ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか (しろちゃん)
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第1話 異世界

初めまして、思いついたダンまちネタを投稿していきます。


 

俺の目の前に酔っぱらったロリ巨乳がいた。

 

何を言っているのか分からないと思うが、俺もどうしてこうなったのかサッパリ分からん。

 

普通に学校の帰りにコンビニに立ち寄ろうと思い中に入った途端、夜の知らない街並みになっていて、目の前には酔っぱらったロリ巨乳がいるという某異世界生活の主人公みたいな状況。

 

「!!?!!????!?」

 

そして酔いすぎのせいかロリ巨乳が何を言っているのか分からん

 

とりあえず夢だという事は確定だな、最近異世界物のラノベ読みすぎだったかなー、と思いながら酔っぱらったロリ巨乳の訳の分からん言葉に適当に頷いてたら何か手を引っ張られて協会の地下に連れてこられた。

 

その地下部屋はベットとソファーがあった、簡単な秘密基地みたいな場所だ思ったが、よく見れば一応家として機能をしているみたいで、歯ブラシやコップなどが置いてあった。

 

「!!?!!??」

 

バシッバシッ!

 

と音を立てている方向を見るとロリ巨乳が相変わらず呂律の回ってないよく分からん言葉でベットを叩き始めた。

 

ここに寝ろという事だろうか?よく解らない夢だな。

 

そう思いながらも言われた通りベットに寝転がるとロリ巨乳が無理矢理うつ伏せにして来て俺の背中に乗り始めた。

 

まぁ夢ならいいか、とは思ったもののそこで、ん?と首をひねった

 

・・・あれ、重さを感じる?

 

少し疑問に思うが、母さん辺りが俺を起こしに来てるのだろうと見当をつける、この変な夢が覚めるのも近いかもしれない。

 

そのままロリ巨乳は高校の制服を捲り上げ、背中を露出させて俺の上で何かをし始めた、何をしてるか全く解らないがロリ巨乳のされるがままになりながら夢の終わりを待ってみる事にする。

 

どうやらやりたい事が終わったらしく凄くいい笑顔で一枚の紙を取り出し俺にそれを見せようとして…ロリ巨乳の動きが止まった。

 

そして手に持っている紙と俺を交互に見て、顔を青くして……

 

「グブォ!」

 

「吐くなよ!?」

 

盛大に胃の中の物をブチかました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「すみませんでしたぁ!」」

 

土下座、DOGEZAである

 

俺の目の前でロリ巨乳と白髪の少年が土下座している。

 

あれから吐いたロリ巨乳の背中をしばらく摩っていると、どこかに出掛けていたらしい白髪の少年が返ってきた。

 

俺を見て驚いた少年は次に蹲っているロリ巨乳を見ると

 

「大丈夫ですか!?神様!」

 

と言いながらそのロリ巨乳に駆け寄ってオロオロしていた。

 

神様ってなんだよ。

 

「うぅベル君、大丈夫だけど大丈夫じゃないんだよぉ」

 

少し落ち着いたのか、白髪の少年にそう言いながらロリ巨乳な神様は涙目で俺の方を見てきた。

 

さて、どうしたものか

 

今の俺の顔は若干引きつっているだろう、ていうかヤバい、今更ながら夢じゃ無いかもしれない

 

試しに頬っぺたを抓ってみると間違いなく痛いし、ロリ巨乳の吐瀉物の独特の香りも分かる。

 

そして俺に渡そうとしていた紙はロリ巨乳の下で悲惨な事になっているのもハッキリと見えている。

 

「えっと、あなたは?…うわっ!神様!?」

 

白髪の少年も俺の方を見てきたがロリ巨乳によって部屋の奥の方に連れて行かれてしまった。

 

だから神様ってなんだよ。

 

そこから白髪の少年が「え!」とか「本当ですか!?」とか喋って10分ぐらい経ってからのいきなりのDOGEZA・・・うん、わけわかんね

 

「とりあえず状況説明してもらってもいいですかね?」

 

そう頼むとロリ巨乳が頭を下げながら

 

「実は酔った勢いで君に『神の恩恵(ファルナ )』を刻んでしまったんだ!本当に済まない!」

 

と言いながら白髪少年と一緒になって、もう一度深く土下座してきた

 

ファルナってなんだよ

 

「君の身柄はボクが丁重に家に帰すから何卒穏便にぃ!」

 

最早地面が陥没しそうな勢いで土下座している神様と言われている少女は

 

「ギルドだけわぁ、ギルドだけわぁ」

 

と言いながらそれでも頭を下げようとして尻が浮いてきていた

 

なんだこれ

 

「え~と、よく分からんのだけどその『神の恩恵(ファルナ)』ってのが俺の体に刻まれたら何か不都合があんの?」

 

「「えっ!?」」

 

質問したら二人顔を見合わせていきなり部屋の隅でコソコソやり始めた

 

「ギルドの人間じゃ…」

 

「でも制服が…」

 

「『神の恩恵(ファルナ)』を知らなかったですし…」

 

しばらくすると二人そろってこちらに寄ってきた

 

「えーと、まずは君の名前と職業を教えてくれないかな?」

 

「人に名前を尋ねる時は自分からじゃね?」

 

「っ!?…す、すまなかった、ボクの名前はヘスティア、女神だ、そしてこっちが」

 

「ベル・クラネル!冒険者です!」

 

そう言って白髪の少年、ベル・クラネルは俺に向かって直角にお辞儀してきた。

 

「よし、俺の名前は黒鐘 色(くろがね しき) 職業は普通の高校1年生、学生だな」

 

「「学生ぃ!?」」

 

二人そろって驚きまた部屋の奥へ…そろそろ怒るよ?

 

「神様、学生ってマズいんじゃ!?」

 

「おおおお落ち着けベル君、だだだ大丈夫だ、大丈夫」

 

おほん、と咳払いするとヘスティアと名乗った少女が俺に訪ねてきた。

 

「き、君の住所を教えてくれないかな?とりあえずそこまで送るよ、あと『神の恩恵(ファルナ)』て言うのは聞かなかったように」

 

「神様ぁ!?無かった事にする気ですか!?それは流石にいけませんよ!!」

 

「だってしょうがないじゃないか!?大丈夫だ、1年経てば消せるからまたボクの所に来てくれ」

 

「だから駄目ですって!?バレたらどうするんですか!?」

 

「だからバレない様に口封じを!」

 

そう言いながら口喧嘩を始めた二人に俺はジト目を送り、次に深く息を吸った

 

「うるせぇ!」

 

「「っ!?」」

 

「黙って聞いてればバレるだのバレないだの怪しい話しやがって!いいかよく聞け!そしてイエスかノーで答えろ、俺の出身地は日本、聞き覚えは?」

 

二人は首をフルフルと横振った

 

「ジパング、ジャパン聞き覚えは?」

 

二人は首をフルフルと横に振った

 

「それじゃあアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、聞き覚えは?」

 

二人は首をフルフルと横に振った

 

「はい異世界ですね!どうもありがとうございました!!」

 

俺の叫びに二人は「「ひぃ!?」」と驚いていたがそんなの関係ない。

 

異世界ってなんだよ、おかしくね?せめてコンビニで買い物済ませてからでよくね?

 

何なの、俺死に戻りするの?魔女に愛されちゃうの?

 

一人頭を抱えているとヘスティアが恐る恐る俺に訪ねてきた。

 

「あの、異世界ってどういう事かな?」

 

聞いてきたヘスティアに事のあらましを説明することにした。

 

まぁ説明するほど長い話じゃない、俺がコンビニに寄ったらいきなり世界が変わり目の前の少女に連れてこられたという事

 

夢だと思っていたら『神の恩恵(ファルナ)』と言う物を勝手に刻まれていた事を簡単に説明した。

 

話を聞き終わったヘスティアは

 

「むむむむ」

 

と唸り腕を組み

 

ベル・クラネル少年は

 

「異世界ってどんなところなんですか!」

 

と言って目をキラキラさせながら俺のことを見てきた。

 

 

 

 

 

暫くベル・クラネルと俺の世界について話しているとヘスティアの考えが纏まったようで俺に話かけてきた

 

「えっと、シキ君、質問いいかな?異世界というのはこことは全く別の世界って事でいいんだよね?」

 

「そうだな、俺の世界の有名な国の名前を知らないんだからそうなると思うぞ」

 

「成る程、解ったボクの方で他の神に聞いて調べてみるよ、それで今後の事なんだけど」

 

続きを言うヘスティアの前に手を出し待ったをかける

 

「あのさ、さっきから神様って言ってるけど本物の神様?」

 

「?……そうだよボクは女神ヘスティア、この【ヘスティアファミリア】の主神なんだ」

 

そう言いながらデカい胸を張る小さい神様を見ながら頭を抱えた

 

・・・・・・どこの世界だここ?

 

詰まる所はそこだ、情報を整理してみよう

 

まず街には獣人が居たと思うから結構絞れた、最初はリゼロかと思ったが、神様がいるということは、このすば?少なくともゼロ使ではないな、でも神様がいる作品って「シキ君!シキ君!」ん?

 

「これからの事を話すけどいいかい?」

 

「お、おうそれで、俺はどうしたらいい?」

 

そう言いながら俺はヘスティアの眸を真っ直ぐ見つめた、吸い込まれそうな青い瞳が俺の方に向けられる。

 

「とりあえず帰り方が解るまでボク達の【神の眷属(ファミリア)】に入らないかい?」

 

「神様!?」

 

「いいよ」

 

「黒鐘さん!?」

 

その【ファミリア】っていうのはよく解らんが漫画とかのギルドやパーティーみたいなものだろう、この世界の知識も金も何もない俺にとっては無理やり『神の恩恵(ファルナ)』と言うものを刻まれたのは案外良かったのかもしれない。

 

「よし、そうと決まれば君の【ステイタス】を見てみよう、前のは……あー、ちょっと残念な事になったから、とりあえずシャワー浴びてきてもいいかな?」

 

あはは、といいながらヘスティアはシャワーを浴びに行った、まぁ色々大変なことになってたからな・・・色々

 

「あの、黒鐘さん」

 

横を見るとベル・クラネル少年が赤い眸を不安そうに揺らしなから俺に訪ねてきた。

 

「なにかな?」

 

「えっと、その、神様は悪気があってやったわけじゃないって言うか、その、神様を嫌いにならないで欲しいんです!」

 

そう言いながらガバァッと直角にお辞儀、それを見ながら俺は「気にしてないぞー」と言って笑いながらベルの肩を叩いた

 

「え?」

 

「そりゃ、びっくりはしたけどな、もしヘスティアが俺を連れて来なかったら今頃俺は道端に立ち往生だし過程はどうあれ結果的に良かったって思ってるよ」

 

「良かった、ですか?」

 

「そうそう、それに俺の世界ではよくある話だからな」

 

「よくあるんですか!?」

 

ビックリしているベル君に「その話聞きたい?」と言うと「是非お願いします!」と元気のいい返事を返して来た。

 

それじゃ話してやろう、始めはそうだなぁ魔法の使えない少女に召喚された使い魔の少年の物語から・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバイヤバイヤバイ」

 

そう言いながらシャワーを浴びにいって黒鐘色のステイタスを更新した紙を握りしめヘスティアは協会に一人で座っていた。

 

「何とかその場は誤魔化せたけど、これ、本当にヤバイよね、少なくとも絶対に他のファミリアにバレたらいけないやつだよね」

 

紙を見つめる、黒鐘色の【ステイタス】の紙を、ベルの【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】もヤバイがこれは最早規格外なんじゃないのだろうか?

 

そう思いながら握りしめている【ステイタス】を穴が見つめる程ガン見していた。

 

 

 黒鐘 色

 

 Lv.1

 

 力:I0

 

 耐久:I0

 

 器用:I0

 

 敏捷:I0

 

 魔力:I0

 

 《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

 

 

 

「うー、これだけなら、これだけ(アクセラレータ)ならよかったんだ、よかったんだけど・・・」

 

もう一度自身が書いた用紙を見る。

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 

 

「ヤバイよなぁ、これ」

 

誰も居ない協会の一角で一人女神ヘスティアは突然自身の目の前に現れた黒髪黒目黒の制服という異世界から来た男の子のことを思い出しながら自身の【ファミリア】の未来に思いを馳せた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公はほどほどにチートにしたい。


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第2話 ダンジョン

主人公の身長はベルの頭一個分ぐらい上


目の前に蟻みたいなモンスターがいた。

 

隣の少年にどんなモンスターなのかを聞くと名前は《キラーアント》、硬い硬殻のモンスターで硬殻の隙間の柔らかい肉を狙えばいいとのこと。

 

なるほど、と言い、俺は一歩一歩蟻みたいなモンスターに慎重に近づいていく

 

『ギギッギギッ』

 

それは嘲笑、モンスターは笑っているのだ。

 

近づいてくるそいつは明らかにレベルが足りていない、自身の硬殻に傷一つ付けられないことは本能的に分かっていた。

 

分かっていた筈だった。

 

「シッ!」

 

その少年が消えた、黒髪黒目黒の制服という格好をしている少年は《キラーアント》の視界から消える程のスピードを持っていたということなのだろうか。

 

それとも洞窟の暗闇に紛れているだけか。

 

それでも《キラーアント》の硬殻には傷一つ付けられない。

 

それが普通の少年だったのなら。

 

「ベクトルパンチ!」

 

『ギギッ!?』

 

場所は《キラーアント》の上

 

頭上からかけられた声に振り向く間もなくその硬い硬殻は黒い少年の拳によって粉砕される。

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい!絶対おかしい!」

 

そう言ってくる白髪の少年、ベル・クラネルに俺こと黒鐘 色(くろがね しき)は困ったようにダンジョンの真ん中で「どうどう」と言いながらベルをなだめていた・・・

 

【ヘスティア・ファミリア】に入った次の日俺とベルは『ギルド』に行くことになった。

 

なんでも住民登録やら冒険者登録やらをしなければいけないらしく、観光がてら色々見ながら歩いていく。

 

「はー、やっぱ本当に異世界なんだなぁ」

 

「やっぱりそう思うんだ、えっと・・・(しき)?」

 

「はは、何で疑問形なんだよ?」

 

「いや、うん・・・色」

 

そう言いながら真っ直ぐ俺を見てくる赤い瞳はついさっきまでの「年上の人を呼び捨てにするなんて」とか言ってた少年なのだろうか?まぁヘスティアに「せっかく家族(ファミリア)になったんだから、細かいことは言いっこ無しと行こうではないか、ベル君!色君!」と言われて渋々了承していたからどうなるかと思ったけど、大丈夫そうでよかった。

 

因みに「そういうもんなのか?、それじゃあよろしくなベル、ヘスティア」

 

と俺がいうと「「ボク(神様)を呼び捨て!?」」とまた二人でシンクロしてるのは面白かったな。

 

「たしか色の世界には沢山の『びる』って呼ばれる鉄の建物があるんだよね?」

 

「そうだぞ、それに獣人もいないな、いるのは皆人間(ヒューマン)だ」

 

「へー、でもモンスターは?みんなヒューマンが倒してるの?」

 

「俺の世界にモンスターはいないんだよなぁ」

 

「え!?でもそれだったら魔石はどうするの?光も何もないんじゃ」

 

「いや、それは電気を使ってだな・・・」

 

他愛ない話をしていると大きい建物が見えてきた、おそらくあれが『ギルド』だろうか?

 

中に入ると広い空間になっていた。市役所の受付見たいものだろうか、早朝の為か人はあまり居なかったが。

 

「すいませーん、エイナさんいますかー?」

 

ベルが受付の人に名指しで誰か呼んでいた、どうやらいつもの事らしく受付の人は「直ぐ呼んで来ますね」といって事務所らしき所へ行っていた。

 

「エイナさんって?」

 

「僕のアドバイザーで色々面倒を見てくれてるんだ」

 

「へー、アドバイザーね」

 

そう言いながら腕を組みしばらく待つことに。やることがないので昨日の【ステイタス】に関して少し考えてみようと思う。

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

これを見た時変な声を出した俺は悪くないだろう、ヘスティアやベルは「中々使えそうなスキルだねー」とか「凄いよ色!」とか言ってたけど、はっきり言ってチートです、はい。

 

試しに使ってみたが、ベルの軽いパンチなどは普通に反射で返せた事から本当にあのベクトル操作が出来ているみたいだ、本物との違いは演算が要らなくイメージにより発動するスキルなので解析等は出来なかった事くらいか。

 

因みに《魔法》ではなく《スキル》なので魔力は使用しなくてもいいんだとか。

 

どう考えてもチートですね、ありがとうございました。

 

しばらくすると桃色の髪色が特徴的な女性が出てきた。

 

この人がエイナさんだろうか?

 

「ごめんね、今エイナは出かけていて居ないんだよ」

 

「あ、そうなんですか、えっとミィシャさん?」

 

「そうなんですよ、愛しのエイナさんが居なくて残念だった?」

 

「い、いと!?そ、そんなんじゃ・・・」

 

うわぁ、ベルの奴すげぇからかわれる、しばらくベルとミィシャと呼ばれた女性のやり取りを見ていると、不意にミィシャさんから声をかけられた。

 

「えーと、新しい冒険者さんでいいですよね。これが登録書です、ここの項目に名前とそれと・・・」

 

続きを言おうとした彼女を遮るように腕を前に出し待ったをかける。

 

ここで一つ重要な問題に直面した。

 

「俺、字読めないんですけど、どうしたらいいすかね?」

 

「えっ?」

 

言った言葉に彼女はしばらく固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、結局ベルに全部書かせて」

 

「しょうがないよ、色が来たのは昨日だもん」

 

まぁ、確かにしょうがない、何故か【ステイタス】に書かれている内容は読めるのに他の文字がサッパリなのだ。

 

これには皆驚いていた、俺も驚いた。

 

「さっ着いたよ、ここがダンジョン1階層」

 

「おー、それっぽい」

 

言いながら目の前の光景を見た。

 

そこは迷路みたいな入り組んだ道だった、これから待ち受けているだろうモンスターとの戦闘に思いを馳せていた俺に薄い青色の壁や通路は、気を引き締めろ、と言っているみたいだ。

 

だけどこれはお試しだ。「少しダンジョンを見てみたい」と言った俺にベルが「少しだけなら」と来ただけで全く装備も何も持っていない、すぐ来て直ぐ帰る、それをルールに俺達はここに来ていた。

 

「ちょっと進んで見てもいいか?」

 

「うんいいよ、どうせならモンスターも見てみる?」

 

そう言いながら俺たち二人は奥に進んでいった、ベルも歩き馴れているらしくここのモンスターについて説明しながら歩いている。

 

「で、そのコボルトの群れに遭遇した時は焦ったよ」

 

「成程な、モンスターも群れを作るのか」

 

「コボルトが群れを作るのは稀なんだけどね」

 

しばらく進むとそいつが現れた。

 

『ガァァ』

 

成程、犬頭に鋭い牙や爪、ベルの言っていた特徴に一致するあいつは間違いなくコボルトだろう。

 

「なぁベル、コボルトが群れを作るのって稀なんだよな?」

 

「う、うん稀だよ、稀なんだけどなぁ・・・」

 

『『『『『『『ガァァァァァァ』』』』』』』

 

目の前にコボルトがいた、数は10匹だろうか。

 

全然稀じゃないじゃん。

 

隣を見るとベルが苦笑いをしながら文字が刻んである特徴的なナイフを構えていた。

 

「大丈夫、僕が色を守るよ」

 

そんなかっこいい台詞を言いながら目の前のコボルトにナイフを向けるベル。

 

このままベルに任せても良かったのだがせっかくチート能力があるのだ、やっぱり使ってみたいので前に出たベルの肩を叩いた。

 

「いや、その言葉は女の子に言えよ、俺じゃなくて・・・さっ!」

 

そう言いながら一歩前へ出て拾った大量の小石を目の前のコボルトに投げつける。

 

ベクトル操作で威力が格段に上がった小石は、さながらショットガン見たいにコボルトの群れに炸裂した。

 

『『『『『『『ギィャァァァァァ!!!!』』』』』』』

 

「・・・はぁ!?」

 

一撃、一撃である。

 

素っ頓狂な声を上げるベルに向かって「さっ次行こうぜ」と声をかけながら足を前に進めた。

 

 

 

 

 

「えっ嘘!?ダンジョン・リザードの群れ!?」

 

シュッ!

 

『『『『『『『ギィャァァァァァァ』』』』』』』

 

「フロック・シューターの群れ!?」

 

シュッ!

 

『『『『『『『ギィャァァァァァァ』』』』』』』

 

「ウォーシャドウの・・・」

 

シュッ!

 

『『『『『『『ギィャァァァァァァ』』』』』』』

 

「・・・」

 

シュッ!

 

『『『『『『『ギィャァァァァァァ』』』』』』』

 

よーし次はどんなモンスターの群れが出るのかなー、と思いながらポケットに弾丸(小石)を補充していると、隣を歩いているベルに「ちょっと待った!」と言われた。

 

「ん?どうしたんだよベル?」

 

ベルの様子がおかしい、少し俯き加減のまま俺のことを見ている赤い瞳は見事なまでに「納得いってません」という感じにジト目である。

 

「それ、ズルい」

 

言いながら俺の持っている小石を指さしてきた。

 

「いや、ズルいって言っても今の俺はこれ(小石)が主戦力だしなぁ」

 

小石を弄びながら隣のベルに言うと「むむむむむ」と昨日のヘスティアみたいな声を上げた。

 

「でも、あれだよ、そんなんじゃこの先やって行けないよ、例えばほら、そこにいる《キラーアント》とかには効かないかもだし」

 

「ん?キラー・・・なんだって?」

 

《ギギギッ!!》

 

そう言いながら前を向くと赤い蟻みたいなモンスターがいた。

 

そして冒頭に戻るわけで・・・

 

「ははは、拗ねんなって、お前が苦戦したキラーアントを一撃で倒したのは謝るからさ」

 

「拗ねてない!神様が待ってるから早く帰るよ!」

 

調子に乗って七階層まで言った俺達はしばらくした後、全速力でヘスティアの待つ協会に向かっていた。

 

結論から言おう、ベクトル操作チート乙www

 

硬い殻の《キラーアント》もベクトル操作により力を一点に集めれば簡単に粉砕できたのがその証拠だろう。

 

そして今、ベルの【ステイタス】は敏捷が一番高いにも拘わらず楽々並走して、ベクトル操作で人にぶつかってもすり抜けるように移動できるのだからこの《スキル》がどれだけチートなのかを改めて実感した。

 

 

「はいゴール!」

 

隣にいるベルを見ると「ぜぇ、ぜぇ」と言いながら息を切らしていた。

 

因みに俺は少し疲れた程度である。

 

重力などもコントロールしていたからだろうか?今は羽の様に体が軽かった。

 

「やっぱずるいよ、そのスキル」

 

「はっはっはっはっ」

 

ベルの言葉に笑うことしか出来ない俺はそのまま協会の奥へ、扉を開けて中に入った。

 

「ただいま帰りました、神様」

 

「帰ったぞ、ヘスティア」

 

「おっ意外と遅かったじゃないか、さてはダンジョンに行ってたなぁ?」

 

したり顔でヘスティアは「ボクをほったらかしにするなんて酷いじゃないか」と言いながらベルの腕を突いている

 

「い、いや、そんなつもりじゃ・・・」

 

と言いながらベルは苦笑い・・・イチャイチャしやがって。

 

「っと、まぁいいや、それより手伝ってくれないかな?」

 

「手伝う?何をだ?」

 

「もちろんっ!」

 

そう言ったヘスティアはチラチラとベルの方に視線を送る。

 

ベルもその意味が解っていたらしく二人合わせて「「せーのっ!」」とタイミングを合わせ

 

「「もちろん色君(しき)の歓迎会の準備さ」」

 

と二人合わせて仲良く俺に言ってきたのだった。

 

・・・自分の歓迎会の準備を自分でするのか。

 

細かいことは考えないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく経ち大量のじゃが丸君と言うコロッケっぽい何かを食べ終えた頃、ヘスティアの「それじゃ、【ステイタス】を更新しようじゃないか」と言う言葉に従い上半身を脱ぎベットに寝転がった。

 

ヘスティアが上に乗りしばらくすると狭い部屋に絶叫が木霊した。

 

「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」

 

「ど、どうしたんですか!?神様!?」

 

「どうした?ヘスティア?」

 

背中に目を向けると【ステイタス】の書かれた紙を見ながらヘスティアはワナワナと震えていた。

 

「べべべべベル君?今日は色君と一緒にどどどどの階層まで行ったんだい!?」

 

バッ!とベルの方に首を向けたヘスティアに対してベルはサッと首を逸らした。

 

「・・・階層までです」

 

「え?もう一回言ってくれないかな?」

 

「・・・七階層までです」

 

「なぁなぁかぁいぃそぉおぉ!!!!!!!!」

 

言うな否やベルの肩を掴み激しく揺らし始めた。

 

「色君は初めてダンジョンに潜るのにどうしてそんな所まで行ったんだぁ!さすがに今回はボクも怒るよ!」

 

「ごごごごめんなさいぃぃ!」

 

説教を始めたヘスティアが落とした紙に目をやるとそこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 黒鐘 色

 

 Lv.1

 

 力:I10→I83

 

 耐久:I10→I55

 

 器用:I10→G208

 

 敏捷:I10→E301

 

 魔力:I0

 

 《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

全アビリティ熟練度、初上昇値トータル600オーバー、これがどれだけ凄いのか分からないまま色はヘスティアの説教が終わるのをため息をつきながらじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

それにしても、前もそうだったんだが【ステイタス】の下の方ビリビリに破れてんだよなぁ・・・癖か?

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 魔法

基本主人公視点


俺は目の前の光景に若干興奮していた。

 

「ファイアボルトォォォォ!!」

 

右腕を前に突き出し、叫びながら魔法の呪文を言う白髪の少年は勿論中二病等ではなく、その右腕から雷の様な炎を噴出させた。

 

『ギィャ!!』

 

目の前のゴブリンに着弾した魔法は爆炎を上げそのモンスターを消し炭に変える。

 

訂正しよう、俺は目の前の光景に凄く興奮していた。

 

「おお、スゲェ!もう一回、もう一回見せてくれよ!!」

 

「もう、しょうがないなぁ、もう一回だけだからね」

 

そう言いながらも満更ではない様子の白髪の少年は右手を前に突き出し「ファイアボルト!」と叫び魔法を放つ。

 

『グブォ!』

 

モンスターの焼けこげる匂いを嗅ぎながら隣にいる白髪の少年にパチパチパチっと称賛の拍手を送った。

 

「ふっふっふっ、それじゃあいったん帰ろうか?」

 

「オッケー、でもその前にちょっと待ってくんね?」

 

「ん?いいけど、どうしたの?」

 

俺はさっき見た白髪の少年の魔法を思い出しながら右手に集中した。

 

イメージは風を集める感じに、よしっ集まって来たな、次は鋭く、回転させて。

 

「え?何この風!?」

 

「えーと名前は・・・まぁ適当でいいか【ウィンドカッター】!」

 

叫びながら腕を前に突き出すと、俺の周りで渦巻いていた風が鋭い刃になって、ちょうどいいところに現れたコボルトの集団に突っ込んだ。

 

『『『『『『『ギィャァァァァァァ』』』』』』』

 

予想どうり風の刃はコボルトの集団を尽く全滅させる。

 

「・・・・・・」

 

「さっ早く帰んぞ」

 

と言い、俺こと黒鐘 色(くろがね しき)は唖然としている少年、ベル・クラネルの肩を叩いて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「む~」

 

「あの?ベル様?」

 

「む~」

 

「えっと、どうかなさったんですか?ベル様?」

 

「悪いね、朝からずっとこの調子で拗ねてんだよ」

 

「拗ねてない!」

 

「ハイハイ」

 

と言いながら俺は目の前の小柄な少女に肩を竦めた。

 

事の発端は昨日ヘスティアに言い渡された「今日はダンジョンに行くの禁止!」という言葉に従いベルは街に出掛け俺はヘスティアに文字を教えて貰っている日の夜に、ベルが行き成り《魔法》に目覚めたのが始まりだった。

 

外で何してきたし・・・

 

「《魔法》ってそんないきなり目覚めるもんなのか?」

 

「んー?どうなんだろう?やっぱり成長期だからじゃないかな?」

 

そう言いながらヘスティアは「あははは」とワザとらしく笑いながらベルに魔法について教えていた。

 

こっちがビックリするぐらいはしゃいでいるベルと指を立て魔法の推測を立てていくヘスティア、それを眺める俺という、気づけばいつもみたいな構図が完成していた。

 

「それじゃあ夜も遅いし今日はもう寝て明日その魔法を試してみようぜ」

 

そう言ったのは欠伸をしたヘスティアだ、俺達はその言葉にお互い顔を見合わせ

 

「「はい分かりました」」

 

と言い俺とベルは床に毛布を引き寝る事にした。

 

 

まぁ、結局お互い寝れず協会を飛び出し冒頭のようになったと言う事である。

 

「成程、そういう事でしたか・・・あっ自己紹介がまだでしたね、リリはリリルカ・アーデと言います。気軽にリリと呼んで下さい」

 

「おう、俺は黒鐘 色、色って呼んでくれても構わないぜ」

 

そう言いながら目の前の小柄な少女、リリと握手した。

 

 

 

 

 

「ねぇ色、さっきの事どう思う?」

 

リリと夜までダンジョンを回った帰り道、ベルは俺に言ってきた。

 

「さっきのって、リリが冒険者に絡まれていたことか?」

 

そういうとベルは首を縦に振った。

 

それはダンジョンに潜ってしばらくした時の事だ・・・

 

シュッ!

 

『ギッィ!』

 

『ギャッ!』

 

「おおー!色様お強い!本当に駆け出し冒険者なんですか?」

 

「はっはっはっ」と笑いながら持っていた小石をポケットにしまい、今度は右手に風を纏い目の前のモンスターを切り裂いた。

 

「ウィンドカッター!!」

 

『ギィヤァァ』

 

「ちょっと色!僕の分も残しといてよ!」

 

「悪いって、ほら、出てきたぞ」

 

指を刺すとそこには蝶々みたいなモンスターが出てきた、それに合わせてベルも腕を前に向ける。

 

「ファイヤボルト!」

 

モンスターがベルの魔法で焼け焦げるのを確認すると、俺達はしばらく休憩することにした。

 

「それにしても色様はどうしてそんなにお強いんですか?殆どのモンスターを小石を投げるだけで倒す冒険者なんて聞いた事ありませんよ?」

 

「うーん、悪い、企業秘密って事でいいか? ウチの主神に口止めされてるんだよな」

 

俺の《スキル》一方通行(アクセラレータ)については絶対に自分のファミリア以外には言ってはいけない様にヘスティアに言われていた、まぁ言われなくてもベラベラ喋る気はないが・・・

 

「それは残念ですね。あっ、深い詮索はしませんよ」

 

違うファミリアですので、と言いながらリリは自前に俺達が渡したおやつのじゃが丸君を口に運んび周囲を警戒しているベルの事をジッと見ていた。

 

「でもリリはいいのか?ベルみたいにモンスターを倒して【経験値(エクセリア)】を稼がなくて?」

 

さっきから疑問だった事を質問してみる。リリはダンジョンに入ってから一体もモンスターを倒さずひたすら魔石を取っているだけだった。

 

「リリはサポーターですからね、戦闘はベル様と色様に任せてドロップアイテムを集めるのがリリの仕事です」

 

「ふーん、そう言うもんなのか」

 

「そう言うもんなんです、そもそもサポーターの役割は・・・」

 

リリにサポーターについて説明を受けていると。

 

「やっと見つけたぜ!このチビ!」

 

一人の男が突然そう言うといきなりリリの胸倉を掴んで汚い罵倒を飛ばした、そのまま殴り掛かりそうな男の手を俺は慌てて掴んだ。

 

「おっさん、殴るのは良くないって!ストップ落ち着け」

 

「てめぇ何もんだ!このチビとつるんでんのか?」

 

そう言いつつも男はリリの胸倉を掴んだままこう言った。

 

「悪い事は言わねぇ、キッパリ手を切っとけ、こいつに騙される前にな!」

 

男がリリを掴んでいる手に力を籠める、「うぐっ」というリリの苦しそうな声が聞こえる。

 

騙される?何言ってんだこのおっさん?

 

「何してんの!?色!」

 

動けなくなっていた俺に向かってベルの鋭い声が突き刺さった。

 

「リリを放せぇ!」

 

ベルは男の体を蹴り強制的にリリを開放する、そして「逃げるよっ!」と言ってそのまま一時7階層を後にしたのだった・・・

 

 

「まぁ本人は「あんな人知りません、人違いでは無いでしょうか」って言ってたけど怪しすぎるよな」

 

隣に歩いているベルは俺の言葉に少し考えた後。

 

「色、僕はね・・・」

 

ベルの言葉を聞いた俺は・・・

 

 

 

 

 

 

「おはようございます!ベル様!色様!」

 

「おはよう、リリ」

 

「あっ・・・リリ、おはよう」

 

昨日の事が嘘だったかのようにリリはいたって普通だった、遅れて挨拶したベルは、多分リリの事を考えていたのだろう。

 

「今日は10階層まで行ってみませんか?」

 

ダンジョンに行く準備を進めていると不意にリリがそんな事を言ってきた。

 

「どうして、いきなりそんな・・・」

 

「ベル様、リリがお気付きにならないと思っていたのですか?ベル様や色様は簡単に10階層を踏破できる実力をお持ちになっているのでしょう?」

 

「・・・」

 

考え込むベルを見ながら俺も腕を組んだ。

 

実力、実力ねぇ・・・ダンジョンに潜り始めてから一週間も経っていない俺に実力なんて物は皆無だ、一方通行(アクセラレータ)が無ければコボルトともまともに渡り合えないんじゃないんだろうか?はたして、この《スキル》が10階層に通用するのかどうか・・・

 

俺が自分の実力について考えてたらどうやら10階層に行くことになったらしいくベルの「行こう、10階層」という言葉につられて足を進めた。

 

 

 

10階層に向かう途中俺はリリに

 

「よろしければこれを使ってみませんか?小石よりも威力が高くなりますよ」

 

と言われ小さな鉄の塊を大量に貰っている、ベルは《バゼラート》という武器を貰ったらしく、試し切りを目の前でしていた。

 

「なぁリリ、昨日の男の話なんだけどな?」

 

「何ですか?あの男は勘違いで襲ってきた見ず知らずの他人ですよ?」

 

言いながらフードで顔を隠すリリに向かって言葉を投げかける。

 

「まぁ言いたくないなら無理には聞かねぇよ、違うファミリアだし・・・なっ!」

 

シュッ!と試しに鉄の塊を制服のポケットから出し、投げるとモンスターは断末魔を上げ魔石だけになった、どうやら威力は小石よりも格段に上がっているらしい。

 

「でもいつでも言ってくれたら相談には乗るぜ、俺もベルも」

 

「・・・そうですか」

 

一言だけ残してそそくさと俺が倒したモンスターの魔石を取りに行ったリリを見送った俺は溜息をつきながらベルに次の階層の道を尋ねた。

 

 

 

「・・・あなた方みたいに強いお方にリリの気持なんか分かりませんよ」

 

その呟きは誰にも聞こえない・・・

 

 

 

 

「ここが10階層・・・」

 

目の前には霧が立ちふさがっていた、もしここではぐれたら俺は一生ここから出られないかもしれない。

 

「リリ、色、離れないでね」

 

「・・・はい」

 

「はいよ」

 

ベルが何度も声をかけながら進んでいくと開けた草原みたいな所に出られた。

 

周りを見ると枯れ木のような物が周囲を囲っていた。

 

「あれが『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』か?ベル」

 

聞くとベルは静かに頷いた、その仕草を見て俺は周りを警戒する。

 

しばらく進むと木々を押し倒すようにソイツが現れた。

 

でっかい体に豚の頭、『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』を引き抜いているそのモンスターは来る途中に話で聞いていた『オーク』は・・・こん棒のようになった『天然武器(ネイチャーウエポン)』を構えながらこちらに突進してきた。

 

『ブッグゥゥゥゥッ!!』

 

「来ましたよ、色様!」

 

「任せろ!」

 

言うな否や俺はポケットに突っ込み鉄の塊ではなく数粒の小石を掴んだ。

 

「これでどれぐらいの耐久力か試してやる・・・ぜっ!」

 

たかが小石と侮るなかれ、ベクトル操作により高められたその威力はまさしくショットガンだ。

 

しかし相手は10階層の大型モンスター、その程度(ショットガン)の攻撃は分厚い皮膚に拒まれて魔石まで届かなかった。

 

「やっぱダメか、後はよろしくなベル!」

 

「任せて!」

 

ベルは自身の白髪がブレる程のスピードで小石をくらって怯んでいる『オーク』に向かって行った。

 

「ぜぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

『プギョォォォォォ』

 

叫びながら突き刺した《バゼラート》は見事に『オーク』の魔石を破壊したらしく、その巨大な体を崩していく。

 

「やっぱここら辺じゃこれは使えないな」

 

そう言いながら小石をしまい代わりに鉄の塊を出して、それを勢いよく投げる。

 

『プゴッ!』

 

小石がショットガンならこの鉄の塊はライフルと言った所か、ブレることなく真っ直ぐに遠くに現れた『オーク』に向かった弾丸はものの見事に巨大な豚の頭を吹き飛ばした。

 

それを見て微妙な表情になったベルに俺は手を振り近づいて行く。

 

「何とかこの階層でもやれそうだな」

 

「うん、そうだね、色が僕より先にモンスターを倒さなければね」

 

どうやらまだ物を投げるだけでモンスターを倒している俺に納得がいってないらしいベルはジト目でそんなことを言ってきた。

 

「だってしょうがないじゃん、あんなデカいモンスターに近づきたくないし、リリもそう思うだろ?」

 

そう言いつつ後ろに居るだろうリリに声をかけるが返事が返ってこない。

 

「・・・リリ?」

 

「おい、あいつまさかはぐれたんじゃ!」

 

焦った俺達は周囲を警戒し、ある異変に気付いた。

 

「なんだ?これ?」

 

それは肉の塊だろうか?近づいてみてみるがやっぱりただの肉の塊だ。

 

「色!そこから離れて!」

 

ベルの声を聴いて俺は急いで離れようとしたがどうやら一歩遅かったらしい。

 

『プギャァァァァッ』

 

「嘘だろッ!?」

 

いつも間に眼前に迫っていたオークが俺に向けてこん棒を振り下ろしていた。

 

避けれねぇっ!?

 

咄嗟に腕をクロスさせガードを試みる、ベルの絶叫が聞こえ俺の腕にオークの一撃が炸裂し・・・

 

『プギョ!?』

 

「なぁーんちゃって☆」

 

オークの持っていた『天然武器(ネイチャーウエポン)』は反射によって粉々に砕けていた。

 

「お返しだぁッ!オラぁッ!」

 

『プゴッ!?』

 

オークの胴体めがけて鋭い蹴りを放つ、ベクトル操作により威力が増した蹴りはオークの体を上下に切断した。

 

「リリ、何言ってるの!?」

 

振り向くとどうやらリリと話していたらしいベルが追いかけようとしてオークの群れに向かおうとしていた。

 

「ベル!ここは俺に任せて、お前はリリの所に行ってやれ!」

 

「駄目だよ!色を置いて行くなんて!?」

 

「いいから行けっ!間に合わなくなるぞ!!」

 

「で、でも!」

 

たく、しょうがない、まだ迷っているベルの肩に俺は手を乗せる。

 

「あの子を救ってあげたい、昨日言ったお前の言葉は嘘なのか?」

 

「ッ!?・・・・・・行ってくる、でも色も無事でいてね?」

 

「当たり前だろ?こう見えて俺はまだ一撃も食らったことが無いんだぜ!」

 

「・・・うんそうだよね、よし!行ってきます!」

 

「応ッ!行ってこい」

 

駆け出したベルに向かってオーク達のこん棒が振り下ろされるが、それが当たる前に俺の鉄の礫(弾丸)がそいつらの頭を打ちぬき、跳躍、こっから先には行かせんとばかりにオークの群れの前に降り立った。

 

敵を改めて認識した十数匹のオークが俺に向かって天然武器(ネイチャーウエポン)を構える、それに立ち向かうように俺は鉄の塊を構えた。

 

「悪ィが、こっから先は一方通行だ。 侵入は禁止ってなァ!大人しく尻尾ォ巻きつつ泣いて、無様にもとの居場所へ引き返しやがれェェェ! 」

 

その叫びと同時に俺とオークの群れは激突した。

 

 

 

 

 

 

 

「という事があったんだよヘスティア」

 

「な、成程ね、劇的に【ステイタス】が上がっているのはそのためか、でもあまり危険なことはしないでおくれよ」

 

そう言いつつヘスティアは【ステイタス】を更新した紙を俺に渡してきた。

 

それを見ながら今日の結末を思い出す、まぁあれだ、簡単に言うと俺がオークを全滅させて、なんとか追いついた時にはベルとリリが抱き合ってリリが泣いていた。

 

何なんだろうな、ここは異世界だがそれでもこの言葉が相応しいのだろうか?

 

「リア充爆発しろ」

 

「えっ!?」

 

顔を綻ばせているベルに溜息をつきながら俺はその言葉を口にした。

 

 

 

 黒鐘 色

 

 Lv.1

 

 力:H153→F365

 

 耐久:I70→F380

 

 器用:E425→C670

 

 敏捷:E401→D550

 

 魔力:I0

 

 《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4話 クエスト

ヒロインは未定


「って言う事があったんですよ」

 

そう言いながら俺の担当アドバイザーになってくれた人、桃髪の女性ミィシャさんにこの前のリリの一件を説明した。

 

フルフルと俯きながら肩を震わすミィシャさんに俺はいつものように耳を塞いだ。

 

「ば、ば、ば」

 

「・・・ば?」

 

「馬鹿なのかなぁ!!!あなたはぁ!!!」

 

突然の絶叫に周りの冒険者たちは驚いたように揃ってこっちに振り向いた。

 

「ミィシャさん落ち着いて、ほら俺は五体満足ですから」

 

「そういう問題じゃないっ!!あなたは自分がどれだけ無茶してるか解ってんのぉ!?いいえ解って無いよねぇ!解ってないからこういう事が出来るんだよねぇ!!」

 

興奮しているミィシャさんに俺は「どうどう」とベルを宥めるみたいに手を出したら不意にその手を引っ張られた。

 

「えっ、ちょっ!?どこ行くんだよ!?」

 

「どこ行くんだよって!?そんなの防具も武器も持たずに10階層でオークと戦った馬鹿に私が色々買って上げに行くに決まってるじゃないっ!!解ったらちゃっちゃとついて来なさい!!」

 

「はいっ!?」

 

「全く、こんな事になるんだったらエイナに問題児についてのレクチャーを受けとくべきだったわ」

 

そう呟くミィシャさんに俺、黒鐘 色(くろがね しき)は腕を引っ張られて街並みに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

これは、デートなのだろうか?

 

俺はあれからミィシャさんに連れられてダンジョンの上にある摩天楼(バベル)の中まで入り数十分・・・

 

「あ、後、これとこれと、これも下さい」

 

大量の荷物を抱えた俺は「これは絶対にデートとは言わない」と思いながらも、ひたすら買い物かごに物を入れていく女性、ミィシャさんに声をかけた。

 

「仕事ほっぽり出して買い物してていいのか?」

 

「大丈夫大丈夫、エイナに書置き残したから何とかしてくれるよ」

 

それは大丈夫なのだろうか、絶対大丈夫ではないだろう、もう一回言う絶対大丈夫じゃない。

 

「そんな事より、ほらこれ着けてみて」

 

両手に持っている荷物・・・ミィシャさんがついでにと言い買った私物を下ろし渡された物、手首の方に小さな石が散りばめられた黒いガントレットを見つめた。

 

とりあえず着けてみる事に、しばらく手を開いたり閉じたりしているとミィシャさんから声をかけられた。

 

「それは不壊属性(デュランダル)っていう絶対に破壊されない特殊武装(スペリオルズ)何だけどどうかな?」

 

絶対に壊れないねぇ、試しにベクトルを操作し破壊を試みてみようか?

 

「まぁどうかな?って言っても一つ20万ヴァリスもするからね、もっと出世してから「買った」はぁ!?」

 

そういった俺はすぐに買う気で定員の前に進んだがまたミィシャさんに止められた。

 

「ちょっと待った!私が悪かったから他のにしよう?それはもっと上位のファミリアの人が買うものだから!」

 

「えー、やだー」

 

「子供みたいなこと言わない!大体そんな大金私持ってきてないよ!」

 

「大丈夫大丈夫、おーい!ヘスティア!」

 

さっきから俺の後からツインテールをピョコピョコ揺らして付いてくるロリ巨乳に向かって手を振った。

 

「うひゃっ!・・・えっと奇遇だねぇ色君!まさかこんなところで会うなんてぇ」

 

「何が奇遇だよ、後ろから覗いてるのバレバレだって」

 

「えっ!・・・いやボクはあれだよ?別に色君のデートを覗きに来たわけじゃなくてだね!?偶々、たまたま、バイト先に色君たちが来た訳であって・・・」

 

それ知ってるから、前にベルに聞いたから。

 

何故か慌てだしたヘスティアに向かって俺は手に持っていたガントレットを差し出した。

 

「とりあえずこれ買うから付けといて」

 

「・・・えっ?あっうん」

 

それを渡そうとしたら隣から静止の声がかかった。

 

「ちょっと待って、貴方は色君の所の【ファミリア】のヘスティア様でいいですか?」

 

「うん、そうだよボクがこの子の主神ヘスティアさ」

 

その言葉を聞いたミィシャさんは素早く俺の持っていたガントレットを取り上げヘスティアの前に突き出した。

 

「20万ですよ!20万!二つ合わせて40万!まだ一週間しかダンジョンに潜ってない色君が払えるわけないですよね!?」

 

「えっと・・・色君は今までお金をあまり使ってないんだ、だから備蓄は結構あるからそれぐらいは余裕で買えるよ」

 

ピシッ!という音がした気がした、そのままギギギギと擬音が聞こえてくるような仕草で此方に向いて来たミィシャさんの顔は引きつっていた。

 

「オークだけで40万を余裕で稼げる訳無いよね?ちょっと説明してもらっていいかな?」

 

あっヤバい、地雷踏んだ。

 

「・・・・を倒しました」

 

「え?よく聞こえない・もう一回いい?」

 

「『インファント・ドラゴン』を数体倒しました」

 

そう言うとすぐにミィシャさんの肩が震えだし2度目の絶叫が摩天楼施設(バベル)の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、酷い目にあった」

 

「仕方ないですよ、そのミィシャという方の気持ちはリリもよくわかります」

 

「ははは、それで色の持っているのが例のガントレット?」

 

場所はダンジョン前摩天楼(バベル)の下に集まったいつもの3人の視線は俺の買ったガントレットに集中していた。

 

「ふっふっふっこれでまた一つ強くなってしまった」

 

「いや、『インファント・ドラゴン』を一撃で沈めてケガ一つ負わないような人にいるんですか?それ」

 

「しかも買ったのがガントレットだけなんだよね?まぁ色のスキル的に問題ないと思うけど」

 

好きに言うがいい、俺は今ご機嫌なのだ。なんたって俺の(ベクトル操作)にもびくともしない逸品だ、恐らくこれからの長い冒険のいい相棒になってくれることだろう。

 

「それで?今日はどの階層までいくんだ?」

 

「えっと、今日は冒険者依頼(クエスト)を受けようと思うんだ」

 

冒険者依頼(クエスト)?」

 

首を掲げる俺にリリが「私が説明しますね」と言い指を立てて説明してきた。

 

「成程、モンハンみたいな感じか」

 

「もんはん? なんですかそれ?」

 

いや、なんでもない、と言いベルと一緒に説明を聞き終えた俺達はギルドに足を進める事にした。

 

 

 

ギルドに着いた俺達にベルは一枚の羊皮紙を突き出した。

 

「えーと何々? ブ、ブルー「ブルー・パピリオの翅ですね」そ、そうか、えーとそのブルー・パピリオってどんなモンスターなんだ?」

 

まだ字が読めない俺の代わりにリリが読んでくれたそのモンスターの特徴を聞き出す。

 

「えーと、ブルー・パピリオって言うのは上層にいる希少種(レアモンスター)だったよね? リリ」

 

「そうですね今のリリたちでは少々骨が折れるかもしれません」

 

ですが、リリは続ける。

 

「ご安心ください、ベル様、色様、リリに考えがあります。少し準備をして、それからダンジョンに向かいましょう」

 

自信満々の姿に俺達は顔を見合わせ、頷いた。おそらくお互いに思った事は一緒だろう。

 

本当この子頼りになる。

 

 

 

 

 

 

無事ブルー・パピリオの翅を入手した俺達はその帰り道に向かっている途中、少し前を進むベルに聞こえないようにリリに話しかけた。

 

「なぁリリ、最近ベルの様子おかしくないか?」

 

「それはリリが聞こうと思っていたのですが・・・」

 

困った顔を向けるリリに俺もそんな顔を向けた。

 

ここ2、3日ベルの様子がおかしい、フラッとどこに出掛けてクタクタで帰ってくるのだ。てっきりリリと二人で何かしているのかと思ったが、どうやら違ったらしい。

 

聞いてもはぐらかされるし、どうしたものか・・・

 

「すみませーん、こんにちはー」

 

様子がおかしい原因が、結局見当がつかないまま目的地【ミアハ・ファミリア】までやってきた。

 

「おーベル、早かったねー」

 

と言いながら奥から出てきたのは今回のクエストの依頼主、獣耳のお姉さんのナァーザさんだ。

 

ナァーザさんは「これが報酬の2ダースだよー」と言いながらドカッと木箱を机の上に置いた。

 

ポーションか・・・俺ダメージ食らったこと無いから飲んだこと無いんだよなぁ。今度試しに飲んでみようかなぁ、と思っていると、リリが何やら受け取ったポージョンを唐突に開け、それを口に含んだ。

 

何してんだアイツ?

 

「・・・ふふっこのポーションが500ヴァリスですか? ぼろい商売ですねぇ、いやはやうらやましい限りです」

 

そうしてリリによって明かされる衝撃の真実、どうやら目の前のナァーザという女はベルを騙していたみたいだ。

 

・・・・・成程

 

「さぁ、どうやって落とし前「おい」っえ?色様?」

 

俺は目の前のベルを騙した女に遠慮なく右腕を繰り出した。

 

「グッ!」

 

咄嗟に腕を交差してガードしたナァーザに向かってベクトル操作をして力を一点に集めた踵落としを無言で叩きこんだ。

 

「ガッ!」

 

床に叩きつけられたナァーザに向かて右足を上げ・・・寸での所でベルとリリに止められた。

 

「何してんだよ、色!」

 

「そうですよ色様!暴力は行けません!」

 

「はっなっせっ!こいつぶっ飛ばさなきゃ気が収まらねぇ!」

 

がぁっ! と吠える俺はベルとリリにヘスティアが来るまで拘束された・・・

 

 

 

そして今ミアハという主神とヘスティアの謝罪会のようなものが行われている。

 

「まぁ、過ぎた事はしょうがないからなぁ。もうこんなことが起こらない様にして、けじめをしっかり付けてくれよ。ミアハにはいつも助けられてるし、それでちゃらにしよう」

 

「うむ、約束しよう」

 

「・・・」

 

「それにしても、まさか色君がそこまで怒るとはねぇ」

 

そう言ってくるヘスティアに抗議の目を向けた。

 

俺が人生で最も嫌いな事は騙されることだ、嘘をつかれるのは別にいい、だけど騙されるのだけは昔から我慢出来なかった、しかもそれを家族(ファミリア)にやっていたのだ、つまり何が言いたいかというと・・・

 

処罰が甘すぎるんじゃないんですかねぇ

 

「ほら、ナァーザ!謝りなさい」

 

そう言ってミアハはナァーザの背中を押した。ヘスティアの顔を見た後、ベル、リリ、最後に俺の顔を見つめて

 

「・・・ごめんなさい」

 

と小さく誤った。

 

「・・・チッ!」

 

「色君!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから話が進み何故か【ミアハ・ファミリア】を助けるクエストをするらしい、

 

納得いかねぇ

 

「えっと・・・あの・・・」

 

何故か俺の隣を歩くいてくるナァーザは、さっきから言葉を掛けようとして、止まっての繰り返しである。

 

「・・・はぁ、ヘスティアが許すって言ったんだ、もう気にしてないから普通に話してきなよ、ナァーザ」

 

「う、うんありがとー、えっと、ぞれじゃあ質問、色ってLv.1だよね?」

 

不安そうに聞いてくるナァーガに「ああ、そうだぞ」って答える、どうにもこの世界はレベルが上がりにくいらしく、オラリオの大半がLv.1だそうで、今の俺は紛れもなくLv.1だ。

 

「それがどうした?」

 

「うん、実は私Lv.2なんだけど、さっきのやり取りで私に攻撃を加えた色の踵落としの威力が、完全に私の耐久力を上回ってたのは何でかなーって思って」

 

「あ、あー、あれな、えっとそれはだな」

 

ヤバい、どう答えよう、一方通行(アクセラレータ)の事は秘密だし・・・どうしたものか。

 

今度は俺が言葉を掛けようとして、止まってを繰り返してると、遠くから「ほぁああああああああああああああ!!!」と言う叫び声が聞こえた。

 

その声に俺とナァーザは顔を見合わせ

 

「「ベル!」」

 

声の主に向けて走った。

 

 

モンハンだ・・・

 

最初そいつを見た時の感想はそれだった

 

「色はそっちから攻撃して!」

 

「任せろ!・・・ウィンドカッター!」

 

「ファイアボルトォ!」

 

爆炎と爆風が辺りを包み目の前にいた赤い恐竜みたいなモンスター『ブラットサウルス』は息絶えた。

 

「色!後ろ!」

 

ベルの言葉に立ち止まっていた俺は後ろを振り向き装備していたガントレットを振るった。

 

「ベクトルパンチ!」

 

『ギャォォ!!』

 

胸に穴を空けられ絶命する『ブラットサウルス』を見て警戒したのか、他の『ブラットサウルス』は足を止めている。

 

その隙に俺とベルは背中合わせになり、何処から攻撃が来てもいいように、ナイフと拳を構えた。

 

「あいつ等まだ卵を取り終えていないのか!?」

 

「・・・まだ見たいだね」

 

「いっそこのままヘスティアとリリを連れて逃げるか?」

 

「全く、まだナァーザさんの事怒ってるの?リリの事は何も言ってなかったのに?」

 

「アイツはベルを騙してた訳じゃないだろ?騙すってのはな、嘘で相手を傷つける事を言うんだ、リリはベルを傷付ける前に改心したからセーフなんだ・・・よっ!」

 

軽口を叩いていたら『ブラットサウルス』が攻めて来たので俺はカウンター気味に拳を叩きこんだ。

 

ベルも「屁理屈だなぁ」と言いながら持っていたナイフで敵に切りかかった。

 

しばらく2人でモンスターを倒しているとリリ達が卵を回収し終えたみたいで向こうの方から合図の音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

【ミアハ・ファミリア】の事件から数日、やはりベルの様子がおかしいと思った俺はリリと共に早く集合し色々話あっていた。

 

「それで、結局何も解らなかったんですか?」

 

「そうなんだよなぁ、朝早くからどっかに出かけてるって事は分かったんだけど、どこに行ってるのかさっぱりだ。」

 

そう言って肩を竦めて見せた俺にリリは顎に手を当て考え込んだ。

 

「やっぱりベル様の【ステイタス】に関係しているんじゃないですか?凄い上がっているんですよね?」

 

「そうなんだよ、『ブラットサウルス』と戦った時もそうなんだけど段違いだ。」

 

『ブラットサウルス』と戦っているベルは、まさしく初めて会ったベルの動きとはパワーもスピードも戦い方も別人のようになっていた、なんていうか洗練されてる?みたいな・・・素人目だが。

 

二人で考え込んでいると遠くの方から「おーい!」と言うベルのいつもの声が聞こえてきた。

 

「はぁ・・・まぁ考えても分からない事は分からんな」

 

「そうですね、いつかベル様が教えてくれるのを待ちましょうか」

 

そして集まった3人はダンジョンの奥に進んでいく、そこに待ち受ける過酷な試練も分からないまま・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ヘスティアは【ステイタス】の用紙を一言も喋らず凝視していた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・うーん、やっぱりこの《スキル》のせいだよね」

 

言いながら2枚の【ステイタス】の紙を凝視する。

 

悔しいがベル君の【ステイタス】の伸びはヴァレン某との特訓と、【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】の相乗効果だという事は解る・・・SSは意味が解らないけど。

 

でも、色君はどうしてこんなに【ステイタス】が伸びているのか?、『ブラットサウルス』の攻撃を受けても一切ダメージを負ってないのにどうして耐久値の上昇がおかしいのか?

 

「【経験値(エクセリア)】は普通あんな事じゃ貯まらないはずなんだけどね・・・」

 

《スキル》によるダメージ無効なら、そのダメージは本来は0なのだから貯まる【経験値(エクセリア)】も本来は0になるはずだ。なのに耐久値が異常な程伸びている。

 

「【一方通行(アクセラレータ)】による防いだダメージを【幻想御手(レベルアッパー)】が誤認させて【経験値(エクセリア)】にしている?・・・確かにそれだといつもクエストの帰りにベル君と同じ速度で走ってたんだから色君の敏捷値の上がり方がおかしかったのも説明がつくけど・・・」

 

 

もしこの仮説が正しいなら・・・この世界の理を騙してるよなぁ

 

溜息をつきながらヘスティアは眼下の紙に目を落とした。

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.1

 

 力:D581

 

 耐久:C691

 

 器用:A852

 

 敏捷:A816

 

 魔力:I0

 

 《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大体【幻想御手(レベルアッパー)】が悪い


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第5話 試練

その原作をぶち殺す!!




ベル・クラネルは目の前に佇むアイツに恐怖・・・ではなく怒りを感じた。

 

『・・・ヴゥ』

 

・・・どこ見てんだよ。

 

ベル・クラネルは解っている、そのモンスターが何を・・・誰を警戒しているのか。

 

『・・・ヴォォォ』

 

「・・・・・・みろよ」

 

初めてその姿を見た時は普通の年上の青年だった。

 

『ヴォォォォォ!』

 

「・・・っちをみろよッ!」

 

だけど初めてクエストに行った時にその印象は変わった、次第にそれは、初めて魔法を使った時、リリを助けた時、クエストをクリアした時、そして・・・憧れの人に稽古をつけて貰っている時。突如現れた黒い青年に対する印象は、感情は、目まぐるしい程に変化していく。

 

『ヴゥォォォォォォォォォォ!!!!!!!』

 

「こっちを見ろよっ!『ミノタウロス』ッ!お前の相手はこの僕だぁ!」

 

その感情は今の僕には解らない、でも、一つだけ解っている事があるとしたら。

 

コイツを倒して前に進もう、背中を任せた黒い青年に、追いつかれないように・・・追いつけるように。

 

 

 

 

これは、いずれ最強の名を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 

 

 

 

「静かすぎる?」

 

俺はベルの言葉に耳を傾け周囲を見渡す。

 

場所は9階層、10階層に行く道筋には確かに、モンスターがいつもより少ない気がした。

 

「少ないって言うよりさっきからモンスターが1匹も居ませんね」

 

「気にしすぎって訳でも無いよなぁ・・・いったん帰るか?」

 

そうベルに聞いてみる、前にミィシャさんに言われたのだ「冒険者は絶対に冒険をしちゃだめだよ?」、と

 

この不気味な状態で進むのは明らかに、ミィシャさんの言う冒険、をしていることになるんじゃないのだろうか?

 

「・・・行こう、10階層へ」

 

「べ、ベル様?」

 

「あ、ああ行くか・・・」

 

どうやらベルは先に進む事に決めたらしい、俺とリリはベルの背中を足早に追いかけた、何かに追われるように・・・何かに急かされるように・・・

 

 

 

「結局何も無かったな」

 

場所は10階層、お馴染みの霧がかった白い視界に邪魔されて、俺達三人はモンスターを警戒しながら前に足を進めていた。

 

「油断は禁物ですよ、色様」

 

「油断って言っても、この階層にも何回も来てるからなぁ」

 

そう言いつつ腕を組みながら歩いている俺にリリは「それでもです」と指を立てながら念を押してきた。

 

「いいですか?ダンジョンと言うものは油断している時が一番危険なんです、しっかり気を引き締めて行かなければ何時か足元をすくわれますよ?」

 

「ねっベル様」と言いつつベルの方に同意を求めるリリの顔は果たして引き締まっているのだろうか?

 

「ベル様?」

 

「どうしたんだ?ベル?」

 

リリの問いかけに反応しないベルを見やると、10階層の一角、初めて俺達がオークと戦った場所に、気付けば着いていたらしい。

 

「おーい、どうした、べ「静かにッ!」ル?」

 

ベルは見据えていた、木々の隙間からソイツがやってくるのを。赤い体に片角、見る者に恐怖を植え付けるであろう巨体・・・15階層に出てくるモンスター、狂牛『ミノタウロス』が何故かそこにいた。

 

『ヴォォォォォォォ!!!!!』

 

『ミノタウロス』は雄たけびを上げ、何処からか持って来た大剣を掲げ、こちらに突進してきた、当たればひとたまりも無いその攻撃に、ナイフを構えたベルは・・・ベルは

 

「何ボーとしてんだっ!ベルッ!!!!」

 

俺は動かないベルの前に立ち、向かってくる狂牛に向けて横合いから蹴りを放った。

 

『グォォォォォォォ』

 

「おいおい、嘘だろ!怯んだだけかよ!?」

 

並みのモンスターを楽々粉砕できる俺の渾身の一撃は、しかし、狂牛を少し怯ませただけに収まる。

 

『ガァァァァ!!!』

 

蹴られた体制のまま狂牛は俺に向かって大剣のフルスイングをかましてきた。腕をクロスさせ、何時ものように向き(ベクトル)を操り反射しようとするが、

 

「グッ・・うおっ!?」

 

反射しきれねぇ!?

 

そのまま吹っ飛び、『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』の中に突っ込んだ。

 

「色!?」

 

「色様!?」

 

遠くからベルとリリの声が聞こえる。ダメージは、無い、幸い『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』に突っ込んだ時には反射をしっかり展開できたので、体には傷一つ付いていなかった・・・だが。

 

「腕が痺れてんな」

 

赤い『ミノタウロス』の攻撃、あの一撃は俺の反射でも相殺しきれなかったらしい、つまりこれが(ミノタウロスの一撃)今の俺の【ステイタス】の限界なのだろう。

 

『グォォォォォォ!!!』

 

俺を敵と見据えたためか、『ミノタウロス』はベル達を無視して俺の方へ突っ込んできた。

 

「やってられっかっ!」

 

そう言いながら跳躍、向かってくるミノタウロスを飛び越えベル達の前に着地し、これからどうするかを聞くことにする。

 

「で、アイツどうすんだよ?」

 

「に、逃げましょうベル様!色様が吹き飛ばされたんですよ!?敵いっこありません!」

 

リリは必死になってベルにしがみ付いていた、今まで一回もダメージを食らわなかった俺が吹き飛ばされた事が、リリの戦意を完全に無くさせていた。

 

「リリ、ごめんそれは出来そうにない」

 

「どうしてですかぁ!?」

 

半狂乱になって叫ぶリリにベルはとある一角を指さした。

 

リリと俺は、その一角を見つめ・・・息を飲んだ

 

「なんだよ・・・あれ」

 

「・・・わからない」

 

「はぁ!?わからない!?おかしいじゃないですか!?どうして私達はあんな物をッあんなものを見逃していたんですかッ!?」

 

「だから解らないって言ってるだろっ!?」

 

俺達が見据える先、『ミノタウロス』とは逆方向、9階層に戻る穴にはモンスターの群れが、いや・・・モンスターの軍が陣取っていた。

 

小さい者は『ゴブリン』、大きい者は『インファント・ドラゴン』まで、この上層に存在するありとあらゆるモンスターが100を優に超える軍となり、俺達(雑兵)を見下げている。

 

気付いた時には前門の虎後門の狼の状態だった。

 

「どうする!おいベルどうする!?」

 

『ミノタウロス』だけでも厄介なのに何でこんなことになってんだ!!

 

「・・・・が止める」

 

「え?なんだって?」

 

ベルの声は次第に迫ってきているモンスターの声にかき消された。

 

ベルはもう一度「すぅっ」と息を吸い、何かを決意したような顔で。

 

「僕が『ミノタウロス』を倒すから!!色達はあのモンスターを頼むよっ!」

 

「べべべベル様!?こんな時に何を「解った」えぇぇ!?」

 

ベルの作戦とも言えない作戦を聞いて、俺は即答で答えた。

 

いや、それしかないのだ。この三人の中で全体攻撃が出来る俺は、あの数を相手にするのにうってつけだし、リリではあの『ミノタウロス』に傷一つ付けられないだろう、そうすると必然的に、【ステイタス】の一番高いベル一人が『ミノタウロス』の相手をする事になる。

 

俺は腕に着けているガントレットをもう一度しっかり着けなおしながら『ミノタウロス』を見据えるベルに言葉を投げた。

 

「ベル、いいか?アイツには俺のベクトル操作を突破する攻撃力と防御力がある、気をつけろよ」

 

俺はそう言いながらベルと背中合わせになり、拳を構える、恐らくベルもあのナイフを握っているのだろう。

 

「誰に言ってんの?僕は【ヘスティア・ファミリア】団長、ベル・クラネルだよ?色は自分の事だけ心配しときなよ」

 

「はっはっはっ言うじゃねぇか、オーケー背中は俺に任せろ、団長!」

 

その声に合わせて俺の隣に立った小柄な少女も声を上げた。

 

「あーもうっ!こうなったらできるだけ暴れてやりますよ!!ええっ!やってやりますとも!!!!」

 

三人の間に合図は要らなかった、各々のタイミングで自身の見定めるモンスターに向かって行く。

 

俺は走りながら気合を込め、モンスターの軍隊に叫ぶ、ここから後ろに行かせないように、ベルの下に踏み込ませない様に。

 

「悪ィが、こっから先は一方通行だ。 侵入は禁止ってなァ!大人しく尻尾ォ巻きつつ泣いて、無様にもとの居場所へ引き返しやがれェェェ! 」

 

「こっちを見ろよっ!『ミノタウロス』ッ!お前の相手はこの僕だぁ!」

 

俺とベルの叫び声が重なる、この試練に負けないために、打ち勝つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスターの軍に向かい走りながら俺は両手に全集中力を注いでいた。

 

「圧縮、圧縮、空気を圧縮!」

 

そのまま掌に空気を集めていると、次第に光の玉が出来上がって来て、それをモンスターの中心に向けてぶん投げる。

 

「くらえぇぇぇ!!!【プラズマ弾】ッ!!」

 

原作の一方通行(アクセラレータ)みたいに空気を圧縮して作った【プラズマ弾】は、着弾と同時に周囲のモンスターを吹き飛ばした、それを見たリリが爆風の中で「何ですかぁ!?あれぇ!?」と叫ぶ。

 

「口よりも手を動かせぇ!今のでも半分も削れてねぇぞ!」

 

「後で色様の《スキル》について教えて貰いますからね!!」

 

「解ったから前っ!!来てんぞッ!!」

 

「あーもう!鬱陶しいッ!」

 

そう言いながらリリは【プラズマ弾】を逃れた『ファーブルモス』や『ニードルラビット』等、持っているボウガンで一撃で倒せるモンスターを的確に倒していた。

 

「くっそッ、数が多い!食らえっ!!石の礫(ショットガン)!」

 

放たれた大量の石の礫(ショットガン)は『バットバット』や『インプ』などの小型のモンスターを、地上や空中関係なしに薙ぎ払った。

 

『グォォォォォ!!!』

 

『ウォォォォォ!!!』

 

「お前たちには、これだッ!!」

 

言いながら持っていた小石から鉄の塊に代え、『シルバーバック』や『オーク』等の大型モンスターに投げつける。投げた鉄の礫(弾丸)は大型モンスターをまとめて貫き滅ぼしていく。

 

「色様!出来るだけ波状攻撃を心がけて下さい!あと後ろを取られたら囲まれて終わりです!・・・主にリリが!」

 

「解ってる!こういうのはゲームで散々経験してるからな!任せろ!」

 

「その言葉、信じますよ!」

 

リリの言葉を聞きながら俺は石や鉄を投げる!投げる!投げる!!

