ヨルムンガンド~十人目の私兵~ (アスラ)
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プロローグ

初見の人は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。ユウ改めアスラです。
にじファン→TINAMIと移転し、遂にこちらにやってきました。
これから、よろしくお願いします。


目が覚めると、なにもない白に支配された部屋に俺は横たわっていた。

 

 

「ここは、どこだ?」

 

 

キョロキョロと辺りを見渡すが、あるのは白という単色。

 

 

遠近感が狂いそうだ。

 

 

「やっと目が覚めたか」

 

 

ふと、若い男の声が聞こえた。

 

 

振り向くと、そこには予想通り若い男の姿が。

 

 

「誰なんですか?」

 

 

「俺は神だ?」

 

 

……は?

 

 

思考がフリーズする。

 

 

今、この人はなにを言った?神?実在したのか?

 

 

「実在してるさ。ま、お前らの想像よりは遥かに無能だがな」

 

 

どうやら、心を読めるらしい。

 

 

ここで、よくある二次小説みたく『紙?』とか『黄色い救急車呼びますよ』なんて茶々は入れない。あんなこと、単なる一般人になんかできるはずがない。見ててイライラするし。

 

 

「で、その神様が僕に何の用ですか?」

 

 

「お、否定しないんだな」

 

 

「ここに来る前の最後の記憶が、ベッドに寝転がって寝る直前でしたからね。まぁ、どこぞの組織が秘密裏に俺をこの部屋に移動させた、っていう漫画みたいな展開ならあなたは神様ではないんでしょうけど」

 

 

「ああ、それなら大丈夫だ。俺は正真正銘、神だよ」

 

「でしょうね。そんな現代風な若者の格好をした研究者なんていないでしょうしね」

 

 

「ははッ、ちげぇねえ」

 

 

パーカー姿の神様は笑う。

 

 

「それでもう一度聞きますけど、何の用ですか?」

 

 

「そうだった、本題に入るぞ。……簡単に言えば、お前は生まれる世界を間違えたんだ?」

 

 

「は?」

 

 

「スマン。言葉が足りなかったな。生まれる世界を俺達が間違えてお前を送って、世界の修正力に魂ごと消される前に俺達がお前をここに運び入れたって訳だ」

 

 

「……ちょっと整理させてくれ」

 

 

ってことはあれか?神様達のせいで俺は危うく消滅するところだったと?

 

 

「早い話が、そうだ。だが安心しろ。お前はまだ人生を謳歌できる」

 

 

「どうやってですか?」

 

 

「お前を生まれるはずだった世界に送る」

 

 

おお、それはありがたい。

 

 

「だが、その世界に待ち受ける運命ってのは残酷だ。嫌でも戦いに巻き込まれる」

 

 

「どんな世界なんですか?」

 

 

「ヨルムンガンドっていう漫画によく似た世界だ」

 

 

ああ、あの血と硝煙にまみれた世界ですか。

 

 

「よく似た世界、所謂パラレルワールドだから原作介入しても修正力は働かない。するもしないもお前次第。ま、転生するにあたってお前の能力の封印を解く」

 

 

「封印?」

 

 

「ああ、本来なら備わっているはず才能だ。世界が違うから修正力に抑えつけられていたんだ。おかげで強化されてやがる」

 

 

負荷が掛かった筋肉のようにな、と神様は付け加える。

 

 

「質問、いいですか?」

 

 

「ん、なんだ?答えられる範囲で回答してやる」

 

 

「最初、『お前らの想像より遙かに無能だがな』って言ってましたよね。あれはどういう意味なんですか?」

 

 

「言葉の通りだ。俺らに出来ることなんてあんまないんだよ」

 

 

「神様なのにですか?」

 

 

「一つ訂正しておく。俺が神って名乗ったのはお前らの主観に合わせたからだ。俺からすれば、俺らなんか特殊な能力を持った人間だよ。ま、世界の管理を任されているが」

 

 

カハハ、と彼は笑う。

 

 

「本来なら、管理している世界の人間を別の世界に転生なんて出来ないんだ。そんな力は俺らにはない。せいぜい魂のバランスを整えたり輪廻転生の輪を調整したりするのが限界だ」

 

 

だが、例外もある。と彼は付け加える。

 

 

「原因はなんでもいいが、魂の行き場に問題が起こると世界間での魂の移動が出来る。特例としてな。その処置をするときだけ、俺らの力は高まる。ま、それを私利私欲の為に使うと問答無用で地獄行きだがな」

 

 

「そうなんですか……」

 

 

「っと、転生の準備が出来たぞ」

 

 

「早いですね」

 

 

「話している間にやってたからな。じゃ、いってこい。そこの扉をくぐれば転生できる。記憶は5歳の誕生日に戻してやるから、安心しな」

 

 

「解りました。ありがとうございます」

 

 

俺は、扉をくぐりぬけた。

 

 

あ、どんな才能か神様に聞き忘れた。

 

 

ま、いっか。

 

 




今日は三話まで連投します。


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1 転生 確認 旅行 事件

前回のあらすじ

神様に会った。


転生してから11年が経った。

 

 

記憶が戻ったときにはいろいろと混乱したが、今ではすっかり落ち着いている。

 

 

「徹〜。早く行くわよ〜」

 

 

「待ってよ母さん」

 

 

鶴谷徹つるたに とおる、それが今世での俺の名前。

 

 

結構いい家で、会社をいくつも持っている。

 

 

そんな金持ちの家系に生まれた俺は、現在旅行鞄に荷物を詰め込んでいる。

 

 

父親が長期休暇を取り、それを利用して海外に旅行するのだ。

 

 

「あとはこれを入れてっと、出来た」

 

 

荷物を入れ終え、家族が待つ玄関へと向かう。

 

 

この十一年間、俺は未来で起こりうる戦いに備えて鍛練をしてきた。

 

 

神様が言っていた才能のおかげか、身体能力はぐんぐん上がり、デュラララ!!の平和島静雄みたいな怪力が身についた。骨に関しては、元々骨密度が高かったらしく、折れることは少なかった。

 

 

閑話休題。

 

 

その話は置いておこう。

 

 

俺は、家族と合流した。

 

 

 

 

 

東欧のとある街に来た俺達家族は、早速ホテルにチェックインする。

 

 

家族構成は、両親二人に俺一人の三人家族。

 

問題などまったくなく、充実した生活を過ごしていた。

 

 

「母さん。今からどこに行くんだ?」

 

 

「そうねぇ。ここは施設が充実してるから、自由行動でいいんじゃないかしら」

 

 

「解った」

 

 

今現在、俺達は船に乗っている。

 

 

一ヶ月かけて、ヨーロッパを巡るらしい。

 

 

しかし、まだ俺は知らなかった。

 

 

戦いの運命が、もう近くに迫っていることを。

 

 

 

 

 

 

 

事件は出航して四日目に起こった。

 

 

昼食を終えた昼下がり、船内をぶらぶらしてると、衝撃が船を駆け抜けた。

 

 

直後に上がる悲鳴。同時に聞こえてくる銃声。

 

 

間違いない、この船は襲撃を受けている。

 

 

おそらく、海賊だろう。世界トップクラスであるこの客船には、必然的に金持ちが集まる。

 

 

当然、金目の物もたくさんある。

 

 

略奪が目的なら、安易に人を殺さないはずだ。と結論づける。

 

 

しかし、自らの好奇心によってその考えは打ち砕かれることになる。

 

 

 

 

 

俺は、船の中央の広場が見える位置にやってきた。

 

 

ちょうど吹き抜けになっていて、上の階からでも見渡せる。

 

 

そこから見えたのは、全体の三分の二ほどの乗組員と乗客達、海賊と思われる武装集団。

 

 

ここで動くのは得策ではないと考え、しばらく様子を見る。

 

 

ざっと見たところ、海賊は五十人ほどいる。人質の見張りでこんなにいるのだ。実は、かなりの規模の組織かもしれない。

 

 

リーダーと思わしき人物が、無線で誰かと喋っている。二、三度頷くと、仲間達に合図を送る。

 

 

瞬間、一斉に銃を人質に向け、発砲した。

 

 

人々の断末魔が聞こえる。床には血が流れ、脳髄が辺りに飛び散る。

 

 

さながら、地獄絵図のようだった。

 

 

(なんだよ、あれ……)

 

 

人質を殺すなんて、考えられない。異常だ。

 

 

ふと、最悪のシナリオが頭に浮かぶ。

 

 

人質に殺害命令を与えたということは、乗客を生きて帰すつもりはないということ。

 

 

……このままでは、母さんと父さんが危ない!!

 

 

二人は、客室にいるはずだ。疲れたから休むと言っていた。騒ぎに気づいて隠れているだろうが……。

 

 

頼むから、生きていてくれ!!

 

 

俺は走り出した。

 

 

 

 

 

 

結末は最悪だった。

 

 

急いで客室へと向かい、その扉を開いた。

 

 

「母さん!!父さん!!」

 

 

直後に目に入ったのは、ちょうど撃ち殺される両親の姿。

 

 

それは、あまりにも現実味がなさすぎて/ありすぎて。

 

 

横たわっている死体/人形は、どうしても両親と認識できて。

 

 

世界から色が消えたようだった。

 

 

心は空っぽ。躯はただのタンパク質の塊。

 

 

大きすぎる絶望に、目から光は消え。

 

 

 

思考は、殺人方法で満ちていた。

 

 

 

まず、そばにいた男の首筋に手刀を叩き込む。手は皮膚を突き破り、温かい血が自分を汚す。

 

 

ようやく事態に対応できた海賊も、奪い取ったナイフで切断し殺す。

 

 

部屋は血で染まり、残ったのは殺人鬼と化した俺だけ。

 

 

母さん、父さん、すみません。もう、戻れそうにないです。

 

 

俺は獲物を求め、歩きだした。

 

 

 

 

 

 

海賊達が見たのは、文字通り鬼だった。

 

 

「くそお!!当たれ当たれ当たれーーーッ!!」

 

 

「もっとだ!!もっと仲間呼んでこい!!」

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

人質達を殺し終え、気が緩んでいる最中に現れたナイフを持った血まみれの少年。

 

 

こちらには銃があった。殺すのは簡単だ。そう思っていた。

 

 

しかし、蓋を開ければ圧倒的不利なのは自分達。

 

 

弾丸は全てよけられ、一人、また一人と殺されていく。

 

 

少年の動きは、まるで獣だった。

 

 

縦横無尽にフロアを駆け抜け圧倒的な膂力が繰り出されるのはまさに獣。

 

 

気づけば、海賊はあと一人になっていた。

 

 

「なんなんだ……。お前、一体何者なんだよぉッ!!」

 

 

回答は、ナイフによる刺殺だった。

 

 

 

 

 

 

「結構酷いことになってるわねぇ」

 

 

「こりゃあ、ひでぇ有様だな」

 

 

ココとレームは、船内の様子を見て悪態をついた。

 

 

彼女達は、武器の商談でこの豪華客船にやって来た。

 

 

そこへ、運が悪いことに大規模な海賊の襲撃。

 

 

最初は部屋に閉じこもってやり過ごそうと考えたが、海賊が人質を殺したところで隠れるのを辞め、本部にヘリを要請してさっさとエスケープすることにした。

 

 

船内を移動するため、海賊と鉢合わせになり戦闘になるかと思われた。

 

 

しかし、遭遇するのは死山血河の地獄絵図。

 

 

生存者は、誰ひとりいないかと思われた。

 

 

「今連絡が入った。十分後にヘリが到着する。みんな、デッキに向かうよ」

 

 

ココ達は歩みを進める。

 

 

その時、カチャリ、と音が聞こえた。

 

 

「生存者がいるのか?」

 

 

銃を構え、慎重に歩みを進める。

 

 

廊下の先に、人影が伸びている。

 

 

現れたのは、全身血まみれた少年---徹だった。

 

 

徹が、ココに顔を向ける。

 

 

瞬間、人間離れした速度でココへと肉薄する。

 

 

その手には、血に染まったナイフ。

 

 

「ココ!!離れていて下さい!!」

 

 

すかさずバルメが割り込みナイフで受け止める。

 

 

しかし、力負けしてじりじりと押され始める。

 

 

「くっ!?本当に少年の力か!?」

 

 

「レーム、!!バルメの援護に入れ!!」

 

 

ココがすかさず指示を出し、二人が援護射撃をする。

 

 

徹は驚くべき反射神経で察知し、その場を飛び退く。

 

 

獣のような動きで、壁、床、天井全てを使いバルメ達を翻弄する。

 

 

「くそ!!ホントにガキなのか!?」

 

 

「動きは単調です。無茶苦茶な動きですが、冷静に対処すればいけます」

 

 

「といっても、ここまで動かれたらいくらバルメでもヤバイんじゃないの?」

 

 

「ナメないでください」

 

 

レームの軽口に、バルメが目を鋭くする。

 

 

「こんな素人、すぐに片付けます」

 

 

「があああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

徹がナイフを突きだし突撃する。

 

 

その腕をバルメは掴み取り床に叩きつけ、そのまま関節を極める。

 

 

「これで動けなく……」

 

 

「が、があぁぁ……」

 

 

「ッ!?何だと!?」

 

 

完璧に極めていたはずの関節技が、徐々に緩められていく。

 

 

「そんな!?力ずくで抜け出そうだなんて……」

 

 

「誰かコイツを止めろ!!」

 

 

レームが叫び、銃床で徹の頭を殴りつける。

 

 

「が…あ、あぁ……」

 

 

そこで、ようやく徹は沈黙した。

 

 

「ココ、どうします?この少年。私は即刻殺すべきだと思います」

 

 

「待って、バルメ。その少年は連れて行く」

 

 

「ッ!!何故ですか、危険です!!」

 

 

「見たところ海賊ではなさそうだし……、わたしの勘を信じてくれないかしら。この子、凄腕の兵士になれるわよ」

 

 

「ココがそう言うのなら」

 

 

バルメはナイフを仕舞う。

 

 

「では、撤収!!早くここから逃げ出すわよ!!あ、レームはその子を担いできてね」

 

 

「へいへい、解ったよ」

 

 

ココ達は、ヘリが待っているであろうデッキへと向かう。

 

 

徹を連れて。

 

 

 

 

ここから、徹の物語は始まった。

 

 



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2 入隊

前回のあらすじ

徹はココに拾われた。


目が覚めると、真っ白な天井が見えた。

 

 

「……知らない天井だ」

 

 

思わず、そんなテンプレなセリフを言ってしまう。

 

