ブリューヌ王国の六英雄 (暗黒騎士2世)
しおりを挟む

1話

前回も書いてたんですけど、納得いかないので書き直しました。
申し訳ないっす!



 

 

 

ブリューヌ王国……強力な騎士団と有力な貴族の力で安定した国力を誇る大国。だが、〝ディナントの戦い〟で王子レグナスが死亡した報を受けて国王ファーロンが政務を放棄し、国家体制か瓦解。テナルディエ公爵とガヌロン公爵の二大貴族が争う内乱へと突入しようとしていた。

その〝ディナントの戦い〟が起こる数週間前、ブリューヌ王国 王都ニースの王宮内の修練場では剣や槍を振るう集団がいた。その中でも、一際鋭い一撃放つ者がいた。

 

「ハッ!せいっ!ハアァァァァッ‼︎」

彼が今回の主人公・カル……家名はなく、一騎士として、この騎士団にいる。

 

「フゥゥゥ!……こんなもんかな」

 

「おう!カル!今日も気合いが入ってんな!」

 

「団長……こんなとこで何やってんすか?今日は会議ですよね?」

 

「ああ、メンドクセェから行かなかったわ」

 

「はぁ⁉︎なにやってるんですか⁉︎今日は将軍も参加する大事な会議ですよね⁉︎」

 

「あーそれはヴァンベルクに任せた!」

 

「はー…そうすか…」

この人は…生粋の人たらしだな… この赤い髪で誰から見ても、イケメンと言える顔から繰り出される人懐っこい笑顔にみんなやられたのかな……。

 

「カル!今から、やるか!」

 

「え?なにをすっか?」

いきなりなに言い出してるんだ?この人は?

 

「やるといえば1つだろ!戦うんだよ!お前ら!そこどけろ!今から、俺とカルがやるからよ!」

 

「はぁっ⁉︎ちょっと待ってくださいよ!団長!」

 

「いいから!いいから!ほらっ!やんぞ!」

 

俺は腕を引っ張られ、引きずられていくが、なんとか抵抗を試みた

 

「ぐおおおおっ!」

なんつー馬鹿力だ!毎度思うけど、どうやったらこんな力つくんだよ!

 

「ほらよ!」

「うわっ!」

ドシャア!俺は投げ飛ばされ、団長の五アルシン(約五メートル)位の感覚で向かい合った

 

「まったく…なにやってんだよ ヴァルガス」

 

そこに現れたのは、この騎士団の唯一の良心にして、絶対的な盾

 

「ダンさん!」

ダルバンシェル=シールド…騎士団の軍師てにし、団長を止める役を買って出てくれた、この騎士団の唯一の救いである。戦いになれば、軍師として、作戦を立案し、自らも前線にでて戦える程の技量を持つ。中途半端ではなく、武でも秀でている、文武両道をこなす優秀な戦士であるのだ。ちなみにかなりの愛妻家。まだまだ現役の齢60歳

 

「ダンさん!あの団長止めてくださいよ!」

 

「フハハハハハッ!」

 

「……あーなったら、止められんから、ここは潔く戦ってくれ。ワシじゃ止められんわ」

 

「そんなー……」

 

「ほれ!刃引きした槍じゃ」

俺が得意とする武器は槍なので、ダンさんは槍を渡してくれた。対する団長は大剣を扱うのだが、刃引きした大剣などなく、模擬剣を手にしてる。

 

「さあ!早くやろうぜ!」

そう言うと団長は、剣を構え、無言になる。

 

「………」

 

「クソ……」

俺も槍を構え、いつでも鋭いを突きを放てるように準備をする

 

「では、開戦の合図はワシがやろう。両者!準備はよいな?」

 

「……」

 

「……」

 

俺と団長は無言になって、ただ合図を待っている。

 

「……始めぇ‼︎」

 

その合図と共に闘争の火蓋がきられた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァーッ!ハァーッ!」

俺は大量の汗をかきながら、地面に倒れていた。

 

「ハハッ!まだまだだな!カルゥ!」

大笑いしながら、俺のことをバカにしてくる団長に無性に腹が立ったが負けたのと息切れでなにも言い返せなかった。

 

「ハァーッ!……クソッ!いつか必ずぶっ倒してやる……」

 

「おうよ やれるもんならやってみやがれ!ハハッ!」

 

「お疲れさん よく頑張ったな」

ダンさんが俺に労いの言葉をかけてきてくれたが俺は……

 

「いや!一刻も打ち合ってれば、さすがに疲れますよ!」

周りに騎士団の団員はもういなくなっていた。見飽きたのか各々、宿舎や自宅に帰っていた。

 

「ワシも何度か止めようと思ったんじゃがな?なにせ、ワシの盾がなけりゃ、介入できなんだ。しかも、家にあるしのう」

ダンさんは困ったような顔して、俺に訳を話してくれた

 

「あーそうなんすかー……。すいません なんか……」

 

「なぁに、ワシも悪かったしのう。まあ、一番悪いのは……」

そう言った、ダンさんの目線の先には……

 

「フハハハハハッ‼︎やりたりねぇぜ‼︎」

目をギラギラしながら、剣を振り回す、団長の姿だった。

 

「……ですね」

 

「うむ……では、今日は帰ろうかのう。お主も早く帰りなさい。彼女も心配してるであろう」

 

「はい そうします。では、ダルさん!失礼します!」

俺は頭を下げ、礼を言った

 

「うむ ではな」

俺はそれを聞いて、修練場から出たが、その背後から……

 

「ほれ!行くぞ!騎士団の皆はワシ達以外、全員帰ったぞ!」

 

「はっ!なにぃ?やる気が足りねぇぞ!あいつら!」

 

「お前が溢れすぎてるだけだ!ワシはもう帰るぞ!これ以上駄々をこねるのなら、アヴァンに迎えにきてもらうからな!」

 

「⁉︎ それはダメだ!すぐ帰る!今帰る!」

 

俺はそれを聞いて、自然に笑みがこぼれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

俺は王都の中心街から、少し離れた我が家にやっと辿り着いた

 

「おかえりなさい カル。ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?」

 

「なーに言ってるの姉さん」

家に入った瞬間、青髪の可愛いというより、綺麗な女性が待っていた

 

「もーう つれないなー……。もう少し甘えてもいいのよ?」

 

「俺はもうそんな歳じゃないよ 姉さん」

 

「あら 残念♪」

 

この女性は、かの有名な六英雄の子孫の一人。現在の氷を司る英雄セレナ=レクシーダである。彼女もサーマ騎士団という、女性騎士団をまとめる団長である。なので、かなりの実力者なのは受け売りだ。

俺はそんな彼女と二人暮らしをしている。なぜなら、俺は彼女の両親に拾われたからだ。そんな彼女の両親も今は他界しているため、この家で俺とセレナ姉さんとの二人暮らしをすることになったのだ。

 

「ほら!早くお風呂に入って来なさい。その間にご飯…作っておくから♪」

 

「わかったよ 姉さん」

俺はそういい、風呂場に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、またアグニの団長は会議に出席してなかったわよ?なにかあったの?」

姉さんは今日の会議に出席しなかった、うちの団長のことを聞いてきた

 

「ああ……それがね 姉さん。うちの団長めんどくさいからって、副団長に任せて、俺らの修練場で暴れてたよ……」

 

「あら……そうなの?私は気にしないけど、宰相のボードワン様が顔をしかめて、大きなため息をついていたわ。他の団長もね」

 

「ハァ〜あの人は……」

俺もため息をつくほど、呆れていた

 

「それに今日は帰りが遅かったわね」

 

「……団長が急に俺と勝負しろって、言われて、この時間までずっと戦ってたんだよ……」

俺はおそらく、疲れ果てた表情をしているであろう。それが伝わったのか姉さんは俺を心配してくれた。

 

「大丈夫?なにかあったら、お姉ちゃんに言うのよ?すぐに行くから。………今度、ヴァルガスにお話ししなくちゃね……」

 

「ありがとう 姉さん。姉さん?すぐに行くからの後、なんか言った?」

 

「え?あ!なんにも言ってないわよ!うん!なにも!アハハ」

 

「? ならいいけど……」

 

「うん!ほら、冷めちゃうから、温かいうちに食べて?」

 

「わかった!いただきます!」

その後、姉さんは笑顔で俺のことを見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サボらないように頑張ります( ̄∇ ̄)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

 

 

 

そんな日が何日も続いた、ある日……

〝ディナントの戦い〟が始まる、約一週間前……王都ニースの王宮ではアグニ騎士団による、会議が行われていた。

 

「よし!全員集まったな?ヴァンベルク!頼んだ!」

アグニ騎士団の団長 ヴァルガスが副団長である、ヴァンベルクに会議の議題を発表させた。

 

「うす 今回の議題はもうすぐ、ジスタート王国と行われる戦いに我ら、アグニ騎士団からも王を守れとのことで参陣せよとのお達しがくだった。だから、出陣の準備をしなくてはならない。我々は総勢五百名の騎士で構成されている。今回は全員参加だ!わかったな?」

 

ザワザワ……動揺があるのか、隣の奴と話すものがいたが、それは戦うことに対してではなくーー

 

「副団長!質問よろしいでしょうか?」

一人の騎士が手をあげる。会議室にいるのは、騎士団の中でも、それぞれ隊を持つ者だけだ。かくいう、俺も二百人いる槍隊で五十人隊を預かっている。彼は五十人いる騎兵隊の隊長ファルオン=バース…この騎士団でトップ3には入る、実力者だ。ちなみに1位は団長、次に副団長である。多分、ダンさんと五分五分くらいだな。

 

