転生これくしょん~転これ~ 【一時休止中】 (上新粉)
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始まりはいつも突然に……

初めましての方も私の作品を読んでくださっている方もこんにちは!
サブタイトルの様に唐突に書きたくなり我慢できずについやっちゃいました!
基本的にはメインが向こうで息抜きにこっちみたいな感じを予定してますので気が向いたときにでも読んで頂ければ幸いですね!




 その日はここ数日と同じ様に雨が続き、実に梅雨らしい天気だという事以外別段代わり映えのしない平穏な一日だった。

いつもの様に友達(ダチ)の山本と一緒に下らないバカ話に花を咲かせながら帰りの電車を待っていた時の事だった。

 

「なあ響夜(きょうや)聞いたかよ、今日持田の奴がさぁ」

 

「ああ、あれはやばかったわ。なんつったって『次のアップデートでケッコンカッコカリが出来るようになるんだってよ!』だぜ?」

 

「マシで何時の記事呼んでんだよなあいつ!」

 

元々俺がやっていたブラウザゲームー艦隊これくしょんーを山本に勧めたたのが始まりで今ではうちのクラスに艦これを知らない奴は居ないくらいに一大ムーブメントを巻き起こしていた。

 

「だよなぁ、とっくに電とカッコカリしてるっつーの」

 

「俺なんかヴェールヌイと響改両方とカッコカリしてるぜ?」

 

「マジかよ、愛に溢れ過ぎだろ」

 

「まだまだよ、まだ改装前の響とカッコカリしてないからな」

 

「はぁ~、お前にゃ敵わねぇな」

 

「まあ、響夜と違って海域は3-4までしか進んでないけどな」

 

それでもすげぇよなぁ……俺も改装前の電とカッコカリしようかなぁ。

山本を羨みながらも俺の頭の中では帰った後の艦隊運営について頭を悩ませていた。

 

「あ~あ、俺も流石に通常海域進めようかなぁ」

 

「それもいいんじゃないか?先の方がレべリングも捗るだろうし」

 

山本と談笑していると後ろが俄かに騒がしくなっていた。

 

「どけよおらぁっ!飲みもんが買えねぇだろうが!!」

 

どうやら真ん中の方でオッサンが飲み物を買おうと騒いでいるらしい。

 

「よっぱらいかぁ?しずかにしろよな……」

 

「まったくだ、混んでんだから大人しくしてろよ」

 

そういってオッサンの方を一瞥だけすると直ぐに向き直り気に留めずに話を続けようとしたその時。

突如背中に走る鈍い衝撃に俺は為す術もなく電車が通過しようとしている線路へ放り出された。

その瞬間俺は時間だけが引き伸ばされたような世界で様々な事を理解した。

オッサンがかき分けた事によって列が乱れ俺が押し出されたこと。

山本が俺の手を取って引っ張り戻そうとしていること。

しかし山本までこっちに態勢を崩してしまったこと。

そして左から照らされる電車のライ……ト…………

 

 

 

 

 

 

そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に俺の視界に入ってきたのはただ白いだけの何もない世界。

 

「ここは……?」

 

俺はホームから突き落とされて助けようとしてくれた山本と一緒に電車に……

しかし、自分の体を見るも電車に轢かれた所か傷一つ付いていなかった。

 

「夢…………いや、だとしたら何処からが夢なんだ」

 

暫く考えてみたが自分では分かりそうにも無かったので夢だろうがなんだろうが兎に角人を探すため辺りを再び見回してみると、さっきまでは気付かなかったが一点だけ黒い点がある事に気付いた。

 

「人……か?取り敢えず行ってみるか」

 

あれ以外に手がかりが無いのなら行くしか無いだろうと意気込み、全速力で向かった。

段々と点が大きくなっていくが俺はそれとは別のある事に気付いた。

 

「息が切れてない……疲労感もないな」

 

なるほど……此処が現実ではない確信は得た。あとは此処が夢の世界か死後の世界かだが……

近づくにつれ点は徐々に人型だと認識できるようになってきた。

それならばあそこの人に聞いてみればいい。

そう思っていた……しかし更に近づくにつれその存在は近づきがたいものだということに気付いた。

 

「これは……流石にな」

 

「うわあぁぁぁぁああん!!」

 

そう、号泣しているのだ。()()()()()()()()()()()()()……

 

「うわあぁぁぁーー!!なんでがわいぞうなんだぁぁぁ!!!」

 

「このオッサン……何を言ってるんだ」

 

小山響夜(こやま きょうや)君が可哀そう過ぎるよぉぉぉぉ!!」

 

「可哀そう、俺が?」

 

「そう……ズズッ……君が」

 

オッサンは汚らしく鼻を啜ると俺の肩を掴んでこう言った。

 

「私はね、神様なんだ。だから理不尽な最後を遂げた君に第二の人生をプレゼントしよう」

 

「は…………?」

 

いや、ちょっとまてよ。まあ恐らく俺の記憶通りだとすれば死んでいるんだろう。

確かに理不尽かもしれないが俺なんかよりもっと理不尽な最後を迎えてる人だって沢山いるだろう?それを第二の人生って言われても納得できるわけないでしょ、っつかそれよりも何よりもだ……。

 

「お前のようなどこにでも居そうな冴えないオッサンが神様っつーのが一番理解に苦しむ!」

 

「そ、そんなこといったってぇ……神様なんだから仕方ないじゃん?」

 

「頬を膨らませるな!気色悪いわっ!」

 

「ひっどいわっ!だったら私の神見せちゃうわ!どこでも好きな場所を言いなさい!生まれ変わらせてあげるわ」

 

なぜか途中からおねぇ言葉になり始めたオッサンは荒ぶる鷹のポーズを取りながら行先を要求してきた。

俺はどうせ出来ないだろうと思いつつも冗談半分で答えた。

 

「じゃあ、艦娘が居る世界に連れってって貰おうかなぁ?なんて……」

 

「分かったわ!艦娘の居る世界ね!神に掛かればチョチョイのチョイよ!」

 

オッサンが意気込んで人差し指を俺の額に当てた瞬間。

 

 

 

 

 

 

俺の意識は再び暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん、んぅ……ここ……は?

伸びをしようと腕を動かすもなにかが邪魔をして腕を伸ばせない。

目を開いて周りを見渡すも薄暗くて何も見えなかった。

 

「今度は一体どこ……ふぁっ!?」

 

直ぐ近くから聞こえてくる聞き覚えのある声にびっくりし飛び退くと天井へ勢いよく後頭部をぶつけてしまった。

 

「っつ……!」

 

俺は後頭部を擦りながら現在の状況把握に努めた。

確か……オッサンに額を突かれて、いやその前に……艦娘の居る世界にチョチョイのチョイ……駄目だ、訳わからん。というかさっきから擦ってる髪もさらさらしてるし擦ってる手の感覚も自分の記憶とはかけ離れている……正直気持ちいい、がそうじゃない。

遠くは暗くて見えないが自分の姿ならと思い自分の手を見つめてみるが……

 

「な……んで?」

 

小さい、まるで小学生の様だ。

俺は慌てて顔や耳に触れてみたがやはり俺の体とは異なる。

しばらく呆然として漸く気が付いた帽子を手に取って自分自身を把握した。

 

「ひびき……だよ?」

 

あ、いまのすっごい良かったわぁ………………さて、あのおっさんが本当に神様だったのかまだ俺の夢なのかは解らないが取り敢えず此処を出る方法を見つけなければ。

と言っても内側から開ける取っ手やボタンは無さそうだし誰かに開けて貰うしか無いかぁ。

だったら今の内に響のドロップボイスを練習して置かなきゃな。

 

「あー……あー……響だよ?その活躍からふしちゅっ……」

 

噛んだ……可愛い。だかしかし!私は電一筋なのだ、済まない響っ!

なんて馬鹿な事を考えていると不意に外が明るくなり誰かの靴音が近づいて来る事に気が付いた。

 

「あれ……は」

 

近づいて来る人影を目を凝らして観察していると見覚えのあるアップヘアーを揺らしながら一人の少女が俺の前までやってきた。

そして少女が目の前の機械を操作すると俺の入ったカプセルは物々しい機械音と共に俺を外界へと解放した。

 

「あ……えと……」

 

「はじめまして、電です。どうぞよろしくお願いしますっ!」

 

突然の遭遇に俺が戸惑っていると彼女は俺に微笑み掛け手を差し出してくれた。

オッサン……あんた本当に神様だったんだな。

 

「ひ、響だよ。その活躍から不死鳥の通り名もあるんだ」

 

俺は自称神のオッサンに感謝しつつ響として生きる為、自己紹介を終え恐る恐る彼女の手を握り返した。

その手はマシュマロの様に柔く、俺は感激のあまり涙が零れ落ちそうになるのを必死に堪えながら彼女に手を引かれ何処かへ連れてかれるのであった。

 

「まずは司令官さんに挨拶に行くのです」

 

「司令官は一体どんな人なんだい?」

 

俺は響を演じながら此処に居るという司令官のことを聞き出す。

電ちゃんを護るためには敵の情報は知っておかないといけない。

 

「司令官さんは私の後に着任しましたけれどカッコ良くて優しそうな方だったのです」

 

ほう……つまりイケメンの優男という訳か、これは要注意だな。

 

「大丈夫かい?司令官に変な事はされてなかったかい?」

 

「?司令官さんとは少しお話した位なのです」

 

ふぅ、まだ電ちゃんは司令官()の毒牙には掛かっていなかったようだ。

 

「そっか。いや、ならいいんだ」

 

「そうですか?――っとこちらに司令官さんが居るのです」

 

気が付くと執務室と書かれた部屋の前まで来ていた。

電ちゃんが扉をノックすると中から少し不機嫌そうな男の声が俺達に入るように促した。

 

「失礼します、響ちゃんを連れてきたのです」

 

「響、着任し……んなっ!?」

 

「ん、どうした?」

 

形式上の挨拶だけでもしてやろうと敬礼をして司令官の顔を見た瞬間、俺は思わず叫びだしそうになった。

 

「な……いや、なんでもないさ」

 

服装こそ一目で提督だと分かるような白い制服に身を包んで某特務機関の司令官の様に険しい顔をしたまま顔の前で指を組んでいるが、茶髪のミディアムヘアーで無駄にイケメンなそいつは俺の良く知る男であった。

 

「そうか、では私も自己紹介をしよう。私は此処第二鎮守府の提督、山本 徹(やまもと とおる)だ。今後ともよろしく頼むよ」

 

「よ……よろしく、司令官」

 

あっぶねぇ……あいつに俺の正体がばれたら何を要求されるか分かったもんじゃねぇぞ。

咄嗟に誤魔化したから流石に気付いていないと思うけど。

つーかその物まね全然似てねぇからやめろって言ってやりたい。

 

「ふむ……響」

 

「ふぁ!?な、なんだい司令官」

 

唐突に名指しされ動揺しつつも俺は努めて響らしく返事を返した。

だが次に帰ってきた言葉は想像は出来ていても絶対に勘弁願いたい一言だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 




今までは転生のような何かだったんでね、今回はまともに神様転生しようと思ったんですよ。
因みに本作は私の他の作品とは全く関係のない世界でのお話となります。


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初めての抜錨

あっちが余りはのぼのとしないんでこっちはヘイヘイボンボンな日常を目指していこうかと……偶にシリアスなかんじで?


俺が秘書艦に任命されてから一時間、俺は友人の舐めるような視線に晒され正直吐きそうになっていた。

いや確かに自分の嫁艦がすぐ隣に居たらテンションが上がるのは分かるし、抱き着いたりして来ない辺りまだ助かってはいるが……

 

「……なんだい司令官?」

 

「あ、いやぁ……ね?」

 

何が『ね?』だよ……はぁ、ダチのこんな姿見てらんねぇよ。

 

「司令官、さっきから何もしてない様だけど仕事は無いのかい?」

 

「あ……あぁそう何だよ……まだ何も無くてね」

 

あからさまに視線を逸らして山本は答えるが、俺はこいつが案外ずる賢い事を知っている。

今だって書類の中から何枚か抜き取って引き出しの隙間に入れてるからな。

 

「司令官、今引き出しに仕舞ったものを出すんだ」

 

「うぐっ……な、何のことかな響?」

 

「今のは任務だろ?」

 

「そ、そうだ。今は出来ない任務だけどな」

 

ちっ、そう来たか。

任務の内容を()が知っているのは不自然だし此処は引くか。

ならば……

 

「例え任務が無くたって出撃や演習とかする事はあるじゃないか」

 

出撃は正直言って怖いがこのまま山本の熱い視線を受け続けるよりはましだ。

 

「そ、そしたら響と離れ離れになってしまう!」

 

「は……?」

 

「折角一緒になれたのにもし出撃先で響に何かあったら私はっ!」

 

山本が勢いで抱き着こうとして来た所を俺は一歩左に動く事で回避する。

両腕は空を切り、バランスを崩した山本は前のめりに倒れ込んだ。

 

「……そんな自分勝手な理由で私達の存在を否定する気かい?」

 

「響……私はそんなつもりじゃ」

 

悪いな山本、俺も出来る事なら電をずっと愛でていたいから気持ちは分かる。

それでも四六時中ダチからそんな視線を向けられるのは耐えられんのだ!

 

「そう思ってるなら沈ませない為にも出撃や演習をさせるべきだ。大丈夫、撤退の判断さえ誤らなければ沈まんさ」

 

まあ、保証は何処にも無いけどな……

山本は起き上がって椅子に座り直すと引き出しから書類を取り出すとその一つ渋々ながらも判子を押した。

 

「よし、それじゃあ響達には鎮守府正面海域の近海警備を命ずる。無事に帰って来てくれ」

 

「了解。響、出るよ」

 

山本に敬礼を返してから部屋を出て電を無線で呼び出した。

そして初めての艤装の装着等に時間が掛かり電と一緒に港へ出たのはそれから一時間後の事であった。

 

「まさか艤装の装着にこんなに時間が掛かるなんてね」

 

「思っていたより大変だったのです」

 

どうやら体が覚えてるなんて都合の良いことは無いみたいで電も俺同様装着に手間取っていたようだった。

港へ着いた俺達を待っていたのは山本だった。

 

「随分と遅かったけどどうした?」

 

「済まない、艤装の装着に手間取ってしまってね」

 

「ごめんなさい」

 

「え?いや、私は全然大丈夫だ。それよりも二人共初めての出撃なんだ、厳しいと思ったら直ぐに戻って来るんだぞ?」

 

「了解ですっ」

 

「大丈夫、無理はしないさ」

 

不安はあるがやって見ないことにはな。

俺は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから海へと勢いよく飛び出した。

溺れたらどうしようかとも思ったがどうやら要らん心配だったようだ。

電も恐る恐る海面に足をつけ、ゆっくりと海の上へと降り立った。

 

「電、大丈夫かい?」

 

「だ、大丈夫なのです」

 

大丈夫とは言っているもののその姿は産まれたての子鹿の様に足を震わせいて、その余りの可愛さに庇護欲を掻き立てられた俺は電へ向けて手を差し伸べようとした。

しかし……体が動かない。

 

「あ、あれ?」

 

「ひ、響ちゃんこそ大丈夫です?」

 

「あ……わ、私は大丈夫。大丈夫さ」

 

そう言いながら俺は下を見てみる……うん、どうやら産まれたての子鹿見たいになってるのは俺も同じらしい。

はい、強がってました……この下に何にも無い所に浮いてるというこの感覚が形容し難い恐怖心を煽られる。

 

「ロープ持って来たからこれに掴まれ!」

 

結局俺達は山本が持って来たロープに掴まり涙目になりながらも無事に帰投を果たした。

 

「全く、マジで焦ったわ。艦娘は最初から海の上を走れる訳じゃ無いのな」

 

「済まない司令官、迷惑をかけた」

 

「ごめんなさい司令官さん」

 

俺は山本に少し申し訳無く思いながらも俺だけじゃ無かった事に安堵していた。

 

「なに、良く分からんけどそういうもんなんだろ?だったら練習すりゃ良いだけだろ?」

 

そう言いながら山本はどさくさに紛れて俺と電の頭を撫で始める。

身体か少女になってるせいか不思議と不快では無かったし、助けられた恩もあるので電に触れてる事については今回は許してやろうと思う。

 

「だけど、このままじゃ何も出来ないからね。これから工廠で訓練してくるよ」

 

「い、電も頑張るのですっ!」

 

「よしっ、私も同行しよう!」

 

「司令官は仕事をしないと」

 

「これも司令官としての立派な仕事だ、今の所他に仕事ないしな!」

 

自慢気に言うことでは無いが俺達がまともに出撃出来るようになるのが先決か。

俺は山本からの解放を諦め、電と一緒に工廠へと足を運んだ。

 




隣に響がいる日常とか(´-ω-`)ウラヤマ~


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響、出撃するよ。

※この世界の戦闘はアニメに近い感じ(同じとは行っていない)となっておりますのでご注意ください。


三人で訓練を初めてから一週間が過ぎた。

未だに恐怖心は拭い切れないものの、移動や砲撃等の一通りの動きは出来るようになって来た。

 

「司令官」

 

「ん〜、どうした?」

 

「そろそろ大丈夫だと思うんだ」

 

「本当に大丈夫か?別に無理に出撃する必要はないぞ」

 

気遣っているのかただ離れたくないだけなのかは分からないが俺は胸を張って答える。

 

「大丈夫さ、それに前にも言ったがこれが私の存在意義なんだ。行かせて欲しい」

 

本音を云えばやはり山本に四六時中見つめられるのは色々ときついからだ。

 

「……分かった、電はどうする?」

 

「これはあくまでも私の勝手だ、電はもう少し慣れてからでも全然構わない」

 

「わ、私も行くのですっ!」

 

「……そっか、分かった」

 

出来る事なら電には危険な目に合わせたくない……だけど自分がああ言った以上、電の意思を曲げるなんて事は出来ない。

 

「じゃあ港で待ってる、君たちは補給したら来てくれ」

 

「了解」

 

「了解なのですっ」

 

俺達は訓練で使用した弾薬と燃料を補給した後、山本の待つ港へと急いだ。

 

 

 

 

「お、早かったな」

 

「司令官を待たせてしまっているからね」

 

「気にしなくても大丈夫だぞ?」

 

「そうは行かないさ」

 

あれでも一応上官になる訳だしな、なんて。

 

「それじゃあ、行ってくるよ司令官」

 

「司令官さん、行ってくるのです」

 

「二人共気を付けるんだぞ!何度でも言うが厳しいと思ったら直ぐに戻るんだぞ!」

 

相変わらず心配症な山本を背に電と微笑み合いながら前進する様に念じる。

 

「はわわっ!?」

 

「電っ、大丈夫かい!?」

 

「だ、大丈夫。ただまだ動き出す感覚に慣れないなぁって」

 

そう言って照れた様に頬を掻く電が飛びつきたくなるくらい可愛かった。

 

「……そ、そうだね。そのうち慣れるさ」

 

俺は気を落ち着かせるために帽子を深く被り視界を閉ざした。

 

「…………」

 

「…………」

 

「あ、あの……響ちゃん?」

 

波を掻き分ける音と鳥の声だけが耳に残っていたが不意に電から話し掛けてきた。

 

「へ?あ、どうしたんだい?」

 

「あのね、深海棲艦について知ってたら教えて欲しいのです」

 

「深海棲艦についてかい?」

 

電は無言で頷いた。

 

「それは……」

 

俺はどう答えようか悩んだ。

電が折角聞いてきてくれたんだから知っている事を答えてあげたい……しかし、電が知らない事を知っているのは不自然ではないだろうか。

少なくも俺より先に建造されている電が知らない事はやはり知っているべきでは無いか。

 

「済まない、私には分からない。けど司令官ならきっと知っているんじゃないかな」

 

「そっか……そう、だよね」

 

「力になれなくて済まない」

 

「ううん、ありがとう響ちゃん」

 

恐らく司令官(山本)に聞くのが一番自然なはず。

それでも電の浮かない笑顔が俺の心に引っかかる。

しかし、空気を読まない敵は突然水面から飛び出してきやがった。

 

「グオォォォオ!!」

 

「響ちゃん!あれは!?」

 

「あれが恐らく深海棲艦だろう。電、砲戦開始するよ!」

 

「り、了解なのです!」

 

電は返事とともに撃ち始めるも怖いのか目を瞑ってしまっていた。

あれじゃ当たらない所か敵の攻撃すら見えていない!

俺は強大な敵を前に恐怖で震える(自身)の足に喝を入れて全速でイ級へと吶喊する。

 

「電!怖いのは分かる、私も怖いさ。だからゆっくりで良い……目を開けるんだ」

 

俺はイ級に向けて砲撃を放ちながら電に目を開けるよう促す。

 

「だって……怖いよぉ」

 

しかし、今の彼女には厳しかった様だ。

俺が無理に出撃しようとしなければ彼女をこんな目に合わせる事も無かったんだ……俺のせいで……ならば!

 

「電、下がれるかい?」

 

「響……ちゃん?」

 

「ごめん、私が無理に出撃しようなんてしなければ……とにかく下がって」

 

「でも、そしたら響ちゃんが!」

 

「大丈夫、不死鳥の名は伊達じゃない」

 

俺だってある意味不死鳥なんだ、ならやってやる。

根拠の無い自信を胸に自身を奮い立たせ魚雷を構える。

 

「ウラァーーー!!」

 

魚雷を放射状に放つもイ級は難なくすり抜けて反撃とばかりに魚雷を放ってくる。

 

「当たらないさっ!」

 

魚雷を上手くすり抜け反撃に出ようと背部に付いた連装砲を構えるが……

 

「ぐっ!……沈まんさ」

 

既に放たれていたイ級の砲撃が俺の肩に炸裂する。

発狂しそうな痛みを歯を食いしばって堪え、更に接近する。

そして遂に確実に魚雷を当てられる距離まで近付いた。

 

「これで終わりだ、ダスビダーニャ」

 

魚雷を三本放ち直ぐに急速回頭をする。

その直後、激しい爆風と波が()の身体を打ちつけた。

 

「うぐぁっ……かはっ……」

 

服は所々破れとても恥ずかしい格好となってるが、そんな事も気にならないくらい激痛が俺を襲っていた。

 

「響ちゃん!響ちゃん!?」

 

「い……なづ……ま?」

 

良かった、電は護れた……響には申し訳無いが彼女が無事で何よりだ。

この後、電に曳航され無事に帰ってきた俺は、山本にお姫様抱っこをされるという辱めを受けながら直ぐに入渠ドックへ運ばれたのだった。

 




正直動く事すら出来なかった彼女?達にはイ級すらキツイと思うんですよね〜


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秘密の正体

戦艦少女Rがgoogleplayストアにあったんで気になってウィキを見たんですが暁型が皆スカートを穿いていないという…………両足にプロペラつけてネウなんとかと戦うんですかね。


入渠から帰ってきた俺の足取りは非常に重かった。

出撃を急ぎ電を怖い目に合わせた挙句、山本に再三言われたにもかかわらず初陣で大破してしまうなんて……

そんな負い目から俺は執務室の前を先程から行ったり来たりしているのだ。

 

「うぅ……このままここに居ても埒が明かないけれど、しかし……」

 

そうして何度目かの執務室を通り過ぎようとした時、唐突に扉が開け放たれた。

 

「ひゃ!……いっ!?」

 

俺は驚きの余り足がもつれ思い切り尻餅を着いてしまった。

 

「何時までそこに……ってわりぃ!大丈夫かっ!?」

 

「響ちゃん!?」

 

「だ、大丈夫……」

 

俺は心配そうに駆け寄って来る山本に返答しつつ、立ち上がってお尻の埃を払った……だけだったが自身のとはいえ少女の臀部に触れた感覚に俺は何とも言えない背徳感に襲われるもそれを顔に出さない様に努めて冷静を装った。

 

「本当に大丈夫か?顔が少し赤いぞ」

 

「ほ、ほんとに大丈夫だよっ」

 

全然隠せてなかった……

俺は二、三深呼吸してから改めて二人に頭を下げた。

 

「それよりも……今回は電にも司令官にも迷惑を掛けちゃって、ごめん」

 

「響ちゃん……あの、私は……」

 

山本は電の言葉を制する様に俺に問いかけてきた。

 

「なあ響、何を謝っているんだ?」

 

「な、なにって……私が出撃を急いだせいで電に無理をさせてしまった。それに、や……司令官に再三言われたのに無理して大破してしまった」

 

「そうか、そこまで分かっているならもう大丈夫だな」

 

「え……怒らないのかい?」

 

何で無理したんだと、心配かけるなと。

そう言われると思っていた俺はつい聞いてしまった。

すると山本は笑顔で俺の頭を撫でながら答えた。

 

「確かにな、お前がボロボロで帰ってきた時は気が気じゃなかったさ。でもな、お前達はこうして帰ってきてくれたし、無理をした事も自覚している。ならそれで良いじゃないか、次に活かせるんだから」

 

そして山本は最後に褒めてくれた、よく帰って来てくれたと。

 

「あ……う………ひっく……」

 

少女となった俺に瞳から零れ落ちるものを抑える術は無く、遂には膝から崩れ落ちてしまった。

 

「え?ちょっ、響ちゃん!?ほ、ほらっ。全然怒ってないよ?」

 

山本が何か言っていたが必死に涙を堪えようとする俺の耳に入って来る事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……穴があったら入りたい。

 

「ま、まあそういう時もあるってな?」

 

「そうなのですっ、恥ずかしがる必要は無いのです!」

 

俺は十分前の自分を思い出し、その余りの恥ずかしさによって顔から火が出そうになり部屋の隅で体育座りのまま蹲っていた。

俺とした事が山本の言葉に不覚を取るとは……赦せん!!

 

「あ、あれ?なんか殺気立ってない?」

 

「ひ、響ちゃん。大丈夫、です?」

 

し、しまったっ!?電の声が少し震えているじゃないか!

ここは気持ちをを落ち着かせて冷静に対応しないと。

 

「あ、ああ大丈夫だよ」

 

「あ、あのね……今回の事があってやっぱり響ちゃんにも伝えておこうと思った事があるのです」

 

電が伝えておきたい事?愛の告白……はないか。

だとすると何だろう。

 

「改まってどうしたんだい?」

 

すると、電の口から意外な真実が飛び出してきたのだ。

 

「私…………実は、本当の電ではないのです」

 

「え……?」

 

「あっはっは、やっぱりそういう反応になるよなっ!」

 

横で笑っている山本は置いといて電は今なんて言った?

電じゃ……ない?

 

「えっ……と、深海棲艦だった……ら知らないなんて言わないか。じ、じゃあっ!他の艦娘だった……とか?」

 

俺は敢えてほかの可能性を尋ねるが電は首を横に振るばかりである。

 

「え……じゃあ……」

 

「私の名前は真綱 郁美(まづな いくみ)。享年は十五になるのかな?元々は別の世界に生きてた人間なの」

 

だが、やはり彼女は俺や山本と同じ転生者であった。

 

「え……あ、そう……なんだ」

 

「あっはっはっ!因みに俺も元々この世界人間じゃないんだわ、友人(だち)助けようとしたけど上手く行かなくてな。ついでに享年は真綱ちゃんの二つ上だぜ?」

 

まさか、そんな事が……いや、山本がいる時点でその可能性はあったのか。

つーか、そうなると色々と不味いかも知れん。

もし、転生者じゃない艦娘が建造されたりしたらバレてしまう。

しかし、あんな醜態を晒したのが俺だと山本に知られる訳には行かないっ!

頼む響っ、今だけはそのクールビューティを貫いてくれぇ!!

