Harry Potter Ultimatemode EXシナリオ (純白の翼)
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EX1 罪と罰

このエピソードの主人公は、スネイプです。彼の視点で『賢者の石』第11話までが描かれます。


 我輩の名前はセブルス・スネイプ。1960年1月9日、スピナーズ・エンド生まれ。いまは、ホグワーツ魔法魔術学校の「魔法薬学」担当教授であり、スリザリンの寮監でもある。

 

 一時期、闇の帝王の配下として死喰い人になっていたが愛しい人を危険に晒してしまい、自分の愚かさに気づいてアルバス・ダンブルドアが率いる不死鳥の騎士団に寝返った。だが、その努力も虚しく、彼女は殺されてしまった。夫であり、我輩が最も憎んだ男と、そいつの容姿を受け継いだ息子と共に。生き残ったのは、愛する者によく似た女の子、エリナ・ポッターだけだった。呪いを受けた彼女を、闇の帝王の魔の手から護るべく、我輩はリリーの遺志を引き継ぐと誓った。

 

 それから10年程の歳月が経つ。突然、ダンブルドアの呼び出しがあった。なんと、エリナ・ポッターの双子の兄、ハリー・ポッターが生きているとのことだった。あの憎きジェームズ・ポッターによく似たアイツか。奴に何度も苦汁を舐めさせられた過去が、一気に蘇ってくる。そして、ダンブルドアは我輩とマクゴナガル教授に対してハリー・ポッターを守るようにと言う指令を出した。

 

 1991年9月1日。新入生が入ってくる。早速見つけた。目がメガネだが、他はリリーで額に傷があるエリナ・ポッターと、メガネの顔にリリーの目を持つ少年を見つける。おそらく、アイツがハリー・ポッターだろう。しかし、メガネを掛けていない、髪は清潔感溢れる様に整っているという違いがある。それに、奴に比べると随分と穏やかで、人の良さそうな表情をしていた。悔しいが、メガネよりはある程度マシと認めざるを得ない。

 

『リリー……』

 

 組み分けの儀式は、かなりの番狂わせだった。ハリー・ポッターに関しては、予想通りグリフィンドールだった。しかし、エリナ・ポッターはハッフルパフに組み分けされた。

 

 水曜の午後、ハッフルパフとレイブンクロー合同の1年生の魔法薬学の時だ。エリナ・ポッターに質問した。6年生でやる内容なので、当然答えられる筈もないが。

 

「教科書がチンプンカンプンで、分かりませ~ん。」

 

 なんと、本当にリリーとジェームズ・ポッターの娘かと言う程の極度のおバカだったのだ。我輩の出した問題を答えられないのはまだしも、本来扱っていくべき1年生の教科書が全く分からないと来た。しかも、この後のおできを治す薬でも所々でミスを引き起こしかけ続け、そのたびにゼロ・フィールドが必死にフォローしていた。これには流石の我輩も頭が痛くなる。

 

「ポッター。君はふざけているのか。」

 

「ボクは、至って真面目ですけど。」

 

 目と目が合った。トラウマが再発する。

 

「全部、顔はリリーなのに、目が……目が……ポッターああああああ!!!うわぁああああああああああああ!!!!!」

 

 そこからは何も覚えていない。次に目が覚めたのは、医務室だった。マダム・ポンフリーの話では、地下牢の窓ガラスを体当たりで割って、勢いよく飛び降りたそうだ。一日入院することになって、木曜日の授業は中止になった。

 

 翌朝。今度は、グリフィンドールとスリザリンの合同授業がある。あの憎きメガネに良く似たポッターを見なければならないかと思うと、虫唾が走る。

 

 だが、その認識は改められることになる。予想の斜め上を行く結果となった。ハリー・ポッター。あいつは、あまりにも大人び過ぎている。メガネとは、中身が全く別物だ。何もかもが。

 

 我輩が出欠の時にポッターに皮肉を言った直後、恐怖と自らの死をイメージした。何故こんなことが!?それに、この魔力の質は!!?この時は、何も分からなかった。だが、この時点でも我輩はハリー・ポッターを過小評価していたようだ。それを悟ったのは、我輩の質問に答えた直後に聞こえた木霊が原因だ。言葉の一つ一つが、我輩の心にグサリと突き刺さってくる。

 

『俺が何も知らないとでも思っているのか?良くもぬけぬけと教師なんて続けやがって。』

 

 そう聞こえた。何だ今のは。いや、それよりも、グリフィンドールに減点の口実を与えなければ。しかし、ポッターはそれも難無く答えた。そしてまた、木霊が聞こえてくるのだ。

 

『知っているんだよ!お前が予言をヴォルデモートにネタバレしたことを!それが原因で俺の両親がヴォルデモートに殺された事も!!そして何より、俺たち兄妹の人生を歪ませたことも!!!』

 

 ち、違う。我輩は涙が枯れる程に後悔している……だからこそダンブルドアに……

 

『さぞいい気分だったろう!?お前は、俺の母がどうやって死んだかも知らないだろうね?いいや、知りたくもないわけだよな。お前にとって、俺の母リリー・ポッターは蔑むべき穢れた血なんだからな。母は、俺とエリナの命懸けの命乞いをして、ヴォルデモートに嘲笑われながら虫ケラのように殺されたんだよ!全部お前が引き起こした事だ!お前のせいだ!!俺は未来永劫、お前を味方だとは思っちゃいない。何故なら、お前は俺の母の仇だからだ!』

 

 もうやめてくれ!!もう十分だ!!!我輩が悪かった。それは本当だ。一部だけとはいえ、闇の帝王に報告をした。それが、最大の不幸だった。我輩の所業で最悪の結末を迎えてしまった。だが、リリーへの態度は絶対に違う!決して、蔑む気なんて全くなかった。自分のプライドを優先してしまった故の過ちなんだ。我輩は……私は……僕は……リリー。

 

 それでも、気を取り直して、授業を再開させる。もう、ポッターに関わるのはやめよう。質問の度にアレでは、こちらの身が幾つあっても足りん。

 

 授業が終わると、すぐに部屋にこもる。あれは、ポッターがやったのか。誰にも、漏れる筈が無いのに何故。我輩に心の傷を負わせるのに、なぜあの事を!?どこまで知っているのだ?それに、僅かに見えたポッターの心。尋常ではない憎悪が見えた。一体何をされたらそうなるのだ。ポッターよ。

 

 極めつけは、ポッターのあの魔力。魔法界全体で見れば、相当な量とも言える。だが、突出して高いわけではない。闇の帝王やダンブルドアと比べたら、少ない方だ。また、同級生と比べると、純粋な魔力の量ならばイデゥン・ブラックに軍配が上がる。

 

 問題は、魔力の質だ。極めて上質と言われたらそれまでだが、そんな次元の話ではない。感じ取れたのは、闇の帝王を凌駕する冷たくて暗い、禍々しい魔力の質。敵対者に恐怖心を与え、死をイメージさせるほどだ。

 

 改めて決意した。ポッターからは、決して見放さないようにすると。何に対して憎悪の感情を持っているのか。そこまでは分からないが、知る必要がある。闇に堕ちないように。悪に取り憑かれない様に。それと同時に、エリナ・ポッターを全力で守る。それがリリー、君を救えなかったこの僕のせめてもの罪滅ぼしなのだから。

 




『再会と因縁の章』の賢者の石、第11話まで読むのを推奨します。


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EX2 もう一つの攻防

賢者の石編、第22話のアナザーストーリーです。この話は、服従の呪文にかけられたハーマイオニーに対して、ゼロとグラントがどう立ち向かって行くのか。という話でもあります。


 禁じられた廊下の最深部。双子のポッター兄妹とクィレル及びヴォルデモートの戦闘が行われている。この話は、関わった当事者だけしか知り得ない一つの戦い。

 

 私服を着ている少年少女が計3人。倒れている少年は除いてだ。2人の少年の反対側に、少女はいる。目が虚ろになっていて、少年2人に杖を向けているのだ。

 

「さて、ハーマイオニーを元に戻さなきゃな。」

 

「ハリーとエリナちゃんは、もっとヤバい奴らを相手してるんだ。俺らもやるぞ、ゼロ!」

 

 ゼロとグラントも動き出す。いつもみたいに、ボコって終わりというわけにもいかない。ハーマイオニーを元に戻し、無力化するのが最大の目的なのだから。ましてや女の子。傷付けるわけにもいかないのだ。

 

「ハーマイオニー。すまない!攻撃せよ(フリペンド)!!」

 

 白い光の玉を発射。ハーマイオニーに命中した。少し怯んだが、すぐに体勢を立て直した。

 

「グラント。俺が呪文を放ったら、ハーマイオニーを押さえつけてくれ。」

 

「おうよ。任せな!俺、バカだからよぉ。俺の命、今はお前に預けるぜ。作戦立案でお前の右に出る奴はいねえからな。」

 

「スマン。決して無駄にはしない。全員で生きてここを出るんだ。」

 

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

 

 ハーマイオニーの杖から死の呪文が解き放たれた。

 

 2人は、閃光に当たらない様に避けた。

 

エネルギーよ(ヴェスティブルーム)!」

 

 青みがかかった白い光線を発射するゼロ。威力は極力抑えている。

 

 光線が命中し、吹っ飛ばされるハーマイオニー。グラントが確保に向かっている。一切無傷の状態で、正気に戻すのがこちらの勝利条件なのだ。

 

 殺すのは完全に論外だ。そして仮に傷付けた状態で元に戻しても、医務室までの時間と距離が持つかどうか分からずに死んでしまう可能性があるのだ。

 

「ハーミーちゃん!頼む!元に戻ってくれよ!」

 

 グラントがハーマイオニーを取り押さえながら説得している。

 

「そうだ!あんな邪悪な奴に全てを委ねる必要はないんだ!己を捨てるな!ハーマイオニー!!」

 

 ゼロも叫ぶ。ハーマイオニー1人で抗えないのならば、俺達も服従の呪文の縛りから解放出来る様に後押しするんだと思っている。

 

 だが、ハーマイオニーはグラントを投げ飛ばした。グラントに杖を向ける。

 

苦しめ(クルーシオ)!」

 

 グラントが叫ぶ。今にも死にそうな声を出しているのだ。

 

「グラント!」

 

「ゼロ、来るな!……いいか!ハーミーちゃんは、操られているだけだ!一番苦しいのはハーミーちゃんだ!!本意ではないのに、味方と戦わされるハーミーちゃんが一番つらいに決まっている!!それに比べたら、俺のこの苦痛なんて屁でもねえ!!!何か呪文でも使って、元に戻すのを手伝ってくれ!」

 

終われ(フィニート)終われ(フィニート)終われ(フィニート)終われ(フィニート)終われ(フィニート)!」

 

 服従の呪文を終わらせようとするが、効果が強すぎて、意味が無かった。

 

「そろそろ終わり……」

 

 虚ろな目をしたハーマイオニーが、グラントにそう言った。グラントは、腹を括る。その時だった。何か聞こえてくる。

 

「行くのよ。行きなさい。我が最高傑作。お前こそ、最強の存在。」

 

『何でも良いからここを離れたい。』

 

 グラントは、そう思った。そして、何か変わる感じがした。

 

「あの至近距離で、死の呪文はマズい!グラントを助けに行こう。でも、少し距離があり過ぎる!もっと、もっと早くだ!」

 

 危機的状況に陥ったゼロ。早くあの2人の所まで。ゼロは、この時点で体が軽くなった事には気付いていなかった。そして、強い風が吹いてる事にも。

 

 ゼロは、瞬時にハーマイオニーに近付けた。ゼロは見た。グラントが別の何かに、いいや、チーターに変貌していくのを。

 

「グラント。お前は一体…………」

 

 だが、そんな事はどうでも良い。とにかく、グラントが何か攻撃される事は無いのだから安心すべきか。ゼロは、ハーマイオニーの方を振り向いた。

 

「いい加減目を覚ませ。いいように操られるな。」

 

 ゼロは、ハーマイオニーに面と向かってそう言った。ハーマイオニーは、ゼロに向けて杖を向けている。

 

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

 

 緑の閃光が、ゼロに襲い掛かる。しかし、ゼロは呪文詠唱と同時にハーマイオニーのすぐ後ろまで移動していた。

 

「異様に体が軽いな。」今起きている自分の状況に驚愕している。

 

『何故1年生が、死の呪文を乱射が出来るのか。もしかして、服従の呪文に掛かった時に、特別な魔力放出の操作を受けているのが妥当と考えるべきだろうな。』

 

 そう分析しながら、死の呪文を回避しまくるゼロ。

 

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

 

 一瞬だった。ゼロの身体に直撃した。

 

「ゼロ!」グラントが必死にゼロを呼ぶ。もうチーターの状態から戻っていた。

 

 当たれば問答無用で死を与えるアバダ・ケダブラ。普通であればゼロは死んでいるだろう。そう、普通(・・)であれば。

 

 今のゼロの身体は、異形となっている。ゼロの身体は、死の呪文をすり抜けたのだ。

 

「は?俺は、確かに呪文が当たった。本当なら、死ぬ筈。なのに、これは何だ?」

 

 自分の身に起きた事に動揺しながらも、グラントと合流したゼロ。

 

「良かったぜ。ゼロ!」

 

「お前に聞きたい事は色々あるわけだが、今はこの状況を乗り切るぞ。」

 

「この場を離れないと、って思ったら体が動物になれたんだよ。」

 

「!?グラント。ハーマイオニーを無力化する作戦を思い付いたから、それをやろう。」

 

 ゼロは、作戦を伝える。2人は、行動を再開する。グラントは、アナコンダに変身した。ゼロは、走った。走るというよりは、風の様に移動しているわけなのだが。

 

『体が軽くなってから、俺の周りに風が吹いている。風を操るのか、あるいは風そのものになれるのか。死の呪文が貫通しても生きてたって事は、おそらく後者か。風を操る力も試すか。』

 

 杖を持ってない左手で、風を集め、圧縮させる。そして、発射しハーマイオニーの足元に当てた。これで、魔法を使おうとしたハーマイオニーを牽制する事に成功したのだった。

 

「グラント、今だ!」

 

 アナコンダ状態のグラントがハーマイオニーを拘束した。極力ダメージを与えない程度に、それでいて何も行動出来ないレベルで縛り上げた。

 

「ハーマイオニー!負けるな!クィレルとヴォルデモートに負けるな!」

 

グラントもシャーと言いながらハーマイオニーに必死に語り掛ける。

 

 *

 

 頭の中に漠然とした幸福感のみが残る『最高に素晴らしい気分』となっていたハーマイオニー。ずっとこのままでいたいと感じていた。

 

「ああ。一生この感覚でいたいわね。幸せよ!」

 

 何も感じなくて良いと思っている。しかし、声が聞こえ始めた。自分を呼ぶ声が。

 

「誰なの!?」

 

 ハーマイオニーは、辺りを見渡す。だがいない。声がはっきりと聞こえる。元に戻れとか、そんな言葉だった。そうしている内に、記憶が蘇り始めた。

 

 禁じられた廊下の最深部まで仲間と来た事。エリナが賢者の石を手に入れた事。その直後にクィレルが来た。クィレルは、魔法で自分を狙った。最初のはロンが庇ってくれた。次は自分が当たった。だから今、ここにいる。

 

 戻らなきゃ。戻って、石を守らなきゃ。そう思ったハーマイオニーは、声の導きによって今いる場所からの帰還を遂げる事が出来た。

 

「!ここは!」

 

 ハーマイオニーは、辺りを見渡す。ボロボロになったゼロとグラント。壮絶な戦いを物語っている損傷した最深部。聡明な彼女なら、すぐに気付いてしまった。これは、自分がやったのだと。

 

「良かった。元に戻れて。」ゼロが倒れる。

 

「ハーミーちゃん。お帰り。」グラントが仰向けになって眠った。

 

 あまりのショックにハーマイオニー自身も気を失ってしまった。

 

*

 

 ダンブルドア視点

 

 あの戦いの一部始終を見る事になった。予想以上に奮闘してくれた。本来ならばクィレルも死ぬ予定だった筈なのじゃが、ハリーとエリナの完全な味方になった。それは喜ばしい事ではあるが、ハリーにはエリナを道具のように扱い、高みの見物をしておったと認識し、わしに対して不信感を持ってしまった。

 

 確証は無いが、ヴォルデモートを完全に滅ぼすにはエリナは一度死なねばならんかも知れぬ。出来ればこの仮説は当たって欲しくないものじゃ。仮に当たってしまったら、ハリーは完全にわしを拒絶するだろう。そして、もしこれで破壊神にでもなってしまったらと思うと……

 

 ヴォルデモートが復活するまでの間にハリーを、そしてアランの信頼を勝ち取らなければ。アルフレッドや、ジェームズにリリーを始めとする犠牲者を死なせてしまった贖罪をし続けなければならぬ。わしがお前の下に行く、その日まで。そうじゃろ、アリアナよ。

 

 そして、もう一つの戦い。ミス・グレンジャーは操られていたとはいえ、友を傷つけた罪悪感に囚われてしまった。元々責任感の強い彼女の事じゃ。いつまでも引きずっていく事じゃろう。そう言う忌まわしい記憶は消しておこう。1年生であの経験は、あまりにも残酷過ぎる。それに、ミスター・フィールドやミスター・リドルは気にしてない。寧ろ、そういう行動に出たら庇う気でいるからのお。

 

 気になるのは、ミス・グレンジャーと対峙した2人じゃ。ゼロ。彼は、自らの身体を自然物である風に変えて戦っておった。あれは、フィールド家の人間の中でも限られた者しか発現しなかった『自然物化能力』じゃ。極力傷付けない様に風の力を最小限に抑えておったが、その気になれば天候にも影響を及ぼせる。フォルテにこの事を伝え、そのコントロール能力を身に付けさせよう。

 

 もう1人のグラント。金髪だという事を除けば、若い時のトムに良く似ておる。同じ姓を持っている。少々暴力に訴えるが、何もかもがあの者と正反対じゃ。ちゃんと対等な友を持ち、義理堅い。これからも見守ると決めたが、大丈夫じゃろう。そう思っておった矢先にこれとは。動物に変身する力が出て来た。1種類だけではなく、2種類も。もしかしたら、それ以上あるかも知れぬ。それに、あの変身の仕方。まるで体の作りを、変身する動物のものに変えている。変身というより、変化と言った方が正しいか。