「なんだ?ファルオン」

 

「今回はそれなりの数が動員されると聞いておりますが、我らはなんのために戦うのですか?」

 

それは俺も気になっていたことだ。ファルオンさんは真面目だから、自分がなんのために戦うのか、理由が欲しいのだろう。

 

「ああ それはな、今回の戦いは、ジスタート王国だ」

ザワッ!ここにいる驚愕の顔をしていた。かくいう、俺もだ。

 

「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

団長が一番ビックリしてるよ……。あんた会議出てなかったら、聞いてなかったのか。

 

「我らブリューヌ王国とジスタートが戦うのは実に二十年ぶりくらいだな。まあ、戦う理由はしょぼいが……」

ヴァンベルクさんは首を横に振りながら、呆れた感じでそう呟いた。

 

「どういうことだ?」

 

「ああ、争いの原因は、国境線となっている川が大雨で増水し、氾濫を起こしたのだが、被害を受けた住人がお互いに非を押し付けあって、いさかいを起こしたのです。陳情を受けた国もそちらの国の治水対策に問題があったと言い張って譲らず、双方の軍に出征を強いられた……そうですよ」

 

「はぁ?」

団長が露骨に変な顔をする

 

「俺も最初、会議で聞かされた時はなに言ってんだ、と思ったが問題はそこじゃない。面子の問題だ」

 

「面子だと?」

 

「ああ 今回の戦……レグナス王子が参加される。なので、王は今回の戦いは王子に経験を積ませ、これだけの大軍にしたのであろう」

 

あー……なるほどね。王は一人息子のために勝たしてあげたいのと、経験を積ませることが目的なのか。

 

「子供の喧嘩に親が介入したようなもんじゃねえか!やる気がでねぇぜ……」

団長も乗り気ではない様子だな。まあ、俺もなんだが……。

 

「私たちを合わせ、王都にいる3つの強力な騎士団のうち、2つが参加している。我らアグニ騎士団は前線に、もう1つはセレナさんが率いるサーマ騎士団が殿下の周りを守る布陣だ」

 

「姉さんも参加するのか……」

そんなこと家では一言も言わなかったから、知らなかった。

 

「おい ランセルの野郎たちはなにするんだ?」

団長が3つあるうちの騎士団 ヴリクシャ騎士団の動向を聞いた。ヴリクシャ騎士団はランセル=ドレヴァスが率いる騎士団である。彼らの騎士団は結束力が固く、団長を中心にまとまりが良い、騎士団である。副団長 兼 軍師のエステル様が作戦を立案し、非常に隙のない集団になっている。

 

「ヴリクシャ騎士団は怪しい動きを見せる、ムオジネルの牽制のため、南東の砦に赴いている。そのため、今回の戦いではこちらには参陣しないのだ」

 

「ほーう……奴らも大変だな……。今回の戦はどうなるやら……」

団長は上を向きながら、やる気なさげにそう呟く。俺は姉さんやこの騎士団のみんなが死なないように頑張るだけだ!俺がそう思っていたら、ヴァンベルクさんから、まだ話があると言われ、そっちに注目した。

 

「ジスタート王国は将軍の情報によると、七戦姫の一人が指揮を執るそうだ」

 

「なにぃ⁉︎それを先に言え!それさえ聞きゃあ、戦が楽しみだぜぇ…」

団長が一気に息を吹き返した。俺はまだ一度も戦ったことはないが、団長はあるのか?

 

「団長 団長は戦姫と戦ったことがあるのですか?」

 

「いや ない!」

ないのかよ!

 

「だが、噂はブリューヌ王国にまで届いているだろう?誰か来るかしらんが、戦姫とやり合うのは俺にとっちゃ誉だな!」

団長は意気揚々と語ってくれた。誉……か……。強いやつと戦いたいのはやっぱり英雄の血が入ってる証拠かな……。

 

「団長らしいですね!」

 

「俺らもやるしかねぇよな……」

 

「ワシからも1つ良いか?」

俺たちが覚悟を決めようとしたときにダンさんが手を挙げた。

 

「? なんでしょうか」

 

「戦力はどんなものになるじゃろうか?予想だとかなりな数になると思うのぅ〜。おそらく、貴族連中は自分は行かず、子供を行かせるだろう。殿下に気に入られれば、後々、有利になるからのう……」

 

確かに、貴族連中も自分の子供に活躍させるために戦力を揃えて来るはずだな……

 

「はい それなんですが……相手はおそらく、五千 こちらは二万五千を超えると思われます」

 

「⁉︎ それはまた……なんとも……」

 

「……王も過保護じゃのう……」

 

「俺は戦姫と戦えればそれでいい!」

 

上から順にファルオンさん ダンさん 団長で三者三様の反応だ。俺もだが、さすがにそれは負けた時がやばいだろ……。

 

「……」

 

「おいおい!なに黙り込んでだよ?俺たちのやることは変わんねぇだろう?俺たちの役目は仲間を……王を……国を……守ることに変わりはないんだ!」

 

「! ふ……それもそうじゃな」

 

「ですね」

 

「初めて団長がまともなこと言った気がする……」

あ つい本音が

 

「こら!テメェ、カル!初めてとはなんだ!初めてとは!あとで修練場に来い!鍛え直してやる!」

 

「え〜⁉︎」

 

「ははっ!そうですね!団長の言う通りだ!では団長、ダンさんはここに残って、編成を考えましょう。いいですか?」

ヴァンベルクさんがまとめに入っていき、それにダンさんが了承の意を伝えた

 

「では!各隊長は隊員に戦闘の準備を促してください。今回の会議はこれで解散!お疲れさまです」

 

「「「「「了解」」」」」

 

さて……俺も鍛錬してから、家に帰るか……。姉さんにも聞きたいこともあるし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短くなりましだが、次は長ーく行こうと思います!
ディナントの戦い終わって、さらにザイアンくんが攻めて来るあたりまでかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

 

 

「姉さん!なんで、戦いに参加するって言わなかったんだよ?」

俺は今、家で姉さんに問いただしている。内容は2週間と迫った、戦争についての話だ。

 

「あら?言ってなかったっけ?私はレグナス王子殿下の護衛につくことになったのよ。はい!今言った!」

姉さんはニッコリと笑いながら、俺にそう言ってきた。こいつ……

 

「そうじゃなくて!なんで、会議のあった日に言わなかったのさ!」

 

「もーう。男の子が小さいこと、気にしないの!女の子に嫌われちゃうよ?」

 

「な⁉︎お 女なんか、俺の周りにはいねぇし!今はまだ、なんにも考えてない!」

 

「そうなの?じゃあ、困ったらお姉ちゃんと結婚しようねぇ〜♪」

 

「こ 子ども扱いすんなよな!姉さんとなんか、結婚しねぇよ!」

俺がそう言った瞬間、姉さんはこの世の終わりのような表情になった。

 

「………」

 

「あ……。わ 悪かったよ。別に姉さんが嫌いってわけじゃないから……。むしろ、好きというか、なんというか……」

俺は対応に困って、おろおろしてると……

 

「ふふふ」

 

「え?」

 

「はははははは!ごめん ごめん!困らせちゃった?」

あっけらかんと笑う姉さん。なんにも気にしてない様子に俺はちょこっとだけ、腹が立った。

 

「なあ⁉︎騙したな!姉さん!」

 

「ふふふふ!傷ついたのは本当よ?」

 

「う……。それは悪かったよ……」

 

「うん!許してあげる!ふふ もう夜も遅いし、寝ましょうか。明日から家に帰ってこないのでしょう?戦いの準備とかで」

 

「うん 団長のところで、色々やることがあるんだ。だから、しばらく会えないけど、頑張ってね」

 

「それは誰に言ってるのかな?私はサーマ騎士団 団長の〝氷輝姫〟のセレナ=レクシーダよ?この宝剣レクシーダがある限り、私は負けないし、死なない!」

姉さんは自慢げに語り、満面の笑みを浮かべた。

 

「ふ……そうだね!じゃあ姉さん!おやすみ!俺、明日早いから、朝食用意しなくていいよ!」

 

「うん わかった!おやすみなさい おとうとくん!」

 

「ああ!」

俺は姉さんに背を向け、自分の部屋に戻った。

 

「ふー……ねるか」

俺は蝋燭の火を消し、眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャン……ガシャン……鎧が擦れる音だけが響いてくる。俺は現在、ブリューヌ王国二万五千の大軍の中、一番先頭の方で行進していた。何故、先頭かと言うと団長が……

 

「一番早く、戦姫と戦うためだ!」

 

と自分の欲望のため、貴族連中から一番槍を取ってきやがった。危険じゃないすか!と聞いたら……

 

「俺の騎士団なら、大丈夫だろ?武勲……期待してるぜ!」

 

「ーーーって言うんだもんなーーー……」

その期待に応えたいって俺がいるから、困ったんもんだ。

 

「カル 気負っているのか?」

俺の独り言に副団長のヴァンベルクさんが話しかけてきた。

 

「いやー…はい。団長があんなこと言うんすから、期待に応えたくて……」

 

「まあ、あいつはそういうやつだからな。どこまでも優しくて、強くて……だから、俺たちもあいつについてきたんだ」

副団長がしみじみと語ってくれる。俺もそんな団長についてきた。俺があの日に言われたのは………

 

「俺と一緒に〝最強〟の騎士っていうの、目指さねぇか?」

 

あの時の俺はいっちょまえに強い気でいた。姉さんにたくさん心配かけた。街ではチンピラ相手にケンカばっかやってた。その時にかけられた言葉だから、胸にストンっと落ちた。

 

