島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~ (伊吹恋)
しおりを挟む

パロディー編
ミオケル・ジャクソンの真実1


今回はパロディー回です!

本編とは一切関係ありません!


イギリス人ジャーナリストシマムー・カズーキは世界的スーパースターミオケル・ジャクソンの密着取材に成功そのドキュメントが世界を驚かせた。しかし、さらなる未公開映像が衝撃的真実を伝える。

 

 

私は今日、ミオケルとその子供と買い物に来ていた。ミオケルの子供とはどういう子なのか・・・。なぜかその子供は顔をマスクで隠していた。

 

僕はミオケルと話をするために椅子に座りお互い向かい合って語り合う。・・・なぜか子供はおもちゃのバットを手にしてうろうろしていた。

 

「それじゃあミオケル、僕に娘さんを紹介してくれるかい?」

 

「いいわよ。おいでアン」

 

マキーと呼ばれる娘を手招きして近くまで来させる。

 

「アンズー・ミオケル一世。私の娘よ。愛称はアン」

 

「ああ、よろしくアン」

 

僕が手を伸ばし、握手を求めるとアンは手に持っていたバットで僕の頭を叩いた。

 

「ッ・・・」

 

あくまでおもちゃのバットだがそれでも少し痛みが頭に走り少し判断力を鈍らせた。

 

「・・・ははは、元気な娘さんだ」

 

僕は平然を装いミオケルに言うとミオケルは「ありがとう」と返してくれる。

そして質問としてアンのマスクのことを聞くことにした。

 

「なぜ彼女はマスクを?」

 

「私は、マスコミが大っ嫌いで・・・あ」

 

バシン!

 

二度目のバットによる頭への攻撃が僕の頭に襲いかかる。どれだけやんちゃでも限度がある。僕は少し苛立ちしながらミオケルに注意するように促す。

 

「・・・ミオケル?」

 

「彼女は何もしてないわ」

 

「・・・ミオケル・・・あ」

 

バシン!

 

次にアンがバットを振ったのはミオケルの頭。バットはミオケルの頭に強打するがミオケルはまるで何も起こっていないような素振りを見せる。

 

「ミオケル今のははっきりと分かったろう?」

 

「・・・何をしたっていうの?」

 

あくまでシラを切る気のミオケルに僕は注意をする。

 

「今君の娘がぁ、ばっt」

 

パキィィィン!

 

よそ見をしていたらアンは横にあった壺に向かってバットを振るった。もちろんそんなことをすれば壺は粉々に砕け散った。それを見てミオケルはその壺を指さし

 

「これ買うわ」

 

と言った。

 

「いいのかい?」

 

「ええ、ちょうど欲しかった壺なの」

 

「でも割っちゃったんだよ?」

 

「割ってないわ数を増やしただけよ」

 

その回答に僕も笑いをこらえる。

 

「ミオケル、なぜ注意しない?」

 

「私は小さい頃、父親に暴力を振るわれたわ」

 

「ミオケル、君の幼少時代は僕もよく分かってる。でも、君の娘がやってることは注意するべきだよ」

 

などと言っているとまたアンは僕にバットを向ける。するとアンはバットの先端を僕の顎にくっつける。

 

「ミオケル、また何か始まろうとしてるぞ?」

 

「何も見えないわ」

 

「恐らく、痛い予感がする」

 

その予感はまさに的中、アンはそのままバットの取っ手の先を手のひらでポンと押した。すると強ばった僕の顎に向かって衝撃波が走り、上顎に向かって痛みが走る。

 

「う゛ッ・・・!ミオケルゥ・・・!」

 

アンはさっきのことで僕に叱られると勘違いしたのだろう。アンはミオケルのそばに行きすり寄る。

その行動を僕の苛立ちを加速させる。

 

「アンとはホント仲良しなの。同じベットで寝るくらいね」

 

「それは分かってる今、僕は君の為に注意した。この子の為にならない・・・!」

 

それだけを言うとアンはミオケルの鼻に指を近づけ、鼻を取った。・・・鼻を取った?

 

「ミオケル今・・・!」

 

そそくさとミオケルは自分の鼻を手に戻しそれを鼻に再装着させる。その行動には僕の気持ちを代弁するように辺りから笑いが起こったように聞こえた。

 

「ミオケル!?」

 

「どうしたの?」

 

「・・・今・・・確かに鼻が取れた・・・」

 

「私は整形なんてしてないわ」

 

・・・まだ何も言っていないが

 

「じゃあなぜ?」

 

それをまた証明してくれるようにアンはミオケルの鼻を手に取った。そそくさと再びその鼻を手に取るミオケルに僕はその鼻を持った手を掴む。そしてそれを指さし、問いかけた。

 

「これはなんだ?」

 

「これは・・・クッキーだよ」

 

以外!それは、クッキー!!そんな言い訳がこの世に存在していたとは思わなかった。僕は今にも吹き出しそうだ。

 

「そんなことはない・・・クッ・・・wミオケルゥw確実に・・・!クッ・・・wクッキーじゃ無いw」

 

とうとう吹き出してしまった。僕は何とか笑いを抑えて言う。

 

「美味しいわよ、カズーキ食べてみて」

 

「食べないよ!ミオケル!君は、ここ(鼻)から取れたんだw」

 

「これはクッキーよ」

 

「じゃあなぜ鼻に付けるんだおかしいよ」

 

「食べやすいからよ」

 

と言いながらまた鼻を付けるとアンがその鼻を取る。

 

「ホラまた・・・」

 

アンは僕に近づき、さっきまでミオケルが付けていたその付け鼻を僕の鼻に付ける。

 

「マミー!」

 

アンは横にいるマミーを尻目に僕をマミーと呼び抱きついてくる。いや、ダディーだよどっちかというと・・・いやそうじゃなくて

 

「ミオケル、ミオケル注意をアンに注意すべきだアーン、よく聞け僕はマミーじゃないよ」

 

「マミー!」

 

「違うよボクは・・・」

 

飽きたのか次は僕の鼻に付けていた付け鼻を取り、ミオケルの鼻に逆さまで付けた。

 

「ありがとう」

 

その姿、シュール過ぎるその姿を見て僕は笑いを堪えているが、アンは後ろを見て吹き出してしまっている。

 

「フwwwフフフwww」

 

「注意・・・w注意すべきだミオケル、君の鼻は確実におかしいよw」

 

「私の鼻は正常よ。貴方の鼻がおかしいわ」

 

「・・・だって、鼻の穴が下を向いてないんだぞ?」

 

「・・・こっちの方が、空気が入りやすいわ」

 

アンはまた鼻を取る。もう何度目かのこの行動にミオケルは諦めを付けたように鼻を取らせる。

 

「ミオケル、君の娘も間違ってるし君はピーターパンでもなんでもない!」

 

「子供は純粋、天からの贈り物天使なの、それで私も同じ心なの、そう私は・・・ピーナッツパンなの」

 

「ミオケルw ミオケルピーターパンだろ?今君はピーナッツパンなのか?」

 

「私はピーナッツパンよ」

 

「・・・ミオケル、横を見てみな」

 

横を見るとアンがさっき取った鼻を膝に付けていた。それをミオケルの顔のすぐ横に置いていた。それを見てミオケルも吹き出す。

 

「wwwww」

 

「これは、どう説明してもらえれば・・・」

 

「これは・・・」

「コレハ・・・」

 

アンは母親の言葉に合わせ靴下を動かし口の動きを再現させる。

 

「膝マミーよw」

 

僕はここまでいろんな事を見てきた。だが最後に言いたいことがあった。

 

「この親子はバカか?」

 

まだまだミオケルの謎は深まるばかり、私はこれからもミオケルの取材を続けるつもりだ。

それまで続報を待っていて欲しい。

 

書:シマムー・カズーキ

 

 




元ネタ:ゴリケル・ジャクソンの真実

キャスト

シマムー・カズーキ:島村一樹
ミオケル・ジャクソン:本田未央
アンズー・ミオケル一世:双葉杏


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
番外編「アイドルマスター シン撰組ガールズ 」


時は幕末、世は攘夷で燃える狂乱の時代。そこには無数の志士達の壮絶な戦いが描かれていた。

 

男は日の本を救うが為に奔走する。

 

「俺は、新撰組に入り、その動向を見る!」

 

乱れ始める国を守るため戦う男!

 

「あんたの名前は?」

 

男は坂本龍馬から斎藤一と名乗る。

 

「斎藤一」

 

男の本当の救うもののための戦いが始まる。

 

「お願い!あなたを坂本龍馬さんとしてのお願い。見逃して」

 

「ッ!」

 

「この国を想うのは同じはずでしょ!?」

 

裏切り者は誰か!?

 

「し、信じられないけど、新撰組の中に裏切り者が…」

 

揺れていく疑惑、友情。

 

「俺は新撰組を信じている。だから、俺はこの鎖の掟を守る」

 

「本気で言ってる?自分のやり方が出来なくてどこがロックなの?」

 

「そんなの納得いかないにゃ。みくは自分を曲げないよ!」

 

裏切り、裏切られたその先に待つものとは?

 

「こ、これって…」

 

「そんな…間に合わなかったのか!?」

 

「お願い...新撰組を...日本を...」

 

「近藤局長!!」

 

「近藤さん!!」

 

守るための剣が欲しかった。すべてを守る力が欲しかった。その為に剣を手にしたのだから。

 

 

「誰も泣かないでいい世界があるならそれは素晴らしい。俺が目指してるのはそんな国だ」

 

「実現する為に私達は剣を取ってるんだよ。違う?」

 

男の待つ結末は!?

 

 

 

「兄妹たちよ。また明日(あいた)じゃ!」

 

 

 

アイドルマスター シン撰組ガールズ

   ~狐狼の剣士~

 

この夏公開

 

「というのはどうでしょうか」

 

カツカツと歩いてきて、武内の目の前にカツカレーを出して一言口にする。

 

 

 

「却下」

 

「そ、そうですか...」

 

「大体さあ何で俺が出るんだ。そしてこれパクリだね。完全にどっかの極道ゲームだね。あんたがこの話考えたのか?」

 

「作者が龍が〇く6をやって思いついたらしいです」

 

「余計タチが悪いわァァー!!!」

 

オチなんてねえ

 

おわり

 

あとがき

文字稼ぎの為のあとがきです。今回投稿が遅くなりやっと書く時間ができました。主には龍が如くとか龍が如くとか龍が如くとかバイオハザード7とかで忙しかったですすいません許してください悪気はなかったんです。気がつけば私の手にはコントローラを握っていたのです!

ということで今回はアニメアイドルマスター シンデレラガールズの特別版であったアイドルマスター シン撰組ガールズと龍が如く維新のパロディです。これからもこんな風に色々パロディとかしてみたいですねー。

そして今回本編とこの番外編2話投稿させていただきました。これからも島村一樹の物語に付き合ってください。

 

それでは ボックス!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編「日常」

ふと思いついた小ネタ集


一樹とニュージェネレーション いつもの日常

 

卯月「お兄ちゃん、卯月頑張りました!」

 

一樹「そうかそうか、その調子で頑張れよ」

 

そう言いながら一樹は卯月の頭を優しく撫でる。それに対して卯月は頬をほんのり赤くしながら笑顔を一樹に見せる。

 

卯月「はい!」

 

凛「あの兄妹見てるとさ」

 

未央「何だか心がポカポカするよね」

 

凛「お兄ちゃんか...何だか羨ましいよ」

 

一樹「何だ凛、兄貴が欲しいのか?なら、試しに俺の事兄貴と思ってくれても...」

 

卯月「それはダメです!お兄ちゃんは卯月だけのお兄ちゃんです!」

 

一樹「ハイハイ、卯月は可愛いなぁ」

 

凛「...見てるだけで充分だね」

 

未央「だねー」

 

そんなのほほんとした時間を過ごすニュージェネレーションとプロボクサーの日常であった。

 

某RPG風掛け合い

その1

未央「ちょろいよ!」

 

凛「甘いよ!」

 

卯月「ちょろあまですね!」

 

一樹「ちょろあまって何だ?」

 

その2

卯月「私たちの武器は、笑顔と!」

 

凛「団結と!」

 

未央「勇気!」

 

一樹「決まったな」

 

その3

卯月「私たちの武器は、勇気と!」

 

凛「団結と!」

 

一樹「料理!!」

 

未央「料理!?」

 

その4

恭介「いくぞ、俺達は...!」

 

一樹「負けねえな!」

 

みく「負けないにゃ!」

 

きらり「負けないにー☆」

 

恭介「合わせないよね…」

 

その5

恭介「俺達は」

 

未央「負けないし!」

 

卯月「くじけないし!」

 

凛「倒れないし!」

 

恭介「揃わなくても泣かないし…」

 

その6

 

恭介「俺達は」

 

一樹、卯月、美波、恭介「「「負けない!」」」

 

その7

一樹「ちょろいぜ!」

 

左手と右手から刃を出してフードを被った男「甘いぜ!」

 

服に血が付いて肩に弓を背負って銃を構える男「ちょろあまだぜ!」

 

一樹「...誰?」

 

うらます 温泉

みく「きたにゃきたにゃー!!みんなこっちこっち!!」

 

みりあ、莉嘉「なになにー?」

 

ある場所まで来ると3人はスコップを手にその場所の土を掘り出す。

 

みく「ここに温泉があるってネコちゃんパワーが教えてくれたにゃー!」

 

みりあ、莉嘉「マージでー?」

 

そんな中で一樹はそれを見ずコーヒー片手に新聞を読む。

 

みく「お兄さん!そんな所にいないで一緒に手伝ってよ!」

 

一樹「くだらんガセネタに付き合っても時間の無駄だよ」

 

みくはチェッと言うと3人は黙々と作業を進める。

 

ザバー

 

みく、みりあ、莉嘉「でーたー!!」

 

3人は水着を着込み一目散と風呂に入ろうとする。だがそこに先客がいた。

 

一樹「硫黄の香りが目に染みるな…」

 

コーヒー片手に風呂に入っている一樹

 

みく「って一番風呂かい!」

 

 




ということで、小話とテイルズシリーズ掛け合いとうら最パロディでした。

うち掛け合いの中で出てきた謎の男2人は私が出してる他作品のオリ主です。こちらもどうぞお願いします!

それでは、ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編「日常」その2

少女の小さな悩み

 

 

 

 

幸子「お兄さん!また可愛いボクが遊びに来ました!」

 

一樹「幸子ちゃんこんにちは。今仕込みをしてる所だから適当な席で寛いでてくれ」

 

幸子「分かりました!」

 

グツグツと煮込まれている鍋をおたまでグルグルと腕を回す。

そんな姿をカウンター越しではあるが幸子はジッと一樹を見ている。

 

幸子「やっぱり…かっこいい…」

 

頬を赤くしながらだらしなく顔を緩ませる中学生。

しかし、彼女には多数のライバルがいるのも事実だった。

 

りあむ「お兄さん!今日の晩御飯なに?」

 

一樹「まだ昼前だぞ…気が早ぇよ。今日はシチューだ、あとパンとサラダを作る」

 

りあむ「やったぁ!お兄さんのシチュー凄く美味しいんだよね〜」

 

年上に見えない一樹と1つ屋根の下で暮らす巨乳の少女。

 

文香「お兄さん…この借りた本、ありがとうございます」

 

一樹「文香ちゃん、その本実は続きがあるんだ。今日貸してあげるから読んでみてくれ」

 

文香「はい♪」

 

おっとりと物静かな、でも大人の魅力をそこはかとなく感じさせる巨乳の少女。

 

みく「お兄さん!みくの食べてる定食にお魚が入ってるにゃ!」

 

一樹「嫌いなものは少しでも良いから克服させなきゃずっと嫌いなままだろう。残してもいいから少しでも食べてみな。千里の道も一歩から、だ」

 

みく「うぅ…わかったにゃ…」

 

高校生の猫キャラの巨乳少女。

 

みんなは一樹に好意を抱いているのは確かだ。一樹は全く気づいていないが誰もが見てもそう思える表情だ。

 

幸子「うぅ…ボクだって…」

 

幸子は自分の胸を触りながら虚しい感情を押し殺す。みんな共通点があるといえば巨乳であること。それは一樹にアピールするとなると大きなアドバンテージ。巨乳(大きな)なだけに。

等と馬鹿な考えをしている場合じゃない幸子の心情。幸子は「はぁ…」と小さなため息を漏らす。

 

一樹「幸子ちゃん何か悩み事か?」

 

幸子の目の前にサンドイッチと紅茶を置いて悩んでいる少女に問いかける一樹。

 

幸子「お…お兄さんは…大きいのと小さいの(胸囲的な意味で)どっちが好きですか!?」

 

一樹「…は?」

 

突然の幸子の言葉によくわからず首を傾けてしまう一樹。

 

一樹「うぅ~ん…大きいのと小さいの…?そりゃあ大きな方がロマンはあるよな(パンチ力的な意味で)」

 

幸子「うぅ…やっぱり…」

 

一樹「だが、小さなものにも価値はあるんだ(ジャブ的な意味で)」

 

一樹はその場で拳を軽くに三回ほど振るう。

 

一樹「小さく積み込んだ事っていうのは時に大きなものより勝ることもある。確かに大きい力は憧れるさ…だが小さなことの積み重ねを俺は馬鹿にはしない。俺、ボクサーだからな」

 

幸子「お兄さん…!」

 

幸子の目から涙が浮かべると一樹はその涙をハンカチでふき取り、笑った。

この日から幸子は大きいとか小さいとかそんなことを気にせず堂々と胸を張って一樹に会いに行くことを決意した。

 

これは、日常の中でとある少女が抱えた小さな問題をストレートで打ち砕いた。というお話。

 

 

 

 

 

 

 

完璧じゃないです。苦手は誰でもある

 

とあるインタビュー記者が一樹にインタビューした際の問いがあった。

 

一樹「趣味ですか?………家事全般ですね」

 

一樹は無類の家事好きで知らされている。料理をさせればミツボシレベルではなくともどんな人間でも美味いと言う腕前。掃除をさせれば部屋にはチリ一つ落ちていない綺麗な部屋になり、本や小物が手に取りやすく整理され、洗濯をさせれば頑固な汚れも彼にかかれば落とされ、尚且つフローラの香りがする。

ここまで説明すればだれもが完璧な主婦であろうが、そんな彼にも苦手なものがある。それは先ほど説明した洗濯だ。

 

一樹「………」

 

義母が風邪で寝ている中、実家のことをしていた際だ。洗濯を回そうとしていた際に、洗濯物かごの中にあるものに注目してしまう。

 

一樹「………」

 

卯月の下着だ。こういう物は男である一樹にはどう対処していいのかわからない。というか、洗濯自体は一樹が一人暮らしをする際に覚えたもので、今まで男物の下着やらを洗ってきたからこういう物をどうすればいいか分からないでいた。

 

一樹「どうしよ……」

 

どうやって選択したらいいのか…伊達メガネをクイッと上げながら一樹は途方に暮れていた。

 

島村父「一樹何やってるんだ」

 

一樹「うわっ!びっくりした!」

 

後ろから突然声を掛けられて一樹はビクッと身体を震わせ後ろを向く。そこには仕事が休みで部屋の掃除をしていた義父がいた。

 

島村父「何をそんなびっくりしているんだ。何かやましいことでも……」

 

義父は一樹に近づくと一樹の目の前にある洗濯物かごに目が入るとその中にある卯月の下着らしきものを発見し、黙り込んだ。そして少しすると一樹の肩に手を置き口を開きだす。

 

島村父「…一樹よぉ…いくら彼女がいないからって…義理の妹の下着を使うつもりか?」

 

一樹「はっ?何言ってんの義父さん?」

 

島村父「まあ、お前も男の子だから気持ちはわかる…だから母さんには内緒の父さんの秘蔵DVDをお前に貸して…」

 

一樹「何を変な誤解してるんだよアホ親父!ちげえって!洗濯したいんだがどうすればいいのか分からねえんだ!」

 

島村父「そういう名目で使うつもりだったのか…そこまでお前は苦しんでるのか」

 

一樹「今すぐその哀れなものを見る目をやめろ!じゃねえと一発ぶち込むぞ!」

 

十分ほど義父に事情を説明して誤解はまず解けたのだが、やり方を聞いても義父がわかるはずもなく。

 

島村父「普通に洗濯機の中に入れていいんじゃないのか?」

 

一樹「そうなのか?でもブラだって内側にパットが入ってるんだ。それは取り外すべきなのか?それともそのままなのか?」

 

島村父「やけに詳しいな…もしかしなくても…お前少し触ったな?」

 

一樹「ノーコメント」

 

しばらく考えていると玄関から卯月の声がした。

 

卯月「ただいまー」

 

一樹「こうなれば苦肉の策だ。卯月に聞きに行こう」

 

片手に持っているブラをそのまま握りしめた状態で一樹は玄関に向かおうとしている。

 

島村父「ちょ!一樹待て!」

 

しかし、その静止の言葉が届かなかったらしく、一樹はそのまま玄関に向かっていった。

 

一樹『卯月、少し聞きたいことがあるんだ』

 

卯月『お兄ちゃん!来てたんですね。……あれ?その手に持ってるの…?』

 

一樹『ああ、実は女性ものの洗濯の仕方を教えてほしくて…』

 

卯月『っ……!!」

 

一樹『あれ?どうした卯月…顔が赤く――――――』

 

卯月『キャーーーー!!!』

 

バチン!!

 

一樹『グオッ!』

 

卯月『じ、自分で洗いますから返して下さーい!!』

 

ドタドタドタドタ!

一人取り残されていた義父は顔を青くさせながら玄関を見ると、そこには恐らく卯月にぶたれたであろう左頬に手の形をしたもみじを作り地面に伊達メガネと共に倒れている一樹を見つけた。

因みに一樹の手に握られていた下着は既に無くなっている。

 

島村父「言わんこっちゃない…卯月も年頃なんだから考えてやれ…お前はもう少しデリカシーを学んだ方がいいな」

 

一樹「解せぬ…」

 

※ブラを洗う際は洗濯ネットに入れて洗いましょう。パットは出して手で濯いで洗いましょう。

 

 

因みに義父の言っていた秘蔵DVDの存在を一樹は義母に密告している。

その数日後、義父はゲッソリした顔をしていた。義母から「弟がいい?それとも二人目の妹がいい?」と質問されて一樹は「はっ?」としか答えられなかった。

 

こうして、一樹は家事の苦手を克服し、見事家事フェザー級世界チャンピオンの防衛に成功させた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編「ゲーム実況始めました」

どうも皆さん、MENです。今回はとある小説に投稿した番外編をデレステキャラ+αで再現しました。

それではどうぞ。


『ゲーム実況を始めてみました』

 

『ゴッツです!!』2BRO『クロックタワー2』より

 

一樹「リックです…」

 

未央「ゴッツです!!」

 

凛「知り合いじゃないあなた達!!(笑)

じゃあこれは?」

 

一樹「リックです…」

 

凛「これは?」

 

未央「ゴッツです!!」

 

凛「違う違う奥の生き物」

 

卯月「あ、ワンちゃんです!!」

 

 

 

『いきなりどうした?』2BRO『The Wild Eight』より

 

一樹「ショレ!ぺんぺん草!セイセイソウサーソチョウCHO!」

 

凛「どうしたの?」

 

 

 

『1123』2BRO『SCP』より

 

一樹「1123(いいにいさん) 俺やん」

 

凛、未央、卯月「あははははw!」

 

未央「お兄さん、そういうの見つけるの得意だねw」

 

 

 

『みんな驚いた』2BRO『Five Nights at Freddy's 』より

 

右の扉を閉じてライトを付ける凛。

 

未央「ライトを付けるとそこに居るかどうか分かるらしいよ」

 

凛「あ~・・・」

 

なにげにモニターを開きチカの位置を確認してモニターを閉じる。

 

ボニー『ニ゛ャアアアアア!!!!』

 

ボニーが目の前に居る。

 

一樹、凛、未央、卯月「うわあぁぁぁ!!!」

 

一樹「居たぁぁ!!」

 

未央「みんなびっくりしたw!みんなびっくりしてたw!鳥肌立った~!痛ったぁ~!」

 

 

 

『驚いてる場合か!』2BRO『『Five Nights at Freddy's 』

 

一樹「ライトをつけて そこに居たら速攻で閉めればいいんだろ?」

 

何気に左の扉のライトを付けるとそこにはボニーがいる。

 

未央「うわぁぁぁお!!!」

一樹「早く閉めろ閉めろ!!」

卯月「早く早く!!」

 

左の扉を閉める未央。

 

未央「もう怖い!!」

 

一樹「危ねえw!『うわぁぁ!!』って言ってる場合かw!」

 

 

 

『あいむかみーん!!』2BRO『Five Nights at Freddy's 』より

 

右の扉にはチカが居る。ライトを付けるとまだチカが居る。

 

未央(チカ)「はやくぅ」カチッ

 

未央(チカ)「しまむーも来なよぉ」カチッ

 

未央(チカ)「あいむかみーん!!」カチッ

 

一樹、凛、未央、卯月「あははははっw!」

 

 

 

『オールドボニー』2BRO『Five Nights at Freddy's 2』より

 

ふと左ダクトのカメラを見ると皮を被っていないボニーが居る。

 

未央「おぉぉ!!何あれ!!」

 

卯月「オールドだ!!」

 

未央「えいやオールドってなにいやいや知らない知らない!カ、カメラ8にいたやt」

 

モニターをしまうと目の前にはオールドボニーがいる。

 

未央、凛「うわぁぁぁ!!」

一樹「わぁぁぁ!!」

卯月「あー!!」

 

すぐに仮面を被る未央。

 

一樹「こえぇぇ!!こえぇぇよぉ!!」

 

凛「びっくりした!」

 

オールドボニー『ニ゛ャアアアアア!!!!』

 

未央「ぴゃぁぁ!!」

 

一樹「食べられちゃってるじゃん!!」

 

 

 

『大丈夫だった!』2BRO『Five Nights at Freddy's 2』より

 

目の前にオールドボニーが現れるとすぐに仮面を被る。

 

凛「あっ!大丈夫だった!」

卯月「大丈夫ですか!?」

未央「大丈夫!?」

一樹「大丈夫だった!」

 

オールドボニー『ニ゛ャアアアアア!!!!』

 

一樹、卯月、凛、未央「うわぁぁ!!」

 

未央「あはははw!ギャグじゃないんだから!」

 

一樹、凛、卯月「あはははっw!」

 

未央「『大丈夫だった!大丈夫だった!うわぁぁ!!』ってw」

 

 

 

『当てて巻いて』2BRO『Five Nights at Freddy's 2』より

 

一樹「巻いて巻いて!ライト当てて!」

 

卯月「はい!」

 

凛「ここまでは順調ね」

 

一樹「巻いて巻いて巻いて! あた巻いてぃ!」

 

一樹、卯月、凛、未央「あははははw!」

 

『やってられるかこんなもん!』2BRO『Five Nights at Freddy's 3』より

 

一樹「あー!」

 

凛「バルンボーイ来たね」

未央「フォクシーも来ちゃったよ」

卯月「フレディーも来ちゃいました」

 

凛、卯月、未央「あ〜…」

 

一樹「やってられっかこんなの!!(怒)」

 

 

『そんじゃあ、またな!!』

 

卯月「皆さん行きますよ、せーの」

 

一樹、卯月、凛、未央「「「「「またな!!」」」」」

 

 

 




所々違うセリフを言わせてますがご了承ください…。ゴッツです!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編「ゲーム実況はじめました」その2

「最高の回復薬で回復してる」2BRO「デットバイデイライト year3」

 

未央「最高だと思わないしぶりんの回復薬で回復してるよ!!」

 

 

 

「怪奇現象でびっくり 叫び声でびっくり」2BRO「DESOLATE」

 

一樹「水水水…!」

 

一同は水を探すために1件の家に入ると3人は個々で行動し出す中、未央は1階のキッチンを調べる。

キッチンに入った瞬間、未央の目の前に人形が現れた。

 

未央「わああわさああ!!!」

一樹「うおおお!!!なんだよぉ!?」

卯月「えっえっ!何ですか何ですか!?」

 

未央「……これはビックリするよぉ…!」

 

 

 

「あまいしる」2BRO『ドカポン3・2・1』より

 

未央「『あまいしる』相手陣地を自分の領土にする賄賂…ふぅうううう!」

 

凛「未央がクズだわ…」

 

サイコロの目が1になると一樹の領地に進める未央。

 

未央「ふぅうううう!!」

 

一樹「おおいいい!クズ野郎が居るぞぉ!!」

 

一樹の領地に入りあまいしるを選ぶ未央。

 

未央、凛「あははははは!!」

 

未央「クズは村長にあまいしるを吸わせたw!」

 

一樹「クズの汁だクズの!」

 

 

「アカウント」GESU4「トリッキータワーズ」

 

未央「お兄さん、キャンディーマン使えるからショップで買っていい?」

 

一樹「ダメ」

 

未央、凛、卯月「あはは!」

 

一樹「俺のアカウントだろ!!」

 

 

 

「電力が不足している」2BRO「Remothered:Tormented Fathers」

 

一樹「かわすぜ〜!」

 

避けようとしたが、電力が不足している。

 

一樹「電力が不足している!?どういうことだ!?かわそうとすると『電力』が『不足』してるぞ俺は!?」

 

 

「効果音の違います」2BRO「デットバイデイライト (PS4)」

 

未央「ハグの方はどちらかと言うと『どらぁん』」

 

凛「トラッパーは?」

 

未央「『パン!』」

 

凛「えっw、ハグは?」

 

未央「『ぼあぁん』」

 

凛「トラッパーが?」

 

未央「『パ!!』」

 

凛「うるさいわ」

 

未央「言わせておいて酷くないw!」

 

 

 

「獲物の仕留め方」2BRO「THE FOREST」

 

 

未央「お兄さんうさぎ持ってて仕留めるから」

 

未央は自分で持ってるうさぎを一樹に渡す。

 

一樹「なんでそんな遠くから投げようとしてんの?」

 

未央「えいっ」

 

槍が一樹の顔に当たる。

 

一樹「うぉぉぉう!」

 

2カメラ

 

一樹「うぉぉぉう!」

 

3カメラ

 

一樹「うぉぉぉう!つつつ!」

 

未央は一目散に一樹から逃げる。

 

未央「くくぅぅぅぅwww!!」

 

卯月「あははは!」

 

一樹「おい、何逃げてんだおい(笑)」

 

 

 

「ソリが逃げる」2BRO「THE FOREST」

 

一樹「ここにも1個ある…」

 

小石を拾おうとソリと共に移動させていると、ソリはいつの間にか一樹の手を離れていた。

辺りを見渡すがソリの姿は一片の見つからない。

 

一樹「あれ?」

 

未央「あれ?」

 

一樹「へっ!?」

 

未央「えっ?」

 

未央「何してんのお兄さん!!ソリどこやったの!?」

 

一樹「わかんないよぉ!!」

 

卯月「えっ、ソリ?」

 

未央「目離したでしょ一瞬!一瞬目離したでしょ!!ソリ、ソリ逃げちゃったじゃん!!(笑)」

 

一樹「いやいやいや(笑)」

 

卯月「あははははは(笑)」

 

未央「ショーン!!!!!何処ショーン!!!!!!」

 

一樹「いやいやいや、頭おかしい人になってるから(笑)」

 

 

 

 

「落命!」2BRO「仁王」 その1

 

未央「ぐああああ!ラクメィ!」

 

 

 

 

「落命!」2BRO「仁王」その2

 

未央「おぐわあああ!」

 

卯月「ははは!落命!」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サブストーリー「アイドル達の出会い」

どうもおはこん。伊吹香恋です!

2ヶ月も遅くなり申し訳ありませんでした!


その1「改めての再会」

 

一樹が営んでいるカフェ「島村喫茶」その喫茶店にはアイドルがやって来ることもある。だがそれを知っているのは極わずかな人間だ。

喫茶店の厨房では弱火にしてグツグツと煮込まれているカレーを一人のプロボクサーが腕に付けている時計とにらめっこしながら鍋を見つめる。

時間を見定め、カレールーを少し小皿に盛りそのルーを口につける。

 

「よし」

 

味を確認して火を消すと炊きたてのご飯を大皿に盛り付け、カレールーを入れ、カレーライスを完成させる。トレーにカレーライスの入った皿と水を入れたコップと共に客の前に出す。

 

「お待ちどうさま。一樹特製、島村カレーだ」

 

「わざわざありがとうございます…」

 

前髪で目元が少し隠れた少女は一樹に礼を言い、頭を下げる。

 

「いいって事さ。わざわざ礼の物を持ってきてくれたんだ。これくらい当然さ」

 

一樹は厨房にあるまな板の上に置いている包丁を見ながら言う。包丁はまるで刀のように刃は煌めき、先程使ったにしては汚れが少ししかついていない。刃には職人の名前が刻み込まれている。

 

「それは良かったです。その包丁は刀職人が作った物なんです。卯月ちゃんのお兄さんは料理人とお聞きしましたので」

 

「ああ、俺もこれ程の業物を握ったことが無い。これなら刃こぼれなんて余程のことが無ければ無いだろう。ありがとう、文香ちゃん」

 

それは以前に一樹が通りすがりで助けたアイドル鷺沢文香だった。彼女は以前のお礼をしたかったらしいが、一樹の名前も何も知らなかったが、彼女の叔父の古本屋でたまたま一樹の姿が載っているスポーツ雑誌を発見し、一樹の名前を知り、島村の苗字から卯月とコンタクトを取って改めて御礼を兼ねて喫茶店に来店したのだ。

だが一樹に送った包丁は名の知れた刀職人が作った1品で、御礼がとてつもなく割合わない。そこで一樹は腕によりをかけたカレーをご馳走したのだ。

 

文香はスプーンでカレーライスをすくい、髪を耳にかけて口元に運び口の中に入れる。

 

スプーンを口から抜き、もぐもぐと口を動かし、喉を鳴らす。

 

「美味しいです…!これ程美味しいカレーは初めてです…!」

 

「そうか、それは良かったよ」

 

彼女の笑顔を見ながら一樹はコーヒーを啜るのだった。

文香もカレーをぺろりと食べきる。

 

「ご馳走様でした。本当に美味しいカレーでした…」

 

「お粗末さまでした。改めて島村一樹だ。よろしく」

 

「鷺沢文香です。よろしくお願いします…。お兄さん」

 

こうして二人は名前を知ることが出来、親しい友人同士になった。

 

 

 

 

 

 

 

その2「可愛いの限界」

 

「うぅぅ…ボクなんて、ボクなんて…」

 

「(なんだこれは…?)」

 

夜の居酒屋。今日も大盛況という訳でもなく、ポツポツと常連客の顔が並ぶ中で一人の中学生が顔を赤くしながら机に突っ伏しながらすすり泣いている。

目の前でニコチン、タール無しのマスカット味の電子タバコを吸いながら一樹は少女の空になったコップにソーダを注ぐと、少女はごくごくとソーダを一気飲みする。

 

「(まるで仕事に失敗したOLだな…)」

 

心無しかソーダを飲む度に顔の赤さは増していってる気がする。

 

「あれ、ソーダだよな…?」

 

思わず一樹は手に持っているペットボトルのラベルを確認してしまう。

 

「…んで、何があったんだ?幸子ちゃん」

 

輿水幸子。346プロダクションアイドルで自称世界一可愛いアイドルの彼女。なぜこのアイドルが泣いているのかは一樹には分からなかった。かれこれ2時間このままの状態だ。

 

「ふぇぇ〜!!どうせボクはブサイクなんですー!!」

 

店全体に響き渡るような大声が放たれた。それを聞いた一樹は電子タバコの煙を口から出し、口を開いた。

 

「はっ?」

 

「失礼します」

 

疑問しか残っていない一樹の店の入口が開き、そこからスーツの背の高い男がやって来る。

 

「ああ、いらっしゃい武内さん。ちょうど電話をしようと思ってたんだよ」

 

「と申しますと?」

 

「この場酔いした中学生をなんとかしてくれ」

 

と一樹は目の前の幸子に指を指す。

 

「私も探していた所なのです。何も言わず事務所にも居なくなり消息が絶ったと聞きまして…」

 

「遂には行方不明者扱いか…」

 

「うぅぅ…」

 

プロデューサーが来たというのに幸子は泣き止まない。いい大人が泣いてる少女を見ているのは何となく罪悪感が湧いてきたのか、二人は近づき耳打ちするように小声で話し出す。

 

「で、なにがあったんだよ武内さん」

 

「そ、それが…今回のシンデレラ総選挙で輿水幸子さんは14位という結果で終わりまして…」

 

「総選挙って、これの事か?」

 

一樹の手に持っているのはアイドル雑誌。その1ページには第6回シンデレラガールズ総選挙と大きく載っているページだった。第1位の名前を見ると高垣楓と言う名前が大々的載っている。

 

「島村さんも見るのですか?アイドル雑誌を」

 

「いや、これは京介忘れ物だよ」

 

雑誌を軽く机に叩きつけるように手元から離すと、再び一樹は電子タバコを口に咥える 。

 

「うぅ〜ボクなんて、ボクなんて」

 

「これは重症だなぁ…仕方ねえ、俺が一肌脱ぐしかねえか。武内さん、一つ貸しな」

 

「の、望みは?」

 

「今度卯月の限定ポスターが出るらしいな。CD購入者限定の先着100名だったか」

 

一樹は電子タバコの煙を口から吐き出しながら武内に顔を向ける。まるで悪魔のような顔で。

その顔を見て武内の額から汗が流れ、それは頬を伝い、流れ落ちた。

 

「ま、まさか…」

 

「10枚ほど俺に回してくれればいい。店に貼る用に8枚。もう一枚は俺の部屋に飾る…」

 

「も、もう一枚は…?」

 

「保存用だ…」

 

義妹に対し溺愛し過ぎているその言葉を聞き、その場にいた客はこう語った。

『やはりこの人はシスコンなんだな』と

 

一樹は電子タバコを机の上に置き、幸子に話しかける。

 

「まあまあ、幸子ちゃんそう落ち込まずに」

 

「でも、マスターさん…」

 

「マスターじゃねえが…まあ、確かに悔しい気持ちは分からんでもない」

 

「うぅぅ〜!マスターはどう思いますか!?ボクは可愛いですか!!?」

 

「卯月の方が可愛いのは揺るぎないぞ」

 

「「「ええええええ!!!!!?????」」」

 

その場にいた客を含めた全員が声を大にしてあげた。ここまで来ておいて一樹はお世辞も言わず、自分の思ったことを口にした。これには関係のない客も口を開けて唖然とする。それは口に含んでいた酒をまるでマーライオンのように垂れ流しにし、持っていたグラスを傾けたままにして酒を滝のように流してしまうぐらいに。

 

「や、やっぱりボクなんて…」

 

「でもそれがどうした」

 

「えっ?」

 

「幸子ちゃんは可愛い。卯月に比べる前に誰もが思う美少女だろう。でもこのアイドル戦国時代の中でどうしても人間は自分の中で好きな子を選んでしまうものだ。卯月が好きなファンがいれば幸子ちゃんを好きなファンがいる。でもそこで負けてしまって、それで終わりかい?」

 

「どういう…」

 

「負けてしまった。それは結果として出てしまった。しょうがない事だ。可愛い子なんてこの世にいくらでも居るんだ。でも幸子ちゃんの『可愛い』は、それで限界なのかい?」

 

「…!」

 

「負けたんなら次はそれに追いつけるくらい可愛くなればいいじゃないか。可愛いに限界なんて無い。寧ろ可愛いには無限の広がりがあるんだ。服が可愛い。アクセサリーが可愛い。顔が可愛い。色々だ。君の思っている可愛いの頂点はなんだい?」

 

「……ふふ、決まってます。ボクは、世界一可愛いんです!だから、ボクはもっともっと可愛くなって、ファンをメロメロに出来るくらい可愛いくなるんです!!」

 

「そういう事さ。可愛いとか、可愛くないとか、自分の物差しで計るものじゃないんだ。幸子ちゃんは可愛い!もっと可愛くなれるんだ!」

 

両手を広げてまるでオカルト教徒のように頭上を見て口を開く。それは他人から見たらミュージカルでも見させられているのかと錯覚してしまう程だった。

 

「まあ、ウチの卯月が…」

 

「「「それはもういい!!!」」」

 

客からの一斉のツッコミにより、一樹の言葉を制止させる事に成功する。

幸子は席を立ち、カバンから財布を取り出す。

 

「ごめんなさい、マスター。お会計お願いします」

 

「いいよ今日は俺の奢りだ。若人よ悩め、そして精進しろ!努力は必ず報われるんだ。例え世界が感心しなくても、君の身近の人間は君が努力している事に気がつくはずだ。あとマスターじゃねえ」

 

空いたコップを手に持ち、一樹は厨房の中に入り、そのコップを洗い出す。幸子はその姿を頬をほんのり赤らめながら見ていた。

 

「貴方がボクのプロデューサーなら良かったのに…」

 

幸子の放った声は小さく、一樹はおろか、他の客にも聞こえなかったが、幸子の表情を見て誰もが思った。

「天然タラシがまたやったぞ」と

 

この日がきっかけで、幸子は島村喫茶に出向く回数が増えた。そこには、先輩からアドバイスを受ける恋の表情に似た表情をした少女の姿があった。

 

「お兄さん!可愛いボクがやって来ましたよー!」

 

「すいませんお兄さん、お邪魔します…」

 

「文香ちゃんと幸子ちゃん!?また来たのか!?今週三度目だぞ!?」

 

一樹が営んでいるカフェ「島村喫茶」その喫茶店にはアイドルがやって来ることもある。だがそれを知っているのは極わずかな人間だ。

今日も喫茶店にアイドルが来店する。




今回はアイドルとの出会いということで
鷺沢文香と輿水幸子の出会いでした!

本日9/18 21:00からYouTubeにて生放送を行います!

それでは次回をお楽しみに、

ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サブストーリー「アイドル達の出会い」その2

りあむちゃんファンの方々ごめんなさい。

りあむちゃんを最初に見た時アスフォルトちゃんにしか見えなかった…。

恐らくこれはりあむちゃんじゃない!って言われるかもしれませんが、どうかお許しください!


一樹が営んでいるカフェ「島村喫茶」その喫茶店にはアイドルがやって来ることもある。だがそれを知っているのは極わずかな人間だ。

 

ドラマ出演という大きなことを成し遂げた(本人の意思ではない)一樹の喫茶店は以前の数倍の客を手に入れていた。誰かが日本のノー〇ン・リー〇スが営んでいる店があるという書き込みがSNSに投稿されたらしく、瞬く間に店は繁盛していった。

一樹としては店の売り上げやリピーターの客が増えるのは大変ありがたいが、あのパクリにも等しいドラマのおかげであることは認めたくなかった。

 

そんな繁盛している店を一人で切り盛りしている一樹の目の前にまた飲んだくれている未成年がいた。

 

彼女はサイダーを注いでいたジョッキを片手に持ち、机に突っ伏している。

 

「はぁぁ~~……やむ」

 

「………(帰ってくんねえかな…)」

 

アホ毛が立っているピンク色のボブカットで青のインナーカラーも入れている巨乳少女をめんどくさそうな顔をしながら見つめる一樹に少女はジョッキを少し上にあげた。

 

「まだ飲むのかよ…」

 

意味を受け取った一樹はジョッキにサイダーを注いであげることにする。

おまけで出したピーナッツのおつまみを一粒口に入れてサイダーを飲む。

 

「…(オッサンだ…)」

 

「ノー〇ンさ~ん…おつまみ無くなりました~…はぁ…やむ」

 

心底面倒になったのだろう、一樹は面倒臭くなりさっきまでおつまみが入っていた小皿を下げて先ほど厨房で焼いた餃子を山盛りに盛った皿をりあむの前にだした。

 

「え~っと…夢見りあむ…で良かったよな…あのさあ…一応聞くんだが、何があった?」

 

実は彼女と一樹は面識がある。それは一樹がドラマの撮影中にこの夢見りあむと島村一樹は出会っている。最もりあむはエキストラとしての役だったので一樹としては印象はすっごく薄い。というか名前しか知らない。アイドルだっていうのはわかるがそれ以外のことは全くというほど知らないのだ。

何事もなく帰ってほしいのだが、このままでは帰ってくれないだろうと踏んだ一樹はとりあえずりあむという少女の話を聞くことにした。こういう輩に限ってアイドル仕事がうまくいかなかったとかで悩む連中が多い。今やここはそういう人間の集まりにもなりかけているのも事実だ。

 

それを証拠にあるアイドルがお酒を飲みながら女子会をして朝の8:00まで居座ったことにより出禁になったエピソードがあるが…これはまた別の機会に話そう。

 

今は眼前の19歳の未成年の飲んだくれをどうにかするのが先決である。

 

「聞いてよぉ~ノ〇マンさん…」

 

「まずそのノー〇ンさん呼ばわりをやめろ恐れ多いわ」

 

「せっかくアイドルになったのにぃ~…アイドルって尊い存在だと思わない」

 

「……」

 

「なのにさぁ…せっかくSNSにぼくがアイドルになったことを上げたら…炎上した」

 

「……」

 

「アイドルは尊いんだよぉ~…なのにボクがそのことを書き込んだだけで炎上…これどう思う!?ひどくない!?やまない!?」

 

「割とどうでもいい」

 

きっぱりと切り捨てた一樹にりあむは食い下がる。

 

「なんでさぁ~!!アイドルだよ!?尊い存在だよ!?ふつうもっとちやほやするでしょ普通!!」

 

「どうでもいい」

 

「他のアイドルはみんなキラキラしてるのに…なんかボクだけこんな風だから…」

 

「迷惑かけてるってか?なら自分が足引っ張らないように努力するしかないだろう」

 

「ボクの嫌いな言葉は一番が努力で二番が頑張るなんだよ」

 

「はっ倒すぞテメェ」

 

「ボクはちやほやしてほしいだけなんだよぉ~!」

 

彼女の要点はこうだ。アイドルとは尊い。自分もそんなアイドルのみんなみたいなイメージを持たれたい。でも努力するのは面倒くさい。でもちやほやされたいんです。心が病みそう。以上。

 

ここまでの話を聞いた一樹の行動は勿論。

 

「ああ~そうだなぁ~ちやほやねぇ~まあ頑張れや『ヤムチャ』」

 

これ以上話を聞いてらんなくなった一樹は逃げるように厨房に戻ろうとするが、ガシッ!と何かが一樹の服を掴んだ。後ろを見るとそこにはテーブルからカウンターに身を乗り出し一樹の服を掴んだりあむの姿があった。

 

「店主さんまでボクを見捨てないでよぉ~!!」

 

ついには泣き出す事態に発展。

 

「えぇ~い!離せこのヤロー!大体、ちやほやされたい以前にお前目立った実績も出演も何もしてねえだろう!今日だってゾンビ役で出てたじゃねえか!そういうことはもっと出演回数を上げてから言うもんだ!ぱっと出のお前がいきなりちやほやされるわけねえだろうが!」

 

「で~も~!ちやほやされたいんだよぉぉ~!!」

 

ここまでのくだりを見て客はこう思ったそうだ。

 

「「「(店主さん可哀そう…)」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間がたち店じまいになった喫茶店のかたずけをしていた一樹はすっかり泣き疲れたりあむをしり目に閉店の準備に取り掛かっていた。皿洗いも済ませてテーブルを雑巾がけして掃除を終わらせた頃、まだりあむは寝ていた。

 

「オイ…夢見起きろ…」

 

ゆさゆさと肩に手を置き身体を揺さぶってみるが、彼女は起きようとしない。完全に場酔いにより全てをぶちまけたことにより泣き疲れた状態だ。

 

「…しょうがねえな…」

 

今の時間は夜23:48。もう帰りの電車もないであろうこの時間に一樹が車を出すにしてもりあむの住所がわからない。だからと言いこのまま寝ている彼女をおいて置いておくのも気が引ける。一樹は彼女の身体をお姫様抱っこをするような感じで抱き上げて自室のベットに寝かせてあげた。

 

「まったく…俺は面倒な娘を持つ父親かっつの…」

 

などと愚痴をこぼしながらエプロンを取り机に置いてソファに座る。

 

「あぁ~疲れた…やむ…ハッ!」

 

いつの間にか彼女の口癖が移ってしまったのか言葉を口に出した瞬間しまったという顔をする一樹。

 

「イカンイカン…落ち着け…」

 

電子タバコを手に取りそれを口に付ける。

 

ふとベットに寝ているりあむを見てみる。

一見普通の美少女。アイドルとして選ばれるのもわかる容姿はしている。背も小さく、胸が大きい。マニアックな人がいれば大ウケ間違いなしだろう。因みに一樹はこのシチュエーションになんのときめきもなければやましい気持ちも起きなかった。

 

「ん?」

 

ふと一樹は彼女の手に付けているリストバンドを見た。そこから覗いている切り傷のようなものを発見したのだ。

一樹はそれが気になってしまい、そのリストバンドをめくってみた。

 

「…これは…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

「…ん…?」

 

時間は朝7:00に目を覚ましたりあむ。辺りを見てみるとそこは自分の部屋ではなく知らない部屋。りあむは戸惑っていたが、すぐに昨日のことを思い出す。

 

「そうだ…ボク、昨日店主さんに…」

 

「おはよう…夢見…」

 

横のソファーに座っていた一樹がりあむに声をかける。その声色は低く、怒りを隠しているような感じがした。

そんな声を聴いたりあむはビクッと震えた。

 

「起きてすぐで申し訳ないんだが…お前自殺しようとしたか?」

 

「えっ?」

 

「リストバンド…」

 

自分の手首に付けていたリストバンドを見てみると、そこから小さく見える白い布。包帯が巻かれていたのだ。彼女の手首には薄くではあったがリストカットの後があったのだ。一樹はそれに包帯を巻いてあげたのだ。

 

「あっ…こ、これは!ふざけてリストカットしてSNSに乗せてさ!案の定炎上…」

 

「ふざけんなぁ!!」

 

ついに怒りの頂点を突破した一樹の怒鳴り声が部屋に響き渡った。一樹はソファーから立ち上がりりあむの正面を向いてさらに怒鳴る。

 

「『ふざけてやった』?『炎上した』?お前ふざけんじゃねえぞ!もしものことがあったらどうするつもりだった!?ちやほやされたいからの理由でそこまでするなんて…馬鹿なのか!!!?」

 

一樹の本気の怒鳴り声。赤の他人であるりあむに向けられた怒鳴り声はりあむは言葉を発せなかった。

 

「ぁ…ぅ…」

 

「…二度とすんじゃねえ…絶対にすんな…」

 

怒りの言葉に混じった心配の言葉。りあむは小さくやっと言葉を発した。

 

「ご…め……なさ……い……」

 

目から流れる涙を見て一樹は手を頭に置き髪をかき上げた。

 

「はぁ…」

 

そしてりあむの目の前まで来て、中腰でりあむの目線で一樹は言葉を口にする。

 

「りあむ…お前…ここに仮住まいするか?」

 

「…ふぇ?」

 

「…正直お前を放っておくのは心配だ。身近にいてくれた方が監視しやすい。お節介なのもわかる。俺が口出しするのも間違ってるのもわかる。だが、俺はお前みたいに孤独だった頃もあったから気持ちは痛いほど知ってる。認めてほしい…自分という存在を証明したい。だからバカなことをして目立ちたがる。心の底ではいけないことだとわかっていてもやってしまう…りあむ…俺はお前の味方になってやりたい。親御さんにも連絡するし、お前がその気ならここに住んでもいい」

 

「でも、迷惑じゃ…」

 

「最近喫茶店を移転してなぁ、なんの気を利かせたのか空き部屋がたくさんあるんだよここ。だから空き部屋でよければ使っていいぞ。まあ強制しない。お前次第だ。その代わり、ここに住まう以上店のことを手伝ってもらうぜ。『働かぬもの食うべからず』だ」

 

「ボ…ク…は…ボク…は…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さん!オーダー!日替わり定食2つ!」

 

「あいよ!りあむ、そこのハンバーグ定食を3番テーブルに」

 

「えぇ~…やむぅ…けどわかったよ!」

 

そこにいたのはメイド風の制服を着て働くりあむの姿が確認された。一樹の説得により親御さんは納得。一樹の家に仮住まいすることになった。

 

「りあむさん、いきいきしてますね…」

 

お昼のランチに来た武内にカツカレーを前に出す一樹。

 

「そうでしょう…俺の罠にかかったことも知らずに…キッヒッヒッ…」

 

「わ、…罠?」

 

そう、一樹は罠をりあむにしかけた。そもそも一樹がりあむの親御さんどう説得したか…というと、今のりあむの怠け癖は一朝一夕には治らない。だから長い時間をかけて直して社会適合させるようにする。それが一樹が提案した内容だった。勿論このことについて親御さんは即座にOK。りあむは晴れて一樹の店のアルバイトを得て尚且つ理解者の家に住むという資格を獲得していた。

 

「…鬼ですね…」

 

「あれも半人前とはいえアイドルだ。怠け癖さえなくせばアイドルとして頑張るはずだ…プロデューサーとしてはその方がいいだろう」

 

「ええ…まあ」

 

「まあ、長い目に見ましょうや…俺はあいつを見捨てる気もないですし、信頼を裏切る気もないです。だから見守ってやってくださいよ」

 

そういいながら一樹がりあむに向ける眼差しはまるで卯月に向けるのと同じような眼差しだった。

 

「お兄さん、料理運んできました!」

 

「OKだ!そろそろ休憩に入れ。まかないのハンバーグ作ってやったからそれ食いな」

 

「やったぁー!お兄さんマジ神!…あっそうだ!お兄さん!」

 

「なんだ?」

 

りあむは少し頬を赤くしながら一樹に笑顔で答えた。

 

「…すこ!」

 

それだけを言うとりあむは厨房の奥に姿を消したのだった。

 

「すこ…?武内さん、すこってなんだ?」

 

「す、すいません…私もわかりかねます…」

 

恋する乙女はただ前に突き進んでいく。だがそれに気が付くのはさらに先になりそうだった…。

 

一樹が営んでいるカフェ「島村喫茶」その喫茶店にはアイドルがやって来ることもある。だがそれを知っているのは極わずかな人間だ。

 

今日も喫茶店にアイドルが来店する。




今回の話は最近実装された新規アイドル夢見りあむちゃん!(遅い)

今回こんな話にするに至ったのはりあむちゃんを色々調べていくにつれてりあむちゃんには暗い過去があるんじゃないか?と考えてしまいました。

恐らくりあむちゃんのことだからリストカットしてSNSに投稿してーとかもやりそうだったからです。

口調に関しては正直調べてもそんなに詳しいところまでなかったのでこのような口調になりました。

今回の加入で本編にもちゃんと出していく予定です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編「フォースと共にあらんことを」

勢いで書いた!後悔してる!!


・・・まあ、世代的には世代なんだが、そこまで詳しいわけでもないから説明を省きたい。

今俺の目の前にはジェダイのようなローブを着て店に来ているアイドル達と、ストームトルーパーの白い戦闘アーマーを来た客たちがいる。

あっ、さっき入ってきたストームトルーパーの格好の客店入る時頭ぶつけたぞ完成度たけえなおい。

・・・なぜこうなっているのかわからんが、これは何なのだ?

俺か?なぜか俺は若かりし頃のオビ=ワンの格好をさせられている。

 

腰には青色に光るライトセーバーを持たされ、ベルトに付けている。

 

さて何故ここまでこの有名な名作映画のコスプレをさせられているのか、それは、近くのアイドル事務所346プロジェクトである企画が飛んでいる。それは、バーチャルリアリティー 通称VRプロジェクトだ。

このVR機能を使い346プロはあの名作映画のジェダイたちの戦いを追体験できるようにするという一大プロジェクト。更に驚くことにこれは既に商品化が進んでおり、今日がその発売日。しかも発売日に会場イベントまであるというのだ。そして、俺はそのオファーを受けており、数十分後には店を出て346プロに行かなくてはならない。

だから俺もコスプレしている(というかさせられた)。

 

まあ、スピンオフ作品含めて10作以上出してる映画だ。しかも昔から、今の世代まで知ってる人は多い。知らない方が少ないと思うが。だがまさか卯月も知っているとは思わなかった…確かに昔一緒に見てた記憶はあるが、まさかハマッていたなんて予想外だ。

俺はEP1~8までしか見てないからスピンオフ作品は全然分からんが、それなりに知識はある方だ。

 

しかし、ジェダイとストームトルーパーが肩を並べて喋ったり飲み物飲んでる姿はシュールだな…

 

やっぱり平和はいいね。

 

「どうかしましたか?オビ=ワンさん」

 

「誰がオビ=ワンだベイダー卿」

 

俺の隣に立っているのはこの映画のラスボス位置にいるキャラのコスプレをしている武内さん。隣にいるだけでもコーホーコーホーと音を立てて正直うるさい。

 

オビ=ワンの隣にベイダーが立っているというのも珍しい話だな。何?俺たち今から殺し合いでもするの?

