IS 朱夜の残光 (六馬 楽音)
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転生~前日譚
プロローグ


初めまして。六麻 楽音と申します。この度、ISで二次創作をしようと思い、本作を始めさせていただきました。

本作の読みはややこしいですが「あけよのざんこう」です。

頑張って書いていきたいと思うので宜しくお願いします


 

 

 

 

 

目覚めると、そこは茶の間だった。四方の壁が本棚で囲まれており、床は畳。その空間の中心には、炬燵(こたつ)が存在感を放っている。炬燵の上にはみかんの山があった。

 

 

「……は?」

 

 

あまりに突然のことで放心している『彼』だったが、後ろから声をかけられる。『彼』が振り向くと、

 

 

「待たせたな」

 

 

背後から現れたのは、老人だった。『彼』が二度目の放心状態に入っているのを歯牙にもかけず、炬燵にすぐさま入る。すると老人が、炬燵をしきりに指さしている。その意図をくみ取り、『彼』も炬燵に入った。

 

 

「あのー、すいません。此処って一体何処なんでしょうか?」

「ここは、天国の外側。アウターヘイブンだ」

「またまた~、ステルスミッションするゲームじゃないんですから。……嘘ですよね?」

「……はっきり言おう。アウターヘイブンは嘘だが、天国の外側というのは本当じゃよ。正確には、天国と地獄の境目の、儂のプライベートルームだがね」

 

 

それを聞いた『彼』は、この状況に酷く納得した。なぜなら、『彼』はこの茶の間に居る前のことも、自分の名前すらも思い出せなかったからである。

 

 

「っていうことは、貴方が神様ですか?」

「応とも。儂、神様じゃよ?ほれほれもっと崇めろ崇めろ」

「何で俺はここに居るんです?」

「スルーされた……神様悲しい……。そうじゃな、これを見ればわかるじゃろう」

 

 神様が指をパチンと鳴らすと、炬燵の卓が左右に展開する。その中からTVが、みかんの山を割って現れた。

 

「とりあえず、これを見るといい」

 

 神様に言われた通り、『彼』はTVを見る。そこには、目が普通じゃない男が、女性に乱暴しようとしている映像が映し出されていた。その直後、暴漢と女性の間に割って少年が現れた。

 

 

「この少年が君じゃよ」

「成る程、この後俺はこの暴漢に殺されてしまったわけですか……」

「じゃが、君のおかげで女性は助かっておる。君の命は無駄ではなかったぞ。いやぁ、今日日見たことのない真っ直ぐな男じゃな。儂はひどく感銘した!」

「あはは、ありがとうございます」

 

 

 神様に褒められ、『彼』は照れを隠すように頬を掻く。

 

 

「でも、そしたら何で俺は神様と会ってるんです?普通、天国か地獄に行くんじゃないんですか?」

 

 

 『彼』の言葉に、神様も頷く。

 

 

「確かに普通はな。じゃがな、儂はそれではもったいないと思うのじゃよ。なので、君を転生させることにした」

「転生って、よくWEB小説にあるあの転生ですか?」

「そうじゃそうじゃ。呑み込みが早くて助かる。じゃがな、転生先はどこだか分からないうえにどういうタイプの転生なのかも不明、原作のあるものでも知っている『原作知識』は記憶から消されてしまう……。じゃから、本人の了承を聞こうと思って君をここに呼んだんじゃよ。」

「そうでしたか、わざわざありがとうございます。もちろん転生させて頂きます!」

「なら、早速転生先の選定をするかの」

 

 

 神様がそう言うと、炬燵の周囲にあった本棚とその中身が次々とシャッフルされている。数十秒後、元に戻った本棚の1つから、1冊の本が神様の元へとやってきた。

 

 

「ほぉ、IS(インフィニット・ストラトス)か。それじゃあ、励めよ若人(わこうど)

 

 

 神様がそう言った瞬間に、『彼』の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「検体番号E-5 出ろ」

 

 

 鉄格子が開き、研究者然とした格好の男が現れる。男は、その部屋にいる9,10歳くらいの少年の集団から目的の少年を見つけると、男の後ろにいる2人の黒スーツ男につまみ出すよう指示をした。黒スーツの男たちは指示通り、少年を強引に部屋から出す。

 

 

「やあ、調子はどうだい?」

 

 

 男がそう問いかけると、今まで顔を俯かせていた少年は顔を上げる。漆のような黒髪、顔立ちも整っているが、その両瞳――右が黒、左が赤(・・・)のオッドアイズ――は殺意に染まっている。

 

 

「おっと、怖い怖い。だが、その左目(・・・・)の貴重なサンプルだからね。大人しくしておいてくれよ?さあ、来い」

 

 

 こうして、少年は連行された。

 

 

 

 

 

 

 少年が連れていかれた先には、男と同じ研究者がある兵器(・・・・)に群がっていた。周りにはたくさんの機材、出入り口には黒スーツの男が銃器を携えている。

 

 

「コアは正常に安定している。いつでも良いぞ。……全く、何をもたついてるんだ!!」

「同感だ。早く実験を進めて、これを真に我らの力にしなければならんと言うのに」

「ガキを早くしろ。さあ、データデータデータデータデータぁ!」

「すまない、遅くなった。さあ、サンプルをここに」

 

 

 黒スーツ2人は拘束していた少年を突き飛ばした。

 突き飛ばされた少年は転びかけたが、すぐに体勢を立て直した。少年は突き飛ばされたことに内心舌打ちしながら、研究者たちのもとへと歩く。歩きながら少年は、これから自分が搭乗させられる(・・・・・)兵器について思考を巡らす。

 

 

 

 IS。正式名称 インフィニット・ストラトス。無重力下、つまり宇宙での活動を目的として4年前に作られた多目的(マルチ)型スーツ。だが、制作者の意図に反し進まぬ宇宙開発によって現在は飛行パワードスーツ、つまるところただの兵器だったが、そのスペックの高さから各国の思惑により兵器利用は禁じられ、ただの競技道具となった――――と少年は研究者に言われていた。

だが、国家ではなく、非合法の組織からすればISのスペックの高さは禁断の果実だった。曰く、通常兵器が一切効果がない。これは、今までの戦闘行為がただの児戯に等しい。

 

 

 しかし、このISには致命的とも呼ばれる欠陥が存在する。男は搭乗不可能なのである。

 ならば、何故彼らはこの少年をISに搭乗させようとしているのか?

 

 

「検体番号 E-5。年齢 10。Odin's Eye(オーディンの眼)適合率65%。サンプルの健康状態 正常。それではこれより、12回目の実験を開始する」

 

 

 Odin's Eye(オーディンの眼)。少年には原理は分からないが、少年の左目に埋め込まれた赤の義眼は、ISのコアを侵食(・・)し、ISを男でも搭乗できるようにするらしい。ただし、少年の前にこの実験を行ったものは、ISに触れただけで廃人となっている。

 

 

「さあ、そのIS『打鉄(うちがね)』に触れろ!」

 

 

 男の命令に従い、少年はISに触れる為一歩踏み出す。少年とてこの自殺行為をしたくはないが、少年たちサンプルの首筋には小型爆弾が埋め込まれている為、逆らえば即爆発させられる。少年は、仲間の2人が吹き飛んだ姿を思い出しながら、ISの前に立った。

 ISは、まるで主人を待つ忠義に厚い騎士のように鎮座している。

 

 

「ぐずぐずするな!!!早くISに触れろ!!!」

 

 

 苛立つ研究者たちの機嫌をこれ以上損ねまいと、少年はISに触れた。

 

 

 直後、おびただしい情報の数々―――――――ISの基本動作、操縦方法、性能、装備、可能稼働時間、センサー精度 etc…―――――――が直接意識に流れ込む。

 少年は、あまりの情報の多さに気分が悪くなったが、いちいち黒スーツに殴られるのは億劫なので耐えた。

 

 

「やった、成功だ!成功したぞ!」

「早速武装を展開しろ!」

「ヒャッハー!!データだぁ!」

 

 

 だが、研究者たちは気づいていなかった。少年の様子がおかしいことに。

すると、少年の右腕から高周波の音と共に光の粒子が放出される。それはすぐに形を成し、IS『打鉄』の基本武装である長大な実体刀になって少年の手の中に収まっていた。

 

 

「順調順調。さあ、次は性能試験だ。早くしろ」

 

 

 しかし、男の言葉に少年は動かない。

 

 

「何をしている!早くしろ!」

「……性能試験か。確かにこいつの試験には丁度いい畜生(まと)が沢山居るな」

「何を言って……」

 

 瞬間、研究者の内の1人の首から上が斬り飛ばされる。頭を失くした研究者の首からは鮮血が迸り、まるで赤い噴水のようだ。

 男の内の1人が小型爆弾のスイッチを押そうとする。少年は切り払った刀を、返す一刀でその男の両腕を斬り落とした。

 

 

「あぁぁぁぁぁっぁっぁっぁぁっぁっぁぁぁ!!!!腕がぁ!」

「こちら研究室!検体番号 E-5が実験に成功だがISで反抗してきた早く増援を早く早く早くぅ!」

「おいおい、もっと楽しましてくれよ?まさか、狗に手を噛まれるとは思わなかったのか?」

 

 

 宙を浮きながら、鮮血に染まった打鉄が研究者に迫る。その間に、黒スーツたちが割って入り、銃器で応戦した。だが、それは無駄でしかなかった。

 

 

「はぁ?お前ら知らないのか?そんな豆鉄砲じゃぁ、ISに掠り傷一つつけられない……ってさぁ!」

 

 

 少年は、刀を振るう。剣術などに一切の心得がない少年だが、ただ乱雑に振るっているだけなのに紙のように斬り裂かれていく男たちが滑稽だった。

 

 

「ははっはっははっははははははは!IS(こいつ)は良いな、最高の気分だ!乗れるようにしてくれてくれてありがとう、とでも言っておうか?もうアンタ1人みたいだな」

「た……頼む。た、助けて……」

 

 

 男は腰を抜かし、後ずさっていく。あまりの必死さに少年は嘲笑(わら)いをこらえつつ、ゆっくりと男の元へと。

 

 

「……誰が助けるか。今まで何人も、モノとして殺してきたアンタを生かすなんて出来るのは、聖人君子さまだけだよ」

「わ、悪かった……。す、すまないと思っている!だがこれは命令だったんだ、仕方がないだろう!?」

「命令の割には楽しそうだったじゃないか」

「わ、私には妻と娘が居るんだ……。頼む、許してくれぇ……っ」

 

 

 後ずさっていた男だったが、ついに壁に追い詰められてしまう。

 少年は刀を振り上げ、笑う。

 

 

「これで、終わりだ」

「……終わるのは、お前だクソガキぃぃぃぃぃ!」

 

 

少年が刀を振り下ろす前に、男は隠し持っていた小型爆弾のスイッチを入れた。

パァン、と乾いた音が部屋に響く。

 

そして

 

 

「ば……馬っ……鹿……n……」

 

 

男の胸に刀が突き刺され、男は狼狽した表情のまま絶命した。

少年の首からは大量の血が迸る。同時に突然ISも解除され、少年は血濡れのまま、床に叩きつけられる。

 

 

「……っ……」

 

 

 少年は、「やってやった」と言おうとしたが、口からは空気がか細く流れる音しかしない。

 

(ここで終わりか……。まあ、最期は悪くなかったから良いか……)

 

 誰かがこちらへ向かってくる足音を聞きながら、少年は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

とある機動戦艦の整備班班長「哀れ暴漢に殺された主人公の転生先は、これまた非情な実験体!果たして、この物語の主人公はどうなってしまうのか!そして、この物語の方向性もどうなってしまうのか!次回、主人公に近づいた足音の主が明らかに! 次回、IS 朱夜の残光『「暗部の末席」でいこう!』を、皆で読もう!」


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『暗部の末席』で行こう!

 遅くなって申し訳ありません。


 

 

 

 

 埼玉県 秩父市。この市に存在する山々の一つ、武甲山。その奥深く、人里離れた場所にその家はあった。

 『北良家』。政府の密命により、非合法な組織の殲滅を任される暗部である。

 

 その暗部の邸宅の、離れにある道場に2人の男の姿があった。1人は壮年の男、もう1人は黒髪で黒と赤(・・・)のオッドアイを持つ少年だった。2人とも黒胴着に紺袴という出で立ちである。

 

 

「……ふぅ、よもや4年でここまで上達するとは。流石だな、辰人(たつひと)

「素直に受け止めておきますよ、義父(おやじ)殿」

 

 

 男―――北良家七代目当主 北良 劉玄(ほくら りゅうげん)―――の言葉に、辰人は微笑を浮かべる。だが、彼は肩で息をしているのに対して、対面している男は息を切らしてもいない。

 

 

(上には上が居るな……ほんとこの人50超えてるのにとんだ化物だ)

 

 

 辰人はそう思いながら、タオルで汗を拭う。

 

 

「そろそろお前にも仕事を回すかもしれんな。その時は心して事に当たれ」

「ああ、勿論ですよ。この業界に慢心なんざ足枷でしかないですからね」

 

 

 彼が本心で言っていることが分かったのか、劉玄は満足そうに頷く。しかし、その直後にため息をついた。

 

 

「何か悩みでも?年ですか?」

「ああ、最近腰がきつくてな……って阿保、まだまだ現役だ。……お前のように、あいつも謙虚なら良かったが……」

義兄(にい)さんのことでしたか。まあ、実力者であることは事実ですからね」

「実力があるのは良いんだが、修練さぼるわ女を口説くわ勝手に出かけるわで問題しか起こしていないからな。お前からも何とか言ってくれんか?」

 

 

 劉玄の冗談が混じりの言葉に、辰人は肩を竦める。その反応を見て「……やはりか」と呟き、劉玄は更にため息をつく。

 

 

