ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態 (ヤン・ヒューリック)
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第一章 アイザック・ギルモア 前編

「未来は平等に訪れない。その言葉と共に見せられた人工心臓に、私は彼らの元に行く決意をした」

 

目の前にいる老人は悲痛な思いでそう呟いた。

 

ギルモア財団の代表にして、生物工学、ならびに機械工学の権威であるアイザック・ギルモア博士との対談に成功した我々は、改めてブラックゴーストという組織が果たして何者であるかを解析していくこととした。

 

アイザック・ギルモア博士はユダヤ系ロシア人であり、二十歳にしてソ連科学アカデミーに在籍していた天才的な生物工学者であった。

 

彼と共に00ナンバーサイボーグ達が、彼らよりも優れたサイボーグやロボット、そして兵器群に勝利できたのは一重にかの人物の存在によることが大であるが、それは今ここで語るべき内容ではないので改めて解説させて頂く。

 

新進気鋭の青年科学者としてアカデミーの中でも注目を集めており、画期的な人工臓器を開発していたが、副書記長の人工心臓移植手術に失敗、要人を死なせたことで地位も名誉も失われたところで彼はある人物からの勧誘を受けた。

 

それがアイザック・ギルモア博士と黒い幽霊団との最初の出会いであったという。

 

「当時私は自らの研究とその結果、特に自作した人工臓器に対して絶対的な自信を持っていた。それが無惨に失敗し、意気消沈している時に彼はそれを見透かしたかのようにやってきた」

 

当時の光景をギルモア博士はこう語る。エリートとしての地位が失墜したその隙を見計らい、どこか小馬鹿にするような物言いをする老人は、その口調とは裏腹に、まるで適当に書いたメモ用紙を見せるかのように一枚の紙をギルモア青年に見せたという。

 

「あれは当時の医学、というよりも機械工学、生物工学を含めた総合的な科学が生み出したとしか思えないほど、画期的な人工心臓だった。私が自信を持って作った人工心臓は、それに比べればまさしく子供のおもちゃに過ぎなかった」

 

老人が差し出したのはある人工心臓の設計図であった。そしてそれは、あまりにも雄弁に、そして明確に当時の科学水準を超えた何かが作り出したというしかないほどの出来だったという。

 

「あの時のことは今でも思い出せる。仕組み、素材、そして何よりも発想が違っていた。そしてそれはソ連は無論のこと、アメリカですら生み出せない代物であった」

 

その設計図を当時のギルモア博士に見せたのは、ドイツ出身の生物工学者、ロベルト・ブラウン博士であった。

 

当時、ブラウン博士は飛行機の爆発事故にて死亡したという報告が、ドイツ憲法擁護庁ならびにBNDにて確認されている公式見解である。

 

ブラウン博士は生物工学、特に手や足、そして臓器の人工代替技術の第一人者であったが、同時に彼はユダヤ人狩り、スラブ人狩りをやっていた悪名高いアインザッツグルッペンに所属しており、ナチとも関連深い人物であり、死の天使と呼ばれたかのヨーゼフ・メンゲレ博士と双璧を成す危険人物でもあった。

 

彼の研究成果はいずれも突出して優れていたが、そのほとんどが現在ではユダヤ人狩り、スラブ人狩りによる果て無き人体実験によることが確認されている。

 

故にかのアドルフ・アイヒマンと同じくイスラエルからは執拗に狙われており、この飛行機事故に関してはユダヤ過激派、もしくはモサドの手によるものではないかという推測が出ている。

 

本筋に戻るが、彼が見せた人工心臓は悪魔の実験によって生み出された代物であるが、同時にそれだけではない豊富な資金と人員、すなわち国家的な組織によって作り出されたものであった。

 

「未来は平等に訪れるものではない。ガガーリンは宇宙から地球を見ているが、この国では車すら知らない国民がいる。未来とは豊富な資金と技術がある場所に真っ先に訪れるものだ」

 

ブラウンはそうつぶやき、アカデミー、というよりもソ連という国家に身の置き場所を無くした青年に改めてこう言ったという。

 

「君もその未来を見てみないか?」

 

選択肢など無い当時のギルモア博士にとって、それはある意味救いの声であったであろう。だが、彼は同時にその時の選択についてこのように述べている。

 

「あれはまさしく悪魔のささやきであった」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二章 アイザック・ギルモア 後編

悪魔のささやきと共にギルモア博士はブラックゴーストに足を踏み入れた。そこで彼が最初に抱いた印象は「楽園」であったという。

 

「当時、冷戦期であり、まだWW2が過去の話にするには重すぎた時代とは思えないほど、ブラックゴーストにはさまざまな国からスカウトを受けた科学者達がいた。彼らは祖国同士が敵となっても、親友、あるいは恋人となりそのまま生活を送っていた」

 

当時のブラックゴーストをギルモア博士はそう評価していた。大祖国戦争において、家族を皆殺しにされたロシア人の男性科学者と、ベルリン占領で家族を皆殺しにされたあげく強姦された女性科学者がそうした恩讐を乗り越えてカップルになるなどのケースがあったという。

 

故にアインザッツグルッペンにて悪名を轟かせたブラウン博士が研究を行う中で、誰一人として彼に反抗する者が居なかったそうである。

 

「時には議論が加熱し、口論となることもあったが、それでも結局は皆同じ研究者として協力していた」

 

少々懐かしげな顔になりながら、ギルモア博士はその時の光景について語ってくれた。

 

世界中が冷戦という緊張した空間に生きている中で、ブラックゴーストという組織は国家という枠組みを超越し、人種に問わない人材収集を行っていた。

 

後にミュートスサイボーグをガイア博士と共に開発した、南アフリカ出身の生化学者であるロア・ウラノス博士は自国での黒人差別に耐えきれなかったことでブラックゴーストへと参加したという。

 

先進国出身でありながらも、地位や名誉を失った科学者や、発展途上国出身で自国に見切りをつけた科学者など、どこか社会のレールから逸脱した共通点を持つ科学者達を集めたことも、この結束力の高さを物語っている。

 

当時としてはある意味理想郷たり得る組織とも思えるほどであり、どこがブラックなのかが分からないほどであるが、次第にギルモア博士は彼らの暗黒面を知ることになる。

 

当時サイボーグ研究と共に行われていた「ミュータント計画」と呼ばれる研究と、その部門の最高責任者であった男、自らの息子を実験体とした狂気の科学者。

 

ガモ・ウイスキーとの出会いが待っていた。

 

 

ミュータント。英語にて「突然変異体」を意味する言葉ではあるが、現在の安全保障関連においては超能力者のことを意味している。

 

超能力の定義については今回のレポートの対象ではないので深入りは避けるが、冷戦期においては超能力兵士の研究が大まじめに行われていた。

 

ほとんどが空想科学、眉唾な疑似科学として扱われていることがほとんどであり、成功に至ったケースは現在のところ確認されていない。

 

だがそれはあくまで表向きの話であり、非公式ではあるが超能力兵士が実践投入され、相応の戦果を出している。

 

ブラックゴーストはサイボーグ戦士製造計画と同時に、超能力者を人工的に生み出す「ミュータント計画」を実行していた。

 

ブラックゴーストが特に執心だったのは当時の研究レベルでは未開の領域であった脳の研究である。

 

当時の医学では、脳の研究、シナプスなどの神経系の研究は進んでおらず、これらの分野においてはさまざまな憶測が飛び交っており、お世辞にも実証された研究が行われてはおらず、極めて間接的な実験や観察が行われていた。

 

最大の理由として、当時には磁気共鳴断層撮影装置、MRIのように生きた人間の脳をリアルタイムに解析できるだけの装置が存在せず、臨床的な実験を行うには生きた人間の脳そのものを解剖する以外に方法が無かった。

 

だが、ブラックゴーストはそうした倫理に囚われるような組織ではない。科学者達を世界中からスカウトした手段よりも、もっと単純な手段、拉致や人身売買などの手段により政情不安な国家、あるいは戦場などよりモルモットとされた人間をかき集め、彼らの生きた脳をそのまま実験に使うことで最先端の研究を行っていた。

 

「ブラックゴーストでは人間の脳、シナプスの研究として利用されるモデル生物であるヤリイカが存在しなかった。当時の研究者はヤリイカを使うことでシナプスの研究を行っていたが、私はこれだけの技術を持ったブラックゴーストが何故ヤリイカを使わないのか疑問に思ったことがある。

だが、それを必要としないのは当然だろう。ヤリイカなどよりもよっぽど研究を行うにふさわしい材料が豊富にあるのだから」

 

それまでどこか懐かしげに語っていたギルモア博士は、表情を曇らせながらそう呟いていた。

 

だが彼らがこうした研究を行っていく中で徐々にブラックゴーストでは脳に対するアプローチ、脳の研究成果において、現在の科学水準よりも上を行っていたことが確認出来ている。

 

そうした仮定の中で、ブラックゴーストは脳研究を行い、超能力兵士を育成するべく一人の男をスカウトした。

 

00ナンバーサイボーグ、001ことイワン・ウイスキー氏の父親であり、当時の脳医学の権威とまで言われたガモ・ウイスキー教授である。

 

そして彼は従来の人間とは違う突然変異体、すなわちミュータントを生み出すことを提唱したのであった。



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第三章 ガモ・ウイスキー 前編

ガモ・ウイスキーが祖国を捨ててブラックゴーストに所属したのは、ある人物との対立によるところが大であった。

 

悪名高き科学者にして、希代の詐欺師、トロフィム・ルイセンコである。スターリンの寵愛を受け、そのスターリンの死後政権を握ったフルシチョフのスターリン批判をも巧みに生き延び、フルシチョフからも寵愛を受けたことで知られるが、彼が詐欺師と呼ばれるのは彼が提唱した「ルイセンコ学説」である。

 

ルイセンコ学説の是非はこのレポートの目的ではないので簡潔にさせて貰うが、当時の東側陣営ではメンデルの法則による遺伝学が衰退しており、ルイセンコ学説による後発的な努力、あるいは獲得形質による進化論が台頭していた。

 

植物の春化などがその一例としてあげられるが、これは本来植物が持つ「低温状況に一定期間さらされることによって、開花能力が誘導される」という能力を利用した技術に過ぎない。

 

だがルイセンコはこれを進化と決めつけており、自ら新しい植物を作り出したと断言している。つまり生物の本質、形質は後天的な処理でいかようにもなるということである。

 

DNAの存在が立証された今日では、ルイセンコの学説は完全に否定されているが、それが発見されていない時代であってもルイセンコの学説には根本的な欠陥が存在した。

 

「そのような簡単な処理、簡単な手段で進化が促せるのであるならば世の中の生命体は皆新種の生物だらけになっているはずである」

 

 そう反論したのは、ソ連ソビエト科学アカデミー遺伝学研究所所長を勤めたニコライ・ヴァヴィロフである。

 

 実際、ルイセンコの学説では新種の植物を作り出すことは出来なかったが、平等を尊しとするルイセンコの学説はソ連上層部において定説とされており、逆にヴァヴィロフは収容所送りとなり餓死している。

 