 

等と言っていたら俺たちの携帯にアラームがかかる。それと同時に客達は次々と店を出ていくではないか。

そう、時間だ。俺とベイダー卿の格好の武内さんはお互い見合い、頷くと俺はローブを、ベイダー卿はマントを羽織り共に店を後にした。

 

 

 

 

 

 

346プロ内は既に人で溢れている。少なくても1万は居るであろう人の数。しかも346プロの入口にも人がいるので大型モニターを付けてイベントを間近で中継するという配慮までしてる…。金掛かってんだろうなぁとゲスい事を考えながら楽屋で待機する俺とシンデレラプロジェクトメンバー。

もちろんみんなコスプレしており俺以外にも、卯月はルーク。凛はハン・ソロ。未央は何故かC3PO。みくちゃんは…杖とか持っていて、緑色の耳からしてヨーダか?その他にも各々ジェダイの格好をして更に腰にライトセイバーを持っている。

なんでもありかこの事務所…。

 

そして遂に会場入りする事になった俺たち。

ドアが開きスタッフが「出番です」と一言伝えて来た。

 

…胃が痛い

 

俺は緊張で傷んでしまったのか、腹を押さえながら楽屋を出る。

 

案の定イベント会場は満員だ。

たかがゲームなんですけど…と思いながら俺は舞台に入ることにした。

アイドル達に並んで何故俺みたいなただのプロボクサーが呼ばれたのか不思議でならない。

 

「ここでスペシャルゲストの登場です!シンデレラプロジェクトメンバーと、フェザー級プロボクサーの島村一樹さんでーす!」

 

わああああ!!!!

会場の客達の黄色い声と共に会場入りする俺たち。前にシンデレラプロジェクトメンバーが入り、最後尾に俺が出る。

俺、今どんな顔をしてんだろう…引きつってそうだけど…。

とりあえず順番に自己紹介が始まった。

 

卯月は腰につけてるライトセイバーを両手に持ち緑色の光を放ち

 

「フォースと共にあらんことを!島村卯月です!よろしくお願いします!」

 

えっ?キャラのセリフ言わないといけないの!?聞いてねえけど!?

そして凛は腰につけてる拳銃形のブラスターを片手に持ち

 

「知ってたさ…渋谷凛です。よろしくお願いします!」

 

いや、それ帝国軍に捕まった時レイヤに放ったセリフだろうが!あの時ブラスター持ってなかったわ!

 

「R2D2!R2D2どこだい!?本田未央でーす!よろしくお願いしまーす!」

 

お前はツッコミどころ満載だわ!何故その格好を選んだ!というかどうやって金ピカのあの格好再現した!?その衣装何処で売ってた!?

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

なんで会場は盛り上がってんだ!?笑いどこじゃねえの!?こいつお笑い番組で満点取れるようなボケ披露してっぞ!C3POだぞ!?動きにくそうなあのお笑い担当だぞ!?

 

「ヨーダ?ヨーダを探しておるのか!?前川みくです!よろしくにゃ!」

 

もう少しいい台詞無かったんかい!!なんでルークがヨーダと出会った台詞にした!しかも古い方のセリフチョイスしたなぁ!

というかお前らどんだけ映画見返したんだぁ!

 

等と全員が自己紹介が終わると遂に俺の出番がやってくる。

ええい、ここまで来れば毒を食らわば皿までよ!全力でやってやらあ!

 

腰に付けているライトセイバーを手に取り、青い閃光を放ち、俺はオビ=ワンのライトセイバー構えソレスの構えを取った。

 

「お前は選ばれしものだった!!島村一樹です!」

 

やけくそ気味の自己紹介をやってやったぞこんチクショウ!顔が熱い!自分の顔が真っ赤になってるのがわかる程恥ずかしい!

 

「こんな素敵なゲストを紹介したところで、今回の目玉であるゲームを説明いたしまーす!」

 

司会の人がイベントを進行してくれたことにより俺の羞恥が増したがそんなのを気にせずに俺たちは椅子に座ることにした。

 

「今回紹介するゲームはあの有名SF映画を題材にしたゲーム!「スター〇ォーズバトルウォー」です!」

 

タイトルはそのまんまかよ…

 

「このゲームはブラスターを持った兵士にもなれます!敵を倒すとポイントが貰え、そのポイントに応じて映画に登場したヒーローキャラになれるという物になります!」

 

…ん?どっかで聞いたことあるゲームシステムだな…

 

「まあ、行ってしまえばバトルフロントのVR版です」

 

言うのかよ!わざわざ名前変えた意味ねえじゃねえか!

 

「じゃあさっそくゲストさんたちにやってもらいましょう!」

 

早いなぁ!プレイ動画とか流さねえのかよ!

 

俺たちの前に現れたのは何やら大きなソファーのようなもの。何やらソファーから怪しい配線やらが引かれており、頭を置く部分にヘッドギアのようなものがある。

…これを被るってことか?とりあえず、これを被って…

 

「これを被ると脳内電波を仮想世界にダイブさせ、身体は機能停止状態になりますが、意識はゲームの中に入ります」

 

「オイ!!何か危ないワードがチラチラ出てるぞ!!」

 

大丈夫だよな!?人体に影響ないよな!?

 

「人体への影響は…さあ始めましょう!」

 

「保障しろよ!そこは保障してくれよ!!」

 

などと言っていたら、俺の意識は切れた。

身体に力は入らず、視界がぼやけていく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

気が付くと俺は知らない砂漠のようなところにいた。辺りは岩、岩、岩、横を向くと白いアーマーを付けたクローントルーパーが近くにいる。そして正面には……ドロイドが隊列を組んで並んでいた。

 

「ジオノーシスかよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

その言葉が開戦の引き金になったのか、ドロイド軍は俺たちに向かって一斉にブラスターを放ってきた。

赤い閃光が俺の横にいたクローン兵を倒した。

問答無用かよ!!

 

「何してるんだ!武器を構えろ!」

 

別のクローン兵が俺に向かってしゃべりかけてくる。なんだこのAIすげえ!

 

「でも、武器が無い!」

 

「もう持ってるだろ!」

 

クローン兵が俺の手に握られているものを見せる。それは、小さな筒のような…剣の柄のような…

 

「ってこれライトセイバーじゃねえかあああああ!!!!!」

 

ボタンのようなものがあり、それを指で押し込むと柄から青色に光る光の剣が目の前に出てくる。そしてそれを手元でくるくるよ回す。

 

「マジかよ…」

 

俺、ジオノーシスの戦いに入っちゃいました。

 

~後編に続く~



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サブストーリーその2「ゆるキャラになろう!」前編

どうも皆様おはこん!
伊吹香恋です!

今回はあの事件を島村一樹で再現しています!



それは休日の買い物の時だった。

島村一樹は彼のお店の食材買い出しに出ていた。何時もは業者に頼んだりするものだが、彼の食事に関しては話は別である。彼は今は復活したプロボクサー。食事には気を付け、バランス良い食材で調理することを心掛けている。

 

そんな商店街の道端にあるものが落ちていた。

 

「ん?」

 

一樹はそれに気が付く。ぬいぐるみの様な丸い玉型の物に一樹は興味本意にそれを覗き込む。

 

「なんだ?」

 

近づくと八朔の皮のような模様をしており、頭の所には丼がくっ付いている。そして正面には顔のような目と口があった。

それを見て一樹は驚き持っていた買い物の紙袋を落としそうになる。

 

「うおっ!?何だこれは…!?」

 

目を見てみると目線は左上をさしており、笑ってるのかよくわからないが口が半分ほど空いている。一言で言うと、気色悪いに近い。

 

「あ、こんな所にあった。ミチオくんの頭」

 

そこに現れたのはスーツを来た男だった。男はミチオくんという頭だけのぬいぐるみに近づく。

 

「こんな所に捨てて行きやがって、あのクソバイトめ」

 

「おい、何なんだこれは?」

 

一樹はぬいぐるみに対し男に文句を言う。

 

「あ、すいません。なんか迷惑かけたみたいで。これはですね、広島のゆるキャラ『小野ミチオ』くんの頭です」

 

「小野ミチオくん?」

 

「はい!広島の尾道の新マスコットとして売り出そうとしているゆるキャラになります」

 

「ゆるキャラ…」

 

本人があまり聞かない言葉に一樹は首を傾げる。

 

「あれ?ゆるキャラをご存知でない?」

 

「いや、聞いたことはある。こんな感じのゆるーいキャラの事だろ?」

 

「はい、近年では地域活性のためにこういうキャラを作ってPRする所が多いんですよ

しかし困ったな〜…中身が居ないんじゃな~」

 

「中身?」

 

「はい、実はこのぬいぐるみに入るバイトの子が逃げ出しちゃったんですよ。ちょっと言葉使いを説教しただけで、全く最近の若者はたるんでますね」

 

「ほう…」

 

「でも、実はこの後イベントがあって、そこにミチオくんを登場させなきゃいけないんです。困ったなぁ…中の人がいないと、出られないしなぁ」

 

「あんたが入ればいいじゃないか」

 

「いやいや、私は取り仕切る側ですから、私がいないとイベント自体がまわらないんですよ。それにミチオくんってゆるキャラとしては結構でかくて、しかも重いんですよね。だからある程度背が高くてガタイのいい人じゃないと長時間イベントには耐えれないんです。でも、そんな背がある程度高くて屈強そうで暇そうな男の人なんて、今から簡単に見つかるわけ………んん……?」

 

男は一樹をじっと見つめる。

 

「むう……」

 

「んんん!?」

 

一樹に悪寒が走り、冷や汗が流れ始めた。

 

「……嫌な予感がする」

 

「いたあああ!」

 

一樹の予感はすぐさま的中する。司会の男は大声をだし、一樹を指さす。

 

「ちなみに俺は入らないぞ」

 

すぐさま一樹は二言返事で「NO」と答えるも、イベント自体が直ぐに始まりそうで焦っている男からしたらどうでもよかった。何とか一樹に出てもらうために頭を下げる。

 

「いやいやいや、そこを何とかお願いしますよ!ミチオくんの中に入れそうなある程度でかくて屈強で暇そうな人なんて、もはやあなたくらいしかいない!」

 

「あんた失礼だな……」

 

「お願いしますよお!ちゃんと相応のお礼を出させていただきますから!それに、イベントを楽しみにしている子供たちもたくさんいるんです!彼らの顔をガッカリ顔にさせない為にも、お願いします!」

 

一樹はあからさまに嫌な顔をするが、悩んでしまっていた。

確かにこれは一樹には関係ない話だ。だが、1%でもミチオくんの登場を楽しみにしている子供たちのことを考えていた。彼もボクサー。一樹の試合目当てに来てくれたファンはいっぱいいた。もしそのファンがお目当ての試合を見れずに帰るという事をしてしまえば、一樹はファン期待を裏切るという事になる。

 

ゆるキャラの中には入りたくない。だが、ファンのガッカリ顔を見たくもないのも確かだ。

 

一樹は悩み続ける。

 

 

 

 

そして、その答えは……後編に続く。

 

 

 




というわけで四代目の黒歴史?を再現しました。

こちら2本立てにしています。後編近日公開予定です!

それでは、ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サブストーリーその2「ゆるキャラになろう!」中編

「う~ん!パーフェクト!ピッタリじゃないですか!」

 

「なあ…やっぱりやめないか?」

 

小野ミチオという広島のゆるキャラになることを決意したプロボクサー兼俳優の一樹。そんな一樹はゆるキャラ小野ミチオの着ぐるみを着て総合監督の男の元まで歩いてきた。

その姿は尾道ラーメンをモチーフしたどんぶり帽子、ゆるキャラらしくゆる~い顔をした八朔の顔、ONOとプリントを施された服。海産物のPRも含まれた魚のポシェットに、それに乗っかるように漁師が多いというアピールである黒い長靴を履いた一樹が現れた。

 

「重いし、暑いし、息苦しいな…これは逃げ出す気持ちもわかる…」

 

「まあ、そう言わずに、小野ミチオ君は尾道のシンボル!アイドル!象徴なのですから!」

 

「大体このヘンテコなキャラのどこが尾道を象徴してるんだ?」

 

「えええ!?見てわかりませんか?

 

瀬戸内を代表する名産『八朔』をモチーフにしたチャーミングなお顔!

 

おしゃれなアクセントになっている尾道を代表的食べ物『尾道ラーメン』の帽子!

 

美味しい海産物を楽しめる街であることを伝える『お魚』のポシェット!

 

漁師の住む町であることを伝えるためのクールな『長靴』!

 

そして小野ミチオ君の苗字である「ONO」を大胆にプリントしたイケてる洋服!

 

全てが美しき町、尾道を象徴してる完全無欠なご当地ゆるキャラだと思いませんか!?」

 

「あまり思わないが…」

 

「まあ大丈夫ですから!自信を持ってください!カッコイイですよ!島村さん!いや、ミチオ君!」

 

「…で、俺は具体的に何をすればいいんだ…?」

 

「もうすぐ子供たちがやってくると思いますので、まずはファンサービス、遊んであげてください!

ただし、くれぐれもキャラクター性を乱すことはしないでくださいね」

 

「キャラクター性?」

 

「小野ミチオ君は尾道に住んでいる漁師という設定です。なので、基本は海を愛する渋い男のキャラです」

 

「この顔でか……?」

 

「そして言葉遣いですが、基本的には挨拶には「ミチー」をつけてください!」

 

「「ミチー」?」

 

「こんにちはミチー!よろしくミチー!のような感じです。では練習してみましょう、サンハイ!」

 

「よろしくミチー……」

 

「そうですそうです!本番ではもっと元気よくお願いしますね!

 

…それと、困ったときに使う口癖が設定されます。

困ったときは、「オーノー!」と言ってください。練習しましょう。さん、はい!」

 

「…オーノー」

 

「エクセレント!ちなみに英語の「OH!NO!」と「小野」がかかってます!洒落てるでしょ!?」

 

「どう考えてもスベってるだろ…」

 

「そして最後に!もういっこだけあります!」

 

「まだあるのか…で…何なんだ」

 

「それは、決めポーズです!」

 

「決めポーズ?」

 

「小野~…」

 

総合監督の男は大きく足を開き腕を頭の所まで持っていき

 

「ミチオ!」

 

と両膝を折り曲げ左方向に、右腕は肘を折り曲げ下の方向に、左腕は同じように肘を折り曲げて上の方向に向けてポーズをとる。それは少し卍のマークにも似ていた。ここまで見た一樹の反応は

 

「うわあ……」

 

ドン引きしていた。

 

「こんな感じでお願いします。登場の時やシメる時とかに使われますね」

 

「やりたくないぜ…」

 

「まあまあ、そう言わずに、子供たちの笑顔のためですから!いきますよー!さんはい!」

 

「小野~…」

 

先ほどの総合監督の男がやったようにポーズを取り、

 

「ミチオ……!」

 

卍のポーズを取った。

 

「島村さん!完璧ですよ!間違いない…あなたこそが小野ミチオだ!」

 

「…嬉しくねえよ…」

 

「お!そろそろ子どもたちが来ますよ!それでは島村さんよろしくお願いします!他の設定は結構ガバガバなんでなんとなくそれっぽい演技をしてくれれば大丈夫ですんで!」

 

「…つまりは丸投げってことかよ…どうなっても知らねえからな」

 

「大丈夫です!島村さんこそ小野ミチオです!

…あっ!来た!それじゃあよろしくお願いします!!」

 

総合監督の男がその場を去ると、後ろから子供らしき声が耳に入る。

 

「わああ!小野ミチオだあ!」

 

「すごーい!本物だ!」

 

それにつられるように三人ほどの子供がこちらに歩いてくる。

変哲な格好の割には意外に人気があることを知った一樹は「ここは人肌脱ぐか…」と後ろを向いた。

そして一樹は一目を気にすることなく、大声で声を出す。

 

「ようガキ共……俺こそが……

チャーミングなはっさくフェイス……!

おしゃれな尾道ラーメン帽子……!

キュートな魚のポシェット!

漁師の心意気…… クールな長靴!

イカしたナウい「ONO」トレーナー……!

そう 俺こそが尾道の象徴……

 

小野……ミチオだ……!!」

 

ちゃんと自己紹介の後に卍ポーズを取る一樹。

 

「楽しみたい奴は…かかってこい!!」

 

果たして、イベントは無事に終えることができるのか!

 

続く。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

連載三周年記念「入れ替わり大事件!?」前編

気づけはもう三周年!
今回は三周年記念回ということでネタ話になっています!

それではどうぞ!!


俺の名は島村一樹。訳あってプロボクサーと俳優をしているんだが、マジで俳優はなるつもりは全然なかったわけで…俳優を目指してる人とかに申し訳ないんだが、俺はそこまで乗り気じゃなかったんだ。だが何故か演技を周りが賞賛し、俺を祭り上げるようにトントン拍子に事が進みプロボクサーと俳優の道へと進んでいってたんだ。

そんな俺の朝は早い。目覚ましの音で俺はゆっくりと身体を起こす…

 

ん?

 

身体がなんか軽いな…というかなんか髪の毛もふわふわして…いい匂いだぁ…昨日シャンプー変えた影響か?とは言え俺はまずベットから降りて…と思ったんだが…なんかおかしい…なんか胸の所が少し重い気がする…昨日軽めの運動をして休んだからか?

いやいやそれでもおかしい…というか…ピンク色の服…?こんな服俺持ってたっけ…?

 

「…これ…どう…いう…っ!」

 

なんか声色が違う!?高い!?声色が高い!?昨日少し酒飲んだから…ってんなわけあるかぁ!!酒やけでもこんな声にならねえわ!!

 

俺は嫌な予感がしてすぐに近くにあった鏡で姿を見た。

 

「な…な…な…!!」

 

そこにいたのは我が愛しき義妹…島村卯月の姿がそこにあった。

なぜ卯月の姿がある…俺は卯月に手を振ると鏡の中の卯月も手を振る。両手を振ってみると鏡の中の卯月も手を振る!!

 

「な、な、な…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は島村卯月と言います!高校2年生で、アイドルをやっています!今日は学校はお休み、アイドルのお仕事もお休みです!今日オフの日は凛ちゃんと末央ちゃんとショッピングをする予定です。

そんな私の今日の朝は少し早めに起きるように目覚ましをセットしました。目覚ましの音と共に私は目を覚まし、体を起こしました。

 

…あれ?なんだか身体が重いような…なんだか胸も軽いような感じがします…。というか…この匂い…優しくて…安心する匂い…お兄ちゃん?私、いつの間にお兄ちゃんの家で寝てしまったのでしょう?目を腕で擦り眠気の中私はお兄ちゃんを呼ぶことにしました。

 

「お兄…ちゃん…?」

 

あれ?声が…おかしい…低くなったような…私はお兄ちゃんの部屋にある鏡を見てみます。

 

そこには、お兄ちゃんがいました。私を見ている鏡の中のお兄ちゃん…

私が手を振ると鏡の中のお兄ちゃんも手を振りました…。

 

「な、な、な…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なんじゃこりゃああああああああああああ!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

朝早くに二人の兄妹の声が交差するように鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん…つまり、二人は中身が入れ替わったと…」

 

「「はい…」」

 

現在朝の11:00時昼食を一樹の喫茶店で済ますことになっていた卯月たちは凛と末央と合流して今現在の状況を説明していた。

 

「お兄さんの身体にはしまむー…しまむーの身体にはお兄さん…。にはかには信じがたいなぁ~お兄さん、シャドウしてみてよ」

 

「こ、この身体でか…ちょっと抵抗があるんだが…」

 

「なんで?」

 

「……いや、妹の前でこれ言いたくないんだが…」

 

「でも言わないと信じてもらえないよ?」

 

「…んだよ…」

 

小さな声を発する一樹の発した言葉が全員に聞こえなかったらしく「「「えっ?」」」と聞き返す。

 

「あ~もう!痛いんだよ!胸があるから!!」

 

「「「あ~…」」」

 

卯月の身体は言ってしまえば出るところはちゃんと出ている女性らしい身体つきだ。そんな彼女の身体でシャドウをすれば当然胸が激しく動く。だが一樹にとって今のシャドウは痛みと引き換えにしているもの。だがここで信じてもらうために一樹は意を決する。

 

「見てろよ!一度しかしねえかんな!!」

 

やけくそ交じりに一樹はいつものピーカブースタイルの構えをとり拳を構えた。

 

「シッ!シシッ!!」

 

一樹の身体ではないからか少し体の切れがないが、それでも今の凛と末央にはわかる構え方とシャドウの仕方で分かりやすかった。そして卯月の身体でやっている一樹はというと、

 

「ッ…!シッ…!」

 

揺れる胸の痛みに耐えながらやっていた。男として生きてきた一樹にとっては感じたことのない痛み。当然耐えれるわけない。既にもう涙ぐんでおり、ついに耐えれなくなりうずくまってしまった。

 

「もう…いいか…?」

 

「うん…もういいよ…ありがとう、お兄さん…」

 

「あと、ご馳走様です…」

 

「オイ本田今なんつった?」

 

両手を合わせてお辞儀をする末央に向かって突っ込む一樹だったが、痛みに耐えてやった甲斐はあった。卯月の身体でのシャドウ。体が違うことによりキレは全然違うものの、紛れもなく一樹のスタイルのボクシングだった。一樹の行動は同時に卯月の証明にもなった。

 

「それで、どうすんの?今日お兄さんドラマ撮影じゃなかったっけ…?」

 

「…あ」

 

この騒動ということから一樹はすっかり仕事のことを忘れてしまっていた。

勿論休むわけにもいかず、頭を抱える。

 

「そうだ…今日は撮影日…しかも俺が総督の所から抜け出すシーンだ…ほぼ俺メインじゃねえか!」

 

「あれ?メ〇ルは…」

 

「末央、それ以上はいけない」

 

「しかもあと二時間しか猶予がねえ!どうしよう…!」

 

「落ち着いてくださいお兄ちゃん!」

 

「自分の声を間近に聞いて落ち着けれるかぁ!」

 

「「(確かに)」」

 

どうしようどうしようと慌てるプロボクサー(今はアイドルの身体)を見てて少し面白いと感じている凛と末央だがそろそろかわいそうにも思えてきてある提案をする。

 

「じゃあさ、志希に頼んでみたら?」

 

「そうだね、しきにゃんなら何か作ってくれるかも」

 

「志希に?あのマッドサイエンティストに何を頼むんだよ…」

 

実は一樹と志希はドラマの撮影の際に出会っている。志希の役は今一樹たちが撮影しているシーズンに出てくる敵サイドのコミュニティに所属する科学者役として出ていた。

だが、彼女が失踪してしまうことが多々あるためドラマ撮影が進まないということもある。天才美少女科学者である高校生に何ができるのか不安でしかない一樹。だがよくよく考えてみるとこんな摩訶不思議なこと彼女が食いつかないわけがない。

 

「しきにゃんだったら面白がって協力すると思うんだけどな~」

 

「確かに志希ちゃんならこの状況を打開してくれるかも…?」

 

「その前に失踪してんだからどこにいるか探すところからスタートだろう…そんな時間どこに……いや、待てよ…」

 

卯月の身体の一樹はドタドタと走り自分の部屋から携帯を取り出した。

 

「え~っと確か…あった!」

 

一樹が開いている携帯電話帳にマッドサイエンティストと書かれたアイコンがあった。それをタッチして携帯を耳に当てる。

 

1コール…2コール…3コール…4コール…5コール

ガチャ

 

「はろはろ~…」

 

いかにも今寝てましたというような声を発している彼女。

 

「おせえよ」

 

「あれ…卯月ちゃんのお兄さんの携帯だよね?声変わった?」

 

「昨日も出演一緒だっただろう人間がそう簡単に声帯が変わるか」

 

「…でもこの声卯月ちゃんだよねぇ~…あっわかったドッキリだ~☆」

 

「よぉ~し今からお前がいる場所を教えろそのハッピーな頭に一発喰らわせてやるよ!」

 

「もぅノリ悪いなぁ~…あっもしかして昨日の薬の影響かな?」

 

「ん?オイ今なんつった」

 

「いや~昨日作った身体が入れ替わる薬を興味本位でお兄さんの飲んでた水に混ぜたんだよねぇ。試作品だったから効果がどれくらいのものか確かめたくて☆」

 

「……」

 

「だからお兄さんの身体と卯月ちゃんの身体が入れ替わったのかなぁ~と…あれ違ってた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエノシワザダタノカ」

 

 

 

 

 

 

 

後半へ続く。




ヤバイ…しきにゃんの口調覚えてない…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

島村一樹「FGO風」

勢いで書いてしまった。後悔はしていない。


クラス:バーサーカー(島村一樹)

現役時代の姿で現界したためブランクはほぼ無い。しかし、昔の好戦的性格のままな為、クラスはバーサーカーに収まった。だが、理性はしっかり保っているし、生前の記憶をしっかり受け継いでいるため、義妹である卯月達の事も覚えている。

 

筋力A+

 

耐久EX

 

敏捷A

 

魔力E

 

幸運D

 

宝具C

 

スキル1「セコンドアウト」

味方全体の攻撃力を3ターン上げる。

 

スキル2「殺意の投影」

敵単体を1ターンスタン状態にする

 

スキル3「ピーカブースタイル」

自身の防御力を3ターン上昇させる。

 

 

説明

現役時代からブイブイ言わせていたハードパンチャーだけあり筋力、足を止めて打ち続けるための耐久と素早い判断力や相手との間合いを即座に詰めるための敏捷は高ランクではあるが、彼自身は普通の一般プロボクサーだったため、魔力は愚か魔術の知識自体は全くない。信じれるのは己の拳のみだ。

 

召喚

「英雄…何かの間違いだと思うが呼ばれたからには役立つよ。クラスはバーサーカー。名前は島村一樹だ。よろしく頼むぜ、マスター(セコンド)さん」

 

戦闘開始

「3分以内に片付けてやる!」

 

宝具:コークスクリューブロー

敵単体に強力な攻撃を与え、3ターン防御力低下と1ターンスタン状態にする。

「行くぞ!これで倒れなかった奴はいない!喰らえ!コークスクリューブロー!!!」

 

勝利

「なんだ…1ラウンドも持たねえとは、ヤワな奴だ」

 

敗北

「悪い…KOされちまった…」

 

マイルーム会話1

「どうしたマスター(セコンド)さん。は?なぜコーヒーをいつも飲んでるかだって?そりゃあ、いいコーヒーを客に飲ませたいから、さ…どうだマスター(セコンド)さん。俺のコーヒー、味わってみるかい?」

 

マイルーム会話2

「ボクシングの何が楽しいか?そうだな…行き場の無い俺に色んな物を与えてくれたのがボクシングだった…てとこかな。家も、家族も、何も無い俺にきっかけを与えてくれたのがボクシングだった。だから、ボクシングにだけは嘘をつきたくない。そういうとこだな。えっボクサーが敵に拳を向けていいのか?もうボクサーじゃないがな…今の俺はサーヴァントだ」

 

好きなもの

「ボクシングと料理かな、後はコーヒーだな。毎日必ず飲んでる。あと義妹だ」

 

嫌いなもの

「食べ残しをする奴な。生命の恵みを粗末にするのは許さん」

 

聖杯への望み

「どんな願いを叶える願望器…くだらねえ。願いは自分の拳で手にするからいいんだ。紛い物の(ベルト)を手にするのなんぞ真っ平御免だ」

 

 




バーサーカーよりライダーだったかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
プロローグ


自分「何か面白い小説載せたいなー」
棚にあるはじめの一歩とアイドルマスターシンデレラガールズの本が並んでるのを見て思った。
自分「あ、この組み合わせ面白いんじゃね?」

という考えで作りました。


ボクサーは一口に色々ある。ある者は金のため、ある者は栄光のため、いろいろだ。

俺は後者。どんなに劣勢だろうが、どんな奴でも俺はこの拳で倒してきた。フェザー級日本チャンピオンという肩書きは俺のプロボクサーとしての栄光だった。だが、たった一発のパンチで、俺のプロボクサー選手生命は終わった。

 

ラッキーパンチ。

 

その拳は俺の頭に命中し、俺は重傷を負った。後遺症は無いものの俺は引退を決意した。そんな俺の栄光は消え失せる。そしていつの間にか俺の周りには人が居なくなっていた。名も薄れ、俺は時の流れに取り残された。

 

 

 

 

朝を起きると俺がまずやる事は料理の仕込みからだ。それをしながら自分が食べる朝食の準備もする。

朝食を済ませると店の開店だ。朝から夕方にかけてうちはなんてこともないただの喫茶店だ。夜は居酒屋として酒を提供する。何処にでもある一般向きの店だ。しかし、ここはちょっと違うところがある。それは、ここの常連にアイドルがいる事だ。

 

開店をして数分後、ドアを開けられ、ベルがチリーンと音を出す。

 

「いらっしゃいお席はご自由にどうぞ」

 

客に挨拶をしてすぐに客が座った席にメニュー表を出す。

 

「私キノコとホワイトソースのスパゲティで」

 

「じゃあ私は日替わりランチでお願いします」

 

「かしこまりました。日替わりランチはライスとパンでメニューが変わりますがどうなさいますか?ライスには大根の下ろし和風ハンバーグと具沢山味噌汁と漬物、一方パンはスープとサラダと特製ミニグラタンですが」

 

「じゃあライスで」

 

「かしこまりました」

 

これが俺の仕事。時代に取り残された俺にお似合いの仕事だ。1日こうして料理を作り続ける。昔の俺と比べたら全然違う。

 

チリーンとまたドアが開かれる。

 

「いらっしゃい…って、お前か」

 

「えへへ。こんにちは、お兄ちゃん」

 

ドアを開けてそこにはいたのは、今人気急上昇中の我が義妹『島村卯月』だ。

 

「おう、今日はどうした、レッスンがあるんじゃないのか?」

 

「今日はレッスン早めに終わりました」

 

「で、昼をここで食う気でいると。まあ、食材は残っていることだし。何が食いたい?」

 

「ハンバーグでお願いします!」

 

「かしこまりましたっと」

 

そう言って俺は厨房に入りご指名のハンバーグを作り、卯月の前に出す。こいつはよくここで食事をして帰る。夜も時々ここで食って帰る。

家で母さんが作ってるんじゃないのかな。

 

「で、どうなんだ。アイドルは。やりがいあるか?」

 

「はい!事務所の皆さんいい人たちですし、何より長年の夢でしたので」

 

笑顔でそう言うが、アイドルという仕事はそんな簡単なものではないはずだ。努力無しで成し遂げるものはよっぽど運が良く、才能があるものだからだ。

現に俺も昔はフェザー級日本チャンピオンという座に着いたが、それでも血のにじむ努力をしてきた。何万回と左だけの拳を突き出し、まるで馬鹿の一つ覚えのように同じことをがむしゃらにやって来た。まあ、ボクシングとアイドル自体全然違うが努力という面では同じハズ。

だが、卯月はシンデレラプロジェクトに選ばれるまであきらめずレッスンを続け、ようやく報われた。こいつこそ真の努力家だろう。そんな努力家に俺はねぎらう言葉もない。ただただこう言う。

 

「そうか。頑張れよ」

 

笑顔でそう言ってやることがこいつの励みになるだろう。

 

「はいッ♪」

 

 

 

 

営業終了して俺は店の片付けをしていた。俺は皿を洗いながら昼卯月の言っていたことを思い出した。

 

「夢...か」

 

俺の夢、それは世界、世界への挑戦だ。

WBC世界タイトル。ベルトをお世話になった里中会長に差し出し、島村一家に恩返しすること。それが俺の夢だった。試合に負け、重傷を負って俺が引退することになった時、一番身体の心配をしてくれたのは卯月だ。「無事で良かった」何度も言われた言葉だが涙を流しながら言われたその一言がどれだけ嬉しかったか...。そして同時に胸が苦しくなった。

 

だからこそ俺はプロボクサーを辞めた。これ以上俺は家族の悲しむ顔を見たくなかったからだ。

 

拳を握りしめ、ジャブを放つ。

 

シュッ!

 

放った拳は風を切るような音を出し一直線に伸びる。

 

シュッシュッ!

 

ワンツーから直ぐに頭を動かす。相手に予測されないようにフットワークをし、頭を左右に揺らす。

 

シュッ!

 

パリィン!!

 

「あ」

 

勢い余って拳を山にしていた皿に当ててしまい、皿は派手に飛んでいき地面に落ちて破れた。

 




はいという訳でプロローグになってます。
正直ここからどうするかあまり考えていません。仕事が忙しいということもあり自分のペースで書いていくつもりですのでどうぞよろしくお願い申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

島村一樹(本編 Round.26までの現在)

更新しました!


名前:島村一樹

年齢:24

職業:喫茶店店主、フェザー級プロボクサー、俳優

(現在)試合成績:18戦 17勝 1負 15KO

 

元日本フェザー級チャンピオンで元WBCフェザー級第1位の経歴を持ったプロボクサー。現在は復帰して再びリングに上がる。

現在は日本フェザーランキング9位

スタイルは典型的なインファイター。相手を一発でマットの上に屠れる必殺の一撃と頑丈な身体が武器。主にはピーカブースタイルで守り、リズムを読んで隙あらば攻撃又は懐に入り込み必殺の一撃を与える。

 

必殺技

コークスクリューブロー

現役時代に会得した破壊力強力な技。

 

S(mash)ing

一樹が卯月の振り付けで会得した技。

中腰状態で半時計回りに身体を回転させて相手に右のスマッシュを放つ技。相手との間合いや距離調整が必須の技で少しでも間違えればボディ等に当たる。更に回転時には完全な無防備状態の為リスクが高い技になっている。

 

 

昔は『櫻田一樹』という名前であり母親から虐待を受けていたのだが一樹が5歳の頃に母親は突然失踪し一樹は孤児院に預けられる。父親は名前も顔もわからない。中学に入り喧嘩に明け暮れる日を過ごしていたある日に里中会長に出会いボクシングジムに誘われる。

ボクシングジムに住み込みで練習していた練習生だったが、ジムの会長と卯月の父親が知り合いだったらしく、卯月の父親は喜んで一樹を迎え入れた。

WBC世界タイトルマッチで相手からラッキーパンチを頭に受けてしまい重傷を負う。卯月や家族を悲しませてしまったショックと初めて負けたショックでもう2度と家族を悲しませないようにと思い引退を決意。今では独立して島村喫茶としてカフェ、夜は居酒屋を開いている。だが時々ボクシングが忘れられないのか、欠かさずロードワークをしていた。

卯月のライブを見に行き最後のインタビューを聞き再びリングに上がりWBC世界タイトルに再挑戦することを決意する。

 

俳優としての才能を見出されていて今はアイドルドラマ『ウォークキング・デッド』というゾンビ物のドラマで『デリル・デインクソン』というキャラクターを出演しており日本のノー〇ン・リー〇スと言われいる。俳優としての才能はピカイチでトレーナーからも教える事が無いと言われるほど。

 

主に服装は黒いシャツにジーパンを愛用しており、トレーニング中はジャージ姿。髪形は茶色の長髪で後ろに1本結び(料理の時と気分によってはポニーテールにもする)

性格は温厚で人情に溢れて面倒見が良い1123いいにいさん。家族想いであり、ファイトマネーのほとんどを島村家に入れている。因みに、卯月のアイドル育成学校のお金は一樹の新人王戦ファイトマネーから出されている。義理の両親にも心から感謝しており、一生不自由のない生活をさせてあげたいと思っており、義理人情は人一倍厚い。卯月の事になると大切なことをほっぽり出して駆けつけようとする癖がある。本人は気づいていないがシスコンであるのは誰から見ても明らかだ。

人間関係は卯月を通じてシンデレラプロジェクトメンバーと出会い、多くのアイドルと交流がある。引退してからもジムの人間と定期的に交流はあったため、彼を慕い続けるボクサーは多い。

だが、彼の好意に甘えていると甘え続ける人が続出するという謎の連鎖が起きることもあるとか。だが一樹自体は頼ってくれても良いと嫌な顔ひとつしないため、全面的には善意でしている。

 

恋愛については一樹自身が『身を固めるには早すぎる』という理由からあまり積極的ではないが、お節介をしたり的確なアドバイスを相手に与えるため多くの女性から信頼や好意を寄せられている。

本人は全く微塵もその好意を感じ取ったりしていない。ただ頼りにされているという感覚だけしかない。

 

現在好意を寄せられている相手

 

島村卯月

前川みく

鷺沢文香

輿水幸子

夢見りあむ

神崎蘭子(?)

 

交流がある人物の一樹が感じている印象

 

島村卯月→最愛の義妹

 

渋谷凛→卯月の友達

 

本田未央→卯月の友達

 

前川みく→ん猫ちゃん猫ちゃん!!

 

多田李衣菜→ロック系(?)が好きなアイドル

 

神崎蘭子→厨二病って奴だろ? でも中身は普通の女の子

 

赤城みりあ→小学生でアイドル!?マジで!?

 

城ヶ崎莉嘉→カブトムシとかが好きな中学生アイドル

 

諸星きらり→ヘビー級(?)アイドル

 

緒方智絵里→守ってあげたくなる小動物みたいな子

 

三村かな子→いつもお菓子食べてるイメージが強い…

 

双葉杏→あまり見かけることが少ない気がする。まともに話したことあったっけ?

 

アナスタシア→ロシア人アイドル 色々教えてあげたい

 

新田美波→しっかり者のCPメンバーのお姉さん的存在

 

夢見りあむ→なんだかんだで放っておけない

 

鷺沢文香→おっとり読書美人さん

 

輿水幸子→限界を感じさせない努力家

 

安部菜々→オイオイ、歳を考えrグハァッ!!?

 

武内プロデューサー→皆を支えている頼れるプロデューサー

 

千川ちひろ→意外とがめつい…?

 

里中会長→ボクシングに出会わせてくれ、人生を変えてくれた恩人

 

木崎京介→最も信頼における後輩。アイドルヲタク

 

橘咲耶→同じ境遇(シスコン的な意味で)同じ立場(シスコン的な意味で)同じ階級(ボクシング的な意味で)の最大のライバル。

 

現在の趣味は料理と読書であるが、昔はどちらも好きではなかった様子。本人曰く、読書すると頭が痛くなり、料理は食べられればなんでも良かったようだ。現在では義母の美味い料理を食べれれば元気が出てやる気が出る、だから自分も同じような料理を作りたい。

読書をする事により知識は時に武器になるからという事らしい。

また、耳かきをいくつも持っていて、卯月曰く耳かき愛好家らしい。

煙草は吸わないがニコチン タール無し電子タバコ愛好家。好きな味はマスカット味

 

歌を聴くのも歌うのも好きだが本人は全く気づいてないが何故か音痴の曲と音痴でない曲がある。因みに好きな曲は卯月の曲で店でも(というよりかはシンデレラプロジェクトメンバーの曲全員分を)流している。

好きな歌はAvenged Sevenfoldの曲でメタル系やロック系やさらにジャズなど聴くジャンルの幅は広いようだ。

島村喫茶店の店主。持ち前の料理スキルで客の胃袋を掴み収入を得ている。現在は住み込みバイトのりあむと2人で切り盛りしている。

 

イメージCVは小野大輔さん

イメージソング:一番歌(湘南乃風)

 

架空カバー曲:アルペジオ ([ALEXANDROS])



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.1

今回は急いで書きました。グダグダ感は許してください。
許してくれないならあなた達の好きなアイマスキャラにお好きな技を私にかましてください。頭の中で
今回ははじめの一歩のBGMを聴きながら書きました。


俺の朝はいつも早い。喫茶店を経営しているため、前の日と朝には仕込みをしておかないといけない。だが、俺はそれ以外にも日課にしている事があった。

 

それは『ロードワーク』だ。

 

ロードワーク、つまりは走り込みだ。朝は決まって動きやすいジャージに着替えて外に出てロードする。

引退した身で今更しなくて言いと思うだろうが、いつもしていた習慣のようなもの。やめたら逆に違和感を覚えてしまう。

 

しかし、俺がこのロードをするに至って悪い癖がある。それは・・・

 

「はぁ!はぁ!はぁ!」

 

無意識に全速力を出してしまうことだ。本来ロードワークは基本体力と足腰を鍛えるもの。それを全速力で走るということは心臓に負担を掛けるということになる。そうすることによって体力は自ずと付くし、足腰も鍛えられる。

 

今更だと思うんだが

 

 

「何やってんだ俺・・・」

 

 

 

 

 

 

 

昼のラッシュが過ぎた頃、今日もここにアイドルが三人いた。

一人は俺の義妹『島村卯月』。もう一人は黒いロングの髪と凜々しいクールな感じなのが特徴の『渋谷凛』。もう一人は短髪でハキハキとした一言で言えば・・・パッションという感じの『本田未央』

この三人は今話題の人気アイドル『ニュージェネレーション』というユニットだ。そんな人気アイドルたちとなぜ俺がお近づきになっているかというと、卯月の紹介だった。

 

今俺達は昼食を挟みながら俺が当時まだ現役のプロボクサーだったころのビデオを三人に見せていた。あまりこういうのを見せたくは無かったのだが、未央がどうしてもとせがんできたので仕方なく見せてやっている。というか見せないと帰ってくれなさそうだったし・・・。

 

そんな当時の映像を見て三人は興味津々という感じだった。

 

映像に映っている俺は両腕を顔の前に揃えるあのマイク・タイソンが使っていたスタイル『ピーカブースタイル』で相手選手が左ジャブを繰り出した瞬間相手の懐に入り込み左アッパーカットをかます。拳はそのまま相手選手の顎に向かって当たると画面越しの嫌な音が鳴る。そこを追い打ちを決めるようにチョッピングライトを放った。

相手はバタリと倒れて動かない。レフェリーが倒れた選手をのぞき込むが両腕を大きくあげて腕を振る。試合終了の合図と共にゴングが鳴る。

 

『試合終了~!!なんという幕切れ、なんという早さ!なんという強さ!たった2ラウンドで王座を守り切った日本チャンピオン!!もう国内で彼にかなう者はいないのだろうか!!遂に、遂に彼は世界に飛び出そうとしているのだろうか、島村一樹、5度目の防衛成功!!!』

 

「へぇー、しまむーのお兄さん凄い!」

 

「もう3年も前の話だ。今は喫茶店の店主だ」

 

「じゃあ、そんなお兄さんに質問。今の選手で期待出来る選手はいますか!?」

 

まるでインタビューの為マイクを近づける記者のように未央はなのも持っていない右腕を俺の目の前に出して言う。

 

「そうだな…」

 

正直今のボクシングは華がある。だがボクシングはそんなスポーツじゃないのは明白。拳と拳を、互いの練習の成果を発揮させる場所である。だからボクシングに華なんてものはいらない。力と力のぶつかる泥臭く、昔のような古風な文化のようなものなのだから。

 

…と言っても、引退した俺の言っていいセリフじゃないな。

 

「やめだやめ、引退した身だ、他人をとやかく言うつもりは無い」

 

3人の前にロールケーキを出してやる。こいつらはデザート出さないと帰らねえからな…主に未央は

 

今回は生地から何から何まで手作りで作った俺特製ロールケーキだ。甘さ控えめだから後味さっぱりするだろうしおまけに置いたコーヒーとも相性はいいハズ。反応がいいならメニューに載せてみよう。

 

「でも、何だか勿体ないな」

 

ふと凛の言葉が聞こえる。

確かに女客に受けを狙って可愛らしく作ってみたが…

 

「食うために出してんだから勿体ないも何もないだろ」

 

「え、いやケーキじゃなくて、お兄さん試合だと輝いて見えるけど、今は何かもったいないなって…」

 

……

 

「……いいからさっさと食っちまいな」

 

 

 

食事を済ませニュージェネの3人は歩いて先程の一樹の事について話していた。

 

「ねえ、私何か不味い事言っちゃったかな」

 

凛が2人に向かって言うと卯月は首を傾げる。

 

「不味い事って?」

 

「ほら、さっきお兄さんさっき私が勿体ないなって言ったら表情変えたから…怒らせたかなって…」

 

「あー確かにしぶりんが言ったら眉間にシワが寄ってたね」

 

「いえいえ、凛ちゃん。お兄ちゃんは怒ってないですよ。ただ、確かに思い当たる所があったんだと思います。お兄ちゃんはボクシングが全てでしたから」

 

「しまむーはお兄さんの事何でも知ってるね」

 

「はい!義理とは言え、一緒に育った兄妹ですから」

 

その卯月の一言に凛と未央の2人は驚く。

 

「えっ、しまむーとお兄さん血が繋がってないの!?」

 

卯月は首を縦に降る

 

「はい、お兄ちゃんはボクシングジムに泊まりがけだったんですが、私のパパとジムの会長さんが昔の知り合いらしくて、行く宛のないお兄ちゃんを引き取ったらしいです。もう10年も前の話ですね」

 

「ふぅーん、人に歴史ありってよく言ったものだよね」

 

ニュージェネの3人はそのまま一樹の話をしながら事務所に戻った。

 

 

 

 

正直言うと、俺はプロボクサーを引退してなおも刺激を欲している。今日凛が言った事を思い出し、俺はそう思った。

俺は今でももう1度リングに上がりたいと思ってる。だが俺はあの時の卯月の表情が忘れられない。俺がWBCタイトルに上がり敗北したあの時、卯月の泣きじゃくるあの表情、家族を悲しませてしまったあの時、俺は引退を決意した。

俺は怖い。敗北してまた泣いてしまう卯月の姿を見るのが怖い。全くもって情けない男だと思うよ。

 

「全く…」

 

泣きたいのは俺の方だっつーの…。




次に出すキャラ誰にしよう……迷うな……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.2

いつものように俺は朝早くにロードワークをする。

 

「はぁ、はぁ」

 

いつもの同じ土手で走る。いつもと違う歩幅でゆっくり走る。まだ時間は五時過ぎ、辺りは薄暗くまだ人は歩く姿は少ない。そんな中で俺の正面から小さな影が見える。

・・・?なんか手を振ってるぞ?

 

「おはようございまーす!!いや~今日も良い天気ですね!!」

 

俺の前に一度止まり俺の前で挨拶をする。元気なポニーテールの女の子。俺も一度止まり「おはよう」と言い再び走り出す。だが少女は俺の後を付けてくる。

・・・何なんだコイツ

 

「こんな朝早くから走り込みって、お兄さんもしかしてアスリートですか!?」

 

みたいな感じで話しかけてくる。未央とは違った意味でパッションな奴だ。

 

「まあ、アスリートというか・・・元アスリートというか・・・」

 

「元ですか!?お兄さんは何をしてたんですか!?」

 

・・・何なんだこの子は。ダメだ。話をしていると集中できねえ。

俺はその子から遠ざかるため全速力を出す。朝早くから走る元気っ子でも、流石にこのスピードを追いつけるわけ...

 

「お兄さんはマラソン選手か何かですか!?」

 

あったわ。

つうかこの子足早えーッ!!どんだけ元気なんだ。

 

今日の朝のロードワーク、ずっとこの子は付いてきていた。だが俺はその子の質問を無視していた。しかしこの子は別れるまでずっと話しかけていた。

 

ホント何だったんだあの子・・・。

 

 

 

 

 

 

今日は店を休みにして買い物に出ていた。最近は店店で休みにしてなかったからな。たまにはこうして息抜きをするのも必要だ。

俺は今古本屋で料理関係の本を探していた。たまにこうして本を探して自分の興味のある本を読むこともある。昔はボクシングに関する本を見ていたが今は大体は料理関係か有名な小説を見ることもある。

・・・たまにはファンタジー系の小説にするか。確か前に『ハワード・フィリップス・ラヴクラフト』という作者の本が面白いと聞いたな。未央からだが・・・。

 

ふと俺は横に目をやるとそこに一人の女性が本に手を伸ばしていた。しかし、その女性は身長が足りないせいで本に手が届かずにいた。俺はすぐにその女性の所に歩き、本を取りその女性に差し出す。

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

女性の長い前髪から綺麗な青い瞳をのぞかせる。

物静かそうな感じの女性はゆっくりお辞儀をする。

 

「いやいや、礼を言われるほどじゃないさ。じゃあ」

 

俺もその横にある本を取り見てみる。その表紙にはネクロノミコンという題名が書かれていた。その本の分厚さと言ったらもう、一昔前の俺なら目眩を起こしそうだ。

俺はその本を片手に会計を済ませどの場を立ち去った。

それにしても、あの子何処かで見たような...どこだっけ?確か雑誌か何かで...ダメだ思い出せない。まあ他人の空似なんてよくある話だ。もう考えずメシでも食いに行くか。

 

近くのカフェで軽い食事を取り先程購入した本を見る。内容は...まあ独特というかなんと言うか、まあ面白いと思うが。

 

「はぁ...」

 

まだ序盤しか見てないが読んでると目が疲れるな。

俺は本をしまいコーヒーを飲む。深みのある味だ。うちでもこんな味を出せたらいいのにな。

そんなことを思ってたらさっきの女性が店から出ていくのが見える。あまり離れてない所だから良く見える。すると、女性に二人程の男が近づいていた。男は名刺を彼女に渡すが女性は首を横に振る。それを見ると男は彼女の手を取り無理矢理引っ張って行った。

 

マズイことになったな...

 

 

 

 

 

 

男に手を掴まれた女性は人気のない路地裏まで引っ張られた

 

「は、離してください...!」

 

「まあまあいいから、痛いのは最初だけ、あとは楽しいだけだから」

 

男の顔はまさに欲望に染まったどす黒い笑顔をしていた。

女性は何とか抵抗しようとするが、流石に男の力に抵抗も虚しくズルズルと誰1人来そうもないところまで連れてこまれてしまった。

 

男は女性を壁に抵抗できないように両腕を抑える

 

「おい、服を脱がせろ」

 

腕を押さえている男はもう一人のガタイのいい男が女性の服に手を伸ばす。

女性は瞳から涙を流し瞳を閉じる。

 

「あのー」

 

そこに現れたのは先程カフェにいた一樹だった。一樹はポリポリと頭をかく。

 

「お取り込み中のところ申し訳ないんだが、俺そっちの道に用があってさ、通してくんないかな」

 

と一樹は申し訳なさそうに言う。

 

「あ?通りたければ通りな。好きにしろよ」

 

「ああわかった」

 

一樹はカツカツと歩いていき素通りする。それを見て女性も絶望する。

男達は続きをするように女性の服に手を伸ばす。

 

「あ、そうだ」

 

一樹は女性の服を持った男の手を掴んだ。

 

「忘れ物をしてた」

 

ドゴォ!!

硬いものを叩きつけられたような音と共に男の身体が宙に浮いて吹っ飛んだ。

 

「な、えっ?」

 

「ゴミ掃除をするのをな」

 

 

 

 

 

拳にまだ殴った感触が残っている。久しぶりに味わう痛みだ。俺は自分の荷物を置いて拳を構える。男は彼女の手を離し動揺が隠せないでいた。その隙に彼女は俺の後ろに隠れる。

 

「な、何なんだよこれ。何なんだお前はぁー!」

 

「元ボクサーだ。教えることはそれだけだ」

 

「痛えな...」

 

さっきのガタイのいい男が立ち上がる。10カウント内に立ち上がるか。ガッツだけはあるらしい。

 

「元ボクサー...?そいつぁ面白い」

 

ガタイのいい男は首をボキボキと骨を鳴らし、拳を構える。すると隣にいた男が調子に乗るように笑い出す。

 

「元ボクサーだか何だか知らんが、こいつはプロのライセンスを持った正真正銘のプロボクサーだ!お前、死んだな」

 

男は頭を左右にウィービングをし出す。

確かにプロボクサーと言うだけはある。フォームが綺麗だ。だがそれまでだ。

 

パァン!

 

放った左ジャブがボクサーの男の左右に振っている顔に命中する。それを見て男は動きを止めて立ち止まる。

そうだろう。何故だという顔をするだろう。しかしそれは当然。何故なら、どんなに綺麗な構えだろうがどれだけウィービングしようが俺にはそれが遅く見えるからだ。すかさずワンツー!

 

バシバシッ!

 

拳が綺麗に相手の顔に命中し相手は蹌踉めく。

 

「ふっ!!」

 

絶好のチャンスを目の前にして俺は身体を相手の懐に頭を低くした体制で入り込み、下から相手の顎に目掛けて拳を突き上げた。

 

ゴシャッ!!!

 

その音はもはや殴った音ではなく鈍器か何かで思いっきり相手を殴りつけるような音が響いた。男の身体は地面から足が離れ浮いて地面に倒れ込んだ。

 

「ふぅ・・・」

 

思いっきり殴った拳は硬い顎を思いっきり殴ったことにより激痛が走る。俺はもう一人の男を睨み付ける。もう一人の男はもうガタイの良い男が気絶していることにより戦意喪失。さっきまでのデカい態度が嘘のように男は腰を抜かしている。

 

「ま、待ってくれ!俺達はただのアイドルスカウトマンで、その子ならアイドルの素質があると思って・・・!」

 

「アイドルスカウトマンがこんな人気の無い場所で女性の手を押さえつけているもんか・・・いいからそこのクズもって帰れ。二度とこの街に現れんな。今度お前らを見かけたら・・・今度はこの程度じゃ済まんぞ・・・」

 

「ひ、ひぃぃー!!」

 

男は情けない声を上げて逃げていく。

さて、用事も済んだし俺も退散としますか。

 

「あの・・・待ってください」

 

女性の声により俺は歩みを止めてしまう。

 

「あ、ありがとうございました。おかげで私は・・・」

 

「いやいや、目障りなゴミを処理しただけだ・・・礼を言われるようなことはしてないさ・・・」

 

「なら、せめてお名前だけでも・・・」

 

「島村一樹だ」

 

俺はそれだけを言葉にしてその場を去る。

 

『用事があるはずの道を通らず。』




というわけで第二話です。
今回出てきたアイドルはパッションの元気っ子と読書が好きなクールの少女です。


次回もお楽しみに!それでは、ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.3

お待たせしました。今回は本編と番外編の2話お送りします

友人「お前の小説なんかおかしくね?」

自分「ご都合主義やぁ!」


朝早く店からジャージ姿の一樹が出ていき、ゆっくりと走り出す。

 

「......」

 

前から見慣れた人影が3人。

 

「おはようございます。お兄ちゃん」

 

いつもの3人。卯月と凛と未央だ。

一樹たちはゆっくりと土手道を走る。一樹は3人の歩幅に合わせてゆっくりと走る。

 

「どうしたんだ?こんな朝早くから...」

 

「学校休みだしたまにはジョギングしよう...って未央が」

 

「いやー最近身体が鈍っちゃって」

 

「身体を動かす事が本業のアイドルが言う台詞じゃねえな」

 

走るのを止めて休憩をする。一樹は息一つ乱していないが3人はその場にお尻を地面につけて息を切らす。

その間に一樹はシャドウをして身体が冷たくならないように常に動かす。

 

「シッ、シシッ!」

 

一樹が拳を振るう度に風が空を切る。頭を大きく振るう。

 

「お兄さんそんなに動き続けて疲れないの?」

 

「昔の習慣でな。つい癖でやってしまうんだ」

 

「へえ、ねえねえ!試しにジャブ教えてよ!」

 

未央は立ち上がり一樹の近くに来る。一方一樹は首に掛けているタオルで汗を拭う。

 

「良いが、ジャブだからって甘く見るなよボクシングではこの技はとても重要な技なんだ」

 

未央は一樹の横に立ち一樹の構えを真似る。

 

「いいか、ジャブっていうのは威力を殺してスピードを重視した技だ。だから拳は硬く握る必要はない。少し握る程度でいいんだ。そしてもう一つ、当てることも肝心だが、そのあとも重要だ」

 

「そのあと?」

 

「拳をすぐ構え直す。伸ばした肘をすぐに曲げて戻すこと。試しに来い」

 

と一樹は右手を開いて未央の前に出す。

その姿を真似るように未央もファイティングポーズを取り「こ、こうかな・・・」とぎこちない構えで左拳を前に突き出し、一樹の手に当てる。プロ顔負け・・・とまでは行かないもののその構えは基本に習ったような綺麗な構えだった。一樹もそれを見てうんうんと頷く。

 

「アイドルに何を教えてるんですか。一樹さん」

 

後ろから聞こえる声に一同はその声の主を見るために振り向く。そこにはジャージ姿のまだ幼さの残る顔小柄の少年がいた。

 

「あっ木崎君!」

 

と卯月が立ち上がり少年に声を掛ける。

 

「そうか、お前ら同じ学校だったな」

 

「はいっ同じクラスメイトです!」

 

「ねえ卯月。そちらは?」

 

「俺から説明した方が良いかな・・・」

 

と一樹が前に出て少年の肩に手を置く。

 

「コイツは木崎京介。俺が前に居たボクシングジムの後輩だ」

 

()後輩でしょ」

 

木崎は一樹の手を払い素っ気なく言う。

 

「堅いこと言うな。俺とお前の仲だろ。それよりも、プロテストはどうだった?」

 

「この通りですよ」

 

木崎はジャージに入れていた財布を取り出しある物を出す。それはプロボクサーのC級ライセンス証だ。一樹はそれを手に取る。

 

「立派なもんだ、今日は学校休みだったな俺んち来いよ、京介の合格祝いだ」

 

「...ありがとうございます...それでついでに頼みたいことがあるんですけど...」

 

「なんだよ改まって、俺に出来ることならなんでも言え」

 

京介は俯いたまま何か言いにくそうにしていた。しかし意を決して一樹を見て口を開いた。

 

「俺の...スパーリング相手をして下さい」

 

 

 

 

 

ロードを早めに切り上げ、俺達は俺の店の上の階にいた。元々俺の店はボクシングジムでそれを改装したものだった。1階は店、2階はリングがあるが倉庫代わりに使っていた。

因みに3階立てで3階が俺の部屋だ。今俺は自分の部屋からあるものを出していた。

 

「お、あった」

 

ダンボールから出てきたのは古びた俺の愛用していたボクシンググローブだ。何故こんなものを出しているのか、それは京介のスパーリング相手を受けたからだ。

最初は断ろうかと思っていた。俺はもうリングを降りた身、俺が京介の事でしゃしゃり出てはいけないと思ってた。しかしあいつはもうプロのボクサー。プロのリングには強者揃いなのは間違いないし初試合も控えていた。プロの強者、そして初試合のプレッシャーは凄まじいものだろう。だから、俺とスパーリングをして参考にしようと思ったのだろう。そんなに思いをしている奴の思いを無下にするのは兄貴分としては見過ごせない。

 

俺は胸の鼓動を高鳴らせ、ワクワクしながらグローブを手に2階に向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.4

友人「ラ○ライブ面白いぞ!」

自分「ありきたりな日常アニメだろう、○魂のほうが・・・」

数週間後

自分「ラ○ライブ面白え!!」


時間は午前8:00を回っていた。アイドルグループ『ニュージェネレーション』三人と一樹の後輩木崎京介は一樹の店の二階にあるリングで待っていた。ほとんど倉庫として使われていたため埃をかぶっているサンドバックやらがある。だがリングだけはなぜか綺麗だった。

リングの上では京介が身体を温めるためシャドウをしていた。そこにグローブを片手に現れた一樹。手には既にバンテージが巻かれており、頭にはヘッドギアをかぶっていた。すぐにでもスパーが出来る状態にしていた。

 

「待たせたな」

 

そう言いながら一樹はロープをまたがりリングに足を付ける。

 

「ヘッドギアは?」

 

「要りません。少しでも実戦のような緊張感を味わいたいので・・・」

 

キュッキュッとリングの上でステップを踏み状態を確認しながら言う京介。それを聴くと一樹は自分が付けていたヘッドギアを取り、未央に投げる。

 

「えっ、ちょ」

 

慌てて手を出してヘッドギアをキャッチする未央。一樹は親指を立てて「ナイスキャッチ」と言う。

 

「お、お兄さん!?いいのスパーリングって練習試合だよね、練習で怪我なんてしたら・・・!」

 

「いいから、早くゴングを鳴らしてくれ」

 

一樹は両手を顔の前に出し、現役時代に使っていた構え、『ピーカブースタイル』を取る。一方京介は左手と足を前に出した基本的な構えを取る。二人とも既に臨戦態勢状態。もう聞く耳も持たないで居た。

 

「も、もう知らないからね!」

 

カァァーーン!!

