アクセル・ワールド ガーネットの輝き (ニヒト)
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Prologue 過去

アニメから入って、原作を読み始めた新参者です

文章力ないし、スランプ脱出のための息抜きだし、超絶亀更新ですがこれからよろしくお願いします!

まぁ、まずはプロローグですが


―これは、何?なんで僕にこれを?

 

―そうだねぇ……うん、なんとなく

 

―な、なんとなくって……

 

―まぁ、あたしと君は似ている気がしたんだ。自分の意思とは関係なく、自分の大切なものを失う悲しみが……

 

 

 

―僕の夢は、相互救済レギオンを作ることなんだ

 

―なんだそれ?普通のレギオンとはどう違うんだ?

 

―この世界に関わる皆が、安心してこの世界を楽しめるようにするためのレギオンさ。そうすれば、あんな悲しい別れもなくなるはずだからね

 

―……ぷっ、あはははは

 

―な、何さ!笑うことないだろ!これ話したの君が初めてなんだぞ!?

 

―ごめ、ごめん。お前らしい真っ直ぐな考えでつい、な

 

―良いさ、もう……君には失望したよ。これは僕一人で実行するさ

 

―そんな怒るなって、悪かったって。……もしそのレギオンを作る時には、一番に俺を加入させろよな

 

―え!ホントに!?でも今のところ僕と君の二人だけだよ?第一メンバーが集まるかどうかも分からないのに

 

―それがどうした、俺達が頑張ってメンバーを増やしていけば言いだけの事だしな。それに、俺達はパートナーだろ、――。

 

―う、うん!僕達はパートナーだしね!そうだよ、ね……パートナーだからね

 

―え、まさか俺とのパートナーに不満が!?俺なんかしたっけ……

 

―いや、あの、その僕さ、君の事を……

 

 

 

 

―なんで……なんでアイツがいなくならないといけないんだよ!

 

―……ああするしかなかった、それは君にも分かっているはずだ。ああなった以上、こうするのがここでの掟だ

 

―ふざけんな!俺は、あいつの夢を叶えてやりたかったんだ!それを、お前が奪ったって言うのが気に入らないんだ!

 

―……君の言い分は聞くに堪えない。この事は無かったことにしてやるし、見逃してやる

 

―待て!ふざけんな!待てって言ってるだろ!…があああああああああああああああ!!

 

 

 

 

―ゴメン、今日限りでこのレギオン抜ける。リアルでのこともあるけど、この前のこともあるしな

 

―な、何を言っているんだ!確かに彼のことは残念だが、君は関係ないはずだ!君がすべて背負い込む必要はない!

 

―関係あるとかないとかは関係ない。……それになあいつを見捨てたお前らなんて、もう仲間なんかじゃない

 

―!?貴様……!それは本気で言っているのか?!

 

―さぁ、どうだろうな……ほら、別に断罪してもかまわないぞ?その方が気が楽だしな

 

―っ!勝手にしろ!君はもう、うちのレギオンには所属していない!断罪はよしてやる!

 

―あぁ、そうか……ごめんな

 

 

 

彼は今までに様々な悲しみを背負ってきた

だが、それでも彼は進み続ける。これは、そんなバーストリンカーのお話



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Challenge 挑戦

 夕方、普通ならこの時間帯は夕日によって風景が普段の色から赤みがかったオレンジ色に変わる。

 しかし、今俺の目の前に広がる風景はそんな穏やかなものではなく、ビルや家は崩れ落ち、周りに存在する電気自動車からはゆらゆらと黒煙と炎が立ち上る。

 そして最も異なるのは、現実ではありえないほど巨大な生物達であった。

 見た目こそ広島の宮島に生息しているような鹿に近いが、大きさが全く違う。

 一番小さいのでも6メートル、集団の長と思われる二対の角を持っている個体はゆうに20メートルは超えている。

 もし現実でそんな物が存在していればかなりのニュースになるし、俺も悠長に見ている場合じゃない。

 でも俺はそこまで考えた上で、俺は逃げようとは微塵も考えなかった。何故か?

 理由は単純、ここが現実ではなく仮想の空間だからだ。

 その証拠に、俺自身の身体も普通の人間とはかけ離れた外見をしている。

 体色は右肘から先の部分以外は少し紫に近い赤で、右肘から先は暗い紫色をしていて、見た目は一昔前のロボットアニメのロボットみたいな機械的なフォルムだ。

 先程の大きな生物も今の俺も作り上げられた仮想的な物で、先程の生物は『エネミー』と、今の俺の姿は『アバター』と呼称される。

 さらに詳しく言うと、先ほどのエネミーは『小獣(レッサー)級』と呼称されるタイプでエネミーの中では比較的弱い部類に入るがそれでもかなり強く、基本的にソロで倒すにはかなり骨が折れる。

 そんな事を考えている内に巨大な鹿が俺の隠れているビルの前を通り過ぎるのを確認する。

 

「よし、通りすぎた。二人とも出てきて良いぞ」

 

 確認してすぐさま、俺は柱の陰に声をかける。

 すると柱の陰から二人の人影が姿を表す。二人とも俺とは対称的に、女性的なスタイルのアバターだ。

 二人の紹介としては深い緑色で、小柄な体に不釣合いなほど大きな盾を背負っている方が『イル』、俺の妹だ。

 もう一人の薄い黄色で、先ほどの緑のアバターよりも少し背が高く、すらっとした体型が特徴的な方は『ミラ』だ。

 ちなみに俺の名前は『アント』、決して蟻ではないし本名でもない。

 

 

「うー……ほんとにやんの?」

「今更それを言うか。さっきこの事を言ったら二人とも乗り気だったじゃん」

「いや、あれはその時の場の空気というので、本気でゆうたわけじゃ」

「そうだそうだ!兄ちゃんと違ってあたし達はか弱い女子なんだぞ!」

「ミラはともかく、そんな馬鹿でかい盾を背負ってるお前が何を言うか」

「うっさい!これはあたしの相棒だもん!兄ちゃんの銃と一緒だよ!」

 

 あ~、我が妹ながらうるせぇな……甲高い声で叫ぶんじゃねえよ。

 そんな話し合い(?)をしていると、先程の集団からはぐれてしまったらしい小さな(とはいっても4mはある)個体が一匹、ビルの前を通り過ぎようとしていた。

 それを見た俺は(表情を変えることは出来ないが)口元をつり上げると、はぐれた『エネミー』を指差しながら目の前の二人に話しかける。

 

「よしちょうど良い、今からあのエネミーを二人で倒して来い」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!』

 

 俺がそう軽い感じで言うと、これまた甲高い声で叫ばれる。

 エネミーに見付かってしまいそうだと思い窓から少し身を乗り出して確認するが、ちょうど水を飲んでいたようで、こちらに気づいた様子はなかった。

 

「お前ら、そんな大声出すんじゃねぇ!見つかったらどうすんだよ!?」

「そういう兄ちゃんこそ声おっきいよ!」

「まぁまぁ、アントもイルも落ち着いて。でも、流石に二人だけじゃ無理ちゃうん?」

「はぁ、はぁ…確かに小獣級を二人だけではきついだろう。だから」

 

 そこまで喋った上で、俺は上を指差しイルもミラもそれに吊られて上を見るが、俺の意図が分からなかったようで首をかしげていた。

 

「……このビルがどうかした?」

「このビルって結構大きいだろ?それを利用するんだ」

「……すいません、ようわからんのじゃけど」

「だーかーらー、屋上は周りが見えやすいだろ?俺はこのビルの屋上でお前らを見ておくから、ピンチになったら援護するよ」

 

 

 

 

 

 

「って言ったはずなんだけど……あいつらどこ行った?」

 

 そう俺は先ほどまで姿を隠していたビルの屋上でため息をつきながら景色を眺める。

 つい十分ほど前、イルとミラの二人をエネミー狩りに向かわせたのだが、ものの数分で見失ってしまった。

 この辺りは今俺が屋上にいるビルと同じくらいの高さのビルが多く立ち並ぶ様な場所ではあるが、見失うなんて事はないはずだ。

 もし、二人がエネミーを倒すのに苦戦していたとしても、イルの攻撃はかなり目立つから直ぐにわかるはずだ。

 まぁ、その目立った攻撃が無いから二人を見つけられないわけだが。

 

「はぁ、しょうがない。たいぎいがビルから降りて探―」

『待てええ!!』

「―す事もなさそうだな……いったい何してたんだあいつら」

 

 二人を探し始めようとした時、いつ聞いてもうるさい妹の声にもうひとつのカン高い声が混ざりあい大きく一帯に響き渡る。

 声の発生源と思われるビルの陰に視線を向けると、先程の小さなエネミーがかなりの勢いで走ってくる。

 そしてその後を追うようにイルとミラが、これまたかなりの勢いで走っていく。

 今の様子を見ると、どうやら二人は必死に逃げるエネミーを十分間も追いかけていた様だ。

 そんな様子を見て俺は呆れよりも先に、二人が無事だった事に少し微笑みながら安堵する。

 

「まぁ、初めてのエネミー狩りはこんなもんか?これ以上待ってたらかなり時間がかかりそうだし、そろそろ援護でも……はぁ、今度は何だ?」

 

 考えを実行に移そうとしていた俺は、背後からの視線に気付き今まで腕を乗せていた手すりから手を離し、振り返る。

 今まで見ていた方向の正反対、つまりビルの裏側には今まで無かったはずの茶色の壁が現れていた。

 いや、良く見ればその茶色の壁は動物の体毛に覆われており、それがいったい何なのか理解するのに数秒要した。

 その壁の正体は先程まで近くに留まっていたエネミーの群集の長と思われる個体だった。

 どうやら先程から二人が追っている個体が居ないことに気付き、心配で引き返してきた様だ。

 そんな時にさっきのエネミー狩りの現場を見て怒り心頭らしく赤い目はギラギラと光り、体は小刻みに震えている。

 そんな長エネミー(今命名)に、言葉が通じないと分かっていながらも俺は声をかける。

 

「いやー悪いね、これもうちの弟子二人の成長のためなんでね」

『グルルルル…』

「そんな怖い顔はよしてくれって。手を出してきたら、お前も倒さなきゃならなくなるしさ」

『グルルルル、グォォォォ!!」

「おわ、あぶねぇ!」

 

 長エネミーが急に咆哮を挙げると、その頭に付いている大きな二対の角を勢い良く俺が居た手すりの辺りに降り下ろす。

 俺は素早く反応し体を回転させながらかわすが、角が降り下ろされた衝撃で屋上の半分程が崩れ落ちていく。

 そんな状況でも俺は半分笑いながら再び長エネミーを見つめる。

 

「おいおいマジでやんのかよ、俺もソロでエネミー狩るの久しぶりなんだけど……まぁ、しゃあないか。『Set up』」

 

 俺がそう呟くと、両手の辺りに赤い光の粒子が漂い始める

 そして、少しの間をおいて光の粒子が俺の両手に集まり、アバターよりも鮮やかな赤を纏った双銃が現れる。

 形状的にはリボルバーではあるが、少し長めのバレルが特徴的な銃だ。

 まぁ、こんな形状にしたのは俺なんだけどさ。

 俺は相棒である双銃を握りしめながら、長エネミーを睨み付けながら声をあげる。

 

