな私の姿を見かねて、水瀬梓は日本刀を口から離し、そのまま鞘に納めた。

「……いや、私ではない。もっと上の人間からの命令だ」

「そうか。なら、そいつのもとへ連れて行け……」

「断る。そんなことはできない」

「そうか。ならば、できるようにするまでだ」

 そう言って、また刀に手を掛ける。

「私を殺そうとしても無駄だぞ。ここには私以外にも、多くの倫理委員会のメンバーがいる。私がこのボタンを押せばすぐに……」

 その時、私は疑問を感じた。そうだ。ここに来るまでにも、多くの倫理委員会メンバーがいたはずだ。なのに、日本刀などという明らかな危険物を持ったこの少年が、なぜここまでやってこれた?

 

「倫理委員会? そんな者は一人もいなかったぞ。もっとも、何匹もの番犬がうるさく吠えていたから、黙らせたがな……」

 

 その言葉で、私は確信してしまった。

 倫理委員会は、目の前に立つたった一人の少年に、壊滅させられたのだと。

「貴様はどうする? 犬共と共に眠るか? それとも永久とわの眠りに着くか?」

 その言葉に、私はただ震えていた。

 執行部は私も含めて全員、毎日厳しい訓練をこなし、肉体を鍛えている。中には実戦を経験した者も少なくない。それを、たった一人の、私より遥かに華奢(きゃしゃ)な体つきをした少年が、全て壊したというのか……

 水瀬梓は静かに私の隣に立ち、耳元に口を近づけた。

 

「上の者とやらの居場所を……刹那だけ待ってやる……」

 

「言え!!」

 

「っ!!」

 耳元での叫び、怖い……

 だが、ここまでのことをされて、私も黙っていられるわけが無い。怒りと使命感が、恐怖を上回った。

「はああああああああああ!!」

 大声を上げながら、顔面へ放った右の拳。

 

 ガシッ

 

 不意を付いたパンチだった。速度もタイミングも、完璧だったと自負できる。なのに、水瀬梓はそれを、顔に当たる寸前で受け止めた。

 そして、握っている私の拳を、徐々に締め付け……

「ぐ、うぅぅ……」

 かなりの握力で握られている。握られただけで、私は痛みにひざを着き、顔を伏せてしまった。

「私に拳を向けられる女は、この世に一人しかいない!!」

 最後にそんな言葉を聞こえた……

 その直後だった。

 

「梓くん!!」

 

 女子の声、か? 痛みで上手く聞こえなかったが、その声の直後、急に痛みが引いた。

 

「何やってるの!?」

 

 今度は完全に痛みが無くなり、私の手が離されたことが分かった。見ると、水瀬梓は入口の方を見ている。そこに立っているのは、退学を言い渡された平家あずさと遊城十代、その他の計五名。

「私は許さない。あずささんを……友たちを傷つける者、悲しませる者、苦しめる者、それら全てを許しはしない!!」

 やはり、あいつらのためか。普通ここまでするか……

「だからって、こんな大暴れしちゃダメだよ!! むしろ梓さんが退学になるっスよ!!」

「そうだ!! 一応全員無傷で気絶させただけだったみたいだけど、お前本気で殺す気だったろう!?」

「当たり前だ!! 私は許さない。友を傷つけること、私はそれを最も憎む!! 退学も決まりも興味は無い!!」

「バカ野郎!! いくらお前が許せねえからって、お前のやってることは許される行為じゃねーだろう!!」

「そんなことは百も千も承知だ!! ならば、貴様らは悔しいと思わんのか!? 決まりを破ったことを罰せられるのは良い。こちらも許されない行為をした。その罰は受けて然るもの。だが、その瞬間に存在を全否定され、居場所を奪われ捨てられるのだぞ!! 誰かを傷つけたわけでも、誰かに損害を与えたわけでも無い!! ただ入っただけだ!! たったそれだけの行為で、弁解の余地も、償う暇さえ与えられず、与えられたのは、屈辱と羞恥に彩られた試練のみ!! それを!! 貴様らは黙って受け入れると言うのか!?」

「受け入れるよ!!」

 水瀬梓の絶叫の直後、平家あずさが叫んだ。

「私も、十代くんに翔くんだって受け入れてるよ!! だから、これから強くなろうって、君が言った試練を乗り越えようって頑張ってるんだよ!! 決闘に勝てば、退学は無くなる!! そのために頑張れば良いんだよ!!」

「負ければどうなる!?」

 今度は水瀬梓が叫ぶ番だった。

「特訓し、力を付け、全力を出す。それで負けたとしても貴様らはそれで満足だろうな!! だがその瞬間、何もできないまま私は全ての絆を奪われるのだ!!」

 そう叫ぶと、今度は急に、下を向いた。

 

「どうやって生きたらいい……どうしたら良かったんだぁあ!?」

 

 水瀬梓は、最後にそう泣き出しそうな声で叫んだ。

 

「梓くん……」

「梓……」

 また二人が声を出した。

 二人だけではない。私も、そして、この場にいる全員が同じ思いだろう。

 ただ友を傷つけられたことが許せなくて、友がいなくなることも受け入れられず、そのことに怒り、ここまでのことをする。

 何と言うべきか、どこまでも、悲しいほどに純粋な男だ。

 

「梓くん」

 そんな優しい声で水瀬梓に話し掛けたのは、平家あずさだった。水瀬梓の手を取り、笑顔を見せている。

「大丈夫だよ。わたし達、絶対に負けないから」

 先程まで梓を見ていた顔とは打って変わった、とても優しい笑顔だった。

「約束するよ。わたし達、絶対に勝つよ。誰も、梓くんの前からいなくなったりしないから。ねえ、十代くん、翔くん」

 入口にいる、遊城十代と、丸藤翔に話し掛けた。すると二人とも、決意を新たにしたように、笑顔を浮かべた。

「もちろんだぜ! さっきも言っただろう。俺と翔のタッグなら無敵だってさ!」

「……正直、自信なんて無かったし、本当は決闘が怖かった。けど、そんな梓さんにそこまで思ってもらえて、無下にはできないっス。だから、僕も勝つよ」

 ここに来て、終始不安げな顔をしていた丸藤翔の顔が一変、決意のこもった顔を浮かばせている。

「だから梓くん、帰ろう」

 また笑顔を向けて、優しく話し掛けている。

 

「……」

 水瀬梓は、その笑顔をジッと見ていた。

 しばらくそうした後で、私の方を見た。

「……数々のご無礼、申し訳ございませんでした」

 それは、直前までの顔とは打って変わった、本当の少女に思える、男の()な顔だった。悲しげだがそこがまた美しく、つい見惚れてしまいそうになる。

「あ、いや、幸い死傷者は無さそうだし、まあ、ここは大目に見てやろう////」

 そう返事をすると、顔を上げて、また私の顔を見てきた。そして浮かべる、笑顔。

「また改めて、お詫びに参ります」

 か、可愛い////

 その言葉を最後に、仲間達と共に出ていった。

 

 

 さて、全員が去った後で、私も部屋を出てみたが……

 な、何という!?

 少なくとも二十人以上はいるはずの、水瀬梓よりも軽く倍はある体格の男達が、厳しい訓練を共に耐えてきた精鋭達が、一人残らず、気絶させられている。

 男の娘であるということからの油断を差し引いても、これは由々しき事態だ!

 片手でいなされた私もそうだが、あんな……

 たった一人の……

 可愛い男の娘に……////

 

 ではなく、これは、許されない!

「ほら、起きろお前達!」

 たった一人の男子生徒にこの(てい)たらく。私達へのこれからの課題がはっきりした。まだまだ、強くならなければならないらしいな。

 しっかり鍛え直さねば!!

 

 

 

 




お疲れ~。
ちなみに倫理委員会のイメージは大海の勝手なそれだからな。
あれで合ってんのか分かんないし。アニメの記憶も曖昧だし。
まあ楽しんでもらえりゃそれでいいさ。
んじゃ次話まで待っちょれ。


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第九話 退学の危機、凶王と帝王 ~帝王~

九話目~。
お待ちかね(?)のあの人が出るでよ~。


んじゃ、行ってらっしゃい。



視点:梓

 現在、海辺で翔さんと十代さんの決闘を観戦しておりますが……

 

「『パトロイド』を召喚! そして効果発動! 兄貴のセットカードを確認!」

 セットされていたのは、『攻撃の無力化』。

「『パトロイド』で、フェザーマンに攻撃!」

 セットカードの確認は情報アドバンテージを得る上でも有効ですね。何より結果は同じでも、十代さんは無力化を発動させるしかありません。

「俺のターン!」

 十代さんは新たにスパークマンを呼び出しました。攻撃力は『パトロイド』を400ポイント上回っています。そのまま戦闘破壊され、フェザーマンのダイレクトアタック。

 

LP:4000→2600

 

「うぅ……まだ僕のライフは残ってる。梓さんと約束したんだ。絶対、負けない!!」

 

「あれが翔君だなんて、今までの弱気が嘘みたい」

「んだなぁ」

「翔君! 頑張って下さいまし!!」

「ファイト……」

 いつの間にいたのか、ももえさんにジュンコさんも応援しています。

 

「僕のターン! 『強欲な壺』発動! カードを二枚ドロー! その後、強欲な壺を破壊!」

 ドローした瞬間、翔さんはなぜか顔を歪めました。随分考えているようですが、何を引いたのでしょう?

(約束とは言え、このカードはやっぱり……)

「『スチームロイド』召喚!」

 

『スチームロイド』

 攻撃力1800

 

(フェザーマンとスパークマン、残しておいて厄介なのは……)

「『スチームロイド』で、スパークマンを攻撃! 『スチームロイド』が攻撃する時、攻撃力が500ポイントアップする!」

 

『スチームロイド』

 攻撃力1800+500

 

「ぐぅ……」

 

十代

LP:4000→3300

 

 十代さんに初ダメージです。スパークマンを選択したのは良い判断ですね。明らかに残しておいて厄介なのはあちらですから。

 

「メインフェイズ、魔法カード『融合』! 手札の『ジャイロイド』と『エクスプレスロイド』を融合! 『スチームジャイロイド』を融合召喚!」

 

『スチームジャイロイド』

 攻撃力2200

 

「僕はこれでターンエンド!」

 

 

LP:2600

手札:4枚

場 :モンスター

   『スチームジャイロイド』攻撃力2200

   魔法・罠

    無し

 

十代

LP:3400

手札:4枚

場 :モンスター

   『フェザーマン』攻撃力1000

   魔法・罠

    無し

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

十代

手札:4→5

 

「やっぱ決闘はこうでなくちゃな! 俺も全力で行くぜ! 翔!」

「来い兄貴! 僕は負けない、絶対に勝つんだ!!」

 翔さん、今までに無いやる気です……!

「行くぜ! 俺も魔法カード『融合』発動! フェザーマンと、手札のバーストレディを融合! マイフェイバリットヒーロー、『E・HERO フレイム・ウィングマン』を召喚だ!!」

 

『E・HERO フレイム・ウィングマン』

 攻撃力2100

 

「兄貴のフェイバリットヒーロー! だけど、そのモンスターじゃ僕のフェイバリット、『スチームジャイロイド』には勝てない!」

「慌てるな。ヒーローにはヒーローの、戦う舞台があるんだ」

「ま、まさか!!」

「フィールド魔法、『摩天楼-スカイスクレイパー-』発動!」

 

 十代さんのカードセットと共に、フィールドがビル街へ。そして、最も高いビルの上に、フレイム・ウィングマンが立ちます。

 

 ……どうでも良いことですが、あそこに私のZeroが立てば……

 似合いませんね。あれはどちらかと言えばヒーローと言うより騎士のイメージですし。

 

「そ、そんな……」

「フレイム・ウィングマンで、『スチームジャイロイド』に攻撃! スカイスクレイパーシュート!」

 

「うわー!」

 

LP:2600→1700

 

「そして、フレイム・ウィングマンの効果! このカードが戦闘破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!!」

「うわぁー!!」

 

LP:1700→0

 

 決闘終了。翔さん、健闘はしたのですが、残念です。

 

「翔、ちょっと手札見せてみろ」

 急に、十代さんが翔さんの手札を見ました。私達も近づき、見てみましたが、その手には、

「『パワー・ボンド』……」

 『パワー・ボンド』は機械族専用の融合魔法カード。エンドフェイズに融合召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける代わりに、その攻撃力を倍化させる効果を持ちます。

 あの時発動させていれば、2200ポイントのダメージは受ける物の、少なくとも戦闘破壊される危険は少なかったはず。

「どうして使わなかったんだよ?」

 十代さんが聞いた時でした。

 

「……『パワー・ボンド』は、お兄さんに封印されてるんだ……使っちゃいけないんだ!!」

 

「翔!!」

 そのまま翔さんは走っていってしまいました。

「俺、追いかけるんだな」

「私も行きますわ!」

「わ、私も!」

 そう言って、隼人さんとももえさんとジュンコさんが追い掛けていきました。

 

「一体どうしたっていうんだ?」

「十代」

 呆然としていた私達に、明日香さんが話して下さいました。

 『カイザー亮』こと『丸藤 亮』。この学園のトップに君臨する男。それが、翔さんの兄であるということを。

「兄……」

「梓」

 突然、十代さんに声を掛けられました。

「翔のことは俺がどうにかするから、あずさ達は二人でデッキ調整してろよ」

「ああ、うん。分かった」

「では、よろしくお願いします」

 せっかくやる気を出していたのに、このまま終わってしまってはあまりに忍びない。かといって、全てに手を貸すのもいささか強引です。ここは、彼のタッグパートナーである十代さんに頼るのが得策でしょうね。

 

 

 

視点:あずさ

 今、わたしと梓くんは、梓くんの部屋でデッキ調整の真っ最中です。

「このカードはいかがでしょう?」

「それを入れるならこれじゃないかな?」

 まあ、大よそデッキを作る上でするような会話を平凡に行っているわけで。正直、あんまり面白くないですよ。

 でも考えてみれば、梓くんと部屋で二人きりなんて、試験の前の日以来だよ。

「うーん……何だかまだちょっと物足りない気がする」

「何が不満なのですか?」

「何だろう? 自分でも完璧だと思ってるんだけど、何かが足りないんだよね……」

 本当に何が足りないのか分かんないや。デッキを作ってる時はよくあることではあるんだけど、何なのかな?

「……では、このカードを」

 そう言われて梓くんは、二枚のカードを差し出してきた。

「これで事足りるかは分かりませんが、ぜひ受け取って下さい」

 そう笑顔で言われて、受け取ったカードを見ると、

「これ……貰っていいの!?」

「ええ。ぜひ使って下さい」

「ありがとう!!」

 そうお礼をした後、思い出した。

 あの夜、梓くんが使ったカード、わたしの知らない六武衆、『真六武衆』。

 

「梓くん……」

「あずささん……」

 

 同時に声が出て、二人の声が重なった。

「はい、どうしました? あずささん?」

「いや、梓くんこそ、なに?」

 何だかこう言うのもよくあるやり取りだよね。改めて言うけどあまり面白くないですよ。

「その……」

 梓くんから話を切り出した……

 と思ったら、急にわたしの手を握ってきた!?

「な、なに……?」

 無言で、ジーっとわたしの顔を見てる。なに? 顔に何か着いてるかな?

 

 ガバッ

 

「うぅえぇえええ/////!?」

 今度は急に抱き締めてきた!?

 

「……」

 

 ……て、震えてる?

「梓くん?」

「……」

 相変わらず何も言わない。ただずっと、震えてるだけだった。

「……」

 でも、感じた。

 梓くんの心臓の音が聞こえる。ちょっと早いな。けど、そういうドキドキじゃない。まだ、不安なんだね。

「……すみません」

「いいよ」

 そう返事したら、体を離した。思ったとおり、凄く不安そうな、今にも泣き出しそうな顔してる。

「大丈夫だよ。約束は守るから」

「……」

 笑って話し掛けたけど、やっぱり不安そう。

「……すみません」

 それだけ言って、立ち上がった。

「梓くん!」

 梓くんは振り返らずに、部屋から出て行っちゃった。

 追いかけようと思って部屋から出たけど、もういなくなってた。

 

 

 

視点:梓

 

 バキバキバキバキ

 

 ズドォオオオ

 

 どれだけ走り息切れしても、どれだけ太い大木を斬り倒しても、私の中の不安は消えない。むしろそうすることでしか不安をごまかすこともできない、そんな自分につくづく嫌気が差す。

 十代さんは、翔さんは、そしてあずささんは、確かに約束して下さった。私の前からいなくはならないと、そのためにも、勝つと。

 だと言うのに、黙っていれば不安ばかり。しかし、不安が私を駆り立てるのではない。私が勝手に不安を感じ、暴れている。そんな自分が許せない。

 なぜ不安を感じる必要がある。

 約束を、なぜ信じることができない。

 私にとって、彼らの存在はその程度のことでしか無いということか……

 何もかも嫌気が差した私は、斬り倒した木の上に腰掛けました。

 

「これは……」

 

 突然、男子の声が聞こえてきました。そちらを見ると、珍しい白のブルーの制服に、青い長髪をなびかせる、背の高い、いわゆるイケメンの方。おそらく先輩ですね。

「……鋭利な刃物で斬られている」

 倒れた数本の木を見ながら、見れば分かることを言っています。

「君は、一年の水瀬梓だな」

 今度は私を見ながら確認してきました。

「君はこれをした犯人を見たのか?」

 おかしなことを聞きますね。

「私ですが」

 普通現場に唯一残っている私を疑って然るべきなのでは。

「……ふ、面白いことを言うな」

 て、なぜだか信じていません。本当のことなのですが……まあ、どうでも良いです。

「それで、君はここで何をしていたんだ?」

「……体を動かしたくなることもあります」

 それだけ答え、視線を外しました。

 

 

 

視点:亮

 水瀬梓は簡単に返事をした後で、そっぽを向いて黙ってしまった。その顔に正面から日の光を浴び、白い肌が更に白く光っている。

 姿を近くで見るのはこれが初めてだが、評判どおり、本当に綺麗な顔をしている。

「隣に座っても?」

「……どうぞ」

 特に口説こうと思ったわけではない。そもそも色恋沙汰に興味は無いし、梓は男子だ。ただ、見ていると、何となく話しをしてみたくなった。

「随分と暗い顔をしているが、何かあったのか?」

 ここに来てから、終始何かを考え、暗くなっている。聞いて良いことなのかは分からないが、どうにも放っておくのも良い気はしない。

「……」

「……話したくないのなら、無理にとは言わない」

 やはり聞いて良いことでは無かったか。そんな風に思った直後だった。

「……友達が……」

 そう口を開き、話し始めた。

「……友達が、いなくなるかもしれないのです」

 それは冷静そうな口調に聞こえるが、実際にはかなりの不安を感じていることが分かる。

「皆さんは、約束してくれました。決して私の前からいなくならないと、だから信じて欲しいと。私はそれを、信じることにしました……いえ、実際には、信じろと、私が私自身に言い聞かせているだけなのかもしれません。証拠に、私は今も不安ばかりを感じてしまっている。彼らのことを、信じられていない証拠です。私は、そんな自分が許せない……」

 終始冷静な口調で話してくれた。しかし、やはり不安が態度に出ている。

 だが、俺には分かった。

「それは、むしろ逆ではないか?」

 そう話し掛けると、梓は俺の方を見てきた。

「逆?」

「ああ。信じられないから不安が募ってくる。君はそう言ったが、実際は、信じているからこそ、そんな不安に駆られるんじゃないか?」

「そんな……信じているのなら、彼らが約束を守ってくれるという確信があるのなら、こんな不安を感じるはずは無いでしょう」

 うむ。やはり分かっていないな。

「そう。普通なら確かにそうだ。友を信じ切れていないから、つい不安を感じてしまう。だが、友達がどんな人間かは知らないが、少なくとも君は彼らを信じるに値すると感じているのだろう?」

「それは……もちろん……」

「ならそれだけで、君は少なくとも彼らを信じることができている」

「なら、なぜ私は不安なのです?」

「俺に言わせれば、むしろ友達を失うかもしれないという状況で、何も不安を感じない方がどうかしていると思うが」

 俺のその言葉に、梓は驚いた表情を見せた。

「分かるか? 君が今感じているその不安は、信じきれていないことから来るものじゃない。むしろ逆に、心から信じている友を失いたくないからこそ感じる不安だ」

「しかし、私は彼らとの約束を……」

「どれだけ言葉を掛けられ、約束しようと、失うことから感じてしまう恐怖。それが不安というものだ」

 梓はまた黙り、うつむいてしまった。

 

 気持ちはよく分かる。いや、人間なら誰でも分かる。この世に不安を感じない人間などいるはずが無い。そして、それが友に関することならなお更だ。

 俺にもかつて、心から信じられる親友がいた。だが、あいつは今も、どこにいるのか分からない。いなくなった後はずっと不安を感じていた。あいつは無事なのか、今もどこかにいるのか、と。いても立ってもいられない日々が続いた。

 今の梓はその時の俺とよく似ている。友のために何かをしたくとも、何もできず、不安を感じることしかできない自分に腹が立つ。そして、そんな中無情に過ぎていくだけの時間にも。

 

「俺は、不安を感じてもいいと思うぞ。不安が強い分、お前は友達のことを思っているということだからな。仮に不安も何も感じないのなら、お前にとって、その友達とはその程度の存在でしかないのか、そう聞きたくなる」

「そんな……そんなはずは無い!!」

 少し乱暴な口調で叫んできた。だが、良い目だ。

「それなら、お前は自分に素直でいればいい。無理に取り繕っても辛いだけだ。今は泣いて、後でその友達と笑いあえることを祈れば良い」

 我ながら、少し臭い言葉を言ったか。だが、慰めにはなったらしい。梓は目を閉じながら、何かを考え始めた。

「そうですか……」

 そして、涙を流し始めた。だが、悲しげな顔だが、楽になったという思いも感じられる。ようやく泣くことができた。そんな思いが伝わってくる。

「……私は失いたくない……大切な友達を……」

 そう呟くのが聞こえた。昔から、どうにもこういうのには弱い。

 俺は梓の頭を持ち、そのまま顔を胸に当ててやった。梓は何も抵抗せず、俺の胸で号泣し始めた。声を殺しながら、大粒の涙を流し泣きじゃくっている。その顔を見るだけで、どれだけの不安にさいなまれていたのか、それを思い知らされた。

 だが、これで少しは楽にもなるだろう。全ての悲しみを出し切ることだ。そうすれば、後できっと笑うことができる。

 

 

 

視点:あずさ

「なんで?」

 梓くんがいなくなってから、わたしは急いで梓くんを探し始めた。見失いはしなかった。森の木の倒れる音がしたから、すぐに梓くんだって分かった。

 それで、森に入って、倒れた木を辿ったら簡単に梓くんは見つかったけど……

 梓くんは、ブルー生徒に頭を撫でられながら、その胸に顔を当ててるのが見えた。イケメンで背も高い、どう贔屓目に見たって格好良い人だ。そんな人と、梓くんは一緒にいる。

 べ、別に、梓くんが誰といたってそれは梓くんの自由だし、そもそもたまたまってこともあるもんね。

 でも、梓くんは可愛いから、それがあんなイケメンな人と一緒にいたら、何だかカップルに見えちゃう。まあ両方男子だし、そんな風になることは無いはずだけど。

 なのに、それは分かってるのに、何でわたしはこんなに嫌がってるの? 何がこんなに嫌なの? 梓くんは男子だし、別にそういうあれじゃないのは分かってるよ。

 ていうか、友達がそんなことになってるってだけでこんなふうになるなんて、変だよ。

 どうして……

 

 ……そう言えば、忘れてたな。

 

「いつになるか分からないけど、わたしなりに考えて、梓くんにちゃんと返事する」

 

 いつからだったろう。梓くんと一緒にいるうちに、それを考えることをやめちゃった。

 だって、楽しかったから。梓くんと一緒にいられるだけで楽しくて、ずっとそのままでいたくて、だからかな。心のどこかで、そんな返事しなくても良いんじゃないかって感じてた。梓くんは一方的に振られたって思ったままだけど、それでも良かった。わたしは、梓くんと一緒にいられるだけでよかった。

 でも、そう思ってたはずなのに、今、わたしは苦しい。梓くんが、わたし以外の人とあんなふうにしてるのを見るのが、たまらなく苦しい。

 どうして……

 

 バキ

 

 は! 足元の枝を踏んじゃった。

「ん?」

 イケメンさんがこっちを向いた。梓くんも。梓くんと、目が合った。

「あずささん……」

「梓くん……」

 梓くん、泣いてる。ここから見た時は見えなかったけど、ずっと泣いてたの?

「……」

「……」

 わたしも梓くんも、お互いに無言だった。

「……どうやら、俺は邪魔者のようだな」

 イケメンさんはそう言うと、立ち上がってわたしの方に歩いてきた。

「行ってやれ。少なくとも、俺以上の心のより所にはなるだろう」

 そう言って、行っちゃった。

「……」

「……」

 また目が合った。わたしはちょっとずつ、梓くんに近づいて、隣に座った。

「……」

「……」

 お互いに、目を合わせるだけで何も言えない。けど、梓くんが今どんな思いなのか、それは何となく感じる。

 

「お願いです……」

 急にそう言われた。お願い?

「いなくならないで下さい、お願いですから……」

 泣きながらそう言ってきた。

 ずっと、そうならないって言ってるんだけどな。

「梓くん、そんなにわたし達のこと、信じられないかな?」

 いくら不安だからって、さすがに信じて欲しいよ。

「信じています……信じているから、辛いのです……」

 え?

「……あずささん達は……心から信じられる大切な人達です。だから、失いたくない。ずっと一緒にいて欲しい……だから、失うことへの不安ばかりが湧いてくる……」

「梓くん……」

「信じていないと言われても仕方がありません。けど、これが私だから……私は弱い。あなた方を笑って待っていることさえできない……怖い……失うことが……たまらなく怖い……」

「……」

 

 言葉も出ないや。ずっと、泣きたいのを我慢しながら、わたし達に付き合ってくれてたんだ。

 けど、梓くんが泣いてるのに、わたしが感じてるのは、嬉しさだった。だって、こんなふうに思ってくれてるなんて。ここまでわたしを、わたし達のことを、大切に思ってくれてるなんて。

 私はあの夜、梓くんがボクに代わった日の夜と同じように、抱き締めた。

 そして思い出した。梓くんが、佐倉くんと決闘した時のこと。

 

 あの時、梓くんは私の代わりに、退学を賭けて決闘した。わたしも不安だった。梓くんがいなくなっちゃう。そう思ったら、いても立ってもいられなくて、けど、わたしにできることなんて一つも無くて、黙って見てることしかできなかった。

 決闘を見てる間すごく不安で、ただ梓くんにいなくならないで欲しいっていう願いばかりが心の中で大きくなって、それがなお更辛かった。ボクに変わった時も、ボクのやってたこと以上に、わたしの知ってる梓くんが遠くへ行っちゃう気がして、ずっと怖かった。

 

 今の梓くん、あの時のわたしと同じことを感じてるんだ。

 

 それが分かって、わたしはやっと気付いた。

 梓くんがいなくなることが、どうしてあんなに怖かったのか。

 梓くんがイケメンさんと一緒にいて、どうしてあんなに苦しかったのか。

 梓くんに思われてることが、どうしてこんなに嬉しいのか。

 そして、ずっと出てこなかった、梓くんへの答えも。

 

「梓くん……」

 わたしは梓くんの体を離して、目を合わせた。涙に濡れてるけど、変わらない綺麗な顔。それを見ながら、今わたしが感じてる、今わたしが一番したいと思ってること。

 そんな思いに従って、ちょっとずつ、顔を近づけていく……

 

 ルルルル……

 

『!!』

 

 突然、生徒手帳の鳴る音が聞こえた。

「はい、水瀬梓です」

 梓くんは、直前まで泣いてたのが嘘みたいに、涙を拭いながら冷静に生徒手帳を取った。

 

『梓! 翔が、置き手紙一枚残していなくなっちまったんだ!!』

 

「何ですって!!」

「うそ!!」

 梓くんは二言三言話して、手帳をしまった。

「行きましょう、あずささん!」

「う、うん!」

 いつもの梓くんに戻ってる。わたし達は同時に立ち上がって、一気に森を突き抜けた。

 

 

 

 




お疲れ~。
次回で九話目完結ね。
待ってて。


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第九話 退学の危機、凶王と帝王

九話目完結~。
とりあえず読んでやってくれ。
じゃ、行ってらっしゃい。



視点:翔

 もうこれしかないんだ……

 梓さんとの約束を破るのは心苦しい。けど、僕なんかが兄貴のパートナーになったら、絶対に足を引っ張ってしまう。そうなったら僕はもちろん、兄貴まで退学になる。そうなったら、梓さんとの約束どころじゃない。

 だからせめて、いなくなるのなら僕一人の方が良い。兄貴ならきっと負ける心配は無いし、あずささんもきっと勝てる。僕さえいなくなれば、全部間違い無い。

 

 そう考えて、僕は島を出ることに決めた。

 こんなイカダで海なんて渡れるわけないけど、無いよりは良い。

 これ以上考えても辛くなるだけだ。早く行こう。

 さよなら、みんな……

 

「翔ー!!」

 

 !! 兄貴の声!!

「翔!!」

 見つかった!!

 僕は急いでイカダに飛び乗ったけど、兄貴も飛び込んできた。その瞬間、元々急ごしらえだったイカダが二人分の体重を支えられるわけも無く、無残にバラバラになった。

 

 

「このまま行かせてくれよ兄貴!」

 僕だって辛い。でも、僕のせいで兄貴までここにいられなくなるのはもっと辛いんだ!

「つべこべ言うな! お前のパートナーはお前だ! お前じゃなきゃダメなんだ!!」

 そう言ってくれるのは凄く嬉しい。けど、

「僕なんかじゃ、無理だよ……」

 こんな僕が兄貴のパートナーだなんて、そんなの……

 

「翔さん!!」

 

 突然、そんな声が聞こえてきた。そっちを見ると、青く光る着物が見える。

「翔くん!!」

 二人の(あずさ)さんが、こっちに走ってきた。二人とも、僕のことを心配してくれてるっという顔をしてる。その後ろから、隼人君に明日香さん、ももえさん達も。

「翔さん、どうして……」

 梓さんが、足袋や着物が濡れるのも構わず目の前に立って、そう聞いてきた。

「僕なんかじゃ、兄貴の足を引っ張っちゃうから。それじゃ兄貴まで退学になっちゃう。それならむしろ、僕一人がいなくなれば、少なくとも二人が助かる可能性が上がる。だから……」

 最後まで言う前に、梓さんに肩を掴まれた。

「そんな方法で助けられた人が、幸せになれると本気で思っているのですか!?」

 僕の顔を真正面に見つめながら、真剣な顔で叫んでくる。

「仮にそうしたことで二人が助かったとして、残された人間はどうすれば良いのです!? 私も、あずささんに十代さん、明日香さんに隼人さんも、そしてももえさんも、あなたとの絆を一方的に奪われる。あなたがいなくなった瞬間、私達の絆は全て無に帰してしまう。それが分からないのですか!?」

 

ジ「私は……?」

 

「分かってるっスよ!! じゃあ他にどうすれば良いんスか!? 僕なんかが兄貴とパートナーを組んだって、足手まといになるのが落ちっス!! そんなの、負けるよりも辛いんだよ!!」

 そう叫んだ瞬間、梓さんの顔が一層険しくなった。そして、胸倉を掴まれて、顔を引き寄せてきた。

「いい加減にしろ!! 私はあなたのような、自分の弱さから逃げることしかできない人間が一番嫌いだ!!」

 凶王化!? 一瞬そう思ったけど、顔を見たらそうじゃないって分かった。

「梓さんみたいなできる人に、僕みたいな落ちこぼれの何が分かるんだよ!!」

 ちょっと自分勝手な言葉かもしれなかったけど、もう嫌われても良い。

 どうせ逃げるんだから。なら、嫌われて逃げる方が良いから。

「ええ、そうです。私には分からない」

 けど、梓さんの顔は変わらなかった。そして、想像とは違った言葉が返ってきた。

 

「翔さん以上に何もできず、そのくせ落ちこぼれですらなかった、そんな私にあなたのことなど、分かるはずがない!!」

 

「え?」

 凶王化してるわけじゃない。初めて素の梓さんの口から、そんな口調での言葉を聞いた。

「どういう意味っスか?」

 僕だけじゃなくて、この場にいる人全員が疑問に感じてるみたいだった。

「他人にこの話をするのは初めてですが、あなた方なら信じられる。お話ししましょう」

 そして梓さんは、僕から手を離して、改めて真っ直ぐ僕と向かい合った。

 とても辛そうな顔をしてるけど、そこから言葉を振り絞って、話を始めた。

 

「今でこそ私は水瀬梓としてここにいますが、私には名前どころか、物心ついた時には両親などいませんでした」

 え? 両親が、いない?

