IS 女神と少年の物語【作者の受験により投稿停止中】 (シアン)
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始まり編
物語の始まり


はじめまして、今作が初投稿となります。
初投稿なので、いたらぬ点もあると思いますし、文面も下手です。
それでも、と言う方は是非、読んでいって下さい。



世界には不思議な事がたくさんある。

 科学では証明出来ない事がたくさんある。例えば、「幽霊が存在するのか」。

 恐らく、今俺が体験していることも科学で証明出来ないだろう。

 

「どうしたのですか?」

 

そう、今この場には俺ともう1人……

 

「ユウ、ショックなのはわかりますが、どうか元気を出して…」

 

女神がいる。

 

 原因は、心当たりがある。俺は死んだはずだからだ。

 死んだ理由?簡単な話だ。駅のホームから落ちて、運悪く電車が来ていた。これだけだ。後は言わなくてもわかるだろう?

 ……そう、爆発に巻き込まれたのだ。

 電車?それは、ギリギリで止まった。危ねぇ… 

 なんて思ってたら目の前が真っ白になった。女神様から、爆発で死んだと言われたのがついさっきだ。

 

整理すると、

駅のホームから落ちる→電車に跳ねられる→と思いきや、ギリギリセーフ→しかし、爆発に巻き込まれてDEATH→目の前に女神がいた←今ここ

      回想終了

 

「元気出せっつってもよ、死んのに元気な方がおかしいだろ…」

 

 ため息交じりに返す。まあ、あんま落ち込んでないしな。対して女神様はというと

 

「あ、それもそうですね」

 

とか、納得してる。…おぃ

 

「じょ、冗談ですよ? なので、そんな怖い顔しないでくださいよ…ふぇぇ」

 

 うぉっ!ちょ、泣いてるっ!?

 

「えっ、ちょ…ご、ごめん。泣かせるつもりじゃぁ…」

 

「…ぐすっ」

 

 マジかよ…少し睨んだだけなのに……俺、そんなに目つきわるいかなぁ…

 俺が少し落ち込んでいると、いつの間にか立ち直った女神が話してきた。

 

「す、すみません。取り乱しました」

 

 泣き顔を見せたのが恥ずかしいのか、顔が真っ赤だ。そこについて、からかうと、また泣きそうなので止めておこう。

 

「それでは…コホン、ユウ、あなたは死んで「知ってるよ」しまいました…話を最後まで聞いて下さい!」

 

おぉ、コワイコワイ。

頬を膨らまして怒る女神様。

やべぇ、マジ可愛い…

 

「むぅぅ…まあ、いいです。それでは続きを話します。あの世界で死んでしまった貴方ですが、このまま天国に逝きたいですか、それとも、生きたいですか?」

 

「そりゃあ、まだ生きてたいに決まってるよ。俺、まだ16だし…でも、死んじまったんだしそれ以外の道なんてあるのか?」

 

すると、女神様はフッと笑って

 

「よく聞いてくれました!私は運命を司る神なのです!その力を使えば、運命をねじ曲げるなどお茶の子さいさいなのです!」

 

え~と、つまり…

 

「復活させてくれるのか?」

 

「はい、そう言うことです」

 

まじか……。…待てよ…運命をねじ曲げられるなら……

 

「なあ、転生ってできるのか?」

 

「? ええ、出来ますけど」

 

「なら、あの世界には戻さないでくれ。…うんざりなんだ…、あんな世界」

 

「ユウ……。わかりました。では、何処の世界に行きたいですか?」

 

 女神様は目を伏せた後、そう聞いてくる。

 

「元の世界じゃなきゃ何処でも良いよ。適当な世界に飛ばしてくれ」

 

「わかりました、では……」

 

 こっちだ、こっちにいるぞ!!

 

「っ───!!」

 

「ん、なんだ?騒がしい…」

 

「掴まってっ───」

 

奴らだなと、続けようとして、女神様に抱き寄せられた。

 

「えっ、ちょ───」

 

 俺達は光に包まれた。

 

 こうして、俺達の物語は始まった。




読んで下さった方、ありがとうございます!
感想やご指摘も、お待ちしております!


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ISの世界、束博士の捜索

続けて投稿しました!
くどいようですが、下手な文面です。
是非、読んでいって下さい!
展開が急です。


「う…ん……」

 

 わずかに目を開ける。

 

「……知らない天井だ…」

 

 この台詞にお世話になる日が来ようとはな…。

 まあ良い、問題は何で知らない天井を見ているのかだ。

 ええっと、昨日俺は…そうだった

 

「死んだんだった」

 

 傍から聞いたら、危ないやつだな。

 だんだんと、昨日の事を思い出してきた。最後、俺は女神様と一緒に光に包まれて……

 そこまで、思い出したとき、横から「うう…ん」と言う声が聞こえた。首を回してそちらを見ると、

 

 

     女神様がいた

 

 

「へっ……?」

 

 俺が間抜けな声を出すと、長い睫毛が動いて、女神様が目を開ける。

 

「うぅ…あ…えっ…」

 

 図らずとも、至近距離で目が合う。

 美しい赤みのかかった金色の目が見開かれて、こちらを見ている。ほんの数秒なのに、永遠にも感じられる間、俺はその目に吸い込まれるように感じた。

 

「な…な…」

 

 どの位、経ったのだろうか。女神様が真っ赤になり、金魚のように口をパクパクさせている。

 

「?」

 

 どうしたんだろ…

 

「な…んで……何で此処にいるんですかぁぁぁぁああああ!!?」

 

「ぐふっ!?」

 

 女神様が放った枕による、渾身の一撃が俺の顔面にクリーンヒットした。

 

 

「ユウ、すみませんでした…」

 

 しょんぼりと、うな垂れている女神様が、此処に1人。

 

「いいって、気にすんなよ」

 

「すみません…」

 

「はぁ…」

 

 さっきから、ずっとこの調子だ。

 俺が気絶している間に状況の整理をしたのか、目を覚ましたら女神様が、申し訳なさそうに謝ってきたのだ。

 このまま、放っておく訳にもいかないので、強引に話題を変える。

 

「なあ、女神様。此処は何処なんだ?」

 

「へっ…?ああ、はい。此処はISの世界です。適当に飛んで、こんな所に着くなんて…」

 

 IS? あの、ラノベのか? マジかよ。楽しそう。

 

 ん、まてよ…此処に来る前に、なんかあったよな…

 

「あー、すまない。1つ教えてくれ。あの連中は何なんだ?」

「あの連中?」

 

 首をかしげる。可愛い…はっ、いかんいかん。

 

「ほら、俺が女神様と初めて会ったところにいた、騒がしい連中」

 

 すると、女神様は目を泳がせる。

 

「あ、あの人たちはですね…えっと…その…な、仲間です!」

 

 めっちゃ怪しい。

 

「正直に答えて欲しいんだが?」

 

「うっ…そのですね、実はユウ、あなたは、あのまま、天国に連れて行かれる予定だったんです。でも、残酷過ぎると思ったんです。まだ16歳なのに、まだ生きてたいだろうにと…。だから、私はあなたを拉致しました。私の力であなたの運命を、変えてあげようと思って……」

 

 言葉が途切れる。

 

「それで、それがどうしたんだ?」

 

「ですが、天界のルールには、特例を除き、死者の復活は禁止されています。私はそのルールを、もちろん知っていました。けれど…我慢出来なかった。貴方が死んだと知ったとき、何で貴方のような善人が、死ななきゃならないんだろうって、思ったんです。だから…私は…貴方の運命を変えたんです。あの方たちは、私と貴方を捕らえようと、他の神が放った天使たちでしょう」

 

「そうか…」

 

「私は、ルールを破ってしまった。今の私は、女神ではありません。既に、神格は剥奪され、少し強いだけの人間です…」

 

「…なあ、俺の為にやってくれたのは、正直嬉しいよ。けど、お前が自分を犠牲にしたのは、嬉しくない」

 

「はい…」

 

「けど、まあ、こうなっちまったもんは、仕方ない。俺にとっては第二の人生、お前にとっては、神から人間になっての第二の人生。楽しんでいこう?」

 

 そう言うと、元女神様は花が咲いたように笑った。

 

「はい…!」

 

 

*************************

 

 

 そんなこんなで、この世界に来て早、1ヶ月。あの後、元女神様は名前を教えてくれた。シアラ・シルバーベルと言うらしい。最初は「シアラ」と、呼んでいたんだが、シアラが「シアと呼んでください」と言うので、今では「シア」と、呼んでいる。そして、なぜか俺はユウと呼ばれている。

 

 今は12月で、日付は元の世界と変わらないようだった。年はきっちり2年戻っていたが。

 それに伴い、俺の年齢もきっちり2年戻っていた。つまり、15歳、中2になっていた。因みに女神様もとい、シアは14歳になっていたが、同じく中2だ。どうしてわかったかと言えば、身長が低かったからだ。俺は、中3から身長が急に伸びたからな。

 余談だが、俺とシアは同い年だった。「女神は、死なないので私は超超若手ですよ」とは、シルア談。

 家は最初にこっちの世界に来た時の家で、2人で暮らしている。これも余談だが、俺達は2人とも朝が弱かった。

 だが、今俺達が居る場所は家ではない。どこにいると思う?

 

「そう、海の上だっ!!」

 

「何やってるんですか、ユウ」

 

 シアの呆れた声が聞こえてきた。

 

「いや、何となく気分でな」

 

 まあ、そんなわけで海の上にいる。簡単に言ってしまえばボードに乗って、探し者をしている。

 

「あ、もうそろそろですよ。ユウが言ってた束博士の隠れ家の場所候補」

 

 まあいい、話しは一昨々日まで遡る。

 

 

*************************

 

 

「束博士の隠れ家?」

 

「ああ。この世界に束博士って言うISを開発した天災がいてな、その人の隠れ家があるはずなんだ」

 

「それを、捜すと?」

 

「うん」

 

「探してメリットはあるので?」

 

「当然。そもそも、ISを開発したんだぜ? そんな人とコンタクトが取れれば、俺達のISの改良なんかもやって貰える。IS学園にも入りやすくなるだろうしな」

 

「なる程…確かにそうですね。隠れ家の場所は?」

 

「大体目星は付いてるよ」

 

「そうですね、なら探した方が良さそうです。行きましょうか」

 

「ああ、探し出すぞ」

 

 

*************************

 

 

 と言うわけだ。束博士の隠れ家の場所なんぞ、知るわけない。

 でもまあ、世界の国が自国の隅々まで探して見つかってないんだ。

 束博士のことだから、たんに、ラボに迷彩つけてあって見つかってない、なんてことも有り得るのだが……

そんな時、俺だったらまず、海に出る。国の事だし、海も捜索したんだろう。けどそれでも見つかってない。これだけ、条件が揃えば、おのずと場所は分かってくる。それは……

 

「見えたよ」

 

 そう言って俺は指をさす。それは、海から少し突き出た岩だ。

 

 さっきも言ったが捜索しても見つからなかったのだ。なら、それは、自然風景だからなのではと、俺は考えた。

 人間はどんなに血眼になって探しても、有り得ないと考えた場所は、目に入らないものなのだ。なら、こんな海面から少し顔を出している岩なんて目に入ら無くても可笑しくない。因みに今日で16回目、一昨日から通算59回目の傍付けだ。候補の場所が、お☆お☆す☆ぎ☆た☆ぜ☆(ゝω・)………うん、我ながら気持ち悪ぃな。

 

「これで、よしっと」

 

 シアがボートをその岩の傍につける。もう、手慣れてきたなぁ…59回もやってりゃ当然か…

 

「こい、夜雪!」

 

 俺は、自分のISを展開して、海の中に潜る。

 

「あ、待ってよぅ」

 

 シアも慌ててISを展開して後に続く。

 さて、これは当たりかな? 

 そろそろ当たってくんないと、さすがに厳しい。こう、精神的にも体力的にも。

 俺は腰にマウントされたビームサーベルを抜くと岩に斬り掛かる。

 

「せいっ!」

 

 果たして……岩は切れていなかった。傷1つ着いていない。

 

「ビンゴだ…シア!」

 

「うん、当たりみたいだね…じゃあ、やるよ!」

 

「ああ、ぶっ壊すぞ…!」

 

 言うが早いか俺ビームサーベル(白月)を高速で振るう。

 

「はぁぁああ!!」

 

 だが、流石と言うべきか、傷は付かない。後からシアも支援砲撃をしてくれているが……。なら…

 

「シア、この位置に『羽』を頼む」

 

 俺は、覇眼でビームシールド発生装置の場所を見つけると、その場所をシアにを送る。

 

「了解。フェザー──!!」

 

 シアが背中の翼から、6枚の羽を放つ。羽は、岩に6角形を組むように突き刺さる。この羽にはビームを阻害する効果があるのだ。

 

 俺は、後退しながら、武装をビームサーベル(白月)から、バススロットから取り出した、対艦刀(神白)に切り替える。

 そして、ある程度距離をとったら、光の翼を展開。スラスターを全て解放し、対艦刀を構え岩に突撃する。「羽」によって脆くなった場所に、スピードを全て乗せた対艦刀を突き刺す。

 

「うぉぉぉおおおお!!」

 

 暫く拮抗していたが、岩の壁面は遂に刃を受け入れた。すると、壁面を覆っていたビームシールドが消失したようで、抵抗が急に無くなった。ビームシールド発生装置を破壊したからだろう。

 

「よしっ…せいっ!!」

 

 俺は対艦刀で岩を切り、侵入径路を作る。PICで海水の侵入を防ぐと内部に侵入する。

 シアも入った事を確認すると、PICで切った岩を元に戻す。内部からビーム兵器で若干、岩を溶かして溶接する。

 

「よし、それじゃあ束博士を捜すとじすか」

 

 俺とシアは警戒しながら奥へと進む。

 

─────────────────────────

 

 

束side

 最初は気のせいかと思ったけど間違いない。ここを攻撃してきてるね。しかも、普通のISじゃないな。このシールドをここまで消耗させるのは、既存のISじゃ不可能だ。

 

「見たことのないISだね。しかもこの出力……束さんが少し本気を出さなきゃ作れないような出力を、凡人が作り出した……?」

 

 有り得ないね、凡人が作れるわけがない。でも、だとしたらこれらは……

 

ビービービー

 

 思考がアラーム音に現実に引き戻される。シールドが破壊された?

 

「内部に侵入されてる…!!」

 

 ビームシールドを破ったISだ、ガードロボットなんて意味が無い。出来れば使いたくなかったけど……

 

 

─────────────────────────

 

 

千代紙 夕音side

 さて、束博士はどこだろう……

 さっきから、ガードロボットが出て来てるし、ここのどっかには居るはずだよなぁ…

 

 また、1体のガードロボットが鉄屑に変わる。ただ、ガードロボットはもうほぼ品切れだろう。反応が両手で数えられるほどしか無くなってる。

 

 頃合いだな…

 

 俺は、ISを解除すると歩き始める。

 

「えっ…ちょ、ちょっと!」

 

 シアが慌てた声を上げるが、コアネットワークで、話し掛ける。

 

『落ち着け。ここらで束博士に敵意が無いことを、示して起きたいんだよ。ガードロボットも殲滅したし大丈夫だろ……多分』

 

『そう言うことなら、まあ』

 

 そう言って、シアもISを解除する。

 

「さ、進「ユウっ!」っ──!」

 

 とっさに、横に跳ぶ。が、右足に激痛がはしる。

 

「ユウっ! 大丈夫ですか!?」

 

「油断した、まさかステルス機までいるとはな……!」

 

 用意周到すぎんよぉ、束博士ェ。

 けど、拙いな。跳んだから右足ですんだが、跳んでなかったら、あの位置は心臓を貫いてた。俺達がISを解除するのを、狙ってたのか?

 

 考えつつも、腕部だけ夜雪を展開してライフルで、ステルス機を撃ち抜く。しかし、奥から足音が聞こえてきた。

 人の足音ではない。まさか、これは…!?

 

「「っ──!」」

 

夜雪を展開、ビームシールドを発生させる。シアも気付いたようで、ISを展開、エネルギーフィールドを発生させる。

次の瞬間、エネルギーの奔流が俺達を襲った。

 

─────────────────────────

 

 

束サイド

 罠のステルス機で仕留められなかった。生身で無人機の攻撃に耐えられるはずがないけど、多分防がれてる。

 でも……違和感があるな。そもそも、あそこの場面でISを解除する必要無いよね、連行するならそのままの方が安全だし。

 ……少し話しを聞いてみるかな。ここに来たって事は、私が居ることはばれてるだろうし、凡人にしては、やるみたいだしね。逃げるのはそれからでも遅くない。

 

『あーあー、てすてす。もしもし、そこの2人』

 

 

─────────────────────────

 

 

千代紙 夕音side

 

『あーあー、てすてす。もしもし、そこの2人』

 

「「っ───!!」」

 

 何だ!?コアネットワーク通信!?

シアの声じゃない、国に居場所を探知された!?このステルスを見破って!?

 

『束さんだよー。君たちに質問が有るんだけど、一体何者なのかな』

 

「「し……」」

 

『し?』

 

「「心臓止まるかと思ったわーーーーーーーー!!!!」」

 

『っ────────!!?』

 

 束博士が驚いているのが、分かった。

 

 

*************************

 

 

 あれから、1時間後。束博士と話してる。足のけがは束博士が治してくれた。流石だなぁ。

 

「ふむふむ、つまり君達2人は異世界から来て、君の方は元女神だと」

 

「そう言うことです」

 

「ふ~ん、嘘みたいだけど、汗のにおい、動悸ともに正常。嘘じゃないみたいだね…」

 

「分かって貰えたようで、何よりです」

 

 シアが、ほっとしたように言う。

 

「それで、君達は私に何のようで来たの?」

 

「それはですね……(省略)……というわけなんですよ」

 

「ふーん、簡単に言えばISを強化して欲しい、そう言うと?」

 

 何か、不機嫌そうなんだけど。

 

「はい、まぁ、俺達も手伝いますよ。足手まといになるかもですけど」

 

「…………(ポカン)」

 

 あれ、俺なんか拙いこと言った? 束博士がポカンとしてる。アイコンタクトで、シアに聞いてみるが、彼女もよく分からないらしい。

 

「た、束博士? どうし「いい…」んです…は?」

 

「うん、いいよ! 君達の為なら、とびきりのISに仕上げるよ!」

 

「へ、あ、ありがとうございます」

 

 あるぇ、さっきまでのシリアスムードは、何処へ?

 

「うんうん! あ、その前に名前教えて」

 

 おっと、俺達が名前を知ってるから、つい忘れる所だった。

 

「千代紙 夕音です」

 

「シアラ・シルバーベルです」

 

「それじゃ、ゆーくんとシーちゃんだね。2人とも、よろしくね!」

 

「「はい」」

 

 なぜか、妙に機嫌がいい束博士だった。




どうでしたか?
是非、感想をお願いします!
それでは、また次回ノシノシ


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白い女神と、白い幻影

早くも、2人の方にお気に入り登録して頂けました。
ありがとう御座います!
今回は、日常?回です。
では、どうぞ!


束side

 

「俺達も手伝いますよ。足手まといになるかもですけど」

 

 思わず、放心してしまった。今まで、私を利用使用としたやつは、山ほどいたけど、そう言う奴らは私に全てを押しつけてきた。天才なのだから、と。

 けど、彼らは違う。嘘じゃないのは目を見れば分かる。私を独りにしない人達だ。

 ちーちゃん以外に、こんな人達に巡り会えるなんて……!!

 

「た、束博士? どうし「いい…」んです…は?」

 

「うん、いいよ! 君達の為なら、とびきりのISに仕上げるよ!」

 

「へ? あ、ありがとうございます」

 

「うんうん! あ、その前に名前教えて」

 

「千代紙 夕音です」

 

「シアラ・シルバーベルです」

 

「それじゃ、ゆーくんとシーちゃんだね。2人とも、よろしくね!」

 

「「はい」」

 

 うんうん、2人とも素直でいい子たちだね!!

 ISが完成してからもここに居て欲しいなぁ……そうだ!

 

「ねえねえ、ゆーくん、シーちゃん。ここで、私の助手やらない?」

 

「「へっ!?」」

 

「いやいや、俺達には学校ありますしっ!!」

 

「まだ、中2なんですよ!?」

 

「ん~、ゆーくんは異世界からやって来てて、シーちゃんは元女神なんでしょ? 元女神なんだし、ゆーくんは異世界では高校生、学校なんて行かなくてもいいんじゃない?」

 

「うっ…ま、まあそうかも知れないですけど…」

 

「それに、勉強が分からないなら、その位、この束さんが教えてあげよう!」

 

「で、でも……」

 

 むむむ…ゆーくんもシーちゃんもまだ煮え切らない様子だね。

 

「ここに居てくれないと、困るんだよ。ボディーガードが居ないと、いざというときに対応できないし」

 

「俺達が来たとき、対応出来てましたよね……」

 

「それことれとは話が別なの!!」

 

「ええぇ……」

 

「それとも、そんなにここに居たくないの? それなら、無理強いはしないけど……」

 

 だとしたら、少しショックだな。

 

「いえ、そう言うわけじゃ……」

 

 そう、シアが答える。

 

「じゃあ、ここに居てくれる!?」

 

「わかった、わかりましたからっ!そんなにくっつかないでくださいっ!!」

 

 思わず、ゆーくんの腕に抱きついてしまう。逞しい腕だねぇ。

 

「っ─い、いいの、ユウ?」

 

 おろ? シーちゃんはで顔が赤くなってる。

 

「うん、まあ正直勉強は何とかなるだろうし。あ、それともシアは嫌だったか?」

 

「ううん、私も大丈夫」

 

「やったーーーー!!」

 

 こうして、束博士の隠れ家に新たな住人が増えたのだった。

 

 

──────────────────────

 

 

シアラside

 突然ではあったものの、家に取りに行くようなものもなかったので、ここでお世話になる事になった。のだが……

 

「束博士っ、何で部屋が1つなんですか!?」

 

「ん~とね、そこ以外空いてる部屋が無くて。まぁ、君達2人は仲良いからへいきでしょ?」

 

「へいきじゃないですっ!私がこの獣に襲われたらどうするんですかっ!?」

 

「おいこら、シアラ」

 

 ユウが何か言ってるけど、今は構ってる場合じゃない。

 

「ドンマイ?」

 

「束博士ぇ……」

 

 思わず、座り込んでしまいました。

 ひどいです。私の貞操をなんだと…

 

「たくっ、ほら立て。俺は廊下で寝るから、それでいいだろ」

 

「だめっ、それじゃあユウが風邪ひくでしょっ!」

 

「じゃあ、どうしろと……」

 

「私が廊下で寝る!」

 

「それこそ、駄目だ。女の子が体を冷やしちゃ駄目だろ」

 

「お、女の子……」

 

 ううっ、顔が熱い。ユウのばかっ。何て不意打ちするのさ。

 

「……ふ~ん。ねえ、シーちゃん。シーちゃんは、本気でゆーくんが襲うと思ってる?」

 

 すると、今まで黙ってた束博士(元凶)が話し掛けてきた。

 

「へ…? それは…」

 

 この一ヶ月、一つ屋根の下で過ごしてきて、間近で見てきて、ユウはそんなことするとは思ってないけど……むしろ私を女の子と認識してるかも怪しいレベルだし…でも、やっぱり…

 

「緊張してるんでしょ?」

 

 束博士が耳元で囁いた。

 

「っ───!!?」

 

 な、何で? 何でわかったの?

 私、なんか変だった? ユウが何か言った? はっ、まさか心を読んで!?(錯乱)

 

「むしろ、一緒の部屋で過ごすと、甘えちゃうから嫌われるのがいやで、むしろ、襲われたいとか思ってたり…」

 

「うにゃああぁぁぁぁぁああ!!!!?」

 

「!?(ビクッ)」

 

 ほんとに何で分かるの!!? 私、そんなに分かりやすい!? 表情に出てるの!? いやあぁぁぁあああああ!!

 

「ちょっ、どうしたシア!? 束博士、シアに何言ったんです?」

 

「ん~、それはねぇ…(ドゴンッ)「へ?」」

 

「束博士っ……!!」

 

 私は、束博士を睨みながら立ち上がる。ただし…

 

「し、シーちゃん…? 何で、IS起動してるのかな…?(汗ダラダラ)」

 

「馬鹿あぁぁぁああああ!!!」

 

 私は、目尻に溜まった涙を振り払うように叫んだ。

 

「お、落ち着いてえぇぇえええええ!?」

 

 そこに、束博士の絶叫も加わって、不協和音を奏でた。

 

 

──────────────────────

 

 

千代紙夕音side

「うぇぇん、私のラボが……」

 

 数十分後、ラボは半壊していた。容赦無く攻撃してたからなぁ。

 まぁ、明日には治ってるんだろうけど。つうか、何で束博士は一発も食らって無いんだよ……。

 

「自業自得です!」

 

 いや、そこも。何で当たらないのか、疑問に思おうよ。俺だけ? 不思議なのは俺だけなの? …考えるだけ無駄か。

 

「もう良いだろ、シア。やり過ぎだぞ?」

 

「ふんっ」

 

 シアはそっぽを向く。それよりも……

 

「んで、部屋は結局どうすんだ?」

 

「「あっ……」」

 

 当初の目的はどうした。忘れんなよ…。

 

「私は…その…同じ部屋でも、いい…けど……」

 

 この、騒動の意味ぃ……。何だったんだ、一体。

 

「はぁ…ほら、なら行くぞ」

 

 座り込んでいるシアに手を差し伸べる。

 

「うん……」

 

 シアを立ち上がらせると、部屋へ歩いていく。

 

「え、束さん空気なの? スルーなの?」

 

 束博士の声が聞こえた気がするけど、気にしなーい、気にしなーい。

 

 

**********************

 

 

1週間後

「ゆーくん、シーちゃん。遂に完成したよ!」

 

 目の下に物凄いくまを作った束博士が話している。

 

「束博士、何日寝てないんですか?」

 

 シアが尋ねる。

 

「五日位かな?」

 

「よし、寝ろ。完成品の披露は後でいいから、取りあえず、寝ろ」

 

「いや、こっちの方が優先…「寝ろ」…こっち、ゆ・う・せ・ん!!」

 

 駄目だこりゃ。博士は言い出したら聞かないからなぁ。

 

「コホン、それでは仕切り直して…ゆーくん、シーちゃん、遂に…」

 

「「そこから!?」」

 

「遂に、完成したよ!」

 

 スルーですね、わかります。

 すると、博士の後ろのガレージのシャッターが動きだす。

 

「これが、束さんが作り上げた2人の専用IS…」

 

 束博士が開いていくガレージの中から漏れてくる光を背に言う。

 

「名前は……まだ無い!!」

 

「「無いのかよ(んですか)!!」」

 

 寝不足でも博士は絶好調のようだ。

 

「うん、せっかくだから2人につけて貰おうと思ってね。このISを使うのは2人なんだから」

 

「なる程、ありがとうございます。それじゃあ……俺のは「羅雪」がいいかな」

 

「「羅雪」ね…よし、入力完了。シーちゃんは?」

 

「うーん…」

 

 じっと、ISを見上げながらうなっている。

 

「それじゃあ……「クリア・サンクトゥス」…でいいですか?」

 

「「クリア・サンクトゥス」…っと、よし、出来たよ!!」

 

 束博士もよっぽど嬉しいんだな。目の下に物凄いくまがあるのに、目が輝いてる。

 

「下にアリーナ造っといたから、試運転するといいよ」

 

「そんなものまで……ありがとうございます、博士」

 

「お安いご用さ。それじゃあ、私はそろそろ新しい研究を……」

 

「博士、いい加減寝てください」

 

 いくら博士が、人外の域に片足…、いや、肩までどっぷり浸かってるとは言っても、人間であることに変わりは無い。さすがに、五徹もしてたらそろそろ命に関わる。

 

「そうですね、博士は寝ていて下さい。さすがに、ちょっと…」

 

 シアもどうやら同じ事を考えていたようだった。

 

「…うん、わかったよ。それじゃあ、私は寝てるね。何か不具合があったら言ってねぇ」

 

 あれ? やけに素直だな。普段ならもっと抵抗するだろうに…。博士もさすがに五徹が限界なのか? いや、さっき研究しようとか言ってたから違うか…。あるぇ? ほんとに何でだ? 出会ってからまだ1週間の俺が幾ら考えても無駄か。

 

「ユウ、束博士はどうしたんでしょうか? まさか、熱でもあるんじゃ…?」

 

 少し素直な反応しただけでこの反応…博士が少し可哀想だわ。

 

「さあな、俺は分からん。でもまあ、せっかくアリーナも造ってくれたんだ。この機体にも慣れないといけないし…訓練と行こうか」

 

「…そう、ですね。行きましょうか」

 

 俺達は、博士が造ってくれたアリーナに行くことにした。

 

 

──────────────────────

 

 

束side

「寝ろ、か」

 

 そんなことを言われたのは、いついらいだろう。何年も前に箒ちゃんに言われたのが最後か…。

 あの2人は、本気で私の心配をしてくれているのだろう。自分を心配してくれてる人が居る。その事が嬉しかった。

 

「んんっ」

 

 伸びをしながら、自室に歩いてゆく。

 今日は久しぶりに、よく眠れそうだ。

 

 

──────────────────────

 

 

千代紙夕音side

「凄まじいな、これは」

 

 思わず、言葉が出る。それ程までのオーバースペックだった。まあ、もともとオーバースペックだったのだが。

 これを、シアのと合わせて1週間で改造したのか…。つくづく、束博士の規格外さを思い知る。

 俺の「羅雪」は今までよりも機動力が向上して、ブレイドドラグーンも追加された。他にも、細かい部分が改良されている。使いこなすには、少し訓練が必要そうだが。

 シアの「クリア・サンクトゥス」にしても、防御力、機動力の大幅向上がなされていた。女神が造り出した機体を改良するとか、これが、天災たる所以か…

 

「ユウ、少し休憩にしませんか?」 

 

「いや、俺はもう少し動かしてからにするよ。先に休んでてくれ」

 

 動かし始めて、早二時間。そろそろ、休憩が必要だが、束博士の護衛となった以上長時間の任務も有るだろうし今のうちに慣れておかなければなるまい。

 

「わかりました。無理はしないで下さいね」

 

「もちろんだ」

 

 追加された武装の扱いにも慣れなければな…まずはブレイドドラグーンからだな。そう思い、ターゲットブレイクを起動する。

 これも、束博士が作ったもので、自分の周囲にターゲットをランダムに出現させてそれを撃墜させると言うものだ。出現範囲や、出現速度は自由にいじれる。ちなみに、ターゲットを一定時間内に撃墜出来ないと、自分が撃墜されたと言う扱いになり、ゲームオーバーになる。

 それを、最高難易度にして起動する。

 

『開始まで3、2、1、ターゲットブレイクスタート』 

 

 アナウンスとともに、十数個のターゲットがアリーナ内の様々な位置に出現する。近いターゲットを白月を抜き放ち切り捨て、遠いターゲットを白銀穿牙で撃墜する。次々と出現するターゲットをその2つの武装のみで戦う。

 

 撃墜数が二百を超えた辺りから更に出現速度が上がる。

 

(博士、これは嫌がらせだろっ…)

 

 目の前に、ターゲットの壁が構成され、遠くの状況が把握出来ない。

 

 

「このっ…」

 

 アンロックユニットから双対三連を起動し、壁ごと周囲のターゲットを撃墜する。残ったターゲットも白銀穿牙で撃墜する。

 

 撃墜数は更に延びて、もうすぐで、千に届くと言うとき、白銀穿牙の操作精度が鈍り、ターゲットを撃ちもらしてしまった。そこで、ゲームオーバーになりターゲットブレイクは終了した。集中力を使いすぎて、頭が働かない。

 これも今後の課題だな…

 

「ユウ、大丈夫ですか!?」

 

「ああ、問題ない」

 

「ふらふらしながら、言っても信憑性がありませんよ。休んで下さい」

 

 そんなにふらふらしてるのか。いや、まあ歩いてる感覚が無いしな…

 

「ありがとう、そうするよ」

 

 ああ、疲れた。早いとこ、休むか……

 俺は、アリーナの壁に寄りかかって座る。その瞬間、激しい睡魔が襲ってきて、俺は眠りについた。

 

 どのくらい寝ていたのだろうか。博士の隠れ家は昼夜を問わず明かりが点いているので、時間の把握が難しい。時計か、ISにつけられた時計しか、時間がわからない。

 左腕の腕時計を見て、時間を確認する。午後二時時十三分。羅雪が完成したのが、午前7時頃だったはずだ。訓練したのが、3時間程訓練したとすると、四時間ほど寝た計算か…

 立ち上がろうとして、気付いた。

 

「布団?」

 

 アリーナの壁に寄りかかって寝たはずだが…。シアが布団を運んできてくれたんだろうか。後で礼を言わないとな。

 見れば、アリーナではシアがターゲットブレイクをしていた。

 弓形のビーム兵器と槍を使って戦っている。地面には大量の槍が刺さっている。

 槍多すぎだろ…。何本有るんだ、一体。

 シアが放ったビームは拡散し、複数のターゲットを墜とす。が、ビームをよけたターゲットによって、ゲームオーバーが成された。

 

「ふぅ…」

 

「お疲れ」

 

「あ、ユウ、起きてたんですか」

 

「途中からだけどな。にしても、凄いな。撃墜数七百三十二か」

 

「ユウの方が凄いじゃないですか。さっきのやつは、撃墜数九百いってましたよ」

 

「まぐれだろ、まぐれ。それよか、その槍も凄いな。何本あるんだ?」

 

「バススロットに百位かな」

 

「百!? すげぇな」

 

博士…百本も作って何するつもりだったんだ。どこのゲイボルクだよ…

 

「あ、布団。ありがとな」

 

「いえ、構いませんよ…っと、もう四時半ですか。今日はこれぐらいにしときましょうか」

 

「そうだな。腹減ったし」

 

「ふふっ…それじゃあ、束博士を起こして、ご飯つくりましょう」

 

「そだな。んじゃ、行きますか」

 

これからも、こんな日々が続くのだろう。いつか、来る任務のために。

 




今回はこれで終わりです。
次は登場人物設定と、登場機体の設定を投稿します。
多分すぐに投稿します。
それでは、読んで下さった方ありがとう御座います!