「さぁ、狩りの始まりだ!」



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Anxiety 心配

「ふぃ~……」

 

 そんな声を無意識のうちに漏らしながら俺、風見(カザミ)俊弥(シュンヤ)はBBの仮想世界から現実世界へと帰還した。

 先ほどまでの殺伐とした雰囲気ではなく、いつも見慣れた青を基調とした自分の部屋の心地よさを感じつつ目の前の様子を確認する。

 その目の前には俺と同じく意識が戻った様子の長い黒髪の少女と、いつも見慣れた茶色のセミロングの二人の女子がいた。

 俺の視線に気付いたのか、俺の妹である(ツカサ)がニヤニヤしながらこっちを見てくる。

 

「なぁに兄ちゃん、あたしらをじろじろ見てきて。もしかしてあたしの魅力に圧倒されて惚れちゃった?」

「あほ、残念系美少女に惚れるほど俺は落ちぶれてない」

「兄ちゃんひどい!那澄ちゃんのこといじめないでよ!」

「…え、うち?」

「那澄が該当するのは美少女だけだ。残念系には該当しねぇよ」

「何故だ!?あたしと那澄ちゃんの間に、そんな差はないはず!」

「そういう所が残念だって言ってるんだよ、自覚しろ」

 

 そう弁明すると、何故かもう一人の帰還者である斑鳩(イカルガ)那澄(ナスミ)は頬を朱に染めながら両頬に手を当てうっとりとした表情を作り出していた。

 

「そんな……まさかシュンさんが告白してくれるなんて……」

「あぁ、また那澄の乙女スイッチが入っちまった。俺はただ"美少女"って言っただけなのに……どうしよ」

「お~い、那澄ちゃ~ん?戻ってこ~い」

「えへへ~」

「あ、これは重傷だね」

 

 そんな感じで明るく戯れ合っていたが、少し雰囲気を真面目モードにしつつ会議を始めようとする。

 が、万が一うちの母親(別の部屋で作業中)に聞かれてしまう可能性が否めないため、ニューロリンカーの機能のひとつである≪思考発声≫によって会話を始める。

 

 

 ニューロリンカー─そう呼ばれる通信端末が登場したのが15年前の2030年、俺の生まれる前の年のことだ。

 これは人間の首に装着する通信端末であり、現在では旧時代の≪ケイタイデンワ≫なる通信端末のように一人一台に普及している。

 この端末により、脳細胞と無線通信を行うことで仮想空間を体験したり、医療の現場でも健康のチェックに利用されるなど多方面の活躍がされている。

 今俺の首に装着されている暗い赤のニューロリンカーも俺が生まれつき体が弱かったために、出生直後からの付き合いだ。

 そのおかげで身体のチェックを逐一行えたり、体を動かす際のアシストによって日常生活に支障がないくらいの動きが出きるようになっている。

 実際にはさっきまでの様にそれ以外の用途でも使用しているが、それは今現在では俺と士と那澄三人だけの秘密だ。

 

『(で?どうだった?初めて二人でエネミーを狩ってみた感想は)』

『(キツかったに決まってるでしょ……兄ちゃんと違って、あたしと那澄ちゃんはまだレベル5と4なんだし)』

『(それにシュンさんは遠距離型で攻撃力があるのに、うちと士ちゃんは間接と防御だから攻撃力は低い、ないしはゼロに等しいし……)』

 

 どうやら自分たちのアバターの攻撃力が低いことを気にしていたらしい。別にそれが個性なんだから関係ないと思うが。

 俺は慰めるつもりで二人に手を伸ばし、両手で頭を撫でる。

 

『(でも俺はよくやったと思うよ?初めてにしてはなかなか上出来だった)』

『(え、えへへ、そ、そうかな?)』

『(あぁ、頭を撫でられるなんて……これが愛の営みなのですね)』

『(いや、違うから)』

 

 那澄が憮然とした表情をこちらに見せてくるが、経験上スルーしておくに限る。

 他愛もない話しつつ、俺は思考発声にならないように一人で頭の中を巡らせる。

 

 先ほどの狩りでは、俺が長エネミーを倒した後に再び様子を見に行ったらかなり苦戦して二人共息がかなりあがっていた。

 結局俺がアシストでエネミーの足を止めて二人がトドメをさすという感じで収まった。

 まぁ、通常ソロでエネミーを狩る際は≪ハイランカー≫と呼ばれる部類(この部類には俺も含まれる)になりたての奴でも苦戦する位のレベルだし。

 那澄はおろか、士でさえまだのハイランカーの部類には入れるのはまだ先の事になるだろう。

 だから俺が今までは率先して前に出てエネミーに攻撃をして、二人には基本的に後方からの支援をしてもらっていた。

 

(だからこそ、俺が手助けできない状態になったら二人はどうなってしまう?)

 

 さっき言ったように、この二人のアバターはお世辞にも攻撃に向いてるとは言えない。

 もし今後二人でエネミーを狩るような事態になってしまった場合、そして可能性としては低いが強力なアバターに襲われたら……。

 一人でぐるぐると頭を回転させていたとき、ふと那澄の薄い黄色のニューロリンカーに目がいく。

 そしてある方法を思いつき、その事を話すため二人に声をかける。

 

「二人とも、ちょっと提案があるんだが」

『はい?』

 

 急に思考発声では無く、自分の口から言葉を発したのが不思議だったのか、心底不思議そうな顔をする那澄。

 士も驚いたのか、丸い目を大きく見開きこちらを注目してくる。

 

「那澄、『子』を作ってみるか?」

 

 その言葉を口にした途端、頬に衝撃を受けながら俺の意識は途絶えた。



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Finding 発掘

今回も短い上に導入ですが、どうぞ


 昼休憩の時間

 生徒が足早に教室を出ていく流れに乗り俺は一度図書室に寄り、上級生の教室を避けながら校舎の屋上に向かう。

 俺の通う私立城ヶ崎大附属学校はこの近辺でも有数の名門校で、全国各地に姉妹校を持つ超進学校だ。

 そんな格式のある学校ではあるが、校風はかなり自由で生徒を第一に考えている。

 今向かっている屋上もその一つで、生徒のリフレッシュの為にテラスの様な構造になっており昼休憩等の時間には沢山の生徒で賑わう。

 屋上に到着しテラスを眺め、士と那澄の姿を確認し二人の座っているテーブル近づく。

 

「兄ちゃん遅い!昼休みになったらすぐに来るように行ったのは誰だっけ!?」

「ごめん、ちょっと本の返却行ってから三年の教室通らないようにしてたから」

「あ~、もしかしてそれって中等部の生徒会長さんに見つからんため?」

「そう……昨日修学旅行から帰ってきて絶対に絡んでくるからな~。もし俺が三年になってもあの人高等部に行くから結局は弄られるけど」

「そんなん理由になるかあああああ!美少女二人を待たせておいて、それだけで済むと思うなよっ!」

「まぁまぁ、士ちゃん落ち着きなって。もし会長さんに見つかったら、またシュンさん女装させられてたんだよ?:

「そうだそうだ、俺だってもうあんなカッコしたくないんだよ。士は那澄位のおおらかな心を持ちなさい」

「ぐぬぬ……!那澄ちゃんめぇ……そういうところでポイント稼いでるのかっ!」

 

 士が歯をギリギリしながらこちらを見てくるが、この際無視!いちいち反応してたらこっちが疲れるし。

 そういえば話の中にもちょっとあったが俺はこの学校の中等部の二年生、対する士と那澄はこう見えてまだ初等部の六年生だ。

 そして何故初等部である士と那澄が中等部の校舎屋上にいるのか。

 それはこの学校の校舎が初等部から高等部まで、ちょうど漢字の『((日)』の様な構造によって繋がっているからだ。

 理由としては、年齢という垣根のない交流を目的としている…らしい。

 まぁ、私立だからこその造りなんだろうけど、まるで遊園地の建物みたいだから最初何がなんだか分からなかった。

 ある程度話込むと、那澄がポケットから細長く、黒光りするものを取り出す。

 その正体はXSBケーブルといい、ニューロリンカーの直結通信を行う為に使用されるものだ。

 直結通信を行う場合、ニューロリンカーに設定されたセキュリティの九割が回避される。

 そんなためか、学校等の公共の場において異性間で直結を行うというのは、二人が付き合っている事を公言しているような行為である。

 最初の頃は那澄も直結に躊躇ったりしてたのに、今じゃ自分から差し出すようになったもんな。

 那澄が差し出したケーブルを士のニューロリンカーに接続し、さらに士と俺のニューロリンカーを相互に繋ぎあわせる。

 そこから思考発声により会議を始める。

 

『(さて、候補は見つかったか?)』

『(……それより兄ちゃん、先に一つ聞いていい?)』

 

 話を切り出してすぐ、士が神妙な面持ちで俺に質問を投げかける。

 いきなり出鼻をくじかれて内心へこむ俺だが、一応議長を務めている身なのできにせず進行していく。

 

『(なんだよ改まって、どうした?)』

『(何で急に”子”の話が出てきたのさアレ以来ずっとその事は話さなかったのに)』

『(え?いや、特に理由は……)』

『(嘘、どうせ昨日のエネミー狩りを見て、私達に加えてもう一人居たら……とか思ってるんでしょ)』

『(う……)』

 

 流石は士、親の次に付き合いが長いだけの事はある。

 

『(うちらが頼りないから?頼りないから、新しく人を増やすんです?)』

『(いや、決してそんなわけじゃないぞ)』

『(まさか、また自分勝手に決めて居なくなろうとしてるんじゃないの?それだったらあたしは絶対に反対だよ)』

『(……)』

 

 その言葉に対し俺は言葉を失い、思わず顔を俯ける。

 

 去年の5月俺と士は母親の仕事の都合で東京からこの広島にやってきた。

 その頃の俺は、ある出来事をきっかけに精神的に追い詰められ、全てを士に引き継がせ逃げ出そうとした。

 だが士はそれを拒否し、俺にこのままでいろと諭した。

 だが俺はそれでも納得出来ず、結果として那澄まで巻き込む結果となってしまった。

 それから一年と少し経った今では全くその気持ちは無く、寧ろ今の心持ちは全く逆。

 

『(そんなことは無い。あれから少しは気持ちを落ち着ける事も出来たし)』

『(……そっか。なら良いや~)』

 

 先ほどまでの真面目口調は何処へやら、いつものだらけた士に戻る。

 それを見た那澄が笑みを溢しながら、俺に向かってデータを送信してくる。

 ちなみに候補としての条件は最低条件は『(二人の友人であること)』だけだ。

 理由は単純、二人の友達以外だったら俺も二人も中々信頼できないからな。

 

『(この子が”子”の候補なんじゃけど……)』

『(どれどれ……え゛)』

 

 その候補のデータを見た途端、俺は思わず声をあげそうになるのを堪えつつ改めて聞き直す。

 