ガモ・ウイスキーはヴァヴィロフの元で植物学、遺伝学を学んでいた。だが次第に人体に対する研究、その中でも脳に対する研究に興味を抱いたことで彼は脳医学へと進路を変えたが、ヴァヴィロフはそんな彼を多いに褒め称えており、自らアカデミーに推薦状を書いたという。

 

しかし恩師の投獄は彼にとって不運の始まりであった。ルイセンコは自らの学説に対して一切の反論を許さず、政治の力を利用し、対立者を強制収容所に送ることも辞さない人物であった。

 

そして、ガモ自身もルイセンコが恩師を投獄し、獄中死させた事に対する深い恨みを抱いており、ルイセンコに対して復讐を考えていた。その隙をつく形でブラックゴーストがガモを支援するにはそう深い理由は存在しなかったと言える。

 

当時のソビエトではルイセンコ学説の為に、遺伝形質を初めとする生物学の研究が大いに後退しており、医学においても下り坂に入りかけていたのである。ブラックゴーストはこのとき、あくまでガモに対して協力者という立場として実験データやそこから得られる情報解析などを求めていたに過ぎなかった。まだ彼らはガモを必要としていなかったのだが、次第に彼らはガモの研究が自らの目的にふさわしい代物であることに気づく。

 

そして、間接的な形で彼らはルイセンコと接触した。理由は「彼はあなたの地位失墜を狙っている」という忠告である。

 

ルイセンコはガモを追いつめる為にKGBと手を組んで彼個人に対してハニートラップをしかけた。彼の夫人はKGBに所属するエージェントであったのである。さすがのガモもこのハニートラップには気づかず、夫人を愛し、そして生まれてくる子供に対して自ら「イワン」という名を考えていたという。

 

そしてルイセンコは生まれてきた子供をあえて脳死状態にさせた。我が子を溺愛していたガモは自ら執刀手術を行い、息子を助けるべく今までの研究成果を元に脳手術を行うことで蘇らせた。

 

手術は成功したが、同時にそれは脳を改造するという倫理的に逸脱した研究の産物によるものであるとし、ルイセンコはそれを利用する形でガモを逮捕するべく早速手配するが、その前にブラックゴーストの手で夫人の正体を知ったガモは自ら彼女を殺害し、息子であるイワンと共にブラックゴーストへと逃亡した。

 

そして彼はミュータント計画を実行に移したのであった



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第四章 ガモ・ウイスキー 後編

ミュータント計画は元々ブラックゴースト内部でも賛否両論の計画であったとされている。

 

いわゆる超能力、それが果たして実際の戦場、極限状態においてどこまで役に立つのか、それがあまりにも不明瞭であり先行きが見えなかった。

 

何よりも超能力を発現させるという目的そのものが、彼らにとってのビジネスに合うだけの商材となり得るのかが疑問視されていた。

 

だがそれでもミュータント計画にはサイボーグ計画と並行して行われており、人員も予算もサイボーグ計画に引けを取らない規模であったという。

 

理由としてはまず、機械的な手段による人体改造と同時に、生物的、医学的な手段による人体改造を行うことで相互作用を計ったという見方が出来る。

 

00ナンバーサイボーグは機械的なサイボーグとは違う、生物と機械が巧みに融合したバランスの取れたサイボーグと言ってもいい。彼らには自己修復機能という機械には存在しない生物的な機能が搭載されている。

 

身体能力をメカニズムで強化し、ダメージに対しては自己修復することで単体での兵器として機能することを前提に作られており、彼ら以上に強力な0010~0013ら後期改造体、ミュートス・サイボーグらと渡り合えたのはこうした部分によるところが大きい。

 

話はそれたが、ミュータント計画を行うことで生命そのものを解明し、なおかつ従来の人間には無い超常的な力を具現化することをブラックゴーストは計画していた。

 

ここで、ブラックゴーストが武器商人というカテゴリーから、もう一つの側面に付いて解説する。それは「科学のアウトソーシング業」という要素である。

 

世界中から集めた人間を利用し、彼らはさまざまな人体実験を行った。中には吐き気を催すような残忍な実験もあったが、通常ならばマウスやモルモットを使った実験を、生きた人間で、リアルタイムに倫理観に一切問われることなく行える。

 

ブラックゴーストが当時の科学の最先端を担えたのはこうした要素によるところが大きい。特に、ソ連や中国、北朝鮮などではそれぞれヤロビ農法、文化大革命、主体運動などの退廃的な政治運動により実学的な科学が一気に衰退してしまったケースがある。

 

こうした国々を顧客に、ブラックゴーストは武器だけではなく医療技術なども売り渡していたのではないかという事実が、近年ソ連崩壊と同時に判明してきた。

 

通常ならば行えないような危険な実験を行い、そしてそこから得たデータからさまざまな治療法や薬を作り出す。時には自らパンデミックすら起こすことで、巨万の富を得る。

 

まさしく悪魔の錬金術とも言うべき方法であろう。そのための実験材料は顧客から貰えばいい。収容所で殺すのと、実験体として殺すことに何ら違いは無い。それどころか技術すら提供するのだ。そしてそれを西側でも売りつけることで彼らは巨万の富を得ることが出来る。

 

ミュータント計画の過程の中で、こうした悪魔の錬金術を生み出した張本人こそが、ガモ・ウイスキーであった。彼は極度の人間不信に陥っており、当時自ら進化した人間を生み出すことに執心していた。

 

だが彼の研究とは裏腹に、ミュータント計画は早々に暗礁へと乗り上げることとなる。

 

それは、ミュータントは兵士たり得ないという結果が実証されたからであった。



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第五章 ミュータント計画 前編

ミュータント計画が頓挫したのは、皮肉にもガモ・ウイスキー本人がそれを実証してしまったことにある。

 

それは、彼の息子であるイワン・ウイスキー氏、001の特異的な生活バランスにある。

 

彼は冷戦期に生まれ、現在も存命であるか生まれた当時から肉体が全くといってもいいほど成長していない。

 

尤もこれは00ナンバーサイボーグ達に共通したことではあるが、さらに彼は15日間眠り続け、そして15日間起き続けるという特殊な生活リズムを送っている。

 

尤も、緊急時にはこの周期を破るが、それは彼自身の生命に深刻なダメージを与える危険性がある最後の手段である。

 

実は、ブラックゴーストのミュータント計画そのものは、ガモが入るまでは玉石混淆、というよりもオカルトと超常現象、そして手品を行き来しているだけの研究しか行われておらず、ろくな成果が上げられなかった。

 

そこでガモをスカウトすることでミュータント計画をより科学的なアプローチで前進させ、成功へと導こうとしたのだが、ガモの生み出したこのやり方では、超能力を発現することは可能であっても、人体そのものを強化することは出来ず、兵器としては安定性に欠けるという致命的な欠陥を抱えていた。

 

ブラックゴーストではすでに、脳に関する迷信は払拭されており、ガモ自身も脳の研究に関しては当時のオカルト的な「人間の脳は一部しか使われていない」「脳には隠れた力がある」などという迷信を信じてはいなかった。

 

元々、彼の行ったイワン・ウイスキー方式による手術は脳死に至った人間を蘇らせる為に生み出されたものであり、超能力その他は副次的な産物に過ぎなかったのである。

 

彼の行った手術は脳の隠れた力を利用するなどではなく、単純に身体能力、特に手足を動かす、あるいは運動そのものに振り分けられている要素を思考、知能へと振り分ける為に生み出されている。

 

つまり、脳を全部使うというよりも、脳をあえて思考、そして知能へと振り分けることで脳死に至った脳を活性化させ、蘇らせる。そしてその副産物として超能力、特にサイコキネシスやテレポーテーションなどの能力が発現する。

 

だがこのやり方では兵士としては不十分である。だがこれでミュータント計画が当初のオカルト話から、真面目な研究室レベルの話にまで上がったのは事実である。そこでガモはミュータント計画を成功させていく中で、前述した「悪魔の錬金術」を考案することで予算と人員を確保する事にも成功する。

 

一時期彼は、当時ブラックゴーストの研究部門の中でトップであったサイボーグ部門の長である、ブラウン博士よりも地位が上であったという。少なくともブラウンよりも彼はビジネスマンとして有能であった。

 

ブラウン自身、研究以外に対して関心を持たない人間であったが、この関係に対して忸怩たる思いがあったのか、ミュータント計画に対して多少興味を持つようになる。

 

そこで彼はミュータント計画、というよりもミュータント兵士達が兵士として致命的な欠陥が存在することに気づく。

 

それはイワン・ウイスキー方式による身体能力を犠牲にするという結果ではなく、もっと根幹的な、ミュータント達に見られた兆候である。

 

それは、ミュータント達は協調性が取れず、精神的に不安定な者が多いということである。イワン・ウイスキー方式であれば、ある程度は自我のコントロールが可能であるが、ガモが自ら封印したこの術式以外の手段によって発現したミュータント達は、いずれも強い力と引き替えに命令に背いたり、協調性を欠くなど作戦に支障を来すケースが多かった。

 

その実例として挙げられるのが、CIAの手によるキューバのカストロ政権転覆を謀ったピッグス湾事件であった。

 

この計画を立案していたアレン・ダレスは当時ジョン・F・ケネディ大統領に対して、空軍は不要であるとして亡命キューバ人による部隊だけを上陸させることを公言した。

 

後に彼は空軍を投入するつもりであり、なし崩し的にキューバを攻撃することを目論んでいたのだが、近年はそれも視野に入れつつも空軍投入までは考えていなかったのではないかという見方が強まっている。

 

というのも、亡命キューバ部隊に対してアレン・ダレスは密かにブラックゴーストからミュータント兵士を提供されていたからである。アレン・ダレスは元々弁護士であったが、彼がCIAにて頭角を現していったのは情報収集などではなくこうした破壊工作分野である。

 

イランのモサデク政権を崩壊させたエイジャックス作戦などを実行したのも、彼の手腕におけるところが大きいが、その理由は彼自身がブラックゴーストとの橋渡し役を担っていた為である。

 

彼はブラックゴーストからの情報を得ることで、さまざまな破壊工作を成功へと導いてきた。彼はメンバーではないが重要な顧客であった。

 

そこでブラックゴーストから提供されたミュータント兵士に期待していたのだが、彼らは兵士と呼ぶにはあまりにも能力に欠けていた。

 

超能力者として常人を超える力は保有していたが、彼らは常に傲慢であり、協調性が取れず、作戦の趣旨も全く理解していなかった。

 

どれほど身体能力に優れた人間であっても、軍事的には素人ともいってもいい兵士が戦場に立ったところで何の役に立たない。身体能力とは戦闘能力や、生存能力に必ずしも直結するものではない。

 

彼らは特記戦力としてピッグス湾にて縦横無尽に暴れていたが、友軍を助けることなくただ暴れるだけであった。統率も何もあったものではなく、次第に亡命キューバ人部隊は壊滅していった。

 

そして彼らも散々に抵抗したが、能力の使用限界が来たところで包囲され全滅した。

 

そしてアレン・ダレスもまたこの結果を受けて失脚、ブラックゴーストは有益な顧客を失うこととなった。

 