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登場人物及び、設定

千代紙 夕音(ちよがみ ゆうね)

 

性別 男

 

身長173㎝ 体重56㎏ 

 

特徴 黒髪、目はやや赤味のかかった黒

 

身体能力 千冬さんより少し弱いぐらい。でも反射神経は千冬さんを超える。

 

覇眼

この世界に来るにあたって、シアが与えた超能力のようなもの。目から入る情報を増幅、見えないものまで見えるようになる。また、反射神経の

副次効果として、脳の処理能力が格段に上昇している。また、反射神経も副次効果として強化されている。

 

身体能力超化

同じく、シアが付与した能力。字面のまんまの能力。体術などの身体能力が大幅に強化されている。

 

性格 温和、敵には容赦しない、お人好し、自分より他人を大切にする、女は少し苦手(シアは対象外)

 

好きな事 遊び全般

 

嫌いな事 裏切り

 

好きな食べ物 美味ければ何でも

 

嫌いな食べ物 甘辛いもの(一部例外あり)

 

趣味 読者、ゲーム、サイクリング、友人と遊ぶこと

 

 

専用IS 夜雪(よゆき)→羅雪(らせつ)

全体的に白い装甲が特徴。関節部分は黒いが、CRADLEシステム起動によってエネルギーの結晶が精製され、感情によって色が変化する。背中には翼が3対ついており(フリーダムのそれ、3つごとにかたまって、付いている)、光の翼を出力できる、アンロックユニット。翼とは別にあるアンロックユニットにはブレイド・ドラグーンを搭載している。また、cradleシステムの起動時は背面に光輪を顕現させる。色が変化するのも関節部分と同じ。

脚部には荷電粒子砲を搭載。ショットシェルに変更することも可能。マルチロックオン・システム搭載。装甲を極限まで、削る事で得た機動力は既存のISを遥かに凌駕し、追従を許さない。

しかしながら、PS装甲と呼ばれる、装甲内部にエネルギーを直接流す装甲により、実弾兵器を無効化、ビーム攻撃にもある程度耐性が出来ている。

アブソリュートエンジン(無限にシールドエネルギーを生産出来るエンジン。束博士が生み出した)により、エネルギー切れは無い。

 

武装

蒼穹白雪(そうきゅうしらゆき)

羅雪が持つライフル。主武装。速射が可能で、ビームを次々と撃つ。砲門が上下に2つ付いており、下の砲門はやや、短い。下の砲門からは、ビームサーベルを出力できる。

 

白月(はくつき)

羅雪が持つビームサーベル。2本を連結させる事が可能。

 

白銀穿牙(はくぎんうがちきば)(羅雪になってから、追加)

羅雪が持つブレイドドラグーン。計24機。扱いながらの戦闘は女神の加護を受けた、彼だからこそできる。

 

輝新(きしん)

羅雪の腰にマウントされたレールガン。普段は折り畳まれている。

 

白亜(はくあ)(羅雪になってから、追加。)

羅刹の陽電子砲。普段は、バススロットに収納されている。

 

神白(かみしろ)

羅雪が持つ対艦刀。形状はアロンダイトビームソードとほぽ同じで、改造が施されており実体刃である所が高速振動刃となっている。普段は、バススロットに収納されている。

 

叢雲(むらくも)(羅雪になってから、追加)

羅刹のミサイル格納庫。ミサイルは計25発。独立機動。普段は、バススロットに収納されている。

 

赤雪(あかゆき)

脚部に搭載された荷電粒子砲、ショットシェルの総称。

 

双対三連(そうついさんれん)

アンロックユニットである翼一つにつき一つ付いている、プラズマ収束砲。合計六個装備されている。

 

ミーティア(みーてぃあ)(羅雪専用。羅雪になってから、追加)

羅雪の強化武装。形状、武装はガンダムSEEDのものと同じ。

 

 

 

 

ワンオフ・アビリティ

宵闇幻葬(よいやみげんそう)

対象のハイパーセンサーなどの感覚器官の感覚を奪い、音も無い黒一色の世界を対象に作り出す。対象は痛覚以外の感覚を奪われる。

 

 

**********************

 

 

シアラ・シルバーベル

 

性別 女

 

身長 158㎝ 体重43㎏

 

特徴 金髪、目は赤がかかった金色

 

身体能力 運動能力は一般的な男性より少し上。反射神経は千冬より少し弱い程度。

 

 

 

性格 温和、慈悲深い、泣き虫、甘えん坊

 

好きな事 千代紙夕と居ること、遊び

 

嫌いな事 束縛

 

好きな食べ物 スイーツ

 

嫌いな食べ物 特になし

 

 

趣味 散歩、名所観光、スポーツ全般

 

専用IS 世界樹→クリア・サンクトゥス

「聴こえぬ聖歌」を冠する機体。背部に巨大な翼が3対生えている。全体的に白いカラーリングで、羽衣のような部分などの要所要所に金色があしらわれている。また、背部の翼は敵のビーム攻撃を阻害する力を持っている。羽も同様の効果を持ち、敵に飛ばすことで効果を発揮する。装甲は、そこまで厚くないが、圧縮型PS装甲(通常のPSを圧縮し、薄くしたもの。重さは圧縮前と変わらないが、防御力が向上している)により、実弾兵器を無効化し、ビーム攻撃にも耐性がある。また、バリアフィールドが機体の周囲を覆っているため、その防御力はまさしく、要塞。羅雪と同じく、マルチロックオン・システム、及びアブソリュートエンジン搭載。

 

武装

メビウスリンク

アンロックユニット。形状は巨大な翼。バリアフィールドの発生元で、ビーム阻害の機能もある。

 

メビウス・フェザー

メビウスリンクの羽。対象に射出することで、ビーム攻撃及び、ビームシールド阻害の効果をもたらす。(ここからは、クリア・サンクトゥスになってから、追加された能力)また、対象のシールドエネルギーを吸収、暴走させ爆発させる。ダメージソースが対象自身のシールドエネルギーであるため、防御不可能。一種の零落白夜ともとれる。

 

クレッセントボウ

主武装。弓の形をしており、矢の形状のビームを放つ。射出後の矢は分散させたりと、コントロールも可能となっている。

 

ラース(クリア・サンクトゥスになってから、追加)

主武装の槍。先端の刃は雷を放つ。カラーリングは全体的に白く所々金の塗装もされている。

 

ダイヤルイーター(クリア・サンクトゥスになってから、追加)

時間喰らい。対象の時間の流れを一時的に操る。ただし、早くしたのなら、その後遅くなると言う、辻褄合わせが起こる。ほぼ、チート能力。

 

 

 

 

 

ワンオフ・アビリティ 

ブレイズ・ノットミセリコルデ(慈悲なき劫火)

エネルギーシールドを攻勢に変換することで、周囲を焼き尽くす劫火を放つ。バリアフィールドが攻撃の元であるため機体を中心に球状に炎が発生する。範囲はコントロール可能。 

 



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駆ける幻影、自責の念

お気に入り8人! ありがとう御座います!
今回は長めです。
では、どうぞ!


 それから、一ヶ月。任務も特になく、平和な日々を送っていた。

 

 二ヶ月。初の任務である、情報収集の任務があった。緊張しつつも、何とか成し遂げた。そこから得た情報を追い、更に任務を遂行した。

 

 三ヶ月。情報収集を繰り返し、やがて、1つの場所へたどり着いた。そして……

 

 

成層圏ぎりぎりを光学迷彩を付けてシアと共に移動している。この三ヶ月間、情報収集を繰り返し敵の実体を掴んだ。今向かっているのは、その本拠地。ISの無人機を研究、製造している場所だ。国はドイツ。

 束博士が造り出したIS。その無人機造ったならば、大きな進歩かも知れない。が、問題は、件の研究施設に沢山の子供が連れ去られていることだ。

 表向きは病院、それも、1年前から始まった、金のない家庭の子供たちの為の病院。つまり、スラムなどに住む子供のための病院、と言うことになっている。

 しかし、未だに病院から出てきた子供はゼロ。1年経っているのにもかかわらず、だ。

 これはおかしな話だ。治療に1年かかることもあるだろうが、全員がそうであるはずがない。

 このことが表すこと、それはつまり…子供たちは人体実験に使われている可能性がある、と言うこと。

 この可能性を裏づけたのが、先の任務で入手した、病院の内部構造だった。

 

『もうすぐで、目標だよ。気を付けてね』

 

 博士からコアネットワークに通信が入る。

 

『はい、わかりました、束博士』

 

『もちろんだ、必ず生きて帰るよ』

 

『あはは、ゆーくんは大袈裟だね。でも、油断はしないでね。情報では、無人機が六体居るらしいから』

 

『了解了解。それじゃ、行ってくるよ。シア、準備は?』

 

『大丈夫。いつでも行けるよ』

 

『よし、行くぞ!』

 

 目標のポイントに到達したので、下降を始める。雲を突き抜け、地上が見える。目標の研究施設を目でも確認する。

 

『ドイツ軍のIS部隊が演習をやってる。見つかると厄介だから、ブースターを使うのは、木の陰に入ってからのがいいかな。それでも隠しきれるかわからないけど』

 

『『了解』』

 

 自由落下で降りてるから、スピードのコントロールがきかないが、問題無いだろう。

 地表が見る見るうちに近づいてくる。

 

『カウントするぞ。………3…2…1…いまだっ』 

 

 減速による強烈なGが襲って来るがISなので問題ない。

 レーダーで先方の動きを観察する。

 

『動かないな…気付いてないのか、気付いてるのか、判断できないな』

 

『取り敢えず、進もう。もうすぐで目標なんだし』

 

『ああ』

 

レーダーで先方の動きを観察しつつ、進むことにした。目標はこの先にある渓谷の端にあるはずだ。

 念のため、ブースターは使わずPICで移動する。光学迷彩も忘れずに。

 

 ものの十分で目標に到達した。情報ではこの崖の内部に研究施設が有るはずだ。

 ここまでは、ドイツ軍に動きは無い。一旦、ISを解除して入り口から乗り込む。服は博士特製の防弾服で、至近距離でショットガンを撃たれでもしない限りダメージは無い。衝撃は受けるだろうが。

 手押しドアを開けて、内部へ侵入する。内部は電気も点いておらず、昼間だというのに薄暗く、気味が悪い。内部はなかなか凝った作りで人が居れば病院として機能しそうな程だった。

 監視カメラやガードロボットのも警戒しつつ慎重に進んで、地下へ進む扉の前まで来る。この三ヶ月の潜入のせいか、隠密行動はお手の物だ。

 目的の扉には手術室と書いてあった。皮肉なものだ。この先で行われているのは、手術ではなく改造なのだから。

 ここでISを起動。扉を破壊し、研究施設に侵入する。

 まず、見たのは巨大なポットだった。中には、人影が見える。それが、無数に並んでいる。1つのポットに近づいて中を見ると、少女が入っていた。他のポットを確認すると全く同じ顔の少女が入っている。

 

『クローンか…!』

 

 なんてことを。命を人工的に増やすなど…!

 しかし、止まっている時間は無い。侵入はもうばれているだろうが、防衛などされるのは避けたい。

 

『そんな……こんなことって…!』

 

『シア、気持ちはわかる。けど、早く進まないと』 

 

『うん、分かってる』

 

この研究施設は完膚無きまでに破壊しなければなるまい。こんな技術は残してはおけない。

 その後も、また違う少女の入ったポットを何個も見た。

 脳だけが入った小型のポットが何個も並んでいる部屋もあった。それを見る度にやるせない気持ちが募っていく。心の内にふつふつと怒りがこみ上げてくる。

 程なくして、最深部に到達した。ここまで、研究員を一人も見ていない。シェルターに避難しているのだろうか。

 が、目前には広いエリア。そして、怪しくモノアイを光らせる6機の無人機。破壊対象だ。すぐに潰す。

 

 6機の無人機は先制攻撃とばかりに、巨大な左腕のビーム砲を放ってきた。

 俺とシアは難なく回避し、反撃に出る。光学迷彩を切り、両手の武装をビームライフル(蒼穹白雪)を呼び出し、狙撃する。シアもクレッセントボウを呼び出し、応戦する。

 しかし、無人機も簡単にはやられてくれない。回避して、再びビーム砲を撃ち込みながら、接近してくる。

 それを回避しつつ、左手の武装をビームサーベル(白月)に持ち替え、近くの無人機に斬りかかる。

 

「うおおぉぉぉお!」

 

 回避出来ないと踏んだのか、巨大な左腕を持ち上げガードしようとするも、白月はそれを切り裂き、零距離でビームライフル(蒼穹白雪)を撃つ。僅かに機体をよじったのか、胸部に直撃とはならなかったものの右腕を吹き飛ばし、武装解除する。が、頭部に搭載されたスピア・ニードルを悪足掻きの用に連射してくるも、レールガン(赤雪)を展開し無人機のコアを破壊する。この間僅か七秒。この分ならすぐに終わるだろう。

 見れば、シアもラースで無人機のコアを破壊したところだった。

 

「次は、お前だっ!!」

 

バススロットから対艦刀(神白)を取り出し、2機目の無人機に投げつける。腹部にビーム刃が食い込み、無人機の動きが停止する。右手のビームライフル(蒼穹白雪)もバススロットにしまい、無人機に刺さっている、神白を掴み振り抜くと、上半身と下半身が分かれる。更にブレイドドラグーン(白銀穿牙)で追撃し、バラバラに解体する。

 同じISとは言っても、片や今の技術を詰め込んだだけのIS。片や女神が創り束博士が改造したIS。性能の差は歴然だ。

 だが、今の技術を詰め込んだだけとは言え、やはりそれなりの性能は有る。背後を取られ、ビーム砲を受ける。ブレイドドラグーン(白銀穿牙)で防げたが、衝撃はそれなりだった。下から、接近する機体も見える。

 

「ちっ」

 

 覇眼を使い、攻撃を見極める。

 眼前の機体が放つニードルをビームシールドで受けつつ、ビームライフル(蒼穹白雪)をコールし、下の機体に向けて撃ち牽制する。

 そのまま、眼前の機体にビームシールドを押し当てニードルを詰まらせる。頭部が爆発により吹き飛び、四肢もブレイドドラグーン(白銀穿牙)で破壊する。

 下の機体が放ったビームを機体を捻って回避するが、下に目線を動かしたとたん、覇眼がとんでもないものを捉えた。それは…

 

「───っ!!」

 

それが何かを確認した瞬間、俺は、シアのもとに機体を動かした。

 

 

──────────────────────

 

 

シアside

 無人機をラースで斬りふせる寸前だった。

 突然、ユウに突き飛ばされた。羅雪のスピードが全て乗っていたから、勢いを殺しきれない。吹き飛ばされている中、ユウの顔を見る。

 笑っていた。こちらを見て安堵したように笑っていた。

 壁に激突する寸前、ユウが光に呑み込まれて見えなくなる。白い、ただ白い光だった。

 そのまま、壁に激突する。背中に衝撃が伝わってきたが、そんなものを意識している余裕はない。

 

「そんなっ…ユウーー!!」

 

 光に呑み込まれた思い人の名を叫んだ。

 

 

──────────────────────

 

 

千代紙夕音side

「さすがに無茶だったかな」

 

 凄まじいエネルギーの奔流の中で思う。ブレイドドラグーン(白銀穿牙)のエネルギーフィールドを発動させているが、長くは保たないだろう。

 あの時、床の下に臨界状態の巨大ビーム砲を見たのだ。研究員が居なかったのは、元からこの施設をこうして破棄するためだったのだろう。

 確かにこうすれば、証拠はすべて消せる。万が一、侵入者が生き残ってもこれの犯人に仕立て上げられる。

 エネルギーフィールドが軋み、歪み始める。

 死ぬつもりはないが、やばいかも知れない。少なくとも重傷を負うことは間違いない。

 けど、まあシアを守れたんだ。それで、良しとしよう。

 エネルギーフィールドが破壊され、ビームシールドを展開する、俺に光が迫って来た。

 装甲が破壊されていく。凄まじい奔流に足が持って行かれそうになる。

 

「う…おぉぉぉぉおおおっ!!」

 

 雄叫びを上げ、自らを奮い立たせる。意識を繋ぐ。

 されど、光は終わりを見せない。

 震える機体。限界は更に近づく。

 されど、負けない。この力はそんな柔なものじゃない。

 そうさ、博士の言う「凡人」の兵器に負けるほど、弱く出来てねぇんだよっ! 

 そして、終わりは唐突に訪れる。

 光は収束し、景色が戻ってくる。色が戻ってくる。そこに、「白」を見つけて、俺は心から安堵した。

 だから、気付けなかった。白い光から逃れていた無人機だった物に。

 

 

──────────────────────

 

 

無人機side

 下半身、及び左腕損失

    →目標の破壊不能。

 

 頭部、損害ゼロ 

    →スピア・ニードル起動

   目標を攻撃。

     全残存エネルギー、スピア・ニードルへ。

      一本生成が、限界。

 

     装填。     

           発射。

 

    ガ、ガガッ 

 

命中 、確に

 

 

──────────────────────

 

 

千代紙夕音side

「ぐっ、あ」

 右眼に、鋭い痛みがはしる。眼が開かない。いや、見えないのか。

 

「くそ、がっ…!」 

 

シールドエネルギーが残っていなか、ったからだろう。無人機の攻撃を防げなかった。

 博士の造り出した「アブソリュートエンジン」のより、シールドエネルギーは回復するが、先の巨大ビーム砲により回復が追いつかなかった。

 

「ユウっ」

 

シアの声が聞こえる。痛みを堪えつつ何とか答える。

 

「大丈夫だ。それよりドイツ軍が動き出した可能性が大きい。早く離脱しよう」

 

「でも、その怪我じゃ」

 

「大丈夫だと言っている。行くぞ」

 

 激痛がはしる。でも、ここに居れば確実にドイツ軍に見つかる。それは、束博士の存在が公表される危険を意味する。それだけは、避けなければ。

 

「…わかった。けど、無茶はしないで」

 

 それこそ、無茶だ。飛行するのすら無茶なのだ。無茶をしなかったら、現状、何も出来ない。けれど、口にはしない。心配をかける訳には行かないから。

 

「ああ、わかっている」

 

 そう言って、回復したシールドエネルギーを使い脱出する。シアはそれに追随する。

 正直、帰れるかは不安だった。

 

 

**********************

 

 

 目を開ける。最早、見慣れた天井だ。

 あの後、どうなったのか、あるいは、どうやって帰ってきたのか記憶がない。

 確かなのは、ここが博士の隠れ家だということだけだ。

 視界が半分無くなっていることに、改めて右眼が無くなったのだと実感する。

 体中包帯で巻かれていて肌が見えるのが顔の左半分と首、右足と右手だけという有様だ。かなりの重傷で体を動かす事すらままならない。やっとのことで体を起こす。

 帰ってきて、何日経ったのか。寝ていたのがどの位なのかもわからない。

 

「うぅん…」

 

 死角となった右側から声が聞こえた。首を動かしそちらを見る。

 シアがいた。その事が無性に嬉しく思えた。自分の隣にいてくれた事がとても嬉しかった。

 ベッドに突っ伏すように寝ていた彼女が目を覚ます。顔を上げて、目が合う。

 

「おはよう、シア」

 

「ユ、ウ…?」

 

 

──────────────────────

 

 

シアラside

「おはよう、シア」

 

 いつの間にか寝ていたようだった。目を覚まして顔を上げたら、ユウが起きていた。

 

「ユ、ウ…?」

 

 声がもれる。包帯で右眼がおおわれた顔で、微笑んでいた。

 視界がぼやける。たまらず、抱き着こうとして、体を止める。自分のせいでこんなにも傷つけたのに、触れる事なんて出来ない。そんな権利は、ない。

 嬉しかった。帰ってきてくれて。

 けれど、私はもう、触れる権利はない。

 そう考えた途端、この部屋に居ることが、つらくなった。

 彼を傷つけたお前がなぜここに居る? と、そんな言葉が聞こえてくる気がした。

 ここに居てはダメだ。そう思って、部屋を出ようと、立ち上がる。

 「シア?」と、ユウの声が聞こえた。けれど、それに答える事すら出来ない。声を聞いて胸が苦しくなる。

 

「っ───」

 

 走って、部屋を出る。ドアを勢いよく開けて廊下を走る。何処か一人になれる場所を探して。

 

 

──────────────────────

 

 

千代紙夕音side

「シア?」

 

 そう声をかけた途端走って部屋を出て行ってしまった。

 勢いよく開けられたドアがけたたましい音を上げる。それはまるで、彼女の心を表しているようで、いつまでも耳に残った。

 追いかけなければ。そう思っても、動かそうとすると身体が悲鳴を上げる。身体が動くのを拒む。

 彼女がなぜ、出て行ってしまったのかは、わからない。けれど、彼女が傷ついているのは、わかる。

 なら、やることは決まっているだろう。痛みを堪えつつ何とかベッドから降りる。点滴を支えにして、歩き出す。

 何処にいるのかは、わかっている。そこに向けて歩いていく。

 

 

**********************

 

 

「うぅ、ぐす…うぁぁ、くぅ」

 

「やっぱり、ここに居たか」

 

「え、あ…ユウ…?」 

 

 ここは、ガラクタ部屋。博士が造った部品やら、試作品やらが置いてある、人が滅多に来ない部屋だ。

 シアの隣に座ると、シアが声をかけてくる。

 

「何で、わかったんですか…?」

 

俯きながらそう聞いてくる。

 

「この世界に来てもう、四カ月になるんだ。その間、ずっと一緒に居たんだぜ? シアのことは、シアの次位にはわかってるつもりだよ」

 

「…一番って、言わないんですね」

 

「自分の事は自分が一番よくわかるもんだからな。それでだ、シア、俺にはあの時シアが部屋を出て行った理由がわからん。けど、傷ついているのはわかるんだ」

 

「………」

 

「俺が何かしたんだったら、そう言ってくれ」

 

「違う…違うよ…私が、悪いんだ。あの時、私が巨大ビームに気づけてれば、ユウが傷つく事も無かった。私のせいでユウが傷ついたんだ…だから……」

 

「あれは、俺が勝手にやった事だろう。シアが気にすることなんて、ない」

 

「でも、怖かった。帰るときも、無茶してたの知ってるんだ。無茶しないで、なんて言って……結局は私のせいなのに。帰ってきて、ユウが倒れた時このまま目を覚まさないんじゃないかって、もう帰って来ないんじゃないかって、思って…」

 

 吐露は続く。 

 

「だから、ユウが目を覚ましたとき、嬉しかった。帰ってきたんだって思って。でも…だめだった。私が傷つけたのに、触れる権利なんてないって…。聞こえるんだ、何でお前がそこに居るんだ、って声が」

 

「シア…」

 

「だから、私は…っ!?」

 

 聞いてるのがつらかった。だから、言葉で表すよりも行動で示した。

 シアを抱き寄せて、顔を上げさせて、その唇に自分の唇を合わせた。涙で濡れた瞳が見開かれている。

 腕の中で、強張っていた体から力が抜けていく。

 ゆっくりと唇を離して、瞳を見つめる。

 

「ユウ……」

 

「シアが気に病む必要なんて無いんだ。あれは、俺がしたことなんだから」

 

「でも…」

 

「でも、もない。シアは悪くない。それでいいんだ。だから、言わせてもらうよ。ただいま」

 

「ユウっ……!」

 

細い腕が体に回されて、痛いほどの力がこめられる。

 というか、怪我のせいで激痛がはしってる。けれど、今は大して痛いと思わなかった。

 

 

 

 

 この後、部屋に戻る途中束博士に見つかり、絶対安静って言ったでしょ!!と、こっぴどく叱られたのは別の話である。

 




やばい、話のストックが無くなった。
なので、少し更新が遅くなります。
すみません! 
次回からはIS学園編に入ろうと思います。
展開急で、ごめんなさい。


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IS学園と青の雫
出発


ISの原作と合流です。
書き忘れましたが、主人公は原作をほとんど知りません。読もうとして、まとめ買いした日にお亡くなりになった、と言う設定です。
束博士や、織斑一夏等の基本的な所は知っていますが、シャルルがシャルロットだった、みたいな細かいところは知りません。
それでは、どうぞ~


 あれから、更に1年。

 数々の任務をこなし、実戦にも慣れ、被弾回数は最早、0だ。

 そもそも、あの時の巨大ビーム砲が特異だっただけなのだが。

 ちなみに、右眼は義眼を使っている。博士が作ってくれたものだが、ISから流用したハイパーセンサーが使われているため、意識すれば360度死角はないし、IS学園を全てスキャンも出来る。

 さて、今俺たちが立っているのはいつもの隠れ家じゃない。ここはIS学園の前だ。そして…

 

「むふぅ、ついにIS学園入学だねぇ」

 

なぜか束博士までいるのだ。まあ、それはいい。いや、よくはないが。

 問題はその格好だ。服はいつものエプロン姿、頭にはウサ耳、極めつけはぐるぐる眼鏡だ。変装する気はあるんだろうか。

 

「にしても、随分急な話ですね」

 

隣に居たシアが言う。

 それもそのはず、この話を聞いたのはつい昨日なのだから。

 

 

**********************

 

 

 昨日、部屋で昼寝をしていたら急に博士に呼ばれたのだ。何事かと思ったら、「明日から、IS学園に通ってね!」とか言われたのだ。更には、「私もIS学園に引っ越すよ」なんて言い出したのだ。

 IS学園に通うのはまだいい。けど、引っ越すとは何ぞや。

 それを言うと、何でも、IS学園は世界から独立しているし、ISを扱っている環境があるため、研究やら何やらに丁度いい場所なんだとか。

 

「それに、保護者が近くにいないとねぇ」

 

 この言葉を聞いたとき、一発、殴ってやろうかと思った。

 むしろ、俺らが居ないと暴走するだろう。ISの研究とやらで爆発を起こして、ラボを半壊させたのは記憶に新しい。

 俺が、半眼で睨むと「ゆーくんは素直じゃないなぁ」とか言われた。何をどうしたら、そうなるんだ。

 

「引っ越すのはいいとして、IS学園にそんな場所在るんですか?」

 

 シアが質問する。それも大きな問題だろう。

 

「えっ、作るんだよ?」

 

「「…は?」」

 

 博士の話を要約すると、IS学園内に家を建てるつもりらしい。

 

「そんなことしたら、追い出されるでしょうに」

 

「ふっ、IS学園がそんな強行策にでれると思うかい? この、束さん相手に」

 

 あ、そうだった。この人、天災なんだった。最近、馬鹿が全面に出てて完全に忘れてた。

 

「と、言うわけで…ラボの荷物まとめてね!」

 

「「自分でやれよ(やってくださいよ)!」」

 

 

**********************

 

 

 と、まあ一悶着あったわけだ。

 はぁ、周りの視線が痛い。明らかにこっち見てるよなぁ。

 多分、周りの人は束博士のコスプレした人と思われてるだろう。

 シアからも、コアネットワークで通信が入る。

 

『ユウ、周りの人の視線が…』

 

『…わかってる、皆まで言うな……』

 

『逃げます?』

 

『いや、追いかけ回されて、余計な恥をかくだけな気がする』

 

『そうですね…』

 

その後、入学式まで奇異の視線に曝されることとなった。

 

 

**********************

 

 

入学式が終わり、博士が、「家建てる場所を見繕ってくるね」と、何処かに消えていった所でやっと博士から解放された。

 今は、俺達は一年一組の教室へ向かっている。今日が既に憂鬱になりかけている状態だが。

 

「はぁ、疲れた…」

 

「同感です。もう、休みたい…」

 

 教室に到着して直ぐに机に突っ伏す。だらしないと思うか? なら、数時間、奇異の視線に曝され続けてみろ。

 本気で、やばい。視線に攻撃力があったら軽く、100回は殺されているだろう。

 シアは座ってはいるが、こめかみの辺りを手で押さえている。やっぱり、疲れてるんだろう。

 それから、数十分後。

 

「えーと、大丈夫か?」

 

男の声が聞こえる。このIS学園に置いて、男は俺ともう一人しか居ない。

 

「難なら、保健室でも行ってきたらどうだ?」

 

「いや、大丈夫だ。精神的に疲れてるだけだから」

 

体を起こしながら答える。

 

「そっか。俺は織斑一夏、よろしくな」

 

隣の席に座りながら、自己紹介をしてくる。

 

「俺は、千代紙夕音だ。よろしく」

 

俺達は軽く握手をして、雑談を始める。

 

「にしても、俺以外に男がいるなんてな。一人じゃなくて安心したよ」

 

「ああ、ほんとにな。女だらけなのは、精神的にクるだろうし」

 

 世間一般では、ハーレムだのなんだのと言われるが、そんな生ぬるいものじゃない。

 周りが女子しかいないと、色々問題が発生するのだ。

 しかも、同性がいないのは精神的にきついものなのだ。

 

「にしても、織斑…くん? は何でISを触れたんだ? 男がISに触る機会なんて、そうそうないだろう」

 

「一夏でいいよ。俺も、夕音って呼ばせて貰うな。ああ、それでな『藍越学園』と『IS学園』って…似てるだろ?」

 

「まさか、間違えたなんて言わないよな…?」

 

「そのまさか、なんだよ」

 

「……」

 

 嘘だろ…藍越学園とIS学園を間違えるなんて。

 なる程、こいつはトラブルメーカーと見た。ラッキースケベとか、そのうち起こすんじゃないだろうか。

 

「まあ、入れたし結果オーライだな」

 

「そ、そうだな…」

 

 俺は引きつった笑いを浮かべた。

 

「そらより、さ。…皆こっち見てるよな、これ」 

 

「ああ、間違いなくな」

 

そりゃ、男子が二人だけというのは否が応でも目立つ。しかも、なぜか変な緊張感が漂っており、物凄い静かなのだ。その中で、話してたなら、なおのことだ。

 しかし、いつの間にか入ってきたのか。俺とシアが来たときはまだ人がほぼ居なかったはずなのだが。

 

(沈黙が痛い…)

 

 静か過ぎだろう、幾ら何でも。そこまで緊張するか…。

 そんな中、救いの手が差し伸べられる。

 

「全員そろってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」

 

教室に入ってきながら、眼鏡を掛けた教師が入ってくる。なんとなく、気の抜けた声だ。

 服も若干でかいし、柔らかい印象の人だな。

 

「それでは皆さん、1年間よろしくお願いしますね」

 

「……………」

 

 おい、誰か反応してやれよ。この無駄な緊張感もどうにかして欲しい。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

 若干、うろたえてる。さすがに、かわいそうじゃないか。

 

「は、はい。青笹……」

 

 窓の外へと目を向ける。澄みきった青空。遅咲きの桜の花弁が舞っているのが見えた。しばらく、そうしていると、

 

「……くん。織斑くんっ」

 

「は、はいっ!?」

 

隣から素っ頓狂な声が聞こえた。

 

「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 

柔らかい印象の人だったが、幾ら何でも柔らかい過ぎだろう。ゼラチン入れ忘れたプリンぐらい柔らかいぞ。いや、それもう卵と牛乳と砂糖の混合汁か。

 

「あ、す、すいません。今します」

 

 そう言って一夏が立ち上がる。すると、女子の目線が一斉に一夏に突き刺さる。

 

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 シンプルな挨拶をする一夏。しかし、女子の視線はまだ一夏から離れない。

 その視線の意味は……『もっと色々喋ってよ』、だろう。多分…。

 

「……………」

 

 その視線を理解しているのか、いないのか一夏は固まっている。趣味とか無いのだろうか。

 

「以上です」

 

 がたたっ、とずっこける音が聞こえる。期待しすぎだろ…。

 しかし、横から、スパァンッといい音がした。

 

「げえっ、関羽!?」

 

 スパァンッ。2度目の打撃音が反響する。にしても、関羽とは? 三國無双でもやり過ぎたのだろうか……

 

「三國志の英雄などおらん。そして、織斑。自己紹介も満足に出来ないのか」

 

「い、いや、だって千冬姉……痛ってぇええ!?」

 

スパァンッ。3度目。なんだ、あの出席簿は。何製だよ。

 

「織斑先生だ」

 

そう言って、教卓の前に歩いて行き口を開く。

 

「諸君、織斑千冬だ。私の言うことをよく聞き、理解するように。出来ないのなら、出来るようになるまで指導してやる。いいな」

 

 何だ? 教室がえらい静かなん……

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 ぐぁぁあ!? 耳がっ、耳があぁぁあ!?