『(候補って、マジでコイツ?)』

『(マジです♪)』

 

 滅茶苦茶良い笑顔で返された……こりゃ駄目かもな。

 そう考えつつ椅子にのけぞり見上げた空は、梅雨時に似合わない晴天だった。



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Remove 再動

 BB―正式名称:BrainBurst2039

 そう呼ばれるアプリケーションが配布されたのは、今から5年前の事

 当時小学校に上がりたての一年生100人に正体不明の製作者がもたらした一つのプログラム、それがブレインバーストだった

 製作者不明、目的も不明、ただ一つ言えるのはこのプログラムが人知を超えた物だと言う事

 そんなプログラムであるBBは、もちろん販売しているものではない

 このプログラムを自分のニューロリンカーにインストールするには、プログラムがインストールされたニューロリンカーとの直結通信でのコピーインストールしかすることが出来ない

 前にも言ったが、直結は異性間で行えば付き合っている事を公言してるもんだし、同性間でも思春期の子供(特に女子)はかなりの抵抗がある

 だから――

 

「同性とはいえ直結とか嫌だって!」

「大丈夫だよ颯ちゃん。……痛いようにはしないから」

「直結で痛いって何?!絶対やだからね!」

「またシュンさんの部屋に来ちゃった……きゃっ♪」

『青春スイッチならぬ乙女スイッチオン!?』

 

 直結を嫌がって暴れるのは良いけどさ、ここの俺の部屋だからさ……

 

「お前ら!騒ぐなら俺の部屋以外でやれ!」

 

 

「うぅ……痛い」

「強制的に連れてこられただけなのになんでうちまで……」

「~♪」

「ゼェ……ゼェ……大体、お前らが、騒ぐのが、悪いんだっての……」

 

 というわけで現在、三者三様の反応をみせる小学6年の女子を正座させての説教タイム中

 眼前にニューロリンカーから脈拍が異常だという警告表示が出ているが、これは俺の体力がかなり低いのが原因なのでスルーする

 

「ハァ…、大体二人とも颯にはちゃんと説明したのかよ」

「いや、ほとんどなんにも」

「兄ちゃんが全部説明してくれるって言っておいたし」

「そうなんよ!シュンが全部説明するからって二人に有無を言わさず連行されてきたんよ!?」

「うわぁ、俺に全部丸投げかぁい」

 

 ちゃんと説明しておけって言ったのに、結局俺が説明するのかよ。めんどくせぇ

 あ、そういえば昨日のメンバーから増えた一人について説明しないとな

 俺を”シュン”と呼んでいたのは鈴代(スズシロ)颯(ハヤテ)と言って、士と那澄の同級生

 短く切り揃えられた髪と日焼けした肌が特徴的だが、颯はソフトボールで全国に行く程の運動神経の持ち主だ

 こいつが二人の連れてきた候補らしいんだが……

 

「はやてには無理なんじゃないか?」

「なんで連れてこられたかも分からないのに、なんでうち自身を否定されとるの!?」

「兄ちゃんひっど~い」

「あ~ほんとにめんどくせぇなぁ」

 

 もう一々言われるのも嫌なので俺は椅子から降り、正座しているはやての両肩を掴みかかる

 

「ちょ、何するん!?」

「はやて、よく聞け」

 

 俺が肩を掴むとすぐにはやては俺の手を振り払おうとする

 が、俺が真剣な口調ではやての目を見つめると、大人しく抵抗を止める

 それを確認した俺は普段は出さないような表情で話を続ける

 

「今からお前のニューロリンカーに、あるプログラムを送ろうと思う。インストールするかどうかはお前次第だが、これだけは言える。このプログラムをインストールする事が出来れば、おまえの人生は大きく変わる事になる……さぁ、どうする?」

「なんか、大層な話じゃけどそもそもなんでうちなん?」

「ん?あぁ、インストールするためにはいくつか条件があるんだがな……でもやっぱ、はやてなんかじゃ無理かもな」

 

 プチッ!

 何かが切れるような音

 

「へぇ、うちには出来んみたいにゆうじゃん」

「ん?いやぁ、士と那澄には出来たけど、お前じゃな~」

 

 ブチブチッ!

 再び何かが切れるような音がするが、どうやら音の発生源は颯らしい

 颯は肩に乗っていた俺の両手を振り払うと、腰に両手をあてながら高らかに言い放つ

 

「ゆうてくれるじゃん!ええよ、そのプログラム、インストールしてみせようじゃん!」

 

 後ろに『バァン!』と、効果音や背景が出そうな位堂々と胸を張る

 ……単純な奴だな、相変わらず

 そう頭の中で考えるが、口に出せばいちいち怒鳴られるので黙っておきつつ、俺は自分の机の引き出しからある物を取り出し颯に手渡す

 その黒く長細いそれは、ニューロリンカーを直結通信させるためのXSBケーブルだった

 

「ほい、それを使って那澄と直結しな」

「……もしかして、さっきからうちと直結させようとしてたのってそのプログラムをインストールさせるためじゃったん?」

「正解だよ、颯ちゃん!さぁ、レッツ直結!」

 

 頼むから士はちょっと黙っててくれ……疲れるから、ほんとに

 

 

 そんなやりとりがあって数分後、乙女モードに入って話を聞いていなかった那澄を現実世界に引き戻し、直結でのインストール準備に取りかかる

 それを眺めていた俺に、士が思考発声で話しかけてくる

 

『(兄ちゃんさっきは颯ちゃんをうまく誘導したね~)』

『(あ?何の事だかさっぱりなんだが)』

『(とぼけちゃって。颯ちゃんは負けず嫌いだから、あんな感じで"無理だ"って強く言えば必ず自分からやるって言い出すからね~)』

 

 ……ほんとに士はどうでもいい時に鋭く物事を見てくるよな

 事実、俺はさっきの颯との会話では少し怒らせる様な会話をしていたが、その方が話が進みやすいと判断したからだ

 でもその事を士本人に言えば必ず調子にのってまたテンションを上げてくるので、俺は無言を貫く

 その無言をどう解釈したのか分からないが、士は視線を目の前に正座しながら向かい合っている二人にに変えた

 ちょうど那澄が颯にプログラムを送ろうとしていたところのようで、伸ばした人差し指で何かを颯に滑らせるように空間をなぞる

 するとケーブルを経由して無事届いたらしく、颯が一瞬肩をすくませ、たった今届いたプログラムを改めて確認する

 

「えっと……『BrainBurst2039』?」

「そう、それがお前の人生を変えるチケットだ。今ならまだ引き返せるぞ?」

 

 俺は最終確認のつもりでこう言うが、それに対して颯はムッっとした表情でこちらを睨んでくる

 

「何だよその目は」

「べっつに~、うちは一度言った事は曲げる気はないし」

 

 そう言いながら颯はイエスボタンがあると思われる位置をぎこちなく押す

 しかしボタンを押してすぐに、肩を竦ませ慌て始める

 実はBBをインストールするための適正をチェックするために、インストールを行う際、視界全体に仮想的な炎が上がる

 適正が無ければ炎を見ること自体不可能なので、颯には一応適正があるということだろう。二人が連れてきた時点で最低条件は満たしてはいるだろうけど

 そこまで一人で考えていると再び士が思考発声で話しかけてくる

 

『(とりあえず第一関門は突破したみたいだね。第一条件はクリアしていたとはいえ、ヒヤヒヤしたよ~)』

『(連れて来たのに何無責任なこと言ってるんだよ)』

『(え~、いいでしょ別に~。それよりも兄ちゃんは成功と失敗、どっちだと思う?)』

『(露骨に話を逸らすな。……まぁ、可能性としては五分五分だろうな。もう一つの条件のほうが微妙だし)』

 

 さっきから条件がどうと言っているが、実はBBインストールには二つの条件がある

 まず第一条件、『ニューロリンカーを出生直後から装着していること』。これがもっとも重要な条件

 そして第二条件、『大脳の応答速度』なのだが、これが一番厄介だ

 これは色々と話していると長くなるので簡単に説明すると、ニューロリンカーと大脳との反応がどれだけ速いか、反射神経がどれだけ優れているかだ

 第一条件は二人に確認を取らせているから大丈夫だろうが、第二条件には厳密な基準が存在しないので確実なことは言えない

 ゲームが苦手な奴でもインストールできたという話は聞くが、颯は機械音痴の上に何故か旧時代のテレビゲームをするとすぐに酔ってしまう

 そんなハンデがあるから候補リストに颯の名前を見たときに迷ったんだが、颯は二人とかなり仲が良いし俺との面識もあるから賛成した

 だがこれでもし失敗したら……いや、よしておこう。失敗したとしたら俺が二人とも独り立ちさせるくらいに鍛えればいい話だから

 数十秒の後インストール作業が終了したようで、颯がゆっくりと肩の力を抜いていく

 

「えーと、なんて読むんこれ?う、うぇるかむとぅー……」

「"ウェルカムトゥ・ジ・アクセラレーッテッド・ワールド"、な。ま、それが見えるのなら成功したってことだな、おめでとう」

『いえーい!!ヤッター!!』

 

 素っ気無く祝福の言葉をかける俺とは対照的に、士と那澄はハイタッチしながら喜ぶ

 なんかまた俺の心配事が増えそうな予感。いや、予感じゃなくて確信か

 

「おら、颯に説明するから騒いでないで二人とも準備しろ」

『はーい』

 

 俺が話しかけると珍しく素直に言うことを聞き、那澄のニューロリンカーを士と繋げ、士のニューロリンカーに接続されたXSBケーブルを俺に渡してくる

 やっぱり"子"が出来ると嬉しいのか?俺の場合は……もうずいぶんと前の事だから忘れてしまったな

 内心で思考を巡らせながらも俺は士から手渡されたケーブルを自分のニューロリンカーに接続しながら、机から今の世の中で滅多にお目にかかれない『500円玉』取り出す

 そしてその硬貨を人差し指で抑えた親指の上に乗せ、颯だけでなく士と那澄に思考発声で話しかける

 

『(二人は分かっているだろうからあんまり言わないけど、颯はカウントの後に俺たちが叫んだ言葉と同じ言葉を遅れずに言うんだ)』

『『(ハーイ!)』』

『(うん……でもこれから何をするん?全く説明がないのに)』

『(時間はたっぷりあるし、説明はこれからするよ。絶対に遅れるなよ?3・2・1!)』

 

 カウントが1になり0と言う代わりに、俺の人差し指で抑えていた親指をはじくように離す

 その反動で親指に乗っていた硬貨が空中に舞い、それが最高点に達したところで俺たちはあの世界へと行く魔法の言葉を叫ぶ

 

『バーストリンク!』



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Practice 実践

お久しぶりです、ようやく書き終わりました

今回の話で加速世界、四人のデュエルアバターの名前を出すことが出来ました

能力とかは次回以降ちょっとずつ出していこうと思います

次回は戦闘シーン…大丈夫かな?