 

「ッ!?色様ッ!!こっちのモンスターが、『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』を使ってます!リリでは対処できません!早く来てください!」

 

「応!って嘘だろ!?なんで『インファント・ドラゴン』が『天然武器(ネイチャーウエポン)』の鎧着込んでんだよっ!」

 

「知りませんよっ!早くなんとかしてください!!」

 

「くっそおおおおおおおおお!!!」

 

俺はリリの元まで全力で駆け寄り『インファント・ドラゴン』に飛び蹴りを食らわした。

 

『グギャァァァァァァ!!!』

 

「うるせぇ!!これでも食らえぇ!!」

 

俺は直撃させた『インファント・ドラゴン』の鎧に空いた穴に、ガントレットを突っ込んだ。

 

「体の中から破裂しろぉ!!」

 

『グボァァァァァァ!!!』

 

瞬間、ベクトル操作により体内を無茶苦茶にかき回された『インファント・ドラゴン』の体は無残にも爆発する。

 

「何ですかこれ!?殆どすべてのモンスターが『天然武器(ネイチャーウエポン)』を持ってるんですけど!?」

 

「わからん!もう異常事態過ぎて何が何だか分からん!」

 

俺たちの戦いは続く・・・

 

 

 

 

 

 

 

モンスターを殲滅し初めて何分か経った頃、唐突にリリが叫んだ。

 

「色様!!ベル様の所へモンスターがッ!!」

 

「ッ!?」

 

驚いた俺は手に持っていた鉄の礫を落とし、空を飛びながらベルに近づいている『バットパット』の方向へ飛翔した。

 

クソッ霧で視界が悪すぎる!モンスターの正確な位置が解らねぇ!

 

風を纏い空を飛び、空を飛んでいる『バットバット』になんとか追いつく、そして・・・

 

「進入禁止だオラぁ!!」

 

『ギィッ』

 

蹴り殺した。

 

そのまま空を飛びながら、三分の一ぐらいまで減った眼下のモンスターの軍隊を見下ろした。

 

「埒が明かねぇな・・・試してみるか」

 

【プラズマ弾】は威力はあるが、ただでさえ視界が悪い霧の中にモンスターを散らばらせるからダメだな、小石も無いし、鉄もさっき落としてしまって弾数が0、肉弾戦は論外だしリリも、もう限界だ。ボウガンの矢が尽きたのだろう、予備のナイフで応戦している。

 

チラッとベルの方を見ると、どうやら最終局面らしく、ベルが『ミノタウロス』の大剣を構え、『ミノタウロス』は自身の角を前に突き出していた。

 

・・・やってみるか

 

目を瞑り息を吸う

 

俺の《スキル》一方通行(アクセラレータ)に必要な力は原作の超能力(演算能力)ではなくイメージ(空想能力)だ。・・・だから

 

空想(イメージ)しろ、すべての敵を薙ぎ払う力を

 

妄想(イメージ)しろ、荒れ狂う暴風を

 

幻想(イメージ)しろ、風を刃を、敵を飲み込む力を!!

 

すべての風を掌握しあの軍団を蹴散らす力を、味方を守る力を夢想(イメージ)しろ!

 

「リリィ!!!離れろォォ!!!」

 

言うな否や10階層に暴風が吹き荒れた、俺の声を聴いたリリが、モンスターを誘き寄せる肉塊を囮に安全圏に走っているのを確認し、

 

 

ダンジョンすべての風を世界を・・・掌握する!

 

「いっけぇぇぇぇ!!!【テンペスト】ォォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

死の竜巻はモンスターの頭上に現れた。

 

『ヒゲェ!?』

 

『クゲェ!?』

 

まず犠牲になったのは空を飛んでいるモンスター達だ、翼をズタボロにされ、逃げようとしたものも、竜巻の中に吸い込まれていく。

 

『グォォ!?』

 

『ガァァ!?』

 

次に犠牲になったのが竜巻の真下にいたモンスターだ、死んだ原因は圧死、空気による圧力に耐えられず、その身を滅ぼされていく。

 

『ギヤァァァァァ!!!』

 

『グガァァァァァ!!!』

 

最後に犠牲になったのが周りにいたモンスターだ、どれだけ強靭なモンスターも『天然武器(ネイチャーウエポン)』も台風(大自然の力)の前に、なすすべなく中心に吸い込まれ、潰されていく。

 

そして死の竜巻が収まった頃には、モンスターの軍隊は跡形もなく消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つぅかぁれぇたぁぁぁぁぁぁ」

 

「ははは、ずいぶんお疲れの様だねぇ、色君?」

 

その言葉を聞きながら俺はドカッ!とソファーに腰を下ろした。

 

「そりゃ疲れるぞ?10階層でミノタウロスは現れるは、武装したモンスター軍団は現れるは、止めに事件についてギルドに報告しなくちゃいけないは、しかもミノタウロスを倒した後ベルは疲れて寝ているはで、全部俺とリリが片付けたんだぞ?もうクタクタだっつうの」

 

そう言いながらベットの上で気持ちよさそうに寝ているベルを眺める

 

「うへへぇ、色ぃ、見てたぁ」

 

「何も見てねぇよ!?気持ち悪いわ!?」

 

人が苦労している時に、どんな夢見てんのコイツ!?

 

「まぁまぁ、今日は皆頑張った訳だし、今はそっとしとこうじゃないか」

 

「・・・はぁ、そうだな」

 

今日はこのまま寝るかと思い、微睡んでいる俺の耳元にヘスティアの声が届いた。

 

「色君もし良かったら【ステイタス】を更新しないかい?モンスターの軍団を殆ど殲滅したんだろ?莫大な【経験値(エクセリア)】が溜まっていると思うんだけど、どうかな?」

 

そういったヘスティアに対して俺は手を振るだけで了承の合図をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その3日後、Lv.2到達記録を大幅に塗り替えた、世界最速冒険者(レコードホルダー)が誕生する、その冒険者の名前は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  

 

 

 

 ベル・クラネル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先越されたなぁ・・・」

 

俺は自分の【ステイタス】を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.1

 

 力:A863

 

 耐久:S961

 

 器用:S999

 

 敏捷:S999

 

 魔力:I0

 

 《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オッタル「ワシが育てた」


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第6話 中層

主人公の装備 頭無し 腕ガントレット 胴高校の制服 腰高校の制服 足黒いスニーカー


ダンジョンなめんな!


暗い洞窟、一寸先も見えないところにその男はいた。

 

「おーい!どこだー!」

 

黒髪黒目黒の制服に黒いガントレットを着けている少年は周りに潜んでいる怪物(モンスター)など意に介さず、大声を上げながら進んでいく。

 

「おーい!ベルー!リリー!ヴェルフー!」

 

周りにいる怪物(モンスター)達はこれまでの経験から解っていた、あれは獲物(弱者)だと、それならば後はいつもどうり、タイミングを合わせ・・・目の前にいる獲物(弱者)に襲い掛かった。

 

『キャウッ!』

 

『キィッ!』

 

襲い掛かったウサギみたいな怪物(モンスター)、『アルミラージ』に、獲物(弱者)は当然反応できず、

 

「うるせぇ!ベル達の声が聞こえないだろうがッ!」

 

そう言って簡単に振るわれた黒いガントレットに、怪物(モンスター)達は自身の攻撃が全く届かない理由が解らないまま、駆逐されていった。

 

「それにしても、一人になってからモンスターが襲ってくる頻度が上がってるのは気のせいなのかねぇ・・・」

 

そう言いながら頭をかく少年の後ろには『アルミラージ』の他に『ミノタウロス』や『ヘルハウンド』と言った中層のモンスターを倒した証である大量の魔石が転がっていた。

 

「おーい!ベルー!リリー!ヴェルフー!」

 

少年、黒鐘 色(くろがね しき)は中層を進む、はぐれた仲間と合流するために・・・一人で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ!ちょっと遅くなったけど!ベル君が Lv.2になった記念パーティー!はっじめっるよぉぉぉ!」

 

「「「おおおおおおおおおお」」」

 

「おおおおおおおお」

 

「って誰だよ!?」

 

今日はベルがLv.2になった記念パーティーをすると、ヘスティアが言い出したので、皆で『豊穣の女主人』という所に集まっていたのだが・・・

 

「はっはっはっはっ」

 

「笑ってないで答えろ!?あんたマジで誰だよ!?」

 

俺はそう言って隣で同じようにコップを掲げている赤い髪の男につっこんだ。

 

「俺か?俺はヴェルフ・クロッゾ、【へファイストス・ファミリア】で、こいつと契約した鍛冶師(スミス)だ」

 

ヴェルフと名乗った男は、そう言いながらベルを指さした。

 

「あ、ああ俺は黒鐘 色・・・じゃなくて!、えっとベル?契約?とか鍛冶師(スミス)?ってどういうことだ?」

 

「うん、ちょうど今日の朝の事なんだけどね・・・」

 

それからベルに、装備を新しく買おうと思い、摩天楼(バベル)に足を運んだら、このヴェルフ・クロッゾに出会った事、直接契約をした事を食事をしながら話してくれた。

 

「えっ?それじゃ、ヴェルフが兎鎧(ピョンキチ)の作者か!?」

 

「応よ、俺がその兎鎧(ピョンキチ)の作者だ!」

 

成程、そうか・・・

 

「ヴェルフ、一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 

「ん?なんだ?」

 

「これに見覚えは?」

 

そう言ってヴェルフに、いつも持っている黒いガントレットを見せた。

 

手首の方に細かい石が散りばめられているのが特徴的な、真っ黒な籠手、それを受け取ったヴェルフは「うーん」と一回うねり。

 

「分からん」

 

と答えた。

 

「そもそもこれは、不壊属性(デュランダル)特殊武装(スペリオルズ)だろ?悪いが今の俺に、これを作れる技量がねぇ」

 

「そっか、悪かったな、変な事を聞いて」

 

「いや、そりゃあいいんだけどよ?どうして俺に聞いて来たんだ?」

 

「他にも鍛冶師(スミス)がいるだろ?」って聞いてくるヴェルフから思わず視線を外した。

 

言えない、このガントレットにも変な名称がついていたからだ、なんて言えない。

 

「・・・?」

 

目線を逸らしながら手に持っている、ガントレット、黒籠手(デスガメ)を懐にしまった。

 

 

 

 

 

 

パーティーも盛り上がってきた頃、何やら周りの客がざわつき始めた。

 

『おいあれ、【ヘスティア・ファミリア】』の・・・』

 

世界最速兎(レコード・ホルダー)、らしいな』

 

『どうせ神の野郎が騒いでるだけだろ?』

 

『あの黒い奴、一撃で100匹のモンスターを倒したらしいぜ?』

 

「ブフォッ!?」

 

「おい、どうした色!大丈夫か!?」

 

ある一言を聞いて咽た俺に、ヴェルフが心配そうな目を向けてきた。

 

「あー、やっぱり噂になっていましたか」

 

「まぁ、仕方ないよね、結構派手にやらかしたみたいだし」

 

ヴェルフとは対照的に目の前の二人はジト目で俺の事を見てきた。

 

「しょうがねぇじゃん!!あれぐらいしなかったら、ヤバかったじゃん!」

 

「ええ!そうですよ、そうですとも!ですが、あの頭のおかしい報告書を何回も何回も、書き上げたリリの気持にも、なって貰いたい物ですねぇ!?」

 

「全くだよ、お陰で神様も僕も《ギルド》に呼び出されて、ほぼ軟禁状態のまま、何日も過ごす事になったんだからね!」

 

「だから何回も謝っただろ!?」

 

「い、いやぁ、ボクはそんなに気にしてないからね?ほら、から揚げを上げるから落ち込まないでおくれよ、色君?」

 

「ヘスティアだけが俺の味方だぁ!」

 

そう言いつつ女神様(ヘスティア)に貰った、から揚げを泣きながら咀嚼する。

 

そう、俺の放った一撃、【テンペスト】はやり過ぎたのだ、後日発覚したのだが、その一撃は文字通りダンジョンを貫通させた、9階層と11階層に続く第二の出入り口が出来てしまう程に。

 

そんなことを仕出かしたのがLv.1の新人だなんて《ギルド》の連中には全く信じて貰えず、【ヘスティア・ファミリア】全員とリリを交えた壮大な報告書作りが始まった。

 

そんな中でも、俺は字なんか書けないので、当事者なのに「役立たず」と言われ、ベルとリリ、主に【テンペスト】を間近で見ていた人物、リリが出した報告書を何回も却下されて、死んだ魚のような目になっていくのを一人寂しく見続けていた。

 

因みに、一応認められた報告書(真実)は結局お蔵入りになり、ギルドからは絶対内密に、と厳しく口止めされてる。

 

「リリ君も大変だったね、最後には「本当ですって!?何で!?どうして信じてくれないんですか!?」ってギルドの人間に鬼のような形相で詰め寄ってたもんね」

 

「もうあんなのはゴメンですっ!」

 

そう言いながらガツガツと手当たり次第にヤケ食いを始めたリリを見ている俺ら全員に「ちょっといいか?」とヴェルフから声をかけられた。

 

「どうしたの?ヴェルフさん?」

 

「頼む!俺をお前達のパーティーに入れてくれ!」

 

「いいよ」

 

「いいですよ」

 

「いいぜ」

 

「この通りって、はぁ!?」

 

頭を下げてきたヴェルフに、即答した俺らに向かって、ヴェルフはかなり驚いているようだった。

 

なぜだ?

 

「い、いいのか?本当に、お前たちのパーティー、『怪物進撃(デス・パレード)』に入って!」

 

えっ?今なんて?

 

「ちょっと待ってください。今なんて言いました?」

 

どうやらリリは俺達の気持を代弁してくれるらしい。

 

「いやだから『怪物進撃(デス・パレード)』に入ってもいいのかって?」

 

「その『怪物進撃(デス・パレード)』って何ですか!?」

 

「ん?もしかして知らないのか?お前達が『怪物進撃(デス・パレード)』って呼ばれているのを?」

 

 

 

 

どうやらそれは俺が初めてダンジョンに潜った時から始まったらしい。

 

そのパーティーが通る道には必ずモンスターが群れるという現象が起こっていて、群れるモンスターは様々で『ゴブリン』から『オーク』まで普段群れないようなモンスター達も必ず群れるのだとか。

 

そして一番気を付けなければならないのが、そのパーティーが帰る時である、そう、彼らはモンスターの群れを引き連れ、走るのだ、その光景はまさに『怪物進撃(デス・パレード)

 

 

怪物進撃(デス・パレード)』に気をつけろ、白い兎のような少年に気をつけろ、赤いリュックの少女に気をつけろ、黒い制服の青年に気をつけろ。

 

彼らのパーティーは『怪物進撃(デス・パレード)』、『怪物進撃(デス・パレード)』に気をつけろ。

 

「ってリューさんッ耳元で何をしているんですか!?」

 

そう言いながらベルは、耳元で突然歌い出した、リューさんという金髪の綺麗なメイドさんに振り向いた。

 

「いえ、何度も呼び掛けているのに無視されたものですから、つい」

 

「え、いやこちらこそ、すいません」

 

そう言ったベルに今度はヴェルフ以外の俺達がジト目を送った。女か、また女か。

 

何やら、リューさんとやらと話しているベルをほっといて、俺はヴェルフに「『怪物進撃(デス・パレード)』にようこそ!」といい、今日一番の笑顔で手を差し伸べた。

 

「お、おう、やっぱり噂は本当なのか?」

 

「イヤ、オヒレガツイテルダケダヨ?」

 

「お、おい目を逸らすなよ!それが本当かどうかで心構えが全然変わってくるんだからな!?」

 

詰め寄ってくるヴェルフに一切目を合わせず、今度ダンジョンから帰る時はゆっくり歩いて帰ろうかな?、と俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日間、連携になれるために一緒にダンジョンに潜っていた、俺、ベル、リリ、ヴェルフの四人はついに、中層に進む洞窟の前に来ていた。

 

「ちょっと待って、これを渡しとくね?」

 

そう言いつつベルはマントみたいな物を俺達に渡して来た。

 

「・・・?これは?」

 

「サラマンダーウ「サラマンダーウールだな」・・・」

 

隣を見るとリリの言葉を遮ったヴェルフが「悪いリリスケ」って言っていた。

 

サラマンダーウールってなんだよ?

 

「色、これを着けていると『ヘルハウンド』っていうモンスターの炎から身を守れるんだ、だから絶対に放さないでね」

 

黙って受け取った俺にベルはそれと、と言い指を立て。

 

「これは受け入りだけど、上層と中層は違う、各個人の能力の問題ではなく、ソロでは対処しきれなくなるんだって」

 

だから絶対に逸れないでね、と言い残しリリ達に「それじゃ打ち合わせを始めようか」と言いに行った。

 

 

 

「では、最後の打ち合わせをします」

 

そう言ったリリの前に俺たち全員は腰を下ろし、耳を傾ける。

 

「中層からは定石道り、隊列を組みます。まず、前衛がベル様と色様」

 

「うん」

 

「任せろ」

 

「中衛はリリ、そして後衛は後ろからの襲撃に備えてヴェルフ様で行きます。異論はありませんか?」

 

「質問いいか?」

 

「何でしょう?ヴェルフ様?」

 

「俺が言うのもなんだが、この中で【ステイタス】の一番高いベルとクロッチに前衛と後衛を任せた方がバランスが良くないか?」

 

ヴェルフかそう言った途端ベルは俺の肩を叩いた、因みに俺の手もベルの肩に乗っている。

 

「だって色、後衛宜しくね?」

 

「いやいやいや、ここは俺に任せてベルが後ろに行きな?ほら、ほらほら」

 

その光景を見ずに、リリはヴェルフに肩を竦めて見せた。

 

「と、言うわけですので、この布陣です」

 

「い、いやぁ、あれだな、リリスケも苦労してんだな」

 

「それに・・・・」

 

「ん?それに、なんだ?」

 

「あー、いえ、多分入ったら解ります」

 

因みにクロッチとは俺の事らしい。たまごっちかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い洞窟に入った俺達は周りを警戒しながら、進んでいた。

 

「・・・来たよ」

 

ベルの声を合図にみんな各々の武器を構え、前方を睨みつける。

 

『『『『『ォォォォォォォォォン!』』』』』

 

「ね?ヴェルフ様、入ったら解るって言ったでしょ?」

 

「あ~、成程なぁ、こいつら(デス・パレード)だもんなぁ」

 

何か会話をしているヴェルフとリリを背中に置き去り、俺とベルは『ヘルハウンド』の群れに突っ込んだ。

 

『ギャン!』

 

『グォッ!』

 

『ギャース!』

 

殴って蹴ってまた殴る、怒涛の攻撃でヘルハウンドの反撃を許さない俺はチラリと隣で暴れているベルを見やった。

 

・・・やっぱ、速え!

 

速い、いや、速すぎる!

 

少し前までは余裕で追いついていたベルのスピードはLv.2なってから全く追いつけないぐらいに速く、鋭くなっていた。

 

「シッ!」

 

「オラァ!」

 

『『キャン!?』』

 

『『『『『『『キィィィィィィ!!!!』』』』』』』

 

数十体のヘルハウンドを瞬殺した俺達の前に、息をつく暇もなく兎みたいなモンスターが現れる。

 

「覚悟しろ! ベルゥ!! これが日頃の恨みだぁ!!」

 

「何言ってんの!?」

 

兎みたいなモンスター『アルミラージ』に突っ込んだ俺に、ベルも俺につっこんだ。

 

「もう! 変な事言ってないでそのまま引き付けておいてね!」

 

「任された!」

 

そう言ったベルの腕に光が集まり、小さな鐘の音が響き始める。

 

「色! 下がって!!」

 

ベルの新しく発現したスキル、【英雄願望(アルゴノゥト)】の鐘の音聞きながら戦っていた俺は、ベルが合図をしたタイミングで危なげなく後ろに引き・・・

 

「ファイヤボルトォ!!」

 

『『『『『『『『キャウッ!!!』』』』』』

 

英雄願望(アルゴノゥト)】によって威力が高められたファイヤボルトは、一撃で『アルミラージ』の群れを一掃。『アルミラージ』を倒した俺達は、素早く魔石を集めているリリに目を向けながら、お互いの掌を打ち合わせた。

 

「俺、要らねえんじゃねえのか?」

 

そう言ったヴェルフに俺達は駆けつけ、蹴りを放つ。

 

「うおっ!! 何すん……だ?」

 

振り向いたヴェルフの足元には、俺とベルが倒した『アルミラージ』の魔石が転がる。

 

「ヴェルフ! ボーとしてたら駄目だよ!」

 

「しっかりしてくれよ? 後衛!」

 

そう言って肩を叩く俺達に、ヴェルフは「あ、ああ、任された」と真剣な顔つきで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

さて、それからしばらく経った頃、俺は一人迷子になっていた。

 

理由は、あれだ、いきなりリリが「押し付けられましたッ」と叫び、それに合わせて迫ってきた大量のモンスター……は、簡単に全滅させた。なんか日本人っぽい人に凄い感謝されたけど、こんなのは俺達(デス・パレード)には日常茶飯事である。

 

その後に天井から現れた、大量の《バットバット》・・・も、俺の石の礫(ショットガン)でほぼ壊滅に追いやった後、皆で全滅させた。

 

問題はその後だ、「よし、今日はここまでにして引き返そうか」っとベルが言った瞬間に・・・地震が起きた。

 

「何だったんだろうなぁ、あの地震、変な穴に落ちて皆と逸れるし、やたらモンスターに出くわす・・・シッ!」

 

『グォォォォォォォ』

 

俺を横合いから襲ってきたモンスター、『ミノタウロス』を蹴り飛ばし、跳躍、顔面に黒籠手(デスガメ)を叩きこみ、吹き飛ばす。そしてミノタウロスを倒した場所から一歩前に進むと、また穴に落ちた。

 

「ッ!? ……全く、さっきから何なんだよこの穴は、いつまで経っても上にいけねぇじゃん」

 

そう言って上を見上げると穴が閉じて行った。

 

「クソッ! ……おーいベルー! リリー! ヴェルフ-! いたら返事をしてくれー!」

 

そう言いながら黒の少年は足を進める、自分と同じように落ちているかもしれない、仲間の名前を呼びながら、さらなる怪物(モンスター)の腸の中へ・・・

 

 

 

 

 

 

「ベル君たちが帰って来ないんだ!」

 

それを聞いてヘスティアの前にいる者、ミアハとナァーザは目を見開いた

 

「それは誠か? ヘスティア」

 

「ボクがそんなつまらない嘘を言うわけないだろッ!」

 

ヘスティアの剣幕にミアハは「済まない」と一言言い、難しい顔をした

 

「ヘスティア様、失礼ですが『恩恵』は?」

 

ナァーザは何時になく真剣な表情でヘスティアに質問をした。

 

「あ、ああ、大丈夫だ、二人の『恩恵』は消えちゃいない」

 

その言葉を聞き、ナァーザは安堵の表情を浮かべた。

 

「ならきっと大丈夫ー」

 

ナァーザはヘスティアを落ち着かせようと言葉を続ける。

 

「ベルも色も強い、きっと(Lv.2)よりも」

 

それはナァーザにとって確信であり、二人が無事であるという自信だ、だが、目の前の女神はその言葉を聞いて、不安を隠すように自身の爪を噛んだ。

 

そうだ、ベル君も、色君も強い、でもそれがダメなんだ、きっと、いや絶対何か起こる、あの《スキル》のせいで何か……Lv.が上がらなかった色君のLv.を上げようとする何かが中層で起きる!

 

 

「とにかくギルドに行くぞ!ヘスティア!」

 

「ああ、急ごう!」

 

ヘスティアは走った、いやな予感を追い払うように、色の【ステイタス】を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.1

 

 力:S999

 

 耐久:S999

 

 器用:S999

 

 敏捷:S999

 

 魔力:I0

 

 《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次話で主人公が超がんばります。がんばります・・・


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第7話 覚悟

この作品には一部キャラ崩壊が含まれます


その一撃で黒の少年の体と心は砕け散った。

 

痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイいたい!!!!!!!!!  

 

頭がチカチカする、痛い!、腕の感覚がない、痛い!、体が言う事を聞かない、痛い!

 

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ

 

死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!

 

止めてくれ、来ないでくれ、近づくな!近づくな!近づくな!!

 

嫌だイヤだイヤだ!逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい!!!!!

 

早くここから逃がしてくれ!近づいてくる!あの拳が!あの足が!

 

「・・・・・・ッ!」

 

誰でもいい早く早く早く!誰でもいいから早く!

 

「・・・・・・ッキ!」

 

俺を早くあの巨人から遠ざけてくれ!

 

「・・・・・・・色!」

 

激しい痛みに混濁する意識の中、白い少年がいつものように俺に話しかけた気がした。

 

「大丈夫、僕が色を守るよ」

 

その声を聞て黒の少年、黒鐘 色は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹減った・・・」

 

黒髪黒目黒の制服に黒のガントレットという格好の少年、黒鐘 色は、何回も落とされた洞窟の天井を恨めしそうに見ていた。

 

「何なのこの洞窟、全然上に行けないじゃん!」

 

そう言いながら、落ちても全く代わり映えしない洞窟の壁にキックをかました。

 

ドカッ!という音がなったが、それは俺が壁を蹴った音では無いことは解っている。

 

またか、と溜息を吐きながら音がした方に振りむいた。

 

「あのさぁ、もういい加減しつけぇんだよ!」

 

『『『『『グォォォォォォォォォ!!!』』』』』

 

バラバラに向かってくる5体のモンスター、『ミノタウロス』に、俺は小さく舌打ちした。

 

まず一体目、迫ってくる剛腕をしゃがんで避け、腹に手を添えてベクトル操作、体内を無茶苦茶にして、破裂させる。

 

2体目、しゃがんでいる俺に蹴りを加えようと振り上げられた逆の足を掴み、破壊、バランスを崩し迫ってきた頭に黒籠手(デスガメ)を叩きこみ、頭を吹っ飛ばす。

 

3体目、前の二体が倒されて動揺している所を一気に近き、手刀で腹を貫く、体を引き裂いた。

 

4体目と5体目は目の前で引き裂いたミノタウロスの血を飛ばし、目が塞がっている隙に、小さな【プラズマ弾】を作り、纏めて爆殺した。

 

「クソッ、こいつら(ミノタウロス)の体が硬くなかったら、鉄の礫(貫通弾)で一掃してやるのに!」

 

これは試してみて分かった事だ、《ミノタウロス》には鉄の礫が効かない、いや体を貫通しないというべきか。一回試して貫通しなかったので、それからは鉄が勿体ないと思い、肉弾戦と【プラズマ弾】だけで戦っていた。

 

《ミノタウロス》は反射を突破してくるかもしれないから、迂闊に攻撃を食らうわけにはいかないのに、どうしてさっきから、こいつらばかり出てくるんだ!

 

『『『『『『ウォォォォォォォォ!!!!』』』』』』

 

「もう勘弁してくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

目の前に現れた6体のミノタウロスに俺は叫びながら突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ッ!?・・・ふふ、ふふふ」

 

『神の鏡』を見ながら肩を震わせる女神をオッタルは黙して見ていた。

 

「あははははは!お、オッタル、ちょっとオッタル!おなか痛い!ひぃ!助けて!あははははははは!」

 

爆笑、もう大爆笑である、それでもオッタルは黙して自身の主神を見つめる。

 

だって、いつもの事だし。

 

「ど、どおしてぇ!この子たちはァ!まともにダンジョンにぃ!潜れないのかしらねぇ!?、ね?オッタル!ね?」

 

笑いながらバシバシと自身の肩を叩いて来る主神に、仕方がないのでオッタルは聞くことにした。

 

「今度は何が見えたのですか?」

 

「ひぃひぃ、だって、この子達、ひぃ、ダンジョンを帰ろうとしたらぁ!、ふ、ふぅ、「怪物進撃(デス・パレード)が帰るぞ!逃げろ!」って言って走り去った回りの子供達の地響きで穴に落とされたの・・・ブハァッ!そ、それでね?まだ、まだそこまでは我慢できたのだけれど、フフフフ、あの子がミノタウロスをボコボコにしてるのが、可笑しくって、可笑しくって」

 

そこまで言って、もう色々台無しな美の女神、フレイヤは自身の眼尻に浮かんだ涙を指で掬い、『神の鏡』を再び見直した。

 

「本当に面白いわね、あの子。娯楽に飢えてる神々を楽しませる才能があるんじゃないかしら?」

 

だけど、と続ける。

 

「そろそろ活劇がみたいわね、モンスターの軍団を屠った時みたいな、喜劇じゃなく」

 

フレイヤは見据える、これから色が迎える、本当の死闘を・・・笑いながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうしたものか

 

さ迷い続けて着いた場所は洞窟の大広間、ようやくベル達を見つけた俺は、ベル達に合流できないでいた。

 

(おーいベルー!どうするんだぁー!)

 

(とりあえず!音を立てずに!18階層の穴に入ろう!)

 

俺とベルはハンドシグナルで言葉を交わす、何故なら。大広間を俺とベルが挟んだその真ん中に・・・

 

『グォォォォ、グォォォォォ』

 

巨人が横になり、寝ていた・・・

 

最初見た時に、進撃の巨人かな?と思っていたら、偶然巨人を挟んだ向こう側にいたベル達が見えたので、今こうしてハンドシグナルで話しているというわけだ。

 

勉強してる息抜きにベルと一緒に練習したハンドシグナルが、こんな所で役に立つ時がくるとは。

 

(18階層の穴って、寝てる巨人の真後ろにある穴の事か?)

 

(うん!)

 

(無茶言うな!無理だって!絶対バレるって!他の帰り道を探そうぜ!)

 

俺のハンドシグナルを見たベルは自身の後方を指さした。

 

(リリと、ヴェルフが危ないんだ!18階層まで行ったら安全階層(セーフティーポイント)あるから、なるべく早くそこまで行きたい!)

 

よく見るとベルはボロボロの体で、気絶しているリリとヴェルフを抱えているみたいだ。

 

(そういうことか!、分かった、何かあったら俺が囮になるから先に行ってくれ)

 

(任せたよ!)

 

(任された!)

 

『グゴォォォォォ、グゴォォォォォ』

 

リリとヴェルフを背負いながらベルは巨人の背後に慎重に回っていく

 

『グゴォォォォォ、グゴォォォォォォ』

 

それに目を離さず、いつでも飛び出せるように腰を屈め足に力を入れる

 

『グゴォォォォォ、グゴォォォォォォ』

 

ゆっくりゆっくり、ベル達は近づいて行く、音を立てない様に静かに、静かに。

 

『グゴォォォォォ、グゴォォォォォォ』

 

ゆっくり、ゆっくり、ベル達は中間地点を通り過ぎ。

 

「寝たふりかよ!いい根性してんな!巨人さんよぉ!」

 

ベル達の横合いカから音もなく突き出された手刀を上に蹴り飛ばした。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「走れベル!俺が時間を稼ぐ!」

 

「ッ!?」

 

ベルは二人を抱えながら必死に走った。俺に返事をする余裕すら無い様だ。

 

ベル達を背後に庇うように、俺はいつの間にか立っていた巨人に向けて、いつものように叫ぶ。

 

「悪ィが、こっから先は一方通行だ。 侵入は禁止ってなァ!大人しく尻尾ォ巻きつつ泣いて、無様にもとの居場所へ引き返しやがれェェェ! 」

 

そう叫んだ俺は・・・

 

 

 

視界の外側から巨人が放った蹴りによって吹き飛ばされた。

 

「しきィィィィィ!!!!」

 

ベルの声が遠ざかっていく・・・

 

 

 

 

 

 

左腕から嫌な音聞こえた

 

「くっそ!イテェ!」

 

「色!大丈夫なの!?ねぇ!」

 

「うっせぇ!早くいけぇ!」

 

叫ぶベルに味わった事の無い激痛をごまかすように俺も叫び返した、目の前の巨人は俺の前で静かにファイティングポーズを取っている。

 

「全く反射が出来ねぇ、クソッ!この世界に来てから、これが初ダメージとか洒落になってねぇぞ!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

「ッ!?」

 

悪態をついている俺に巨人は容赦なく拳を振るう、それに合わせるように俺も右の拳を構えた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオ』

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 

巨人は潰すかの如く拳を降り下ろしてくる、俺は咄嗟にベクトルを操り、威力を最大限まで高めた自身の拳を、死の鉄槌から逃れるように全力でぶつけた、巨人の腕は弾かれた様に後ろに吹き飛び・・・俺の右腕が曲がってはいけない方向に曲がった。

 

「あああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

絶叫が17階層の大広間に木霊する。痛みで頭の中が真っ白になっている俺は、ボールを蹴るみたいに繰り出された、巨人の蹴り上げによって宙を舞った。

 

「ブゥッ!」

 

天井に叩きつけられ、重力に従い落下する、その俺の体を正確に撃ち抜くために、巨人は右の拳を引き絞った。

 

「プ・・ラ・・ズ・・マ・・・・弾!」

 

『オオオオオオオオオオオオ!!』

 

落ちながらも、必死に空気を圧縮して放たれた【プラズマ弾】は、巨人の顔面に直撃し、俺の体に目掛けて向かってきた拳の軌道をわずかに逸らした、激しい痛みに蝕まれながら地面に着地し、体制を立て直す。

 

視線を移すと、ベル達はもう少しで着きそうだった。もう少し後もう少し。

 

もう少しで・・・

 

 

巨人がボロボロのベル達に拳を振り上げていた。

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

絶叫と共に足元の大地が爆ぜる!

 

届け届け届け届け届け!

 

視界がスローモーションになる。

 

ゆっくりと迫って来る巨人の拳を見ながら、この世界に来てからの様々な事が脳裏を過った。

 

異世界に来て酔っぱらったヘスティアに連れられたこと、ベルに会ったこと、チート能力を貰ったこと、ダンジョンでモンスターの軍と戦ったこと、リリやヴェルフと会った時のこと、Lvが上がったベルに追い付け無かったこと、そして、巨人に手も足も出なかったこと。

 

まだ、あいつらと冒険したかったなぁ

 

様々な記憶が過る中、最後に巨人の方を睨んだ。

 

覚悟しておけよ、必ず成長したベル達が、お前を倒しに来るからな。

 

迫る拳にたどり着く。

 

俺は覚悟をした。

 

死ぬ覚悟を。

 

その一撃で黒の少年の体と心は砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、僕が色を守るよ」

 

「・・・・・・・・」

 

ほら、あいつが行くぞ?

 

「・・・・・・・・」

 

何?もう動けないって?

 

「・・・・・・・・」

 

お前はさっき何を覚悟した?

 

「・・・・・・・・」

 

お前は何も覚悟なんてしていないさ

 

「・・・・・・・・」

 

その証拠に何でお前は動けるのに動こうとしない?

 

「・・・・・・・・」

 

『ミノタウロス』の時だって、結局お前は戦わなかった、他のモンスターが来る前に、二人で倒す選択肢があったのにも関わらずだ。

 

「・・・・・・・・」

 

そんな選択肢は無かった?あれが最善?馬鹿言うなよ。お前は自分の《チート》が効かない相手にビビっただけだ

 

「・・・・・・・・ッ」

 

違う?ふーん、それじゃあ何で今までミノタウロスを『震えながら』倒してた?

 

「・・・・・・・・・ァ」

 

そりゃそうだよなぁ、今まで絶対安全圏(反射の膜)からの攻撃しか、したことないもんなぁ!

 

「・・・・・・・・・」

 

何だ?言い返せないのか?情けねぇなぁ、そんなんだから何時まで経ってもLv.が上がらねぇんだよ

 

「・・・・・・・・・」

 

反則みたいなもんだが、特別サービスだ、一回しか言わねぇからよく聞けよ?

 

「・・・・・・・・・・」

 

《チート》使って楽々勝ってる様じゃ、【ステイタス】は上がってもLv.は上がらねぇ

 

「・・・・・・・・・・」

 

世界っていうのはそこまで甘くねぇんだよ

 

「・・・・・・・・・・」

 

お前の全てを持って世界に『英雄録』を刻むんだ。

 

「・・・・・・・・・・」

 

難しく考えるこたぁねぇよ、つまりだな

 

「・・・・・・・・・・」

 

ベル・クラネルに追いつきたかったら、あの巨人を一人で倒してみろ

 

「・・・・・・・・!?」

 

それが出来たらお前の Lv.も上がるだろうさ。

 

「・・・・・・・・・ッ」

 

ほら、行っちまうぞ、お前が追いつきたい家族(ファミリア)がさ

 

「・・・・・・・・・クッ!」

 

やっと行ったか、まったく、早くLvを上げて次のステージにいってくれよ。

 

 

ご主人様

 

 

 

 

 

 

「ベェェェェェェェル!」

 

「しっ色!?」

 

俺は全身から噴き出している血も構わずに、霞む視界の中、ボロボロの体で俺を助けしけようとしている白髪の少年に声を掛けた

 

「無事だったの!?色!?」

 

無事、では無いのだろう、全身の骨は折れてるだろうし、内蔵も多分ヤバいし、走馬燈も見た気がする、ベルがくれたサラマンダーウールを咄嗟にクッションにしていなかったらミンチになっていたかもしれない。

 

体中から無事な所を探す方が難しいんじゃないのだろうか?

 

でも不思議と痛みはなかった、さっきまでの激痛が嘘だったかのように、今は何も感じない。

 

「みんなは?」

 

「大丈夫だよ、18階層の穴に落としたから」

 

落としたって、それ大丈夫なの?

 

「まぁいいか、よし、お前も早く逃げろ」

 

「ッ!?」

 

泥だらけのベルの顔は悲壮感に満ちていた、俺の言葉を「俺はもう助からないから、早く行け」みたいな感じに誤解しているのだろうか?

 

「だ、駄目だよ!色を置いてなんか「あほか」え?」

 

「俺が死ぬかよ」

 

そう言いながら、言う事を聞かない体をベクトルを操作して無理矢理、立ち上がらせた。

 

「こいつ倒してからすぐに追いつく、お前も歩くのがやっとだろう?、だから向こうで待ってろ」

 

「い、嫌だ、僕は色を置いて行きたくない!」

 

テコでもここを動こうとしないベルに、視線を巨人に向けながら「だったら黙って見とけ」と言い、俺はベルの肩を叩き、前に出た。

 

「それと、ああいう言葉は女の子に言えよ、俺じゃ無くてな」

 

目の前の巨人に獰猛な笑みを浮かべる。

 

ああ、俺は今最高にビビってる、だってしょうがないだろ?死ぬって事はすげぇ怖い事だったんだ。

 

だから覚悟を決めよう。

 

生きてベル達とまた冒険する覚悟を

 

 

 

 

 

 

 

白い少年が見守る中

 

黒の少年(黒鐘 色)迷宮の孤王(モンスターレックス)の本当の死闘が始まる。

 

 

 

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

風を纏い宙に浮いてる俺に、巨人は躊躇なく右の拳を繰り出して来た。

 

落ち着け、冷静になれば対処できる。防御は無理だ、躱しながら攻める!

 

迫る右腕に沿う様に躱した俺は巨人の胸元に風の刃を這わせた

 

『オオオオオオオオオオッ!!』

 

咄嗟に体を半身ずらし風の刃を躱した巨人から、左アッパーが繰り出される。

 

「ボクサーか、こいつは!」

 

真下から繰り出される剛腕、その拳の真上を風圧に乗りながら天高く舞った俺は、そのまま巨人の真上を取り、連続して風の刃を巨大な体に放つが・・・

 

『ウオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

巨人は大きな体躯を素早く左右に揺らしかしながら、俺の放った風の刃を見切り、躱した。

 

瞬間、悪寒が走った、自身の操作しているベクトルを手放し、地面に向かって落下する。死角から繰り出された上段蹴りが俺の真上を通り過ぎた。

 

ボクシングに空手か?節操のない奴だな

 

そのまま落下していく体を地面すれすれの所でベクトルを操作して直角に曲がり、巨人の股下をまたぎながら作った小さな竜巻を、巨人の背中にぶつける。

 

「【エアスラスト】!」

 

『オオオオオオオオオオ!!』

 

風の刃によって引き裂かれた巨人の背中を見ながら、空中で荒くなった息を整えた。

 

「はぁ。はぁ、やっと、二撃目・・・・」

 

『ウオオオオオオ』

 

ゆっくりと此方に振り向いた巨人の構えが、唐突に変わった。両方の拳を前に出したボクサースタイルに対し、腰を落とし、拳を胸の方に持っていき、構えている

 

「なんじゃそりゃ、正拳突きのつもりか?」

 

巨人からの動きは無い。黙して佇むその姿は「次の一撃で終わりだ」と言われているみたいだった。

 

「いいぜ、そっちがその気ならこっちも一撃で終わらせてやる」

 

大広間に暴風が吹き荒れた。

 

風を支配し、空気を支配し、世界を支配する。

 

【テンペスト】では敵わない。

 

一点に集めろ、空気を、風を、世界を!

 

『オオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

「地球なめんなファンタジーィィィ!!」

 

巨人が放つ拳は黒の少年の先、地上に降りた神々にまで届かせると言わんばかりの渾身の一撃。対する黒の少年は、目の前の巨人、その先に続く未来を掴み取るために【テンペスト】の力を一点に集めた究極の一撃

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

 

「くらえぇ!【ゴッドブレス】ゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

神に届かせるために放たれた巨人の一撃は、奇しくも神の名を冠する一撃とぶつかり合った。

 

巨人と少年、拳圧と風圧、爆発と閃光に包まれた世界の中で遂に決着がつけられる。

 

 

 

「しきぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 

ただ一人、白の少年に見届けられながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次は遅くなるかもです。


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第8話 Lv.差

今回の「ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか」は

「ヴァレン某、立つ」

「モルド、ボコボコにされる」

「色、運命の人と出会う」

の三本でお送りします。


自分を引き剥がし、テントから出ていく黒の少年の名前を叫びながら見届け、女神ヘスティアは、自信の足元に深いため息を落とした。

 

「色君のバカ」

 

自信の仇敵ともいえる存在、ロキのファミリアに向かって行く少年に向かって投げられた言葉は誰もいくなったテントの中に小さく響く。

 

「・・・はぁ」

 

ヘスティアは手元に持ってきた一枚の紙に目を落とし、もう一度深いため息をした。

 

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.2

 

 力 :I0

 

 耐久:I0

 

 器用:I0

 

 敏捷:I0

 

 魔力:D500

 

 《魔法》

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

 

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

「【ステイタス】のブーストってこういう事かぁ・・・レベルアップを喜ぶべきか、この異常な【ステイタス】を危惧するべきか」

 

ヘスティアは心の中で問いかける。

 

君は、君達は一体、いったい何処まで行く気なんだい?

 

 

 

 

 

 

これは、いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭に柔らかい感覚を感じる。

 

昔、ずっと小さかった子供頃に味わった事のあるような感覚を思い出しながら、重たかった瞼を少しずつ開けていく。

 

「・・・・・・・・」

 

うん、大きな胸があった、どうやら俺は女性に頭を抱えられながら寝ていたらしい。

 

自信の顔に熱を感じながら、その女性、ヘスティアに声を掛けた。

 

「そろそろ離してくんね?ヘスティア」

 

「・・・・・・嫌だ」

 

少し考えた後、笑顔で言い放った女神様を俺はため息を付きつつ、放して貰えるように交渉する。

 

「もう大丈夫って言ったろ?『ゴライアス』にやられた怪我も全快したから、そろそろ此所から出たいんだよ。」

 

だから離してくれ、と続けようとした俺の言葉をヘスティアはジト目で見ながら遮った。

 

「あのね色君。君はボクがどれだけ心配したか解るかい?安全地帯(セーフティポイント)に着いて初めて君の姿を見た時は心臓が止まるかと思ったよ。全身血塗れの包帯まみれだし、ベル君は泣きながら君にすがりついてるし、理由を聞いたら『ゴライアス』と単身戦ったって聞くし、完治しても元のように体が動かせるか解らないって言われるし。本当に、ほんっとうに!心配したんだよ!」

 

目に涙を浮かべながら声を荒げるヘスティアに、昨日何回も聞いたよ、何て言える訳もなく、俺はコクコクと壊れた人形のように首を縦に振った。

 

そう、俺は生き残ったらしい。ベルから聞いた話では、最後の一撃は例の巨人、ゴライアスの一撃を跳ね返しその上半身を吹き飛ばしたのだとか。

 

その後ぶっ倒れた俺を背負い18階層へ、そこにたまたまいた、【ロキ・ファミリア】の人に万能薬(エリクサー)と言う、ゲームでもお馴染みな万能薬を使って貰い、何とか一命をとりとめたとか。

 

まぁその万能薬(エリクサー)を使われる前に、俺達を心配してこの階層まできたヘスティア達に見つかり、付きっきりで看病してくれたヘスティアが、元通りに戻った現状でも、ずっと俺に引っ付いて離れてくれないのというのがこれまでの経緯である。

 

「俺もそろそろ外に出たいんだって、いや、だから胸を押しつけて来るな!ヤバイから!理性とか色々ヤバイから!」

 

「ダメだダメだ!今はあの、ロキファミリアもいるんだよ!どうせ録でもない事になるに決まっている!」

 

「そのロキファミリアに助けられたからお礼を言いに行くんだよ!だから離してくれ!」

 

「お礼何てベル君がとっくの昔に言ってるよ!それに、君までもヴァレン某の毒牙にかけられたら堪ったもんじゃない!ベル君みたいに!ベル君みたいに!」

 

そう怒鳴りながらくっついてくる過保護な神様を引き剥がすこと1時間、何とか外に出られた俺は、会話の一部を聴いてたのか、苦笑いしているヴェルフに手を降りながら、【ロキ・ファミリア】のテントに向かった。

 

ヴァレン某よ、うちのベルに何をした・・・

 

 

 

 

 

 

「おーい、ベルー!」

 

ヴェルフに案内された俺は、少し駆け足になりながら、見慣れた白髪に声をかけた

 

「もう、遅いよ!色!」

 

「悪りぃ悪りぃ、ヘスティアが離してくれなくてさ」

 

そう言うとベルは少しだけ、ムッ、とした顔になった。もしかして焼いているのだろうか?

 

「やぁ、キミが『ゴライアス』の強化種を単身で倒した、黒鐘 色君だね?」

 

そこには小さな金髪の少年が立っていた、身長はリリと同じぐらいなのに、どことなく貫禄のある佇まいに、つい敬語になりながら、差し出された手を握った。

 

「ど、ども、黒鐘色です」

 

「僕の名前は、フィン・ディムナ、【ロキ・ファミリア】の団長だよ」

 

その言葉を聞いた俺は若干目を見開いた。

 

「じゃああんた、リリと同じ小人族(パルゥム)か?」

 

「ちょっと色!失礼だよ!」

 

「いいよ、クラネル君。いかにも、僕は君の所のリリルカ・アーデさんと同じ小人族(パルゥム)さ」

 

そう言いながら挨拶をしてくる小さな少年を見つめる。

 

いや、違うな。

 

何と無くだけど分かった気がしたのだ。この小さな少年はあの『ゴライアス』よりも強いと。

 

「この度は危ない所を助けていただいて、ありがとうございました。小さくて大きな団長さん」

 

そう言ってお辞儀する俺にベルは抗議の言葉を言おうとするが、フィンさんの「ふぅん、中々大したものじゃないか」という言葉に抗議の言葉を飲み込み、複雑そうな顔をする。

 

「僕たちは今日中に帰るけど、よかったら地上に出てから一緒に飲みにでも行くかい?」

 

『ゴライアス』を倒した時の話を聞かせてくれないかな?と続けるフィンさんに俺は「いいですよ」と答えようとした。しかしその言葉は俺の顔面に突き刺さった拳によって遮られた。

 

「え!?アイズさん!?」

 

「アイズ!?」

 

最後に認識したのは白髪と金髪の少年が出した驚愕の声と急激に遠ざかっている金髪の女、そして遅れてやってくる鈍い痛み。

 

これが後に伝説に語られる。黒金戦争の幕開けであった。

 

 

 

二転三転地面をバウンドした俺は何処かのテントに突っ込み、ようやく止まった。

 

「「「「「キャァァァァァァァァァ!!!!!」」」」」

 

揺れる意識を保ちつつ悲鳴が聞こえた方を振り向くと、知らない女の子達があられもない姿でそこに立っていた。

 

「ああああなた行き成りなんなんですか!?ていうかだだだ誰なんですか!?」

 

ぼー、としながら叫んでくる一人の女性を見ていた俺はやっとの事意識が覚醒する・・・主に怒りで

 

「ふ、ふふ、ふふふふふふ、ふははははははははは」

 

突如笑い出した俺に金髪の女性や他の女の子達は小さく悲鳴を上げた後、シーツを体に巻き付け押し黙った。

 

そう、金髪、金髪の女だ。

 

俺は見やる、遥か向こう、俺を挨拶も無しにぶっ飛ばしてくれた金髪の女を。

 

「金髪ぅぅぅぅ!!!てめぇ、絶対ぶっ飛ばしてやるからなぁ!」

 

叫びながら跳躍する、Lv.が上がった俺のベクトル操作は今までと一線を画する爆発力で地面を砕き、俺をぶっ飛ばした金髪の女に肉薄する。

 

「らぁっ!」

 

推進力を極限にまで高めた飛び蹴りを金髪の女に食らわす、しかしその攻撃は簡単に見切られ、逆に上空に蹴り上げられた。

 

「痛ってぇじゃねぇか!金髪ぅ!」

 

Lv.が上がった反射を突破してきてる。あの女は危険だ。 接近戦は論外。様々な思考の中、あの金髪をぶっ飛ばす作戦を練り上げていく。

 

「これでも食らえ!」

 

作り出したのは【プラズマ弾】、その数5発。

 

生成スピードが格段に上がっている事を認識し、打ち上げられた空中から、真下にいる金髪に全弾ぶち込んだ。

 

「【テンペスト】」

 

呟きが聞こえた、それと同時に俺の【プラズマ弾】は風を纏った金髪の一閃により尽く切り裂かれる。そうして最後の弾を切り裂いた後、空中にいる俺目掛けて跳躍していた。

 

「それは俺の技の名前だ!パクんじゃねぇよ!金髪ゥ!」

 

「うるさい、ゴミ虫」

 

俺は金髪に拳を繰り出すが、それよりも早く放たれた踵落としが俺の腹を貫いた。迫ってくる地面に向けて反射の膜を展開押しながら、見下ろしてくる金髪(格上)をその時の俺は、ただ睨む事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

「謝るんだ」

 

プイッ!

 

「はぁ、すまない。いつもはこんな事、絶対にないんだが・・・アイズ、本当に黒鐘君とは、以前に会ったことがないんだね?」

 

「こんな虫けらとは一回も会ったことは絶対にありません。フィンももう謝らくていいよ?ゴミの匂いが移るから」

 

「よし分かった、そこに座れ金髪、一発ぶん殴る」

 

そう言いながら腕を捲り、金髪、ヴァレン某に向かって行く。

 

「わぁ!待って、待って色!落ち着いて!って力強!?手伝って!【タケミカヅチ・ファミリア】の人達も手伝って!」

 

「まっ、待ってください色殿!、今行かれてもあの方には敵いませぬ!」

 

「そうですよ!色殿!」

 

そう言いながら俺の体に纏わり付いてくるのは、中層で俺達に助けられた恩を返したいと言って、ヘスティアをここまで連れて来てくれた【タケミカヅチ・ファミリア】だ、他には覆面の女性と【ヘルメス・ファミリア】の人もいるのだが今のここには居ない。

 

「待って!本当に待って!アイズさんも、アイズさんもなんか言ってください!」

 

「ベートさんが言ってました。『弱い犬程よく吠える』」

 

「ぶっ飛ばす!」

 

「そう言う事を言って欲しいんじゃないんですよ!?止めて!誰か止めて!?」

 

ドヤ顔で煽ってくる金髪をぶん殴るために「金髪ゥ!」と叫びながら足を進めた俺は、様子を見に来たヘスティアに止められるまで、ベル達に必死に止められていた。

 

「ねぇ、アイズどうしちゃったの?」

 

「理由を聞いたら、『顔が気に食わなかった』からだそうだ」

 

「いずれにしろ、あの色君って男の子と今後合わせない方がいいわよねぇ」

 

「ううううううううう」

 

「どうしたの?レフィーヤ?」

 

「初めて男の人に、裸を見られましたぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ベル?これ以上やるの?」

 

「当たり前でしょ、この人達は神様を攫ったんだからそれ相応の報いが必要だよ」

 

困り顔でいう俺に不機嫌な声でベルは返して来た。

 

今、拳を構える俺とナイフを構えるベルは、同じLv.2の冒険者達に囲まれていた。理由はヘスティアを人質に取られ、決闘を申し込まれたから。

 

「ま、まて!落ち着け、本当に落ち着け!、それに其処の黒髪、お前は本気を出しちゃいけない、絶対にだぞ!」

 

そして、この騒動のモルドとかいう主犯のおっさんは完全に腰が引けていた。理由は簡単だ、俺達に手も足も出なかったから。

 

最初は良かったんだ、「2対1で来いよ!身の程を教えてやる!」と意気込み、謎のアイテムを使い、透明人間になったおっさんは勢い良く殴り掛かってきた・・・俺に

 

当然Lv.が同等の反射を突破できず殴った拳は粉砕、痛みで声を荒げるおっさんをベルが一蹴、謎のアイテムは砕け、顔面蒼白のおっさんは「お、お前ら、やっちまえ!」と、どこかの三下みたいなセリフを吐いて来た。

 

まぁ、あれだ、その後は見事に無双した。おっさんの声を皮切りに飛び掛かって来た雑魚共(Lv・2)を俺は反射の絶対防御を使いながら【プラズマ弾】や風の刃で、ベルは持ち前の速さで敵を錯乱しつつ二振りのナイフで次々と薙ぎ倒し、途中から合流したヴェルフや覆面の人、【タケミカヅチ・ファミリア】の面々も加勢し、ものの見事に地獄絵図が完成している。

 

「なぁ、もういい加減やめよう?かわいそうだから、ほら、モルドのおっさんも泣いてるし」

 

「なななな泣いてねぇよ!ここここれは心の汗だっ!」

 

そう言いながら服の裾で目元をゴシゴシしているおっさんを見ながらベルは溜息をついた

 

「全く色は優しいんだから、そんなんじゃ何時か足を掬われるよ」

 

「お前に言われたくねぇよ!?」

 

やれやれ、と言った感じに手を腰に当てているベルにツッコミつつ、今だ戦っているヴェルフや【タケミカヅチ・ファミリア】の面々、泣きながら土下座している人間を綺麗にぶっ飛ばしている覆面の女性に撤収の声を掛けようとしたその時・・・

 

「止めるんだ」

 

何処かに拉致されたヘスティアの声が聞こえた。

 

「あ~、ヘスティア?えっと、もう終わった」

 

「・・・・・・・え?」

 

小高い山の上から何故か響いて来た間抜けな呟きに、苦笑いしながら俺は少し大きめの声で返した

 

「だからもう終わったんだよ、撤収すんぞ!」

 

そう周りに声を掛けたが、何故か誰も反応しない、まるで金縛りにあったかの様に固まる面々を不思議そうに見ながらもう一度声を掛けようとして止まる、何故なら・・・地響きが鳴り、空が砕けたからだ。

 

(ボク)の神威が効かない?色君、君はいったい・・・」

 

そんな中呟かれたヘスティアの声は誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁベル?あれなんだと思う?」

 

「わかんない」

 

突如現れた黒い『ゴライアス』に指を刺しながら問いかける俺にベルは簡単に返した。

 

二人そろって溜息を付きながら腕を組み、声を揃える。

 

「「またこのパターンか」」

 

「馬鹿な事言ってないで何時もの事なんですから直ぐに準備してください」

 

そう言いつつリリは手馴れた作業で俺達に装備品を渡してくる。まぁ俺の装備は黒籠手(デスガメ)だけだけどな!

 

「あの?リリ殿?嫌に落ち着いていますが、こういう事はよくあるのですか?」

 

「そりゃあ、この人達(デス・パレード)と一緒にダンジョンに潜ってたら嫌でも異常事態に馴れますよ。ダンジョンに入ったら必ず群れを成しているモンスター、赤い『ミノタウロス』に『天然武器(ネイチャーウエポン)』で武装している軍隊、果ては格闘技を使ってくる『ゴライアス』の強化種、今更黒い『ゴライアス』如きで慌てて居たら『怪物進撃(デス・パレード)』のサポーターなんて務まりませんよ」

 

「そ、そうですか」

 

【タケミカヅチ・ファミリア】の面々にも武器を配りだしたリリを見ながらヴェルフは「入るパーティー間違えたかな?」と言いいつつ遠い目をしていた。

 

「よし、準備できた?色」

 

「いつでも行けんぞ」

 

「待ちなさい」

 

意気揚々と飛び出そうとした俺達に覆面の女性が待ったを掛けてくる。

 

「本当に、彼等を助けに行くつもりですか?このパーティーで?」

 

覆面の女性は眼下の無法者達(かれら)を見ながらベルに問いかける

 

「もちろんです」

 

その問いにベルは一瞬の迷いなく答えた、その清々しいまでの表情に俺も笑顔でベルの肩に手を掛けながら続ける。

 

「まだ謝ってもらって無いもんな?」

 

「謝礼金も貰わなくちゃね?」

 

そう、今俺達のファミリアは俺に使った万能薬(エリクサー)のおかげで金が全く無いのだ、せめて帰るまでのポーション代ぐらいは無法者達(あいつら)に出して貰わなければ。

 

「もしかしたら、貴方達は将来大物になるのかもしれませんね」

 

覆面の女性は若干引きながらそう答えた。

 

 

 

 

 

「ベクトルパンチ!!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオ!』

 

俺の繰り出した拳は、結局一緒に戦ってくれる覆面の女性に迫っていた黒い巨人の拳とぶつかり・・・巨人の拳が弾かれる。

 

「痛つつ、Lv.2になったとはいえ、まだまだだな」

 

黒籠手(デスガメ)の上から痛む拳を抑えながら、後ろに居る覆面の女性に視線を向けた。

 

「大丈夫か?」

 

「さっきの風の攻撃といい、ゴライアスに負けないパワーといい、貴方は本当にLv.2なのですか?とても、いえ、全くそうには見えませんが?」

 

そう問いかけてくる女性に対して何か言おうとしたが、響いてくる鐘の音が終わったのを聞き届けると、咄嗟に女性の手を握りその場から撤退した。

 

「・・・あっ」

 

「ファイアボルト!」

 

着弾したベルの魔法は見事に黒い巨人の上半身をぶっ飛ばしながら爆炎を上げる。

 

「あれがLv.2なんだから、俺もLv.2でいいんじゃないかな?」

 

「そ、そうですね、あ、後、その、手を放してくれたら助かります」

 

「おっと、悪りぃ」

 

手を放しながら前方の黒い『ゴライオス』に目を向けると、徐々にその肉体が再生しているのが見える。

 

「どうやら通常の『ゴライアス』と違い再生能力を持っているようですね。あ、申し遅れました私はアスフィ、【ヘルメス・ファミリア】の一員です」

 

シュタッ!と空から舞い降りた、空色の綺麗な髪の色の、眼鏡を掛けた女性は、俺を見ながら真剣な表情で挨拶をしてきた。

 

「あなたが【ヘルメス・ファミリア】のアスフィさんですか、この度はうちのヘスティアがご迷惑を掛けました、よかったらお詫びに食事でも奢らせてください」

 

今度一緒にどうですか?と続けようとした俺の声を隣の覆面の女性が遮った

 

「だ、駄目です、じゃない、えっと、コホン・・・私も貴方の主神を連れてきたのだからそれ相応の報酬をいただきたい、のですが」

 

「え?でも正体をバラす訳にはいかないんじゃ?」

 

「ッ!?」

 

「えっと続きを話してもいいでしょうか?」

 

妙に悶えている覆面の女性を放っておき、困惑しているアスフィさんに続きを促した

 

「通常の攻撃ではすぐさま回復されて終わりです。ですのでさっきのクラネルさんみたいな、一撃で倒せる魔法や技をあなた方は持っているのか聞きに来たのですが?」

 

アスフィさんの言葉に俺は「うーん」と唸りながら

 

「一応あったのですが、さっき試して効きませんでした」

 

「私の方も、同じく」

 

「ああ、さっきの風の攻撃ですか」

 

そう、あの黒い巨人には俺が『ゴライオス』の強化種を倒した【ゴットブレス】が全く効かなかった、それどころかありとあらゆる風の攻撃の無効耐性を持っているらしく覆面の女性の魔法も意味をなさなかった。

 

「体内のベクトルも全く操れないし、正直ベルの魔法に賭けていたのですが・・・」

 

そう言いつつ咆哮を上げてこちらに迫ってくる回復した巨人を見やった

 

「解りました、それなら足止めをお願いしてもいいですか?今他の冒険者達に魔法の準備をさせています。魔法を完成させるまでの時間だけでいいのでお願いします」

 

「解りました」

 

「任せてください!」

 

ふと思った俺は、飛び去って行くアスフィさんを風を纏い追いかける。

 

「アスフィさん!」

 

「何ですか?・・・って飛んでる!?」

 

「連絡先教えてください!」

 

驚くアスフィさんに連絡先を聞きだした俺は、何故か覆面の女性に睨まれながら、黒い『ゴライオス』に突撃していった。

 

 

 

 

 

「と、いうわけで魔法が効かなかったので、色は上半身をお願いね?」

 

そう言いながら手に持っている黒大剣を光らせ、大きな鐘の音を鳴らしながらベルは俺に言ってくる。

 

「いやいやいや、だから風の攻撃が効かないんだって、【プラズマ弾】すら効かないのに俺にどうしろと?」

 

場所は黒の『ゴライアス』が真っ直ぐ見える小高い丘、いつの間にか大黒剣を持っていたベルは、目の前に着地した俺に向かって何の説明も無しにそう言ってきた。

 

「またまたぁ、そんな事言って、美味しい所持って行こうたってそうはいかないよ?」

 

「そんなんじゃないからね!?ベル君は普段俺の事をどういう目で見ているのかな!?」

 

そうツッコんだ俺に「はっはっはっはっ」とどこかで聞いたような笑い声を上げながらベルは真っ直ぐ巨人を見据える・・・正直ちょっと怖い

 

「ねぇ見てよ色、皆僕たちの攻撃のために足止めをしてくれているんだよ?」

 

ベルの視線の先、黒の『ゴライオス』を見ると、向かってくる『咆哮(ハウル)』を物ともせず戦う冒険者達の雄姿が目に映った。

 

切り刻まれ、魔法で押しつぶされ、大火炎で焼かれながらもこっちに向かってくる『ゴライオス』に鐘の音が止まったベルは立ち向かう為に足に力を入れる。

 

「あるんでしょ?とっておきが」

 

「・・・・どうしてわかった?」

 

「そりゃわかるよ、まだ一か月ぐらいだけど、毎日一緒に過ごしてるんだから」

 

「はぁ、どうなっても知らんぞ?」

 

その声に答えたのはベルで無くヘスティアだった

 

「ベル君、色君、何でもいいからとっととあの目障りな巨人をボクの目の前から消してもらえないかな?これは主神命令さ!」

 

そう言ってドヤ顔をしながらヘスティアは俺とベルの肩を叩き、何時もの様に笑顔を向ける。そんなうちの主神様に俺達は顔を見合わせた後、

 

「たく、主神命令ならしょうがない!」

 

「ははは、それじゃあ、行ってきます神様!」

 

と言いながら、お互いに迷いのない表情でゴライアスを見据えた。

 

「任せたよ、ベル君、色君」

 

「「任された!」」

 

言うな否や俺は空を駆け、ベルは地を駆ける

 

巨人の頭上を目指し新しく発現した魔法【御坂美琴(エレクトロマスター)】の行使に移った。

 

初めて使う魔法のぶっつけ本番がコレとかマジで洒落になってねぇわ

 

そう思いつつも電撃を纏い飛んでいく俺の表情は笑っているのだろうか?

 

おっと、ついでだから詠唱とかしちゃう?しちゃったりする?

 

日本にいた頃ではお馴染みの詠唱を唱えながら、巨人に向かって行く俺の姿を異世界に来る前の俺が見たらどう思うのだろう。

 

「出でよ!神の雷!【インディグネイション】!!」

 

きっとこう思う筈だ、ああ、なんて楽しそうなんだろう

 

「未だ人類が到達できていない10億ボルトの落雷に耐えれるもんなら耐えてみろやぁ!」

 

光と閃光が包む中、俺はもし異世界に来る前の俺に一言言えるならこう言ってやりたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

チート使ってもダンジョン攻略は楽じゃねぇんだよ・・・と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




また見て下さいね!

じゃーんけーん、ゴフッ!てめぇ金髪ゥ!何しや「うるさい、ゴミ虫」グフッ!


うちのアイズさんの扱いは大体こんな感じです。


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第9話 戦争前日

6巻が無くて超焦った。仕方ないから買いに行った。


ピタリと閉じられた瞳を少しずつ開けていく。中層から帰って来てから毎朝ある感触を背中に感じ、少し溜息を付きながらベクトル操作で後ろを向かずに背中に引っ付いて来るヘスティアを引きはがした。

 

「むー・・・ふにぁ、スヤァー」

 

気持ちよさそうに寝ているヘスティアは俺から離れると今度は、反対側に寝ているベルに抱き着き、もう一度気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

 

「まったく、毎朝毎朝俺とベルの間に入って来やがって」

 

そう、このロリ巨乳は俺とベルの間に毎朝入ってくるのだ、これは俺が異世界に来た時からずっと続いてる事だが、最近になってベルだけに抱き着いていたのが、俺にも抱き着いてくるのはどうにかできないのだろうか?