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第六章 ミュータント計画 後編

ピッグス湾での失態はミュータント部門にとって、有益な顧客を失い、超能力兵士というコンセプトそのものを危うくしていまうという最悪の結果をもたらすこととなった。

 

だが、これだけならばミュータント計画が最終的に頓挫することは無かった。軍事、情報関連では大きな失点となったが、それでも「科学のアウトソーシング」という収益源への影響は無かったからである。

 

だがその後もミュータントとなった人間達は、とにかく性格や思考が荒いものが多い。とある電気を操る能力を持つ少女などは、一々自販機を殴っては金を入れずに勝手にジュースを飲み、そして暴れるなどの行動が目立った。

 

サイコキネシスを持つ少年は、とにかく九歳以下の少女に対して性的な思考を抱く上に、凶暴性限り無く、最終的には処分せざるを得なかったという。

 

「ガモの術式には無理があった。というよりも超能力という力を得た代わりの代償が、とてもではないが許容できる範囲を超えていた。組織に対する忠誠を持てない者も現れたほどであった。無論、反逆者は即座に処分され、彼ら自身が新たな実験台となったほどだ」

 

これは当時サイボーグ部門にいたアイザック・ギルモア博士のコメントである。そもそも、ガモ自身、超能力が何かを代償にして得た力であることは自覚しており、その抜本的な改善を行うべく試行錯誤を繰り返していた。

 

「彼は間違いなく、当時表舞台にいればノーベル賞を取っていただろう。彼はオカルトや超常現象の一切を信じず、そして同時にそれらをまるで手品のタネを暴くがごとく調査していった」

 

彼の天才振りは、脳死であった自分の息子を救う、脳の原理についてを解明していたことなど多くの功績に現れていた。だが、皮肉にもそれが彼の研究を追い込むことになる。

 

これは超能力という力が、人間という生物に新たに生まれてくるもの、獲得できるものではなく、自らの能力の一部を犠牲にして生まれた副産物に過ぎないことを証明してしまったからに他ならない。

 

彼の息子であるイワン・ウイスキーは幼児のままで身体の成長を止めてしまうことを代償に、そして他の能力者達は身体能力は残す形で、代わりに理性や思考力、自制心などを犠牲にしてしまったことが兵士としての素養に致命的な欠陥が出てしまう。

 

ハイテク化する現代戦争においては、一兵士であっても相応の学力が求められる。地形を判断し、地図を読み、そして何よりも作戦目的を冷静に判断した上で自律的な行動を取らなければならない。

 

ただ人を殺すだけならば機械で代用することは造作はないが、それを支える人員は身体能力は無論のこと、相応の頭脳が求められる。アフリカや中東などの少年兵などはそんな必要は無いが、ブラックゴーストが顧客とする国家、組織は皆、そんなちんけなゲリラやテロ組織などではない。

 

そして、単なるゲリラ戦やテロでは何一つ金が動かないことも、ブラックゴーストは理解していた。彼らは様々な戦争をシュミレートしていたが、その中でもこうした現在における地域紛争、テロ戦争が経済低利益を生み出さない、生み出したとしてもあまりにも効率が悪いことを理解していた。

 

冷戦構造のように、互いに対立し合い、正面装備を調えていくことこそが、彼らにとって利益を得やすい構造であることは間違いない。

 

ミュータント計画が頓挫したのはこうしたシュミレートにより、利益を得る要素が存在しないということにある。

 

ここまで書くと分かると思うが、ミュータント兵士達を製造し、台頭していくことは、彼らが得意とする正面装備は無論のこと、レーダーやソナー、各種センサー類などが不要化していくことを意味する。

 

テレパシーや透視、そしてサイコメトリーなどが発達したとしても、彼らに得る利益は極めて限定的なものとなる。

 

兵士として使い物にならない上に、自らの得意分野である科学技術が不要化する可能性、この二つはミュータント計画を頓挫させる理由としては十分すぎた。

 

ミュータント計画は大幅に縮小させられたが、ガモは新人類を生み出す研究を行う代償と引き替えに自らの息子であるイワンをブラウンに引き渡すなどとの交換条件を受け、密かに主流部門から消えていた。

 

だがガモのもたらしたもう一つの商法、すなわち「非合法な科学のアウトソーシング」はブラックゴーストに多大な収益をもたらしたとされている。



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第七章 非営利団体論

前回まではミュータント計画についてのあらましについて述べたが、今回はミュータント計画が頓挫し、ブラックゴーストが計画した新たな計画「未来戦計画」に焦点を当てていこうと思う。

 

未来戦計画の大まかな概要だが、それは人類が生活出来ない深海、地中、あるいは宇宙などの深海、そして核戦争の果てに訪れるであろう放射能に満ちた世界であっても戦える兵士を生み出すというコンセプトの元に生まれた計画である。

 

米ソ冷戦期においては、果て無き軍拡と同時に核戦争による「核の冬」に対する警鐘が飛び交っていた。

 

だがそうした極限状態であっても戦いが無くなることはない。むしろ、そうした状況下の中であっても機能する兵器、兵士が存在すれば仮に核戦争になったとしても対応が可能である。

 

そして、人類未踏の深海や成層圏でも戦闘が行えるならば、さらに先手が取れる。全く予知していなかった場所からの攻撃が可能となる。

 

過熱化する宇宙開発と核開発競争に対して、ブラックゴーストは想定される未来に向けて動き出していた。

 

というのが未来戦計画の大まかな内容であるが、我々は無論のこと、ギルモア博士もこの未来戦計画に関しては少々疑問を抱いている。

 

「極限状態における戦争にというのが、当時の未来戦計画の構想であったが極限状態になってしまえばそれこそ、取引をする相手がいなくなる。あの当時の熱狂的な核開発競争から抜けてみると、この計画には正直、武器商人というカテゴリーに当てはめるには誇大妄想にしかならない」

 

最終戦争に備えた兵器とそれを使いこなし、戦う兵士の開発。確かにそれは魅力的ではあるが、そんな状態になれば通常の経済が破綻することは間違いなく、彼らの顧客となりえる国家や組織もまた生存することは出来なくなるだろう。

 

だが当時はむしろこの発想はそこまで荒唐無稽ではなかった。様々なメディアにて最終戦争論、核の冬などが大まじめに取り上げられていた中で、このような状況に成り得ることはそこまで絵空自事ではなかったからであろう。

 

現在でも核兵器は廃絶されてはいない。故に、彼らが唱えた未来戦計画はいつどんなときに必要とされるのか分かったものではない。

 

故にブラックゴーストは言ってしまえばスポンサーを騙した上で、この未来戦計画を提唱し、金と人員を集めたのではないか、それがギルモア博士の見解である。

 

「彼らは一応営利集団だ。そして、その利益を得るためにはどんな手段をも辞さない。故にスポンサーを騙すことすら厭わないはずだ」

 

確かにその通りではあるが、我々はギルモア博士の見解に対しても疑問を抱いている。その通りではあるが、果たして彼らはそもそも営利集団なのかという要素である。

 

単なる営利を目的とするならば、相場をすればいい。むしろその方が合法的に金が稼げる。尤も、これは現在のように金融が発達し、デリバディブなどの商取引が行える時代だからこそ出来る手段ではあるが、それならばいっそのことアフリカや中東などの国家を支配した上で資源を売ればいい。

 

だが、彼らは資源を手に入れてもそうした営利的な商売は行っていない。ブラックゴーストという組織の収入源は、大きく分けて三つにカテゴリーされる。

 

一つが武器やテクノロジーの販売、そして傭兵業、情報の提供、さらにガモ・ウイスキーが作り上げた「非合法な科学のアウトソーシング業」である。

 

むしろ、相場、株取引などの商取引に対して彼らはあまり関与していない。理由としては彼らが非合法な組織であり、商取引の記録、あるいはそこから生まれる税金などの記録は簡単に消すことは出来ない。

 

だが、利益を追求する集団とは思えないこの相反する矛盾に我々は一つの答えを出した。

 

それはブラックゴーストとは「営利集団ではない」という結論である。



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第八章 未来戦計画 前編

ブラックゴーストは営利団体ではない。

 

この結論に我々が行き着いたのはミュータント計画、サイボーグ兵士開発計画、並びに未来戦計画を総合的に判断した為である。

 

厳密に言えば利益は相応に受け取るが、営利を受け取ることそのものが彼らの目的ではないということだ。

 

世界が滅びてしまった時の為に、そんな状況に陥ったとしても戦える兵士と兵器の製造。

 

そうした世界になっても、イニシアティブを取れる為というにはあまりにも大仰、というよりも荒唐無稽な発想は武器商人、というよりも営利団体とは思えない非合理的な回答にしか思えない。

 

戦争が経済を生み出す。ちまたで騒がれる軍産複合体や陰謀論に出てくる理論であるが、その理屈が正しければ日露戦争にて勝利した大日本帝国は多額の外債を抱えることもなかったはずであり、むしろ参戦していないWW1では参戦国であり当事者となった欧米の隙をうかがう形で「大戦景気」を生み出している。

 

尤も、終戦と同時にその景気も終了し、逆に昭和に入ってから取り付け騒ぎが起きるなどの大不況が待ち受けていた。

 

現在において、戦争が利益を生み出すというのは否定されている。生み出したとしても、極めて限定的で、なおかつ危険な投機にしかならない。

 

むしろ一定以上の均衡を保ち、互いに軍拡競争を行う方が、軍需産業としては戦争が起きるよりもありがたいのである。それでも、いわゆる軍需産業は正直好調であるとは言えない。

 

アメリカのフォーチュン誌で発行されているフォーチュン・グローバルという企業の売り上げや規模のランキングでは、ボーイングやロッキードなどの軍需企業よりも、ウォルマートやエクソンモービルなどの企業の方が上位にある。

 

ちなみに軍需の売り上げが上なのはロッキードではあるが、ロッキードはボーイングで規模と売り上げで負けている。ボーイング社の売り上げは民間用のエアバスがたたき出しており、軍需部門は正直、好調とは言えない。

 

やや脱線してしまったが、軍需は決して利益率がいいものではない。だからこそ、その利益率を上げる為にこうした計画を立案したという見方も出来るが、彼らほどの技術とテクノロジー、そしてそれを支える頭脳がこれほど非効率的な商売を考えるとは思えない。

 

そこで到達したのが、彼らの目的とは営利ではなく、未来戦計画になどに代表されるこうした計画そのものではあったのではないかという見解である。

 

つまり、未来戦計画という計画そのものが彼らの目的であり、それを実現に移す過程のサイボーグ、ミュータント計画はあくまで手段に過ぎなかったということである。

 

そう考えると、この非合理的な経営にも納得が出来る。初めから未来戦計画、つまり最終戦争という極限状態の中で、イニシアティブを取るという発想こそが目的ならば、彼らのスポンサーである国家や組織、企業を配慮することなど必要ない。

 

むしろ、今ある文明を滅ぼした上で世界を征服する。極限状態において生存可能な技術と、相応の軍事力があれば、世界を支配というのはそこまで荒唐無稽な話ではない。

 