 

「へぇ……それは驚いたね」

 

「いやな、変なオッサンが号泣しながら第二の人生をなんとか〜って言うから響に会いたいって言ったら此処に連れて来られた訳よ」

 

「私はこの子が私の為に泣いてくれていたの、出来れば助けたかったのです……って」

 

山本は爆笑しながら、(真綱ちゃん)は儚げな笑みを浮かべながら二人はそれぞれの経緯を話した。

俺はと言うと、必死に言い訳を考えていた。

(真綱ちゃん)が話し終えたとき、山本は俺の想定していた通り()に問い掛けてきた。

 

「あ、もしかして響も別の世界からの訪問者だったりとか?」

 

「わ、私は……」

 

さて、どうするか……

 

艦娘であることを押し通すか?――この世界の知識が無い以上直ぐにぼろが出るだろうし、何より既に(真綱ちゃん)に話を合せてしまっているからやめた方が良いだろう。

 

じゃあ転生者である事は話すが小山響夜()でない別の人間を装うか?――それも発言に矛盾が起きる可能性を考えると良策とは言えない。

 

ならば…………

 

「……分からないんだ」

 

「分からない?」

 

「記憶喪失……なの?」

 

「さあ。記憶喪失なのか元々無いのか、別の世界から来たのかどうかも分からないんだ」

 

……よし、これなら深くは追及されないだろう……代わりに場の空気が重くなってしまったが。

 

「だ、だからといって悪い事ばかりじゃないさ。辛い事を覚えていても気が滅入ってしまうだろ?」

 

「それは……そう、ですが」

 

う~む、なにか他に安心させる様な言葉は無いものか……

俺が言葉を紡ごうと考えているとそれを察したのか山本から援軍がやって来た。

 

「……ま、それもそうだなっ!それに過去が無いならこれからみんなで作っていけばいいさ」

 

(真綱ちゃん)は暫く考え込んでいたが、山本の言葉に納得がいったのか()の手を取り瞳を輝かせて言った。

 

「そうなのですっ!私達で響ちゃんの楽しい過去を作って行くのです!」

 

「あ、ああ。そうだね」

 

山本のナイスフォローによって重い空気を払拭する事に成功した所で、俺は罪悪感を感じながらもこれからの事について持ち掛ける。

 

「えっと、これからは真綱ちゃん……って呼んだ方が良いかな?」

 

「いままで通り電でいいのです!」

 

「分かった。電、私達はこの世界の事をあまり知らないからこれから勉強していこうと思うんだけど」

 

「それは名案なのです。深海棲艦の事も知れば怖くなくなるかもしれないのです」

 

「そうだね、ただ残念な事に何処に資料があるか分からないんだ」

 

「それは……電もまだ分からないのです」

 

そう、一日中執務室に山本と二人きりなのが耐えられなかった俺はこの世界の事を知ろうと度々鎮守府内を散策していたのだったが、資料庫らしき所は空っぽでパソコンにも何も入っておらずオフラインの為ネットも使えなかったのだ。

つまり、他に資料がありそうな場所を探す所から始めなければならなかったのだ。

そこに俺達の会話を聞いていた山本はなにか合点がいったらしく手を叩いて言った。

 

「あ、そういう事ね。それだったら俺の部屋に全部揃ってるぞ?」

 

「は……?」

 

 

 

 

 

 




他作品を同時に投稿し続けている人は話やキャラクターがこんがらがっていかないんでしょうか?私はショート寸前です。
特に山本の話し方が荒っぽくなったり逆に門長が……なんてなりそうで怖いです。


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ヤマーモットーの秘密の部屋

投稿する作品を間違えてしまうなんて……orz



資料を取りに山本の部屋の扉を開いた俺は…………そっと扉を閉じた。

 

「あれ?どうしたの響」

 

「入らないのです?」

 

「あ……いや」

 

言葉が出ずに固まっている俺を不思議に思った山本が再び扉を開け中に入ると、ひとり納得しながらがらがらと音を立てながら俺達に入る様に促した。

 

「し、失礼するよ」

 

「お邪魔するのです」

 

意を決して中へ入るもそこは先程と変わらず響の大小様々なイラストが壁や天井を覆ったままだった。

 

「いやぁ、すまんすまん。あれじゃ座る場所も無かったな」

 

「大丈夫です。電がお手伝いするのです」

 

いや、そうじゃない……って電ちゃんまさかのスルー!?

 

「いや……その、壁とか……」

 

「あ、そっち?それは俺の趣味だ」

「はわぁ、司令官さんは絵が上手なのです」

 

「あっはっは、そう来たかー」

 

「あれ?私変な事言いましたか?」

 

「……多分、描くんじゃなくて集めるのが趣味なんじゃないかな」

 

確かに俺も前世(向こう)では電のポスターを天井に貼ってたけれども。

いざこの身体()になってから目の当たりにすると恐怖しか感じねぇな……。

 

「あったあった、こっちは世界史。んでこっちが深海棲艦と艦娘の詳細だな」

 

呆然とする俺を気にせず山本が引っ張り出してきたのは二冊の分厚い本だった。

 

「二冊……だけ?」

 

「ああそうだな、この二冊に殆ど書いてあるらしい」

 

A4サイズの辞典、二冊合わせて五千頁位。

この中に世界の過去の殆どが載ってるのか……あまり信じ難い話だが読んでみないことには分からないか。

 

「ありがとう司令官、早速執務室で読んでみるよ」

 

「あ、それはっ」

 

一刻も早くこの部屋から離れたい俺は山本の話も聞かずに本を抱きかかえてそそくさと部屋を出ようとするが……

 

「うっ……!」

 

何かにつっかかった俺は、鉄棒で逆上がりをしようとして途中で手を滑らせてしまった子供の様に背中を床に強く打ち付けてしまった。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「いつつつ……大丈夫。だけどどうしたって言うんだい?」

 

俺の疑問に対して山本は少し困った様に答えた。

 

「それな、実は()()()()()()()()()()ようになってるんだ」

 

「は……? 」

 

理解が追いつかない俺に山本は実演してみせた。

 

「ほら、俺らや外から持ち込んだ物は通るんだけど元々あったものはどうやっても通らないんだよ」

 

「え、なんで……」

 

「さあな?神様の考える事なんか俺には分からんよ」

 

なんという事だ、つまりこいつを読む為にはずっとこの部屋に居なければならないのか。

…………仕方ない、そこは我慢しよう……だがな。

 

俺は徐ろに壁へと近づき……二枚程引き剥がした。

 

「ちょおま?!響ストップッ!!」

 

山本の静止も聞かずベットの上に登り天井の一畳程のポスターも剥がす。

 

「それ綺麗に貼るの大変だったんだぞ!?」

 

「司令官……電もいるんだしこういう如何わしいのは無しだ。良いね?」

 

「いや、でも大事な所は隠れ……」

 

「い・い・ね?」

 

「……アッハイ」

 

俺は剥がしたポスターの両面テープを丁寧に剥がしてから纏めて丸め落ちていた輪ゴムで止めて山本へ返した。

 

「あ、あれ。返してくれんの?」

 

「まあ、人の趣味にどうこう言うつもりは無いさ。ただ、今度電にこういう物を見せようものなら容赦無く処分させて貰うよ?」

 

対象が()なのは勘弁して欲しいが気持ちは分かるし無碍にもできんからな。

 

なんて考えながら俺が床に座り読み始めていると感極まった山本が唐突に()の腰目掛けて飛びついて来やがった。

 

「響ぃ……なんていい子なんだぁぁっ!!」

 

「ちょっ、邪魔!」

 

人の腰に顔を埋めようとする山本を引き剥がしながら返さなければ良かったと俺ははやくも後悔していたのであった。




想像してください。
友人の部屋を開けたら自分の肖像画がところ狭しと……


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艦これは無いそうです。

ロボクラやってると時間を忘れてしまう……(¬_¬)


 今日も今日とて俺達は山本の部屋で深海棲艦について勉強をしていた。

と言っても知っている以上の情報は無かったから、俺はほぼポーズだけだったけれど。

山本はというと……パソコンで何かゲームをやっていた。

俺は無言で立ち上がり、山本の後ろから画面を覗き込むと何処か見覚えのあるゲーム……いや、これは……

 

「…………何をやっているんだい?」

 

「え、ええとこれはその……興味本位というか……その……」

 

山本が何をやっていようが口を出すつもりは無かったが、流石に戦艦少女(そいつ)を見過ごすわけにはいかない。

 

「そうか、なら司令官はそっちの()()()()()の指揮でもしているといい。出撃も出来ない無能な部下は去るとするよ」

 

俺が部屋を去ろうとすると山本は慌てて扉の前に達塞がった。

 

「え……ちょっ、まっ!そ、そうだ響!新しい仲間を迎えようじゃないかっ!?」

 

「ふ〜ん…………」

 

何とか気を引こうとする山本。

まあ仲間が増えれば海域も攻略しやすくなるしそれ自体は問題は無い、だがな。

俺は冷めた瞳を画面に映るスカートを穿いてない少女へ向ける。

 

「え……と、ああっ!」

 

山本は俺の言いたい事を理解したようで、直ぐにパソコン前に戻るとアプリケーションのアンインストールを開始した。

そしてアンインストールが完了すると、振り向きながら土下座をするという上級テクニックを披露してきたのだ。

 

「ごめん響、もうあれは二度とやらない。だから頼むっ!居なくならないでくれっ!!」

 

「いや……こっちこそ済まない、流石に意地が悪かったね」

 

本気で謝罪してくる山本を前に、俺は少し大人気なかったかなと反省し、床に頭を擦り付ける山本へ右手を差し伸べる。

 

「さ、司令官。一緒に工廠へ行こう、新しい仲間を迎えるんだろう?」

 

「あ……ああよし行こうっ!」

 

「電も一緒に行こうよ」

 

「…………」

 

俺は電を誘ったが電は難しい顔をして考え込んでいた。

 

「どうかしたかい?」

 

「へ?あ、いえ、電は此処でお勉強しているのでお二人で行ってきて欲しいのです」

 

「そうかい?……分かった、すぐ戻るね」

 

「お気にせず、ゆっくりしてきて下さい」

 

「?……うん、行ってくるよ」

 

電の最後の言葉がなんだか引っかかるが、思い当たる節も無いので頭の片隅に閉まっておくことにした。

 

 

 

 

 

建造ドックを見渡しながら俺はここに来た日の事を思い出していた。

此処に来てからそろそろ一ヶ月経つのか……あっという間ではあるけど実際まだ鎮守府正面海域すら攻略してないと言うのは果たして海軍的には大丈夫なのだろうか。

……まあそもそも此処でまだ軍人どころか山本以外の人間を見たことが無いんだけど。

 

「さて、どのレシピで回すか……響ならどうする?」

 

「決めるのは司令官の仕事だろう?」

 

「それはそうだ、でも実際に戦いを知らない俺より知ってる響達の方が今必要な艦種が分かるだろ?」

 

「…………」

 

なるほど、山本の言う事は最もかも知れないな。

俺は現状で必要な艦種を考察する。

まず、出撃要員としては最悪俺や電みたく最初から艤装の操作が分からない艦娘だったとしても沈みにくい重巡、いや戦艦がいいだろう。

次に遠征……はまだ第二艦隊が解放されて無いから行けないか。

 

「それなら私や電みたいに、建造後直ぐに出撃出来ない可能性を考えるとやっぱり戦艦が良いんじゃないかな」

 

「おっけ、じゃあ400,600,600,200……っとよし頼むよ」

 

山本からレシピを受け取った妖精さんはピシッと敬礼をして機械の方へ走っていった。

暫く待っていると機械上部に取付けられたデジタルディスプレイに残り建造時間が表示された。

 

-4:59:56-

 

「まじでか…………」

 

「…………」

 

 




山本 運72/80みたいな感じ……かも知れません。


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変態という名の紳士

うぉぉぉ......眠い。
それでも俺は負けない!!


 山本の部屋に戻り暇を潰すこと五時間、妖精さんより建造が完了した報告が入ったので今度は電も一緒に工廠へ向かうことにした。

 

「どんな娘が建造されたのか楽しみなのです」

 

「五時間は確か長門型だったっけな」

 

建造した時の秘書官が()だから長門型で間違いはないだろう。

後は転生者か、そうでないかは会ってみないことには分らないか。

 

「さーて今週の艦娘はぁ~?ピッピカチュウッ」

 

工廠に着いた山本が建造する機械に付けられたレバーを下げると空気を噴出しながらゆっくりとカプセルが開いていった。

勢いよく噴出する空気を前にスカートを抑えながら待っていると中から黒いストレートヘアーにカチューシャを付けた女性が出てきた。

 

「む、私は長門だ。殴り合いなら…………」

 

だが、彼女は自己紹介の途中でこっちを見たまま固まってしまっていた。

 

「な、長門さん?どうしたんだい?」

 

俺の呼びかけにぴくりと反応を示したかと思うと次の瞬間には俺の足元から床が無くなっていた。

 

「ひゃっふぅーい!!!本物だぁ!本物の駆逐艦だぁ!!良いにほひがするぅ……すーはー……すーはー」

 

「ひぅっ!?」

 

「…………は?」

 

そう、なぜか突然建造されたばかりの鼻息の荒い長門によって電諸共だき抱えられていたのだ。

訳も分からず長門にお腹を頬擦りされたまま俺は状況を整理しようと努めた。

…………つまり、この長門は十中八九転生者だと言う事は分かった。

間違ってもここまで駆逐艦に対してアグレッシブ(気持ち悪くて変態的)な長門が公式だとは思いたくなはい。

 

「な、なあ。先に聞いて置くけど、あんたは転生者……だよな?」

 

「あ”?誰だお前は……ああ、ここの提督か」

 

「そうそう、俺は山本徹。ここの提督で更には転生者なんだ、よろしくな」

 

「ふんっ。私、いや僕は七世雄大(ななせゆうだい)だ。体はこんなんだけど中身は男だから男に触られる趣味はないよ」

 

「そ、そうか......」

 

なら早く俺を解放して欲しいんだけどな............

 

「あ、あのっ!私、真綱郁美と言います。よろしくお願いしますね七世さん」

 

「うん、よろし――ってええっ!電ちゃんじゃないの!?」

 

「その通りだ、そして私────は記憶がなくて分からないから響と呼ぶのは構わないが君の知っている響とは別人と考えた方が良いかもしれない」

 

「えぇ~………………ま、可愛いから何でもいっか!」

 

いいのかよっ!?つか俺が良くねぇよ!!

 

「それじゃ、二人ともこれからよろしくね?」

 

その瞬間、俺は強烈な寒気に襲われた。

それは長門がウィンクをするという想像できない事態に遭遇したからか、それとも今後こいつに付きまとわれる嫌な未来を想像してしまったからなのか。

…………多分どっちもだろうな。

未来は限りなく暗いが、それでも電ちゃんという一筋の光を目指して頑張ろう。

そう心に誓い、長門に抱えられたまま俺らは工廠を後にした。

 

 




くっ......だれだ「長門=駆逐艦好き」なんてイメージを俺に植え付けたのは!!
済まない長門、そして長門を純粋に好きな皆様ごめんなさい。私はどうやらこの呪縛から逃れることは出来ないみたいです。
だけどわかって欲しい!!長門の事は好きなんだと言う事を!嫌いな艦娘を三作品全てに出すなんて私には出来ないんです!
......ただ、そういう扱いの長門に不快感を覚える方はこの作品の閲覧は控える事を推奨致します。(今更かもしれない……)


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任務報酬は直ぐには到着しない。

リアルがピンチで今後更に投稿ペースが遅くなりそうorz


んむぅ……眩しい…………。

俺はまだ視界がぼやける中手探りで頭上の時計を掴み目の前に持ってきた。

もう七時か……今日は長門も来たから鎮守府正面海域を攻略するんだったか、なら流石に起きないとな。

ゆっくりと身体を起こし左を見る。

すると電が安らかな顔ですやすやと寝息を立てている。

 

「〜〜〜ッッ!」

 

可愛いっ!やっぱ可愛いよ電ちゃん!!

そのあまりの可愛さに俺は枕に顔を埋めて悶える。

こうして目覚める事が俺の爽やかなる1日の始まりを告げるのである。

 

「スゥー…ハァー……よし、そろそろ起きぃっ!?」

 

落ち着きを取り戻してから漸く起き上がろうとした時、突然足の自由を奪われると同時に暖かい何かが()の腹部へ押し付けられていた。

思わず上げそうになった声を何とか抑えて掛け布団を持ちあげてみると……。

 

「う〜ん……すべすべ……ハァ……ハァ」

 

黒髪の……いや、うんまぁ長門(七世)が顔を埋めていた……

 

「はあぁぁぁああぁっ!!?」

 

「ひゃわっ!?」

 

「ん〜?あ……おはよう響、電」

 

「へ?え、えと……おはよう……ござい……ます?」

 

「おはようじゃないっ!!なななななんでここにいるんだお前は!」

 

「なんでって………………一緒に寝たかったから?」

 

「正直に言ったって駄目だっ!出ていけ!」

 

「え〜、体は同性なんだからいいじゃないかぁ」

 

「そ、それは……」

 

確かに事実だし俺がやっている事もこいつと変わらないんだよな……。

だがしかし!こんな初対面で抱きついてくるような変態を電ちゃんに近づけさせる訳にはいかんのだ!

 

「やっぱり駄目だ、出ていけ長門!」

 

「まあまあ、俺は二人を起こしに来ただけなんだ。そんなに威嚇しないでくれよ」

 

布団から離れ両手を肩の高さで振りながら弁明する長門(七世)を俺は軽蔑の念を込めて睨みつける。

 

「初対面で飛び付いたり、朝から人のお腹に顔を埋めている奴を信用しろと?」

 

「それは……ま、まあ役目は果たしたし先に作戦準備室で待ってるよ。それじゃ!」

 

そういって長門(七世)は視線を泳がせながら逃げる様に部屋を出ていった。

 

「はぁ、酷い目覚めだよ。ごめん電、びっくりさせちゃったね」

 

「いえ、私は大丈夫なのです。それより私達も支度を済ませて向かいましょうか」

 

「天使だ…………」

 

俺に微笑み掛ける電ちゃんは俺の思考力を奪い去るには充分過ぎる破壊力だった。

 

「?響ちゃん、どうしたの?」

 

「へ?ああうん何でもないよ!そうだね、支度して行こうか」

 

「なのですっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支度を済ませ作戦準備室へ入ると既に長門と山本とそして……。

 

「二人共遅いですよ、明日からは六時には出撃出来るよう心掛けるように」

 

「えっと、はい」

 

「あの……あなたのお名前を教えて貰えませんか?」

 

真綱ちゃんは知っているかは分からないが俺は彼女を知っている……はず。

特一型駆逐艦だとは思うが茶髪でおさげの彼女……その名前が出てこない。

 

「あ、失礼致しました。私は特型駆逐艦二番艦白雪です。本日大本営新人育成課より第二鎮守府へ配属となりました。教導艦として鎮守府運営についてと艦娘の戦い方について指導させて頂きますので、よろしくお願い致します」

 

丁寧にお辞儀をする白雪につられ電ちゃんと俺はお辞儀を返した。

 

「電です。白雪ちゃん、よろしくなのです」

 

「響だよ。よろしくね白雪」

 

「(ごめん、名前が分からなかったんじゃ無くて顔と名前が一致しなかったんだ)」

 

同時に俺は心の中で白雪に謝罪していた。

 

「さて、これより鎮守府正面海域の攻略をされると伺っておりますが皆さんは戦闘はどれ位出来るのですか?」

 

「俺は昨日ここに来たばっかりだから手取り足取り教えてくれると有難いなぁ?」

 

長門(七世)が下心丸出しの緩んだ顔で白雪の肩を掴んだ瞬間。

 

「ぐふぉっ!?」

 

白雪の肘打ちが長門(七世)の鳩尾を正確に打ち抜いた。

そして肩から離れた腕を掴み一本背負いの様に長門(七世)を正面の床に叩きつけた。

 

「艤装持ちの艦娘に対して生身でセクハラとはいい度胸ですね。良いでしょう、その性根から叩き直してやります」

 

「お……お手柔らかにお願いします」

 

「それでお二人の戦闘経験は?」

 

一部始終を見届け惚けていた俺達は白雪に訊ねられて漸く正気を取り戻した。

 

「ええと……私達は一度だけ正面海域を、その時イ級を倒したけど私が大破してしまって撤退する事になっちゃったんだ……」

 

俺はあの日以降あんな愚を二度と起こさぬよう、電ちゃんは俺が守り続けるんだと心に誓ったんだ。

 

「なんだとっ!?山本てめぇ響を大破させただとぉ!?」

 

「あなたは黙っててくださいっ」

 

「うぐぇっ!」

 

白雪の下段突きが再び長門(七世)の鳩尾を襲った。

 

「あ、あの……私はまだ、深海棲艦が怖くて……」

 

「……分かりました。それでは今回の所は私と響ちゃんで攻略しましょう」

 

「え?二人で大丈夫なのか白雪」

 

心配する山本に白雪は考える素振りも見せず即答する。

 

「当然です。近い内に正面海域位一人で攻略出来るようになってもらわなければ困ります」

 

もっとも過ぎる意見に山本も言葉を詰まらせる。

 

「それでは行ってまいります司令官。さあ行きますよ響ちゃん」

 

「あ、うん。それじゃあ行ってくるね」

 

「気を付けてね響ちゃん」

 

「無理はするなよぉー!」

 

「ま、まってぇ…………ガクッ」

 

皆に見送られながら俺は艤装を着けるため工廠へ向かったのだった。

 




一ヶ月の時を経て任務報酬の白雪ちゃんが来て下さいました!
報酬は迅速に支払われた(大本営発表)


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1-1攻略完了!

戦闘?いえ、知らない子ですね。
今作は戦闘は少なめを予定しておりますのであしからず。(無いとは言っていない)


「作戦終了。艦隊が帰投しました」

 

「…………ただいま」

 

「おお、二人共お帰り──って大丈夫か響!?」

 

「問題ないさ」

 

とは答えたものの俺の内心ナイーブになっていた。

出撃の結果としては敵主力艦隊の撃破に成功し鎮守府正面海域の攻略は成功である……が。

俺はというと初戦でイ級の魚雷が命中し即効で中破。

その後の主力艦隊相手の時にはただ見ている事しか出来なかったのだ。

はぁ……情けない。

 

「まあ、初めの内はそんなものですから気を落とさないで下さい」

 

「そ、そうだぞ響。段々と慣れていけばいいんだって」

 

……それもそう、か。確かに俺の艦隊も最初から強かった訳じゃないよな。低練度だったらイ級単艦でも大破するときもあったよな……うん、あった……はず。

 

「…………ジュルリ」

 

…………それに今は落ち込んでる場合じゃないな。

 

「済まない司令官、先に直してきてもいいかい?」

 

「あ……そ、そうだな!直ぐに行った方が良いな!」

 

「ええ……報告()は私が行なって置きますので」

 

「うん、ありがとう。それじゃあ失礼するよ」

 

報告を白雪に頼み、山本に一礼してから俺は港を後にした。

少しして背後から何かを叩きつける音と呻き声の様なものが聞こえたが気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"〜……これからどうすっかなぁ……」

 

艤装の修復を工廠の妖精さんに引渡し入渠ドック(という名のお風呂)に浸かりながらこれからの生き方を考えていた。

演習や出撃を重ねていけば恐らく練度は上がって行くだろうが駆逐艦はどうしても敵との距離が近い艦種だ。

加えてこの世界には轟沈の明確なルールが無く(これを知った時は俺も山本も嫌な汗が止まらなかった)撤退戦まである為、轟沈率がかなり高い艦種なのだ。

じゃあ出撃しないければいいかといえばそういう訳にも行かない。

何せこんな状態でも名目上俺らは軍属なのだから、鎮守府として仕事をしなければ山本は首になり俺達は転属又は解体処分だろう。

 

「はぁ……平和な世界で生きたいな」

 

「そこに私達艦娘の居場所があれば良いのですが」

 

そこで電ちゃんと一緒に仲睦まじく…………って、え?

 

「し、白雪!?どうしてここに?と言うかバスタオルはどうしたんだいっ!?」

 

先程まで天井を見上げていた俺は声のした方へ向き直るが、その名に恥じぬ美しき素肌を目の当たりにし瞬時に視線を逸らす。

 

「どうしてって。私も至近弾を少し貰いましたので修復に来たのと、バスタオルは最後に身体を拭くのに使うので籠に置いてありますが……」

 

「あ……そっか……そうだよね」

 

未だに(自分)の身体ですら直視出来ない俺に他の娘の裸を見て平静を保てるほど強靱な精神力は持ち合わせていないのだ。

そんな俺の様子を見ていた白雪は何かを察したのか途端に右腕で二つの膨らみを覆い隠し、真っ赤な顔で俺を睨みつけた。

 

「ここの鎮守府は特異体が集まる所だと言う事を失念していました……あなたも男性の魂を持つ存在でしたか」

 

「え?いや、それは……っていうか白雪は私達が転生者だって知ってるのかい!?」

 

「……転生者?っていうのは解りませんがここは艦艇の魂を持たぬ者が集まる鎮守府だと聞いています」

 

集まる……って事は更に七世(あんなの)みたいのが増える可能性があるっていうのか……

はぁ……余計に先が思いやられる。

 

「それで、あなたは一体何者なのですか?」

 

「えっ、と……済まないが自分が何者なのか分からないんだ。白雪の話で言うなら特異体なのかも知れないけどね」

 

「そうですか、自身の性別も分からないのですか?」

 

「そうだね、私の中身が男だと思うならそう扱って貰って構わないさ」

 

「……分かりました、それは今後見定めさせて貰います。今は修復を優先するとしましょう」

 

そう言って白雪は隣の湯船へと浸かりほっと一息ついていた。

 

…………あれ?俺は今なんで肯定しなかったんだ?

いや、確かに今の状況的には……ん?別に正直に言っても問題ないような。

う〜む…………分からん。まあ言ってしまったものは仕方ないか。

 

俺は思考を中断させ、別の事を考え始める。

 

 

 

 

「それでは先に上がりますね」

 

「ああ」

 

それから十分しない内に修復を終えた白雪は俺に一声かけると、そのまま風呂場を後にした。

俺ももう直ぐ修復は完了するが、更衣室で白雪と鉢合わせるのは色々と不味いのでもう少しゆっくりしてから上がる事にした。

 

それにしても艦娘の居場所か……。

そもそも平和なら確かに生まれなかったのかも知れない。けど生まれた以上平和になった後も彼女達の居場所は用意するべきだと思うのは、俺が何も知らないガキだからなのだろうか。

いや違う!好きな娘が平和な世界に居場所が無いなんて断じて認められるはずがない。

やはりその為にも俺は強くならないと、沈んでしまっては守りたいものも守れないからな。

 

「っと、そろそろ出るか」

 

思った以上に考えに耽っていたらしい。

更衣室には既に白雪の姿は無く、服を着て髪を乾かしてから廊下へ出ると脛を抱えて蹲る戦艦の姿があった。

 

「ひ……びきぃ……助けて……」

 

「…………入渠ドックならそこにあるよ、それじゃ」

 

俺は自分が出てきた所を指差してその場を後にした。

 

 

 




お風呂回をもっとお風呂回にしたかったorz


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羅針盤なんて渋滞の元

こちらでも今年もよろしくお願いします!
こっちは今後もあまりシリアスになり過ぎないゆるい感じでやって行こうと考えておりますのでこれからも重ね重ねよろしくお願いします<(_ _)>



鎮守府正面海域を突破してから三日。

俺達は早くも南西諸島沖へ出撃していた。

今までが遅すぎたと言われてしまえばそれまでだが、この短い期間で出撃に踏み切ったのには幾つか理由がある。

一つは長門(七世)が予想以上に動けたからだ。

俺が艦娘としての基本的な動きを覚えるのに一週間は掛かったのに対してこいつはたったの一日半でまともに海面を動き回れるようになりやがった。

そしてそんな事より重要なのは上の奴らだ。

攻略ペースは遅すぎるとはいえ、いきなり山本に電話してきたと思ったら今月中に鎮守府海域(ゲーム内で言えば1-4までの事だな)の攻略を完了せよとか……もう少し前に言ってくれれば良いのにと思う。

とまあそんなこんなで少し急がなければならない状況になったので今出ている訳だ。

 

「どうしたんだい響、不安なのかい?なら僕が抱き──」

 

長門(七世)さん、列を乱さないで。死にたいのですか?」

 

「いっ!?いや、まだ南西諸島沖だし大丈夫だって……」

 

「油断は禁物です、あなたの油断で死ぬのはあなただけではないんですよ」

 

「……ごめん」

 

後ろから俺に飛びつこうとしていた長門(七世)は先頭の白雪に窘められると少し落ち込んだ様子で所定の位置へと戻って行った。

 

……助かった、艤装を付けた長門(七世)に抱き付かれていたら脱出不可能だからな。

後で白雪にお礼を言っておこう。

 

「響さんもです、考え過ぎて視野を狭めては元も子も無いですよ」

 

「あ……うん、ごめん」

 

そうだった、いつ敵が出てきてもおかしくはないんだ。

俺の油断なんかで仲間を失うなんてまっぴらゴメンだ!