『バーストリンク!』

 

 俺たち4人がほぼ同時にその言葉を叫び耳元に衝撃音が響くと共に、自分の視界に移る物が蒼く染まり、さきほど飛ばした500円玉や俺たちの身体の動きが緩やかになる。

 そして動きが緩やかになった俺の身体から、ローカルネット用アバターとして使用しているデフォルメされた二足歩行の狼が出て来る。

 出てくるとは言っても、現在意識はアバターにあるので違和感のある言い方ではあるが、仕方がないということにしておこう。

 他の三人も同様に各々のアバター、妖精、忍者、フランケンシュタインが現れる……いつ見ても威圧感が半端じゃないな、那澄のフランケン

 BBをインストールする前からあのアバターだし、前に何故フランケンなのか聞いたら「可愛いじゃないですか」って真顔で言われたし。

 やっぱり那澄の感性はいまいち分からん

 

「何これ!?どうしてうちが目の前にいるん!?てかなんで『完全(フル)ダイブ』もしていないのにローカルネットのアバターに!?」

 

 この情景を初めて見る颯が何やら騒ぎ立てている。こういう反応はなんだか懐かしい。

 ちなみに颯が口にした『完全(フル)ダイブ』というのは、通常視聴覚に作用しているニューロリンカーの機能を体の全神経に作用させ、アバターを介しての仮想空間を体感することが出来るようにする事だ。

 しかし、今現在起こっている現象は『完全(フル)ダイブ』によるものではなく、先ほど颯がダウンロードに成功し俺たち三人のニューロリンカーにもある『ブレインバースト』プログラムによって引き起こされている。

 

「なんでうちアバターになってんの!?なんでこんな周りが青くなってんの!?結局さっきのプログラムって何!?」

「やかましい!これから説明するから一度に何個も聞くな!」

 

 颯がここに初めて来た人として、普通の反応を見せるがちょっと五月蝿かったので音量を下げさせる。

 さすがに自分が騒ぎすぎたことを自覚していたのか、少し静かになる颯

 それを確認しながら俺は颯に少しずつ説明を始める。

 

「さて颯、今この世界について気づくことはあるか?」

「気づく事って……ただ周りが青くなってるだけじゃない?」

「いやもっと他にあるだろ、他に。例えば、この俺達の身体がゆっくりになってるとか」

 

 俺が説明しながらアバターではなく、自分本来の身体を指差す。

 しかしいまいち分からなかったのか、目の前の忍者は頭の上に『?』が出るくらい考え込んでいる。

 だがそういう反応が来るのもある程度予測できていたので、先ほど飛ばし空中を舞っているコインを指差す。

 先程飛ばしたコインはかなり緩やかに、だが確実に回転しながら重力に引かれながら落ちている。

 

「ほんとじゃ、コインがものすごい遅く落ちとる」

「……感想はそれだけか?」

「うん、それだけ」

「……はぁ、まぁ良いか。とりあえず話を進めるな?今起きてる現象は、さっきインストールした『ブレインバースト』によるものなんだ」

「え?じゃあ、今起きているこの現象もさっきのプログラムのせい?でもそこまで凄い事じゃあない気が」

「それは何でそう思うんだ?」

「だってさ、これってただリアルタイムで録画している映像をスローモーションで再生してるだけじゃろ?それなれ別に凄くもなんとも―」

「それは違うよ、颯ちゃん!」

 

 いままで蚊帳の外で会話に参加していなかった士(妖精)が急に大きな声を上げながら、無理矢理会話に入ってくる。

 あ、これはなんだか面倒くさい事が起こる予感

 

「これはリアルタイムをスローで再生してるんじゃなくて、あたしたちの思考が加速しているんだよ!」

「思考が加速?何いってんの?」

「颯、まずニューロリンカーの仕組みは分かってるか?」

 

 現実世界の俺たちの首に装着されている『ニューロリンカー』の仕組み―

 簡単に言えば、俺達が視界に捉えた情景をニューロリンカーが判別し、その情報を量子回線で俺達の脳細胞に直接送ってくる。

 つまりは、俺達が今現在見ている物や喋ること、考えることは全てニューロリンカーを経由して送られてくるというわけだ。

 BBはそれを利用し、ニューロリンカー内で脳内との量子通信を増幅させることにより思考を|加速≪・・≫させる。

 思考が加速されることによって生成されるこの青一色の状態はブルーワールドと言われる加速の第一段階だ。

 第一段階、と表現したのはこれよりも先の状態があるからこその言い回しなのだが、颯はまだこれより先には進めないので、説明だけにしておく。

 

「ふーん」

「さっきから反応薄いな、お前」

「え、結局のところあれじゃろ?ただ視界が青くなって、物事の速度が遅くなるだけじゃろ?」

「……身体と同じで貧相な考えしかないのな」

「誰が貧相じゃ、誰が!うちはまだ成長期だ!」

「そうだそうだ!颯ちゃんはまだ成長しきってないだけだ!」

「士、それフォローになってないし。第一うちよりスタイル良いお前が言うか!?」

「ふふふ、やっぱり二人とも面白いね♪」

「那澄は何笑ってんだぁぁぁ!」

「あーうっせぇ」

 

 相変わらず三人が同時に喋ると、各々テンションがかなり違うから疲れる。

 だが、説明を全て行わないと次のステップに進めないので、自分の身体に鞭をうちながら説明を続ける。

 

「ちょっと俺の机の下を見てみ。面白いもんが見れるから」

「……面白いもんって何?はっきり言いんさいや……」

 

 そう言いながらも机の下に潜り、ちゃんと確認する颯

 そんな素直な部分をいつも見せてほしいよ……まぁ、言っても無駄だろうけど。

 そう考えていると颯が確認し終えた様で、少し不思議そうな顔をしながら戻ってくる。

 

「何これ、机の下がウネウネして気持ち悪い事になっとるけど?」

「さっき言ったように、この世界は仮想的なものだと言ったよな?じゃあ、どうやって仮想的なこの世界を作ってると思う?」

「なんか小学生に聞くような話じゃない気が「それはだな…」おい!うちに聞いてたんじゃないんか!?」

 

 いや、元よりその方面の知識が無い小学生に聞くほど俺もバカじゃないし。

 颯がまだ何か喚いているが、大分時間も押しているのでスルーしつつ、自分の部屋の一点を指差す。

 

「それって……もしかしてソーシャルカメラ?」

 

 ソーシャルカメラ、正式名称はそこそこに長いので割愛するが、現在の日本では治安維持を主目的としてかなりの数が設置されている。

 このカメラ設置は私学でも拒否することは出来ず、そのデータは国家レベルの厳重な警備に守られている……はずなのだが、『ブレインバースト』はそんなソーシャルカメラをハッキングしている。

 かなり大層なことをしているが、それを利用してやっていることは結構しょぼいことなんだがな……。

 

「簡単に言えば、この世界はソーシャルカメラをハッキングして得た画像情報を元に再構成された仮初めの世界だ。だが、ソーシャルカメラの死角になっている部分は再現する事が出来ないから、そんな感じで曖昧に写るんだ。つまり、ソーシャルカメラの視界内に入ってさえいれば、全て再現されるって訳だ」

「ハッキングって大層な話をさらっと言うんか。にしても、視界内に入ってさえいればねぇ……ん?

 

 俺のやる気のなさげな説明を聞いた上で、何かに気づいたのか急に顔を赤くしながら現実世界で正座している士の膝の前で仁王立ちになる。

 

「……颯、お前何してんだ?」

「視界に入ってるのが再現されるのなら、スカートの中も見えるんじゃろ!?見せてたまるか!」

「誰が見るかって」

 

 そう言いながら颯のデコの辺りにデコピンをかまし、その衝撃で颯(忍者)が倒れこむ。

 その後ろで士が「別にあたしは見られても良いけどな~」と言っているがスルーで。

 てか、士。お前は恥じらいという物を覚えろ、精神年齢は無駄に進んでいるくせに。

 最近で言えば風呂に入った後に下着姿で徘徊するのとかはほんとにやめてくれ。

 ……それは母さんにも言える事か。

 

「ほら、痛がってないで早く立て。今日の所はここまでだ」

「え?終わり?さっき言っとた次のステップは?」

「だ~か~ら~、今日の時点じゃお前にゃまだ無理なんだって。はぁ、それじゃ、現実世界に戻るからこれから俺達が言うコマンドに続けよ?『バーストアウト』」

 

 やる気のなさげなコマンドの発声と共に、先程まで青に被われていた世界に色が戻り俺達の意識が自身の身体に戻ってくる。

 そしてつい先程説明のために弾いたコインを落ちきる前に右手で掴む。

 

「…ん?あれ、戻ってこれた?」

「お帰り。早速で悪いが、時計を確認しろ」

「命令口調で言われると腹が立つんじゃけど。……うわ、さっき5分位喋ってたはずなのに全然時間が進んでない」

「これで分かったか?思考が加速するって言った意味を。続きは明日の昼休憩の時に話すから、屋上に来る様に。それじゃあ今日は解散」

 

 言葉の最後に「今日寝るときはニューロリンカーを絶対に外さないように」と付け加え、この日は解散した。

 

 

 

翌日──

 この広島に記念すべき4人目のバーストリンカーが誕生した事に、隠しきれない程喜んでいた俺はこの日も通常どおり屋上に向かっていた。

 しかし、前日わざと上級生の校舎を避けていたのがバレたのか、待ち伏せしていた生徒会長に捕まってしまった。

 しかも修学旅行帰りだったためか異様にテンションが高く、鬼気迫る表情をさせながら俺に女装を強要してきた。

 なんとか一瞬の隙を見付逃げ出したが、あの人の怖さを再認識した……あの人には勝てないわ、うん

アラート画面が表示され息が絶え絶えの状態で屋上に上がると、既に士達三人がイスが四つあるテーブルに座っていた。

 

「う、うっす……」

「…会長に、捕まったでしょ、悲惨だね」

「悲惨て言うな、悲惨て。五七五で言われたら余計に腹が立つわ」

 

 溜息混じりに士の言葉に対して応答をしながら頭を抱える。

 抱えていた手を離すと(一瞬目を閉じていたために気づけなかったが)、三人は着々と直結の準備を進めていた。颯だけは嫌がってたけど

 そして士のニューロリンカーから伸びたXSBケーブルを自分に接続すると、他の三人とアイコンタクトでタイミングを合わせ小声で囁く。

 

『バーストリンク』

 

 再び世界が青くなり、隣のテーブルでこっちを指差しながら笑っている同級生の女子や、屋上端にあるベンチでイチャイチャしてるカップルの動きが緩くなる。

 そして俺達のアバターが出てきて直ぐに颯が口を尖らせながら不満を漏らしてくる。

 

「で?結局寝る時もニューロリンカー付けとったけど、これでどうなるん?」

「まぁ落ち着け。まずは左側に増えている『燃えているB』ってアイコンがあるだろ?それを確認してくれ」

「えっと、ほい!あ、何個かのメニューが出てきた」

「それが『ブレインバースト』のメニュー画面だ。とりあえず一番下のマッチングリストを確認して、上から順に名前を読んでいってくれ」

「いちいち指示が多いなぁ…えっと『ネイビー・ブリッツ』、『メイズ・ミラージュ』、『ティール・スパイク』、最後が『アントラクス・イェーガー』?何これ、最後の奴なんかめっちゃ読みづらいんじゃけど」