やや強引な未来戦計画の動機、こじつけとも言ってもいい理由は、むしろ彼ら自身が望んでいた結末であったのである。



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第九章 未来戦計画 後編

前回、未来戦計画についてその過程に伴っての計画ではなく、その過程の結果の果てにある未来こそが、本当の未来戦計画の目的ではないかという答えを出させて貰った。

 

将来起こりうる核戦争の中、荒廃した世界の中でも戦える兵士を製造する、というよりもそうした状況を作り、その中で荒廃した世界を支配するためにそうした世界であっても戦える兵士を作り出す。

 

彼らの目的とはすなわち、世界征服であった。

 

こちらの方がやや非現実的であるという意見もありそうだが、あらかじめ存在する世界を影から操るよりも、表舞台に立ち、明確に支配を行うほうが遙かに効率的である。

 

既存に存在する完成された世界を支配するというのは、正直非効率であり、いくらそれを影で操ろうが限界が生じる。

 

ブラックゴーストという組織は巨大ではあるが、それでも世界中を敵に回して征服するだけの力を持っているわけではない。

 

だからこそ彼らは00ナンバーサイボーグ達に反逆され、最終的にはその計画を頓挫させられている。

 

彼らは巨大ではあっても、絶対的な存在ではない。だが、初めから強者が自分たちしか存在しない世界であるならば話は変わってくる。

 

今ある世界を征服するのではなく、これからの未来、それも決して繁栄に満ちた世界ではなく、むしろその対極とも言える一つの終末を迎えた世界。

 

あまりにも救いようがない世界であるが、こうした世界であるならば支配するということは決して非現実的ではなく、極めて効率的に絶対的な支配権を有する事が出来る。

 

故に彼らはブラックゴーストなのであろう。黒い幽霊、そしてその黒き幻影を追い求め、暗黒な世界を作り出す為に活動していたのであろう。

 

実際、彼らはそうした世界を現実に作り出していた。それは後ほど語らせて頂くが、少なくともこうした荒廃した世界の中で全ての文明を一度リセットし、その上で新しい世界を構築することが、彼らの目的だったとすると、ブラックゴーストという組織の行ってきた行動に対して合理的な説明が成り立つ。

 

実際のところ、冷戦期の軍拡競争は現在とは比較にならないほど活発であり、余念が無く、最終戦争論などが呟かれていたほどである。

 

そうした危機を煽るには十分すぎるだけの環境はすでに整っていた。世界を滅ぼすだけの兵器は自分たちが開発する必要などなく、すでに用意されている。後はその引き金を押すだけ。

 

問題なのは、そうなった時本当に自分たちは生き残れるのかという確信であり、同時にそうした終末を迎えた世界の中でも本当に行動可能な兵士、あるいは生命体の開発である。

 

結論から言えば、ブラックゴーストもこうした「最終戦争」に対して確実に生き残れると判断出来るだけの確信は持てなかった。

 

故に、サイボーグ計画やミュータント計画が求められたと言える。

 

結果としてブラックゴーストが選んだのはコントロールが可能であり、現在進行形で利益が出るサイボーグ計画であった。

 

ロボットなども計画していたが、当時はまだAIやコンピュータの技術が未発達であり、自立可能でなおかつメカニズムを兼ねそろえた上での兵器として、サイボーグ計画が選ばれたのであろう。

 

次回は改めて、サイボーグ計画、それも00ナンバーサイボーグについての考察を行う。

 

 



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第十章 00ナンバーサイボーグ 前編

世界が滅んでしまっても、それでも自分たちだけは文明やテクノロジーを維持し、その上で世界を征服する。それが前回ブラックゴーストが定めた「未来戦計画」についてのあらましであるが、その目的の為に作られた、00ナンバーサイボーグについて改めて語っていきたいと思う。

 

まずはメンバーたちについての概要を述べる。

 

・001 イワン・ウイスキー

スーパーコンピューター並みの頭脳。

サイコキネシス、テレパシーを使えるエスパー

 

・002 ジェット・リンク

一段式加速装置搭載。

両足にラムジェットエンジン搭載。マッハ5で飛行可能。

 

・003 フランソワーズ・アルヌール

超視聴覚

透視機能ならびにハッキング機能搭載。

 

・004 アルベルト・ハインリヒ

右腕にマシンガンアーム、左腕にレーザーメスならびにダーツ搭載。

両膝にマイクロミサイル搭載。

体内に核爆弾搭載。

 

・005 ジェロニモ・ジュニア

超硬化装甲皮膚ならびに高出力エンジン搭載。

 

・006 張々湖

超高熱火炎放射器搭載

高感知冷熱センサー搭載

 

・007 グレート・ブリテン

細胞並列変化装置搭載。自由自在に様々な有機物、無機物に変身可能。

 

・008 ピュンマ

対水圧装甲皮膚、人工えら搭載

両足部に水中ジェットエンジン搭載

 

・009 島村ジョー

002~008までの試験体を参考に開発された最終試験体

多段式加速装置搭載。

 

以上が00ナンバーサイボーグについての情報であるが、注目するべきは各種能力を一つの個体に複数搭載するのではなく、世界各国より拉致した優秀な人材をベースに、一個体の性能よりも001から009までのメンバーを一つのチームにすることで、あらゆる環境に対応出来るようにしたところにある。

 

「ミュータント計画の失敗を反省にし、我々はあくまで一個体の高性能化ではなく、一個体それぞれを複合的に運用することであらゆる局面に対応できることを前提にしたサイボーグ戦士を作り出すことを目的にした」

 

ロベルト・ブラウンの後継としてサイボーグ部門の責任者となっったアイザック・ギルモア博士はそう答えた。

 

ブラウンはあくまで単体でのサイボーグ戦士製造にこだわっていたが、それでは失敗したミュータント計画と同じ結果になりかねない。故にあくまで一個体に対する完璧さよりも、複数のチームによって構成されたサイボーグ戦士達を産み出すことを計画されたという。

 

航空兵力としての002が上空にて戦い、004がと006が火力支援を行い、水中は008がカバーし、007が変幻自在の肉体を活用した撹乱を行い、003が彼らのサポートを行いつつ、加速装置を搭載した009が前衛、あるいは予備兵力として存在することでとどめを差し、005がその巨体を生かして防御とサポート、あるいは工兵として活躍、001が彼らの司令塔とした上で最後の切り札として控えるなど、単体としてではなく、一つのチームとしては互いのフォローを入れつつ最善の行動がとれるように万能銃であるスーパーガンを装備し、その上で脳波通信機を標準装備していることで相互に連絡が取り合える環境まで整っており、サイボーグ戦士としては非常に高いクオリティを保ったのは、開発陣の優秀さが垣間見られる。

 

 

 

 

実際のところ、一個体に対する改造や後天的能力の付与には限界がある。キャパシティを越えた結果、リジェクション、拒絶反応や精神に支障を来して兵士としては機能しない個体も存在していた。自らミュータント計画の欠陥を指摘したブラウンではあったが、同時にこの欠陥を改善できなかったことから最終的には失脚することになったという。

 

そして、その後任としてギルモア博士が選任された。だが、このときギルモア博士はある決断を下していた。

 

それは、ブラックゴーストへの反逆であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十一章 00ナンバーサイボーグ 中編

ブラックゴーストが生み出した最強のサイボーグ戦士達。それが00ナンバーサイボーグである。

 

尤も、彼らよりも優れたサイボーグは存在する。0010から0013までの後期ナンバーズ。そしてミュートス・サイボーグ、大幹部であったバン・ボグート、そして表向きの首領であったスカール。

 

だがスペックでは上であっても勝利を収め、最終的にはブラックゴーストを壊滅にまで追い込んだのは何であったのか。

 

「ブラウンや私以外の開発陣は皆、人間性を廃した、より完璧な兵器としてのサイボーグ開発を推進していた」

 

当時ブラックゴーストに所属し、最終的には脱走したアイザック・ギルモア博士はサイボーグ計画についてこう語っている。

 

「人間性を廃した単純な強化や改造を行うならば何もサイボーグである必要性はない。故に私は人間性を有した上で、より優れた人間を作り上げるというコンセプトの元で彼らを作り上げた」

 

やや苦い表情で語るギルモア博士であったが、結果としてこの判断が00ナンバーサイボーグ達の寿命を高めた。

 

ブラウンら当時の開発陣にとって、サイボーグ計画とは単純に優れた兵器の開発という発想の元に生まれていた。身体能力を高め、あらゆる環境に対応できるように人体を改造する。

 

そして中には武器をも搭載することで戦闘能力を高める。まさしく兵器としての完成度を目指したといえるが、問題なのは人体をどこまで改造するべきかというところだろう。

 

「ブラウンが目指したのはあらゆる局面において活躍できる完璧なるサイボーグであった。そのためにはあらゆる手段を彼は使っていた」

 

 

ガモのミュータント計画を潰したのもそうだが、ブラウンはとりつかれたかのように人体改造に没頭していたとされる。

 

というよりも人体をどこまで機械化出来るのか、どこまで強化できるのかというのがブラウンが構想していたサイボーグ計画の根幹である。

 

どこまで人間は改造できるのか、そして、その軍団で世界を燃やし尽くしてしまう。ブラウンはいつのまにかそのような妄想を抱くようになったという。

 

だがそのブラウンの発想に意を唱えたのがギルモア博士であった。

 

「私は元々はサイボーグ研究をを兵士としてではなく、事故や先天的に手足を無くした人間に対して完璧な手足や臓器を与えられる為に研究を行っていた。しかしブラックゴーストに入った頃にはそんな志は消えていた。だがいくつものサイボーグ達を生み出し、ブラウンや他の研究者達と議論をしていく内に、私は自分が何をするべきか、何をしたいのかを思い出すことが出来た」

 

サイボーグ部門では当時二つの派閥があったという。一つはブラウンを筆頭とする兵器派、そしてもう一つがギルモア博士を筆頭とする医療派である。

 

前者が兵器としてのサイボーグ研究を行っていたのに対して、後者はサイボーグ研究を通じて得られる医学的成果を追求していた。

 

ブラックゴーストが死の商人として活動していたのは散々述べてきたが、同時に彼らは「非合法な科学実験のアウトソーシング」にて実利を得てきた。

 

どちらも正直、モラルや人道に外れた事を行っていたのは間違いないが、医療派の科学者達は元々病気や怪我をしている人々に対する善意の元で研究を行っていた。非合法なモラルに反する研究を行っていく内に、彼らの中には医学や研究を志した心が蘇っていたという。

 

「志を取り戻した時、私はもはやブラックゴーストに何の魅力も感じなかった。私は騙されていた、というよりも研究や成果の為に騙されていたかったのだ。だからこそ、これ以上の悲劇を繰り返させない為にも、そして何よりも誰かがこの悲劇の鎖を断ち切らなければならないと思った」

 

その答えと共にギルモア博士は自らと志を共にした科学者達と共に、九人のサイボーグ戦士を生み出したという。

 

ブラックゴーストという黒き幻影が生み出す、悲劇の鎖を断ち切る為に。

 

 