「変わりに私が人生で始めて見た物は、足の踏み場も無いほど埋め尽くされた、大量のゴミや瓦礫の山。立ち上がり、歩けるようになって初めて覚えたのは、大量のゴミの中から、着る物と食料を探すという行為。周りには私よりも遥かに年上の、私よりも遥かに頭の良い人達ばかり。全員がそんなゴミの中で、今日を生きることに必死な人達ばかり。そんな中で、歩けるようになったばかりの子供が一人で生きることなど狂気の沙汰でした」

「それでも便りが無い以上、一人で生きる他無かった。もちろん学校へ行ったことも無ければ、誰かに何かを習ったという経験さえ皆無。現在の両親に拾われる十歳になるまで、私は文字の読み書き、計算はもちろん、時計の見方も、世間一般の言葉も常識も、そもそも自身の年齢さえ知らず、名前さえ無い状態で、ずっと生きてきたのです」

 その話に、僕も、僕以外の六人も、全員が呆然としていた。

 あまりにも常識とはかけ離れた、現実味の感じられない、なのに現実だと納得できる、突拍子もない話し。それが、梓さんの生い立ちだって?

「そして十歳の時に水瀬の家に引き取られ、梓という名前を頂いた。そこで私は必死に勉強しました。拾って下さった家族に報いるためにも、読み書きも計算も、言葉に常識、礼儀作法に至るまで。拾われた子供ということで、(いわ)れの無い差別や様々な虐待、理不尽な暴力を受けたことさえあります。それでも私は耐えた。兄と両親が守って下さったから。そして、二年間で私がその年齢に至るまで学ぶはずだった全てを学び、更に一年後には中学校に通った。小学校に通ったことはありませんでしたが、両親が手を回して下さった。そこでも必死に勉強し、拾われる以前からやりたいと願っていた決闘を学ぶことも許された。そしてその三年後の今、私は決闘アカデミアのブルー寮に入学することができた」

「分かりますか? あなたは落ちこぼれかもしれない。しかし、私は落ちこぼれですらない。なぜなら私は学園どころか、実の両親にさえ存在を全否定され、破棄された、人間という名の生きたゴミなのですから」

「そ、そんな……」

 今まで想像もしたことが無かった梓さんの人生だけど、きっと梓さんのことだから、とっても綺麗で、優雅な生き方をしてきたんだろうなって、勝手に想像してた。

 なのに、実際に聞いてみれば百八十度違った。

 小学校さえ通ってないなんて。それでも必死に努力して、それでここにいるなんて。

「はっきり言って、私には落ちこぼれのことなど分からないと答えるしかない。しかし、敢えて翔さんの質問を返したい。人である翔さんに、ゴミの何が分かるのです?」

「ゴミ……」

「そうです。あなたの目の前にいる、人の形をしたゴミの何が?」

 ゴミ……

「僕は……」

 ……

 ……何も言えない。さっき僕は梓さんに同じ質問をした。けど、逆に質問されて、何も答えることができない。

 梓さんの言った通り、僕は梓さんよりも遥かに恵まれてる。

 普通に学校にも通って、美味しい物も普通に食べて、アカデミアに来たのだって、普通に両親が許してくれたから。

 けど、梓さんはアカデミアに通うために、今みたいになるために、そして何より生きるために、どれだけの努力をしてきたんだろう。

 とても想像なんてできない。けど、今までの僕みたいな、甘えてばかりだった人生に比べれば、かなり険しいものだったんだっていうのは分かる。生まれた時から自分のことをゴミだなんて考えて、それでも生きるしかなかった、いつ死んじゃってもおかしくなかった過酷な人生。

 そんな人が頑張ってるのに、僕は……

「僕は……」

 

「不甲斐ないな。翔」

 

 突然、聞き覚えのある声が聞こえてきた。そっちを向くと、

「お兄さん」

 アカデミアの帝王(カイザー)と呼ばれる男であり、僕の兄でもある、『丸藤(まるふじ) (りょう)』その人。

「……すまなかった。盗み聞きする気は無かったのだが」

「いえ」

 梓さんに一言謝った後で、また僕の方を見る。

「これだけのことを聞きながら、お前は逃げるのか?」

 僕は……

「それも良かろう」

 ……お兄さんにも、僕はとっくに見捨てられてる。梓さんの生き方を聞いた後も、それが変わる訳じゃない。そりゃ、少しは頑張らなきゃって気持ちにはなったけど、それでも、僕は梓さんみたいに、強くはなれないから。

「……」

 

 僕は無言で立ち上がった。

「おい! あんたの弟、行っちまうってよ!!」

 兄貴がお兄さんに向かって叫んだ。

「仕方ないな」

 お兄さんの返事は短かった。そうだ。結局はこれで良いんだ。

「なら、俺と決闘しろ!」

 また兄貴が叫んだ。兄貴が、お兄さんと決闘!?

「君が俺と?」

「あんたの弟、翔に選別としてだ!!」

「……良いだろう」

 こうして、とんとん拍子で、僕の二人の兄の決闘は決まった。

 

 

 

視点:明日香

 私達はさっきの岩場から灯台へ移動し、二人の決闘を見始めた。

「行くぜカイザー!!」

「ああ」

 

『決闘!!』

 

 

「……えっと、梓くん」

「はい?」

 あずさが梓に話し掛けるのが聞こえた。

 正直、私達全員目の前の決闘よりも、さっきの梓の話の方が気になってた。

「その……さっきのって……」

「お気になさらず。人それぞれです」

 いや、その一言で済ませるのはどうかと思うけど……

「今の話で私を嫌悪したのなら、すぐにここを去りますが」

「え!?」

 な!? ちょっと待って! 誰もそんなこと思ってないわよ!!

「構いませんよ。元々はゴミとして生まれ育った身。ずっと言われ続けてきましたから。臭い男、汚い男、顔が良いだけのゴミ男……例を挙げればきりがありません」

「……そんなこと、今まで言われてきたの?」

「ええ。水瀬は格式の高い名家でしたから、そもそも養子を取ること事体が問題でした。それが、ずっとゴミ溜めで生きてきた子供なら、なおのことです。しかし、私を見つけて下さった兄、私を育てて下さった両親、三人は優しかった。しかし、それ以外の、例えば使用人の方々や親戚の方々。それらの方々は全員、表の態度は優しかったですが、裏の誰も見ていない所では……いえ、よしましょう。わざわざ話すほどのことではありません」

 話してる最中、凄く嫌な顔を見せた。話は聞けなかったけど、それだけでどんな目にあってきたのか、何となく想像がつく。

「前に言われたこともありますが……ええ。私はゴミですよ。ゴミとして、ゴミ溜めに捨てられたのです。ずっとゴミの中から見つけた衣服を着て、ゴミの中から見つけた食料を口にしてきた。十年間。もっとも、実際はもっと短いのかもしれないし、もっと長いのかもしれない。正直な話、私があなた方と同い年なのかどうか、それすら疑わしく、そのくせ本当は年上なのか年下なのか、確かめるすべが無いのです」

「……」

 あずさは悲しげな顔を浮かべながら目を背けた。私や翔君達も同じ。聞いているだけで辛すぎる。

 

「『サイバー・ドラゴン』の攻撃。エヴォリューション・バースト」

 

 亮の声が聞こえた。亮の主力モンスター『サイバー・ドラゴン』。それが、十代の場にいたモンスターを破壊した。

 そして、続いて発動させたのは魔法カード『タイムカプセル』。デッキのカードを一枚裏向きで除外し、発動後二度目のスタンバイフェイズに破壊することで除外したカードを手札に加える。

 何のカードをサーチしたのか……まあ、私は知っているけれど。

 十代も反撃を仕掛けるけど、亮にことごとくかわされる。でも、十代は悔しがりこそすれ、闘志は失ってない。

 

「面白え! 面白えよカイザー!! この決闘!!」

「……ああ。俺もだ」

 

 十代の言葉に、亮も笑顔で返した。その時、翔くんは何か感じるものがあったのか、小さな声を上げていた。

 そして終盤、十代は『E・HERO マッドボールマン』を特殊召喚した。守備力3000の硬い壁。だけど返しのターン、亮は『サイバー・ツイン・ドラゴン』を『融合解除』し、『タイムカプセル』の効果でサーチしたカード、『パワー・ボンド』を使った。そして現れたのは、亮の最強モンスター『サイバー・エンド・ドラゴン』。元々の攻撃力4000に加えて、『パワー・ボンド』の効果で倍化させた攻撃力は、8000。

 

「『サイバー・エンド・ドラゴン』は、守備表示のモンスターを攻撃した時、そのモンスターの守備力を攻撃力が超えていれば、その数値分ダメージを与える」

 

 亮が説明した直後だった。

 

「気張れー!! 十代!!」

 突然、隼人君が叫んだ。

「このターンさえ凌げば、カイザーは『パワー・ボンド』のコストで4000ポイントのダメージを受ける。そうしたら、十代の勝ちなんだなー!!」

 そう。確かに『パワー・ボンド』には、その強力な効果と引き換えに、融合モンスターの元々の攻撃力分のダメージを受けるデメリットがある。けど、十代の場にはマッドボールマンのみ。伏せカードも無い。

 

「『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃。エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

 サイバー・エンドの三つの口から吐き出される光。それがマッドボールマンを、そして十代を飲み込んだ。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 決闘が終わって、十代は亮と言葉を交わしていた。そして翔くんも、二人の決闘を見て何かを決意したように、良い顔になった。

 そんな三人を見ていたけど、ふと気になって、梓の方を見た。

 梓は何も言わず、その場を去ろうと歩き始めていた。

「梓さん!」

 そんな梓に向かって、翔君が呼び掛けた。

「その……さっきは、ごめんなさい。僕、頑張るから。もう一度、改めて約束するよ。僕は絶対、梓さんの前からいなくなったりしない!」

 梓は振り返って、翔くんに笑顔を見せた。

「ええ。頑張って下さい」

「それと、その……嫌なお話をさせちゃったみたいで、ごめんなさい……」

 梓の生い立ちの話ね。確かに、あまり人に話せるような内容じゃなかったものね。

「どうかお気になさらず。私が勝手に話しただけです。……それに、あなたにはぜひ知って欲しかった」

「さっきの話しをですか?」

「ええ。努力次第で、ゴミが人に代わることさえできるということを」

「!!」

 ゴミ……さっきから言ってたものね。自分はゴミだって。

「ゴミの私でさえ、今日までの努力をしてきたことで人になれたのです。だから、人である翔さんも、努力をすれば人以上の力を手にすることができます。だから、頑張って下さい」

「……」

 

『……』

 

 笑顔で言ってるけど、正直、かなり酷い内容だった。

 つまり、と言うより、結局のところ梓は、自分のことをずっとそう思ってきたってこと? 自分のことを人じゃなくて、人に変わったゴミだって。

 そんなこと無い。あなただって立派な人間よ。

 頭ではそう思ってる。けど、何も言えなかった。そんなふうに思う生き方をずっとしてきたんだもの。

 自分が人ではなくて、ゴミの山の中で生きるゴミの一つだって感じるほど、梓は長い時間をゴミの中で生きてきて、拾われた後も、ずっとゴミだって言われ続けてきたんだものね。

 

「待ってよ梓くん!!」

 去っていく梓に向かって、叫んだのはあずさだった。

「梓くんは……梓くんは、ゴミなんかじゃないよ!! その、えっと……もし、梓くんがゴミだとしても、誰もそんなこと気にしないよ!! わ……私も、みんなも、梓くんが好きなんだもん!! 今までもそうだったし、さっきの話を聞いた後だって!! ねえ、みんな!?」

「当たり前だ!! 梓はゴミじゃねえ!! 俺達の仲間だ!!」

「そうだよ!! 梓さんは、僕達の退学を知って、悲しんで、怒ってくれた!! 今までだって、一緒に笑ったり驚いたり、ずっと楽しいことしてきた!! それを仲間じゃなくて、どんな人を仲間だって言うんスか!!」

 みんな……そうよね。

「梓。あなたはさっき、私達が信用できるから話すって言ってたわよね。そう思ってくれたのは、あなたが人であるという証拠よ。だから、あなたがどんな境遇だろうと気にする必要は無い。あなたやあずさの言葉を借りれば、私達は絆で繋がった仲間なんだから」

 そう声を掛けた直後、梓はこっちに背中を向けたまま、顔を伏せた。

「それは……私が人だったから……一度も、ゴミだと名乗らなかったから……」

「だから関係ねえよ!! お前がゴミだって言うならそれでも良い!! それでも俺達は仲間だ!!」

「お願いだから、嫌われたなんて思わないで!! そんなことで、わたし達の絆を否定しないで!!」

 二人のその言葉で、梓は肩を、そして徐々に体中を震わせて、最後にはその場に座り込んだ。

「梓くん」

 そんな梓に真っ先に駆け寄ったのが、あずさだった。泣いてる梓の肩に手を置いて、小声で何かを話し掛けてる。

 そんな(あずさ)達に引かれるように、私達も近づいた。

 みんな、梓にそれぞれ言葉を掛けていった。誰も、梓のことをゴミだなんて言わない。みんな、梓に対する思いは同じだということが分かった。

 そして最後には梓も、いつもの笑顔を見せてくれた。

「絶対に、勝って下さいね」

「おお! 何度も言ったろう。俺と翔のタッグなら無敵だ!」

「わたしも頑張る。だから、梓くんも応援してね!」

「……はい!」

 こうして、退学騒動のせいで長かった一日は終わりを迎えた。

 

 

 

視点:あずさ

「一体何なんだよこれ!?」

「誰がやったんだ!?」

 梓くんを連れて、全員でブルー寮に来た時、妙な騒ぎが森の中で起こってたから来てみると、そこには倒れた何本もの木があって、大勢の生徒達が集まってた。

「どれも刃物で切られたような跡だな。誰かがチェーンソーでも持ち出したのか?」

 もちろん、この場にいる私を含めたメンバー全員が犯人を知っているわけで。

 そしてその犯人はと言うと、笑顔でそんな光景を見てるだけだった。

 やれやれ……

 

 

 

 




お疲れ~。
これで九話目完結ですら。
んじゃ十話までちょっと待ってて。


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第十話 試練と私怨

待ってたか知らんが第十話。
楽しんでとしか言いようがないよね。
行ってらっしゃい。



視点:あずさ

 わたしは今、制裁タッグ決闘の観戦中です。

 十代くんと翔くんの相手は、迷宮兄弟。伝説の決闘者って呼ばれてる武藤遊戯や城之内克也と戦ったこともある凄腕の決闘者。

 そんな二人に苦戦は必至……

 

 そう思ってた時期がわたしにもありました。

 十代くんも翔くんも、迷宮兄弟が何かする度にそれを封じて、次の自分のターンにはそれを完全に処理しつつダメージを与えてる。迷宮兄弟も必死に反撃をしようと色々やってるけど、さっきからそれが全部裏目に出ちゃってる。

 それでも何とか『ゲート・ガーディアン』を呼び出したけれど、十代くんの『攻撃の無力化』で攻撃を封じられて、翔くんの『シールドクラッシュ』と『スパークガン』のコンボで呆気なくやられちゃった。『ダーク・ガーディアン』を呼んだ時には、迷宮兄弟は涙目になってたし。正直見てられなかったよ。それも返しのターンで、『パワー・ボンド』で融合した『ユーフォロイド・ファイター』に攻撃されて、そのままライフをゼロにされちゃったし。

 それでいざ終わってみると……

 

 

十代・翔

LP:8000

手札:十代4枚・翔3枚

場 :モンスター

   『ユーフォロイド・ファイター』攻撃力7400

   魔法・罠

    無し

 

迷宮兄弟

LP:0

手札:迷0枚・宮0枚

場 :モンスター

   『ダーク・ガーディアン』攻撃力3800

   魔法・罠

    無し

 

 

 あれだけの相手にダメージゼロって……

 

『わああああああああああああああああああああああああ!!』

 

 大歓声が起こってる中、迷宮兄弟は号泣しながら帰っていっちゃった。

 

「お二人とも、素晴らしかったです」

 二人がこっちに来たところで、隣で一緒に見てた梓くんが二人に話し掛けた。

「本当に凄いよ! ノ―ダメージで勝っちゃうなんて!!」

「梓さんと約束しましたから。絶対に勝つって」

 そうだね。約束は守らないといけないもんね。

「次はあずさの番だ。負けるんじゃねーぞ!」

「うん!!」

 

 返事をして、十代くん達が離れた直後、

「梓くん」

 わたしは小声で、梓くんに話し掛けた。

「はい?」

 梓くんが返事をしてわたしを見る。

 うぅ、改めて考えると恥ずかしい////

 ……でもわたしは答えを見つけて、それを伝えるって決めたんだ。

 だから……

「えっとね、私が勝ったら、その……あの滝壷に来てくれる?////」

 うぅ、顔が熱いなあ……でも、そんなわたしの顔を、梓くんは黙って見てる。そして、

「分かりました。待っていますね」

 その返事で、わたしも一気に気が引き締まる。

 

「よぉーし……」

 気合を入れて、決闘場に立った! んだけど……

「えっと、わたしの相手は?」

「少し到着が遅れていますノーネ。もう少し待ちますーノ」

 ……こう言うの、出鼻をくじかれるって言うのかな。

 せっかく気合入れたのに。はあ……

 

「到着しましたノーネ」

 

 よし! もう一度気合を入れ直して、よっしゃこい!!

 そう思った時、目の前に立ったのは、長髪で、白い着物姿の、凛々しい顔つきの男の人。

「君が私の相手か?」

「あ、はい!」

 顔は凛々しいけど、その笑顔と口調はとても爽やかだ。

 

 ガタッ

 

 急に、後ろからそんな音が聞こえた。振り返って見てみると、梓くんが座ってたイスを倒して、この人を凝視してる。

 

「……シ……」

 

 何か呟いてる? そう思って、耳をすませ……

 

「シィイイイエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!」

 

「っ!!」

 そんな絶叫が聞こえた次の瞬間には、梓くんは刀を抜いて、目の前の人に斬りかかった!?

 

 ガッキッ!!

 

「ふふ……」

 けど、目の前の人も刀を抜いて、それを受け止めた。

 

「相変わらず、速さはあるが腕力がまだまだだな」

「ちぃ!!」

 

 そんな会話が聞こえた瞬間には、梓くんは弾き返されて、客席まで飛ばされちゃった!!

 みんなが驚いてる中上手く受け身を取って、普通に立ち上がってまた向かっていく。いつもの紫色のオーラがかなり強い!!

 

「無駄だ」

 

 やっぱり平然とその刀を受け止めて、また飛ばした。今度は梓くんは着地に失敗して、そのまま倒れちゃった!!

「梓くん!!」

 呼んでみたけど、梓くんは聞こえてないみたい。ただあの人だけを見てる。

 

「おいやめろ!! 梓!!」

「梓さん、一体どうしたんスか!?」

 

 あの夜と同じように、十代くんと翔くんが梓くんを押さえた。けど、

 

「邪魔をするなぁあああああああああああ!!」

 

 紫のオーラがなお更強くなって、その衝撃で二人が吹き飛んじゃった!!

 その直後にまた向かっていったけど、梓くんの斬撃は全部受け流される。壁とか床にはもうかなりの数の斬り跡ができて、イスとかいくつも真っ二つに斬られてる。なのに、その人は傷どころか服さえ乱れてない。

 梓くんは姿を消しては斬り付け、消えては斬り付けを繰り返してるのに、一太刀もまともに当たってない……

 

「あれ、梓さん、だよな……?」

「信じられない……本当に、梓さんなの……?」

「あの梓さんが……まさか、あの森の木も梓さんが……?」

 

 周りからはそんな声が聞こえる。いつもとは全く違う梓くんの姿。それを考えれば当然の反応だよ。

 そしてしばらく二人が戦った後、梓くんは、あの夜と同じように構えた。

 

「刃に咎を!!」

 

「鞘に贖いを……」

 

 その声の方を見ると……梓くんと同じ構え!?

 梓くんは大声を上げながら、向かっていった。そして、二人の刀が……

 

 ガッキィィィィィィィィィィィィィィィィ!!

 

『うわぁ!!』

『きゃー!!』

 

 刀が交わった瞬間、衝撃波が起きた!! 今にも会場が壊れそうだよ!!

 お互いに互角……だと思ったけど、徐々に、梓くんの方が押されてる。その人はそれに余裕を見せながら、梓くんに手を伸ばすのが見えた。

 そして、

 

 バキッ

 

 梓くんの刀が折れた!!

 

 ドゴォッ

 

 同時に梓くんは吹っ飛んで、壁に叩き付けられた!!

「梓くん!!」

 返事は無い。

 土埃が晴れた時、梓くんは壁にもたれながら気絶してた。直前の音の通り、壁は大きくへこんでる。

 

「これが貴様の罪だ……てな」

 

「よくも……」

 もう制裁決闘とか、どうでもいい……

 ただ、梓くんをこんな目に遭わせたこと、それが許せない!

 ()は無意識のうちに、手甲を両手に着けてた!!

 

「うわぁああああああああああああ!!」

 

 ガァァアアアアアアアン!!

 

 さっきの梓くんと同じように、刀で受け止められる。

「梓とは逆だな。腕力はあるが、遅すぎる」

 そのまま振り払われて、梓くんみたいに壁に投げられた! それでも床を殴ってブレーキを掛けたお陰で、床はえぐれたけど何とか止まった。

 

 ベリベリベリベリ……

 

 そのまま鉄製の床を引っぺがして投げつける。

 でも、それさえも斬っちゃう。

「まあ待て。君は私と決闘するんだろう?」

 そう余裕で話し掛けてくる。さっきまで爽やかだって感じたその顔が、今はかなりムカつく……

「やるなら早く始めよう。君も、私に勝てないことくらい分かってるだろう」

 くっ……確かに、今の私じゃこの男には勝てない……

「だが、決闘ならまだチャンスはある。そうだろう?」

 こんの……

 

 ドゴォオオオオオオッ!!

 

 勝てないのもムカつくし、こいつの言ったことが事実なのがもっとむかついた。だからその怒りに任せて、床を本気で殴った。床が軽く陥没して、天井から埃が落ちた。

「やってやる……私があんたを倒す!!」

 その言葉と同時に、お互いに決闘ディスクを展開した。

 

『決闘!!』

 

 

あずさ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先攻は私、ドロー!」

 

あずさ

手札:5→6

 

「私は『六武衆-ザンジ』を召喚!」

 

『六武衆-ザンジ』

 攻撃力1800

 

「更に装備魔法『漆黒の名馬』をザンジに装備! 守備力を200ポイントアップさせ、装備モンスターが破壊される時は変わりにこのカードを破壊する!」

 

『六武衆-ザンジ』

 守備力1300→1500

 

「カードを二枚セット、ターンエンド!」

 

 

あずさ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆-ザンジ』攻撃力1800

   魔法・罠

    装備魔法『漆黒の名馬』

    セット

    セット

 

 

 正直かなり怒ってるけど、それで戦略が荒くなるような間抜けなことはしない。

 梓くんのためにも、ついでに退学を防ぐためにも、絶対に倒す!!

 

「さてと、私のターン、ドロー」

 

手札:5→6

 

「私は『真六武衆-カゲキ』を召喚」

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200

 

「それ、梓くんの使ってた!?」

「そう。君なら見えてたろ。ちょっと借りた」

「梓くんをあんな目に遭わせた挙句、デッキまで……絶対に許さない!!」

「まったく。最近の若者は怒りっぽいよな。カゲキの効果。このカードが召喚に成功した時、手札の六武衆一体を特殊召喚する。『真六武衆-シナイ』を特殊召喚」

 

『真六武衆-シナイ』

 攻撃力1500

 

「更にフィールド上にカゲキ以外の六武衆がいる時、このカードの攻撃力は1500アップ」

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

 

「そして場にシナイがいる時、このカードは特殊召喚可能。『真六武衆-ミズホ』」

 

『真六武衆-ミズホ』

 攻撃力1600

 

「ミズホの効果。一ターンに一度、フィールド上の六武衆をリリー……生贄に捧げ、相手フィールド上のカード一枚を破壊。カゲキを生贄に、ザンジを破壊」

 カゲキが光になった瞬間、ミズホがこっちに向かってきた。

「『漆黒の名馬』の効果発動! 装備モンスターが破壊される時、変わりにこのカードを破壊する!」

 ザンジの乗ってた名馬が、ザンジの身代わりになって斬られる。

「カードを伏せてターンエンド。さあ、君のターンだ」

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-シナイ』攻撃力1500

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   魔法・罠

    セット

 

あずさ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆-ザンジ』攻撃力1800

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 何なのこいつ? ミズホの効果を不発に終わらせただけじゃん。ただのミス? それとも……

「私のターン!」

 

あずさ

手札:2→3

 

 このカード……

 梓くん、力を貸して!

「魔法カード発動! 『紫炎の狼煙』!」

「おお……」

「デッキから、レベル3以下の六武衆と名の付くモンスターを手札に加える。『六武衆-ヤイチ』を手札に、そしてそのまま召喚!」

 

『六武衆-ヤイチ』

 攻撃力1400

 

「このカードは場にヤイチ以外の六武衆がいる時、相手の場のセットされた魔法・罠を破壊できる。その伏せカードを破壊!」

「カウンター罠、『六尺瓊勾玉(むさかにのまがたま)』発動」

 ヤイチが飛ばした矢の先に、緑色の勾玉が現れた。

「自分フィールド上に六武衆がいる時に相手がカードを破壊する効果を発動した時、それを無効にして破壊する。ヤイチを破壊」

 男が言うと同時に勾玉が光って、ヤイチはその光に呑み込まれた。

「く……バトル! 『六武衆-ザンジ』で『真六武衆-ミズホ』を攻撃! 照刃閃(しょうじんせん)!」

 ザンジとミズホの刀がぶつかって、最後にはザンジがミズホを切り裂く!

 

LP:4000→3800

 

「これでターンエンド!」

 

 

あずさ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆-ザンジ』攻撃力1800

   魔法・罠

    セット

    セット

 

LP:3800

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-シナイ』攻撃力1500

   魔法・罠

    無し

 

 

「まだまだだなぁ。梓のカードを使っておいてその程度か?」

「く……そういうあんたは随分下手糞だけど、余裕のつもり? まさか素なわけ?」

「さあて……」

 ただ笑ってる。考えが読めない。その人を舐め切った態度が本気でムカつく……

「私のターン」

 

手札:2→3

 

「そうだな。少しだけ本気を出すか。永続魔法『六武衆の結束』発動」

 くっ!

「効果は知ってるだろうから説明は省略。手札から『真六武衆-エニシ』を召喚」

 

『真六武衆-エニシ』

 攻撃力1700

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

 

「そして、こいつは私の場に六武衆がいる時、特殊召喚できる。『真六武衆-キザン』」

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

「結束を墓地に送り二枚ドロー」

 

手札:0→2

 

「速攻魔法『六武衆の理』発動。フィールド上の六武衆を墓地へ送り、墓地から六武衆一体を特殊召喚する。私はシナイを墓地へ送り、カゲキを特殊召喚。場にカゲキ以外がいるから攻撃力1500ポイントアップ」

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

 

「そしてエニシとキザンはそれぞれ、自信以外の六武衆がフィールドに二体以上いる時、攻撃力をアップさせる」

 

『真六武衆-エニシ』

 攻撃力1700+500

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+300

 

 くぅ、まさか、一ターンでこれだけのモンスターを……

「さてと……バトル。キザンでザンジを攻撃。漆凱(しつがい)の剣勢」

「うぅ……」

 

あずさ

LP:4000→3700

 

「ザンジの効果はそっちから攻撃した時からしか発動しない。ていうか、そもそもザンジ以外の六武衆がいないと発動しないしな」

 分かってるよそんなこと。

 けど、『真六武衆』は仲間がいて力を発揮するのは『六武衆』と同じだけど、一体一体のスペックが高すぎる。ほとんどが一体でも戦えるカードばかり。

 本当に、何なのあのカード郡……

 

「真六武衆が気になるか?」

 私の考えを読んだみたいに、そう話し掛けてきた。

「教えてやらんこともないが、気付いてるんじゃないのか? 真六武衆の正体」

 正体……

 確かに、まだ確かめたわけじゃないから、確信には至ってないって感じだけど……

「だが今は決闘中だ。一応君の退学が賭かってるからな。集中しろ」

 そんなこと!

「あんたに言われるまでもない!!」

「あっそ。じゃあ改めて、バトル。カゲキでダイレクトアタック」

「うっ!」

 

あずさ

LP:3700→2000

 

「終わりかな? エニシでダイレクトアタック」

「罠発動! 『ドレイン・シールド』! 相手の攻撃を無効にして、その攻撃力分のライフを回復!」

 

あずさ

LP:2000→4200

 

「まあいいや。セットしてターンエンド」

 

 

LP:3800

手札:0枚

場 :モンスター

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800+300

   『真六武衆-エニシ』攻撃力1700+500

   『真六武衆-カゲキ』攻撃力200+1500

   魔法・罠

    セット

 

あずさ

LP:4200

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

「どうせやるなら本気出したら? やる気無いの?」

「そのやる気の無い私に、君は押されてるようだけど?」

 この……

 でも、確かにそうだ。決闘が始まってから今まで、ずっとこいつからはやる気が感じられない。ちょっとは本気を出すって言ってた今だって、本当にちょっとだ。

「分かった。ならそのやる気の無い状態のあんたを倒す! 私のターン!!」

 

あずさ

手札:2→3

 

「『強欲な壷』発動! カードを二枚ドロー!」

 

あずさ

手札:2→4

 

 ……いくよ、梓くん!

「二枚の永続魔法発動! 『六武衆の結束』! そして、『紫炎の道場』!」

「そのカードもか」

「罠発動! 『諸刃の活人剣術』! 墓地の六武衆二体を特殊召喚! ザンジとヤイチ!」

 

『六武衆-ザンジ』

 攻撃力1800

『六武衆-ヤイチ』

 攻撃力1400

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1

 

「手札の『六武衆の侍従』を守備表示で召喚!」

 

『六武衆の侍従』

 守備力2000

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:1→2

 

「結束を墓地に送って効果発動! カードを二枚ドロー!」

 

あずさ

手札:1→3

 

「魔法カード『天使の施し』! カードを三枚ドローして、二枚を捨てる。速攻魔法『六武衆の理』! ヤイチを墓地に送って、墓地の『六武衆の露払い』を特殊召喚!」

 

『六武衆の露払い』

 攻撃力1600

 

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:2→3

 

「露払いの効果! フィールド上の六武衆を生贄に捧げて、相手のモンスターを破壊! ザンジを生贄に、……よし、カゲキを破壊!」

「ふふ……」

 二体が破壊されるのを黙って見てる。あの余裕が気になるしムカつくけど、このまま押し切る!

「『紫炎の道場』の効果! このカードを墓地に送って、このカードに乗った武士道カウンターの数以下のレベルの六武衆、または紫炎と名の付くモンスターを呼び出す! レベル3の『六武衆の御霊代』を特殊召喚!」

 

『六武衆の御霊代』

 攻撃力500

 

「更に、墓地の六武衆、ザンジとヤイチを除外! 『紫炎の老中 エニシ』を特殊召喚!」

 

『紫炎の老中 エニシ』

 攻撃力2200

 

「最後に、このカードはフィールド上に六武衆がいる時、特殊召喚できる! 『六武衆の師範』!」

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100

 

「バトル! 『紫炎の老中 エニシ』で、『真六武衆-エニシ』を攻撃!」

 同じ名前の二人が互いに刀を抜いて、ぶつかり合う。攻撃力が上の紫炎の老中が、真六武衆を呆気なく倒した。

 

LP:3800→3300

 

「次に、『六武衆の師範』、『真六武衆-キザン』に攻撃! 壮凱(そうがい)の剣勢!」

 このバトルも同じ。攻撃力の高い師範が普通に勝利。

「『六武衆の露払い』と、『六武衆の御霊代』でダイレクトアタック!」

 

LP:3300→1200

 

「やるねぇ……」

「メインフェイズ、御霊代を露払いに装備! ターンエンド……!」

「せっかくだ。盛り上げていこうか。エンドフェイズに罠発動。『究極・背水の陣』」

 !! そのカードは!?