 

 ちょっと"むっ"としたが、颯の言い分にも一理あり。

 正直自分の名前である『イェーガー』なんか最初読めなかったし。せめて英語にしてくれ、ドイツ語は無理。

 さて、今名前を読んだ順からして『ネイビー・ブリッツ』というのが颯のあの世界での名前なのだろう。

 しかし、颯にはなんのことか理解できるはずが無いので、こちらも『ブレインバースト』のメニューを開き『対戦』の画面に移行する。

 

「えーっと、士、那澄、いまから颯に対戦を申し込むけど、めんどくさいから『バトルロイヤルモード』で良いか?」

『良い(です)よ~』

「何?またうちだけ置いてけぼりか?今度は何する気や?」

「まぁ、見てれば分かるから」

 

 そう言いながら画面を操作し続け、対戦するか否かのメッセージ文の『YES』を押す。

 すると蒼い世界が少しずつ移り変わると共に俺の身体が光に包まれ、赤紫の装甲を持ったデュエルアバター『アントラクス・イェーガー』へと変貌する。

 そしてデュエルアバターに変わりきるのとほぼ同時に、世界も様変わりする。

 視界の両端の上側には旧時代の格ゲーのような体力ゲージが表示され、体力ゲージに挟まれる形で『1800』という数字が現れる。

 ちなみにこの『1800』という数字は、この加速世界で活動できる30分間(こちらでは現実世界の1000倍で時間が進むので現実世界換算で1.8秒)の制限を表している。

 そして数字の表示が減ったところで、足元の浮遊感が無くなり地面に足をつく。

 

「さて、今回のフィールドは……うへぇ、『煉獄ステージ』かよ。くじ運ないなぁ」

 

 ため息をつきながら思わず肩を落としながら俯く。

 煉獄ステージは、ブレインバーストが生み出す対戦フィールドの一つで、特徴としては"硬い"、電気が限定的ではあるが通っている、そしてもう一つ―

 

「煉獄ステージかぁ、相変わらず気持ち悪っ」

「何度来てもここだけは慣れませんね」

 

 ―フィールド全体が触手の様な物で覆われている、言ってしまえば内臓のような様相で気持ちが悪い。

 女子のバーストリンカーにとっては、不人気といえる部類のフィールドだ。

 今回は学校内のローカルネットにつなげた状態で加速したので、今いる屋上を始めとした学校全体が内臓の様な見た目になっている

 

「……なんかもう、驚くのも飽きた」

 

 そんな颯の呆れ声が俺の後ろから聞こえ、俺は身体をそちらの方向に向ける。

 颯と思われるアバターは(名前を聞いた時点で分かってはいたが)、濃い紺色を纏っていた。

 半袖半ズボンと、ソフトボールのユニフォームを思わせる見た目に、右手には肘まである大きめなガントレットを持つ小柄なアバターだ。

 鏡が無いため本人は確認することが出来ないが、自分の手のひらや俺たち三人の見た目が変わっていることにたいして少し疲れ気味な声をあげる。

 

「ローカルネットアバターの次は何これ?明らかに普通のアバターじゃないじゃろ。三人とも明らかに人間の見た目じゃないし」

「ああ、これは対戦格闘ゲーム『ブレインバースト』で使用される対戦用のデュエルアバターだ」

「あのプログラムって格ゲーだったんか?!ハッキングまでして、ほんまにしょうもない…」

「正論だけどな、これやってると現実がつまらなくなるぞ、まじで」

 

 俺が話すことに対し表情を確認することはできないが、明らかに呆れの感情を向けてくる。

 最初は信じらんないよな~、士も那澄も、俺でさえもかなり戸惑った記憶があるわ……かなり昔になるけど

 ずっと胡散臭そうな視線を送る颯……いや、イビー(今命名)の横に濃い緑色の『ティール・スパイク』となった士と、薄い黄色の『メイズ・ミラージュ』となった那澄が近寄り、べたべたとイビーを触りまくる。

 

「ちょ、二人ともやめぇ!くすぐったいじゃろ!」

「おぉ~、期待通りの青系のアバターだ!」

「しかも純色に近い紺色ですね。これは期待大です」

「それで?今日は颯ちゃんの初御披露目で終わり、って訳じゃないでしょ?」

「エネミー狩りをするにも、まだ颯ちゃんは上には行けんよね?」

「お前ら無視かぁ!」

「だからこそのバトルロイヤルだよ。今日は颯が増えたことだし、『鬼狩り』久々にやるぞ」

『え?やったあああ!』

 

 『鬼狩り』という単語にイルとミラが大袈裟に万歳をする。

 『鬼ごっこ』と名前こそ似ているが、鬼狩りはほぼ正反対

 簡単に言えば、『鬼』に指定された奴をそれ以外のメンバーが全力で狩ってくるという軽いいじめみたいな訓練だ。

 元々はイルを戦いに慣れさせるために始めたほとんどお遊びのものだったんだが、イルが異様に気に入った上ミラや東京にいた頃の知り合いのバーストリンカーなんかに言いふらしまくっていた。

 正直な所ダサいとか言われたほうがまだ気が楽だったんだが、意外と好評で軽い黒歴史にしてしまいたいくらいだ。

 

「もち、兄ちゃんが鬼だよね?」

「なんだ?もしかして今日はイルが鬼やるのか?俺がやるつもりだったんだが」

「いや!鬼は兄ちゃんに任せるよ!……よしっ!」

 

 本人としては見えないようにガッツポーズしてるんだろうが、全部見えてるぞ、おい。

 ちなみに何故二人が面倒くさい訓練に対してこんなにも喜んでいるかというと、合法的に俺に攻撃することが出来るからだ。

 まぁ、攻撃が当たったとしてもこいつら二人の攻撃くらいなら問題はないが、懸念材料があるとすれば、イビーの能力

 見た目からして近接系のアバターであることは間違いないのだが、右手につけられている大きなガントレットがなんなのか、見当もつかない。

 だが、三人の親兼師匠として無様なところは見せられない

 視線を上に向けると、丁度制限時間の表示が『1500』になる所だった

 

「三人とも、5分やるからここから移動しろ。制限時間が『1200』になったら鬼狩りを開始する」

 

 おー!と声を返すイルとミラに対し、いまいち理解ができていないイビー

 イビーの能力がこの訓練で分かるとは思うが……まぁ、久々の対戦だ。難しく考えず、楽しくいこう!



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Inattention 油断

ようやく書けました…戦闘シーンってこんなに難しいのか

初めて書いたんで、全然上手くかけてない上に話が結構グダグダに…

日々精進していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします


 俺は屋上にあるベンチで仰向けになりながら、空を見上げていた。

 空を見上げるといっても空を見ているわけではなく、視界の上側に映る制限時間のゲージ見ていただけだ。

 別に空を見ても星が見えるわけでもなく、今まで数え切れないほど見てきた世界が映るだけ。

 そう、数え切れないほどに……。

 仰向けのまま、今度は左手を掲げ眺める

 通常、デュエルアバターの外見の色というのは濃さの違いこそあるものの、基本的には一色で構成される。

 東京にいた頃、同じレギオンに所属していた奴の中には二つの色を持っているやつがいたが、アレは例外中の例外なのだろう。

 しかし、俺の左肘から先は血が固まった様などす黒い赤に変わってしまっている。

 元々左腕は全身と同じ濃い赤紫色をしていたのが、一年前のあの出来事以来何度切り裂いても、何度エネミーに喰われても、この闇に飲み込まれそうな黒がずっと根付いている。

 ……いや、理由はとうに分かっているんだ。

 一年前、アイツ(・ ・ ・)を助けられなかったという罪、そして、俺がだけ生き残ってしまったという事を忘れさせないための枷なんだ――

 

 

 

 気がつけば、さきほど三人に指定した時間が刻一刻と迫っている。

 ベンチから身体を起し、今度は変わり果てた母校の全体を眺める。

 私学特有のバカ広い校舎、こんな広さじゃ普通は三人を見つけることは中々に難しい。

 しかし、このブレインバーストはその辺を考慮してなのか、ガイドカーソルというものが視界中央に存在する。

 これは相手が10m以上はなれ、お互いの姿が確認できない際に表示される。

 現在ガイドカーソルは高等部の反対側、初等部の方向を示している。

 残念ながら距離は分からないが、俺は遠隔射撃の赤系統のアバター、その上あの三人よりは経験値は上だ。

 このフィールドや方向、ガイドカーソルが表示されていることやあの策士な妹の性格を考慮するとおそらく初等部の校内にいるだろう。

 そして、この硬いフィールドの性質上狙撃が出来ないため、射撃するために近づいた頃を狙うという魂胆だろう。いつの間にか溜まっている三人の必殺技ゲージがそれを物語っている。

 

「しかし、俺がそんなめんどくさいことをすると思うのか?我が弟子ながら浅はかなり『Set Up』」

 

 いつもの起動コマンドを呟き、いつもの如く赤い光の粒子が漂い始める。

 そして右手だけに粒子が集まり、1mを超える大きなライフルが生成される。

 実は俺の初期装備であるコイツは状況に応じて様々な形態に変更が可能で、基本的にはこの前使ったようなバレルの長い二丁拳銃で使っている、使いやすいから。

 今回生成したこいつは威力こそこの強化外装中最強のステータスを持っているが、『チャージが長い』、『打った反動で若干ダメージが来る』、『重い』という三重苦を持っているために護衛役がいる領土戦や、安全に狙撃できる箇所の存在する無制限中立フィールドでしか基本的には使用しない。その事はイルも知っている。

 しかし、今回は久々の対戦、そしてイビーを鍛えるための特訓だ。俺も力を出し切り、存分に楽しませてもらおう。

 右手のライフルを左手で支えながら構え、狙いを定める。イメージとしては、中等部の校舎を突き抜けて、初等部の一階にブチ当てるように……。

 一瞬だけ息を止め照準がぶれないよう静かに、だが確実に、俺は引き金を引いた。

 

 

 

 数分前――

 

「はぁ……もうわけわからん」

 

 うちの口から漏れた言葉は、昨日からいったい何度出て来たのか。

 数えただけでもおそらく二桁はいっているだろう……途中から数えてないから本当の数は分からないけれど。

 でももっと分からないのは、今目の前にいる二人の事だ。

 いつも五月蝿いくらいに元気な士、お淑やかなお嬢様みたいな那澄。二人ともうちの大好きで大切な親友だ。

 でも、今目の前に濃い緑と薄い黄色の二人はこの気持ちの悪い学校だった建物を、何のためらいもなく進んでいく。

 目の前にいる二人は、本当にうちの親友なのかさえ怪しく感じるほど、うちの頭の中は混乱している。

 さっき受けた説明もそうだ。『思考の加速』、『ソーシャルカメラのハッキング』にそれを利用した『フルダイブの対戦格闘ゲーム』

 三人で行動し始めてからは『カラーチャート』やら『体力ゲージと必殺技ゲージ』やら頭が痛くなりそうなことばかり。

 何を言っているのかさっぱりだわ……。

 