 

「そりゃ知らないだろうね。ここは日本じゃないから」

 

 

若い女性の声が聞こえる。目線を横に向けると、プラチナブロンドに薄い碧眼の女性---いや、少女がいた。

 

誰なんだろう、思い出せそうで思い出せない。

ここは『ヨルムンガンド』の世界なんだが、現実と二次元は全く違う。初見で原作キャラが解るなんて条件が揃わない限り無理だろう。

 

「あなたは?」

 

 

「ココ・ヘクマティアル。武器商人よ、鶴谷徹くん」

 

……そうだ、どこかで見たことあると思ったら主役である『ココ・ヘクマティアル』か。特徴が一致している。

 

それよりも、気になることが一つ。

 

 

「なんで俺の名前を?」

 

 

「持ち物に書いてあったから」

 

 

くいくいっ、と指差す方向を見るとそこには俺のショルダーバッグが。

 

 

「そうですか……。ところで、なんで俺はこんなところにいるんですか?てっきりもうあなたたちに殺されたんじゃないかと思ってたんですが」

 

 

そう、それが疑問だった。両親を殺され、暴走した俺は、彼女達に牙を剥いた。

 

 

暴走したときの記憶は、おぼろげながら覚えている。

 

 

殺されても、おかしくはなかった。

 

 

「それはね、わたしがキミに興味を持ったからだよ」

 

「興味?」

 

 

「ええ。一般人でありながら持ち合わせている人外な膂力。わたしはキミのそこに惹かれたわ。だから−−−」

 

 

 

わたしに飼われなさい。

 

 

 

彼女はぞっとするような、とても美しい笑みを浮かべた。

 

 

「……帰る場所も失ったし、行く宛てもないから、ココさんに着いていくよ」

 

「よーし!!じゃ、決まりね。キミの名前は今日からトールだ」

 

 

「トールですか。いいですね。これからよろしくお願いします」

 

 

「よろしく」

 

 

俺と彼女は握手を交わした。

 

 

 

 

「ココさんって、日本語が上手いんですね」

 

 

「ま、武器商人をやってるからね。日本人とも取引する訳」

 

 

「そうなんですか」

 

 

 

 

 

 

 

あれからすぐに、彼女の私兵達を紹介された。

 

 

「まずはそこにいる白髪のおっさん。彼の名前はレームよ」

 

 

「よろしくね〜」

 

 

「次に、医療用眼帯を付けているのがバルメ」

 

 

「…………」

 

 

「こらこらバルメ。睨んじゃダメ」

 

 

「ですが、ココ!!」

 

 

「あの話は終わり。今は仲間なんだから、仲良くしなさい」

 

 

「……よろしく」

 

 

「で、この黒人の兄ちゃんがマオ」

 

 

「よろしく」

 

 

「最後に、この隊の最古参であるワイリ」

 

 

「よろしくね」

 

 

「この四人が、わたしの私兵。ココ分隊のメンバー。キミが入れば五人になる」

 

 

「はぁ」

 

 

ここで曖昧な返事が出るのは、日本人だからだろう。うん、きっとそうだ。

 

 

「だけど、今すぐキミを隊員として迎え入れることはできない。理由は、解るよね?」

 

 

「銃すら持ったことがないずぶの素人を入れる訳にはいなかい、でしょう?」

 

「正解」

 

 

楽しそうに、彼女は笑う。

 

 

「そーいう訳で、キミを本部に連れていく。そこで近接格闘はバルメに、銃器の扱いをレームとマオに教えてもらいなさい」

 

 

「ココ!?」

 

 

「これは確定事項よ、バルメ。いいじゃない、弟子ができて」

 

 

「……ココがそう言うのなら」

 

 

しぶしぶながら、バルメは頷いた。

 

 

「トール。キミは英語を喋れるか?」

 

 

「いえ、無理です」

 

 

「なら、英語を教える係はわたしね。日本語も喋れるし」

 

 

ニコニコと笑う彼女。

 

 

思わず見とれてしまう。

 

 

改めて見ると、とても綺麗だ。顔立ちは整っているし、まつげも長い。

 

 

でも、『綺麗』という言葉よりも先に浮かぶ言葉は−−−。

 

 

「可愛いですね、ココさんって」

 

 

「へ!?可愛い!?」

 

 

「? どうかしましたか?」

 

 

「ううん、なんでもないの」

 

 

あたふたするココさん。いったいどうしたんだろう?

 

 

彼女の後ろでは、バルメさんが射殺すように睨んでくるし、レームさんとマオさんはニヤニヤと笑っている。

 

 

まあ、いいか。気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

とても面白い子。

 

 

それが、わたしの彼に対する第一印象。

 

 

自分と数歳しか違わない年下なのに持っている人外な膂力。

 

 

バルメが苦戦していたのだ。鍛えれば、かなりの実力者になるだろう。

 

 

話していてもこちらを不快にさせないし、パニックになることもない。なにより、礼儀正しい。

 

 

これはいい拾い物をした、と内心ほくそ笑んでいると。

 

 

「可愛いですね、ココさんって」

 

 

「へ!?可愛い!?」

 

 

いきなり飛んできた、聞き慣れない言葉。『可愛い』

 

 

これに何故かわたしは過敏に反応してしまう。

 

 

わたしの父は海運の巨人と言われるほどの人物。必然的にお偉いさんとも会う。

 

 

彼らには、皆一様に『綺麗』『美しい』と言った。

 

 

自分でもそう思っている。そうなるように努力している。

 

 

しかし、『可愛い』。

 

 

こんなことを言われたのは初めてだ。

 

 

「ま、また後でね!!レーム、バルメ、ワイリ、マオ!!行くわよ!!」

 

 

逃げ出すように、部屋から出る。

 

 

「おやぁ、ココちゃんにもようやく春が来たかな?」

 

 

「う、うるさい!!」

 

 

レームの言葉に過剰に反応してしまう。

 

 

うぅ、絶対に顔真っ赤だ。

 

 

結局、赤くなった顔は部屋に戻るまで元に戻らなかった。

 

 

 

 

 

 

傷は深くなかったのか、ココさんに会った翌日には退院できた。

 

 

しかし、退院した瞬間に車に連れ込まれ、トレーニングをするであろう場所に放り込まれるのはやめてほしかった。びっくりするから。

 

 

だけど、今現在それより重大な問題がある。

 

 

目の前にいる、医療用眼帯をしている女性---たしか、バルメさんだ---が射殺さんばかりの睨みをしてくるのだ。

 

 

自分、何も気に障ることをやった覚えがないのだが。

 

 

「あの~、俺、バルメさんに何か気に障るようなことやりましたっけ?」

 

 

「…………」キッ!!

 

 

まずい、さらに目つきが鋭くなった。

 

 

何か打開策を思いつかねば。

 

 

…………いかん、何も思いつかん。

 

 

「これから、お前に近接格闘について教えてやる」

 

 

こちらが思考の海に浸かっていると、バルメさんが喋りだした。

 

 

「まずは、わたしに一発入れてみろ」

 

 

「へ?」

 

 

「だから、一発入れてみろと言ったのだ」

 

「いやいやいや、無理ですって!!この前までただの一般人だった俺が、戦闘のプロであるバルメさんに一発入れるなんて無理ですよ!!」

 

 

「来ないのなら、こちらから行く」

 

 

「えっ、ちょ、待ってくださいって、俺死んじゃ−−−」

 

 

数秒後、施設全体に少年の叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、これから銃器の扱いについて教えるよ」

 

 

数時間後、地獄から解放された俺はレームさんと共に射撃場にいた。

 

 

「はい、お願いします」

 

 

「お、礼儀正しいね。そういう子は好きだよ」

 

 

ニコニコと笑う彼も、きっと凄腕の傭兵なのだろう。

 

 

「幸い、ここは武器を扱う会社だからね。種類は豊富だ」

 

 

壁にあるのは、全て銃。拳銃からライフルまで多岐に渡っている。

 

 

「俺のオススメとしてはグロックとかなんだけど、トールはかなり力持ちだからね。これなんかどうだい?」

 

 

渡されたのは、ずっしり重い大型拳銃。

 

 

「これを両手で持って、しっかりと構えてごらん。脇は締めて、足の位置はこうで……」

 

 

レームさんの構えをまねて、ぎこちなくも構えを取る。

 

 

そして、的に狙いを定めて撃つ。

 

 

甲高い破裂音と共に、衝撃が腕を突き抜ける。

 

 

それを我慢して、的の方を見る。穴は空いていなかった。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「はい、まだまだ余裕です」

 

 

「最初はみんな当たらないさ。じゃあ、次は片手で撃ってくれるか?」

 

 

「解りました」

 

 

右手に持ち替え、撃つ。

 

 

片手になった分、衝撃がより強く突き抜けるが、まだ腕が痺れるほどではなかった。

 

 

「レームさん。拳銃って凄いんですね。衝撃がハンパないです」

 

 

「そうだな。素人が撃つと体勢が大きく崩れる。それよりトール。腕は大丈夫か?」

 

 

「はい、かなりの衝撃が来ましたが、腕は痺れてません」

 

 

「……やっぱ、君の力は凄いね?」

 

 

「? 今更なにを言ってるんですか?」

 

 

「種明かしするとね、そいつの名前は『デザートイーグル』って言って、拳銃の威力としては世界最強なんだよ。もちろん衝撃はハンパなく、大の大人でも両手で持たないと撃てないくらいだ。片手で撃てる人はかなり少ないだろうね」

 

 

うわぁ、そんな銃を片手で撃てる俺って一体……。

 

 

「まぁ、成長期だからもっと筋肉が付くだろうね。将来が楽しみだ」

 

 

くっくっく、と笑うレームさんが、何故か今は腹立たしい。

 

 

とりあえず、脛を一発蹴ってやった。

 

 

結果、何が起こったかは言わずもがな。

 

 

 

 

 

 

 

「今日からキミの英語を担当するココ・ヘクマティアルだ。授業にはしっかりついて来るように。解った!?」

 

 

夕食(日本料理が何故かあった)を食べ終えた後、指定された部屋に入った俺を待っていたのはスーツ姿に眼鏡を掛けたココさんだった。

 

 

「何やってるんですか、ココさん」

 

 

「何って、教師だけど?」

 

 

「質問を変えます。何故そのような格好を?」

 

 

「この前読んだ日本の漫画に、こんな姿の教師がいたから」

 

 

「さいですか」

 

 

海運の巨人の娘にまで影響を与える日本の漫画、恐るべし。

 

 

「では、英単語から教えよう。これから書くのを一つにつき百回書いて覚えなさい。書き終えた後にテストをやって、間違えたらそれを百回書き。また最初からやり直し。さ、始めなさい」

 

 

「ちょっと!?何そのスパルタ!?」

 

 

「黙ってやりなさーい。それがキミのためだからね」

 

 

「くそおぉぉぉぉッ!!」

 

 

結局、その部屋の電気は日付を越しても消えなかった。

 

 



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3 初仕事

前回のあらすじ

ココ達にむっちゃしごかれた。


俺がココ分隊に入隊してから三年。

 

 

地獄のような特訓と英語講座により、かなりの実力を付け英語もペラペラになった。

 

 

近接格闘に関しては、バルメさんと良い勝負をするようになった。

 

 

膂力に関してはこちらが圧倒しているのだが、彼女は戦い方が巧い。

 

 

巧くいなされ、かわされている。

 

 

そうそう、変わったことと言えば、俺の主力武器が凄いことになりましたよ。

 

 

ナイフとかはまだいいんですが、銃器はデザートイーグル二丁(もちろん、同時に使っている)、対物ライフルであるM82A1にフルオート連射機能を付けてマシンガンのように扱っています。

 

 

まぁ、みんなにはドン引きされましたよ。当然だよな。どこの世の中に対物ライフルをマシンガンみたいに撃つヤツがいるんだよ。

 

 

あ、いました。俺でした。

 

 

まぁ、おふざけはここまでにして。

 

 

人も殺した。避けては通れない道だとしても、やっぱり最初は慣れなかった。

 

 

初めて人を殺したのはココさんに引き取られてから一年経ったころ。

 

 

彼女に連れられてやって来た場所は死刑場。

 

 

ちょうど、目隠しをされた死刑囚がいた。

 

 

『トールが殺すのよ』

 

 

最初は意味が解らなかった。

 

 

殺す?俺が人を?出来るのか?