「私のライフを100にして、墓地の六武衆を可能な限り特殊召喚する。真六武衆、もう一度集合だ」

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+300

『真六武衆-エニシ』

 攻撃力1700+500

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

『真六武衆-ミズホ』

 攻撃力1600

『真六武衆-シナイ』

 攻撃力1500

 

「うっそ……ここで?」

 ていうか、私ったらまた……ヤイチの効果を発動するの忘れてた……

 

 

あずさ

LP:4200

手札:0枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   『紫炎の老中 エニシ』攻撃力2200

   『六武衆の侍従』守備力2000

   『六武衆の露払い』攻撃力1600+500

   魔法・罠

    ユニオン『六武衆の御霊代』

 

LP:100

手札:0枚

場 :モンスター

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800+300

   『真六武衆-エニシ』攻撃力1700+500

   『真六武衆-カゲキ』攻撃力200+1500

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   『真六武衆-シナイ』攻撃力1500

   魔法・罠

    無し

 

 

「さーて、私のターン」

 

手札0→1

 

「君なら分かるだろう」

 男はその言葉の直後、モンスター達に目を向ける。私もそっちを見た。

 

 ……何て言うか、うまく言葉にできないけど、確かに感じる。彼らが向かい合いながら、お互いに感じてる感情。私のモンスター達が懐古。そして、真六武衆達は、先見?

「やっぱり、真六武衆って……」

「そういうこと。今君のフィールドに並んでるカード達。属性が変わったのもいるが、そいつらの現役時代が、この真六武衆だ」

 やっぱり、思った通りだ。

 ……あれ? だとしたら、

「じゃあ、残りの一人は? 闇属性の真六武衆は誰?」

「それも君なら、きっとすぐに分かる」

 は?

「さあ、授業はここまで」

 そう言って、男は手札に手を伸ばした。

「(……抵抗はあるが、)魔法カード『強欲な壷』を発動し、デッキからカードを二枚ドロー」

 

手札:0→2

 

「……『天使の施し』発動。カードを三枚ドロー、手札から『六武衆の影武者』と『六武衆のご隠居』を墓地へ送る。そして、まずはミズホの効果。一ターンに一度、フィールドの六武衆を生贄に、相手の場のカードを一枚破壊。私はシナイを生贄に、君の場の御霊代を破壊」

 ミズホがまた消えて、ユニオン状態の御霊代をあっという間に成仏させた。

 一ターンに一度だけど、あっちは魔法・罠も破壊対象なんだ。

「シナイには生贄に捧げた時、墓地のシナイ以外の六武衆を手札に加えられる効果がある。この効果で、墓地に送った『六武衆のご隠居』を手札に加えておこう」

 

手札:2→3

 

 御霊代……いや、シナイだっけ。今も、それに昔も、仲間のために身を捧げてたんだね。

「さてと、バトルだ。まずは、『真六武衆-キザン』で、『六武衆の師範』に攻撃。漆凱の剣勢」

「迎え撃って師範! 壮凱の剣勢!」

 また、二人の刃がぶつかる。そして、今度は攻撃力が同じだから、両方倒れた。

「ここでエニシの効果。墓地に存在する六武衆二体を除外し、フィールド上のモンスター一体を手札に戻す。墓地のシナイとキザンを除外。君の場の侍従を手札に戻してもらう」

 侍従が手札に!

 これが、真六武衆のエニシの効果。破壊じゃなくて、コストを払ってのバウンス。しかもバトルフェイズに発動ってことは、ほぼいつでも発動できるってこと。

「『真六武衆-エニシ』で、『紫炎の老中 エニシ』とバトル。斬光閃(ざんこうせん)

 またさっきと同じ。二人の刃が交わって、相打ち!

「さて、空気が読めず申し訳ないが、私も一応は勝ちたいからな。カゲキで露払いを攻撃。雷刃四方破斬(らいじんしほうはざん)

 ミズホ、じゃなくて、カゲキに倒される露払い。

 確かにちょっと空気は読めてないけど、勝つためなら当然の選択。

 

あずさ

LP:4200→4100

 

「最後にミズホでダイレクトアタック。瞬切華(しゅんせっか)

 くぅ……

 

あずさ

LP:4100→2500

 

「まあこんなところか。最後に二枚伏せてターンエンド」

 

 

LP:100

手札:1枚

場 :モンスター

   『真六武衆-カゲキ』攻撃力200+1500

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   魔法・罠

    セット

 

あずさ

LP:2500

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

 まずい。相手のライフはたったの100。あの二体の攻撃力を超えるモンスターを召喚できれば勝てるけど、私の手札には侍従が一枚。このドローで引けなければ、私は負ける。

 いや、仮に引けたとしても、あの二枚の伏せカード、それで防がれたらそれまで……

 

「それでも、引くしかないよね……ドロー!」

 

あずさ

手札:1→2

 

 ……

「どうだった?」

 ……うん。

「このターンで、あんたを倒す!」

「ほぉ……」

 逆転行くよ!!

「まずは、手札の『六武衆の侍従』を召喚!」

 

『六武衆の侍従』

 守備力2000

 

「そして、魔法カード『死者蘇生』! 墓地の『六武衆の露払い』を特殊召喚!」

 

『六武衆の露払い』

 攻撃力1600

 

「露払いの効果! 侍従を生贄に、あんたの場のミズホを破壊する! さっきのお返しだ!」

 さっきとは逆に、露払いの脇差しに、ミズホが刺される。

「これでカゲキの攻撃力は元に戻る!」

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200

 

「ふふ……」

 また笑ってる。あの伏せカードか? けど、もう他に手は無い!

「いくよ! バトル! 『六武衆の露払い』、『真六武衆 カゲキ』に攻撃! 疾切華(とうせっか)!!」

 向かっていく露払い。笑っている男。結果は……

 

「お見事」

 

 露払いが、確かにカゲキを刺した。

 

LP:100→0

 

 

「か、勝った……」

 勝ったことに安心して、思わずひざを着いた。

 けど、勝ったのに、十代くん達の時とは違って、周りはとても静かだ。

 疑問に感じて周りを見てみる……

 その時初めて気付いた。生徒も先生もみんな、私達に怯えてる。

 

「強いな。君」

 

 男の声。そっちを睨みつける。私はまだ、この男を許してない……

 あれ?

「その手札……」

「ん? ああこれ? 前のターンにシナイの効果で手札に戻した『六武衆のご隠居』だけど」

 ……前のターン、まだ通常召喚はしてなかった。つまり、そいつを召喚していれば、ミズホが破壊されても御隠居が場に残って、カゲキの攻撃力が下がることはなかった……

「まあ、仮にこいつを召喚したとしても、師範を呼ばれれば終わってたからな。どちらにせよ君の完全勝利だったさ」

 ……

 こいつ……どこまで人のことをバカにして……!!

「そう睨むな。一応褒めてるんだ。なるほど梓が惚れるのもよく分かる」

「!!」

 な、急に何言ってるの、この男!?

「あいつのことなら大体知ってる。まあいい。こいつは返しておいてやってくれ」

 そう言って差し出してきたのは、梓くんの使ってた、紫色のデッキケース。私はそれを、無言で受け取った。

「一つだけ聞かせて欲しいんだが……」

 今度は質問?

 

「梓は、今でも自分をゴミだなんて思ってるのか?」

 

 な!!

「何でそのこと……」

「はあ……やっぱりな。まあ、あいつのことだからそうかとは思ってたんだが……」

 私の答えに、男は表情を曇らせる。

 知ってたの? 梓くんのこと? 知ってるの? 梓くんのことを?

「君は梓の恋人だろう?」

 こ!!

 その言葉に、こんな時なのに、顔が熱くなる。

「君以外にも、仲間はいるのか?」

 それは、本当に梓くんを心配しているのが分かる顔だった。だからか、許せないって思う存在なのに、無言で頷いてた。

「ならよかった。悪いが、あいつのことは頼む。あいつには、心の支えになってくれる存在が必要なんだ。私がそうなれればいいんだが、あいつの中の私は、さっき見た通りだからさ。今は君達がそうなら、あいつのこと、支えてやってくれ」

 そう話す顔は、まるで親みたいな、けどちょっと違う、とにかく本当に梓くんを思いやってる、そんな顔だった。

「あんた一体……」

 

「……うぅ」

 

 っ!!

 確かに聞こえた。そっちを向くと、梓くんが動いてる!

 

「じゃあ、後は頼むぜ」

 

 その声がした直後、男の方を向いた時、もういなくなってた。

 気にはなったけど、私はもう一度梓くんの方に向き直り、急いで駆け寄った。

 

 ……

 …………

 ………………

 

視点:男

 あれが平家あずさか。楽しめる奴だった。危うくルールを無視して切り札を使っちまうところだった。

 私が最後に伏せていた二枚の伏せカード。エンドフェイズに破壊される変わりに墓地の六武衆を特殊召喚する『六武衆推参!』。そして、『緊急同調』。

 まあ、ここでのルールは分かってるから使わないがな。

 だが、梓のことだ。もし次に出会ったら、間違い無くデッキの封印を解いてくるだろうな。まあ、その時は私も本気を出すしかないか。それが、あいつに答える唯一の方法だもんな。

 

 ……

 

 梓……

 

 ……

 …………

 ………………

 

視点:あずさ

「梓くん、梓くん」

 目を覚ましそうになってる梓くんに、そう何度か声を掛けた時、やっと目を覚ました。

「梓く……」

 安心した直後、

 

 ヒュッ

 

 梓くんの手が、わたしの顔に向かって飛んできた!?

 

 パシッ

 

 とっさにわたしも手を出して、梓くんと手を握り合う形になる。

 

 ググググ……

 

 え、うそ!

 押してくるから、わたしも負けないよう押し返してる。腕力も握力も、わたしの方が強い……はずなのに、こっちの方が、押されてる!?

 むしろ、前に押すたびに、逆にこっちへ押される形になってない? だからって、力を抜いても普通にこっちへ押されるだけだし……

 そうやって押し合ってるうちに、ついに私がひざを着いて、梓くんが立ち上がり、上になって、そして……

 

 ガタン!!

 

 手を握り合ったまま、わたしは床に叩き付けられた。

 

「刀の無い私なら……丸腰の私なら……直前まで気絶していた私なら、簡単に殺せると思ったか!?」

 

 突然そんなことを叫ばれた。わけが分からないうちに、梓くんは辺りを見渡す。

「奴は!? どこだ!!」

「……もう、行っちゃったよ……」

 押さえられながら、何とかそう答えると、梓くんはやっと手を離してくれた。そして、決闘場のど真ん中まで歩いて、そこで立ち止まった。

 

 

「シエン……」

 

「貴様だけは許さなぁぁああいぃ……」

 

「えぇええええええええええええええええええええぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 その悲鳴を最後に、梓くんは、アカデミアから姿を消した。

 

 

 

 




お疲れ~。
次から多分、新展開。まあそう呼べるほどのあれかは分からんけどね。
ちょっと待ってて。


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第十一話 盗まれたデッキと花の思い出

十一話や~。
梓の存在で色々と変化した原作キャラは二人。しばらくその二人の話となります。誰かは、まあ読めば分かるさ。
んじゃ、行ってらっしゃい。



視点:あずさ

 梓くんがいなくなって、色々あった。

 まず、万丈目くんが学校を出ていった。

 理由は、十代くんに負けたことで一気に寮での信頼を失ったこと。そして、三沢くんの昇格を賭けた決闘をして、負けちゃった。

 でも、その時の万丈目くんは、どこか上の空だったのが印象的だった……いや、ずっと上の空だった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 その日、万丈目くんはいつもと同じように、教室中央の席に座った。けど、いつもなら偉そうに命令しながらふんぞり返ってたのが、その時は静かに座って、物思いにふけってた。

 

「おい」

 

 そこに、別のブルー生徒が今の万丈目くんの席を教えた。

「……そうか。いつの間にか変わっていたんだな」

 それだけ言って、無言で移動する。隅の席に追いやられたっていうのに、怒りもしないし反論も無い。本当に、いつもの万丈目くんとは違ってた。

 

 そして、その数日後の三沢くんとの決闘の時、クロノス先生が、万丈目くんの最近の態度を見かねて、負けたら退学だって言いだした。そんなのやり過ぎだって十代くんは抗議してたけど、本人は構わないって言った。

 そしてその決闘はっていうと、さっき言った通り真剣にやってるようで、どこか上の空だった。最後には『炎獄魔人 ヘル・バーナー』を呼び出したけど、返しのターンでの『ウォーター・ドラゴン』で逆転された。

 

「これで俺は退学か。世話になったな」

 そう冷めた口調で言って、そのまま出ていっちゃった。そして、姿をくらませた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 万丈目くんだけじゃない。

 梓くんがいなくなって、ほとんどの生徒は変わった。梓くんのファンだった人は、あの時の凶王化のせいでほとんどがファンじゃなくなっちゃった。変わらずファンな人は落ち込んだり、ショックを受けたりしていた。それでも数日もすれば、みんな梓くんのことなんか忘れたみたいに元通りになって、普通どおりの学園生活に戻る。

 でも、私は……

 

 

 私は今、制裁決闘の前に梓くんと約束した、滝壺に来てる。時間は早朝。

 何度目かな。この時間にここに来たのって。

 今まで時々しかできなかった早起きができるようになって、それからは毎日トレーニングをした。トレーニングして、必ずここに来た。

 だって、梓くんと約束したから。わたしが勝ったら、ここに来てくれるって。

 それに、あの時みたいに、ここにいればまた梓くんに会えるって思ったから。

 もちろん、都合の良い思い込みだってことくらい分かってる。でも、他に、梓くんがいそうな場所なんて無いんだもん。

 

 ……梓くんに会いたい。

 

 梓くん、約束したじゃん。

 

(いなくならないで下さい。お願いだから……)

 

 わたしも、十代くんも翔くんも、約束は守ったよ。

 なのに、その梓くんがいなくなっちゃって、わたしとの約束を破るなんて、そんなのって無いよ。

 

「……嘘つき……」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

「『六武衆-イロウ』でセットモンスターを攻撃。効果で裏側のまま破壊、影断(えいだん)

「ぐっ!」

「二体の六武衆でダイレクトアタック。『六武衆-カモン』、爆煉撃(ばくれんげき)。『六武衆-ヤイチ』、瞬軌(またたき)

「ぐあぁああああああ!!」

 

相手

LP:2000→0

 

「しょ、勝者、セニョーラ平家!!」

 

 クロノス先生の勝者宣言。わたしはここの所、ずっと勝ち続けてる。前にあれだけ負けてたのが嘘みたいだ。

 

「すげーな、平家のやつ」

「急に勝ちだして、ずっと負け無しよね」

「しかも今回もノーダメージ」

「何かあったのかな」

 

 周りからはそんな声が聞こえる。けど、誰も話し掛けてはこない。

 この間のことがあって、みんなわたしを怖がるようになっちゃった。これだけは、慣れてもらえるまで時間が掛かりそうだな。

 

 でも、そんなのどうでもいいよ。

 

 わたし、頑張ってるよ。梓くんがいなくなった後も、梓くんが帰ってきた日、わたしのこと見て、褒めてくれるって思って、今も頑張ってるよ。

 もしまた前みたいな日がきても大丈夫なよう、頑張ってるから。だから……

 

 帰ってきてよ……

 

 君の声が聞きたいよ……

 

 君のご飯が食べたいよ……

 

 君がいないと、頑張れないよ……

 

 

 

視点:翔

「魔法カード『大嵐』を発動するノーネ!!」

 目の前の生徒、ラーイエローの神楽坂君が叫んだ瞬間、『大嵐』がフィールド上の魔法・罠を全部破壊する。

「そして、破壊された二枚の『黄金の邪神像』の効果により、『邪神トークン』を二体特殊召喚するノーネ!」

 

『邪神トークン』

 攻撃力1000

『邪神トークン』

 攻撃力1000

 

「この二体を生贄に……」

 

「ちょっと待った! この瞬間、僕の罠カードも発動!」

 

「んにょ!?」

「『呪われた棺』! このカードが破壊され墓地に送られた時、相手は次のうちどちらかの効果を選択する。一つは自分の手札を一枚、ランダムに捨てる効果。そしてもう一つは、自分フィールド上のモンスター一体を破壊する効果」

「んなぁ!?」

(わ、私の手札には『古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)』の一枚のみ。フィールドのモンスターは、二体の『邪神トークン』だけ。どちらを選んでも、機械巨人は呼べなくなるーノ……くそ!!)

「俺は、手札のこの一枚を墓地へ!! ターンエンド!!」

 

 

神楽坂

LP:3000

手札:0枚

場 :モンスター

   『邪神トークン』攻撃力1000

   『邪神トークン』攻撃力1000

   魔法・罠

    無し

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『ジェットロイド』攻撃力1400

   魔法・罠

    無し

 

 

 守りを固めてきたか……

「僕のターン、ドロー! 『スチームロイド』を召喚!」

 

『スチームロイド』

 攻撃力1800

 

「バトル! 『ジェットロイド』、『スチームロイド』の二体で、邪神トークンを攻撃!」

「だが、この二体がやられてもまだライフは……」

「ダメージステップに速攻魔法『リミッター解除』! 自分フィールド上の機械族の攻撃力を倍にする!」

 

『ジェットロイド』

 攻撃力1400×2

『スチームロイド』

 攻撃力(1800+500)×2

 

「なに!? ぐあああああああああああああ!!」

 

神楽坂

LP:3000→0

 

「約束通り、残り一枚の整理券は貰っていくよ」

 

 

「やったな翔!」

「見事な決闘だったんだな!」

「ありがとう。兄貴、隼人君」

 決闘が終わって、いつもの二人と話していると、

 

「翔くーん!!」

 

 そんな声が聞こえて、そっちを向くと、ももえさんが抱き付いてきた。

「見てましたわ。とても凛々しいお姿でした////」

「あ、ありがとう……」

 どうしてこんなに僕に構うのか分からないけど、まあ別に悪い気はしないし、慣れちゃった。

「にしてもすげーなお前。ここの所授業でも負け無しじゃねーか!」

 兄貴が褒めてくれた。そりゃそうだよ。だって、

「……梓さんのお陰っス」

 その僕の言葉で、兄貴も、隼人君にももえさんも表情を曇らせる。そうなるって分かってたけど、言わずにはいられなかった。僕が強くなれたのは、本当に、梓さんがいたから。

 

 梓さんの話しを聞いて、僕は今まで甘えてばかりだった自分を変えようと決めた。そのために、今までほとんどしてこなかった勉強もするようになった。ちょっとでも、梓さんの友達としても恥ずかしくないよう、頑張ってきたんだ。

 さっき使った『呪われた棺』。あれも、『サイクロン』をよく使う梓さんを意識して入れてみたカード。お陰で『大嵐』を使って油断した相手を倒すことができた。もっとも、手札には『魔法の筒(マジック・シリンダー)』があったから、上級モンスターを呼ばれて攻撃されても、『ジェットロイド』の効果で手札から発動できてたんだけど。

 

 けど、その梓さんがいなくなった。

 

 約束したのに。僕は絶対、いなくならないって。

 けど、その梓さんがいなくなったんじゃ、意味無いじゃないか。

 

「……気を落としても仕方ないんだな。今日は早く帰って明日に備えよう」

 隼人君がそう言った。

「……ああ、そうだな。明日は楽しみだぜ」

 兄貴もそう言って笑顔を見せる。自然とももえさんも、そして僕も、笑顔になった。

 明日は伝説の決闘者、『武藤 遊戯』のレプリカデッキが展示される。そしてさっきの決闘は、実はその整理券の最後の一枚を賭けた決闘だったんだ。

 兄貴の言った通り、明日がとても楽しみだよ。

 

 

 

視点:あずさ

 放課後、やることも無くて、学校の中をうろうろしてた。目的も無くただ歩いてるから、正直、今どこを歩いてるのかも分かんない。

 と、歩いていると、前の方から声が聞こえてきた。ていうか、いつの間に校長室まで来てんだろう?

 で、校長室のドアが開いて、出てきたのは校長先生と……だれ?

 

「では、よろしくお願いします」

 

 着物だ。赤色と黒色、二色の……羽織袴って言うのかな? そんな服装をしてる男の人。

 

「こちらこそ」

 

 袴の人の言葉に、校長先生も絵役する。二人とも何だか深刻な顔してるや。どうしたのかな?

「おお、平家君」

 校長先生に呼ばれた。すると、男の人もわたしを見た。

「こんにちは」

 まあ普通に挨拶をしたら、男の人も笑った。

「もしかして、君が平家あずささん?」

「へ? ええ」

 て、何でわたしの名前知ってるの?

 そう思ったら、校長先生が前に出てきた。

「紹介しよう。こちらは『水瀬 (はるか)』さんだ」

「水瀬!?」

 その名前を聞いた瞬間、衝撃が走った。

「初めまして。水瀬梓の兄の、遼です」

 梓くんの、お兄さん……

「梓くんがいなくなったので、今後の彼のことで話し合うために呼び寄せたのですよ」

「今後って……まさか、退学とか!?」

「いえ、そういうことではありません。いなくなったので捜索願を出すべきかと話し合っていた所なのです」

「そ、そうですか……え? じゃあ梓くん、家にも帰ってきてないってことですか?」

「そうなんだ」

 梓くんのお兄さん、遼さんがそう返事をする。当たり前だけど、とても心配そう。

「まあ、あいつのことだから。気が済んだらすぐに戻ってくるとは思うんだが、さすがに心配なんだよな……」

 心配はしてるけど、信頼もしてるんだ。ちょっとしか話してないけど、いいお兄さんだっていうことは分かった。

「……そうだ。良かったらちょっと話さないか? 今、時間あるかな?」

「へ?」

 まあ、特に予定なんかもないし……

「別に良いですけど」

「ありがとう。あまり長くならないよう努力するよ」

 な、何を話す気なんだろう……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 わたし達二人は、全員が帰って空っぽになった教室に来た。時間は夕方前くらいで、教室がうっすら赤く染まってる。

「悪かったね。手間取らせちゃって」

「全然いいですよ」

 謝ってくる遼さんに、そう話し掛けながら、改めて遼さんの顔を見てみた。

 梓くんはとても綺麗な顔してたけど、この人はどちらかと言えば凛々しい顔つきで、格好良いんだけど、『イケメン』ていうよりは『男前』って感じの顔してる。髪は首までしか伸びてないし、背も高くて、体つきはたくましい感じだ。

 梓くんとは似てないなぁ……

 て、当然だよね。

「君は梓とは友達だろう。学校じゃどんなふうだったか聞かせてもらっていいか?」

 あ、でも笑顔は似合う。そこだけは何だか似てる。

「梓くんは、えっと……」

 

 遥さんの願い通り、わたしは梓くんについて色々お話しした。お兄さんが相手だから遠慮するのは良くないかなって思って、良かったことも悪かったことも、全部話した。

 入学試験を成績トップで通過。その後も首席をキープ。お茶会や決闘。凶王化した時の喧嘩。トレーニングした時の反応。

 そして……

 

「いなくなる前の日、梓くん、自分のことを……ゴミだって……」

 それを話すと、遼さんは顔を伏せた。

「そうか。あいつ、まだ自分のことをそう思ってたのか……」

「……じゃあ、本当だったんだ」

「ん?」

「梓くん、拾われた子供だったって」

 正直な話、現実味が無くてはっきりとは信じられなかった。

 すると、わたしの言葉に遼さんは驚いた顔を見せた。

「あいつ、そのことも話したのか?」

「え、ええ……」

「そうか……そっか」

 あれ? 何だか嬉しそう?

「あいつにも、やっとそんなことまで話せる友達ができたんだな」

「え? やっと?」

 やっとってなに?

「あいつ、ずっと友達なんてできなかったからな」

「え、うそ?」

 梓くんのことだから、友達はむしろたくさんいるって思ってた。

「あいつを俺が見つけて、両親が引き取ったっていうのは聞いたか?」

「あ、はい」

「あいつはさ、拾われてから今日までの五年間、今は六年かな、とにかく頑張ってきたんだ。最初の二年で、文字の読み書き、計算、一般常識その他諸々。全部が普通にできるようになるまで、毎日毎日、寝る間も惜しんで頑張ってきた。お陰で三年目には中学に入ることができたんだ。おまけに体は元々丈夫だったらしくて、体も強く成長した。三年目に中学に入ってからは、水瀬のこととか、そのための礼儀作法とか、あいつが望んでた決闘も習い始めたんだ」

「はぁ……」

 梓くんから聞いてはいたけど、梓くん以外の口から聞いて、なお更わたしの中で現実味が増していった。

「けどな、その努力の邪魔をする人間は大勢いたんだ。聞いたとは思うが、俺や両親以外の親戚や使用人達は、梓のことを快く思ってなかった。古臭い考えだが、格式高い名家にとって、どこの馬の骨とも分からない梓は有害でしかなかったんだ」

「だから何かと言えば、俺や両親がいない時とか、とにかく隙を見つけては、勉強中平気で間違ったことを教えたり、勉強道具をこっそり捨てたり、酷い時は暴力とか、とても子供が歩いていけない距離まで連れていって置き去りにしたりな」

「あいつにだけ飯を与えなかったり、与えた飯に毒を混ぜたり、なんてのは日常的だった。中には俺や両親が、サンドバック変わりにする目的で梓を引き取ったって思い込んだ連中も少なくなかった」

「ひどい……」

 思ってたことを、思わず言葉にした。本当に、ひどい話だったから。

「けど、あいつはくじけなかった。弱音一つ吐かなかった。だってさ、それまでもたくさん、いつ死ぬとも分からない辛い目に遭ってきたんだ。それに比べたら、家内での虐待なんて大したことじゃねーよ。何より、どんな嫌がらせを受けても助けを求めようはとしなかった。誰かに助けてもらうなんてこと、考える以前に知らなかったろうからな。そもそもあいつはうちに来た時点で、水瀬の誰も信じてなんかなかったんだ。親戚や使用人はもちろん、両親や、俺のことさえな」

「……」

「ずっとそんな感じだったからさ、中学に入れた後も、一人も友達なんてできなかった。勉強もスポーツも、人並み以上にできるようになってたけど、誰とも打ち解けようとはしなかった。誰かに仲良くされても、一方的にそれをはねのけて、それが生意気だってちょっかいを出されたら、そいつらは片っ端からぶっ飛ばしていった」

「家では相変わらず、俺と両親以外の人間からは酷い扱いを受けてきた。それだけのことされてきたんじゃ、むしろ、友達を作ろうと思う方が不思議だっていう生き方をしてきてたんだ。正直なことを言うと、この決闘アカデミアに入学させたのは、あいつがこれ以上、うちにいるせいで辛い目に遭わないで欲しいって思いもあったからなんだ」

「……」

 さっきから何度そう思ったか分からない。ひどいって。信じられないって。

 とても綺麗で優しくて、たくさんの人と笑い合って、友達になって、何より、わたし達のために泣いてくれた。そんな梓くんが、そんな、他人を絶対に信じない、そんな人だったなんて。

 

「……でも、今の梓くんは、全然違う……」

「ああ。あいつは変わったんだ」

 今まで以上に暗い声。顔も、とても辛そうな顔をした。

「あいつは確かに弱音も吐かなかったし、怒ったこともほとんど無かった。けど、一度だけ激怒したことがあったんだ。それは……」

「……自分以外の、大事な人が傷つけられた時、ですか?」

 そう言うと、遼さんは驚いた顔を向けた。

「……そうか。君にも分かったか」

「だって、梓くんが凶王化するのって、そういう時だけだったから」

「凶王化?」

「ああ、ごめんなさい! えっと、梓くんの性格が変わるのって、そういう時だったから」

「なるほど。そりゃ分かるか」

 そんな笑顔の言葉で、こっちも自然と笑った。

「うちの時もそうだった。あいつがもうすぐ中学三年になるっていう日な、うちに強盗が入った時があったんだ。警備が休みだった時を狙われてな。俺も両親も腕っ節の方はからきしだし、梓は強かったけど、向こうは拳銃まで持ってたから、泥棒には好き放題させてたんだ。それで、金とか高価な物を盗まれるだけなら良かったかもしれなかったが、その後が悪かった。犯人達の道楽で、俺と両親、三人ともボコボコにされたんだ。その時、一緒にいた梓がキレた」

 その言葉と同時に、遼さんの顔から一気に血の気が引いた。

「あの時の梓は本当に、君の言った凶王って言葉が似合ってた。拳銃持った犯人四人に、十四歳の子供が一人突っ込んで、一分もしないうちに四人とも血まみれにした。しかも、とどめに拳銃を奪って撃とうとまでしてさ。さすがにそれは止めたけど……怖かったぞ、あの時の梓は」

 普通なら怖いって思う話し。けど、凶王化を何度か見た私には、あまり怖いとは感じられなかった。

「……けど、その時、俺も両親も初めて分かったんだ。梓は、俺達のことを大切に思ってくれてたんだって」

 また急に顔が変わる。今度は嬉しそうな顔。

「あいつを止めた後、どうしてあんなことをしたか聞いたら、言ったんだ。『自分が傷つけられるのは良かった。なのに、俺や、父さん、母さんが傷つけられるのだけは我慢できなかった』って。梓は俺達のことを信じてなかった。けど変わりに、俺達のことを本当に大切に思ってくれてた。家族だって思ってくれてたんだ。梓自身もその時初めて知ったらしい。誰かを思いやるって気持ちを。あの時感じた怒り。それが、あいつがずっと持てなかった、人への思いやりなんだって」

「それから梓は変わった。学校でも家でも、随分と笑うようになったんだ。けど、中学ではいい加減、梓を受け入れてくれる人間はいなくなってたし、家での扱いも相変わらずだった。それでも、あいつは笑顔で、人に優しくした。いつでも笑って、自分よりも相手のことを優先する。そうやって、中学最後の冬頃には、今みたいな性格になったんだ」

 とても嬉しそうに話す。私も、聞いててとても嬉しくなった。

 そっか。梓くんはそうやって、今みたいになれたんだ。

 

「けど、どうしてそのことをわたしに?」

 さすがにあまり人に話せることじゃないと思ったから、疑問に感じて聞いてみた。そしたら、何だか変な笑顔を浮かべた。

 

「そりゃあ君なら話して良いって思ったからさ。梓が恋した女の子なんて初めてだったし」

 

「え!?」

 ちょ!! 直前までシリアスな話ししておいて何その不意打ち!?

「時々うちと電話で話すんだけど、その度にあずささんは、あずささんはって、学校のこと聞いてるのに二言目には君のことばかり話すんだ。今まで俺達でさえ聞いたことのない、幸せそうな声でさ」

「……えっと、ちなみにどんな話しを?」

 赤くなりそうな顔を何とか普通にしながら聞いてみた。

「今日は君とあんな話しをして楽しかったとか、君にご飯を作ったら褒められて、顔から火が出そうな思いしたとか、君の着物の着付けを手伝いながら興奮を抑えるのは苛烈を極めたとか、あずささんと触れ合うことができる今の時間が幸福の絶頂だとか、他にもあずささんは素晴らしいだの綺麗だの可愛いだの美しいだのお嫁に欲しいだのお嫁にして欲しいだの……」

「わー!!//// わぁー!!////////」

 最後が何か変だった気がしたけどそれ以上は言わないで!!//// 死ぬほど恥ずかしい!!////////

「もっとも、結局は振られてるから一生友達なんだけどな」

 そのことまで話してるんだ。

「その、わたしまだ、振ったわけじゃ……////」

「え?」

 聞き返してきた。あぅ、改めて話すとなると恥ずかしい////

「その……あの夜はお互いに出会ったばかりだったし、梓くんの方はともかく、わたしは梓くんのことどう思ってるかなんて分からなかったから、返事をする前に、梓くんが一方的に振られたって勘違いしちゃっただけで、その……////」

「なるほどな。あのバカのしそうなことだ」

 納得してる。梓くんがそういう人だって分かってるんだ。

「じゃあ、梓の前に聞くのは気が引けるけど、君は梓をどう思ってる?」

「えぇ!?////」

 また何を言いだすの!?