 

 なぜ彼がこの力を持っているのか。早急にヴォルデモートとの関連性を調べ、彼の素性を解き明かさねばならぬ。そして、保護しなければ。

 

 やるべき課題が多過ぎる。思わず倒れそうになる。しかし、これからの未来の為に今は耐えなければ。新たな決意を胸に秘め、倒れている全員を医務室に運ぶ準備を始めた。

 




ゼロ、グラント視点での賢者の石をめぐる戦い。いかがでしたか?賢者の石編、第22話とセットで読んでみてください。


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EX3 滅亡の影

時系列としては、賢者の石編の20話から22話のエピソードに相当します。
20話のトロールの惨殺死体の経緯を描きます。


 どこか異質な空間。そこには、右目だけを見せる様な仮面を付けた人物が佇んでいた。

 

「ホグワーツに送り込んだスパイ・ラットからの情報によれば、今ダンブルドアは魔法省に行き、1年生の生徒6人が賢者の石を守りに行く準備をしてるのか。フフフフフ。まだヴォルデモートに動かれては困る。生徒達に有利に働くようにしておくか。トロールは俺の方で皆殺しにしてしまおう。」

 

『ダアト。俺だ。ゲブラーだ。』

 

 組織独自の連絡手段から、ゲブラーと名乗る男が仮面の男に脳内に伝言を伝えに来た。

 

「何すっか?ゲブラー先輩♪」

 

 ダアトという仮面の男は、先程とは打って変わって、陽気な口調でゲブラーに応対する。

 

『リーダーから連絡が幾つかあってな。ケテルが殉職した。あの生意気なキット・パディックによってな。』

 

「ケテルさんが死んだんすっか?」

 

『新たなケテルの後釜が見つかるまで、代行をしろとの事だ。』

 

「ほ、本当に配属されるんすっか?やったー!」

 

『そこで最初のミッションになるわけだがな。今ホグワーツには賢者の石があるのは知ってるよな?』

 

「知ってるも何も…………この僕が運んできた情報ですけどね♪」

 

『まだヴォルデモートに復活されては困る。ヴォルデモートに賢者の石が行き渡らない様にしろ。後はだ。これは無理にやる必要はないんだが。』

 

「何すっか?」

 

『賢者の石、手に入れられるなら、やってくれると助かるそうだ。まあ、ラスボスがアルバス・ダンブルドアだからな。無理だ。全員で行けば何とかなるかも知れんが、無傷では済まされないだろう。』

 

「了解っす。ヴォルデモートに石が渡らない様にする。出来るのであれば、石を手に入れてこい、というわけですね。」

 

『そういう事だ。俺も任務の方があってね。ティファレトと共に、そこに向かわなければいけない。』

 

「そうですか。幸運を祈ります。」

 

『ダアトもな。』

 

 連絡が終了した。

 

「さて。俺も向かうとするかな。」

 

 ダアトは、吸い込まれるようにその空間から消えた。

 

*

 

 ゲブラーとティファレトは、ある小屋の目の前まで来ていた。

 

「しかし、リーダーにも困ったものですね。」

 

 病人の様に青白い肌、全てが常人よりも鋭利な歯を持つ男、ティファレトがゲブラーにそう話しかける。手に持っている刀の刀身を舌で舐めている。

 

「俺の能力が必要になるとはいえ、記憶を抜き取るというのはな。特に死ぬ寸前のお年寄りに対して余りに酷だ。」

 

 艶やかな黒髪をなびかせながら、茶色の目で小屋を見つめるゲブラー。彼は、厚ぼったい瞼をしていた。

 

「イングランド南西部。コーンウォール島のデボン州。エクスマスの西端とは聞きましたがね。本当にここなのでしょうか?」

 

「間違いない。マグルが滅多に立ち寄らない場所の小屋。ここに、ニコラス・フラメルは住んでいる。アロホモラ!」

 

 扉を開けた。そこには、老夫婦がいた。

 

「だ、だr…………」

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

麻痺せよ(ストゥーピファイ)!」

 

 小屋の主、ニコラス・フラメルは武器である杖を取り上げられ、その妻ペレネレは失神させられた。杖は、ティファレトが回収した。

 

縛れ(インカーセラス)!」

 

 ニコラスは、今度は縄で縛りつけられてしまった。

 

「何者だ!」

 

「ニコラス・フラメルだな。我々は、アンタを殺しに来たわけじゃない。」

 

 ゲブラーが返した。ただ何の感情も無く、この結果が当たり前という表情をしているのだ。

 

「あなたの記憶をいただこうと思いましてね。賢者の石を作った記憶を。」

 

 ティファレトが、大きくて奇妙な刀を振り回しながらそう言ったのだ。

 

「別にアンタの協力も同意もいらない。記憶をいったん抜き取り、それを複製するだけだからな。」

 

 ゲブラーが静かに言った。ニコラスは思った。記憶を抜き取り、それを複製するだと?そんな魔法は聞いた事が無い。だが、この2人組は只者ではない事は本能で分かった。何とかこの場を切り抜けなければ。命を取らないとあいつらは言っているが、本当かは疑わしい。

 

「わしの記憶だけをいただいたとしても……それは無理な話だ。」

 

「何故そう言い切れる?」

 

「賢者の石は……ダンブルドアと一緒に作った物だ。ダンブルドアからも抜き取らないと、石は作れん。」

 

 しかし、2人はクスクスと笑った。

 

「な、何がおかしい!?」

 

「いいや。嘘が下手糞だと思ってな。」ゲブラーは、まだ笑いをこらえられない様だ。

 

「あなたは御年665歳。アルバス・ダンブルドアは110歳。これは何を意味しますかね?ゲブラーさん。」

 

「分かり切った事を。世界にたった1つだけ存在する賢者の石が共同開発したものだというのであれば、ダンブルドアが生まれるまでの555年をどう生き抜いたか矛盾が生じてくるわけだ。人間の寿命なんて精々100年前後。魔法使いの場合は137年程だ。」

 

「つまりです。賢者の石は、あなた1人作ったという事ですよ。それは不変の真理というわけになるのです。」

 

 ニコラスは動揺した。バレた。せめて、そこまでして石を作りたい理由だけは聞いておこうと思った。

 

「お、お前達は私の記憶を複製して、賢者の石を作る。それから何をする気だ?」

 

「アンタの作った技術を使い、全ての、世界中の魔法界を滅ぼす。変化を恐れ、進化を拒んだ愚かな魔法族を皆殺しにする。」

 

「或いは、変わらざるを得ない状況にまで追い込みます。」

 

「しょ、正気か貴様ら!」

 

 だったら尚更だ。製作の記憶を見させるわけにはいかないと決心する。

 

「何を以って正気と定義するのか。それは分からんがな。だが、アンタに理解して貰おうとは思っちゃいない。我々の崇高な目的もな。」

 

「いただきますよ。あなたの記憶を。全て複製させていただきます。」

 

「や、やめろぉ……やめてくれーーー!!!」

 

「問答無用だ。」

 

 ゲブラーの目が茶色からメタリックレッドに、更にライムグリーンに変色した。

 

「久しぶりに左目の力を見られますね。」

 

「メリモルト!!」

 

 ゲブラーの左目が禍々しく光った。左手を伸ばし、ニコラスの頭からUSBメモリによく似た物体が現れた。

 

「ニコラス・フラメルの全ての記憶ですか。」

 

「調べてみようか。このメモリを使って。」

 

 ゲブラーは、メモリ専用のデバイスを取り出した。魔法界でも使えるように開発された、組織の特別製だ。メモリを差し込んでニコラスの記憶を調べてみる。

 

「中々見つかりませんね。」

 

「検索エンジンを掛けてみるか。」

 

 賢者の石をワードにし、再び検索する。すると、幾つか発見した。だが、時間が掛かりそうだ。

 

「今度は、製作。」

 

 もう1つのキーワードを入力する。1件だけ該当した。

 

「早速見て見るかな。」

 

 該当した記憶を見る。そこには、賢者の石の詳しい製作過程や、分かりやすい解説が細かく記憶されていたのだ。

 

「ビンゴですね。」

 

「これだけコピーしておこう。ついでに、我々と出会った記憶は全て削除する事としようか。」

 

「それは名案ですね。ゲブラーさん。」

 

 賢者の石の製作の記憶だけを複製した。もう1度確認すると、大本の記憶と違和感は一切無かった。その結果を満足そうにして見ながらも、自分達と出会った記憶はデリートした。

 

 残ったニコラスの記憶のメモリを、再び彼の頭の中に埋め込んだ。これで、次目覚めた時は、綺麗さっぱり何も覚えてない筈だ。

 

 ゲブラーはティファレトと目を合わせる。ティファレトが頷いた。もうここに用は無い。去ってしまおう。2人は忽然と消え去った。

 

 ニコラスが再び目を覚ました後は、それまでのやり取りを忘れていた。後でダンブルドアが訪問し、石を壊そうという決意に踏み込むのは、また別の話となる。

 

*

 

 しばらく時間が遡る。それは、ハリー達6人が禁じられた廊下に行く数時間前の話。賢者の石を守る仕掛けが満載である。その中の1つ、トロールが守護する部屋。そこに、ダアトは現れた。

 

 トロールが唸り声をあげる。そして、ダアトに襲い掛かる。棍棒で殴り殺そうとするが、ダアトはすり抜けてしまった。

 

「所詮トロールなんてそんなものだがな。力だけしか取り柄が無い。」

 

 ダアトは、少し後ろに下がった。そして、杖を振り上げる。

 

無数の槍よ(フラミーア・マキシマ)!!」

 

 ダアトの周囲に、数え切れない位の槍が出現した。それらは、トロール目掛けて発射された。流石にマズいと感じたトロールは避けようとする。が、8割はトロールに突き刺さった。

 

 トロールは、悲鳴を上げる。痛みに対しての絶叫を。1度にここまで傷付けられたのは初めてだったからだ。

 

「痛いか。すぐに楽にしてやろう。」

 

 ダアトは、杖をトロールに向ける。トロールは、それをただじっと見ているだけしか出来なかった。

 

「死ね。切り裂け(セクタムセンプラ)!」

 

 トロールはバラバラにされた。無数の槍も落ちている。

 

「さて。ヴォルデモートが有利になるまで静観するとしますか。」

 

 吸い込まれるかのようにダアトは消えた。

 

*

 

 賢者の石を巡る攻防が終わってからの時間。ダアトは、ダンブルドアが回収し損ねた賢者の石の僅かな破片を回収した。正確には、スパイ・ラットから受け取ったものであるのだが。

 

「ヴォルデモートは復活せず、逃走。奴も我々も、石そのものは手に入らなかった。俺が手に入したのは破片だけ。だが、面白いものが見れたな。ゼロ・フィールド、グラント・リドル、そしてハリー・ポッター。あの3人の力の一端が覚醒するところを同時に見られるとは。」

 

 仮面の下は見えないが、その表情は笑っている事は容易に想像がつく。

 

「フィールド家の特殊能力、あいつの最高傑作、ウイルスの新たな適合者か。どういう因果か分からんが、あの3人に新たな力が宿るなんてね。よりによってあの一族の…………今後の展開、更に面白い事になりそうだ。こうして見ると……フフフフフ。アハハハハハハハハ!!!」

 

 ダアトは高笑いした。そして、スパイ・ラットにこれからも報告宜しくと伝える。最後に、禁じられた廊下の最深部から吸い込まれるように消え去ったのだった。

 



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EX4 学期終了後の教員会議

お久しぶりになります。そして、メリークリスマス。秘密の部屋編を年明けにやる前に、この話を投稿します。


 1992年7月1日。ホグワーツ魔法魔術学校にて。職員室。

 

 ここに、ホグワーツの教員が集まっていた。アルバス・ダンブルドア、ミネルバ・マクゴナガル、セブルス・スネイプ、ポモーナ・スプラウト、フォルテ・フィールドを始めとする校長と寮監、それ以外の教員もいたのだ。

 

「ではこれより、1991年度のまとめ、その職員会議でも始めるとしようかの。」

 

 ダンブルドアが静かに言った。

 

「まずは、1991年度の入学生についてです。」

 

 マクゴナガルが言い始めた。

 

「彼らの成績。他の学年の子達よりも非常に平均点が高いのです。これだけ言えば、それだけ新入生が優秀だと聞こえは良いのですが。」

 

「問題は、その面子と言うわけですな。ミネルバ。」

 

スネイプが、マクゴナガルに確認を取る。マクゴナガルは、スネイプに対して頷いた。

 

「入学名簿を見た時から大変になるとは思っていましたけど。まさか、あれ程とは思いませんでした。」

 

 スプラウトが溜息をついた。どうしてこう、問題児の集まりが一気に入学して来たのか。

 

「名前だけでもキリがありませんからね。ハリーとエリナのポッター兄妹に、闇払い夫婦の息子ネビル・ロングボトム、ブラック家現当主のイドゥン、前スリザリン寮監の孫娘シエル、由緒正しき純血の一族の次期当主ドラコ、それに私と同じ戦闘一族の末裔ゼロ。他にも、魔法族の家系の出身者も少なくはない。他の学年よりも多いです。」

 

 フォルテ・フィールドは、主な生徒の名前を挙げた。ドラコの事を言う時は、露骨な侮蔑と嫌悪、憎悪を交えた口調となっていた。全員はそれに気づくが、それは言わなかった。彼のこれまでの人生を考えれば、そうなっても仕方ないと判断しているからである。

 

『スリザリン、というよりはアズカバン逃れした死喰い人の一族を深く憎悪しているのは分かっておる。それにフォルテは、セブルスにもあまり良い感情を持っておらぬ。お気に入りであるハリーが敵視されているなら尚更じゃ。それでも、セブルスはこちら側の人間だとあれ程言っておいたのじゃが。根は深過ぎるのお。』

 

 心の中でそう思うダンブルドア。ふとスネイプを見る。スネイプは、フォルテに対して底知れない恐怖感を感じ取ってる。そう、全く本気を出してない状態でもスネイプは全く手も足も出ないのがフォルテなのだ。

 

「マグル出身者でもハーマイオニー・グレンジャーは素晴らしい。私は最初、超一流魔法薬師協会の設立者の縁者だと思いましたね。」

 

 嬉しそうに言うフォルテ。彼自身は、ハーマイオニーは化けると確信している。論理的思考能力に関しては、弟のゼロどころか魔法界でも右に出る者はそういないと判断しているのだ。

 

「アルバス。グラント・リドルの事についてですが……」

 

マクゴナガルが言い始めた。

 

「分かっておるよ、ミネルバ。あ奴との関連性を調査中じゃ。」

 

「ええ。性格や成績は全くの正反対です。成績に関しては、頑張れば中の上は取れますが。」

 

 グラントの名簿を広げ、成績を見る。座学は余り良くないが、実技は平均以上となっている。

 

「ポッター兄妹とロングボトムの事ですが、これを見てください。」

 

 スプラウトがハリーとエリナとネビルの名簿を広げ、成績の項目を指差す。ダンブルドアの眼が一蹴物凄く光った様な気がするが、それに気づいた者はいない。

 

 3者の成績を見る教師一同。全体的に見るとエリナは60点以上だが、ハリーは全てが満点近い成績となっている。ネビルは、魔法薬学以外は平均点を確保している。その魔法薬学は、スネイプの存在も相まって最悪だ。だが、スプラウトが驚いたのはそこではない。エリナは変身術が、ハリーは魔法薬学と闇の魔術に対する防衛術が、ネビルは薬草学の成績が200点近くになっていたのだ。

 

「これに関しては、イドゥン・ブラックとゼロ・フィールド、ハーマイオニー・グレンジャーを超えています。そのゼロ・フィールドも、呪文学と魔法史はそのレベルに達していますけど。」

 

「スプラウト先生。私は、テストに関しては弟だからと言って贔屓はしてませんよ。」

 

「そんな事は百も承知です。あなたが、テストにはかなりシビアな姿勢を見せるのは。」

 

 フリットウィックよりも難しくなっているフォルテの試験。それでも、微々たるものではあるのだが。

 

「この3人、性格は全く違いますが、状況が似ています。特定の科目に対して、成績最優秀者をも凌駕するとは。」

 

マクゴナガルが言った。ヴォルデモートを倒す者の予言の事は知らないが、辿った運命は似ていると感じている。両親は死亡、もしくは廃人化しているのだ。

 

「これが7年間続くと思うと、薬が必要になってきますね。」

 

 フィールド先生が苦笑した。自分たちの世代でも、濃い面子は揃わなかった。

 

「偶然か……運命か……」スネイプが呟いた。

 

「とにかくじゃ。彼らを、わしら教師が間違った道に行かせない様にする必要がある。フォルテ。学年末パーティーの後の頼み、君に任せようと思っておるが大丈夫かね?」

 

「ええ。問題ありません。」

 

「よろしく頼む。フィールド家のあの力を使いこなす訓練は、君が適任じゃからのお。それでは、これにて会議を終わらせよう。」

 

 教科担当の先生達が、職員室から出て行った。スネイプとマクゴナガルを除いて。

 

「セブルス。君には、引き続きエリナを。そして、グラントも見守る様にするのじゃ。」

 

「分かっております。」スネイプが軽くお辞儀をした。

 

「ミネルバ。君はハリーじゃ。彼に関しては、君とアランが深く関わってくるからのお。」

 

「承知しております。」

 

 そうして、マクゴナガルとスネイプも出て行った。

 

「当座はこれで問題無いのお。今の所は。」

 

 賢者の石の事件があった。それは、難無く解決した。所々、自分が思い描いていた結末とは違ってきたが。ヴォルデモートを最後に撃退するのは、本来自分の役目であった。だが、実際はハリーが撃退した。

 

 クィレルも死ぬ筈ではあったが、賢者の意思から作り出された命の水の力で、ヴォルデモートに出会う前までの状態に戻った。許されざる呪文を使ったので、アズカバンにて終身刑は確定したのだ。ごねると思いきや、案外彼は潔かった。確かな情報によれば、今はシリウス・ブラックと仲良くなったようだが。

 

「シリウス…………」

 

 ジェームズから、彼が死ぬ前夜に秘密の守人を変更したという連絡を受けた。後になって、シリウスを止めようとして失敗したリーマスから、本当の守人はピーター・ペティグリューだと知った。なので、ダンブルドアとハグリッドとマクゴナガルは事情を知っている。シリウスが、実は無実だという事を…………

