笑顔は太陽のごとく…《艦娘療養編 完結済》 (バスクランサー)
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着任の章
歯車が動き出す


…思いのほかペン(じゃなくて指)が進みました。
勉強と引換に。



 平和な人類に突如現れた、海の底からの謎の敵。

 通常兵器の効かない、深海棲艦には、人類の連合軍もなす術なく敗北、そして全世界の制海権を失うのにそう時間はかからなかった。

 しかし、それに対抗する唯一の切り札が人類の前に現れた。艦娘と呼ばれる彼女らは、ありし日の艦の記憶と能力を持つ。救世主を、神は人類に遣わしたのだ。

 人類はこの緊急事態に大本営を創設、その管理下の彼女達艦娘の活躍により、制海権は少しづつ少しづつ、しかし確実に取り戻されていった。

 そんな大本営極東本部に勤めるとある男は、ある日長官室に呼び出され、今まさにそこへ向かっていたーー

 

 

「お呼び出しですか…。」

 俺は長官の部屋に入ると、早速そこの椅子に座るよう促された。俺が座るのを見た長官から、1枚の書類を手渡された。

 

[辞令]

 〇月×日をもって、第35鎮守府への異動を命ずる

 

 こう書いてあった。

「君にこれを頼みたい」長官は淡々と告げた。

「第35鎮守府への、配属命令ですか?確かあそこは、提督が永らくいなかったはずの…」

「ああ。ここは、心に傷を負った艦娘たちが多くいる所なんだ…。私もこの辞令を言い渡すのは辛いのだが…普段我々の元で管理し、鎮守府配属を待つ艦娘たちの面倒を見ている君だからこそ、と思ってな…すまん」

「心に傷を持つ艦娘ですか……放ってはおけませんね」

「…やってくれるのか?」

「もちろんです。」

「そうか、ありがとう…本当にすまん。

 実は我々はそこに、以前も何度か提督を派遣したことがあるのだが…あまりの重さに次々と自己退職してしまうんだ…辛くなったら、いつでも…」

「大丈夫です。やって見せます。」

「ありがとう、では、君にこれを頼む。

 それと、だ。この場合も例外ではなく、ここの寮の艦娘から、一人選んで連れていっていい…まぁ、お前のことだから、連れていく奴はだいたいわかっているがな。」

「ふふ、でしょうね。では。」

 …俺は長官に敬礼し、部屋を後にした。

 そして、配属待ちの艦娘たちがいる、大本営の寮へと向かった。

 

 寮に着いた俺は、さっそく玄関から入り、階段を上がる。向かう先は決まっている。そして、お目当ての人の部屋の前に着いた。ノックし、呼びかけてみる。

「いるか?俺だ」

「司令官?いいよ、入って」

「ふふ、邪魔するよ」

「邪魔じゃないのに。」

 そう言って、部屋に入った俺を優しい笑顔で迎えてくれたのは、銀髪に帽子の女の子、駆逐艦の艦娘、響である。

 俺は普段艦娘寮で、艦娘たちの管理…もとい、お世話のようなことをしていることが多い。その娘たちの中でも、響とは戦いが始まってから大本営にスカウトされてすぐ出会い、初めて会った日から3年弱たった今も付き合いが続く、結構長い間の仲だ。提督経験のない俺を何故か司令官と呼び、結構なついてきてくれる。

「で、僕に何の用かな」

「ああ、そのことなんだが…」

 俺は、第35鎮守府へ異動することになったことを彼女に伝えた。

「え…司令官、いなくなっちゃうの…?」

 途端に響の表情が暗くなる。体が小刻みに震え、帽子を目深にかぶる。その隙間からわずかに見える目は、真っ赤に充血して涙がたまっているように見えた。必死に泣くのをこらえているのだろう。

「いや、待て響…。落ち着け。」

 俺は慌てて、一緒に行く艦娘を選べることを説明した。

「うん、それで……?」彼女は少しだけ帽子を上げる。

「響、お前についてきて欲しい。いいか?」

「司令官…!!」

 響の表情が打って変わって明るくなり、満面の笑顔を見せる。しかし、少したってはっとした彼女は、顔を隠すように後ろを向き、

「まぁ、僕でいいなら。いいよ、司令官。」

 きっと、少し恥ずかしくなってしまったのだろう。彼女は昔からこういう奴だった。

「とりあえず、向こうの鎮守府と連絡や、こっちの設備や荷物の色々を持ち込んだり、それをあっちに対応できるように工事する関係で、2、3週間待つことになるがな…。

 とにかく、だ。響、これからもよろしくな」

 俺がそう言うと、響はくるりと振り返って、いつものクールな笑顔でこう言った。

「うん、よろしく。ハラショー。」

 

 それから俺と響、2人は私物整理や異動用書類の確認、さらには、俺と響が去ることを惜しむたくさんの艦娘たちに追われることになった。その1人1人に挨拶しつつ、忙しい十数日を2人で過ごした。

 

 一方、第35鎮守府ーーー

 鎮守府の窓から、電は雷とともに不思議なものを見た。

「はわわわ…あ、あれは何なのです?」

「何あれ?なんか大本営の大型ジェット輸送機みたいじゃない?」

「でも、なんでなのです?それに、何を運んでいるのです?」

「わかんないわよそんなこと。あ、近くの山に向かってくわ!」

「雷ちゃん、追ってみるのです!」

「もちろん!」

 2人が振り向くと、そこには通りすがりの、眼鏡をかけた1人の艦娘がいた。

「あら、雷ちゃん、電ちゃん、いつもありがとね。どうしたんですか?」

「大淀さん、なんか今、あっちの山に大本営の輸送機が飛んでいったのです!」

「あれなに!?私と電で、これから見に行ってくるわ!」

 しかし、

「だめよ2人とも。」

 大淀は2人をとめた。

「えー?」

「なんでなのです?」

「なんかもうすぐ、ここに久しぶりに新しい提督が着任するみたいなの。その影響で、色々工事してるのよ。我慢して。」

「はーい…」

「電、我慢するのです…」

 2人は少し不服そうに、自分の私室へ戻って行った。その道中、電はふと思った。

「でも…なんでこんなに大規模なのです…?」

 また、大淀も、輸送機の飛んでいった山の方を見て、念じるように呟いた。

「お願いします、提督…。どうか、どうか1日でも早く来てください…。ここの限界が来るのは、時間の問題になりつつあります…。お願いします…!ここを、私達を助けて下さい…!!」

 




ここまで読んでくれてありがとうございます!
よければ高評価よろしくお願いします!
誤字脱字の方もあれば報告お願いします。

これからも頑張ります!


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新たなる出会い

なんとか続編書けました。
不自然だったら…ごめんなさい。
よければお気に入り、評価お願いします!


大本営ーーー

俺と響の忙しい日々は、ここで区切りがつけられようとしていた。第35鎮守府の工事担当の作業員や妖精さんたちから、無事に作業終了の知らせがあったからだ。

「…旅立ちの朝か、晴れてよかった」

「だね、司令官。ハラショー」

「さあ、最後の荷物を車に載せて、行こっか!」

「うん。」

 

大本営の建物の出口に、俺の3台の愛車が縦列で用意されていた。そのうち1番前の赤いコンパクトカー・ジオアトスに、俺と響は乗り込む。

「…いよいよだな。どうか、体には気をつけてくれたまえ。」

「長官、ありがとうございます。」

「提督ー!響ちゃーん!元気でねー!!」

「うん。不死鳥の名は、伊達じゃないよ。」

大本営の長官をはじめとする上司や同僚、部下、そして艦娘たちに最後の挨拶を交わす。

「では。」

俺は車の窓を閉じ、中央のモニターにカードを差し込んでジオアトスを起動させた。それに伴い、後ろの青いミニバン・ジオアラミスと、黄色いトラックのジオポルトスも、自動運転モードが起動する。

「みなさんも、どうかお元気で」

そう言って、俺は車のアクセルを踏んだ。

静かに、3台の車が、大本営を後にしていったーーー

 

途中の道のりは、俺と響、2人の小旅行と言ってもいいくらいだった。

着任予定日より幾分早く工事が進んだので、道中は専用の移動トンネルを使わず、内陸の山の中の道を通って行くことにした。

艦娘の響にとっては、山は滅多に体験できない場所である。緑あふれる自然を、全開の窓から感じていた。そして、何が彼女にとって物珍しいことがある度、ハラショーハラショーと、目を輝かせながら言っていた。普段のクールな彼女の印象とのギャップで、その様子が少し可愛らしいとも思えた程である。

もちろんその分時間はかかるが、余裕があるので、少しだけ(もちろんスケジュールの許容範囲内で)のんびりさせてもらった。途中の道の駅でその土地の名物銘菓を買ったり、途中山の奥地の秘境として有名な温泉旅館に泊まったりもした(もちろん風呂は別々で、夜中に夜戦したわけでもない)。

そして、大本営を出てから、約30時間が経とうとしていた頃ーーー

 

「あ、あれじゃないか?」

「みたいだね、司令官。」

山から海へのトンネルをぬけると、そこには小さな海辺の街があった。

そして、そこから少し外れにあるところに、というより離れされられたように、赤レンガ造りの大きな建物があるのがかすかに見える。

「あそこが第35鎮守府か。…気を引き締めて行こう」

俺と響は、専用の駐車場に3台を留め、鎮守府の門をくぐった。

 

中は至って普通だった。

まずは執務室へ、二人で向かっていった。

「司令官、少し緊張するな…」

「俺も確かに緊張する…まあ、頑張ろう」

「うん」

そうこうしているうちに、執務室、と書かれた板が見えた。ここのドアのようだ。

大きく息を吐き、俺はドアをノックした。

「大淀です。」

「待たせてしまってすまない。ここに配属された提督と、連れの響だ。」

「提督ですか…!?ど、どうぞお入りください!」

こちらが開ける前に、向こうからドアを開けてくれた。

執務室の中へ入ると、眼鏡をかけた艦娘が1人。

「君が、ここの大淀さんだね。」

「はい。大淀と申します、どうかよろしくお願いします。」

「駆逐艦の響です。よろしくお願いします。」

「あなたが、提督の相棒さんなのね、よろしくね」

笑顔で挨拶する大淀。互いに3人で握手を交わした後、大淀がさてと、と本題を切り出した。

「…既にご存知かと存じ上げますが、ここの鎮守府は艦娘の数がとても少なく、またそのうちの半分近くが心に傷を負っています。提督には、通常と同じく防衛任務、加えて、大変なことだと思いますが、ここの艦娘たちに笑顔を取り戻して欲しいんです…お願い、できますか?」

大淀は淡々と言った。しかし、彼女にとっては無意識なのだろうが、目から涙が出ていた。

「…大変だったんだな、大淀。…無意識に泣くほどに」

「え…!?あ…やだ、私としたことが…」

「大丈夫大丈夫…俺がなんとかしてやるから」

「提督…ぐす…ありがとうございます…うぅ、本当に、ひっく、よろしく、おねがぃじまず…うわぁぁぁぁん!」

彼女の心も、もう限界を迎えていたのだろう。抱きついてきた大淀を、俺は思わず抱き返していた。

「大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫…」

しばらくの間、大淀は俺から離れず泣き続け、響は顔を真っ赤に染めつつ、ハラショーハラショーと、小声でつぶやき続けていたのであったーーー。

 

それから十数分後。大淀はようやく泣き止んだ。

「提督、ありがとうございます……私は、もう、大丈夫、です……。はぁ、はぁ…」

俺は大淀の背中をよしよしとさすった。もうだいぶ落ち着いてきている、なんとか大丈夫そうだ。

「……響ちゃんも、急にごめんね、混乱させちゃって」

「いえ……大変だったんですね。」

「……ふふ、心配かけてしまってごめんなさい。ありがとうね。あ、そうだ、このことをここの皆さんに知らせないと…」

「全体一斉放送ですか?えーと…」

「いえ、ここでは、心に傷を負った艦娘たちと少しでも直接コミュニケーションできるように、そのようなことはしません。その代わり、駆逐艦の娘たちに一人ひとりの部屋を回って、伝令を頼んでいます。今呼びますので、少々お待ちください…」

そう言うと大淀は内線電話を使って、どこかに伝令依頼をし始めた。これを数回繰り返すことから、どうやら伝令依頼をしたのは1人ではないらしい。しばらくして、彼女が戻ってきた。

「すぐに来てくれるそうです。」

「そうですか、そりゃよかったです。」

「ふふ、響ちゃんにとっては少し嬉しい人たちかもね」

「?」

「ふふふ、お楽しみよ。…でも、もう来たみたいね」

大淀が言っている中、既に廊下をかける足音。そして、執務室のドアがノックされた。

「「「大淀さん、来た(わよ!)(よーっ!)(のです!)」」」

声からして3人らしい。そしてその声を聞いた途端、響の顔が驚き一色に変わる。

大淀が中に促すと、3人の駆逐艦の艦娘が勢いよく中に入ってきた。響の顔は満面の笑みだ。

「大淀さん、このレディへの用件って…あれ!?もしかして、響!?」

「暁…姉さん……!?」

「あ、響姉さんー!」

「はわわわ…!」

そこにいたのは、暁、雷、電の、響と同じ第六駆逐隊の娘たちだったのだ。姉妹の再会を喜ぶ四人。

「ここにはこの娘たちがいたんですね、大淀さん」

「はい。提督が来るまで、秘密にしていました。本当に仲がいいんですね…感慨深いです。」

大淀と俺が見守るなか、彼女たちは輝く笑顔ではしゃいでいた。

「さて、みんな、今回も伝令のお仕事を頼みたいの。」

「レディの私に任せて!」

暁が名乗りを上げた。私も私も、と雷と電が手をあげる。

「ありがとう暁ちゃん。今回の用件は、新しい提督と響ちゃんが着任したことと、これからコピーしてくる、提督と響ちゃんの自己紹介カードをみんなにお願いできる?」

「もちろん!」

自信満々の暁。

「ありがとうね。じゃあ、提督に響ちゃん、このカードを書いてくれる?」

「あ、はい。」

「わかった。」

すらすらとカードを書き終えると、大淀さんがすぐに印刷してくれた。その数二十数枚。ここの艦娘の数はかなり少ない方らしい。

「じゃあ折角だから、第六駆逐隊のみんなに、一緒に配ってもらおうかしら。」

「はいなのです」

「響姉さん、行こっ!」

「わかった。ハラショー。」

「じゃあ司令官、ごきげんようです!」

「おう」

去っていく四人。ふと俺は思った。

「…俺は…行かないのか?」

「あ、そのことなんですが、いくつか理由がありまして…」

大淀はそう言いつつ、俺を執務机に座らせる。

「まずやはり、着任の関係の書類に目を通して欲しいんです。」

「あー…多そうだな。」

「私も精一杯お手伝いしますので、そこは一緒に頑張りましょう。それと、もう一つ」

「というのは?」

「ここの心に傷を負った艦娘たちの中には、提督という存在が、…なんというんでしょう、過去の悩みに深く関わっている方もいるんです。なので、いつも伝令を担当してくれている駆逐艦の娘たちに、まずは提督の着任を知らせることで、ある程度の慣れを作る目的もあります。」

「なるほどな。ありがとう。」

「いえ。では早速、書類の方に取り掛かりましょう。」

「だな。」

 

夜ーーー

「ようやくこなしてることが実感出来るな…しかしまだあるのか…」

大淀は今風呂だ。俺はひとりで作業をしていた。かなりきつい。そんな時、ふいにドアがノックされた。

「司令官、響だよ」

「おお、どうした?」

「書類整理が大変かと思って、食堂で間宮さんと一緒にボルシチを作ってきたんだ。良かったら少し休んで、…その…一緒に、どうだい?」

「おお、間宮さんとわざわざ作ってくれたのか。気遣いありがとな、響。そうだな、折角作ってくれたことだし、貰うことにしようか。」

「ハラショー」

2人で仲良く夕食をたべる。以前も響のボルシチを食べた事はあるが、やはり何度食べても美味い。

「ありがとう響。ごちそうさま。」

「こちらこそ、全部食べてくれてありがとう、司令官」

「はは、美味しかったからな。しかし、これからは本当に俺も司令官か…」

「ふふ、頑張ってね。」

「おう!」

響の気遣いによって俺のやる気とテンションはMAX。大淀が風呂から上がる頃には、書類はもう片付いていた。

「提督…すごいです」

感心する大淀を見て、心の中でガッツポーズする。

「とりあえず、今日着任して、色々とお疲れでしょう。書類整理も終わったことですし、今夜はもう休んでください。」

「いいのか、大淀。ありがとう」

「いえ。それで、明日からは、提督にここの艦娘たちのカウンセリングをして欲しいんです。」

「だな。まずはみんなの心を立て直さなきゃだな。」

「はい。それで、最初の方なんですが…まずはこの方を担当して欲しいんです。」

「おお、どれどれ」

大淀が一枚の所属艦娘データ紙を見せてきた。

「……工作艦の明石か。」

「はい。やはり彼女がいませんと、工廠の効率が上がりませんし、それに…個人的な意見で申し訳ないのですが、彼女とは以前同じ鎮守府に所属していて…」

「友人の悩みを解決させて欲しい、ってか。」

「すみません」

「いや、大丈夫だ。むしろ、大淀は優しいんだなと改めて思えたよ。」

「いえ、そんな…」

少し赤面する大淀。

「…で、明石には過去何があって、今どんな状況なんだ?」

「はい、実は…」

大淀が淡々と告げる。

「今の彼女には…左手首より先が無いんです」

 




ここまで読んでくれてありがとうございます!
上手くかける他の先輩筆者さんたちが羨ましいです…
次回からは明石さんです!

これからも頑張ります、よろしくお願いします!


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明石の章
差し込むかすかな光


てっつやーてっつやー
やせんやせーん

筆者は夜も朝も弱い方ですが、昨夜遅くになんとか考えました。
おかけで今めちゃくちゃ眠たいです。
…昨夜の無理が祟ったようデース。


「……左手首より、先がない?左手がないってことか?」

「はい。」

「それは…なにかの事故とか?」

「…いえ、…実は、明石自身が切断してしまったのです。」

「…まじかよ…、一体何があったんだ?」

「…説明するととても長くなりますし、それに今日はもう遅いです。彼女もきっと寝ていると思うので、できれば明日にしてください…ごめんなさい」

「いや、確かに大淀の言う通りだな…寝るか。」

 大淀が部屋を出るのを見て、俺はベッドを整え、眠りに入った。

 

 翌日

 大淀によると、ここの工廠を担当する艦娘は、明石の他に夕張がいるそうだ。軽巡洋艦である彼女は、出撃と工廠での活動を両立させているらしい。

「あの、私から1つ頼みが…」

「なんだ?大淀。」

「実は、夕張も私や明石と同じ鎮守府にいたんです。それで、彼女は自分にあったことを、ここのほかの鎮守府からきた艦娘に、ほとんど話していません。」

「…そうか」

「なので、話を聞いてあげるだけでも、彼女にとってはかなりの救いとなるはずです。どうか、よろしくお願いします…」

「わかった、善処してみるよ。そうだな、響も一緒に連れていこうかな」

「わかりました、呼び出します。」

 ーーーしばらくして、響がやってきた。

「司令官、おはよ」

「おはよう、響。今日は少し工廠の方へ行ってみよう。明石さんの話を聞いてみないと」

「わかった」

 2人で工廠へ向かう。ここの鎮守府の構造は、ここの執務棟、奥に艦娘寮、そして少し外れたところに工廠がある、といったものである。

 向かう途中、手に感触を感じる。響が手を握っていた。見ると少し顔が赤い。少し照れているのだろうか。俺は響の手をしっかり握り返しつつ、歩いていった。

 

 ーーー工廠

 扉を少し開けて、中をのぞき込む。

「すみませーん…ここが工廠か、失礼するぞ」

「久しぶりのお客さんだ、はーい…あ、あなたがウワサの提督さんですか?おはようございます、ようこそ工廠へ!」

 後ろ1本でまとめられた銀色の髪。どうやら彼女は夕張のようだ。

「えーと、何の御用でしょう?」

「あ、明石さん、いるかな?」

「明石さん…ですか。しばらくお待ちください…」

 やや夕張は遠慮気味だった。彼女も同じ鎮守府にいたことだし、事情を知っているのだろう。

 しかし、やってきた明石の姿は、俺の予想とかイメージから大きく外れていた。

「あ、新しい提督さんですか!こんにちは、はじめまして!工作艦の明石です、よろしくお願いします!」

 …普通に元気で明るい。

「ああ、よろしく。」

「それで、私に何か?」

「いや、その…」

 まずい、どう切り出そう。一から考え直さないと…

「…少し聞き辛いんだけど、明石さん、その左手はどうしたの?」

 唐突に響が聞いた。「えっ…」と驚いた顔を見せる明石。当然だろう。響はじっと、明石を見つめている。俺はあまりに予想外な事態の連続で、何も言えなかった。しかしこの時、一つだけ気づいた。

 響がこのことを聞いた時、奥に見える夕張が、同じような顔で驚き振り返っていたことに。

 明石は笑顔で響に話す。

「あ、ああ…!ごめんね、びっくりしたよね。あのね、前の鎮守府でまだ私の練度がすごく低かった時、誤って機械に手を持ってかれちゃって…」

 …ん?大淀の言ってたことと違う?…どういうこ

「嘘だよね」

「…!」明石の言葉を遮るように響が言った。先程よりも驚いた顔の明石。明らかに動揺している。響は極めて冷静に、無表情で明石を見つめている。

「…響ちゃん、なんなの…?何が、言いたいの……?」

 明らかに明石の声のトーンが落ちている。顔は驚きと怯えや恐怖が混じっているような感じだった。

「だって」

 響は自らの意見の説明を始めた。

「まず私達は艦娘。人類から制海権を簡単に奪った深海棲艦とも互角に渡り合えるし、私たちの体は人類の通常兵器じゃ傷をつけられない。工作艦とてそれは変わらないはずだよ。そんな体が、誤って巻き込まれたくらいで切断できるようなもろいものなの?」

「…だ、だって、鎮守府の機械はとても高性能よ。改造や解体とかにも使うし、それくらいなら」

「しかし、誤って巻き込んだのなら、痛みは相当のはずだよ。多少暴れたり、もがいたりはするはず。なのにその手の断面は、不謹慎かもしれないけど、すごく綺麗に切れてる。暴れたりしたなら、絶対そんなふうな切れ方はしないと思う」

「……」

「それに何より」

 響は明石にさらに近づく。そして彼女を見上げ、言い放つ。

「さっきの笑顔…絶対無理に笑おうとしてた時のやつだよ。僕はわかる。周りに心配かけないために、自分の苦しい感情を押し殺して、無理やり笑ってる笑顔。さっきの明石さんの笑顔は、本当にそんな感じだったよ」

「………………」

 明石は、震えていた。声こそあげなかったものの、口は半開き、顔は真っ赤に染まり、目には涙が浮かびはじめていた。

 響は、明石の手を握った。響は普段は物静かだが、時々とても大胆な行動に打って出る事は、長い付き合いの中でとっくに知っている。しかし、やはりというか、俺はあっけにとられ、二人のやり取りを見つめることしかできない。

「…明石さん、お願いだよ。本当のことを、僕と提督に、話してーーーー

 ドガーーーン!!

「うぁっ…!!」

 突然大きな音が、俺を呼び戻した。今さっきまで隣にいたはずの響が、突然吹っ飛ばされ、工廠の床に叩きつけられる。

「響…!?響!!」

 俺は慌てて響に駆け寄る。

「響!?大丈夫か、響!!」

「あ、ああ…。不死鳥の名は、伊達じゃないって、いつも言っているだろう…?」

 意識はあるが、傷は中破ほどのものだ。そして、振り返ると、この状況を作り出した張本人が、物凄い、そうとしか言えないような形相で立っていた。

「あんたに…昨日来たばっかのあんたに…!

 明石さんの、何が、わかるって言うのよ!!」

 叫び声が工廠に響く。夕張だった。その体にはいつの間にか艤装が展開され、右腕の砲門は響の方に向いたまま、発射口からは薄く煙が上がっていた。

「夕張!?おい!何てことをしたんだ!」

 俺は夕張に大声をあげた。

「なによ!そいつが明石さんの心を、えぐるような言い方したんじゃん!」

 彼女もまた、顔を真っ赤にはらして、涙目になっていた。

「夕張、待って!」

 明石までもが夕張を制止しようとする。

「あなだもよ、提督!明石さんがどんだけ辛い思いして来たか、知らないくせに!会う人会う人、みんなその左手のことばっか聞いて!毎回笑顔で答えて、でもそういうことのあった日の夜、明石さん必ず泣いてたんだよ!?」

「夕張お願い、やめて!」

 明石の叫びでさえも、激昴した今の夕張には届く気配がない。

「落ち着け夕張!確かに今の響の言い方は、お前にとっては辛かったかもしれない、でも!俺もあいつも、明石を助けたいんだ、それは信じてくれ!夕張!」

「うるさい!黙れ!もういい!

 ここから出ていけっ!」

「夕張っっ!」

 パシンッ!……

「ぐっ!?」

 明石の叫び声とともに、乾いた音が工廠の建物に響き渡った。頬をおさえて床に倒れる夕張。

 突然の出来事だった。あろうことか、明石が夕張に思いっきり平手打ちをしたのだ。

「あ……あ…明石…さん?」

 夕張が困惑しつつ彼女を見上げる。

「ごめん夕張ちゃん。…でも、聞いて…」

 俺も、響も、夕張も、全員が明石を見る。

「本当に辛かった。確かに夕張の言う通り、みんなが左手のことを聞いて来て、その夜は絶対泣いちゃってたけど…」

 泣きながら話す明石。

「辛かったその、本当の理由は、みんながそこしか見てくれない、とか、可哀想に思われてる、とか、そういうのじゃなくて…ぐすっ

 いつまでもあの事件のことを引きずってる自分が、変われない自分が、嫌で嫌で仕方なくて…うぅ…」

 …明石は人知れず、長く一緒にいた大淀や夕張も知らないところで、葛藤を繰り返していたのだ。

「話せば少しは楽になるって、そんな気はずっとしてたけど…でも、すごくそれが、理由もなく、すごく怖くて…」

「明石さん…ごめんなさい…」響が明石に謝罪する。

「僕の言い方は、確かに少しストレート過ぎたかもしれない。そこは本当にごめんなさい。でも、私も提督も、明石さんのことが本当に心配なんだ…。スキャンダルとかばっかり狙う雑誌記者とか、そういう気持ちからじゃなくて、本当に少しでも支えになりたくて…。辛かったらいいんだ、でもできればお願い、僕たちに、本当のことを話してくれないかな…」

「ありがとう響ちゃん、最初からわかってたよ」

「え…?」夕張が思わず声を漏らす。

「響ちゃんに言い寄られた時…あなたの瞳を見て、それがすぐにわかった。ゲスとかそんな心じゃなくて、純粋に、私を助けたいんだって気持ち、痛いほど伝わってきて…気づいたら泣いてたんだ…。提督も同じだよ。きっと2人になら、私の過去の事件…話せるかな」

 明石が笑顔で響に歩み寄って言う。なんとか立ち上がった響の頭を、優しくなでる。

「明石さん…ごめんなさい…響ちゃんも、提督も…気持ちわかってなかったのは…私の方だった…」

「夕張さん、大丈夫、気にしないでいいよ。僕にも責任はあるし、あなたが明石さんを大切に思ってるんだな、って、すごく感じられたよ。」

「…良かったな、夕張」

 俺は夕張に声をかける。うん、と、涙ながらに、彼女は微笑んでくれた。そこへ、

「提督!?明石さん!?みんな大丈夫!?」

 大淀がかけて来た。

「あ、大淀さん」

「ちょっと、何があったの!?さっき大きい音したし、なんか夕張ちゃん泣いてるし、響ちゃん中破してるし…」

 慌てる大淀。

「あー、ありがたいが落ち着いてくれ、大淀。色々あったけど、丸く収まりかけてるんだ。」

「そ、そうですか、なら良かったです…」

 大淀を落ち着かせると、彼女に気づいた明石が声をかける。

「大淀さん…私、あの事件のことを話せる気がするの…」

「明石さん…本当ですか…!?」

「はい…!響ちゃんに提督、そして夕張ちゃんのおかげで…」

「明石さん…ありがとう…響ちゃんも、提督も…良かった…」

 夕張は涙をこらえて、笑顔でそう言った。

「私も良かったです。とりあえず、響ちゃんは入渠して、話せる準備を整えましょう…」

「ドッグはこの奥にあるから、私が連れていくわね。ここは出撃もほとんどないから、高速修復材も余りまくってるし」

「夕張さん、ありがとうございます」

「ううん。響ちゃん、本当にごめんね…」

「もう気にしないでください。あと、これからよろしくお願いします」

「うん、こちらこそ!」

 夕張が響を支えつつ、笑顔の2人がドッグへ向かっていった。

「…なんかいいですね、提督」

「だな、明石」

「…本当に何があったのでしょう…」

 

 数分後ーーー

 全回復した響を夕張が連れてきたのを見た明石は、工廠の隅の、普段休憩によく使うという円卓へ、みんなを案内した。

「これから、私の過去を話します。やっぱり、怖くないと言ったら、嘘になるけど…でも、ここにいるみんなを信じて話します。どうか、最後まで聞いてください。」

 そう前置きをして、明石は過去を語り始めたーーー




…ふぃー。
次は明石さんの過去です。
アイデアは出来てきてるので出来るだけ早めに出します。

ここまで読んでくれてありがとうございます!
よければ高評価お願いします!
感想などもお待ちしております!


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失ったモノは

午前中ほぼほぼ睡眠。
筆者かなり危機的状況です。色々と。
そんな中でも止まらないです。
このままいったら確実に過労になりそう
↑なわけないがな

というわけで明石さんの過去です。←どういうわけよ


ーーー第13鎮守府

「おーい明石ー、暇だからまた一緒に開発しよう!」

「もー、ほんとに提督さんは開発好きですね!」

「まあ、元から開発とかは好きだし、それにーー」

彼は明石を見て、こう言った。

「お前と一緒にいられるからな」

「もう、提督ったら!お上手ですね!」

「はは、本心だよ!」

そこの鎮守府の提督は、明石と本当に仲良しだった。暇さえあれば自ら資材を持ち込み、工廠にこもる日々。提督は誰よりも明石を大切にし、そしてよく出撃もさせ、練度もあげていった。明石も彼の期待に応えるべく、みんなのサポート、時として攻撃、そして何より数々の新兵器。彼女の腕は、最高傑作の工作艦と呼ばれ、どこの明石も、ここの彼女には絶対にかなわない、そう言われるほどだった。

「明石さんと提督…本当に仲良しですね」

明石の親友でもあり、提督の秘書艦でもある大淀は、いつもそんな2人を見守っていた。

しかし、その頃深海棲艦との戦闘が激化し、その鎮守府も出撃回数が増えていった。そのため、修理や開発などの需要が増え、明石は工廠にこもることも多くなった。練度の上がるペースも遅くなり、最高練度に近かったこともあって焦る明石。しかし、そんな彼女を提督はしっかり気遣い、一緒にいてあげた。そしてついに…

 

「明石…この指輪なんだが」

「提督、なんですか、その指輪!

もう、誰にあげるんですかー?」

「…明石、お前に決まってるだろ?」

提督は、明石にプロポーズしたのだ。当然、明石の答えは、

「わぁ…大事にします、ありがとう…!」

 

こうして、提督と明石はケッコンカッコカリした。もちろん前述の仲なので、みんなが心からそれを祝ったのはいうまでもない。

しかし、戦いはさらに激化していき、ひどい損傷を受けて帰ってくる艦娘も多くなった。忙しくなる工廠。そこへ、大本営から1人の軽巡洋艦の艦娘が派遣された。夕張だった。

工廠の仕事も、出撃も両方こなせる彼女は、すぐに明石と打ち解け、よき話し相手になっていった。

 

「明石さんは、本当に作業が上手いですねー、憧れちゃいますよ」

「そんなことないわよ、夕張ちゃん。本当に来てくれて良かったわ。さて、これが最後の部品だね…」

「ありがとうございます。…あれ、ボルト、左手で締めるんですか?」

「うん。提督とケッコンしてから、最後の部品は、利き手じゃないけど、左手で締めることにしてる。提督と私の、愛の力ってやつかなー、なんて」

「うわ、すっごくロマンチックじゃないですか!明石さんは本当に提督のこと大好きなんですね、なんか私やけちゃいますよ!」

「あははは…」

 

ある日、提督が工廠へやってきた。

「おーい明石、お前に重要な頼みがあるんだ。」

「あ、提督!なんですか?」

「…最近の戦いの激しさはかなりのレベルだ。…その、俺は提督だ、指揮をするのが仕事なのはわかってる…ただ、やはりというか、無力感がすごいんだ。傷ついた仲間を見て、指揮しかできない自分が情けなくて…」

「提督…」

「お願いだ明石…俺のために、船を、作って欲しい」

「提督…まさか自ら出撃する気ですか!?」

「ああ」

「やめてください、危険すぎます!」

「明石…頼む、ここは俺も譲れないんだ。」

「でも、提督がいなくなったら…」

「大丈夫。俺は明石を愛してる。愛する嫁さんを、絶対に置いていきはしないさ。約束する」

「提督…わかりました。この明石、全力で提督の望みに応えます。私も、約束します!」

「本当にすまん、明石…。本当にありがとう」

提督と明石は、早速作業に取り掛かった。二人の時間は、さらに互いの距離を縮めた。

そして数日後…

「あとは…ここのボルトを締めて…できました!」

左手でボルトを締める明石。

「やったぞ明石!ありがとう!」

ついに提督専用の高速小型船が完成した。提督と明石の全力をつぎ込んた船。完成した時、二人は思い切り抱き合った。涙を流して、喜びを分かちあった。

翌日の出撃で、提督は早速その船で出撃した。

「明石さん、夕張が、絶対に提督を守ります!任せてください!」

夕張は、提督や明石、大淀たちと話し合い、提督が出撃するときは必ず自分も一緒に出ることを決めた。

「よし、第一艦隊、出撃!」

艦娘たちとともに、提督が海へ出ていった。

 

数時間後ーーー

「明石ーー!ただいまーー!帰ったぞ!

お前の作ったこの船!すごすぎるぜ!」

「提督!心配だったんですよ!帰ってきてくれて、良かったです!おかえりなさい!」

ーーー事実、提督の船の力はすごかった。運動性能は素晴らしく、次々と敵の砲撃をよけ、そして船の左右に二門ずつついたオリジナル武装の熱線砲は、敵艦を一撃で中破以上の損害に追い込むほどの威力だった。

「夕張もありがとう」

「いえ!明石さんとの、約束ですし!」

それから先も、提督は頻度こそ少なくとも、出撃をしていった。その度に明石は心配になったが、帰ってきた夫の提督との時間は、彼女にとって一番の幸せだった。

提督の船の整備も、当然のように行った。もちろん、最後の仕上げは、指輪をはめた左手で行った。

「提督と、この指輪をつけているだけで…どこにいてもつながっている気がします…私は、幸せ者ですね...」

その日はよく晴れていた。今日の出撃の目標は、少し遠方の島付近の敵艦隊。

「提督、ちゃんと無事に帰ってきてくださいね!」

「心配するな明石、お前がいつも、その左手でメンテナンスしてくれていることは知っているさ。指輪をはめた、その手でな」

「はぅぅー」

「はは、じゃあ、行ってくるよ」

「はい!行ってらっしゃいです、提督!」

こうして、提督はまた毎度のごとく出撃した。

「…甘い言葉浴びても、やっぱり心配は消えないわねー」

明石は大淀に、愚痴るように打ち明ける。

「大丈夫ですよ、明石さん。提督は絶対帰ってきてくれますから。とりあえず、私たちの仕事をしましょう。」

「ですね…」

ーーーそれから数時間が経った。

「…提督、遅いなぁ…」

「しょうがないですよ、明石さん。今日は遠方なんですから。」

「ですけど…」

その時、鎮守府に1本の通信が入った。

「あ、明石さん、少し失礼します」

「あ、はい」

きっと敵艦隊を撃破した連絡だろう。明石は少しほっとした。これでまた、愛する提督に会えるのだから。

しかし、その予想は、いとも簡単に裏切られた。

「はい、こちら第13鎮守府。第一艦隊どうぞ」

「大淀さん!?お願い、早く支援艦隊だして、早く!」

「夕張!?どうしたの、とにかく落ち着いて!」

「敵艦隊の奇襲を受けてる!我が艦隊、中破以上の艦多し!とにかく早く来て!」

「夕張!?」

明石が通信マイクに割り込む。

「提督は!?提督は無事なの!?ねえ!?」

「明石さん、提督はきゃあーーーーーっ!」

ブチッ、と音がして、夕張の悲鳴を最後に、通信が切れた。

「第一艦隊!?応答してください!第一艦隊応答願います!!」

大淀はマイクに向かって叫び続ける。それを見た明石は、とてつもない恐怖に襲われた。

 

時を少し遡りーーー洋上

「よし、まずは前哨戦か。」

「提督、熱線砲での援護よろしくお願いします!」

「おし、行くぞ!」

出撃地域の敵主要艦隊手前の艦隊と、提督たちの艦隊は交戦していた。

次々と艦娘たちの攻撃が、敵艦を沈めていく。敵艦隊の反撃も、熱線砲で全て防がれる。提督が一緒にいた時の艦隊は、無敵と言ってもいいくらいだった。

「やりました提督。しかし、提督の船も小破しています、大丈夫ですか?」

「これくらいどうってことないさ、夕張。

次が本番だ。油断するなよ!」

「もちろんです!」

艦隊は、敵主要艦隊へと向かっていった。

しかし、提督や艦娘たちも、全く気づいていなかったことがあった。

敵主要艦隊のそばに、援護艦隊が潜んでいたこと。

そして、提督が、熱線砲で堕とした敵艦載機の搭載していた小型不発弾が、小破した船傷の中に入り込んでいたことーーー

 

ーーー敵主要艦隊潜伏地

「敵艦隊発見、攻撃開始せよ!」

提督の掛け声で、次々と攻撃を仕掛ける艦娘たち。

やはりというか、敵主要艦隊は、これまでの前衛艦隊とはさすがに格が違った。

しかし、艦娘たちの攻撃に加え、こちらには提督の船の熱線砲もある。

艦娘たちの誰もが、油断なくとも、絶対に負けないと信じていた。徐々に敵主要艦隊を追い詰めて行く。ところがーーー

「よし、あと一押しだ、頑張

ドカーーーン!

「なんだ!?」

「どういうこと!?…えっ…敵の援護艦隊!?」

次々と新たな敵の砲弾が飛んできて、艦娘たちを何度も襲う。轟音とともに上がる水柱。飛び交う艦娘たちの悲鳴。

「畜生、このままじゃ分が悪すぎる!夕張、鎮守府に援軍を要請してくれ!」

「わかりました!…

しかしそこへ、大量の艦載機からなる敵の機動部隊が攻め込んできた。

「提督は、きゃあーーーーーっ」

通信中に攻め込まれたため、防御体制もろくに取れなかった夕張は、かすり傷状態から一気に中破へと追い込まれる。しかも今の攻撃で、通信機が壊れてしまったようだ。やばい。

「提督、ダメです、鎮守府と連絡が取れません!」

「クソッ、全軍撤退!」

やむを得ず撤退指示を出す提督。中大破した6人の艦娘たちの後ろにつき、必死に逃げる艦隊。しかし、しつこく敵機動部隊が追いかけて来て、機銃掃射で襲いかかる。そしてーーー

ドカーーーン!!

激しい爆発音に夕張が振り返ると、そこには…

「うああああああ!」

外側には炎、内側からは提督の絶叫があがる、小型高速船の姿が。今の機銃の弾丸が、ちょうど小破した時できた船傷の中の、小型不発弾に命中してしまったのだ。

「提督!?船が炎上してます、早く!

明石さんが緊急脱出装置をつけてるはずです!提督!!早く!!どうしたんですか、提督、早く逃げて!!」

叫ぶ夕張。しかし…

「ダメだ夕張、緊急脱出装置が作動しねえ…

今の爆発で、電気系統丸ごと、やられちまったみたいだ…」

「提督!?今行きます!」

「ダメだ夕張!危険だ!お前達だけでも逃げろ!」

「提督!?ここで沈まないでください!明石さんが、待ってるんですよ!彼女を置いていくなんてーーー」

ちょうどその時…敵艦載機が一斉に機雷を投下してきた。周囲で次々と爆発が起こり、必死にかわす艦娘たち。夕張もその雨をなんとかよけて、提督の元へと行こうとする。しかし…

消えた水柱の向こうにはーーー先程まであった提督の船の姿は、見えなかった。

「提督ーーー!!」

 

それからなんとか、鎮守府から急行した支援艦隊によって、夕張たちは母港へ帰投した。もう西の空は、夕日で真っ赤に染まっていた。港の岸の先端には、明石の姿。夕張は辛かった。これ程辛い報告を、自分はこれからしなければならないのだ。

彼女はゆっくり、明石に近づいた。

「艦隊…帰投しました…中破2隻、大破4隻…そして…ごめんなさい…提督の、船が…ひくっ」

「うああああああああああああああああああ!」

夕張が言い終わる前に、事態を悟った明石は、声にならない叫び声をあげ、その場に倒れ込んだ。

「明石さん…ごめんなさい…提督を…守れ…ませんでした…本当にごめんなさい…!」

しかし、明石は夕張を、号泣の中しっかり抱き締めた。

「あたしが悪かった…あの時、もっとしっかりメンテナンスしてれば…左手でボルトを締めなければ…何より、そもそも提督の出撃を止めていれば…こんなことには…うああああああ…夕張ちゃん、ごめんなさい…」

泣き合う2人を、優しく抱く大淀。大淀にも、これしか出来る事はなかったーーー

 

その夜ーーー

明石は自室に閉じこもって泣いていた。ベッドに顔を伏せて。顔の周りのシーツは、既に彼女の涙でぐっしょりと濡れていた…。ふと少し顔を上げる明石。自分の手が見える。そしてその片方には…銀色に光る、提督との指輪。

「ごめんなさい…提督…あなたを殺したのは…あたしです…」

明石は再び泣き崩れた。

 

「…夕張ちゃん、今はそっとして…とにかく、書類を書かないと…大本営にも連絡しないとだし…」

「…わかりました、大淀さん…」

大淀と夕張は、しばらく明石をそっとしておくことにした。とにかく、自分たちのやることをしなければならない。必死に整理や連絡に追われた。やはりというか、終わるのは深夜になってしまった。

「夕張ちゃん、明石さんの様子、少し、見に行きましょう。」

「はい、大淀さん…」

2人は軽食と飲み物を持って、明石の部屋へと向かった。ドアをノックする。

ーーー応答が、ない。

2人で呼びかけてみても、一向に応答がない。

「夕張ちゃん、中に入ってみましょう」

「はい」

ドアの合鍵を取りに行こうとする大淀。しかし、夕張の衝撃の一言が、彼女の動きを止めた。

「あれ…鍵、あいてる」

「え…?」

さっき明石を部屋に送った時、そっとしておいてくださいという理由で、彼女は内側から鍵をかけたはずだ。2人は顔を見合わせ、頷きあった。警察の特殊部隊並の勢いで、部屋の中に突入する。

明石の姿は、ない。

「大淀さん、これって」

「とにかくまずいわ、夕張ちゃん。急いでこの建物と寮を探して!私は外や工廠の方を見てくる!」

「はい!」

大淀は急いで外へ出た。彼女の名を叫び、走る。見つからない。

やがて、工廠が見えてきた。もしかしたらここかもしれない。そっと工廠に入る。その時だった。

「うああああああああああああ」

中から叫び声のような音がする。急いで奥に進む大淀。いない。と、さらに奥の部屋から、橙色の光が漏れていることに気がついた。声もそこから聞こえてくるようだ。意を決して、中へと進む。

光っていたのは、かつて明石が提督と共同で制作した、高性能レーザーカッターだった。そのそばには人影。明石だった。そして、叫び声も間違いなく、彼女のものだった。

「どうしたんですか明石さん、探したんでーーー」

大淀はふと目を明石の手元に向けた。彼女がレーザーカッターで、何をしているのか、気になったからだ。そして、明石が切っていたのは

ーーー指輪のはまった、彼女自身の左手だった。

「明石さん!?何やってるんですか!!!?」

しかし遅かった。大淀が気づいた頃には、彼女の左手は完全に切断されていた。迷いなく切ったのだろう、彼女は一切暴れず、叫び声を上げていた。超高熱で切られたため、断面から血は出ていない。

明石は切り落とした自分の左手を、床に叩きつけた。そして、改良を頼まれていたであろう、そこにあった誰かの単装砲で、それを撃ち抜き、爆破した…

「明石さんっっ!!…」

 

ーーー「これが、私の、過去です。」

明石はすべてを語った。やはり泣いていた。

「…そんなことが…辛かったな、明石。」

「提督…うわあぁぁぁぁぁあ!」

明石がいきなり俺に抱きついてきた。

「提督、提督…ひくっ…えぐっ…ありがとう、ございます…」

俺は明石を、強く抱き返した。夕張と大淀、そして響は、その様子を優しく見守っていたーーー

 




明石さんの過去編でした。
今回も読んでくれてありがとうございます!
よければお気に入りや高評価、
コメント感想などなどお待ちしております!


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蘇る炎の光

アイデア思いつき次第続々と投稿してます。
多分どっかで一気に更新頻度おちると思いますが…
とりあえず頑張ります。


 落ち着きを取り戻した明石が、もう大丈夫です、と手でジェスチャーする。その顔には、さっき響に見せた、仮面の微笑みではなく、本当の安らかな笑顔があった。

「…その事件以来、私は、能力的にも精神的にも、開発が難しくなってしまって…。能力的にはなんとか慣れてはきたけど、どうしても手が開発に向かないというか…もし取り組めたとしても、精神力を使い果たしてしまって、その後しばらくはできない、みたいなことがほとんどで…今はほぼ、作業の方は夕張ちゃんに任せちゃっててさ…いつもありがとうね、夕張ちゃん」

「いえ、明石さん…」

「でもね、そういう自分も嫌で。いつか変わりたい、前の提督としていたみたいに、楽しく開発したいって、そうなりたいってずっと思ってた。

 そんな時、提督と響ちゃんが来てくれた。夕張ちゃんや大淀さんも、私のことを、いつも気遣ってくれることも、改めて感じた。…今なら、できる気がする。」

「明石さん…!」

 大淀の顔が明るくなる。

「あの…明石さん、」

「何、夕張ちゃん?」

「…私、明石さんがまたそう言ってくれて、本当に嬉しい。こんな時のために、ずっと内緒で用意してきたものがあるの。」

「…え?」

「ちょっと待ってて、すぐにとってくる!」

 夕張はそういって、工廠の奥へと入って行った。

 

「これだよ、開けてみて。」

 夕張が明石に差し出したのは、弁当箱くらいの大きさの箱だった。明石は夕張に言われるがままに、箱を開ける、そこには…

「……!夕張ちゃん…!」

 そこに入っていたのはーーー金属製の、義手だった。

「…ごめんなさい、私は明石さんより腕悪いし、これだって全然肌の色じゃないし、金属感丸出しだし…でも、また明石さんと、前みたいに楽しく、開発を、私も、その…やりたくて…」

「夕張ちゃん…ありがとう…!!」

 明石は満面の笑顔で感謝を夕張に伝える。

「明石さん…!」

「早速、はめてみるね!」

 明石は夕張に教えてもらいつつ、義手を左手につけた。専用のアタッチメントとケーブルを手につなげ、固定する。

「あとは、どうするの?」

「明石さん、あとは左手を、動かしたいように頭の中で思ってみて。」

「え?」

 すると、ウィィィン、という小さなモーター音とともに、義手が動いたのだ。

「…!すごい夕張ちゃん、これってどうなってるの!?」

「さっきつないだケーブルが、脳波をキャッチして、左手の動きに対応する仕組みになっているの。」

「すごいよ!これで、また簡単に開発できるよ!

 本当に、…本当にありがとう!」

 抱き合う2人。以前港での、悲しい涙ではなく、嬉し涙が、2人の目から溢れてきた。

「明石さん、ただこれ、ケッコンカッコカリの指輪は、伸縮性がなくて、はめられなくて…」

「いいのよ、夕張ちゃん…これを作ってくれただけでも、私は十分嬉し」

「明石さん、夕張ちゃん、決してそんな事はないよ。」

 響だった。

「明石さんは知ってるかな。結婚指輪を左手にはめる風習は、決して万国共通って訳ではないのさ」

「つ、つまり?」

「僕が艦時代に晩年を過ごした、ロシアとか。それを含めた一部の国では、結婚指輪は右手にはめる風習が一般的なんだよ。」

「さすが、響だな」

 俺は響の頭をなでる。ニコニコと微笑む響。

「そっか!じゃあ、私もケッコンカッコカリできるのね!」

「…明石、すごい燃えてるな。」

「もう最高練度は達してるし、提督に申し込んじゃおうかなー、なんて」

「!?」

「冗談ですよ、もー」

「ははは、まあ俺も昨日来たばっかだからな。」

 工廠の五人全員が、笑顔と温かい雰囲気に包まれた。

「とりあえず、この手使って、また開発ができる気がする。提督さん、資材資材!」

「いや、まず何作るんだ」

「あ…どうしましょう」

「そうだ明石さん、何か鎮守府の迎撃設備を作ってみてはどうでしょう。」

「それいいね、大淀さん。確かにここの鎮守府も時々、敵が攻め込んでくるからね…」

 大淀のアイデアに夕張が賛成する。

「迎撃の砲台か…でも、どういうのがいいんだろう…」

 考え中の明石。その時、俺の脳内に思い当たる、ある一つのものがあった。

「そうだ明石、いいものがある!すぐに設計図をとってくるよ!」

「ちょ、ちょっと提督!?」

 

 俺は猛ダッシュで執務室へ向かった。部屋の大型金庫の鍵を開けて、中から大きめのアタッシュケースを取り出す。そしてさらにそのロックを開ける。中に入っている大量の紙の中から、一枚のある設計図を取り出した。

「じーさん、使わせてもらうぜ…」

 

 再び猛ダッシュで工廠へ行って、明石にその設計図を渡す。

「提督、これは…なんですか?

 シルバー…シャーク…G?」

「じーさんの遺品の一つだ。迎撃用の熱線ビーム砲台だよ。」

「え…!?すごい、ていうか提督のお祖父さんって、何者!?」

 驚く明石と夕張。対して驚かない響と大淀。

「大淀さん、響ちゃん、なんか知ってるの?」

 聞き返す明石と夕張に、俺は言う。

「響とは長い付き合いだし、大淀にはここに着任する際に説明してある。2人にも今度話すから。」

「ぶーぶー、提督のいじわるー」

「まあまあ夕張ちゃん、でも確かに、この砲台は強力そうね。」

「だろ?明石、夕張、お前達の力を借りたい」

「もちろんです!」

「頑張ります!」

 笑顔で了承する2人。

 早速作業が始まった。明石も、先程までと全く違う、生き生きとした姿で、義手の左手と右手で組み立てていく。

「…想像以上だな…」

「明石さん、すごいでしょ」

 自慢気に言う夕張。大淀や響も、部品や差し入れの軽食を持ってきてくれたりと、色々手伝ってくれた。そのおかげで、はっきり言って数日かかると思っていた作業は、その日の夜7時過ぎには、設置も含めて終わっていた。

「すげえ…」

「いえいえ、これくらい大したことないです!

 それと、肝心のビーム砲部分には、私が前の船に載せた、熱線砲の技術を少し取り入れてみました。…前まで辛かった開発も、不思議と、すごく楽しく出来ました!

 みなさん、本当にありがとうございました!これからも、頑張ります!よろしくお願いします!」

 お礼を言う明石に、俺もみんなも盛大に拍手した。しばらく話をした後、俺達は工廠を後にして、食堂で夕食をとり、部屋に戻った。そしてその夜ーーー

 

「今日はさすがだったね司令官、ハラショー」

「そっちこそ、だよ。ありがとな、響。」

 響は今、俺の肩をマッサージしてくれている。…ガチで気持ちいい。

 窓の外を見る。月が綺麗に輝き、波も静かそうだ。

「響、これから少し夜釣りに行って来ようかな。まあ、すぐにもどると思うけど。」

「わかった、司令官。寝る用意整えて待ってるね」

「おう」

 俺は棚から釣り道具一式を取り出し、夜の港へ向かった。ここら辺ではどんな獲物が捕れるか、少し楽しみである。

「ふう、やはりというか、この時間だと誰もいないな…もうフタマルサンゴだしな…ん?」

 俺の目に、一つの人影が映った。

「あれは……?」




明石さんはこんな感じで。
なんとか書けてよかったです…ふぃー。
よければ評価お願いします!
お気に入りや感想もお待ちしております!
ここまで読んでくれてありがとうございました!
これからも頑張ります!


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翔鶴の章
空の心の箱


少しホラーチックな終わりに前話でなってしまいましたが…
安心してください、違いますよ。←古い。

そんなこんなで新章突入ー。


 俺は自分の目を疑った。しかし、状況は変わらない。遠くの方だが、確かに人影が歩いている。気づかれないように、足音を殺して近づくことにしてみる。距離が詰まるにつれ、影の姿が少しづつ見えてきた。

 留められていない、長い髪。

 上には寝巻きの着物のような服を着ている。

 歩くスピードは、普通より少し遅めなのだろうか。

 しかし、顔がよく見えない。

 …まさか、幽霊とでも言うのだろうか。

 しかしそう考えているうちに、その影は再び遠くへ行ってしまった。追いかけようともしたが、建物の陰に入っていってしまった。歩速からみて、おそらくまた追いつけるだろうが、やめておくことにした。

「今日は…夜釣り、やめておこう」

 俺は踵をかえして、執務室の方へと戻った。

 

 ーーー執務室にて

「あれ?司令官、随分早かったね」

「いや、その…今日は、夜釣りやめとくことにしたんだ。」

「そ、そうか。」

 …あれは怖いとまでは行かなくても、少し不気味だった。頭の中から離れそうにない。

「響、ちょっと大淀のところに行ってくる。」

「え、どうしたんだい?」

「いや、少し相談したいことがあってな。

 大丈夫、すぐ戻ーーー

「僕じゃだめなのかい?」

 ドアに向かおうとした俺の服を、響がつまんでいた。

「確かに、響にでもいいんだろうけど…」

「じゃあ僕に言ってよ。司令官、お願いだ」

「わ、わかった。」

 半ば強制的に引き戻される。

 響を座らせ、先程のことを話す。

「まあ、大したことないんだろうけど、何だったんだろーな、みたいに思ってさ。…って、響?

 泣い…てるのか?」

「司令官のせいだ」

「いや、何で…あ、怖かった、のか?」

「別にそんなんじゃないもん…」

 いつものクールさが崩れかけている。否定するも、体が小刻みに震えている。さっきのよりも強く、服を掴まれた。

「…ごめん、響。とりあえず、聞いてくれて、その、ありがとう。一応大淀にも報告ーーー

「行かないで」

「響?」

「司令官のせいだからね」

「いや、でも一応」

「だめ。」

「…わかったよ、わかったわかった。響も一緒にこい。」

「…しょうがないね」

 …何で俺が悪くなるんだ?

 

 ーーー仕方なく、響も連れて、大淀の部屋へと向かうことにした。時刻は夜11時を回ろうというところだが、彼女の部屋にはまだ明かりがついていた。

「大淀?俺だ、少しいいか?」

「提督?どうぞ。

 どうしたんですか、こんな夜更けに。…それに、響ちゃんまで」

「いや、響は何か、ついてくって聞かなくてさ。ちょっとさっきあったことなんだが…」

「あ、はい。よければ聞きますよ?」

「助かるよ、大淀。実はな…」

 俺は響の時と同じように、先ほどの出来事を話した。話している最中、俺も大淀も気づいてしまったのだが、響がずっと耳栓をして、部屋の机の下でうずくまっていた。少し不思議で不気味な体験を話しているはずだが、思わず互いに笑みがこぼれてしまった。

 …このことは、響には内緒にしておこう。

「…ってことがあってな。大淀なら、何か知らないかと思って。…響?話なら終わったぞ?」

 響はまだうずくまったままだ。

「ふふ、響ちゃんも可愛いですね。それと、その話のことですが…私の読みが正しければ、幽霊ではありませんよ。」

「そうか。…じゃあ、その影は何者なんだ?」

「おそらく、ここの翔鶴さんです。」

「翔鶴?…そういえば確かに、翔鶴っぽかったなぁ。」

「きっとそうですよ。今日は遅いので、詳細はまた明日話します。」

「ああ、そうだな。…響、さっきのは、お化けとかじゃないぞ。怖がらなくていい。」

「…別に、怖かったわけじゃないもん」

「はいはい」

「ふふ、響ちゃんやっぱり可愛いですね。」

「だな。よし、ありがとうな大淀、こんな夜遅くに」

「いえいえ提督。どうぞゆっくりお休みになってくださいね」

「ああ。失礼した。…行くぞ、響。」

「……」

 無言でついてくる響。やはりというか、服の袖をしっかりにぎっている。

「じゃあ大淀、お休み」

「おやすみなさい、大淀さん」

 

 二人で大淀に就寝の挨拶をして、戻った執務室で響の用意してくれた寝巻きへと着替える。

「ありがとうな、寝巻きの準備。とりあえず、響も自室戻って、明日のためにも寝てこい」

「やだ」

「響…」

「司令官のせいだよ。今日は一緒に寝て」

「…わかった。」

「…ありがとう。ハラショー」

 電気を消して、ベッドに横たわる。隣の響は、腕を抱き枕のようにつかみっぱなしだ。電気を消してもわかるが、まだ少し泣いている。

「…よしよし」

 俺は響の頭をそっとなでつつ、少しの狭さを感じながら、眠りについた。

 …念のために言っておくが、意味深な意味での夜戦はもちろんしなかった。

 

 ーーー翌朝。

 昨夜ずっと響は俺の寝巻きを掴んだり、体を抱きしめていたが、なんとか立ち直ったようだ。普通に間宮さんのところに朝食を取りに行ったり、朝の作業を手伝ってくれたりした。

 九時を過ぎた頃、部屋に第六駆逐隊の、暁、雷、電が遊びに来た。

「響、今日はあたし達暇なの。」

「よかったら、姉妹4人でゆっくり過ごしたいのです。」

「どうかなー?」

「俺は構わんが、響は?」

「わかった。じゃあ司令官、すまないけど失礼する。」

「お、わかった。みんなで仲良くな」

「はいなのです!」

 響を連れて出ていく四人。

「…さてと、10時までにとりあえずこれを終わらせて…大淀と昨日のことで待ち合わせだな。」

 響が遊びに行ったので、多少ペースが緩やかになったが、その前に色々一生懸命手伝ってくれたので、余裕で終わる。さて、時間もちょうどいいし、大淀の所へ行くことにしよう。

 

 ーーー大淀の部屋 ヒトマルマルマル

 ドアをノックし、中に呼びかける。

「大淀?俺だ」

「時間通り、さすが提督ですね。どうぞ。」

 ドアが開き、中に迎え入れられる。大淀の隣に、ツインテールの1人の艦娘がいる。

「ありがとな、大淀。で、彼女は…」

「提督さんはじめまして。航空母艦、瑞鶴です。

 翔鶴姉のことについてなので…私の知ってること、話したいと思います。」

「瑞鶴か、よろしくな。翔鶴の過去には、何かあったのか?」

「そういう訳では無いんですが、翔鶴姉、前の鎮守府で、いきなり人生というか…なんというか、そういうのの支えを無くしちゃったみたいで…」

「そうなのか。」

 すると、大淀が言った。

「昨夜も、翔鶴さん散歩されてましたよ。」

「やっぱり…昨日夜いなかったの…

 提督さん、翔鶴姉、こうなってから突然、何もなしに散歩とかするようになって…すごく心配なんだ。

 大淀さんからさ、今度の提督は、すごい優しいというか、いい人だって聞いてて…」

「…そんなんでもないが…」

「それでもお願いします、提督さん、翔鶴姉を助けてあげて…」

「私からもお願いします」

 そういったのは大淀だった。

「翔鶴さんがこの状態なので、実はここの鎮守府で出撃可能な空母は、瑞鶴さん1人だけなんです。なので、どうしても負担が集中してしまうんです…」

 2人に頼まれ、断るはずがない。

「よし、わかった。でもお前も優しいぞ、瑞鶴。

 姉を思う気持ち、すごく伝わるよ」

「提督さん…よろしく、よろしくお願いします!」

「わかった。出来る限りやってみるよ。

 …で、その翔鶴は…どこだ?」

「…また多分、港の方散歩してると思います。」

「わかった、早速向かうことにするよ」

 俺は大淀の部屋を出た。

 

 ーーー港

「…なんか一応釣り道具まで持ってきてしまったな…」

 昨日夜釣りができなかったせいだろうか。ただ、そこらじゅう闇雲に探し回るよりかは、港で釣りをしながら待つのが比較的いい判断と言えるだろう。

「よいしょっと…」

 俺は竿を構え、釣り糸を海に垂らした。

 今はほぼ無風。波も穏やか、空も青い。

 書類も先程までの分が今日のほとんどなので、気長に待つには本当にちょうどいい環境だ。

 当たりもないが、こういうのも、またいい。

「………………ふう」

 ーーーどれくらい時間が経っただろう。日の角度から見て、ちょうど正午近くだろうか?俺ははっとわれに帰った。後ろに…誰かたっている。

「提督…さん、ですか?」

「ああ。一昨日来たばかりだがな。」

「そうですか…。あの、隣、よろしければ、いいですか?」

「ん?ああ、いいよ」

「ありがとうございます」

 そう言って、1人の艦娘が、竿を垂らす俺の隣に、俺と同じで海に足を投げ出すように座った。

「…翔鶴、だな」

「…はい。翔鶴型航空母艦の、翔鶴です。

 …よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしく」

 




ちなみに、筆者の執筆のお供(燃料)。
カフェオレとココア。缶の。

この二つをよく自販機で買っては飲む。すると不思議と頑張れる。
だって美味しいもん(真顔)。(そうして筆者の財布はすっからかんになるのであった。)

なにはともあれ、ここまで読んでくれてありがとうございます!
感想、評価などお待ちしております!
次も頑張ります!