 

俺がココさんに拾われたあの日、俺は海賊を皆殺しにした。暴走してたとはいえ、おぼろげながらそのことは覚えている。しかし、その記憶は映画のシアターを通して見たように現実味がなく、どこか他人事のように感じていた。だから、罪の意識には苛まれなかった。それに、あれは〝殺人〟ではなく〝殺戮〟だろう。

 

しかし、今回は違う。自らの意思で、意図的に殺す。

 

思考がぐるぐる回り、現実から逃避したくなる。

 

だが、彼女の私兵としてやっていくには避けては通れない道だ。

 

覚悟を決め、俺は引き金を引いた。

 

 

パァン、という破裂音が響き、びちゃびちゃと死刑囚の脳漿があたりに撒き散らされる。

 

 

その後、俺はとにかく吐いた。吐いて吐いて吐きまくった。

 

 

その時、ココさんが傍にいてくれたのは助かった。安心できた。

 

 

こうして殺人を初体験したが、一度では慣れることはない。その後も定期的に人を殺した。

 

 

そして俺が入隊してから三年後、14歳の誕生日を迎えた日。それはやって来た。

 

 

「トール。遂に来たわよ。キミの初仕事が」

 

 

あれからさらに美しくなった少女。ココ・ヘクマティアルは俺にそう言った。

 

 

「その内容は、わたし達が今来ているこの街の港で足止めくらっている兵器の納入。ぶっちゃけ辿り着いたらこっちの勝ちね」

 

 

「はぁ」

 

 

なんともおおざっぱな。

 

 

「トージョ。詳しい説明を」

 

 

「変わらんよ。相変わらず港に足止めくらったまま。連絡取ろうにも相手方一切無視。完全に通す気ないな」

 

 

トージョ。この三年で新しく入ってきた隊員。びっくりなことに俺と同じ日本人。

 

 

「じゃあ行くわよ。レーム、マオ。戦闘準備、準備!」

 

 

 

 

 

 

「緊張してる?トール」

 

 

高速に入ってすぐに、彼女は俺に質問を投げかけた。

 

 

「そうだなぁ。初めての実戦だし、緊張しないほうが無理だよ」

 

 

敬語は使っていない。使うなと言われたし、実際タメ口のほうが楽だ。

 

 

「えー。戦場のど真ん中に連れてったこともあるじゃない」

 

 

「あの時は丸腰だったから逃げるのに必死だったからね。人は殺したけど」

 

 

「凄かったわね。アレは。トールが敵兵の顔を全力で殴ったら胴体とおさらばしちゃって」

 

 

「自分でもびっくりしたよ」

 

 

そんな軽口を叩いていると、後方から不審な車が三台現れる。

 

 

そのうち一台は、後方にいるレーム達の車の後ろに付く。

 

 

あの二人ならば、大丈夫だろう。

 

 

それよりも、今はこちらに集中しないとな。

 

 

「ねえココ。敵が現れたようだから、やっちゃってもいいよな」

 

 

「ええ、派手にぶっ放しなさい!!」

 

 

俺は車から身を乗り出し、連射機能付き対物ライフル−−−鋼鉄殺しの引き金を引く。

 

 

一台目、運転手ごと蜂の巣にして撃破。

 

 

二台目もエンジンに穴を空け、爆発。

 

 

「あっけないな。たぶん、今のは斥候だろう」

 

 

「本命はこれからね」

 

 

俺は警戒を続けた。

 

 

 

 

 

 

「ヒュゥ〜。やるね」

 

 

「まぁ、彼の実力なら当たり前でしょうね」

 

 

レームとマオは、前方の蹂躙を見てそんな感想を漏らす。

 

 

「最初こそ素人で危なっかしかったけど、今じゃ立派な傭兵だ」

 

 

「というか、相変わらずの力ですね。対物ライフルをフルオートで連射するって……。彼以外できませんよ」

 

 

会話をしながらも、彼らは敵と交戦する。

 

 

「そうだねぇ。でも、あの格好はどうにかならないのか?」

 

 

「そうですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばワイリ。何故トールは学ランなんだ?」

 

トージョはワイリに質問を投げかける。

 

 

「学ランって、……ああ。彼の着ている制服のことか」

 

 

「そうです。あれは日本の学生服。あれを私服にしているのはおかしい」

 

 

「まぁ、トージョの指摘はもっともだよ。そうだね、あれは彼がここに入隊した直後のことだったな。彼に英語を教える係はココ本人がやってな、ある日彼に学ランを渡してこう言ったんだ。『キミとわたしの今の関係は教師と生徒だ。トールは生徒なんだから、これを着なさい』って。ああ見えても防弾仕様でね、彼も気に入って着続けてるんだ」

 

 

「はぁ、そうなんですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらレーム達は敵を倒したようだね」

 

 

「そのようだな」

 

 

「さっきのが斥候だとすると、次は何が来るかな?」

 

「装甲車あたりじゃないか?」

 

 

「そうだね。でも、トールの鋼鉄殺しの前では無意味だ」

 

 

「違いない」

 

 

お互い軽口を叩きながら敵に備える。

 

 

しかし、いつまで経っても装甲車が来る気配がない。

 

 

「おかしいわね。やつら、何も仕掛けてこない」

 

 

「確かにな」

 

 

ふと、上を見上げてみる。

 

 

そこには、考えたくもない可能性があった。

 

 

「なあ、ココ」

 

 

「言わないで。音で解るけど理解したくない」

 

 

「いや、現実から目を逸らしてはいけないと思うぞ」

 

「そうだけどねぇ。いくら装甲車がダメだからといって−−−」

 

 

 

「ガンシップを持ってくるっていったいどーいうことなのよーーーッ!!」

 

 

 

「来るぞ!!」

 

 

機関銃を撃ってくるガンシップ。

 

 

ココは巧みなハンドル捌きで避ける。

 

 

「くうぅぅぅ!!トール!!何とかしなさいよ!!」

 

「何とかしろって言われてもなぁ!!ってうお!?ミサイル撃ってきやがった!!」

 

 

何とか鋼鉄殺しで撃ち落とす。

 

 

「ココ!!こっちもミサイルの類はないのか!?」

 

 

「ないわよ!!」

 

 

「ちッ!!どうにかできないもんかよ……」

 

 

鋼鉄殺しも距離を取られれば威力は落ちる。

 

 

何か使えるものはないかとあたりを見回す。

 

 

ふと、ある物が目に映る。

 

 

「ココ!!俺を信じて真っ直ぐ走ってくれ!!」

 

 

「信じるわよ!!当たり前じゃない!!」

 

 

「ありがとよ!!愛してるぜ!!」

 

 

「えっ!?今なんて……」

 

 

なんか凄いことを口走った気がするが気にしない。

 

 

俺は、ある物に向かって鋼鉄殺しを撃つ。

 

 

高速道路の看板の留め金に向かって。

 

 

留め金が破壊され、看板が落下する。

 

 

ちょうど真下にいた俺は看板をキャッチし、ガンシップに向かって投げつける。

 

 

「うおらあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

直進していたガンシップは避けきれず激突し、墜落する。

 

 

「うおっしゃ!!やったぜココ!!……ココ?」

 

 

呼び掛けても反応がない。

 

 

運転席を見る。ココは変わらず運転している。

 

 

しかし、前屈まえかがみになってだ。

 

 

「どうかしたか?」

 

 

「な、なんでもない!!」

 

 

 

 

 

 

 

トールが戦闘中に口走った言葉を思い出す。

 

 

『ありがとよ!!愛してるぜ!!』

 

 

あれって、愛の告白よね?それってつまり、彼がわたしのことを……。

 

 

いやいやいや!!もっとよく考えろわたし!!

 

 

トールは無意識に女の子に対してとんでもないことを言う。

 

 

『可愛いね』『笑顔がいいよ』

 

 

どれも相手に自分を意識させるような言葉だ。

 

 

しかも、時折見せる子どものような笑顔は反則だ。

 

 

言葉と笑顔。

 

 

その二つで落とした女の子は数知れない。

 

 

取引先のご令嬢や女まで落としてしまうからたちが悪い。

 

 

しかし、そんな女どもに靡なびかず彼はずっとわたしと共にいてくれる。

 

 

やっぱり、彼はわたしのことが……。

 

 

いやいやいや、もっと考えろわたし!!

 

 

あの時の彼は戦闘中でハイテンションだったし、映画とかでよく見る仲間内での親愛の情を表す『愛してる』かもしれないし……。

 

 

 

 

結局、港につくまで思考の堂々巡りをしてしまい、バルメに相談することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて夜。

 

 

初仕事を終えた俺はキッチンで卵料理を作っていた。

 

 

「ココはな、新しく入隊した隊員には必ず卵料理ばかりを作らせているんだ。その意味、よく考えるこったな」

 

 

食材をつまみながらレームがそんなことを言う。

 

 

まぁ、考えておくか。

 

 

それより早く料理を作らねば、

 

 

「「「「「ハーラーヘーリーハーラーヘーリー」」」」」

 

 

後ろの集団が怖い。目に影ができている。

 

 

「これがわたしの隊の入隊儀式だ」

 

 

ようやくできた卵料理を配膳すると、ココが喋りだす。

 

 

恒例のアレだろう。

 

 

俺は入隊したといっても、『仮』が付いていた。

 

 

今回、仕事を成功させるまでに実力をつけた俺は、その『仮』がようやく取れたのだ。

 

 

感無量だ。これしか言い表せない。

 

 

「キミは今日、軍・国家・組織・家族を一新した卵君だ。ようやく入隊できた頼もしい仲間、トール。歓迎するよ」

 

 

その日、俺は本当の意味で彼女たちの仲間になった。

 

 

料理の感想だが……結構旨かったらしい。

 

 

美味しいと言ってくれた彼女の笑顔が、俺にはとても印象的で可愛く見えた。

 

 




今日の連投はこれで終わりです。

次回から、あとがきもちゃんと書きます。


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4 新しい仲間と日常

前回のあらすじ

ヘクマティアル分隊に本当の意味で入隊した。


俺が真の意味で入隊してから三年。

 

 

また新しい仲間が増えた。

 

 

ウゴ、という名前の白人の大男だ。

 

 

彼はとあるイタリアンマフィアの運転手をやっていたが、所属するグループがココとの取引に代金代わりとして麻薬を提示して交渉が決裂。皆殺しにしたが麻薬を出した時に唯一嫌そうな顔をしたことが彼女の目に留まり、彼だけ助命され、以後ココに気に入られて運転手としてスカウトされた。

 

 

「今日からわたしの隊の運転手を務めるウゴだ」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

礼儀正しいな。俺の第一印象は上々だ。

 

 

「皆も知っての通り、彼はこの前のイタリアンマフィアの運転手を務めていた男だ。体格もいいし、血にだって慣れている。みんな、仲良くしてやってくれ」

 

 

「力仕事なら任して下さい。腕力には自信があります」

 

 

胸を張るウゴ。ふーん、腕力には自信がある、ねぇ……。

 

 

「よし、じゃあ新入りが入ってきたから恒例のアレをやりましょう」

 

 

「アレか」

 

 

「アレですか」

 

 

「アレね」

 

 

「アレですか」

 

 

「アレだな」

 

 

? と頭に疑問詞を浮かべるウゴ。

 

 

そんな彼を気にせず、ココは机を中央に持っていく。

 

 

「わたしの隊では、新入りに必ずトールと腕相撲をさせるのだ。その勝ち負けをわたし達が予想して賭けをやる。賭けに勝った方が掛け金を総取り。負ければ没収。簡単でしょ?」

 

 

「トールっていうと、このガキですか?」

 

 

「ガキ言うな。お前の先輩だぞ」

 

 

明らかにナメてやがる。そんなに自信があるのか。

 

 

「じゃあ、私はトールに500ドル」

 

 

「俺もトール1000ドルだ」

 

 

「俺も600」

 

 

「トールに700」

 

 

「トールに2000だ」

 

 

「OK。バルメは500、レームは1000、マオは600、ワイリは700、トージョが2000だな。じゃあ、わたしは10万ドル。もちろんトールにな」

 

 

ニヤリ、と笑うココ。

 

 

「しかし、これでは賭けにならないな。では、こうしよう。ウゴ、キミがトールに勝ったら掛け金は全てキミの物だ。頑張りたまえ」

 

 

「ココさん。いいんですか?俺、勝っちまいますよ?」

 

 

「安心しろ。トールが負けるなんて天地がひっくり返ってもない」

 

 

その言葉に火を付けられたのか、ウゴの表情が真剣そのものになる。

 

 

ココぉ。余計なこと言うなよ。勝つけど。

 

 

「それじゃ、見合って見合ってー」

 

 

互いに手を握り、腕相撲の体勢になる。

 

 

ってうお、結構力あるな。その見た目は伊達じゃないってことか。

 

 

「……GO!!」

 

 

ウゴの力が、圧力となって俺の腕に襲いかかる。

 

 

しかし、俺は顔色一つ変えない。対して、ウゴは顔を顰しかめている。

 

俺の腕は、びくともしない。

 

 

もはや、デュラララ!!の平和島静雄以上の腕っ節を持つ俺に、腕力勝負で勝てる人間はいないと自負している。

 

 

「じゃ、決めるよ」

 

 

一気に力を篭め、ウゴの腕を押す。

 

 

「うっ、ぐおぉぉ……」

 

 

必死に抵抗しようとするウゴだが、無慈悲にも拳がテーブルにつく。

 

 

「勝者!!トール!!」

 

 

ココの威勢がいい声が飛ぶ。

 

 

「勝負は俺の勝ちだ。だけど、あんたは今までで一番腕っ節が強い相手だったよ」

 

 

「そうか……。聞かせてくれないか?ベンチプレスは何キロなんだ?」

 

 

「んー。計ったことがないからなぁ。解んないや。でも、軽自動車までなら放り投げられるよ」

 

 

「……規格外だな」

 

 

「よく言われる」

 

 

俺達は笑った。

 

 

これが、ウゴとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーム〜。暇だよ〜。なんか面白いことない〜?」

 

 

「ゲームがあるだろ?」

 

 

「全クリしちまったからつまんない〜」

 

 

「はぁ〜。めんどくさいな……」

 

 

とある街のホテル。

 

 

商談を終えたココ達は休息を取っていた。

 

 

「というか、なんで俺なんだ?他にもいるだろ」

 

 

「最初に見つけたから」

 

 

「なら、運がないな。俺は」

 

 

はぁ〜、と溜息をつくレーム。

 

 

トールに絡まれたからではない。

 

 

彼は気づいてないが、廊下の角からココがこちらを見ているのだ。目に影を作って。

 

 

(どう見ても嫉妬してるな、俺に)

 

 

ココの手が動く。

 

 

『こっちにトールを寄越しなさい』

 

 

『了解』

 

 

(愛されてるねぇ。トール)

 

 

新入りのウゴ以外、彼女のトールに対する気持ちに気づいている。

 

 

バルメなんて、ココに相談された時凄い取り乱していた。

 

 

『ココがあの力馬鹿にぃぃぃぃぃッ!!』

 

 

すぐに落ち着きを取り戻したが、あれは酷かった。

 

 

しかし、彼は公私をきっちり分けるタイプだ。それに、雇い主であり恩人でもある彼女に恋愛感情を抱いてはいけない、とも思っている。

 

 

バカだねぇ、とレームは思う。

 

 

そんなの、誰ひとり気にしていないってのに。

 

 

彼に自覚はないのだろうが、トールはココにできた初めての歳が近い異性の友人なのだ。

 

 

それに、あの無自覚な女たらし。意識しないほうが難しいだろう。

 

 

(さっさとくっつけよ。トール、ココ)

 

 

レームは、トールをココのほうに追いやりながらエールを送った。

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっふふん、ふふーん♪」

 

 

わたしは上機嫌だった。何故なら、自分の意中の相手であるトールを捕まえれたからだ。

 

 

「ちょ、ココ!!どこ行くんだ?」

 

 

困ったようにトールが叫ぶ。

 

 

「どこって、街に行くのよ。さあ、キビキビ歩けー!!」

 

 

ふふふ、今日は逃がさないわよ。

 

 

遊び倒してやるんだから!!