 

二人の戦いを合図するようにゴングの音が響く。

 

 

 

キュッキュッ

 

 

リングの上でステップを踏む京介と、頭を左右上下と揺らしてウィービングをする一樹。静かな時間が流れる。それは数秒の筈なのに、数分かかったような気分がする。

ニュージェネの三人はそれを見ている。

 

「ねえ、二人は何をしているの?」

 

「あれはお互いに様子を見てるんです。どちらが前に手を出すか」

 

「どちらが先に攻撃するかって事?」

 

凛と問いに横から入るように未央が額にたまった汗を拭いながら口を開く。

 

「こういう時間って、何だかこっちまで緊張するね」

 

 

「(現役じゃなくても一樹さんは元日本チャンプ。俺の実力がどこまで通じるか、見て貰いましょう!!)」

 

シュッ!!

 

先に手を出したのは京介。風を切るような左ジャブがまっすぐと一樹に向かって飛んできた。しかし、それは空振りで終わる。一樹はすれすれで顔を左にずらし、ジャブを避けていた。しかし、それを皮切りに京介は左ジャブを繰り出す。

 

「は、速い!」

 

「あの京介って人、速すぎるよ」

 

素早く、そして鋭いジャブの連打、それは何千何万回とサンドバックに叩きつけた練習が実を結んでいるのだ。

 

しかし―――

 

「ウソ...」

 

「お兄さん、あれを全部避けてる...」

 

一樹のウィービングは冴えている。京介のジャブを全部避けていた。さらに避けながら一樹は京介を見つめていた。それはまるでタイミングを掴むようにリズムを刻むように、

 

「(あ、当たらない...引退した人間のはず...せめて、一発だけでもー!!)」

 

シュッ!!

 

京介が左を伸ばした時、一樹の姿が消えたーーー「(は?)」とその場にいた全員が思ったのだろう。だが、一樹は消えたのではない。一樹は単調になった京介の左をダッキングで避けていたのだ。

 

視線を横にするとそこには、低い姿勢で左拳を構えている一樹がいた。

 

ガァン!!!

 

左のフックが京介の腹に目掛けてふり抜かれた。

 

「ゴォッ!!?」

 

京介の体がくの字に折れマットの上に横たわる。鈍い痛みと吐き気がこみ上げる。

 

「(あ――――やべえ。思わず重いの入れちまった。)」

 

しまったという顔をしながら一樹はアイドルたちの方を見る。

 

 

その顔は――――ドン引きである――――

 

 

幾らなんでもやりすぎた。京介はプロでもなったばかりの新人。そんな京介に手を抜いていたとは言え、日本一の座に収まったインファイターの拳を入れてしまった。やり過ぎである。

 

「いや、待て...手は抜いたつもりなんだが…体が力んでだな」

 

何とかドン引きしているアイドル立ちに弁解をしようとするも、卯月はクラスメイトが思いっきり殴られ泣きそうな顔をして、凛はジト目でこちらを見て未央は口が開いたまま固まってる。

もう何を言っても無駄である。しかし、そこで凛が一樹の横を指さす。

 

「あ」

 

一樹は凛が指さす所を見る。

 

「ハァ...ハァ...」

 

そこにはさっきまで倒れていた京介が立ち上がりファイティングポーズを取っていた。しかしダメージが隠せていない。足がガクガクと震えていた。

 

「まだ...10カウント入ってないですよ・・・」

 

ステップを踏む余裕も無いだろう。もう足はフラフラしている。立っているのがやっとだろう。

 

「・・・・・・どうするのまだ続けるの?」

 

凛の言葉を聞き、一樹は拳を構える。

 

「はじめてくれ・・・!」

 

既に一樹の心は決まっていた。

 

「(やる・・・これだけの覚悟を見せられたんだ・・・残り3ラウンド・・・打ち合ってやる)」

 

カァァン!!

 

再びゴングの音が聞こえ、すぐに一樹が懐に飛び込む。

 

「お、お兄さん!?」

 

「すぐにでも決着を付ける気だよ!」

 

「(打ち合ってやるが、プロの世界でそんな悠長に待ってくれてると思うな!!)」

 

低い姿勢からとどめの一撃のアッパーカットを構える。しかも右拳。今は意識が朦朧としている状態。これでアッパーをかませば次こそ意識を刈り取るのに十分な威力だ。

 

「(人間は極限の状態ではないと真の力を発揮できないとよく言われている。だからこそ今見せろ。お前の実力をォォォ!!)」

 

右拳が伸びきるその瞬間。

 

京介の首が左にずれた。一樹の拳が空を切った。

 

「お兄さんの攻撃を避けた!?」

 

「あれ、動画で見たことある、あれはカウンター!」

 

「(なにっ!?朦朧とした意識の中でカウンターだと!?)」

 

拳を振り切ってしまい戻すような猶予が無い。そこに遠慮なく振り抜かれる京介の右のカウンターは一直線に一樹に目がけて飛んでくる。

 

 

 

 

 

 

―――――――2時間後――――――

 

バシャーッと水を掛けられて目を覚ます。目の前には三人のアイドルがバケツを持っていた。京介はその時悟った。そうか、自分はスパーで負けたのだと。

 

結局京介は一樹のアッパーに合わせてカウンターを打ったが、そのカウンターを一樹は紙一重でかわしそして一樹のカウンター返しにより倒された。

 

「・・・計2回ダウンか・・・良い具合に半殺しにされた気分だ」

 

ムクリと立ち上がり京介は辺りを見渡す。

 

「・・・卯月、一樹さんは?」

 

「お兄ちゃんは木崎君の合格のお祝いにご馳走を作るって言ってました」

 

「それより凄かったよさっきの試合!」

 

「・・・慰めにもならないよ。結局全攻撃を防がれた。リズムによるウィービング・・・堅いガード・・・そしてあの一撃の破壊力・・・そして俺のカウンターを避けたあの反射神経・・・流石元日本チャンプだ・・・」

 

下を向いたまま俯く京介、そんな京介に何か声を掛けて上げたいが出来ない。何を言って上げれば良いか分からなかっただが・・・

 

「だから目標に出来る!」

 

俯いたその顔は穏やかに微笑んでいた。

そしてその姿を少し開いたドアの隙間から見ていた一樹も笑っていた。まるで己が育てたボクサーが世界を取ったコーチみたいな顔だった。

 

「(目標は高い方が良い・・・って誰かが言ってたかな・・・俺も高い目標があったな・・・あいつのカウンター・・・もし京介が目標にするなら俺のようなインファイターじゃなく、カウンターに特化したアウトボクサーだ。もしその目標に近づくとしたら・・・あいつは最高のカウンター使いに成長する・・・そう思えて仕方ない)」

 

一樹はそう言いながらエプロンを再度着けて厨房に向かっていった。




戦闘シーンが書きづらい!参考書(単行本)を見ててもそのシーンになるように書いてしまう・・・!
っというか、3~5年ぐらいボクシングしてない人間ってどこまで戦えるもんなんだ?

伊達さんは天才だからすぐに復帰したが・・・

というわけで次回をお楽しみに、次回はあのプロジェクトのメンバーとプロデューサーが登場!・・・・・・する予定だ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.5

友人「ラ○ライブの小説投稿するのはいいがこっちはいつになったら投稿するんだ?」

fal○out4プレイ中
自分「忘れてた・・・」

友人「ギルティ」


スパーを終えた俺は厨房で京介のプロボクサー合格祝いをするために料理を作っていた。料理は全て一流コック・・・とまではいかんが、それなりに豪勢な物を作ったはずだ。

 

「さあ、遠慮なく食ってくれ。飯代はいらねえ。飲み物飲み放題。無礼講だ」

 

「「「「「「「「「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」」」」」」」」」

 

とは言ったものの、俺の笑顔は知らぬうちに引きつっていただろう。

 

「お、おう・・・たくさん食べてくれ。お代わりも幾らでも・・・」

 

一つだけ言わせてくれ。

 

「なぜこうなった・・・」

 

ここに居るのはニュージェネの三人と京介だけじゃない。ここには卯月がいる346プロダクションのシンデレラガールズのメンバーもいた。

卯月が「お祝いするなら大勢の方がいいです!」と言ったのが発端だ。

 

 

改めてもう一度だけ・・・

 

 

 

「なぜこうなった・・・」

 

「別にいいじゃん。お祝いは大勢でした方が楽しいし!」

 

未央は卯月と同じ事を言いながらサンドイッチをひとくち口に含む。

 

・・・まあいいか。別に大勢が嫌いなわけじゃない。むしろこうやって騒ぐのは好きな方だし・・・。

 

「すみません。島村さん」

 

と俺の横から声を掛けてくる長身の男性。この人は卯月の・・・シンデレラプロジェクトのプロデューサーである。この人も先ほど仕事が終わりこうして俺の店に顔を出してきたのだ。顔は強面だが性格は控え目で誠実な人だ。俺も何度か会っている。

・・・卯月が凄くこの人の事を話すから一度彼氏だと思い込んで殴り込もうと思ったこともあったのは良い思い出だ。俺だけだと思うが・・・。

 

「武内さん。アンタのせいじゃないし、俺はこういうのも好きなんだ。だから謝る必要はない・・・」

 

「そう言って頂けると助かります。今度シンデレラプロジェクトの皆さんは大きなライブがありますから、その前の息抜きと思ってまして・・・」

 

前に卯月から聞いた。確か夏のアイドルフェスティバル。略して夏フェスだったか・・・古今東西日本全国のアイドルが集まる盛大なお祭り・・・その祭の最初を飾るのがこいつらシンデレラ達・・・そのプレッシャーは凄まじいだろうな・・・。確かに、息抜きになるならそれでいい。

 

「夏フェスが終わったらまた祝いを開こう。その時は今日以上のご馳走を振る舞わせてもらうよ」

 

「重ね重ねありがとうございます」

 

気になると言えばアイドルが大勢集まって週刊誌に載ったりしないかという心配だけだ・・・貸し切りにして看板も立ててるし大丈夫だろう・・・と思う。

 

「一樹さん。今日はありがとうございます」

 

「気にするな。俺がやりたいからやってることだ」

 

まあ人数は予想外だったが・・・

 

「しかし、凄いですね。シンデレラプロジェクトのアイドル勢揃いですか・・・」

 

何か京介の目が輝いているように見えるが・・・。

 

「・・・お前アイドル好きだったか?」

 

「まあまあって所ですかね。クラスもよくその話をしてますし」

 

「この際だ。誰が誰なのか教えてくれ。俺はこういうの詳しくねえし、卯月の友達だ、失礼のないようにしたい」

 

「分かりました。まずは一樹さんの知ってる所から、『ニュージェネレーション』島村と渋谷凛さんと本田未央さんのユニットですね。リーダーは未央さんがしてます。曲は「できたてEvo!Revo!Generation!」が有名ですね」

 

・・・詳しいなオイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――が以上のメンバーですね」

 

20分ぐらいたったか?京介の説明を黙って聞いていたがとても知ってる程度の人間の知識量じゃねえな。というかなぜにメンバーの趣味まで知ってる?

 

「詳しすぎねえか?」

 

「そうですか?人並みに知ってるだけですが・・・」

 

「・・・お前のお気に入りのユニットは?」

 

「ラブライカです」

 

即答かよ・・・。俺は京介の手にある空のグラスにジュースをつぎ、ツッコみたい衝動を抑えている。

 

「あっ!このお店カラオケもあるの!?」

 

と未央が大声で言う。居酒屋をしているからな。一度客のリクエストでカラオケを導入したらこれが好評だったためそのまま置いていた。まあ歌うのは酔っ払った親父とかだがな・・・。

 

「歌いたければ歌ってもいいぞ。盛り上がりにBGMは必要だろ」

 

「って、アイドルの歌声をBGM呼ばわり!?」

 

「せっかくだからお兄さん歌ってみてよ」

 

おい渋谷貴様・・・。

 

「賛成です!私、お兄ちゃんの歌ったところ見たこと無いから楽しみです!」

 

オイ我が義妹よ、何を言い出すのか・・・。だがもうカラオケを起動して未央は俺にマイクを突き出す。なんでみんな期待の眼差しでこちらを見ている・・・どう考えても違うだろ。俺じゃ無くお前らが歌うべきだろ?

だがマイクも突き出されて断れば場の空気がしらけるのは目に見えてる。

 

全く・・・。後悔すんなよ?

 

「仕方ねえ!」

 

マイクを手に持ちいざ曲を入れる。絶対みんなしらねえと思うが・・・ボクシング人生を送った人間なら誰もが知ってる曲だ。

 

 

 

 

 

アリス-『チャンピオン』

 

「へぇ~チャンピオンがチャンピオンを歌うんだ」

 

「未央、元だよ元」

 

大きく息を吸い、腕を大きく振り腹から声を出す。

 

「つぅかみかーけたぁ!あっついウーデをー!♪」

 

「「「「「「「「だあー!!」」」」」」」」

 

その場にいた全員がズッコケていた。

 

 

 

 

 

 

一樹が歌っている間に未央は少し後悔していた。まさかここまで歌が下手だとは思っていなかったからだ。

だが勢いで歌っている一樹の表情はとても楽しそうだ。これは誰にも止められない。

 

「た、楽しそうだね・・・」

 

「そうだね・・・」

 

みんなは暖かい目で見ているが本心から言えば早く終わらないだろうかという感じだった。ついに一樹は腕と足を振り上げて歌い出した。

 

『ライラライラライラライ!!♪』

 

だがそんな中で京介はある物を見ていた。カラオケ映像に出ている人物のチャンピオンベルトだ。一樹も一度巻いたそのベルトを京介はたどり着けるのかどうか、不安が募っていた。これからはプロの選手。もちろんチャンピオンまでの道は険しく厳しすぎる。ある意味これは一樹からのバトンを京介が握ったような物だ。そのプレッシャーは凄まじく、重いものだった。

 

「俺も歌います!!」

 

京介はもう一つのマイクを手に取り同じように歌う。

 

『『ライラライラライラライ!!♪』』

 

それはその場の人間全てが察した。京介のプレッシャーに対して。すると続々と

 

「みくも歌うにゃー!」

 

「み、みくちゃん!わ、私もロックに歌うよ!」

 

「よ~し、未央ちゃんも歌うぞ~!」

 

と前に出て一緒に歌い出す。

 

『『『『『ライラライラライラライ!!♪』』』』』

 

 

 

 

 

 

40分後

 

『『『『『ライラライラライラライ!!♪』』』』』

 

「・・・十回目ですね」

 

「・・・そうね」

 

「飽きないのかな?」

 

「皆さん楽しそうで何よりですね!」

 

「卯月ちゃん・・・ちょっと違う気が・・・」

 

「ふっふっふ・・・悪魔達のささやきが聞こえるわ!(皆さん楽しそうですね!)」

 

 

 

 

 

 

更に40分後

 

『『『『『『『『ライラライラライラライ!!』』』』』』』』

 

いつの間にか人数が増えていた。

 

「に、二十回目ですね・・・」

 

「そろそろ止めた方が良いんじゃないかな・・・?」

 

この夜、この曲の音楽が絶えることは無かったとかなんとか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

夜の11:00を過ぎた頃には俺は寝ている卯月に掛け布団を掛ける。

 

一時間前には武内さんが赤城みりあちゃんと城ヶ崎莉嘉ちゃんを車で家に送って行ってくれた。高校生大学生たちは明日も休みだと言うことでここで一晩泊まることになった。全員一階で寝静まってしまい一人一人俺の部屋に布団を惹き寝かせていたのだ。卯月を運びこれで最後だ。

みりあちゃんと莉嘉ちゃんも泊まりたいとは言っていたがいくら大勢で泊まると言っても流石に親御さんが心配するし、莉嘉ちゃんはお姉さんのが居るからな。流石にそれは不味いと思いご帰宅頂いた。他はほとんどが寮だったりするから良いとのことだったが、これが親御さん達の耳に入れば俺は彼らのサンドバックにされるだろうな・・・。

 

俺と京介は一階のソファーで寝るためなんとか全員俺の寝室に運ぶことが出来た。

 

「フゥー・・・」

 

洗い物も終え、俺は頬に手を当てる。

 

「痛っ・・・」

 

京介とのスパーの時に最後に振るったカウンター。流石に意識が朦朧として標的がずれたらしく、パンチはずれて俺の頬をかすった。その痛みは時間が経つと痛みを増していった。祝いを開く頃にはあまり痛くは無かったが、まだヒリヒリする。

本来カウンターは相手のパワーを利用した技だ。相手が向かってきたパワーがそのまま二倍のダメージとなり襲いかかってくる。当たらなかっただけ運が良かった。あれが当たれば倒れていたのは俺かもしれなかった。今考えると恐ろしい。自分で言うのもなんだが、俺のボクシングは力でねじ伏せるパワーボクシングだ。そのパワーがそのまま自分に降りかかると考えただけで俺は恐怖した。良ければ倒れるだけだが悪ければ気絶していただろうな。

 

「まだ起きてたのですか?」

 

後ろから京介が声を掛けてくる。

 

「あ、あぁ・・・もう寝ようと思ってた・・・」

 

コップについでいる水を口にする。

 

「やっぱり、もう表舞台に戻る気はありませんか?」

 

「・・・・・・」

 

「一樹さんは今でも現役に戻れますよ!パワーも身体能力も衰えていません!今ならまたリングに上がることだって・・・」

 

「京介・・・その事は前にも話したハズだぞ・・・」

 

「・・・すいません」

 

「もう俺も寝る。お前も寝ろ」

 

「ハイ・・・」

 

ソファーに身を横にして布団をかぶる。

俺はリングを降りた身だ。老兵は去るのみ・・・だがお前は違う。お前はまだ可能性がある。だからこそ、俺がリングに戻る必要はないんだ。

 

 

お前は里中ジムの期待の星なのだから・・・。

 

 

 




申し訳ありませんでしたァァァ!!

こちらの投稿をおろそかにしてしまい本当に申し訳ありませんでしたァァァ!!!
ちなみに今回のカラオケは鷹村がカラオケで歌っていたアレです。

増えた人が誰が歌っているかはご想像にお任せします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.6

自分「あれ?月が変わったぞ。えっもう10月!?しかも更新して三ヶ月も経ってる!?やべえええ!!!」←うたわれる○の二人の○王プレイ中


「シッ!シシッ!!」

 

キュッキュッ シュッシュッ

 

風を切るような音が鳴く。いつもの習慣でしてしまうシャドウボクシング。

我ながら未練がましいというのか・・・なんとも言えない。

 

前に京介の言葉がいつまでも頭に残る。

 

・・・身体の衰えは見えない・・・か・・・。確かに京介のカウンターが擦っただけで頬が張れ気味になったからな・・・。パワーの衰えは無いんだろう。しかしスピードも技の切れも衰えているのは事実。プロの世界は過酷だ。パワーだけでのし上がれるほど甘くない。だが衰えというのは鍛え直せばまた元に戻るとは限らないし、今の歳で復帰したとしてどこまでいける?

ボクシング選手生命はあまりにも短い。さらに試合をしていけば選手生命は確実に削られていく。俺の選手生命はあとどれくらいだろうな・・・?

 

「シッ!!」

 

 

 

 

 

あのスパーから約3週間。今日は京介の初試合当日だった。正直言わせてもらうと、今の京介の精神状態は不安定かもしれない。スパーのような練習試合だったらいざ知らず、これはプロボクサーとしての初の試合だ。そのプレッシャーは凄まじい。吐き気、苛立ち、身体に押し潰されそうな感覚が襲い掛かってくる。平然としてるやつの方がおかしい。

俺も初試合は緊張で胸が苦しい日々が続いた。イライラすることも多かった為、義父さん義母さん卯月に八つ当たりをしてしまうかもと家にはあまり帰らなかったのを覚えている。

 

それが今では京介が体験している。俺が行って何になるのかと言いたいところだが、激励しに行くか・・・。というか・・・

 

「何でお前らまで居るんだ」

 

と俺は横に並んでいるシンデレラ達に問いかける。しかも武内さんまで・・・。

 

「いや~、みんなそろってこの日お仕事が早く終わってさ、それでお兄さんの後輩君を応援しようとみんなで決めて」

 

お前ら今度ライブがあるんじゃねえのかよ・・・。こんなところで油売ってる暇があるならレッスンをすれば良いのに・・・。

・・・と思っている時間も惜しいな。とりあえずこいつら引き連れた状態で京介の元に行くか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場は観客で埋まってる。今日は大切な京介のプロボクサー初試合。京介は部屋の中で椅子に座りただじっと目を閉じていた。心を静かにさせ、気を落ち着かせていた。

 

コンコン

 

ノックの音と共にガチャとドアノブが周り扉が開く音がする。その音に目を開け、扉に視線を送るとそこに現れた人物は京介が良く知ってる人物がいた。

 

「おっす」

 

島村一樹。京介の先輩であり、頼れる兄貴的存在だ。

 

「どうもです」

 

「「「こんばんわ!」」」

 

一樹の後からシンデレラプロジェクトのメンバーも入ってくる。それを見て京介は驚いていた。なんせあの時は歓迎会だったが、今回は試合を見に来てくれたのだから。京介は内心ドキドキしていた。(主にラブライカの二人に対して)

 

「み、みなさんおそろいで・・・」

 

「何緊張してんだよ。歓迎会の時に会ってるだろうが」

 

「いや、それはそのぉ・・・」

 

あの時は一樹の店だったため遠目でシンデレラプロジェクトのメンバーを見ていたが、今回は狭い個室で間近くに居るためか、京介のドキドキは収まらない。もう初試合である緊張なんぞどうでも良くなっていた。

 

「頑張ってくださいね。陰ながら応援してますから!」

 

「キョウスケ、頑張ってくださいネ」

 

ラブライカ二人の応援に京介は椅子から立ち一礼する。

 

「はい!頑張らせて頂きます!!」

 

「(これはついてきて貰って正解だったかな?)」

 

一樹は今の京介の状態を見て「ふぅ・・・」と一息つく。

 

「どうやら緊張はほぐれたみたいだな」

 

「いや、別の意味で緊張が・・・」

 

「(望み薄かもしれんな・・・)」

 

それからは各メンバーの激励の言葉を受け、さらに緊張してるような表情を京介はしていた。

 

「まあ、今日は大切な新人初試合だ。お前の力を見せてくれ」

 

「はい。・・・一樹さん。一つ聞いて良いですか?」

 

「おう、俺でよければな」

 

「俺は今日初試合です。ですが、この緊張はこの先の試合で抜けるとは思えないんです・・・一樹さんはどうでしたか?二試合目、三試合目とかはどうでした?」

 

「うーん・・・・・・」

 

一樹は腕組みをして目を閉じて考える。

 

「わからん」

 

「「「はっ?」」」

 

「深く考えなかったって所かな。確かに初試合は緊張したさ。吐き気もして、苛立ちを隠していた時もあった。でもなぁ・・・いざ試合が始まって勝っちまったあの時・・・全て考えていた事がどうでも良くなった」

 

「お兄さん、それってどういうこと?」

 

一樹は天井を見つめて笑みを浮かべた。

 

「拍手がさ、まるで雨が降ってきたみたいに降り注いできたんだ。その時の思いはさ、『俺は勝ったんだ。みんなが祝福してくれて、喜んでくれている』って思ったんだ。その時次の試合の時どうするかなんてどうでも良くなった。確かにその時の俺の思いは思い込みかもしれん。単なる俺自身が楽になるための思い過ごしだろう。だが、あの時の喜びを知ってるからこそ、次も頑張ろうと思える。また練習に打ち込める。まあそんな感じだな」

 

その思いはその場にいる全員が共感できた。

 

「その気持ち、分かります!」

 

卯月が前に出て一樹に言う。

 

「私も、ライブが始まる前はうまく行くか凄く心配でした。でも、ファンのみなさんの声が私に勇気をくれます!その応援が私に『次も頑張ろう』って思えるようにしてくれるんです!」

 

「そうだね。ファンの言葉に応えたいよね」

 

「みくもそう思うにゃー!」

 

それに賛同するようにかな子とみくが言葉をつなげる。

 

「そうだな。ボクサーもアイドルもジャンルは違うとしても考え方は一緒だ。練習した成果を試合やライブで全力で出す。それでファンになってくれたみんなに応えたい。・・・同じ事だ・・・。だからこそだ。京介」

 

一樹は京介の肩に手を置いて優しい笑みを浮かべる。

 

「俺は全力でお前を応援する。必ず勝ってこいとは言わない負けてもかまわない。全力のお前を見せてくれ。俺はその姿に敬意を評する。それでお前をあざ笑うような奴が居よう者なら、俺は島村の性を捨て、笑った奴らをぶちのめす。だからさ、お前の全力を見せてくれ」

 

その言葉に京介の肩から余計な力が抜けたような感じがした。目を閉じて思い出す。これまでの練習を、一樹とのスパーを、その全てを出せばいいのだ。後は自分に対しての自信だけだった。目を開ける。さっきとは違う迷いのない目をしていた。

 

「ありがとうございます。一樹さん」

 

「(もう大丈夫だな・・・)じゃあ、観客席で見てるからな。楽しみにしてるぜ」

 

一樹はそれだけを言い残し、シンデレラプロジェクトメンバーを部屋から出し、自身も部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京介の激励を済ませた俺達はシンデレラプロジェクトメンバーを引き連れ、観客席で今か今かと待っていた。

 

「お兄ちゃんかっこよかったです!」

 

「そうだね。お兄さんのこと見直しちゃったよ」

 

「ロックな演説だったよ」

 

「そんなもんじゃねえよ。京介には勝って貰わねえとな」

 

「えっ?でもさっき負けてもいいって・・・」

 

「あれは緊張をほぐすための演説だ。アイツが負ければ・・・俺は『賭け』に負けてしまうからな・・・今回は結構な額を掛けちまったからな・・・酒の席であんなこと言うんじゃ無かったぜ・・・」

 

「お、お兄ちゃん・・・」

 

「見直して損したかも・・・」

 

凛の冷たい視線が俺に突き刺さる。だが全部が作り話という訳じゃ無い。仮にも京介は俺の後輩だ。だから俺はアイツの兄貴分としてアイツを応援するつもりだ。だから見せてくれ。お前の全力を・・・。




応援してくれるって事は何よりも自分に自信を付けてくれますよね。私もこの小説を作って友達から応援して貰ってるので凄く自分に自信が湧いた気がしました。

それでは次回をお楽しみに!

ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.7

自分「あ~・・・どう試合を作ろうか・・・」←はじめの一歩一話から見直し中




京介のプロボクサー初試合。その時がついに来た。

 

「『ただいまより、フェザー級第三試合を行います!!』」

 

会場の観客が『ウォォォォォ!!!』と盛り上がりを見せる。たかが新人の試合だと思っていたら大違いだ。これは正真正銘プロの試合だ。

 

凛「盛り上がってるね。こっちまで熱気が伝わってくるよ」

 

一樹「そうだな・・・」

 

熱気は確かに伝わる。ビリビリと身体の芯までしびれるみたいな感覚が身体に伝わってくる。だが他に一樹が気になっていることがある。それは京介の対戦相手だった。

 

武内「気になりますか、対戦相手が・・・」

 

横にいるプロデューサーである武内が一樹に話しかける。

 

一樹「ええ、対戦相手・・・川中猛。俺と同じガチガチのインファイター。京介がどこまでいけるか不安でね」

 

武内「試合成績は、二戦やって1勝1敗でしたっけ?」

 

一樹「軽いフットワークや足取り、素早い連打で相手をロープまで追いやり重い一撃を連打で相手を倒す。まさに古典的なハードパンチボクサー」

 

武内「しかし、京介さんも素早さではひけを取らないと前に聞きましたが・・・相手がパワーのごり押しで行くなら、京介さんのアウトボクシングならいけるのでは?」

 

一樹「果たしてそう簡単に上手くいくものかな・・・」

 

武内「どういうことですか?」

 

武内の質問はその場にいる全員のシンデレラプロジェクトメンバーの疑問でもあった。だが一樹には不安の原因である決定的なものがあった。

 

一樹「京介が自分のスタイルが分かっていればの話だ。あの時のスパーで分かった。アイツのボクサースタイルは足を使い相手を翻弄して打ち込むアウトボクサー・・・しかもカウンター特化のな。だがアイツは俺とのスパーの時自分自身のボクシングの型を持ってなかった。自分のスタイルを分かっているのかが不安だ」

 

未央「でも相手はインファイターなんだよね?なら前にお兄さんとのスパーでやったカウンターで・・・」

 

一樹「打てるならな・・・」

 

本来カウンターは相手のパワーを利用した技だ。だがそれを打てるシーンがあるかどうかが問題だ。

 

一樹「川中は、初試合試合で1RでKO勝ちしている」

 

李衣菜「それって・・・つまり・・・」

 

一樹「カウンターを打つ前に力でねじ伏せられたら終わりだ・・・!」

 

一樹の不安を余所に試合の準備は着々と進んでいた。いつの間にか両者リング上に出ていた。一樹からしたら「ついに始まってしまったか」というところだ。だが、プロは何が起きるか分からない。それがプロだ・・・。

 

「『赤コーナー佐枝島ジム所属、125ポンド四分の一、川中猛!!』」

 

川中猛。ゴツゴツとした筋肉質の身体をしている。とてもフェザー級とは思えない身体をしている。身長も177以上あるだろう。それで125ポンドだ。異例と言われてもおかしくないだろう。一樹も身長は170センチ以上ある。それでもフェザー級の階級を乗り越えたのは全て減量をしてきたからだ。だが、それでなんとかなるような身体をしてるようには見えなかった。恐らくひどい減量量であっただろう。どう見ても四階級上の体つきだ。もっと言えばそんな体つきをしているということは、パンチの破壊力はフェザー級にとっては破格でしか無い。一樹が異例の例だ。一樹はフェザー級の中でも異例なハードパンチャーだ。その一撃一撃は岩を壊せるのでは無いかと思わせるパンチだ。ジャブ一つでも攻撃力は強い。その一撃はミドル級のパンチ力を誇っていた。つまり、それと同じだ。それとあの身長だ。身長が高いと言うことはパンチを繰り出す時のリーチが長いため身長の短い際にパンチを撃つ際のリーチが短い際に川中のパンチが先に京介を襲う。カウンターを打つのも容易ではないはずだ。

 

一樹「減量苦でへばってて欲しいな・・・」

 

美波「卯月ちゃんのお兄さん、難しい顔してるね・・・」

 

みく「あの一言だとトトカルチョに負けるのを恐れてるようにしか聞こえないにゃ・・・」

 

智絵理「み、みくちゃん、そんなこと言っちゃ・・・」

 

実際の一樹の心情は・・・。

 

一樹「確かにトトカルチョに負けるのも嫌だ・・・だが、目の前で後輩がたこ殴りにされていくのも嫌だ・・・だが・・・正直どっちも嫌だ・・・」

 

その言葉にシンデレラプロジェクトのメンバーは全員はため息をついた。

 

「『青コーナー、里中ジム所属、125ポンド丁度、木崎京介!!』」

 

一方京介は万全のコンディションだ。元々体重が軽い方の彼だからか、減量苦を感じさせないでいる。

その表情を見て一樹はほっとしていた。しかも先ほどの緊張の顔をしていない。激励の効果があったようにリラックスしていた。

 

一樹「よしっ!(初試合は緊張で身体がガチガチになって動けねえなんてこともある奴は居るが、京介は大丈夫だ。これなら十分勝機はあるはずだ!)」

 

未央「いい表情してるよ後輩君!」

 

卯月「うん、京介君なら大丈夫です!」

 

未央と卯月は京介に向かって手を振る。するとそれに気づいたのか、京介は右腕をあげてそれに答える。

 

武内「今回の試合は4回戦。4ラウンドまで続きダウンは2回したら負けのルール・・・でしたよね」

 

一樹「へえ、詳しいな武内さんボクシング好きなんですか?」

 

武内「えっ?ま、まあ・・・それなりに」

 

武内は手を後ろに回し、首を押さえる。

 

莉嘉「ちなみに、P君はボクサーで誰を応援してるの?」

 

隣にいる莉嘉が武内に問いかける。

 

武内「あ、それは・・・」

 

武内は言葉を止めて一樹の方をじっとみる。ジュース片手に持ってストローを咥えている一樹はその視線に気づく。

 

一樹「あ?俺??」

 

武内「ま、まあ・・・デビュー当時から・・・」

 

一樹「マジかよ・・・」

 

武内「日本タイトル試合、見に行きました」

 

一樹「マジかよ!?」

 

武内「後で、サイン貰えませんでしょうか」

 

武内はどこから出したのかわからない色紙とサインペンを一樹に差し出す。そんな無表情ながらもキラキラさせている武内に一樹は苦笑いするしかなかった。

 

「『セコンドアウト!』」

 

一樹「あ、ああ!ホラ、試合始まります。サインは後で書きますからとりあえず・・・」

 

武内「む・・・そうですね。大事な後輩さんの試合ですし」

 

一樹「ハァ・・・(横にアイドルが居るのにそれを横目でサインするのはお門違いも良いところだ・・・。武内さんには悪いが、ここは我慢してもらおう・・・)」

 

一方の京介はというと、リングの中心で相手の顔を見ていた。もう迷いはない。尊敬する人から言葉を貰った。しかも自分の大好きなアイドルグループが見ている。良いところを見せたいというのもある。だからこそ、気合いが入っていた。

 

「『ラウンド1!』」

 

アナウンスの言葉を聞き京介は拳を構える。一方の川中も拳を構える。

 

京介「(・・・は?)」

 

その川中の構えを見て京介は驚いた。そして観客席にいた一樹たちも驚いていた。

 

凛「あれは!」

 

未央「お兄さんと同じ・・・!」

 

そう、その構えは、両拳を顎の下を隠すように構え、相手をのぞき込む。

 

 

 

そう――――――

 

 

 

ピーカブースタイルだった。

 

 

その構えに京介は驚いた。まさか自分の初試合で一樹と同じスタイルの相手だと言うことに。だが、京介は笑みを浮かべた。

 

何故なら、京介は既に似た相手と戦っているからだ。

 

レフェリー「ボックス!!」

 

カァーン!

 

 

ゴングと共に動いたのは、川中だった。こっちのことはお構いなしにジャブ、ジャブ、ジャブ!

 

ブォン!ブォン!ブォン!

 

その音はまるでハンマーを振っている様な風切り音がした。音がそのジャブの一撃一撃が重いということを物語っている。だが、

 

京介のフットワークがそれを勝っていた。そのジャブを頭を降り避けきっている。

 

京介「(遅い!一樹さんに比べるとこんなの、スローモーションだ!)」

 

ジャブを全て避けていき、ついに京介の拳が降り注ぐ。川中のジャブを低い姿勢でかいくぐり左拳がしたから降り上がる。

 

一樹「ジャブを避けつつ相手のリズムを読み、さらに身体をしたから前にだして下からのアッパー・・・タイミングもばっちりだ!」

 

だが、予想は一樹の思っているような事は起こらなかった。

川中はその攻撃を読んでいたようにアッパーを避けた。

 

京介「(なにっ!?)」

 

一樹「(避けた!?)」

 

モーションが大きなアッパーから体勢を立て直すまで京介の身体はがら空き。そこから川中の拳がまっすぐ京介のボディーにめり込んだ。

 

京介「おぐぅ!?」

 

その一撃で、京介の膝はリングに着いた。

 

一樹「畜生!最悪な展開だ!!」

 

一樹の悪態が響く。このオープニングヒットにより、さらなる波乱が起こるのを今の一樹を含むシンデレラプロジェクトメンバーや京介にも分からなかった。

 

 




と言う訳で京介VS川中戦開始です。ここからどうするかははじめの一歩の試合を参考にしていきたいと思います。あと試合の時今回の一樹の解説のように誰が何を言っているのか分からないので喋るキャラの名前を付けて喋らせます。その方がわかりやすいと思いますので。

長い目で見ていってください。それでは・・・


ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.8

さてさて、自分なりに面白い展開に出来たはず・・・。


遂に始まった京介の初試合。一樹達一行は京介の試合を見る為に観客席で見守っていた。京介の相手は一樹と同じインファイター、華麗なウィービングで相手の攻撃を避けていき、左アッパーをかまそうとした時、京介の拳は空を切り、逆に相手にオープニングヒットを許してしまう。

 

一樹「畜生!最悪な展開だ!!」

 

拳を自分の膝に叩きつけ悪態をつく一樹。

 

一樹「(オープニングヒットを許してしまってしかもダウンした。始まってまだ数秒しか経っていないのに…!このダウンは精神的にも来るぞ…)」

 

会場の表示板を見ると時計にはまだ2分32秒という文字が映し出されていた。

 

レフェリー「1!」

 

レフェリーがカウントをとりだす。京介は肘をリングにつけたまま動かない。

 

一樹「京介立ち上がれ!まだお前の実力を見せてもらってないぞォ!!」

 

観客席から立ち上がり大声を出す一樹。それほどまでに今のダウンはきつい。まだ始まって十数秒しか経っていないのに1度目のダウン。次ダウンすれば京介は負けてしまう。このままではそのダウンによるプレッシャーにより押し負けてしまう恐れがある。

 

未央「後輩君立って!」

 

美波「頑張って下さい!」

 

みりあ、莉嘉「「頑張って-!」」

 

その言葉が届いたのか京介のグローブがぴくりと動く。そしてそのまま体を起こそうと足が動き出す。

 

レフェリー「7!」

 

京介「く...うぐ...!」

 

グググと体を動かし何とか立ち上がりファイテングポーズを取る。

その姿を見てレフェリーは京介を見る。肩で息をして足もまだ震えている。だが、

 

レフェリー「ボックス!」

 

試合を続行させた。

 

卯月「やった!京介君立ちました!」

 

かな子「うん!」

 

未央「今度はこっちが攻める番だよぉー、行けぇ後輩くーん!!」

 

一樹「行けるなら苦労ない!」

 

未央「えっ...?」

 

一樹「何とか立ち上がったがそれでも一撃でダウンするようなパンチ力だ、足を見ろ、まだ震えてる。相当重い一撃だったんだろう。その上、1Rの時間は3分なのにまだ30秒しか経ってねえ。そんな短時間でダウンしてしまったんだ。身体にダメージは残ってるし加えて早々ダウンしてしまったことにより精神的ダメージも大きい。次ダウンすれば強制的に試合は終了する...あいつは今、色んなプレッシャーがのしかかってる状態なんだ」

 

みく「じ、じゃあもう勝てないにゃ?」

 

一樹は腕を組み目を閉じる。そしてしばらくすると目を開き口を開けた。

 

一樹「あるにはある。その方法は...カウンターだ」

 

武内「ですが、あの状態でカウンターは...」

 

一樹「確かに並のボクサーならまず打てないだろう。足にきてる時点でそんなこと考えれないだろうな。だがカウンターは相手の力を利用して打つ。数学的に言うと相手に2倍のダメージを負わせることが出来る。ところがどっこい、この技は下手すればがら空き状態で相手の攻撃を受ける。諸刃の剣なんだよ、カウンターは。さらに言えばあいつはまだ自分の型が分かっちゃいねえ。カウンターで逆転を取るという発送を頭で考えられるかが不安でならねえ。だが相手より力の差が有る場合相手の力を利用するしかないし、京介にはここぞという時の爆発力を持っている。それは俺とのスパーで確認済みだ。後は京介次第だ・・・」

 

一樹の解説を静かに聞くシンデレラプロジェクトメンバー。みんな不安の表情でリングに視線を送る。

 

京介「(クソッ足が・・・震えやがる!だが、ここでおめおめと一撃も与えられず帰れるか・・・何より、シンデレラプロジェクトのみんなが、卯月が、そして尊敬する先輩が見に来てくれてるんだから!かっこ悪いところなんて見せられるか!)シッ!!)」

 

颯爽と身体を前に出して打ち合いの構えを取り、ジャブを放つ。しかしその拳は空を切る。川中のウィービングも冴える。

 

京介「(避けるのも上手いじゃねえか。走り込んでる証拠だ!)」

 

ひたすらとジャブを放ち続ける。しかし、川中は京介のジャブをダッキングでかいくぐり、リバーブローを京介に放つ。

 

京介「おぐぅ!!」

 

リングに足を付けたまま京介の動きが止まる。しかしガードをあげたまま負けまいと踏ん張る。とどめをささんばかりにそこから川中の両拳の連打をガード越しに放つ。

 

バシッ!バシッ!

 

いくらガードをしていてもその上から伝わる衝撃に京介はなんとか耐える。だが、このままではじり貧なのは変わらない。

 

京介「クソッ!」

 

京介はバックステップをして距離を取ろうとするが、バックステップをしたとたん川中もダッシュ、京介との距離を詰めた。

 

京介「(なにっ!)」

 

一樹「ダッシュ力もある。本当にCライセンス持ちの新人なのか!?」

 

再びはじまる川中の連打の応酬。その攻撃に京介はジリジリと後ろに下がる。再び距離を取ろうとバックステップをするがそれでも川中のダッシュですぐに間合いを詰められ連打の雨が降り注ぐ。

 

一樹「おかしい・・・」

 

一樹の言葉に武内が反応する。

 

武内「何がですか?」

 

一樹「京介は悪く言えば虫の息だ。だが川中はカウンターを恐れているのかわからんがラッシュで京介を倒そうとしている。だが、俺から見たら川中が焦ってるように見える・・・」

 

凛「言ってる場合!?大切な後輩が負けそうなんだよ!」

 

一樹「いいか凛、試合で勝つという意思は確かに必要だ、だが時には相手を観察するのも必要だ。ただ見るんじゃない。よく観ることだ(・・・・・・・)。よく見ろ。押されてるのは京介だ。だが何で押してる奴があんな苦しい顔をしてるんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

凛は言われたとおりに川中の表情を見る。連打で押しているハズの川中の表情は険しくなっていた。苦しそうにしている。

 

凛「い、言われてみれば確かに・・・」

 

一樹「(まさか・・・!)」

 

カァーン!カァーン!カァーン!

 

会場に鳴り響くゴング音。二人の間にレフェリーが入る。

 

レフェリー「ストップ!1R終了だ!」

 

二人を引き離すと既に満身創痍の京介。意識がしっかりしているのか分からないがコーナーに戻る京介。

 

一樹「長い3分間だったな・・・」

 

蘭子「ぴぃ!?」

 

蘭子の奇声に一樹はびっくりしながら横を見る。すると横では卯月がシュ~という音を出しながら頭から湯気を、口から魂のようなものが出ていた。

 

美波「た、大変!卯月ちゃんの口から魂が!」

 

きらり「卯月ちゃ~ん!しっかりするにぃ~!!」

 

みく「卯月ちゃ~ん!」

 

卯月「きゅ~・・・」

 

一樹「何やってんだが・・・。(だが京介の劣勢には変わりないにしろ、ある意味逆転の糸口が見えてきた。京介がそれに気づけばの話だが・・・)」

 

未央「ああ!お兄さんしまむーの魂がどんどん離れて行ってる-!!?」

 

凛「しっかりして!卯月!!」

 

卯月「きゅ~・・・」

 

一樹「オイバカ、少し見ない間になんかやばい事になってんじゃねえか!戻せ!早く魂を戻せ!と言うか戻ってこい、卯月ぃぃぃ!!?」

 

観客席でドンチャン騒ぎをしている一樹を見ながら京介はリングで息を整えようとしていた。

 

京介「ハァ・・・ハァ・・・何やってんだあの人達・・・(畜生・・・結局打たれっぱなしで1R終わっちまった・・・やっぱり俺、一樹さんみたいになれねえのかな・・・)」

 

里中「大丈夫か?」

 

京介「さ、里中会長・・・」

 

京介の前に現れたのは50代そこそこの男性。里中はタオルを取りそれで京介の身体に付いている汗を拭き取っていきながら耳打ちをする。

 

里中「こんなに打たれやがって・・・」

 

京介「すいません・・・」

 

里中「お前を見てると一樹を思い出すよ・・・あいつもこんな風に初試合をしたっけな・・・」

 

京介「か、一樹さんが?」

 

里中「お前の目標は一樹だっていうのは十分分かっている。だがな、戦い方まで一樹と一緒にする必要がどこにある?自分のスタイルで行け。そして相手をよく見ろ。あいつはボロボロになりながらも相手を観察していたぞ」

 

京介「観察・・・」

 

そう言われると京介は正面にいる川中を見る。川中の表情は、苦しそうだった(・・・・・・・)。息は荒く、なんとか息を整えようと必死な表情をしていたのだ。

 

京介「ッ!(そういうことか!だとしたら次は打って出る!!)」

 

波乱が巻き起こる京介初試合。その2R目が始まろうとしていた。その会場を一樹達はただ静かに見守っていた。

 




昔の漫画感出したらこうなってしまった・・・。

さて、京介VS川中戦は次回で決着!どちらが勝つか、是非期待してください!!

では・・・

ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.9

友人「・・・何してたんだ?」
作者「・・・仕事してました」
友人「そうか・・・そう言えば、COD:WWⅡストーリーどうだった?」
作者「まさなあんな展開になるとは思わなかったぜ!主人公の友の思いが強く、戦場にもどるところなんて感動もの・・・あ」
友人「覚悟は良いか?俺は出来てる・・・」

後書きにつづく


一樹の後輩である木崎京介の初試合が始まり、状況は京介が押されてしまい劣勢であった。開幕オープニングヒットからのダウン。さらに相手猛攻に為す術も無く、第1Rが終了してしまった。

だが一樹は唯一京介が優勢になるものを見つけ出した。

 

卯月「えっ、京介君が勝てるかもしれない!?それは本当ですかお兄ちゃん!」

 

一樹「まあ、京介がそれに気がついたらの話だ。頭が冷静で物事を考えれる状態でいる事を祈るのみだ」

 

一樹は京介のいるコーナーを見つめる。

 

凛「お兄さん、後輩君が勝てる方法って?」

 

一樹「川中を見てみろ。後数秒でゴングが鳴るのにまだ息が整ってねえ。奴は焦ったんだ、だから1Rから全力で潰しにかかった。お前らも動きすぎたら息切れぐらいするはずだ・・・ダンスするさいに必要な条件、技術もそうだがもう一つ大事な事があるはずだ」

 

「『セコンドアウト!』」

 

ついに第2Rが始まる。セコンド陣はリング外に出て行きそれぞれ選手を見つめる。

 

一樹「その答えは、すぐに分かるハズだ・・・」

 

カァァーン!!

 

ゴングの音と共に動いたのは川中だった。川中は一気にケリを付ける為に京介に向かってダッシュ。その間合いを一気に詰め込み先ほどのラウンドのように拳を京介に叩きつける。

京介もガードをしてなんとか耐える。だがその打撃はガード越しに伝わってダメージになっていく。

 

一樹「チッ・・・やはり逆転は難しいのか・・・さっきのラウンドでダメージは抜けてない。しかもあの連打の押収だ。俺の・・・いや、俺以上の力を持ったボクサーの力だ。おまけにダッシュ力もあるから簡単に逃してくれない・・・。こいつぁまずいな・・・」

 

武内「・・・いつかの試合を思い出しますね」

 

一樹「俺の初試合か?確かに見せれたもんじゃ無かったな・・・あれは・・・ドロドロの泥試合だったなあれは・・・だが逆転を掴む一手ではあった」

 

京介「(そう、このままではじり貧・・・打つ手なし、逃げることも出来ない・・・檻の中に閉じ込められたようなこの感覚・・・俺は勘違いしていた。あの人の背中を追いかけてきたからこそ、この試合は・・・この戦いは・・・一樹さんを追うためだけの戦いじゃない・・・俺の為の戦いだ!!)」

 

ガードを解き、川中に向かって抱きつく。

 

川中「なっ・・・!?」

 

CPメンバー「「「えっ?」」」

 

一樹「ッ!(クリンチ!京介のやつ、気がついたな)」

 

京介は全く離す気配を見せない。川中もなんとか突き放そうと試みてはいるがなかなか京介が離す気配を見せない。ついにはレフェリーが割って入ろうとする。

 

レフェリー「ブレイクだ、離れて!木崎!!」

 

だが京介は粘る。出来るだけ相手を自分の身体に引き寄せ密着して動こうとしなかった。

そんな場面を見せられ、観客からは非難の声が上がり出す。

 

「何やってんだ!」

「抱き合ってたら勝負にならねえだろうが!」

「もっと殴り合えよ!」

 

一樹「いや、そのまま行け!周りの声なんて気にするんじゃねえ!」

 

「何だと!?」

「テメーあの卑怯者の味方すんのかよ!」

 

一樹の声援を聞いた観客は一樹を睨み付けながら一樹にも非難の声を浴びせる。それは一ボクシングファンとしての言葉なのだろうが、一樹からしたらそんなのはどうでも良かった。

 

一樹「あ゛ぁ゛?」

 

凄まじくドスの入った声が観客にまるで右ストレートのように降りかかる。観客からしたら一樹の顔は悪鬼羅刹のように見えるだろう。「「ヒッ」」と小さな悲鳴を上げるとそれ以上何も言わずリングに視線をゆっくりと戻した。

 

卯月「お、お兄ちゃん・・・怖いです」

 

凛「ボクシングの事になると頭いっぱいになるんだね・・・」

 

未央「お兄さんの前ではボクシングの知識無しで話しは禁止だね・・・」

 

CPメンバー「「「そうだね・・・」」」

 

 

 

その頃のリングではついに川中は強引に京介の腕を離そうとする。力を込めてついに京介の腕を振りほどいた。そこからなんとか距離を取ろうとするが京介は逃がそうとしない。再び距離を詰め、腕を川中の身体に回しクリンチする。

 

川中「(この・・・!)」

 

レフェリー「ブレイクだ!離れて木崎!減点するぞ!」

 

その時、

 

カァーンカァーンカァーン!!

 

ゴングが鳴った。

 

一樹「よしよしよし!それでいい。疲労しきった身体で最大の一撃を撃つには相当のリスクが伴う。だが試合中に疲労を回復する方法はいくらでもある。一つは破壊力のある拳を放ち威嚇させ簡単に近づけさせないようにし牽制し合う状況を作る。そうすれば放った相手は動くことをせず体力を回復することが出来る。さらに威嚇により相手はいつ来るかという精神的不安により肩に力が入りっぱなしになりそのまま疲労蓄積が続く・・・そしてもう一つが・・・クリンチによる疲労回復・・・。一見したらただクリンチして悪あがきをしているように見えるがこれもボクシングのテクニックだ・・・特に京介には今のような作戦が一番良い。力負けしてしまった今の状況で威嚇をしたとしても1ラウンドでのあの様子で相手には京介に力が無いと言うことはもうバレているはずだ・・・」

 

武内「では、先ほどのクリンチは体力を回復するための・・・」

 

一樹「ああ、プラスαクリンチして川中は突き放そうとあの手この手を使うハズだが、それでも京介は根性を見せた。一度離されたにもかかわらず再度クリンチして時間を稼ぎ2ラウンド目を乗り越えた。押せ押せだった川中からしたら面食らっただろうよ。それにより精神的ダメージと疲労によりぐったりだ。なんせ無駄な体力を使っちまったんだからな」

 

凛「無駄な体力?もしかして、後輩君が勝てる方法って・・・」

 

一樹「凛は察しがいいな。そう、京介が勝てるただ一つの方法は・・・カウンターだ。川中は決定的にスタミナが少ないんだ。今までの試合が1ラウンドでKO勝ちしていたのはスタミナが無かったため、だから1ラウンド目に一気にケリを付けようとした。奴の心の中では『早く倒れろ、早く倒れろ』と焦りながら思ってただろうな。だが1ラウンド目にケリがつけれなかったのがイタい。後は京介の体力が戻っていることを祈ろう」

 

一樹は腕を組み静かにリングに視線を戻す。次が3ラウンド目になる。この時、一樹は確信していた。

 

 

このラウンドで全てが決まることを。

 

 

「『セコンドアウト!』」

 

 

両選手がリング中央に戻り拳を構える。さっきまで満身創痍だった京介の息は整っている。対しての川中は疲労が顔から出ている。息は荒くなり、構えた腕は重そうに小さく小刻みに揺れていた。

 

レフェリー「ボックス!」

 

カァァーン!!

 

運命のラウンドが動き出した。

 

動き出したのは、京介だった。

 

京介「シッ!」

 

軽く放ったジャブ。そのジャブが、川中の顔にバシィン!と命中した。

 

川中は避けようともしない。いや、避けようとしないのではない。避けれないのだ。

 

京介「(やはり体力は無くなって動きが鈍くなったか!このままジワジワ行かせて貰う!)シッ!シシッ!」

 

次々と放つ京介のジャブが面白いように当たる。当たる。当たる。今までは押せ押せだった川中の身体はまるで20㎏の重りを体中に付けているような感覚が襲いかかっていた。京介のジャブをかわせることも出来る。頭では分かっている。避けなければいけないという思考と身体が追いつかない。

 

一樹「今の川中では思考と身体の動きが追いついてない。急速にスタミナを使ったことにより疲労が莫大な借金のようにのし掛かってきた。スタミナが無いという欠点をダッシュ力や試合結果でごまかしていたが、中身を見たら玉手箱を開けた浦島太郎だ・・・」

 

美波「上手い例えですが、それでも油断はできないんじゃ・・・」

 

一樹「果たしてそうかな。確かに京介のダメージは抜けてない、どんなにクリンチで体力を回復する時間稼ぎをしたとしても試合を見てた通り、京介を一撃でマットに沈めるようなハードパンチャーの一撃を食らったんだ。数分でダメージは抜けきらない。だがそれは川中も同じだ。現在進行形で川中はスタミナ切れという自体を起してんだ。肉体的疲労と1ラウンド目で勝負を決められなかったこととあれこれしてクリンチ居続けて2ラウンド目に無駄な体力を使ったという精神的疲労。自慢の力任せの一撃に頼りたいが、それよりも先に身体が追いつかねえ。表情から見てもあからさまに疲れが見え見えだ。京介もそれを感じてるハズだ」

 

未央「な、何だかボクシングって奥深いね」

 

一方的に京介のパンチが川中の顔をとらえる。精神的追い詰められた川中は最後の悪あがきと言わんばかりに

 

川中「ぬぁああ!!」

 

雄叫びを上げながらついに川中はスピードでは刃が立たないと思い大ぶりのパンチを放ち出す。その一振り一振りがブゥン!ブゥン!と大きな風切り音が鳴る。

 

武内「あれは怖いですね」

 

一樹「あれしかねえんだ。今の川中と京介じゃあスピード差が有りすぎる。だから大振りのまぐれ当たりしか手がねえんだ。(そして、あれ(・・)を打つチャンスだ。大振りで振り回すということはモーションは大きく動きが読みやすい。そこに打ち込めば相手に二倍のダメージを与えられる。一発で形勢逆転!京介、後はお前の度胸次第だ!)」

 

京介「(そう言えば、一樹さんにこんなこと言われたな・・・「カウンターを上手く打つコツは度胸だ」って・・・俺は正直、一樹さんに憧れこの世界に入った・・・その背中に追いつきたい。肩を並べたいって。だから同じ階級で、同じスタイルで行けばその差は縮まると思い込んでいた。でも違う。これはそれだけの戦いじゃねえんだ!これはその為の第一歩なんだ!)」

 

シュッ!