 辰人と、その義理の兄である龍令(りゅうれい)は仲が極めて険悪である、というのは北良家内では周知の事実である。元々2年前に劉玄によって救い出されそのまま引き取られた辰人を、龍令は好印象を持っていなかった。 実際、突然どこの馬の骨かも分からない男が自分の弟となるのは、プライドが高い彼には我慢ならなかったのだろう。あの手この手で、辰人に修練と称し非道な仕打ちを繰り返していた。しかし、研究施設での扱いに比べれば大したことがなかったので、全く苦にしていない辰人の反応が、彼のプライドを更に傷つけていったのも否めない。更に、その修練によって辰人の肉体はますます磨きがかかり、技も熟練したものになっていった。

 それに、龍令も実力者であったが、辰人がそれ以上の才能を開花させてしまったのも原因の1つになっている。2年前に引き取られてから、辰人は自らの鍛錬のみをストイックに続けていたが、龍令は時折下の街に遊びに行く悪癖があったため、北良の家ではだんだんと肩身が狭くなっていった。

 中でも、決定的な原因は八代目の候補を模擬試合を行った時だ。最終的に残ったのは当代最高の才能を持った龍令と、意外だったが、槍術と棒術を混ぜ合わせて勝ち進んだ辰人だった。一族ではない辰人が勝ち残ったことに、一族の分家の者たちは大いに憤慨した。だが、当主の一喝により試合は執り行われた。結果は予想とは裏腹に、辰人が勝利してしまった。それ以来、辰人と龍令は口を利いたことが無い。

 

 

「……すまんな、色々と……」

 

 

 そう申し訳なさそうにする劉玄に対し、問題ないというように微笑む辰人。

 

 

「問題ないですよ。あれから特に何もありませんし、平穏すぎるのが逆に不安ってものです」

「……そうか。あのこと(・・・・)については、私は墓場まで持っていくつもりだから安心しろ。お前ーいや、辰人……お前はもう、我々の家族なのだから」

 

 

 辰人を名前で呼んだ劉玄は、表情こそ変わらないものの、その瞳には子を想う親の温かさが宿っていた。それを感じた辰人は、語調を緩めながら言う。

 

 

「問題ないよ、義父(おやじ)。俺は好きでここに居るからな、当分はここで(これ)を極めてみようと思う」

「なら、徹底的にやってやろう。お前が根を上げるまでな」

 

 

 そう言って2人は木槍を手に取り、槍の修練へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 北良家のある武甲山。その麓にある秩父市の中心部、人の多い通りの中を1人の青年は歩いていた。艶のある黒髪、シャープな顔の輪郭に整った鼻梁。そして瞳の見えぬ糸目が、まるで心を読ませないような隙のない印象を青年に与えていた。その手にはスマートフォンが握られ、誰かと通話している。

 

 

「それで、計画は?」

『あああ、滞りないよォ?人も準備も万全だ。後は君が、引き金を引く時を決めるだけかな?』

「……そうか。決行は後日伝える、それと例の物は?」

『ああ、用意している。そちらも問題ないね?』

「無論、問題ないさ。あいつの顔が楽しみでしょうがない。安心しろ、仕事は必ず成功させる」

『……楽しみにしているよ?八代目当主(・・・・・)北良 龍令君』

 

 

 そう言って、通話を切った青年ー北良 龍令(ほくら りゅうれい)ーは少し開いた両の瞳に鋭さを滲ませながら呟く。

 

 

「……ようやく、ようやくだな」

 

 その顔に狂気の笑みを浮かべながら、龍令の姿は人混みに消えた。

 

 

 

                     ◆

 

 

 

「休暇……ですか?」

 

 

食事を終えて、辺りも静かになった夜。邸宅の本殿に呼ばれた辰人に、劉玄が開口一番に言った一言がそれだった。

 

 

「ああ、たまには息抜きをと思ってな。久しぶりに街に出て気分転換でもしてきたらどうだ?」

 

 

 辰人は、劉玄の瞳をちらりと覗く。その瞳は、彼を思いやる温かいものを感じた。鍛錬に打ち込むばかりの自分の身を心配してくれたのなら、辰人が断る理由は無い。

 

 

「はい、分かりました。久しぶりの休み、楽しませてもらいます」

「おう、しっかり楽しんで来い」

 

こうして、辰人は休暇を楽しむことになった。

 

 

 

 だが、この時は誰も想像していなかった。日常が静かに崩れ落ちていくのを―――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ひとまず着替えたけど……。これで本当にいいのか?まあ、『是非、これを着てください!絶対に似合いますから!』って言ってたから大丈夫か」

 

 

 着替えた辰人は姿見を見て自分の格好を確認するが、辰人はファッションについての知識が皆無である。だが、何故か北良家にいる同年代の女子に慕われ、服をいつの間にか購入されているのがいつものことだった。

 

 

(いつも思うけど……何で俺の服のサイズ、さらに下着のサイズまで知ってるんだ?)

 

 

 一瞬考えかけた辰人だが、深く考えるのはやめた方が良いと思い直し、すぐさま街に繰り出すため、家を出た。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりの休日に街をぶらぶらするのも悪くはないな」

 

 

 そう言いながら人混みを歩く辰人だったが、彼は人々から注目を浴びているのに気づいていない。

 白い長袖のTシャツに、その上にカーキのアウタージャケット。そこに、スキニーパンツのグレーが入ることで、大人びた印象を周囲に与えている。それに、辰人の整った顔立ちとオッドアイが加わった魅力が、すれ違った女性たちを虜にしていた。

 当の本人はその視線に全く気にせず、グルメを堪能している。だが、辰人はある視線(・・・・)には気づいていた。

 

 

(尾行されている。この感じからして、2人ってところだな。気配の消し方の巧さを見ると、かなりの手練れか……)

 

 

 周囲の人間から見れば、ただ食べ歩きしてるようにしか見えない辰人だが、その内側は酷く冷静だった。どうやって撒くか、そう思案した彼はすぐさま逃走ルートを決め、急に路地へと曲がる。

 

 

 背後で急いで追ってくる存在を置き去りに、ひたすら目に入った道を曲がっていく。何回目の曲がり角だったか、曲がった先に女性が歩いているのに気づき、辰人は女性を避けた。避ける際に少し体勢を崩したが、すぐに持ち直して走り出す。

 

 だが、その女性に腕をつかまれる。

 

 

「……ちょっと、すいません。急いでるんで」

「やっと見つけた。キミだね?男でISを動かしたっていうのは(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

女性から発せられた言葉に、辰人は動揺を隠せない。

 

 

(……何で、この女がそのことを知ってるんだ!?)

 

 

「おやおやー?どうしてそのことを知ってるっかって?それは、私が天才 篠ノ之 束(しののの たばね)だからだよ!たーくん(・・・・)!」

 

 

 

 

 

 これがIS開発者にして、現在様々な国からその身を追われている篠ノ之 束との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 物語は動き始めた!天災 篠ノ之 束と邂逅する辰人!しかし、2人で仲良くティータイムする余裕もなかった!ついに動き出す長男 龍令。危機的状況の中、束が辰人に託したものとは!
 ついに現れる主人公のIS!血濡れたような朱色の装甲、新緑の双眸が見つめる先にあるものは!

 次回、IS 朱夜の残光!「崩れ始めた平穏!『兎と龍とそして修羅と』」を、皆で読もう!


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崩れ始めた平穏!『ウサギと龍とそして修羅と』

 さあ、やっと主人公のISが登場しますよ!


 

 

 

「さあ、たーくん!ちょっとそこで束さんとお茶しようそうしよう!」

 

 

 こちらが追われているのにも関わらず、目の前のウサミミを付け、不思議の国のアリスのような服を着た女性ー篠ノ之 束(しののの たばね)ーは開口一番に言った。

 

 

「いえ、結構です」

「即答!?こんなに美人な束さんが誘っているのに!?」

「貴女が本当に束博士なのかどうかは知りませんが、ちょっと忙しいんで失礼します」

 

 

 そう言って辰人は逃げようとした。だが、

 

 

「逃がすわけにはいかないよー?ちょぉっと付き合って貰うからね?」

 

 

 いつの間にかまた目の前に立ちはだかっていた束を見て、辰人は逃走を諦める。そして束を持ち上げ、走り始めた。

 

 

「あはは、はやいはやーい!流石たーくん!たーくんの脚力は世界一ぃぃいぃぃいぃぃぃぃ!」

「あんまりはしゃいでると噛みますよ?」

 

 

 のちに、目撃者の証言では『物凄いスピードでお姫様抱っこをしながら走るイケメン』が通り過ぎて行った、と供述されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ……少し疲れたな」

 

 

 街を駆け抜け、外れの廃工場に辰人と束はいた。

 

 

「いやぁ、楽しかったねたーくん!」

 

 

 声の主を睨みつけると、彼女はその視線を受け止め、体をくねらせている。

 

 

「きゃー、たーくんってば大胆。人気のない所に連れ込んで、束さんに乱暴するつもりだね!」

「ソンナコトハゼッタイニシナイカラアンシンシロ(棒)」

「片言で棒読み!?でも許しちゃうよ!こんなに束さんをいじれるのはたーくんだけなんだからね!」

 

 

 左手の人差し指を『ビシィッ!』とでも聞こえるように突き付けながら束は言う。

 

 

「そう言えば、さっきからたーくんたーくんって……。初対面ですよね、俺たち」 

 

 

 まるでその発言を待っていたかのように、束は辰人に微笑みかける。それは、悪戯が成功して喜ぶ子供のようだった。

 

 

「確かに会うのは初めてだけど、私はたーくんのこと4年前(・・・)から知ってるよ。凄かったね、初めてであれだけ動く子は中々居ないよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「そうなんですか?一体どこで出会ったんですかね?」

「君が乗っていた打鉄ISのコアにちょっと面白いことが起きてたからね。束さんはものすごーく興味しんしーん!ねー、検体番号E-5番くん?」

 

 

 その発言に、辰人は唯々無言だった。

 

 

(流石、ISを作った開発者……ばれてたのか……)

 

 

 そんな辰人の動揺を余所に、束は顔が触れるほどの距離まで

 

 

「正しくは、キミのその右目が、だね。ちょぉーっと、解析させてもらうよ~」

 

 

 そう言うと、更に近づきその赤い瞳に触れる。数秒の静けさを終えて、直前まで笑みが張り付いていたその表情に真剣なものを浮かべていた。

 

 

「これはこれは……束さんを舐めているのかな?酷く不快だよ、これは。あ、決してたーくんのことを言ってるわけじゃないよ?束さんはたーくんのこと普通に好きだからね!」

「ちょっとそこから動かないでくださいね?」

「スルー!?またスルーしたね!?」

 

 

 騒いでいる束を余所に、辰人は廃工場の入口を伺う。そこには、先ほど自分たちを追っていた黒服の1人が周辺をうろついているのが見えた。束に『静かにしてください』と口の前に人差し指を立て、黒服の様子を観察する。

 黒服が入口に近づいたその瞬間、辰人は動いた。すぐさま黒服の首を片手で絞めつつ、もう片方の手で口を塞いで工場内へ引きずり込む。黒服は、一瞬の出来事だったためか、その動きに対応することが出来なかった。

 

 

「おお!仕事が早いねたーくん!」

「はいはい」

 

 

 自分の腕の中でもがいている黒服の首を更にきつく締める。黒服は不利を悟ったのか、次第に抵抗する力を失った。

 

 

「仕事が早いね!一家に1台あれば便利!」

「よし、もう1人に事情を聞くかな」

「ねえ、そろそろスルー止めない?束さんそろそろ本気で泣くよ?」

 

 

 そう話しながら、辰人は黒服の上着の内ポケットから拳銃を取り出すと、躊躇なくその引き金を引く。放たれた8発の弾丸は、狙い通りに黒服の両手足に2発ずつ撃ち込まれた。

 

 

「……っがぁ……て、めえ……ガキのくせに、躊躇なく撃ちやがって……」

「それで、なにか吐く気になったか?」

「たーくん、仕事は早いけど効率が悪いね。この束さんにかかれば、子供の頃の恥ずかしい思い出までまる分かりだよ?」

「今はふざけてる暇じゃないですよ。こいつ、束さんと会う前から尾行されてましてね。……ちょっと、気になることもあるので」

 

 

 そう束と会話しつつも、黒服への拘束を緩めない辰人。それに対し、黒服は戦慄した。

 

 

(こいつ……ガキのくせに、さっきの銃撃といい、一切の躊躇がない……。この年で、化物め……)

 

 

 黒服は、己のプライドがずたずたに刻まれている現状に歯噛みする。

 

 

「それで、誰に雇われた?吐かないと今度は腹に風穴が空くぞ?」

「わ、分かった!言う、言うから勘弁してくれ!」

 

 

(……命あっての物種か。しょうがねえ、ゲロってトンズラするか)

 

 

 黒服は、内心で舌打ちをしつつ、観念して依頼主の情報を話そうと口を開く。だが、その時、黒服に異変が起きた。

 

 

「…………ッ!?」

 

 

 一瞬、黒服の体が震えると、黒服の力が抜ける。その異変に、辰人がすぐに気づき、急いで脈を取った。

 

 

「……ばっちりな情報漏洩対策だ。心臓が動いていない、やられたな」

「たーくんも詰めが甘いね!まあ、こんなゴミを有効利用するためには、使い捨てが一番だけどね」

 

 

 束の発言は、過去に実験動物扱いされていた過去があるため、思うところが無いわけではなかった辰人だが、特に何か言うつもりもなかった。

 すると、黒服のポケットが震える。そのポケットから辰人が取り出したのは、携帯端末だった。

 

「はい、もしもし」

『やあ、驚いたかい?しかし、残念だ。使えると思って雇ったのに、そいつに仕込んでいたナノマシンが発動されてるみたいだったからね』

「……やっぱりあんたの差し金か……義兄上(あにうえ)……。何故、こんなことをした。理由を聞こうか」

『理由を言うと思うかい?ただの拾い子の分際で。……まあ、そんなことはどうでも良い。さて、問題です。今、僕は一体何をしているでしょう、かぁ?』

「何言って……」

『ヒント、はいどうぞ』

 