 

「ファンなんですぅぅうう!!」

「本物よぉおぉぉぉおおお!!!」

「罵ってぇぇぇええぇぇええええ!!!」

 

何だ、この高周波はっ!? 耳がやられるところだったぞ!? と言うか、最後やばいのがいた気がする。

 

「毎年毎年、私のクラスには馬鹿が集まっているのか?」

 

額に手を当てて嘆息する織斑先生。苦労してるな。

 

「席に着け、自己紹介を続けろ」

 

『はいっ』

 

 えらい揃った敬礼だな。軍隊出身かお前らは。

 

 その後、自己紹介は続きSHRは終わったのだった。

 

 

**********************

 

 

 一時限目。基礎知識、つまりは学活だ。学校のカリキュラムやら、寮のルールやら、そんなことが話される。そして、話がISに移ったとき、事件は起こった。

 

「ここまでで、質問はありますか?」

 

 山田先生が生徒達に質問を促す。教え方が上手くて分かり易いし、初歩の初歩だ。入学にあたって渡されたらしい参考書(さっき、山田先生が渡しにきてくれた。入学が急だったので、持ってないからとのこと)があれば余裕だろう。必読って書いてあったし、皆予備知識はあるはず。俺は、束博士のもとにいたから、余裕だ。

 

そんな中、一夏が手を上げる。

 

「はい、織斑くん」

 

「全然わかりません」

 

「ええ!?」

 

先生が驚いている。俺も驚いたがね。

 

「ほ、他にわからない人は、居ますか…?」

 

誰一人、手を上げない。それはそうだろう。さっきも行ったが、参考書を読んでいるはずだからな。

 ここで、織斑先生が一夏によってきた。

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

「ジャンプと間違えて捨てました」

 

 スパァンッ。本日四回目の出席簿アタックだ。技の切れは流石は世界最強のブリュンヒルデだ。にしても、ジャンプって……ジャンプより分厚い気がする。

 

「再発行してやる。1週間で覚えろ」

 

「あの分厚さを1週間は、さすがに…」

 

「やれ」

 

「……はい」

 

 怖ぇ。しかしなぁ、さすがにかわいそうじゃないか…。

 

「一夏、わからないことがあったら教えてやるからな」 

 

「助かるよ…」

 

ひそひそと話す俺達。

 授業後、一夏の頭から煙が出ていたのは、見間違いだろう……多分。

 




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では、また次回(。・ω・。)ノシ


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戦いの予兆

お気に入り登録15人、UA1000人突破!
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今回は、セシリアと決闘することになる回です。
では、どうぞ! (`・ω・´)


 一時間目の休み時間。俺はシアと話していた。

 

「ふぁぁあ、寝ないようにするのが一番難しい」

 

「集中ですよ。集中すれば眠くなりませんから」

 

「だってなぁ、もう知ってることだし……」

 

「それでもですよ。そんなことだと、いつか織斑さんに抜かされますよ」

 

 想像してみよう。勉強が出来る一夏を。………………ダメだ、イメージ出来ない。

 

「それは…ないな。うん」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「あ、二時間目が始まりますね。そせれじゃあユウ、また後で」

 

「おう」

 

 にしても……俺達を遠巻きに見るのは止めて欲しい。俺は動物園のパンダじゃないんだぞ。チャイムがなったから、自分の席に戻っているが。

 廊下でも、一夏と箒と呼ばれていた女子が話していたようで、俺達を見る女子はまだ少なかった。

 

 そして、二時間目が始まる。相変わらず、ISの説明で一夏がダウンしていた。俺は、集中して眠気を抑えるのに精一杯だった。

 そんな二時間目が終わり、再びの休み時間だ。ダウンしていた一夏は少しだけ回復していた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「ん?」

 

「へ?」

 

 立て巻きロールの金髪、碧眼のいかにもお嬢様と言ったような、女子突然話してきてきて、素っ頓狂な声を二人揃って上げる。

 ……俺の勘が告げている。なにか、面倒なことになる、と。しかし、逃げたくとも、件の女子に道を塞がれている。嗚呼、無情なり。

 

「訊いています? お返事は?」

 

「訊いてるけど……何の用だ?」

 

仕方なく、俺が答えると女子はわざとらしく声を上げる。

 

「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

 ほらな、既に面倒くさい。こういう、お嬢様の相手は疲れるんだよなぁ。しかも、他人を見下してる感がすごいし。

 

「ああ、悪い。誰だか知らないかならな」

 

「わたくしを知らない? イギリス代表候補生のこのセシリア・オルコットを!?」

 

「知るか、そんなもん。自分の名前が世界に轟いているとでも思ってんのか」

 

「な、な、な、なんですの!? わたくしとクラスが一緒なだけで、奇跡的な事だというのに、その言いぐさは!?」

 

「へー、そいつはラッキーだなー」

 

 面倒なので、適当に棒読みで返す。

 

「ふざけてるんですの!? あなたは、男でISが操縦出来るというだけで入学したんですの!? もっと、知性あふれる方を想像してましたわ!!」

 

 声でけぇよ。ほら、まわりの女子が引いてるから。

 

「勝手に想像しとけ、そんなもん」

 

「あなたねぇ!?」

 

 ここで、今まで蚊帳の外だった一夏が、セシリアに話しかける。

 

「あー、すまん。質問いいかな」

 

「っ──! なんですの?」

 

「代表候補生って、何?」

 

 素晴らしいタイミングで爆弾投下したな、一夏。

 

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

 

「おう、知らん」

 

「信じられませんわ! 極東の島国はここまで未開なんですの!? テレビすらないんですの!?」

 

「テレビ位あるわ。見ないけどな」

 

 いや、一夏さすがにテレビ位見ようよ。俺も人のこと言えないけどさ。隠れ家でに、テレビ無かったし。

 

「ふん。まあいいですわ。わたくしは優秀なのですし、優しいですから、泣いて頼まれればISのこともを教えて差し上げてもよくってよ。何せ、入試で唯一の教官を撃破したものなのですから」

 

 入試? あのIS動かして戦うやつか? それなら……

 

「俺も倒したぞ」

 

 面倒だったから、一撃でダウンさてやった。まわりの人が呆然としてたけど。

 

「あ、俺も倒した」

 

 一夏もか。やるなあ。

 

「…わ、わたくしだけと聞いていたのですが?」

 

「女子ではってオチなんじゃないか?」

 

 ピシッ。何だろう、硝子かなんかにヒビが入ったような音がした気がする。

 

「あ、あなた達まで……」

 

 プルプルと震えているセシリア……なんだっけ? まあいいや、耳塞いどこ。高周波がくるだろうし。

 

「あなた達ま───」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 ナイスタイミング。三時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。

 

「っ────!! またあとで来ますわ! 逃げない事ね! よくって!?」

 

「はいはい、わかったよ」

 

 適当に返す。いや、まあ本当は来んなって話なんだけど。

 

「さて、では授業を始めるぞ」

 

教卓には織斑先生が立っていた。あれ? 山田先生はノート持ってるな。そんな、重要のことを話すんだろうか。

 

「が、その前に再来週の行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

 

対抗戦? そんなもんまであるのか、この学校は。

 

「クラス代表者は、対抗戦に限らず生徒会の開く会議や委員会への出席がえる……まあ、クラス長だな。クラス対抗戦はクラスの実力推移を測るものだ。一年間変わることは無いからそのつもりでな」

 

クラスがザワザワし始める。ふむ、クラス長か……。面倒くさそうだな、やりたくない。

 

「はいっ、織斑くんを推薦します!」

 

「私は、千代紙くんを!」

 

 そうか、そうか……まて、何故俺達をクラス長にしようとする。やめろ。本気でやめてくれ。

 

「ふむ、織斑と千代紙だな。他にいないか? 自薦他薦は問わないが。…いないなら、決選投票を行うぞ」

 

「ちょっ、待ってくれ。俺はそんなのやらな──」

 

 一夏も焦ってる。そりゃ、ISの事をほぼ知らないんだし焦るよな。

 

「自薦他薦問わないと言った。他薦された以上、拒否権は無い。覚悟を決めろ」

 

「あ、いや、でも──」

 

「納得いきませんわ!」

 

 えーと、セシリア……某でいいや。それで、セシリア某さんが机を叩いて立ち上がった。

 いいぞ、もっとやれ。

 

「そのような選出は認められません! 男ごクラス代表だなんて、いい恥さらしですわ! わたくし、セシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 あ、オルコットだったか……あれ?

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ! いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ! 大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で──」

 

 イラッときた。俺は基本的に温厚だ。面倒くさいのも嫌いだしな。

 でもな、自分が一番、自分こそが絶対とか思ってるやつは本当に嫌いなんだ。

 更に言えば、ああいう風に力をなりふり構わず振るうやつは更に嫌いだ。

 守る力、助ける力。力には様々な種類があると思う。けど、それを誰彼構わず振るうならば、それは力じゃない。ただの暴力だ。

 

「猿だなんだってうるせえな、立て巻きロール。自分大好きなのはよくわかったから、黙れよ」

 

「何ですって!?」

 

「黙れって、言ったんだ。そんなに、クラス代表やりたいんだったらやれよ。一々小言を言わないと死ぬのか、お前は。それと、イギリスも島国だろうに」

 

「あっ、あっ、あなた!! わたくしとわたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「人の祖国に侮辱しといて、その言いぐさか。これだから、自分大好き人間は」

 

 すると、セシリア・オルコットは顔を真っ赤にしてこっちを睨んできた。

 

「決闘ですわ!」

 

 机を勢いよく叩くセシリア・オルコット。(長いからもう、セシリア某でいいや)手は痛くないのだろうか?

 

「いいぞ。騒がれるよりましだ……それで? ハンデはいるか?」

 

 そこで、クラス中から笑いが起きた。

 

「千代紙くん、さすがにそれはっ…ぷすっ」

 

「本気、本気なの?」

 

 あー、そうか。こいつらは、俺の過去を知らないんだった。(世間一般では

『破壊の天使』とか言われてるらしい。厨二くせぇ)

 

「本気ですの? ハンデ等つけたら、それこそ勝負になりません事よ?」

 

「要らないなら、それでいいけどな」

 

「ふふっ、では剣一本で戦え、と言ったらどうしますの」

 

「それで戦うけど?」

 

 すると、セシリア某は今度こそはっきりとした嘲笑を浮かべた。

 

「まあ、いいですわ。わたくしは優しいですから、ハンデはつけないであげましょう」

 

「そうか、それじゃあそれでいいぞ」

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は1週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。千代紙、織斑、オルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

「やっぱ、俺もなのか……」

 

隣で一夏がぼやいていた。

 

 

**********************

 

 

 さて、放課後だ。が、何だこの有様は。昼休みもそうだが何故こんなにも人が集まる!? まんま、パンダじゃないか。ちなみに何故教室に残っているかというと、先生に言われたからだ。一夏もね。ちなみにシアは先に寮に向かわせた。こうなることが、わかっていたからな。

 

「あ、二人とも。お待たせしました。これが寮の鍵です」

 

 俺達は番組の書かれた鍵を受け取った。

 

「それじゃあ、時間を見て寮に言ってください。千代紙くんの荷物は部屋にもう、置いてあります。織斑くんのは、織斑先生が手配してくれたようなので。それでですね、夕食は六時から七時に一年生用の食堂で取ってください。シャワーは各部屋に備え付けですから。…えっと、大浴場は今のところ二人は使えません」

 

「わかりました。ありがとう御座います」

 

「いえいえ、先生ですから」

 

 先生にお礼を言って立ち上がる。取りあえず部屋に行くか。

 

「夕音もいっしょに行くか?」

 

 一夏に声をかけられる。

 

「そうだな。取りあえず」

 

 俺達は寮へと向かうことにした。

 

 

**********************

 

 

 しかし、部屋に向かう途中あることに気が付いたのだ。それは……

 

「1025じゃない?」

 

「ああ。俺のは1030になっている」

 

 そう、部屋の番号が違うのだ。男子なんだし同じ部屋だと思ってたんだが……。

 

「まあ、いい。明日、先生に聞いてみよう」

 

「そうだな。千冬ね…織斑先生にでも聞いてみるか……っと、ここか。それじゃあ、夕食の時に呼びに行くよ」

 

「おう。じゃあな」

 

 そして、すぐに俺も部屋の前までやってきた。

 

「不安だ……」

 

 元の世界でも、ろくに人と会話してなかったのだ。しかも、相手は女子。

 

(やれるのか……?)

 

 ………ええい、迷っていても仕方ない。ままよっ!

 

「入って大丈夫か?」

 

 ドアをノックし、中の人に確認を取る。着替え中だったらヤバいしな。

 

「ああ、うん。どうぞ、開いてるよ」

 

 聞き慣れた声が耳に入ってきた。もしかして……

 

「あ、ユウ。ユウが相部屋なんだね」

 

 シアが居た。

 

「よかった。シアが相部屋で………他の女子だったら死んでるところだった」

 

「うん、私もユウと相部屋で嬉しいよ。よろしくね」

 

 そう言って、笑うシアはものすごく可愛かった。

 まあ、俺達の生活は、結局今までと変わらないようだった。

 




次回も早めに投稿したいですね。
何とか頑張りましょー!
それでは(。・ω・。)ノシノシ


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戦いの予兆[2]

お気に入り20人! まさかここまで行けるとは……
本当にありがとうございます!
補足ですが、夕音とシアラの専用機の待機状態は指輪です。それぞれ、左手の薬指に付けています。

では、どうぞ(`・ω・´)


 翌朝。

 

「……て、起きて下さい」

 

「んぁ……んっ!?」

 

シアに起こされた。それはいい。それはいいのだが……顔が近い。鼻に息があたる位近い。少し動けば唇と唇が当たりそうな位近い。

 おかげで、眠気は吹き飛んだ。

 

「おはようございます、ユウ」

 

「お、おはよう」

 

 ヤバい。心臓がバクバクいってる。息苦しいことこの上ない。

 

「シア、次からは別の起こし方にしてくれ。心臓に悪い」

 

「ふふっ、顔が真っ赤ですよ」

 

「ぐっ……」

 

 仕方ないだろう。幾ら何でもあんなに近かったら、誰でもこうなる。むしろ、ならないやつが居たら本気で尊敬する。

 

「それとも、もっと近づけて起こしましょうか?」

 

「なっ……」

 

 あれ、シアは元女神じゃなくて、元小悪魔だったんだっけ? 

 しかし、やられてるだけと言うのも癪だ。反撃にでよう。

 

「そうだな。じゃあそうして貰うか」

 

「ふぇ!? ……え、えっと…本気なの?」

 

「本気だぞ?」

 

「……………うぅ、またやられた」

 

 俺に勝とうなんて十年早い。第一、焦ってたから気づかなかったけど、今思えばシアも顔が赤かった。やっぱり、恥ずかしかったんだろう。

 

「ふぅ……さて」

 

深呼吸で動悸を落ち着けて、ベットから下りる。

 今何時だ? 備え付けの時計を見る。針は7時42分を指していた。

 まだ時間は充分にある。取りあえずは着替えるか。制服を掴んで脱衣所に向かう。

 シアはまだベットに座り込んでいた。

 

 

 着替え終わって、シアと昨日の話しをする。

 

「昨日、凄かったですね。久しぶりに怒ってるユウをみましたよ」

 

「まあ、な。さすがにあそこまで言われたら、引き下がれないよ」

 

 昨日の事を思い出す。

 ……………うん。やっぱり、イラつくな。

 

「しかしなぁ、面倒なことになった」

 

 正直、勝ちたくないのだ。

 いや、まあ負けたいというわけではないのだが……

 

「クラス代表、やりたくねぇ」

 

 この一言に尽きる。クラス対抗戦だけならやるのだが、委員会とかが付いてくるなら話は別だ。

 まあ、勝つけども。というか、まず負けるわけがないのだ。伊達や酔狂で束博士の護衛をしていたわけでは、ない。

 …………………ん? 束博士?

 

『おっはよーー!!』

 

「うおっ!?」

 

「ひゃあっ!?」

 

 コアネットワークでのいきなりの通信。

 何なんだ。今朝だけで、寿命が五年は縮んだぞ。

 

『やあやあ、お二方。元気だったかい』

 

「今、博士のせいで元気がなくなりましたよ」

 

『にゃははははは、冗談きついよゆーくん』

 

 ……今度、割と本気でしめとくか。

 

『な、何だろう、身の危険をヒシヒシと感じるよ…』

 

 いい勘をしているじゃないか。

 

「束博士、今どこにいるんですか?」

 

『家の中』

 

「もう出来たのか……」

 

 昨日だけでもう、出来たのか。物理的に無理な気がするが、博士だしな。マ○ンクラフトのように作ったんだろう。

 

「そうですか。家は平気なんですか? ISで壊されて攫われた、なんてシャレになりませんよ?」

 

『大丈夫、大丈夫。この家はゆーくん達のISでぎりぎり壊せるか壊せないか位の強度だから』

 

「ビームシールド、張ってるんですね」

 

『そうそう、理解が早いね。さすが私のボディーガードだね』

 

 まあ、俺達のISでしか壊せないとしたらそんなもんだろう。

 それはそうと……

 

「もう時間だな。飯食いに行くか」

 

 時計の針は8時を指している。

 

「あ、そうですね。それでは、束博士。このぐらいで……」

 

『いってらっしゃーい。その内、来てねー』

 

「了解了解っと」

 

 そう言って通信を切る。

 今日も一日頑張りますか。

 

 

**********************

 

 

「なあ……」

 

「………………」

 

「なあって、いつまで怒ってるんだよ」

 

「……怒ってなどいない」

 

「顔が不機嫌そうじゃん」

 

「生まれつきだ」

 

 食堂に着くと、一夏と箒さん(…だったか?)が飯を食べていた。

 

「おはよう、一夏、篠々之さん。隣、いいか?」

 

「ああ、おはよう、夕音……とシルバーベルさん? 別に構わないけど?」

 

「シアラ、でいいですよ。織斑さん」

 

「そうか。それじゃあ、俺も一夏って呼んでくれ」

 

「わかりました、一夏さん。それじゃあ、失礼しますね」

 

 シアは篠々之さんの隣の席に着き、俺も一夏の隣の席に着いて、話しかる。

 

「んで、なにがあったんだ。一夏」

 

 ラッキースケベでも起こしたんだろうか。

 

「いや、箒がな──」

 

「な、名前でよぶなっ」

 

「………篠々之さん」

 

「…………」

 

 名字で呼ばれた篠々之さんはむすっとした表情を浮かべていた。

 

「お、織斑くん、千代紙くん、隣いいかなっ?」

 

「「へ?」」

 

 見ると、女子三人組がトレーを持ってこっちを見ていた。

 

「俺は構わないよ。一夏は?」

 

「大丈夫だぞ」

 

 俺達がそう言うと、三人はやった、と言いそそくさと席に着いた。

 女子に一夏を挟んではさまれた。女になってしまうんだろうか、オセロみたく。……ないな、うん。

 

 周りからは妙なざわめきが聞こえるが、気にしたら負けだろう。

 

「うわ、織斑くんって朝すっごい食べるんだー」

 

「お、男の子だねっ」

 

「俺は夜少なめに取るタイプだから、朝たくさん取らないと色々きついんだよ」

 

「千代紙くんはそんなに食べないの?」

 

 げっ、話し振られた。俺のコミュニケーション能力でいけるのか…?

 

「お、俺は逆に夜多めに取るタイプだからな。なんか、朝はあんま食えないんだよ。体がまだ起きてないって言うのかな」

 

「そうなんだー」

 

「私はいつも、あんまり食べらんないんだ」

 

「へえ、女子ってあんまご飯食わないんだな」 

 

 一夏、ナイスタイミングだ。

 …ふぅ、何とかなったな。しかし、以外といけるもんだな……。

 

「織斑、先に行くぞ」

 

「ん? ああ。また後でな」

 

 篠々之さんはご飯を食べ終わって席を立っていく。

 食べるの早いな……

 

「織斑くんって、篠々之さんと仲がいいの?」

 

「お、同じ部屋だって聞いたけど……」

 

 ああ、なる程。だから一緒に飯食ってたのか。

 

「ああ、まあ、幼なじみだし」

 

 驚愕の事実発覚だ。まさか幼なじみだったとは……。周囲も大いにどよめいていた。なる程、初めて周りの気持ちがわかったぞ。

 

「え、それじゃあ──」

 

と、一夏の隣の谷村さん(…だったか?)が質問をしようとしたところで

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

 

 織斑先生の声が通る。グラウンド十周か、それはヤバい。一周五キロあるグラウンドとか、想像できるか? しかも、十周のおまけ付き……おまけ所の騒ぎじゃないか。

 取りあえずは、飯を食おう。そう思い、白米を掻き込む俺だった。

 

 

***********************

 

 

 二時間目の休み時間。隣では一夏がダウンしていた。毎回の授業の後にこれである。でも、次の授業前には復活しているのだから不思議である。

 こいつの前世は、明○のジョーかムス○大佐に違いない。

 そんなこんなで、三時間目も終了。再びダウンした一夏の元に女子が群がる。

 

「ねえねえ、織斑くん!」

 

「ヒマ? 今日ヒマなの!?」

 

「はいはーい、質問しつもーん」

 

 そして、一夏に群がる連中が居ると言うことは……

 

「千代紙くん! 今日の放課後遊ぼっ!」

 

「あ、ずるい! 私も!」

 

「部活見に来ない!?」

 

 当然俺に群がる連中も居るわけで……

 

「うっ、くっ……」

 

 女子のプレッシャーはここまで、強いものなのか……!?

 誰か、助けてくれ……!

 

     スパァンッ。

 

 最早、聞き慣れた音が聞こえた。

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

 織斑先生……! 今だけは鬼が天使に見える……!

 

     スパァンッ。

 

「ぐぁ…!」

 

「失礼な事を考えるな、馬鹿者」

 

 心が読めるのか……!? まさか織斑先生がさとり妖怪だったとは……。第三の目はどこだろう。

 

     スパァンッ

 

「すんません…」

 

「わかればいい。それと、千代紙とシルバーベルは私のところに来るように。これは別件だ」

 

 大方、博士の事だろう。話す事もたくさんあるだろうしな。

 

「あー、それと織斑。お前のISだが準備まで時間がかかる」

 

「へ?」

 

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

「???」

 

 教室中にがざわめいた。

 一夏、事の重大さに気付いてないのか……。

 

「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

 

「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

「織斑、どういうことかわかるか?」

 

「………!」

 

 少し間をおいてから、一夏がハッとする。どうやら気づいたらしい。

 

「つまり……凄いことなんだな」

 

 がたたたっ。ずっこける女子が大勢いた。

 一夏……俺が甘かったようだ。

 

「織斑……教科書六ページ。音読しろ」

 

「あ、え、えっと……『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われている……(中略)……し、すべての状況下で禁止されています』……」

 

「つまりさういうことだ。本来、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

 

「な、なんとなく……」

 

 まだ、なんとなくなのか、一夏よ……

 キーンコーンカーンコーン。

 

「さて、授業をするぞ。席に付け」

 

 そうして、四時間目も何事もなく終了。休み時間になり、すぐさまやってきたセシリアは腰に手を当ててこう言った。

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思ってなかったでしょうけど」

 

「そうかよ……あれ? 夕音はどうすんだ?」

 

「心配には及ばないさ。俺も、専用機を持ってるからな」

 

そう言って左手を掲げて見せる。薬指にはめてある。指輪が白い輝きを放っている。

 

「へぇ、夕音も持ってるのか。すげぇな」

 

 その一言で片づけられるお前も凄いよ。

 

「ふん。まあ、どちらにせよ勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんものね」

 

「ふーん、じゃあお前も専用機持ってるんだな」

 

 一夏が返す。

 

「ええ、もちろん。世界の467機のISのうち一機をわたくしがもっているのです。つまり、専用機を持っているわたくしは、六十億人超の人類の中でもエリート中のエリートなのですわ」

 

「そーなのかー」

 

 取りあえず、適当に返しておく。

 

「あなた、本当に私を馬鹿にしてわすわね……!?」

 

「さあ、どうだろうな?」

 

 ニヤリと、不敵な笑みを浮かべる俺。

 

「……まあいいですわ。どちらにせよ、このクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであることをお忘れなく」

 

 髪を手で払って回れ右。そのまま立ち去っていった。

 

「んーー、さて、飯でも食いに行くか。……シア、一夏、篠々之さん。一緒に行こうぜ」

 

「おう、そうだな。箒、いこうぜ」

 

「……わかった」

 

 この後、一夏が篠々之さんにISの事を教えてくれるように頼んだり、そこに三年生の先輩が乱入してきたりと色々あったが、この日は何事もなく終わった。

 




次回はいよいよ、戦いです。…………多分。
束博士の話でどれ位場所を取るかによるんですがね。

それでは、また次回(。・ω・。)ノシノシ


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代表決定戦、開幕

昨日は間違えて投稿してしまいました。すみません。
ご指摘してくださった方、どうもありがとう御座います。
それでは、どうぞ


 

「さて、束の事だが」

 

 職員室なう。withシア。他の教員の方々からめっちゃ見られてる。

 織斑先生、普通に話してないで場所を変えてください。

 

「まずは、礼を言おう。ありがとう」

 

 頭を下げる、織斑先生…………ファ!?

 

「えっ、ちょ、頭を上げて下さい。織斑先生!?」

 

 先生、更に視線が増えたから。本当に止めて下さい。また、憂鬱になるから。

 

「まあ、それでだ。ここ数年間のお前達の状況を聞きたい。何があったのかを詳しく話してくれ」

 

「えーとですね……」

 

 博士について様々な事を話した。勿論、俺達がボディーガードをしていた事もだ。

 その上で、任務で右目を失った事も話した。

 

「……そうか。すまない、辛いことを話させてしまったな」

 

「いえ、大丈夫です。そこまで、辛いことじゃないですから。ね、ユウ」

 

「ああ、そうだな。そんな顔しないで下さい」

 

 まあ、実際楽しい時間だったしな。

 

「わかった。それで、もう一つ聞きたいのだが……あの家はいつ出来た? 昨日までは何も無かったはずだが……?」

 

「あー、それは……俺達もよくわからないんですが、昨日の夜中に出来たんじゃないですかね」

 

 それしか、考えられない。いくら、博士も咲夜さんみたいな事は出来ないだろう。………出来ないよね?

 

「まあ、そうだろうな。こちらとしては黙認しているがな。束が学園に居るというのは、何かと扱い安い」

 

 博士がもの扱い……。さすがは織斑先生だ。

 

「すまなかったな。もう、行って良いぞ」

 

「わかりました、失礼します」

 

 そう言って、職員室を出るのだった。

 

 

***********************

 

 あっと言う間に時間が過ぎた。時間は飛ぶ鳥のように早い。誰かがそんな事を言っていたな。まさにその通りだな。

 今日は月曜日。つまり、セシリアとの対決の日だ。

 あの後、くじ引きにより俺とセシリアが戦い、勝者が一夏と戦う事になった。

 そして、第三アリーナBピット。

 俺は装備の最終チェックをしていた。博士が作ったものだし、滅多な事では壊れないはずだが。

 

「白月も異常なし。これで全部か」

 

 ふと、一夏のことが気になった。専用機がまだ来てないとか言ってたからな。

 でも、まあ、さっき多分間に合うだろう。試合が延長になってないからな。

 

「さて……」

 

 ゲート解放まで、後一・一七五四三六七一(以下略)秒。戦いが始まる。

 

 

***********************

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

 ふふんと鼻を鳴らしながら言う。相変わらず、面倒くさい奴だ。その自信はどこから来るのだろうか。

 

「はいはい、来ましたよ」

 

 面倒くさいから、やっぱり適当に返す。しかし、セシリアは特に気にした風もなく、

 

「なら、よく聞きなさい。最後のチャンスをあげますわ」

 

 とか言ってきた。

 

「へー、そりゃあありがたいねー」

 

「なんですの、その態度は? チャンスなど要らないと?」

 

「ああ、要らないな。それとも、負けるのが怖いのか?」

 

「ふんっ、いいですわ。なら、叩きのめして差し上げましょう!」

 

 そう言って、ビームライフルをこちらに向け、撃ってくる。

 俺はそれを最低限の動きで躱す。

 

「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

 そう言って、ビットを飛ばして射撃を続けるセシリア。

 その全てを最低限の動きで躱していく。

 激しい射撃が俺を襲う。けど、これはあくまで射撃だ。弾幕にはほど遠い。某有名弾幕ゲームの最高難易度をクリアした俺の敵じゃない。

 鬼畜だったなぁ、あの弾幕は。いや、どうやっても避けらんないだろ! と何度叫びたくなったことか。

 まあ、一回叫んで同じマンションの人から苦情きたから叫ぶのはやめたけど。

 

「くっ……ビット──!」

 

 全く関係ない事を考えている内にセシリア某が再びビットを放つ。

 羅雪が情報を送ってくる。

 『敵、特殊武装展開。

   方位及び距離

    ──13605716

    ──26215911

    ──15509918

    ──25612909』

 機体を数センチ動かして回避する。

 さっきからこのパターンだ。

 

「っ、避けるだけでは、戦いは終わりませんことよ?」

 

「そうかい、それじゃあ……攻撃させてもらおうか!」

 

 再び、最低限の動きで攻撃を躱し右手にビームライフル(蒼穹白雪)をコール。速射する。

 

「なっ」

 

 途端にビットの攻撃がやみ、セシリアが横に回避する。

 こう言うのはビットを先に処理するものなのだろうが、問題ない。本体を墜とせばいい。

 しかも、どうやらセシリアは独立起動武装を完全に使いこなせていない。ビットの操作中に、本人が動けないのがその証拠だ。

 

「はぁぁぁあああ!」

 

 光の翼を起動。右手の得物をビームサーベル(白月)に変えつつ、瞬時に加速してセシリアに迫る。

 

「なっ!?」

 

 セシリアも反応は出来たようだ。が、無駄だ。羅雪のスピードの前に反応など無意味。

 超高速でビームサーベル(白月)を振るう。

 ピンク色の粒子の軌道がセシリアの視界を覆う。

 シールドエネルギーが物凄い勢いで減少していくのが、感覚でわかる。

 

「終わりだ……!」

 

 回し蹴りを腹部に叩き込み、荷電粒子砲(赤雪)を放つ。

 

「くっ、あ……」

 

 絶対防御が発動し、シールドエネルギーがゼロになった事を知らせるブザーが鳴り響く。

 

『試合終了。勝者──千代紙 夕音』

 

 よし、勝った。まだまだ、勘は鈍って無いらしい。

 何はともあれ……あれ?

シールドエネルギーがゼロになった後、機体はどうなるん……「きゃあぁぁぁぁぁぁあああ!?」

 だっけ、と続けようとしたところで悲鳴が聞こえる。

 やっぱり、待機状態に戻るよね。知ってたよ、うん。現実逃避してただけだよ。

 

「ちっ」

 

 機体を地面とセシリアの間に滑り込ませ、受け止める。PICで衝撃は完全に殺した。じゃないと、セシリア某の

骨が折れかねない。さすがに女子を物理的に傷つけるのはね、気が引けるよな。精神的に傷つけるのも、気が引けるけど。

 そんな事を考えていると、ぎゅっと目を瞑っていたセシリア某がゆっくりと目を開ける。

 

「ん……え?」

 

 まあ、俗に言うお姫様抱っこの状態で受け止めたら、目が合うよな。

 セシリア某は俺と目が合うと固まり、続いて顔を赤くする。そして……

 

「な、な、な、何をしてるんですの!?」

 

 ビンタしようとしてきた。……っておいおいおい!? 

 

「待て待て待て! 俺はお前を助けただけだから! というか、そんなことしたらお前の手が大変なことになるから!」

 

 セシリア某の体を支えてるせいで、手を掴んで止めようとしても出来ない。PICで、何とか手を止める。

 

「え、あ、っと、その」

 

「はあ、もういいから戻るぞ」

 

 羅雪をピットに向かわせる。セシリア某を抱いたまま。

 

「ちょ、ちょっと、離して下さいまし! 自分で戻りますわ!」

 

「だぁ、もう黙ってろ。百メートルちょいの距離を歩くのかよ」

 

 巨大なアリーナの中を一人歩くその姿を想像してみろ。なんか、こう哀愁を誘う絵が見えるだろ?

 

「そ、それも嫌ですわ!」

 

 どっちなんだよ……

 取りあえず、そのままBピットに戻るのだった。

 

 

**********************

 

 

「ほら、これ飲んどけ」

 

 自販機で買ったポカ○スエットをセシリア某に渡す。俺はアクエリ○ス派だけど。

 ……なんかもう、セシリア某ってのも面倒になったからセシリアでいいや。

 IS学園には至る所に自販機がある。しかし、それらは全てタダで買える。国立だからなのか。

 この世界にもポカリスエ○トとか、ア○エリアスがあるのを見たときは感動した。スポーツドリンクは世界を越えたのだ。ちなみに、マックスコ○ヒーもあった。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 セシリアは、ピットに戻ってからずっとこんな感じだ。ぼーっとしているというかなんというか。どこか上の空というか。

 まぁ、いいや。取りあえず次の試合の準備をしよう。少し前に、二十分後に試合をする、と織斑先生から伝達があったからな。準備と言っても特にすることもないんだけど。

 

「なあ、セシリア。ぼーっとしてるけど大丈夫か? 保健室にでも言ったらどうだ? 難なら、付き添いするけど」

 

 さっきの試合で、なんかあったんだったら俺の責任だしな。

 

「わ、わたくしは大丈夫ですの。それより……いえ、何でもありませんわ」

 

 物腰が柔らい。いつもの高飛車は何処へ行ったのか。足でも生えて歩いて行ったのだろうか。

 ……無理をしていたのだろうか。一国を代表するなんてプレッシャーに耐えるのは、そう簡単な事ではない。今の彼女が本当の彼女なのかも知れない。

 そう思うと、なんか今までの自分の行動が申し訳なくなってくる。やっぱり、人は一面で判断してはいけないな。

 前にシアにも言われたことがある。「ユウはすぐ感情的になりますからね」、と。反省しなければな。

 

「あー、なんだ、その…すまなかったな」

 

「へ? なにがですの?」

 

「……いや、何でも無い。ただ、無理はするなよ」

 

「あ……」

 

 驚いたような嬉しいような顔をするセシリア。

 それを横目に俺は立ち上がる。

 

「さて、行くか」

 

 試合開始まで後一分。アリーナに出ていた方が良いだろう。

 

「あ、千代紙さん……いえ、夕音さん!」

 

「ん?」

 

「わたくしに勝ったんです。次も負けないで下さいね」

 

「……ああ、必ず勝つさ」

 

 何で名前で呼ばれたんだかわからんが、言われるまでもない。セシリアの顔に泥を塗る訳にはいかないしな。

 

 

**********************

 

 

「……来たか」

 

 白い機体がAピットから出てくる。背中のアンロックユニットのスラスター、そして一振りの巨剣が印象的な白。識別名『白式』。

 

「夕音、さっきのは凄かったな。けど、簡単には負けてやらないぜ?」

 

「ああ、やってみろ。俺も負けるつもりはない」

 

 俺は腰からビームサーベル(白月)を抜き放つ。相手が剣ならこちらも剣だ。

 一夏もその巨剣を構える。

 

『試合開始』

 

 ブザーが鳴り響き、戦いの幕が上がった。

 

「うぉぉぉぉおおお!」

 

 真っ直ぐに突っ込んでくる一夏を横に回避し、すれ違いざまにビームサーベル(白月)を振るう。

 白式のスラスターに傷跡を残し、再び離れる俺達。

 反応出来たものの、俺は驚いていた。白式の突進力にだ。今まで戦ってきたどのISよりも力強い。

 

(面白くなってきた)

 

 アンロックユニット・プラズマ収束砲(双対三連)を標準、発射する。それを何とか躱す一夏。その隙を見逃す俺ではない。ブレイドドラグーン(白銀穿牙)を射出、(アンロックユニット)をその場に残して、白式の肉薄する。

 

「なっ!?」

 

 巨剣でビームサーベル(白月)の一撃を受け止める一夏。しかし、その勢いを殺しきれず後方に吹き飛ばされる。そして、ブレイドドラグーン(白銀穿牙)での追撃。

 アリーナの壁に激突する白式。(アンロックユニット)を回収し、ブレイドドラグーン(白銀穿牙)は自機のまわりで待機させる。

 煙が晴れていく。その中には……白がいた。先程よりも洗練された姿で。

 

「一次移行か」

 

「ああ、これで心置きなく戦える!」

 

 そう言って、突っ込んでくる一夏。先程よりも速く、強い。

 

「そう来なくっちゃな!」

 

 武装を対艦刀(神白)に変更。巨剣と巨剣がぶつかりあい、火花を散らす。

 

「「はぁぁぁぁあああ!!」」

 

 つばぜり合いは長くは続かなかった。お互いが剣を振り抜き、後退する。

 

「けりをつけるぜ、夕音!」

 

「来い、一夏!」

 

 三度の突撃。しかし、今度の突撃は違う。剣が光っている。いや、剣が割れて光の刃が現れている。

 そして、対艦刀(神白)と光の刃が触れ合う寸前。

 

『試合終了。勝者──千代紙 夕音』

 

 試合終了を告げるブザーが鳴った。

 

 

**********************

 

 

 翌日。教室にて。

 

「先生、質問です」

 

「はい、織斑くん」

 

「俺は昨日の試合に負けたんですが、なんでクラス代表になっているんでしょうか?」

 

 まあ、当然の疑問だろう。勝者がクラス代表になる、という名目での試合だったのだから。

 

「俺が辞退した」

 

 簡潔に、そう答えてやった。

 

「へ?」

 

「昨日の内にセシリアと話して、お前をクラス代表にすることにした。と言うわけで、頑張れ」

 

 ちなみに、セシリアと話したのは本当だ。さすがに独断で決めるのもよくないと思ったからね。

 

「はっ!?」

 

「本当ですわ。ちゃんと夕音さんと話し合って決めましたもの」

 

「い、いや、待て夕音。俺はIS操縦の初心者なん……ぐぉ!?」

 

    スパァンッ

 

「織斑、静かにしろ」

 

 理不尽な織斑先生の出席簿アタックが一夏の頭に襲いかかった。

 ……『織斑先生の攻撃!』

 『会心の一撃! 織斑一夏の頭に153のダメージ、織斑一夏の脳細胞は死んでしまった!』

 

     スパァンッ。

 

「くだらなんことを考えるな、千代紙」

 

 くっ、やっぱり織斑先生は悟り妖怪なのか!?