 

「てか起きてるだろ?ヘスティア」

 

「・・・・・バレてたか」

 

そうやってベルに引っ付きながら、ヘスティアは俺の方を微笑みながら見て来た。当たり前だが確信犯である、俺とベルが何度も入ってくるな、と言っているのに全く悪びれもせずにこれだ、ベルが「僕は床に寝ます」と最初に言ってた理由が分かった気がする。

 

「早いね色君、もう出掛けるのかい?」

 

朝の挨拶をして、寝巻きからボロボロになった制服の代わりにタケミカヅチ・ファミリアの人に貰った黒色の着物に着替えていく。まるでBLEACHの死神みたいだ、今度ベルに滅却師のコスプレをさしたら面白いかもしれない

 

「買い物の許可は貰ったからな、ちょっとこれ直してくる」

 

と言いながら、制服の入った紙袋をヘスティアに掲げた。

 

「本当に大丈夫かい?こっちの文字を一通り覚えたと言ってもボクはまだ心配だよ」

 

「大丈夫だって、言葉は通じるわけだしな、勉強もあれだけしたんだ、心配せずに神会(デナトゥス)に行ってくれ」

 

そう、この世界に来てから俺はダンジョン以外はずっと文字の勉強をしていたのだ、文字が解らず、買い物にも行けない俺に代わって、ベルやヘスティアが一人で出掛けていた事がどれだけ歯痒かったか、しかし昨日ヘスティアからお墨付きを貰い、こうして一人で出掛けようとしている訳である。

 

「本当の本当に大丈夫かい?夜も中層で知り合った人達と飲みに行くとかで、ベル君たちの祝賀会に行かないらしいじゃないか、その子達は信用できるのかい?ステイタスを更新していくかい?ボクは色君が騙されていないか心配だよ!」

 

「お前は俺の母さんか!それにステイタスも更新しなくていいから!?俺の背中に抱き着いて来るな!」

 

そうやって背中に抱き着いて来るヘスティアを引っぺがし、俺の前に立たせた

 

「大体俺はゴライアスに魔法をぶっ放した後に精神疲弊(マインドダウン)で上層に上がるまで倒れてたんだから、ステイタスなんて上がってねぇよ」

 

あの黒いゴライアスを倒した時、俺は精神疲弊(マインドダウン)で倒れ、初めて魔法を使った反動か上に上がるまで全く起きなかったそうだ、そんな事があったからかヘスティアはより過保護になっているのだろう

 

「むむむ、確かにそうだけどさ・・・そうだ、それじゃあこれを持って行っておくれ」

 

「これは?」

 

俺に無理矢理持たせる様にヘスティアは一枚の小さな紙を突き出して来た。

 

摩天楼(バベル)に行くんだろ?これを買い物をする時に渡せば何割かまけてくれるんだ、バイトをやっている時に貰った物だけど色君にあげるよ」

 

「それはどうも」

 

成程、クーポン券みたいな物か

 

「こんな物しか渡せなくてごめんね」

 

「何言ってんだ、家に住まわしてもらったり、勉強を見てもらっただけで十分感謝してるって、まぁでもこのクーポン券はありがたく使わしてもらおう、それじゃ行ってきます」

 

ヘスティアに手を振りながら、地下室の扉に手を掛け出ていく。目指すは摩天楼(バベル)、気分は初めてのお使いである。

 

「行ってらっしゃい・・・全く本当にベル君も色君もいい子だよ。よし!今日の神会(デュミナス)は気合を入れて行くとしよう、色君の未来が明るくなるように!」

 

「んん、どうしたんでか?神様」

 

自身の声で起こしてしまった白髪の少年に謝りつつ、ロリ巨乳の神様は今日行われる緊急の神会(デナトゥス)に向けて気合を入れなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、今日緊急に集まってくれたのは、他でもない、ドチビの子供のことや」

 

そう言ってくるロキに対して、ドチビと言われたヘスティアは冷や汗をダラダラ流しながら明後日の方向を向いている。物凄い迫力で睨んでくる赤髪の女神に、今朝込めた気合は一瞬で何処かに吹っ飛んでしまったらしい。

 

「おどれ解っとんのやろぉな?地上で『神の力(アルカナム)』を使ったらどうなるか」

 

「ななな何を言っているのか分からないね。ボクはあるかなむなんて使ってないよ?」

 

「ほぅ、言うたな?それじゃあこれ見て見ぃ」

 

そう言って渡された黒鐘色の資料をチラッと見みて、ヘスティアは直ぐに顔を反らした

 

「何もおかしな所は「おかしい所だらけやろぉが!ボケがぁ」ひぃッ!」

 

赤い女神のあまりの形相に思わずロリ巨乳は悲鳴をあげる

 

「まずレベルアップまでの期間がお前ん所の白髪と同じってのも怪しい!しかもなんやこれ!?モンスター討伐数12810でゴライアスを単身撃破ぁ!?ふざけんのも大概にせぇよクソチビィ!!」

 

耳を押さえながら何も聴こえなかった振りをするヘスティアに、ロキが追撃をかけようとするが、それにまったをかける人物がいた

 

「何や淫乱女神、お前またドチビの子供庇うんかい?」

 

「そう言う事じゃ無いのだけれど、貴方が疑うならヘスティアに聞いてみたら?その黒鐘君って子がどんな力を使って、レベルを上げたのか」

 

その一言でヘスティアはまたもや大量の冷や汗を流れるのが解った。

 

「そうだぞヘスティア、隠し事は良くないぞ!」

 

「そうだそうだ!」

 

囃し立ててくる緊急の神会(デナトゥス)に呼ばれて来た数少ない神々にヘスティアは焦って声を荒げた

 

「ま、待ってくれ!流石に色君の【ステイタス】の内容を見せるわけにはいかないぞ!?そんな事は絶対に出来ない!」

 

叫ぶヘスティアに美の女神、フレイヤは一つの水晶玉を取り出しながら、見た男全てが惚れるような妖艶な表情を浮かべた

 

「別に【ステイタス】を全部見せろって言っているわけじゃないわ、これの説明をするだけでいいのよ」

 

そう言って見せられた水晶の中を覗いて、ヘスティアと他の神々は驚愕の表情を浮かべ、硬直する

 

「フレイヤ、何やこれ?」

 

「私もよく解らないわ、これは上から命令された事だから」

 

ロキとフレイヤの会話を聞いてヘスティアは自身の頭が真っ白になっていくのが解る、だけど目の前の水晶がそれを許してくれなかった、正確には水晶に映っている、黒鐘色が中層に行った時の映像が・・・

 

一通りの映像が終わってヘスティアは放心状態に陥っていた、ほとんど全て映っていたのだ、中層に初めて行った時から黒いゴライアスを倒した瞬間の時まで

 

「・・・なんやこれ」

 

呟いたロキの言葉は誰に向けた物なのか解らない

 

「それじゃあ説明して貰えるかしら?ヘスティア」

 

「・・・・グスッ」

 

ヘスティアは泣いた・・・

 

 

 

 

 

「だがらぁ、ジギぐんわぁ、グスッ、ベルぐんをがばってぇ、グスッ」

 

色の映像の説明のため、泣きながら一方通行(アクセラレータ)の話をしていたヘスティアは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を隠しもせず色の弁明をしていた。

 

「あぁもう、一方通行(アクセラレータ)の話もゴライアスと戦った時の話も解ったから泣き止めや、どチビ!」

 

「だっでジキぐんわぁグスッ、何もわるぐないんだよぉ、ヒック」

 

ロキは子供の様に泣いているヘスティアを見ながら頭を抱える、対象の向き(ベクトル)を操るスキル、それを使ってモンスターの攻撃を反射している事、応用に風を操りゴライアスまで倒した事、水晶の映像に映っているのは間違いなく本物だろう、後はこれらの事をどう判断するかだ。

 

「・・・不問にしたるわ」

 

「へっ?」

 

「不問にしたる言うとんねん、この色っていう子は《スキル》を使ってたからゴライアスも倒せたし、モンスターも阿保みたいに倒せた、そういう事でええんやろ?」

 

「ほ、本当にいいのかい?」

 

「本当も何も証拠見せられたらしゃあないやろぉが!お前らもそれでええな?」

 

そう言って凄みを利かしてくるロキに、ほかの神々は頷くことしか出来なかった、ただ一人を除いて

 

「これで今日の神会(デナトゥス)は解散や」

 

「ロキ、ちょっと待って欲しいわ」

 

「何やフレイヤ?」

 

「ロキも皆も大切なことを忘れているわ」

 

そういう美の女神にロキを含めすべての神々が怪訝な表情を浮かべる、ヘスティアに至ってはまだ何かあるのかと顔を少しだけ青くしていた

 

「大切な事ってなんや?フレイヤ」

 

「ふふふ、それはね・・・この子の二つ名よ」

 

この時の美の女神は喜色満面の愉悦顔だったという

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふーん」

 

場所は摩天楼(バベル)のショッピングモールっぽい所、黒鐘色は元いた世界では考えられないような品の数々に目移りしながら、鼻歌交じりに買い物をしていた。

 

「道具屋、防具屋、武器屋、読める、読めるぞ、はっはっは」

 

ミィシャさんと来た時は中々回れなかったからな、今日は夜まで摩天楼(バベル)の中を散策するのもいいかもしれない。そう思いながら歩いていると不意にこの世界に来てから聞き馴れない言葉が耳を過る。

 

「な~頼むわぁ、少しだけ、少しだけでええからまけてくれへん?」

 

「だからこれ以上は無理ですって!」

 

そちらの方向を見ると赤い髪の糸目の女性が関西弁を話しながら、店員に詰め寄っていた。関西弁か、日本にいた頃もあまり聞いた事無かったけど、この世界でも方便みたいなのがあんのか?

 

「うちどーしても今これ飲みたいねん。前はもっと安かったやん?だから少しだけ、ちょっとだけ、な?」

 

「な?じゃないですよ!?最近はソーマ様が酒を造れなくなって物価が高くなってるんです!文句があるならギルドに行ってください!」

 

そう言って涙目になっている可哀そうな店員に懲りずに詰め寄る女性の肩を俺は溜息を付きながら叩いた。

 

「何や兄ちゃん、ておまっ!?」

 

「店員さん、これで安くして貰えませんかね?」

 

今朝ヘスティアに渡されたクーポンをまさかこんな事で使うとは、赤髪の人が持っているソーマ酒と書かれたお酒を指さしながら、心の中でロリ巨乳の主神様に謝った。

 

 

 

「兄ちゃんおおきに、助かったわ」

 

「いえいえ、気が向いたからした事ですので」

 

何とか無事?にまけて貰えたお酒を大事そうに抱えながら、赤髪の女性は俺に笑顔を向けて来た。最初俺の顔を見た時に凄く驚いてたように見えたのだが、知り合いに似ていたのだろうか?

 

「そうや、お詫びに飯奢ったるわ」

 

「いや、金が無いから値切ってたんじゃないんすか?」

 

「安心せい、これからうちの子供らの所に行くから金はある、好きなだけ食べてええで」

 

なはははは、と笑っている赤髪の女性にジト目を向ける、それは子供に奢らすのではないのか?てかこの人神だったのか、いまだに神様と人の区別がよく分からん 

 

「いいですよ、そんな気を使ってもらわなくても、一応お金はそれなりにあるので」

 

「まぁそう言うなや、うちが奢るなんてあんまり無いことやからな、黙ってついてき」

 

俺の手を引っ張りながら、ずんずん前に進んでいく赤髪の神様は反論する事を許してくれないらしい。仕方なくついて行きながら、ふと、この人の名前を聞いていないことに気付いた。

 

「すいません、俺、黒鐘色っていいます、よかったらお名前聞かせて貰えませんか?」

 

「ん?そう言えば自己紹介がまだやったな、うちの名前は・・・」

 

その名前を聞き、驚愕に表情を染める、そして言葉を返そうとした俺は、その体を宙に躍らせた。俺を吹き飛ばし、拳を振り上げている金髪の女と、赤髪の女神、ロキさんを見ながら・・・

 

 

 

 

「どういうことか説明せェ、ベート!」

 

「俺にも何が何だか分かんねぇよ!」

 

俺は現在とあるカフェの一角で例の金髪、ヴァレン何某と向かい合っていた、いや、にらみ合っていた。あの後追撃とばかりに俺に向かって来たヴァレン某をロキさんが何とか止めて、お詫びをしたいと言い出し、仕方なくこのカフェに座っている。

 

「それでェ?謝罪はァ?いきなり殴って来て悪いとは思わないのかなァ?金髪ゥ」

 

「私は自分の主神を守っただけ、むしろ悪いのは貴方、謝罪すべき」

 

「んだとこらぁ!」

 

「また吹き飛ばされる?」

 

「まてまて、落ち着けって!」

 

「そやで、ほらアイズたんもご飯来たから大人しく食べよ?」

 

そう言いながらヴァレン某を止めているロキさんと獣耳の男性、ベートさんは、俺にこれ以上刺激をしないで欲しいと、目配せしてきた、必死である

 

「何でうちがこんな事を、ベートやったら吊るし上げて終わりやのに」

 

「おい、お前なんて言った?」

 

「そんな事より、ベート、ほんまに何も知らんねんな?アイズたんがここまで敵意むき出しになるっておかしいやろ!?」

 

「だから知らねぇって!?いきなり飛び出したかと思ったら、コイツを殴り飛ばしたんだよ!」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

黙々と食べ続ける俺とヴァレン某に、痺れを切らしたロキさんが金髪に質問してくる。

 

「なぁアイズたん、本当に何もないんやな?この子になんかされたーとか」

 

「・・・ない」

 

「はぁ、ほんなら何でいきなり殴りかかったんや?」

 

「それは、ロキを守ろうと「アイズ」・・・」

 

俺に言った事と同じ事をロキさんに言おうとし、止められる、ロキさんはその細い瞳を少しだけ開け、嘘は許さないという風にヴァレン某を見つめた。

 

「何でいきなり殴りかかったんや?」

 

少しだけ俯きながら、アイズ・ヴァレンシュタインは、俺に顔を向けて行いく

 

「貴方は・・・」

 

「なんだよ?」

 

顔を上げたアイズの瞳を見てベートは困惑した、それは怒りだ、今まで見た事の無いようなアイズの純粋な怒りの感情が、瞳から見て取れた

 

「貴方は、ダンジョンに入ってから今もずっと、何も努力をしていない」

 

「おい、そりゃどういう意味だ?ゴライアスを一人で倒した俺が努力してないってか?」

 

俺は反論の声を上げた。当たり前だ、あの戦いが何も努力せずに終わるはずがないのだ、ふざけんな!と続けようとしたが、それそり早く出てきた金髪の言葉に止められる

 

「それじゃあ、貴方はゴライアスを倒すまでに何かした?ベルから聞いたんだけど、貴方は無傷で『嘆きの大壁』まで来てたんだよね、そんな事は普通あり得ない、だって貴方は戦い方なんて知らないんだから」

 

そんな事は無い、と言うべきだろう。俺だってミノタウロスやアルミラージ等のモンスターと戦ってきたのだ、だが、俺の口からは反論の言葉が出る前に金髪は言葉を続ける

 

「ソロでの戦い方ってわかる?技の駆け引きとかした事がある?重心の取り方は?回避の仕方は?貴方は何もかもが足りていない、それなのに無傷で『嘆きの大壁』まで一人で行って、本当に努力してゴライアスを倒したと言えるの?」

 

出かかっていた反論を詰まらせる。確かに、技の駆け引きなんてしなくても石を投げるだけでモンスターを倒せてたし、回避なんてしなくても反射があるので棒立ちしてるだけでも傷一つ付かない、だが、ミノタウロスは接近戦に持ち込み倒してたし、あの巨人は死線を潜り抜けて倒したのだ、馬鹿にされるいわれはねぇ。

 

しかし、立ち上がり睨み着けてくるアイズ・ヴァレンシュタインに何故か言葉が出なかった。

 

「貴方の目には何も映ってない、モンスターもダンジョンも、ベルの事も」

 

反論の言葉を探すが何故か見つからない、お前にベルの何が解るとは言えなかった。確かにベルは見違えるほど強くなっていたからだ、スキルに頼っているだけの俺とは違い、自力で技を磨き、ボロボロになりながらもヴェルフ達を18階層まで送り届けた。もし俺に一方通行(アクセラレータ)のスキルが無かったらベルみたいに皆を助ける事が出来るのだろうか?思考の渦に飲まれている俺に金髪は最後の言葉を続けた。

 

「貴方は存在自体が冒険者を侮辱している、他の冒険者になにもかも追いついてないのにLv.2になったなんて、私は認めない」

 

「・・・クソッ!」

 

「ちょい待ち色君!?」

 

「ばーか!ブース!覚えてやがれぇ!!」

 

「私は・・・馬鹿じゃない!」

 

ロキさんとベートさんに止められているヴァレン某から逃げるように俺はその場から走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「という事があったんですよ、アスフィさん」

 

「は、はぁ、それは大変でしたね」

 

場所は豊穣の女主人、以前から食事に誘っていたアスフィさんと覆面の人、リオンさんに俺はヴァレン某との一件を愚痴っていた

 

「俺だって頑張ってんですよ、それを認めないだの、努力してないだの偉そうに!」

 

「そうですよ!色さんは凄いんです!私をゴライアスの一撃から守ってくれたんですよ!」

 

俺とリオンさんはそう言ってドンッ!とジョッキをテーブルに叩きつけた、一人で買い物が出来る事にテンションが上がってたのに、あの金髪のせいで今はテンションダダ下がりだ

 

「えっと、酔ってます?」

 

「やだなぁ、俺は未成年ですよ?酒なんて飲むわけないじゃないですか」

 

「ないじゃないですかー!」

 

ジョッキをリオンさんとぶつけ合い、中身の泡の出るオレンジジュースをグビグビと煽った。因みにリオンさんは何故か最初から凄いペースで飲んでいたため、覆面の外から解るぐらい酔っぱらっている。

 

「リューの奴今日はどうしたのにゃ」

 

「何か緊張をほぐす為には飲むのが一番だって昔誰かに言われたらしいですよ?」

 

「それ言った人完全に失敗してるにゃ」

 

店員さんも少し引いていた。

 

「そ、そうですか、ってリオンまだ飲むの!?あんた最初から結構飲んでるんだから、もうそれぐらいにしときなさい!」

 

「なぁに言ってんですかアンちゃんわぁ、私はこれでもLv.4ですよぉ!これぐらいじゃ酔いましぇん」

 

「いや酔ってるから!?完全に酔っ払ってるから!?色さんも止めてください!」

 

「アンドロメダでアンちゃんか、可愛いニックネームですね!!あっ飲みます?」

 

「あんたも酔ってんだろ!?さっきから飲んでるのオレンジジュースじゃなくてビールだから!何で私はいつもこういうポジションなのよー!?」

 

何故か叫ぶアスフィさんに先ほど注文したオレンジジュースを渡そうとすると突然後ろから声を掛けられた

 

「みみみ見つけましたよ!この変態!」

 

声を掛けてきたのは山吹色の髪を後ろで纏めている少女だった、耳が尖っているということはエルフだろうか?

 

「いきなり誰ですかぁ?」

 

「酔っ払いは黙ってなさい、誰ですか?貴方は」

 

声を掛けて来たエルフにアスフィさんは少しだけ鋭い目を向ける、リオンさんの目はきっと座っているだろう

 

「わ、私はレフィーヤ・ウィリディスと言います、そこの男、黒鐘色に裸を見られた責任を取らすために来ました!」

 

「・・・へ?」

 

さっき少女に向けられた視線が俺に向いたのは言うまでもないだろう。

 

 

 




水晶には色がモンスターと戦った映像しか映ってませんのでアイズとのいざこざはロキは知りませんでしたとさ。


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第10話 攻略法

やったね色君!二つ名が貰えるよ!


「アポロン様の言われた通りでございました」

 

「そうか、では手筈道理に頼んだぞ」

 

そう告げる短髪の少女に主神アポロンは一言だけ言い残し退出を命じた。

 

「本当に運がないわね、あのファミリア」

 

広い廊下に短髪の少女ダフネの足跡だけが響く

 

「それにしてもアポロン様も酷な事をするわね、たった一人の為にファミリアの殆どを差し向けて、【ロキ・ファミリア】の子まで利用するんだから」

 

会議室ともいわれる大広間に足を進めながら、ダフネは自身の主神が言った言葉を思い出した。

 

「兎を捕獲するために鴉を落せ、か」

 

緊急の神会(デナトゥス)から帰って来てから【アポロン・ファミリア】全員に告げられた言葉だ、本来ならあり得ない、弱小ファミリアのたった一人を狙い撃ちしろとの命令、無意識に自身を抱きしめるように腕を抱える

 

「全く、勘弁してほしいわ、ってカサンドラ?」

 

鴉狩(クロウハント)のためにファミリアの大半が入っている大広間の扉の前で蹲っているカサンドラの姿が見えた

 

「どうしたのよ?そんな所で」

 

声を掛けるとカサンドラは膝に埋めていた顔をのろのろと上げ、此方を見つめてくる

 

「・・・ょ」

 

「カサンドラ?」

 

小さくつぶやかれた言葉は届かなかった、ダフネは仕方なしにカサンドラの目線に合わせるように自身もしゃがみこむ

 

「逃げようよ、ダフネちゃん」

 

聞こえた言葉にダフネは驚いたように目を見開いた、何故ならその言葉はもう出ないと思っていたからだ。

 

「なに、言ってるのよ」

 

確かに【アポロン・ファミリア】に入ってからも、逃げたいと思ったことはある、しかしそれが出来ないのはカサンドラも解っていたはずだ、どうしてそんな事を今更になって言うのか、ダフネはカサンドラに問いかける

 

「カサンドラ、それが出来ないのは私達が一番わかって「駄目なんだよ」・・・へ?」

 

ダフネはカサンドラに言葉を遮られた事にまたも驚く、カサンドラが自分の言葉を遮ったことなど無かったらだ

 

「鴉に手を出しちゃダメなんだよ、白い兎は幸運を呼ぶけど黒い鴉は不幸を呼ぶ、ううん、あの黒はその内すべてを呑み込む」

 

ダフネは今になってカサンドラが酷く震えているのに気付いた。

 

「ちょっと大丈夫!?」

 

「ああああああ、黒に飲み込まれる!全部、全部、人も町も太陽も!ねぇ逃げようダフネちゃん!此処に居たら一緒に呑み込まれちゃう!!」

 

【アポロン・ファミリア】が鴉狩(クロウハント)を始める前夜、長髪の少女は短髪の少女に懇願するかのように掴みかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「頭痛ぇ」

 

黒鐘 色(くろがね しき)はガンガンと響く頭を押さえながらノロノロと体を起こした

 

「ここは、家?えーと、昨日何があったんだっけか?」

 

頭を押さえていた手をどけ、机の上のコップに入っている水をボーっとしながら飲み、昨日の記憶を思い起こす。

 

 

「わ、私はレフィーヤ・ウィリディスと言います、そこの男、黒鐘 色に裸を見られた責任を取らすために来ました!」

 

そう言われてリオンさんとアスフィさんはゆっくりとこちらに振り向いた

 

「色さん、説明していただけますか?」

 

声のトーンからして笑顔で言っているみたいだが、リオンさんの目は笑っていない。凄く・・・怖いです

 

「わ、悪いけど記憶にない」

 

エルフの少女はその言葉に怒ったのか、俺に詰め寄って来て怒鳴りつけた

 

「あ、貴方が18階層で私の着替えを覗いてアイズさんに吹き飛ばされたって事は知ってるんですよ!?」

 

「はぁ?」

 

言われた言葉に顔を顰める、勿論そんな事実は無い、と言うより向こうからいきなり攻撃してきたのだ、俺は事実無根だとエルフの少女に言い返した

 

「な、白を切る気ですか!目撃証言だってあるんですよ!?」

 

「知らんもんは知らん、てかなんだよ目撃証言って誰が言ってた!」

 

「大体おかしいと思ってたんですよアイズさんがいきなり暴力を振るうなんて!」

 

「人の話を聞けぇ!」

 

ヒートアップする口論に周りの客達が囃し立て始める

 

「お、なんだ兄ちゃん痴話喧嘩か?」

 

「女を怒らせたらとりあえず謝っとけ!」

 

「とりあえず殴られろ!」

 

「うっせぇ!黙れ!」

 

「し、色さん、少し落ち着いてください」

 

他の客に叫び返す俺に声を掛けて来たアスフィさんはレフィーヤと名乗ったエルフの少女に向き直った

 

「私も色さんの話を聞きましたが、あの件はアイズ・ヴァレンシュタインが一方的に色さんを殴っていたと聞いておりますが?」

 

俺は首を何度も縦に振る

 

「そ、そんなの嘘です、だってさっき女の人が言ってたんです。安全階層(セーフティポイント)で【ヘスティア・ファミリア】の黒いのがエルフの女の着替えを覗いて【剣姫】にこっぴどくやれてたなって!!」

 

「誰だよそんな嘘垂れ流してんの!俺はそんなことしてねぇ!!」

 

「それこそ嘘よ!アイズさんが何の理由も無しに人に危害を加える訳が無いじゃない!!」

 

またも口論を始めた俺達にアスフィさんは深い溜息を吐き、今度はリオンさんが待ったを掛けた

 

「お二人とも、決着を着けたいなら私にいい考えがあります」

 

「「いい考え?」」

 

聞き返す俺とレフィーヤに喉が渇いたのかジョッキに入っているお酒を飲み干し、リオンさんは続ける。

 

「勝った方が正義、そう、決闘を行いましょう!」

 

自身の木刀を掲げ、リオンさんは恐らくだがドヤ顔で言い放った。

 

「もう、好きにしなさいよ」

 

アスフィさんは頭を抱えた

 

 

 

「いいですか?私が勝ったらしっかりと謝罪してくださいね?」

 

「解った解った、その代わり俺が勝ったらお前が謝れ」

 

俺達はいま豊穣の女主人の前で距離取り、にらみ合っている、周りにはギャラリーとなる客や店の店員まで集まっていた

 

「ちなみに言っときますけど私はLv.3ですよ?Lv.2になったばかりの貴方じゃ逆立ちしたって勝てないと思いますが?」

 

馬鹿にしたように言ってくる少女に俺は挑発的な態度で言い返す

 

「あまり強い言葉を遣うなよ。弱く見えるぞ」

 

「おおお、かっこいいぞ兄ちゃん!」

 

「それで負けたら恥ずかしいぞ黒いの!」

 

「てかあの黒いのゴライアスと戦った奴じゃない?」

 

「色さんかっこいい!」

 

「リオン、あんた本格的に酔ってるわね」

 

「クッ!いいでしょう、実力の差というものを見せてあげます!」

 

レフィーヤは手に持っている杖を振りかぶり、黒籠手(デスガメ)を構えている俺に走り出した

 

「私は魔法専門ですけど、それでもLv.2の貴方には近接格闘だって劣りません!」

 

力いっぱい振り下ろされたエルフの杖は俺の頭上に直撃して・・・折れた

 

「・・・へ?」

 

「ベクトルデコピン!」

 

「はぅっ!?」

 

反射により折れた杖を呆然と見ているレフィーヤに俺はベクトルを操作した必殺の一撃(デコピン)を食らわせる、その一撃にLv.差なぞ関係無いとばかりに小柄なレフィーヤは吹き飛び、空中で三回転程回り、地面に叩きつけられた

 

「「「・・・」」」

 

「さすが色さんです!」

 

口々に騒いでいた周りのみんなは信じられないとばかりに唖然としている、俺も唖然としていた。ヤバいLv.2になってから強い奴としか戦っていない訳か、力加減が全然わからなかった。あとリオンさんは黙っててください

 

「お、おい大丈夫か?」

 

慌ててレフィーヤに駆け寄ろうとしたが、突然後ろから肩を叩かれて止められる

 

「やるね兄さん、あの【ロキ・ファミリア】の千の妖精(サウザンド・エルフ)を一撃ってどんなカラクリを使ったの?」

 

少し違和感を覚えながら振り返ると見たことがない短髪の少女がそこに立っていた

 

「えっと、誰キミ?」

 

「だれでもいいでしょ、あっ用事を思い出したから帰らなきゃ、行くわよササンドラ」

 

まるで用は済んだとばかりに短髪の少女は長髪少女を引き連れてこの場から離れていく

 

「面白いものを見せてくれてありがと」

 

と言う言葉を言い残して

 

 

 

 

 

 

「確かその後、泣き出したレフィーヤを宥めながら豊穣の女主人でずっと飲んでたんだっけ・・・あいたた」

 

頭が痛い、俺が飲んでたのは実はアルコールだったのか、いや、でもリオンさんはジュースとして進めて来たんだけどなぁ、まぁあの人も相当酔ってたから間違えたのかもしれない。頭を押さえながら初めての二日酔いに戦う俺は、ふと机の上に置かれていたメモ用紙に視線を移した

 

「今日はベル君と一緒に【アポロン・ファミリア】の『神の宴』に行ってきます、夜には帰ってくるので留守番お願いします。お酒は程々にね。ヘスティア・・・か、迷惑かけたのかなぁ、って【アポロン・ファミリア】ってどこだよ!」

 

一人ツッコミは空しく部屋に響いた、残るのは大きい声を出して響いた頭痛だけだ

 

「痛つつ、頭痛て、二度寝しよ」

 

ベットの中に体を滑り込ませ目を閉じる、しばらくすると程よい睡魔が襲って来た。しかし、眠ろうとする俺を邪魔するかのように部屋の扉が荒々しく叩かれた。

 

「何だよ人がせっかく寝ようとしている時に」

 

仕方なしに扉を開けに向かう、新聞はお断りですよー

 

「はいはい、誰ですか?」

 

ガチャ、と開けられた扉の前にはピンクの悪魔が立っていた

 

「えっと、ミィシャさん何の用で?」

 

「何の用でじゃないわよ!!このお馬鹿さん!!!!」

 

二日酔いの俺にその絶叫は階層主(ゴライアス)の一撃より効いたと思う。

 

 

 

「色君!」

 

「大体君は!」

 

「何でいつもいつも!」

 

「Lv.2になったのに!」

 

「はい、はい、すいません、すいません」

 

弾丸の様に捲し立てるミィシャさんのお説教に俺は正座しながら平謝りをしていた。怒られている理由は中層に上がってから一回もギルドに行かなかった件について、特に17階層に出現した階層主(ゴライアス)の強化種は他のファミリアでも問題になっていた程で、【ロキ・ファミリア】に倒してもらおうとしていた所を俺が倒してしまったせいで担当アドバイザーのミィシャさんに、この件についての莫大な書類整理と、様々なファミリアから説明を求める声が殺到していたとか。

 

「それなのに色君は全く来ないし、どうして私がこんな目に合わなきゃいけないわけぇ!?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、頭に響くので大きな声を出さないでください」

 

「大体どうしてエイナの所には何もないの!?おかしいじゃん!私が一体何をしたぁ!!」

 

「うぉぉぉ、頭がぁぁぁ」

 

最早愚痴みたいになっていたミィシャさんの言葉に頭を抱える俺は次の一言により顔を上げた

 

「いいよね色君は、こんなカッコいい二つ名貰って昼過ぎから寝れるんだから」

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい、今なんて?」

 

「え?こんなカッコいい二つ名貰って「そこじゃなくて」・・・ん?」

 

可愛らしく首を掲げるミィシャさんに、聞き間違いだと思いながら俺に着けられたという二つ名を聞き出す。

 

「俺の二つ名を教えて貰えませんか?」

 

「?色君まだ聞いてなかったんだ、色君の二つ名はね」

 

まるで死ぬ直前みたいに、ゆっくりとミィシャさんの口が動いているのが解った

 

「『滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)』だよ、よかったねカッコいい二つ名で」

 

「・・・」

 

「色君?」

 

俺は黙ってスゥッと深く息を吸い込んだ。

 

「中二病ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

「どうしの!?色君!?」

 

二日酔いを忘れあらん限りの力で叫んだ俺は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

「お、『滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)』じゃねぇか、可愛い女の子連れてんなデートか?」

 

「『滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)』ちゃん、今日は遅いわね?」

 

「あれ、『滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)』だよな?どこ行くんだ?」

 

「うんうん、やっぱりかっこいいよね『滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)』何が不満なの?」

 

「もういいです」

 

死にたい、羞恥で顔を上げられない俺は素直にそう思った、確かに中二的発言を多数してきた自覚はあったが、これは酷すぎる、なぜベルの時は『リトル・ルーキー』で俺の時は『滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)』なんだよ、格差あり過ぎだろ、しかも何でこの町の人達はこんな中二病満開な名前をカッコいいと思ってるんだ、もしかして俺が間違っているのだろうか?

グルグルと同じことを頭の中で回しながら俺はミィシャさんと二人でギルドへの道を歩いて行く。

 

「あ、カラスだぁ」

 

「本当だ!カラスだ!」

 

不意に掛けられた言葉に前を向くと、近所の子供たちが俺の事をカラスだ、カラスだ、と連呼しながら寄って来た

 

「カラス?」

 

「えっと、『滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)』の文字から3文字取ってカラスかな?」

 

「うん!それと何時も真っ黒な服着てるからカラスなんだよ!」

 

しゃがみこみ、女の子の目線に立ち、話すミィシャさんに、その女の子は元気いっぱいに俺の方を指さし説明する

 

「確かに色君いつも黒い服着てるもんねぇ、今も黒い着物だし」

 

「いいじゃん黒好きなんだし、それにしてもカラスか、俺はそっちの方が二つ名でよかったな」

 

そう言いながら女の子の頭を撫でると、くすぐったそうにして走り去っていってしまった

 

「可愛かったねぇ、あの犬人(シアンスロープ)の女の子・・・どうしたの色君?」

 

「犬耳、犬耳初めて触った」

 

本物の犬耳だよ!暖かかったよ!この世界に来てよかったよ!ありがとう神様!俺は初めて手にした感触に感動していると、横からの強い衝撃で路地裏へと吹き飛ばされた

 

「っ!?」

 

「色君!?な、なに!?や、はなしてぇ!」

 

ミィシャさんの叫び声と同時に、人目のつかない路地裏で鴉狩(クロウハント)は行われた

 

 

 

 

 

「いきなり、何しやがる!!」

 

吹き飛ばされながら向き(ベクトル)を操作し、路地裏にある少し広い広場に着地する

 

「おい、手筈道理にやれよ」

 

「解ってるわよ」

 

周りを見渡すと太陽のエンブレムを着込んだ冒険者達が屋根の上や道の出口、様々な場所から俺の事を囲っていた

 

「何だてめぇら、俺になんの用だ?」

 

睨みつけながら問いかけると、昨日俺の肩を叩いて来た少女が答える

 

「あんたには悪いけど、しばらく拘束させてもらうわ」

 

「はぁ?意味わかんねぇ・・・っておい!?」

 

向かってくる少女に俺は驚いた声を上げる、昨日レフィーヤ(Lv.3)が敵わなかったのを見ていたわけじゃなかったのか?その動きはLv.3どころかベルよりも遅い。俺は反射の膜を纏い何時もの様に相手の攻撃を反射しようとする

 

「グッ!?」

 

反射ができなかった!?あり得ないことに少女の放った拳は俺の反射を突破し、腹にめり込んだ。声にならない声を上げながら、体制を整えようとすると後ろから蹴りが飛んできた。

 

「ガッ!?」

 

何だこいつら!?もしかして全員反射を突破出来るとかじゃねぇだろうな!?

 

「おらぁ!」

 

「グッ!」

 

「シッ!」

 

「ブッ!」

 

それから何発か貰い俺は確信する、違うこいつらは反射を突破してるんじゃねぇ!

 

「おいおい、ダフネの言った通りだぞ、当たる寸前で拳を引いたら拳が当たる!」

 

「マジかよ!意味わかんねぇ!」

 

意味わかんねぇのはこっちだ!何でお前らが木原神拳使えんだ!という叫びは顔面に迫るダフネと呼ばれた少女の拳に吹き飛ばされたことにより遮られる。そうか、あの時肩を叩かれた違和感はコレか、でも何で俺の《スキル》の内容がバレてんだ!詳しい内容はリリにも教えてねぇんだぞ!混乱する俺をあざ笑うように太陽のエンブレムを背負った冒険者達は俺に襲い掛かってくる

 

「クソッ!これでも食らえ!【ウィンド・カッター】!」

 

反射が効かないなら接近戦は不利だと考えた俺は、風を起こそうとして・・・失敗した

 

「なんでだよ!?」

 

「風の向き(ベクトル)を操ろうとしても無駄だよ、あの風の魔剣はあんたの風を操る向き(ベクトル)操作を妨害する」

 

ダフネが指さした方向を見ると、屋根の上の冒険者が一振りの剣を握っていた。

 

「だったらこれでも食らえ!」

 

そう言ってすぐに【御坂美琴(エレクトロマスター)】を発動させ、周りの冒険者を雷で飲み込んだ

 

「それも無駄」

 

放った雷は俺の制御を離れ、他の冒険者が持っていた鉄の棒に向かって行き、その力はすべて地面に流される

 

「これは雷を放つモンスター専用の避雷針、貴方にも効いてよかったわ」

 

呆然とする俺に一人の冒険者が突っ込んできた。

 

「チッ!調子に乗んな!」

 

向かってくる拳に俺は反射ではなく逸らす方向に向き(ベクトル)を変更する、そうだ最初からこうすればよかったんだ、いくらこいつ等でもランダムに変更する向き(ベクトル)までは解らねぇ。そう思い男の拳が向かってくるのを見送る。そして男の拳が当り、右に逸れた。

 

「右だぁ!」

 

「はい!」

 

「ガッ!?」

 

男が叫ぶと同時に横から女が俺の設定した向き(ベクトル)に合わせ拳を振るい直撃させる

 

「右ぃ!」

 

「ウッ!」

 

「左ぃ!」

 

「オッ!?」

 

「後ろぉ!!」

 

「ブッ!!」

 

何だよ、何なんだこれは!?俺の全てが攻略されてる!?

 

「気をつけろよ!こいつに2秒間触れられると殺されるぞ!」

 

「ハッこんなど素人に捕まらねぇって、戦い方がまるでなっちゃいねぇ」

 

「本当にこんなのが階層主(ゴライアス)を単独で倒したのかねぇ、まっモンスターはフェイントなんかしてこないし仕方ないか」

 

「《スキル》にずっと頼ってたんだろ?いるいるそういう奴、大層な二つ名が泣いてるぜ」

 

「オイッ!油断だけはするなよ、アポロン様からは階層主(ゴライアス)を討伐するぐらいの気持ちで掛かれと言われているんだぞ!」

 

血で滲む視界の中、聞いた事がある名前が頭の中に入った。アポロン?たしか、それってあの手紙に書かれていた【アポロン・ファミリア】のことか!?

 

「お、お前ら、俺達に何の用だ!」

 

フラフラになりながら叫び返す俺に【アポロン・ファミリア】のダフネは少しの隙も見せずに答えた

 

「あの方が欲しいのは貴方じゃなくて兎の方だよ、不幸を振りまく鴉はいらないんだって」

 

何だよそれ、ベルが欲しい?それじゃあ【アポロン・ファミリア】に向かったあいつは今頃!?

 

「ふざけんなよ!こんな所で戦ってる場合じゃねぇ!」

 

逃げようと思った俺の行動は早かった、1撃や2撃食らっても構うもんか、全力で跳躍して逃げ切ってやる!しかし、足の力の向き(ベクトル)を操作して逃げようとする俺の目の前に、その光景が映った。

 

「た、たすけてぇ!、色くん!」

 

「ミィシャさん!?グガッ!?」

 

【アポロン・ファミリア】に捕まっているミィシャさんに駆け寄ろうとした所を顔面に迫ってきた拳が襲い、その一撃で俺の意識は暗闇に沈んだ・・・

 

 

 

 

 

「それじゃあ、拘束して終わりだな」

 

「それにしてもこんな大勢でやらなくてもよかったんじゃないか?」

 

「つべこべ言わずに運びなさい」

 

「へいへい、ん?なんだアイツ」

 

その人影は迷うことなく木刀を構え、叫ぶ

 

「その人に、色さんに触れるな!」

 

色を運ぼうとする【アポロン・ファミリア】に怒りを携えた覆面のエルフが襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アポロン・ファミリア】が去った後、すぐにリオンに連れて来られたヘスティアは、階段を駆け上がる、向かう場所は豊穣の女主人の屋根裏部屋

 

「色君!?」

 

その扉を開けると、【アポロン・ファミリア】に狙われたら危ないからという理由で隔離された異世界の少年、黒鐘 色(くろがね しき)がベットの上で死んだように眠り、その上で桃髪の少女が泣いていた

 

「うぇぇぇん、色くぅん!」

 

「き、君はえっとミィシャ君だったね、色君は!色君は大丈夫なのかい!?」

 

泣いている少女、ミィシャにヘスティアは問いかける、何があったのか、どうしてこうなったのかを

 

「それでぇ、色君はぁ、吹き飛ばされてぇ・・・ヒックッふぇぇぇぇん!」

 

「アポロンめぇ!色君の書置きが色君の筆跡と違うから、おかしいなと思っていたらこういう事だったのかぁ!!!」

 

泣き崩れるミィシャを抱きしめながらヘスティアはアポロンに対して今までにない程の怒気をみせた

 

「うっ、ううん?」

 

「「色君!?」」

 

ヘスティアの声で目が覚めたのか色は頭を振った後にヘスティアの顔を見つめた

 

「ヘス・・・ティア?」

 

「そう、そうだよ色君!ボクだよ、ヘスティアだ!」

 

「ふぇぇぇぇん!色くぅぅぅぅぅん!」

 

「え?ちょっミィシャさん!?いきなり抱き着かないで!?ってヘスティアも抱き着くなぁ!!」

 

叫び返す色は助けを求めるように二人に抱きしめられながら視線を見渡すと、扉の前にリオンさんが立っているのを見かけ声を掛ける

 

「たっ助けて、リオンさ「色さぁぁぁぁん!」あんたもかぁ!?」

 

女の子三人に抱き着かれ困った顔をしながら、黒鐘 色(くろがね しき)は三人が収まるまで揉みくちゃにされていた

 

 

 

「ていう状況なんだよ」

 

ヘスティアに説明された内容に俺は顎に手を当て考える、家が襲撃された事、アポロンの事、ベルの事、そして・・・戦争遊戯(ウォーゲーム)の事

 

「一週間か・・・」

 

残っている期間(リミット)は一週間、内容は攻城戦、助っ人は・・・頼めない

 

「アポロンの奴、なぁにが階層主(ゴライアス)を単独で倒した鴉がいるから助っ人はいらないだろ?、だ!ボク達が居ない間に色君を捕まえて戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加できない様にしようとするなんて、とんだ卑怯者だよ!!」

 

プンスカ怒るヘスティアを尻目に俺は考える、どうやって勝つのか、どうやってあいつらを倒せるのか、どうやって・・・

 

「色君?」

 

不安そうに瞳を揺らし覗きこんでくるミィシャさんは俺に言葉を投げかけようとし、突然の闖入者に止められた

 

「ここか!鴉!」

 

「お、お邪魔します」

 

勢いよく入ってきたのは【ロキ・ファミリア】のベートさんとレフィーヤだった

 

「な、なんだい!どうしてロキの所の子が!?」

 

「あ?そんなの匂いを辿ったからに決まってんじゃねぇか」

 

「そ、そう言う事をいってるんじゃない!」

 

詰め寄るヘスティアをめんどくさそうにあしらい、警戒を強めるリオンさんや怯えるミィシャさんを無視し、ベートさんは俺に向き直った

 

「うちの主神からの命令だ、この間の礼と詫びとして全力でお前に協力して来いってよ」

 

「そう言う事なんで、その、あの、一昨日はすいませんでした!」

 

謝るレフィーヤにベートさんは怪訝な表情を向ける、どうやら誤解は解けていたらしい

 

「それじゃあ来い、稽古つけてやるよ」

 

腕を掴み引っ張って俺を連れていこうとするベートさんにリオンさんが声を掛ける。

 

「ま、待って下さい!まだ色さんは怪我が治って無いんですよ!?」

 

「あぁ?んなもん万能薬(エリクサー)でも何でも使って治してやるよ、いいか?うちの主神は”全力”で協力しろって言ったんだぞ?あのロキが、全力でだ」

 

「ッ!?・・・し、しかし」

 

言い淀むリオンさんを置いて俺を連れて行こうとするベートさんに待ったを掛けたのは俺だ

 

「んだよ鴉、テメェまさか断るってんじゃないだろうな?」

 

「いえいえまさか、稽古よりももっと効率的な力の付け方を思いついただけです」

 

「効率的な力の付け方だぁ?」

 

眉間に皺を寄せるベートさんに手を放してもらい、この部屋にいる面々に向かって口を三日月に歪めながら言葉を言い放つ

 

「俺とダンジョンに行きましょう」

 

「な、なんか怖いよ?色君」

 

その表情は、何時も自分を馬鹿にしてくるロキにそっくりだと、ヘスティアは思った。

 

 

 

 

 

「本当に行くのかい?」

 

背中に乗り、経験値(エクセリア)を更新しているヘスティアが俺に問いかけてくる

 

「ああ、大丈夫、ベートさん達もいるし、戦争遊戯(ウォーゲーム)には帰ってくるって」

 

「そういう心配はしてないんだけどなぁ・・・って色君!?君はアポロンの子供たちにどんだけボコボコにされたんだい!?」

 

「あんまりそう言う事言うなよ、男の子は傷つくぞ?」

 

「い、いやでも!これはおかしくないかい!?」

 

経験値(エクセリア)の更新が終わったらしいヘスティアを退けて、脱がされていた黒い着物を着て、手には黒籠手(デスガメ)を装着する

 

「おかしいってベルと比べたら大したこと無いだろ?それにやられたのは【アポロン・ファミリア】だけじゃない、あの金髪にもやられたな」

 

「金髪?それってヴァレン某の・・・って、ちょっ!?色君!【ステータス】見て行かないのかい!?」

 

「時間がねぇんだ、行ってくる」

 

ヘスティアに付きまとわれながら俺は豊穣の女主人の出口を開けた、そこには

 

「おせぇぞ鴉!」

 

Lv.5 凶狼(ヴァナルガンド)の二つ名を持つベートさん

 

「べ、ベートさん駄目ですよ、ロキに言われてるんですから」

 

Lv.3 千の妖精(サウザンド・エルフ)の二つ名を持つレフィーヤ

 

「行きましょう、色さん」

 

Lv.4 黒い階層主(ゴライアス)戦で果敢に戦っていたリオンさん

 

「だ、大丈夫、怖くない、怖くない」

 

ギルド局員 何故かついて来ると言って聞かなかったミィシャさん

 

目の前には俺と一緒にダンジョンに向かうパーティーが待っていた。

 

「待ってろよ【アポロン・ファミリア】、(とあるチート持ち)がダンジョンを攻略した後、次にお前らを攻略してやる」

 

以上5人は【アポロン・ファミリア】を倒すためにダンジョンへと足を進める

 

 

 

 

「はぁ、行っちゃったよ、ベル君も凄いけど色君も何だい?この【ステイタス】の伸びは?あの《スキル》のせいだとは思うけど異常過ぎじゃないかな?」

 

一人残ったヘスティアは黒鐘 色の【ステイタス】に目を落した

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.2

 

 力 :I10→I57

 

 耐久:I10→C687

 

 器用:I10→I21

 

 敏捷:I10→I17

 

 魔力:D500→D552

 

 耐異常:I

 

 《魔法》

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

 

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 




やめて!ベル・クラネルの特殊能力で、城を焼き払われたら、戦争遊戯(ウォーゲーム)で【ヘスティア・ファミリア】と戦ってるアポロンの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでヒュアキントス!あんたが今ここで倒れたら、ダフネやカサンドラとの約束はどうなっちゃうの? 城はまだ残ってる。ここを耐えれば、【ヘスティア・ファミリア】に勝てるんだから!
次回「ヒュアキントス死す」。戦争遊戯(デュエル)スタンバイ!

そしてあのEDが流れる


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第11話 反撃準備

「おおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

右に左に体を動かす、そうする度に自分に足りないものが解る気がした

 

「オラオラオラ!かかって来いよ!」

 

力が足りないなら腕を振るえばいい、器用が足りないなら《スキル》を使えばいい

 

「ガッ!・・・チッ、クソが!」

 

耐久が足りないなら攻撃を受ければいい、敏捷が足りないなら速く動けばいい、魔力が足りないなら魔法を使えばいい

 

「まだまだぁ、俺の力はこんなもんじゃねぇぞ!」

 

聞こえる聞こえる足りないものが、教えてくれる、背中の熱が・・・

 

「テメェら全員ブッ倒してやるから覚悟しやがれ!」

 

『『『『『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』』』』』』』』』』』

 

 

場所はダンジョン37階層にある大型空間、通称闘技場(コロシアム)。黒い少年、黒鐘 色(くろがね しき)はたった一人で100体以上のモンスターの群れと激闘を繰り広げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇな」

 

「え、ええ」

 

目の前の光景を唖然と見ながら、ベートとリオンは呟いた。時にはを飛び、時には駆け抜け、時には暴風を起こしモンスターを足止めする。縦横無尽に動きながら戦っているその光景は、人の戦いなんてものではなく、まるで色自身がモンスターになって戦っているかの様に見えた。

 

「ここに来て5日目になりますが、初日とは全く違う動きですね」

 

「ああ、ていうかあんな動き普通の人間じゃできねぇよ、ほれ、見てみろ、今なんて空中で直角に曲がってんぞ」

 

その姿を見てリオンの顔は引きつった、初日の頃はまだ人の動きをしていたのだ、普通に拳を振りぬき、蹴りを放ち、電撃を放つ、しかし、やはり37階層の『バーバリアン』や『オブシディアン・ソルジャー』には歯が立たず、吹き飛ばされては慌てて万能薬(エリクサー)を使っていた。もうやめようと止めたのだが、色は言う事を聞かず、それから何度も闘技場(コロシアム)に突っ込んでった。

 

変化があったのは次の日から、色の戦い方が劇的に変化した。まず手を地面に置いて、両手両足を使い、獣の様な戦い方になった、次に風を操っているのだが、それも攻撃には使わず、自身を浮かべたり、空を飛んだり、目くらましに砂埃を起こしたりするだけ、そしてこれが一番重要な事。

 

「よく避けてやがんな」

 

「ええ、まるで後ろに目でも付いているかの様です」

 

初日は素早いモンスターの攻撃に反応できずにボロボロになっていたのに、2日目には掠る程度に、3日目には殆ど躱せるようにまでなっていたのだ、それも正面からの攻撃だけじゃなく、死角からの攻撃まで避けれるようになっていた。そして5日目、その動きは最早、人の動きとは思えない程に不規則で、非常識なものになっている

 

「魔法の応用と言われてましたけど、本当にそんな事が可能なのでしょうか?」

 

「俺が知るかよ、あいつが人間かどうかも怪しくなってきてんだぞ。おいおい、なんであんな体制からの攻撃で『バーバリアン』を倒せるほどの威力になんだよ」

 

目を移すと明らかに体制を崩しながら放たれた裏拳が『バーバリアン』の魔石を打ち砕いていた。

 

「おっと、もうこんな時間だ、そろそろご飯作らなきゃ」

 

「あ、私も手伝います」

 

そうやって見ている内に、ミィシャとレフィーヤが外の時間が解る特殊な魔道具を見て、昼食を作るためにルームの片隅に向かっていった。

 

「それにしても、やはりおかしい、どうして色さんの所にだけモンスターが寄って来て、私たちの所には一切来ないのでしょうか?」

 

ダンジョンに入り、全速力で下層を目指している時から問題は起きていた。モンスターが異常な程、群れて襲って来たのだ、もしこの場にベートが居なかったら全滅していたと思えるぐらいに。そしてこの階層に来てからは、異常の質が変わった、モンスターは群れているが、襲うのは色だけという、あり得ない事態が起きていた。

 

「別にいいじゃねぇか、ギルドの女守る必要もねぇし、鴉の奴もそれを望んでたんだろ?」

 

「え、ええ、確かにそうですが」

 

リオンは思い出す、この階層に来るまでの事を

 

 

 

 

 

「んだこれぇ!こんなモンスターの群れ方見た事ねぇぞ!」

 

「クッ!流石に数が多い!」

 

30階層に差し掛かったあたり、色率いるパーティは、数えることも馬鹿らしくなるほどの『ブラッドサウルス』の群れに遭遇していた

 

「ひぃぃぃ!やっぱり来なきゃよかったぁ!」

 

「ちょっ、ミィシャさん!?詠唱が出来ないので掴まないでください!?」

 

ベートとリオンが『ブラットサウルス』の群れに突っ込み、レフィーヤが詠唱する、最早何回行われたのかも解らない程、繰返されてきた行動に、もちろん色も参加していた。

 

『グガァァァァ』

 

「ベクトルパンチ!」

 

『ギャッ!』

 

その光景は階層主(ゴライアス)との戦いを見て居なければ目を疑っていただろう、30階層のモンスターの突進をLv.2になったばかりの人間がはじき返しているのだから。

 

「テメェ、本当にLv.2なんだろうな?」

 

「Lv.2ですって、それより早く次の階層に行きましょう、此処のモンスターじゃ足りません」

 

ベートにされた質問にあっさりと答え、『ブラットサウルス』を全滅した後、色はパーティの皆にさらに下に行くことを告げる

 

「まだ、下に行くんですか?」

 

「すみません、せめて俺の《スキル》を突破出来るぐらいのモンスターじゃないと意味がないので」

 

そう言いながら走り出す色のスピードは、やはりLv.2とは思えないぐらい速かった。

 

「チッ!しゃぁねぇ、行くぞ女」

 

「ちょっ待って!心の準備がぁぁぁぁ!」

 

「それじゃあ行きましょうか、ウィリディスさん」

 

「は、はい、よろしくお願いします。」

 

色を追いかける為、ベートはミィシャを担ぎ、リオンがレフィーヤを背負う。これが、敏捷が足りないレフィーヤと神の眷属ではないミィシャを入れたパーティの、最速の行動方法だった。そしてたどり着いた37階層、『白宮殿(ホワイトパレス)』で色は始めて『バーバリアン』から攻撃を貰い、そしてその時言われたのだ「ここから先は俺一人で戦わせてください」と・・・

 

 

 

 

 

「なぁエルフ、テメェ鴉の事どう思う」

 

「ヘッ!?い、いきなり何を?」

 

闘技場(コロシアム)で戦っている色から全く視線を外さずに問い掛けてくるベートに、リオンは酷く動揺しながら答えた。

 

「そ、それは、大切な人だとは思ってますよ?って、いえいえ別に深い意味は無くてですね!え、えーとなんて言うべきで「アイズが」・・・へっ?」

 

「アイズがあいつに言った事、お前は聞いたか?」

 

「ええ、貴方は冒険者を侮辱している、貴方を私は認めない、でしたか、その他にも色々言われた事は色さんから聞いています」

 

ベートの顔は色に向けられている、しかしその瞳の奥にはきっと違う存在が居るのだろうと、リオンは思った。

 

「アイツは、アイズはそんな事を言うような女じゃねぇんだ、確かに鴉の野郎の戦い方は無茶苦茶だし、意味が解んねぇ力もってっけど・・・」

 

そこでベートが言葉を切らした、疑問に思ったリオンが振り向くと、料理を作っていた二人がこっちに向かって手を降っていた。狼人(フェアウルフ)の聴覚で二人の声が聞こえたらしい

 

「ローガさん?」

 

「チッ、なんでもねぇ」

 

それだけ言い残し、ベートは色を呼ぶために、闘技場(コロッセオ)の中に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

「モグモグ、ほふふへふふふ?」

 

「飯飲み込んでから喋れや鴉」

 

「はい色君、水だよ」

 

「ングング、ぷはぁ、ありがとうミィシャさん。こほん、今日で最終日でいいですか?」

 

ミィシャさんから貰った水で口の中にあったサンドイッチを飲み、ここまで付き合ってくれた皆に確認する。

 

「そうですね、後五時間ほどで帰らないと少し危ないかもしれません」

 

レフィーヤがそう言って視線を移した方向を見ると、時間を測るための砂時計型の魔道具の砂が残り少なくなっていた

 

「よし、それじゃあ最後の追い込みと行きますか!」

 

そう言って立ち上がった俺だが、リオンさんに肩を押さえつけられ止められる。あの、動けないんですが?

 

「色さん、貴方は少し戦いすぎです、今日ぐらいは体を休められては?」

 

「そうですよ、初日からずっと戦ってるか、寝てるかじゃないですか。帰るときに倒れられたら、こっちが困るんですから今日ぐらいはキチンと体を休ませて下さい」

 

困ったように言ってくるリオンさんに、すかさずレフィーヤが同意する。俺としては【ロキ・ファミリア】から支給された万能薬(エリクサー)やマインドポーションを惜しげもなく使っているので、まだまだ戦えると思うのだが、両脇をガッチリホールドされ、厳しい視線を送ってくる女子達に逆らえる訳もなく、渋々上げていた腰を下ろした。

 

「それじゃ、何します?」

 

「黙って寝とけ、糞鴉」

 

ベートさんが周囲を警戒しながら、ぶっきらぼうにそう言ってくる、この数日一緒にいて解ったのだが、この人は凄く自分の気持ちを伝えるのが苦手みたいだ

 

「えーそれじゃ、つまらないじゃないですか。あ、そう言えば、どうしてミィシャさんはダンジョンに着いてこようと思ったんですか?」

 

「うぇ!?わたし?」

 

今まで戦うのに必死で聞けなかった事を聞いてみようと思ったのだが、ミィシャさんは持っていたサンドイッチを落としそうになっていた、どうして動揺してるのだろうか?因みにベートさんも気になっていたいなのか、目を瞑り、黙認するポーズをとっている

 

「え、えーとほら、地上でまた【アポロン・ファミリア】に捕まったら危ないからだよ」

 

「えっ!?【アポロン・ファミリア】ってギルド局員のミィシャさんにまで危害を加えたんですか!?それって重罪じゃないんですか?」

 

「へっ!?・・・えっ、えーと・・・あの時は私服だったし、私がギルド局員って解らなかったんじゃないかな?」

 

あははー、とひきつった笑みを浮かべるミィシャさんにレフィーヤが、それでも今から報告すれば、と食いつこうとするが、意外にもそれを止めたのはベートさんだった。

 

「おい、女」

 

「えっ、どうしたんですか?ベートさん?」

 

言葉を途中で止められたレフィーヤは、ベートさんに困惑の表情を浮かべた、何故なら、ベートさんがミィシャさんに少しだけ殺気を放っていたからだ。

 

「ちょっ!ベートさん!?」

 

立ち上がり、止めるよう言おうとした俺は、横から出されたリオンさんの腕に止められた

 

「リオンさん?」

 

「・・・・」

 

無言で横に首を降るリオンさんに俺は更に困惑する

 

「な、何ですか?」

 

おそらく、初めての殺気に若干震えながら声を出したミィシャさんに、ベートさんは少しずつ近づき、眉間にシワを寄せて見下ろしながら喋り出す

 

「てめぇ、【アポロン・ファミリア】と繋がってんじゃねぇだろうな?」

 

「何言ってるんですか!?そんなわけないでしょ!」

 

「いえ、色さん、実際に彼女は怪しい、話を聞いた限りでは、あまりにも出来すぎている」

 

言い返そうとする俺に、目を細めながらリオンさんは説明する。ギルドの職務を理由に俺を連れ出した事、そして狙い済ましたように人気のない所で襲われた事、捕らわれたのも俺の隙を作り出す演技では無いのか。

 

「大体ギルド職員ならどんな事情があろうと、この事を真っ先にギルドに報告すべきだ、それもせずに、わざわざ危険なダンジョンに着いて来たのは【アポロン・ファミリア】に色さんの情報を渡すためでは無いのですか?大方色さんの《スキル》の全容を相手が知っていたのもギルド局員の貴方が情報をリークしていたのなら説明できます。さぁどうなんですか?今までわざと泳がしていましたが、観念して全て吐きなさい」

 

そう言ってリオンさんはミィシャさんに木刀を突き付けた、ベートさんの方を見ると、言いたいことを全部言われたからか頬が若干ひきつっている。レフィーヤはずっとオロオロしていた。そして長い沈黙の後、ミィシャさんの口が動く

 

「ご・・・」

 

「「「ご?」」」

 

「ごめんなざい〜、だっでじぎぐんがボロボロになっで、グスッぞれでもダンジョンいぐっでいうがら!ヒック、心配だったんだもん!うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

「え、えーと・・・ええ?」

 

「お、おい」

 

謝りながら泣き出したミィシャさんに、リオンさんだけではなく、鋭い目で睨んでいたベートさんも困惑の声を上げた、リオンさんの話は確かに的を得ていたのかもしれないが、まぁ時間が無くて、詳しい説明をしなかった俺が悪いのだ、今からミィシャに掛かっている疑いを晴らすとしましょうか。

 

「あー、リオンさん、一応俺の《スキル》の能力がバレてたのはですね、うちの神様が神会(デナトゥス)で、アポロンに話したからなので、ミィシャさんは関係ありませんし、人気の無い所を進んでたのは俺の個人的な事情なので、多分教会からずっと付けられてただけじゃ無いのかなーって思うのですが?」

 

そう、あの時の俺は二日酔いの中、あの二つ名を連呼されるのを嫌がり、ミィシャさんを連れて、わざわざ人の少ない道からギルドに行こうとしていたのだ、それにベル達が襲われた時は問答無用で魔法を撃たれたと聞いたし、もしかしたら、俺の時もそうする予定だったのが、ミィシャさんが居たことで逆に警戒して、あの路地裏で襲撃する事になったのかもしれない。

 

「それに、ミィシャさんが【アポロン・ファミリア】と繋がっていない証拠もあります」

 

「し、証拠ですか?」

 

リオンさんは誤解だと思い始めたのか、冷や汗をかきながら俺の言葉に耳を傾ける

 

「書置きですよ、恥ずかしながら俺はこの間まで文字が書けなかったんですよね、それを知っているミィシャさんが仲間なら、わざわざ俺が書置きを置いたように見せる訳が無いじゃないですか」

 

「えっと、そうなのですか?でもですね・・・えっと・・・う、疑ってすいませんでした!」

 

俺の話を聞いたリオンさんは、レフィーヤに泣きながら慰めてもらっているミィシャさんに、地面に顔が当たるんじゃないかという勢いでお辞儀した。

 

「ほら、リオンさんも謝ったんですから、ベートさんも謝って下さい」

 

「・・・悪かったな」

 

ボソッと呟かれた言葉に苦笑いする。どうやら誤解は解けたようだ

 

「ミィシャさん、誤解が解けましたよー」

 

レフィーヤとに抱き着いているミィシャさんに声を掛けに行くと、泣きすぎて腫れた目で此方を見て来た

 

「じぎぐぅん」

 

「はいはい、怖かったですね」

 

きっと始めて来たダンジョンにストレスなども感じていたのだろう、抱き着いて来るミィシャさんの頭を撫でることにする。わんわん泣き出したミィシャさんをリオンさんとベートさんの二人は気まずそうに見ていた。

 

「これで一件落着ですね、それじゃあ、色さんはゆっくり休ん・・・で」

 

締めようとするレフィーヤの言葉が固まった、視線は俺達の後ろ側、闘技場(コロッセオ)の方に固定されている

 

「どうしたんだよ、レフィー・・・ヤ」

 

「は?」

 

「おいおい」

 

その視線を追った俺達も固まった、何故ならそこには

 

『オオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

37階層に君臨する『迷宮の孤王(モンスターレックス)』。ウダイオスの漆黒の巨体がモンスター犇めく闘技場(コロッセオ)の中心に存在していたからだ。

 

「えっと、色さん?これも一人で?」

 

「あ、無理です。というわけでミィシャさん離れて貰えます?」

 

「ブクブクブク」

 

「ミィシャさぁぁぁぁん!」

 

「ほっとけ、気絶しているだけだ」

 

「このルームの出入り口に置いたモンスター避けは、今までしっかり機能していたので寝かして置いても安全かと、それよりも今は『迷宮の孤王(モンスターレックス)』に集中しましょう、明らかに此方に狙いを定めている」

 

「しっかりしろよレフィーヤ、言っとくが雑魚を庇ってる余裕はねぇぞ」

 

「色さん、申し訳ありませんが休憩は無くなりそうです。ウィリディスさん、大丈夫ですか?」

 

「は、はい!大丈夫です、私はつよい、私はつよい」

 

「俺が一番 Lv.低いんだけど誰も心配してくれない件について・・・よし!それじゃあ行きますか」

 

「はい」

 

「ええ」

 

「チッ」

 

『ルゥオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

俺の掛け声とともにミィシャさん以外の全員が闘技場(コロッセオ)の中心で雄たけびを上げるウダイオスに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、よく無事でいられましたね」

 

「マジで死ぬかと思ったけどな、無事に帰って来られてよかったぜ」

 

「さ、流石は色殿ですね」

 

揺れる馬車の中、久しぶりに集まった俺達、怪物進撃(デス・パレード)+αは、それぞれの今までの近状について語り合っていた

 

「それにしても、まさか命ちゃんまで【ヘスティア・ファミリア】に入ってくれるとは思わなかったぜ」

 

「命ちゃ・・・い、いえ、あの時千草の命を救って貰ったのですから、そのご恩に報いることは当たり前の事です」

 

そう言って頭を下げてくる命ちゃんに苦笑いで「気にしなくていいよ~」と返した、あれは助けたと言うより、何時もみたいに群れで来たモンスターを倒しただけだ、感謝されるのはいいが『改宗(コンバージョン)』までしてくれたとなると、なんか重い気がする

 

「リリもヴェルフも【ヘスティア・ファミリア】に『改宗(コンバージョン)』しくれてよかったな、ベル」

 

「うん、本当に皆ありがとう」

 

「気にしないでください、ベル様」

 

「そうですよ、ベル殿」

 

「全くだ、ほら、約束してた短剣(ナイフ)だ。一代目より切れ味は抜群だ、保証する」

 

「ありがとう」

 

「なぁヴェルフ、俺にも今度何か作ってくれよ」

 

「いいぞ、何でも言ってくれ」

 

「それじゃあ、馬車に乗っている間に作戦を決めたいと思いますので、各自、自分の【ステイタス】と出来ることを教えて貰っていいですか?」

 

リリの言葉を受けた皆はそれぞれの【ステイタス】など他に、自身の出来る事等の情報を交換していく

 

「ヴェルフ殿、例の物は?」

 

「五本用意してある」

 

「あの短い期間でよくそんなに作れましたね」

 

「いや、少し思うところがあってな、中層に帰ってから作り続けてたんだ。まさしく功を成したってやつだな」

 

「まてまて、例の物ってなんだよ、俺は何も聞いてないぞ?」

 

「ああ、そう言えば色にヴェルフが魔剣を作れる事を教えてなかったっけ」

 

「魔剣!?ヴェルフって魔剣作れるのか?」

 

「応、と言っても・・・いや、何でもねぇ。リリスケ作戦は?」

 

その言葉で、この場にいる全員が小さな小人族(パルゥム)に向き直った。

 

「そうですね、まず、【ヘスティア・ファミリア】の全力はこんな所で出さなくてもいいと、リリは考えています」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「色様は新しい魔法は使わない様に、リリも魔法を使いません。ベル様も出来る限りでいいので手加減を、魔剣はリリと命様で使います」

 

「まてまて」

 

「えっと、リリ殿?」

 

「いいですか、皆さんの【ステイタス】を拝見し、これからの事を考えた結果、重要なのはこれが【ヘスティア・ファミリア】の戦い方だとオラリオの全員に思わせる事です」

 

「えっと、それって・・・」

 

「ですので少し強引に行きたいと思います。そう、真正面から城を落しましょう」

 

「「「「・・・・」」」」

 

そこで笑顔を見せるリリに一同は戦慄した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん早いじゃないか、ヘスティア」

 

「アポロンか」

 

白亜の巨塔『バベル』30階、ベル達を見送ったヘスティアは誰よりも早く戦争遊戯(ウォーゲーム)を観戦する此処に来ていた、その後ろから今回の仇敵、アポロンに声を掛けられる

 

「話は聞いたよ、随分とボクの眷属を痛めつけてくれたじゃないか」

 

「そうだな、あの時神会(デナトゥス)に参加していてよかったと心から思うよ」

 

怒気を含ませるヘスティアにアポロンは平然とそう返した。

 

「私はね、眷属たちに全力を持って黒鐘 色を捕らえろと命じたんだ、そして我が子達は君から聞いた《スキル》の内容と水晶に映った情報を下に戦略を練り、魔剣、道具、人員・・・万全な状態をもって事に移ったと聞いている、それでも失敗したがね」

 

「そうだよ、あの時知り合いのエルフ君が偶々通りかからなかったら、どうなっていた事やら」

 

ヘスティアはそう言ってアポロンの顔を覗き込み、自身がこれまで勘違いをしていたことに気付いた。今までアポロンが色を狙ったのは例の男色趣味だと思っていたのだ。しかし今のアポロンの表情は狙った獲物を逃したような【悲愛(ファルス)】の名を冠したものでは無く、憎むべき敵を打てなかったような禍々しい表情をしていた。

 

「ヘスティア、私は美の女神とまではいかないが、少なからず観察眼は備えているつもりだ、そして私が見るからに、あんな物はこれ以上オラリオに、いや、この世界に存在すべきではない」

 

「オイ」

 

その言葉を聞いたヘスティアの怒りにより、その小さな体から神威が漏れ出した。並みの眷属なら気絶するほどのレベルのそれを、同じ神のアポロンは、同じように神威を持って対抗する。

 

「これは忠告だ、今すぐあの鴉を捨てろ」

 

「断る、どんなことがあろうと色君はボクの大切な子供だ」

 

拮抗する神威は膨れ上がっていくが、一人の神によって止められた

 

「何やっとるんや、お前らが戦ったら代理戦争の意味ないやろ」

 

「ロキか、まぁいい、どの道この戦争遊戯(ウォーゲーム)で眷属には鴉を殺せと伝えてある。出来なかったとしても君を殺した後にどうとでも出来る、それまでの短い命、大切に使いたまえ」

 

「勝つのはボク達だ、君の方こそ首を洗って待っているんだね!」

 

「なんやなんや、殺すとか殺さんとか物騒やな」

 

歩いて行くアポロンを見送るロキは、神威を収めたヘスティアに向き直り笑顔で話しかけてくる

 

「なぁドチビ、うちのベートとレフィーヤ貸してやった成果でたんか?因みにベートの奴はLv.6になりおったで、おおきにな!」

 

なっはっはっ、と笑いながら肩を叩いて来るロキにヘスティアは鬱陶しそうに青い瞳を細めた

 

「キミがボクに協力するなんて、いったいどういう風の吹き回しだったんだい?」

 

「あん?聞いてへんかったんか?あの子が欲しかった酒、まけてくれたお礼やで?」

 

そう言って笑みを深めてくるロキにヘスティアはジト目で返した

 

「へぇ、ボクはてっきりヴァレン某との事だと思っていたよ」

 

ヘスティアの言葉を聞いたロキは作っていた笑みを消し、ヘスティアに近寄る

 

「なぁドチビ、うちのアイズたんが、おかしなことになっとるんやけど、お前なんか知っとるやろ?」

 

「確証はないけど心当たりならあるよ、ボクもその事で君に話さなくちゃいけないと思ってたんだ。ただしこれだけは約束してほしい、この事は他言無用で頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ、レベルアップまでの最適化、その最適化の中にうちのアイズが含まれとるっちゅう訳かい」

 

「多分だけどね、ボクの目から見ても、君の所の『剣姫』はいきなり乱暴を働くような子じゃないってのは解るよ。それなのにいきなり色君に暴力を振るい、そのおかげで色君の【ステイタス】が大幅に伸びている。それとボクやキミ、神が来るとすぐに喧嘩が止まったのは【幻想御手(レベルアッパー)】が能力(ステイタス)を封印されるのを嫌がったからじゃないかな」

 

ロキはその細い目を僅かに開かせた

 

「なんや、ドチビは色君の《スキル》が意志を持っとるって言いたいんか?」

 

神妙にうなずくヘスティアに、ここまで色の《スキル》、【幻想御手(レベルアッパー)】の説明を聞いていたロキは呆れたように肩を竦めた

 

「冗談も大概にせぇよ、確かに水晶の映像を見た限りでは妙にモンスターが群れとったりアイズがおかしくなったりしたけどな、《スキル》に出来ることなんて百歩譲ってそれぐらいまでや、《スキル》が意志を持ってるなんて言い過ぎとちゃうんか?」

 

ヘスティアは俯き、考える素振りを見せた後、ロキに向かって顔を上げた

 

「確かに、考えすぎかもしれないね、でもヴァレン某が【幻想御手(レベルアッパー)】から何かしらの影響を受けて、色君に攻撃をしているのはほぼ確実だと思うよ」

 

「まぁ、Lv.2の子のスキルがLv.6のアイズたんに影響してるちゅうのは嘘くさいけど、今の所それしか説明つかへんな」

 

「うん、それで君にお願いしたいんだけど、出来るだけ『剣姫』を色君に近づけない様に出来ないかい?ダンジョンに行く日程でも教えて貰えれば適当に理由を付けて、ずらそうと思うんだ」

 

「いやや」

 

「なッ!?で、でもキミは色くんの事を案外気に入っているみたいじゃないか、それとも色君が君の所の『剣姫』にボコボコにされるのを黙ってみているというのかい?」

 

必死になるヘスティアにロキは満面の笑顔で近づいていく、その不気味さにヘスティアは思わず後ずさった

 

「そうやドチビ、うちはあの子の事を気に入ってる、こういうのなんて言うんやろな、一目惚れやったか。だってしょうがないやろ?あの子は神ですら見極められへん何かを持っとるんやからな」

 

「そ、それは【幻想御手(レベルアッパー)】の事じゃ「ちゃうやろ。ドチビ」・・・うっ」

 

気付けばヘスティアは壁際に追い詰められていた、そんなヘスティアを逃がさない様にロキは壁に手を付き、話し出す

 

「お前色君を入団させた後に他の神に変な事聞いて回っとったみたいやなぁ」

 

「へ、変な事?」

 

ロキは徐々に顔を近づ得ていき、ヘスティアの耳元で囁いた

 

「・・・異世界について」

 

ビクッ、とヘスティアの肩が揺れた。その反応で満足したのか、ロキはヘスティアから離れ、背を向けて歩き出す

 

「うちは知っての通り退屈が死ぬほど嫌いや、そんであの子がいる限り退屈なんてもんは無縁やって勘が言っとる」

 

そこまで言うとロキは足を止め、顔だけをヘスティアに向けた

 

「近いうちに色君貰いに行くからそん時はよろしくな、ヘスティア」

 

白亜の巨塔『バベル』30階、赤髪の女神の唐突な宣戦布告に、ロリ巨乳の女神は何も返せず、呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告と内容が違った・・・


改めて次回 アポロンファミリアをオーバーk・・・いや、みなまで言うまい


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第12話 VSアポロン・ファミリア

原作からの変更点


リューさん→色君 

【ヘスティア・ファミリア】の団員→怪物進撃(デス・パレード)

 命ちゃん≠命ちゃん


激しい剣舞の音が鳴り響く中、兎を思わせる少年は、ただひたすら剣姫に自身の獲物を振るっていた

 

ガキィン!