 

 

 

 

 

 

 

上機嫌なココに連れられて、俺達は街に来た。

 

 

ここは東欧の片田舎。

 

 

海が綺麗で、海産物で有名な街。

 

 

おそらく、食べ歩きをしながら店を回るのだろう。

 

 

そんな俺の予想通り、店で食べ物を買った後、露店を回った。

 

 

「わぁー。これかわいー♪」

 

 

キラキラと目を輝かせ、子どものようにはしゃぐココ。

 

 

……やばい、超可愛い。抱きしめたくなるほど可愛い。

 

 

自分自身の気持ちには、気づいている。

 

 

俺は、ココに恋をしてるんだ。

 

 

しかし、この気持ちを伝えるわけにはいかない。

 

 

彼女は武器商人だ。余計な感情は判断に揺らぎを与えるし、彼女は雇い主であり恩人だ。

 

 

押し止めておくしかないだろう。

 

 

だけど、まぁ、プレゼントくらいならいいだろう。喜ぶだろうし。

 

 

「これが欲しいのか?」

 

 

「へ?」

 

 

彼女が見ていたのは、イルカをモチーフにしたであろうネックレス。

 

 

「払える値段だしな」

 

 

「で、でも高いよ?」

 

 

「たった20ユーロ(2100円相当)だろ?それくらい払わせろ。おっちゃん、これ買うよ」

 

 

「まいどー。兄ちゃん、彼女にプレゼントか?」

 

 

「か、彼女!?いや、わたしとト「いえ、彼女とはそんな関係ではありませんよ」……そうですよ」

 

 

あれ?ココが元気なくした。

 

 

だけど、誤解は解いておかないとな。

 

 

彼女とそんな関係になるなんて、一生ないんだろうからな。

 

 

「ほら、ココ。上を向いて」

 

 

俺は彼女の首に腕を通し、買ったばかりのネックレスを着ける。

 

 

「あ……」

 

 

「似合ってるぞ。ココ」

 

 

「えへへ」

 

 

顔を赤らめ、嬉しそうにココは笑う。

 

 

「じゃあ帰るぞ。もう遅いしな」

 

 

「ええ、そうね」

 

 

もう日が沈み、夜になっている。

 

 

これ以上外にいるのは、彼女の職種上危険だろう。

 

 

「ねえ」

 

 

「ん?」

 

 

「手、繋いでもいい?」

 

 

「いいぞ、そんくらい」

 

 

互いに手を取り、ホテルへと向かう。

 

 

顔が赤くなっていたのは、俺だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

ホテルに着き、バルメに会った瞬間、彼女は叫び声を上げた。

 

 

何故だ?

 

 

 

 




新しい仲間、来る!!←リボーン風にやってみました。
特にネタがありません。強いて言えば、ISの二次小説を書こうと思ってるくらいです。

次回も、よろしくお願いします。

更新、頑張ります。


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5 アンダーグラウンド

前回のあらすじ

新しい仲間がやって来た


「え?今何て言ったんだ?」

 

 

「だから、トールがそれに出場するのよ」

 

 

移動中の車の中で、彼女はとんでもないことを言った。

 

 

「アンダーグラウンド……ニューヨーク地下で行われている肉弾戦オンリールール無用の闇試合。そこの元締めとの商談だって聞いたんだけどな。なんでそれに俺が出場するんだ?」

 

 

「それがね~。その元締めがトールの噂を聞いて、ぜひ出場して欲しいって言ってきたのよ。賞金をくれるから損はないと思ってね」

 

 

「はぁ~。そーいうのは先に言ってくれよ」

 

 

「なーに?嫌なの?」

 

 

「いや、全然。ココの頼みなら何だって聞くさ」

 

 

「ホント!ありがと~」

 

 

抱きついてくるココ。ちょ、近いし当たってるし、バルメが殺気放ってくるし!!

 

 

「それより、その噂ってのはどんなのなんだ?」

 

 

「んー。確か『車を放り投げて敵を潰した』とか『標識を引っこ抜いて千人斬りをした』とか『たった一人でビルを倒壊させた』とかだね」

 

 

「なんですかそれ。まるっきり誇張されてるじゃないですか」

 

 

ハハハとウゴが笑う。

 

 

「とにかく、キミなら絶対に勝てるだろう。信じてるよ、トール」

 

 

フフフ、と笑う彼女は、いつにもまして可愛く見えた。

 

 

 

 

 

 

所変わってアンダーグラウンド。

 

 

「いやはや、いい買い物が出来ましたよ。ミス・ヘクマティアル」

 

 

「いえ、これからもよろしくお願いします。ヘルガー氏」

 

 

商談を終えたココは上機嫌になっていた。

 

 

その対面に座っている白髪の老人男性の名前はジェイソン・ヘルガー。日系アメリカ人だ。

 

 

彼が、ここ『アンダーグラウンド』を作った本人。

 

 

なんでも、日本のとある歓楽街にあるドラゴンなんちゃらを見てかなり興奮したらしく、自分でも作ろうと思ったらしい。

 

 

「ここの熱気は凄いですねぇ。こっちまで当てられそうですよ」

 

 

「ははは。ここはカジノの役割もこなしてますからね。応援に熱が入るのも無理からぬことでしょう」

 

 

快活に笑う二人。

 

 

「それに、ここは人生の崖っぷちに立たされた人間にとっての最後のチャンス。生きるか死ぬかの二択。まさに蜘蛛の糸です」

 

 

ココは笑っていた。しかし、内心ではこの老人に辟易していた。

 

 

この老人の目は、腐りに腐りきったヘドロのような目。おそらく、このアンダーグラウンドに出場している人間全員をゴミとしてしか認識していないだろう。

 

 

それに、ヘルダー氏はココを完全にナメきっている。

 

 

(気に入らないわね。この糞じじい。それに、勝算はあるって顔してるし)

 

 

誇張されているとしても、トールの実力は本物だ。そこらのチンピラや、ましてプロでも余裕で勝てるだろう。

 

 

本物の戦場を知らない連中に、負ける道理などないのだ。

 

 

(つっても、バルメみたいな猛者が現れたら解んないけど。大丈夫だよね、最近互角になってきたって言ってたし)

 

 

出場選手覧を見るが、名のある人物は載っていない。

 

 

この勝負、楽勝だろう。

 

 

『ここで新しい選手の登場だ!!なんと未成年!ガタイは何故か着ている学生服で解らないが、一見なんてことない優男。実力は未知数!!ジャパンからやってきた無名の新人、トール選手の入場だーーーッ!!』

 

 

割れんばかりの歓声と共に現れるトール。

 

 

「現れましたな。あなたの隊の腕自慢が」

 

 

「腕だけじゃないですよー。カッコイイし優しいし、優良物件です」

 

 

「ほお。では私の孫娘なんていかがですか?」

 

 

「まさか。冗談ですよ。彼は渡しません」

 

 

ピッピッピ、とココは端末を操作する。

 

 

「では、わたしはトールに100万ドルを賭けます」

 

 

「ほお、いきなり最高額をベッティングですか。そんなに自信がおありで?」

 

 

「当たり前じゃないですか。彼は我が隊一の近接格闘術を持っているのですから。---ほら、もう決着が付いた」

 

 

中央のリングでは、踞っている対戦相手の大男を見下ろしているトールがいた。

 

 

 

 

 

 

---五分前。

 

 

 

「ったく、まさかこんな所がニューヨークの地下にあったとはな」

 

 

控え室で待機していた俺は、そんな愚痴をこぼしていた。

 

 

「まるっきりアレじゃねえか。ほら、アレだ……なんちゃらヒートだ。くそっ、思い出せねぇな」

 

 

まぁ、関係ないか。と自己完結をして立ち上がる。

 

 

もうすぐ俺の出番だ。準備はしておかないと。

 

 

『ここで新しい選手の登場だ!!なんと未成年!ガタイは何故か着ている学生服で解らないが、一見なんてことない優男。実力は未知数!!ジャパンからやってきた無名の新人、トール選手の入場だーーーッ!!』

 

 

実況の声が聞こえたので、リングへと向かう。

 

 

「へへっ、お前が新入りのトールか」

 

 

相手は、ガタイのいい大男。

 

 

「俺は最近連勝してるからな。それも、全員骨を折ってな!!」

 

 

何か叫んでいるが、関係ない。

 

 

リング上にある電光掲示板に賭け金の倍率が表示される。俺は60倍。相手は3,14倍。どうやら、ナメられているようだ。

 

 

『それでは~、試合開始!!』

 

 

ゴングが鳴り、バカ正直に腕を振りかぶって突撃してくる大男。

 

 

なんだ、ずぶの素人じゃねぇか。今までの相手はガタイの大きさに萎縮してたんだな、多分。

 

 

「うおらあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

雄叫びを上げて振り下ろされる拳。

 

 

何の反応もせず、そのまま吸い込まれるように拳は俺の顔面に入った。

 

 

「ぐっ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

しかし、悲鳴を上げたのは大男のほうだった。

 

 

彼は、パンパンに腫れた自らの拳を押さえる。

 

 

「あーあ、拳がイカレタか。残念だったな、白人」

 

 

そのまま腹に一発。それだけで大男は倒れた。

 

 

『……しょ、勝者はトール選手だ~!!なんという大穴!!なんというパンチ力!!36連勝中だったレッサー選手を一発で叩きのめした!!これはダークホースの登場だ~!!』

 

 

割れんばかりの歓声……もとい、罵詈雑言の嵐。

 

 

大男に賭けたやつらだろう。

 

 

「それにしても、暑いな」

 

 

観客の熱気がそうさせているのか、この会場は気温が高い。

 

 

ココ達は商談の為、VIPルームにいると言っていたから大丈夫だろう。

 

 

しかし、俺は我慢できん。

 

 

学ランを脱ぎ捨て、ワイシャツも全て脱ぎ去り上半身裸になる。

 

 

直後、罵詈雑言の嵐が止んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ほお、これはこれは……」

 

 

「どうですか?うちの隊員の実力は」

 

 

「正直、予想以上でしたよ。しかし、あの肉体美……どうすればあんなことに?」

 

 

ヘルガーが指さす方向には、上半身を露わにするトール。

 

 

その肉体美は、至高というより他ならなかった。

 

 

割れる腹筋、鍛え抜かれた上腕二頭筋、鋼鉄のような大胸筋。

 

 

全てが芸術。見せることが本職であるボディービルダーでさえも逃げ出す肉体美。

 

 

「さてさて、一回戦目はわたしの勝ちですね。次の対戦相手はまだですか?」

 

 

「まあ待て。すぐに現れるさ。気長に待つことも大事さ」

 

 

 

 

 

 

 

それからの試合というもの、退屈の二文字であった。

 

 

元プロ格闘家、傭兵崩れの黒人、裏ではそこそこ有名らしい巨漢、果ては現役の軍人まで来た。

 

 

それらを、全て一発KOした。

 

 

もはや、俺の倍率は1.01。賭けにもならない。

 

 

ココがいるであろうVIPルームを見る。案の定、彼女はかなり上機嫌だった。

 

 

彼女に指示されたバトル回数は二十回。次で最後だ。

 

 

倍率も低すぎるし、ちょうどいい頃合いだろう。

 

 

『さーて、次がトール選手のラストバトルだ!!対戦相手は、こいつらだーーー!!』

 

 

え?対戦相手の三人称が複数形だった気がするのだが……、気のせいか?

 

 

しかし、気のせいではなかった。

 

 

電光掲示板に表示された対戦相手名は、『エラルド八兄弟』。

 

 

すかさず、実況の解説が入る。

 

 

『今日のアンラッキー選手はトール選手だ!!エラルド八兄弟は一日に一度しか現れない極悪非道な選手達。兄弟ならではのコンビネーションプレーで相手を半殺しにするぞ!!』

 

 

なるほど。主催者側が俺を倒そうと大人数を送ってきたんだな。

 

 

しかも、逃げられないよう5センチの厚さの防弾ガラスまで張りやがった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうですか。ミス・ヘクマティアル。さすがの彼でも、これには太刀打ちできないでしょう」

 

 

リングに現れたのは、全員スキンヘッドのエラルド八兄弟。

 

 

全員、ナイフなどで武装しており、隙がなかった。

 

 

「彼らは長年マフィアの護衛として働いてきた男達。勝負は決まったも同然ですな」

 

 

「ええ、そうね。勝負の結末は決まっているわ。トールの勝ちという結末がね」

 

 

 

 

 

 

「まったく。俺を完全にナメてやがるな」

 

 

解説が終わり、ゴングが鳴らされる。

 

 

 

 

 

「あの程度の敵。いくら揃えようとも」

 

 

どこまでも冷静なココ。八兄弟がトールを取り囲む。

 

 

 

 

 

「いくら数を集めたとしても」

 

 

ナイフがトールの首筋に肉薄する。

 

 

 

 

 

何の奇跡……いや、必然が起こり、彼トールと彼女ココのセリフが重なる。

 

 

 

「「こんな雑魚に負けるわけがない」」

 

 

 

 

 

トールの腕がぶれる。

 

 

瞬間、八兄弟全員が吹き飛ばされた。

 

 

「ふふふ。わたしの勝ちですね」

 

 

怪しく笑う彼女。

 

 

「もちろん、配当金は頂きます」

 

 

彼女は電光掲示板を指さす。そこに映し出されていたトールの倍率は『200倍』。アンダーグラウンドのベッティングの上限は100万ドル。つまり、

 

 

「今のバトルの配当金は200倍の2億ドル。それに加え今まで勝ってきて取った配当金を併せると……総額2億6000万ドル。全て指定の口座に今すぐ振り込んで下さいね。でないと……」

 

 

合図を出し、ヘルガーの護衛達をバルメ達が拘束しヘルガーに向けて銃を構える。

 

 

「あなたの命が、消えてしまうぞ」

 

 

一瞬で護衛達を拘束され、身を守る術を失ったヘルガーはガタガタと震えながら頷いた。

 

 

5分後。

 

 

「よし、口座に振り込まれたのを確認しました。では、わたしはこれで」

 

 

最後に、ココはトールにサインを送る。

 

 

『全てを壊し、わたしの元に戻ってこい』と。

 

 

頷いたトールは拳一つで防弾ガラスを破り、観客席を駆け上がってVIPルームの眼前まで飛び上がる。

 

 

そして、さらに厚い10センチの防弾ガラスを蹴破り、ココの元へと戻った。

 

 

「よくやったトール。帰ったらご褒美をやる」

 

 

「まぁ、当然だな」

 

 

泡を吹いて倒れているヘルガーに目もくれず、武器商人ココ達はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  おまけ

 

 

 

 

「なぁ、ご褒美ってなんだ?」

 

 

とあるホテルの一室。全員が集まっている中、トールはココに質問した。

 

 

「ふふー。知りたいか。なら、今やろう」

 

 

そう言って、彼女はトールの横に立つ。

 

 

次の瞬間。トールは頬に柔らかいモノが押し当てられる感触を得た。

 