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水面の運ぶコトバ

最近筆者を悩ませるもの。

・成績。
・疲れ。
・金欠。
そして今は鼻水が止まらないです。
そしてこういう時に限ってポケットティッシュ持ってきてませんでした。
やばいです。

続編どうぞ。←唐突


 翔鶴が俺の隣に、俺と同じように足を投げ出す形で座る。俺は竿を持っていかれないよう、手に込める力を強めるが、視線は翔鶴の方へとうつしていた。瑞鶴いわく、ある日突然生きる目的を見失ったというが…。

 一見すると普通だった。しかしよく見ると、どことなく寂しげな感じがした。さっきから彼女の顔は一瞬たりとも変わらず、その表情は確かに、心のどこかに負の感情を抱えているようだった。それに先ほどから一言も喋らない。瞳も、それが瞳ではなく、同じ色のビー玉が埋め込まれているように思えた。

 …どれくらいたっただろう。空の太陽は、ほぼてっぺんへと上がっていた。少なくとも一時間以上は経過している。ちなみに当たりはない。とにかくこのままだと埒が開かないし、何より気まずい。気まずすぎる。俺は思い切って、話しかけてみることにした。

「なあ、翔鶴」

「あの、提督」

 …ものの見事にタイミングがかぶった。気まずい雰囲気が更に増してしまう。

「…提督、釣れ、ませんね」

 ふいに翔鶴が言った。そのことに驚きすぎて、一瞬言葉が読み込めなかったが、すぐに気を取り直してぎこちなくも、そうだな、と返す。

「提督は、釣りが趣味なのですか?」

「いや、趣味という程でもないが…大本営の時も、たまに出来る暇はこうしてつぶしてたな…」

「そうでしたか…」

「まあ、ほとんど釣れなかったけどな、ははは」

「…悔しくは、なかったんですか?」

「…翔鶴?」

「釣れなかった時とか、悔しいとか、悲しいとか、思わないんですか…?」

「…いや、そんな事は思わなかったけどな。」

「え…?」

 翔鶴は驚いたような顔をした。

「では、どのように感じるのですか?」

 変なことを聞くな、と思ったが、普通に答えることにした。

「まあ、次釣れたらいいなーって。特には気にしないかな」

 するとそれを聞いた翔鶴が、予想外のことを口にした。

「そうですか…羨ましいです」

 その言葉を聞き、まさにその時気がついた。

 翔鶴がなぜ、生きる目的を見失ったかが。

「お前…生きる目的を、見失ったって聞いたけど…」

「…どうせ、瑞鶴からでしょう?」

 少し投げやり気味の翔鶴。

「まあ、そうなる、けど…」

「やはりそうでしたか…。…あ、すみません…」

「いや、大丈夫大丈夫。…これは俺の勝手な推測だけど、お前…物事をする時、結果しか考えてないんじゃ、ないか?」

「…すごいですね、提督。まさかお見通しですとは。」

「何か、あったのか?」

「いえ…そうではないんですが…

 前の鎮守府で、私は瑞鶴とともに、空母の要として頑張っていたのですが…いくら頑張っても、これといった戦果も上げられず…

 いつしか、頑張っても意味無いって思うようになってしまって…」

「それで、結果だけに囚われた、ってわけか?」

「はい…戦況はいつまでたっても変わらないように思えて…」

 翔鶴はそう言った。しかし、大淀の話によると、翔鶴のいた鎮守府は、彼女たち五航戦の空母がかなりの戦果を上げていて、ここに異動すると翔鶴が決めた時も、そこの提督は必死に引き止めたらしい。

「翔鶴…お前はすごく役立っていると、前の提督も言っていたそうだが…」

「でも…やはり自信がわかないんです…」

「そうか…」

「ごめんなさい、提督にまで…迷惑かけて」

「いやいや。

 なあ、翔鶴」

「なんでしょう…?」

「確かに結果というものは大事だ。それを求めるのも、とてもいいことだ。でもな、そればっかりにとらわれると、もっと大切なことを見失ってしまう。今の翔鶴には、それが足りないんだよ、きっと」

「そ、そうですか…その、大切なもの、とは?」

「それは人それぞれだけど、俺は過程、つまりプロセスなんだと思うな。」

「プロセス、ですか?」

「そうだ。過程なしに、結果はでない。そうだな、翔鶴はきっとそれが見えてないと思う」

「そ、そうですか…私はいったい、どうすればいいのでしょうか…」

「…日記とか、つけてみたらどうだ?もちろんその日あったこともそうだが、今日はこういうことをこれだけ頑張った、とか書いてみたらどうかな」

「…確かに、いいかもしれません。しかし、私にできるでしょうか…?」

「大丈夫だ、翔鶴。お前にはしっかりした、支えがいるだろ?」

 俺は目線を海にわざと向け、大きな声で言った。

「隠れてないで、出てきたらどうだ?瑞鶴」

「…ばれてた?」

「まあな。」

「瑞鶴?」

「翔鶴姉…そうだよ、日記、書いてみたらいいじゃん!大丈夫、私が横で色々支えてあげる。翔鶴姉が、また笑顔で前に進めるように」

「瑞鶴…ありがとう…!」

 手を取り合う2人。

「提督、ありがとうございました。早速今日から、実行してみますね。」

「おう。頑張ってな!」

「あ、提督!」

 不意に瑞鶴が叫んだ。

「なんか、あたりが来てるよ!」

「まじか!?」

 姉妹の温かすぎる場面に気を取られ、全く気づかなかった。竿をあげると、こぶりながら…

「あら、鯛ですね!」

「ホントだな、まさにめでたい」

「あら、おうまいことで」

「ありがとな、翔鶴」

「ねぇ提督!もう正午過ぎたし、この鯛を食堂の間宮さんに調理してもらおうよ!」

「そうだな、鯛めしとかでも食うか!」

「やったー!提督ありがとう!」

「もう瑞鶴、ちゃんとした言葉遣いしないとよ!」

 2人の五航戦姉妹に両腕をそれぞれ絡まれつつ、食堂へと俺は向かったーーー

 

 間宮さん特製の鯛めしを食った後、翔鶴は日記を買いに酒保の方へと向かった。残った瑞鶴と2人で話をする。

「提督ありがとうね、翔鶴姉にまた笑顔が見られて、私本当に嬉しいよ」

「いやいや」

「本当に提督はすごい!」

「ははは、照れるな…」

「…あのさ、提督」

「どうした、瑞鶴?」

「こんな事言うの、すごく恥ずかしいけど…1つ頼んでいいかな」

「…なんだ?」

 瑞鶴は大きく深呼吸して、よし、とつぶやき、

 口を開いた。

「ここの空母の大先輩を…救ってあげられないかな…私から見てもすごく心配というか…」

「…その、大先輩って?」

「…これが一番言うの恥ずかしいのにー、提督の意地悪ー」

「な、なんかすまん」

「いいのー。…えーと…」

 瑞鶴は前を向き、言った。

「加賀さん、なんだよね…」




というわけで次は加賀さん!
これからも頑張ります!
感想、評価お待ちしております!
ではでは今回も読んでくれてありがとうございました!


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加賀の章
張り詰めた弦は


新章突入です。
とりあえず加賀さんのところは少し長くなる予定かもです。
よろしくお願いします。


「なるほど…」

 そういえば、ここに来てから加賀の姿は見ていない。全体での集まりもなかったせいか、まだ未対面の艦娘も割合的にかなり多い。

「…で、加賀はどんな感じなんだ?」

「そこまで言うのー?」

「いや、そうじゃないと何もできないから」

「だよね…あ、翔鶴姉!」

「瑞鶴、お待たせ。日記帳買えたわ。

 提督も本当にありがとうございます、これから頑張れそうです。」

「お、おお。なら良かった。」

「じゃあ提督、またねー!」

「私達はこれで失礼します、それでは」

「おう、頑張れよー」

 去っていく五航戦姉妹。彼女たちを見送り、身を翻して反対方向へ歩を進めようとして、気がついた。

「…瑞鶴、逃げやがったな……」

 まあしょうがないと割り切り、執務室へ戻ることにした。まだ少しとはいえ、整理する書類が残っている。

 

 ーーー執務室

「ふう…疲れた…あれ、響も帰ってきてたのか。おかえり。」

「ただいま、そしておかえり、司令官。」

「ありがとな響。みんなと仲良くしてきたかい?」

「うん。司令官の方は?」

「こっちも大丈夫そうだよ。翔鶴が立ち直ってくれた。」

「そっか、なら、よかった」

「そうだ。司令官、さっき加賀さんに会ったんだ。」

「まじか、それは本当か?」

 …先程のこともあってか、これは願ってもないチャンスだ。詳しく響に聞き込むことにする。

「それで、加賀の様子はどうだった?」

「それなんだけど…」

 

 ーーー時を少し遡り、第六駆逐隊の部屋

「ハラショー、一抜けだ。」

「ちょっと響!なんであんたそんなにババ抜き強いのよ!?」

「はわわわ…さっきから響ちゃんが連勝しすぎなのです。」

「さっきからビリばかりのレディーの身にもなってよー!」

 第六駆逐隊の四人は、団体部屋でババ抜きに興じていた。何故か先ほどから響が破竹の勢いで勝ち星を伸ばしている。

「ごめんみんな、少しお手洗いに行ってくる」

「あ、はーい。」

「余裕の発言…レディーの私がしたかったのにぃ…」

「こうなったら響に続くのです!電の本気を見るのですっ!」

 電が暁の手札からカードをひく。どうやらペアが揃ったようだ。

「やったのです!これであと一枚なのです!」

「…なんか早くもまたビリの予感…」

 

 一方の響は、お手洗いに向かって廊下を歩いていた。もちろん各階にお手洗いは完備されているが、二階の端の第六駆逐隊部屋からは、近くの階段を下って、一階の小玄関のところにあるお手洗いの方が近いのである。

 響が階段を下り、一階に着いた時ちょうど、小玄関の扉が開き、誰かが建物内に入ってきた。

「こんにちは…」

 予想外だったせいか、反射的に挨拶をしてしまい、相手の正体に気づくのが遅れてしまった。

 はっと見上げたそこには、1人の長身の女性。

 上は白い着物、胸の部分には黒い胸当て。

 下は袴のような群青色のミニスカート。

 手には弓と、矢が数本入った胡禄を持っている。

 一航戦の正規空母、加賀だった。

 クールな響も、鉄仮面の表情という異名を持つ加賀の前に、思わず固まってしまう。

 一方の加賀は、しばらくそんな響をまっすぐな瞳で見つめたあと、おもむろに懐から、メモ帳とペンを取り出す。そしてスラスラと、素早く、しかし丁寧な字をメモに書き、姿勢を響に合わせ、その前に見せた。

「あ…」

 メモにはこう書かれていた。

[一航戦の正規空母、加賀です。

 あなたは、響さんでいいですね?]

 しばらく文面を見ていた響だったが、はっと気づき、加賀の文に対して返す。

「あ、はい。先日ここに配属された、駆逐艦の響です。…はじめまして、よろしく、お願いします。」

 加賀の相変わらずの無表情に、少し怖じ気付きながらも、なんとか挨拶をする。すると加賀は、またもメモ帳になにやら書き、響に見せる。

[こちらこそ、どうぞよろしく。

 私は感情表現が苦手だけど、今はあなたの着任を心から歓迎しています。]

 そして再びメモに書く。

[ごめんなさい、部屋に戻るので失礼します。]

 加賀は響が文面を読み終えてこちらを見上げたのを確かめる。はい、と返事をしたのを見て、彼女は階段を登って行った。

「…?」

 不思議な加賀さんだな、と思いつつ、響は自分のもともとの目的地であるお手洗いへと行った。

 

「ーーーってことがあったんだ。」

「…なるほどな。加賀にはいったい何があったのだろうか…」

「司令官、大淀さんに聞いてみる?」

「だな。この時間なら、事務室の方にいるはずだろう。行ってみるか。」

 俺は響を連れて、事務室へと向かうことにした。

 

 階段を降りて、2人で一階の事務室へと向かう。すると、目の前に一瞬だが確かに、食堂へと入る人影を見た。

「司令官…今のあの人、加賀さんだよ」

「…だな」

 一瞬のうちに見たその姿で、誰かを断定する。

「少し食堂に行って、彼女の様子を見てみるか。」

「…賛成する」

 

 2人で食堂に入ると、間宮さんに声をかけられた。

「あら提督、それに響ちゃんも。いらっしゃい」

「間宮さん、先ほどは美味しい鯛めしをありがとう」

「いえいえ。喜んでいただけて嬉しいです。…あら」

「?」

 間宮さんが何かに気がついたようだ。俺もつられて後ろを振り返ると、そこにはなんと加賀が立っていた。そして、メモ帳のあるページを開き、間宮さんに見せる。

[いつもの特大パフェ2つお願いします]

「わかりました、加賀さん。」

 間宮さんは俺と響に、ご注文が決まったらいつでもどうぞ、と言って厨房へ行った。加賀の方は俺の方を向き、メモ帳にスラスラと書き連ねる。

[一航戦の正規空母、加賀です。

 あなたが着任した提督ですね、どうぞよろしくお願いします。]

「あ、こちらこそ。」

 返すと、加賀が握手を求めてきたので、応じる。変わらず無表情だが、どうやら他の鎮守府で聞いた、ツンツンの加賀さんとはどこかが違うようだ。

[私は赤城さんとこれからおやつにしようと思っています。よければご一緒いかがですか]

 加賀の方からおやつのお誘いが来た。響も良さそうな顔をしていたので、快く誘いに乗ることにしよう。

「ありがとう、じゃあ、お言葉に甘えて」

 加賀が机へと案内する。そこにはもう1人の艦娘がいた。下までまとめずにおろした髪。同じく一航戦の赤城だ。加賀が彼女の隣に座り、俺と響は向かい側に座る。早速俺は赤城にも挨拶する。

「赤城、だね。よろしく」

「こちらこそよろしくお願いします、提督」

 やはり礼儀正しい。さすが一航戦、といったところだろう。

「あ、皆さん、おしぼりを…」

 赤城は各テーブルに備え付けの小さな箱から、おしぼりを4人分取り出した。しかし、手をすべらせてしまったのか、机の下におしぼりが落ちてしまった。

「あら、ごめんなさい…」

「いいよ、拾う拾う」

 俺は机のしたをのぞき込んだ。幸いにもおしぼりはすぐに見つかったが、その時気づいてしまった。

「はい、おしぼり。」

「ありがとうございます、提督。」

「いやいや。

 …赤城、ひとついいか?」

「…はい。」

 赤城は、俺の聞きたいことがまるでわかっているようだった。

「少し言いづらいけど…

 どうして、車椅子なんだ?」

 …一瞬の沈黙。しまった。聞いた瞬間、少しいけないことを聞いたかと後悔した。しかし、赤城は微笑んだまま、

「これですか?…実は昔のある出来事で、足が動かなくなってしまって…慢心はいけませんね、本当に」

 するとそれを聞いた加賀が、赤城の肩を叩き、少しこっちを向いてください、というように合図した。そしてメモ帳に書き連ね、申し訳なさそうな顔で赤城にそれを見せる。こちらからは角度の都合で文面が見えないが。

「…だから、大丈夫ですよ、加賀さん。あれはあなたのせいなんかじゃありません。ほら、来ましたよ」

「お待たせしました〜」

 赤城が気になる言葉をかけ終わると同時に、間宮さんがパフェを運んできた。

 …やはりというか、予想通りのでかさである。軽く1mいきそうだ。これを食べる赤城や加賀もすごいが、これを運んできた間宮さんもまたすごい。

「ふふふ、いつもながら美味しそう…」

「ありがとうございます赤城さん、加賀さんもごゆっくりどうぞ〜」

 加賀はメモ帳を見せる。ありがとうございます、と書かれた文面をみて、ニコリと微笑み返す間宮。

「あ、提督に響ちゃん、ご注文はお決まりですか?」

「あ、じゃあこの、ホワイトチョコケーキで」

「司令官に同じく」

「かしこまりました〜」

 間宮は再び厨房へと入っていった。

「では、4人みんなでおやつタイムにしましょう!」

 赤城がキラキラ状態、というよりむしろギンギラギン状態になっている。これで車椅子がなくて普通に出撃したら、単艦でも姫クラスにS勝利するのではないか、と思えてしまう。大袈裟かもしれんが。

 一方の加賀も、表情こそ大きくは崩さないが、パフェを頬張っては幸せそうにしている。

 やがて俺と響にもケーキがきて、4人で仲良くおやつを堪能した。

 ふぅ〜、とご満悦そうな赤城。そうだ、先ほどのことを謝らなければ。

「赤城、先ほどは無神経な質問をしてしまい、すまなかった。」

「いえいえ、お気になさらないでください。

 …聞きましたよ、大淀さんたちから。」

「へ…?」

 何のことか分からず、思わずマヌケな声を出してしまった。

「皆さんの心の傷、直してくれたと聞きましたよ。明石さんや、翔鶴さんの。」

「いや、俺は何も…」

 少し照れる。響は何故かツンツンと、ニコニコしながら俺をつついてくる。

 一方の加賀は、無表情でこちらを見つめている。

「…よければ、少しお話しませんか?

 ここだと何ですので、場所を変えましょう…

 加賀さん、一航戦部屋に行きましょう」

 加賀がうなずき、赤城の車椅子を押し始める。間宮さんに4人でお辞儀して食堂を出ると、建物内のエレベーターの方へ。

 それに乗って二階へ行き、部屋に案内された。

 

 ーーー二階 一航戦団体部屋

「ここなら気兼ねなくできますかね…あら加賀さん、どうしました?」

[ごめんなさい…私は少々辛いです。

 申しわけないのですが、席を外してきます。

 弓道場にはいるので、用があればそちらにお願いします。]

 このメモを全員に見せる加賀。きっと、かなり辛いことがあったのだろう。

「いいよ、加賀さん。僕も、無理に聞くつもりはないから。」

[赤城さん、提督、気遣い感謝します。

 それでは失礼します]

 そう言って加賀は部屋を出ていった。

「赤城さん。加賀さんは、声が出ないようですが、声帯を摘出してしまったのですか?」

 響の問に、赤城はこう返した。

「いえ、そういう訳では無いんです。私と加賀さんがかつていた鎮守府での過去のとある事件の、ショックによるものです」

「そうなんですか…」

真剣な表情の響。

「ふふふ、提督さんたちが悩みを解決に導くそうなのなら、このことを話さないといけませんね。」

「解決できるかどうか分からんが…。力にはなりたい。赤城が良いと言うなら、話してもらえるか?」

「わかりました。では…」

 赤城はその過去を語り始めた。




というわけで次は加賀さん過去編です。
考えてはあるので出来るだけ早くだしマース。

感想や評価よければお願いします!
というわけでここまで今回も読んでくれてありがとうございました!


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止まった人生の時計

筆者の鼻はだいぶよくなりました。
読者のみなさんも、最近の気温の急激な変化による体調管理には、ぜひ気を付けてください。
ちなみに筆者は大事な行事の日に限って熱出して休んだ経験あります。それも複数回…

それでは加賀さんの過去編どうぞ。←相変わらず唐突



 ーーー第21鎮守府

 加賀は、元はこの鎮守府で建造された艦娘だった。

「…ここは?」

 目が覚めて気がつくと、自分は何かに寝かされていた。そのままあたりを見回すと、2人の女性がそばに立っている。一方は笑顔ではしゃぎ、もう一方は微笑んでこちらを見下ろしているのがわかった。

「すごいよ赤城さん!建造加賀さんが出たよ!」

「まあ…これで一航戦コンビが揃いましたね、提督。

 はじめまして加賀さん、航空母艦、赤城です。

 これからよろしくお願いしますね。」

 赤城ーーーその名を聞いた加賀は、自分の存在、そして名前といった全てを思い出し、改めて目の前にいる赤城を見つめる。心の中は、喜びでいっぱいだ。

「赤城さん…!会いたかった…!

 よろしくお願いします…!」

 思わぬ再会に喜びあった2人。その2人を、提督は温かく見守っていた。

 

 そこの提督は、女性だった。

 もちろんホワイト鎮守府で、全ての艦娘のことを平等に気遣い、内外の信頼も高かった。

 そしてそんな彼女のもとで働く赤城は、とても練度の高い、第一艦隊のエース級の功績をたてていた。

 そこにやってきた加賀。提督が弓道の名人だったのもあり、建造されたばかりの加賀は、早速彼女や赤城による、発着艦訓練などの指導にあずかることになった。

 

「加賀さん、それではいけません!もっと真っ直ぐ!震えは禁物ですよ!」

「足はこうです!意識をもっと集中させて!」

 訓練場での提督は、いつもの優しい姿とはまるで違って、鬼教官のようだった。少しでも姿勢や狙いがずれたりすると檄が飛ぶ。まだまだ練度の低い加賀にとって、それはかなり厳しい訓練だった。

 しかし、その成果が出始め、次第にうまくできるようになると、加賀の練度もめきめき上がっていった。提督はその成長速度に驚くとともに、とても喜ばしく感じていた。もちろん訓練が終わると、提督はいつもの優しい姿に戻り、疲れ果てた加賀にお茶や軽食を差し入れてくれた。そんな2人を、赤城も一番そばで見守っていた。

 そしてそんな提督に加賀が、普通鉄の如し変わらない感情表現が豊かになっていくこと、互いに同性ゆえ恋心は抱かなくても、それと同等の強さを持つほどの信頼心を抱くようになるのに、そう時間はかからなかった。

 そんなある日ーーー

 

 

 第21鎮守府に、一本の電話が入ってきた。

 加賀が受話器を受けとると、相手の男性が、提督にかわって欲しいという。加賀は近くにいた提督に、相手の言う通り受話器を渡した。

「はい、お電話かわりました、第21鎮守府の提督です。

 …あら、久しぶり!どうしたの?

 …うん、うん。ちょうどいいわ、こっちもこういう形で一回やってみたかったの!ありがとう!

 …オッケー、引き受けたわ!

 …日時と場所は?…ふんふん、わかりました!

 はーい、楽しみにしてまーす!じゃーね!」

 表情からして、やけに楽しそうに相手と会話した提督。受話器を置いた彼女に、気になった加賀は話しかけた。

「…今の、どなたですか?」

「あ、幼なじみが私と同じように提督やっててね。演習をいま申し込まれたの。」

「そうでしたか。」

「相手の方は、対空演習や航空戦艦の強化などを重点的に今やっているらしくてね。こっちも空母勢の力試しのいい機会だし、だから二つ返事でオーケーしちゃったの。

 日にちは3日後で、場所は相手が既に深海棲艦から奪還した海域の、泊地の島なんだって。」

「なるほど…」

「そうだ!加賀さんは出撃はたまにするようになったけど、演習はまだやったことないよね。せっかくだし、参加してみる?」

「…!もちろんお願いします。

 さすがに気分が高揚します。」

 こうして、加賀の初演習が決まったのであった。

 

 ーーー3日後 某泊地にて

「マー君!久しぶりだね!元気そうでよかった!」

「里ちゃん!そっちも元気そうだね!」

 再開を喜び会う2人を見つめる加賀。一緒に演習に参加する予定の赤城が、加賀に紹介する。

「あの人が、うちの提督の幼なじみで、第25鎮守府提督の、雅彦さん。とっても優しいのよ。」

 加賀は頷きつつ、改めて彼を見た。

 少しポッチャリ気味の体型に、坊主頭。ルックス的にはあまり人気はなさそうと思ってしまったが、彼が優しいことは直感ですぐにわかった。自分の艦隊の艦娘も、相手に当たるこちらの艦娘も平等に気遣い、話を楽しんでいる。そして、常に見せている素敵な笑顔。

「遠距離恋愛じゃないかって言うのは、うちもあっちも有名な噂なのよ…」

 赤城はいたずらっぽく微笑んで加賀に耳打ちしながら、話の輪に加賀を連れていった。加賀に気づいた相手の提督が挨拶してくる。

「はじめまして、第25鎮守府の提督です。

 今日はわざわざありがとう、よろしくね。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 笑顔で答える加賀。相手提督も笑顔で返す。

「さて、僕達はボートで海上から様子を見よう。

 そっちの準備が整い次第、演習を始めようか。」

「はい!」

 こちらの提督も元気よく返す。そして…

「マー君お待たせ!準備万端だよ!」

「よし、じゃあお互いベストを尽くそう!

 位置について……はじめ!」

 相手提督の号令で、演習が始まった。

 

「皆さん、準備はいい?行きますよ!」

 赤城の声で、一斉に動く、加賀たち第21鎮守府の艦娘たち。今回の演習は、お互い4対4での特殊陣形となる。第21鎮守府のメンバーは赤城、加賀の他、軽空母の瑞鳳、龍驤。対する相手方、第25鎮守府は、航空戦艦の伊勢、扶桑、さらに駆逐艦の睦月に、重巡洋艦の摩耶といった布陣である。

「敵艦隊見ゆ!第一次攻撃隊、発艦始め!」

「ここは譲れません…!」

「数は少なくても、精鋭だから…!」

「艦載機のみんなー、お仕事お仕事〜!」

 今回の演習の艦隊旗艦を務める赤城が、全員に発艦要請を出す。空に飛び立った矢や紙人形が、次々と艦載機に姿を変えて相手艦隊に向かっていく。

「こっちもいくよ。扶桑さん、私と艦載機を飛ばして、制空権喪失を少しでも妨害して!睦月ちゃん、摩耶さんは対空射撃を頼むわ!」

「了解です、伊勢さん。艦載機発艦始め…!」

「睦月、オメーはあっちから来るやつを落とせ!俺はこっちを引き受ける!」

「わかりました、摩耶さん!」

 相手艦隊の旗艦伊勢も、的確な指示を仲間に出す。空母4隻に対して、艦載機数で劣る航空戦艦2隻。しかし、残りのメンバーの連携プレーでなんとかダメージを減らす。

 それをボートで見守っている、提督2人衆。

「すごい!マー君のとこの対空戦能力、すごいよ!」

「いや、まだまだかな…でも、里ちゃんのとこの空母さんたちも、皆優秀だね、噂に聞いたとおりだ。」

「う、噂?」

「ああ。第21鎮守府は、航空戦力が高いことで有名なとこだし。僕のところは航空戦艦メインだし、少しでも参考にしたくて。今回の演習の目的の一つでもあるのさ。」

「そ、そんな…。照れるよー。」

「はははは。それにしても、みんな動きがいいなぁ…」

 演習とはいえ、一進一退の攻防が続く。見守る提督たちも、握る拳に汗がわく。しかし…

 そんな戦いに、招かれざる刺客が忍び寄っていた。

「みんな、そこだよ、がんばれー!」

「負けるな!常に上空への警戒を怠るなよ!…!?」

 ふいになにかに気づいた、第25鎮守府の男性提督。

「マー君…?」

「…まずい!!みんな退避しろ!早く!

 里ちゃんも伏せて!!」

「え!?なに、なに!?…はっ!」

 第21鎮守府の女性提督も気づいたようだ。2人の言葉を聞いた艦娘たちが思わず攻撃の手を止める。

「深海棲艦の機動部隊…!?まずい、奇襲だっ!!」

 言うが早いが、その時既に深海棲艦の艦載機が演習真っ只中の海域に侵入していた。

「全艦隊に次ぐ!演習を中止し、至急退避せよ!繰り返す、演習を中止し、退避せよ!」

 男性提督が急いで退避命令を出す。しかし、それは余りにも遅すぎた。

「だめだよマー君、もうここは相手の射程圏内に入ってる!」

「ちくしょう、応戦するしかないか…!?」

 しかし仮に応戦したとしても、今ここにいる艦娘たちが装備しているのは演習用のものだ。実弾と比べて殺傷能力が明らかに劣ることは、目に見えている。

「どうしようマー君、演習用の装備じゃ応戦しきれない!」

「とにかくまず、この船を泊地の港につけよう。確かこの泊地には、非常用の隠し備蓄倉庫があったはずだ。実弾もそこにある。とにかく陸に上がったら、僕が救難信号を送るから!」

 彼はボートを操りつつ、伊勢と睦月に、倉庫の装備を取りに行くよう呼びかける。

「伊勢、了解しました!」

「睦月も同じく了解しました!」

「待って、瑞鳳、龍驤!あなた達も2人の護衛について倉庫へ!」

「わかりました!」

「がってんや!」

 4人の艦娘が、倉庫へと向かっていった。

「皆さん、4人が戻るまで、なんとか耐え抜きましょう!」

「はい!」

 赤城に激励された、加賀、扶桑、摩耶が、必死に戦う。しかし、相変わらず不利な状況に変わりはない。

 一方の提督たちは、なんとか陸に上がり、泊地の小さな建物に入っていた。

「…よし、これで救難信号を送れた!とにかく助けが来るまでここで待とう。」

「マー君…」

「大丈夫、必ず守ってやるから…!」

 男性提督が必死に女性提督を励ます。しかしーーー

「まずい、この建物に敵機動部隊が向かってる!」

 それを言い終わる頃にはもう、艦載機は建物の目の前に迫っていた。

「やばい!里ちゃん、ここを出るよ!早く!」

「えっちょっ…きゃぁぁぁあ!!」

 艦載機の機雷が建物近くに落ち、建物にもその余波が襲いかかる。

「!?提督!」

「おい!今のはまずいぞ!」

「提督…無事ですか…!?」

「あぁ…!」

 4人は思わず一瞬固まってしまった。迎撃そっちのけで。やがて煙が晴れると、その中をゆっくり、よろよろと動く2つの人影が見えた。提督たちだ。

「よかったぜ…」

 摩耶が一安心、という風にため息をつく。しかし、彼らもまた狙われているのだ。

「まだ安心するには早すぎます。加賀さん、ここは私達に任せて、提督たちの護衛についてください!」

「赤城さん…わかりました!」

 赤城は加賀を護衛に遣わし、扶桑と摩耶の3人で必死に、敵艦載機の機銃弾の大雨に耐え抜く。

「提督、私がお守りします!」

 加賀もなんとか2人の元に辿り着く。足の艤装を解除して陸に上がり、なんとか男性提督に泊地の他の安全な場所を聞き出す。しかし、敵艦載機もその後を追ってきていた。そして、すぐ近くに機雷を投下した…

 …ドカーーーン!

「あっ…!」

 爆発の衝撃波で加賀はふっ飛ばされたが、幸いすぐ近くの茂みがクッションになり、離れた距離と傷は最小限に抑えられた。しかし、はっとする。

 ーーー提督は無事か。

 その思いが立ち上がったコンマ0.数秒後に脳内をよぎる。すかさず煙の中にその姿を探す。すぐに見つかる。

 ーーー提督たちは大怪我を負っていた。

 今の爆炎と熱波による全身のやけど。さらに機雷の破片が服を裂いたのか、白い提督服はところどころ破れて赤く染まっている。

「提督…!!」

 そんな彼らの姿が目に入った瞬間、加賀の心に一気に、たった一つの感情が、しかし津波のごとく強く大きく押し寄せた。

 自分を成長させてくれた師匠を、そしてその大切な人までも大きく傷つけた深海棲艦への、憎しみ、怒り。

 彼女の理性は、堕ちた。

 彼女の目は真っ赤に染まり、冷静な女戦士は一瞬で本能のままに暴れ狂う猛獣の如く変貌する。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 ここから、彼女の記憶は数分間に渡って喪失している。睦月と伊勢、さらに瑞鳳と龍驤が実戦用の装備を取ってきて、駆けつけた第25鎮守府の救援艦隊との連携で敵機動部隊を追い払うまでの間ーーー

 




今回もここまで読んでくれてありがとうございました!
評価や感想ぜひよろしくお願いします!
それではまた次回です!


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夜明けの陽射し

筆者は加賀さんは個人的に結構好きです。
ツンだけどケッコンセリフでのデレが効くというか。
…ちなみに筆者、艦これのゲームはソーシャルゲームもアーケードもやってません。全てアニメとゲーム実況などでの妄想です。ごめんなさい。

それではではでは本編どうぞーーー。


 ーーー弓道場

 矢をつがえ、的に向かって放つ。

 加賀はこの時も練習に明け暮れていた。

 放った矢は、的のど真ん中に命中する。

 次の矢をつがえる。

 引いた手を離す瞬間、ふとある思いが頭をよぎる。

 ーーー赤城さんは、今頃話し終わった頃かしら。

 放たれた矢は、かろうじて的の端近くに命中する。

 ーーー…雑念が混じってしまいました。これではいけません。

 深呼吸をして、再び矢をつがえる。と、

「失礼するぞ…すまん、練習中だったか」

 提督が入ってきた。

「加賀、随分と練習に励んでいたようだな。少し休まないか?」

 

 ーーー俺は加賀と休みつつ、少し話をすることにした。…加賀は筆談だが。

「聞いたよ、赤城から。過去の、事件のこと。同情して気を悪くするなら申しわけないけど、大変だったんだな…」

 コクリ、と一つ頷く加賀。

 

 ーーーあの時加賀の理性が戻って、真っ先に彼女の視界に入ったのは。

 うずくまる提督2人。

 足の一部が抉れ、轟沈寸前の傷を負い、血だらけの状態で意識を失って、伊勢と扶桑に支えられている赤城。

 加賀はあの咆哮の後、闇雲に艦載機を次々と放った。しかし、演習用のものだったのと、さらに理性を失っていたことも加わり、結果的に敵艦載機をほとんど落とせず、味方の艦載機も陣形を乱し…

 この事を加賀はすぐに悟り、同時にそれが招いたであろう今の結果を見直す。

 彼女の心は、崩れ去った。

 

 提督は2人とも幸い命に別状はなく、一ヶ月と数週間の入院でなんとか復帰したが、全身に痛々しい火傷のあとが残ることになってしまった。

 赤城は足の切断は免れたものの、戦列復帰は不能と判断され、車椅子生活となった。2人とも、加賀は悪くない、気にすることはないと言ってくれたが。

 そのショック、そして罪悪感。そして2人とも目に見える形で事件の傷あとが残ってしまったこと。それらが重なり、加賀は、咳や嗚咽など、反射的かつ自然な身体現象を除き、一切ものを言えなくなった。さらに、自分が飛ばしたゼロ戦と敵艦載機の入り交じる、地獄のようなあの時の空のことがトラウマとなり、ゼロ戦型艦載機の発着艦、つまり実質的な艦載機発着艦も不可能となってしまったーーー

 

[すみません…提督にまでご迷惑をかけてしまって]

 加賀がメモを差し出してくる。

「いや、謝ることはないよ。」

 俺は加賀の頭を優しく撫でた。顔を赤らめ、そっと加賀が俺に寄りかかってくる。

「大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫…」

 彼女の背中をさする。気づいたら泣いている加賀。腕に顔をうずめ、嗚咽が漏れている。

「大丈夫大丈夫…加賀、もしお前の前に、1人じゃ越えられない壁があるなら…

 …俺たちみんなで一緒に、乗り越えていこうな。

 よしよし…大丈夫大丈夫…1人じゃないよ、大丈夫大丈夫…」

 

 その夜、寝る前に響と少し話した。

 今日赤城が話してくれた、加賀の過去の事件。

 心に深く傷を負った彼女。

「加賀さんが早く、元気になってくれるといいね」

「ああ。」

 俺の中で決めた、加賀に対する目標は2つ。

 再び話すことと、艦載機の発着艦ができるようになることである。

 

 まず彼女を話せるようにするため、響の了解を得て、加賀を第二秘書艦にした。そして、加賀と積極的にコミュニケーションをとるようにした。加賀についていき、一日を過ごすこともあった。午前中は自分の弓道場での練習、そして午後は、瑞鶴と翔鶴の指導もしていた。ちなみに、ここはお互い事情をわかっているのか、ほかの鎮守府で一種の名物と化している加賀と瑞鶴の争いごとは全くない。瑞鶴も加賀の指導を素直に聞き入れ、そして加賀も瑞鶴と笑顔でおやつを食べたりすることもある。時折赤城、戦列に復帰した翔鶴も共に時を過ごすことがあった。

 やがて加賀は俺に対し、笑顔を見せてくれることも多くなったが、まだ喋るまでには至っていなかった。

 

 そしてもう一つ、艦載機の発着艦について。

 基本的に、空母の艦娘が飛ばす艦載機は、ゼロ戦のような形である。もしかしたら、精神的部分の他、その形とかも少しながら記憶にトラウマ的要素で絡んでいるかもしれない。そう考えた。

 俺は目標を決めたその次の日に、再び金庫からアタッシュケースを取り出した。

 ーーーじーさん、またこれ、使わせて頂きます。

 そしてそれを工廠の、明石と夕張のところへ持って行った。

「すまん、明石、夕張、いるか?」

「あ、提督、どうしたんですか?」

 明石が応対してくれた。後から夕張がやってくる。

「実は、なんだが…」

 俺は2人に、加賀のこと、そして自分の考えを話した。

「なるほど、そうですか。…それで、私達はどうすればいいでしょうか。」

「…加賀の負担を少しでも軽くしたい。2人には、新型艦載機の開発を頼みたいんだ。」

「新型艦載機、ですか。」

「え、でもそれってまたゼロ戦型になってしまいますよ?さっき提督さんが言っていたことと、違うじゃないですか…」

 夕張が反論する。しかし、落ち着いて俺は用件の中核を伝える。

「いや、ゼロ戦型じゃないものだ。」

「え…!?でもそんなもの、設計図とかないと…」

 心配する明石。夕張も同じ表情だ。

 そこで俺はアタッシュケースを開け、中からある大量の設計図を2人に見せる。

「これって……!?え…!?」

 明石が思わず感嘆の小声を漏らす。夕張の目は、未知の設計図にキラキラしまくっている。

「提督さん、こんなものどこで!?」

 興奮気味の夕張。

「こないだのシルバーシャークGと同じく、俺のじーさんの遺品だよ。」

「…あぁ、そういえば、前も話してましたね…。

 …提督のお祖父さんって、一体どういう方なのですか?」

 明石が聞いてきた。まあどのみち話すつもりだったと、ここで2人に話すことにした。

「実はな…」

 

 話し終わると、2人はなるほど、と納得してくれたようだ。

「正直いって、多種多様な形だ。だが出来るだけ多く、速く全種揃えたい。…無理な要求ですまないが…ん?明石?夕張?」

「ふふふ…私達をなめてもらっては困りますよ、提督…」

「こんなのちょちょいのちょいちょーい、朝飯前のへのかっぱです…ぐへへ…」

 …逆に2人ともめっちゃ燃えてるんですけど。まあ結果オーライか。

「資材などはこちらに任せてくれ。大本営に連絡して、手配してもらう。」

「ええ!?大本営って、大丈夫なんですか!?」

「大丈夫だ。俺のじーさんの後輩が、実は今の大本営極東部の長官やってるんだよ。

 …あ、ここだけの話な。」

 

 大本営に連絡すると、やはり早速、各地の鎮守府に、廃棄予定の装備を回収、また大本営自体も備蓄資材を少し分けてくれるなど、色々動いてくれた。

 ここ数日間、俺は日中は加賀とコミュニケーションを図り、深夜は3台の愛車のうち、トラックタイプのジオポルトスで大本営と鎮守府の間のシークレットトンネルを、 コンテナに資材を載せて一晩数往復することを繰り返した。当然疲れはたまるが、加賀のことを考えれば、こんなことでへこたれてはダメだ、と自分を奮い立たせた。響も、夜食においしいおにぎりや、温かいボルシチを作ってくれたりと、支えてくれた。

 

 そして、その日は艦載機の完成が近いと、工廠の2人から連絡があったので、俺は日中工廠に入り浸っていた。一方の加賀は、赤城、五航戦姉妹と一緒に、弓道場にて練習に励んでいた。

 

 それと時を同じくして、翔鶴と瑞鶴が加賀に配慮し、そして彼女の了解を得て、彼女の目に入らないところで早朝に飛ばした索敵機が、洋上に恐怖を発見した。

 深海棲艦。そしてその編隊はというと、軽空母ヌ級が2隻、そして航空戦艦のレ級が1隻。

 さらに奴らとともに敵棲地から飛び立ったであろう、おびただしい数の敵艦載機…

 そしてやつらの向かう先には、第35鎮守府があった。

 索敵機に乗った妖精さんは、この非常事態をすぐに事務室の大淀に連絡する。

「…はい、はい。…なんですって!?

 わかりました!すぐに提督に連絡します!」

 

 俺のいる工廠の方では、新型艦載機は、明石と夕張の神がかり的な作業により、ほぼ完成し、夕張が提督からの情報を元に、飛行する上でのそれぞれの機体の特徴を妖精さんたちに教えていた。提督と明石は妖精さんたちへ、新しい操縦服を作っていた。そこへ、大淀が息を大淀が息を切らして駆け込んできた。

「提督!!大変です!!

 翔鶴と瑞鶴の飛ばした索敵機から入電、敵航空戦艦レ級1隻と敵軽空母ヌ級2隻が、多数の敵機動部隊を伴ってこの鎮守府に接近しているとのこと!!」

「なんだって!?」

 明石と夕張も表情が一変する。

「この鎮守府に、大規模空襲をかける気か…!」

「提督、どうしましょう…!?」

 俺は数秒間、脳回路をフル回転させる。

 ーーー機動部隊には機動部隊で相うつしかない。

 …大丈夫、あいつらを信じよう…!!

 俺は下した判断を大淀に伝える。

「大淀!弓道場の加賀、瑞鶴、翔鶴に招集をかけろ!」

「でも、まだ加賀さんは…」

「…大丈夫だ、あいつはきっと大丈夫だ。俺を、加賀を信じてほしい…!」

「…わかりました。すぐに招集をかけます!!」

 事務室へと駆ける大淀。

「夕張、新型艦載機の矢を取ってきてくれ、速く!」

「はい!」

 艦娘寮へと急ぐ夕張。

「明石、シルバーシャークGを起動、迎撃を頼む!」

「了解!」

 明石はシルバーシャークGの準備に取り掛かる。

 俺も大淀に続き、事務室と隣接する作戦司令室へとダッシュした。

 

 ーーー数分後

 俺は夕張に艦載機をもらった。

「ありがとう夕張、第六駆逐隊の4人に連絡して、残りの艦娘の避難誘導を頼む!」

「はい!」

「明石、シルバーシャークGは?」

「起動完了!いつでも大丈夫です!」

「了解した、俺は港に行ってくる!」

 

 ーーー港にて

 提督が向かっている時には、招集した加賀、瑞鶴、翔鶴は既に集まっていた。

「敵の大規模機動部隊…!?」

「どうしよう、翔鶴姉!」

 焦る五航戦姉妹。

 一方加賀は少し離れたところで、1人考えていた。

 ーーー提督は迎撃部隊に私を加えてくれた。

 …でも私は艦載機の発着艦ができないし、戦闘で重要な意思疎通をする一番大事なツールの言葉も話せない…。なのになんで?なんで私を?

 今の私は、何も出来ない足でまといなのに…?ーーー

 ふと加賀の脳裏に、提督の言葉が蘇る。

『もしお前の前に、1人じゃ越えられない壁があるなら。

 俺たちみんなで、乗り越えていこうな…』

 …提督は私の心を知ってから、いつもそばに居て、色々励ましてくれた…

 赤城さん、五航戦、大淀さん…色々な人が味方についてくれる…ーーー

 

 台車に矢を載せて、俺は港に着いた。

「みんな、話は聞いているな!?」

「もちろんです。しかし、どうするのですか?

 私達が艦載機を飛ばしても、そこにいる加賀さんにはそれを見るだけでも大きな負担となります…」

「加賀さん可哀想だよ…!?」

 ーーーあぁ、五航戦の2人が、私のことを提督に言っています。…でも…そろそろ私も、支えてくれる皆の思いに答えなければ…このままで、いいはずないです!もう、あの時のような惨事を、起こさせるわけにはいきません…!!ーーー

 加賀は心に決めた。

「平気よ、五航戦」

「え…!?」

「加賀さんが…しゃ、喋った…!!

 …加賀さん、加賀さぁぁぁぁん!!」

 俺もこれはすごく驚いた。

 思いきり加賀に飛びつこうとする瑞鶴。しかし、加賀はひょいとかわす。

「おっと!?ちょっと、なんでよけるのよ!?」

「瑞鶴、今はそんな場合ではありません…!!」

「…!」

「私は守り抜きます。私を支えてくれた、皆さんを!そして、この海を!!」

「加賀さん…!」

 俺は奇跡を見た気がした。

「加賀…!」

「提督、恐らく敵機動部隊はすぐ近くまで来ています。…私達に矢をください」

「わかった。…実はな、明石と夕張に頼んで、お前達に新型艦載機を作ったんだ。」

「新型…艦載機?」

「ああ。」

 俺は台車の上の箱を、加賀に見せた。

「この矢、ですか…」

「…よかったら、使ってほしい」

「もちろん、使わせて頂きます」

 加賀は矢の中から一本を取り出す。

 見ると、それは矢羽根が銀色に輝き、そして日の丸の代わりに、丸いエンブレムのような形にMATと書かれている。少し変わった矢だなと思いつつ、構える。

 やはり、構えた瞬間、彼女の中にあの時の記憶が流れ込んでくる。辛く、忌まわしき、悪魔のような記憶。しかし、ここで屈するわけにはいかない。

 加賀は強い心でそれを打ち払い、叫ぶ。

「迎撃隊…発艦はじめ!!」

 立て続けに二本の矢を放つ加賀。そしてそれは、空中で輝き、彼女が見たこともない、銀色の戦闘機へと形を変えたーーー




というわけでした。
次はウルトラメカが初登場!
…ごめんなさい筆者の趣味です。コラボさせてみたかっただけです。

よろしければ評価やお気に入りなどお待ちしております!
今回もここまで読んでくれてありがとうございました!


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限界を超えた先に

加賀の章クライマックスです。
そして戦闘回です。
あまり得意ではありませんが…気合い、入れて、頑張りました。

そして筆者の折りたたみ傘壊れるという件…


「あの戦闘機は…!?」

 加賀たちは見た事のない機体に、一瞬目を奪われる。

 放たれた二本の矢は、それぞれ2機ずつの機影に変わった。シャープなものと、もう一つは丸いような形のもの。どちらも零戦タイプとはまるで違うフォルム。銀色の機体には赤いライン、尾翼には矢羽根にあったのと同じ、エンブレムにMATの字。

「ほお…マットアロー1号、2号か。」

「マットアロー…?聞いたことがありません」

「ふふ、だろうな…。おっと、団体様のお着きだ」

 双眼鏡で覗いた視界の遠くに、米粒くらいの大きさの敵機動部隊が見える。恐らく先発隊だろう。

「ここでの迎撃は明石がやってくれる。加賀、瑞鶴、翔鶴は3人で出撃、ヌ級とレ級を叩け!」

「…わかりました!…しかし提督、私の飛ばしたあの戦闘機は…?」

「いいからいいから、話は後でする!今はそんな場合じゃないんだろ?」

「…ふふ、そうでしたね。行くわよ、翔鶴、瑞鶴」

「了解です!」

「いきます!」

 飛び立ったマットアローを追うように、艤装を展開した3人が海に出る。俺も作戦司令室へと向かった。

 

「提督、敵先発機動部隊を間近で確認、数はおおよそ20機と見られます」

 加賀からの連絡。どうやら相手も、鎮守府襲撃隊と対迎撃部隊用の編隊は異なっているようだ。

「わかった、ありがとう。

 大淀、工廠へ繋いでくれ。明石に連絡する。」

「もう繋いでますよ」

「さすがといったとこだな。作戦司令室より工廠へ」

「こちら工廠、明石です。」

「加賀たちから敵機動部隊の情報。数は約20だ。」

「了解です!…フフフ、余裕すぎますね」

「…まぁ油断せず、頑張ってくれ」

「はい!…へへへ…」

 …なんか明石キャラ崩壊してないか?

「提督、明石さんなら20機分の先発隊、というかその後の本隊のお掃除なんて一分で終わります。」

「大淀…そりゃどういう?」

「前の鎮守府で、明石さんは休日の度に近くのゲームセンター行っては、シューティングゲームで記録更新しまくって、景品を荒稼ぎしてたんですよ。…ここだけの話ですが」

「なるほど…」

 これは実戦だが、確かにシルバーシャークGは、シューティングゲームのようにカーソルを敵機に合わせてトリガーを押すというシステムだからな…

「提督、こちら明石、敵機動部隊を射程距離に補足、攻撃開始許可を求めます」

「よし、攻撃開始!」

「了解!」

 明石はロックオンカーソルを敵に合わせ、トリガーを引く。するとそれにシンクロし、鎮守府のシルバーシャークGから赤いビーム光線が発射される。被弾した敵艦載機は、炎上墜落どころか当たったその瞬間に爆散した。明石は一撃で多数の敵機を落とせる所を素早く、正確に射抜いていく。

「…フフフ、私の弾幕から、逃げられると思わないでくださいね…!」

「明石さん、すごい…」

 驚きのあまり呆然とした表情の夕張が、その様子を見つめていた。

 

「加賀さん、あそこ!」

 洋上で鎮守府襲撃隊と思われる敵機動部隊を見送った少し後、瑞鶴が敵艦隊を発見した。

「提督、敵艦隊、見ゆ!翔鶴が言っていたように、ヌ級2隻、レ級1隻です!」

「よし、わかった。まずは制空権だ、飛ばしたマットアローを使え!そいつは空中戦にはかなり強いし、妖精さんたちも操縦はできるようになってる!」

「了解!マットアロー1号、2号、攻撃開始!」

 1種2機ずつ、合計4機のマットアローが敵機動部隊に向かっていく。相手は軽く20機を超える数、のはずだったのだがーーー

 数の差などお構い無しに、一瞬で敵機動部隊は崩壊した。

「マットアローとかいうあの戦闘機、すごい…」

 瑞鶴は思わず声を漏らし、翔鶴もあっけに取られている。マットアローは次々とミサイルを主翼下部のポッドから連射し、敵を撃ち落としていった。敵機動部隊も機銃掃射で応戦するが、卓越したマットアローの運動性能の中では、まるで明後日の方向に撃っているかのようだった。

「すごいすごい!あの戦闘機すごい!

 よし、私も!」

「そうね!」

 弓を構える五航戦姉妹。加賀が司令を出す。

「今空中にいる敵機は、私に任せてください。二人はまずはヌ級を討って、制空権確保を確実にお願いします」

「OKです加賀さん!発艦します!」

 瑞鶴が矢を1本放つと、その矢が2機の戦闘機となる。

「提督さん、この戦闘機は?」

 俺は出撃する艦娘たちにつけている、小型カメラで確認する。

「あぁ、これはジェットビートル、科学特捜隊の戦闘機だ。」

「へぇー。…科学特捜隊?」

「今は気にすんな瑞鶴。とにかくヌ級を叩け!」

「はーい!」

 ヌ級の飛ばす艦載機も、加賀のマットアローで次々と撃ち落とされる。今だと言わんばかりに、瑞鶴は2機のジェットビートルに急降下爆撃を命じた。

「発射!」

 ジェットビートルの後部主翼から放たれたミサイルが、正確にヌ級の急所を貫く。炎上し、沈むヌ級。

「さすがね瑞鶴。私も!」

 翔鶴が二本の矢を続けざまに放つ。すると1本は円盤状の翼を持った真紅の、もう1本は細長い銀色の戦闘機へと変わる。どちらも機体に太字で大きく、MACの三文字が書かれている。

「MACのマッキー2号と3号だな、安定飛行性能、ミサイル発射速度には定評のある機体だ。」

「わかりました提督、低空滑走をして正面から一気に狙います!」

 翔鶴が操るマッキー2号、3号は海面ギリギリを飛行し始めた。機動性を活かして機銃弾をかわし、小型速射ミサイルを目にも止まらぬ速さで次々と放ち、一瞬でヌ級を撃沈させた。

「加賀さん!こちらヌ級2隻、撃沈確認!」

「こちらも制空権、とりました!」

 3人が状況を確認する。そして目の前には、最後の強敵、航空戦艦レ級が残りの敵機動部隊とともに、恨めしそうにこちらを睨んでいた。

「オノレェ……!」

 地獄の底から響くかのごとく不気味な声を発しつつ、レ級は艦載機を差し向け、自身も砲撃をしてきた。

「全員回避!」

 加賀の一声で3人とも回避体制に入るが、さすが戦艦といったところか、砲弾の雨は執拗に襲ってくる。

 3人も艦載機で反撃を仕掛けるが、レ級はかなり強い階級のもののようで、あまり効果がないようにも見えてしまう。

「加賀さん、あいつ、格が違うよ!」

「どうします!?」

「瑞鶴、翔鶴、落ち着いて。とにかくまず提督に状況を報告します。」

 加賀は提督と連絡をとる。

 

 洋上の加賀から、俺に通信が入った。恐らくレ級のことだろう。

「加賀より提督へ」

「加賀か、状況はこっちも確認してる。」

 そして、一呼吸置いて、

「でも大丈夫だ、必ず勝てる」

「提督、何か勝算が?」

「ああ。加賀たち3人の胡禄に、『SUPER-GUTS』と書かれた矢が、赤、青、黄のバージョンで1本ずつ入っているはずだ。そいつを使え。」

「わかりました」

 加賀は静かに了解し、瑞鶴、翔鶴に指示する。

「これね、加賀さん」

「では、発艦します!」

 瑞鶴は赤い矢、加賀は青い矢、翔鶴は黄色い矢を飛ばす。空中でその矢は、それぞれの色と同じ色のラインが入った戦闘機へと変化した。

「なんかすごい、すごい近代的な形してる!」

 3人が飛ばしたのは、赤いラインのガッツイーグルα、青いラインのガッツイーグルβ、黄色いラインのガッツイーグルγだった。

「まずはその状態で、邪魔な敵機を全て落とせ!」

 提督の指示を受け、3人が操る戦闘機は敵陣へと切り込んでいく。

「攻撃、開始!」

 すると3機の戦闘機から、次々と機体のラインと同色のレーザー砲が放たれ、マットアローなどと協力して敵機動部隊を殲滅させていく。レ級の砲撃も、その機動力で次々とかわされる。

 俺は頃合いを見計らい、3人に連絡をとる。

「よし、敵機動部隊はマットアローやビートル、マッキーで何とかなる。あとは今の3機で、レ級にトドメを刺せ!」

「しかし提督、レ級は攻撃力だけでなく防御力も優れています、いったいどのように?」

「加賀、瑞鶴、翔鶴、よく聞いてくれ。

 今飛ばした3機は、合体して1つの戦闘機『ガッツイーグル』となることができるようになってる。」

「合体…!?」

「ああ。そして合体すると、超強力ビーム砲の『トルネードサンダー』を撃てる。しかし、合体後は3人の連携が最高レベルで合わないと、かなり厳しい。」

「心配いりません、提督」

 俺の心配を、加賀の静かな、しかし力強い声が断ち切った。

「私には、たくさんの仲間がいます。瑞鶴、翔鶴、赤城さん、提督…たくさんの、支えてくれたみなさんがいます。

 私を支えてくれた仲間達と私が連携できないとでも、お思いですか?」

「ふふ、すまん加賀、愚問だったな!

 ならばその仲間達と、前に進め!」

「了解です…!」

 加賀は提督と通信を切り、瑞鶴、翔鶴にガッツイーグルの仕組みを伝える。

「2人とも、行きますよ!」

「はい!」

「はい!」

 残存敵機動部隊をマットアローなどに任せ、加賀たちはレ級へと向かう。

「瑞鶴、まずはあなたの機体を私のと合体させます」

「はい、加賀さん!」

 瑞鶴が操るガッツイーグルαが、加賀のガッツイーグルβの前部に、正確に合体した。この隙を狙わんとするレ級の砲撃も、マットアローなどがミサイルで相殺して届かせない。

「翔鶴、あなたのも」

「了解です…!」

 翔鶴のガッツイーグルγが、先程合体した機体の下部から回り込むように変形して合体する。狂いもない。

「…ガッツイーグル、合体完了しました!」

「よし、そのまま上空へガッツイーグルを一気に急上昇させるんだ!」

「はい!」

 レ級を抉るようにぎりぎりのところを飛行した直後、ガッツイーグルは垂直に急上昇していく。残存する敵機が後を追おうとするも、マットアローなどのミサイルで全て撃ち落とされ、敵機動部隊はこれで完全に崩壊した。レ級の砲撃も、ガッツイーグルの余りの上昇速度にはただただ空を切るばかりだ。

「よし今だ!タイミングは3人に任せる、機体向きを一気に変えてレ級を叩け!」

「了解!」

 3人は心と声を1つにして叫んだ。ガッツイーグルは空中で急旋回し、機首の向きを上から下へと180度変える。そして、その先端がはるか真下のレ級をロックオンした。当のレ級は、いなくなった機体を探して闇雲に砲弾を撃ったりと、かなり混乱している。

 ーーー今なら、叩ける!3人の心が揃った。

「提督ーーーいきます!」

「よし!トルネードサンダー、撃てえええ!」

「トルネードサンダー、発射ぁぁぁ!」

 魂の叫び、そしてそれに共鳴して、ガッツイーグルの機体先端から、一筋の力強い光、トルネードサンダーが放たれたーーー

 

 レ級はかすかなジェット音に気づき、上を見上げる。その目が最後に捉えたのは、3人の絆の結晶が現実に現れたかのごとく眩く輝く、トルネードサンダーの光だった。

 

 ズドカーーーーーン!