 いや、やめよう。また、出席簿アタックが来るだろうし。これ以上くらいたくない。

 

「クラス代表は織斑一夏、異存は無いな」

 

 織斑先生の言葉にクラス中の皆が返事をした。

 一夏は返事をしていなかったが、すでに出席簿アタックから復活していた。

 ……何回かくらっていたら、耐性が出来るのもなのだろうか。最初はもっと悶絶してたよな……

 まあ、そんなこんなで、一夏はクラス代表となった。

 面倒くさいことやらずにすんでよかっ………

 

「ただし、千代紙。お前は織斑の補佐として、副代表になって貰うぞ」

 

 ………前言撤回。結局、面倒なことになった。

 




諸事情で更新が遅れる可能性があります。
では、また次回


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漆黒の巨人、白き光
動き出す影


今回の章はオリジナル展開がありますです。
物語がどう進むのか、ご期待下さい。
なお、更新はやはり遅れますので、ご了承下さい。


???side

 

「完成だ。これで、我が理想にまた一歩近づく…」

 

 それは嗤う。醜く、残虐に。

 

「くっくく、くははははははは!!」

 

 薄暗い部屋、男の哄笑が響く。目の前には黒き影が佇んでいた。

 

 

**********************

 

 

 さて、あの戦いから暫くたった。

 今日はISの飛行操縦の訓練だ。

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。千代紙、シルバーベル、織斑、オルコット。試しに飛んでみせろ」

 

 はるほど、見本ということか。よし。

 左手を握る。それが一番展開が早く出来る。あくまで俺はだが。

 

「早くしろ。千代紙とシルバーベルはもう展開出来ているぞ」

 

 織斑先生、俺達で2人を急かすのやめません? 後で、なんか言われるの俺達なんですが。

 そんな事を考えている内にセシリアが『ブルー・ティアーズ』を展開、少し遅れて一夏が『白式』を展開した。

 

「よし、飛べ」

 

 セシリアが、急上昇を開始し一夏が続く。スペック上、やろうと思えばほぼ一瞬で行けるのだが、昨日の訓練の時それをやってクラスの皆がポカンとしていたし、その後質問攻めにされたからやめた。

 いまは、ややセシリアより早い感じで上昇している。翼を広げなければ加減次第でスピードは調整出来る。シアも同様だ。

 

「何をやっている。スペック上の出力では白式の方がブルーティアーズより上だぞ」

 

 お叱りが来てるぞ、一夏。というか遅いな。

 

「一夏さん、ユウと戦った時よりもスピードが落ちてませんか?」

 

「あん時は凄い馴染んだんだよ。けどなぁ、自分の前方に円錐を展開させるイメージっていわれてもさ。そもそも、空を飛ぶ感覚もあやふやだし……なんで浮いてるんだ、これ」

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分がわかりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」

 

「浮いてる事の説明は後で俺がしてやる。反重力力翼と流動波干渉の事になるけどな」

 

「わかった。説明はしてくれなくていい」

 

「そうか、みっちり説明してやるよ」

 

「何でだよ!?」

 

 ふむ、一夏はからかいがいがあるな。リアクション芸人になれるぞ。

 

「一夏さん、よろしければ──」

 

『一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りてこい!』

 

 おい、箒。そうそう、あれから俺達も名前で呼び合うようになった。千代紙と呼ばれるのは慣れてなかったし。まあ、それは置いといて。

 箒。山田先生のインカムを取るなんてことしたら………ああ、やっぱりな。織斑先生に出席簿アタックをくらっていた。

 というか、織斑先生。あなたはいつでも出席簿を、持ってるんですかね。

 ちなみに、セシリアと一夏は耳を抑えて悶絶していた。インカムを通して出席簿アタックの音が流れてきたからだろう。あの、マイクを叩いた時の音を何倍にもした感じのやつ。高周波とはまた違うダメージが入るよな。

 俺とシアは通信を一時的に切っていたから、ダメージは無い。予測できたからね。

 通信を再接続すると、織斑先生から通信が入った。

 

『千代紙、シルバーベル、オルコット、織斑、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチ。千代紙とシルバーベルは一センチだ』

 

 何で俺達だけ難易度が高いのか。嫌がらせかな? 平等権はどうなってしまったんだ。まあ、いい。

 

「了解。それじゃお先」

 

 昨日よりはスピードを落として、急降下する。

 そして、停止の時に翼を展開。きっちり一センチに止まる。

 え? 翼を展開した理由? かっこいいからに決まってるじゃないか。なんか、こう、いいだろ? 天使が降臨したみたいで。

 それに続いてシア。平然と目標をクリアする。

 続いて、セシリア。やはり、代表候補生だけあって優秀だな。しっかりと止まった。

 さて、一夏は──ズドォォン!!!──………何やってるんだ、あいつは。地面に人型の跡が付くなんて、現実世界で起こるものなのだろうか? 俺は今、それを、恐らく人類史上初目撃した。

 周りからもクスクスと笑いがもれている。

 

「馬鹿者。誰が地面に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

 

「……すみません」

 

 一夏が地面から離れる。きれいに人型の跡が残っているな。写真を撮っておきたいぐらいだ。

 

「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやったろう」

 

 箒さんや。それは昨日の擬音の連発を言っているのでしょうか? 『ぐっ、とする感じだ』とか、『どんっ、という感覚だ』とか、『ずかーん、という具合だ』とかetcetc……。横で聞いていた俺も分からなかったし、シアもセシリアも頭の上に?が浮いていた。

 

「貴様ら、何か失礼なことを考えているだろう」

 

 さとり妖怪がここにも一人。はて、第三の目はやはり無いのだろうか。原作無視はよくないぞ。いや、あれがさとり妖怪の元なのかは知らんけど。

 

「大体だな一夏、お前というやつは昔から──」

 

 小言が始まりそうなのでストップをかける。

 

「あー、ストップ。後ろを見ろ、箒」

 

「む、なんだというの──」

 

 織斑先生がいるからな。そりゃ、言葉も途切れる。いい加減学習することをおすすめするぞ。

 

「馬鹿者ども。邪魔だ。端っこでやっていろ」

 

 なぜ俺までもが含まれているのか。俺は何もしてないのになぁ。

 

「まあいい。織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

 

「は、はあ」

 

「返事は『はい』だ」

 

「は、はいっ」

 

「よし。でははじめろ」

 

 一夏が右腕を左手を握る。どうやら一夏はこのポーズが一番集中できるらしい。

 一秒ほどかかって一夏は『雪片弐型』を展開する。

 

「遅い。0・5秒で出せるようになれ」

 

 褒めもせずにけなす。これが織斑先生クオリティ。世界一の人間がいうことは辛辣だ。ちなみに、俺は初めての時一瞬で出せた。ほら、F○TEとか見てるとさ……わかるだろう? 無限の剣製とかやってみたくなるじゃん? その時に、剣を虚空から生み出すイメージを積んだからな。

 

「セシリア、武装を展開しろ」

 

「はい」

 

 左手を肩ぐらいまで上げ、真横に突き出す。すると、一瞬だけ爆発的に光り、次の瞬間にはビーム狙撃銃ビームライフル(スターライトmkIII)が握られていた。すでに、射撃可能状態になっている。さすがに代表候補生か。でも……

 

「さすがだな、代表候補生。──ただし、そのポーズはやめろ。横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ」

 

 やっぱりな。織斑はそう言うところはしっかりしてるし。軍隊でも作る気なんだろうか。

 

「よし、では千代紙。武装を展開しろ」

 

「はい」

 

 俺もなんですね、知ってます。

 腕をまっすぐ上に掲げ、ビームライフル(蒼穹白雪)を呼び出す。ついでに、他の武装も全方位に展開しておいた。

 これにはさすがの織斑先生も驚いていたが、すぐにもとに戻り、

 

「ふむ、そのポーズは気に入らんが敵が何処にいても狙えるな。ならいい」

 

 やっぱり軍隊を作る気なんだろうか。ちなみに、ポーズは別に関係ない。ただ、少しラストシューティングをイメージしただけだ。

 

「セシリア。近接武装を展開しろ」

 

「えっ、あ、はっ、はいっ」

 

 ポカンとしていたのだろう。反応が鈍るセシリア。

 銃身を収納し、近接武装をコールする。が、光は掌の中でくるくると動くだけで近接武装は展開されない。

 

「くっ……」

 

「まだか?」

 

「す、すぐです。──ああ、もうっ! 《インターセプター》!」

 

 武装の名前を叫ぶ。ヤケクソ気味なのは、名前を呼んでコールするのが初心者の手段だからだ。NARUT○でキャラが「千鳥!」とか「神威!」とか言ってるのと同じことだ。……いや、違うか。

 

「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」

 

「じ、実戦では近接の間合いに入られ……」

 

 セシリアの声が尻すぼみになっていく。俺との戦闘を思い出しているらしい。

 あの時は、近接攻撃だけで仕留めたようなもんだしな。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

 ご愁傷様だな、一夏。自業自得だし、頑張れよ。

 一夏にちらりとこちらを見られたけど、気にしなーい気にしなーい。

 

 

**********************

 

 

「というわけでっ! 織斑くん、千代紙くん、クラス代表決定おめでとう!」

 

「おめでと~!」

 

 クラッカーが乱射された。

 パンパパン……パパンパンパン……パパパン…いや、長えよ!? いつまでクラッカー鳴らしてるんだよ。在庫ありすぎだろう。

 おかげで紙テープが物凄い量になってる。誰か転ぶな、これは。

 ふと隣を見ると、一夏が死んだ目をしていた。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

 

「ほんとほんと」

 

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

 

「ほんとほんと」

 

 ふむ、なぜ他のクラスの女子までいるんだろう? 

 なぜわかったかって? どう見ても、五十人はいるからだ。クラスの人数明らかに越てるからな。それとも誰か陰分身したか、人形を操ってるかだろう。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と千代紙夕音君に特別インタビューをしに来ました~!」

 

 オーとなる皆。もういっそ、逃げようかな。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

 ふむ、こういう人は社会人になってもうまくやって行けそうだな。名刺まで持ってるとかレベル高けぇ。

 

「ではではずばり織斑君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」

 

 一夏にずいっとボイスレコーダーを近づける黛先輩。

 

「えーと……まあ、なんというか、かんばります」

 

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」

 

 チョイスが古い。あまりにも古い。俺達の年齢層にあってない。

 

「自分、不器用ですから」

 

「うわ、前時代的!」

 

 先輩は人のこと言えませんよ。

 

「じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして」

 

 前言撤回。この人は社会人になってはいけない人だった。……いや、むしろ適正なのだろうか? ねつ造なんて社会じゃよくあるしな……

 

「それじゃ、千代紙君。副代表になった感想を、どうぞ!」

 

 うん、やっぱ俺にも来るよね。最初に宣言してたもんね。

 

「……一夏に全部任せます」

 

「おい!」

 

 横から一夏の声がするけど、無視する。

 

「クラス代表は一夏ですからね」

 

 ここぞとばかりにアピールしておく。責任は自分にあらず。全投げは人生の基本。これ重要。テストに出るよ。

 

「よし、了解。適当にねつ造しとくね」

 

「はい……俺はあくまでクラス副代表なんで、そこんとこよろしくお願いします」

 

「……うんわかった。……君とは仲良く出来そうだね」

 

 小声で話した後、俺と先輩は硬く握手をする。

 人と仲良くするのは人生の基本。これ重要。テストに出るよ。

 

「さてさて、それじゃ写真ちょうだい。織斑君、千代紙君並んでね」

 

「了解です」

 

「はあ……」

 

 一夏がため息をついていた。悩み事だろうか。全く、誰のせいで悩んでるんだか。

 

「それじゃあ撮るよー。27×69÷24は~?」

 

「70.875」

 

「ええ? ちょ、ま」

 

 パシャリとデジカメのシャッターがきられる。

 

「凄いね! 答えられたのはこれで2人目だよ!」

 

「どうも」

 

 しかし……

 

「なんで全員入ってるんだ?」

 

 一夏も同じことを思っていたらしい。

 そう、一組全員が写真に入っていた。さすがに他クラスは入ってないが。……まあ、全員の顔に『こんなおいしいイベント、見逃せるか!』って書いてあるからわかるけども。

 

 その後もパーティーは続き、結局十時まで続いた。なんで女子ってこういう体力だけは凄まじいのだろうか?

 




お気に入り36人。ありがとうございます!
うーん、土日にもう一話出せるといいな。
そう言うわけでまた次回。(`・ω・´)ノシノシ


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脈動する、陰謀

まず、予定から遅れて申し訳ありません。
土日では書き終わりませんでした。
まあ、それはそれとしてお気に入り44人!
ありがとうございます。
それでは本編を、どうぞ!


「……ん………ここ、は………?」

 

 ここは、何処だろう。見たことのない景色。

 そもそも見たことのある景色は何?  記憶が混濁している。何も思い出せない。けれど、彼女はそれを不思議とすんなり受け入れられた。

 ただ広い空間。暗く、並ぶポットの発する僅かな光だけが照らす空間。

 彼女は自分が全身濡れていることも、服を着ていないことも気に留めなかった。

 床にできた水溜まり。そこに座ってただ虚空を見つめた。

 足音が近づいてくる。誰かが来たようだ。

 

「初めましてかな、守護者(テスタメント)。私は───だ」

 

守、護者(テスタメント)……?」

 

 

**********************

 

 

「織斑くん、千代紙くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

 朝、クラスメイトに話し掛けられた。最近、一夏とセットにされていることが多い気がする。マッ○のポテトとジュースかよ。あ、メインがない。

 

「転校生? 今の時期に?」

 

 まあ、言いたいことはわかる。今はまだ四月。普通に入学した方が早い。なぜそれをしなかったのか。入学よりも転入は条件が厳しい。国の推薦なしでは出来ない。

 

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「へえ、中国か」

 

 料理が美味しい国だな。中華料理万歳。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

 いつの間に……前々から思ってたけど、このクラスの人は気配遮断のスキルでもついているのだろうか。入学の日もいつの間にか人がいたし。

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

 さすがは箒。落ち着いている。あれ、いつの間に近づいたんだ?

 

「どんなやつなんだろうな」

 

「そうですね。少し気になります」

 

 一夏にシアが同意する。まあ、正直気にはなる。代表候補生なんだから、専用機も持っているはずだ。

 中国なんだから……麒麟とかかな。

 

「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」

 

 相変わらずの塩対応。一夏に厳しい箒である。

 

「確かにな。一夏、今日も放課後、訓練をするぞ」

 

 一夏の訓練はいつものメンバー(俺、一夏、シア、セシリア、箒)で行っている。クラス代表が決定して以来、ほぼ毎日やっている。

 今は一夏に秘技を伝授している。秘技っていってもたいしたことの無い、高速機動術なんだけど。白式のスペックもあり、もうすぐでものになりそうだ。

 

「クラス対抗戦か……まあ、やれるだけやってみるか」

 

「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」

 

 まあ、確かに勝ってくれないと俺の威厳に関わるな。

 

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよー」

 

「ふふっ、頑張ってくださいね」

 

 ちなみに、なぜ幸せなのかというと優勝クラスには学食デザートの半年フリーパスが配られるんだとか。

 シアもそう言うの好きだったな。優勝したら、確実に付き合わされるだろう。甘いもん、あんまり好きじゃないんだけどなぁ。

 

「今のところ専用機を持ってるクラス代表は一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

 なら、何とかなるかな? 一夏は俺が鍛えてるし。

 

「──その情報、古いよ。二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝できないから」

 

 ………誰だ、あれ。なんか小さいやつが壁に寄っかかってる。なんというか、すごく似合わない。無駄に格好付けてますよ感が物凄い。

 

「鈴……? お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 ふっと笑う。しかし、その笑みも続く一夏の言葉に崩される。

 

「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ……!? なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 仮面が剥がれたな。しかし、一夏と妙に親しいな。

 まあ、それは置いといて……後ろを見た方がいいぞ。

 

「おい」

 

「何よ!?」

 

     スパァンッ

 あーあー、失礼な返事をするから……同情はしない。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「す、すみません……」

 

 びびってるなぁ。でも、織斑先生を下の名前で呼んだ。織斑家、家族ぐるみの付き合いなのだろうか?

 

「また後でくるからね! 逃げないでよ、一夏!」

 

「さっさと戻れ」

 

「は、はいっ!」

 

 二組に猛ダッシュする、凰鈴音。……あいつは何がしたかったんだ?

 

「……一夏、今のは誰だ? 知り合いか? えらく親しそうだったな?」

 

「お、織斑くんっ、今の女の子と仲いいの? どういう関係なの?」

 

 クラス中から質問の嵐が吹く。全員、凰鈴音がなんで帰ったのかを考えろよ。

 

    スパパパパパパンッ

 

 織斑先生の出席簿アタックは全員に等しく与えられた。

 俺とシア、それに一夏とセシリアは席に着いていたので無事だ。

 

「席に着け。馬鹿者ども」

 

 あれ、これでこのクラスで出席簿アタックをくらってないのはシアとセシリアだけになったのか?

 

「あぁ……これが千冬様の……」

 

 恍惚とした表情の奴がいるんですが。Mまでいるのかこの学校は。腐女子はいないといいなぁ。

 標的にされることは目に見えている。

 あれ、今俺フラグ建てた?

 

 授業中、箒の方で何度か打撃音を聞いたが気のせいだろう。

 

 

**********************

 

 

「お前のせいだ!」

 

 うん、気のせいなわけないよね。というか、一夏が八つ当たりされていた。女子とは理不尽なものである。

 

「なんでだよ……」

 

 箒は気難しいからな。俺が今まで見てきた女子の中でもダントツでだ。まあ、見てきた女子なんてほぼいないけど。

 

「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ……夕音達も行くよな?」

 

「もちろん。他に飯食う場所ないからな」

 

 他のクラスメイトも数名着いてきて、学食まで移動する。

 俺は券売機でたぬきうどんを買い、シアは親子丼、一夏、箒、セシリアはいつも通りの日替わりランチやきつねうどんを買う。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 そして、今朝の女子、凰鈴音が目の前に立ちはだかる。いや、小さいから立ちはだかるとは言いにくいけど。……何がとは言わないよ?

 

「あー、すまない。どいてくれないか? 凄く邪魔なんだが」

 

 道の真ん中に仁王立ちとか、邪魔以外の何物でも無い。

 

「あ、す、すみません」

 

 凰鈴音が横にどいたので、おばちゃんに食券を渡す。ちなみに、凰鈴音はすでにラーメンの盆を持っていた。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ……」

 

 また、独特な奴がきたな。しかし、また面倒くさそうなんだが。

 

「ゴホンゴホン! 一夏、注文の品が来てるぞ」

 

「おっと……向こうの席が空いてるな。行こうぜ。にしても、鈴、いつ日本に帰って……」

 

 ぞろぞろと移動する俺達。あれ、人数が増えてないか? なんか、違うクラスの面々も混じってる気がする……。いや、気のせいだろう。

 けど、あの凰鈴音という女子……

 

『……なあ、シア。嫌な予感がするんだが……』

 

『……ユウもですか? 私もなんだか嫌な予感がします……』

 

 一夏と凰が話している間にコアネットワークで、密かに会話をする俺達。なんか、もう本当に嫌な予感しかしない。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明して欲しいのだが」

 

「そうですわね。一夏さんはこちらの方と付き合っていらっしゃるの?」

 

 席に着くなり箒が一夏に質問し、セシリアもそれに続く。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」

 

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」

 

「…………」

 

「? 何睨んでるんだ?」

 

「なんでもないわよっ!」

 

 なんでいきなり切れてるんだ、こいつ。情緒不安定か? でも、幼なじみか……箒とも幼なじみだったよな。

 

「幼なじみ……?」

 

 箒が怪訝そうに返す。どうやら知り合いでは無いらしい。

 

「ああ、ちょうど入れ替わりで引っ越したんだっけ。箒が引っ越して、すぐに鈴が引っ越してきたんだよ。

で、こっちが箒。前に話した、小学校からの幼なじみで俺の通ってた剣術道場の娘」

 

「ふうん、そうなんだ」

 

 じろじろと箒を観察する凰。箒も同じようにじろじろと観察していた。

 

「初めまして。これからよろしくね」

 

「ああ。こちらこそ」

 

 挨拶を交わす二人。睨み合っているが、大丈夫か?

 

「それで、こっちが夕音とシアラ。高校に入ってからの付き合いだ」

 

「あー、ニュースで見たことあるわ。よろしくね」

 

「こちらこそ。お互い仲良くやっていこう」

 

「よろしくお願いしますね」

 

「んで、こっちはセシリア。イギリスの代表候補生だ」

 

「よろしくお願いしますわね、凰鈴音さん」

 

「ええ、よろしく」

 

 セシリアが手を差し出し、凰がそれを握って、握手を交わす2人。2人とも笑顔だった。箒の時と反応が随分違うが……まあいいや。

 

「それでさ、一夏。アンタクラス代表なんだって?」

 

「おう、成り行きでな」

 

「ふーん……あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

「そりゃ助かるけど、遠慮しとくよ」

 

「え? 何で?」

 

 キョトンとする凰。

 

「だって違うクラスだろ? クラス対抗戦の前に手の内を明かすのは、いやだしな。それにもう、箒達が教えてくれてるから。今日も放課後、訓練してもらうんだよ」

 

「そ、そう。ならしょうがないわね。じゃあ、それが終わったら行くから、空けといてね。じゃあね、一夏!」

 

 早々にラーメンを食い終えて、引き上げて行く凰。なんだったんだ、一体。というか、自分勝手過ぎやしないか?

 

 

**********************

 

 

「さて、昨日の続きをやるぞ」

 

 場所は第三アリーナ、放課後。俺は一夏に指導をしていた。この場にいるのは俺、一夏の他にセシリアとシア、そして箒だ。

 

「まず、瞬時加速(イグニッション・ブースト)の原理だ。一夏は感覚でなんとなく出来てたけど、原理もしっかり覚えとけよ。役に立つときが来るだろうからな」

 

「おう」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)はスラスターエネルギーを放出して、それをもう一度内部に取り込み、圧縮して放出する。これが簡単な原理だ」

 

「お、おう」

 

「これが意味することは、機体の限界まで何度でも重ねて使えるということだ。白式は2回までなら余裕で使えるだろうな。まあ、今は1回を完璧にしなきゃだけど」

 

 なるほど……と、呟く一夏。わかってるか心配だ。

 

「それじゃあ模擬戦をやろう。習うより慣れよ、だ。セシリア、一夏の相手を頼めるか? 箒は後で近接戦闘の相手をしてもらいたいんだけど……」

 

「わかりましたわ」

 

「うむ、了解した」

 

 そう言って、浮き上がるセシリアと一夏。

 

「それでは、行きますよ!」

 

 

 そうして、戦闘が始まった。結果から言えば一夏の負け。まあ、相手は代表候補生。仕方がない。

 その後、箒とは互角戦っていた。が、それはそれでスペックが生かし切れてないと言うことなのだが。

 とりあえず総じて一夏に言えることは、

 

「一夏さん、もう少し我慢してみてください」

 

 シアも気付いていたようだ。目線で説明は任せたと伝える。

 

「我慢?」

 

「はい。ただがむしゃらに突っ込んでも、相手がセシリアさんみたいな中距離戦闘型だったら、そう簡単に懐に入れてはくれませんから。だから、我慢するんです。我慢して、我慢して敵が焦って隙が出来たら突っ込む。それで、一撃で決める。これが一夏さんの理想的な戦術です」

 

「そのためには攻撃を躱したり、いなしたりする能力も必要になってくる。勿論、突っ込むための瞬時加速(イグニッション・ブースト)もな」

 

「なるほど、一撃必殺か……」

 

 そう、一夏の白式はISの中でも攻撃力はダントツで高い。攻撃を当てさえすれば、確実に相手を仕留められるだろう。

 

「さて、今日はこれくらいにするか」

 

「そうですね、時間も時間ですし」

 

 見ればもう5時を回っていた。

 

「よし、6時に学食に集合して飯食うか」

 

「そうですわね」

 

 そう言って、男女に分かれてピットに戻った。

 

 

**********************

 

 

「あ、しまった、タオル持ってくりゃよかった」

 

「忘れたのか? あいにく、俺も2枚は持ってないんだよ」

 

「いや、部屋に戻ってシャワー浴びるよ。箒に頼んで先に入らして貰う」

 

「そうか、悪いな」

 

「いやいや、俺が悪いんだし謝る必要ないだろ」

 

 そんな会話をしていたとき、バシュッと言う音がして、スライドドアが開いて凰が現れる。

 

「一夏、お疲れ。はい、タオルとスポーツドリンク」

 

「サンキュ。あー、生き返る……」

 

「変わってないね、一夏。若いくせに体のことばっかり気にしてるとこ」

 

「あのなあ、若いうちから不摂生してたらいかんのだぞ。クセになるからな。あとで泣くのは自分と自分の家族だ」

 

「ジジくさいよ」

 

「う、うっせーな……」

 

 ふむ、ここに居てもすることがないな。帰るか……

 

「一夏、先に行ってるぞ」

 

「ん、ああ。またな」

 

「おう。シャワー、箒に先に使わせて貰えるといいな?」

 

 そう言ってピットを出た。ドアの向こうが少し騒がしかったけど、まあいいや。

 

 今はアクエ○アスを自販機で買って飲んでから部屋に戻っている途中だ。

 さっき、女子に囲まれて休憩が長引いたのは別の話。

 

「ふぅ……」

 

 部屋に付き、ドアを開ける。

 

「えっ………」

 

 シアの声が聞こえた。それはそうだろう。何故ならシアはバスタオルだけの姿だったからだ。

 俺はというと、ドアを開けたまま、硬直していた。少し前、一夏のことをラッキースケベを起こしそうな奴だと思ったが、まさか俺が起こすとはな。普段、シアと一緒に帰ってきてるからノックするのを完全に忘れていた。

 健康的な肢体が惜しげもなく曝され、シャワーを浴びていたからかその肌は紅潮している。僅かに濡れた髪が艶めかしい。

 

「な、何してるんですかっ!?」

 

 その声と共に飛んできた、ブラシが顔面にクリティカルヒットした。そのまま後ろに倒れて頭をしたたか打ちつける。

 遠のいていく意識の中、前にもこんなことがあったなぁ、と考えていた。

 

 30分後。ベッドの上で意識を取り戻した俺は、シアに謝罪していた。

 

「ごめん。ノックするをのをすっかり忘れていた」

 

「ふんっ、まったく……」

 

「本当にごめん」

 

「……もういいです。そのかわり、今日一緒に寝て貰いますから」

 

 そうか、それで許してもらえるのか……って、ええっ!?

 

「えっ、ちょ、まて。シア、もう一度言って貰えるか?」

 

「だから、一緒に寝て貰うって言ってるんです!」

 

「えっと……本気?」

 

「本気です。それとも……ユウは嫌ですか……?」

 

「嫌ってわけじゃないけど……」

 

 むしろ、それが嫌って言う奴は凄いと思う。

 

「それじゃあ、約束ですよ?」

 

「へいへい、わかったよ」

 

 

 その夜、ドキドキしてしまい結局ほとんど寝られず、翌日の授業で織斑先生の出席簿アタックを何回もくらう羽目になったのは別の話。

 




更に投稿が遅れることになりますが、今後ともよろしくお願いします。
それではまた次回(`・ω・´)ノシノシ


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戦いの狼煙は上がり……

お久しぶりです。
お気に入り人数も48人となりました。ありがとうございます!
今回からオリジナル展開です。
戦闘描写は下手くそです。すみません。
では、どうぞ!


 クラス対抗戦当日。

 あの訓練の日の夜、一夏は凰と喧嘩したらしく、話をしているのを見ていない。というか、凰が一方的に一夏を避けている。一体何をやらかしたんだか。

 クラス対抗戦の初戦は2組となっていて、いきなり凰と当たる羽目になっていた。都合がいいのか、悪いのか。

 だが、凰との戦いはなくなった。今さっきクラス対抗戦を中止にするとのアナウンスが流れたからだ。加えて、専用機持ちは会議室に集合しろとのことだった。

 

「ただ事じゃないな……」

 

 専用機持ちの召集は滅多な事では行われない。そもそも、ISは一体一体が国家戦力となる兵器だ。その専用機持ちが召集されるとなっては、よっぽどの事があったと言うことだろう。

 

「嫌な予感がしますね」

 

 先ほど合流した一夏達は何も言わない。普段には無い緊張感が専用機持ちの面々に漂っている。

 場所は会議室の前である。まあ、考えてても仕方ない。とりあえず中に入ろう。

 

「1年1組千代紙夕音、その他専用機持ち到着しました。入室許可を」

 

「了解、入れ」

 

「失礼します」

 

 扉が開かれたので会議室に入る。織斑先生が険しい表情をして立っていた。険しいだけではない。緊張と真剣さが入り混じったかのような表情をしていた。

 

「全員、集合したな。それでは、話を始める。クラス対抗戦が中止になったのは聞いているな?」

 

「はい、アナウンスが流れていましたので」

 

 シアが答える。

 

「その理由だが……IS学園近郊で、戦闘が発生した。それもIS同士のだ」

 

「「「っ───!?」」」

 

 全員が息を呑むのがわかった。俺とシアはそれなりに場数を踏んでいるので、驚きはあるがそこまででもなかった。

 

「現在、先行している現日本代表と2年、3年の専用機持ちが戦況を抑えているが数が多く対処仕切れていない。近隣住民には、まだ被害が出ていないが……状況的にこのまま抑えるのは厳しいと結論された。よって、1年専用機持ちは直ちに戦場に急行し加勢せよ、とのことだ」

 

「そんなっ……私、実戦経験も無いのに」

 

 凰がそんなことを言う。実際、ISの実戦経験があるものなどほとんどいないだろう。俺達のような例外、国の代表や、ISのテロリストぐらいのものだろう。

 

「私もお前達を危険にさらしたくはない。が、これは国の指令だ。断ることはできん」

 

 そう言う織斑先生の顔には苦悩が浮かんでいた。

 

「織斑先生、数が多いとは一体? まさか……無人機ですか?」

 

 俺が質問をする。織斑先生は数が多いと言った。ISにおいて数が多いということは有人機では無い可能性が高い。それ程までのIS搭乗者を集めることが難しいからだ。

 

「……そうだ。今回の相手は無人機、人の乗っていないISだ」

 

「「「っ───!?」」」

 

 再び、俺とシア以外の専用機持ちが息を飲んだ。それもそうだろう。『ISには人が乗らないと動かない』という概念が崩されたのだから。

 

「そんなっ!? 人が乗らないISなど存在するはずがありませんわ!」

 

「存在するさ。今、こうして出てきてるんだからな」

 

「それは……」

 

 信じられないのも無理はないか。

 

「……話を続けるぞ。相手は無人機、詳しいスペックデータはお前達のISに送ってある。移動しつつ見ろ。そして、相手はもう一ついる。……これだ」

 

 スクリーンに写真が映し出される。その写真は……

 

「なっ……こいつは……!?」

 

 その写真を見た瞬間、俺は思わず声を上げていた。

 

「ユウ……?」

 

「どうした? 千代紙」

 

 シアが訝しげに呟き、織斑先生が疑問の声を上げるが、俺にはそんなこと聞こえていなかった。

 

「何で……何でこいつがここに……!?」

 

 動揺を隠せない。何故なら、スクリーンに映ったその姿形は俺のよく知るものだったから。

 怪しく光るツインアイ、額のブレードアンテナ、全身のビーム砲、漆黒の巨体その全てが俺の記憶と一致する。

 

「……ウ、ユウ!」

 

「───っ! ごめん、動揺した」

 

「何があったのか説明してもらえるか?」

 

「はい。……あれを、あの殲滅兵器を俺は知っています。俺の記憶道理のものなら」

 

「何………?」

 

「あれは『サイコガンダム』。巨大殲滅兵器にして、Iフィールドと呼ばれる特殊兵装によりビーム攻撃がほぼ聞かない。まさに、悪夢のような存在です」

 

 そう、『サイコガンダム』。俺が居た世界において、Zガンダムに登場する巨大殲滅兵器。

 

「サイコガンダム? それにビームが効かないだと?」

 

「はい。正しくは、一定威力までのビーム攻撃を無効化します。ビームサーベル等の近接ビーム兵装ならば突破が可能ですが、ビーム砲となるとほとんど効果がありません」

 

「……なる程。その情報は確かなんだな?」

 

「俺の記憶のものならば、間違いなく」

 

「わかった。その情報は戦闘を行っている、専用機持ちにも送っておく。そのほかに、知っていることはあるか?」

 

「……先ほど近接ビーム兵装ならば突破が可能と言いましたが、全身のビーム砲により接近はかなり難しいものです。全身に10以上付けられていますから」

 

「そんなの、馬鹿げてるだろ……」

 

 一夏が呟く。同じ感想だよ、一夏。俺も初めて見たときはそう思った。

 

「他に方法が無いという訳ではないですが、初見では難しい方法です。なので……そいつの相手は俺がします」

 

「……勝算はあるのか?」

 

 その返答に俺は不敵な笑みを浮かべた。

 

「当然。負ける戦いはしない主義ですから」

 

 

**********************

 

 

「なあ、夕音。お前は何者なんだ?」

 

 会議室を出てISスーツに着替えている時、一夏が聞いてきた。

 

「ん? 何者って言われてもな……」

 

「あの殲滅兵器の名前やスペック、無人機の存在も知ってるみたいだったじゃないか」

 

「そうだな……よし、こうしよう。一夏、お前は強くなれる。だから、俺に追いつけ。その時、お前の質問に答えてやるよ」

 

 そう言って、ニヤリと笑ってやる。一夏は目を見開いていたが、ニヤリと笑い、言った。

 

「そうかよ。なら、とっとと追いつかないとな」

 

「ああ、追いついて来い」

 

 そう言って、ふたりで部屋を後にする。今回の任務はなかなか難しいものだ。けど、やれる。俺達なら。

 

 

**********************

 

 

神無月 夜華side

「くっ……」

 

 また一機味方が墜とされた。IS学園の生徒だろうが、助けに行ける余裕は無い。

 今まで、日本代表としてそれなりの場数を踏んでいる私だが、ここまでの戦闘は初めてだった。専用機である『四季菊』の戦闘持続時間の限界にはほど遠いものの、集中力は着々と限界に近づいてきている。

 既に戦闘が開始されてから1時間。10機以上の無人機を墜としたが、まだ50機はいる。味方もほぼ墜とされていて、残るは数機のみ。

 

「っ!?」

 

 思考は隙を生む。その隙を無人機が、プログラムされたAIが見逃すはずがない。

 背後から凶刃が迫り、前方2方向からビーム砲で狙われている。

 

(拙い! やられる!?)