「この騎士団の隊長連中は全員、ヴァルガスに負けて、改心してこの騎士団に入ったからな。ファルオンなんか、すごかったぞ。あいつが入団した時、騎士団にいたやつらと戦って、俺より弱い奴なんか従わねぇ!とか言って、俺とダンさんに勝負を挑んできたからな。」

 

ここで、ファルオンさんの黒歴史を聞けるとは……

 

「ちなみに、これをファルオンに言うとキレるからな。からかうときは気をつけろよ?」

 

「ヴァンベルクさん……ありがとうございます。命を拾いました」

 

「ハハハハハッ!おう!気にすんな」

 

「止まれぇぇぇ‼︎今日はここで野営を行う!各人、野営の準備を始めよ!」

 

「ここでか?」

 

「まあ、見晴らしはいい、前から攻めてきたらわかるしな。それに本陣は丘の上だ……あそこなら背後だけ、気をつけておけば、どうにかなるだろう」

 

「確かに……定石通りですね」

 

「そうだな ほら準備するぞ」

副団長は馬車にいき、荷物を取り出し始め、指示を出し始める。

 

「うす」

俺も馬車に向かい、鍋やら簡単にできる天幕を取り出す手伝いを始める……こうして、悲劇が起こる日の昼は過ぎていったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは野営の準備を終え、夜食を騎士団や兵の皆に配給をしていた。

 

「そういえば……ティグルが今回の戦いに参加するって手紙で言ってたな……会いに行くか」

 

俺はそう思い、隣のにいた副団長に話しかけた

 

「副団長 俺ちょっと友人に会ってきても、よろしいでしょうか?」

 

「ん?ああ もうすぐ終わるから会ってこい。あとは……えーと……ゴルドバ!手伝え!」

ゴルドバ……軍師 ダンバンシェルの弟子にして……超がつくほどの自信家なのである。

 

「このボクに何を頼むと言うんだい?」

 

「おう ここにきて、配給を手伝え」

 

「なんでボクがそんなことを⁉︎」

実力はあると思うんだけどな……

 

「やれ」

 

「はい」

副団長が凄むと素直に言うこと聞くところとか、可愛いとおもうよね!

 

「んじゃ行ってこい。ティグルによろしくな」

ヴァンベルクさんは俺にそう言って、送り出してくれた

 

「はい!」

 

すると、俺が歩き出した瞬間……

 

「俺も連れてけや!」

ガシッと肩を掴まれ、肩が粉砕するかのような痛みに襲われた

 

「いててててててっ⁉︎ちょっ!はな!離せ!離してくださいっ!」

 

「ん?おわー悪い悪い。咄嗟だったから……ついな?」

片目をつぶって、謝ってくる団長。何度も言うがこの人は、超力が強いのである。

 

「いや!ホント気をつけてくださいよ!人より力が強いんだから……」

 

「おう!ティグルんとこに行くんだろ?一緒に行こうぜ!」

 

「いいですけど……ティグルになんかようすか?」

この人とティグルってなんか関係あったか……?

 

「優秀な弓兵はどの軍にも必要だろ?ブリューヌはちょっと頭が固いぜ」

確かにブリューヌは弓を使う者を臆病者と蔑む傾向がある……というそうだ

 

「あいつは天賦の才……今までのブリューヌにはいなかった奴ですしね」

 

「そうだな……。あいつもジスタートとかだったら、住みやすかったろうにな」

目を閉じながら、腕をくんでそう言う団長には何か思いがあるのか、そんな感じがした

 

「とりあえず行くか!時間がもったいねぇしな!」

 

「そうっすね」

俺はそう言って歩き出す、団長の後ろについていった

 

「なあ?カル」

 

「? なんですか?」

 

「ティグルって……どこにいんの?」

 

この人は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すんません
まだ全然入れなかったです笑
次こそは!ホント次こそは!行くんで応援よろしくおなしゃす!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

 

 

 

 

 

 

俺たちは後衛に向かって歩いて行き、すると三十アルシンくらい前方で見覚えのあるくすんだ赤髪と長身できらびやかな鎧に身を包んだ青年と取り巻きが、なにやら話し込んでいるのが視界に入ってきた。

 

「団長 あれは……」

俺がその方向を指差すと団長も気づいたようで破顔一笑する

 

「お?ありゃティグルだな!行くぞ カル!」

 

「うす」

俺たちはその方向に向かって歩き出した。すると、残り五アルシンくらいで豪華な鎧をきた青年の声が聞こえてくる。あれは確か……テナルディエ公爵のご子息だったか……?

 

「殊勝な物言いだが、お前ごときがなんの役に立つというんだ」

嘲笑……取り巻きの貴族たちの笑い声も聞こえる。ザイアン=テナルディエ……。テナルディエのバカ息子か。人を見下し、差別もする。ある意味貴族の一例でもあるな。上の階級ではよくあることだ。

 

「前にも言ったが、四、五代前は狩人なんぞをやっていた家の者など、貴族として認めんからな」

そう吐き捨てるザイアン……それだけの歴史を奴の家は持っているからな……。テナルディエ家は公爵……つまり、王家の次に高い階級だ。ティグルの家 ヴォルン家などとは比べものにならない古くからの名門。先程、ザイアンが言った、四、五代前は狩人だったヴォルン家は最近、成り上がった貴族だ。総動員できる兵は百が限度だろう。対して、テナルディエ家は親族に有力な貴族を数多くかかえ、所有する領土は広く、総動員できる兵は最大で一万に達すると言われる。ブリューヌ王国、二大公爵の一人だ。

 

「厄介な奴に絡まれたな……」

俺はそう呟くと、団長が……

 

「そうか?俺はテナルディエ家とは交流があるし、ザイアンは根は臆病者だから、凄めば一発だぜ?」

 

「あ……そういえば、親父さんがテナルディエ家の騎士団でしたっけ?」

 

「あー元だけどな。テナルディエの兵が精強なのは親父が直々に鍛えてたからな、それなりの権利なら持ってるんじゃないか?俺も今だにあっちの騎士団に誘われたりしてるしよ」

 

団長のお父さん……アヴァン=ダンデルガは元・アグニ騎士団初代団長で、四十五の若さで現役を引退。今は世界中を旅している。

 

「今となっちゃ、連絡も取れねぇからな。たまにあっちから、連絡があるくらいか?」

団長が今、二十五歳くらいだから、アヴァンさんは五十歳くらいか?かれこれ、五年か?旅を始めてから。

 

「たまに家に帰ってくるんだけどな〜。そん時、俺いねぇんだよな」

 

「あー間が悪いですね」

 

「まあ、寂しくもねぇし、家にはラヴァがいるからな」

ラヴァ……知ってる人は知っている、団長の奥さん。ラヴァさんも元・アグニ騎士団で団長の幼馴染。実力も互角という、中々の実力者だった。

 

「はー暑いっすねー」

 

「ん?そうだな。今夜は蒸し暑いな!」

 

「そういうこと言いたいわけじゃないんですけどね……」

ん?そろそろ終わったか?お!ティグルがザイアンを転ばしたな!あいつの大事な弓を踏もうとするから、そうなるんだ。

 

「弓が曲がったらどうする気だ!」

 

「弓?弓がどうしたってんだ、この臆病者が!」

 

「そうた!そんなものが壊れたところで、何を困ることがある。剣をとって前に出ればいいだけの話だろうが!」

 

「貴様のような者には、戦神トラグラフも加護をお与えにならんだろうよ!」

ザイアンとその取り巻きたちが唾をとばして、吠えている。ティグルは歯噛みした様子だ。

 

「弓は、白刃の前に身をさらす勇気をもたぬ臆病者の武器だ」

取り巻き達が蔑視の視線でティグルを見下す。ここではーーブリューヌ王国では、彼らの言い分が正しい。ブリューヌ軍には昔からそうした考えが根強くあり、弓を軽んじている。弓兵の功績は一段低く見られるのならばまだいい方で、評価の対象にすらならないということがほとんどだ。

 

「弓兵は、徴兵した狩人、または自分の土地を持たない農民。兵士の中からは重い罪を犯したことのある者、剣および槍の技量について際だって劣る者から選ぶべし」こんな基準があるほどで、正規の兵でありながら弓を使う者は〝罪人と罵られるか下手糞と侮られるか選べ〟ということになる。

 

「落ち着け、おまえたち」

助けを借りてようやく立ち上がるザイアンが、取り巻き達を手をあげて制す。甲冑についた土ぼこりをわざとらしくはらい、ザイアンは腕を組んでティグルをせせら笑った。

 

「おまえが弓にこだわる理由は、券も槍も扱えないからだろう?弓を持って戦場にいれば、とりあえず戦士のふりができるなどとあさましいことを考えているのだろうが」

なーに言ってんだが……

 

「ははっ!おまえも大して得意じゃないだろうに!」

団長は大笑いしていた

 

「そもそもブリューヌ王国の伯爵たる者が、剣も槍も持たず、鎧すらつけないで戦場に赴くことを恥と思わないのか?見ろ、おまえたち。こいつのみすぼらしい格好を。革の鎧に革の籠手、革の脛当てと革尽くしだ。マントはそれなりのようだが、見るべきものがせいぜいそれだけとは。なんとも哀れな懐具合だな」

 

「ーーーザイアン」

それまで黙って事態を見守っていた団長が、口を開いた。

 

「見事な演説だな、ザイアン。いつから、そんな上から目線でものを語られるようになった?」

 

ザイアンは驚愕の表情で、目を見開いた。

 

「ヴァルガス⁉︎」

 

「………さんはどうした?」

 

「……さん」

ザイアンはさっきの勢いをすっかり潜め、萎縮したように体を縮こませた。そして、団長はある方向を指差すと……。

 