 

「え?」

 

 

慌てて横を見る。彼女は頬を赤らめていた。

 

 

レーム達は呆然としていた。バルメに至っては震えて「あ……あぁ……あぁぁ……」と呻いている。

 

 

「これがご褒美だ。次も頑張ったらあげる」

 

 

我慢の限界か。彼女はバスルームへと駆け込んでいってしまった。

 

 

トールは、未だ感触の残る頬を撫でる。

 

 

キスされたよな、今。

 

 

それが、何を意味するか考える前に。

 

 

「ト、トール~……」

 

 

バルメという名の鬼が降臨した。

 

 

「ココにキスされるなど、なんとうらやま……ゴホンゴホン、けしからん!!成敗してくれるわ!!」

 

 

「えっ、ちょ?ナイフなんか取り出して何するの?ってうお!!斬りかかるなよ!!」

 

 

「問答無用!!」

 

 

「ちょ、レーム!!止めてよ!!」

 

 

「無理だな。頑張って逃げ続けろ」

 

 

「そんな~」

 

 

結局、この騒ぎは風呂を終えたココがやって来るまで続いた。

 

 




今回出てきた地下格闘技場の元ネタは、みなさんの想像通りかと思います。

いや、なんか閃いたんですよ。こう、ピカッ!と。

これからも、よろしくお願いします。


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6 ココの気持ち トールの気持ち

前回のあらすじ

地下で無双したった


わたし、ココ・ヘクマティアルはトールのことが好きだ。

 

 

その気持ちの種ができたのは、おそらく病室で彼に『可愛い』と言われた時だろう。

 

 

その時から、彼を意識し始めるようになった。

 

 

それからというもの、わたしは彼によく絡むようになった。

 

 

暇を見ればちょっかいをかけ、護衛と称して連れ回したこともあった。

 

 

その度、彼はちょっと困った顔をするのだが、文句不平も垂れず付き合ってくれた。

 

 

そして、完全に自覚したのは彼が入隊してから二年経った頃。

 

 

ある日、いつものようにトールを連れ出して街に繰り出した時、運悪く殺し屋に遭遇してしまった。

 

 

完全に油断していたわたしは硬直してしまった。

 

 

銃口がわたしに向けられ、引き金が引かれた。

 

 

しかし、弾丸がわたしを貫くことはなかった。

 

 

トールがわたしを庇い、盾となってくれたからだ。

 

 

「ぐ、うおぉ」

 

 

彼は弾丸が当たらないようにわたしを抱きしめる。

 

 

不謹慎ながらも、ドキドキしてしまった。

 

 

しかし、すぐに現実に戻った。彼が吐血したからだ。

 

 

吐血したということは、内臓が傷ついたということ。

 

 

このままではトールが死んでしまう。

 

 

しかし、黙ってやられているような彼ではなかった。

 

 

「ぐッ、このヤロオォォォォォォォォォ!!」

 

 

トールは近くにあった道路標識を引っこ抜き殺し屋を叩きのめした。

 

 

「よかった。無事だな、ココ」

 

 

彼はそう言って倒れた。

 

 

あの時は、トールが死んだと思って目の前が真っ暗になった。

 

 

そして、気付いたのだ。

 

 

わたしは、トールのことが好きなのだと。

 

 

 

しかし、今はこの思いを告げることができない。

 

 

いや、しない。

 

 

世界平和を実現させる為の計画。

 

 

それを達成する為には、非情になることも必須だろう。

 

 

私情を挟むことは赦されないだろう。

 

 

 

 

でも、計画を達成した暁には……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、トールはココのことが好きだ。

 

 

その気持ちに気付いたのは、入隊してから二年が経ったある日のこと。

 

 

いつものようにココに連れ出され、街を散策していた時、ふと目の端にある人物が映った。

 

 

リストに載っていた殺し屋だった。

 

 

そいつは銃を抜き、ココへと向けた。

 

 

「ココ!!危ない!!」

 

 

とっさにココを抱きしめ、盾となる。

 

 

殺し屋は容赦なく引き金を引く。弾丸が俺の背中を抉る。

 

 

「ぐッ、このヤロオォォォォォォォォォ!!」

 

 

俺は道路標識を引っこ抜き、殺し屋を叩きのめした。

 

 

殺し屋を倒したのを確認したあと、胸の中にいるココを見る。

 

 

彼女は、傷一つなかった。

 

 

「よかった。無事だな、ココ」

 

 

安心して気が緩んだのか、視界が暗転する。

 

 

そのまま、崩れ落ちるように倒れてしまった。

 

 

そして、次に目が覚めたのは病室。

 

 

下腹部に何かが乗っている感覚。視線を向けると、そこにはココ。

 

 

ずっとここに居てくれたのだろうか。

 

 

眠っている彼女の髪に触れる。

 

 

サラサラとしていて、まるで上質な絹のようなプラチナブロンドの髪。

 

 

指で梳くと、何の抵抗もなく髪は受け容れた。

 

 

寝顔を覗く。まるで天使のようだ。

 

 

彼女を護れた。それで俺は満足だ。

 

 

だけど、彼女は自分の為に泣いてくれるだろう。

 

 

それが、自分はどうしても嫌だった。

 

 

泣いている彼女を見たくない、彼女を泣かせたくない。

 

 

そんな強い感情が、自分の中に渦巻く。

 

 

そこで、ようやく俺は気付く。

 

 

俺は、どうしようもなくココのことが好きなのだと。

 

 

 

しかし、この気持ちを伝えるわけにはいかない。

 

 

自分は彼女に雇われている私兵だ。

 

 

恩人でもあるし、そんな感情を抱いてはいけないのだ。

 

 

それに前世の記憶はかなり薄れて思い出せないが、彼女はある大きな計画を進めていたはずだ。

 

 

そんな中、余計な感情を抱かせてはいけない。

 

 

それが失敗の要因になっては元も子もない。

 

 

彼女はああ見えて身内に対して情が厚いのだ。

 

 

だから、俺は彼女にこの気持ちを伝えない。

 

 

この気持ちは、墓場まで持っていこうと思う。

 

 

 

だけど、もしそれが赦されるのなら、俺は……。

 

 




今回は話の都合上、どうしても短くなってしまいました。
ついに自らの心情を明かした二人ですが、それぞれの理由で告白をしません。はたして、彼と彼女はくっつくことが出来るのか!?まぁ、ぶっちゃけ作者(自分)次第なんですけどねwww

これからも、よろしくお願いします。


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7 新入り、飲酒、大騒動

ヘクマティアル分隊に新しい仲間が加わった。

 

 

警察組織出身のルツと、イタリア軍出身のアールだ。

 

 

俺はすぐに彼らと意気投合した。

 

 

ノリもいいし、話も合う。

 

 

「なあなあ、トール。お前はいつからお嬢といるんだ?」

 

 

アールが質問してくる。

 

 

「そうだな。俺がココと出会ったのは11の頃だから、もう六年になるな」

 

 

「まじかよ!お前、少年兵だったのか!?」

 

 

「いいや、ただの一般人だったよ。ま、いろいろあってけどね」

 

 

「嘘だぁ!!自販機ぶん投げられるお前が一般人なわけねえよ!!」

 

 

「ウルセー、とにかく一般人だったよ」

 

 

パクリ、と朝食のトーストを口に入れる。

 

 

「それより、今日は仕事ないのか?」

 

 

「ないな。今日はオフだ」

 

 

「じゃあさ。お嬢もいないことだし、俺達といいモン観ねえか?」

 

 

「いいモノ?」

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは!!すげぇ!!女のあんな所にまで入るのかよ!!」

 

 

一人馬鹿騒ぎするアール。

 

 

俺達三人は備え付けのテレビであるDVDを観ていた。

 

 

画面に映っているのは、白人女性と大柄な男。

 

 

男は腰を振り、女は喘ぎ声を上げている。

 

 

いわゆる、AVだった。

 

 

「…………」

 

 

「なんだトール?お前、なんか感想ないのか?こーいうのに興味津々なお年頃だろ?」

 

 

「いや、このAV女優、俺の好みじゃないし、ココのほうがスタイルいいし」

 

 

「なにッ!?お前、お嬢の裸を見たことあるのか!?」

 

 

「え、えぇ。一度だけ」

 

 

「どんなの?どんなのだった?」

 

 

「えっと……」

 

 

ココの裸を思い出す。色白の肌、しっかりと締まったくびれ、形のいい胸……ぼふん!!

 

 

「うおっ!!トールの頭から煙が出てきやがった!!」

 

 

「それくらい魅力的な身体、という訳か……」

 

 

話はいったん終わり、AV鑑賞を続ける。

 

 

70分後……。

 

 

「「お、お、おぉ、おおーーーー!!」」

 

 

クライマックスを迎えたAVに興奮したルツとアールはイスから立ち上がる。

 

 

かくいう俺は、黙ったまましっかりと見ている。

 

 

好みではないと言ったが、興味はある。アールの言ったとおり、俺もこういうのに興味があるお年頃なのだ。

 

 

その時、バン!!と勢いよく扉が開く。

 

 

「皆さん大変です!!ココが!!」

 

 

「「「ってうおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」」」

 

 

現れたのはココを背負ったバルメ。

 

 

「隠せーーー!!」

 

 

「いや、それよりも電源切れ!!」

 

 

「ナイスだトール!!」

 

 

「? 何やってるんですか?」

 

 

慌ただしく動く俺達に呆れるバルメ。

 

 

「ッ!!それよりも皆さん!!ココが大変なことに!!」

 

 

「落ち着けバルメ!!いったい何があった!!」

 

 

ちょうど帰ってきたレームがバルメを諫める。

 

 

後ろには、買い物を終えたワイリ、マオ、トージョ、ウゴがいる。

 

 

「ココが……、ココが……」

 

 

 

 

「お酒を飲んでしまったんです!!」

 

 

 

 

「「「「「「な、なにいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」」」」」」

 

 

状況を解っていないルツとアール以外全員が叫ぶ。

 

 

「まずいぞ!!ココが暴れる!!」

 

 

「何で酒飲ませたんですかアネゴ!!」

 

 

「仕方ないんですよ!!ちょっと目を離したらいつのまにか飲んでいて……」

 

 

「それより逃げろーー!!ココに捕まるなーー!!」

 

 

大騒ぎし、あたふたと逃げ回る俺達。

 

 

それは、まるでコメディ映画のようだった。

 

 

「おいトール。こりゃいったいどうなってるんだ?」

 

 

状況を理解できないアールが俺に説明を求める。

 

 

「ココは酒を飲むとな、「痛てててててててててて!!」あんな感じに動いている人間全員にプロレス技をかけるんだ」

 

 

ココはウゴに関節技をかけていた。

 

 

「だけどねぇ、その話には続きがあってね」

 

 

「レーム。言わなくていい」

 

 

「そのプロレス技をくぐり抜けるとココの裸踊りが見れるんだ」

 

 

俺の制止を聞かず、レームが暴露する。

 

 

「おおっ!そいつはすげぇ。俺行ってくる!!」

 

 

「ちょ、待て!!」

 

 

意気揚々とココへと突撃するアール。

 

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

案の定、完璧にアキレス腱固めを極められアールは叫び声を上げる。

 

 

「ったく、いい加減止めるか。ココ!」

 

 

「ん、なぁにトール?」

 

 

「プロレス技をかけたいのなら俺にかけろ」

 

 

「了~解」

 

 

ウフフフフー、と上機嫌に笑うココは容赦なく膝十字固めをかける。

 

 

「じゃ、寝室に戻るぞ」

 

 

痛みに耐えながら両手を地面につき、逆立ちをしながら寝室へと移動する。

 

 

「おー。さすがトール。そのまま寝かせてくれよ」

 

 

「了解です」

 

 

逆立ちした男の右足に女性がしがみついている光景。

 

 

それはとても奇妙だった。

 

 

 

 

 

 

「ココ~。寝室に着いたぞ」

 

 

「う~ん」

 

 

すれ違うボーイに奇異の視線を向けられながらも、ようやく寝室に辿り着く。

 

 

「全く。これからは酒を飲むなよ?俺達が迷惑するんだから」

 

 

「以後、気をつけま~す」

 

 

間延びした返事を聞きながら、俺はココをベットに寝かせる。

 

 

「ト~ル~」

 

 

「何だ?」

 

 

「えい」

 

 

「ってうお!?」

 

 

ありのままを話す。ココが俺を押し倒した。

 

 

「何するんだ、ココ!」

 

 

「んふふ~」

 

 

にっこり笑う彼女は、自らの唇を俺のに押し当てた。

 

 

「~~~~~~~ッ!!」

 

 

あまりに突然の出来事に、目を白黒させる。

 

 

「……ぷはぁッ!」

 

 

俺がココにキスされた時間、実に20秒。

 

 

「ココ、何故俺にキスを……」

 

 

ココは、とろけるような表情で俺を見つめる。

 

 

「だって、私はトールのことが……」

 

 

俺のことが、何だ?

 

 

しかし、その先は聞けなかった。

 

 

目を閉じた彼女は、そのまま眠りについてしまったからだ。

 

 

「寝たか」

 

 

安堵し、ベットから抜け出す。

 

 

「おやすみ、ココ」

 

 

扉を静かに閉め、廊下を歩く。

 

 

ココは何を言いたかったんだろうか?