 

 刹那、3本の火線が無人機を貫いた。的確にコアを貫き、無人機は爆散する。

 

(なっ……誰が!?)

 

 振り向こうとした視線を追い越すように白い影が躍り出る。

 

『遅くなった。IS学園1年1組、副クラス代表 千代紙 夕音。救援要請を受諾し参上した』

 

「千代紙 夕音……? 1年の副クラス代表……? 貴方がさっきの無人機を……?」

 

『ああ、そうだ。現日本代表 神無月 夜華さん』

 

 この行動だけで彼女は目の前にいるISとISパイロットの実力を理解した。

 ロックされていれば無人機は回避行動を行うはずだ。しかし、先ほどの無人機はそんな素振りは見せなかった。これが意味するのは、無人機の索敵範囲外から狙撃したと言うこと。しかもコアを的確に狙ってだ。

 その後、ここまで接近してきたのだろう。

 だがそうするとよほどの射撃能力を持っていて、一瞬で接近するほどの機動力があると言うこと。

 政府から彼の噂は聞いていたが、まさかこれほどのものとは……。

 

「救援感謝するわ。見ての通り戦況は厳しいものよ……背中、預けても大丈夫かしら?」

 

 彼の実力を信じての言葉だった。彼は今ここに居る誰よりも強い。私よりも強いかも知れない。

 

『勿論。最も、預かるのは俺だけではありませんが』

 

 彼がそう言った途端、背後から複数の火線がのびた。それは、無人機を蹂躙するように横凪した。

 多くの無人機はそれを躱したが、続く雨のようなようにのびる火線により蹂躙された。

 この数秒の間に無人機はその数を10程度まで減らしていた。

 

「す、すごい……これが1年生の実力なの……!?」

 

 2年、3年の生徒よりも明らかな実力がある。

 

『さて、殲滅戦といこうか』

 

 彼はそう呟くと一瞬で視界から消えた。ハイパーセンサーで確認して、ようやくわかるほどの加速だった。

 

「負けてられないね、これは」

 

 バススロットから『夏』の装備を取り出し、換装する。

 『四季菊』の最大の特徴である『換装』は、こと持久戦において大きな効果をもたらす。

 『換装』とは、一括りにされた装備一式をバススロットからコールし、装備するというものだ。いわば、複数のパッケージをバススロットの持っているようなものだ。

 そのため、いかなる敵にも、状況にも対応出来る最強の万能型といえる。

 詳しく言えば、『春』『夏』『秋』『冬』の4つの換装装備があり、それぞれ『万能型』、『攻撃特化』『機動力特化』『防御特化』という仕様になっている。それぞれの換装装備には大容量シールドエネルギーバッテリーが着いているため、「不沈」という異名を持っている。

 

「やってやるわよ」

 

 先ほどの攻撃を見て興奮しているのかも知れない。限界に近づいていたはずの集中力は既に回復していた。

 私は、勢いよくスラスターを噴射し、戦場に身を踊らせた。

 

 

**********************

 

 

千代紙 夕音side

 シアとセシリアの援護射撃によって、無人機はその大半が破壊され残るものも既に駆逐されようとしていた。

 しかし、無人機の中に一機、形状が異なるものがいた。カラーリングもさることながら、モノアイではなくバイザーでそもそも、武装が腕に連結されていない。一言で言えば、有人機。そんな印象を受けた。

 その機体はその場から動かず、こちらの戦いを傍観しているようだった。

 残りの無人機が10を切った時、それは動いた。生き残っていた2年の機体を吹き飛ばしたのだ。

 

『うあぁぁぁぁあああ!?』

 

 物凄い勢いで地面に撃墜された。ISの絶対防御によって怪我は無いだろうが、気絶はしているだろう。

 更にその機体は3年の機体を撃墜し、こちらに標的を移した。

 

「ちぃ!」

 

 ビームライフル(蒼穹白雪)を速射して、迎撃する。

 一般的な機体なら避けることも出来ないほどの速射だ。が、その無人機らしき機体はそれを躱してガトリング砲を発砲する。

 

「っ! ──セシリア、ビットを!」

 

『わ、わかりましたわ!』

 

 ガトリングをビームシールドで防ぎ、ブレイドドラグーン(白銀穿牙)を飛ばして、檻を作りそいつを閉じ込める。その上からセシリアのビットで攻撃する。

 しかし、そいつはシールドを展開。真っ正面に突っ込んできた。ダメージを無視しての特攻。ビームサーベルを掲げてこちらへ迫る。

 それは俺が考え得る限りの最善の策。俺が同じ状況になればするであろう行動。

 

「───っ!」

 

 (アンロックユニット)で凶刃を防ぎビームライフル(蒼穹白雪)で右足を破壊する。

 

「く……!」

 

 撤退していく。追撃はしない。できない。

 破壊した右足、その装甲の内部に足を見た。間違いなく、生身の人間の足だった。

 

「千代紙くんで良いかしら? 後は任せて貰って良いわ。早くあの巨大殲滅兵器を破壊して。貴方にしか出来ないのだから」

 

「了解。ここは任せます」

 

(あれは確かに人間の足だった。ならあれは有人機、一体何者なんだ……?)

 

 この事件の首謀者か? 自らが前線に立つのか?

 

『ユウ、行きましょう。目標は目の前です』

 

「……ああ、行こう。あいつの居る場所に」

 

 「あいつ」と言うのが、サイコガンダムのことなのか、あの有人機のことなのか自分でもわからない。が、はっきりしたことがある。考えていても仕方が無い。考えて駄目なら確かめるのみだ。撤退方向からして、サイコガンダムの方に向かったのは間違いないはずだ。

 今は考えずに進むだけだ。

 




今回のオリジナル機体説明
四季菊 (しききく)

多数の武装を持ち、換装機能によりいかなる状況にあっても対応が可能な万能機。『春』『夏』『秋』『冬』の換装装備がある。現日本代表の神無月 夜華の専用機。

『春』 万能型。装備はビームライフル、バズーカ、実体シールド、ビームサーベル×2、追加スラスターとシンプルなもの。

『夏』 攻撃特化。武装はビームバズーカ×2、レール砲、強化型ビームサーベル×4、小型シールド、追加スラスター。

『秋』 機動力特化。武装はビームライフル×2、ビームサーベル×2、追加スラスター×5となっており、まさしく機動力特化という具合。

『冬』 防御特化。武装は実体シールド×6 ビームサーベル×2 バズーカと言った具合。アンロックユニットすらもシールドと接続させ、防御に回している。



それではまた次回(。・ω・。)ノシノシ


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その狼煙は叛逆の狼煙

大変お待たせしました。
リアルで忙しすぎて書いてる暇がなかった……
今回は短めです。いつもの半分くらいだと思います。
お許しください!


 瓦礫の山の中心にそいつは居た。

 こちらを確認したようで、ツインアイに怪しく光がともり、胸部の拡散ビーム砲が放たれる。

 

「っ! 散開!」

 

 全員、散開してビーム砲を避ける。

 戦いの幕は上がった。

 

 

**********************

 

 

???side

 部屋と呼ぶには広すぎる空間、ポットの放つ鈍い灯りがその空間を照らす。

 その奥に1人の男。

 怪しく光るモニターを興味深そうに見ている。映っているのはサイコガンダムとそれと戦う数機のIS。

 

「くくっ、君達は勝てるのかな? このサイコガンダム……いや、彼女に……」

 

 男は軽薄な笑いを浮かべて、吸っていた煙草を灰皿で潰した。

 

 

**********************

 

 

「チッ、装甲が厚すぎるな」

 

 ビーム攻撃が効かないサイコガンダムに対しては実弾攻撃でしか攻めることが出来ない。だが、そのほとんどは全身のビーム砲に墜とされ到達できても厚い装甲に阻まれダメージらしいダメージを与えられない。

 やはり、Iフィールドを破るしか無いようだった。

 

「シア、羽は?」

 

『準備完了。いつでも撃てるよ』

 

「よし、全員退避!」

 

 号令に合わせて前衛の俺、一夏と凰が攻撃範囲外に退避する。

 瞬間、降り注ぐ雨のような閃光。サイコガンダムの黒い装甲に白い羽が突き刺さり、覆われる。そして、羽が爆発する。Iフィールドのエネルギーを利用した爆発。それにより、一時的にIフィールドが破れる。

 

「一斉射撃!」

 

 遠距離で待機していたブルーティアーズの一斉射撃、クリア・サンクトゥスの雷撃とクレッセントボウの攻撃、そして俺のフルバーストによってサイコガンダムの巨体が揺らぐ。

 そして、一夏と凰がそれぞれの得物で斬りかかった。凰のより左腕を半ばから破壊され、一夏の零落白夜によって右肩から大きく袈裟に切り裂かれる。

 しかし、サイコガンダムの装甲は伊達じゃない。全身がスパークしており、装甲のほとんどが焼け爛れボロボロであるに関わらずその右腕を持ちあげ、ビーム砲を放つ。

 ブレイドドラグーンのエネルギーフィールドによってそのビームを防ぐ。

 二対の叢雲、計100発のミサイルでの攻撃。焼け爛れた装甲はそのようを成さず、ミサイルの攻撃を受け入れた。

 爆発に覆われる巨体。爆発は連鎖的にサイコガンダムの全身に広がり一際巨大な爆発を起こしてサイコガンダムは倒れた。

 

『終わった、の……?』

 

 凰の声が聞こえる。未だ爆発が続いているが巨体が動き出すことはない。

 

『ああ、終わったんだ……!』

 

 一夏の声には隠しきれない喜びが滲んでいた。人を守ることが出来たことが嬉しいのだろう。

 それはいい。けれど釈然としない。弱すぎるのだ。オーバースペックの力があったにしても、あっさりとし過ぎている。サイコガンダムはここまで弱くなかったはずだ。

 まだ、なにかある。そんな予感がする。

 覇眼を使って周囲を確認する。怪しいものは何も無く、燃え上がり黒煙を上げるサイコガンダムのみがその場にあった。

 

 そして、突如炎の中から何かが飛び出す。

 

「何っ……!?」

 

 それは咄嗟のことに反応出来ていない、凰に襲いかかった。

 

『きゃぁぁぁあああ!?』

 

 瓦礫の山に吹き飛ばされる凰。

 

『鈴!? ぐあっ!?』

 

 一夏が助けに向かおうとするが、反対側に吹き飛ばされた。

 

「やらせるかよ!」

 

 セシリアに向かったそいつをブレイドドラグーン(白銀穿牙)で止め、ビームライフル(蒼穹白雪)で狙撃する。直撃コースだ。

 しかし、そいつはブレイドドラグーン(白銀穿牙)に刃を滑らせて機体を回転、回避した。

 

『あ、ありがとう御座います、夕音さん』

 

「礼を言うのはまだ早いぜ……セシリア、下がってろ」

 

『で、ですが……』

 

「いいから下がれ、死ぬぞ」

 

 その時の夕音の眼は本人は自覚していないが、底冷えするほど冷酷で底の見えない深淵のようだった。

 

『っ……わかりましたわ』

 

「シア、皆の防御を頼む。こいつは、俺が本気を出さないとヤバイ」

 

 その赤と黒の装甲、バイザーその全てが先ほどの有人機と思われる機体と同じものだった。

 

『わかった、無理はしないでね』

 

「ああ……」

 

 その有人機、仮にアウンノウンと呼ぼうか。アウンノウンに向き直る。

 腰からビームサーベル(白月)を抜き、アウンノウンに向ける。

 

「よう、さっきも会ったな」

 

『…………………』

 

「さて、答えろ。俺達を狙う理由はなんだ?」

 

『……………!』

 

 そいつは何も言わずに斬りかかって来る。振るわれた凶刃をビームサーベル(白月)で受け止める。が、予想以上の衝撃に後ろに飛ばされる。

 

「チィ、対話する気は無いってか……!」

 

 更に振るわれる凶刃を躱し、流し、受け止める。

 剣を受け止めたときの一瞬の隙を見て反撃する。腹部を蹴り飛ばし、ビームサーベル(白月)で追撃する。

 

(貰った……!)

 

 しかし、そいつは僅かに機体をひねり攻撃を躱す。

 完全には避けられず、バイザーにビームサーベル(白月)が直撃し、破壊する。

 刹那、ふわりと舞う茶色の髪。こちらを睨む双眸。

 

『っ……!!』

 

「しまっ……」

 

 驚いていた俺は振るわれた刃に反応出来ず、吹き飛ばされた。

 腹部の装甲が破壊されたが戦闘に支障はないだろう。

 だが、それよりも頭から彼女の双眸に宿る光が忘れられなかった。

 憎悪に染まったその光を。

 

「……もう一度だけ聞く、お前は何者だ?」

 

『…………私は守護者。この世界から人類を絶やすもの』

 




次回は早めに投稿したいと思います……
それでは(。・ω・。)ノシノシ


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鏡映し、救いの手

長らくお待たせしました。
どうもすみません。更新ペースはこれからはこのぐらいになると思います。もしかしたらもっと遅くなるかも……
気長に待って頂けたら幸いです。
今話で漆黒の巨人編は完結です!
それでは、どうぞ!


「人類を絶やす? 馬鹿かお前」

 

 厨二臭い。何だ、人類を絶やすって。人類舐めてんのか。しかもこんな幼女が。まだ小学校低学年位の見た目だぞ。

 

『馬鹿じゃない。私は本気で言っている。この世界から人類を絶やす。母なる大地を穢す人類を』

 

 なるほど、挑発には乗らないか。まあ、安い挑発だけど。

 

「へぇ、母なる大地を穢す、か。あながち間違っちゃねえな」

 

 まあ、実際地球温暖化だのエネルギー資源の枯渇だの地球を破壊しにかかってるからな。

 最も、この世界ではそんな問題起きてないんだけど。博士のISの技術のおかげである。いずれ起こらないとも言い切れないが。

 

『理解するの? 私の理想を……?』

 

「まあ、理解しないこともない。が、邪魔はさせて貰う」

 

 どこかで見たことのある理想、その眼の憎悪の光。

 

『理解した上で邪魔するの?』

 

「当たり前だ。……仲間をやられて、黙っているほど俺は甘くねえからな……!」

 

 言葉と共に一瞬で守護者とやらに肉薄する。

 

『なっ!?』

 

 遠慮なく腹を蹴る。続いてビームライフル(蒼穹白雪)で追撃。

 

『くっ……!』

 

 すぐに体勢を立て直すとシールドで受け止める。操縦技術もさることながら、機体の性能も強い。性能から言えば、俺達の機体に近いだろう。博士が作ったものでないだろうから、博士並の天災が居ることになる。

 

『消えて!』

 

 背中から多数のサブアームがのびた。その一本一本がガトリングガンを持っている。

 

「ちっ!」

 

 ガトリングガンの一斉掃射。しかも実弾の中にビームガトリングまで混ざってやがる。実弾なら無視して突っ込めるんだが、ビームが混じってるとそうはいかない。

 ビームシールドで受け止めつつ、躱す。これこそが弾幕って処だろう。

 

(出来れば使いたく無かったが……)

 

 千代紙夕音は、守護者の実力を見極めていた。一筋縄ではいかない相手だと認識していた。サイコガンダムの中から飛び出してきたのだ。アブソリュートエンジンには劣るだろうが、それなりのエンジンを積んでいるか、大容量のバッテリーを積んで居るであろうことは確かだった。

 だから、すぐにけりを付けさせて貰う。

 

(煙幕弾セット……『叢雲』起動)

 

 ブレイドドラグーンのエネルギーフィールドで叢雲に弾が当たらないようにしつつ煙幕弾をうつ。

 乱射されるガトリングガンの弾に貫かれ爆発する煙幕弾。煙が漂い『羅雪』の周囲を隠す。

 

「シア!」

 

『うん!』

 

(『宵闇幻葬』発動!)

(『時間喰らい(ダイヤル・イーター)』発動!)

 

 守護者を対象に『宵闇幻葬』と『時間喰らい(ダイヤル・イーター)』が発動する。

 守護者の動きが遅くなる。いや、守護者の中での時間の動きが遅くなる。

 更に、周囲を暗闇に閉ざされる。感覚も無い暗闇に。

 

「沈め」

 

 背後に大量の武装を一斉展開。殺さない程度の威力に抑えて、撃つ。

 

『うあああ!?』

 

 守護者の声が聞こえた。苦悶の声だ。人を撃つのはいまだに慣れない。博士の任務で人を何人も撃ったが、それに慣れてしまえば人間としてお終いだろう。

 能力を解除して様子をうかがう。『時間喰らい(ダイヤル・イーター)』の後遺症の一時的な加速はもう終わっているだろう。

 

『く、ぅ……』

 

 全身がスパークしている。活動限界だろう。力が同じ程度だからこその早期決着。

 

「お前の負けだ。降伏しろ」

 

『……しは………』

 

「なっ……!」

 

『私は! 負けられない!』

 

 スパークが奔っていた装甲をパージする。内側から紅い光を放つ装甲が出てくる。

 

『堕ちて!!』

 

 背中から、二つの巨大なビーム砲が肩に乗る形で展開する。

 

「くっ!!」

 

 ブレイドドラグーン(白銀穿牙)の展開は間に合わない。ビームシールドのみでその一撃を受ける。

 その一撃は彼女の感情を表すかのごとく、エネルギーがガリガリ削られる。

 その双眸に宿る憎しみの光、その理想。その全てが見たことがあったのは……

 

(そうか……あれはかつての俺自身が持っていたものだ……)

 

 まるで鏡映し。そっくりそのまま、俺が持っていたものだ。

 

(なら、止めないとな……)

 

 それがどれだけ苦しい事か、知っているから。一人の人間が持つのには大きすぎる感情。それは持ち主を蝕むから。

 

「うぉぉぉおおお!」

 

 cradleシステム、起動。

 

 

**********************

 

 

「ここは……?」

 

 ポツリと漏れたつぶやき。真っ白な世界。何か、シャボン玉のような球体が無数に浮かんだ白い世界。

 一体何処なのだろう、ここは。さっきまで、立ちはだかる敵を倒そうとしていたはずなのに……

 

「来たか」

 

「……!?」

 

 背後からかけられる声。突然の事に体が反応する。

 

「あなたは……?」

 

 その風貌、見覚えがあるような気がする。

 

「千代紙夕音、さっきまでお前と戦ってたものだ」

 

「えっ……!?」

 

 見覚えがあったのはさっきまで戦ってたからか。フルフェイスでも、雰囲気はそれと無しに感じ取れる。

 

「そう身構えるな。ここは精神世界。俺もお前も手出し出来ない」

 

「精神世界……?」

 

「ああ、俺の精神世界。つまり俺の心の中だ。無数に浮かぶシャボン玉のような球体は俺の記憶」

 

「何で連れてきたの?」

 

「決まってるさ。お前を止めるためだ」

 

「私を止める? 私が人類を滅ぼす事を止めるの?」

 

「ああ、お前を救うと言ってもいいかもな」

 

「そんなもの、救いにならない。私は人が憎いから人を滅ぼすの!」

 

「それはお前の心を蝕んでる、確実にな」

 

「あなたに何がわかるの!?」

 

「全部わかるさ。お前を見てると思い出すんだ、昔の俺を」

 

 そう言って私の目の前にある球体を指さす。その球体は私に近づいてくる。

 そして、触れる。私の体とその球体が。

 その瞬間、何かが私の中に流れ込んでくる。

 向けられる、蔑みの目。日々、繰りかえされる悪口の応酬。光はなく、徐々に暗闇に飲み込まれていく。生まれる憎しみ、世界がひっくり返るような負の感情。このまま世界が終わればいい。世界から人が居なくなればいい。そんな感情。

 

「こ、れは……」

 

「そうだ、俺の記憶の中でも最悪の記憶。お前と同じ感情を持った俺の記憶」

 

「……なんであなたは私のようにならなかったの?」

 

「違いは、力が無かったからだろうな。あの頃の俺に今のような力があったら、お前と同じ道をたどってただろうな、確実に」

 

「今、あなたには力があるのに……何で壊さないの?」

 

「……さっき、違いがあると言ったけど、一番の違いはそれじゃない。俺とお前の一番の違いは、隣に立ってくれる理解者がいるかどうかだ。俺の隣にはシアがいる」

 

「理解者?」

 

「そうさ、本当の自分をわかってくれる人。それが俺にはいるから」

 

「……私にはいない。はじめからそんなもの存在してない」

 

「そうだな。お前はずっと独りだった。けど、今はいるだろ隣に立つ理解者が」

 

「そんなのいない! 私を、本当の私を理解してくれた人なんてどこにもいなかった!」

 

「俺がいる。俺がお前の理解者だ」

 

「嘘だ、そんなこと!」

 

「嘘じゃない! 俺は全てを受け入れる、お前の全てを。苦しい事があっても傍に俺がいる!」

 

「そんな……こと……」

 

「絶対だ。この手を掴め!」

 

 手が差し伸べられる。

 

「掴んだら離さない、何があってもな! 世界がお前を否定しても、俺だけはお前を否定しない! お前を守る」

 

「本当に……本当に、守ってくれるの……?」

 

「命に代えても」

 

 嗚呼、温かい。とても温かい。人の心はこんなに温かった。

 私に家族はいない。けど、もしも……もしも家族がいたなら、こんな感じなのかな……

 差し伸べられた手を掴む。離さないようにしっかりと。

 その瞬間、世界は色を取り戻した。

 

 

**********************

 

 

 気づけば私は彼の腕の中に居た。私はISを解除していた。彼は顔の装甲を解除していて、顔が見えた。

 目が合う。彼は優しそうに微笑んだ。それを見た瞬間、視界が滲んだ。涙が頬を伝っていく。人の温かさに触れて、はじめて憎しみ以外の感情を持てた。

 もう心に憎悪はない。前よりも心が軽くなった。彼の……いや、お父さんの言うとおり私の心は憎しみに蝕まれていたのだろう。

 

「ありがとう、お父さん」

 

 そう言って私は目を閉じた。

 

 

**********************

 

 

 こうして、この事件は幕を閉じた。無人機ISや、巨大殲滅兵器の謎を残して。

 戦いで多くの建物が破壊されたものの、避難が間に合っていたので奇跡的に死傷者は出なかった。

 復興には時間を要するだろうがいずれもとの生活が始まるだろう。

 一夏と凰も絶対防御で守られていたため軽い打撲ですんだ。

 しかし、もう一つこの事件で問題があった。それは……

 

「お父さん…? どうしたの?」

 

 そう、綾のことだ。なぜか俺の事をお父さんと呼び、シアをお母さんと呼ぶのだ。

 高1で子持ちとか勘弁して欲しい。シアと2人で名付け親にもされたのだ。なぜか戸籍も俺の養子となっている。どうやったのか織斑先生に聞くと「何とかした」と答えられた。IS学園は民法すらどうにかできるらしい。大丈夫か日本。

 そもそも、綾の処遇はどうするのか織斑先生と話し合ったのだが、「お前の判断に一任する」とか言われたのだ。最初はどっかの小学校に入れようかと思ったのだが、なぜか知識は高校生並で頭がいい。どうするか悩んでいたのだが、結局IS学園に入学させることにした。その方が安全だろうと思ったからだ。仕向けてきたのが誰なのか綾自身も覚えていないらしく、黒幕は未だに不明なのも原因の一つだ。

 

「……いや、なんでもないよ」

 

 少し、というかかなり大きい制服を着た綾を見る。心配そうにこちらを覗き込む綾を見てたら、なんかもうどうでもよくなってきた。

 そうこうしている内に職員室についた。今日は綾の入学初日。1年1組に転入するのだ。

 

「山田先生、お願いします」

 

「はい! お任せ下さい!」

 

 なんか張り切ってる……不安だ。

 

「綾、教室で待ってるからな」

 

「うん!」

 

 無邪気な返事に頬が緩む。シアも同じように微笑んでいる。

 

「さ、行こうか、シア」

 

「ええ、行きましょう」

 

 職員室を出て教室に向かい、喧騒に呑み込まれる。クラスメイトに揉みくちゃにされたり、一夏が教室に入ってきて更に揉みくちゃにされたりホームルームまでずっと揉みくちゃにされた。

 ちなみに、その後全員織斑先生に出席簿アタックをくらいこのクラスに織斑先生の攻撃を受けてないものはいなくなった。

 そして、朝のホームルーム。山田先生の声に廊下から綾が出てくる。

 誰かが「ロリっ子だぁ……」とか呟いていたのを聞いた。なんかもうこのクラスに、常識を求めてはいけないな、と思った。

 

「ち、千代紙 綾です。よ、よろしくお願いします!」

 

 勢いよく頭を下げる。周りから拍手が聞こえてきた後、ピタッと拍手が止まり、

 

「「「千代紙……?」」」

 

 背中に視線が集まってると感じるのは気のせいじゃないだろう。というか息ぴったりすぎないか?

 しかもそこで綾が爆弾を投下した。

 

「え、えと……な、何話せばいいの……? お、お父さん、助けて!」

 

「「「「お父さん!?」」」」

 

 クラスメイトの視線が今度こそ集まる。視線に殺傷能力があったら軽く100回は死んでるだろう。しかも……

 

「ど、どういうことですの!?」 

 

「夕音、何やったんだ!?」

 

 セシリアに一夏まで参戦と来た。落ち着けって言っても聞かないんだろうなぁ(しみじみ)

 朝のホームルーム。織斑先生の出席簿が火を噴き続けた。出席簿が人間だったら労基署に駆け込む勢いだった。織斑先生も大変だなぁと思った朝だった。

 




次回から原作の第二巻に入ります。
投稿はどのぐらい先になるだろう…………
と言うわけでありがとうございました!


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幕間 Shopping!

シアン「遅れてすまない。まさかインフルにかかるとは思ってなかった。つまり、俺は悪くない。インフルがすべてわr……ぐはぁ!」

千代紙「馬鹿なこと言ってないで始めるぞ」

シアン「貴様、何故ここに……!?」

千代紙「では、どうぞ!」(華麗なスルー)



 どうも皆さんこんにちは! さて、俺は今何処に居るでしょうか?

 

 答えはCMの後で! じゃねぇよ。

 

「お父さん、こっちですよ!」

 

 正解は……ここでーす。ここここ。正解はショッピングモール『レゾナンス』に来てます。

 どうしてこうなった。

 事の発端は月曜日。綾の服が無い事が判明したのだ。まあ、よく考えれば当然だが。今までシアの服でやりくりしていたがいかんせん大きさに問題がある。そう言うわけで、日曜日の今日買い物に来たのだ。だが、

 

「……おーう、今行くよ」

 

 買い物に来たのはいい。問題ない。丁度、欲しい物もあったしね。だ・が、公衆の面前でお父さんと呼ばれることを加味してなかった。迂闊、俺! 

 どうすんだよもう。ここら一帯での俺の世間体がとんでもないことに。視線が冷たくて痛い。絶対零度である。-273℃である。

 そろそろ逃げたしたくなる。けどまあ、()くしか無いんだ。覚悟を決めろ、俺。

 世間体など気にしたら負けだ。そんなことを考え現実逃避しながら歩いて()くのだった。

 

 

**********************

 

 

「お母さん、どう、似合う?」

 

「うん、すごく似合ってる。ユウもそう思いますよね?」

 

「ああ、似合ってるぞ」

 

「やったぁ!」

 

 場所は変わって洋服屋。ユ◯クロである。安くて良いよね、ユニク◯。『財布に優しい』マークを作っていいと思うまでですらある。

 まあ、それは置いといて。何で俺だけ視線が痛いのか。シアには温かな視線が向けられている。これが、女尊男卑の弊害なのか。言い出した奴、誰だよ。魔女狩りしてやりたい。

 綾はこういう場所は初めてだからか、服を試着室で着ては脱いでを繰り返している。いつもなら、頬が緩むだろうが今そんなことをしたら通報される。多分。なので鉄仮面のように表情を一切変えずに椅子に座っている。

 そんなことをしていたら、

 

「ユウ、何でそんな不機嫌何ですか?」

 

シアにそんなことを聞かれた。

 

「いや、すまない。不機嫌な訳じゃないんだ。ただ、周りの視線が痛くてな、このままじゃ通報されかねないんだ。警察来たら面倒だから、鉄仮面状態なんだよ」

 

 『IS学園の生徒、警察に捕まる。』なんて新聞の見出しになったらたまったもんじゃない。

 

「……そうですか? 温かい視線しか感じませんけど」

 

 周りの見渡しながら言われた。その通りです。シアに向けられる視線は温かいんだよ。俺のは冷たいのにな。家に帰りたい。

 

「お母さん、お父さん!」

 

「ん? どうした、綾」

 

 綾が試着室から出てきて服を引っ張る。そして、綾が口を開こうとしたとき、きゅるると、綾のお腹が可愛らしく鳴いた。

 

「はは、腹減ったんだな。飯食いに行くか」

 

「あうぅ……」

 

 顔が真っ赤になっている綾の手を取って、歩き出す。はっ…寒気が! 

 まあいい、取りあえずお会計だ。つか何枚有るんだ、これ……。

 かなりのボリュームの服を抱えてレジへ向かうのだった。

 

 ちなみに総勢、四万円であった。

 

 

**********************

 

 

 はい、フードコートでごさいます。大きなショッピングモールだけあってフードコートも大きい。モス◯ーガーやらマッ◯やらバーガー◯ングなんかもある。ハンバーガー押しすぎだろう。しかも三つ並んでる辺り店側に悪意があるとしか思えない。ライバル店並べんなよ……。

 取りあえず、席を確保した。時刻は1時をまわった所だが、休日ということもあってかまだまだ混み合っていた。すぐに席を確保出来たのは行幸だった。

 

「綾、何食べたい?」

 

「ん~……うどん!」

 

「渋いな……」

 

 いや、うどんが渋いのかは知らんけど、子供が食べたいって言い出すようなものではない気がする。普通、ハンバーグとかじゃないのか。まあ、いいか。

 

「よし、じゃあそこにあるはな◯るうどんでいいか」

 

 定番だよね、はなま◯うどん。俺はなかなか好きだ。元の世界でも通ってた、ファストフード店の一つだ。取りあえず、『ぶっかけ』の小、中、大を一つづつ頼み、それぞれにかき揚げを追加。出てきたそれを運んで再び席につく。

 

「さて、食うか」

 

「いただきまーす!」

 

「ふふっ、いただきます」

 

 分かるとは思うが俺が大、シアが中、綾が小だ。

 

「しかし、人多いな。気が滅入る」

 

「休日ですしね。人が多いのは仕方ないですよ。それより、ユウも何か買いたい物があるって言ってましたけど……」

 

「あー……今日はもういいかな。また今度買いに来るよ。今日はもう疲れたし、もう帰りたい」

 

「そうですか? それじゃあもう少ししたら帰りましょうか」

 

 そんな他愛のない会話をする。綾は食べるのに夢中で会話には入ってこない。相変わらず、向けられる視線は冷たいがもう無視することにした。

 綾が食べ終わって、うとうとしてた時、突然悲鳴が聞こえた。

 

「なんだ? 騒がしいな」

 

「悲鳴が聞こえましたね」

 

「んにゅ?」

 

 シアが綾を抱き上げて立ち上がり、周りを警戒する。椅子から立ち上がって悲鳴が聞こえた方向に注意を向ける。聞こえたのは吹き抜けホールの方からだった。

 取りあえず移動開始。シアと綾は出口に向かわせて、俺は悲鳴の聞こえた吹き抜けホールへ。

 一応、物陰に隠れつつ移動して吹き抜けホールを覗くと結構な野次馬が集まっていた。野次馬の視線の先、5階には覆面をした男が一人。拳銃を持って女を人質に取って叫いてる。

 

「この女を殺されたくなかったら、上に来るな! 近づくな! 近づいてきたら殺すからな!」

 

 なんか、派手にやってるな。というかあんなテンプレな覆面、初めて見た。穴が三つ目と口の部分だけ見える覆面だ。色は黒。いかにも強盗です、見たいな格好だ。なる程、これが2ちゃんでよく見るwktkってやつか(錯乱)

 さて、どうするか。取りあえずあの女の人を助けないとな。

 義眼のハイパーセンサーを使って建物の構造を完全に把握する。階段は直ぐそこにある。物陰に隠れながらなら5階までは問題なく上がれるだろう。問題はその後だ。5階からは物陰に隠れつつ行動しなければならないが柵が透明な素材で出来ているから動きがばれやすい。一応拳銃は持っているし、狙撃してもいいんだが後から問題になるのは避けたい。だって持ってる拳銃、博士お手製のチートみたいな物だから。拳銃なのにスナイパーライフルみたいな狙撃出来るってどゆこと? 弾変えればショットガンにもなるってなに? 構造が理解できん。

 緊急事態だし、ISの展開も許可されるだろうが、やっぱり後の処理が面倒くさい。結論「よし、素手で行こう」

 とは言ったものの、どうやってやるか。結局振り出しに戻った。

 取りあえず、5階まで非常階段で移動。ドア開けてちらりと覗いたが、見晴らしがいい。少しでも動けば見つかるだろう。

 どうしよう。

 ……………………………………あ、そうだ。上に行こう。

 と言うわけで6階。上から強襲すればええやん、ということで移動開始。1階上がるだけで厚い床に阻まれて端を移動すれば気づかれることも無い。

 途中の登山用品店で丈夫な紐と鶴橋を頂戴して即席のかぎ縄を作る。

 柵に登ってそこから7階の床と柵の間に鶴橋を横にして差し込み、縦にして固定。後は降りるだけだ。紐はしっかり手に巻き付けて持って下には垂らしてない。ばれたらいっかんの終わりだからな。

 さて、行くか。

 紐を弛ませてダイブ。良い子は真似しないでね!

 咄嗟のことで反応が遅れた犯人に拳をプレゼント。銃を手から落としたので、後ろに回って首を絞める。もがこうとして女性を解放したのでそのまま、地面に倒して手を後ろで固定。

 この間僅か五秒ほど。女性は何があったのかわからず呆然としている。よし、今のうちに逃げよう。目立ちたくないし。

 

「あー、俺のことは忘れて下さい。通りすがりの一般人なんで」

 

「え、あ、はい………っていやいや、そんなわけ無いでしょう!? 上からきたわよ!?」

 

 チッ、そこに気づくか。というかなかなか切れのある突っ込みだな。

 

「……いやー、偶然頑丈な紐持ってたんでバンジーしてただけですよ」

 

「嘘にしては無理が有りすぎるわよ!?」

 

「まあ、そういう訳なんで。それじゃ!」

 

 よし、勢いで押し切れたぞ。後は逃げるだけだ。兵法三十六計逃げるにしかず。ふははっ、逃げるんだよぉ!