 




いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけましたか?それでは、また1週間後にお会いしましょう。さようなら。


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EX5 ナイトバス

グラントが漏れ鍋に来た経緯を書きます。時系列は、秘密の部屋編の3話から4話の間に当たります。


 1992年8月2日。午後11時。ここに、無駄に顔立ちの整っている少年が立っていた。名をグラント・リドル。英国最大のギャング組織、スマイルのBチーム総隊長である。だがそれは、彼の1つの顔だ。もう1つの顔は魔力を持った存在、即ち魔法使いなのだ。と言っても、まだ半人前なのだが。

 

 何故ここに彼がいるのか。それは、彼の今回スマイルから課せられた指令にあった。

 

「ダブルドラゴンの壊滅は完了したのは良いけどよぉ。俺、チームの皆と逸れちまった。」

 

 そう。ダブルドラゴンを壊滅させるのが、グラント率いるBチームに与えられた指令だ。ダブルドラゴンとは、構成員の半数以上が刑務所経験のある極悪組織なのである。それも、殆どは未成年の内から窃盗、強姦、麻薬、殺人等の罪を犯している連中である。それでいて、組織の資金力も潤沢。仮に逮捕されても、大抵は保釈金によってすぐに開放される。

 

 今回、ロンドン警察から未成年の売春の元締めを発見し、それを足掛かりにダブルドラゴンの壊滅をさせようとしたのだが、旧ソ連の兵器を裏ルートから密輸していて、とてもではないが犠牲が増えやすくなっているという。故に、スマイルへ依頼が来たのだ。多額の報酬を渡す事と引き換えに、ダブルドラゴンを壊滅させて来いと来たのだ。

 

 グラントの身体は、常人と違って異形だ。見た目は普通の人間と変わらない。しかし、スペックが桁違いだ。その気になれば、人間を殴り殺す事の出来る腕力、銃弾を受けても大したダメージにはならない耐久力、中々疲れすら感じさせない体力とスタミナ、そして化け物染みたスピード。何よりも驚異的なのは、普通の人間ならば数ヶ月でようやく完治する怪我もたったの数時間、長くても3日で完治する異常な生命力。

 

 その力をグラントは、今までスマイルに仇名す敵に対して使っていき、粉砕して来た。死に追いやった人間も少なくない。そうしていく内に、自分が何者なのか分からなくなりつつあったのだ。

 

 転機が訪れたのは1年前。4月16日の誕生日以降から奇妙な老人がやって来た。名をアルバス・ダンブルドアと言う。グラントを自分の学校に入れたいとスマイルのボスにそう言ったのだ。ボスは、グラント自身が決めると良いと言った。グラントは、ホグワーツに入った。

 

 あれだけ充実した1年間は初めてだった。普通の11歳の少年が歩むべき、約束された日常を味わえたのだから。また戻りたいとも思えるようになった。だから、ダブルドラゴンをさっさと壊滅させようとしたのだ。

 

 それが、壊滅させたのは良いが、迷子になったのだ。

 

「念の為に持ってきた杖と、マグル界と魔法界のそれぞれの金貨。どうしようか。」

 

 未成年者は、魔法を自由に使えない。マグルから魔法族の存在を隠すための法律でそう決められているからだ。しかし、危機的状況に陥ればその限りではない。

 

「暗いしよぉ。う~ん。今こそ、杖を使っても良いかもな。」

 

 何を使おうか。そう言えば、妖精の魔法の学期最後の授業でフォルテ・フィールドが言っていたのだ。『光よ(ルーモス)』。杖先に灯りを灯す魔法だ。暗い所でも視界が確保される、日常生活でも大いに役立つ呪文として紹介したのだ。

 

「行くぜ。ルーモs」

 

 そう言いかけたその時、何かがグラントの前に来た。物凄い金切り音が響き渡る。

 

「な、何だ!?3階建てのバスが、いきなり現れたぜ!何処にもそんな気配なんてさっきまで無かったのに!」

 

 派手な紫色のバスのドアが開いた。1人の青年が下りて来たのだ。17、8歳程だろうか。

 

夜の騎士(ナイト)バスがお迎えに上がりました。迷子の魔法使い及び、魔女のお助けバスとして杖腕を差し出せば、どこであろうと停車致します。」

 

「ナイトバス?何だそれ?」

 

「私、車掌のスタン・シャンパイク。今夜――」

 

 車掌が黙った。地面に座っているグラントを凝視したのだ。

 

「そんな所ですっ転がって、いってえ何してるんだ?」車掌は、職業口調をやめていた。

 

「いきなり来るもんだからよぉ。驚いて腰抜かしちまったんだ。」

 

 グラントが返した。

 

「まあいいや。そう言う事にしとくぜ。名めえは?」スタンが聞いた。

 

「ね、ネビル・ロングボトム。」偽名を使ったグラント。

 

「ほんじゃネビル。どこまで行きてえんだ?」

 

「ロンドンまで行きてえな。どれくらい掛かる?」

 

「11シックル。13出しゃあ熱いココアが付くし、15だったら更に湯たんぽと好きな色の歯ブラシが付いて来るぜ。」

 

 財布から13枚のシックル銀貨を出し、それをスタンに渡した。そして、バスの中へと入っていった。

 

 バスの中は、座席が無かった。その代わり、カーテンのかかった窓際に、真鍮製の寝台が6個並んでいた。

 

「おめえさんのは、この席だ。」運転席のすぐ近くのベッドだった。

 

「こいつぁ、運転手のアーニー・プラングだ。アーン、こっちはネビル・ロングボトムだ。」

 

 分厚いメガネを掛けた年配の魔法使いが、グラントに向かってコックリ挨拶した。ハンドルを握り、肘掛椅子に座りながら。

 

「アーン。バスを出してくれ。」

 

「ぶっ飛ばすぜベイベー!」急にハイテンションになったアーニー。

 

 バーンという物凄い音がした。グラントは、反動でベッドから放り出され、仰向けに倒れた。彼の呆気にとられた顔を、スタンは愉快そうに眺めていた。

 

「マグルは聞こえないのか?」グラントが質問した。

 

「マグル!聞いてえねえよ。それに見えてもねえ。気付きもしねえ。」

 

 若干、下に見るような言い方をしたスタン。

 

 グラントは外を見る。田舎町、木の茂み、道路の杭、電話ボックス、立ち木――色んな所を通過した。途中、スタンがココアを持ってきた。それを飲みながら、グラントは景色を満喫したのだ。

 

 数時間後、グラントはいつの間にか寝ていた。起き上がると、スタンが待ってましたとばかりに近付いて来たのだ。

 

「ロンドンのどこで降りるんだい?」

 

「ダイアゴン横丁で。」

 

「合点、承知。しっかり掴まってな……」

 

 チャリング・クロス通りをバンバン飛ばすバス。アーンが思いっ切りブレーキを踏み付けた。ナイトバスは急停車した。漏れ鍋の前で。

 

「着いたぜ。」

 

「ありがとうよ。俺は行くぜ。」グラントが2人に礼を言いながら下りていく。

 

 2人はグラントを見送り、そしてナイトバスは再び走り去っていった。

 

「ここまでくればどうにか……」

 

「ようやく見つけたぞ。」声がした。

 

 グラントが振り向く。そこには、スリザリンの寮監セブルス・スネイプがいた。

 

「す、スネイプ先生!?」

 

「だが、見つかって我輩は安心した。来たまえ。」

 

 有無を言わさず、グラントを漏れ鍋の中に連れて行くスネイプ。

 

「こ、これは珍しい。スネイプ教授、何か御用で?」

 

 漏れ鍋の店主、トムが話しかけて来た。

 

「グラント・リドルの宿泊の手配を予めしたのだが。」

 

「その子のですね。もう準備は出来ておりますよ。」

 

 トムは、グラントに鍵を手渡した。スネイプはそのやり取りを見終えた後、近くのテーブルにグラントに座妖に指示を出した。グラントは、そのテーブルに座った。

 

「君の家での指令が終わった後、迷子になったわかけだな。ナイトバスが来てくれたから良かったものの。」

 

「すみません。」

 

「何も無かったから、これ以上は何も言わない。ダンブルドア校長は、すぐに手紙をスマイルに送って、既にまとめておいたトランクをこの漏れ鍋に送ったのだ。」

 

「はあ。」

 

「戻ろうにも、遠過ぎるのでここで夏休み泊まるように。それと……」

 

 ホグワーツからの手紙と、巾着を渡した。

 

「今年の教科書リストと、スマイルから預かった金だ。グリンゴッツで換金するように。」

 

「分かりました。」

 

「では、我輩はこれにて失礼する。新学期は遅れないように。」

 

 そう言って、スネイプは立ち去っていった。早速、自分に割り当てられた部屋に向かうグラント。そこで、トランクの中身を引っ張り出し、まだ残っている宿題に手を付け始めるのだった。8月31日まで、ここで過ごすのだから。

 



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EX6 エリナとクワノール

9月の2週目の授業の光景と、エリナの家族が増えます。


 1992年9月上旬。妖精の魔法の授業の時の事である。エリナ・ポッターは、グラント・リドルとペアを組んでいつも授業に励んでいた。

 

「それでは、今日は杖の先から光を灯す呪文をやってみようか。誰か、呪文を知っている人はいるかい?」

 

 フォルテ・フィールドが生徒全員に問いかける。この授業は、スリザリンとハッフルパフの合同授業だ。スリザリン生の3割が手を挙げる。ハッフルパフからも、僅かながらに挙がった。エリナも手を挙げる。

 

「それじゃあ、エリナ。」

 

「はい!杖に光を灯す呪文の名は、光よ(ルーモス)です!」

 

 元気良く答えたエリナ。フォルテは、それを見て大変満足した。

 

「正解だよ、エリナ。ハッフルパフに10点だ。それにね。呪文詠唱後にマキシマを付け加えると、より強力になるんだよ。じゃあ、この呪文には反対呪文が存在するわけなんだけど、誰か分かるかな?」

 

 これに関しては、殆ど手が挙がらなかった。しかし、手を挙げる者がいた。イドゥン・ブラックである。

 

「イドゥン。君、質問に答えられるかい?」

 

「はい。それは、闇よ(ノックス)ですわ。」

 

「流石は、1年生時の首席だけあるね。スリザリンに10点。さてと……」

 

 フォルテは歩き出した。無駄話をしているドラコ・マルフォイ、ビンセント・クラッブ、グレゴリー・ゴイルの前に来た。途端に話をやめる3人。フォルテは微笑んでいる。

 

「それで、君達3人は授業も聞くまでも無く優秀というわけだね。」

 

「そ、それは……」

 

 ドラコが何か言おうとしたが、フォルテの眼差しの前では嘘や見栄えを言うと、何故か罪悪感に満ち溢れたような気持ちになるのだ。

 

「やってみようか。」

 

 笑顔で言うフォルテ。有無を言わさないようだ。皆悟った。笑っているのではない。怒っているという事に。普段自分達が1番偉いと思ってるドラコ達も、流石に気付いたようだ。

 

「「「光よ(ルーモス)!」」」

 

 ドラコだけ成功した。他2人は付いてもいない。そのドラコも、光の強さにムラがある。強くなったり、弱くなったりしている。

 

「どうやら、ちゃんと聞かなきゃいけないみたいだね。スリザリン、5点減点。」

 

「フィールド先生ってよぉ。エリナちゃん。何かフォイ達には手厳しくないか?」

 

「ハリーが前に言ってたんだけど、マルフォイ家ってヴォルデモートの一味にいたんだって。元闇払いの先生からしてみれば、決して許しがたい存在だろうってね。」

 

 エリナとグラントがヒソヒソ声で会話していた。

 

「先生!ポッターとリドルが何かヒソヒソ声で話しています!!」

 

 パンジー・パーキンソンが嬉々として、エリナとグラントを指差しながら手も上げずに進言した。意地の悪い笑顔になりながら。

 

 しかし、フォルテがパンジーに見せた表情はまるで養豚場のブタを見ているかの様だった。

 

「証拠は?」

 

「え?」キョトンとしたパンジー。

 

「証拠はあるのかと聞いている。物的証拠を出せ。」

 

 先程のドラコ達とは打って変わって、憎しみを交えた口調と化したフォルテ。まるでパンジーを、何か大切なものを奪った仇の様に見つめている。

 

「わ、私が聞いたんです。その……ポッターとリドルが……授業に関係の無い……話を……して……」

 

「物的証拠が無いわけだ。状況証拠しかないわけだな。」

 

「…………」何も言えないパンジー。

 

「そうか。分かったよ。確実な証拠が出せないわけだ。それにしてもパーキンソン。お前は、私のやる授業の邪魔をしにこれを言いに来たのか?それとも、自分が教えるにふさわしいから横槍を入れて来たのか?答えろ。」

 

「と、とんでもありません!!でも、私は本当に……」

 

 何とか、授業の邪魔をするつもりでやったわけではないと慌てふためくパンジー。しかしそれは、フォルテを余計にイラつかせた。火に油を注いだのである。

 

「問答無用だ、パーキンソン。スリザリン、5点減点。お前を含め、減点された4人は、イドゥンが折角稼いだ点数を無駄にして。恥を知るが良い。さっさと座れ。誰かを貶めないと、自分自身のアイアンディティーを見いだせない愚か者め。」

 

 今にも泣きそうになっているパンジーに、フォルテは更なる追い打ちをかけた。ドラコ達も真っ青になっている。フォルテは、抑揚の無い声で座る様に促した。それ以外の生徒に対しては、本当に申し訳なさそうな表情となった。杖を振って、カーテンを閉める。

 

「ゴメンね。愚か者共が、邪魔をしてしまって。皆。じゃあ、実技でもやろうか。見本はこうだよ。良く見ててね。光よ(ルーモス)!」

 

 フォルテの杖に、光が灯った。

 

「じゃあ皆。やってみて。」

 

 あちこちから、光よ(ルーモス)の声が聞こえた。光が灯っている者が殆どだ。しかし、すぐに消えたり、強弱があり過ぎて安定しないのだ。1番安定して光が灯っているのは、イドゥンだけだった。

 

「素晴らしいよ、イドゥン。スリザリンに10点だ。」

 

「ありがとうございます。フィールド先生。」

 

 イドゥンは、優雅にお辞儀をしながら礼を言った。

 

「それでは、反対呪文で杖の光を消してね。」

 

 次々に、光が消えた。

 

「極めれば、教室全体を灯せる様になるんだ。更に、上達すれば無言で魔法を行使出来る様になる。興味のある人は、呪文の練習をし続けてね。授業終了。」

 

 呪文学が終わった。

 

「先生。」エリナは、フォルテの所に来た。

 

「どうしたんだい?エリナ。」

 

「新しい呪文の作り方って、どうやるんですか?難しいんですか?」

 

 少し呆気にとらわれたフォルテ。しかし、すぐに答えを言った。

 

「難しくないよ。簡単だ。やりたい事を思い浮かべて呪文を唱える。後は試行錯誤かな?正しい発音に正しい意味の言葉を見つける必要があるんだ。何か新しい呪文をでも作るのかい?」

 

「今考えてるのが、威力の低い攻撃呪文でも高度な魔法並みの威力に底上げする魔法を作るのはどうかなって思ってるんです。当てた対象にボク自身の魔力を蓄積させるっていう物なんですけど。」

 

「そうか。行き詰ったら、いつでも私の所に来ると良いよ。」

 

「はい!ありがとうございます!先生!それでは、失礼します!」

 

 談話室に戻るエリナ。今年から、寮監の許可を得た者はハグリッドと付き添いという条件で禁じられた森に入る事が出来るのだ。エリナは、スプラウトからちゃんと許可を得ていた。

 

「禁じられた森、実は入ってみたかったんだよねえ。スプラウト先生も快く許可してくれたし。」

 

 ハグリッドの小屋に向かうエリナ。戸をコンコンとノックする。

 

「おお!エリナか。」

 

「こんにちは。ハグリッド。」

 

「それじゃあ、早速行こうか。ファング、行こうや!」

 

「ワン!」ファングも嬉しそうに吠えた。

 

 禁じられた森に入るエリナとハグリッド、そしてファング。暗い所も見える様に、杖を携帯する。

 

「授業はどうだ?」

 

「うん。問題無いよ。どうしてもわからない時は、ハリーやゼロ、ハーミーにイドゥンに教えて貰ってるんだもの。」

 

 イドゥンの事を言った時、ハグリッドが少し暗そうな顔をした。

 

「どうしたの?ハグリッド。」

 

「いやあ。何でもねえ。気にすんな。」

 

『シリウスの事を話したら、絶対に悲しむだろうな。しかも無実だったなんて。エリナには辛過ぎる事実だ。ハリーにも。』

 

 そう心の中で思うハグリッド。しかし、もうハリーは事情を全てロイヤル・レインボー財団の調査結果を通じて分かっている事を知らないのである。

 

「どこを見るの?」

 

「一角獣の数が戻ってるかどうか、確認しておきたくてな。」

 

「そうだよね。ヴォル……じゃなくて、ロリコンストーカーに血を吸われて沢山死んじゃったからだよね。」

 

「まあ、名前で呼ばれるよりはマシだが。よりによってロリコンストーカーか。酷い言われ様だな。」

 

 ヴォルデモートの渾名を聞いて、名前で言うよりはましだと割り切ったハグリッドであった。

 

 1時間半後、一角獣の状態を調べ終えて帰路につこうとする。

 

「あれ?何か綺麗な光だよ!ハグリッド!」

 

「い、言われてみれば確かに。」

 

 その光を目指して走る2人。

 

「あ!何かいるよ!」指をさすエリナ。

 

 背中にクリップのような羽根がついているのが特徴の、可愛らしい妖精がいた。

 

「かわいい!赤ちゃんかな?」

 

「少し元気がなさそうだな。保護をしようか。」

 

 こうして、謎の妖精を保護した2人。マダム・ポンフリーの所へ。ホグワーツの先生達でも全く知らないのだった。数日後、エリナがその妖精を見に行くと、どういうわけか妖精はエリナに懐いて来た。

 

「それで、俺達に名前を付けて貰おうってわけか。」

 

 エリナは双子の兄であるハリーに、友人のロンとハーマイオニー、ゼロとグラントを呼んだのだった。

 

「うん。良い名前を考えようにも、中々思い浮かばなくてね。」

 

「じゃあよぉ。シンプルにタマにしようぜぇ。」

 

[ミ……ミミ……ミーーーー!!!]