 

もう何本目に壊れたか解らない短剣(ナイフ)を捨て去り、少年はすかさず腰に持っていた予備の短剣(ナイフ)を取り出し、切りかかる

 

「もう休憩にしよ?」

 

「もう少し・・・お願いします!」

 

凄まじい速度の銀閃を繰り出しながら話しかけてくる憧れの人の提案を、否定するかの如く、少年はナイフを振るった

 

「たっだいまー!ってええ!?まだやってるの!?今日は休憩を挟むって言ってたじゃん!」

 

市壁内部に繋がる階段から駆け上がってきたティオナは、左肩に背負った大型のバックパックを下ろし、ベルに向かって怒るような口調で喋り出す

 

「アルゴノゥト君、2日間戦いっぱなしは、いくら何でもやり過ぎだよ」

 

「うん、私もそう思う」

 

剣を下ろしアイズも同意する。前に訓練した時もそうだったが、この少年は自身の限界以上に無茶をしている、まるで何かに追われる兎みたいに

 

「はぁ、はぁ・・・解りました、それじゃあ少しだけ、回復薬(ポーション)を下さい」

 

そう言う少年に二人は渋い顔をした、10分程寝るか、回復薬(ポーション)を呑むか、少年はこれまでずっとこんな事を休憩と言って続けていたのだ

 

「ングング・・・ふぅ、それじゃあ、お願いします」

 

「ほ、本当にやるの?アポロンの所と戦う前に体壊しても知らないよ?」

 

「どうして、そこまでするの?」

 

問い掛けてくるアマゾネスの少女と憧れの人に少年はナイフを構えて答える

 

「これぐらいしないと多分、間に合わないので!」

 

言うな否や少年は、二人の第一級冒険者に切りかかった。

 

「・・・ふぁぁぁ、夢か、あ、おはよう色」

 

「ベルさんや、俺が言うのもなんだけど、ちょっと緊張感無さすぎじゃね?」

 

「今まであまり寝てなかったから凄く眠いんだ。そうだ、この戦いが終わったら、色にお願いしたいことが有るんだけどいいかな?」

 

「ベルが俺にお願いって珍しいな、俺に出来る事なら何でもするぞ」

 

「ん?今何でもって言ったよね、それじゃあ・・・」

 

白い少年、ベル・クラネルのお願いを聞いた黒い少年、黒鐘 色(くろがね しき)は深い溜息を吐きながら了承した。

 

「色」

 

「なんだよ、まだ何かあんのか?」

 

「・・・任せたよ」

 

「・・・応、任された」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『では(えいぞう)が置かれましたので、改めて説明させていただきます!今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】、形式は攻城戦!!両陣営の戦士達は既に戦場に身を置いており、正午の始まりの鐘が鳴るのを待ちわびております!』

 

ヘスティアとアポロンはそれぞれ無言で映像を映し出された鏡を見ていた、しかし周りの神々はざわつき、あるものは目を擦り、あるものは夢ではないかと頬を抓った

 

「お、おいマジかよあれ」

 

「信じられねぇぜ、頭イカれてるんじゃねぇのか?」

 

「もう諦めてるんだろ?」

 

「くくく、いやぁ、やっぱおもろいわぁ、あの子」

 

「ね、ねぇヘスティア?あの子達本当に大丈夫なの?」

 

「・・・」

 

ヘファイストスの言葉にもヘスティアは無言を貫く、しかしその頬には一筋の汗が流れていた

 

『な、なんてことでしょう!!恐らく【ヘスティア・ファミリア】全員が城のすぐ近くに陣取っています!!こんな事があり得るのでしょうか!!』

 

「おいおいなんだありゃ、モルドも運が無かったな、【ヘスティア・ファミリア】の連中、試合を諦めやがったぜ」

 

肩を叩いて来る冒険者に【ヘスティア・ファミリア】に全財産を賭けたモルドは溜息を吐きながら、憐れむ様にその冒険者に向いた

 

「運が無いのはテメェらと【アポロン・ファミリア】の方だ、見てみろ、【ヘスティア・ファミリア】に賭けた連中の顔を」

 

「お、おい何言ってんだよ、お前らもどうしてそんな顔してやがる!」

 

冒険者が言われた通りに賭けを行っていた酒場を見渡すと、そこにいる【ヘスティア・ファミリア】に賭けた者達は全員安堵したような、いや、あるものは前祝と称してエールを頼む者までいる。その者達は皆等しく、18階層で色達と戦った者達だった。

 

「あいつらの通称は伊達じゃねぇんだよ、まぁ見とけ、勝ち目が無くて、あんなことをするような奴らが怪物進撃(デス・パレード)なんて名乗っちゃいねぇさ」

 

モルドの言葉と同時に鏡に映っていた映像が激しく乱れ、次に映ったのはあり得ないことに、隆起した地面が城門を突き破っている光景だった。

 

『な、なんだぁぁぁ!!!開幕の合図とともに【アポロン・ファミリア】の城前が地面によって吹き飛んだァァぁ!!』

 

「な、なぁ言っただろ?」

 

「・・・・」

 

騒がしい酒場が一瞬で静まり返るような映像、それは【ヘスティア・ファミリア】の【アポロン・ファミリア】に対する反撃の狼煙、その一つに過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘスティアがわざわざ受け取って来てくれた、最早懐かしいと思える学校の制服に身を包んだ俺は、降り注ぐ瓦礫を反射しながら進んでいく

 

「それにしても派手にやったね、色」

 

「前の時は街の中で使えなかったからな、そのお返しだ」

 

俺が最初にした攻撃は、実に単純なもので、地面を蹴り飛ばす事だ。しかし向き(ベクトル)を操作して出来た規格外な地面の大砲は、【アポロン・ファミリア】の城門を物の見事に吹き飛ばした。その結果出来た、足元にある大穴を避けながら歩いて来るベルの腕は、リンリンリンと音を立てながら光り輝いている。

 

「それじゃあ僕は街の中で、神様と一緒に散々追いかけられたお返しかな?」

 

約5分間程、【英雄願望(アルゴノゥト)】により、予めチャージされ続けたファイヤボルトを躊躇なく半壊した城にぶち込む

 

ドゴォォォォォン!!

 

正に無慈悲な一撃は、俺のために用意されてたであろう大量の避雷針も、この日のために強化されていたのであろう頑丈そうな城壁も、その殆どを開戦から僅か30秒で蹂躙した。

 

「おっとそうだ、これを試してみようと思ってたんだっけ」

 

ポケットから、いつかリリから貰った、鉄の塊を取り出し、学園都市第三位の少女の様に構え

 

超電磁砲(レールガン)っと」

 

何気なしに打ち出された弾丸(鉄の礫)は、当たり前の様に音速の三倍を超えて、壊滅状態の元古城を真正面から最後尾まで貫き、止めを刺した。

 

「なに、また新技?ズルくない?」

 

「新技じゃなくて魔法の応用だよ応用、悔しかったらベルもなんか考えてみなって」

 

「むむむむむ」

 

「えっと、もしかして自分達は要らなかったのでは?」

 

「駄目だぞ、あいつ等の強さを信頼しても油断だけはするな、足元救われるぞ」

 

「そうですよ命様、今までの経験上こういう時は・・・」

 

「リリ、あそこだ」

 

「はい!」

 

俺の合図とともにリリが魔剣を振るう、岩陰に見えていた【アポロン・ファミリア】の残党が慌てて此方に出て来た。

 

「色、他の団員は?」

 

「俺の風でも警戒したんだと思うが結構散らばってんな、数は20ぐらいか」

 

「それじゃ僕が居なくても大丈夫だよね、ちょっとあの人と決着を着けてくる」

 

ベルは崩れた城のただ一点を見ている、どうやって凌いだのか、そこには、ほぼ無傷の人物が一人だけ立っていた

 

「ベル・クラネルゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

鬼の形相で此方に波状剣を構えてくるそいつは、恐らくヒュアキントスなのだろう、ベルは静かに緋色のナイフを構え、走り出した。

 

「それじゃ、何時もの言っときますか」

 

走り出したベルの方向とは逆方向、隠れている事が無駄だと悟ったのか、次々と現れる【アポロン・ファミリア】の団員達に俺は叫ぶ。

 

「悪ィが、こっから先は一方通行だ。 侵入は禁止ってなァ!大人しく尻尾ォ巻きつつ泣いて、無様にもとの居場所へ引き返しやがれェェェ! 」

 

 

 

 

 

 

『なんだなんだぁ!これはまさかの展開!!【ヘスティア・ファミリア】が【アポロン・ファミリア】を圧倒している!!』

 

 

「な、なぁヘスティア、ベル君は一体どれくらいの潜在値(ちょきん)をしていたんだい?」

 

目の前の光景に戦慄するヘルメスがヘスティアに震える声で聴きだした

 

「なんだいヘルメス、何時もと態度が違うじゃないか?」

 

可愛らしく首を傾けるヘスティアだが、その後ろの光景は、Lv.2のベル・クラネルがLv.3のヒュアキントスをまるで子供を相手にするかのように、あしらっているという想像を絶するものだ、とても目の前にいる小さなロリ巨乳の女神を可愛いとは思えない。

 

「ヘスティア、本当の事を教えてくれ、ベル君はLv.3になったんだろ?」

 

「惜しいねヘルメス、ベル君は残念ながらLv.3になってないよ」

 

「う、嘘だろ、だったら「ベル君は『敏捷』以外SSSSってだけだよ」・・・は?」

 

聞き間違い思ったヘルメスは詰め寄ろうとして、人差し指を立てたヘスティアに止められた

 

「Lv.3になったのは色君の方さ、全く地上の子の成長スピードは本当に凄いね」

 

「お、おい冗談だろ、君の所の黒鐘君はつい半月前にLv.2になったばかりじゃないか!?頼む、頼むから冗談だと言ってくれヘスティア!」

 

しつこい男神をあしらいつつ、女神ヘスティアは自分の子供たちが戦っている(えいぞう)を見下ろした。

 

開戦から10分、後に最も速く終わったことで有名とされる【ヘスティア・ファミリア】が最初に行った伝説の戦闘遊戯(ウォーゲーム)、通称、『一方的な蹂躙(ワンサイド・デスゲーム)』は、その戦いが終わるまで残り5分を切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いですね色さん、37階層と同じように攻撃が全く当たっていません」

 

「あぁ、お前にはそう見えんのか?」

 

「え?どういうことですか?」

 

【ロキ・ファミリア】のホームで狼人(フェアウルフ)の青年はエルフの少女にめんどくさそうにしながらも、

律儀に解説する

 

「そんなんも解んねぇのか馬鹿エルフ、いいか、鴉は、【ステイタス】を更新してんのに37階層と全く同じ動きしてんだぞ」

 

「えっと、それって・・・本気になればもう決着がついてるって事じゃないですか!?」

 

突然叫び出したレフィーヤを見て話を聞いていた他の団員が口々にベートに質問する

 

「だったら黒鐘君は【アポロン・ファミリア】相手に遊んでるって事かな?」

 

「なんじゃ、せっかく骨のある奴だと思ったのに、がっかりだのう」

 

「止めろガレス、まだそうと決まった訳じゃない、それでお前の見解はどうなんだ?ベート」

 

質問されたベートは無言で鏡の中に映し出されている色を見て思い出す、それは37階層に潜ってしばらく経った頃の事だ

 

 

 

 

 

 

「本当にいいんだな?」

 

狼人(フェアウルフ)の青年は黒の少年に今まで何度もしてきた質問を繰り返し行った。

 

「対人戦の練習の事ですか?」

 

「ああ」

 

ベートの目を見た鴉と呼ばれた少年は、少しだけ考えた素振りを見せた後、指を立てながら喋り出す

 

「【アポロン・ファミリア】のトップはLv.3のヒュアキントスで、その下にLv.2とLv.1がいるんですよね?だったら、ここで対人戦を覚えなくてもいいですね」

 

そのあまりにも傲慢な言葉にベートは眉を寄せた

 

「テメェの力が規格外ってのは解るがな、一度痛い目見てんだろぉが、油断してんじゃねぇぞ!!糞鴉!」」

 

凄むベートに色は首を振りながら否定した

 

「い、いえいえ、油断と言うより効率的に考えた結果、やっぱり今は対人戦の技術の方より潜在的な経験値(エクセリア)を稼いだ方がいいと思うわけなんですよ」

 

焦りながら喋り出す色に、今度は話を聞いていたリオンが質問する

 

「今はという事は、後々対人戦を学ぶ相手がいるという事ですか?」

 

「あァ?だとしても間に合わねぇだろぉが」

 

詰め寄ってくるベートとリオンに色は薄ら笑いを浮かべながらこう答えた

 

「練習相手ならいるじゃないですか、それも一人や二人じゃなく、多人数で稽古をつけてくれる相手が、ちょうどいい所に」

 

「「?」」

 

 

『なんだこの動きは!?黒鐘 色がまるでモンスターかの様に【アポロン・ファミリア】の第三級冒険者を翻弄している!!』

 

その時の言葉の意味が今わかった気がした

 

「あァクソッ!あいつは遊んでもいねぇが本気でもねぇ!そういうことだ!」

 

「いっけぇ!色くぅぅん!!」

 

「テメェは何でまだここにいやがる!!」

 

「えぇ、だっていまギルドに戻ったら私捕まっちゃうよ?せめてこの戦いが終わるまで此処に居させて?」

 

「居させて?じゃねぇ!来い、今すぐギルドに連れて行ってやる」

 

「うそぉ!?ち、ちょっとまってって、ねぇ!?鬼!悪魔!」

 

ジタバタと暴れる桃髪の少女を担いで出て行った狼人(フェアウルフ)の青年を見ながら、【ロキ・ファミリア】の一同は皆同じ事を思った

 

(結局、どういう事?)

 

 

 

 

 

 

 

 

迫りくる波状剣(フランベルジュ)をベルは難なく叩き落していく

 

「クソッ!私はLv.3だぞ!?それを貴様はッ!遊んでいるのか!!」

 

攻撃をしては離れるの繰り返し、その単純なヒットアンドウェイはヒュアキントスがベルと戦い始めてずっと行われている事だ。そう、単純な行為、問題なのはそれを涼しい顔で行うベルの兎の散歩(ラピッド・ウォーク)をヒュアキントスが全く崩せないでいる事だった。

 

「ガッ!なぜ、グッ!貴様は一体何なんだぁ!」

 

緋色のナイフに腕を切り付けられ、足を蹴飛ばされ、顔をかち上げられる。兎の足音だけが聞こえる中、ヒュアキントスは解っていた、すでに自身が勝てないことも、手加減されてるということも。しかし、【アポロン・ファミリア】団長の意地が己の体を奮い立たせていた

 

「認めてやるベル・クラネル、お前は私よりも強い、だから勝負をしてくれないか?」

 

ヒュアキントスは最後の賭けに出る

 

「貴様が城壁を壊した魔法と私の魔法、どちらが強いか勝負をしよう」

 

それは本来ならあり得ない事だ、格上(Lv.3)格下(Lv.2)に勝負形式を頼んだのだ、しかしそうでもしないと勝てないと、ヒュアキントスの冒険者としての勘が告げている

 

「・・・」

 

無言でベルは立ち止まった、しかしその手はリンリンリン、という鐘の音(チャイム)の音と共に光り輝いている、恐らく受けて立つという事だろう

 

「【我が名は愛、光の寵児(ちょうじ)。我が太陽にこの身を捧ぐ。我が名は罪】」

 

それを見たヒュアキントスはすかさず詠唱を始める、何故ならその力を使っている所を自分が敬愛する主神が見て、話してくれていたのだから。

 

「風の悋気(りんき)。一陣の突風をこの身に呼ぶ。放つ火輪(かりん)の一投」

 

知っている、知っているぞベル・クラネル、その力は黒のゴライアスが現れた時に黒鐘 色と共に行った攻撃と同じ、時間が経てば経つほど威力が増すという《スキル》!

 

「――――来れ、西方(せいほう)の風】」

 

この勝負貰った、そんな短いチャージで私の魔法は破れん!

 

「ぬぅうううううううううううううんっ!!」

 

詠唱を終えたヒュアキントスは上半身をひねった。その姿は円盤投げ、相変わらず煩い鐘の音(チャイム)の音を響かしながら輝く腕を構えている兎に、右手に凝縮させた高出力の『魔力』を魔法に変え、発動させる

 

「【アロ・ゼフィロス】!!」

 

高出力の太陽が、ベルに向かって高速回転しながら飛来する、もう少し、もう少し、もう少しだ!近づいていく日輪にヒュアキントスの表情が勝利を確信し

 

「おーい、ベル!こっちは終わったぞ!」

 

「ファイアボルトォォォォ!!!」

 

無慈悲な掛け声と共に砕け散った

 

「馬鹿な、あり得ない、こんな事が・・・こんな事があってたまるかァァァァァ!!」

 

ヒュアキントスが最後に見たものは、砕け散る自身の魔法と自分の計算よりも遥かに大きい爆炎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、この!」

 

「ちょこまかと!」

 

縦横無尽に駆け回りながら、色は【アポロン・ファミリア】を観察していた

 

「これでも食らえ!」

 

成程成程

 

「どうして!?死角から攻撃してるのに!」

 

ふぅん、そうしたらいい訳か

 

「こっのォォォォォオオ!!なんッ・・ぐふッ!」

 

よっしうまくいった、やっぱ質のいい練習相手が豊富だと覚えるの早ぇわ。

 

「何なんだ、何なんだお前はぁぁ!」

 

「あん?数日前お前らにボコボコにされた、雑魚冒険者ですがッ!!」

 

「ゴフッ!」

 

それを見た【アポロン・ファミリア】の団員は後ずさった、少なくない恐怖を覚えたのだろう、たった一振り、いや、かすった程度で人体が吹き飛んだのだ。

 

「大分覚えたしもういいか、ネタバレしてやるよ、三下ども」

 

そう言って俺は仰々しく両手を開き空中で三下(雑魚)共を見下ろした。

 

「お前らが知っての通り俺の能力は向きを操るベクトル操作と電気を操れることだ、さっき掠っただけで吹っ飛ばしたのは力の向き(ベクトル)を瞬発的に一転に集中したから、死角からの攻撃が避けれるのは、微弱な電磁波を常に飛ばし、その反射波をレーダーみたいに感知して360度の視野を得ているって訳だ、因みにこの電磁波にお前らの大好きな避雷針は無意味だ」

 

「な、何言ってんだ」

 

「おい、奴は風を使って飛んでるんだぞ!早く魔剣を使え!」

 

「解ってる!」

 

そう言われて魔剣を振るおうとするダフネを退屈そうに見る、そんな事をしても無駄だって

 

「な、何で!?なんで落ちないの」

 

「あのさぁお前ら、常識的に考えて何の対策もせずに真正面から戦う訳ねぇだろ?魔剣が発動するタイミングさえ解りさえすれば、そこで発生する風を操ればいいだけだ。つまり、360度の視界を得た俺にもう風の魔剣の小細工は通じねぇ」

 

淡々と説明していく俺に痺れを切らしたのか、一人の男の冒険者が叫んだ

 

「卑怯だぞ、下りて来やがれ!」

 

「いや卑怯って・・・まぁいいか」

 

呆れたように肩を竦めながら、地面に降り立った俺に向かって、男の冒険者が拳を突き出して来た、その動きを見切った俺は、素早く懐に入り中指を突き立てる。

 

「ゴパァッ!!」

 

その男をただのデコピンで吹き飛ばし、【アポロンファミリア】に向き直った

 

「あぁ、言っとくけどフェイントの類はもう効かないからな?お前らの攻撃は大体覚えたし、今の俺とじゃ根本的に立つステージが違う」

 

「な、なにを言ってるの?」

 

「いいこと教えてやる、お前らに足りないもの、それは!」

 

その瞬間俺の体は炎に包まれた、すべてを焼き尽くす圧倒的な火力は、しかし俺の反射の膜を破るには至らず、残りの【アポロン・ファミリア】を全滅するだけに留まる

 

「熱っちぃな!何すんだよリリ!」

 

「それはこっちのセリフです!色様、今全力を出そうとしましたね?」

 

「うっ、だって」

 

「だってじゃありません!!大体何を悠長に《スキル》や《魔法》の説明をしてるんですか!馬鹿なんですか!!」

 

「はい、馬鹿です、馬鹿ですいませんでした」

 

プンスカと説教をし始めたリリに俺は正座をしながら、ひたすら平謝りをしていた。

 

「全く、命様も命様です!色様の唐突な行動にリリじゃ反応出来ないから魔剣を渡したんですよ?もっとしっかりしてください!」

 

「えぇ!?自分ですか?」

 

おっと、矛先が命ちゃんに向いたようだ、今の内に待機していたヴェルフに予め決めておいた、ハンドシグナルで合図をする

 

(こっちは終わったからベルに合図してくれ)

 

(解った)

 

ハンドシグナルを確認したヴェルフはベルに向かって大声で何かを叫び、次の瞬間

 

「こんな事があってたまるかァァァァァ!!」

 

爆音の後に響いたヒュアキントスの悲痛な叫びで、この度の戦争遊戯(ウォーゲーム)は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

ミィシャの足は震えながら階段を下りていた、着いた先は四炬の松明に照らされた祭壇、ギルドの最高トップ、ウラノスの所だった

 

「よく来たな、ミィシャ・フロット」

 

「は、はい、この度はおよびいただいて共栄至極、極楽浄土、えええええと、あの「ミィシャ・フロット」は、はひぃ、ごめんなさいぃぃ!」

 

土下座してくる桃髪の少女にウラノスは静かに言葉を掛ける

 

「お前はなぜ此処に呼ばれたのか理解しているか?」

 

「うぅ、【アポロン・ファミリア】の件をギルドに報告せず、勝手にダンジョンに向かい【ヘスティア・ファミリア】に加担した処罰だと聞いております」

 

ミィシャはベートに連れられて、帰って来てから、ロイマンに主神命令だと言われ、此処に来るように言われた時の理由をそのまま話し出した

 

「そうだ、お前はギルドの法を破り、【ヘスティア・ファミリア】に加担した、よって、厳しい処罰を与える」

 

「はい、何なりとお受けします」

 

頭を下げながらミィシャは思う。厳しい罰ってなんだろう、ひょっとして殺されたりとかしないよね、やだよぉ、助けてよぅ、しきくぅん!目を瞑り、処罰の内容をただ待っていたミィシャにウラノスから厳しい処罰が与えられた

 

「これまでの、そしてこれからの黒鐘 色の情報の提出および、監視を命ずる、どんな些細な事でも報告する様に」

 

「・・・へ?」

 

後にミィシャはこう思う、もしかしてこれは死ぬより厳しい罰なんじゃないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、快勝快勝、案外楽に勝てて良かったな!」

 

「色君、タケの国では勝って兜の緒を締めろって言葉があるんだよ、ボクもあまり言えた事じゃないけど、調子に乗らない様に」

 

「今の言葉で確信したわ。俺、いつか絶対命ちゃんの国に行く」

 

時々意味の解らない事を言う眷属の背中を見ながら、ヘスティアはアポロンに勝った後、去り際に言われた言葉を思い出した

 

「いいかヘスティア、一番近くにいる君は必ず膨れ上がった黒に全て飲み込まれる、此処で殺さなかったことを何時か後悔するよ」

 

ヘスティアは頭を振って考えを消した。どんな事が有ろうと色君は色君だ、この子は全てを飲み込むなんて事はしない

 

「お、おいヘスティア?大丈夫か?」

 

「あ、うん、ボクは大丈夫だよ、それより色君の方こそ【ステイタス】更新しなくて良かったのかい?」

 

「応、ベルと約束したからな」

 

そう言って身支度を済まして行こうとする色に、ヘスティアは流し目を送る

 

「色君も案外男の子っぽい所あるよねぇ、Lv.3になったばかりのベル君とLv.3になった時から【ステイタス】を更新せずに一騎打ちなんてさ」

 

含みのある言い方にカチンと来たのか、色はヘスティアの頭を掴み、乱暴に撫で始めた

 

「うにゃぁ、主神に何をするぅ!」

 

「うるさい、これはベルが持ち掛けて来た事だぞ?あんな馬鹿みたいな【ステイタス】を相手にわざわざ受けた俺はどっちかって言うと大人だっつうの」

 

「他の子達からしたらキミの【ステイタス】だって大概、わ、わかった、ボクが悪かったから許してくれぇ!」

 

「アイツと一緒にすんなッ!!」

 

色によるなでなでは、しばらく飽きるまで続けられると思ったが、唐突に思いついたかのように色が声を上げ、ポケットの中を探り出した。

 

「おっと、またこれを忘れる所だった」

 

「うぅ、色君のせいでボクのキューティクルが台無しだ、どうして「ホレこれ」・・・ん?なんだいこれは?」

 

色が持っていたのは四角い箱、上にリボンが巻かれていた

 

「日頃の感謝だよ。一人で摩天楼(バベル)に行った時に買っといたんだ、破壊された教会を見た時はもうだめかと思ったが、奇跡的に無事でよかったぜ」

 

「ありがと・・じゃない!そうだ色君、ボクが上げた割引券を君がロキに使ったのを忘れてたよ!いいかい今後は絶対、ぜぇぇぇぇぇたいに、そんな事をしちゃいけないよ!!大体あいつは「いいから、開けろ」アイタッ!うぅ、主神をチョップするなんて酷いじゃないかぁ」

 

グズグズ言いながらも色から貰ったプレゼントをヘスティアは開けた

 

「言っとくけど、この贈り物(プレゼント)が相当な物じゃないと、ボクの機嫌は治らないから・・・ね」

 

中身を見てヘスティアは固まった、その手の中にはベルから貰った小さな銀色の鐘と対照的な漆黒の鐘が、可愛らしい音を立てている。

 

「いつも付けてるのがそれだけじゃ飽きるだろ?だから偶にはそれに付け替えて、気分転換でもしてくれ」

 

「・・・」

 

小さな鐘、頭に飾っているそれを飽きたら替えろ、なんて他の神や眷属に言われたらヘスティアは事情を知らなくても怒っただろう。しかしこの異世界から来た少年は、本当に何も知ら無いのだ、神の事も眷属の事も、今までのベルとヘスティアの事も、そんな彼が自分に神も眷属も関係なく、純粋な感謝の気持ちで渡してくれた、この贈り物(プレゼント)を貰ったヘスティアは、何故だか無性に嬉しく思った。

 

「なぁ、色君」

 

「なんだよ」

 

「ベル君が居なかったらボクは君に惚れてたぜ」

 

「そりゃ、ありがとな」

 

ぶっきら棒に返事をした黒い少年をロリ巨乳の女神は聖母のように見つめていた

 

そうだ、どんな事があろうと色君は色君だ、たとえ世界中を敵に回したとしても、ボクだけはキミを信じよう。

 

 

 

 

所要期間 約13日

 

モンスター撃破記録(スコア) 56821体

 

桃髪のギルド職員一人が、死ぬ思いで作り上げたこの記録は、以後、世界の誰にも抜かされる事の無い世界最速鴉(ワールドクロウ)としてオラリオに刻まれることになる。

 

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.2

 

 力 :I57→S999

 

 耐久:C687→S999

 

 器用:I21→S999

 

 敏捷:I17→S999

 

 魔力:D552→S999

 

 耐異常:I

 

 《魔法》

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

 

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 




次は短いかも


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第12.5話 EXステージ VSベル・クラネル

この話は、現在の色君とベル君の実力を書くために、戦闘遊戯(ウォーゲーム)の話の最後に入れる予定だった話なので12.5話にしました。拙い戦闘描写で申し訳ないのが、それでも面白いと思ってくださるのなら幸いです。


「到着!此処がキミたちが戦う舞台さ!」

 

頭に白銀と漆黒、対照的な鐘を対四つ付けている、奇抜な髪形のヘスティアが、目の前の豪邸に向かって腕を広げた。俺は気分転換にたまに付け替えて欲しかっただけなのに、何で全部付けてんの?

 

「ここは?」

 

「【アポロン・ファミリア】の元ホームだよ!どうせ全てぶっ壊して、立て直す予定だったから思いっきり暴れても大丈夫だぜ?」

 

ベルに満面の笑顔で答たヘスティアの言葉に,眷属(フアミリア)一同の顔が引きつった、よほど向こうの主神が気に食わなかったらしい。

 

「それにしても本当に戦うのですか?ベル様、色様」

 

「うん、一度だけでいいんだ、全力で色にぶつかってみたい」

 

「まぁ、そう言う事だ。俺は大人だからな、子供のベルに胸を貸してやるって訳よ」

 

「そうだな、ベルはまだ子供だもんな」

 

「そうですね、ベル殿は子供なんですよね」

 

「みんな酷くない!?」

 

「だ、大丈夫だよベル君、ボクにとっては君は立派な大人さ!」

 

「神様ぁ!」

 

ショックを受けているベルをヘスティアに任せ、俺達は豪邸を見渡した。

 

「これ、どこで戦ったらいいんだ?」

 

「流石に中で戦うのは厳しいのでは?庭で戦いますか?色殿」

 

「お二人が戦うには少し狭くないですか?やっぱりダンジョンに行った方が・・・」

 

「いや、俺にいい考えがある。ヘスティア様!本当にぶっ壊していいんですよね!」

 

「へ?うん、好きにするといいよ」

 

「了承は得たぞ、お前ら退いてくれ」

 

ヘスティアの許可を貰ったヴェルフは、何故か自分以外の全員を屋敷から退去させ、その前で仁王立ちをする。その手には【アポロン・ファミリア】戦で使われなかった四振りの魔剣が存在していた

 

「ちょっ、ヴェルフ様それは!?「火月ぃぃぃぃぃいいいい!!!」ッ!?」

 

爆炎、目の前に確かに存在していた豪邸は、いきなり放たれた一振りの魔剣により半壊した。

 

「あ、あのヴェルフ殿!?」

 

「焔ぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

続く豪炎により半壊していた建物は崩壊、原型が無くなった。

 

「ま、待つんだヴェルフ君!!」

 

「おいおい、ヴェルフ!?」

 

「花火ぃぃぃぃいいいい!!!」

 

次の業火は青色、見る者が見れば美しいとまで言うだろう炎は、全壊した建物を融解させていく

 

「どうしたの!ヴェルフ!?」

 

「炎魔ぁぁぁぁぁあああ!!」

 

そして最後の魔剣により、文字どうり消滅した【アポロン・ファミリア】元ホーム跡地には、塵すら残らず、まっさらな土地のみが残っている。

 

「ふぅ、まぁ、こんなもんか・・・よし!お前ら存分に戦え!」

 

それを行ったヴェルフは、甲高い音を立てながら崩れゆく魔剣を物足りなさそうに見た後、俺達に笑顔でそう言って来た。

 

「どうしよう、ヴェルフが壊れた」

 

「みんな、とりあえずヴェルフの事は絶対に怒らせない様にしような」

 

俺の言葉に、コクコクと頷く一同をヴェルフは不思議そうに見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まっさらになった土地の上で二匹の獣は初めて相対する。

 

「それじゃあ、お互い大怪我だけはしないでくれよ?」

 

「ベル様!リリはベル様を応援してますからね!!」

 

「リリスケがベルを応援するんなら、俺は色を応援するぞ!」

 

「ええと、自分は、自分は、自分は・・・」

 

時は夕暮れ、場所は一人の鍛冶師によって作られた空間。

 

「行くよ、黒鐘 色(くろがね しき)!」

 

紫紺のナイフと紅緋の短刀を構えた兎

 

「来いよ、ベル・クラネル!」

 

対するは、漆黒のガントレットを構える鴉

 

「それじゃあ、始め!!」

 

自身の神により振り下ろされた合図。

 

今、沈む太陽を背景に、ベル・クラネルと黒鐘 色が衝突する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘスティアの腕が振り下ろされた瞬間、俺はすかさず、両手を地面に着けた。それが37階層で最初に覚えた事、2本の足を使い体を動かす、なんて事は無駄が有りすぎるのだ。必要な事は如何に《スキル》を使えるように体を持っていくか、そして如何に精確に尚且つ素早く向き(ベクトル)を操作するか。

 

「シッ!」

 

ベルの姿が消えた、それと同時に俺の周りに足音だけが響いている。同じLv.3同士で肉眼で捉えられないほど速いとか、普通なら有り得ないだろ。この【ステイタス】お化けがッ!

 

「フッ!」

 

「甘めェッ!」

 

咄嗟に向き(ベクトル)を操作し、横にスライドする事で、背後から迫るナイフを振り向きもせずに避ける。それが二つ目に覚えた事、集団戦闘において、広い視界を得るために、向こうの世界の技術を流用する事で完成したレーダー。思いの外上手く行って自分でも驚いてるが、お陰で肉眼で捉えられないベルを補足できる!

 

「ラァッ!」

 

「ッ!?」

 

思わぬ避けられ方をして、前方に突っ込んでいったベルの背後から奇襲を仕掛けようとするが、その前にベルの脚がぶれた。

 

あぁ、すげぇよ、確かにその脚には追い付けねぇよ・・・ちょっと前の俺だったらな。

 

「こんなもんかよ!ベルゥ!!」

 

「チッィィィ!!」

 

そして俺の体は肉眼で捉えられないベルに追い付いた。勿論、動体視力は追い付いてはなく、視界はレーダー頼り。肉体も様々な向き(ベクトル)を操り、無理矢理な速度を叩き出している。もし【アポロン・ファミリア】と戦う前に、これをしてもカウンターを受けるだけだっただろう

 

「オラァッ!」

 

「クッ!」

 

「シャッ!」

 

「ウッ!」

 

これが最後に覚えたこと。20数人の【アポロン・ファミリア】の集団に突っ込み、学び、学習し、吸収した、対人戦闘の技術。あいつらの【ステイタス】は確かに格下だが、長年培ってきた冒険者としての技能は本物だった。そんな奴らと10分ぐらいとはいえ、組手をしたんだ。今の俺は前みたいに近接格闘でも遅れを取らねぇぞ!

 

「オラオラオラァ!もっとスピード上げてくぞぉ!」

 

「調子に乗るなぁぁぁぁぁぁ!」

 

重力の向き(ベクトル)を操り、風の向き(ベクトル)を操り、足に掛かる向き(ベクトル)を操り、ベルの攻撃に合わせ、カウンターを打ち込み、右腕に掛かる向き(ベクトル)を操り、左手に掛かる向き(ベクトル)を操り、ヒットアンドウェイを許さず追随し、薬指に掛かる向き(ベクトル)を操り、背中に掛かる向き(ベクトル)を操り、膝に掛かる向き(ベクトル)を操り、ベルの2振りのナイフを避け、重力の向き(ベクトル)を操り、左腕に掛かる向き(ベクトル)を操り・・・・・・・

 

「ぉぉォォォォオオオオオオオオ!!!」

 

「ぁぁァァァァアアアアアアアア!!!」

 

片方は、空気を蹴り、大地を穿ち、四肢を使い。最早、人の動きを逸脱した、持てる全ての技術を用い、目の前の人間を呑み込もうとする、怪物を幻想させる黒の少年。

 

片方は、受け流し、畳み掛け、短剣(ナイフ)を突き立て、圧倒的な【ステイタス】で人の技術を振るい、目の前の怪物を打倒するべく立ち上がった、英雄を幻想させる白の少年。

 

鴉と兎

 

対照的な色、対照的な戦い方をする、二人の少年は、同じ眷族(ファミリア)、同じ主神に見守られながら、お互いの全てをぶつけ合った。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、聞いてもいいですか?」

 

「ん?どうした?」

 

最早、Lv.2では霞みもしない程、速く動いている二人の攻防に目を凝らしながら、ヤマト・命はそれでも状況を理解しようと、自分より長く二人と連れ添っているヴェルフに問いかけた。

 

「色殿はどうして反射を使った防御をせずに、攻撃を避けているのでしょうか?確かにベル殿の【ステイタス】は規格外ですが、色殿の反射を突破するには、それ相応の溜が必要な筈。しかし、僅かに見える攻防ではベル殿に大振りな攻撃をする隙も無いように思えますが?」

 

「ああ、それは【アポロン・ファミリア】が使っていた、反射返しを警戒してだろ」

 

それは【アポロン・ファミリア】と戦う前に、色自身から「念のために教えておく」と言われ、聞かされた、ある意味無敵ともいえる反射の、意外と単純な突破方法だった。

 

「色殿が張っている反射の向き(ベクトル)とは逆方向に攻撃する、でしたか?しかし、あの速さの中で、本当に行えるのでしょうか?」

 

「俺には全力で動きながらそんな器用な事はできねぇな。でも警戒してるって事は、ベルには出来る、て確信があるって事だろ・・・それか」

 

これが全力のスピードじゃないのかもな

 

ヴェルフの言葉を聞いた命は絶句した、もし本当にそうなら、今戦っている二人はどれほどの高みへ・・・

 

「しかし俺には何でアイツが電撃を使わないのか解らん」

 

頭を掻きながら疑問を呟いたヴェルフに今度はリリが返答する

 

「色様は【アポロン・ファミリア】と戦っている時に、レーダーという物を電気の魔法で再現して視覚を補助していたんですよね?恐らく今も、それを使っているから電撃が放てないんですよ」

 

「いやでもよ、それだったらレーダーを使いながら電撃は放てねぇのか?あの電撃の魔法、結構応用聞くんだろ?」

 

そう言いながら視線を向けてくるヴェルフにリリは呆れたような表情で返した。

 

「いいですかヴェルフ様、魔法というのは特殊な例を除いて、同じ魔法を同時に発動することは出来ません。例えるなら、左を向きながら右を見ろと言っているようなものです」

 

「おぉ、分かりやすいなリリスケ。じゃあもう一つ質問だ、電撃が使えないのなら、どうして風を使わないんだ?確か反射をしながら風を操ってたよな、あいつ」

 

「うぅ、それはリリも気になってたんですよ、色様が風を使わない理由は無い筈なのですが」

 

そう言って目を凝らすリリの視界には、早すぎる二人の姿は見えない。小さな少女が唯一感じられるのは激しくなっていく二人の足音だけであった

 

 

 

 

 

 

ヤバい!ヤバい!ヤバい!

 

目では完全に捉えられなくなったベルをレーダーで感知しつつ、俺は今の現状に、少しずつ焦りを感じていた。おかしいと思ったのは速すぎる視界の中で酔うのを恐れ、目を閉じた時だ。視界が閉ざされたからだろうか、その音は、はっきりと聞こえた。

 

なんだ、ベルの足音が規則正しすぎる?

 

それはあり得ない事だろう、戦闘の中、全く同じ間隔でベルの足音が聞こえてくるのだ、嫌な予感がした俺は、動きに緩急を付け、ベルの歩幅を乱すために動いた、その時・・・リン、というある意味聞き馴れた、悪魔のような鐘の音(チャイム)が俺の鼓膜を震わした

 

このスピードの中、【英雄願望(アルゴノゥト)】の発動音を誤魔化すために、鐘の音(チャイム)の音と足音を併せてんのか!?あり得ねぇだろ!

 

リン、リン、リン、恐らく気付かれたのが解ったのだろう、規則正しい歩調を乱したベルは、鐘の音(チャイム)を鳴らしながら、本当のスピードで攻撃を仕掛けてくる。例えるなら車のギアをトップに持って来られたような感覚。明らかに段違いになったスピードに俺の対応が僅かに遅れた

 

「シッ!!」

 

「クッソォォォォォォ!!!」

 

間一髪、レーダーに捉えた短刀の軌跡を黒籠手(デスガメ)で弾いた俺は戦慄する。そう、弾いたのだ、それはベルがこの高速の中、反射を破るための技術を使っているという確かな証拠だ、そして僅かな交差の中、右腕か左腕、どちらに英雄願望(アルゴノゥト)が発動されているのか確認するため、視界を開くが、やはり視野では常に動き回るベルの姿は確認できない。

 

もし初めから、【英雄願望(アルゴノゥト)】を発動してたんだったら、確実に反射を突破してくる威力にはなってるはずだよな。当たり前の様に木原神拳も使って来やがるし、本当に冗談じゃねぇぞ、この化け物が!!

 

心の中で盛大に悪態を吐くが、それでも勝つために頭を動かす。

 

風は使えない。もし俺がこのスピードの中で風を避ける為ではなく、攻撃に使ったら、その僅かな隙をベルは確実に突いて来る確信があったからだ。というより【アポロン・ファミリア】と初めて戦った時の経験を反省し、反射に頼らない戦法を心掛けるようにしていて、良かった気がする。恐らく一撃でもまともに攻撃を食らったら、その瞬間に畳みかけられて、一瞬で勝負が着いていた筈だ。

 

使う気はあんまり無かったんだが

 

俺には、この勝負を一瞬で終わらせる秘策があった、しかし、それをするためには僅かな隙が必要だ、そして、その隙を作るために、今のベルに追いつかなければ始まらない。

 

此処までされたらしょうがないか

 

俺はベルのスピードに追い付く為の覚悟を決める。それまで行っていたベクトル操作の質を変え、今までの様に俺が動いて発生する向き(ベクトル)を操るのではなく、俺の動きそのものを向き(ベクトル)で操る。これにより自ら体を動かす無駄が省け、ただ《スキル》を行使するだけで動く、人の皮を被った本物の化け物が完成した。

 

悪く思うなよ、ベル

 

例えるなら、ゲームのキャラクターをコントローラーを使わずに、頭の中の指示だけで、動かしている様な感覚。まさしく、現実離れした、その移動方法は途方もないスピードを叩きだした。ただ、この方法に弱点があるとするのなら・・・

 

怖い怖い怖い怖い怖いぃぃぃぃぃぃ!!!!!

 

行使する者が人の心を持っている事だろう。能動的行動(アクティブアクション)から能力操作(リモートコントロール)に移るという事は、本来なら無意識な制限が掛かって、出来ない無茶な動きも、頭の中で思い描くだけで普通に動いてしまうという事、限界が痛みによる信号でしか解らないのだ、つまりは・・・

 

ちょっ、まっ、今の動きッ!?、しまッ!?股!!股がぁぁぁぁ!!!

 

肉体に掛かる負荷は向き(ベクトル)操作で余裕なのに対して、関節がヤバかった。

 

途方もない動きの中、自身に掛かるGすら力に変え、数瞬の交差の後、俺は最後の賭けに出る為に、体の周りを電撃で覆った。

 

 

 

 

 

 

 

もしかして、気付かれちゃった?

 

リン、リン、リンと鳴り響く自身の右腕、その音を誤魔化すために行っていた歩調が少し乱された事に僕は危機感を高める。

 

ヒュアキントスさんと戦ってた時はバレなかったんだけど何で気づいたんだろ?それに、いくらレーダーってのを使って視界を確保してるからって、目を瞑ってよくそんな意味不明な動き出来るよね、本当に化け物なんだから。

 

色の動きは一言で言うと怪物、ダンジョンにいるモンスターと戦っているみたいだった。指を弾くだけで行われる変態的な回避、風を操る事で空気を蹴り、上下左右から行われる変則的な攻撃、あれ?もしかして怪物(モンスター)より怪物(モンスター)してね?

 

いやいや馬鹿なこと考えてる場合じゃないぞ、僕。取り合えず英雄願望(アルゴノゥト)の事はバレたと仮定した方がいいよね、だったら今から小細工無しのトップスピードだ!

 

「シッ!!」

 

「クッソォォォォォォ!!!」

 

一瞬の交差。漆黒のガントレットとぶつかり、甲高い音を立てる牛若丸二式から2つ解った事がある。まず、反射を突破するには、攻撃が当たる直前で引けば、攻撃が当たるというのは本当だった事、次に、色の目には僕が何処に英雄願望(アルゴノゥト)を発動しているか解っていない事。

 

薄目を開けたって事はそう言う事だよね。良かったよ、これでやっと勝機が見えた!

 

今まで戦って感じていたのは、決して壊れない壁を攻撃し続けている様な感覚だった。その感覚は彼と初めてダンジョンに行った時から常にあった感覚だ。彼は、どんな攻撃にも決して動揺せず、指先一つで敵を屠る、物語に出てくる英雄のような存在。

 

その壁に感じた感情をこの時の僕は解らなかった

 

だけど、その壁に変化が生じる。それはゴライアスによって、初めて彼がボロボロにされながらも立ち上がった時。僕はこう思った、この人は英雄みたいな人じゃなくて、英雄になっていく人なんだ。どの物語でもそうだろう、英雄はいきなり英雄ではない、あらゆる苦難を乗り越え、英雄になるのだ

 

その壁に感じた感情をこの時の僕は知りたいと思った

 

だけど、その壁にも変化が生じる。彼が【アポロン・ファミリア】に負けてダンジョンに潜った。その話を聞いた時、途方もない危機感を感じた。それは数日後行われる戦争遊戯(ウォーゲーム)にではなく、ダンジョンに潜った彼に対してだ。確信があった、きっと彼がダンジョンから戻って来た時には、この戦争遊戯(ウォーゲーム)を一人で終わらす様な、英雄になっている確信が

 

その壁に感じた感情をこの時の僕は恐怖と断定する

 

そして今、その壁にも変化が生じた。

 

色、解ったよ、僕、今やっと解ったんだ。君がモンスターを倒した時、君が初めて風を操った時、君がゴライアスと戦った時、君がアイズさんと戦った時、君が【アポロン・ファミリア】と戦った時、そして君と対峙した時に感じた、この感情がなんなのか!

 

何故解らなかったのか、それは同じ感情を感じる人がすぐ近くにいたから

 

何故知りたいと思ったのか、それはその感情を認める必要があったから

 

何故恐怖と断定したのか、それはその感情に追いつけないのが怖かったから

 

その感情の名は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憧憬一途(リアリスフレーゼ)

 

 

 

 

 

「くッぉぉォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

絶叫と共に色の動きが変わる、敏捷値:SSSSSSという途方もない僕の潜在値(ちょきん)を嘲笑うが如く、超スピードで地面を平行移動(スライド)しながら繰り出される変則的な抜き手や蹴り。掠っただけでも、一瞬で決着が着いていたであろうそれを速度を落とさずに、後ろに下がる事で躱し、烈火に燃える背中の熱を置き去りにして、自身の目の前に存在する(憧れ)を打ち砕くべく、一歩前に進んだ。

 

そうだ、僕は君に憧れた、でも駄目なんだ、僕はこれ以上君に憧れてちゃダメなんだ、僕は君に憧れるんじゃなくて、色の隣に立つ英雄になりたいんだぁぁぁぁァァァァァァァ!!!

 

「あああああああああああああッ!!!!」

 

人間離れした軌道で攻撃してくる色に負けじと、アイズさんとティオナさんとの戦闘経験を活かし、動きを読み、確実に攻撃が当たる瞬間で、光り輝く紫紺のナイフを振りかぶった

 

「クッ!?」

 

しかし、唐突な発電により、必殺の一撃は中断された。大きく後ろに下ることで電撃を避け、距離を取る。

 

ここで電撃?いや、迷ってる暇はない、これで色は僕の事を補足できない!

 

ベルの足は止まらない、距離を取りながらも、電撃を纏う色の周りを高速で動き、その姿を視界に捕らわれない様にしながら、光り輝く右腕を色に向けた。

 

英雄願望(スキル)】の引鉄(トリガー)、思い浮かべる憧憬の存在は

 

『緑谷 出久』

 

それは何の個性(能力)も持たないちっぽけな少年が、ある日、憧れの英雄(ヒーロー)から個性(能力)を貰い、自身がボロボロになろうと憧れた英雄(ヒーロー)に近づくために、ひたすら前を向き、走り続ける物語。

 

以前色に聞かされた、違う世界の物語の主人公を今の自分と重ね、憧れた英雄(ヒーロー)と並び立つ為に、その魔法、英雄願望(ファイヤボルト)を叩きつけた

 

「ファイアボルトォォォォ!!!」

 

蓄力(チャージ)時間三分、戦いが始められた時から、ずっと聞こえていた右手の鐘の音(チャイム)が緋色の爆炎と共にかき消される、その爆炎は色の反射を突破して有り余る威力を持っていた、しかし、見えない筈の背後からの必殺の一撃は、纏っていた雷を一点に集めて放たれた電砲により相殺される

 

超電磁砲(レールガン)!!!」

 

炎雷と轟雷、二つの雷が混ざり合う。そのすぐ先には、この戦いの終わりが待っていた。

 

 

 

 

 

 

轟音の中、俺は安堵の表情を浮かべる

 

今のはマジで危なかったぜ!

 

俺はこの状況を作り出すために、二つの賭けに勝利していた。一つ目は、隙を作るため、レーダーを消して雷を纏った時にベルが後ろに下がった事だ、もしダメージ覚悟で突っ込んで来られたら、その時点で終わっていただろう。二つ目は、遠距離から放たれる【ファイアボルト】に【英雄願望(アルゴノゥト)】が使われていた事、これにより次の蓄力(チャージ)まで俺の反射を力づくで突破出来ない筈だ。まぁ勘に任せてに打った超電磁砲(レールガン)が偶々当たらなかったらヤバかったが

 

お前は本当に強いよな、でも、流石にこの攻撃は回避も防御も出来ないだろ?

 

それはLv.3になって発現した、対人戦闘において反則的な『呪詛(カース)』、【食蜂操祈(メンタルアウト)】。その能力は特定の一工程(シングルアクション)による、完全な精神操作、ヘスティアがこれを見た時「特定の一工程(シングルアクション)が何か解らないと使えないじゃないか」等と言っていたが、食蜂操祈が能力を使う時にする『一工程(シングルアクション)』といえば、一つしかないだろう。

 

教会からプレゼントと一緒に、掘り当てられて良かったぜ、後は、このスマホの側面にあるボタンを押してベルの意識を飛ばすだけ。この勝負、貰った!

 

ポケットに手を突っ込んだ俺は勝利を確信した、何故ならこの状況下で、【英雄願望(アルゴノゥト)】を使ったばかりのベルが出来る事は限られているからだ。

出来て追撃の【ファイアボルト】か、接近してからの木原神拳。

英雄願望(アルゴノゥト)】が使われていない【ファイヤボルト】なら反射で返せるし、木原神拳が来ても一発ぐらいは余裕で耐えられる

 

爆炎からベルが突っ込んで来た、今まで見えなかったはずのその姿は、極限まで集中しているせいか、やけにくっきり映っていた

 

全く、ポケットの中のスマホのボタンを押す隙を作る事に、どんだけ手間掛けさせるんだよ。まぁ、こんな勝ち方で悪いと思うけど許せよ、ベル

 

俺は突っ込んでくるベルに対し、レーダを発動せずに雷を周りに展開する、次の攻撃を今更避けられないことが解ったからだ。瞬き程で作られた雷壁の電力は微弱だが、それでも雷を受けながら、無理矢理放たれる一撃ぐらいは耐えられる、そう思ってボタンに指を掛けた時、あり得ない音が聞こえた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォン、ゴォォン

 

 

 

 

・・・はぁ?

 

 

 

それは黒鐘 色が当然の様に【食蜂操祈(メンタルアウト)】という切り札を持っていたように、ベル・クラネルも当然の様に持っていた本当の切り札【英雄願望(アルゴノゥト)】の複数個所による同時使用(ダブルアクション)だった。

 

小さな鐘の音(チャイム)の裏に隠されていた、もう一つの鐘の音(チャイム)が、ベル・クラネルの思いの丈に呼応し、その音を大鐘楼(グランドベル)にまで昇華させる。

 

ゴォォォォォォン

 

は、はははは、そうかそうか、そうだよなぁ。あの時、チート持ちの俺を抜いた奴が、こんな簡単に終わる訳ねぇよなぁ!!いいぜ来いよ、俺がボタンを押して【食蜂操祈(メンタルアウト)】を発動するか、お前が【英雄願望(アルゴノゥト)】を発動した脚で蹴るか。どっちが早いか勝負しようぜ!!!

 

「ベルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

「しきィィィィィイィィィィ!!!!!」

 

 

高みに上るために、人の精神まで操る術を得た鴉に対し、鴉に届きたいがために兎が編み出した、必殺の白兎の猛蹴(ラピット・シュート)が牙を剝く

 

 

 

 

 

兎と鴉、対照的な色を思わせる二人の戦いは、太陽が闇に沈む頃に決着が着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ふざけんな!!」」

 

ホームが完成するまでの間、ギルドから借りた施設にあるベットの上で、俺とベルの大声が重なり合った。二人が声を上げた理由は、お互いの手に持っている紙、お互いがLv.3になった時の【ステイタス】が記された用紙だった

 

「お前の【ステイタス】ぶっ壊れすぎなんだよ!!前の時のSSSSSでも頭おかしいのに、敏捷値:SSSSSSってどれだけアビリティの限界突破したら気が済むんだよ!!!この、バグ・クラネルがッ!」

 

「うわッ!?」

 

そう言いながら俺はベルの理不尽な【ステイタス】を顔面に叩きつける

 

 

 

 

ベル・クラネル  

 

 Lv.2→Lv.3

 

 力:SSSS1488→I0

 

 耐久:SSSS1421→I0

 

 器用:SSSS1543→I0

 

 敏捷:SSSSSS1902→I0

 

 魔力:SS1001→I0

 

 幸運:I

 

 耐異常:I

 

 《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

・速攻魔法

 

《スキル》

 

 

 

英雄願望(アルゴノゥト)

 

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

 

 

そこに書かれていたのは、あり得ない文字の羅列だった。当たり前の様に999を超える【ステイタス】、それも敏捷1902ってなんだよ!ジェット機でも目指してんのかよ!?

 

「色の方がぶっ壊れてるだろ!!Lv.が上がる速さも異常だし、ポンポン新しい《魔法》を覚えるし、大体何でLv.が上がったばかりの【ステイタス】に経験値(エクセリア)が溜まってるんだよ!!!この、黒鐘 バグッ!!」

 

「うおッ!?」

 

言うな否や、ベルが負けじと俺に向かって【ステイタス】を投つけてくる

 

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.2→Lv.3

 

 力 :S999→I0

 

 耐久:S999→I0

 

 器用:S999→I0

 

 敏捷:S999→I0

 

 魔力:S999→C600

 

 耐異常:I

 

 祝福:I

 

 《魔法》

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

 

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

 《呪詛(カース)

 

食蜂操祈(メンタルアウト)

 

・特定の一工程(シングルアクション)による、精神操作

 

・自身のLv以下限定

 

・人類以外には失敗(ファンブル)

 

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

 

 

「しかも祝福ってなんなのさ!!僕の幸運の真似!?」

 

「誰がお前の真似だッ!?それに【食蜂操祈(メンタルアウト)】は《魔法》じゃなくて《呪詛(カース)》ですー、勘違いしないで下さいー」

 

「どっちも魔力使ってるんだから一緒だろ!」

 

「一緒じゃねぇ!、ていうかお前、何で魔力までSSいってるの?馬鹿なの?」

 

「色だって、馬鹿みたいな《スキル》使ってるだろ!!!」

 

「お前の【ステイタス】よりかは100倍マシだぁ!!」

 

「色の方がッ・・・」

 

「ベルの方がッ・・・」

 

勝負の結果は引き分け、奇跡的に【食蜂操祈(メンタルアウト)】の精神支配と【英雄願望(アルゴノゥト)】の蹴りが同じタイミングで炸裂したのだ、その結果、二人とも気絶するという形で、この勝負の幕は下りた。その二人は、ワァーワァー、ギャーギャー、どちらの方が、ふざけた【ステイタス】なのか言い合っていた。

 

 

 

「まるで兄弟みたいだね、あの二人」

 

「止めなくていいんですか?」

 

「ああいうのはほっとくのが一番だぞ?」

 

「そうですね、自分の故郷でも兄弟喧嘩はよくありましたが、結局最後には、仲直りをするものです」

 

「「この、チート野郎!!」」

 

「「「お前らが言うな!!!!!」」」

 

まるで息を合わせたみたいに、二人に突っ込んだ【眷属(ファミリア)】を見ながら、女神ヘスティアは微笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から【ヘスティア・ファミリア】の魔改造はっじまっるよー!!


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第13話 とあるファミリアの華麗なる一日

まともな常識がある+真面目+このファミリアに入った=今回の犠牲者


とある方向から鐘の音が鳴り響いた。

 

広大な外壁に、一つだけしかないこじんまりとした門、その奥に佇むな建物の外観は正に教会と言っていい程に白く、清楚な雰囲気に包まれている。

 

しかしそれは一階、眷属(ファミリア)全員が使用する共同スペースだ、二階からは下の外観とは異なり、黒色の壁、各個人それぞれの部屋が用意されている居住スペースとなっている。

 

そして 、白と黒が入り乱れている外観の三階は、神ヘスティアのために作られた、大量の本棚が置かれている図書室。

 

最後に館の名前の所以、屋根にある巨大な白と黒の、二つの釣鐘

 

鐘楼 (しょうろう)の館

 

ただいま建築中の【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)の名だ。

 

自身に宛がわれた、今だ本が置かれていない、本棚ばかりの読書ルームで、一人何かを書いているヘスティアは一段落したのか、腕を伸ばしながら背もたれに寄りかかった

 

「うーん、出来たー。散々迷ったけど、やっぱこれでいいや、いや、これがいい」

 

書き終えた一枚の羊皮紙を満足げに見ていると、まだ建設途中のこの館に入って来た人物が、これから自分の聖域となるだろう場所の扉を荒々しく開けた

 

「ヘスティアァ!」

 

「ひぅっ!?」

 

勢いよく開けられた扉に驚き、固まっている主神に、黒鐘 色は怒りの形相で睨みつける

 

「ななななんだい色君、ど、どうしたんだい?」

 

「どうしたんだい、じゃねぇよ!これ見てみろ」

 

そう言って机に叩きつけられた情報誌にはこう書かれていた

 

『【ヘスティア・ファミリア】が【アポロン・ファミリア】に圧倒的勝利!!立役者は、【リトル・ルーキー】ベル・クラネルと他者を寄せ付けない圧倒的速度でLv.3まで上り詰めた、【滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)超新星(ビックバン)黒鐘 色(くろがね しき)

 

「なぁ、ヘスティア。昨日の神会(デナトゥス)に出るとき言ったよな、今度は無難な二つ名に変えて見せるって、なのにナニコレ?」

 

「い、いやでもほら、変える事には成功して「なんも成功してねぇよッ!?」ひぃっ!!」

 

「言ったよな!!あんだけ圧倒的に勝利したボクの眷属(ファミリア)に逆らおうと思う神はそうは居ないって言ったよな!!なんだこれ!?増えてるだけじゃん!超新星(ビックバン)が増えてるだけじゃん!!しかも超新星(ビックバン)ってなんも捻って無いじゃん!!ただ適当に付け足した感丸出しじゃん!!俺がここまで来るまでになんて言われたか知ってるか?もう皆略してカラスとしか呼んでくれねぇよ!?どうすんだよこれ!?どうすんだよヘスティアぁっぁぁぁあああ」

 

「ししし仕方ないじゃ無いか!?ボクだってフレイヤがここまで食いついて来るとは思わなかったんだよ!」

 

「フレイヤって誰だよ!?そいつか!そいつが俺の二つ名をカオスな事にしている張本人か!!よしッ今から抗議に行ってやる!!」

 

「ま、待つんだ色君!それはまずい、ちょっ、まっ、話、話を聞くんだ色君!?」

 

抱き着きながら引きずられているヘスティアは必死になって声を荒げた

 

「離せヘスティア!どんな奴かは知らんが一発ガツンと言って来てやる!!」

 

「駄目だ駄目だ、いくら色君でもフレイヤの所は駄目だ!あのファミリアはオラリオで1,2を争うファミリアなんだぞ!!」」

 

「はぁ!?なんだそれ!?じゃあ何か?俺の二つ名はこのままずっと、【滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)超新星(ビックバン)】なのかよ!?」

 

「そうだよ!!少なくともボク達がオラリオで一番強い勢力にならない限りは、君の二つ名はずっと、【滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)超新星(ビックバン)】だ!!」

 

ぜぇぜぇ、はぁはぁ、と声を荒げた二人は肩で息をしながらお互い下を向いている

 

「なんだそれ、何でこんな中二病、セカンドルーキーとかでよかったじゃん、一番強いファミリアって・・・」

 

「色君はこっち()よりの感性なんだね・・・まぁ今はその事は置いといて、これを見てくれよ、色君!」

 

顔を上げたヘスティアは色の目の前に一枚の羊皮紙を広げた

 

「これは?」

 

「ボク達の【ファミリア】のエンブレムさ!迷いに迷ってようやく完成したんだぜ!」

 

見せつけられたエンブレムを見ながら色は苦笑いした

 

「どうだいどうだい!カッコいいだろ!!」

 

「うーん、なんていうか、あれだな、凄く俺達っぽい」

 

ヘスティアが待つ羊皮紙には白と黒の二つの鐘、それを包み込むように後ろで揺らめく炎が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さんおはようございます。リリはリリルカ・アーデと言います。今日は【ヘスティア・ファミリア】の日常風景を紹介したいと思います。

 

まず皆様、朝はかなり早く起きます、ていうか鐘の音によって起こされます。理由は色様が言い出した早朝訓練を行う為です。強制的に起こされ、目を擦りながら割と大きな庭の方に行き、まずは準備運動から始めます。

 

「♪♪♪♪♪」

 

色様が持っているスマホという道具から軽快な音楽と準備運動の指示をする声が流れ、それに従い体を動かしていきます。しかし何度見てもスマホと言う道具は不思議ですね、色様の世界の物らしいのですが、《魔法》で充電?をする事で動くらしいです。色様の世界では電属性の魔法が多様されているのでしょうか?