「消えろ」

たった一言……だが、団長から溢れ出る覇気は圧力に変わって周囲の人間の体に重くのしかかった。

 

「……ック」

ザイアンは一歩後ずさり、マントを翻して、背を向けた。

 

「……行くぞ おまえら」

ザイアンは取り巻きを連れ、指された方向へと消えていった。

歩き去って行くザイアンたちの後ろ姿を見送った俺はティグルに話しかけた。

 

「よう ティグル」

 

「カル?カルじゃないか!久しぶりだな!」

 

「おう!久しぶりだな!ティグル!」

俺とティグルは昔、王都で会ったことがある。その時はまだ存命だった、姉さんの両親とティグルの父親は旧知の仲でよく遊びにきていたのだ。そこで俺たちは俺とティグルと姉さんの三人でよく遊んでいたのだ。離れていても、文通をする仲であった。

 

「ヴァルガスさんも!ありがとうございます。おかげで助かりました」

ティグルは団長にも礼を言うと、団長はいやいや と言いながら手を振った。

 

「マスハス卿もお久しぶりです」

俺は隣で鍋の準備をしていた、マスハス卿にも挨拶をした。マスハス=ローダント……ブリューヌ北部のオード地方を統治する貴族。階級は伯爵。灰色の髭を生やしたずんぐりとした体躯の初老の男性。ティグルの父ウルスの親友にしてティグルの恩人であり後見人と言える存在。

 

「うむ。久しいのカル。ティグルすまなかったのう。なかなか間がつかめなんだ」

 

「気にしないでください。マスハス卿」

 

「そう言ってくれて、なにやりじゃ。ヴァルガス 主にも感謝せねばなるまいて」

そう言って、マスハス卿は団長に頭を下げて、礼を言った。

 

「おいおい、水臭いぜ。マスハスの爺さん。俺とあんたの仲じゃねぇか なあ?」

そんなの気にすんなよと言った、態度をとる、団長。

 

「すまないの」

そう言って、マスハス卿はまたイスに腰掛けると、鍋をかきまわす作業にもどりながら、マスハスはなにげない動作でまわりをぐるりと見回す。

 

「……剣や槍を扱えることが、勇気の証明にはならんというのがよくわかるわ」

マスハス卿は残念そうにそう呟いて、鍋をじっと見ていた。

 

「確かにそうだな……だが、あいつらにも訳があるってもんだ。気にすんなよ。マスハスの爺さん」

団長はマスハス卿の言うことに同調しながら、マスハス卿の向かい側の椅子に腰をかけた。

 

「そらもそうじゃの。ほれ、野菜スープじゃ 温かいうちに食べてしまえ」

マスハス卿は俺や団長に温かいスープの入った皿を差し出してくれた。

 

「ありがとうございます。いただきます」

俺は礼を言い、食した。

 

「おう 一杯だけ、いただくぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは食べ終えると席を立ち、ティグルとマスハス卿に別れをきりだした。

 

「ではマスハス卿、俺たちはこれで失礼いたしますね」

 

「ん?もう行くのか?」

 

「はい 仲間が心配しますので、これにて」

俺は頭を下げ、礼を言った

 

「おいしい料理 ごちそうさまでした」

 

「爺さん うまかったぜ」

 

マスハス卿は笑顔になりながら

 

「それはなによりじゃ」

 

「ではマスハス卿 ティグル、ご武運を」

 

「頑張れよ 爺さん!ティグル!」

 

「うむ そちらもな!」

 

「武運を カル、ヴァルガスさん」

 

「おう!」

 

「任せろよ!ティグル!じゃあな」

そう言うと俺たちは自分たちの天幕に戻り、幹部だけ集めて、軍議を開いた。

 

「今日は寝ない方がいいな」

団長はいきなりそう言いだした。

 

「ふむ……してその心は?」

軍師である、ダンさんがそれに突っ込む。

 

「ああ 敵は多分奇襲をかけてくるはずだ」

 

「なぜ、そう思うんじゃ?」

 

「俺だったら、そうするからさ」

団長は笑いながら、ダンさんの顔を見る。

 

「フッ……ハッハハハハ!確かにのう!わしも今夜は奇襲があると考えてええじゃろう!わしらのいる前衛は二万で、丘のふもとにおるが、本隊は丘の上じゃ。丘の後ろには森があり、潜むのならそこじゃろうな……わざわざ、隠れる場所のない草原から二万の前衛を攻撃しないじゃろうて」

ダンさんは自分の考えを全部話し、どうだ?とみんなに聞いた。

 

「確かにな……」

隊長連中はそれに納得がいったようだ。

 

「では今回は寝ずに戦いの準備をしておきましょう。ファルオン あなたは敵が攻めてきたら、いち早く迎撃しに行きなさい。騎馬隊の足なら、すぐ丘の上につくでしょう」

ヴァンベルクさんはファルオンさんにそう指示する。

 

「了解した」

 

「団長 あなたは……」

 

「俺もファルオンと一緒に迎撃に行くぜ!」

あ……この人ーーー

 

「戦姫と戦いたいだけでしょう?あんたは」

 

「ハッハハハハ!そうだな!よしっ!騎馬隊は奇襲を受けた際には即迎撃に迎え!歩兵はヴァンベルクの指示の下、後からついてこい!状況によっちゃ殿になるかもしれないからな!いいな?」

 

「「「おうっ!」」」

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

夜中……ブリューヌ軍が寝静まった頃、丘の後ろの森には一千の騎兵が静かに進軍していた。

剣や槍の穂先は光らないよう土で汚し、馬の口には板を噛ませ、馬蹄は綿入りの布で包むという用心深さだ。

そうして彼らは敵に気づかれることなく、小高い丘のそばまでやってきた。

なだらかな斜面を上った先には敵ーーーブリューヌ軍の後衛が夜営をしている。篝火の炎がちろちろと踊っていた。

 

「ーーー休息。準備せよ」

騎兵たちの先頭に立っているの銀色の髪の少女が、薄く笑った。兵たちはその言葉に従って休息をとり、馬の口から板をはずし、馬蹄から布を取り去る。

やがて、放っていた斥候が戻ってきた。敵は寝静まっており気づいていていないとの報告に、少女は騎兵たちをふりかえる。腰の長剣を抜き放ち、高々と掲げた。長剣の周囲にかすかな風が吹く。

 

「目の前の敵はおよそ五千。我々の実に五倍だ。後衛とはいえ、総指揮官のいる本陣はさすがに精鋭で固めているだろう」

だが、と少女は紅の瞳を戦意で満たして続ける。

 

「私は行く。そして勝つ。お前たちはついてくるか?」

 

騎兵たちは無言で、剣や槍を空に向かって突き上げた。

少女は敵のいる方向に向き直り、馬を走らせながら鋭く剣を振りおろした。

 

「突撃せよ!」

 

軍旗がひるがえる。黒竜旗ーーー漆黒の竜を描いたジスタート王国の旗がーーー。

空気がごうっと流れ出す。騎兵たちは手に剣や槍をかまえ、あるいは弓に矢をつがえながら、少女に続いて丘を駆け上った。

地鳴りのような馬蹄の轟きに、見張りの兵たちもようやく敵襲に気がつく。

だが、もう遅い

 

「敵ーーー」

 

少女が剣を一閃させると、兵の首が悲鳴ではなく血飛沫をあげて飛んだ。

徐々に白みをはじめた空を背景に、少女の率いる一千の騎兵が敵陣を蹂躙する。ブリューヌ軍は大混乱に陥った。狼狽のあまり武器を捨てて逃げだす部隊まで現れる、果敢に抵抗する兵もいたが、勢いが違う。

しかも、ジスタート軍の先頭に立って剣を振るう少女の強さは圧倒的だった。

群がる敵をことごとく一撃で斬り捨て、あるいは馬蹄で容赦なく蹴散らす。それでいながら、血の一滴も浴びることがない。長剣が風を唸らせるたび、地面に転がる死体はひとつ、またひとつ増えていく。

白銀の髪をなびかせて少女は敵陣を突き進み、一塊となった騎兵たちが続いた。

この時点で、ほとんど勝敗は決したーーーと思われた。

逃げだす部隊と違って、立ち止まり、こちらを向いている一団が現れたのだ。

その先頭にいるのは手に大剣を持ち、明るい赤色の髪をした男が威風堂々と獰猛な笑みを浮かべながら、立っていた。

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 

 

「敵襲ー!敵襲ー!」

俺はその声を聞き、待ってましたと得物の槍を手に外に出ると、既に外には団長が本陣の方向を見ながらーーー笑っていた。

 

「ついに来やがったなーーー戦姫」

団長からは闘気が溢れ出ており、いつでも戦える様子だった。

そこにファルオンさんが愛馬に乗りながら、近寄って来た。

 

「団長ーー騎馬隊百……準備整いました」

 

その報告を待っていましたと言わんばかりに近くに置いていた馬に飛び乗った。

 

「よっしゃあ‼︎テメェら!俺たちは今から、この百の騎兵で死地に乗り込む!前にはジスタート王国の戦姫!後ろには守るべき仲間!こんな燃えねぇ状況はねぇよな?」

 

団長は大声で檄を飛ばす。それに呼応するかのように俺たちの体から力が溢れてくる。

 

「おぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「やってやろうぜ‼︎団長‼︎」

 

「ジスタートの戦姫がなんぼのもんじゃあ‼︎」

 

団員も各々、大きい声で返す。

 

「最強の俺にーーーついてこい!」

 