 

川中のパンチの勢いを利用してタイミングを見てパンチを出す。そのパンチは川中の顔面に吸い込まれるようにたたき込まれた。

 

バシィン!

 

もはやパンチと呼べる代物の音ではない異音を放ち、京介はそのまま殴り抜けた。カウンターをたたき込まれた川中の身体はまるで一瞬だけ重力が働いていないように宙に浮き、マットに背中から倒れ込んだ。

 

それを見ていたCPメンバー。開いた口がふさがらないとはまさにこの事だ。武内を含めた全員が口を開けたままリングを見ていた。

 

レフェリーが川中に近づき状態を確認する。川中の身体は小刻みに痙攣を起している。それもそうだ。疲れていたとはいえ自分の力任せのパンチの威力がそのまま2倍の力で自分に跳ね返ってきたのだ。これで倒れなかったらそれは相当な打たれ強い怪物だ。

レフェリーは試合を続行出来るような状態ではないことを悟ったのだろう、上空高く腕を上げ振る。

 

カァーンカァーンカァーン!!

 

試合は終了した。そして京介は最初何が起きたのか分からなかったのだろう。惚けた顔でじっと川中を見ていた。

 

勝ったのだ。それは紛れもない事実だ。

 

京介「・・・っ・・・よっしゃああああああ!!!」

 

喜びのあまりに京介は両腕を上げ歓喜の雄叫びを上げる。

 

「よくやったぞ!木崎!!」

「大逆転だったなぁ!燃えたぜ!!」

「今度の試合も見に行ってやるぜ!」

 

観客からの拍手がまるで雨のように降り注いだ。そう、京介は勝ったのだ。

 

未央「やったね、後輩君勝ったよ!」

 

卯月「はいっ!」

 

李衣菜「最高にロックな試合だったよ!」

 

CPメンバーも歓喜の声を出し、拍手を送る。だがその中で一樹は苦い顔をし腕を組んだまま京介を見ていた。それにいち早く気づいたのは横に居た武内だった。

 

武内「どうしました?せっかく後輩さんが勝ったというのに」

 

一樹「・・・あ、あぁ・・・うん。嬉しいさ。後輩が初試合で勝ったんだ。嬉しくないはずない(言えねえ・・・まさか賭けに京介が負ける方に賭けてたなんて、こいつらの前では絶対に言えねえ・・・こいつらが居るから勝ってもらわないとって言ったが、まさか勝つとは思わねえよなぁ・・・スタイルも分からない奴の初試合だもんなぁ・・・まあ、それはともあれ・・・おめでとう、と言うところだな。良くやったな。京介)」

 

智絵里「卯月ちゃんのお兄さん?」

 

一樹「えっ何!?」

 

かな子「どうしたんですか?暗い顔して・・・」

 

凛「・・・まさかお兄さん・・・」

 

一樹「いや!何でも無いよ!?何もないでもざいまするですことよ!?」

 

みく「まさか、トトカルチョの件じゃ・・・」

 

一樹「違う違う!負けたとかねえから!決して京介が負ける方に賭けたわけじゃねえから!!」

 

未央「まだ何も言ってないのに慌ててるのがまた怪しい・・・」

 

みりあ・莉嘉「あやしー!」

 

きらり「あやしいにー!☆」

 

一樹「だから違ぇんだってばよぉぉぉぉ!!」

 

KOタイム:3R2分17秒

木崎京介

1戦1勝

1KO

 

フェザー級初試合 初勝利




友人「さあ、選びな・・・バスターソードか、日本刀か・・・」
作者「ひ、ひと思いに重いバスターソードで・・・」
友人「(NONONO!)」
作者「日本刀・・・?」
友人「(NONONO!)」
作者「りょ、両方!?」
友人「(NONONO!)」
作者「刃物全部!?」
友人「(YesYesYes!)」
作者「もしかして無限の剣製ですかぁぁぁ!?」

友人(エ○ヤ)「YesYesYes!Unlimited Blade Works!!」

作者「ぷぎゃぁぁぁぁ!!!?」



・・・・・・次回もよろしく、ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.10

あけましておめでとうございます。今回はあのアイドルからオリジナルでキャラクターが登場します!


フェザー級初試合を見事初勝利に収めることが出来た木崎京介。一樹たちは控え室に戻った京介への激励をしていた。

 

「いやぁ~ホント危ない試合だったね!」

 

「京介君、お疲れ様です!」

 

「ああ、みんなわざわざ応援ありがとう。そして一樹さんも・・・応援ありがとうございました。声援、ちゃんと届きましたそのおかげでなんとか勝てました」

 

「何がなんとか勝てただ、しっかり打たれてたじゃねえか。結果的には勝てたが、その内容はヒヤヒヤ物だったよ。だが勝ったのも事実だ。どんな手を使おうが勝ちは勝ちだ、今はこう言おう...お疲れ。よく頑張った・・・」

 

一樹は疲れ果てて椅子に座り込んでいる京介の肩に手を置き、優しい笑みを浮かべた。

ボロボロの顔で(・・・・・・・)

 

「...所で一樹さんがいったい何があったんですか?」

 

「気にするな。ちょっと丸太を持った坊主のような格好をした『ハァハァ』と息を荒くした大男に顔を殴られただけだ!なぜ殴られたのかは理由は聞くな」

 

「それは大丈夫なのでしょうか?その人が東京に居るって事は日本が吸血鬼だらけに・・・」

 

「心配ないさ!丸太持ってたし」

 

「「「いや、何の話し?」」」

 

こうして京介の初試合は無事終わりを告げた。そして、これは一樹の運命を大きく変える出来事の始まりでもあった。それは数日後の卯月達のライブ当日だった。

 

一樹は店を閉めて朝早くからある所に来ていた。そこは大きな舞台セットが立っているライブ会場だった。そして一樹はそんなライブ会場に集まっている人混みの中にいた。顔を青くしながら。

 

「・・・(なんか気分悪くなって来やがった・・・)」

 

今回一樹が訪れたのは卯月たちCPメンバーのライブだった。と言っても歌うのは彼女達だけではない。346プロダクションのアイドルたちによるアイドルフェスティバルライブ。それがここなのだ。気分を悪くしながらも一樹がなぜここにいる理由は単純明快。『卯月の為』ただそれだけだ。

 

この日に卯月は前もって一樹にライブのチケットを渡していた。このライブ自体はテレビで生放送をするためテレビで鑑賞する予定だった。だが卯月の涙目の上目遣いで「お兄ちゃん、お願いです・・・来てください!」にはかなわなかった・・・。一樹は「卯月に悲しい思いをさせていいのか?否!そんなの兄貴としてやってはいけねえ!!」と言いこうしてやって来たのだ。

普段は「兄離れしてくれ」と言ってる一樹だが、卯月の事になれば大事な事をすっぽかしてでもそっちを優先する。結論を言うと、一樹は卯月にとことん甘いのだ。

前に店をすっぽかして卯月の中学の授業参観に行ったというエピソードもあるが、それはまた別の機会に話そう。

 

なんとか人混みから抜けだし卯月達がいる劇場裏に行く。目的は激励の為だ。

 

「オッス、調子はどうよ」

 

「あっお兄ちゃん!」

 

一樹を見つけるなり笑顔で一樹元に駆け寄る卯月。それに付いてくるようにCPメンバーの面々もこちらにやってくる。それぞれのメンバーを見渡す一樹。

 

「うん、調子は良いみたいだな。よしよし・・・」

 

「卯月ちゃんのお兄さん、こんにちは!」

 

とみりあが一樹に向かって元気よく笑顔で言う。

 

「おう、こんにちはみりあちゃん。全員引き締まった面構えだな」

 

「うん、前にお兄さんが聞かせてくれた演説のおかげだよ」

 

「あれか・・・あの話しで緊張が紛れたのなら言った甲斐はあっただろうが・・・それでも不安はあるだろ?」

 

みんなは顔を見合わせながら首を縦に振る。

 

「それでいいさ、どんなに大舞台になれてる奴でも緊張するものだ。俺が言えるのは一つ、失敗を恐れるな。お前達がこの日の為に練習して来たのは重々分かってる。舞台に上がれば主役はお前達アイドル達だ、失敗を恐れるな、失敗してたとしてもそれは次に生かせる。だから、止まらず突っ走れ!」

 

一樹は拳を固めてストレートの形を取りCPメンバーの前に突き出す。

 

「「「おー!!!」」」

 

CPメンバーもそれに答えるように一樹拳を突き出し声を上げる。

 

彼女らの会話をしていると一人の男性スタッフらしき人物が一樹に話しかけてきた。やはり関係者とはいえ怪しい人物だと思われたか?と思いつつ一樹は職質覚悟でスタッフの方を向く。

 

「もしかして、島村一樹さんですか?」

 

「えっ?・・・(なんで俺の名を知ってるんだ?・・・まさか)」

 

「あの、元フェザー級王者のあの島村一樹さんですよね!?」

 

やっぱりかぁ・・・という感じで一樹は「ハァ・・・」と小さなため息をする。だがここで嘘をついてもしょうが無いと感じた一樹は自分の名前を明かす。

 

「確かに俺が島村一樹です」

 

一樹が名を名乗ると男性スタッフの目の色が変わった。

 

「やっぱり!僕、ずっと一樹さんのファンなんです!引退はしてしまいましたが、あなたはいつでも私の憧れです!」

 

「は、はぁ・・・?」

 

「あ、あの、よかったらサインを・・・」

 

どこから出したのか、白い色紙とマジックペンを出してくるスタッフ。

参ったなあ、という感じに一樹はその色紙一式を受け取りそこに名前を慣れた手つきで流れるように書く。

 

「・・・これでいいですか?」

 

色紙に書いたサインを持って目を輝かせる男性スタッフ。

 

「あ、ありがとうございます!いつか、再びリングに上がるのを願ってます!!」

 

そう言い残して去って行く男性スタッフの後ろ姿が消えるまで見ていた。

 

「・・・引退してるんだけどな・・・俺・・・」

 

その後一樹は武内にも挨拶をしに行くと、武内もさっきのスタッフのように色紙と黒いペンを一樹に差し出す。

 

「・・・」

 

「・・・(そう言えば、あの試合の後にサインするの忘れてたわ・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブは白熱。何せ人気アイドルたちが集まってる大イベントだ。これほど大きなイベントだ。金かかってんだろうな。俺も歌を聴きながらノリノリに足踏みとかもしてたし、素直に楽しいと思えるものだった。

そしてライブはクライマックス。全アイドルによる『お願い!シンデレラ』の熱唱が終わった。前列辺りにはシンデレラプロジェクトメンバーを中心に卯月の姿も確認できた。

 

卯月は今、輝いてる。憧れ続けたアイドル。今その夢が努力と結びついて実が成った。俺は今の卯月が眩しい。はっきり言うと、俺は卯月が羨ましい。・・・羨ましい?なんでそう思ったんだ?

分からなかった。なんで俺は卯月を羨ましく思ったんだ?何に対して?努力?憧れ?夢?わからない・・・。

 

ライブは終わりすでにみんなのインタビューに入っている。

 

「はい、次は島村卯月さんです!今の思いを誰に伝えたいですか?」

 

「はいっ!私は両親に、そして一番伝えたいのは、お兄ちゃんです!」

 

「お兄さん、と言いますと、あのプロボクサー島村一樹さんでしょうか?」

 

「はい。お兄ちゃんは引退しても私を応援してくれました。私もお兄ちゃんの努力を近くで見たから、目標に向かって頑張ってこれました。その頑張りを見せて貰うたびに私は勇気を貰ってきました。だから私はお兄ちゃんがもし復帰するとしたら、私はお兄ちゃんを応援します。だからこそ今私はお兄ちゃんに伝えます。『ありがとうございます!!』」

 

「ッッ!!」

 

あの言葉・・・聞き覚えのある台詞を言ってくれるよ・・・あの言葉は俺が新人王を取ったときの台詞じゃねえか。

 

『俺は目標に向かって頑張ってこれました。でも、ここまで来れたのは今の家族が俺を支えてくれたからです!だから、今感謝の言葉を伝えるとしたら、義理の両親と義理の妹です!ありがとうございます!!』

 

「・・・復帰には時間がかかる・・・か」

 

拳を前に出し、堅く握りしめる。目を閉じ、思い浮かべる。自分の目標、何を目的にしていたか。

 

フェザー級世界タイトル・・・一度あきらめた願いだが、やってやるよ・・・俺も卯月に勇気を貰ったからな。

 

「妹から感謝の言葉を聞いてやる気が出たか?」

 

横から聞き覚えのある声を聞き俺は横にいる人物を見る。そこに居たのは俺がよく知ってる人物だった。

 

「咲耶・・・?」

 

その人物は俺と同じフェザー級の現日本チャンピオン。このライブに出場しているアイドルの実兄で、俺の最大のライバルである人物。

 

 

日本フェザー級チャンピオン橘咲耶(たちばなさくや)

 

 

「・・・お前も妹のライブを見に来たのか?」

 

「ああ、そんな事より、戻るのか?リングに・・・」

 

「・・・あれだけ勇気を貰ったからな・・・俺はリングから下りることにより卯月が悲しまないようになると思ってた・・・だが違う。俺はただ怖がってただけだ・・・あれだけ卯月たちに失敗しても恐れるなって言っておいて自分がこれだ・・・だがあいつの言葉を聞いて目が覚めた。今度は取ってやるよ。世界を・・・この手で・・・恐れん、迷わずまっすぐ進んでやる・・・!」

 

拳を天高く上げ、それを見続ける。その日、俺は里中会長に再びリングに返り咲くことを伝えた。明日から身体を鍛え直す為のトレーニングが始まる。

 

こうして俺に目標が出来た。・・・いや、出来たのでは無い。これは再挑戦(リベンジ)だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!!!」

 

ロードワークというには激しすぎる走り込み。まさに全力疾走で一樹は土手を一気に走り抜ける。それを見ているCPメンバーたちは目を丸くしていた。

 

「す、すごい・・・」

 

「バイクと同じ速度で走ってるにゃ・・・」

 

そしてジムに帰ると次はサンドバッグを連打。徹底的に心臓や身体をいじめ抜く。負担をかけることにより基本体力を取り戻しつつあった。

 

「ラスト!!」

 

「ふっ!!!」

 

ラストに右ストレートがサンドバックに当たり大きく揺れる。

この時、一樹の身体は昔に近づいて来ている。だがまだまだだった。

 

昼の店を休みにしてカチャカチャと箸を進める一樹。それも低カロリーかつスタミナが着く料理ばかりだ。一緒に食事する事になったCPメンバーもその姿を見て唖然とした。止まることを知らない箸。みるみる釜の中にある米は無くなっていく。

 

「お、お兄さん?いくら体力を取り戻す為だからって流石に食べすぎじゃあ...」

 

「心配すんな!俺食ってるのは玄米だ。お前らが食ってるのは白米だからまだ釜には飯がある!」

 

「いやそういう問題じゃあ...」

 

「酒池肉林の境地...(流石に食べすぎじゃ...)」

 

「気にすんな!ボクサーはスタミナ命なんだ!」

 

夕食を済ませると次は夜の居酒屋の準備をし、営業が終わると風呂に入ったら寝てまた朝早くからロードワークとそしてトレーニングの後は夜の居酒屋。朝から夜までこの繰り返しだった。店は一樹が昼間練習をするため喫茶は当分営業するのをやめた。朝、昼はトレーニングに、夜は居酒屋営業に変えた。

次第に力を取り戻しつつある獅子の姿に、多くのボクシングファンが期待を大きくした。長らく眠り続けた獅子が目覚め、爪を研ぎ今か今かと折りが解き放たれるのをじっと待っている。

 

 

そして、解き放たれる時は来た。

 

 

8月26日 島村一樹復帰戦

島村一樹VS有田雅彦

 

 

 

復帰試合まで、あと3ヶ月




友人「・・・無理矢理感半端ねえな」
自分「いや、その、すんません・・・友人を主人公にして艦これの好きなキャラとの恋愛話を書くのと同時に進行してて遅くなった・・・」
友人「へぇ・・・ちなみにその友人の好きなキャラは?」
自分「北上様・・・」
友人「えっ、なにそれ見たい」←北上好き

というわけで編集長(友人)から叱られずに済んだMENです。自分でも違和感満載のごり押しの一樹復帰です。

そして次回は季節は夏の設定にしました!はじめの一歩的に言えば夏とは・・・恒例のアレです!もちろんデレマスキャラも出ますので次回も暖かい目で見守ってください!

では次回・・・ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.11

お待たせしました。仕事が忙しすぎて各時間が余り見つかりませんでしたがなんとか書き終えました。


8月26日 島村一樹の復活戦の日取りが決まった。各ボクシング記事はその事で持ちきりとなった。『元日本フェザー級チャンピオンの凱旋』『あの人気アイドルの兄がリングに再び』ポスターも各ボクシングジムに貼られていた。

そのポスターは牢獄のようなところでボクシンググローブを付けたトランクス姿の一樹が椅子に座っている姿だった。そして決まり文句は『眠り続けた獅子が解き放たれる』だ。

 

「こっぱずかしいにも程がある・・・正面姿で不良のように座ってくださいって言われてそれでやったが・・・まさかこうなっているとはな・・・」

 

武内とニュージェネの三人に是非店に飾らせてくださいという強い希望で店の窓に二枚ほどはっ付け終わって改めて一樹はポスターを目にする。

自分の店に自分の試合の告知をする。これ以上ナルシストじみたことを見てみて改めて恥ずかしさを表す一樹。そこに武内が一樹に話しかける。

 

「私が考えました」

 

「アンタかよ!?」

 

「キャッチコピーとイラストイメージも私が考えました」

 

「アンタはアイドルのプロデュースだけで無く、ボクシングのプロデュースもするのか?」

 

「・・・!それは考えてなかったですね・・・今度一樹さんとシンデレラプロジェクトとのコラボ企画を提案してみます」

 

「す る な !」

 

とりあえず今は5月後半。夏の暑さがし始める頃、外は熱く、とても長時間外に居たら汗だくになってしまいそうな程熱い。

一樹は4人をクーラーでほどよく涼しくなっている部屋に招き入れ、アイスコーヒーをテーブルの上に出す。一樹もアイスコーヒーを片手にカウンターに置いているテーブルにドッカリ座り、足を組みコーヒーに角砂糖を一個入れる。

 

「全く、熱くてかなわねえ・・・汗がどっぷり出るから減量には持って来いだが、熱中症には注意だな・・・」

 

「減量はいつから始めるの?」

 

アイスコーヒーにミルクを入れながら未央が話しかける。

 

「そうだなぁ・・・俺は普段減量中でも動くし、基本準備期間は2ヶ月前にはするな」

 

「ふぅん・・・因みに、減量ってどんな感じなの?ダイエットみたいなものじゃないんだよね?」

 

「ただのダイエットならいいんだがな・・・減量というのはある意味過酷だ・・・」

 

「・・・聞くが怖いけど、どんな物なの?」

 

凛の一言に一樹は「それを聞いちゃうか・・・」という顔をして口を開く。

 

「まずは短気になる。食事制限をするから腹が減ってストレスになる。次は飲み物だ。一日の水の摂取量が限られるからな」

 

「でもお兄ちゃんは身長の割に軽いのでそこまで過酷な減量はしなくていいんです」

 

と卯月が付け加えるように言う。

 

「フェザー級のウェイトは122から126ポンド体重数字で表せば55.34kgから57.15kg、それまで体重を調整して初めて試合に出る権利を得るんだ」

 

「因みにお兄さんの体重は?」

 

「68キロだ。だから俺は2ヶ月で10キロ近くの体重を落とすという事になる」

 

「それでは、一樹さんは一ヶ月に猛特訓をして、残り二ヶ月間を減量と練習ということになるのですか?」

 

「そういうこと、腹すかせた状態で練習があるからな、当然ストレスはたまるしカリカリすることもある。だから7月からは俺に会うなよ。下手したら俺の必殺メガトンパンチが飛ぶぞ」

 

そう言いながらも一樹はそんなことをする気はさらさら無く、一樹は自分から極力CPメンバーと接触を避けるつもりで居た。突発的に暴言や無神経なことを言うのは目に見えている。

 

「と言う訳で、本格的の練習は明日からする。そのための準備も出来てる」

 

「準備って?」

 

一樹は不適に笑い、目を見開き、口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏の定番、海合宿じゃああ!!」

 

車を走らせ俺達は目的地である海に向かっていた。今から向かう場所は俺がバリバリの現役だった頃に夏に試合が決まったら使っている合宿場だった。あそこは練習場が広い上に部屋も多い。それこそ練習に来る選手10人ほど来ても空き部屋がいくつもあるほど。

何でも昔会長が旅館だったのを買い取ってそこを練習場にしたとかなんとか言っていた。

 

今、俺達はCPメンバーと俺と京介、後は武内さんが付いてきている。なんでこの合宿にCPメンバーを入れているのかというと、今度の俺の試合の日にちと同日にライブがあるからだ。だから俺の復帰戦は見に来れないとは言っていた。

 

「しっかし残念だぜ。俺の試合を生で見てもらえないのは・・・」

 

「ごめんなさい。お兄ちゃん・・・まさか日が重なるなんて・・・」

 

「いいんだよ。俺には俺の試合があるようにお前にも自分のすることがあるんだ。・・・っと、そろそろ目的地が見えてきたぞ!」

 

「「「わ~!」」」

 

フロントガラスから見える青い海、そしてその横に立っている大きな建物、俺達ボクシング選手の練習場であり、今日来ているメンバーCPメンバーの練習場になる場所だ。

皆もその建物と海を見るために前に乗り出しフロントガラス越しにその光景を見る。って・・・

 

「前が見えねえぇぇぇぇ!!お前らそこをどけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー!大きい!!」

 

みりあちゃんは遠くで見ていた大きな建物が近くに来たことにより思った以上に大きかった事に感動していた。目をキラキラさせながら・・・。それに続くように莉嘉ちゃんやきらりが後に続いていく。練習場は海が見える崖の手前にあるため、浜辺から階段を使いその練習場に行ける。当然と言わんばかりに階段は長い。今女子たちは何も持っていない状態で階段に上がっていた。

 

えっ?合宿だから荷物ぐらい持って来てるだろうって?ああ持ってきてるぜ。その荷物は俺を含め京介と武内さんの男連中が持っている。俺は7つほど腕に持っている。因みに俺が持っている荷物は卯月、凛、未央、みくちゃん、かな子ちゃん、智絵里ちゃんそして俺の分を持っている。女の子の荷物だけあって重い、これで階段を上り下りするのはいいトレーニングになる。一週間これをやり続ければ足腰も鍛えられるハズだろう・・・。

 

「「はぁ・・・はぁ・・・」」

 

そのうち二人は早くもバテそうだが・・・。

 

練習場まで上がり、扉を開くとそこには小綺麗なリングがあった。

昔使ってた時と同じままだ・・・。

 

荷物を下ろして俺は近くにあったサンドバックに拳を叩く。ドスン!と重い音が響き、拳に少しだが痛みが走る。

これなら・・・もっと片足を前に出し、肩に力を入れて腕を捻り、腰も捻り込めば・・・。

 

「フッ!」

 

バシィィィン!!!

 

拳に襲いかかる強い衝撃と痛み。あの頃に確実に戻ってきている。後はどこまで元に戻せるかに掛かっている。

 

「京介、早速だが、スパーしてみるか?」

 

「えぇ~・・・ちょっと休みませんか?階段を上がりっぱなしで疲れましたよ・・・」

 

まあ、それもそうか・・・武内さんも珍しく汗かいてるし、このあとロードワークもあるしな・・・別にスパー自体は合宿期間までにやれば良いだけだし・・・なんせ二週間の合宿だからな。

 

「それもそうだな・・・じゃあ昼飯時まで自由行動とするか飯食って休んだ後に早速練習開始だ。それまで各自荷物を部屋に置くように。解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと、部屋割は事前に紙に書いて渡してるし、俺も部屋に荷物を置いて食事の用意をするか・・・。

 

俺は自分の部屋に卯月と入り、荷物を置く。・・・ん?

 

「お部屋も広いですね、お兄ちゃん!」

 

「・・・卯月さん・・・君は何をしてやがりますのかな?」

 

「何って、自分の部屋に荷物を置いてるだけですよ?」

 

何を純粋な顔をしながら言っているんだこの天然天使は・・・。

 

「あのなぁ・・・卯月の部屋割はちゃんと紙に名前が書いてるだろ・・・」

 

「えっ、でも島村の名前は一個しか書いて無かったような・・・」

 

んなことあるわけねえだろ。ちゃんと今回の合宿名簿を見てパソコンに打ち込んだんだか・・・ら・・・いや、待てよ・・・。

俺は今回の合宿に参加するメンバーのリストを一度紙に書きそれをパソコンに打ち込んだ。昔も合宿になると俺が部屋割を決めていた・・・。俺はリストを紙に書いたものをファイルから引っ張り出ししっかり見るとそこには『島村兄妹』と書かれている所に横線が引いていた。つまり俺は、いつもの感じで卯月の名前を入れ忘れ、島村という字を一つだけ入れてしまってそのまま横線を引いてしまったということになる。

 

「(し、しまったぁぁぁ・・・!!!)」

 

卯月は不思議そうな顔をしてこちらを見ている。一方俺は顔から汗が吹きださんばかりに焦っていた。

ここで本当のことを言うべきか?だがこれは端から聞けば卯月の存在を忘れていたという事になる!俺の名前を入れ忘れたなどと言えばそれは他のメンバーは女子同士の部屋割にしているからいいが、卯月だけ一人部屋に追いやったという誤解を受けてしまう!そんな事を聞けば卯月は相当ショックを受けてしまうだろう!!どちらにしろ地獄だ!だがここで同じ部屋にしてしまえばCPメンバーに変態扱いされてもおかしくないのは必然!!どうすれば良いんだ・・・神様!私はどうすれば良いのですか教えてください!300円あげるから!!!

 

「お兄ちゃん、私は結局どうすればいいのでしょう...?」

 

そんな上目使いで俺を見ないでくれぇぇぇ!!

 

結局卯月は俺の部屋で決まった。まあよくよく考えたら俺達は兄妹なわけで、確かにぃ、卯月は最近見ない間に色々成長(どこがとは言わんが)もしたが、俺が独立して家を出るまでは卯月はよく俺と一緒に寝てたわけで、決してやましい事があるわけじゃないし、何ら問題はない。問題ない...多分...きっと...メイビー...。

 

今数週間前の俺がここにいるのなら、俺はそいつにガゼルパンチを放っているだろう。俺は誰に対してかわからない確信を胸に食堂に立ち、ヤケクソ混じりに料理をした。




2ヶ月も遅れてすいませんでした!


では次回もお楽しみにでは...ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.12

失敗したなら再挑戦すればいい。諦めた時、それは敗北だ。


ついに始まった合宿特訓。今回の合宿は一樹と京介による次回試合の為の練習。そしてCPメンバー達は次のライブの合同楽曲のダンス練習。更に一樹と京介、CPメンバーの交流会も含まれこの合宿を計画していた。だが一樹の1番の目的は復活試合の為力をつけること、それを第一にしている。昼食を済ませて一樹と京介は動きやすい服装で外で準備運動をしていた。

 

「シッ!」

 

「シシッ!」

 

2人は軽いシャドウをしながら体を温めている。

 

「まずはロードワークだ。その後は...ってお前は本格的合宿は初めてだったか?」

 

「は、はい...」

 

今回の合宿は一樹の復活戦がメインだが、それ以前に京介は次回の試合がもう決まっていた。そしてそれが終われば次は新人王戦が始まる。一樹はその間に試合をこなしなんとか順位を上げていきいち早く日本チャンピオンの座に戻るのが第一目標としている。

 

「練習メニューは紙に書いて渡してやるから後でチェックしてくれ。とりあえず今日は俺と一緒の練習メニューをする」

 

「えっ、いきなり一樹さんと同じメニューを…?」

 

と京介はいかにも嫌な顔をした。

 

「なんだ、なんでそんな嫌そうな顔をするんだ」

 

「いやだって、一樹さんの練習メニューってはっきり言ってオーバーワーク過ぎですし…そう今からやると思うとさっき食べた物が込み上げてきて…」

 

そんなことを話していると一樹は暗い表情をしながらゆっくりと京介の肩を持つ。

 

「京介…俺たちは皆生命を頂いて生きている…」

 

「…は?」

 

突然の話に混乱している京介だがそんなのお構いなしに一樹は淡々と話を続けていく。

 

「俺たちは食事をするな。食事とは生命を頂くということだ。米も、野菜も、肉も、みんなたどれば世界中の生き物を頂いているということだ。それを吐き出すなど、生命に対しての冒涜!吐くなよ…」

 

シリアスな顔をしながら説教じみた話。しかも内容は壮大に見えて実は今の京介にとっては結構どうでもいい話。それを聞き、京介の苛立ちは加速していった。

 

「もう!普段はボクシングのことしか頭にないボクシング馬鹿だったのになんで最近はくだらないことをそんな淡々と話せるようになったんですか!?」

 

「くだらんとはなんだ!?お前は全ての世界の恵みをありがたいと思わんのか!?」

 

「今するような話じゃないじゃないですか!!昔はこんなんじゃなかったのに最近どうしたんですか!?」

 

京介のその言葉を聞き、一樹は日差しが激しい太陽を見上げながら口を開いた。

 

「世間は広い…俺も、世間のことをもっと知ろうと思ってな…」

 

「明後日の方向を向きながら明後日の方向で世間を知ろうとしないでください!」

 

そんな話は、ロードワーク開始時間を30分ほど遅らせて延々と続いた。

 

 

 

 

 

 

 

話を何とか…というより強制的に終了させた京介は一樹とともにロードワークをする。目的地は特に決めていないが、海開きするにはまだ早いためか人は全くいない。そんな中で一樹たちは走りにくい浜辺を黙々と走る。

だが、京介は足を砂によりバランスを崩したのか、態勢が崩れる。

 

「わっ!」

 

「大丈夫か?砂場はコンクリートや土手とか違って凸凹してるし砂で力を吸収しやすいから走りにくいんだ。油断していると捻挫するぞ」

 

「は、はい!気をつけます」

 

「よーしその意気だ。あとこの周回を10セット!」

 

「はいっ!」

 

今回のメニューを考えたのは一樹だ。だが一樹の練習量は世界を目指した際の練習量。プロ入り新人の京介からしてみればオーバーワークなのは間違いないだろうが、それでも京介は付いていくことにした。その理由は次の試合の後のことだ。

 

『東日本新人王戦』

 

東日本に集まるプロ入りの新人王を決めるトーナメントだ。それに勝ち進めば東日本新人王に、さらにその次には西日本と東日本の新人王同士の全日本新人王決定戦が始まる。それに勝ち進めばA級トーナメントが待っている。そこまでいけば一樹に大幅に追いつけるのだ。

だがそれまでには何人もの猛者がいるのは間違いないだろう。しかも京介の初試合はKO勝ちとは言え、満身創痍だったことには変わりはない。悪く言えば瀕死の状態で勝ったのだ。だから京介はほかの誰よりも強くなりたがっていた。その一番の近道は自分の身近にいる。元日本フェザー級チャンピオンにして世界フェザー級1位の実績をもった島村一樹の下で練習すれば強くなれる。

 

あれだけ文句を言っていたにも関わらず、京介は見事に一樹の後を追う。一樹も時折後ろを見て様子をうかがっているが足を止めることはない。

 

「(流石元日本チャンピオンだ!この人の体力の底が見えない!!)」

 

浜辺で8セットほど走っても一樹との空いている距離が一行に縮まない。それどころか京介は息が乱れているにも関わらず、一樹は肩で息をする程度だった。

 

ここで京介はわかった。一樹は本気で走っていないことを。

 

 

 

 

 

 

10セットものロードワークを終えた一樹達は汗を拭き卯月たちが練習している場所に戻る。

 

「いい汗が流せたな」

 

「えぇ...そうですね」

 

正直京介はショックを受けていた。今日は一樹と同じ練習を行った。一樹と同じ練習量、一時期世界に手を掛けた男の練習を、だが京介はそれについて行けなかった。そして、一樹を自分レベルに合わせてしまった。一樹なら息を荒げず肩で息をする程度。つまり一樹は本来の練習をすることが出来なかったということだ。京介は腹立たしかった。自分の無能っぷりを、腹を立て、そしてもどかしかった。表情が自然と暗くなってしまう。

 

「お兄ちゃん、お帰りなさい!」

 

「おう、ただいま卯月」

 

練習していた卯月が一樹の元に駆け寄る。そんな卯月の頭を撫でる一樹。

 

「お兄さん、おかえり」

 

「おかえんなさーい!」

 

卯月に続きニュージェネの二人も一樹の元に駆け寄る。

 

「お兄さん、トレーニングどうだった?」

 

「何だよ唐突に、そうだな、かなり昔に戻ってきたかもしれねえ。だがまだまだだ、京介に追い越されそうになるし・・・焦ったよ」

 

「(ウソだ・・・)」

 

そう京介は思った。

 

「ロードワークを欠かさなかったとは言え、数年間リングに居なかったんだ。衰えるのは当たり前のことだ」

 

「(やめてください・・・)」

 

「いつか、京介が俺を超えるのも近いだろう」

 

「やめてください!」

 

練習場は沈黙になった。その場に居た全員が京介に注目していた。その場に居る全員が京介の気持ちに理解が出来なかった。それは一樹もだった。何が不満なのか、一樹は疲れた頭をフルスロットルで働かせる。

 

「一樹さん・・・今日本気じゃなかったですよね?」

 

「本気?何のことだ・・・?」

 

「今日の練習ですよ!少なくとも俺は全力で練習してました。だけどあなたはそうじゃなかった!世界を狙っていた男がこれで肩で息をする程度で済むはずが無い!一樹さんはいつもオーバーワーク気味の練習量をしていました!・・・・・・正直に言ってください、俺は足を引っ張ったんでしょう」

 

「ッ・・・そういうことか・・・」

 

一樹はハァと小さくため息を付く。

 

「そんな事かよぉ・・・何か悪いこと言ったと思って焦ったぜ・・・確かに俺は今日全力を出していない。いつもの3分の2程だ」

 

「じゃあやっぱり…」

 

「だがこんな初日に、しかも戻りかけの選手とプロ入り新人がこんな長期間合宿でオーバーワークを毎日続けるのか?そんなんで次の試合を万全のコンディションでいけるのか?いけねえだろ。練習量だってそうだ。俺とお前はボクシングスタイルも体力面もキャリアも全てに置いて違いがある。だが、それでもお前には俺には無い才能を持っている・・・お前は自分が無能であるだとか、足を引っ張ったとか思ってんだろうがそれは無い。それを、今証明してやるよ」

 

一樹はリングの近くに置いているグローブとヘットギアをを京介に投げる。

 

「えっ」

 

同じく近くにあったもう一組のヘットギアとグローブを手に取る。

 

「リングに上がれ、京介・・・お前の全力を引き出してやろう・・・」

 

一樹の瞳には炎のような熱い情熱が伝わってきた。ピリピリとした空気がその場にいる全員に伝わってきた。

 

「京介のセコンドは・・・武内さん、お願いします」

 

「えっ、私がですか?」

 

「俺はいりませんが、俺をデビュー当時から見てきているなら、ある程度俺の試合のやり方とか、打ち方わかるでしょ?そして武内さんはこのプロジェクトを集め、選別し、そしてここまで押し上げた統率力と洞察能力がある。俺の次の行動などを逐一京介に教えて上げられるでしょ?」

 

「で、ですがセコンドなんて初めてで何をすれば良いのか・・・」

 

「あなたなら出来ますよ。あ、あとギャラリーたちも俺では無く京介の応援に回ってくれ。俺では無く、京介を見て上げてくれ。そしてそれを目撃してくれ。俺以上の爆発力が京介にあるということを」

 

一樹はロープを掴みリングの中に身を入れる。

 

「来い京介。あの時の続きだ・・・第2ラウンド開始だ」

 

京介は拳を握りしめる。

自分は無力じゃない。一樹はそう言った。世界に手を伸ばした男も言葉、それを信じないのか?いや、自分には力がある。一樹に挑めばそれを証明できる。

 

「やります。全力で」

 

京介はヘットギアを付け、リングに上がった。

憧れた男に再挑戦(リベンジ)する為に。




友人「おいおい、何時になれば水着シーン出てくるんだ...読者は若いJK達が水着姿でキャッキャウフフするのが見たいというのに...」

自分「お前犯罪者みたいな顔になってるぞ。しかもJKばかりじゃねえんだが...」

友人「んなもんどうでもいいんだよ!いいから水着シーン出せぇぇぇ!!」

友達の目が血走ってて物凄く怖かった。そして、折角の夏イベントでまだ水着姿が出ていない...穴があるならくぐり抜けたい!

友人「どこに行くんだよ…」

次回をお楽しみに、それでは…ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round13

今回は仕事場で色々していたら書く時間が無く、遅くなりました。誠に申し訳ございません。そしてこの回も水着回では無いです。誠にスンマソン!

友人「惨たらしく絶命しろ!」


一樹と京介のスパーが再び始まろうとしていた。京介の爆発力を引き出す為に一樹はそのためにスパーで証明すると言い出した。

一樹はリングの上で身体の状態を確認する為にシャドウをする。一方京介は武内をセコンドに準備を進める。

 

「木崎さん、島村さんは古典的なハードパンチャーです。そして弱点があります。それは間合いです」

 

ハードパンチャーの弱点。それは距離だ。いくら力が強く、そして強烈な一撃を持っていても距離が縮まなければパンチは当たらないし、力も引き出せない。ジャストミートな間合いを取れてはじめてハードパンチャーのパンチは成立する。

 

「打ち終わりには必ず身体ごと移動してください。足を活かすんです。」

 

「わかりました...正直、それだけで適うとは思わないですが、やってみます」

 

勝てるわけない。それは誰が見ても明らかだ。だがここで全てを終わらせてしまえばこの先勝てるわけない。京介は敢えて挑戦した。それが自分の成長に繋がるなら尚更だ。

 

「ほれほれ、そろそろ作戦会議は終わったか?こっちはいつでもいいぜ」

 

一樹は準備万端という感じでシャドーを軽く見せるがその軽いジャブは一発が重いと思わせるようにブォン!ブォン!と音を立てる。1発でも受ければ意識が遠のくであろう。それを見せられ恐怖が体の底から湧き上がる。やがてそれはコップにつがれた水のように徐々に溢れ出す。

 

「やっぱ叶う気がしねえ〜…!!」

 

「落ち着いてください木崎さん!」

 

情けなく涙をダラダラ流しながら前に腹部に受けた拳を思い出す。あの時の京介はあの一撃でマットに伏した。何とか立ち上がったものの、朦朧とした意識の中で破れかぶれの一撃を一樹に放っただけだ。しかもその攻撃も防がれている。

 

やがて京介の足はガクガクと震え始めた。

 

「…何か後輩君ネジ巻人形みたいに足が震え出したよ?」

 

そんな中で一樹はお構い無しと言った感じにジャブを放つ。満面の笑みで。

 

「あっはは〜!」

 

そう、悪意はないのだろう。誰もがそう思う程の笑顔にも関わらず、力が元に戻りつつある実感に喜んでいるのか、それとも久々の試合に心踊らせているのか、次第に一樹以外の人間の顔から笑顔が苦笑いに変わる。

 

「どっちでも碌でもないにゃ…」

 

「そだねー」

 

苦笑いしているみくに興味が無さそうに隣で携帯ゲーム機をいじりながら答える杏。

 

「でもあれだよ、後輩君も勝てる見込みはあるじゃん?」

 

「「「えっ?」」」

 

「ほら、カウンターだよ」

 

皆は思い出す。初試合のあの時京介が放ったカウンターを放った事を。相手選手に向かって放ち、相手選手を吹っ飛ばしたあの威力のある一撃を。誰もがそれを確認し、驚いた事を思い出す。

 

「あのパンチがあれば、流石のお兄さんも驚くんじゃないかな?」

 

「そっか!確かにそうだよ!確かに勝機は無くても、あの一撃があればお兄さんの顔色が変わるはずだよ!」

 

杏の言葉にCPメンバーの全員が同意する。

それと同時にカァァン!!とゴングが鳴る。

 

一樹はお得意のピーカブースタイルでジリジリと京介との距離を縮めていく。だが一方の京介は足がまだガクガクと震えていた。正しく、トラウマが蘇ってしまったのだ。

 

「後輩くん!動いて!」

 

「木崎さん!足を動かして!!」

 

武内の言葉によりはっと我に返る京介。そこを狙ったように一樹はダッシュにより距離を縮まった。グローブ越しの大きな拳が京介の目の前に現れる。

 

「ッ!!」

 

「後輩くん!!」

 

「ダメ、当たっちゃう!!」

 

ブゥン!!

 

「ッ!?」

 

顔を捉えた拳が後ろに振り切っていた。

 

「えっ?」

 

その場にいた全員が驚いた。何故ならば

 

 

京介は一樹の拳を紙一重で避けていた。

 

 

咄嗟の事で頭を横に傾けて避けたのかそれは京介自身も分からないがチャンスなのは変わりなかった。

 

一樹の動きが止まった今なら。

そう思った瞬間、京介の足に力が入った。地面についている足から思いっきり力を入れ、ショートアッパーの形をとり一樹の顎に目掛けて拳を飛ばした。

 

ドゴォォン!!

 

鈍器かなにかで殴ったような音と共にマウスピースが宙に浮いた。いや、浮いたのはマウスピースだけじゃない(・・・・・・・・・・・・)。一樹の身体が小さくだが浮いていた。

 

「ぐ……ほ……」

 

バタンとマットに一樹の身体が叩きつけられる。大の字に倒れた一樹を全員が見る。

 

セコンドの武内も口を開けて汗を流す。

 

倒した。一樹を京介が倒した。誰から見てもそう見えたいや、事実だ。京介が一樹からダウンを取った。しかもオープニングヒットで。

 

何が起こったのか、殴ってから頭の中が真っ白になる京介。

 

少し時間が経つと一樹はムクっと上半身だけ起こし頭を振る。

 

「レフェリー兼セコンド、カウントは?」

 

「えっ、あ」

 

武内は状況を理解出来ないままカウントを取ろうと腕をあげるがその前に一樹の手によりその動きは静止された。

 

「いやいや、カウントはやっぱいいわ。とりあえず今のはどう考えても10秒以上経ってた。1戦目は俺の負けでいい。それにしてもいきなりガゼルパンチとは驚いた…」

 

立ち上がろうしている一樹だが、その足はガクガクに震えていた。そしてそのままバランスを崩すようにロープにもたれ掛かった。

 

「ちっ」

 

舌打ちをしてロープを掴み何とか身体を支える。

 

「京介、何か分かったことがあるか?」

 

「は、はい…あの時、俺は一樹さんのパンチをかわしたとき、何か手を打とうと考えてました。でもカウンターをするにもあれじゃあ威力も出せないから、咄嗟にガゼルパンチを…」

 

「そういう事だ。咄嗟の事に人間は動けないものだ。いい例が戦争だ。兵士は生死のやり取りをしている兵士は一瞬でも気を緩ませれば相手に撃ち殺される戦場の中互いの隙を狙い続ける。今回も同じことだ。俺はあそこでお前が避けるとは思ってもいなかった。俺に隙が生まれそこを突きお前は瞬時にガゼルパンチで俺を倒した。それはお前が瞬時に理解をする状況判断、さらにあの場面で何が効果的な攻撃になるか理解する洞察力がある。俺のようにパワーだけで相手をねじ伏せる戦い方じゃない。俺が剛の拳なら、お前は柔の拳というとこか…これは別にお前だけに言える事じゃない。アイドルもそうだ。ダンスを練習通りするのは確かに必要だ。だがアイドルは公の場に出るもの、ライブ舞台に立てばそこで客に対し何をすれば楽しく、客を喜ばせることが出来るかが問われる。別にウィンクなり投げキッスなりすればそれでも客は喜ぶものさ、大事なのは、何処でどうするか、アドリブ力が試される。頭の中に色んなシチュエーションを組み込み、それを頭の引き出しに入れておけばいいんだ。いいか、これは全員に言うことだ。努力は必ず報われる裏切られることは決してない」

 

そこまで話すと一樹は足の具合を確認する。小さくジャンプをし、身体を動かす。ダメージは抜けてないが足は治ったようだ。地面に落ちてるマウスピースを手に取り再びそれを口に含む。

 

「それを踏まえ、俺はこれから一切の気の緩みを無くす。試合だと思って思いっきり来い…」

 

既に構えに入ると、一樹は頭を振り出す。その目には一切の迷いもない真っ直ぐとした闘志の炎が宿っていた。

 

「は、はい!」

 

京介は拳を固め決意を新たに固める。だが決して慢心しない。何故ならば目の前にいるのは憧れの先輩でも、ましてや元日本チャンピオンでもない。一人のボクサーなのだから。

 

「ぷ、プロデューサー!」

 

「は、はい」

 

「ゴングですよプロデューサー!」

 

「あ、はい!」

 

カァァン!!

 

ゴングと同時に動いたのは、一樹だった。リングから一時的に降りていた人間とは思えないダッシュ力で京介との距離を縮めにくる。

 

「は、早い!」

 

「お兄さん本気でやる気だよ!」

 

だが京介も動き出す。距離を縮めに来る一樹に対し、京介の取った行動は、横に身体を移動させて距離を取る。

 

「ッ!」

 

横から飛んでくる拳を一樹は丁寧にブロックする。グローブ同士がぶつかり合い、パンパン!と小気味いい音を立てる。距離を取ろうと詰め寄るが一樹より京介の行動が早い。打ち終わりに必ず身体を移動させ一樹に距離を取らせないようにする。

 

「後輩くんすごい!お兄さんが手出し出来ないなんて!」

 

「いけー!そこだー!」

 

「行ける行ける!」

 

応援が大きくなっていく中で、京介のリズムになっていき京介の手数も増えていく。

 

「フッ!!」

 

一瞬の隙を突き一樹のフックが襲いかかる。紙一重でそのフックを避けるが、その一撃は風圧でよろめきそうなくらい強力な一撃だった。

 

「す、すごい!風が切れるような音がしたよ!?」

 

誰もが驚く一樹のパワー、それは京介も同じだった。身体に受けたことがあるからこそ、一樹の一撃は凶器のように感じる。

 

「くっ!」

 

踏ん張って反撃に移ろうとした時、京介の背中に何か当たる感触がする。

 

「えっ?」

 

「木崎さん!ロープを背負ってはいけない!!」

 

武内が叫んでももう遅かった。ロープを背負ったことにより京介の逃げ道は無くなった。そこを突き、一樹が一気に京介との距離を縮めた。目の前には闘志に燃える見覚えのある男の顔があった。

 

 

バジィンバジィン!!

 

一樹の剛拳が京介が放った拳とは大きく違う力の入った音がグローブに発せられる。しかもグローブ越しにも関わらず腕が痺れるくらい痛みが走る。明らかに力差が誰にでもわかるような音が聞こえる。

 

「ふっ!!!!」

 

ガシィィィン!!

 

一樹の左がガード越しの京介の拳が跳ね上がり、カードを崩された。まずいと思った所でもう遅い。既に振り子のように揺れている一樹のリズムは止まることはない。容赦の無い本気の右拳が京介に襲いかかった。

 

その時、京介の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたころ、京介の目の前にはヘットギアを取った一樹の姿があった。手には空のバケツが握られている。

 

「惜しかったな。筋はいいがまだまだだ」

 

その状態だけ見て分かった。また負けたのだと。

 

「…また負けましたか」

 

ムクっと起き上がり一樹に問う。一樹は当たり前のように「ああ」と言葉を返した。

 

「うち終わりに足を使い必ず身体ごと移動、更に相手の死角に回り込もうとする所まではいい。だがお前は俺がゆっくりとお前の行く場所を予測して身体を動かして誘導させていることに気づいていなかった。まあ、これはキャリアの差って所かな」

 

手に持っているバケツを地面に置くとリングから降りて口を開く。

 

「だがお前のパンチも効いたぞ」

 

一樹は腕をあげて京介に打たれた箇所を見せる。腕はボロボロになっていた。

 

「一樹さん、それ…」

 

「ったく、痛くて包丁を持つのも一苦労だっつうの。お前、夕飯作るの手伝えよ。拒否権はねえからな」

 

時計で時刻を確認すると既に5時を回っていた。既にその間にいたアイドル達も居ない。

 

「まあ、お前の成長が見れてそんなに悪い気がしねえ。精進しろよ京介」

 

「は、はい!(自分が恥ずかしいな。こんな形じゃないと自分に対して自信が付かないなんて。一樹さんは全てに置いて俺とは違うんだな。ボクシングも、人間性も…だからこそ目標に出来る。いつか俺も、一樹さんと同じ目線でボクシングに挑みたい。そしていつか、一樹さんに再戦したい!)」

 

人間は努力無しでは成長はない。この日京介は新たな目標を胸に秘め、この合宿に挑む覚悟を固めた。

そして同様に一樹はそれに見合うボクサーとして再び世界を目指すことを覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

夕食を済ませ、自由時間を満喫しているアイドル達とボクサー2人とプロデューサーは麻雀を打っていた。

 

「ロン。リーチ一発平和タンヤオドラ1満貫」

 

「なん…だと…?」

 

対面にいる京介が一樹が牌を捨てた瞬間、それで上がる。一樹の点棒は先程の京介の満貫でスッカラカン状態だ。

 

「お兄さん、麻雀弱いの?」

 

「あはは、お兄ちゃんは賭け事全般がダメで…」

 

「それでもダメすぎない?」

 

「全く上がってなかったにゃ」

 

麻雀卓に項垂れる一樹の姿を見て、CPメンバーは「珍しい物が見れたなー」と思いながら苦笑いをしていた。

項垂れている一樹の腕が上がり、人差し指を立たせ口を開く。

 

「も、もう一度…!」

 

夜はまだ長くなりそうだった。




お、俺は…何回固有結界を受ければいいんだ…!?あと、何回受けることになるんだ!?お、俺に、俺に、


俺に刃物を近づけるなあぁぁぁぁーーーッ!!!!!



ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round14

〜合宿3日目〜

 

『さあここまで防戦一方の挑戦者!チャンピオンは息を乱れたような素振りも見せない!』

 

フェザー級第3回防衛戦。対戦相手は島明久。試合成績は12戦中11回勝利を収めており、時期チャンピオン候補として数えられている。だが、相手が悪すぎた。相手のチャンピオンは現在無敗の王者「橘咲耶」だ。

 

咲耶は相手の様子を伺いながらステップをふむ。その軽々としたフットワークに相手は肩で息をしながら両腕を固めている。そこで咲耶は動き出した。右腕と右足を後ろに引き、左手と左足を前に出す。そう、まるで距離を測っているみたいに。そこに腰を下に低くし、まるでスコープで相手に照準を合わせるような形を取る。

 

「(終わったか…)」

 

技が出ていないにも関わらず一樹はコーヒーを手にして啜りながらそう思う。

 

つぎの瞬間、一樹は何も思わなかっただろうが、シンデレラプロジェクトメンバーと京介と武内は唖然とする。

 

バシュン!

 

それは錯覚なのか、咲耶と明久の距離は一瞬で縮んだ。そしてそこから咲耶の右が放たれる。咲耶の腕は一直線に明久の両腕のガードをすり抜け顔面を捉え

 

ゴシャッ!!!