 トルネードサンダーがレ級の体を一気に貫く。盛大な爆発と火の粉をまいて、レ級は爆散し、沈んでいったのであったーーー。

 

 ーーー十数分後、鎮守府港にて

 加賀、瑞鶴、翔鶴が、マットアロー、ジェットビートル、マッキー、そしてガッツイーグルの航空編隊を引き連れて帰還した。加賀が状況を報告する。

「提督、艦隊が帰投しました。こちらの損害はなし、敵軽空母ヌ級、及び敵航空戦艦レ級は、全て撃沈させました。鎮守府の方は、大丈夫でしたか?」

「ああ。敵の基地襲撃隊も、明石がシルバーシャークGで全部撃破してくれた。」

 ほっとする加賀。彼女の顔は、困難を乗り越えきった、すがすがしい勇者の顔そのものだった。

「みんなよく頑張った。特に加賀、お前は過去の自分に見事に打ち勝った。本当に尊敬の意を送るよ」

「ありがとうございます、提督。…やはり気分が高揚します。」

「よし、それじゃ祝勝として、なんか食うか!」

「おおー!」

 

 その後、俺と加賀、瑞鶴と翔鶴、さらに合流した赤城で食堂で腹に入るだけの食事をした。やはり赤城、加賀はよく食べる。しかしその顔もまた幸せそうだ。そんな中、瑞鶴がふと聞いてきた。

「ねえ提督さん、私達が今回使ったあの戦闘機って、一体どういうものなの?」

「あーーー、そうだなー…よし、食事終わったら俺の部屋に来てくれ、そこで話そう。」

 俺は彼女たちが食事を終えるのを待ち、そして自室へと案内した。彼女達は用意した座布団の上に座り、少しばかりはなしを待っているように思える。

「それじゃ、話そうかな。

 これは俺の祖父のことなんだけどなーーー」

 




というわけでウルトラメカ大活躍でした!
明石さんも地味にいい仕事しておりました!

そろそろ筆者のアイデアが尽きかけてます。
これから投稿ペースゆっくりになると思います、ご了承ください…

ここまで読んでくれてありがとうございました!
次は閑話休題で提督さんのお祖父さんの話です!
↑ほぼほぼウルトラマン関係…

感想や評価お待ちしております!
それではまた次回!


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ちょっとサブストーリー 提督祖父の章
継がれる遺志


はい今回は
提督のお祖父さんの話です。
まあ小説の展開自体はそんなに進まないので…
一応時空設定という感じですかね…


 じーっと見つめてくる加賀、赤城、瑞鶴、翔鶴。瑞鶴に至ってはつばまで飲み込んでいる。…そんなたいそうな話でもないが…とりあえず続きを話す。

「…俺のじーさんは、生前、地球防衛軍の様々な特捜精鋭チームで、メカの整備をしていたんだ。」

「提督、地球防衛軍とは、一体なんでしょう?」

 加賀が聞いてきた。彼女たちにとってはこれは初耳の単語ゆえ、無理もないだろう。

「地球防衛軍ってのは…まあ今で言う、大本営みたいなもんだよ。」

「では提督、提督のお祖父さんがご健在だった頃も、深海棲艦が現れていたのですか?」

 翔鶴の質問。興味はあるようだ。…少し嬉しい。

「いや、深海棲艦が現れていた訳ではない。ただ、深海棲艦と同じように、人類を破滅の危機に追いやらんとするモノが現れたんだ。」

「なにそれ?」

「ーーー怪獣だ」

「「「「怪獣?」」」」

「あー…それについては、この映像を見てもらった方が早いかな。」

 俺は用意していたDVDを機械に通す。やがてテレビモニターに映し出される映像。

 まず最初に映ったのは、古代怪獣ゴメス、そして古代怪鳥リトラの戦っているシーンだった。

「…!?こ、これが怪獣!?」

「ああ。君たち艦娘が、太平洋戦争などで轟沈、もしくは解体され、艦としての生を終えて、そして今こうして艦娘として蘇るまでの間ーーー1960年代から、奴らは突如現れたんだ。地底での長き眠りから覚めるもの、宇宙から飛んでくるもの。侵略目的の異星人が大勢攻め込んできたりしたのもこの時期なんだ。」

「そんなことが…」

「人類も最初は戦後結成された自衛隊をもってして応戦したが、怪獣達は続々と現れ続けた。そこで作られたのがーーー」

 俺は映像を進める。竜ヶ森湖から現れる怪獣ベムラーが映し出された。すると、一機の機影がベムラー目がけて飛んでいく。後ろの主翼から放たれるミサイル。その映像を見た瑞鶴がついに気づく。

「こ、この戦闘機って…私がさっき飛ばした、ジェットビートル!?」

「ご名答。怪獣たちに対応するため、人類は特捜精鋭チーム、科学特捜隊を創設。そして、宇宙から人類の救世主がやってきたんだ。」

「救世主?」

「ああ、その名はーーーウルトラマン。」

「ウルトラマン…!?」

 食い入るように四人が見つめるモニターに、眩い光とともに、一体の赤と銀の巨人が現れた。

「これが、ウルトラマン…」

 勇猛果敢にベムラーに立ち向かうウルトラマン。終始戦いの主導権を握り、そして最後は青い球体になって逃げようとしたベムラーを、必殺技のスペシウム光線で倒した。

「すごいです…なんて強いのでしょう…」

 感嘆の声が赤城の口から漏れる。

「他にもたくさんのウルトラの戦士達が、この地球を訪れ、地球のために戦ってくれた。人類も、地球は我々自らの手で守るべき、という信念のもとに地球防衛軍を結成、その中の精鋭チームの戦闘機が、俺のじーさんがメカニックとしてメンテナンスしていたものであり…さっきの戦いで加賀たちが飛ばしたものでもあるんだ。それに、明石の使っていたビーム砲台のシルバーシャークGも、防衛チームの装備だったんだよ。」

「そうでしたか…」

「ああ。深海棲艦が現れ、自衛隊や他国の軍の連合艦隊が全滅した時、この戦闘機たちを復活させようという動きまであったほどだ。まあその前に、君たち艦娘が来てくれたけどな…。じーさんはメカニックで手に入れた設計図を、遺品として俺に残してくれた。俺の3台の愛車もな。それにじーさんのメカニックの後輩は今は大本営長官だし、その人に引っこ抜かれて海軍入って、そしてここにこられた。縁には感謝してもしきれないくらいだ。…しっかし、まさかここでこの戦闘機たちが日の目を見て、活躍するとはな…」

「ふふふ、提督、なんか嬉しそうですね…」

「そりゃ、まあな。じーさんの亡くなる時は、もう怪獣なんて現れなくなっていて、人間はみんな平和ボケしていた。でもじーさんは決して油断してはならないって、死ぬその時まで考えていた。それで、死ぬ間際に俺に、『今の平和もきっと、新たな侵略者によって壊される日が来るかもわからん。もしその時が来たら、遺品の中のアタッシュケースを使ってくれ』って言ったんだ。…皮肉かもしれんが、今考えると、じーさんの遺志を継げてるって思えるのさ。」

「…なんか素敵だなぁ…」

 …どうやら4人とも納得してくれたようだ。

「さて、俺の話はここまでだ。

 それと、4人には一応防衛チームの戦闘機のドキュメント映像と設計図のコピー渡すから、これからに備えて見といてくれな。ちょうど4人分用意するから。」

 すると、赤城がおずおずとこう言った。

「あの…提督、もう1人分いいですか?」

「?構わんが、誰の分だ?」

 赤城が返す。

「…鳳翔さんの分、なんです」




というわけで次は鳳翔さんです。

ちなみにウルトラシリーズはこの物語中ではほぼ全部同じ時空で展開されている、という設定にしてます。ご了承ください…

それではではではまた次回!
今回もありがとうございました!
感想、評価、お気に入りなどどしどしお待ちしております!


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鳳翔の章
冷たい川に揉まれ


今のところ筆者のアイデアはここまでです…

次の投稿がいつになるやら…

出来るだけ早く出せるよう頑張ります!
それでは鳳翔さんの章へ突入ーーー


「鳳翔さんか…」

 着任の時に見た名簿に、確かに鳳翔の名はあった。しかし、俺のイメージが正しいなら、彼女は出撃や空母艦娘の指導、食堂で調理担当のどれかのイメージがあるのだが…

 いや、ここは第35鎮守府。きっと彼女も、何か事情があるのだろう。

「わかった。DVDと設計図は鳳翔さんの分も作っておく。」

「はい、ありがとうございます。」

 車椅子ながらも礼儀正しく頭を下げる赤城。他のメンバーも頭を下げ、4人は部屋を出て行った。

 ちなみに、赤城にはもう1枚、パラリンピックの車椅子アーチェリー競技を編集したDVDを渡す予定だ。先程3人がレ級を倒して帰還している間に、赤城から「自分もみんなと一緒に戦いたい」という願いがあったからである。きっと驚くであろう。

 そこへ入れ替わりに、先程の敵襲撃に備え鎮守府の避難誘導をしてもらった響がやって来た。

「おかえり響。さっきはありがとな」

 そう言って頭を撫でると、満更でもなさそうな顔になる響。そうだ、この際響に鳳翔のことを聞いておくことにしよう。

「なあ響、一ついいか?」

「?なんだい司令官?」

「さっきは本当に避難誘導ご苦労様。それで、鳳翔さんとかって、どう避難させたかな?」

「?鳳翔さん?」

「ああ。ここに着任してしばらくたったけど、鳳翔さんは見てないからな。」

「…鳳翔さん、僕が避難誘導しようと思ったんだ。でもそしたら、間宮さんが『鳳翔さんは私に任せて』って。やっぱり何かあったんだと思う。だから、間宮さんに聞いた方がいいと思うよ?鳳翔さんの心の傷を治したいなら。」

「ふふ、響はなんでもお見通しだな。わかった、休憩ついでに食堂に行ってみよう。」

「ハラショー」

 なんとなく響がおやつを楽しみにしてるのは、彼女の表情からお見通しである。

 

 ーーー食堂にて

「間宮さんどうも…お、大淀もいたのか」

 食堂のテーブルには、大淀の姿が。他の艦娘の姿は見当たらないが。

「大淀さんも休憩ですか?」

「ええ。間宮さんの甘味は本当に美味しくて。食べ過ぎが心配になるくらいよ。」

 ニコニコと微笑む大淀。そこへ間宮がやってきて、メニューを渡す。

「ありがとう間宮さん。そうだね、この前と同じホワイトチョコケーキを頼む。」

「僕もそれで」

「かしこまりました〜」

 程なくして運ばれてくるケーキ。本当にこれは美味い。響も満足そうに頬張っている。

 するとそこに間宮さんが来た。その手には、外された店先の暖簾がある。

「あれ、どうしたんですか間宮さん」

「いえ、ただこれから、大淀さんと少し鳳翔さんのところへ行くので…」

「鳳翔さんのところ、ですか?」

「ええ。今彼女、自室にこもりきりで…」

「そうなんですか…」

 …あ、これチャンスだ。ならば逃すまいと間宮さんにすかさず言う。

「よろしければ、俺と響も一緒に行っていいですか?まだ鳳翔さんと話をしてないので。」

「僕からもお願いします」

 響も同じことを考えていたようだ。

「ええ、構いませんよ」

 間宮さんは笑顔で言ってくれた。

 

「鳳翔さんって、どういう事情でここに来たんですか?」

 部屋に移動する間、間宮さんと大淀に聞いてみた。

「ん〜…提督さんは、鳳翔さんについてどういうイメージがありますか?」

 逆に間宮さんから質問された。先程赤城から鳳翔さんの分のDVDと設計図を頼まれた時に考えた、あのイメージをそのまま彼女に伝えた。

「そうですか。まあ、普通そうですよね…」

「すまん間宮さん、何か落ち度でもあったかな…」

「いえ、それは誰しもが鳳翔という艦娘に抱く普通のイメージです。その母性はたくさんの艦娘たちに認められ、お艦とも呼ばれる程なので…。こちらこそ、少し言い方が悪かったみたいですみません…」

「いや、大丈夫、気にしなくていい。」

「ありがとうございます提督。

 ここにいる鳳翔さんも、とても頼りになる、優しい鳳翔さんでした。前の鎮守府でも、たくさんの艦娘たちの相談に乗っていたんです。しかし、そこはかなり戦いの厳しいところで、いわゆるブラック鎮守府ではなかったのですが、いつも彼女に相談に乗ってもらわんとする艦娘が後を絶たなかったんです。」

「なるほど…それで、どうなったんだ?」

「彼女は一つでも多くの仲間の艦娘の悩みを解決しようと奔走しました。中にはかなり重い内容の相談も少なからずあったみたいで…それでも彼女は必死になんとかしようとしていたそうです。しかし、その影響で彼女の精神は疲弊の限界を超えてしまったようで…」

「そんなことが…」

「以前鳳翔さんとお話したんですが、彼女、こんなことを言ってたんです。『自分は相手の話を聴くばかりで、他に何もその人にしてあげられなかった』って…」

「そうか、なるほど…」

 そうこうしているうちに、鳳翔の部屋の前に着いた。間宮さんがドアをノックする。

「鳳翔さん、すみません。」

 すると中から、

「はい、どうぞ…」

 か細い声が聞こえた。

「こんにちは、お邪魔します。」

 間宮さんと大淀に続いて、俺と響も入る。

「はじめましてだな、鳳翔」

「こんにちは、鳳翔さん」

 しかし、挨拶した途端に鳳翔の顔が、焦りと怯えの混じったような顔に変わる。おそらく先程の間宮さんの話からの推測だが、解決させてあげられない、という無力感に囚われてしまい、人と関わることが、恐怖と罪悪感で無理になってしまっているのだろう。

「あ…あの…こんにちは、はじめ、まして…」

 動揺が明らかに見て取れる。

「大丈夫だ鳳翔、落ち着いてほしい。少し話をしたいだけだ。」

「は、はい…」

 もう既に滅入っている。このままだと彼女が限界を迎えてしまうかもしれない。

「…ごめんなさい、提督。今は…私、もう、無理です…」

 やはり。

「いや、謝ることはない。こちらこそ突然押しかけてすまなかった。」

 申し訳なさそうにする鳳翔。すると響が鳳翔の手をそっと握り、こう言った。

「鳳翔さん、今回はごめんなさい。でも、僕は鳳翔さんと、いつか色々話をしたいと思っているんだ…。自分勝手かもしれないけど、もし今度空いていたら、お話したいんだけど…」

「響ちゃん…」

 そこへ大淀も加わる。

「大丈夫ですよ鳳翔さん。響ちゃんはとても優しい人です。」

「は、はい…」

「もしよかったら、僕の姉妹たちも連れてきていいかな?」

 響が笑顔で質問する。すると鳳翔の顔が、少しだけほころんだように見えた。

「ええ。いつも第六駆逐隊の娘たちには色々、話して少し落ち着かせてもらっているから…。ありがとう響ちゃん、本当にありがとう…。提督も、せっかく来てくれたのに、無愛想で本当にごめんなさい…」

「いや、大丈夫だ鳳翔、無理をすることはない。きっと色々、心が疲れている中、俺が来ていることでますます混乱させてしまっただろう…こちらこそ申し訳ない」

「いえ…あの、提督…?」

「なんだ、鳳翔?」

「いつになるかは私もわかりませんが…もし私が大丈夫になったら、あなたのことを呼んで、そして一緒にお話も、したいです…。

ダメですか…?」

「…そんなこと、ダメなわけないだろう?大丈夫、俺も、響も、間宮さんも大淀も、みんな鳳翔、お前の味方だから。」

「…ふふ、ありがとう、ございます」

鳳翔は少しだけ笑った。しかしこれはきっと、今の鳳翔の精一杯の笑顔なのだろう。俺は外に出たあと、必ずやあの悲しい笑顔を、太陽のような明るく、爽やかな、心からの笑顔にしようと心に誓った。




ここまで読んでくれてありがとうございました!
これからも筆者頑張ります!
感想、評価、お気に入りなどじゃんじゃんお待ちしております!
それではではではまた次回!

↑地味にお気に入りとかが増えてきていて嬉しいです
ありがとうございます


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温もりの大作戦 前編

昨日更新できませんでした、すみません。
待っていた方々、大変お待たせいたしました。

前後編わけ初めてですが
よろしくお願いします。

それでは本編どうぞどうぞ。


 執務室に戻り、書類整理をする。響も秘書艦として色々と手伝ってくれているのでありがたい。

「はい、次の書類だよ司令官。」

「お、ありがとうな。ん、大本営からか…」

「何が書いてあったかな」

 どうやら艦娘の異動通知のようだ。

「えーとな、なんか1週間くらい後に、ここに新しい駆逐艦の艦娘が、他の鎮守府から異動してくるらしいぞ。」

「それはえーと、誰だい?」

「特型駆逐艦の吹雪と、白露型駆逐艦の夕立みたいだな。戦力増強にもなるし、ここもすこしはにぎやかさが増すかな…」

「だね、司令官。」

「ああ。とりあえずその前に、まずは目の前の鳳翔のことを解決しよう。今日の書類も片付けなきゃだな。」

「それなら、この書類で最後だね。」

「お、そっか。響が整理してくれていたおかげで早く終わりそうだ、ありがとうな」

「えへへ」

 嬉しそうにする響。そして俺は響の頭を撫でて、書類に必要事項を記入する。

「ふぅ、今日はここまでだな。よし、書類を一緒に大淀のところに渡してこよう。響、お疲れのところ悪いが、手伝ってもらえるかな」

「もちろんだよ司令官」

 

 2人で一緒に、大淀の所に書類を届け終わった後、廊下を歩きながら少し今後のことについて話し合う。あの後、少し考えができたからだ。

「響、今日は少しだけ夕ご飯を遅くしてもいいかな」

「?別に構わないけど、どうしたんだい?」

「ああ。鳳翔のことについて、少し話し合いたくてな。」

「なるほど。」

「響、悪いが第六駆逐隊のみんなを連れて、フタヒトマルマルに食堂に来てくれるかな。間宮さんと、あと空母の人には俺が話を通しておくから。」

「わかった司令官。任せて」

「よし、行動開始」

「ハラショー」

 

 ーーーフタヒトマルマル 食堂にて

 間宮さんの配慮で、食堂の暖簾は既に下ろされている。もちろん邪魔者扱いするつもりなど毛頭ないが、もう他の娘たちは入ってこないだろう。

 そして、机のいくつかを並べてくっつけ、大きな一つとして、その周りを俺と、そこから時計回りに第六駆逐隊の響、電、雷、暁、空母の赤城、加賀、瑞鶴、翔鶴、そして大淀と間宮さんという配置で夕食兼会議となった。中央には間宮さん力作の大土鍋に入った煮込みラーメン鍋が据わっている。

 

「今夜は少し遅い時間だが、集まってくれて本当にありがとう。」

「いえ、提督。鳳翔さんの笑顔、また見たいですから…」

 俺の第一声に間宮さんが返す。

「それではまずは、とりあえず状況確認としましょう。」

 進行役に抜擢した大淀が話を進める。先程俺にしてくれたような解説を間宮さんがみんなにしてくれた。鳳翔が部屋に引きこもっているというのは、みんな知っていたが、遠慮して理由を聞けなかったり、また知ってたとしても気を使って話さなかったりしたのであろう、このことを知らないメンバーもいた。

「そ、そんなことがあったの…」

「きっと鳳翔さん、ずっと辛い思いしてたのです…」

 俺も意見を考えていたが、他のメンバーも事情を知って、色々と出してくれた。事情を前から知っていた娘は、あらかじめ考えてくれていたりもした。そして食事が空になっても会議が続き、フタフタフタマル、ようやくみんなで意見がまとまった。

 実行は、明後日ーーー

 

 ーーー翌日

 俺は朝早くから書類と格闘していた。明日に備えて、明日の分の書類も終わらせておくことにした。第六駆逐隊の四人は、少しでも鳳翔を励まそうと、街に出かけて色々と買い出してくれている。空母の四人は港に出て、明日の作戦の演習を繰り返している。間宮さんも、大淀も、みんなが鳳翔のために団結し、そして各自の役割を果たすために行動してーーーその翌日。

 

 ヒトマルサンマルに、第六駆逐隊の四人が鳳翔の部屋のドアをノックする。

「鳳翔さん?来たよー!」

 世話好きの雷が呼びかける。

「ありがとう、来てくれて。入ってどうぞ」

 昨日より少しだけ調子の良さそうな声。それを聞き、四人は手を合わせ、ひそひそ声で言う。

「じゃあ!温もり大作戦、開始ー!」(ひそひそ声)

「おー!」(上に同じ)

 4人はドアを開けた。それと同時に、作戦が開始されたーーー

「お邪魔します、なのです」

 鳳翔の部屋に入る電たち。

「いらっしゃい。今日はわざわざ来てくれてありがとう。ゆっくりしていってね」

「はーい、鳳翔さん!」

 暁が満面の笑みで返す。

 

 まずは第六駆逐隊の皆で、鳳翔の不安と緊張感を解き、少しでも和んでもらおう、という作戦である。

「じゃーん!鳳翔さん、これ見てー!」

 雷が取り出したのは、自作の迷路が書かれた紙である。コピーしたものを、他の4人に渡し、雷がルールを説明する。

「ルールは簡単、スタートからゴールまで、1番速くついた人が勝ちよ!途中の中間地点も作ったから、参考にしてみてね!」

 気合いの入る、残りの第六駆逐隊。鳳翔もつられるように、そこそこ気合いを入れる。

「じゃあ、スタート!」

 雷の号令で一斉にペンを走らせる四人。

「レ、レディーにとってはこんなの簡単なんだから…!」

 しかしその数秒後、

「えっ、行き止まり!?そんなぁ!」

 と、あからさまに頭を抱える暁。

「えーと、分かれ道、なのです…」

 電は目で道の行く先を探る。が…

「はゎゎ…道の間隔が細かすぎて、わからなくなってしまったのです…」

 唖然とする電。そう、雷はここぞと言わんばかりに気合いを入れてこの迷路を作り、その結果、どっかの小学校の男子に一人はいる、迷路作りが異常なほどクオリティ高い人の最高傑作作品のようになってしまったのだ。

「こ…これは流石に…難しいな…」

 昨日夜の第六駆逐隊部屋での作戦会議で、雷は迷路を作ることは知っていた、しかしここまでとは。混乱する響。ババ抜きで結局六連勝した実力も全く歯が立たないのである。しかし、その隣から、耳を疑う声が聞こえてきた。

「雷ちゃん、できたみたいなんだけど…」

 名乗りを上げたのは、なんと鳳翔だった。

「「「「えっ!?」」」」

 迷路をしていた3人はおろか、雷でさえも驚く。チェックをする雷、しかし、行き止まりなどで折り返した形跡がいくつも見られるものの、ゴールまでの道がしっかりと成り立っていた。

「すごい、鳳翔さん一抜け!」

「ふふ、実はどんな迷路にも共通する、ある攻略法があるのよ。」

「な、なになに?」

「すごく、気になるのです!」

「これは気になるね…」

「私も知らない…」

 鳳翔の周りに集まる4人。鳳翔は雷から予備の迷路の紙をもらい、それを見せる。

「攻略法、って言ってもとても簡単。どちらか片側の線を辿っていくだけなのよ」

 そう言って鳳翔は、迷路の片側の線にそうようにペンを走らせる。確かに行き止まりにも何度も当たるが、その道のりが確実にゴールに近づいているのだ、そして…

「ほら、ゴールできたでしょう?」

 先程と全くの同じルートの跡がゴールまで続いた。歓声を上げる4人。そして彼女達の純粋な心は、少しずつ、少しずつ、鳳翔の心を温めて行った。

「じゃあ、次はこの私が選んだ、このゲームで遊ぼ!5人分のコントローラもしっかりあるから!」

 暁が、持参した大袋からゲームソフトと人数分のコントローラを取り出す。赤帽子のヒゲおじさんがほかのたくさんのキャラクターとともにカートでレースを繰り広げる某有名ゲームである。

「これなら5人みんなで遊べるのです!」

 早速準備を整え、みんながキャラクターを選ぶ。電子音とともに始まるレース。

「おっ先ー!」

 キノコ帽子の小人を操る雷が前に出た、が…

「あー!」

 コースの仕掛けに引っかかり、早々と遅れをとる。

「電の本気を見るのですっ!」

 その隙に、緑の恐竜キャラのカートで電が出た。しかしその目の前に赤く点滅する爆弾キャラが投下される。

「直上からの機雷は不可避なのです!?

 はわわわ!大破なのです!」

 電がスピンしている間に、爆弾を投下した張本人の響が出る。緑の帽子の方である。

「ハラショー…!?」

 その横からピンクドレスの姫を使う暁が、赤いキノコで追い抜いていく。

「レディの私が、1位いただきよ!」

 3つのキノコで暁が一気に加速、響を追い抜き1位となる。しかし、その後ろから地道に追いついてくる一台のカート…主人公の赤帽子を操る鳳翔だ。

「ふふ、昔からこのゲームはあるんですよ。さて、ためておいて正解でしたね…!」

「鳳翔さん、プロの顔…はっ、そのアイテムはまさか!」

 追いついてきた雷が気づいた。そう、暁のすぐ後につけた鳳翔が持っていたアイテムは、羽が生えた青いトゲトゲだった。

「これって…」

「1位のやつを正確に射抜くやつ…」

「なのです…!」

 鳳翔がボタンを押して、同時に素早く暁と平行に距離をとる。暁のカートが青い爆発に思い切り吹っ飛び、後ろで密集していた3人にも爆風による巻き添えが来る。

「1位、いただきました」

 笑顔で鳳翔がゴールインする。唖然とする第六駆逐隊の4人。しかし、その後も5人で、様々な遊びをしたり、本を読んだり、たくさん話したりもした。その頃、外では、鳳翔に気づかれないよう、空母の艦娘たちが着々と準備を進めていたーーー




というわけで、次は空母の人たちも出てきます。

果たして鳳翔さんに笑顔は戻るのか!?
お楽しみにです!

今回も読んでくれてありがとうございました!
感想や評価もぜひお願いします!


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温もりの大作戦 中編

なんか思いのほか長くなり
中編で一区切りつけました、ご了承ください。

鳳翔さんが本当に母だったら…と考えてしまう今日このごろ。
まずは連日寝落ちで寝不足の筆者の生活習慣を正してほしい…

というわけで本編どうぞどうぞ。


「皆さん、お待たせいたしました!お弁当できました!」

 港で本番直前の演習をしていた彼女達に、間宮と大淀がお弁当を持って駆けてくる。

「ありがとうございます。」

 そう言って加賀が風呂敷に包まれた重箱弁当を受け取り、彼女達があらかじめ用意していたバスケットへと入れる。

「皆さん、後はお願いします。申し訳ないんですが、私はほかの娘の昼食を作らなければなりませんし、大淀さんも事務の仕事が残っていますので…」

「大丈夫です間宮さん。私たちにお任せください。」

 翔鶴が強く微笑み、間宮さんに返す。

「わかりました、頑張ってください!」

 2人はそれぞれの本来の持ち場へと戻っていった。

「それでは作戦内容を確認します。瑞鶴と翔鶴、あなた達はこのバスケットに入った弁当を、3階の鳳翔さんの部屋に届ける役割。この作戦の要です。正確なコントロールが求められます。できますね?」

 加賀の問に、2人の答えはひとつ。

「ええ、もちろんです!」

「五航戦の力、見せてあげる!」

「ふふ、大丈夫そうですね。私も後ろから援護します。赤城さん、あなたは目視による観測及び調整指示をお願いします。」

「了解です、加賀さん」

 赤城は車椅子を自ら動かし、窓に面した、鳳翔の部屋の真下へと移動する。鳳翔は今第六駆逐隊の4人と過ごしているので、もちろん全く気づかない。

「では。現在時刻ヒトサンサンマル、作戦開始します!」

「了解!スカイホエール、発艦!」

「コンドル1号、発艦!」

 加賀の一声が響き。翔鶴、瑞鶴がそれぞれ一本ずつ、同時に放った矢が水色の戦闘機へと変化する。かつての防衛チームZATの戦闘機、2つの水平尾翼が特徴のスカイホエールと、重力制御コイルと呼ばれる、リング状の穴あき主翼が目立つコンドル1号だ。

 ちなみに、ZATは歴代防衛チームの中でも、奇抜な作戦を多用し、その多くが怪獣撃破に大きく貢献したことで有名である。それに伴い、スカイホエールとコンドル1号の攻撃力、さらには輸送力はかなりのものだ。作戦の例としては、怪獣に突き刺した電線より電流を流したり、鉄球で直接攻撃したりなど。さらにユニークなものとしては、怪獣に上からトリモチを投下して動きを封じさせたり、大量の胡椒をぶちまけて、怪獣の体内に飲み込まれた人をくしゃみで吐き出させたり、卑劣な宇宙人の攻撃で一時的に盲目となった、当時地球を護っていたウルトラマンタロウに宇宙人の場所を知らせるべく、その首に巨大な鈴を取り付けたり…数えだしたらキリがない程だ。

 そしてそんなZATの戦闘機を使って、翔鶴と瑞鶴が地面に置かれたバスケットに慎重に近づく。

「並行飛行隊列への変形成功!」

「目標地点にて、ワイヤーでバスケットを掴みます!」

 翔鶴と瑞鶴、一糸乱れず並行に飛行し、そしてバスケットの真上で、機体下部からワイヤーを射出。正確に持ち手の部分を掴む。

「2人とも、建物、両機間ともにその距離を保ってゆっくりと上昇してください!」

 赤城からの指示で、2機が前へと進みつつ、ゆっくり上昇していく。ところが、二階部分の中腹辺りで、突然突風が2機を襲った。

「やばい翔鶴姉!」

「瑞鶴落ち着いて!あっ!」

 2人は必死に体制を立て直そうとするが、ついに揺れたバスケットから弁当がーーー

「任せてください!」

 加賀は素早く矢を取って放つ。空中で変化したそれは、地球防衛チームでもあり、怪獣保護チームでもあったチームEYESの、テックスピナー2号。すかさず地面へと落ちる弁当の真上で、怪獣保護チームならではの装備、怪獣保護電磁ネットを展開した。間一髪、ネットにかかる弁当。

「よかったです。さあ、運び続けましょう」

 胸をなで下ろす五航戦姉妹と赤城。加賀もポーカーフェイスだったが、内心間に合うか五分五分だったので、とてもほっとしていた。

 テックスピナー2号によって弁当はバスケットに入れられた。再びワイヤーでバスケットを吊り下げつつ上昇するスカイホエールとコンドル1号。加賀のテックスピナー2号も護衛でついている。赤城も気を引き締め直し、しっかり位置を確認して指示を出す。今度は、無事に鳳翔の部屋まで到達することが出来た。

「あ、鳳翔さん!」

 部屋の中の暁が、窓越しにバスケットの存在に気づく。

「あら、これは…?」

「鳳翔さんと、私達のお弁当なのです」

「え…!?」

「ねー鳳翔さん、みんなで一緒にお弁当食べよう!」

「…そうね、食べましょうか!」

 響が窓を開け、バスケットから弁当を取り出して部屋に入れる。気になってのぞき込む鳳翔。するとそこには、下から自分を見上げる、加賀、赤城、翔鶴、瑞鶴の姿。

 ーーーすごい…翔鶴さんや加賀さんが、立派に立ち直ってる…新しい艦載機もついてるみたいね…

「鳳翔さん」

 不意に響が鳳翔に声をかける。

「何?響ちゃん」

「翔鶴さんも加賀さんも、みんな提督が立ち直らせてくれたんだよ。工廠の明石さんもね。」

「まぁ…」

「少しここまで黙ってたんだけど…実は、お弁当食べたら、提督も挟んで鳳翔さんとお話したいな、って考えていたんだ。鳳翔さんが色々大変なのは、僕も知ってる、けど…よかったら…」

「ありがとう、響ちゃん」

 響が言い終わらないうちに、鳳翔はその頭を優しく撫でる。

「提督は本当に優しいっていうことは、あの時もうわかっているわ。大丈夫、それにいつかは話をしなきゃいけなくなるもの、ね」

「…鳳翔さん…!」

「ええ。お昼を食べたら、ゆっくりお話させてもらおうかしら。」

「鳳翔さん、よかった…」

 窓の外を見つつ、話し合う2人。そこへ、雷が声をかける。

「響、鳳翔さん!お弁当すごい豪華だよ、一緒に食べよー!」

「ハラショー」

「そうね、いただこうかしら」

 




というわけで少し短めかもしれなかったですが。

後編もできるだけ早く出します!

ここまで今回も読んでくれてありがとうございました!
お気に入り登録や評価や感想、ぜひお願いします!
それではまた!


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温もりの大作戦 後編

更新遅れてすみません!
鳳翔さんの章は今回でクライマックスです!


 既に暁たちによって、豪華な3段式の弁当が広げられていた。色とりどりの料理が、所狭しと散りばめられている。

「まぁ…」

「ハラショー…こいつは美味しそうだ」

 感嘆の声を漏らす2人。電に渡された割り箸で、早速食べ始める。

「う〜ん!美味しいわ!」

「さすが間宮さん、なのです!」

「鳳翔さん、卵焼きあげるわ!」

「ふふ、ありがとう」

 響もその光景を見つつ、お喋りなどに参加して、みんなで団欒のひとときを過ごす。

 昼ごはんの後もみんなで遊び、語り、おやつを食べ、そしてヒトナナサンマルをすぎた頃には…

 

「…すっかりみんな寝てしまったね」

「そうね…きっと、よほど楽しかったのでしょうね…」

 床に寝転んだ暁、雷、電の3人にタオルケットをかけつつ話す響、鳳翔。窓からは夕日が差し込み、部屋を哀愁漂う橙色にそめている。時折寝息や、幸せな内容の寝言が、2人の口角を緩ませる。すると、

「…さて、そろそろいい頃かな」

「?」

 唐突に呟く響に戸惑う鳳翔。コンコン、とドアをノックする音が、彼女の意識を引く。

「提督が、来たみたいだよ」

 開かれたドアから、響の言う通り、本当に提督が入ってきた。

「すまんな鳳翔、少し失礼しても、いいかな」

 

 ーーー鳳翔の目は、この間の怯えたような目ではなく、少し優しさの灯がともされたような、そんな目をしていた。

「ええ、どうぞお入り下さい。この間は締め出したような形になってしまったので…私もお話をしたかったです」

「そうか、ありがとう。では」

 俺は座布団に座る。鳳翔が向かい側に座る。話を切り出したのは、鳳翔の方だった。

「私の話、聞いてもらってもいいですか?」

「ああ、もちろん」

 そう言うと、鳳翔は安心したように語り出した。

「私に対するイメージとして、お艦、というものがあるというのは有名な話ですよね」

「…そうみたいだな」

「はい。私も、そのことは周知でした。それでか、よく色々な艦娘の仲間達、時には提督や憲兵、上官の方々からも相談されることがあったのです」

「そうか…」

「私は私を頼って相談してくれた皆さんに応えようとしたんですが…あまりに重い内容のものもあって…」

「うん、うん」

「それで…結局私は、皆さんに対して何も出来ませんでした…」

「…出来なかった?」

「…はい。友人関係や装備関係、その他色々な心の問題…。私にも、やはり限界というのが来てしまって…」

 少しずつ、鳳翔の言葉が詰まるようになってきた。きっと話しているうちに、思い出してきているのだろう。

「今でも…申し訳なく思って…」

 もう俺の我慢は限界だった。気付けば鳳翔のことを思い切り抱きしめていた。

「…!?」

「馬鹿野郎…鳳翔、お前無理しすぎだ…」

「提…督…なんで、ですか?私は、何も…艦娘の鳳翔として当然のことさえ出来なかったんです…そんな、無理しすぎ、だなんて…」

「鳳翔、今お前は自分のこと俺に話して、心はどうなった?」

「え…」

 ふと自分の心と向き合う鳳翔。そして、自分の心に今まで溜まっていた負のモノが、ゆっくりと溶かされていくような感覚に気がつく。

「あ…あ…」

 自然と目からは大粒の涙がこぼれる。

「ほらな?話すだけで、心ってのは結構スッキリするんだよ。」

「…そんな…私は、一体…今までしたことは、なんだったんでしょう…」

「鳳翔?無駄なことなんてひとつもない。お前は自分に出来ることを精一杯やった。ただ、少し不器用だったんだな。」

「…うう…」

「お前は、お艦というイメージがある。ただそれは決してそういないといけないというわけでは断じてない。きっと鳳翔、お前は辛いことがあっても、そのイメージにとらわれ、きっと話せなかったんだろう?」

「…はい。本当に、その通り、なんです」

「でもな、ここには俺がいる。間宮や大淀、第六駆逐隊のみんなもいる。だから、決して遠慮なんかしなくていいんだ。ずっと我慢してばっかだと、いつか限界を迎えてしまう。」

「…そう、ですね…」

「たまには思い切り、溜めてたもん吐き出すのも大事だ。お艦も結構だが、たまには赤ん坊みたいに、頼れる誰かに思い切り甘えてみるのも、大事だと俺は思う。」

「提督…じゃあ今は」

「ああ。俺でよければ、思い切り来い。」

 鳳翔はその言葉を聞き、俺の体に身を埋め、いつまでも、いつまでも泣き続けたーーー

 

 ーーーその日の夜。

 鎮守府の食堂では、いつにも増して豪華な料理が振る舞われていた。鳳翔の復帰記念、その鳳翔は…

「鳳翔さん、赤城さん唐揚げカレー赤城専用盛りおかわりです!」

「はい、今よそりますね!」

 食堂で間宮と2人で、相次ぐ注文に動く鳳翔。ついに彼女も持ち直し、食堂へと復帰した。あの後提督には、恩返ししたい、役に立てることならなんでもやる、と言って、自ら希望する形でここの職についた。

「よかったな、鳳翔」

「はい、提督。それと」

「?」

「完食、ありがとうございます」

「はは、美味しいからな。理性がないと、俺の腹が大破しちまうわ」

「もう、お上手なんですから!」

「鳳翔さん!また唐揚げカレーおかわりお願いします!」

「もう赤城さん、少し自重してください…」

 先程提供された唐揚げカレーをものの数分で平らげ、鳳翔に再びおかわりをせがむ赤城、そしてそれを見て半ばあきれぎみの加賀。

「ここもだんだん、活気が戻ってきたのかな…」

 俺はそんなことを思いつつ、食堂を後にしたーーー

 

 ーーー数日後

 鎮守府に新たな2人の艦娘が来る日がやってきた。俺は執務室で、響とその日の書類を全力ですべて終わらせ、2人の到着を待つ。

 そしてヒトマルマルマル、ドアがノックされる音。

「提督だ、入りなさい」

「はい!失礼します!」

 扉の向こうから、ハリのある元気な声が聞こえてきたーーー




というわけで、今回もここまで読んでくれてありがとうございました!
感想や評価、ぜひよろしくお願いします!
それではまた次回!


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長門と吹雪の章
荒野の心は


今回は初めて、2人の艦娘を取り上げた章です。
よろしくお願いします!


 ドアが開き、2人の艦娘が中に入ってくる。1人は白いセーラー服、もう1人は黒いセーラー服と言った装いだ。

「本日付けで第35鎮守府に着任しました、特型駆逐艦の吹雪です!」

「同じく本日付けで着任しました、白露型駆逐艦の夕立ですっぽい!」

 敬礼をして挨拶をする2人。吹雪はやや緊張気味だ。一方夕立は、ニコリと強く微笑んでいる。

「ようこそ、ここの提督だ。で、こちらが秘書艦の」

「響です。ハラショー」

「君達の着任を心から歓迎する。これからよろしくな。」

「は、はい!」

「よろしくお願いしますっぽい!」

 その後、着任した2人には、事務関係の仕事で少し遅れた大淀の合流を待って、この第35鎮守府の現状や解説もした。2人とも、異動前に少し学んできていたらしいが、やはり見るのには違いがあるので、色々と教えた。そして、緊張をほぐすため、少し雑談をした。ただ、話は常にこちら側か夕立が切り出し、少し吹雪が控えめのような印象を受けた。そして…

「よし、雑談話はここら辺にして、折角だし、響、2人にこの鎮守府を案内してやってくれないか?」

「任せて、司令官」

「ありがとう、頼む」

 こうして響は、吹雪と夕立を連れて部屋を出た。書類整理を終わらせてあるので、俺もなんもすることない。なので、テキトーにふらつくことにした。

 

 鎮守府廊下ーーー

 もちろん当てもないので、気の向くままに行く形になる。まあ広いので廻るにもそれなりに時間がかかるのだが。

 歩くこと十数分、しばらくふと、その廊下の向こうに何かが見えた。

 それは、うずくまる一つの人影。頭を黒いバンダナで覆い、上下半身に割烹着をまとっている。そしてそのそばには、箒とちりとりが無造作に置かれていた。

「うう…ああぁ…はぁ、はぁ…ぅうう!」

 苦しそうなうめき声をあげ、呼吸も荒い。俺は慌ててその人影に駆け寄り、その具合を確かめる。

「おい長門、大丈夫か!?」

 すると、彼女はゆっくりとこちらを見上げて、苦しげに言葉を返す。

「あ、あぁ…提督か…これ位、なんてこっ」

 次の瞬間、彼女ーーー長門は再び顔を苦しそうに歪めてうずくまった。

「うぅっ…うがぁっっ…ああぁっ」

「長門!?」

 やばい。とにかくこの状況はやばい。その時、こっちに向かって走ってくる姿が。吹雪だ。響による案内が終わって、暇なのだろう。

「司令官!?何があっ…大丈夫ですか!?えーと、えーとあなたは…」

「お前が、今度着任した吹雪、か…。わた…しは、戦艦、の、長門…ううっ!」

「えっ、長門さん!?大丈夫ですか、しっかり!」

 長門に必死に呼びかける吹雪、しかしーーー

「うるさい…!」

「…!」

 長門は吹雪に、うずくまった姿勢のままそう言い放った。衝撃を受けて、呆然としてしまう吹雪。場の空気も一瞬にして凍りついてしまった。

「長門、やめなさい。とにかく無理をするな、すぐに陸奥を呼んでくるから」

「提督、必要、ない…余計な世話だ…」

 しかし、長門がそう言い終わらないうちに、俺は長門の姉妹艦である艦娘、陸奥を探し始めたのであったーーー

 

 数分後ーーー

「はい、これで大丈夫。」

 長門の割烹着とは対照的な、露出度の高い服に身を包んだ陸奥。彼女は俺が現場に連れてきた途端に状況を察したようだ。彼女はいつも肌身離さず持ち歩いている薬を長門に飲ませる。即効性も効き目もかなりのものなので、飲むと長門もすぐに落ち着きを取り戻した。

「…薬持ち歩いて、って私いつも言っているわよね?」

「…わ、私はそんなものなくても…」

「馬鹿な事言わないで!」

「!!…」

「もう、いつも妹として、私いつもあなたのこと心配してるのよ!?それに心配してくれた提督や、それに着任したばかりの吹雪ちゃんにもそんなひどいこと言って!少しは人の気持ちも考えてよっ!」

「す、すまん…陸奥…」

「もう…というか、謝る相手は私というより、提督と吹雪ちゃんじゃないの?」

「あ、あぁ…」

 長門は陸奥に支えられて立ち上がると、吹雪と俺の方を向き、蚊の鳴くような声で言った。

「すまなかった、提督、吹雪よ…」

「私からもごめんなさい。吹雪ちゃんも着任したばかりなのに、いきなりごめんね。その、こうなっちゃって言うのもなんだけど、これから、よろしくね…」

 申し訳なさそうに頭を下げる陸奥。

「いやいや、まあ気をつけてくれな、長門」

 長門は俯きつつ頷くと、箒とちりとりを取って、再び掃除を始めた。

「もう、さっきまで倒れてたばっかなのに…あまり無理はしないでちょうだい…あ、ごめんなさい、私は少しお手洗いに行ってくるわね…」

 陸奥はそう言って、廊下の先のお手洗いに行った。

 

 ーーー執務室

「司令官、すみません…」

「いや、吹雪が謝るようなことは何も無い。」

 あの後、少し吹雪の調子がどこか不安定そうなので、執務室に通すことにした。

「それと、大丈夫か?吹雪。」

「いえ、何も、なんでもありません。」

 しかし、絶対彼女は心に何かがあったと思う。その表情からもすぐにそれはわかる。

「さっきのことが、引っかかるのか?」

「…はい。」

「そうか…陸奥が彼女の個人部屋にいるから、色々話してくるといい。きっと助けになってくれるよ。」

「そう、ですか。わかりました、行ってきます」

 吹雪はそう言って、執務室を後にした。

「さて、と」

 俺は艦娘のデータが書かれた書類を取り出し、長門の所を見直した。そこには、

「艦娘性超記憶障害」

 と、書かれていた。

 そして、先程大淀が渡してくれた、吹雪の分の書類も見る。彼女は別段心に傷を負っていないと思っていたが、異動前の鎮守府をよく見直し、記憶をたどる。

「あぁ、なるほど…」

 俺は書類をしまい、少し夕立に話を聞こうと、席を立ったーーー

 




ということでここまで今回も読んでくれてありがとうございました!

さて、2人は一体どのように…

評価や感想ぜひお願いします!
それではまた次回!


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それぞれの影

なんか最近急に寒くなってきて
気付けはベッドで寝坊する毎日…
布団恐るべし。
ちなみに筆者はかなりの寒がりです。

何が言いたいかと言うと
続きできたんでどうぞ、ということです。
↑何がどうなってそうなった


 ーーー陸奥の個人部屋

 

「…いったい、どうすればいいのかしらね…」

 陸奥は窓の外を見つめて悩んでいた。姉はその病のせいで随分前から心を閉ざしてしまっている。妹の自分にも、完全に開けていないことが、残念であり、悲しくもあった。

「すみません、陸奥さん、いますか?」

 ふいに聞こえたドアノックの音。

「はーい」

 ドアを開けると、

「あ、あの、失礼します」

 挨拶をして頭を下げる1人の艦娘。吹雪だった。

 

「先程は姉が本当にひどいことを言ってしまって、ごめんなさいね」

 陸奥は部屋に吹雪を通して、机に互いに向かい合わせで座らせる。

「いえ、その、もう気にしないで下さい、と伝えて下さい…あ、なんか上から目線、みたいでしたよね、ごめんなさい…」

「ううん、いいの。で、どうしたの?

 …まあ、用件は大方わかってはいる、けれど…」

「はい、長門さんのことなんです。提督から、よかったら聞いてこい、と…」

「そう、よね。あなたも気になっていることだろうし、話しましょうかね。」

「すみません、なんかプライベートな所に踏み込んだみたいになってしまって…」

「うふふ、気にしないでいいのよ。吹雪ちゃんはきっと優しいし…」

「優しい、ですか…そんなこと、無いと思いますけど…」

 そう言った吹雪の顔に、少し陰りが見える。

「…どうしたの?吹雪ちゃん?」

「…え?あ、いや、その、なんでも、ないです、大丈夫です。」

 嘘だ。陸奥は直感でそう感じた。姉と状況は違えども、きっと吹雪の心には、同じように影があるのだろう。とにかく、ここはあまり踏み込まないでおこうと、今は吹雪の頭を優しく撫でることにする。

「大丈夫大丈夫、吹雪ちゃんは大丈夫…」

「あ、ありがとうございます…」

「うふふ、よかったよかった。さて、長門のこと、あなたに話さなきゃね」

「は、はい」

「ふふ、そんな緊張しなくてもいいのよ。

 …そうね、吹雪ちゃんは、『艦娘性超記憶障害』って、聞いたことあるかしら。」

「艦娘性、超記憶障害?」

 

 ーーー同時刻 夕立の個人部屋

「夕立、いるか?少しいいかな」

「提督さん?どうぞっぽい〜」

 俺は夕立の部屋に入った。

「着任したばかりなのにごめんな、急に」

「気にしないで欲しいっぽい〜あ、そこでいいなら座ってどうぞっぽい〜」

「ふふ、ありがとな、じゃあお言葉に甘えて」

 俺は夕立に促され、座布団に座る。

「それで、用件は何っぽい?」

「いや、吹雪のことでな。その、お前と吹雪が前にいた鎮守府で、何かあったのかなって思って」

「うーん…特にこれといった事件はなかったっぽい。」

「そうか…」

 しかし、夕立がふいに言った。

「でも、吹雪ちゃん、前の鎮守府の提督は少し苦手だったっぽい。何度か相談されたしっぽいまあ私も、あまり好きな方ではなかったっぽい。」

「本当か?」

 俺の質問に、夕立が頷く。

「思い出した、確か吹雪ちゃん、一回提督とすごく言い争って、そのことでも相談されたっぽい。…すごくその時泣いてたっぽい」

「それ、詳しく教えてくれないか?」

「うん、わかった」

 

 ーーー夕立と吹雪は、第6鎮守府からやってきた。その鎮守府はかなりの戦果をあげている、深海棲艦攻撃の中核を担う鎮守府の一つであった。しかし、そこの提督はブラック鎮守府まがいのことはしないものの、情など微塵もない、そんな表現がよく当てはまるような人物だった。そしてそこの鎮守府では、姉妹艦でさえ互いに笑顔を見せることのないと言われていたことは、俺も大本営時代に聞いたことがある。そこからいつしか、「機械軍鎮守府」という異名がついたほどだ。

 吹雪と夕立は、そこの駆逐艦の中でもトップクラスの実力を誇っていたのだ。しかし、吹雪はいつもその提督に、納得がいかなかった。廊下で仲間に笑顔で挨拶しても、真顔で一礼されるだけ。彼女はいつも悩んでいた。

 そんなある日。

 仲間達と、任務をすべくある海域に出撃した吹雪。しかし、その日の戦いは激しく、仲間数人が中、大破してしまった。自分はなんとか小破手前で済んだが、かなりの大傷の仲間もいる。その時は、全員なんとか帰還したのだが…

「提督、艦隊帰投しました」

「中、大破艦は入渠の際高速修復剤の使用を許可。後に報告書を提出するように。下がれ」

 提督はそれだけを言い、退室を促す。

「はっ」

 艦娘たちは敬礼をして執務室を去った。ただ1人、吹雪を除いて。

「…どうした吹雪。下がれと言ったはずだ」

「司令官」

「なんだ」

「あの、司令官には、情とか、優しさとかって、無いんですか…?少しは、みんなのこと労ったり、怪我した人のことは心配してあげても…」

 しかし、彼は鋭い眼光を吹雪に向けてこう言い放った。

「何を言っている吹雪。血迷ったか。我々は今存亡をかけた戦いの真っ最中だぞ?そんな中に情だの優しさなど気配りなど余計な気持ちを持ち込むな。いいか?余計な心配などするな、戦いに集中しろ」

「え…」

「私の言うことがわからないというのか?とにかく余計な情などいらないと言っているんだ。それで集中できなくなって沈んだらどうする?いいか?これは戦いだ。そのことがわからないというのならーーー」

「わかりました…もういいです…!」

 吹雪は捨て台詞のようにそう吐いて、執務室のドアを乱暴に閉めて出て行った。

 

「吹雪にそういうことがあったのか…」

「うん、吹雪ちゃんめちゃくちゃ凹んでたっぽい。それで、ここで少しでも力になりたいって言って提督に異動を申請して…でも提督、別れも何も言わずに吹雪ちゃんを半ば追い出すように送って…1人だと心配だから、夕立もついてきたっぽい。」

「そうかそうか。ありがとな、教えてくれて」

 お礼にと、夕立の頭を撫でる。

「ぽい〜」

 ご満悦な夕立の顔を見つつ、これからどうするかを俺は考え始めたーーー

 

 ーーーその頃、陸奥の部屋

「私達艦娘は、軍艦そのものだった頃の記憶が、しっかりと頭に残っているでしょう。」

 陸奥は吹雪に、長門のことを話していた。

「はい」

「どこで戦い、どのような戦果を挙げ、そしていつ軍艦としての生を終えたか…でもね、希にそれが脳の記憶にとどまらず、体とか能力とか表面に出てしまうことがあって。それを、艦娘性超記憶障害っていうの。」

「そうなんですか…」

「ええ。具体的なケースとしては、操舵不能になって沈んだ艦娘が、平衡感覚を司る脳の部分で著しく発達速度の遅さが見られたり、船体が割れ、切断されるような最期を遂げた艦娘は、今でも体に絞められたような跡があって痛みを伴ったり…」

「じゃあ…長門さんの場合は?」

「…長門の最期は、わかる?」

「はい。確か戦後、水爆実験の標的艦にされて沈んだと…まさか…?」

「そう。長門は放射線による病気を、生まれながらに艦娘性超記憶障害として背負ってしまったの。一応大本営の方で、出来るだけの治療は済んでいるけど、今でも脱毛症状で髪がなかったり、時々あの光景が激痛とともにフラッシュバックして、さっきみたいに苦しんだり…。その影響で彼女は出撃も何も出来ず、自分の無力感と歯痒さで、心を閉ざしてしまったの。妹に当たる私にも、時々当たってくるほどに、ね。」

「長門さんも、陸奥さんも、大変だったんですね…」

「ふふ、私の事まで心配してくれるなんて、あなたも優しいのね。とりあえず、長門はそっとしてあげて、関わってもきっとーーー」

「いえっ!」

 気づいたら、吹雪は叫んでいた。驚きのあまり言葉を飲み込む陸奥。我に帰ってその様子に気づいた吹雪は、とりあえず謝り、しかし自分の意思をしっかりと陸奥に伝えた。

「確かに、長門さんは心を閉ざしてしまったかもしれません…でも、私、長門さんを放っておくことなんてできません…!陸奥さん、お願いします、長門さんと、もっと話して、長門さんの心を開いてあげたいんです…!」

 強い言葉。強い意思。今の吹雪の一字一句からそれが痛いほど陸奥に伝わってきた。ならば、その気持ちを受け止めて、そして認めてあげるのが、今の自分がすべき一番賢い判断だろう。陸奥はそう考えた。

「わかったわ、吹雪ちゃん。もし何かあったら、遠慮なくお姉さんに頼っていいんだからね?」

「はい!」

 さて、これからどうしよう。吹雪は少しの希望とともに、これからの行動を考え始めた。




ということで、今回も読んでくれてありがとうございました!
感想や評価、お気に入り登録お待ちしております!

ではまた次回!


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すれ違う気持ち

お気に入りや評価が増えてきていて嬉しいです!
ありがとうございます!
これからも頑張りますのでよろしくお願いします!

それでは本編どうぞどうぞー!