 て、最初は思った。けど、その顔を見ると、その気持ちは無くなった。顔は笑ってるけど、目はとても純粋で真剣な目だ。

 だから、何となくごまかしちゃいけない気になった。だから、言うことに決めた。わたしの、本当の気持ち。

「その……本当言うと、ずっと、振られたと思われたままで良いかなって考えてました。それで毎日梓くんと一緒にいるのが、すごく楽しくて、ずっとこんな日が続いたらなって感じてました」

「けど本当は、いつまでたっても梓くんへの気持ちがはっきりしなかったのをごまかしたかっただけだったんだと思います。証拠に、梓くんが、わたしやみんなのことをどれだけ大切に思ってくれてるのかを知った時、分かったんです。わたし達のために、こんなに悲しんで、苦しんで、涙まで流してくれる。その気持ちがすごく嬉しかった。どうしてこんなに嬉しいのかって考えたら、答えはすぐ分かりました」

 わたしは……

「わたしは梓くんのこと、大好きみたいです。友達以上に、すごく、大好きです」

 すごく恥ずかしいって思ったのに、顔は全然熱くならなかった。

 わたしの感じた正直な気持ち。それを言葉にすることって、難しいけど、こんなに簡単で、こんなに気持ちの良いことだったんだ。

「けど、そのこと伝えようって思ったすぐ後にいなくなっちゃって……」

 

「よし分かった!」

 

 急に、遼さんが大声を上げた。

 

「梓を君にやろう!」

 

 ……

 

「……はい?」

「梓の嫁になれ!」

「……へ?」

「梓と一緒にうちに来い!」

 ……

 …………

 ………………

 !!

「えぇ~えぇー!!」

 い、いきなり何を言い出すんですかこの人は!? ちょっ! そんな微笑ましそうな目で見られても困るよ~!!/////////

「ちょ、ちょっと待って下さい!//// いきなり、そんなこと言われても……////」

「大丈夫。梓と一緒になるからって決闘者を辞めろとは言わん。君は君の好きなことをすればいいんだ」

 そういう意味じゃなくて!!////

「そもそも告白した日からだいぶ時間がたってるのに!//// 梓くんがどう思ってるか分からないじゃないですか!!////////」

「大丈夫。電話での会話の感じから察するに、梓は君にべた惚れ継続中だ」

「はいぃ!?////」

 そ、それが本当ならそれ以上嬉しいことは無いけれども!!////

「君は梓が好きなんだろう?」

 うぅ~~~~~~~~~……////////

「……大好き////」

「じゃ決定~」

「良いんですか!? こんな簡単に決めちゃうんですか!? 梓くんが不在なのにですか!?」

「あいつは適応力もあるから大丈夫だ」

「何の適応力!? というか適応力の問題!? ひいては一生を左右する大事の最終的な決定要因は適応力なんですか!?」

「結婚式はどうしよう……和風かな? けど(あずさ)のウェディングドレス姿も見てみたいものなぁ……」

「早過ぎるでしょう!! あとその(あずさ)ってわたしのことですよね!? 念のため確かめておきたいんですけど梓くんのウェディングドレス姿を想像してないでしょうね!?」

「……え? ダメ?」

「ダメですよ!! 仮にも梓くんは男子です!!」

「君は見たくないか? 梓のウェディングドレス姿」

「すんごく見たいです!! ただでさえ綺麗な梓くんが和服じゃなくてウェディングドレスを着るなんて、想像しただけでかなりそそられます!! 興奮します!! 欲情しちゃいます!! けど倫理的に間違ってます!! 警察に捕まります!!」

「良かった」

「何が!?」

「君も乗り気みたいでさ」

「あ……」

 あんまり興奮しちゃって、気付かなかった。

 わたし、こんなに……

「ああ……梓が帰ってきて君が梓に告白したら、梓はどんな顔するかな」

 笑顔での遼さんの言葉。

 ……確かに、想像すると笑えちゃうな。

 

「ただまあ、ちょっと真剣な話しになるけどさ」

 その言葉の通り、明るい調子と口調をそのままに、態度は真剣なものに変わった。

「梓がもし帰ってきたら、暖かく迎えてやってくれ。君が迎えてくれるのが、梓は一番喜ぶだろうからさ。他にも友達はいるのは知ってるけど、やっぱり君が一番だろうから。これは、あいつの兄貴としても、ぜひ頼みたい」

 今まで姿が嘘みたい。本当に真剣な言葉だ。

 ……うん。

「もちろんです。きっと、梓くんは戻ってきます。その時は、わたしが迎えます」

「ありがとう」

 

 その後、二言三言会話した後で、遼さんは帰っていった。

 

 梓くん。君のことを思ってくれてる人はこんなにいるんだよ。君が何に怒って、苦しんでるのかは分からないけど、でもわたしは、そしてわたし達は、君が帰ってくるって信じてるから。

 だから、いつでも帰ってきて。わたしはずっと、ここで君の帰りを待ってるから。

 

 そして、その時はきっと……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:神楽坂

 凄い! 本当に凄い!!

 これが伝説の決闘者、武藤遊戯のデッキか!! 今まで様々なデッキを研究し、実際に構築しては使ってきたが、ここまで凄いデッキは見たことが無い!!

 だが、凄いデッキであると同時にかなり難しいデッキでもある。これだけのデッキを使いこなすには、かなりの決闘戦略(デュエルタクティクス)を要するだろう。

 だが! 俺なら使いこなせる!! さっきも言ったように、俺は今までも多くの決闘者のデッキ、決闘及び戦略(タクティクス)を研究してきた。武藤遊戯はもちろん、海馬瀬人、城之内克也、マリク・イシュタール、ペガサス・J・クロフォード、更にはクロノスにカイザーもだ。

 それだけの決闘者を研究してきた俺になら、間違い無く使いこなすことができる。

 そして、これで俺は、最強の決闘者になれる!!

 

「神楽坂君?」

 

 ん? この声は……

 

 

 

 




お疲れ~。
『約束』をむげにする行為と、『守られた約束』をむげにする行為って、どっちのがより悪かな。
その答えは、皆さんに委ねるとしよう。
次話、決闘ね。待っててね。


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第十一話 盗まれたデッキと花の思い出 ~決闘~

決闘じゃぜ~。
少々やり過ぎた感が無いでもないが、まあ気にしない。
まずは黙って読め。
じゃ、行ってらっしゃい。



視点:翔

「いくよ!! 神楽坂君!!」

「は! 二人まとめて返り打ちだ!!」

「ぬぅ~」

 

『決闘!!』

 

神楽坂

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

クロノス

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

 僕は今、神楽坂君と向かい合っている。その隣には、構えながら気合いを入れてるクロノス先生。クロノス先生とのタッグチームで臨む、神楽坂君との決闘。

 どうしてこうなったかと言うと……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 僕はこの時、兄貴、隼人君、三沢君と一緒になって、レプリカデッキの展示室へこっそり向かっていた。朝が来るまでどうしても待てないって兄貴が言うもんだから、しかたなくここまで来たところで三沢君と合流したってわけ。

 で、いざ展示室に入ろうって時だった。

 

「マンマミ~~~~~~ア!!」

 

 聞き間違いようの無い、癖のある特徴的な声の悲鳴。クロノス先生だ。

 急いでそこへ向かうと、クロノス先生は倒れていた。そして、武藤遊戯のレプリカデッキは無くなっていたんだ。

 最初、兄貴はクロノス先生を疑ってたけど、鍵を持ってるクロノス先生がケースを壊す必要なんて無いし、兄貴もそれは分かってたから冗談で言ってたみたい。

 それで、犯人を捜すことになったんだけど……

 

「ドロップアウトボ~イ、セニョール達だけが頼りナノ~ネ~!!」

 

 ムカ……

 

「何言ってるんスか!!」

「ンニョ!?」

「管理を任された先生にも責任はあるんです! だったら先生だってその責任を果たさないといけないでしょう! それを! 自分でドロップアウトボーイって呼んでる生徒に丸投げだなんて虫がよすぎるっスよ!! 僕らも捜すんだから先生も捜して下さい!!」

「な、なんでドロップアウトボーイにそこまで……」

「僕がドロップアウトボーイだったら何なんスか!? その事実で先生の失敗の何が変わるんスか!? 僕らの存在をデッキを盗まれた言い訳にするんじゃない!!」

「うぅ……」

「分かったらさっさと立つ!! そして一緒に捜す!!」

「は、はい~~~!!」

 

「すっげ~迫力……」

「あれが、本当に翔なのか……」

「何ていうか……俺も負けてられないんだな……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それで、僕が先生を引っ張って捜していた時、レプリカデッキを持った神楽坂君を見つけた。彼はそのデッキを持って、武藤遊戯の決闘を研究し尽くした自分になら、このデッキは使いこなせる。これで自分は最強だって喜んでた。僕達はどうにか説得しようとしたけど、彼は聞く耳を持たなかった。

 

「なら、僕が相手になるっス!!」

 とは言え、さすがに武藤遊戯のデッキが相手となると、今の僕じゃ勝てない。だから、

「僕とクロノス先生がタッグを組んで君を! 武藤遊戯を倒す!!」

「ンナ!?」

「なに?」

「先行は君に譲るよ。そして毎ターン、君と僕達とで交互にプレイする。伝説の武藤遊戯の決闘ができるなら、このくらい楽勝だよね?」

 その言葉に、神楽坂君は笑った。

「良いだろう。ついでに放課後のリベンジもさせてもらうぞ。負けた原因となった、お前のデッキもろともな!!」

「ンガ!?」

 クロノス先生を指差しながら叫んだ。

 

(セニョール翔、あなたは一体何を考えてるノーネ!)

(もちろん、勝つことに決まってるっすよ)

(勝つことって……)

(本当に彼が武藤遊戯の決闘ができるっていうのなら、悔しいけど、僕一人じゃ勝てない。もちろん先生一人でも無理だ。けど二人で力を合わせれば、まだ勝機はある)

(しかーし、突然こんなタッグを組んだ所で、上手く決闘できる保障ナンーテ……)

(大丈夫。クロノス先生の『古代の機械(アンティーク・ギア)』、そして僕の『ビークロイド』。シリーズは違うけど幸いどっちも機械族だから、ある程度のシナジーは望めるはずっす)

(うぅ……)

(それとも先生は、目の前で生徒が過ちを犯そうとしてるっていうのに、黙って見過ごすんスか?)

(それは……)

(……)

 

「……えぇーい! やってやるーノ!! たとえ相手が伝説の決闘者であろうとも、生徒であるというのなら黙っているわけにはいかないノーネ!!」

「決まりだね」

 クロノス先生が気合いを入れた所で、僕達三人は一斉にディスクを起動した。

「いくよ!! 神楽坂君!!」

「は! 二人まとめて返り打ちだ!!」

「ぬぅ~」

 

『決闘!!』

 

 

神楽坂

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

クロノス

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「俺の先行だ。ドロー!」

 

神楽坂

手札:5→6

 

「俺は魔法カード『融合』発動!」

 いきなり融合!

「手札の『幻獣王ガゼル』と、『バフォメット』を融合! 『有翼幻獣キマイラ』を融合召喚!」

 

『有翼幻獣キマイラ』

 攻撃力2100

 

「俺はこれでターンエンド」

 

神楽坂

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『有翼幻獣キマイラ』攻撃力2100

   魔法・罠

    無し

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

手札:5→6

 

 一応このターンから攻撃できる。けど、この手札じゃ……

「『ジャイロイド』を、守備表示で召喚!」

 

『ジャイロイド』

 守備力1000

 

「更にカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『ジャイロイド』守備力1000

   魔法・罠

    セット

 

神楽坂

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『有翼幻獣キマイラ』攻撃力2100

   魔法・罠

    セット

 

 

 今僕にできるのはここまで。後は神楽坂君がどう動くか。

「俺のターン、ドロー!」

 

神楽坂

手札:2→3

 

「『翻弄するエルフの剣士』を召喚!」

 

『翻弄するエルフの剣士』

 攻撃力1400

 

「バトルだ! まずは『翻弄するエルフの剣士』で、『ジャイロイド』を攻撃! 聖剣斬!」

「『ジャイロイド』は一ターンに一度、戦闘では破壊されない効果を持つ!」

 エルフの剣士の斬撃に耐えるジャイロイド。頑張れ!

「そして、キマイラで攻撃! 幻獣衝撃粉砕(キマイラ・インパクト・ダッシュ)!」

 今度はキマイラの体当たり。さすがに二発目を耐えることはできず、破壊されるジャイロイド。

「……カードを一枚セット。ターンエンドだ」

 

 

神楽坂

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『有翼幻獣キマイラ』攻撃力2100

   『翻弄するエルフの剣士』攻撃力1400

   魔法・罠

    セット

 

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

 相手の場にはセットカードが一枚。絶好の場だ。あとはクロノス先生次第だ……

「私のターン、ドローニョ!」

 

クロノス

手札:5→6

 

 

 

視点:クロノス

 この手札。そして、『古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)』。おいおいこれじゃ、私の勝ちじゃないか!

 ……ですが、これをやってしまうと、セニョール翔まで巻き込んでしまうノーネ。あのセットカードが何なのかは確認できない。

 どうしたものか……

 

「……」

 

 その時、視線を感じました。

「……」

 せ、セニョール翔が私の顔をジッと見ている。何なノーネ?

「……」

 ……は! まさか、あなたは……

「……」

 分かったノーネ。

「私はカードを二枚伏せますーノ!」

 それにしても、これがフィールド魔法の説明もできなかったセニョール翔とは、とても信じられないノーネ。

「そして魔法カード『大嵐』発動! フィールド上の魔法・罠カード全てを破壊するノーネ!」

 発生する大嵐。それに巻き込まれる計四枚の伏せカード。そう、これで良いノーネ。

「この瞬間、破壊された『黄金の邪神像』の効果! 攻守1000の『邪神トークン』二体を特殊召喚!」

 

『邪神トークン』

 攻撃力1000

『邪神トークン』

 攻撃力1000

 

「更に、破壊された僕の罠カード『呪われた棺』の効果も発動! 君は次の内一つを選択する! 手札一枚を捨てるか、自分の場のモンスター一体を破壊するか!」

「手札一枚を墓地へ」

 

神楽坂

手札:2→1

 

 何を捨てたのかは分かりませンーガ、これで相手の動きは大きく制限されたノーネ。

「私は『邪神トークン』二体を生贄に、現れよ! 『古代の機械巨人』!」

 

『古代の機械巨人』

 攻撃力3000

 

「バトル! 『古代の機械巨人』で、『有翼幻獣キマイラ』に攻撃! アルティメットパウンド!!」

「ぐっ……」

 

神楽坂

LP:4000→3100

 

「……キマイラの効果! このカードが破壊された時、墓地の『幻獣王ガゼル』か、『バフォメット』を特殊召喚する。俺は、『バフォメット』を守備表示で特殊召喚!」

 

『バフォメット』

 守備力1800

 

「私はこれでターンエンド……ンン!?」

 

 

クロノス

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『古代の機械巨人』攻撃力3000

   魔法・罠

    無し

 

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

神楽坂

LP:3100

手札:1枚

場 :モンスター

   『バフォメット』守備力1800

   『翻弄するエルフの剣士』攻撃力1400

   『トイ・マジシャン』攻撃力1600

   魔法・罠

    無し

 

 

 エンド宣言した直後、初めてその変化に気付いたノーネ。

「『トイ・マジシャン』!? いつの間にそんなカードが!?」

「ふふ。お前達の考えなど、お見通しだぜ……」

 

『トイ・マジシャン』

 攻撃力1600

 

「こいつは魔法・罠カードゾーンにセットすることができるモンスターカード。そして、相手のカード効果によって破壊され墓地に送られたターンのエンドフェイズ時、特殊召喚することができるのさ」

「そんな効果が……」

 セニョール翔は驚いている。確かに特殊な効果でスーガ、冷静になるノーネ。

「しかし攻撃力は、『古代の機械巨人』の方が圧倒的なノーネ!」

「ふ……俺のターン、ドロー!」

 

神楽坂

手札:1→2

 

「速攻魔法『ディメンション・マジック』! 自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在する時、モンスター一体を生贄に、手札の魔法使い族モンスター一体を特殊召喚する! 『バフォメット』を生贄に捧げ、手札の『ブラック・マジシャン』を特殊召喚!」

 

『ブラック・マジシャン』

 攻撃力2500

 

「『ブラック・マジシャン』……武藤遊戯のエースカード……」

「このために『トイ・マジシャン』を……」

 『ブラック・マジシャン』。

 世界中に存在するカードである物の、それらのほとんどはデザイン違いのレプリカカード。オリジナルは現在、武藤遊戯のデッキに入っている一枚しか存在しないと聞きますノーネ……

 『ブラック・マジシャン』と向かい合ったのは初めてではありませンーガ、やはりレプリカには無い迫力でスーノ……

「そして、『ディメンション・マジック』の最後の効果! フィールド上のモンスター一体を破壊できる! 対象は『古代の機械巨人』だ!」

「ンニョ!!」

 『トイ・マジシャン』、『ブラック・マジシャン』が杖をクロスさせて、『古代の機械巨人』を破壊したノーネ!!

 わ、私としたことが、『ディメンション・マジック』の効果を忘れていましたノーネ!!

「早速一人退場だ。『ブラック・マジシャン』でクロノス! お前にダイレクトアタック!」

「アダバ!?」

黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

 『ブラック・マジシャン』が、徐々にこちらに近づいてきますーノ!! というか! この後に『トイ・マジシャン』の攻撃を受けレーバ、私のライフはゼロに!!

 

「手札の『カイトロイド』の効果発動!」

 

 ニョ!? セニョール翔!

「このカードを手札から墓地へ送り、ダイレクトアタックを一度だけ無効にする!!」

 

手札:4→3

 

 た、助かったノーネ。

「だが、まだ二体残っている! 『トイ・マジシャン』、ブロック・デモリション!」

「『カイトロイド』の効果は墓地でも発動する! このカードをゲームから除外! その攻撃も無効だ!」

「しぶとい。だが三撃目はあるまい。『翻弄するエルフの剣士』、聖剣斬!」

「ンガ!」

 

クロノス

LP:4000→2600

 

「ターンエンドだ」

 

 

神楽坂

LP:3100

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   『翻弄するエルフの剣士』攻撃力1400

   『トイ・マジシャン』攻撃力1600

   魔法・罠

    無し

 

クロノス

LP:2600

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「すいません。『カイトロイド』一枚じゃこれが限界でした」

 謝ってくるセニョール翔。しかし、それは気落ちしてはいますが、とても頼もしい姿ナノーネ。

「何を言ってるノーネ。セニョール翔のお陰でワンターンキルは防げたノーネ。だから胸を張りますーノ」

「クロノス先生……」

「さあ、あなたのターンナノーネ。思い切りやって来なサーイ」

「はい!」

 うむ。良い返事ですーノ。これなら安心して背中を任せられるノーネ。

「僕のターン、ドロー!」

 

手札:3→4

 

 思い切りやるノーネ! セニョール翔!!

 

 

 

視点:十代

 声がした方へ急ぐと、そこには信じられない光景が広がっていた。

「な、なぜあの二人が、タッグ決闘なんてしているんだ!?」

 三沢が叫んだ。だってクロノス先生、あれだけ俺達レッドのこと毛嫌いしてたのに!?

 けど、それは置いといて、すぐにフィールドに目を戻した。

 翔とクロノス先生の場にはカードが一枚も無い。それに対して、神楽坂は手札がゼロだけど、遊戯さんのエースカード『ブラック・マジシャン』を筆頭に、三体のモンスターが並んでる。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 今は翔のターンか。幸い、手札は十分ある。ここからどう展開していく?

 

「魔法カード『未来融合-フューチャー・フュージョン-』発動! デッキから、融合モンスターによって決められたモンスターをデッキから墓地へ送り、発動後、二回目のスタンバイフェイズにそのモンスターを融合召喚する。僕は融合デッキの『スーパービークロイド-ジャンボドリル』を選択。デッキから融合素材である『スチームロイド』、『ドリルロイド』、『サブマリンロイド』を墓地へ!」

「更に、手札から『エクスプレスロイド』を召喚!」

 

『エクスプレスロイド』

 守備力1600

 

「このカードを召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、墓地の『エクスプレスロイド』以外の『ロイド』を二体、手札に加える。僕は墓地の『ジャイロイド』、『スチームロイド』を手札に加える!」

 

手札:2→4

 

「魔法カード『パワー・ボンド』! 手札の『ジャイロイド』と『スチームロイド』を融合! 『スチームジャイロイド』を融合召喚! 『パワー・ボンド』で融合召喚された機械族モンスターは、攻撃力が倍になる!」

 

『スチームジャイロイド』

 攻撃力2200×2

 

 ここで『パワー・ボンド』か! これで『ブラック・マジシャン』を倒せる!

「バトル! 『スチームジャイロイド』で、『ブラック・マジシャン』を攻撃! ハリケーン・スモーク!」

 翔の叫びと共に発生するハリケーンが、『ブラック・マジシャン』を包んだ。そして、そこから体当たりを仕掛けた!

 けど……

「え!?」

 『スチームジャイロイド』の攻撃は、どうしてだか見当違いの方向へ飛んでいった。

「これは! 一体どういうことなノーネ!?」

 クロノス先生が叫んだ。本当にどういうことだ!?

 

「残念だったな。俺がお前達に『大嵐』と『呪われた棺』のコンボを使わせたのは、『トイ・マジシャン』を呼ぶことだけが目的じゃない。それは……こいつだ!」

 話しながら、神楽坂は墓地から一枚のカードを取り出して見せた。

「『超電磁タートル』。こいつが墓地に存在する時一度だけ、プレイヤーの好きなタイミングで戦闘を終了させることができるのさ」

「そんな……てことは最初から……」

「この展開を予想した上で、私に『大嵐』のカードを……」

 二人とも呆然としてる。俺達のいない間に何があったんだ?

「……カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「この瞬間、『パワー・ボンド』の効果で、『スチームジャイロイド』の元々の攻撃力分のダメージを受けて貰う!」

「うわー!!」

 

LP:4000→1800

 

 

LP:1800

手札:0枚

場 :モンスター

   『スチームジャイロイド』攻撃力2200×2

   『エクスプレスロイド』守備力1600

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン-』

    セット

 

クロノス

LP:2600

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

神楽坂

LP:3100

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   『翻弄するエルフの剣士』攻撃力1400

   『トイ・マジシャン』攻撃力1600

   魔法・罠

    無し

 

 

 

視点:翔

 強過ぎる……いくら僕達のデッキが知られてるからって、ここまで読んでたなんて……

 今まで普通に、神楽坂君と戦っていたはずなのに、その神楽坂君の姿が、伝説の決闘者、武藤遊戯に見えた……

 

「俺のターン!」

 !!

 

神楽坂

手札:0→1

 

「魔法カード『強欲な壺』発動! カードを二枚ドロー!」

 

神楽坂

手札:0→2

 

「速攻魔法発動! 『光と闇の洗礼』! 自分フィールドの『ブラック・マジシャン』を生贄に捧げ、手札、デッキ、墓地から、『混沌の黒魔術師』を特殊召喚!」

 

『混沌の黒魔術師』

 攻撃力2800

 

「このカードの召喚または特殊召喚に成功した時、墓地の魔法カードを一枚手札に加えることができる。俺は『ディメンション・マジック』を手札に加える」

 

神楽坂

手札:1→2

 

「そして再び、『ディメンション・マジック』を発動! 『翻弄するエルフの剣士』を生贄に捧げ、手札の魔法使い族を特殊召喚する。現れろ! 『ブラック・マジシャン・ガール』!」

 

『ブラック・マジシャン・ガール』

 攻撃力2000

 

「更に、『ディメンション・マジック』の効果で『スチームジャイロイド』を破壊!」

「ぐぅ、『スチームジャイロイド』……」

「そして『ブラック・マジシャン・ガール』は、墓地の『ブラック・マジシャン』の数だけ、攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

『ブラック・マジシャン・ガール』

 攻撃力2000+300

 

 『ブラック・マジシャン・ガール』。

 武藤遊戯のデッキにだけ入る、幻の超レアカード……

 

『ウフッ』

 

 ……このっ、ウインクなんてして余裕でいる……

 今までずっとあのカードに憧れた。一度で良いから会ってみたいって思ってた。

 けど、今は決闘中。おまけにこっちは劣勢だ。そんな時にあの態度……

 かなり頭に来るよ、あの女……

 

(ギッ!)

 

『ヒッ!』

 

 あれ? どうしてか小さくなった。

「バトルだ! 『ブラック・マジシャン・ガール』で、『エクスプレスロイド』に攻撃! 黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!」

 『ブラック・マジシャン・ガール』が迫ってきた!!

「罠発動! 『魔法の筒(マジック・シリンダー)』! その攻撃を無効にして、相手に攻撃力分のダメージを与える!」

 放たれた呪文が筒へ吸い込まれて、その攻撃が神楽坂君へ飛んでいった。

「ぐあっ!」

 

神楽坂

LP:3100→800

 

 唖然とする『ブラック・マジシャン・ガール』。よし、目に物を見せることができた。

 見たか小娘! 可愛い顔してれば何しても許されるって思うなよ!!

 

『(ガクガク……)』

 

「……ふふ。今のは単純なプレイミスだな」

「……え?」

「なぜ俺が『ブラック・マジシャン・ガール』で攻撃したと思う?」

「なぜって……」

 ……あぁ!!

「ていうことは、伏せカードのことも……」

「そう。お前は明らかに『ブラック・マジシャン・ガール』に対して腹を立てていた。なら、こいつで攻撃すれば、お前はまず間違いなく頭に血が昇って『魔法の筒』を発動してくれる。そう思ったからだ」

「だが使うなら、より攻撃力が高く、戦闘破壊したモンスターを除外する効果を持つ『混沌の黒魔術師』に使うべきだった。どの道『エクスプレスロイド』の守備力は『トイ・マジシャン』の攻撃力と同じ。『トイ・マジシャン』は最後に攻撃するしかない。仮にその伏せカードで防がれたとしても、どちらにせよお前のライフは残るんだからな」

 あ、あぁ……

「ふふ。バトル再開! 『混沌の黒魔術師』の攻撃! 滅びの呪文!」

 『エクスプレスロイド』が破壊された。

「こいつが戦闘破壊したモンスターは除外される。最後に『トイ・マジシャン』の攻撃! ブロック・デモリション!」

「うわー!!」

 

LP:1800→200

 

「これでターンエンドだ」

 

 

神楽坂

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

   『混沌の黒魔術師』攻撃力2800

   『ブラック・マジシャン・ガール』攻撃力2000+300

   『トイ・マジシャン』攻撃力1600

   魔法・罠

    無し

 

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン-』

 

クロノス

LP:2600

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

 く……ダメだ、勝てない……

 本人の言った通り、今目の前に立ってるのは神楽坂君じゃない。本当に、伝説の決闘者、武藤遊戯だ……

 初めから、僕に勝ち目なんて……

 

「何を諦めているノーネ?」

 

 うなだれていると、突然隣から声が聞こえた。

 そして隣を見ると、直前まで忘れかけていたその存在を、改めて認識できた。

「まったく。ちょっとはマシになったてきたかと思えーば、そういう所はやはりドロップアウトボーイナノーネ」

 クロノス先生……

「あなたは決闘前に私に言いましたーノ。私達がタッグを組めば勝機はあると。なら、まだ始まったばかりだというノーに、諦めることは相手に何より私に対して無礼なノーネ」

 そうは言っても、この状況じゃ……

「しっかりするノーネ。突然とは言え、私はタッグパートナーであるあなたを信頼していまスーノ。あなターは、私をタッグに誘った人間としてその信頼に答える義務があるノーネ。それが、タッグというものナノーネ」

 それは……

「私のターン!」

 

クロノス

手札:2→3

 

「よく見ておきなサーイ。諦めたらそこで試合終了ナノーネ」

「クロノス先生……」

 ……古過ぎるっスよ、そのセリフ……

 

「まずは、魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドローするノーネ!」

 

クロノス

手札:2→4

 

「続いて、魔法カード発動! 『磁力の召喚円(マグネット・サークル)LV(レベル)2』! 手札のレベル2の機械族を一体、特殊召喚するノーネ! 私は手札の『古代の歯車(アンティーク・ギア)』を特殊召喚!」

 

『古代の歯車』

 守備力800

 

「更に、魔法カード『機械複製術』を発動! フィールド上の攻撃力500以下の機械族を選択し、同名カードをデッキから二体まで特殊召喚するノーネ! 『古代の歯車』の攻撃力は100、よってデッキから二体の『古代の歯車』を特殊召喚!」

 

『古代の歯車』

 守備力800

『古代の歯車』

 守備力800

 

「最後に、魔法カード『古代の整備場(アンティーク・ギア・ガレージ)』を発動! これにより、墓地の『アンティーク・ギア』と名の付いたモンスター一体を手札に加えまスーノ。私は『古代の機械巨人』を手札に加えるノーネ!」

 

クロノス

手札:0→1

 

「三体のうち二体の『古代の歯車』を生贄に、『古代の機械巨人』を召喚!」

 

『古代の機械巨人』

 攻撃力3000

 

「バトル! 『古代の機械巨人』で、『混沌の黒魔術師』に攻撃! アルティメットパウンド!」

「くっ……!」

 

神楽坂

LP:800→600

 

「『混沌の黒魔術師』はフィールドから離れた時、ゲームから除外されるノーネ。私はこれでターンエンド!」

 

 

クロノス

LP:2600

手札:0枚

場 :モンスター

   『古代の機械巨人』』攻撃力3000

   『古代の歯車』守備力800

   魔法・罠

    無し

 

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン-』

 

神楽坂

LP:600

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン・ガール』攻撃力2000+300

   『トイ・マジシャン』攻撃力1600

   魔法・罠

    無し

 

 

 すごい……この局面でまた『古代の機械巨人』を呼び出すなんて。

 いつも威張ってるだけだと思ってたけど、本当にすごい……

「やるな。俺のターン!」

 

神楽坂

手札:0→1

 

「魔法カード『蜘蛛の糸』発動。前のターン、相手が墓地へ送った魔法カード一枚を手札に加える」

 神楽坂君が説明を終えた瞬間、カードから白い糸が出てきた。そして、その糸が向かったのは……

「クロノス、お前の使った『強欲な壺』をもらう」

「ぬぅ……」

「『強欲な壺』発動。カードを二枚ドロー」

 

神楽坂

手札:0→2

 

「魔法カード『死者蘇生』! これにより、俺の墓地の『ブラック・マジシャン』を蘇らせる!」

 

『ブラック・マジシャン』

 攻撃力2500

 

『ブラック・マジシャン・ガール』

 攻撃力2000

 

「更に魔法カード『天よりの宝札』! 全てのプレイヤーは、手札が六枚になるようカードをドローする!」

「ここでそのカードを!?」

 

神楽坂

手札0→6

手札0→6

クロノス

手札0→6

 

「……引いたぜ」

 

「え……?」

「何を、引いたノーネ……」

「ふ……墓地の光属性『超電磁タートル』と、闇属性『バフォメット』を除外!」

 場に現れたかと思うと、虚空へと消えていく二体のモンスター。

「手札のモンスターを特殊召喚する!」

 

「なに? その特殊な召喚条件は……」

「そんなモンスターは……いや、あるノーネ!!」

 クロノス先生が叫んだ。

「一枚は、あまりの強さと凶悪な効果により、決闘モンスターズの公式大会では禁止カードとなった、『混沌帝龍(カオス・エンペラードラゴン) -終焉の使者-』。そしてもう一枚、禁止カードにこそなっていませンーガ、その混沌帝龍と双璧をなす強さを持つ存在……」

 

「現れろ! 『カオス・ソルジャー -開闢(かいびゃく)の使者-』!!」

 

『カオス・ソルジャー -開闢の使者-』

 攻撃力3000

 

「そして装備魔法『稲妻の剣』をカオス・ソルジャーに装備!」

 装備カードによって、カオス・ソルジャーの持つ剣に稲妻が宿った。

 

『カオス・ソルジャー -開闢の使者-』

 攻撃力3000+800

 

「バトルだ! カオス・ソルジャーで、『古代の機械巨人』を攻撃! 開闢双破斬!」

「ンアー!!」

 

クロノス

LP:2600→1800

 

「更に、カオス・ソルジャーはモンスターを戦闘破壊した時、二回目の攻撃を可能とする!」

「な! 攻撃力3000の二回攻撃だって!!」

「カオス・ソルジャーで、場に残った『古代の歯車』を攻撃! 時空突破・開闢双破斬!」

「うぅ!!」

 これで、僕の場にもクロノス先生の場にも、モンスターはゼロ。

「さあ、これで終わりだ! 『ブラック・マジシャン』で、クロノスにダイレクトアタックだ!」

 

 まだだ! 手札には『天よりの宝札』で引いた二枚目の『カイトロイド』がある! これで……

 

「セニョール翔」

 

「クロノス先生?」

 先生が、こっちを見ながら、優しい笑顔を浮かべた。

「後はお願いしますノーネ」

「え……?」

「ここで私が生き残ったとしても、この手札では逆転は不可能。しかし、あなたの場には、まだ希望がありまスーノ。だから、この決闘、あなたに託しますノーネ」

「先生……くっ」

「黒・魔・導!」

 容赦の無い魔法の攻撃が、クロノス先生を襲った。

 

クロノス

LP:1800→0

 

「ボーイ……必ず、勝つノー……」

 そして、倒れるクロノス先生。

「先生……」

 ……泣いてる場合じゃない。まだ、決闘は終わってない!