 

テレビ越しに聞こえるその嫌な音を耳に入れると同時に明久の鮮血が上がる。明久の身体はバタりと倒れる。

レフェリーが明久の様子を見に行くが、それはもう無駄な事だった。レフェリーは直ぐに両手を上げて試合終了の合図を送る。

 

『試合終了ーーーーッ!圧倒的な強さを見せつけたチャンピオン!彼を超えるものは訪れるのかーーーッ!!橘咲耶、3度目の防衛成功ーーーッ!!!』

 

そこまで流れると未央が口を開く。

 

「な、何…今の…」

 

「は、速くて何も見えなかった…」

 

「見えたか、京介…」

 

「…ええ、常人では見えないスピードでしたが、ハッキリ見えましたよ…なんというスピードだ…拳を構えた後に驚異的スピードで間合いを詰めて相手のガードの隙間に拳を叩きつける…さながら、スナイパーという所ですか…」

 

「いや…あの異様な構え…肘を曲げて身体の後方にめいいっぱい引き顔面を捉えたあの姿まるで刀を構えた侍の姿…新撰組…斎藤一…牙突…」

 

「牙突…新撰組三番隊隊長…斉藤一の技でしたよね…」

 

「ああ、あの構え方、あの打ち方と言い、まさしく侍の姿に見えた…」

 

「でもお兄さんなら秘策があるよね!?」

 

「いや…打開策はない…」

 

一樹は静かにテレビの画面をじっと見つめる。その目は研究家の目。闘志の炎を燃やしている戦士の目だった。

 

「今はな…」

 

 

 

 

 

一樹は温泉に入るために脱衣場で服を脱ぐ。

鍛えられた身体を空気に晒し、腰にタオルを巻き付けて入浴場に出る。ここは一応混浴温泉。アイドル達を先に入らせ、男達はその後に入浴するようになっているが、流石に夜中の23:00にもなれば誰もいない。一樹一人貸切状態の風呂に入るためにお湯をタライですくい上げ、頭からお湯をかけて風呂に入る。

 

「ふぅ…」

 

温かいお湯の効果なのか身体から溜まった疲れが抜けていくように力が緩む。肩までちゃんと湯に浸かり、一樹は天井を見ながら黄昏れる。

 

「…」

 

不安はない…と言えば嘘になる。プロの世界に戻ることにして初めての試合。ブランクもあるし全盛期からパワーも落ちている。不安になるなというのが無理な話でもあるのだ。

 

「…のぼせそうだ…」

 

風呂場から身を出し、風呂場から出るために出口に向かい、扉に手を伸ばしたその時、

 

ガラガラ…

 

「…」

 

「…」

 

扉の前に見知った少女が立っていた。

黒い長い髪、凛とした顔立ち。身体はバスタオルで巻いているが、そこからでも艶めかしく、見た者を魅了しそうな程白い肌…

 

という考えをした所で一樹の視界はブラックアウトした。

 

 

 

 

白色の何も無い場所。そこにはぽつんと立っている男の子が1人いた。

男の子は何も言わずに、地面を静かに見つめていた。少年はランドセルを背負っているがその表情は悲しそうに空を見つめていた。

 

『おい捨てられた子!』

 

周りを見ると、少年と同い年ぐらいのランドセルを持った少年が数人やって来た。すると前に出ているガタイのいい少年がこちらに指を指す。

 

『お前親に捨てられたんだろ!貧乏だから捨てられたに決まってるんだ!貧乏人!』

 

ああ…覚えているさ…これは俺だ。

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「痛えんだが…」

 

「大声出さなかっただけありがたく思って欲しいんだけど…」

 

何故か風呂場に戻された一樹は凛と共に湯船に浸かっていた。

 

「で、なんでまた入ってるの?」

 

「お前が殴ってから放置してたから湯冷めしたんだよォ!」

 

一樹は「たく…」と湯船に肩まで浸かりながらため息をつく。

 

「ちっ…」

 

小さな舌打ちが響く。一樹は苛立ちを隠そうとせず、ただ静かに湯船に浸かる。

 

「…なんだか機嫌が悪いね。そんなに麻雀に負けて悔しいの?」

 

「そんなんじゃねえよ…夢見が悪かっただけだ…」

 

前髪についた水滴が落ち、ポチャンという水の音が小さく響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「あー…のぼせちまった…」

 

すっかり長湯をしてしまった一樹は自販機でコーヒーを買い缶コーヒー片手に廊下を少しふらつくように歩く。そんな中で廊下の曲がり角で誰かの声が聞こえてくる。

 

「やっぱり…このままじゃいけないのかな?」

 

いつもは猫耳を付けた女の子が下を見つめて何かを考えている。一樹はみくに声をかける。

 

「よう、みくちゃん」

 

「うぇっ!?う、卯月ちゃんのお兄さん!?ど、どうしかしたにゃ!?」

 

「いや、こちらの台詞なんだが…」

 

一樹の声かけにみくはびくっと驚きながら訪ねるが、一樹は至極当然のように質問を返す。

それにみくはバツが悪そうな顔をしている。

 

「なにか悩み事か?」

 

「…じ、実は」

 

みくは自分の手に握りしめている携帯を一樹に見せる。

そこにはSNSの画面がスクリーンに映っていた。内容は前川みく猫耳古い説と書かれたものだった。一樹はそれを見て眉を動かす。

 

みくのアイドルとしてのキャラは猫耳キャラである。彼女は猫が大好きであるがためいつも猫耳を付けている。だが猫耳キャラのアイドルなんて昔から居たのでは?という疑問がネット上で上がったらしい。

 

「(確かにアイドルってなんだか猫耳を付けてるイメージが強い気がする…いや、それはアキバのメイドカフェとかいう奴か?)」

 

アイドルのことをあまり詳しくないど素人の一樹からしたらそれくらいのイメージしか出てこないということになるのだが、彼の中ではアイドルは猫耳を付けているイメージが強いらしい。

思わず頭を縦に振って頷いてしまうところであった。

 

「お、お兄さんはどう思うにゃ?」

 

「えっ?」

 

「猫耳って…古い…にゃ?」

 

上目遣いで泣きそうな声を出すみく。それに対し一樹はその涙ぐんだ上目遣いに少しドキッとしながらも指で顔の頬をかきながら言う。

 

「…古いかどうかはさておき、だからって今のキャラをやめるか?」

 

「…やめたく…ないにゃ…」

 

必死に出た言葉なのだろう。みくの口から発せられた小さな声を聴き、一樹は頷く。

 

「ならそれでいいんだ」

 

「えっ?」

 

「古い古くないの前に、それは個人の個性だろ?個性を生かせてるんだから古いもなにも無いだろ?人って言うのは、個性が出てるからこそ輝けるんだぜ?例えば凛はその名の通り凛としたクールなアイドル象だし、未央は元気ハツラツでみんなに元気を与えてくれるアイドルだ。卯月はその笑顔でみんなを幸せな気持ちにしてくれている。だからその個性が好きだからこそファンが出来るんだ。みくちゃんはファンの期待を裏切るのかい?猫のように可愛いアイドルを自ら壊したいのかい?」

 

一樹の真剣な眼差しにみくは顔を赤くしながら下を向いて口を開く。

 

「そ、そんなことないにゃ!みくは猫ちゃん達が大好きにゃ…!今の自分を壊してまで人気を得たいなんて思わないにゃ!」

 

その言葉を聞き

一樹はみくの頭に手を置いた。そして髪を傷つけないほど優しく頭を撫でた。

 

「それでいい。周りの声なんて気にせずに真っ直ぐ自分を貫けば良い。そっちのみくちゃんの方が、俺は好きだぜ」

 

「すっ…!?」

 

顔を真っ赤にさせるみく。一樹はみくの頭を撫でていた手を離す。

 

「まあ、個性なんて人それぞれってことだ。俺は応援してるぜ…子猫ちゃん…」

 

「こねっ!?」

 

「って、キザっぽかったかな?がははははは!!」

 

豪快な笑い声を発しながら一樹はみくに背中を見せて廊下を歩く。その姿をみくは未だ火照って赤くなっている顔のまま見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「お兄ちゃん!みくちゃんに聞きました!みくちゃんの頭を撫でて上げたって!」

 

「情報出回るの早いなオイ!!」

 

「もう、女の子の頭を気軽に触っちゃ、め!なんですよ!!」

 

「しかも卯月が怒るのかよ!!」

 

「そんなに撫でたいなら私の頭を撫でてください!!」

 

「(そっちが本音っぽいな…)」

 

このあと、メチャクチャ撫でてあげた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.15

急いで書いてグダグダになりましたが許してください☆

主な原因
YouTubeゲーム実況
仕事
新作ゲーム
FGO新イベント


~合宿7日目~

 

既に合宿が始まり一週間たった。その中で一樹は着々と力を取り戻していた。

合宿初日で打ち込んだパンチとは比べものにならない破壊力のパンチがサンドバックを襲っていたのだ。異様な音を放ちながらグラグラと揺れてサンドバックをつないだ鎖はジャラジャラと大きな音を立て続ける。

 

しかも今一樹が放っているパンチは『ジャブ』である。

 

「シッ!シシッ!」

 

ジャブ一発で大きく揺れるサンドバック、それは一樹のパンチの破壊力を物語っている。

 

「…あんなの受けたら…」

 

「一発で気持ちよ~くさせてもらえるな。変な意味じゃなくて」

 

京介の言葉に全員が青ざめていると、一樹は時計に目をやり拳を打つのを止める。

ジャラジャラと音を立てるサンドバッグを素手で止めて一樹はグローブを取りタオルを手にして汗を拭う。

 

「よし、飯を作るとしよう。それとみんな下の浜辺に集合しておいてくれ。京介は俺と一緒に荷物を運ぶぞ」

 

「は、はぁ…?荷物…?」

 

「なんだお前忘れたか?今日は丁度一週間目だ。疲れも溜まって来てる頃合いだ。ここはひとつリフレッシュと行こうじゃねえの」

 

「リフレッシュ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外は夏の始まりを伝えるようにセミが鳴きだし、ムシムシとした暑さが身体を包みこみ、汗がすぐに額から浮き上がる。

そんな中でアイドルたちとボクサーは外で大きな鉄板を囲む。その鉄板の上には大量の肉と野菜を乗せ細い体で引き締まった筋肉をむき出しにしたアイドルの兄が調理をしている。

 

焼き具合を確認すると一樹はみんなに声をかける。

 

「さあできたぞ!今日一日ぐらい日頃の練習の疲れを癒してくれ!」

 

「「「いただきま~す!!」」」

 

水着姿のアイドルたちは各々に鉄板の上に置かれている料理を箸で取り口に運んでいく。

一樹も肉を焼きながらおにぎりを手に取り口に入れる。

 

本日で合宿は半分を超えた。日頃からキツイ鍛錬、練習を積んでいき着実に全員力、技術を上げていっている。

しかし全員の練習は朝から夕方にかけて行っている。単純に考えればいつもの練習よりオーバーワークになっているのは確実であり、疲れもたまってきている。それは少し考えればわかることでもある。一樹が考えたのは練習期間半分を超えたところからのリフレッシュ企画。

夏という練習でも一番ストレスのたまりやすい季節。そして今現在彼らがいるのは海が見える練習場。この条件がそろって一番効率のいいストレス発散方法は海で遊ぶことだ。

 

グレーのサーフパンツを着て引き締まった筋肉を露出して長髪を後ろにまとめてゴムで結んでいる一樹はジュージューと音を立てる肉をトングでひっくり返していく。

 

「お兄ちゃん!はい、あーんしてください!」

 

そこにやってきたのは一樹の義理の最愛の妹。学校指定のスクール水着に身を包んだ卯月が肉を一切れ箸で取り一樹に差し出す。

それをなんの躊躇もなく一樹はその肉を口に含むともぐもぐとよく噛んでのどに通し「ん、サンキュ」と感謝の言葉を付け足す。

 

「えへへっ♪」

 

卯月は顔をほのかに赤くさせながら笑顔を見せる。

そこにもう一人の少女が一樹の前に現れる。15歳とは思えない魅力的なボディがビキニで強調された猫耳をつけた少女は卯月同様に肉を一切れ一樹に差し出す。

 

「あ、あの…お兄さん…みくのもどうぞにゃ…」

 

「ああ、すまない」

 

それだけ言うとこれも躊躇なく口に運ぶ一樹。顔を赤くさせながら顔を緩ませるみくは「にゃあ…」と一言発し、そそくさと仲間たちの元に戻る。

 

「???」

 

「むぅ~…」

 

みくの行動の一部に理解が及ばなかったのか、一樹はみくの後姿を見ながら首をかしげる。その横では頬を膨れさせ少し不機嫌な卯月がいた。その気配に気づいたのか、一樹はすぐに卯月に声をかける。

 

「な、なんだ?」

 

「何でもないです!」

 

「…訳が分からん」

 

「確かに一樹さんは乙女心には疎そうですよね」

 

後ろで肉を頬張っている京介の言葉で更に混乱させる一樹だった。

 

 

 

 

 

 

 

食事がひと段落済むと一樹たちは使った鉄板などを片付けていく。

アイドル達は食事の後処理は一樹がやると言われたのでそのまま遊ぶことにした。

 

「あははっ!待ってよ!」

 

「それそれ~!」

 

パラソルを広げて日陰で待機しているのは食事の後処理を済ませた一樹と武内。二人とも水着姿で戯れているアイドルたちを温かい目で見ている。

 

「…そういえば一度聞いてみたかったんだけど…卯月をスカウトしたのは武内さんだったよな?」

 

「えっ、そ、そうですね…」

 

「なんで卯月に注目したんだ?」

 

ふぅーと電子(ニコチン、タールなし)タバコを吹かしながら一樹は武内に問いかける。少し困惑して首後ろを手で撫でながら武内は口を開ける。

 

「…笑顔です」

 

「…えっそれだけ?」

 

「彼女の笑顔を見た瞬間、私は可能性を感じたのです。そして彼女の笑顔は人を引き付ける魅力があります。だから私は彼女に魔法をかけたのです。それはいつ消えるかわからない儚い魔法なのでしょう。でも私は島村さんが可能性を信じ続ける限りサポートするつもりです」

 

 

「可能性…か」

 

一樹は卯月を見つめる。楽しそうに笑顔でいる卯月。それに気づいたのか、卯月は一樹たちに向けて手を振る。

 

「お兄ちゃん!一緒に遊びましょう!」

 

手を振り返しながら一樹は立ち上がり電子タバコを箱に入れて荷物入れの中にしまう。

 

「確かに、魔法は確かにかかってるみたいだな…。武内さん…卯月を頼むぜ」

 

後ろにいる武内に言葉をかけ歩き出す一樹。

 

「(プロデューサーはアイドルを輝かせる魔法使い…か。俺も卯月に魅せられた一人だろうな…。だからこそ今回の試合は負けられん…見ててくれ卯月…お前の兄ちゃんは、最高の兄貴であるってことを見せてやるからな)」

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れる。試合当日8月26日

眠り続けた獅子はついに目覚める。

 

減量も難なく突破した一樹は最高のコンディションで控室にいた。この日はシンデレラプロジェクトのメンバーは仕事上応援に来れないことを事前に聞いていた。だから今一樹は控室に京介とともにいた。

精神を研ぎ澄ませるために瞳を閉じて瞑想に入っている。

 

「一樹さん、そろそろ入場時間ですよ」

 

京介の言葉を耳に入れると研ぎ澄まされた鋭い眼光が開かれる。

 

「よし、いくかぁ!!」

 

バシィン!!!

 

グローブをつけた拳で拳を勢いよく合わせるとグローブの音が小さく響く。

 

会場は満員。今日の一番の大目玉一樹の復帰戦を目当てに大勢のボクシングファンがやってきている。その言葉にこたえるように会場に入った瞬間起きたのは。

 

 

「「「わああああああ!!!!」」」

 

歓声の嵐だった。

ゆっくりと軽くジャブを放ちながら一樹はリングに近づき、ロープをくぐり、片腕を天高く上げると再び歓声が上がる。

 

『さあ!今日の大目玉島村一樹選手の入場です!そしてここからある人物からスペシャルサプライズがあります!皆様!モニターをご覧ください!!』

 

「は?」

 

 

一樹も知らないことが起きており、モニターに目を向けた。

 

そこにいたのは

 

『お兄ちゃん!!!』

 

アイドルとして仕事をしているはずの卯月とシンデレラプロジェクトのメンバーだった!

これには某海賊漫画のように一樹は目が飛び出し、口を大きく開けていた。

 

『試合!』

 

『『『頑張って下さい!!!』』』

 

モニターをずっと見ている一樹に京介が耳打ちするように声を出す。

 

「…実は卯月たちが復帰祝いのサプライズがしたいって言ってたんですけど、試合会場から仕事のスタジオまでが遠いことから、ライブモニターで応援したいってことで…」

 

「ば…馬鹿野郎が…!!」

 

涙を流し震えている一樹がずっとモニターを見ていたのは想像するまででもないだろう。

 

「(本当に大丈夫だよな?精神が不安定になっちまったぞ…)」

 

果たして試合の行方は…?




ついに始まった一樹の復帰戦!ライブモニター越しにアイドルたちは一樹の試合を見守る!
そして一樹の必殺技が放たれる!

次回、島村家の元フェザー級チャンピオン

Round.16
仮タイトル「放て!S(mash)ing」

次回も見てください!

ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.16

ついに始まった島村一樹復帰戦。フェザー級の中でも注目されているこのタイトル。京介の時とは違い観客は満席。しかも大人気中であるシンデレラプロジェクトのアイドルたちが一樹のためのサプライズとはいえモニターを使った生応援。これにはボクシングファンだけでなく、アイドルファンまでもが注目する一戦となっていた。

そんな中で一樹は未だに感動に身を打たれ早くも涙でKOされていた。

 

一樹「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!お前ら大好きだこのやろおおおおお!!!」

 

ロープに足を乗せまるでプロレスラーの様にモニターに向かって拳を突き上げる。既に試合なんてどうでもいいくらいに。

 

京介「一樹さん落ち着いて!!」

 

そんな一樹を宥めるために京介が一樹の身体を抑えるが力いっぱい腕を振り出した一樹に振り回されていく京介。

既に入場している選手が哀れである。

 

 

 

アナウンサー『赤コーナー125ポンド二分の一、里中ジム所属、島村一樹!!』

 

わああああああ!!!

 

名前を呼ばれるタイミングで腕を上げる一樹に歓声が上がる。流石は元日本チャンピオンだけありその人気は絶大だ。これは元からなのか、それとも卯月のおかげなのかはわからないが、この歓声は間違いなく一樹に向けられているものであるのには違いない。

 

アナウンサー「青コーナー125ポンド丁度、佐倉ジム所属、有田雅彦!」

 

わああああああ!!

キャー!ステキー!

 

有田と呼ばれる選手が呼ばれると観客のほとんどは女性が歓声を上げた。金髪の髪に前髪をオールバックにし、女性観客に投げキッスをするような形をとる。それにまた女性観客たちはキャー!と黄色い歓声を送る。

 

有田雅彦

スピード重視のアウトボクサーであり、数多くの手数を打ち、相手のリズムを乱すことが得意の選手。ランキングでは最下位だが、彼自身そのアイドル的顔立ちと凛々しい姿で主に女性から人気の自称アイドルボクサーだ。

こういうタイプは一樹が一番嫌いな男であることは違いない。ボクシングでチャラチャラ着飾り尚且つ女性を侍らかせていそうなその雰囲気は一樹にとっては怒りの起爆剤でしかなかった。

 

後ろにまとめた髪が肩にかかっていたのを軽く振り払い、「ふん」と鼻で笑う一樹。

 

一樹「(見せてやるよ若造…ボクシングっていうのはお前みたいな奴が踏み込んでいい世界じゃないってことをなぁ…)」

 

レフェリー「ボックス!」

 

試合開始のゴングと共に静かな怒りを心の中に燃やしながら一樹はリング中心まで歩き、片腕を前に出し拳を突き出す。挨拶だ。

 

一樹「(どんな相手だろうが礼儀は尽くす。それが俺のやり方だ)」

 

どれだけ相手がムカつくキザな相手だとしても礼儀は決して怠らない。スポーツをする以上はスポーツマンシップに乗っ取り競技する。それがプロボクサーとしての一樹の流儀だった。

だが、それを全て守る者が居ないのも事実だった。

 

パァン!

 

一樹「ッ!?」

 

京介「なっ…!」

 

一樹が前に出した拳は、有田の拳により払われた。それを開戦の合図と言わんばかりに雅彦はジャブを繰り出す。

 

ブン!

 

風を切るような音を放ちながら拳が一樹の顔に目がけて降ってくる。が、これを一樹はかわす。紙一重と言える避け方をすると右拳を固く握りしめる。

それに警戒をしたように雅彦はバックステップで距離を取った。

 

京介「(あの有田ってやろう…即座に一樹さんから離れるとは鋭い…)」

 

 

 

 

 

未央「ああ!お兄さんの拳が弾かれた!」

 

ライブ映像を送った後に卯月たちは小さなモバイルテレビで一樹の試合を見ていた。雅彦がバックステップで後ろに下がって武内が口を開いた。

 

武内「あの選手…危機察知能力に長けてるみたいですね…」

 

かな子「どういう意味ですか?」

 

武内「有田選手は先程ジャブを放ち、島村さんがそれを避けました。そして島村さんが反撃しようとした時、有田選手は後ろにバックステップをして距離を取ったのです」

 

杏「つまり、お兄さんが攻撃することを読んで避けたわけだ」

 

武内「はい。島村さんは古典的なパワー型ハードパンチャーですから攻撃には警戒する必要がありますので」

 

卯月は真剣な眼差しでテレビを見続け、生唾を喉に通した。

 

卯月「だ、大丈夫です…!お兄ちゃんはどんな時でも勝ってきました!」

 

 

 

 

 

距離を取りファイティングポーズを取り直しステップを踏む有田。拳を固く握り直しピーカブースタイルで頭を振る一樹。

 

実況者「さあ始まりました!フェザー級島村一樹復帰戦!先ほどの試合開始の挨拶に有田は拒否して先制攻撃を行うも島村これを冷静に避ける!緊張が伝わる中でどちらが動き出す!?」

 

静かな静寂の時が会場を包み込む。どちらが動くか分からない緊張の瞬間。京介もその場を見ていて生唾を喉に通し、額から汗が一滴滴り落ちる。

キュッ!

動いたのは有田だった。アウトボクサー特有の足で一樹の横に回り込み拳が伸びる。

 

一樹「フッ…」

 

しかしその拳を一樹は首を動かし避ける。だがそれを皮切りに有田の攻撃が開始される。足を使いジャブを連打、連打、連打。

 

実況者「おおっと!有田が動き猛攻を繰り出す!多彩のジャブの連打が島村を襲う!」

 

観客の歓声が上がるが、1番歓声が上がってるのは女性だ。有田の鮮やかな動きに黄色い声援はより大きくなる。

 

だが、一樹もタダで当てられる訳ではなく、上半身を動かしその多彩の拳をひとつずつ丁寧に避けていく。

 

京介「(相手はアウトボクサー…本来一樹さんみたいにガンガン前に出るボクサーはアウトボクサーにとってやりやすい部類の相手…だが、一樹さんは世界ランキング一位の座に座った人間だしかも、状況は確実に一樹さんが優勢(・・)だ。)」

 

そう京介は確実に一樹の方が優勢であると思っている。その証拠に

 

有田の攻撃に対し一樹はその場から1歩も動いてなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)

動かしているのは上半身だけで下半身は動かしていない。それ以前に一樹の表情は冷静だった。いや、寧ろ冷酷と言っていいほど冷たい表情をしている。

対して有田の表情は段々険しくなっていく。拳がまるで当たらない、一樹の崩れない表情に動きが有田に大きなプレッシャーを与えているのだ。そしてそういう焦りに焦った人間の行動は単純になっていく。拳は少しずつ力任せな拳になる。

 

有田「ッ!」

 

足を使い左にスウェイそして一樹の視界外入りそこから拳を突き立てる。しかし、一樹も直ぐに有田の方向に向かい拳を避けたのだ。

 

京介「マジかよ…あれを避けるのか…」

 

そしてついに一樹は動き出した。

一樹は即座にジャブ二発を仕掛ける。

 

パパン!

有田のガードによりジャブ二発は防がれる…が

 

有田「ッ…!」

 

元々一撃一撃に破壊力のある一樹のジャブはダメージがガード越しにも伝わる。腕には鈍い痛みが走り、有田の顔がゆがみ、体のバランスを崩す。そこに一樹の追い込みが襲う。

 

一樹「シシッ!」

 

ジャブ、ジャブ

 

一樹「シッ、シシッ!」

 

ジャブ、ジャブ、ジャブ、

 

ガードで防ぐものの、ダメージは確実に蓄積していく。やがて腕が重くなったのか、有田の腕がどんどん震えだし、更に下に下がっていく。

だが一樹の進撃はまだまだ止まらない。次第に一樹のジャブは形を変えていく。

 

京介「ジャブが…ストレートに…!」

 

ただのジャブは次第に腕が伸びていき、拳が固くなり左のストレートに変わっていく。

 

一樹「(悪く思うなよ有田…お前はリングを舞台か何かだと間違ってるんだろう…だがなぁ、プロのボクシングはそんな甘いもんじゃあねえぞ!)」

 

下から拳が放たれガードが完全にはがれた有田の腹に左のリバーブローが突き刺さる。

 

有田「あっ…ああっ…!」

 

有田の身体がくの字に折れて崩れる。

 

だがまだ一樹の攻撃は終わらない。

 

リバーブローを放った体制から半時計回りに身体を回し、一回転。そこから右の拳を有田の腹に向かって放った!

 

ドゴォ!!

 

鍛え上げている筋肉の身体を貫通せんが如くの一撃の衝撃は一樹の拳に伝わる。

有田の身体は少しの間硬直したかのように動くことなくなり、そのままゆっくりと横へ糸の切れた人形のように倒れた。

 

京介「(あれは…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

数か月前

 

まだ一樹たちが合宿をしていた時の際だった。

卯月は夜みんなが寝静まった時間に一人でステップの練習をしていた。

それは何度も何度も同じ動きをして、最後に半時計回りに身体を回し、正面を向き右腕を上にあげた。

 

一樹「卯月。あんまり根詰めると倒れるぞ」

 

そんな姿を見て一樹は卯月に水の入ったコップを差し出し声をかける。

 

卯月「あ、ありがとうございますお兄ちゃん!すいません。心配かけちゃったみたいで」

 

一樹「それ今度のライブの練習か?」

 

コップを渡すと卯月はその水を飲み、一樹は卯月の隣に座り電子タバコ(チェリー味)を懐から出して吸い始める。

 

卯月「はい、なんだかしっくり来なくて…合宿中にマスターしておこうと…」

 

一樹「んで、こんな時間まで練習か…」

 

時計を見ると既に日付は変わっている時間になっている。

 

卯月「えへへっお兄ちゃんを見習おうと思いまして」

 

一樹「…確かに昔は遅い時間まで練習してたな…やっぱり、お前は俺の妹ということだな」

 

卯月「血は争えないってやつですね」

 

一樹「繋がってねえが、長い時間一緒にいるとこうなるんだろうな…」

 

口から甘い匂いの煙を出しながら一樹は卯月の頭をやさしく撫でる。

 

一樹「微力ながら俺も付き合おう…」

 

その日に一樹と卯月は納得行くまで練習していた。時折一樹も卯月と同じような動きをしていたとか。

 

卯月「お兄ちゃん。タバコじゃないのに何故それを吸うんですか?」

 

一樹「雰囲気てきな?」

 

次の日に一樹は京介に「俺新しい技会得したよ」と伝えていた。

 

京介「で、技名とかあるんですか?」

 

一樹「…卯月のソロソングの曲名はなんだったか?」

 

京介「…s(mile)ingですか?」

 

一樹「そうそれだ。俺の技に名前を付けるとしたら…S(mash)ingだ」

 

京介「…スマッシュですか?」

 

一樹「ただのスマッシュじゃねえ。俺独自の編み出した技だ。まあリスクも高いだろうがな」

 

 

 

 

 

 

 

京介はその高リスクの技を目の当たりにした。怯んだ相手の隙を突き回転を加え振り子の原理を使い勢いを上げ下から突き上げる技スマッシュを加える。それは破壊力自体がある一樹の拳をさらに強力な一撃に変える技だった。

 

 

京介「(今の技…確かに高リスクなだけあって破壊力は強力だ…間違いない…島村一樹は今完全復活を果たした!)」

 

カーンカーンカーン!!

 

実況者「ここで試合終了のゴングだァァ!!!」

 

ゴングの音と共に歓声が一気に会場を包み込む。今世界に羽ばたいた元日本王者が凱旋した瞬間だった。

 

一樹「(狙いが甘かったか…回転してスマッシュを決めるつもりが腹に拳がいっちまった…まだまだ改善の余地ありだな)」

 

そんな歓声の中で一樹は自分の先程の試合の反省をしている。実は今回の技は試しで練習していた訳ではなかった。それは一樹が復帰と共にこの技を完成させる為にプレッシャーを自ら負った。しかし結果はご覧の通り試合に勝ちはしたが失敗に終わった。

スマッシュとは実際には右足を前に踏み出し右拳を下から上に突き上げ顔面を捉える技。一般的にはアッパーに似ているが単純にただのアッパーより威力はある。だが今回の試合に至っては回転を加える際に姿勢を低い状態で回転して相手の身体が視線外になっている状態で拳を突き上げた。姿勢が低すぎて距離感が掴めず出した拳はあろう事か腹に命中した。これはスマッシュでなく威力の増したボディーブローに近い。

 

一樹「…(まあ、ともあれ…勝ちは勝ちだ)」

 

拳を上え突き上げガッツポーズ。これは新たな始まりに過ぎない。しかし、一樹は久しぶりの勝利の美酒に酔いしれた。

 

 

島村一樹復帰戦 フェザー級

 

1R 2分18秒 KO

 

島村一樹 勝利




次回予告

S(mash)ingの改善を考えさらに一樹は更なる特訓が始まる。だが試合が終わった事により一樹は外傷はなかったが1週間の休暇を言い渡される。
暇な時間の中で一樹は346プロダクションに何故か入ることになる!

島村家のフェザー級元日本チャンピオン
Raundo17「アイドル事務所」

次回をお楽しみに。ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.17

島村家義長男『島村一樹』は喫茶店を構えたプロボクサーだ。

この店にはアイドルが来店することがあるがそれを知っている者は少ない…のだが

 

今日に至ってはお店は定休日にしてあり看板には本日はお休みさせて頂きますと書かれていた。

一樹が店を休んで向かっている場所がある。

 

「…」

 

長い髪をポニーテールに結び伊達メガネをつけ黒のカッターシャツにジーパン姿の一樹はスマホのマップ機能を使い何とかここまでやって来た。店からまあまあ遠かった為車で来ればよかったと後悔をしていたが何とか歩きで目的地に到着した。

 

「ここが…346プロダクション…」

 

巨大な正門がありそこから見える大きな城のような建築物とその上には大きな時計。それはまるでシンデレラ城と言わんばかりのデザインだった。

一樹がここに来た理由も至極簡単。本日一樹は試合の疲れを癒すため1週間の休養を言い渡されているが…動かないと性にあわないというのが一樹の性格であるため店を休みにして久々に実家に帰っていた。

と言っても歩いて5分もかからないところに店を構えているため久々に両親の顔を見るわけでもなかった。

家の手伝いをしている最中に母が卯月のお昼の弁当を渡し忘れていることに気づき、今に至るという事だ。

 

流石に今の状態で門を潜れば確実に怪しまれることは明白。なので一樹はスマホをマップから電話帳を開き卯月の電話にコールする。

 

1コール…2コール…………7コール

出なかった。

 

「???」

 

何時もならワンコールで出る卯月だか今日に限り出てこない。レッスン中なのか、はたまた仕事中か…仕方ないので武内に電話を掛けるようにした。

 

『もしもし、島村さんですか?武内です』

 

流石はプロデューサーとはいえ営業マンと言ったとこか、武内は3コール内にキッチリ電話に応答した。

 

「武内さん。実は卯月が弁当忘れてるみたいで届けに来たんですよ」

 

『わかりました。スタッフにはお話しておきますのでどうぞ中にお入りください。島村(妹)さんは今レッスン中ですので』

 

「それなら問題はないな」と言い武内にお礼を言い正門を潜る。

中に入ると大きな豪勢なシャンデリアが1つあり中央には階段がある。それだけを見た瞬間一樹の頭の中では全く別の事を考えていた。

 

「(ゾンビが出る館みたいな形してんな…)」

 

そんな女の子たちの憧れる場所の感想を出していると受付の人に一応挨拶と状況を確認してもらう。

すんなりと中の案内図をもらいついでにスタッフからサインの要求をされた一樹はレッスン場に向かって歩く。

 

レッスン教室前

 

「地図の通りならここだよなぁ…」

 

施設案内のパンフレットを後ろポケットに入れてドアノブに手を置き回しドアを開けた。

 

「オッスーお邪魔してます」

 

軽い感じに入るとそこは大きな練習場があった。大きな鏡の前にいるのはトレーナーらしき女性と卯月と数人のアイドルたち。

卯月がいち早く気づいたらしく、

 

「お兄ちゃん!」

 

と喜びの声を上げるといち早く一樹の元に駆け付ける。

 

「ホレ弁当だ…まったく、普通忘れるか?」

 

「あ、あははは…お兄ちゃんごめんなさい」

 

「気にすんな」

 

卯月の頭をやさしく撫でると卯月は人前でも気にしないみたいに顔を赤らめ頬を緩ませる。

 

「卯月ちゃん!そちらは?」

 

卯月の後ろから数人のアイドルが一樹のことを尋ねる。

 

「あ、みなさんは初対面でしたよね。私のお兄ちゃんです!」

 

「島村一樹だ。よろしく」

 

一樹が丁寧にお辞儀をするとそれに続いてアイドルたちが丁寧にあいさつをする。

 

「は、初めまして!小日向美穂といいます!」

 

「初めまして!あたし城ケ崎美嘉だよー!妹がお世話になってまーす!」

 

「城ケ崎…ああ、莉嘉ちゃんのお姉さんか。こちらこそ義妹がお世話になってます」

 

美嘉と美穂に挨拶を済ませ、一樹は颯爽とここから出ようとする。

 

「あっ、待ってくださいお兄ちゃん!せっかくなので練習風景を見ていきませんか?」

 

「えっ?まあ、確かに店は一日休みにしてるが…迷惑にならんか?」

 

「そんなことないよー!ねっトレーナー」

 

美嘉がトレーナーの女性に話しかけるとトレーナーの女性は首を縦に振った。

 

「まあ、卯月ちゃんのお兄さんだし大丈夫だろう。ここまで来れたということはプロデューサーから許可も得てるってことだろうし」

 

「良いのかよ…」と小さな声でツッコミを入れて一樹は直ぐにレッスン場の隅っこに座り邪魔にならないように見学することにした。

 

「…」

 

アイドルとはいえそのレッスンは厳しい。少しの音楽と踊りのズレが生じた際はトレーナーが声を上げて再び同じところを繰り返す。その繰り返しだった。その動作はまるでボクサーも精通しているようだった。同じところを完璧に合わせられるまで行う。そして耳に入るのは踊りの際に使われるBGMと靴と床が接触しキュッキュッと音がなる。

 

その音が一樹の心の中でいつの間にかリズムを取りさらに拳が時折動く。

 

ついには身体が勝手に動き出した。

伊達メガネを外しそれをシャツの胸ポケットに挟むように入れ拳を構え足でリズムよくステップを取る。アウトボクシング型のシャドウだ。

 

「シッ!シシッ!」

 

キュッキュッ

音楽のリズムに乗り足を動かし拳を動かす。

 

いつの間にか一樹の額から汗が流れるほど体の動きは激しくなっていく。

 

「シシシッ!」

 

リズムに乗っていく拳は軽いものから重い一撃に変わっていく。

だがあることに気が付き一樹の拳は止まる。さっきからBGMが止まらないのだ。しかも拳を振ることに夢中になりすぎたのか、みんなの方を見ると全員が一樹のことを見ていた。

 

「いや…あの…」

 

顔がみるみると赤くなり一樹は構えていた拳を下げる。

 

「すまん…」

 

素直に頭を下げる一樹。しかしそんな一樹にみんなは拍手をして称えた。

 

「すごいです!リズムにあんな簡単に乗って動けるなんて!」

 

「莉嘉から聞いてたけど噂以上にすごいじゃん!卯月ちゃんのお兄さん☆」

 

「確かに、動きはともかくリズム感は完璧だった。島村さんは何か習い事でもしていたのですか?」

 

「あ~…ボクシングを…というかプロライセンス持ちでして…」

 

顔を指でポリポリとかきながらばつの悪そうな顔で答えると卯月と美嘉は莉嘉から聞かされているからなのかそれ以外のみんなは驚き声を上げる。

 

「「「ええええええーーっ!!??プロボクサー!?」」」

 

「まあ、はい…」

 

「ボクサーであそこまでリズムを取る事ができるなんて…」

 

「え?マジ?莉嘉からはボクシングしてるって聞いただけだから習い事程度だと…」

 

「でもお兄ちゃん、何時もアウトボクサーの構えした事ないのになんで出来たんですか?」

 

「ウチのジムにアウトボクサータイプのフェザー級(京介)が居るだろ、アイツに習って少しかじっただけさ」

 

一樹はもう一度腰の姿勢を低くくして足を動かす。

 

「最近京介もアウトボクサーとして板がついてきてな。俺もハードボクサーとしていつまでも打たれ続けながら反撃機会を待つのは流石に不味い。だからアウトボクシングを身に着けていこうと思った」

 

リズムを取り拳を突き出す。空を切るジャブを二、三発ほど放ち直ぐに足を動かす。

一樹のパワーボクシングに足りないもの、それは相手の懐に入るためのスピードではなく相手を翻弄するためのスピードだ。

 

今まで一樹が戦ってきた相手は大体アウトボクサーだったこともある。だがこれからは自分と同じパワー型のボクサーもいるしその両方を使うボクサーやオーソドックスとサウスポー両方を使いこなすスイッチ型ボクサーもいる。

これからのプロボクサーとしての活動は更なる過酷な道になることは確実なのだ。

 

そんなことを考えているとトレーナーが時計に目をやると既に短い針は真上を向いていた。お昼時間だ。

 

「おっと…今日のレッスンはここまでにしよう。明日も同じところを練習するからな!解散!」

 

どうやら一樹の話で数分無駄になってしまいレッスンは終わった。少し罪悪感のようなものを感じながら一樹は帰ろうとドアに手を置くと、卯月が一樹の腕をつかむ。

 

「お兄ちゃん、これからお昼一緒に食べませんか?」

 

「…いいのか?ここアイドル事務所だろ?男の俺がいること自体が場違いだし…」

 

トレーナーの女性に目配せするとトレーナーは首を縦に振る。

 

「プロデューサーさんから許可を得てるなら問題ないと思う。島村兄はお客様なのだからな」

 

「ですって!お兄ちゃん、行きましょう!」

 

「お、おい」

 

卯月に引っ張られレッスン場を後にする一樹は他の三人に軽く会釈してその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ話

 

「うぅ〜…腹痛と腰痛が…」

 

「(お月さんか…)」

 

デリカシーのない言葉を口に出さないように一樹は伊達メガネ外し携帯を出して武内に連絡する。

 

「わかりました。俺の方で何とかします」

 

今日のスケジュールをキャンセルしてもらうと一樹は卯月の部屋に行き看病をする。まずは一樹が知る生理の現象。

流石に女の子のデリケートな話になる為本人にどんな感じかと言うのは失礼だろう。だが現在ならインターネットや本やらでいくらでも調べられる時代になっている。生理に対しての対処法はいくらでも書いてあり尚且つそれをどのように的確に対策すればいいか頭で考えつく。

 

「卯月、ココアとハーブティーどっちがいい?」

 

「それじゃあココアでお願いします…」

 

相当今回の波はキツイのか気だるそうに答える卯月。

一樹は「わかった」と一言伝え部屋から出てキッチンに立つと髪を纏めて後ろで結びお湯の準備をする。

 

「あら、一樹どうしたの?珍しいわね貴方がここで調理するって」

 

「卯月がお月さんだからな。少しは俺も苦痛を柔らかくすることが出来るだろうと思ってな」

 

「鎮痛剤飲ませたの?」

 

「嗚呼、だが効かないらしい…義母さん、ココア以外に何か良い方法はある?」

 

「そうねえ、豆料理とか、出してしまった鉄分補給にレバーとかひじきとかを食べると良いわね。後は夜更かしをせずに早めに休むのも良いわ」

 

「流石歳の功というところか…こう考えると体を冷えないようにしていればいいかもな…となれば…生姜とかもいいかもな…レバーは生姜と炒めれば一緒に摂取できる。後は冷えないように毛布を…」

 

「一樹、後でお話があるからリビングに来てね…?」

 

その時の一樹はこう語る。

 

『母親に…というか女性に歳の話を出すのはNGだ。遠くにいても彼女たちは歳の話をした瞬間地獄耳で容易にこちらの会話を聞き取る』と…

 

卯月の容態は軽くなり、これを他のメンバーに話すと「私にもしてほしい、家に来てほしい」というオファーが来たのは言うまでもない。

 

「家事出来る分不利になってる気がする」

 

「いや知りませんよ…ちなみにこの後の予定は?」

 

「…みくちゃんがダウンしてるから看病…」

 

「ドキュメンタリー番組かな?」

 

今日もその家事フェザー級チャンピオンとしてそのスキルを振るうために島村一樹はアイドルの家に訪れる。

 

 

 

 

 

「勘弁してくれ…マジで」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.18

卯月のお昼ご飯である弁当を届けた一樹は卯月に手を引かれ346プロダクション内にあるカフェに連れてこられた。そこで一樹はコーヒーと軽く食べれるサンドイッチを注文して卯月と二人お昼のランチをしていた。

一樹は伊達メガネを取りサンドイッチを一口食べる。

 

「うん…!美味いなこれ」

 

一樹が頼んだサンドイッチはレタスにトマトとスクランブルエッグ状のタマゴを挟んだシンプルなサンドイッチ。だがそのサンドイッチには何か奥深さか何かを感じるものがあった。噛めば噛むほど甘みが出てその一口が再び食欲を掻き立てる。使ってる塩コショウが違うのか、それとも何かドレッシングのようなものを使っているのか、はたまた食材が新鮮だからか、こうして分析をしてしまうのは一樹の悪い癖なのかもしれない。だがそれを思わせるほどそのサンドイッチはおいしかった。

しかもサンドイッチは全部で4つある。男性である一樹からしたらこれ一つ注文すれば事足りてしまう。その上安い。これに尽きるであろう。この量で500円だ。学生が多いアイドル事務所だからなのだろうか?

などと考えているといつの間にか二つ目を食べてしまっていて、三つ目に手を伸ばしている。

 

「ここは繁盛してそうだな」

 

「はい!いつもは他のアイドルの方々がいて一緒にご飯食べたりお茶したりしてます!」

 

三つ目のサンドイッチを食べ終わりコーヒーを口に含む。

これも実に美味い。しかもこれも200円。カフェで飲むよりこちらで飲む方が安上がりなうえ下手な店よりうまい。

 

「そりゃあそうか…」

 

一樹は昨日の試合の疲れを癒すようにコーヒーを味わうために少しずつ飲む。

 

「お待たせしました~!こちら、当店のおすすめのデザートでーす!」

 

と一人のウエイトレスがパフェを二つ持ってきてくれる。一樹は伊達メガネをかけコーヒーを飲みながらそのウエイトレスの姿を視線に入れる。すると

 

「ブッーーー!!!」

 

一樹は口に含んだコーヒーを窓の外に向けて吹きだした。

 

そこにいたのは後ろ髪をリボンで束ねポニーテールにしており、卯月より背が低いが、出るところはちゃんと出ている小柄な少女。

 

「な、菜々!?」

 

少女も一樹の姿を見るとみるみると顔を真っ赤にして

 

「か、一樹先輩!?」

 

少女も一樹に向かって大声で名前を呼んだ。

 

「あれ?二人ともお知り合いなんですか?お兄ちゃん、菜々ちゃん?」

 

「お、お兄ちゃん…?」

 

「な、菜々ちゃん…?」

 

立ち上がり硬直していた二人に声をかける卯月の言葉に何やら引っかかる二人…

 

「はい、一樹お兄ちゃんです!お兄ちゃん、こちら阿部菜々ちゃん。私と同い年のアイドルです!」

 

「はぁ!?同い年ぃ!?」

 

「あれ?私おかしなこと言いましたか…?」

 

「バカお前!こいつ俺と高校同じ上後輩―――――」

 

そこまで口にした瞬間、一樹の口は何やら力強く押さえつけられた。首を30°ほど強制的に向けられ阿部菜々と名乗る少女の方に視線を向けられた。

 

「それ以上言うと後が怖いですよ先輩っ…!!」

 

掛けていた伊達メガネが地面に落ちると同時に一樹の額から冷たい汗が流れる。

抑えられた首の方向を変えようとするものの、首は万力で固定された胡桃の様に動かない。この細い腕からどこからそんなバカ力を出しているのか気になるものの、一樹の頭には恐怖が過り口が勝手に動いた。

 

「……ハイ……」

 

「???」

 

二人のやり取りを見て頭の上に?マークが浮かび上がる卯月だったが、真相を知ることはなかった。何故か二人のことで質問をすると一樹はお茶を濁したり、デザートを食べながら喉に数回詰まらせたりとうやむやのまま会話は終了した。

 

 

世の中には知らない方がいいこともある。それはいつの時代も変わらないようだ。

 

 

 

次に連れてこられたのはスタジオルーム。一樹のことを話をすると特別に許可が出たらしい。

 

「(なんで俺はこんなスター扱いされてんだ?)」

 

などと思いながらスタジオのドアを開けてみる。そこには数人のエキストラとアイドル達。何やらアイドル達はボロボロの服を着て銃のようなものを持っており、エキストラはおびただしい血まみれの服と顔には肉がえぐれているような特殊メイクをしている。

 

「ゾンビ物の撮影か?」

 

「はい、なんでしたっけ…ウォーキングヘットだったかペットだったか…」

 

「著作権取ってんのかそれ」

 

などと突っ込みを入れて一樹たちはスタジオを見る。

 

「はいカットー!」

 

と監督らしき男の人の声と共に周囲から「お疲れ様でしたー」と声が上がる。

どうやら撮影は終了したらしい。

 

終始何処かのドラマと似ていて一樹は顔が青ざめたり頭を抱えたりとしていたが、撮影は無事終了。

卯月に至ってはゾンビに噛まれるフレデリカを見てあわあわと言いながら涙を流していた。

 

「ここの人たちって怖いもの知らずなのか?」

 

一樹がそんな言葉を口にしていると監督らしく男が目の前まで来ていた。

 

「うおっ…」

 

いつの間にか目の前に来ていたため驚いた一樹に対して監督は一樹を頭から足のつま先までじっくりとみている。しかも無言で。その行動は一樹に警戒心を植え、尚且つ恐怖心まで与えた。

監督の人は終始無言で一樹の周りをグルグル回りながらやっと一樹の目の前で止まった。

 

「ティンときた!!」

 

「…」

 

「キミ、ちょっとこっちに来て」

 

監督の男に手を取られ裏に連れてかれる一樹。

 

「お、お兄ちゃん…?」

 

突然兄を連れていかれた卯月は不安になりつつ兄の帰りを待つ。そして程なくし、一樹は戻ってきた。

 

クロスボウを背負い、前髪は目が少し隠れるくらいまで後ろ髪を持ってきて肩までかかるほどの髪型にうっすら無精髭をつけてこちらも薄汚れた服を着て後ろに羽の書かれた革ジャンを着ていた。

 

「見てくれこれ!この子を見た瞬間ティンと来た!正に日本のノーマン・リー〇スだ!」

 

「誰もダリ〇役引き受けてないんだけど」

 

「まあまあ、そう言わないでリーちゃん」

 

「誰がリーちゃん?」

 

「早速撮影に入ろう!おっとそうだ…キミの名前は?」

 

人の話を聞かずに監督は再び撮影に入ろうとしている中、どうやっても終わるまで返してくれないらしい。何故か監督が持っている木の棒の先端には有刺鉄線が巻かれているように見えた。

監督にあきらめを感じた一樹はもうどうにでもなれと投げやりの心で口を開いた。

 

「……ダ〇ル」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして後日

 

アイドルドラマ『ウォークキング・デッド SEASON3』は一話目に謎の生存者デリル・デインクソン(役:島村一樹)を迎え話題を呼んだ。

クールな眼差し、残酷な世界の中で見せる人間臭い性格。ボウガンを構え華麗にゾンビを射抜くその姿。そして素人とは思えない演技力を見せる一樹に誰もが注目した。SNS内でも

 

「クール過ぎる…」

 

「抱きしめてぇー!」

 

「男が惚れる男」

 

「〇リルじゃね?」

 

「そのボウガンで私を射抜いてー♡」

 

「声が渋くて痺れる~♡」

 

「最高にカッコイイ…」

 

「アニキいるの?」→「居ないよ」→「あれ?あっちだと確かアニキのメ〇ルっていう…」→「それ以上はいけない」

 

「SEASON10主役待ってるよー!」

 

などと男女問わず人気を獲得していった。いつの間にかバイクに乗った姿のデリルこと一樹の姿が表紙を勝ち取った週刊誌も出回るようになっていた。

勿論人気を勝ち取ってしまった一樹はその後もちょくちょく346プロダクションに呼ばれてドラマのオファーが回る。ボクシングの練習を削りたくない一樹だが例の監督は一樹の通うジムにまで顔を出しボクシングジムを346プロダクション内に建てないかという交渉にジムの会長はこれを呆気なく承諾。

346プロダクションにボクシングジムが建設された。

 

とんとん拍子に事が進んでいく中、一樹は胃を痛めながら建設された346プロダクション内のボクシングジムに通う。

因みに身近にアイドルたちがいるということに喜んでいた京介からは笑顔で一樹の乗った週刊誌を手に取り問いかける。

 

「ダ〇ル役楽しいですか?」

 

「楽しくねえよ!!」

 

こうして一樹はドラマ主演を獲得。あっという間にアイドル顔負けの俳優兼プロボクサーになった。因みに試合がある際はドラマ出演は休みにするという条件を付けた。監督は

 

「大丈夫!殴られた傷はメイクで何とかなるし、かえって出演の味が出るからOK!」

 

ということを言っていたとか…。一番なりたくないものになってしまった一樹は毎晩家に帰りなんだかよくわからない涙を流している。

 

因みに島村喫茶店も移転した。

 

 

 

 

「あれ?幸子ちゃんその雑誌同じのだよね?」

 

「ふぇっ!?えっえっ!そ、そうですね!!な、何でこんなにあるんでしょう!?」

 

「同じ雑誌買ったの?さっき幸子ちゃんが持ってる雑誌からレシート落ちたけど」

 

「いやああああああ!!!!」

 

アイドルにも人気らしい。




ー次回予告ー
ドラマ出演をしながら一樹はボクシングの練習を再開させる。

周りの環境が一気に変わったなか、一樹の喫茶店にとある人物が現れる!

次回「ライバル」

次回をお楽しみに!

ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.19

ボクシング…鷹村…ダリル…CV…( ゚д゚)ハッ!


「生き残りたいんなら、銃は撃てるように安全装置を外しな。次に俺を狙うときにも、腐った死体どもを倒す時も」

 

ボウガンを背負った男は少女に優しく言い放ち、そのままバイクに跨り走り出す。

そのシーンが終わると監督のOKサインが言い渡される。

 

「はいーカットー!お疲れ様ー!」

 

一樹が次の試合の目安が決まるまでのドラマ撮影は5話目の放送分を撮り終わった。撮影が終わると一樹は汗を流していた額にタオルで拭い、ジャケットを脱いだ。

 

「一樹さん、お疲れ様です」

 

「ええ、お疲れ様です」

 

疲れ果てた一樹は水が入ったペットボトルの蓋を開けて中身の水を飲み干し、「ふう」と一息入れる。

俳優になってからか、とんとん拍子に事が進み過ぎたこともあり、生活リズムの変化に追いつけない一樹にとってはストレスが溜まらないといえばうそになる。今ではその鬱憤をサンドバッグに叩きつけるのが日課になっていき、パンチの力が少しだが上がったのは言うまでもないだろう。

 

だが人間は面白いことに慣れてしまえばそれは日課になっていき、今まで嫌だった俳優業にも無意識的に力が入っていた。

始めたころはその俳優としてのレッスンを受けていたのだが、トレーナーからは「ほぼ教えることがない」とか言われてしまい才能が無いのか?と無意識に落ち込んだこともあった。本当は才能がありすぎて教えることがないという意味合いだったのだが、それを変なように受け取った一樹はコンビニでエナジードリンクの『MONSTER』を買いすぎトレーナーから『モンスターハンター』とかおかしなあだ名をつけられたりもしていた。

 

だが今ではこうしてボクシングと俳優を両立させることに成功。だが本業はボクシングなのでそろそろ俳優業は一時的に休息をもらうことになっている。

 

「これでボクシングに専念できるな…」

 

と言ってもボクシングジムは346プロダクションに移転しているので移動時間には困らない挙句、喫茶店も近くに移転することになったため、時間短縮にはうれしい条件を付けられている。俳優業をしてから喫茶店の売り上げも大きく跳ね上がったのも事実だ。

 

「お疲れ雅です」

 

一樹の前にエナドリをテーブルに置いて話しかける女性。千川ちひろ。

彼女はこの346プロダクションの事務員で、武内Pのアシスタントだ。

 

「ちひろさんお疲れです」

 

「だいぶお疲れのようですね」

 

「まあ、そうッスね…」

 

「これからジムの方に行かれるのですよね」

 

「はい…次の試合もそろそろ決まるようですし、会長からそろそろ報告があるかと…」

 

「プロボクサーですか…卯月ちゃんはすごいお兄さんをお持ちですね」

 

「俺はそんな…ただ、俺は卯月にとって恥ずかしくない兄でいたいだけなんですよ。世間からの評価とかじゃなく、卯月が誇れる立派な兄に…」

 

「そういえば、島村さんは卯月ちゃんと義理の兄弟と聞きましたが、出会いのエピソードなんかはどんな感じだったんですか?」

 

「ふぇ?」

 

変な声を出してしまう一樹にちひろは興味津々という顔で一樹を見ている。

一樹は首筋に手を当てながら、目を閉じ、当時の出来事を思い出しながら口を開く。

 

「そう…スね…話は長くなりますけど…俺と卯月の出会い…ボクシングをして出会いました。あれはもう十年くらい前かな…」

 

 

 

 

 

 

~十年前~

 

当時島村一樹は島村の姓ではなく『櫻田一樹』という名前だった。櫻田一樹に親はいなかった。親は一樹が5歳の頃に一樹を置いてどこかに出て行ってしまっていた。小さなマンションに一人取り残された一樹は当時5歳と物事も何も考えられない年頃だった。当時のマンションの大家さんの話によると、母親はいつも派手な服を身にまとい街に繰り出しては見知らない男を部屋に入れるのを見た。そして朝にはその見知らない男が出ていくのも見ているとか…

 

そうなると一樹の扱いは誰にでも想像ができる。コブ付きの女性の家に男が入り何も思わないことはない。大方一樹を押し入れやらに押し込んでいたのは想像がつく。珍しく外に出る一樹の顔には殴られたような痣もあった。虐待を受けていたのだ。そしていよいよ本格的に一樹が邪魔になった一樹の母親は一樹を捨てて家を出ていった。

 

何時間経とうと、何日経とうと母親の帰りを待つ一樹。だが現実は悲惨にも一樹の母親は帰ることはなかった。不憫に思った大家は一樹を孤児院に入れることにした。

 

だが、一樹は孤児院の人間に心を開くことは無かった。いつも一人で誰とも遊ぼうとも会話をしようともしなかった。彼が小学校に入ったころには荒れに荒れ果てていた。小学5年生の頃には暴力的行為を行うようになっており、父親の顔は知らず母親から愛情を受けずに育った一樹は荒んだ少年時代を進んでいた。髪は現在の様に整われたポニーテールではなく、ずさんに伸ばしオールバックの姿。服装も制服をだらけた様に着こなし、チンピラ風の服装だった。

そんな彼がボクシングと出会ったの中学校に入ってすぐだった。

 

彼は中学校の番長的なポジを獲得していた。

 

ある日、路地でケンカをしていた。一樹は相手を拳でぶちのめし、再起不能状態の所胸倉を掴んでとどめの一撃を与えようとしていたところをある男に止められた。

 

「やめろ…」

 

「…」

 

年齢的には40代後半の男性。だが彼の瞳には老いを感じさせない熱意の塊のようなものが宿り、体もスーツ越しにわかるほど鍛えているということがわかるほど筋肉がついている。そう、彼こそ『里中ジム会長 里中重蔵』だった。

 

「んだよ、関係ねえ奴はすっこんでな…」

 

「そうはいかんな。男子たるものケンカもするのはいいが、もう相手が立ち上がれないところに追い打ちを仕掛けるような奴を見過ごせん」

 

「んだと…」

 

一樹は胸倉を掴んでいる学生を離し、里中と正面たち睨みつける。だが、里中は動揺しているような様子はなく、まっすぐ一樹を見つめていた。

 

「すっこんでな…ジジィ。俺は今機嫌が悪い…これ以上邪魔すんなら…コロスぞ…」

 

「ハッ、小童の脅しになんか屈するほど老いちゃいねえよ」

 

その言葉がカンに触ったのだろう。一樹は拳を里中に向けてはなった。だが、その拳は簡単に片手で止められた。

 

「ッ…!」

 

そして目にも止まらない速さで繰り出された里中のもう片方の拳は一樹の目の前で止まった。

これが一樹が見た最初のボクシングのワザ…『ジャブ』だった。

 

「どうだ、こんな老い耄れでもお前の拳を止めて反撃することもできるんだ…しかしお前の拳も実に重いな。力任せとは言え、片腕で止めたとき骨の髄まで響くこの感じ…おめえ、良いモン持ってんじゃねえか」

 

掴んだ拳をそのまま撫でるように触る里中の手を振り払う一樹の額には汗が溜まっていた。その汗は次第に頬を撫で、滴り落ちる。

 

「……」

 

「ケンカばかりも良いが、その有り余ったエネルギーを別の手に使うのはどうだ?」

 

里中はスーツの内側に手を入れてそこから一枚の小さな紙を差し出す。そこには里中ボクシングジム会長と書かれた名刺があった。

 

「…アンタがボクシングジムの…会長?」

 

「ああ、こう見えて昔はプロだったんだよ。私は」

 

「…プロボクサー…」

 

「興味があったら連絡しろ…それと、拳を使うときは守るものの為に使うものだ。一方的な暴力のためじゃなく、守りたいものの為に使え。なんでもいい。家族のためでも、自分のためでも、金のためでも栄光のためでもいい。お前の手のひらはただわけわからず血に染めてるにすぎないぞ」

 

手をひらひらと振りながらその場を立ち去る里中の背中をただ静かに見つめる一樹。手渡された名刺をくしゃくしゃと丸めてポケットに手を突っ込んだ。

 

「テメーに俺の何がわかんだ…」

 

 

 

 

 

 

文字通り孤立無援。誰からも助けを受けたことのない一樹にとって、愛情を知らない一樹にとって初めて説教をしてくれた人が里中会長。里中の言葉は一樹の心に重い錨を海に投げ入れた様にずっしりとのしかかった。

 

転機が訪れたのは夏休みに入った時だった。

いつも一人の一樹。誰ともつるまず。ただ一人で街をプラプラプラプラしていた時、ふとコンビニに張っているポスターを見た。

 

『ボクシングフェザー級試合』そこには名前と里中ジム所属と書かれていた。試合は8月14日。興味が出たのか、気まぐれか、一樹はその試合を見に行くことにした。

 

試合当日、里中ジムの選手は劣勢だった。相手のフットワークに翻弄され打たれ続け満身創痍状態。

だが、最終ラウンドに入っても里中ジムの選手の闘志は消えてなかった。燃え盛るような決意。絶対勝つという闘志は燃えてなかった。最終ラウンド、相手は満身創痍の選手にとどめと言わんばかりに右ストレートを真正面に放った。だが、里中ジムの選手はそれを逆手に利用。クロスカウンターを相手に打ち込んだ。

 

相手選手はダウン。動こうともしていない。レフェリーが状態を見るが手を大きく上げて振った。試合終了の合図。見事里中ジムの選手は圧倒的劣勢の中で勝ったのだ。その時、一樹の目には涙が流れていた。

 

「…俺も…あんな風になれんのかな…」

 

一樹はくしゃくしゃにした名刺をポケットから出した。

次の日、一樹はずさんに伸ばしていた髪をハサミで切り短く整え里中ジムに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一樹はこの時、ジムの門を通った。そして彼は孤児院を出てジムに泊まり込みで通った。もちろん学校にもちゃんと行き里中会長の条件として勉学もちゃんと学び高校受験をちゃんと受けるように整えた。

そしてジムに通い一年が経過した時だった。

 

「お前、親はいないんだよな」

 

「昔に捨てられたからな…」

 

「そこでお前に相談なんだが…養子になる気はないか?」

 

「…は?」

 

「私が引き受けるんじゃないぞ。私の友人で島村という人間がいてな。彼に相談したら快くお前を引き受けたいというておった。どうだ?島村一樹として生きる気はないか?」

 

当然一樹は迷った。今の姓を捨てて違う姓を受けて生きる。だが一樹にとって櫻田とはタダの呪いに等しい名前。この名前でプロとしてデビューすれば永遠とこの名前が付きまとう。それだけは一樹は嫌だった。

 

「合わせてくれ会長…島村さんに」

 

 

 

 

 

 

 

島村家に呼ばれた一樹。一年前までチンピラの様に来ていた制服をちゃんとした姿で着こなし、髪も整えた姿で島村家のインターホンを押した。

 

「はぁ~い!」

 

女性の声が家の中から聞こえ、ガチャリと開いた。そこから現れたのは島村家の母のちに一樹の義理の母になる女性だった。

 

「あら、いらっしゃい!話は里中会長から聞いてるわ。ささ、中に入って」

 

一樹が来ると島村夫妻は快く迎えた。笑顔で見ず知らずの少年を歓迎してくれた。

 

「……」

 

そして島村母の後ろに隠れるように一樹を見ている少女。一樹は警戒されないように小さく手を少女に向かって振ってみると、少女も手を振り返してくれた。そして一樹の前にてくてく歩き、少女はペコリと一礼した。

 

「しまむらうづきです!よろしくおねがいします!」

 

「さ…」

 

一樹は自分の名前を口にしようとしたが、それを躊躇する。櫻田の名前をこの少女に教えたくない。自分の穢れた名前をこの無垢な穢れを知らない少女に教えたくない。そう思った一樹の口から申し出を受ける決意を固めた。