 

 妖精が怒った。

 

「それ、猫の名前じゃねえか。」

 

 ハリーがツッコんだ。

 

「ブルーはどうかしら?」

 

「翼があるからウイングだ!」

 

 ロンとハーマイオニーが、それぞれ提案する。不思議そうに首を傾げる妖精。

 

「お気に召さないみたいだな。機械と似合いそうだから、進化を意味するプログレスとか変数を意味するヴァリアブルとかはどうだろう?」

 

[ミミミ?]

 

 困惑した後、ハリーに申し訳なさそうに首を振る妖精。

 

「この子、女の子なんだよ。」

 

「そっか。つーか、性別あったのかよ。知らなかったわ。」

 

 ハリーの名前も却下された。

 

「その妖精。余程エリナを信頼しているみたいだな。だから信じるって意味の、クワノールはどうだろうか?」

 

 妖精がピンときた言わんばかりの反応を見せた。「お~」と、ゼロの名前候補に全員頷いた。

 

「それ良いね!ありがとう!ゼロ!」

 

「名前で役に立ったなら、それは大いに嬉しいんだがな。」

 

 いつもみたいに、抑揚の無い声で言葉を返すゼロ。

 

「よーし!決めたよ!この子の名前は、クワノールに決定!」

 

 妖精改め、クワノールはエリナが育てる事になった。意外にも、人間の食生活と全く一緒だったのだ。そして、驚くべきはその知能。人間の言葉を理解出来、成長していけば高度なコミュニケーションが取れる事も分かった。なのでクワノールをペットではなく、家族として扱う事となったエリナであった。

 



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EX7 フォイの部屋

時系列としては、再会と因縁の章『秘密の部屋』編の12話から18話です。ドラコの視点で描きます。


 1992年11月某日。グリフィンドール対スリザリン戦後の事である。

 

『クッソォ!ポッターに負けるなんて!』

 

 壁を叩くドラコ・マルフォイ。1年生の時、ハリーの力は見ていた。ニンバス2000を使っていたから、その後継機を使って勝とうと思ったのだ。

 

 しかし、ハリーはレッドスパークという曰くつきの箒で応戦した。そして、見事に乗りこなしたのだ。ブラッジャーの1つが、ハリーだけを徹底的に襲うというこちらにとって有り難いアクシデントがあるにもかかわらず、彼の捨て身の戦法の前に敗れてしまった。

 

「箒の性能さえあれば……!?」

 

 いや、例えハリーがニンバス2000で戦っていても自分は負けていたであろう。何しろ相手は、スペックも実戦における経験値も桁外れなのだ。今思えば、去年の飛行訓練の自分の行動を恨んでやりたくなった。ハリーを退学に出来るどころか、クィディッチにおけるスリザリンの最大の敵を作ってしまったからだ。

 

「しかも、リドルには10発殴られるし。」

 

 100点差で負けたので、本来ならば100発殴られるところだったのだ。しかし、他の選手に庇われたので10発だけに留まったのだ。とは言え、1発1発がグロッキー状態になるグラントの拳である。終わった後には危うく意識不明になりかけた。

 

 しかしどういうわけか、敵である筈のハリーの作った回復薬と応急処置である程度完治した。医務室に行っても、すぐに退院したのだから。その時の光景を思い出す。

 

『どうして僕を助ける?敵の筈なのに!』

 

 立ち去ろうとするハリーに対して、ドラコは質問した。顔だけドラコの方へ向くハリー。

 

『何故助けるかって?言った筈だぞ。俺は、俺なりに一線を構えていると。去年のホグワーツ特急でな。』

 

 いつもこうだ。本当に自分が危うい時は、助けてくれるのだ。

 

「もっと練習しないと……試合の度にアレじゃあ、いつか死ぬ。ポッターにも助けられてばかりで、情けなくなる。そして、魔法の腕も上げないと……そうだ!」

 

 後日、ドラコは地下牢にあるスネイプの部屋に入った。事前にアポは取っている。

 

「入りたまえ。ミスター・マルフォイ。」

 

「失礼します。」

 

 ガチャリ。ドラコが入って来た。

 

「どうしたのかな?」

 

「スネイプ先生。僕に……僕に上級生用の、もっと自分の身を守る為の役に立つ魔法を教えて下さい!お願いします!必要であれば、父上の推薦状も渡します!!」

 

「君はまだ2年生だ。その必要はないと思うのだが?」

 

「このままでは命に関わるんです。」必死に訴えるドラコ。

 

「フム……理由は、ハリー・ポッターとの確執かね?」

 

「いいえ。違います。あいつの事ではありません。それどころか、僕が本当に危うい時は助けるんです。自分なりに一線を構えているからって理由で。」

 

 それを聞いて、思わず驚いた表情になるスネイプ。何か考え事をしていたが、最終的にドラコにこう切り出した。

 

「君は優秀な生徒だ。週に1回、我輩直々に手ほどきをしよう。あまりにも高度な呪文はともかく、我輩が生み出した呪文を出来る限り教えよう。それを見事、ものに出来るかどうかは、君次第ではあるがね。」

 

「必ずやってみせます!」

 

 こうして、スネイプに師事する様になったドラコ。グラントに殴られるよりは、遥かにマシだった。警戒心と反射神経が鍛えられているのか、ある程度なら魔法を使わなくとも攻撃をやり過ごせる様になっていた。

 

 決闘クラブの日になった。ドラコの対戦相手は、エリナに決定した。審判は、スネイプがやる事に。

 

「1…2の…3!」

 

「「武器よ去れ(エクスペリアームス)!」」

 

ドラコのサンザシの杖、エリナの柊の杖から真紅の閃光が出た。互いの閃光とぶつかり合う。

 

妨害せよ(インペディメンタ)!」

 

 すかさず、次にドラコは妨害呪文を使う。エリナは、魔法を使わずに己の運動能力だけで回避をした。

 

「なっ!?」

 

「隙あり!魔塊球(ディアブマス・アービス)!」

 

エリナの杖から、白い光球が出て来た。見るからに弱そうではあるが、その油断がドラコと白い光球との接触を許してしまった。

 

「なっ!?これは……何ともないぞ。」

 

 光球に当たって光ったわけだが、何故かダメージが無かった。

 

「何をやったかは知らないけど、そんな役立たずの魔法で僕を倒せると思ってるのか?」

 

「役に立たないかどうかなんて、分からないかも知れないよ?武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

 その瞬間、ドラコの身体が光った。正確には、触れた光球が強く武装解除呪文に呼応している。

 

「ま、まさか!」

 

 エリナが先程放った魔法の効果を悟ってしまったドラコ。もしこれが本当ならば、弱い攻撃呪文でも脅威になりかねないと思ってしまった。

 

「う、うわぁ!」

 

 武装解除呪文が直撃し、吹っ飛ばされるドラコ。これは、武装解除呪文の威力じゃない。白い光球はエリナ自身の魔力の極一部を凝縮させた塊だ。対象に当ててから攻撃呪文を唱えると、最大10倍ほどの威力となる。

 

「ハア……ハア……兄の方ならともかく、妹にも勝てないのか。僕は。まだまだだな。」

 

 舞台を降り、ギャラリーに戻るドラコ。その後、ハリーとイドゥンの決闘が程無くして始まったのだった。

 

*

 

 時間はある程度進み、年明けの授業。スネイプとの特訓をやっている。2日後にクィディッチの最終調整で、その翌日はハッフルパフとの試合がある。なので、今日がこの週の特訓の総仕上げとなる。

 

「良いかね?今回教えた錯乱の呪文を習得しておくように。」

 

「わ、分かりました。先生、僕はポッターやリドル、フィールドに勝てると思いますか?」

 

「……あの3人は、従来の魔法使いの常識が通用しない。躊躇いもなく、マグルの戦闘技術も使って来るからな。せめて、相手の方もそれ相応に身に付けておかないと、勝つどころか同じ土台で戦えないと言っておこう。これに関しては、我輩も専門外になる。フォルテならば、ある程度身に付けてはいるが。」

 

「そうですか。」

 

「今は土曜日の試合に向けて、休息を摂る様にする事だ。ハッフルパフは、別物レベルで強化されている。特に気を付けるべきは、ミス・ポッターだ。兄程ではないが、彼女も相当な選手だからな。」

 

「分かってます。リドルとルインは、練習の日じゃなくても個人で練習していますから。勿論、この僕も。」

 

「分かっているならばよろしい。さあ、もう就寝時間だ。行きたまえ。」

 

「……失礼致しました。」

 

 スネイプの部屋を出るドラコ。座学はともかく、実技の方はOWL試験でも通用する位にはなった。だが、それでも勝てない奴というのは必然的にいる。この世には1人や2人、敵わない奴もいるとは良く言ったものだ。

 

 そう考えながら談話室に向かっていると、何やら話し声が聞こえた。スリザリン・チームの上級生4人だ。

 

「どうする?エリナ・ポッターには、プラチナイーグルがあるぞ!」

 

「ハリー・ポッターのレッドスパークさえあればなぁ……」

 

「あいつから借りるのか?貸してくれって。」

 

「無理だ。全員揃って、良くて半殺しにされるのがオチだからな。」

 

「レイブンクローには勝てるが……今年のハッフルパフは強化されまくりだ!どうする!?」

 

 その時だ。誰か入って来た。髪が一部白い少年だ。名前は確か、レナルド・ホワイト。

 

「簡単ですよ。ハリー・ポッターの仲間思いな性格を利用すれば。」

 

「1年生か。聞いてたのか?」

 

「まあ、俺も目障りな奴がいましてね。そいつは、ポッターの奴と大変仲が良いですから。」

 

「何をすればいい?」

 

「血を裏切るエックス・ブラックを餌に、ポッターからレッドスパークを奪い取るんですよ。」

 

 そんな。それをやったら、イドゥンが黙っていない。だけど、話をしている5人は勝つ事にしか集中していない。やめようとは言えない。グリフィンドール戦では、完全に自分が悪いからだ。黙殺される。

 

 急いでその場を離れるドラコであった。事実を知りながら、誰にも明かせない苦痛を味わう事になったのであった。

 




凡そ1時間ほど経ってから、本編の投稿をします。


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EX8 エックスの決意

 僕の名前はエックス・ブラック。1981年5月20日生まれ。無限の可能性を持った子に育って欲しいと願いでエックスと名付けられた。

 

 父はトーマス・ブラック(旧姓グリーングラス)、母はアリエス・ブラック。それに僕には姉がいる。イドゥン・ブラック。1979年9月27日生まれ。両親は訳アリの事情でおらず、現在は姉と屋敷しもべ妖精のクリーチャーと暮らしている。

 

 両親はどちらも純血と呼ばれる血統なので、僕自身も純血という事になる。尤も、僕にはそんな事に拘りは無いんだけどね。

 

 ホグワーツ入学までは、ひたすら本を読んだり、魔法の訓練もしていた。時にはクリーチャーに、屋敷しもべ妖精式の魔法を土下座までして教えてくれと頼み込んだりした。その結果、7年生までの教育課程も修了した。

 

 1992年の誕生日に、ホグワーツから手紙が届いた。入学案内だった。すぐに了解の手紙を書いて、学校から来たフクロウに渡した。

 

 6月の終わりに、姉ちゃんが帰って来た。とても充実した1年だったらしい。姉ちゃん曰く、同級生のメンツが凄かった。ポッター家にフィールド家、その他大勢の魔法族が一斉に集結していた。マグル出身者も、負けず劣らず個性豊かだった。ギャング出身のグラント・リドル、秀才のハーマイオニー・グレンジャーが主だ。

 

「良いなあ。凄く楽しそう。というか、他の寮でも人脈を作っているあたり、姉ちゃんがチート染みているってのは良く分かったよ。」

 

「その言葉、誉め言葉として受け取っておきましょう。」

 

「どこになるかなあ?」

 

「まあ、どこに行こうが私の態度が変わるわけではありませんから、そこは安心してください。大事なのはどこに行くかではなく、どこに行っても決して己を捨てない事ですから。ですからエックス、あなたの信じる道を行くのです。」

 

「分かったよ。」

 

 8月に、ダイアゴン横丁へ行った。杖やローブ、本、鍋、魔法薬の材料を買ったり、ブラック家の金庫から1年で使うお金を引き出したりした。

 

 9月1日。ホグワーツ特急で学校に向かった。途中、返り血を浴びたであろう空飛ぶ車が通過したのを見た。流石の姉ちゃんも、一瞬頭がフリーズしたんだ。

 

 城に向かう時に、姉ちゃんと別れた。小舟で行くからだ。一緒になった同級生が、カメラと言うマグルの道具を持っていたので聞いてみた。

 

「それ、カメラなの?」

 

「うん。魔法界でも使える特別製さ。」

 

「凄いなあ。僕もさ、実家にある伯父さんの部屋にマグルの使っている道具の写真集とかが飾ってあるんだ。」

 

「何か、僕ら気が合いそうだね。僕は、コリン・クリービー。お父さんが牛乳の配達の仕事をしているんだよ。だから、両親は魔法が使えないんだ。僕でもやっていけるかな?」

 

「そこら辺は大丈夫。マグル生まれの人の方が沢山だし、そういう人でもやっていけるからさ。心配しなくて良いよ。ああ、そうだ。自己紹介がまだだったね。僕は、エックス・ブラック。よろしく。」

 

 僕とコリンは、握手した。

 

「ブラックって、あの?」

 

 女の子が話しかけてきた。赤毛でそばかすがあるけど、それでも美人の部類に入る容姿をしている。彼女、ウィーズリー家の子かな?

 

「まあ、その認識で良いよ。尤も、姉ちゃんが当主をしている今となっては全てリスタートしているんだよね。中身は白いよ。」

 

「そういう事にしておくわ。ジニー・ウィーズリーよ。」

 

「僕はエックス・ブラック。こっちは、コリン・クリービーだよ。」

 

「よろしくね。」

 

 組み分けはどこになるかを雑談した。父さんがレイブンクロー、母さんと姉ちゃんがスリザリンだからどちらかになるかも知れない。でもなあ、グリフィンドールやハッフルパフも良いかも知れないなあ。

 

 マクゴナガル先生がここで待つ様に言った。

 

「ブラック家の人間が入学するって聞いたけどな。君か?」

 

 黒髪に銀髪がある程度混じった髪形の少年が話しかけてきた。

 

「何か用?」

 

「俺の名は、レナルド・ホワイト。20代続く魔法族の家系だ。エックス・ブラック。友人は選んだ方が良いぞ。よりにもよって、血を裏切るウィーズリーと生まれそこないのクリービーといるなんてね。俺だったら、自殺した方がマシだね。」

 

 レナルド・ホワイトは、コリンとジニーを見下すかの様にそう吐き捨てた。

 

「誰が交友関係を結ぼうが、僕の自由だ。失せろ。」

 

「こっちは親切心で、言ってやってるのにさあ。」

 

 その時、マクゴナガル先生がやってきた。名簿でホワイトの頭を軽く叩いた。

 

「何をしているのです?もう準備が整いましたよ。」

 

 そこで、言い争いはやめとなった。だけど思った。あいつは、ホワイトとは永久に釣り合わないと。そうして、組み分けは始まった。

 

「ブラック・エックス!」

 

 僕は、帽子をかぶった。

 

『う~む。去年入って来たイドゥン・ブラックに負けず劣らずで君も難しい。勇敢さに誠実さ、知識欲を持っている。そして、目的の為ならばどんな事だってやり遂げる狡猾さを持っておる。全ての寮に対する素質を持った者が2年連続で続くとは……』

 

「迷っているんですか?」

 

『私だけでは決められない。君が決めて貰っても良いかな?』

 

「それじゃあ、僕は……」

 

 僕は、帽子に自分の意思を伝えた。

 

『成る程。確かに、君の友人とも一緒になれるだろう。幸い、君はその資質を十分に持っている。ならば、そこに私は懸けてみるのも悪くはないな。その名も……グリフィンドール!!!』

 

 グリフィンドールの列から大きな歓迎の声が上がる。逆にスリザリンは、驚愕と動揺の反応だった。姉ちゃんは、特に驚いてもいないようだった。

 

 食事は、どれも美味しかった。その時に、ハリー・ポッターと言う人と仲良くなった。

 

 新入生歓迎会が終わってから、談話室に向かった。2人部屋を見つけたので、そこにコリンを誘った。その後、ジニーのお兄さんの1人が拍手喝采を浴びていた。

 

 翌日から授業が始まる。朝食の時に、吠えメールが届いたので完全に目を覚ましたのであった。授業自体は、そんなに難しくなかった。姉ちゃんや、他の人の教科書を読んでいたので難無く答えられたのだ。コリンも、マグル出身とは思えない程良い線を行ってたし、ジニーもそれなりだった。

 

「え?コリン。今、何て?」

 

「だからさ、エリナ・ポッターを僕が独自に魔改造したカメラに収めようって言ったんだよ!」

 

「止した方が……」

 

「行こう!エックス!」

 

 半ば強引に連れ去られた。エリナ・ポッターは、すぐ見つかった。彼女は、中庭にいた。

 

「写真?どうしてまた。」

 

「名前を言ってはいけないあの人を、犬畜生以下のくたばり損ないにまで格下げしたあなたと出会った証をいただきたいなと思いまして!」

 

 テンションの高いコリンであった。

 

「き、君。随分とまあ、毒舌だな。」隣にいた男子生徒が僕達2人にそう言った。

 

「別に構わないよ。ボクは。」

 

「ありがとうございます!エックス!凄いよ!この人、ボクっ娘だよ!」

 

「う……うん。」

 

 5分後、写真を手に入れて満足そうな表情になったコリン。

 

「ありがとうございました!写真は後日、お渡しします!」

 

「良い写真が、出来ると良いね。」エリナさん、引き気味になりながらもそう言った。

 

「あのう、その時にサインも……」

 

「サイン入り写真?ポッター、君はそんなのを配ってるのか?」

 

 気取った様な声が聞こえた。プラチナブロンドのオールバック、ドラコ・マルフォイだ。僕の母親と、あいつの母親が従姉妹だった筈だ。隣には、グラップやらコイルやらの捨て駒要因を引き連れている。

 

「並べよ!エリナ・ポッターが、サイン入り写真を1ガリオンで売るそうだぞ!」

 