そう言うと、団長は馬の腹を蹴り、真っ直ぐに丘を目指し行った。騎馬隊もそれに続くかのように地鳴りを響かせ、声をあげ、走り出した。

 

「さすが団長、こういうときだけは頼りになりますね」

 

俺はヴァンベルクさんに近づき、そう呟く。

 

「フッ……そうだな。さあ!軽口はここまでだ!お前ら!団長が道を示したんだ!俺たちも続くぞ!」

 

副団長も檄を飛ばし、ヴァンベルクさんを先頭にその次に俺、その隣にダンさんが並ぶ。

 

「進軍開始!」

俺たちは逃げ惑うブリューヌ軍の波にさからい、団長の通った道を進軍して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リアルが忙しくて、更新が不定期になりそう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

 

 

 

俺たちが進軍しようとしたーーーそのときだった。

 

「前からジスタート軍だ!」

それを聞いた周りの貴族たちは一気に浮足立つ。副団長は冷静にその方向を見て、判断を下そうとしていた。

 

「………反転だ」

 

「反転……ですか。団長たちはどうします?」

 

「援軍には迎えないと伝令をだし、早めの離脱を指示する。俺たちは反転して、前のジスタート軍と戦うぞ!」

 

俺とダンさんはそれを聞くと、俺は周りに反転の指示をだす。それを聞いたヴァンベルクさんは命令をだす。

 

「俺たちは今から、前の敵を討つ‼︎後ろの敵は我らが団長に任せることになるが、俺たちは団長が負けないと信じて戦うぞ‼︎前の敵を討ち‼︎ブリューヌの力を見せつける‼︎」

 

五百人いる騎士団は一斉におうっ‼︎と叫び、各々武器を掲げる。

 

「全隊‼︎突撃‼︎」

俺たちは一斉にうおおおおおお‼︎と雄叫びをあげながら、駆け出した。

 

「伝令をだす!ジン!行け!」

近くにいた、新人のジンに伝令の指示をだす。

 

「了解です!」

それを聞いて、即座に駆け出すと、あっという間に見えなくなった。

 

「俺たちも前に出て、戦うぞ!カル!ついてこい!ダンさん!兵の統率を頼む!」

 

「任された!やはり、ヴァンは前に出て戦うのが性に合っているようじゃの!」

 

「フッ……そうみたいです!行くぞ!カル!」

 

「はい!」

俺と副団長は前線にで戦うため、一気に前に躍り出た。その時、味方のブリューヌ軍からも声があがる。

 

「アグニ騎士団だけにやらせるな!我らも続くぞ‼︎」

 

「ブリューヌの誇りを!戦神トリグラフの加護あれ!行くぞぉ‼︎」

おおおおおお!ーーー他の騎士団からも声が上がり、軍勢は約三千ほどに膨れ上がる。

 

「うおおおおおお!」

この軍勢のなかで戦うことになるとはな……士気があがるぜ!

 

「オラァ‼︎」

 

「シッ‼︎」

副団長は身の丈ほどある、斧を振るい、ジスタート兵を数人吹き飛ばした。

俺も負けじと槍を突き、敵を串刺しにする。

 

「このままーーー」

副団長が勢いのまま進もうとした時、その報は知らされた。

 

「ブリューヌ王国王子!レグナスを討ちとったぞぉぉぉぉ‼︎」

 

「な⁉︎」

それは一瞬の油断だった。

 

「チッ!カル!危ねぇ‼︎」

副団長は俺を突き飛ばすと、ジスタート兵の槍から俺を庇っていた。

 

「ヴァンベルクさん!くそ!」

俺は立ち上がり、敵を殺そうとしたがーーー

 

「ぐっ……ッラァ‼︎」

ヴァンベルクさんは刺された状態で、剛斧を振るい、ジスタート兵の頭を斬り飛ばす。

 

「副団長!」

 

「……はぁはぁ。怪我はないな?」

副団長は刺された場所を抑えながら、俺の無事を確認してきた。副団長の傷を見ると、鎧の上から、ポッカリと穴が空いており、そこから赤い血が流れ出ている。

 

「俺は大丈夫です!すいません……俺なんか庇って……。今すぐ、誰かーーー」

俺は近くの仲間を呼ぼうとすると、副団長はそれを手で制す。

 

「いや、大丈夫だ。今はそれどころではない。王子死亡の報で兵が浮足立っている。逃げ出す兵も多数出ているのだ。早くこの場から離脱するぞ」

副団長は冷静に状況分析すると、俺にも指示をだしてきた。

 

「カル お前はこのことをヴァルガスに伝えてくれ。俺はダンさんとアグニ騎士団を再編成し、王都ニースに戻る」

 

「……わかりました!ダンさん‼︎」

俺は了承の意を伝えると近くで指示を出していた、ダンさんを呼ぶ。

 

「なんじゃ⁉︎……ん?ヴァンよ、怪我をしてるではないか⁉︎」

ダンさんは俺に気づくとすぐに駆け寄ってきてくれた。そして、すぐに副団長の怪我の容態を確認した。

 

「これだったら、すぐに治療すれば大丈夫だ!すぐに治療をーーー」

 

「いえ、大丈夫です。それよりも俺と一緒に騎士団を再編成し、ニースに戻りましょう。この戦は……終わりです」

 

副団長……あんたはいつだって自分を後回しにしてきた。自分の身を削って、俺たちを助けてきてくれた。だから、この恩は必ずーー返す!

 

「無事にニースで会いましょうーーー必ず」

俺は近くにいた、乗り手がいない馬に飛び乗った。

 

「任せたぞ カル。ダンさん行きましょう」

 

「……そうじゃな。時は一刻を争う。全隊!隊を再編成し、王都ニースに戻る!」

 

ダンさん素早く指示をだし、隊をまとめる。

 

「副団長 ダンさん……武運を」

俺はそう言い、馬の腹をけってら本陣のある丘へと向かった。

 

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

時は戻って、丘の上の本陣では団長のヴァルガス=ダンデルガがジスタート王国戦姫エレオノーラ=ヴィルターリアと対峙していた。

 

「俺の名はヴァルガス=ダンデルガ‼︎その容姿!ジスタート王国の戦姫と見受ける!相違ないか⁉︎」

ヴァルガスは意気揚々と名を名乗り、先頭に立つ白銀の髪をした少女に名を問いた。

 

「いかにも!私はジスタート王国 ライトメリッツを治める戦姫!エレオノーラ=ヴィルターリアだ!」

白銀の少女も不敵な笑みを浮かべ、それに返す。

 

「ライトメリッツ……銀閃の風姫《シルブラフ》か!」

ヴァルガスはよっしゃ!とガッツポーズをしながら、喜んでいた。

 

「その武勇、ブリューヌまで届いている。俺はそれを聞いて、ずっとあんたのことを……想っていた!」

瞬間、ジスタートからもブリューヌからもザワッとどよめきが起こった。

 

「……団長 聞きようによっちゃ、愛の告白と思われますよ」

ファルオンは呆れながら、ヴァルガスに注意する。

 

「アハハハッ‼︎おもしろい奴だな!お前!」

ジスタートの戦姫も笑いながら反応する

 

「そうだな……率直に言おう!俺と……勝負しろ!」

それを言った瞬間、ヴァルガスは馬を蹴り上げ、先頭にいた白銀の少女に向かって走りだした。

少女は迎撃せんと長剣を抜き放ち、彼女もまた馬の腹を蹴り駆け出す。そして駆け出した二人はーーーぶつかった。

 

「オラァァァァァァ‼︎」

ヴァルガスは背中に背負っている大剣は使わず、腰に差している剣で斬りかかると少女はそれをものともせず、受け流す。

 

「ハッ!」

受け流したあとは少女がヴァルガスに向かって、鋭い突きを放つがヴァルガスはそれをいとも簡単に弾き返す。

 

「っぶねぇ!なら!これならどう…だっ‼︎」

無数の斬撃が少女を襲うが、少女は動じず言葉を口にする。

 

「アリファール‼︎」

すると、少女の周りに風が吹いた。馬の巨体が宙に浮き、斬撃を避け、少女は再びヴァルガスと間合いをとった。

 

「なんだぁ?それは。それが竜具《ヴィラルト》とやらの力か……。風を操るみたいだな?その武器は」

ヴァルガスは冷静に分析し、答えを導き出す。それに驚いたのか少女は素直に褒めていた。

 

「何も考えない筋肉ダルマかと思ったが、しっかり考えてるいるみたいだな、ヴァルガス殿?」

少しだけ、皮肉を込めている棘のある言葉を目の前に立つ赤い髪の男にぶつけた。

 

「はん、小娘が生意気言うじゃねぇか?ヴィルターリアさんよぉ。言っとくが俺はまだ本気を出しちゃいないぜ!」

ヴァルガスは再び、馬を蹴り、少女に向かって突撃を始める。

 

「ふん バカのひとつ覚えみたいに突撃しかできないのか?先ほどの分析力は嘘だったようだな!アリファール!」

少女も綺麗な声で竜具の力を使うため、その名を叫ぶ。すると、今度は風が砂埃をヴァルガスの前に起き、一時的に視界を奪った。

 

「ぐっ……。目が見えないのなら、気配で捉えるだけだ」

目を閉じたまま、振るわれた剣は固い何かを捉え、鉄が割れる音が辺りにこだまする。

視界が晴れて、目の前には白い馬に乗る少女が不敵な笑みを浮かべこちらを見ていた。

 

「折られたのは俺の剣だったか……まあ、感触でわかってはいた」

ヴァルガスは折られた柄だけの剣を捨て、背中にある大剣に手をかける。

 