 

「島村一樹です。よろしくお願いします」

 

食事の準備をしていたらしく、一樹も食事の席に座った。

 

「さあ、食べなさい。島村家特性のカレーライスよ」

 

「い、いただきます…」

 

スプーンにカレーをすくい口に含んだ。初めて食べた誰かの愛情のある手料理。孤児院でも、飲食店でも食べたことない料理を口にした一樹はか細いほどの小さな声で

 

「美味い……」

 

小さくつぶやいた。そして瞳から流れる涙。愛情を受けたことない一樹にとってその愛情に包まれたカレーは心から『美味い』という言葉を吐き出した。

涙を拭いそのカレーを一心不乱で食べた。恥ずかしい、プライドなんてものをすべてかなぐり捨てて一樹は大粒の涙を流し続けた。

 

「おにいちゃん、どこかいたいの?かなしいの?」

 

卯月は一樹に尋ねる。一樹は涙を流し続ける卯月を見つめ、つい思わず抱きしめた。

 

「ああ……痛い……嬉しい気持ちが溢れて痛い……でも悲しくないんだ…嬉しすぎて…暖かで……」

 

表現しきれない嬉しさが一樹を包んだ。生まれて初めて与えられた愛情は一樹の心を生き返らせた。

 

「一樹君。うちの家に来なさい。部屋ももう用意してるわ」

 

「……はい……俺は今日から、島村一樹として生きていきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

「荒れてた俺を更正してくれたボクシング…それをきっかけに与えてくれた家族…俺にとってボクシングは人生をかけてもいい程のことで、恩人みたいなものなんです。卯月と出会い、義父さん、義母さんには感謝しきれないんです」

 

「…人に歴史ありとはこのことですね。聞いてて感動しました」

 

目元にうっすらと涙をためているちひろは指でその涙を拭いながら言う。

 

「もう昔の話ですよ。でもあの時のことは昨日の様に思い出します。櫻田一樹は死んで、島村一樹として生きている」

 

「その頃なんですか?お料理するようになったのも」

 

「ええ、義母さんのカレーを食べたら勇気ややる気が出るんです。俺もそんな料理を作りたいと思って、料理を勉強し始めました。後にボクシングを引退したら喫茶店を出したいという夢も持ってましたから、一時的に引退した時は第二の夢を叶えたんですよ。他のアイドル達には内緒にしてくださいね。俺の過去の話なんて誰かに聞かせられるような大層なものじゃないんですから」

 

「あはは…それはもう遅いかと…」

 

ちひろが一樹の後ろを指さす。一樹は気になりその指さす自分の後ろを見ると、そこにはCPメンバーとドラマ撮影メンバーがこちらを見ていた。

一樹はビクゥッと身体を震わせると「ハァ…」とため息をついた。

 

「どこから聞いてた」

 

「ごめんお兄さん…最初から最後まで聞いちゃった…」

 

申し訳なさそうに凛が答えるとみな薄っすら目元が赤くなっている。どうやらよほど感動したらしい。

 

「まあ、知って困ることじゃない…単に俺の過去の話が嫌だっただけさ…」

 

「でも、救われてよかったです」

 

卯月の言葉に一樹はすぐに訂正の言葉を口にした。

 

「何言ってんだ。俺はお前に救われたんだぞ。お前に出会い、お前と言葉を交わし、俺は島村として生きていくことを選んだんだ。言ったろう。櫻田一樹は死んだ。そして島村一樹を生み出してくれたのは紛れもないお前や義母さんや義父さんだ。感謝してもしきれないぐらいな。それに、お前らにも感謝してるぞ」

 

一樹の言葉を聞き、その場のアイドルたちはなんのことだというような顔をしている。

 

「ボクシングを引退してた俺は抜け殻だった。そんな俺を救ってくれたのは卯月を含めたCPメンバー…それにお前らアイドルたちが俺の闘志を呼び覚ましてくれた。お前たちの言葉がなければ俺は今もこうしてボクシングなんてやってなかったし、こんな風にドラマの撮影なんてこともしてなかったんだ…嫌々だったとは言え結構楽しいんだぜこの生活。小さなきっかけだったのかもしれない。だけど、俺にとっては大きなことだったんだ。だから言わせてくれ。『ありがとう』」

 

立ち上がり正面向かって頭を下げる一樹。それほど彼女たちの存在は一樹にとって大きすぎた。彼女たちの声が心に届き、ボクシングを再びさせてくれた。一樹にとって返せないほどの恩がこのアイドルたちにできたのだ。一樹はこのことを生涯忘れることは決してない。彼女たちは一樹にとって仲間であり信頼できる友人と化した。

そんな一樹からの信頼を受け取ったアイドルたちは一堂に照れ臭くしている。だが、卯月だけは違った。

 

「お兄ちゃん!」

 

卯月は一樹に飛びつく。一樹もそれを受け止め、卯月の髪をやさしく撫でる。

 

「何があっても、どんなことがあっても一緒です!」

 

「嗚呼、俺もお前らと離れるつもりはないよ…俺は島村一樹だ。誇れるようなことはない。俺はただただ前を見つめ正しいと思ったことをする…それが俺の、お前らに対する恩返しだ」

 

「「「おにいさああん!!!」」」

 

ついに感極まったアイドルたちは一斉に一樹に飛び込んだ。

 

「Oh…そんなにイッペンには受け止め切れな――――――」

 

そこで一樹の意識はブラックアウトした。最後に感じたのはドタドタドタという音と何やら柔らかいものが顔や腕や足やらに当たった感触のみ、だった。だが嫌な感覚はなく、一樹はただただ「幸せだなぁ」と思うことにした。

 

勿論ジムを休んだのは言うまでもなく、一樹は喫茶店に帰り営業準備をしていた。

 

 

 

 

 

 

時間は進み深夜11時。店じまいの支度をして食器を片付けていた頃、店の入り口からカランカランとベルの音が耳に入る。一樹はこんな深夜から客とは珍しいと思いながらカウンターに姿を現す。

 

「すいませんね。もう店じまいなんですよ…って…お前…」

 

「久しぶりだな…一樹」

 

「咲耶…」

 

そこにいたのは橘咲耶。アイドル橘ありすの実兄である。彼もプロのボクサー。今では日本フェザー級の現チャンピオンである。

彼は一樹と共に高みを目指した者同士。一樹と試合したことがあり、その時は最終ラウンドまで行き僅か一点差で一樹が勝利した。お互いライバルと言える存在だ。

 

「お前が来るなんて珍しいな…」

 

「…繁盛してるようだな…ドラマのおかげか?」

 

「言うな。俺も受けるつもりはなかったんだ。だが周りの勢いに飲まれた…俺の不甲斐なさが招いた結果だ…」

 

「わかってるよ…お前はそういう人間だ。どちらも両立させてるんなら俺は文句は言わんさ」

 

「そうかい…何か飲むか…積もる話もあるだろう…」

 

「ああ…」

 

一樹はビールが入った瓶を二つほど出し、二つのコップにビールを注ぎ、互いに乾杯する。

 

「お前とこうやって飲むのも何年ぶりだ?」

 

「2年ぐらい前じゃないか?お前の店で飲んだ…」

 

「そうか…」

 

「…」

 

「…」

 

会話が続かず二人は黙々とつまみを食べながらビールを飲む。

互いに気まずいような雰囲気が漂う中、口を開いたのは一樹からだった。

 

「妹の方はどうだ?ちゃんとしてるか?」

 

「ああ、相変わらずって感じだ…お前の方はどうだよ…」

 

「こっちも同じようなもんだ。お兄ちゃんお兄ちゃんって付いてくる。いつになれば兄離れできるのやら…」

 

「うちもそうだ…兄さま兄さまって言ってな…」

 

「「ハァ…」」

 

変なところで共感を持つシスコンブラザーズは深いため息を漏らしながらビールを飲み干す。

 

「そういえば、お前最近変わったことなかったか?」

 

「ドラマに出て俳優になった」

 

「違うそうじゃない」

 

一樹のボケを華麗にさばいた咲耶は少し身を乗り出し一樹に問いかける。

 

「この前お前を探してるって人間が現れた。一応知らないと答えたが…お前恨まれるようなことしたのか?」

 

「昔だったら思い当たる節はある。だが今はわからないな」

 

「そうか…なんかよくわからん男と女の二人組だ。男は中肉中背の小金持ちって感じの男だった。女は分厚い化粧をしてて派手だった…気を付けろ…それを伝えに来たんだ」

 

「そうか…助かったよ。気を付けるようにする…」

 

「そうしてくれ…勘定頼むわ」

 

咲耶が席を立ち、財布に手を伸ばしたが、一樹は手を前に出してその行動を制止させた。

 

「情報料として受け取れ。俺のおごりだ…それともう少し居ろよ。今からメシ作る。何も食ってねえだろ」

 

「…そうか、ならもう少し居よう」

 

ライバルと再会を果たし、二人の男は食事をして互いにくだらない話をする。それはひと時と言えど楽しい時間ではあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

忍び寄る影の存在に気付かず……。

 

 

 

 

 

 




~次回予告~

京介の第二試合が決まり京介はトレーニングに励む。一樹も負けずと奮闘する中、一樹の元にある人物が現れる。その人物は一樹にとって切っても切れない人物だった!

次回Round.20「家族の絆」

次回をお楽しみに!

ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.20

今回からシリアス展開!
しかもアイマスもボクシングも関係ねえ!!

りあむちゃん参戦の由来は番外編「アイドル達の出会い」その2をみてください!


京介の次の試合が決まった。

試合は11月20日。試合相手は京介同様アウトボクサー。ジムでビデオを見た限りはアウトボクサー系の動きだった。

京介はこれを見て猛特訓。一樹もそれに釣られるように特訓に励むようになった。

 

そんな一樹だったが、久しぶりに一樹は家族団らんを楽しむために自分の店に家族を招いて貸し切り状態にした。一樹は腕によりをかけた料理を家族の元に出した。

 

「おまたせ」

 

一樹が手に持っているのは『カレーライス』だ。それは一樹がこの家族に救われるきっかけを作ってくれたといっても過言ではない義母のカレーライス。直接義母から教えてもらった一樹の一番得意とする料理。

 

「ふふっ、なんだか昔を思い出すわね」

 

義母の言葉を聞き、家族になった日のことを懐かしむ。

 

「やめてくれよ義母さん…昔のことを出すなんてさ」

 

「確かに、あの時の一樹の泣き顔は忘れられないな」

 

「義父さんまで…」

 

そんな島村夫妻のからかいを受ける一樹はカレーを一口口に入れて照れ臭そうにする。

 

「でも私はあの日は大事な記念日だと思ってます!お兄ちゃんが家族になった大切な記念日です!」

 

そう、今日はその記念日。一樹が家族になった日だった。島村一家はこの日を記念日にし、毎年こうやって集まり家族団らんする日にしているのだ。一樹と同居しているりあむは流石に家族団らんを水差したくないと店から出ている。

 

一樹にとっては特別な日なのだ。

 

初めて家族と呼べる者ができ、

 

初めて家族と温かいご飯を食べ、

 

初めて人前で泣いた日。

 

「そうだな…」

 

一樹は懐かしそうな目をして皿に乗っているカレーをじっと見つめる。

 

「(いいなぁ…心地いい…)」

 

心から温かいものが胸の中からあふれるようなこの気持ち。一樹はこの時間が何より好きだ。ボクシングをしている時間より、俳優としてドラマ撮影している時よりもだ。

 

 

 

 

 

だが時にはその幸せと呼べる時間を壊すことも人は意ともたやすく行うことができる生き物なのだ。

 

カランカラン。

貸し切り状態と書かれているはずの店のドアが開く音が響き渡った。現れたのは女性と男性の二人組。

 

男性は中背小太りの小金持ちそうなガラの悪そうな男。女性は厚い化粧で身なりを整えた中年くらいの女。無断で入ってきた二人に島村一家の視線が集まる。

 

「何だ…?」

 

「お兄ちゃん…」

 

卯月は一瞬でその二人の違和感を感じたのだろう、一樹の服をキュッと握りしめる。

一樹は明らかに堅気の人間とは思えない二人の違和感を感じ取り、家族に手を上げさせないために立ち上がりその二人の前に立った。

 

「申し訳ありません。本日は貸し切り状態でして、御用なら後日改めて伺いますが…」

 

少し睨みを聞かせて一樹は二人を威嚇する。だがこんなもので二人は動じないだろう。もし手を上げるようなことがあれば、一樹はすぐにでも拳を握る。今はプロボクサーである一樹だが家族の危機ならプロの資格剥奪なんてどうでもいい。

 

「…逞しくなったわね…一樹」

 

厚化粧の女性がしゃべると

 

「はっ?」

 

一樹は拍子抜けな返事をしてしまう。

 

「まあ、覚えてなくて当然ね…アンタはまだ幼かったもの…」

 

幼かった。その言葉を聞き一樹の思考がすぐに理解した。できれば理解したくなかった。だがしてしまった。一樹の身体に電撃が走った感覚が起きた。

 

「…まさかだが…」

 

「そうよ。お母さんよ一樹」

 

その時、一樹の足元から何かが落ちるような感覚が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の時間は夕方18:00。りあむは頃合いを見て店に戻る手はずになっている。店の中は誰もいない。りあむは一樹から渡された合鍵を使い店の中に入る。

 

「ただいま~…お兄さぁ~ん…お腹空いたぁ~…」

 

ゆらゆらと厨房付近まで近づき声を上げるりあむだったが、店からは返事が返ってこない。それどころか人の気配が感じられない。

いつもならこの時間には一樹は夕飯の支度をしているはずだったのだが、厨房には誰もいなければここ数時間調理された痕跡はあるものの、調理器具が大雑把にその場に残っていた。

いつもなら料理しながら調理器具を片す一樹にしては珍しいことだった。

 

「…お兄さん…?」

 

一樹のことも心配だが自分の空腹をどうにかしたいのも事実。りあむは冷蔵庫の中身をあさるために冷蔵庫の扉を開ける。

 

「おお…!」

 

りあむの目に入ったのはラップで包まれたおにぎりが4つほどあった。そしてそれに備え付けるように

「りあむへ

 

 少し出てくる。帰りは遅くなるからこれを食べていてくれ

 

一樹より」

 

と置手紙もあった。

 

「やっぱりお兄さんすこぉぉ~!」

 

りあむはさっそくそのおにぎりを取り一口食べる。

 

「あむっ!……ん?」

 

そのおにぎりを食べた瞬間、口の中から甘みが広がった。

 

「…塩と砂糖…間違えてる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は22:00と遅い時間に一樹はいつもロードワークをしている土手道で一人黄昏ていた。

 

あれから一樹の心は最悪だった。母と名乗る女性。だが一樹はその人物が母と名乗った瞬間理解した。本当の母なのだと。

その母から告げられた言葉「家族に戻りましょう」一樹はそのことで頭がいっぱいになっている。明日のトレーニングのこととか、ドラマのこととかそんなことはもう頭にはなかった。

その日は卯月たちを帰してからずっと考えていた。

 

勿論一樹は今の家族が大事だ。だから実の母の誘いを断る気ではある。だが一樹は感じてしまった。

 

『本当に自分のことを思い迎えに来たとしたら』

 

「(考えたくねえ!!あいつは俺を捨てたんだッ…!!情を捨て去れ…!!)」

 

だが、決定的だったのは次の言葉だった。

 

『お母さん癌になったの…もう長くないって言われたわ…だから、最後に我が子と思い出を作りたいの…お願い…家族に戻って…』

 

実の肉親が癌。そして余命まで告げられた。

片手に持っていた電子タバコからカチカチという音が鳴り、ヒビが入り始める。やがて一樹の感情をあらわにするようにプラスチック部分が壊れそこから電子タバコ専用の液が雫となり地面に落ちた。

 

「(だが…何故俺の心は迷っている…!)」

 

 

その日、一樹は家に帰らなかった。

 

次の日、あるファミレスにて一樹は朝早くからコーヒーをすすりながら目の前の女性の話を聞いていた。今回は実の母一人だけ。昨日いた小太りの男性はいない。

久しぶりの家族水入らずと気を利かせたのか、それは定かではない。

 

昨日一樹の店に現れた女性だった。

 

「…昨日のこと…考えてくれた?」

 

「俺は…今の家族が大事だ…だから俺は再び櫻田として戻る気は、無い…」

 

「…つまり、戻ってはくれないってことね」

 

「…嗚呼…俺は…『島村一樹』だ…」

 

その言葉は精いっぱいの勇気を振り絞った結果だ。確かに一樹の実の母は幼い一樹に手を上げていた。そのうえ育児放棄に近いことをし続け、一樹を捨てて家を出た。だからと言って目の前で肉親を見殺しにして孤独のまま死んでくれと言っているのだ。

だが一樹も悩んだ。悩んだうえでの結果だ。

 

酷い親だったが、死期が近い肉親である母親にこんなことを言うのは酷だ。そう思うのは、一樹に人情があり、勇気があるということだろう。

 

「……はぁ~あ…ざあんねんだあなあああ~~!!」

 

実の母はまるで挑発的にそんな声を上げた。

 

「…せっかくアンタから金を毟り取れるように穏便にしてきたつもりなんだけど…」

 

「…は?」

 

「まあ、断るならしょうがないわね。なら強硬手段に出るだけだわ」

 

母はスマホで何か操作をしている。そして一樹にスマホのモニターを見せた。

そこに映っていたのは

 

「ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

りあむッ!!」

 

 

 

 

スマホの画面には縄で縛り、タオルで口をふさがれて数人の男たちに囲まれたりあむの姿だった。

 

「テメー!!」

 

「おっと…大きな声なんて出したらお母さん指が滑ってメッセージ送っちゃうかもよぉ~?」

 

スマホの画面を見るとメール製作画面に入っている。そのメールの内容には「その子は勝手にしていいわ」とメッセージが作られている。

 

「クッ…!!」

 

「言っとくけど、警察に言ってもこの子の安全は保障しないわ」

 

急展開過ぎて頭が回らないものの、今の状況を何とか理解する。今りあむは人質に取られている。だとしたら一樹は彼女の安全為にじっとするしかない。

 

「…何が望みだ…!」

 

「そうねぇ…アタシは今お金に困っててね、現金で5000万」

 

当然そんなお金は一樹にはない。しかも現金となるとすぐに用意できるお金でもない。

 

「そんな金はねえッ…!」

 

「ウソつきな。アンタプロボクサーの上に俳優してるんでしょ?ガッポリ稼いでるでしょうが」

 

「実の息子から金を毟り取るなんて…アンタ何考えてやがる…!!」

 

「実の息子だろうが可愛いのは自分自身よ。自分が生き残ればどうでもいいわ。子供なんて、いつでも作れるわ。三国志の劉備も、自分の子供より部下の安否を心配してたでしょ?あれと同じよ。今回は私が可愛いから子供を犠牲にするだけよ…」

 

一樹は静かに怒りを湧きあがらせる。

 

「こんの…クズがっ!」

 

「なんとでもお呼び…3日間猶予を上げるわ。それまでに金を用意しなさい。できなかったら…彼女の安全は保障しないわ…ウチには未成年でも興奮する男もいるからねえ…アンタの今の家族の妹もウチの男どもに受けそうだわ!」

 

「卯月に手を出してみろ!俺は顧みねえぞ!テメーを殺してやる…!」

 

「おぉ~こわっ!そんな息子に育ってお母さん悲しいわ…。マッ、お金のことはよろしくね~ん♪」

 

一樹の母親は席から立ち手をヒラヒラと振りながら店を後にした。

 

「チクショウ!!!!」

 

テーブルに拳をぶつけるとテーブルに大きめのへこみが作られた。怒りのあまりに握りしめる拳から血がにじみ出る。

 

「りあむ…ッ!!」

 

一樹は店を後にし、走り出した。

 




~次回予告~
実の母の裏切りによりりあむを人質に取られ3日間の間に5000万を要求される。

しかし誰の救援も受けれないこの事態に、一樹はどうするのか!?

次回Round.21「乱闘」

次回をお楽しみに!

ボックス!!


因みに、今回のお話はとある方から聞かせて頂いた実話を元に作らせて頂きました。本人にも許可をとっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.21

…あれ?これ龍が如くだったっけ?




~一樹side~

 

俺のせいだ…!俺の不注意でりあむに危険な目に合わせてしまったッ!全ては俺の身から出た錆。俺は走った。自分の店に戻りりあむの姿が本当にないか確かめるために。

 

戻ってみると、喫茶店は前の姿をしていなかった。蹴破られたであろうドアや割れた窓ガラスや皿のガラス。椅子やテーブルは無残に壊されていて木の木片が部屋の床に落ちている。

だが俺はそんなことどうでもよかった。りあむに与えた部屋を開けてみるとそこにはりあむの姿はなかった。

 

絶望という闇が俺の心を蝕み出した。

 

全ては俺のせいだ…あの女が現れた時すぐに決断を出さなかった俺のせいでこんな結果を出せなかった。冷徹になれなかった俺の落ち度だ!

 

俺の心はあの時迷っていた。今の家族が俺にとって本当の家族だ。

俺のぽっかり空いた心の隙間を埋めてくれた大切な恩人であり、大切な存在。だが俺はあの女の口車に心で俺の安っぽい情が俺の心を迷わせた。

 

『このまま肉親を見殺しにできるのか?』

 

などという感情を捨てきれなかった。

 

結果断るという答えを導き出した俺だったが、それでも、あの時、あの瞬間に答えを出すべきだったんだ!

そうすれば結果は変わっていただろう…。

りあむにとっての俺は恐らく良き理解者であろう。彼女の手首のリストカットをしたという事実、認めてほしい、存在を証明したいという昔の俺に似た境遇ゆえに彼女は全てを吐き出し、俺を慕ってくれていた。

 

だが結果としてどうだ?

 

彼女を守るためにこの店において置いた結果がこれだ。

怖い思いをさせた上に危険な目にもあった。彼女を見守り導くはずだったのに結果として俺の足かせのようなことになっている。

 

俺を慕っている彼女のことだ…俺の足を引っ張り申し訳ないと考えているだろう。だがそれは俺も同じこと。

 

俺は彼女に合わせる顔がない…正直今の状態ではどうしようにもできないのは明白だ。

 

俺は通帳を取り出して残高を確認する。

 

これまでのファイトマネーや俳優出演料、この店の売り上げや予算などを全部総合して置いている自分自身の蓄え分の通帳の中に入っている金は合計3000万。

これがなくなれば文字通り俺は一文無しの上に店を畳むことになるだろう…だがりあむの安全のためなら俺はそれでもかまわないと思っている。しかしこの金を持って行っても約束の金にはなっていない。あと2000万必要なのだ。

 

警察に言えばりあむの安全は保障されない。かといってこのことを他の誰かに言った瞬間周りはパニックに陥り尚且つ警察の耳にも入りそうだ。

迂闊な行動ができない。俺は頭を抱えて悩んだ。常連客がこの店の惨事を知れば必ず警察が駆け付ける。その上俺は居れば必ず事情聴取にも入ることになる。今こんな状況でそんなことになるのは時間的に惜しい。

 

俺は通帳や貴重品などを荷物入れに入れて店を出ることにした。

 

逃げるわけじゃない。りあむを置いていくつもりもさらさらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は急いでこの場から逃げるように走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一樹が帰らなくなり既に二日経った。当然店は警察に通報されており警察により卯月たちは事情聴取を受けることになった。

346プロダクション内の緊張も高まっていた。一樹の店は謎の襲撃を受け、りあむと一樹も行方不明だ。誰もが心配と不安に駆られた。

 

外では曇り切った空から雨が降り、雷が鳴っていた。そんな状況の中、静まり返ったプロダクション内。中には職員でさえこのことで手が回らない状態になっていた。

 

「大丈夫かな?お兄さん…」

 

末央の一言を聴き、皆はさらに顔を暗くさせてしまう。不安だ。心配だ。恐怖すら感じる。

 

一番信頼して頼りのみんなの兄がいなくなる。それは歳儚い少女たちの心には大きな不安しか残らない。

 

雨は強さを増していく。それは、今の少女たちの心境を現すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、ある人気のないところに一軒の事務所が立っていた。

 

そこに雨に打たれながらそのビルを見上げるフードを被った青年の姿があった。

青年は握りこぶしを固め、その事務所に入るために歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

「待ってろりあむ…すぐに助ける…」

 

フードが風で靡き、青年の素顔をあらわにした。

 

前までのやさしい顔をした母性にあふれている一樹の姿はそこにはなく、唯々眼前の守るものの為に鋭く冷徹な目つき、殺意や憎しみを満たしたどす黒い犯罪者のような顔をした、一樹の姿がそこにあった。

 

一樹は意を決し、建物のドアノブに手を置き、ゆっくりと開いた。

 

扉を開くと数人のガラの悪い男どもが立っている。そして一樹に視線が集まり目の前まで歩いてくる。

 

「…どちらさんでしょうか?」

 

ドスの聞いた声で男は一樹に問いかける。普通の常人ならここで逃げ出すだろう。だが今の一樹にはそんなものは通用しない。一樹は男たちをにらみながら言葉を口にしていく。

 

「…下っ端には用はない…上のモン出せ…」

 

「…んだと?」

 

その言葉を聴き三人ほどの男あたちが一樹を取り囲むように立った。

 

「…痛い目にあいたくねえなら回れ右してさっさと帰れや。最後のチャンスだ」

 

「そうか…チャンスをくれるのか、だが俺はやさしくねえからな。一度しか言わなかったぞ…」

 

バチィン!!

 

一樹の目の前の男の顔にはいつの間にか拳が突き刺さっていた。

 

「あ…りぇ…?」

 

殴られた本人でさえ気づかなかった高速に繰り出された左ジャブ。だがその拳は固く、力強く握られていた。

 

殴られた男はそのまま後ろに倒れこみ、鼻から鼻血をダラダラたらしながら気絶した。

 

「て、テメー!」

 

職員の一人が倒されたことにより他の職員は拳を構えだす。

だが一樹はそんなことを気にせず、ただ眼前の敵をにらみ続けた。

 

「こ、こんなことしてただじゃ済まされねえぞ!テメープロのボクサーだろ!?こんなことしたら資格剥奪だぞ!?」

 

「それがどうした…目の前で大切なもん守れずに何が兄貴だ…何がプロボクサーだ…栄光の為に守れるものが守れねえんなら、俺ぁ資格なんてどうでもいい…社会復帰できなくても、自分の名前を捨てることになっても構わねえ…」

 

「な、なんだコイツ…!狂ってやがる…!」

 

「かかってこいや…テメーら全員皆殺しだ…!」

 

狂気にかられた男の拳が赤く染まり、外では雷鳴が轟く。

 




~次回予告~

事務所に殴り込みをかけた一樹。りあむを助けるべくその拳を喜んで血に染める。
その先に待つのもの一体何なのか?

守るものとはなんなのか?

次回Round.22「守るもの」

次回をお楽しみに!

ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.22

気づけば10000文字近く打っていました。
本日で襲撃編終了になります!



「でいやああああ!!!」

 

雨と雷鳴がなる中、人気のない事務所で一人の青年が拳を振るう。

その拳は一度大きく振るった瞬間、3人ほどの男が吹っ飛ばされた。

 

「もっと数呼んで来い!数で押し切れ!!」

 

一樹の足元には既に10は超えるであろう人間が倒れている。一樹は肩で息をしながら次の標的を見る。

 

「チッ…!ウジ虫みたいに湧いてきやがって…!そんなんじゃ俺は止まらねえぞぉぉ!!」

 

一樹が叫んだ瞬間それを合図とするように一人の男が飛び込んでくる。男の振るう拳を受け流し横腹に一発拳を入れた後によろめいたところに顔面を殴り、男を吹っ飛ばす。

 

続いて次の男が一樹の腹めがけて掴みかかるが、膝と肘で頭と顔を挟むように殴打を入れる。掴んでいた力がゆるみ、体の自由が効き、すぐに男を蹴り飛ばした。

 

「何なんだこのガキ!」

 

「強ぇぞ!」

 

拳を再び構えなおし、一樹はしゃべっていた男の懐に素早く入り込み拳を叩き込み続けた。

 

「どけええええええ!!!!」

 

一人の構成員の男が扉を開いた。

その構成員の手には黒く輝く銃身。ショットガンが手に持たれていた。

 

「チィッ!」

 

一樹は近くにいた構成員の胸倉を掴みショットガン持ちの男が引き金を引く前にその男を盾にした。

プシュン!!

と火薬の炸裂音とは違う音と同時に一樹が掴んでいた男が苦しみの表情を浮かべた。

だが男は無事だ。血も出なければ返り血も出ない。

 

「ゴム弾か!俺ぁルークでもなければドウェイン・ジョン〇ンじゃねえぞ!」

 

すぐにつかんでいた男を撃ってきた男に投げ飛ばし、バランスを崩させ、よろめいた男に瞬時に距離を掴んで腕に持ったショットガンを掴み近くの柱に向かって投げ飛ばし、背中を殴打させる。

 

「配達どうも!」

 

手に掴んだショットガンをポンプアクションを行い次弾を装填させると、前にいた男に銃口を向けて引き金を引いた。

 

ゴム弾は立っていた構成員の肩に当たると苦痛で悶え始める。

 

ゴム弾とは暴徒鎮圧用に開発された非殺傷弾。主には警察組織などが使うもので、非殺傷とはいえその威力は絶大。普通の人間が受ければ骨が折れたりもするものだ。激痛が走るのも無理は無い。

 

次弾を装填するためにポンプアクションを行い、銃身にある弾を撃てる状態にし、突っ込んできた男の足を撃ち、ショットガンの持ち方を変えて男の頭にショットガンのストックを叩き込んだ。

 

「ぬあああああああ!!」

 

「ギィ!?」

 

あまりにも強い力で叩き込んだことによりショットガンのストックが割れる。

一樹はショットガンを乱暴に地面に叩きつけ、完全に銃をお釈迦にする。

 

その時点でその場に立っているのは一樹だけ、辺りは気絶するもの、痛みで悶えるものしかいなくなった。

 

「…結構デカい組織らしいな…だがあの女は何故俺から金を取る必要があるんだ…」

 

乱戦によりドバドバのアドレナリンを理性で取り除き、冷静に分析を始める。

この組織は間違いなく裏社会の住人であることは間違いない。言い方を変えれば極道だ。だがショットガンを持っているということは資金は1000万ほどはあるはずだ。だがこんなことをしてまで5000万の大金を何故欲しがるのかがわからない。

 

「考えるにして…こいつら三次団体の人間か…?」

 

考えられることは一つ。今一樹が襲撃をかけている団体は別の枝分かれした組織であること。

組織とは大きくなると必ず規範となる大きな組織、それを枝分かれさせるように統治させる組織が存在する。それを二次団体組織、三次団体組織、四次団体と別れさせ勢力を広がせる。それが裏社会の組織だったりする。ある程度大きなこの組織、この組織は二次団体か、三次団体に位置する人間ということだ。

となれば一樹の金を狙う理由。それは上の組織に渡すための上納金

アガリ

が目的だったら話はつく。

 

「…考えても仕方ねえか…とりあえず、上に行こう」

 

一旦考えることをやめ、一樹はとらわれているりあむを救出するために一樹は建物の階段を使って上の階に上がった。

 

 

 

 

 

 

一樹の事務所襲撃を行っているその頃、346プロダクション事務所では他のアイドルたちが集まり不安の様子を浮かべていた。

 

「お兄さん…」

 

卯月たちも今は事情聴取を終え、安全の為に346プロダクションに退避している。それは島村夫妻も一緒だ。一樹の店の襲撃があった以上島村一家にも危険が無いとは言い切れない。人が多い346プロダクションならまず大丈夫なはずだ。

 

「…一樹は…一体どこに…」

 

父の口から出た言葉は誰もが思っていることだ。一樹の店が襲撃され、店の中の人間は行方不明。何かヤバい組織に狙われている。だが三人はこれまでの一樹の行動からしてもそんな素振りはなかった。誰かに恨みを買うようなこと、誰から狙われるようなことはしていない。だとしたら考えられるのは…

 

「3日前…」

 

一樹の店に現れたあの女。

 

バァン!!

 

事務所のドアが勢いよく音が事務所に響く。

そこにいたのは

 

「ハァ…ハァ…」

 

息を切らし、ずぶ濡れの咲耶がそこにいたのだった。

 

「貴方は…現フェザー級日本チャンピオンの…」

 

「ハァ…ハァ…一樹は…どこだ!」

 

「えっ…?お兄ちゃん?何か知ってるんですか!?お兄ちゃんのこと何か知ってるんですか!?」

 

咲耶は自分の手に握られた携帯をその場の全員に見せた。

携帯のディスプレイには今日送られたメールが開かれて送り主は一樹の名前が入っており、

 

『卯月たちを頼む』

 

の一言だけが書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

部屋の中ではカチカチと時計の音だけが鳴っている。

その部屋にいるのは一樹の店を訪ねた大男と一樹の実の母がタバコを吹かしている。

 

「…明日ね。あの子が金を持ってきたらジャックあなたは組の直径組員。これでようやく私たち幸せになれるわね」

 

「…本当に大丈夫なのか…たかが20前半のガキだ…そんな大金を持ってるように思えんが…」

 

「大丈夫でしょ?今やあの子は売れっ子俳優よ?5000万なんて屁でもないわ。それに、こっちは人質がいるんだしね」

 

「…それが一番のヤバイ点かもしれんぞ」

 

「どういうこと?あの子がここに乗り込むとでも?できるわけないわよ。プロのボクサーだかなんだか知らないけど、ここは締盟組の事務所よ?そんな大きな組織の三次団体とは言え、そんなヤバイ組織に喧嘩ぶっこむ度胸なんてあの子にはないわよ」

 

「…ああいう人間は守るものの為に命を懸けるような奴が多い…お前が独断でやった行動は、鬼の巣をつついてしまったもんだ…」

 

「はぁ?もしかしてビビってるとか?」

 

 

 

『あ?なんだテメー…下の奴らはどうした!?』

 

組の事務所の迎えの控室。そこには組員たちの待機場は存在する。

そんな控室から聞こえる声は次第に怒号に変わる。

 

『テメー!ギャッ!?』

 

怒号は悲痛な叫び声に変わる。

 

『な、なんなんだテメー!!ぎゃあああ!!!!???』

 

「ほら出た…鬼が…」

 

「ぐあっ!」

 

扉をぶち破って入ってきた顔面を血で染めた構成員。そしてその後から一人の男が入ってくる。

頭に被っていたフードを取り、顔を露わにする。

 

「ヒッ」

 

一樹の実の母がおびえた声を上げた。そこにいたのは、

 

 

 

 

 

顔や拳に返り血で赤く染めた(一樹)がいた。

 

 

 

 

 

 

「りあむを返せ…出ないと…俺はテメーらを殺す」

 

「…随分と態度がでけーなクソガキ。お前誰を敵にしたと思ってんだ…」

 

「…知るか有象無象どもがぁ…りあむを返せ」

 

組長らしき男は立ち上がり一樹の前に立った。一触即発の状態である。

 

「あ、あ、あんた!どうなるかわかってんの!?ジャックの組にこんなことしたらあんたの人生全部———」

 

「黙れ」

 

実の母親に殺意と憎悪を混ぜた視線を向ける。一樹の母親は一瞬で黙り込み、怯えた。

 

「どうなるかだって?知ったことか。俺が一線超えようがそんなのどうでもいい。テメーらは既に一線超えてんだよ…ヤクザが堅気を拉致って堅気の金を巻き上げる…俺はそんなことに怒ってんじゃあねえ…俺が怒ってんのは…なんの関係もねえりあむを巻き込んだことだ…安心しろよ…テメーら生きて返さねえからよ…ヤクザだったら、『落とし前』をキッチリつけてもらう」

 

「…その根性と度胸は称賛に値する。だがお前の行動は実に愚かしい。俺を倒してここからガキを助けたところでお前が狙われるのは変わらんぞ」

 

「……」

 

「…俺は締盟組の三次団体組長…雷詩電だ」

 

「……なるほど、雷電で、ジャックか…」

 

「ふ、ふん!ジャックはプロのボクサーにボクシングの手ほどきを受けてるわ!しかもヘビー級よ!あんたなんか返り討ちよ!」

 

ヘビー級。それは男子ボクシング全17階級の中で二番目に重量級の階級。この上にはスーパーヘビー級というものが存在しそれが最重量級の位置に立っている。フェザー級とヘビー級。ウェイトが全く違う分パンチ力も凄まじい。

詩電は拳を構えて足を動かした。フットワークは本当にプロではないとは思えないほどの足さばき。一樹はジッと詩電の構えを見て

 

「あっそう」

 

あっけらかんと答え、拳を構え頭を振り出した。ピーカブースタイルだ。

二人の中には今リングがあった。徐々に間合いを詰めだす詩電。

詩電はある作戦がある。ピーカブースタイルには弱点がある。それは撃たれ続けること。どんなに強固な鉄壁も当て続ければ綻びが必ず出てくる。一樹の構えている腕のどちらかに集中的に撃ち続ければ当然痛みにより腕は重くなる。しかも詩電の破壊力はヘビー級に教えてもらったことにより破壊力は絶大だ。

 

一樹の一瞬の隙をつけばあとは畳みかければいい。詩電はそう考えていた。

 

そして、その瞬間が訪れた…

 

「(ここだ!)」

 

左のジャブが一樹に目掛けて放たれた。

 

ドゴォォォォォッ!!

 

まるで鈍器か何かで殴られたような一撃と白い歯が一本血と共に宙に舞った。

 

「ウッソ…」

 

男がダウンした。膝をついたのは…詩電だった。

 

「う…ぐぅぅぅぅぅ…!」

 

「イキがんじゃねえよ…ど素人が」

 

口から血を流し、倒れこむ詩電。それを睨む一樹。

 

「どう、いうことよ!どう、して…!」

 

一樹の母親は当然の質問を一樹にぶつける。怯えのせいで声は震えているが、どうしても言いたかった。

 

「オイオイ、舐めたこと言ってんじゃねえぞ…こちとら何年ボクシングしてると思うんだ?自分の弱点が何なんのか研究しねえと世界なんて狙えねえよ…テメーのボクシングは確かに綺麗だ。フットワーク、ジャブを撃った時のフォーム。全てが基礎通りの動きだった。だが…お前は本物のボクシングってものを知らねえ。言えば付け焼刃のボクシングだ…そんな素人に俺がぁぁぁ…!!」

 

一樹の足が前に進んだ。低い姿勢で一樹の拳が詩電の目の前まで迫っている。

 

「負けると思うなあああああ!!!!!」

 

渾身のアッパーが詩電の顎に突き刺さり、詩電の巨体が宙を舞った。そして事務所の組長の机に身体がぶち当たり、椅子に座った。だが、詩電に動く様子はない。体をビクビクと痙攣させ、目は白目を向き、口からはブクブクと泡を吹いている。

 

再起不能状態だ。

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

一樹の母親は怯えた。期待していた詩電があっという間に返り討ちにされたのだ。部屋の隅に座り込み、体をぶるぶると大きく震わせる。

詩電が再起不能に陥ると一樹は次に実の母親を睨む。慈愛などない。慈悲もない。瞳孔が開ききり、殺意が体中から出ているようにどす黒い感情が彼の身体から出ていた。

 

「来るなぁ!悪魔ぁぁ!!」

 

目の前まで迫った一樹の皮を被った何か。

 

うるさい

 

ガァァン!!

 

一樹の拳が壁に当たると、小さな穴が壁は拳がめり込み、パラパラと壁の破片が落ちる。

 

さあて、我が母よ…テメーらの企みはもう下の部下がベラベラ喋ってくれたぜ…三次団体が上の組織に成り上がるにはカネが必要だよなぁ…だからこそ上納金(アガリ)が必要だ…だから俺のカネを使い上へと昇り詰める…要点を取ればこんな感じか?だが、そんなお前らに質問だ…三次団体のテメーらがどうして5000万ぽっちのカネで直径組員になれると思ったぁ…?

 

「えっ…」

 

お前らは三次団体だ…だからこんなはした金で上へ登れると思うかぁ?直径組員は組織にとって基盤にも等しい。下の奴らに聞いたが、お前ら組み立ち上げて間もねえらしいじゃねえか…新参の組がいきなり直径団体として招かれたら他の組員はどう思うんだろうなぁ…しかも直径組員はたかが数千万の金なんて眼中にねえ筈だ。5000万のカネなんて組織からしたらはした金に等しいんだよ。よくて二次団体に格上げが組織としては望ましい。だがお前らはどこでその5000万という数字をたたき出した…まさかだが…それで直径組員になると頭の中で勝手に思ってんのか…?

 

「い、いゃ…それは…」

 

「滑稽だな…組織のことをまるでわかってねえな…まあいい…じゃあ本題に入ろう……

 

 

 

 

 

りあむはどこだ?

 

 

 

 

 

 

りあむは店にいる際に襲撃に会い、拉致された。今は小さな部屋で二日間も缶詰状態。暗く、狭い部屋はりあむの心を絶望色に変えていく。日の光もなく、唯々暗い視界の中でりあむが思い浮かぶのは自分の良き理解者である一樹のことばかり。

 

一樹が無事なのか?助けに来てくれるのか?淡い期待をずっと待っていた。しかし、時間が経つにつれてその考えがなくなり、絶望ばかりを思う。

 

「…会いたい…」

 

りあむの瞳から涙があふれる。

 

一樹に会いたい。その一言が自然と口から漏れる。

 

「会いたいよぉ…お兄さん…!」

 

「嗚呼、ここにいるぞ」

 

伏せていた顔を上げると、そこには光があった。

光はそっと手を伸ばし立っていた。

 

「お、兄…さん」

 

「遅れてすまん…助けにきたぞ…りあむ」

 

「お兄さん!!」

 

りあむは気づいていた時には一樹に抱き着いていた。

同時に大粒の涙がとめどなく出ていく。

 

「怖かった…!ひぐっ…怖かったよぉ…!」

 

「すまん…りあむ…」

 

恐怖から解放されたりあむを一樹はやさしく抱きしめ返した。

そして同時に、一樹の目からも涙が流れる。

 

「ホントに…無事で…よかった…!」

 

 

 

 

 

 

 

りあむを連れて一樹は監禁していた部屋を出る。りあむに自分がさっきまで来ていた上着をりあむに羽織らせ、肩を支えながら出てくる。

 

「どう…してよ…あんたさえ居なければ…」

 

「…」

 

まだ部屋の隅で泣いている実の母。だが一樹にとってもうどうでもいい存在である。

 

「…あんたなんか…生まなきゃよかった…!」

 

「…寂しい奴だ…」

 

「あんたなんかわからないでしょうね!貧しい場所で生まれ、なんの成果も残せずに歳をとって!どうでもいい男の子供を産んで、貧しくて苦しい生活をずっと送った私の気持なんかあんたにわからないわよね!

 

あんたは疫病神よ!あんたのせいですべて台無しよ!生まれてくるべきゃなかったのよ!この悪魔!!」

 

「……それでも、俺はよかったような気もするよ……。例え貧しかろうと、俺を生んでちゃんと育ててくれれば、俺はねじ曲がらずに母の為に生活をしてたような気がする。それが親子ってもんだから……だが俺はもう櫻田一樹じゃない。櫻田一樹は、あんたが俺を捨てて姿を消した時に死んだ。俺は…俺は島村家長男島村一樹だ。あの一家に出会い、俺は本当に幸せだ…だから…あえて俺はこの言葉を口にするよ……

 

 

 

 

 

――――生んでくれて、ありがとう。母さん」

 

母に向けたその笑顔は、先ほどの殺意と憎悪に染まった顔ではなかった。それは、慈愛に満ちかえったいつもの一樹の姿だった。

母はその姿を見て、再び俯き、涙を流した。

 

一樹はりあむを連れて事務所を後にした。

 

 

 

雨がすっかり止み、空には青い空が雲の隙間から覗いていた。二人は人気のない路地をゆっくりではあるが歩き続ける。一樹もりあむのペースに合わせて歩幅を合わせて歩いていた。

 

「…よかったの?お兄さん…お母さんなんだよね…?」

 

「…ああ、もう親子の縁は切ってるからな…この先あの人がどうなろうが、俺は知らない。どうせ癌がどうのこうのもウソなんだから。今は赤の他人だ。それに、俺はあの人に生んでくれたことは感謝はしてるが、お前を拉致ったことに関して許したわけじゃない。その後野垂れ死のうが、本当に病気で死んでいようが、俺の知ったことじゃない」

 

「…厳しいね、お兄さん」

 

「本当なら俺はあの場の人間全員殺そうと思ってたんだ。だが咄嗟に無意識にブレーキかけてたみたいでな…殺せなかった…これでも慈悲深い方だと俺は思うよ」

 

「…それならいいんだけど…お兄さんどうするの?ボクのせいで…お店…それにボクシングは…」

 

「俺はお前が守れたんならそれでいい。店も、ボクシングも、守るものを守れる代償なら安いもんだ…俺は目先の大事なもんを守れれば、後はどうでもいい。まあ、復帰早々乱闘騒ぎだ。資格は剥奪間違いなしだろうな…店は…修繕費メチャかかりそうだな…」

 

などと少し間抜けたことを口にしているが、全てはりあむを気落ちさせないように言ってる気使いだ。それは普段空気が読めないようなりあむでもすぐに気が付く。一樹もショックであることは違いない。

 

「…これからのことを考えるにりあむ、もうお前を島村喫茶に居させることはできない」

 

「…」

 

当然のことだ。今回の一件で一樹は三次団体の組を一つ潰した。これに関して組織のメンツは丸つぶれ。必ず組織の返しが来る。もう一樹は島村の姓も捨てる覚悟でいるのだ。

 

一樹が払った代償はあまりにも大きい。ボクシング資格剥奪。島村喫茶閉店。そして島村としての姓を捨ててしまう。あまりにも大きすぎる代償だ。

 

「俺はこの街を離れる…どこか離れたところ…そうだな、外国にでも出ていく気だ。お前は普通の、元の生活に戻れ…」

 

寂しい表情で問う一樹の姿。この街を離れる。その言葉がりあむの心を苦しめた。

 

「嫌だ…」

 

「ッ…?」

 

「嫌だ!お兄さんと離れるのも、この街からいなくなるのも絶対嫌だ!警察に言えば保護してくれるはずだよ!だから、ボクを置いていかないで!みんなを置いていかないでよ!」

 

「りあむ…」

 

信頼してくれる後輩の言葉、それは一樹の心を揺らがせる。だが決心は変わらない。

 

「ダメだ…俺はこの街に居られない…俺は、お尋ね者なんだよ。これ以上この街に居れば他の人に迷惑がかかる。俺はそっちの方が嫌だ…お前や義母さん、義父さん、卯月や346プロダクションのメンバーに迷惑かけたくない…わかってくれ…」

 

離れたくない。それは一樹も同じ気持ちだ。だが一樹の心はもう決まった。頑固な性格は誰に似たのか、そんなことを思ったその時だった。

 

「その必要はねえぜ」

 

人気のない路地から一人の紫色のスーツを着た男が現れた。その姿、立ち振る舞いは如何にも堅気のそれじゃない。気迫、立ち振る舞い、間違いなく組の直径団体か、それ以上か。

一樹はりあむを後ろで隠すように前に立つ。

 

「さっそく組織の耳に入ったか…お早いことで」

 

「そんなに警戒することもねえよ。もっと気楽にしてくれや、兄ちゃん」

 

「……」

 

「まあいいわ。今回の一件は全て不問とす。それがウチの親父の伝言だ」

 

「随分と物分かりがいいな…俺は三次団体一個潰したんだぞ?それがしっぺ返し無しとはどういうことだ…?」

 

「ハン、今回は堅気から金巻き上げようとした雷の落ち度だ。堅気に迷惑をかけたとなっちゃあそれこそウチのメンツ丸つぶれだ。だから穏便に済ませたいんだ」

 

「アンタらがそれでいいならいいが、警察が黙ってねえだろう」

 

「ウチくらいのデカい組織にもなれば多少融通が利くんだ。まあ、簡単に言えば隠ぺいだな。もう手続きもしてる。そっちの店の被害額もウチ負担で出してやるよ。勿論、ケジメだから雷持ちだ」

 

「…どうもピンと来ねえな。そんなことして何のメリットがアンタらにあるんだ。俺はただの一般人だ」

 

「……ハァ…面倒なあんちゃんだぜ…ウチの親父がアンタのファン…とでもいえば納得してくれるか?」

 

「…」

 

「…」

 

男を静かににらむ一樹だが、不思議と男の言葉にはウソとは思えなかった。男のまっすぐな目に、一樹は信頼しようという気にさせた。

 

「わかった…このことは不問。そしてこのことは他言無用…」

 

「わかってくれると嬉しいね」

 

男は懐からタバコを一本取り出しそれを口に咥えて火をつけた。白く濁った煙を口から吐き出し、男はきびつを返して背を向けた。

 

「もう一つだけ質問だ」

 

男は足を止めて一樹に視線を向ける。

 

「何だ?」

 

「アンタの…名前は?」

 

「俺か?俺は締盟組の組長代理 鬼島柊真だ」

 

組長代理とは、文字通り組長の代理にして組のナンバー2ということ。そしてその名前で一樹は信頼に値する人物であることを心から再確認した。

 

「ありがとう」

 

「礼には及ばんさ…今度サインくれよ。親父が喜ぶ」

 

男の後姿をずっと二人はその姿が見えなくなるまで見続けた。

 

こうして、一連の事件は終結した。

 

346プロダクションに戻り、一樹は元気な姿を皆に見せるために。

 

正直一樹も顔を合わせづらい。これだけ心配をかけたのだそれもそうだ。意を決し一樹は事務所のドアノブを握り、ドアを開けた。

 

「……お…兄…ちゃん」

 

すぐに飛び込んだのは卯月の泣き顔だった。一樹は指で顔をポリポリと掻きながら

 

「おっす…」

 

と返事をした。

 

「お兄ちゃぁぁぁん!!」

 

泣きながら飛びついてくる義妹に驚き尻もちをついた一樹はそれでもしっかりと卯月を抱きしめる。卯月も涙を流し泣きながらしっかりと一樹の身体を抱きしめる。

 

「卯月…スマン…心配かけて…」

 

感動の再開。それは事務所のみんなが涙を浮かべた。

そして一樹の傍まで来たのは島村夫妻。

 

「(義父さんの拳骨が飛んでくるだろうな…)」

 

などと思いながら一樹は目を閉じてその痛みが来るのを待った。しかし、次にやってきたのは、身を包んでくれる夫妻の姿だった。

 

「よかった…本当に…無事でよかった…!」

 

「ええ…本当に、よかったわ…!」

 

その温かみは一樹にとって涙を流すに値する出来事だった。不安、怒り、嘆き、そんな感情がすべて洗い流されるような感覚。

 

「我が子よ…!お帰り…!」

 

我が子。その言葉がどれだけ嬉しいものなのか、24年間生きてきた中で最高にいい言葉だった。

 

その瞬間、全ての力が抜け、一樹も涙を流した。子供の様に、しっかりと自分の身を包んでくれる家族を抱きしめ返し、泣きながら口を開いた。

 

「ああ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはさて置き…」

 

と抱きしめていた島村父が一樹から離れ…

 

パァァァァン!!

 

「へぶっ!?」

 

一樹にビンタを喰らわせた。

 

そしてそれを見ていた島村母も

 

パァァァァァン!!

 

「へぐぅッ!?」

 

ビンタを喰らわせた。

 

「皆を心配させた罰だ」

 

「えぇぇ…」

 

さっきまでのお涙頂戴の展開はいずこに、一樹は左頬を手で押さえる。

 

「じゃあ私もやっておこうかな」

 

と凛が前に出て一樹の右頬を

 

パァァァァァン!!

 

「ギエッ!?」

 

ビンタした。

 

「おい!左頬にビンタ喰らったのになんで次は右頬なんだよ!?」

 

「聖書にもあるでしょ?左を叩かれたなら次は右を出しなさいって」

 

「何その理屈!?」

 

「あっ、しぶりんずるい!じゃああたしも~!」

 

パァァァァァン!!

 

「ごえっ!?ホンダァァァァ!!」

 

それにつづいていくようにその場にいたアイドルは「私も私も」という感じに一樹にビンタを喰らわせていく。

全員がビンタし終わる頃には一樹の頬はパンパンに腫れあがり、見るも無残な顔になっていた。そこに追い打ちをかけるように咲耶もやってきて

 

バシィン!!

 

「おごっ!?」

 

左ジャブを一樹にかました。

 

「問題を相談もせずに全部ひとりでしょい込みやがって…本当ならストレートを放ちたいがジャブで勘弁してやる」

 

「ビンタにしろよ!?」

 

 

 

 

 

 

警察はこの事件の全てを隠蔽した。今回の店の騒動をちんけな強盗の襲撃であることを発表。犯人もでっち上げ、マスコミに信じ込ませた。あの鬼島という男の言った通り全て真実を闇の中に葬り去ったのだ。

 

一樹の店も修繕作業も滞りなく行われ、一週間もしないうちに店を元の綺麗な状態に戻した。だが、ボクシングジムの里中会長からはどうあれ暴力で拳を振るったという事実から一か月の出入り禁止を言い渡された。

店が復旧してすぐにりあむも再び店に戻り、いつも通りの生活に戻る。

 

そこには伊達メガネをかけ、コーヒーを啜りながら新聞を見ているいつもの一樹の姿がそこにあった。新聞にはなんの変哲もないニュースなどが書かれており、それをゆっくりと見ている。

 

「お兄さぁぁ~ん…お腹空いたよぉぉ~」

 

だらけた姿で出てきたりあむの姿を見て、一樹はフッと笑いながら伊達メガネを取り、新聞を折りたたんでテーブルに置いた。

 

「今起きたのかお前…もう昼前だぞ…夜更かししてたお前」

 

「いいじゃん休日にはたまに夜更かししても…それよりさ、お昼ご飯何?」

 

「アイドルのセリフじゃねえな…今日の昼は餃子だ」

 

「餃子!?やったぁ~!お兄さんマジすこ~♡」

 

「いいから顔洗ってこい!」

 

青年の大切なものは守られた。そして彼はその大切なものを一分一秒でも大事にしていき、その時間を島村一樹として噛みしめていく。

 

彼は島村一樹。島村喫茶店主にして俳優。そして、フェザー級プロボクサーである。




〜次回予告〜

店を再開させた一樹だったが、ボクシング出入り禁止1ヶ月は一樹にとってとてつもなく長く感じていた。そんな一樹の為にアイドルたちはある作戦を決行する!

次回Round.23「聖母ですか?いいえ、ボクサーです」

次回をお楽しみに!

ボックス!!

今回の一件でりあむちゃんの好感度爆上がりですね。
ですが一樹にとってりあむはもう1人の妹のようなものなのでやましい気持ちは一切持っていません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.23

ネタを絞り出したらこうなった






どうしてこうなった?