「……勝手に喚いていれば?」エリナさん、ゴミを見る様な目で冷たく言い放った。

 

「あなたは、彼女を妬んでるんだ。」コリンが、マルフォイにそう言った。

 

「妬んでる?この僕が?生憎、そんな醜い傷なんて要らないんでね。女の癖に、顔にそんな傷を持っているなんてさ、哀れとしか言えないね。」

 

「おい。マルフォイ。それ以上エリナに何か言ってみろよ!」

 

 男子生徒がマルフォイに詰め寄ろうとするが、捨て駒コンビに邪魔される。

 

「マクラミン。君は、ポッターのサイン入り写真を貰わなくて良いのか?1枚でも手に入れば、君の実家ももっと金を持てるのにさ。」

 

「人を苛立たせる才能だけはアリだな。その才能を、もっと別の事で生かせば良いのに。」

 

僕は、マルフォイに対して皮肉を言った。

 

「エックスか。ブラック家の癖に、よりにもよってグリフィンドールに行くとは。魔法使いとしての誇りを忘れているぞ。アズカバンに収監されている、あの男と同じ末路をたどる事になるだろうな。」

 

「……」杖を抜こうとした。だが、その時は永遠に訪れなかった。

 

 何故なら、ハリー・ポッター先輩が他の2人と共に中庭の騒ぎを聞きつけてこちらにやって来たからだ。その途端、マルフォイ一味の顔色が真っ青になった。

 

「またお前か、マルフォイよ。とことん懲りん奴だな。」

 

「ぽ、ポッター。何で?」

 

 さっきとは打って変わって、弱々しくなった。余程、この人だけは敵に回したくないという表情をしている。

 

「あんだけデカい声で騒ぎを起こしてりゃ、誰だって駆け付ける。それに、お前には丁度聞きたい事もあるしな。」

 

「クラッブ、ゴイル。行くぞ!」

 

 3人は、即座に退散した。マクラミンって人は、ハリー先輩にお礼を言っている。

 

「す、凄いよあの人。あの3人組を追っ払うんなんて。その内の2人は、明らかに体格が上回ってたのにさ。」

 

「全くだよ。」

 

 こうしてコリンの新たなターゲットが、ハリー先輩に決まった。だけど、なるべく悟られない程度のささやかな邪魔をしておいた。

 

 上級生からスネイプ先生はスリザリンを贔屓すると言われたけど、何故か僕には結構甘かった。後に僕は、彼が後見人を務めている事を知る事になるわけだけど。

 

 クィディッチの試合の日になった。結果は、グリフィンドールが勝った。だけど、ハリー先輩は狂ったブラッジャーによって医務室に送られた。

 

「行ってくるね。」葡萄を一房持ってコリンが出掛けた。

 

「気を付けなよ。特に、ミセス・ノリスの事もあったからね。」

 

「大丈夫さ。じゃあ。」

 

 これが、コリンとの今年度最後の会話になった。彼は、医務室の近くで石になって発見されたのだから。

 

「ミスター・ブラック。大丈夫ですか?」

 

「何で……どうしてこんな事が…………マクゴナガル先生。」

 

「秘密の部屋が、開かれたのですよ。どうやってかは、見当が付きませんが。あなたには、マダム・ポンフリーから特別に医務室の出入りが許可されましたからね。」

 

「……はい。」

 

 継承者って誰なのだろうか。ヒントが少な過ぎる。それに、最近ジニーも顔色が悪いようだった。

 

 そんな時、姉ちゃんが話しかけて来た。

 

「エックス。あなたの友の事は、残念でしたね。」

 

「まだ死んでいないけどね。で、何か用?」

 

「クリスマス休暇、こちらに残って探検をしてみませんか?実技の方も、その時に修得するのですよ。どうですか?」

 

「……何も考えずに、只這いつくばっているよりは充実しているだろうね。」

 

「決まりですね。」姉ちゃんは、スリザリンの席に着いたのだった。

 

 クリスマス。嘆きのマートルのトイレで、防火・防水呪文の練習をする事になった。でも、先客がいた。ポッター兄妹がお揃いだ。ハリー先輩の方は、本人曰く50年前の薄汚い日記を持っている。

 

 空き教室で、日記の記憶を見る。前の見た事がある、グラント・リドルの良く似た黒髪の男が、後の森番であるハグリッドを犯人として突き出していた。

 

 トム・リドル。グラント・リドルと髪の色以外は瓜二つだけど、語って来るものはまるで別物だった。グラント・リドルが真っ白な光ならば、トム・リドルは真っ黒な闇そのものだ。

 

 年が明ける。しばらくして、ハリー先輩の持つレッドスパーク目当てに捕まった事もあった。エリナさんを打ち負かす為に。だけど、エリナさんはそれでも見事に試合で勝利した。スリザリンは、200点減点されて最下位になってしまった。

 

 時は経ち、試験直前になってマンドレイクの回復薬が完成した。これで、今までの犠牲者も蘇る。コリンも、元気になるだろう。純粋に嬉しかった。この時までは……

 

 寮に戻るようにと言われた直後、僕は抜け出した。職員室から情報を手に入れる為に。今思えば、戻った方が良かった。今度は、ジニー(・・・)が秘密の部屋に連れ去られたのだから。

 

「何て無力なんだ。勉強は出来ても、大切な人は失うし。」

 

 自分の無力さを嘆いた。折角の魔法は、知識は、生かせていない。こうなれば、秘密の部屋に自分1人で行くしかない。ハリー先輩とウィーズリーさんの会話から、怪物の正体と秘密の部屋が存在する場所は聞いているからだ。

 

「ジニー。待ってて。今、行くよ。絶対に、死なせないから。」

 

 僕は、秘密の部屋へ直行する。だから走る。目的地に辿り着く為に。

 

「あなたですか?コリン・クリービーを石にした怪物を操り、挙句の果てにジニー・ウィーズリーを連れ去った継承者を倒しに行こうとしている無謀な行動をしようとするグリフィンドールの1年生は?」

 

 女子生徒の声が聞こえた。

 

「だから何だって言うんだ?関係無い。」

 

「あなたの為を思って。忠告しに来たのですよ。1年生1人で、勝てる様な相手ではありません。バカな行動は慎みなさい。」

 

「バカじゃない!僕は、何が何でもジニーを助けるって決めたんだ!2人をむざむざとやられて、泣き寝入りする気はない!」

 

「あなた1人で何が出来るというのです?」

 

「コリンとジニーは、僕の大切な親友なんだ!その為だったら、何だってやり抜いてやる!」

 

「あなたに怪物を、それを操る継承者を同時に勝利出来ると言いたいのですか?例え、刺し違える結果になったとしても。」

 

 少し決心が揺らいだ。ここからは、勝ち目が薄い戦いだ。最悪、死ぬかも知れない。そんな事は、もう行くと決めた時から腹は括っていた。だけど……だけど…………

 

「僕だけじゃ……絶対無理かも知れない。でも、今行かないと絶対に後悔する。もう自分の弱さで、誰かを失いたくないんだ!!!」

 

 その人の方を振り向く。

 

「姉ちゃん。無理を承知で聞いて欲しい。一緒に戦ってよ……お願いだ。」

 

 その人は、姉ちゃんは呆れながらも自然な笑みをこぼした。

 

「ハア……最初は、あなたを引き留めて私の方も談話室で高みの見物をしようかと思いましたが、ここまで真剣に頼まれると断れないじゃないですか。ミイラ取りがミイラになるとは、こういう事を言うのですね。こうなれば、どうにでもなれですわ。」

 

「それじゃあ、早速……」

 

「待ちなさい。ハリー達5人も来る筈です。彼らと合流し、そして共闘しましょう。2人よりは、7人の方が勝率が上がりますからね。後は、教師が最低1人いれば問題無いでしょう。なので私は、ロックハートを連れて来ます。ですからエックス、そこで待っているのですよ。」

 

 姉ちゃんはそう言って、ロックハートの部屋に向かって行ったのだった。

 

 その後、ハリー先輩達5人と出会う。僕と目的は一緒の様だ。先輩は、僕に帰るようにと言った。だけど、反論した。そうしたら、自分の身は自分の身で守る事を条件に付いて来て良いと言ってくれた。

 

「待っててくれよ、ジニー。」

 



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EX9 ルシウスの思惑

お久しぶりになります。久々の投稿です。
『再会と因縁の章』の秘密の部屋25話後のルシウスのその後を描きます。
今回の話は、『Harry Potter Ultimatemode 再会と因縁の章』既読が前提になっております。


ホグワーツ魔法魔術学校の校庭。ルシウス・マルフォイは、走っていた。

 

『何だ……ハリー・ポッターの……あの小僧の魔力は!?あんな魔力(もの)、子供が持っているというのか?ドラコと、私の長男と同学年なのに!』

 

ルシウスは恐怖している。今回の事件の黒幕として暴かれ、屋敷しもべ妖精は解雇され、挙句に1人の子供から宣戦布告を受けた。特に最後の1つ。一見、大した事が無いようにも見えるがそうではない。あの時に感じた魔力。量は魔法界全体から見ても相当多いが、闇の帝王やダンブルドア、そして疎遠だがかなり近しい親戚であるイドゥン・ブラックと違って突出しているわけではない。

 

問題は、魔力の質の方だ。書店の時とは根本的に違い過ぎる。始めて見た時は、『白く、暖かく、神々しい』魔力をしていた。太陽と称しても良い程の、どんな闇をも明るく照らす、『闇を切り裂き、光を齎してくれる』心地良い魔力だった。

 

だが、今日は違う。『黒く、冷たく、禍々しい』魔力だった。言うなれば、『どんな光をも飲み込み、闇へと染め上げる』とでも表現し得る程の。認めたくは無いが、それは嘗ての自分の主君、闇の帝王など比ではない程のおぞましい闇とも表現出来る。無限の闇、或いは闇そのものだ。

 

「それだけじゃない!何故だ?何故、私は同期のメイナード・ポッターの事まで思い出してしまうのだ?」

 

*

 

1970年。ホグワーツ。闇の魔術に対する防衛術の教室。

 

「フハハハハハ!踊れ踊れ!」

 

泣き叫ぶ1年生のマグル生まれの男子生徒に、踊らせる呪文を行使するルシウス。優等生とは称されているが、裏では穢れた血を嬉々として苛めるのが趣味だったのだ。

 

だが、そんな楽しい時間はあっけなく終わる。自分の魔法が、突然解除されたからだ。

 

「愚かだな。ルシウス。こんなバカげた、下らない事をやっている暇があるのなら、俺を打ち負かす為の努力でもするが良い。」

 

レイブンクローを象徴する青が入った制服を着ているメイナード・ポッターが、マグル生まれの生徒を助けたのだ。

 

「もう大丈夫。俺がそばについているよ。」

 

メイナードは、その男子生徒に微笑みかけた。男子生徒も、不思議と不安が消えたのだった。

 

「彼の様なマグル生まれに手を出して何になる?おこがましいとは思わないのか?」

 

「フン。知れた事。僕達魔法族が、いかにマグルや穢れた血よりも優れているのか刻み込んでいるまでだよ。」

 

「俺からすれば寧ろ、近親相姦しか能の無い純血(俺達)の方が劣って見えるがな。だからこそ俺の器は、こう認識しているんだ。こんな腐り切った魔法界のシステムには……収まり切らないと。」

 

まるで、自分にも言い聞かせるように、そして自己嫌悪とも取れる発言をしたメイナードに驚きを隠せないルシウス。

 

「それは、聞きづてならないな。」

 

「ならば、どうする?」

 

「メイナード。君に、本当の魔法使いのあるべき姿を見せてやるのさ。」

 

メイナードとルシウスが、互いに杖を取り出して魔法による戦闘を始める。だが、メイナードが終始圧倒する形となっていた。やがて、這いつくばるように倒れるルシスス。メイナードは、そんな彼を失望とも取れる冷めた目で見ていた。

 

「ルシウス。無駄だ。お前のいかなる魔法も、俺の前では、そしてウイルスモードの前では意味を為さない。」

 

メイナードの眼は、今やハジバミ色ではなくルビーレッドだ。それを見て、ルシウスは恐れおののき、そしてトラウマとして刻み込まれてしまったのだ。それこそ、闇の帝王以上に恐れている。死して尚、未だにメイナードの影響力はルシウスの中では極めて高いのだ。

 

*

 

「中身は両親よりも、伯父の方に似ているとは。」

 

余りにも似ている。本当はジェームズではなく、メイナードの息子なのではと思う位には。セブルスと1度話した時にも聞いていたが、怒った時のハリーはまるでメイナードを完全に敵に回したような感覚だった。

 

『正直、闇の帝王よりも恐ろしい。ハリー・ポッターと、メイナード・ポッターは。』

 

もし彼がメイナード同様不死鳥の騎士団員として、そうでなくともロイヤル・レインボー財団の戦闘員として、或いはどんな形であれ対闇の陣営側の魔法使いとして自分の前に現れた場合、果たして勝てるかどうかが分からない。それどころか、敗北の可能性が極めて高いだろう。

 

『ドラコによれば、ハリー・ポッターとまともにやり合う事が出来るのは、ゼロ・フィールドとグラント・リドルの2人だけという話だが。』

 

自分が死喰い人に入る前の事、フィールド家は密告者の手引きを受けて闇の陣営に滅ぼされたのだ。フォルテ・フィールドと、その父アルバートを残して。

 

「あのアルバートの血を引いているならば、納得だな。だが、グラント・リドル。奴は、一体何者なんだ?」

 

闇の帝王から預かった日記の持ち主と同じ姓。闇の帝王の隠し子なのか?だが、闇の帝王の性格からして普通の手段で子供を作るとは思えないが。全く分からない。謎は深まるばかりだ。

 

『つくづく化け物共の集まりだな。ドラコの同期達は。』

 

1回、深呼吸を入れるルシウス。

 

「だが……」

 

闇の帝王をも凌駕するおぞましい魔力の質。ドラコが去年言っていた切札という異名。その表現の嘘偽りは無い。

 

魔法戦闘だけでも、全盛期状態の上級死喰い人と同等、更には魔法に頼らない戦闘能力まで所持、財力や権力を持ちながら決してそれを自慢しない、自らの力だけで這い上がり、諦めとは無縁な性格。ドラコにも見習って欲しい所も多々ある。

 

そして、ルシウスは思った。欲しいのだ。まだ12歳にも関わらず自分に宣戦布告してくる度胸を持つ、ハリー・ポッターという少年が。

 

最初は恐怖心しかなかった。だが、よくよく考えればロイヤル・レインボー財団のブラックリストの解除も出来るのではという希望も見えて来たのだ。

 

彼が味方になれば、どれだけ心強いだろうか。死喰い人に、否。それすら収まり切らない器を持っている。もしかすれば、闇の帝王以上の闇の魔法使いになれるかも知れない。

 

今の所は危険人物だが、ハリーの持つ全てにルシウスは魅せられたのだった。

 

「他の者達には黙っていよう。私が今そうは思わなくても、本当に危うい時はドラコを助けてくれてるのだからな。」

 

後の事はじっくりと考える事にしようか。一先ずは、ウィルトシャーにある自分の家に戻ろう。妻のナルシッサと、次男のコーヴァス、長女のスピカの双子の兄妹。彼らが、自分の帰りを待ち侘びているのだから。

 



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EX10 スラグホーンの頼み

1993年7月1日。とあるマグルの村。

 

「ここなの?」ハリー・ポッターが、30台前後に見えるイギリス紳士に語り掛ける。

 

「そうだよ。ここに、前任の魔法薬学教授兼スリザリン寮監のホラス・スラグホーンがいるよ。」

 

ハリー・ポッターとアラン・ローガーの目的は、そのホラス・スラグホーンに会いに来た事だ。

 

「……幸運の液体を飲んだけど、上手くいくかな?」

 

「それでも、何が何でもリドルとのやり取りを聞き出さなければならない。行こう。」

 

少し離れた一軒家にノックして入る2人。

 

「お久しぶりです。スラグホーン教授。」

 

アランが深々とお辞儀をした。

 

「アランかい?君が来るなんて珍しいな。」

 

『失礼な物言いになるけど、太ったセイウチって言った感じだな。』

 

ハリーがスラグホーンに抱いた印象はそうだった。

 

「ほほう。」スラグホーンがハリーを凝視する。

 

「どうかされましたか?」抑揚の無い口調で、ハリーが質問をする。

 

「君なのか。シエルから良く聞いているよ。無傷で例のあの人の襲撃をやり過ごした、生き残っていた男の子。ハリー・ポッター。昔を思い出すよ。君は父親に、メガネにそっくりだ。」

 

「私の両親を知る者は、皆そう言います。」内心うんざりそうにそう返すハリー。

 

「目だけは違う。リリーだ。だけど雰囲気というか、語って来るものは全く違うな。メガネの、ジェームズの兄、メイナードそのものだよ。」

 

「父の兄、つまり私にとっては父方の伯父に当たるその方は、一体どのような人物だったのですか?」

 

「一言で言えば、静かさの中に情熱や信念を秘めていると言えば良いかな?」

 

「成る程。そうでしたか。」

 

「君の母リリーは、私のお気に入りの1人だった。私の寮に来るべきだといつも言っていたのだが、その度に悪戯っぽく言い返されたよ。」

 

「確か、蛇寮でしたよね?我らが親愛なるドラコにホグワーツ特急で初めて会った時に、シエルに対してそう言っていましたから。」

 

「責めないのかね?」スラグホーンは、驚いたようにハリーに聞いて来る。

 

「寮で差別?それこそおごまかしいじゃないですか。確かに、父や母と同じグリフィンドールなのは認めますよ。ですが私には、スリザリンの友人が何人もいましてね。ほぼ全員が、純血主義ではありませんよ。それよりも、私が嫌悪且つ憎悪を抱いているのは――」

 

「そこは別に言わなくて良いよ、ハリー。」

 

「何を抱いているかは知らないが、君にも何か成し遂げたい事があると見受けられる。」

 

「知れた事。俺の両親や伯父を殺した上に、俺とエリナの人生まで歪ませた闇の陣営を全てこの世から完全排除する事ですよ。無論、家族も含めて。闇の生物も、種族ごと根絶させます。それ以外に何かありますか?」

 

スラグホーンは、狼狽えた。

 

「アラン。この子は、まだ12歳なのに復讐を考えているのかね?これは、幾らなんでも……」

 