「なら!俺もほんのちょっとだけ、本気を出してやる!行くぜ!ダンデルガ‼︎」

ヴァルガスが叫んだ瞬間、鞘におさまった大剣が火を吹いた。

 

「⁉︎ なんだそれは⁉︎ それも竜具なのか⁉︎」

少女もこれにはさすがにびっくりしたのか、その大剣のことについて、問いただす。

 

「これはブリューヌ王国の六英雄〝炎〟の英雄が使っていたとされる武器……人を守るために作られた、この武器を俺たちの間では勇具《スフィア》と呼んでいる。この剣の名はぁ……覇炎剣ダンデルガ。かつての英雄がこの剣を片手にブリューヌ全土を駆け巡った伝説の剣だ!」

ダンデルガを掲げ、その顔には自信に満ちていた。

 

「だから、俺のことは竜だと思っていいぜ?俺だって、普通の相手にはつかわねぇよ」

お前が戦姫だから使うんだと言い放つ、ヴァルガスは馬から降りお前も降りろと首で促す。

 

「やっぱり、こっちの方がいいわ〜。思う存分力を出せそうだ」

うーんっと背伸びをするヴァルガスを黙って見つめていた戦姫エレオノーラも馬から降り、長剣アリファールを構え直す。が、後ろから一人甲冑を着た副官らしき人物がエレオノーラの横に並んだ。

 

「エレオノーラ様」

 

「なんだリム?これから楽しいところなのだ、邪魔するな」

エレオノーラは剣をヴァルガスに向けながら、リムと呼ばれた少女には目もくれていない。

 

「いえ、ですが軍全体のことを考えると一騎打ちに及んでいる時間はないかと進言いたします」

副官……リムは個人のことではなく、軍の勝利をという考えらしい。個人のワガママで軍が負けたら元も子もないのだ。

 

「あの程度の数でしたら、我々の敵ではありませんがいかがいたしますか?」

 

「む……」

エレオノーラは構えをとき、顎に手をやって考え始める。

 

「まあ、俺たちにとっちゃ時間稼ぎだからなー。受けてくれりゃ嬉しいんだがそうもいかねぇな」

ヴァルガスも構えをとき大剣を肩に乗せ、頭を掻く。

 

「どうしますか?団長」

騎馬隊隊長ファルオンもヴァルガスの隣に来て、今後の動向を問う。がヴァルガスもどうするか悩んでいる様子だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

(チッ……どうするか。ヴァンからの伝令はまだか?)

俺はこれからここをどう切り抜けるかで頭を一杯にしていた。

 

(逃げようとおもえば、逃げれるんだが……。まだあっちの状況がつかめない以上、下手に動くべきじゃないな)

俺がそう思った瞬間、伝令のジンが俊足を飛ばして、俺の隣にやってきた。

 

「ついにきたか!」

 

「はい!副団長は前から現れたジスタート軍からブリューヌ軍を守るため、こちらには向かわず反転しブリューヌ軍と戦っております!こちらも時間稼いで欲しいとの仰せです!」

 

「へっ……無茶言うぜぇ あのやろう。この状況どうやって打開するっていうんだ」

俺は自然と笑みがこぼれ、決して嫌ではない悪態を吐く。

 

「戦姫エレオノーラ=ヴィルターリアよ!ここを通りたければ、俺を倒してからにしやがれ!」

威勢良く啖呵をきる。

 

「ファルオン!お前は百騎を連れて、前衛に戻れ!俺はここで時間を稼ぐ!」

自分でもわかっている、俺がとんでもないことを言っているのを

 

「な⁉︎なにを言ってるのですか!団長!そんなことできるはずがーーー」

 

「いけ これは……団長命令だ!」

俺はその瞬間、戦姫に向けて走り出す。

 

「頼むぜー俺の体。もってくれよ!」

そして、戦姫の前にやってきた俺は大剣を大きく上に構える。大剣は火を吹き、ごうっと燃え上がる。

 

「景気良く、一発でかいのぶちかますぜ!フレアライド《燃える斬撃》‼︎」

渾身の斬撃を戦姫に叩きつけるが、戦姫もそれを落ち着いてさばこうとする。だが、この技の真骨頂はこっからだ!

 

「今だ!ダンデルガ‼︎オラァァァァ‼︎」

すると大剣が火を噴射し、俺の腕をもぐんじゃないかという勢いで戦姫に向かっていく。

 

「な⁉︎アリファール‼︎」

やっと慌てた表情がみれたな!この野郎!

ズドォォン‼︎……あたりに衝撃が響く。先程までいた戦姫の場所には土煙とクレーターが広がっている。

 

「チッ またその剣か!」

 

土煙から晴れて現れたのは多少埃まみれになっている戦姫の姿だった。

 

「今の危なかったぞ……私は少し退屈していたのだ。これほどまでに手応えのない戦いに……。私は勝つために様々な策を用意した。だが、結果はたった一度の奇襲で潰走……。だから、私もそんな貴殿に敬意をもってこの戦いに臨もう!」

 

そう言って、再び長剣を構え直す戦姫エレオノーラ=ヴィルターリアは真剣な眼差しでヴァルガスを見据える。

 

(肝の座った顔をしてやがる……だが、勝つのはーーーおれだ!)

俺は剣を肩に担ぎ、再び突撃する。

 

「なら、かかってこいよ!そして、俺を倒してみせろ!俺の相手はお前だけじゃない……お前の軍全部だ!」

俺はそのまま戦姫に突撃はせず、通り過ぎ後ろの騎兵たちに飛びかかった。

 

「うらぁ‼︎」

俺は横に大剣を振り、馬ごと吹っ飛ばす。それに馬が多少びっくりしたのか、ちょっとした隙ができた。

 

「隙だらけだ!」

今度は近くにいた、騎兵を下から斬りあげる。すると、馬と人間がまるで、重力に逆らうように上に飛んでいく。

 

「ハッハァ‼︎」

 

「させるかぁぁぁ‼︎」

俺が騎兵相手に戦っていると後ろから戦姫が飛びかかってきた。俺はそれを大剣の腹を使って、防ぐ。

 

「ぐうっ!」

こいつ!この華奢な体のどこからこんな力が!

 

「ハアッ‼︎」

そのまま戦姫は長剣を横に振り、俺はそれを防いだがそのまま吹っ飛ばされる。

 

「チッ!」

初っ端から勇技《ブレイブバースト》を使うんじゃなかったぜ……。体に力が入らねぇ!

 

「先程の力は残っていないようだな!ヴァルガス!」

 

チッ……これで何度目だ舌打ちは……。ファルオンはもう行ったな。だがまだ、危険を免れた訳ではないだろうが、俺はあいつらのために最後まで……俺の力の一滴まで使い果たせ‼︎

 

「うおおおおおお‼︎」

いつの間にか俺の周りには騎兵はいなく、戦姫と俺の一騎打ちになっていた。こいつだけはここで倒す!

魔人も!竜も!殺すことができる、親父から教えてもらった技!

 

「イグニート……」

俺のありったけの力を大剣に込め、ダンデルガを構える。

 

「戦姫でいう、竜技《ヴェーダ》か……。なら私も対抗せねばなるまい!ハアァァァ‼︎」

戦姫エレオノーラ=ヴィルターリアのかざす長剣に風が集まっていき、剣を中心に纏わり付くように渦を巻いている。それは風が圧縮されていると思われる。

そして、お互いに技を出そうとした瞬間、三頭の馬が走ってきたのだその内の二頭には人間が乗っている。

 

「ヴァイ「ハァッ!」んなっ⁉︎」

ヴァルガスの必殺技が放たれようとした瞬間、ファルオンの剣がそれを邪魔したのだ。それは戦姫エレオノーラも同じだった。戦姫にはカルが渾身の一撃で剣を上にそらしたので、戦姫の竜をも殺す一撃を空中にそらすことができたのだ。

 

「クッ!何者だ!」

戦姫も久方ぶりの真剣な戦いをどこの誰とも知らない奴に邪魔され、ご立腹のようだった。

 

「ファルオンさん!できるだけ、早くお願いします!ハァッ!」

カルはファルオンになにか指示すると、自身は再び戦姫に向かい、攻撃を仕掛ける。

 

「団長!乗ってください!」

ファルオンは団長に乗り手のいない旨を目の前に連れてくる。

 

「な⁉︎ファルオン!テメェ逃げろって言っただろうが!」

 

「元から俺たちは団長と心中する覚悟はできている!俺はあの時からあんたに救われていたんだよ!今度は俺があんたを救ってみせる!」

 

「ファルオン……。すまねぇな!おし!行くぞ!」

ヴァルガスも用意された馬に飛び乗ると、カルの下に駆け寄る。それについていくようにファルオンも背を追った。

 

「シッ‼︎」

カルは依然と戦姫に向かって戦っていた。何度何度も槍の特性を活かし、突きを放つ。

 

「反撃する隙は与えない!ハァッ!」

 

「ブリューヌにはこんなにも強い奴がいるのか!侮っていたよ!貴殿の名を聞いてもよろしいか?」

戦姫は突きを弾きながら、余裕そうにカルの名を聞く。それに答えるカルもまだまだ余裕がありそうだった。

 

「俺の名はっ‼︎カル!覚えなくてもいいぞ!シッ‼︎」

名乗ると再び、連続の突きを繰り出し、戦姫を翻弄するが戦姫も馬鹿ではない。

 

「アリファール!」

戦姫の周りに風が起こり、戦姫を覆う。

 

「風影《ヴェルニー》‼︎」

すると、戦姫は宙に浮き、空を飛んで、カルの突きを避ける。

 

「化け物か……!」

カルも馬を引き、間合いをとる。歯噛みしながら、戦姫を見ていた。

 