 

さて準備運動が終わりました。ここから先は本格的な訓練の時間です。訓練の内容は、腕立て100回、腹筋100回、背筋100回、スクワット100回、ダッシュ50M(メドル)を折り返し、それを2セットやります。

 

そしてそれを行っている現在のリリは・・・

 

 

死にかけています

 

「あがががががががが」

 

もう一度言います。死にかけています!!

 

さて、どうして死にかけているかと言いますと、その訓練の最後に、この一言が付け加えられるからです。

 

 

ヤマト・命の【フツノミタマ】を受けながら

 

 

 

これを考えた人は馬鹿じゃないんですかね!!つまり色様は馬鹿ですね!!知ってましたよこん畜生!

 

勿論、Lv.1のリリがLv.2の命様の《魔法》に耐えられるわけも無く、気を失って死なない様に、必死に手足をジタバタさせているのがこの訓練の風景です。

 

地獄です。

 

それでも首ぐらいは回せるので、せっかくですし皆様の様子を見てみようと思います。

 

「うぐぐぐぐぐぐ!!」

 

まず、ヴェルフ様はリリと違ってLv.2なので何とか体を動かせているみたいですね、それでも滴る汗の量からかなり無理をしているご様子、一回一回腕立てするのもしんどそうです。

 

まぁリリは腕立てなんて出来ないですし、しんどそう、というより死にそうですけどね!!

 

次に命様を見てみましょう

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ!!」

 

必死です、必死に《魔法》を発動させています。もうかれこれ15分ぐらいになりますが、全力で【フツノミタマ】を発動させ続けるのはキツイ見たいですね。足元に精神力が切れかけた時用の精神力回復特効薬(マジック・ポーション)が20本程置かれているのがエゲツないです。

 

因みにリリの目の前にも救済措置のために高等回復薬(ハイ・ポーション)が置かれています。勿体ないので使いませんけどね!

 

さて、最後にベル様と色様を見てみましょう

 

「うおおおおおおお!!!」

 

「ああああああああ!!!」

 

もうスクワットまでいっています、速いです。ていうか色様は《スキル》を使うのは卑怯なんじゃないでしょうか?本人は《魔法》以外の向き(ベクトル)を操っているから負荷はかかっている、なんて言ってましたが・・・まぁ実際に【ステイタス】には効果が出てたっぽいらしいので何も文句は言えません。

 

「命さん!ちょっと威力落ちてきてますよ!!」

 

「は、はい!すみません!!」

 

あ、ベル様が余計な事を言ってしまいましたので体にかかる重力が増しました、体が潰れる前に高等回復薬(ハイ・ポーション)を飲まなくては・・・あれ?重すぎて腕が上がらない?

 

「リリは・・・ここまで・・・らしい・・・です・・・ガクッ」

 

リリが最後に見たのはスクワットを終えて走り去っていくベル様と色様の靴の裏でした

 

 

 

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・」

 

「お、お疲れさまだね、サポーター君」

 

早朝訓練を何とか生き残ったリリはヘスティア様から貰った、程よく冷やされた水を一気に飲み干しました

 

「ング・・ング・・ぷはぁ・・・そ、そろそろ死にます、リリは死んでしまいますぅ」

 

そう言いながら一階にある大広間の、やたらと大きい机に突っ伏します、あぁひんやりしていて気持ちいい

 

「えーと、朝ご飯はどうするんだい?」

 

「はぁ、はぁ・・・あ、後でいただくのでお弁当にしてもらっていいですか?」

 

「了解したよ、ベル君と色君はどうする?」

 

「今食べます!」

 

「今食べる!」

 

ヘスティア様が早朝訓練をしている時に、何時も作ってくれている朝食を二人は美味しそうに食べています。ちょっとムカつきます。

 

因みにヴェルフ様はリリ同様机に突っ伏し、命様に至っては

 

・・ピク・・・ピク

 

リリより死にかけています。全力で《魔法》を使うという事は全力で走るのと同義ですからね、いくら精神力回復薬(マジック・ポーション)を飲みながらと言ってもそれを1時間も続けていたら、こうなるらしいです。知りたくもない知識がどんどんリリの頭に刻まれていきます

 

「それにしてもサポーター君も大分成長したよね、最初の方は今の命君みたいにソファーに倒れて痙攣するだけだったのに」

 

「ああ、そうですね・・・だって成長しないと成長した命様に殺されますから・・・・ふふふ」

 

そうなんですよ、この訓練のエゲツない所はこっちが少しでも経験値(エクセリア)の溜まりが遅かったら死が待っているという所です

 

意味がわかりません。

 

しかし、この訓練を始めた頃はリリも抗議しましたよ?こんなの人間の所業じゃない!って。でも更新された【ステイタス】を見たら何も言えなくなりました。

 

だってもう滅茶苦茶上がってたんですよ、色様は異世界の物語でやっている修行法とか言ってましたけど、その物語の主人公、星を破壊できる程に強くなってるんですよね・・・リリ達もそれぐらい強くなったらどうしましょうか?

 

「それじゃあ、そろそろダンジョンに行こうか」

 

「オッケー」

 

「「「・・・・・」」」

 

「そ、それじゃあ皆気をつけて行っておいで!」

 

暫く休憩した後、ベル様が何時ものように皆様に声をかけてきます。そして何時ものように早朝訓練で疲れきっている色様以外の皆様が無言で立ち上がり、何時ものようにヘスティア様が見送ってくれます。

 

「いってきます!それじゃあ色、何時ものお願い」

 

「あいよ」

 

そして最後に色様が右手をホームの屋根の方へ向け

 

「ほいっ!」

 

ゴーン、ゴーン

 

スキルを使い、二つの鐘楼を鳴らしました。さて、今日はどんな冒険がリリ達を待ち受けているのでしょうか、少しドキドキしながら、リュックを背負い直します。

 

「お、おい鐘がなったぞ!」

 

「やべぇもうそんな時間か、はやく上層の奴らに知らせろ!!」

 

「『怪物進撃(デス・パレード)』が来るぞー!!!」

 

なんだかここら辺は騒がしいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

あっという間に中層です、上層?いつも通りモンスターがわんさか出てきましたよ?

 

「結構あっさり16階層まで来ちゃったね」

 

「ベルやクロッチがランクアップしたからな、それにこの前と違ってクロッチが迷子になって無いし」

 

「ヴェルフ、ただでさえあの二つ名で恥ずかしいのにクロッチは止めてくれって言ってるだろ?それにあれは事故だぜ事故、俺は悪くなーい。」

 

「悪くなーいじゃないですよ。前の時だって色様が居ればあんなにボロボロにならなくて済んだんですからね、少しは反省してください」

 

「まぁまぁリリ殿、今は自分が居るので誰かが迷子になる事なんてないですよ」

 

「それは、そうですが・・・」

 

確かに命様の《スキル》があれば誰かが迷子になる事なんて事は無いと思いたいですが、リリ達に常識は通じませんから、少し心配です。

 

「おっ、いるいるめっちゃいるじゃん」

 

16階層にある割と広いルームに着きました。先行していた色様がこっちに向かって手を振ってきます。さて、ここからが本番ですね

 

「色、数はどれぐらい?」

 

「うーん、多すぎて解んね、とりあえず100以上は居ると思うぞ?」

 

「なぁリリスケ、魔剣使うか?」

 

「そうですね、命様、一応【八咫黒烏(ヤタノクロガラス)】を発動して貰っていいですか?」

 

「は、はい・・・ファッ!?ミノタウロスが78!?他のモンスターを併せると169体ぐらいです!!「その程度なら魔剣は必要ないですね」はいぃぃぃ!?」

 

何やら騒ぎ出した命様をほっといて、少し小高くなっているルームの入り口から眼下を見下ろします。いつも通りモンスターがひしめき合ってますね。

 

「ベル様とヴェルフ様、武器はどうしますか?」

 

「僕はヴェルフが新しく作ってくれた大剣を使ってみようかな」

 

「俺は何時ものでいいぞ」

 

「あ、あの少し落ち着き過ぎでは!?」

 

「はい、これとこれですね。色様は今日は何かやりたいことが有るんですよね?」

 

「おう、リリそのリモコン取ってくれ」

 

「こっち、こっち見てます!!モンスターの大群がこっち見てます!!!」

 

「これですか?ヴェルフ様に何個か作って貰ってましたけど、これボタンが着いてるただの箱ですよね?」

 

「いいんだよ、《呪詛(カース)》のトリガーはボタンを押す事だからな。別に形さえそれっぽかったら問題ない」

 

「来てますよー!!モンスターが向かって来てますよー!!!!」

 

「まぁ、リリは後方支援に徹するので、皆様はいつもどうり好きなだけ暴れてください」

 

「うん、それじゃ、行ってきます!!」

 

「はぁ、俺も大分毒されて来たな」

 

「よっしゃ!命ちゃん、今日はあいつら相手に平行詠唱の訓練だ。接近戦は俺が【食蜂操祈(メンタルアウト)】で補助するから、詠唱頑張ってね!」

 

「は?何か言い・・・てえぇ!?体が勝手に!?」

 

皆様行ってしましました。こうなってしまったら、リリは後ろから皆様が囲まれない様に指示するぐらいしかやる事がないんですよね、少し寂しいです。

 

嘘です、やっぱりちょっとホッとしています。

 

「イヤァァァァ!!!無理です!色殿!?無理ですよォォォォ!!!!」

 

「出来るって!ほら詠唱して詠唱」

 

あーあ、命様がミノタウロスの群れに突っ込んでいきました。平行詠唱の訓練とか言われてましたけど、あれはただの苛めじゃないのでしょうか?

 

「う・・・ぐ・・・これも修行、やるしかない!!【掛けまくも畏(かしこ)き――いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を。救え浄化の光、破邪の刃。払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう)。今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい)】・・・【フツノミタマ】!!て、えええええ!!!出来てる!?自分、平行詠唱出来てる!?」

 

「だから出来るって言ったじゃん。最初は体の制御は俺に任せて、そのまま平行詠唱の感覚を体に馴染ませていこう!」

 

「は、はい!」

 

質が悪いのはその苛めが割と身になるところでしょうか。いや、やってることは無茶苦茶なんですけどね?それでも実際結果を残してるんですから誰も文句を言えないわけでして。

 

「色様って教育に才能が有りますよね」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ん?なんだって?」

 

「なんでもありませんよ、はい回復薬(ポーション)です」

 

「あー、水でいい、疲れたからちょっと休憩しようと思ってたんだよ」

 

そう言って、息を荒げながらリリの所まで来た色様は、座り込みながら水を飲み始めました。

 

「大丈夫ですか?《呪詛(カース)》の罰則(ペナルティ)で体力が極端に減るんですよね」

 

「大丈夫だぞ、正確には体力の上限が低くなる、だからな。こうやって座って体力を消耗しなければ問題ない。まぁ流石に【一方通行(アクセラレータ)】を使って動いてるのに、こんな直ぐにバテるとは思ってなかったぜ、マジでみさきちの体力かよ」

 

「はぁ、でも命様は大丈夫なのですか?現在近くにいた色様が抜けて大分苦戦していられるようですが?」

 

「大丈夫だって、電撃で援護するし、俺だって伊達に37階層のモンスターと戦ってたわけじゃないんだぜ?あれ位のモンスターなら命ちゃんの体を操って余裕で全滅まで持ってってやる」

 

「そうですか、しかし37階層ではレーダーを使っていたから集団戦闘が出来ていたのでは無いのですか?電撃を攻撃に使っていたらここから見えない敵に対して対処できないのでは?」

 

「え?」

 

「へ?」

 

あ、命様がミノタウロスの群れに飲み込まれました

 

「命ちゃぁぁああああああああああん!!!」

 

やっぱり色様に教育は無理そうですね

 

「さて、リリも魔石を集めるために行きますか」

 

そう言いながらリリも大分少なくなったモンスターの集団に突っ込んでいきます。

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・酷い目に会いました」

 

「ごめんね命ちゃん、次は気をつけるから」

 

「ええと、はい、よろしくお願いします・・・うぅ、成功した手前、二度とやりたくないと言えない自分が恨めしい」

 

「モグモグ、色様は・・・ゴクン、もうちょっと常識ってものを覚えた方がいいですよ・・・ムシャムシャ」

 

「あんなことがあった後に平然と飯を食っているリリスケも大概だと思うぞ?」

 

「大丈夫ですよ命さん、その内慣れますから!」

 

「自分の常識が崩れていく音が聞こえてきます」

 

命様をなんとか救い出して、モンスターの大群を蹴散らした後、リリ達はようやく17階層まで来られました。さて、来られたのはいいのですが・・・

 

「ベル様、色様、どう思いますか?」

 

リリの言葉にベル様は顎に手を当て、色様は頭を掻きながら皆様に聴こえるように一言だけ言いました

 

「来るよね」

 

「来るだろ」

 

「ですよね」

 

声を揃えたお二人にリリも頷きます

 

「ヴェルフ様、命様、魔剣を5本ずつ渡しておきますね、それとバックパックはここら辺に置いて置きましょうか」

 

「おいおい、いきなりどうしたんだよ」

 

「あの、説明していただいてよろしいですか?リリ殿」

 

このパーティーに入って間もないお二人は、やはり、この異常事態に気付いていませんでしたか。しかし時間があまりないと思いますので、手短に説明するとしましょう

 

「リリ達が17階層に入ってから、今向かっている18階層に来るまでにモンスターがどれだけ出て来たか覚えていますか?」

 

「えっと・・・あれ?この階層に入ってからは一体も出てきてない?」

 

「そういえば、確かにそうだな、それと何か関係あるのか?」

 

「大ありです。時に命様、9階層から11階層に出来た大穴は知っていますか?」

 

「それは勿論です、原因不明の爆発で出来た大穴の事ですよね?あれのせいで自分達も一時ダンジョンに行けなくて困っ・・・て?あれ、リリ殿?なぜ今そのような話を・・・」

 

信じられないような目で見てくる命様にリリは真実を突き付けます。

 

「あの穴が出来る前もこんな感じにモンスターが出て来なかったんです。その後は少し・・・ええ、さっきのに比べたら大したことないのですが、当時のリリ達にとって少し大変な事態に陥ってしまって、その結果があの大穴に繋がるんですけど、おっと、もう嘆きの帯壁ですか、気を引き締めてください」

 

「何が、何が起きたのか教えて欲しいのですが、リリ殿!?」

 

「命ちゃん、ちょっとだけ声のボリューム下げてね、多分結構ヤバいかも」

 

「理不尽!?」

 

慌てふためく命様に色様が、すかさず声を掛けました。ヴェルフ様はだいぶ慣れて来たのか、神妙に自身の獲物を構えます

 

 

そして、リリ達は嘆きの帯壁のある大広間の中心部に到着し・・・

 

「来るよ!!皆!!!!」

 

地響きが鳴り、ベル様の声を合図に大広間全域の壁にビキリ、と罅が入りました・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォン、ゴォォォン

 

鐘楼の館方面から鐘の音が聞こえて来ます。どうやら色様がスキルを使ったようですね

 

「おい、鐘の音が鳴ったぞ」

 

「よっしゃ、これで安心してダンジョンに行けるぜ」

 

「オイお前ら今からダンジョンに行くぞ!!」

 

「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

「なんだか、うるさいですね。それにしても一人頭2000万ヴァリスぐらいはすると思ったのですが、まさか1600万ヴァリスだったとは、もしかしてボラれました?」

 

「リリスケ、何度も言われただろ?前例が無いから今はこれで勘弁してくれって、別にボラれたわじゃ無いんだから、その魔剣をしまえ」

 

「むぅ、それはそうですが。所でヴェルフ様?最近動きが、ぎこちない気がするのですが、体はちゃんと休めてますか?」

 

「うっ・・・リリスケは心配性だな、気のせいだ、気のせい」

 

ヴェルフ様はそう言ってますが、明らかに動揺しましたよね・・・怪しい

 

「ヴェルフ様は「おーい、ヴェルフ殿とリリルカ殿じゃねーか!」・・・ん?あれは」

 

此方に大柄な男性冒険者様が手を振りながら駆け寄ってきました

 

「【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花様じゃないですか、お久しぶりです」

 

「おう、リリルカ殿は久しぶりだな、て言うかよリリルカ殿、俺の事は桜花って呼び捨てにしていいって言ってるだろ?」

 

「リリはサポーターですからそうは行きません。桜花様の方こそリリをリリルカ殿と呼ぶのは止めて貰えませんか?」

 

「それは出来ねぇな、お前らには、あの時千草・・・いや、【タケミカヅチ・ファミリア】を救ってくれた大恩があるんだ、命をそっちに預けた事を差っ引いても返しきれねぇよ、だからせめて、その恩を返す時まで俺はこの呼び方で呼ばせてもらう」

 

その言葉にリリは深い溜息を付きました。恩って言われましても、モンスターは怪物進呈(パス・パレード)をされたと思った瞬間には色様とベル様が倒してましたし、千草様に回復薬(ポーション)を使ったのも、単にそれまでリリ達が全く使う必要が無かったからだけなんですよねぇ。

 

しかもその後に痛い目を見ましたから、今後そのような人助けはしない様に思っていましたし、少しだけ罪悪感を感じます

 

「なぁヴェルフ殿、俺達今日は休息日なんだが、良かったら一緒に呑みにいかないか?」

 

「悪ぃな桜花、今日はちょっと無理そうだ」

 

ヴェルフ様の肩に手を回した桜花様は残念そうな顔で、そうか、とだけ呟きました。それにしてもこのお二人は仲がいいですね、中層に帰ってからも、ちょいくちょく食事を一緒に食べに行っているぐらいには

 

「ってそうだ、あんな所で膝を抱えて座ってる命はどうしたんだ?なんかぶつぶつ言っているようだが」

 

「不幸な事故ですよ、不幸な事故」

 

「そうだな、不幸な事故だ」

 

ヴェルフ様と一緒に命様とは反対の方向を向きます、決して死んだ目で膝を抱えながら「ゴライアスが一体・・・ゴライアスが二体・・・」と呟いている命様が怖いわけではありませんよ

 

「ゴライアスを五体同時に相手にしたってどういう事ぉ!?」

 

・・・決して

 

 

 

 

 

 

 

「全く、色様はなんでも正直に話しすぎなんですよ。もしリリ達が換金した額がバレて襲われでもしたらどうするんですか」

 

「悪かったって、でも何かミィシャさんには嘘が通じないんだよなぁ。今日もしきりに、何かあったんだよね?って聞かれるし」

 

「色も?僕もエイナさんに何回も聞かれた」

 

「女の勘は侮れないって言うしな、ベルもクロも災難だったな」

 

「あんなバカデカい魔石を五つも引きずって帰ったら、誰だって気付くって解りましょうよぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「冗談だよ」

 

「冗談だぜ」

 

「冗談です」

 

「冗談だ」

 

「ちくしょぉぉぉ!!!」

 

あっはっはっ命様は面白い方ですね。現在リリ達は茜色に染まる夕日を背に、鐘楼の館(ホーム)に帰っている最中です。皆さんが背負っているバックパックは何千万ヴァリスでパンパンのウハウハです

 

「それにしても稼いだなぁ、まぁ欲を言えば16階層までの分もリヴィラじゃなくて地上で換金したかったけどな」

 

「それは無理ですよ色様、ただでさえゴライアスの魔石でいっぱいいっぱいだったんですから、少し人手が足りません」

 

「ていうより色の《スキル》が無かったらあんな物持って帰れなかったけどね」

 

「道を触れるだけで広げて行ってたもんな、魔石だって二つ同時に持ち上げてたし、まぁベルも2つ引きずってたけど」

 

「自分の常識が・・・あれ?常識ってなんだっけ?」

 

また命様が一人でブツブツ言いだしました、大丈夫でしょうか?・・・ん?あの方は

 

「あ、やっば、色!!こっち、こっちから帰ろ!!」

 

「お前は何を言って・・・おやぁ、これはこれは、アイズ・ヴァレンシュタインさんじゃないですかぁ」

 

曲がり角を曲がってきたのは金髪に金色の瞳を持つ『剣姫』、アイズ・ヴァレンシュタイン様です。

 

「貴方言いましたよねぇ、俺が努力してないって、それで?努力してLv.3になった俺に何か言う事は無いんですかぁ金髪ゥ」

 

「ヴェルフ様?どうしてうちの副団長様は『剣姫』に挑発的な態度を取っているのですか?」

 

「あー、リリスケは知らないのか、クロと『剣姫』はな、初めて会った時から凄く仲が悪いんだ」

 

仲が悪いですか、しかし色様と剣姫様は自ら事を荒立てるタイプじゃないと思うのですが、いったい何があったのでしょう

 

「どうしましたぁ、だんまりですかぁ、謝罪の一つでも貰いたいものですねぇ」

 

「・・・」

 

「あ、あの色殿、そこまでにしといた方が・・・」

 

「皆、僕は神様呼んでくるから、それまで頼んだよ!」

 

「え?ちょっとベル様!?」

 

そのままベル様は風の様に走り去っていきました、あれ?もしかしてこれは結構ヤバいのでは?

 

「おいクロ!そこまでにしとけ!」

 

「そうですよ色様、もうそろそろ帰りましょう!」

 

「断る!大体この馬鹿二回も俺の事をいきなり殴ってきやがったんだぞ?何で俺が引き下がらなきゃならんのだ」

 

ちょっと色様!?馬鹿は駄目ですよ馬鹿は、ほら『剣姫』様の顔が『剣鬼』様になってますよぉぉぉ!!

 

「・・・してやる」

 

「ん?なんだってぇ?もっと大きな声で謝罪してくれませんかねぇ金髪ゥ」

 

「ブッ殺してやる!!」

 

あ、抜刀なされました。

 

「来いや金髪!積年の恨み晴らしてやる!!」

 

「うるさいクソ虫」

 

「ぷべらッ!!」

 

えぇ、ランクアップした色様を一瞬で吹っ飛ばすとか『剣姫』ってやっぱり凄いんですね。あ、色様がマウントポジションを取られました。

 

「君が、泣くまで、殴るのをやめないッ!」

 

「止めてくだされ『剣姫』殿ぉぉ!!色殿が、色殿が死んでしまいます!!!」

 

「ヴェルフ様、リリはこういう時どうしたらいいのでしょうか、止められる気がしないのですが」

 

「信じるしかないだろ?ベルが早く帰ってくるのを」

 

「ですよねー」

 

結局夕日が沈むまで色様はアイズ様にボコボコにされてました。

 

「こんなのが落ちでよろしいのでしょうか?」

 

「何言ってるんだリリスケ?」

 

「いえ、何でもありません」

 

 

 

 

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

 Lv.1

 

 力:F382

 

 耐久:D501

 

 器用:F356

 

 敏捷:E498

 

 魔力:E421

 

《魔法》 

 

【シンダー・エラ】

 

・変身魔法

 

・変身後は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は失敗(ファンブル)

 

・模倣推奨

 

・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

 

・解呪式【響く十二時のお告げ】

 

《スキル》

 

縁下力持(アーテル・アシスト)

 

・一定以上の装備加重時における補正。

 

・能力補正は重量に比例。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛って、マジあの金髪ムカつく!!いつか絶対泣かす!!」

 

「まぁまぁ、ほら、そのおかげで耐久値が凄く伸びてるよ?」

 

「うれしくねぇよ!?大体あいつの攻撃一発でもまともに受けたら体に穴空いてるからな!!冗談じゃねぇ!?」

 

俺はヘスティアに声を荒げる、仮に【一方通行(アクセラレータ)】が無かった場合、俺は最初に会った時の一撃で殺されていたのではないのだろうか?

 

「お、落ち着くんだ色君「ちょっとクロ借りていいか?」・・・おぉ、ヴェルフ君!色君の【ステイタス】更新は今終わったばかりだ。ほら色君、ヴェルフ君が来たよ!」

 

唐突に開けられた扉の前でヴェルフは呼び掛けて来た。これ幸いとばかりに俺をヴェルフに押し付け、すぐにヘスティアはベルの部屋に突貫していった。

 

「ヘスティア様は本当にベルの事が好きだよな」

 

「全くアイツは、それはそうとまた例のあれか?ヴェルフ?」

 

「あぁ、すまねぇが頼むぜクロ」

 

俺とヴェルフは鐘楼の館の離れにあるヴェルフの工房に足を運んでいく。

 

「それにしてもクロって、何の捻りもないよな」

 

「しょうがないだろ、だったらまたクロッチて呼んでもいいか?」

 

「勘弁してくれ」

 

二人して話しながら歩いていると、不意にヴェルフの方からバキッ!という何かが壊れた音が聞こえた

 

「チッ、此処までか」

 

「おぉ、でも今日は一日持ったんだから上々じゃね?」

 

「いや、まだまだだ、せめて三日ぐらいはもたしてぇ」

 

ヴェルフは懐から一本の壊れた魔剣を取り出した。それは重力を生み出す魔剣『鈍刀・重』、俺の話を参考にヴェルフが作った、自身に重力の負荷を掛ける、修行用の魔剣だった

 

「俺にも一本作ってくれよ、少しは経験値(エクセリア)の足しになるだろ?」

 

「多分意味ねぇぞ?これはLv.2の俺にとっては結構な負荷にはなってるが、Lv.3のクロには殆ど無意味だ」

 

「力の差があり過ぎるって事か?」

 

「ま、そう言う事だな、てなわけで今日も参考までにお前の世界の話を聞かせてくれ」

 

「オーケー、じゃあ今日は炎が腕から出せる少年と不思議な武器を扱う集団の話でもするか」

 

こうして【ヘスティア・ファミリア】の一日は終わっていく。

 

 




次回から原作との乖離が大きくなっていきます。


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第14話 弟子入り

主人公がアイズと敵対することによって、こういう革命が起こる


黒髪黒目黒の制服黒のガントレットという格好の少年は現在中層のルームで一人、モンスターの群れと戦っていた

 

『オボォ!』

 

「うーんやっぱり此処じゃ全然足りねえ。はぁ、もういいや、帰ろ」

 

『『『『『『グギャァァアアアア!!!』』』』』』

 

牛頭の化け物、『ミノタウロス』の胴体に黒のガントレットで穴を開け、ついでに周りにいるモンスターを鬱陶しそうに電撃で一掃する。

 

「一人で37階層まで行くわけにはいかねぇしな・・クソッ!」

 

少年は苛立ち混じりにサッカーボールを蹴る様に地面を力強く蹴った。しかし、たったそれだけで地面は捲り上がり、中層のルームの地形が変わる

 

「あぁもう!マジでムカつくあの糞女ぁぁぁ!!!」

 

思い浮かべるのは金眼金髪の少女

 

「何が【剣姫】だ!何がオラリオ最強の女剣士だ!あんなのただの暴力女じゃねぇか!!!!」

 

それは今までため込んでいた怒りだった。わざわざ休息日に訓練をするために中層まで足を運んだ少年は吠える。

 

「いつか絶対にぶっ潰してやるからなぁ!!覚悟しておけよ!アイズ・ヴァレンシュタインイィィィィィィン!!!!!」

 

少年の声は、怒りは、中層のルームに反射して広がっていく。

 

「はぁ、はぁ・・・あーすっきりした、帰ろ帰ろ」

 

「ちょっと待ちなァ」

 

「はい?」

 

少年はそのまま帰ろうとすると、不意に誰も居ない筈のルームから声を掛けられた。

 

「アンタ中々いいことを言うじゃ無いかァ」

 

黒の少年、黒鐘 色(くろがね しき)が振り向くと、そこには褐色の肌のアマゾネスが圧倒的存在感を放ちながら、一人佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ人が疎らな早朝のギルド本部に、桃色の髪が特徴的な女性の挨拶が響いた。

 

「おはようございま~す」

 

「おはよう、ミィシャさん今日も早いね」

 

ミィシャ・フロットの朝は早い、ほんの少し前までは遅刻ギリギリに出勤してきた彼女が此処まで朝早くに出勤するのには理由があった。

 

「どれどれ~、うわっまたいっぱいある」

 

自分専用のデスク机の引き出しを開けると、そこには大量の資料が乱雑に放り込まれている

 

「全く、毎日毎日どうしてあのファミリアは異常が起こるのよぉ」

 

その資料の殆どに記されているファミリア名は【ヘスティア・ファミリア】。ある日ミィシャが監視を命じられた、とある少年の所属するファミリアだ。

 

「うへぇ、何これ?モンスターがスクラムを作って突撃してきた?信憑性に欠けるけど、前回のゴライアス5体同時討伐は本当だったしなぁ」

 

監視といってもミィシャ本人が監視をするのではなく。複数の情報屋を雇い、それぞれ別の時間帯に情報を集めさせていた

 

「う~んこれとこれは昨日聞いた話と一致するし、流石にこれはただの噂かなぁ」

 

どんな小さな噂でも拾う様に、それが彼女が情報屋と交わした契約だ、その莫大な情報の中から丁重に素早く真実か虚偽かを纏めていく

 

「うぅ、情報屋をこんなに雇うんじゃ無かった」

 

しかし、何も考えずに情報屋20人を一気に雇ってしまい、朝早くに来なければ捌ききれない量になっていた。

 

「もう辞めたい、でもやめたら多分・・・」

 

殺されちゃう

 

思い浮かべるのは一回だけ適当に纏めた資料をウラノスに送った時の事だ、その次の日ミィシャの背後に黒衣の人物が唐突に現れた

 

「ミィシャ・フロット、今回君が持って来た資料は少し雑過ぎではないか?」

 

「ひっ!?あ、あなたは?」

 

「私はウラノスの使いの者だ、ミィシャ・フロット、君に一つだけ忠告しよう、もう少し自分の体を大事にすることだ」

 

「えっと、そ、それって?」

 

その言葉だけを残し、瞬きの間に黒衣の人物は忽然と消えていた。しかし、言葉の意味は嫌という程に分かるだろう、今度適当な資料を渡して来たら殺す、つまりはそう言う事だ

 

「はぁ、今日は鐘が鳴らないから休息日かぁ、いいなぁ私も休みたい」

 

適当な情報を提出して殺されない為、その日からミィシャは殆ど休まずにギルドに顔を出し、より精確な情報の整理をしていた、必死である

 

「ん~?むむむむ」

 

「おい、ミィシャ・フロット」

 

真剣に資料を見ている彼女の背後から声を掛けた人物が居た、ロイマン・マルディール、このギルドの事実上のトップである。基本的に他のギルド員には高圧的な態度を取る腹の出たエルフの顔は、ミィシャの前では困り顔だった

 

「その、何だ・・・そろそろ休んだらどうだ?」

 

「・・・・・」

 

その言葉はもう何度目か解らない程かけて来た言葉だ、最初は休まない彼女に対して、中々仕事熱心じゃないか、と言っていた彼だったが、流石に何日も休まず働き続ける彼女に対して何も言わない訳にはいかなくなり、こうして殆ど毎日休む様に言ってるのだが、全く休む気配が無くほとほと困り果てていた

 

「なぁミィシャ、頼むから休んでくれないか?何度も言っているが君は働き過ぎだ、て言うより他のギルド員も君を休ませるように私に言い寄ってくるのだ、そろそろ休んでくれないか?」

 

バンッ!!!

 

「!?」

 

「解りました、私休みます!!ではっ!!」

 

「お、おう」

 

行き成り机を叩いて立ち上がり、走り去っていく彼女をロイマンは頬を引きつらせながら見送った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミィシャ・フロットが向かっているのは、都市南東『歓楽街』であった

 

「もぅ、ほんっとうに信じられない!」

 

怒鳴る彼女の手に持っている複数の資料にはこう書かれている

 

『黒鐘 色は最近『歓楽街』に入り浸っている』

 

「色君の阿保!馬鹿!おたんこなす!エロ助!!」

 

「フロットさん、私に掴まってください。貴方を抱きかかえて走った方が早い」

 

「あ、はい」

 

それが本当かどうか自分で調べる為、彼女はわざわざ自分の足を『歓楽街』に向けていた、なぜか途中で合流した覆面のエルフと共に。そうして一気に『歓楽街』まで来た彼女たち二人は見つけたのだ、黒髪黒目黒の制服黒のガントレットを装備している男、黒鐘 色を

 

「本当にいたぁ!?」

 

「貴方は!どうしてこんな所にいる!ここは貴方がいるべき場所ではない筈です!!」

 

「ちょっ!?ミィシャさんにリオンさんどうしたの?」

 

「「どうしたのじゃない!!」」

 

詰め寄る彼女たちに色は苦笑いしながら後ずさった、そしてポフッと、背後にいる人物にぶつかる

 

「あらぁ、かわいい子達ね、色ちゃんの彼女?」

 

「おっとすいません、て違いますよ、この人達は前に世話になった人たちで」

 

「わぁ、本当かっわいい!!」

 

「アンタも隅に置けないねぇ」

 

「ねぇ、彼女?彼女?」

 

「ちょっ、からかわないで下さいよ!」

 

色の後ろから現れたのはエルフ、アマゾネス、小人族(パルゥム)等、様々な種族の娼婦だった、その娼婦たちに抱き着かれながら、色は二人と自分の関係を説明しようとしていた

 

「まって話を、ておい!何処触ってんだ!?離れろっつうの!!」

 

「「「「「「きゃ~色ちゃんが怒った~」」」」」」

 

「リオンさん、どうしますぅあれ?」

 

「・・・処刑で」

 

因みにその二人は極寒の如し瞳で少年を睨みつけていた。しかしその気配に全く気付かず、色はもみくちゃにされている。そんな色に詰め寄ろうとした二人だが、間から割って入ってきた巨躯に止められた

 

「何してるんだいアンタはァ」

 

「え?あ、すいませんこれから向かおうとしていた所を捕まってしまって」

 

「言い訳はいいから早く来なァ」

 

「おふっ!」

 

「色君!?」

 

「色さん!?」

 

巨大なアマゾネスにガシッと首根っこを掴まれて連れ去られて行く色を二人は慌てて追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何度目になるだろう、向かって来た戦斧を縦に横に、縦横無尽に避けまくる

 

「どうしたどうしたァ!!避けてばっかじゃ死んじまうよォ!!」

 

「ッ!?」

 

戦斧の横っ面でブッ叩かれ、跳ね飛ばされ、民家の壁にブチ当てられながらも、俺は向き(ベクトル)を操り、瓦礫を目の前に迫ってくる、巨大なアマゾネスに散弾銃さながらの勢いで飛ばした

 

「ゲゲゲゲッ!!効かないねェ!」

 

「クッソォ!!」

 

飛ばした瓦礫は褐色の肌に傷一つ付けることは無く叩き落され、突進してきた勢いのまま頭を掴まれ、そのまま勢いよく地面に叩きつけられる

 

「何度もッ!言ってるだろォ!もっと頭を使いなァ!!!!」

 

ガンガンガンガン、何度も何度も頭を地面に叩きつけられ朦朧となる意識の中、初めてこのアマゾネスと戦った時の事を思い出した・・・

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「ゲゲゲゲゲゲッ!!中々やるねェ、でもまだまだアタイには敵わないよォ」

 

「フリュネさん強すぎっすよ」

 

俺の言葉にゲゲゲゲゲゲッ!!と豪快に笑うアマゾネス、フリュネ・ジャミールさんに中層で出会った俺は、何故かそのまま稽古を付けて貰う事になり、手も足も出せずに負け床に倒れこんでいた

 

「お前が単純すぎるのさァ」

 

「えぇ、これでも結構フェイントとか織り交ぜて工夫してるんすよ?」

 

「アタイが言ってるのは技術面の事じゃなくて戦い方の方さァ」

 

「戦い方?」

 

「そうさァ、何処で覚えたのか知らないが、お前の戦い方は避けるか攻撃するかのどっちかだけだろ?そんなもん動きを読んでくれって言ってるようなもんじゃないかァ」

 

その言葉に俺はウッと言葉を詰まらせた、フリュネさんの言葉は正しい、実際にさっきの稽古も拳は愚か雷まで避けられて、こちらに的確に攻撃され惨敗した、その理由はやはり

 

「圧倒的に対人戦の経験不足だねェ」

 

「す、すいません」

 

そう対人戦の経験不足だ、【アポロン・ファミリア】と戦って得られた技術は確かに生かしているのだが、目の前の第一級冒険者には児戯に等しいようで、そのこと如くを叩き潰された

 

「対人戦てのはねェ、ペースの掴み合いなのさァ」

 

「ペースの掴み合い?」

 

下から見上げる俺にフリュネさんは双方のギョロついた目玉を俺に向けてくる

 

「要は相手より自分が優位に立つ状況を作ればいいんだよォ、脚が早い奴が相手なら足を折っちまえばいい、エルフが相手なら詠唱をさせなければいい、自分より実力が上の相手なら罠に嵌めればいい、そういうもんさァ」

 

顔を近づけてくるフリュネさんに思わず後ずざる・・・しかし

 

「『剣姫』を倒したいならそれこそ”どんな手でも”使わないといけない、そう思わないかい黒鐘 色ィ」

 

その言葉に、俺の心は酷くざわついた

 

「・・・・・・フリュネさん」

 

「なんだァい?」

 

「俺を鍛えて貰っていいですか?」

 

「いいのかい?アタイの二つ名は【男殺し(アンドロクトノス)】、お前をぶっ壊してしまうかもしれないよォ?」

 

「望むところです」

 

「ゲ、ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!!!、いいねェ久々に骨のある雄じゃないかァ、精々壊れない様に頑張りなァ」

 

 

 

 

それから、俺は時間があればフリュネ師匠と訓練していた

 

「オラオラどうしたァ、こんなもんかい馬鹿弟子ィ!!!!」

 

「クッ・・・アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

頭を掴んでいる剛腕を掴み返し、体内の向き(ベクトル)を全力で操る、普通の人間ならこれをすれば体がはじけ飛ぶだろう、しかし、師匠の耐久値の前にはほとんど意味をなさなかった。

 

「またこれかいィ?芸が無いんだよォ!!!」

 

「それじゃあこんなのはどうっすか?」

 

「なにィ!?」

 

それでも全く意味が無いわけではなく、掴んでいた剛腕から一瞬だけ力が抜けたことが解った俺はその手を放し地面に叩きつける、ベクトル操作で極限まで威力を高めた両手は地面を砕き、地形を変える程の威力を発揮する。その際に発生せた衝撃のベクトルをさらに操り、力づくでフリュネ師匠の剛腕から脱出した

 

「ゲゲゲゲゲェ!!考えたねェ馬鹿弟子ィ!」

 

「はぁ、はぁ・・・」

 

「でもねェ、休む暇なんて与えないよォ!!」

 

「マジかよッ!!!」

 

投げつけてくるのは大戦斧、ギュルギュル回転しながら真っ直ぐに向かってくるそれは、回避不可能、防御不可能な必中の攻撃、あれが体に当たったら反射など軽く突破されて真っ二つになるだろう

 

「ウッ・・・ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

必要なのはタイミングだった、高速で回転して地面を削りながら突っ込んでくる大戦斧の弱点部分、横っ面をぎりぎりの所で右手で触れ、瞬間にベクトルを操作する

 

「返しますよ!フリュネ師匠!!」

 

体を斧を軸に円盤投げの様に回転させ、さらに加速させた斧とは思えない音を出しているそれをフリュネ師匠に投げ返した

 

「ゲゲゲゲッ!!そんなもん投げ返す暇があるなら雷で攻撃した方がまだ当たるよォ!!」

 

受け止められないと判断したフリュネ師匠は横っ飛びで躱し、勢いを付けて俺に突撃してきた、まるで砲弾の様に突っ込んでくる来る巨躯を前に頬を吊り上げる

 

「掛かりましたねっ!!」

 

「ッ!?」

 

俺は向かってくるフリュネ師匠の足元にある、戦いの中でバレない様にばら撒いていた砂鉄を操った、ヴェルフに態々作って貰ったそれは磁力で高速回転され、フリュネ師匠を飲み込む

 

「これでどうだぁ!!」

 

・・・しかし

 

「解って来たじゃないか馬鹿弟子ィ、でもまだ甘いよォ!!」

 

「嘘だろ!?」

 

フリュネ師匠がとった行動は単純だった、砂鉄の檻を無理矢理ぶち壊し、ただ突っ込んでいく、それだけだ。しかしその行動は磁力を操りレーダーを使えない俺にとっては最悪の事態だった

 

「歯ァ食いしばりなァ!!!」

 

「ちょっ、待っ!?」

 

一瞬で詰められる距離、反応できない俺の片足を掴んだフリュネ師匠は巨大な体を軸に回転し、俺が何かする暇を与えずにそのまま思い切り地面に叩きつけた。

 

「がはぁ!」

 

そのまま俺の体を無茶苦茶に地面や壁にぶつけまくる

 

「グッ、ブフッ、ゴッ!」

 

「もう終わりかいィ!!、そんなんじゃ、何時まで経っても『剣姫』の足元にも及ばないねェ!!!」

 

・・・ぁあ?今何て言った?

 

ギリィ、歯を食い縛る、『剣姫』の足元にも及ばない、それは今の俺にとって逆鱗に触れる言葉だ

 

「ナメんなぁぁぁあああああ!!!!!」

 

「なんだい、まだまだ行けるじゃないかァ!!」

 

巨躯のアマゾネスと黒の少年の戦いは、日没まで延々と続いていく

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、痛そう」

 

「色さんも相変わらず無茶しますね」

 

色から事情を聴いたミィシャとリオンはその過激すぎる訓練の風景をボーと眺めていた、その後ろから一人の娼婦が声を掛けてくる

 

「えっと貴方達、色ちゃんのお友達なのよね?あれを見て何とも思わないの?」

 

「何とも思わない、とはどういう事ですか?」

 

「それは、止めなきゃ、とか死んじゃうんじゃないか、とか」

 

「「全然思いません」」

 

「そ、そう」

 

引きつった笑みを浮かべるヒューマンの娼婦に二人は首を傾げた。何故なら、ミィシャとリオンの記憶に刻まれている37階層の激闘が、黒鐘 色がこの程度の事で死ぬことが無いという絶対の自信に繋がっているからだ。

 

「それにしても色君人気だよねぇ、此処に居る戦闘娼婦(バーベラ)さん達は皆色君の・・・ファンで、いいんだよね?」

 

「そうだよ、此処に居る皆は色君ファンクラブの会員なんだ!」

 

そう言ってくるアマゾネスの少女を筆頭に十数人の娼婦たちはバッと一枚のカードを取り出した、そこには会員番号と黒鐘 色きゅんファンクラブという文字が複数のハートマークと共に書かれている。それを見たリオンは少しだけ眉を寄せた、その表情の変化を見た同族の娼婦が声を掛けてくる

 

「なぁに覆面のエルフさん、もしかして貴方も入りたいの?」

 

「え!?い、いえ、違います・・・ただ」

 

「ただ?」

 

言いづらそうに、リオンは視線を外し声を小さくしながら言った

 

「貴方達娼婦にはあまり色さんに近づいて貰いたくないだけです」

 

「「「「・・・・」」」」

 

その一言に戦闘娼婦(ファンクラブ)全員が無言になった、次の瞬間

 

「「「「「「ぷっ、あははははははは」」」」」」

 

笑いの渦に包まれた

 

「な、何が可笑しいのですか!?」

 

「あははははは!!安心しな、此処に居る皆は色君の事食おうなんてこれっぽっちも思っちゃいないさ」

 

「本当にぃ?だって色君結構カッコいいよ?」

 

ミィシャの一言に今度は戦闘娼婦(ファンクラブ)全員が真顔になり言った

 

「「「「「あのヒキガエル(フリュネ・ジャミール)を相手にして壊れない男なんて相手に出来る訳ないじゃない」」」」」

 

「最初からぶっ飛んでたからねぇあの子」

 

「ほんとほんと、ヒキガエルに何度も地面に叩きつけられて投げ飛ばされてもケロッとして帰って来るの」

 

「しかもその後も普通に動き回ってたものね」

 

「化け物みたいなあの動き見た?」

 

「あんなの相手にしたらこっちの身がもたないよ」

 

「まぁそれでも、あの強さに魅せられたから、こうして私たちはファンになったのよ」

 

「えっと、つまり貴方達は色さんにそう言う事はするつもりは無いと?」

 

「「「「「これっぽっちもありません」」」」」

 

揃って言われた言葉に二人とも微妙な顔をする。その後しばらく他愛のない話をしていると、訓練が終わったのか、ボロボロになった色がこっちに走って来た

 

「お待たせしました、リオンさん、ミィシャさん、今日はもう終わりらしいので夜ご飯一緒に食べに行きますか?」

 

「頑張れ、色君!」

 

「ファイトです色さん!」

 

「何かいきなり慰められた!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォン、ゴォン

 

鐘の音が鳴り響き、複数の冒険者が慌てふためいたその数分後、ダンジョンの入り口に数人の男女が立っていた【ヘスティア・ファミリア】である

 

「さぁ、今日も元気にダンジョンに潜っていこう!!」

 

「「「「・・・・」」」」

 

「おい、どうした?最近皆元気ねぇな、今日は報酬が美味しい冒険者依頼(クエスト)なんだから気合入れろよ?」

 

俺の言葉にまた無言になるベル達に疑問符を浮かべる、ていうかベルが凄い睨んできて怖い

 

「気合入れろよ、じゃないよ!!いつもいつも朝早くから夜遅くまでどこ行ってるのさ!!」

 

「えっ・・・べ、別にどこだっていいだろ?」

 

俺は言葉を濁した、フリュネ師匠との特訓は秘密にしておきたかったのだ。しかし今日のベルは何故かイラついた様子で俺に食いついて来る

 

「よくないよ!!全く、何で肝心な時に色はいないのさ!!」

 

「はぁ!?なんでお前にそこまで言われなきゃいけないんだよ!!お前だって朝帰りしたせいで謹慎くらってただろうが!」

 

「それはこの前謝っただろ!僕が言ってるのは色の事!論点をすり替えないでよ!」

 

「んだとぉ!!」

 

「まぁまぁお二人とも、こんな所で喧嘩しないでください」

 

「そうだ、クロもベルも落ち着け」

 

「はぁ、はぁ・・・なぁ命ちゃん、何なのコイツ?何かあったの?」

 

「・・・」

 

「命ちゃん?」

 

「ハッ!?い、いえなんでしょうか色殿」

 

えぇ、命ちゃんもなんかおかしいんだけど、やっぱり何かあったのか?こういうのって聞いといた方がいいよな

 

「なぁお前ら、本当に何があったんだよ?説明してくれなきゃわかんねぇだろ?」

 

「「「「・・・」」」」

 

沈黙が痛い、確かに最近はあまり鐘楼の館(ホーム)に帰らずにフリュネ師匠と特訓ばかりしていて相談に乗れなかった俺が悪いのかもしれないが、ここまで何も言われないと流石にイラッとした

 

・・・記憶を読もう

 

ポケットに手を突っ込む、そこにある【食蜂操祈(メンタルアウト)】発動用のリモコンに手を掛けようとした時、不意にベルの口が開いた

 

「・・・意味無かったんだ」

 

「は?」

 

「いくらお金を積んでも意味が無かったんだよ!!この冒険者依頼(クエスト)だって、何の意味も無かったんだ!!」

 

「おい、ベル!?」

 

「ベル様!?」

 

「ベル殿!?」

 

ダンジョンとは反対方向に走り去っていくベルを慌てて追いかけようとすると、後ろからヴェルフに肩を掴まれた

 

「すまねぇ、後で事情を話すから今はそっとしておいてくれ」

 

「おい、それってどういう」

 

俺の言葉を聞かずにヴェルフもベルを追いかけていく。俺は釈然としない気持ちのまま立ち尽くしているしかなった

 

「見つけたわよ」

 

青髪眼鏡の女性、アスフィさんに声を掛けられるまでは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、何のようですか?」

 

場所は何時かロキさんと来たカフェ。立ち尽くしていた俺を連れて来たアスフィさんは神妙な面持ちでこちらの事を見ていた

 

「手短に用件を話します」

 

「は、はい」

 

その真剣な表情に俺は思わず背筋を伸ばす

 

「リオンに聞いたのですが、37階層に行かれたんですよね?その時の話を聞きたいのですがよろしいですか?」

 

「いいですよ」

 

「いいのですか!?」

 

何故か驚くアスフィさんに若干驚いたが、まぁ別に減るものでもないし、素直に37階層の事を話すことにした

 

「ギルド職員もついて来たぁ!?」

 

「えぇ!?闘技場(コロシアム)に単独で入ったぁ!?」

 

「ウダイオスと戦ったぁ!!」

 

「それで、無事戻ってきた俺は【アポロン・ファミリア】と戦う事になるのですが、アスフィさん大丈夫ですか?」

 

「はぁ、はぁ・・・大丈夫です、しかし、全部本当の話なんですよね?」

 

「はい、そうですが」

 

「無茶苦茶すぎる・・・」

 

俺の話を聞き終えて、そのまましばらく下を向いていたアスフィさんは、ズレていた眼鏡を掛け直しながら、真っ黒な帽子を渡して来た

 

「えっと、これは?」

 

「これはキュクロプスの羽帽子、私が作った魔道具(マジックアイテム)です。話を聞かしてくれた報酬とLv.3になったお祝いという事で差し上げます」

 

魔道具(マジックアイテム)?」

 

渡された帽子を引っ張ったり、ひっくり返したりしてみたが、その羽帽子(マジックアイテム)の効果は解らない、そんな俺にアスフィさんは少しだけ笑みを浮かべながら、羽帽子(マジックアイテム)の効果を教えてくれる

 

「その羽帽子の効果は被った人物の認識阻害です」

 

「認識阻害?」

 

「はい、実際に見てみる方が早いでしょう」

 

そう言いながらアスフィさんがキュクロプスの羽帽子を被ると、途端にアスフィさんの顔が誰だか解らなくなった

 

「おぉ、凄いですね。でもいいんですか?魔道具(マジックアイテム)って結構な値段がするんじゃ」

 

「さっきも言いましたが、これは貴方へのプレゼントです。それとも気に入りませんでしたか?」

 

「い、いえいえ、嬉しい、超嬉しいっすよアスフィさん!!」

 

ありがたく貰っておこう、こういう好意は素直に受け取っとくべきだ

 

「もうこんな時間でしたか、それじゃあ私はこれで」

 

アスフィさんの視線を辿ると夕日が沈もうとしていた、随分長い事話し込んでいたようだ。今頃ベル達はどうしているのだろうか?早く帰って事情を聞こう

 

「この帽子ありがとうございました」

 

「いえ、それでは・・・また」

 

店の前で帰っていくアスフィさんに手を振っていると、後ろから慌てた声を投げかけられる

 

「い、いたぁ、色君!!大変、大変なんだよぉ!!」

 

「ミィシャさん?」

 

声の主はミィシャさんだった、なぜだか凄く慌てている、なにかあったのだろうか?

 

「はぁはぁ・・・お、落ち着いて聞いてね、これ、ついさっき偶然聞いた話なんだけどね!」

 

「あの、ミィシャさんがいったん落ち着いたらどうですか?」

 

「落ち着いていられないよぉ!?」

 

「えぇ・・・」

 

そのままガシッと俺の肩を掴んだミィシャさんは俺の顔を真っ直ぐ見ながらこう言った

 

「今夜【フレイヤ・ファミリア】が【イシュタル・フミリア】を襲うって情報が入ったの!!!」

 

「・・・・は?」

 

ミィシャさんの言葉に俺は少しの間、頭が真っ白になった

 

その時にはもう、夕日は沈んでいたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.3

 

 力 :G231

 

 耐久:C657

 

 器用:H121

 

 敏捷:G255

 

 魔力:C632

 

 耐異常:I

 

 祝福:I

 

 《魔法》

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

 

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

 

呪詛(カース)

 

食蜂操祈(メンタルアウト)

 

・特定の一工程(シングルアクション)による、精神操作

 

・自身のLv以下限定

 

・人類以外には失敗(ファンブル)

 

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 




実はヒキガエルの師匠化は最初にこうしようと決めていた事の一つだったりする


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第15話 VSフレイヤ・ファミリア

某忍者漫画を読んだ後に、原作の忍やってる命ちゃんを読んで物足りなさを感じたのは俺だけじゃ無い筈


速く、もっと速く、もっともっと速く!!!

 

「うぉおおおおおおおおおお!!!」

 

蒼い夜天の満月の下、一匹の黒い鳥は風を纏い『歓楽街』に向けて一直線に飛んでいく

 

「クソッたれが!!」

 

目の前に見えて来た光景に黒い鳥の正体、黒鐘 色は悪態を吐いた。その瞳にはフリュネが主神(イシュタル)に会わせない為に近づく事すら許されなかった女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)が半壊している姿と、自身が見知っている戦闘娼婦たち(ファンクラブ)が、黄金の首飾りで縁取られた戦乙女の側面像(プロフィール)、【フレイヤ・ファミリア】に襲われている姿が映っていた。

 

「死ねぇぇぇぇええええええええええええ!!!」

 

「なんだ!?」

 

鴉の急転直下(クロウ・バースト)、迷いなく行われた【フレイヤ・ファミリア】に対する攻撃は辺りを爆心地に変え、ベクトル操作によって守られた戦闘娼婦(ファンクラブ)以外を吹き飛ばした

 

「えぇ!?何々!!」

 

「いったい何が!?」

 

「な、何かこの見知った感じ・・・」

 

「大丈夫っすか、戦闘娼婦(バーベラ)の皆さん」

 

「「「「「・・・・・・・誰?」」」」」

 

「俺だよ!!黒鐘 色だ!!」

 

そう言いながら俺はキュクロプスの羽帽子を取ると、戦闘娼婦(バーベラ)達は安堵の表情を浮かべ、俺に抱き着いて来た

 

「「「「「色きゅん、怖かった~」」」」」

 

「うん、とりあえずお前らが結構余裕な事は解ったから離れろ」

 

「そんなこと無いって、本当に怖かったの!!」

 

抱き着いて来る戦闘娼婦(バーベラ)を適当に引きはがし、俺は黒い羽帽子を被りなおした。

 

「フリュネ師匠ってやっぱあの建物(ベーレト・バビリ)の中?」

 

「あ、それ魔道具なんだ」

 

「すごーい、色君の顔が解らなくなった!!」

 

「俺の話を聞け!!」

 

俺の一喝に縮こまる戦闘娼婦(バーベラ)達にもう一回フリュネ師匠の居場所を聞くと、一人のヒューマンの娼婦がおずおずと俺に話しかけてくる

 

「ねぇ、色ちゃん、もうフリュネに拘わるの止めなよ。アイツ色ちゃんが思っているより全然汚くて悪い奴だよ?それに今あそこを襲撃してるのは【フレイヤ・ファミリア】、いくら色ちゃんでも殺されちゃうよ」

 

涙目で見つめてくるヒューマンを筆頭に他の戦闘娼婦(ファンクラブ)達も頷いている、その言葉に俺は呆れたように言い放った

 

「馬鹿かお前ら、フリュネ師匠が汚くて悪い奴なんてのは俺が一番知ってるっつうの」

 

「じゃあ、なんで!?」

 

「でもな・・・そんな事は関係ねぇ。あの人に世話になったから助ける、ただそれだけだ」

 

「だったら、フリュネが敵に回ったらどうするのさ!!」

 

その答えを言う前に【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使った方が早いと判断した俺は戦闘娼婦(バーベラ)達の意識を途切れさせた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤマト・命の前にはずっと探し求めていた少女、サンジョウノ・春姫が唖然とした顔で此方を見ていた

 

「どうしてっ・・・・・・どうして!?帰ってください、命様!?」

 

幾重もの鎖を鳴らす春姫は泣くように叫んだ。しかし、その言葉に命は顔を上げず、ずっと下を向いてブツブツと何かを呟いている

 

「・・・常識・・・無駄・・・忍者・・・汚い・・・」

 

「何ブツブツ言ってんだ、お前はぁ!!」

 

灰髪を揺らすサミラの言葉にも命は答えない。

 

彼女が思い出しているのは春姫を『見請け』しようとしてファミリア内の金を掻き集め、朝早くから渡しにいったのにも拘わらず突っぱねられた時の事だ・・・

 

「そんな・・・8000万ヴァリスでも駄目だなんて」

 

「大丈夫ですよ命さん、次はそうですね、一億持って行きましょう」

 

その声に自分は顔を上げる、ベル殿の顔は全く諦めていない

 

「ベル殿、自分は恥ずかしい!!年下のベル殿はこんなにも逞しいのに自分は、自分はッ!!」

 

「ちょっ!?命さん落ち着いて、皆見てますから、ほら今日は結構稼げる冒険者依頼(クエスト)を受注してるんですから、気合を入れて行かないと失敗しますよ?」

 

「うぅ、有難うございます。そうですね、気合を入れて今日中に1億ヴァリス稼ぎましょう!!」

 

 

そうだ、一億で駄目なら2億、2臆で駄目なら4億稼げばいい

 

「その意気です。後やっぱり色にも相談しましょうか」

 

「よろしいのですか?ベル殿は色殿にあまり《呪詛(カース)》を使って欲しく無かったのでは?」

 

「まぁ、色に話したら絶対【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使って無理矢理にでも解決してくれると思うんですけど、やっぱりそれってなんか違う気がするんですよね。だから相談した上で【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使わない様に説得します!」

 

「解りました、それではその説得、自分も手伝わしていただきます!!」

 

これからは色殿も入れて【ヘスティア・ファミリア】全員で掛かれば、そうしたら何時かきっと春姫殿を助けられる、そう思っていた

 

「やぁ、君達に話しておきたいことが有るんだ」

 

自分たちに『身請け』の事を教えてくれたヘルメス様に真相を聞くまでは・・

 

 

 

 

 

 

「皆ごめん、やっぱりこれしか思いつかないや」

 

「クロの事はどうするんだ?」

 

「リリ、悪いけど色に事情を説明しに行ってもらっていい?きっとすぐに駆けつけてくれるから」

 

「・・・解りました」

 

「しかし、皆さま本当によろしいのですか?これは、自分のわがままで・・・」

 

「命さん、この前色からこんな言葉を教えて貰いました。旅は道連れ世は情け、今更引き返すと思ってるんですか?」

 

「はぁ、行かなくて後で文句言われるのは嫌なので、リリも仕方なくですが、付き合います」

 

「と、言う事だ、気にすんな。クロには後で全員で謝ろうぜ」

 

「うぅ、皆さま、ありがとうございます」

 

「それじゃあ皆、春姫さんを救出するため、【イシュタル・ファミリア】を襲撃しに行こう!!」

 

「「「応!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲゲゲゲゲゲッ!!やるじゃないかァ【リトル・ルーキー】、アイツと同じ眷属(ファミリア)の団長ってだけはあるねェ!!!」

 

「ああああああああああああああッ!!!!!」

 

背後の橋の上でベル殿の咆哮が聞こえた。あの巨躯の女戦士(アマゾネス)を何とか足止めしてくれているらしいが、やはり時間が無い

 

「何ブツブツ言ってんだ、お前はぁ!!」

 

目の前には灰髪の女戦士(アマゾネス)、その後ろにも複数人の女戦士(アマゾネス)、恐らく全員、自分よりもLv.が上だろう。

 

「なんだ!!ここまで来て戦わないのか!!」

 

しかし、自分は思う

 

「そっちが来ないのならこっちから行くぞ!!」

 

・・・だからどうした。

 

「なッ!?」

 

躊躇せずにヴェルフ殿の魔剣を振るった。その威力は絶大で、目の前の灰髪のアマゾネスをいともたやすく焼き尽くす

 

「サ、サミラァッ!?」

 

「お、お前!!何やってんだ!!」

 

「アンタ達!!早くアイツを取り押さえなぁ!!」

 

「で、でもアイシャ!!あいつ魔剣を・・・!?」

 

「【掛けま・・・き・・・我が・・・よりの導き・・・神力(しんりょく)を。救え浄化の光・・・】」

 

「な、何言ってんだ・・・」

 

「え、詠唱、詠唱だ!!」

 

「馬鹿言うんじゃないよ!?あんな速度の詠唱聞いた事が・・・」

 

何を言っている?この程度の事が出来なければあのファミリアで生き残れるものか

 

「止めろォ!!アイツを止めろォ!!」

 

「遅い!【フツノミタマ 】!!」

 

「何だこれは!?」

 

「う、動けない」

 

「やってくれたねぇッ!!」

 

自分の重力魔法により一時的に自由を奪われた女戦士(アマゾネス)達は苦々しい表情で此方を見て来た

 

「ハッそれで勝ったつもりかい?春姫を助けた所でお前の魔法が切れたらすぐに追いかけてやるよ!!」

 

「・・・」

 

「な、なんだい、どうにか言ったら・・・!?」

 

叫んできた女戦士(アマゾネス)は・・・自分が持っている二振りの魔剣と腰に付けている20本あまりの魔剣を見て表情を凍らせる

 

「ひぃッ!?」

 

「お、おい、それをどうするつもりだい!?」

 

「や、やめよう・・・な?」

 

「降参、降参する!!」

 

「いやぁぁぁ、誰か、誰か助けて!?」

 

「・・・御免!!!」

 

その日ヤマト・命は常識を捨てた

 

 

 

 

 

 

 

 

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)に入った俺は両手両足を使い、何時もの怪物の動き(スタイル)で爆走していた

 

「落ち着け俺、フリュネ師匠はLv.5だ、そう簡単にやられはしない筈・・・ッ!?」

 

目の前に飛び込んできたのは女戦士(アマゾネス)の亡骸だった、欠けた腕、貫かれた腹部から夥しい量の血液が出ているのを見て、思わず手を口に当てた。

 

「クソッ!!B級ホラーかよ、洒落になんねぇぞ!!」

 

吐きたくなるのを必死にこらえ、体を前に進める。段々と増えていく死体を避けなら、ついにこの惨劇をまき散らしているであろう猫人(キャットピープル)の青年が、一人の女戦士(アマゾネス)に止めを刺そうとしているところを目撃した

 

「あ、た、助け・・・助けて!?」

 

「ッ!?・・・スゥゥウウウ」

 

助けを求めてこっちを見てくる女戦士(アマゾネス)に思わず声を上げそうになるが、我慢し、限界まで息を吸い込み加速する。そして俺に気付いた様子の猫人(キャットピープル)に出来るだけ近づき

 

「なんだ、てめぇ」

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

「グッ!?」

 

全力で叫んだ。それはフリュネ師匠との訓練で編み出した技。全力で叫び、その音の向き(ベクトル)を操り、直接相手の鼓膜に攻撃する初見殺しの一つ。

 

怪物の咆哮(ジャバウォック・ボイス)

 

やはり獣人には効果覿面だったようで、耳を押さえながら蹲っている隙に唖然としている女戦士(アマゾネス)の手首を掴み取り、その場から離脱した

 

「あ、ありがとう!ありがとうございます!!この御礼は」

 

「うっせぇ黙れ!!いいからフリュネ・ジャミールの居場所を教えろ!!」

 

礼を言ってくる女戦士(アマゾネス)を間髪入れずに【食蜂操祈(メンタルアウト)】で支配し、フリュネ師匠の居場所を聞き出す

 

「フリュネはあの空中庭園にいます」

 

窓の外、指を刺された方向に目を向けると、そこには首が痛くなるほどの高い所に建てられた庭園。この女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)同様フリュネ師匠に近づくなと言われた建物の一つがあった。

 

「あそこか、よしッ!!・・・て、クッソ次から次へと面倒臭せぇ!!」

 

窓に足を掛け、飛び立とうとする俺を止めたのは落下して来た一人の女性だった

 

「親方ァ!!空から女の子がぁぁぁあああああああああああ!!!」

 

間一髪、その女性が地面にぶつかる前に抱き留め、ゆっくりと地面におろし、一応情報を得るために【食蜂操祈(メンタルアウト)】を発動させた

 

「え?あれ、私は?」

 

「・・・チッ、アンタ神か、じゃあ用はねぇ。じゃあな」

 

「え、ま、待って、待ってくれ!!!」

 

風を纏い飛び立とうとする俺の服を掴んで来た女神は縋りつくように声を荒げた

 

「た、頼む、助けてくれ!?殺される、し、死にたくないんだ」

 

「アンタには悪いけど、今は急いでんだ、助けてやっただけでもありがたく思ってくれ」

 

「何でもする、何でもするから!?」

 

「本当にここの連中は話聞かねぇ奴ばっかだな!?・・・はぁ、それじゃあコレを貸してやるからどっか隠れとけ」

 

そう言いながら、キュクロプスの羽帽子を取り、その女神に無理矢理被せてやる

 

「わっぷ、こ、これは?」

 

「これは不思議な帽子でな、着けてると正体が絶対バレねーんだ。いいか、大切な物だから絶対に壊すなよ、じゃあな!!」

 

「・・・」

 

助けられた美の女神は、風を纏い飛び立った鴉の後ろ姿をずっと、ずっと、見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

空中庭園に向っていた俺の鼓膜を爆音が震わす。その正体は落下してきたフリュネ師匠だった

 

「師匠!!」

 

師匠に駆け寄り、状態を確認する。地面にめり込んだ師匠は、思っていた程に重症ではなくLv.5の頑丈さを再確認させられる。しかし潰れた右腕や血まみれの顔を見て、思わず眉を寄せた。

 

「大丈夫ですか師匠、今回復薬(ポーション)を渡しますから」

 

「ば、馬鹿、何しに来たんだいッ!!速く逃げなァ!!」

 

「逃げますよ、師匠と一緒に!!だから早く回復薬(ポーション)を「ドゴォォォォォン!!!」ッ!?」

 

上から、何かが落ちて来た。

 

 

 

 

 

 

それは物ではなく人の形をしていた

 

 

それは2(メドル)を超す体躯をしていた

 

 

それは今まで感じたこと無い威圧感を放っていた

 

 

それは・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、コイツ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ほぅ」

 

目の前に落下してきた、フリュネ師匠以上の巨大な体を持つ獣人の男は物珍しそうに俺を見下ろしている

 

その視線に、俺の体は指一つ動かせない

 

「クソッまだ耳がガンガンしてやがる」

 

獣人の後ろから先ほどの猫人(キャット・ピープル)が現れ、白妖精(エルフ)黒妖精(ダーク・エルフ)、4名の小人族(パルゥム)が現れるが

 

それでも俺の体は動かせない

 

「・・・今すぐ終わらせる」

 

獣人は剣を振り上げた、恐らく狙いはフリュネ師匠だろう

 

しかし俺の体は動かせない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訳にはいかねぇだろぉが!!!!!!