 

 そう言った龍令の声の向こうで、乾いた音が響き、直後男の痛みをこらえる声が聞こえる。その声を辰人はよく知っていた。聞き間違えるわけがない、その声の人物は、自らを実の息子のように優しく、時に厳しく育ててくれた劉玄その人だったのだから。

 携帯端末を握りつぶしそうにしながら、辰人はその瞳に殺意を滲ませ、絞り上げるような声で答える。

 

 

『正解は、北良家本殿!現在、義兄である僕が当主になるための式の真っ最中(・・・・・・・・・・・・・・)でぇす!その前に、いらない奴らは処分が当然だよな、そうは思わないか?』

「……手前ェ、こんなことして分かってるんだろうな?命は無いと思えよ」

『ああ、良いねぇーその声。悔しい感じが端末越しにも伝わってるよ!さあ、辰人?来たければ来な。ただし、一人で、だ』

 

 

 直後、龍令との通話が切れる。辰人は、すぐに山に向かうために走り出そうとした。だが、

 

 

「待って、たーくん!これ持って行った方が良いよ!」

 

 

 束の声が響いた後、振り返った辰人に彼女は何かを投げる。難なく掴んだそれは、血のように赤いバングルだった。

 それを右手首に付けると、辰人は駆けだす。

 

 

(あいつのことだ……。従わない奴は片っ端から殺すに決まってる。なら、奴は俺が)

 

 

 胸中に渦巻く黒い殺意をその身に染み込ませるように、武甲山へ向かった。

 

 

 

 

 

日が暮れて、満月が映える夜。山を登り、北良家へと辿り着いた先に辰人が見たものは、燃え上がる家と、周囲に散らばる赤と灰のコントラスト。そこには、かつて暮らしていた家族がいた――――はずだった。

 

 

「龍ぅぅぅぅぅぅぅぅ令ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

 燃え盛る炎の中から現れたのは、三機の打鉄だった。三機とも、実体刀を構えこちらを見つめている。

 

 

「どうだい?悔しいか?間に合わなかったっていうのは!残念だが、もう全部終わったよ。後は、僕に任せな。それじゃあ、Goodbye」

 

 

 そう言って現れた龍令が手を振り上げ、それを振り下ろした瞬間に、三機の打鉄は一瞬で距離を詰め、実体刀を振り下ろす。

 

 

「あははははははははははっははははは!やった、死んだ。死んだぞ!惨めに死んだ!……これで、更識よりも優れた我が北良家を再び立ち上げることができる!」

 

 

 声を上げ、叫ぶように笑っていた龍令だったが、打鉄搭乗者の内のリーダー格の1人の声で我に返る。

 

 

「いえ、龍令様。北良辰人の反応が消失(ロスト)。突然、消えました」

「馬鹿言え!奴が突然消えるわけないだろう!何処かに隠れたはずだ、さg」

 

 

 突然、声が途切れた龍令。不審に思い、三機の内の一機の打鉄が振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 満月を背に、それは浮遊していた。血に濡れているような朱き全身装甲、新緑のデュアルアイが光り、右手には先端が槍のような錫杖、左手には、龍令の生首(・・・・・)を持っている。

 

 それを見た瞬間、打鉄の一機が高速で接近し、実体刀を振るう。だが、朱いISはそれを舞うように回避すると、擦れ違いざまに錫杖を振るった。薙ぎ払われ、後退する打鉄に、龍令の首を躊躇無く投げつけた。

 

 

「……っっ!」

 

 

 一瞬対応が遅れた打鉄に、捻じ込むように朱いISは突きを放つ。全身の体を使い、力を一点に集めた突きは、打鉄の搭乗者の体を容易く貫いた。

 

 そして、錫杖をそのまま振り上げ、まだ仲間の死に驚きを隠せない残りの二機に向かってその死体を投げ放つ。二機はすぐに回避行動をとるが、二機が更にその顔に驚愕を浮かべることになった。

 

 

「……遅いな」

 

 

 その声ともに、朱きISが目前に迫っていた。朱きISは錫杖を相手の頭に突き立て、脳漿を飛び散らせる。

 

 更に、その体に何度も何度も突き立てた。残ったリーダー格の女は、戦うことを忘れて、唯々このISの強さに震えていた。

 

 

(強すぎる……!何だ、このISは……!それに、何故かこいつは女じゃないような気が……まさか!?)

 

 

「お前……お前……!何で……っ、何で男がISに(・・・・・・・)……っ!」

「さあね。まあ、これから死ぬあんたには関係ない。それじゃあ、死の旅路へと誘うとしよう」

 

 

 そして、錫杖が振るわれ、女の首は撥ね飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、武甲山で謎の山火事が起きたと、メディアでは報道されたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱いISが降り立ち、ISを解除する。そこに居たのは、北良辰人その人だった。

 

 

「ねえ、たーくん。これからどうするの?」

「さあ、どうだろうな。まあ、俺の好きなようにやりますよ」

「だったら、束さんの所に来ると良いよ!ISの操縦(・・・・・)にも慣らしたいでしょ?」

「それは良いね。じゃあ、そうしますか。そうだ、束さんに聞きたいことがあったんだ」

「……なーに?」

IS(こいつ)の名前って何なんだ?」

「それはたーくんが決めていいよ」

 

 

 束は、興味深そうに辰人の方を見ている。

 

 

「……夜天光。夜天光にしよう」

「夜天光か~……。たーくんらしいネーミングだね」

 

 

 

 

 

 

 そう言うと、2人は歩きだした。




 さあ、ついに終わった前日譚!次の舞台は2年後、IS学園!周りが女子のみだが、一向に気にしない辰人に対し、声をかけてきたのは”世界で一番目のIS男性搭乗者”織斑 一夏だった。

 そこに現れる、金髪ドリルの影が迫る……!辰人の学園生活は、吉と出るか、果たして凶と出るか!

 次回、IS 朱夜の残光!「穏やか『だけど刺激的』」を、皆で読もう!


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本編
穏やか『だけど刺激的』


 今回は、少し長めの文となってしまいました。
 そして、お待たせしました。遂に本編突入です。


 

 

 

「全員揃ってますね。それじゃあ、SHR(ショートホームルーム)始めますよ~」

 

 

 黒板の前で微笑む教壇状の女性――副担任である山田麻耶先生――を前に、北良辰人はただ静かに机に座っていた。彼は、幾つもの視線に身を貫かれながらも、威風堂々としている。もう一人の男子――織斑一夏――はその視線に貫かれ、萎縮している。

 

 今日は、高校の入学式。世間では、新しい出会いや環境に目を輝かせたり、消沈したりする時期だ。

 しかし、その環境が、現在2人の立ち位置をただの生徒の扱いにさせなかった。何故、彼らに視線が集まるのか。それは、この学園の全生徒中で男は2人しか所属していないからである。因みに、一夏の席は一番前の真ん中、辰人は窓際の最後尾に位置している。

 

 

――――IS学園。主にIS操縦者を養成する機関で、運営と資金の調達は原則日本がその義務を背負っている。ただし、当機関内で得られた技術は協定参加国全てに開示する等、他国がその甘い汁を存分に吸える取り決めが多い。日本は黙秘・秘匿の権利は一切持たず、当機関内の問題は全て日本がその責を担って公正に介入し、協定参加国に理解できるような解決を義務付けされている。また、協定参加国に属する国籍の者全てに門戸を開き、日本国内での生活を保障すること――――

 

 

 IS学園についての情報を頭の中でまとめていた辰人だったが、意識をすぐに目前に戻すと既に自己紹介の時間へと入っており、もう一人の男子である織斑一夏と山田先生がなにやらごたついている。数分の後、織斑一夏が立ち上がり全体に見えるように後ろを振り向く。

 

 

(う……)

 

 

 途端に、女生徒全員の視線が集中する。女子が苦手ではないが、クラス内の全生徒の視線に当てられれば、女子に苦手意識のない彼もたじろいだ。

 

 

「えー……えっと、織斑一夏です。宜しくお願いします」

 

 

 そう言うと、一礼する。直後、あたりが少しざわざわと騒ぎ始める。更に『え、それで終わりじゃないよね?』『もっと色々喋ってよ』と訴えかけるような視線を女子たちは一夏に向けた。

 

 

「…………」

 

 

 少し黙考する一夏。そして口を開いた。

 

 

「以上です」

 

 

 その一言に、更なる情報公開を期待していた女子たちは、落胆している。数名の女子は、椅子からずっこけた者もちらほら見える。

 直後、背後から何かが振り下ろされ、一夏の頭でおかしな音を響かせる。

 

 

「いっ――――――!?」

 

 

 一夏は慌てて背後を振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(成る程、あれが『元世界最強(・・・・・)』織斑 千冬か……)

 

 

 辰人は、一夏の頭に出席簿を叩きこんだ人物――織斑 千冬――に目を向ける。

 凛々しく美しい顔立ちに、長身。黒のスーツにタイトなスカート、その下の肉体も鍛えられたものであることは容易に想像できた。

 

 

(これまた、姉弟(きょうだい)仲が宜しいことで)

 

 

 そう思いながら眺めていた辰人だったが、直後、何かが恐ろしい速度で襲ってきた。辰人は、それを動揺することなく掴む。それは、白いチョークだった。

 

 

「良い反応だ。だがな北良、教師を馬鹿にするのは感心せんぞ」

「あ、あはは……すいません」

 

 

 チョークを投げた千冬に対して、自らの義父と同じ匂いを感じつつ、内心冷や汗をかいていた。

 一夏の方の説教も終わったのか、威風堂々とした姿勢でクラス中に声を響かせた。

 

 

「諸君、私が織斑 千冬だ。君たち新人を1年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の言うことはよく聞き、理解しろ。出来ないものには、出来るまで指導をしてやる。私の役目は、弱冠15歳を16歳まで鍛え抜くことだ。逆らっても構わん、しかし私の言うことは聞くように。いいな」

 

 

 すると、一瞬辺りが静寂に包まれた。辰人は何かを察したように、耳を塞ぐ。それを見た一夏は、何をしているのか分からなかったのか首を傾げた。直後、

 

 

「「「「「キャ―――――――――――――!」」」」」

「本物、本物の千冬様よ!いぎででよがっだぁー」

「ずっとファンでした!サインください!」

「私、お姉さまに憧れて北九州からここに来ました!」

「このクラスの人たちばかばっか」

「あの千冬様のご指導頂けるなんて、恐悦至極です!」

「私、お姉さまの為なら死ねます!」

 

 

 女子の大音声で窓ガラスが震える。あまりの音量に一夏は少し悶えたが、千冬はとてもうんざりしたような表情を浮かべていた。

 

 

「……全く。毎年、よくもこれだけの馬鹿が集まったものだ。感心させられる、それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

 

 呆れたのか、千冬はうんざりするようにため息をついた。だが、現代女子の暴走は止まらない。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!お姉さま!もっと叱って、罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そして私たちをもっと躾けて!」

 

 

 もはや止めるのを諦めたのか、千冬は一夏に向き直る。

 

 

「で、お前は満足に挨拶も出来んのか?織斑」

「千冬姉、でも……」

 

 

再び、鋭く出席簿が叩き込まれた。

 

 

「ここでは織斑先生と呼べ、馬鹿者」

「……はい、織斑先生」

 

 

 すると、更に場がざわついた。

 

 

「……もしかして、織斑君って千冬様の弟?」

「良いなぁ~、代わってほしいなっっ」

 

 

 もう女子たちを気にするのを止めた千冬は、辰人へと視線を向ける。

 

 

「北良、時間が無いからお前も一応挨拶をしておけ。織斑はもう座っていい」

「はい、分かりました」

 

  

 そう言うと、辰人は立ち上がる。一夏に集中していた視線が一気に集中する。その視線をまるで気にしないように、辰人は微笑みを浮かべながら、その口を開いた。

 

 

「どうも、世界で2番目の男性IS操縦者の北良 辰人(ほくら たつひと)です。運動が好きで、少し槍術等の武術をかじってます。あと、家事も一通りこなせますので、どうぞ宜しくお願いします」

「…………」

 

 また、一瞬の静寂に包まれる。辰人は、耳を塞ごうとする。だが、少し動作が遅れてしまい、辰人自身も「やってしまった」と心中で呟く。

 

 

「きゃ……」

「きゃ?」

「「「「「「キャ――――――――――――――!」」」」」

 

 

 先程と同じように、女子生徒の歓声という名の衝撃が辰人を襲った。あまりの大声に耳がおかしくなった辰人は堪らず顔をしかめる。

 

 

「オッドアイよ、オッドアイの落ち着いたお兄さん系のイケメンよ!」

「織斑君みたいな頼りになる感じじゃなくて、甘えたくなる感じだわ!」

「織斑×北良、いえ、北良×織斑も良いわね!」

 

 

 盛り上がる女子を余所に、あまり気にせずに、辰人は席に着く。直後、チャイムが鳴り響いた。

 

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君には半月でISの基礎知識を身に付けてもらう。その後のISの操作実習もまた半月だ。基本動作はその期間内で覚えるように。良いか、良いなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

 

 横暴ともとれる言葉を口にしつつ、鬼教官の如く千冬を前に一夏は呆けた表情をしているが、辰人は何とも思っていないようだった。

 

 

「席に着け、馬鹿者」

 

 

 再度、頭を叩かれた一夏を見つつ、辰人は授業の準備を始める。そして、授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業を聞きつつ、辰人は周囲を観察する。流石、倍率1万を超えるIS学園に合格している生徒である。全員が、真剣な表情で授業に取り組んでいる。

 辰人はとある天災ウサギ(・・・・・・・・)から2年間、みっちり指導をされていたため、この学園でのIS関連の座学は問題ない。だが、このクラスで唯一、渋面を作っている人物がいた。それは元世界最強の弟だったため、辰人は驚きを隠せなかった。