「女性に向かって、化け物とはひどいな……」

エレオノーラも苦笑いしながら、頬をかいて、カルと対する。

 

「カル!」

すると、ヴァルガスとファルオンがカルに向かって、走っていき横に並ぶ。

 

「団長!ご無事でなにより!団長の尻拭いは今回限りですからね!」

額に浮かぶ、汗を拭い槍を握り直す。

 

「ああ!すまねぇなカル。今回は助かった」

ヴァルガスが素直に礼を言うと、カルは団長が礼を⁉︎と驚きを隠せなかった。

 

「戦姫よ!今回はこれで終わりだが、いずれ!また戦おう!いくぞ!お前ら‼︎」

 

「「おう!」」

ヴァルガス、ファルオン、カルの三人組は戦姫たちに背を向けると走り出しす。

 

「フッ……。近いうちに会える気がするな……。リム!このまま追撃はできそうか?」

 

「はい。囮となっている、四千の兵はブリューヌ軍の足止めに成功していると報告がありましたので、今から追えばなんとか……」

副官リムアリーシャはエレオノーラの馬を連れながら、横に並ぶ。

 

「そうか……。よし!追うぞ!全軍に告ぐ‼︎我々はこのまま追撃を開始する!この戦は既に我々の勝利だが!戦いを挑んだことを後悔させてやろう!黒竜旗《ジルニトラ》を掲げよ‼︎」

おおおおおおお‼︎……戦姫率いるジスタート兵は士気は十分なため、今にでも突撃する勢いだった。

 

「全軍!突撃!」

戦姫の声が辺りに響き渡ると、それは怒号となって帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

「……」

俺たちは団長を助け、馬を走らせ王都に戻っている最中なのだが、俺の心は別のところにあった。

 

「……姉が心配か?カル」

 

「!……はい」

俺は王の身辺を守っていたサーマ騎士団団長セレナ=レクシーダの心配をしていた。彼女は俺の唯一の姉であり、家族なのだ。心配して当然だと思う。

 

「そう心配するなよ。あいつはお前が思っている以上に強い女だ。なんせ、俺と引き分けたんだからな!」

団長は俺を慰めてくれるが、俺の心は晴れない。だが、今は姉の心配よりも自分たちの心配をするべきだと思う。まだ、安心はできないからだ。

 

「……そうですね。今は王都に戻ってから、考えます」

 

「おう!そうしろ!よーし!カルのためにもとっととニースに帰るぞ!」

 

「そうだな 馬の速度を上げるか」

 

「ありがとうございます。団長、ファルオンさん」

 

そのあと、王都に帰った俺たちの前に姉さんは現れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

大変遅れて申し訳ないです
コメントが届いたのを見てまたやる気出したので、またじゃんじゃん(不定期)書こうと思います!


 

 

 

 

 

 

ヴァルガス視点

 

ここ最近のあいつの落ち込みようは火を見るよりも明らかだ。

あいつは唯一の家族を失ったのだから、それも当然なのだが、あいつは何かから逃げるように訓練に励んでいる。

朝から晩まで、ずっとだ。今までは俺に勝負なんて仕掛けてこなかった奴が、今では俺に1日50回は勝負を挑んでくる。鬼気迫る表情でだ……。実際、俺に戦姫の影でも重ねているのだろうがな。

 

「ダン……。俺たちはなんもできねぇよな」

 

「……うむ。今のわしたちにできることは、あいつの訓練に付き合ってやることだけじゃ。今回の戦いで失ったものが多すぎる。ヴァンも重傷を負ったしのう」

 

「だよな〜……」

これで完全に手詰まりか……。何かあいつにいい情報があればいいんだが……。

俺はあいつの姉が死んだと思っていない。ぶっちゃけると今もどこかで生きている可能性が高いと踏んでいる。

セレナ=レクシーダが率いていたサーマ騎士団はバラバラに逃げていたのか、王都に集まりつつある。その中でまだもどって来ないのは団長のセレナだけだ。サーマ騎士団の面々を見ていると何か隠しているのが感じられる。これは俺の直感だがな。

 

「それにあいつも捕虜にされるとはな……」

 

「んむ?誰のことじゃ?ヴァルガス」

 

「ああ、あいつだよ。ティグルだ」

ティグルヴルムド=ヴォルン……ブリューヌ王国随一の弓使い……だと思う。俺はあいつ以外に弓を卓越した人間はブリューヌ国内で見たことがない。

 

「なるほどのう……。わしもそれは心配じゃが、あやつなら無事なはずじゃ。悪運だけは、強い男じゃからの」

 

「ああ、カルのためにも生きいてほしいもんだ」

さて、今日もカルの相手をしてやるか……。

今日はラヴァの誕生日だったか、なんか買って帰るか。忘れるとすぐ拗ねるからな〜うちの嫁さん。

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カル視点

 

 

 

 

俺はポッカリ空いた何かを埋めるように鍛錬に取り組んでいた。姉さんが行方不明と聞いた日に一度家に帰ったが、それ以来俺は家に帰っていない。帰ったところで姉さんはいないからだ。

団長は姉さんが死ぬわけないと言っていたが、俺もそう信じている。だけど、心のどこかで信じきれない自分がいる。ジスタートで慰みものになっているのではないか?ムオジネルに売り払われて、奴隷にされているのではないか?あたまのなかで最悪のケースだけが、延々と繰り返されている。

 

 

だから俺は、それを忘れるかのように鍛錬をする。友のティグルでさえ、あの戦場から戻ってきていないのだ。

 

「………フンッ‼︎」

突いて突いて突いて……目の前にジスタートの戦姫がいると仮定し、連続の突きを放つ。だが、俺が勝つ姿がまったく想像できない。それほどまでに戦姫の力は強大で、高い壁なのだ。

だから俺は、それを越えるため、団長に勝負を挑み続ける。何度だって諦めずに大事な人を守れなかった俺への戒めに……。俺は強くなくてはならない。それはブリューヌの六英雄に匹敵するほどの強さを……。ただの憧れではない。俺が手にするのは……絶対的な力だけだ。

 

 

「団長、これを」

 

「カル……こいつはどういうことだ?」

 

「見ての通りです。俺は騎士団をやめます」

俺は鍛錬だけじゃ強くならないと判断し、このアグニ騎士団を辞める決意をした。

 

「それがお前の答えなのか?」

 

「はい……団長……俺は強くなりたいんです。ここにずっといたら、居心地が良すぎて、自分がダメになる気がするんです!だから……お願いします……団長……」

 

「………は!辞めたら、どこに行くつもりなんだ?あてはあるのか?」

 

「……西方砦を守るザクスタンの天敵〝黒騎士〟ロランの下に行こうと思っております」

 

「そうか……。ナヴァール騎士団か……いいだろう!行ってこい!ロランには俺が話をつけておこう!」

 

「……いいんですか?団長」

 

「なーにしけたツラしてんだぁカル?俺は団員のことを本当の家族のように思っている。家族の旅立ちを気持ちよく送り出すのが、俺の役目だ!行ってこい!カル!そんで強くなって帰ってこい!」

 

「ーーー!……はいっ!」

 

「そんじゃあ、アグニ騎士団を出て行くお前に俺たちから贈り物だ!明日の昼!太陽が頂点に達したときに修練場に来い!いいな⁉︎」

 

「!はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

そして、日が真上に達した時に俺はアグニ騎士団の修練場にたどり着いた。そこで俺を待ち受けていたのは………

 

「よお!カル!来たか!」

団長……。

 

「ふむ、ちょっとはいい面構えになったんじゃないか?」

副団長……。

 

「若者は自分の道を進めばよいのじゃ。昔のわしのようにの!

ワッハッハ‼︎」

ダンさん……。

 

「……ふん。覚悟しとけ、カル」

ファルオンさん……。

 

「覚悟しとけよーカル!」

ゴルドバ……。

 

「オラァ!カルゥ!遅いぞ!」

 

「盛大な祭りにしようぜ!カル!」

 

「俺たちを忘れられないようにしてやるぜ!」

 

「お前それは危ない発言だぞ……」

騎士団のみんな……。

 

「団長……これは一体……」

 

「おうよ!辞めるお前に俺たちからの贈り物……それは!アグニ騎士団が誇る精鋭だけの!百人組手だ!」

 

「えぇ⁉︎ちょっ!」

 

「テメェら‼︎問答無用だ!このアホを……袋叩きにしちまえや‼︎」

 

「「「「「おう‼︎」」」」

アグニ騎士団の精鋭は主に騎馬兵として、戦場を駆けているので馬なしでの戦いは慣れていないと思われがちだが、彼らは違う。

幾多の戦場を渡り歩いた精鋭たちは、白兵戦でも無頼の強さを誇る。それが束にかかってくるということは……。

 

「カル!覚悟しろや!」

 

「うっ!」

かなりきつい……というより無理があるのだ!