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第十二章 00ナンバーサイボーグ 後編

00ナンバーサイボーグはギルモア博士がブラックゴーストを倒す為に、改造され実験体となり犠牲となる人間を最後とする為に生まれた。

 

故に彼らは単なるサイボーグには無い、ある機能が搭載されていた。

 

それは自己修復機能である。

 

ある程度の損傷ならば、彼らは特別な修理をせずに自らの損傷を修復できる。尤も、あまりにも酷い損傷に関しては相応の処置、修理を行わなければならない。

 

だが、彼らには従来のサイボーグのように、人間と機械を組み合わせた安っぽいサイボーグではない。むしろ人体と機械が適度なバランスで組み合わされている融合体といっても遜色がない。

 

故に彼らには他のサイボーグにあった拒絶反応が無い。サイボーグ兵士製造において、この計画が実用化に至るまでには多くの技術的問題があったが、最大の問題は機械と人体との拒絶反応である。

 

人間の体、人体とは単に脳や臓器や手足で構成されているが、人間が人間たり得るのは一重に、人間としての体が存在するからに他ならない。

 

これは近年に入ってから発見されてきたことだが、人間の知能が発達した最大の要因はまず二足歩行が出来ることであり、それまで四本の足で支えていた体を、二本の足で支え、足が手となり様々な道具を使いこなすことで人間は他の動物とは比べモノにならないほどの知能を発達させた。

 

そして、人間の感情や知能というのは単に脳だけで機能しているわけではない。脳が大きなファクターであることは間違いないが、心臓を初めとする臓器などが複合的に精神、つまりは「心」を作っていることが近年まことしやかに叫ばれている。

 

いわゆる心の内臓起源説であるが、まだこの学説は正式に認められたものではない。だが、サイボーグ兵士達の多くが成果を上げつつも、精神面や機能不全に陥り、使用限界が短く耐久性に欠けていた。

 

故にガモ・ウイスキー率いるミュータント派が一時期ブラックゴーストの主流として機能していたわけだが、ギルモア博士は機械に人体を合わせるのではなく、単なる発達や機能よりも、調和を前提にした設計を行うことで、この問題を解決した。

 

身体機能をより強化する、規格外の人間を容易に作り出すのではなく、拒絶反応を初めから少なくした上で、同時に彼らの肉体に合わせた改造を行い、彼らの性格にも合わせた肉体とする。

 

00ナンバーサイボーグが多彩な能力を有しているのは、こうした能力と性格を結びつけることで精神面、メンタル面での拒絶反応をも考慮し、人間性を失うことなく、同時に彼ら自身が最大限のパフォーマンスを発揮できるように設計されている。

 

これが後に彼らが幾多もの戦いの中で生き残れた最大の要因であった。

 

こうしてブラックゴーストが作り出した「実用的なサイボーグ兵士」は誕生したが、彼らはギルモア博士と志を共にし、自らブラックゴーストから逃亡した。

 

ここから後期ナンバーサイボーグ、サイボーグマン、ミュートス・サイボーグ達との熾烈な戦いが始まっていくのだが、次回では改めて彼らと後期ナンバーサイボーグ達との相違点と、ブラックゴーストが彼らに何をしたのかを語っていく。

 

 



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第十三章 後期型サイボーグ 前編

前章までブラックゴーストを脱出し、00ナンバーサイボーグを産み出したギルモア博士らについて纏めたが、今回からは00ナンバーサイボーグ以後のサイボーグについて解説させてもらう。

 

ギルモア博士がブラックゴーストを脱出した後、ブラックゴースト内部では一つの課題が残されていた。

 

サイボーグを機能させる上で重要な、拒絶反応の軽減である。当時のブラックゴーストではこの技術に対する抜本的解決を見いだすことが出来ず、様々なサイボーグ兵士が生産されていったが、実際の稼働に至るまで多くの試験体が廃棄物として処分されていった。

 

肉体と機械部分の適合率は無論のこと、精神的な適合率、肉体を機械へと置き換えることによる人間性の喪失を、ブラウン達は解決することが出来なかった。

 

彼らは優れた義手や義足、そして兵器を作成する技術は有していても、それらをインテグレートする能力に欠けていた。ブラウンら、サイボーグ兵士計画に参加していた科学者の大半は、ナチスドイツの負の遺産、レーベンスボルン計画に参加していた人間が大半を占めていた。

 

レーベンスボルン計画とは、純粋なアーリア人を産み出すためにナチスが計画し、彼らはドイツ占領下から子供達を誘拐、あるいは占領地にて性交渉により完全にして純粋なアーリア人を産み出すべく活動していた。

 

現代からみれば忌避するべき忌まわしき記憶と歴史に過ぎないが、彼らはアインザッツグルッペンらと共に東方蛮族たるスラブ人を殲滅するべく様々な人体実験に励んでいた。

 

「彼らのやり方は改造ありきであり、人体を機械化すること、兵器化することにのみ没頭していた。その一方で医学、生化学に精通した人間はブラウンのみで、他のメンバーに関しては人体に関しては素人である工学者や物理学者ばかりだった」

 

ギルモア博士いわく、ブラウン以外の研究者は医学、生物学、そして生化学の素人であったという。個々のパーツともいうべき義手や義足、人工臓器を作ることは出来ても、それらを相互に機能させる方法に関しては全く考えていなかったとされる。

 

実際、彼らの研究は人体と機械をただ組み合わせるだけの安易なサイボーグでしかなく、肉体との適合率や連動性を意識したものではない上に、被験者のことなど気にすることの無い無茶苦茶な改造を施していることが多い。

 

単体での兵器として、カタログスペック的には最高であっても実際の稼働面ではその真価を発揮できない。兵器としては致命的と言える欠陥であるが、その解決策を産み出したギルモア博士は脱走し、彼と共にブラックゴーストを脱出しようとした科学者達のほとんどが組織により処刑されてしまい、ブラックゴーストは完全なるサイボーグ製造法を失った。

 

00ナンバーサイボーグとギルモア博士の脱走は、ブラックゴーストにとって致命的ともいえる損失を与えたが、この件で一番面目を失ったのはブラウンである。

 

脱走後、サイボーグ兵士製造計画は凍結寸前にまで追い込まれたが、ブラウンはギルモア博士とは対局の手段を使うことで自らサイボーグ計画を成功へと導こうとした。

 

その起死回生が、0011、0012、0013ら後期ナンバーサイボーグであり、サイボーグマンであるが、次回において彼らがどのように作られていったのかについてレポートしていくこととする。

 

 

 



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第十四章 後期型サイボーグ 中編

前回において、ブラックゴーストは「完全なるサイボーグ」の製造法を失ってしまったという事実について解説した。

 

ここから後期型サイボーグである、0010~0013までの後期型サイボーグ、00ナンバーサイボーグ達が脱走した後から製造されたサイボーグ兵士達の特徴について解説していく。

 

0010 プラスとマイナスの双子の兄弟。加速装置ならびに放電装置内蔵。

 

0011 多脚機動兵器型のサイボーグ。毒液ならびに加速装置を搭載

 

0012 ハウス型サイボーグ 

 

0013 高性能加速装置搭載。少年とロボットと対になったサイボーグ

 

まず彼らの最大の特徴は、001から009までにあった人間性の喪失である。喪失というよりも、切除という表現に近い。00ナンバーサイボーグが、どちらかといえば人間としての体と特徴はそのままにした上で、人間としての機能を強化し発展させているのに対して、後期型サイボーグ達はより兵器として特化しているのが分かる。

 

まず0010だが、プラスとマイナスの兄弟達に加速装置と共に、放電能力までを与えている。加速装置自体、00ナンバーサイボーグでも002と009にしか与えられていない能力であり、この能力そのものが従来の兵器の常識を覆し、戦局をひっくり返しかねないほどの力を秘めている中で、電気そのものを武器にするというのはやや過剰に思える。

 

そして0011に関しては人型ですらなく、外見そのものはロボットも同然であり、コンピューターの代わりに脳を利用し、レーザーや毒液などの武装と共に飛行能力と加速装置を搭載させており、まさしく兵器そのものである。

 

0012はその発展系であり、家という建築物そのものをサイボーグにしている。

 

ここまでで共通しているのは、とにかく彼らは人という形や型に囚われない、というよりも徹底した人間性を喪失させているところにある。

 

0010の場合、彼らは互いにプラスとマイナスの電極を有しており、接触することはショート、すなわち死を意味する。

 

0011は完全に機械化され、最終的には脳に宿る人格すら喪失させられ、0012に至っては建築物と同化させられている。

 

一応人型を保っている0010や0013を除けば、彼らは人間性そのものを奪われている。コンピューターの代わりに脳を使い、コンピューターには真似できない瞬時の計算能力と演算をなし得ているが、彼らの存在こそがブラウンらが出したサイボーグ兵士の答えと言っても言い。

 

ブラウンが導き出した結論は「人間性こそが欠陥」という身も蓋もない結論であった。機能不全や精神面での不具合が起きるのが人間性ならば、初めからそれを喪失させてしまえばいい。

 

人格すら破壊することでコンピューターには真似できない判断力と決断力を与え、最短の行動原理で効率よく戦わせる。

 

サイボーグである理由が大きく失われているように思えるが、これはブラウンにとってはある意味苦肉の策と言ってもいいだろう。結果としてブラウンは、ギルモア博士に出来た肉体と機械の融合を行うことが出来なかった。

 

故に、人間性そのものを喪失させ、完全に機械と置き換えることで不具合そのものを根底から打ち消したのである。

 

そう考えると、後期型サイボーグ達が何故ここまで00ナンバーサイボーグとコンセプトが違っていることが分かる。

 

肉体と機械を融合させ、あくまで人間としての機能と力を補助し、生物としての生存能力を維持させることであらゆる局面で機能するのが00ナンバーサイボーグだとすれば、後期型サイボーグは脳とそれ以外は機械に分け、あくまで脳を基幹としたほぼロボットに近い機械化兵士と言ってもいい。

 

実際、彼らの戦闘能力はある意味00ナンバーサイボーグ達を上回っている。単純な兵器としてのスペックだけならば明らかに後期型サイボーグの方が上であり、実際彼らは00ナンバーサイボーグを窮地に追いつめている。

 

しかし、それでも00ナンバーサイボーグに彼らは敗北した。兵器としての完成度は上であっても、勝利することは出来なかった。

 

この理由と共に、次回は彼らの中から生まれた0013についての解説を行っていく。



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第十五章 後期型サイボーグ 後編

前回、後期型サイボーグの特徴について語ったが、その完成系とも言うべき存在が0013である。

 

0011と0012のような、人型を廃したサイボーグなどではなく、0010と同じく人間としての外見を有している。

 

戦闘能力も0010や009を超えた加速装置を有することで、サイボーグ兵士としては抜群の完成度を誇っており、00ナンバーサイボーグの完成系といってもいい。

 

しかし、後期型サイボーグの中で唯一0013だけがイレギュラー、というよりも異様さを放っている。

 

0010も一応人型ではあるが、彼らには電極人間という欠陥が存在した。互いに生きている内は近づくは無論のこと、手を取り合うことすら出来ない。

 