 

気持ちを引き締め直し、周囲を警戒していると長門(七世)の水上偵察機から敵艦発見の報せが入る。

 

「距離七〇〇〇、方位0-9-4、軽巡ホ級が一と駆逐イ級がニ」

 

「了解、このまま単縦陣で砲戦を開始します!」

 

「0-9-4…………わかった!」

 

「まかせろぉ!」

 

0-9-4……ってつまり東の方だよな?

 

聞き馴染みの無い一瞬首を傾げてしまったが俺は過去の記憶と白雪の向いている方から予想しつつ白雪について行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、どうやら今のは本隊では無いようですね。撤退しましょう」

 

「呉鎮ランキング一位を務めた栄光に比べれば微々たるものだが、貰っておこう……か。」

 

軽巡と駆逐を一隻ずつ沈めた長門(七世)は腕を組み得意気にMVP時のセリフを言っている──ってこいつトップランカーかよ…………提督業やってた方が良いんじゃ……いや、やっぱこいつの下には着きたくないから却下だ。

 

何てどうでも良い事を考えていたらイ級が沈んだ所が突然光り始めた。

 

「白雪っ!あれは……」

 

「えっ?ああ、あれはドロップと呼ばれる現象で原因は不明ですが主に深海棲艦を倒した後に起きる現象だと言われてます」

 

「ドロップ!?ハァ……ハァ……こ、この辺なら麗しき少女が来る確率大!!」

 

「普通に気持ち悪いので帰って下さい」

 

「ひどいっ!?響ぃぃぃっ!白雪が虐めるよぉっ!」

 

「私も同意見だからフォローのしようがないね」

 

「ぐはぁっ!!どぼじで…………ガクッ」

 

長門(七世)が下らない事を言っている間にも光は段々と人の形を象っていく。

やがて完全な人型となった時、光が収まり遂にその姿をあらわにした。

 

「艦隊のアイドル那珂ちゃんだよぉ!よっろしくぅ!」

 

 

 

-那珂ちゃんがドロップしましたー

 

 




さて、次の着任する娘を考えにいかなければ……


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艦隊の新生アイドル

那珂ちゃんが好きになっていたので那珂ちゃんのファン辞めます。
そしてまたファンになります。


敵主力には辿り着けなかったが鎮守府初の軽巡である那珂ちゃんがドロップしたので俺達はその事を山本に報告をしに来ていた。

 

「初めまして、俺がこの第二鎮守府の提督である山本徹だ」

 

「艦隊のアイドル那っ珂ちゃんだよぉ?みんなよっろしくぅ!」

 

明るく名乗りを上げる那珂ちゃんを長門(七世)は何故か苛立たしげに睨み付けている。

 

「提督に進言する、今すぐこいつを解体するべきだ」

 

「は?いや、何言ってんだよ長門(七世)。解体する訳無いだろ」

 

山本は当然の様にその進言を却下する。

当たり前だ、まだ六隻も揃って居ないうえに初の軽巡で更には第三艦隊解放の鍵となる川内型の一人で改二迄が艦娘最短の那珂ちゃんである。

普通に運営していた提督なら少なくともこの段階で解体しようなどとは言い出さないだろう。

そんなトップランカーとは思えない事をこいつは真剣に言っているのだ。

 

「こいつは解体(ばら)さないと駄目だァ!!」

 

長門(七世)は尚も叫び続ける。

見かねた白雪が長門(七世)の横に立ち、その脛目掛けて艤装が付いた安全靴より危険な靴で鋭いローを放った。

 

「〜〜〜〜ッッ!!!?」

 

すると今度は声にならない叫びを上げながら脛を抱えてその場に倒れ込んだ。

 

「さ、流石にやり過ぎじゃない……ですか?白雪さん」

 

「艤装が着いている状態では急所を狙わなければ止められませんから」

 

白雪の容赦ない一撃に山本は怯えながら訊ねるも白雪は言外に問題はないと答えた。

 

「そうなんだ……そ、そうだ那珂ちゃん。一つ質問してもいいかな」

 

「何ですかぁ〜?アイドルにプライベートな事は聞いちゃ駄目ですからねぇ〜?」

 

「うん、まあこれ以上無いくらいプライベートな事だけどさ……君は転生者かい?」

 

白雪のから聞いた話によれば通常の艦娘は転生という単語自体あまり馴染みが無いらしい。

彼女達自身が艦艇から転生した存在ではあるものの意識的には生まれたでは無く目覚めた────つまり前世では無く過去の記憶という感覚らしい。

だから転生者という言葉に反応を示した時点で通常の艦娘では無い事が分かるのだが……。

 

「……ナナナ那珂チャン生マレタバババッカリダカラ分カンナイナー(棒)」

 

丸分かりだった……つか嘘つくの下手過ぎて泣けてきた。

 

「いや、そんなテンパりながら言われてもな……」

 

「心配しなくても大丈夫なのです、ここにいる殆どの方が別の世界から転生してきているのです」

 

「え……?ほほほ本当に?」

 

「ああ、恐らく白雪以外は皆転生者だぜ」

 

「むぅ……なんか仲間外れにされている気がしますね」

 

「ち、ちがっ!?そ、そういう事では無くてですね!!?」

 

「冗談です、そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか……」

 

山本に鬼の様に恐れられた白雪は平静を装いながらも少しだけ影を落としていた。

 

まあ、あれを見た後じゃ流石に仕方ない気もするけれど……。

 

「まあ、認識のズレを修正する為に一応聞いているだけなんだ。別に深く詮索するつもりは無いから安心していいよ」

 

「うん……」

 

「あ、因みに君の事はなんて呼んだら良いかな?」

 

山本の問い掛けに那珂ちゃんは暫し悩んでからゆっくりと答えた。

 

「やっぱり那珂ちゃん……って呼んで欲しいな。昔の事は忘れたいから……良いかな?」

 

「……わかった、では改めて」

 

山本は身なりを正し、真面目な顔で那珂ちゃんと向き合う。

 

「川内型軽巡洋艦三番艦那珂っ!」

 

「はっ、はいっ!」

 

突然の事に那珂ちゃんも思わず背筋をピンと伸ばし答えた。

 

「貴艦を我が鎮守府の一員として認めるっ!今後の活躍を期待している!」

 

「はっ!有り難き光栄で御座います!ご期待に添えられるよう精一杯精進させて頂きますっ!」

 

「…………」

 

「…………」

 

「………ぷっはははっ!やっぱ柄じゃねぇわ」

 

「え?えぇ!?」

 

突然始まった真面目な空気を崩したのもまた山本であった。

山本はひとしきり笑い終えると今度はいつも通りの笑顔で右手を差し出した。

 

「ま、ああ言ったけどそんな気負わなくて良いからな?それと長い付き合いになるだろうしこれからもよろしくな」

 

「…………うん、よろしくねっ!皆もよっろしくぅ!!」

 

那珂ちゃんは山本の右手を確りと握り返し、そしてこっちを振り向いて心からの笑顔を振り撒いていた。

その目尻は薄らと濡れている様だった。

 

 

 

 

 




那珂ちゃんは解体しません。


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深雪スペシャルーッ!!

初回ぶりの四千文字超えとなりました。
纏まらんかった……


那珂ちゃんがドロップした翌日、再び南西諸島沖に出撃した俺達は無事に敵主力艦隊と会敵。

これを撃破する事に成功した俺達は次なる作戦──製油所地帯沿岸部の海上護衛作戦に向けて那珂ちゃん達の特訓を行う事に決まった。

長門(七世)が居るため三人でも攻略は不可能では無いのだが、時間に余裕が出来た今の内に全体の練度を上げ後の障害を乗り越えやすくしておこうと言う事らしい。

 

「それでは行ってきます」

 

「行ってくるのです。響ちゃん、またねっ」

 

「ああ、気を付けて」

 

『いつも言ってるが無理はするなよぉ!』

 

海上での行動は一通り出来る電は深海棲艦に対する恐怖心を克服する為白雪と一緒に鎮守府正面海域へ出ていった。

そして……

 

「はぁ……俺もあっち行きてぇなぁ」

 

「長門さん、今日はお願いしま〜すっ!」

 

「ちっ……先ずは抜錨。後は動け、以上」

 

「え……それだけじゃちょっと分からないかなぁ……」

 

「は?それぐらい分かれよ、降りて動くだけだろ」

 

「ご、ごめんなさいっ……」

 

那珂ちゃんを受け持つ事に不満タラタラな長門(七世)はこれでもかと言うぐらい那珂ちゃんに当たっていた。

 

「司令官、那珂ちゃんもこっちで受け持とうか?」

 

『いんや大丈夫だ。長門ぉ、ちゃんと教えねぇと白雪に言いつけるぞ?』

 

「おまっ!?白雪さんにチクるとかずりぃぞっ!テメェで掛かってこいやぁ!」

 

『俺は提督だからな、解体されないだけ有難く思って欲しいんだが?』

 

無線越しに山本は澄ました声でそう言い放つ。

冗談めかしては言っているものの、今の山本は事実上鎮守府のトップであり、鎮守府内の事であればほぼ独断で決められる程の権力(ちから)を持っている。

勿論ノルマや定期報告義務あり完全に自由という訳では無いが、逆に言えばノルマの達成と報告をこなして反逆を企てなければ何しててもいいという位には自由なのだ。

と言っても資料を読んでない長門(七世)はそんな事は知らない。

しかし、元提督であれば解体がいかに容易く行えるか位は想像出来たのだろう。

「……くそっ、やれば良いんだろやれば。おい那珂、取り敢えず降りてこい」

 

「はっ、はい!」

 

どうやら渋々ながらも真面目に訓練を始める事にした様だ。

この分ならあっちも問題ないだろう…………さて。

 

「それじゃぁこっちも訓練を始めようか」

 

俺の背中にしがみつき震えながら電達が向かった方角をじっと見つめる短髪の少女に声を掛けた。

すると少女はハッと我に返り、離した手を振りながら陽気に言葉を返した。

 

「へ?あ……いやぁ〜悪い悪い。電を見掛けると身体がつい……ね?」

 

「そっか、まあでも彼女も大切な仲間だからね。徐々に慣れてくれると助かる」

 

「分かってるって、電は大切な仲間だし大切な姉妹だよっ。心配無用だぜっ!」

 

さっきまでとはうって変わって自信満々に胸を叩く彼女は南西諸島沖主力艦隊の撃破に伴って任務報酬としてやって来た吹雪型駆逐艦の四番艦、深雪である。

今の様子からしても恐らく白雪と同じ艦艇の記憶がちゃんとあるまともな艦娘だとは思うのだが……。

 

「ところで深雪、艤装が使えないっていうのは本当かい?」

 

白雪と比べ想像以上に直ぐ着任した(白雪の時は山本が任務を受けて無かった可能性もあるが)深雪が持ってきた手紙の中にその事が書いてあったので俺は訓練に当たって実際に聞いてみることにした。

 

「ん〜……使えない事は無い……はず……なんだけどなぁ〜」

 

「ふむ、使えた事はあるのかい?」

 

「まあ、ね……向こうじゃ信じて貰えなかったんだけど、一人の時には出来たんだ」

 

「一人の時に?それなら何か原因が……」

 

一人の時に出来て皆が居ると出来ないのか……。

うーん……一番に思い当るのは史実関係だろうか。

大戦には参加してないとはいえ一回も海に出てない事は無いはずだが。

 

「…………」

 

一度山本に調べてもらうか……って何で深雪は目の前で口を開けたまま惚けているんだ?

……あ、俺がいきなり黙って考え込み始めたからか。

 

「っと、済まない。艤装が使えない原因を探ってみるから少し待っててくれ」

 

「へっ?し、信じてくれんのか!?」

 

「ん?当然だろう?それとも嘘つくなと言ったら何とかなるのかい?」

 

「いや、ならないけどさ……」

 

まあ使えないってのが嘘なら使えるんだろうけどそれなら嘘をつく理由が分からなきゃ本当の事を言わせようが無いしな。

 

「そういう事さ。じゃあちょっと待っててくれ」

 

「お、おう…………さんきゅーな」

 

俺は深雪に微笑み返してから山本へと無線で呼び掛ける。

 

「司令官、聞こえているかい?」

 

「聞いてるぞ、いいフォローだったぜ?」

 

「ん?何の事だか分からないな。それよりも一つ調べ物をして貰えないかい?」

 

「調べ物?別に構わんが何を知りたいんだ?」

 

「史実の深雪が海に出た回数とその時に何か問題があったなら教えて欲しいんだ」

 

「深雪の事だな?分かった確認したら伝える」

 

「スパスィーバ……助かるよ司令官」

 

「な、なぁに!これ位お安い御用さっ!」

 

うん、発音が合ってるか不安だったが多分大丈夫だろう。

 

「取り敢えず司令官からの報告が来るまで出来る事をやっておこうか」

 

「おっけー、何をすればいい?」

 

「そうだね……」

 

一先ず艤装が使えないという詳細を浅瀬で確認する事にした。

結果としては想像以上に深刻な問題である事が分かった。

 

「大丈夫かい?」

 

「あ、ああ。濡れるのには慣れてるから……」

 

「済まない、艤装を着けても浮かないとは思わなかったんだ」

 

「大丈夫大丈夫っ!こっちの方が分かりやすいだろ?」

 

深雪はそう言ってずぶ濡れになった身体をくるりと回して明るく言って見せた。

 

確かに論より証拠とは言ったものだけど……

 

「だからといって無理はして欲しくないんだ」

 

「べ、別に無理なんて──」

 

「本当かい?君達艦娘は沈む事が怖くないのかい?」

 

「あれくらいなんて事は無いってば〜」

 

「そうか、じゃあ手が震えてるのはどうしたんだい?」

 

「へっ!?いや、これは──ってあれ?震えてないじゃんかっ!?」

 

「そうだね、でも自分の事くらい落ち着いれば把握出来るだろう?」

 

騙してしまった事で罪悪感が俺を苛むが、それでも皆に無理はして欲しくないが故に問い詰める。

全てをさらけ出せとは言わないが必要以上に一人で溜め込んでは欲しくないんだ。

……まあ七世は少し自重した方が良いけどな。

 

「必要無い場面で恐れを押し込めるのは勇敢では無く無謀だ」

 

「まぁ……確かに怖かったけどさ。私は響を信じてたからやれたんだぜ?」

 

深雪は照れ笑いを浮べながら答えた。

 

「っ……!信じてたなら先に言ってくれれば済んだだろう」

 

「あ〜、それもそうだ。ごめんな響っ!」

 

「…………こっちこそ済まない、別に責めるつもりは無いんだ」

 

「分かってるって!私の事を心配してくれたんだろ?ありがとなっ!」

 

むぅ……なんだこの可愛らしい娘は。

落ち着け俺っ!嫁は電だろう!

……まあでも、可愛い子は可愛いんだから致し方ない……よね?

浮気じゃない、浮気じゃないんだっ!

 

「お?どした〜?」

 

頭の中で必死に葛藤を繰り広げていたが、突如視界に飛び込んで来た深雪によって頭の中が真っ白に吹き飛ばされてしまった。

 

「ななななっ何でもないさ!と、とにかく一旦着替えて来るといいよ!私は司令官の所に行ってくるから着替えたら来てくれ!」

 

「うおっ、びっくりしたぁ〜。分かった、んじゃちゃちゃっと着替えてくる!」

 

走り去る深雪を見送ってからホッと胸をなで下ろす。

 

あ〜焦ったぁ……白雪といい深雪といい俺には刺激が強すぎる。

まあ、俺が男だと公言を避けたから自業自得だし……それに健全な高校生男児がこんな状況を自分からふいに出来る筈も無いわけでして。

と、いうか電ちゃんと一緒に寝れなくなるのは避けたいしこの身体で山本や長門(七世)と同じ部屋なんて事態は絶対に避けなければならないっ!

…………俺を苛む罪悪感だけはどうにもならないが。

 

「っと、もう部屋の前だったか」

 

何時の間にか山本の部屋の前まで到着していた俺はまたあれをみるのかと躊躇いながらノックする。

 

「司令官、入っていいかい?」

 

「響か?開いてるから入っていいぞ」

 

山本の了承を得て恐る恐る扉を開く。

中に入ると山本はパソコンの前の椅子に座り珈琲を飲んでいた。

部屋の方は相変わらず大小様々な響のイラストに囲まれていて()にとって非常に落ち着かない空間のままであった。

 

「はぁ……ここは相変わらずだね、まあ良いけど」

 

「まあな。んでどうしたんだ?訓練でなんかあったか?」

 

「うん、ちょっとね……」

 

俺は港であった事を山本に話した。

一人の時は艤装が使える事、艤装を着けても海上に立てないという事、そしてそこまで考えが行かず彼女をずぶ濡れにしてしまった為今着替えに行ってもらっている事。

それらを聞き終えた山本は二、三頷いてから()の頭にポンと手を乗せた。

 

「し、司令官……?」

 

「なるほどな、それで深雪の事を調べてくれって言ってたんだな」

 

「あ……済まない、説明不足だった」

 

「んな気にすんなって。つか俺からしたらお前の方が一人で背負い込んでる様にみえるぞ?」

 

「ありがとう。でも私は大丈夫だよ」

 

「そうかぁ?俺の親友も悩んでる時に限って()()()って言ってたんだぜ?」

 

「そっ……そうかい……それが()()口癖だったんじゃないかい?」

 

「お?」

 

落ち着け……別に俺だと疑われた訳じゃないんだ。

しかし知らなかった。俺にそんな口癖があるとは……。

これは以後気を付けるとして他に癖があるかもいずれ聞き出さないと行けないな。

 

「わっ、私の事は良いんだ。いまは深雪の話に戻そうか」

 

「お、おうそうだな。深雪の艦歴についてwikiで一通り見てみたがまあ、俺が思うにその頃のトラウマじゃないかと思うな」

 

「トラウマっていうとやっぱり……」

 

「電との件も大きいだろうがそれ以前の竣工前の試運転でも潜水艦と衝突してるし、射撃訓練に曳的艦として協力中に流れ弾を二発受けて小破してるらしい」

 

「そうか……それは辛いな」

 

「ああ、そしてwikiを見る限りではこの三回以外に演習や出撃等の海に出た記述は無かった事をみるに海=事故=恐怖みたいな式が出来上がっているんじゃないか?」

 

海=事故=恐怖……しかしそれだと一人の時は大丈夫な理由が分からない。

海……事故……一人…………

 

「そうかっ!!」

 

「うおっ!?どうした!」

 

「ありがとう司令官、お陰で原因が解ったよ」

 

「おっ、そうか!なら深雪のことは任せたぞ!」

 

「ああ、行ってくる」

 

上手くいくかは分からないけれど方法も見つかったし、深雪もそろそろ出てくるだろう。

 

俺は急いで深雪と連絡を取り工廠へと走っていった。

 

 

 

「にしても……全ての深雪があんなトラウマを抱えてるもんなのか?………………まあいいや、俺は七世がちゃんとやってるかを見に行くとすっかな〜」

 




しかも次回も深雪訓練回になりそうなんですっ!


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ふーかくーふーかくーみーゆきーのよーうなー♪♪

時間をイタズラに死なせた結果(約2週間)……なんの成果も得られませんでしたぁーっ!!(2500文字)

せめて週一で上げるよう出来る限り頑張ります。

という訳で本編入りまーす!



「深雪っ!原因が分かったかもしれないんだ!」

 

俺はお風呂場の更衣室から出てきた深雪の手をギュッと握り締めて伝えた。

 

「お、おおう。何だって?」

 

深雪は突然の事に何が何だか分らないといった様子で聞いてきたので俺はもう一度繰り返す。

 

「だから深雪が艤装が使えなくなる原因と対策が分かったかも知れないんだっ!」

 

「なにっ!?ほんとかそれ!」

 

「ああ、ただその前に幾つか確認しても良いかな?」

 

一応聞いておかないと俺の考えが根本から間違ってたらまた深雪に迷惑を掛けてしまう。

 

「深雪はさ、自分の艦の……じゃなくて過去の記憶はあるのかい?」

 

「過去?そりゃあ勿論…………あれ?」

 

「どうしたんだい?」

 

「ああいや、前に電とぶつかった事はちゃんと覚えてるぜ?」

 

深雪は何事もなかったかのように答えた。

……が、この環境に慣れつつある俺は深雪が自分の記憶に疑問を抱いた所で一つの可能性が浮上してきた。

当然それは深雪が転生者である可能性だ。

やはり念の為聞いておいて良かったかも知れない。

俺は深雪の正体を確かめる為核心に迫る。

 

「そっか。それじゃあもう一ついいかい?」

 

「おうっ、なんだ?」

 

「遠回しに聞く必要も無いから単刀直入に聞くけど深雪は別の世界からの転生者なのかい?」

 

さてこれでどういう反応をするかな。

転生者なら肯定するか否定するかのどちらかなはず。

しかし深雪は頭の上に疑問符を浮かべたまま逆に聞いてきた。

 

「てんせいしゃ……って?」

 

「……済まない、勘違いだった様だ」

 

「え?……おお?」

 

転生という概念を知らない……という事は深雪は純粋な艦娘だと言う事になる。

……が、いまいち腑に落ちない。

過去の記憶を聞いた時に詰まったのには何かしら理由がある筈。

しかし、言いたくない事を問い詰めるのは流石に気が引けるし……。

 

「響?おーい、どうした〜?」

 

おっと、どうやら考え込んでしまっていたらしい。

深雪の呼びかける声に気付き意識を表に向けると深雪が()の顔を覗き込み両頬を引っ張っていた。

 

「……なにふぉひふぇるんだい?」

 

「あ、気付いた」

 

俺は深雪の手を引き剥がし前に軽く押し出すことで自然に距離を離す。

 

「いやぁ、呼んでも反応が無いからちょっとねっ!」

 

そんなに考え込んでたのか……気を付けないと。

 

「ま、まあいいや。それじゃあ訓練を再開しようと思うけどその前に水着を借りてこようか」

 

「へ?水着!?い、いやいいってこのままでさっ?」

 

「良くないさ、これから毎日訓練するのにその度にずぶ濡れになってしまったら制服が無くなってしまうよ」

 

勿論これも理由だが最大の理由はその格好でずぶ濡れになられると下着とかが透けて見えてエロ────俺の精神衛生上よろしくないからである。

水着ならまだ見れる……はず。

 

「ん〜……分かった!その代わり一人じゃ恥ずかしいから響も着てくれよな」

 

よし…………って、えっ?

 

「え、いや私は別に着なくても……」

 

「頼むって!私一人水着だったらおかしいじゃんかぁ〜」

 

確かに深雪だけ水着のまま訓練をしてたら周りからどう見えるだろうか……。

状況を知ってる山本はともかく電や白雪に見られたら俺の趣味だとか思われるんじゃないか!?

それは不味い。電に軽蔑されようものなら俺は立ち直れなくなってしまう!

くっ、女性用の水着かっ……。

男として踏み入れてはいけない領域な気が……しかし……。

 

「よっしゃ、そうと決まれば早速水着を取りに行こうぜっ!」

 

「あ、ちょっとまっ!?」

 

俺の激しい葛藤を余所に深雪は俺を工廠へと引きずっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん〜〜っ!なんか泳ぎたくなってくるなっ! 」

 

「そうだね……潜水艦にでもなろうか……」

 

深雪によって強引に着替えさせられた俺は男としての何かが喪われて行くのを感じながらただ呆然としていた。

唯一の救いはスク水故に肌の露出が少ない事……だと思ったのだが、予想以上にピッチリしてて下手に下着で外に出るより恥ずかしかったのだ。

だからって下着姿で外には出ませんけどね?危ない人(七世)もいるし。

 

「まあまあ、元気出しなよ。似合ってるよ響」

 

「……ありがとう。確かに落ちこんでても仕方ないし訓練を再開しようか」

 

そんな俺の心中を察した、訳ではないがなんとか元気づけようと頑張ってくれている深雪を放っておくわけにもいか無いので気を取り直して訓練を再開する事にした。

 

「それじゃあまず私が離れるから海面を浮ける様になったら通信で教えて欲しい」

 

「お、おっけぇ……」

 

「そんなに緊張しなくてもいいよ、別に今日出来なくたって構わない」

 

「お、おう……」

 

「じゃあ離れるよ」

 

俺は九ノット程でゆっくりと深雪から離れていく。

二十分程進んだ所で深雪から通信が入ってきた。

 

「で、出来たっ!見てくれよ響っ、海上に立ってるだろ?」

 

深雪は証明出来た事が嬉しいのか通信越しにも分かるくらいはしゃいでいた。

 

「嬉しいのは分かるがここからだよ。深雪が海上に立っているところを私に見せてくれ」

 

「おっしゃぁー!この深雪様が直ぐにそっちに向かってやるぜっ!」

 

「待ってっ!進む時はゆっ────」

 

注意を呼び掛けるも時すでに遅し、通信機からは何かが水に飛び込むような音が響く。

俺は急いで駆け寄り必死にもがく深雪の手を取り一気に引き上げた。

練習場所として足が着く所を選んだのだが気が動転した状態では足を着くのもままならないのは艦娘も同じらしい。

 

「ふぅ……大丈夫だったかい?今は手探りでやってる様な状況だからね、暫くはゆっくり進んだ方がいい」

 

「げほっ!……げほっ……はぁ……はぁ……た、助かったぁ〜……りょうか〜い」

 

むせ続ける深雪を背負って俺は一度陸へとあがりゆっくりと深雪を降ろした。

 

「はぁ〜、死ぬかと思ったぜぇ」

 

「お疲れ、大変だとは思うけど明日からは少しでも距離を縮めて行こうか」

 

「距離を…………縮める……」

 

「ん?何か心配事でもあるのかい?」

 

「いっ、いや!?何でもないっ!み、深雪様にまかせろぉっ!じゃあシャワー浴びて来るな!」

 

深雪は慌てて立ち上がりそう言うとそそくさと港を走っていった。

 

「?……何かやらかしたかな……」

 

思い当たる節がなく暫く考えていると、鎮守府正面海域から帰ってきた電達と水着姿のまま鉢合わせてしまった俺は、港で正座をさせられ山本が来るまでの三十分もの間白雪に説教を受け続けるのであった…………遊んでるわけじゃないのに……。

 

 

 

 




スク水響っ!会いたいっ!行ってきますっ!