 

「あ、ちょ、ちょっと!」

 

 俺は何も聞いてない。あー、あー、聞こえないなぁ。

 

 そう言うわけで何とか逃げ切れた。学校とかで話題になるのは避けたい。

 今は帰路についている。

 

「また何かやらかしたんですか?」

 

「いや、俺は何もやってない、聞いてない」

 

「ふふっ、相変わらず、嘘が下手ですね」

 

「ぐっ……」

 

「お父さんかっこよかったよ!」

 

「そうか……っていやいや、おかしいだろ。何で綾が見たかのように言うんだ」

 

 出口に向かわせたよ? まさか見てたのん?

 

「いやー、ユウには悪いと思ったんですけど……どうしても見たいって言ってたので……」

 

「全然悪いって思ってないだろう」

 

「あはは、ごめんなさい。でも、かっこよかったですよ?」

 

 やめてくれ。そんな眩しい笑顔で見るな! 恥ずかしいから! ほんとに勘弁してくれぇ。

 

「いいじゃないですか。人助けはいいことですよ」

 

「はぁ、これからもお前に丸め込まれていくのかねぇ」

 

「お父さん、お父さん」

 

「はいはい、わかったよ」

 

 ねだる綾を抱きかかえ、歩いていく。

 空は少し赤くなってきていて、影はアスファルトに伸びる。

 なんてこと無い日常の話。このまま永遠に続けばいいと思ってしまうほど幸せな時間。

 明日から、また学校が始まる。

 




第2巻に入るといったな、あれは嘘だ。
たまには日常回もいいかなと思いまして。
急遽変更しました。
と言うわけで、次回こそは第2巻に入ろうと思います。
ではまた次回(`・ω・´)ノシ


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黒い欲望と、痛む心
3人目の男子


シアン「すみません、皆様。たいへんお待たせしました。やることが増えて書く時間が少なくなりまして……」

夕音「まあ、時間を有効活用することだな」

シアン「まだ居るんだ……」

シアラ「ふふっ、読者の皆様。これからもよろしくお願いしますね! では、どうぞ!」

シアン&夕音「!?」




「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

 

「うーん、でもハヅキ社製のはデザインだけって感じがするし……」

 

「予算もあるからあんまり高いのも無理だしねぇ」

 

 月曜日の朝。カタログを持った女子達がわいのわいのの談笑している。そう、俺達の周りで。囲まれてるのだ、俺と一夏が。

 なる程、これが石兵八陣、孔明の罠か(錯乱)

 女子で周りを囲むとはなんて策士なんだ! あ、普段からか。

 

「そういえば織斑君と千代紙君のISスーツってどこのやつなの? 2人とも見たことない型だけど」

 

「あー、俺のは特注品だって。男のISスーツがないから、どっかのラボが作ったんだと。もとは……たしかイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる………って、あれ? 皆、どうしたんだ?」

 

 周りにいた皆が口を開いてポカンとしている。無論、俺もだ。

 

「お、織斑君が……」

 

「ISの知識を……」

 

「な、なんで……!?」

 

「皆、ひどくないか!?」

 

 流石の一夏も涙目だ。いや、男の涙目って誰得だよって思ったけどね。取りあえず、フォローしておこう。

 そう思って一夏の肩に手を置く。

 

「ん、夕音? どうしたんだ?」

 

「一夏……頑張ったな」

 

「このクラスに味方がいない……!?」

 

 あれ? 追い打ちかけた? 俺。労ったつもりなんだがなぁ。

 なお、後ろで「はぁはぁ、織斑君の涙目……夕音君×一夏君で決まりね……! はぁはぁ」とか聞こえた。

 どうやら大分前に建てたフラグが回収されたようだ。一夏の涙目は腐女子得だったらしい。

 後、俺と一夏でカップリングするな。撃つぞ。

 

 

**********************

 

 

「なんと今日は転校生を紹介します! しかも2人です!」

 

 朝のSHR。

 ほぅ、転校生か。そうか………なんで内のクラスなんだ。

 いや、別に嫌なわけじゃない。ただ、分散させるもんじゃないのかと思っただけだ。

 何かしらの事情があるんだろうけど。

 さて、耳を塞ごう。

 

「「「「えええええええええっ!?」」」

 

 うん、最近もう慣れてきた。このテンションに。まだ、入学してから2カ月なのに慣れてしまった。大丈夫か、俺。

 

「失礼します」

 

 そんな事を考えていたら、教室のドアが開く。それと同時に喧噪がピタリと止まる。

 なぜか。それは、入ってきたふたりのうちひとりが、男子だったのだから。

 

**********************

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 そう言って、ペコリと一礼する。

 一言で言えば柔らかい。そんな雰囲気がする。

 

「だ、男子……?」

 

「はい、こちらに同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を───」

 

「きゃ………」 

 

 まずいな。第二波が来るぞ、これは。それに加えて、第三波。この声を聞いた他クラスの女子達がこの後、襲撃に来るだろう。まさか、三体目の客寄せパンダが来るとは思わなかった。

 SHRが終わったら、速攻で移動しよう。俺はまだ、死にたくない。

 

「きゃああああああああ────!!」

 

 うん、耳を塞いでいてもわかる。いつも以上にでかい。窓ガラスご割れないか心配になるほどだ。

 ちなみに、ガラス製のコップに一定の周波数の音を当て続ける事で、声でも割ることが出来るらしい。うん、どうでも良いな。

 そんなくだらない事を考える俺をよそに、クラスメイト達は更に盛り上がる。

 

「男子! 三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「グ腐腐腐腐……カップリングが増える……いや、3Pも……」

 

「地球よ、ありがとう。神よ、ありがとう!」

 

 おい、待て。またよからぬ事が聞こえた。何でめきめき頭角を現してくる、腐女子。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 心底面倒臭そうにぼやく、織斑先生。お疲れ様です。今度、息抜きに博士と電話でもさせてあげようか……

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってないですから~!」

 

 その声で、皆ハッとする。忘れていた訳ではない。というか、忘れられない。無造作にのばされた銀髪。カスタマイズされた制服も、完全に軍服のそれだ。まんま、軍人。少なくとも、軍事関係者だろう。そして、

 

「……………」

 

 無言である。腕組みをして、クラスメイト達をつまらなそうに見ていた。

 そして、今はその視線を織斑先生の方に向けけいた。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

「……………」

 

 今度はクラスメイト達がだんまりである。うむ、静寂だ。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

 なる程……ドイツか。織斑先生は訳あって一時期ドイツで教官をしていたことがある。教官と呼ぶからには、奴はドイツの代表候補生と言ったところだろう。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「…………」

 

 ……これはひどい。一夏の更に上をいっている。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 山田先生をいじめるなよ……。泣きそうな顔をしてるじゃないか。かわいそうじゃないか。

 

「!! 貴様が───」

 

 そう言うと、つかつかと一夏の方に近づいて、

 

 ヒュッ! ガシッ

 

 平手打ちを放とうとして、その手を一夏に掴まれ、止められた。

 

「いきなり何だ?」

 

 まさか、止められるとは予想外だったのか驚いた顔をしていたラウラ・ボーデヴィッヒだが、直ぐに手を振り解く。

 

「……私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 それだけ言うと、自分の机に座り黙って腕を組んだ。

 なんだこれ? 急展開過ぎて、皆ついて行けてないぞ。なんで内のクラスは問題児ばっかりなんだ。

 

「あー……ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。二組とIS模擬戦闘を行うぞ。では、解散!」

 

「よし、行くか一夏。デュノアさんも着いてきてくれ。時間が惜しいから歩きながら話すぞ」

 

「う、うん……」

 

 さっきと違い落ち着かない様子のデュノアさんに、一夏が言う。

 

「どうした? トイレか?」

 

「トイ……っ違うよ!」

 

 そうして、教室を出たのだが……

 

「あっ! 噂の転校生!」

 

「「「「「なんだって!?」」」」」

 

 まずい。このまま波に飲み込まれては授業に間に合わない。

 

「………一夏」

 

「…やるしかないよな………」

 

「えっ? えっ?」

 

 廊下が塞がれてるのなら仕方がない。

 

「ちょっと失礼するぞ!」

 

 そう言って、デュノアさんを肩に担ぎ上げる。

 

「えっ!? な、何!?」

 

「夕音!」

 

「ああ!」

 

 俺が担ぎ上げている間に一夏が窓を開ける。そして……

 

「よっと!」

 

「へっ? ……きゃぁぁぁぁあああ!?」

 

 飛び降りた。

 

「せーの!」

 

 地面に足で着地すると、そのまま跳躍。半回転して片手を地面につき、さらに1回転して着地する。

 勢いを殺さないとさすがに痛いからな。

 

「だりゃぁ!」

 

 一夏もご到着のようだ。大幅なショートカットになったな。うん、良いことだ。

 

「…………な、なにがあったの?」

 

 恐る恐るといったように、デュノアさんが聞いてくる。

 

「おっと、担いだままだったな。悪い」

 

 そっとデュノアさんを下ろす。

 

「あのままだと、女子達に捕まってもみくちゃにされてただろうからな。やむを得なかったんだが……すまない」

 

「い、いや。大丈夫……。ありがとね」

 

 そう言って、笑ってくれるデュノアさん。天使か……

 そうして、歩きながら自己紹介をすることにした。

 

「さて、自己紹介が遅れたな。俺は千代紙 夕音。好きなように呼んでくれ。よろしくな、デュノアさん」

 

「俺は織斑 一夏。一夏って呼んでくれ。よろしく」

 

「うん、よろしくね。僕はシャルル・デュノア。2人とも、シャルルって呼んで」

 

「わかったよ、シャルル。……っと、着いたな」

 

 そうこうしている内に、着いた。ショートカットのお陰で時間は余裕がある。

 

「にしても、2人とも凄いね。三階から飛び降りたのに無傷なんて。夕音なんて僕を抱えてたのに」

 

 どうやら、俺の呼び名は夕音になったようだ。

 

「まあ、ね。訓練してるからな」

 

 一夏には、護身術もみっちりと教え込んでるからな。

 

「さて、時間に余裕もあるけど早いとこ着替えるか」

 

「それもそうだな。あれ着にくいしなぁ。引っかかって」

 

「ひ、引っかかって?」

 

「おう」

 

「………」

 

 何で顔を赤くしてるんだ。変な奴だな………

 

「いいから着替えるぞ」

 

「おっと、そうだった」

 

 そう言って、制服とTシャツを一気に脱ぎすててる、一夏と俺。

 

「わあ!?」

 

「どうしたんだ?早く着替えないと遅れるぞ」

 

「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

「俺も一夏も人の着替えをじろじろ見る趣味はないよ」

 

 そう言って、ズボンも脱ぐ。

 

「わあ!?」

 

 本日二回目の声と共に後ろを向くシャルル。…ふむ……。

 まあ、いいや。とりあえず着替えるのが優先だな。下着も脱ぎ捨てると、ISスーツを体に通す。

 俺のISスーツは博士の特注品。何でも、伸縮自在の素材を使っているとかで、着るときはダボダボだが、首の辺りにある器具をずらすと、肌に密着するのだ。着るのが楽でいい。脱ぐときも同様にすればすぐに脱げる。便利だな。

 カシュッと言う音と共にISスーツが肌に密着する。

 

「ふぅ……」

 

 なので、着替えるのが早い。一夏はまだ腰の辺りまでしか着れてない。シャルルは……もうほぼ着れてる。早いな。

 

「やっぱ、着にくいなぁ。夕音のが羨ましいよ」

 

「シャルルはもう着れてるけどな」

 

「うわ、着替えんの早いな。コツがあるのか?」

 

「ううん、特に。それより、時間が……」

 

 時計を見ると8:59、と表示されている。

 

「………一夏、先に行かせて貰う」

 

「ちょっ、待てよ!」

 

 腰まで通していた、ISスーツを急いで着、追いかけてくる一夏。

 走れ、間に合わない!

 

 結局、間に合わずに出席簿アタックを食らう羽目になった。




シアラ「次回まで、気長に待って頂けると幸いです!」

シアン&夕音「いや、何でここに!?」


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正体

シアン「大変長らくお待たせしました……本当に申し訳ない。
言い訳させてもらえるなら、現実が嫌になるほど忙しくて…」

夕音「にしても、時間かかりすぎだろ」

シアン「うぐっ……!? いや、一時期は辞めようかなとか思ったけどさ…」

シアラ「でも、続けるでしょう?」

シアン「うん、さすがに投げ出すのも、と思って。久しぶりに書いたら楽しかったし」

夕音「まあ、更新続けるならそれでいいか」

シアン「そう言うわけで、皆さん。これからもよろしくお願いしますっ!!」


「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

 土曜日、俺達はアリーナで自主練にいそしんでいた。IS学園は土曜日も授業はあるが、それも午前中で終わり、午後は放課後ということになっている。ただし、土曜日はアリーナが全解放となっているため、ほとんどの生徒が自主練をする。今日のメンバーは俺、シア、一夏、シャルル、凰、セシリア、箒だ。綾は専用機がまだ無いので、お休みだ。因みに、博士が造っているのですぐ届きそうだが。

 

「そ、そうなのか? 一応わかってるつもりだったんだが……」

 

「うーん、知識として知ってるだけって感じかな。一応、何回かは勝ててるみたいだから、全く知らないって事はないみたいだけど……」

 

「まあ、今までも夕音達に教わってたからな…」

 

「だね。でも、夕音は試合ばっかりやってたみたいだから…」

 

 とまあ、こんな感じで今はシャルルが一夏にレクチャーしている。正直、俺やシアより教えるのがうまい。俺もシアも今まで我流で戦ってきた分、感覚で操作している部分が大きいのが原因だろう。

 なので、話し合いの結果、細かい説明はシャルルに任せることにした。

 ちなみに、話し合いの場が荒れたのは言うまでもない。荒れたのは箒と鈴音なのだけど。箒は語彙能力が低いのか擬音ばかりだし、鈴音は感覚感覚言ってるだけでわからないし。付け加えると、セシリアは理路整然としすぎてわけ分からん。だと言うのに、全員自分は教えるのがうまいと思っているから厄介なのだ。

 しかし、今日は人が多い。ここ第三アリーナは俺や一夏、加えてシャルルまでいるものだから、使用希望者が続出し人が明らかに多い。他のアリーナはすいてるはずだ。俺達に興味の無い人達は大喜びだろう。

 さて、俺は装備の見直しをするか…。この間、サイコガンダムと戦ってわかったが、装備のバランスが悪い。具体的にはブレイドドラグーンが多すぎた。

 現在、24機を装備しているものの戦闘中持てあますことがあったのだ。なら、その分近接戦闘などに集中力を割きたい。

 バススロットに楯から外したブレイドドラグーンを放り込み、半分の12機にして空に飛ぶ。

 目を閉じてブレイドドラグーンの操作に集中する。何も無い虚空を幾度となく切り裂いて、今までより細かい動きをさせることが出来たことに満足する。微かな燐光を振りまくブレイドドラグーンは、俺を囲うように宙を舞う。その光に確かな力を感じ、息をつく。

 そこでふと、周りが騒がしいのを感じた。

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いたけど…」

 

 視線を移すと、そこには黒いISがいた。乗っているのは銀髪の女子、先日転校してきたラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

(確かドイツ代表候補生、だったか…)

 

 転校してきて以来、誰とも話さないいささか愛想に欠ける奴だ。しかし、自主練か…?それにしちゃ雰囲気が違うが……。

 

「おい」

 

 短い声が響く。開放回線で話しかけてているのだろう。相手はもちろん…

 

「……なんだよ」

 

 一夏だ。まあ、初日のいざこざからわかっていたことだが。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

「貴様になくても私にはある。貴様さえいなければ、教官が大会二連覇を成し遂げていただろう事は容易に想像できるだろう……だから、私は貴様の存在を認めない」

 

 と、言うことらしい。要するに、織斑先生の強さに惚れ込んでいるのだろう。まあ、強い人間に惹かれる気持ちはわからないでもない。

 だが、過去にIFはない。ありえもしない過去で人の存在を否定するような事はあってはならない。

 

「さあ、戦え」

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば──戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 瞬間、ラウラの漆黒のISの右肩の実弾砲が火を噴く。

 ゴガギンッ!

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね」

 

 しかし、その実弾はシャルルのシールドに弾かれる。流れるような動作で《ガルム》を展開し、銃口をラウラへ向ける。

 

「貴様……フランスの第二世代ごと──」

 

「おっと、そこまでだ」

 

 俺は銃口を向けつつ、ブレイドドラグーン(白銀穿牙)でラウラを完全に包囲していた。死角なしの逃げ場無しだ。

 

「俺の友人に手を出すんだ、俺を相手取る覚悟があると受け取るが、どうだ?」

 

「……ふん、命拾いしたな」

 

 そう言うと、ラウラはアリーナに戻っていった。命拾いしたのはどっちなのか…

 

「大丈夫、一夏?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ。ありがとな2人とも、助かった」

 

「それは何よりだ。しかし、こんな場所でいきなり戦闘をけしかけてくるとは……予想外だな」

 

「だね、周りに人も居るのに…」

 

 周りの生徒達はあっけにとられて状況の把握も出来ていない様子だった。

 

「まあ、時間も時間だ。そろそろ切り上げよう」

 

 見れば時計は4時を回っていた。アリーナも閉められる時間だ。

 

「そうですね、更衣室も混んでくるでしょうし、切り上げましょうか」

 

 

 

**********************

 

 

 

シャルルside

「…………。はぁっ……」

 

 時間は過ぎ去り、午後5時。自室に戻ったシャルルは一人ため息をついていた。

 アリーナで一夏が一緒に着替えようと言ってきた時の自分の態度は不自然では無かっただろうか。一夏の口振りだと、男子は一緒に着替えるのが普通だ、と言うことになる。それを断って、不自然に思われてないだろうか…。そう思うと、自然とため息が出てくる。

 それに加えて、一夏や夕音達に嘘をついている罪悪感が込み上げてくる。

 

(だめだ…考えてても仕方ない。シャワーでも浴びて気分を変えよう)

 

 シャルルはクローゼットの中から着替えを取り出すと、シャワールームに向かうのだった。

 

 

 

**********************

 

 

夕音side

「ふぅ……」

 

 俺はいつも通り、自主練習が終わり自販機で買ったアクエ●アスをラウンジで飲んで一息付いていた。いつもならシアも一緒だったりするのだが、今日は先にシャワーを浴びる、ということで部屋に戻っている。

 

(しかし、あのラウラは……やっかいだな…)

 

 同じクラスメイトとして仲良くしたいが、いかんせん問題がありすぎる。あれは手段を選ばないタイプだ。恐らく、一夏を潰すために如何なる手段を用いるだろう。

 

(何とか対策を練らないとな……っと、織斑先生?)

 

 ふと、廊下の曲がり角から織斑先生が姿を現した。何かを探している様子だが…

 

「あぁ、千代紙。いいところに」

 

「珍しいですね、織斑先生がこんな所に来るなんて」

 

「実はデュノアに渡し忘れていたプリントがあってな。探していたのだが丁度良い、千代紙、届けてもらえるか?」

 

「わかりましたよ、届けます」

 

「そうか、頼んだぞ」

 

「任されました。じゃあ、俺はこれで」

 

「あぁ、引き留めてすまなかったな」

 

「いえ、休憩してた所なんで大丈夫ですよ」

 

 そう言って、俺はラウンジを後にした。

 

 

 さて、私は今何処に居るでしょうか? ここでーす、ここ、ここ。ここで御座います。正解はシャルルと一夏の部屋の前でした!………うん、虚しいな。

 と言うわけで、織斑先生から受け取ったプリントをシャルルに渡すべく部屋まで来た。のだが……

 

「シャルル、居るか?」

 

……………返事がない、ただの屍のようだ。いや、ドアはもとから生きてないけど。

 そう、居ないのだ。一夏は山田先生に書類だか何だかを書くために職員室だし……

 

「どうしたもんか……」

 

 試しに、ドアノブをひねると…

 

(あれ?開いてる…?)

 

 普通にドアが開いた。鍵閉めてないのか……。

 ドアを開けると、一つわかったことがある。

 

(そうか…シャワーだったか)

 

 微かに水音が聞こえた。シャワーを浴びているのなら聞こえなくて当然だろう。

 とりあえず、テーブルにプリントを置くことにした。だが、無言で出ていくのも気が引ける。一応、声をかけて置くか。ドアが開く音から察するに丁度シャワーからあがったようだ。

 

「シャルル」

 

「い、一夏!?」

 

「あー、驚かせてごめん。千代紙だ」

 

「ゆ、夕音? 何でこの部屋に居るのかな!?」

 

「いや、織斑先生にプリントを渡すように頼まれてな。部屋の鍵も開いてたし、とりあえず、テーブルの上に置いておいた」

 

「そ、そうなんだね! ありがとう!」

 

「お、おう。勝手に入って悪かったな。でも、何でそんなに慌ててるんだ?」

 

「あ、慌ててない慌ててない! 大丈夫だよ!」

 

「そうか?……っと」

 

 ふと、ベッドに放置されたバスタオルが見えた。ああ、持って行くの忘れたのか。

 

「シャルル、バスタオル無いから慌ててるのか?」

 

「へ? あ、そ、そうだよ!」

 

「やっぱりか。ベッドの上に放置されてるし……今届けるよ」

 

「え、ちょっ!?」

 

 そう言ってベッドの上のバスタオルを拾って脱衣所のドアを開ける。すると……

 

「は……?」

 

「あっ……」

 

 そこには『女子』が居た。金髪碧眼、日本人ではない。バスタオルを申し訳程度に体に巻いて、必死に胸を隠そうとしている。なるほど、俺はどうやら部屋を間違えたらしい(錯乱)

 

「……すまない…」

 

 そして、俺はバスタオルをその場に静に置くと、回れ右をして部屋を出ようとして……

 

「きゃあぁぁぁ!?」

 

「ぐはっ!?」

 

 背後から高速で飛来した物体に後頭部を直撃され、倒れ込むこととなった。

 

 

「……うぅ……」

 

「あっ、夕音……起きた…?」

 

 目を開けると、金髪碧眼の女子がこちらを覗き込んでいた。後頭部がズキズキと痛む。たんこぶでも出来たのかも知れない。痛みで意識がハッキリしてきて、状況を把握する。

 さっき、脱衣所で件の女子の裸を見てしまい、部屋を出ようとした所で後頭部に何か投げつけられた。恐らく意識を失っていたのだろう。

 

「あぁ…大丈夫だ…っ!?」

 

 そして、ようやく今の状況を理解する。ベッドに寝かされていた、それはいい。だが、膝枕されているのだ。起きたらいきなり膝枕だ。驚かないわけが無いわけで……加えて視界に入った双丘が更に俺を動揺させた。ガバッと勢いよく体を起こす

 

「あっ……」

 

「ごめん、ほんとごめん……」

 

 動揺ついでに土下座した。何やってるんだ、俺は…。

 

「あ、いや…その……だ、大丈夫だからっ」

 

 顔を赤くしながら声を上げる女子。というか、気絶する前のやり取りからもわかるが……

 

「ごめん……それで、君は…」

 

「…そう、だよ…僕はシャルル・デュノア。ううん、ここまでバレたら隠す意味も無いか……僕はシャルロット・デュノアだよ」

 

「シャルロット・デュノア……名前まで変えてたのか…」

 

「うん、今まで騙しててごめんなさい…謝って、許される事じゃ無いけど…」

 

「いや、大丈夫だけど…それより、何で男装を?」

 

「それは、その……実家からそうしろって言われて…」

 

「実家っていうと…デュノア社から?」

 

「そう。僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ」

 

「命令、か……親なんだよな?」

 

「僕は、愛人の子だから…」

 

 愛人の子。その言葉にチクリと胸が痛む。

 

「引き取られたのが二年前。お母さんが亡くなった時に父の部下がやってきて、色々検査したらIS適応が高いことがわかったから、非公式だけどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

 ゆっくりと言葉を紡ぐシャルロット。思い出したくもないような事だろうに、それをぽつりぽつりと吐き出していく。

 

「父と会ったのは二回、会話も数えるほどしかないかな。普段は別邸で暮らしてるんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時はひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。お母さんもちょっとくらい教えてくれればあんなに戸惑わなかったのにね」

 

 シャルルは愛想笑いを浮かべるが、その声音も乾ききっていた。

 その姿は余りにも儚かった。

 

「そうか……男性の操縦者ともなれば広告塔になる…」

 

「うん、デュノア社は経営危機に陥ってたから」

 

 経営危機。デュノア社は世界トップクラスのISシェアを誇っている。だが、それは第二世代型のリヴァイヴの話だ。加えて、元々リヴァイヴは第二世代型の最後発。データも不足しているのだろう。

「それに、男装していれば日本の特異ケースに接触しやすいだろう……ってね」

 

「なるほど。俺達のデータを盗んで来いって命令か」

 

 確かに、俺や一夏のデータを取れれば第三世代型の開発に大きな進展がうまれるだろう。

 

「まあ、そんなところ。でもばれちゃったし、僕は本国に呼び戻しだろうね。デュノア社は倒産か他企業の傘下に入るか……まあ、僕にはどうでもいいことかな」

 

「……」

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、騙しててゴメン」

 

 頭を深々と下げるシャルロット。その姿を前に、俺は……

 

「お前はどうしたい」

 

「えっ…?」

 

 言い放つ言葉など、選ばなくていい。ただ、思ったことを口に出せばいい。

 

「お前はどうしたいんだ、シャルル」

 

「どうしたいって……僕に選択権はないよ。どの道、本国に…」

 

「そういうことじゃない。何がしたいのかを、聞いてるんだ」

 

「そんなの…決まってるよ……ここに居たいよ。皆、優しくて僕を受け入れてくれて…」

 

「…………」

 

「でも、でも、無理なんだよ……言ったでしょ? 元々選択権なんて無いんだから…」

 

 俺は静かに考える。第三世代型の開発。そのためには俺や一夏の情報が必要……まてよ。そもそも俺達のデータである必要はあるのか…?

 そこに思い至った時、俺の口元には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「シャルル、知ってるか? IS学園はどの国家のものでも無い。本人の意思で無い限り外部からの介入は不可能なんだ」

 

「そ、それは知ってるけど……結局、問題の先送りで…」

 

「だから、その間に俺が何とかする」

 

「えっ…?」

 

「三日だ。三日で俺が何とかする」

 

「三日って……そんなこと…」

 

「信じろ、俺が必ず守るから」

 

「………わかった、夕音を信じる。だから、お願い……」

 

「ああ、任せろ。必ず、お前を守ってみせる」

 

 そう言って、シャルルの頭をくしゃくしゃっと撫でる。

 シャルルは驚いた顔をした後、笑った。

 

「ありがとう、夕音」

 




「これからの更新、どうなることやら……」

「ちょっと、心配ですね…」

「うん、2人とも平然とここに居るけど、ここ僕の場所だからね?」


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怒りの矛先

シアン「我ながら中々早い投稿だと思うんだ」

夕音「まあ、お前にしてはな」

シアン「ストレスが溜まってると早く書けるよね、うん」

夕音「どういうこっちゃ……」


 深夜。IS学園の寮の一室、怪しい光に照らされた人影が作業をしていた。

 人影の正体は千代紙 夕音である。彼を照らす光の源は何やら画面のようであった。画面を流れるのは無数の数字やアルファベットの羅列、それが際限なく続いている。

 

「ふぅ……」

 

 ため息を吐き出し、空中に浮いているキーボードと画面をそのままに、おもむろにベッドに倒れ込む。時刻は午前3時を回った所だった。

 今日は月曜日。シャルルが女の子だとわかってから既に一日が経った。俺は土曜日の夜から徹夜でデュノア社に対する切り札を作っている。まあ、穏便に済ませるのならこれしか手がないのだが。

 少し目を瞑った後、ベッドから起き上がり、再びキーボードを叩く。博士は球状のキーボードを使っていた。なんでも、平面のキーボードは指を移動させてる時間が勿体ないのだとか。

 俺もそのような芸当が出来ないわけでも無いが、正確に打ち込むとなるとやはり慣れ親しんだ平面のキーボードのがやりやすい。今回は正確な物を作らねばならないのだから、なおのことである。

 打ち込まれた文字の羅列を目で追い間違いが無いことを確認しつつ、更に打ち込む作業を繰り返した。完成ほもう間近だ。

 そのまま、朝までずっと続けて俺は人生で初めての二徹をした。

 

 

********************

 

 

 

 月曜日の朝、教室に向かっている途中なのだが体がだるい。さすがに二徹は体に響く。さっき鏡で確認したら、ひどい顔だったからなぁ……取り敢えず、ドリンク剤飲んで対処したが、治りきるものでは無い。博士がいかにオーバースペックかが、よくわかる。

 

「ユウ、どうしたんですか? 朝からひどい顔してますけど」

 

「お父さん、大丈夫?」

 

 当然、同室のシアと綾にもバレるわけで……

 

「ああ、大丈夫だよ。まあ、いろいろあってな……」

 

「…そうですか」

 

 しかし、シアは何を言うわけでも無くその場を収めてくれる。言うだけ無駄だと言う事を知っているのだろう。大切な人に心配をかけていることに心が痛む。

 そこに、一夏とシャルルが合流する。シャルルは俺を見たとき、心配そうに目を伏せたが、すぐに挨拶をしてきた。一夏も俺を見たとき少し驚いた顔をしたが、やはり何も言わなかった。出会ってまだ二ヶ月だが、それでも俺達の中には確かな絆が形作られているということだ。

 そのまま、何気ない会話を交わしていたら教室に着いた。しかし、教室に入ろうとしたところで俺達は廊下まで聞こえる声を聞いた。

 

「そ、そそそれって……!」

 

「う、ウソじゃないんでしょうね!?」

 

 うん、普通に面倒ごとの予感しかしない。しかし、時間も時間なので逃げることも出来ない。

 

「本当だってば! この噂、学園で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝すれば織斑君、千代紙君と交際でき──」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃああっ!?」」」

 

 そこに平然と乗り込んで行く一夏。そこに痺れる、憧れるぅ! いや、別にそんなことは無いけど。ていうか、俺の名前も出てなかったか?

 そんなことを考えている内に女子達はそそくさと自分のクラス・席へと戻って行った。

 

「……なんなんだ?」

 

「さあ……?」

 

 

 

********************

 

 

 

 時間は飛んで放課後。第三アリーナには人影が二つ。鈴音とセシリアである。

 

「奇遇ね。あたしはこれから月末のトーナメントに向けて特訓するんだけど」

 

「奇遇ですわね。わたくしもまったく同じですわ」

 

 そのまま視線での牽制が始まる。第三者がいれば火花が見えただろう。

 

「ちょうどいい機会だし、この前の実習のことも含めてどっちが上かはっきりさせとくのってのも悪くないわね」

 

 対するセシリアは……

 

「わたくしは別にどっちが上かには興味ありませんわ。どの道トーナメントではっきりすることですし……でも、模擬戦と言うのも悪くありませんわね。…いいですわ、その挑戦受けましょう」

 

 そう言って、お互いにメインウェポンをコールし、構える。

 直後、

 ドガァン!!

 発砲音と共に、2人の間を弾丸が通り抜ける。

 

「「!?」」

 

 2人は弾丸が飛来した方向を見て、そこに漆黒の機体を見つけた。それは、

 

「『シュヴァルツェア・レーゲン』……ラウラ・ボーデヴィッヒ…!」

 

 セシリアが端整な顔を歪めながら、機体名と操縦者の名を呼ぶ。

 

「……どういうつもり? いきなりぶっ放すなんてイイ度胸してるじゃない」

 

 鈴音も肩の衝撃砲を戦闘状態にシフトさせつつ言う。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

 確かに、セシリアはフレキシブルを使えない。鈴音もまだ、『甲龍』の力全てを引き出しているとは言えないだろう。だが、ラウラの物言いは自分はデータで見られるよりも強い、と言っているようなものだ。この物言いにはキレるのも無理は無いだろう。

 

「何? やるの? わざわざドイツくん──」

 

「ダメですわ、鈴さん。相手のペースに乗せられます…!」

 

 この言動に、今度はラウラが驚いた。資料を見た限り、セシリアは高飛車で挑発に乗りやすいと思っていたからだ。しかし、今の理性的な行動を見るにデータが古かったと言うことか。

 

「はっ……。2人がかりで量産機に負けるような人間が専用機持ちとは、よほど人材不足と見える。数しか能の無い国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

「あんたねぇ……!!」

 

「鈴さん…!」

 

 今にも暴れ出しそうな鈴を必死に抑えるセシリアだが、続くの言葉にとうとう冷静さを欠くことになった。

 

「大した実力もない種馬共を取り合うようなメス共が、ととっとかかってきたらどうだ?」

 

「……わたくしを侮辱する分にはかまいません。けど……けど、夕音さんと一夏さん侮辱するのは…」

 

 今まで必死に抑えていた感情が表層化するのを、冷静に見つめる自分が居ることを感じる。が、直ぐに感情に呑み込まれる。ライフルのグリップを震えるほどに握りしめながら、叫ぶ。

 

「それだけは、絶対に許しませんわ!!」

 

 

 

********************

 

 

 

「さて、今日も楽しく特訓と行きますか」

 

「そうだね。確か今日は第三アリーナが使えるはずだよ」

 

「今日は使用人数も少ないと聞いてる。空間が空いていれば模擬戦も出来るだろう」

 

「それはいいな。トーナメントも近づいてきてるし、一夏も実戦形式で特訓できる」

 

「ユウ、寝不足なんだから無理はだめですよ?」

 

「お父さん、私も着いていっていいの?」

 

 放課後、他愛ない会話をしながらいつものメンバーで第三アリーナに向かっている所だ。綾は昨日、博士から専用機を受け取ったので特訓に参加させることにした。とは言っても、博士よ家の地下アリーナ(博士が隠れ家の時と同じように作った)で試運転兼肩慣らしはしているのだが。

 

「大丈夫だよ。そんな柔に出来てないさ。それと、綾。綾は今日はあくまで基本的な操縦の練習だからな?」

 

「うん、わかってる」

 

 子供は素直でいいね。反抗期など想像したくないものだ。などと、まったく以て関係の無い事を考えていた。

 

「ん? なんだか騒がしいな…」

 

 そう言って、一夏が訝しむように視線を巡らす。確かに、第三アリーナに近付くに従って、騒がしくなっている。廊下を走る生徒まで居るほどだ。

 

「何かあったみたいだな。それも、第三アリーナで」

 

「みたいだね。こっちで先に様子を見て見ようか」

 

 俺の言葉にシャルルが頷き、観客席のゲートを指さす。確かにピットに入るより早く様子を見れる。

 

「誰かが模擬戦をしているみたいですね。でも、様子が──」

 

 ドゴォンッ!