「『トイ・マジシャン』で、丸藤にダイレクトアタック! ブロック・デモリション!」

「手札の『カイトロイド』を墓地へ! そのダイレクトアタックを無効に!」

 

手札:6→5

 

「『ブラック・マジシャン・ガール』! 黒・魔・導・炸・裂・破!」

「小娘!! 調子に乗るな!! 『カイトロイド』をゲームから除外!」

 『カイトロイド』に攻撃を防がれて、僕の顔を見た途端、また怖がるブラマジガール。そんなに怖い顔してたかな?

「そのしぶとさだけには感服するぜ。三枚のカードを伏せ、ターンエンド」

 

 

神楽坂

LP:600

手札:1枚

場 :モンスター

   『カオス・ソルジャー -開闢の使者-』攻撃力3000+800

   『ブラック・マジシャン』攻撃力2500

   『ブラック・マジシャン・ガール』攻撃力2000

   『トイ・マジシャン』攻撃力1600

   魔法・罠

    装備魔法『稲妻の剣』

    セット

    セット

    セット

 

LP:200

手札:5枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン-』

 

 

「まだだ……まだ諦めない。先生の言った通り、僕にもまだ、希望はある! 僕のターン!」

 

手札:5→6

 

「このスタンバイフェイズ、未来融合の効果発動! これはタッグ決闘だから、クロノス先生のターンもカウントされる。二回目のスタンバイフェイズ、指定した融合モンスターを融合召喚する! 『スーパービークロイド-ジャンボドリル』を召喚!」

 

『スーパービークロイド-ジャンボドリル』

 攻撃力3000

 

「今更そんなモンスターを一体出した所で無駄だ!」

「そうだ! これだけじゃ君のモンスター達には勝てない。だから、僕は君を倒す!」

「何だと!?」

「魔法カード『融合』! 手札の『サイクロイド』二体を融合! 『ペア・サイクロド』を融合召喚!」

 

『ペア・サイクロイド』

 攻撃力1600

 

「そんなモンスターを一体増やしたところで何ができる!?」

「言ったはずだ! 僕は君を倒すと!」

「何をするつもりだ?」

「『ペア・サイクロイド』は、攻撃力を500ポイント下げることで、相手にダイレクトアタックすることができる!」

「まさか!」

「『ペア・サイクロイド』! 神楽坂君にダイレクトアタック!」

 

『ペア・サイクロイド』

 攻撃力1600-500

 

「そういうことか。罠カード『魔法の筒』発動! 効果は分かっているな! 『ペア・サイクロイド』の攻撃を、丸藤、お前に跳ね返す!」

「なに!?」

「倒されるのはお前だ!」

 『ペア・サイクロイド』が筒に入って、その後すぐ隣の筒から、こっちに向かって飛んできた!

「ふざけるなー!! 速攻魔法『融合解除』発動!! 『ペア・サイクロイド』の融合を解除し、攻撃を無効にする!!」

 

『サイクロイド』

 攻撃力800

『サイクロイド』

 攻撃力800

 

「まだ『スーパービークロイド-ジャンボドリル』の攻撃が残ってる!! ジャンボドリルの攻撃!! 対象は、さっきから鬱陶しいマジシャンの小娘だ!!」

 向かっていくジャンボドリル、そして、怖がるマジシャンの小娘。

「罠発動! 『シフトチェンジ』! 相手の魔法、罠の対象または、戦闘による攻撃対象を別のモンスターに移し替える! ジャンボドリルの攻撃対象を、カオス・ソルジャーに変更! 迎え撃て、カオス・ソルジャー!!」

 小娘の前に立ち、剣を構えるカオス・ソルジャー。

「小癪な真似を!! ダメージステップに速攻魔法、『リミッター解除』!! 場の機械族モンスター全ての攻撃力を倍にする!!」

 

『スーパービークロイド-ジャンボドリル』

 攻撃力3000×2

 

「これで僕の勝ちだ、消え去れ!! 神楽坂君!! 行け!! 『スーパービークロイド-ジャンボドリル』!!」

 二倍に巨大化したジャンボドリルが、カオス・ソルジャー目掛けて突撃する!!

 

「神楽坂君! 君は武藤遊戯の力を引き出せるって言ったよね!? 武藤遊戯はこの絶望から何を変えられるって言うんだ!?」

 

『ヒッ!!』

『ウッ!!』

 

「げっ!!」

「なっ!!」

「おっ!!」

 

「イィ!!」

 

 何だか色んな声が聞こえた。『ブラック・マジシャン』に小娘、みんなや先生まで声を。なに? 何がそんなに怖いの?

 ……って今は関係無い! 僕の逆転勝利だ!!

 

「……丸藤。お前も言ったはずだ。決して諦めないと」

 今更何を言ってるんだ?

 

「罠発動! 『ブラック・スパイラル・フォース』! そうさ丸藤、俺達はいつだって前に進むしかないんだ!! このカードはフィールド上のモンスター一体の攻撃力を、更に二倍にする!!」

 

『カオス・ソルジャー -開闢の使者-』

 攻撃力(3000+800)×2

 

「攻撃力、7600だと!?」

 

「行くぞ!!」

 

 カオス・ソルジャーが、ジャンボドリルに向かって飛んできた!

 

「『ブラック・マジシャン』!!」

 

『ハァアアアアアアアアア!!』

 

 その隣に『ブラック・マジシャン』が、黒いオーラを纏いながら並び立った!

 

「これが俺の、武藤遊戯の力だ!! いけ!! カオス・ソルジャー!!」

 

 『ブラック・マジシャン』がその黒いオーラを、カオス・ソルジャーの剣に飛ばした!

 

開闢螺旋双破斬(かいびゃくらせんそうはざん)!!」

 

「なにぃ!?」

 

 ドォーン!!

 

 巨大なドリルと、雷を纏った黒く光り輝く剣がぶつかる!!

 そして……

 

 ズバアァァァァァァァァ!!

 

「僕の戦略は!! 間違っていたと言うのかああああ!!」

 

LP:200→0

 

 

 

視点:十代

「す、すげぇ……」

 翔とクロノス先生のあれだけの攻撃を、神楽坂は凌ぎきって、勝っちまった……

 

「ふ、ふふふ……これこそ俺の求めていた究極のデッキだ。もう俺には誰にも負けない!! クロノスだろうがカイザーだろうが、誰にも!!」

 

 確かに、そうかもしれないな。けど……

「翔、決闘ディスクをよこせ」

「え?」

「誰にも負けないって言うなら、俺と決闘しろ。そしてもし負けたら、デッキは潔く返すんだ!」

「お前、本当に俺に勝つ気でいるのか?」

「無理だよ、兄貴! 勝てっこないよ!!」

「そうなノーネ! 私達二人掛かりでも勝てなかったノーニ、あなた一人で勝てるわけ無いーノ!!」

 二人の言うことももっともだ。だが、

「お前達の仇を取ってやる」

 それに、何より……

 

「遊戯さんのデッキとやるなんて、こんなワクワクすることはないぜ」

 

 

 

 




お疲れ~。

……うん。みんなの言いたいことは分かってるさ。
『トイ・マジシャン』とか『ブラック・スパイラル・フォース』とかBMGとか翔とか翔とか翔とか翔とか……

ご存じ『トイ・マジシャン』は遊戯王R、それも表の遊戯が使ったカードです。だから王様どころかアニメじゃ全く関係が無い。(ちなみに『稲妻の剣』もRの王様が使用)。
それでも出した理由は一つ。
やってみたかったからさ。後悔は無い。

この際はっきり言わせてもらうけど、大海はBMGは好きじゃない。むしろ好きか嫌いかの二択なら嫌いさ。詳しくは言わんが主に顔が。どちらかと言えばガガガのが好みだよ。文句ある?
これも一種のアンチ・ヘイトとやらになるのかな?

あとブラマジの設定だけど、作中の設定が色々曖昧だからああした。デザイン違いってのは、日に焼けたあいつとか顔色の悪いあいつらとかのことね。これで良いかな?

そんで、何にしても翔だろうね。
あんな翔がいても良い気がする。まあぶっちゃけ大海が見たかっただけなんだけど。
矛盾してるだろうか?

さて、長くなったがオリカ。


『カイトロイド』
 レベル1
 風属性 機械族
 攻撃力200 守備力400
 相手のモンスターが直接攻撃してきた時、このカードを手札から墓地へ送ることで、その攻撃を無効にする。
 また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外することで、相手モンスター一体の直接攻撃を無効にする。

ネクガの相互互換?
あっちは無効は一度きりだけど、バトルフェイズ以外でも発動できるし攻撃の条件は無い。
こっちは手札と墓地の二度使えるが防げるのは直接攻撃のみ。
場合によって必要な方は決まってくるわな。モンスターを守りたいとかならあっちだし、単にモンスター無しでやばいならこっちだし。一概にどちらが良いとは言えない。

『超電磁タートル』
 レベル4
 光属性 機械族
 攻撃力0 守備力1900
 このカードが墓地にある時、相手のバトルフェイズを任意のタイミングで終了させることができる。
 この効果は、デュエル中に一度しか使用できない。

ネクガの完全な上位互換。バトルフェイズ自体を強制終了できる。
ただこれ、確か墓地に送られたターンのみだった気がするんだよな。まあ修正不可能だからこの効果でいくけど。
正直勘弁して欲しいとしか言えない。
謝る。すまん。

『蜘蛛の糸』
 通常魔法
 1ターン前に相手の墓地に送られた魔法カードを1枚選択し、手札に加える。

タイミング選ぶよこれ。そもそもそう都合よく相手が欲しいカード使ってくれるとも限らんし、当時はともかく今じゃ専用魔法も増えてきてるからね。魔導書とか炎舞とか。
ミラーマッチならまだ使いやすいかな。

『ペア・サイクロイド』融合
 レベル6
 地属性 機械族
 攻撃力1600 守備力2000
 「サイクロイド」+「サイクロイド」
 このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
 この効果で戦闘を行う場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ500ポイントダウンする。

 これもまあ微妙だあな。元々の攻撃力が低いし、『パワー・ボンド』からの『リミッター解除』までの流れでも最大で攻撃力は6400。攻撃時には500下がって5900。
 場合によってはワンキルもできるが、本当に場合による。結局微妙。

『ブラック・スパイラル・フォース』
 通常罠
 自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が存在する時発動することができる。
 自分フィールド上の「ブラック・マジシャン」以外のモンスター1体の攻撃力はエンドフェイズまで倍になる。
 このカードを発動したターン、「ブラック・マジシャン」は攻撃する事ができない。

……どうコメントした物か。
とりあえず、ブラマジデッキでなら力は発揮できるわな。
他は、ぶっちゃけブラマジを出すだけで大変だからね。


これで全部かな。多くて全部書けてないかも。忘れてるのがあったら言って。

『天よりの宝札』は原作効果。
『未来融合-フューチャー・フュージョン-』は、出すの迷ったけどOCG効果。他に良いカードが無くてね~。

以上。長くなってすまん。次話、十一話完結。待っててね。


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第十一話 盗まれたデッキと花の思い出 ~決闘後~

十一話目完結編。
ちょこっと短めだが、まあ読んでやって下さいな。
じゃ、行ってらっしゃい。



視点:翔

 

「いっけー!! スカイスクレイパーシュート!!」

 

「ぐあー!!」

 

 

 兄貴が……兄貴が勝った!!

 

「兄貴ー!!」

「セニョール十代ー!!」

 

 僕とクロノス先生は、思わず大声を上げて兄貴のもとへ走った。

「凄過ぎるっスよ! 兄貴!!」

「まさかあのデッキに勝つナンーテ、信じられないノーネ!!」

 僕も先生も興奮してる。三沢君に隼人君も。兄貴も笑っていた。

 けど、ここにいるメンバーの中で、一人だけそんな感情じゃない人が一人。

 

「くそ! これだけ強いデッキを使っても勝てなかった。やっぱり俺には、才能がまるで無いのか!?」

 

 神楽坂君がひざを着きながら、そう悲鳴のように言った。確かに、デッキは強かったけど、負けちゃった。けど、実際に決闘した僕には分かる。神楽坂君、それは違うよ……

 

「そんなことは無いと思うぞ」

 

 僕が言う前に、そんな声が聞こえた。そっちを見ると、

「お兄さん!」

 いや、お兄さんだけじゃない。

 その後ろには明日香さん、そして、たくさんの生徒達が陰から出てきた。

 そして、お兄さんは神楽坂君の前に立ち、十代の兄貴と一緒に決闘者に必要なものについて話して聞かせた。

 何度も試行錯誤して、ずっと一緒に戦って、そして今あるデッキ。そうやってずっと一緒に戦っていくから、デッキとの絆が生まれて、デッキは応えてくれる。だからこそ決闘者は、デッキと共に強くなれるって。

 そうだ。だからみんながデッキを愛することができて、やがてはデッキに、そして、決闘に愛されることができるんだ。

 僕が二人の兄と同じくらい尊敬してる、あの人みたいに。

 

「翔」

 お兄さんの声。反射的にそっちを向いた。

「見事な決闘だった」

「え? 見てたの?」

「ああ」

「いつから?」

「お前が、神楽坂にタッグで挑戦を持ち掛けたところからだ」

 そんなところから見てたんだ。

「お兄さん以外も?」

「いや。俺と明日香以外は、全員が十代との決闘からだ」

 そっか。まあ、別に見られたかったわけじゃなかったからどうでもいいんだけど。

「だが……」

 急に、お兄さんの顔から笑顔が消えた。

「決闘中の、あの態度と顔は頂けない」

「あ……」

 そうだ。ついテンションが上がって、勝手に口から出ちゃったんだよね。でも確かに、今思えば、あの態度はまずかったか……

 

 ……ん?

 

「顔?」

 失礼な言葉は確かに言ったけど、顔?

「僕の顔がどうかしたの?」

 そう聞くと、お兄さんは顔をしかめた。

「……自覚が無いのならいい」

「え?」

 さすがにその答えじゃ納得できない。だから、神楽坂君と話してる兄貴に聞くことにした。

「兄貴、僕、決闘中どんな顔してたの?」

「え……」

 兄貴はお兄さんと同じように顔をしかめる。

「いや、どんなって……別に、普通だけど……」

 兄貴、分かりやすいっスよ……

「隼人君」

「いや、別に何も……」

「三沢君」

「気にする必要は無い……」

「明日香さん」

「あはは……」

「クロノス先生?」

「ニョホホ……」

「神楽坂君!」

「決闘に夢中で覚えていない」

 

 もー!! どういうことっスか!?

 

 

 

視点:万丈目

 アカデミアから出航して、何日経ったことか。

 現在、俺は船の上にいる。もっとも、その船は今や全体の八割が沈んでいて、海面にわずかに船頭が顔を出しているだけだ。

 そんな狭い空間にしがみつきながら、俺は考えていた。

 

 俺は、何のために、決闘をしているのか。

 

 理由ははっきりしている。決闘で強くなり、決闘界の頂点に立つ。

 だがそれも、元々は俺の夢ではなく、二人の兄さん達の夢だった。

 長男の長作兄さんと次男の正司兄さん。長作兄さんが政界、正司兄さんが財界、そしてこの俺、準が決闘界に君臨し、世界に万丈目帝国を築くという、壮大かつ突拍子も無い、そして訳の分からない夢のために。

 

 そもそも二人がそれなりの業界なのに対し、なぜ俺一人がそういった、ジャンルが明らかに違う世界に君臨することになったのか。それは、俺が子供の頃から決闘の才能があり、周囲でも負け無しで、そして、決闘が世界でも十分注目されているスポーツとして確立されているから。

 そう言えば聞こえは良い。だが本当のことを言えば、他に取り柄が無かったからだ。

 勉強もスポーツも人並み以上にはこなせた。だが、二人の兄に比べれば、その差は歴然としていた。おまけに俺は要領が悪い部分もあり、いつも肝心なところでつまらないミスをするようなこともあった。それゆえ、兄弟の間ではずっと落ちこぼれとして扱われてきた。

 だから兄さん達は、俺が唯一力を発揮できる物、『決闘モンスターズ』をやらせるに至った。

 結果、その目論見は上手くいき、俺は中等部でトップに上り詰め、高等部へはオベリスクブルーに入学。このままトップの座を守りつつ駆け抜けると、誰もが考えただろう。

 

 だが、月一試験で遊城十代に敗れたことで、その勢いも、周囲からの信頼も、全てを一気に失った。教師からも、取巻きであった二人からも、その他大勢の生徒達からも扱いは代わり、酷い扱いや、時には嫌がらせを受けることが増えた。

 だがそれも苦ではなかった。酷い扱いは、子供の頃からずっと受けてきたからな。今更苦痛のうちにも入らない。屈辱は感じるが、それだけだ。俺が何もしなくなる理由にはならない。

 

 何より、俺にはずっと、俺のことを見てくれている存在があった。

 

 そいつは、授業で俺が決闘をする度、ほとんどの生徒が嫌な目を見せる中、一人だけ敬愛のまなざしを向けてくれていた。

 そいつは、ほとんどのブルー生徒が俺を無視する中、同じブルーであるにも関わらず、向こうから話し掛け、笑顔を向けてくれた。

 そいつは、時に俺が自分勝手な理由で怒鳴り散らした時も、何も言わず俺の話を聞き、最後には笑顔で応えてくれた。

 そしてそいつは、俺の陰口を叩き、バカにしていた奴らを、端から殴り飛ばしていった。

 その時、俺はたまたま隠れて見ていたが、その時のそいつの言った言葉は忘れることができない。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「私の前で、もう一度でも彼の陰口を叩いてみろ。絶対に許しはしない……」

「な、なんで、そこまで万丈目なんかを……梓さんだって、時々あいつに八つ当たりされてるじゃないか……」

 

 ガバッ

 

「ひっ!」

「私が卑下されることは構わない。だが、準さんの偉大さを知らない貴様らに、あの人を笑い、蔑む資格は無い……」

「これ以上のあの人への暴言は私が許さない!」

 

「私の生涯の目標と決めたあの人への失言は、私が絶対に許さない!!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 梓にあんな一面があったことには驚いたが、何より感じたのが、感謝の気持ちだった。

 たかが陰口などというつまらん理由で暴れる。それほどまでに純粋な心で、あいつは俺のことを尊敬し、そして、俺のことを目指してくれていた。あいつは間違いなく俺よりも強い。なのにあいつは、こんな俺のことをそんな風に見てくれる。

 

 そしてその時、流しそうになった涙を飲み込み、決意したんだ。

 なら俺は、強くなってみせる。お前以上に強く、お前が憧れ、目指すにふさわしい存在、そんな決闘者になると。

 どれだけ周囲が俺を認めまいと、お前一人だけでも認めてくれるなら、苦しいなどとは思わない。

 お前が目指している俺。そんな、俺自身がなりたいと思っている俺になる。

 そう決意を新たにし、俺はもう一度、一から這い上がる決心をしたんだ。

 

 

 だがその直後、そいつはアカデミアから消えた。

 あの様子からして、あの時の平家あずさの対戦相手に対し、よほどの恨みを抱いていたのだろう。我を忘れ、それまで重んじていた慈しみの心が壊れてしまうほどの怒り。

 それに駆られ、あれだけの行動を取ったんだろう。

 あの行動のせいで、そいつのファンだった連中はほとんどがそいつへの思いを捨てた。今残っているのは、根強いファンと、十代達のような元々仲の良かった連中だけ。

 そして、俺もだ。

 だが、あいつがいなくなった時点で、俺はあそこにいる意味を失ったような気がした。

 当然、強くなるのも最終的には自分のためだ。俺自身のためにも、俺は強くなると決意した。

 だが、それは分かっているのに、梓が消えたという時点で決意は半減し、目指すことへの気力は日に日に失せていった。それではダメだ、気持ちを切り替えろ、何度そう自分に言い聞かせても、結局最後には、同じ言葉に辿り着いてしまう。

 

 俺は、何のために、決闘をしているのか。

 

 結局その答えは見つからず、気持ちも新たにできぬまま、俺は三沢との決闘に負け、そして今に至っている。

 こんな状態では家に帰ることもできない。どの道、船はあと数分もしないうちに沈んでしまうだろう。特に海や天気は荒れてはいないものの、こんな海のど真ん中で投げ出されれば、命の保証など望む方がどうかしている。

 

 だが、まあ良い。こんな最後も悪くはない。

 

 

(なに諦めてんだよ!!)

 

 ……この声は、十代?

(諦めんなよ!! いつまでも意地張ってないで、アカデミアへ戻ればいいだろう!!)

 お前に言われる筋合いは無い。俺にはもう戻る気は無い。

(万丈目!!)

 

「うるさい!! さっさと消えろ!!」

 

 ザッパァ!!

 

 

 

 




お疲れ~。
てなわけで次話の主役は彼だ。
なるべく早く投稿できるよう頑張るわ~。
待っててね。


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第十二話 ノース校、再会と再開

ど~も~。
とりあえず長くは語らん。読みたいと思ったら読んでやって下さいな。
は~じま~るよ~。
行ってらっしゃい。



視点:万丈目

 さて、船から投げ出され、溺れ死んだはずの俺の前にいたのは、何やら怪しい格好をした、……昆布お化けでいいか。

「お前さんのカードは、海水で全てダメになってしまった」

 そう言いながら、俺のカードを見せる。

 どの道決闘を続ける意味も無くしていた俺にはどうでもいいことだ。

 だが、昆布お化けは俺に一枚のカードを押しつけ、決闘をする気があるのなら、ここから北へ歩けと言った。

 やる気など無かったが、どの道他に行く宛てなど無い。だから歩くことにした。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そこにあったのは、辺りを氷に囲まれ、そんな氷のような建造物に囲まれた巨大な建物。

 その入口の前でうなだれていたジジイに話を聞くと、ここは『決闘アカデミア・ノース校』。ここに入るには、ここの周囲に散らばったカードをかき集め、四十枚のデッキにせねばならない。それがここの入学試験でもあるのだと言う。

 そしてこのジジイ、市ノ瀬は、三十九枚まで見つけはしたが、残りの一枚を見つけることができず、ずっとここにいるらしい。

 どの道こんな所でジッとしているわけにもいかない。何かしていないと、また思い出してしまう。ただでさえ周囲に大量にある氷が、あいつを連想させてしまう。氷を司るカード達を巧みに操り、華麗な決闘を見せるあいつの姿を。

 だから気晴らしのためにも、俺はカードを探しに歩いた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ……何なんだこの島は。

 そりゃあ、カードが散らばっているというのだからそこかしこに落ちているのは予想できてはいたが、ただ何となく体を動かしたいがために登った断崖絶壁の上や、間近で見られるという貴重な体験のために近づいた白熊の近くに、誰がカードを置いたのだ。

 どうやら良いカードになるほど険しい場所に置いてあるらしい。だが、いくら険しいとはいえ、あんな場所にまでカードを置くこだわりっぷりはそれだけで尊敬に値するぞ。

 だが、まあいい。まる一日掛かったが、努力の甲斐あって集まったカードは四十枚。構築やバランスはめちゃくちゃだが、とりあえずデッキにはなった。

 

「おぉ!! 集めることができたのか!?」

「ふふん。まあな」

 そういえばこいつがいたな。こいつは三十九枚だったな。

 仕方が無いから、昆布お化けから貰った屑カード、『おジャマ・イエロー』を渡そうと思ったのだが、

 

「うお!」

 

「ぬお!」

 

(兄貴~、オイラを渡さないでおくれよ~)

 

「何だ? くれるんじゃないのか?」

 あ~、くそ!!

「ほら、これを持っていけ!!」

 仕方が無く別のカードを渡す。まあ、どれも似たようなカードだし、構わん。構わんが、お陰で三十九枚になってしまった。仕方が無い。また探しに行くとするか……

 ん?

 

 

 どうにも都合良く足元に一枚だけ落ちていて、ちょうど四十枚にすることができた。

 さて、入るとするか。

 そう思った時、ふと感じた。

 

 なぜ俺はこんなことを?

 昨日まで、決闘に対して興味も持てなかった。だというのに、今では必死でカードを集め、デッキを作り、新たな場所へ足を踏み入れようとしている。

 なぜだ? なぜ……

 

 考えても分からん。ここに入れば、全ての答えが分かる気がする。

 そう思い、足を踏み入れた。

 

 

 まず目に飛び込んだのが、大勢の生徒らしき男達に囲まれた市ノ瀬。話を聞くと、この中で一番弱い生徒に負け、必然的に市ノ瀬は最下位の烙印を押されたらしい。

 そして、ここはある意味アカデミア本校以上の完全な実力主義。先輩後輩関係無く、強い者が上になり、弱い者は下位へと落ちるという。

 

 ……ふむ。面白い。

「さあ、今度はお前だぜ。新人君」

 呼ばれたので前に出る。

 さあ、決闘だ!!

 

 ……

 …………

 ………………

 

 拾い集め、即興で作り上げたデッキであるというのに、このデッキは俺に応えてくれている。相手は全部で五十人。まずは最下位ランクの生徒を下し、その後も順調に勝ち進み、やがてノース校四天王と呼ばれる五位から二位の四人も一度に下した。

 そして、最後の相手は、五十人中最強の男。

 

 

江戸川

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『メタル・デビルゾア』攻撃力3000

   『デビルゾア』攻撃力2600

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

万丈目

LP:1000

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

「俺のターン!」

 

万丈目

手札:2→3

 

「魔法カード『カオス・エンド』発動! 自分のカードが七枚以上除外されている場合、フィールド上のモンスター全てを破壊する!」

「なに!?」

 発生した大嵐により、二種類の『デビルゾア』が破壊される。

「そして、罠発動! 『異次元からの帰還』! ライフを半分払い、ゲームから除外されたモンスターを、可能な限り特殊召喚する!」

 

万丈目

LP:1000→500

 

『KA-2 デス・シザース』

 攻撃力1000

『ヂェミナイ・デビル』

 攻撃力1000

『円盤闘士ディスクファイター』

 攻撃力1000

『スカル・ナイト』

 攻撃力1000

『おジャマ・イエロー』

 攻撃力0

 

 ……なぜか一枚おかしなカードが混じっているが、まあいい!

「五体のモンスターで、江戸川に攻撃! 万丈目サンダースペシャル!!」

「ぐあー!!」

 

江戸川

LP:4000→0

 

 

 決闘が終わった後、俺の前に、昆布お化けが再び現れた。そして、その覆面を取った時、現れた顔は……

「市ノ瀬!?」

 どういうことだ!?

「改めて挨拶しよう。私がこの、アカデミア・ノース校校長、市ノ瀬だ」

 話を聞くと、今度の決闘アカデミア本校との友好決闘で、最強の生徒を送り込むために俺に目を付け、始めから俺がこうなることを予想した上で俺に試練を与えていたらしい。

「そして、こちらの代表が一年生になりそうだと連絡した時、向こうも一年生を代表に添えた」

「まさか……」

 その一年生とは……

「オシリスレッド、遊城十代だ」

 遊城十代……

 面白い。今こそ俺は、あいつにリベンジを果たす時だ!!

「だが、実は君以外にも、代表候補がいる」

 ……なに?

「どういうことだ? まさか、江戸川はキングではなかったのか?」

 江戸川を見ながらそう言うと、頷きながら答えた。

「俺は既に、ある男に敗れている。だから、今日はその男の代わりにキングを名乗っていただけなんだ」

「なるほどな。じゃあ、その本当のキングとは一体……」

 それを尋ねようとした時、

 

「俺だ」

 

 そう声が聞こえた。

 そちらを向くと、

「お前は……!」

 そいつはつい最近まで、俺と同じ、アカデミア本校の生徒であり、同じオベリスクブルーに所属していたが、急にアカデミアを退学した男。

「佐倉……」

「久しいな。万丈目」

「なぜお前がここにいる?」

 その質問に、佐倉は過去を振り返る表情を見せた。

「アカデミアを退学した後、一応家には帰ったんだが、俺が退学したと見るや勘当させられてな。ずっと俺を追い出す口実を探していた家の連中にはちょうど良かったんだろうな。それで、行く宛ても無く行き倒れていた所をここの校長に拾われたってわけだ」

「ちょっと待て。追い出されたのは分かるが、口実を探していたとはどういう意味だ?」

「うちには俺より遥かに出来の良い弟がいてな、家族も使用人も、全員がそいつばかりを可愛がって、普通の能力しか持ち合わせていない俺はずっと邪魔者扱いされてたんだよ。それで、ほとんど追い出される形で決闘アカデミアに送られて、そこを退学したとなれば家の恥だから帰ってくるな。そういう話だ」

「何だそれは、それが家族に対してすることか!?」

「お前も金持ちの生まれなら分かるだろう。金持ちってのは大抵、家族以上に名前を大きくしてくれる存在の方が大切なんだよ」

 く……

 ……確かに、あいつの言うことも一理ある。

 俺の二人の兄もそうだった。二人はいつでも、万丈目という名を大きくすることにこだわっていた。そのために俺は決闘アカデミアへ送られた。今思えば、兄弟の愛情などという物を受けた覚えが無い。

 だが、それでも俺は、二人を尊敬している。理由はともかく、二人がそれぞれの舞台で躍進していく姿には憧れていた。だから俺自身も、自分が最も得意とする物、決闘で二人のような存在になりたくて、アカデミアに来たんだ。

 なのに、それがいつの間にか……

 

「まあいい。とにかくお前を倒せば、俺がこのノース校のキングというわけだな」

 そう言いながらディスクを構える。だが、

「そのデッキでやる気か?」

 そう質問された。

「お前の決闘は全部見ちまった。勘だが、もうそのデッキで出せる物は全部出したろう」

 う……確かに、このデッキの力は全て出し尽くしてしまった。

 

「心配はいらん」

 

 市ノ瀬?

「これを。君が持っていたのと同じカードを用意した」

 そう言って俺にカードを手渡してきた。見てみると、確かに、俺がここへ来る以前に持っていたカードが一通り揃っている。

 だが、

「俺はここまでこのデッキで戦ってきた。だからこのままでいく」

 そう言ったのだが、市ノ瀬は首を横に振る。

「佐倉君も、君と同じようにデッキを組み、江戸川を倒してキングになった。そして今では自分の最も得意とするデッキで戦っている。君も、自分の最も得意とするデッキを使い、お互いに全力で戦って欲しい。でなければ、二人のうちどちらかを選ぶ意味がないからな」

 ……なるほどな。

「良いだろう」

 結局最終的に重要なのは、最も得意な戦術で本気を出すことで、どれだけの決闘を行うことができるか、ということか。

 それが分かり、俺は市ノ瀬から受け取ったカードで、俺が使っていたデッキを新たに組み直した。

 

 ……しかし、デッキを組んでいくと思い出す。

 俺が、決闘アカデミアにいた時のことを。

 何を目指し、何を(かて)にやってきていたのかを。

 そして、その全ての根本となった存在である、あいつの姿を。

 

 

 デッキが完成し、改めて佐倉と向かい合った。

「お前との決闘も久しぶりだ。中等部の卒業決闘で、一位と二位を争った時以来か?」

 語り掛けると、過去を懐かしむように微笑みを見せた。

「そうだったな。あの時はお前が勝った」

「そして、今回も勝たせて貰う」

「……好きにしろ。勝とうが負けようが、今となってはどうでもいい」

 何だと?