「私としても、リドルを許す気はありません。奴は妻を、スネイプは息子夫婦、ヤックスリーはアルフレッドを殺したからね。なので、ハリーの復讐を止める気はありません。無関係な者を巻き込まない限りはですが。」

 

「スラグホーン教授。単刀直入に言わせていただきます。連中を完全なる破滅に追いやる力をください。」

 

「わ、私にはそんな価値が無い。何の役にも立たない……私のやった事が、結果的にリリーを死に追いやる原因になってしまったのだから。」

 

「もしあなたが、私の母を殺した者を破滅させたいと思うのならば、私が代わりにやり遂げてみせます。」

 

「そう言う問題ではないのだよ。」涙声になるスラグホーン。

 

「スラグホーン教授。私の母が、好きだったのですか?」

 

「リリーに出会った者の殆どは、誰だって好きになるに決まっている……あれ程勇敢で……ユーモアがあって……恐ろしい事をしたんだ……私は。ある意味、例のあの人以上に罪深い事をしたんだ。」

 

「お祖父ちゃん!」

 

沈黙を保っていたシエルが、祖父に剣幕を込めた物言いをする。

 

「お願いよ!ハリーに力を貸してあげて!私、例のあの人が支配している世界よりは、そうじゃない世界の方が良いわ!」

 

「し、シエル……」

 

スラグホーンはどうやら、孫娘にはかなり弱いようだった。

 

「ハリーのお母さんって、私の後見人もやってくれてたんでしょ!?話をする時は、いつも弾んでた!死んだって聞いた時は、私のパパやママと同じ位に悲しんでた!」

 

「…………あなたは、自分勝手です。後悔や償い。それらを自分の中で終わらせて、過去を過去のものとしている。思い出の中でしか、私の母様と会おうとしないのだから。」

 

「2人共。そんな事を言わんでくれ。ハリー、君に私の記憶をやるかやらないかの問題ではない。私としては、君を助けたい。だが……」

 

「あの変態ヘビからの報復が怖いのですか?奴は今、何も出来ない。」

 

「何故だね?君がそこまでやる必要は無い筈だ。」

 

「ダンブルドアは、エリナに1人で全てをやらせる気だ。ダンブルドアのやり方では、救うべき命を見捨て、逆に敵対する者を生かし過ぎるだけ。だからこそ、そんな最悪な結果にはさせまいと俺は動いている。俺は、過酷過ぎるエリナの苦痛を和らげる為にここに来た。」

 

「……君は恐ろしい事を言っている。つまり、私に、あの人を打倒する手助けをしろ、と。」

 

「その通りです。」

 

「!」ハリーの言葉に驚くスラグホーン。

 

「お祖父ちゃん。もう逃げないで。勇気を出して。ハリーのお母さんは、ううん。私のパパとママも、絶対恨んではいないわ。お祖父ちゃんが何時までもそんな状態だったら、心の中の3人は死んだままだもの。」

 

シエルも必死の説得をする。

 

「私を……エリナを、助けて下さい!」

 

ハリーは、頭を下げた。

 

やがて、スラグホーンはゆっくりとポケットに手を入れ、杖を取り出した。もう一方の手をマントに突っ込み、小さな空き瓶を取り出す。こめかみから、銀色の糸が杖先から出て来た。それを空き瓶に入れ、ハリーに手渡す。

 

「ありがとうございます。」

 

「リリーは、君の様な愛情あふれる息子を持って幸せ者だな。もういないが、彼女の心の炎は、まだ死んでいない。君の中で生き続けている。無論、ジェームズやメイナードも含めてになるがね。」

 

「絶対に、無駄にはしません。」

 

「その渡した記憶を見ても、私の事を悪くは……」

 

「思いませんからご安心ください。」

 

「最後に1つ約束しても良いかな?」

 

「何でしょうか?」

 

「頼む。ハリー。私の娘夫婦と……リリーを殺したあいつらを、何としてもやっつけてくれ!私は、本当は何とかしたいが……どうしようもない。君や、アランに頼むしかない。」

 

「あなたのその頼みは、私の本懐でもあります。そうでしょ?義祖父ちゃん。」

 

「そうだね。」

 

「……スッキリしたよ。ちゃんと言えて。」

 

「スラグホーン教授。本日は、ありがとうございました。」

 

ハリーとアランは、スラグホーンにお辞儀をした。そして、出て行った。

 

「勇敢で気高かったわ。カッコよかった。」

 

「ありがとう、シエル。さあ、そろそろご飯でも作ろうか。」

 

「お祖父ちゃんは、ゆっくりしててね。私がやるから。」

 

そう言って、シエルはキッチンに入っていった。それを、笑顔で見つめるスラグホーンであった。

 



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EX11 囚われの男

1981年11月14日。魔法省のウィゼンガモット法廷。

 

「連れて来い。」

 

声を発したのは、バーテミウス・クラウチ。魔法法執行部の部長を務めている男だ。彼の隣には、弱々しい儚げな魔女がいた。涙も枯れ果てた啜り泣きを時折やっていた。

 

隅のドアが開く。6体の吸魂鬼が、4人の被告を連れて来た。傍聴席からは、ヒソヒソ声が絶え間なく聞こえた。そして、全員の眼がクラウチを見ていた。

 

鎖付きの椅子に、4人は吸魂鬼によって座らされた。がっしりした体つきの男、少し痩せていて神経質そうな感じの男、豊かな艶のある黒髪の女。彼女だけは、まるで王座でもあるかの様に正々堂々と座っている。最後は、18歳前後の少年だ。3人とは違って、ブルブルと震えている。少年を見たクラウチの隣の女性は、ハンカチに嗚咽を漏らしながら泣き始めた。

 

クラウチが立ち上がる。4人を見る彼の顔は、完全に憎悪に満ちたものとなっていた。

 

「そんな。ここって……ウィゼンガモット法廷。違う!僕は冤罪だ!」

 

少年が喚き始める。

 

「静粛に!!ただ今より、開廷する。被告4人。お前達は、例を見ない程の大変残虐で悪意に満ちた――」

 

「お父さん!話を聞いて下さい!」

 

「大犯罪を行った!!!」

 

少年の言葉を一蹴するかのように、クラウチの怒声に近い声が響き渡った。

 

「ラバスタン・レストレンジ!その兄、ロドルファス・レストレンジ!妻のベラトリックス・レストレンジ!そして……」

 

クラウチが言葉を一旦切った。

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニア!!!」

 

「僕は、あなたの息子です!それなのに……それなのに……こんな事って……」

 

絶望に満ちた声を出すバーテミウス・クラウチ・ジュニア。一瞬だけ、3人が笑っているような表情となった。

 

「お前達がやった事は――大変許しがたい犯罪であり!非人道的な行いと言える!『闇払い』フランク・ロングボトムと、その妻アリス・ロングボトムを捕らえた!2人に対して――」

 

「僕はやっていない!あぁ、あなたは……あなたはいつもそうだ!僕の事なんてこれっぽっちも――」

 

「被告よ!静粛にしろと言っている!!」

 

クラウチがジュニアを黙らせる。それはもう、息子としては見ていない。完全に、道端に存在する醜いものを見るかのような侮蔑の視線であった。

 

「磔の呪文を行使した!!それによる、長きにわたる拷問!!2人を…………2人を、聖マンゴ魔法疾患病院送りにした!!!ロングボトム夫妻の回復は――絶望的!我々魔法省は、彼らに対して、あらゆる敬意と尊敬を以ってこの者達を裁く必要がある!!」

 

「お母さん!お父さんを止めて!!神に誓って!僕はやっていない!」

 

「判決は――言うまでもない!アズカバンの終身刑に値する!!!」

 

クラウチが狂ったように叫ぶ。

 

「賛成の陪審員は、挙手を願いたい。」

 

ほぼ全員の手が挙がった。傍聴席からは、拍手が湧き上がって来る。どの顔も、当然の報いだという顔になっている。そして、勝ち誇った残忍さに満ち溢れていた。

 

「それでは、これより閉廷とする!」

 

「いやだ!お母さん!お父さんを止めて!僕はやっていない!あそこに送り返さないで!」

 

ジュニアは、必死に抗おうとする。しかし、吸魂鬼の前では意味を為さなかった。その時だった。沈黙を貫いて来たベラトリックスが、クラウチを見上げて叫んだ。

 

「バーテミウス・クラウチ・シニア!」その顔は、希望に満ち溢れている。

 

「キチガイのアバズレめ!よくもわしの教え子を!」

 

アラスター・ムーディが唸る。しかし、その隣にいたアルバス・ダンブルドアが彼を制した。

 

「アラスター。よすのじゃ。彼女は、抗う事は無いのじゃろう。今はのう。」

 

「闇の帝王は破られた!滅ぼされた!だから死んだ!生き残った女の子バンザーイ!バンザーイ!!!こ れ で 魔 法 界 は 永 久 の 平 和 を 取 り 戻 し た の だ!」

 

ベラトリックスが本心でそんな事を言っていないのは、誰が見ても分かった。

 

「そう思っていれば良い!そのままのうのうと暮らしているが良い!我々をアズカバンに放り込んで満足か!?そうだろうな!我々もだ!あの方を、ひたすら待ち続けるだけだ!」

 

この期にも及んで、ヴォルデモート卿への忠誠心を捨てなかったベラトリックスであった。

 

「我々は、お前達の知らない事を知っている!いいや、知ろうとも思わない事を知っているのだ!あの方は必ず蘇るだろう!我々をお迎えになさる!他の従者の誰よりも我らをお褒めなさるだろう!」

 

「そして、1番最初にお辞儀させてくださるだろう!!!!!」

 

「我々だけがあの方に忠実だった!我々だけが、あのお方を探しつづけたんだ!あのお方の手で自由になった暁には、貴様ら全員をアズカバンより惨めな場所へ送ってやるよ!!楽しみにしていると良い!アハ!ハハハハはハハハ!ハーハッハッハッハッハ!!!」

 

ベラトリックスは、堂々と地下牢から出て行く。ロドルファスとラバスタンもそれに続いた。ジュニアだけが、出て行こうとするのを渋っている。それを嘲り笑う聴衆。

 

「僕はあなたの息子だ!それなのに!碌に捜査もしないでこんな事って!!そんなのあんまりだ!!!」

 

泣きながらそう叫ぶジュニア。

 

「貴様など私の息子ではない!私に息子などいない!吸魂鬼よ!連れて行け!そんな人の形をしたゴミなど、レストレンジ3人諸共アズカバンで腐らせてしまえ!」

 

「僕は、あんな厨二臭い連中の仲間じゃない!誰か!誰か助けて!!イヤだあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

こうして、ジュニアは吸魂鬼によって強制的に連行されたのであった。

 

*

 

1993年6月8日。クラウチ邸。

 

『……夢か。運悪く、あんな奴らと鉢合わせてしまったのが俺の運の尽きなのか?』

 

自分の運命を嘆くジュニア。父に不満は覚えながらも、実の兄同然に接してくれたメイナード・ポッターのお陰で何とか真っ当な道を歩む事が出来た。彼から勧められた癒者の道に進み、研修を熱心にやっていた。

 

久々の休暇で家に帰った。そして、散歩をしていた時、あの3人と出会ってしまった。その直後、魔法省に捕まった。

 

アズカバンに送られてから1年が経った。母が助けてくれた。不治の病で、間もなく死ぬからだ。そんな母の病気を完治させる為に癒者を目指したのに、それさえも敵わなくなった。家に戻った後、幾つかの呪文で完全に制御化に置かれた。辛うじて、意識は保っていられた。

 

この約12年間は、只々自分は何者だったのかをずっと考えていた。

 

「無実の罪で12年の人生を棒に振り、自分がハッキリと見えていない様ね。」

 

声が聞こえた。魔法は全て解除されている。身体も自由に動かせる。

 

「あなたは確か……俺が3年生の時に闇の魔術に対する防衛術の担当をしていた……」

 

金髪で、丸刈り頭の。そして、クラシックチュチュを着用している。男ではあったが、オネエ言葉を話す。

 

「久しぶりね。バーテミウス・クラウチ・ジュニア。私の名前は、リチャード・シモンズよ。転移魔法で、私のアジトまで来たのよ。」

 

「どうして俺を?」

 

「あなたの事、ずっと見せて貰っていたわ。その傍ら、魔法省の陰謀の事も調べていたのよ。」

 

「え?」

 

「付いてきなさい。真実を知りたければ。」

 

移動する2人。ある部屋に入室する。そこは、沢山の巨大なカプセルが置かれていた。緑の液体の中には、植物や動物、魔法生物、そして信じられない事に人間まで入れられていたのだ。

 

「何故わざわざこんな所へ?」

 

「知りたい事が増えているわね。良い事よ。知識欲と言うのは、人間が持っている欲望の1つ。それから逃れる事なんて、永遠に無理だわ。」

 

「じゃあ、さっさと教えて下さいよ!」

 

「簡潔に言うとね、あなたは闇の陣営への関与が疑われていたわけ。」

 

「俺はあんな奴らと仲間じゃない!」

 

「確かに。でもね、魔法省は癒者として優秀過ぎるあなたが、仮に闇の陣営に与したら厄介な事になると認識していたそうよ。そして、休暇の時の散歩で運悪くレストレンジ3人と遭遇。あなたも始末しておく事で、復活したとしても少しでも闇の陣営が不利になるように働きかけたわけ。でも、程無くしてシロだと判明したのよ。」

 

「だったら!」

 

「魔法省はね、でっち上げを行ったのよ。無実の人間を問答無用で捕まえたとなれば、面目は丸つぶれになる。だからこそ、あなたを死喰い人という事にしてメンツを保とうとしたのよ。」

 

「つまり、こう言いたいわけだな。俺は、魔法省の下らない認識と陰謀の為に無実の罪を着せられたと!それも、正義の名の下に!!」

 

「そう言う事。」

 

その途端、ジュニアは杖が無い状態でリチャードに対して攻撃呪文を行使した。

 

「俺は、何だっていうんだ!そんな事の為に、全てを失う羽目になったんだぞ!このやり場のない怒りを、どこにどうぶつければいいんだ!!俺の12年間を返せ!!!!!」

 

ひたすら、魔法を使い続ける。もう、リチャードは動いていなかった。

 

「ハア……ハア……ハア……!?う、うわああぁっ!」

 

怒りの感情を抑えきれず、人を殺してしまった事に罪悪感と後悔で満たされてしまった。

 

その時だった。リチャードは、何事も無かったかのように動き出し始めた。しかも、無傷である。

 

「こうは考えられないかしら?今までの事が納得出来ないなら、代わりのものを見つけて次々に足していけばいいと。」

 

「あなたは、俺を殺すんじゃないのか!?」

 

「いいえ。そうじゃなくてよ。私もね、自分が何者なのかと、この世の全てを知る為に行動しているわ。本当の自分を見つけ出す為に、この世のあらゆるものと情報を集めつくせば自ずと答えは出て来る筈よ。」

 

「…………」

 

「それに、あなたはその素質の高さを秘めている。この部屋にはナノマシンが漂っていてね。生物の身体に入り込み、一瞬で改造出来るの。但し、以前の改造手術よりも成功率は低いけどね。」

 

「まさか!?」

 

「そう。あなたは差し詰め、新型改造人間第1号とも言える存在になったわけだわ。」

 

「……」不思議と、そんなに嫌では無かった。

 

「戦う為の力を手に入れた。これから、どうしたい?」

 

「俺は闇の陣営が、特にレストレンジ達が憎い。そして、魔法省も。英国魔法界なんて、無くなればいい。だから、俺が終わらせる!これは俺の……復讐だ!!!」

 

「良い眼をする様になったわね。今から、組織を作ろうじゃない。」

 

「どんな組織を?」

 

「理想郷から取って、アルカディア。私があなたを闇の陣営や、英国魔法界から守るわよ。殺すなんて勿体無い。癒者であり、最初の新型改造人間。ここはね、あなたの培って来たものの全てを有効に扱える研究施設でもあるわけ。」

 

「俺の全てを生かせる……」

 

「クラウチ家を……英国魔法界を否定なさい。あなたは、アルカディアのバーテミウス・クラウチ・ジュニアなのだから。」

 

手を差し伸べるリチャード。ジュニアは、その手を掴んだのだった。

 




『Harry Potter Ultimatemode』シリーズのバーティ・クラウチ・ジュニアは、死喰い人にはなっておりません。ホグワーツ卒業後は、癒者業界で超新星(スーパールーキー)と言われる程の優秀な研修生です。運悪く、レストレンジと遭遇した為に無実の罪でアズカバンの終身刑にされた悲劇の人なのです。


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EX12 メンフクロウはどんな決意を以って戦いに挑むか

 1993年7月7日。ブライトンのロイヤル・レインボー財団本部。ビルの一室には、ハリー・ポッターのプライベートルームが存在している。ここでは、1羽のメンフクロウが飼育されていた。

 

 ナイロック。2年前に、イーロップのフクロウ専門店でハリーが購入したフクロウである。知能は、フクロウにしては異常に高い。人間に換算して、18歳ほどの知能を持っている。

 

 彼は、フクロウの中でも一際自己主張が激しかった。酒、女、金、快楽に対する欲望があり過ぎたのだ。シロフクロウのヘドウィグが好きだったけど、手痛い一撃を与えられて以来、メスのフクロウには一切興味を持つ事は無くなった。代わりに、人間に興味を持った。

 

 そして1991年。自分と心を通わせる人間と出会った。それが今の自分の主人たるハリー・ポッターだ。彼は約束通り、快楽と酒と高級な餌を提供してくれた。だからこそ、ナイロックはハリーの役に立ちたかった。

 

『ダンナ。』

 

『どうしたんだ?金と女はともかく、それ以外はキチンと提供してるぜ?』

 

『そういう事じゃないんよ。俺っち、ダンナの役に立ちてえんだ。何か仕事くれよ。』

 

『う~ん。そうだなあ……あ。1つ頼もうかな?』

 

『俺っちが出来る範囲で頼むぜ。』

 

『俺さ。いつか、ホグワーツの地図を作りたいと思ってるんだ。フレッドとジョージが似たようなものを持ってるけど、完全じゃないんだよ。人間じゃ入れないような隠し通路もあるだろうしね。』

 

『ほほう。それで?』

 

『ネズミを支配下に治めて、ホグワーツの完全な地図を作る。』

 