 そうしているうちに、授業の終了を告げるチャイムが鳴り、1時間目が終了した。

 

 

 

「なあ、ちょっといいか」

 

 

 その声を聞いて、一応次の授業の予習をしていた辰人は手を止める。顔を上げると、そこには一夏がいた。

 

 

「ああ、別に良いよ。確か織斑だよな?」

「一夏で良いよ。いやぁ、同じ境遇のヤツがいて助かったよ、女子の視線がさっきから凄いしな。北良は平気なのか?」

「まあ、こうなることは予測できたからな。あと、俺のことは辰人で良い」

「じゃあこれから宜しくな、辰人!」

 

 

 差し出された手を握り返し、2人は握手をした。2人は気づいていないようだが、クラスの女子だけでなく、他クラス、そして2年3年の生徒も廊下から2人の様子を伺っている。だが、その実、誰が最初に声をかけるのかを決める戦いが静かに始まっていた。

 

 

「きたわ!やっぱりオリ×タツ、タツ×オリね!早速夏に向けて作業開始よ!」

「印刷所にすぐ依頼しといて!それと動ける人間はすぐに作業を始められるようにしないと!」

「者どもぉぉぉ、戦の準備じゃぁぁぁあぁぁ!」

 

 

 一部の女子から何かが聞こえていた辰人だったが、深くは聞かないことにした。すると、

 

 

「……すまん、ちょっと良いか」

 

 

 一夏に声をかけた女子のことを、辰人はさりげなく観察した。さらさらと流れるような黒髪を、後ろで白いリボンで纏めてポニーテールにしている。その顔立ちは凛々しく、まるで侍のようだった。

 

 

(なんか束さんにどこか似ているような気がするな)

 

 

 そう思いながらも、辰人は2人の会話に意識を移す。

 

 

「箒?箒じゃないか、久しぶりだな!元気だったか?」

「すまない、一夏。廊下で良いか?」

「お?おう……。なんか悪いな、辰人。それじゃあ、ちょっと行ってくるわ」

「ああ、気にするな。知り合いなんだろ?ごゆっくり~」

 

 

 すたすたと先を歩く箒とそれを追いかける一夏を見つつ、辰人は予習に戻ろうとした。しかし、ただでさえ少なかった男子が1人になった状況に、動かない女子ではなかった。  

 

 

「ねえ、北良君!彼女いるの?」

「好きなタイプは!」

「何処に住んでたの?」

「メアド交換してください!」

「ISのこと教えてあげよっか?」

 

 

 自分の座席の四方八方を囲まれ、様々な好奇な視線と質問が飛び交う。心の中で「勘弁してくれ」と思いながら、辰人は当たり障りのない受け答えをする。そうしているうちに、休み時間は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――で、あるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の承認が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――――」

 

 

 すらすらと教科書を読んでいく山田先生は、童顔からは考えられないような真剣さで、教師のそれだった。それを見て関心する辰人だったが、もう1人の男子、一夏は苦しい顔を浮かべている。

 隣の女子をじっと見たり、周囲を確認したりしている挙動不審な一夏を見て、辰人は苦笑いをするしかなかった。 

 

 

「織斑君、今までの所で分からなかったところはありますか?」

 

 

 一夏の不可解な行動を気づいたのか、麻耶が一夏に問い掛ける。

 

 

「あ、えっと……」

「分からないところがあったら何でも訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

 

 

 先生の部分を強調しながら、えっへんと胸を張る麻耶に、一夏は迷わず答える。

 

 

「先生!」

「はい!」

「全部分かりません!」

 

 

 あまりの衝撃発言に、クラス中が凍り付く。困惑する麻耶に、教室の端に待機していた千冬が動く。

 

 

「織斑。確か、入学前に参考書が渡されているはずだが、あれはどうした?」

「古い電話帳と間違えて捨ててしまいました」

 

 

 直後、千冬の出席簿が叩き込まれ、一夏は痛みで頭を押さえた。

 

 

「一夏、流石にそれは無い」

「北良の言うとおりだ。織斑、再度発行してやるから、1週間で覚えろ。良いな?」

「え……。でも、あれぐらいの厚さは1週間で覚えらr……」

「覚えろ、やれと言っている」

「はい……」

 

 

 龍すら後退りそうな睨みの視線に当てられ、一夏はただ頷くしかなかった。

 

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができないても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 

 その後、一夏の「別に来たくて来たわけじゃない」という心情を読み取った千冬の正論で事は収まり、授業を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

「ん?」

 

 

 休み時間。辰人の座席で談笑していた一夏と辰人に声をかける女子がいた。その女子は優雅に2人の元へ歩み寄った。

 

 

「ああ、俺たちに何の用だ?」

「まあ!何ですの、その失礼なお返事は。(わたくし)に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるんではないかしら?」

 

 

 辰人の返事に、わざとらしく声を上げる女子。金髪が鮮やかで、白人特有のブルーの瞳が、彼女の魅力を引き立たせていた。

 

 

(典型的な現代女子か、それも厄介なヤツが来たな……)

 

 

 そう思う辰人を置いて、一夏とその女子の会話が進む。

 

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

(わたくし)を知らないですって!?」

 

 

 一夏の一言に、金髪女子は憤慨している。

 

 

「なあ、辰人。この人のこと知ってるか?」

「……一夏。お前本気で言って……るんだろうな。第三世代の試作機『ブルー・ティアーズ』の搭乗者で、イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさんだよ」

「あら、最低限のことは知ってらっしゃるようで安心しましたわ」

「なあ、ちょっと質問良いか?代表候補生って何だ?」

 

 

 一夏の問題発言に辰人とセシリアは絶句した。

 

 

「簡単に言うと、国家代表の候補生でIS操縦のスペシャリスト、って所だな。更に、467機しかないISの内、専用機と呼ばれるISを持ってるから、かなりの実力者だろう」

「そう!エリートなのですわ!」

 

 

 人差し指を突き立てながら「エリート」の部分を強調しつつ、セシリアは高圧的に言葉を放つ。

 

 

「本来なら(わたくし)のような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも幸運……いえ、奇跡でしてよ。その現実をもう少し理解してくださる?」

「「そうか、なら幸運(ラッキー)だ」」 

「……馬鹿にしていますのっ!?」

 

 

 一字一句重なった2人の言葉は、彼女のプライドに大きく傷をつけた。

 

 

「大体、知識がある彼ならともかく、貴方はよくISについて何も知らずにこの学園に入れましたわね!数少ない男のIS操縦者と聞いていましたのに、正直に言って期待外れですわ」

「おーい、一夏。言われてるぞ」

「そんなこと言われても。俺に期待されても困るんだが」

「まあでも?(わたくし)は優秀ですから、貴方たちのような人間にも優しくしてあげても良くてよ。泣いて頼むのなら、まあ……教えて差し上げても良くってよ。(わたくし)、教官を唯一試験で倒した、エリート中のエリートですから」

 

 

 捲し立てるように言ったセシリアの言葉に、2人が違和感を覚えた?

 

 

「唯一教官を倒した?それなら俺も倒したぞ。一夏はどうだ?」

「おう、俺も……まあ、倒したのかな?」

「煮え切らないな、そんなに微妙だったのか?」

「いや、勝手に自滅したんだよ。俺も驚いた」

 

 

 2人とも教官を倒した。その事実が、更にセシリアの怒りを加速していく。

 

 

(わたくし)だけではありませんの!?」

「女子だけではってオチじゃないのか?」

「ああ、成る程な」

 

 

 セシリアはわなわなと震え、詰め寄るように言った。

 

 

「あ、貴方たちも教官を倒したって言うの!?」

「ああ」

「多分俺も」

「あ……有り得ませんわ!」

 

 

 続けて何かを言おうとしたが、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

 

「ま……また後で来ますわ!逃げないことね!よくって!?」

 

  

 そう言い残し、自分の席へと戻っていく。一夏も、疲れたような表情を浮かべつつ、自分の席へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、この時間で、実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 

 1、2時間目と違い、今回は麻耶ではなく千冬が教鞭をとっていた。だが、ふと思い出したような顔をして言った。

 

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出場する代表者を決めないといけないな」

 

 

 その瞬間、辺りがざわめき始める。

 

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く議会や委員会への出席などが主な仕事だ。まあ、有り体に言ってクラス長だな。ちなみにクラス戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点では大した差は無いだろうが、競争は向上心を生む。一度決まると1年間変更はないから選ばれたものは全力で取り組むように」

 

 

 その説明を受け、辰人はこの展開はまずいのではないかと察した。そして、それは実現することとなった。

 

 

「はい、私は織斑君が良いと思います!」

「私は北良君が良いと思います!」

「私も織斑君が!」

「私は北良君で!」

 

 

 やはり、このクラスの女子は男子2名を推薦するようだ。だが、辰人は気づいていた。それを決して許さないであろう女子の存在も。

 

 

「それでは、織斑と北良の2人で多数決を行う、ということで異論はないな?自薦他薦も構わんぞ、他にはいないのか?」

「ちょ……ちょっと待った!俺はそんなものやr」

 

 

 一夏が撤回を求めるべく抗議しようと立ち上がるが、出席簿の前に沈黙する。

 

 

「ほ、北良は良いのか!?」

「俺?まあ、やるならやるぞ。別に困らないしな」

「納得いきませんわ!」

 

 

 男子の内のどちらかが代表になる流れで進んでいた話を、セシリアが遮るように叫ぶ。

 

 

「そのような選出は認められません!実力で言えば、この(わたくし)、セシリア・オルコットが適任です!それに、男子が代表なんて良い恥さらしですわ!大体、文化の浅いこの国に暮らすということも、(わたくし)には耐えg」

「おい、少し黙れ」

 

 

 脱線するセシリアの罵倒の言葉に、辰人の頭が沸騰する。自分たちが馬鹿にされるのはどうでも良いが、自分を育ててくれた北良家の人たちや今世話になっている束の生きている国を馬鹿にされるのには、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを辰人自身感じていた。

 

 

「流石にな、言って良いことと悪いことがあるってわかるか?」

「な、何ですの!貴方急に」

「お前は、今国を馬鹿にした(・・・・・・・)。分かるか?少なくとも、IS開発者とここに居る世界最強に喧嘩を売ったってことは理解できるか?あんただって、自分の国が馬鹿にされればあんただって怒るだろう?」 

「な、な……!」

「俺を馬鹿にするのはまだ良い。だがな、この国を馬鹿にするのは流石に許せない」

「……け、決闘ですわ!」

 

 

 言い返せないような正論を吐かれたことと、辰人の瞳に宿る僅かな殺意を感じたのか一瞬恐怖を感じたセシリア。だが、持ち前のプライドでプレッシャーを押しのけ、辰人と一夏に決闘を申し込んだ。

 

 

「良いだろう、相手をしてやる。後で後悔するなよ」

「良いぜ。四の五の言いうより、分かりやすい」

 

 

 その言葉に、周囲の女子は苦笑を浮かべる。

 

 

「北良君本気で言ってる?」

「確かに男が強い時もあったけど、それは過去の時代だよ?」

「ISを扱えるからって、オルコットさんを舐めない方が良いよ」

 

 

 女子たちの言葉はある意味事実だ。ISが開発されてからというもの、女尊男卑の傾向が強まってしまった。ISが女性にしか扱えないことにより、女性の権利が肥大化し、男性の権利は大きく縮小したことが原因である。

 

 

「安心しろ、真剣勝負だ。意地でも勝つさ」

「ああ、その意見には同意する」

 

 

 火花を散らす3人に、ため息をつきながら千冬が言う。

 

 

「話は纏まったな。それでは、勝負は1週間後の月曜。場所は第三アリーナで行う、各人準備をしておくように。それでは授業を開始する」

 

 

 こうして3人によるクラス代表戦の火蓋が、切って落とされた。

 

 




 さあ、クラス代表を決めるための戦いが始まった!勝つのは辰人か一夏かセシリアか!

 朱き修羅と蒼い涙と白い騎士が、第三アリーナでぶつかり合う!飛び散るビーム、煌めく刃の一閃、洗練された槍の技が冴えわたる!

 果たして、辰人と一夏は、男の意地を見せることが出来るのか!はたまた、セシリアに敗れ、代表候補生のプライドを貫き通せるのか!

 次回、IS 朱夜の残光!女尊を破る『男の意地』を、皆で読もう!






 宜しければ感想・改善点の指摘など、して頂けたら嬉しいです。もしこちらの方に送るのが嫌な方は@6_deyghというアカウントでtwitterをやっているので、そちらの方に送って頂けたら幸いです。


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女尊を破る『男の意地』

 お待たせしました。話の都合上、一夏の戦闘を入れると1万字を超えるので、端折らせていただきます、すいません。

 それではどうぞ、お楽しみください!