「……そう言えば、お前が退学した理由も聞いていなかったな」

「何だ、知りたいのか?」

「いや。お前のことだ。どうせカツアゲしていた所を見つかったんだろう」

「正解」

「ふん……」

 そこまで会話し、互いに同時にディスクを展開させる。

 

『決闘!』

 

 

万丈目

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

佐倉

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

「先行は俺か。ドロー」

 

万丈目

手札:5→6

 

「『X-ヘッド・キャノン』を召喚」

 

『X-ヘッド・キャノン』

 攻撃力:1800

 

「魔法カード『前線基地』発動。手札のユニオンモンスターを一体、特殊召喚できる。『Z-メタル・キャタピラー』を特殊召喚」

 

『Z-メタル・キャタピラー』

 攻撃力1500

 

「『Z-メタル・キャタピラー』を、『X-ヘッド・キャノン』に装備。攻守を600ポイントアップさせる」

 

『X-ヘッド・キャノン』

 攻撃力1800+600

 

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 

万丈目

LP:4000

手札:1枚

 場:モンスター

   『X-ヘッド・キャノン』攻撃力1800+600

   魔法・罠

    永続魔法『前線基地』

    ユニオン『Z-メタル・キャタピラー』

    セット

    セット

 

 

「……随分淡々としたプレイだな。今までのような覇気が無い」

「気にするな。時が経てば人は変わる。それが分からんお前ではないだろう」

「確かにな……俺のターン」

 

佐倉

手札:5→6

 

「魔法カード『魔の試着部屋』発動。ライフを800払い、デッキの上から四枚めくる。その中のレベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する」

 

佐倉

LP:4000→3200

 

(やはり、『ローレベル通常モンスター』デッキか)

「……俺はこの三体を特殊召喚」

 

『マッド・ロブスター』

 攻撃力1700

『深海の長槍兵』

 攻撃力1400

『深海の長槍兵』

 攻撃力1400

 

「残りはデッキに戻しシャッフル。更に、『ジェリービーンズマン』を召喚」

 

『ジェリービーンズマン』

 攻撃力1750

 

「そして、装備魔法『魂喰いの魔刀』を『ジェリービーンズマン』に装備。発動時、フィールド上の通常モンスター全てを生贄に捧げ、一体につき1000ポイント、装備モンスターの攻撃力をアップさせる」

 

『ジェリービーンズマン』

 攻撃力1750+3000

 

「いきなり、攻撃力が4750だと!!」

「バトル。『ジェリービーンズマン』、『X-ヘッド・キャノン』に攻撃」

「ぬおおお!!」

 

万丈目

LP:4000→1650

 

 ぐぅ……何の!

「『X-ヘッド・キャノン』に装備された、『Z-メタル・キャタピラー』を破壊!」

「そりゃそうだ」

 

『X-ヘッド・キャノン』

 攻撃力1800

 

「永続魔法『凡骨の意地』。更にカードを伏せる。これで終了」

 

 

佐倉

LP:3200

手札:1枚

 場:モンスター

   『ジェリービーンズマン』攻撃力1750+3000

   魔法・罠

    装備魔法『魂喰らいの魔刀』

    永続魔法『凡骨の意地』

    セット

 

万丈目

LP:1650

手札:1枚

 場:モンスター

   『X-ヘッド・キャノン』攻撃力1800

   魔法・罠

    永続魔法『前線基地』

    セット

    セット

 

 

 さすがだ。相変わらず、低レベルモンスターの扱いが上手い。

「俺のターン!」

 

万丈目

手札:1→2

 

「永続罠『リビングデッドの呼び声』! 墓地の『Z-メタル・キャタピラー』を特殊召喚!」

 

『Z-メタル・キャタピラー』

 攻撃力1500

 

「更に『前線基地』の効果! 手札の『Y-ドラゴン・ヘッド』を特殊召喚!」

 

『Y-ドラゴン・ヘッド』

 攻撃力1500

 

「X、Y、Z、変形合体! 『XYZ-ドラゴン・キャノン』、合体召喚!」

 

『XYZ-ドラゴン・キャノン』

 攻撃力2800

 

「更に、魔法カード『マジック・プランター』を発動! フィールド上の永続罠を一枚墓地へ送り、カードを二枚ドロー! フィールドに残った『リビングデッドの呼び声』を墓地へ! カードを二枚ドロー!」

 

万丈目

手札:0→2

 

 よし、手札は揃った!

「『XYZ-ドラゴン・キャノン』の効果! 手札を一枚捨てることで、相手フィールド上のカード一枚を破壊する! 俺が破壊するのは、『ジェリービーンズマン』!」

「ちぃ……」

 『ジェリービーンズマン』が破壊され、必然的に『魂喰らいの魔刀』も破壊される。

「罠発動『ゲットライド!』! 墓地のユニオンモンスター一体を、フィールド上のモンスターに装備!」

「墓地……今墓地に送ったカードか」

「そう。墓地の『強化支援メカ・ヘビーウェポン』を、『XYZ-ドラゴン・キャノン』に装備! 攻撃力、守備力を、500ポイントアップ!」

 

『XYZ-ドラゴン・キャノン』

 攻撃力2800+500

 

「バトル! 佐倉にダイレクトアタック! XYZハイパーディストラクション!」

 こいつが通れば俺の勝ちだ!

「罠発動『攻撃の無力化』。その攻撃は無効」

 く、防がれたか。

「ターンエンド!」

 

 

万丈目

LP:1650

手札:1枚

 場:モンスター

   『XYZ-ドラゴン・キャノン』攻撃力2800+500

   魔法・罠

    永続魔法『前線基地』

    ユニオン『強化支援メカ・ヘビーウェポン』

 

佐倉

LP:3200

手札:1枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『凡骨の意地』

 

 

「やっとお前らしくなってきた」

 ……なに?

「前のターンまで、お前はついさっきまで持っていたはずの、決闘に対する熱意ってやつがまるで無かった。ただ何の意味も無く、カードをめくってプレイするだけ。まるで、俺のようにな」

 ……確かにな。

 このデッキを組み、プレイした時点で、俺は決闘する意味を見いだせずにいた。

「だが、俺が攻撃し、ダメージを与えたことで、どうやらお前の中の熱が戻ったらしいな」

 ……そうだ。ピンチに陥り、それを何とか打開しようとカードをプレイする。そうすることで、俺の中の何かが熱くなり、プレイングにも表れた。

 そうだ。さっきまでの五十人抜きもそうだ。ここに入る前は、決闘をする意味を全く見いだせなかったというのに、俺は今、その決闘に燃えている。

「お前はどうやら、少なくとも俺ほど腐っちゃいないらしいな」

「腐って……?」

 どういう意味だ? 腐っているだと? 自分自身が、腐っているというのか?

「さっきも言ったが、俺がアカデミアに送られたのは、親が俺を家に置きたくなかったからだ。それでも決闘は好きだった。だから例え追い出す口実だとしても、決闘することが嬉しかった」

「……」

「なのに、結局俺の佐倉って名前を聞いた奴は、全員俺ではなく、俺の名前ばかりを見るようになった。誰も頼んでいないのに、こびを売られ、持ち上げられ持てはやされて、追い出されたはずなのに、結局俺は佐倉のために決闘をすることになる。いつからかそう言う奴らを、ゴミだと感じるようになった。本当のゴミは、そんなことを感じて、腐りきって、カツアゲしかすることの無くなった俺だっていうのにな」

「なるほどな。それでローレベルモンスターを……」

「ああ。お前も含めて、ブルー生徒のほとんどは、今俺の使っているモンスター達をゴミ扱いする。このデッキのモンスターのほとんどが、捨てられていたのを拾ったカードだ。俺もこいつらと同じだ。だったらゴミはゴミらしく、ゴミとして捨てられたカードで戦ってやる。それが、このデッキを組んだきっかけだった」

 デッキを見ながら話すその顔は、無表情ながら、かなり苦しんでいる顔に感じられる。いつでもポーカーフェイスを崩さなかったお前が、よほど辛かったんだな。

「アカデミアを退学して、改めて家から追い出されて、それこそ決闘が嫌になったっていうのに、なぜかこのデッキを手離すことはできなかった。そして、気が付けばここにいて、望みもしないのに勝っていた。まるで訳が分からない。決闘は、俺に何をさせたいのか……」

 

 ……その答えは、

「俺なら分かる」

「ん?」

「お前はそのデッキに愛されている」

「……バカな。続けるぞ。俺のターンだ」

 

佐倉

手札:1→2

 

「通常モンスター『サイバティック・ワイバーン』。こいつを見せ、更にドロー。『スパイラルドラゴン』、『フロストザウルス』、『音速(ソニック)ダック』、『大木炭18(インパチ)』、……ここまでだな」

 

佐倉

手札:2→6

 

「『強欲な壺』を発動。カードを二枚ドロー」

 

佐倉

手札:5→7

 

「『天使の施し』発動。カードを三枚ドローし、二枚を捨てる」

 まさか、ここまで一気に手札を補充するとは。

「『音速ダック』を召喚」

 

『音速ダック』

 攻撃力1700

 

「そして装備魔法『下克上の首飾り』を装備。装備モンスターが戦闘を行う時、レベル差掛ける500ポイント攻撃力を上げる」

「なに!?」

「バトルだ。『音速ダック』、『XYZ-ドラゴン・キャノン』攻撃」

「ぐあ!!」

 

『音速ダック』

 攻撃力1700+2500

 

「ぐぅ……だが、装備されたユニオンモンスター、『強化支援メカ・ヘビーウェポン』を破壊することで、このカードの破壊を防ぐ!」

 

万丈目

LP:1650→750

 

「まあいい。カードを二枚伏せる。ターンエンド」

 

 

佐倉

LP:3200

手札:3枚

 場:モンスター

   『音速ダック』攻撃力1700

   魔法・罠

    装備魔法『下克上の首飾り』

    セット

    セット

 

万丈目

LP:750

手札:1枚

 場:モンスター

   『XYZ-ドラゴン・キャノン』攻撃力2800

   魔法・罠

    永続魔法『前線基地』

 

 

「す、すげえ……」

「さっきから、超攻撃力の連続だ……」

「お互い、一撃で相手を仕留められるだけの力を出してる……」

 

 

 やはり、間違い無い。

「こんな逆転をしてのけるとはな。思った通りだ。佐倉、お前はデッキに愛されている」

「まだ言うか。こんな俺が、このデッキに愛されてる? どうしてそんなことが……」

「分かるんだよ俺には。お前と同じく、デッキに、そして決闘に愛された人間を、ずっと見てきた俺にはな」

「なに?」

「俺のターン!」

 

万丈目

手札:1→2

 

「『強欲な壺』! カードを二枚ドロー!」

 

万丈目

手札:1→3

 

「手札から、『V-タイガー・ジェット』を召喚!」

 

『V-タイガー・ジェット』

 攻撃力1600

 

「そして『前線基地』の効果発動! 手札のユニオンモンスターを特殊召喚する! 『W-ウィング・カタパルト』を特殊召喚!」

 

『W-ウィング・カタパルト』

 攻撃力1300

 

「この二体を合体! 『VW-タイガー・カタパルト』を合体召喚!」

 

『VW-タイガー・カタパルト』

 攻撃力2000

 

「まだだ! 『VW-タイガー・カタパルト』と、『XYZ-ドラゴン・キャノン』を合体! 『VWXYZ(ヴィトゥズィ)-ドラゴン・カタパルトキャノン』! 合体召喚!!」

 

『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』

 攻撃力3000

 

「くっ……」

「『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』の効果! 一ターンに一度、相手フィールド上のカード一枚を除外できる! 『音速ダック』を除外!」

「ちっ……」

「『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』、ダイレクトアタックだ!!」

 全銃口が佐倉に向けられる。

「永続罠発動! 『蘇りし魂』! 墓地の通常モンスターを、守備表示で特殊召喚する! 墓地の『マッド・ロブスター』を、守備表示で特殊召喚!」

 

『マッド・ロブスター』

 守備力1000

 

「守りを固めてきたか。だが攻撃力はこちらの方が上だ! 更に、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』が戦闘を行う時、相手モンスターの表示形式を変更できる! 『マッド・ロブスター』を、攻撃表示に変更!」

 

『マッド・ロブスター』

 攻撃力1700

 

「いけ、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!!」

「罠発動『窮鼠の進撃』!」

「な、なんだ!?」

 奴の罠発動と同時に、大量のネズミが現れ、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』にまとわりついた!

「レベル3以下の通常モンスターが戦闘を行う時、ダメージステップ時にライフを100の倍数支払うことで、このターンのエンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力を払った数値分ダウンさせる。俺は2000ポイントのライフを支払い、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』の攻撃力をダウンさせる」

 

佐倉

LP3200→1200

 

『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』

 攻撃力:3000-2000

 

 狙いは同じか!

「ならば、速攻魔法『収縮』発動! 相手モンスター一体の攻撃力、守備力を半分にする!」

「な……! 最後の手札がそれだと……!?」

 

『マッド・ロブスター』

 攻撃力1700÷2

 

 『マッド・ロブスター』のサイズが、一気に直前までの半分になった! そして、最終的には『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』の攻撃により、倒された。

 

佐倉

LP:1200→1050

 

「ターンエンドだ!」

 

 

万丈目

LP:750

手札:0枚

 場:モンスター

   『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』攻撃力3000

   魔法・罠

    永続魔法『前線基地』

 

佐倉

LP:1050

手札:3枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「……」

 

「どうかしたのか?」

 随分うなだれているが。

「……分からない」

 それは俺の質問に答えたというより、ほとんど独り言のようだった。

「俺にも分からない……もう、どうでも良いはずなのに……嫌になったはずなのに……ずっと、意味が分からなかったはずなのに……俺は、どうしてここまでの決闘ができる? なぜこんなに熱くなる? 何が俺に、こんな思いを芽生えさせる……?」

 うむ。決闘をしながら感じた。佐倉。お前も俺と同じなんだな。

「俺も同じだ。アカデミアを出てから……いや、それよりもずっと以前から、決闘をする意味を見いだせなかった」

 うつむいていた佐倉が、俺の顔を見た。

「俺はオシリスレッドの遊城十代に負けた後も、ずっと心の支えになっていた存在があった。だから負けた後もやってこれた。だが、今度はそれを失った。それ以来、自分が何のために決闘をしているのか分からなくなって、そんな時、退学になった」

「だが、ここに来て、決闘をするうち、思い出した。そうだ。これが決闘なんだ。戦う意味など、続ける意味など考えるだけ無意味だ。ただ決闘することで、胸が高鳴り、体が熱くなり、そして、やがてカード達と一体となり、そして、本能が叫ぶ。俺は決闘が楽しいと。俺は決闘が好きなんだと。そして切に思う! 俺は、お前に勝ちたいと!!」

「……!」

「決闘をする意味など、それだけで十分のはずだ。そうじゃないのか?」

「……俺のターン」

 

佐倉

手札:3→4

 

「……たった今気付いた……俺は今……お前に、勝ちたい。儀式魔法『覚醒の証』を発動!」

「儀式魔法!? バカな、そんなカードは今まで使わなかったはずだ!!」

「ここに来て手に入れた、俺の新しい相棒だ。手札の『フロストザウルス』を墓地へ送り、儀式召喚! 『覚醒戦士 クーフーリン』!」

 

『覚醒戦士 クーフーリン』

 レベル4

 攻撃力500

 

 ……何だ? 勇んで召喚した割に、攻撃力500?

「こいつをあまり侮らない方が良い。クーフーリンの効果発動! 墓地の通常モンスター一体を除外し、次の自分のスタンバイフェイズまで、除外したモンスターの攻撃力分、攻撃力をアップさせる。『スパイラルドラゴン』を除外」

「なに!?」

 さっきの『天使の施し』か!? ということは……

 

『覚醒戦士 クーフーリン』

 攻撃力500+2900

 

 奴が『スパイラルドラゴン』を除外した瞬間、クーフーリンの纏う雷がより輝きを増した。

「攻撃力3400……」

 さっきから、その数値を遥かに超える攻撃力を打ち出しているというのに、俺はクーフーリンから、今までのモンスターには無かった、オーラのようなものを感じた。それはまさに、最も信頼されているカードに宿る、決闘者の魂そのもの。

 間違い無い。こいつが、今の佐倉のエースモンスターか。

「バトル! 『覚醒戦士 クーフーリン』で、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』を攻撃! 覚醒の雷汰槍(らいたいそう)!!」

 クーフーリンの槍が、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』を貫いた!

 

万丈目

LP:750→350

 

「何て決闘だ……」

「ライフの差はついたが……」

「だが、戦っているのがあの二人だ。まだ分からないぞ!!」

 

「ターンエンド」

 

 

佐倉

LP:1050

手札:2枚

 場:モンスター

   『覚醒戦士 クーフーリン』攻撃力500+2900

   魔法・罠

    無し

 

万丈目

LP:350

手札:0枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『前線基地』

 

 

 くぅ……

「やっと分かった。これが、デッキに愛される、ということか……」

 ほう。分かったのか。

「どうやらお互いに、決闘は離れてはくれないらしいな」

「それでもいい。こいつらが、こんなゴミである俺を求めてくれると言うのなら、そのために生きるのも悪くない」

「そうか……だが、俺も負ける気は無い! ドロー!!」

 

万丈目

手札:0→1

 

「……」

 

『……』

 

 ……

 ふ……

「魔法カード『死者蘇生』発動! 墓地の『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』を蘇生!」

「な!?」

 

『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』

 攻撃力3000

 

「『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』、効果発動! 『覚醒戦士 クーフーリン』を除外!」

「クーフーリン……!」

「『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』で、ダイレクトアタック! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!!」

「……ふ……」

(負けか……)

 

佐倉

LP:1050→0

 

 

『うおぉーーーーーーー!!』

 

 決闘を見ていた生徒全員からの歓声。だがそれ以上に、俺に決闘を思い出させてくれた存在。そいつに手を差し出す。

「良い決闘だった」

「……ありがとう」

 佐倉のこんな顔を見たのは初めてだ。だが、不思議だな。初めて見たのに、こいつには笑顔がよく似合う。

 そして握手をしたと同時に歓声は更に大きくなり、そして同時にそれは、このノース校の新たなキングの誕生を意味した。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 

 ノース校での決闘から、少しさかのぼる。

 

 ……

 …………

 ………………

 

~決闘アカデミア・ウエスト校~

 

「バ、バカな……俺が、1ポイントのダメージも与えられなかっただと……」

「つまらん。その程度の炎、蝋燭すら燃やせない」

「くぅ……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

~決闘アカデミア・サウス校~

 

「な、何なんだ、彼の決闘は……何もできなかった……」

「所詮は命の無い、作られただけの古き力よ」

「くそ……この次は負けないぞ! ナデシコボーイ!!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

~決闘アカデミア・イースト校~

 

「……強過ぎる……勝てない……」

「形の無い、ゆえに痛みも苦しみも、よって決意も覚悟も無い。そんな貴様の決闘など、私に勝てる道理は無い」

「……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

~決闘アカデミア・アークティック校~

 

「ぐぅ……こんなことが……」

「未完成のデッキとは。戦う価値も無かったな」

「なにぃ!! こいつらを、俺の家族をバカにするな!!」

「……どの道、ここにもう用は無い」

「待てよ!! 名前くらい名乗ったらどうなんだ!!」

「……」

「……」

「……梓」

「私の名は、水瀬梓」

「ミナセ……アズサ……」

「その名前、忘れないぞ! 絶対に、次は負けないからな!!」

「……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

(……残るは一つ……アカデミア……ノース校か……)

 

 

 

 

 




お疲れ~。
会話以外かなり単純な殴り合いになってしまった。でも、たまには良いよね。
んじゃ、次話まで待っててね。


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第十三話 激突、冷たき来訪者 ~花~

いぇやぁ~。
待たせた~? ならごめんね~。
んじゃ、行ってらっしゃい。



視点:外

 デュエルアカデミア・ノース校。

 現在、そこの頂点に君臨する男、万丈目準は、校長室へと向かっていた。

(急に呼び出して、一体何の用だ?)

 そう思いながら、校長室に入った時、

 

「おお、万丈目」

「万丈目さん」

 

「佐倉に江戸川、お前らも呼ばれたのか」

 校長机に座る市ノ瀬の前に、佐倉と江戸川も立っていた。

「待っていたよ。実は、君達三人に話しておきたいことがあってな」

 ノース校のトップ3を前に、市ノ瀬校長は神妙な面持ちで話しを始めた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 同じ頃、アカデミア本校の校長室、机の前に、こちらも同じく神妙な面持ちで座る鮫島校長を前に、同じように数人の生徒が並んでいた。

「君達を呼び出したのは、ぜひ君達の耳に入れておきたい話しがあったからです」

「一体何事ですか?」

「随分と深刻な話しのようですね」

 メンバーは、亮、三沢、十代、明日香、翔、あずさの計六人。

「……ていうか、わたしちょっと場違いな感じが……」

「僕も……」

 翔とあずさが呟いた。

 この二人以外はアカデミアでも指折りの実力者達。彼らに比べれば、この二人の実力は幾分か落ちてしまう。そんな自分達が、どうしてこのメンバーに含まれているのか、二人にはどうしても疑問だった。

「まあ、とにかく話を聞いて下さい」

「あ、はい……」

「すみません……」

「うむ。アカデミアがこの本校以外に五つ、サウス校、イースト校、ウエスト校、ノース校、アークティック校の五つの分校があることはご存知ですね」

「はい」

「え? ノース校以外にもあったのか?」

「……十代、黙ってて」

 十代に対し、明日香が呆れた風に話し掛けた。同時に、硬かった室内の空気が僅かばかり弛緩した。

「……まあいいでしょう。実は、その五つの分校の内、ノース校を除いた四つのアカデミアに、道場破りが現れたというのです」

 

 

「道場破り?」

「ああ。突然現れたかと思うと、学園内の実力者全員を片っ端から、完膚なきまでに叩きのめしているという話しだ。一年から三年まで、それも全ての決闘をノーダメージでな」

「なるほど……」

「それで、次はここに来るというわけか?」

「うむ。最後に襲われたアークティック校から最も近いのがここだ。初めから本校は最後の標的としていたのかもしれない。とにかくアークティック校の襲われた日付からして、今日か明日にここへ来る可能性は高い」

 そんな、市ノ瀬校長の話しに、万丈目が見せた表情は、

「……ふふ」

 不敵な笑みだった。

「ちょうど良い。本校での対抗決闘が明後日。今日か明日現れるのなら、この新しく構築したデッキを試す絶好の機会だ」

 デッキを取り出しながら、不敵に笑って見せた。そんな万丈目に、佐倉と江戸川も笑みを浮かべる。

「お前らしいな……」

「それでこそ万丈目さんだ。ですが、俺もいるっていうのを忘れないで下さいよ。はっきり言って、お二人に出番はありません」

 江戸川が自信満々に胸を張る。普段から豪快な江戸川らしい台詞だった。

「それで、そいつはどんな奴なんだ?」

「うむ、かなり目立つ格好らしいから、来ればすぐに分かるだろう」

「ほう、そんなに分かりやすい格好なのか?」

「ああ。その特徴と言うのが……」

 

 

「面白え、そんなに強え奴がここに向かってるのか!」

「ええ。おそらく今はノース校に向かっていると思われます。その後でここに来るのではと、校長達の間では仮設が立てられています。なので、我が校でも腕利きの生徒である君達を呼んだのです」

「……やっぱりわたし場違いなんじゃ……」

「僕も……」

 また翔とあずさがぼやいたものの、誰も聞いていない。

「それで、その道場破りって、どんなやつなんだ?」

 十代が机に身を乗り出し、陽気に尋ねた。だが、鮫島校長は変わらず神妙な面持ち。

「うむ。かなり目立つ格好をしていて、来れば分かりやすいという話しだが……」

「へぇー、そんなに分かりやすいのか」

「ええ。その特徴と言うのが……」

 

「青い着物を着た美少年……」

「青い着物を着た美少年」

 

「だそうだ」

 

 パラァ

 

「おわぁ!」

 万丈目が手に持っていたデッキを地面に落としたのを、すんでのところで江戸川が全て受け止めた。

「なん……だと……」

 今まで自信満々だった顔が一変、呆然とし、信じられないものを見たような顔に変わりながら、万丈目は呟いた。

「……本当か? 校長……」

 万丈目だけでなく、そう尋ねた佐倉も同じような顔を見せる。しかも、万丈目とは違い、驚愕と同時に、恐怖も浮べながら。

「あ、ああ。本当だ」

「……そいつの名は……?」

「ああ。アークティック校で最後に敗れた生徒が聞き出したらしい。名前は……」

 

 

「水瀬梓、そう、名乗ったそうです」

 鮫島校長の話しに、六人共が呆然自失という表情を見せていた。アカデミア随一の四人に加え、翔とあずさという二人まで呼び出された真の理由を、全員がたった今理解した。

「……行かなきゃ」

 あずさが呟き、校長室から出ようとドアノブに手を掛ける。

「待ちなさい!」

 それを、明日香が手を取り静止する。

「離して!」

「どこへ行く気!?」

「決まってるじゃん! 梓くんがノース校に来るなら、迎えに行かなくちゃ!! アカデミアに連れ戻さなきゃ!!」

「落ち着きなさい!! ここからノース校までかなりの距離があるわ。あなたが行った頃にはもう姿を消してるわよ。第一、あなたが行ったところで、どうにかできると思ってるの?」

「……」

 明日香の冷静な言葉に、あずさは言葉を返せなかった。代わりに握っていたドアノブから手を離した。ドアノブは無残に捻り潰され、壊れてしまっていた。

「……梓の奴、何でそんなこと……」

 そう呟く十代も、他の五人も、全員が表情を曇らせる。ここにいる六人全員、梓という人間をよく知っている。あれほど純粋で、優しい人間は他にはいない。それが、道場破り。容易に受け入れられる事実ではなかった。

「……だが、梓が最後に見せたあの姿。あの様子から考えれば、納得するしかない。今梓を突き動かしているのは、間違い無く平家君が戦った、あの時の男に対する憎しみだろう」

 三沢が冷静に分析し、その結果を口にした。

「……校長、梓は本当にここへ?」

「……正直に言えば、私もはっきりとは言えない。彼のことを知らない校長達はここへ来ると考えているが、彼は我が校の生徒だった人間。すでに、この学園は用済みとなっているという可能性もある。あの時の決闘者を探している片手間として、分校である五校の生徒を倒していっている。そう考えることもできます」

「あの時の男は一体何者ですか?」

「分からない。平家君の対戦相手を探していた時、たまたま名乗り出てきたのを、クロノス先生が実力を見定め連れてきた男でした。おそらく、クロノス先生も詳しいことは分からないでしょう」

「てことは、梓を探す手段は……」

「彼が分校の校長達の推測通り、我が校に向かってくることを祈る他ありません」

 

『……』

 

「梓くん……」

 

 

 

視点:万丈目

「無理だ……勝てるわけが無い……」

 普段から冷静な佐倉が、体を震わせながら呟いた。その顔は蒼白に染まり、直前以上の恐怖を浮かべている。

「佐倉さん、一体……」

「……負けたのか? 梓に?」

「え!?」

「……ああ、そうだ」

 そのあまりの変化に、理屈抜きで何があったのかを理解した。

「ということは、お前が退学した理由も……」

「……ああ」

「どういうことだ? 君達はその水瀬梓という少年と知り合いなのか?」

 市ノ瀬が聞いてきた。

「知り合いも何も、梓は俺達二人と同じ、デュエルアカデミア・本校の生徒だ」

「なに!?」

「えぇ!?」

 市ノ瀬と江戸川が、かなり驚いた顔を見せた。

「……カツアゲしていた所に駆けつけた水瀬梓に、決闘を持ち掛けられた。負けた方が退学になるという条件でな。前半こそ俺の方が押していたが、後半で逆転された。あれはもう、とても決闘なんて呼べるものじゃなかった。完全に、あいつの道楽だった。負けの一歩手前まで追いつめた俺を、更に限界まで追いつめたうえで、徹底的に俺を潰した。まるで、子供みたいに陽気に、もてあそばれたんだ……」

 あの梓が、そんな決闘を。

 だが、俺も梓の怒りの一面は知っている。あいつが本気でキレたというのなら、相手をそんなふうにいたぶる決闘をすることも頷ける。

「……その様子では、お前は奴とは……」

「……悪いが、俺は無理だ。あいつとの決闘の後、しばらくカードを見ることもできなくなった。それでも手放せなかったからまだ良かったが、もし今あいつと戦って、あの時のように負ければ……俺は、二度と、カードに触ることもできなくなるかもしれない……」

「佐倉さん……」

「……」

 

 バッ

 

「大変です!!」

 突然、一人の生徒が校長室のドアを開けてきた。

「どうした!?」

「道場破りです! 生徒達がことごとくやられてます!!」

「どんなやつだ!!」

「青い着物着た、俺達と同い年くらいの、男子が!!」

「!?」

「佐倉さん!」

 生徒の言葉に佐倉は驚愕しながらなお更震え上がり、それを江戸川が呼び止める。

「……分かった。江戸川、行くぞ」

「あぁ、はい!」

「佐倉、お前はここにいろ」

「……すまん」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「ぐぁー!!」

「うぉー!!」

 

 大勢の生徒の悲鳴と共に、そこは既に死屍累々の地獄と化している。

 そして、そんな地獄の上に、そんな場所とは無縁なはずの、だが、だからこそ際立つ、青い着物の美しさ。

「梓」

 呼び掛けると、そいつは俺を見た。

 

「……なぜ、あなたがここに……?」

 

「それはこちらのセリフだ! 一体こんな所で何をしている!?」

 だが、あずさは返事をせず無言で、空を仰いだだけだった。そして、

「……まあ良い。貴様がここで最も強いと言うのなら、決闘しない理由は無い」

 呼び方が、『あなた』から『貴様』に。どうやら、本気らしいな。

「良いだろう。貴様がその気なら……」

「待って下さい」

 俺がディスクを構えようとした時、江戸川が制止してきた。

「江戸川?」

「まずは俺が相手をします」

「だ、だが……」

「おい! 水瀬梓とか言ったか!?」

 江戸川は俺の制止を振り切り、梓の前に立った。

「万丈目さんと戦いたきゃ、まずはこの俺を倒してからにしな!」

「……誰でも良い。貴様が先だと言うのなら、さっさと構えれば良いだろう」

「はっ! その減らず口、すぐに聞けなくしてやるよ!」

「……」

(二人があそこまで恐れる相手……勝てないまでも、一矢報いて、一つでも多く奴の手を引き出してやるぜ)

 

『決闘!!』

 

 

江戸川

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行は俺だ! ドロー!」

 

江戸川

手札:5→6

 

 江戸川の先行。さあ、どう仕掛けてくる……

 

「『ダブルコストン』を召喚!」

 

『ダブルコストン』

 攻撃力1700

 

「更に、魔法カード『二重召喚(デュアルサモン)』! このターン、通常召喚を二度行う。『ダブルコストン』は、闇属性の生贄召喚に使う場合、二体分の生贄にできる。『ダブルコストン』を生贄に捧げ、『デビルゾア』を召喚!」

 

『デビルゾア』

 攻撃力2600

 

「そしてカードを一枚伏せる。ターンエンド」

 

 

江戸川

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『デビルゾア』攻撃力2600

   魔法・罠

    セット

 

 

 相変わらず、江戸川は『デビルゾア』が主体のパワーデッキ。あの伏せカードはおそらく……

 

「……私のターン」

 

手札:5→6

 

 冷たい声だ。これが本当に、あの梓だと言うのか?

 だが、江戸川のフィールドにはセットカードが一枚。やはり、まずはあのカードか……

「……モンスター、そして全ての手札をセットし、ターンを終了」

 なに!?

 

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

    セット

 

江戸川

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『デビルゾア』攻撃力2600

   魔法・罠

    セット

 

 

「手札事故か? いきなりそんなに伏せるとはよ、聞いていたほど大した奴でもなさそうだな」

 手札事故……その可能性もある。

 今までは必ずと言って良いほど、初手で『サイクロン』を使用していた。今回もそのイメージを持っていたが、違うのか?

「(警戒し過ぎたか?)こりゃ、思ったよりも勝つのは楽そうだぜ。俺のターン!」

 

江戸川

手札:2→3

 

「罠発動! 『メタル化・魔法反射装甲』! こいつを『デビルゾア』に装備! 攻撃力、守備力を300ポイントアップさせる!」

 

『デビルゾア』

 攻撃力2600+300

 

「そして、こいつを生贄に捧げ、デッキより『メタル・デビルゾア』を特殊召喚だ!」

 

『メタル・デビルゾア』

 攻撃力3000

 

「まだまだ! 魔法カード『死者蘇生』! 墓地の『デビルゾア』を特殊召喚!」

 

『デビルゾア』

 攻撃力2600

 

「はっ、どうやら勝負はこれで決まりだな」

 く、江戸川、勝ちパターンに入ったからと浮かれ過ぎだ。

 

「……はぁ……つまらない」

 

「なに?」

 梓?