 

 

グルグルと思考が回る。

 

 

考えが浮かび、消し去る。また考えが浮かび、また消し去る。

 

 

彼女の表情は、今まで見たことがないほどにとろけきっていた。

 

 

それに、キキ、キ、キスもされた……。

 

 

もしかして、彼女は……。

 

 

いいや、ありえない。酔いが回ってあんな行動を取っただけだ。

 

 

この事は忘れよう。

 

 

俺は自分の部屋に戻り、眠りについた。

 

 




今回はココの飲酒による騒動+その後がメインです。ぶっちゃけルツとアールはおまけwww
トールが関節技かけられても大丈夫なのは、デュラララ!!の平和島静雄が痛みに対する耐性が強すぎるのを参考にしたからです。トールも同じかなぁ、と思いまして。

これからも、よろしくお願いします。


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8 空輸=危険

前回のあらすじ

ココにキスされた。


「はあ!?今なんて言った!?」

 

 

「今回の仕事は空輸でやるって言ったのよ」

 

 

いきなりの空輸宣言。

 

 

俺は驚愕した。

 

 

俺だけではない。

 

 

バルメ以外の全員も唖然としている。

 

 

「おいおい。ココが仕事で空飛んだらろくなことがないっていうジンクスがあるんだぞ。本気か?」

 

 

「そんなことはない。ジンクスとは人間が不安という感情が溜まった時に起こるものだ」

 

 

「ジンクスの存在は認める訳ね」

 

 

「とにかく!次の仕事は空輸でやるよ!!各自気を引き締めて!!」

 

 

「「「「「「「「「うぃーッす」」」」」」」」」

 

 

「ひ、引き締め方は各自に任せる」

 

 

緊張感のない返事にココはうなだれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の仕事はI共和国の正規軍に武器を売ること。

 

 

最近その国は紛争が激化しているらしく、武器が必要になったとのこと。

 

 

内陸国だし、陸路も封鎖されている為、空輸という方法を選択したらしい。

 

 

「ありがとうございます。ミス・ヘクマティアル。これで我が軍はまた勝利に一歩近づきました」

 

 

「いえいえ、とんでもない。今後もよろしくお願いしますよ、大佐」

 

 

ココと正規軍の大佐が話している。

 

 

今回、行きはなにもなかった。そう、行きは、だ。

 

 

「どうトール?危険なことなんて一度もなかったでしょ?」

 

 

勝ち誇ったようにどや顔をするココ。どうやら話は終わったらしい。

 

 

「確かにな。でも、気は抜くなよ。ここは紛争地域だ。何があってもおかしくない」

 

 

「解ってるわよ。さぁみんな!帰るわよ!!」

 

 

ぱんぱん、と手を叩き集合をかける。

 

 

俺達は飛行機へと乗り、その場をあとにする。

 

 

「今回はなにも起こらなさそうだねぇ」

 

 

「だから言ったじゃないですか!!ココにそんなジンクスはありません!!」

 

レームの言葉にバルメが反応する。

 

 

確かに、今回は何も起こらなさそうだ。もしかしたら、運が悪かっただけかもしれん。

 

 

 

 

 

 

同時刻、コックピット

 

 

 

「む?」

 

 

ウゴはある異変に気づく。

 

「ココさん。レーダーに反応があります。数は三。後ろにいます」

 

 

『解った。アールに確認させる』

 

 

通信が切れ、静寂が戻る。

 

 

「機長。まさか反政府軍の軍用ヘリじゃないですよね」

 

 

「……そうではないことを祈ろう」

 

 

 

 

 

 

 

「ウゴから連絡があった。レーダーに反応があったそうだ。数は三。後ろにいる。アール、ハッチを開けて確認してくれ」

 

 

「解ったよ、お嬢」

 

 

ココに呼び出されたアールは命令を受けハッチへと向かう。

 

 

「反応が三つ、ね。まさかとは思うけど」

 

 

ハッチを開け、双眼鏡を覗く。

 

 

「……おいおい、マジかよ。お嬢、聞こえますか!!」

 

 

『なに、アール?』

 

 

「完全武装した軍用ヘリです!!おそらく反政府軍です!!」

 

 

『ッ!?解った。すぐに戻るんだ』

 

 

「解りました!!」

 

 

 

 

 

 

 

「アールが軍用ヘリを確認した。数は三。おそらく反政府軍がこれ以上武器が正規軍に渡る前に武器商人わたしたちを撃墜しようという腹積もりだろう」

 

 

「迷惑千万だな。もう商品は積んでないってのに」

 

 

「しかし、他の武器商人への牽制にはなるだろう。わたしはコックピットへと向かい指示を出す。レームと……なに!?ミサイルだと!?フレア発射!!全員対ショック態勢を取れ!!」

 

 

次の瞬間、飛行機の横で爆発が起き、機体が激しく揺れる。

 

 

「くッ!!レーム、ルツ、トールは何とかしてヘリを撃墜するんだ!!」

 

 

「「「了解」」」

 

 

レームとルツは重機関銃へと向かい、俺は鋼鉄殺しを持ち出す。

 

 

ハッチを開ける。強風が舞い込む。

 

 

「ミサイルでもあったら楽だったのにな」

 

 

「ない物言ってもしょうがない。つべこべ言わずやるぞ」

 

 

「うぃーッす」

 

 

『来るぞ!!』

 

 

ヘリからミサイルが放たれる。

 

 

レームとルツがそれを打ち落とし、俺はヘリへと狙いをつける。

 

 

「対空戦に特化した『鋼鉄殺しM-KⅡ』をナメるなよ」

 

 

照準を合わせ、引き金を引く。

 

 

直前、大きく機体が揺れた。

 

 

「くそッ!!ココ、どうなってやがる!!」

 

 

『地上に山岳兵がいたのよ!!対空ミサイルを何発も撃ってくる!!』

 

 

「解った。俺はそっちの対処に向かう。レーム、ルツ。ミサイルは任せた」

 

 

「了解」

 

 

「まかせとけ」

 

 

視線を山岳地帯へと向ける。

 

 

確かに、山岳兵と思われる人間がいた。

 

 

実は『鋼鉄殺し M-KⅡ』には対空戦以外にもう一つの側面を持つ。

 

 

それは、

 

 

「超長距離射撃だよ。バカヤロー」

 

 

ババババババ!!と鋼鉄殺し M-KⅡが火を噴く。

 

 

俺は、そんなに精密射撃が得意ではない。

 

 

だから、『数撃ちゃ当たる』戦法をとることにした。

 

山岳兵は身体中に穴を空けて倒れる。

 

 

「よし、次!!」

 

 

山岳兵を探しだし、次々に射殺する。

 

 

「手伝うよ」

 

 

いつの間にかレームが隣で狙撃銃を構えていた。

 

 

「ヘリは?」

 

 

「全部墜としたよ。いつ新手が現れてもいいようにルツが警戒してる」

 

 

「解りました。助かります」

 

 

「いいってことよ」

 

 

レームの援護もあり、どうにか山岳地域を抜けて国外へと脱出できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすッ、私のせいじゃないもん。運が悪かっただけだもん」

 

 

国外へと脱出できたやいなや、ココがべそをかきはじめた。

 

 

「大丈夫です、ココ。本当に運が悪かっただけです」

 

 

すかさずバルメがフォローに入る。

 

 

さすがだ、アネゴ。

 

 

「あー、気にしなくていいぜ?こうしてみんな生きてるんだし。なぁ、みんな」

 

 

うんうん、と頷く一同。

 

 

「みんな、ありがとう。……じゃあ、今度からバンバン空輸するぞー!!」

 

 

「「「「「「「いや、それだけはやめてくれ!!」」」」」」」

 

 

ココの発言にすかさずツッコミを入れる俺達だった。

 

 




今回は短いし、疑問に思う人も多いかもしれませんが、大目に見てくれるとありがたいです。

次は、早めに更新するつもりです。

これからも、よろしくお願いします。


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9 キャスパーとチェキータ

前回のあらすじ

ココにはもう空輸をさせないことを誓った。


「この船に兄さんが来ることになった」

 

 

船で次の商談に向かう途中。

 

 

ココは苦々しい顔でそう言った。

 

 

「兄さん、ってことはキャスパーか。双子でもないのにそっくりだよな、お嬢と」

 

 

「キャスパーが来るってことは、チェキータも来るな。レーム、大丈夫か?また離婚したんだろ?」

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

ひらひらと手を振るレーム。

 

 

「キャスパー、ねぇ」

 

 

そんな中、何かを思い出すように俺は呟いた。

 

 

「そういえば、トールと兄さんの馴れ初めは最悪だったわよね」

 

 

「ああ、事件ばっか起こってな。いい思い出が一つもない」

 

 

その時、ウゴから通信が入った。

 

 

『ココさん。キャスパーさんが到着しました』

 

 

「よし、通せ。私もそっちに行く」

 

 

ココが部屋を出る。

 

 

俺もついていった。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、ココ。それにトールも」

 

 

「そうね。久しぶりね、兄さん」

 

 

「お久しぶりです。キャスパーさん」

 

身長と髪が短い以外、まったく同じ容姿を持つココの兄、キャスパー。

 

 

その後ろには、腕に入れ墨がある黒髪の女性、チェキータ。

 

 

「久しぶりね、トール」

 

 

「お久しぶりです。チェキータさん」

 

 

「あの爺は元気?」

 

 

「元気ですよ。ピンピンしてます」

 

 

「そーか」

 

 

ニタニタと笑うチェキータ。

 

 

そんな中、俺は彼らとの馴れ初めを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、君が新入りのトールかい?」

 

 

俺がココの分隊に仮入隊してから一年経ったある日。

 

 

ホテルで巡回していた俺はココにそっくりな人に話し掛けられた。

 

 

「あなたは?」

 

 

「俺の名前はキャスパー。ココの実の兄だ」

 

 

「……え?お兄さん?」

 

 

「そう、お兄さんだ」

 

 

「……もしかして双子ですか?」

 

 

「いいや、俺の方が年上だ」

 

 

「嘘ですよね」

 

 

「残念ながら本当だ」

 

 

初めて見たぜ。リアル男の娘。

 

 

「あーー!!兄さん、何でここにいるの!?」

 

 

驚愕していると、叫び声を上げながらココがやって来た。

 

 

「いや、偶然近くを通りかかったものでね。せっかくだから妹に会っておこうと思って」

 

 

「そんなことより、トールと話していたようだけど変なこと吹き込んでないでしょうね?」

 

 

「大丈夫だ。俺とココの関係を教えただけさ」

 

 

「本当?トール」

 

 

「神に誓って本当だ」

 

 

「そう、ならいいわ」

 

 

安心したようにココは息を吐いた。

 

 

「キャスパー!!いきなり消えるなよ!!」

 

 

黒髪の女性が現れた。

 

 

「すまないね、チェキータ」

 

 

「本当だよ、まったく。……久しぶりだね、ココ」

 

 

「久しぶり、チェキータ」

 

 

にっこりと笑うココとチェキータと呼ばれた女性。

 

 

どうやら、親しい関係にあるようだ。

 

 

「……おや、そこにいる子供は?」

 

 

ようやく、彼女が俺の存在に気付く。

 

 

「前に話しただろう?ココの分隊の新入りであるトールさ」

 

 

「こんな小さな子供が……見たところアジア系だが、少年兵かなにかか?」

 

 

「いいえ、彼は元一般人よ」

 

 

「何故そんな素人を分隊に入れたんだ?」

 

 

「戦闘技術はまだまだだけど、力は凄いのよ。トールは」

 

 

「ほお、そうなのか。チェキータ。腕相撲の相手をしてやれ」

 

 

「え?嫌だよ。ココがあんなに自信満々だから、絶対に勝算があると見た」

 

 

「チェキータは俺より力があるんだ。当然だろう?」

 

 

「はいはい、解ったよ。雇い主には逆らえませんよー」

 

 

部屋に入り、腕相撲の体勢になる。

 

 

「トール。手加減してあげないさい」

 

 

ビキィ!とチェキータさんの額に青筋が走る。

 

 

「絶対に勝ってやる……」

 

 

ココ、どうやらお前はオニを降臨させたようだぞ。

 

 

威圧感がハンパないぞ。

 

 

「それでは、見合って見合ってー。はっけよーい、のこった!!」

 

 

ガシィ!!と両者力が込められる。

 

 

「くッ、なんて力だ。本当にガキなのか!?」

 

 

「結構力ありますね……。では、もう決めます」

 

 

少しずつチェキータさんが押され始める。

 

 

そして、ついにはテーブルについてしまった。

 

 

「確かに、力は結構あるね……」

 

 

「でしょ?トールは凄いのよ」

 

 

胸を張るココ。

 

 

「ココ。久しぶりに兄妹で出かけないか?」

 

 

「いいわよ、兄さん。わたしは今機嫌がいいから」

 

 

スキップをしながらココはバルメを呼びに行った。

 

 

「あの、チェキータさん?」

 

 

「呼び捨てでいい。それで、なんだ?」

 

 

「チェキータとココの関係って?」

 

 

「私は彼女の元護衛さ。私がいた頃はワイリとレームもいた」

 

 

「そうなんですか。だからあんなに親しいんですね」

 

 

「まぁね」

 

 

ココがバルメを連れて戻ってきた。

 

 

そして、俺も街の散策に連れて行かれた。

 

 

何故だ?

 

 

 

 

 

 

 

「うわ~。この時計いい~」

 

 

ショーケースに陳列された時計を見て、ココは目を輝かせていた。

 

 

「相変わらず、ココは女の子らしくないね」

 

 

「ぶー。どーいう意味よ兄さん」

 

 

頬を膨らませるココ。ヤバイ、超可愛い。

 

 

あ、バルメが鼻血出した。

 

 

「相変わらず、バルメはココLOVEなのかい?」

 

 

「はい、ココ最近余計に酷くなった気がします」

 

 

「確かに。前は鼻血なんか出さなかったし」

 

 

俺とチェキータは少し離れた所で談笑していた。

 

 

「お前、元一般人なんだよね」

 

 

「はい。そうですよ」

 

 

「何でココに拾われたんだ?」

 

 

「……俺は結構な家柄出身でしてね。鶴谷財閥って知ってます?」

 

 

「日本のみならず、世界にも会社をいくつも持っている超大型企業だろ?確か一年前にトップが家族旅行に行った時に行方不明になったっていう。……まさか!?」

 

 

「ええ。俺はそこの一人息子でした。客船に乗って旅行中、大規模な海賊が攻めてきて両親を殺し、乗客も全員殺した。俺は両親の死が受け容れられなくて暴走しましてね。脳のリミッターが外れたのか、人外な膂力で海賊達を皆殺しにしました。その時、偶然居合わせたココ達にも牙を剥きましてね。殺されてもおかしくなかったんですが、彼女に気に入られて入ったんです。ココの分隊に」

 

 

「なんだか、悪いことを聞いてしまったみたいね」

 

 

「いいですよ。もう吹っ切れましたし」

 

 

そう、もう吹っ切れた。

 

 

俺は鶴谷徹じゃない。トールだ。

 

 

「トール、チェキータ!行くわよ~」

 

 

時計を買い終えたのか、ココは手を振って俺達を呼んだ。

 

 

「行きますか」

 

 

「ああ」

 

 

歩いて彼女の元へと向かう。

 

 

その時、猛スピードで彼女に迫る車が現れた。

 

 

「ココ!!危ない!!」

 

 

だが、彼女達が轢かれることはなかった。

 

 

バルメがココを抱き抱えその場を離脱し、いつの間にかキャスパーの元へ向かっていたチェキータが彼を避難させていた。

 

 