「ねえ、起きて。オッキだよキミ」

 

誰かの声と共に身体を揺さぶられ意識を夢から現実に引きずり戻されるのは髪を横におさげの様に髪を括って寝間着用のジャージを着たプロボクサー島村一樹。

彼が目を覚めると部屋は自分の部屋ではなく、誰かの部屋。一樹は下半身に違和感を覚えながら声をかけてきた人物を視界に入れるために顔を横に動かす。

そこにいたのは赤いコスチュームに身を纏い背中には二本の刀を差し、腰辺りには銃弾を括りつけたベルトを身に着けた変質者がいた。

 

「…アンタ誰だ無責任ヒーロー」

 

「AHAHAHA、そのセリフを知ってるってことはキミ俺ちゃんを知ってるだろ。お話タイムだぞ~」

 

「…ここどこだよ…誰がこのジャージ着せた?」

 

「俺ちゃん」

 

「何で上半身来てて下は何も履いてねえんだよ」

 

「キミのヘビー級のパンチが俺ちゃんに牙をむいたから」

 

「意味わからんわ」

 

話が通じないであろう赤いコスチュームを着た無責任ヒーローに構ってられないと判断しベットから降りようとしたが…何故か下半身は動かせずテープでぐるぐる巻きにされていた。

 

「…オイ何だよこれ」

 

「だから言ったでしょ。お話タイムだって…聞き終われば斬り離してあげる」

 

「オイ字が違うだろうが。俺の上半身と下半身を切り離すとかは無しだぞ!」

 

「オイオイオイオイ!俺ちゃんがそんな野蛮なことすると思ってんのかよ」

 

「してるだろうが!…あっでもお前は映画だとされる側だったな」

 

「あっ!テメ!言っちゃいけねえことさらっと言いやがったな!」

 

「どうでもいいからこれ外せこのファッ…」

 

「あ~ちょちょちょちょ!いいかいこの話はお子様向けにも作られてるんだ。だからダメだよFの付く言葉はオマ〇〇(ピー)オチ〇〇(ピー)白ワインは一杯まで」

 

赤いコスチュームの男は手に何やらリモコンのような小さなものを手に持っている。一樹は黙ったまま男と手に持っているリモコンを二三度見て口を開く。

 

「…それ自分でやってんのか?」

 

「ああ」

 

「変じゃねえかだって(ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)やめろこの野郎(怒)」

 

「……ゴメン」

 

オチはない

 

 

 

 

 

 

本編スタート

 

 

 

 

 

 

 

一樹の過去の終止符を打ち込んで数日が経った。店は無事に元に戻り、無事に元の日常を取り戻した。

 

だが、一樹は色々な事があり過ぎて疲れている。一樹一人の人間だ。どれだけ頑丈な身体を持って、世話を焼くのが好きな人間でもストレスは溜まっていく。しかも現在一樹は一般人に暴力を振るったということからボクシングジムの出入りを禁止されていた。

 

そんな一樹は何時も6時には寝床から目を覚まし、ロードワーク行い仕事の準備をするのだが…この日は10時まで起きなかった。

 

「ふぁぁ〜…寝みぃ…」

 

ボサボサになった髪の毛をわしゃわしゃとかきながら階段を下り綺麗になった厨房の冷蔵庫からミネラルウォーターをとってキャップを開けるとそのまま一気に飲む。

 

その姿は休日を楽しむ中年サラリーマン。一樹はまだ覚醒仕切ってない意識の中、ミネラルウォーターを冷蔵庫の中に戻す。

 

「ハァ…」

 

数日の出来事がきっかけなのか、一樹の身体は重く、だるかった。別に熱がある訳じゃないが、それでも一樹は疲れていた。

アイドル達も疲れているであろう一樹気遣い数日合わないようにしている。りあむも何時もこの喫茶店にいるわけじゃない。仮にも彼女もアイドルだ。だから仕事のオファーは積極的に受けるようにしていた。というか一樹に1度相談した上で受けている。

 

そんなみんなが気を使ってくれたのは凄く嬉しい。この数日ぐっすり眠り、ぐっすりと身体の疲れを癒そうとした。だがどうだろうか、なぜだか凄く身体がだるい。

 

「…ハァ…本でも読むか…」

 

一樹は自分の部屋から本を取り、コーヒーを啜りながらその本を読みふける。

 

カチッ…カチッ…一階の店から聞こえるのは時計の針の音のみ、一樹は伊達メガネを掛けて『魔法剣士ゲラルト』の本を読み続ける。

 

「はぁ…何度見てもこの本はいいなぁ…」

 

彼のお気に入りの本はこの本。後に『ウィッチャー』と言われる本だ。

 

「確か、これゲーム出てるんだったよな…買ってやってみるか…」

 

この本の大のファンである一樹は心の中でスペックの高いPCを買うことを心に誓い、本を閉じる。

 

「…もうこんな時間か」

 

時計に視線を向けると既に時計の針は16:00を指している。相当な長く本に没頭していたらしい。

 

「…メシ作るか…」

 

りあむも時期に戻る。一樹は厨房に立ち、エプロンを付けて包丁を握る。

 

「やっぱり何かしてる方が性に合ってんのかな?」

 

包丁をリズミカルに音を鳴らしている一樹の顔は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

一時間後には食事が完成し、さらに仕事が終了したりあむが卯月、みく、末央、幸子、文香と合流したらしく、みんなで夕食をすることにした。今日の夕食は唐揚げとサラダとみそ汁。唐揚げはりあむたちが帰ってから揚げているためアツアツにできている。外はカラッと揚がった衣で噛んだ瞬間、中は火が通っているが肉は柔らかく肉汁が口の中にあふれてくる。

 

「おいしぃ~!」

 

勿論みんなは絶賛。唐揚げは山の様に作っていた唐揚げはみるみる皿から無くなっていき、ついに無くなる。

更には釜の中にあった八合ほどあった米はスッカラカンである。

 

「いやぁ~お兄さんは料理はおいしいし家事はできるし、しまむーが羨ましいよぉ~」

 

「えへへっ私にはもったいないお兄ちゃんです!」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

マグカップについだコーヒーを全員に配り終え、一樹は机に座りコーヒーを飲む。

 

「俺からしてみれば出来のいい妹だ。俺には勿体ないほどだ」

 

「ですが、お兄さんは面倒見がいいというか、本当にみんなのお兄さんって感じがしますよね」

 

「…まあ、な」

 

コーヒーを一口飲み、マグカップをゆっくりと机の上に置いた。

 

「愛情ってものがどういうものなのかって言われると俺はよくわかってない。俺自身が愛情を受けたことなかったからな。だから、俺は人に愛情を与える側になりたかった…これじゃあ理由になってないかな?とにかく、俺は愛情っていうものを与えたいと考えたんだ。良くあるだろ。愛情を与えて貰えなかったから、道を踏み外す人間がいるって。俺は一時期足を踏み外したからこそ、愛情を与えて真っ当な人生を歩んで欲しいだけさ」

 

電子タバコを口に咥えて煙を吹かし、一樹は伊達メガネを取り外し机の上に置いた。

一樹の過去に何があったかは全員が知ってる。実の母親に捨てられ、そして実の母親に裏切られた。それでも一樹がねじ曲がらず真っ直ぐ道を歩めたのは島村家とボクシング出会いが大きいだろう。だからこそ、ここにいる全員は一樹の考えを理解した。

 

「でも、お兄さんってなんだかお母さんって感じもあるよね。なんだろう…母性というか」

 

「まあ、昔からそんなこと言われることもあったな…」

 

「確かにお兄ちゃんはママって感じもします。昔お兄ちゃんに耳かきを頼んだ時は、安心して眠っちゃったんです!」

 

「ば…お前…!」

 

卯月の口から出た耳かきというワードに恋する乙女たちはピクっと動いた。

耳かき。耳垢を取るための耳掃除。耳垢取るという行為自体は何の意味もないのだが、耳かきをする一番の理由は『気持ちがいい』という快感を得るための行為である。

昔は母親にして貰った事があるが、中高生辺りから母親に頼みづらくなり自分で耳かきする人間が大半だ。

 

「この前もしてもらって時、私お兄ちゃんの膝枕のまま寝ちゃってて」

 

そしてここで爆弾発言を恥ずかしがりもせず投下する卯月に対し、一樹は「あ〜…」と頭を抱えた状態になる。

 

「「「お兄さん!」」」

 

恋する乙女たちは身を乗り出し一樹に迫った。

 

「は、ハイッ!?」

 

「「「私にも(みくにも)(ボクにも)是非、耳かきを!」」」

 

「oh......」

 

一樹は困惑してしまった。

 

 

 

 

 

 

取り敢えず、という形でまずは食器類を片付けている。一樹。厨房では一樹と未央が隣で一緒に食器を洗ってくれている。

厨房から見える少女たちは互いに可愛らしく睨み合いながら下を向き紙とペンを動かしている。

 

「何やってんだあれ…」

 

「あみだくじだって。誰が最初にするか決めるための」

 

「卯月め…余計なことを…」

 

全ての皿を洗い終わった一樹は手拭いで手に着いた水滴を取り、隣で皿に着いた水滴を拭き終わった皿を食器入れ棚に戻し、エプロンを外しカウンターに戻り電子タバコを取り出し中にあるカプセルを取り出しそのカプセルに液体を入れる。

 

「で、誰が最初なんだ?」

 

電子タバコを起動させて口を付けて煙を吸い上げる。

 

 

 

 

 

「はい!可愛いボクが最初です!」

 

 




~次回予告~

耳かきをしてもらうアイドルたち。しかし、彼女たちは予想もしない!このあとどうなってしまうのか!?
そして、ついに京介の二回目の試合が決まる!

次回!Round.24「その男、身体は鋼!心は母性!」

一樹「ネタみたいな次回予告だなオイ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.24

耳かきとは簡単に見えて結構奥深いものでもある。大抵の人間は1人で出来るものだが、1人やる欠点は自分の耳の状態が見えないので耳垢の状態がわからない。

幼少期には誰もが1度母親に耳かきをしてもらったことがあるだろう。耳かきをする根本的な理由というのは存在しない。しなくてもしても特に生活上影響は無いのだ。ならばなぜ人は耳かきをするのかと言うとそれは快感を得るためだ。

 

耳かきをするに当たっている物は耳かきのみだと思う人も少なくないだろうが、実は結構奥深く、必要なものは結構あったりする。梵天(耳かきの上の部分についてるモコモコの毛)付きの耳かきや他にも数本。消毒液、耳垢水(じこうすい)等も出来ればあった方が良い。

 

今では耳かき愛好家などという物もある。

耳かき愛好家とは耳かきの技を極意を学ぼうとする人たちのこと。彼らのこだわりは耳かきから始まり、綿棒や耳垢水に至ってまでこだわりを持っている。

 

一樹もその一人らしく、手には何本もの耳かきが握られている。

 

「あ、あの…お兄さん?なんでそんなに耳かきを持っているのでしょうか…?」

 

「幸子ちゃん、たかが耳かきと思っているようだが、耳かきっていうのは…一期一会なんだぜ」

 

実は耳かきとは市販で製造されているものは大抵同じ形をしているのだが、名の職人が作っている物だと同じ素材は一緒でも形が若干違ってたりする。だからもしお気に入りの耳かきが壊れたりしたらその同じ銘柄の耳かきを購入しても反り具合が違ったりしたりするので二度とお目にかかれない。まさに一期一会という言葉がふさわしい。

 

「じゃあ始めるぞ…と言いたいところだが、まずは幸子ちゃん緊張しすぎじゃね?」

 

「へっ!?い…いや…そんな事は…」

 

流石に好きな人にいきなり膝枕というのも恋する乙女たちにはハードルが高いらしい。ガチガチになった体は見ただけでも一樹でも分かるほどだ。こうなるとまずは緊張を解すには

 

「…じゃあ、耳かきに入る前に、マッサージからな」

 

一樹は幸子の耳たぶを指で挟む。

 

「ひゃっ!?」

 

小さくて可愛い悲鳴を出しながらも、幸子は鼓動を早くさせているが、いざ始まると後はなるがままだ。

 

マッサージをする理由としては緊張を解すという効果だ。更に指ですというところがポイントらしく、指で行うことによりリラックスするといわれている。

一樹は耳を優しく手で包み込み押し込むような感じで動かすが指に隙間を少し開けて空気を圧縮しないようにしる。さらに指で耳たぶを挟んで軽く引っ張ったりしながらマッサージをしていく。

すると安心したのか幸子の緊張しきった体から力が抜けていき、強ばっていた顔も緩くなりリラックスした顔になってきた。

 

マッサージを5分ほどした後、一樹は手を離す。その頃には幸子の顔はとろとろにとろけてしまっていた。

 

「あ…あああ~…」

 

赤みがかったその顔と口から涎をたらしながら少女がしてはいけない顔をしている中で一樹は慣れているようで目を細めやさしい目つきになっている。幸子は思い知ったのだろう。。卯月の言っている母性溢れるという意味がどういう意味なのかを。

 

「さて、緊張はほぐれてきただろう。んじゃあ今から耳かきをするぞ~」

 

荒れだけ少し嫌そうにしていたにも関わらずいざするとなると心なしかウキウキしたような感じに耳かきを手に持っている一樹は幸子の耳の中に耳かきを入れた。

その力具合は本当にヘビーパンチャーの力なのかと言うほど弱すぎず、強すぎずという感じで手前からコショコショと耳かきを動かしていった。

 

「あ、あ、あぁぁぁ~…」

 

耳かきの基本はまず手前から耳垢を取っていくのが基本。そうすると耳垢を奥に押し込むという行為を阻止することにもつながる。更に奥に行き過ぎると痛みを感じることもあるため、基本的に耳かきの深さは1㎝から2㎝が基本となっている。

医者などに進められる平均の深さは1㎝だが、耳の大きさとはほとんど個人差によりそれぞれであり、一樹の場合は大抵の人は2㎝まで大丈夫と考えている。そして深いところまで耳かきを進めていき幸子の快感は頂点にまで上り詰めていた。

 

「うへぇ…」

 

アイドルとして出してはいけない顔をしているのは誰でもわかるであろうその状況。好きな人の前でなんて顔をしているのだろうと思ったが、その思いはすぐに「どうでもいいや」という考えに塗り替えられた。

 

「き、気持ひい…い…れす…♡」

 

「おう、そうかそうか。おっと…」

 

一樹は満足そうな顔でもう片方の耳を掃除するために顔と身体を動かし幸子の口から涎が垂れてきていたのに気が付きティッシュでふき取ると耳かきを再び手に取り動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、人は変わり、次はみくである。みくも耳のマッサージをして緊張をほぐした後にまずは耳の淵を見始めた。

 

「ほう…」

 

人によっては耳の淵にも耳垢が溜まりやすい体質の人もおり、みくはそれに該当するらしく、耳の淵に少量ではあるが耳垢が見えた。一樹はまずはその淵を耳かきで丁寧に取っていき耳垢を取り除いていく。

 

「にゃ、にゃぁぁ…♡」

 

耳を真っ赤にさせているみくの心境は知らずか、先ほどの幸子の耳かきでスイッチが入ったらしく、一樹は耳掃除に集中している。

みくも先ほどのマッサージによりすっかりとろとろの表情になってしまいもうどうでもいいやという表情だ。

耳かきも丁寧に行い、梵天を使い小さな耳垢を取り払い後は綿棒で取り払うのみだ。

 

「ほれ、綿棒いくぞ~コショコショっと」

 

綿棒をみくの耳に入れてこちらも強すぎず弱すぎずという力で少しずつ耳垢を集めていく。

 

恐らくほとんどの人はこの一樹の綿棒さばきにノックアウトしているのだろう。それは続いてのりあむも

 

「はぁぁぁぁぁ~…♡」

 

文香もノックアウトしていった

 

「っ~~~~…!♡」

 

全員し終わる頃にはみんな体に力が入らないらしく、ふにゃふにゃという表現が正しいほど全員椅子に座っていた。

 

「ぼ、ボク…変な扉開いちゃうかも…」

 

「みくもにゃ…」

 

「みんな…そんなにすごかったの?」

 

「すごいなんてものではありませんでした…」

 

「そうですね…あれは…人をダメにする耳かきです…」

 

「何を言ってんだ。たかが耳かきだぜ?」

 

末央がすっかり骨抜きにされた少女たちに問いかけている間に一樹は使用した耳かきたちを消毒液を吹きかけ、消毒液を布で拭う。

一通りの耳かきを洗浄し終わると再び一樹はソファーに座り末央に視線を向けて

 

「ん」

 

と自分の膝をポンポンと手を置きだす。

 

「えっ?私?」

 

「何言ってんだ。全員するって話だったんだろ。だったら末央にもしねえと不公平だろ」

 

「い、いいよ恥ずかしいし」

 

「いいから来なさい」

 

「あっはい」

 

何故かお母さん口調になった一樹だったが、末央は何故か咄嗟に頷いてしまった。何故頷いたのかもわからない。

これが卯月の言っていたお母さんって感じがすると思う正体なのかもしれない。プロボクサーのくせに母性たっぷりとはこれ如何に。

 

場の流れにより末央も耳かきをすることになったもうこうなればやけだと末央は意を決し一樹の膝に頭を置くことにした。

 

「(…あれ?プロボクサーって聞いてたから、脚も鍛えて筋肉ついてて固いと思ってたけど…やわらかい…ナニコレ)」

 

「それじゃあ始めるぞ」

 

まずは耳のマッサージをし始める一樹。指もボクサーと思えない柔らかさ。末央の耳をやさしく包み込み、熱が伝わる。

 

「(ナニコレ…ヤダコレ…)」

 

末央の思考はこの瞬間停止した。考えていた恥ずかしさとか、耳を他人に見られるという羞恥、その他の考えが全部どうでもよくなる。というかもうどうでもよくなる。5人が何故あそこまで骨抜きになるのかもわかるくらいに。

 

「(私…これなんて言うか知ってる…『お母さん』だ…)」

 

マッサージを終えて耳かきに突入。末央の耳を細かく隅々まで暴き出し、清掃が行われていく。自分の耳がきれいになっていく感触がわかる。

 

「(あっ…やばい…墜ちそう…)」

 

何とか理性を保とうしているが、理性という城は一樹の母性という炎に囲まれて逃げれない。落城寸前だ。

そして、そのほんの僅かの理性は綿棒を終えて次の行動で危機に陥る。

 

「ふぅ~…」

 

「(あっ…♡)」

 

理性という城は耳に吹きかけるやさしい息により小さな耳垢と共に文字通り吹き飛ばされた。

 

後に一樹に耳かきをされた人間はこう答えた。

 

『耳かきの魔術師』『耳かきフェザー級世界チャンピオン』『魅惑の母性人間』

 

一樹にとっては不名誉極まりない肩書がまた増えた。

 

その日の夜。三十分ほど動けなかった耳かきを行った少女たちを家に帰し、りあむは自室に戻り一樹の部屋には卯月がいた。

 

「さてっと、そんじゃあ始めるぞ」

 

「えへへ、よろしくお願いします。お兄ちゃん」

 

一樹の膝に卯月の頭が乗る。他の6人と同じように耳をマッサージしてあげながら、卯月の髪に触る。柔らかく、艶やかな卯月の髪は一樹の指の間を風が吹くようにサラサラと離れていく。

 

「お兄ちゃん…」

 

愛しの義妹の声が聞こえる。一樹は今のこの状態がすごく幸せを噛みしめていた。

家族を得て、やりたいことを得て、仲間たちを得て、一樹は全てが充実している。

 

「どうした、卯月」

 

「えへへ…呼んでみただけです♪」

 

「そうかい」

 

耳かきを行い問題なく両側の耳の清掃を終わらせて卯月を呼ぼうとした時、

 

「…ん?」

 

ふと卯月の顔を見るとそこには小さく寝息を立てる卯月の姿がそこにあった。

起こすのも忍びなく感じた一樹はもう少し寝かせてあげようと卯月の頭に手を置き、やさしく撫でる。

 

「おにいちゃん…大好き…です…」

 

「フッ…ああ、俺のお前が好きさ。お前も、あいつら仲間(アイドル)たちのこともな…」

 

ふと気づくと、一樹は今まで感じていた気だるさが消えていた。どうやら、一樹は誰かの世話をしないとストレスに感じるようになったのかもしれない。そう思いながら、一樹も少し休もうとソファーに座ったまま寝息を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京介は今一人くらい部屋の中でテレビを見つめていた。テレビには前に行われた新人の試合のビデオ。それに目を離さずにじっと見つめている。

 

「…」

 

机の上に置いている水の入ったコップを持ちそれでもテレビから目を話そうとしていない。

 

相手選手の動きをじっと見続け、観察する。

 

今、京介は追い込まれている。




~次回予告~
ついに始まった京介の第二試合に向けてのトレーニング。京介は自身の力がどれだけついたか一樹に試してもらうため、三度目のスパーリングを申し込む!

次回 Round.25「サウスポー」

次回をお楽しみに ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.25

今回は前回の予告とは異なる内容になっています。

そもそも短期間でこいつら何回スパーしてんねんと自分で突っ込んだので変えました。

申し訳ございません。

Round24が二つあった…修正しました!


ボクシングの基本はまず自分にあった戦い方をすることだ。例えば一樹は古典的なヘビーハードパンチャー。力に任せ技をねじ伏せるという特徴を持っている。京介のスタイルはアウトボクシング。足を使い多彩な技で相手を翻弄しリズムを崩し隙が出来たところに重い一撃を入れるという特徴を持っている。

 

だが、ボクシングには更に多くのスタイルで戦う選手もいる。

 

「俺の苦手なボクサー?なんだよ、いきなり」

 

フライパンを持って厨房から現れたのは島村家義長男島村一樹。そしてフライパンに乗っているハンバーグを皿の上に乗せて京介が居るテーブルの前に出した。

 

「実は、今度試合相手が決まって…でも、相手がサウスポーの使い手でして、どう戦えばいいか分からなくて…」

 

「なるほどな。そうさなぁ…俺もサウスポーとは戦ったことないな…」

 

京介の料理を運んだ後に厨房に戻るとすぐに4人分のパフェを持ち出し卯月、末央、凛、りあむの前に出して、パフェにスプーンを差した。

 

「ねえ、サウスポーって何?」

 

凛の質問に答えるように一樹はエプロン姿のまま拳を構え、右のジャブを数回振った。

 

「今の、何か違うところがあったんだが、わかるか?」

 

「えっ?」

 

今の一樹の姿を見ていた四人は何が違うのか分からず、頭を抱えだした。

すると一樹は「じゃあ、もう一度」と言い、右のジャブを数回振りなおす。

 

「次は、俺のいつものスタイルだ」

 

と言い、拳を構えなおし次は左ジャブを振った。

 

「あっ!右手と左手が違う!」

 

とりあむがいち早く気づいた。

 

「流石だ。りあむのくせによく気づいたな」

 

「えへへ~……あれ?さりげなくボクディスられた?」

 

嬉しそうにしていたりあむだったが、すぐに何気に貶されたことに気づいて頬を膨らませて拗ねた。

 

「サウスポーは利き手のことでな、簡単に言えば左利きか右利きかって話だ」

 

「ふぅん、ボクシングにも利き手ってあるんだ。でも、利き手が違く手もお兄さんみたいなボクサーがいるんでしょ?なら、対策の使用はいくらでも…」

 

「ところがどっこい、世界の左利きの人数って何人か分かるか?」

 

「えっ…わ、わかんないけど…20%未満…?」

 

「まあ、大まかに言って15%ってところだな。利き手が違う選手とかち合うってことは、すなわち、慣れてない相手と戦い読み合うってことだ。例えば、お前らが今から利き手を変えて字を書くとする。そうするとなれない手で字を書いてるから当然汚くなる。それと同じように、ボクシングでも今まで基本的に左でジャブを打つものと考えている思考で、右でジャブを打たれると…頭で思っていたことが通用しない。つまりは混乱してしまい精神的に負担になるんだ」

 

「でも、それを考えておいて警戒すれば…」

 

「まあ、それが出来ればいいんだがなぁ…」

 

一樹は椅子に座り足を組んでコーヒーをすする。

 

「どういう意味なの?」

 

凛が疑問の声をあげると、一樹は後頭部に手を置き、天井に視点を置く。

 

「例えば凛は一生懸命に練習をした曲のダンスの振付に「ここの振付をなくしてこういう踊りを加える」とする。そうすればどうなる?」

 

「…いきなりは覚えれないかな…万が一覚えていてもくせで前の振付をしちゃうかも…」

 

「まあそうだよなぁ…例えは少し違うがそういう事なんだよ。俺たちボクサーは大体の相手は右利きだ。左でジャブを打つと頭で思い込んでることが多い。確かに頭で考えれば警戒できるが、頭で考えることと身体の覚えてる事はそうそうリンクしないもんだ…で、本題なんだが、今のままの練習で確実に京介は負けてしまうだろう。誰から見てもな」

 

「……」

 

「だが、対策がないわけじゃない」

 

一樹は一枚のDVDを手に取り、それをDVDプレイヤーに入れるとテレビを操作して画面にボクシングの試合風景を出す。

 

「会長から情報をもらってDVDを貸してもらった。選手の名前は葛城啓二。成績は二戦の内二勝してる。パッと見てもオーソドックスな構えをした教科書通りのボクシングって感じの選手だ。だとしたらここを突くしかないな」

 

「つ、つまり…?」

 

「お前の足、つまりヒット&アウェイのアウトボクシングだ!

 反撃の隙を与えず、相手のリズムをかき乱し続けて着実にダメージを与える。だが今のお前には徹底的に足りない部分がある!」

 

「そ、それは…?」

 

「スピード!そしてそのスピードを継続させるための体力!だからお前は走れ!走り続けて限界を超えるまで走り続けるんだ!その為に下半身を鍛えるメニューを中心にした方がいい。そうだなぁ…例えば…プールとか」

 

「「「プール?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

というわけで来ました346プロダクションのプール。なんとここは屋内と屋外の二つのプールがあり、温水にすることも可能らしい。俺がいつも思うのはここのプロダクションは無駄なところに金掛け過ぎではないのかな?と思うことが最近あるが慣れてしまえば「まあ、346だから当然か」とか思ってしまうこともある。

というわけで俺と京介は海パン姿でプールサイドで準備運動をして体を慣らしている。

 

「というわけで、訓練と行くか」

 

「あの、一樹さん…プールサイドでどうやって訓練するんですか?」

 

「まあまあ、まずは水につかって、スクワットしてみ?」

 

「は、はぁ…」

 

京介は何か信じれないという顔をしている。それもそうだ。体を鍛えるのとプールなにが関係されているのかと思うであろう。

だが、その考えは開始数分後に改められる。

 

「はぁっ…!はぁっ…!な、何だ…!足の力が…!」

 

京介はプールから上がり地面に手をついて疲れ切っている。

 

「どうだ?水中に力を吸収されて上手くスクワット出来ねえだろ。水泳選手も下半身の筋力が上がってたりするからこのトレーニングは効くんだよおそらくそれを続けてると下半身の筋力は安定するだろう」

 

「こ、これを…続けるんですか?」

 

「まあまあそう嫌そうな顔をしなさんな。それにお前としても悪い練習でもねえと思うぞ」

 

一樹は京介から視線を外して違うところを見る。

そこに居たのは

 

「それそれー!」

 

「にゃっ!?やったなー!」

 

プールで騒いでいるアイドルたち。

その光景を見て京介は喉を鳴らした。

 

そして一樹は耳打ちするように京介に近づき

 

「ここはアイドル事務所のプール。俺らボクサーはこの346プロダクション内の施設を使う許可も貰ってるんだよ…ここなら自由に使えるし、目の保養にもなるだろ?」

 

悪魔の囁きを耳元から聴き、京介の顔は熟した林檎のように赤くなり一樹の肩を持ち口を開く。

 

「な、なんてこと言うんですか!アイドルたちを俺がそんな目で見れるわけないでしょう!?アイドルって言うのはみんなに笑顔を見せて元気を与えてくれる存在なのですよ!?そんな穢れた目で見れるわけがないでしょうが!アイドルは尊い存在なんです!」

 

とまるでりあむのようなことを口走りながら怒鳴り散らす京介に流石の一樹も驚いてすぐに苦笑いに変わった。

 

「そ、そうなのか…でもよ、これはチャンスにならねえか?」

 

「話を変えないでくださいよ!」

 

「まあ聞けって。…ここはアイドル達も使う練習用プール。主に使われる理由としては体力増強トレーニングのため…掴んだ情報だと、ラブライカの二人もここを使うこともあるとか…お前がここで練習を口実に使ってれば確実にラブライカと親密になれるチャンスだってあるんだ。お前もこんだけ近いのにずっと顔見知りのままってのも嫌だろ」

 

「…確かにアイドルファンとしては、近づきたくなるのもわかる気がしますけど…ですけどぉ…」

 

「いいか、これは特権だ。俺たち里中ジム選手は大手のアイドル育成社である346プロダクションに置かれたボクシング選手。他の連中からしたら喉から手が出るぐらいの特権だ。だからお前が必死に練習する姿は必ずアイドル達の目に届くんだ。特権があるなら有効活用して人生を楽しくしようぜ」

 

などと言っているものの、単に京介のやる気を出させるための口実を作っているに過ぎない。この数か月京介は隠しているつもりでも隠しきれていないアイドルヲタク心をくすぐりながら一樹はあれやこれやと口上手く出しただけに過ぎない。それに対して京介は…。

 

「お、お近づきになれるでしょうか…」

 

「(食いついた!)」

 

何と一樹の口車に乗せられた。

 

「おお!お前は努力を忘れない男だ。その努力を見ればラブライカの二人だって「京介君カッコイイ!」って思うさ!(多分な!!)」

 

「…それを聞いたらやる気が出てきた…!俺、通い続けることにします!プール!」

 

やる気を満ち溢れている京介の姿を見て上を向いて笑いをこらえて口を膨らませている一樹の姿があったのは言うまでもないだろう。

 

「まーたお兄さんがあれやこれや言ってるよ…」

 

「流石、現代の法正って言われるだけあるね…」

 

「オイ待て本田。俺はそんな呼ばれ方されてるの初めて知ったぞ。何で法正?俺はあそこまで性格悪くないわ!せめて周瑜だろ!」

 

などとわけわからないことを言いつつ、その日は終わった。

 

346プロダクションには女子寮というものがある。全国各地でスカウトしてきたアイドル達の宿泊する場所であり、他県から来たアイドルは大体ここに泊まっている。

例を挙げれば、シンデレラプロジェクトメンバーである前川みくやアナスタシアなどがこの女子寮で住んでいる。そんな彼女たちの食事は寮の食堂で行われる。更に自室には料理器具一式が置かれているため自室での調理もできる。

 

そんな女子寮に問題が発生した。

 

「あ?女子寮の食堂の調理人が全員休み?」

 

「はい。なんでも風邪で全員寝込んでいるみたいで、誰も調理する人間がいないとのことでして…」

 

本日もドラマ収録で346プロに寄っていた俳優兼プロボクサー島村一樹は事務所で休んでいるところ千川ちひろに声を掛けられ話を聞くことになった。

 

「そこで、島村さんにご依頼をしたくて…」

 

「大体予想付くことだけどどうぞ」

 

「一週間でいいので、アイドル女子寮の食堂の調理人をお任せしては頂けないでしょうか!?」

 

「ホラ予想通り」

 

ハァと缶コーヒーを口に付けて飲み干してテーブルの上に空き缶を置き、手に持っていた雑誌をテーブルの上に置いた。

 

「大体なぜ俺なんですか?俺は男ですよ?アイドルの女子寮に入るなんて考えられますか?」

 

「いえ、島村さんのことですからそのような煩悩を持っている方ではないと全員が知っているので」

 

「何故俺はここまで絶大な信頼を得ているのかすごく不思議でならないんですが、俺も男ですよ。アイドル達をそんな目では見ないとは言え、性欲だってちゃんとあるんです」

 

「ですが島村さんはアイドル達に手を出すことはありませんよね?」

 

「そりゃあそうでしょ。今の俺の立場からして、アイドル達に手を出すのはハイリスクすぎるし、俺からしたらみんな妹みたいなものですよ」

 

「ですよね!?ですから、そこを何とかお願いしたいのです!これは島村さんにしかできないお願いなのです!」

 

必死の表情でちひろは一樹に顔を近づけながら答える。とりあえず一樹は手でちひろの顔をやさしく押しのけながら口を開くことにした。

 

「…とりあえず何でそんなに必死なんですか?」

 

「へっ!?」

 

「俺に頼るより、世の中良い料理人は一杯居るでしょうが。探すのが面倒なのか、それとも金銭的な問題なのか俺には分からないですがね…俺の予想で言うと後者じゃないかなぁ~……と思いまして」

 

その話を終えるとちひろはバツの悪そうな顔をしている。どうやら一樹の予想は的を当てているらしく、顔を背けだした。

 

「…まあいいや、依頼は受けてもいいですが、食材は俺は指定したものを出してもらいますよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

背けていた顔を一樹に向けて笑顔で答えるちひろ。どうやら相当金銭的な問題だったに違いない。

一樹はどれだけ余裕ないんだよと心の中で突っ込みながらも電子タバコを吸いながら顔に出していた。

 

 

 

 

 

 

 

マジで来ることになるとはな…みんなから信頼されるのは嬉しい限りなんだがな、だが俺も一人の男であり、性欲を持った異性であってだな…24歳でも俺はまだ女性に対して興味はあるんだがなぁ…

だが俺もボクサーであり一端の料理人だ。寮のアイドルたちを空きっ腹状態で放置というのも気が引ける。

俺はちひろさんに食材を指定したメモを渡しているから、既に調理場の保存庫に食材を運び終えているらしい。更に、俺はこの寮に一週間いることになっているので、俺とりあむもこの寮に寝泊まりすることになっている。

とりあえず時間は昼の16:00を差している。そろそろ調理をした方がいいだろう。

 

今日のメニューというと、流石に俺みたいに動き続けるわけじゃないアイドルたちの為にヘルシーな物の方がいいが…スタミナをつけた方が確実にいいし…おっ注文通り鶏モモ肉ちゃんとあるじゃん。よし、メニューは決まった。

 

「お兄さ~ん、ごはん何作るの?」

 

荷物を置きに行っていたりあむが戻ってきたところで鶏のもも肉を手に取り冷蔵庫を閉じると俺は手に持っているそのもも肉をまな板の上に置く。

 

「今日は揚げない唐揚げだ」

 

「揚げない唐揚げ?普通唐揚げって油で揚げるよね?」

 

「おう、今回は小麦粉と卵を使って作るぞ」

 

包丁を手に取り鶏肉を一口大サイズの大きさに切っていく。全て切り終えると用意したボールの中に肉を入れていき塩、しょうゆ、チューブ入りのおろしにんにくを少し入れて料理酒を入れる。因みに分量は完全に目分量だ。

そしてボールの中にある調味料ともも肉を手で揉んでいく。当たり前のコツだが、揉んだ後は肉を寝かせておくと味がしみ込んで美味くなる。今回は時間もあまりないから一時間ほどでいいだろう。

揉んでいった肉が入ったボールを人数分並べていき一時間放置。その間に付け合わせの野菜とトマトを切り、更にポテトサラダを作っておこう。

まあ、面倒だしキャベツの千切りでいいだろう。

 

一時間経過すると寝かせておいたもも肉に小麦粉と溶き卵を入れてよく混ぜる。混ぜ終わったらフライパンにオリーブオイルを敷いて温めておこう。後は肉を焼いていく。こまめにひっくり返して狐色になったら食べごろだ。

俺は一つ焼きあがった唐揚げをりあむに渡してみる。

 

「ホレ」

 

「…見た目は確かに唐揚げだ…でも味はどうなんだろう…」

 

「いいから食え」

 

何を警戒する必要があるのか、りあむが唐揚げを少し観察しているとやっと口の中に入れた。

 

「っ!!美味しい!!」

 

「まあ、当然だな。正直油使おうがオリーブオイルだろうが摂取カロリーは変わらんが、健康面で言えばオリーブオイルの方がいいからな。まあ、その分油の摂取量は減らしてあるから従来の唐揚げと比べると低カロリーだ」

 

「肉汁が溢れるぅ~♪ホントに油使ってないのか疑いたくなるレベルで美味しい~すこ~♡」

 

「んじゃ、沢山作るぞ。りあむ、悪いがポテサラ作ってくれ。俺は肉を焼いていくからよ」

 

「え〜もっと食べたかったんだけどなぁ〜」

 

「あ~はいはい後でな」

 

りあむのことを適当にあしらって、再び肉を手の取り、どんどん肉を焼いていった。




料理のレシピ?
実際に私が作った内容です。正直オリーブの方が健康的と言うのは私が思い込んでいることなのであまり突っ込んでほしくないですぅぅ~

次回予告?今回はありません!

次回をお楽しみに!!

ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.26

熊本弁ムズいっス…


女子寮にて料理人として寮に泊まることになった俺は全員の食事を作り終わり、自分の分の食事を取りながらテレビを眺めていた。他のアイドル達と食事をしながらボクサーが一緒にいるとはなんともシュールな光景だろうか…なんて思ってたらテレビはスポーツニュースに変わった。

 

「ん?」

 

テレビに映ったのはボクシングのニュースらしい。そこに映っていた映像には、俺がいた。

 

『見てください!島村選手の左だけのジャブだけで選手はよろめいています。彼は昔その驚異的破壊力の腕力が売りでした。一ボクシングファンとして、彼がリングに凱旋して頂いて本当にうれしく思います』

 

…テレビに映った俺の姿を見てアイドル達が一斉に俺の方を見だした…何か…恥ずかしいな…。

 

だが、前回の試合の映像では飽き足らず、テレビでは昔の俺の試合を流し出した。

 

『彼の特徴はピーカブースタイルで守りを固めて相手の懐に入り攻撃をするという物です。そのスタイルで彼は日本王者に輝き世界に旅立ちました』

 

オイ!いい加減にしてくれ!昔のことを掘り出すなよ!!

あ~!映像の俺が打たれちまった!違うだろう!そこはダッキングして踏み込めよ!!ちっげえよそこはガードだよ俺!!

 

※ボクサーあるある

自分の試合を見てると自分にダメ出しをする事がある。

 

 

 

 

 

初日の女子寮での料理は上手くいった。作っていった唐揚げはあっという間に売り切れてしまい全員分の食器には何も残らなかった。料理人冥利に尽きるとはこの事なのだろう。

さて、状況は変わって現在は夜の21:00。洗い物も終わり一通りのやることを終えた俺は簡易的に作ってもらった練習場にて練習を再開させた。今回試合が決まったのは京介だけじゃない。俺の試合も決まった。

 

試合相手は真島公正。フェザー級第3位の男だ。成績は13戦10勝2敗1引き分けの選手。復帰した俺への挑戦それはつまり俺を嚙ませにしてチャンピオンにアピールする。凱旋した元日本チャンプを倒したぞと…だが逆を言うとこれはチャンスだ。確かに相手は強いだろう。ここまで上り詰め成績を見ても強いことがわかる。だが俺がこの試合に勝てば俺は日本順位が一気に上がる。

試合は3か月後と控えているため油断はならない。

情報は会長が集めてくれてビデオを何回も見た。今回はスタミナもある強い選手だ。この前みたいには成らないだろう。だから俺は手を抜かない。練習をこなして最高のコンディションにするまでだ。

 

イメージしろ。俺の思う最高のボクサーのイメージを。

 

「シッ!シシッ!」

 

頭を動かしすぐにジャブを打つ。左に頭を動かしてからすぐに腕を動かす。

足を動かせ!ハードパンチャーの弱点は距離だ。足を使え!ピーカブースタイルのままダッキングを行い拳を動かす。

 

次第に俺の額には微量の汗が溜まりだしてきた。

 

やっぱりボクシングは良い。嫌なことや余計なことを考えないで済む。一時期引退していた際もボクシング忘れられず身体を動かしたり、鍛えてたりしていた。

 

こうして考えてみると俺は引退しようが、現役だろうが、根っからのボクサーってことか…。

 

「ふぅ…」

 

10分程のウォーミングアップを兼ねたシャドウを3セット程したところで俺の身体は温まりだす。

 

…そういえば、この前の試合はS(mash)ingがうまく行かなかったよな…ちょっとおさらいもかねてやってみっか。

 

俺は手にグローブを付け、サンドバッグの前に立ち拳を構えて頭を振る。

 

「ふっ」

 

足に力を入れて中腰状態で半時計回りに身体を回し、右のスマッシュをサンドバッグに叩き込んだ!

 

ドゴォォォォォ!!

 

サンドバッグは大きく跳ね上がった。しかし、それは俺の思っている完成形のものではない。当たったのはサンドバッグの下あたり。つまりまたもやこれはただのリバーブローだ。これじゃあ技の完成とは言えない。

 

俺のピーカブースタイル自体が低い姿勢を取って構えるスタイル。世界に飛び出した際もこのピーカブー一本で上り詰めたが…俺に足りないのはその後だ。

俺には決め手の技がなかった。基本的なボクシングの技は殆ど覚えている。だが、自分の得意としている技を持っているのと無いのとでは全く違うだろう。

俺は京介のような鋭いカウンターは打てないし、かの伝説のボクサー『ジャック・デンプシー』の大技『デンプシーロール』が使えるわけじゃない。

俺の武器はこの重い拳が俺の唯一の武器だ。だが、それは俺の弱点でもあった。言わば重い拳とは破壊力は凶器だが、逆に言えばディフェンスを強化して守りに徹すれば俺の武器は鈍らになりかねない。

このS(mash)ingを極めれば戦略の幅が大きく変わるはずだ。

 

その為にも、ダッシュ力を鍛える他ない。

 

よし、ロードワークに行くか…

 

ジャージの上着を羽織り、部屋を後にしようと扉のノブに手を伸ばした時、ドアが勝手に開いた。

 

「…?」

 

「あっ」

 

そこに居たのは、ゴスロリ風の衣装に身を包み、左右のツインテールにカール(…でいいんだよな?)をかけている少女が目の前にいた。

蘭子ちゃんだ。

 

「…何やってんだ蘭子ちゃん」

 

 

 

 

 

 

ロードワークは俺にとって欠かせない週間だ。毎朝早く必ずして更に時間が空いてる時は走っている。ロードに出ていると悩みや考え事をしなくて済むのが俺としては良い点だ。

普段誰かと走る事自体は珍しいものでもない。俺は京介や他の奴らとロードするのは好きだ。だが、出来れば1人で何も考えずに走りたいってのが本音だ。

 

「で、なんで着いてきたんだ?」

 

走っている俺の横を自転車に乗って追いかけてきている蘭子ちゃんを見ながら言う。いつものゴスロリ風の衣装ではなくジャージだ。

この子はちょいと分かりにくい言葉を並べることがあるが、半年以上付き合いがあれば俺も少しは慣れてくる。

だが本音を言えばちゃんとした言葉で話してほしい。

 

中二病なんて、俺は患ったことねえし…。

 

「我が苦悩を聖拳を持つ者に語りたくてな…(実は相談に乗っていただきたくて…)」

 

聖拳を持つ者って…ボクシングの事か?

 

「相談ねえ…君らの相談を俺のようなボクシング脳の俺に分かるのかね…?」

 

走っている足を止めて拳を構えてシャドウを開始する。頭を振りもう一度拳を突き出す。

 

「まあ、話してみてくれよ。力になれるかもしれん」

 

とりあえず話をするために近くの公園のベンチに座り、缶コーヒーを二本買い一本を蘭子ちゃんに渡した。

トップルに指をかけて蓋を開けてコーヒーを飲み、横に缶を置く。

 

「んで、相談ってのは?」

 

「…」

 

蘭子ちゃんは何やら言いにくそうにしている。もじもじと手に持っている缶コーヒーをいじっている。

なんだか顔も赤くなってきている気がする…。

 

「じ、実は…」

 

おっ普通の口調になったぞ?

 

「…私の言葉が分からないって声が多くて…でも…私…これが好きでやってるんですが…でも皆が皆理解してくれる人が少なくて…どうしたらいいのかなって…」

 

何か、この手の相談どっかで聞いたなぁ…夏だったか?

彼女の口調は俺も時々分からなくなることも多い。だが、交流があると自然と頭が覚えていった。だが彼女の言葉を理解できない人もいるのも事実。彼女もそれなりにメディアに出ているアイドルだ。だが、ファンになる人と言うのはテレビだけを見たからファンになったという人もいれば歌などを聞いてファンになったという人もいるはずだ。いい歌を聞かせてもらったファンになろう。テレビを見たが彼女の言っている中二病の台詞がわかりにくい…正直俺も分からないところもあるから共感してしまうところはある。

だが…

 

「いいんじゃねえか?そのまんまで」

 

俺はあっけらかんとそう答えた。

 

「俺は正直蘭子ちゃんの言葉が時々分からなくなることもあるが、何が言いたいのかわかるよ。でもそれでいいんじゃないか?アイドルってのは自分の個性を出してこそだ。仮面をかぶって本当の自分を隠してまで自分に嘘をつくのは…楽しくないんじゃないか?アイドルもボクサーと同じだ…選手生命ってのは短いものだ…その短い選手生命の中で楽しめるかどうか…なんじゃねえか?」

 

コーヒーを再び口に含み飲み込んで再び口を開く。

 

「俺は正直君のような中学生活をしたことないからわからない。恥ずかしいと思う過去はあった。だけど人生にそんな過去を持ってた方が面白いと俺は思うよ。一種の思い出さ。黒歴史?いいじゃねえか。その過去を含めて自分だ。俺も昔の櫻田一樹があってこその島村一樹だ。いいんだよ。どんな道を進もうがそれは自分の選んだ道だ…俺は…いや…ここはこういう台詞で言ってみるか」

 

空になった缶コーヒーの缶をゴミ箱に捨てて俺は拳を上にあげた。そして思いついた台詞を口にする。

 

「我は今度こそこの聖拳で栄光の(ロード)を掴もう!そして世界を我が手にし、我は世界の(チャンピオン)となろうぞ!!……合ってたかな?」

 

俺が台詞を言い終わると蘭子ちゃんは俺のことを顔を赤くしながら見ていた。

 

なんだ?俺の台詞何か恥ずかしい所があったのかな?

 

だが蘭子ちゃんはすぐに立ち上がりその紅い瞳を輝かせポーズを取る。

 

「聖拳を持つ者の話し、実に充実した時間だった!今宵は礼を言おう!来る決闘を楽しみにしておるぞ!(お兄さんに話をして本当に良かったです!ありがとうございます!次の試合頑張って下さいね!)」

 

「お、おう!絶対勝って国内ランキング3位を取って見せるぞ!」

 

なにはともあれ蘭子ちゃんの悩みはこれで解消…できたのかな?蘭子ちゃんも俺のことを応援してくれてるんだ。それにこたえるためにも、練習あるのみだ。

 

 

「だああああああああららららららああああああああああ!!!」

 

土手道を全速力で走り抜ける。スタミナの限界を超えるために心臓を傷めつけ、ロードを終わらせてサンドバッグを叩いて叩いて叩きまくる。俺の練習が気になって見にきていたアイドル達もいたが、それにも目もくれず練習を続ける。

りあむに頼み俺の腹にバスケットボールと叩きつけてもらいボディの耐久力向上のための練習をし、一本のロープを丁度頭ぐらいの高さに張りウィービングをしながら前に進む。

 

やってやるぜ…待ってろや!フェザー級第3位!

 

そして、最新の情報も届く。

それは俺が女子寮で調理をしていた時だった。

 

「…何だよ…これ」

 

そのビデオの内容は最近の試合映像。だが、その中身は今まで俺が見てきた選手の戦い方じゃない。俺の頬から汗が一雫伝い、地面に落ちていく。

 

試合開始まであと3ヶ月。




〜次回予告〜

京介と一樹の試合が決まり気合いを入れる2人。しかし一樹の試合相手の本来のスタイルを見た一樹はその対策を考えるが、打開策が出てこない状態に…果たしてどうするのか!?

次回 Round.27『作戦』

次回もお楽しみに! ボックス!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.27

今回はオリジナルキャラが2人ほど出てきます。
あとはアンケートで答えていただいたアイドルと最近アンケートにした真島のボクシングスタイルを決定しました。


真島の試合ビデオを見た俺はその内容に唖然としている。

 

読めない。

 

真島の次の手が読めない。

 

映像の中の真島は相手選手の拳をグネグネと身体をくねらせるように変則的な動きで避けていた。姿勢が低くパンチを打てる状態じゃないと思っていたら横からパンチが飛んで来てテンプルに当たる。

相手選手はその一撃が効いたらしく、倒れてしまった…。

相手選手はそれから起き上がることも無く、試合が終了になった。

 

これは、俺の知ってるボクシングじゃない。これは教科書にも載ってないボクシングだ。

 

「な、何あれ…」

 

隣で見ているりあむが問い掛けてくるが、俺が聞きたいぐらいだ…。

あんなの聞いたことも今まで見たこともないぞ…完全に上記を逸脱したスタイルだ。こんなのじゃあ真島の次の手が読めない。

今まで見てきた真島のスタイルはオーソドックス系のボクシングに近かったのだからな。手数を常に出し相手に手を出す隙を与えないボクシングだった筈だ。それが何だよあのスタイルは…いきなりあんな低い位置からパンチが飛んできたんだぞ!信じれん!

 

「…りあむ…俺が見てるの…ボクシングの試合だよな?総合格闘のビデオじゃねえよなぁ…?」

 

「ボクに聞かれても困るんだけど…」

 

「ですよね」

 

俺は見ている物が信じきれず自信が無くなってしまいりあむに質問を質問で返す形をとってしまった。

 

流石にりあむに質問するのはお門違いだったなぁ…。

 

……………うん、今日はもう考えないようにしよう。

頭が痛くなってきた……。

 

 

 

 

 

次の日

 

何度見ても信じれん…打開策が見つからん…

 

「あああああああ!!!!!ちくしょう!!!!!何なんだあのボクシングわあああああ!!!!」

 

ついに俺の頭の熱がオーバーヒートしてしまい髪をわしゃわしゃとかきあげ髪の毛を乱してしまう。

今まで戦った相手で1番悩んでんぞこっちは!!オメーは良いよなぁ!参考資料がいっぱいあってよォ!!こっちはお前のヘンテコボクシングの資料ひとつで悩み切ってるわぁ!!

 

と映像に八つ当たり混じりの事を思いながら再びビデオ映像を目にする…。

 

「なんや、悩んではるなぁ~お兄さん」

 

「ん?」

 

俺の横にいつの間にか近づいていた少女を見るとそこには着物姿のまさに大和撫子という言葉が1番似合いそうな小柄な女の子がいた。

 

「ああ、紗枝ちゃんか…」

 

俺は掛けている伊達メガネを外しそれをテーブルの上に置いてマグカップを手にして中に入っているコーヒーを飲み干した。

 

「確か…お兄さんはぼくさーやったなぁ。今のはお次のお相手さんどすか?」

 

「まあ、そんなとこかな…」

 

俺はパソコンのマウスを動かし再生ボタンを押して画面に視線を戻す。

だが、何度見ても解決策が生まれるわけでもなく、俺は再び頭を抱えてしまう。

 

「なんやぁ、激しく動くお相手さんどすなぁ…相当の体力がないといかんのちゃいますぅ?」

 

紗枝ちゃんは興味があるのか俺の顔の真横に顔を置き画面をのぞき込んでいる。

 

「ああ、スタミナは相当あるだろうな。だが、俺の悩みはそこじゃないんだ。こんだけ激しく動かれると的が定まらない上にパンチが当たらん」

 

「なるほどなぁ~…ほなら、お兄さんは動きを最小限に押さえなあかんなぁ」

 

…ん?何だ…今何か引っかかった気がしたが…

だが紗枝ちゃんの言う通りだ。この選手との勝負はスタミナがどれだけ持つかによる。こうなればダウンを無理に取るのでなく、確実に判定を狙う方が1番いいのかもしれない。

いや、そもそもこれだけの動きをする男に確実にダメージを与えて判定に持ち込めるのか?下手すれば俺が一方的に殴られて判定負け、もしくはKO負けするかもしれねえ。

 

これがジレンマという奴なのか?ここまでやりにくい男も珍しい…。

 

「いや、ここまで素早かったら判定には持ち込めねえ。リスクがデカすぎるのも一つだが、相手の参考資料が少ない以上KOを取るしかねえ!」

 

机の上に置いたパソコンを閉じて立ち上がり、髪を後ろにまとめ直しポニーテールにする。

 

そろそろ食事を作る時間だ。

 

「さてと…真島対策も考えなきゃいけねえが、依頼も済ますか…紗枝ちゃん、今日の晩飯何食べたい?」

 

横にいる紗枝ちゃんに今日の献立を尋ねると紗枝ちゃんは首を傾げると口を開いた。

 

「うちが決めてもええのですか?」

 

「毎日毎日自分で考えるのは正直面倒くさいし、ちょっとした気まぐれさ、紗枝ちゃんのリクエストを聞くよ」

 

「それじゃあ、お蕎麦でお願いしますぅ」

 

「うし!んじゃあ今日は蕎麦だな。暖かいのがいいかな?それとも冷たいざる蕎麦かな?」

 

ボクシングでいつまでも悩んでてもしょうがない。こういう時は気分転換しておくのが1番だ。

一通り紗枝ちゃんと献立の事を話をしていると、俺のズボンのポケットに入れているスマホから着信音が流れる。あの有名なボクシング漫画のアニメオープニングの第3弾の主題歌だ。

 

あれいいんだよなぁ。歌が無いのになんか胸にグッと来るものがあってしかもアニメの中にもちゃんとBGMとして出てくる。あれを聞いてると燃えるんだよなぁ。

そんな音楽を流しているスマホのディスプレイに映っていたのは武内さんの名前だった。

 

俺はすぐにスマホ画面をタップして通話に出る。

 

「はい」

 

「島村さん!今どこですか!?」

 

…なんだ?珍しく取り乱してるな…。

 

「女子寮にいますけど…」

 

「そこから離れてください!今すぐに!」

 

ガタン!!

 

ん?なんだ?今の音…

なんか…怖いんだけど…武内さんの声は聞こえなくなるしさっきの音といい…

 

怖いんだけど…

 

「…あのぉ…武内さぁん…?」

 

『お〜と〜う〜と〜く〜ぅ〜ん』

 

ピッ

 

俺は即座にスマホの通話終了ボタンを押した。そして俺の額には大量の汗が流れ出した。

 

「サーテ、食材ヲ買イニ行カナキャ〜」

 

「お兄さん、片言になってますえ」

 

「ソンナ事ナイヨォ〜ワタシ今カラ買イ物行ッテクルヨォ〜」

 

俺はその場から逃げるように急いで女子寮の出口のドアノブに手を伸ばし、扉を開いた。

 

 

 

 

 

「逃がすと思う?弟君」

 

そこには俺の1番苦手な人が2人立っていた。

 

「……」

 

「……」

 

数秒しか経っていない筈なのにその場の空気が数分に感じた。

何でこの人がここに居るんだ…?

 

綺麗な赤く長い髪の毛にポニーテールにしてて結び目は大きなリボンをつけ化粧もあまりしていないにも関わらず綺麗な容姿をしたスレンダーな女性。そして後ろには銀髪にシスター服を身につけた小柄な少女。しかしシスター服でもその実った体つきが隠せない程彼女は魅惑的なスタイルをしていた。おっとそんな事を言ってる場合じゃないな。

 

俺は顔を背けて口を開いた。

 

「は、初めまして…私は島村卯月です!」

 

裏声を使って必死の抵抗も虚しく、俺の視界はブラックアウトした。

 

すまん…卯月!!

 

 

 

 

 

 

「初めまして。天草音々(あまくさおとね)です」

 

と赤髪の女性が挨拶をする。

 

「初めまして。アレクシアです」

 

と次はシスターの少女が挨拶する。

彼女らは俺が元々いた天草孤児院にいた子供で、音々…音姉は孤児院の天草院長の義理の娘で物心着いた時から孤児院で暮らしていたらしい。歳は俺の1つ上であり、姉的存在だ。

一方のアレクシア。俺はシアと呼んでいる。服装からマジのシスターである。歳は俺と5つほど下である。なんでもイギリスと日本人のハーフで生まれはイギリスだがすぐに日本に移住。しかし両親は不慮の事故で他界してしまい孤児院に…育ちが日本だから英語はからっきし。神様という存在を信じきっている。

俺か?俺は神様は居ると思うが信じてねえだけだ。

 

この二人は特に俺が苦手とする2人だ。なんでかって?

俺は殴られてそのまま島村家に武内さんと共に連行された。今武内さんは車の中で項垂れている。どうやら俺の元身内という理由から情報を根掘り葉掘り搾り取られたらしい。

そして目の前には困惑様子の島村一家に対し、その対面にはシアと俺と音姉という順番に椅子に座っていた。そして俺はまるで捕まったエイリアンとまでは行かんが、両腕をこの娘っ子達に自分たちの腕で抱き寄せていた。

 

やめろマジで…特にシア!胸を押し付けんじゃない!年頃の女の子がはしたない!

 

「お、お兄ちゃん…これは…」

 

やめろォ卯月!そんな悲しそうな目で俺を見るんじゃあない!俺がいたたまれなくなるだろうが!

 

「いや、なんというか…その…孤児院にいた頃の姉貴分と、妹分でありーーー」

 

「弟くんのお嫁候補です♪」

「兄様のお嫁候補です」

 

俺の声を遮りとんでもない爆弾発言を飛ばしてきた2人。島村一家の背景では雷のようなものが落ちる程の衝撃図が見えた。

 

勘弁してくれ…次の試合に集中させてくれ…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.28

嫉妬して顔を膨らませる卯月ちゃんとか可愛すぎでしょ?


2日後。

 

「オララララララララララァァァァァァ!!!!!」

 

346プロ内里中ジムでサンドバッグを打っている一樹。

一樹の連打でサンドバッグはこれまでに見た事ないほど揺れていた。それは見ている人間に迫力を与える程だった。

 

「うへぇ、一樹さん気合い乗ってますねぇ、何かあったのかな?」

 

縄跳びを使い練習している京介がそう口にすると会長の里中が口を開いて京介の質問に答え出した。

 

「いい事ならまだ良かったんじゃがな」

 

「えっ、どういうことです?」

 

「数日前のことじゃ」

 

 

 

 

 

 

おいおい冗談じゃねえぞ、

俺はいきなり聞かされたとんでもない爆弾発言に汗が頬を伝いそのまま地面に落ちた。

 

嫁候補だと…俺の知らない所でそんなの勝手に決められてたのか…?

なんだそれは…

 

なんじゃそりゃあああ!!!!

 

こいつら何なんだ!ほら見てみろ!島村一家総出で困惑な顔つきだよ!驚いた表情で固まってるよ!

 

「待てぇぇい!待て待て待てぇぇい!」

 

俺は席から立ち上がり2人の腕を振りほどく。

 

「聞いてねえぞそんな話!なんだ嫁候補って!俺はまだ結婚なんぞしねえぞ!絶対!三十路手前までは俺は絶対結婚しねえ!」

 

「何言ってるの弟くん。お姉ちゃんもう婚姻届の準備してるんだよ?後は弟くんの名前と印を押してくれるだけでOK♪」

 

「私と兄様は神のお導きで結ばれる運命なのです。ですので私も婚姻届の準備はしています。後は兄様が選ぶだけです」

 

「ふざけんな!俺はシアとも音姉とも結婚しねえよ!俺にだって選ぶ権利があるんだ!」

 

「だからこうやって選ぶ権利を与えてるじゃない。私かシアどちらかに♪」

 

「兄様、より取りグリーンとはこのことです。これも神が私たちに与えてくれた道なのです」

 

oh.コノ人達、人ノ話シ聞カナイネー

ココココ、この子たちは何を言っているのでしょう。私には到底理解できません…。

 

それは選ぶ権利じゃなくて、選択肢というのではないだろうか?←少し考えました。

 

…確かに2人とも俺には勿体ないほどの美人ではある。音姉は面倒見が良くて、ちょっと抜けてるけど家事もこなせる。しかも料理は一級品で俺でも敵わないであろう腕前を持っている。まさに良妻賢母という言葉が似合う人だ。…ブラコン気味なところを除けば…。

ん?その言葉ブーメランだって?何のことだ?