 

 シアの言葉を遮るように爆発音が観客席を揺らす。全員が視線をアリーナに移す。そこには……

 

「あれは……!」

 

 煙を裂くようにして飛び出してきた二つの影。それは……

 

「鈴! セシリア!」

 

 一夏が二つの影の名前を叫ぶ。そう、そこに居たのはボロボロの甲龍とブルー・ティアーズ。すなわち、鈴音とセシリアだった。決定的なダメージこそ負ってないものの、シールドエネルギーが残り少ないのは火を見るより明らかだ。

 そして、煙が晴れていくと共に姿を現したのは漆黒のIS。『シュヴァルツェア・レーゲン』だった。こちらは無傷でこそないものの、ダメージらしいダメージが無いように見受けられる。 

 鈴音とセシリアは目配せをした後、再びラウラへ向かっていく。二対一、前衛の鈴音と後衛のセシリア。だと言うのに、押されているのは2人の方だった。

 

「くらえっ!!」

 

 鈴音が『甲龍』の衝撃砲(正式名称 第三世代型空間圧作用兵器・衝撃砲《龍咆》)を最大出力で放つ。訓練機程度であれば、一撃の下に沈められるであろうそれをラウラは片手を向けるだけで、迎え撃った。不可視の弾丸。それはラウラに当たることは無かった。

 覇眼で衝撃砲の行方を見た俺は、驚くべき瞬間を目にする。鈴音が放った不可視の弾丸はラウラの前、ラウラの掌の目の前で霧散したのだ。

 

「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

 

「くっ! まさかこうまで相性が悪いだなんて……!」

 

 会話はまるっきり聞こえないが、鈴音が毒づいたのはわかる。先程の現象をかんがみるに、あれは『シュヴァルツェア・レーゲン』の第三世代型兵器と見て間違いないだろう。そして、それは恐らく……

 

(……AICか……)

 

 AIC、それはアクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略称だ。空間にエネルギーで作用を与え、その部分を停止させる結界だ。大体の原理はほぼ衝撃砲と同じ、それ故に衝撃砲とは相性が圧倒的に悪いのだ。

 見れば、ラウラはワイヤーのようなもので捕まえた鈴音を振り子の原理でセシリアにぶつけた所であった。ラウラは『瞬間加速』を使い、一気に鈴音の懐に入り込む。

 

「そう簡単に、やられてたまるか……!」

 

 対する鈴音は防戦一方ではらちがあかないと見たか、機体の損傷を覚悟で連結した双天牙月による回転連撃を行った。本来であればするべきではない行動だが、だからこそラウラの意表を突く攻撃だった。

 

「何っ…!?」

 

 両腕から出力したプラズマ刃で咄嗟に身をかばう。だが、防御は隙を生むものだ。

 

「これでっ……!!」

 

 セシリアの背後からの狙撃。タイミングは完璧。いかにラウラといえどもに避けきれない。

 

「くぅっ…!」

 

 ラウラは左肩のレールカノンを虚空に向け放ち、その反動で機体を射線上から後退させた。セシリアの狙撃はラウラの脚部装甲を掠めて、アリーナの壁に激突した。

 体制を崩したラウラに鈴音は追撃する。双天牙月の連結を解くと二刀流による攻撃を叩き込む。

 が、不自然な格好で鈴音の動きが止まる。見れば、ラウラが鈴音へテを向けている。

 

「まずっ……!?」

 

 時すでに遅し。ラウラのレールカノンが火を噴き、鈴音を吹き飛ばした。

 

「鈴さん!?」

 

「他人の心配をしている場合か?」

 

 そして、鈴音の撃墜に気を取られたセシリアに『瞬間加速』によって接近したラウラのプラズマ刃とワイヤーとブレードが一体と化した武装が次々と叩き込まれる。

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

 次々と叩き込まれるラウラの拳に、足になすすべ無く撃墜される。しかし、ラウラは攻撃の手を止めなかった。このままISが強制解除されれば、命に関わる。

 ラウラの無表情が確かな愉悦に歪む。

 その時だった。今までアリーナ内に注目していたせいで、直前まで誰も気付けなかった。綾がISを緊急展開させ、アリーナと観客席を隔てるエネルギーシールドに手を添えるのを。

 

「これ以上、やらせないっ!」

 

 綾が叫ぶと同時、これまでアリーナからの攻撃をすべて防いでいたエネルギーシールドが消失する。

 隔てる物が無くなり、綾はまっすぐにラウラへ突貫する。

 

「ふん……感情的で直線的。絵に描いたような愚図だな」 

 

 ラウラが手を掲げAICを発動させる。しかし、

 

「そんなもの!」

 

 綾の機体の四つのアンロック・ユニット。それらが十字を組むように綾の前に踊り出て、AICの効果を受け停止する。だが停止したのはアンロック・ユニットであって、綾自身ではない。

 アンロック・ユニットを躱すようにラウラに接近した綾は今までの慣性を全て乗せた蹴りを放つ。

 

「かはっ…!?」

 

 勢いに逆らえず、地面に激突するラウラに綾の猛攻が浴びせられる。

 両手にハンドガン、サブアームにマシンガンを呼び出しフルオートで撃つ。更に、ラウラの集中が途切れたことで解放された四つのアンロック・ユニットから太いビームが放たれた。

 だが、そう簡単にやられるラウラではない。地面を滑るように移動し、攻撃を躱すとレールカノンを速射しつつ綾に接近する。

 レールカノンをアンロックユニットを使って次々と防ぎ、腰だめから放たれたラウラの手刀をハンドガンから持ち替えたビームサーベルで受け止める。その手首を二本のサブアームで掴み、さらにビームサーベルを装備したサブアーム二本で攻撃する。

 

「墜ちろっ……!」

 

「まだだっ!」

 

 振り上げたサブアームがAICによって止められる。

 だが、アンロックユニットがビームを放ちラウラの右肩部装甲を破壊する。その衝撃でレールカノンが本体と分離する。

 

「ぐぁっ…!」

 

 綾は腹部を蹴りつけると、サブアームを使ってレールカノンを回収。爆発の勢いを利用して距離を取った。

 そして、流れるような動作でレールカノンを構えた。シュヴァルツェア・レーゲンの《レールカノン》を、だ。

 本来、ISの装備にはロックが掛かっており、操縦者の許諾なしには扱うことは出来ない。だが綾のISは、綾が操縦する『ロスト・レクイエム』はその限りではない。『ロスト・レクイエム』のワンオフは一度触れれば許諾なしで自由に装備が使えるのだ。その名も《強制解除》。先程のエネルギーシールドを消失させたのは、彼女がエネルギーシールドの操作権を奪ったためだ。サブアームによって、相手の装備を奪いやすく同時に複数の武装を扱える彼女の機体らしいワンオフである。

 

「これで…終わりだぁっ…!」

 

 綾が撃ったレールカノンは、シュヴァルツェア・レーゲンに寸分違わず命中し、その装甲を蹂躙した。




ここで、軽く綾の専用機の紹介をしたいと思います!


機体名 ロスト・レクイエム

武装
ライブズ
粒子ハンドガン。フルオートとセミオートの切替が可能。エネルギーを弾丸として発射する。

プロメテウス
ライブズとの合体により様々な効果をもたらすバレルの総称。ロングレンジ対応、電磁加速、レーザー砲対応など様々な種類を持つ。

アマツ
アンロック・ユニット。楯としての機能も持ちつつ、巨大レーザー砲が着いており攻撃も可能。見た目はOOライザーの肩パーツ。

ラウンダー
ミニガン。こちらもエネルギーを弾丸として使用する。

Nブラスト
バズーカ。弾丸は実弾のプラズマグレネード使用。

シルヴィ
ビームサーベル。白月と同型で出力も同じ。

武装はその他にも様々な種類がある。

ワンオフ
強制解除(アブソリュート・パニッシャー)
武装及び全ての機械の支配権掌握。


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黒き渇望の咆吼

シアン「えー、またまた遅くなって申し訳ない。調子に乗って新しい小説書くじゃなかった、と後悔……はしてない! 反省はしてます、はい」

夕音「お前、絶対バカだろ。只でさえ更新遅いのに新作に手を出すとか」

シアン「仕方ないじゃん、書きたくなったんだから!」

夕音「うるせえ、反省してろ」

シアン「すみませんでした(五体投地)」

夕音「ていうわけで、今回も遅くなりましたがお楽しみ下さい!」


 綾の怒りは決して正義感から来る物ではなかった。綾は元々サイコガンダムと言う殲滅兵器、そして黒いISを駆って1年の専用機持ちを殺そうとした。その後、夕音の養子となる形でIS学園に来たわけだが、その時の不安は相当の物だったのだろう。何せ、自分が殺そうとした相手が居るのだ、何をされても文句は言えない。しかし、その不安が一瞬で消えるほどに綾は温かく迎え入れられた。綾にとって、箒やセシリア、鈴音は恩人と言える存在なのだ。綾も幼いなりに深い感謝を持っていたのだろう。

 今回、その恩人が殺されかけると言うのは綾の目にに様に映ったのか……

 まあ、形はどうあれラウラを止められたのだから良しとしよう。恐らく、ラウラのISの損傷レベルはCを超えているだろうが、別段気にするようなことではない。そう、気にしたら負けだ。

 アリーナに立ちこめていた煙が徐々に晴れていく。そして、

 

 煙の中から黒い影が飛び出した。

 

 

**********************

 

 

(私は……負けたのか……)

 

 負けてしまった。先程、自らが『ブルー・ティアーズ』や『甲龍』を蹂躙したかのように。いや、それよりもひどかった。相手に傷一つ付けられないまま終わったのだから。

 

(このまま、終わるのか……?)

 

 いやだ。そんなことは認めない。私は誰よりも強くなった。そう、強くなったのだ。毎日血の滲むような訓練を重ね、『強さ』を『力』を手に入れた。それなのに……それなのに……!

 

(このまま、這いつくばって……教官にどう顔向けすればいい……!? また、捨てられる。独りになってしまう……)

 

 教官に、織斑千冬に捨てられることを考えた瞬間、何かに支配させるかのような感覚を覚えた。それと同時に力を得た気がした。だが、支配されようとも構うものか。それで、力が手に入るなら。

 沈みゆく意識の中で、強く願う。

 

(まだ、終われない……!)

 

 

**********************

 

 

 

 煙から飛び出した影は、一瞬で綾に接近すると、勢いよく綾を吹き飛ばした。不測の事態に対応しきれず、地面に叩きつけられた。

 

「かはっ……!?」

 

 ISが衝撃を殺してくれるとはいえ、軽減しきれない衝撃が綾の体にダメージを与えた。

 だが、空中へ向けた目が『それ』を捉えた瞬間、その痛みも感じなくなった。

 『それ』は黒かった。そして、その形はかつて世界最強と謳われ、今なお歴史に名を刻まれた『暮桜』であった。

 綾はその名、その形を知っていた。束博士にその映像を見せられたからだ。剣1本で世界の頂点に座した、その機体の映像は頭に目に焼き付いていた。

 綾が『黒い暮桜』を見て硬直していると、突如、それは景色から消えた。

 直後に衝撃。

 地面にいた綾を勢いよく蹴り飛ばす。

 

「うぁ……!」

 

 更に、それは加速すると自らが吹き飛ばした綾に追いつき通り、抜けざまに(雪片)を振るった。

 

「くっ……ぁぁああああ!」

 

 だが、綾も黙ってやられるわけではない。機体を反転させると、斬撃の勢いすら利用して回転、遠心力を乗せた一撃を叩きつける。

 砂ぼこりが舞い、2人を覆い尽くす。果たして───

 黒い暮桜はその剣を難なく受け止め立っていた。大技を受け止められた隙を見逃すはずもなく、剣を弾くとひざ蹴りを腹部へ見舞うと、反撃の為に展開されたサブアームを切り落とす。

 再び鋭い斬撃。何とか剣で受け止めたが、慣性までは防げずに壁に吹き飛ぶ。

 もうもうと立ち込める砂煙を突き破り、剣を振り上げた黒い暮桜が目の前に現れる。剣を上げようとも、間に合わない。

 絶望が綾の視界を染め上げようとする、その時。

 天使は降臨した。

 

 

 

**********************

 

 

 

「綾っ……!」

 

 ユウが鋭い声を上げ、他の皆は息を呑んだ。現れたのは黒い暮桜。あまりに予想外の出来事に、とっさに体が動いたのはユウだけだった。

 一瞬で|IS<<羅雪>>を展開し、神白でエネルギーシールドを切り裂こうとする。

 そこで、ようやく思考が追いついた私は、ユウ!と声を飛ばす。

 しかし、聞こえていないのか、ユウは更に出力を上げてエネルギーシールドを切り裂こうとする。あまりの出力にエネルギーシールドがバチバチとスパークを散らし始めたが、そこでISを展開した私が肩を掴み、再び声をかける。

 

「ユウ! だめです、その状態では……!」

 

「でもっ……!」

 

 振り向いたユウの鬼気迫る表情に、気持ちが揺るぐが、今度は静かに声をかける。

 

「大丈夫です、ユウ。私が行きますから」

 

「シア……」

 

 苦悩の表情に変わる。綾を、娘を守れないことに対する悔しさや惨めさを感じているのだろう。だが、今のユウを行かせるわけにはいかない。今のユウには普段見せない疲れが見えている。そんな状態では、なにが起こるか分からないからだ。

 

「大丈夫ですよ、ユウ」

 

 もう一度、同じように言葉を重ねた後、いつもユウがするように、不敵な笑みを浮かべつつ言う。

 

「世界最強……その隣に並び立つ者がここに居るのですから」

 

 ユウは少し目を見張ると、小さく笑みをもらした。それから、真剣な表情に戻る。

 

「わかった……シア、綾を……皆を頼む」

 

「ええ、任せて下さい」

 

 私は安心させるように微笑み、翼を広げる。羽を使えばエネルギーシールドに一時的に穴を開けられるはずだ。

 

「待ってくれ……俺にも行かせてくれないか?」

 

「「一夏(さん)……?」」

 

 そこには口調こそ冷静ではあるが、その目に強い闘志を宿した一夏がいた。

 

「あれは……あの技は千冬姉だけのものだ。あんな奴に、使わせるわけにはいかない」

 

「そう言うことか……わかった、行ってこい」

 

 その言葉に一夏さんは力強く頷くと、ISを体に纏った。もともと、誰かの力は借りねばならなかった。そもそも、基本性能からして私の愛機は違いすぎる。防御を貫通できる『羽』も、相手を完全破壊する目的のものであって、ラウラというクラスメイトに使えば確実に死を贈る結果となる。相手の防御を貫通し、更に加減可能な一夏さんなら、適任だろう。

 

「わかりました。私が隙を作ります、合図を出したら攻撃して下さい」

 

「ああ!」

 

 そう言って、一夏さんがISを展開したのを確認すると、羽をエネルギーシールドに向けて放つ。羽は円を描くように突き刺さり、その中のエネルギーシールドを消失させる。

 ユウが皆を観客席から退避させたタイミングで、2人とも一斉に瞬間加速を使いアリーナへと躍り出た。

 

 

 

**********************

 

 

 

 振るわれた刃は、障壁に阻まれた。美しい色の障壁が黒い殺意の侵入を強く拒んだ。

 すると、黒い暮桜は大きく後ろに飛んだ。直後、白いISが剣を振り下ろした格好で着地した。さらに、その上空には3対の翼を広げた天使の姿。いや、違う。神々しく、美しい姿のISだ。

 

「綾、無事ですか?」

 

「お母さん……!」

 

 その姿に、声に意識しない内に声が漏れた。安堵の涙が綾の頬を伝う。

 あれだけの猛攻を受けた綾だが、さすが博士の作ったISと言うべきか、傷は付いているものの、その装甲は破壊されていない。サブアームは切り落とされてしまっているが。

 

「綾、動けますか?」

 

「うん、何とか……アンロック•ユニットの補助があれば」

 

 その言葉に私は静かに頷く。

 

「よかった……綾、アンロック•ユニットを使って、セシリアさんと鈴音さんを回収して下さい。そのあと、守りを固めるのです」

 

「うん、わかった」

 

 『ロスト•レクイエム』のアンロック•ユニットが回収に向かったのを見て、『シュヴァルツェア•レーゲンだったもの』に向き直る。

 それは、こちらを警戒してか、得物を構えたまま動かない。その間に、一夏さんに後ろに下がってもらい、私も両手に槍を呼び出し、構える。

 さらに、空中に10本の槍を呼び出し、それに飛ばしたことで戦いが始まった。

 それ、『黒い暮桜』は回避するのではなく、突進した。向かいくる槍を自らの体に当たるであろう3本のみを弾く。残りを身を捻ることで躱し、さらに加速する。

 勢いを乗せた横凪をくり出すが、私はそれを右手の槍で防御。左手の槍を同じく横凪に振るい、反撃する。しかし、これはつばぜり合いの勢いを利用したバックジャンプで躱される。

 再び緊張が高まる。お互い距離を取り、得物を構えたまま動かない。

 その中、私はある考えが浮かんだ。そして、私はそれを実行に移すことにした。左手の槍をバススロットを戻し、1本になった槍を両手で構える。

 意識を集中させ、瞬間加速を使い肉迫する。勢いよく突き出された槍は黒い暮桜に刺さる寸のところで躱された。それはそのまま前傾姿勢のままの私の背後に回り、斬りつける。が、これこそが私の狙いだった。

 攻撃とは隙を生むものだ。いかに熟練の戦士だろうと、攻撃の瞬間は隙を見せるのだ。それはISだろうと変わらない。

 さらに、私には黒い暮桜がそう動くことがわかっていた。『シュヴァルツェア•レーゲン』が『暮桜』に変貌したのは、VTシステムが原因だ。これは過去のモンド•グロッソの部門受賞者の動きをトレース、つまり、コピーするシステムだ。本来はIS条約により全ての機関においても研究•開発•使用が禁止されている。

 それがシュヴァルツェア•レーゲンに積まれていたのだろう。おそらく、巧妙に偽装されてだが。

 確かに、ヴァルキリーである織斑千冬の動きをトレースすれば、確かな『力』をもっだろう。だが、トレースするからこそ、オリジナルが見た動きを見せれば、その時と同じ動きをするのは必然であった。

 今の両手で持った槍の突撃は、かつてモンド•グロッソにおいて、織斑千冬の対戦相手の1人が見せた動きを真似たもの。ならば、その時の織斑千冬と同じく背後に回って斬りつけるのわかっりきっていたのだ。だからこそ、対策はできるし、動きを罠にもできた。束博士に散々見せられた映像がここで役に立つとは思わなかったが。

 剣を上段に構えた黒い暮桜に、地面から杭のごとく槍が殺到する。地面から生えた槍は黒い暮桜の動きを一時的にではあるが完全に封じる。

 だが、まだ充分ではない。

 一時的な行動封じにはなるが、まだ一夏さんに交代するには充分ではないのだ。

 私は翼を羽ばたかせつつ、上空へ。ホバリングしつつ、バススロット内の槍を一斉に呼び出し、射出する。

 雨のごとく槍が降る。目標は動きを封じられた黒い暮桜、ただ一点。

 無数の槍が到達する直前、黒い暮桜は動きを封じていた槍を破壊する。横に飛び退き槍の雨を躱した。続いて瞬間加速を使い、こちらへ接近してくる。地面に刺さった槍はまるで華のようであった。

 私は武器をクレッセントボウに持ち替え、引き絞り、光の矢を放つ。フルパワーの三連射。3つ光の矢はそれぞれが不規則な軌道を描きながら、黒い暮桜に向かう。

 しかし、システムとはいえども織斑千冬の動きをするそれは、その全てを回避し、剣を構えて突進する。

 私はエネルギーフィールドを展開し、その時を待った。

 

 そう、突き上げるように放たれた極太のビームを。

 

 極太のビームは黒い暮桜だけでなく、私自身も巻きこみ、視界を白く染め上げる。

 

「一夏さん!」

 

「お、おう!」

 

 光の柱が消えるタイミングで、零落白夜を発動させた一夏さんが突っ込む。

 ダメージにより、身動きが取れない黒い暮桜は、なすすべ無くその刃を受け入れた。切り裂かれた黒い暮桜は瞬時に消え去り、ラウラ•ボーデヴィッヒが空中に投げ出される。

 武装をしまった一夏さんは、彼女を優しく受け止めたのだった。

 

 

**********************

 

 

 

 相変わらず、予想外のことをやってのける。シアの戦闘を見ていた俺はそう思った。

 シアの機体は比較的支援型で、俺が前衛となるのが常であった。前衛と言うのは思考を挟むような隙は一切無く、言わば感覚によって機体を操るようなものだ。(俺の場合は女神の加護のおかげで余裕があるのだが)

 対照的に後衛と言うのは常に思考を巡らせて前衛をタイミングよくサポートするのが役目。つまり、限られた装備でどうサポートするかが鍵となるため、柔軟な思考が必要とされる。

 今回の戦闘は、まさにその柔軟な思考の現れだと思えた。

 シアが放った三連射。黒い暮桜はそれを難なく回避したのだが、それはシアの目論見どおりだ。シアの狙いは地面に刺さった大量の槍だったのだから。

 大量の槍には、本来ISエネルギーを雷に変換する能力が与えられているが、今回はそれを切っていた。

 従って、大量の槍にはISエネルギーが飽和する。行き場のないエネルギーは本来ならば暴発する。そう、本来ならば。

 例えば、そのエネルギーに方向性を持たせればどうなるか。飽和したエネルギーは方向性に従いエネルギー砲となる。

 今回、その方向性を持たせたのがシアの翼だ。シアの翼から射出される羽は、対象のエネルギーを吸い取る効果がある。その羽の集合体である翼がその機能を最大にしたならば。槍に飽和していたエネルギーは、翼のある方へと導かれるように光の柱を形成する。

 これが先程の原理だ。しかし、目の前でやられれば理解できるが、その発想はなかった。

 およそ、発想の転換においてシアには敵わないな、と思う俺だった。




もっと……もっと速く……!

執筆を……!

頑張ります、はい


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男が守った、そして守るもの

シアン「やっと執筆ができる……」

夕音「また遅かったな」

シアン「ごめん、ほんとに勉強とかで死にそうだったんだわ」

夕音「素直すぎてやりにくいな……まあ、いい。はじめるぞ」

シアン「遅くなりましたけど、お楽しみ下さい!」


 さて、アリーナでの騒動から一日が経った。つまるところ、あの日から3日経ったということだ。

 

『シャルル、いいか?』

 

『あ、夕音? うん、大丈夫』

 

『よし、今日の放課後……そうだな……俺の部屋に来てくれ。そこなら邪魔も入らないだろうからな』

 

『う、うん。わかったよ』

 

『それじゃ、放課後に』

 

 授業中でもあるので手早く伝えるべきことだけを伝えて、コアネットワークを切る。窓の外をぼーっと眺めて、今日のために作り上げたもののことを考える。おそらく、これでどうにかなるはずだ。ならなかったら、まあ、面倒だが色々とやるしかない。

 と、その思考を硬い板のようなものが遮る。そう、物理的に。

 スパンッ!

「ぐぁ……」

 

「授業中によそ見をするな、馬鹿者」

 

 毎度お馴染み出席簿アタックだ。相変わらず、痛い。なんでそんな直ぐに手が出るんですかね、織斑先生。どこぞの戦闘民族でももう少し口が出るぞ。もう少しお淑やかになってもいいんじゃないか? ……いや、それはそれで気持ち悪い……

 スパンッ!

 

「……暴力反対」

 

「ほう、これをくらってそう言ったのはお前が初めてだな。もう1発くれてやろう」

 

 3度の衝撃。普通に痛い攻撃を連発。さすがにダメージが大きい。

 叩かれた部分を右手で押さえつつ、授業に集中することにする。これ以上は勘弁したい。

 こっそりため息をつきつつ、黒板をぼーっと見る。よそ見はしてない、黒板はちゃんと見てる。見てるだけだが。

 黒板では既に知っているISの説明がなされていた。……知っているだろうか? 既に知っていることを説明されてもつまらないだけだと。つまるところ、睡魔が襲ってくるのだ。ここのところの疲れが祟ったか、どうにも抗えそうにない。が、絶対に寝てはいけない。鬼の教官が武器を持って攻撃してくるのは目に見えている。

 

(な、なんとか……眠気を覚ます方法は……)

 

 シャーペンで手を刺すのは意味が無い。本当に眠いときは痛みなど役にたたないのだ。後で痛くなるだけである。一番有効なのはやはりミン○ィアか。万国共通である。いや、世界中にあるのかは知らん。しかし、鬼の教官の目をかいくぐってミ○ティアを食べるのは、それはそれで至難の業である。しかし、やるしかない。俺には秘密兵器があるのだ。

 まず、ミン○ィアをバススロットに入れる。後は簡単だ。口の中にそのミンティ○を射出するだけ。

 口の中にミントの爽快感が広がり、なんとか睡魔を撃退する。何? 激しく技術の無駄遣い? 仕方ないだろう、眠いものは眠い。これしか方法がなかったのだ。

 朝の一時限目の出来事だった。今日も長い一日が始まる。

 

 

 

**********************

 

 

 

 そして放課後である。授業なども普段通りで、特に何事もなく終わった。……何度か出席簿アタックが炸裂したが、何事もなかったのだ。そうに違いない。

「よし、今日も特訓だな」

 そう言って一夏が立ち上がる。ひとまずは一夏たちを巻かないとな。

 

『シャルル、話を合わせてくれ。一旦巻くぞ』

 

『うん、わかった』

 

「あー、すまない。実は織斑先生に呼ばれててな、一旦そっちに向かうから先に向かっててくれ。後で合流するよ」

 

「僕も山田先生に呼ばれてるから、後で合流するね」

 

 とりあえず、適当な理由を並べておけばなんとかなるだろう。実際は呼ばれてもいない。

 

「ん? そうなのか? わかった、先に行ってるぜ」

 

 一夏は何の疑いもせず、他のメンバーに声をかけに行く。さすが超唐変木、こう言うとき無駄な詮索をしないから助かる。

 

「よし、行くか」

 

「うん」

 

 そのまま部屋に直行、といきたいがそうも行かない。アリーナの方向と部屋の方向は同じ。そして、職員室の方向は逆。つまり、部屋に直行するのは不可能なのだ。なので……

 

「夕音、さすがにここを通るのは……」

 

「しかたないだろ、これ以外道がないんだよ」

 

 一旦、校舎をまわるようにして部屋の近くまで来た。しかし、最大の難所はここだ。放課後とあって、人通りの多い寮の廊下。しかし、誰かに見られるのは面倒だ。後でバレる原因にもなりかねない。

 

「よし、光学迷彩を使う。シャルルはしっかり付いてきてくれ」

 

「えっ、そんなものまであるんだ……りょ、了解」

 

 『羅雪』を部分展開し、光学迷彩を起動する。ついでに音も遮断しておこうか。そのまま慎重に部屋の前まで進む。誰かにぶつかりでもしたら、さすがにバレる。覗きか何かと勘違いされるのは目に見えている。

 

(よし、後は……)

 

 ドアが独りでに開くなど、ホラー映画にありがちな事が起きればパニックになる。なので、光学置換装置を使って、開いてない状態のドアが周りからは見えるようにする。これだけすれば、まず気づける者は居ない。後は単純にドアを開けて中へ入り、鍵を閉めればよし。

 

「よし、なんとか乗り切ったな」

 

「激しく問題がある気がするけど……」

 

「気にしたら負けだ」

 

 シャルルの言葉を軽く受け流す。さて、ここからがメインだ。隠密行動は序の口だ。

 

「シャルル、連絡用の端末はあるよな?」

 

「うん、あるけど……よくわかったね」

 

「まあ、さすがに何も持たせてないことは無いだろうって思っただけさ」

 

 シャルルがバススロットから取り出した電話を受け取る。今どきガラケーか……よく生き残ってたな……。

 

「よし、それじゃ借りるぞ」

 

「う、うん……」

 

 緊張からか、シャルルの声は僅かに震えていた。よく見れば、手も震えているようだ。

 

「安心しろって。俺がなんとかする、守るって約束しただろ」

 

 そう言って、俺はシャルルもといシャルロットの頭をくしゃくしゃと撫でる。若干俯いていた顔を上げて、見上げてくる。朱のさした頬と上目遣いで見上げてくるシャルロットにドキリとしたが、首を振って煩悩を振り払う。

 

「夕音……」

 

「ああ、だから大船に乗ったつもりで待ってろ」

 

 そう言って、俺は携帯の電話帳を開く。一件だけ登録されていたそれが、恐らく秘密の通信のためのものだろう。シャルロットにも聞こえるように、電話の音をISで拡張する。部屋は完全防音なので他の部屋に聞こえる心配は無い。通話ボタンを押して、耳に当てる。何度か呼び出し音がなり、誰かが電話に出る。恐らく、シャルロットの父でありデュノア社の代表取締役のセドリック•デュノアだろう。

 

『私だ』

 

 電話口の向こうからそんな声が聞こえた。これまたテンプレな台詞だな。

 

「お初お目にかかります、セドリック•デュノア代表取締役」

 

『……誰だ?』

 

「貴方もご存じでしょう? IS学園の男性操縦者、その片割れです』

 

『……なるほど、千代紙夕音か。何の用だ?』

 

「分かっているでしょう、デュノア代表取締役。ご息女のことです」

 

『……なるほど、理解した。それで、なにが目的だ? それを脅し文句に何を要求する?』

 

「脅しとは人聞きの悪いことを。私は取引を持ち掛けようとしているだけです」

 

『……妙に畏まっているのはそのせいか。気味が悪い』

 

「じゃあ、普段通りで行かせて貰おうか。それで、取引に応じる気はあるか?」

 

『内容を聞かせて貰おう』

 

「いいだろう。まずはこれを見ろ。メールで送った」

 

『なっ……これは……!?』

 

「送ったのは一部だが、ISの製造に関わる者なら分かるだろう。それは設計図だ。第三世代ISのな」

 

『……なるほど、確かにこれは設計図のようだな。だが、でがわからない。どこかの会社が作ったものなら、私は罠に嵌められるが?』

 

「そこは気にすることはない。それほ世界に一つしか無い設計図だ」

 

『なぜ言い切れる?』

 

「決まっている。それの製作者は俺だ。それの存在は俺以外、世界の誰も存在を知らない」

 

『……篠々之博士の護衛のお前が作った、か……さぞ対価が大きいと見える。取引に応じない、という道を選ばせて貰おう』

 

「それは無理だろう? デュノア社の経営は厳しく、このままでは他企業の傘下に入るか、倒産するか。どちらかだ」

 

『その会社を脅しても何も出てこないのは、そちらこそ分かっているだろう?』

 

「俺はまだ対価を言ってない。なに、別に金を取ろうとかそんな事は考えてないさ。ただ、今からとある話をする。それについて肯定か否定を言うのが、まず第一の条件だ」

 

『……話してみろ』

 

「よし、始めるぞ。──ある所に、大企業を預かる立場の男が居た。その男には妻が居たのだが、男は愛人を作り子供をその愛人との間に授かってしまった」

 

『……………』

 

「男はその子供を産ませた。しかし、愛人との間の子供だ。大企業のトップと言う立場では、バレるわけにも行かない。男は愛人と子供を田舎に引っ越させて、そこから何も関与しなかった。さて、その男こそはセドリック•デュノア、デュノア社の社長だ」

 

『そのとおりだ』

 

 シャルロットが目を伏せる。愛機の待機状態であるペンダントを両手で握りしめている。それを横目に見つつ、話を続ける。

 

「だが、これは一般から見たものだ。あんたは今、そのとおりだと言ったな。──嘘だろう?」

 

『なぜだ?』

 

「簡単な話だ。今話したものはあんたがそれらしく作った、シナリオだ。真実じゃない」

 

 シャルロットが顔を上げて、こちらを訝しむように見上げる。

 

『どういうことだ?』

 

「ここからが、あんたが答えるべきことだ。──さて、男はバレるわけにはいかないので田舎に引っ越させた。だが、それは民衆にだ。正妻にではない。正妻は愛人のことを知っていたし、その存在を許していた。なぜなら、それが夫の不器用な愛だと知っていたから」

 

『…………』

 

「正妻は子供を産めない人間だった。だが、子供が欲しいと思っていた。だからこそ、あんたは愛人を作り子供を作った。正妻はその愛人と子供と共に住みたいと考えていたんだろう。だが、愛人は静かに暮らすことを望んだ。だから、あんたらは静観を貫いた。そして、愛人が死んでからもそうするつもりだったんだろう。

 けど、問題が発生した。あんたと対立する派閥が子供の存在を察知したんだ。だから、あんたは子供を守るべく、やむなく引き取った。正妻共々、冷たく接したのは情を抱いてないと思わせて、無理矢理IS学園に入学させれば、万が一女だとバレても被害者として保護されると踏んだからだろう?」

 

『…………』

 

「答えろ、セドリック•デュノア。あんたは、本当は娘であるシャルロット•デュノアを愛しているんだろう?」

 

『……なぜ分かった?』

 

「ここまで条件が揃っていれば簡単に推測できる。いくら経営危機といっても、データを盗ませるのはリスクが大きすぎるからな」

 

『なるほどな。世界最強は伊達ではないか……全て看破されているとはな』

 

「さて、これで第一の条件は達成だな。それじゃあ、第二の条件といこうか」

 

 そう言って、端末を呆然としているシャルロットに投げ渡す。

 

「ふぇ……? あっ、ちょっ……!」

 

 慌ててそれを両手で受け止めるシャルロットを見つつ、電話口の向こう側にも聞こえるように言う。

 

「シャルロットに本当の気持ちを伝えろ。それが第二の条件だ」

 

『っ──』

 

「お父……さん……?」

 

『……シャルロット……』

 

 親子の会話だ、さすがに聞くのは忍びない。俺は少し離れると、近くの椅子に座った。

 そして、どれほどの時間が経っただろうか。途中から涙を流しながら話すシャルロットを見るのは失礼なので後ろを向いていたのだが、肩を軽く叩かれる。

 

「夕音、変わって……」

 

 まだ涙が止まっていないのか、声がが震えている彼女の手から端末を受け取ると、見ないようにしつつ頭を逆の手で優しく撫でつつ、電話にでる。

 

「さて、これで第二の条件もクリアだ。そして、次が最後の条件だ」

 

『なんだ?』

 

「約束しろ。必ずシャルロットを守ると。IS学園から出た後、必ずシャルロットを守れ」

 

『当たり前だ。必ず、守ってみせる』

 

 強い意志を感じさせる声でそう言った。その声が聞ければ充分だった。

 

「よし、取引は成立だ。設計図はあんたのPCに送ろう。追跡なんて馬鹿な真似はするなよ? PC自体が壊れるぞ」

 

『分かっているさ』

 

「よし、それじゃあ切るぞ。早いとこ完成させろ」

 

『待て、最後に一つ聞かせて欲しい』

 

「ん?」

 

『IS学園に居る間、お前が娘を守ってくれるのか?』

 

 その言葉に俺は不敵に笑いながら応える。

 

「当たり前だ。卒業してからも、な」

 

 




どんどん書くぞ……

もう一つの作品と交互に更新する予定ですが、場合によってはこちらを優先するかもです


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月末トーナメント開幕

夕音「結局投稿は遅れるのな。更新ペース遅すぎだろ」

シアン「遅れたくはない。けど、ろくにスマホ自体がいじれないんじゃどうしようもないんだ……」

夕音「問答無用だ、早く書け。まだ二巻目も終わって無いんだぞ?」

シアン「わかってるわ! 次回で二巻目は終わるけどねぇ!」



 

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 騒がしいピットに俺の呟きが掻き消される。

 

「まあ、仕方ないと言えば仕方ないですよ。そもそも、私たちが専用機で出たら大変なことになりますもの」

 

 そう、ことの発端は先週だ。織斑先生に呼び出されたと思ったらとんでもないことを告げられた。なんでも「お前たちも月末のトーナメントには参加さて貰う。だが、それに当たって専用機の使用は禁止する。機体の基本性能が違いすぎるからな」とのこと。

 うん、実際そうではあるのだが、訓練機で戦えはどうかと思う。最初出会ったときならいざ知らず、今の専用機持ちの技術は、日々の特訓で磨きがかかっている。

 今はまだ、機体性能の差を埋めるだけの実力差はあるにはある、はずだ。……あるよな?