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第二艦隊開放!!(唐突のネタバレ)

 皆さんお待たせしました。
一週間所か三週間ほど時間を空けてしまい申し訳が立ちません。
それと私事ではありますがそれにより失踪する可能性が出てまいりました。
ですので念のため、念の為に此処に失踪フラグを立てておきます。


とまあそんなことはともかく此処からが本編です。
↓       ↓     ↓       ↓


一週間だけとはいえそれぞれみっちり特訓をしたお陰で電ちゃん達は比べ物にならない成長を遂げていた。

まず白雪と正面海域に出ていた電ちゃんは一人でも安定して任務をこなせる様になっていた。

次に那珂ちゃんだが、魚雷の撃ち方だけは俺が教え主砲の撃ち方や軽巡洋艦の役割なんかは全て長門(七世)が確りと叩き込んだらしい。

性格はあれな奴だがことこの世界においては正直色々とスペックが高過ぎな気がする。

まあそれはいいとして、最後に深雪の特訓の成果だが……

 

「響ぃ〜〜っ!!!」

 

「うわっとと…………ふぅ、そんなに勢い良く飛び付いたら危ないじゃないか」

 

「へへっ、悪い。でも嬉しくってさ!」

 

見事に克服し、今や海の上でもこうして飛びつける位になったのだ……()()()()()

確かに一週間でかなりの進歩ではあるけれど、何故か長門(七世)や白雪が近付くと途端に艤装が使えなくなってしまうらしい。

 

「う〜ん……どうして私だけは平気何だろう」

 

「それ……は……響の近くなら安心出来るから……かな?」

 

水着だからか?ってそんな事は無いか。もしそうだとしても流石に水着姿で出撃する訳にも──いや、水着で出撃してる艦娘も居たにはいたか……。

 

「まあ、それは徐々に慣れていけば────って、どうしたんだい?」

 

ふと視線を戻すとさっきまで元気にはしゃいでいた深雪は何故か顔を真っ赤にして俯いていた。

 

…………もしかして、何かやらかした?

いやでも深雪が顔を真っ赤にするような事は言って無いはず。

じゃあどうしてだ?直接聞いてみようか……まて、本当に聞いていいことなのか?

万が一深雪が口にしたくない様な発言を俺がしていたらそれを言わせようとするなんて鬼畜の所業じゃないか。

だからと言って俺が無意識にそんな発言をするなら今の内から意識しておかないと取り返しのつかない事になりそうな気もする。

 

「うぅ〜…………」

 

「ひ、響……?」

 

…………聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うしな。

 

俺は大きく深呼吸をしてから意を決して深雪に聞いてみた。

 

「あの、さ。もしかして、さっき……」

 

「へっ?ああああいや何でもないっ!何でもないって!?」

 

「そ、そっか………」

 

慌てふためきながら必死に否定する深雪を前に俺は内心膝をついて項垂れていた。

 

何を言ったかまでは聞けなかったが俺が問題発言をした事だけは分かった。

これは以後気を付けなければ……。

 

「そ、そうだっ。そろそろ電達も戻って来るし私達は先に司令官の所に戻っていようか」

 

「お、おう。そうだなっ!なんか話があるんだっけ?」

 

「そうだね、多分次の攻略についてじゃないかな」

 

少し気まずい空気が流れる中、俺達は艤装を片して執務室へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

「司令官、失礼するよ」

 

ノックの後、直ぐに山本からの返事が来たので俺は一声掛けてから扉を開いた。

中には山本の他に先に集まっていた長門(七世)と那珂ちゃんが並んで立っていた。

奴が突っ込んで来るのではと一瞬身構えるが、山本が監視している為か長門(七世)は拳を震わせながらも堪えていた。

 

「おお、お疲れさん響、深雪」

 

「司令官もお疲れっ!」

 

「お疲れ司令官、それに那珂ちゃんと長門も」

 

「お疲れ様っ!響ちゃん、深雪ちゃん!」

 

那珂ちゃんはポーズを決めながら元気の良い声で返してくれた。

それは聞いてるだけで元気が貰えるような声だった。

 

「お疲れ様っ!響ちゃん、深雪ちゃん!」

 

直後、何を考えたのか長門(七世)が那珂ちゃんの真似をしはじめた。

声は那珂ちゃんと聞き間違える程似ていたが、その姿は少し痛々しかった。

 

「それで、そっちはどうだ響」

 

山本はスルーを決め込み話を進める事にしたらしい。

俺もそれには賛成なので視線を山本へ戻し答える。

 

「今の所は私と二人だけでしか出撃は出来ないかな、皆とも馴れて行けば大丈夫だとは思うけどね」

 

「そうか、今の所は響とだけか……わかった」

 

「白雪、電、ただ今帰投しました」

 

「白雪さんお疲れ様っす!電もお疲れさんっ」

 

「……先に戦果報告をさせて頂きます。敵はぐれ艦隊、敵主力艦隊共に撃滅完了。MVPは電、撃沈数三でした」

 

電も頑張ってるなぁ、俺ももっと確りしないと。

 

「おおっ、凄いじゃないか電ぁ〜!白雪さんもありがとうございます」

 

山本は電に近づいてその頭を優しく撫でた。

くっ、なんて羨ましい……。

 

「えへへ、なんだか恥ずかしいのです」

 

「司令官、少しは上司としての威厳を持って頂きたいですね」

 

「え、あ……ごめんなさい」

 

「だからっ…………はぁ、もういいです。早く本題に入りましょう」

 

あの日以降白雪には敬語で話すようになってしまった山本に対して何度も注意する白雪だがそれが逆効果になっている事に気付いていないらしく、一人頭を抱えていた。

素直に言えば良いと思うが、彼女はきっと甘え下手なのだろう。

 

「そ、それじゃあ皆集まったし話を始めようと思うっ。まず始めに、近々第二艦隊の運用を始めようと思っている」

 

第二艦隊の運用か連合艦隊は先の話だし今は遠征を進めていく感じかな。

 

「第二艦隊旗艦は響、随伴艦が深雪。以上二名で暫くは練習航海を一日三回行って来て欲しい」

 

むむぅ、電と一緒に居れないのは残念だけど深雪を一人放っておく訳にも行かないから妥当な割り振りではあるか。

 

「わかった。けど一日三回でいいのかい?」

 

「ああ大丈夫だ。デイリー任務は無いみたいでな、ウィークリー任務の報酬が二十回遠征を成功させる事なんだ」

 

「了解、承ったよ」

 

二十回か……やっぱり遠征が十五分で終わるわけないか。

まあ、どれ位掛かるかは行ってみないことには解らないか。

 

「そしで、第一旗艦が白雪さん。随伴艦に長門、那珂ちゃん、電の四人で製油所地帯沿岸の海上護衛作戦に当たってもらう。それと並行してローテーションで深雪と練習航海にも行ってきてくれ」

 

「「了解(なのです)っ!」」

 

「よし、それじゃあ解散──っとそうだっ、最初だけは那珂ちゃんを旗艦にして出撃してくれないか」

 

「えっ!私がですかぁ!?」

 

「ああ、任務達成の為にな。頼んだぞ那珂ちゃん!」

 

突然の旗艦指名に戸惑っていた那珂ちゃんだったが、決意を固め気合十分とばかりにポーズを決めて応えた。

 

「りょ~かいっ!那珂ちゃんセンター、一番の見せ場ですっ!!」

 

 

 

 

 

 

 




それでは皆様、失踪していなければまたいつか!


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山本提督!水雷戦隊の出撃任務に長門を入れるという凡ミスを犯す!

作者「俺は悪くねぇっ!大本営がやれって言ったんだ!」


「お仕事しゅーりょー。おつかれさまっ!」

 

製油所沿岸地帯から戻って来た俺達を山本は港で出迎えてくれていた。

 

「お疲れ那珂ちゃん。皆もお疲れ様」

 

「司令官、私達から報告に行くからわざわざ出迎えてくれなくても大丈夫だよ?」

 

「まあそう言って貰えるのは嬉しいけどよ、俺が好きでやってるんだから止めないでくれ?」

 

「だから貴方は司令官としての……まぁ、仕事はきちんとこなしているのなら別に良いですけれど」

 

まあ実際山本の気持ちも解らなくはないし、白雪も満更でも無いみたいだしこれ以上言うことも無いだろう。

 

「それじゃあ休憩入りまーす!」

 

そんな中マイペースに入渠ドックへ向おうとする那珂ちゃんだったが白雪はすかさず襟首を掴み引き戻した。

 

「えっ、ええっ!?なに?那珂ちゃん何かしたの!?」

 

「戦果報告がまだですよ、昨日も伝えましたよね?」

 

白雪は狼狽える那珂ちゃんを山本の前に突き出した。

 

「あ……えっ……と、敵前衛艦隊と敵主力艦隊を撃滅しました?」

 

「主力を撃滅したのは昨日の話です。今日は敵前衛艦隊と敵支援艦隊です」

 

「あ、そうだった。で、撃沈六。内白雪ちゃんが三隻撃沈でMVP、私と電ちゃんと響ちゃんがそれぞれ一隻ずつ撃沈しました。あとは……」

 

「こちらの被害報告です」

 

「あっ、そうだった!えと……」

 

旗艦って大変だなぁ……なんて人事の様に考えていたが、もしかしたら明日は我が身だった事を俺はすっかり忘れていた。

ちゃんと覚えておかないと。

 

「以上が今回の戦果報告となりますっ!」

 

「おう、わかった。そしたら先に損傷の少ない響と白雪から入渠して来てくれ、後の二人は先に補給を済ませてから二人が上がり次第那珂ちゃん電の順に入ってくれ」

 

「「了解っ!」」

 

各々が山本の指示通りに歩き出して行く中、俺は一人立ち惚けていた。

……入渠……か。

分かっている。自分が元男である事を明かせばこんな苦悩をする必要は無くなることは。

その代わり電ちゃんに軽蔑される日々を過ごす事になるかも知れないが。

ってそんなのは駄目だっ!やはり何とかやり過ごすしかないのか……

 

「響さん?何してるんですか、早く行きますよ」

 

「うぇっ!?あ、ああうん。そうだね、行こうか」

 

「?」

 

び、びっくりしたぁ……。

突如目の前に現れた白雪に驚きを隠せずつい飛び退いてしまった。

白雪はこちらを不審がっていたが、やがてため息を一つついて再び歩き出した。

これ以上疑われる様な事をする訳にも行かないので覚悟を決めて白雪と入渠ドックへと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、全艦召集が掛かったので俺は電と一緒に執務室へ向かっていた。

 

「新しい艦娘さんが来た見たいなのです、どんな人なのか楽しみですっ」

 

(真綱)ちゃんは艦娘を殆ど知らないらしく新しい仲間が増える事がとても楽しみの様だ。

 

「そうだね、仲良くなれるといいね」

 

「はいっ!」

 

電ちゃんを余り不安にさせたくなかったので何も言わなかったが俺は少しばかり嫌な予感がしていた。

勿論転生者でない艦娘は根幹はいい子だとは思っているが、どうにも不安が拭い切れないまま気付けば執務室へと到着していた。

 

「響、電の両二名到着したよ」

 

「入っていいぞ」

 

山本の了解を得て中に入ると、既に全員集合しており山本の隣には新しく着任して来たと思われる艦娘が立っていた。

 

「よし、全員揃ったし早速だが自己紹介をしてくれるか?」

 

「はぁ〜い、ショートランド泊地第三基地から〇六〇〇付で第二鎮守府に配属になりましたぁ〜。天龍型軽巡洋艦龍田だよぉ?よろしくねぇ?」

 

猫なで声で続けられる自己紹介は無事に終わり俺の不安は杞憂だったかに思われた次の瞬間。

 

「といってもどうせ()()()()()()()()()()()()()()馴れ合う必要も無いわよねぇ?」

 




なんと言うか……日常って何なんですかね?
シリアスにしないと気が済まない病気が発症しつつある今日この頃……(・ω・`)


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疑惑の巡洋艦

龍田さんのキャラにとっても悩みました。
金剛と言い龍田さんと言い個性が強い人ほど動かし辛いのです……orz


意味深な自己紹介から五日が経った今日。

龍田の練度がかなり高い事から満を期して1-4である南一号作戦に出撃する事となった。

編成は戦艦である長門(七世)を旗艦に軽巡洋艦の龍田と那珂ちゃん。それに駆逐艦の白雪と電ちゃんと()の六人であり、深雪には山本の仕事を手伝って貰っている。

 

「そういえばさー、龍田ちゃんはそんなに練度が高いのにどうしてこっちに来たのー?白雪ちゃんみたいな感じ?」

 

あの自己紹介を聞いても臆すること無く地雷原に踏み込んでいく那珂ちゃんの勇姿には敬意を表したいが、余り空気を重くしそうな質問は控えてほしかった。

 

「あら〜?分からなかったかしらぁ。前の基地は無くなったのよぉ?提督以下二十名の艦娘は死亡。残った私はぁ、此処に送られたってこと」

 

那珂ちゃんは激しく動揺していたが、正直那珂ちゃん以外の全員が少なからず察していた事であった。

そして恐らく彼女の口振りから一度や二度では無いのだろう事も。

 

「ご、ごめんね?なんか悪い事をき、聞いちゃったかな」

 

「いいのよ〜?特に気にしてないからぁ〜。それよりもぉ、深海棲艦のおでましみたいよぉ〜」

 

「敵艦隊発見っ!方位0-1-0、距離五千。恐らく偵察艦隊だ!」

 

「総員戦闘態勢!これより砲戦を開始しますっ!」

 

龍田の事は引っ掛かるが今は目の前の敵に集中しなけれは。

俺は気を取り直し白雪と共に敵駆逐艦へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦の殲滅を確認、戦闘終了です。引き続き進軍を継続しますよ」

 

「ま、俺に掛かればこんなもんよ」

 

「長門さん、ニ級一隻撃破しただけで調子に乗らないでくれますか?」

 

「はい……すんません」

 

初戦は何事も無く終了したものの頭のもやもやは無くなるどころか徐々に不安へと形を変えていた。

重巡すらも容易く仕留める程の実力を持つ龍田を擁しながらも壊滅したショートランド泊地第三基地。

そして俺の記憶違いでなければこんな所で出てくる筈のない駆逐二級や重巡リ級エリート。

 

「白雪、嫌な予感がするんだ。今から撤退することを進言したい」

 

「何が不安なのかは解りかねますが私達が今撤退する正当な理由があるのですか?」

 

「それは……」

 

損害の一切無い現状で撤退するべき確たる理由がある訳では無い。

 

「でも……いや、そうだね。ただ嫌な予感がするのは確かなんだ。だからいっそう注意して進もう」

 

「……そうですね、注意するに越したことはありませんね」

 

白雪は共通回線に繋ぐと全員に警戒を強めるよう指示を出した。

 

そう、これでいい。

司令官含め基地が壊滅したのなら今撤退してどうにかなる問題じゃないのかもしれない。

それにまだ龍田の経緯と出現した深海棲艦に関連性があると決まったわけじゃない。

なら今俺が余計な事をせずに何時でも万全の体制で挑めるようにして置けばいい。

だが、暫くして長門(七世)の飛ばした艦載機から最悪な報告が入って来ることとなる。

 

「なっ、なんだってぇ!?」

 

「どうした長門」

 

「水偵から報告が入った……敵主力艦隊の中に()()()()()()()()()()()()()




シリアス展開待ったなしっ(泣)


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死神の鎌

引き続きシリアス注意報となります。



ー重巡棲姫ー

重巡という艦種でありながらその耐久と装甲は姫級だという事を知らしめるには充分なものであった。

その上先制雷撃も行い、更には個体によってその火力は大和型、雷装は駆逐艦島風にまで匹敵する事があるという。

つまり何が言いたいかと言うと……どう考えても平均練度三十に満たない艦隊で戦っていい相手じゃないと俺は思う。

ゲームなら超絶運が良ければB勝利位は取れるかもしれないがどう足掻いてもここは現実であり運頼みが出来る程お気楽には考えられない。

 

「白雪、これは流石に撤退するべきだ」

 

「解っています。皆さん、作戦を中断しこれより撤退戦を開始します!長門さん。殿は任せました」

 

「うえっ!?まじで?龍田の方が練度高いじゃん!」

 

「彼女はまだこちらに来たばかりです。それに戦艦である貴方なら僅かでもダメージが通り足止めができる可能性がありますので」

 

「ま、まあ白雪さんの期待には応えるぜ」

 

そう言って長門(七世)は足を震わせながらも最後尾へとついた。

そうして俺達が撤退しようとした所で龍田はおもむろに呟いたのを決して聞き逃さなかった。

 

「逃げても無駄よぉ〜?あいつはずぅーっと追い掛けてくるのだからぁ〜」

 

「龍田っ!もしかして鎮守府が壊滅したのはあいつによってなのかい?」

 

「そうよ〜、あれは私に取り憑いた死神の様なもの。私を残して全てを奪い去って行くの」

 

まさかそんな事があるなんて。

俺はてっきり偶然が重なってしまっただけだと思っていた。

まさかそんな事情が有るなんて思っても見なかった。

 

「龍田、教えてくれてありがとう。ただ、もうちょっと早めに教えてくれた方が助かるかな?」

 

俺は何故だかこんな状況にも関わらず呑気に龍田へと感謝を伝えていた。

勿論内心穏やかでは無い。

このまま戻っては山本を危険に晒してしまうし、かと言ってここで倒す方法が見つかってる訳でもないのだから。

ただそれでも感謝はその場で伝えなければと思ったのだ。

だけど龍田は俺の発言の何かが気に食わなかったらしく食い気味に突っかかってきた。

 

「早めに伝えたらどうしたの〜?私を解体でもしたのかしらぁ〜」

 

「そうじゃないさ、みんなで対策を練る時間が出来ただろ?」

 

「どうせ貴方達も信じようとしなかったわ」

 

「どうしてだい?そんな嘘をついたところで龍田には得は無いと思うんだけど」

 

「だってそうでしょ〜?姫級がたった一隻の艦娘を追い続けて周りの艦娘や提督だけを標的にしてるなんて与太話にしたって出来が悪過ぎじゃない?」

 

龍田が自分で言ったように得が無いというのはつまりはそういう事だ。

もしそれが嘘なら言う意味が無いどころか深海棲艦のスパイだと思われかねないような発言なのだ。

そして恐らくは今までの提督は思考をそこで完結させてしまっていたのだろう。

それじゃあ他人に不信感を抱くのも当然かも知れない。

ならば龍田を責めるのは間違っているのだろう。

 

「済まない龍田、さっきまでのは全て忘れて欲しい。そして改めて言わせてくれ。教えてくれてありがとう」

 

「…………」

 

龍田からの返事は無かったが龍田のお陰で俺達がやらなきゃいけない事がハッキリとした。

 

「白雪、聞いていたかい?」

 

「ええ、多少面食らってますが撤退は出来ないと言う事は理解できました」

 

「えっマジでっ!?じゃあどうにもならねーじゃん!」

 

長門(七世)が嘆く通り俺達だけじゃ逆立ちしようと勝ち目なんてものはない。

けど何か打開策はある筈だ……考えろ……

 

「そうですね……順当に考えて援軍を頼みましょう」

 

「援軍?でも鎮守府には深雪しか残って居ないんじゃ」

 

しかし白雪は首を横に振り言葉を続けた。

 

「司令官に他所の鎮守府から援軍を要請して貰うんです」

 

他所から?そうか、俺達に倒せなくても高練度の艦隊なら重巡棲姫を倒す事が出来るはずだ。

 

「そうだね、そうしよう。となると誰かが伝えに行かなきゃならないね」

 

練度や動きを考えると電を此処に残しておくのは危険だしやっぱりここは……

しかし俺が言うよりも先に口を開いたのは白雪だった。

 

「そうですね……それでは響さん、連絡役を頼めますか?」

 

「えっ!?電を此処に残しておくのかいっ!」

 

「そうです、一番危なっかしいのは電さんだからこそ私達でサポートできる場所に居てもらうのです」

 

「うっ、確かに撤退中に接敵しないとは限らないか……」

 

それに今は考えてる時間も惜しい。

電の事は皆に任せて俺は少しでも早く援軍を連れて戻ればいい話だ。

 

「分かった、じゃあすぐに戻る」

 

「頼みましたよ。皆さんは生存を第一に考え迎撃に当たって下さい!!」

 

「「了解っ!!」」

 

後ろを白雪達に任せ、俺は全速力で山本の元へと走って行った。




1ー4を突破すれば平凡な日常が帰ってくる筈何ですっ!
今暫くお待ちくだされ!


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援軍は未だ来ず

今回もまだ日常タグは機能致しておりません。
外した方がいい……のか?


響が援軍を呼びに戻ってから既に五時間が経過しようとしていた。

必至の抵抗により、辛うじて大破者は出ていないものの一隻の姫を相手に白雪達は窮地に立たされていた。

 

「わ〜ん!那珂ちゃんもう限界だよぉー!」

 

「ふぇ……響ちゃん……」

 

「電さんっ、那珂さんっ!泣き言を言ってる暇があったら生きる為に足を動かして!」

 

「だから那珂さんはやめてってばぁ〜!」

 

挫けそうな二人に喝を飛ばす白雪だが、彼女自身も姫と相対出来るほどの練度がある訳でもなく状況は依然として芳しくない。

更に言えば鎮守府最高練度である龍田の雷撃すら有効打となっていない現状を看過見るに目の前の姫が高位個体である事は明白であり、その事実が白雪達の心を折ろうと重くのしかかる。

 

「(流石に遅いですね……何かあったのでしょうか)」

 

戻りが遅くとも響を信じて送り出した以上響に何かがあったなどと考えてはいない。

白雪が案じているのは鎮守府の事、そしてそれ以外の外的要因の事である。

そしてその不安は正しく鎮守府ではとある問題が発生していた。

 

 

 

 

時は四時間前にまで遡る。

 

 

 

 

 

最大戦速で帰投した俺は一直線に山本のいる執務室まで突っ走って行った。

 

「司令官!緊急事態だっ!」

 

「うぇいっ!何事!?」

 

「ひ、響?!」

 

「重巡棲姫が出た!すぐに援軍を頼みたい!!」

 

壊れんばかりに思い切り開かれた扉に驚きを隠せない山本と深雪だったが俺の言った事を直ぐに理解し、正気を取り戻した。

 

「重巡棲姫だって!?他のみんなはどうしたっ?」

 

「どうやらそいつは龍田をしつこく追い続けているらしい。鎮守府に引き連れる訳にも行かないから戦域にて交戦中だよっ」

 

「そうか……わかった直ぐに援軍を要請しよう。響は補給したら再出撃の準備を、援軍を戦域まで誘導してくれ」

 

「了解、補給に行ってくる」

 

そうして山本は直ぐに連絡を取り始めた。

俺は直ぐに出撃出来るよう工廠へ急いだ。

そこまでは順調だった、しかし……補給を終え執務室に戻った俺が耳にしたのは山本の怒鳴り声であった。

 

「うちの秘書艦が嘘を吐いてると仰るおつもりですかっ!!」

 

『そういう事ではない、撃破できぬのなら撤退をすればいいと言っているのだ』

 

「いましがた話したではありませんかっ!それが可能であればわざわざ大佐の手を煩わせたりなどは致しませんっ!!」

 

『その龍田がどうとかいう与太話が信じられる訳が無いだろう』

 

相手の提督にはどうやら信じて貰えていないらしい。

龍田の話を聞いた時にも思ったがどうやら海軍には頭の固い奴らばかりなのだろうか。

 

「……分かりました、信じて頂けないようですので他を当たらせて頂きます」

 

『そんな話を信じる奴がいるとは思えんがな』

 

「時間が惜しいので失礼致します……」

 

そうして山本は電話を切ると拳を思い切り机に叩き付けた。

 

「くそっ!どいつもこいつも石頭どもめっ!!」

 

「司令官……どうにかなるか分からないが私一人でも戻らせてくれ。出撃許可を」

 

「あ、あたしも行くぜっ!」

 

こうしている今も白雪達は戦っているんだ、なら例え援軍が来なかろうと早く助けにいかなきゃ。

 

「駄目だっ!そんな許可は出せない」

 

だが山本は出撃の許可は出さなかった。

 

「まだ他に宛はある、お前達が無理に出る必要は無い」

 

「誰も信じないのにどうやって援軍を頼むって言うんだ!」

 

「例え援軍が来なくても……いや、来ないならばこそ出させる訳には行かない!響、俺はお前を沈めさせたくはないんだ……」

 

「なっ…………っざけるなっ!仲間を見捨ててまで私にのうのうと生きろと言うつもりかいっ!!」

 

俺は怒りのあまり壁を殴りつけた。

壁に拳大の穴が空いてしまったが今はどうでもいい。

俺は山本からそんな言葉は決して聞きたくなかった。

頭では分かっている、あいつが一番大事にしているのは響だという事も。

だから()を希望が見えない戦場へ向かわせたくないと思うのは当然である事も。

だけど、だからこそ山本だけは仲間を見捨てて欲しくない!

戦後まで生き残り数多くの戦友の最期を見届けてきた響の……場所を交代した直後に自分がいた場所で沈む電を見届ける事しか出来なかった彼女を愛するというのならっ!。

 

「俺だって仲間を見捨てたくはない!けど……俺はお前に沈んでこいなんて許可は出せない……」

 

「っ……君には失望したよ。軍法会議にでも何でも掛ければいい、私は行くよ」

 

「響っ!?待ってくれ!俺を置いて行かないでくれぇ!」

 

縋るように駆け寄る山本を振り払いドアノブに手を掛ける。

 

「司令官、私は沈みに行くつもりはない。仲間を助けに行くだけだ」

 

それだけ言い残すと俺は部屋を後にし港へと急いだ。

 

 

 

 

 

抜錨し再出撃を果たした所までは良かったのだが、皆を助ける方法がさっぱり見つかっていない。

一人でも行きたい所だが俺だってそれが無駄であることくらい理解している。

だからと言って仲間を見捨てて生き残るなんてごめんだ。

そう考えた時にふと龍田の顔が頭に過ぎった。

あいつは今までずっとこんな無力感に苛まれてきたのだろうか……。

 

「だったら、何とかしてやらないとなっ」

 

俺は気持ちを切り替え走り出す。

が、突如現れた駆逐イ級に出鼻をくじかれた。

 

「ったく、こっちは急いでんだ。さっさと沈めさせてもらうよ」

 

直ぐに魚雷を構えて狙いを定め、イ級目掛けて放とうとしたが……

 

「敵艦捕捉、全主砲薙ぎ払えっ!」

 

直後、そこに居たはずのイ級は砲弾の雨に飲まれ跡形も無く消え去った。

 

巨大な三連装砲を携え、堂々とした立ち姿で佇むポニーテールの彼女は嘗て日本の技術の粋を集めて建造された超々々弩級戦艦、大和型一番艦大和であった。

 

「や、大和さん?どうしてこんな所に」

 

この世界でいう大和と言えばその燃費や修復コストから運用される場面が限られる事が多く主に特別作戦時の切り札として待機している事が殆どだと資料には記されていた。

しかし、理由は直ぐに大和が応えてくれた。

 

「はい、私は今鎮守府正面海域にて戦意を向上させています」

 

なるほど、つまり1-1周回でのキラ付け中とのことらしい。

 

「そうだったのか、でも結果的に助かったよ。ありがとう大和さん」

 

俺は先を急ぐからと、大和に別れを告げようとしたが彼女は何か考え事をしているようだった。

どうかしたのか気になったがそれどころでは無いので改めて別れを告げ電達の元へ向おうとした瞬間、後ろから呼び止められた。

 

「響さん?この辺りで重巡棲姫の目撃情報はありませんでしたか?」

 

「なっ!?どうしてそれを!」

 

驚きを隠せない俺に対して大和は納得が行ったらしく落ち着いた様子で話してくれた。

 

「やっぱりそうでしたか。必死な訴えに対して提督がまともに取り合っていなかったので、私が戦意向上を口実に鎮守府正面海域で情報収集をしようと思っていたのですが丁度良かった。重巡棲姫の元までご案内頂けますか?」

 

「スパスィーバ……いや、ありがとう。」

 

「いえ、困った時はお互い様ですから。では行きましょう」

 

「……ありがとう。じゃあ行こうか」

 

そうだ、折角大和が助けに来てくれたんだ。

間に合わないなんて事があってたまるかっ!

あと少しだ……あと少し堪えててくれ皆。

 

 

 

 

 

 

 




いや、もう少しなはずなんだっ!夢の日常まで!


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ヴェアアアアアッ!!!!……ニクラシヤァ…

春イベでも重巡棲姫様は騒々しかったです。

ノロノロト…ヤクタタズノ…ジョウシンコ…ガ…シズメッ!!