 翌日、マルハチサンマルーーー

 

「提督、おはようございます、失礼します」

「ん、吹雪か?入れ」

 日課であるトレーニングと朝食を終え、吹雪は提督にある要望をすべく執務室を訪れた。

「どうした吹雪、朝から」

「あの司令官、実はーーー」

 

 マルキュウサンマルーーー

「…何の用だ?」

「長門さんのこと、今日一日でいいです、手伝わせて下さい」

「私の事か?いや、手伝わなくていい、1人で大丈夫だ。お前は自分のことでもしていろ」

 案の定冷たくあしらわれてしまった。これにダメージを受ける吹雪。しかし、諦めず頼んでみる。

「お願いします、私、長門さんと色々話してみたいんです!…司令官もいいだろうって言ってましたし…」

 そう言われた長門。確かに、この真っ直ぐな気持ちを真っ向から切り捨てるのもさすがに可哀想だ。また、長門自身、吹雪と仲良くなりたいという気持ちがないわけではなかった。半ば仕方なく、了承することにした。

「ありがとうございます!」

 吹雪は満面の笑みでお礼を言い、頭を下げた。

「…あの提督、余計なことを…」

「?どうしたんですか、長門さん」

「あ?…あぁ、いや、なんでもない。」

 心の声が、小声に出てしまったことがバレなくてよかったと思う長門。

 ちなみに同時刻、執務室で、提督が盛大なくしゃみをして、飲んでいたお茶が手にかかり、アチチアチチと軽くパニックになっていたのは別の話である。

 

「長門さん、まずはどこの掃除ですか?」

「…とりあえず艦娘寮の廊下だ」

「わかりました!」

 

「あ、長門さん、このゴミ焼却炉に運んでおきますね!」

「あ、あぁ…」

 

「長門さん、ここは私に任せてください!」

「いや、そこは私がやるから大丈夫…」

「無理しちゃダメですよ?いつも鎮守府の掃除をしてくれているおかげで、綺麗に保たれていて気持ちがいいって司令官言ってましたけど、同時に無理してないかと心配してましたから…」

「あぁ…わ、わかった。行くといい」

 

 吹雪は可能な限り長門とコミュニケーションをとろうと、出来るだけ会話を持ちかけた。少し早めの昼食も一緒にとった。しかし、長門は終始笑顔を見せず、2人の会話に発展するまでにも至らなかった。

 それでも吹雪は話しかけ続けた。だが、長門の心には、ある感情が沸き上がりつつあった。

 恐れ、である。自分の居場所、拠り所、存在意義がなくなってしまうのではないか、と。常にそれは心の片隅にあった感情ではあったのだが、今日吹雪が手伝ったことで、皮肉にもその感情がピークに達してしまった。そして…

 

「あの、長門さん」

「今度は何の用だ」

「この階段の方もやっておきます」

「いや、後で私がやっておく。お前もそろそろ自分のことに戻れ」

「え、でも…」

「もう、戻ってくれ、いいんだ」

「そしたら長門さんが1人になっちゃいますよ…流石に毎日1人で階段の掃除は大変ですし、それにーーー」

「もういい!それ以上はいらない!」

 長門は突然大声で叫んだ。

「長門さん…」

「もうやめてくれ!もういい!」

「あ…あぁ…」

「そもそもお前は私の気持ちがわかっているのか!?戦艦長門として、ビッグセブンとして生まれ、みんなのために戦いたかったのに…!病のせいで、出撃どころか遠征さえ行けないんだ…!私の気持ちを少しはわかってくれ!」

「…」

 そしてついに、長門の一言が吹雪の心に決定的な衝撃を与えてしまう。

「私への無駄な情けなどいらん!金輪際私の前に現れないでくれ!」

 そしてそういった時、ふと長門は我に帰る。しかし、遅すぎた。吹雪は目を真っ赤にはらし、「ごめんなさい…」と小声で言って、どこかへ走り去ってしまった。

 しまった。後悔の念が押し寄せる。こんなことが言いたかったのではないのに。あの子が私の拠り所など奪うわけないだろうに。もっと色々、楽しく話したかったのに…

 しかし、今の自分では所詮なにもできない。長門は仕方なく、掃除用具を片付けに行った。

 

 顔をぐしゃぐしゃにして、ただただ廊下を走り抜けていた吹雪。ふとなにかにぶつかる。

「…吹雪…!?どうした…!?」

「…司令官、さん…?」

 

 俺は吹雪を執務室に通した。響が吹雪に気づき、少しびっくりした表情で見つめる。

「…なんかあったみたいだね、司令官。席を外した方がいいかな?」

「あ、すまん…響。」

「いいよいいよ。今日は姉妹たちは鳳翔さんと少し遠くに遠征だから、夕立さんのところに行ってくる」

「ありがと、悪いな響。ほら、入って入って」

「あ、はい、ありがとう、ございます…」

 響は吹雪のことを心配そうな目で見つつ、部屋を出た。

 吹雪は、今日、今さっきまであったことを、涙ながらに全て俺に話してくれた。

「そうか…辛かったな」

「うぅ…あの、司令官…。」

「?」

「ごめんなさい…もう私、なんか、その…疲れました…」

「吹雪…」

 俺は吹雪に寄り添って、頭を撫でる。

「お前のこと、夕立から聞いた。さぞ辛かったろう。まあ、長門にも事情はあるからな…互いにわかり合うのは、やはり難しいことだ。だが、その吹雪の優しさがあれば、きっと、いつかは…」

「本当にそうなんですかね…」

「吹雪…」

 吹雪は俯いて、顔をあげようとしない。うーん、とどうしようか考える。ふと、あるものが脳裏に浮かんだ。

「吹雪、時間あるか?」

「…?」

「お前に見てもらいたいものがある」

「は、はい…」

 俺は戸棚の中の特大DVDボックスから一枚を取り出し、プレーヤーに入れた。

「司令官、それは?」

 吹雪が聞いてくる。そうだ、まだ吹雪は知らなかったか。俺は明石たちや加賀たちにしたのと同じように、この世界の過去の、ウルトラマン、そして人間と、怪獣や宇宙人の戦いのことを前置きとして話した。そして、これから流す映像のことを軽く話す。

「1970年代に、地球を守った防衛チームのTAC、そしてウルトラマンエースの戦いをまとめたドキュメント映像だ。そして今から吹雪に見せるのは、その最後の戦い…最強超獣ジャンボキングとの戦いだ。」

 俺はそう言って、再生を開始したーーー

 

 ーーーウルトラマンエース、そしてTACが戦っていたのは、異次元から地球を狙う異次元人ヤプール、そして奴らの送り込む、怪獣より強い生物兵器、超獣。

 そんなある日地球に、ヤプールに追われてサイモン星人の子供が降りてきた。子供たちは、「エースが来るまで、俺達がサイモン星人を守る」と意気込む。

 しかし、そのサイモン星人は、ヤプールが宇宙人に変身した姿だった。そう、ヤプールはこうすることで地球の子供たちから優しさを無くし、一気にエースを抹殺してしまおうとしていたのだ。しかし、ウルトラマンエースに変身するTACの隊員、北斗星司は、テレパシーでサイモン星人の正体がヤプールであることを見破る。サイモン星人を撃つ北斗。しかし、子供たちは自分のことを信じてはくれなかった。

「嘘だ!もう優しさなんて信じないぞ!」

 激しく北斗を批判する子供たち。考えの果て、北斗は、子供たちの前でウルトラマンエースに変身する。驚く子供たち。

 ジャンボキングと戦うエース。最強超獣というだけあって、ジャンボキングは破壊光線やミサイル、さらに怪力でエースを踏みつけたりと苦戦させる。しかし、北斗の決意が届いた子供たちの声援もあり、彼らとTACの隊員達が見守るなか、エースは最後の力を振り絞ってジャンボキングを吹っ飛ばす。そして立ち上がって、即座に自身の必殺光線であるメタリウム光線を放つ。それを頭部にくらい、怯むジャンボキング。その隙を逃さず、エースはとどめのギロチン・ショットでジャンボキングの首を切り落とし、見事勝利した。

 しかし。

 子供たちの前で正体を明かしたことで、エースは故郷の光の星へ帰らなければならなくなってしまった。エースは見守ってくれた子供たち、そして共に戦ってきたTACの仲間の方を向き、最後のメッセージを伝え始めーーー

 

 ーーーそして数分後、DVDが終わり

「付き合ってくれてありがとう、吹雪。この言葉を、今のお前の心に、しっかり留めておいてほしい。」

「はい、司令官…!」

 しかしそこへ、夕立が駆け込んできた。

「提督さん、大変っぽい!」

 

 夕立が、俺と吹雪を連れて行ったのは食堂。

「どうしたんだ…!?」

 そこにいたのは、椅子にもたれかかり、ほんのりと赤い顔で苦しそうに息をする間宮だった。

「うーん、熱があるわ。風邪ね…」

 響が連れてきた夕張が、間宮の様子を見る。

「間宮さん、大丈夫か?」

「大丈夫です。こんなことでへこたれるわけにはいきません、今日の夕食…ゲホゲホッ!」

「…無理をするな、ゆっくり休め」

 なんとか説得し、間宮は夕張に連れられて工廠脇の医務室へと連れられて行った。

「…だがしかし、確かにこれはまずいな…。今日の夕食、どうするか…鳳翔さんは遠方への遠征だし、夜まで帰れないからな…」

 すると響と夕立が、

「間宮さんとさっき話したんだけど、ボルシチくらいだったら、僕もなんとかできるよ。」

「材料ならさっき間宮さんに聞いたから大丈夫っぽい。ただ、間宮さんは今日買い出しに行くみたいだったっぽいから、それもどうかしないとっぽい…どう頑張っても明日の朝の分までっぽい」

「明日の朝の分までか…朝市で何とかなりますかね、司令官…?」

「うーん、かなり早い起床になるな。ここから近くの街までも、かなりかかるから…まあ、何とかするか…」

 俺はなんとか明日の朝市に行くことにした。そうと決まれば、出来るだけ今日は早く書類を済ませ、早寝するに限る。

 しかし、俺はその時気づけなかった。この様子を影から見ていた、人影がいたことにーーー

 

 ヒトゴヨンマルーーー

「ふう。響、この書類はここだな。」

「わかった、司令官」

 俺と響は書類整理を急いでいた。かなり忙しい。大淀もこの事態を受け、事務室にこもりっぱなしで働いてくれている。

「よし、この書類も済んだ。次はーーー」

 その時ものすごい勢いで、1人の艦娘が執務室に駆け込んできた。

「提督、大変!」

「陸奥!?いきなり、どうした?」

「長門が…!長門が、どこにもいないの!!」

 




ということで今回も読んでくれてありがとうございました!

評価や感想、お気に入りなどよろしくお願いします!
それではまた次回!

今回のクロス解説
本文の通り。ヤプール人は、その後も復活を繰り返し、しつこく悪役として登場してくる。


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雨の中の奇跡 前編

筆者、今日は行事で一日中山歩きしてきました。
今めっちゃくちゃ足が痛いです。

なんとか続きかけましたのでどうぞどうぞ。


「なんだって!?」

 俺は思わず大声をあげてしまった。しかしそんな一瞬でも無駄にしている場合ではない。まずは事情を聞くことが先決だ。

「陸奥、落ち着け。まずは状況を話してくれーーー」

 

 陸奥によると、掃除が終わったら一緒に自室で話そう、という約束だったのだが、約束したはずの長門がいつまでたっても現れないことに少し心配を覚え、寮などを探したのだという。しかし、どこを探しても見当たらなくて、聞き込みでも何も得られなかったのだという。

「なるほど…大淀には言ったか?」

「一応執務室来る前に…大淀さんにも言った…。どうしよう…もし長門に何かあったら…!」

 心配で目を真っ赤にする陸奥。なんとか俺も対処法を考えなければならない。

「とりあえず、大淀に伝えたってことは、彼女も色々動いているってことだ。こっちも出来ることをやろう。響、これから大淀に招集をかけるから、事務室に先回りして後で俺が伝えるメンバーを招集してくれ。その後は、一応時間的にもやばいから、夕立と一緒にそろそろ厨房でボルシチ作りを頼む。俺は長門の捜索にいく。一応他のメンバー誘っていくから」

「了解した、司令官。任せて」

 響は執務室を出て行った。と、そこへ執務室に内線での通信が入る。

「こちら執務室」

「司令官、こちら大淀、大変です!」

「どうした!?」

「たった今、工廠妖精さんから長門さんの目撃証言、二十分ほど前に、街へ通ずる道へと向かう長門さんを目撃したとのこと…!」

「街!?」

「え!?」

 パニック寸前の陸奥。しかし、とにかくこれで大方、長門の今の居場所が掴めた。となればーーー

「大淀、これから街の方へ長門の捜索に出発する。申しわけないが執務を代わりに頼めるか?」

「はい、おまかせください!」

「ありがとう大淀。それと、これから言うメンバーを、鎮守府の正面玄関に招集してほしい。」

「わかりました。誰、ですか?」

「そうだな…明石、瑞鶴、それから、吹雪に頼む。明石には救護セットを持つように言ってくれ」

「わかりました!」

「あと大淀、もうひとつ頼む」

「はい、なんでしょう」

「…ジオアラミス、それからジオマスケッティの出撃準備を頼む」

「了解しました!」

 俺は大淀との通信を切り、陸奥にも玄関に向かうように指示した。そして俺は提督帽子を脱いで、ヘルメットをとり、地下の車庫へと向かった。ふと執務室を出る時、窓の外を見つめる。

「やばいな、こりゃ…。」

 空には暗い雨雲が一面に立ち込めて、そしてそれはこれから向かおうとする、街の方へと流れていたーーー

 

 その頃ーーー

 割烹着、バンダナ着用の長門は、街の商店街の入り口に来ていた。そう、先程、食堂での一部始終を見聞きしていた長門は、単身街に買い出しに来ていた。食堂に置いてあった間宮さんの買い物予定表を見て、メモもとってある。ついでに、自分勝手かもしれないが、吹雪にお詫びの品でも買っておいてあげようかとも思っていた。

「ふう…」

 長門は商店街の中へと足を進めて行った。しかし、すぐに異変に気づく。

 どの店にもシャッターが降りていて、営業している所がないのだ。これはおかしいと感じる長門。いつも週に一、二度は間宮が買い物するこの商店街は、いつも賑やかだと聞いていたのだが…と、長門はあるものに目をとめた。シャッターに貼られた紙だった。何か書いてある。

「本日夕方より予想される嵐のため、本日は午後15時閉店とします。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「くそっ…!」

 長門はどの店のシャッターにもそれが貼られているのを見て、言いようのない悔しさを覚えた。このまま何も出来ずに終わるのか。自分が来たことは無意味だったのか。

「こうなったら…!」

 長門はなんとしてでも空いている店を探そうと、狭い路地裏の道へと入った。しかし、しばらく進んで見えてきたのはーーー

「くそっ、行き止まりか…」

 引き返そうと踵を返す長門。ところがその瞬間ーーー

「うっ…!」

 フラッシュバック症状、要するに発作が長門を襲った。身体を襲う強烈な痛み。薬など、持っていない。

「こんな…ところで…!うあぁっ…!」

 続く激痛に悶え、うずくまる長門。目立たない路地裏のため、気づく人影もない。

「うぅっ…はぁ、はぁ…はぅっ!」

 苦しむ長門。そして無情にも、その体、そして街に雨粒が降り始め、そして強くなっていた…

 

 ーーー第35鎮守府 演習場

「…というわけなんです」

「わかりました、すぐに発艦させます。」

「私も提督から貰ったDVDのおかげで、発艦が可能になりましたからね…!久しぶりの出番、頑張ります!」

「私たちも、できる限り援護します!」

 演習場で響が、空母勢の艦娘たちに事情を説明した。そしてそれを受け、加賀はウルトラ警備隊の多用途機ウルトラホーク3号、翔鶴はGUTSの万能機ガッツウイング1号、そして提督から貰ったパラリンピックの車椅子アーチェリーのDVDでしっかり学習した赤城が、XIGの救助チーム、シーガルの救助機、シーガルフローターを発艦させた。響は、そのそれぞれに、陸奥から預かった薬をカプセルに詰めて搭載させたーーー

 

 一方、正面玄関にてーーー

 集まった瑞鶴、明石、陸奥、吹雪の4人の目の前に、俺は愛車のうちの1台、ワンボックスカーのジオアラミスを止めた。

「よしみんな、乗れ!」

「はい!」

 俺はみんなが乗ったことを確かめ、ジオアラミスを鎮守府近くの山へ、そしてそのトンネルへと走らせる。

「提督!?そっちじゃないわよ!?」

 叫ぶ陸奥。俺は冷静に説明する。

「いや、街へ通ずる一番近い道は車はいま工事中で通れない。」

「そんな…でもどうするの?」

「陸がダメなら…空から、だ」

「空!?」

「ああ。よし、少し揺れるぞ」

「え!?」

 その時、トンネルが開け、機械的な巨大ドッグが見えた。

「ジオアラミス・ジョイン・トゥ・ジオマスケッティ!」

 俺はコールし、そしてジオアラミスがガシャン、と音を立てて何かーーー俺の祖父の最後の遺品、ジオマスケッティと合体した。そして機械音を立て、それが変形する。

「大淀、準備は出来てるか?」

「はい!いつでも出撃できますよ!」

「よし!スペースマスケッティ、出動!」

 すると、ジオアラミスはスペースマスケッティごとリフトで上昇していく。地上の山の一部が開け、雨雲の立ち込めている空が見える。

「みんな、シートベルトはしたな!」

「は、はい!」

「よし、スペースマスケッティ、発進!」

 機体後部のエンジンが点火され、スペースマスケッティが鎮守府を離陸した。

「す、凄い…!」

 感嘆の声を漏らす陸奥。

「ふふ、私の方で若干チューニングしましたからね…!」

 ドヤ顔の明石。彼女にはこのメカの整備を極秘で頼んでいたので、当然といえば当然である。

「まさか…!空母の私が空を飛ぶ側になるなんて!」

 興奮する瑞鶴。しかしそんな中、吹雪だけは冷静に、そして固く心に誓っていた。

「絶対に、長門さんを助けるんだ…!」

 スペースマスケッティは一分足らずで、街の上空へと到達した。俺は各自に作戦を伝える。

「これから一旦着陸して、陸奥、瑞鶴、吹雪は商店街などを、加賀と翔鶴、赤城が飛ばした艦載機とともに捜索。明石はここに残って、俺と一緒に上空から捜索だ。尚長門を発見したら、すぐに連絡をくれ。よし、解散だ!」

 スペースマスケッティを商店街の広場へと着陸させ、3人を降ろす。

「よし、捜索開始!」

 大雨が降る中、各自が、鎮守府から合流したウルトラホーク3号、ガッツウイング1号、シーガルフローターとともに捜索を開始したーーー

 




疲れてたせいかいつもより駄文だったかもしれませんが(言い訳すんなこら)

ここまで今回も読んでくれてありがとうございました!

評価などお待ちしております!
また次回!


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雨の中の奇跡 後編

山歩きでの足の痛みはなくなりましたが、腰の痛みはまだ治りません…

人間用の高速修復剤が欲しいです(切実)

何はともあれ本編どうぞーーー


「明石、見えるか?」

「いえ、全く見つかりません。」

 俺と明石は、スペースマスケッティでの上空からの広範囲捜索をしている。が…

「雨による視界不良がかなり…風も強くなってきましたね…」

「ああ…。長門は艤装もないから、レーダーが使えないしなぁ…どこだ?」

 

「長門、長門ー!どこなの!?」

 提督からもらったレインコートを着た陸奥の声が、無人の商店街に響く。しかし、探している、大切な姉の姿はどこにも見つからない。

「ここにはいないのかしら…どこにいるの…?妖精さんは、どう?」

 陸奥は、陸奥についたウルトラホーク3号の妖精さんを見る。しかし、彼女も残念そうに首をふるだけだったーーー

 

「ここにもいない…ここにも…」

 広い商店街で、陸奥とは別のエリアを、瑞鶴は捜索していた。随伴のガッツウイング1号も収穫なしだ。

「急がないと…間に合わない…!」

 瑞鶴の脳内には、解散の時に陸奥から聞いた言葉がエンドレスリピートされていた。

『それぞれの艦載機に、長門の薬を搭載してあるわ。でも、この薬が効くのは、発作が発生してから約1時間…もし商店街に入って長門に発作が出たら…少しでも発見が遅れたら助からなくなってしまう…お願い、できるだけ急いで…!』

 あとどれ位と、確認している程の時間さえ惜しみ、瑞鶴は商店街を探し続けた…

 

「長門さーん!長門さーん!?お願いです、返事してくださーい!!」

 吹雪も他の2人と同じく、土砂降りの中で長門を捜索していた。着ているレインコートなど無駄とでも言わんばかりの勢いで、雨が体を容赦なく叩きつけ、中にまで入ってくる。しかし、今は透けなど気にしている場合ではない。風もだんだん強くなり、随伴して捜索をしている、安定性能が持ち味のシーガルフローターも時折煽られるほどだ。すると、

「おい!」

 後ろから、突然怒鳴られる。びっくりして振り向くと、雨合羽に身を包んだ2人の青年が走ってきている。いかにも柄が悪そうだ。

「オメー、こんな所で何してんだよ!」

 こんな時に絡まれるなんて…と焦る吹雪。しかし…

「驚かせてすまん、俺、街の消防団やってるんだ。今被害状況の確認で回ってる最中なんだよ」

「今はもう、嵐がピークを迎えてる!急いでどっかの建物の中に入れ!」

 彼らが消防団ということに、とりあえず安堵。しかし同時に、この人たちならもしかしたら長門さんを見かけているかもしれない、ということが頭に浮かぶ。

「あの、この辺りで、割烹着着て、頭にバンダナを着た女の人、見ませんでしたか!?」

「は!?そんなのいるわけねえだろ、この嵐だぞ!いても俺らが見つけて避難させてるしなぁ、おい…」

 青年がもう1人に同意を振るが、振られた当の本人は、振った側の予想とは異なる反応をした。

「いや…もしかしたら…でも…」

「見たんですか!?」

「オメー、知ってるのか!?」

「ああ…俺らの学校も、今日嵐で早く解散したろ?その帰り道で…嬢ちゃんが言ってたような服の女の人、見かけた…」

「本当ですか!?」

「ああ。ただ、目の片隅に入っただけで、もう一回戻って通り見回しても、いなかったけどよ…」

 そう言いつつ青年は、ある通りーーー吹雪の探索担当エリアの中の1つを指さした。

「…そいつもしかしたら、路地裏にでも入ったんじゃねえか…!?」

「…確かに!」

 望みが繋がった吹雪は、青年達にそこまでの案内及び同行を頼んだーーー

 

 長門の意識はもう、保っているのがやっと、という状態になっていた。全身の力が抜け、そして体感のすべてが沈む船のごとく重くなっていく。発作の痛みは収まっているというより、溢れんばかりのそれを体が感じきれていないという感覚だった。

「ふふ…この…ビッグ、セブンが…こんな、辺鄙な、ところで…最期を迎え、る、とは、な…」

 全てを投げ出したかのように呟く長門。段々と視界が濁り、体温は下がっていく。今まさに意識が途切れてもおかしくないというその時ーーー濡れた路面を、複数の足音、聞き覚えのある声がが自分に向かって迫ってきた。

「長門さん…!いました!!」

「まじか!?」

「おい!大丈夫か!?」

 長門の濁った視界は、吹雪、そして消防団の青年2人を、濁りながらも確かに認識した。

「長門さん、もう大丈夫ですよ!口を開けてください!」

 吹雪に言われるがまま、精一杯口を開く。すると目の前にシーガルフローターが移動し、搭載していた薬を長門の口の中へ正確に発射した。発作が起きてここまでーーー約56分。ギリギリ間に合った。

 すかさず消防団の青年2人が、簡易ブランケットで長門を包む。即効性の薬によって、今度こそ痛みがひき、感覚が戻っていく。

「吹雪…吹雪、なのか?」

「はい…!長門さん!よかった…!」

 思い切り長門に抱きつく吹雪。その後長門は青年たちによって支えられ、路地裏から通りへと誘導される。そして発見の一報を受けた陸奥、瑞鶴、そして提督のスペースマスケッティが降りてきたーーー

 

 全員から青年たちに礼を言い、そして彼らが去ったあと、スペースマスケッティの中で改めて、明石による長門の検査が行われた。

「大丈夫です、体温は低めですが、命に別状はありません。」

「そうか、明石…」

 と、

「何やってたの長門!あたし達がどれだけ心配したと思ってたの!?」

 陸奥の全力ビンタが長門の頬を叩き、そしてハグが体全体を包んだ。

「もう、本当に心配したんだから…!」

 号泣しつつ陸奥は言った。温かいその光景に、その場の俺を含めた誰もが胸を打たれた。

「さあ、鎮守府に、戻ろう」

 俺はスペースマスケッティを、鎮守府に向けて離陸させたーーー

 

 ーーーその後、鎮守府の空母勢や大淀、響たちに改めて報告し、そして響特製のボルシチを食した後…長門は吹雪を自室に招いた。

「失礼します」

「ふふ、そうかしこまるな」

 長門は吹雪を座らせ、そしていきなり彼女に土下座した。

「先程の件といい、昼の件といい…お前には本当に迷惑をかけた…謝罪しても許されないことは分かっているが、それでもこうしないと気が済まない…!本当に、本当に申し訳ないことをした…!」

「いいんですよ長門さん、顔を上げてください。」

 吹雪は、そう優しく言った。

「吹雪…?」

「長門さんのことをわかりきっていなかった私にも、責任はありますし…」

「でも私は、お前の優しさを裏切る行為を何度もしたんだぞ…?先程の捜索も、手伝わなくてよかったのに…どうして私を、こんなにお前に酷いことをしたこの私を、助けてくれたんだ…?」

 その長門の問に、吹雪は一呼吸置いて、こう答えた。

「長門さん、今から私の言う言葉は、かつて地球を守った戦士の1人、ウルトラマンエースが、地球を去る時に遺した言葉、そして今の私の心の支えの言葉です。ご存知ですか?」ーーー

 

 ーーー執務室

「本当に、いい言葉だよな」

「ふふ、司令官がそこまで言うなら、僕にも聞かせてもらおうじゃないか」

「おう、響」

 俺は吹雪にしたのと同じ映像を、響に見せた。

 ジャンボキングを倒し、子供たちとTACの隊員達を見下ろして、エースは彼らへとラストメッセージを伝える。

 

『ーーー優しさを失わないでくれ。

 弱いものをいたわり、互いに助け合い、

 どこの国の人とも友達になろうとする気持ちを

 忘れないでくれ。

 

 例えその気持ちが、

 何百回裏切られようと。

 

 ーーーそれが私の最後の願いだ。』

 

 そして、ウルトラマンエースは、夕日が映える真っ赤な空へと、飛び立って行ったーーー。

「ふふ、本当にいい言葉だね、司令官。」

「ああ。この言葉を胸に刻み、これからも頑張ろうな、響」

「うん!ハラショー!」

 響は笑顔で返したのであった。

 




というわけで今回もここまで読んでくれてありがとうございました!

これからも頑張ります!
評価感想など、是非よろしくお願いします!

それではまた次回!


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島風の章
運命の出会い!ゲンと島風


どうもです。

山歩きの腰痛も、結構引いてきました。

それでは本編どうぞー!


 銀河系を離れること三百万光年の彼方。

 光の国ことM78星雲から、今しも地球目指して、1人の男が出発したーーー

 

 ーーー超光速で宇宙を飛行し、やがて彼の視界は青と緑の地球を捉えた。大気圏へと突入し、そして地上ーーー目的のとある島へと照準を合わせ降下する。と、

「…!?」

 100km先のマッチ棒をも識別するほどの彼の目は、彼にとって、にわかに信じがたい事を捉えた。見覚えのある真紅の戦闘機が、その島の近くを飛行していたのだからーーー

 

 ーーー第35鎮守府

「おお、提督」

「あ、司令官さん!こんにちは!」

「長門、吹雪。掃除お疲れ様」

 玄関で、掃除をしている長門と吹雪に会う。数日前のあの1件以降、2人は打ち解け、時々こうして一緒に掃除をするようになっている。2人に挨拶をして、俺は響を連れて、玄関から外に出た。

「今頃、どうかな…」

「島風ちゃんのことかい?」

「ああ。あいつもかなり、ショッキングな過去を持つからな…」

 そう言いつつ、外から港に出て、海を見つめつつぼーっと待つことにした。伊豆諸島近くで今頃頑張っているだろう、島風のことを考えつつーーー

 

 ーーー今心の療養を試みているのは、島風型駆逐艦の島風。ここに来る前、かつて第40鎮守府に在籍していた艦娘だ。彼女が何故ここに配属されたかというとーーー

 第40鎮守府は、新種の深海棲艦の襲撃によって、ごく少数の生き残りを除き全滅してしまったからである。

 俺がまだ大本営にいた頃の話だ。当時の大本営も、これに大きな衝撃を受けていたのを覚えている。鎮守府の全滅はこれが初めてだったこと、さらにはこの時、鬼級や姫級を超えるボス、水鬼級が初めて確認されたからだ。第40鎮守府はその水鬼級の戦艦、すなわち戦艦水鬼に襲撃され、あっという間に全滅してしまったという。島風はその時の数少ない生き残りの1人であり、そして一番最後に発見された艦娘だった。ほかの艦娘たちが自力で脱出などするなか、島風は現場に駆けつけた大本営の救援艦隊によって発見されたのである。その時にはもう、鎮守府だったところは全て灰になっていた、つまりーーー島風は、そのさまを一番長く見てしまったのだ。それによって心を病み、何もできなかったと、罪悪感と自分を自責する感情に囚われ、一人ぼっちを極端に嫌がるようになってしまった。そして持ち前の自由奔放な性格も、本来のスピードも出せなくなってしまったのであった。

「さて、そろそろ島風が、鳳翔や天龍、龍田と戻ってくる頃かな…」

 

 ちなみに天龍と龍田は、最近この鎮守府に着任した艦娘だ。心の傷に葛藤しつつ、今度こそみんなを守るために強くなりたい、という島風の意思を尊重して、彼女の指導教官のような立場として、大本営時代に多少付き合いがあった2人を呼んだのだ。面倒見は二人ともよく、何かと他の仲間を気遣える優しい人達だ。また運動性能や火力といったその能力も、軽巡洋艦の中ではトップクラスを誇る。

「あ、見えたよ司令官。帰ってきた」

 響がふと言った。彼女の言う通り、島風、鳳翔、天龍、龍田の4人がこちらに帰還してきーーー

 

 ん?

 なんと彼女たちに、1人の男が支えられているではないか。服装は和装、例えるなら江戸時代の旅人というか僧侶、と言ったような感じだろうか。手には真っ直ぐな木製の杖、そして笠を携えている。

 やがて彼女たちと、その男が港につき、彼女たちは艤装を解除した。鳳翔は俺に報告に来て、男は天龍たちと話している。

「提督、島風ちゃんの指導から帰還しました。ごめんなさい、今日もこれといった収穫は…なかったです。」

 鳳翔はそう言った。

「そうか、ご苦労だった。何、謝ることは無いさ。焦らずゆっくり、回復が見られればいいんだよ」

 俺は鳳翔にそう言った。数日前から彼女と天龍、龍田による島風の指導をしているのだが、まだまだ島風は成長が見られない。心の傷はそれほど深いのだ。そして俺は、今最も気になっていることを鳳翔に聞いた。

「鳳翔、彼は?」

「ああ、あの方なんですがーーー」

 

 ーーー少し前 伊豆諸島近くにて

 島風の一番の持ち味であるスピードをまた復活させるため、鳳翔たちが考えたプランは、ミサイル発射速度に長けた、MACのマッキー2号と3号に演習弾を装備させ、鳳翔によってそれを発艦、放たれるミサイルを避けさせるというものだった。もちろんこれを受けるのは島風1人のため、単独恐怖症を克服する訓練にもなる。天龍と龍田は、そばで島風にアドバイスを出す。

「島風ちゃん、もう一回行きますよ!」

「いいか、よくミサイルを見て、全力のスピードで避けるんだぞ!」

「あなたがしゃっきりしないと、連装砲ちゃんもしゃっきりできないわよ〜」

「は、はい!天龍さん、龍田さん!」

 意気込む島風。しかし…

「うっ、ひゃっ!ああっ!」

 避けきれず、演習ミサイルを喰らってしまった。

「うう…」

「もう少しスピード出るはずだぞ、島風!」

「ほらほら、頑張って〜」

 励ます天龍と龍田。しかし、今日も予定の時間まで、成長が見られなかった。

「時間が来てしまったので、今日はもう鎮守府へ帰投しましょう。」

「…はい、鳳翔さん…ごめんなさい…天龍さんも、龍田さんも」

「まあ、お前も色々あるからな…そう気にすんな」

「私たちでよかったら、明日も特訓、付き合ってあげるからね〜」

「ありがとう、ございます」

 そうして、4人は帰ろうとした。しかし…

「…あら?」

 龍田は見た。今は無人島となっているはずの伊豆諸島南端、黒潮島。そこに、1人の男が座っていた。

「どーしてあんな所に人がいるんだ…!?」

「とにかく、あの人が深海棲艦に襲われたら大変ですし、みんなで保護しましょう。」

「はい!」

 鳳翔の判断により、4人は黒潮島へと上陸した。男が座っていたところには、小さな石碑があり、そこには数本の風車が、お供えかのように飾られていた。

「…ん、何か用か」

「こんにちは、何をなさっていられるのですか?」

 鳳翔が丁寧に聞く。すると男はこう答えた。

「この黒潮島はな、1970年代に双子怪獣によって沈められたんだ。…俺はその時、沈むこの島を、守れなかったんだ…それどころか、その時憎しみの心に囚われていた私は、ここの島民たちを余計に追い込んでしまった…私は彼らへの償いと平和への誓いのため、ここに時々来るのだよ」

「はぁ…」

 ポカンとする天龍たち。すると男は唐突に、

「君たちは、艦娘、だね?」

「え…!?は、はい。」

 いきなり言い当てられ戸惑う。

「さっき、そこの着物の方が、弓の艤装でマッキーを飛ばしていたからね」

「…!?」

 戦闘機の名前まで言い当てられ、戸惑いがピークになる鳳翔。しかし、用件は伝えなければならない。

「あなたも深海棲艦の脅威は、ご存知ですよね?」

「はは、俺は大丈夫ーーー」

「何を言っているのですか!?とにかく我々の鎮守府で保護します!」

「いや、俺は…あ、おいっ!」

 いうが早いが鳳翔が、男を持ち上げ、残りの3人が脇から支える。

「おい、待つんだ君たち、おい!」

 

「ーーーというわけでここに連れできたんです」

「…そうか。少し執務室で話を聞こうかな。響、天龍、龍田、ついてきてくれ。」

「お、おう」

 鳳翔はこれから食堂にてご飯の準備、島風はそれについていく。男と天龍、龍田は結構話が弾んでいるのかと思えば、先程の島風のことや、この鎮守府のことを話してくれていたという。まあ悪い人ではなさそうなので、許すことにはしたが。

「どうぞ、執務室です。」

「おお、失礼する」

「お茶をどうぞ」

「ふふ、悪いな嬢ちゃん」

 男を椅子に座らせ、早速色々話を聞くことにする。と言っても、ほとんどのことは先程の鳳翔の話や、天龍の質問で分かっているが。すると男が、やけに俺を見つめてくる。

「…な、何か?」

「…お前さん…いや、そんなはずは…」

「どうか、しました?」

「いや、昔世話になった人に似ているからな…〇〇という名前だったと記憶しているのだが…」

 その名前を聞き、俺は驚いた。その男が言った名前は、俺の祖父の名前だったのだ。

「…祖父を、ご存知なのですか…?」

「祖父…というと君は、孫か。ふふ、私はとあるチームにいた時、彼に世話になったからな…」

「…防衛チームに属した経験がおありで?」「ああ、私は以前、MACに在籍していたんだ。先程鳳翔とかいうあの娘が、飛ばしていた戦闘機・マッキーを見て私も少し、気になっていてね。」

 それを聞き、俺はさらに驚く。MACはかつて、敵に襲撃されて、アジア本部基地の宇宙ステーションが全滅した経緯があるからだ。

「…そうでしたか、MACの方でしたか。…そういえば失礼ですが、あなたの名前は?」

 すると、男はゆっくりと言った。

「おおとりゲン、という者だ。」




わかる人にはわかったと思いますが…というわけでこの章は本格的にウルトラマン要素でます。ご了承ください。m(*_ _)m

というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!
これからも頑張ります!

評価などよければお願いします!


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凄まじい男の過去

遅くなりました、すみません!

注意:おおとりゲンの一人称は、提督目線だとおおとりさん、第三者視点だとゲン、とします。ご了承ください。

もう一つ注意:この章の各話サブタイトルは、ウルトラマンレオのそれをもじったものとすることにしました。これまたご了承ください。

本編どうぞー!


「おおとりゲンさん、ですか…」

 そう名乗った男。その左手には、黄金の獅子をかたどった指輪がついている。それに気づき、今までの言動を辿って…ピンときた。

「まあ今だから言えることだが…今言ったのは、あくまでも仮の名なのだがな。」

「…ですよね」

 俺はまあ察したからそう答えたが、

「ええっ!?まじかよ」

「あら?つまり、偽名ですか?」

 …天龍と龍田がそう聞く。まあこの反応の方が、本来は正しいのであろう。

「じゃあ、あなたの本当の名は…?」

 そう尋ねる響。男は左手を、というよりその手の指輪を俺達に見せるように顔の横へ移動させ、静かに、しかし強く言い放った。

「…ウルトラマン、レオだ。」

 

「ウ、ウウウルトラマンレオ!?」

「こら天龍ちゃん、声が大きいわよ〜?」

 龍田の威圧じみたその言葉と笑みに、慌てて口を封じる天龍。

「…黒潮島は、ウルトラマンレオの出現が地球上で初めて確認された場所。双子怪獣の襲来で亡くなった方々への追悼という意で来たという理由から、なんとなく思っていました。決めてはその指輪ですけど。MACに勤めていて、マッキーの存在を知っているなら、配属は宇宙ステーション基地の方でしたよね。」

「ああ。」

「あそこはかつて敵の奇襲で全滅したと聞いてます。唯一の生き残りが、あなたですよね?おおとりさん。」

「ふふ…君は何もかもお見通しだな。お祖父さんにそっくりだ。」

「それはどうも、光栄です。」

 2人の会話の光景ーーーというか、普段はなかなか見られない鋭い提督に、若干驚く響、天龍、龍田。

「…まあ、ここ地球は、もう私の第2の故郷だからな…追悼のために来たつもりだったが、ここで、かつてメカニックだったお祖父さんの孫である、君と出会えたのも何かの縁だ。

 さっきこちらの方々が言っていた、島風という艦娘の修行…手伝わせてもらえないかな?」

「おおとりさん…。そうですね、よろしくお願いします。」

「ええっ!?二つ返事って…すげえあっさり…」

「天龍、そう思うかもしれないが、実は島風とおおとりさんは、境遇がとてもよく似ているんだ。」

「まじかよ…」

「気になるわね〜」

 そう言ったのは龍田。響も、興味津々という顔だ。

「そうだな。島風の修行を手伝う前に、私の話を少ししようか」

「じゃあ、映像をご用意します」

「おお、気が利くな。」

「いえ…」

「では僕はお茶菓子を」

「はは、どうも。」

 おおとりさんは笑顔でそう言った後、1つ、と俺たちに付け加えた。

「これから話すことは、時が来るまで、島風とやらには話さないでおいてくれ。頼む」

「はい、わかりました。」

「お、おう」

「はーい」

「うむ、ありがとう。ではまず、私の地球にやってきた経緯から話そうか。

 私の真の故郷は、獅子座にあるL77星だった。しかしそこは、凶悪な宇宙人・マグマ星人によって滅ぼされてしまったのだ。弟のアストラとも生き別れになって、私は単身、L77星と環境がよく似ている地球へと逃げ延びてきた。

 その頃地球は、M78星雲のウルトラセブンが守っていた。しかし、マグマ星人は地球に侵攻し、双子怪獣のブラックギラスとレッドギラスを操り、セブンを倒してしまった」

 映像には、怪獣たちの大津波によって被害を受ける黒潮島の様子がわかる。あまりの衝撃的光景に、言葉が出ない響たち。

「私はマグマ星人、双子怪獣へと挑んだ。しかし、その頃の私はまだまだ未熟で、しかも心は故郷を滅ぼされた憎しみで満ちていた。島のことなど全く、その時は頭になかった。双子怪獣をなんとか退けた後に、ウルトラセブンの人間体…MAC隊長でもあったモロボシ・ダンさんに、物凄く怒られた。」

「そんなことが…」

 真剣に聞き入り、そう呟く響。

「その後、双子怪獣を倒すために隊長は私に特訓をさずけてくれた。そのおかげで私は双子怪獣を完全に撃破できた。そして、変身不可能となった隊長に代わって、私は地球を守る決心をした。」

「それからは、何があったのかしら…?」

 そう言ったのは龍田だ。

「あの後も、続々と地球を狙う宇宙人が来た。双子怪獣を倒したといえ、まだ私は未熟で、何度も敗北を喫した。しかし、その度に、隊長やMACの仲間、そして地球でできた大切な家族同然の人たちに助けてもらって、心身共に成長することが出来たのだよ。」

「…特訓か…どんなものが?」

「気になるそうだな。とても厳しいものばかりだった。真冬の滝でその流れを断ち切るというものや、次々と投げられるブーメランを蹴落とすもの、果ては隊長の乗ったジープを全力で正面から受け止めることもあった。本当に死ぬかと思ったよ。」

 天龍は唖然とした。その特訓の内容にもそうだが、それを彼は今笑顔で語っている。数々の困難を乗り越えた彼だからこそ出来るのだろう。天龍はそう感じた。

「こうして私は強くなり、地球で再開した弟のアストラと共に、栄えあるウルトラ兄弟の一員として認められた。」

「ハラショー…!」

 目をキラキラさせている響。こう見えて彼女は結構スポコン漫画が好きで、大本営在籍時代もよく読んでいた。地味に彼女の一人称が「僕」という理由でもあったりする。しかし、そこまで話したおおとりさんの顔が、暗くなっていた。

「…どうしたんですか、おおとりさん」

「ああ…。そんな矢先だったんだよ。」

 その顔を変えず、一呼吸置いた彼は続けた。

「…MACが円盤生物の奇襲で、全滅したのは」

「全滅…!?」

 島風も味わった全滅の辛さを、彼も味わっていたんだと感じた全員の顔が驚愕に包まれる。俺は映像を進め、響たちに説明を始める。

「今から見せる映像は、襲撃の瞬間を、たまたま近くの気象観測用人工衛星が捉えたものだ。かなり衝撃が強いことは了承して欲しい。」

「うん…」

 おおとりさんのその顔から悟ったのだろう。響たちは緊張した表情となる。

 映像が流れ始めた。宇宙ステーションに突如、透明な風鈴のような円盤生物ーーーシルバーブルーメが衝突し、同時に長い触手で包み込んでしまった。あちこちから火花が飛び、ベタベタとまとわりつくその溶解液。そして数分後、シルバーブルーメは自身の大きさの何倍もあるMACステーションをーーーまるごと飲み込んだ。

「ステーションの中では、仲間の誕生日会が開かれていた。そんな時にいきなり襲われてしまった。隊長は行方不明になり、仲間たちは戦闘機マッキーで脱出を図るも…間に合わず捕食された。

 シルバーブルーメは、変身した私を振り切って地球へと侵入。そして新宿のあるデパートを襲った。そしてちょうどそこには…私が、家族同然に接していた大切な人たちが、ちょうどなーーー」

 そう言って、おおとりさんは少し黙ってしまった。みんなも彼の気持ちを悟ったのだろう、静かに彼を見つめていた。

 自分を成長させてくれた、厳しくも憧れだった隊長。

 自分のピンチを何度も何度も救ってくれた、MACの仲間たち。

 そして、家族同然に過ごして笑いあえた、愛する人々たち。その全てを一度に失ったのだ。

「私はこの新たな円盤生物という敵に、立ち向かうことにした。隊長が行方不明になる直前、脱出を促した私にこう言った。

『バカヤロー!いうことを聞けーっ!

 お前はレオだ!不滅の命を持った、ウルトラマンレオだ!!お前の命は、お前1人のものでないことを忘れるな!!』とな。

 円盤生物は、これまでの侵略者よりも残虐な行為を繰り返した。何も知らない子供を使ったり、自身の分身をばらまいて人々を混乱に陥れ、都市部で大規模な破壊や虐殺、そして子供を洗脳…」

「…ひどいわ…」

 龍田が真顔で言う。

「でも私は、隊長が遺した言葉、そして残された少年の気もちを原動力に、円盤生物に打ち勝て、そして地球を去った。長くなってしまったが、以上が私の地球での話だ。」

「ありがとうございます、おおとりさん…」

 俺も自然とその話を聞きいっていた。響たちもだった。

「…私と同じような経緯を経た島風という娘を、よければ私の手で助けたい。私のわがままを、無理に聞けとは言わんがな…」

 俺は立ち上がり、自然とおおとりさんに頭を下げていた。

「どうかよろしくお願いします」

 

 こうして、おおとりさんが島風の特訓の指導に当たることとなった。鳳翔にこの事を伝えると、『ふふ、なら私は料理でサポートしますね』と笑顔でかえしてくれた。ありがたい。その手にはどこで手に入れたか、スポーツ栄養学の料理本があったが。

 そして、天龍、龍田もおおとりさんと、島風の特訓に同行することとした。もちろん本人達も大賛成だった。俺達に出来ることならなんでもする、と意気込む天龍に頼もしさを感じた。そして島風も、ほんの少し戸惑いながらも応じてくれた。

「これから…よろしくお願いします」

「うむ、ありがとう。…厳しく行くつもりだ、覚悟してくれ」

「…はい!」

 その時の島風の目はーーー約一割の不安と、残りの九割は、やる気に満ちていたと、おおとりさんが言っていた。

 

 そして翌日。おおとりさんは今朝早くに俺にある島へ、自分を連れていくことと、キャンプ用具などを持って行ってほしいと頼んできた。俺はその要望を聞き、ジオマスケッティにジオアトスを合体させた戦闘機形態のスカイマスケッティで、とある島まで運んだ。特訓の準備らしい。そして、おおとりさんを島でおろすと、彼はこう伝えてくれといった。

「ヒトフタマルマルに鎮守府を出てここに向かうように、と島風、天龍、龍田に伝えてくれ。それから昨日、工作艦の明石という方にある物を作ってもらった。島風には出発前に、工廠にそれを取りに来るようにも頼む。」

「了解しました、おおとりさん」

 そして、ヒトヒトサンマル。工廠を訪れた島風が受け取ったのは…

「おぉ…」

 彼女のサイズに合わせて作られた、新品の道着だった。

「なんか少しやる気が増した気がする…」

「すごいな、よかったじゃねーか!」

「ふふ、似合ってるわよ〜」

 2人にも褒められ結構嬉しい島風。そしておおとりさんが指示したヒトフタマルマルに、3人は見送りの俺と響に敬礼をして、鎮守府を旅立ったーーー

 

 ーーーヒトサンマルマル 某島

「来たか」

「はい!島風、ただいま到着しました。」

「うむ。これからこの島で、お前は泊まり込みで修行を行ってもらう。提督の許しもある。覚悟は出来ているな」

 昨日とは全く異なる、威厳溢れるゲンの目。

「はい!」

 それに物怖じすることなく、島風は声を張り上げ返事をした。

「よかろう。

 では、ついてくるがいい」

 それだけ言うと、ゲンは島に広がる森の中へと入っていった。追う3人。そして…

「到着だ。ここが修行の場だ。」

 森の一部分が開け、土に混じって大岩も転がる地面に、何本もの太い木の幹が地面に立てられている。その上には、1から30までの数字の書かれたフラッグ。そしてーーーゲンは3人の前で駆け出し、そして次々とフラッグの番号通りに、薪を次々と手刀や蹴りで破壊して行った。その動きに一切の無駄がなく、まさに華麗と言う表現が適切なのだろう。その様子に、島風はおろか天龍、龍田までもが絶句した。そしてゲンは、傾斜の1番上へと到達し、島風に言う。

「…今俺がやったことがお前への修行内容だ。この番号通りに、薪を手刀か蹴りで破壊し、最終地点のあの旗まで、三十秒で到達しろ」




というわけでゲンさんと島風が修行を始めるようです。
果てさてどうなるでしょうか…

今回も読んでくれてありがとうございました!
評価感想などなどお待ちしております!
それではまた次回!


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男と少女の誓い

お気に入りが50件突破!
皆さんありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

本編どうぞー!


 はっと気づくと、その薪はどれもボロボロに破壊されていた。ゲンの力に圧巻される島風。

「天龍、龍田。破壊した薪の交換と、連装砲たちの保護を頼む。準備ができ次第始めろ、島風。」

「…連装砲ちゃんたちは、特訓には参加させないのですか?」

 龍田の問にこう答えるゲン。

「そいつらは島風の艤装なのだろう。つまり、使いこなす大本の本人が強くなれば、連装砲の力も自ずと増す。」

「なるほどな…わかった」

 天龍と龍田は、早速今ゲンが破壊した薪を替える。整った。道義の帯を締め直し深呼吸、気合いを入れ直す。

「特訓の前に聞く。島風、お前は強くなって何を成し遂げたい。」

「私は…今までの弱い自分に打ち勝って、この海を、守ります!」

「…うむ。よし、来るがいい。」

「はい!島風、行きます!」

 ゲンの問いに強く答え、島風は走り出した。しかし、全力で走った瞬間、頭の中にかつての悪夢が蘇る。

「…!!」

 一瞬速度が緩む。しかし、その少しの緩みでさえ、ゲンは見逃さない。

「…雑念を入れるな。集中しろ。」

「…は、はい!」

 まだ薪に到達もしないまま叱咤される島風。しかし、彼女は強い気持ちで再びスタートからやり直す。

「あの記憶は消えない…なら、私はそれを超えて強くなる…!あそこのみんなの分まで、頑張れる私になる…!」

 走り出す島風。一本目の薪に全力で手刀を降ろす。…しかし、割れない。止まってしまう島風。

「動きを止めるな!」

「は、はい!」

 島風は何度も何度も挑戦した。まずはゲンのいるところまでと、まず目標を決める。自分に出来る力を全てその体に回し、薪を叩き、ゴールを目指す。そして、薪を壊せなかったにしても、とりあえずゴールまで到達した。しかし。

「…タイム、59秒。まだまだだ。」

「…は、はい…!」

 薪は全部で30本。道のりから考えて、1秒に1つ以上のペースで破壊しないと無理だ。いきなり壁を感じる島風。だが、彼女は挑戦をやめなかった。

「もっと強く!角度をつけて叩き込め!」

「足の動きが鈍くなっているぞ!へばるな!」

「体がぶれすぎだ!余計に動くとかえって遅くなるぞ!」

 島風は何度も何度も檄を飛ばされた。それでも挑戦を続けた。ゲンのそばで見ている天龍、龍田もその様子を見つめる。

「少し動きが良くなってきたか…」

 呟く天龍。しかし、

「確かにそうだが、あの程度では到底、弱い自分を超えるのは無理だ。」

「お、おう…」

 まじかよ、と思う天龍。正直この特訓の厳しさは、大本営時代、自身が先輩艦娘から受けた演習の何倍もの厳しさがあると、2人は痛感した。

「はぁ…はぁ…まだ、行けます!」

「なら来い」

「…はい!」

 

 ーーーフタマルマルマル

「はぁ、はぁ…」

「…今日はここまでにするか」

「は、はい…」

 日が沈み真っ暗になっても、島風は特訓を続けた。しかし、結局タイムも更新出来ず、一本も薪を割れないまま、この時間となってしまった。

 ゲンに連れられ、テントに案内される島風。中に入れと促されるままに入ると、そこには…

「お、島風!お疲れさんだな!」

「さっき鎮守府から空輸便で、寝巻きと今日の夕食が届いたのよ〜。」

 笑顔で迎える、天龍と龍田。プラスチック製の弁当箱には、色とりどりの食材。

「そうですか…ありがとうございます」

「今日は疲れただろう。ゆっくり休め。この島には小さいが、天然の温泉があるから、そこで風呂を済ませるといい。」

「は、はい。」

 ゲンはそう島風に教えて、真っ暗闇の外へと去っていった。

「ほら島風、このタオルでとりあえず手をふけ。鳳翔さんと間宮さんのスポーツ飯弁当、一緒に食べようぜ」

「は、はい」

 天龍に渡されたタオルでふき、3人でご飯を食べる島風。疲れた体にその美味しさが染み渡る。

「美味しい…」

「ふふ、よかったわね〜」

 がっつくようにご飯を食べ、そして岩に囲まれた小さな小さな温泉で傷を癒す。テントに戻ると、今日の疲れが一気に来る。

「ふわぁ…」

「よほど疲れたみたいだな。俺達はここでテントや夕食の準備をしてたから、途中から見られなかったが…どうだったか?」

 小さなランプの灯がテント内を明るく照らす。そんな中天龍は島風に話しかけた。

「…ごめんなさい、タイムも薪も…何一つ出来ませんでした…」

「気にすることはないわ、島風ちゃん」

「龍田さん…」

「ちゃんと成長してたわよ、今日の島風ちゃん。」

「おう、その通りだ。お前にゃ立派な志があるんだ。それを忘れず全力で取り組めば、必ず達成できるぜ」

「天龍さん…お2人とも、ありがとうございます。私、明日も頑張ります」

「おう、その意気だ。じゃあおやすみ」

「おやすみ〜」

「おやすみなさい…」

 

 ーーーその後も、ゲンによる特訓は続いた。必死に頑張る島風だが、なかなか成果が見られない。

「こら!動きを止めるな!」

 ゲンの檄が何回も飛ぶ。必死に体を動かす島風。やる気はあった。でも、なかなか達成できない。2日目も、3日目も、4日目も…

「頑張んなきゃ…頑張ん…なきゃ…」

 5日目。この日も、午前中の特訓では目立った成果が見られなかった。昼食をとり、午後の特訓へと移るが…

「島風!どうした、動きが全く鈍っているぞ!」

「は、はい…」

 もう、返事のハリさえ無くなっていた。そして駆け出す。ジグザグに並んだ薪へ、打撃を加える。壊れない。でも走る。そして、転んでしまった。

「気を緩ませるな!立て島風!」

 しかし…島風は転んだまま立ち上がらない。

「島風…」

 彼女は限界に達していた。目は真っ赤になり、そして涙声で、叫んだ。

「出来っこないっ!」

「…!」

 その言葉を聞いた途端、ゲンの顔がひきつる。

「島風…お前は特訓の最初に、弱い自分に打ち勝って強くなり、海を守りたいと言ったのではないのか…!?」

「言ったよ!でもっ!何度も何度もやってもできないじゃんっ!もう、無理だよ!!気持ちはあるけど、なんもできないよ!」

 その瞬間、ゲンは思い切り地面をダン!と踏み鳴らした。思わず涙でぐちゃぐちゃの顔を上げる島風。

「お前…その気持ちが本当にあるのか」

 低く威厳のある声。顔をあげる島風を見下ろし、ゲンは思い切り言った。

 

「だったら!」

 

「…!」

 

「その顔はなんだその目はなんだ!その涙はなんだ!!」

 あまりの剣幕に言葉が出ない島風。

「お前がやらずに誰がやる!!」

「…」

 

「お前のその涙で!弱い自分に打ち勝てるか!

 

その涙で、あの海が守れるか!!」

 

 その言葉にハッとする島風。そして、特訓を投げ出そうとした自分への恥と怒りを痛感する。

「ごめんなさい…私が、間違っていました…!もう一度、もう一度やってみます…!お願いします!」

「…うむ」

 島風は再びスタートから走り出す。

「えいっ!はぁっ!やぁっ!たぁぁっ!!」

 その様子を近くで見守る、天龍と龍田。

「今の言葉…すごい厳しいことだけど…すごいいいことだったな…」

「そうね〜。昨日実は彼から聞いたんだけど、この言葉は、この前言ってたモロボシさんから、修行への叱咤激励としてかけられたんだって。」

「ほ、ほう…」

 島風のその目は、今までよりもずっと、真剣そのものの目だった。何度転んでも、何度倒れても、不屈の闘志で、彼女は立ち上がった。

「やあっ!!」

 バコッ!!

 その闘志が伝わったのか、薪の1つが、島風の手刀で砕けた。

「…!」

 喜色満面になる島風。しかし、すぐにその顔を引き締め、天龍に薪の交換を頼む。

「もう一回行きます!」

 そう。この特訓の最終目標は、30本の薪を30秒間で走り抜けて砕くことだ。

「はぁぁっ!」

 その動きは、もう、本来の島風の俊敏な動き以上だった。そして、時刻はフタヒトマルロク…本来ならその日の特訓は終わりになっている時間だが、まだ島風は続けていた。そしてついに…

「行きます…!」

 駆け出す島風。勢いよく突き出される手刀、足。次々と破壊される太い薪。スピードも全速力だ。

「やぁっっ!」

 最後の薪を蹴り砕き、ゲンのいるゴールを駆け抜ける。

「タイム…28秒97」

 淡々と告げるゲン。ゴールまで駆けてきたその道には、ゴロゴロと破壊された薪の破片が落ちている。

「…やった…やった…!やったあぁぁぁ!!」

 体全身で喜ぶ島風。ついに目標を超えたのだ。思わず天龍、龍田も心を打たれる。そして、ゲンは島風に駆け寄る。

「…本当によくやった。よく頑張った。」

「はい…!ありがとうございます!」

「うむ。よし、ならば明日は天龍と龍田に洋上での最終訓練を頼もう。今日は頑張った分疲れただろうから、夕食と風呂を済ませてすぐに寝なさい」

「はい!」

 疲れても元気よく、ゲンと共にテントへと行く島風だったーーー

 

 ーーー同時刻 某海域洋上

「ホウ…コンナ所ニイタトハナ…」

 夜空の下、海面に佇む複数の黒い影。その影の一つが不気味に微笑む。

 その視界の遠くにはかすかに、島風が特訓している島が映っていた。

「…明日、鎮守府ト島ノ双方ニ襲撃ヲカケルゾ」

 そう呟き、影たちは海に潜航し、消えたーーー




今回も読んでくれてありがとうございました!

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深海の底から戦艦水鬼が来た!

更新遅れてすみませんm(*_ _)m
提出期限か明日までのレポートをやっていまして…
↑終わったとは言っていない

それでは本編どうぞ。←大事なことなので繰り返すが、終わったとは言っていない。


 ーーー翌日 ヒトヒトサンマル

 島の沖合の洋上にて、島風は天龍と龍田を相手に最後の特訓へと臨んでいた。この日の朝は昨日の疲れなどを考慮し、山中のランニングやストレッチとしたのだ。そして昼近く、彼女は予定通り海の上に駆け出す。ここは海面に出ている岩が多く、それがむしろ特訓には好都合だった。

「準備はいい?島風ちゃん」

「これから、俺と龍田が撃つ模擬弾を避けるんだぞ、島風!」

「はい、天龍さん、龍田さん!お願いします!」

 連続で模擬弾を撃ち出す天龍と龍田。しかし、その全てを、そして岩を島風は次々と避けていく。そして、連装砲ちゃんたちも周りを、これまでと段違いのスピードで駆けていく。

「おおっ!?速えな島風!」

「すごいわ島風ちゃん、成長したじゃな〜い!」

 その言葉に一瞬笑顔の島風。しかし気を引き締め直し、褒めながらも天龍と龍田の撃ち出す弾を避け続ける。そしてその様子を、小船に乗ったゲンが見守っていた。ちなみにこの時、彼の口角が若干緩みかけていたことに、3人は気づかなかった。

 

 ーーーその頃 第35鎮守府

「島風は、今頃どうしてるかな…」

「大丈夫、きっと頑張って特訓していますよ。」

「島風ちゃんが帰って来る前に、ランニングでもした方がいいかもよ、司令官。元気になった彼女なら、きっとかけっこに誘うだろうからね」

「はは、一理あるかもな」

「確か、今日の夕方頃でしたよね…帰って来る予定なのは」

 食堂で、俺は鳳翔、響とともに、早めの昼食をとっていた。昨日夕飯を空輸した、スカイホエールの妖精さんから、おおとりさんの伝言を預かったのである。

『島風の特訓を本日を持って終了し、鎮守府へ帰る』

 小さな紙に達筆に書かれた文字。それを見つつ、俺は希望に胸をふくらませていた。鳳翔、響も同じだ。

「さて、ごちそうさまでした。じゃあ食休みのあと、執務に戻るぞ、響。」

「了解した、司令官。」

 そして、俺と響が食堂のドアを開けようとしたその瞬間、いきなり外側からドアが乱暴に開けられた。

「!?」

「大淀!?どうしたんだ!?」

 そこには、息を切らした大淀。彼女は扉にもたれつつも、緊迫した様子で俺に伝えた。

「提督、大変です!

 本鎮守府に接近する、戦艦ル級2隻、空母ヲ級、軽空母ヌ級、重巡リ級、軽巡ホ級各1隻の敵艦隊を、先程加賀さんの小型ビートルが補足!到達予想時刻は、一時間後ですっ!!」

「なんだって!?」

「司令官…!!」

「ああ…!鳳翔さん、すぐに間宮さんにも連絡、避難誘導を!」

「はい!」

「大淀は工廠に連絡!シルバーシャークGを起動して、敵艦隊の迎撃準備を整えるよう伝えてくれ!」

「了解です!」

「響、これから精神状態の正常な艦娘を、できるだけ集めて迎撃する。招集を頼む!俺はランドマスケッティで迎撃を支援するからな!」

「了解だ、司令官!」

 俺たち4人は、この緊急事態を受け、各々のやるべき事をやるべく走り出した。

 

 ーーーその頃 島付近洋上にて

「あ…あなたは…」

「オヤオヤ、久シブリトイッタトコロカナ、コノ死ニ損ナイノ駆逐艦ヨ。フフフ…」

「…戦艦水鬼…!?なんで!?」

 訓練中の島風は、突如上空からの砲撃を受けた。1つも当たらずに済んだが、とても高い水柱が立ち上る中避けているうちに、天龍と龍田、そしてゲンとはぐれてしまった。そして、水霧が収まった中から、因縁の相手が姿を現した。

 ーーー戦艦水鬼。かつて島風が在籍していた第40鎮守府を全滅に追い込んだ、深海棲艦最強クラスの姿がそこにあった。

「フフフ…アノ鎮守府ハ脆カッタガ、生キ残リヲ残スノハ私ノプライドガ許セナクテナ。マアココデ会エタノモ、ナニカノ縁トイウモノダロウ。ナア?島風ヨ。

 オマエモ私ト会エテ、サゾ嬉シイダロウナ?」

「…!あなたがそんなこと、言ってるんじゃない…!」

「フフ…ナントデモ言エ。タカガ駆逐艦ノ戯言。ソンナコトガイエナイヨウ、今スグニ、オマエヲ冷タイ海ノ底ヘ沈メテヤロウ…!」

 戦艦水鬼はまるで島風を嘲笑するかのように、言葉を、そして砲弾を撃ち出す。

 しかし。

「…沈まない…絶対に!