改めてココを轢こうとした車を見る。

 

 

「装甲車だと!?クソッ、殺し屋か!!」

 

 

彼女の職業柄、恨みを買うことは多い。

 

 

すぐさま彼女達の元へと向かう。

 

 

「ココ、キャスパーさん!!大丈夫ですか!?」

 

 

「なんとかね」

 

 

「わたしは大丈夫」

 

 

よかった。怪我はしてなさそうだ。

 

 

「バルメ、チェキータ。持っている武器は?」

 

 

「私はナイフしか持ってません」

 

 

「ベレッタM92しか」

 

 

「参ったわね、その装備じゃ装甲は貫けない」

 

 

「他に方法は……」

 

 

「「「「あ、あった」」」」

 

 

四人同時に俺の方を見る。

 

 

「……へ?俺?」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は装甲車に気付かれないようにある場所へと向かっていた。

 

 

『いい?この作戦はキミにかかっている』

 

 

チェキータが装甲車に牽制をする。

 

 

『あいつらは装甲車から一歩も出てこない。つまり、自分達の実力がわたし達より劣っていることを理解しているのだ。ある意味、やつらは賢い』

 

 

装甲車は上部に設置してある機関銃で応戦している。

 

 

『だから、わたし達はその裏をかく』

 

 

俺はある物の前に到着する。

 

 

自販機という物の前に。

 

 

『チェキータが装甲車を足止めしている間に』

 

 

自販機を持ち上げ、装甲車へと走り出す。

 

 

『思いっきり自販機をぶちかましてやれ!!』

 

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

自販機を野球のボールみたく投げ飛ばす。

 

 

自販機は装甲車に激突し、装甲車は大きくひしゃげた。

 

 

おそらく、中にいた人間は潰れていることだろう。

 

 

「よくやったな、トール」

 

 

いつの間にかキャスパーが隣に立っていた。

 

 

「これくらい余裕です」

 

 

「将来が楽しみだよ。きっといい私兵になれるだろう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「では、俺はこれで失礼するよ。次の仕事があるんでね」

 

 

「ココには言ったんですか?そのこと」

 

 

「大丈夫だ。もう言ったさ。じゃあな、トール」

 

 

そう言って、彼はチェキータを引き連れて街の雑踏に消えていった。

 

 

 

 

 

「結構様になったじゃないか、トール」

 

 

「ええ、あの時とはもう違うんですよ。キャスパーさん」

 

 

「そうか。では、成長具合を見る為に戦わせるか。バルメとチェキータ相手に」

 

 

「え?まさか二人同時?」

 

 

「そうだ。ココには許可を取ってある。彼女達も乗り気だったよ」

 

 

「嫌だーー!!そんな無理ゲー!!」

 

 

結局戦わされて、ボコボコにされた。

 

 

 

 




今回はココの兄であるキャスパーとその護衛チェキータとの出会いの話でした。
ただそれだけです。はい、すみません。

これからも、よろしくお願いします。


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10 池袋

前回のあらすじ

キャスパーとチェキータに会った。


今回、俺達は日本のヤクザと商談を進める為に日本に来ていた。

 

 

「でも、まさか商談場所が池袋になるとはね」

 

 

池袋といえば、真っ先に思い出すのは前世にあったラノベ『デュラララ!!』。

 

 

移動中、黄色いバンダナとかを身につけているやつらを見たが……偶然だよな?

 

 

「おい、そこの君」

 

 

思考の海に潜っていると、ココの商談相手……組の若頭らしい……が俺に話し掛けてきた。

 

 

「どこかで会ったことはないか?そんな気がするのだ」

 

 

あっちゃ〜、とココが頭に手を置く。

 

 

実は今回の商談相手であるヤクザは、鶴谷財閥と繋がりがあった。

 

 

だから、ココは取引に来る人員の中に俺と面識がある人間が来るのではないかと危惧していた。

 

 

おそらく、彼とは子供の時に会ったことがあるのだろう。

 

 

「いえ、人違いでは?」

 

 

「そうか……そうだな。すまない、勘違いだったようだ」

 

 

何とか誤魔化すことができ、俺達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし。じゃあみんな解散!!各自好きな場所を巡ってもいいよ!!」

 

 

おおー。と歓声が上がる。

 

 

「では、私がココの「護衛はトールに任せるわ。日本人だからね」チッ!!」

 

 

バルメ、あからさまに舌打ちしないでくれよ。

 

 

「さあ、行くわよトール!!」

 

 

「アイアイ」

 

 

ずんずん歩くココに着いていく。

 

 

俺は池袋についてココに説明する。

 

 

「ここは池袋といって東京の中でも大きいほうの街なんだ」

 

 

「ふむふむ」

 

 

「それに、ここには全国展開している、サブカルチャー専門店、『Ani〇ate』の本店がある。漫画からコスプレ衣装まで何でも揃ってるんだ」

 

 

「ほお〜」

 

 

感心するようにココは返事をする。

 

 

しかし、内心俺は焦っていた。

 

 

(ヤバい、これ以上は知らないぞ。今世では池袋なんて行かなかったからな……。移動中に店舗を見つけたからよかったものの、これ以上は……)

 

 

その時、幸か不幸か。とんでもない人物が声をかけてきた。

 

 

「へーい、カノジョ。俺とデートしない?」

 

 

訂正、ココをナンパしてきた。誰だ、そんな不届き者は。

 

 

声がした方向を見ると、茶髪の高校生がいた。

 

 

「楽しいよ〜。俺は池袋のことよ〜く知ってるしさ」

 

ほお、俺がいるのにいい度胸してるな宮野真守ボイスの高校生……って宮野真守ボイス!?

 

 

「だ、だめだよ正臣。ほら、彼氏さんもいるし」

 

 

次は豊永利行ボイスだと!?

 

 

「そ、そうだよ紀田くん!!」

 

 

極めつけの花澤香菜ボイスだと……!?

 

 

よく見ると、特徴も一致している。

 

 

間違いない。こいつらは『デュラララ!!』の主要人物達。竜ヶ峰帝人、木田正臣、園原杏里だ。

 

 

「うおッ!?マジだ。では、俺はこれで……」

 

 

「待て」

 

 

そそくさと離れようとする紀田をココが腕を掴んで引き止める。

 

 

「トールに目もくれず私をナンパした実行力、褒めてやる。この街を案内しろ」

 

 

「はいぃ!喜んで!!」

 

 

ビシィ!と敬礼する紀田。

 

 

まぁ、いいか。俺はこの街のこと知らないからな。

 

 

しかし、彼らがいるということはやつらもいそうだな……。まぁ、会ってから対処法を考えるか。

 

 

 

 

 

 

 

「あの、トールさん?」

 

 

「ん?何かな竜ヶ峰」

 

 

「あ、帝人でいいです」

 

 

街を歩いて数分。

 

 

帝人が俺に話し掛けてきた。

 

 

「ココさんとの関係は?」

 

 

ちなみに、もうお互い自己紹介を済ませている。

 

 

「ああ。ココとの関係は雇い主と労働者、って関係かな。護衛をしてるんだ」

 

「ええ!?そうなんですか!?」

 

 

「ああ、そうだよ」

 

 

そんなに驚くことか?普通。

 

 

「護衛。って言うと、ボディーガードですか?」

 

 

園原が質問する。

 

 

「そんな感じかな。園原」

 

 

「あ、わたしも名前でいいです」

 

 

「解った」

 

 

そのまま歩きつづける。

 

 

「あの、トールさん?」

 

 

「何だ、帝人?」

 

 

「トールさんって、日系アメリカ人ですか?僕から見たら日本人としか思えなくて……」

 

 

「いや、生粋の日本人だよ。トールってのはコードネームみたいなものでね」

 

「はあ、そうなんですか」

 

 

納得、といった表情をする帝人だった。

 

 

「それでですね。ここ池袋には絶対に敵に回してはいけない人物がいるんです」

 

 

「ほお。どんなやつだ?」

 

 

「平和島静雄って言いましてね」

 

 

おいおい、そいつもいるんなら、例の首なしライダーもいそうだな。

 

 

「とにかく身体能力が凄いんですよ。自販機を五メートル以上投げ飛ばせるし、車をサッカーボールみたいに蹴り飛ばすし、致死性のスタンガンを受けてもピンピンしてました」

 

 

「ほお、そいつは凄いな。トールと喧嘩でもさせるか?」

 

 

「やめといたほうがいいですよ!!死んじゃいますって彼氏さん!!」

 

 

「いや、正臣。俺はココの彼氏ではないぞ」

 

 

「ええ!?そうなんですか!?」

 

 

もう彼も名前で呼べと言われそうなので、名前で呼ぶことにした。

 

 

「うん。まあね。彼は私の護衛だよ」

 

 

しょんぼりするココ。何故だ?

 

 

「ええ!?ということはココさん、お嬢様なんですか!?」

 

 

「そうよ」

 

 

まぁ、海運の巨人。フロイド・ヘクマティアルの娘だしな。あながち間違いじゃないだろう。

 

 

「話を進めますね。ここ池袋には都市伝説がありまして、その名も首なしライダー!!」

 

 

「首なしライダーか。首なしといえば、デュラハンを思い出すが……」

 

 

「首なしライダーはナンバープレートを付けていない漆黒のバイクに乗って池袋に現れるんです。……あ、噂をすれば」

 

 

前方から黒のライダースーツに黄色いヘルメットを付けた女性がバイクに乗って現れた。

 

 

うん、確定だな。

 

 

「お久しぶりです。セルティさん」

 

 

杏里が挨拶する。どうやら、すでに知り合っているようだ。

 

 

[久しぶりだね、杏里ちゃん。おや?そちらの方々は?]

 

 

「外国から来たココさんとトールさんです。今、池袋を案内しています」

 

 

[そうなのか。初めまして、私の名前はセルティ・ストゥルルソンだ]

 

 

「初めまして、セルティさん。俺の名前は「ねえねえ!首がないってホント!?もしかしてデュラハン?」ちょ、ココ!!失礼だろ!!」

 

 

俺を押しのけてセルティさんに迫るココ。

 

 

[あ、ああ。その通りだ。しかし、よく私の正体が解ったな]

 

 

おかげでセルティさんがたじたじになっている。

 

 

え?何故彼女をさん付けするかって?知り合ってばっかだし、俺より遥かに年上そうだからだ。

 

 

「ココ。それくらいにしとけ。彼女が困っている」

 

 

「あ、ごめんなさいね〜。まさかこんなところで妖精に出会えるなんて思ってもみなかったから」

 

 

[構わないよ。気にしてないから]

 

 

セルティさん。まさにあなたは大人な女性です。心が広い!

 

 

「あれ〜、なんであなた達がこんなところに?」

 

 

その時、いやに耳に残る声が聞こえた。

 

 

振り返ると、そこには黒いパーカーを来た男性がいた。

 

 

「あ、臨也さん」

 

 

帝人が名前を呼ぶ。どうやら、俺の想像通りらしい。

 

 

「それより臨也さん。さっきの言葉の意味って?」

 

 

「知らないのかい?女の方の名前はココ・ヘクマティアル。海運の巨人と呼ばれるフロイド・ヘクマティアルの娘で武器商人さ」

 

 

「武器商人……!!」

 

 

「そして、男の方は鶴谷徹。かの有名な鶴谷財閥の一人息子さ。あ、今はトールだったね」

 

 

「貴様、何故私達の正体を……」

 

 

「僕は何でも知っているのさ。情報屋だからね」

 

 

しかし、恐ろしいほどの情報網を持っているな、こいつは。

 

 

「ココさん。本当ですか?武器商人って?」

 

 

「ええ。そうよ。ここにも商談に来た訳だし」

 

 

[意外とあっさり認めたな]

 

 

「もうばれたしね。彼によって」

 

 

「いやー、人聞き悪いこと言わないでよ。僕は事実を言ったまでだし」

 

 

やはり、性格が気に入らないな。

 

 

「軽蔑した?君達。私は武器商人だ。いわゆる悪だ」

 

「……いえ、軽蔑しません。ココさんはいい人そうですし」

 

 

「俺も」

 

 

「わたしも」

 

 

[私もだ]

 

 

「そう。みんな、ありがとね」

 

 

ココが微笑む。

 

 

その時、

 

 

「イ〜ザ〜ヤ〜!!」

 

 

叫び声と共に、自販機が物凄いスピードで飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

街を散策してると、憎い相手がいた。

 

 

「イ〜ザ〜ヤ〜!!」

 

 

迷わず自販機を投げ飛ばす。

 

 

しかし、気づいていたのか、やつはサイドステップで避けやがった。

 

 

それだけなら、まだいい。

 

 

問題は、自販機の飛んでいった先に女がいたことだ。

 

 

(まずい!!何とか避けてくれ!!)

 

 

内心焦る。何の関係もない女を巻き込む訳にはいかない。

 

 

しかし、彼女は避けるそぶりも見せない。

 

 

それどころか。

 

 

(余裕の表情だと!?周りのガキ共は慌ててるってのに!?)