 まあ、それはそれとして俺たちに割り振られたのは『打鉄』と『ラファール•リヴァイヴ』。俺が打鉄、シアがラファールに乗って戦うことになった。……まあ、秘策はあるのだが。

 一番の敵となるのは一夏&シャルルのコンビ。それに、セシリア&鈴音コンビだろう。専用機持ちのコンビである。それに加えて、ラウラと箒のコンビも警戒すべき相手ではあるが、俺達より先に一夏&シャルルコンビと当たるので、勝つのはどちらか。

 箒は専用機持ちではないものの、放課後の特訓メンバーであるし、ラウラは元々ドイツ軍の人間だ。コンビネーション的な意味では一夏達に軍配が上がっているが、はたしてどうなるか。

 ちなみに、セシリアと鈴音は事件の後、必死にISを修理した甲斐あってか、今回のトーナメントに間に合ったのだ。ついでに、ペアも組んだらしい。

 事件といば、ラウラだが……先の事件から冷徹さというかそう言ったものがなりを潜め、クラスの面々と交流を持つようになった。ぎこちないながらも、なんとかクラスに溶け込めているようだ。まあ、大体クラスの女子が、一方的にいじくり回してる事のが多いが。

 

「あいつらと当たるのは、たしか、準々決勝と決勝か」

 

「ですね、セシリアさんと鈴音さんが先で、決勝で一夏さんとシャルルさんか、ラウラさんと箒さんです」

 

「ひとまず準々決勝が壁だな……」

 

 そう口にしつつも、頭の中ではシャルル……もといシャルロットのことを考えていた。シャルロットのことを知っているのは、この学校では今のところ俺だけ。出来ることならばシャルロットとは俺が組みたかった。着替え中とか、バレるような場所は沢山ある。

 ペアが一夏だから、心配することもないだろうが。超唐変木は健在だろうしな。いや、むしろラッキースケベでも起こすか……?

 

『間もなく、一回戦、第一試合を始めます。選手の方は準備をして下さい』

 

 思案に暮れているうちに、どうやらトーナメントが始まるようだ。俺たちは第二試合、そろそろ準備を始めるべきか。

 

「ユウ、そろそろです」

 

「ああ、みたいだな。やるからには優勝目指しますかね」

 

「まだまだ、弟子に負けるわけにはいかないんでしょ、お師匠さん?」

 

 いたずらな笑みを浮かべるシアにドキリとさせられる。うん、やっぱり俺のパートナーは世界一可愛い。

 

「当たり前だろ。まだ師匠越えは早いって教えてやろう」

 

 俺は不敵な笑みでシアに答えつつ、席を立った。

 

 

 

**********************

 

 

 

 さて、準々決勝まで余裕で来れた。

 うん、余裕すぎた。

 訓練機同士の戦闘は、技術の差が如実に現れる。この学校で操縦技術は俺たちがトップ。なので、決着はすぐだったのだ。

 

『続いて、準々決勝第一試合を始めます』

 

 さて、まずは第一の壁、セシリア&鈴音コンビだ。セシリアの遠距離支援と、鈴音の白兵戦闘。バランスの取れたいいコンビだと言える。

 だが、それはこちらも同じこと。俺とシアのコンビネーションはこの中……いや、世界中の誰にも負けることはない。共に駆けた戦場は数知れず、その中で培った連携こそが俺達を生かしてきたのだから。

 

「あの時の事が思い出されますわね、夕音さん」

 

 クラス代表決定戦の時、セシリアと言い合った時のこと。たしかに、今の構図は訓練機と専用機の戦いだ。

 

「そうだな……じゃあ、俺達を倒して見せろよ? イギリス代表候補生セシリア•オルコット」

 

「ええ、油断も手加減もいたしませんわ。私達の本気で迎え撃たせてもらいますわ!」

 

『千代紙夕音、シアラ•シルバーベル ペア。セシリア•オルコット、凰鈴音 ペア──戦闘開始』

 

((私達忘れられてない?))

 

 鈴音とシアラがシンクロしたのもつゆ知らず、戦闘開始のアナウンスが流れ、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

「でりゃぁ!」

 

 鈴音の青竜刀が俺の刀を捉える。ガギィンという金属音が響き、何度目かの鍔迫り合いになる。

 鍔迫り合いは単純にパワーの勝負、訓練機と専用機では格が違う。こればっかりは技術の問題ではない。

 

「ちぃっ」

 

「さっきまでの威勢はどうしたのかしらねぇ!」

 

 両手に握る青竜刀での猛攻。いなし、防ぎ、撃墜だけは真逃れる。セシリアはシアが抑えてくれているが、流れ弾がさっきから流れてきてる。

 

(さて、ここは連携の見せどころだな……)

 

『シア、外れてくれ!』

 

『了解!』

 

 コアネットワークで手短に言葉を交わす。それだけで、目的は伝わる。

 

「くぅっ……!」

 

 シアが被弾し、僅かな隙ができる。それを逃すセシリアではない。スターライトMkIIによる渾身の一撃、訓練機ではとても耐えられない。

 ──当たればの話だが。

 シアが本当に体制を崩していたのなら、確実に仕留められた。が、被弾が意図的なもの、体制が崩れたふりならばどうか。

 

「なっ……!?」

 

 当たるはずがない。シアはいとも簡単にそれを躱す。

 躱された一撃は、遮る物無く同射線上にいた鈴音に直撃する。

 

「きゃぁ!? セシリア、何すんのよ!?」

 

「まだまだ連携がなってないな」

 

 被弾した背中ががら空きだ。素速く回り込んだ俺は、握る刀を振るう。

 セシリアの一撃と俺の振るった刀は、『甲龍』のシールドエネルギーをごっそりと持っていく。

 

「同射線上には入らない。連携の基本だぞ?」

 

 左手に滑空砲をコールし、撃つ。完全に体勢を崩した鈴音に防ぐすべはなく、あっさりと『甲龍』のシールドエネルギーを全損させた。

 

「鈴さん!?」

 

「よそ見は厳禁だよ、セシリアさん」

 

 撃墜された鈴音に気を取られたセシリアを、ブレードに持ち替えたシアが攻撃する。

 

「い、インター──」

 

「遅い!」

 

 防御を赦す事無い決定的な連撃。更にブレードを装甲に食い込ませると、ダメ押しとばかりに、両手にコールしたハンドガンを密着させ連射した。

 如何に訓練機と言えども、ISはISなのだ。攻撃は『ブルー•ティアーズ』のシールドエネルギーを削りきった。

 

『試合終了。勝者、千代紙夕音、シアラ•シルバーベル ペア』

 

 同時、試合終了のアナウンスが入る。どうやら、これで準々決勝は決着らしい。なんとも呆気ない幕落ちである。

 

「残念だったな、二人とも。俺達の連携は年季が違うんだ」

 

「ぐぅ……訓練機だったのに……!」

 

「そう簡単には、負けてあげられませんからね」

 

「さすがは夕音さんとシアラさんですわね……動きが違いますわ」

 

「まあ、お前達は少し前まで怪我してたしな。しょうが無いさ」

 

 そう言って、倒れる鈴音に手を差しのべる。はあ、と息をつくと鈴音はその手を取って立ち上がった。

 

「次は負けないからね!」

 

「いつでも掛かってこい」

 

 鈴音の言葉に不敵な笑みで返すと、鈴音は満足したようにピットへと戻っていった。

 

 

 

**********************

 

 

 

 準決勝はすぐに決着し、決勝となった。上がってきたのは一夏とシャルルのペア。一回戦でラウラ達と戦ったが、それに勝利したのだ。ラウラ達も奮戦してはいたものの、やはりコンビネーションの差が出た。

 ラウラ達のコンビネーションも即興にしてはよかったが、一夏達の息ピッタリのコンビネーションには敵わなかったのだ。

 

「やっぱり、お前達だよな……本気でやるか」

 

「訓練機でも、やっぱり夕音達は凄いな。セシリア達との試合も見たけど、動きが全然違った」

 

「そりゃどうも。つっても、お前達に勝てるかはわからないけどな」

 

「僕らも手を抜くつもりはないからね」

 

「ええ、私達も本気でやらせてもらいますから」

 

 そう言って、お互い得物を構え直す。

 

『決勝戦、千代紙夕音、シアラ•シルバーベル ペア。織斑一夏、シャルル•デュノア ペア──試合開始』

 

 アナウンスと共に、激戦が始まった。

 

 

 決勝戦は白熱を極めた。どちらも譲らず、両者互角の戦いだ。

 しかし、それも時間の問題。訓練機は専用機に比べもともとのエネルギーが少ないため、長時間の戦闘になればなる程不利になる。まあ、『白式』も燃費の悪さで言えば、全IS中トップクラスなのだが。

 

「うおお!」

 

 振るわれる刀を、クロスさせた得物で受け止める。パワー型の白式の攻撃はおいそれとして受け止めきれるものではない。スラスターを全開で噴かすが、それでも後ろに追いやられる。

 一夏は刀を振り払ってこちらを弾き飛ばす。そのまま追撃を仕掛けてくる。攻撃を受け止めるだけでは埒が開かない。ここらが仕掛け時だろう。

 

「はあああ!」

 

「っ──!」

 

 裂帛の気合と共に振るわれる刃を、俺は体を捻り、横に移動することで回避する。

 

「なっ……!?」

 

「まだ詰めが甘いな、一夏!」

 

 俺が受け止めるものとして得物を振るった一夏の体勢は大きく崩れた。

 その横っ腹を蹴り飛ばし、両手の刀を投げる。返す手でバススロットからコールした刀も投げつける。

 

「──!」

 

 それに対し一夏は瞬間加速でこちらに突っ込んでくる。

 いい判断だと思った。あの局面に対して、懐に飛び込むという選択に至ったのは成長と言える。

 だが、まだ甘い。

 そこに至ったのはいい。が、それは途中過程であって、最優の選択ではなかった。

 

「はぁっ!」

 

「ぐぁっ!?」

 

 再び突撃を躱し、今度は腹を蹴り上げる。吹き飛ぶ一夏に対し、俺は左手を突き出す。

 本来、『打鉄』の左腕には武装など付いていない。が、こいつはただの『打鉄』ではない。

 織斑先生には、確かにこの『打鉄』で出場しろと言われた。

 けど、誰も改造してはいけないとは言ってないだろ?

 だから、手を加えた。とは言っても、機体の本体に施したのは、両腕の装甲を展開させて、ワイヤーアンカーの射出を可能にした程度だ。基本のスペック向上はしていない。つまりは、腕に武装が少し追加されただけの打鉄。訓練機に変わりは無い。

 

「はっ!?」

 

 左腕装甲から射出されたワイヤーアンカーが、白式の腹部装甲に突き刺さる。そして、勢いよく腕を振ってこちらに引き寄せると、左脚で再び蹴りを見舞った。

 しかし、ここで一夏は俺の予想を超えた。一夏の振るった刀がワイヤーごと俺の左脚部装甲を切り裂いたのだ。

 蹴りは不発、切り離された脚部装甲の爆発で吹き飛ばされる。

 

「ちぃっ」 

 

 吹き飛ばされる中、右手のワイヤーアンカーを一夏に向けて投げた刀に射出する。ワイヤーが刀を絡め取り、巻き戻して刀を掴み取った。

 

「驚いた。あの反撃は予想外だ」

 

「そう簡単にやられるわけにはいかないからな……っ!!」

 

 一夏がワンオフを起動して、お互いの得物を構え直す。残りエネルギーから見て、これが最後の剣戟となるだろう。

 

「「っ────!!」」

 

 ──交錯する。

 

 

 

**********************

 

 

 

「そこだよ!」

 

「甘いです!」

 

 一夏と夕音が激闘を繰り広げている中、シアラとシャルルも激しい勝負を繰り広げていた。お互い支援を得意とし、バススロットの容量が多いラファールに乗っているのだ。銃弾が嵐のように飛び交っていた。

 傍から見れば、シャルルがシアラを押しているように見えるだろう。しかし、実際はそうではない。

 確かに、弾をばらまき牽制しているのはシャルルだが、その銃弾は掠りもしていない。まるで、弾がシアラを避けるようだ。

 対して、シャルルには複数の被弾箇所があった。シアラはシャルルほど弾幕を張っていない。だが、その分的確な射撃により確実にダメージを与え続けていた。

 

(あの銃……装填数からして、もうすぐ弾切れするはず……)

 

 シアラが使用しているのはラファールの基本装備のハンドガンだ。故に、シャルルもその装填数を知っている。

 リロードには遅かれ早かれ時間がかかり、隙ができる。ならばそこを叩く。シアラも高速切り替えができるようだが、ラファールのもう一つの基本武装である狙撃銃は既に使い切っている。彼女に銃はもうない。

 そして、シアラが最後の一発を放った。シャルルはそれを左腕のシールドで防ぐと同時、武装をショットガンに持ち替え、瞬間加速で接近する。

 今のエネルギー残量ならば、数回斬りつけられても、こちらのショットガンの連射が相手のシールドエネルギーを削りきる方が早い。

 そして、瞬間加速は放課後の特訓で未だ見せていない奥の手。一夏は使えるのを知っていても、僕が使うとは知らないはずなのだ。

 衝撃が襲った。

 重い衝撃だった。まるで、壁にぶつかったかと思うほどの衝撃だった。

 

「なにが……!?」

 

 そして、衝撃の正体は……。

 それは本来あり得ない武装。

 『打鉄』の滑空砲だ。

 訓練機の武装には、基本的に専用機のようなロックがかけられていない。つまり、認証なしで使えるのだ。

 そう、この武装は、夕音が準々決勝で使ったものその時から作戦は始まっていたのだ。無意識の内に、滑空砲という武装の持ち主を夕音だけに、特定させたのだ。もっとも、ラファールが打鉄の装備を持っているなどと、予想する人間は居ないだろうけど。

 

「でも……!」

 

 滑空砲は連射ができない。そして、まだ加速するエネルギーはある。

 瞬間加速は使えない、が距離はあと少しで射程に入る程だ。

 そして、射程に入った瞬間、引き金を引く。近距離で絶大な威力を発揮するショットガン。射程ギリギリではあるが、それでも散らばる弾一つ一つが猛威を振るう。

 だがしかし、これに対しシアラは予想外の行動に出た。

 

「えっ……?」

 

 滑空砲を投げ付けてきたのだ。

 銃弾が鋼鉄を引き裂き、火薬を蹂躙し、爆発が起こる。

 煙で視界が遮られ、視覚情報が煙で埋め尽くされる。

 咄嗟に、盾を構えて防御の姿勢を取った。

 防御など、用をなさなかった。

 

 ──衝撃は背後からやって来たのだから。

 

 

 

**********************

 

 

 

 機体と機体が交錯した。

 何の衝撃もなく、一切速度を落とさず。

 一夏が振るう刃を俺はバレルロールにより、回避してそのまま通り過ぎた。

 標的が最初から違ったのだから。

 向こうで起こった爆発。俺の標的はその向こうだ。

 

「なっ──!?」

 

 一夏の声が聞こえる。驚いているのだろうが、彼は喪失していたのだ。

 これが、タイマン勝負でないことを。

 更に加速して、俺の標的、シャルルを捉える。防御姿勢を取るシャルルに、勢い全てを乗せた切り上げを見舞う。

 刃はラファール•リヴァイブ•カスタムIIのシールドエネルギーを余すことなく削りつくした。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 滑空砲が爆発を起こした後、すぐに機体を加速させた。その先に居るのは、一夏さんだ。

 作戦通りだった。滑空砲に爆薬を多量に入れ爆発させたことも、常に互いが見える位置で戦闘して目の前の相手だけに集中させることも。確実に仕留めるには、この方法がいいと判断したのだ。

 ユウとすれ違う。視線が絡み合う、その一瞬。口はしが緩んだ。

 前傾姿勢の一夏さんの背中に蹴りを入れる。吹き飛ぶ一夏さんに、リロードしたハンドガンを速射した。

 放たれた銃弾は限界にあった白式のシールドエネルギーを完全に消失させた。

 




もうほんと、すみません…
よかったら、ブクマとか感想とかお願いします!


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少女の意志と少年の誓い

シアン「何とか一ヶ月以内の投稿だ……」

夕音「久しぶりだよな、こんなに早いの」

シアン「うん。そうなんだけどさ? ハッキリ言われると中々くるものがあるよね」

夕音「なら普段からちゃんと執筆しろよ……」



 

 さて、月末のトーナメントが何事もなく終わったその日。俺達はいつものように、食堂で夕飯を食べていた。だが、今日は様子がおかしい。

 セシリアを筆頭に鈴音は落胆した様子だ。最近一緒に行動するメンバーに加わったラウラはいつも通りだが、箒に至っては、口から魂が覗いてる(ように見える)落胆っぷりだ。負けたのがそんなに悔しかったのだろうか。まあ、箒は剣道家だし勝負事に関して何かあるのだろうが、それにしてもだ。

 ちなみに綾は俺の膝の上で微睡んでいる。トーナメント中は山田先生が預かってくれていたのだが、観戦で相当はしゃいだらしい。そのせいか、夕飯を食べ終わったらこの状態だ。

 

「ユウ、あーん」

 

 そして、こちらもこちらで様子がおかしい。いつもお淑やかなシアが、今日はグイグイくる。おまけに、にこにこと微笑んでいて上機嫌だ。いや、幸せそうなのはいいんだけど、公衆の面前でこれはつらい。かなり気恥ずかしい。しかし、差し出されたものを断る訳にもいかず、あーんされている状態だ。

 

「そういえば、箒。先月の約束だが──」

 

 そんな中で、一夏が話題を切り出す。口から覗いていた魂が一瞬で戻ると、体がピクッと反応する。顔にもいくらか生気が戻っている。

 

「付き合ってもいいぞ」 

 

 その言葉に、箒に完全に生気が戻るとともに、一夏の胸ぐらを締め上げる。加えて、鈴音とラウラが錆びた機会のようにギギギっと首だけ一夏に向ける。これは怖い。修羅場か。

 しかし、一夏と箒がここまで進展していたとは。今までそんな雰囲気は微塵も感じなかったが。

 

「ほ、ほ、本当、か? 本当に、本当に、本当なのだな!?」

 

「お、おう。幼馴染みの頼みだからな。付き合うさ」

 

 ゆらり、と鈴音とラウラが立ち上がる。さながら幽鬼のようである。巻き添え食らわないうちに逃げた方がいいんじゃないだろうか。

 

「そ、そうか!」

 

 箒はその答えに満足そうに、そして勝ち誇ったような表情を見せる。

 ──そう、次の言葉を聞くまでは。

 

「買い物ぐらい」

 

 Oh…………これはひどい。思わず英語が出てしまうぐらい、ひどい。いや、一夏の唐変木さを考えれば当然の帰結か。だがな、一夏。その発言は箒を修羅に変えるぞ。

 

「…………だろうと……」

 

 ほら見ろ、わなわなと肩を震わせてらっしゃる。一夏のノックダウンは待ったなしだな、これは。

 

「そんなことだろうと思ったわッ!!」

 

 ドパァンッ!! といい音が響き渡り、一夏の腹に腰の入ったいい拳がめり込む。ちなみに、捻りも入っていた。テーブルを挟んでいるのにいいダメージだ。「critical!」表示が出ていた気がする。

 いやまあ、冷静に考えてドパァンッってなんだと言う話なのだが。人体から出てはいけない音じゃないか?

 

「ごふっ!?」

 

 一撃を食らった一夏は机に倒れ込み突っ伏す。ビクビクと痙攣する姿はさながら死にかけのゴキブリのようだ。

 箒はそのまま去っていた。しかし、しっかり食器を片づけていく辺り、さすがである。

 鈴音とラウラは同情したように一夏を見てはいるが助けようとはしない。シャルルはさりげなく背中をさすってあげていた。

 

「「「…………」」」

 

 誰も、なにも発しない。というか、発せない。惨状があまりにもひどすぎた。

 それから十五分。一夏が復活するころには、皆自分の夕飯を平らげていた。

 食後のお茶を飲み、そろそろ部屋に戻ろうかと考え始めた頃だった。

 

「あ、千代紙君にシルバーベルさん。ここにいましたか」

 

「山田先生? どうしたんですか」

 

 食堂に山田先生が現れた。どうやら、俺達に用があるらしい。

 

「連絡事項がありまして。えっと、お二人はこの後職員室に向かって下さい。織斑先生がお呼びです」

 

「あぁ……なるほど、わかりました」

 

 あれだ、絶対訓練機改造の件だ。説明を求められるやつだ。それ以外に呼び出される節がないからな。

 

「それと、朗報ですよ! ついに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」

 

「おお! そうなんですか!? てっきりもう来月からになるものとばかり」

 

 大浴場と聞いて、一夏が声を上げる。風呂好きには堪らないことだろう。無論、俺としても嬉しいことだ。広い風呂はいい文明だ。

 

「それがですねー。今日は大浴場のボイラー点検が───」

 

 しかし、これはまずい。山田先生が一夏と話している間にシャルルにコアネットワークで話しかける。

 

『シャルル、これはまずいぞ』

 

『う、うん。丁度、僕も考えてたとこだよ』

 

『一夏はシャルルの正体を知らない。俺は呼び出しを食らって、大浴場に行くのは遅くなる……』

 

『大浴場で一夏と二人っきり……夕音が居ないと誤魔化しきれないよ!?』

 

 いや、俺が居ても誤魔化しきれないから。絶対無理だから。

 

『わかってる。だから、どうにかして風呂に行かないようにするしかない。何かうまい口実は……』

 

『……あっ、あるよ。ラファールのメンテするってことにすれば、一夏を一人でお風呂に向かわせられるんじゃないかな? 一夏はISの整備なんて、からっきしだろうし』

 

『それだ。ひとまず、そう言うことにしてこの場は乗り切ろう。うまくやってくれ』

 

『うん、ごめんね。わざわざ』

 

『気にするな、約束だしな』

 

 打開策を見つけて、通信を切る。今回はこれで誤魔化せるだろうが、いずれ誤魔化しきれなくなる。なんとかしなければな……。

 

「はい! じゃあ早速、風呂に──あ」

 

 一夏はテンションMAXだったが、ふと我に返って俺を見た。

 

「気にするな、先に入っててくれ」

 

「そうか? 別に待ってるぜ?」

 

「いや、解放されるのがいつになるかわからないからな。先に入っててくれ。せっかくの機会を無駄にしたくないだろ?」

 

「そうか、悪いな。それじゃあ、遠慮なく先に入らせてもらうぜ」

 

 そう言って一夏は立ち上がる。着替えを部屋に取りに行くのだろう。俺はシャルルともう一度アイコンタントをして立ち上がる。

 

「じゃあ、ひとまず俺達は職員室に行くか」

 

「ですね。短く終わるといいんですが……」

 

 立ち上がりつつ、そうぼやくシアに苦笑いで返して俺とシアは食堂を後にした。

 

 結局、織斑先生から解放されたのはそれからきっかり二時間後だった。なぜか博士まで乱入してきて、場が混沌を極めたのが原因だった。

 博士は出番がどうとかって騒いでいたが、それはまた別のお話である。

 

 

 

**********************

 

 

 

「ふぅ……」

 

 湯船に浸かりながら、俺はゆっくりと息を吐き出す。さすがIS学園。大浴場もスーパー銭湯並みの大きさだ。それを独占状態なのだから、これ以上の贅沢はない。

 シアに「帰ってきたら、大事な話が、あ、あるので」と、部屋を出るときに言われたのが気になるが、今はこの機会を楽しもう……ふぅ……。

 ぼんやりと、これまでのことを考える。博士とシアと過ごした隠れ家での日々。いろいろあったが、楽しい日々だった。まるで家族のように過ごした、暖かな日々。恥ずかしいから言わないが、俺は博士を家族のように思っている。シアは言わずもがな、綾も家族だ。

 そっと、右目に手を添える。失った右目にはめ込まれた義眼。それは俺の戦いの象徴でもある。

 IS学園に来て、戦った巨大兵器。あれの出所は未だに分かっていない。博士の力を持ってしても特定されない、黒幕。博士と同等の天才と見て間違いないだろう。

 そして、黒幕はまた行動を起こす。そう確信している。その時に、専用機持ち、あいつらも戦場にかり出されるのは間違いない。

 

(あいつらはまだ戦えない。命のやり取りをする場において、あいつらはまだその重みに耐えられない)

 

 俺が守らなければ。あいつらが死ぬようなことは、あってならないのだから。

 カラカラカラ……。

 不意に、脱衣場の扉が開く音がした……気がする。

 いや、そもそもあり得ない話である。俺以外に誰が入ってくるのか。

 あ、一夏がもう一度風呂に入りに来た可能性はあるか。あいつ、風呂大好きだし。

 ひたひたと足音が聞こえてくる。まあ、別に一夏が入ってこようと構わないし、俺はゆっくりくつろごう。

 

「お、お邪魔します……」

 

「……!?」

 

 男にしては高い声が聞こえた。というか、まんま女の声だった。そして、それが普段聞き慣れた声だと言うことに気付いたとき、俺は激しく動揺した。

 そう、シャルルだ。いや、この場合はシャルロットか。ええい、今はどうでもいい!

 

「ま、まてまてまて! なんでここに居るですかい、シャルルさん!?」

 

 動揺の余り、口調がおかしなことになっている。が、気にしてられる状況ではない。風呂に入りに来たのだから当たり前だが、俺は服を着ていないし、ちらりと見たシャルルも同様だ。

 この状況はかなりまずい。年頃の男女が、一糸まとわぬ姿。おまけに密室空間とはかなりまずい。

 

「暇だったから、本当にラファールの整備してたら、思ったより時間かかっちゃって……い、イヤだったら上がるよ?」

 

「いや、大丈夫だ。俺が上がる。もう充分浸かったからな、シャルルはゆっくり入れば──」

 

「ま、待って! は、話があるの。大事な話が……」

 

 そう言われては、この場から去るわけにはいかない。俺は上げかけた腰を落とす。シャルルの方は見ないように、背中を向ける。

 

「僕ね……夕音にとっても感謝してるんだ。ありがとう、夕音。ほんとに、ほんとうにありがとう」

 

「別に、感謝されるようなことはしてないぞ」

 

「ううん、してくれたよ。一人で諦めて、足を止めようとしてた僕を支えてくれた。背中を押してくれたから」

 

「当然のことだよ、それは」

 

「それを、当然って言える夕音はすごいんだよ。だから、ありがとう」

 

「じゃあ、どういたしまして、だな」

 

 ここまで言われては受け入れるしかない。

 

「ね、夕音……」

 

「ん?」

 

 そこでシャルルが言葉を区切った。背後で、シャルルがこちらに近づいてくるのを感じる。

 

「シャルル──!?」

 

 名前を呼ぼうとして、声が裏返る。俺の背中に、シャルルの背中が合わせられた。そこに感じる体温が、心拍数を更に上げる。

 

「夕音……僕ね、夕音が好き」

 

 ドクンと、心臓が跳ねる。予想外の言葉に頭が真っ白になる。考えが定まらない。

 その頭で無理やり、思考を巡らせる。

 

「……好意を否定するわけじゃないけど、つり橋効果なんじゃないのか?」

 

「そうだとしても、僕は夕音が好きなんだよ」

 

「…………」

 

 こう言うとき、どう言う顔をしたらいいのかわからない。笑えばいいと思うよ。いや、やかましいわ。脳内で一人劇してる場合か。

 脳が混乱してくだらないことを考えている。使い物にならない。

 ただ、一つわかることはあって。それを伝えるべきだと言うのはわかる。

 

「……シャルル、俺は──」

 

「わかってるよ。夕音にはシアラさんがいるってことは」

 

「────」

 

 声が出なかった。それを知っていて、なぜ好きだと伝えたのか。

 

「じゃあ、なんで……」

 

「夕音に、知って欲しかったの。僕の思いを」

 

 そこで、シャルルは一旦区切って続ける。

 

「夕音は、何でも一人で背負い込んじゃうから。シアラさんには、違うのかも知れないけど、でも、一人で悩んでるでしょ?」

 

「……わかるのか?」

 

「なんとなく、だけどね。だからね、夕音……夕音が背負うものを僕も背負いたい」

 

「それは──」

 

「だめだ、って言うんでしょ? 僕が背負うものじゃないから、傷つくかもしれないから。だから、これは僕が勝手にやることだよ」

 

 そうすれば、夕音は何もいえないでしょ? と、そう言われた気がした。まったく、その通りだ。

 

「ごめんな……」

 

「夕音、こう言う言葉があると思うよ?」

 

「……ありがとう、シャルル」

 

「ん、どういたしまして」

 

 少し迷った後、シャルルにお礼を言う。シャルルはその境遇からか、観察眼に優れているのかも知れない。もしくは、俺が分かりやすいだけか。後者は信じたくない。

 シャルルは満足そうに応えると、そっと湯船の底に沈めた手に手を重ねてきた。

 それは、お湯の中でも確かな熱を感じて。それは錯覚ではなくて、きっと、シャルルの意志を表しているものだと、そう思った。

 

 その後、ゆっくりと広い風呂を楽しんで部屋に戻った。もちろん、体を洗うのも別々だし、着替えも別々だ。

 部屋へ戻る間は、幾つか他愛ない言葉を交わした。関係はいつもの通りだ。ただ、その中にある何かが変わったのだろう。

 

 

 

**********************

 

 

 

 ……。

 …………。

 ……………………。

 …………………………気まずい。

 部屋に帰ってきて、既に三十分が経過した。帰ってきて、シアに出迎えられたまではいい。風呂であんな事があったせいで、すっかり忘れていたのだ。大事な話があると言われたことを。

 ひとまず、冷たいお茶を飲んで頭を冷やし、シアからの言葉を待っている。

 俺は話の内容がわからないので、待つことしかできない。テーブルを挟んで椅子に座るシアは俯いていて表情が見えない。

 しかし、いい加減この気まずさに限界を感じてきている。シアと気まずくなったのはこれが初めてであるし。

 

「……シア「ユウ」」

 

 ………………。

 

「「…………」」

 

 ……被った。気まずさ継続だ。だが、もう本気でつらいのだ。話を切り出すしかない。

 

「なあ、シア。話っていうのは……」

 

「あ、えっと……その……」

 

 なんともシアらしくない。一体、何があったのだろうか。

 すると、シアが立ち上がる。

 

「ユウ……」

 

「シア?」

 

 そのまま、俺にもたれかかってくる。やはり、普段と違う。熱でもあるのだろうか。

 

「…………」

 

「シア……?」

 

 

 そして、また黙ってしまう。本当にどうしたのだろうか。

 

「ユウ……愛してます」

 

 頭が理解するより早く、動悸が速くなった。心臓が痛いほど強く跳ねる。

 さっきのシャルルに続いて一体なんなのか。

 

「ずっと、一緒に居ます。いつまでも、何処に居ても」

 

 耳元でそう囁かれる。

 

「ぉ……え、えっと……ど、どうしたん、だ……?」

 

 声が上ずる。心臓が早くなりすぎて、気持ち悪くなる。息を吸うことすらままならない。

 

「もう……こう言うときは、俺もだよって返すところでしょう……」

 

 そう言うと、シアはしょうがないなぁという風に息を吐いた。その息遣いも、はっきりと感じられた。

 

「今日のトーナメントで優勝した人は好きな人と付き合えるっていう話があったのですよ。出所は知りませんけどね」

 

 少し、いつも通りに戻ったシアの話し方に、ようやくまともな思考回路が復活する。

 なるほど、箒や鈴音の落胆はそこからか……。優勝すれば一夏と付き合えるビッグチャンスだ、負ければああもなるか。

 

「それで、せっかくだったから……私もユウに告白しようかなと……」

 

 そういうことだったのか……。まあ、確かにこういった機会でなければ、そうそうあんな事を言う機会は──。

 そこまで考えて、ふと気付く。

 俺、告白とかしたことなくね? と。

 シアのことは好きだ。大切な家族だと思ってるし、愛している。けど、その気持を伝えたことが果たしてあったか?

 行動では確かにあったかも知れない。けれど、言葉として伝えていない。

 なんて、馬鹿なのだろう。今までずっと一緒に居た。片時も離れたことはなかった。気持ちは通じ合っている。けれど、伝えるべきことを伝えていなかった。

 

「ごめん……」

 

 そう言って、シアを強く抱きしめる。大切な存在がすぐ近くに居る。守るべきものが、こんなにも愛おしいと思える存在が居る。

 

「愛してる。この世界の誰よりも、この世界で誰よりも、俺はシアが好きだ」

 

「────っ」

 

 シアが息を呑むのを感じた。でも、構わず続ける。

 

「ずっと一緒だ。何があっても、俺はシアの手を離さない。そう、誓うよ」

 

「ユウ……」

 

 シアが体を起こす。視線が絡み合っう。朱がさした頬、瞳は僅かに潤んでいた。

 視線が絡み合って、自然と互いに顔を近づける。

 

 夜は静かに過ぎていく。少年と少女は誓いを胸に口づけを交わし、この幸せがいつまでも続くことを祈った。

 




砂糖投下しようとして、盛大に分量ミスった感が否めない……。
もっと文章力が欲しいなぁ……。


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