 あなたを倒すまでは…!!」

 島風は急加速した。そして、打ち込まれる砲弾を、連装砲ちゃんたち共々次々と避ける。

「…!?クッ、コノ忌々シイ、駆逐艦ノ鉄クズメ…!」

「だからって、私を舐めてもらっちゃ、困るの!」

 島風は叫びつつーーー驚いていた。そう。あの薪割りの特訓が、思いのほか自分の身体能力を高めていたのだ。某有名プロ野球選手ではないが、まるでタマが止まっているように、彼女は真面目に感じていた。

 しかし、その驚きと同時に、彼女は楽しささえ感じていた。速く走ること。それは彼女の本性を刺激し、さらなる高みを求める。そして海面を駆け、そしてーーー

「えいっっ!」

 島風は、跳んだ。連装砲ちゃんたちと、海面から跳んだ。あの特訓で、知らず知らずのうちに彼女の身体能力は飛躍的に向上していた。予想外すぎるその光景にあっけに取られ、思わず攻撃を止め、島風を見上げる戦艦水鬼。しかし、それが仇となり、跳んだ連装砲ちゃんたちから砲弾の洗礼を浴びる。

「クッ…!?コザカシイ!!」

 そして一足先に着水した島風は、素早く振り向き、自身の代名詞かつ最大の武器である、五連装酸素魚雷を放つ。五つの魚雷が戦艦水鬼に命中、確実にダメージを与える。

「アァッ!」

「私は沈まない!生きる!

 あなたにやられた皆の分まで、この海を駆ける!」

 着水した連装砲ちゃんたちも島風の周りに集まり、次弾を装填した。しかし、島風は気づく。戦艦水鬼は俯きつつ、不気味に笑っていた。

「フフフ…フフフフフ…」

「…何がおかしいの…?」

「…ナカナカヤルナ。マア、私ヲ攻撃シヨウガ構ワンガ…。今ココデ私ニ攻撃ヲ加エテ、アソコニイルアイツラガ、ドウナッテモイイナラナ…!!」

 そう言って戦艦水鬼は、斜め後方を振り向く。

「え………!?」

 その視線の先には、1隻の空母ヲ級、2隻の重巡リ級、雷巡チ級。それらが囲んでいたのは…

「…天龍さん、龍田さんっ!!」

 天龍と龍田。そして…見た目からして、2人が大破しているのは、目に見えていた。そう、あの襲撃の時、戦艦水鬼は、わざわざ島風を追い詰めるために天龍と龍田を人質にとるという、非道な作戦を実行したのだ。

「フフフ…コレデモ、コノ私ヲ倒スナドト戯言を吐ク気カネ?」

「そ、そんな…!」

「鎮守府へ応援ヲ求メテモ無駄ダ。我々ノ別艦隊ガ、今チョウド鎮守府ヲ襲撃シテイルコロダロウカラナ。」

「…!!」

 

 ーーー同時刻 第35鎮守府

「提督!敵艦隊を補足!来ます!」

「よし!落ち着け、1隻ずつ沈めるぞ!ファントンレールキャノン、発射!」

「シルバーシャークG、発射!」

「全砲門、開けっ!」

「ウラー!」

 遠くに見える敵艦隊。トラックタイプの愛車をジオマスケッティに合体させた、ランドマスケッティをはじめ、俺たちは必死に迎撃していた。

「ウルトラホーク1号、発艦」

「ハマー、発艦!」

「ストライクビートル、発艦!」

「ガッツウイング2号、発艦!」

 空母勢も艦載機で、全力を注いで敵艦隊の進行を妨害する。

「焦るな、頑張れっ!

 くそ、島風たちが心配だな…」

「司令官!敵ル級の砲弾!」

「おうっ!発射!」ーーー

 

 ーーー再び、洋上

「今すぐ2人を放して!卑怯よっ!」

「フフフ…我々ニ卑怯モ、ラッキョウモアルモノカ!」

「くっ…!」

 すると、人質の天龍と龍田が、島風にむかって叫ぶ。

「島風…!俺たちに、うぅっ!構ってんじゃ、ねえよ…!」

「そうよ、島風ちゃん…あぁっ!戦艦水鬼を、倒す、のよ…!」

 傷を抑えながらも必死で自らの真意を伝える2人。しかし、今の島風には、なす術などあるはずもない。

「…サッキマデノ勢イハドウシタ?」

「うぅ…!」

「何モデキンカ。マアソウダロウナア。ナラバコチラ側カラ、行動ヲ始メルトシヨウカ…!」

「やめて!2人を放してっ!」

「アア大丈夫ダ。スグニ私ガ、コイツラヲ楽ニーーー」

「待て」

 その瞬間、周囲に響く男の声。

「ン…!?誰ダ!」

 周囲を見回す。すると、島風のすぐ近くの岩の上に、人影が1つ。

「オマエ…!サッキコノ駆逐艦トイタ…!」

「そんなことはどうでもいい。さっさとあの2人を解放しろ」

「…おおとりさん…!?」

 そう、先程はぐれたはずのおおとりゲンが、そこに立っていたのだ。

「オマエ、サッキノ私ノ砲撃デ沈ンダノデハナカッタノカ!?」

「お前達のような、平和を壊す敵をこの手で叩き伏せるまで、私は死なない。私の使命であり、願いだ。」

 低い声の一つ一つの言葉に、威圧感というか、かなりの力を感じた。

「フフフ…ナニヲ言イ出スカト思へバ。所詮戯言ニスギンナ。」

「おおとりさん、危ないですっ、早く逃げて!」

 島風は叫ぶ。しかし、ゲンは動かない。

「ナラバコノ駆逐艦カラ沈メテヤロウカ!コイツガ沈ムトコロヲ見テオレ!」

「島風!」「島風ちゃんっ!」

 天龍と龍田の叫びも虚しく、戦艦水鬼は島風に向かって砲撃した。

「はっ…!」

 島風の視界がスローモーションになる。自分にまっすぐ飛んでくる砲弾。深海棲艦群に囲まれても、叫ぶ天龍と龍田の姿。そしてーーー自分の目の前に突然現れる、ゲンの姿。

「おおとり…さん…!?」

 刹那、彼女の脳内に、ゲンの思念が直接響く。

 ーーー大丈夫だ、島風ーーー

「え…?」

 ゲンは、島風の目の前で、飛んでくる砲弾に向く。そして、両腕を胸の前でクロスし、右の拳を突き出す。そして続いて左の拳を突き出し、そして強く、咆哮の如く叫ぶ。

 

「レオーーーーー!!!」

 

 その瞬間、彼の左手の獅子をかたどった黄金の指輪が輝き、光が彼の全身を包む。島風は光の眩しさ、そして迫る砲弾に身構えるかのように、とっさに目を瞑ったーーー

 ドカーーン!!

 爆発音が響くーーー遠くの方で。

「…え?」

 脳の思考が追いついてきて、よく考えた。爆風も衝撃波も、何も来ていない。そっと目を開け、前を見る。ゲンのいた自分の目の前には、右腕を思い切り横に突き出した、眩い光に、2m程の1つの人影。

「島風、怪我はないかい?」

 こちらに振り向き、優しく尋ねるその声は、ゲンの声そのものだった。

「おおとり…さん…?」

 しかし、眩い光が収まって、島風の視覚が認識したのは、ゲンの姿ではなかった。

 ーーー銀色の顔に、威厳ある角。

 ーーー黄金の、瞳。

 ーーー額に煌めく、エメラルド。

 ーーー無限の闘志を象徴するかのような、真っ赤な体。

 ーーーそして、胸の中央に、青く灯る光。

「バカナ…!私ノ砲撃ヲ、素手デ弾イタダト…!?」

 動揺する戦艦水鬼。

 そこに立っていたのは、おおとりゲンの正体。

 そう、その名はーーー

「ウルトラマン、レオ…

ウルトラマンレオだ!!」




というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!

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戦うレオ・島風!戦艦水鬼の最後!

更新遅れてすみませんm(*_ _)m。

筆者の住んでるとこ、既に雪がめっちゃ降ってます。
しかも乗ってるバスの中でこんな時に限って鼻血が出るという←な、何もやましいことは考えてないぞ…!

…すみません、本編です。どうぞ。
※ウルトラマンレオは、この話の中では人間大で戦闘します。


 天龍が、大破しながらも、興奮して彼の名を叫んだ。

「ウルトラマンレオ、ダト…!?

 …フン、貴様モ沈メテヤルウッ!」

 そう言って、戦艦水鬼は砲弾を次々と放つ。しかし、レオはそれを見切り、一瞬早く、左腕にはまった腕輪を、傘状の武器、レオブレラに変形させ、高速で回転させ、砲弾を弾く。

「ナッ…!?」

 さらにレオブレラに当たった砲弾は、その不思議な力で、敵目がけて飛んでいく。まるで雨のように降り注ぐ砲弾は、戦艦水鬼に、そして天龍と龍田を囲む深海棲艦のすぐ近くにも落下した。立ち上る水柱。

「はっ…今だ!」

 島風は急加速した。天龍と龍田を囲っていた敵艦隊に、正面から突っ込んだのだ。砲弾による水柱が収まり、深海棲艦たちはあることに気づく。

 天龍と龍田が、いない。辺りを見回すと、なんと島風が、島の砂浜へ、既に2人を運んでいるではないか。

「クソッ、シマッタ…!!」

 砂浜に到着した島風は、2人をそっと降ろす。

「悪ぃな、助けて、もらっちまってよ…」

「ふふ、とても、強くなったのね…」

「2人はここで休んでいてください。私と、おおとりさん…ウルトラマンレオさんで、あいつらを倒してきます!」

「…ふふ、無理はするなよ」

「…ええ、頑張って…!」

「はい!」

 元気よく手を挙げ返事して、島風はレオの元へと向かった。

「天龍と龍田は、大丈夫だったか?」

「はい、大破してますけど、意識もはっきりしていて動けます!」

「ならよかった。ーーーさて」

「レオさん…行きましょう!」

「あぁ島風。行くぞ…!」

「オノレェ、返リ討チニシテヤル…!イケェーッ!」

 戦艦水鬼の指示で、一斉に動き出す深海棲艦たち。

「行くぞ島風!ダァッ、ディャァッ!」

「はい、レオさん!はっ、たぁっ!」

 2人は息を合わせて構えをとる。そして、島風は前へと駆け出し、レオは上空へと飛び上がったーーー

 

 ーーーまず襲いかかったのは、ヲ級の艦載機。爆弾が雨のように降り注ぐが…

「遅いっ!」

 島風はその動きをすべて予測して見切った。海面を次々と跳ね、ジグザグに動く島風。当たらないと判断したのか、艦載機たちはレオを狙い始めた。だが、レオの強靭な肌ーーーレオスキンに、機銃などが通用するはずもない。戦艦水鬼はその様子を見て、援護射撃を実行するが…

「エイヤッ!」

 今度は軽々と、キャッチボールでもするかのようにレオに受け止められてしまった。そして…

「ダアッ!」

 艦載機の編隊が密集する地点に、思い切り投げ返した。次々と爆発に巻き込まれ、墜落していく敵艦載機。レオはヲ級へと狙いを定め、一気に降下して行く。

「ヲッ!ヲヲッ!」

 頭部にあるもう一つの大口から、次々と迎撃艦載機を発艦させるヲ級。しかし、レオはツルク星人との戦いで見せた、流れ斬りの技で次々と叩き落とす。そして、

「ヤァッ!」

 艦載機を発艦させ続けるヲ級の一瞬の隙を狙い、レオは黒色の矢印状の光線ーーーダークシューターを放つ。敵の急所へのピンポイント攻撃、貫通力に秀でたその光線は、ヲ級の要である頭部の艦載機発艦箇所を一撃で貫いた。次々と連鎖爆発が起こり、ヲ級は沈んでいった。

 さらにレオは、島風の動きを封じるべく、リ級が放った砲弾を、ビームランプからのスパーク光線で相殺、リ級を引きつける。

「島風!こいつらは私に任せろ!」

「はいっ、レオさん!」

 その島風は返事をしつつ、戦艦水鬼の前に立ちはだかる2隻の雷巡チ級と戦わんとしていた。雷巡チ級はその最大の武器である、魚雷一斉発射で島風を狙う。圧倒的な魚雷発射能力の差。しかし、強くなった島風にはないも同然だった。

 ジグザグに薪を割ったあの特訓を、不規則に自分に向かってくる魚雷を避ける動きに応用したのだ。さらに島風は、特訓によって、もはや自身の体さえ武器の一つとなっていた。雷巡チ級との距離を詰め、海面を蹴って小さく跳ね、

「ええいっ!」

 チ級の片方に思い切り両足飛び蹴りを決める。一瞬チ級の顔が歪み、海に倒れ込む。そして島風は蹴った反動を利用し、空中で体をひねって体制を整え、思い切りもう片方のチ級に手刀を喰らわす。怯んだ2隻に、傷口を狙って、連装砲ちゃんたちの集中攻撃。一気にトドメを刺した。

 残るは、宿敵の戦艦水鬼。島風は一気に加速し、奴へと向かっていく。

「チッ…案外早カッタナ…!」

 島風を睨みつける戦艦水鬼。しかし、その程度で島風は動揺しない。

「絶対に…ここであなたを倒すっ!」

 真っ直ぐな正義の心に燃え、島風は距離を詰める。

「喰ラエッ!沈メッ!!」

 次々と飛んでくる戦艦水鬼の砲弾。広範囲への連射攻撃。しかし、連装砲ちゃんたちの迎撃もあり、島風には全く当たらない。

「あなたってーーー」

 島風は海面を再び蹴って飛び上がる。そして空中でひねって艤装の向きを調節、垂直角度で海中に五連装酸素魚雷をぶち込む。着水時の隙は連装砲ちゃんたちがカバー。時間差で魚雷が、戦艦水鬼に命中する。

「遅すぎるよっ!」

 さらに島風は戦艦水鬼の周りを、高速でグルグルと回り始めた。そして、様々な位置から魚雷を一つずつ、しかし確実に戦艦水鬼に当てていく。だんだんとダメージが、戦艦水鬼に蓄積していく。

「クソ…イツノマニ…ソコマデ、強ク…!」

 戦艦水鬼のさっきまでの余裕の表情は、もうそこにはなかった。たまらずリ級に救援を求めようとするが…

「ダアッ!」

 今まさにそのリ級の1隻が、ウルトラマンレオのエネルギー光球で爆散した。続けざまにもう1隻も、必殺手刀のハンドスライサーで縦に一刀両断された。

「ナ…!?」

 自分以外すべての艦が沈み、ふと戦艦水鬼は、今の自分の状態に気づく。ーーーもう砲門がほぼ破壊されて使えず、さらに魚雷で推進部を集中攻撃され、もうろくに動けないのだ。いくら最強クラスの深海棲艦で、装甲が硬い戦艦水鬼とは言え、もう詰んでいるようなものとなったのだ。島風はそんな戦艦水鬼の背後に回り込み、連装砲ちゃんたちをその三方へと配置する。

「これが、あなたの最後よ…!

 連装砲ちゃん!レオさん!行っちゃってーっ!!」

「よし!行くぞっ!デヤァッ!!」

 レオは海面に僅かに浮かんだ岩を蹴って、空高く飛び上がった。ウルトラ兄弟一のジャンプ力を誇るレオは、空中で一回転。

「マテ…!ヤ、ヤメロォ…!」

 この地点で直感でやばいと感じた戦艦水鬼。しかし、三方からの連装砲ちゃんたちの攻撃が、自分の動きを封じている。

「トドメよっ!」

 島風は全力で、至近距離から五連装酸素魚雷を海中に叩き込む。これでもう、戦艦水鬼の推進部が完全にオシャカになった。そして、戦艦水鬼が上空を見上げるとそこには、雄叫びをあげ、真っ赤に燃え上がった足を突き出して急降下するウルトラマンレオ。

「エイヤァァァァァァァアアア!!!!」

 そう、これこそがウルトラマンレオ最大最強の必殺技。空高く飛び上がり、そして足先にエネルギーを集中させ、急降下による衝撃を加え相手を蹴る技。空気との摩擦で足先が赤く燃え上がるこの技をまともにくらって、生き延びた者は皆無とまで言われるーーーレオキックだ。

「…アァ…バカナ…!」

 その瞬間、戦艦水鬼の体に思い切り火花が散った。レオキックが戦艦水鬼に命中したのだ。そして、戦艦水鬼は叫び声をあげつつ…

 ドカーーーーーーーーン!!!!

 轟音を立てて大爆発、その身は木っ端微塵に砕け散ったのであったーーー

 

「やった…やったぁー!!!」

 島風は、これ以上ないほどに叫んだ。ウルトラマンレオと力を合わせ、自らの宿敵を倒したのだ。

「よしよし、よく頑張ったな!」

 レオは島風を撫でる。地平線に沈む夕日に、二人の影が照らされていた。

 2人は島へと戻り、天龍と龍田に報告をする。

「島風、ずっと見てた。本当に強くなったな…!」

「私達も助かったわ。借りができちゃったわね。本当にありがとう!」

 3人は思い切り抱き合った。

「俺がもう、提督に救難信号を出してる。今さっき鎮守府襲撃の敵艦隊も壊滅したって聞いたから、すぐにくるとーーーいや、もう来たな。」

 天龍が見上げた空には、ジェット音を響かせ、提督と響が乗ったスカイマスケッティが島へと降下していった。

 

「おおとりさん…、いえ、ウルトラマンレオさん。本当にありがとうございました。」

「ふふ、少しでも力になれたというなら嬉しいな。」

 俺はレオと話をしていた。と、

 ピコピコピコピコ…

 突然、レオの胸の光ーーーカラータイマーが点滅を始めた。

「ふふ、すまん。時間が来てしまったようだ。」

「レオさん?」

 島風はキョトンと首を傾げる。

「私がこの姿で、地球上で活動できる時間は、短く限られているんだ。」

「え…じゃあもう、お別れってこと?」

 すると、レオは島風に近づいて、こう言った。

「君は真っ直ぐな心がある。真っ直ぐな正義の心がある。これからもその心で、この美しい、私の故郷を守ってくれ、島風。」

「…はい!」

 パシッ!

 レオと島風は、強く手を取り合ったのであったーーー

 

「さようなら!ウルトラマンレオーーー!」

「ありがとなー!また来てくれよー!」

「お体にも気をつけてーーー!」

 スカイマスケッティと並列飛行するレオ。3人は、思い思いの言葉で、レオを見送った。やがてレオはこちらに手を振って、空の彼方へと消えたーーー

「さあみんな、鎮守府に戻ろう。みんな待ってるぞ!」

「はい!」

「島風の勝利を祝って、間宮さんと鳳翔さんがご馳走作ってくれてるそうだ!」

「やったー!」

「ハラショー」

「おおー!」

「うふふ!」

 俺はスカイマスケッティの向きを鎮守府へと変え、加速していく。燃え上がる真っ赤な夕日のそばには、一番星が輝いていたーーー




というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!
それとこの場を借りて少しお知らせです。
筆者の通う学校がもうすぐ定期考査のため、これから更新ペースが十二月中盤前までやや遅くなるかもしれません。
何卒ご了承ください。m(*_ _)m

感想や評価などよろしくお願いします!
また次回!


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金剛の章
おもいやり。


筆者テスト勉強の中でなんとかやっております。
今日もテキスト頑張ります!(白目)
↑本当は小説が気になって仕方が無いとは言えない。

あ、それとUAが7,500超えました!嬉しいです!
いつも読んでくれて本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

今回少し短めですが…どうぞ!



 鎮守府に戻り、島風や天龍、龍田を入渠させ、その後はご馳走をみんなと食べることに。

「司令官!ほら、私があーんしてあげるわ!」

「雷ちゃん、すごく積極的なのです…はわゎ…」

「ちょっとー!レディの私が一番にやるつもりだったのにー!」

「…ハラショー」

 やはり、第六駆逐隊は大騒ぎである。でもそれもまたいい。すると、そこへ1人の艦娘がやってきた。

「司令」

「ん?なんだ、比叡。」

 ーーー金剛型戦艦二番艦、比叡。いつも元気で、さらに練度も高い。昼の敵艦隊襲撃の時も、大いに活躍してくれた娘である。そして、今の彼女の手には…お盆、それに乗っているのは大盛りのカレー。

「ふふふ…見てください、比叡カレーです!私、皆さんから今夜はご馳走作るって聞いて、気合、入れて、作ったんです!よかったらどうぞ!」

「おお、ありがとう比叡。頂くよ。」

 比叡からカレーの乗った皿を取る。

「第六駆逐隊のみんなには…ジャーン!比叡カレー、甘口バージョンだよ!」

「ハラショー!」

「いい匂いなのです!」

 俺のよりはやや小さめの皿に盛られたカレーを、続々と受け取る第六駆逐隊の皆。机に持っていく。

「「「「いただきます(なのです)!」」」」

 俺も食べるとしよう。

「いただきます」

 カレーをスプーンで口に運ぶ。ちょっぴり辛いが、それがかえってほかの具材の旨味を引き立てている。

「うん、美味しいな。比叡カレー」

「ありがとうございます!そう言ってもらえて嬉しいです!」

「比叡さん、すぐに食べるから、おかわりをお願い!」

「私も!」

 暁、雷はかきこむようにカレーを口に流し込む。

「大丈夫だよ!まだまだあるから、たくさん食べてね!」

「はーい!」

 以前にもたべたことはあるが、ここの比叡のカレーは、間宮や鳳翔の料理に引けを取らないほどの味がある。他の鎮守府だと、比叡=メシマズ、という方程式が成り立つらしく、特に彼女の作るカレーは『悲影カレー』と揶揄されることもあるというが…

 よそはよそ、うちはうちである。とにかくここの比叡カレーはうまい。そうこうしつつ、夜は更けていき、フタヒトサンマル過ぎにはお開きとなった。

 

 ーーーフタフタマルマル 執務室

 今日は襲撃によって、執務が滞ってしまったので、俺は執務室で書類を整理していた。普段秘書艦の響も、襲撃での疲れなどを考慮して既に早めに寝かせている。

 1人の執務室は、やはり閑散としている。響がいないせいか、書類整理の進むスピードが、いつもよりややゆっくりな気がする。しかも、段々と眠気が来てしまった。やばい。翌日に溜め込むわけにもいかない。と、ふいに執務室の扉がノックされる。

「ん?」

「すみません司令、比叡です」

「珍しいな、どうした?入りなさい」

「はい、失礼します」

 そーっとドアが開き、比叡が入ってきた。その手には、小さなお盆。

「夜間の執務お疲れ様です。あったかいほうじ茶、よかったらいかがですか?」

「ありがとう比叡。疲れていたところだったから、助かったよ。頂こうかな」

「はい、どうぞ。」

 ほうじ茶の温かさが身にしみる。眠気が少し覚めてきた。

「ありがとな比叡。美味しかったよ。

 お前も、今日は遅いからもう休め。」

「…あの、司令」

「どうした?」

 比叡は俺の隣の、普段は響や大淀らが座る椅子へと座った。

「…もし今できたら…、少し、司令と、お話がしたいです。ダメ、ですか…?」

 …自分の要求を言いながらも、相手を最大限配慮した丁寧な言い回し。きっと何か、とても言いたいことがあるのだろう。俺は執務の手をを一旦止めて、比叡の話を聞くことにした。

「ああ。俺でいいなら聞くが…何のことについてだ?」

「ありがとうございます、司令。

 …その、金剛お姉様のことなんですけど…」

 

 金剛。金剛型戦艦のネームシップ・一番艦であり、彼女を含め4人の姉妹の長女である。4人の中で唯一イギリスで建造されたので、帰国子女であり、口調にも独特の点があったりする艦娘だ。

 ここ第35鎮守府にも、彼女は在籍しており、俺も何度か見かけたことはある。だがーーー

 彼女と会話をしていない。というかあっち側からまるで俺という存在を怖がるかのように避けてしまうのだ。

 その旨を、一応比叡に話す。すると、比叡は少し残念そうな顔になった。

「やっぱり…」

「比叡、金剛は一体どうしたんだ?」

「はい、実は…

 …あ、すみません、その…」

 話そうとした比叡が、それをためらっている。

「…比叡?」

「司令、私が今、あなたに話そうとしている金剛お姉様のことは…本当に残酷です。特に、司令にはかなりの苦痛を伴わせてしまうかもわかりません…。」

「…そうか。だが、俺もここの艦娘たちの問題を解決させる上で、いつか知らなければならない時が来る…」

「司令…」

「覚悟はできてるつもりだ。今まで、ここの艦娘の色々な辛い過去を聞いてきた。」

 愛する人を失い、そのショックのあまり左手を自切した明石。尊敬するかつての提督に、ひどい怪我を残してしまったと自責の念に囚われていた加賀。鎮守府の全滅、その全貌をすぐ近くで見続けてしまった島風。どれも想像を絶するほどの辛い過去であったはずだ。もう慣れっこという訳では決してない。ただ、目の前の娘たちを救いたいという一心である。そのことを俺は、比叡に伝えた。

「…司令。わかりました。あなたを信じて、私も話します。その代わり、もし辛くなったらすぐに言ってください。」

「ああ。ありがとな、比叡」

 比叡は、これはお姉様がかつて在籍していた、第11鎮守府であった出来事だと前置きして、話し始めたーーー




というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!

筆者の部活でもついにインフル患者出ました…
みなさんも気をつけてください…←ブーメラン

この章もクロスオーバーさせようか悩む今日この頃…
どうしようかな…

評価や感想、お気に入り登録よろしくお願いします!
また次回!←筆者さん、勉強もしっかりやれよー


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氷河の封印と復讐の煉獄 前編

テスト勉強ですか?明日から本気出します(汗)

すっかり冷えて来ました…
筆者寒いのは苦手中の苦手です…
おまけに今日に限ってカイロと手袋忘れるという…

長くなりました本編どうぞどうぞ。

※今回は金剛さんの過去編で、前後編予定です。
かなり残酷な描写あります。
苦手かもと思ったら、無理せず戻ってください。


 ーーー第11鎮守府

「ふぁ〜…」

 ゆっくりと提督はベッドからその身を起こす。窓から見えるのはあいにくの空模様。しとしとと雨もふっている。

「さて、と…」

 着替えを済まし、彼は寝室から出て執務室へ。机には美味しそうな洋風朝食が並ぶ。そしてその傍らには、

「ヘーイ、テートクー!good morningデース!」

「おはよう、金剛」

 満面の笑みで朝の挨拶を交わす、彼の秘書艦、

「今日も張り切って、愛情たっぷりのbreakfast作りましたヨー!」

「はは、ありがとうな。いただきます」

 提督は金剛自慢の朝食をとる。互いに見合い、笑みをこぼしつつ。

「…ごちそうさま。今日も美味しかったよ」

「Thank youデース!テートク、今日も一緒に、お仕事頑張るネー!」

「ああ、そうだな。…さて、と。」

 提督の表情は、先程の微笑みから一転、暗くなっていた。

「テートク…」

「念のため、な。」

 そう言って提督は、重い腰を上げ、傘をさして外へと出た。向かう先へと、真っ直ぐに。そして彼の目は、いつもと変わらない、異常な光景を目の当たりにした。ふぅ、と大きくため息をつく。

「今日もわざわざ雨の中、遠いここまでご苦労様…と」

 そこには、ビニールの口が開いて中身が散らばった、たくさんのゴミ。ここで出たゴミではなく、ここが処理場を兼ねていたり、収集場所になっているわけでもない。つまりどういうことかというと…

 ここのゴミは、全て近くの街から、そこの住人が置いて行ったものである。不法投棄もいいとこだ、と呟きつつ、提督は今日も、雨の中1人でゴミを処理するのだったーーー

 

 ーーー「ただいま…」

 数十分後、ゴミの処理をたった1人で済ませて手を洗い、執務室へと戻った提督を、金剛が迎える。彼女もまた暗い顔だった。

「あ、テートク、おかえりなさい…今日も、デシタカ?」

「ああ…。たくさん置かれてたよ」

「そうデスカ…いつも私たちのせいで…本当にゴメンナサイ…」

「いや、いつも言っているだろ?気にしないでいいし、これは金剛たちのせいじゃないって。な?」

 そう言って提督は、金剛の頭を撫でる。

「うぅ…」

「…さて、気持ち切り替えて、今日も頑張ろう、な?俺は元気な金剛が一番好きだよ」

「もー、テートクったらー!お上手デース!」

「あはは、ありがとう。じゃあ、始めるか」

 

 ーーー艦娘。それはありし日の艦の魂を持つ少女たちであり、人類を圧倒した深海棲艦の脅威への唯一対抗できる存在。

 しかし。

 一部、ごく一部の人間は、彼女たちに対してあまりいい印象を持っていないのだ。そいつらにとっては、艦娘=得体の知れない兵器人間、らしい。

 大本営が各地に鎮守府を置く時も、そのうちいくつかの建設予定地で、住民の反対運動が起こった。ただ大本営、国家としても、その予定地近くが重要な都市だったり、工業港だったりと、外せない根拠をしめすはっきりとした、少なくとも差別派の人間の理不尽なそれよりはましな理由もあった。大本営の必死の住民への説明会などで、その殆どは要求をのみ、設置を容認した、ただ。

 全てではないのだ。表では一応納得したように見せ、鎮守府が始まった途端に住民たちの嫌がらせなどが連発することが希にあった。

 

 第11鎮守府は、その典型例だった。魚介類の国内水揚げ量の大方を占める漁港が、すぐ近くにあることで建てられたのだが…運営が始まった途端に、住民の陰湿な嫌がらせも始まってしまった。先程のように、天候に関わらず門の高い塀を越えてゴミを投げ入れてきたり、塀に暴言を書きなぐったり。艦娘が外の街へ出れば、店の店主からは「あんたらに売る品などない」と門前払い。さらに、すれ違った人にわざとぶつかられて倒されたり、大声激しく罵られたり…数えだしたらキリがないのだ。

 さらに、ここの街の住民たちの差別の矛先は艦娘に収まらず、設置賛成派だった漁業関係者やその家族、しまいには提督までにも及んでいたーーー

 

 ーーー「お姉様…?」

「oh...ヒエー…」

「大丈夫、ですか?…やはり、司令とのことで?」

「yes…やっぱり最近、テートクの表情がとても暗いデース…私もとても心配デース。

 …って、私たちが原因なのに、おかしい、デスヨネ…」

「そんなことありません!」

 比叡は思わず大声で叫んでいた。

「おかしくないです、お姉様!」

 根拠などない。しかし、比叡は自身が気づいた時には、そう叫んでいたのだ。

「…す、すみませんお姉様、いきなり…」

「No problemネ、ヒエー。大丈夫デスヨ。私たちも、出来ることで、提督を助けて、一緒に少しでも幸せに、過ごしまショウ」

「はい、お姉様…!」ーーー

 

 ーーー意気込む金剛、比叡。やがて、彼女たちには、更なる大切な人ができた。漁業関係者の子供たちである。この街で数少ない、艦娘に友好的な人たちだ。

 時々、鎮守府に招き入れては、提督と一緒に、その子達と一緒に遊んだり、簡単な楽器で音楽を楽しんだり、勉強を教えたりすることもあった。

「金剛おねーちゃん、見てみてー!」

「oh!meたちの絵デスカー!とっても上手デース!」

「比叡おねーちゃん、クッキー焼けたよ!」

「いい匂いだね!また、一緒に作ろうね!」

「提督さん、ここの問題は…」

「ああ、ここは道のりを求めているから、この公式を使って…」

 ちなみにこの時、金剛は比叡に料理のノウハウをありったけ叩き込み、比叡はメシマズ艦を見事に脱却。こうしてお菓子作りをすることも増えた。

 …しかし、そんな幸せな日々も、そう長くは続かなかったーーー

 

 ある日。

 夕方に買い物をすべく、提督が街に行ったきり、なかなか帰ってこない日があった。心配になる金剛。そして、夜遅く…

「遅くなって、すまん…!帰ったぞ…!」

 帰ってきた提督を迎えに、玄関に走る金剛。だが…

「もう、遅いデース!

 おかえりなさい、テート…ク…!?」

「ああ…ただい、ま…金、剛…」

 苦しそうに受け答えする提督は、体中に痣や出血があり、服も何箇所も裂かれていた。そして、彼は、目に涙を浮かべ、同じようにボロボロの、数人の子供を引き連れていた。見覚えがある。そう、漁業関係者の子供だった。

「どうしたんデスカ、テートク!?傷だらけでボロボロデース!それに、その子ハ…!?」

「ああ、実は、な…」

 提督はこう言った。

 ーーー買い物をしようと街まで出掛けた(と言っても何も売ってもらえずまたしても門前払いだった)時の帰り、街中の公園からの子供たちの泣き声を聞いた。近づいたそこには…

「もうやめて!痛いよっ!」

「うるせーなっ!おらっ!」

「うわー!泣いてる泣いてる!すげー無様なんですけど!」

 数人の男女。高校生くらいだろうか。彼らがよってたかって、子供たちに暴行を加えていたのだ。子供たちを助けようとした提督。しかし、提督もまた高校生たちから、「てめぇもそこでくたばってろ」などと暴言を吐かれ、さらに暴行を何度も受けて、こうなってしまったとーーー

「そんな…ひどすぎるデース…!」

「すまねぇな、金剛…」

 提督をぎゅっと抱きしめる金剛。子供たちを迎えに来た漁業関係者たちも、思わず深い怒りや悲しみの色を顕にしていた。

「俺たちの子供に、なんてことを!」

「提督さんも、ごめんなさい…」

 

 彼らが帰って行き、静かになった鎮守府。金剛と比叡は、提督の応急処置をしていた。

「テートク…これで、ひとまず手当ては完了デス…」

「司令、本当に、大丈夫ですか?」

「ああ、ありがとな、金剛に比叡。大丈夫だよ」

「ならいいんデスガ…」

「もしまた痛くなったりしたら、いつでも呼んでください。」

「悪いな、心配かけて。本当にありがとう。今日はもう、寝かせてもらうよ」

「ゆっくり休んで、早く傷を治してクダサイネ…」

「ああ、そうだな。おやすみ、金剛、比叡。」

「おやすみなさい、司令…」

「goodnight…」

 彼女たちに優しく微笑んで、提督は眠りについたーーー

 

 ーーー彼女たちはその時、夢にも思わなかった。おそらく、万が一知っていても、信じたくなかっただろうーーー

 

 この2人が見た笑顔の提督は、

 これが最期だったのだーーー

 




というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!

評価や感想、お気に入り登録などよければお願いします!

ではまた。


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氷河の封印と復讐の煉獄 後編

これを境に当分更新ペースおちます。
ご了承ください。

それと、ネタ不足が深刻なため、この章もクロスオーバーにします。重ねてご了承くださいm(*_ _)m。

本編どうぞ!

※今回もかなり残酷なのでご注意ください。
苦手と感じたら無理せず戻ることをおすすめ。


 翌朝。

 金剛はいつものように、執務机に手作り朝食を用意して、提督の起床を待っていた。昨日の傷が早く治るよう、傷の治りを早めるビタミンCを多く含む、果物までメニューに加えた。比叡も一緒に手伝った。しかし…

「テートク…今日はやけにお寝坊さんデース…」

「ですね…どうしたんでしょう」

 昨日のことで、疲れもあるだろうと思い、少し待つことにした2人。だが、いくら待てども、彼が起きてこない。

「…さすがにまずいですよね、お姉様」

「うー…こうなったら、私のburning loveで、一気にテートクを起こすデース!」

 金剛は、執務室のすぐ隣の、提督私室へ。ドアをバーン、と開ける。

「テートク、起きるデース!」

 …返事がない。

「もう、まだ寝てるんですかー?」

 比叡が布団に近づく。提督は、布団を頭からかぶっていた。

「この比叡!気合い、入れて!起こします…!?」

 比叡の顔が固まった。駆け寄る金剛。

「ヒエー?どうしたデスカ…!?

 テ、テートク!?」

 提督の顔は苦しそうに歪んでいた。そしてそこに顔色が見られない。

「テートク、テートク!!しっかりしてクダサイ!テートク!!テートクー!!」

「司令、起きてください!司令…!!」

 提督はーーー既に冷たくなっていた。

 

 死因は内臓損傷。昨日暴行を受けた際、体表のみならず、体内の臓器までもダメージが及んでいたのだ。そしてその傷は時間差で提督の体を蝕みーーー昨夜の就寝中に、死に至った。

 このことを大本営に連絡すると、本当に驚かれた。大本営が何もしてないように思うかもしれないが、そうではない。実は提督は、住民による嫌がらせを、大本営に全く報告していなかった。机の中の日記には、日々受けた嫌がらせの数々とともに、「自分みたいな未熟者が、上に迷惑をかけるわけにはいかない。ここの艦娘たちは、俺が責任を持って守りたい」などと書かれていた。さらにこの頃はまだ、大本営が発足してからわずか一年足らず。今でこそ当たり前の憲兵制度も、まだまだ整ってはいなかった。

 提督の葬儀は、鎮守府の中でひっそりと行われた。参列したのは、艦娘、大本営の上役、そして漁業関係者とその家族たちだけ。他の街の人々は、誰1人来なかったーーー

 

 ーーー数日後

 大本営はこの自体を重く受け止め、近くの別の街に、第11鎮守府の移転を決定。同時に、差別があることを知っていながら何もしなかった、街の役所や警察署に厳重注意及び処分を行った。艦娘たちは、提督を失った悲しみから、まだ抜け出せずにいた。

「テートク…ぐすっ…なんで…テートク…!」

 提督ラブ勢の筆頭だった金剛は、それが特に顕著にあらわれていた。毎日布団にうずくまって、それを濡らす日々が続いた。

「お姉様…うぅ…」

 金剛ラブで、提督のこともとても尊敬していた比叡も、ひどく落ち込んでいた。

 街中の住民にも鎮守府の移転の噂は広まっていった。中には自らの行動を、遅すぎる反省のもと悔やむ者もいたーーーほんのわずかだったが。皮肉にも、残る大多数は「やっと出ていってくれる」などと喜ぶ者たちだった。

 そんな間も移転の準備は着々と進み、そして移転日を翌日に控えた日ーーー事件は起きた。

 

 その日の夜、街の中はいつもより明るかった。その街で、毎年開かれている祭の日だったからだ。前述のとおり、ここに鎮守府が建てられてまだ一年経っていないため、艦娘たちはその祭を知らない。しかし、彼女たちは感じていた。今年のこの祭は、きっと、今までのどの年よりも盛り上がっているだろう。怒りと皮肉に満ちた負の感情に包まれ、彼女たちは自室にこもって、その窓に映る遠い祭の明かりを恨めしそうに見つめながら、荷物整理をするのだった。

 ーーーただ1人を除いて。

 

 ーーー比叡の部屋

「えーと、あとはこの服と…司令からもらったお守りも、持っていかなきゃ…よし…」

 大方の荷物整理を終え、比叡は金剛の部屋に行き、そこにいるであろう彼女の手伝いをすることにした。同時に、少しでも話を聞いて、大好きな姉を少しでも支えたいと感じていた。

「お姉様?比叡です。」

 ーーー応答なし。ノックを繰り返したり、何度呼びかけたりしても、それは変わらなかった。心配になり、部屋に入る。そこには、既にまとめられた荷物が入ったトランクケースと、その上に置かれた一枚の手紙。乱雑に書かれていたのは、たったの10文字。

『さがさないでください』

「お姉様…!?」

 直感で異変を察知した比叡。仲間たちにもこのことはすぐに知らされ、鎮守府内外の大捜索が行われた。

 

「金剛ー!金剛ー!?」

「どうだ山城、見つかったか?」

「あ、日向…だめ、全然。そっちは?」

「同じくだ。瑞雲をフル稼働させてら鎮守府近辺の空から探しているのだが…どの機体からも、発見の報がない…」

 

「金剛さん!どこでちかー!」

「ダメなのね…見つからないのね。ゴーヤちゃん、あっちを探すのね!」

「ううん、イクちゃん…あっちはさっき、まるゆちゃんたちが探しても、見つからなかったって言ってたでち…」

「そんな…どこにいるのね…?」

 

 そんな中、夜戦が得意でそれゆえに視力のいい軽巡洋艦の川内が、あることに気づいた。

「ねえみんな、あっち見て!なんか祭りの会場が、おかしい…!」

 一同が一斉に川内の指さす方向を見る。遠すぎてよくわからない部分もあるが、さっきより祭りの明かりが、異常なほど大きくなっているのだ。いつも双眼鏡を持っている雪風が、それを通じてそっちを見る。

「大変…!すごい火事だよ!」

「貸して、雪風ちゃん!」

 川内が双眼鏡を雪風からもらい、見つめる。雪風の言っていた大火事の様子が、はっきりと分かる。燃え盛る炎、焼けていく提灯。その時、川内はある光景を見て確信した。

「金剛さん…あそこにいるかもしれない!!」

「え!?」

 川内が見た光景というのは、高く組まれ、太鼓の置かれたやぐらが崩れ落ちる瞬間。しかし、その崩れ方は明らかにおかしかった。

 崩れ落ちる直前のやぐらは、まだ下の方に少し火が燃え移っただけの状態だった。それが次の瞬間、やぐらは火の気の全くなかった中央部から、折れ曲がるように突然崩壊した。それはまるで、その部分を、何かでいきなり撃ち抜かれたようにーーー

 

 ーーー数十分前 祭り会場

 金剛は祭の会場へと来ていた。入口には、数人の男子高校生が、飲み物や唐揚げ棒を持ってたむろしている。そのうちのひとりが、金剛に気づいた。

「…んあ?なんだよあんた」

「おい、こいつ艦娘じゃね?」

 別の男子高校生が気づいた。そこからは、彼らの侮辱発言のオンパレードだった。そして、あるやりとりが、彼女の理性を崩すことになった。

「てかさ、あそこの提督?死んだんでしょ?だからなんか移転すんだっけ」

「あー!そうそう、あいつ弱かったよな、ははっ」

「いやなんかさ、子供かばってボコられてて、なんか本当に笑えたわな!」

「ユーたちが」

 不意に金剛が俯きつつ言う。

「ユーたちが、テートクを…!?」

「ああ、そーだよ。まあそれくらいで死ぬなんてさ、流石に弱すぎて笑えーーー」

 その瞬間、その男子高校生が飛んだ。金剛の拳によって。そしてその体は飛んだ弾道で木にぶつかり、彼は力なく崩れ落ちた。

「おい…なんてこと…すん」

 そう言おうとした高校生の顔面は、次の瞬間歪み、そして倒れた。

「あ…あ…わ、悪かった、す、すま」

「今更謝ったって…!遅いデース!!」

 金剛は一分後に、祭の会場へと足を進めた。入口には、血だらけになった男子高校生たちが、力なく「ぅ…ぁ…」とうめいていた。

 

 ーーー屋台通り

 焼きそば、かき氷、綿あめ…美味しそうな食べ物を売る屋台が…次の瞬間、一瞬で破壊された。

 ズドーン!ズドーン!!

 ドカーン!ドカーーン!!

「みんな…テートクの痛みを!私たちのされたことを!知るデース!」

 艤装を展開し、そしてそれを無差別に撃ち散らす。あちこちで火が上がる。

「わっ!や、屋台が…!」

 何も売ってくれず、いつも門前払いだった、肉屋の主人が営むフランクフルトの屋台のすぐ前に着弾する金剛の砲弾。演習用のものではなく、深海棲艦との戦いで使う実弾である。 そして次の瞬間、砲弾がたくさんの屋台のガスボンベを貫通し…大爆発が起きた。

「た、助けてー!」

「熱いっ!わっ、ふ、服に火がぁっ!」

「何がどうなってるんだーっ!」

 嫌がらせの時の強気な態度はどこへ行ったのやら、住民たちは血相を変えて逃げ惑っていた。

 逃げ惑う中の1人に、いつも会う度に罵倒してきた、八百屋の女店主がいた。炎の中を逃げるうち、金剛に鉢合わせした。

 金剛の視界に映った彼女は、力任せに投げ飛ばされ、そして、地面に叩きつけられた。彼女同様、逃げ惑っていた他の住民も、金剛の視界に入ればその瞬間、片っ端から殴られ、蹴られ、そして火の中に投げ飛ばされる。神輿を木っ端微塵にし、会場一帯を焼け野原にし、そして、やぐらに思い切り主砲を撃ち込んで崩壊させた。

 駆けつけた警察のパトカーや消防のポンプ車なども、着いた瞬間砲弾でオシャカになる。

 祭の会場は、地獄となったーーー

 

 ーーーあの後。

 鎮守府から駆けつけた比叡たちによって、金剛の暴走は止まった。重傷人多数。体中にやけどを負ったり、アザだらけだったり、全身の骨という骨が折られていたり。死者がでなかったのは、ある意味奇跡だろう。

 金剛は謹慎処分となって、大本営の拘置所に入れられた。比叡は金剛に何度も面会をして、懸命に彼女を支え続けた。

 街の住民たちは、今は周りのほかの街から村八分にあっている。自業自得だろう。このことが全国ニュースで放映され、住民たちのしてきた数々の行為が顕になったのだ。大本営の、「艦娘は兵器ではなく、心を持った少女たちだ」という説得もあり、世論は艦娘反対派がかなり少なくなった。

 そして金剛は数ヶ月前に拘置所から釈放され、ここに比叡と共に来たーーー

 

 ーーー「ということです、司令…」

「比叡…」

 俺は比叡を優しく抱きしめた。彼女の肩が、小刻みに震えていた。

「お姉様は、あの1件で…人を愛することが、できなくなってしまったんです」

「そうか…」

 …当然だろう。人というのは、時々その醜の本性をあらわにすることがある。今までの数々の、人間が起こした事件の時もだ。

「よしよし。大丈夫大丈夫…」

 ひた向きに姉を支えてきた比叡。今話したことで、きっと心のダムが決壊してしまったのだろう。

「司令…」

「ん?」

「ごめんなさい、1つわがまま、いいですか?」

「なんだ?」

「その…今日は、一緒に寝てください。」

「ああ、いいよ…えっ!?」

 

「ふふ…あったかいれふ〜…」

 比叡の要望を断るわけにもいかないので、今日は一緒に寝ることになった。夜戦はもちろんしないが…やばい。比叡って提督ラブ勢だったっけ…俺はほとんど眠れなかった。




というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!

ああ勉強手につかないどうしようʬʬʬ
…まあいいか!←死亡フラグ

よければ評価、感想お願いします!
また次回!


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温かみに触れて

更新遅れております、ごめんなさいm(*_ _)m
大変お待たせしました!

それから、評価バーに色がつきました!
とても嬉しいです!本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

本編どうぞーーー!


 ーーー翌朝 第35鎮守府

 起床すると、既に比叡と響が朝食を作ってくれていた。

「おはようございます、司令」

「司令官、おはよう」

「ああ、二人ともおはよう」

 3人で朝食をとる。比叡は響に、昨夜のことをもう説明していた。響も納得してくれたようだ。…食後に彼女からの要望で、数分間頭を撫で続けてからだが。

 今日は、早速金剛の療養を始めるべく、俺は響と比叡とともに、彼女の部屋に行くことにした。

 

 ーーーヒトヒトマルマル 金剛の部屋

「お姉様?比叡です」

「ヒエー…?オーケイ、どうぞ入ってクダサイ」

 内側から開かれるドア。金剛が姿を現す。

「今日はどうしたんデスカ、ヒエー…?」

「いえ、少しお話がしたくて。

 …司令と、響ちゃんも一緒に」

「……」

 黙り込んでしまう金剛。やっぱり、まだ厳しかっただろうか。…と、

「ワカリマシタ…テートクと、響も、通してクダサイ」

 相手側から了承がきた。俺と響は中に入る。

「…失礼するよ、金剛」

「失礼します」

 中の小さなテーブルへと促され、4人でそれを囲む。

「…比叡から話は聞いているよ。…辛かったんだな…」

「…」

 無言で頷く金剛。恐らく、今も人間不信になったままなのだろう。今の彼女の姿は他の鎮守府で見られる、元気な姿とは正反対だった。

「…テートク…ゴメンナサイ…」

「いいよ、謝らなくて。」

 ーーー無言。いざとなると、何を話していいかわからない。と、唐突に響が言った。

「金剛さん、明日僕、間宮さんや司令官と街へ行くんだけど…よかったら、金剛さんも来ませんか?」

「…」

 考え込む金剛。目を固く閉じ、必死に考え込んでいる。過去との葛藤だろうか。

「…無理はしなくていいんだ、けど…」

 俺も金剛に言葉をかける。

「金剛、ここの街の人たちは、みんな金剛たち、艦娘を信頼して、共に助け合って暮らそうとしている。本当に、心からの気持ちでな」

「…知って、イマス。時々、ヒエーから聞きますカラ」

「お前がかつて人間から受けた仕打ちは、許されざるものだ。でも、ここの街の人は、そんなこと絶対にしない。もう一度、人間を信じてみないか…?」

「テー、トク…」

「私からも、お願いします。金剛お姉様…」

 比叡も援護射撃してくれた。

「…ワカリマシタ、皆サン。明日、よろしく、お願いシマス」

 金剛が、迷いの末に出した結論だった。…100%同意したようではなかったがーーー

 

 ーーーさらに翌日 ヒトヒトマルマル

 鎮守府の正面玄関に集まらせたのは、響、間宮、金剛、比叡。俺は彼女たちを、ジオアトスに乗せた。

「じゃあ、出発するぞー」

 アクセルを踏み、車が加速していく。十分ちょいで街の商店街の入口に着いた。駐車場に車を停め、俺たち5人は街へと歩き始める。

 金剛はというと、今日はここまででも終始不安そうだった。当然だろう。後部座席の真ん中に座っていた移動中の時も、両脇の比叡と間宮にずっと支えられていた。

「金剛、無理はしなくていいが…できれば、少しでも商店街の人々と会話してもらいたいっていうのが、俺達の本音なんだ。できそうか?」

「…頑張って、ミマス」

 蚊の鳴くような声で、彼女がそういったのが聞こえたーーー

 

 ーーー商店街

「えーと、まずは青果店ね…」

 間宮が、商店街の中の一つの店に向かっていく。そこは青果店で、カラフルで鮮やかな色の果物や野菜が、店先に並んでいた。

「すみませーん」

「おお間宮さんか!いらっしゃい!」

 八百屋の中から、初老の男性店主が姿を現す。

「今日もとれたての野菜や果物がいっぱいあるから、ゆっくり見ていきなさい。

 …ん?ありゃ、あんたそこの鎮守府の、提督さんかい!?それに綺麗な艦娘のねーちゃんたちたくさん引き連れて!天国だなっ!」

 がっはっはと、大声で笑っている店主。

「こんなにねーちゃんがたくさん来たんなら、なんかサービスしなきゃだなぁ!」

 そう言って、店主は店先のトマトを5つ、小さなザルに載せ、俺達の前に運んできた。

「遠慮なく、食ってくれ!」

「いや御主人、しかし…」

「気前がいいのが男前ってもんよぉ!ほらほら、新鮮なうちにっ!」

 俺達は勧められるがままに、トマトをとる。比叡がまず一番にかぶりついた。

「…おいしい!」

「だろぉ!?喜んでもらえて何よりだぜ!」

「今度カレーにも入れてみよう…!いいとこ見つけちゃったな!」

 俺達もかぶりついた。口に広がる酸味と甘味。その絶妙なバランスに、思わず口角が上がる。

「ほんとだ!これは絶品だな!」

「ハラショー」

 金剛は店主のノリに、若干戸惑いながら、トマトをじっと見つめている。とても複雑な表情だった。

「ほら、金剛さん!あなたも!」

 間宮に促され、俺達と同じように、金剛もトマトを人かじり。

「…oh...!これは、とってもdeliciousネー…!」

 気づけば、金剛はトマトを全て食べ終えていた。5人の中で、一番遅くかぶりついたはずだが…

「おお!あんたいい食いっぷりじゃないか!嬉しいねぇ、また来た時サービスしてやっからな!」

 間宮さんが買い物を終えたので、店主に別れを告げ、青果店を後にした。

「次はお米屋さんね、っと…」

 間宮さんは少し歩き、お米屋さんへと着いた。

「ここも今の時間なら、サービスがあるのよね〜」

 買い出しにいつも行っていることからか、彼女は商店街の情報にやたらと詳しい。すごい。

 お米屋さんの前に来ると、何やら行列が出来ている。そしていい匂いも…

「間宮さん、この匂いって…!」

「ふふ、気づいた、響ちゃん?ここはね、お昼のヒトヒトマルマルからヒトサンマルマルまでの限定で、格安の軽食をとることが出来るの!」

「へえー!すごいですね!」

「俺も初耳だなぁ…」

 行列に並び、やがて自分たちの番となる。店奥のスペースへと案内される。

「私も最近知ってね。それで、たまに使うの。おすすめは米粉パンサンドイッチのセットかな〜」

「なるほど…」

 そうだ、金剛は…というと、彼女は先程の暗い表情が、少し和らいでいる。ただ、やはり落ち着けはできないらしく、少し戸惑うように周囲を見回している。

「あ、来たみたいだ」

 頼んだサンドイッチセットを運んでくる、若い男女。夫婦だろうか。と、男の方が聞いてきた。

「ごゆっくりどうぞ。そうだ、あなた方は、艦娘の方達ですか?」

「は、はい。そうですけど」

 唐突の問に比叡が答える。すると、今度は女性のほうが、

「やっぱり!」

 と言うといきなり、2人は揃って深々と頭を下げてきた。

「「いつも、ありがとうございます!!」」

 人目を気にせずに。

「え、いや、あの…」

 戸惑う俺達に、男性が話す。

「私の兄が輸送船の船長なのですが、この間そちらの艦娘に助けてもらったと言っていたのです。本当に感謝しております。」

「私たちがこうやってお店をやっていられるのも、あなた方のおかげです!なんと言ったらいいか…」

 2人から、心からの感謝の言葉を、他にもたくさん並べられた。さらに、代金を少し割引してくれたりと、至れり尽くせりだった。サンドイッチも美味しかったし。

「司令官、なんだか嬉しくなっちゃうね。」

「ああ。これからもそれに応えられるよう、頑張らなければな。」

「私も食事で、それを支えますね」

 俺はみんなと話しつつ、商店街のほかの店も廻った。どこも親切に、温かく接してくれた。金剛も、だんだんと笑顔を見せる回数が増えてきたが、やはり戸惑いも同様に見せていたーーー

 

 ーーーヒトヨンサンマル

 俺達はすべての買い物を終えて、商店街入口の駐車場へと来ていた。俺はみんなに言う。

「さて、じゃあ車に荷物のせて。これからもうひとつの目的地行くから」

「了解、司令官」

 納得する響。間宮も頷く。ただ、比叡と金剛はこのことを話してないため、キョトンとしている。

「…anotherの目的地?テートク、それは、どこですか…?」

「ああ、車の点検だよ。」

「司令、でしたら明石さんや夕張さんに頼めば…」

 比叡のごもっともな問い。

「うーん、いつもならそれがいいんだけど…」

 俺はジオアトスのフロントガラスの上部をさして言った。

「…こいつもうすぐ、車検なんだよね」

 

 ーーーヒトヨンゴマル

「さてと、もうすぐだよ」

 町外れに進んで数分、やがて車の窓から、目的地である海のそばのある建物が見える。

「大本営からここへの異動通知が来てから、車検受ける所探すのに苦労したんだ。んで、なんとかここを見つけてな、そしたら、俺の祖父とここの店主が結構面識あったんだよ」

「そうなんデスカ…」

 つぶやく金剛に、俺は言う。

「それから金剛、ここに今日いる人に、是非お前を会わせたい。」

「え…?」

 再びキョトンとする金剛。

「誰、デスカ…?」

 俺は静かにその人の名を答える。

「郷秀樹さん、っていうんだけどね…

 よし、着いた」

 車を止めたそこの店の看板には、

『坂田自動車修理工場』

 の文字があったーーー




今回も読んでくれてありがとうございました!
評価、感想、お気に入り登録などよろしくお願いします!

次の更新がいつになるかわかりませんが、
よろしくお願いします。m(*_ _)m

それではまた次回!