『ダンナのやりたい事は分かったんよ。良いぜ。俺っちも協力する。食物連鎖の最上位の力で、ネズミをダンナの臣下にするから。1年以内に。』

 

『別に期間はも受けなくて良い。』

 

『こうでもしなきゃ、目標は達成出来ないんだ。やらせてくれ。』

 

 1991年から約1年間は、ホグワーツに住むネズミとの死闘であった。最初の2週間で、70%は制圧完了した。ナイロックにしてみれば、そいつらが弱過ぎなだけというのもあるが。そして今、徹底抗戦をしている最後の30%を攻略しているのだ。

 

『齧歯類舐めんじゃねえぞ!メンフクロウが!!!』

 

ネズミの一団がナイロックの襲い掛かる。

 

『うるせえ!自然界最強種の底力見せてやる!!翼で撃つ!!』

 

 翼で攻撃するナイロック。殺しはしていないが、ネズミの30%程を一気に戦闘不能に追い込んだのだ。

 

『コイツ。我々の数の差をものともせずに……』

 

 ネズミのリーダーが狼狽える。

 

『食いやしねえよ。俺の飼い主は、城の地図の完全版を作りたいんだ。その為に、お前らの力が要る。』

 

『何故、その人間はそんな思考を持ってる?』

 

『ダンナは、そこら辺変わった人間でさ。別に差別意識なんざ持ってねえよ。本当に憎んでいるのは、純血主義者の様な、現状や実力を弁えずに血だけで自分の優位性を誇示する連中だ。闇の陣営や死喰い人は特に。』

 

『敗者に選択権は無い。煮るなり焼くなり、好きにしろ。』

 

『分かった。今から、城内の調査をして貰うぜ。』

 

 僅か半年で、ホグワーツ内部に住んでいるネズミの制圧が完了した。ハリーは結果的に、ナイロックを通じてネズミ達を傘下に加えたのだった。後に、彼らの働きは冒険者の地図という形で成果を残した。

 

*

 

 時は進み、1992年。高級なフクロウナッツを堪能した。地図の製作作業が飛躍的に進んでいるからである。その報酬だ。そして、赤ワインも貰った。

 

『ダンナ。俺っち、タバコが吸いてえ。』

 

『お前、本当にフクロウか?』

 

『酒、女、金、快楽が欲しいんよ。』

 

『そんなもんかねえ?ほらよ。ピース・インフィニティだ。』

 

『そんなもんよ。俺っちはな。お、タバコ持ってんじゃん。ありがとよ、ダンナ。』

 

ナイロックは、ハリーからタバコを受け取り、嘴で咥えた。

 

『そもそも、人間ですら下手すりゃ病気になるんだ。程々にな。尤も、吸わないに越した事は無いんだけどな。』

 

 タバコを喫煙するナイロック。翼を器用に使い、その味を堪能したのだ。後に、フィルチもタバコの虜になったのは言うまでもない。

 

*

 

 今年のホグワーツは危険だ。故にナイロックは、常に外にいた。ハリーの指示に従っているものの、彼はナイロックを大事な存在と認識しているからだ。

 

『ダンナの力になれねえのは悔しいが……』

 

 禁じられた森の入り口にいるナイロック。

 

『この森も調査しようじゃねえか!』

 

 案の定、特攻をかました。これにより、禁じられた森でのナイロックの戦いが始まったのだ。従えたネズミと共に。

 

*

 

 1993年7月。ブライトンのロイヤル・レインボー財団本部。ハリーの部屋。ここで、平和な日々を謳歌しているナイロック。

 

『禁じられた森での戦いが遠い昔の記憶みたいだ。』

 

 結果は、ボロ負けだった。上には上がいる事を突きつけられた。もっと強くならないと。だから夜は、外に出て森などの野性が生きる場所で己を鍛えていた。

 

 そういった場所でどう生き抜くか、そしてどんな行動を取るべきか、いわゆる「生への執念」を習得する為にだ。人に飼われた事で、平穏と代償に薄れていった本能を取り戻す。それが、ナイロックなりに考えた修行方法だ。

 

『どんなに疲れていようが、最終的に生きていればそこで勝利は確定しているんだ。』

 

 ハリー曰く、ここ数年以内にヴォルデモートは復活し、闇の陣営は再び活動を始めるという。その為に、彼はホグワーツ生徒の中でも頂点の実力を持ちながらも、そこで終わりにしなかった。更なる力を身に付けるべく、時間を見つけて勉強や遊びをしながらも修業をしている。

 

『俺っちも、少しでもダンナの力にならないとな。』

 

 主人たるハリーの力となる為に、そして彼に恩を返す為に。だから考えた。文字通り、ホグワーツの動物界の中で頂点に君臨し、来るべき闇の陣営との戦いに備えて行こうと。その為には、全ての動物の力が要ると。

 

 だからナイロックは、この厳しい自然の世界に入り込み、今を耐え忍んでいるのだ。これが後々、ハリー達の助けになる大きなカギになる事を知らずに。

 



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EX13 ルーカス・フィールドの軌跡

今から、約100年前の話です。ゼロとフォルテ、フィールド兄弟の4代前の先祖が主人公となっております。


 1889年。その島は、何の前触れも無く空中に現れた。人々はそれを、夢幻島と呼んだ。

 

 その島には、1人の男が住んでいた。その名は、ヴァイル・ファウスト。闇のサイバーエルフと呼ばれるダークエルフを付き従えていた。

 

 ヴァイルは、全ての魔法界に破壊と混沌、殺戮と恐怖を齎した。人々は、ヴァイルを『狂神』と呼び、恐れた。

 

 だが、世界各地からヴァイルに抵抗する者が現れ始めた。その中でも最強と呼ばれた4人がいた。ルーカス、アグネーゼのフィールド夫妻、ロック・ブート、ハイタカ。人々は、彼らに最後の希望を託した。そして今、最後の決戦の火蓋が切って落とされたのだった。

 

「大丈夫か?皆。」

 

「俺はピンピンしてるぞ!」

 

「ルーカス。私は大丈夫だわ。」

 

「私も、問題ありません。」

 

「アグネーゼ。光を灯してくれ。」

 

「良いわよ。光よ(ルーモス)!」

 

 アグネーゼが、魔法を唱えた。辺りが明るくなる。ここは、夢幻島の神殿。ヴァイルが根城にしている場所だ。

 

「とうとう、ここまで来たのか。ヴァイルの所まで。」

 

「何か冷たいわね。心まで凍りそう。」アグネーゼは、ルーカスに寄り添う。

 

『クーックックックックック!クヒャーッハッハッハッハッハ!ルーカス!そして、そのおまけ共!ようやく、我が神殿に辿り着いたか!』

 

「その声……ヴァイル・ファウストか!?どこにいる!」ルーカスが吠える。

 

『来るが良い。我が居場所まで。最上階で待っているぞ。』

 

「皆!行くぞ!」

 

 ルーカス、アグネーゼ、ロック、ハイタカは神殿を突き進んだ。ヴァイルの下僕と思わしき敵もいたが、難無く退けた。

 

『さあ。渡るが良い。もう少しだ。』

 

 またヴァイルの声が聞こえた。

 

「……ルーカス。罠かも知れないわ。」

 

「来いと言ってるんだ。だったら、こっちから行ってやるまでさ。そうじゃないと、マーシャやレイチェル、ラルフに危機が及ぶ。俺は、魔法戦士である前にあの子達の父で、アグネーゼ。君の生涯のパートナーでもあるんだ。」

 

「で、でも……」

 

「ヴァイルの奴は、楽しんでるんだよ。ここを怯えながら渡って、俺達が来るのを。」

 

「だな。」ロックが口を開いた。そして、先に進む。

 

「あの悪魔の考えそうな事ですね。」ハイタカも静かに言った。

 

「ですが、今の私のコンディションは最高ですよ。奴の手に掛かって殺されてしまった神人族の、私の同胞の魂が、躍動しているのですから。」

 

 ハイタカも前に進む。

 

「アグネーゼ。約束だ。全員で生きて帰るんだ。俺達が、地上に行きる人達の最後の希望で切札になっているんだから。」

 

「ええ。」

 

「それに……」

 

 ルーカスは、剣を取り出す。黒と金を基調とした派手なデザインだが、どこか神々しさを感じられる両刃の剣を。

 

「このモルスブレードが光を失わない限り、必ず勝てる!」

 

「モルスブレード。一段と輝いているわね。」

 

「さあ。行こう。ヴァイルの所までもう少しだ。」

 

「ええ。必ず、生きて帰りましょう。」

 

 最後に、ルーカスとアグネーゼも来た。

 

『クーックックックックック!感じるぞ!自分が負ける筈が無いと言うその感情を!それを、今すぐにでもへし折ってやりたい位だな!!!特に……そこにいる女の感情は最高だ。これが、人間の恋愛感情と言うものか!我には持ってないものを持っている!』

 

 そして、4人はヴァイルのいる最上階に辿り着いた。その玉座に、ヴァイル・ファウストはいた。やや褐色の肌、何の色も混じっていない白い長髪、見事に鍛え上げられた筋肉質な肉体が、ヴァイルの強さを物語っている。その上からマントを羽織っていた。

 

「ほう。貴様が、ルーカスか。モルスブレードと共鳴した人間と言うのは。」

 

「ヴァイル。覚悟しろ。お前やダークエルフに殺されたり、人生を破滅させられた人々の無念、このモルスブレードと我がフィールド家に代々受け継がれる3本の杖に込めて、返させて貰おう!」

 

「ほう。お前のその力。成る程な。4絶神のものに限りなく近い。フッ、エリザベートもいい仕事をするものだ。どうして貴様如きに、シャルナクが大いに興味を持ち、そして気に掛けるのかが分かった様な気がする。」

 

「?何を言って……」

 

「気にするな。只の独り言だ。さあ、決着をつけるとしよう!」

 

 マントを脱ぎ捨て、戦闘態勢に入るヴァイル。ルーカス、アグネーゼ、ロック、ハイタカも臨戦態勢を取る。

 

「皆!来るぞ!気を付けろ!」

 

辺獄(リムバス)!」

 

 ヴァイルの虹色の眼が、妖しく光った。

 

「何だ?」

 

「気を付けて下さい!何かもやもやした黒いものが、私達に襲い掛かろうとして来ています!」

 

 ハイタカが叫んだ。その直後、ハイタカ以外の3人が吹っ飛ばされた。

 

「キャァッ!」

 

「アグネーゼ!」壁に衝突しそうになったアグネーゼを、ルーカスがしっかりと支えた。

 

「ならば、これはどうかな?」

 

 ヴァイルは、右手からキマイラを造り出した。

 

「どうなってんだ?こいつの能力。」ロックは、キマイラと交戦を始める。

 

完全粉砕(ボンバーダ・マキシマ)!」

 

 アグネーゼは、杖から粉砕呪文を繰り出す。それは、見事ヴァイルに直撃し、彼は粉砕された。

 

「やったかしら?」

 

 だが、ヴァイルのいた周辺からは火、水、風、土が存在していた。

 

『おかしい。アグネーゼの唱えた魔法が直撃した時は、あんなものは無かったのに。』

 

 ルーカスが舌打ちしながらそう思う。4つの物質が交じり合い、やがてそれはヴァイルの姿に戻った。

 

「コイツ、自然物化能力まで身に付けている!?」

 

「自然物化に動物変化、そしてウイルスモード。この3つの力は、ある一族に私が与えたもの。やがて、3つに別れたがね。」

 

「何だと!?」初めて聞く事柄に、狼狽えるルーカス。

 

「ルーカス!とにかく!今は、ヴァイルをぶっ潰す事だけを考えろ!奴の発言に関しては、後から考えても遅くはない!!!」

 

 キマイラを撃破したロックが、ルーカスに喝を入れた。

 

「あ、ああ……」

 

「ルーカス。ヴァイルを攻略する為には、モルスブレードの奥義を使った方が良さそうです。」

 

「分かっている、ハイタカ…………クロックディバイド!」

 

 ルーカス以外の全ての時間が止まった。

 

「ぶっつぶれろおおおおおおおお!!!」

 

 武装解除、失神、爆破、粉砕、その他諸々を短時間の間に繰り出すルーカス。30秒後、ルーカス以外の時も、再び動き始めた。

 

「グオオオオオオオッ!!!」

 

 一気に攻撃を受け、態勢を立てるのが難しくなったヴァイル。

 

「ダークエルフよ!奴らを道連れにしろ!」

 

 空中を漂っていた禍々しい雰囲気を放つサイバーエルフにそう告げるヴァイル。ダークエルフは、ルーカス、アグネーゼ、ロック、ハイタカの周りを動き始めた。

 

「何をする気なんだ?」

 

「私達を道連れにする気なのかもしれません。」

 

「皆。それなら、俺の魔力の波長に合わせてくれないか?打ち消せるかも知れない。」

 

「分かったわ、ルーカス。何もしないよりは、だいぶマシね。」

 

 アグネーゼ、ロック、ハイタカは、自らの魔力をルーカスの物を同調させる。しかし、ダークエルフの力を打ち消すには至らない。

 

「フハハハハハ!その程度の力では、ダークエルフを打ち破れんよ!」

 

 ヴァイルが嘲笑した。

 

「まだだ!パワーを上げてやる!」

 

「ルーカス!このままだと、アグネーゼに多大な負担が!!!」

 

 ハイタカが大声で言った。

 

「私は構わないわ!ルーカスお願い!やって頂戴!」

 

「分かった!」腹を括ったルーカス。魔力を、さらに増幅させた。

 

「小癪な!」

 

「行くぞヴァイル!ダークエルフ!!」

 

 4人の限界までに引き上げられた魔力は、ダークエルフの力を打ち消し、ヴァイルを消滅させた。その衝撃に耐えきれず、ルーカスを除く3人は吹っ飛ばされてしまった。

 

「……やった。終わったんだ!」

 

 急いで、仲間の所に駆け寄るルーカス。

 

「ロック!」

 

「俺がこの程度で死ぬかよ!」ロックは、何とか元気そうだった。

 

「ハイタカ!」

 

「私も大丈夫です。あなたの持つ3本の杖も回収しました。さあ、アグネーゼの所へ。」

 

「ああ。取り敢えず、預かっといてくれ。」

 

 3人は、アグネーゼの所まで来た。アグネーゼは、腹部が貫かれて満身創痍状態だ。

 

「アグネーゼ!」

 

「……ついにやったわね、ルーカス。こ、これで地上も平和になる。」

 

 息絶え絶えになりながらも、愛する夫にそう語り掛けるアグネーゼ。

 

「もう終わったんだ!帰ろう!」

 

「……ごめんなさいね。もう、一緒に帰れないわ。」

 

「何を言ってるんだ!諦めるな!」

 

「私の中の魔力が破裂して、お腹を貫き通したのよ。もう、喋るのがやっと……」

 

「あ、アグネーゼ!」

 

「……ルーカス。あなたと一緒に……もう1度地上に立ちたかった……それで、マーシャにレイチェル、それに生まれたばかりのラルフを抱きしめたかった……」

 

 涙を流しながら、それが心残りだという気持ちを露わにしたアグネーゼ。その時だった。夢幻島の神殿が崩壊を始めた。ルーカスとアグネーゼ、ロックとハイタカとで分断してしまった。

 

「おい!神殿が崩れ始めたぞ!ハイタカ!スイルグを使ってくれ!」

 

「無茶言わないで下さい!2人が遠過ぎます!!今使ったら、置いてけぼりにしてしまいます!!!」

 

「く、クソ!何とかならねえのか!」

 

「ロック、ハイタカ。」

 

 ルーカスが、静かな口調で2人に話しかける。

 

「先に戻ってくれ。ヴァイルとダークエルフはいなくなった。地上の人達に伝えて欲しい。出来るのは、お前達しかいない!」

 

「ルーカス、あなたはどうするつもりですか?」

 

「俺は、アグネーゼを置いてはいけない。分かってくれ。」

 

「……」悔しそうな表情になるハイタカ。

 

「行くぞ。ハイタカ。」

 

「ロック!?」

 

「ルーカスは行けっつったんだ!4人で帰れないなら、俺達2人のとる行動は1つだ!」

 

「良いでしょう。ルーカス、あなたもご無事でいて下さい。スイルグ!」

 

 ロックとハイタカは、神人族秘伝の空間転移魔法を使い、地上へ一瞬で戻って行った。崩れゆく神殿には、既に事切れたアグネーゼに、そんな彼女に優しく寄り添うルーカスの姿があった。

 

「……アグネーゼ。これからは、平和な時代がやってくるんだ。俺達も、出来るならそんな時代に生まれて来たかったよなぁ。アグネーゼ。俺は、君をずっと愛している。」

 

 こうして、ヴァイルとルーカスの戦いは幕を閉じた。夢幻島は、海へ落下した。ヴァイル・ファウストは死に、その姿を2度と人々の前に現す事は無かった。

 

 ダークエルフは、ロックとハイタカにより確保され、2つに分離された状態で、別々に封印された。もう2度と、ダークエルフに力が悪用されない事を願って。

 

 後に、この世界全てを巻き込んだ戦いは『夢幻島大戦』と呼ばれる様になったのだった。

 




展開があるゲームに似てはいますが、これはフィールド家はそのゲームのシリーズの主人公一族が元ネタとなっているからなのです。


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EX14 古代遺跡の戦い

『Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章』アズカバンの囚人編。第2話と、今から30分後に投稿する第3話のアナザーストーリーです。時系列は、前述した2話と全く一緒となります。


 1993年8月1日。イタリアのローマ。フォルテとゼロのフィールド兄弟は、1週間前から4週間の旅行に来ている。

 

「ゼロ。何が食べたい?遠慮せずに言ってみなよ。」

 

「やだなあ。兄さんが全部持ちになるじゃん。それ位は好きなものを食べれば良いのにさ。」

 

「気にしないでくれよ。その気になれば、私はいつでも自由に羽を伸ばせるんだ。それに、ゼロの大好きなパスタの、その本場に来たのだから私も食べてみたい。」

 

 そんなわけで、2人は結果論だがパスタ料理店に行き、そこで昼を満喫した。

 

「美味かった。来て良かったよ。」

 

「まあ、予め計画を立てたのが功を奏したんだよね。」

 

 腹違いの兄弟ではあるが、完全に血が繋がっているのではと言われるほど両者は父アルバートに良く似ており、仲も良好である。

 