「ムダダ、ヤクタタズドモメッ!」

 

「きゃあっ!?ま、まだ……やれます!」

 

「「白雪ちゃんっ!!」」

 

「フン、ザコニシテハヨクタエタホウダナ」

 

「全く……こんな場所に出てきておいて良く言えますね」

 

ただ、皮肉にも的を得ているという事実に白雪は苦笑を禁じ得なかった。

重巡棲姫と相対してから五時間強が既に経過しているが、その間誰一人として大破せずに来れたのは傍から見れば奇跡的とも言えよう。

だが、敵を撃破出来ない以上その奇跡も何時までも続きはしなかった。

 

「(大破ですか……私一人で撤退するのも厳しいですね)」

 

重巡棲姫の長射程連装砲の直撃を貰ってしまった白雪には単艦で撤退する力は残されていない。

だからと言ってこれ以上この場の戦力を割くわけにも行かなかった。

そうして思考を巡らせ続けた白雪だったがやがて一つの答えへと帰結する。

 

「ふぅ……皆さんは撤退を開始して下さい」

 

「白雪さん!?重巡棲姫が追っ掛けてくるからそれは出来ねぇんじゃ……」

 

「ええ、ですので私が殿を務め()()()()()()()()()()

 

「「えぇっ!?」」

 

「い、いくら白雪さんが強いからって流石に無理があるって!」

 

七世の言う通り大破した駆逐艦一隻がまともに戦った所で中破すらしていない重巡棲姫を沈める事など不可能である……そう、()()()()()()()()()()

皆が疑問を持つ中、龍田だけは今までの記憶から白雪が行おうとしている事を予想出来ていた。

 

衝角衝突(ラムアタック)……本当にその()()で重巡棲姫を沈められると思っているのかしらぁ〜?」

 

「そうですね、今は衝角は有りませんので錨で代用します。後は魚雷を全て起爆させれば可能かと……」

 

沈められる……そう予想していた白雪であったが龍田にはそれが不可能であると分かっていた。

初めて着任した鎮守府で先に着任していた姉の天龍が同じ様に特攻し、そして散っていくのを目の当たりにした龍田だからこそ白雪が決死の特攻を覚悟した事も、それが無意味である事も知っていたのだ。

 

「……無理ね。まず辿り着けない、そしてよしんば出来たとしても沈める迄には至らないわぁ〜?」

 

「それでも、足止め位ならできます!」

 

「だ〜か〜らぁ〜、足止めにもならないって言ってるのよ〜?()()()()()()()()

 

「なっ、龍田さん貴女まさかっ!?」

 

この時、白雪は龍田の決意を理解してしまった。

 

「本当は最初から解ってた……それでも我が身可愛さにここまで来てしまったのだけれど……」

 

(龍田、チビ共を連れて鎮守府に戻れ。)

 

(天龍ちゃんはどうする気なの?)

 

(勿論、こいつの足止めだ。上手くいきゃ止めを刺せるだろうよ)

 

「……貴女のお陰で大切なものを思い出せたわ〜。だからもう大丈夫よ〜?」

 

龍田は最後に白雪に向けていつもの貼り付けたような作り物の笑顔では無く心からの微笑みを見せた。

 

「(白雪ちゃん、天龍ちゃん……ありがと)」

 

龍田は心の中でそっと呟き、そして覚悟を宿したその瞳で仇敵を確りと見据え吶喊した。

 

「さぁて、死にたい艦はどこかしら〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




吶喊する龍田!そこに突如現れた無敵キャンディ!
無敵キャンディを手にし勝利を掴むのは龍田か!重巡棲姫か!はたまた桃色の悪魔か!
決戦の火蓋は落とされた!刮目せよ!君は世界改革の立会人となる!
次回「無敵キャンディ争奪戦!」

この次回予告は全てフィクションであり、実際の作品の内容とは一切関係ありません。


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ココロガ……カラダも……

龍田は重巡棲姫に衝角衝突(ラムアタック)を仕掛け足止めをし、自身もそこで沈むはずだった。

そうすれば彼女達を逃がす事ができ、そして龍田を追っていた重巡棲姫は目的を失い必要以上に追いかける事も無いだろうと感じていたから。

だが現実は龍田が沈む事を許さなかった。

龍田が重巡棲姫へ突撃しようと覚悟を決めた直後、重巡棲姫へと正確な砲撃の雨が降り注いだのだ。

 

「ヴェァァァ……ニクラシヤァ……ッ!」

 

「長門?いや……」

 

長門ではないと断じる。

ここの長門にあれほどの命中率は無く、何よりも飛んできた方角が違う。

ならば誰だと龍田は飛んできた方向を振り向く。

 

「そこの艦隊!後はこの大和に任せてこの戦域を脱出なさいっ!」

 

龍田の向いた先には戦艦大和、そして応援を呼びに戻った響の姿があった。

 

「あら〜てっきり諦めたのかと思ったわ〜?」

 

「そのセリフは後で司令官に言うといい。そして遅くなって済まなかった」

 

「何があったかは後で聞きましょう、とにかく助かりました。後は頼みますね」

 

白雪は響の返事に引っ掛かりつつも感謝を伝えた。

そして龍田、長門を残し撤退を開始した。

 

「ニガスカ……シズメェ!!」

 

「貴方の相手はこっちですよ!」

 

白雪達を追い掛けようとする重巡棲姫へ大和は再び一斉射を浴びせる。

 

「ヴェァァァッ!!イマイマシイ……」

 

重巡棲姫が大和へ狙いを変えた直後、足元が大きな水飛沫を上げて重巡棲姫を包み込んだ。

 

軽巡洋艦(わたし)を前にして余所見なんて随分と余裕じゃない〜?」

 

「グッ……ガァッ!ニクラシイ……ヤクタタズドモメッ!」

 

怯んだ所を畳み掛けるように長門の四十一センチ連装砲が重巡棲姫を襲う。

 

「ど、どうだちくしょう!!」

 

直後、重巡棲姫は眩いくらいの光を放ち始める。

近くにいた龍田達が目を覆う中、重巡棲姫と思われる者の声が辺り一帯に響き渡った。

 

「ヤクタタズドモニ……コノ……ワタシガ…………ムネンダ……コンナ……イヤ……ムシロ……ココロガ……カラダも……これは…………そういう、ことなの……?私は、本当は……」

 

段々と光が弱まっていき、完全に発光が治まったそこに重巡棲姫の姿は無く、ブロンズヘアーのセミロングの少女だけがただ立っていた。

 

「ボンジョルノ!ザラ級重巡ザラです!龍田お姉様に近づく人には容赦しません、よろしくね!」

 

「…………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

何とか救援が間に合い誰一人欠けることなく帰路に着くことが出来た俺達であったが、かなり微妙な空気になっていた。

それこそ一番の功労者である大和がいたたまれない位に。

原因としては二つ、一つは俺が憤りに任せて鎮守府であった事を全て話してしまった事。

話を聞いたみんなは当然の如く山本に対して憤りを露わにしていた。

龍田は元から期待してないのか特に気にしていないようだったが。

全てを話した事に少しだけ反省はしているがどうなるかは山本の誠意次第だろう。

そして二つ目は……

 

「…………」

 

「龍田、大丈夫かい?」

 

「そうねぇ〜、姉の仇がすぐ隣にいるのに止めを刺せないどころかずっと腕を組まれている状況が大丈夫に見えるのなら工廠で検診を受ける事をお薦めするわ〜?」

 

「だよね……」

 

「響ちゃん?あんまり龍田お姉様に近付くとザラは怒りますよ?」

 

今回の騒動の原因である重巡棲姫が実は龍田にぞっこんな転生者だという事だ。

まだ実際に確認していないので転生者かどうかは分からないが是非とも転生者であって欲しい所だ。

龍田にして見れば仲間の仇が突然艦娘になって自分の事を慕っているなどと言われても到底容認は出来ないのだろう。

それでも手を出さない辺り、複雑な心境と共に龍田の優しさが見て取れる。

 

「力になれず済まない、帰投する迄は我慢してくれるかい?」

 

「しかたないわねぇ、言うだけ無駄そうだものね〜?それよりも……帰ったらそっちの方が大変そうだけど大丈夫かしらぁ〜?」

 

「まあ、多分大丈夫さ……司令官も何を言ったのか十分に反省するべきだしね」

 

「あの子達がやり過ぎない様に止めてあげるのよ〜」

 

「ん、わかってるよ」

 

長門(七世)や白雪辺りは少し気をつけて置かないといけないかな。

無事鎮守府に帰投した俺達は大和に燃料弾薬を必要分補充し、自身の鎮守府に戻る大和を見送った後艤装を外して執務室へと入った俺達が目にしたのは既に両頬をパンパンに腫らしたまま椅子に腰掛ける山本の姿だった。

 

「みんなっ!無事に戻ってきてくれてありがとう」

 

「けっ……よく言うぜ」

 

「…………」

 

「まずはお前達全員に謝らせて欲しい。その様子だと響から聞いているとは思うが俺は響可愛さにお前達を見捨てる事も考えてしまっていた。いや、実際諦めようとしていた。だが、響に言われ深雪に頬が膨れ上がるまで叩かれて目が覚めた」

 

俺達は何も言わずに山本の話に耳を傾けていた。

 

「俺は今後どんな絶望的な状況であろうがお前達を誰一人として見捨てないとここに誓う!だからお前達が赦してくれるのなら今一度俺の傍にいて欲しい。何があっても絶対に護る!だからっ────」

 

「私は信じるよ、私の事を快く迎えてくれた提督が私達に誓ってくれたんだもん!」

 

「わ、私も司令官さんの事を信じるのです」

 

「はぁ……仕方無いですね、なら私達を護れるようにしっかりと教育しなければなりませんね」

 

「那珂ちゃん……電……白雪さん……」

 

「ま、まあ白雪さんが言うなら仕方ねぇ。次は無ェからな」

 

「もちろん分かっている」

 

ま、皆も許したみたいだし山本も十分反省した様だし一件落着かな……こっちは。

俺は何も言わずにザラの方を見やる。

龍田に振り払われて腕からは離れているがこっちのやり取りを気にすることもなく絶えず龍田に熱い視線を送っている。

 

「所で……さっきからずっと龍田を見つめている娘は……」

 

「はっ、重巡ザラです!粘り強さが信条です。提督、龍田お姉様と恋仲になんてなったら消しますから、よろしくね!」

 

「えっ……と、よろしく?」

 

山本が返すも既に視線を龍田に戻し見事にスルーされていた。

 

「ねぇ提督〜?この子を何処か別の鎮守府に送れないかしらぁ〜?」

 

「い、いや。せっかく来てくれたんだし……」

 

「なら私を移動させて貰えないかしら〜」

 

「龍田っ!?だ、大丈夫だって!鎮守府に慣れればザラも落ち着くんじゃないか?多分……」

 

「う〜ん……響ちゃんからも提督に言って貰えないかしら〜?」

 

え?俺?う〜ん……

 

「え……っと、龍田さんが困っているのは分かるんだけど……真面目な話ザラさんを龍田さんから遠ざけるのは危険……だと思うな」

 

「危険?どういう事かしら〜」

 

俺の発言に納得がいかないらしく龍田は少し威圧的に俺に聞き返した。

 

「ほ、ほら。ザラさんの執念を考えるともし遠ざけても平気で無茶しそうだし。それで龍田さんにも他の鎮守府にも迷惑が掛かっちゃうくらいだったら此処で解決策を考えた方が良いかなっ……て」

 

勿論ザラが常識人ならそんな事はしないだろうし俺の考え過ぎかも知れない……けど、もしそうなったら今回みたいな事が起きないとも言えない。

龍田には申し訳ないけどその辺りは周りで何とかサポートして行こうと思う。

 

「駄目……かな?」

 

「だ〜め……と言いたいけれど、貴女の考えは分かったからぁ、貴女に免じて今は我慢してあげるわ〜?」

 

「済まない、そう言ってもらえると助かるよ」

 

これで取り敢えずは……

 

「…………ジー」

 

ま、まあ一段落ついた……かな?

話し合いが終わり、解散となったので俺は殺意が篭ってそうな視線を背中に受けながら執務室を後に部屋へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




こっちはスラスラ進みましたねぇ。
ザラさんが転生者かは証言は取れず……(;´・ω・)


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疑問の答え

こっちはすらすら書けるんですがこっちに集中してしまうとメインの方が進まなくなってしまうので結果的にどちらも投稿が遅くなってしまうんですよ〜(言い訳)


あ、それと響乱交狂曲の次話投稿時にも再び報告しますが響乱交狂曲 第三十六番より 「レ級改flagship」の挿絵投稿しました。
上新粉クオリティの拙いアナログですが良ければ見てやってくだせぇ旦那。


山本との話を済ませた第一艦隊は俺を含め六人とも被害を受けており、提督の指示のもと順番に入渠する事になった。

出来る限り彼女達との風呂場での接触を避けるため入るのは一番後にして欲しいと山本に申し出たものの、入渠ドックの効率的利用と長門(七世)の性別的事情により俺の申請は通る事は無かった。

……まあ、この身体で七世と一緒に入りたくはないし必要以上に怪しまれる訳にも行かなかったし仕方ないヨネ?

 

ただ…………

 

「それじゃあ、ちょっと直して来るわ〜。行きましょう?響ちゃん」

 

「響ちゃん、龍田お姉様の裸を見たら……赦しませんからね?」

 

「はは……そんな無茶な……」

 

どうしろと言うんだ……

俺だって可能な限り見ないようにしますよ!?

そりゃあまだ死にたくありませんからねっ!

それでも同じ空間にいる以上目に入ってしまうものは目に入ってしまうものでして……

なんて心の中で弁明しているとおもむろに龍田に手を引かれドックへと連行されていた。

 

「響ちゃんっ!?何やってるのよぉっ!!」

 

「いや、私に言われても……」

 

ザラが騒ぎ立てるのも気にせず龍田は揚々とドックへと足を運んだ。

その結果どうなったかと言うと…………まあ予想通りザラは浴場まで着いてきた。

ついで浴場で欲情するという勘弁願いたいボケまで体現している。

 

「龍田お姉様の!ハァ……ハァ……チラッ。あられもない姿は!!ハァ……ハァ……チラッ。ざ、ザラが守りますっ!ジュルリ……」

 

自分のあられもない姿は守る気が無いらしく龍田を背に腕を広げて俺の視界に龍田が入らない様にしていた。

そして風呂に入る前だと言うのに鼻から赤い汁が滴っている。

 

「あー……取り敢えずその鼻から溢れ出てる物をどうにかした方が良いんじゃないかな?」

 

「そうやってお姉様を盗み視るつもりですねっ!その手には乗りませんよ!!ドババババ」

 

「ちょっ!?ザラさん不味いレベルで流れてるって!」

 

「粘り強いのがモットーですから!ジャババババ」

 

粘ってないから!すっげぇジャバジャバ出てるから!!

早く止めないと更衣室が事件現場みたくなってしまうとなにか方法を考えていると龍田が笑顔を貼り付けたままザラの肩を叩いた。

 

「ザラさぁん?ちょっといいかしら〜」

 

「は、はいっ!」

 

突然龍田に呼ばれたザラは嬉しそうに赤い液体を撒き散らしつつ思いっ切り振り向いた直後、龍田が何処からか持ってきた強力クリップで鼻を挟んだ。

 

「い、いひゃ、ぐひゃあぁぁぁっ!!!?」

 

そして続けざまの目突きにより一時的にザラの視界を奪った。

 

「貴女にも話があるから〜、落ち着いたら来るのよ〜?」

 

龍田はそう言い残し浴室に入って行き、俺も付いてく形で浴室へと入っていった。

そしてかけ湯をしてから湯船へと浸かりつく事が出来た所で長かった一日を振り返ろうとするが……

 

「響ちゃん?貴女に幾つか聞きたい事があるのだけれどいいかしら〜?」

 

「ふぇっ?ど、どうしたんだい?」

 

意識を内側に向けようとしていた所で龍田に声を掛けられ慌てて意識を龍田へ向けた。

すると龍田から思いもよらない質問が飛んできた。

 

「ね〜え?貴女は記憶がないって聞いてるのだけれど、

それってぇ……」

 

───────嘘、でしょ?────────

 

その瞬間湯船に浸かっていると言うのに俺の背筋が凍りつくほどの寒気を覚えた。

 

「え?……いや……」

 

まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいっ!!!

記憶が無い事が疑われるなんて考えていなかった。

いや、落ち着け俺っ。龍田はまだ知り合ってそんな経っていない!ならただ単にカマをかけてるだけかも知れない。それならばっ!

 

「ど、どうしてそう思ったんだい?」

 

疑う以上なにか俺に不審な点があったに違いない。

だったらそれを聞いた上で適切な返答をして疑念を解消させよう。

質問に質問を返す形に龍田は不審感を更に募らせるが、変わらぬ口調で答えてくれた。

 

「まあ〜色々あるけれど〜、一番は他の響ちゃんを知っているからかしらね〜?」

 

他の響……なるほど俺の所作言動が響らしくないからという訳か。

だがそれだけでは転生者かどうかは分かっても記憶が無いかどうかまでは解らない筈だ。

だが、そんな俺の心を見透かしたかのように龍田は話を続ける。

 

「なんかね〜響ちゃんを知ってる何者かが響ちゃんを演じてるみたいな〜……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「なっ!……そ、そうか……な?」

 

まさか……響を演じようとしたのが失敗だったのか……

慣れない口調で頑張って来た事全てが間違いだったなんて………

 

「ねぇ〜?貴女は一体誰なのかしら〜」

 

「あ……あ……わ、わたし……は……」

 

どうしようどうするどうすればいいっ!!

正直に打ち明けるか?

いや、どう考えても状況が悪過ぎる。

いま元男ですなんて白状したら此処に墓標を建つことになる。

だからと言って下手な嘘は無意味だし誤魔化すことも出来るとは思えない。

…………もう駄目だ、おしまいだぁ。

こうなれば一か八か龍田さんに事情を話して内密にして貰うしかない!

 

「う〜ん。言わないつもりならぁ〜、更衣室にいるあの子にある事ない事言っちゃおうかな〜?」

 

「わわわかりましたっ!話します!話しますからそれだけはっ!!」

 

ああ……言わなければ今日が命日、言っても命日になる確率大……最初から選択肢なんて無かった…………

 

「う〜んっ♪素直な子はすきよ〜?」

 

「はぁ……じゃあ最後まで()()()聞いてくださいね」

 

「はぁ〜い♪︎」

 

「まず私の正体ですが……思ってる通り転生──いえ、特異体って奴ですね。名前は小山響夜、享年十七歳。此処で言うのはとても気まずいけど性別は男です」

 

「……っ////」

 

龍田が反射的に俺の視力を奪おうと目突きを繰り出すが予想してたので咄嗟に手をかざし防いだ。

 

「そちらは見ないようにしますので落ち着いて下さいお願いします死んでしまいます」

 

「……っええ、そうだったわ〜。()()我慢するわ」

 

うわぁ……話し終わった後生きてたらいいなぁ(遠い目)

肌で感じる程の殺意を俺は背中に受けながらこっちを睨んでるであろう龍田へ話を続ける。

 

「えっ…と、それでどうして隠してるかと言いますと……原因は山本、それと七世ですね」

 

「提督と……長門さんの事だったかしら〜?」

 

「はい、七世に知られれば中身が同性なのをいい事に何をされるかなんて考えたくも無いですし。山本は……正直親友として申し訳ないんです。」

 

「申し訳ない?」

 

「ええ、あいつは他を見捨ててでも護ろうとするくらい響を愛してるんすよ。そんな大切な人の中身が偽物のしかも野郎だなんて悲しすぎるじゃないですか。だから……」

 

俺は響を演じ続け山本を騙しそして傍に居続ける。それが俺を助けようとしてくれたあいつへの恩返しでありあいつを死なせてしまった俺の償いだから。

 

「ふ〜ん?でもそれってただの自己満足じゃないかしら〜」

 

「確かにその通りだと思う。それでも山本が()を響と思い込んでいる間は響として傍にいようと思う」

 

ま、七世と同じ理由も多少含まれてはいるけどな。

 

「信じていいのかしらね〜?疚しい気持ちもあるわよね〜」

 

「ゔっ……電ちゃんと一緒に寝れるのは役得とは思ってるけど…………」

 

「私達の裸が見れてらっき〜とか思ってるんじゃ無いのかしら〜?」

 

「そういうつもりはないっ!……といってもつい目がいってしまうのは男の子なので申し訳ない限りですが……」

 

「……………………」

 

「あの……入渠については何かしら対策を講じますのでこの事は内密にして頂けると助かります」

 

だが、龍田は顎に手を当てて何か考え始める。

やっぱり虫のいい話だっただろうか……

そうこう考えている内に俺の修復が完了するが、俺はこの状況で上がる訳にも行かずただ龍田の返答を待った。それから数分程して龍田は漸くその口を開いた。

 

「まぁいいわ〜、貴方が居なければ私はもう居なかっただろうし〜?誰にも言わないでおいてあげる」

 

「ほ、ほんとかっ!?」

 

「こっちを見るのは禁止されてます〜」

 

「ごぼぁっ!?」

 

驚きを隠せず反射的に龍田の方を振り向いた直後、龍田によって湯船へと沈められていた。

 

「ごべごぼぼぼがぼぼっ!!」

 

「分かったかしら〜?」

 

「がぼぼぼ!ごぼぼがっ!(分かりましたっ!ごめんなさい!)」

 

「あはは〜!分かれば良いのよ〜?」

 

そういって龍田は漸く()の頭から手を離した。

 

「はぁ……はぁ……と、とにかくありがとう龍田。それとよろしく頼みます」

 

「よろしくね〜、私の下僕さん?」

 

「え"っ……」

 

「うふふ、冗談よ冗談〜」

 

あまり冗談に聞こえないのが怖いけど今は龍田を信じよう。

 

「あは、あはは……それじゃあ俺……私は上がるとするよ」

 

「まったね〜♪︎あ、ついでにあの子を呼んで貰えるかしら〜」

 

「あの子?あ、うん分かった」

 

俺は最後お湯で体を流し浴室を出て更衣室にいるザラへ龍田が呼んでいる事を伝えてから電達のいる工廠へと歩いていった。

ザラに物凄い形相で睨まれていたが疲れて居たので気にしない事にした。

あ、そう言えば……まあ後で誰もいない時にでも身体を洗いに戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍田お姉様……」

 

「来たわねザラちゃん〜?」

 

「お姉様っ!()()()()を放って置いたらお姉様が穢されてしまいますっ!!」

 

「そ〜う?貴女と同じ特異体だけれど私は貴女よりは安全だと思うわ〜?」

 

「そんなっ!わ、私は特異体なんかじゃ……」

 

「提督とか他の特異体の反応を見てれば大体察しがつくわよ。それで?貴女は何者か教えて貰えるかしら〜?」

 

「わ、私は……」

 

「ああその前に、もしも貴女があの子の事を言いふらしたりして私の姉だけじゃなく私の…………下僕まで奪おうと言うのなら貴女が誰であろうが容赦しないわよ〜?」

 

「うっ……どう……して……どうしてお姉ちゃんはいつまで経っても私の気持ちを分かってくれないのっ!!」

 

「え……?ど、どういう事かしら〜?」

 

 




なんかザラさん書いてると申し訳なさに押し潰されそうになります。
作中でキャラ崩壊が一番酷いですが前にも言った通りあまり好きじゃないキャラは登場すらしませんのでそこだけは本当にご了承くださいませ。
特にザラ姉妹は海外艦の中でもビス子の次位にお気に入りです。
持ってないけどなっ!( 涙目 )


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秘密な関係(意味深)

響(響夜)「…………なんだこの(意味深)って」

上新粉「そりゃあ、ね?」

響(響夜)「はぁ?」

上新粉「そんな事よりお待たせしました!本当ならすぐに投稿出来るはずでしたが私の原点とも言えるお方の作品をついつい読み返していたら投稿が遅れてしまいました(それでも私の中では早いペースではありますが汗)本当に申し訳ありませんでしたっ!つい何度も読みたくなってしまう素晴らしい作品何です!」



とまあ私の近況報告はともかく本編をどうぞ!




「はぁ〜……どうしたらいいのかしら〜」

 

「えぇ……っと、どうしたらと言われても……」

 

執務室で待機していると何故か入渠上がりの龍田に連れられ龍田の自室へと通された俺は今現在ザラの事で相談を受けていた。

どうやら俺が上がった後ザラが転生者である事を理由に突き放そうと企んでいたらしい。

だが、話を持ち出した所、突如泣き出してしまった彼女から生前慕っていた姉の面影を龍田に重ねていたという予想外の事実を知ってしまい避けるに避けられなくなってしまい対応に困っているそうだ。

まあ、それが本当だとしても正直行き過ぎだと思うが、それでも無碍に出来ない辺り龍田はやっぱり人が良い。

因みに何故俺が呼ばれたのは何となく予想が付くし聞いたところでどうにもならないので諦めた。

 

「せめてもう少し落ち着いてくれればね〜」

 

何かアドバイスしようにもなぁ〜。

まだザラの事も全然知らないしなんて言ったらいいのか……

 

「そうですね……兎に角少しづつ言い聞かせて行くしかないんじゃ無いでしょうか。所でザラさんはどちらに?」

 

「あの子なら入渠するように言ってあるわ〜」

 

あ〜、そう言えば出血もやばかったしその上目潰しくらってたっけ。

 

「ねえ響夜さぁん、貴方からも言ってもらえないかしら〜?」

 

「いやぁ、そんな詰め寄られても俺の言葉じゃ多分聞きませんし〜。後誰かが聞いてると不味いのでその名前で呼ぶのは無しでお願いします」

 

「え〜しかたないわねぇ〜」

 

そういって龍田さんはにやにやしながらもといたベットへと戻っていった。

 

「ま、まあ話す機会があれは私からも伝えてみますよ」

 

「ありがとう〜()()()()

 

「いえ、おほん!……それじゃあ私は執務室に戻るよ。一応秘書艦だからね」

 

「くすっ、ばいば〜い♪︎」

 

龍田の部屋を離れ執務室へと歩いていく。

途中うずくまる長門を見つけたがその先に何事もなく歩いていく白雪を見つけたので俺も何事もなく通り過ぎる事にした。

そんな事よりも何とかしなければ行けない問題がある。

それは俺の響の真似が中途半端だという事だ。

俺としてもバレるとは思わなかったからどうすればいいか未だに案が浮かんでいない。

今回は龍田に秘密にしてくれるので助かってはいるが、これ以上他の人に気づかれる訳にも行かないからな。

 

「どうしようか……」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、実は──って電っ!?」

 

「はい、電なのですっ!どうしました?」

 

突如(俺が気付かなかっただけだが)現れた電に流れで話してしまいそうになった俺は慌てて誤魔化す。

 

「ザ、ザラさんの正体についてちょっと気になってね。どうしたら話してくれるかなぁって」

 

「ザラさんは転生者さんなのですか?」

 

普通に考えれば原作と印象が違いすぎるし…まあってあれ?もしかして真綱さんって艦これ知らないのかな。そう言えば深海棲艦も知らなかったみたいだし。

それなら違和感を感じないくても不思議じゃない……ってそうかっ!?そうなると自称記憶喪失である俺が原作のザラを知ってるのも変なのか!

どうしよう……龍田から似たような話は聞いたがわざわざ自室まで連れてきて話すくらいだし龍田の相談に関することは龍田から話すまで黙っておくべきだろうし……

うぅ……失敗した、何とか誤魔化せないか……そうだっ!

 

「な、長門や司令官の反応が変だったから気になったんだ!」

 

ど、どうだ……?納得してくれたかな?