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彼は何を語るのか

どうもお待たせ致しました。
テストは半分終わりました。
成績あかん予感…\(^o^)/

本編どうぞでございます。


 ーーー坂田自動車修理工場 近くの堤防

 堤防の上に腰を下ろし、足を投げ出すように座っている、2つの影。

 1人は、艦娘の金剛。

 もう1人は、がっしりとした大柄の体型で、茶色のジャケットを着用している、初老の男性。

 彼ーーー郷秀樹は、金剛に語りかける。

「提督さんから聞いた話だと…前にいた鎮守府のあった街の住民たちに、酷い仕打ちをされたそうだな」

「ハイ…そう、デス」

 …さて、なぜこの2人がここで話すことになったのか。十数分前に遡る。

 

 ーーー十数分前 坂田自動車修理工場

 工場を経営する2人の男性によって、ジオアトスが作業スペースへと誘導される。俺は指定されたところに停め、車を降りて2人に挨拶をする。

「こんにちは、坂田二郎さん、敬三さん」

「おお、君が提督さんか。君のお祖父さんには随分と世話になったからね、今日は恩返しのつもりでやらせてもらうよ」

 若々しい笑顔で微笑む、ここの工場長の二郎さん。

「はじめまして提督さん、坂田敬三と言います。妻と父とこの工場をやってます。よろしくお願いします。」

 四十代くらいだろうが、かなりのイケメンの男性、坂田敬三さん。

「妻と郷さんが、こちらの休憩スペースにて待ってますので」

 そう言って、敬三さんがそこへ連れて行ってくれた。扉を開けると、テーブルに既に人数分のほうじ茶が用意されていた。その脇に立つ、敬三さんと同年代のような女性と、あと1人の男性。

「はじめまして、敬三の妻の詩織と申します。ゆっくりしていってくださいね。」

 ぺこりと頭を下げる詩織。そしてもう1人の男性が、前に出て言った。

「皆さんどうも、ここの工場を時々手伝っている、郷秀樹です」

「こんにちは、はじめまして。よろしくお願いします。」

 俺は2人と握手を交わした。しばらくテーブルで、合計7人で、今の状況(もちろん機密情報に触れない範囲)を話したりした。そして、話がひと段落したところで、

「さてそうだ、金剛さん」

 郷が立ち上がった。

「君のことは、提督さんからも聞いている。少し、話をしたい」

「は、ハイ…」

 そしてーーー

 

 ーーー今に至る。

「私も、酷い仕打ちをした街の人や、それがあったはいえ、その人たちを傷付けたことで…人間を愛することが、できなくなってしまったのデス…」

 俯き語る金剛。郷は彼女を見つめた後、海を向き、呟くように言った。

「私も、君のその気持ちはわかる。」

「…郷、サン…無理に同情しなくて、いいんデスヨ?」

「いや、本心だよ。私もかつて、地球を守っていたからな。地球人として、そして…」

 郷は金剛に、自らの正体を告げる。

「M78星雲からから来た、ウルトラマンジャックとして」

「ウルトラ…マン…!?」

 金剛が目を見開き、郷を見つめる。

「私は地球に初めて来て、そして、怪獣によって倒壊するビルから、自分の命を犠牲にしてまで子供と子犬を守った、郷秀樹という青年に出会った。彼の勇気に感銘を受けた私は、彼と一体化し、怪獣攻撃チームMATのメンバーとして、ウルトラマンとして、この地球を守ることを決意した。」

「そうだったの、デスカ…。」

「ああ。地球を守る上で、私は地球人の色々な面を見てきた。そして、地球人は決して完璧ではなく、醜い本性もあることも、その時に知ったのさ」

 地球人の醜い本性。その言葉が、金剛の苦い記憶を思い起こさせる。

「メイツ星人事件。君は知っているかな」

 ふいに郷が言った。首を横に振る金剛。それを見た郷は語る。

「私が地球を守ることについて、一番考えさせられた事件だ。

 とある宇宙人が、調査のため地球を訪れた。彼は怪獣さえ封印するほどの力を持っていたが、大気汚染によって故郷の星に帰る力を失い、地球人の孤独な少年と、金山と名乗り、地球人の姿で2人で暮らしていた。彼はとても優しく、地球を侵略する気など全くをもってなかった。しかし、周囲の住民たちは彼らを気味悪がり、いつもいじめたりしていたのだ…」

 自分の経験と当たらずとも遠からずな、彼の語る事件の概要。金剛は、既に彼の話に釘付けになっていた。

「そして、そんなある日だった。いきなり警官や住民たちが、隠れるように暮らしていた彼らの小屋に、大挙したのだ。私は住民たちの説得を試みたが、彼らは誰1人聞く耳を持たなかった。そして…警官の拳銃弾が、金山さんを撃ち抜いてしまった。彼らのその時の顔は、狂気に満ちていた」

「…!」

 あまりの衝撃に、思わず口が開く金剛。

「しかし、金山さんが死んだことによって、彼がかけた封印が解かれ、封じられていた怪獣ーーー巨大魚怪獣ムルチが復活し、暴れ始めた。住民たちは血相を変えて逃げたが、うちの数人は、あろうことか、私にこういったのだ。

『MAT、早く怪獣を倒してくれ』と。

 その時は本当に、地球人を見捨てたくなった。こんな彼らのためになど、MATとして、そしてウルトラマンとしても戦いたくなくなった。」

「…!…それで、郷さんは、どうしたんデスカ…!?」

「結局、怪獣と戦ったよ。金山さんが死に、怪獣が倒れた後も、金山さんの乗ってきた円盤を掘り起こそうと、地面を掘り返す少年の姿がとても印象に残っている。」

「そんなコトガ…」

「その時のMAT隊長が、この事件の時こう言っていた。『日本人は美しい花を作る手を持ちながら、一旦その手に刃を持つと、どれだけ残虐窮まりない行為をする事か…』と。

 しかし人間たちは、その住民たちのような行為をする者もいるが、とても美しい心も持っていることだって、私は地球を守る上で知ったのさ。」

「人間の…美しい…心?」

「ああ。互いに支えあったり、共に分かり合えたり…私はこの地球での経験で、こう思った。

『人間を守るためには人間を知らなければならない。

 人間の強さも、弱さも。

 美しさも、醜さも。』

 私は、常に人間たちの美しいところを、心に刻んでいた。だからこそ、最後まで地球のために、人間のために戦うことができたと思っている。」

 そう自身の経験を締めて、郷は金剛へ言った。

「…!」

 金剛は改めて郷を見つめた。その顔は、なんと言ったらいいか、しかし、様々な人間を見てきた貫禄のある表情だった。

「金剛よ」

「…はい、郷サン」

「君が過去に人間から受けた仕打ちは、許されざるものだ。だがしかし、そういうことをする者以上に、美しい心を持つ人々が、この星にはいる。この街の住民たちは、皆とても温かく、思いやりのある人物だ。拙い話だったが、金剛、君のこれからを考えるとき、このことは覚えていてほしい。」

「…ハイ…!」

 彼女の顔には、少しの希望が見えるようになっていた。そしてーーー

 

 ーーー数日後。

 商店街を歩く、二人の艦娘。

「お姉様、ここですか?」

「yes、ヒエー。最近紅茶だけでなく、緑茶にもハマってきたノ。それで茶葉を探しているうち、このいいお店を見つけたノデス」

 彼女は、提督や響に勧められ、商店街で精神リハビリをしている。まだ決断できない、という旨を郷との話の翌日、提督に伝えると、彼はこう言った。

「ゆっくり決めればいい。そうだ、積極的に街に出てみればどうだ?」

 それによって、だんだんと、彼女の本来の明るい性格が戻ってきた。その日の街であったことを、提督に報告することも多くなった。

 

「今日は、魚屋さんで安売りデシタヨ。寒ブリ買って来たデース」

「おお、よかったな。」

「…でも」

「どうした、金剛」

「やっぱり、どうしても、過去のことが頭に浮かんでしまうデース…」

「それはしょうがないことだよ。金剛が受けた心の傷は本当に深いだろうし…ゆっくりでいいからな、焦ることは無いさ」

「テートク…」

 すると金剛は、俺に歩み寄り、そして…

「…心から、youをburning-loveできるように、頑張りマス」

 と、抱きしめつつ言った。

「金剛…!?」

 金剛は少しの間俺を抱きしめた。やがて離れると、付け加えるように言った。

「ソウソウ、明日ハ地元ノ小学生たちと、山に遠足に行ってくるデス」

「そ、そうなのか…!?」

「yes。大丈夫、相手側と大淀に許可は取ってマース。ヒエーも一緒に行くことになってるネー。」

「そっか。わかった、気をつけて行ってくるんだぞ。」

 そして、金剛は礼をして執務室を出ていった。その時の顔は、少し微笑んでいた。

「ふぅ…さて、今日の書類も終わったしっと。最近は療養できた娘も増えて、出撃や遠征も増えたからなぁ…明日も頑張っていかんと…ん?」

 俺は服をクイクイと引っ張る響に気づく。

「…響?どうした?」

「だっこ。」

「え」

「僕にもだっこして。」

 …普段クールな響が、甘えてきた。金剛のさっきのやつか…?

「…よし、わかった。」

 俺は響を膝の上に乗せ、抱いた。その時の響の顔は、ご満悦そのものだった。まあその後、添い寝もせがまれたのは別の話…なのか?

 

 ーーー翌日。

「それじゃテートク、行ってくるネー」

「比叡、気合い、入れて!楽しんできます!」

「おう、気をつけてな」

「ハラショー」

 俺と響に見送られ、鎮守府の門を出て、2人は集合場所に向かっていった。

 

 ーーー数時間後

「そうですか、今日で郷さんはまた帰ってしまうのですか…」

「はは、また来るさ。それまで頼むな、二郎、敬三」

「任せてください、郷さん。」

「ふふ、頼もしいな。じゃあ、今日の夕方まで、ゆっくりーーー」

 その時だった。突然、建物がグラグラと揺れ始めたのだ。

「やだ、地震!?」

 叫ぶ詩織。耐震構造の店は全く問題ないが、外もかなり揺れている。

「郷さん、大丈夫ですか!?」

「敬三、大丈夫だ。」

「ど、どこが震源なんだ…」

「いや、これはただの地震ではない…」

 郷はこの時、確かに聞こえていた。

 揺れる音の中に、地を揺るがすような、荒い咆哮がーーー




よければ評価、感想よろしくお願いします。m(*_ _)m
というわけで読んでくれてありがとうございました!

次もお楽しみに!ではまた!


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怪獣復活!?

お待たせ致しましたm(*_ _)m
テストの結果…\(^o^)/

…もう少ししっかり勉強しよ…←執筆はもちろんやめませんよ!

本編どうぞ。


 ーーー第35鎮守府

 俺は響と大淀とで、現在の戦況についての書類を整理していた。と、いきなり、突き上げるような揺れの地震が襲いかかる。

「わっ!?」

「きゃあっ!」

「はっ!?」

 揺れが大きい。しかし、それは普通の地震とはどこかが違った。初期微動なしにいきなり大きく来て、そして遠くーーーちょうど山の方角から、何かの咆哮が聞こえてくる。

「な…なんでしょう…!?」

「司令官…!」

「ああ…!嫌な予感がする…

 大淀、近くの山で、近い過去に火山などの活動があったものはあるか…!?」

「はい…!?」

「いいから!」

「は、はい!…そうだ、確かこの鎮守府と街を囲む山地の山の一つが、提督がここに着任される前にごく小規模な火山活動を…」

「まじか…大淀、その山の方に、今鎮守府近海を警備しているマットジャイロを、すぐに向かわせてくれ!」

「了解!」

 マットジャイロに通信を入れる大淀。響が心配そうに、俺の腕を掴んでくる。

「司令官…これって…!」

「ああ…!最悪の事態が発生した可能性が極めて高い…!」

 

 そして数分後。大淀が、先程向かわせたマットジャイロからの通信をキャッチした。

「はい、こちら第35鎮守府…えっ…!?

 提督、マットジャイロから入電、例の山間に体長60mほどの巨大怪獣を確認したと!!」

「すぐに写真を!」

「はい!」

 程なくして、部屋のモニターにその怪獣の姿が映し出される。

「まさか…そんな…!」

「し、司令官、こいつは!?」

「見覚えがあるやつだ、ちょっと待ってろ!」

 俺は響の問に、祖父の遺したデータブックから答えをさがす。確か、ここのだったはず…!俺は、MATのファイルを片っ端から調べ始めた。

「えっと、えっと…あった!こいつだ!」

 俺は机の上にページを広げる。そしてそこには、モニターと同じ怪獣の写真があった。

「これって…!モニターに映ってたのと同じ…!」

「そうだ、間違いない!凶暴怪獣アーストロンだ…!!

 大淀、やつの進行方向は!?」

「それが、山から街の方へと向かい始めました!」

「大変だよ司令官…!こいつが街に着いたら…!」

「いや、その前もにやばいことがある!

 街の小学生たちが、やつの進行ルート上の山に遠足に行ってる!金剛と比叡もだ!!」

「そんな!!」

「提督、どうします!?」

「とにかくやつを食い止める!幸い、小学生たちのいる所と、怪獣の出現地はやや距離がある。大淀は大本営経由で空軍に通達、攻撃隊を要請!響は鎮守府の全員にこの事態を伝えてくれ!街への防衛ライン突破時から攻撃する旨も同時に頼む!俺はスカイマスケッティで、空軍とともに上空からやつを足止めする!」

「わかった!」

「了解です!」

 俺は出撃のためにジオアトスなどの駐車場へ、響は艦娘寮へ走り、そして大淀は通信を大本営へと送るのだったーーー

 

 ーーー同時刻 山中

 怪獣出現に、泣き声や叫び声が飛び交う中、金剛と比叡は、小学生達を誘導しつつ、必死に避難していた。

「みんな、とにかく速く逃げるネー!」

「ひ、ひえぇぇぇーーー!」

 少し開けた、舗装された山中の道路にでる。すると、まだ距離があるものの、怪獣ーーーアーストロンの姿が見えた。と、金剛の通信機が鳴る。提督からだった。

「金剛、大丈夫か!?」

「こっちは大丈夫デース!今、ヒエーと子供たちと、避難してマース!怪獣とも距離がそれなりにあるデース!」

「わかった!今から、空軍と俺とで怪獣を空から食い止めるから、その間に逃げてくれ!」

「Roger!」

 そう言って通信を切る金剛。子供たちの泣き声が増し、引率の教師もほぼパニック。しかし、なんとか緊急事態に対し、艦娘である2人は上手く避難を手伝っていた。特に金剛は、街での精神リハビリ中に子供たちとも交流していたので、彼らを守りたいという気持ちが人一倍強かった。

「きっと大丈夫デース、とにかく先生、もう少しで空軍が到着するみたいデスカラ、山の麓の広場で点呼をするデース!」

「は、はい!」

 なんとか怪獣と距離をおきつつ、金剛と比叡、そして小学生に教師たちは広場に着いた。各クラス、一斉に行われる点呼。…が。

「大変です!二年二組の児童、2人の消息が掴めません!」

「なんだって!?」

 そのやりとりを聞いた金剛、比叡は、すぐに飛んでいく。パニックとなり泣きじゃくる、二年二組の担任の女教師。周りに集まっている他の教師たちが対策を考えている。その時、金剛は反射的にその中へ飛び込んだ。

「行方不明になった子は、私達がrescueシマース!」

「金剛さん!?」

 更に比叡も加わる。

「私も行きます!」

「比叡さん!?し、しかし2人とも、怪獣が迫っているんですよ!?これから対策を考えますし、もう少しで空軍も来るので…」

「そんなこと言ってる場合じゃないデース!とにかく先生の皆さんは、今ここにいる子を連れて、安全な場所にescapeするデース!ヒエー、行きますヨ!」

「はい!お姉様!!」

 2人はつい先程までいた山に、子供たちを探すために戻って行った。しかし、彼女達は、そのことを提督に通信することも頭の中になかったーーー

 

 ーーーその頃街の方は、艦娘たちが必死に、住民の避難誘導をしていた。

「こっちです!落ち着いて避難して下さい!」

「慌てるな!あ、おい!大丈夫か!?」

 

更に。

「目標を確認!」

 近くの基地から、空軍が到着した。

「全機攻撃開始!ミサイル発射!!」

 次々と、合計5機の戦闘機からミサイルが放たれ、アーストロンへと命中していく。が…

「なん…だと…!?」

「ミサイルが…、全く効いていない!?」

 そう、元々アーストロンは高圧の地底に生息している。その圧力に耐えるため、必然的に体は装甲をまとったような硬さになるのだ。

「くそっ、怯むな!旋回して再攻撃だっ!」

 1度アーストロンから距離をおく戦闘機。ところがその瞬間、反撃と言わんばかりに、アーストロンの口から、超高熱のマグマ光線が発射され、戦闘機に被弾してしまった。

「ぐわっ!こちら5番機、メインエンジン損傷!」

「4号機も同じく被弾!操縦不能!」

「無理をするな!脱出しろ!」

「了解…!」

「あぁ…チキショー…!」

 その後も、アーストロンは戦闘機のミサイルをものともせず、逆にそれらを全て撃ち落としつつ、街の方へと侵攻していった。そしてそれに伴い、金剛と比叡が向かった山との距離も、だんだんと縮まっていたーーー

 

 ーーー避難所

「さあ、着きましたよ!」

「本当に、本当にありがとうございます…!」

「お礼なんていいです、さぁ!」

 俺は本来、アーストロンを攻撃するつもりだった。だが、進行ルート上の山、その頂上付近に要救助者がいるのを発見し、それで、救助を優先し、スカイマスケッティで要救助者を避難所に運んでいた。彼らを避難所担当の艦娘ーーー響と暁に引き渡す。

「わかったわ、こっちよ!もう大丈夫だから!」

 暁が必死に励ましつつ、救助者を避難所の中へ連れていく。こうして見ると、彼女もまた、一人前のレディーに近づいたということだろう。

「ありがとう司令官、ここは僕達に任せて、怪獣攻撃に戻ってくれ」

「すまん響、ありがとう。ここを頼む。」

 俺は再び、ジオアトスの方へ行こうとしたその時。響の通信機が鳴った。応答する響。しかし、応対するうちに、その顔がみるみるうちに、焦りと不安の表情へと変わっていく。

「どうしたんだ、響!?」

「司令官、大変だ…!

 いま、山の方の街の入口担当の電から連絡が来て、小学生の一行が街に入ったんだけど…金剛さんと比叡さんが、逃げ遅れた児童の救助のために、山に戻ったって…!!」

「なっ…!?」




今回も読んでくれてありがとうございますm(*_ _)m

感想や評価、お気に入りなどよろしくお願いします!
また次回!


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人と艦娘と光と希望 前編

寒いです。とにかく寒いです…:(´◦ω◦`):

こたつのある家が羨ましい今日この頃。

本編どうぞ。


 ーーー山中

 金剛と比叡は、行方不明になった児童2人を、必死に捜索していた。もちろん範囲など限られているが、怪獣がだんだんと迫っていることを考えると、余裕など全くない。

「ヒエー、この山道は違うみたいデース、こっちを探すデース!」

「はい、お姉様!」

 見落としに気をつけつつ、山中を走り回る2人。次第に聞こえる咆哮が大きくなり、更に怪獣の地響きもより感じる。と、

「…!お姉様!」

 比叡が指さす先には、大木の根本に、縮こまり身を寄せ合っている2人の女の子。頭には、街の小学校の帽子をかぶっている。

「間違いないネー!」

 探している児童だった。急いで駆け寄る。

「2人とも、大丈夫デスカ!?」

「金剛お姉ちゃん…比叡お姉ちゃん…!」

「うわあああぁぁぁ!」

 涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、思い切り金剛と比叡に抱きつく2人。よしよし、と抱き返す金剛と比叡。

「2人とも、怪我はないデスカー!?」

「ううん」

 1人がいい、膝を指さす。もう1人は手のひらをパッと見せる。

「逃げてる途中ではぐれちゃって…その後、転んで擦りむいちゃったの…でも、お互い持ってるバンダナや絆創膏で、ちゃんと治したの…」

 そう言う2人は…泣きながら、引き攣りながらも、金剛と比叡に笑顔を見せていた。そしてその時、金剛は気づいた。あの時、郷が言っていた、人間の美しさというものに。

『この2人は…こんな緊急事態でも、お互いを助け合って、そして私達を安心させるために、笑顔を見せている…商店街の街の人も、とても優しかったし、さっきパニックになってた先生のことも、周りの他の先生が支えてイマシタ…

 共に助け合い、共に分かり合える…これが郷さんの言っていた、人間の美しさなのネ…』

 思わずしみじみとなる金剛。

「…様!お姉様!」

 比叡の言葉でハッとする。

「ぼーっとしてる場合じゃないです、とにかく、怪獣に気づかれないうちに、逃げましょう!」

「そ、そうネー、比叡!さあ、2人ともしっかりつかまるデース!」

 金剛は両腕に2人を抱え、そして比叡が念のため艤装を展開しながら護衛のポジションにつく。

「さあ、駆け降りるネー!」

 

 ーーーその頃

 俺は小学校教師から、詳しく事情を聞いた。何度も頭を下げる教師をなだめ、落ち着かせる。

「とにかく、空から下手に探すより、地上からいった方がむしろ安全だな…ジオアトスで行ってくる。響、やつが防衛ラインを越え次第、全員で攻撃を頼む。」

「了解!」

 俺はジオアトスに乗り込み、山へとアクセルを踏んだーーー

 

 ーーーそして。

 山道を通り、後は舗装された道路をひたすら街へと下るだけになった金剛たち。ところが。

「さあお姉様、こっ…ひえええええええ!」

 もう既にアーストロンが目前にまで迫っていた。気づかれないうちに逃げたかったが、これでは隠密行動もステルスもへったくりもない。

「とにかく、早く逃げるネー!」

 道路を駆け抜ける金剛。が、アーストロンは彼女に向けてマグマ光線を次々と放ってくる。泣き叫ぶ子供たち。

「邪魔するのは、許しません!」

 比叡がアーストロンに、反撃の砲弾をくらわす。強力なその一撃に、さすがのアーストロンも怯む。だが、それで余計に腹を立てたのか、アーストロンは山の頂上付近を、自慢の怪力で思い切りえぐりとる。大きな岩や木も飛び、金剛たちのすぐ近くに落ちていく。

「大丈夫、きっと大丈夫デース!」

 喚く子供を必死に励ましつつ、金剛は走る。もう、彼女の心は1つ。この子達を、絶対に守り抜くという強い気持ちだった。がーーー

「ギャアオオオォォォォ!!」

 アーストロンの咆哮と共に、再びえぐり取られた大岩が、爆撃のごとく降ってくる。そしてーーー

「きゃあっ!」

 ちょうど道幅を塞げるほどの大岩が、回避行動のため距離が開いた、金剛と比叡の間に落ちてしまった。

「痛たた…ハッ!お姉様!?」

 比叡の目の前の光景は、ただ大岩が道を塞いでいることだけ。金剛の姿が見えない。

「お姉様!?無事ですか!?」

「私なら大丈夫ネー!」

 金剛の大声が聞こえてきた。

「早く逃げるデース!怪獣が、もう目の前まで迫っているデース!」

「えっ」

 比叡が見上げると、もうアーストロンが、金剛の言う通り目の前にいた。ただその目線は、比叡ではなくーーー岩の向こうの金剛たちに向けられている。

「お姉様!?」

 金剛は、迫るアーストロンにどう生き延びようかと、そしてどう子供たちを助けようかと考えていた。

『とにかく、道は塞がれてイマス…でも、脇から回り込めバ…!』

 既に恐怖のあまり声が出ていない子供たちを抱え、金剛はアーストロンに砲撃する。怯むアーストロン。今だ、とダッシュをかけるが。

 アーストロンが砲撃によって暴れてしまい、その影響で地面が揺れる。至近距離なのでそれはかなり大きいものーーー少なくとも、金剛のバランスを崩すのには充分すぎた。

「アゥッ!」

 転ぶ金剛。見上げると、そこには怒りの形相のアーストロン。その片手を大きく振り上げていた。

 叫ぶ子供たち。

 岩の向こうから聞こえる、比叡の声。

 スローモーションとなった視界には、振り上げた手を思い切り自分たちに振り下ろすアーストロン。

 金剛は、反射的にそれに背を向け、子供たちを庇うように胸に抱く。

 

 ーーーヤダ…こんな所で…死にたくナイ…

 

 ーーーもっともっと、人間の美しさに触れテ…

 

 ーーー人間の美しさというものを、守りタイ…!

 

 ーーーこの子達を…守りタイ!!

 

 念じる金剛。そしてその心の轟く叫びを、1人の男が耳にした。

 

 ーーー『金剛!その思い、受け取った!』

 

 不意に金剛の脳内に直接、声が響く。

「エ…!?」

 ハッとする金剛。その声は、聞き覚えがあった。

 声は更に強く響く。

 

 ーーー今、行くぞ!

 

 アーストロンの手が容赦なく迫る。

 それを目視で確認する程の距離に来た提督は、アクセルをグッと踏み込む。

「クソッ!間に合わねえ!」

 そしてアーストロンはーーー突然、飛んできた光によって吹っ飛ばされた。

「あっ…!」

 思わず見上げる提督。その光は、1体の巨人の形になり、金剛の目の前に着地した。

 

 今起こったことが読み込めず、一瞬混乱する金剛。しかし、すぐに収まる。見上げたそこに立っていた、この巨人が、自分と子供たちを救ってくれたのだと。

 銀色の体に、走る赤いライン。

 左手首にはまった、ブレスレット。

 輝く目に、胸に灯る青い灯。

 その巨人は、金剛を見下ろし、言った。

「間に合った…大丈夫か、金剛!?」

 先程脳内に響いたのと同じ声が、今度は聴覚を通じて伝わる。

「郷…サン…!?」

 

 そして、艦娘たちに誘導され、避難所に来ていた街の人も、その光景に気づいた。口々に叫ぶ人たち。

「おい、見ろ!あれ!!」

「えっ?…あぁ!あれって…!!」

「ジャック…!

 ウルトラマン、ジャックだ!!」

「ウルトラマンが…!

 ウルトラマンが、帰ってきた…!!」

 

 金剛、そして子供たちの無事を確認した郷秀樹ーーーウルトラマンジャックは、少しだけ安堵する。そして、道を塞いでいる大岩も、ジオアトスのアトスレーザーと比叡の砲撃で砕け散る。金剛に駆け寄る比叡。

「お姉様!」

 抱き合う2人。子供たちも提督に保護される。ちなみにアーストロンは、先程ジャックに吹っ飛ばされた弾みで、自分の頭が山にめり込み、なんとか引き抜こうともがいている最中だ。

「怪獣は私に任せて、早くここから逃げろ!」

 ジャックが金剛に言う。だが、金剛の出した答えは…

「NO!私も、あなたと一緒に戦いマース!!」

「金剛…」

 その言葉に驚く、ジャックと提督。

「ウルトラマンジャックサン…あなたが言った、人間の美しさというものにようやく気付けマシタ。あなたの言う通り、あの後、人間を知るために、街に何度も出マシタ。そして、私は、これからへの答えを見つけたんデス…!私は、その美しい心を持つ人間を、守りたいデース!!」

「金剛、お姉様…!」

 完全に立ち直った金剛、それを喜ぶ比叡。

「お願いしマース!!」

 しばらくジャックは金剛を見つめ、言った。

「うむ。ならば私も、それを尊重しよう。」

 ジャックは金剛の決断を受け入れた。

「私も、お姉様と、ジャックさんと戦います!」

 比叡もそう言って、戦いに加勢することとなった。

「よし、この子達は俺が避難所に連れていく。…郷さん、金剛と比叡を頼みます」

「うむ。分かった!」

 

 目の前で起こった、奇跡のような光景。俺はウルトラマンジャックに敬礼し、ジオアトスに子供たちを乗せ、避難所に向かった。

 

 アーストロンの頭が山から抜け、闘牛のごとくジャックたちを睨む。

「金剛、比叡!行くぞ!!ジュワッ!!」

「yes,sir、郷サン!!」

「気合い、入れて!行きます!!」




評価、感想などよければどうぞです!

今回も読んでくれてありがとうございました!
次回で金剛の章は完結予定です!
お楽しみに、です!


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人と艦娘と光と希望 後編

やばいです。
筆者の学級でインフルエンザの犠牲者(死んではいない)が続出してます。

皆さんもお気を付けて…

本編どうぞ。


 アーストロンは、いきなり3人へとマグマ光線を撃った。だが、金剛と比叡は山中へ、ジャックは上空へと移動してそれを回避する。

「ジュワッ!」

 ジャックは攻撃直後のアーストロンの隙をつき、伸ばした右腕に左手を添え、右手先から光線ーーーウルトラショットを放つ。アーストロンのすぐ前の地面に光線が直撃、アーストロンは衝撃波と爆発に怯む。

「今度は私たちの出番ネー!ヒエー、follow me!」

「はい、お姉様!」

 山中から再び舗装された山道へと降り、更にガードレールが崩れたところから、急傾斜の山肌を地面へと滑り降りつつ、照準を定める。

「fire!」

 金剛と比叡、その艤装から次々と放たれる砲弾が、アーストロンへダメージを少しずつ、しかし確実に与えていくーーー

 

 ーーー山道の途中から避難所までは、早急な避難のために用意しておいたジオマスケッティにジオアトスを合体、スカイマスケッティで一気に子供たちを送り届けた。

「先生ー!」

「怖かったよぉー!」

 泣きじゃくり、先生と抱き合う2人の児童。俺は響に、今まさに山で、ウルトラマンジャック、金剛、比叡が力を合わせ、アーストロンと戦っていることを伝えた。

「そうか…金剛さんと、比叡さんが」

「ああ。」

 するとその話に、近くの住民たちが反応した。

「おい提督さん、金剛と比叡のねーちゃんが、あそこでウルトラマンと一緒に戦っているって、本当かい!?」

「えっ、マジ!?」

 驚いた顔で詰め寄ってくる住民たち。俺は彼らに事実を伝えることにした。

「はい。本当です。」

 すると、住民たちが口々に言った。

「頼む提督さん!避難所の外にワシらを出させて、戦いを見守らせてくれ!」

「私たちのために戦っているあの方たちを、応援してあげたいんです!」

「俺達があいつらに出来ることなんて、ちっぽけかもしれないけど…それでも、気持ちだけでも届けたいんだよ!」

 避難所のあちこちから、お願いします、頼みますの声が飛ぶ。彼らのその気持ちを、俺も届けたいと思って、そして決断した。

「わかりました。避難所の玄関前で、皆さんで一緒に応援しましょう!響たちも一緒にだ!」

「ハラショー!!」

 そして結局、避難してきた全員が避難所の玄関前に集まった。

 救助した児童を含む、小学校の一行も。

 商店街で働く、店員さんたちも。

 先程撃墜された、空軍の戦闘機パイロットまで。

「金剛さん!比叡さん!頑張れー!!」

「ウルトラマンジャック!負けるなー!!」そして彼らの気持ちはーーー

 

 ーーー戦いの最中の金剛たちに、しっかりと届いていた。

「…Why?なんだか、すごく力が湧いてくるデース…!」

「私もです、お姉様…!これは一体…」

 その問に、ジャックが答える。

「きっとこれは、街の人たちが、我々を見守って、そして励ましてくれている証拠だ。これもまた、人間の美しさの1つなのだよ、金剛、比叡。」

「そ、そうなのデスカ…!」

「だったら私たちも、その気持ちに!

 気合い、入れて!答えなきゃですね!」

「ああ、もちろんだ!」

「私たちの力、見せつけるネー!」

「よし!」

 突進してくるアーストロンをジャックはジャンプで飛び越え、後ろに回り込む。そしてそのまま、アーストロンを羽交い締めにした。

「来い!金剛、比叡!」

 ジャックは羽交い締めしている手の先端から、向かってくる金剛と比叡に向けて、ハンドビームを放つ。

「そういうことネー!ヒエー!」

「はい、お姉様!」

「「1、2の、3!!」」

 声とタイミングを合わせて、跳び上がる2人。そしてその直後の地面にハンドビームが命中する。そして、その爆風が、一気に2人を空中で加速させた。

「撃つネー!」

「撃ちます!」

 そしてその勢いのまま、至近距離となったアーストロンめがけて力いっぱい砲撃する。金剛の放ったものは、その口内へと吸い込まれるように命中し、マグマ光線を封じさせる。そして比叡の放ったものは、その角へと命中。荒い亀裂が角を駆け巡った。

「タァッ!」

 金剛と比叡が着地したのを確認し、ジャックはアーストロンを羽交い締めしたまま跳び上がる。そして空中で、自分の背後へと、頭の上から一気に放り投げる。強敵・ナックル星人にとどめを刺した技ーーーウルトラ投げだ。放り投げられたアーストロンは頭から地面に落下、先ほどの砲撃で弱体化していた角が砕け散る。しかし、アーストロンも必死に抵抗する。その長い尻尾を思い切り振り、金剛と比叡へ攻撃を仕掛けるが…

「ショアッ!」

 そうはさせるかと、ジャックはすかさず左腕のウルトラブレスレットを、小型の刃ーーーウルトラスパークに変形させ、素早く投げる。空中を舞ったウルトラスパークは、その尻尾を根元から切り落とした。攻撃が失敗し、おまけに自身の武器をすべて失ったことで、アーストロンはもう戦意喪失だ。

「今だ、金剛!比叡!一気にとどめを刺すぞ!」

「分かりマシター!」

「はい!」

 ジャックはアーストロンに駆け寄ると、その巨体を担ぎあげた。

「ウルトラハリケーン!!」

 両腕で回転を加えて、アーストロンを一気に上空へと投げ飛ばす。

「ジュワッ!!」

 ジャックは自身の両腕を、十字に組む。そして、狙った敵には必殺技ーーースペシウム光線の贈り物だ。さらに今ならーーー

「とどめデース!!fire!!!」

「気合い!入れて!!撃ちます!!!」

 戦艦である金剛と比叡の、強力な砲撃のおまけ付きである。さすがのアーストロンも、3人の合体技をくらってはひとたまりもない。たちまちその身は、空中で爆発四散したのであったーーー

 

「やったぁぁぁ!」

「ウルトラマンジャックが!金剛さんと比叡さんが!勝ったぁぁ!」

「いよっしゃあ!!」

「ハラショー!」

「これはすごいっぽい…!」

 避難所でその戦いを見守っていた全ての人、そして艦娘たちも、その喜びを分かち合ったのであったーーー

 

 ーーー数時間後

 避難所から人が解散し、街の上には夕焼け空。

 そして、提督、響、金剛に比叡、そして坂田自動車修理工場の人たちは、郷秀樹を見送るべく、砂浜に赴いていた。

「二郎、敬三、そして詩織さん。工場のことを頼んだぞ」

「ええ、任せてください!」

 彼らと固く握手を交わした郷は、金剛の元へとやって来た。

「さて、金剛」

「はい、郷サン」

「…君は本当によく頑張ってくれた。過去を乗り越え、そして人間を守るという、とても勇気ある決断をしてくれたな。」

「そ、そんな…私ハ…」

「謙遜することは無いさ。これからも、人間の美しさを守るために、頑張って欲しい。できるな?」

 そう聞かれた金剛は、郷に近寄って言った。

「…Of course!頑張りマース!!」

「よし!」

 郷は金剛の強い瞳を見て、大丈夫だと確信した。そして、海の方へと向き直り、その手を高々とあげる。その身が光に包まれ、郷はウルトラマンジャックへと変身した。

「さらばだ、みんな。我々はいつでも、あのウルトラの星から、見守っている!」

 ジャックはそうみんなに伝え、夕焼け空の彼方へと、飛び立って行った。

「郷サーン!see you again!!」

 彼方に輝くジャック、そしてウルトラの星へと、金剛たちはいつまでも、手を振り続けたーーー

 

 ーーー数日後 執務室

「テートク!ただいまデース!今日も茶葉を貰ってきたネー!」

 すっかり元気になった金剛。出撃のない日はよく街の喫茶店などに行って、そしてたまにお土産にこうして茶葉を持ってきてくれるようになった。

「ありがとう、金剛。せっかくだし、書類もキリがいいから、みんなを誘ってティータイム、しようか。」

「任せて下サーイ!」

 テキパキとティータイムの準備が整い、そして金剛は、比叡、そして同じく金剛型戦艦であり、その四番艦の霧島を連れてきた。

「こんにちは、司令」

「おお、霧島。君もティータイムに来てくれるとは」

「金剛お姉様のティーは、絶品ですからね」

「確かにな。

 …それで、やっぱりまだ、だめか?」

 霧島は顔を少し俯かせて言った。

「ええ…まだ、榛名は恐怖心が消えてないようなんです」ーーー




評価感想、よければお願いします!
今回も読んでくれてありがとうございました!
次からは榛名ちゃん…
また次回です!


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榛名の章
錆びた鎖の縛るモノ


艦これ映画を早く見に行きたい…

筆者は金欠です…なのに…

なぜココアやカフェオレはやめられないのだろう(真顔)

本編どうぞです。


「そうか…。分かった、変なこと聞いてすまん、霧島」

「いえ…こちらこそ、わざわざ姉のことを気にかけて下さり、ありがとうございます」

 すると、やりとりに気づいた金剛と比叡が、こっちを見て言う。

「…?2人ともどうしたネー?せっかくの紅茶が冷めちゃいますヨー?」

「スコーンも食べてください!私の自信作です!」

 金剛と比叡に促され、とりあえずティータイムを済ませたあと、俺は霧島を連れて執務室へ行くことにした。すると、食堂で第六駆逐隊の姉妹たちとおやつを済ませてきた響と合流した。

「司令官、ただいま。おかえり」

「おう響、おかえり、ただいま」

「うん!あ、霧島さん、こんにちは」

「あら響ちゃん、こんにちは」

 そのまま、3人で執務室へと入る。現在療養を試みている、榛名のことについて話し合うためだ。そのきっかけは、数日前ーーー怪獣アーストロンが出現し、金剛と比叡、そしてウルトラマンジャックが倒した日の翌日に、朝の執務室に霧島が訪ねてきたことである。

 

 ーーー数日前

 響と一緒に、書類を整理していた俺。不意に、ドアがノックされた。

「司令、少し失礼してもよろしいでしょうか?」

「ん?構わん、入ってくれ」

「では、失礼します」

 ドアを開けて現れたのは、

「お、霧島。どうした?」

「おはようございます、司令。その、少しご相談したいことが…」

「そうか。よし、そこに座ってくれ。」

 言われた通り、ソファに座る霧島。俺と響は向かい側に座る。

「で、何かな、相談事って」

 すると霧島は、その前に司令に質問があります、と前置きした上でこう聞いてきた。

「司令、私たち艦娘が、どのようにしてこの世に生を受けるか、現在確認されているその事例を全て、解説を添えて言えますか…?」

「霧島さん…」

 響が見つめる中、俺は答えた。大本営で艦娘の世話係だったので、こういうことは得意分野だ。

「まず一つ目は、ドロップ型艦娘だな。海で生まれ、その海域の敵を倒した時に、艦隊によって発見されるパターンだろう。確か、自然型艦娘、とも呼ばれるな。」

「正解です。他には?」

「建造型艦娘。大本営や各地の鎮守府の工廠で、資材を使うことで生み出される艦娘。任務の報酬として大本営から来るのもそうだよな。」

「はい、そうです。」

 淡々と答える霧島。

「まあ、その2つだよな。」

 そう俺が言った時の霧島の顔は、やはり真顔というか、無表情だ。そこで、一言付け加えるように言う。

「…大方は。」

 霧島の表情が一瞬、何かを当てられたかのように変わった。しかし、すぐにまた無表情になる。しかしその無表情は、何かを押し殺しているように、俺は思えた。少なくとも、響も同じように感じていたようで、じっと霧島を見つめている。そして当の本人は、再び口を開いた。

「では、他にあると。」

「相談してきた霧島、君自身が一番よく知っていてーーーそしてそれが、今回の相談事の要点、なんだろ?」

 そう言うと、霧島は少しだけ口角を上げて言った。

「ふふ…流石です司令、データ以上の方ですね。明石さんや金剛お姉様が復帰できたのも、納得できます」

 …金剛に関しては、たまたま地球に来ていたウルトラマンジャックーーー郷さんのことを紹介しただけなんだけどな。きっと、尊敬する姉だから、ということだろうか。

「ありがとな、霧島。んで、さっき言った大方の二つの他、もう一つのパターンっていうのは…人産型艦娘、だろう?」

 少し間を開けて、霧島が答える。

「…ご名答です、司令。では、それはどのようなものかは、わかりますよね?」

「ああ。人産型の文字通り、一般の人が産んだ艦娘ってことだろう?と言っても、艦娘とだけあって、今のところ産んだ本人かその相手側のどちらかが、海関係の仕事をしているって聞いたが。」

「…司令、その説明…お見事です。」

 そう言われるとなんか嬉しい。というかその語り口から、昔ヒットしたとある予備校教師がMCの番組を思い出してしまったが…

 霧島は続けて語る

「それで…今回の相談事は…私の姉であり、金剛型戦艦三番艦の…榛名お姉様のことなんです。」

「なるほどね…榛名なら、俺も見かけたことはあるな…」

 …しかし、ここの彼女もまた、郷と会う以前の金剛のように、自分に対して恐怖心を抱いているようだ。そして…その度合いが、金剛とは比べ物にならないくらいなのだ。

「ここまで霧島、君が話したことから探ると…要するに、榛名はその人産型艦娘、なんだろう?」

 すると、俯きつつ答える霧島。

「はい。そして…榛名お姉様は…生みの親に、ひどい虐待を受けたんです」

 

「虐待…!?そんな…」

「私も最初会った時は信じたくなかったわ。尊敬するお姉様が、虐待を受けて育ったなんて…

 でも、すぐに気づいたんです。体中に残る傷跡に、そして怯えきった表情に…妹にあたる私にも、なかなか心を開いてくれませんでした…」

「…霧島。榛名は君に、虐待の詳細を話してはいるのか?」

「あ、はい…その、榛名の他にも、憲兵さんとかにも話を聞いて、ようやくその詳細がつかめたのですが…」

「よければ、そのことを、詳しく俺に話してくれないか?」ーーー

 

 ーーー霧島はこう語った。

 まだ、艦娘の存在がようやく世間に知れ渡った頃のこと。ある港町の1組の夫婦の間に生まれたのが、榛名だった。

 しかし、榛名は艦娘。当然、生まれた時は人と何ら変わらない赤ん坊だったが、普通の人と比べ、桁違いのスピードで成長、1ヶ月も経たないうちに、現在各地の鎮守府で見かけるような榛名の姿となった。そしてそれゆえに…夫婦は榛名を気味悪がり、そしていつしか虐待が行われるようになった。

 父親からは暴力を常に振るわれえ傷だらけにされ、母親からは言葉で精神的に追い込まれる。飯もろくに与えられず、部屋にずっと縄で拘束されるようになっていった。

 そんな日がとても長く続いた。だがある日、榛名はたまたま夫婦の家に来ていた訪問販売のセールスマンに、力を振り絞って助けを求めた。夫婦は驚き、必死にごまかそうとするが、セールスマンはすぐに家を出て、近くの交番の警察官にこのことを知らせる。夫婦は即刻逮捕された。そして榛名は警察に保護され、そして運び込まれた病院で、初めて艦娘ということが明らかになった。

 当時、人産型艦娘は大本営ですら存在を把握しきれていなかった。皮肉にもこの事件で、その存在、そしてそれに対する調査が進んだのだ。

 しかし当の榛名は、身体の傷が癒えても、心の傷は癒えるはずがなかった。着任した鎮守府で霧島に出会い、彼女に対し少しづつ心が開けても、虐待で植え付けられた恐怖心でまともに戦えなかった。もちろんその鎮守府の提督は優しかったのだが…榛名は、こんな自分はまたひどい仕打ちを受けてしまうと被害妄想に走ってしまった。そしてある夜ーーー彼女は鎮守府を脱走した。

 どこに向かうかも決めずに、ただ逃げることだけ考えて、暗い夜道をただ走り、そして疲れ果てて、そして発見した大本営によって、ここ第35鎮守府へと送られたのだとーーー

 

 ーーー「…ひどい話だな…」

「私も本当に、そう思います…。

 …お願いします提督、どうか榛名お姉様を、本来の強くて優しい方に治して欲しいのです…」

「うん…俺もそうしてあげたいが…」

 俺はその話を聞きつつ、対策を練っていた。今回はかなり厄介な事例だと考えいたからだ。今まで通り俺がカウンセリングに当たっても、虐待によって大きな恐怖心を植え付けられた榛名にはかえって逆効果だからであるからである

「霧島、対策を考えたいから、少し時間をくれないか?」

「は、はい司令、分かりました」

 

 ーーーそして今に至る。そう、考えがまとまったのだ。

「で、司令、考えというのは?」

 俺は霧島に冷静に伝える。

「俺があまり出すぎると、かえって榛名には逆効果だ。だから…」

 俺は脇にいる艦娘の頭に、ポンと手を置く。

「響に、今回のカウンセリングを任せようと思う。」




評価、感想よければお願いします!

今回も読んでくれてありがとうございました!m(_ _)m

また次回お楽しみに!


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心の共鳴、そして昇る陽

この間、最後のチャンスだった日に艦これの劇場版を満席のため見られなかったことで、見られる可能性はもうほぼZEROです。

ショック引きずってます…(´;ω;`)オヨヨ

そしてクリぼっちという追い討ちって…

本編どうぞです…


「響ちゃんに、ですか…?」

「そうだ。多分、俺みたいな大人の男がいきなり干渉しようとしても、おそらくは恐怖心によって逆効果になってしまうだろう。だから、よく艦娘たちとコミュニケーションをとっている第六駆逐隊姉妹の一員である、響がこの役に適任かと思ってな。」

 納得の表情となる霧島。

「…なるほど…!あ、しかし司令、響ちゃんを榛名お姉様につけると、秘書艦の方がいなくなってしまうのでは?」

「ああ、その間の秘書艦は、お前に任せたいんだ、霧島。こうすると、榛名にとって信頼を寄せているお前が俺のそばにいつもいるってことで、多少は信頼を置いてもらえるという相乗効果もあるかもしれない、と思ったんだ。」

「わ、私ですか…!?一応書類整理も得意分野の方ではありますが…よろしいのですか?」

「お前がいいと言うなら構わんが…」

 すると霧島は、メガネをクイッとあげて、得意気な顔をして言った。

「分かりました、お任せ下さい!」

 よし、交渉成立だ。

「じゃあ、明日から行動開始だ!」

 

 ーーー翌日

 響がドアをノックする。

「ひゃあっ…!あ、あの、どなたですか?」

「響だよ、榛名さん」

「…ど、どうぞ」

 提督の読みが当たり、響はなんなく榛名の個人部屋に入れたのだった。

「榛名さん、お邪魔します」

「はい…どうしたの、響ちゃん」

 優しく微笑みつつ、響は要件を伝える。

「今日から少し、あなたと一緒に過ごしたいんだ、榛名さん」

「え…?響ちゃん、秘書艦は?」

「秘書艦なら、霧島さんがやってくれてる。心配ないよ」

 少し驚くような顔になる榛名。

「霧島が…?」

 響は机を挟んで、榛名の向かい側に座る。

「じゃあ早速だけど、2人でゆっくり過ごそう、榛名さん」

 そう言って、響は持ってきた大きな袋から、大量のマンガ(主にスポコンもの)を取り出した。

「よかったら、一緒に読まないかい?」

「響ちゃん…」

 

 最初こそ、榛名は戸惑いつつ読んでいたようだが、そのうちだんだん引き込まれていったようだ。

「榛名さん、結構読んでるね」

 そう言われて、榛名は自分の横を見る。赤城の唐揚げ丼のおかわりペースよりは遅いものの、脇には読了したマンガがタワーを形成しつつあった。初心者にも読みやすい、あまりハードではないものを選ぶことで、榛名の気持ちを考慮した、響の作戦勝ちである。

「え?あ…。なんだかだんだん、ハマってきちゃったかもね…」

「ふふ、気に入ってくれたみたいで、嬉しいかな」

 その後も、2人でマンガを読みふけり、時々対話を交わした。

「ふふ、このマンガは面白いわね、響ちゃん」

「僕も思ったよ。そうそう、普通、艦娘の響は一人称が私なんだって。でも僕は、スポコン漫画を読んでるうちに、なんか移ってきちゃったみたいで、今はすっかり僕っ娘になっちゃったんだ。」

「ふふ、響ちゃんって面白いのね」

「ありがとう、榛名さん」

「こちらこそ、こんな私のために…なんか悪いわね…」

「榛名さん…?」

「私もこのマンガの主人公みたいに、もっと強かったら…」

 俯きながら、榛名はそう呟いた。そしてそれを耳にした響は…

「榛名さん、大丈夫だよ」

「…え?でも、私なんて…」

「私なんてとか、そういう自分を過小評価する言葉は、言っちゃダメだよ。榛名さんは本当に強い人だと思うよ」

「…?」

 理解できないと言いたげな榛名に、響はさらに続ける。

「榛名さんみたいに、強くなりたいって思う心を失ってないってことは本当にいいことだと思う。そういう人は、自分では気づいてないだけで、とても強くて優しいんだよ。」

「でも…」

「…なんか色々…よくわからないけど、怖い?」

 無言で頷く榛名。それを見た響は、大胆な行動に出た。

 なんと榛名に、まるで母親に甘える子供のように抱きついたのだ。

「…響ちゃん…!?」

「ふふ…こうされると、守ってもらってる気持ちになるんだ」

「…え…」

「大丈夫。ここにいるのは、榛名さん1人じゃない。僕も、霧島さんも、司令官も…みんなついてる。みんなでお互い、守り守られ、助け助けられつつ、暮らしているんだよ」

「…響、ちゃん…」

「繰り返して言うようだけど、本当に大丈夫。榛名さんは…1人じゃないから。みんなついてるよ。だから、一緒に、頑張っていこうよ」

 響の溢れる優しさをこれでもかと受け取った榛名は、目に涙を浮かべながらも、自然に笑っていた。

「ありがとう、本当にありがとう…響ちゃん…!私、また頑張ってみる!」

「そうだよ榛名さん、その意気だよ!」

 2人の間に、信頼という名の絆が出来上がった瞬間だった。響も、榛名にあえてタメ口で話すことで、警戒心を薄くさせたり、また、スキンシップをとることで、精神的に追い込まれていた榛名を安心させたりしていた。ここもまた、響の作戦勝ちである。

 

 ーーーヒトキュウマルマル 執務室

「…という感じだったよ、今日は」

「そっか、榛名が心を開いてくれたか。それは良かった。」

 今日のことを響が、俺に嬉しそうに報告してくれた。秘書艦をこの一日務めてくれた霧島も、顔がほころんでいる。

「ありがとう響ちゃん、本当にありがとう…」

 抱きしめ、何回も響を撫でる霧島。無理もない。今日の彼女は、冷静な性格とは対照的に、そわそわと榛名の心配ばかりしていて、俺が数回注意したほどである。響がいるから大丈夫だ、とにかく落ち着け、そう何度言っても、彼女は平静の状態になることは言った後数分の間だけだった。しかし裏を返せば、それだけ姉のことを尊敬し、そして気遣っている証拠ということなのだろう。

「響ちゃん、これからも、榛名お姉様をよろしく頼むわね…!」

「任せてください、霧島さん」

 

 それからも、2人は仲を深めていった。しばらくの間、響は榛名の部屋に通いつめた。マンガだけでなく、鳳翔のカウンセリングの時に、鳳翔と六駆のみんなで遊んだ迷路やゲームをしたり、お互いに折り紙をしたりと、コミュニケーションを積極的にとり、彼女の支えとなっていった。次第に榛名もどんどん心を開き、笑顔を見せる回数が増えていくのが、響自身でも、目に見えていた。

 ある日。響は提督との相談のもと、榛名を食堂でのおやつに誘った。

「ほらほら榛名さん、早く行かないとなくなっちゃうよ!」

「分かったわ、響ちゃん!」

 食堂ののれんをくぐると、そこにいたのはーーー

 

「おお、榛名」

「あら、榛名お姉様」

 提督と霧島だった。

 実は事前に、提督と響が示し合わせ、榛名の現段階の心理状態の確認及び治療のため、この時間に食堂で会うようにしたのだ。

「司令官、休憩かい?」

「ああ、書類整備がひと段落ついたからな。」

「そうなんだ。よかったら、一緒にいいかい?」

「ああ、構わんが…榛名は、大丈夫なのか?」

 響はすかさず、戸惑う榛名に小さな声で言う。

「大丈夫、司令官はとてもいい人だから、怖がらなくていいよ。」

 榛名はそう言われても尚、おどおどしていたが、やがて覚悟決めたように、

「はい、榛名は…榛名は大丈夫です…!」

 と言って、四人がけ席に座った。

 

「はい司令官、僕のケーキもどうだい?」

「お、ありがとう響。いただくよ。」

 提督は響からケーキを少し取り分けてもらう。美味しさが口の中に広がる。そして、彼は気づかれないよう榛名を見ると…ケーキを食べつつも、やはり戸惑っているようだ。やはり、恐怖心がまだあるのだろう。そこで、

「響」

 提督は響とアイコンタクトをとる。響がそれを受け、榛名に何やら話しかけた。

「大丈夫、榛名さんも、やってみなよ」

 榛名は響に言われたことで少し落ち着き、そして提督に向かって言った。

「あの…私のも少し、いかがですか?」

 言った瞬間、榛名は、自分は何を言っているのだろか、と思った。しかし、言った以上もう戻れない。榛名は、不安げに提督を見た。

 ーーー提督は笑っていた。

「いただくよ、榛名。ありがとう。」

 少し榛名は、救われた気分になった。そしてそんな気持ちで、自然と笑顔になれた。提督にケーキを渡す。ニコニコと微笑み合う。

 榛名は、大きな1歩を踏み出せたのだ。

 

 ーーーその夜 フタフタサンマル

「悪いな霧島、響。書類整理がこんなにまでなってしまった」

「いいえ、榛名お姉様が司令にもだんだん心を開いてきているのを見られたので、大丈夫ですよ。書類もたまたま今日の量が多かっただけですし」

「きっと榛名さんも、海上を駆け回って、勇敢に戦えるようになるさ」

 2人の温かい言葉をもらって、少し嬉しくなる。霧島は自室に戻り、俺は響にも就寝を促した。が…

「分かった司令官、その代わり」

 響は俺を見つめる。

「…僕にもなんか分けてよ」

 …ああ、響が榛名に嫉妬してる。

 とにかく、俺は響のご要望通りに、夜食のクッキーをはんぶんこした。

「ありがとう司令官、ハラショーハラショー」

 幸せそうな響の顔を見て、なんだか許せてしまう。

「さて司令官」

 食べ終えた響が、こちらを向いた。

「もう少し榛名さんが心を開けたら、その時は少し訓練させてみないかい?」

 提案だった。

「おお、もちろん」

 俺もそういう構想だったので、響のその案に快く賛成しつつ、榛名を心の中で応援した。

 ーーー頑張れ榛名、出口はもうすぐだ




今回も読んでくれてありがとうございました!
評価、感想お待ちしております!

ネタバレ覚悟で映画の内容教えてくださいと言いたいけど、やっぱりネタバレは良くないなと、複雑な感情うごめく今日この頃…

また次回。←なにかを悟った筆者


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闇を抜けて

もう年の暮れですね…

…なんか特別書くこと見つからない。

とりあえず、短めですが本編どうぞ!

…あっ年賀状書いてないや(今更)




 ーーーさらに数日後

「榛名さん、最近はだいぶ、前より笑顔を見せるようになったね」

「ありがとう。響ちゃんのおかげよ。」

「そうだ、時間も時間だし、食堂で昼ごはんでも食べようよ」

「ええ!」

 元気に返した榛名は、響と手を繋いで食堂へと向かった。

 ここ最近は響の言う通り、榛名の表情がとても明るい。提督に会った時も、日常会話ができるようにまでなっている。響は食堂で会食しつつ提督や霧島と話し合う榛名を見て、1つ区切りをつけることにした。

 

 ーーーその夜 執務室

「…なるほど、明日限りで榛名のそばでのカウンセリングを終了し、そして洋上訓練に移ってはどうだ、と。」

「榛名お姉様も響ちゃんのおかげで、だいぶ本来の性格へと戻ってきましたからね。」

 響は、提督と霧島に自分の案を伝えた。2人は少し考えて、そしてーーー

「よし、やってみよう。ただし、ちゃんとそのことを明日一番で話して、もし彼女がキツそうだったら、無理はさせないことかな」

「分かったよ、司令官」

「上手くいくといいわね…」

 

 ーーー翌日

 ここ数日のように、響は榛名の自室を訪れた。

「おはよう、響ちゃん。」

「榛名さん、おはよう」

「いつも来てくれてありがとう。今日は何をする?」

「あ、その事なんだけど…少し話があるんだ」

 響は覚悟を決め、榛名に自らの考えを伝えた。

「もし榛名さんがキツイと感じるなら、僕はその意見を尊重するけど…」

 榛名は、少し下を向いて考え込んだ。そして、響の方を見て、しっかりと伝えた。

「ありがとう響ちゃん、心配してくれて。でも、あなたのおかげで、少し恐怖心が消えたの。これからの洋上訓練も、頑張れるかもしれないわ…!」

「榛名さん…!」

「ええ!

 榛名は、榛名は大丈夫です!」

 自身の口癖ーーー嘘のない真っ直ぐな言葉で締めくくった榛名であった。

 

 ーーー2日後

 いよいよ榛名に洋上訓練させる日が来た。実際に鎮守府近海へと出撃させ、深海棲艦と戦う。もちろん、榛名の心理状態を常に考慮し、不測の事態に備えて、支援艦隊も後に控えている。

「提督…榛名、頑張ってきます」

 やはり流石に、久しぶりの出撃は彼女にとって大きな不安のようだ。しかし、そんな彼女の肩に手を添え、落ち着かせるのはーーー

「大丈夫です、榛名お姉様。」

 妹の霧島である。もちろん今回の洋上出撃訓練は、旗艦に霧島を起用、榛名、そして第六駆逐隊の4人で艦隊を組んでいる。榛名のことを精神的に支えられ、なおかつ練度の高い娘たちを選んだつもりだ。

「では艦隊、出撃します!」

 

 ーーー数時間後

「艦隊帰投しました」

 霧島たちが戻ってきた。肝心の榛名はーーー小破、しかし目に涙を浮かべている。

「榛名、大丈夫か…?」

「榛名は…榛名は…何も…えぐっ」

「気負うことはないのです、榛名さんも敵の駆逐艦を1隻やっつけたのです」

「そうよ、大丈夫よ!」

 電、雷に励まされる榛名。とりあえず榛名をドックへと送り、彼女以外は無傷だったので、話を聞くことにした。

「やはり、敵艦隊を発見した時から、榛名お姉様がうわ言のように『榛名は大丈夫です』と呟き続けていて…敵のロ級を沈め、なんとか持ち直したんですが、その矢先に残っていた軽巡へ級に砲撃をくらって、限界が来てしまったようで…」

「ごめんなさい司令官、あたしのバックアップが足りなくて…レディー失格よ…」

 残念そうに報告する霧島、自責する暁。

「初めから何もかも上手くいくことなんて本当に希だ。だから君たちもそう責任を感じるな、よくやったよ。」

「司令官…」

「そう、大丈夫大丈夫。また訓練の時、頼むな。」

 そう言うと、4人はたちまち笑顔になり、はい!と元気よく返事をしたーーー

 

 ーーーそして一方の榛名も、恐怖心を克服すべく、訓練を重ねた。提督や霧島、第六駆逐隊の4人などの支えによって、その成果が徐々にあらわれ、近海出撃を以前より楽にこなせるようになっていった。

 そんなある日ーーー

 

 ーーー「では、出撃訓練に行ってきます」

 霧島のその言葉のあと、いつもの6人が敬礼をする。敬礼を返す、俺と大淀。

 今日もまた、榛名の洋上訓練の日である。彼女の心身への疲労蓄積などを避けるため、毎日は行わないことにはしている。ただ、最近榛名のやる気が増して、そして段々と恐怖心へ対抗できてきたため、榛名や霧島、響に大淀たちと散々話し合って、鎮守府近海から離れた海域へとレベルアップさせることにした。

「今日は新しい海域への出撃ですか…やっぱり、怖くないっていうのは嘘になりますけど、精一杯頑張ります…!」

「おう。前より何倍も頼もしくなったな、榛名。」

「そ、そんな、提督…そんな言葉、榛名にはもったいないです。」

「そんなことないよ。お前は過去の辛いことを乗り越えようと、今必死にもがいてる。そうやって頑張っている人は、本当のに強くて頼もしくなるんだよ、榛名」

「提督…榛名、感激です…!今日も、頑張ります!」

「ああ!気をつけてな、頑張れよ!」

「はい!」

 榛名は力強く、海へと駆け出して行った。いつものように、彼女たちの姿が見えなくなるまで見送り、俺は秘書艦を命じた大淀と共に、執務室へ書類整に向かった。

 

 ーーーその二時間後

「昨日は出撃も遠征もありませんでしたし、書類整理も少ないですね…」

「ああ。それにしても、こうして大淀と2人でいるのも、新鮮なものだな…」

「そうですね…ここの娘たちも、だいぶ立ち直った娘が多くなりましたし…」

 大淀と他愛もない会話を交わしつつ、書類に目を通し、印を押す。いつもそばにいる響や、元気いっぱいの他の第六駆逐隊の姉妹がいないだけで、案外ここも静かに感じる。その時ふと、ドアがノックされた。

「すみません、赤城です。提督はいますか?」

「いるぞ、入りなさい」

 失礼しますと礼をして入ってくる赤城。

「提督、明石さんと夕張さんと先程まで工廠にいて…それで、提督の頼んでいた、基地航空隊の新兵器が完成したようなんです!」

「おお!さすが仕事が早いな、あのコンビは」

「提督、早速工廠へ向かいましょう!」

「そうだな、大淀。赤城も、わざわざ伝えに来てくれてありがとうな。」

「いえいえ。私も鳳翔さんに、このために毎日演習場で特別訓練をさせてもらったので、準備は万端です!もちろん慢心はしていませんけどね。」

「はは、お前らしいな。」

 俺は赤城の車椅子を押しつつ、大淀とともに工廠へ向かった。

 

 ーーー工廠

 明石、夕張の出迎えのあと、彼女達に連れられ、俺達は工廠の奥へと案内された。

「この特大サイズの矢が、今回の新兵器になります!」

「あとは、赤城さんの車椅子を少しだけ強化すれば、実用化可能です!」

「そうか。明石、夕張、ご苦労様。それと無理をさせてすまなかった。ありがとうな」

「いえいえ!」

「気にしないでください!無理なんてしてませんから!」

 笑顔で答えてくれる2人。と、その時。

 会話している中に、普段大淀とともに事務をしてくれている妖精さんが、焦った表情で飛んできた。

「どうしたの妖精さん、そんなに焦って!」

 大淀が妖精さんに駆け寄り話を聞く。そして、彼女の顔が見るからに変わっていく。

「…そんな!提督…大変です!

 先程、響ちゃんからSOS通信が!進撃中に空母棲姫率いる艦隊と遭遇、旗艦霧島が大破とのことです!」

「なっ…!?」




今回も読んでくれてありがとうございました!
評価、感想よければお願いします!

ではまた次回です!


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走れ榛名!勇気のフォーメーション・ヤマト!