 

シアも美少女の部類に入る程可愛くてスタイル抜群だ。…確かに12の時点でEカップとか自分で言ってた気がするが今はそれ以上に育った。顔立ちが幼い分りあむと良い勝負ができるんじゃないか?…神様スキーな所とブラコン気味なところを除けば…。

ん?さっきの後者の言葉ブーメランだって?何のことだ?

 

「お、お兄ちゃん…」

 

卯月が今にも泣き出しそうに俺を見ている。

ヤダ…ウチの義妹泣き顔もカワイイじゃない…じゃなくて!

 

俺が結婚する=島村じゃなくなる=他人になると思ってるぞあれ!もう会えないんですか!?と言葉に発せられてないが問いかけられてる気がするよ!

 

「う、卯月落ち着け!俺はまだ結婚しねえから!お前を見捨ててどっか行かねえから安心して!お願い!」

 

「…でも、前は一人で何も言わず姿を消そうとしました…」

 

「うぅ!!!」

 

な、なんと…意外なところからカウンターが飛んできた…!

それを言われたら何も言い返せねえじゃねえか!

 

「いや…違うんだ卯月…いや…違わないけど違うというか…」

 

結局言い返せなかった。

 

「うぅぅぅ~…」

 

頬を膨らませて涙目で俺を睨む卯月。ヤダ…カワイイ…じゃなくて!

卯月ちゃんご立腹!?何に対してのご立腹!?わからねえ!!

 

「あっそれと弟くん。弟くんってお店出してるんだよね?」

 

「…それがどうしたんだよ…まさか、そこで働かせろって言うんじゃねえだろうな」

 

「ううん。確かに働かせてほしいのもあるけどもう一つ頼みがあるんだ」

 

…嫌な予感がする。

 

「弟くんのお店に住まわせて♡」

 

そういってシアと音姉の片手には大きなボストンバッグがあった。

 

「勿論、もう合鍵も作ってるよ♡」

 

俺は何処ぞの秦国大将軍のような燃え尽きた笑顔になり、突っ立った。

私に拒否権はないんですか…?

 

というかどうやって合鍵作った…?

 

 

 

 

 

 

「それ以降、孤児院の娘たちは一樹と離れないと聞く耳を持たず、奴の店に居候になったらしいわい。しかも妹に至ってはこの二日間一樹と会ってないらしい」

 

「えっ!あの卯月が!?一日合わなかっただけで学校で「お兄ちゃん成分が足りません…」とかなんとか言うあの卯月が!?そ、そうなんですか…よく見ると一樹さん涙流してますね…」

 

「嗚呼、苦悩の涙じゃ。暫くそっとしておこう」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!(泣)」

 

この日、一樹はサンドバッグを叩き続けた。

 

その頃の卯月はというと、

 

「お兄ちゃんが…お兄ちゃんが…」

 

レッスン中であったが上の空だった。それはトレーナーも心配するほどレッスンに身が入ってなかったらしい。

 

「…どうしたんだ?島村は…?」

 

「さ、さあ…?」

 

下を向いてブツブツと何かを念じているようにしか見えないその光景に末央と凛も心配そうだが、この二人は薄々感づいている。

 

「「(ああ、お兄さん絡みなんだろうなぁ…)」」

 

違うところで互いに想いは同じなくせに面倒くさい兄妹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、月日は過ぎ去り、一樹の試合の日がやってきた。

この日まで約数か月、一樹と卯月はあまり会っていない。というか卯月が気まずいのかわからないが避けられていたことから、一樹の心身は試合前だというのにボロボロだった。減量は今まで以上に軽くパス。それは卯月と会えないというより、単に避けられているという事実が一樹にとってとてつもなく精神ダメージを与えた。

コンディションは万全ではなかった…。

 

そんな中で卯月たちは一樹の試合会場に既に来ていた。ついでに今回は京介が皆を会場までの案内役を買って出た。これまでの一樹の姿を見てきた京介は必ず卯月が必要になり、卯月がいれば一樹は力を取り戻すと踏んだからだ。しかし、まだ気まずさが残っているのか、卯月は会えませんと申し訳なさそうに言った。

 

「あ~もうめんどくせえ!!卯月!ちょいこい!」

 

「えっ!ちょっ…!京介君!?」

 

と強引に卯月の手を取り会場外まで連れ出す京介。とりあえず外で缶ジュースを二本買って一本を卯月に渡す。

 

「ホレ」

 

「あ、ありがとう…ございます…」

 

「…話は大体会長から聞いたから概ね想像はつくんだけどさ…卯月と一樹さん、今日まで一回も会ってないらしいじゃねえか。一樹さん寂しがってんぞ…」

 

「で、…でも…」

 

「お前が何をそんなに悩んでるのか知らねえけど、一樹さんの言葉は本心だろ?ならそれを素直に受け止めるべきなんじゃねえか?」

 

「…」

 

卯月は黙って持っている缶ジュースに視点を合わせる。手のひらで缶ジュースを転がし、まだ決心も何もついていないという状態だ。

そんな中で卯月は勇気を振り絞るように力なく言葉を発した。

 

「わ、私が…初めてだと思ったから…」

 

「ん?何だって?」

 

京介は耳を近づけてもう一度卯月の言葉を聞こうとする。

そして次は京介にも聞こえるように少し大きな声を出す。

 

「私、初めてだったんです。お兄ちゃんが出来て、お兄ちゃんが大好きで、お兄ちゃんに大事にしてもらったのが…」

 

「…???」

 

卯月の言葉が理解できず思わず首を小さくかしげる卯月。

 

「でも、実際はそうじゃなかったんです…お兄ちゃんは私より前に、義妹がいて、兄妹みたいな存在がいて、優しくしていて…私、みっともない嫉妬をしてしまったんです。お兄ちゃんにとって、一番じゃなかった…二番…いや三番目だったんだなって…それがショックで…お兄ちゃんに当たっちゃったんです…」

 

この時、京介は理解できた。卯月の抱えているものを。大好きな人には自分が一番でいてほしい。大好きだからこそ一番がいい。それがそうじゃなかった。過去に一樹が音々とアレクシアとどう接していたのかはわからないが、二人の反応を見る限りは友好的な関係だった。義理とは言え、その事実をいきなり叩きつけられて卯月の心にひびが入ってしまった。

 

「みっともないですよね…こんなことで嫉妬して…私…お兄ちゃんに嫌われちゃった…」

 

今にも泣きそうな顔をしている卯月。次第に瞳はウルウルと揺れ、涙をためて、それが頬を伝った。

 

「…俺から言わせてみたら、お前らみたいな兄妹羨ましいと思うけどな…」

 

「えっ…?」

 

「正直俺って、一人っ子だから兄妹とかよくわかんねえ。だけど一樹さんから聞く卯月の話は、いつも笑顔で、自慢げに話しているよ。時々ムカつく時あるけど…」

 

と最後だけ聞こえない程小さな声を出す。

 

「一樹さんにとって、卯月は自慢なんじゃないか?じゃないと、あんな笑顔で妹のことで一時間も話せる人いないと思うぞ」

 

「い、一時間…?」

 

そんなに?という顔で困惑する卯月。

京介はポケットから出したハンカチで卯月の涙を拭く。

 

「一樹さんにとってお前は、大好きな妹で、

 

 

 

世界一愛してる妹なんじゃないか?」

 

 

 

その言葉にハッと、顔を上げた。卯月の目から止めどなく涙が流れ始めた。

 

「そっか…私…お兄ちゃんに愛されてたんですね…!」

 

「ほら、もう試合始まるぞ。応援しようぜ。大丈夫さ!一樹さんがお前を嫌うなんて絶っっっっっっっ対ありえないから。卯月…試合の後で一緒に激励に行こう。そして、一緒に謝って、お前は兄貴に一杯甘えろ!それでこそお前だ。島村卯月!」

 

持っているハンカチを卯月に差し出し、ニカッと笑って見せる京介を見て、卯月は再び輝かしいほどの笑顔を見せて

 

「はいっ!」

 

大きな声で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

やべえ…やべえ…やべえ…!

 

なぁんであの二人(シアと音々)試合見に来てんだよ!しかも目立つ一番見えやすい場所にいるんじゃねえよ!

恥ずかしいだろうが!!

 

こっちはオメエらのせいで卯月は変に俺を避けるし、コンディション狂ってんだよこっち!!

 

既に俺と相手選手がリングに上がり、紹介が済んだ。そこまではよかったのだが、会場に入るなり

 

『弟く~ん!がんばってー!』

 

って大声だすんじゃねえよ!

 

やべえ、こんな試合何度もした経験あんのに何故か緊張してきた…!

 

どうしよう…。

 

「何緊張しとんのじゃ。ビシッとしろビシッと!」

 

んなこと言われたって…!

 

『お~と~う~と~くぅ~ん!!』

 

大声で手を振ってるあのアホ姉を何とかしてくれ!

 

落ち着けぇ…落ち着けぇ…クールになれ俺…こんなの、日本チャンプ初防衛線に比べれば屁でもねえ…

結局真島の対抗策も思いつかずここまで来てしまったが…俺はこの数か月頑張った!

 

ほとんど記憶がないけど頑張ったんだ!

 

身体の耐久は前より鍛えた。足腰も毎日走りこんで日本チャンプを獲得した頃に戻ってるはず。

 

『セコンドアウト!!』

 

えっ!もう!?もう少し待ってくんねえか!?まだ心の準備が…

 

『Round1、ファイト!』

 

カァァァン!!

 

あっ…終わった…




次回予告
ついに始まったフェザー級三位との闘い!
本調子でない一樹はどうやって真島の攻撃を防げるのか!?

次回Round.29「義兄妹の絆」

次回もお楽しみに!

ファイト!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.29

描いていったら9000字超えた…ボクシング描写恐ろしや…。

そして今回はあれが発動します!
ボクサーが不屈の闘志で選手と打ち合う際のあの眼が、鴨川ジム必須とされるあの眼が…!!


ついに始まったフェザー級3位を掛けた戦い。

カァン!

ゴングと共に一樹は相手選手に拳を向けた。

 

一樹「(落ち着けぇ…落ち着けぇ…)」

 

相手選手である真島もそれを受け入れるようにゆっくりと拳を近づけてくっつけた。

彼もスポーツマンシップに乗っ取った行動だろう。

 

そして互いにくっつけた拳は弾かれ、それが開戦の合図になった。二人はすぐにバックステップで距離をとり各々の構えに入る。

一樹はいつも通りのピーカブースタイル。そこから頭を上下左右とリズムよく振り出す。

一方の真島は両腕をまるでカマキリの腕の様に折り、拳を一樹に向けた状態でリズムよくステップを踏んでいる。

 

一樹「(今は音姉とシアのことは忘れよう…。さて、真島はどう出る…?)」

 

一方観客席にいる京介たちは。

 

京介「間に合ったか!」

 

みく「後輩君遅いにゃ!試合始まってるにゃ」

 

美波「でもまだ始まったばっかで二人とも動いてないよ」

 

杏「ねえ、プロデューサー。ボクシング詳しいんでしょ?どっちが勝つと思う?」

 

杏の問いに武内はすぐに後ろの首元を手で撫で始める。少し考えて、口を開いた。

 

武内「4:6で、一樹さんが不利かと…」

 

智絵理「で、でも、お兄さんはすごく強いですよ…?」

 

末央「そうだよ!元日本チャンピオンなんだよ!?負けるはずがないじゃん!」

 

京介「確かにキャリア的な話を言えば一樹さんに理はあると思う…だが、あの真島のボクシングは、異質な何かを感じる…」

 

李衣菜「異質ってどういうことさ?」

 

京介「一樹さんを料理で例えれば、スパイスのパンチを利かせた辛口カレー。だがあの真島は…食べてみないと分からない。食べた瞬間、意外にもその外見以上のうまみが出る…いわば珍味だ」

 

「「「珍味?」」」

 

京介「まずあの構え。カマキリみたいに腕を折り曲げて両手首を曲げて拳を一樹さんに向けている。俺からしたらいつ飛んでくるかわからないミサイルみたいなもんだ。あれは手を出しづらい。タイミングがまるで読めねえんだよ」

 

凛「迂闊に出たら…」

 

武内「真島選手のパンチが飛んでくるでしょうね…」

 

一樹と真島はリングをまるで円を描くように左に移動しながら様子をうかがっている。一樹は今のウィービングのタイミングを一定に保ちながら対する真島は時折拳をクイックイッと前に出しフェイントを織り交ぜている。

その行動は焦りを誘発させるためか、精神的にジリジリと追い詰めていくような感じだった。

 

そして十数秒ほど経ち、ついに動き出した。

 

一樹「フッ!」

 

仕掛けたのは一樹だった。

正に電光石火という名にふさわしいダッシュで真島の懐に入る。

一樹がこの数か月で考えた真島対策、それは開始ブッパ。重い一撃を与えて相手のペースを乱して一気に流れに乗る作戦だった。

 

真島「っ!」

 

フェイントを織り交ぜながらの移動を行っていた真島の拳が引いた瞬間を狙っていたこともあり、真島の拳は前に出して止まっている。これでもしカウンターが飛んできたとしても威力は半減。そこまでの力はないはずだ。

 

一樹「(一気に行かせてもらうぞ!)」

 

一気に詰め寄った一樹は自分の技のなかで一番信用でき、尚且つ確実に相手にダメージを与える技を選別していた。

リバーブロー。

これを喰らえば相手は悶絶して動けないハズ。

 

一樹「(頼むから喰らえこの野郎ぉぉぉぉぉ!!!)」

 

美波「いきなり大技ですか!?」

 

京介「だが当たれば相手は動けなくなる、そこにもう一発キツイ一撃を与えれば一樹さんの勝ちだ!」

 

末央「いっけええええ!!」

 

卯月「当たって下さい…!!」

 

誰もがその瞬間、当たると思っただろう。

しかし忘れてはいけない。真島のボクシングスタイルは、異質的な教科書に載っていないものだということを…。

 

一樹がその拳を振り切ろうとした瞬間だった。

 

シュッ

 

一樹「(はっ?)」

 

真島の姿は一樹の前から消え、一樹のリバーブローは空を切り、空振りに終わる。

 

一樹「(き、きえ―――――――――)」

 

ドガァン!!

一樹の意識が消えた真島に取られている瞬間、一樹の顎から痛みと身体には浮遊感が襲いかかる。

 

そして会場に響き渡ったのは何かが叩きつけられたような鈍い音。

それと同時に皆の視線には信じられない光景がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

大の字で倒れている一樹の姿だった。

 

 

 

 

 

全員がその光景に口を開けて驚愕としていた。

 

一樹「(何が…起きた…?)」

 

顎から伝わる鈍い痛み。ぼやけた視界の中で頭上にあるはずのライトを見上げる一樹。体は鉛が付いたように重く、動かない。

 

視界に入るのは指を突き上げて何かを言っているであろうレフェリーの姿。

 

一樹「(俺が…倒れた…何を受けた…顎の痛み…?アッパー…?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

末央「な、なにあれ!?」

 

武内「何を受けたのでしょうか…!?あ、アッパーだったような…」

 

京介「分類できねえ…!なんつうボクシングしやがる!こんなの、教科書どころか、だれも考えたことねえぞ!」

 

卯月「お兄ちゃん…!」

 

両目を閉じて祈りを唱えるように両手を合わせる卯月。それにたいし、全くわからないボクシングに会場の京介たちも翻弄される。

 

京介「不味い…顎は人間の急所の一つだ…意識を消えたことによりそちらに集中させて追撃を放つ…!一樹さんが今の一撃の正体に気づかない限りもう一度さっきの技を食らうぞ!」

 

武内「もしさっきの技を受ければ一樹さんに後はありません。だけどあの様子じゃ気づいてませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

何が…起きたんだ…消えたと思ったら下からのアッパーだぞ…?何が…どうなってやがる…?あの野郎…しゃがみやがったのか…?しゃがんだ状態から下からジャンプしてアッパーを繰り出したっつーことか…!?

 

どうやったらそんな発想のボクシングができるんだ…!

 

身体には力が入らねえ…普通のアッパーじゃねえな…これ…

だからって負けられるかぁぁ!!

 

一樹「くっ…!」

 

グラグラと周りの景色が揺らめいて見えるなか、俺は地面に拳を突き立て、体を支え起こす。しかし、足はぐらつき、うまく立てないでいた。

 

チクショウ…!脳震盪を起こしてるのか?

 

足が滑って倒れそうになるがロープを掴んで再び倒れこむのだけを阻止させる。

 

レフェリー「5!」

 

やべえ!カウントがはえぇ!

 

一樹「ぐっ…ぅぅ…!!!」

 

足を踏ん張らせろ!

 

レフェリー「8!」

 

 

 

 

卯月『お兄ちゃあーーん!!!』

 

 

 

 

 

ッ!!!

 

嗚呼、そうだよなぁ…当然見に来てくれてんだろうなぁ…だったら、こんなところで…こんな場所で、寝てられねえよなぁあああ!!!!!

俺は、あいつの、あいつらの、兄貴なんだからなぁぁぁ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

一樹「ふっ!」

 

両拳を構えて足をちゃんと立たせたる。足がまだ震えているがそんなのどうでもいい!早く試合を再開させろ!

 

レフェリー「……ボックス!」

 

よしよし!試合を再開させれたぞ…だけど持ち直したがまだダメージが抜けてねえ!足に来ちまってろくに頭も振れねえ状態になっちまった!

 

どうする!どうする!どうする!

 

真島「はぁ!!」

 

しまった!近づかれたか!

 

俺の目の前までやってきた真島は一気にけりを付けようと手数の連打が俺に向かってきた。拳を固めてガードをして拳をブロックしていく。

よし!拳はそこまで重くない!これなら1ラウンド持ちこして回復を…

などと思っていた俺が甘かった。固いブロックを馬鹿正直に撃ち続ける選手がどこにいる?それは今までにも経験済みであるにも関わらず俺は油断した。

突如真島の連打が止んだのだ。ブロック越しに真島を見ると、両手を上げていた。

 

何だ?攻撃とフェイントを織り交ぜてるのか!?どっちだ、右か、左か!?

 

真島「おらぁ!!」

 

真島の両拳が俺のブロック目掛けて飛んできやがった!なんて滅茶苦茶な戦い方しやがる!!

だがこのままじゃあジリ貧なのも変わりねえ!足が動いてきた。こっちも反撃するなら今だ!!

 

一樹「シッ!」

 

軽く放ったジャブが避けられる。だろうな。そう来るよなぁ…!あのビデオで見た同じ動きだ。

真島は低い位置で頭を左右に振りだし、グネグネと身体をひねり始めたのだ。

 

出やがったよ…厄介なのが…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の観客たちは真島のボクシングをまるで見世物のように見て笑っていた。

だがこの状況で笑えない人もいる。

 

京介「出やがった…なんだかよくわかんねえボクシング!」

 

凛「ねえ、後輩君…世の中あんなボクサーって結構いるの?」

 

京介「いねえよ!いたら怖いわ!」

 

末央「現にあそこに一人いるんですが…」

 

京介「あれは特殊なだけ!俺でも考えたことない!!」

 

智絵里「でも、考えてる人…あそこに…」

 

京介「……」

 

莉嘉「あっ黙った」

 

ついに黙りまじめた京介だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

畜生めぇ!!攻撃が当たらねえぞコイツ!

どれだけジャブを撃とうがコイツのくねくねした動きで全部避けられる!

 

もうこいつの考えてることがわからねえよ!!

 

真島「てい!!!」

 

バシィン!

したからテンプルに向けられた拳を何とか両拳を使いガードに成功する。

ちくしょう!なんつー所から拳を出して来やがる!

 

カァーンカァーンカァーン!

 

レフェリー「ストップ!1ラウンド終了だ!」

 

チクショウ!結局空振りで1ラウンド終了かよ…得点は奴のリードか…。いや、これでいいのかもしれねえ。一度落ち着くぞ…。

俺は息を荒げた状態でニュートラルコーナーに戻り、椅子に座る。

 

一樹「ハァ…ハァ…」

 

里中「しっかりせい!相手のペースに飲まれるな!」

 

もう飲み込まれてんだよ!このままじゃあズルズルと引きずり込まれていく。今まであんなクネクネした動きの奴……待てよ……動きを見ていてもあのクネクネした動きにはタイミングという物が発生している…例えば俺がジャブを撃とうとしたらそのジャブの動きに合わせて避ける…だとしたら…。

 

『Round2!』

 

少し思考を変えた動きをしてみるか…。

 

マウスピースを再び口の中に入れて俺は椅子から立ち上がり、拳を構える。

 

すると真島は再びあの動きをし出した。クネクネと動くその動きを目で追いながら俺も頭を振り始める。

さっきまでの打ち合いとは打って変わって真島はクネクネの動きから動こうとしない。様子見なのか、それとも攻撃の隙を狙っているのかはわからねえ。だが、ここからだ…。まず右っ!

 

ジャブを見て真島の身体が大きく動いた。今だ!!

 

足を大きく前に出して、ダッキング!奴を俺の射程距離に入れた!

 

右と見せかけて左のストレートだあ!!

 

真島「何っ!?」

 

ドガァン!!

捕ったァ!!!

 

俺の左ストレートは、真島の顔面を捕らえ突き刺さり、そのままリングに叩きつけた。

 

実況者『だ、ダウンだーッ!!1ラウンドとは打って変わって島村一樹の重い反撃が、真島に突き刺さるーッ!!』

 

「「「わあああああああ!!!!!」」」

 

よしっ!奴からダウンを取った。拳に手ごたえもしっかりとある。効いてるはずなんだ!

 

レフェリー「ダウン!ニュートラルコーナーへ!」

 

一樹「はぁ!はぁ!」

 

里中「一樹!はよ戻れ!」

 

言われなくたって、戻るさ……。

チクショウ…1ラウンドでだいぶ体力削られたのか…息が上がっちまってらぁ…!

 

レフェリー「1!」

 

レフェリーのカウントが始まった。頼むからそのまま立つな…!

 

レフェリー「2!」

 

レフェリー「3!」

 

立つな立つな立つなっ!

 

レフェリー「5!」

 

それはさっきの俺の再現なのか?それともレフェリーの声でこいつが意識を戻したのかはわからねえ、だが、

 

真島「くっ…ぐっ!」

 

真島は立ち上がろうとしていた。

 

それはベルトを掴むための執念か、それとも意地か、だがそうだよなぁ…こんなもんで、日本フェザー第三位なんて狙えないよなぁ…!考えが甘いのは俺なのかもしれない。何が『立つな』だ。こんな一撃で倒せた簡単な試合なんて今までなかったもんなぁ…!

 

良いぜ…これでこそボクシングだ…この泥臭さこそボクシングというもの!

 

まだまだ相手してやるよ!!

 

実況者『おおっと!真島立ち上がりファイティングポーズを取った!』

 

レフェリー「…ボックス!!」

 

カァーン!!

 

再戦のゴングが今まり響いた。

 

さっきの一撃で警戒しているのか、真島は露骨に俺から距離を取り始め、そのまま動かない。ということは…。

 

ダン!

 

リングを足で蹴り大きめの振動を起こすと、真島の身体が少し揺らいだ。

間違いねえ。コイツ、足に来てるな…だったら…!

 

今ならあのヘンテコな動きはできないってこったぁ!!

 

俺は真島との距離を一気に詰めて打ち合いに持ち込む。俺の左のパンチを真島に放つと真島はそれをブロック。次に真島が右の拳が俺に飛んできた。

 

一樹「おごぉっ!!」

 

真島の拳は俺の腹に入る。だがまだまだぁ!!

反撃と言わんばかりに俺の右拳を真島の顔に叩きつける。それをやり返すように次は真島の拳が俺の顔目掛けて飛んできた。これを左でブロック!

 

実況者『おおっと!両者とも譲りません!激しい攻防がリング上で繰り広げられています!!』

 

クソッ左目が腫れてふさがってきやがった!だがまだ、右目がついてる!見えているウチがお前を倒す!!

 

真島「ごあっ!!」

 

一樹「ぐぅっ!!」

 

互いにガードを捨てて打ち合いになっていき、殴り、殴られの繰り返しを互いにし続ける。

 

腹を、頭を、横腹を、顔を、あらゆるところを殴り殴られていき、ボロボロになっていく。

 

 

気をしっかり保て!緩めたら終わるぞ!

 

そう自分に言い聞かせて打つ、打つ、打つ!

 

一樹「ゴォ!」

 

腹を打たれ、息が詰まってくる…!気が…遠のいていきそうだ…!だがそれは相手だって同じだ!これはもうボクシングの頭脳戦じゃねえ!単純のタダの、『喧嘩』だ!!

 

俺たちの殴り合いは、時間が経つのを忘れさせるほどの打ち合いになり、ゴングが鳴り第3ラウンドへ、第4ラウンドへ、またまたいで現在5ラウンド目に入った。何度も気が遠のきながらも俺たちは必死に打ち合った。

殴り、殴られの繰り返し、俺たちはまるで獣の様に殴り合った。

 

 

 

握りしめた拳を再び真島に放つ。しかし、その時、真島の姿が1ラウンド目と同じように消えた。

 

 

 

 

 

 

 

未央「ヤバい!またあの技だ!」

 

李衣菜「あの技がまともに入ったら!」

 

武内「一樹さんの…負けです!」

 

蘭子「お兄さん!!!」

 

みく「お兄さん!!!」

 

かな子「お兄さん!!!」

 

 

 

 

 

卯月「お兄ちゃん!!!!」

 

 

 

 

 

消えた真島の姿はどこに行ったのか、それは一樹の下、つまり真島は屈んでいた。そこからジャンプをして相手の顎目掛けてパンツを繰り出す。ジャンプした際の足のバネの力により威力は大幅に上がる。これが真島の消えた姿の正体だった。

近くにいれば目の前に集中してしまうため放たれた瞬間何が起こったのか分からない。それがこの技の正体だった。

 

真島の足が地面を離れ、放たれる拳は一気に一樹目掛けて飛んで行った。だが

 

シュッ!!

 

一樹はそれを見据えていた様にバックステップを使い距離を離した!

 

真島「(えっ!?)」

 

それは極限状態での集中力からか、はたまた野生の勘なのか、それは分からない。しかし一樹はこの瞬間を狙っていたかの様に拳を再び固く握りしめ、真島に向かって放った。

一樹の拳は空振りとなった真島の技で殆どがら空き状態。

 

拳は吸い込まれるように真島のリバーに突き刺さった!

 

ドゴォォォン!!!

 

それはまさに剛拳。それはまさに鉄の拳と呼んでも良いほどの一撃。

真島の身体は殴られた拍子に横に折れ曲がり、苦悶する。

込み上げる吐き気、視界が白い景色に塗り替えられた。

 

だが追撃は終わらない。

 

一樹「ぬあああああああ!!!!」

 

獣の様な咆哮。そして真島のぼやけた視界に入ったのは…

 

反時計回りに回っている一樹の姿。

ギュルギュルという異音を放ちながらまるで身体にブースターが詰め込まれているかのような速度で反時計回りに回った反動を利用し、右の拳が勢いをまして迫ってくる。そして振り向きざまに見えたのは…

 

闘志という炎を燃やし、目に輝きを宿らせた一樹の瞳だった。

 

ガゴォォォォォン!!!!!!!

 

拳は吸い込まれるように真島の顎を捉えた。そして顔をはねあげられた真島の身体は中に浮き、そのままリングに大の字になるように倒れていった。

 

レフェリー「ダウン!!」

 

実況者『だ、ダウンだーッ!!!!まさかの逆転!!!島村一樹1ラウンドの雪辱を晴らすように一撃を真島に決めたああああ!!!』

 

一樹「っだーー!!はぁ…はぁ…!」

 

詰まっていた息を一気に吐き出し、ニュートラルコーナーに戻った一樹はほとんど満身創痍の状態でロープにしがみついた。

初めて技が成功した。それは一樹が全神経を集中させた渾身のS(mash)ingだった。それは同時に疲労をピークを達していることを物語っている。

 

一樹「ハァ…ハァ…(こ、ここまで全集中力を使ったのは初めてだ…5ラウンドでこれだ…打たれ過ぎた…!正直、もう体力の限界だ…!俺も歳…か)」

 

レフェリーは倒れた真島の前に立ちカウントを開始し始める。

 

レフェリー「1!」

 

これで立ち上がるようなことがあれば一樹は体力が削られている分戦いが不利になるであろう。里中を初めとして会場にいる京介達もそれに気づいている。それゆえに願った。

 

もう立つなと

 

だがそれは儚くも打ち壊された。

 

ピクッと真島のグローブが動いた。

 

真島「うぐっ…」

 

真島も満身創痍のはず。なのにも関わらず、顔から鮮血を流しながら立ち上がろうと身体を起こそうとしていた。

 

京介「マジかよ…!」

 

かな子「立とうとしてます!」

 

京介「不味いぞこれは…!この5ラウンドで一樹さんは打たれすぎた。前半はブロックで攻撃をを回避してたのに後半からは殆ど殴り合い。体力の消耗が激しい筈なんだ!」

 

莉嘉「じゃあ、次もし立ったら、お兄さんどうなるの!?」

 

京介「…考えたくないことだが、負けるかもしれねえ!」

 

真島の片足が地面に付き、拳をリングに突き立てる。ダメージが抜ききれてない重い身体を起こそうとしている。

 

レフェリー「8!」

 

両拳を構えて拳を構える。

 

レフェリー「9!」

 

真島「ふぅぅぅぅぅッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

レフェリー「10!」

 

 

 

 

 

 

 

カァーンカァーンカァーン!!!

 

10カウント数えられた。

真島の足を見ると片足は確かに地面をちゃんと着いていた。だが、もう片方の足を見ると、膝を地面に着けていた。ファイティングポーズを取っても両足が立って居なければ意味が無い。

 

それは試合続行不能を意味していた。

 

実況者『試合終了〜!!!激しいインファイトを打ち合い壮絶な幕切れ〜!!!元王者はやはり強い!!!島村一樹、凱旋して間もなくフェザー級3位に勝利〜!!!!』

 

「「「わあああああぁぁぁぁあああ!!!!!!」」」

 

歓声が響き渡り、一樹は緊張の糸が切れたのか、背にしていたコーナーからズルズルとへたりこんだ。

 

一樹「…マジかよ…」

 

完璧といかないコンディションで何とか勝ちをもぎ取った一樹。すぐにセコンドの里中が一樹を担ぐ。

 

里中「よくやった!よくやったわい!!」

 

一樹「か、会長…俺…やっちまったよ…!第3位に勝っちまったぞ…!?」

 

里中「そうじゃ!お前が勝った!紛うことなき現実だ!」

 

現実。それは一樹がボクシングをしている実感を得て初めての勝利。込み上げてくる喜びを隠しきれず、顔がニヤける。

 

一樹「よっしゃあああああ!!!!」

 

両手を上げて溢れんばかりの喜びを表現すると歓声が再び上がった。

 

それは観客席にいた京介達も伝わった。

CPメンバーが総出で喜び、抱き合い、手を繋いではしゃぐ。

 

卯月「や、やりました!お兄ちゃん勝ちましたよ!京介君!」

 

京介「おう!!これで第3位は一樹さんだ!ベルトまでもう少しだ!!」

 

そう、第3位はチャンピオンまでもう少しという意味。第1位で無くてもチャンピオンから指名されることもあれば、一樹自信が挑戦状を叩きつけることも可能。今、一樹の世界再挑戦への道は、大きく歩を進めた。

 

フェザー級第3位争奪戦

 

島村一樹 19戦 18勝 1負 16KO

 

日本フェザー級第3位獲得

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

一樹が控え室にて激闘の果てに寝てしまった。静かに寝息を立てながら、武内が車を回し一樹を送る準備をしていた。その際にCPメンバーは総出で一樹の控え室で心配そうに見ていた。

 

卯月「お兄ちゃん…」

 

一樹の手を握りしめ、心配そうに見守る卯月。そこにある人物が控え室に入ってきた。

 

音々「やっほー!弟く〜ん。ってあれ?」

 

控え室にて寝ている一樹の姿が目に入りキョトンとさせている天草音々とアレクシアだった。

 

音々「ありゃりゃ〜…まああれだけ打たれてれば当然かな?」

 

コツコツと一樹の元に近づく音々とアレクシア。

一樹の前まで来るとしゃがみこみ一樹の顔をつんつんと指でつつく。

 

音々「ふふっ、可愛い♪」

 

シア「音々姉様ばかりずるいです」

 

そう言いながらつんつんとアレクシアも指で一樹の頬をつつく。

 

卯月「す、すいません、お兄ちゃんは疲れているのでそっとして置いて欲しいんです」

 

音々「それもそうだね。ごめんね。妹が出来たと思ったらちょっとからかっちゃった。卯月ちゃん…で良かったわよね?」

 

卯月「あ、は、はい!」

 

音々「貴女も、弟くんの事好きなんでしょ?」

 

卯月「……へっ!?」

 

突然のことを言われ少し反応に遅れて顔を真っ赤にさせてあわあわと両手を胸のあたりで横に振り始める卯月。

そのことに関してCPメンバーの二人ほどがガタッ!と立ち上がりそうになるが末央が二人の肩を抑えて立ち上がることを阻止させる。

 

音々「わかるよ。同じ人が好きなら特にね」

 

後ろの二人が立ち上がりたそうにしているが末央はそれを許さない。

卯月は未だにあわあわと目をグルグル回して混乱している。

 

卯月「ああ!えと!わ、わたひとお兄ちゃんわわあわわ!」

 

シア「卯月さん、落ち着いて」

 

音々「じゃあライバルだね!これからよろしくね♪」

 

音々は笑顔で卯月に手を差し出した。

 

卯月「あ…えと…は、はい!」

 

卯月と音々は互いの手を取り合い握手をする。

 

だが、この後卯月はとんでもないことをしでかす。

 

握手した手を放すと卯月は再び寝ている一樹の前まで来て、両手を一樹の両頬に置き、顔を近づけた。

 

音々「えっ!?」

 

寝ている一樹の唇と、卯月の唇が近づき、

 

ついに付いた。

 

宣戦布告である。

 

蘭子、みく「ええええええええ!!!!」

 

末央の手を放し別の意味で立ち上がる二人。

 

他のCPメンバーも唖然としている。

卯月は唇を離して赤らんだ顔を音々とシアに向けて涙目で口を開いた。

 

 

 

 

卯月「負けません!」

 

 

 

ガチャ

 

京介「おーいみんな、車の準備が出来………」

 

皆が唖然としている中、京介が控室のドアを開けてやってきた。

辺りは重い空気が支配しており、京介は何が起きているのかわからない状態。

 

京介「……何この空気」

 

勿論一樹はこのことを知らない。本人の知らないところで勝手にファーストキスを奪われた一樹だった。




~次回予告~
休養生活に入った一樹は店を休みにしてゆっくりと体を休めていた。そこに勝手に居候してきた二人が恋する乙女たちと激突する!?今、恋の第1Roundのゴングが鳴らされる。

次回Round.30「恋せよ乙女達!大志を抱け!」

一樹「俺の居ないところで何が始まるんです?」

京介「大惨事対戦じゃないですか?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.30

し…仕事で死ぬ…
前回の次回予告はタイトル詐欺です…というかネタに詰まってこうなってしまいました…


島村一樹 日本フェザー級プロボクサーである彼は先日試合を終えて見事勝利。結果は日本フェザー級3位を得た。そして試合が終わり数日。精密検査を行い身体に別状が見られなかった一樹は家で安静にすることをジムに言い渡された。

現在一樹は顔に絆創膏やらを付けた状態で自分の部屋のベットで安静にしていた。

 

試合が終わった日は決まって深い眠りに入ってしまう一樹にとってはいつもの事であるのだが、それを心配している者たちもいる。それは義妹である卯月や居候のりあむ、更にはみく、蘭子までもが一樹の見舞いに来ていた。

 

「お兄ちゃん…」

 

静かに寝息を立てている一樹の額にあるタオルを取り水に浸して水滴を絞り再び一樹の額にタオルを置く。

 

心配した表情で一樹を見守る中、一樹の部屋のドアが開く。

 

「弟くん、ごはんどうする?」

 

そこに現れたのはエプロン姿の音々。後ろでは同じくシスター服のままエプロンを付けたシアの二人。手には小さな土鍋が置かれたお盆がある。

 

「あらら、まだ寝ちゃってるのか…」

 

「お兄ちゃん、大抵試合が終わったらこんなふうに寝ちゃうんです。今日は一日起きないかも…」

 

「うふふっ眠って体力を回復させるあたり熊さんみたいね」

 

などと笑いながら言っている音々はお盆を机の上に置いて一樹に近づく。

 

「ボクシングかぁ…昔の弟くんからは考えられないなぁ…昔は喧嘩ばっかしてたこの子が、前は日本チャンピオンにまでなってたなんて…」

 

「…お姉さんはお兄さんのこと知らなかったんですか?」

 

「そうなのよ!弟くんったらいきなり施設を出て行ってそれから十年近く音沙汰無しよ!時々手紙は来てたけどまさかここまで大きくなってるなんて思わなかった!昔はとにかくパワフルだったの。話せば長くなるけど、昔は大きな走り屋集団100人近くの相手に一人で立ち向かうほど喧嘩ばかりだったの」

 

「それなんて雨〇兄弟?」

 

「末央、一人だから兄弟じゃないよ」

 

「じゃあポジション的にしまむーが雨宮〇斗ポジ?」

 

「えぇっ!?私ですかぁ!?」

 

「ボケ続けたら収集付かないから、末央少し黙ってて」

 

「まあ、この子の場合は、力を持て余してたというか、腕力があったというか……でも、優しかった…外では大暴れしても、施設内で暴力を振るうことは一切なかったし、困ってる子がいれば率先して助けてあげたりしてたの。変に暴言を吐いたりもしなかった。今と変わりない心は優しい子だったわ」

 

一樹の過去を知る卯月たちからしたらそれは知らなかった事ではあったが、今の一樹の姿を見ていたら納得のいく姿ではあった。根はやさしく、困っていたらすぐに助けに来てくれる頼れる兄。昔も今も変わりないその現状に卯月たちは何故か心から安堵していた。

 

「あっ、タオルズレてる」

 

一樹の額に当ててるタオルのズレを直し、そのままどさくさに紛れに頭を撫でる音々。

 

「ッ〜〜!」

 

その姿を見た瞬間、卯月の心はズキッと何かが引っかかるような感情襲われた。そうその感情を卯月は知ってる。『これは嫉妬だ』と。

それは後ろにいる蘭子とみくも同じだ。先日の卯月が行った一樹へのキスは2人の心を大きく抉るように頭に残っていた。そのモヤモヤは何時しか出遅れているや、卯月に1歩先に行かれたと思わせられた。義理とは言え兄妹なのにというツッコミは思い浮かばず。

だがりあむとここにいない幸子や文香だけはその真実を知らずにいた。だからか、殺気とは違うものの明らかに不機嫌になっている二人を見て怯えているは、りあむが知らなくてもいい事を知っていないからだ。

 

「あっそういえば荷物にアルバムがあって昔の弟くんの写真があったハズよ!見たい人!」

 

「「はいはいはいはいはい!!!」」

 

恋する乙女達の蘭子とみくは直ぐに手を挙げて立ち上がる。正直そも勢いに音々は若干引き気味だったが、直ぐに「わかったわ」と言い自分の部屋からアルバムを取りに戻った。

りあむと卯月も正直にいえばすぐにでも昔の一樹の写真を見たいと思っている。だけどここで2人のようにはしゃいでははしたないのでは?と思いつつあった。

 

でも本心を言うと『ムチャクチャ見たい』である。

 

義妹の卯月ですら少年時代つまりは島村家の人間になってから前の一樹を知らない。だからこそ見たい衝動に駆られているのだ。

 

そんな中でりあむだけは

 

「(お兄さん、後で絶対怒るだろうなぁ…)」

 

という確信に満ちた思いをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

「…ん?」

 

寝ぼけた意識の中、一樹は前の試合の怪我による痛みに耐えながら体をベットから起こし、部屋の掛け時計に視線を向ける。既に時刻は午後19時。どうやら一日中寝続けたようだった。

欠伸をし、目を擦りながら半覚醒状態のままベットから立ち上がり、階段を下りて食堂に向かう。

 

冷蔵庫の前に立ちミネラルウォーターの入ったペットボトルを手に取り冷蔵庫を閉めると、目の前に見知った人物達が店の一角に集まっていた。

 

「それでねーーー」

 

「そ、そんなことがーーー」

 

遠すぎて声までは聞こえにくいが、義妹と義姉とそのお友達たち。仲良くおしゃべりしているあたり、卯月は音々たちと打ち解けたのであろう、そう思い笑みをこぼしながら水をコップに入れて、口の中に入れる。一息着いてペットボトルを冷蔵庫の中に戻していると

 

「この写真の弟くんなんてね!」

 

「ん?」

 

一樹の身体はビクッと反応した。

 

ーーーシャシン?

 

さっきまで浮かべていた笑みは段々と苦虫をかみ潰したかのように苦笑じみたものに変わっていき…。

音々達の元に向かう。

 

テーブルにhそれぞれの飲み物が入ったカップと、その中心には…

 

 

若かりし頃の一樹の写真が大量に置かれていた。

 

 

「ーーーーー」

 

 

言葉にならないなんとも言えないものが一樹に襲いかかる。

例えるなら、寝ている時に突然羽音が聞こえ、顔に固いものが当たったので電気をつけて見てみるとその正体がゴキブリだったようななんとも言えない驚き。

写真に写っているどう見てもアウトロー感が半端ない少年の写真。そしてそれを身近の人間に見られた喫茶店の主人。

 

「お前らーーーー」

 

一樹の髪はまるで下から風が送られているようにゆらゆらと動き、その写真を見ている人間たちに声を掛けた頃には金色の煌めきと共に逆立った。

 

「ナニヲシテイルンダァ〜」

 

ドスの効いた低音ボイスと共にキュピッキュピッという足音と共に話で盛り上がっている少女たちの元に近寄る一樹。

そしてその声を聞きビクッと身体を震わせた少女たち。首からキリキリと軋むような音を出しながらゆっくりと一樹の方向を向くと、そこには白目を見せて黄金に輝くオーラを纏った(ように見える)一樹がいた。

 

「で、伝説のスーパーボクシング人…!?」

 

「音々姉様、ツッコミを入れるより逃げる方が先決かと」

 

「そうみたいだねシアちゃん!みんな、逃げよう!!」

 

「「「行動早ッ!?」」」

 

「逃がすかァァ!ひつきぼしの鳳凰の握りこぶしの奥深い意義の天翔の十字の鳳!!」

 

「社友者!?お、弟くん落ち着いて!!」

 

「出来ぬぅ!!!!!」

 

ガッシャアアアアン!!!!!と何かがぶっ飛んだような音が店から聞こえ、その日から、1週間程店の営業は休みになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Round.31

二か月も遅れてしまうとは…穴があったら、入りたいっ!!!

申し訳ございませんでした……


恐れ、不安、焦り。

マイナスな感情とは時に人の調子を狂わせて不調をきたすことがある。だが、ある一部の人間はそれをバネにひたむきになったりする事がある。

一樹は後者で、京介は前者だ。

一樹じゃプレッシャーが強ければ強いほど力を付けようと努力を惜しまない。長年の経験や練習で培われた事を総動員させ、初心に戻りながらひたむきに打ち込む。

対して京介はアマプロのボクサー。試合に対する大きなプレッシャーという物を経験したことは無い。それは若さゆえ、とも言えるであろう。

 

京介の次の相手はサウスポーのボクサー。はっきり言ってしまえば未体験の相手と戦うというのはあまりにも大きなプレッシャーを感じてしまった。

従って彼は体調を崩し熱を出してしまった。まだ試合までは3ヶ月ほど余裕があるが、その3ヶ月の内の数日を無駄にしてしまうという事実だけでも京介の負担になってしまうのだ。

 

「(こんな大事な時期に風邪引くなんて…我ながら情けねえ…)」

 

アマとはいえプロはプロ。体調管理も万全にしてこそのプロボクサーだ。そんなプロである自分が風邪を引くという事態に自分をただただ情けないと頭を悩ませる。とにかく早く休んで治さなくては…そう思いながら京介はベットに入り込み、目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

『お前、ムカつくんだよ』

 

俺は昔から何かしらトラブルを抱えることが多かった。それは昔の俺が後ろ向きの性格だったからかもしれない。弱く、暗い性格が仇になりそういう存在はいじめの対象にされる。

そんな俺はこれ以上トラブルを抱えたくない一心で常に作り笑いをして、その場をごまかしていた。

学校の帰りに不良に殴られるなんて日常茶飯事。でも親には心配させたくなく、黙っていた。

苦しむのは俺だけが済めばいい…そう思っていた。

 

『やめろ。男が数人で一人をボコって楽しいのか?』

 

そこに現れたのは、今や俺の憧れにして、追いかける存在である一樹さんだった。

一樹さんはゆっくりと不良たちに近づき、俺の服を掴んだ手を掴み、俺を放してくれた。

 

『全く、骨は折れてねえな…痣が出来た程度か』

 

俺の顔や体を触りながらそう言う一樹さん。だが、突然の一樹さんの登場は不良にとっては、不愉快極まりなかったらしく、すぐに絡んできた。

 

『んだ、オッサン!邪魔すんな』

 

『オッサン…まだ19歳なんだが、俺って老けて見えるのか…?』

 

不良の一言に軽くショックを受けた一樹さんは肩をカクンと落としてしまうが、すぐに立ち上がりポジティブなことを言い出した。

 

『いや、よくよく考えれば、大人に見えるともとらえられるわけだな…!』

 

不良の挑発にも乗る様子もなく、一樹さんの目は輝いて見えた。長い髪を後ろで一本まとめにし、風に揺られるその艶やかな髪から花のような香りが鼻につく。まるで女性のようだった。

 

『んだ、このオッサン、女みたいな匂いがするぜ!髪も長くしやがってよ!』

 

『…ん?まだいたのか。お前らも、こいつを殴って暇をつぶす時間があるなら勉強か、何か趣味に打ち込めよ。今のままじゃあ、ただ虚しいだけだと思うぜ』

 

その一言は、不良たちの挑発には丁度良かったのであろう、不良たちは一樹さんに向かって拳を振りかざしながら走ってきた。

 

『んだとコラー!!』

 

不良の一人が一樹さんに拳を振るったが、それが当たることは無かった。一樹さんの軽やかな足で不良たちの攻撃が空を切ったのだ。

 

『あれ?』

 

『ふぁ~…』

 

不良の後ろに立ち、あくびをして目を指で擦る一樹さん。

 

『テメーッ!』

 

あきらめまいと不良は再び一樹さんに殴りかかった。しかし、どれだけ拳を振りかざそうと、一樹さんに拳が当たることは無かった。ヒョイヒョイと攻撃を避わしていき、時間が過ぎていく。不良が息を切らしていると、一樹さんは拳を固く握り、顔のしわを寄せ、まるで般若のような恐ろしい顔で

 

『シッ!!!』

 

不良の鼻先スレスレで止めた。今思えば、あのまま殴り抜いたらあの不良は大けが間違いなしだっただろう。

不良は攻撃が当たらなかったが、一樹さんのその凄まじい破壊力を誇る拳の気迫にやられ、腰を抜かした。

 

鬼のような形相だった一樹さんはへたり込んだ不良を見てすぐに笑顔になった。

 

『わりぃわりぃ、脅すつもりはなかったんだがな!』

 

『ぁ…ひ…』

 

言葉を無くした不良はまだへたり込んだままだ。そんな不良に一樹さんは肩に手を置いた。

 

『…俺の髪が女見たいだのなんだの言ってたが…弱いモンいじめをして寄ってたかって攻撃するのは、男でもなんでもねえぜ…世間一般でそういうのをなんて言うか教えてやる……

 

 

 

クソ野郎だ』

 

 

 

その時、俺は強さという物を知った。強く、そして凛としたその姿に、俺は憧れを抱いてしまった。

それを知った時点で、俺が一樹さんを追いかけるには十分すぎる理由だった。

 

俺はそれから一樹さんを追った。

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

目を開けるとそこはいつもの俺の部屋の天井が視界に入った。体を起こし時計を見ると既に夕方の4時ぐらいになっている。

 

「…もうこんな時間か…」

 

コンコンと部屋の出入口のドアからノックの音がする。

 

「どうぞ…ん?(あれ?確か今日は親父もお袋も仕事で明日帰るんじゃあ…)」

 

ガチャりとドアが開かれ人が俺の部屋に入る。その人物は両手に土鍋を乗せたトレーを持ち、エプロン姿の。

 

一樹さんだった。

 

「うん予想通り」

 

「ん?何が?」

 

俺の言葉に一樹さんは首を傾げている姿が、なんだかおもしろく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

『ボクシングを教えてください!』

 

俺は一樹さんに憧れからボクシングが好きになり、一樹さんの後を追い、弟子入りを志願した。だが、一樹さんはそんな俺に対し、

 

『駄目だ』

 

そうやっていつも俺を突き離そうとした。

 

『どうして!?』

 

『…お前、この前の奴らにやられて悔しくなかったか?』

 

『っ…それは…』

 

『お前の身体を少し見たが、痣があったな。毎日かはわからんが、頻繁に殴られてるだろ?』

 

『…』

 

俺は黙り込んでしまい、下を向いてしまう。

 

『半端な強さを求めようとしてるならやめとけ』

 

それだけを言い残し、一樹さんは走り去ってしまう。俺はその姿を、黙って見るしかなかった。

俺はその日から自主練を決行した。あの人を追いかけるためには、まず自分を変えてあの不良どもを倒したら認めてもらえると思った。

 

毎日走り込み、拳を鍛え、ボクシング資料や、雑誌、ビデオを見て我流でボクシングを学んだ。

 

その成果があってか、俺は不良どもをあっさりと倒してしまった。学校の校舎裏で三人を完膚なきまでに殴り潰した。鼻を折り、鼻血をダラダラたらし俺を恐怖の表情で見ている不良どもの眼が俺を映しこんでいる。

 

『た、頼む!今までのことは謝る!この通りだ!ちょっと遊び心だったんだって!』

 

あの時の俺は、よく覚えてないが、嗤っていたんだろうな。

 

最後のとどめを刺そうと拳を高く振りかぶった時、俺の拳は誰かの手により止められた。

 

『…』

 

そこにいたのは、鬼の形相で立っていた一樹さんだった。

俺の手を持って放そうとしない一樹さんは不良たちの方を向き口を開いた。

 

『オイ、ガキども…変にちょっかい出したらこんな風にしっぺ返しが来る。以後は自分の身の振り方を考えて学生生活をしろ。その鼻はその教訓だと思うんだな。今までお前らがコイツにやってきたことに比べれば安いもんだろ…なぁ?』

 

ドスの聞いた威圧的な言い方に不良たちは『は、はいぃぃぃぃ!!』と一目散に逃げていく。

だがそんなことどうでもよかった。何故一樹さんが俺の学校を知っててここにいるのかということしか頭になかった。だが、そんな考えは次の一樹さんの行動で全て消された。

 

『さて、次はお前だ』

 

胸倉を引っ張られ、壁に叩きつけられる感触が俺の身体に走った。背中の痛みより俺の視界に入った激怒の表情の一樹さんの顔に意識が向く。

 

『一部始終は見させてもらった。俺は言ったはずだよな…半端な強さを求めるのはやめろって…どこで見たのかわからんが、ボクシングの技をこんなくだらない喧嘩の為に使いやがって…!』

 

『…っぃ…!』

 

『俺がお前にボクシングを教えなかった理由を教えてやるよ。それはこんなふうに仕返しを考えてると思ったからだ!お前の技は全て半端だ!スピードも、力も、技も、何もかも半端だ!それを手にした大体の人間は強くなったと勘違いしやがる!今のままで自分が変わったと思ってるのか?とんでもねえ!もっと質悪いモンだ!!』

 

一樹さんの怒号がなり止むと、一樹さんは俺の胸倉を掴んだ手を放した。

 

『ボクシングを教えてほしいんなら、俺はお前に一切教えん。他を当たれ…』

 

冷たく言い放たなれる言葉は俺の心に突き刺さり、目頭が熱くなり、ついに俺の心にたまっていたものが爆発した気がした。

 

『じゃあどうすればよかったんですかぁぁ!!毎日毎日あんな日を送って、力もない俺が一体、どうやっていけばよかったんですか!!一樹選手は強いですもんね!そんな日々を送ったことは無いでしょうね!………『強さ』って…何なんですか……強いって……一体どんなものなんですかッ……!!どんな気持ちなんですか…!』

 

涙が頬を伝い、次々と地面に落ちていく。止めることも出来ず、ただ下を向くしかできない。

 

『…今のお前みたいに強さを人に振りかざすのは強さじゃねえよ…そして、強さっていうのは俺が全てじゃない…自分で考えていくもんだ…だがそうだな、その強さを知るためにボクシングを始めるなら、俺は教えてやってもいい…』

 

ペラッと俺の足元に何かが落ちた。名刺のような小さな紙。涙で視界がぼやけてよく見えず、それを手に取り、それをみる。

 

『里中ジム 会長里中茂』と紙に書かれていた。

 

『ボクシングを教えるのは俺じゃねえからな、会長に直接言ってみろよ』

 

後ろを向いたままヒラヒラと手を振る一樹さん。日の光に一樹さんの姿が消えると、女生徒らしき声が聞こえた。

 

『お兄ちゃんどうしたんですか?いきなり飛び出すからびっくりしました』

 

『悪いな卯月、さあ帰るぞ!』

 

『はいっ!』

 

後で聞いたが、卯月と俺は同じ小学校、中学校だったらしい。あの時、一樹さんは卯月を迎えに来てて、たまたま俺を見かけたらしいのだ。その事実を俺はつい最近聞かされた。

縁とはどこで繋がってるのかわからないと、俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと昔のことを思い出し、俺は一樹さんが入れてくれたココアを飲みながら微笑んだ。

 

「んだよ、気味悪いな」

 

「その返しは流石に辛辣では?」

 

「おっ、尊敬する先輩に向かってその態度とは、お前もデカくなったなぁぁ~」

 

まるでいたずらっ子の様に悪い笑みを見せる一樹さん。俺はそんな一樹さんをジト目で見続ける。

 

「……いや、何かすまん」

 

「ぷっハハ!」

 

流石に耐えれなくなったのか、素直に謝りだす一樹さんに吹いてしまう。

まだまだ学ぶことが多い。でも、その学ぶことは逆に嬉しいと思う。やることが増えることは俺にとって苦ではない。それは、俺が本当の強さを見つけ出すはじめの一歩なんだから。

 

「一樹さん」

 

「ん?」

 

「俺は、強くなりましたか?」

 

その問いに一樹さんは驚いた表情をした。そして少し間を開け、微笑んだ。

 

「ああ、ボクシングだけじゃなく、心もな」

 

その問いが俺にとってどれだけ嬉しかった。俺は今ちゃんと笑えているのだろう。昔と比べると明るくて、強くなったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばどうやって家に入ったんですか?」

 

「お前のご両親から依頼されたんだ」

 

「まだ続いてるんですか家事フェザー級チャンピオン…」

 

「うるせっ!」

 

「あれですかね、今流行りで言うところの、『全集中家事の呼吸』ってやつですか」

 

「お前それ色んな所を敵に回すぞ」

 

 

 

 

 

 

おまけコーナー

 

さあはじまりました色んなキャラクターのお悩みを島村一樹に相談しようのコーナー!

 

「始まんな、終われ」

 

今日のゲストはこの方です。

 

「聞けよ」

 

垂れ幕が上がり、入ってきたのは黒い服に白と先端部分を赤い炎のような模様が入った羽織を付け、腰に刀を差した人物。

 

「うむっ!」

 

「大正時代に帰れ」

 

「よもやっ!」

 

「いや、『よもや』じゃなく…」

 

「実は最近弟の千寿郎の様子がおかしくてだな!」

 

「……詳しく」

 

一樹はシスコンである。兄弟姉妹の問題の会話に敏感だ。シスコン、ブラコンは惹かれ合うのだ。

 

「前は部屋に入っても『兄上!』と駆け寄ってくれたのだが、最近はそれが減って、部屋に入ると『部屋に入る際は声をかけてください!』と怒られてしまってな!」

 

「……………………

 

 

 

 

 

 

思春期だからじゃね?」

 

 

終わり




唐突の鬼滅ネタをぶっこむぅ~!

今回は京介の過去編でした。

今回からタイトルに追加で『challenge again』と入れました。
意味は『再挑戦』です。

あと、おまけコーナーは不定期でやっていきます。今回のキャラクターは『鬼滅の刃』から『煉獄杏寿郎』さんです。

この小説デレマスだろうがいい加減にしろという方々、許して☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。