 

「う〜ん……言われてみれば引き攣った顔をしてた気がするのです」

 

「そ、そうそう。だから司令官に相談してくるねっ!」

 

「ふぇ?あ、響ちゃんっ!?」

 

それだけ伝えるとそそくさとその場を後にしたのだった。

 

「……ふふっ、やっぱり響ちゃんは司令官さんの事が気になって仕方がなかったのですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、流石に話の切り上げ方が露骨だったかな……」

 

まあ過ぎてしまった事は仕方ない。

俺は執務室の前で暫く息を整えた後、ゆっくりと扉をノックした。

 

「響、ただいま戻ったよ」

 

「おう、入っていいぞ」

 

すぐに返事が来たので俺は扉を開けて部屋の中へと入ると、山本は書類をヒラヒラとさせながら出迎えてくれていた。

 

「おかえり、龍田とは何の話だったんだ?」

 

「うん、ザラさんについての事だけどそれについては後で本人から話してもらった方がいいかな」

 

「あ〜、響だけを呼んだって事は俺には話しずらい内容だったんだろうな」

 

実際は半分くらい俺を弄る為だったんじゃないかって気はしなくもないがうっかり口を滑らせても行けないのでさっさと本題を切り出すことにしよう。

 

「まあそうだね、それでザラさんの話で思い出したんだけど司令官がザラさんとの初対面の時の反応はなんだったんだい?」

 

「あれ?そんな変な反応してたかな」

 

「うん、なんか違うなぁって顔してたね」

 

実際に山本の表情を見てた訳では無いが山本に心当たりがある以上矛盾は無い筈だ。

予想は正しく、暫く唸っていた山本は漸く口を開いた。

 

「これは俺が死ぬ前の、しかもゲーム内での話だから確証は無いんだけどな?そん時にうちに居たザラとイメージが随分違うんだよ」

 

「だから、転生者じゃないかって事かい?」

 

「ん〜まぁ、つっても白雪さんや深雪の様な例もあるし一概にそうだとも言いきれないんだよなぁ……」

 

「そっか……」

 

確かに深雪は他人の近くじゃ艤装が動かないっていう艦娘からしてみれば致命的な傷を抱えているし、白雪も俺や山本のイメージからすればかなり鋭い気がする。

だからゲーム内のイメージで全て判断するのは厳しいだろう。

だが、転生者なのは分かっているので実際は山本から直接確認して貰うだけなのだ。

俺が山本に提案を持ちかけようと考えた時、図らずも山本から意見を出してくれた。

 

「よし、ザラに入渠から上がったら来るように伝えて来てくれ」

 

「ん、了解。行ってくる」

 

山本は決して馬鹿ではない。

これなら俺が下手に口出しして自分の首を絞める事も無さそうだ。

 

 

 

 

 

暫くして、見るからに不機嫌そうなザラが執務室に入って来た。

 

「提督……ザラはこれからお姉様の元へ行きたいのですが」

 

「ま、まあまあ。私も深く追求するつもりはないから答えてくれるかな」

 

「……何でしょうか」

 

酷く不貞腐れながらザラは聞き返した。

山本も笑顔を引き攣らせつつも質問を投げかける。

 

「じゃあ聞くけどザラ、君は転生者かい?」

 

「…………」

 

「別に素性を知りたい訳じゃなくてね、全員の認識をすり合わせておいた方が色々と都合が良いだろうから出来れば転生者かどうかだけでも教えてくれるかな?」

 

ザラは山本を射抜くような視線で睨みつけていたが、深い溜息を付くと一言だけ答えた。

 

「……転生者ですよ」

 

そして執務室の扉を開けてスタスタと去っていった。

俺と山本が残された部屋で山本は頭を抱えて悩んでいた。

 

「う〜ん……やっぱり無理に聞き出さない方が良いのかなぁ……那珂ちゃん時もだけど思い出したくない過去ってのはあるよなぁ」

 

秘書艦として、そして親友として間違った事じゃないと言ってやりたかった。

しかし同時に俺も過去を忘れて響として生きて行ければ俺も山本もどれだけ救われたか……なんて考えてしまう。

生まれ変わったからこそ過去の事なんて忘れてしまいたいのかも知れない。

だから……

 

「司令官が皆の為に動くのなら、例え皆がどう思っても私は司令官の味方でいる。だから司令官は安心してやりたい事をやるといい」

 

俺が響として山本を支える、何があっても……

 

「響……」

 

「でも前回のような自分のエゴで動く様なら容赦無く切り捨てるからね」

 

「う"っ……肝に銘じておきます」

 

「よろしい」

 

だが龍田にも言われたように正体を隠して山本の傍にいるのは俺のエゴなのだろうか……。

山本に偉そうな事を言える立場では無いのだろうか……

そんな不安に押し潰されてしまいそうになった時、突然山本が俺の頭をわしわしと撫で回した。

 

「ありがとな響っ!俺も頑張るからこれからもよろしく!」

 

山本に撫で回されみるみるうちに不安がかき消されて行った。

少女だからか……いや、そう言えば生前受験とかバイトとかで悩んでいた時にいつも山本は俺の頭を撫でてたな。

俺が「男に撫でられて喜ぶ趣味は無ぇっ!」つって叩き落とすと「頭を振ったら不安とか飛んでくんじゃねぇかなって」とか言ってたっけな。

確かに不安は飛んでったな……

 

「ありがとう司令官。でもこれ以上は不安以外のものまで飛んでいってしまうよ」

 

「お?わり、それもそうだな」

 

山本はパッと手を離すと自分の椅子に再び腰を掛けた。

そして手元の書類に目を落とし何かに気が付いたらしく顔をこちらに向けてこう言った。

 

「あ、そう言えば本部から南一号作戦の達成が認められたってさ」

 

「……へ?」

 

 

 

 

 

 




いやぁ長い一ヶ月でした!六ヶ月?いえ知らない子ですね。
とまあ兎に角一ヶ月以内に1-4までの攻略に成功した山本達労うのは束の間の休息!
という訳で次回こそ日常回の予感!シリアスなんかぶっ飛ばせーっ!


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1-4攻略完了!

平穏な日常がいま甦る………………はず。


翌日、山本の口から全員へ南一号作戦が達成された事が伝えられた。

どうやら本来居たはずの敵主力艦隊は重巡棲姫が討たれた事により侵攻を止め、撤退して行ったらしい。

その為撃滅対象の侵攻艦隊が居なくなったので事実上達成という事らしい。

何はともあれ一ヶ月以内に鎮守府正面海域の制圧という本部からの課題は達成されたので山本より二日間の休暇が与えられたのだ。

 

「という訳で明日から二日間存分に羽を伸ばして貰いたい訳だが、なにか質問はあるかな?」

 

山本は全員を見渡して質問が無い事を確認してからこう言った。

 

「よし、それじゃあ今日の予定は最初に話した通りに頼む。以上解散!」

 

「「了解っ!」」

 

俺達は敬礼で返しそして執務室を後にした。

さて、明日から二連休な訳だけどどうしよう。

俺は深雪と二人で練習航海に出る為準備をしながら明日からの予定を練っていた。

 

…………給料も入ったし辺りの散策も兼ねて出掛けて見るか。いや、そもそもそんな簡単に外出許可がでるのか?

 

「ひーびきっ!」

 

「うえっ!?深雪っ?」

 

だが、深雪が突然後ろから飛びつき思考を強制的に中断させてきた。

 

「なにブツブツ言ってんだよぉ?」

 

「あ、ああ。明日からの予定を考えていたんだよ」

 

このままでは艤装が着けれないので深雪を引き剥がしながら答えた。

 

「へぇ〜?やっぱり響も休みが待ち遠しいんだなぁ」

 

深雪が意外そうにしているので俺はどういう事かと首を傾げる。

そんな()をみた深雪は慌てて弁明し始めた。

 

「あ、いや!響ってほら、海に出てる時の方が生き生きしてるなぁって思っただけで。と言ってもそれが悪いとかそういう事でも無くて、ええと……」

 

「ふふっ、何をそんなに慌てているんだい?深雪は何も悪い事は言ってないから安心して大丈夫だよ」

 

「え?そ、そうかな?」

 

「うん、悪口でも何でもないし仲間の事を良く見てるのは大事な事だと思うよ?」

 

「え、えへへ……そっか、さんきゅ」

 

う〜ん、ここの深雪はどうしてこうも庇護欲をかき立てられるのだろうか。

電ちゃんという最愛の嫁というものがありながらなんて不埒な男なんだ俺は!

 

「響っ!ど、どうした?やっぱり私が気に障る事を言っちゃったか?」

 

深雪が不安そうに声を掛けた事で自分が頭を抱えている事に気付き慌てて手を離した。

 

「ち、違うんだ……ちょっと違う事で自責の念に駆られていただけだよ」

 

「自責の念?」

 

「そ、そうそう!私が海に出てる時の方が生き生きしてる様に見えたんだよね?それは多分集中してるからそう見えたんだと思うよ」

 

「え?お、おう……?」

 

「他の響がどうだかは解らないけど私は休みはあった方が嬉しいかなっ!じゃあ先に港で待ってるよ!」

 

「え?ちょっ!?」

 

早口で捲し立てながらさっさと準備を終えた俺は急いでその場を離れてった。

まあ……かなり強引だったが余計な事は口走らなかったから良しとしよう。

少しして港にやって来た深雪に心配そうな目で見られていたが何とか誤魔化しつつこの日最初の遠征が始まったのであった。

 




予想以上に短くなった!?ガ━(ŎдŎ;)━ン
しかしここから先を書くと逆に長すぎてしまう恐れがありますのでここで一先ず。


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平和なひととき 〜明朝〜

予想以上に長くなってしまいました。
深雪が予想以上に可愛いのが悪いのじゃぁ!


 午後八時、遠征から帰投した俺と深雪は執務室で山本に遠征結果を報告していた。

まあ練習航海で会敵も無かったので言うほど報告することがある訳でもないんだけど。

そんなこんなで仕事の報告は終えたので本題に移るとしましょう。

 

「ねぇ司令官、少し聞きたい事があるんだけど良いかい?」

 

「おー、どうした響ぃ?」

 

「明日の休みに合わせて今から外出許可を貰う事って可能だったりするのかい?」

 

「外出許可?あ、ははぁ~ん……」

 

俺の一言で山本は何かに気付いたらしく顎に手を当ててニヤリとしながらこっちを見ている。

別に悟られないようにしていたつもりはないから山本のノリに水を差すつもりは無いが普通に表情がムカつくので正直殴りたい。

そんな俺の苦悩もいざ知らず、山本は突然こっちを指さすと突拍子もない事を言い出した。

 

「なぁんだっ!デートがしたかったのなら素直に言ってくれればいいのにー」

 

「…………は?」

 

「いやいや、照れ屋さんなのは解るけど俺じゃなかったらそのアプローチは気付けなかったよー?」

 

んん……?こいつは一体何を言ってるんだっ!?

俺は外出許可を取ろうとしただけなのに何がどうしたらデートのお誘いになるんだ……

 

「司令官、私はただ──」

 

「分かってる分かってる!外出許可もデートコースもこの山本徹に任せなっ!」

 

……よし、殴ろう。

覚悟を決めた次の瞬間っ、()の拳は既に山本の脇腹に喰らいついていた。

 

「……ぐふっ……良い……」

 

「落ち着いたかい?それとその発言は良くないと思うよ」

 

「すまん……取り乱しすぎた。さて、外出許可……だっけ?」

 

「そうなんだ、可能かな?」

 

「そのことなら心配しなくていい。有事に備えて鎮守府付近のみだけど休暇と共に前もって取ってある」

 

そういって山本はファイルから申請書を取り出した。

その申請書を見ると申請日には半月ほど前の日付が書かれていた。

 

「おぉーっ!やるじゃん司令官!」

 

「お!深雪もそう思うか?」

 

「ありがとう司令官、もう少し早く見せて貰えていたら司令官を殴らずに済んだかな」

 

「それは誠にかたじけない……」

 

「冗談さ。スパスィーバ、司令官」

 

項垂れる山本の頭に手を置いてそっと呟き、手を放して深雪を連れるとその場を後にした。

普段ならこんな事絶対にしないだろう。だが、急ぎの任務が終わり二連休となり更に付近だけとはいえ外出が出来るのだから少しくらいしないような事をしたって罰は当たらん筈だ。

まあ問題があるとすればあの申請書の中に当然ながらザラと龍田の名前が無かったことだろうか。

二人の対応は…………きっと山本が上手くやってくれるだろう(投槍

俺は電ちゃんを呼んで三人でショッピングに行くという使命に帯びているんだっ、アディオスッ!!

 

 

 

 

──翌日、朝七時──

 

 

 

 

「「……………………」」

 

罰は当たらんとか言った奴出てこいっ!あ、俺ですねええ当たりましたとも罰。

流石に私もこんな事になるなんて思わなかったんですよ。

電ちゃんは那珂ちゃんと一緒に行動するからと断られたのはまだいいとしよう。

先約だったんでしょうし?内面も同性同士の方が気が楽ですし仕方ないですよ。

ただ、ねぇ…………

 

「おー響に深雪、おっはよーさん!」

 

「響ぃーっ!深雪ぃーっ!俺と一緒に遊ば(やら)ないか?」

 

「響ちゃ〜ん、お~はよ〜?」

 

「……龍田お姉様に近付かないでっ」

 

「これは…………」

 

山本と長門(七世)が待ってるのは解りたくないがまあ解る。

だが何故ザラと龍田さんまで待ってるんですかねぇ?

ザラの視線が死ぬ程痛いんでお二人で行って頂きたいのですが。

 

「響()()()?もしかして深雪ちゃんと二人きりの方が良かったかしらぁ〜?」

 

()の表情から思考を読み取られたのか、龍田はやんわりと言葉で脅しを掛けてきた。

当然俺以外は気付いていない、だがあれはただの嫌味や囃し立てでないのだ。

隣でモジモジしてる深雪は確かに可愛いが返事を間違えてはいけない。

そして浮気もしてはいけない。

 

「ははは、皆で出掛けるのも吝かでは無いさ」

 

龍田に心臓を握られてる以上、本心を出す訳にも行かないが余り強く否定しては深雪に失礼だし。

みんな仲良くの精神でやるしかないのだ。

二人で出掛けられる方法は無かったのかって?

そんなものが有ったら教えろくださいってんだははははは…………はぁ、誰か助けて。

 

「そ〜お?それなら行きましょうねぇ〜」

 

こうして俺の休まりそうに無い休みが始まりを告げたのであった。

 

「二人とも俺の肩に乗るかい?」

 

「乗らない」

 

意気揚々としゃがみこむ長門(七世)を素通りし山本の隣に付いた。

何故か山本が勝ち誇っているが別に深い意味がある訳では無い。

単純に聞きたい事があったのとあの四人の中で一番安全だからである。

本当なら深雪と二人で歩きたい所だがそれだと危険人物(長門)が寄ってきたり、龍田がやって来てザラから致死量に達しそうな程の殺意が降り注いだりと大変な事になりかねないのでこうして深雪と共に山本の隣を歩いているのだ。

俺はあったかも知れない未来に頭痛を覚えながらも山本に一つ尋ねる事にした。

 

「ねぇ司令官。今日のこれは司令官が企画したのかい?」

 

「ん?これって?」

 

「四人が門の前に待っていた事だよ」

 

「あ〜……実はあの後な、直接聞きに来た響達と那珂ちゃん達以外を呼んで外出に関して同じ説明をしたんだがな?その時龍田に響はどうしたかと聞かれたからそれに答えたらこうなったわけだ!」

 

山本は胸を張ってそう言った。

それにしても長門(七世)じゃなくて龍田が聞いてきたってのは意外だったと言うか真意が掴めない。

龍田は何故俺がいない事を気にして更にこうして待ち伏せていたのかも何もかも不明だ。

まさかザラを使って俺を精神的に追い詰めようとっ!?

……ってそんな馬鹿な……だったら俺の秘密を暴露した方が効果的だ。

というかそれやられたら海に身投げするか鎮守府を脱走するかもしれない。

まあ、あの龍田に限ってそんな事は無いだろうし今は気にせずこの休日を皆で楽しむとしよう。

 

 

 

 

と気持ちを切り替え向かったのは付近で一番栄えている商店街。

……の筈なのだが店の殆どがシャッターを閉じていて栄えてる様子など微塵も感じられない。

 

「随分と静かな所ね〜」

 

「ま、まだ八時過ぎだしこんなもんだろう」

 

山本の一言ではっと気付いた。

商店街はおろか大抵の店は開店前のこんな時間から出発するなんて俺は一体何を考えていたんだろうか……。

自分の失態を一人恥じていると山本が何かを見つけたらしく皆を呼び寄せた。

 

「まだ時間も早いしあそこの珈琲屋で時間でも潰して行こーぜ」

 

山本が見つけたのはド〇ールやス〇バの様なチェーン店では無いが落ち着いた雰囲気が印象深い個人経営の店舗であった。

 

「珈琲屋ねぇ……入った事ねぇな」

 

「俺もチェーン店とかしか入った事無いから興味があるんだよ」

 

「中々お洒落なお店でいいじゃな〜い?」

 

「お姉様が入るのならっ!」

 

山本達をよそに俺は深雪に意見を伺ってみる。

 

「深雪はどうだい?珈琲は嫌いかい?ケーキもあるかも知れないけど」

 

「こーひー?けーき?」

 

おっと、なんだこの小首を傾げる可愛らしい生き物は?

反射的に頭の方に手が伸びてしまう所だった。

べ、別にこれは浮気じゃないんですからねっ!

っと、それよりもどうやら深雪は珈琲もケーキも何なのか知らないらしい。

俺も知らない風に装うべきだったか?

うーん、こうして考えると別人を演じてる方が楽だったかも知れないな……まあ今更だな。

 

「そっか、深雪は知らなかったか」

 

「へ?あ、あれだろっ!けーきってあの私らも海上で良く見てるよなっ!?」

 

海上でケーキ?…………あ、計器の事か。

というか何で突然知ってる振りを始めたんだ?

ん〜……知らないと悪いとでも考えてるのだろうか。

 

「そのけいきとは違うかな……つっても別に知らない事は悪い事じゃないさ。ほら、これから入るみたいだし体験してみようよ。珈琲とケーキをさ?」

 

「……おうっ!分かった!」

 

俺は深雪の手を取り山本達の後へ続き珈琲屋へと入ると思いもよらぬ人が先に入店していた。

 

「おや、休日に皆さんと出会うなんて奇遇ですね?」

 

「あ、あれ?白雪?どうして此処に……」

 

俺がつい口にしてしまった質問に、白雪は一瞬ムッとするがすぐに顔の力を抜いて答えた。

 

「なにって、私も休日なので一人で珈琲を飲みながらこの後どうするかを考えていただけですが?」

 

何故か白雪の言葉に棘がある気がするのは気のせいだろうか。

此処は余り刺激しないようにしないとと考えているところに龍田が口を挟んだ。

 

「あら~、もしかして誰かさんにほっとかれて拗ねてるのかしらぁ?」

 

「なっ!そ、そんなんじゃありませんっ。此処に居たら偶然あなた達がやって来ただけですから……」

 

顔を赤らめながら珈琲を口につける白雪を見て俺は一人納得していた。

しかし、龍田の追撃はまだ止まらない。

 

「そうなのぉ?私達ここで時間を潰したら商店街を見て回るつもりだけど一緒にこないのねぇ?」

 

「そ、そうですか……勝手にすればいいじゃないですか」

 

白雪はそう言って更に顔を紅くしながらそっぽを向いてしまった。

俺は白雪を落ち着かせる為に龍田を席に呼んで注文を取った。

 

「私はアイスコーヒーでいいわよぉ〜?」

 

「解った、それとあんまり白雪を虐めないでやってくれないか?」

 

「分かってるわよ〜。ちょっと素直になって貰うだ〜け」

 

そう言ってまた龍田は白雪の方へ歩いていった。

俺はお店の人にアイスコーヒー六つとチーズケーキとショートケーキを注文すると頂いたお冷を一口飲んで白雪達を眺めながらゆっくりしていた。

 

「龍田お姉様とあんな仲良さげに話してぇぇぇぇ……」

 

そんな俺の後ろの席でザラは今度は白雪に対して嫉妬の炎を燃やしていた。

んー……龍田に頼まれたってのもあるが何よりもこのままではザラ自身が皆と馴染めなくなってしまうしなぁ。

ザラは気にしなくても出撃とかに支障が出てきそうだし。

という事でザラを説得する為に話し掛けて見る事にした。

 

「ねぇ、ザラさん。遠くから見てるだけじゃなくてさ、白雪や司令官や他の皆ともう少し歩み寄ってみたらまた今とは違った視点で見れるんじゃないかな?」

 

ザラはきっと他の人の事を知らないから龍田が誰かに取られてしまうんじゃないかと不安だからああやって威嚇する事で龍田に人を近付かせないようにしてるんじゃ無いだろうか……と、言うのはただの思い込みかも知れないけど。

どちらにせよ仲良く出来ない事は無いと思うんだけどな。

だが、今現在俺がそれを成し遂げるのは無理があった様だ。

 

「自分の事を棚に上げてよくもそんな事が言えますわねっ」

 

ザラはこっちを睨みつけ、吐き捨てる様に言うとまた龍田の方を向いてしまった。

自分を棚に上げている?俺が皆に歩み寄って居ないって事か?

いや、そんな事は無い…………はず。

確かに元男だとバレないようにある程度一線は引いているが別に避けてるつもりは無い。

それなら何故ザラは俺にあんな事を?

うーん……疑問ばかりが増えていく。

そんな解けない問題に頭を悩ませていると──

 

「ほれっ」

 

「ひゃっ!?」

 

突如襲いくる冷感に思わず背筋を伸ばす。

 

「アイスコーヒー来たぜ?」

 

「あ、ありがとう……」

 

俺は山本から手渡されたアイスコーヒーを一口飲み込む。

喉を通り抜ける冷たさと口の中に広がる芳醇な香りに少しばかり冷静さを取り戻した。

疑問が解けた訳では無いがそれはそれとして今は折角の休日だ、楽しまなければ損というものである。

チラリと右に座る深雪を見やる。

初めての珈琲は口に合わなかったらしく舌を出して苦そうにしている。

まあ、初めてがブラックだったらそうなるよな。

俺は深雪にガムシロップとミルクを差しだす

 

「はい、ガムシロップとミルク。これを入れて飲むと良いよ」

 

「ガムシロップ?」

 

「砂糖を溶かした様なものさ。蓋を剥がしたら珈琲の中に入れて混ぜるんだ」

 

「こ、これで良いのか?」

 

「ああ、そしたら飲んでみて?さっきより苦味は和らいでる筈だから」

 

俺に促され深雪は恐る恐るコップに口を付け、そして一口飲み込んだ。

 

「おぉぉぉ!美味しいっ!これなら私でも飲めるぜ!」

 

二口、三口と美味しそうに飲んでいく深雪を眺め、一人和んでいると遂に待ちに待ったケーキがやって来た。

 

「お待たせ致しました。こちらがショートケーキでございます」

 

「あ、はいこっちです」

 

俺はお店の人から受け取るとそのまま深雪の前に置いた。

 

「おおっ!?これがケーキっ……!」

 

深雪は初めて見るケーキに興味津々な様で暫く眺めていたが、やがて恐る恐るフォークで一欠片切り分けるとゆっくりと口の中へ運び入れた。

ってなにまじまじと見てんだ俺はっ!?

冷静になれ!俺が好きなのは電ちゃんなんだ!

そりゃあこっち来てから深雪を意識してはいるが……。

あくまでも深雪は保護者的な視点で見ているだけであって──

 

「んんぅっ!美味しいなぁケーキ!!幾らでも食べられそうだぜっ」

 

…………まぁ、いいか。

カワイイハセイギ。イロンハミトメナイ。

結局俺は深雪が食べ終えるまでの間ずっと深雪を見守っていたのであった。

 




まだまだ休みは始まったばかりだぜ!
この作品で初めての五千文字超えがまさか日常?パートだとは……


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平和なひととき〜朝〜

もう少し続きますよ〜(・ω・)ノシ


ー午前十時、珈琲屋店内ー

 

 

深雪がケーキを食べ終えた後は珈琲を飲みつつ山本達とこれからの予定なんかを相談しながら時間を潰していた。

まあザラは頼んだチーズケーキを食べ終えた後は引き続き白雪を睨み付けていたが……

そ、それは兎も角この後の予定があらかた決まり、商店街も徐々に活気に満ちて来る頃合なのでそろそろ出ようかと考え今なお白雪と話している龍田の方へ顔を向ける。

そんな俺の視線にどうやって気付いたのか分からないが、龍田は白雪の死角になる場所で指で輪を作りオーケーサインを俺達に見せた。

そこから俺は龍田の意図を読み取り行動に移す。

 

「それじゃあ司令官、時間も良い具合だしそろそろ出ようか」

 

「お、確かにそうだな。すみませーん、会計良いっすかー?」

 

白雪の気持ちに一切気付いていない山本は支払いを済ませると気にする事なく龍田を呼び戻し、そして……

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「へっ?あ……」

 

呆気に取られる白雪を他所に山本達は店を出ようとしている。

大丈夫かと心配になった俺は龍田を見やるが龍田は真っ直ぐと白雪を見つめ、いつもの笑顔のまま声を出さずに口を動かした。

 

──臆病なのねぇ?──

 

読唇術の心得など無い俺でもはっきりと読み取れたのだ。白雪に向けて伝えられた言葉を白雪が理解出来てないなんて事は無いだろう。

その証拠に臆病者呼ばわりされた白雪は怒りを露わにしている。

そんな爆発寸前の白雪に対して龍田は更に刺激していく。

 

()()()()()()()()()お独りで羽を伸ばしてどうぞ〜」

 

「──っ!ま、待ちなさいっ!!」

 

直後、白雪は大きな音を立てて立ち上がった。

その為既に扉に手を掛けていた山本を含め全員が白雪の方へ向き直った。

そんな中、大声を上げた事で少し冷静さを取り戻してしまった白雪はしどろもどろになりながら何とか言葉を紡ごうとしていた。

 

「あの…………ですね……その…………わっ、私もついて行きますっ!あ、貴方達が変な事をして海軍の名に傷を付けないように……で、あって……私が行きたいとか……そういう事では有りませんので勘違いしないで下さい!」

 

ここまで言えば流石の山本も察したらしく白雪の前まで来ると手を差し出して言った。

 

「分かった、じゃあ白雪も一緒に遊びに行こうか」

 

「…………はい」

 

白雪は真っ赤になった顔を隠すように俯きながらその手を取った。

 

「まぁ……及第点と言ったところかしらね〜?」

 

そんなやり取りを見ていた龍田はニヤニヤしながらも何処か不満そうに呟いていた。

俺は龍田の言葉の意味を考えながら再び白雪を見やる。

確かに白雪は山本と共に休日を過ごすという目的は達した。

しかしそうか、あの言い方だとついて行きたいという意図は伝わっても山本に好意を抱いている事は全く伝わっていない。

白雪的には今はそれでいいのかも知れないが龍田は今一つ納得していないのだろう。

だから龍田は二人の仲を進展させる為に次の作戦を俺に持ち掛けてきた。

 

「────という事なんだけれど手伝ってくれるかしら〜?」

 

「是非手伝わせて貰おう。けど長門(七世)はどうするんだい?」

 

作戦としては単純なものだ。

山本と白雪を二人きりにして見守りつつ山本に白雪を意識して貰うべく後方からこっそりと支援すると言ったものだ。

俺はこの作戦に快諾したのはそもそも逆らえないと言うのもあるがそれ以上に上手く行って山本が()以外を好きになってくれれば山本を気にしなくて済むのだ。

いや、気にしなくてというよりは負い目を感じなくて済む……のか?