「たかだかその程度のモンスター共を並べた程度でなぜそこまで勝ち誇れる……私の場には、これほどのカードが残っているというのに……」

 相手のカードをその程度だと? 梓の言葉とは思えない。

 だが、梓の言う通りだ。あれだけの伏せカードを前に、安全だという保証も無しに切り札を簡単に召喚するなど自殺行為だ。なのに江戸川は、さっきから伏せカードを警戒する様子が全く無い。

「はん、負け惜しみにしか聞こえねーよ」

「そうか。なら……終わらせる」

「ぬっ!?」

「罠発動『ナイトメア・デーモンズ』……私の場のモンスター一体を生贄に捧げ、貴様の場に三体の『ナイトメア・デーモン・トークン』を特殊召喚……」

 梓の発動と同時に、裏守備表示のモンスターは光になり、それが三つに分かれて三体のモンスターへと姿を変えた。

 

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

 

「は、はは……ビビらせやがって。俺の場にわざわざ三体もの攻撃力2000のモンスターを並べてくれるとはな!」

「……『ナイトメア・デーモン・トークン』は破壊された時、相手は800ポイントのダメージを受ける」

「だが、破壊されなきゃ良いんだろう」

「……貴様の目は節穴か? その目には何が映っている?」

「何を?」

「……罠発動『激流葬』」

「な!」

「モンスターが召喚、反転召喚、特殊召喚された時、フィールド上のモンスター全てを破壊する」

 二体の『デビルゾア』が、呆気なく激流に飲み込まれた。三体の『ナイトメア・デーモン・トークン』と共に。

「お、俺の『デビルゾア』が!!」

「『ナイトメア・デーモン・トークン』一体につき800ポイント、合計2400のダメージ」

「ぐぁー!!」

 

江戸川

LP:4000→1600

 

 これか! あの夜の二対一の決闘で、最後に取巻を仕留めたコンボは!!

 あの時は十代との決闘で、奴の決闘をよく見ることができなかった。だから『激流葬』でライフが0になったのがずっと疑問だったが、こういうことだったのか。

「ぐぅ……カードを一枚セット!」

(奴のターンに回っても、今伏せた『リビングデッドの呼び声』で、『メタル・デビルゾア』を蘇らせれば……)

「これでターンエンド……」

「速攻魔法『サイクロン』。その伏せカードを破壊」

「なぁ!?」

 く、やはり伏せていたか。

 

 

江戸川

LP:1600

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 たった一ターン、それも相手ターンでライフを半分以下にまで減らし、フィールドを空にするとは。さすが梓だ。

 この決闘、決まったな……

「私のターン……」

 

手札:0→1

 

「……下らない。この程度の決闘者、私のモンスターを使うまでも無い。『死者蘇生』。貴様の墓地の『メタル・デビルゾア』をもらう」

「な、なにぃ!!」

 

『メタル・デビルゾア』

 攻撃力3000

 

 相手を何もできなくなるまで徹底的に追い込み、最後には相手のエースモンスターでのとどめか。むごいマネを。

 これが、何よりも相手のことを思いやり、優しかった、梓の決闘だというのか……

 

「……バトル。『メタル・デビルゾア』、主人の命を抉り取れ」

 

「うぅぁあああああ!!」

 

江戸川

LP:1600→0

 

「時間の無駄だった……」

 最後に梓はそう呟き、ディスクを閉じた。

 

 

「さあ、次は貴様だろう」

 梓は俺を見ながらそう言う。

「……良いだろう。俺が相手だ!」

 返事をし、ディスクを構える。

 梓の決闘は、今まで何度も見てきた。だが実際に俺が梓と決闘をするのはこれが初めてだ。しかも、今の梓は普段とは全く違う。今の決闘では大きな変化は特に見られかったが、アカデミアでは使わなかったカードや、新たな戦術を駆使することも十分予想できる。

 だが、負けるわけにはいかない。短い期間だったが、俺はお前に憧れられた存在だ。そして、お前が憧れてくれたからこそ、俺はここまでやってこれたんだ。今もそうなのかは分からないが、俺はお前が憧れた存在、万丈目準として、お前を倒す。そして、お前の目を覚ましてやる。

 それが、ずっと心の支えになってくれていた、お前に報いる唯一の方法だと信じて。

「いくぞ! 梓!!」

 聞きたいことは山ほどある。しかし、決闘者に言葉は不要だ。お前の心に、カードで聞いてやる!

 

『決闘!!』

 

 

 

 




お疲れ~。
まあこの時代は今ほど罠や速攻魔法が充実してなかったし、油断すんのは必然かも分かんねえやな。
ほんじゃあ次は、待ってた人いるのかしら? 万丈目vs梓でお会いしましょう。
それまでちょっと待ってて。


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第十三話 激突、冷たき来訪者 ~雷~

ど~も~。

……

……

うん。行ってらっしゃい。



視点:万丈目

 

『決闘!!』

 

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

万丈目

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「私の先行、ドロー」

 

手札:5→6

 

「……手札を全て伏せ、ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:0枚

場:モンスター

    セット

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

    セット

 

 

「俺のターン!」

 

万丈目

手札:5→6

 

 いきなり手札を0にしてまでカードを伏せるとはな。

 どうする……

 ……梓のことだ。ほとんどは罠や速攻魔法と見て間違いないだろう。どのタイミングで発動させてくるか。

 それに、あのセットモンスター。リバース効果モンスターか、それとも攻撃を誘っての高守備力モンスターか……

 ……くそ! 梓の場には攻撃モンスターはいない。だが、あの正体不明のカード達、たったそれだけで、ここまで俺に迷いを抱かせる。多くの生徒がおろそかにしがちな魔法・罠を、梓はかなり上手く扱う。そんな梓だからこそ、あの大量のセットカードからのプレッシャーは凄まじい。

 だが……

「俺は、『仮面竜(マスクド・ドラゴン)』を召喚!」

 

『仮面竜』

 攻撃力1400

 

 恐れていては、何も変えることはできない! 奴の手札が0の間に、一枚ずつで良い、あのカードを消費させる!

「『仮面竜』で、そのセットモンスターを攻撃!」

 仮面竜の吐く火炎により、セットモンスターは表になる。現れたのは……雪だるま?

 

『スノーマンイーター』

 守備力1900

 

「『スノーマンイーター』の効果発動。このカードがリバースした時、フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を破壊する」

「な!」

 く、やはり効果モンスターだったか。それも、場合によっては発動されないリバース効果ではなく、リバースした時に強制発動する誘発効果。おまけに攻撃力は0だが、守備力が1900。

「『仮面竜』を破壊し、貴様のライフも削る」

「くぅ、この程度くれてやる……」

 

万丈目

LP:4000→3500

 

「……カードを伏せる。これでターンエンド!」

 『サイクロン』を使うか?

 ……

 ……カードに手を伸ばす様子は無い。使わないか。

 

 

万丈目

LP:3500

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『スノーマンイーター』守備力1900

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

    セット

 

 

「私のターン」

 

手札:0→1

 

「伏せカードオープン。『強欲な壺』。カードを二枚ドロー」

 

手札:1→3

 

「……『スノーマンイーター』を生贄に、『氷結界の虎将 ライホウ』召喚」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 攻撃力2100

 

「効果は分かっているな。フィールド上でのモンスター効果は、手札を一枚捨てなければ発動できない」

「ああ。分かっている」

「バトルだ。ライホウ、ダイレクトアタック。冷奏円舞」

「ぐぅ!」

 

万丈目

LP:3500→1400

 

「一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

    セット

 

万丈目

LP:1400

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

 さすがにブラフで伏せたカードに躊躇してくれるような奴ではないか。

「俺のターン!」

 

万丈目

手札:4→5

 

 奴のフィールドのカードはまだ減っていない。だが、臆していては勝つことはできない!

「『ドラゴンフライ』召喚!」

 

『ドラゴンフライ』

 攻撃力1400

 

「バトル! 『ドラゴンフライ』で、ライホウを攻撃!」

 向かっていく『ドラゴンフライ』だが、当然攻撃力の高いライホウには勝てない。

 

万丈目

LP:1400→900

 

「この瞬間、『ドラゴンフライ』のモンスター効果! デッキから、攻撃力1500以下の風属性モンスター一体を攻撃表示で特殊召喚する! この効果は墓地での発動のため、ライホウの効果で無効にはならない。『アームド・ドラゴンLV3』召喚!」

 

『アームド・ドラゴンLV3』

 攻撃力1200

 

「メインフェイズ2、魔法カード『レベルアップ!』! フィールド上のLVモンスター一体を墓地へ送り、そのモンスターに記されたモンスターを手札、デッキから特殊召喚する! 現れろ! 『アームド・ドラゴンLV5』!」

 

『アームド・ドラゴンLV5』

 攻撃力2400

 

 ……

 

 ……ここまで、カードを発動する様子は無い。無意味に伏せいた『強欲な壺』と言い、まさか全てブラフか? それとも……

「『アームド・ドラゴンLV5』の効果! 一ターンに一度、手札のモンスター一枚を捨て、その攻撃力以下の相手フィールド上のモンスター一体を破壊する! 俺は手札の、『闇より出でし絶望』、そして、ライホウの効果でもう一枚のカードを捨て、『氷結界の虎将 ライホウ』を破壊する!」

 

万丈目

手札:3→1

 

「デストロイド・パイル!」

 ……黙って破壊されるライホウ。何のアクションも無いのが逆に不気味だ。

「カードを伏せ、ターンエンド!」

「……エンドフェイズに罠カード『鳳翼の爆風』。手札を一枚捨て、相手フィールドのカード一枚をデッキトップに戻す」

「なに!?」

 

手札:1→0

 

 炎の風に巻き上げられ、『アームド・ドラゴンLV5』がデッキトップに。

「く、そ……」

 だがなぜだ? こいつを呼び出した瞬間デッキトップに戻しても良かったはずだ。そうすれば、ライホウが破壊されることは無かったのに……

 ライホウ?

「……そういうことか」

 爆風が止んだところで、改めて梓と向かい合う。

「わざとタイミングをずらしたのか。俺にアームド・ドラゴンの効果を使わせ、更にライホウの効果で無駄に手札を消費させるために……」

 相変わらず計算高い、そして鮮やかな決闘をする……

 

 

万丈目

LP:900

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

 

 

「私のターン……」

 

手札:0→1

 

「……セット。罠カード『徴兵令』。相手のデッキの一番上のカードを確認し、通常召喚可能なモンスターならば、私のフィールドに特殊召喚する」

「何だと!?」

「私のもとへ跪け、『アームド・ドラゴンLV5』」

 

『アームド・ドラゴンLV5』

 攻撃力2400

 

「これで終わりか……『アームド・ドラゴンLV5』の攻撃」

「罠発動『和睦の使者』! このターン、俺は戦闘ダメージを受けない!」

「……まあ良い。ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『アームド・ドラゴンLV5』攻撃力2400

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

 

万丈目

LP:900

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

「くぅ、俺のターン!」

 

万丈目

手札:0→1

 

「『強欲な壺』! カードを二枚ドロー!」

 

万丈目

手札:0→2

 

「……魔法カード『レベル・コピー』! フィールド上のLVモンスター一体を選択し、それと同じ名前と能力を持つ『コピートークン』を特殊召喚する!」

 

『コピートークン(アームド・ドラゴンLV5)』

 攻撃力2400

 

「バトルだ! コピー・アームド・ドラゴンで、『アームド・ドラゴンLV5』を攻撃! アームド・バスター!!」

 互いにぶつかり合い、同じ攻撃力同士当然破壊される。

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』! 墓地の『アームド・ドラゴンLV5』を特殊召喚!」

 

『アームド・ドラゴンLV5』

 攻撃力2400

 

「『アームド・ドラゴンLV5』で、梓にダイレクトアタック! アームド・バスター!」

「……罠発動『次元幽閉』。攻撃モンスターは除外される」

 その言葉と同時に、アームド・ドラゴンが宙へ開いた穴へと吸い込まれる。

「くそっ、魔法カード『マジック・プランター』発動! フィールドの永続罠を墓地へ送り、カードを二枚ドローする。フィールドに残った『リビングデッドの呼び声』を墓地へ送り、カードを二枚ドロー!」

 

万丈目

手札:0→2

 

「……カードを二枚伏せる。ターンエンド!」

「速攻魔法『サイクロン』。貴様から見て、右側のカードを破壊」

 くそ、『攻撃の無力化』が。一枚はあると思っていたが、やはり伏せていたか。

 

 

万丈目

LP:900

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 奴の場に残ったカードは二枚。枚数的にも危険には違いないだが、二枚ともブラフの可能性もある。このターン、攻撃モンスターを召喚されなければまだ勝機はある。

「……私のターン」

 

手札:0→1

 

「……」

 何を引いた?

「……モンスターをセット。ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    セット

    セット

 

万丈目

LP:900

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

 よし! ギリギリのところで踏みとどまった!

「俺のターン!」

 

万丈目

手札:0→1

 

 これならいける!

「速攻魔法『サイクロン』を発動! フィールド上の魔法・罠カード一枚を破壊する!」

 梓の最もよく使う、そして、おそらくは速攻魔法の中で最も重宝されるべきカード。梓の決闘を見て、改めてこのカードの汎用性を知った。今では梓だけでなく、俺のデッキにも欠かせないカードだ。

「お前から見て、左のカードを破壊する!」

 破壊されたのは……『激流葬』、よし!

「罠発動『異次元からの帰還』! ライフを半分払い、ゲームから除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚できる! ゲームから除外された、『アームド・ドラゴンLV5』を特殊召喚!」

 

万丈目

LP:900→450

 

「いくぞ! バトル! 『アームド・ドラゴンLV5』! アームド・バスター!」

 破壊されたのは、『氷結界の守護陣』。確か単体では効果が発揮されない氷結界のサポートモンスターか。

「これでターンエンド。そしてこのエンドフェイズ、『異次元からの帰還』で特殊召喚されたモンスターは除外されるが、モンスターを戦闘破壊した『アームド・ドラゴンLV5』は、『アームド・ドラゴンLV7』へとレベルアップする!」

 

『アームド・ドラゴンLV7』

 攻撃力2800

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 高らかに咆哮を上げる、『アームド・ドラゴンLV7』。

 

「すげえ! 『アームド・ドラゴンLV7』だ!!」

「さすが! 万丈目サンダー!!」

「サンダー!!」

 

『サンダー!!』

『サンダー!!』

 

『万丈目サンダー!!』

 

 周囲からの歓喜の声。

 どうだ梓。これが俺の新しいデッキだ。お前が憧れた人間の、今の姿だ。今のお前はあの頃とは大きく違っている。だが、そんなお前の目には、俺の姿はどう映っている?

 そんな考えを抱きながら、俺は梓の顔を見た。

 

「……」

 

 

万丈目

LP:450

手札:0枚

場 :モンスター

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   魔法・罠

    無し

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

「……悲しいな」

 ん?

「……私は、この程度の男をずっと目指していたのか……」

「なに!?」

「私のターン」

 

手札:0→1

 

「永続魔法『ウォーター・ハザード』を発動。自分のフィールドにモンスターが無い場合、手札の水属性レベル4以下のモンスター一体を特殊召喚できる……」

「な! だが、お前の手札はゼロ。召喚できるモンスターなど……まさか……」

 さっきセットされていた『強欲な壺』。そして、あの残った一枚の伏せカード……

「伏せカードオープン。『命削りの宝札』。手札が五枚になるようカードをドローし、五ターン後、手札を全て墓地へ送る」

「ば、バカな!!」

 

手札:0→5

 

 最初から伏せていたのか……大量に伏せていたカードの中に……ということは……

「始めから、勝てていたと言うのか……もっと早くから、勝負を決めることが、できていたというのか……」

「……『ウォーター・ハザード』の効果発動。手札のモンスター一体を特殊召喚する」

 

『氷結界の水影』

 攻撃力1200

 

「速攻魔法『地獄の暴走召喚』。相手フィールド上にモンスターが存在し、自分が攻撃力1500以下のモンスターの特殊召喚に成功した時、手札、デッキ、墓地から、同名カードをを可能な限り特殊召喚する。貴様も『アームド・ドラゴンLV7』を特殊召喚するがいい……」

「くぅ……」

 

『氷結界の水影』

 攻撃力1200

『氷結界の水影』

 攻撃力1200

 

 ……無理だ……『アームド・ドラゴンLV7』は、デッキに一枚しか入っていない。何より、LV7はLV5の効果でしか特殊召喚できない。

 そして、確か水影の効果は……

「『氷結界の水影』は、自分フィールドにレベル2以下のモンスターしか存在しない場合、直接攻撃が可能……」

「く……そ……」

「バトル……『氷結界の水影』、氷結・斬影の形」

 向かってくる三体の水影……

 これが、今のお前の決闘か……そうか……

 

万丈目

LP:450→0

 

 負けた……1ポイントのダメージも与えられず……完敗だ……

 

 

 ひざを着きながら、俺は思っていた。

 梓は本当に変わってしまった。今の決闘で分かった。

 相手の行動、戦術を封じ、時には自分の力に変えつつダメージを与え、勝利する。それ自体は、今まで見せてきた水瀬梓の決闘そのものだ。

 だが、少なくともわざと勝負を長引かせるような真似はしなかった。まるで、自ら過酷な道に足を踏み入れ、自分自身を追い詰めているように。

 だが、同時に一つだけ分かった……

 

 そんなことを考えているうち、梓は背中を向けた。

「梓!!」

 気が付けば、俺はその背中に向かって叫んでいた。

「アカデミアに戻れ!」

 お前が何を思って、そんなことをしているのかは知らない。だが、決闘の中で感じた。本来のお前自身は、何も変わっていない。ならば、

「俺達は明後日、アカデミア・本校へ行く。お前もそれに乗れ。アカデミアに帰るんだ! みんながお前を待っている!!」

「……今更、あんな場所に用は無い……」

 くそっ! 半ば予想通りの答えだが……

「なぜだ!? あそこには、お前の大切な人も待っているんだろう!!」

「……」

 梓と、平家あずさが恋仲になっていたことは、二人の様子を見ていれば分かった。時々二人が話しているのを見たが、あれは単なる友人関係ではない。明らかに、恋人同士の見せるそれだった。何より、月一試験での実技決闘で、平家あずさを罵倒する女子達に怒鳴っていた時と言い、俺も同じ目をしていたから分かる。

 好きなんだろう。平家あずさのことが。そして、平家あずさもまた……

 

「……大切な人……だと!!」

 

 そんな、怒りの声が聞こえた瞬間、梓は一瞬のうちに俺の目の前に現れ、胸倉を掴んできた。

「そんなものは、とっくの昔に失った! 私は奴を許さない……その感情以外は必要無い! 私には、それ以外の欲など許されない!!」

 なん……だと……?

「どういう意味だ……? 欲が許されないとはどういうことだ……?」

「私には始めから何も無かった。何かを求めることなど許されない存在だった。それを、一つ大切なものを持ち、他にも求めたせいで全て失った。それ一つあれば幸せでいられたはずなのに、更に欲したせいで全てを失った。そしてそれを、ずっと忘れていた……」

 喋りながら、体から紫のオーラがにじみ出てきた。今まで見てきたどの梓よりも、おぞましい姿……

「そして思い出した!! 今も欲している!! 復讐と言う、愚の骨頂を求めている!! だからそれ以外は必要無い!! 日常も、友も、憧れも、私には過ぎた宝だった!! 持つことなど許されなかった!! もう二度と、同じ過ちは繰り返さない!! 大切なものは一つだけあれば良い!! それ以上は許されない!! そして、今のそれが、復讐だ!!」

 また叫び、突き飛ばされると同時に、梓は抜刀し、こちらへ振り上げた。

 その瞬間、俺のすぐ横の地面に、巨大な斬り跡ができた。

 

「もう二度と、会うことは無い……」

 

 その言葉を最後に、今度こそ去っていく。

 

「梓……」

 お前は間違っている。

 欲を持つことが許されないだと?

 誰もが持つ友や憧れ、日常さえが、自分には過ぎていただと?

 大切なものは一つだけで良いだと?

 それが復讐だと?

 そんなバカな話があるものか。お前はずっと、アカデミアで笑っていたではないか。

 あれほど優しく、純粋で、みんなと笑い合っていた。それなのに……

 過去に何があったのかは知らんが、お前なら……違う。誰だって、何かを欲する気持ちは同じだ。それが日常だと言うならなお更だ。だから、お前が欲しても良いはずなんだ。たとえそれをお前自身が許さずとも、お前を許す人間は大勢いる。

 俺もその一人だ。

 

 俺は立ち上がった。

「絶対に戻ってこい!!」

 さっきと同じように、梓に対し、叫んでいた。

「たとえお前がお前自身を許せなくとも、俺も、あいつらも、お前を許す!! だから、必ず戻ってこい!! 梓!!」

 その叫びが聞こえたかは分からない。ただその絶叫が、冷たい氷の空間に虚しく響いただけだった。

 

 

 

 




お疲れ~。

じゃあ早速だがオリカ~。


『レベル・コピー』
 通常魔法
 フィールド上に表側表示で存在する「LV」と名の付くモンスター1体を選択して発動する。
 選択されたモンスターと同じ属性・種族・攻撃力・守備力・効果を持つ「コピートークン」1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
 選択されたモンスターが墓地に送られ、そのカードの効果に記されたモンスターが特殊召喚された時、コピートークンの攻撃力・守備力・効果は特殊召喚されたモンスターと同じになる。

遊戯王GXにおいて万丈目が使用。
『武闘円舞』のLV限定版。ただし効果もコピーされるうえ、レベルアップまでするから強力。
ただでさえ強力な効果のLVモンスターをノーコストでもう一体呼び出すのはかなり強いと思う。
使うタイミングとしては、最終形態まで進化させた後かその前か、どっちのが良いか悩みどころだね。
今回みたいにレベルが相手なら相討ちを狙うこともできるしね。


ちなみに大海は、LVモンスターは『サイレント・ソードマン』が好きです。
皆さんは好きなLVモンスターはおりますか?

まあ雑談はこの辺で。
次も待っててね。


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第十四話 ノース校来訪、対抗決闘開幕

お久しぶり~。
つ~わけで、対抗決闘編開始です~。
そんじゃ、行ってらっしゃい。



視点:十代

 今俺達、全校生徒は港に立ってる。待ちに待った、ノース校との対抗決闘の日がきた。

 うん。一昨日(おととい)から、本当に待ちに待ってた。基本的には、どんな強い奴と決闘できるかってことだったけど、実際はそれ以上に、いなくなった奴のことについて知りたかったからだ。

 そう、梓のこと。

 俺だけじゃない。翔も明日香もカイザーも。そして、一番知りたがってるのが……

 

「来た!」

 

 誰かが叫んだと思ったら、目の前の水がせり上がった。そこから現れたのは、潜水艦。

 それが港に着いて、中から黒い学生服の生徒達と、教師らしい眼鏡のおっさんが。

「久しぶりだね、市ノ瀬校長」

「こちらこそ、鮫島校長。それで、今日はトメさんは元気でしょうな?」

「もちろん。対抗決闘で、トメさんの存在は欠かせないものですからな」

 二人とも笑いながら、簡単に会話をしてる。

 

「あの!」

 

 その最中、女子が一人叫びながら、二人の間に立った。

「な、何だ君は!?」

 市ノ瀬って呼ばれてたおっさんは驚いてる。そりゃあ目の前にいきなり現れりゃ驚くよな。

「えっと、あの……」

「落ち着きたまえ平家君。私が尋ねる」

「あずさ、後ろにいようぜ」

「十代くん……」

 俺も二人の間に立って、あずさを引っ張った。あずさは渋々黙ったけど、本当に聞きたそうにしてた。

「ほう、君が遊城十代君か」

「あ、ああ。それより、校長……」

「うむ。市ノ瀬校長、例の少年は、ノース校にはやってきたかね?」

 その質問で、おっさんは、じゃなくて、市ノ瀬校長は表情を曇らせた。

「ああ、来たよ。詳しいことは、今日の対戦相手が話してくれる」

「そっか。そう言えば、俺の対戦相手って……」

 

「俺だ」

 

 全部言い切る前に遮られて、声のした方を見た。そこに立ってたのは、

「ああ、万丈目」

「さんだ」

「久しぶりだな」

 再会を喜びたいところだけど、今はそれどころじゃない。

「万丈目、俺の対戦相手って、誰か知らねーか?」

「万丈目さんだ」

『サンダー!』

 すると、急に万丈目の前に、生徒達が立った。

「一年、さっきから黙って聞いてりゃ、サンダーさんを呼び捨てにしくさって」

「いっちょ締めてやろうか」

「構わん。放っておけ」

 何か、よく分からねーけど、

「それで、俺の相手は?」

「だから俺だ」

「俺?」

「そうだ、俺だ」

「……」

 ……

「マジ?」

「マジだ」

 

「万丈目くん!!」

 

 また、あずさが大声を上げた。そして、今まで隣にいたはずなのに、いつの間にか万丈目の前に。

 

 

 

視点:万丈目

「お、お前は平家あずさ……」

「梓くんは!?」

 突然俺の前に立ったかと思えば、開口一番質問してきた。

 だが当然だ。奴のことを最も知りたがっているのは、こいつのはずだからな。

「何だこいつは」

「サンダーさんに何の用だ?」

 だが、江戸川達舎弟どもはそんな平家あずさを気に入らないようで、無理やり遠ざける。

「おい……」

 よせ、そう言おうとしたら、

 

「よせ。お前らじゃその子には勝てないよ」

 

 そう声が聞こえた。俺と平家あずさを含めた、全員がそちらを向いた。

「な、君!?」

「下がれ」

『はい! 佐倉さん!』

 佐倉の命令で、舎弟達も下がった。

「お久しぶり。うちのバカ達がすまなかったな」

「……」

「だがこの場合、俺はどっちを助けたことになるのかな?」

 まあもっともな疑問だ。あの制裁決闘の時から、俺も平家あずさの強さは知っている。あんな腕力で殴られたら、間違い無く人一人殺せるからな。

 

「何でお前がいるんだ!?」

 

 そう叫んできたのは、十代?

 

「てめえ、退学になったと思ったら何しに来やがった!?」

「お呼びじゃねーぞ!! 帰れ!!」

「帰れ!! この屑野郎!!」

 

『帰れ!! 帰れ!! 帰れ!! 帰れ!! 帰れ!! 帰れ!!』

 

 佐倉の登場で、一瞬で湧き上がった帰れコール。佐倉本人は楽しそうに笑って見ている。

 こうなることも当然と言えよう。奴がしてきたことを考えればな。だから佐倉も笑っているのだろう。

 

「黙れてめえら!!」

「我がノース校ナンバー2の佐倉さんに向かって、ふざけたこと言ってんじゃねえ!!」

 

 そんな本校の生徒達に、ノース校の生徒達は黙っていない。激怒しながら、生徒達に掴みかかった。

 

「けっ、どうせ金の力だろう。そいつからいくら貰ったんだ? いくらでナンバー2の座を売り渡したんだよ? いくらで決闘者のプライドを捨てたんだ!? そんな奴らと対抗決闘なんて、最悪だぜ!!」

「この野郎!!」

「黙って気いてりゃ好き放題言いやがって!!」

 

「やっちまえー!!」

 

 まずい! 今にも暴動が起きそうだ!

 そしてそんな光景を、佐倉本人は相変わらず笑って見ているだけだ。

「こ、こら、やめなさい!」

「落ち着くんだお前達!!」

 二人の校長が制止しようと声を掛けるが、誰も聞く耳を持たない。

 本校の生徒からすれば、親の力でカツアゲばかりをしてきて、退学になったはずの最悪の生徒。そいつが再び目の前に現れ、しかもまた大勢の舎弟に囲まれ、また親の力かと激怒している。

 だがノース校の生徒からすれば、親どころか勘当されて一文無しの状態でノース校の門を叩き、俺が来るまでとは言え、実力でトップにのし上がった尊敬できる男。そいつが姿を現した途端、実力でなく金の力だとバカにされ、激怒している。

 俺にはどちらの気持ちも分かる。だから一概にどちらが悪いかなど決められない。

 何より、俺も立場的には似たようなものだ。止める権利など、無い……

 

 ドゴォ!!

 

 そんな俺をよそに、そんな轟音と共に、軽い地震が起きた。

 音のした方を見ると、ずっと俺の前にいたはずの平家あずさがいつの間にか移動し、地面を全力で殴っていた。月一試験の時と同じように、地面は大きく凹んでいる。

 

「そんなに喧嘩したいならさ、わたしとしてよ。今ちょうど機嫌が悪いから」

 

『……』

 

 誰もが沈黙した。実際、そんなことをされて、そんなことを言われれば、誰もが恐れて言葉を失うだろう。そう思ったが、

 

「なら、俺を殴ればその機嫌も治るか?」

 

 佐倉が笑いながら、平家あずさの前に!

「おい、佐倉!」

 呼び掛ける俺に対し、佐倉は、優しい笑顔を向けただけだった。そして、また平家あずさと向かい合う。

「この騒ぎの原因は俺だからな。何より君には、いや、本校にいる大勢の生徒が、俺を殴る権利くらいあるよ。そんなことで気が済むって言うのなら、好きに殴れば良いさ」

「……」

 

『……』

 

 平家あずさも、ノース校と本校の生徒全員も、何も言えずにいる。

 だが、そんな沈黙を破ったのが、

 

 ババババババ……

 

 空から聞こえてきたそんな音。俺も含め、全員が上を向く。

「あれは……」

 黒いヘリ。そこに白く書かれた文字は、

「万丈目GR(グループ)!?」

 まさか、兄さん達か!?

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:あずさ

 万丈目くんに話しを聞こうと思ったらみんなが喧嘩を始めちゃって、それを止めたと思ったら今度は万丈目くんのお兄さん達が現れて、そして、この対抗決闘を全国放送するって言い出した。

 そのこと自体は別に構わない。というか、どうでも良い。わたしはただ、万丈目くんから話しを聞きたかっただけ。梓くんの話しを。それを邪魔しないなら、誰が何してたってどうだって構わないよ。

 梓くん、元気してたのかな。やっぱり変わっちゃってるのかな。わたし達のこと、本当にどうでもよくなっちゃったのかな……

 そんなことを考えながら、決闘前の時間に万丈目くんを探していると、男子トイレの前で、十代くんが壁にもたれてるのを見つけた。何だか耳を澄ましてる。中に誰かいるのかな?

 

「くそ!!」

 

 て、この声は、万丈目くんの声!!