 

心の中で叫んだ、自分にではない、ガンガンガンガン鳴り響く警鐘にだ。

 

それはいつも俺の背中を後押ししていた何かだった。

 

『ミノタウロス』と対峙した時

 

『ゴライアス』に打ちのめされた時

 

そして、アイズ・ヴァレンシュタインに反撃するとき

 

いつもいつも背中の何かは、熱は、俺に戦えと、せがんで来る。

 

なのに、どうして!

 

今回に限って!!

 

全力で逃げろって訴えてくるんだ!!!

 

 

 

あぁ、解ってる解ってるさ、目の前のバカでかい獣人に敵わないって事ぐらい解ってる。アイツは、最強(Lv.6)を超越した者、挑む事すら馬鹿らしくなるような、他者を寄せ付けない絶対的な無敵(Lv.7)。アイズ・ヴァレンシュタイン以上の化け物。チート持ってても、あの金髪に手も足も出せないような俺なんかが立ち向かった所で何も出来ずに殺される事なんて解ってる。でも、だからどうした、俺の後ろに居る人は、ずっと鍛えてくれた師匠だろうが、助けなきゃ行けねぇ人だろうが!!ここで動かなきゃどうすんだ、お前はこういう時動く人間だろうが、黒鐘 色!!!そんなもん(警鐘)無視して体を前に動かせぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!

 

 

 

 

 

「下がりなァ、馬鹿弟子ィ」

 

「ッ!?し、師匠?」

 

後ろから掛けられた声に思わず振り向くと、そこにはフリュネ師匠が俺の渡した回復薬(ポーション)を飲み、立ち上がっている姿があった

 

「で、でもッ」

 

「そんな震えた体で戦えんのかい?」

 

「ち、ちがっ・・・これは!!」

 

「いいから下がりなぁッ!!!アンタ等の狙いはアタイだろォ?掛かって来な、全員纏めて相手してやるよォ!!!」

 

俺より一歩前に出たフリュネ師匠が叫んだ、その背中から嫌が応にも伝わって来る、時間を稼ぐから逃げろ、という意志に思わず強く歯を噛み締める

 

「師匠俺は・・・」

 

「なんだい来ないのかい?だったらこっちから!!」

 

「俺はッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

その声に、その場にいる全ての時が止まったように見えた

 

「面白い気配を感じて来てみたのだけれど、フフッ、やっぱり貴方なのね」

 

新雪を思わせる白皙の肌。黄金律と言う概念がここから摘出されたかのような。完璧なプロポーション。睫毛は長く瞳は切れ目で、相貌は後光を発る如く凛々しく。最早超越していると形容しても良いほどの比類ない美貌をもった銀髪の女が、【フレイヤ・ファミリア】に頭を下げられながら、笑みを浮かべて俺の事を見て来た

 

その視線に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

底なしの恐怖を覚える

 

 

 

 

 

「アンタ、まさかッフレ「黙りなさい」ヴッ!」

 

たった一言でフリュネ師匠が気絶した。だが、俺の体は石の様に固まって動けない

 

 

「本当に面白いわ、貴方」

 

 

一歩一歩近づいて来る、それに対して逃げようという意志すら湧き起らず

 

 

「全部が全部、あの子と正反対」

 

 

目の前に来られたのに声を出すのも精一杯で

 

 

「お、おま、お前は?」

 

 

頭の中にはただ恐怖という感情しか残されていない

 

 

「私?私はフレイヤ、この子達の主神よ」

 

フレイヤ、恐怖に満ちる俺の頭の中でその名前だけが反復された

 

 

 

 

 

 

 

 

フレイヤ、フレイヤ、フレイヤ、フレイヤ?

 

 

フレイヤって・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が俺に変な二つ名を付けてる、女神かぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

ツッコミは出来た。

 

「「「「「「「・・・は?」」」」」」」

 

「・・・はぁ」

 

他の団員が呆気にとられ、例の獣人が頭を押さえている中、俺とフレイヤの会話が続く

 

「あら?気に入らなかったかしら?」

 

「当たり前じゃボケッ!!あんな二つ名気に入る奴の方がどうかしてるわ!!」

 

「それでも、私は満足だわ!!」

 

「ドヤ顔してんじゃねぇよ!!大体超新星(ビックバン)ってなんだよ!!やるにしてももうちょい捻れよ!!」

 

「それしか思い浮かばなかってんだもん☆」

 

「何が、もん☆だ!!!それにいくら長い二つ名付けても皆略してカラスって呼んでるの知ってんのか!!」

 

「プッ!!」

 

「笑い事じゃねぇ!!」

 

「テヘペロ☆」

 

「あざといぃぃぃいいいいいいいいいいい!!!!」

 

二人の会話は、フレイヤの「満足したから帰る」という言葉により強制的に終わるまで続いた

 

 

 

 

 

「あ、色、やっぱり来てくれたんだ。さっきは八つ当たりしてゴメン!!!でもこの通り春姫さんは無事救出できたよ!!」

 

「春姫って誰だよ!!!!」

 

「えええええええええ!?」

 

こうして俺達の戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンゴン、リンゴーン!

 

扉に着けている呼び鈴の音に【ヘスティア・ファミリア】は慌てふためいた

 

「ききき来た、来たよ皆!!」

 

「どどどどうしよう、どうしましょう神様!?」

 

「どうなると思う?リリスケ」

 

「あれだけの事をやらかしたんですから、相当の罰則(ペナルティ)が課せられる筈です。ま、しょうがないと思って諦めましょう」

 

「はわ、はわわわわわわ」

 

「大丈夫ですよ春姫殿、もし何かあっても春姫殿はお守りします」

 

「命ちゃん!!」

 

「色殿ォ!!【食蜂操祈(メンタルアウト)】の準備を!!ギルド職員の記憶を改ざんして下され!!」

 

「ちょっ、命さん!?それは止めようって言ったよね!?」

 

「命様も大分このファミリアに染まってきましたね」

 

ドォォォォオオオン!!!

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

ドタバタドタバタしていると、不意にドアが蹴破られ、外から一人の少女が入ってきた

 

「ケケケケッ、アイツが言ってた通り、騒がしいファミリアだねぇ、でも客を外で待たせるんじゃないよぉ?」

 

ヒマワリを連想させる褐色の肌は瑞々しく、思わず触りたくなるほどにきめ細やかで、女神が嫉妬するんじゃないかと思う程に美しい。肩の空いている真っ赤なワンピースは年端のいかない少女を極限にまで引き立て、うっすらと主張する胸部が誘惑しに来る錯覚まで覚える。そして、その相貌は完璧、まさに美と愛らしさを織り交ぜた究極の存在が、腰まで届きそうな美しすぎる銀髪を揺らし、そこに居た。

 

・・・( ゚д゚)ハッ!

 

「ヴェ、ヴェルフ、今?」

 

「あ、あぁベルもか、俺も一瞬だけあの破壊力に気を失っちまった」

 

「ぼ、僕も一瞬だけあの人を忘れそうに・・・」

 

男二人がブツブツ言っている間に、銀髪褐色の少女はズカズカと奥まで入り、辺りを見渡している

 

「なんだい、アタイが来てやったのにあの馬鹿弟子挨拶にも来ないのかい。こりゃ仕置きが必要だねぇ」

 

「え、えっと馬鹿弟子ってのは色君の事かい?」

 

ビクッ!!とその言葉にベルの肩が震えた、馬鹿弟子、その単語を使っていた人物は記憶の中に一人しかいない

 

しかし、そんな・・・まさか

 

「え、えっと、名前を教えて貰っていいかな?・・・いいですか?」

 

一瞬だけ放たれた威圧感に即座に口調を敬語に変える

 

「この姿で会うのは初めてだから一回だけ許してやるよぉ、【リトル・ルーキー】、アタイの名は「おぉ、フリュネ師匠じゃないっすか!!久しぶりっすね、その可愛い姿!!」この格好を可愛いって言うんじゃないよぉっ!!!」

 

「プベラッ!?」

 

ずっと引きこもって何かをしていた副団長がぶっ飛ばされるのを見て

 

「全く、アタイは【イシュタル・ファミリア】団長、フリュネ・ジャミール、イシュタル様の命でここまで来た女戦士(アマゾネス)さ」

 

「えええええええええええええええ!!!!」

 

ベルは改めてこの世界って不思議なことだらけなんだなぁって実感した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、用件はなんだい?アマゾネス君」

 

「あぁ、此度の件の制裁についてなんだが」

 

応接室で銀髪褐色の少女、フリュネ師匠がヘスティアと話をしているのをベルと命ちゃんの三人だけで見ていたら不意に横合いから声を掛けられた

 

「ね、ねぇ色、本当にあの人フリュネさんなの?」

 

「そ、そうですよ色殿!!自分の知ってるフリュネ殿はもっとこう、大柄な女性で!!」

 

「マジでフリュネ師匠だって言ってるだろ?何回説明させたら気が済むんだよ」

 

「「だって」」

 

「聞こえてるよぉ」

 

あ、フリュネ師匠がジト目でこっちを見て来た、可愛い

 

「「!?」」

 

「チッ、しょうがないねぇ、それじゃあ見せてやろうかぁ?」

 

「ちょっ、フリュネ師匠その恰好はまずい!?」

 

「【約束が果たされるその(とき)まで。この体は虚栄を映す】」

 

俺はすぐに目を瞑る、そして訪れる阿鼻叫喚

 

「ゲゲゲゲゲゲッ!!やっぱりこの体が一番美しいねェ」

 

「オエェェェェ!!!」

 

「グフッ自分は・・・もう・・・ここまで、です」

 

「ベル君、命君!?は、速く元の姿に戻るんだアマゾネス君」

 

「なんだいヘスティアさまァ、アンタもこの体に嫉妬しちまったのかァい?」

 

「そそそそそうだ、だから早く戻ってくれ!!!ワンピース、ワンピースがヤバいからッ!?」

 

「チッ、アタイは元の体が死ぬ程嫌いなんだけど、しょうがないねェ」

 

チュッ

 

「ブッフォ!!」

 

師匠が投げキッスをする音が聞こえ、目を開ける。そこには元の美しい少女が何事も無かったように座っていた

 

「ど、どうしてその恰好が嫌いなんだい?その、なんだ、そっちも中々美人だとボクは思うぜ」

 

「何言ってんだいヘスティア様、こんなガリッガリの髪色がおかしい幼女戦士(チビアマゾネス)が美人なもんかい、今日だってイシュタル様に無理矢理本来の姿で行けって命令されたから来たんだよ、あの人もこの姿が嫌いなくせして、酷い苛めだよこりゃ」

 

あー嫌だ嫌だ、と言う少女姿のフリュネ師匠をベル達は目の保養をするべくガン見していた。うんうんその気持は解かるぞ。俺も中層で初めて会った時にたまたま少女の姿じゃなかったら話をする前に逃げていたかもしれん。

 

「コホンッ!!それで?制裁の話だったね?確かに、うちの眷属(ファミリア)が君達【イシュタル・ファミリア】に掛けた損害は莫大だ、出来る事なら何でもしよう」

 

「神様!?」

 

「ただし、うちで預かっている春姫君は渡せない、図々しいかもしれないけど、渡すとしても安全が保障されてからだ」

 

「神様ぁ!!」

 

ベルの嬉しそうな声が響き、ヘスティアの青い瞳がフリュネ師匠の黒い瞳を射貫いた

 

「ほぉ、だったら無理矢理この場で奪って行くって言ったら?」

 

「今度こそボク達【ヘスティア・ファミリア】が君達【イシュタル・ファミリア】を潰す」

 

「・・・はぁ、やめだやめだ。単騎で格上の女戦士(アマゾネス)38人を病院送りにした【絶†影】とLv.3になったばかりなのに女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)を半壊させてアタイを唸らせる【リトル・ルーキー】なんて相手にしてられないよ」

 

その言葉に二人はヴッ!と言葉を詰まらせた。

 

なにやったの二人とも?

 

「今日の要件は一つだけだよ、春姫は渡す、ギルドも誤魔化す、だからアタイら【イシュタル・ファミリア】を傘下にしな」

 

・・・は?

 

「「「「はぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」

 

多分今日一番の絶叫が鐘楼の館から鳴り響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ【イシュタル・ファミリア】がうちの傘下になるとは思わなかったよ」

 

カリカリカリカリ

 

「まぁそのおかげで、春姫君も無事『改宗(コンバージョン)』出来た事だし一件落着だね!」

 

カリカリカリカリ

 

「それにしても、まさか色君が【イシュタル・ファミリア】の団長と師弟関係になっているとは驚きだ」

 

カリカリカリカリ

 

「・・・こらぁっ!!さっきからボクを無視して何を書いてるんだぁ!!」

 

「あ、おい、返せよヘスティア!!」

 

各部屋に取り付けられているベットから腰を上げたヘスティアは机で真剣に文字を走らせている俺の紙を取り上げた

 

「全く、色君は、【イシュタル・ファミリア】との一件からずっと部屋に籠ってばかりじゃないかぁ!!」

 

「わ、悪かったから掴みかかるな!?ちょっとやりたい事が出来たからそれの準備をしてたんだ!!」

 

俺の言葉にヘスティアはジトーとこっちを見てくる

 

「まぁたボクに隠し事かい?」

 

「ウッ、隠し事って訳じゃないぞ?」

 

「だったら何をやりたいのかはっきり言うんだ、今すぐ、ボクに!!」

 

うわーめっちゃ怒ってる。あれか、表面上は許してたけど、やっぱり今回の件を皆がヘスティアに殆ど言ってなかった怒りは溜まってたってた訳か

 

「はぁ、解った解った・・・俺、決めたんだ」

 

「決めた?何を?」

 

「【ヘスティア・ファミリア】をあの銀髪女神に負けないぐらいの世界で一番のファミリアにしてやる」

 

その言葉にしばし唖然とするロリ巨乳が持っている紙にはこう書かれていた

 

 

 

 

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』

 

 

 

 

 

 

ヤマト・命

 

 Lv.2

 

 力 :H195

 

 耐久:F367

 

 器用:D591

 

 敏捷:F312

 

 魔力:B798

 

 耐異常:I

 

 《魔法》

 

【フツノミタマ】

 

・重力魔法。

 

・一定領域内における重力結界。

 

 

《スキル》

 

八咫黒烏(ヤタノクロガラス)

 

・効果範囲内における敵影探知。隠蔽無効。

 

・モンスター専用。遭遇経験のある同種のみ効果を発揮。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

八咫白烏(ヤタノシロガラス)

 

・効果範囲内における眷属探知。隠蔽無効。

 

・同恩恵を持つ者のみ効果を発揮。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

 

 

 

 

 




原作読んで、ヒキガエル連呼されてるから、こんな展開になんのかなっと思ってたのに、全然そんな事無かったからやった。後悔も反省もしていない、褐色ロリは正義である。


次回

リリルカ・アーデの限界を壊します。


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第16話 リリルカ・アーデ育成計画(前)

長くなりそうなので2分割。


「うわあああああああああああ!!!」

 

「ひょえええええええええええ!!!」

 

場所は12階層、立ち込める霧が辺り一面を覆い、足先を見るのも難しい中、小人族(パルゥム)狐人(ルナール)の少女二人は、絶叫しながら駆け抜けていた

 

「は、春姫様!!詠唱、詠唱を早く!!!」

 

「むむむむ無理です!!無理でございまする!!」

 

「しかしこのままではリリも春姫様も殺されてしまいますよ!!何とかできませんか!?」

 

「そ、そんな事言われましても!!!」

 

『『『『『『『『ギィャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』』』』』』』』

 

「「イヤアアアアアアアアアアア!!!!」」

 

追いかけてきてるのは『シルバーバック』『インプ』『ハードアーマード』『オーク』等、彼女たちだけでは到底立ち向かえないようなモンスターばかりだった。その全てが二人だけに向かって行く。

 

「春姫様、リリにいい考えがあります」

 

「い、いい考えですか?」

 

「はい、まずあそこで寝ている色様に突撃します」

 

「はい」

 

「モンスタ―が色様に群がります」

 

「はい」

 

「その隙に春姫様が【ウチデノコヅチ】を詠唱します。どうですか?」

 

「・・・・・・・完璧な作戦でございます」

 

「それじゃあ行きますよ!!」

 

「はいッ!!」

 

走る、走る、走る。二人の少女は自身のファミリアの副団長を躊躇なくモンスターの囮にすることを決めた。

 

 

ε=( ・`ω・)ε=ε=ε=┏(;゚□゚)┛ ┏(;゚□゚)┛ ( ˘ω˘ )

 

 

ε=( ・`ω・)ε=ε=ε=( ˘ω˘ )ε=┏(;゚□゚)┛ ┏(;゚□゚)┛

 

 

( ˘ω˘ )ε=( ・`ω・)ε=ε=ε=∑┏(゚ロ゚;)┛∑┏(゚ロ゚;)┛

 

 

ε=( ・`ω・)ε=ε=εε=ε=\(;´□`)/\(;´□`)/

 

 

「意味ないでございますぅぅうううう!!!!」

 

「どうしてこんな事にぃぃいいいいい!!!!」

 

二人は思い出す。こんな事になったきっかけを・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝早く、早朝訓練を終えた【ヘスティア・ファミリア】の冒険者達は、何時もの様に主神が用意してくれている、大テーブルに置かれた朝食を食べていた。しかし、数日前とは少しだけ朝の風景に違いがあった

 

「ですからッ!!あんな訓練はもうお止めになって下さいと(わたくし)は言っているのです!!」

 

「だぁかぁらぁ、何度も言ってんだろ?あの早朝訓練は必要なものなの、春姫ちゃんもばっちし【ステイタス】上がってんだから何の問題も無いだろ?」

 

「ありますッ!!て言うより毎回生死が掛かった訓練なんて問題あるに決まってるじゃありませんかッ!!」

 

それは狐人(ルナール)の少女、サンジョウノ・春姫の加入、それにともなう黒鐘 色との朝の喧嘩が追加された事だ。【イシュタル・ファミリア】に居た事で多少の常識があり、あまり戦いもして来なかったので異常に伸びる【ステイタス】に関心を持たない彼女は唯一【ヘスティア・ファミリア】の無茶苦茶な早朝訓練に異議を申し立てていた。

 

「うわぁ、まだやってるのかい、あの二人」

 

「凄いですよね、今日も春姫さんが回復してからずっと言い争ってますよ。あっ神様、食器洗うの手伝います」

 

「むむむむむむ」

 

そんな二人の言い争いは、最初の方はヘスティアも入れたファミリア全員で止めていたのだが、何日も毎回やっていると止める者も出て来なくなっていき。

 

「あのなぁ、俺の国にはこんな言葉があんぞ、郷に入っては郷に従え。もう春姫ちゃんは【イシュタル・ファミリア】じゃなくて【ヘスティア・ファミリア】何だから、こっちの方針に従おうぜ」

 

「【イシュタル・ファミリア】でも他のファミリアでもあんな残虐非道な行いを訓練とは呼びませぬッ!!郷に入っては郷に従え、と言うのであれば、色様こそ常識の郷に従って下さいッ!!!」

 

「はぁ、面倒くせー」

 

「話を聞いているのですか、色様!!」

 

「むむむむむむ」

 

ヒートアップしていく二人の言い争いを止めようとする者が居たとしても

 

「あ、あの、春姫殿?少し落ち着かれては?」

 

「命ちゃんは黙ってて!!!大体命ちゃんも命ちゃんだよッ!!なんで止めてくれないの!?今日だって私、高等回復薬(ハイ・ポーション)12本も飲んだんだからね!!」

 

「す、すみません」

 

「むむむむむむむ」

 

このように飛び火するので、余計に誰も声を掛けなくなっていた。

 

「【イシュタル・ファミリア】とのゴタゴタが片付いて、今日からダンジョンだってのに本当にこんなんで大丈夫なのか?なぁリリスケ・・・リリスケ?」

 

「むむむむむむ」

 

「どうしたんだ?ファミリア全員の【ステイタス】なんか見て」

 

「む?えーとですね、皆様の【ステイタス】の伸びとリリの【ステイタス】の伸びを見くらべてたんですけど・・・」

 

「ん?どれどれ・・・」

 

「ちょっ、いきなり取らないで下さい!!」

 

【ステイタス】が刻まれた紙を奪ったヴェルフに必死に手を伸ばすリリだが時すでに遅し、ヴェルフは自身の【ステイタス】と他の眷属(ファミリア)の【ステイタス】をマジマジと見ていく

 

 

 

ベル・クラネル  

 

 Lv.3

 

 力:E421→E447

 

 耐久:D552→D581

 

 器用:E410→E422

 

 敏捷:B721→B755

 

 魔力:F351

 

 幸運:H

 

 耐異常:I

 

能力値(アビリティ)熟練度、上昇地トータル100オーバー。

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.3

 

 力 :G254→G264

 

 耐久:C689→B701

 

 器用:H198→G215

 

 敏捷:F322→F328

 

 魔力:C681→C699

 

 耐異常:I

 

 祝福:H

 

能力値(アビリティ)熟練度、上昇地トータル60オーバー。

 

 

 

ヤマト・命

 

 Lv.2

 

 力 :G200→G208

 

 耐久:F386→F390

 

 器用:C604→C615

 

 敏捷:F318→F320

 

 魔力:A812→A837

 

 耐異常:I

 

 

能力値(アビリティ)熟練度、上昇地トータル50オーバー。

 

 

 

ヴェルフ・クロッゾ

 

Lv.2

 

 力 :E460→E481

 

 耐久:E487→D505

 

 器用:F331→F339

 

 敏捷:H192→G201

 

 魔力:I81

 

 鍛冶:H

 

 

能力値(アビリティ)熟練度、上昇地トータル50オーバー。

 

 

 

サンジョウノ・春姫

 

 力 :H101→H144

 

 耐久:H187→G232

 

 器用:I56→H103

 

 敏捷:I23

 

 魔力:E403

 

能力値(アビリティ)熟練度、上昇地トータル130オーバー。

 

 

 

「おぉ、俺もそうだったけど、やっぱり早朝訓練やりたての春姫はすげぇな。ヘスティア様曰く、生存本能を刺激されて本来以上の経験値(エクセリア)が稼げてる、だったか。どれどれ、リリスケは・・・」

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

 Lv.1

 

 力:E411→E420

 

 耐久:D513→D530

 

 器用:F366→F371

 

 敏捷:D500

 

 魔力:E423

 

能力値(アビリティ)熟練度、上昇地トータル、ぎりぎり30オーバー。

 

 

「・・・低くね?」

 

「ウッ!!・・・」

 

春姫との口喧嘩を終えた色が、ヌッと後ろから紙を覗き込み、率直な感想を述べる

 

「リリさ、サボってるでしょ?」

 

「い、いえいえ、決してそんな事は・・・」

 

手をブンブンと横に振るリリに顔を近づけ

 

「そんな事は?またまたぁ、筋力もE行ってんだし、そろそろ腕立て伏せぐらい出来てもおかしく無いと思ってんだけど?」

 

「む、無理ですよ。命様の魔法だって日に日に強くなっていくんですから。そりゃリリだってもっと【ステイタス】を伸ばそうと頑張ってるんですよ?でも皆様と違ってリリには才能が無かったみたいで、これが限界なんで・・・す」

 

その言葉に色は三日月の笑みを浮かべる

 

「何ですか色様、な、なんか怖いですよ、その笑顔・・・」

 

「リリはもっと【ステイタス】を伸ばそうって思ってるんだよな?」

 

「へ?そ、そりゃそうですよ、リリも【ヘスティア・ファミリア】の一員ですからね。出来ればLv.2にだってなりたいぐらいです」

 

「そのためには、どんな事だって出来るよな?」

 

「勿論です・・・あっ、ちょっ今のは」

 

「ヘスティア!!言質は取ったからな!!実行すんぞ!!」

 

声を掛けられたヘスティアは溜息を吐きながら了承した。その姿にベル、ヴェルフ、命の三人はまた始まったか、と見守り、結局早朝訓練を止められなかった春姫は頭に?マークを浮かべる。

 

「いったい何を実行するんですか!?」

 

「なぁ、リリさ」

 

「な、何ですか」

 

「サポーター止めね?」

 

「・・・は?」

 

そして冒頭に戻る・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は夕暮れ時、空を飛んでる黒い鳥に馬鹿にされながら、ボロボロになった二人の少女は鐘楼の館に帰還した

 

「ただいま、帰りました」

 

小人族(パルゥム)の少女が帰って来て、一番最初にした事は挨拶と、背負っている自身を覆い隠すぐらい巨大な大槌を下ろす事だった。このヴェルフ・クロッゾ特注武器(オーダーメイド)大槌(ビックハンマー)、通称『きんに君1号』は『リリルカ・アーデ育成計画』におけるリリのメイン武器である。それ以外の武器の使用は認めておらず、もし他の武器を持とうとしても、黒の少年の《呪詛(カース)》により、『きんに君1号』以外の武器を持つ気すら起きなくなるという意味不明な制限を掛けられている。

 

「・・・グスッ・・帰りました・・グスッ」

 

遅れて狐人(ルナール)の少女が泣きながら帰ってきた。この少女には本来何の制限も掛けない予定だったのだが、つい自分は45階層まで行ったことがあると、黒の少年と口論している時にポロッと漏らしてしまい、初めてモンスターと戦うのにも関わらず、12階層のモンスター相手に武器を一切持たずに戦うという意味不明な制限を掛けられている。

 

少女二人はボロボロの体を引きずりながら、大きな机の下に綺麗に並べられている椅子を適当に引き、腰かけ、突っ伏し、一言だけ漏らした

 

「「色様殺す」」

 

「お帰り二人とも、ほら、晩御飯か、お風呂どっちにするんだい?」

 

「「ご飯をお願いします」」

 

白銀と純黒、対4つの小さな鐘を頭に着けているロリ巨乳の女神に二人そろってご飯を頼み、この日の特訓は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』

 

1日目

 

モンスター討伐数 18体

 

春姫詠唱回数 1回

 

回復薬(ポーション) 6本使用

 

精神力回復薬(マジック・ポーション) 0本使用

 

 

 

 

 

「さぁ、今日も張り切って行こう!!」

 

「「・・・・」」

 

「お、おー!」

 

「ふぁ、なぁクロ、流石に朝早いんじゃないのか?」

 

時刻は午前4時、場所は昨日と同じくダンジョン12階層、そこに集まっているのはベル以外の【ヘスティア・ファミリア】の冒険者達だ

 

「ヴェルフ、昨日も言ったけどあれはチュートリアルなんだって、今日からやる本番は朝早くから夜遅くまでずっとだな・・・」

 

「でもよ、その二人、立ったまま寝てんぞ?」

 

「「ZZZZZZ」」

 

隣を見ればリリと春姫ちゃんが立ったまま鼻ちょうちんを浮かべていた、それに対して容赦なく【食蜂操祈(メンタルアウト)】を発動させて、無理矢理意識を覚醒させる。

 

「ZZZ・・・ハッ!!」

 

「あ、あれ?ここは何処でございますか?」

 

眠気が吹き飛んだであろう二人に人差し指を立てて、向き直った。

 

「それじゃあ今日から本番の『リリルカ・アーデ育成計画』について詳しい説明をします」

 

「いきなりなんですか!!リリ達は今起きたばかりですよ、まだ何の準備も・・・あ、あれ?」

 

「そうでございます!!(わたくし)達は昨日の疲れがまだ癒えてない・・・えっと」

 

叫んだ二人は自身の完璧な装備姿と全くない疲労に困惑した。

 

「準備の方は【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使って無意識の内に終わらしてるし、疲れの方は【ミアハ・ファミリア】監修の元、完璧に取れてあるから、安心して特訓できるぞ♪」

 

「「逆に安心出来ませんけどッ!?」」

 

「それじゃ改めて『リリルカ・アーデ育成計画』の内容を話します」

 

「「普通にスルーしないでくださいッ!!」

 

声を揃えて突っ込んで来る二人を華麗にスルーして話を進めていくことにする

 

「まず一つ、リリの主武器(メインウエポン)はその大槌(ビックハンマー)な、それ以外は一切使わない事」

 

「昨日も言いましたけど、おかしくないですか?リリは小人族(パルゥム)ですよ?こんな重たい武器ブンブン振り回せるわけないじゃないですか」

 

「でも【縁下力持(アーテル・アシスト)】のお陰で持つこと自体は出来てるし、昨日は【ウチデノコヅチ】の段位昇華(レベル・ブースト)中だったら普通にモンスター倒せてたじゃん」

 

「そりゃそうですけど、その後【ウチデノコヅチ】が切れてからはずっと追いかけられる事しか出来なかったですけどね!!」

 

「次に2つ目」

 

「無視ですかッ!!」

 

ウガー!!と組み付いて来るリリをほっいて、次に春姫ちゃんの方に指を付きつけた

 

「春姫ちゃんは昨日みたいに逃げてばかりじゃなくて。【ウチデノコヅチ】をちゃんと発動させる事」

 

「・・・・・・そもそもあの妖術はあまり見せていいものではございません。【イシュタル・ファミリア】に居た時でも、慎重に慎重を重ねて使って来たのです。それをこのような開けたところでポンポン使うなどとてもとても」

 

目を逸らし、しっぽをフリフリしながら言い訳してきた春姫ちゃんは。

 

「まず、この12階層は上の階層よりも霧が濃くて【ウチデノコヅチ】が発動してても解りづらい。たとえ見られても、中層の入り口からこんな離れた所に来るのは下級冒険者だし、それなら俺の【食蜂操祈(メンタルアウト)】でどうとでもなる。オーケー?」

 

俺の一言に動いていたしっぽの動きを止める。

 

「ヴェルフ殿、もしかして春姫殿の【ウチデノコヅチ】より色殿の【食蜂操祈(メンタルアウト)】の方がよっぽどバレてはいけないのでは?」

 

「そんな事言い出したら【一方通行(アクセラレータ)】や【御坂美琴(エレクトロマスター)】だってヤべェし、眷属(ファミリア)全体で言うとベルの【ステイタス】や俺の【魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)】だって本来かなりヤバいからな?」

 

「た、確かに」

 

「こら、そこの二人、ちゃんと話聞けよ?」

 

「あ、はい、すいません」

 

「すまん」

 

何やらコソコソ話している二人にもビシッ!と指を突き付け説明を続ける

 

「次に3つ目、回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジック・ポーション)は命ちゃんとヴェルフの二人で【ミアハ・ファミリア】のホームまで逐一取りに行くこと。その際ついでにここで取れた魔石も換金して来るように」

 

「えっと、それはどう言う事ですか?」

 

「まぁ、このあたりの説明は後で二人だけにするから安心しといてくれ。それじゃリリは『きんに君1号』を構えて、あ、春姫ちゃん今日からは始まる前に詠唱しちゃダメ、昨日みたいに俺を囮に使おうとするのも無しな。え?何、理不尽?あのね、冒険者っていうのは常に理不尽と戦わなくちゃダメなんだぜ。それじゃあ始め!!」

 

「「ちょっまっ!?」」

 

止めようとしてくる二人を無視して、俺は容赦なくモンスター避け用の『強臭袋(モルブル)』を雷で消滅させた。

 

 

 

 

 

『『『『『『『『グォォオオオオオオオオオオオオ!!!!』』』』』』』』

 

「うわあああああああああああ!!!」

 

「ひょえええええええええええ!!!」

 

昨日と同じように二人は走り逃げ回る。しかし、昨日と違う事が一つだけあった

 

「わ、(わたくし)もう、駄目でございます」

 

「春姫様!?」

 

それは春姫の腰に着けられている黒い棒状の魔剣『鈍刀・重:2式』がある事だ。その魔剣はヴェルフがLv.1用に作った物で『鈍刀・重』よりかは遥かに軽いが、それでも着実に春姫の体力をそぎ落としていき、ついに限界が来たのか、地面に膝を着けてしまった。

 

「足手まといの(わたくし)を置いて、リリ様だけでも逃げてください」

 

「そんなこと出来る訳無いでしょう!そんなことしたら、リリは・・・リリはッ!!」

 

「リリ様?」

 

リリは春姫を庇いモンスターの軍団の前に立ちふさがり、自分の思いの丈をぶつけた。

 

「春姫様が亡くなった後に一人でこの地獄を受ける羽目になるじゃないですかッ!?」

 

「・・・グスッ」

 

「あっ!?ごめんなさい、冗談ですから泣かないで下さい!!ていうか泣いてる暇なんてないんですよ!?」

 

『『『『『『『『グォォオオオオオオオオオオオオ!!!!』』』』』』』』

 

「ッ!?」

 

迫りくるモンスター達、その先頭に居るのは『インプ』が三頭、後続にはまだ余裕がある。

 

追い詰められた小人族(パルゥム)の琥珀色の瞳に白髪と黒髪、二人の少年の後ろ姿がフッと浮かんだ

 

「春姫様!!リリが隙を作りますから詠唱をお願いします!!」

 

「で、でも」

 

「早く!!」

 

「は、はい!!」

 

急に雰囲気が変わったリリに、ビクつきながらも春姫は詠唱を始めた

 

「【――大きくなれ。其(そ)の力に其(そ)の器。】」

 

「はぁああああああああ!!!」

 

リリは背中に装備している大槌を両手で持ち、自身の体を隠すように前方に構え、栗色の髪を激しく揺らしながら『インプ』へ向かって突撃していく

 

『ギィッ!?』

 

『ギュッ!?』

 

急に反転し、突進してきた大槌に、追いつくために速度を上げていた『インプ』達は成す統べなくぶつかり、吹き飛ばされた

 

「【数多(あまた)の財に数多の願い】」

 

「どっせぇぇえええええええい!!!」

 

『ギャッ!?』

 

一匹だけ躱していた最後の『インプ』を横薙ぎで叩き飛ばし、痛む腕に歯を食いしばりながら、後続の『オーク』5体を睨みつけた

 

「【鐘の音が告げるその時まで、どうか栄華(えいが)と幻想を】」

 

『『『『『グォォオオオオオオオ!!!!』』』』』

 

絶対に勝てない。あの二人に会う前の少女ならそう諦めていただろう。しかし、今の彼女にはそんな絶対は存在しない

 

「【大きくなれ。神撰(かみ)を食らいしこの体。神に賜(たま)いしこの金光(こんこう)】」

 

「全く、本当どうしてリリはこんな相手と敵対しているのでしょう?」

 

その言葉とは裏腹に、少女の口元には笑みが浮かんだ。

 

ずっと後ろで見て来たのだ。白髪の少年が、黒髪の少年が、お互いを認め。何処までも何処までも高め合っていく瞬間を。そんな少女が二人の中に自分も入りたいと思わない日は一度も無かった

 

「【槌(つち)へと至り土へと還り、どうか貴方へ祝福を】」

 

「まぁしょうがないですよね、だって怪物進撃(デス・パレード)何て言われるパーティーの一員ですから。それにいい加減」

 

思い出すのは初めて100以上のモンスターに囲まれた時の記憶。その時、一人の冒険者として白と黒の少年と共に戦えた高揚感がどれほどのものだったか。

 

「【――大きくなぁれ】」

 

「リリだって冒険がしたいんです!!」

 

もう一度、いや何度でも、今度こそあの二人の隣でちゃんと肩を並べて戦いたい。そう思いながら

 

「【ウチデノコヅチ】!!」

 

「ダァァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

『『『『『グォォオオオオオオオ!!!!』』』』』

 

迫りくる『オーク』に向かって小人族(パルゥム)の少女は一歩大きく踏み出した。

 

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』

 

2日目

 

モンスター討伐数 79体

 

春姫詠唱回数 5回

 

回復薬(ポーション) 71本使用

 

精神力回復薬(マジック・ポーション) 1本使用

 

 

 

 

 

to be continue・・・

 

 

 

 




初めて春姫ちゃんを喋らしたのでちょっと不安です。


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第17話 リリルカ・アーデ育成計画(中)

2分割と言ったなあれは嘘だ。

すみません予想以上に長くなりそうだったので3分割にしました。ごめんなさい


ダンジョン5階層の薄緑色の壁面に上層とは思えない程の鋭い剣戟が反響した

 

双剣と大刀、計三つの刀をぶつけ合わせ、手狭になっていくダンジョンの通路の中、片方の冒険者は詠唱しながら駆けていく

 

「【今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい】!!」

 

「【燃えつきろ、外法の業】!!」

 

膨れ上がっていく魔力を感じた大刀の持ち主はそれに合わせ自身も詠唱、その詠唱を完成させまいと、双剣の持ち主の剣速が加速していき、二人の間には剣戟の音と莫大な魔力が膨れ上がっていく。

 

「・・・・・・」

 

「・・・チッ【 ウィル・オ・ウィスプ】」

 

大刀の持ち主、ヴェルフ・クロッゾは自身の制御の限界を感じ対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)、【 ウィル・オ・ウィスプ】を発動、それを見て双剣の使い手、ヤマト・命は、ニヤリと口元を歪めた

 

「【フツノミタマ 】!!」

 

「グッ、クソッやっぱりアイツの方が魔力制御は一枚上手か」

 

「ヴェルフ殿には悪いですが、お先に行きます!!」

 

対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)をスカして重力結界でヴェルフの事を足止めした命は、大量の魔石が入ったバックパックを背負い直し、ダンジョンの出口に向けて、一気に加速していった。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんください、何時ものお願いします」

 

ダンジョンから出た命が小走りで向かった先は【ミアハ・ファミリア】のホーム『青の薬舗(やくほ)』だ。店の扉を開けて声を掛けると奥の方から、目の下にクマを作った三名が出て来た

 

「ふぁ~もう来たの?」

 

「早いのよ・・・zzz」

 

「おぉ、命か、今出来たばかりだ。こらダフネ起きないか」

 

「あ、あはは」

 

命がクマを作っている3人ミアハ、ダフネ、ナァーザに苦笑いしながら、『青の薬舗(やくほ)』の中で色に頼まれた物を待っていると、何者かに足元を掴まれた。

 

「な、何奴!?」

 

「あ、カザンドラ、アンタもそんな所で寝てないで、手代なさい」

 

「うぅ、もうやだぁ」

 

命の足を掴んでいたのは【ミアハ・ファミリア】最後の団員カザンドラだったらしい。彼女は店の奥の方に両足をズルズル引きずられ、泣きながら引っ込んでいき。入れ替わりにナァーザとミアハが大量の回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジック・ポーション)の入ったバックパックを抱えて持ってくる。その二人に命はお辞儀をしながら言った

 

「いつもありがとうございます。ミアハ様、ナァーザ殿」

 

「いいのだよ命、これは私自ら進んで申しだした事だ、お前が気に病む事ではない」

 

「それに【ヘスティア・ファミリア】のお陰で何時も儲けさせて貰ってるんだから、これぐらい大丈夫~」

 

「そう言っていただけるとありがたいです」

 

口ではこう言っているが『リリルカ・アーデ育成計画』に掛かる回復系アイテムと団員の体のケアを全て担っているのは実際大変なのだろう。眠たそうに言ってくる二人にもう一度深いお辞儀をする

 

「そうかしこまるな、何時も注文して来る数よりも多少増えただけだ、少し立ったまま寝てしまうだけで何の問題も無い」

 

それは問題ないのだろうか?

 

「そんな事より命よ、そろそろヴェルフに勝てそうか?」

 

「ウッ・・・それは」

 

命はしばらく目を逸らした後、ガクリと首を落した。『リリルカ・アーデ育成計画』におけるヴェルフと命の役割は魔石と回復系アイテムの運搬だが、そこに現代日本人の勿体ない精神が加わり。言い渡されたのが、ダンジョンに出るまでの何でもありの競争、だった。負けた方が遠くの【ミアハ・ファミリア】のホームまで行って、重い回復アイテムを持ってくるという物なのだが、命はまだヴェルフに一回も勝てていない。

 

「今日こそはと思ったのですが、多種多様な魔剣にどうしても対応しきれず、完敗してしまいました」

 

「ふーん、でも敏捷は命の方が高いのよね?だったら一歩でもリードしたら負けないんじゃないの?」

 

カザンドラを運び、帰って来たダフネの言葉に、命は膝を抱えて不満を口にしていく

 

「ダフネ殿はヴェルフ殿の魔剣の恐ろしさを知らないからそんな事が言えるのです。今日だって重力結界の中から風の魔剣を使って無理矢理脱出し、その風を更に利用してこちらに急接近した後、雷の魔剣と炎の魔剣を同時に振りかざすとか、いくら訓練用で威力を調節してるからとはいえ鬼ですかあの人は」

 

因みに、棚に上げているが、命本人も女戦士(アマゾネス)達に同じような事をしている。それも最高威力の風と炎の魔剣を重力結界の中に同時発動という悪魔的な組み合わせで

 

「ふむ、ならば命も魔剣を使えばいいのではないか?何でも、していいのだろ?」

 

「それが出来たら苦労しないんですけどね。色殿に新たな装備を買う事は禁じられてまして、それに適当な魔剣を使った所でヴェルフ殿の魔剣の前では紙くず同然、どうしたものやら。と、そろそろ自分は行きます、ありがとうございました」

 

頭を下げて大きなバックパックを背負って店を出ようとする命に手を振りながら見送ってくれる【ミアハ・ファミリア】の団員たち。しかし一人だけ命を引き留める者がいた、カザンドラだ

 

「ちょっと待って」

 

「はて?何か忘れものでもしてましたか?」

 

「ううん違うの、えっとさっき夢を見たの」

 

「夢ですか?」

 

「うん、こんな夢なんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

狭くなっていくダンジョン上層の壁に激しい剣戟の音と詠唱の声が響いて行く

 

「【今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい】!!」

 

「【燃えつきろ、外法の業】!!」

 

膨れ上がる魔力を全力で制御しながら双剣を振りかざす命は、覚悟を決め、魔法を発動させる。

 

「【フツノミタマ 】!!」

 

「ッ!?・・・【 ウィル・オ・ウィスプ】!!」

 

作り上げられた魔法に対して唱えられた、超短文呪文が初めて成功し、ヴェルフの右腕から迸る陽炎が命の体を包み込んだ。

 

「ぐあっ!?」

 

「成功・・・したのか?」

 

そして爆発。

 

対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)、により魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こした命は・・・痛む体を無視して、魔剣を準備しているヴェルフの方へ突貫して行く

 

「なっにぃ!?」

 

地を這うような動きで素早くヴェルフに接近し、流れるような動作で片手に持っている魔剣と装備品の魔剣を数本奪い取り、その矛先をヴェルフ本人に突き付けた

 

「おいおい何で対魔力魔法(ウィル・オ・ウィスプ)を食らってそんな動き出来んだよ!!」

 

驚くヴェルフに命は魔剣をゆっくりと振り上げながら答えた。

 

「残念でしたねヴェルフ殿、自分は魔力をあまり練って無かったので、この程度のダメージで済んだのです・・・それでは御免!!」

 

「そんなんありかよ!?」

 

二振りの魔剣の炎で包まれるヴェルフを置き去りにして駆けていく命は二属性回復薬(デュアル・ポーション)を飲みながら昨日言われたことを思い出す。

 

「こんな夢なんだけど・・・影が沢山の宝石を奪いながら走り去っていくの」

 

全く、このファミリアに常識は通用しないと痛い程、理解していた筈なのに、自分はまだ常識に囚われていたようですね。

 

そして、この日命はダンジョンの入り口で、初めてボロボロのヴェルフを迎える事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』5日目、リリと春姫は以前とは違う異常事態に見舞われていた

 

「春姫様、速く呪文を!!!」

 

「は、はい・・・【――大きくなれ】」

 

『ブギッ!!』

 

「其(そ)の力に其(そ)の器、ヒッ!?」

 

「またですか!?クッ、離れて下さい!!」

 

『プギャ!?』

 

それは春姫が詠唱をする余裕が無くなってきたことだ。昨日までは【ウチデノコヅチ】の次の発動までの要間隔(インターバル)10分間を何とか維持しつつ、体感で10分過ぎそうになればリリが詠唱する時間を稼いで、『段位昇華(レベル・ブースト)』状態をギリギリ維持出来ていたのに対して。今日はそのギリギリのラインを越えて、少し魔法が切れた時もあった。

 

「すみませんリリ様!!す、すぐに詠唱に移ります!!」

 

「いえ、少し体制を整えましょう、道を開けるので離れていてください!!」

 

その言葉と共に道を開ける為、大槌で『オーク』を蹴散らしながら、出来た道を走り抜ける。

 

なぜこんな事になっているのか?その原因は今まさに、体制を整える為に二人が飲んでいる回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジック・ポーション)にある。全体的に薄いのだ、上手く誤魔化しているが、これは嘗てベルが買わされていた物と酷似している。そのせいでリリは兎も角、春姫は精神力回復薬(マジック・ポーション)を必要以上に飲んだり、逆に飲まずに精神疲弊(マインドダウン)を起こし掛けたりと、ぺース配分が全く解らず、精神的に焦ってきた所をモンスターに襲われて、詠唱が困難になっていた。

 

「春姫様、精神力回復薬(マジック・ポーション)と一緒にこれも飲んでおいて下さい」

 

「はぁ・・はぁ・・・はぁ、す、すみません。しかしよろしいのですか?これは最後の回復薬(ポーション)なのでは?」

 

「リリの計算ではもうすぐ、お二人が回復アイテムを届けてくる時間なので大丈夫です。それにしても・・・」

 

そこまでやりますか、色様!!

 

叫びたい気持ちをリリはグッと堪えた。当たり前だが例の一件以来【ミアハ・ファミリア】がこのような粗悪品を渡して来た事など一度も無い、という事は色が楽をさせない為にあそこに注文したのだろう、鬼か。

 

幸い、精神力回復薬(マジック・ポーション)の方はまだ余裕があるので何とかなっていますが、この不安定な状態、あまりよろしくないですね。

 

リリは長年培ってきた冒険者の知識を生かし考える。回復薬(ポーション)は無い、【ウチデノコヅチ】の効果ももうすぐ切れるだろう、二人が帰って来るまでにかかる時間は多分20分ぐらい、やはり『段位昇華(レベル・ブースト)』は必要・・・

 

リリはそこで考えるのを止めた、何かおかしい

 

「春姫様、速く詠唱を」

 

「え?」

 

「速くしてくださいッ!!死にたいんですかッ!?」

 

「ひっ!?わ、わかりました!!」

 

こんなにも考える時間そのものがあるのが、おかしい。

 

あぁもう何が長年培ってきた冒険者としての知識ですか!!馬鹿ですかリリは、そんなもの何の役にも立たない事など解っていたでしょうに。

 

朗々と後ろから唱えられる詠唱を聞きながら小人族(パルゥム)の少女はグッと大槌を握りしめ、静かに眼前を睨みつける。そして、いつの間にか居なくなったモンスター達の代わりに、異常事態が舞い降りた

 

『『『『『オオオオオオオオオオ!!!!』』』』』

 

「ッ!?」

 

「春姫様、今詠唱が途切れたらその時点で死ぬので絶対に途切れささないでください」

 

そのたった一言で深く理解した春姫は青い顔に冷や汗を浮かべながら、文字道理死ぬ気で詠唱を続ける

 

「全く、ヴェルフ様風にいうと、ふざけろって感じですかね」

 

『『『『『グッオオオオオオオオ!!!!』』』』』

 

迫りくるのは11、12階層に出現する絶対数の少ない希少種(レア・モンスター)、『迷宮の孤王(モンスターレックス)』が存在しない上層における事実上の階層主、インファント・ドラゴン、その総数5頭。

 

対するは、ひ弱な小人族(パルゥム)と哀れな狐人(ルナール)の少女が二人。未だ【ウチデノコヅチ】が発動されない中、小人族(パルゥム)の少女は向かってくる小竜5頭に強がりの笑みを浮かべ、少しでも勝機を上げるために、キツく握りしめている大槌の柄を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

「リリ様!!リリ様!!大丈夫ですか!?」

 

必死に体を揺らす春姫に頭から血を流し倒れているリリは答えない

 

「すみません(わたくし)のせいで、(わたくし)がもっとしっかりしていれば!!」

 

そう言いながら、迫りくる脅威に春姫は気絶しているリリの小さな体を抱き抱え、駆けだした。

 

インファント・ドラゴンとの激闘は最初、リリルカ・アーデの方が優勢だった、攻撃はせずに、上手くドラゴンの間を潜り抜け同士討ちを誘発させたり、大槌を盾代わりにして攻撃を防いだり、その小さな体と今までベル達との冒険で培ってきた並外れた度胸を最大限まで生かし、【ウチデノコヅチ】の発動までの時間を何とか稼いだのだ。そして春姫の妖術により『段位昇華(レベル・ブースト)』した眩い光に包まれたリリは、今まで盾に使っていた巨大な大槌を反撃に使い、奮闘していった。

 

しかし、5頭すべてを倒しきる前に、行き成り出現した他のモンスターに春姫が襲われ出したのだ

 

インファント・ドラゴンの相手をしていたリリは堪らず反転し、春姫を襲っているモンスターの殲滅に向かった。そうこうしている内に【ウチデノコヅチ】の効果が切れ。もう一度詠唱するのもままならないまま、リリは残っていたモンスターとインファント・ドラゴンに奮闘空しく吹き飛ばされ、気絶した。

 

「し、色様!!見ているのでしょう!?助けてください!!後生です、後生ですから!?」

 

『『『『『ガァァアアアアアアアアアアアア!!!』』』』』

 

「ッ!?今までの行いは謝ります!!早朝訓練に関しても何も言いません!!ですから、せめてリリ様だけでも助けてください!!!」

 

リリを抱きかかえ、必死に走りながら叫ぶ春姫の懇願に、霧により視界が塞がれ何処にいるかも分からない色は答えない。

 

どうしてこんな、酷すぎる、もう止めよう。

 

春姫の中でそんな感情がグルグル渦巻いていたが、手に掛かる重さが、今まで自分を守ってくれていた小さな少女が、自分一人では諦めていたかもしれないこの絶体絶命の場面で諦めるという選択肢をかき消していた

 

「クッ!!ぁぁぁあああああああ!!!!」

 

春姫は叫んだ、初めて出すであろう喉が張り裂けそうな程の声を出し、力の限り走り抜ける。後方から迫って来る『インプ』や『オーク』から自分が抱きかかえている小さな勇者を守り抜くために。

 

『『『グァァアアアアアアアア!!!!』』』

 

「うっ!?ぐぅううう!!!」

 

いつの間にか目の前まで迫って来ていたインファント・ドラゴン2頭の振るった長い尾をなんとか潜り抜け、腕に傷を負いながらそのまま2頭の間を駆け抜けた。

 

とっくに何時も帰ってくる時間は過ぎているのに、どうして命様とヴェルフ様は帰って来ないのですか!?

 

痛む腕を誤魔化すように心の中で泣き叫ぶが、それでも事態は好転しない。それどころか徐々にモンスターに囲まれて来ているのを肌で感じ取り、焦って足を滑らしてしまう。

 

「きゃっ!?」

 

盛大にこけた春姫は、しかしリリだけは手放さず、腕の中で抱えたまま蹲る。そして遂にモンスターの大群に追いつかれた。

 

「あ・・あ、あ」

 

『『『『『グオォォオオオオオオオおオオオ!!!』』』』』

 

声に成らない声を上げ、迫りくるモンスターの牙に目を瞑ったその時

 

「今日の訓練はここまでだな」

 

「・・・え?」

 

目の前に行き成り現れた黒髪の少年が指をパチンッ!と打ち鳴らすと、凄まじい量の雷と暴風が駆け巡り、少女二人に迫っていた、インファント・ドラゴンを含めたモンスター達を声を出す暇さえ与えず一撃の元粉砕した

 

「なっ!?」

 

「遅れて申し訳ありません春姫殿」

 

「悪い、それにしても何だったんだあのモンスター、新種か?」

 

「中々強かったですね。まぁヴェルフ殿の前で呪文を唱えたのが運の尽きでしたが」

 

「おいおい、雑談はそこまでにして高級回復薬(ハイ・ポーション)を一本くれ、早くリリの怪我を治したいんだ」

 

目を見開く自分を他所に、遅れて来たヴェルフと命が雑談交じりに色に高級回復薬(ハイ・ポーション)を渡し、それをリリに飲ませていく

 

「な、な、な」

 

「春姫ちゃんも回復薬(ポーション)腕に掛けとけよ、結構深いだろ、それ?」

 

心配そうにこちらを覗き込んでいる色は一本の回復薬(ポーション)を春姫にも渡して来た。

 

「・・・です」

 

「春姫ちゃんはよく頑張ったよ、今日はゆっくり休んでくれ」

 

その一言に、春姫は自分の中の何かが切れた気がした

 

「余計なお世話ですッ!!!!!」

 

「・・・は?いや、でも腕の傷」

 

「ほっといてくださいッ!!腕の傷なら家に帰った後に自分で治します」

 

「でも」

 

声を掛けてくる色に春姫は止まらない、止まれない

 

「今まで(わたくし)とリリ様を何時でも助けられる所からずっと見ていたのでしょう!?それで本当に危なくなったから簡単に助けて、何様ですか貴方はッ!!そんな事で感謝されるとでも思っているのですか!!」

 

「・・・・」

 

それは思いの丈、自分でもよくわからない感情の渦、その全てを目の前の少年に吐き出していく

 

「特訓はリリ様が続ける限り(わたくし)も続けましょう、ですが、もう二度と貴方は手を出さないで下さいッ!!不愉快です!!」

 

黒い感情の炎を吐き出した春姫は、踵を返し、腕の傷も治さないまま、12階層の出口に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にこれで良かったの?」

 

「いや、今回は俺が悪い」

 

返事をした俺は支えてくれるベルから受け取った高級回復薬(ハイ・ポーション)を浴びるように煽った。ダンジョンの出口から命ちゃんに付き添われ、リリを背負って帰っていく春姫ちゃんを見送りながら。

 

「ングッングッングッ」

 

「それにしても色ってさ」

 

「ングッングッん?」

 

「かなり過保護だよね」

 

「ブッフォッ!!げほっげほっ」

 

咽る俺に「汚いなぁ」と言いながら背中を擦って来るベルを、お前に言われたくないという意味を込めて睨みつける

 

「あのね?、わざわざ【食蜂操祈(メンタルアウト)】まで使って姿を隠しながらモンスターの調整をしてたら誰でもそう思うよ?」

 

その言葉にウッと言葉を詰まらせた。そう『リリルカ・アーデ育成計画』の俺の役割はベルが言ったようにモンスターの調整だった。いくら春姫ちゃんの【ウチデノコヅチ】があると言っても100を超えるモンスター相手にリリ一人では流石に対処しきれないので、【食蜂操祈(メンタルアウト)】で俺が戦っている姿を見えない様にして、こっそりモンスターの数を調整していたのだ。

 

「でも色がそこまで手こずるモンスターが出て来るなんてびっくりしたよ」

 

「面目ない」

 

ベルに頭を掻きながら答えた俺は今日一番手こずらされた人型のモンスターの事を思い出した。そいつはリリ達がインファント・ドラゴンの相手をしている時に行き成り現れ、触手みたいなもので攻撃してきたのだ、2人を混乱させない為に他のモンスター同様『呪詛(カース)』を解かずに電撃と風で応戦したのだが、今回ばかりは相手が悪かったらしい

 

「まさか12階層で反射を突破されるとは思わなかったぜ。体はボロボロにされるは、リリ達の所にモンスターが行くはで踏んだり蹴ったりだ」

 

「全く、【イシュタル・ファミリア】の遠征に着いて行った僕が早めに帰って来なかったらどうなっていた事やら。でもヴェルフと命さんも丁度来てくれて思ったより簡単に倒すことが出来てよかったね」

 

「ゲゲゲゲゲゲッ何がよかったんだいィ」

 

「「ッ!?」」

 

後ろから掛けられた言葉に二人そろって肩を跳ねさせた。後ろを振り向くと、全身鎧姿の巨大な女戦士(アマゾネス)が一人、フリュネ師匠だ

 

「いいいいいいえいえ、何でもありませんよフリュネ師匠」

 

「本当かいィ?」

 

ブンブンブンブン!!

 

俺とフリュネ師匠の会話を聞いたベルは全力で頭を縦に振っている。『リリルカ・アーデ育成計画』中はやる事が無くなるベルの経験を積ますために【イシュタル・ファミリア】の遠征に同行させたのだが、そのせいで余計に変身姿のフリュネ師匠のが苦手になってしまったらしい。変身解いたら髪色も似ていて兄妹みたいなのに今は熊と兎である。

 

「まぁいいか、それにしても【リトル・ルーキー】、勝手に先行するなって何度言やァ解るんだァい?」

 

「すすすすいません!!でもアイシャさん達が僕の事を」

 

「あぁん成程ねェ、アイシャより先にアタイに食べて欲しいのかい」

 

「ち、ちがっ、ヒィ!?」

 

追いかけられてるベルを見送った俺は【食蜂操祈(メンタルアウト)】の事がバレなかった事にホッと一息ついた。流石にフリュネ師匠でもあの『呪詛(カース)』を話すことは出来ない。

 

「それにしても、明日からどうすっかな」

 

腕を組んだ俺は、春姫ちゃんの言葉を思い出し、鐘楼の館(ホーム)に向けて足を動かした。

 

 

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』

 

5日目

 

モンスター討伐数 544体

 

春姫詠唱回数 101回

 

回復薬(ポーション) 327本使用

 

精神力回復薬(マジック・ポーション) 82本使用

 

高級回復薬(ハイ・ポーション) 1本使用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continue・・・




ヴェルフが居ればデミ・スピリットを楽々突破で来ると思うの。


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第18話 リリルカ・アーデ育成計画(後)

三部作完。

本当はもっと短くして一話完結にするつもりだったのにどうしてこうなった


『リリルカ・アーデ育成計画』9日目

 

春姫ちゃんに、この前の一件で手を出すなと言われ、どうしようか悩んだ俺だったが、答えは簡単だった。あの言葉は俺だけに対して言われたのだから、遠征から帰って来たベルに頼んだらいいのだ。そうしてベルと一緒に【食蜂操祈(メンタルアウト)】で二人の認識から姿を消し、監視を始めて四日が経ったのだが。

 

目の前の光景に俺とベルは頬を引きつっていた。

 

『グォッ!?』

 

『プギャッ!?』

 

『プグッ!?』

 

「リリ様、後方より『オーク』が7頭、右側より『シルバーバック』が12頭向かって来ます!」

 

「わかりました。今相手をしている『ハードアーマード』を倒したら向かいます、それまで」

 

(わたくし)が囮になって時間を稼ぎます。次の詠唱まで1分53秒掛かりますから、それまでに戻って来て下されば助かります」

 

「・・・ふふっ、そうですね。それでは任しましたよ!!」

 

小人族(パルゥム)の少女が光を纏いながら大槌を振り回し、狐人(ルナール)の少女が隙を生み出すために、わざとモンスターの前に出ては攻撃を避け、入れ替わる。正に一心同体、ぴったりと息の合った共闘(コンビネーション)は四方八方から迫りくるモンスターを物ともせずに駆逐していった。

 

「ねぇ色、凄く成長してない?あの二人」

 

「あぁ、予想以上に強くなってて正直ビビってる」

 

見違えた二人に揃って舌を巻く。一昨日あたりからベルが一切仕事をしなくなったと言えば、その異常な成長スピードが解るだろうか?いや、俺達が言う事じゃないのかもしれないが。これがヘスティアの言う成長期なのかもしれない。

 

「でも、この特訓も明日で終わりって思うとなんだか寂しくなるね。ってその顔また何か良からぬ事考えてるでしょ、副団長様?」

 

「良からぬ事とは失礼な、俺は常に【ヘスティア・ファミリア】にプラスになる事を考えてますよ、団長様」

 

ジトッと見て来るベルに笑顔で返した俺は今だ霧の中で奮闘している二人に目を移した。

 

「いい加減にしないと、あの二人に本気で嫌われちゃうよ?」

 

「ウッ、確かにそれは困るけど。多分大丈夫、逆に感謝される筈だ」

 

「はぁ、程々にしときなよ?それとさっきからずっとソワソワしてるけど、どうしたの?」

 

「あ~・・・いや、なんでもない」

 

ベルに答えた俺は少しだけ背中を擦った、最近妙に熱いんだよなぁ、風邪か?

 

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』

 

9日目

 

モンスター討伐数 931体

 

春姫詠唱回数 40回

 

回復薬(ポーション) 151本使用

 

精神力回復薬(マジック・ポーション) 27本使用

 

高級回復薬(ハイ・ポーション) 2本使用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ただいま帰りました」」

 

「おかえり、サポーター君、春姫君。ご飯か、お風呂どっちにする?」

 

「「ご飯で」」

 

「了解した、そこで少し待っててくれ。すぐに用意するぜ」

 

「「いつもありがとうございます!!」」

 

ダンジョンから帰って来た二人はパタパタと台所へ駆けて行くエプロン姿のヘスティアに礼を言い、向かい通しに腰かけた。

 

「リリ様、今日はD地点とC地点で高級回復薬(ハイ・ポーション)を2本使用しましたが、明日は進むルートを変えてみますか?」

 

「いえ、あの怪我はリリが油断していただけです。今回、春姫様が考えられたルートは比較的戦いやすかったですよ?」

 

「そうですか。しかし、今回のルートの他にも後二つ程戦いやすくなるようなルートを考えてみたのですが、見ていただけますか?」

 

「そうなのですか?どれどれ」

 

そう言いながら春姫が広げた、いくつもの付箋が張られている12階層の地図をリリは机に乗り出しながら、興味深そうに見つめる

 

「ここと、ここの岩場を利用して・・・」

 

「成程。でしたら、此処も使ってみたら・・・」

 

二人は次々と言葉を交わしながら一枚の地図の中に付箋や文字を書き足していく、それはヘスティアが頭の鐘を鳴らしながら料理を持って来た後でも止まらない

 

「モグモグ、ですから。春姫様は前線に、ごくん、出過ぎなのでは?」

 

「今日は春姫君達の故郷の料理に挑戦してみたんだ」

 

「ムシャムシャ、そうですか?(わたくし)的にはもっと前に出てもいいと考えているのですが。パクパク」

 

「命君からも色々教わって、ボクの料理スキルも中々のもんになって来ていると思うんだけど」

 

「駄目ですよ春姫様、ダンジョンでは油断が、モグモグ、命とりですからムシャムシャ、それに前に出過ぎて、ング、ング、プファ、詠唱が出来なくなってしまっては困ります」

 

「どうだい?美味しいかい?」

 

「「美味しいですよ」」

 

「君達全然ボクの話聞いてないだろッ!?」

 

ウガー!!と怒るヘスティアを「まぁまぁ」と宥めてから数秒後、すぐにダンジョンの話に戻る二人をロリ巨乳の女神は溜息と共に頬杖を突きながら見つめていた

 

「はぁ、魔石の換金と道具の補充に行ったベル君達はまだ帰って来ないし、この二人の話には着いて行けないし、ていうか二人とも、明日で最終日なんだろ?そこまで作戦を煮詰める必要があるのかい?」

 

その発言に今まで止めなかった食事をピクッと止めた二人は、いい笑顔でヘスティアに答える

 

「「そんなの、予め作戦を決めとかないと簡単に死ぬからに決まってるじゃないですか」」

 

「そ、そうなのか」

 

ヘスティアはその異様な迫力に、冷や汗を掻きながら仰け反った。そんな二人の作戦会議は他の【ヘスティア・ファミリア】の団員たちが帰って来るまで続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も深くなってきた頃、鐘楼の館の裏庭で月に照らされた少女二人が向かい合っていた

 

「それでは命様、今日もよろしくお願いします」

 

礼儀正しくお辞儀をしてから構えて来る狐人(ルナール)に命は少し困惑しながら答える。

 

「わかりました。しかし春姫殿、今日は本当にその重力魔剣を付けながらするのですか?」

 

「はい、明日は最終日ですから、それまでに少しでも経験値(エクセリア)を稼いで置きたいので」

 

キッパリと告げられた言葉に命は苦笑いする。

 

これは色との一件以来、春姫が命に頼み、密かに続けている稽古だ。動きに支障が出ない様に露出が多めで青を基調とした和装を纏い、黒い棒状の魔剣を腰に装備した春姫は腰を深く落とし構える。

 

「それでは始めます、ねッ!!」

 

「・・・・・」

 

不意打ち、唐突に始まった木刀の先制攻撃を春姫は難なく見切り、自分の毛先も触れさせないまま無言で躱した

 

「はッ!!せやッ!!!」

 

上段、下段、横薙ぎ、突き、命が繰り出す攻撃に春姫は一切動じず、時にはしゃがみ、時には身をずらし、最小限の動きで淡々と躱していく

 

「流石ですね、春姫殿!!」

 

「いえ、(わたくし)にはこれしか出来ませんので!!」

 

攻撃を続ける命は、そう言いながら掠りすらしなくなった春姫に嫌な汗を流した。

 

春姫が此処まで急成長した原因は3つある。

 

1つ目は【イシュタル・ファミリア】での経験。

 

【イシュタル・ファミリア】で魔法を唱え続け、自分より遥かな高みに居る人物達が更に高みに上り、戦闘していく姿をずっと見て来た彼女は例え相手が格上(Lv.2)であったとしても、その動きに冷静に対応できるだけの経験値が蓄えられていた。

 

2つ目は責任感。

 

春姫は『リリルカ・アーデ育成計画』を続けて、『段位昇華(レベル・ブースト)』が出来る自分にどれだけの責任が掛かっているのかを正確に理解した。しかも色にあれだけの事を言ったのだから、せめて少ない回復薬(ポーション)を自分が使わず、詠唱出来る様に攻撃だけはしっかり躱そうという、強い責任感が彼女をより正確な回避方法を取らせるようになっていた

 

そして3つ目、それは・・・

 

「【――大きくなれ。其(そ)の力に其(そ)の器】」

 

「は、ははは」

 

攻撃を舞う様に躱しながら朗々と歌う春姫に、命は乾いた笑いを漏らした

 

自分が色殿に補助されながら必死に習得した平行詠唱をもう此処まで昇華させますか、そうですかそうですか。

 

そして3つ目は天賦の才能。

 

戦う事を殆どして来なかったから気付く者は皆無だったが、こうして一から動き方を教え、鍛えた命には自分と春姫の才能の違いを嫌と言う程に理解させられた。一度教えた動きは一回で習得し、動けば動くほど、その動きは自分が教えた動きよりも洗練されて行く。平行詠唱等も例外ではなく、教えた直後の一発で成功した時は「ふざけるな」と叫び出しそうになった程だ。

 

その経験と責任感と天賦の才能が強く強く彼女を高みに押し上げ、身体能力が優れた獣人というのも拍車を駆け、回避だけならLv.2の命が練習相手にならなくなるぐらい、かなりふざけた存在に化けて来ている。

 

「【ウチデノコヅチ】!!」

 

「ふ、ふふふ、自分に【ウチデノコヅチ】を発動させたのですか?流石に舐め過ぎでは?」

 

「いえ、こちらの方が経験値(エクセリア)を稼げると思いまして。ど、どうしたのですか?そんなに怖い顔をして、(わたくし)なにか気に障るような事をしたのでしょうか?」

 

因みに本人は全くと言っていい程、自分に才能があるなんて思っていなかった。主にベルと色のせいで。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、今日は最終日だから二人とも気合を入れて頑張ってね~」

 

そう言いながら霧の中に潜って行った色を見送った二人は作戦道理に12階層を進んでいき、既に半日が経とうとしていた

 

フォン、グシャッ!!