 

 

 クラス代表の座をかけて、模擬戦をすることが決まった。だが、授業は普通に続く。こうしている内に、放課後となっていた。

 放課後、あまり人がいなくなっている中、そこに3人はいた。

 

 

「うう……」

「全く、一夏。お前は、何の根拠も無く挑むつもりだったのか?」

「箒、それは言わないでくれ……」

 

 

 一夏から、幼馴染である篠ノ之箒を紹介された辰人は、3人で一夏の今後について話していた。

 

 

「悪いな、俺が一方的に話を進めたのに。お前まで巻き込んでしまって申し訳ない」

「気にするなよ辰人。俺だって少しムカついてたし、辰人がああ言ってくれてむしろスカッとしたぜ」

 

 

笑いかける一夏だったが、すぐさま顔を顰める。原因は、一夏の机の上にあった。

 

 

「い、意味が分からん……。なんでこんなに難しいんだ……」

 

 

 それは、つい先程千冬から渡されていた、ISの参考書である。控えめに言って分厚い辞書と同じ厚さがあり、専門用語の多さも相まって、一夏を悩ませていた。

 

 

「2人は問題ないのか?」

「ああ」

「まあ、なんとかな」

 

 

 2人の返答に、授業に置いついてないのは俺だけか、と一夏は頭を抱えた。

 

 

「なあ、辰人。教えてくれないか?」

 

 

 そう投げかける一夏の言葉を聞きつつ、辰人はちらりと箒を見る。心なしか、箒は苛立っているように感じた。

 

 

「いや、俺は遠慮しておく。その代わり、箒に教えて貰え」

「な、なな……何を言っているのだ辰人!?」

「じゃあな、お二人さん。ごゆっくり~」

 

 一目で箒が一夏に惚れていることを察した辰人は、教室を後にし、学生寮へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「個室か……。助かる」

 

 

 1027室、と書かれた扉を開いて見ると、女子の姿は見られない。既に寮の門限を超えていることを考えると、この部屋は個室であることが分かった。

 荷物は既に運ばれている。その荷物の中から、あるものを取り出す。

 

 

「俺は……元気にやってるよ、皆」

 

 

 それは、北良家全員が写っている写真。それを眺めつつ、自嘲気味に笑う。そして、自分の右手首に装着してある朱い腕輪を眺めた。

 

 

「イギリス代表候補生、か……。精々楽しませてもらうとするか」

 

 

 その笑みが狂気に滲んだ笑みに変わっていったことに、辰人自身、気づくことが無かった。

 

 

 

 

 

 

「なあ……」

「…………」

「なあ、いつまで怒ってるんだよ」

「……怒ってなどいない」

「何だ?裸でも見られたのか?」

「なっ!?」

「……それは一夏が悪いな」

 

 

 セシリアの宣戦布告の翌日。午前8時、寮の食堂の一角は少し凍りついていた。明らかに機嫌の悪い箒、何故怒りが収まっていないのか不思議な一夏、痴話喧嘩の巻き込みは勘弁してくれと少し疲れ気味な辰人の3名がその原因である。

 

 

「2人とも、落ち着け。終わったことだから、今更責めても何も出ないぞ?」

「そうそう。箒、悪かったって」

「一夏はもう少し誠意を見せるように……」

「だから、私は怒っていないっ」

 

 

 一夏と箒は和食セット、しかし辰人は違った。

 

 

「……辰人。お前そんなに食べて大丈夫なのか?」

「ああ、問題ないぞ」

 

 

 2人の好奇の視線を気にせず、辰人はスプーンを止めない。

 辰人のメニューは『火星丼』と呼ばれる、IS学園の学食のメニューの中でも、最も異色なものであった。超大盛りのご飯にこれでもかと掛けられたハヤシライスのルー。その上に可愛らしいとは言い難い大きさのたこさんウィンナーが乗っている。辰人が頼んだものは、それの『特盛』だった。

 

 

「うん、美味い。流石はIS学園」

「本当に大丈夫なのか?そんなに食べて」

「朝はこれくらい食べないとやっていけないもんでね。俺から言わせれば、周りの女子たちの方が心配だ」

「お、それは俺も思った」

 

 

 美味しそうに火星丼を食べる辰人に問い掛けた箒だったが、本人は黙々と食している。逆に辰人が、周りの女子生徒を心配し、それに一夏も同調した。

 

 

「ねえねえ、あれが噂の男子2人だって」

「なんでも1人は千冬様の弟らしいわよ」

「え、ホント!?そしたら彼も強いのかな~」

「でも、辰人君。すごく綺麗に食べてる、カッコいいな……」

「妙に落ち着いてて、本当に同い年とは思えないわ……」

 

 

 周りの女子の視線を受けつつ、3人は余り気にせずに食べ進めた。すると、

 

 

「いつまで食べている!食事は迅速かつ効率的に摂れ!遅刻者には、グラウンド10周させるぞ!」

 

 

 千冬の言葉に、慌てて食べ始める女子たち。IS学園のグラウンドは1周5kmもある。その罰則の重さに急いで食べる女子を余所に、辰人たちは問題なく食べ終わり、余裕を持って教室に入ることが出来た。 

 

 

 

 

 

 二時間目が終了した後、辰人は一夏を見つめる。当の本人はグロッキー気味で、今にも崩れ落ちそうだ。

 

 

(まあ、何にもやってないならそうなるだろうな……)

 

 

 そう考えながらも、授業は続いていく。山田先生は、少し詰まりながらも、説明を続けていた。辰人は集中しているふりをし、一夏は頭を悩ませている。

 こうしているうちに、チャイムが鳴り響く。

 

 

「あ、えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動ををやりますからね」

 

 

 ここ、IS学園では実技と特別な科目でない限り、基本的に担任が全て請け負うらしい。ご苦労様です、と男子2人は心の中で思った。

 山田先生と千冬が教室を出た瞬間、女子の半数が男子に殺到する。そこは、さながら戦場だったと一夏は語る。辰人は、いつの間にか教室を抜け出し、女子の群れを回避していた。

 

 

「ねえねえ、織斑くん!」

「しつもんしつもーん!」

「今日の昼暇?放課後暇?夜暇?」

「北良君とはどういう関係なの!?」

 

 

 同時にくる質問に対応できずに、困る一夏。必死の思いで、箒にアイコンタクトをするも、そっぽを向かれてしまった。

 女子の視線が全て自分に集中しているので、その何とも言えない圧力に一夏は心の中で、教室を抜け出したもう1人の男子生徒を恨んだ。

 

 

「千冬様って普段どうなの?」

「え?案外だらしn」

 

 

 そう言葉を紡ごうとしたとき、背後から出席簿を頭に叩き込まれた。背後を振り向くと、そこには千冬が立っている。

 

 

「休み時間は終わりだ馬鹿共。散れ」

 

 

 その言葉で、女子たちは瞬時にそれぞれの席に座る。辰人はどうしたのか、と一夏は振り向いたが、そこにもう既に座り何事も無かったように授業の準備を終えていた。少し恨めし気に見つめていると、その肩は小さく震えてる。笑っていることは明々白々だった。

 

 

「ところで織斑、お前のISだが準備に時間が掛かる」

「へ?」

「予備機が無い。それにより、学園の方で専用機を用意するそうだ」

「??????」

 

 

 一夏がその言葉の意味を分からずに呆けていると、周囲がざわつき始めた。

 

 

「せ、専用機!?1年の、この時期に!?」

「政府の支援かぁ……。良いな~」

「私も専用機欲しい」

 

 

 まだ意味が分からない様子の一夏に、千冬が呆れる。その様子を見て、辰人が口を挟んだ。

 

 

「一夏、教科書の6ページ読め。今すぐに」

「え、えーと……『現在、幅広く・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機……』」

「要するに、467機しかないISだけど、特例でお前専用のISを用意するってことだよ。目的は多分データ取りだな、ですよね先生?」

「正解だ、北良。織斑もしっかりやれ。お前は嫌でもこいつと比べられる立場にある事を忘れるな」

 

 

 その一言に、一夏はぐうの音も出ない。そうしていると、女子の1人が手を上げた。

 

 

「先生、質問です。北良君には、専用機は無いんですか?」

「それは心配いらん。こいつは既に専用機を所持している」

 

 

 千冬がさらりと言った一言に更に周りがざわつき始める。

 

 

「辰人君、今のってホントなの!?」

「ああ、本当だよ。保護者がIS開発者だからな」

 

 

 更にざわつく女子たち。その中で、箒が驚いた表情で辰人の方を見つめている。それに気づきながらも、辰人は気づいていない振りをした。

 

 

「えー!?本当に!?凄い凄い!」

「ひょっとして、もうISの操縦結構してるの?」

「後で操縦教えて!」

 

 

 その騒ぎに千冬は顔をしかめつつ、良く通るドスのきいた声で

 

 

「静かにしろ」

 

 

 と言った。瞬間、クラスが静まり返る。

 

 

「では、山田先生。授業の号令を」

「は、はいっ」

 

 

 こうして、授業は平和に始まる。

 

 

■ 

 

 

 

「安心しましたわ。訓練機では相手にもなりませんもの」

 

 

 昼休みに入り、再びセシリアが現れた。それを見た辰人はあからさまにセシリアを嫌そうに見つめ、一夏は少しげんなりしている。  

 

 

「そう言えば、セシリアさんも専用機持ってるんだっけ?」

「はい、そうですわ。(わたくし)、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生にして専用機を持っていますの。即ち、エリート中のエリートですわ」

「そうか、すげーんだな」

「あー、凄い凄い。あんたが1番だよ」

「……馬鹿にしていますの!?」

 

 

 叫ぶセシリアに対し、辰人と一夏は早く飽きて帰って欲しいと思いつつ、ただ耐えた。

 

 

「まあ、どちらにしてもクラス代表になるのは(わたくし)、セシリア・オルコットであることをお忘れなく」

 

 

 そう言い残し、髪を払い立ち去って行った。2人はため息をつくと、学食へ向かおうとした。

 

 

「箒、辰人。飯行こうぜ」

「すまない、一夏。私は少し辰人に話がある。先に行っててくれないか?」

「?ああ、分かった」

 

 

 箒の言葉に一夏は頷き、2人より先に学食へ向かう。

 

 

「ここじゃ少し話しづらい。場所を移して良いか?」

「おう、俺は別に構わない」

 

 

 そう言って、箒の後に続いて辰人は教室を出た。

 

 

 

 

 

 2人が向かった先は屋上だった。少し寒い風が吹いてるためか人が居ないので、箒はほっとする。

 

 

「それで?話って何だ?一夏のことなら、箒の方が知ってるだろう?それとも、恋愛を手伝って欲しいとかか?」

「な、何を言っている!?わ、私は一夏の事などっ」

 

 

 そう言う箒だったが、頬が赤くなっていることを見れば丸わかりだった。

 

 

「そ、そう言うことではない!……姉さんのことだ」

 

 

 姉、と言った時、箒の表情は陰りが浮かんでいる。

 

 

「本当に、姉さんが保護者なのか?」

「本当だ、束さんには助けてもらったよ。正直返したくても返せないくらいの恩義がある」

「……」

 

 

 その言葉に、箒は複雑そうな顔を浮かべ困惑している。それはそうだろう。彼女の家族は、束によってバラバラになったと言っても過言ではない。

 

 

「箒、俺が言えたことじゃないのは分かってる。だけどな、束さんのおかげで助かった人間もいることを憶えていてほしい。少なくとも、俺は救われた」

「お、お前に何が分かる!?どうして要人保護プログラムなんて理由で両親や一夏と離れ離れにならなければならないんだ!それもこれも、姉さんがISを……」

「俺の家族は全員死んだよ、もう俺には誰もいない」

「え?」

 

 

 もうこの話は終わりだ、と言うかのように辰人は箒に背を向け、屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 そこから、淡々と時が流れ、遂にその時がやって来た。現在、第3アリーナのAピットに辰人、一夏、箒、千冬、麻耶の5人が居る。反対のBピットには、セシリアが居るであろう。一夏は入学初の模擬戦なため、あからさまに緊張していた。それに反して、辰人は落ち着いている。そんな中、一夏が口を開いた。

 

 

「なあ、箒。俺の間違いなら良いんだけどさ」

「ああ、それはきっと間違いだろう。うむ」

「……いや、それは違うぜ。だって、これまでISの訓練のIの字が1つも無かったぞ!」

「し、仕方がないだろう!」

 

 

 箒と一夏の掛け合いに内心微笑みつつ、辰人は千冬に言った。

 

 

「織斑先生、先に俺が行っても良いですか?一夏のISはまだ『初期化(フォーマット)』と『最適化(フィッティング)』が終わってないみたいですしね」

「……ふぅ、全く。良いだろう、但し、加減はしろ(・・・・・)。良いな?」

 

 

 千冬の言葉に、辰人は口角を上げる。それは、戦うことに悦びを見出している、修羅の笑みだった。

 

 

「――――――夜天光」

 

 

 そう呟くと、光の粒子が溢れ、一瞬煌めく。その後、現れたのは、血に濡れたような朱の装甲。そして、顔を覆っている朱の兜から唯一覗く深緑に輝くデュアルアイ。その佇まいは、さながら信仰の為に戦う僧兵のような美しさを感じさせる。

 

 

「これが、辰人のIS……」

 

 

 ISから滲み出る謎の危うさに圧倒される一夏を余所に、辰人は黙したままだ。夜天光は浮き上がると、滑るような自然さで、ピットを出る。

 

 

「あら、全身装甲(フルスキン)のISですか。珍しいですわね」

 

 

 アリーナの中央に出た瞬間、周りのアリーナ鑑賞席にはたくさんのギャラリーが待ち受けていた。辰人と同時にセシリアが反対側のピットから現れる。

 

 

「それに、ピットから出てきた際のISの操縦。中々の物ですわ。ですが、この(わたくし)、セシリア・オルコットと《ブルー・ティアーズ》には敵いません事よ?」

「…………」

 

 

 セシリアの言葉に、辰人は、ただ黙って相手の言葉を聞いている。

 

 

「……ちょっと、無視しないで下さいまし!」

「……少し、静かに出来ないのか?お前にとっては、重要な試合のはずだが?」

「ふ、フン!貴方は(わたくし)には勝てません。それを身をもって、教えて差し上げますわ」

 

 

 その直後、試合開始のブザーが鳴り響く。先手を取ったのは、セシリア――――――――では、無かった。

 セシリアは、その手に握られていた七十六口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》から熱線(レーザー)放つ。彼女の予想では、辰人は避けられずに、致命打となるはずだった。だが、

 

 

 ”――――警告 ダメージ:106 実体ダメージ:高”

 

 

 《ブルー・ティアーズ》からハイパーセンサー ーISに必ず搭載されている、オーバースペックと言うに相応しいセンサー ーから送られる情報に、セシリアの表情が驚愕に染まった。

 

 

「どうした?驚いているのか?」

 

 

 背後から聞こえる声を聞き、振り向きざまに射撃。精度の高く、当たると思われた熱線(レーザー)も、辰人は《夜天光》を駆り、空中を舞うように避ける。その右手には、銀色に輝く槍の如き錫杖が握られている。

 

 

「もっと、もっと楽しませてくれよ。イギリス代表候補生……!」

 

 

 目にも止まらぬスピードで、《夜天光》が肉迫する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは、何が起こったんだ?見えたか箒?」

「いや、私にも見えなかった」

 

 

 セシリアが辰人に先制攻撃受けたとき、モニターを見ていた一夏と箒は、何が起きたか分からなかった。

 

 

「織斑先生、あれは……」

「ああ、山田先生の言う通りだ。夜天光(アレ)は、単純に速いんだ(・・・・・・・)

 

 

 千冬の一言に、一夏と箒が首を傾げる。 

 

 

「なに、《夜天光》は現状のISの中で最速というだけだ」

「だけど、それだけじゃないよな?」

「……よく分かったな、織斑。その通りだ、《夜天光》はその速さ故ピーキーな機体性能となっている。あれをまともに動かせるのは北良(ヤツ)だけだろうな」

 

 

 そう話す中でも、モニター中で戦闘は続く。《ブルー・ティアーズ》の名の由来である自立機動兵器ーブルー・ティアーズーを4基稼働させ、オールレンジ攻撃を行っているが、《夜天光》は舞うように回転し、華麗に避ける。そして、攻撃の間隙を縫って振るわれる錫杖は、確実にセシリアのSE(シールド・エネルギー)を削っていく。

 ISバトルのルールは単純で、相手のISのSE(シールド・エネルギー)を0にすれば勝利となる。但し、当たった攻撃はある程度軽減されるが、実機も損傷し、継戦能力が低下してしまう。心理的な駆け引きと、戦闘に於けるセンスや鍛え上げられた技術、武器の特性やISの操縦技術etc……。

 操縦者に要求されるものが多く、そのため大いに盛り上がる。それが、ISバトルだった。

 

 

「辰人の動き、あれは武道……いや、槍術か?」

「ああ、確かにあの動き、なんて言うか、洗練されてるよな」

 

 

 そう話す一夏と箒を置いて、試合は動いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

(有り得ませんわ!こんな……こんなハズでは……!)