「颯ちゃん、どうしたの?さっきから黙ってるけど」

「気分でも悪い?このフィールドは空気が悪いからなぁ」

「え……実はさ、昨日からいろんなことが起こり過ぎて何がなんだかわからなくなって」

 

 ずっと喋っていなかったことが気になったのか、二人が足を止めてうちに話しかけてくる。

 二人に思ったことを正直に話すと、お互いに顔を見合わせながら笑い始める。

 

「な、なにさ?そんなに笑う必要ないじゃん」

「ごめんね?そういえばうちらにもそんな時期があったなぁ、って思って」

「あたしもあったなー。もう何百年も前だけど、あの頃はほんとにきつかったよ~」

 

 何百年?何の話じゃろ?やっぱりわけわからんわ。

 でも、そんな下らない話でも確信できたことがある。

 やっぱりこの二人は、どんなに見た目が人間らしくなくても、うちの親友には変わりない。

 でも、そんな和やかなムードに邪魔が入る。それに一番最初に気づいたのは、士だった。

 

「で?結局何すればええの?」

「そうだねぇ、一番の問題は兄ちゃんがどう動くのかだけど―ッ!二人とも伏せて!」

 

 急に言葉を切り、普段と真逆の真面目な声でうちらに声をかけるので、素直にうちと那澄は屈みこむ。

 それと同時か数秒遅れてかのタイミングで、けたたましい音と共に目の前にある中等部の校舎に穴が開き、濃い紫色に光るビームがこの初等部の校舎に直撃する。

 直撃した校舎の一部はビームの威力に耐え切れず砕け散り、その破片がこちらに飛んで来て―

 

「い、痛い痛い!て、ちょっと待って!?なんでアバターなのに痛みが!?」

「あ~、そういえばカラーチャートとかの説明はしたのに、そこらへんはしてなかったな~」

「とりあえず後でもいいじゃろ?とにかく今はここを乗り切ることを―」

「なに勝手に話し続けて、うわぁ!!」

 

 余裕そうに話す二人に声をかけると、再びビームがこちらに飛んでくる。

 今度は先ほどよりも(うちから見て)少し右側に逸れるが、やはり衝撃で校舎の破片が飛んでくる。

 破片が身体に当たるのを絶えながら視界を上に向けると、先ほど説明された『体力ゲージ』とやらがほんの少しだけ減っている。

 しかしうちだけでなく二人、そして(何故か)シュンの体力ゲージも少しだけ減っている。

 でもこれだけですんで良かったと思う。もし、さっきのが痛覚ありの状態で直撃していたら……考えたくもない。

 

「うわぁ、いきなりあんなのぶっ放すかな普通。手加減無しと大人気ないなぁ」

「……あいかわらず冷静に物事を見るなぁイルは。うちはビックリして若干腰が引けとるよ、あんなの見たことないし」

 

 なのにこの二人は先程のテンションと同じ感じで会話を続けとる……。

 特に那澄でさえちょっとビックリしているのに、一人だけ冷静に考察している士に少し恐怖を感じるわ。

 

「さてと、これ完全に兄ちゃんはやる気だね。だったらあたしらも本気で生かせて貰おうか!『Come On』!」

 

 士がそう言いながら右手を掲げると、何もない場所からトゲのついた盾の様なものが現れ、士の右手に納まる。

 盾、というよりはメリケンっぽい……どちらにしても女子が持つようなもんじゃないけど。

 

「てか、士だけそんな物騒なもん持っててずるくない?」

「颯ちゃん?その言葉は右手を見てから言って欲しいんだけど」

「右手?……あ、そういえばこんなんあったね」

「あたしみたいにボイスコマンドで呼び出したり、呼び出さずにずっと装備されていたりするんだけど、颯ちゃんは後者みたいだね」

 

 右手を改めて見ると、今まですっかり存在を忘れていた篭手のようなものがくっついている。

 これ、どうやって使えばいいのか分からない、普通に殴ればいいの?

 

「説明してる暇ないけどちゃちゃっと説明しとくよ。自分の名前とかが書いてあるとこ選択すると必殺技とかでてくるから、確認しといて」

「……ごめん、何にも書いてないんだけど」

『……』

「え、ちょ、なにそのかわいそうな人を見る目は!?やめて!うち何もしてないのにやめて!」

「まぁ、ある程度予想できてたけど、兄ちゃんと同じ感じなんだね。その分その強化外装に期待するしかないね」

「う~ん、それでどうするのイル?さっきの牽制から向こうはこっちの場所を見つけて動き出してるみたいだけど」

「……一回牽制入れてきてるってことはこっちの狙いが待ち伏せってことは気づいてるってことだよね」

「多分ね。だからこそ即死レベルの攻撃でこっちを燻り出そうとしてるんだろうし」

「だよね、ああいうのが兄ちゃんのやり口だろうし。でも、そうくるんならこっちはこっちでそれを利用させてもらうよ」

 

 そう言いながら士が作戦を内容をうちと那澄に説明する。うちに出来るかわからないけど。

 ところで『クククッ』て感じで士が笑ってるけど、なんかゲスイよ?あんたそんなキャラだっけ?……もしかして、そっちが素?

 

 

 

 

「さぁて、今のでどうなった?少しくらいは当たっててくれよ」

 

 ビームライフルを二発ほど校舎に撃ち込み、体力ゲージとガイドカーソルを同時に確認する。

 ライフルのデメリットのせいで俺の体力ゲージが5パーくらい減っているが、向こう三人組の体力もほんの少しだけ減っていようだ。

 が、三人とも動く気が無いのかガイドカーソルがまったく動かない。

 

「あれでも動かないのかよ……何考えてやがる?是が非でも待ち伏せする気か?」

 

 そう言いながらも俺はビームライフルをアサルトライフルに変更しながら、初等部の階段を駆け足で降り始める。

 だが数階降りたところで、機械が擦れ合うような異様に耳障りな音が聞こえている。

 その音のせいで思わず両耳を押さえ、その場に立ち竦む。

 

「あぁ゛!なんだよこの音はぁ!絶対ミラだなこれ!…ほんとにあいつのアビリティって用途が分からん」

 

 ミラの『音響反響(サウンドエコー)』アビリティは、音を反響、増幅させる事が出来るものだ。

 ……ただそれだけのアビリティだ。あいつがバーストリンカーになって現実時間で一年近く、未だにあのアビリティの意味が理解できない。

 一応あいつもレベルアップボーナスを全部アビリティの強化に宛てているが、未だにそれ以上の能力を発揮していない。

 まぁ、今はそんなのは重要じゃない。この音の発生源がこの階ならば、三人がいるのはこの階だろう。

 ガイドカーソルは今いる階層の反対側を――!

 一瞬視界に捉えたイルの必殺技ゲージが少し減少するとともに、ガイドカーソルの方向から棘の様な物が飛んでくる。

 反応が少し遅れたせいで棘の一つが左肩に少し当たって体力ゲージが1割ほど削られるが、柱の陰に何とか隠れる。

 陰に隠れながら校舎の反対側を確認すると、イルが東京に居た時から愛用しているメイド服をはためかせながら自分の強化外装をこちらに向けていた。

 俺が確認しているのに気づいたのか、若干こちらをあざ笑うかのように見ると反対側の階段に駆け足で向かう。

 

「あのやろ、挑発するだけ挑発して逃げやがったな。……そういえばあいつ一人だけだったな、あと二人は何処行った?」

 

 ……まぁいいか、とりあえずアイツから潰すか。

 そう心の中で呟き銃を再び持ち直しながら校舎だった廊下を走り抜けようとする。

 

「くぅらぁええええええええ!!!!」

 

 が、ちょっと走り始めてからすぐに横の教室からけたたましい音と妙に怒気の孕んだ声が響き渡る。

 俺がそう判断する一瞬で煉獄ステージの硬い壁が突き破られ、小柄な身体のイビーがかなりの勢いでこっちに突っ込んで来る。

 その勢いのまま俺に対して右手を振りかぶってくるが、何とか俺も右手で何とか受け止めるがかなりの勢いがあった為か一瞬左腕が痺れながら、俺の身体が向かい側の壁に叩きつけられる。

 しかしそれでも衝撃は防ぎきれなかったのか、壁を突き破り中等部の校舎に激突し体力ゲージが一気に4割弱まで下がる。

 

「(あぁ、さっきの金属音は俺の集中力を乱す目的じゃなくて音を反響させて(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ソナーの要領で(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)位置を把握する(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ためだったんだな……)」

 

 背中への衝撃で呼吸が止まりピンチな筈なのに、そんなくだらないことを考えてしまうのは内心まだ勝てると思っているからだろう。

 俺の強化外装はまだ壊れていないし、体力ゲージは半分以下だがその下に存在する必殺技ゲージは建物の破壊ボーナスやダメージボーナスによってほぼ満タンになっている。

 これなら俺のアビリティを存分に……?なんで俺に影がかかって徐々に声のような物が聞こえる。

 

「さっようならあああああああああ♪」

 

 いつの間にか俺の上側に移動していたイルが、スパイクシールドを振りかぶり嬉々とした様子で落ちてくる。

 アビリティを使えば間に合うかもしれないが、俺のアビリティは座標固定をしないといけないために時間がかかる。このスピードで落下されたら間に合わ――

 スパイクシールドの棘が当たった顔面に言葉にしようが無いほどの痛みが起こると共に、俺の体力ゲージが一気に0へと向かっていく。

 そして、俺の眼前に燃え盛る【YOU LOSE】という文字が大きく表示された。




作「アバター紹介のコぉナぁー!」
俊「ワー…なにこれ」
作「文字通り、アバター紹介のコーナーだけど?」
俊「うわ、なにその『え、何言っちゃってんのこいつ』みたいな顔は。気持ち悪いからやめてくんない?」
作「どぎつい言葉ですねぇ!年下なのに!」
俊「精神年齢は俺の方が上だから、勘違いするな」
作「くそぅ…反論しづれぇ…と、とりあえず今日は斑鳩那澄のデュエルアバター、メイズ・ミラージュの紹介をしようと思います」




メイズ・ミラージュ(レベル4の薄い黄色)愛称『ミラ』
 ドレスの様な見た目の間接・支援タイプ

アビリティ『音響反響』
 アバターから発せられる『音』を反響させ、増幅させることが出来る
 一つの事に特化した能力の為、汎用性にはかける



作「て感じだけど、師匠としてはどう思ってる?」
俊「今回ソナーみたいに使っていたのは驚いたが、結局はそれだけだからな。ここからどう伸びていくのかに期待するしかないな」
作「やばい、すっげぇ紹介コーナーっぽい」
俊「紹介コーナーだろうが、このスカタン」