0011と0012に関してはサイボーグと呼んでいいのかすら分からないほど、人間性を廃しているが、彼らに共通し、同時に0013にもある共通点が存在する。

 

それはズバリ、欠落である。

 

0010はショートという欠陥を持ち、0011は肉体を失い脳のみを残し、0012に関しては精神そのものが歪んでおり、そして0013は言語障害があった。無論これは単なる偶然などではなく、むしろこの欠陥こそが彼らをサイボーグ兵士として選抜した理由である。

 

ブラウンら兵器派がサイボーグ兵士を製造する上で発見したのは、人間としての障害を有している人間ほど、機械化がスムーズになるという事実であった。人間として欠落している部分を有しているからこそ、元々の人間性を考慮する必要性が無い。

 

それどころかそれを補う、あるいはサイボーグ手術を行うことで改善させることも不可能ではないという事実をブラウンは発見することが出来た。

 

特にブラウンが熱心だったのは脳と肉体の分離である。0011や0012が人としての形を持たず、むしろ脳型コンピューターとして機能しているのは、この事実を検証するためであったからでもある。

 

人間という存在を構成するには、単に脳という中枢が存在するからではなく、様々な臓器や手足などが相互にバランスを取る形で機能していることが不可欠である。だからこそ安易な手術を行うことで人間としてのバランスや機能不全を起こすことに至ったわけだが、ブラウンは、人間性を喪失させる、あるいは欠如した人間、障害を持った人間を対象にすることで解決した。

 

あらかじめある肉体をいじくり回すよりもあえて欠落させる、あるいは喪失させることで従順させる。あるいは障害がある人間をサイボーグ化することで常人とさせることをブラウンらは発見したのである。

 

0011や0012が人間とはかけ離れた異形の姿になったのはすなわち、この事実を検証させることにあった。

 

0011は人間としての姿を奪うことで、元の肉体を戻すという条件を与えることで戦闘を行い、0012にはその執念を利用させることで00ナンバーサイボーグと戦わせた。

 

結果として0010、0011と0012は敗れたが、彼らの成果からブラウンらはサイボーグ兵士製造計画を復活させる事に成功した。

 

そして、その集大成として作られたのが0013であった。彼自身もそうだが、0011や0012の過程で生み出したロボット技術も並行することでより兵器としての完璧さを追求することにも成功している。

 

細かい潜入や破壊工作などは0013が行い、大規模な破壊活動や戦闘はロボットが担当することで全局面において活躍できるようにし、より完成度を上げることが出来た。

 

しかしこれが結果としてブラウンが完全に失脚する原因となった。0013は反逆し、自爆してしまったことでブラウンの面子は文字通り丸つぶれになった為である。

 

どれほど高度な改造を施しても、彼は人間性というものを理解していなかった。0013には0010や0011、そして0012ほどの強い支配が及んでいなかったというのもある。

 

0010らは人間性を無理矢理喪失させた異形の存在にすることで、人間に戻れるチャンスを与えることで直接的ではなく、より間接的でありながらも強い支配を施せたが、0013には自爆装置を搭載されていた以外にはそうした特徴は存在しない。

 

何よりも彼の存在は人間性を簡単に喪失出来ないことを雄弁に物語っているといえる。

 

「もし彼らの存在を知っていれば、僕らはきっと彼らと共に戦っていました」

 

009こと島村ジョー氏はそう語っていた。そして、彼らのような存在を生み出さない為に、ブラックゴーストとの戦いに対して闘志を燃やしたという。

 

次回はブラウンの後継者となったガイア博士とウラノス博士によって生み出された、ミュートス・サイボーグについて解説させて頂く。

 

 



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第十六章 その名は「ミュートス」 前編

ミュートス編は原作と平成版のハイブリットという形にしていますのでご注意ください。


0013の裏切りによって、ブラウンは完全に失脚した。だが、その後もブラックゴーストはサイボーグ兵士開発計画を継続している。

 

実態は継続どころか、大幅に強化されており、むしろ兵器としてのサイボーグの質は多いに向上している。

 

ブラウンが失脚し、同時に粛清されたのを皮切りに台頭していったのがギリシャ出身の工学者であるミハエル・ガイア博士であった。ブラウンと同じく兵器派の第一人者であり、サイボーグ部門だけではなく、ブラックゴーストの兵器開発部門にして辣腕をふるい、レーザー兵器や加速装置などを始めとする高性能兵器の開発に向けて多くの実績を誇っている。

 

ブラウン失脚後、彼は直ぐにブラウンを手を切り、率先してブラウンの弾劾を行うなど、抜け目なくサイボーグ開発部門における責任者としての地位を確立することに成功した。

 

ブラウン死後、ブラックゴーストのサイボーグ開発計画が停滞しなかったのはこうした理由が背景にある。お世辞にも評判がいい人物ではなかったが、こうした政治的立ち回りという部分において、彼はずば抜けた処世術を有していた。

 

しかし、最高傑作といってもよかった0013の反逆は、ブラックゴースト内部でもかなり深刻な問題として受け止めていた。

009すら上回る加速性能を持ち合わせた彼の反逆と自爆は単なる開発の遅延ではなく、組織を裏切る人間への統率や管理は無論のこと、開発計画そのものへの疑問と、てこ入れが求められた為である。

 

そこでガイアはまず、手っ取り早い手段として00ナンバーサイボーグや、後期型サイボーグよりも高性能なサイボーグ兵士製造計画に着手した。

 

ブラウン時代にあった直接的なサイボーグ兵士製造計画での意図的な人間性喪失による個体だけではなく、ガイアはさらに一歩進めた完璧なサイボーグについてコンセプトを固めていた。

 

「ガイアが当時口にしていたのは、人を越えた存在がサイボーグならば、さらにそれを越えた存在は神にも等しい存在といえるのではないかということだ」

 

そう語ったのはガイアの同僚であったロア・ウラノス博士である。

 

「彼が目指していたのは、人間を越えた存在であることは無論のこと、人を越えたサイボーグの概念を越えた、神にも等しいサイボーグともいうべき存在を作ることであった」

 

ブラウンの失敗を一番近くで見ていたガイアは、人という概念に縛られている限り、サイボーグ兵士製造計画は無論のこと、脱走したが完璧という言葉に一番近いサイボーグである00ナンバーサイボーグに打ち勝つことは不可能であることを理解していた。

 

単なる高性能なサイボーグというコンセプトだけでは00ナンバーサイボーグには勝利できない。より高性能であったはずの0010や0013ですら勝つことは出来なかったという事実をガイアは冷静に受け止めていた。

 

それに、より高性能なサイボーグというだけでは上層部が納得しない。そこで、ガイアは祖国ギリシャにて語り継がれていた、神話をモチーフとした神に等しいサイボーグを製造することを決めたのであった。

 

 

 

 



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第十七章 その名は「ミュートス」 中編

ミュートス・サイボーグ達は平成版。そしてガイアだけではなくウラノス博士もスタッフとして加わっているという解釈で書かせて貰います。


ガイアが目指したのが従来のサイボーグを超えたサイボーグ、神にも等しいサイボーグを作り上げることは前章にて解説した。

 

今回はミュートス・サイボーグ計画についての全容を解説する。

 

00ナンバーサイボーグがサイボーグ兵士製造計画による、兵器としてのサイボーグであることはすでに解説したが、ミュートス・サイボーグ計画は00ナンバーサイボーグのような兵器、兵士としてではなく、ある要素が組み込まれている。

 

まずはミュートス・サイボーグ計画によって生まれたサイボーグ達について簡単に説明していこう。

 

アポロン

全身から3000度の高熱を放射する能力を持つ。手からは6000度の熱波を放射し、指先から8000度の熱量を持つレーザー光線を発射。加速装置内蔵。

 

アルテミス

エネルギー弓を装備した遠距離攻撃用型サイボーグ。

 

ミノタウロス

頭部が牛のサイボーグ。角の間から電撃を放つ放電装置内蔵。

 

アキレス

黒豹のサイボーグ。加速装置を搭載。熱線を放つシールド、先端から光線を放つ長剣を装備。

 

ヘラ

エスパーサイボーグ。超能力を使用。

 

ポセイドン

人魚型の巨大なサイボーグ。水を自由に操る。

 

アトラス

巨大ロボット型サイボーグ。胸部にミサイルを装備。両手足を分離可能。

 

ネレウス

二足歩行のカバの姿を象ったサイボーグ。鼻からミサイルを発射可能。全身を特殊ゴムで覆われた超弾性が武器。

 

ケンタウロス

人間の上半身と馬の胴体を持つサイボーグ。体表は防弾皮膚で覆われ、浮遊による飛行能力を持つ。

 

パン

子鬼のサイボーグ。高性能レーダー搭載。

 

以上がミュートス・サイボーグ達の大まかな概要だが、彼らは神話をモチーフにしているが、同時に00ナンバーサイボーグや後期型サイボーグ以上に高度な改造と武装を施されている。

 

そして最大の特徴は、明らかに人間としての姿を廃しているというところだ。かろうじて人間としての姿を有しているのはアルテミスとヘラ、そしてアポロンであるが、他のメンバー、特にアトラスに関しては完全にロボット化しているといっても過言ではない。

 

まず、サイボーグ兵士製造計画において、過度な改造は精神面、心理面に対して大きなダメージを与えるという事実はすでに述べてきた。

 

過度な改造と機械化は人間としてのアイデンティティ、自我を喪失させてしまう。そうなれば兵士としては全く役の立たない個体になってしまうのが、これまでの経験則である。

 

00ナンバーサイボーグはこうした過度な改造ではなく、肉体と機械化の融合を行うことと、シンクロ率を高めた上で精神面での負担を限りなく0にすることで解決させた。

 

だがこのノウハウを失ったのもまたすでに解説してきたが、そこで生み出されたのが「人間性の喪失」という技術である。

 

意図的に人間性を喪失、切り取ることで無理矢理機械とのシンクロ率を上げる手法であるが、ガイアはこの手法から一歩踏み込んだ上で、より効率性の高い融合法を考えていた。

 

だが彼の専門は機械工学であり、生化学の分野においては素人といってもいい。そこでガイアがパートナーとして選んだのが南ア出身の生化学者であるロア・ウラノス博士である。

 

ウラノス博士は南アフリカ共和国出身であり、元々は南アにある部族の酋長の息子として生まれた。その後はイギリスに留学し、帰国するも、すでに南アフリカでは悪名高きアパルトヘイトが実施されており、彼の頭脳に見合った地位は一切与えられることは無かった。

 

同時に彼の部族は大きな迫害を受け、帰国した時には文字通り全滅していたという。

 

「私が生化学、医学を学んだのは自国の劣悪な衛生環境と医学の改善を行う為であった。だが、祖国はそんなことを望んではいなかった。科学は全て白人だけが利用し、学べるものであり、私のような黒人達は黙って奴隷になっていればいい。そんな状況の中で手をさしのべてきたのがブラックゴーストであった」

 

これはウラノス博士本人からのインタビューでのコメントである。

 

ブラックゴーストでは古くから人種に囚われない形で様々な国々から優秀な科学者を集めてきたが、主に彼らはアジア・アフリカ諸国などからスカウトすることが多かったという。