さて今年最後の投稿です。
比較的結構長めです。

どうでもいいけど最近、2日に1回のペースで自転車のチェーンが外れるようになってきた…(泣)

本編どうぞ。
※サブタイトルにヤマト、とありますが、艦娘の大和さんは出てきません。
また、わかる人はわかると思いますが、矢的猛さんやウルトラマン80も出てきません。
ご了承ください。


 ーーー洋上

「霧島さん、大丈夫なのです!?」

「え、ええ。でも、推進装置部分を集中的にやられてしまったわ…」

「掴まって、今曳航の準備するわ!」

 突如として混乱に陥る艦隊。出撃中に空母棲姫率いる強力な敵艦隊に遭遇してしまっていた。

 空を埋め尽くす何機もの敵艦載機。さらにそれらからは魚雷や爆雷の雨が降り注ぐ。推進艤装を集中攻撃された霧島は大破。砲撃はまだ可能なものの、自力航行が不可能になってしまった。

「敵艦隊を目視で確認したわ!相手は空母棲姫に、タ級2隻、リ級1隻よ…!」

「潜水ヨ級2隻分の反応もあるのです!はわゎ!」

「雷、電、報告ありがとう。今、司令官に救難信号を送ったから!」

「ナイスよ響!とにかく、早くここから逃げないと!」

 曳航の準備が整った。だが…

「榛名さん、退避するのです!…榛名さん?榛名さん…!?」

 電の目には、海上に立ち尽くす榛名の姿が映っていたーーー

 

 ーーー第35鎮守府

「大淀!救援艦隊をすぐに霧島たちの救助へ向かわせるぞ!」

「はい!」

「それと、スカイマスケッティの出撃準備も頼む!」

 俺はスカイマスケッティを起動すべく駐車場へ、大淀は執務棟へ走る。

 まもなくして、指名した艦娘たちが港へと集まった。金剛、比叡、島風、鳳翔、天龍、龍田の6名を今回抜擢した。俺はジオアトスでそこに合流する。

「榛名…今、おねーちゃんが助けに行きマース!」

「霧島、すぐに行くからね!」

 やはり、妹が危機に陥っている中の金剛型姉妹の使命感はすごい。すると、鳳翔が手を挙げた。

「あの、提督…敵に空母棲姫がいると聞いたのですが…私だけでは、不十分なのでは?」

「大丈夫だ、鳳翔。」

 ちゃんとした根拠のもと、俺は返す。

「俺のスカイマスケッティもあるし、それにお前が鍛えてくれた赤城の使う、基地航空隊の新兵器があるからな。もちろん、慢心はしていないが」

「そ、そうですか…分かりました。」

「おう。よし、全員出撃準備は出来たか?」

「「「「「「はい!!」」」」」」

「よし、分かった!救援艦隊、出撃!」

 6人は一斉に海上を走り始めた。俺も、ジオマスケッティにジオアトスを合体させる。

「ジオアトス・ジョイン・トゥ・ジオマスケッティ!」

 スカイマスケッティが完成、艦隊とともに救援に向かったーーー

 

 ーーー「あ…あぁ……」

 榛名は、これまでとは桁違いの敵に、かなりの恐怖心を覚えていた。そしてその恐怖心は、虐待された時の辛い記憶をフラッシュバックさせてくる。襲いかかる記憶の波は、彼女の心を蝕み、心を再び深い闇の底へと誘おうとする。その時ーーー

「榛名さん!」

 突然、自分の手を強く引っ張る存在。響だった。

「…響ちゃん!?」

 引っ張られて強制的に移動させられる榛名。すると、今さっきまでいた場所に、艦載機の機雷が落ち、高く水柱を上げる。

「響ちゃん…ありがとう…」

「大丈夫かい、榛名さん」

「ええ…ごめんなさい…なんかね、すごく怖くなっちゃって…足でまといになっちゃって…ごめんね」

「そんなことないよ!」

 響は力強く榛名に言い放つ。ハッとする榛名。

「確かに誰だって、怖いと感じる時はある。でも、誰だって、それを乗り越える力を持ってるんだ!榛名さん、あなたも!」

「私…!?でも、私なんて…」

「その私なんてっていう言葉、前に僕があなたに禁止令を出したはずだよ。それにその時僕は言ったじゃないか。榛名さんは本当に強い人だって。」

「響ちゃん…ありがとう…」

「いいんだ。とにかく、早く撤退をーーー」

 その時。

「響ちゃん、危ないっ!!」

 榛名はとっさに響を自分の身に抱き寄せ、そして上空へ砲撃。飛んできた敵艦載機は炎上しつつ海へと墜落した。

「榛名さん…すごいじゃないか…!」

「あ…わ、私…できた…!」

「ありがとう榛名さん、助かったよ!」

「お礼は後よ響ちゃん!急ぎましょう!」

 なんとか霧島たちに合流し、撤退を始めるが…

「こっちよ…!?」

「し、しまったわ!」

 既に周りは、空母棲姫によって出された敵艦載機に囲まれていた。

「どうしよう…!!」

 敵艦載機はこちらに機銃を構える。さらに向こうから、タ級をはじめとする他の深海棲艦も近づいていた。と、その時ーーー

 

 ドカーーーン!!

 

 ーーー「…え…?」

 突如として敵艦載機が、飛んできたミサイルによって爆発した。思わずミサイルが来た方角に振り向く6人。そこには…

「あの大きな船…何!?」

「翼があるわ…!!」

 銀色の機体、広がる大きな翼。見たことのないメカが、空を飛び、敵艦載機を次々と撃ち落としていく。

「はわゎ!あれは何なのです!?」

 ここの6人の中、響だけがその答えを知っていた。

「司令官が明石さんたちと作っていた、基地航空隊用の空中母艦だよ。資料の中で見たことがある…!UGMのスペースマミーだ!!」

「スペースマミー…!?」

「提督…こんなすごいもの、作っていたの…!?」

「ああ、そうだよ!!」

「いつの間に…って、提督!?」

 榛名の言葉に、なんと提督本人の声が返ってきた。そして、声が飛んできた方向からーーー

「遅れてすまん!皆、大丈夫か!?」

 提督の乗ったスカイマスケッティが駆けつけた。

「司令官ー!」

 響が叫ぶ。

「救援艦隊がもうすぐ到着する!戦闘はそっちに任せて、早く撤退しろ!」

「待ってください!!」

 提督に待ったをかけたのはーーー他でもない、榛名だった。

「私も戦わせてください!」

「榛名お姉様、無理はしないでください!」

 制止をかける霧島。しかし、

「お願いです!今なら、私、できる気がするんです!」

「お姉様…」

 すっかり頼もしくなった榛名を見つめる霧島。その袖を引く者がいた。

「霧島さん…榛名さんを、信じてあげようよ。きっと大丈夫だから」

「響ちゃん…そうね、今のお姉様には、きっと何を言っても無駄でしょうね…」

 過去の恐怖を乗り越えた姉に、成長を感じる霧島。

「榛名お姉様、しっかりね!司令も、榛名のことをよろしくお願いします!」

「はい!」

「任せろ!」

 曳航を始め、母港へと撤退する霧島と第六駆逐隊。やってきた救援艦隊とすれ違う。

「霧島、good jobネー!」

「後は任せて!」

「金剛お姉様、比叡お姉様…よろしくお願いします!」

「了解ネー!皆サーン、ついてきてくだサーイ!follow me!!」

 救援艦隊、そして榛名、提督のスカイマスケッティに基地航空隊のスペースマミーが、敵艦隊と向かい合う。

「全員、攻撃開始!!」

「「「「「「「はい!」」」」」」」」ーーー

 

 ーーーまず襲いかかるのは、空母棲姫の飛ばした艦載機。だがこちらには、とっておきの武器がある。俺は母港の赤城に通信を送る。

「赤城!スペースマミーの全搭載機を発艦させろ!」

「はい!全搭載機、発艦準備!」

 スペースマミーはミサイルやレーザーで応戦しつつ、前部を変形。リフトに乗って、妖精さんたちの乗った多くの戦闘機がそこに上がってくる。

「発艦!!」

 赤城の命令に合わせ、UGMの何機もの主力戦闘機ーーースカイハイヤー、シルバーガル、エースフライヤーが発艦していく。

「全機、ファイヤーストリーム発射!!」

 さらに命じる赤城。一斉に大量の戦闘機から強力なレーザー・ファイヤーストリームの弾幕が形成される。喪失していた制空権は、逆に一気にこっちに傾いたーーー

 

 ーーー一方の海側では、海中からそっと忍び寄ってくるかのごとく、潜水ヨ級が近づく。

「潜水艦は任せろ!行くぜ、龍田、鳳翔さん!」

「分かりました!」

「ふふ、了解よー」

 龍田は頭部の艤装で、片方のヨ級の位置を探る。

「…死にたい艦は…そこね。」

 そして、サディストの笑みを浮かべつつ、長い薙刀型の艤装を、思い切り海面に突き刺す。

「クリーンヒット〜」

 その薙刀は、モリを突く漁師のように、ヨ級を正確に突き刺していた。

「天龍ちゃ〜ん、行くわよ〜」

「おう!」

 龍田は薙刀をジャイアントスイングの要領で振り回す。そしてスポーンと、ヨ級を上空高くへ投げ飛ばした。

「おっしゃー!」

 天龍はタイミングを見計らって飛び上がり、

 落ちてくるヨ級の首を自身の剣の艤装で斬り落とした。ウルトラマンレオと出会って以来その強さに憧れた天龍は、ウルトラ戦士たちの必殺技(近接格闘技)を学びまくった。今の技(天龍曰く、天龍空斬剣というらしい)も、ウルトラマンジャックのスライスハンドを参考にした…らしい。

 ともあれ、斬られたヨ級は力なく海の底へ沈んでいった。

「へっ!ざまぁみろ!」ーーー

 

 ーーー「軽空母だと、甘く見られては困りますね」

 鳳翔は静かにそう呟き、2機の戦闘機を発艦させる。チームDASHのダッシュバード3号と、GUYSオーシャンのシーウィンガーだ。搭載機数で軽空母は、正規空母には到底敵わないが、対潜攻撃ができるのはその大きな利点だ。それを見込んだ提督が装備させたのが、今の2機の戦闘機。そう、これらは追加装備なしで、なんと水中潜航ができるのだ。これが、ウルトラ艦載機流の対潜攻撃なのである。

「敵潜水艦発見、攻撃開始!」

 鳳翔の命令に合わせ、ダッシュバード3号からはミサイル、さらにシーウィンガーからはスペシウムトライデントが放たれる。これにはさすがのヨ級も耐えられるはずもなく、一瞬で海の藻屑となった。

「潜水艦は仕留めました!」

「みんな、ありがとう!」ーーー

 

 ーーー彼女たちの間を抜け、提督たちは敵陣に切り込んでいく。

「榛名は大丈夫…ひとりじゃない!」

 榛名はそれを改めて感じ、力強く進む。一方、空母棲姫の艦隊から、まずはリ級が向かってくる。

「ここは私に任せて!」

 島風はそう叫び、リ級を外側へと誘う。すかさずリ級の砲弾が飛んでくるが、それを余裕でかわす島風。そして一気に距離を詰めてからの、

「遅いっ!」

 文字通りの一蹴ーーーそう、島風はリ級に思い切り両足飛び蹴りを食らわせた。なす術なくそのパワーに吹っ飛ばされるリ級。島風は蹴ったモーションの後にすぐさま魚雷を水中に打ち込む。そして…

「連装砲ちゃん!そこよ!」

 連装砲ちゃんから砲弾が発射され、空中を吹っ飛び続けているリ級に命中。海面に打ち付けられたリ級にとどめを刺すのは、着水点にちょうどやってきた、先程発射された魚雷だった。

 目にも止まらぬ連続攻撃に、あっけなくリ級は完敗したーーー

 

 ーーー「司令!残りはタ級2隻と空母棲姫のみです!」

「テートク、あの3隻は撤退体制に入ろうとしてるデース!どうするネー?」

 もちろん俺の答えは一択だ。

「ここで仕留めよう。な、榛名。」

「はい!もちろんです!」

「榛名…私も嬉しいデース。あなたがこんなに成長シテ」

「私も、姉としてこんなに嬉しいことはないです、榛名」

「金剛お姉様、比叡お姉様…」

 金剛型の長女、次女と三女、四女はそれぞれ別の鎮守府の出身だ。しかし、まるで初めからずっと繋がっていたかのように、絆は深まっている。そのことは今この場の3人、そして曳航されている霧島が一番わかっているようだ。胸が熱くなる。と、

「おっ!?みんな、護衛のタ級1隻が針路を変更、こっちに向かってくるぞ!」

「榛名!向かってくるやつは、私たちに任せるネー!ヒエー!」

「はい!気合い、入れて!援護します!」

「お願いします、お姉様!!」

「頼んだ!」

 向かってくるタ級をひきつける金剛と比叡。俺と榛名はさらに空母棲姫たちを追う。

「くらえっ!ファントン光子砲、発射!」

「主砲、砲撃開始!」

 スカイマスケッティの主力装備のファントン光子砲、そして榛名の砲撃によって護衛の方のタ級が沈む。もう一方も、金剛と比叡によって撃沈された。

「金剛と比叡は、残存する敵艦載機を、こちらの戦闘機とともに撃墜せよ!」

「了解ネー!」

「はい、司令!」

 俺と榛名は、いよいよ空母棲姫との決戦に挑む。

  「オノレ…!シズンデ…シマエ…!!」

 その重く、禍々しい声に一瞬怯む榛名。俺はすかさず彼女を鼓舞した。

「榛名!大丈夫だ、俺がついてる!今のお前は、そいつなんかに負けはしねぇ!!」

「は、はい!提督!!」

 よかった。なんとか持ち直してくれた。しかし。

「ファントン光子砲、発…おわっ!?」

「勝手は榛名が、許し…きゃあっ!」

 空母棲姫が突如として艦載機を発艦させてきたのだ。

「畜生、艦載機がまだ護衛についているのか!!」

「どうしましょう提督!これでは近づけません!なんとか、空母棲姫の気をそらさないと…」

「気をそらすって言っても…ん…!?」

 その時、俺の脳内に閃光が走った。

「…そうだ、あれをすればいいんだ!榛名、一旦距離を置くぞ!」

「えっ!?あ、はい!」

 空母棲姫の護衛艦載機から距離をとる。

「提督、どうなさるおつもりですか…?」

「榛名。

 フォーメーション・ヤマトで行くぞ。」

「え…?提督…鎮守府に大和さんは着任してませんが…?」

「いや、その大和じゃなくてな…」

 

 ーーーフォーメーション・ヤマト。UGM隊員の矢的猛が考案したフォーメーションである。かつて出現した再生怪獣サラマンドラの、唯一の弱点である喉を攻撃するためにとられた。2機の戦闘機を使うその作戦の内容は、先行した1機が怪獣の頭すれすれを飛行し、怪獣が頭をあげて喉が顕になったところを、後続のもう1機がそこを叩く、というものーーーというのを、俺は榛名に説明する。

「この作戦はタイミングが命だ。榛名、出来るか?」

「…はい!榛名、頑張ります!」

「よし、その意気だ!」

 俺と榛名は再び針路を空母棲姫へと変更する。敵艦載機の迎撃も、金剛と比叡が全力で阻止していく。

「榛名!fightデース!」

「私も、頑張るから!」

「はい!お姉様!」

 距離はそろそろだ。俺は榛名の前に出て、ありったけのミサイルで敵艦載機を撃墜させ、空母棲姫の目の前の水上にファントン光子砲を叩き込む。立ち上る水柱、飛び散る水しぶき。俺はハンドルを思い切り回し、空母棲姫の頭すれすれで急旋回、そのまま斜め上へと急上昇する。

「よし、空母棲姫の注意はこっちに引けた!

 今だ、榛名!!」

「はい!」

 おそらく、空母棲姫がやつの艦載機とともに上空のスカイマスケッティに気を取られたのは、ほんの少しの間だっただろう。しかし、榛名にとっては、それはもう充分だった。

「榛名!!全力で!!」

 その叫びを耳にし、空母棲姫が前を向き直した、そこにはーーー水しぶきの中をくぐり抜けて現れた、榛名。

「参ります!!!」

 榛名はそのままゼロ距離に詰め、ありったけの力を込めて砲撃。その体を砲撃で撃ち抜かれた空母棲姫は、目覚めた榛名の力、そして勇気の前に敗れたのであったーーー

 

 ーーー「やった…やりました、提督!!空母棲姫、撃沈を確認!」

「よくやったぞ榛名!よし、今度はこっちの番だ!」

 俺と金剛、比叡、さらに上空のスペースマミーなどは、敵の置き土産である艦載機を狙う。母艦を失って混乱している敵を落とすのはたやすくーーーものの一瞬で、それらは空から姿を消した。

「よし!!勝ったぞ!!」

「Yeah!」

「榛名!おめでとう!!」

「はい!お姉様、提督…!!本当にありがとうございます!榛名、本当に…!!」

 榛名は海上で思い切り金剛と比叡に抱きついた。

「よかったですぅ…ぐすっ…お姉様ぁ…!」

「ふふ、榛名は甘えん坊サンネー」

「可愛いですね…自慢の妹は」

 俺も本当によかったと心から思った。さて、鎮守府に帰投するとしようかーーー

 

 ーーー翌日 ヒトゴマルマル

「ヘーイ、テートク!そろそろティータイムにするネー!」

「時間的にもそうだな。行くか、響。」

「ハラショー!」

 そして、金剛型の団体部屋まで行くと、既にそこには比叡、そして榛名と霧島がいた。

「久しぶりのティータイム…榛名、感激です!」

「心から楽しめるようになって、本当に妹として嬉しいです。響ちゃん、本当に榛名を立ち直らせてくれてありがとう」

「ううん、こっちこそ。」

「モー、話ばっかりじゃ、せっかくの紅茶が冷めちゃってノー、なんだからネー!」

 今日もまた、緩やかな時が過ぎていくーーー




というわけで、今年も読んでくれてありがとうございました!

来年もまだまだ続くので、ぜひともよろしくお願いします!

感想、評価もお待ちしております!
それでは皆様良いお年を!また次回、また来年です!


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高雄の章
消された愛情と重い心


ごめんなさい、今更ながら新年初の投稿です。
冬休み明けに本番ありまして…←部活で、無事成功しました。

すみませんお待たせしました、本編どうぞ。


 ーーー数日後

 俺と響は、この日も朝から執務室で書類整理をこなしていた。最近この鎮守府の艦娘たちも大勢が立ち直り、出撃などがこなせるようになっている。

 

「はい司令官、この前の遠征の報告書。資材の数の確認を頼むよ」

「ありがとな響。成功してよかった。」

 目を通してサインをする。

「さて、と。」

 ひとしきりの整理を終えて、俺は一枚の書類を手に取る。そこには、ここに在籍する1人の艦娘のデータが書かれていた。

 

 ーーー高雄型重巡洋艦の一番艦・高雄。元は第39鎮守府の艦娘だった彼女がここにやってきた理由、それはなんと、そこの憲兵からの理不尽な理由での暴行によるものだった。

 かつて、彼女はそこで主力として活躍していた重巡洋艦だった。必然的に練度も高くなり、そこの提督に信頼され、いつしか彼に恋心を抱いた。が…。

 それを好ましくないと思った者がいた。そこの鎮守府に当時勤務していた女性憲兵である。彼女もまた、提督に行為を抱いていた。そして彼女はやがて、嫉妬心のあまり高雄のことを邪魔者扱いし始めた。はじめはすれ違った時のイヤミから始まり、しかしやがてエスカレート、ついには直接の暴行までに至った。人目のないところだけで行い、そして想い人の提督の前ではいい人を装う。陰湿な手口は彼女の心を大きく傷つけ、発覚を遅らせた。やがてこの一件がようやく発覚して、大本営から独立した憲兵隊本部は憲兵の検査を強化するなどの対策が取られた。しかし。

 発覚した後に対策をしても、高雄の心は簡単には治るはずがなかった。彼女はこの1件で人間不信に陥ってしまい、心を閉ざしている。

 そして、この情報を教えてくれたのはーーー

 

 ーーー「提督?いいかしら?」

「ああ、入れ」

 途端にバターン!と大きな音を立てて開くドア。1人の艦娘がこちらに向かって、走って…というより突進してくる。

「失礼しまーす!ぱんぱかぱーん!!」

「わーっ、ちょっまっ」

 ドンガラガッシャーン!ーーー

 

 ーーー「痛たた…愛宕、挨拶したのはいいが、突進は控えてくれ…」

「ふふふ、ごめんなさーい」

「あと、謝ってるなら…」

「何かしら?提督」

「…俺を抱いてるその腕を解いてくれ…」

「もー、スキンシップよー?」

「スキンシップは結構だが…流石に苦しい…」

「愛宕さん、司令官の顔から真面目に血の気が引いてるからやめてくれ」

「響ちゃんまで…はーい」

 …そう、高雄型重巡洋艦の二番艦・愛宕だ。高雄と同じ鎮守府から彼女とともにここに移ってきた。

「全く、お前は少し加減というものを覚えてくれ…」

「はーい」

 反省してるのかわからない態度だが、決して悪い人ではなく、むしろいい人である。姉思いで、高雄の療養にも色々と協力してくれているのだーーー

 

 ーーー数日前 フタフタマルマル

「提督?少しいいかしら?」

「?…ああ、入りなさい」

 ドアを開けて入ってきたのは、愛宕。

「提督、わかってると思うけど…私の姉、高雄のことで相談があるの…」

「高雄か…一昨日榛名が戦いの中立ち直ったことで、この鎮守府に着任している艦娘の中、現在で唯一療養をまだしてない状態にあるからな…遅れてすまん。」

「謝ることないわ。隣、いいかしら?」

 俺が了承すると愛宕は、響が自室に戻って空いた、秘書艦用の椅子に腰掛けた。

「愛宕、できれば高雄と同じ鎮守府から来た、姉妹艦の君に状況を詳しく話して欲しい。」

「ええ、もちろん私も、そうするつもりだったから。実はね…」

 愛宕は全てを語った。語るうちに、いつも明るく快活な彼女が、次第に俯き、暗い表情で嗚咽を漏らし始め、そして話が終わる頃には、彼女の顔は普段とはうってかわって涙でぐしゃぐしゃだった。

「…愛宕…大丈夫か…?」

「…ええ…なんだか、昔のこと思い出して、すごく自分が情けなくて…高雄がある日、不自然な怪我をしてた時、私は大丈夫って聞いたのだけど…あの子、笑顔で『大丈夫よ愛宕、心配しないで』って言ってたの…今も時々思うの、もしあの時、自分がもっと彼女の異変に気付けていたら…もしあの時、高雄を少しでも救えていたら…!!私は…、何も高雄にできなかった…」

「…とりあえず落ち着け、愛宕」

 よしよしと俺は愛宕を抱き寄せた。

「…提督…。ありがとう」

「でも、確かに辛かっただろうな…きっと高雄は、お前に心配をかけたくなかったんだよ。大事な妹に、自分のことで心配をかけまいってな…」

「うん…あの子、とても思いやりのあったから…多分、提督の言う通りだと思うわ…」

「ああ。それで、今の高雄は?」

「人間不信になってるわ…ここの艦娘たちとはうまくやっていけてるし、一応出撃もできるけど、提督や憲兵とか、軍事関係の人間関係ってなると、昔の記憶が戻っちゃうのかしら…自分からとにかく関わろうとしないのよ…彼女の影響って理由もあると思うけど、ここには憲兵は配属されてないし…」

「確かに、憲兵をここでは見かけてないな…そういうことだったのか。」

「提督…響ちゃん…お願いです、高雄を助けてあげて…」

「わかった、全力を尽くそう」

「僕も頑張る」

「ありがとう、2人とも…」ーーー

 

 ーーーそして今。

「今日も高雄は…一緒に提督の仕事手伝わないって誘ってみたのだけれど…」

「来てくれなかったか…」

「あ、でも」

「?どうした、響」

 響はこう言った。

「高雄さんに、昨夜自室に戻る時に偶然会ったんだけどね」ーーー

 

 ーーー昨夜 廊下にて

「ふぁ〜…やはり眠いな…あっ」

 曲がり角を曲がると、そこには高雄の姿。

「…こんばんは、高雄さん」

「あら、響ちゃん…」

 すると、高雄は響の元に歩み寄り、しゃがんで響に目線を合わせる。

「…私のために、ありがとうね。愛宕からいつも聞いているの…」

「いえいえ。高雄さんのこと、応援しているから」

「響ちゃん…あのね、聞いてくれるかな?」

「え?」

 

 ーーー場所を高雄の個人部屋に移して

「そこ、座っていいわよ」

「お邪魔します、ありがとうございます」

「ううん」

 高雄は響にお茶を出し、話し始めた。

「私の過去については、愛宕から話してもらってると思うけど…人間が嫌いなわけじゃないけど、どうしても抵抗が出来てしまって…やっぱり、今の提督がどんな人とかろくに知らないのに、自分勝手よね…」

「そんなことないよ。ここまでひどいことをされたら、僕もそうなってしまうかもしれない。」

「響ちゃん…」

「でも、少しずつ、明日から提督と話してみてくれませんか?僕からのお願いです」

「うん、私もそろそろ頑張ってみようかな…でも、少し考える時間が欲しいわ。その…明日には答えを出すから、秘書艦業務が終わったら、来てくれないかしら…?」

「わかった、ゆっくり考えてください」ーーー

 

 ーーー「だから提督、もしかしたら明日には高雄さん来るかもしれない」

「そうか…」

「響ちゃん、ありがとうね」

「お礼はいいよ。とりあえず提督、色々と準備しないとだね」

「ああ、そうだな。」

「提督、よろしくお願いしますね」

「わかっているさ、愛宕。頑張ってみるよ」




今回も読んでくれてありがとうございましたm(_ _)m
感想や評価、お気に入り登録お待ちしております。

それではまた次回…出来るだけ早く出せるよう頑張ります!


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2人の時間。

ごめんなさい更新大幅に遅れましたごめんなさい。

本編どうぞです。


ーーー翌日 マルハチマルマル

「提督…失礼しますね」

「おお、高雄。来てくれてありがとう。」

愛宕が昨夜説得してくれたらしく、高雄が比較的、朝早くに来てくれた。また、今日のプランの書かれた紙を、少し前食堂での朝食時に響からもらっている。愛宕とともに考えたらしい。どうやら彼女たちの話によると、俺と高雄、2人だけの日帰り旅行を急遽企画してくれたようだ。本当に頭が下がる。

「じゃあ高雄、お互い準備が出来たら、外に集合しようか。」

「…はい」

やはり、まだまだ過去の傷が残っているか…

 

ーーー数分後 正面玄関

外出用の私服に着替えた俺と高雄を、見送りに来たのは響と愛宕。

「じゃあ、行ってくるから」

「わかった司令官、よろしく頼む」

「高雄、リラックスして楽しんでらっしゃいね〜」

「あ、ありがとう、愛宕…じゃあ、行ってきます」

俺はみんなに見送られ、ジオアトスのアクセルを踏んだ。サイドミラーに移った響の顔が若干ヤキモチを妬いていたように見えたのは…心の片隅に置いておこう。土産、何がいいかなーーー

 

ーーーマルキュウマルマル

「提督?あの…」

「どうした、高雄」

「なんで、駅に行くんですか?」

「いや、今日のプランは鉄道旅行だから」

「車じゃなかったんですね…」

少し嘆いたようになる高雄。

「大本営に言って、今日は1日、俺とお前の分の有給をとってあるから」

「はい…ありがとう、ございます」

 

山と海に囲まれた第35鎮守府のある街には、特急も停車するそこそこ大きな駅がある。

「あれか、9時20分発のだ。」

その駅のホームに降りると、ちょうどタイミング良く特急列車が入線してきた。今朝早くに響が指定席をとってくれたらしい。

「ここだな」

「はい」

2人がけのクロスシート、その窓側の席に腰掛けた高雄は、ふと窓の外を見つめた。大きな窓に映るのは、いつもと変わらぬ街の風景、そしてその奥に小さく鎮守府と海が見える。

「綺麗だろ?」

「あ…は、はい」

高雄はそのようにしか返せなかった。どうしよう、せっかく愛宕や響ちゃんがチャンスを作ってくれたのに…焦りと自責の念が高雄の脳裏を何度もよぎる。と、

「高雄、そんなに自分を責めなくていい。ゆっくり焦らず、1歩ずつ進んでけばいい。」

提督の言葉。本当に何気ない言葉。しかし高雄は心の内を読まれたかもしれないという驚きと、そしてそれ以上に救われたような温かな気持ちに包まれた。

「…ありがとうございます、提督」

俯きながら言うのが、精一杯だった。しかし彼女は気づいていなかった。その時、窓ガラスに映っていた自分の顔の口角が、少し上がり、頬が少しだけ赤くなっていたことをーーー

 

ーーー車内にて

特急列車の心地よい揺れ。車窓からして、列車は山の中に入りつつあるようだ。人はちらほら、という感じの静かな車内にて、高雄は…

「ほら高雄、随分街が小さく見えるぞ」

「そうですね…」

返す言葉は少なくても、彼女の心は確実に回復の兆しを見せていた。その証拠に、先程より微笑みが増えている。外の景色について語らっていると、次駅の到着を知らせるアナウンスが車内に入った。

「さてと、高雄。ここで1回降りるよ」

「あ、はい!」

荷物を整え、ホームに降りる。駅前広場に出ると、商店街の建物、路面電車が目に入ってくる。そして、ほんのり鼻を刺激する硫黄の匂い。

「ここは…温泉地なのですか…?」

「ああ。昔は宿場町だったそうだ。…高雄、今日初めて君から話しかけてくれたね。」

「あ…」

自分でも無意識に提督に話しかけた高雄。改めて彼を見ると、その笑みが自分の心を揺らす。ふと脳裏に浮かぶ前の提督。かつて自分が恋焦がれた彼と一緒に、ここに来てみたかったと想像した。しかし、同時に浮かんできたのは、それを絶つに至ったあの辛い記憶。思い出される様々な記憶の闇に、彼女の精神が囚われそうにーーー

 

ギュッ

 

ーーー「高雄、早速街を散策してみようか」

ふと自分の左手に感じる温かさ。提督の大きな、温かい右手が、自分の左手を優しく握っていた。

「提督…」

「…大丈夫、大丈夫…」

そう言いながら提督は、今度は空いている彼の左手で高雄の頭を優しく撫でる。思わず頬が赤らみ、俯くが、しかしそれはとても心地の良いものだった。

「ありがとうございます提督。行ってみましょう!」

パッと見、カップルにも見える2人が、温泉街へとその身を繰り出したーーー

 

ーーーその後はと言うと。

土産屋さんで鎮守府の全員の土産に頭を悩まされ、さらに買ったはいいが今度は荷物の重さに悩まされたり。

「うう…お土産屋さん、最後にすればよかったな…すまん」

「いえ、大丈夫です。とりあえず、宅急便サービスに預けて、鎮守府に後日届くようにしますか?」

「名案だな高雄。それで行こう」

 

昼食にと、その地の特産野菜を使った弁当を歩きつつ食べようとしたら、突然飛んできた鳥に一部をさらわれたり…

「あ、私の弁当!こら、待ちなさい!」

「まあまあ、鳥に言ってもしょうがないさ。俺の少し食べていいから」

弁当を取り分ける提督。

「提督…ありがとう、ございます。」

 

そして極めつけはというと。

「ここが、2人が教えてくれた日帰りもできる入浴施設だ。色々サービスも充実してるみたいだから、楽しみだな…ん?高雄、どうした?」

「あ、あの、その…」

高雄は顔を真っ赤にしつつ、脇の看板を指さす。そこにはデカデカと、

 

『混浴』

 

の二文字。

「…愛宕め…図りやがったな…」

よくよくプラン紙を見ると、響の字が消しゴムで消され、その上に愛宕の字でこの施設の名が書かれている。それを見た提督は、高雄に無理しなくていい、と言うが…

「あの、私は別に…構いません」

「…本当に?」

十数分後。

混浴せざるを得なくなった2人は、タオルを厳重に巻き、浴場の中互いに顔を逸らして、微妙な距離感でいたことは言うまでもない。

しかし、温泉から上がればまた2人で、卓球やゲームで楽しんだりもした。そしてだんだんと日が傾いていきーーー

 

ーーー帰りの電車は、敢えて各駅停車にした。ガラガラの車内には、人はほとんどいない。ボックスシートに腰掛け、2人は語らっていた。

「…今日は私なんかのために、本当にありがとうございます、提督」

「私なんかって言うのはなしな、高雄。」

「え、しかし…」

「それになんかごめんな。色々連れ回して」

「いえ…その、私も…楽しかったです。前の鎮守府での提督とも、こんなふうに旅行してみたかったです…」

「…そうか」

「今回の旅行まで…怖くて、そして過去のことで人をあまり信じられなくなって…あなたを避けていたところがありました…本当に、ごめんなさい…本当に、嬉しかったです。今日、あなたと一緒に過ごせて…」

「それなら、よかった。」

すると、不意に高雄は俺の手を握った。

「その…少しだけ、こうさせてください。もう、何からも逃げません…!強く、なります…」

決意するように、表情を固くする高雄。でも、若干の無理がそこに入っている気がした。

「…高雄、君の決意を俺は最大限に尊重するし、全力で後押しもする。でもな、本当に何もかも無理する必要はないんだよ」

「…それは、どういう…?」

「高雄。逃げないことは大事だ。でもな、逃げるということに否定的になり過ぎると、かえって自分の身が持たないこともある。だから、どうしても辛い時は、逃げることだって立派な選択肢になるし、それが君を助けてくれることだってある。」

「そうなのですか?」

「逃げるが勝ち、三十六計逃げるに如かず、これみんな逃げを肯定する言葉だ。だから、その、俺もうまく言えないが…お前1人で無理をする必要はないんだよ、高雄」

「提…督…」

「大丈夫。みんなついてる。1人じゃないさ」

「…本当に…ありがとう、ございます…」

「…立ち直ってくれたようだな、よかったよ。」

「はい…その、提督」

「ん?」

「改めて…これからも、よろしくお願いします」

「…ああ、もちろんさ高雄。」

いつの間にか同じ車両に乗っているのは、提督と高雄の2人だけになっていた。列車は彼らを乗せ、鎮守府のある街の灯の中へと入っていった。

ちなみに鎮守府に帰ったあとしばらく、響が提督のそばを三日間ほど離れようとしなかったのは別の話…であろうーーー

 

ーーー「おお高雄、お疲れ様。」

「はい、ありがとうございます。今回の出撃ですが、敵艦隊を壊滅させることに成功しました。こちらの損害はーーー」

高雄は完全に立ち直り、心を開いてくれた。そして今では、この鎮守府の立派な戦士の1人となっている。

「ありがとう高雄さん。じゃあ、報告書を大淀さんに届けておくね」

「よろしくね、響ちゃん」

高雄と響は退出した。さてと、と。俺はある書類ーーー次にここに着任する予定の艦娘のデータ紙を見直した。少し前から繰り返しているのだが、彼女の抱えている問題の意味が、いまいち想像つかないのだ。

「着任予定は…明日か」ーーー

 

ーーー翌日

「すみません、今日着任予定の者です。」

「おお、入りなさい。」

1人の艦娘が、ドアを開けて執務室へ入ってきた。

「今日付けでここに着任となりました、重雷装巡洋艦の大井です。北上さんともどもよろしくお願いしますね?」

「…あ、ああ。よろしくな。」

俺は目を疑った。大井の脇に、確かに北上がいるのだ。着任の予定はなかったのだが…隣の響を見ると、いまいち納得していないような微妙な表情である。

ともあれ挨拶を済ませ、退出していく大井…と北上。…なんだったのだろう。しかし、その答えはすぐ出ることになった。

 

ーーー数分後

「ふう。あ、すまん響、少し御手洗に行ってくるから」

「了解した、司令官」

俺は執務室から外に出て、廊下の曲がり角を曲がった、そこには…

「あれ?提督じゃん」

「…北上?」

そう、まさに先程見た北上がいた。そして彼女は唐突に自分に近づき、上目遣いでこう言った。

「ていうかさ、提督ってすごいね。

…私のこと見えるなんて。」




ということで読んでくれてありがとうございました。
感想や評価、よければお願いします。

また次回お会いしましょう!


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大井と北上の章
想いは生死を超え


某ブルーベリー色の化物のゲームにハマってしまった今日この頃。

それと最近更新遅れ気味ですみません…m(_ _)m
今回少し短めですが、本編どうぞです。

※この章もクロスオーバーになります。


「…え?」

 私のこと見えるなんて…って?

「ふふふ、驚いてるみたいだね。」

 …そう言うってことは…北上…まさか…

「北上、君はまさか…その、俗に言う幽霊、なのか?」

「…ふふ、せいかーい」

 そう言われても、恐怖感は不思議と感じなかった。その代わり、頭の中になんとも形容し難い疑問が次々と生まれた。

「お?提督、戸惑ってるね〜。まあ当たり前だよね〜。」

「…そりゃ、まあな。」

「うーん…そうだ、私幽霊だけどさ、個人部屋用意してくれない?」

「個人部屋?」

「うん。多分そうしないと…大井っちがなんて言うかわかんないし…」

「…そうか、分かった。」

「ありがとう、提督。それとさ、個人部屋が用意できたら、1回みんな連れてさ、一緒に来て欲しいんだよねー。色々話したいことあるしさー。」

「ああ。分かった。」

「おお、ありがとうー。気が利くねぇ提督。じゃあまたねー。」

 そう言うと北上は、廊下の奥へと消えるようにいなくなってしまった。

「…なんだったんだろう…」

 …とりあえず、響と大淀を交えて、少し話し合いをしようーーー

 

 ーーー同日 フタマルサンマル

「…と、いうわけなんだ。」

 ここまでの事情を話すと、大淀は納得したようだ。だが、響はあまり実感がわかないようだった。少し彼女の足が震えていたのは…見なかったことにしよう。するとその響が、

「で、でもさ、僕は北上さんなんて…全く見えなかったよ?だから、その…少し不思議だなあって…」

 と。…今の声の震えもなかったことにしよう。

「でもそうなると矛盾ですね…私には見えたんです。執務室に来る前に、私の所に大井さんが来た時、その隣に北上さんが…」

「多分、素質とかそういうこと、じゃないか?ほら、よく霊感とか、見えるヤツ、とかいうじゃないか。」

「じゃあ、私や提督にはそういうものがあって…響ちゃんには…」

「い、いいんだよ?そういうのなんてなくて。ていうか、見えたら前見えなくて邪魔じゃん?」

 …一気に震え声と動揺した表情、早口のコンボの響。…見なかったことに、というのもさすがに無理がくるかもしれないくらいだ。

「とにかく大淀、艦娘寮の大井の隣は空き部屋だから、そこを北上の部屋、ということにしよう。それととりあえず明日、俺たち3人で北上と大井で話し合ってみようか」

「僕は…遠慮しておくよ」

「…いいのか?響」

「どうせ見えないし」

 言葉だけ聞けばふてくされている人の言葉だが、彼女の様子から見るに…心の底から安心している。

「…ああ、分かった」

 それだけ返しておいたーーー

 

 ーーー翌日 ヒトロクマルマル 大井個人部屋

「失礼するぞ。大井…それから北上、いるか?」

「はい、いますよ。なんでしょうか提督。」

 昨日あのあと、大淀が大井に話を通してくれていたらしく、許可もとれたそうだ。ドアを開けるとそこには、大井…それと北上。霊体にありがちという半透明の体ではなく、むしろこれが幽霊?と聞いてしまいたいほど肌色もよかった。

「お、揃ったねー。じゃあ大井っち、お菓子用意してよ。あたしお茶もってくるから、ね」

「はい、北上さん!」

 やはりというか…大井は北上が絡むと途端に元気になるようだ。というか…

「北上、お前って物持てたりするんだな…」

「え?…ああ、これねー。すっごいよね、私も驚いちゃった。」

「もう提督、何を聞いてるんですか?北上さんは今ここに存在しているじゃないですか。」

 …あ、これって病んでる?病んでるパターン…?

「まあまあ、大井っち。とりあえず、こうなった経緯を北上様が説明するよー。」

 と言って、北上は俺と大淀にお茶を出して、そして過去を語り始めたーーー

 

 ーーーかつて第32鎮守府に在籍していた大井と北上は、とても仲の良い姉妹艦だった。2人とも同時期に、軽巡洋艦から重雷装巡洋艦に改装され、そこには当時まだ他の球磨型軽巡洋艦がいなかったこともあって、2人の絆はより一層深まっていった。

 が、しかしそんな温かな日々は突如として崩れ去った。

 その日、とある海域に出撃していた大井と北上。中破者がでるなど、手こずりながらも敵の艦隊一つを撃破したのだが、その際、近くに潜んでいた敵の潜水艦から、大井に向けて数発の魚雷が放たれた。それに気づいた北上。

「!?大井っち、魚雷!!」

 そう言った時、北上は既に動き出していた。そして、突然の事態に動くことが出来ない大井を、思い切り突き飛ばした。

 吹っ飛ぶ大井。北上に命中する魚雷。炎上する彼女の艤装。

 北上は…轟沈した。

 

 大井は、自らその親友の命を奪ってしまったと、深い悲しみに暮れた。

 北上が沈んで1週間は、彼女は部屋から一歩も出てこなかったという。

 そして。大井がようやく出るようになってから、彼女は奇妙なことを言うようになった。

「北上さんが見える」

 もちろん、第32鎮守府で北上がこの1週間の間建造されてはいない。外に出てくるようになったことは嬉しいが、これはただことではない。そこの提督や仲間の艦娘達は、大井が嘘を言っていると思い、説得を試みた。しかし、

「何を言っているんですか?北上さんはここに現にいるじゃないですか!」

 と、聞く耳を持ってくれなかった。そのように見えた。

 しかしある日、その状況は一気に覆された。

「北上が見える」

 という艦娘がチラホラといることが分かったのだ。混乱に包まれる鎮守府。やがてこのことで、北上が沈んでから一ヶ月、ここ第35鎮守府への異動が決定したーーー

 

 ーーー「なるほど…」

「でも北上さんは戻ってきてくれたんです!私の想いに応えてくれたんですよ!」

「お、おう、そうか…」

 熱弁する大井に少し戸惑いつつ、少しお互いの親睦を深めるべく他愛もないことを話し合った後、部屋を出た。

 廊下を歩きつつ大淀と話す。

「提督…どうします?」

「そうだな…うまく大井に、北上の…死を受け入れさせないとだな…」

「うんうん、頼んだよ提督」

「おお。…って北上!?」

 なんとそこには、先程話し合いを終えて別れたはずの北上がいた。

「ごめんねー。実はさ、あそこだと少し話しづらいことが色々あってさー、うん。」

「そうなのか?」

「そうなの。だからさ、少し執務室に通させてくれないかな?」

「ああ…構わんが」

 俺は大淀、そして北上を連れて執務室へ向かったーーー

 

 ーーー執務室

「おかえり提督。その…話はどうだった?」

 若干オドオドしながら聞いてくる響。

「特に何も問題は起きなかったよ。ただ…まだ続くかな」

「?」

 キョトンとする響。俺は事実を伝える。

「…今ここに、北上がいる。」

 一瞬固まる響。そして空いている俺の隣をビクビクしながらじーっと見つめる。

「その…俺じゃなくて大淀の隣にいるんだがな。」

 ガクッとうなだれる響であった。

 その後なんとかして響をなだめ、執務室にて、俺、響、大淀、そして北上の4人で改めて話し合いが始まったーーー

 




今回も読んでくれてありがとうございました!m(_ _)m
よければ感想や評価お願いします!

寒さやインフルエンザに気をつけてください…
また次回です!


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霊魂の真相と謎の光

ただいま、筆者は慢性的寝不足です。
やばいです。
明日も早いし…あぁ休みたい。

本編どうぞ。


 ーーー「そのさ、まず私が幽霊で蘇った理由?というか原因?なんだけどさ。」

 北上はまずそう切り出して話し始めた。

「前のとこの図書室で色々調べたんだけど…多分、大井っちが私のことをすごく強く思ってたから、それに反応して霊魂が強くこの世に残って、それで幽霊の姿になったって感じかな〜。大井っちがさっき言ってたことも、あながち間違いじゃないんだよね…」

「なるほど…要するに生き霊と原理的には同じだと考えて大丈夫ってことか?」

「あー、そうそう。多分そんな感じかな。」

「なるほど。」

 …響が生き霊という言葉に反応していたことは黙っていよう。

「あ、そう言えば」

 大淀が口を開いた。

「先程北上さん、お茶を私たちに持ってきてくれましたよね…幽霊とかって、どうしても、こう…その、物とかはすり抜けちゃうっていうイメージがあるんですが…」

「あー、それねー。これも調べに使った本の一冊に書かれていたんだけど、私みたいな幽霊ってさ、霊力がみんな一緒じゃなくて、強弱があるみたいなんだよね、大淀さん。」

「強弱?」

「そう。すごく強いと、誰でもはっきり見えたり、やばい呪いかけることが出来たり…」

「うわぁ…」

「まあまあ、私はそんなのかけないし、かけられないから大丈夫だよー。ただ、大井っちの私に対する思念がすごく強くて、その程度が物が持てるレベル…なんだよね、多分。」

「なるほど…ありがとうございます」

 何故かメモしている大淀。すると突然、北上が何かを思い出したかのように俺に言った。

「あ、そうだ。その、焦らせるようで悪いんだけどさ…私、時間ないんだよね…」

「え?」

「提督も知ってるよね?人が死んだ時の、四十九日とかって」

「ああ。確か、人は死後四十九日はこの世に魂があるということだろ?…ってまさか」

「そう…そのまさかなんだよね。今日この日で、私が沈んでから、ちょうど四週間目なんだ。」

「ってことは…あと、三週間…21日しか無いってことか!?」

「そう…なっちゃうんだよね。」

「そ、そうか…」

「それと…あのさ、加えて追い詰めちゃうようで申し訳ないんだけどさ…大井っち、このことを全く知らないんだよね…ごめんね提督、すごく図々しいと思うんだけど…」

「いや、なかなか伝えられないのはわかる。多分みんなそうすると思うし。」

「…提督…ありがとう」

「いいんだって。これも、俺の仕事さ。」

「提督…いい人だね。私も、大井っちに笑顔であの世に見送ってほしいから、その…自分にできること、できるだけ頑張ってやってみるよ…!」

「おう!お互い頑張ろうな、北上。」

 すると、北上が手を差し出してくる。幽霊だけど大丈夫か?と聞く俺に北上は、さっきも言った通り物には触れるよ、と返してきた。俺は差し出された北上の手に、そっと手を重ねた。冷たい手を予想していたが、それはいい意味で裏切られた。手と手が触れ合った瞬間、ほんのりと感じる北上の体温。温かい。前を見ると、微笑んでいる北上。少し頬が紅く染まっている。

「司令官?何してるのかい?」

 不意に響が聞いてきた。北上と握手していることを話すと、響はまるで、「え?」とでも言いそうな顔になる。

「そうだ、響も握手してみないか?」

「おお、いいねぇ提督。この私はスーパー北上様だから、駆逐艦も大歓迎だよー!」

 北上の声は届いていないだろうが、しかし響はおそるおそる、その手を伸ばした。

「おっ」

 響の手を、北上が優しく握り返す。その瞬間、あからさまにビクッとなる響。しかし、驚いたような顔は、やがて穏やかな笑顔に変わっていく。握手を終えると、響は俺に感想を報告してきた。

「その…最初握られた時、やっぱり見えないのに握られたから、とても驚いたんだけど…なんて言うんだろう、すごく温かくて…優しい感じがしたんだ。」

「俺と同じだな。きっと北上がすごく優しいからだろう。」

「そんな、照れるよー」

 4人で微笑みあった。響の恐怖心も、もう無かった。そして俺たちはみんなで、大井のために各々のできることをしようと決めたーーー

 

 ーーーしかし。

 現実はそうそううまく進むものではない。大井になんとか北上の死を受け入れさせようと、あまりにもストレートすぎるやり方で事実を伝えたら、彼女がどうなってしまうか分からない。俺はそこに留意しつつ、大井を見かければコミニュケーションを試みたのだが…いざ話すとなると、どう話を切り出せばいいのか分からない。

 とりあえず、北上のことについて話してみる。

「あ、大井」

「あら提督、どうしたんですか?」

「いやその、北上のことについてさ、色々と話を聞きたいって思ってな。」

「北上さん、ですか?」

「ああ。前のとこでなんか沈んだって…」

「提督…何を言ってるんですか?」

 大井の表情が一気に変わる。

「昨日も言った通り、北上さんは私の思いに応えて戻ってきてくれたんです!現に昨日、提督も話をしたじゃないですか?」

「あ、あぁ…」

「多分何かの間違いですよ!」

「お、おぅ…」

「ではすみません、失礼します」

 すっかり大井に気圧されてしまった。が、収穫というか、何も得られなかったわけではない。

 北上について話していた時の大井の表情からして、恐らくだが、心のどこかでは彼女の死を理解はしている、そう感じた。しかし、残りの大部分がそれを認めたくないという感情で覆われてしまっているのだろう。

「とにかく、心の扉がない訳では無い、ってことだな…後は鍵さえ開けられれば…」

 俺は考え込みつつ、その場を後にしたーーー

 

 ーーーその夜 フタヒトマルマル 執務室

「皆さん、今日はどうでしたか?」

 大淀の声で、昨日の4人での状況報告会が始まった。

「俺は…ダメだった。ただ、多分その…北上の死を受け入れられない、って言うんじゃなくて、受け入れたくないっていう感じだと思ったんだよな、今日関わって」

「そーか…私も色々話そうと思っても、やっぱりどうしても話せないんだよね…ごめん」

「僕と大淀さんは、第六駆逐隊のみんなを連れてって、今日少し遊んでみたんだけど…進展はなかった。」

 全員、あまり成果は無かったようだ。

「まだ、時間あるから…頑張ってみよう」

 北上のその言葉で、話し合いは終わった。わずか数分にも満たなかったーーー

 

 ーーー翌2日目、この日も成果なし。

 

 さらに3日目、この日もまた成果なし。

 

 そして、4日目のことだったーーー

 

 ーーー廊下

「どうしたんですか、提督。最近よく私に話しかけて来ますけど…」

「いや、新しいこの場所で、お前も北上も馴染めているか心配でな…」

「そうですか。でも、私も北上さんも、ちゃんとやれてますし、大丈夫ですよ」

「そうか、だといいんだが…」

「心配しすぎは体に毒です、提督。じゃあ、失礼しますね。」

 そう言って、大井が立ち去ろうとした時だった。

「…!?」

「?…提督?どうかしましたか?」

「いや…大井、今なんともなかったか?」

「いえ、別に…」

「そうか…」

 大井がいなくなった後も、俺の脳からは先程の光景が離れなかった。

 立ち去ろうとする彼女の体がほんの一瞬、弱く不気味に光った気がしたのだーーー

 

 ーーー「…というわけなんだよ。」

 俺はその日の状況報告会で、このことを報告した。すると北上が、「私も一回だけ、今日そういうのを見た」と言った。しかし響と大淀は見てはおらず、もちろん彼女達を含めてその光の正体を知るものは誰もいなかった。

「とりあえず、また明日だね」ーーー

 

 ーーー翌日。

 前日の件で、大きな動きがあった。

 大井から出た昨日の光は、一秒も満たない一瞬だけだったが、今日の光は少なくとも認識のできる時間は光っていたのだ。やはり色は変わらず、不気味さを感じさせた。

 その夜の状況報告会で報告すると、更なる進展があることが発覚した。

 なんと、響、大淀も大井から出る不気味な光を見たと言う。

「詳しく聞かせてほしい」

 俺は深くそれを掘り下げることにした。

「僕は、執務室に行く前に食堂に忘れ物をしたことに気づいて戻ったんだ。そしたらその途中ですれ違って…一秒くらい、弱かったけど確かに光ってた」

「私は夕方ごろ、酒保の方で買い物をした時に店内で見かけました。特徴としては、提督や響ちゃんが言っていたのと同じです。」

「…なるほど。というか、今気づいたんだが…俺は一応、昼頃にその現象に遭遇した。つまり、全員バラバラの時間帯で見かけていることになる。」

「てことは…頻度が増えているってことだよね…やっぱり」

「北上?」

「あたしも今日二回見たんだ。やばいよね、これって…」

 不安を残したまま、とにかくこれからの状況に注意することでまとまり、この日は終わったーーー

 

 ーーーさらに翌日。

 やはり光の頻度は増えているようだ。というのも、目撃者が増えてきているのだ。掃除をしていた長門に吹雪、さらに食堂にいた間宮。

 俺もまたこの日も見た。思い切って、大井に光のことを聞いてみた。

「…?あの、何もありませんけど?」

 どうやらこの光、大井は全く気づいていないらしい。大丈夫ですよ、と彼女は微笑んだが、その笑みにまで陰りが見えたような気がした。不安な事柄が続いているせいか、はたまたこの光のせいか…感覚的なものだったので、それについては断言はできなかった。しかし、断言できる事柄があった。

「間違いなくあの光、どこかで見た記憶がある…」ーーー

 

 ーーー俺は昼食を食べ終えると、すぐに執務室に戻り、クローゼットを漁った。そしてその中からDVDを取り出し、視聴することにした。

「あれ?何してるんだい、司令官」

 ふいに響が入ってきた。昼食休憩を終えたらしい。

「これは…UGMのドキュメントじゃないか。スペースマミーの改装でもするのかい?」

「いや、そういう訳では無いんだが…少し、気になることがあってな。その確認だ。」

 キョトンとする響。俺は、リモコンで映像を早送りさせた。映るのは、街の防犯カメラが捉えた、怪獣が出現するまさにその瞬間の映像。

「!!これって…!!」

「ああ。大井から出た、あの光と同じものだ…!」

 そう、UGMが戦った怪獣は、謎の発光を起こし、そして光から現れるものがあった。その光は、大井のそれと酷似していた。

「え…これって…どうなって…」

 パニックになりかける響。俺も正直驚いた。しかしこうなった以上、何かしらの対策はしなければならない。

「…響」

「…なんだい、司令官」

「少し出かけるぞ。」

「うん…え?」ーーー

 

 ーーー俺は大淀に事情を簡潔に話して、午後の分だけ休みを取った。そして混乱する響をジオアトスに乗せ、ある場所へ向かった。結果的にかなりの遠出となってしまったが、頼れる人はここにしかいない

「着いた…。」

「ここは…大学じゃないか。」

「ああ。」

 俺は大学のスタッフに許可証をもらって、ある研究室へ向かった。ちょうどその中から、大学生が1人出てくる。

「ありがとうございます、教授!」

「おう。一所懸命、頑張るんだよ」

 優しげな声に背中を押されたかのように、大学生は廊下の奥へと去っていった。

「ここだな」

 俺はドアをノックする。中から、先程と同じ優しげな声が、どうぞ、と聞こえてきた。

「失礼します。ほら入るぞ、響」

「わ、わかった」ーーー

 

 ーーーその部屋の入口隣にあった、部屋責任者の名札には、

「心理学部心理学科教授 矢的猛」

 と書かれていたーーー




評価や感想、よければお願いしますm(_ _)m

今回も読んでくれてありがとうございました!
また次回です!


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先生が鎮守府にやってくる

冬に飲むココアって、なんでこんなに美味しいのでしょう…(唐突)
毎日一杯必ず飲んでる今日この頃。

おかげで金欠…(´・ω・`)

本編、どうぞです。


 ーーー「おや、珍しいお客さんだね」

 椅子をくるりと回して、座っていた男性は俺と響の方に向いた。

「お久しぶりです、矢的教授」

「ははっ、教授はよしてくれ。やはり慣れんからなぁ。私の講義を受けに来てくれる学生にも、先生と呼んでほしい旨を伝えているんだ」

「すみません、矢的先生」

「配慮ありがとう。さてと、君がわざわざ提督の服を着て、そして秘書艦の…」

「あ、はじめまして、駆逐艦の響です」

「そうか、響さんか。彼女まで一緒に連れてきているということは、それなりの理由がある、と見ていいのかい?」

「はい、先生。」

「…なるほど。だがすまない、これから講義が入っているんだ。5時以降なら時間が空くから、近くにある喫茶店で待ち合わせはできないかな?」

「わかりました、わざわざありがとうございます」

「ありがとうございます」

「いやいや。じゃあ、また後で。」

 俺と響は矢的先生に見送られ、研究室を出た。廊下を歩く中、響が尋ねてくる。

「司令官、なぜあの先生の所を訪ねたんだい?」

「じきに分かるさ」

 俺はそうとだけ答えておくことにしたーーー

 

 ーーーヒトナナフタマル 大学近くの喫茶店

「待たせてすまなかった。ここの喫茶店は、私の行きつけなんだよ。さ、中に入ろう」

 矢的先生に案内された店内は静かでシックな内装となっており、過去の映画音楽がBGMとして流れ、大人な雰囲気を醸し出している。

「おや矢的先生。今日はお連れ様も一緒ですか?」

「どうもです、マスター。」

「それはそれは。まだ店内も空いていますし、今日はどのお席に致しますか?」

「今日は…そうだなあ、この人達と重要な話があるから、奥のコンパートメント席を使わせてほしい。」

「かしこまりました。では、こちらへ。」

 その店には4人くらいまでのコンパートメントの個室席があった。そこに通される俺たち3人。何故か響がさっきからキラキラ状態で、「かっこいい…ハラショー…」と呟きまくっているが…。

 とりあえず軽食メニューを注文し、話に入る。俺は大井と北上の今の状況をできるだけ詳しく、矢的先生に話した。

「なるほどな。…そして、そのことをわざわざ私に相談しに来る、ということは」

「はい。大井から出ている光は、マイナスエネルギー特有の発光の可能性が極めて高いんです。」

 すると、響が聞いた。

「…マイナスエネルギー?」

 答えたのは、矢的先生だった。

「マイナスエネルギーというのは、悲しみや憎しみ、恨みなどといった、人の負の感情などから生まれる、邪悪なエネルギーのことだ。私も地球を守る中で、マイナスエネルギーによって復活したり、凶暴化した怪獣と何度も戦ってきたんだよ。」

「つまり、大井さんの抱えている、何かしらの負の感情が、マイナスエネルギーとなって光っているってことですか?」

「ご名答だよ、響さん」

「ありがとうございます。…そう言えば先程、地球を守っていた、と先生はおっしゃられていましたが…」

「ああ、そのことについてか。そうだね、提督さんの秘書艦である君には話しておこうか。私はかつて、防衛チーム・UGMの隊員として、そしてM78星雲から来た、ウルトラマン80として戦っていたんだよ。」

「!?