 

 

 セシリアは戦慄していた。遊んでゆっくりと嬲るはずの相手に、今自分は全力を注ぎ、射撃を続ける。セシリアの射撃技術は、世界の全候補生の中でも高い部類に入るのだ。だが、相手を灼くはずの熱戦(レーザー)は空しく空を切り、逆にセシリアに槍のような錫杖が、着実に叩き込まれSE(シールド・エネルギー)を削られていった。

 中でも、辰人の駆る《夜天光》の、舞うように回転しつつ行われる有り得ない機動。今まで見たことのないこの独特な機動によってセシリアの射撃は掠りもしない。

 

 

「墜ちなさいっっっ!」

 

 

 そう叫びながら、セシリアは《ブルー・ティアーズ》のビット4基を巧みに操作し、死角からそれぞれタイミングをずらして熱線(レーザー)を撃つ。完璧なタイミングだったそれも、《夜天光》の回避機動によって難なく避けられている。

 

 

「……温いな。温すぎるぞ、セシリア・オルコット」

 

 

 辰人は淡々と熱線(レーザー)を舞うように避けている。現在に至るまで、辰人の《夜天光》には、掠り傷1つ付けられていない。この男は、自分よりも遥か高い領域にいることはもう分かっていた。だが、以前の発言があった今、それを素直に認めるわけにはいかなかった。

 

 

(わたくし)は、絶対に勝ちますわ!」

 

 

 対してセシリアの実力に、辰人は酷く落胆していた。専用機を所持しているイギリスの代表候補生。この肩書のある人間ならば、ギリギリの攻防が楽しめると心の中で期待していた自分が居た。だが、期待した結果は最悪の一言。辰人から言わせれば、まだ未熟も良い所だ。

 

 

「……そろそろ、終わりにしよう」

 

 

 巧みな回避をしつつ、言い放った辰人の発言に、セシリアは憤慨する。

 

 

「何を言って……!」

 

 

 直後、《夜天光》が目前から消えた。

 

 

「え……?」

 

 

 その光景に、セシリアは絶句する。《ブルー・ティアーズ》の誇るビット4基が、ほぼ同時に破壊される(・・・・・・・・・・)

 そして、爆発の向こうから有り得ない速度で目前に現れた《夜天光》。《夜天光》は目にも止まらぬ速さで錫杖を、突き、払い、叩きつける。

 

 

 ”試合終了 勝者、北良辰人”

 

 

 それが決め手となったのか、試合終了のブザーが鳴り響く。それを聞いた辰人は、セシリアに背を向け、ピットへ戻っていった 

 

  

 

 

 

 

 

 

「辰人、やったな!お前凄ぇよ、俺も頑張って勝つから見ててくれよ!」

 

 

 辰人の強さを目の当たりにして、興奮気味に一夏は話しかける。だが、辰人からの返事がない。ISを解除し、現れた辰人は、顔面蒼白だった。

 

 

「辰人、どうしたんだ!?」

 

 

 心配する一夏と同じく心配する視線を投げかける箒。だが、辰人には、全く聞こえていない。

 

 

「北良、これからの試合、棄権ということで良いな?」

 

 

 その言葉に、辰人は僅かに頷く。そして、そのまま控室を出て行った。

 

 

 

 

 

 保健室に辿り着き、ベッドに横になり数十分の後、辰人は目を覚ます。現在、ここに人は辰人しかいない。どうやら、養護教諭はどこかへ行っているようだった。

 

 

「……まだ、未熟か(・・・)……」

「そーかな?束さんとしては乗れてる方だと思うけどね」

 

 

 辰人の独白に、本当なら誰も応える者はいないはずだった。だが、辰人のベッドのすぐ側に、束が立っている。

 

 

「……何で束さんがいるんですか?」

「たーくんが折角戦うって聞いたから、来ちゃった☆」

 

 

 ウインクをしながら言う束に、辰人は苦笑する。

 

 

「でも、たーくんは本当に《夜天光》はこのままで良いの?正直、今のままでも人が扱えるレベルを軽く超えてるよ?」

「ああ……このままで良い……。《夜天光(こいつ)》もそれを望んでいる」

 

 

 束の言葉を聞きつつ、辰人は右手首の朱い腕輪を眺めながら、それでも決意は変わらない、と答える。

 

 

「そっか。でも、流石に心配だから単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は禁止。リミッターも、5つから6つに上げといたからね!今回は使ってないようだから良いけど、ほんっっっとうに危ない時しか使っちゃダメだよ!言いつけ破ったら束さんは泣いちゃうからね!」

 

 

 真剣な顔でそう言うと、最後には微笑みながら手を振りつつ、走り去っていこうとする。だが、急に止まり、

 

 

「あ、言い忘れてた。いっくんもぎりぎり勝ったってさ!じゃーね、たーくん。また会おう!」

 

 

 そうして、束は去っていった。

 こうして、クラス代表を選抜する戦いは、幕を閉じた。

 

  




 女尊を破り、意地を示した男たち。再び日常は静かに過ぎていく。だが、それは次の嵐が来る前の、ほんの少しの平穏だった!

 イギリスの次は、3千年の歴史を持つ、中国からの刺客!それは、織斑一夏のもう一人の幼馴染、凰 鈴音!一夏を中心に動く、女たちの愛憎劇。

 だが、同時に辰人にも、ミステリアスな2年生の影が迫っていた。

 次回、IS 朱夜の残光!恋も憎いも『青いうち』を、皆で読もう!


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恋も憎いも『青いうち』 前編

 皆さん、期間が大きく空いてしまい申し訳ありませんでした。これからまた再開していくので、応援して頂けると幸いです。


 

 

 水が弾ける音。その水は眩しい白い肌を弾き、美しい体のラインをなぞるように流れていく。それはさながら芸術品の如く美しい。金髪蒼眼の少女ーセシリア・オルコットーは、シャワーを浴びながら、今日のクラス代表戦を思い出していた。

 

 

(今日の試合、(わたくし)は負けましたわ。でも―――)

 

 

 2人の男子に敗れた。1人に惨敗、1人にはぎりぎりで負けてしまったが、それ以上の困惑がセシリアを襲う。

 

 

(織斑 一夏と北良 辰人……)

 

 

 セシリアにとって男とは、いつも女の影に隠れ媚び諂う存在だと認識している。セシリアの父がまさにこれだった。厳しく、そして成功者であった母のすぐ後ろにいる場面しか、セシリアには思い出せない。

 その2人は、もう居ない。3年前、鉄道の横転事故で2人とも亡くなってしまった。いつも別々に過ごしていた両親が、何故その時だけ2人で。それは未だセシリアには分からない。

 

 だが、残されたセシリアには、それを考える暇も与えられなかった。手元に残った両親の遺産を、金の亡者から守るため、様々なことを学び、その中のIS適性テストで『A+』を叩きだす。それにより、政府から国籍保持のため、好条件を出され、代表候補生となった。そして、第三世代装備ーブルーティアーズーの第一次運用試験者に抜擢され、現在のIS学園へと至る。

 

 その中であの2人に出会い、その内の1人に心中のほとんどを考えている。

 

 

「織斑 一夏……」

 

 

 そう声に出してみると、セシリアは不思議と心臓の鼓動は高鳴り、顔が赤くなるのが分かる。一夏に対するこの気持ち、この正体を確かめたい、とセシリアは強く思う。

 

 

(一夏さん……もっと、知りたい……)

 

 

 浴室には、水音しか聞こえなかった。

 

 

 

 

 翌朝、朝のSHRで麻耶の放った一言に、一夏は驚いていた。

 

 

「それでは、1年1組のクラス代表は織斑一夏君に決定です。あ、1繋がりで良い感じですね!」

 

 

 それに「さんせーい!」と同調し、盛り上がる女子。だが、納得していない者が1人いる。

 

 

「先生、質問良いですか?」

「はい、織斑君」

「何で俺なんですか?」

「それは――――」

「それは勿論、(わたくし)に勝ったからですわ!」

 

 

 そう言って、立ち上がり腰に手を当てて宣言するセシリア。いつも通りだが、何処か少し違う点に一夏は首を傾げるが、それを置き去りに話は進む。

 

 

「何故なら、(わたくし)、セシリア・オルコットに勝ったのですから当然ですわ。それに、一番勝率が高いのは一夏さんでしてよ?」

「それだったら、辰人が途中で棄権したからだろ?辰人は、これで良いのかよ?」

 

 

 一夏の言葉に、全員が辰人の方に視線を集中させる。辰人は、特に気にせずに言う。

 

 

「別に問題ないだろう。俺は棄権、つまり負け扱いで良いってことで退場したからな。それに」

「「「「「「それに?」」」」」

 

 

 「それに」の後、神妙な面持ちで間をあける辰人。彼の次の言葉に周囲が注目する中、辰人は口を開いた。

 

 

「面倒くさそうだ、一夏に任せる」 

 

 

 その一言に、全員が転びそうになる。その様子を見て、可笑しそうに微笑む辰人。それを見ていたセシリアが口を開いた。

 

 

「あの、辰人さん、一夏さん。申し訳ありませんでした!」

 

 

 セシリアの唐突な謝罪に、一夏と辰人は顔を合わせる。そして、セシリアに顔を向け

 

 

「気にするなって。もう終わったことだし。な、辰人」

「そうだな、俺ももうそのことについて怒ってない。むしろ、こちらも少し感情的になり過ぎた。お相子だよ」

 

 

 そういう両者の言葉に、セシリアは微笑む。周りの女子たちも、そのやり取りを微笑ましげに見ていた。周囲の視線に気恥ずかしさを覚えたのか、セシリアはその頬を少し朱に染めながらそれを隠すように咳払いをする。

 

 

「ん、んんっ!つきましては、この(わたくし)が初心者の一夏さんに手取り足取り教えて差し上げますわ。そうすれば、一夏さんもめきめきと上達……」

 

 

 そのセシリアの一言に過剰に反応したのか、箒が席を叩きつつ、立ち上がった。

 

 

「あいにくと、一夏の教官は私がしている。一夏と辰人から頼まれているからな」

 

 

 その瞳はセシリアを一瞬睨む。先週は怯んでいたが、今日は正面から受け止め、誇らしげに視線を返している。

 

 

「あら、貴女はISランクCの篠ノ之さん。Aの(わたくし)に何かありまして?」

「ランクは関係ない!頼まれているのは私だ」

 

 

 長くなりそうだった論争だったが、たった1人の声で終わることになる。

 

 

「座れ、馬鹿共。貴様らのランクなど何の価値もない。今の段階では北良以外はひよっこだ。実力も無い段階で優劣を付けるな」

 

 

 千冬の一言に、2人は黙る。だが、その言葉に一夏は驚いていた。

 

 

(千冬姉が人を褒めるなんて……。俺だって認められてないのに……)

 

 

 一瞬、黒い感情が芽生えたが、一夏はそれを振り払う。そんな一夏を余所に、話は進んでいた。

 

 

「では、クラス代表は織斑 一夏。異存は認めん、良いな?」

 

 

 その言葉に全員が揃って賛成の意を表す。一夏は頭を悩ませ、辰人はただ窓を眺めていた。

 

 

 

 

 

「「「「「「「織斑くんっ、クラス代表決定おめでとう!!!」」」」」」」

 

 

 クラッカーが乱射され、喧騒が一層大きくなる。それとは対照的に、一夏の心は酷く沈鬱としていた。

 現在、夕食後の自由時間で1組は全員、一夏のクラス代表決定を祝うために食堂へ集まっていた。

 

 

「いやぁ、面白くなってきたね~」

「ほんとだね、盛り上がること間違いなしだよね」

 

 

 周囲から聞こえる話を聞きながら、心中で更にため息をつく一夏に、箒が歩み寄ってくる。

 

 

「随分人気者だな、一夏」

「……本当にそう思ってるのか?」

 

 