 

『プギョッ!?』

 

フォン、グシャッ!!

 

『キキィ!?』

 

フォン、グシャッ!!

 

『グォッ!?』

 

次々とモンスターを大槌でミンチにしていく小人族(パルゥム)の少女は額に汗を掻きながら、綺麗になった12階層の一角を見渡した。

 

「リリ様、そろそろ昼食にしましすか?」

 

「そうしましょうか。今日のお弁当はヘスティア様の新作のホットドックらしいので少し楽しみです」

 

後ろから声を掛けて来た狐人(ルナール)の少女に返事をし、周囲を警戒しながら食事をしていく小人族(パルゥム)の二人は傍から見ればピクニックに来ている可愛らしい少女二人に見えるかもしれない。

 

しかし周囲を見渡す為、足元の台替わりに積まれているのは夥しい数の魔石である。

 

「ハムハム、春姫様一応言っておきますけど、油断は禁物ですよ?」

 

「解っております。全く、あの方のせいで何度煮え湯を飲まされた事やら」

 

春姫は今までした事の無いような表情を浮かべ、深い霧を睨みつけている。思い出すのは苦々しい過去の記憶、ここには居ない筈の『キラーアント』や『ウォーシャドウ』等のもっと上のモンスターが100単位で追加されたり、出現する全てのモンスターが『天然武器(ネイチャーウエポン)』を装備してたり、果てには中層の『ヘルハウンド』や『アルミラージ』が襲ってきたリ、その他両手で数えても足りないぐらいの異常事態が、この四日間絶え間なく起きていた。

 

「昨日だって、インファント・ドラゴンが鎧を着てましたし。本当に馬鹿なんですかあの人は!!そうは思いませんか、リリ様?」

 

「あ、あはは、そう、ですね」

 

その全てが色のせいだと春姫は思っている様だが、怪物進撃(デス・パレード)と呼ばれているパーティで活動していたリリは目を逸らした

 

言えない、これがリリ達の日常でしたなんて言えない

 

そうですよ、思い返して見れば今まではかなり温い方なんですよ。そもそも5日間、殆ど囲まれずに戦えていたこと自体が奇跡みたいな物ですし、厄介な『バットバット』等の飛行するモンスターも何故か出て来なかったですし、何よりも春姫様の話ではギリギリで助けてくれたんですよね色様。あの人、ああ見えてかなり家族(ファミリア)に甘いですし、もしかすると・・・

 

「・・・様・・・リリ様!!」

 

「は、はい!なんでしょう!?」

 

「もう、あまりボーとしないで下さい。前方に複数のインファント・ドラゴンの足音が聞こえました。距離は恐らく100Mも無いかと」

 

「かなり近いですね、少し離れましょうか」

 

「【――大きくなれ】」

 

何も言わず、下がりながら詠唱を始める春姫に、彼女を守るように前方に立ち大槌を構えるリリ、二人の間に合図は無く、詠唱の声と足音だけが辺り一面を覆いつくした。息のピッタリあった二人の前に、一匹の怪物が現れる。

 

『グルルルルルルルルル』

 

その鱗は普段とは違いどす黒く変色し、口元には無数の血痕が付いている。足に付着している見知った鱗に、そして何よりも、春姫の言った複数の足音とは矛盾して一匹で来ている事。リリは一発でアイツが何なのかを理解した

 

「インファント・ドラゴンの強化種ですか。しかも、あれは同族を共食いしてますね」

 

『グァアアアアアアアアアア!!!!』

 

冷静に言っているが足は震えている。当たり前だ、あんな化け物例えLv.2であろうとも勝てるか怪しいだろう。

 

「【ウチデノコヅチ】!!リリ様、一応全力で精神力(マインド)をつぎ込みましたので18分は行けるはずです。それで、どうしますか?何やらえらく強そうですが、毛並みがピリピリしてきます」

 

「そうですね、正直『段位昇華(レベル・ブースト)』してても勝てるかどうか怪しいのですが・・・」

 

「ですが?」

 

恐らく、今のリリは世界で一番馬鹿だと思います。この前吹き飛ばされたモンスターと同じ姿のモンスターを、しかもその強化種を目の前にして・・・

 

「春姫様、リリのわがままを聞いてくれますか?」

 

「何なりと」

 

「怪物退治を手伝ってください」

 

「勿論です」

 

勝ちたいと思っているのですから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「だぁああああああああああああ!!!」

 

光を纏いながら大槌を振りかざす小人族(パルゥム)が黒い小竜に全力で立ち向かう

 

『ガァッ!!』

 

「ぐッ!!」

 

リリは振り下ろされる前足に対して大槌を受け止めるように盾代わりにした。

 

この10日間ずっと戦い続けて解ってきたことがある、それは【縁下力持(アーテル・アシスト)】の有効活用だ、この《スキル》自分が思っていたよりもずっと優秀だったらしく、例え格上の相手であろうと、攻撃が装備の上なら補正が掛かり、持ち上げることが可能だった。それに気づいてからは小さな体を生かし、常に攻撃を武器の上から受けれるように動いているのだ。

 

「だっしゃぁああああああ!!!」

 

『グオッ!?』

 

その巨体を勢いよく持ち上げられたインファント・ドラゴンは踏ん張りきれずに背中から転倒、畳みかけるようにリリはむき出しの腹部に狙いを定めた

 

『ガァァアア!!!!』

 

「くっ!?」

 

咆哮と共に飛んできたのは長い尻尾だった。薙ぎ払う様に勢いよく襲ってくる巨大な鞭にリリは咄嗟に大槌を前方に構え、小さな体をすっぽりと隠し、盾代わりにする。しかし横からの攻撃には【縁下力持(アーテル・アシスト)】の補正が掛からず、大槌を握る腕が軋み、遂には宙に飛ばされた。

 

浮遊感を味わいながらもリリはインファント・ドラゴンから目を逸らさない、何故なら転倒した怪物に攻撃を加えようとしたのは自分だけでは無いからだ

 

「はぁああああああ!!」

 

リリが見据える先には春姫が何かを振り上げながら近づいていく、何の武器も持てない制限を掛けられている彼女だが、たった一つだけその制限から外れているもの(武器)があった。

 

「これでも食らいなさい!!」

 

春姫がインファント・ドラゴンに向かって投擲したのはダンジョンのどこにでも落ちてる石だ。しかしただの石と侮るなかれ、その攻撃はあり得ない程の器用値(コントロール)により正確に投擲され、インファント・ドラゴンの片目を撃ち抜いた

 

『グッ、ゴォォォォオオオォォォオオ!?!?』

 

「うわぁ、まるでどこかの誰かさんを思い出しますね」

 

大槌を肩に背負ながら着地したリリは悶え苦しむ竜と追撃の石を拾いに行く春姫を見て、鴉を思わせる少年を思い出し

 

「本当に懐かしいです。全くあんな物を見せられたら、尚更引けないじゃないですか!!」

 

更に自身の炎を燃え上がらせた

 

少女たちの戦いは続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、何がどうなってんだありゃ」

 

「あれは、ただのインファント・ドラゴンではありませんね」

 

「お帰りヴェルフ、命さん」

 

「こっちに来て見てみろよ、すげぇぞあの二人」

 

視線の先に見えるリリと春姫ちゃんは、眼球を射抜かれて暴れ狂うドラゴンに果敢に立ち向かっていた、鋭い爪を避け、飛んでくる長い尾を大槌で弾き、石で牽制し、反撃する機会を虎視眈々と狙っている

 

「しかし、本当にあの二人でインファント・ドラゴンの強化種を倒せるのですか?見た所、決定打に欠けるような気がするのですが」

 

「安心しろ命ちゃん。ヴェルフ、今のきんに君の重量を教えてくれ」

 

「今使ってるあれは6号だから、大体ゴライオス2体分ぐらいか?」

 

「「はぁ!?」」

 

驚いたのはベルと命ちゃんだ、確か1号でも相当な重さだと聞いたが6号だとそれぐらいになっているのか、俺は【一方通行(アクセラレータ)】を使って手伝っていただけだからあんまり解らなかったんだが

 

「えっと、リリってレベル1だよね?何であんなの持ててるの?」

 

「【縁下力持(アーテル・アシスト)】の効果だよ。知ってるかベル、あの《スキル》上限が書かれていないんだぜ」

 

「「・・・え」」

 

その言葉を聞いて二人は目が点になった

 

「俺も最初に冗談であの大槌持たした時は驚いたぜ、何せ1号の時点でヴェルフが必死になって持っていた物を普通に背負ってたんだからな、その後はこっそり重くしていったんだよ」

 

「たく、作るだけでも一苦労だってのに、重さを少しずつ増やしてくれ、なんてクロが無茶苦茶言うから大変だったんだぞ?」

 

「悪い悪い、でもヴェルフもノリノリだったじゃん、今朝だって6号持ち上げたリリを見て笑い堪えてたじゃん」

 

「そりゃ、あんな馬鹿みたいな武器使ってくれるんだから笑いもするだろ?ていうより笑うしかねぇよあんなの見せられたらな」

 

ヴェルフの目線の先を見ると、リリがインファント・ドラゴンの尻尾を大槌で叩き潰していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グガゴガアアアアアアアア!!!!』

 

「リリ様、その、少しだけドラコンの雰囲気が変わった様な気がするのですが」

 

半歩後ろに下がり、明らかに速度が上がった突進をギリギリの所で避けた春姫は血走った隻眼をこちらに向けて来るドラコンから目を離さずに冷や汗を掻きながらリリに問いかけた

 

『グルルルルルル』

 

「不味いですね、あのまま暴れていてくれたら、まだ対処しやすかったのですが」

 

そう言いながらリリは両手に持った大槌を抱え、前屈みになり、受けの態勢に入った

 

『ガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 

「ぐぅううううう」

 

突進してくる巨体、その重量を真正面から受けたリリは何とか体制を低くしてドラゴンの下に潜り、《スキル》の能力圏内に入れようとするが、下からの動きで力を出せる事を学習したのか、ドラゴンは頭を低く持って行き【縁下力持(アーテル・アシスト)】を発動させない様にしていた

 

『グゥゥオオオオオオオオ!!!』

 

「う、ぐぐぐぐ」

 

「やらせません!!」

 

押されているリリの横合いから春姫が投擲を仕掛ける、潰れていない方の目に向けられた石は真っ直ぐに飛んでいき、当たる寸前、ドラゴンが笑みを浮かべる

 

『ギャァアアアアアアアアア!!!!』

 

「え?」

 

「なッ!?」

 

目を見開く春姫の眼前に迫ったのは先ほどリリが潰した血まみれの尻尾だ、僅かに反応が遅れた春姫は吹き飛ばされ、無理矢理振り回した勢いで千切れた巨大な尻尾の下敷きになってしまう。

 

「リ、リリ様!!早くこちらに来てください、もうすぐ【ウチデノコヅチ】の効果が切れます!!」

 

不味いと思いながらも、尻尾から抜け出せない春姫は必死になってリリに叫ぶが

 

『ガァァァァ』

 

「まさかこれが狙いですか?嘘でしょう」

 

まるで狙いすましたように【ウチデノコヅチ】のタイムリミット18分が切れた。途端に重くなる全身に、尾を失い夥しい量のどす黒い血液を垂れ流しているインファント・ドラゴンの濃厚な殺気が突き刺さる

 

『オオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

好機と見たインファント・ドラゴンは迷い無く輝きを失った小人族(パルゥム)の少女を叩き潰そうと駆けだした。死ぬ、間違いなく死ぬ、頭を駆け巡る死の宣告に脳が拒絶反応を起こし思考が真っ白になっていく

 

でも、この感覚どこかで

 

リリはこの真っ白になる感覚を知っていた。それはソーマの神酒を飲んだ時と酷似している、ドロドロとした白濁色に濁っていく思考の中、あの時の自分はどうして正気に戻れたのか

 

そんなもの、決まっています

 

思い出すのは二人の背中

 

「これはリリの戦いです、手を出さないで下さい」

 

ソーマ酒を飲んだ時、正気に戻してくれた白と黒の幻想の背中にリリはそっと呟いた。だってもう一度その手を借りると今度は抜け出せなくなりそうだから

 

「掛かって来なさい、木端微塵にしてあげます」

 

突進してくるドラゴンの勢いは止まらない、それどころか更に加速していく程だ。しかし、両手で持っている大槌を眼前に構えるリリには先ほどの恐怖は既に無く、背中に燃えるような熱を感じながら、迫りくるドラゴンに向けて駆けだした。

 

自分の体重より遥かに重い大槌を構え、背中から蒸気を揺らめかしながら駆けて行く小人族(パルゥム)は、小さな(オーガ)を幻想させる。

 

『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

竜と鬼の激突、しかしそれは激突と言うには生温すぎた。カウンターの要領で振り回された大槌は竜の横っ面を莫大な大質量を伴い吹き飛ばし、その巨体を実に10M(メドル)程浮かせる

 

『グガッ!?ァァアアァア!!!ゴオオオオオオ!!!!』

 

「ぜぇええええええい!!!!」

 

ドラゴンは浮いた体を空中で反転させ、眼下で大槌を振り上げようとする小人族(パルゥム)を叩き潰すために、全体重を乗せて右前脚の尖爪を叩きつけた。

 

2度目の激突。

 

爆音と共に舞い上がる土煙の中、大槌を振り上げた鬼に地面に降り立った竜の爪は届いていない。

 

インファント・ドラゴンは血まみれになった自身の前足を気にする様子も無く今度は黒い体を前面に使い、タックルを仕掛けた

 

『グォォオオオオオオオオ!!!!!』

 

「だぁああああああああああ!!!」

 

迫り来る巨体に小人族(パルゥム)は大槌を上段に持ち上げ振り落とす。

 

三度目の激突。

 

鬼が振り下ろした大槌はその重量を如何なく発揮し、ドラゴンの固い鱗を叩き潰し、肉が潰れる音と竜の叫び声が12階層に鳴り響き渡った。

 

『ゴ、ゴギャアララギャガガガガガガ!!!』

 

「いい加減、潰れなさいッ!!!!」

 

声に成らない声を上げ、攻撃してくるインファント・ドラゴンと鬼のような小人族(パルゥム)の戦いは4回、5回と衝突を繰り返す度に、鬼の大槌が竜の体を跳ねさせ、吹き飛ばし、叩き潰す、一方的な戦いになっていた。

 

しかし、それも遂に限界が訪れる

 

「はぁ・・・はぁ、う、腕が・・・」

 

戦いの中、始めて膝を着いたリリは大槌を落し、力が入らなくなり震えている両腕を見つめた。

 

【ウチデノコヅチ】のお陰で今まで幾ら超重量の大槌を振り回しても感じた事の無かったLv.1の【ステイタス】の限界が来たのだ、歯を食いしばり、何とか大槌を持ち上げようとするが、力が入らない両腕では持ち上げる事すら敵わない。

 

そして、血まみれになった隻眼の竜が動けなくなったリリを眼前に見据える

 

『ガァアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

「ッ!?」

 

竜は潰された二つの前足を使わずに後ろ脚だけで突進して来た、頭を地に着け、大顎を最大まで開き、膝を着いたリリを噛み殺そうとしてくる。体を捻って避けようとするが間に合わない、地面ごと食らう勢いで迫る無数の牙に、必死になって大槌を構えようとするが、持ち上がらない

 

「あ、ああああああああああああああああああああ!!!!」

 

リリは叫んだ、諦めるなんて論外だ、あの二人なら諦めない、諦めた事など見たことも無い、だから自分も諦めない、絶対に諦めない、だから持ち上げる、何としてでもこの大槌を持ち上げて倒す、あのドラゴンを倒す、自分が倒す、こんな事で死んで堪るか、あんな奴に殺されて堪るか、絶対に勝ってやる、勝ってあの二人に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追いつきたい

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

牙が小さな少女に突き刺さる瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【大きくなぁれ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き馴れた詠唱が耳に届いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ウチデノコヅチ】!!」

 

「ぁ・・ォ・・オオオオオオオオおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」

 

『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

光り輝く体に湯水の様に沸いて来る力、リリは今一度大槌を振りかぶり、眼前に迫った無数の牙に、自身の全てを乗せて、その鉄槌を叩きつける

 

最後の激突

 

響き渡る無数の音は歯が砕ける音と、肉が千切れ飛んだ音だ、幾度もの鬼と竜の激突により、地形が変わり果てた12階層の一角に一瞬だけ

 

完全な静寂が訪れた

 

『・・・・ゴゥ・・ゴ・・・ガ・・・』

 

「・・・・はぁ・・・はぁ・・はぁ」

 

インファント・ドラゴンが遂に倒れ、巨体を魔石と大量の灰に変える

 

 

その目の前には

 

 

 

巨大な大槌を両手に携えた、小さな灰被の少女(シンデレラ)が立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル様、見て下さい!!Lv.2になってから【ステイタス】の伸びが一気に上がるようになりました!!ベル様にだって負けませんよ!!」

 

「あ、あはは、凄いねリリ、でももう何度も見せに来なくてもいいよ?」

 

「うふふふ、新しい《スキル》もかなり優秀ですし、これからは前衛としてバリバリ働かさせていただきます!!」

 

「リリスケ、一応言っておくけどな、その《スキル》は優秀じゃなくて凶悪って言うんだ」

 

「うるさいですよ、ヴェルフさん。貴方はもっと重たい武器を作ってください」

 

「お前なぁ」

 

「サポーター君、手が空いてるんだったら食器並べるの手伝ってくれ」

 

「ヘスティア様、リリはもうサポーターじゃないんですから、その呼び方は止めて下さい。リリも皆様をさん付けで呼ぶよう心掛けているんですよ?ベル様は別ですけど」

 

下から聞こえてくる喧騒に耳を傾けながら『リリルカ・アーデ育成計画』と書かれた紙に文章を付き足していく、するとコンコンと自室の扉を叩く音が聞こえて来た

 

「はいはい、て春姫ちゃん、どうしたの?」

 

扉を開けると目の前には顔を赤くしてモジモジしている狐人(ルナール)の少女、春姫ちゃんが立っていた

 

「あの、中に入れて貰ってもよろしいですか?」

 

「え?うんいいけど」

 

オズオズと言った感じに入って来る彼女に困惑の視線を送りながらもベットの上に座らせた。

 

自分も椅子に座るが、はて、どうしたのだろうか?この前やった、俺主催のリリルカ・アーデLv.2おめでとうサプライズパーティーの時も顔すら合わせて貰え無くて、かなりショックを受けたのだが、もしかして闇討ちにでも来たのだろうか?

 

「えーと、ですね」

 

「・・・」

 

「その・・・」

 

「・・・」

 

長い沈黙の後、彼女は意を決したように立ち上がり、口を開いた

 

「すみませんでした!!!」

 

「うん?」

 

そのまま綺麗なDOGEZAに移り、俺に謝罪を続ける

 

「数々のご無礼、許して貰おう等とは思っておりませぬ」

 

「え、いや」

 

「どんな処罰も受ける覚悟でございます」

 

「ちょっ、ま」

 

(わたくし)に出来る事なら何でも、この体を好きにしてもらっても構いません!!」

 

「ちょっと待てやエロ狐!!」

 

「コンッ!?」

 

訳解らんことを口走る暴走エロ狐にチョップを食らわし、説明を求める

 

「とりあえず、どういう心境の変化があったのか教えてくれない?春姫ちゃん」

 

「えっと、はい、その、皆様から色々聞きまして」

 

まぁ、そうだろうとは思っていた。だって今日のダンジョンで大量のモンスターが出る度に俺に隠れてコソコソ皆に話を聞きに行ってたもんな、大方『リリルカ・アーデ育成計画』で起きた数々の異常事態(アクシデント)が俺のせいじゃない事が解り、疑っていたのを謝罪しに来たという所か?

 

「リリ様が気絶した時、強力なモンスターと戦われていたと」

 

あぁ、そっちの事か。

 

「それで、実は(わたくし)達を身を挺して守ったお掛けで全身血まみれなのに、無理をして《呪詛(カース)》を使」

 

「ストープ!!まさかそこまで聞いてるとは思わなかったぜ。恥ずかしいからこれ以上言うの止めて!!」

 

「その後、強がって《魔法》を使われた反動で精神疲弊(マインドダウン)を起こし掛け」

 

「止めろっつってんのが聞こえねぇのか!!」

 

「ベル様に支えられてフラフラなのに見送るまで回復薬(ポーション)を飲まず」

 

「お前わざとやってんだろ!?口閉じろや駄狐!!」

 

俺は持っていた『リリルカ・アーデ育成計画』と書かれた紙を置き、そのまま喋り続けようとする駄狐を口封じするために全力で立ち上がるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』

 

最終日

 

モンスター討伐数 412体

 

春姫詠唱回数 21回

 

回復薬(ポーション) 73本使用

 

精神力回復薬(マジック・ポーション) 11本使用

 

高級回復薬(ハイ・ポーション) 0本使用

 

インファント・ドラゴン強化種 1体討伐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

 Lv.1→Lv.2

 

 力:S999→I0

 

 耐久:A812→I0

 

 器用:D554→I0

 

 敏捷:D588→I0

 

 魔力:E471→I0

 

 狩人:I

 

《魔法》 

 

【シンダー・エラ】

 

・変身魔法

 

・変身後は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は失敗(ファンブル)

 

・模倣推奨

 

・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

 

・解呪式【響く十二時のお告げ】

 

《スキル》

 

縁下力持(アーテル・アシスト)

 

・一定以上の装備加重時における補正。

 

・能力補正は重量に比例。

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

・装備加重時における倍率補正。

 

・能力補正は重量に比例し上昇。

 

・力値限定。

 

 

 

 

これは、いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 




次回からは軽い短編をいくつか織り交ぜます、多分。

早く9巻まで行きたい


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第19話 ミコトが斬る!

超短編


一目で和風と分かる室内で一人の少女が目を覚ました

 

「ふぁぁ」

 

体起こし、テキパキと布団を箪笥に片づけ、寝間着から私服に着替えた少女、ヤマト・命は畳を敷いてある自室から出て、下の厨房に喉を潤しに向かった

 

「おはよう命君、今日は何時もより早いね?」

 

「おはようございます、ヘスティア様。偶々、早く起きてしまって、よかったら飲み物をいただけますか?」

 

「いいよ、命君は麦茶でよかったかな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

厨房で朝食の準備をしていたエプロン姿のヘスティアに程よく冷やされた麦茶を渡されて飲んでいると

 

「ついでに色君の部屋にも、これを持って行ってくれないかな?」

 

麦茶の入ったコップを二つ渡された

 

「二つ、ですか?」

 

「うん、昨日からぶっ通しだったと思うから、今朝は喉カラカラだと思うんだ、っと魚焼いてたんだった、それじゃあ任せたぜ」

 

「はぁ、解りました」

 

ヘスティアから麦茶を乗せられたお盆を困惑しながら受け取った命は、あと一つは誰の物なのか疑問を抱きながら色の自室に向かった

 

コンコン

 

「色殿、入ってもよろしいですか?」

 

返事が無い、まだ寝ているのだろうか。そう思いながら命がドアノブに手を掛けようする前に、ドアが内側から開けられて、中の人物か出て来た

 

「あ、おはようございます命様」

 

パタン

 

命はとりあえず混乱しない様に扉を閉め、まず誰の部屋かを確認する。どう見ても色の部屋だ

 

ガチャ

 

「どうしたのですか?・・・まぁそれは、色様の言う通りでした、本当に飲み物を」

 

パタン

 

まて、混乱するな、頭を冷やせ、そうだ、とりあえずここにある麦茶を飲もう

 

ガチャ

 

「おはよう命ちゃん、お茶ありがと、ヘスティアに礼言っといて」

 

パタン

 

扉の前に呆然と立っているヤマト・命から、お盆を受け取った色は、そう言って春姫と一緒に部屋の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳なんですよリリ殿!!」

 

「はぁ」

 

命は早朝訓練が終わってすぐ、庭に残って大槌を振っているリリに、春姫が色の部屋にいた件について相談した。しかしリリは興味無さそうに大槌の点検をしている

 

「はぁ、じゃなくて、もっと真剣に答えてください!?」

 

「真剣にって言われましても、リリだって少し前は色様の部屋によく泊まってましたよ」

 

「・・・は?」

 

石の様に固まった命に、巨大な大槌を片手でブンブンと振り回すリリが言葉を続ける

 

「あぁ、でも相手が春姫さんとなると夢中にならない様に言っといた方がいいかもですね・・・うーん、やっぱり重さがイマイチ、今度ヴェルフさんに倍ぐらいに出来ないか相談しましょう。あれ、命さん?」

 

 

 

「ヴェ、ヴェルフ殿!!」

 

「ん?どうした、武器の点検か?」

 

顔を青くしながら命が向かった先はヴェルフの工房だった、中に入り息も絶え絶えにヴェルフに詰め寄る

 

「はぁ・・・はぁ、リ、リリ殿と春姫殿が・・・」

 

「あの二人がどうした?」

 

「よ、夜中に・・・し、色殿と」

 

「あぁ、それなら昨日クロから聞いたぞ?」

 

「なッ!?」

 

絶句した命を気にする素振りも無く、ヴェルフは続ける

 

「それにしてもリリスケも行ったのか、俺も混ぜてくれたらよかったのにな」

 

後ずさるしかなかった、脳の処理が追いつく前に

 

「まぁ、俺も少し前は工房で何度も」

 

ここからでなければ・・・

 

「わああああああああああああ!!!!」

 

「お、おい!・・・何だったんだ、いったい?」

 

 

 

 

 

命は走った、全力で走った、目指すのは白髪の少年。純粋無垢な彼ならば、きっと自分の思いを解ってくれるだろう

 

「神様、春姫さんの様子はどうでしたか?」

 

「!?」

 

何故か咄嗟に隠れてしまったが、春姫殿の話をしているのなら丁度いい。命は隠れていた曲がり角から身を乗り出そうとし、続けられた会話に今日最大の衝撃を味わう事になる

 

「早朝訓練が終わった後にグッスリだ」

 

「やっぱりそうでしたか。昔は僕も神様も朝になるまでずっとしてましたからね」

 

「そうだったね、色君が上手なもんだから3人とも寝れずに、いつの間にか朝になってたのはいい思い出だよ」

 

命は鐘楼の館から飛び出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タケミカヅチ様ぁ!?」

 

「お、おぉ?命か、どうした?」

 

命が向かった先は【タケミカヅチ・ファミリア】の本拠(ホーム)だった。今日は他の団員はダンジョンに向かっているのか中にはタケミカヅチしかいない

 

「タケミカヅチ様にき、聞きたいことがあるのですが!!」

 

「な、何だ命、そんなに焦らなくてもちゃんと聞いてやるぞ?」

 

「は、はいその・・・だ、男女の営みについてです!!」

 

「!?」

 

驚愕するタケミカヅチに顔を真っ赤に染めた命は今朝の事を全部話した、そして自分はどうすればいいか、どう受け止めればいいのか。その答えをタケミカヅチに訪ねたのだ。

 

「う、うむ。そうか、色君が、英雄色を好むと言うが・・・」

 

「そ、それで、自分はどうすれば」

 

「そうだな、よし。実は今日、色君と将棋を指す約束をしていてな、その時にそれとなく真意を聞いてみよう」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ、安心して俺に任せておけ!!」

 

「はい!!」

 

元気よく返事をした命にタケミカヅチは勢いよく親指を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぃっす、来ましたよ、タケミカヅチさん」

 

「おぉ、来たか色君、まぁ腰かけたまえ」

 

そう言いながらタケミカヅチはワザとらしく、命が隠れている箪笥の傍まで誘導し、将棋盤を置いて見せた

 

「今日はえらく端っこでやるんですね?」

 

「そ、そうか?まぁそんな細かい事はどうでもよいではないか、どれ、甘味の一つでも持って来よう」

 

「え?いやそんな気遣ってもらわなくても・・・」

 

何とか話を逸らしたタケミカヅチは二人分の大福とお茶を乗せたお盆を将棋盤の傍に置き、将棋を指し始めた。あまり大きいとは言えない部屋に、二人の声と将棋を指す音だけが響いている

 

パチン

 

「その、色君。君に聞きたいことがあるのだが」

 

パチン

 

「聞きたい事ですか?」

 

パチン

 

「何だ、春姫の事をどう思っている?」

 

「ブッ!?」

 

命は慌てて口元を抑えた、さりげなくとは何だったのか、あまりにも直球過ぎる

 

「春姫ちゃんですか?そうですね、最初の方はよくケンカしてたんですけど。最近はかなり仲いいですよ」

 

「そ、そうか、仲がいいのか。所で風の噂で聞いたのだがな、色君は他のファミリア(ベル達)とも仲がいいのだとか」

 

直球過ぎますよ、タケミカヅチ様!?

 

他のファミリア(イシュタルファミリア)とですか?確かに仲がいいですけど、主神(イシュタル)がベタベタしてくるのはどうにかした方がいいですよね」

 

「「!?」」

 

「ま、まて、主神(ヘスティア)がベタベタして来るのか?」

 

「はい、主神(イシュタル)がベタベタして来るんです」

 

ヘスティアはベル一筋だと思っていた二人は驚愕に顔を染めた

 

「そ、そうか。それで色君の本命は誰なんだ?」

 

「本命?どういうことですか?」

 

「色君」

 

タケミカヅチは将棋駒から手を離し、色の肩をきつく掴んだ

 

「タ、タケミカヅチさん?」

 

「男なら、必ずしも心の中に自分がこれと決めた者がいるものだ、それを聞かせてくれ」

 

「・・・」

 

それを聞いた色はしばらく手を顎に当て考え込んだ後「成程、そう言う事ですか」と呟くと、目の色を変えてタケミカヅチの事を真っ直ぐ見据えた

 

「そんなの決まってるじゃないですか」

 

人差し指をピンと立てた色に、ゴクリとタケミカヅチは喉を鳴らし、言葉の続きを待った。命も緊張した面持ちで箪笥の扉に耳を傾けている

 

「フレイヤただ一人です」

 

タケミカヅチと命は気が遠くなるような感覚がした

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん命。あの美の女神に魅入られてるのなら、俺ではもうどうしょうもない」

 

夕食を食べ終えた命は空になった食器をぼーと眺めながらケミカヅチに掛けられた言葉を思い出して溜息を吐いた

 

「はぁ、自分はどうすれば」

 

「どうしたの、命ちゃん?」

 

「しかし、これは自分が間に入っていい問題なのだろうか」

 

「?まぁいいや。命ちゃん、今夜俺の部屋に来てもらっていい?」

 

「はい、わかりました」

 

ん?ちょっと待て、今自分は何を言われてなんて返した?

 

「サンキュ、じゃあ待ってるからね」

 

「ちがっ、色殿!?」

 

自分の部屋に戻ろうとする色に手を伸ばすが、反対側から服を掴まれる

 

「駄目ですよ命様、休息日は食器を自分で片づけるって決めたじゃありませんか」

 

「待って下さい春姫殿!?今はそれどころじゃ」

 

「駄目です。もぅ、色様だって片づけてるのに命ちゃんもしっかりしなきゃダメだよ?」

 

命は涙目になりながら、意外と力値が上がっている春姫にズルズルと厨房に引きずられた

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

緊張した面持ちで命は色の部屋の扉を叩いた。結局、義理堅い彼女は約束を破る事が出来なかったのだ

 

「はいはいって、何で帯刀してるの?」

 

勿論自分の貞操を守る為に最低限の装備をしている

 

「こ、これはその、実は刀が傍にないと落ち着かなくて」

 

「ふーん、まぁいいか、とりあえず中に入ってよ」

 

そう言って部屋の中に入っていく色に、命は腰の虎徹に手を掛けながら続いた

 

「そ、それでどのようなご用件でございましょうか?」

 

「そうそう、実は昨日春姫ちゃんに言われてさ」

 

「は、春姫殿に?」

 

嫌な予感がした命は声を震わしながら聞き返した

 

「うん、いくら【タケミカヅチ・ファミリア】に戻るからって命ちゃんも仲間はずれはダメって」

 

何言ってんですか、春姫殿ぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!

 

「だから命ちゃん」

 

ヒュンっと命は目をグルグルさせながら抜刀した虎徹を色の眼前に突き付けた

 

「え、ど、どうしたの?」

 

「じ、自分には既に心に決めた方がおられます!!たとえ色殿であろうと、この純血、捧げる訳には行きません!!覚悟ぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「はぁ!?」

 

こうして、命の命を懸けた死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、命様。昨日は色様とお楽しみだったのですか?」

 

「おはようございます春姫殿、えぇ、とても貴重な体験が出来ました」

 

春姫に挨拶を受けた命は眠たそうに目を擦りながら答えた

 

「まぁ、それは良かったです、それで、どんなお話を聞かされたのですか?」

 

「はい、金髪青瞳の忍びの成長物語を」

 

「成程、(わたくし)は空賊の少年と武器に変身できる少女の物語なのですが」

 

二人の会話を遠くで聞きながら、色は何事も無かったかのようにヘスティアと将棋を指している

 

パチン

 

「うーん、やっぱりヘスティアは強いなタケミカヅチさんも結構強かったけどそれ以上だ」

 

パチン

 

「色君の方こそ二日連続で夜更かししてるんだから、少しは弱体化したらどうだい?」

 

パチン

 

「はっはっはっ、現代日本人の俺にはこれぐらいどうってこと無いのだ」

 

パチン

 

「うっ、相変わらずイヤらしい所に・・・それで、命くんに異世界の事は全部話したのかい?」

 

・・・パチン

 

「うん、何か色々あったけど全部話した。驚いてたけど信じて貰えたし、最後は俺の世界の話に凄く食いついてた」

 

パチン

 

「色君は話し上手だからねぇ、昔は三人とも朝まで話し込んで悲惨な目にあったりしたよね」

 

「あったあった、遅刻してリリにめっちゃ怒られたよなぁ」

 

「そのリリ君も、この前は色君の話を朝まで聞いてたけどね」

 

鐘楼の館に小さな鐘の音と二人の笑い声が響き渡った

 

 

こうして【ヘスティア・ファミリア】の平和な日々が続いて行く・・・

 

 

 




勘違い物を1回は書きたいなぁと思って書いたらこんな様である。


次回から8巻突入、色とヴェルフとベルの話を中心にしていく予定です。


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第20話 ノーゲーム・クロウライフ

リューさんの外伝を見ていたら無性に書きたくなった。



お気に入り1000突破示しました。

この物語を見てくれている皆様に深い感謝を


時は昼頃、石造りの二階建て。小奇麗な宿屋を彷彿とさせる奥行きのある酒場『豊穣の女主人』は今日も多数の冒険者の喧騒に包まれていた。そんな店に一人の少年が入店すると、途端に喧騒がざわつきに変わる

 

「お、おいあれ、世界最速鴉(ワールドクロウ)か?」

 

「馬鹿、あんまりジロジロ見てんじゃねぇよ。あの噂知らねぇのか」

 

「このオラリオで知らねぇ奴なんていねぇよ」

 

「いいか、【ヘスティア・ファミリア】にちょっかいだけは掛けるなよ。潰されたアポロンや飲み込まれたイシュタルみたいになりたくなかったらな」

 

「最近またLv.2が増えたって聞くぜ、こぇこぇ」

 

様々な噂が囁かれる中、何事も無いかの様に黒髪黒目黒の制服という格好の少年はカウンターに腰かけた

 

「なんだい色坊、今日も来たのかい?」

 

「当たり前っすよミアさん、休息日の昼ご飯はここの上手い飯って決めてるんですから」

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか!!よし、今日は一杯つけといてやるよ」

 

「マジっすか!?」

 

黒の少年、黒鐘 色は女ドワーフの店主ミアに喜色満面の笑顔を見せた後、上機嫌にメニューを見ていく

 

「すみませーん!!これとこれとこれとこれとこれとこれを下さい」

 

「少年、いっつも思うんだけどその体にニャンでそこまで入るニャ?」

 

「実は少年はモンスターだったりするニャ?」

 

「こらっ!うちのお得意様に失礼なこと言うんじゃないよ馬鹿猫共!!」

 

「「ギャン!!」」

 

色は拳骨を落された二人の猫人(キャットピープル)に苦笑いをしながらも、拳骨を落した店員、ルノアに注文しようとした品を頼んでいく

 

「ごめんね色君、後で馬鹿猫二人には私がきつーく言っとくから」

 

「「あ゛?」」

 

「いいからさっさと仕事に戻りな!!馬鹿娘どもぉー!!」

 

「「「はい!!」」

 

「まったく、悪いね色坊」

 

「いいっすよ、何時もの事ですし」

 

気にして無いといった風に手を振り、暫くして置かれた料理の数々に目を輝かしながら食いついた。そうして色が食事を楽しんでると、興味深そうな話が耳に届いて来る

 

「売ったんじゃねぇ・・・・取られたんだ」

 

「同じ事じゃないか!!このっ、駄目男!!」

 

声の主は男女二人だ、会話はヒートアップしていき、遂には店主に摘み出されてしまった。そうした一騒動の後、店員は気絶した男を回収し、店の隅で話を聞いている。

 

「実の娘を担保に、賭博を・・・」

 

その会話を聞ていた色は静かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな可愛い娘、きっと今に歓楽街に売られちゃう。あぁ、あの娘が何をしたって言うんだ!!」

 

「よかったら俺が助けてやろうか?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

突然掛けられた言葉にその場にいる全員が驚いた表情を浮かべた。そう言う反応するとは思ってはいたけど、これも人助けの一環だ、文句は言われまい。ポケットに手を突っ込んだまま、俺は話を続けていく

 

「もう一度言うぞ、俺がその娘を助けてやる」

 

「あ、あんたもしかして、世界最速鴉(ワールドクロウ)か?確かにアンタなら何とか出きそうだが、本当に助けてくれるのか?」

 

男の言葉に俺はにっこりと笑顔で返した。その笑顔を見た二人は藁にも縋る思いで俺に頭を下げて来る

 

「た、頼む、娘をアンナを助けてくれ」

 

「アタシからもお願いします」

 

「応、任せとけ」

 

頭を下げて来る二人の肩をポンッと叩きミアさんに食事代を払いすぐに店を出て、とある裏路地の酒場に足を向けた、すると後ろから聞き馴れた声が掛けられる

 

「ま、待って下さい!!」

 

「あれ?、リオンさん、どうしたんですか?」

 

振り向くとそこには覆面のエルフ、リオンさんが肩で息をしながら立っていた。何か用事だろうか?

 

「はぁ・・・はぁ、いえ、貴方がギャンブルで売られた娘を助けようとしてると聞いたので手助けに」

 

「え?でもその話したのついさっきですよ。もしかして『豊穣の女主人』に居たんですか?」

 

俺の言葉にビクッ!と肩を震わしたリオンさんは何故か誤魔化すように答えた

 

「じ、実は今から食事の予定だったんですよ、それでたまたま」

 

「はぁ、それじゃ先に食事にしますか?」

 

「いえ大丈夫です、そんな事より早く行きましょう。そうしましょう」

 

「え、ちょっ!?」

 

リオンさんはそのままズンズンと俺の手を引いて歩いていく、まるで何かから逃げるみたいに

 

 

 

 

「リューの奴どこ行ったニャ!?」

 

「少年の事となると見境なさすぎニャ!!」

 

「リューのあの癖本当に何とかならないかなぁ。あ、そうだシル、どうして何時も色君が来ると隠れるのさ?」

 

「いえ、あの人ちょっと苦手で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リオンは色の手を引きながら思う、またやってしまった

 

彼女が勝手に店を抜け出したのはこれが2度目である。一度目は色が歓楽街に入り浸ってるという噂を聞いた時、居ても立っても居られず、飛び出して近くを通りがかったミィシャを捕まえたのだが。帰った後に待っていた散々なお仕置き(罰ゲーム)を思い出して思わずため息を吐いてしまう。

 

「はぁ」

 

「どうしたんですか、リオンさん?」

 

「い、いえ、それより。どうして色さんはあの夫婦を助けようと思ったのですか」

 

話を逸らしたリオンだが、あの夫婦とは何の関係も無い色がどうして助けようと思ったのか、これは実際に聞きたかった事だ。

 

目的地に着いた二人の間に少しの間沈黙が走る

 

「・・・・・何と無く、ですかね」

 

「・・・」

 

その言葉を聞いて、今も背中に刻まれている女神の『恩恵』が、疼いたような気がした。

 

空色の瞳が静かに瞼を閉じる

 

「リオンさん?」

 

「色さん、私は貴方に出会えて良かった」

 

再び瞳を開けた彼女は晴れ晴れとした表情で酒場の扉を開けた

 

 

 

 

 

二人の視界に広がるのは、場末の酒場特有の光景だった。品の無い笑い声を上げる犬人(シアンスロープ)の冒険者や酒瓶を煽り女を抱き寄せるヒューマン、まさにゴロツキの溜まり場、という表現がしっくりと来るその場所を、リオンは険悪感を隠さずに前を進む色の後ろにピッタリとついて行く

 

「色さんはこういう所に馴れているのですか?」

 

「まぁ、歓楽街にしょっちゅう寄ってますからね、耐性は在りますよ」

 

「そう、ですか」

 

苦笑いしながら歩く色に少しだけ複雑な気持ちになった。確かに修行として歓楽街に言っているのは理解しているのだが、もしかしたらそう言う事もしているのかもしれない。いや、でも、まさか、色さんに限って、などリオンが葛藤していると、いつの間にか見知らぬ男と話している色の姿があった。

 

「あの、そちらの男性は?」

 

「今知り合った親切なおじさんですよ。それより交易所に用が出来たんですけどついて来ますか?」

 

「交易所?それは、いいですけど。もしかしてアンナ・クレースは商会に引き取られたのですか?」

 

「そうみたいですね、それじゃ、行きましょうか」

 

「は、はい」

 

あっさりと言う色にリオンは疑問覚えたが、少し考えれば納得した。おそらくあの男は情報屋か何かだろう、【イシュタル・ファミリア】と深い関わりがある彼なら、独自の情報ルートを持っていてもなんら不思議な事ではない。

 

ポケットに手を入れながら前を歩く色の背中を信頼の眼差しで見つめているリオンは気付かない、酒場の人間が、最近有名になったなヒューマンとフードを被ったエルフという目立ちそうな二人に、誰一人目を向けていない事を

 

 

 

 

「リオンさん、アンナさんの居場所がわかりました」

 

「・・・は?」

 

交易所に着いて割と時間が経っていないのに、色が持って来た情報は流石のリオンも絶句するものだった。あまりにも早すぎる

 

「あの、色さん、お言葉ですが裏は取っているのでしょうか?」

 

もしかして騙されているのではないか、心配そうに声を掛けるリオンが思い出すのは嘗て嵌められた仲間たちの事だ。しかしそんな事はお構いなしに色は言葉を続ける

 

「多分大丈夫ッす。それより、リオンさん、アンナさんの居場所は『大賭博所(カジノ)』らしいので明日態勢を整えて【ヘスティア・ファミリア】の誰かを誘って解決に向かいます、今までありがとうございました」

 

「え、色さん?私もついて行きます」

 

「駄目ですよ、リオンさんは正体バレちゃ不味いんでしょ?」

 

ウッとリオンは言葉に詰まった。しかし『大賭博所(カジノ)』は治外法権、ギルドが手出しできない場所なのなら、自分が行ってもバレる確率は少ない筈。

 

「それに今まで散々助けてくれたのに、これ以上迷惑かけられませんよ。じゃ」

 

「待って下さい!!」

 

手を振り、帰ろうとする色の手首をリオンは咄嗟に掴んだ

 

「えっと、リオンさん?」

 

「色さんの気持はよく分かりました。が、それでは私の気が収まらない」

 

リオンは色の漆黒の瞳を真っ直ぐ見つめながら、言った

 

「だから、明日私の代わりの者を向かわせます。集合場所は『繁華街』の最近出来た大劇場(シアター)の前、時間は日が沈んだ頃で、いいですね?」

 

「あの」

 

「いいですね!!」

 

「・・・はい」

 

たじろぐ色に了承を得たリオンはそのまま踵を返しすっかり日が沈んだ夜道に紛れて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、どうしよ」

 

夕日が沈み、夜が深くなってきた時間帯、繁華街の一角で黒髪黒目黒のスーツ姿の少年は一人で頭を抱えていた

 

「なんで今日に限って皆に用事があるかねぇ。最低一人でも良かったのに。リオンさんの代わりの人がLv.3以上でない事を願うか」

 

悩みの種はリオンさんの代行がLv.3以上か以下かだ。

 

昨日は情報を聞き出すだけなので【食蜂操祈(メンタルアウト)】の力を使っても誤魔化せてたと思うが、もし今日来る人がLv.3以上ならば、『呪詛(カース)』を本格的に使った場合、そう簡単に誤魔化せないだろう。

 

「一番手っ取り早いのが店員を全員操ってアンナさん解放させればいいんだけど、流石にバレるよなぁ」

 

「あ、あの」

 

「本来の目的がバレない為にも工夫が必要か・・・」

 

「あの!!」

 

「うん?」

 

凄く綺麗なソプラノの声が話しかけて来たので振り向くと、えらい美人がそこに居た。青い髪は膝丈まで長く綺麗な髪飾で括られて両端に靡いている、瞳もその色と同じ澄んだ青色、長い耳は彼女がエルフという証だろう、あまり派手な装飾がなされていない夜会着(イブニングドレス)に身を包んだ彼女を例えるなら・・・

 

「ミクかよ」

 

「えっと?」

 

「あぁ、いやごめんごめん、君は?」

 

慌てて取り繕い、名前を聞く、勿論その際ポケットに手を突っ込み小型のリモコンを押すのは忘れない

 

「リンっていいます、リオンの代行できました」

 

「あぁ、鏡音の方ね」

 

「?」

 

「こっちの話、知ってると思うけど俺は黒鐘 色、よろしくね、リンさん」

 

そう言ってもう片方の手を青髪のエルフの女性に差し出した

 

「あ・・・は、はい。よろしくお願いします」

 

「それじゃあ行こっか」

 

結果はLv.4以上、めんどくさい事になったなぁと思いながら、青髪の女性を引き連れて、最大賭博場(グラン・カジノ)、『エメラルド・リゾート』に向かった

 

「あの、し、黒鐘さん」

 

「なに、リンちゃん」

 

上目遣いで見て来るエルフに俺は気軽に受け応えした。ただ歩いて行くのも暇なので話を聞いた所、この子リオンさんの妹らしい、しかも俺と同い年なんだとか、女性は見た目で判断できないと聞くが、割りと大人びた彼女が同年代とは驚きである。そして今度はリンちゃんから俺に質問してて来てるのだが

 

「『大賭博所(カジノ)』に入る通行証をどうやって手に入れたのですか?やはり【イシュタル・ファミリア】の伝手を使って?」

 

「禁則事項です」

 

「ウッ、はい、そうですよね、すみません」

 

このように大体の事は秘密で押し通している。可哀そうだがこれはしょうがない、【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使えば造作もないんて事言えないしな。すまんモルドのおっさん達、お前らが頑張ってカジノに貢いで手に入れた通行証(ゴールドカード)は俺が有効活用さしてもらう

 

「確認しました、それでは素敵な夜をお過ごしください」

 

問題無く、『エメラルド・リゾート』に入った俺は眼下に映るダイスや、トランプ、煌びやかな衣装を纏った貴族たち、その中に見知った白髪を見つけてそっと呟いた

 

「さぁ、賭博(ゲーム)を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賭博場で、はぐれないようにと繋がれた手のぬくもりに頬を染めながら、リンと名乗った青髪のエルフは見知った人影を見つけ、思わず声を上げてしまった

 

「クラネルさん!?」

 

「え?、あ、やっと来たんだ、遅いよ色!!」

 

名前を呼ばれた白の燕尾服を纏った少年は自分の前を歩いている黒スーツの少年を見つけると、安堵したような、怒ったような声を上げて此方に向けて足を進めて来くる

 

「おっすベル。あれ、リンちゃんベルと知り合いだった?」

 

「い、いえ。この前の戦争遊戯(ウォーゲーム)は有名ですから」

 

「なるほど、そういうアイタッ!?」

 

「色さん!?誰ですかッ!!」

 

リンは後ろからいきなり色を蹴った人物に振り向き、言葉を失った。

 

そこに居たのは見た者全てが絶句するような美少女が一人、思わず目を奪われるような美しい褐色の肌と、どこかの美の女神を思い出させる艶やかな銀髪、その身に纏うのは燃えるような真っ赤なドレス。女の自分も見惚れる程の世界全ての美と愛らしさを引き詰めたような一つの芸術がそこに存在した

 

「あたいを待たせて挨拶も無しとはいい度胸だねぇ、馬鹿弟子ぃ」

 

「アタタ、すみませんフリュネ師匠」

 

「はぁッむむむ」

 

大声を上げそうになった自分の口をベルに素早く塞がれる。「驚くのは解りますけど声を控えてください」と言われ、了承の意志を視線で飛ばし、口元から手を離してもらう

 

「お、驚いていたとはいえ私に気配を悟らせないとは流石ですねクラネルさん。それより本当にあの可愛らしい子がフリュネ・ジャミールなのですか?骨格からして全く似てませんが」

 

「シー、えっとリンさん、普段の姿は魔法で変身してるんですよ。後、駄目ですよあの姿になった本人の前で可愛いなんて言ったら、それで何度殺されかけたか」

 

「魔法で変身ですか」

 

今一度色と何やら話しているフリュネと呼ばれた少女を見るが、本当にあのヒキガエルとは似ても似つかない

 

「マジですか」

 

「マジです」

 

間髪入れずに返答したベルを見てリンは思った。

 

この世界は不思議なことだらけですね

 

 

 

 

 

 

 

「それで、首尾はどうなんだい、馬鹿弟子?」

 

「上々っすよ」

 

「そうかい、それじゃあたい達はその時まで好きなようにやっとくよ」

 

フリュネ師匠は俺の言葉を聞くと、さっさと自分がやりたい賭博(ゲーム)に行ってしまった。

 

「それじゃ手筈道理に行くぞ」

 

「うん、でも本当にいいのかなぁ?」

 

「大丈夫だって、裏はしっかり取れてある、むしろ俺達は正義の味方だ、そうだろ?」

 

「・・・はぁ、気が進まないなぁ」

 

「どうかしたのですか?」

 

近づいて来るリンちゃんにすぐ行くという意を伝える為に手を振り、俺は今だ乗り気じゃないベルに向き直る。

 

「まさか俺に負けた時の言い訳か、団長様?」

 

「・・・あんまり吠えると弱く思われるよ?」

 

俺の挑発にあっさりと乗ったベルに内心苦笑いしながら言葉を続ける

 

「単純にチップを多く稼いだ方の勝ちだな」

 

「負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ聞くを追加で」

 

「言うじゃねぇか、知ってると思うが俺はこの手のゲームはかなり強いぜ?」

 

「僕の幸運を舐めないでね?」

 

「それじゃあ始めるか」

 

「そうだね始めよう」

 

「「『神様に誓って(アッシェンテ)!!』」」

 

 

 

 

 

 

 

ベルが自分のアビリティを100パーセント行かせるルーレットに向かったのを確認した後、色が向かった先はカードが置かれている机、種目はポーカーだ。進行役(ディーラー)の少女は困惑しながら目の前に座る黒スーツの少年にカードを配った

 

「ストレートフラッシュ」

 

「凄い」

 

捲られた絵柄に青髪のエルフの口から思わず声が漏れる。周りの客も色の41連勝という数字に、あり得ない、という声を漏らすが、リンが凄いと思うのはそんな事ではない。

 

上乗せ(レイズ)

 

「すげぇ、これで勝ったら42連勝かよ」

 

「おい馬鹿、勝負しようとするな」

 

「あいつは鴉だ、機嫌を損ねたら不幸になるぞ」

 

反対側のルーレットとは対照的に口数が少なくなっていく観客たち。

 

そして、恐らく一番この席から降りたいのは必然的に一対一になった進行役(ディーラー)の少女だろう。

 

何故なら、パーム・ボトムディール・セカンドディール・フォールスシャッフル等の様々なイカサマをカードを変え、果てにはルールまで変えて、しているのにも関わらず、一回も勝てていないのだから。

 

「あ、あの、もう」

 

「どうしたの?カード捲ってよ」

 

「は、はい」

 

少女は断れない。自身から削り取られた山の様に積まれているチップを見た後、顔を青くしてカードを捲った

 

「ス、ストレー」

 

「ロイヤルストレートフラッシュ」

 

「!?」

 

圧倒的な手役に観客のざわつきが止まる、顔を青くした少女は涙目になりながらカードを落し、手を震わしていた。その目の前にはニタリと笑う邪な鴉が一羽

 

「色さん、そろそろ」

 

「うん、呼ばれてるから行こうか。楽しかったよ、ごめんねフロースちゃん」

 

黒服に身を包んだ年配のヒューマンに二人が連れられて行くのを見た進行役(ディーラー)の少女は、安堵の表情を浮かべた。自分の名前が知られている事に疑問を抱かないまま

 

 

 

 

 

 

 

俺とリンちゃんが黒服に連れて来られたのは貴賓室 (ビップルーム)と呼ばれる部屋だ、中に入るとそこには男性支給とドレス姿の身目麗しい美女、美少女が多くいた、その中でもとりわけ異色を放っているのは眼帯を付けたドワーフの男と都合4人の亜人(デミヒューマン)達。

 

「おお、これはこれは【滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)超新星(ビックバン)】、黒鐘 色(くろがね しき)様、貴方のような有名人にお会いできて光栄です」

 

芝居がかった仕草で両手を上げ、俺の二つ名を声高らかに上げながら近づいて来るドワーフのおっさんに、少しイラッと来たが我慢する

 

「ああ、俺がその黒鐘 色様ですよ」

 

「私はテリー・セルバンティス、この大賭博場(カジノ)経営者(オーナー)を務めておる者です。どうかお見知りおきを」

 

あまり調子に乗るなよ冒険者風情が、か。成程、面白れぇじゃねぇか

 

「こちらこそ、貴方のような有名人にお会いできて光栄です」

 

そう言っておっさんと握手をした俺はいかにも高級そうなソファーにドカッと腰を下ろした。礼節のなって無い態度におっさんは額に青筋を浮かべる、まぁそれも無視して困惑するリンちゃんを隣に座らせるのだが

 

「えっと、色さん?」

 

「リンちゃん、これからちょっと失礼なことするけどいい?」

 

「失礼な事ですか?まぁ、色さんなら」

 

小声で言葉を交わした俺は怒りを顔に張り付けたドワーフに笑顔で足を組みながら向き直った

 

「それじゃ、ゲームを始めよう」

 

「がははは、流石は冒険者様、豪胆ですな。しかし何事にも順序と言うものがあるのを忘れてはなりませんよ?」

 

「と、いうと?」

 

「そうですね、例えばそちらの美しい女性の紹介とか」

 

卑しい視線をリンちゃんに向けたおっさんに、ほら来た、と心の中で思う。まぁコイツの心情は解っているからこそさっき了承を得たのだが

 

「あぁ、リンちゃんの事ですが」

 

「!?」

 

そう言いながら、いきなり肩に腕を回した俺にリンちゃんはビクッと反応した。顔を真っ赤にしながら俯いているリンちゃんには悪いが先に断っていたので遠慮なく行かせてもらう

 

「可愛いでしょ、この子。貴賓室 (ビップルーム)の奥で控えている貴方の愛人のどの娘よりも」

 

「ほ、ほう、言いますね」

 

テリーは声を震わしながら言った。その表情は愛人を馬鹿にされた怒りなどではなく、これからどうやってこの美しい女をクソ生意気な冒険者から奪い取ってやろかと言うものだ

 

「実は俺の秘蔵っ子でね、この子の他にも色々な子と関係を持って来ましたが、彼女が一番美しい。可愛がり過ぎてまだ手が出せないんですよ」

 

そう言いながら目を細める色を見てテリーは確信した。こいつは自分と同族だと。そして生娘の内にこの娘を奪い、蹂躙したいという欲望が沸々と湧き出て来る

 

「成程、どうやら私たちの間に順序と言うものは要らなかったらしい。皆さん席につい下さい」

 

テリーが声を掛けると4人の亜人(デミヒューマン)が口々に口を開きながら席に座っていく。

 

黒の少年はニヤリと笑いながら、何時もの様に片手をポケットの中に入れた

 

 

 

 

 

 

 

「では、手始めに賭札(チップ)二十枚から賭けるとしましょうか」

 

「じゃあ俺はその倍で」

 

勝負の内容はフロップポーカー。自分のみの手札以外に、すべての賭博者(プレイヤー)が使用できる共通カードが卓上中央に配置される。この共通カードで手役を作るのだ

 

不正は、今のところは無い

 

テリーは勿論の事。カードを配る男性進行役(ディーラー)の様子にリンは目を配っていた。他の招待客(ゲスト)も含め、ダンジョンで鍛えられた冒険者の眼は些細な異変も決して見逃さない。

 

そして何事も無く、カードを捲る音と賭札(チップ)の鳴る音をテーブルに響かせていった。銘々の最高額の賭札(チップ)の山が増減を繰り返す。

 

なんてことはあり得ない

 

「はい、また俺の勝ち、賭札(チップ)ちょうだい」

 

「・・・」

 

もう何度目になるだろうか、悠々と賭札(チップ)を啄んでいく鴉の姿に、その場にいる全ての人間が息をのんだ

 

「あ、ありえない」

 

呟いたのはテリーだ、始めの方は偶然もあるだろうと余裕の態度を崩さなかった彼だが、今では頭に血が上っているのか、真っ赤になっている。そんなドワーフの視線の先には、ほんのりと頬を赤く染めたリンの太ももに頭を預けながら、彼女にカードを握らせ、先ほどから指示を飛ばしているだけの色の姿があった

 

「おい冒険者、貴様ふざけているのか!!」

 

遂に本音を口を出してしまうドワーフに、色は冷めた視線を送りながらこう言った

 

「何言ってるんですか。これは貴方がさんざんやって来た事でしょう?まさか自分がやり返されて怒っているんですか?」

 

「う、グッ、いいだろう、今に吠え面かかせてやる」

 

その言葉にリンを含めた全員が思った、まだやるのかと。既に色が奪って行った賭札(チップ)はこの男の総資産の6割近くにも上っていた

 

「リンちゃんカード見せて」

 

「は、はい。あの色さん、そろそろこの格好どうにかなりませんか?その、人目があるのは少し恥ずかしいのですが」

 

「ごめんねリンちゃん、嫌だと思うけど、もう少しだけ耐えて」

 

「い、いえ、嫌という訳では」

 

しどろもどろになりながら答えるリンの頭の中には最早テリーの事など、どうでもよくなっていた。確信したのだ、色に喧嘩を売ったこの男の末路を。

 

そして勝負(蹂躙)は続けられる

 

「フルハウス」

 

「ストレートフラッシュ」

 

「スリーカード」

 

「フォーカード」

 

「ストレートフラッシュ」

 

「ファイブカード」

 

「あ・・の、経営者(オーナー)

 

「うるさい黙れ!!次は、次は勝てる!!」

 

テリーは頭を掻きながら必死にカードを受け取る、どうにか逆転しなければ、そしてあの美しい娘を自分の手で。それは執念だった、自分がどれほど負けているのか分からなくする程の執念、それがテリーに降りるという選択肢を消させていた

 

その執念が実を結んだのか、遂にテリーの手元に運命の神が微笑む

 

「!?・・・オイ冒険者、賭けをしないか?」

 

「いいぜ、何を賭ける?」

 

色の問いにテリーは迷わず答えた

 

「ここにある賭札(チップ)全てを賭ける」

 

何故ならこの手札で負ける事などあり得ないのだから

 

「オッケ―、じゃあ俺は」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、鴉はポケットの中のボタンを押しながら頬を三日月に歪める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちの団長様が勝った分のチップを賭けよう」

 

 

 

 

 

 

「は?何をいって」

 

経営者(オーナー)!!!助けてください、もう私達では対応しきれません!!!」

 

「な、何だ一体!?」

 

飛び込んできたのは色達を貴賓室 (ビップルーム)に招き入れた黒服の男だった。血相を変えて中に入って来た男はテリーに縋るように駆け寄った

 

「う、兎が、兎に全て持って行かれました。ルーレットで全て!!」

 

「お、おいちゃんと事情を説明しろ!?」

 

「俺が説明してやろうか?昔、違法な賭博を繰り返していた胴元のテッドさん?」

 

「なッあぁぁああああああああああああああああああ!!!」

 

その瞬間テッドを支配していた何かの効力が消え、絶叫が木霊する。今まで自分は何をやっていたのか、そしてどうしてこんな事態になっているのかを正確に理解した彼は目を見開き、震えながら黒の少年を見上げた

 

「ななななな、何者なんだお前は、お、俺に何をしたァ!!」

 

唾を飛ばし、叫ぶテッドに色は冷ややかな目線を送り、リンの太ももから頭を離し起き上がる

 

「おおおおお前らもだ!!!どうして俺に協力しなかった!!」

 

テッドが次に唾を飛ばしたのは同じ席で賭博(ゲーム)をしていた4人だ。本来テッドと『共謀者(グル)』である彼らは今回はあからさまに色の協力をしていた。

 

そして勿論協力をしていたのは『共謀者(こいつら)』だけではない

 

「お、お前も、この俺にイカサマを!!でなければあんな手役作れるものか!!」

 

 

進行役(ディーラー)の男でさえ色が有利に働く用にイカサマを仕掛けていたのだ。しかし今更になって理性を取り戻したテッドの指摘は遅すぎる。何より今までテッドが叫んだ人物たちには何の効果も無い

 

「すみませんテリー様」

 

「私共一同」

 

「既に色様の配下ですので」

 

「な・・・に・・」

 

テッドは言葉を失った、失うしかなかった。ブリキ人形の様に首を動かすと、自分の全てを飲み込もうとする黒い怪物が美しいエルフを携えて座っていた

 

「色さん、これは一体」

 

「後で説明するよリンちゃん。それより今はこのゴミ屑を何とかしないと。ねぇテッドさん?」

 

「ひっ」

 

エルフから向き直った色に思わず後ずさったが、しかし、テッドは逃げない。思い出したのだ、さっきの言葉を、さっきした賭けを

 

「色、終わった?僕は1億以上は稼いだと思うけど」

 

幸運の兎が持って来た情報に肥えたドワーフの顔に希望が宿った

 

「お、おいお前、言ったな、お前のとこの団長のチップを賭けると」

 

「え?なにそれ僕聞いてない」

 

「あぁ、言ったぜ、それだけあれば逃げることぐらいは出来るかもな?」

 

「おい、副団長、何無視してんだおい」

 

騒ぐ兎を無視して賭博(ゲーム)は続けられる。これはテッドにとって一世一代の大勝負だ、しかし自分の手札で負ける事はあり得ない、だったら

 

上乗せ(レイズ)だ、冒険者」

 

「ふーん、いいよ、何を賭ける?」

 

進行役(ディーラー)から配られたカードを珍しく自分で受け取っている色に、テッドは勝ち誇ったように宣言をした

 

「俺の全てを掛ける、地下にある宝物庫の全財産全てだ!!」

 

「で、俺は?」

 

「その娘と俺から奪った全部を賭けろ!!」

 

「なッ!?そんなもの」

 

あり得ない、明らかに天秤が釣り合ってないのだ。例え宝物庫にどれだけの金があろうと色の元には既に10億ヴァリス以上が転がり込んでいるのだから

 

「いいよ」

 

「色さん!?」

 

しかし色は何も不安がらずに了承する

 

「だ、駄目です!あの男の手札恐らく」

 

「リンちゃん」

 

不意に抱きしめられたリンは硬直した、そして耳元でささやかれる

 

「ごめんね、勝手に賭けに使って。でも大丈夫、俺を信じて」

 

「・・・・・はい、わかりました」

 

リンは長い沈黙の後、か細い声で了承した。色の胸に埋めた顔は長い耳まで真っ赤に染まっている

 

「お別れの言葉は済んだか?冒険者」

 

「愛の囁きだよ、おっさん」

 

「フン減らず口を。まあいい、それでは」

 

「ああ、それじゃあ」

 

「「勝負!!」」

 

二人の纏う雰囲気に誰一人声が出せない中、大勢の観客に見守られた、今日一番の大勝負はその幕を下ろそうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

テッドは自らの勝利を確信する。何故なら自分の手役はこの勝負では負けるはずのない最強の手役、ロイヤルストレートフラッシュだからだ。

 

がははははは、散々俺の顔に泥を塗ってくれたな冒険者風情が!お前のその澄ました顔を今に歪めてやる!!

 

「ロイヤルストレートフラッシュ!!」

 

大声で捲られた手役、場と合わせての最強の切り札(エース)、スペードのロイヤルストレートフラッシュ。

 

そして観客全員が息を呑む、それに重ねられるようにして置かれたカードに対して

 

「残念、俺の勝ちだ」

 

色が切り札(エース)の上に置いたカードはジョーカー2枚

 

この賭博場において無敵の役がそこに存在していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大賭博場(カジノ)で起きた事件の次の日、俺はリンちゃんが行けないとの事なので、リオンさんと二人きりで『豊穣の女主人』に行き、食事をしていた。

 

「いやぁ、ギルドへの報告もスムーズに済みましたし。リンちゃんが居てくれて助かりましたよ、リオンさん」

 

「そうですか、それは良かった」

 

目を逸らされながら言われた言葉に俺は首を傾けた、はて、何か機嫌を損なう事でもしただろうか?