 

 

そして、俺はその余裕っぷりの理由を知ることになる。

 

 

側にいた男が、自販機をおもいっきり蹴り上げたのだ。

 

 

ゆうに十メートルは上昇する自販機。

 

 

(はっ、面白れぇ。イザヤを殺すつもりだったかま、まさか俺と同じくらいの力を持ったやつと会えるとは)

 

 

そんな感慨に耽っていると、

 

 

「おい、貴様」

 

 

氷のような冷たい声が、俺を貫いた。

 

 

「なんだ?」

 

 

「今、ココに怪我させようとしたな」

 

 

「偶然だ、偶然。イザヤが避けたのが悪いんだ」

 

 

「それでも、だ。今から貴様を潰してやる」

 

 

「ほお、ケンカか?いいぜ、相手になってやるよ」

 

 

「ケンカ?貴様、勘違いしてるな。今から俺が行うのは制裁だ。覚悟しろ」

 

 

そして、俺が今まで体験したことのない激戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うおらあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 

拳を握りしめ、互いに頬に突き刺さる。

 

 

それだけで爆音が鳴り響き、二人の態勢が大きく崩れる。

 

 

「お前、結構力あるな!!」

 

 

「貴様もな」

 

 

いったん距離を取るトールと静雄。

 

 

いつの間にかギャラリーができて、写真撮影している輩もいる。

 

 

「ココさん。トールさんって、いったい何者ですか?」

 

 

そんな中、帝人がココに質問する。

 

 

「彼は私が雇っている私兵の一人だ。力が飛び抜けて強くてな。軽自動車を投げ飛ばしたこともある」

 

「うわぁ、平和島静雄並の力じゃないですか」

 

 

「でも、それじゃ決着が付かないんじゃ?」

 

 

「大丈夫だ。言っただろう。彼は私の私兵だ。戦い方は知っている。ただ力を振り回すやつになんか負けはしないよ」

 

 

「ぐあぁぁぁッ!!」

 

 

彼女の言葉通り。押されているのは静雄だった。

 

 

「嘘……。静雄さんが押されてる?」

 

 

(しかし、これで終わるとも思えん。言うなれば彼は獣。何もなければいいが……)

 

 

そして、彼女の心配は的中する。

 

 

「このやろ……ナメんじゃねえ!!」

 

 

近くにあった自販機を掴み、投げ飛ばす静雄。

 

 

それを蹴り飛ばすトール。

 

 

しかし、自販機の陰に隠れて接近してきた静雄に反応できず、一発顔面に拳が叩き込まれる。

 

 

「チッ!やるな、貴様」

 

 

「テメーもな」

 

 

そして、再び激突しようとしたその時。

 

 

「両者、そこまでだ!!」

 

 

凛とした声が響き、二人の動きが止まる。

 

 

「……何故止めたんだ、ココ」

 

 

「これ以上やる必要がないからよ。被害が拡大されるのも避けたいし。だから、ここは引きなさい。平和島君もそれでいいよね?」

 

 

「まあ、きっかけはこっちだったんだ。構わないぜ」

 

「よーし!じゃ、美味しいものを食べて仲直りしましょ!!紀田君。何処か美味しい店知らない?」

 

 

「それなら、露西亜寿司っていう美味しいお寿司の店がありますよ」

 

 

「寿司か!?初めて食べるな。なら、仲間も全員呼ぼう。少し待っていてくれ」

 

 

「解りました」

 

 

こうして、二人のケンカは終わり、寿司を食べることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「寿司か〜。久しぶりに食べるね」

 

 

「僕は結構食べてましたね」

 

 

「私は初めてです」

 

 

「俺もだな」

 

 

「俺も」

 

 

「私も」

 

 

「私もだ」

 

 

あれから10分も経たないうちに集まったレーム達を引き連れ、静雄の案内で露西亜寿司へと向かっていた。

 

 

「ト、トールさん。あの人達は?」

 

 

怯えたような表情で質問する帝人。まぁ、みんな歴戦の猛者だしな。

 

 

「俺達の仲間だよ。大丈夫。みんないい人だ。あ、正臣。バルメには手を出すな。ぶっ飛ばされるぞ」

 

「ご、ご忠告ありがとうございまーす」

 

 

こいつ、絶対にナンパしようとしてたな。

 

 

ちなみに、セルティさんは帰った。恋人が家で待っているらしい。

 

 

うん。絶対に彼だな。

 

 

「さあ、着いたぞ」

 

 

ようやく店へと着く。

 

 

「イラッシャイマセー。……オオ!!ココサンジャナイデスカー。レーム、バルメ、ワイリ、トールモ!!」

 

 

入店すると、懐かしい人物達に再会した。

 

 

「おぉー。サーミャじゃないか!!それにデニスも!!」

 

 

「久しぶりだな。ココさん」

 

 

「なんだ。知り合いなのか?」

 

 

「ああ。昔、ロシアの武器商社で会ってね。ココが気に入って仲良くなったんだ。今まで音信不通だったが、まさか池袋で寿司屋をやっていたとはな」

 

「ミンナオ座敷ニ座ッテー。スグニメニュー用意スルヨー」

 

 

「お願いね、サーミャ」

 

 

俺達は奥のお座敷へと向かう。

 

 

「じゃあみんな!!今日は私の奢りよ!!何でも食べていいわよ!!」

 

 

「よし、じゃあ……」

 

 

「「「「「「「「「「「「「一番高いのを頼む」」」」」」」」」」」」」

 

 

「……貴様ら、遠慮というものを知らんのか……ッ!?」

 

 

結局、ココの奢りでかなりの量の寿司を食べた。

 

 

値段は、六桁を超えたとか。

 

 




今回は悪ふざけしすぎたかもしれません。でも、後悔はしてません。
とりあえず、トール無双はさせたくないので平和島静雄とは互角にさせていただきました。

次からついに原作突入!……なんですが、明日から14日までキャンプに出かけますので、投稿が遅れるかもしれません。今日中に投稿出来たらします。

これからも、よろしくお願いします。


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11 原作開始

久しぶりの投稿ですみません。
リアルが忙しくて……。

久しぶりの投稿でクオリティが落ちてないか心配です。

では、原作開始です。


俺達は東欧の片田舎にある街で足止めを食らっていた。

 

「トージョ。状況に変化はないのか?」

 

「全くと言っていいほどない」

 

「マジかよー」

 

もとから期待していなかったので、それほど落胆していない。

俺はライトノベルに目を戻した。

 

これは、つい最近日本に出来た友達から貰ったおすすめ本だ。そいつとは、よく連絡を取り合っている。

 

そういえば、ココが今日新入りを連れてくると言っていたが……どんなやつだろう。

もはや前世の記憶は摩耗してしまい、これから先の展開。つまり原作内容なんて忘れてしまった。

 

もうすぐ帰ってくると思うんだが……。

 

「はーい!みんな注目!!」

 

バン!!と勢いよく扉が開かれ、ココが現れた。予想通りだ。傍にいたレームに扉が直撃する。あ、ワインが床にぶちまけられた。

 

「彼がヨナだよ」

 

彼女の背後にいたのは、褐色の肌に白髪の少年だった。

 

この時、全員の思考は一致しただろう。

 

(((新入りって、少年兵だったのかよ!?チャカ持ってる、コェエーー!!)))

 

それと同時に、俺は思い出す。

彼が、もう1人の主人公だということに。

物語が始まるということを。

 

「ハイハイビビるな!!トージョ。彼にも解るように現状の説明!」

 

「変わらんね。内務省中央税関保安隊にはココさんからお電話願います。我らのコンテナは足止め食らったまんま。税関の小役人どもはダダをこねる一方」

 

「う~~~ん。連中の言い値通り関税払ったら、今四半期の決算超赤字だよ!!最初から通す気ないんだ!」

 

ココが苦い顔しながら手を振る。

 

「要するに、私達の荷物を取り返すんだ。OK?」

 

「……そんなことはどうでもいい。必要なのは『どこで誰を撃つか』……それだけ」

 

それを聞いたココは口の端を上げ、笑った。

頼もしい限りだ、と言わんばかりに。

 

「バルメ、レーム、出動準備!!準備!!」

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、トール。お前ってさ、新入りのことどう思う?」

 

しばらく本を読んでいると、暇を持て余したルツが話しかけてきた。

 

「そうだな……ココが連れてきたんだ。腕は確かなんだろうよ」

 

「ふ~ん。そういえば、トールもここに入隊した時はまだ子どもだったんだろ?元少年兵の先輩としてアドバイスしてやったらどうよ?」

 

「俺が入隊した時はただの力馬鹿だったよ。それ以外は全くの素人。何も言うことはないさ。今の俺があるのは、レームさん達が鍛えてくれたお陰さ。……あ、やべ。バルメさんとの1対1での訓練のトラウマが蘇ってきた……」

 

「あぁ、アネゴとの1対1か。ご愁傷様だな」

 

手を合わせるルツ。やめろ、まだ俺は死んじゃいねぇ。

 

「あ、そうだ。力馬鹿なトールもガキだった頃はあったんだ。ワイリに昔のことでも聞いてみよーっと」

 

「あ、おい馬鹿やめろ!!」

 

ワイリの元へと向かうルツを止めようと追いかける。しかし、

 

「おいおい、止めるなよトール。俺達だって興味あるんだ。お前のガキの頃の話をな」

 

アールに背後から羽交い締めされ、身動きが取れなくなる。

 

「おーい、ウゴ。手伝ってくれ」

 

「解った」

 

それに力自慢のウゴが加わる。もう盤石の体制だ。

 

「なぁワイリ。トールのガキの頃の話を聞かせてくれないか?」

 

「トール君のかい?そうだね……少年だった頃の彼は良くも悪くも活発だったね。自分から色々なことを試したし、ココさんに引っ張られながらもノリノリで悪戯をしたりしてたね。でも、年相応に子供っぽさはあってね、ココさんと好物の食べ物を巡って争ったりもしてたよ。ま、大抵バルメがやって来てトールをぶちのめしてココさんが独り占めするっていうパターンが多かったけど」

 

「他には?」

 

「は・な・せ!!」

 

「だが断る」

 

「ネタか!?それはネタなのか!?」

 

「どっちでもいいだろ。それよりワイリ、ルツの言う通り他にはないのか?」

 

「そうだね……。あ、あったよ。あれはトール君が仮入隊した直後の話でね」

 

「まさかあれを話す気か?やめてくれワイふごっ!?」

 

「黙ってろ。で、続きは?」

 

「そうだね、あれは……」

 

 

 

 

 

 

トールがヘクマティアル分隊に仮入隊してから1ヶ月後……

 

 

「トールって意外と中性だよね、顔が」

 

「へ?」

 

本を読むトールに向かって、唐突にココは言葉を投げかけた。

 

「いや、よく見ると可愛らしい顔してるのよ、君」

 

「確かに。男らしいというより可愛いという言葉が似合ってるな、トールは」

 

「え、ちょっと待ってよ。レームさんまでそんなこと言うの!?」

 

「という訳で……トールにはこれを使ってあることをしてもらいま~す!」

 

ココが鞄からある物を取り出す。それは……

 

「メイド服?」

 

「そう。トールはこれを着て私にご奉仕するのだ」

 

「オーケーオーケー、それを俺が着るんだな……。戦略的撤退!!」

 

「待ちなさい」

 

「ガフッ!?バ、バルメさん!!ちょ、放してください!あと襟首掴まないで!!」

 

「ダメです。おとなしくココの言うことを聞きなさい」

 

「嫌です!レームさん助けてください!!」

 

「面白そうだから嫌だ」

 

「ワイリさん!!」

 

「ははは……諦めてくれ」

 

「マオさん!!」

 

「右に同じだ」

 

「………」

 

なんてこった、味方が誰一人いないなんて……。

 

「フフーフ、諦めなさい。大丈夫!可愛いと思うから!!」

 

「全然大丈夫じゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

「あははははは!!トールが女装!?何の冗談だよそりゃ!!」

 

「笑いが止まらねーぜ!!」

 

げらげら笑うバカ二人(アールとルツ)。

 

それに対し、俺は羞恥で悶えていた。

 

あれは本当に黒歴史だ。あれからしばらく女装ネタで弄られたし。

 

「あー、でも見たかったな。トールの女装」

 

アールが残念そうに天を仰ぐ。

 

「見れるよ」

 

「「「なんだと!?」」」

 

まさかの爆弾発言に驚く俺たち。

 

「ココさんがパソコンにデータを保存して見ていたからね。頼めば見せてくれると思うよ」

 

「ワイリ。それ初耳なんだけど」

 

「私が見たのも偶然だからね。いつもは一人で見ているそうだ」

 

「よし、お嬢が帰ってきたら頼んで見せてもらおうぜ!!」

 

「そうだなアール!!」

 

「やめてくれ二人とも!!」

 

しかし、俺の懇願も空しく。結局見られてげらげら笑われてしまった。

 

チクショウ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急事態だ!!」

 

翌日、ココが私兵全員に召集をかけ、緊急ミーティングが行われた。

 

内容を要約すると、「私達の取引に乗っかろうとして他の武器商人が取引しようとしてるから、給料減らされない為に阻止しようぜ!!」ということらしい。

 

という訳で。

 

「俺達はココの援護をする為にウゴが運転する車にて移動中」

 

「なに言ってんだ、トール?」

 

「いんや、ひとり言」

 

「あっそ」

 

俺は武器の手入れを再開した。

 

今回は『鋼鉄殺し』ではない。あれは今回の任務には向いていない為お留守番だ。

 

「おぉ、すげぇ」

 

ウゴの発言にルツが反応した。

 

「ん、なにが?」

 

「狩れ、だってさ」

 

その言葉に、俺達四人が反応する。

 

「久しぶりの狩りじゃ」

 

「「狩りじゃー」」

 

「うちらのボスは時々カゲキだぜ」

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経った後。

俺達はココ達がいる建物の反対側のビルにいた。

目的は単純。相手が雇ったスナイパーを殺すことだ。

さて、相手はプロだ。気を引き締めて行こう。

と、思ったんだが……。

 

「弱すぎね?コイツら。楽に殺せたんだが」

 

「そりゃそうだろ。不意打ちだったんだから」

 

「ま、そうか」

 

あっさりと仕事が終わってしまい、今は周囲の警戒をしていた。

 

「あ、お嬢が殴られた」

 

「なにぃ!!おいルツ、ちょっとそれ貸せ!!」

 

「あっ、おい!!」

 

ルツからスナイパーライフルを奪い取り、スコープを覗く。

覗いた先に見えるのは、頭から血を流したココの後姿。

 

「あの野郎……ッ!!」

 

「落ち着けトール。ここで動いたら全部台無しになる」

 

「……そうだな。助かったよ、レームさん」

 

沸々と湧き上がる怒りを、レームの言葉に助けられ抑えつける。

少しした後、スコープを覗く先、ココ達に動きがあった。携帯電話を取り出したのだ。

これが意味することは。

 

「トージョ達、交渉が成功したな」

 

「その様だな。お、こっちに通信来た。--ココか?こっちは制圧済みだぞ。あとトールがスゲー心配してるから手を振ってやれ」

 

『マジ?じゃ手を振ってやろう。おーいトール、私は無事だぞ~』

 

声に合わせてこちらに手を振るココ。頭から血を流しているが、元気そうだ。

そして、ヨナがクロシキンを射殺し、この作戦は終わった。

 

 

 

 

 

 

「「「「ハーラーヘーリーハーラーヘーリー」」」」

 

夜、とあるビルの一室に俺達ヘクマティアル分隊が集まっていた。

ハラヘリ言ってるのはレームと俺を除く男衆だ。

ヨナはひたすら卵料理を作らされている。それがこの隊の入隊儀式。ちょうどレームがその事をヨナに話していた。

 

そして並べられるのは見た目美味しそうな卵料理。

さて、味はどうかな……ぐふっ!?

 

「「「ま、不味い……」」」

 

全員が倒れ伏すほど不味かった。

 

 

 

 

 

 

 



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