と、とにかく俺に取っても山本に取ってもこれが最善の結果なのだ。

だが、その為には先に話したように不安要素である長門(七世)を二人から遠ざける必要がある。

それでも龍田は余裕の笑みを崩さずに続ける。

 

「そうねぇ〜。だから長門さんあなた達に任せようと思うのだけれどやってくれるかしら〜?」

 

「私達……が?」

 

「そう、私は後方支援しなきゃ行けないし〜。ザラ(この子)が誘った所で長門さんが付いて行くとは思えないから〜……ね?」

 

確かに龍田の言う事は尤もだ。

だからといってあんな危険人物を誘い出さなければならないと言うのはあんまりである。

だが、それでもやらねばならぬと言うのならせめて……

 

「…………お?」

 

深雪を危険に晒すわけには行かない。

大丈夫、俺が一人犠牲になれば済む話だ。

 

「……分かった。但し深雪はそっちで連れて行って欲しい」

 

「ええっ!?わ、私は響と一緒にっ──」

 

深雪の気持ちを嬉しく思いつつも言葉を遮る様に言い聞かせる。

 

「深雪、あいつは駆逐艦(私達)の様な見た目が幼い少女が大好物の大変な変態な上に戦艦なんだ。正直に言って奴から深雪まで護れる余裕は無い、済まないが分かって欲しい」

 

(酷い云われようね〜長門さん、ほんのちょっとだけ同情するわ〜)

 

なんて事を龍田は考えてそうだが、全て事実だ。

それ以外のスペックがどんなに高かろうとあんな奴を信じたらろくな事にならない事だけは間違いない筈だ。

 

「響……分かったよ。響も気を付けてなっ!何かあったら直ぐに助けに行くぜ!」

 

「ああ……ありがとう深雪」

 

さて、不安はあるが山本や白雪、引いては自分自身の為だ。

響、作戦を開始するっ!

こうして龍田発案のやまXしろ作戦が発動されたのであった。




山城「あんなリア充製造作戦に私の名前が使われるなんて不幸だわ……そもそも山本と白雪ならやまxしら作戦じゃないのかしら…………


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やまxしろ作戦 第一海域「長門誘導作戦」

長らくお待たせしました!
もう一つの作品の今後を考えていたり、とある企画の為のオリキャラを考えてたり、仕事が変わったりなど色々とありまして……へへ……遅くなっちまいやした。

響夜「マイクラやって無きゃもっと早く掛けただろ」

アーアーきこえなーい!

龍田「何時まで休暇を続ければいいのかしら〜?」

はい……誠に申し訳御座いません。
ま、まあ少しだけ落ち着いてきましたので投稿ペースは上がるかと思いますのでこれからもどうかよろしくお願い致します。

本編入りマース!


「提督〜?私達行きたい所があるからぁ、ちょっと行ってくるわね〜?」

 

珈琲屋を出た所で龍田は作戦通り山本に別行動を取る事を伝えた。

 

「へ?別に行きたい所があるならみんなで行けばいいんじゃないか?」

 

「あらぁ?ランジェリーショップに行くのだけれど……付いてくる気かしら〜?」

 

「あっ……いや、そういうつもりじゃ。わ、分かった」

 

「響と深雪の下着姿だとっ!?俺もそっちにっ──」

 

「死にたい船はどこかしらぁ〜?」

 

いつもの如く唐突に妄想が暴走しだした長門(七世)の首筋にに対して龍田は何処からか取り出した薙刀を突き付ける。

 

「長門さ〜ん?」

 

「えっ、ちょ……なん……でしょう?」

 

「貴方は響ちゃんとどっか行ってなさい?いいわねぇ?」

 

「は、はい……って良いのか響!?」

 

長門(七世)は驚きつつも期待を込めた眼差しで俺に問い掛けてきた。

 

ぐっ……アレと一緒に一日とか苦行以外の何者でもない。

しかし、これは作戦の為なんだ………………ふぅ、覚悟を決めよう。

 

「あ、あぁ……大丈夫……だよ」

 

「よっしゃあ!!じゃあ行ってくる!さらばだ山本!」

 

「あっ!おい待て長門!!響を返せぇっ!」

 

山本が必死に呼び止めようとするも長門(七世)は一切止まることなく()を抱き上げて一目散に走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

長門(七世)に抱えられたまま運ばれる事十分、俺は漸く地に足を着くことが出来た。

長門(七世)は全力で走り続けた為か、現在膝を着いて息を切らしている。

 

「はぁ、少しは人の迷惑を考えてくれないかい?」

 

「っはぁ……っはぁ……ご、ごめん……」

 

と入ったものの目的は達成したから問題は無い。

後は鉢合わせないように長門(七世)と時間を潰せば良いだけだが……

 

「響……」

 

この後の予定を考えていると呼吸が落ち着いてきた長門(七世)が声を掛けてきた。

 

「長門?どうしたんだい?」

 

「この後の作戦はどうなってるんだ?」

 

「ふぁっ?」

 

ちょっと待て、今作戦って言ったか?

いやいやいやいや長門(七世)は聞いてなかった筈だし知っている訳が無い。

た、多分聞き間違いだろう!それか別件に違いない、きっとそうだ!

 

俺は頭を整理しつつ聞き返すと長門(七世)は不思議そうに首を傾げながら再び聞いてきた。

 

「ん?あれ、山本と白雪さんをくっつける作戦だと思って二人に疑念を抱かせないように俺が強引に連れ出したんだけど……もしかして違った?」

 

長門(七世)は申し訳なさそうな顔をしながら右手で頭を掻いていた。

 

俺はどう答えるべきか一瞬悩んだが直ぐに気付いた。

俺の任務は不安要素であるこいつを二人から遠ざけること……つまり長門(七世)が作戦に協力的である以上、下手に隠す必要などなかったのだ。

 

「……いや、それで合ってるよ。よく気付いたね?」

 

「あ、良かった。いやな?白雪さんの態度は気付いてたし何も無いのに響が俺と二人きりになるなんて有り得ないだろ?」

 

「ま、まあ……それはそうかもしれないが自分で言う事かい?」

 

「ああ、自分で聞いといて凹んだわ……」

 

しかし……どうやら長門(七世)は思っていたより鋭い見たいだな。

色々と感づかれないように気を付けないと。

 

項垂れる長門(七世)を見つめながら俺は気を引き締めていた。

すると長門(七世)は先程までとは打って変わって真剣な表情でこっちを向いて尋ねてきた。

 

「それでさ、この後何か作戦が在るのかな?」

 

「え……っと、動くのは龍田で私の目的は長門を二人から引き離し続ける事だから特には──」

 

と、ここまで言った所で俺は長門(七世)の変化に気付き、そして激しく後悔した。

 

「つまり……二人に近付かなきゃ自由なんだな?」

 

「あ……ええと…………そうだ、ね」

 

はぁ……結局こいつに振り回される羽目になってしまったか。

 

取り敢えず気を取り直そうと一旦目を瞑ると突然両足ががっしりと掴まれる感覚を受け慌てて目を開けて下を見ると長門(七世)()の股下に頭を通し両足を掴んで居た。

 

「は?──ってうあぁぁあぁぁー!!?」

 

「ひゃっほーーう!響と遊び放題だぁーーーっ!!」

 

ちょっ!?幾ら何でも意味わからん!

なんで?どうしてそこで肩車なん!?

たかいたかいたかいたかいって!!ストップ!すとっぷぅー!!

 

「良し、どこ行こうっ?そうだパンツ!響のパンツ買いに行こうぜ!!」

 

「ちょっ、お前なあぁぁぁー!!」

 

そして長門(七世)の奴は()を肩車したまま止めるのも聞かずに服屋に向けて再び走り出すのであった……

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「わ、悪い……大丈夫か響?」

 

大丈夫じゃない吐きそうだ……。

はぁ、艦娘が陸で船酔いとか冗談じゃないっつうかもはや意味わかんねぇよ。

まあ心配してくれてるし悪気があった訳じゃないだろうからいいや。それより今現在俺が置かれている状況をどうにかしないと。

取り敢えず頭を整理する為にも再確認をしておくか。

 

「……なんとか大丈夫、それより此処はどこだい?」

 

「ここ?此処は衣料品店の女性用下着売り場だな。下着は必要だろ?」

 

平然と答える長門(七世)に俺は深い溜息と共に項垂れた。

 

いやまあ確かに近い内に買いに行こうとは思ってたよ?

だって最初に支給された下着の予備がいつの間にか()()()()()盗られたせいで今は妖精さんに頼んで入浴とか入渠の間に洗濯乾燥して貰って何とか二着で回してる状態だからね。

あ、なんか考えてたら腹立ってきた。

 

「響?」

 

「ああそうだね、何処ぞの輩が人の下着を()()も盗っていくから下着が足りなかったんだ」

 

「ままま待てっ、おお俺がそんなに持ってく訳ないだろ!?」

 

「ふ〜ん、じゃあ何枚なんだい?」

 

「俺は三枚しか、あ……」

 

十中八九こいつだとは思ってたがあっという間にボロが出たな。

 

「ああそう。それで?残り二枚は何処に隠したんだい?」

 

「い、いや!俺はほんとに三枚だけなんだ!!後は山本と深雪が持ってる!」

 

山本は解らなくもないがまさか深雪の所為にするとは馬鹿な男だ。

 

「へぇ?司令官と深雪からなら聞き出すことは簡単だけど……本当に良いんだね?」

 

「ああ、聞いてくれて構わない」

 

あら?迷いが無い……なるほど、もしかしたら嘘じゃないのかも知れない。

 

「分かった。ただ長門が三枚盗んだのは変わらないよね?」

 

「ゔっ、それは……まあそうだな」

 

「じゃあ領収書は貰ってくるから後で長門から司令官に請求しておいてくれ、いいね?」

 

「へ?」

 

「なんだい、不満かい?」

 

「いや、そういう訳じゃないんだが……返さなくて良いのか?」

 

「ああ、まあそれはそっちで処分してくれ」

 

正直山本に自分の下着の事なんて話したくないし、一度盗られたものを取り返しても使いたくないからな。

何故とは言わんが……ああでも、深雪にだけは後で聞いてみるかな。何か事情があるかも知れないし。

とにかく伝える事は伝えたしさっさと買う物買ってこの空間から離れよう。今や身に付けているものとはいえ、かなり気まずい。

 

こだわりも特に無いので安めの女性用下着を何着か購入すると長門(七世)を連れてそそくさとその場を後にした。

 

 

 

ふと気付くと既に時間は昼前に差し掛かっていたので近くの喫茶店で昼食を取りながら俺は龍田達と連絡を取ってみることにした。

 

『あら〜響さ〜ん、そっちは大丈夫〜?』

 

「うん、長門が察してくれてたお陰で問題は……ないよ」

 

まあ、長門(七世)が暴走していなければ大丈夫……かな。

 

『ふぅん……?それなら良いけどぉ〜。提督達は今お洒落な喫茶店でお昼にしてるわ〜』

 

「お洒落な喫茶店?」

 

山本がそんな所に行くなんて珍しいな。

もしかして俺達が動かなくても白雪の事を意識してるのか?それなら……

 

『そ、まぁ勿論私が誘導したんだけどね〜?』

 

「あ、はい。ですよねぇ……」

 

あいつ昔から色恋沙汰に関してはびっくりするぐらい鈍いんだよなぁ。

後輩の女子に『付き合って下さい!』って告られた時も真顔で『ん、どこに?』とか聞き返しだすレベルだし…………ってあれ、この作戦上手くいくのか?

 

「ねぇ龍田、司令官が何か察した様子はあるかい?」

 

『う〜ん、白雪ちゃんの様子がいつもと違う事は気付いてそうだけとぉ……』

 

「だけど?」

 

少し困った様な声色の龍田に対してまさかと思い問い掛けてみるが案の定の答えが返ってきた。

 

『赤くなって俯いてる白雪ちゃんが不機嫌そうに見えるのかしらね〜?提督がちょっと怖がってるわ〜』

 

「あぁ…………」

 

「白雪さんに対する恐怖心を克服しなきゃ発展しようがねぇんじゃねぇか?」

 

「その通りだけど……」

 

白雪が恐怖の対象になったのは長門(七世)の所為でもあるんだよな……まあ言っても仕方無いか。

 

「まあいいや、それで?この後の予定はどうなんだい?必要なら手伝いに行くけれど」

 

長門(七世)が協力的な以上こっちの任務は終わったも同然だからね。

それにあんま長い間こいつと二人きりでいたくはないと言うのもあるが。

 

『問題ないわよ〜。それじゃあ引き続き長門さんをよろしくね〜?』

 

「あ、ちょっと!?」

 

龍田は伝える事を伝え終えると呼び止める間もなく通信を切ってしまった。

 

当然今の会話も長門(七世)は聞いてる訳で……

 

「おっし!じゃあ今日は目一杯楽しもうぜ!!」

 

鬱陶しい位のテンションで擦り寄ってくる長門(七世)を引き剥がしながら俺はこれから起こるであろう悪夢を前に、ただただ深いため息を付くことしか出来ないでいた。

 

……無事に帰れるだろうか。

 

 

 




次回は今月中に上げられると思います。

白雪「今週中の間違いではありませんか?」

え、流石に……いきなり三日はきついかなぁ?

白雪「…………」

ら、来週中までに上げられるよう頑張ります!

白雪「はぁ……まあ良いでしょう。二つとも来週中に上げるんですよ」

はい!……って二つとも?マジか!?


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やまxしろ作戦 第二海域「ウィークポイント攻略戦」

な、何とか書き上がりました……。

白雪「お疲れ様です、それでは来週も三話投稿宜しくお願いしますよ?」

え、ちょっ……流石に勘弁……いえ、まあ出来るだけ善処します。


「問題ないわよ〜。それじゃあ引き続き長門さんをよろしくね〜?」

 

『あ、ちょっ──』

 

ふぅ、こういう時はやっぱり彼を弄るに限るわね。ストレスが和らぐわぁ。

 

そうして私は向こうにいる現在進行形でストレスの原因となっている二人に視線を戻し彼女に進展を確認する。

 

「ザラさ〜ん、あっちはどうかしら〜?」

 

まあ、答えは分かりきっているけれどね〜?

 

「お姉様ぁ〜……何も変わりませんよぉ?あの二人撃って良いですかぁ?」

 

「だ〜め、我慢して頂戴ね〜?じゃないとご褒美は無しよぉ?」

 

「そ、そんなっ!?あんまりですよぉ……」

 

「じゃあ我慢出来るわね〜?」

 

「うぅ……はい、我慢します……」

 

「いい子ね〜」

 

でもその気持ち分かるわぁ。

折角二人きりの状況を用意出来たのに白雪ちゃんは意気地無しだし〜。

提督は提督で何故だか白雪ちゃんを恐がってるし。

…………はぁ、まだ計画は残ってるけど正直どうしたものかしらね〜。

 

「ねぇ、龍田……さん」

 

どうしようか思考を巡らせていると深雪ちゃんが声を掛けてきたので振り向いて聞き返す。

 

「龍田でいいわよ〜、どうしたの深雪ちゃん?」

 

「あ、うん。それでさ龍田、実は白雪って弱点が有るんだけどさ。それを使えば二人をくっつけられるんじゃないかな〜?って」

 

「弱点?」

 

ふ〜ん、あの子にそんな物があるなんてねぇ?

後々にも使えそうだし聞いておこうかしら〜。

 

「聞かせてもらえるかしら〜?」

 

「う、うん。実は前に……」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

うぅ……どうしてこんな状況に……。

べ、別に司令官と居るのが嫌と言うわけではありません!ただ…………

コップに口を付けながら司令官に視線を移す。

 

「ど、どうした?」

 

「……っ!」

 

すると不安そうにこちらを見られている司令官と目が合ってしまい私は慌てて俯く。

 

大丈夫です問題ないですそもそも皆さんが好き勝手に何処かへ行ってしまうから私が司令官と二人きりになってしまっただけで……二人きり…………あぅぅ……。

 

「しっ、司令官!」

 

「はいぃっ!?」

 

うぅ……駄目です、顔が見れません……。

ですが何時までもこのままと言うわけには行きません!

誰にも臆病者なんて言わせませんから!

 

決意を固め私は自分から一歩踏み込みました。

 

「あ、あの……つ、次はどどど何処に向かいましゅ……か?」

 

「へっ?」

 

……消えてしまいたい。

こんなの私ではありません、私じゃないんです……本当に…………って誰に言い訳しているんですか私は。

 

「……いえ、何でもありません。それより何時までもここに居ても何ですしそろそろ出ましょう」

 

「あ、確かに。じゃあどこ行くかは歩きながら考えましょうか」

 

この微妙に丁寧語なのも距離を置かれてる気がして傷付くのでやめて欲しいのですがどうすれば良いのでしょうか……。

 

当然答えが直ぐに見つかる訳でもなく支払いを済ませると喫茶店を出て司令官と宛もなく再び歩き始める。

暫く歩いていると不意に背後から声を掛けられ私は咄嗟に振り向く。

 

「あら〜?こんな所で合流するなんて奇遇ねぇ」

 

「お、龍田達もこっち側に来てたのか?」

 

そこには私を今の状況にまで追い込んだ元凶が素知らぬ顔で手を振っていました。

奇遇?何か引っ掛かりますね。そもそも彼女達は反対方面に向かって行った筈では?

 

「ちょっとこっちの方に面白そうなものがあったから行ってみようと思ってぇ〜」

 

何かとても嫌な予感がする……関わってはいけないと私の勘が告げている。

 

「そうですか、私達は昼食を終えて次の場所に向かう所ですのでこれで」

 

「あれ?」

 

司令官が余計な事を言い出す前に私は司令官の手を掴みその場を立ち去ろうとする。

しかし空いた左腕を龍田がしっかりと掴んでいた。

 

「何ですか?私達は急いでるので失礼致します」

 

「まあそれでも良いかなぁとは思うけど〜。やっぱり皆で遊ぶのも良いな〜ってね?」

 

一体何を企んでいるんですか!行きませんよ、私の勘がいま確信に変わりましたからっ!

 

掴まれた左腕を引き抜こうと踏ん張るが抜ける気配が一切無い。

 

「っ!ばかなっ!?」

 

「艤装を付けた艦娘相手に生身で抗おうなんていい度胸ね〜?」

 

何ですかその何処かで聞いた様なセリフは……って貴女まさか!?

そう言えば先程何処から薙刀を出したのかと思ったら……!

 

「龍田!民間の生活圏に艤装を着けたまま立ち入るのは禁止されて居るのを知ってるでしょう!?」

 

「えぇ、でも提督の外出に護衛も無しでは危ないじゃな〜い?」

 

確かに言っていることは間違いではありませんが……。

 

「そ、その場合だって申請が必要です!」

 

「申請は取ってるわよぉ?ねぇ、山本提督〜?」

 

「ん?ああそういや申請を承認したな」

 

「なっ……!?」

 

先に伝えて頂きたかった……いえ、そもそも今は秘書艦でもありませんし私に報告する必要はありませんでしたか……迂闊でした、薙刀を出した時点で冷静に思考が出来ていれば。

 

「という訳で皆で行きましょうね〜?」

 

今回は完敗です龍田。ですが次は負けませんよ?

 

 

 

 

 

龍田に引き摺られた先にあったのはこの辺りではかなり大きめの百貨店でした。

たっている場所が住宅街から少し離れた所にあるお陰で商店街も廃れずに続けられているという事らしいですね。

 

まあ百貨店なら大変な事にはならないでしょう。

そう考えていた自身とこの施設を作りやがったオーナーを呪ってやりたい。

 

 

────戦慄の宮────

 

百貨店の屋上一つ下の六階フロア全体を使ったレジャーランドに引けを取らない大型のお化け屋敷である。

 

「…………」

 

「し、白雪。大丈夫……か?」

 

わわわたしは一体ど、どんな顔をしているんでしょうか……ハ、ハハハ。

 

「ふ〜ん……?もしかしてぇ、怖いのかしら〜?」

 

そんな私の様子を見た龍田は煽り立てる。

 

ここで退けば龍田に確信を持たれてしまう。

けれど例え進んでも龍田に気付かれずにやり過ごす事が果たして出来るのでしょうか……。

 

私の内なる葛藤を他所に龍田は深雪とザラさんを連れて入口へと歩き出した。

 

「それじゃあ私達は先に言ってるわね〜?」

 

「きゃあ、怖いですお姉様〜」

 

「おおう……な、なんだか緊張するなぁ」

 

間もなくして龍田達は扉の向こうへ消えていきました。

 

「し、白雪……さん?もしあれなら此処で待ってても……」

 

「だ、駄目ですっ!…………行きましょう」

 

「本当に大丈夫か?」

 

そう、これはチャンスなんです。

龍田達は先に行った、これであの二人に気付かれる心配は無くなりました。深雪にはしっかりと口止めしてありますし……後は私が此処を乗り越えるだけ。

 

「……ええ。但し中で見聞きしたものは他言無用です、良いですね?」

 

「は、はいっ!」

 

この緊張、重巡棲姫と相対した時以上です……しかし、ここは自分自身の為にも耐えねばなりません。

 

震える身体を抑え込みゆっくりと扉の奥へ足を踏み出して行きました。

 




響夜「あれ?この話で休日編終わる予定じゃなかったか?」

それはまあ色々と理由はありますが……力尽きました。

響夜「はぁ……ま、とりまお疲れさん」

一応来週中にどちらかの作品で一話は投稿しようとは考えております。


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やま×しろ作戦 最終結果報告

お化け屋敷の内容はカットォォォォッ!!


戦慄の宮へ入ってから凡そ四十分。

出口まで二十メートルと書かれた看板の前で俺は脳内会議を繰り広げていた。

議題は勿論…………

 

「……ぐすっ……ひっく…………」

 

抱きかかえる俺のシャツにしがみついて泣きじゃくる少女、白雪をどうするかである。

 

ー据え膳食わぬは男の恥だ!

 

ー違うだろバカ、どうやって白雪を落ち着かせるかっつう話だ。

 

ーそんな急を要する事もあるまい?

 

ーこの状態で出ていって大丈夫なら入る前に他言無用なんて言わないだろ?

 

ーならばその唇を塞いでやればいい。

 

ーお前は少し黙ってろ。

 

ーとりまそこのスタイリッシュな自殺志願者はスルーして真面目に考えようぜ?

 

ーそれなら頭を撫でてあげれば落ち着くんじゃないか?

 

ーそ、それは怖いな……反撃が来たりしないかな……

 

ーその時はその時だ、今は安心させてあげなさい。

 

ーそうそう、今はきっと心細い筈だ……多分。

 

ーそうかなぁ?

 

ーうむ、結論が出たな。

 

ーあ、ちょっ!?

 

会議終了

 

マジか……と、取り敢えず一度落ち着こう……よしっ!慎重に……慎重にだ。

 

覚悟を決めて俺は白雪の頭にそっと手を置いた。

 

「ひっ……!?な、何……?」

 

「あ……いや……だ、大丈夫か?」

 

白雪の身体がピクリと小さく震えたので思わず下がろうとする手を何とか堪えつつ俺はゆっくりと髪を撫で始めた。

 

「へぇ!?あ、あの……司令官……その……」

 

「ん?あ、もしかして嫌だった?」

 

「いえ……そ、そういうわけでは……ですが、こんな所で……」

 

こんな所?ってああそっか出口が近いと龍田達に気付かれてしまうか。

 

「う〜ん、となると一旦奥に戻るか?」

 

「え……い、嫌です!それだけは止めて下さいっ!!」

 

そんなに怖かったのか?

確かにデパートにしては本格的なお化け屋敷だったが……どうやらそんなの関係なしに怖いんだろうなぁ。

うむ、そういうギャップも悪くない。

響にもなんかあるかな?今度色々試してみよう。

まあ、それは置いといて……

 

「でもこれ以上先に進むと外に出ちゃうしなぁ……」

 

俺は白雪を撫でながら呟いていると白雪が真っ赤な顔でそっぽ向きながら蚊の鳴くような声で囁いた。

 

「…………ここで……お願い…………します」

 

「良いのか?白雪」

 

此処じゃ不味いんじゃないのか?

だが白雪が無言で頷くので俺は白雪が落ち着くまで撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

暫くして依然顔は赤いが落ち着きを取り戻した白雪を床に降ろした。

 

「司令官……失礼致しました…………」

 

「暗がりでも解るくらい顔が赤いもう大丈夫なのか?」

 

「こ、これはっ…………元からです」

 

え、元から?そ、そんな馬鹿な!?

 

「兎に角、龍田達も外で待ってるでしょうし行きましょう!」

 

「お、おう──ってうわっとと!?」

 

一刻も早く此処を離れたいのか白雪は俺の腕を掴んでスタスタと歩き始めた。

白雪に引っ張られるままに扉をくぐると予想通り龍田達が待っていた。

 

「おお、待たせたな」

 

「「…………」」

 

「龍田?ザラ?」

 

待ってたには待ってたが……なんか様子がおかしい。

ザラは何故か俺を軽蔑したような目で睨んで来るし、龍田はいつも通り笑顔だから分からないけど両手で深雪の耳を塞いでいる。

 

「ど、どうし……ました?」

 

「提督〜?時間と場所は弁えた方が良いわよ〜?」

 

「白雪さん、提督……不潔ですっ」

 

はい?……ええ、と…………どゆこと?

よく見たら従業員の人も露骨に目を逸らしてるけどなんで!?

 

「これ以上お二人の邪魔をしちゃ悪いわね〜?ごゆっくり〜」

 

「ちょ、マジでどういう……って龍田!?」

 

結局何が何だか分からない俺を放って龍田達は階段を降りて行ってしまった。

 

「いや、訳が分からん……まあ行こうか、白雪……さん?」

 

あるぇ?顔真っ赤にして小刻みに震えてるけどもしかして何か彼女の逆鱗に触れてしまったか?

ど、どうしよう……よし!第二回脳内会議を開始する!

 

ー…………(_- ) シラー

 

ノォーナーイ!!?

駄目だ……どうにもならん…………よし、戦略的撤退だ。

 

さ、先に行きますね〜?

 

そ〜っと、気付かれない内に……

 

白雪の様子を伺いながら抜き足差し足忍び足といった感じにゆっくりと階段へと向かう。

だがしかし後少しの所で白雪が頭を上げてこっちに向かって歩き始めた。

 

「あ、まずっ!何だか分かりませんがすいませんでしたぁぁぁぁ!!!」

 

「司令官っ!そっちは!?」

 

全力で謝罪しながら逃げ出そうと力強く床を蹴り抜く…………事は出来ずに次の瞬間には俺は宙に投げ出されていた。

 

「あ、あれぇぇぇぇぇっ!!??」

 

「司令官っ!!」

 

どうやら派手に階段を踏み外したらしい。

この時俺は以前線路に落ちた時と似た時間が引き伸ばされた様な感覚に襲われていた。

俺の手を掴むが支えきれず共に投げ出される白雪を見上げて俺はあの日を思い出していた。

 

アイツ……今どうしてるかな、もしこの世界に生まれてたらちゃんと謝りたいな…………ってこのままじゃこの世界でも死んじまうかもしれねぇのか。

……なら、白雪だけは護らないとな。

 

俺はゆっくりと流れる時間の中で思う様に行かない身体を必死に動かして白雪を引き寄せる。

俺自身をクッションの代わりにしようと包むように抱き締めた直後、頭に鈍い衝撃が走り俺の意識は呆気なく刈り取られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識がぼんやりと浮かび上がってくる。

俺は階段から落ちた……が、その後どうなったかの記憶は無い。

俺は生きているのか、それとも死んでしまったのか。

それすらも分からないまま意識が少しずつ覚醒し始める。

 

「ん……んむむ」

 

何かに口が塞がれているようで思う様に動ず、少しだけ息苦しい。

 

兎に角状況を確認しないと……全身が重いが目は開けられるか?

 

「「…………」」

 

周囲を確認しようとゆっくりと目を開くと、目が合っていた。

いや、誰かは近すぎて分からないが確実に何者かと目が合っていた。

 

そして…………なるほど、唇も合わさっていたから動かしにくかったんだね……って、えっ?

ちょちょちょちょっと待て、俺は階段から落ちて死んだのか?そうだよな?じゃないと色々と……えと…………どうしよう。

も、もし生きてるのならこの状況を龍田達に見つかるのは不味い!

響にでも伝わった日には響ルートが潰えてしまう恐れが!

 

「あら〜、時間と場所は弁えろって言ったわよねぇ?役に立たない耳は切り落としましょ〜か〜?」

 

はやい!フラグ回収が早すぎる!?