 

劣悪な自国の環境に愛想を尽かした科学者、もしくはより高度な研究を出来る場所を提供するという餌を振り回すことで彼らはブラックゴーストへと足を踏み入れていった。

 

そうした中でウラノス博士も組織の中で活躍していったわけだが、この時の彼の立場はやや危うい位置にあった。

 

それは、裏切り者であるアイザック・ギルモア博士と親友であったということであり、サイボーグ部門において数少ない医療派であったということである。

 

医療派はギルモア博士の脱走劇の中で壊滅状態に陥っていたが、彼らのノウハウはブラックゴーストにとっても貴重な技術となりつつあった。

 

そうした背景からガイアはウラノス博士に対してこう言ったという。

 

「神々を造ってはみないか?」と。

 

 

 



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第十八章 その名は「ミュートス」 後編

前回にてウラノス博士がミュートス・サイボーグ計画に参加するまでの流れについて解説したが、今回は改めてなぜ彼らは神になったのかという結論に踏み込む。

 

ガイアが掲げた人を越えた神にも等しい完璧なサイボーグを作るという理想は、ある意味荒唐無稽な笑い話であったが、ここまでブラックゴーストが手掛けたサイボーグの中で、まともな成功例が表向きの首領たるスカールを除けば、00ナンバーサイボーグのみという厳しい現実があった。

 

幾度となく繰り返される中で、サイボーグ計画がミュータント計画と違い、凍結されずにあったのはその過程で産み出された人工臓器や兵器などの副産物が大きな収益を産み出していたからに他ならない。

 

本来成功に導くはずの技術が、いつの間にか本業と化していたのは皮肉というしかないが、逆に言えば当時のサイボーグ計画はいつ凍結されてもおかしくはない代物であった。

 

そこでガイアはそうした現状を打破する為にあえて「神に等しい」という言葉を口にしていたという。

 

「ガイアは神など信じていない、それどころか恐ろしいまでに非常な現実主義者であった。故にそんな彼が神々を作ってみないかと呟いたのは不思議で仕方がなかった」

 

ガイアの同僚であり、ミュートス・サイボーグ計画に携わっていたウラノス博士はそのようなコメントを残している。ギルモア博士もガイアは無神論者であり、信じるのは自らの頭脳だけであったという。

 

だがガイアは現実主義者であると同時にパフォーマーでもあった。一見荒唐無稽に見えるテーマを掲げたのも、それまでのサイボーグにあったイメージそのものを払拭させ、同時に自らが新しい計画をスタートさせることを喧伝している。

 

そしてミュートス・サイボーグ達が神となったのは現実的な理由があった。ガイアがブラウンの配下であった時から発見した人間性の喪失が機械化をスムーズにさせるという事実から、より高度な存在とすることでより機械的ではない超全的な人格を形成させることで、機械と人体をよりシンクロさせうるということである。

 

機械化を推し進めれば、喪失した肉体と人間性が精神を蝕む。あるいは機械化そのものが人体とリンクしないで機能不全に陥る。この事実からガイアはただ人間性を喪失させるのではなく、人間ではない神とすることで、より心理的なストレスを軽減させ、同時にシンクロ率を向上させるという「神格化」という技術を発案した。

 

人間であることが、サイボーグ化を妨げるのであれば切除すればいい。しかしそれは同時に人間にある高度な判断や柔軟な発想を失わせてしまう。だがより高度な機械化は精神を蝕む上に、肉体に負荷をかける。

 

だが初めから人間ではない存在であることを前提にすればどうであろうか。人間ではない、人を越え神にも等しい肉体を備えた存在であることを肯定した上でのサイボーグであればどうなのか。

 

ガイアが考えたミュートス・サイボーグ計画はそうした前提の元に立案された計画であった。

 

「彼の計画を聞いたとき、私はついにガイアが狂ってしまったのではないかと思った。そのような発想はあまりにも非現実的である。だがガイアにはもう一人の協力者がいた」

 

ガイアがウラノス博士を勧誘したのは生化学的、医学的なアプローチにて改造を施せる協力者を求めていたからである。実際、

ミュートス・サイボーグの稼働率と改造レベルは劇的に高い数値を出している。

 

そして、ガイアにはもう一つの切り札があった。

 

ブラックゴーストにて「非合法な実験のアウトソーシング」というビジネスを立ち上げた男、超能力にとりつかれた男、

ガモ・ウィスキーである。

 

 



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第十九章 ガモ再び 前編

 

 前章にてガモ・ウイスキーがガイアへの協力したことに若干触れたが、ガイアは00ナンバーサイボーグを越えることを目標としていた中で、彼らがなぜ自分達よりも性能が上のはずの後期型サイボーグに勝利できたのかをずっと疑問に思っていた。

 

スペックではいずれも完成形とも言うべき009よりも協力な武装、より強力な加速装置を搭載しているはずの後期型サイボーグは兵器として優れた反面、同時に欠陥を抱えていたことはすでに解説済みである。

 

また、同時に彼らが個々の戦闘ではなく集団での戦闘を行い、常に相互の連携を行いながら、自分達の死角や弱点を埋め合うことで勝利をもたらしていたことが大きな要因であった。

 

そして後期型サイボーグの欠陥であった人間性の欠如、排除はサイボーグの利点を失う上に、それを取り戻した瞬間裏切りが発生しかねないという問題も抱えていた。

 

それをガイアは「神格化」という形で、彼らを人間ではないより高度的な存在、すなわち「神」に見立てることでその欠陥を埋めることにより解決した。そして、チームワークという面においても彼らは個々の力を保った上での連携も行っていることを見ても、明らかに後期型サイボーグよりもより優れたサイボーグ兵団に編成することに成功していた。

 

かつてギルモア博士と共にサイボーグ研究を行っていたウラノス博士の協力により、拒絶反応を00ナンバー並に低下させることに成功したが、ガイアは更なる助っ人としてガモを呼んだ。

 

まず経緯としてだが、かつてミュータント部門はブラックゴーストにおいて、サイボーグやロボット部門などを追い抜き、圧倒的な発言力と利益を得ていた。

 

以前、ガモがミュータントを産み出す仮定で得た「非合法な人体実験」という研究のアウトソーシングを行い、その技術を医術に応用することで独裁国家、特に医学が衰退していった旧共産圏において法外な最新治療により金銭を得るという手法について述べたが、この副産物はブラックゴーストに多くの医学、並びに生化学、バイオテクノロジーなどを飛躍的に高めることと共に、多くな利益を産み出した。

 

しかしミュータント部門は肝心のミュータント、新兵器となり得る存在を産み出すことが出来ず、未来戦計画に適合しないという事実から大幅な縮小を余儀なくされたが「非合法な科学実験のアウトソーシング」を求める国家や企業、組織は後を立たず、その利益は国を買えるほどの金額であったというのが、我々が極秘裏に入手した取材元からの情報である。

 

問題なのはこの莫大な収入源をブラックゴーストのどの部門が継承したのかということだ。

 

結論から言うと、この商法を受け継いだのはブラウン率いるサイボーグ部門であった。ミュータント部門が人間に超常的な能力を与える研究を行ったのに対して、サイボーグ部門は人体そのものを強化するという至ってシンプルではあるが確実な成果が期待された部門である。

 

どこまで人体を機械に置き換えられるのかという課題は、逆に手足を失った兵士を再び戦えるようにするという狂気じみた発想と皮肉な形でマッチした。

 

その結果、ブラウンは莫大な予算を手に入れることが出来たが、彼は後期型サイボーグ達の失敗により粛清された。しかしこの莫大な収益源をガイアはそのまま引き継いだ上で、紛争地域や発展途上国において実験を行い、その膨大なデータから更なる収益を叩き出すことに成功した。

 

その上でガイアがガモを協力者としたのは、彼が打倒するべき標的、00ナンバーサイボーグ達を打ち破るためガモが新たに計画していた新型エスパーサイボーグ、コードネーム「ヘラ」を実際にこの手で作り上げる為であった。

 

 



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第二十章 ガモ再び 後編

ミュートス・サイボーグのなかでも異色の存在と言えるのが、エスパーとしての力を有した「ヘラ」であるが、彼女の存在はガイアがガモを従えることに成功した証とも言える。

 

ミュータントを産み出すことに没頭していたガモは当時、研究資金について悩んでいた。「非合法な科学実験のアウトソーシング」はすでに彼のもとになく、ミュータント部門は大幅に縮小されており、試験管ひとつ購入するだけでも許可を得なければならないほどであった。

 

そういう意味からすれば、ガイアの協力要請はある意味渡りに船ともいうべき行為であった。過去の遺恨なども流す形でガイアはガモをオブザーバーとしており、名目だけ立場を上にするなど彼に気を使っていた。

 

もちろん彼にガモを尊敬する気持ちなど欠片もなく、さらに言えば彼はガモのミュータント計画を影で嘲笑していたほどである。

 

「ガイアがガモをオブザーバーとした時、私はガイアが徹底した戦略家であることを理解した」

 

そうコメントしたのはガイアの同僚であったウラノス博士であるが、ガイアはウラノス博士に対しては徹底首尾上から目線であったが、ガモに対しては決して上からではなくしたからへりくだる形で提案していたという。

 

無論、そうするだけの理由がガイアにはあった。それは、唯一00ナンバーサイボーグの中で、エスパーとしての素質を持つ001、イワン・ウイスキー氏についてである。

 

後期型サイボーグをはじめとする強靭なサイボーグや、サイボーグマンやブラックゴーストの兵器を打ち倒してきた中で、彼の持つ超能力についてガイアは脅威を抱いていた。ミュータントという存在と、ミュータント計画そのものは徹底してバカにしてはいたが、唯一の成功体でありイレギュラーともいうべき001という存在について、ガイアは徹底して分析をおこなっていた。

 

圧倒的なスペックを持つミュートス・サイボーグ達ではあるが「神格化」という人格と拒絶反応の対処により、00ナンバーサイボーグに比べて連携力が弱いという欠点を持っていた。

 

00ナンバーサイボーグが勝利してきた理由のひとつである団結力、徹底したチームプレイと高度な連携は自分達よりもハイスペックであるサイボーグ達を打ち破る原動力となり得たが、ガイアはミュートス・サイボーグをより完璧な兵器群にするため、そして00ナンバーサイボーグ唯一のエスパーであるヘラを開発することを決めた。

 

その共同開発の中で生まれたのが「ヘラ」であるが、彼女は他のミュートス・サイボーグ以上に機械化が行われている。また、人格そのものを消去されていたことがウラノス博士のインタビューから判明している。

 

「ガモはこの時、人為的な欠損を行うことで脳を超能力発生装置として機能させ、容易にミュータント化するという狂気に満ちた研究成果を産み出していた。だがこれはガイアが描いていた「神格化」をより完璧に出来る処理であった」

 

やや沈鬱な口調でウラノス博士は我々のインタビューに対してそう回答して頂いたが、ガモはより簡単にサイコキネシスやテレポートなどの超能力を発生させるノウハウに関して、脳の人体実験から産み出すことに成功していた。

 