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Ripple 波紋

今年最後の『アクセル・ワールド』投稿です

書いているうちにどんどんシリアスチックになってきて心の中で「ドウシテコウナッタ…ドウシテコウナッタ…」と巡り巡っております

それでは最新話どうぞ&また、来年


『(いてぇ……あのスパイクシールドってこんなに痛かったか?)』

『(まぁ、重力+あたしの体重+煉獄ステージの地面とのサンドでいつもの倍近くのダメージが通ったからねぇ)』

『(仮想のダメージとはいえ、痛覚はあるからきついわ……あぁ、顔がグチャグチャになってるような痛みだ)』

『(兄ちゃん心配しないで!その可愛い童顔は潰れてないから!)』

『(うっせぇ、良く言われるがこの顔結構コンプレックスなんだよ!この前は小学生に間違われたわ!制服着てんのに!)』

「(……そのルックスが実は上級生に人気なのは黙っておこう、そうしよう」

 

 四人のバトルロワイヤルで俺が一番最初に脱落した後、「つまんない」という士の一言により対戦はドローで終了された。

 いや、颯のアバターと闘い方が想像以上に良かったので個人的にはポイントを渡しても良かったのだけど。

 ……いや、駄目だ。こんなんじゃ甘過ぎる。あんなことを颯や那澄に味あわせないためにも、もっと厳しくいかないと……。

 

「いえ~い!!うちらの勝ちぃ~!!いきがってたくせにシュン弱すぎぃ~♪」

 

 なんかめっちゃ颯がはしゃいでる……ウゼェ、ただひたすらにウゼェ

 あと、大声で話すな。喋るなら思考発声で喋れ。周りの連中が何事かとこっちを見てるから。

 言葉にはしていないがおれの冷たい視線に気付いたのか大声を出すのをやめ、顔を赤く染めながら着席

 

『(まぁ、勝ったとは言っても兄ちゃんはアビリティを一つも使ってないから、明らかに本気じゃないんだよねぇ~)』

『(……え?)』

『(たしかに、どちらか片方でも使われた時点でうちら、蜂の巣やろうし)』

『(は、蜂の巣!?)』

『(過大評価過ぎるだろ、お前ら。第一、今更そんなこと言っても負け惜しみにしかならねぇよ)』

 

 二人の言葉に俺は呆れ気味に言葉を返すが、颯は納得出来ないと言わんばかりの表情を見せる。ええい、鬱陶しい

 

『(あのな?お前と俺とじゃ戦いの経験値もレベルも全然違うんだから、差があるのは当然だろ)』

『(あのさぁ、話の腰折るようじゃけどええ?)』

『(なんだ?)』

『(レベルって何?)』

『(……おい士、説明しとっけって言ったろ)』

『(テヘペロ♪)』

『(テヘペロ♪じゃねぇよ殴るぞ)』

 

 もうやだこの妹、なんでこんな面倒くさがりに成長してしまったんだ。妹じゃなかったら絶対に付き合わないわ。

 ……でもこれで加速世界では策士でなかなかの実力者だから、人間って分からないモンだよ。

 

『(ほら、よくゲームとかで経験値が一定値に行くとレベルアップするだろ?そのレベルと一緒だ)』

『(……ゲーム苦手だからよう分からん)』

『(そういえばそうだった。お前、何でか分からないがゲームにすぐ酔うもんなぁ)』

 

 そうそう、颯はゲームとかやるとすぐ酔ったとか言うから、あんましゲーム自体やらないんだよ。

 まぁ、元々ゲームとかのインドアな事よりもスポーツとかのアウトドアな事の方が好きらしいから関係無いだろうけどな?

 

『(とにかく、お前はまだ始めたばかりのレベル1で、俺のレベルが7だからかなりの開きがあるんだ)』

『(たった6でそんなに差ってできるもん?)』

『(6は6でもたった6ではないぞ?俺の知る限り、BBの最大値は8だからな)』

『(ふぅ~ん、そこまでレベルって高くないんじゃね。一回レベル8と戦ってみたいわ)』

『『(まず勝てないからやめとけ(やめた方が良いよ)』』

『(二人同時に言うなぁ!!)』

 

 俺と士の思考発生でのツッコミが同時に響く。

 いや、あいつらとガチでやりあったらまず勝てないし絶対にトラウマ植え付けられるから。

 撃ったビームが刀で両断されたのは今思い出しても背筋が凍るよ……うん。

 

『(さて話を戻して、そのレベルの上げ方なんだけどな?BBにはバーストポイントってのがあって、これが経験値にもなるわけだ)』

『(また新しい単語が……ん?経験値「にも」ってことは、他にも使うことがあるん?)』

『(颯にしては鋭い。そう、このバーストポイントは加速することの出来る回数も表している)』

『(……具体的に言ってくれんにゃわからんのじゃけど)』

『(今からするから待ってろ。バーストポイントはBBをインストールされた時点で100ポイントが渡される。んで、加速する度にポイントが1づつ消費されていくわけだ)』

『(え、あ、うん……)』

 

 おい、目を逸らすんじゃねぇよ目を。ここから結構大事な話になるんだから。

 

『(さて、ここで一つ問題だ。バーストポイントが無くなったら、一体どうなると思う?)』

『(うーん?ポイントが無くなったんなら、電子マネーみたいにチャージとか?昔のソシャゲ商法みたいで怖いわぁ)』

 

 ソシャゲ嘗めんな、それの儲けでリーグ優勝したプロ野球チームだっているんだぞ?

 ……うん、なんか今日はなんか調子悪いわ。変則とはいえ久々に対戦で負けたからか?

 ミラの特訓以外だと確か、東京で戦ったんだから……あっ

 

「そうか……最後の対戦はあいつか……」

『(おーい、シュン~?声に出てるけ―)』

「兄ちゃん!」

「!?!?!び、びっくりしたぁ」

 

 急に怒鳴んじゃねぇよ、突き刺さるような周りの視線が痛いんだって。

 ……あ、やべぇ。今なかなかにまずいこと口走らなかったか俺?

 あんましこの件については突っ込んでほしくはないんだが。

 

『(兄ちゃん、話ずれてる。時間ないんだから早くして)』

『(え、シュンさん今すごい気になるような事ゆうてたような…?)』

『(な~んのこ~とかなぁ~?あたしは知~らないなぁ~。ほらぁ~兄ちゃん早く早く~)』

『(あ、あぁ、分かった。……ありがとう)』

『(べっつにぃ~……)「見返りはジャンボパフェでいいよ!」

「調子に乗んな」

「イダァ!」

 

 調子に乗って思考発発声すら忘れた士におもいっきしデコピンをかます。

 うむ、"バチンッ"という音がするくらい凄まじいデコピンだ、我ながら怖いものがある。

 

『(さて脱線したが、結論から言おう。バーストポイントが0になると、BBを強制的にアンインストールされる)』

『(……へ?そしたらまたインストールしなおし?なんじゃそれ、めんどくさいなぁ)』

『(いや、一回アンインストールされたら、二度とインストールをすることは出来なくなる)』

『(はぁ!?じゃあポイントなくさないようにしなきゃいけないじゃん!そんなお金ないで!?)』

『(誰が現金をチャージするなんて言ったよ。ポイントはさっきみたいな対戦で手に入るよ。まぁ、ほんとはまだいくつか方法があるけど)』

「へ?」

 

 予想外の反論だったのか颯の口から間抜けな声が漏れる。

 それに対して士と那澄は含み笑いを颯に見せ、俺は少し厳しい顔を見せながら口を開く。

 

『(明日から俺達がレベルアップを兼ねてお前を鍛え上げる、覚悟しとけよ?)』

 

 

 

 

「士ちゃんお疲れさま!し、俊弥先輩もお疲れ様です!」

「おつかれー!また明日ねー!……兄ちゃん、ほら」

「ん?あ、お疲れさま。また明日ね」

「っ!は、はい!また明日!」

 

 そう言った女の子がなんか悲鳴に似た声を上げながら去って行く。いや、悲鳴を上げるならわざわざ挨拶しに近づかなくても……。

 

「兄ちゃんは女の子の気持ちが分かってないなー、そんなんだから彼女いないんだよ」

「異性の気持ちを理解しろといわれてもな?てか、彼女いなくても別にいいだろ」

「わーお、開き直りましたよこの兄貴は」

「急に呼び方を変えるな、違和感しかないわ」

 

 放課後、生徒会の活動が無い俺と帰宅部の士は自宅に帰ろうと学校全体共通の正門にいた。

 時々二人で並んでいると兄妹と知らない連中は俺達が付き合っているとか言ってるらしいが、俺はこんな面倒くさい奴とは付き合いたくないぞ?

 ちなみに何故颯と那澄がいないのかというと颯はソフトボールの練習、那澄は定期検査で病院に行ったらしい。

 二人ともどうして外せない、と言ってたのでBBの話は明日に回す事にした。

 あ、那澄は別に重い病気じゃないからな?何年か前は相当酷かったらしいが、今は大分落ち着いてきてるみたいだ。

 時間も時間なので帰るか、そう思い歩き出そうとする。

 が、突然眼前に直結の警告表示が現れ足を思わず止める。まぁ、この状況だと誰がやったのか分かるけどさ。

 

『(士、急に直結すんなよ)』

『(えー別にいいじゃーん)』

 

 そんな満面の笑みを見せられると追求できないんだが、思わずそう口に出しそうになるのをぐっと堪える。

 言葉に出すと確実に調子に乗るからなこいつ、昼が良い例だよ。

 直結の状態でそのまま自宅に帰り始めるが、すぐに士から思考発声が飛んでくる。

 

『(で、今後どうすんの?兄ちゃんの希望通り近接系のアバターを颯ちゃんは生み出したけど)』

『(ん?どうするとは言っても、明日から徹底して鍛えるしかないだろ)』

『(鍛える、ねぇ……)』

『(士、お前さっきから何が言いたいんだ?)』

 

 そう言うと士は俺の横から正面へと移動し、普段の感じからは想像できない鋭い目で俺を睨んでくる。

 

『(はっきり言うけどさ、兄ちゃん弱くなったよね。いや、腑抜けたよ)』

『(……どういう意味だ?)』

『(そのままの意味だよ。東京でレギオンに入ってた頃よりも、ましてやフリーで活動してた頃よりもね)』

『(そんなことはない。俺はあの頃のままだ)』

『(じゃあ、何でさっきのバトルロワイヤルで本気出さなかったわけ?那澄ちゃんの言ったみたいに、あたしたちなんか一瞬で蜂の巣に出来たはずなのに)』

『(本気を出す必要が無かったからだ。どの程度の能力なのか確認するために―)』

『(わざと負けたって?それこそつまんないよ。加速世界で身体を動かせるってだけで笑顔になってたあの頃の兄ちゃんは何処行ったのさ)』

 

 ……全く、反論できない。士の言うことは全て、合っている。

 あの対戦の時、全く集中できなかった。理由は、分からない……いや、本当は分かってる。でも、それを口に出したら、俺は―

 

『(兄ちゃんさ、まさかとは思うけどさ?颯ちゃんの"色"を見て"あの人"の事を思い出したんじゃないの?)』

『(!?)』

『(明るさの違いはあるとはいえ確かに似ているよね、『群青色』と『瑠璃色』って。カラーチャートでもかなり近いし)』

 