 やっと見つけた。そう直感して、男子トイレに近づこうと思ったら、

 

「誰もが俺に勝てと言う! そうやって誰からも期待を込められ、周囲からは一方的に勝つことを強要される! 俺に負けることは許されない! 明日も明後日も、ずっと勝ち続けるしかないんだ、くそっ!!」

 

「……」

 いつも傲慢だった万丈目くんの言葉とは思えなかった。話しを聞きたかったけど、それを聞いちゃって、聞けなくなっちゃった。今はそっとしておいた方が良さそう……

 

 

 それで、決闘場に戻ろうと思ったんだけど、

 

「……」

 

 誰かの声が聞こえた。

 何だか揉めてるみたいに聞こえる。気になってそっちに行って見てみた。

 すると、そこには四人のイエロー生徒と……

 

「よう、久しぶりだな佐倉さん」

「何か用か?」

「何か用?」

「分かってる癖に聞くんだなそれを」

「分からないな。お前達に呼び出される覚えも筋合いも思い当たらないが」

「うわ、信じらんねえ。まさか、ずっと取巻きでいてやった俺達のことを忘れたなんて言わないだろうな?」

「忘れる以前に知らないな。確か俺の取巻き達は、全員オベリスクブルーだった記憶があるんだが」

 

 うわぁ……佐倉くんの言葉で、四人の顔が一気に渋く変わっちゃった。

 

「じゃあ、教えてやるよ」

「俺達はな、あんたが負けたせいで今までのことが全部ばれて、見ての通り、ブルーだったのにイエローに格下げだ」

「それがどれだけ最悪なことか、あんたにも分かるだろう?」

「……それだけか?」

「は? それだけ?」

「どういう意味だよ、それだけって?」

「カツアゲなんて行為に付き合ってた時点で、こうなることも覚悟してのことだと思ってた」

「はぁ? 何言ってんの?」

「何で俺達がそんな覚悟持たなきゃいけないんだよ?」

「……用がそれだけなら帰るぞ。時間が無い」

「まあ待てよ。決闘にはまだ時間があるだろう」

「言い方が悪かったか?」

「あ?」

「バカどもと話しをする無駄な時間は皆無だって言ってるんだよ」

「おい……あんまり調子乗るなよ」

「そう言えば、あんたさっき言ってたよな。この学園にいる生徒全員、あんたを殴る権利があるってさ。だったら当然、俺達にもあるってことだよなぁ?」

「おかしいな。『大勢』の生徒とは言ったが、『全員』とは言った覚えが無いが」

「言ったんだよ、全員だ!」

 その言葉と一緒に、ずっと話してた男子が拳を振り上げた。

 けど、それを佐倉くんは軽く避けた。

「今更、誰に殴られようが、それだけのことをしてきた以上覚悟はできてる。けどな、そんな俺と同じことをしてきたくせに、そんな覚悟も持たずに好き放題やってたバカ共にまで殴られてやるほど、俺は優しい性格じゃないぜ」

「黙れ!」

 また殴りかかった。今度はそれを受け止めて引っ張る。そして、その男子はその勢いのまま壁に叩きつけられた。

「お前らじゃ俺には勝てないよ。平家あずさほどじゃないにしろ、俺の強さはお前らが一番知ってるだろう」

「この……」

「それとも決闘にするか? もっとも、レアカードを全部元の持ち主に戻した後のお前らじゃ、実力も高が知れてるがな」

「何だとぉ……」

「だってそうだろう。お前ら全員が全員、取り上げたレアカードでデッキを組んでたじゃないか。まあかく言う俺も、水瀬梓との時はたまたま取り上げた直後の『ホーリー・ナイト・ドラゴン』がデッキに混ざってたが、俺が使ったのはあれ一枚だけだ。あまり言いたくは無いが、レアカード頼みでしかなかったお前らとは違う」

「てめぇ……黙って聞いてりゃ!!」

「やってやるよ! レアカード抜きでもな、お前を倒すくらいわけねーぞ!!」

「面倒臭いから四人まとめて来い。勝てば大人しく殴られてやる。もし負けたら……いいや。四対一で負けたっていう時点で十分無様で惨めだし」

「うるせえ!!」

「その時は俺達全員のデッキをくれてやるよ。当然、お前が負けた時はお前のデッキを貰う」

「構わないよ。もっとも俺のデッキなんて、全部がまたすぐに集められるカードだけど」

「ぐぅ……」

「ほら、さっさと構えれば? ただし、先行は貰うぜ」

「好きにしやがれ!!」

 

『決闘!!』

 

 

 

視点:佐倉

 

 

佐倉

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

元子分

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

元下僕

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

元手下

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

元三下

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「名前適当すぎるだろう!!」

「どうした?」

「うるせえ!! 早く進めろ!!」

「……? じゃあ俺の先行」

 

佐倉

手札:5→6

 

「『大木炭18(インパチ)』を守備表示」

 

『大木炭18』

 守備力2100

 

「カードを一枚伏せ、永続魔法『凡骨の意地』発動。ターンエンド」

 

 

佐倉

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『大木炭18』守備力2100

   魔法・罠

    永続魔法『凡骨の意地』

    セット

 

 

「俺のターン!」

 

元子分

手札:5→6

 

「『ゴブリンエリート部隊』を召喚!」

 

『ゴブリンエリート部隊』

 攻撃力2200

 

「バトルロイヤルルールにより、最初のターン全てのプレイヤーは攻撃できない。ターンエンド!」

 

 

元取巻き

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

   『ゴブリンエリート部隊』攻撃力2200

   魔法・罠

    無し

 

 

「俺のターン! 『アックス・ドラゴニュート』召喚!」

 

『アックス・ドラゴニュート』

 攻撃力2000

 

「更に装備魔法『デーモンの斧』を『アックス・ドラゴニュート』に装備、ターンエンド!」

 

 

元下僕

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『アックス・ドラゴニュート』攻撃力2000+1000

   魔法・罠

    装備魔法『デーモンの斧』

 

 

「俺のターン! 永続魔法『前線基地』発動! 手札のユニオンモンスター一体を特殊召喚する! 『守護霊アイリン』を特殊召喚」

 

『守護霊アイリン』ユニオン

 攻撃力0

 

「そして『不屈闘士レイレイ』召喚!」

 

『不屈闘士レイレイ』

 攻撃力2300

 

「ユニオンモンスター『守護霊アイリン』を、レイレイに装備! ターンエンド!」

 

 

元手下

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『不屈闘士レイレイ』攻撃力2300

   魔法・罠

    永続魔法『前線基地』

    ユニオン『守護霊アイリン』

 

 

「俺のターン!」

 

元三下

手札:5→6

 

「手札を一枚捨て、『THE トリッキー』を特殊召喚!」

 

『THE トリッキー』

 攻撃力2000

 

「墓地へ送った風属性モンスターをゲームから除外し、『シルフィード』を特殊召喚!」

 

『シルフィード』

 攻撃力1700

 

「そして『スピア・ドラゴン』を通常召喚!」

 

『スピア・ドラゴン』

 攻撃力1900

 

「ターンエンド!」

 

 

元三下

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『THE トリッキー』攻撃力2000

   『シルフィード』攻撃力1600

   『スピア・ドラゴン』攻撃力1900

   魔法・罠

    無し

 

 

 おぉおぉおぉおぉ、攻撃できないうちから似たようなのばかり展開しちゃってまぁ……

「俺のターン」

 

佐倉

手札:3→4

 

 どうなっても知らね。

「引いたのは通常モンスター『ジェリービーンズマン』、よってもう一枚ドロー。『海皇の長槍兵』、『マッド・ロブスター』、『ハウンド・ドラゴン』、『音速(ソニック)ダック』、『大木人18』、『火炎木人18』……うん」

「終わりか?」

「いや、速攻魔法『リロード』発動。手札を全てデッキに戻し、戻した枚数分ドローする」

「なに!?」

 

佐倉

手札:9→8

 

「今ドローしたカードの中に一枚でも通常モンスターがあれば、それを公開することで更にドローできる。通常モンスター『海皇の長槍兵』を公開し、ドロー。『サイバティック・ワイバーン』、『フロストザウルス』、『スパイラルドラゴン』、……ここまでだな」

 

佐倉

手札:8→11

 

(一ターンで、手札が三枚から十一枚とか何それ……)

 

「罠発動『砂塵の大竜巻』。フィールド上の魔法・罠一枚を破壊する。レイレイに装備された『守護霊アイリン』を破壊」

「くぅ……」

「そして、魔法カード『ブラックホール』」

『げぇ!!』

「フィールド上のモンスターを全て破壊する。『大木炭18』には悪いが……」

 

『うぉおおおああああああ!!』

 

 哀れな……

「魔法カード『魔の試着部屋』。ライフを800払い、以下略」

 

佐倉

LP:4000→3200

 

「……この四体を召喚」

 

『ジェリービーンズマン』

 レベル3

 攻撃力1750

『マッド・ロブスター』

 レベル3

 攻撃力1700

『ハウンド・ドラゴン』

 レベル3

 攻撃力1700

『音速ダック』

 レベル3

 攻撃力1700

 

「そして、装備魔法『魂喰らいの魔刀』を『ジェリービーンズマン』に装備。装備モンスター以外の通常モンスター全てを生贄に捧げ、一体につき1000ポイント、攻撃力をアップさせる」

 

『ジェリービーンズマン』

 攻撃力1750+3000

 

「攻撃力が4750!?」

「まだまだ。儀式魔法『覚醒の証』発動。手札からレベル8の『スパイラルドラゴン』を墓地へ送り、『覚醒戦士クーフーリン』を儀式召喚」

 

『覚醒戦士クーフーリン』

 レベル4

 攻撃力500

 

「何だ? 儀式をした割にたかが攻撃力500かよ」

「装備魔法『リチュアル・ウェポン』を装備。レベル6以下の儀式モンスターの攻守を1500アップ」

 

『覚醒戦士クーフーリン』

 攻撃力500+1500

 守備力1000+1500

 

「そして、クーフーリンの効果。墓地の通常モンスター一体を除外し、次の俺のスタンバイフェイズまで除外したモンスターの攻撃力分、攻撃力をアップする。『スパイラルドラゴン』を除外」

 

『覚醒戦士クーフーリン』

 攻撃力500+1500+2900

 

「げぇ!! 攻撃力4900!!」

「け、けど、この二体で攻撃しても二人は生き残る! 次のターン、生き残った奴が体制を立て直して……」

「悪いが次は無い。魔法カード『ダブルアタック』を二枚発動。手札のモンスターカードを墓地へ送り、それよりレベルの低いモンスター一体は、このターン二度の攻撃ができる。手札のレベル5『サイバティック・ワイバーン』、レベル6『フロストザウルス』の二枚を捨て、レベル3『ジェリービーンズマン』と、レベル4『覚醒戦士クーフーリン』を選択」

『な、なに~~~~!!』

 

(しかもちょうど手札全部使いきった!!)

 

「バトル。二体のモンスターで、それぞれ二回、ダイレクトアタック」

 

『ぎいゃあぁぁぁぁぁああああああああああああ!!』

 

元×4

LP:4000→0

 

『手を抜くなぁあああああああああああああああ!!』

 

「行数もったいないからな」

 

 

 

視点:あずさ

 すっご……梓くんとの決闘の時よりかなり強くなってる。行数のことまで気に掛けてるし。

 今の万丈目くん、あれ以上に強いってこと?

 

「約束通り、デッキは……やっぱいらね。お前らの使うカード、俺には合わないし」

 

 一度デッキに手を伸ばしたけど、手を戻して四人に背中を向けた。

 

「……っ!」

 

 四人のうちの一人が立ち上がって、静かに佐倉くんに近づいていった。その手には、ナイフが……

 

 ドガッ

 

 壁を殴ると、五人ともこっちを向いた。

「それ以上は、ちょっとまずいんじゃないかな」

 笑顔を作って話し掛ける。佐倉くん以外の四人は縮みあがって、脅えて逃げていった。

 にしても、軽く殴っただけなのにすごい音したな……

 壁、壊れてる……

 

「……ありがとう」

 

 壁を見てると、佐倉くんが話し掛けてきた。

 ありがとうって……佐倉くんが!?

「近づいてたのは分かってたけど、刃物を持ってるのは気が付かなかった。お陰でお互い無傷でいられたよ」

「……」

 何でだろう。感謝の気持ちを言ってくれてるのに、全然しっくりこないって言うか……

「それとも、俺を殴りにきた?」

「え?」

「ずっと決闘見てたろう。殴るタイミングを見定めてた?」

「ち、違うよ!」

 そりゃ、まだ君のこと完全に許せてはいないけど、

「そんなこと考えてないよ」

「そっか。じゃあ……」

 急に口ごもって、改めて喋り出した。

「……悪いが、君の彼氏のことなら、何も知らない」

「彼氏……」

 ……

 ////

「いや、梓くんは彼氏じゃ……////」

「え、違うの?」

「……////」

「……まあいいや。俺は、万丈目と、水瀬梓が決闘してる間、ずっと隠れてたから。水瀬梓のことは、何も知らない」

「隠れてたの?」

「ああ。怖くてな……笑ってもいいよ」

「……笑えないよ……」

 梓くんのこと、怖いって思うのも当然だよ。わたしも、十代くん達だって、あの時怖かったんだもん。

「ごめん。役に立てなくて……」

「……うん。こっちこそ、ありがとう」

 それ以上は、何だか気まずくて、話すことができなかった。

 そろそろ時間だし、そのまま決闘場へ歩いていった。

 

 

 

 




お疲れ~。
次回はあの二人の決闘回ですじゃ。
楽しみにしていた人もそうでない人も、これだけは言いたい。
ちょっと待ってて。


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第十四話 ノース校来訪、対抗決闘開幕 ~決闘~

(原作決闘で)悪いが少々暴れさせてもらう。
てなわけで、原作からかなり改変された十代vs万丈目です。
結果今までで一番長くなってしまった。
それでも良いや~と言ってくれる方。
行ってらっしゃい。



視点:十代

 遂にこの時が来た。

 さっきはトイレの中で、悲鳴を上げてる万丈目を見て驚いたけど、ここに立ってからは良い顔を見せてる。

 気になるのは、決闘場を囲んでるたくさんのカメラか。

「信じられないノーネ。私の姿ーガ、今全国に流れているナンーテ」

 中央で審判役のクロノス先生は浮かれてるし。

 そんなこんなで、並んで座ってる二人の校長が立ち上がった。

 

「それではこれより、アカデミア本校」

「ノース校」

『対抗決闘大会開催の宣言をする!!』

 

 歓声が起こると同時に、クロノス先生が前に出てきた。

「それデーハ、対戦決闘者を紹介するノーネ。まず紹介スルーは、アカデミア本校代表、オシリスレッドのドロップアウトボー……じゃなかった、遊城十代!」

「イエーイ!」

 あんまりはしゃぐ気分じゃないけど、決闘をするからには楽しまなきゃ損だよな。

「対すルーは、ノース校代表……」

 

「いらん」

 

 クロノス先生が喋ってる最中に、万丈目がその前に立った。

「俺の名は俺が告げる」

「ンア?」

「黙って引っ込めと言ったんだ、おかっぱ野郎」

「お、おかっぱじゃないノーネ!! これは有名なカリスマ美容院……で、あら? いつの間にヤーラ、がんじがらめーナ、ナ、ナ、ナ、ドロップアウトー……」

 あー……落ちた。

「大丈夫か? クロノス先生」

 

「お前達、この俺を覚えているか!」

 

 突然、万丈目は声を張り上げた。

「この学園で、俺が消えて清々したと思っている奴! 俺の退学を自業自得だとほざいた奴! 知らぬなら言って聞かせるぜ。その耳かっぽじってよく聞くがいい! 地獄の底から、不死鳥の如く復活してきた、俺の名は!」

「一! 十!」

 

『百!』

 

『千!』

 

「万丈目さんだ!」

 

『うおおおおおおおおお!!』

 

『サンダー!』

『サンダー!!』

『万丈目サンダー!!』

 

 何かよく分からねーけど、すげえ人気だな。

 

「俺は!?」

 

『サンダー!!』

 

「万丈目!」

 

『サンダー!!』

 

「いくぞ十代! この決闘、負けるわけにはいかないからな!」

「来い! 万丈目!」

「万丈目さんだ!」

 

『決闘!!』

 

 

万丈目

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

十代

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

「俺の先行、ドロー!」

 

万丈目

手札:5→6

 

「モンスターを裏守備表示でセット、更にカードを二枚セット、ターンエンド!」

 

 

万丈目

LP:4000

手札:3枚

 場:モンスター

    セット

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 裏守備表示……

「俺のターン!」

 

十代

手札:5→6

 

「『E・HERO フェザーマン』召喚!」

 

『E・HERO フェザーマン』

 攻撃力1000

 

「フェザーマンで、セットモンスターを攻撃! フェザー・ショット!」

 二枚のセットカードが気になるけど、モンスターはそのまま破壊された。

 

『アームド・ドラゴンLV3』

 守備力800

 

 アームド・ドラゴン……見たこと無いモンスターだ。だけど、

「先手は貰ったぜ! 俺はカードを一枚セット、ターンエンド!」

「甘い。狙い通りだぞ。エンドフェイズ、永続罠『リビングデッドの呼び声』発動! 墓地に眠るモンスターを、攻撃表示で特殊召喚できる。俺は、『アームド・ドラゴンLV3』を特殊召喚!」

 

『アームド・ドラゴンLV3』

 攻撃力1200

 

「そしてこの瞬間、リバースカードオープン! 『地獄の暴走召喚』!」

 な、あのカードは!

「相手フィールド上にモンスターが存在する時に、攻撃力1500以下のモンスターの特殊召喚に成功した時、手札、デッキ、墓地から、同名モンスターを特殊召喚する! 『アームド・ドラゴンLV3』を、更に二体特殊召喚!」

 

『アームド・ドラゴンLV3』

 攻撃力1200

『アームド・ドラゴンLV3』

 攻撃力1200

 

「そしてこのカードを発動した時、相手プレイヤーは自分フィールド上のモンスター一体の同名カードを、手札、デッキ、墓地から特殊召喚できる。十代のフィールドには『E・HERO フェザーマン』が一体。手札、デッキ、墓地に存在するなら特殊召喚が可能だ。どうする?」

 く……

「……俺は、その効果を使わない」

 フェザーマンは、て言うか他のヒーロー達もだけど、デッキに入ってるのは一枚ずつだからな。

 

 

十代

LP:4000

手札:4枚

 場:モンスター

   『E・HERO フェザーマン』攻撃力1000

   魔法・罠

    セット

 

万丈目

LP:4000

手札:3枚

 場:モンスター

   『アームド・ドラゴンLV3』攻撃力1200

   『アームド・ドラゴンLV3』攻撃力1200

   『アームド・ドラゴンLV3』攻撃力1200

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「そして恐怖の俺のターンが始まる! 俺のターン、ドロー!」

 

万丈目

手札:3→4

 

「このスタンバイフェイズ、三体の『アームド・ドラゴンLV3』は、『アームド・ドラゴンLV5』へとレベルアップする!」

 

『アームド・ドラゴンLV5』

 攻撃力2400

『アームド・ドラゴンLV5』

 攻撃力2400

『アームド・ドラゴンLV5』

 攻撃力2400

 

 

「あれは、レベルアップモンスターか!」

「レベルアップモンスター?」

「その名の通り、レベルアップして進化していくモンスターのことっス。けど、そのどれもが希少なレアカードのはず。どうしそのカードを万丈目君が……」

 

「あれは、ノース校に伝わる秘宝のカード! 市ノ瀬君、君は……」

「言ったでしょう、私も本気だと。例の商品は必ず私が貰う」

 

 

 いきなり攻撃力2400が三体かよ。

「『アームド・ドラゴンLV5』、効果発動! 手札のモンスターカード一枚を墓地へ送ることで、そのモンスターの攻撃力以下のモンスター一体を破壊する! 手札の『ドラゴンフライ』を墓地に捨てる! デストロイド・パイル!」

 

万丈目

手札:4→3

 

「『ドラゴンフライ』の攻撃力は1400、よって攻撃力1000のフェザーマンを破壊!」

「ぐぅ……」

「バトル! 三体の『アームド・ドラゴンLV5』で、十代にダイレクトアタック! アームド・バスター!」

 向かってくる三体のアームド・ドラゴンだけど、

「罠発動『攻撃の無力化』! 攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

「ふん、生き延びたか。俺は更にカードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 

万丈目

LP:4000

手札:2枚

 場:モンスター

   『アームド・ドラゴンLV5』攻撃力2400

   『アームド・ドラゴンLV5』攻撃力2400

   『アームド・ドラゴンLV5』攻撃力2400

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

 

十代

LP:4000

手札:4枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

 この状況は、ちょっとまずいか……

「俺のターン、ドロー」

 

十代

手札:4→5

 

 これなら……

「魔法カード融合! 手札のエッジマンと、ワイルドマンを融合! 現れろ! 『E・HERO ワイルドジャギーマン』!」

 

『E・HERO ワイルドジャギーマン』

 攻撃力2600

 

「『E・HERO ワイルドジャギーマン』は、相手モンスター全てに攻撃できる。バトル! ワイルドジャギーマンで、アームド・ドラゴンに攻撃! インフィニティ・エッジ・スライサー!」

「甘い! 速攻魔法『収縮』発動! このターン、モンスター一体の攻撃力を半分にする!」

 

『E・HERO ワイルドジャギーマン』

 攻撃力2600/2

 

「なに!?」

「迎え撃て! アームド・バスター!」

 

十代

LP:4000→2900

 

「くそぉ……俺は、『E・HERO クレイマン』を守備表示で召喚」

 

『E・HERO クレイマン』

 守備力2000

 

「更にカードを伏せて、ターンエンド!」

「そしてこの瞬間、モンスターを戦闘破壊したことで、『アームド・ドラゴンLV5』は、『アームド・ドラゴンLV7』へとレベルアップする!」

 

『アームド・ドラゴンLV7』

 攻撃力2800

 

『グォオオオオオオ!!』

 

『サンダー!!』

『サンダー!!』

 

『万丈目サンダー!!』

 

十代

LP:2900

手札:0枚

 場:モンスター

   『E・HERO クレイマン』守備力2000

   魔法・罠

    セット

 

万丈目

LP:4000

手札:2枚

 場:モンスター

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   『アームド・ドラゴンLV5』攻撃力2400

   『アームド・ドラゴンLV5』攻撃力2400

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

 

 

 強え……

 万丈目の奴、ちょっと見ない間に、こんなに強くなってたんだなぁ。

「俺のターン!」

 

万丈目

手札:2→3

 

 何だか嬉しいぜ、万丈目!

「バトル! 『アームド・ドラゴンLV5』で、クレイマンを攻撃! アームド・バスター!」

「ぐぅ……」

「更に、二体のアームド・ドラゴンで、十代にダイレクトアタック!」

「速攻魔法『クリボーを呼ぶ笛』! デッキから、『ハネクリボー』を特殊召喚する!」

 

『ハネクリボー』

 守備力200

 

『クリクリ~』

 

「構わん! 二体目の『アームド・ドラゴンLV5』で……」

 

(アニキ~、あの子なら、オイラの兄弟のこと知ってるかもしれないよ~。オイラを呼び出して聞いてみておくれよ~)

「うるさい! この決闘で、貴様の出る幕などあるか!」

(そんなこと言わないで~)

 

(クリクリ~)

「どうした? 相棒」

(クリ~)

「……あ、本当だ」

 

「おい万丈目、それって……」

 俺が聞こうとした途端、万丈目は慌てた様子で、黄色いそいつを追いかけ回した。

「引っ込まんか!」

 あ~あぁ、精霊をまるで蚊を叩くみたいに……

 

「改めて、二体目の『アームド・ドラゴンLV5』で、『ハネクリボー』を攻撃! アームド・バスター!」

 

(クリ~!!)

 

「ぐぅ!!」

 く、すまん、相棒……

「『ハネクリボー』の効果でこれ以上ダメージを与えられない。ターンエンド。そしてこの瞬間、戦闘破壊した二体の『アームド・ドラゴンLV5』は、『アームド・ドラゴンLV7』へとレベルアップする!」

 

『アームド・ドラゴンLV7』

 攻撃力2800

『アームド・ドラゴンLV7』

 攻撃力2800

 

『グォオオオオオ!!』

『グォオオオオオ!!』

『グォオオオオオ!!』

 

『サンダー!!』

『サンダー!!』

 

『万丈目サンダー!!』

 

 

万丈目

LP:4000

手札:3枚

 場:モンスター

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

十代

LP:2900

手札:0枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

 くぅ、マジで強え……

 

「何だその情けない決闘は! 貴様勝つ気があるのか!!」

 

「な、万丈目……」

「そんなことで、奴を迎えることができるのか!」

 奴? 迎える?

 

「水瀬梓を許すことができるのか!!」

 

 !!

 

「梓くんを……」

「梓さんを、許す……」

 

「万丈目、お前……」

「ああそうだ。俺は、水瀬梓に敗れた。完膚なきまでに、1ポイントのライフも削ることができず」

 マジかよ、万丈目が、ノーダメージで負けた……?

 

(元々、重くなるって理由から一枚しか入っていなかった『アームド・ドラゴンLV7』を、水瀬梓に敗れたことで、一から組み直してああなったからな。出発前の二日間の徹夜に付き合ってやった甲斐があった)

 

「……梓を許すって、どういう意味だよ?」

「決闘の後で、梓は言っていた。自分は元々、何かを求めて良い人間ではなかったと。大切なものは一つだけで良いと。それ以上は許されなかったと。友や憧れ、日常さえ、持つことなど許されない存在だったと。そして、今のその大切な一つが、復讐だとな」

「復讐……何かを求めることは許されないって、そう言ったのか?」

「そうだ。どんな理由からそんな考えを抱いたのかは知らん。なぜなら、少なくともお前達に比べれば、俺は梓の事情など全く知らん。あいつとの付き合いの中で、あいつのことを知る以前に、自分のことをもっと知って欲しいという思いから、自分のことを話すことの方が多かったからだ。俺があいつのことを聞くことなどほとんどなかった。今では後悔している。こんなことになるのなら、なぜもっとあいつのことを分かってやろうとしなかったのかと。自分ばかりを相手に押しつけ、相手から自分を押しつけられることは拒んできた。ずっと変わらなかったその傲慢さが、今では恨めしい」

「……」

「だがそれでも、俺とてお前達ほどで無いにしろ、あいつとは絆を感じている。あいつが俺の全てを受け入れてくれたから、俺はこうしてここに立つことができている。あいつはこうも言っていた。大切なものは一つで良い、その気持ちをずっと忘れていたと。そんな理不尽な感情を消し去ってしまうほど、俺達に芽生えた絆は、本物であったと信じたい」

「だから今、あいつが自分を許せないのなら、代わりに俺が許してやる。あいつがどれだけ振り払おうと、力ずくで押さえ込められるほど強くなり、奴を受け入れてやる。それが、今までの優しく美しい姿ではなく、怒りと憎しみに震え、復讐に取り憑かれた醜く悲しい姿であってもだ! そしてそのためにも、遊城十代、俺は貴様を倒す!!」

「万丈目……」

 

「水瀬梓! もし今この決闘を見ているなら、俺の姿を見ていろ!!」

 

『お前がかつて目標としていた男の姿を見ていろ!!』

 

『お前が否定したものは、決して間違いではなかったということを俺が証明してやる!!』

 

『そして覚えておけ!! その男の名を!!』

 

「俺の名は!!」

「一!! 十!!」

 

『百!!』

『千!!』

 

「万丈目サンダー!!」

 

『ウオォォオオオオオオオオオオオ!!』

 

『サンダー!!』

『サンダー!!』

 

『万丈目サンダー!!』

 

「そこまでの覚悟を、お前は……」

「さあ十代! 貴様のターンだ! もし貴様もまた梓のことを思っていると言うのなら、未だ憎しみに震えるあいつのことを許してやれるだけの力を、この決闘で示してみせろ!!」

「……」

 

 強いわけだぜ。

 最初は、兄貴達とか、ノース校の生徒達からの期待に応えるため、必死になってるんだと思ってた。そのために、万丈目は強いんだって。

 だけど、万丈目が強くなったのは、梓のためだったんだ。梓のために、梓のことをどうにかしてやりたいからって。

 その気持ち、よく分かる。助けたいよな。梓のこと、助けてやりたいって思うよな……

 

「俺のターン!」

 

十代

手札:0→1

 

「『E・HERO バブルマン』を特殊召喚!」

 

『E・HERO バブルマン』

 守備力800

 

「バブルマンは手札がこの一枚の時、特殊召喚できる。そして召喚に成功した時、フィールド上に他にカードが無い場合、カードを二枚ドローする!」

 

十代

手札:0→2

 

「魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドロー!」

 

十代

手札:1→3

 

「これで準備は整ったぜ。魔法カード『死者蘇生』! 墓地の『E・HERO エッジマン』を特殊召喚!」

 

『E・HERO エッジマン』

 攻撃力2600

 

「更に魔法カード『H-ヒートハート』発動! 『E・HERO』一体の攻撃力を、エンドフェイズまで500ポイントアップさせる!」

 

『E・HERO エッジマン』

 攻撃力2600+500

 

「エッジマンで、『アームド・ドラゴンLV7』を攻撃! パワー・エッジ・アタック!!」

「ぐぅ……!」

 

万丈目

LP:4000→3700

 

 ようやく万丈目のライフを削れたぜ!

「カードを一枚セットし、ターンエンド!」

 

 

十代

LP:2900

手札:0枚

 場:モンスター

   『E・HERO エッジマン』攻撃力2600

   『E・HERO バブルマン』守備力1200

   魔法・罠

    セット

 

万丈目

LP:3700

手札:3枚

 場:モンスター

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「俺だって、梓への思いは同じだ。万丈目! お前しかあいつのことを許してやれないわけじゃない! 俺だって見せてやるぜ。俺が、梓を許せるだけの決闘者だってことをな!」

「ならば俺を倒してみるが良い! 俺のターン!」

 

万丈目

手札:3→4

 

「『強欲な壺』発動! カードを二枚ドロー!」

 

万丈目

手札:3→5

 

「『アームド・ドラゴンLV7』の効果! 手札のモンスターカードを一枚捨て、その攻撃力以下の相手の場にもいるモンスター全てを破壊する! 俺は、『闇より出でし絶望』を捨てる! 攻撃力は2800! エッジマン及び、バブルマンは破壊される! ジェノサイド・カッター!」

「罠発動! 『エッジ・ハンマー』! エッジマンを発動コストに、効果発動! 相手モンスター一体を破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

「なに! ぐぁああ!!」

 

万丈目

LP:3700→900

 

「く……だが、これで貴様の場はガラ空き! 『アームド・ドラゴンLV7』の攻撃! アームド・ヴァニッシャー!」

「うわあああああああああ!!」

 

十代

LP:3500→100

 

「そしてメインフェイズ! 魔法カード『レベル調整』発動! 相手はカードを二枚ドローする!」

 

十代

手札:0→2

 

「その後、墓地に眠る『LV』と名の付くモンスターを、召喚条件を無視して特殊召喚する! ただし特殊召喚したモンスターはこのターン効果を無効にし、攻撃できない! 俺が呼び出すのは、『アームド・ドラゴンLV7』!」

 

『アームド・ドラゴンLV7』

 攻撃力2800

 

「更に魔法カード『貪欲な壺』! 墓地のモンスター五体をデッキに戻し、カードを二枚ドローする! 俺が戻すのは、こいつだ!」

 

『アームド・ドラゴンLV3』

『アームド・ドラゴンLV3』

『アームド・ドラゴンLV5』

『アームド・ドラゴンLV5』

『アームド・ドラゴンLV7』

 

「デッキに戻してシャッフルし、その後、カードを二枚ドロー!」

 

万丈目

手札:2→4

 

「魔法カード『死者蘇生』! 墓地の『アームド・ドラゴンLV5』を特殊召喚!」

 

『アームド・ドラゴンLV5』

 攻撃力2400

 

「そして、魔法カード『レベルアップ!』! 『アームド・ドラゴンLV5』を、『アームド・ドラゴンLV7』へと進化!」

 

『アームド・ドラゴンLV7』

 攻撃力2800

 

「カードを二枚セット! これでターンエンドだ!」

 

 

万丈目

LP:900

手札:0枚

 場:モンスター

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   『アームド・ドラゴンLV7』攻撃力2800

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

    セット

 

十代

LP:100

手札:2枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

 苦労してアームド・ドラゴンを減らしたのに、もう三体に戻りやがった。

「俺のターン!」

 

十代

手札:2→3

 

 何だかいつも以上にワクワクするぜ!

「『ホープ・オブ・フィフス』発動! 墓地のE・HERO五体をデッキに戻し、カードを二枚ドローする! 俺は、この五枚をデッキに戻す」

 

『E・HERO ワイルドマン』

『E・HERO エッジマン』

『E・HERO ワイルドジャギーマン』

『E・HERO フェザーマン』

『E・HERO バブルマン』

 

十代

手札:2→4

 

「魔法カード『スペシャルハリケーン』発動! 手札を一枚捨てて、特殊召喚されたモンスター全てを破壊する! 三体の『アームド・ドラゴンLV7』を、全て破壊だ!」

 

十代

手札:3→2

 

「くぅ……だが想定内だ! リバースカードオープン『禁じられた聖槍』!」

「うぉ! 何だ!?」

 万丈目の宣言と同時にでっかい槍が現れて、それがアームド・ドラゴンの一体にぶっ刺さった!?

 

『アームド・ドラゴンLV7』

 攻撃力2800→2000

 

「フィールド上のモンスター一体を、このターン攻撃力を800ダウンさせ、このカード以外の魔法・罠の効果を受けなくする!」

 くそ、一体残っちまったか。

「更に、速攻魔法『非常食』! 自分フィールド上の魔法、罠カードを墓地へ送り、墓地へ送った枚数につき1000ポイントのライフ