 

「ん、んんっ!?ぷはっ……ち、ちがっ!?」

 

俺はゆっくりと少女から唇を離し龍田に弁明しようと口を開く。

男として少女を乱暴に扱うなんてしたくなかっただけでべべ別に柔らかな感触が名残惜しかったとかそういうのじゃ無いんだからなっ!?

 

「ここここれは不可抗力であって俺自身がどうなったのかも解ってないわけでその……」

 

「そ〜お?白雪ちゃんも満更でも無さそうだけど〜」

 

「へっ?いま……」

 

「た、龍田っ!?ななな、なに勝手な事を言っちぇ……言ってるんですか!」

 

「違うのかしら?じゃあ顔が紅いのは提督なんかに唇を奪われて怒り心頭だからなのねぇ?」

 

「べ、別にそういう訳では……いや、えと……」

 

二人が言い合う中俺は頭の中で必死に状況を整理していた。

 

ええと、龍田がいるって事は俺はまだ生きているのだろう。

けどもしこれが現実だとすると龍田が今話しているのはさっきまで俺と密着してキ………キ……キス……してたのは…………

 

「し、しらゆき……?」

 

「ひ、ひゃいっ!」

 

どどどどうしよう!?何とか弁明しないと半殺しじゃあ済まないかも知れない!

 

俺は今までにない速度で思考を巡らせ最高の弁明を閃いた!

 

「あ……あの……司令官?その……あれは……」

 

「ああ、解っているよ白雪」

 

「えっ!?」

 

更に顔を紅潮させる白雪に冷や汗をかきながら勢いに任せて伝えた。

 

「俺は響一筋だから今のはノーカウントと言うことにしよう!な、白雪?」

 

白雪も納得の最高の提案【 ノーカン】を言い放った直後、周囲は何処か地下施設の一室の様に静まり返った。

 

「……えっ……と、白雪……さん?」

 

そしてその次の瞬間、無数の怒号が飛び交う修羅場、とはならなかったが……

 

鞭で打たれたような弾ける音と共に俺は床に倒れ伏した。

 

「〜〜ッッ!?」

 

「司令官のバカッ!!もう知りませんっ!」

 

「し、白雪っ!」

 

「あっ、待ちなよ白雪ー!!」

 

俺に強烈な平手を放った白雪は瞳に涙を溜めたままその場を走り去ってしまった。

深雪も白雪を追って百貨店を出ていった。

 

残ったのは何が起きたのか分からず茫然とする俺とそんな俺を見下ろす龍田とザラだけであった。

 

「なぁ龍田、ザラ。俺はもしかして酷い事をしてしまったのか?」

 

「そ〜ねぇ、その自覚すらなかったらどうしようかと思ったわ~?」

 

「事故なら余計な事言わずに謝るなり責任取るなりすれば良いのに。馬鹿じゃないの?」

 

「余計な事、か……」

 

俺は俺なりに白雪の為を思って発言だったんだけどな……それでも俺の言葉が白雪を傷付けてしまったのは事実だ。なら俺が今するべき事が何か。

 

「……すまん、ちょっと白雪探しに行ってくる」

 

龍田達にそう伝えると俺は一目散に階段を駆け下りて当てもなく百貨店を飛び出して行った。

 

「さて……どうなるかしらね〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はぁ、何を期待していたんですか私は。

司令官は響さんしか見ていないなんて事はあの日以来解ってた事ですし。

そもそも私は司令官の事なんて別に何とも思っていませんし?ま、まぁちょっと抜けてるだけで悪い人ではありませんしあの時だってちゃんと謝ってくれましたし。

今回は……どう……でしょう、か。

 

「私にも……非があったんでしょうか……」

 

「白雪に非があるとすれば深雪を振り切ってしまった事かな?」

 

「私の事は別に良いってばぁ!」

 

「っ!?ひ、響さんに深雪?」

 

ベンチに座り塞ぎ込む私の頭上から飛び込んで来た声に反応し、咄嗟に頭を上げるとそこには澄ました顔の響さんと響さんの袖に掴まり息を切らせる深雪が立っていた。

 

「話は龍田から聞いたよ。全く……司令官の鈍さは流石にどうかしているよ」

 

「そうですか……」

 

龍田から聞いた上でこの発言をしているのならどうかしているのはあなたの方ですよ。

 

私は響さんの言葉に苛立ちを覚えたと同時に何故苛立っているのかという疑問が浮かんで来ました。

 

別に響さんが司令官の事をなんて言おうと私には関係ないはず……。

 

「……まあ、司令官の鈍さは生まれつきなんじゃないかな?だから彼にそういった気の利いた言葉は期待しない方が良いと思うよ」

 

私には関係ない…………だけど、腹立たしい。

 

「あなたに……司令官の何が分かるって言うんですか……」

 

「ん?そうだね……気遣いが出来ないだけで司令官としてはそれなりにやってるんじゃないかな?」

 

違う、あの人は気遣いが出来ないんじゃない。

気遣いが出来ない人間なら私の顔色なんか気にしません。お化け屋敷の時だってああいうのに弱いのを龍田達に知られたくない私の為に私が落ち着くまで外に出ずに頭を撫でてくれました。

あの人は気遣いが出来ないんじゃなくてちょっとズレているだけなんです。

 

「司令官の事を何も知らないあなたにあの人を悪く言う資格なんてありません!!」

 

「白雪……じゃあ気遣いが出来ると主張するならどうして司令官は白雪を傷付けるような事を言ったんだい?」

 

「ひ、響……もういいじゃんか、言い過ぎだって」

 

「駄目だよ深雪、意味も無く人を傷付ける奴の事を思ったって白雪が後悔するだけだ」

 

意味……そんなの司令官が言ったままの意味じゃ……あれ、でも…………ってさっきから私は何を!?

 

「い、いえっ!そ、そもそも私は司令官の事なんて何とも思ってなんか……っ!」

 

「ん?それはおかしいな。それなら私の悪口に反論なんて……いや、そもそも司令官から逃げ出す必要すら無かったんじゃないかい?」

 

「……っ!」

 

響さん……あなたって人は……!

 

「ええ……そうですよっ……あんな頼りなさそうな人が好きになってしまったんですよ!それに気付かせて何がしたいんですかあなたは!気付いたところで司令官はあなたしか見ていないんですよ!?私を苦しめてそんなに楽しいですか!!あなたさえ居なければ……こんな惨めな気持ちにはなりません……でしたよ……」

 

私は内側から込み上げる想いを抑えきれず全てを言葉にして彼女にぶつけてしまいました。

だが彼女は気にする様子もなく予定通りとでも言わんばかりにニヤリと口角を上げたかと思うとそのまま口を開いた。

 

「だそうだ、何か言う事はあるかい?……()()()()

 

「……えっ?」

 

響さんの一言と同時に背後から聞こえた物音にすぐ様振り向くとそこには目線を逸らし照れ隠しの様に頭を掻く司令官の姿が。

 

「あ……あぁ……っ」

 

「白雪、そうだったん……だな……すまん」

 

なななな……何故此処に!?いえ、何時から!

まさか響さんは最初から……!?

 

「ああああ……いえ、私はただ……」

 

「俺……そういうのほんと鈍いらしくて、気付いてやれなくてごめん」

 

「し……しれいかん……」

 

「白雪の気持ちはとても嬉しい、だから真面目に答えるよ。俺がやっぱり響の──」

 

「ああそうだ司令官。一つ思い出した事があるんだけど、私はどうやら男に興味が無いらしいんだ」

 

「えっ?」

 

「じゃあ私達は先に帰ってるよ、今日は長門の相手で疲れたんだ」

 

響さんはさらりと重大発表をすると深雪を連れて鎮守府の方へ去っていきました。

私は向き直り司令官の方を見ると膝を着いて泣き崩れて居ました。

 

ですが響さんに振られて泣き崩れる司令官を見ても私の中に苛立ちは芽生えませんでした。

私を謀った事についてはいつか罰を与えようとは思いますが。

 

「司令官、泣かないで下さい。白雪が付いてますから」

 

「し、しらゆぎぃ……ごべんなぁ。ごんな"に"辛がったんだなぁ……」

 

司令官……さっきの事を……響さん、本当は分かっているのかも知れませんが司令官は気遣いが出来る方ですよ?

 

「司令官、顔を上げてください」

 

「し、しらゆぎ……?」

 

私は司令官の前にしゃがみ込み司令官に顔を上げさせるとそっと唇を重ね合わせた。

 

「んむっ!?」

 

そして数泊置いてからゆっくりと唇を離した。

 

「んっ……ふふ、今度はノーカウントなんて言わせませんからね?」

 

 

 

 




恋愛経験もギャルゲー経験もほぼ無い私が書く恋愛物なんて誰得や!?

因みにお化け屋敷内の白雪と山本のセリフだけを聞くといけない事をしようとしてるように聞こえる……かも知れませんね?


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業務再開?

どうしてこうも世の中には誘惑が多いのか……(書く時間ががが……)

追記
サブタイトル変更し忘れてましたので修正致しました。
申し訳ありませんorz


とても長く感じた二日間の休暇が終わり、気持ちを新たに電と二人で執務室へ向かうその足取りはとても軽やかだった。

過程はどうであれ山本は白雪の事を意識し始めただろうし、何より昨日は電と深雪の二人と部屋でのんびりと過ごせたんだ。それまでの疲れと相殺しても余りある癒しを貰ったよ。

ああ、そう言えば下着の事をこっそり深雪に聞いたら長門(七世)が落としていった物を拾っただけだという事が解った。

奴には近々罰を受けてもらわねばね?

とまあそんな感じで意気揚々と執務室の扉を叩いたのだけれど。

 

「司令官、失礼するよ」

 

「あぁ……」

 

中から聞こえて来たのは山本の気の抜けた返事だった。

俺は不思議に思いながらも扉を開けて部屋に入るとそこには椅子に深くもたれ掛かり天井を力なく見上げる山本の姿があった。

どうかしたのかと思い辺りを見回すといつもと違う事に気付く。

作戦会議や周知の際は誰よりも先に執務室に来ていた彼女の姿が無かったのだ。

 

「あれ?司令官、()()はまだ来てないのかい?」

 

「!……あぁ」

 

山本は一瞬身を震わせるが何事も無かったかのように先程と同じ返事を返す。

まあ今ので俺が席を外したあの後に何かあっただろう事は解ったけど果たして何があったのだろうか。

探ろうにも山本がこんなんだし白雪もまだ来てないし……。

俺は何気なく電の方を見つめてみる。

ああ、やっぱり可愛いなぁ……どうせ何も出来ないし白雪が来るまでこのままでいっかぁ。

 

「……響ちゃん?」

 

おっと、思った以上にまじまじと魅入ってしまっていたようだ。

 

「あ、えっと……少し考え事をしてただけなんだ」

 

恥ずかしそうに顔を背ける電の姿が堪らないが不審に思われるのも不味いので前を向き直り誤魔化した。

 

「そ、そうでしたか。私はてっきり那珂ちゃんが言ってた通り響ちゃんが……いえ、何でもないのです」

 

「そ、そうかい?」

 

「はい、大丈夫なのです」

 

電が何か言っていたような気がするけどこっちも余りつつかれると宜しくないので俺は何も聞かなかった事にして他の皆が集合するのを待つ事にした。

暫くして那珂ちゃん、長門(七世)と続け様に入ってきた。

 

「おっはよーございまーすっ!」

 

「響、電、おはよう!」

 

「おはよう那珂ちゃん、長門」

 

「お二人共おはようなのです!」

 

「あぁ……」

 

二人が来ても相変わらず上の空の山本を見て二人は一様に首をかしげた。

 

「てーとくぅ、どうしたの?」

 

「人を呼び付けといてなんだコイツ?」

 

「恐らく昨日何かあったんじゃないかな?取り敢えず彼女が来るまで待ってみようよ」

 

「う〜ん……よく分かんないけど分かった!」

 

「まあ、響がそう言うなら……」

 

状況は分かっていないようだがそれでもどうやら納得してくれたようだ。

更に待つこと五分、執務室の扉を開いたのは白雪……ではなく龍田とその腕にいつもの様に抱き着くザラの姿だった。

 

「お待たせしました〜ってあらぁ?白雪ちゃんはまだ来てないのかしら〜」

 

「またお姉様に気に掛けられてぇ……白雪さんめ……」

 

龍田が他の娘を気にしているのが余程気に入らないのか歯軋りをしながら白雪に対して妬みを募らせていた。

それはともかくとしても流石に遅いな。

休み明けで気が緩んで……なんて深雪なら有り得そうだけど白雪に限ってそれは無いだろうしもしかして何かあったのか?

 

「司令官、ちょっと────」

 

「おそくなりましたぁっ!!」

 

白雪を呼びに行こうと振り向いた直後、大きな音を立てて開かれた扉から現れたのは肩で息をしながら扉に手を付いた深雪であった。

 

「み、深雪っ!?そんなに慌てなくても……って白雪は一緒じゃないのかい?」

 

「それが……」

 

白雪と深雪は同じ部屋で寝起きを共にしているので一緒に来ると思っていたのだけれどどうやら白雪に何かがあったらしい。

 

「……どうしたんだい?」

 

「実はな……白雪の奴、一昨日の夜から今さっきまで一睡もしてなかったらしいんだよ」

 

「…………え?」

 

「朝起きたら目の下真っ黒でフラフラしながら支度をしてたから慌てて布団に横にして寝かしつけて来たんだけど、意地でも行こうとするから説得に時間が掛かっちゃって……」

 

一昨日の夜から寝てない!?確かに昨日の食事時も白雪が出てこないって言ってたけどまさか一睡もしてないなんて……本当にあの後何があったんだ?

気にはなるが今回集まったのは今後の予定についてのミーティングであって山本を問い詰める為ではない。

俺は気持ちを切り替え現状の改善に努めよう。

 

「……分かった、それじゃあ白雪には後で深雪から伝えておいてくれ」

 

「お、おうっ!深雪様がバッチリ伝えるぜ!」

 

「うん、それじゃあ司令……官?」

 

「う"……ちょっと白雪の様子を……」

 

「その前にやるべき事があるだろう?」

 

「だ、だけどな……?」

 

席を立ち白雪の元に行こうとする山本。

それ自体は良い傾向ではあるが提督としての責務は果たしてからにして貰いたいものだ。

どうやらそう考えているのは俺だけではないらしい。

あーだこーだ言いながら扉へと歩き出す山本の両腕は長門(七世)と龍田にがっしりと掴まれ引き戻される。

 

「え、ちょっ!?べ、別に様子を見に行くくらい良いだろ!」

 

「おいこら、仕事も放棄する口実にした挙句折角寝付いた白雪さんを起こす気かテメェ?」

 

「ただの寝不足なんだから心配しなくて大丈夫でしょ〜?今行っても迷惑以外の何物でもないわよぉ?」

 

「うぐぅ……言われてみれば……」

 

正論を突き付けられた山本はよろよろと机にもたれ掛かった。

 

「まあ、そういう事だからお見舞いは後にして今はミーティングを始めようよ」

 

「……ああ、済まない。それでは今後の予定について話そう。まず────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山本は白雪の事が終始気にしているようだったがミーティング自体は概ね順調に行われた。

今後の予定としては暫くは遠征と鎮守府正面海域での練度向上をローテーションで行い、貯めた資材で建造を行い南西海域へ向けての戦力向上を図ることとなった。

ミーティングが終わりそれぞれが出撃や遠征の準備に戻って行った。

秘書艦である俺は山本と共に二日間の間に溜まった書類と向き合っていた。

 

「なあ、白雪の所に行ってきても良いか?」

 

山本が唐突に尋ねて来たので俺は時計に目をやると短針は八の所を指していた。

俺は山本の方を向き笑いかけてこう言った。

 

「駄目だ」

 

「ええっ!?」

 

何を驚く事があるのだろうか?

まだミーティングが終わってから一時間、つまり白雪が眠りに付いてから二時間も経っていないのだ。

龍田と長門に言われた事をもう忘れたのかこいつは。

 

「ちょっと、ちょこっと覗くだけだから!」

 

「……女の子の部屋を覗きたいなんて、そんな行為認めると思うかい?」

 

「いやっ、そ、そういう事じゃなくて!」

 

「冗談だよ、でも行くなら白雪が充分に休んでからにしてくれないか?」

 

「う……それもそうか……」

 

そう言って項垂れる山本を見ていた俺は何故だか言い知れぬ苛立ちを感じていた。

何故だろう……思惑通り山本は白雪を意識し始めた、それでいい筈なのに……。

いやいやいや、きっとこれはリア充に対する爆発を望む気持ちに違いない。

流石に口にする訳には行かないが心の中で叫ぼうではないか!

 

 

リア充爆発しろぉぉっ!!

 

 

……うむ、苛立ちは収まらなかったがすっきりしたので良しとしておこう。

つうか良く考えたら電ちゃんと同じ部屋で生活してる俺も十分にリア充してるよな…………ごめんなさい爆発したくないです。

 

「ど、どうした響?」

 

「へ?い、いいやっ!?何でもない!大丈夫さ、少し考え事をしてただけだから」

 

「そ、そうか?なら良いけど。響もあんまり無理するなよ?」

 

「え?あ……うん。私は大丈夫だよ」

 

ふぅ、どうやら顔に出てしまってたようだ。

変に怪しまれるような事は極力避けたいというのに……。

きっと俺には役者の才能は無いのだろう……それはどうでもいいか。

そんな事より先程まで苛立っていたのが嘘のように気持ちが落ち着いているしこれなら気持ち良く仕事が出来そうだ。

俺は書類に向き合うと気合いを入れ直して業務を再開した。

そして昼前にあらかた片付けると執務室を出て午後からの遠征の為に工廠へと向かった。

その後の山本の動きは知らないが後日深雪から聞いた話だと部屋にお粥を持ってやって来たらしい。

まあ、後は二人に任せとけば大丈夫だろう……うん。




さて長い休暇が終わり鎮守府本格始動です!
次の艦娘はどんな娘なのでしょうか!
未だに2-1というこの鎮守府は大丈夫なのだろうか!
次回をお楽しみに!!!


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拭えぬ不安

最近SSの方が行き詰って来てる気が……新しい風を吹き込ませたい所です。


翌朝、朝食を終えた俺と山本が執務室でいつもの様に書類と向き合っていると突然ノックの音が飛び込んで来た。

 

「し、白雪です」

 

「どうぞー」

 

俺は視線を扉の方に向けて入室を促すと白雪は一言入れてから扉を開いて姿を現した。

あからさまに動揺する山本を横目に俺は白雪に声を掛ける。

 

「おはよう白雪。体の調子ばどうだい?」

 

「えぇ。昨日は大変ご迷惑をおかけ致しました」

 

そう言って白雪は深々と頭を下げたのに対して俺は慌てて宥めた。

 

「だ、大丈夫さ。困った時に支え合うのが仲間だろう?」

 

「で、ですが……」

 

「そ、それよりも今後の予定については深雪から聞いてるかい?」

 

「ええと、暫くは正面海域の出撃と遠征を回していくと聞いてますが……」

 

「そうだね、だから病み上がりで済まないが大丈夫そうなら遠征を頼めるかい?」

 

「それは一向に構いませんが……」

 

「ありがとう!じゃあ早速だけど電と龍田とザラを連れて四人で長距離練習航海に行って来てくれ」

 

疑いの眼差しを向ける白雪に俺は肝を冷やしながらも表情を崩さないよう努めた。

 

「まぁ、良いですけど。それでは行って参ります」

 

「ああ、気を付けて行ってきてくれ」

 

……ふぅ、原因の一端は俺にもあるからな……この事で白雪から謝られるのは流石に忍びないぜ。

 

俺への言及はせずに部屋を出ていこうとした白雪だったが不意に立ち止まる。

 

「あっ……や、山本司令……その」

 

「うぇい!?あ……はい?」

 

妙な声を上げて明らかに狼狽えている山本に背中を向けている白雪は気付く筈も無く、蚊の鳴くような声のままやっとの思いで続きの言葉を紡いだ。

 

「あの…………昨日は、あ……ありがとう……ござい……まし、た」

 

そして言うだけ言うと白雪はすぐ様部屋を飛び出して行った。

 

「あ……えと……どういたしまして?」

 

「はぁ……司令官、誰に言ってるんだい?」

 

「へっ……あ、あれ?白雪が居ない?」

 

「……兎に角、仕事を続けよう。ほら、手が止まってるよ」

 

「ああ、わりぃ……」

 

慌てて書類に手を付け始める山本を一瞥し、自分も書類に向き直りながら軽くため息を吐いた。

山本はともかく白雪なら公私混同しないだろうと思ってはいるんだけど……少し不安だな。後で龍田に様子を聞いてみるか。

そう頭の中の予定に組み込むと俺は目の前の書類を書き進めていった。

 

 

 

 

「ふぅ~、終わった終わった」

 

「お疲れ、司令官」

 

まだまだ規模の小さい鎮守府なので事務仕事なんてものはさほどなく今日のは二時間もあれば終わるものであった。

この後の予定としては昼食を摂った後、今日は出撃に行く事になるのだが時間を見るとまだ十時過ぎで昼には少し早い時間である。

こういう時いつもなら工廠に行って艤装の整備をしたり見回りに行ったりしているのだが、今日は少し聞きたい事があったので部屋を出ずに山本にお茶を出しながらあることを尋ねてみた。

 

「司令官、ちょっと聞きたい事があるんだけど良いかい?」

 

「お、さんきゅ。それで聞きたい事ってのは?」

 

一仕事終え明らかに気が緩んではいるが朝の時とは違い落ち着きは取り戻しているし今なら聞けるだろうか。

俺は椅子に座りお茶を一口啜ってから本題を切り出した。

 

「今日までずっと気になっていたんだけど、私達が鎮守府に戻った後白雪と何があったんだい?」

 

「んぶっ!?げほっ……!げほっ…………はぁ……」

 

「ちょっ、大丈夫かい!?」

 

「ん”ん”っ……ダダダダイジョウブ、問題ない……ぞ?あっははは……」

 

山本は俺が渡したティッシュを手に取り大げさに机を拭き始めた。

動揺を隠そうと引き攣った笑い声を上げているが俺は構わず問い詰める。

 

「それで?何があったんだい?」

 

「ななななにって?いやぁ別に何も無かったですよ?いや本当に!?」

 

「何も無かったのに白雪は飯も食わずに二日間徹夜したって言うのかい?」

 

「そ、それは……ほ、他に理由があったんじゃない……かな?」

 

「なるほど。ああそれからもう一つ、ここ数日間司令官が白雪という言葉に過剰に反応しているような気がしたんだけどそこんところはどうなんだい?」

 

「そそそそうか?白雪も大切な仲間だし気を配ってはいるが過剰にというのは気のせいじゃないか?」

 

「ふ~ん、じゃあ別に白雪の唇を奪った事については司令官は何とも思ってないんだね?」

 

「ふぁっ!?な、なんで知ってるんだ!?」

 

お?今の反応はもしや……

 

「ん?それは龍田から聞いている事は司令官も知っている筈だけどな……」

 

「あっ……」

 

おっと、どうやらビンゴのようだ。なら一気に畳み掛けるとしよう。

 

「……なるほどね、二人きりになった後にまた()()()()()?」

 

「う”っ……いや……」

 

「私に振られた直後に司令官から迫ったのかい?」

 

「ちがっ、俺からじゃな……あっ」

 

「そっか、なら良かった。司令官がそんな節操無しじゃあ白雪が可哀想だからね」

 

それにしても白雪も随分と積極的じゃないか。これなら白雪の方の後押しはもう必要なさそうだ。

後は……

 

「あぁ~、白雪に秘密にしてくれって言われてたのに……」

 

「それは申し訳ない事をして済まない。勿論誰にも言うつもりはないし、代わりと言っちゃなんだけど白雪との事で心配事や悩みがあれば私が色々と相談に乗るからさ?」

 

「響……」

 

二人が結ばれるように出来る限り協力するとしよう。

勿論打算的な考えは無いと言えば嘘になるがそれを除いても俺の親友と親友を好きになってくれた人が幸せになって欲しいと想う心は紛れもない本心だから。

そしていつか二人が結ばれた時には全てを打ち明けても問題は……別方面にあるからやっぱ山本と白雪の二人にだけ打ち明ける事にしよう。

それでも俺を認めてくれるなら……なんて先の話は今考える事じゃないか。

 

「別に今すぐじゃなくてもいいさ。相談したいと思った時にでも──」

 

「響っ……」

 

何時でも声をかけてくれ。

席を立ちつつそう言いかけた時、山本に真剣な表情で呼び止められた俺は再び席に着くと何も言わずに続く言葉を待った。

そうして数分が経った時、山本は意を決して話し始めた。

 

「正直、不安なんだ…………響達のおかげで白雪が俺の事を想ってくれている事に気付けた訳だけど……やっぱり俺にとって響、お前は特別な存在なんだ」

 

「……白雪の目の前でばっさりと切り捨てたのにかい?」

 

「ああ、だけどそれすらも俺と白雪を思っての発言だったんじゃないかって今でも思うし、そうじゃなくてもやっぱり簡単には諦めきれないんだ」

 

嬉し……違う!そうじゃない。俺は白雪を裏切るつもりもないしそもそも山本とは男同士の友情であってそういうつもりはないんだ!

だから今出かかったのはあくまでも理解してくれる親友に対する感動……うん、そういう事だ。

 

「それで、一体何が不安なんだい?……傷口を抉る趣味は無いからあまり何度も言いたくは無いけど私は男に興味が無いというのは間違いなく事実なんだ。諦めてくれないと困るな」

 

「うっ……それでも、そんなあっさりと割り切れる事でもないんだよ」

 

「はぁ…………それならどうするんだい?私を解体して別の響を建造でもするかい?」

 

「なっ、馬鹿!!冗談でもそういう事を言うな!」

 

声を荒げて叱りつける山本にムッとした俺はつい強めに言い返してしまった。

 

「冗談じゃないさ。私を引きずり続けて白雪と山本の二人を不幸にする位なら山本が別の響とくっついた方が幸せになれるし白雪だって諦めがつくだろ!」

 

「違うっ!俺はそういうことが言いたいんじゃない!!確かに響の事は簡単に諦めきれないが……俺が不安なのはこんな状態で白雪の気持ちに応えたら白雪をまた傷付けてしまうんじゃないかって事なんだ」

 

俺は俯いて肩を震わせる山本を見つめながら感情的に言い返してしまった事を恥じていた。

この男は恋愛事を除けば察しが良く気遣いの出来る奴だって事は昔から知っていた事じゃないか。

そんな男が自分に好意を寄せてる相手が居る事を知った上で何も考えない筈が無いだろうが。山本は白雪の想いに真摯に受け止めているからこそ中途半端な気持ちで答える訳には行かないと悩んでいるのだ。

そんな山本の悩みに対して俺はなんて答えてやればいい……いや、本当は解ってる。

ただ事実を伝えてやれば山本も諦めがつく筈…………だけど怖い……そう、本当は申し訳無いとかそんなんじゃ無かったんだ。

山本になんでお前なんだと失望されるのが、気持ち悪い奴だと軽蔑されるのが怖いんだ。

だけど二人の幸せを願うなら例え軽蔑されようと言わなければ。

それに山本なら聞いた後も前みたく接してくれる……そう思っている……のに……。

 

「………………どっちにしても私は司令官にそういう感情を抱く事は無いから嫌でも諦めがつくさ。だから今は白雪に確りと打ち明けた上で待ってもらうなり何なり二人で話し合えば良いんじゃないかな?」

 

「……そっか、解った。一度白雪と話してみるわ。さんきゅうな、響」

 

「…………うん」

 

最低だ……親友だなんだと言いながら結局俺は山本の事を信じられていないんだ。

感謝される筋合いなんか無い……俺はただ保身の為に当たり障りのない意見を述べただけでしかないんだから。

 

「……それじゃあ私は見回りに行ってくるよ」

 

「おう、気を付けてな」

 

執務室を後にした俺は鬱屈とした気分の中いつものルートを回り、その足で一足先に工廠へと向かったのだった。

 

 

 

 




自分に後ろめたい気持ちがあると人を信じるのも難しいですよねぇ……


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