 矢的先生が、ウルトラマン…!?」

 普段の響の冷静な顔が、一気に驚きの顔へ変わる。

「ああ。私はまたその時、今はもう統合されて廃校になってしまった、桜ヶ丘中学校で教師として過ごしていたんだ。教育の見地から、マイナスエネルギーを抑えられるのではないか、と思ってね。でも結局、次々と現れる怪獣と戦うために、志半ばでその道は捨てねばならなかったんだ。地球をなんとか守り、地球人達に見送られ、私はM78星雲に帰還したが、やはりそれでも生徒達のことはいつも心に引っかかっていた。」

 真剣に矢的先生の話を聞きいる響。

「でも生徒達は、そんな私のためにも、同窓会を開いてくれた。色々とハプニングはあったが、私の優秀な後輩、そして生徒達みんなの力があってこそ体験できた、とてもいい思い出だったのさ。」

「そうだったのですか…そう言えば、今は大学の教授をしていらっしゃると。」

 響がさらに聞く。

「ああ、その事か。私は今言った同窓会の後、再びM78星雲に帰った。しかし同窓会でまた、志半ばで捨てた教育の道への思いが再燃してきてしまってね。宇宙警備隊のゾフィー兄さんに許しをもらって、数年前からそこの大学で働いているんだよ。」

「へぇ…」

「レオ兄さんやジャック兄さんから、君たちの鎮守府のことは聞いている。艦娘たちを立ち直らせているそうじゃないか。」

「いえ、僕は別に大したことは…」

 謙遜する俺に微笑む先生。

「地球に深海棲艦が現れた時、教授としてその頃既に地球に滞在していた私には、ゾフィー隊長からウルトラサインで、『万が一の時には君が地球を守れ』と来たんだ。まあ、私が行こうとした直前のタイミングで、君たち艦娘が現れたから、結果的にそれはなくなったのだが…今でも、深海棲艦関連のニュースはチェックしているし、最近は深海棲艦とマイナスエネルギーの関連性についても、調査しようと思っている。」

「そうだったのですか…」

「…おっと、すまないね、ついつい話し込んでしまった。」

「いえいえ」

「ありがとう。それで提督さん、何か私に頼み事があるとみていいんだね?」

「はい。これはその…ダメもとで頼むようなものなのですが…これからしばらくの間、僕の鎮守府に臨時で来て欲しいんです。ただ、お忙しいこともあるでしょうし…」

 すると、矢的先生は少し考え込み、そして、

「なるほど。わかった、大学の上の方に掛け合ってみよう」

「え、本当ですか!?」

「もちろん。実は大学の上の方ごく数人には、私の正体も話しているんだ。さっき言った桜ヶ丘中学校の教え子の1人が、実は学長をやっているのだよ。マイナスエネルギーのことについては彼も私から聞いて理解はあるから、二週間くらいなら研究のための出張ということで、そちらに行くことができるかもしれない。」

「あ、ありがとうございます!」

 2人で頭を下げると、矢的先生は顔の前で手を横に降った。

「礼などいらないさ。マイナスエネルギーを放っておくわけには、行かないからね。」

 その日はお互いの連絡先を交換して、それで終了となった。そして後日ーーー

 

 ーーー「提督、お電話です」

 大淀が入電を告げた。

「はい、お電話代わりました、第35鎮守府提督です。」

「こんにちは、矢的だ」

「あ、矢的先生!何か?」

「もちろん、この前のことだ。ハカセ…ゴホッ、大学の学長の方から許可が出たんだ。明日から、そっちの鎮守府に臨時で着任することになったよ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「これからよろしくな。」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 その後しばらく話して、俺は受話器を置いた。そばにいた北上が、話しかけてくる。

「どうしたの、提督?なんかすごい嬉しそうだったけど?」

「北上、朗報だ。大井の件で、頼もしい助っ人が、明日から来てくれることになったんだ。」

「本当に!?提督、やりますねぇ~」

「ありがとな、北上。そうだな、その人のことを、今のうちに話しておこうか」

 俺は北上に、矢的先生のことを話した。

「な、なるほどぉ…」

「なんか色々わかりづらいかもしれないが、きっと頼りになる人だ。」

「そっか…大丈夫かなぁ…」

 北上はなおも心配そうに、執務室の窓から見える空を見上げたーーー

 

 ーーー翌日

 事前に大本営に連絡してあったので、矢的先生はその日の講義の後、大本営の護送車に乗って、夕方に鎮守府に到着した。降りてきた彼は、厳重な装甲の車にいささかマッチしない、ブラウンのコートにそれよりやや濃いブラウンのズボン、という服装。それはかえって、対面する者の緊張感を解き、安心感と親近感を与えてくれる。

 矢的先生曰く、中学校教師時代の標準服装らしい。

「本日から、この鎮守府に臨時で着任することになった、矢的猛だ。みんな、よろしく頼む!」

 軽い歓迎会が行われていた食堂は、拍手に包まれた。矢的先生はその後、北上を含め鎮守府の仲間と楽しく語らっていた、そしてーーー

 

 ーーーその夜 フタヒトマルマル「矢的先生は、私のもう一つの隣の部屋ですか?」

「ああ。先生もまた、あなたと色々話したがっているんだ。悩みとかがあったら、彼に話せばきっと力になってくれるよ。」

「あ、ありがとうございます…」

 戸惑っている様子の大井。矢的先生と軽く挨拶を交わし、彼女は部屋に戻って行った。その瞬間、またも彼女の体は不気味に発光していた。

 彼女が部屋に戻ったのを確認した先生は、こちらに話しかけてくる。

「…やはり、あれはマイナスエネルギー発光で間違いない。それも相当な力を感じる。恐らく、本人の負の感情の強さに加え、その感情を押さえつけていることで相乗効果を生み出してしまっているのだろう。」

「そうですか…」

「はっきり言ってしまうと、私にもどうにか出来るか分からない。ただ、できる限り協力をさせて欲しい。」

「こちらこそ、来てくれただけでもとても頼もしい限りです。よろしくお願いします。」

「私からも…よろしく、お願いします」

「うむ、頑張ってみるよ」

 俺と北上に、矢的先生は笑顔を返した。

 北上の残り時間が、ちょうど1週間の時のことだったーーー




今回も読んでくれてありがとうございました!

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また次回です!


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負の心の行きつく先は

UAがいつの間にか20000件突破、
お気に入りも126人、評価者10人…

みなさんありがとうございます!!とても嬉しいです!

それでは本編どうぞ!


 矢的先生が鎮守府に臨時で着任してからも、大井のマイナスエネルギーは留まるところを知らなかった。矢的先生や俺が必死にカウンセリングを試みるが…やはり、現実から目をそらしたいのであろう彼女は、こちらに心を開いてはくれない。

 さらに、状況はますます悪化し始めた。

 まず、北上の様子がだんだんとおかしくなり始めたのだ。残り一週間を切ったあたりから、彼女の顔色からだんだんと血色が失せている。簡単に言うと、薄くなっているのだ。さらにそれを見抜いてしまったのであろうか、大井かだんだんとうわべの笑顔を見せる回数さえ少なくなって行った。そしてその影響でマイナスエネルギー発光がより強くなっていく、という負のスパイラルに陥りつつあった。

 俺や響、矢的先生に北上、大淀、全員に焦りの色が見え始めた。

「とにかく、残り時間は少なくなっている。それは変わらない事実だ。でも、その中でなんとか出来ることをしよう。」

 しかしそんな中、時間だけが過ぎていく。そして、残り3日となった日のことだったーーー

 

 ーーー「ふぁ~…」

 いつものように起きて。

「今日は…何食べよう…」

 顔を洗って歯を磨き、そして着替える。俺は朝食を摂るべく、眠い目を擦りつつ食堂へと向かった。と…

「あ…おはよう、提督。」

「北上…おはよう。」

「あのさ、提督…なんかね、今日すごく体が軽いっていうか…質量を感じられないっていうか…」

「え?」

 俺は彼女の言っていることが、その時はよくわからなかった。が、だんだんと目のピントが合ってきて、それで改めて彼女を見つめると…その原因が分かった

「北上…!?お前、透けてるぞ…!?」

「えっ、下着…!?て、提督のスケベ…」

「服じゃない!いや、服か…?と、とにかく、自分の体見てみろ!」

 訳が分からぬまま、北上は自分の体を見た。そして、自分自身に起きている異変に気づく。

「うそ…!?ほんとに、透けてる…!?

 何これ、どうなってるの!?」

 驚き焦る北上。ところがそのうち、

「あれ?戻った…?」

 彼女の透けが収まり、いつものような北上に戻った。

「…今のって…やばいよね…」

「…ああ」

「これって、つまり…私の力が…弱まってるってことだよね?」

「おそらくな…いくら大井の強い思念に北上の霊力が比例するとは言え、さすがに限界が近づきつつある証拠だろう…」

「提督…どうしよう…私…私…!」

 北上が、いつも自由奔放な北上が、嗚咽を漏らし始めた。俺は彼女を抱きしめ、その背中をさすって落ち着かせる。

「…すまん北上…大丈夫大丈夫」

 とにかく、対策をより急がねばならない。俺は朝食中も、北上、そして響とずっとそのことについて考えたが、名案と言えるものは浮かばなかった。

 さらに。

「あ、大井さん…!?」

「………」

 廊下で大井に会った矢的先生。しかし彼女の目からはハイライトが消えており、生気の失せた顔を俯かせつつ歩いていた。さらに彼女のマイナスエネルギー発光は、もう彼女の全身を覆うほどのものになっていたのだ。

「これは…まずい!大井さん、大井さん!!」

 必死に呼びかける矢的先生。しかし、彼の声さえ大井には届いていなかったーーー

 

 ーーーそして、残り2日の日。

 大井のマイナスエネルギーと反比例するかのごとく、北上の力は弱まっていた。体が透ける頻度が増し、時々苦しそうに倒れるようにもなった。この体を維持出来る時間がもうほとんどないのだ。

 この日の報告会も、暗いことばかりが各個人から出た。雰囲気もそれに伴っていってしまう。全員に共通していたのは、状況の悪化をかなり感じていたこと、焦りを抱いていたこと、そして…まだ誰ひとりと、諦めてはいないところだった。

「明日、最後のチャンスになる。確かに状況は最悪だ。でも、俺たちまで負の感情にとらわれてどうするってことだ…!」

「私は…大井っちに、笑顔で見送ってほしい…お願いみんな、頑張ろう…!」

 誰か1人を責めようとする風潮などない。全員が全員、それぞれに出来ることを必死でやっている上での結果なのだからーーー

 

 ーーーフタサンマルマル 北上の個人部屋

「…」

 北上はまだ起きていた。彼女は、部屋の電灯をつけず、月明かりを頼りに手紙を書いていた。呼び方を少し悪くすると、いわゆる遺書、というものである。

 彼女はそこに、ありったけの彼女の思いを書き連ねていた。しかし…

「うーん、どうすれば…」

 

 コロン

 

「?」

 北上は今起きたことが分からなかった。さっきまで自分が手に持って使っていたはずのペンが、手から外れて机の上に転がっているのだから。北上はそのペンを再び持とうと手を伸ばした。

「…!?」

 掴めない。何度やっても、透けた手はペンをすり抜けてしまう。

「え…どういうこと?」

 伸ばす。空を切る。掴めない。それでも伸ばす。空を切る。掴めない。

「そんな…もう大井っちに、何も伝えられないの…?」

 嗚咽を漏らす彼女。目からこぼれ落ちる涙が机に落ちてそれを濡らすのに、その手はペンをつかむことを許してくれないのか。彼女に思いを伝えることさえ、許してくれないのか。と、

「…北上さん?」

 ドアを開け、誰かが入ってきた。

「響ちゃん…?なんで?」

「なんか感じたんだよ。北上さんが、呼んでるような気がして」

「そ、そう…えっ?なんで聞こえるの?なんで私が見えるの?」

 会話が成立している。響の瞳が自分の瞳をまっすぐ見つめている。

「…一度でいいから、北上さんと話してみたかったんだ。それで、あなたがここに来た時から色々調べてみたんだよ。それでね」

 やがて、月明かりが入っているところに足を踏み入れた響を見た北上は驚いた。

「響ちゃんって…メガネっ子だったっけ?」

「ふふ、実は霊の類は、ガラスや鏡を通すと見えやすいみたいでね。それをうまく活用して、明石さんに全国のパワースポットでとれた原料を使った特注メガネを依頼したんだよ。それに、今月明かりが北上さんを照らしているでしょう?一説によると、月明かりもそういう力を強めるって」

「そっか…響ちゃん…本当にありがとう…!」

「お礼なんていいよ。ね?」

「うん…あ、そうだ響ちゃん、今実はね…」

 北上は、今自分に起きていることを包み隠さず話した。

「そんな…」

「響ちゃん、ひとつお願いしても、いいかな?」

「なんだい、北上さん」

「そのね…私が今からいう言葉を、この手紙に書き連ねてほしいんだ」ーーー

 

 ーーー翌日

 北上の霊魂がこの世にとどまれる、最後の日となった。

 鎮守府で見える艦娘は、短い間ながら共に過ごした仲間として、見えない艦娘の分まで感謝の想いを伝えていた。そしてその中に…

 大井の姿は、なかった。

 北上は仲間たちからの想いを受け取ったあと、すぐに大井を探しに出かけた。

 今日は早朝から自ら矢的先生に、自分でどうしても事実を伝えたいと頼み込んだのだ。そして見つけた。

 港の地面に腰掛ける彼女をーーー

 

 ーーー「大井っち」

 北上の声に反応し、振り向いた大井は…マイナスエネルギー発光が数秒間続いたあと、北上さん!と返した。

「あのね大井っち…私、大井っちに言わなきゃいけないことがあるんだ」

「なんですか北上さん。なんでもどうぞ」

 笑顔だった。陰りのある。

「その…もしかしたら気づいているかもしれないけど…私は…

 私は、あの時轟沈した北上の…幽霊なんだよ」

「……」

 大井が途端に黙ってしまった。

「大井っち…」

「…ありえない」

「…え?」

「そんなことありえないっ!北上さんが私を残していなくなるなんてっ!」

「大井っち、落ち着いて!お願い!」

「ありえなっ…!?」

 大井が固まった。彼女が見た瞬間の北上は、もう体の向こうのものの色がわかるほど体が透けていたのだ…

「北上さん…!?」

「大井っち…!」

「やだ…やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ…」

 俯いて、狂ったように「やだ」を連呼する大井。そして唐突に、スクっと立ち上がった。

「…大井っち…?」

「そうだ…あそこに行けば…北上さんが消えない…あそこに行けば…北上さんを救える…!!」

「大井っち…ねぇ…」

 次の瞬間、大井は艤装を展開して素早く海面に降り立ち、全速力でどこかへ一直線に走り始めた。

「待って、大井っち!!」

 後を追う北上。そしてそれを、北上に頼まれて物陰で見守っていた人物がいた。

「はっ…!大変だ!」

 矢的先生は執務室へと駆け出したーーー

 

 ーーー某海域

 かつてまだ艦娘の存在が確認されておらず、人類が深海棲艦に制海権を奪われつつあった時、この海域でも、連合軍と深海棲艦の決戦が行われた。ここでも連合軍は惨敗し、数多くの艦が沈んだ。

 その海域をひた走る人影。大井だ。その後には、大井の名を呼びつつ、懸命に彼女を追いかける北上。

「大井っち!」

 やっとのことで追いついた北上。

「お願い大井っち!私の話を聞いて!」

「大丈夫…北上さんはまた、ここから蘇ってくれる…!」

 北上の話でさえそっちのけで、大井は海面に立ち尽くし、ぶつぶつとうわ言のように言葉を呟いている。しかし、その声のボリュームはだんだんと大きくなっていった。

「北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん…!!!」

 そして次の瞬間、

「うああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 耳をつんざくような大井の叫び。そしてそれに共鳴するかのごとく、彼女の体からほとばしるマイナスエネルギーの光が、海面に超スピードで吸い込まれていった。

「……」

 光が全て海面に吸い込まれると、先程の狂乱が嘘のように、大井は静まり返った。

「大井っち!?しっかりしてっ!!」

 懸命に彼女のことを呼びかける北上。とその時だった。

 マイナスエネルギーが吸い込まれた海域の水中あちこちから、何かが浮かび上がってきたのだ。

「…何…これ…」

 黒く朽ち果てて染まった、鉄くずの塊だった。それがどんどん周囲の海中から浮かび上がり、一つに集まっていく。どの塊からも、マイナスエネルギー発光が見える。

 北上には見えた。その鉄くずの中に、かつての人類の連合軍の艦が。そして、マイナスエネルギーに引き寄せられるかのごとく集まってくる、深海棲艦の大軍が。

 そしてついにそれらは一つになった。艦なのだろうが、それとはなんとも言い難い艦。マイナスエネルギーによって引き寄せられた歪な外観の至るところに、砲塔や飛行甲板らしきものが見える。

 

 そこへ、第六駆逐隊の4人、そして吹雪と夕立、赤城が飛ばしたスカイハイヤー、タックスペース、クロムチェスターδからなる、提督の向かわせた救助艦隊が到着した。目の前の信じ難い光景を前に、吹雪はすぐさま通信を入れる。

 

「た、大変です!目の前に…巨大な未知の艦…というか、物体が!!」

「なんだって…!?とにかくデータを送ってくれ!」

「は、はい!」

 間もなく、司令室の提督、大淀、赤城、矢的先生の元に、吹雪たちの目の前にあるそれの写真が送られてきた。

「な…!?」

「提督、何ですかこれは!?」

 しかし、俺よりも、矢的先生の方が反応が早かった。なぜならその禍々しい存在と、かつて先生は戦ったことがあるからだ。

 

「こいつは…バラックシップ!?」




というわけで、今回も読んでくれてありがとうございました!

評価や感想、お気に入り登録など、よろしくお願いします!

また次回です!


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大きな一歩

更新遅れてすみませんm(_ _)m

あと、咳風邪にかかりました。
痰や鼻水もひどいです。
皆様もお気を付けて…

本編どうぞ。


 ーーーバラックシップ。かつて出現した個体は、1980年に出現した、かつてアメリカから東京へ向かう途中、氷山にぶつかって沈んだ完全無人貨物船・クイーンズ号の成れの果ての姿だ。その時の積荷にあった、強力な磁力を発生させられる特殊な合金を使って付近のあらゆる船舶や飛行機を自分の身体にに引き込んで、東京に向かおうとした。船舶ごと取り込んだ砲台を武器に持ち、そこから砲弾を一斉発射して、スペースマミーをも撃墜させた強者である。別名、スクラップ幽霊船ーーー

 

 ーーーというのをファイルで俺たち4人は確認。

 しかし決定的に違うところがある。前回出現した個体が貨物船主体で、コンピュータ制御だったのに対し、今回出現した個体は大井のマイナスエネルギーから生まれ、そしてかつて人類が使用した軍艦主体のボディ。おまけに深海棲艦まで取り込んでいる。間違いなく、前回の個体より強くなっている。艦娘のような言い方をするならば、バラックシップ改二、というのが適当だろうか。

 俺と矢的先生は、すぐにスカイマスケッティで現場に向かうことにした。俺は操縦しつつ、現場にいる吹雪たちに指示を出す。

「吹雪たちは、とにかくまず大井の救助が最優先だ。その海域近くにある無人島に、ひとまず撤退してくれ。もし余力があるなら攻撃、バラックシップを食い止めるんだ。ただし繰り返すようだが、あくまでも救助が最優先だ。おまけに相手はかなりの強敵だろう、とにかく無茶まではするな。」

「了解です!」

 すると矢的先生が、俺に提案をしてきた。

「提督さん、確か現場にはスカイハイヤーがいるはずだな?」

「あ、はい。」

「スカイハイヤーには、相手の身体の構造をその芯まで解析できる、ボディーリサーチ・レイ機能が搭載されているはずだ。それを使って、バラックシップを調べて欲しい。」

「なるほど、わかりました!」

 俺はすぐさま鎮守府の赤城に連絡を入れる。約一分後、スカイハイヤーの妖精さんからデータが送られてきた。それによると、奴は吸収した軍艦の装備や深海棲艦、そしてマイナスエネルギーの核からなるということがわかった。

 しかし、吸収した深海棲艦がえげつなかった。

 駆逐イ級や軽巡ト級、重巡ネ級が数隻の他、駆逐棲姫や装甲空母姫、さらには陸上型のはずの飛行場姫や泊地棲姫までもが確認されたのだ。

「どういうことだこりゃ…」

「おそらくマイナスエネルギーの影響で吸収され、バラックシップごと動けるようになったのだろう。」

「なるほど…」

 …感心している場合ではない。俺はアクセルを踏み込み、海域へと加速したーーー

 

 ーーー「ウラー!今のうちに!」

「大井さん!大丈夫っぽい!?」

 そのころ当の海域では、6人の駆逐艦娘たちが半々にわかれ、それぞれの活動をしていた。

 通常北上が見えない響、吹雪、暁はバラックシップへの攻撃。残りの夕立、雷、電は、大井の救助及び避難誘導を行う。

「ありがとうみんな、大井っち、ほら!」

「私たちで食い止めます!やっつけちゃうんだから!」

 夕立たちがなんとか大井を連れ始めたのを確認し、響たちも攻撃しつつ後退する。が…

「…!?そんな、攻撃が効かない!」

「なにあれ!どうなってるの!?」

 練度の高い第六駆逐隊や吹雪、夕立の攻撃さえ、バラックシップは受け付けない。それどころか、無数の砲台から砲弾を一斉発射して来たのだ。

「きゃああああ!!」

 途切れない弾幕に、響、吹雪、暁は中破に一気に追い込まれる。

「妖精さん、急いで援護を!」

 鎮守府の赤城が、艦載機の妖精さんに援護射撃を命じた。

「まかせるです!ファイヤーストリーム、はっしゃです!」

「ゴールデンホーク、くらわせます!」

「クアトロ・ブラスター、いくぞー!」

 それぞれスカイハイヤー、タックスペース、クロムチェスターδの主力武器が、バラックシップに命中する。それでもダメージは与えられない。

「赤城さん!どうするですか!?」

「くっ…ここは避難が最優先です!ミサイルを発射、空中でぶつけて、煙幕がわりに使ってください!」

「わかりました!」

 3機から放たれたミサイルが空中でぶつかり、その煙がバラックシップの視界を塞ぐ。そのおかげでなんとか命からがら無人島に隠れた全員の耳に、スカイマスケッティのエンジンの音が聞こえてきた。

 大井はまだ、生気を失ったような顔だったーーー

 

 ーーーここはどこだろう。私は何をしているのだろう。

 大井は真っ暗な闇の中にいた。

 

 北上が死んだことは、最初から分かっていた。

 受け入れなければならないことなんて、分かっていた。

 でも、できなかった。それをしようとする度、自分の負の感情が溢れ出てきたのだ。

 北上は、自分をかばって自分の代わりに沈んだ。もしあの時、自分が魚雷に気づいていたら。もしあの時、周りの敵をもっと確認していたら。過ぎたことは変わらない、そんなことは分かりきっていた。でも、後悔の念は止まらなかった。毎日北上のことを思って、ベッドに顔をうずめ、濡らした。

 そんなある日、北上が帰ってきた。直感で生きている北上ではない、とわかった。でも嬉しくて、そして同時に怖かった。北上の死に責任を感じていたからだ。もしかしたら恨まれているかもしれない。だからこそ、大井は北上に、生前と同じように明るく振る舞った。そんなある日、北上のいないところで、幽霊のことを調べていた。そして知ってしまった。

 霊魂がこの世にとどまれる時間は、49日間だということを。

 悲しかった。せっかく来てくれたのに。そして募る、後悔の念、謝りたい気持ち、そして何も出来なかった、何も出来ずにいる自分の無力さ。それがどんどん溜まっていき…いつしかその感情に、自分は支配されていた。

 提督たちが懸命に、自分のために何かしていることだって分かっていた。でも、自分は逃げてばかりだった。辛いことから、謝る怖さから、北上がいなくなって一人になってしまうことから。

 もう私には、救いの手など差し伸べられもしないだろう。大井はマイナスエネルギーをその体から絶えず湧き出しつつ、暗い心の闇の海に沈むような感覚を味わっていた。とーーー

「…さん!…いさん!大井さんっ!!」

 誰かが、自分を呼ぶ声がする。聞いたことがある声だ。でももう…

「大井さん!君と話したい。君はまだ、生き続けなければならないんだ!」

 その声は、自然と自分に力を与えてくれるような、温かくて、どこか不思議な声だった。ならば、もう1度、もう1度だけ、それに応えてみてもいいかもしれない。

 彼女の心の中で生まれた微かな希望が、彼女に闇の中から脱出するエネルギーを与えてくれた。

 大井は、微かに見え、そして大きくなっていく光に、手を伸ばしたーーー

 

 ーーー「う、うぅ…」

「大井さん!」

「大井っち!」

 目が覚めると、自分は島の地面に寝ていた。既に救助艦隊は、提督に率いられて撤退している。今この島にいるのは、大井、北上、そして矢的先生の3人だけだ。矢的先生がちゃんと話をしたいからこうしてくれ、と頼んだのだ。

「よかった、気がついた」

「北上さん…矢的先生…ここは?」

「…何も覚えていないの、大井っち?」

「おそらく、マイナスエネルギーに体を支配されていたのだろう。」

「矢的先生…私、少し前から記憶が…」

「やはりな…」

「はい…?あの、北上さん、これって…!?」

 大井はまた目を見開いた。北上はもう、体の一部が見えないほど透けていた。

「北上さん…」

「…大井っち。大井っちも知ってると思うけど…今日が限界なんだ。」

 北上は大井をまっすぐ見つめて、自分の事実を伝えた。

「そんな…嫌です!私を置いていかないでください!!」

 目に涙をいっぱいにため、声を張り上げる大井。

「大丈夫。置いていくわけじゃないよ、大井っち」

 北上は答えた。その声さえ弱かった。でも、顔は微笑んでいた。

「私がこうして幽霊として甦れたのも、大井っちが私を強く思ってくれた、そのおかげなんだよ。」

「でも…北上さんを…北上さんを沈ませたのは…私なんですよ…?あの時私が…!私がもっとしっかり出来てれば…!」

「大井っち!!」

 北上も泣きながら声を張り上げた。

「大井っちを恨んでたら…私、とっくに大井っちの霊力使って、呪い殺してるよ?」

「え…?」

「物騒な表現使っちゃったけど、私は大井っちのことなんて、これっぽっちも恨んでなんかないんだよ。それにね、」

 北上は大井の目線に合わせてしゃがみこんだ。

「大井っちとこんなにいれて、楽しくなかったわけないじゃん?」

「北上、さん…」

「だからこそ、私は天国から、大井っちのこと見守る。ね?だから1人じゃないよ。」

 見上げる大井。そんな彼女に、もう1人が声をかけた。

「これが北上さんの気持ちだ、大井さん。」

「矢的先生…」

「だからこそ、大井さんも北上さんに、自分の気持ちを自分の気持ちで伝えなきゃ。な?」

「でも…辛いです…」

「大井さん。誰だって同じさ。心の中に辛いことを持っている。誰だって涙の味を知っている。でも、それでも人は前に進む力を持っている。」

「力…?」

「そう。誰かを愛して生きて、どんなことにも負けない勇気を持っているからこそ、人は前に進めるんだよ。」

「矢的先生…」

 一字一句が、彼女の心を強く動かす。

「その愛と勇気は君にもあるはずだ、大井さん。北上さんに伝えたいことがあるんだろう?」

「はい。」

「ならば伝えるのは今だ。さあ、涙を拭いて。大丈夫、君は弱くはないはずだよ。」

「…はい!」

 手渡されたハンカチで涙を拭いて、大井は北上の方を向いて立ち上がる。

「北上さん…本当にごめんなさい。それから…本当にありがとう。私は…これからも頑張りますから…どうか見守っていてください!」

 大井が大きな一歩を踏み出した瞬間だった。北上の死を受け入れ、そしてそれでも彼女の気持ちを受け、前に進む決心をしたのだから。彼女のマイナスエネルギーはすべてなくなり、今彼女の気持ちは少しづつ明るくなっていた。

 抱き合う2人を見つつ、矢的先生は感じていた。

(大井さん…君はどうやら、君にとって一生をかけてやらねばならないことを見つけられたようだね。君の成長を見られて、私も嬉しいよ。)

 あえて声には出さず、教師としての温かい言葉にまなざしでふたりを見守る矢的先生。とーーー

 

 ドカーーーン!!!

 

 いきなり目の前の地面が爆ぜた。吹っ飛ぶ大井、北上、矢的先生。なんとか受け身をとってダメージはないものの、爆発で開けた視界には、禍々しい影ーーーバラックシップがあった。

「よくも…!」

 大井は島の沿岸に走り砲撃を行うが、バラックシップの装甲には大井の砲撃も全く通じない。

「そんな…!」

 動揺する大井。海に出てさらに近づいて攻撃を仕掛けようとする大井。しかし彼女を、制した者がいた。

「矢的先生…!?」

「大井さん、ここは下がっていたまえ。」

 矢的先生は前をーーーバラックシップをじっと見つめる。

「まさか、あれと戦う気ですか!?危険です!」

 必死に引き留めようとする大井。彼女の方を向き、矢的先生は言った。

「大井さん、君は立派にマイナスエネルギーを断ち切って、前に進むことを誓った。今度は、」

 改めて前を向く矢的先生。

「…私が、その君の気持ちに応える番だ!!」

 矢的先生はそう言い放つと、数歩先に出る。拳を右、左と力強く前に突き出し、そして右手を、その手に持っているモノーーーブライトスティックを天に掲げて叫んだ。

 

「エイティッッッ!!!」

 

 瞬間、ブライトスティックから光が放たれ、矢的先生の体を包み込む。その光はどんどんと大きくなっていき、やがて一体の巨人の形を成した。

 たぎる強さ、そして力強さを象徴させるかのごとく、銀色の体を走る赤色のライン。

 腰に見える、金の菱形。

 胸に灯る、青い灯。

 無限の優しさを感じさせる、黄金の瞳。

「あれは…!?」

 大井は、矢的先生の正体を目の当たりにした。

「シュワッ!」

 巨人が飛び立ち、バラックシップを島から遠くへと誘導していく。

 呆気に取られる大井に、北上が駆け寄った。

「北上さん…あれって!?」

 北上はそっと答えた。

「あれが矢的先生の正体…

 ウルトラマン80だよ!」




というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!

結構書いてきました…この作品もクライマックスに近づいてきてます(唐突でごめんなさい)。
最後までよろしくお願いします!
評価や感想も待ってます!

では、また次回です!


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未来への決戦

咳風邪、治らないです…
インフルエンザじゃなさそうなのがせめてもの救い。

まあ頑張ります。←何を
…というわけで本編どうぞ。←いや待ておい


 ーーー島の沖合

 誘導を終えた80は、本格的にバラックシップとの戦闘に入る。

 バラックシップから、以前の個体とは桁違いの数の砲弾幕が、80に一斉に襲いかかる。しかし、80はそれを余裕でかわしながら、指先から光線・イエローZレイを連射して反撃。その名の通り黄色の光線が的確に捉えた砲台は、次々と爆発を起こして機能を停止していく。バラックシップのメカの機能が、光線の作用で狂ったのだ。

 弾幕が弱まったのを見て、80は発射する光線をウルトラストレートフラッシュにチェンジ。今度はバラックシップの装甲を狙う。いくら堅固な装甲でも、80の光線技は防ぎきれない。そうして崩れ落ちた装甲の隙間から、ついに内部のマイナスエネルギーの核が姿を現した。目視でそれを確認した80。

「トァッ!」

 80はその核めがけて、自身のエネルギーを槍の形にして投げ、敵の体を貫く技・ウルトラレイランスを使った。猛スピードで飛んでいった光の槍は、見事に核を1発で、ブスリと仕留めた。

 するとどうだろう。バラックシップの船体が、どんどんと分解されていくではないか。船体の外側を構成していた軍艦の残骸は再び海へと還り、吸収されていた深海棲艦は半ば強制的に放り投げられたように外へと出てきた。そして核からは、邪悪なマイナスエネルギーの光が空中へと昇っていく。もちろん80が放っておくはずがない。

「タァッ!」

 胸の前でクロスした腕をYの字を描くかのごとく斜めに上げ、それを自身の額へと持ってくる。そのモーションを経て目から放たれるのは、光線・ウルトラアイスポットだ。普通は再生怪獣サラマンドラにトドメを刺したり、侵略怪獣ザタンシルバーなどにダメージを与えたりといった熱線としての使用が主だが、威力を調整すれば、宇宙生物ジャッキーや変形怪獣ズルズラーに使用した時のように、マイナスエネルギーを昇華させる、いわば浄化光線のような用途にも使える、汎用性の高い技だ。

 そしてそのウルトラアイスポットを受けたマイナスエネルギーの光は、みるみるうちに弱まって、最終的には消えてしまった。と、

「矢的先生、危ない!」

 ウルトラマン80の耳に入った大井の声。放り出された深海棲艦が、空中の80めがけて砲撃してきたのだ。しかし大井の声によってそれに気づけた80は、光の壁・リバウンドミラーを展開。攻撃の全てを防ぎきった。

「ありがとう、助かったよ大井さん…って、なんでここまで!?」

 そう、大井が80のすぐ側まで来ていたのだ。遅れて北上もやってくる。

「私も行きます!もう誰も沈ませないために、強くなるんです!なりたいんです!矢的先生、お願いします!」

 まっすぐな強い瞳を向ける大井。

「…強くなったじゃないか、大井さん。ならばその気持ちを受け止めるのも、教師の使命だな。わかった!」

「ありがとうございます!」

 お礼を言う大井。ウルトラマン80は人間大の大きさになり、

 前を見れば、何体もの深海棲艦。恨めしい視線をこちらに向けている。

「雑魚は私たちに任せてください!矢的先生は姫級の奴らをお願いします!」

「よし!行くぞっ!」

 それぞれの戦う敵に向けて、ファイティングポーズをとる3人。そして、敵の一斉砲撃を合図に、それぞれが行動を開始したーーー

 

 ーーーまずは大井と北上。幽霊ながらも北上は艤装を展開。最後の力を振り絞って、大井と一緒に実物の砲弾を放つ。敵陣に勢いよく切り込んで陣形を乱し、自由自在に攻撃するさま、それはまるでマイナスエネルギーとは真逆の、プラスエネルギーなるものが2人を包んでいるかのようだった。

 しかし深海棲艦たちも退かない。その艦種ゆえの高速能力を使い、駆逐イ級、軽巡ト級3隻ずつ、さらに後から重巡ネ級2隻が集まり、北上と大井を囲いこんだ。奴らはニタニタと悪しく微笑みつつ、大井と北上に砲門を構えてくる。

「…ありゃぁ、囲まれちゃったね、大井っち。」

「囲まれちゃいましたね、北上さん。

 …あれ、久しぶりにやってみますか?」

「…ふふふ、賛成の反対の反対だよぉ…!」

 2人は向き合って頷くと、その手を互いに繋ぎ、その部分を軸にしてグルグルと回りつつ、自分たちの周りを取り囲む深海棲艦に向けて大量の魚雷を放った。重雷装巡洋艦の利点を最大限に活かした攻撃方法である。さらに、予想外の行動に深海棲艦は一切動けず、その全てが魚雷をもろに食らうことになった。

 2人の回転が止まる頃には、周囲の深海棲艦はきれいさっぱり沈んで消えていた。

「やりました!!北上さん!!」

「やったね、大井っち!」

 喜び合う2人。そのうち北上の方は…もう足の先が、光に包まれて少しづつ消えつつあったーーー

 

 ーーーその一方、ウルトラマン80はというと。

 強力なボス級深海棲艦に対抗するため、彼は妙手をとった。相手の砲撃をかわして空中に飛び上がり、深海棲艦ーーーではなく、海面へと超低温の冷凍ガス・フリージィングレーザーを放った。瞬く間に深海棲艦の周囲の海面だけが氷に覆われ、即席のバトルフィールドを作り上げる。

 陸上型の深海棲艦は元から動かないからいいにしろ、駆逐棲姫と装甲空母姫は動きを封じられ、かなり動揺した。バトルフィールドに降り立った80はまずその2体から狙っていった。

 スピードスケートの選手のごとく氷上を滑り、あっという間に駆逐棲姫との距離を詰める。駆逐棲姫も砲撃で迎え撃つが、全てかわされて格闘戦となった。

 その差は歴然としていた。もちろん射撃や雷撃を得意とする駆逐棲姫が、ゼロ距離の格闘戦で80に勝てるはずがなかった。80はその卓越した素早さを活かした自慢のキック技・ウルトラ400文キックで駆逐棲姫にダメージを与えていく。その一挙一動に空が震え、命中した地点に小爆発が起こる。

 それでもキックの反動で空中に飛び上がった80に、駆逐棲姫はここだと砲撃を試みたが…

「シュワッ!」

 一瞬早く80の技・ウルトラアローショットが決まり、駆逐棲姫の砲塔はボロボロになった。

 そこへ飛んできた機銃弾。装甲空母姫の艦載機からだ。しかし80は動じず、それらを全て避けきった後、自身のウルトラ念力を使って起こす突風・ウルトラウインドで艦載機を煽り、全て自滅させた。ならばと砲撃をしてきた装甲空母姫本人には、

「トワアッ!」

 エネルギーを纏った体をボール状にして高速回転し、敵に体当たりするダイナマイトボールで、砲弾を弾きつつその装甲を破壊。

 ひとしきりダメージを与えたところで、80は次なるターゲットである、飛行場姫と泊地棲姫に迫る。

 先制攻撃は飛行場姫からだった。圧倒的な発艦能力をフルに活かし、80をねじ伏せようとする。

 しかし対する80は、腰のウルトラバックルから放つ光の矢の弾幕・バックルビームでそれらを一瞬で全て撃墜。さらに飛行場姫の飛行甲板を、先程のウルトラアローショットを威力と斬撃力の面において強化した技・ウルトラダブルアローで切り裂いた。

 続いては泊地棲姫。強力な砲撃と障壁、つまりバリア発生能力のある強敵だ。高速で氷上を泊地棲姫に向け滑りつつ、飛んでくる砲弾は両の腕にエネルギーをためて受けた攻撃を無効化する、ウルトラクロスガードで防ぐ。距離が短くなると、泊地棲姫はそれに備えて障壁を展開するが、

「トゥッ!!」

 と叫び80は、ジャンプからのムーンサルトキック。バリーン!と音を立てて障壁が砕け散り、その勢いのままムーンサルトキックは泊地棲姫の身体にも命中。大ダメージを与えた。まさに華麗な攻撃で、4体全ての深海棲艦をかなり弱らせた。

 そして80はキックの反動を利用して再び空中に飛び上がり、4体を見下ろす位置へと移動。こちらを睨む深海棲艦たちに対し、80はトドメの体制に入った。

 自分の右腕を右に、左腕を上にまっすぐ伸ばし、そこから両腕をL字に構えた。

「ダァッ!!」

 そして右腕から放たれるのは、ウルトラマン80の誇る必殺光線・サクシウム光線だ。そしてそれは深海棲艦に命中しーーー深海棲艦たちは、ストロボのごとく眩い発光を起こして、バトルフィールドの氷を溶かしつつ、炎上して沈んでいった。

 それを確認した80。海面へと降り立つ。とその時、彼の耳に大井の叫び声が入ってきた。

「…北上さん!?」ーーー




というわけで今回も読んでくれてありがとうございました!

書き始めた頃より、お気に入りや評価が随分と増えていて嬉しいです。皆様に御礼申し上げます。
残りは少ないですが、これからもよろしくお願いします!
評価、感想もよければお願いします!

また次回です!


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別れの時、いざさらば

大井と北上の章、最終話です。
ちなみに次回完結です。
…皆様ありがとうございました。←まだ早い早い

というわけで本編どうぞ。


 ーーー急いで80が大井に駆け寄る。大井の目からは大粒の涙が次々とこぼれ、そして彼女にお姫様抱っこのような形で抱えられていた北上はーーーもう、すねの半分までが消えていた。

「北上さん…!」

 それを見た80は再び巨大化し、2人にその大きな手を差し伸べた。

「二人とも乗るんだ!鎮守府まで飛ぶぞ!」

 言われるがままに80の手に乗る大井と北上。

「シュワッッ!!」

 乗ったことを確認すると、80は鎮守府へ向けて、全速力で飛び立った。

「大井さん、鎮守府に連絡を!」

「は、はい、先生!」

「頼む…間に合ってくれ!」

 80は念じつつ、そのスピードを加速させていったーーー

 

 ーーー第35鎮守府

「矢的先生!」

 大井から連絡を受けていたので、俺たちは鎮守府の港で彼女たちを待っていた。やがて遠くの方に80の影が見え、この鎮守府に降り立った。

 80は2人を地上に降ろし、変身を解除。矢的先生の姿になって、大井、そして彼女に抱きかかえられた北上に駆け寄った。

 北上は、もう太もも、さらに手先の部分が光の粒子を出しつつ、消えていた。

「北上…さん…」

「…大井っち…ごめん、もう、お迎えが、来たみたい…。」

「…そうですか…北上さん。本当に、本当に…逝って、しまうのですね…」

 目からの涙は止まらず北上に落ち、そしてそれは北上の身体をすり抜けて、港の地面のコンクリートを濡らす。

「北上さん…分かってます、分かってますげど…やっぱり、寂しいでず…悲じいでず…!」

 もう大井は泣きじゃくって、言葉にかなり濁音が混ざるようになった。そんな彼女に、北上は優しく語りかける。

「大井っち…私は、幸せ者だよ。一番の親友に、大好きな妹に…こんなにも惜しまれながら、見送ってもらえる最期を、こうして経験できるんだから…」

 北上の涙は、地面にこぼれ落ちる前に光の粒子となって消えてしまう。と、

「あ…」

「北上さん…!?」

 北上の身体は、ついに重力の法則を逸脱し、宙へ浮かび上がり始めた。まるで、天からの迎えの糸が、彼女を引っ張っているような、そんな表現が妥当な光景なのだろうか。

「大井っち…ありがとう。本当に…幸せだったよ。だから…最後、お願い、大井っちの、あたしが大好きなその笑顔で…見送って、くれない?」

 徐々に離れていく二人の距離。大井は立ち上がり、北上へおくる言葉を紡ぐ。

「北上さん…私だって…とても幸せでした。だから…私も、あなたのお願い通り、笑顔で、送ります…!」

 涙で顔中を濡らしながらも、しっかりと微笑みを北上に返し、大井は続ける。

「私からも、あなたにお願いをします。

 どうかこれから、北上さんの分まで頑張る私を…見守っていてください!!」

 大井は叫ぶ。大井は北上へ手を伸ばす。北上は、もちろんだよ、と小さな声を確かに返し、自身も伸ばしたその手で、温かな感触を大井に伝えてーーー全身を光の粒子と化して、完全に天へと消えていった。

「さよなら…北上さん…。…うっ…ひっく…えぐ…ううぅ…!」

 大井の顔が歪み、そして膝からがくりと崩れ落ちた。両手で顔を覆い、嗚咽を漏らす。そんな大井に、矢的先生は優しく歩み寄り、無言でその背中をさすった。そこへ、今度は響がやってきて、大井に声をかける。

「大井さん、これ」

「…響ちゃん…?これは…?」

「北上さんからの、手紙だよ。」

 そう言って響は、大井にそれを手渡した。彼女の服のような、爽やかな薄緑の色で縁取られた紙、そこに書かれていることを、大井はゆっくりと読み始めたーーー

 

「大井っちへ

 

 きっとこの手紙を読んでいる頃には、私はあの世へ旅立っていると思います。

 

 みんな、そして大井っち、本当に今までありがとう。

 

 ニコニコと笑っているその笑顔が素敵だった大井っちは、私のことをそのいい笑顔で見送れましたか?

 

 サイコーの人生を、私はあなたのおかげで過ごせました。だから、自分を責めないでください。私はあなたがいたから、こうして想いを伝え、何も未練もなく旅立つことができます。

 

 ちゃんとみんなと仲良く、体に気をつけて過ごしてください。

 

 あの世から、いつでもあなたのことを、見えない時もどこかで優しく見ています。たとえ寂しくても、私が守っているし、何が来ても、大井っちには私がついています。だから、大丈夫。

 

 レベルをあげたり、鍛錬に励むのもいいけど、何より笑顔で精一杯、一所懸命あなたの人生でやるべきことをしながら、これからを生きていってくれれば、それほど幸せなことはありません。頑張れ、大井っち!私はいつでも応援しているよ!

 

 北上より」ーーー

 

 ーーー泣いた。大井は泣いた。声をあげて、みんなにさすられながら。でも、最後には大井は、その強く美しい笑顔で、立ち上がって天を見つめていた。

「大丈夫、私、これからも頑張りますよ!」

 そう、天国の北上に誓うかのようにーーー

 

 ーーー翌日。

 矢的先生はみんなに見送られつつ、鎮守府を後にして大学の方へと戻ることになった。大井が鎮守府を代表し、彼に感謝と別れの花束を渡した。

「矢的先生…本当にありがとうございました。あなたのおかげで、私は…自分が一生かけてやるべき事を見つけられました!」

「ありがとう大井さん。そして、いい笑顔だ!また、誇れる教え子をもてて、私も嬉しいよ。」

 矢的先生も、大井に素敵な笑顔で返した。そして、その笑顔のまま、鎮守府の門を出て、帰っていった。その姿を、大井は見えなくなるまでずっと見送っていた。

「矢的先生…ありがとうございました!

 さようなら、お元気で!!」ーーー

 

 ーーーその後。

 大井はちゃんと出撃もこなせるようになり、雷巡ならではの高い雷撃力を生かして次々と戦果を挙げる、鎮守府の立派な仲間になった。

「では提督、出撃してきます!」

「おお、気をつけてな!」

 海へその身を赴かせ、今日も仲間達と深海棲艦と戦う大井。そんな彼女を港で見送ると、後ろから響がやってきた。

「お見送りかい?」

「おお響。そうだよ」

「ふふ、だろうね。…そういえば、これはまだ渡さなくていいのかい?」

 響が俺に見せたのは、一枚のメモ用紙。そこにはこう書かれていた。

 

「もし、あまりにも私がいないことに耐えられなかったら、このレシピと私のこのヘアゴムを妖精さんに渡して建造を行ってね」

 

 そして、資材の投入数値と、セロハンテープでメモにくっつけられていた、北上のヘアゴム一つ。彼女からの追伸である。しかし、俺は響の提案に首を横に振った。

「いや、まだいいだろう。このレシピなら、今なら百パーセント北上が誕生するだろうけど、きっと大井は、今は北上に見守って欲しいと思っているだろうからな。」

「ふふ、それもそうだね。」

 響も納得してくれたようだ。

「よし、じゃあ艦隊の見送りも済んだし、執務室に戻って書類整理の続きをしようか」

「了解、司令官」

 爽やかな海風の吹き抜ける中、俺と響は共に執務室へと戻ったーーー




というわけで今回も読んでくれてありがとうございましたm(_ _)m

手紙、勘の鋭い方は気づいたと思いますが、縦読みできます。

よければ、評価や感想よろしくお願いします!
ではまた!


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エピローグ
それぞれの笑顔


はい更新遅れて大変申し訳ありませんでした。

本編、どうぞです!


 ーーーある日 第35鎮守府

 マルロクサンマル 提督自室

「ふぁ〜…んん…」

 俺はベッドからその身を起こした。クローゼットから提督用の白い軍服を取り出し、着替える。

「さてと、今日も頑張りますか。」

 

 俺は自室隣の執務室へと移動。軽く机の上を掃除して、今日の予定、出撃の要項を確認する。

 スケジュール関係の自作の書類を整理し終わったタイミングで、コンコン、とドアを叩く音が執務室の中に響く。

「今日もいいタイミングだな」

 俺がドアを開けると、そこには。

「おはよう、司令官」

「響。おはよう。ここに来たってことは…」

「食堂が開いた、ってことだよ」

「よし、じゃあ朝ごはん食べに行こうか」

「ハラショー」ーーー

 

 ーーー食堂

「いらっしゃいませ…あら提督、おはようございます」

「おはよう、鳳翔さん、間宮さん」

 人数が少ないため、この第35鎮守府の食堂の規模は小さい。しかし、だからこそ家族のような関係、コミュニケーションを築ける場所として、ここは重要な役割を果たしている。

「今日の朝食は…よし、ご飯と味噌汁、卵焼き、野菜とソーセージの和え物、といくかな」

「じゃあ僕はトーストとスクランブルエッグ、コーンスープで。おかずはサラダでもつけようかな」

「はい、かしこまりました!」

「用意するので、ちょっと待っててくださいね!」

 

 ここの鎮守府の食堂を切り盛りするのは、間宮、そして鳳翔。かつて無力感、そして自責の念で、自室に引きこもっていた鳳翔も、今ではこの鎮守府を様々な面で支える存在となった。

 

「うーん、やはり美味い…」

「これは…ハラショーだ。単純にそれだけだ」

「ありがとうございます、2人とも。私もそう言っていただけて嬉しいです。」

 ニコリと微笑む鳳翔。間宮からデザートとしてヨーグルトをもらい、腹を満たして朝食を終了した。

「ふう、ごちそうさま」

「ごちそうさま」

「ありがとうございます、こんなに食べてくれて」

「そりゃあ美味いからな。じゃ、また来るな」

「はい!ありがとうございました!」

 頭を下げる鳳翔と間宮に見送られつつ、俺たち2人は食堂を後にしたーーー

 

 ーーーそれから執務室で書類整理をひとしきりしたあと、俺と響は明石たちに開発を頼もうと、工廠へ向かった。

「明石ー、いるかー」

「あ、提督ー!すみませーん、今、夕張ちゃんに義手のメンテナンスしてもらってるんで、少しだけ待っていてくださーい!」

 工廠の奥から明石の声が響いてくる。

「…ということだし、待つとするか」

「そうだね、司令官」

 すると、そこへ人影が。

「あら、提督?」

「提督さんじゃん、どうしたの?」

 五航戦姉妹の翔鶴、瑞鶴だった。

「開発に来たんだよ。工廠はなんか今、明石が義手のメンテしてるみたいだから開いてないんだ。多分あと少しで終わるから、待ってるんだ」

「そうですか。」

「翔鶴さんと瑞鶴さんは?」

「私たちは艦載機の整備です。ね、瑞鶴」

「うん!」

 響の問に返し、笑顔で微笑み合う2人。

 

 元々翔鶴は、結果に囚われて生きる意味を見失ったためにここに来た艦娘だ。日記をつけ、毎日自分の頑張りの記録をつけることを提案すると、翔鶴は日々の成長を実感できるようになり、見事に立ち直った。

 

「すみません!お待たせしました!」

 中から出てきた明石。その右手には、見違えるようにピカピカになった、銀色の義手がはまっていた。

「こちらこそ、忙しい時にすまん。よろしく頼むよ」

「私たちもお願いします」

 すると中から、もう一人の艦娘ーーー夕張が現れた。

「あ、翔鶴さんと瑞鶴さん!じゃあ、提督の開発の方は私が担当しますので、明石さんは艦載機の整備の方をお願いします!」

「はーい!」

 明石は義手を器用に操って、翔鶴と瑞鶴に渡された機体を整備する。

 

 明石はかつての鎮守府で、ケッコンカッコカリまで行った提督を失い、そしてそのショックで自身の右手首から先を自ら切断してしまった。その後長らく開発ができなくなってしまっていたが、提督と響にその過去を吐き出し、そして夕張にもらったこの義手のおかげで、今では俺の祖父の設計図を使って、次々と強力な装備を開発している。

 

「はい、じゃあこのレシピで3回、ですね。分かりました!」

「タックアローにスーパースワロー、それからガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターですね!任せてください!」

 2人は工廠奥の作業室へ。まもなく夕張の方はこちらの頼んだ開発が終わり、ソナーなどを持ってきてくれた。

「ありがとう、夕張」

「いえいえ!またどうぞ!」

 艦載機の整備はまだかかりそうなので、ここで五航戦姉妹と別れ、俺と響は出撃まで鎮守府をめぐることにした。と、

 ーーーシュィィイイイイン…

 向こうの演習場から、独特のジェット音が聞こえてきた。

「やってるね、司令官」

「ああ。少し、見に行ってみるか」ーーー

 

 ーーー演習場

 そこにいたのは、加賀、そして赤城だった。

「あ、提督。こんにちは。今、新型XIGファイターの飛行演習を」

「そうみたいだな。俺と響も、少し見させてもらってもいいか?」

「どうぞ、お構いなく」

 俺と響は演習場後方にある椅子に腰掛け、その様子を見守ることにした。

 

 加賀と赤城は、同じ鎮守府から来た。かつて深海棲艦に襲撃を受け、その時に起きた事件で、加賀は言葉を発せなくなっていた。しかし、この鎮守府が襲撃を受けそうになった時、自身の強い心で過去の束縛から脱出、立派にここを守り抜いた。また赤城も、加賀と同じ事件で車椅子生活となったが、ここでは基地航空隊の要として頑張ってくれている。

 

「では、XIGファイター、発艦します!」

 凛々しい声とともに、加賀は空に赤と青の矢を、一本づつ放つ。やがてそれは、空中で青の矢が一つ、赤の矢が二つの六角柱の形へと変化し、さらにそれが展開し、青の戦闘機ーーーファイターSTと、ファイターGTの形をなして、3機でのフォーメーション飛行を始めた。ちなみに、全て最近明石たちの手によって開発された、新型中の新型である。

「この高性能…気分が高揚しますが、やはりリパルサー・リフト搭載機、さらにその強化型とあって、制御が難しいですね、赤城さん」

「はい。でも、せっかく私たちに受け渡されたものです、頑張って使いこなせるようになりましょう、加賀さん!」

「ええ。この海を守るために。」

 ウルトラメカの扱いも上手く、五航戦姉妹の指導も行っている2人は、今では鎮守府の立派な主力だ。

 しばらく、ファイターの飛ぶ様子に目を奪われていると、響が袖を引っ張ってきた。

「…司令官、そろそろ出撃の時間が、近くなってきたんじゃないかい?」

「あ、確かにそうだな。

 加賀に赤城、すまんがここら辺でおいとまさせてもらうが、いいか?」

「ええ。ありがとうございました」

「こちらこそ。頑張ってな!」

「はい、提督!」

 強く微笑む加賀と赤城に見送られながら、俺と響は演習場を後にして、執務棟へと戻ったーーー

 

 ーーー執務棟 司令室

「大淀、今来た。遅れてすまん」

「大丈夫ですよ、時間ぴったりです。招集をかけますね。」

 艦娘全員の心の傷が癒えた今は、一斉放送も使えるようになった。放送後まもなく、出撃予定のメンバーの、金剛、榛名、陸奥、高雄、大井、島風が入ってきた。

「よし、今回出撃するこの海域だが、上位階級のル級、タ級が頻繁に確認されている。索敵を厳として、そして大破進撃は絶対に行わないこと。命だけは持って帰ってくること、何か質問がある者は?」

 その問に、今回の旗艦である金剛が、ノープロブレムネー、と返す。他のみんなも笑顔で頷いたのを確認し、俺は6人を出撃スペースへと移動させた。

 もうすぐ大本営管理下の艦娘が、人員の少ないここに移ってくることになっているので、つい最近、リフト付きの立派な出撃スペースが新設された。準備を整える6人に、見送りの艦娘が声をかける。

 

「金剛お姉様、頑張ってください!」

「榛名お姉様、しっかりね。」

「任せてくだサーイ!」

「はい!全力で参ります!」

「高雄、ちゃんと帰ってきてね」

「もちろんよ、愛宕」

 

 金剛型戦艦の金剛、榛名、そして高雄型重巡洋艦の高雄。経てきた過去は違えども、3人とも人間に傷つけられた艦娘だ。金剛はかつての街の身勝手な住人にそこの提督を殺され、復讐のままに暴れて前科持ちとなった。人間から生まれた榛名は、虐待を受けて育った。高雄は前の鎮守府の憲兵から暴行された。しかし、金剛は郷秀樹ーーーウルトラマンジャックからの言葉を胸に、復活した怪獣を妹の比叡、そして彼ともに撃退。榛名は、響との関わりで勇気を取り戻した。高雄は提督との旅行で、閉ざしていた心を開けた。

 

「大井、頑張れよ!」

「はい、提督!北上さんに恥じぬよう、頑張ります!」

「陸奥、無理はするなよ」

「頑張ってくださいね、陸奥さん!」

「長門、それに吹雪ちゃん、ありがとう。大丈夫、心配いらないわ。」

「おっし、島風もがんばるんだぞ!」

「私たちも、鎮守府から応援しているわよ〜」

「はい、天龍さん、龍田さん!」

 

 ーーー大井は、自分をかばい轟沈した北上を幽霊として呼び出すほどの思念を持ち、一時はマイナスエネルギーにその体を支配されてしまっていた。彼女を救ったのは、幽霊となった北上、そして矢的猛ーーーウルトラマン80。2人の心からの言葉は、彼女に先へと進むプラスのエネルギーを与えた。

 陸奥を見送るうちの1人、長門は、艦娘性超記憶障害という奇病の影響で、今でも出撃できない。しかし、仲間の出撃の際にはこうしていつも見送りに来ている。そして彼女の心の大きな支えとなっている存在が、見送るもう1人、吹雪だ。かつての鎮守府で優しさを失いかけていた彼女は、「優しさを失わないでくれ」というウルトラマンエースの言葉を胸に、すれ違いながらも長門と友好な関係を築き上げた。

 島風は、以前の鎮守府の全滅によりここに来た。自身の心の葛藤に苦しんでいた彼女を救ったのは、いつも彼女のそばで支えていた天龍と龍田、そして厳しくも優しく、彼女の心身を強くしてくれた、おおとりゲンーーーウルトラマンレオだ。ゲンの厳しい修行を乗り越えた島風は、レオとともに、宿敵の戦艦水鬼、その艦隊を倒すことができたのだ。

 

「よし、時間だ。さっきも言ったが、命だけは持って帰ってこい!

 第一艦隊、出撃!!」

 6人がリフトに立って艤装を展開すると、リフトが発進場となっている海面へと降りていく。

「ファーストゲート・オープン!

 ファーストゲート・オープン!」

 大淀の声による、ゲート開放のアナウンス。青空の下、6人は意気揚々と、海面を駆けていったーーー

 

 ーーー午後 執務室

 俺と響は、書類整理の続きを行っていた。先述のとおり、もうすぐたくさんの艦娘たちがここに来ることになっており、それについての書類が、先程大量に到着したのだ。ちなみに、俺と響のほか、大淀、長門、さらに本日休みの響の他の第六駆逐隊である暁、雷、電、吹雪に夕立も作業に加わっている。

「駆逐艦の分の書類、まとめ終わったっぽい!」

「これは寮の増築設計図なのです!」

「司令官!お茶を淹れたわ、どうぞ!」

 みんなも協力してくれた。そのおかげか、窓に夕日が沈む頃には、書類はなんと全て片付けられた。

「よし!ありがとうみんな!」

 と、通信が入る。大淀が受け持った。

「はい、はい…分かりました!

 提督、第一艦隊が鎮守府正面海域に到着、間もなく当鎮守府に帰還します!」

「よし、みんなを呼んで来てくれ!全員で迎えにいくぞ!」ーーー

 

 ーーーヒトナナヨンマル 埠頭

 先程の書類整理のメンバー、さらに出撃のなく休憩中だったり、食堂にいたりしたメンバーが、今か今かとその帰りを待つ。

「見えた!」

 響の指さす向こう、夕日の沈む地平線に、大きく手を振る影一つ。その後からは五つの影が着いてきた。

 第一艦隊の帰還だ!

「テートクー!全員、無事帰還デース!」

 大声で叫びつつ、こちらに向かってくる金剛。

「おう!みんな、お疲れー!!」

 

 夕焼け空の下、第35鎮守府のメンバーは埠頭に群がる。

 そしてその顔は、全員が

 

 太陽のごとく、満面の笑顔であったーーー

 

 笑顔は太陽のごとく… 終




というわけで、完結です!

評価していただいたり、感想もたくさんもらえて
本当にこちらも嬉しかったです!
評価や感想、これからもお待ちしております!

続編や次回作については、今のところ考え中です笑

またどこかでお会いしましょう!


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