まだCTもMRIも無い時代ではあったが、生きた人間の脳を自由に研究できるブラックゴーストでは、21世紀において判明した脳の仕組みにたどり着いていた。そして、この人格を消失させ、人格をも調整することで脳を超能力発生装置とし、身体は機械化するという、言うなればミュートス・サイボーグならぬ、ミュータント・サイボーグをガモはガイアと共同研究することで産み出すことに成功した。

 

そして、その結果ガモはこの結果から再びミュータント部門の拡大に向けて活動を開始したが、それは淡い夢と消えてしまった。

 

なぜならば、ミュートス・サイボーグは00ナンバーサイボーグ達によって敗北したからである。そしてこれ以後、彼が二度と表舞台にも裏舞台にも立つことはなかった。



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第二十一章 神々の敗北

ミュートス編は平成版アニメと原作をクロスさせております。


 ミュートスサイボーグは敗れた。

 

 00ナンバーサイボーグは無論のこと、この時点でブラックゴーストが作り上げたあらゆる兵器よりも強力だったはずにもかかわらずである。

 

 結論を先に述べれば、ガイアが考えた「神格化」には致命的な弱点が存在したからに他ならない。

 

 人間としての人間ではない神とすることで、より心理的なストレスを軽減させ、同時にシンクロ率を向上させるのが「神格化」である。

 

 そのメリットにより、ミュートスサイボーグは超常的な力と共に、柔軟な思考による高度な戦闘能力を両立させていた。

 

 ガイアがガモと協力することで生み出したこの「神格化」だが、その実態はつまるところ洗脳に他ならない。

 

 これはガイアと共にミュートスサイボーグを生み出したウラヌス博士からの証言により判明している。

 

「ガイアは彼ら(ミュートスサイボーグ)に常々口にしていたのは、君たちは人を超え、機械をも超えた神であるということだ。人でもなければ機械でもない、サイボーグという概念ではなく神であることを何度も言い聞かせ、彼らをサイボーグとして扱うようなことはしなかった。私が彼らと接する時、当初彼らはまだ人間としての親しみがあったが、次第に彼らはガイアと接するにつれて、人間らしさが失われていったのを今でも覚えている」

 

 

 ガイアはミュートスサイボーグに対して、超常的存在である神であることを言い含めていたという。

 

 それはこうしたコミュニケーションにもとどまらず、ガモの協力により脳を弄ることで人間らしさを失わせつつ、神であることを無理やりな形で刷り込んでいたほどである。

 

 だが、神格化は諸刃の剣であった。神であるからこそ、超常的な力が使えるということは、神でなければ超常的な力を使えないという副作用をもたらしていた。

 

 人とは違う体と能力による精神への負担は我々が想像する以上の負担を与える。

 

 ガイアはミュートスサイボーグを生み出す過程で、何体かのプロトタイプを生み出したが、彼らは自分たちが単なるサイボーグであることを知った瞬間に自らの能力が使用不能となった。

 

 中には自分が単なる化け物であると認識し、精神が崩壊し、自殺してしまった者までいたという。

 

 強い力は何のリスクもなく、無条件で使えることはないという事例であるが、ある意味彼らは最強であるとともに脆弱であったのだ。

 

 ガモとの協力により、かろうじてその脆弱さをカバーすることはできたが、根本的な改善には至らなかった。

 

 結果として、その隙を突かれることで、ミュートスサイボーグ達は00ナンバーサイボーグ達に敗れたのである。

 

「私がミュートスサイボーグ達と関わったのは途中までだった。あとはすべてガイアとガモが彼らを生み出した。だが、彼らを死に追いやったのは私の責任でもある。ガイアの口車に乗せられ、彼らを改造した結果、彼らは死んでしまった。彼らは神などではなく、ましてや化け物でもない、人間だった。その人間らしさが弱点となってしまったのであれば、彼らをそのような存在にしてしまった時点で私は彼らを殺したも同然だ」

 

 このインタビューを受けたウラヌス博士は、最後にこう述べている。

 

 余談になるが、ウラヌス博士はこの後ギルモア博士によってボツワナへと亡命し、現在ではボツワナは無論のこと、アフリカに蔓延するマラリアやエイズの対策に尽力されている。

 

 今でも博士は、自らが生み出した彼らを神にしてしまったことへの罪悪感を忘れることなく、人間として扱われなかった彼らに対する贖罪を行っている。

 

 

 

 



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第二十二章 黄泉への扉

 ミュートス達は敗れた。

 

 神にも等しい肉体を得たとしても、心までは神にはなれずに彼らは敗北した。

 

 どれほど強力なサイボーグを作り上げたとしても、00ナンバーサイボーグ達には敵わないことをブラックゴーストはようやく理解し始めたのである。

 

 だが、彼らは危険であることには変わりなく、同時に彼らが裏切り者であり、許されざる存在であることも変わらない。

 

 ブラックゴーストは裏切り者には一切の容赦を与えない組織であり、裏切り者は即座に抹殺する。

 

 だが、ミュートス達が敗れた中でブラックゴーストは00ナンバーサイボーグ達に構っていられない状況に陥った。

 

 それは、決して悪い意味ではなくいい意味で、しかも予想外の大収穫を発見したのである。

 

 それが、後に地下帝国ヨミと言われる広大な地下世界であった。

 

 地底空洞説を初め、SF作品などで地球の地下には広大な世界が存在するなどの話が存在するが、実際の地球は地殻、マントル層とコアで構成されている。

 

 だが、地殻は地表から最大70kmもの長さがあるわけだが、ブラックゴーストはこの空間に目を付けており、未来戦計画における地下シェルターの建設を行っていた。

 

 もし、核戦争等で地上の文明全てが消滅しても、自分たちだけは生き残れるためにである。

 

 

 その工事の中で、彼らは広大な地下空間を発見してしまった。さらに、その空間には信じられない量の砂金と奇怪ではあるが、兵器として利用可能な生物と、文明を築いた地底人まで存在した。

 

 特に、砂金の存在はブラックゴーストの財政を大いに潤し、様々な戦闘ロボットや兵器を製造するには十分なほどの資源として貢献した。

 

 そして、この空間を発見したことでブラックゴーストは自らが立案した未来戦計画を行うには十分すぎるほどの拠点であると認識し、本格的な開発に乗り出したのである。

 

 ミュートス達が敗れてから、00ナンバーサイボーグへの粛清を中断したのは、この予想もしていなかった地下帝国を築くことに注力していたからに他ならない。

 

 砂金の収集と、自ら超音波を放つ生物の確保と研究、そして、地底人への対処と、それはブラックゴーストが今まで手掛けてきた中で最大級といってもいいほどの事業となった。

 

 実はこの時期、ブラックゴーストは自らの商売であった武器商売などを一時的に縮小している。

 

 この降ってわいて出たならぬ、足元にあった理想郷に彼らは自らの野望を全て注ぐことを決意したからである。

 

 こうして、ブラックゴーストは自分たちの理想を地下帝国に見出したのであった。

 

 

 



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第二十三章 支配者との戦い

 

 地底世界は東西問わず、様々な神話で死の世界として描かれていることが多い。

 

 例えばギリシャ神話では冥府は地底世界として扱われており、冥府の神であるハデスは冥府の支配者であり豊穣の角が象徴とされている。

 

 また、インド神話に登場する死者の主ヤマも地下世界の支配者であり、後に仏教に導入され、ヤマは閻魔として地獄の支配者として取り入れられている。

 

 そして、黄泉という言葉は漢語で「地下の泉」という意味であり、死者の世界という意味も付与されている。

 

 ブラックゴーストは地下世界を発見したが、その名前をヨミと名付けた理由については今のところ判明しない。

 

 だが、地下という世界を支配することで、今後の世界の生殺与奪を握る。または、地上が地獄と化しても自分たちは地上とは切り離された黄泉の国にて安寧に過ごすという意味が込められているのかもしれない。

 

 長々と話したが、前回はブラックゴーストが広大な地底空間、というよりも、まさに地下世界を発見したことを述べた。

 

 その発見はブラックゴーストの主力であった武器取引を休止させても問題ないほど、莫大な利益を生み出すことに成功した。

 

 砂金と超音波怪獣という財産もそうだが、彼らが発見したのは必ずしも資源だけではない。

 

 この地下世界の支配者とその奴隷とも出会うことになったのである。

 

 

 ブラックゴーストが見つけた地下世界にはすでに支配者が存在した。

 

 その名はザッタンという。

 

 ザッタンは見た目は二足歩行できる爬虫類のような生命体であり、飛行可能な翼を有している。

 

 爬虫人類の一種として現在では認定されているが、生き残りはほとんど存在しないために研究と検証が全く進んでいない。

 

 一応、彼らは会話する能力を持ち、一つの文明を作り上げるだけの知性と知能、そして家畜を使役し、品種改良するだけの技術を有していた。

 

 だがザッタンの真骨頂はやはり、強力な催眠能力にあった。

 

 ザッタンは目を合わせるだけで催眠術をかけることが可能であり、相手を意のままに操ることが出来る。

 

 その力を利用することで、地下世界を支配していた。

 

 特に口から兵器となり得る超音波を放つ怪獣たちを使役し、彼らの家畜であり奴隷であるプワ・ワーク人を支配していた。

 

 プワ・ワーク人は我々人間と同じく人であり、ザッタン達の奴隷であり家畜として扱われ、食料にもされるために五つ子等で数多く生まれるように品種改良されていた。

 

 こうした形で、ザッタンは地下世界を支配し、王者として君臨していた。

 

 しかし、ブラックゴーストが地下世界により彼らの支配は根底から覆されてしまう。

 

 ブラックゴーストは当初、ザッタンとの接触を行った。

 

 支配者である彼らに様々な道具等を渡し、取引を行うことで懐柔を図ったのであるが、ザッタンの危険性に気づいた彼らは即座にザッタンの懐柔ではなく、根絶を行うことを決意した。

 

 それは、前述したが彼らの強力な催眠術にある。

 

 この催眠術によりザッタンは地下世界に生きる生命体全てを支配していた。同時にこの力は当然ながら地上の生命体、人類にも効果があった。

 

 ザッタンとの交流の中でブラックゴーストはザッタンに支配されたスタッフを発見し、彼らの傀儡になってしまったことからザッタンとの共存は不可能であり、存在することが脅威であることを痛感した。

 

 元々、地下世界はブラックゴーストにとって悲願である未来戦計画の砦であり、未来のエデンといってもいい拠点である。

 

 その重要拠点にザッタンが存在するだけで、全てが瓦解してしまうことを考えれば、ブラックゴーストほどの組織が彼らを処分するのはある意味当然の帰結であったと言える。

 

 ブラックゴーストは多数のロボット兵器を投入し、ザッタン殲滅作戦を実行した。

 

 この時、実行役になったのがこの地下世界の発見者でもあり、後に地下帝国ヨミ計画の最高責任者になったのが、バン・ボグートであった。

 

 ボグートは自ら作戦を立案し、指揮を執り、ザッタンを駆逐して地下世界の支配権を奪うことに成功した。

 

 そして、この成功によりブラックゴーストは更なる野望を実行に移すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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