 フン、と鼻を鳴らしてお茶を啜る箒はどこか機嫌が悪そうだった。何故機嫌が悪いのか、と問おうとした一夏だったが、触らぬ神に祟りなしと思い直し、寸での所で押し留まる。一夏がどうしたものかと思っていると、

 

 

「はいは~い!新聞部でーす!今回は話題の織斑一夏君と北良辰人君に特別インタビューをしに来ました~」

 

 

 突然掛けられた声に、当人以外のボルテージは最高潮に達している。

 

 

「私の名前は黛 薫子(まゆずみ かおるこ)。新聞部の部長をやってます、宜しく~」

 

 

 そう言って薫子は一夏に名刺を差し出す。本格的だなぁ、と一夏が別の部分で感心していると、薫子は周りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

 

「あれ~?もう一人の男の子は何処?」

「辰人ですか?あいつは今日は来てませんよ、何か調子悪いって言ってました」

「そっか、それは残念だな~。代表候補生に圧勝したって聞いてたから」

 

 

 薫子の一言が聞こえたのか、集団に紛れていたセシリアが一瞬ビクッと震える。だが、それに気づくものはいない。

 その後、セシリアと一夏の2ショット写真を撮る際に一悶着ありつつも、祝いの席は賑やかに進んでいった。

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ始まったか」

 

 

 そう言って、辰人はベッドから起き上がる。その身体からは、おびただしい量の脂汗が流れている。

 衣服を脱ぎ捨て、シャワールームの扉を開く。熱い水滴が降り注ぐ中、今にも倒れそうな体を腕で支えるように壁に手をついている辰人。血の気がない顔からは、安静にしなければならないと誰もが口に出しそうな酷く危うげな印象を受ける。その原因は、彼の体にあった。

 それは、まるで戦場で長い間戦っていた兵士のように、引き締まった肉体に多くの傷と内出血の痕が残っていた。よく見れば、その中には新しくできているものもある。

 

 

「ふぅ……まだ使いこなせないか(・・・・・・・・・・)……」

 

 

 その掠れた呟きは、水滴の落ちる音に消えていった。

 シャワーを終え、簡単な衣服に着替える。

 

 

(今日はもう寝て、早めに起きてランニングでもするか……)

 

 

 そう思い、辰人はベッドに横になろうとした。その時、ドアをノックする音がする。

 一体こんな時間に誰が来たのか、そう思った辰人は

 

 

「空いているから、入ってくれて構わない」

 

 

 そうドアの向こうの人物に声を掛ける。だが、訪問者は一切ドアを開こうとしない。悪戯ではなくドアの前に人の気配があることを確認すると、辰人は起き上がりドアへと歩く。

 そうして、ドアを開いた。だが、そこには誰もいなかった。

 

 

(やっぱり悪戯か?物好きもいたもんだ)

 

 

 心の中で呆れつつ、部屋へ戻ろうとした辰人の視界が、急に暗転した。

 

 

「だーれだっ?」

 

 

 一瞬身構えてしまったが、どうやら声の主の手が自分の視界を覆っていることに辰人は気づく。記憶の中から、この声の人物を探そうとしたが、中々思い出せない。

 辰人が黙考していると、声の主は

 

 

「ふふっ」

 

 

 と声を漏らす。その瞬間、古い過去にも同じ体験をしていることを思い出した。

 

 

(あれは、確か――――)

 

 

 記憶から、もう少しで声の主を特定できそうになった時、

 

 

「ざ~んねん、時間切れよ。もう、本当に忘れちゃったの?」

 

 

 そう言うと、声の主は両手を離した。辰人は声の主を確認するべく振り返る。

 その相手は、まだ辰人が北良家に入ってすぐ、同業の暗部組織であるとある家(・・・・)との模擬試合をする機会があった。その時に、辰人はこの少女と会っている。

 

 

(確か、名前は――――)

 

 

「更識、k――――」

 

 

 声の主の名前を言おうとした際、いつの間に取り出したのか、少女の手には扇子が握られており、その扇子の先端が辰人の口を押えている。

 

 

「やっと思い出した?でもその名前はダメよ、辰人くん。今、おねーさんは更識家の当主だから、楯無。良い?」

 

 

 そう言うと、少女ー楯無ーは微笑む。その際、頬が少し赤くなっていたが、そのことに辰人は気づかなかった。

 

 

「久しぶり。もうあれから大分経つけど、よく俺の事覚えてたな」

「当然よ?だって……だもの……」

「?」

「ふふ、おねーさんのヒ・ミ・ツ★」

 

 

 昔と大分変ったな、と思いつつ辰人は苦笑した。その表情で更に楯無の頬が赤くなっているのだが、それを辰人は知らない。

 

 

「そっちは相変わらずね」

「まあな。それで急にどうしたんだ?何か話でもあるなら部屋に入るか?」

「確かにそれも魅力的な提案だけど、今日の所は遠慮するわね。ただ、少し顔を見に来ただけだから」

「そうか、じゃあ俺は寝る。また何かあったら部屋尋ねるなり校内放送で呼ぶなりしてくれ」

「分かったわ。お休みなさい、辰人くん。また来るわね」

 

 

 こうして、1日は終わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

「織斑君、北良君。おはよー。聞いた、2組に転校生だって」

「こんな時期に転校生って珍しいな」

「そうだな。でもこの時期に転入してくるってことは何処かの代表候補生なんじゃないのか?」

「北良君ご名答。中国からだってさ」

 

 

 教室に着いた瞬間、クラスの女子が話しかけてきた。それに応対していた一夏だったが、話の内容に興味を惹かれたのか、辰人も会話に交わる。

 

 

「ひょっとしたら、2組の代表が変わる可能性もあるか。一夏、注意した方が良いぞ」

「大丈夫だよ!そんな簡単にクラス代表は変わらないから、織斑君頑張ってね!」

 

 

 更に周りも会話に参加し、話が更に盛り上がりを見せたその時、

 

 

「――――その情報、古いよ」

 

 

 教室の入り口から声が聞こえる。その声は、わいわいと騒いでいる教室の中にしっかりと響いた。

 

 

「2組も代表候補生がクラス代表になったの。そう簡単には優勝させないから」

 

 

 その声の主は、腕を組み、片膝を立たせてドアにもたれている。その姿を見て、一夏の顔が驚愕に染まっていく。

 

 

「鈴?お前……鈴か?」

「そうよ。中国代表候補生、凰 鈴音(ファン リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 

 不敵に微笑むツインテールの少女に対し、一夏はこう言った。

 

 

「何で格好付けてるんだ?正直言ってあんまり似合ってないぞ、それ」

「んなっ……!?何てこと言うのよ、アンタは!」

 

 

 一瞬でさっきまでの態度が崩壊していった鈴。仲睦まじく話している2人を見ながら、辰人はとある人物たちの様子を窺った。

 やはり案の定、その人物たち―セシリアと箒―は、一夏と鈴の様子を見て気が気でないらしい。

 

 

(強く生きろよ、色男) 

 

 

 そう心の中で友人のこれからを案じつつ、自らの席へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

  

 辰人はセシリアと箒に正直言って呆れを通り越して尊敬の念を抱いていた。午前中の全授業を通して、麻耶に5回注意を、千冬の出席簿に3回叩かれている。間違いなく一夏のことを授業の中で一心不乱に考えていたのだろう。彼女らにとって、突然大きなリードをしているライバルが現れたのだから、当然であると言える。

 

 

(だからと言って、学習しないのもどうなのだろうか)

 

 

 現にセシリアと箒は、一夏に文句を言っている。一夏の表情には、何故の2文字しか残っていなかった。そうしている内に、一夏は2人の口撃から逃れて、辰人の元へとやって来る。

 

 

「なあ、辰人も一緒にメシ食べに行こうぜ」

「悪いな一夏、今日はちょっと呼ばれててな。俺は生徒会室に行ってくる」

「そうか、じゃあまたな」

「ああ」

 

 

 セシリアと箒、その他の女子を引き連れて食堂へ向かう一夏に背を向けて、辰人は生徒会室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「会長、少し落ち着いて下さい」

「だ、だって(うつほ)ちゃん……!わ、私変じゃないわよね?」

「はいはい」

 

 

 此処はIS学園生徒会室。そこにはIS学園最強の称号を持つ2年の生徒会長―更識楯無―と3年で生徒会会計―布仏 虚(のほとけ うつほ)―がいた。

 

 

「ならどうして急に彼をこちらに呼んだのですか?」

「うぅ……。わ、分かってるわよ。きょ……極力平静を装うから……。」

 

 

 虚の言葉に頷く楯無だったが、そわそわと挙動が不審で、頬がほんのりと赤くなっていることから説得力が全くない。そんなやり取りをしていると、

 

 

「失礼します」

 

 

 と言う声と共に、辰人が生徒会室へと入ってきた。特に気にせず、近くの椅子に腰かける。

 

 

「やあ、辰人君。昨日ぶりだね」

 

 

 さっきまでのおかしな行動を感じさせない、いつも通りの楯無に、虚は心中でくすりと笑った。

 

 

「それで、用件って言うのは?あ、先輩だから敬語の方が良いですか?」

「ううん、楽な話し方で構わないわ。……敬語なんて、距離が遠くなるだけじゃない……」

「?」

「んんっ……用件はただ1つ。辰人君、あなたを生徒会の副会長に任命します」

 

 

 そう言い放ったと同時に、楯無は扇子を開く。その扇子には、達筆で『会長命令』と書かれていた。その準備の良さに、呆れを越えて尊敬の念を持った辰人だったが、

 

 

「どうして俺を?理由を聞かせてもらおうか」

「それは簡単よ。この学園に2人しかいない男子を部活に入れないのはおかしいっていう声が出てきてるの。まだそこまでじゃないんだけど、あまり事が大きくなる前に生徒会に入れた方が早いかなって。それに、辰人君の実力は折り紙付きだしね」

「成る程、混乱防止と私兵確保か。でもそしたら、一夏も入れなくていいのか?」

「ふふ、一夏君については、ちょっと面白いことを考えてるから、また今度ね」

 

 

 まるで玩具を見つけた子供の様に微笑む楯無を見て、辰人は友人の無事を心から祈るしかなかった。それが、例え無駄に終わるとしても。

 

 

「話はそれだけか?ならもう良いよな、じゃあこれで」

「待って待って!返事をまだ聞いてないわよ?」

「良いぞ。副会長、やるよ。それじゃ」

「そうよねやっぱり嫌よね……って、え?」

 

 

 一人芝居を行っている楯無と、それを微笑まし気に眺める虚に背を向けて、辰人は生徒会室を出て自らの教室へと向かう。

 扉が閉まり、辰人の姿が見えなくなった数秒後。予想外の返事に固まったままの楯無の肩を、虚は揺らした。

 

 

「会長、もう辰人君は帰りましたよ。いい加減に帰ってきてください」

「……っは!?聞いて、虚ちゃん。私白昼夢を見てたみたい。辰人君が副会長を快く承諾してくれた夢なんだけど……」

「安心してください。それは現実です、良かったですね」

 

 

 ようやく事態が呑み込めたのか、再び顔が赤くなる楯無。

 

 

「好きなら好きと伝えた方が良いのでは?この学園に2人しかいないんですから、狙ってる子は多いと思いますけど……」

「そ、それは……ちょっと早くないかしら……。辰人君はまだ、きっとそんなこと考えられる状況じゃないもの……」  

 

 虚の言葉に答えつつも、楯無はただ、生徒会室の扉を悲し気に見つめることしか出来なかった。

 

 




 今回は、切らずに話を進めていくと長くなりそうだったので、前後編にします。なので次回予告は無しです。

 それではまた次回で


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恋も憎いも『青いうち』 後編

 

 ー辰人、更識の家と試合をやるが、お前も見に来るか?-

 

 

 そう義父(おやじ)に言われた。周りを見渡すと北良家の皆がいる。

 もう、二度と戻らないあの時間が目の前にある。これが夢であることは明白だった。

 すると、急に場面が切り換わり、北良家よりも立派な屋敷ー更識家ーに場面は移る。

 北良と更識の模擬試合を見ていた俺は、身体が動かしたくなり、許可を貰って裏手で素振りをすることにした。

 

 

 その時だ、彼女と出会ったのは。そして俺たちは少し話していたのを覚えてる。

 確か、なんて言っていただろうか――――。

 

 

 彼女が微笑んだ瞬間。その景色は赤く、朱く染まる。屋敷が燃えていた。だが、その屋敷は、俺が見慣れた、そしてもう無くなった自分の家で。

 目の前の彼女は消え、そこには朱い修羅が錫杖を持って立っている。修羅は、この情景を見て、笑っていた。瞬間、目の前から修羅が消える。その修羅を見て、焦燥と不安に駆られていた俺は、安堵した。

 

 

 だが、紅い水面に映り込んだ自分を見て、気が狂いそうになる。

 何故なら、その修羅の顔は、狂気の笑みが張り付いた自分自身のそれだったのだから。

 

 

 

                  

 

 

 

「……」

 

 

 ベッドから状態を起こした辰人の顔は、まるで死人のように青い。辰人は、机に置かれた写真を一瞥して呟く。

 

 

「……体は問題ない。問題は心、か……。乗り越えたつもりだったんだがね……」

 

 

 時計を見ると午前の5時を示している。

 

(とてもじゃないが、寝直すのは無理だな)

 

 自らが見た夢を再び見るのを恐れた辰人は起き上がり、動きやすい格好に着替え、部屋を後にした。

 

 

 

 

 5月になり、辰人は特にこれといって変化がなかった。だが、友人である一夏はぐったりとしている。後で知ったことだが、あの2組のクラス代表は一夏の幼馴染であり、箒やセシリアと同じく一夏に恋しているということは箒とセシリアを見れば明白だった。一夏本人は3人の気持ちに一切気づいていないが。

 

(こいつの鈍感さがたまに演技なんじゃないかと思うが……まあ、良いか)

 