 やめろ……

 

『(確かにあたしも未だにショックだよ?でも兄ちゃんの落ち込みようは尋常じゃないからさ)』

 

 やめろ……やめてくれ……

 

『(でも言ってしまえばだけど、明日は我が身かもしれないのに過去の事をウジウジと―)』

「やめろっ!」

「きゃっ!に、兄ちゃん?」

 

 士の小さな悲鳴が聞こえてくる。

 見れば、俺が無意識のうちに士の両肩を力一杯掴んでいた。

 我に返った俺は肩から手を離すが、まだ左手には力が抜けずに震えている。

 

「お前に何が分かるんだっ!あの時、あの場にいなかったお前がっ!」

 

 語彙が思わず荒くなり士をおもいきり睨みつける。

 俺は首筋の赤いニューロリンカーからXSBケーブルを半ば無理矢理引き抜き、士に投げるように手渡す。

 そして手渡した士の顔を見ず、横を通り過ぎながら駆け足で歩いていく。

 

「……兄ちゃん、ほんとにおかしいよ。あの時、一体何があったっての?」

 

 何か士が離れる時に呟いたが、今の俺の耳には入らなかった。

 



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Anxiety 不安

 重い……体が重い。

 俺の体が重いんじゃなくて、俺に何かが組み付いている。

 上半身を起こし俺の横を見てみれば、布団に人一人分の膨らみが出来ている。

 溜息交じりで膨らんだ布団をめくってみると、下着の上に男物のTシャツを着た女性が心地良さそうに眠っていた

 決して俺が女性を家に連れ込んだとかじゃない。俺にそんな対象なんて今はいない

 

「ほら、母さん起きなって。朝だよ」

「うぅ~ん……あぁ~俊弥おはよぉ~」

「抱きつかない抱きつかない。うっとおしいから」

「あぁん、いけずぅ」

 

 自分の親ながら、呆れるほどの朝の弱さだこと

 俺たち兄妹の母親である風見円(マドカ)はほぼ毎日仕事で帰りが遅く、休日である土曜になると何故かこんな風に俺や士のベッドに潜り込んでくる

 そういえば、母さんがベッドに侵入してくるのは大体隔週で来るはず

 先週も俺のとこに来たから今週は士のはずじゃ……まぁ、どうでもいいか

 

「ほら、起きて顔洗ってきなよ。その間に朝飯作っとくから」

「ふぁ~い」

 

 そう言いながら母さんは眠たそうな目をこすりながら洗面台に向かって行った。

 俺も寝起きの重たい身体を引きずる様にベッドからゆっくり這い出し、寝巻きから部屋着に着替え部屋を出る

 午前8時ちょっと過ぎ、休日の朝っぱらだから士を起こす必要はないんだが……それにちょっと今はなぁ

 内心そう思いながらも俺の部屋の反対側にある士の部屋の前に立っている俺はなんなんだろうか

 

「士、起きてるか?今から朝御飯作るけど何か希望あるか?」

『……』

 

 ……反応無し、と

 あの時軽く怒鳴ってから若干士が冷たい、というよりもこっちを避けてる気がする

 流石にこれが続くと母さんに勘付かれるからやばいんだが……

 しばらくそっとしておくのが正解……か?

 とりあえず自分から出てくることに期待し、キッチンでパンを焼き始める

 

「あ、今日は真が朝食担当だったっけ?」

「あのさ、さっき言ったはずなんだけど」

「そぉ~?へんへんほぼえてないへどぉ~?」

 

 間延びした言葉を口にする姿は(童顔も相まって)高校生にしか見えない母さん。食べながら喋らないの、行儀が悪い

 俺も自分のパンを皿に乗せて自分の席に座る。

 

「あれ、士は?お腹空いたらすぐ起きてくるはずなのに」

「うーん……なんか、珍しく起きてないみたい。反応が全然なかったから」

「うっそ~、あのハムスターみたいな士が~?」

「それ、遠回しにハムスター馬鹿にしてない?」

「おはよ」

 

 そんな他愛の無い会話の中、士がリビングに現れる

 士のテンションが低いのはいつものことだから気にはならないが、何故か部屋着ではなく私服に着替えて出てきた

 面倒くさがりの士は休日の日は部屋着のまま過ごすはずで、着替えてるってことは出かけるのか?

 うちは母さんの仕事が忙しいこともあって、休日は何か予定がない限り家族で過ごすことにしている

 これは数年前に亡くなった父さんの決め事なんだが、父さんが亡くなった今でもこの習慣は続いている。

 だからこそ、士が出かけようとしていることに、俺は驚きを隠せない。

 やはりこの前怒鳴ってしまったのが悪かったのだろうか?

 今まで発破をかけるときに語尾を上げることはあったが、本気で怒鳴ることは過去にあまり無かった

 ……母さんがこの空気を察しているのか察していないのか(おそらく後者)、いつも通り笑顔で俺達に話しかけてくるのが余計に心に来る

 

「何俊弥、士と喧嘩でもしたの~?」

「母さん、お願いだから場の空気って物を読んでくれない」

「え、なんか変なこと言った~?」

「なるほど、母さんは今日の晩飯は激辛料理をご所望みたいだね」

「あっ、ちょっ、冗談!冗談だから!お願いだから激辛だけはやめて!」

 

 いつも母さんに対する切札をつかった途端に、母さんの顔が真っ青になる

 うちの母さんは辛い食べ物が苦手なのだ。40手前なのに子供舌とはこれいかに

 しかし、当の本人は"我関せず"といった様子で、こちらを見向きもしない。

 俺と母さんが食べ終わり、一番最後に来た士はゆっくりと自分のペースで食べ続け食べ終わるとすぐに席を立つ。

 

「ご馳走様でした。ごめんけど今日ちょっと用事出来ちゃったから出かけるね。夕方には帰ってくるから」

「そうなんだ、気を付けていってらっしゃ~い」

 

 母さんの短い言葉を聞き終えると、士はリビングを出てそそくさと玄関へと向かった

 一瞬だけ見えた俺に対する士の視線は、明らかに普段の物ではなかった

 士が家から出ていき、少しリビングが静かになる。何とも言えない雰囲気だったが、母さんに少しだけ弁明をしておく

 

「ごめん母さん。ちょっと、士とギクシャクしちゃってさ」

「……そうかな?お母さんにはそうは見えないけど」

「え?どういうこと?」

「逆に聞いてみるけど、今まで士が怒ったとこ見たことある?

「無いよ、だからこそ今回は相当頭にきてるんだと思って―

「士は、そんな子じゃないよ

「え……」

 

 母さんはそう言いながら、食器を流し台へと持っていく。

 そしてこちらを見ずに、いつもの語尾を伸ばしたいつもの口調ではない、はっきりと、しかし優しい口調でこちらに語りかける。

 

「士は、自分は傷ついても周りは絶対に傷つけない子だよ。そんな士があんな態度をとるってことは、何か考えてるんだよ。考え、というよりは"決意"かな?

「決意……」

「ま、そこは経験値の差だよね~。伊達に10年以上システムエンジニアしてないよ~」

 

 そんなことを言うと、母さんはそのまま鼻歌を歌いながら洗い物を始めてしまった。母さんが鼻歌を歌っていると、作業やら仕事が終わるまでこっちの話を聞いてくれ。

 つまりは、この話は終わり……ってことか。

 そう解釈した俺は食べ終わった食器を母さんの横に置き、自分の部屋へ戻りベッドに寝転がる。

 自分が傷ついても、周りは絶対に傷つけない……か。BBでの『防御特化デュエルアバター』ってのは、そこへ繋がるの……か?……考えても無駄か。

 そう自分の中で結論付けた俺は、さっきまでの事を忘れ去ろうとするかのようにBBでの俺の愛銃『ブラフマー』を組みなおすことにした。

 しかし頭からさっきまでの事を忘れることが出来ずに少しだけ調整をした後すぐに投げ出し、その後も何をしようとしてももやもやし、結局何もせずに週末を過ごしてしまった。

 

 



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Gloomy 陰鬱

5年弱ぶりの投稿らしいです
とりあえず煮詰まってた物を形にしました


 窓際の席に座っている俺は特に何も考えず、窓の外を眺めていた。

 梅雨時ということもあり、窓には大粒の雨が止めどなくぶつかっている。

 視界の端にはニューロリンカーからの注意報通知が上がったままだ。

 

 土日を過ごし、再び月曜になり心新たに……といきたい所だが、俺の心情は今の空模様のように曇り切っていた。

 決して一限目の体育がなくなりそうだからとか、そんな理由じゃない。

 どっちにしろ俺は持病のせいで激しい運動は出来ないので自ずと見学になるわけだし。

 理由は簡単、妹の士の事だ。。

 結局金曜の一件以来殆ど口をきいていない。

 挙句の果てにいつもは一緒に登校しているにも関わらず、まさかの同伴拒否ときた。

 なるべく早く収束してくれるとこちらとしてはありがたいのが……。

 そんな考えを巡らせているとクラスのホームルームが始まり、現実へと引き戻される。

 真面目に話を聞いていなかったが、どうやら一時間目の体育が雨で中止になったらしい。

 前の席に座っている野球部の男子や、隣に座っている女子は露骨に残念がっている。

 体育が中止になったことくらいでここまで残念がれるものなのだろうか?

 中学生とはいえ、その辺りはまだ"子供"なのだろうか。

 

「子供か……」

 

 思わず口からこぼれた声は、激しい雨の音でかき消されていた。

 

 

 

 何時からだろう、自分が周りとは"違う"ということに気づいたのは。

 決して容姿が優れているだとか、異常に頭が良いとかでもない。

 ただほんの少し、同年代の子供よりも身体が弱かっただけだ。

 だがそんなたった一つの事柄が自分の世界を客観視することに繋がった。

 小学校に進学してからが特に顕著で、知らず知らずのうちに同級生達との距離感すら感じるようになった。

 ――皆は出来るのに、何故僕には出来ないのだろう。

 そのように考えることが増えていった。

 

 そんな頃だった、俺がバーストリンカーになったのは。

 

 最初は自分の身体を思った通りに動かすこと自体に戸惑いがあったが、そのうちそんな戸惑いを忘れるほど加速世界にのめり込んだ。

 そうしていくうちに、少しずつ俺は変わっていった。

 

 『加速世界と現実では進む時間が1000倍違う』

 そんな育ての親からの忠告すらも無視して俺は加速を続けた。

 それが自分の精神に影響するなんて、そんな深く考えもしていなかった。

 ほんの少しだけ進んでいた俺の中の時計は、周りとはさらにかけ離れた時を示すようになった。

 後悔こそしてはいないが、我ながら馬鹿だったと今では思う。

 士達にはBBのレベルを簡単に上げさせないようにしているが、それが理由だ。

 まぁ、士はかなり不満を溜め込んでいるようが、あいつらに俺と同じ様にはさせたくない。

 

『ここは、僕が僕としていられる、本当の居場所なんだ』

 

 本人が分からなくなったとしても、大切だったものが無くなると言うのはあまりにも大きすぎるのだから。

 



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