「さあ。次は、ローマ帝国のコロッセオでも見に行こうか。」

 

「昔の剣闘士がパーティーをやっていたアレ?」

 

「……強ち間違っちゃいないよ。でも、ゼロの解釈はちょっと違うけどね。」

 

 苦笑いするフォルテ。それでも、次の目的地へ向かおうとする2人。だが、突然フォルテが持っていた旅行用スーツケースが1人の子供にスられてしまった。

 

「アンタら、旅行客でしょ!金持ちなんだから、これ位頂いても良いわよね!」

 

「んなわけあるか!この盗人が!!」

 

 ゼロが、スリ少女に向かって飛び蹴りを食らわせようとする。

 

「ちょっとアンタ!アタイに怪我させる気!?」

 

「知るか。テメエがどうなろうがな。そのまま、勢い余って死んでくれたらどんなにスカッとするか。」

 

 ゼロの言葉を聞き、少女は苦々し気な表情になった。

 

「アンタにアタイの何が分かる!」

 

「そこまでだな。」フォルテが少女を地面に叩き付けた。足で逃げない様にする。

 

「放せ!放しやがれ!」

 

「その前に、我々の荷物返して貰お……」

 

 フォルテが言いかけたその時だった。彼は、少女の左腕を見た。包帯が生々しく巻かれている。それを外すと、長時間経っているのにも関わらず、未だ完治の兆候すら見せない怪我が露わになったのだ。

 

『酷い怪我だな。化膿している。』

 

 ゼロに目の合図を送るフォルテ。ゼロは頷き、未開封のミネラルウォーターのペットボトルの封を開け、少女の左腕にかけた。絶叫を上げているが、ゼロはそんな事お構いなしに黙々と治療を行い、最後は清潔なガーゼで怪我の箇所を巻いた。

 

「お前、何故こんなになるまで放っておいた?」ゼロが厳しく追及する。

 

「うるさい!」

 

「お前の親は、病院にも連れて行ってくれなかったのか?」

 

「黙れ!アンタ達には関係無い!!」

 

「ならば、我々が病院に連れて行こう。名前は?」

 

「スージー。」

 

 ゼロとフォルテは、スージーを病院に連れて行き、彼女の怪我の手当てをした。その後、スージーの家に入った。

 

「アタイにも、親はいたんだ。」

 

「だったら、何故いないんだ?」

 

「それはね、ゼロ。半年前から始まっている魔王の袖引きが関係しているから。」

 

「魔王の袖引き?」

 

「そいつはいきなりやって来た。北へ50キロ先の、竜神の遺跡を根城にしている。手当たり次第に、人をかっさらって行く。父さんも母さんも、そいつにやめる様に言いに行くと言って未だに戻ってこない。」

 

「マジかよ。」ゼロが驚愕する。

 

「逆らった奴は皆殺し。あいつは人の皮を被った悪魔だ。」

 

「そいつの特徴は?」フォルテが問いただす。

 

「巨大な剣を持った、全部の歯が鋭い、病人みたいな顔色の男。」

 

 スージーの証言を聞き、フォルテの表情が険しくなった。

 

「兄さん?」

 

「心当たりがあってな。」

 

「どうする?」

 

「行こうか。危険な事に首を突っ込む()()では無いんだけどね。ゼロはどうする?」

 

「俺はまだ17になってないけど、2人で行った方が成功率と生存率も上がる。こんな状況の場合、特にね。」

 

「分かった。付いておいで。」

 

「危険過ぎる……どうしてそこまで!」

 

「人を救うのに、理由がいるのか?」

 

スージーの問いに、ゼロは涼しく返した。そしてゼロとフォルテは、竜神の遺跡へと向かって行った。

 

「確か、ここは4階構造になっていた筈だ。」

 

「ああ。地図を手に入れておいて良かったよ。」

 

 早速遺跡に入る2人。

 

*

 

 竜神の遺跡。攫ってきた20代前半の女性を、まるで食事でも行うかのように首筋から鋭利な歯で吸血をし、女性を干からびさせる青白い肌の男。

 

「やはり、血の味は極上ですねえ。特に、死の間際の恐怖の感情が入り混じった人間のものは格別です!!」

 

 その男の元に、青い人型のロボットの様なものがやって来た。

 

「どうしましたか?パンテオン。」

 

「…………」

 

「成る程。侵入者ですか。その内1人は、10代前半。分かりました。始末してください。」

 

*

 

 遺跡に入ると、扉が閉まった。

 

「後戻りは出来ないってわけか。」ゼロが後ろを振り向きながら呟く。

 

「ゼロ。どうやら、我々は歓迎されている様だ。」

 

 フォルテが指差した方向には、パンテオンと呼ばれる機械生命体達がいたのだ。ざっと数えて100人はいるだろう。

 

「気を引き締めろよ。」

 

「ああ。攻撃せよ(フリペンド)!!」

 

 ゼロが早速、自身の杖に宿った専用呪文でパンテオンの一体を攻撃する。だが、余り効いていない。

 

「人間ではなさそうだな。ロボットか?」

 

「さあな。あいつらも攻撃を仕掛けてくる。」

 

 5体ほどが、腕をバスターに変化させてエネルギー弾を発射して来た。

 

「ゼロ!」

 

「この程度の攻撃。呪文を使うまでも無い。回避だ。」

 

 2人は、パンテオンの攻撃を身体能力だけでやり過ごした。

 

「ハリーやグラントには及ばないが、俺もこの位は出来る。」

 

 安心しきったゼロの背後から、電磁警棒を持ったパンテオンが襲い掛かって来た。すかさずかわしたゼロだが、パンテオンに偶然触れた瞬間に、突然力が抜ける感覚に襲われた。

 

「まさか……こいつらのボディ……」

 

フォルテに支えられ、体勢を立て直すゼロ。

 

「魔封石か。と、なれば……ロイヤル・レインボー財団に匹敵する組織が作ったとみて間違いは無いだろうね。」

 

「心当たりはあるの?」

 

「断言は出来ない。心当たりはあるけど。コイツは厄介だな。こちらの攻撃は半減される。それなのに、あちらに触れると力が抜ける感覚に襲われる。」

 

「倒せないんじゃ、無理じゃないのか?兄さん。」

 

「いいや。何も、倒すだけが勝利条件じゃない。こちらの攻撃が聞きにくいなら、動けなくすれば良いだけの事さ。磁石となれ(カノータ・マグネルド)!!」

 

 フォルテの杖から、光球が出現した。余りにも遅い。パンテオンの1体が近付いて来た。その瞬間、光球が消え去る代わりにパンテオンの身体が光った。

 

 それだけではない。全てのパンテオンが、光るパンテオンに引き寄せられたのだ。

 

「その呪文。さっきの光球で、相手を拘束するのか?」

 

「ちょっと違うな。光球で、触れた者を強力な磁石にしてしまう魔法さ。さて、戦いは始まったばかりだ。次行こう。」

 

 ゼロとフォルテは、さっさと次の階へ向かって行った。

 

*

 

「今回の侵入者さんは、大分歯応えがあるようですね。まあ、次の部屋で脱落でしょうが。」

 

*

 

 2階。1階とは打って変わって、小部屋である。

 

「剣とかの武器が沢山並んでるな。」フォルテは、状況を冷静に分析する。

 

「まさか……」最悪の事態を想定するゼロ。少し、顔色が悪くなる。

 

 ゼロの予想は当たっていた。イヤ、当たってしまったのだ。沢山の武器が、2人目掛けて襲い掛かって来たのだ。

 

「「護れ(プロテゴ)!!」」

 

 同時に盾の呪文を使う。襲い掛かる武器をやり過ごした。

 

*

 

「2階も突破されましたか。本当に、私を楽しませてくれますね。おや、3階も突破したようですね。」

 

 男は、フィールド兄弟の奮闘を見ていた。ゼロが、風の自然物化能力を使って一気に次の部屋に向かって行ったのだ。本来ならば、このフロアには落とし穴があったのだが。

 

「フォルテ・フィールド。まさか、あなたが来るとはね。それに、小さい方の彼。恐らくは、フォルテ・フィールドの弟のようですね。アレは、然るべき戦闘訓練さえ積めば兄以上になるでしょうねえ。」

 

 削りがいがあるじゃないですか、そう男はほくそ笑んだ。

 

*

 

「どこまで続くんだ?」

 

「……そんなに広い所では無いから、もう少しで着く筈だけど。」

 

 音がした。天井が、落ちて来たのだ。

 

「下手な宝探しアドベンチャーじゃないんだぜ!」

 

「私達を押し潰そうとしてくる天井を、破壊しないと!」

 

「兄さんは盾の呪文を張ってくれ!俺が壊してやる!」

 

「頼む!」

 

エネルギーよ(ヴェスティブルーム)!」

 

 青白い光線を撃つゼロ。天井は、破壊された。

 

万全の守り(プロテゴ・トタラム)!!」

 

 フォルテは上位の盾の呪文を展開し、ゼロも含めて破片や瓦礫から身を守る。

 

*

 

「来るようですねえ。」

 

 最後の部屋を突破した。間も無く、自分の所に来る。久々に、面白く戦えると内心歓喜する男であった。

 

*

 

「広いな。」

 

「最上階に着いた?」

 

 大分奥まで来た。攫われた人たちは無事なのかどうか。そう思いながら進むフォルテ。最悪、全員殺されているかも知れない。そういう事態も、想定しておかねば。

 

『本当ならば、あの杖を使う事は生死を冒涜する事になるわけだが……』

 

 胸ポケットにしまっている杖を触れるフォルテ。普段使っていないが、先祖代々受け継がれた杖だ。行方不明の1本、ゼロが持っている戦闘に特化したものと含めて3つ存在する。3つ所有すれば、全ての世界の覇者になれるという伝説がある。真実かは分からないが。

 

『人の命が掛かっているんだ。つべこべ言ってられない。』

 

 まずは、次に現れる敵との戦いに備えるべきだ。フォルテは、そう決意した。

 

「誰かいる!」

 

 ゼロが指差す。奥には、病人の様に青白い肌、全てが常人よりも鋭利な歯を持つ男だ。しかも、背中に2メートルはあろうという大剣を背負っている。

 

「お前は!」いつになく感情的になるフォルテ。

 

「久しぶりですねえ。フォルテさん。あなたが闇払いの時以来でしたか。尤も今は、あんな時代の敗北者の狸が校長を務めている学校の教員だそうですが。」

 

「ティファレト……貴様だったのか…………!!!」

 

「知ってるの?」

 

「闇払い時代に戦った奴の中で、最も手強かったのさ。」

 

「潰し甲斐があるじゃないですかあ。」

 

 大剣を持つティファレト。

 

「ゼロ。気を付けろ……奴は、私と同じ魔力が()()のレベルに到達している魔法使いだ。」

 

「1人でマグルの国家戦力に匹敵するアレをか!確か、小国なら容易く攻め滅ぼせるとも聞いた事はあるけど……兄さん以外にもいたのか。」

 

 ティファレトは、無言で魔法を発動した。それも、1つではない。指先から1つずつ、合計10の魔法が発射されたのだ。

 

「規格外にも程があるだろ!」

 

 ゼロが愚痴りながら攻撃化を回避する。自分の事を完全に棚に上げている。

 

「甘いですよ。」ゼロの背後に、ティファレトがいた。

 

「なっ!」

 

 気付いた時には遅かった。大剣で斬られたのだ。

 

「何だこれ?力が……力が吸い取られたようなこの感覚は……」

 

「フフフフフ。種明かしをしておきましょう。私の愛剣『アブソーバー』は、切るのではなく魔力を削り食らうのですよ。」

 

 コイツ、並の魔法使いを完全に殺しかかるようなもん持ってるじゃねえかとゼロは内心舌打ちをする。

 

「さて、あなたを料理……」

 

 その直後、ティファレトの腹部に光の矢が撃ち込まれた。弓を持ったフォルテが、ティファレトに対して攻撃したのだ。

 

「嬉しいですねえ。自然物化能力、覚醒に加えて射手座の宇宙モードを見せてくれるとは。あの時と同じ、ギルガメッシュを以って戦うとは。」

 

「虫の居所が悪いんだよ。」

 

 ギロリと睨み付けるフォルテ。ティファレトが黒紫のオーラを纏っているように、フォルテもまた白金のオーラを纏っていた。

 

 お互いがお互いを攻撃する。武装解除、失神、石化、妨害、爆発、死。それは、従来の魔法使いのものとは桁違いだ。魔法使い同士の戦いは、所詮は唯の決闘や戦闘。対人戦のみだ。故に、兵器及び海と空からの攻撃は無いに等しい。

 

 だが、2人の戦いはそんなものは必要ないのではと思える程の規模だった。少なくとも、ゼロはそう思っている。そして、これはもはや()()じゃない。()()だ。

 

ゼロは、ティファレトと戦闘を行っている自らの兄を見る。自然物化能力、宇宙モード、覚醒。3つの人知を超えた力を同時に使っている。1つならともかく、2つ以上同時に使うのだけでも戦闘後に半日寝込むほどの疲労感に襲われる。3つ同時は……3日間昏睡状態になるのだ。

 

 それでも、躊躇いも無く使った。その位本気にならないと、今の敵は倒せないのか。

 

「俺も兄さんの援護に……」

 

 動かない。敵の化け物染みた強さに、足が震えて動けないのだ。

 

「う……ぐぅ……動けぇ!!!」

 

 バタフライナイフを、自身の左腕に突き刺すゼロ。

 

「真空刃!!」

 

 風の能力を行使し、無数の風の刃をティファレト目掛けて発射する。フォルテはゼロの意図を読んだのか、自分の身体を水化させた。幾つかの真空刃は、ティファレトに当たった。

 

「弱過ぎて、あなたの存在を忘れてましたよ。」

 

「だったら覚えておけ!!俺の名は、ゼロ・ルーカス・フィールドだ!!!エネルギーよ(ヴェスティブルーム)!!!!!」

 

 右手に持った杖から、青白い光線を発射する。最大出力は、ハンガリー・ホーンテールを一撃で粉砕出来る威力を誇る。

 

「ささっと逃げて……」

 

「無駄だぜ。さっきの真空刃、経絡系を細胞レベルで破壊するんだ。幾らお前が強かろうが、流石にこんな攻撃を食らえば動けまい。」

 

「こんな事が!!」

 

 光線は、ティファレトに直撃した。

 

「どうだ。ティファレト。流石のお前でも……」

 

「いや。恐らくは死んでいないな。」

 

「え?でも……」

 

「言いたい事は分かる。確かに、普通の人間なら死んでいるよ。例え、ルシウスの様な上級死喰い人も例外じゃない。」

 

 その言い方だと、ティファレトは普通の人間じゃないような言い方だ。

 

「いやあ。聞きましたよ。人間をやめていなければ、とっくのとうに死んでいたでしょうねえ。」

 

 ティファレトは立ち上がっていた。ゼロの攻撃の痕跡も全く見当たらない。

 

「幾らお前が真祖の吸血鬼と化したからと言って……それだけの短時間で完治は有り得ない。何かプラスアルファを仕込んだな?」

 

「ご名答です。フォルテ・フィールド。以前、ある方から記憶をいただきましてねえ。私が短時間で完治出来たのは、その恩恵を受けたからなのですよ。」

 

「?」ゼロが首を傾げる。フォルテも然りだ。

 

「とはいえ、興が削がれました。今回は、あなた方を甘く見過ぎた教訓としてこの場を去りましょう。それでは。」

 

「待て!人質の場所はどこだ!」

 

「彼らを救おうとして、何になるというのです?全員、無事では済まされないというのに。」

 

 そう言ってティファレトは消えた。

 

「ゼロ。右側に扉が!」

 

「行ってみよう!」

 

 2人は、早速人質がいるであろう場所に行く。扉をこじ開ける。

 

「これは……」

 

「兄さん。気分が悪過ぎるぜ。こんなの、スージーには見せられねえよ。」

 

 辺り一面、死体の山だった。

 

「くっそぉ!」

 

 ゼロは、地面を殴った。彼の拳は、出血をしていたが本人は怒りのあまり痛覚が狂っているのだ。

 

「こんな真似を良くもやりやがって!人の命を何だと思ってる!!?今度会ったらタダじゃおかねえ……あの面をボコボコにぶちのめしてやる!!!」

 

 その光景を見て、何かを決心するフォルテ。内ポケットから杖を取り出す。

 

「これは、ヤナギに不死鳥の尾羽根で作られたフィールド家に代々伝わる杖だ。癒しの杖とも呼ばれている。この杖に懸けるしかない。」

 

「何が出来るの?」

 

「死んだ者を、1度限りだが完全蘇生出来るという話だ。真偽は不明だがね。」

 

「ちょっと待ってくれよ兄さん。死者を生き返らせる魔法は存在しないよ!」

 

「普通はな。何故、こんな言い伝えがあるのかは分からない。昔話ってのは、時に事実に基づいて作られている事がザラだからな。ゼロ。壁に文字を書いといてくれないか?」

 

「道案内をかい?」

 

「ああ。頼むよ。」

 

 フォルテは、慈しみの心を以って杖を振るう。すると、杖の先端から青白い何かが出現した。それは、1つずつ1つの死体に宿っていく。ミイラだった者は、生気が戻って行き、骨だけの者は肉が戻った。

 

「あまり使わない方が良いな。さあて、ここから脱出しよう。」

 

 フォルテは、ゼロの所へ向かって行った。

 

 文字を書き終え、フォルテとの合流場所へ向かうゼロ。だが、秘密の扉から小部屋を発見し、興味本位でそこに入り込んだのだ。

 

「これは……」

 

 石板だった。しかも、只の石板ではない。見た事も無い生物が彫られていた。直立した大きなトカゲの様な生き物が。

 

「貴重な研究資料にはなるだろうな。持ち帰りたいが、写真撮るだけにしておこう。」

 

 写真を撮ってから、フォルテと合流するゼロ。2人は、竜神の遺跡から脱出した。

 

*

 

 その後、竜神の遺跡で起こった誘拐事件は突如として終わりを告げた。誘拐されたものが全員、生きて帰って来たのだ。無論、スージーの両親も。

 

 警察は事情聴取をしたが、誘拐された全員はその間に関する記憶は全くもっていないという。多くの謎を残しながら、誘拐事件は収束したのだ。数年後には、それは人々の記憶から風化していくだろう。

 



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