 疲れた様子で重いため息を吐く一夏を自分の席から眺めていた辰人だったが、予鈴が響くとその意識を授業へと移していった。

 

 

 

 

 

「北良くん、お茶をどうぞ」

「ありがとうございます、虚さん」

 

 

 放課後の生徒会室。そこで辰人は書類仕事をこなしていた、楯無がさぼった分を含めて。

 

 

「ごめんなさい、会長の分までやって貰っちゃって」

「いえ、これでも副会長ですから」

 

 

 辰人と虚が談笑する中、そのさぼった本人である楯無は、虚の鉄槌によって沈められ、定位置である会長席に拘束されている。様々な書類の山を相手に涙ぐむふりをしながら。

 

 

「う、虚ちゃん?私もお茶が欲しいな~って「会長は黙って仕事をしてください」」

 

 

 虚の口撃によって再び沈められた楯無は縋りつくような視線を辰人に向ける。それは、さながら雨の日に捨てられている子猫のようだった。

 

 

「まあまあ、本人も反省してるんですし。お茶位は良いんじゃないですか?」

「た……辰人くん!」

 

 

 辰人の言葉で輝くような笑顔を浮かべる楯無。

 

 

「……北良くんがそう言うのなら。会長、次はありませんからね?」

「……はーい」

 

 

 こうして、放課後が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を済ませ、シャワーも浴び終わり、部屋で(くつろ)いでいた辰人だったが、自室の扉をノックする音が聞こえると途端に苦虫を噛み潰したような顔になる。辰人は、直感でこの扉を開ければ面倒なことになると気づいていたが、その人物の声を聞いて開けざるを得なくなった。

 

 

「辰人、居るか?俺だ、一夏だ」

 

 

 その声を聞き、扉を開ける。一夏は「お邪魔します」と言った後、適当な所に腰を掛けた。

 

 

「で、珍しいな。何かあったか、色男?」

「色男はやめてくれ、キャラじゃない。結構まじめな話だよ、ちょっと相談に乗ってほしくて」

「ほう、それでその相談っていうのは?」

 

 

 一夏の言葉に真剣さを感じ取った辰人は、その相談内容を言うように促す。

 

 

「2組の新しいクラス代表の事なんだけど……あいつと俺は幼馴染でさ、久しぶりに会って、少し話したら急に怒り始めたんだよ。俺何か悪いか?」

 

 

 その内容を聞いただけで辰人は毒気が抜かれた。

 

(真面目に聞いて損したな……。それにこれは確実に只の痴話喧嘩……。面倒だな)

 

「なあ、一夏。その2組の代表と何話したんだ?」

「え?いや、普通の事だぞ?今まで何してたとか……後は、約束とか」

「そうそれだ、きっとその約束を忘れてたんだろう」

「そんな事無いぞ。あいつが毎日酢豚を俺に奢ってくれるっていう約束だったのに。鈴の奴、急に怒り出して」

 

(こいつ鈍感にも程があるな。その約束、絶対『毎日私の味噌汁~』の類だろ。話に付き合ってるだけ無駄だ……)

 

「まあ、当人同士じゃないと分からないこともあるから、俺じゃ力になれないみたいだ。悪いな」

「……そっか。サンキューな、話を聞いてくれて。少し楽になった」

 

 

 そう言うと、一夏は部屋を出ようとする。その背中に向けて、辰人は言った。

 

 

「そう言えば、忘れてた。来週その2組と代表戦だろう?頑張れよ」

「ああ」

 

 

 一夏は部屋を後にする。その後、一夏が入っていくのを目撃した女子たちに侵入され、あらぬBL(疑惑)の質問攻めを受けた後、騒ぎを聞きつけた寮長である千冬のありがたい鉄槌を女子と共に受け、一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 そして、試合当日の第二アリーナには人が溢れていた。理由は簡単だった。1人は2人しかいない男子にして最強(千冬)の弟、織斑 一夏。そして対するは、転入直後にクラス代表の座を奪うほどの実力を持つ中国代表候補生、鳳 鈴音。この目が離せない組み合わせに、既に試合前にも関わらず、会場は熱気に包まれている。

 予想以上の人間に見られ、少し緊張していた一夏だったが、一息呼吸を整えると、目の前の対戦者へと意識を向ける。

  《甲龍(シェンロン)》。そのISは鋭さが所々にあり、その攻撃性を強調していた。更に、両肩に少し離れて浮いている非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)のスパイクアーマーが存在感を際立たせていた。加えて、鈴のやる気に満ちた表情と堂々とした姿と相まって、一夏はまるで龍に睨まれているような気分になった。

 

(……っと、相手に吞まれるわけにはいかない。俺だってここまで積み上げてきたものがあるし、どうしても聞かなきゃならないこともあるしな)

 

 試合前、急に現れた鈴と一夏は約束した。この試合に勝った方が、負けた方に何でも1つ言うことを聞かせられる、と。

 

 

『それでは両者、規定の位置まで移動をしてください』

 

 

 そんなことを考えていた一夏だったが、アナウンスを聞いて思考を中断し、ISを操作し規定の位置へと移動した。既に5メートル先には鈴が滞空している。両者が対面したと同時に、アリーナ中の熱気が更に高まり、収拾がつかなくなるまでになる。だが、当人たちー一夏と鈴ーはそんなものなど聞こえていなかった。両者はもう目の前の相手だけを見て、開始の合図だけを待っていた。

 そんな時、突然鈴からの通常通信-開放回線(オープン・チャンネル)-が入る。

 

 

「一夏、今謝るなら痛めつける程度に抑えてあげても良いわよ?」

「そんなものはいらない、どうせ雀の涙も無いんだろ?全力で来い」

 

 

 自分の言葉で更に気を引き締めながら、一夏は勝つことのみを考える。一夏はどんな時も勝負は全力で挑んでいくのが信条な為、今の言葉は強がりでも何でもない。鈴もそれを分かったのかそれ以上の言葉を発しなかった。

 

 

「ふぅん、良いわ。それなら全力で潰してあげる。一応言っとくけど、ISの絶対防御は完全じゃないのよ。シールドエネルギー(・・・・・・・・・)を上回る攻撃(・・・・・・)があれば、ダメージは貫通できる」

 

 

 鈴が言ったことはある種の事実を語っていた。噂では、甚振(いたぶ)るためだけの装備も存在するらしい、という話は一夏も何処かで聞いた覚えがある。しかし、ISでの試合の際は競技規定によって禁止されている。そもそも、人体に危険が及ぶため、当たり前の措置だろう。だがそんなものが無くとも、殺さないように(・・・・・・・)甚振る(・・・)ことは可能である(・・・・・・・・)ことが可能なのも変わりようがない事実であることも、一夏は知っていた。鈴の言葉は、それが可能なほどに実力があるということの自信の表れなのは明白だ。

 一夏がセシリアと戦った際健闘を見せられたのは、(ひとえ)にセシリアが慢心していたことと、奇跡の賜物であることは一夏自身気づいている。そして、奇跡が2度も続くことが無いことも。

 

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 

 その言葉と同時に鳴り響いたブザー。瞬間、一夏と鈴は互いに肉迫し、互いの得物で斬り結ぶ。一夏は、自らの唯一の装備である近接ブレードー雪片弐型ーを、鈴は、両端に刃の付いた異形の青竜刀のような大型ブレードー双天牙月ーを振るう。両者の武器のサイズの違いと実力の差からか、明らかに一夏が劣勢だった。一夏は何とか相手を正面に捉えながら近接戦を繰り広げていたが、その顔には余裕はない。鈴の振るう双天牙月が、バトンのように回りながらあらゆる角度から斬り込んでくるためだ。現在一夏は、その高速でいて重さのある斬撃を捌くだけで手一杯で、鈴のISに傷1つ付けられていない。

 

 

「へえ、意外とやるじゃない。けど――――」

 

 

 一夏の実力が予想以上だったのか、不敵に微笑む鈴。だが、それが相手は笑えるほどに余裕があることを物語っている。

 

(不味い、このままじゃ消耗してジリ貧になる……。1度距離を)

 

 その一瞬の迷いが、一夏の決定的な隙となる。それを見逃すほど、代表候補生は甘くない。

 

 

「――――甘いっ!」

 

 

 非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が展開し、内部の球体が光った瞬間。一夏は、まるで『殴られた』ような不可視の衝撃を受けた。意識を喪失しかける一夏だったが、何とか耐える。しかし、鈴の攻勢は止まることを知らない。

 

 

「一夏、今のは牽制(ジャブ)だからね」

 

   

 その言葉を聞いた時、再び先刻以上の衝撃が一夏を襲い、地表へと叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 IS学園より数十キロ先の海上に辰人は居た。無論、現在辰人は調子が悪いため(・・・・・・・)個室で休んでいる(・・・・・・・・)ことになってはいるが。

 

 

「……向こうも派手にやっているようだな。なあ、アンタもそうは思わないか?」

 

 

 朱き修羅《夜天光》を既に展開している辰人は、錫杖を肩に担ぎながら、傍らにいる相手に語り掛ける。その相手もまたISだった。正確に言えば、ISかもしれない兵器(モノ)だった。それの全長は、従来のISよりも頭1つ大きい。また、腕部が大きく図体もがっちりしていて、それはまるで鉄の巨人のようで、海の蒼をそのまま塗ったような色をしていた。

 

 蒼い巨人は、返答の代わりに胸部の装甲の一部を展開。そこにぽっかりと空いた穴から、高出力の熱線(レーザー)を放出させた。辰人はそれを難なく回避する。だが、それを狙っていたかのように蒼い巨人は両手を前に出す。すると両腕が切り離され(・・・・・・・・)、《夜天光》目掛けて発射された。驚愕に顔を染める辰人だったが、それも一瞬のことで、舞うように避けながらも接近し錫杖を振るうが、その全てが装甲の表面を削るのみで相手には何の影響も無いようだった。

 

 

「……厚いな。それに一撃の威力が高い。厄介なことだ」

 

 

 辰人はそう呟きながらも、ヒット&アウェイの要領で戦闘を続ける。だが、蒼い巨人は戦うたびに成長しているのか、段々と攻撃の精度を上げていく。

 刻一刻と状況が悪い方へ向かっていく中、辰人は覚悟を決めた。

 

 

「……あれをやるしかないか。成功率は五分だが、このままじゃ()られる」

 

 

 正確に放たれた熱線(レーザー)を舞うように回避し、辰人は錫杖を頭部と思われる部分へと投げつける。それは難なく弾かれるが、蒼い巨人は錫杖に気を取られたのか、一瞬動きが止まる。

 

 その隙を辰人は見逃さなかった。《夜天光》の腰部の側面を覆っている装甲が一部展開。その装甲の隙間からは、ミサイルがずらりと並んでいた。それは火を噴き、1つ1つが違う動きをしながら、蒼い巨人に迫るが、蒼い巨人はミサイル程度大した脅威ではないと言うように、その場に滞空していた。だが、そのミサイルが(・・・・・)目の前から突然消える(・・・・・・・・・・)。次の瞬間、蒼い巨人は内部から爆発四散し(・・・・・・・・・)、蒼い巨人は海へと落ちていった。

 

 

「目標沈黙。……さて、戻るとするか」

 

 

 ついさっきまで戦いを繰り広げていたとは思えないような軽さで呟くと、辰人は自らの左目に意識を集中させた。すると、今自分が見ている景色と違うものが見えてくる。

 

 自らが所属する学園のアリーナに突如現れた、謎の黒いIS。それに鈴と対処に当たっているという一夏の視点(・・・・・)が、辰人の左目には映っていた。一度距離を取って相手の対処の仕方を鈴と相談しているのが見て取れる。だが、その時、何故か制服姿の無防備なままで中継室で叫ぶ箒の姿を確認したとき、辰人はため息をつく。

 

 

「……使用は禁止されているし、ここまでの距離では成功するかも分からないか……。だが、これも仕事だからな」

 

 

 辰人がそう言った瞬間、《夜天光》が輝き始める。それは、ISが展開する時や武装を展開する際の輝きに酷似していた。

 

 

「……跳躍(ジャンプ)

 

 

 そう静かに、しかししっかりと言った刹那、《夜天光》はその場から消えた(・・・)

 

 

 

 

 

 

 叫ぶ箒に反応し、砲身がある腕を声の方向へと向けた黒いISを見た一夏は、間に合わない、と感じていた。全てがまるでコマ撮りされていくように、しっかりとその瞳に刻まれる。そして、黒いISの腕から放たれた閃光が、箒を覆って――――

 

 

 

 

 

 自らの視界が白い輝きで染まった時、箒は死を覚悟した。今自分に出来るのは、目を瞑り、痛みと恐怖にその身を捧げることしか残されていない。だが、不思議なことに、謎の浮遊感以外には、痛みなど一切感じることはなかった。疑問に思い、目を開くと、そこには朱い修羅(この場に居ない級友)が目前に居る。

 

 

「辰人!?な、何故貴様がここに居る!?な――――」

 

 

 そう問いかけようとした箒だったが、その級友を改めて見て、絶句した。

 

 まず、《夜天光》の装甲の隙間から溢れ出る赤色の液体。デュアルアイからも涙の如く流れていたそれが、血液だと分かった瞬間、箒は震えて喉から声が出せない。更に、顔の装甲も半分無くなり、左目がそこからこちらを覗いているのが見えた。

 

 

「……無事か?」

「あ、ああ……」

「それは何より。――――じゃあ、お前ら。後は任せた」

 

 

 そう言うと、辰人の意識は暗転した。




 謎のIS2体の撃退に成功した辰人たち!再び始まる日常の平穏。しかし、それは新たなる嵐の前触れに過ぎなかった!

 こんなに問題ばっか山積みで、明日はあるのかIS学園!頑張れ生徒、頑張れ教師!

 何故か、人数の足りている1組に「三人目」と鈍感朴念仁に因縁のある娘が現れる!


 次回、IS 朱夜の残光!金と銀、そして『三人目の男子!?』を、皆で読もう!


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