 

「おいおい!相手は一人じゃねぇぞ!ほらよっ‼︎」

正面から斬りかかってきた兵を跳ね除け、後ろの兵に対応する。

 

「ハァッ!」

俺の自信のある攻撃は突き……一心に研ぎ澄ましてきた俺の突きはそんじゃそこらの槍兵とは次元が違うレベルに達している。だが、この人たちはそれを軽く捌いていく。

 

「まずは俺から相手をしよう」

俺がやっと、周りの兵から距離をとったと思ったら、目の前に現れたファルオンさん。

 

「な⁉︎ファルオンさん⁉︎」

 

「ふん……覚悟しろといったはずだ」

そういうと、ファルオンさんは腰に差していた剣を抜きはなち、残像を残しているのではないかと見間違うほどの速度で俺に肉薄する。

 

「⁉︎⁉︎」

それをかろうじて防いだ俺は次の攻撃に対応するため、周りやファルオンの次の行動を予測する。

ファルオンさんの持ち味は騎乗しているときてはわからないが、その剣速と身体能力の高さだ。いちいち反応していたらきりがないので、予測と感で対応するしかない。

 

「カル‼︎殺すつもりでこい‼︎」

 

「⁉︎わかりましたよ……ッシィ‼︎」

俺はそれを了承し、ファルオンに己の全てを使って、肉薄する。それから、俺とファルオンさんの剣戟が始まる。周りの兵たちも、俺たちを囲い逃げられないようにする。

最初に俺は上からファルオンを斬り降ろす。だが、体を左に半分ずらすことで斬撃を躱し、剣を右手に持ち替え、俺の左腕を狙い、斬りかかってくる。今度は俺がそれを受け止め、そのまま力の方向をずらし、受け流した。それを何度か繰り返し、決着は突然訪れた。

 

「強くなったもんだな!カル!」

 

「これもファルオンさんやみんなのおかげですよ!」

 

「ハ!御託はいい!そろそろ本気だすぞ!」

 

「なら俺だってぇ!」

力を込めて、剣を思いっきり右に薙ぐ。それを受け止めたファルオンさんはもろに受け吹き飛んでいく。

 

「グオォ……。ふん……。〝赤剣〟と呼ばれた俺の実力……見せてやるよ!」

ファルオンさんはすぐさま起き上がると前傾姿勢で真っ直ぐこちらに向かってきた。剣の切っ先を俺に向け、刺突の構えをしている。

 

「……ふーー……。対策はしてある……。考えた通りに!鍛錬通りに!」

俺は背中に背負っている槍を左手に持ち、右手に剣を持った。

 

「フッ‼︎」

俺は右手の剣を突撃してくるファルオンさんに投げつける。さあ!どうくる⁉︎

 

「……ッシ‼︎」

キィン‼︎……刺突の構えを解いて、剣を弾いたか……。予想通りだ‼︎

 

「うおおおおおお‼︎」

俺は投げつけた瞬間に駆け出し、槍の刃の付いていない部分をファルオンさんに向け、それを突き出した。

 

ドスンッ‼︎

 

「ガッ……ハアッ‼︎」

ファルオンさんの走った勢いに俺の突き出した槍がカウンター気味に入り、勢いよく吹っ飛んでいった。

周りからおぉっ!とざわめきが起こり、俺から距離を置く。

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 

 

ヴァンベルク視点

 

 

 

「大丈夫か?ファルオン」

俺はそこで倒れ伏している、我らが騎兵隊長に歩み寄り、状態をきく。だが、ファルオンは目を開き、口を開いた。

 

「チッ……俺もヤキが回った……。一からまた始めるさ」

 

「そうしてくれ、カルの抜けた穴をお前一人で埋めれるようにな」

 

「無茶言ってくれるな……ヴァン。お前は戦わないのか?」

 

「まだ怪我で療養中だ。ちなみにダンさんも出ないぞ。代わりにーーー」

俺の目線の先、そこには我らが軍師ダルバンシェルの孫。

 

「カルゥ‼︎勝負だぁ〜‼︎」

ゴルドバがカルに向かっていって、吹き飛んでいくのが見える。俺はそれを見て自然と笑顔が浮かぶ。

 

「新たな葉が芽吹いてきたな……。まあ、俺もまだまだ、そんな歳ではないがな、はっはっは‼︎」

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

大体、半分を倒したところか……?相手も減っているように見える。副団長が指示をだして、けが人を運んでいるからか。

俺の前にいる集団の向こうに団長が仁王立ちして、こちらを射殺すような目で見ているのが見える。俺が今やるべきことは仲間を倒し、目の前の最強の男を倒さなきゃいけないことだ!

 

「うおおおおおお‼︎」

突いて、薙いで、弾いて、突いて……。腕の感覚がなくなっても槍を振るい続けた。時には蹴りを、拳を相手の体に叩きつける。俺たち騎士団のモットーは手加減はするな‼︎だからな‼︎

 

「カルの勢いが止まらねぇ!」

 

「誰かあいつ止めてこいよ!」

 

「無理だ!近接戦であいつに勝てんのは団長か、副団長くらいだ!」

 

「やーっと俺の出番かぁ!カル!楽しい闘いにしようぜ!」

 

ついに出たな……。

 

「団長‼︎」

ここからが本番だ。絶対……倒す‼︎

そのあと、俺はボコボコにやられ、一日療養として、団長の家に泊まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「狭いけど、ゆっくりしてけや。自分の家だと思ってな!」

 

「はい……」

いや、ゆっくりできねぇよ。団長の家にきて、元・副団長のラヴァさんがいるのは心が持たないわ!

 

「カル、久しぶりね。元気してた?」

 

「あ!はい!ラヴァさんも元気そうでなによりです!」

 

「ふふ、ありがと。じゃあ、ご飯作ってくるから、適当にくつろいでね」

 

「はい!」

 

ラヴァ=ダンデルガ……アグニ騎士団の団長がまだアヴァンさんだったころ、その息子ヴァルガスがアグニ騎士団でナンバー2として王国内で有名になり始めたころだ。そのヴァルガスが突然現れた女に負けたという噂が流れたのだ。それはまぎれもない事実だった。そのヴァルガスに勝ったのが、何を隠そう、ヴァルガスの妻ラヴァ姉さんだったのだ。ラヴァ姉さんは瞬く間に騎士団の中で名を上げ、女の身でありながら、アグニ騎士団のナンバー2の地位に座ったのだ。

アヴァンさんが引退を宣言し、団長を決める大会を開いたのだ。

当然、ラヴァ姉さんも参加した。当時、騎士団の中で出場を予想されたラヴァ姉さんを筆頭にヴァルガス、ヴァンベルク、ダルバンシェル、ファルオン、その他、実力のある騎士達。

当然のごとく、名があがった5人は勝ち上がり、ヴァルガス対ラヴァ、ヴァンベルク対ファルオン、ダルバンシェル対騎士のカードで決まったという。そこで、ヴァルガスはラヴァ姉さんを倒し、そのあとプロポーズをして、ラヴァ姉さんはそのまま騎士団を辞め、ヴァルガスを裏から支えるという新たな役目を得た……俺の知ってる話はここまでだ。詳しい話はまた今度に話そう。

 

「カル、ロランには俺が話をつけといたからよ。この紙をちゃんと番兵にわたせよ」

そういうと団長は俺に封のされた手紙を渡してきた。

 

「これは?」

 

「まあ、俺からロランへの手紙だ。おっと!中身は見んなよ?お前の信用に関わるからな」

 

「それくらいはわかってますよ。何から何まですいません。この恩は必ず返します」

 

「おう、そのうち返してくれや。俺たちは気長に待ってるよ」

団長は大笑いしながら、俺の背中を叩く。

俺は笑いながら、目から涙が浮かんでいるのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロラン、アグニ騎士団団長ヴァルガスから手紙が来てるぞ」

ナヴァール騎士団副団長オリビエ……ロランの副官として、軍団の指揮にあたる人物。ロランから絶大な信頼を得ている。

 

「ん?あいつからか……貸してくれ」

ナヴァール騎士団団長ロラン……〝黒騎士〟という異名を持つブリューヌ最強の騎士。13歳で試練をうけ騎士となり、以外一度も負けたことがなく、国王より宝剣デュランダルを下賜され、17歳という若さで騎士団長になった。

 

「………ほう」

 

「なにが書いてあったんだい?」

 

「ああ、〝うちから一人生きのいいやつをやるからしつけてくれ〟と

一文だけ書かれていた」

ロランはそういうと手紙を机の上に置く。目を閉じなにが考えるように黙り込んだ。

 

「どうした?ロラン?」

オリビエも心配そうにそう聞いて、やっと口を開いた。

 

「あいつが人に頼みごとをするのは稀でな、そういうときは必ず不吉なことが起こるんだ。……まあ杞憂であって欲しいがな」

ロランは腕を組み、やれやれといった表情を見せる。

それを見たオリビエは意外そうにしていた。

 

「ははっ!ロランにも嫌なことがあるのか」

 

「お前は俺をなんだと思ってるんだ?俺にだって一つや二つ嫌なことだってある。それが奴なだけだ」

腕を組みながらだが、オリビエを見るロランの表情にはフッ……と笑みがこぼれていた。

 

「何はともあれ来るのが楽しみなのに変わりはない」

 

「そうだな、あー後、斥候からの情報で国境付近にザクスタンの兵を目撃したようだ。またなにか仕掛けて来るおそれがある」

 

「ネズミどもが、またチーズに齧り付こうとしている……か。昔の先人たちはよく例えたものだな。お前のことだ準備はさせているんだろ?」

 

「ああ、兵士たちには言ってある」

 

「ならそれでいい。奴らが仕掛けるの待つだけだ。来たときは俺が今度こそ来れないよう叩き潰す」

ロランの顔は憤怒の表情に変わり、この時オリビエにはロランがゆらゆらして見えたという。

 

「まずはカルとか言う奴が来るのを待つ。オリビエ兵たちには鍛錬し、よく食べ、充分に休息を取るように伝えろ!俺は自分自身の目で国境付近を見て来る!」

ロランはガバッと立ち上がると、すぐさま部屋を出て言いった。

オリビエはロランが出た方向見つめ、ぼそりと呟く。

 

「やれやれ、これから大変だな……」

その言葉はオリビエしかいない部屋にとけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。