 

「あの、俺何かしました?」

 

「言え別に、ただリンが言っていましたよ。あまりにも手際が良すぎたって」

 

「えーと」

 

「勝負の後すぐにギルド職員が駆けつけたり、何故か近くにいた【イシュタル・ファミリア】がボランティアとして、大勢で従業員を拘束に向かったり、その騒ぎの間にクラネルさんとジャミールさんが勝金と共に居なくなってたり、いつの間にか宝物庫の中身が蛻の殻になっていたり。もしかしてわざと勘ぐらせる暇を与えない為に自分にギルド関係の報告を押し付けたんじゃないかと・・・妹が言ってました」

 

「あ、あはははは」

 

す、鋭い。ていうより殆ど正解である。

 

そう、俺は元々何と無くとかいう曖昧な理由であの夫婦を助けた訳じゃないのだ。すべては早急に必要になった金の為、ギャンブル絡みなら確実に大金が転がり込んで来るだろうと踏んで、ベルや【イシュタル・ファミリア】に協力して貰ったのである。

 

「まぁ、いいです。諸悪の根源は潰えましたので」

 

「いやぁ、そうですね。テッドは悪い奴でしたね」

 

良かった、この話は流してくれるみたいだ

 

「それはそうとして、あの時色さんの事を様付けで言っていた方たちの事なのですが」

 

「ブッ!?」

 

その事についてすっかり忘れていた俺は思わず飲んでいた飲み物を噴出してしまった。リオンさんの方向には向いていなかったのは不幸中の幸いだ

 

「ご、ごめんリオンさん。すみませーん飲み物追加で」

 

「はいお待ち、ニャ」

 

「え、はや、てナニコレ?」

 

どう答えようか考えていた俺の前に一つのコップが置かれた、その中にはストロー二本

 

「ごめん手が滑ったニャ!」

 

そしてワザとらしくリオンさんの飲み物が叩き落され、ルノアさんが床にぶちまけられた液体を何事も無かったかのようにサッと拭いて。極めつけにドヤ顔で親指をグッと突き出して来た

 

「・・・」

 

リオンさんは一連の出来事に全く反応できず、硬直している

 

「色さん、申し訳ないのですが少しだけ席を外します」

 

リオンさんは猫人(キャットピープル)二人とヒューマン一人に狙いを定めた

 

「貴方達は何をしているのですか!?」

 

「それはこっちのセリフにゃ!!」

 

「いい加減正体を明かすニャ!!」

 

「ごめん、私もそろそろ言った方がいいと思うよ、て言うより変装はやり過ぎ」

 

「だ、黙りなさい!!」

 

一気に騒がしくなる『豊穣の女主人』に俺は

 

 

 

 

 

一切耳を傾けられなくなった

 

 

 

 

 

その目線の先には、空に打ち上げられた緋色の稲妻が浮かんでいたのだ

 

 

 




次回この話の裏側、一方そのころ他の怪物進撃達は、をします。

更新は遅くなるかもしれない


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第21話 ヴェルフ・クロッゾの憂鬱

中々改造具合が激しくなってきたぜ。


炉の中に炎が盛っている。

 

自身の頭髪と同じ赤色に燃える火をヴェルフ・クロッゾは真剣な眼差しで見つめていた

 

「そろそろか」

 

暗闇に包まれた鍛冶場の中、大型炉の中で赤黒にまで溶かされ、ドロドロになった何かを特殊な鋏で取りだし。額に汗を浮かべながら鉄床(アンビル)の上に置かれた特殊な型にドロドロの何かを丁寧に流し込んでいく

 

「・・・ふぅ、ようやく完成が見えてきたな」

 

汗を手拭いで拭き取ると、型に流し込まれた何かを後ろに置き腰を落ち着かせ、何気なしに周りを見渡した

 

そこにあるのはヴェルフ・クロッゾの血と肉の結晶、魔剣の数々が飾られている。

 

風や火が出せるスタンダードな物から重力を操る特殊な物まで、他の冒険者からしたら喉から手が出るくらい欲しがりそうな、様々な魔剣の種類を暫く感慨深そうに見つめた後、ヴェルフは無意識に独り言を呟いた

 

「魔剣なんて糞食らえだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフが特殊な型に入れた何かが冷えきった後に向かった先は【ヘファイストス・ファミリア】のホームだった。

 

見知った工業地帯を歩き、知り合いに軽い挨拶をしながら。覚悟を決めた瞳でゆっくりとホームの中に入っていく

 

「おお、誰かと思えばヴェルフ吉か?」

 

その声に内心舌打ちしそうになったヴェルフだが、グッと堪えて腕に持っている物を隠しながら挨拶する。

 

「なんだ椿か、久しぶりだな!」

 

「ヴェル吉よ、そのいかにも無理やりしてます的な挨拶はどうかと思うぞ?」

 

「・・・はぁ、面倒くせぇ」

 

紅の袴に大陸式の戦闘衣を身に纏った『ハーフドワーフ』の女性、椿にヴェルフは即座に態度を改めて鬱陶しそうにシッシッと手を振りながら歩みを進める

 

「なんじゃその態度はせっかく久し振りに手前(てまえ)と会えたというのにつれないのぅ」

 

「挨拶はちゃんとしただろ?後着いて来るな、今日はヘファイストス様だけに用があってきたんだよ」

 

「ほうほう、それはその箱の中身と関係があると見ていいのかの?」

 

「だから着いてくんな!!」

 

叫びながら走り出したヴェルフに椿は笑いながら並走してくる。割りと真剣に着いて来て欲しく無いのだが、【ヘファイストス・ファミリア】団長にして第一級冒険者の足を引き剥がす事は叶わず。遂にヘファイストスがいるであろう工房の前まで来てしまった

 

「のうヴェル吉よ、早くその中身を手前に教えぬか、気になってしょうがないじゃろうが」

 

「あぁもう、わかったわかった。ヘファイストス様に見せる時に勝手に見ろ。その代わり他の人間には絶対に言うなよ?」

 

「わかっておる、『最上級鍛冶師(マスター・スミス)』の名に置いて、その箱の中身の情報は漏らさんよ」

 

得意気に笑う彼女に深い溜息を吐いた後、ヴェルフはヘファイストスの工房の扉をゆっくりと開けた

 

その中にはヴェルフと同じ赤色の髪をした女性が、物々しい黒の眼帯とは違う方の瞳をジッと自身の鎚に向けている。

 

「何を腑抜けておる」

 

少し呆れた口調で掛けられた声にヘファイストスは背後を振り向き、ヴェルフの顔を見ると破顔した。

 

「あらヴェルフ、久し振りにね」

 

「はい、お久しぶりです、ヘファイストス様」

 

ヴェルフは椿と話していた声色より幾分柔らかくなった声で挨拶を交わし。早速本題に入ろうと、大股でヘファイストスの元まで歩み寄る

 

「ヘファイストス様、今日は見せたいものが」

 

「会いたかったわ。貴方が魔剣を家族(ファミリア)に使っていると聞いたのだけれど、どういうことかしら?」

 

それから小一時間ぐらい説教が行われたのは言うまでもないだろう。

 

「はぁ、貴方は魔剣が嫌いじゃなかったのかしら、それが練習用の魔剣なんて」

 

「俺は今でも魔剣は嫌いですよ」

 

「どの口がいうか、お主さっきは工房には魔剣を100本ぐらい飾ってあるとか何とか言うとったじゃろうが」

 

「それはそれ、これはこれだ」

 

「お主性格変わったの」

 

【ヘファイスト・ファミリア】の主神と団長は揃って頭を抱えた

 

「それで、今日はどういった用件でここまで来たの?」

 

「・・・」

 

手に持っている箱を見ながら押し黙ってしまったヴェルフに、二人は怪訝な表情を向ける。長い沈黙の中、先に喋ったのは椿だった

 

「ヴェル吉よ、お主がどれほど凄い魔剣を持って来たか解らんがの。そのように焦らさんでも手前らは一流の鍛冶師(スミス)じゃぞ?驚かんからさっさとみせい」

 

口ではこう言っているが、その表情は目の前にお菓子を置かれた子供のようにキラキラしている。下手くそな挑発をしてくる彼女にヴェルフは逆に挑発し返すように、ニヒルな笑みを浮かべ答えた

 

「魔剣?そんな物じゃねえよ、これは」

 

そう言うとヴェルフは覚悟を決めた瞳で、持ってきた小さな箱を二人の前で開けた。その中には赤黒く光る3つの鉄の塊が納められている

 

「なんじゃこれは?」

 

「なに・・・これ」

 

「主神殿?」

 

拳程の大きさがある鉄の塊に鍛冶神は絶句し、1秒ごとに自分の背中を伝う冷や汗が増えていくのを感じながら、鉄の塊からヴェルフに視線を移した。

 

「ねぇヴェルフ、これはなに?」

 

「これは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

【ヘファイストス・ファミリア】からの帰り道、茜色に染まる町並みをヴェルフは着流しを揺らしながら歩いていく。通りはどこもかしこも賑わっていた。客引きの看板娘や楽器を両手に持つ吟遊詩人、それらを見つめる【ヘスティア・ファミリア】専属鍛冶師の表情は非常に柔らかいものだ。

 

「こんなに早く終わるなら、色について行ったら良かったかもな」

 

あの後、鍛冶神に一通りの説明を終えたヴェルフは「色々考えさせられるから1日待って』という言葉を貰い、予定より早く帰艦することになった。それで微妙に時間が空いてしまい、昨日色に誘われたカジノを断った事を少しだけ後悔する。

 

そして西日に焼かれながら進んでいると

 

『──ヴェルフ』

 

懐かしい声が聞こえた。

 

ぴたっと動き止めたヴェルフは、キョロキョロと周りを見渡した。声が聞こえた路地裏を見ると、薄闇に広がる暗がりに一人の影が浮かんでいる。

 

声をかけようとするが、その影はまるでこちらを誘うよに、道の奥に引っ込んで行き、ヴェルフは一も二もなく追い出した。

 

路地裏の奥の奥。薄暗く、人が寄り付かない場所で、影は黒い外套のフードを脱いだ

 

「久し振りだな、ヴェルフ」

 

年配にも見える中年の男。男性にしては茶色く長い髪を結い、力の無い相貌で自分に振り返ったヒューマンに、追い付いたヴェルフは声をかけた。

 

「やっぱり親父か」

 

目の前の人物は正真正銘、ヴェルフと血の繋がったその人だった。

 

ヴィル・クロッゾ

 

王国(ラキア)に所属する、凋落した鍛冶貴族の現当主だ。

 

「その反応、私が何故お前の前に現れたか解っているようだな」

 

「解っているも何も、お前ら(ラキア)がわざわざ俺に会う目的なんて俺の魔剣以外にあるのかよ?」

 

「ああそうだ。ヴェルフ、我々のために魔剣を打て」

 

今現在行われている戦争の目的が魔剣だということを聞いて、ヴェルフは持っているケースに自然と力を込めた。

 

「言っておくが同伴を拒んだなら、都市に潜入した同志が、魔剣で火を放つ手筈になっている。無論、『クロッゾ』のな」

 

成る程、王国(ラキア)の『クロッゾの魔剣』に対する執着は凄まじいらしい。流石戦好きの神が率いる国だ。

 

「もう一度言うぞ、我々と・・・なんだ、何が可笑しい」

 

ヴェルフは父に言われて初めて、自分が笑っていることに気づいた。右手で自分の笑みを隠しながらウィルに向き直る。

 

「なぁ親父」

 

「なんだ」

 

「お前らは、あの戦争遊戯(ウォーゲーム)を見てまだそんなもの(クロッゾの魔剣)に執着してるのか?」

 

「っ!?」

 

顔を覆い隠す手の隙間から見えるヴェルフの相貌を見てウィルはたじろいだ。その瞳に映るのは激しく燃え盛る炎だ。まるで全てを焼き付くさんとするほどの激情がウィルを呑み込み、言葉を失わせる

 

「明日の日が出る頃に、オセロの密林前に来い。俺の魔剣を見せてやる」

 

話は終わりと言わんばかりに、着流しを靡かせながら帰路につくヴェルフをウィル含めるラキアの者達はただ黙して見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい金属の打撃音が響き、炎の熱で自身の顔を焼かれながらヴェルフは鎚を打ちつける

 

「やっほー、邪魔すんぞ」

 

軽い声で入ってきたのは、【ヘスティア・ファミリア】副団長、黒鐘 色(くろがね しき)だ。

 

「クロか、どうした?」

 

「訓練メニューを描いた紙を探してんだけど、ヴェルフしらね?」

 

「訓練メニュー?すまん、見てないな」

 

色は「そっか」と言いながら、いつも異世界の話をする時に座っている椅子に腰掛けた。そのままヴェルフが鉄を打っている所を見ている事にしたらしい

 

「クロ、そこにある槍使ってみるか?」

 

金属音しか聞こえない工房の中、先に声をかけたのはヴェルフだった。手を止めて指差す方には、銀色に輝く一本の(ランス)が立て掛けられている。

 

「うーん、止めとくわ。もうお前の武器を壊したくないしな」

 

「・・・・すまねぇ」

 

「いや、別にお前が謝ること無いだろ?俺が武器の扱い下手すぎるだけだって」

 

肩をすくめる色が本心で言っているのはわかっていた。それでも打ち付けるハンマーに余計な力が加わるのをヴェルフは自覚する

 

「別に他のファミリアの武器使っても俺は何も言わないぞ?」

 

「そんな事言われてもなぁ。根本的に俺が武器を使えねぇんだから、どのファミリアの武器でも一緒だろ?」

 

「だが・・・いや、何でもねぇ」

 

口を止めたヴェルフは、それ以上何も言わず手を動かす事を再開する。揺らめく炎に今まで壊された武器の数々が見えた気がした

 

最初の武器は剣だった。

 

何か武器を作ってくれないか。という要望に答え、その時最高の武器を作ったつもりだった。その最高の剣は5分後、激しいベクトル操作に着いていけず、ボロボロになって帰って来た。

 

次の武器はこん棒だった。

 

耐久力を重視した武器を貰った色は、遠慮せずに振り回し、モンスターに攻撃した。3発目で真ん中からボキリと折れた。

 

次に渡したのは『アダマンタイト』で作った大盾だった

 

コレならばと渡したそれは、動きづらいそうに戦っている姿を見た時に、自分から返してくれとお願いした。

 

色は自分で武器を使う才能がないと言った。

 

ベル達も色は武器を使う才能がないと言った。

 

しかしヴェルフはそうは思わなかった。

 

刀を持つと腕からすっぽ抜けて壊したり、鎚を持つと雷をノリで纏わして壊したり、弓を持つと玄をベクトル操作で引きすぎて壊したり。その後も様々な武器を壊されたが、ヴェルフは色が武器を使えないとは思わない。

 

何故ならアイツの雷は変幻自在に遠方の敵を撃ち抜き、アイツのスキルは応用の幅を利かせて最強の矛にも盾にもなるのだから。

 

色は武器を使えないんじゃない、武器を使う必要がないのだ。

 

だからこそ俺は・・・

 

「おいヴェルフ、聞いてんのか?」

 

「あ、あぁ。すまん、ボーとしていた、何だって?」

 

「だから、今日は何で女子が帰ってこないんだろうな、て話だったんだけど。鍛冶場でボーとするなんてお前らしくないぞ、大丈夫か?」

 

心配そうに見てくる色にヴェルフは立ち上がり、明日が早いので寝ることを伝えた。

 

「はぁ、お前も明日用事あんのな、リリ達もなんかバタバタしてるし、ベルも明日は忙しいと思うし、俺午後から暇なんだが」

 

「ベルが忙しいのは、お前がカジノでやらかした後処理があるからだろ?」

 

「ばっかお前、あれは必要な事なんだって。ベルだってノリノリだったしな」

 

「それでもベルはギルド、お前はデートだろ?ベルの奴、可愛そうに」

 

「ウッ、だってしょうがねぇじゃん。Lv.4の冒険者が隣に居たんだぜ?俺も【食蜂操祈(メンタルアウト)】がバレないように過剰にスキンシップをしたり誤魔化すので必死で、明日だって勘づかれてないかの確認の為にだな」

 

身ぶり手振り説明してくる色に、冗談だと笑いかけたヴェルフは、そのまま自室に戻ることにする。

 

部屋の中には巨大なバックパックが用意されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、日の出る前にヴェルフが指定した『オセロの森林』前の草原にウィル・クロッゾは立っていた。勿論森林の中には多数のラキア兵が控えている

 

「来たかヴェルフ」

 

「待たせたな、親父」

 

草原を貫く人工道を歩いてきたヴェルフは片腕を上げ、なんでもないようにウィルの前に近づいて来る。その背には魔剣が入っていると思われるバックパックが背負われていた

 

「約束の物は持ってきたのか。それではそれを」

 

「まぁまてよ。久し振りの親子の再開だ、一杯付き合え、そこに隠れている爺もな」

 

何もない草の上に胡座をかいたヴェルフはバックパックから酒とつまみの肴を取りだし、密林の方に眼を向けた。少しの間があったが、密林から白い髭に白い髪の男、ヴェルフの祖父、ガロン・クロッゾが厳めしい顔付きのままヴェルフの方に歩いてくる。

 

「どうしてわかった?」

 

「どうしてって言われてもな。俺の所属しているファミリアに入ると、どうしても気配に対して鋭くなるんだよ。まぁそう言うことも含めて話そうぜ、俺の家族(ファミリア)が買ってきた酒だ、旨いぞ」

「お前、ふざけているのか?」

 

我慢ならない、といった風に睨み付けるウィルにヴェルフは一言だけ

 

「いいから、座れ」

 

と言った。

 

その言葉に二人は渋々と言った風にヴェルフの両隣に腰掛けた、その背に大量の冷や汗を流しながら。

 

 

 

 

 

 

 

「親父、爺。俺はアンタ達に聞きたいことがあるんだ」

 

「なんだ」

 

「アンタ達はどうして鍛冶師になろうと思ったんだ?」

 

最初の質問はこんな会話から始まった。ウィルはそれに

 

「勿論、鍛冶貴族の栄光を取り戻すためだ」

 

と答えた、ガロンも同じような答えだ。それを聞いたヴェルフは、その答えを解っていたかのように「そうか」と言い、その後も次々と質問をしていった。質問の内容は大体は鍛冶に関するものばかりだ。火の調整、鉄の具合、加工の仕方、道具の選び方、基礎的なものから専門的なものまで質問していくヴェルフに、ウィルとガロンは酒が回ってきたのか、次第に饒舌に話していく。

 

「ヴェルフ、お前はもっといろんな事を知るべきだな!ワシが若い頃なんて、世界中巡り巡って修行したもんだ!」

 

「え、そうなのか?でも俺だってヘファイストス様の元でそれなりの経験をだな」

 

「馬鹿だなお前は。いいか?たった一人に習うんじゃなくてだな、色んな職人から良い所だけを盗むんだ、なぁ父上!」

 

「がははは!!そう言うことだ。でもなヴェルフ、鉄の声を聞け、鉄の響きに耳を貸せ、鎚に思いを乗せろ!!肝心のコレだけは忘れるなよ、これさえあれば・・・そうだな、この思いさえあれば」

 

次第に酔っ払って大きくなっていた声量が小さくなってきた事を感じたヴェルフは空を見上げた、快晴な青空は雲一つ無く晴れ渡っている

 

「親父、爺。アンタ達はどうして鍛冶師になろうと思ったんだ?」

 

「「・・・」」

 

再度された質問に二人は押し黙った。長い沈黙の後、酒の入ったコップを煽ったウィルは立ち上がり、ヴェルフを見下ろした

 

「最初はな、良かったんだ。例え魔剣が打てなくても私には鎚を振るえる手が、鉄を掴める手があるだろうと。そう思い鍛冶師となり、鉄を打ち始めた。そう思っていたのだがな」

 

そこからポツポツとウィルは誰かに語りかけるように自身の思いをヴェルフに教えた。自分が真摯に武器と語り合ってきた、ヴェルフが魔剣を打てると発覚するまでの鍛冶師の誇りを

 

「だけどな、私達には魔剣が必要なのだ。確かにお前が言うように、魔剣は使い手を残して砕けていく、時に絶大な力で人を腐らせるだろう、それでも、それでもっ!!」

 

「やめろウィル」

 

「父上、しかし!!」

 

「ならばそんな顔をするな」

 

「っ!?」

 

悲痛に歪められた顔を片手で覆い隠すウィルは崩れ落ちるように腰掛けた。

 

わかっていた。ヴェルフがどんな気持ちで自分達から背を向けたのか、どうして魔剣を打たなくなったのか。

 

ただ怖かったのだ、それを認めてしまえば一生没落した鍛冶貴族として蔑まれる事が、鍛冶貴族として今一度、成り上がれる為の魔剣(道具)を失う事が何よりも怖かった。

 

「なぁ親父」

 

「なんだ」

 

視線を上げるとヴェルフは、いつの間にか自身の足元に置いた一本の魔剣を見つめている。

 

「『クロッゾの魔剣』っていうのは、そんなに凄い物なのか?」

 

「どういう、事だ」

 

口を開いたのはヴェルフの祖父のガロンだった。ウィルは何を言われたか解らないという風にヴェルフを見つめている

 

「知ってるか?アイツは初めて使う魔法でこれ(魔剣)を越える威力を叩き出しやがった」

 

思い出すのは黒いゴライアスとの戦い、自分が危険だと、人を腐らせる力だと、ずっと思っていた魔剣を優に越える稲妻の光

 

「知ってるか?アイツはこれ(魔剣)を受けて平然としていやがった!」

 

思い出すのは【アポロン・ファミリア】との戦い、使った魔剣はたったの一本、自身の打ち出した高威力のそれを受けたアイツは一言だけ「熱い」と言い残した

「知っているか?アイツの世界にはこんなもの(クロッゾの魔剣)なんかより凄まじい武器が蔓延っているんだ!!」

 

思い出すのは工房での会話、アイツの国に撃ち込まれた武器はオラリオを丸々飲み込める程の威力があると、それすらも越える武器があると。

 

その時に言われたのだ

 

「それに比べるとお前の魔剣なんて大したことないぜ」と

 

恐らく魔剣が嫌いと言ったから気を使った言葉なのだろう、だが

 

「おい、落ち着けヴェルフ!!」

 

「うるせぇ!!お前らに何が解る!?普通の武器しか作れないお前らに何がッ!!」

 

思い出すのはベル達と一緒にダンジョンに入ってから今までの記憶。

 

「何が冒険者を腐らせるだ!何が鍛冶師の誇りだ!!何が呪われた鍛冶貴族だ!!!そんなもの(クロッゾの魔剣)をいくら作ってもアイツ(黒鐘 色)に一歩たりとも追い付いてねぇじゃねぇか!!!」

 

最初は【御坂美琴(エレクトロマスター)】を越える魔剣を作りたいと、作らないといけないと思ったのが切欠だった。そうして作られた魔剣は今までの、どの魔剣よりも遥かに高い威力を誇ってた。しかし呆気なく【一方通行(アクセラレータ)】の前に敗北し、更にそれを越えようと躍起になって魔剣を打っていた所に、国一つ滅ぼせる武器の事を色から聞かされたのだ。

 

ヴェルフは思った、自分は馬鹿だと。大海を知らない蛙だと。

 

人知れず心の中で茫然自失としていると遂にその時がやって来た。

 

ゴライアス五体同時討伐、その時に使用された魔剣は0本。それ以降ダンジョンで魔剣をモンスターに使用されたことは一度も無い。

 

何故使わないのか理由を聞くと経験値(エクセリア)にならないから、らしい。ふざけた理由だが実際に正しいのだろう、何故ならそれを話した小人族(パルゥム)の少女は軽々と魔剣を越える一撃を放っていたのだから

 

「俺は魔剣が嫌いだ、大っ嫌いだ!!そして何よりもこんな中途半端な糞みたいな武器しか作れない俺が嫌いだ、アイツに満足な武器を作れない俺が嫌いだ!あのファミリアで魔剣しか取り柄がない俺自身が大嫌いだ!!!」

 

ヴェルフは今までの激情を吐き出した。

 

重圧魔法を操り、敵味方の索的が可能な命

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)】を手にしてから見違えるど強くなったリリ

 

Lv.2の攻撃を軽々と避けるセンスにレアスキル(ウチデノコヅチ)を持っている春姫

 

【ステイタス】の限界を越えるベル

 

そして、数々のチートスキルや魔法を有する黒鐘 色

 

その異常者達の集まりの中で、自身だけが追い付いていないのだ。それこそ重力魔剣を使い、無理やり鍛えようとしたりもしたが、焼け石に水のような効果しか得られず、追い討ちをかけるように【ヘスティア・ファミリア】は魔剣を一切使わなくなった。

 

ヴェルフは考えた、どうやればアイツらに並べるのか。どうやれば中途半端な力(クロッゾの魔剣)を超えられるのか。

 

いつか必ずでは駄目なのだ、時間が足りない、モタモタしていると、アイツらは階段を何段も飛ばして上に進んで行くのだから。

 

「親父、爺。見てくれ、これが俺の答えだ」

 

「なんだ、これは」

 

「・・・・・・」

 

ヴェルフがバックパックから取り出したのは拳程の大きさがある鉄の塊と黒い筒のようなものだった。先が尖った円錐形の赤黒色に鈍く光る鉄の塊を持ったヴェルフは説明を始める

 

「これは俺が新しく打った魔剣。いや、魔弾だ」

 

「魔弾?」

 

聞き返したウィルは不思議そうに鉄の塊を見つめた。どうやっても、これを武器として使う姿が想像出来ない。

 

「ヴェルフ、これは魔剣の塊だな?」

 

「な!?」

 

「流石に爺は気づいたか。そうだ、この魔弾は俺のスキルを最大限使用し、複数の魔剣を合成させた、この世界でたった一つの俺だけの武器だ」

 

 

言葉を失う二人にヴェルフは嬉しそうに頬をつり上げながら説明を続ける。

 

「だがな、この魔弾だけじゃ使えねぇんだ。もう一つ必要なのは、こっち黒い筒、『炎刀・虚空(えんとう こくう)』だ」

 

色は始めてこの武器を見た時にこう言った

 

「バズーカじゃねぇか」と

 

説明しながらもヴェルフの手は止まらない、魔弾を『炎刀・虚空(えんとう こくう)』に詰め込み、密林に向かって構えた。

 

「これに魔弾を入れて・・・しっかり狙いを定めるんだ。そして引き金を引き、撃ち出す」

 

瞬間、『炎刀・虚空(えんとう こくう)』から一直線に緋色の光が迸り、森林に破壊がもたらされた。いや、破壊など生易しい表現だ。半径3M程の赤光は不気味なほど綺麗に、文字通り一直線に森林を消滅さしている。

 

これを初めて見た色はこう言った

 

「ビームじゃねぇか」と

 

「「・・・・・・・」」

 

「ふぅ、まぁこんなもんだ。本当はもっと小型化する予定だったんだかな、今の俺の鍛冶アビリティじゃ難しいらしい。うん?どうした二人とも?」

 

隣を綺麗にされたラキア兵がガタガタ震えているのを横目に、ウィルとガロンの二人は思った。

 

こいつを怒らしてはイケナイ

 

「今日はいいものを見せてもらった。それじゃあ帰ろうか息子よ」

 

「そうだな父上、それでは達者でなヴェルフ!!」

 

「はぁ!?おい、ちょっとまてよ、親父!爺!!」

 

一目散に逃げていくウィルとガロンを見送ったヴェルフは密林で震えているラキア兵に視線を移した

 

「・・・バァン!!」

 

「「「「「すいませんでした!!!」」」」」

 

その日以降ヴェルフの前にラキア兵が現れることはなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見せてもらったわよ、ヴェルフ」

 

ヴェルフがしばらく草原で一人酒を煽っていると、ヘファイストスが後方から近づいてきた。

 

「凄まじい威力の武器ね、セオロの密林がボロボロだわ」

 

ヘファイストスが言うように目の前の密林は直線上に穴を開けられボロボロだった。それでも巻き込まれた人間はいない筈だ。その為にヘファイストスに話を着けてから来たのだから。

 

「色が言うにはこういう武器は兵器って呼ぶらしいですよ」

 

「兵器?」

 

聞き返してくるヘファイストスにヴェルフ顔を合わさず、前を向きながら答えた。

 

「誰でも使える武器の事をそう言うらしいです。アイツの国の兵器なら赤ん坊でも何千人の人間を殺せるなんて事を言ってました」

 

「・・・そう」

 

そんな馬鹿みたいな話が有るものか、と言う人間は神も含めて大多数いるだろう。例え、ヘファイストスであっても密林の惨状を見ていなければ信じられなかったかもしれない。それが嘘ではない解っていたとしてもだ。

 

「俺は魔剣が嫌いです」

「知ってるわ」

 

「だけど、アイツらに追い付く為には、どうしてもこいつと(クロッゾの魔剣)向き合わないといけなかった」

「うん」

 

「そうして、何本も魔剣を打っていて気づいたんです」

 

「なにを?」

 

「その剣を見せてもらっていいですか?」

 

そこでヴェルフは振り返り、ヘファイストスと視線を合わせた。彼女の両手にはそう言われるのが解っていたかの様に、一振りの剣が握られている

 

それは鍛冶神の派閥(ヘファイストス・ファミリア)入団の儀に見せられる剣だ。嘗て己の全身を震わした究極の一を見て、今のヴェルフ・クロッゾは呟いた

 

「・・・・こんなものか」

 

落胆でもなく歓喜でもない。至高に通ずる作品だった物に浮かんだその感情を受け止め、飲み込む様に瞳を閉じた。ヘファイストスはそんなヴェルフを何も言わずに見つめている

 

「俺は魔剣を超える魔剣を作る。アイツ(黒鐘 色)を超える魔剣を作りたい、そう思ってしまったんだ。その為にはまず」

 

「ッ!?」

 

再び合わさった目線の先に有ったものは、迸る炎の塊だ、今まで見たことの無い程の激熱に見つめられ、鍛冶神(ヘファイストス)は初めて全身が焼けるような感覚を覚えた

 

「アンタを超える」

 

「・・・・・・ぁぅ」

 

その意味を理解するのに掛かった時間は数秒だろうか。

 

仕方の無いことだ。だってここまでハッキリと自分を超えると言われたのは初めてなのだから。

 

そして恐らく近いうちに、その言葉は現実となるだろう。だって彼はもう取っ掛かりを掴んでいるのだから。

 

更に、その言葉に込められた思いは彼女の先の先を見据えている事も感じている。彼はこう言っているのだ。鍛冶神(ヘファイストス)など、ただの通過点に過ぎないと

 

「えっと、あの?ヘファイストス様?」

 

「ご、ごめんなさい。今は少しだけ放っておいて」

 

「は、はい」

 

耳まで真っ赤にした彼女は、剣を持っていない方の手で自身の火照った顔を覆い隠し、涙目でヴェルフから顔を反らした。

 

思ってしまった。理解してしまった。彼と一緒に武器を作ってみたいと、彼の隣でその行く末を見届けたいと。

 

簡単に言うと彼女はヴェルフに堕ちてしまった

 

「大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ。そうよヴェルフ、良かったら今から一緒に工房に来ない?」

 

「え?行きませんけど」

 

「はぅ!?な、何で?私じゃ駄目なの?やっぱり年上は嫌い?それとも他に好きな子が!?」

 

「え、ちょっ、近い、近いですよヘファイストス様!?」

 

「いいじゃない、私とヴェルフの仲でしょ?もっと近くに」

 

「まって下さい!む、迎えが、迎えが来てるので!?」

 

ヘファイストスは真っ赤な顔で抱き着こうとし、ヴェルフは真っ赤な顔で避け続ける。

 

「ふーん、非常時に女とイチャつくなんていい度胸じゃん、ヴェルフ?」

 

そんなヴェルフとヘファイストスの桃色空間を引き裂いたのは空から飛来してきた一羽の鴉、時間は午後を少しだけ過ぎた辺りだ。

 




次回は女の子達は何をしていたのか書こうと思います。


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第22話 姫物語

この物語は色がカジノに行く数日前から始まっております


「ほ、本当にするのですか?」

 

不安そうに声を上げる狐人(ルナール)の少女の視線の先には、軍神アレス率いる王国軍の侵略者達が、重厚な甲冑を纏い進軍していた。

 

「リリは何度も確認しましたよね?やりますかと。その言葉に春姫さんは頷いたじゃないですか」

「そ、それは、そうですが・・・」

 

煮え切らない春姫の態度に溜息一つ。

 

話は終わりだと言わんばかりに、重そうな(ハンマー)形の首飾りを着けている小人族(パルゥム)の少女は、自身の10倍程の大きさがある灰色の大鎚『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を重厚な鉄の籠手で握り締め、いつでも走り出せるように前屈みに足を曲げる。

 

「大丈夫ですよ春姫殿、なんとかなります!」

 

「み、命様はもう迷われてないのですね」

 

少し前までは渋っていた風呂好きヒューマンの少女も覚悟を決めたのか。驚くほど晴れやかな表情で黒色と銀色が混じった刃長九〇(セルチ)の刀『虎鉄』を腰だめに構えた。

 

「はぁ・・・わかりました。この春姫、心を鬼にして事に当たります!!」

 

春姫も覚悟を決めて前を向き、とある少年からこっそり借りた黒の羽帽子を深く被り、ラキア軍に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の昼下がり、黒の少年が昼食を食べるために出掛けている頃、鐘楼の館三階、神様の読者部屋からドタドタと騒がしい音と共に狐人(ルナール)の少女が一階まで駆け落りてきた。

 

「そんなに慌ててどうしたんですか?春姫さん」

 

「みみみみみみなみな」

 

「南ですか?」

 

「ち、違います!?皆様、読書部屋の掃除をしていたのですがこんなものを見つけました!!」

 

リリと命の前にバンッ!と勢いよく置かれたのは2枚の紙。

 

一枚目の高級紙はヘスティア宛で書いてある2億ヴァリスの借金契約書。

 

これを見たリリと命は目を見開き驚いたが、しかし二人が本当に驚愕したのは二枚目の紙を見たときだった。

 

『2億ヴァリス返済までのデスマーチの実施』

 

「「「・・・・・」」」

 

【ヘスティア・ファミリア】の女性団員は穴が開くぐらいその紙を凝視している。そこに書かれているのは色の筆跡で書かれている、とある訓練メニューだ。

 

「3回、いや4回ぐらいですか」

 

「自分の計算では7回は硬いかと」

 

「あの、リリ様と命様はなんの数字を数えているのですか?」

 

春姫の言葉に二人は能面のような顔を向けた

 

「「死ぬ回数です」」

 

「・・・」

 

告げられた言葉に春姫は顔をひきつらせる。因みに、二人の計算ではこのデスマーチで春姫の死ぬ回数は12回らしい

 

「し、死ぬというのは言い過ぎでは無いのですか?流石の色様でも、そこまでしないと思うのですが」

 

「そうですね。少し語弊があるので言い換えますと、リリ達が死ぬ思いに合う回数です」

 

「前に自分が色殿と平行詠唱の練習をした時の事を話しましたが、これを実行されれば恐らく皆さん、それの何10倍は死にかけると覚悟しておいてください」

 

命の言葉に偽りはない。彼女達は今までの経験上、嫌でもわかってしまった。この生き物を生き物と扱わないような訓練が書かれてある書面を実行された後の自分達の末路がどうなるのかを

 

「と、取り敢えず、止めてもらうよう色様に進言してみますか?」

 

「春姫殿も薄々気付いていると思いますが。今まで色殿が訓練を止めにしたり妥協した事は1度も無いので、無駄かと思います」

 

「うぅ、そうですね、そうですよね、色様ですもんね。どうしましょうリリ様、春姫はまだ死にとうないでございますぅ」

 

涙目で見てくる春姫の言葉にリリは顎に手を当て考えた。

 

命はああ言ったが、実はこのデスマーチは止められるかもしれないとリリは考えていた。理由は色の性格にある。

 

訓練メニューをこなしている時意外で仲間にはかなり甘い彼だが、実はその中でもダントツに甘いのはヘスティアだったりする。どれぐらい甘いかと言うと、買い物に行けば本を買い渡したり、衣服を買い与えたり。そもそもヘスティアの読書部屋だって部屋割りを決める時に色が進言して作らせたのだ。そんな彼がヘスティア宛の借金契約書を見てしまった結果が、このデスマーチなのだろう

 

「お、お金を用意すればよろしいのでは?」

 

そう、この訓練メニューは今までの訓練とは違い、まるで契約書を偶然見つけて急いで作ったかのような、見切り発車感がある。故に恐らくであるが借金をすぐに返済出来るのなら、止める所まで行かなくても、もう少しまともな訓練メニューになる筈だ。

 

「確かにそうなのですが。ヴェルフさんに大金渡して新しい武器を作ってもらったばかりなので、リリの手持ちは余り無いですね」

 

「すみません、自分も社に入れなければならないので、その・・・」

 

「えっと、(わたくし)も、本格的にダンジョンに潜り始めたのは最近ですので・・・」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

長い沈黙の後、静寂を破ったのはリリだった。

 

「取り敢えず、この事はベル様とヴェルフさんには言わないでください。あの二人も割りと訓練には乗り気な方なので賛成されると面倒です」

 

「は、はい!」

 

「わかりました」

 

二人の返事を聞いたリリは顎に手を添えて考える。

 

そうして、どうすれば効率良く金を稼げるかを深く考えている内に、さっき読んでいた今日の情報誌の一面をふと思い出した

 

「1つ、デスマーチを未然に防ぐ手を思い付きました」

 

「本当ですか!?リリ様!!」

 

「流石リリ殿です!」

 

自分達の命が助かるかも知れないことに二人はパァと顔を明るくさせてリリの続きの言葉に耳を傾けた

 

「その前にお二人に確認したいことがあるのですが、よろしいですか?」

 

「確認ですか?」

 

「なんで御座いましょう?」

 

「デスマーチか体裁かどちらを取りますか?」

 

今日の情報誌には『ラキア軍出兵』という文字がデカデカと書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

王国(ラキア)軍出兵。

 

突然行われた軍神アレス率いるラキア軍、総数三万。

 

その対処に追われているのは、主に道化師(トリックスター)を掲げる【ロキ・ファミリア】だった。

 

本来なら戦乙女を掲げる、もう一つの最大派閥も参戦している筈なのだが。如何せん彼の主神は自由奔放、重ねて、その子供達も主神にベッタリなので、信用出来ない為。【ロキ・ファミリア】に頼りきっているのが今の状況だ。

 

勿論ギルドも【ロキ・ファミリア】一辺倒だと不安が残るので、オラリオの冒険者に傭兵紛いのクエストを出しているのだが、オラリオ仮連合の集まりは悪いらしい。

 

当たり前だ、傭兵(そんな事)をするよりもダンジョンに潜った方が稼げるのだから。

 

しかし、何事にも例外と言うものはある

 

例えば、ラキア軍が増援を投入して来た東側にスポットを当ててみよう。

 

そこには【ロキ・ファミリア】団長が、本命は別にある、と言い放置した賊軍を迎え撃つ小さな少女の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、殺されるぅぅぅぅううう!!!」

 

「さ、下がれぇ!!!奴が来たぞ!!!」

 

「【小さな狂者(クレイジー)】だ!【小さな狂者(クレイジー)】が出た!!!」

 

「オイオイ、なんだお前ら。あんな小人族(パルゥム)の小娘に何ビビってやがる?」

 

「おい馬鹿!!近づくなああああああ!!!」

 

逃げ惑う者、叫び散らす者、小馬鹿に笑う者、懺悔する者。小さな少女の前には様々な表情を浮かべたラキア軍が存在している。しかし少女の表情はそのどれでもない無表情だった。

 

「一言だけ言っておきます」

 

それは何回も繰り返し行われてきた動作だ。その回数分、少女は不名誉な二名を呼ばれ、不機嫌になっていく

 

「リリの二つ名は・・・」

 

振り上げられた大鎚を見たラキアの兵隊は頬をひきつらせ、中には涙する者も居た。その光景は神を崇める信者にも見えるし、悪魔を讃える狂者にも見える。

 

「【小さな狂者(クレイジー)】ではなく、【小さな賢者(クレバー)】です!!」

 

しかしリリルカ・アーデにとっては、どれもが等しく、ただのイラつく敵対者だ。

 

容赦なく振り落とされた巨大な大鎚は大地を穿ち、数十人いたラキア軍は大量の土砂と共に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、大丈夫・・ですか?」

 

鈴の音のような声に男が目を開けると、そこには金糸のような黄金色の髪を黒い羽帽子から覗かせる可憐な少女が自身の顔を覗き込んでいた。

 

「えっと、貴方は一体?」

 

痛む頭を押さえながら体を起こし、逆光で顔がよく見れない少女に問い掛ける。

 

(わたくし)は、その、えっと・・・ ぼ、帽子姫と申します。兵士様が倒れているのを見かけまして・・・」

 

「帽子?いや、俺が倒れて・・・ッ!?」

 

思い出した、鬼のような小人族(パルゥム)の事を。アイツの一撃で皆吹き飛ばされて、そうだ皆は?

 

兵士が急いで周りを見渡すと、酷い光景が広がっていた。土はめくり上がり、土砂の中に自分と同じ甲冑を着込んでいる男達、無事な者はただ一人としていないだろう。

 

「・・・・・・へ?」

 

気づけば兵士の手はふんわりと、少女の柔らかい両手に包み込まれていた。顔が見えないながら微笑んでいるのが何故か認識出来る

 

「お怪我をしているようですので、良かったら、これをお使いください」

 

土まみれの自身の掌には失った剣の代わりに、一本の回復薬(ポーション)が置かれていた。混乱して暫く見つめていた回復薬(ポーション)から顔を上げ、羽帽子を被った女性に改めて顔を向けると、そこには土砂に埋まっていた他の兵士を懸命に掘り起こし、同じように回復薬(ポーション)を配っている姿が伺える。

 

「天女様だ」

 

声の方は後ろから。振り向くと自分と同じように助けられたのだろう、土まみれの多数の兵士が唖然と呟きながら少女の事を目に焼き付けている

 

彼女の名前は帽子姫。

 

今はただラキアの兵士に回復薬(ポーション)を配る謎の少女に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その小人族(パルゥム)がラキア軍に与えた被害は甚大だ。

 

何しろ歩兵隊は一撃で吹き飛ばされ、騎兵隊は大槌を振り落とした時に出来た穴に馬足を捕らわれる。

 

基本的にこの繰り返しなのだが、相手は恐らくLv.3以上。全体的にLv.1か2しかいないラキア兵には荷が重いと言えるだろう。

 

脅威の度合いでは【ロキ・ファミリア】の方が断然上なのだが。やっかいな事に相手は積極的に武器を折に来ているらしく、手持ちぶさたになった兵士の多くが自陣営に戻り、武器を補充する手間を強いられている事も、あの小人族(パルゥム)が厄介だと言われている原因だった。

 

進軍は遅れている。しかし武器を叩き折られたラキア兵はどこか浮わついた様子で、一本の回復薬(ポーション)を握りしめながら、自陣営に引き返していた。

 

「帽子姫様、帰りました!」

 

「お帰りなさいませ!また剣を駄目にしたのですか?」

 

「はい!また剣を売って貰っていいですか?」

 

「勿論です!どうぞ、一本七万ヴァリスになります♪」

 

羽帽子を深く被り、顔の上半分を隠した帽子姫と呼ばれた少女から渡されたのは。一本七万ヴァリスと普通の武器よりかなり高額な、何の変鉄もない普通の鉄で出来た剣だ。しかしお金を払い、受け取ったラキア兵は嬉しそうに抜き身の剣の柄を握り締め、慣れた手つきで帽子姫の目の前に右手を差し出した。

 

「これからも頑張ってくださいね♪」

 

ニコッ

 

「は、はい!いって参ります!!!」

笑顔で握られた右手を大事そうに握り締めながら男は駆け出した。その後ろには他にも沢山のラキア兵が列をなし、帽子姫から握手をしてもらうため、剣を買いに並んでいる。

 

「ふふふ、もう少しで目標達成です。うふふふふふ」

 

帽子姫が剣を売っているテントの裏側、 リリは大金が入った袋をうっとりと眺めながら、不気味な笑い声を上げてた。命はその様子を顔を引きつらせなぎら見ていた。

 

「あ、あの、リリ殿?もうそれだけ稼いだのなら残りはダンジョンに潜って稼ぎませんか?」

 

「なぁに言ってるんですか!借金を返済したらEXステージですよ、EXステージ!!どこまで稼げるか勝負しなくてはどうするんですか!!!!」

 

「し、しかしですね。その、今までは自分もデスマーチを避けるという大義名分を掲げていたから大丈夫だったのですが。これ以上となると人道的にキツイと言いますか」

 

身振り手振りどうにかして説得しようと試みるが

 

「いいですか命さん。リリ達は悪い事をしているのではありません。ラキアという敵国にダメージを与えているのです。つまりは正義!そう、リリ達が正義(ジャスティス)なのです!!」

 

そう叫びながらも、瞳の中をヴァリス金貨に輝かせてるリリに命は肩を落とした。

 

リリ達のやっている事を一言で説明するなら、自作自演(マッチポンプ)だ。

 

手順は簡単、まずリリがラキア軍を攻撃。Lv.2に成り立てのリリだが、最近ベルを超える力値を叩き出せると判明した少女はその力を存分に振い、力付くでラキア軍を殲滅し武器を叩き壊す。

 

そして気絶したラキアの兵隊をキュクロプスの羽帽子を被り、認識阻害中の春姫に助けさせ、回復薬(ポーション)を渡して恩を売る。

 

最後に最近盗賊紛いのスキルが上達している命が別方向に進行しているラキア軍から武器をパク()れるだけパク()り、それを春姫に少し高い値段で売らせる。

 

以上がこの自作自演(マッチポンプ)の全容だ。

 

しかも、中々上手いことハマっているようで、稼げるヴァリスは倍々式に増えており、たった数日で目標額の2億ヴァリスに届く勢いであった。

 

「リリ様、命様!見てください。今回も皆様全て買ってくださいました!!」

 

嬉そうにテントの中に入って来た春姫に共犯者(みこと)は微妙な顔をした。始めこそ嫌々やっているようであった彼女だが、どうやら帽子姫(アイドル)的な事をやっている内にハマってしまったらしい。キラキラとして瞳でリリに大金が入ってる袋を手渡している。

 

「それじゃあ、帰りましょうか」

「はい!」

 

「・・・はい」

 

命は思った。

 

もしかしたら自分は盛大に道を踏み外しているのかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が茜色から黒色に差し掛かろうとする頃、ラキア軍から巻き上げた大金を担ぎ上げ、リリ達は【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)、鐘楼の館とは違う方向に足を進めていた。

ズッシリと重味のあるバックパックを両手に少女達が向かった先は、オラリオから少し離れた所『セオロの密林』だ。

 

「よっこらせ。むふふふふ、明日で2億ヴァリスに届きそうですね」

 

『セオロの密林』深く、満足そうに笑いながら重いバックパックを降ろした小人族(パルゥム)の少女は少し大きめの樹の幹を真ん中から剥ぎ取り、その中に隠してある巨大な金庫の扉を開けた。

 

「あの、本当にまだ続けるのですか?」

 

罪悪感を感じている黒髪の女性(ヒューマン)は金庫の中にヴァリス金貨を押し込むように突っ込みながら、お前は何を言ってるんだ、という表情を浮かべている小人族(パルゥム)とは違う方向に向いた。

 

「え?やりますよ。だって(わたくし)、明日も握手会をするとファンの方々に約束しましたので」

 

金庫を樹の中に戻しているリリを手伝いながら、狐人(ルナール)は当たり前だと言わんばかりに答えた。

 

命は思った。

 

これ何時か罰が当たるかもしれない

 

「さぁ、明日もモリモリ稼ぐ為に速く寝ましょう!」

 

「そうですね!」

 

「・・・わかりました!今日は自分が腕に寄りをかけて作りましょう!!」

「「わああああ!!!」」

 

金庫を巧妙に隠した樹の近くにテントを張った少女達は上機嫌に夕食を始める。

 

故郷から取り寄せた味噌を水に溶かし、鍋の具材を入れながら命は思った

 

もうどうにでもなれと。

 

誰にもバレないように探し当てた密林奥深く。金に眼が眩んだ小人族(パルゥム)とアイドルに目覚めた狐人(ルナール)と色々放り投げたヒューマンの宴は、先ほど言っていた言葉とは裏腹に夜遅くまで続いた言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

金庫を隠した樹は綺麗サッパリ無くなっていた。

 

 

 




8巻が終わるまで後2、3話は投稿するかもしれない。遅くなるかもしれない。



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第23話 この素晴らしい白兎にファミリアを!

感性が多少狂ったベル視点が多いです。


沢山のお気に入りありがとうございます。

PC壊れてスマホ投稿で若干遅くなりますが。これからも見ていてくれたら幸いです。


人気のない裏道で全身からプスプスと煙を出して倒れているドワーフとエルフの二人を手を鳴らしながら僕は見下ろした。

 

「ベル君強!?て、ドルムルさんにルヴィスさん!?」

 

ストーカー被害にあっているエイナさんにボディーガードを頼まれたのだが。どうやら僕が瞬殺した二人はエイナさんの知り合いだったらしい。

 

気絶している二人を縄で縛りながら話を聞くと。この二人はエイナさんに、お世話になっているLv.3の冒険者みたいだ。しかし日々のダンジョン探索や色達との模擬戦で気配に対して鋭敏になっている僕には少し甘く感じた。あれだけ視線に殺気を乗せていたら奇襲してくれ、と言っているようなものだ。

 

「それでどうしますか?ギルドに突き出しますか?」

 

「そ、そうね。そうしましょう」

 

顔色を悪くしたエイナさんが申し訳なさそうに、そう言ってくる。知り合いがストーカーだった事が、かなりショックだったのかもしれない。

 

さて

 

「エイナさん、少しだけ待っててくれませんか?」

 

「え?うん、いいけど・・・」

 

戸惑うエイナさんを残して僕は一飛びで屋根の上に跳躍、逃げようとしている二つの人影を掴んだ。

 

「ちゃあんと気づいてましたよ。貴方達の愉悦を含んだ視線も」

 

「「!?」」

 

その後、二柱の神様を退屈しのぎにストーカーに仕立てあげられた二人に引き渡し、この事件は一件落着した。

 

その次の日

 

「ごめんベル君。今からあの二人尾行するからついてきて」

 

「はい?」

 

何故かエイナさんがストーカーになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は黒髪と桃髪を揺らしながら、オラリオの西方面へ向かっている。

 

ただし色がミィシャさんをお姫様抱っこしながら疾走している為、尾行は困難を極めた。

 

「あの、大丈夫ですか?エイナさん」

 

「だ、大丈夫。大丈夫よベル君」

 

勿論、あの二人を尾行するには、それに追い付くスピードが必要になってくる為、只今僕はエイナさんをおぶりながら追いかけているのだ。

 

お姫様抱っこ?しないよ?

 

「どうやら二人は此処に入った見たいですね」

 

「え、ええ。そうね」

 

乱れた髪を整えながらエイナさんが見上げた先には最近出来たらしいカフェっぽいのが建っていた。

 

中に入ると落ち着いた音楽とコーヒーの香りが僕とエイナさんを包んだ。何処に座ってもいいらしいので二人をギリギリ視界に捉えられる所に腰を落ち着かせる。

 

「それで、どうして色とミィシャさんを尾行する事になったんですか?」

 

水が入ったコップを置いたウェイトレスに取り敢えず飲み物を二人分注文して、待っている間にいきなりだったので聞けなかった事をエイナさんに聞くと。

 

「えっと、それはね」

 

珍しく僕から視線を逸らしながらポツポツと話してくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は僕ら【ヘスティア・ファミリア】がちょうど長期休暇に入った頃。

 

ギルドではある話題で持ちきりだったらしい

 

その話題と言うのが、ミィシャさんに男が出来たのではないか、という噂だ。

 

理由としては朝早くに来て仕事を異常な程早く終わらして帰ったり、ギルドのトップの人に不定期な休みを入れて貰ってたり。

 

しかしそれだけでは彼氏が出来たかどうかには繋がらないだろう。だから今まではギルドの人達は何にも言わなかったらしいのだが。ある事が判明したのを切欠にその噂が浮上した。

 

それは、ミィシャさんが休みを貰う日は必ず【ヘスティア・ファミリア】の休息日と被っているという事だ。

 

僕らが長期休暇を取る日程と被せるようにミィシャさんも休みを取ったのだから、あのファミリアの誰かと付き合っているのは確定らしい。

 

そして今日、その付き合っている相手を確かめる為、追い掛けていたら黒鐘 色と一緒にいる所に出くわし、偶々近くにいた僕が尾行(ストーカー)の片棒を担ぐことになったのだ。

 

理不尽である。

 

「えと、何でエイナさんが尾行しているんですか?それに色とミィシャさんが付き合っていても別にいいじゃないですか」

 

「それは・・・・・じゃんけんに負けて・・・」

 

「・・・」

 

目を逸らしながら話すエイナさんを僕はジッと見つめた。そうしている内にウェイトレスさんが二人分のコーヒーを置いて他の席に向かっていく。

 

「成る程、話は解りました。僕に出来ることなら強力しますよ」

 

「本当!ありがとうベル君」

 

安心したように微笑んだ後コーヒーを飲むエイナさんに

 

「それで、色は何がしたいの?」

 

僕もコーヒーを飲みながら、そう質問した。

 

「・・・えっと。なんでバレた?」

 

「エイナさんは左手利きだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これからやる事の内容を聞いた僕が向かった先はとあるカジノだ。慣れない燕尾服を着て向かった店の前には既に【イシュタル・ファミリア】の人達が到着していた。

 

「お久しぶりです。アイシャさん」

 

「お、久しぶりだね【リトル・ルーキー】。前の遠征以来じゃないか」

 

見知ったアマゾネスの女性に声を掛けると向こうも笑みを作り返してきた。

 

この人は春姫さんを助ける時に、手助けしてくれた人で、前の遠征の時にも色々面倒見てくれたアマゾネスだ。ただ非常にスキンシップが多いのが少しだけ困りものだったりする。

 

「アタイには挨拶はないのかい【リトルルーキー】」

 

「ひっ!?」

 

女性とは思えない程の野太い声に喉をヒクつかせながら振り向くと。そこには巨躯のアマゾネス、フリュネさんが、はち切れんばかりの真っ赤なドレスを身に纏い、僕の両肩を掴んできた。

 

「おいヒキガエル、御上の団長を食おうってんじゃないだろうね?」

 

「バァカ、アタイはコイツと団長同士の話をするだけさァ。なんだい嫉妬かいアイシャ?」

 

「はん、嫉妬?お前みたいな不細工に誰がするんだ」

 

「ちょっとレベルが上がったからって調子に乗るんじゃないよォ」

 

「ふ、二人ともこんな所で暴れたらダメですよ!?ほら、フリュネさんは僕に用事があるんですよね?向こうで話しましょう!」

 

アイシャさんと睨み合うフリュネさんの背を押して、途中で他のアマゾネスの人達と挨拶しながら、カジノから離れた路地裏まで足を運んだ。

 

遠征に着いていった時もそうだったが、この二人はあまり仲が良くないらしい。そして何故かいつも止める役が僕に回ってくるので、こうして引き離す事が最善の作というのを覚えてしまった。

 

「それで?話ってなんなんですか?」

 

路地裏に連れてきた僕が問い掛けると、フリュネさんは顔を壮絶に歪めて此方を睨んで来た。並みのモンスターでも震え上がりそうな、その形相を一身に受けている僕の心境を察してほしい。

 

「・・・チッ」

 

舌打ち一つすると、赤いドレスが変化する体に合わさるように萎んでいき、フリュネさんが可愛らしい少女の姿に変身した。いや、元の姿に戻ったと言うべきか。

 

「えっと、フリュネさん?」

 

「イシュタル様の命令だよ。あたいの役目は他の連中と違ってあんたと馬鹿弟子の護衛だろう。こっちの方が目立たないからって言われたんだ。全く、何であたいがこんな目に」

 

そう言って銀髪褐色の少女は拗ねるように頬を膨らます。可愛い

「なに笑ってんだい!他の連中にこの姿がバレる前にカジノの中に入るよ!」

 

「は、はい!解りました」

 

手を握られて、そのまま強引にカジノの中に連れられていく。すれ違う人々が完成された少女に目を奪われ、何度も振り返っているのを見て僕は思った。

 

手ぇメッチャ柔らかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーレットというギャンブルを知っているだろうか?

 

ルールは簡単だ、回転板(ホイール)に区切られたポケットの何処にボールが入るかの予想、たったこれだけ。しかし、そのたったこれだけが存外人気らしく、数々の博打打ち(ギャンブラー)がルーレットにハマり、運を天に任せ、回転板(ホイール)を転がるボールを一心不乱に見つめている。

 

まぁ、僕には関係ないのだが

 

『うおおおおおおおおおおお!!!!』

 

『なんです、なんですかな!?』

 

『見てくだされあれを!ルーレットのテーブルです!!』

 

僕が指定した色のポケットにボールが入ると観客が沸いた、もう何回も繰り返された事にディーラーの人も頬をひきつっているようだ。

 

『あの、白兎さん次は何処に入れるのですか!?』

 

『そうだ、教えてくだされ!!』

 

「ダメですよ、そういう約束ですから。ね、ディーラーさん?」

 

「え、ええそうですね」

 

ニッコリと笑う僕にディーラーの人はうつむき、冷や汗を掻きながら小さな声で「ありがとうございます」と答える。

 

(それで?エイナさん操ったりカジノでわざわざギャンブルしたり、どうしてこんな回りくどい事してるのさ)

 

ついうっかり数字単体に賭けそうになった指を止め、向こうでディーラーにわざと自分に都合がいいようにイカサマさしている色に心の中で問い掛ける。ポケットに手を突っ込みカードを弄りながら彼はこう答えた

 

(今忙しいから後で)

 

(ぶっとばすぞ)

 

(!?)

 

おっと、態々【食蜂操祈(メンタルアウト)】で回線(パス)を繋いでおいてさっきから肝心な事は一切喋らない副団長につい本音を呟いてしまった。気をつけてなくちゃ

 

(いろ)から横二列(ダブルストリート)の数字に賭けた僕は再度色に問いかける

 

(あのね?いい加減説明してくれなきゃ、僕だって怒るよ?)

 

(いやだから今は無理だって。後で必ず話すから)

 

ボールは勿論当たりのポケットに入り、受け取ったチップを今度は横一列(ストリート)に賭けた。ディーラーは青ざめている

 

(ふーん、そう言うこと言うんだ)

 

(あの?ベルさん?ちょっと声色が怖いなー、なんて)

 

当たったチップを今度は全て線上(スプリット)の数字に賭ける。ディーラーの顔が黄土色になっているが知った事じゃない

 

(ミィシャさんに聞いたんだけど僕には口止めしてるんだって?)

 

(な!?あの人、口滑らしたのか!?)

 

(・・・ミィシャさんには喋って僕には秘密にするんだ)

 

(カマかけたな!?てっ違、本当に今は喋れないんだって!!)

 

チップの山を一点数字(ストレート)に賭け、沸く観客の声を聞きながら心の中で色に呟く

 

(覚えてろよ)

 

(あぁ!!黒服の怖い人がヨンデルワー速くイカナキャー!!)

 

焦ったような心の声と共に切れた回線(パス)にため息を吐いた。目の前のチップの山がせめてもの精神安定剤かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後【イシュタル・ファミリア】の人達と一緒に莫大なお金を手に入れた僕は色から粗方の事情を聞く事になる。

 

「という訳なんだよ」

 

「・・・マジで?」

 

「マジで」

 

思わず頭を抱えた僕はそのままフラフラと本拠(ホーム)の出口に向かった。

 

「ど、どこ行くんだよベル?」

 

「・・・ギルドに報告書出してくる」

「そ、そうか。頑張ってな」

見送ってくれる色に手を振り返しながらドアを閉めた僕は重い足取りを引きずり、ギルドへ向かった。

 

「・・・はぁ」

 

ため息を吐きながら今までは何度も助けてくれた相棒の紫紺のナイフを見つめる。まさか原因が神様のナイフだったなんて、というかこれって

 

「ギルドにどう説明しよう・・・」

 

更に足が重くなるような感じがしたが、何時までも下を向いていても仕方ないと思い、無理矢理に前を向く。すると、視線の先に見知った薄鈍色が見えた。

 

「シルさん?」

 

自然と足が白のワンピースと麦わら帽子を纏った彼女の後ろを追い掛けていく。

 

決してギルドにどう言い訳すればいいか解らなかった訳ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、シルさんを追い掛けていた僕の今の状況を軽く説明しよう。

まず、後ろには教会の子供達が元気な声援を送ってきている。

 

隣にはシルさんが不安そうな表示で此方を見てきている。

 

そして目の前には・・・

 

「がんばれー!兄ちゃん!!」

 

「負けるなー!!」

 

「行けー!!!」

 

『ゥォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「大丈夫ですか、ベルさん?」

 

ねじれ曲がった二本の大角、黒体皮、赤の体毛、そして巨大な体躯。

 

ミノタウロスに似た二足歩行の大型級『バーバリアン』が咆哮を上げながら目の前に立ち塞がっている。

 

どうしてこうなった

 

「あれぐらい余裕ですから、シルさんは少し下がっていてください」

 

不安がらせないように、にこやかに微笑みながら彼女を子供達の元まで下がらせる。その動作に隙を見出だしたのか『バーバリアン』が激しく地下通路の中を走り、角を僕目掛けて突き出してきた。

 

この時ほど【イシュタル・ファミリア】の遠征に着いていった事を感謝した時は無かっただろう。何故なら、目の前の怪物とはもう何度も戦っていて、倒して慣れているのだから。

 

リン!

 

気配を感じた時からずっと発動していた鐘の音が一際大きく鳴り響いた。

 

「シッ!!」

 

『ゴブッ!?』

 

輝く右手でカウンター気味に『バーバリアン』の懐を撃ち抜く、黄色の瞳を見開きながら後ろの壁にめり込んだモンスターを見て、僕は少しだけ眉を寄せた。

 

腕でガードした?

 

普通ならあれで決まっていたのに、まるで冒険者みたいな防ぎ方をされれば誰でも疑問を抱くだろう。しかし今はそんな事を考えている場合では無かった。

 

壁から脱出した『バーバリアン』は低い唸り声を上げ、【英雄願望(アルゴノゥト)】の同時使用(ダブルアクション)で輝いている僕の左腕を警戒しているのだ。

 

今まで見たことの無いモンスターの反応に薄ら寒い感覚を覚える。

 

『ゥ・・・ゴオオオオウ!!!』

 

先に動いたのは『バーバリアン』だ、傷だらけの体を動かし迫ってくる。さっきより速度が若干緩めなのは、やはり【英雄願望(アルゴノゥト)】を警戒しているのだろうか。

 

「甘いよ!!」

 

『ギャン!?』

 

突如伸ばされた長い舌を腰から引き抜いた紫紺のナイフが切り裂さいた。カウンターをさせない為に意表を突いたつもりみたいだが、そんな雑な攻撃を食らうほど僕は弱くはない

 

「ラァ!!!」

 

『グゴッ!?』

 

怯んだ大型級の体に素早く接近し、下から右腕をめり込ませ、浮かせる。そして身動きの取れない空中で蹴りを叩き込まれた『バーバリアン』は吹き飛び、さっきの焼き写しの様に地下通路にめり込んだ。

 

『ァ・・・ァァアアアアアアア!!!!』

 

「さて、これで終わりかな」

 

まるで怯えいるかの様に後退るモンスターに光輝いている左腕を向ける。今まで貯めてきた時間を計算すると恐らく塵も残さず燃え尽き、子供達にグロい所を見せなくてすむだろう。

 

僕は躊躇わず、その魔法を『バーバリアン』に放った。

 

「ファイアボ「まって兄ちゃん!?」・・・?」

 

引っ張られた服の裾を見ると、そこには教会に居た子供の一人、ライが涙目で此方を見てくる。他の子供達も同様に涙目だしシルさんは困り顔だ、どうしたのだろう?

 

「えっと、危ないから下がって「可愛そうだよ!!」・・・は?」

 

「そうだよ!もうやめたげてよお!!」

 

「あの子泣いてるよ!?」

 

この子供達は何を言っているのだろうか?モンスターが泣くこと何てあり得ないのに・・・うん?

 

「えっと、ベルさん?あれ・・・」

 

シルさん解ってます。僕もしっかり見えていますから、そんなに何度も視線を向こうと此方に動かさなくて大丈夫ですよ。

 

「・・・えっと、なにしてんの?君」

 

僕は問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土下座している『バーバリアン』に・・・

 

 

 

 

なんだこれ?

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・』

 

『バーバリアン』は答えず、ただ地下通路の冷たい床に頭を擦り付けている。まるで何時かの僕と神様みたいだ。

 

「あの?・・・顔を上げて下さい。『バーバリアン』さん?」

 

シルさんの言葉に『バーバリアン』は恐る恐る面を上げた。どうやら人の言葉が解る程には知能があるようだ。

 

「・・・・・・君はなんでこんな所にいるの?」

 

『!?・・・ガ、ガウガウガー!!』

僕の言葉に勢いよく反応した『バーバリアン』は地下通路の壁に、鋭い爪で何かを描き始めた。どうやら絵も描けるようだ。

 

「すっごーい!モンスターさん絵、上手だねぇ!!」

 

「貴方は手が器用なモンスターなんだ!!」

 

「えっと。この絵は人間と檻?ですか」

 

「捕まっちゃったの?モンスター?」

 

『ガウディ!!』

 

『バーバリアン』は僕達に元気よく親指を突きだした。

 

「・・・・」

 

僕がここまで冷静なのは恐らく色達とメチャクチャなダンジョン探索をして何事にも動じない心を手に入れていたからだろう。もし普通のダンジョンで普通の探索をして普通のファミリア生活をしていたら、何度か気絶しているかもしれない。

 

「ねぇ、ベルお兄ちゃん。モンスターさんをダンジョンに返して上げて!!」

 

「そうだよ!頼むよ兄ちゃん!!!」

 

「お願い!」

 

「駄目ですか、ベルさん?」

 

「え~」

 

まぁ、幾ら冷静でもこの状況をなんとか出来るわけ無いんだけどね!!どうしろってんだよ!?僕にどうしろってんだよ!?

 

そうして、心の中で一人頭を抱えていると、聞いた事がある声が地下通路内に鳴り響いた。

 

「俺が、ガネーシャだ!!」

 

「はい!?」

 

入ってきたのは【ガネーシャ・ファミリア】の主神、ガネーシャ様だ。ズカズカと僕らの横を何事も無いように通り過ぎ、バーバリアンの元まで・・・ちょっ!?

 

「駄目ですよガネーシャ様!?そいつはモンスターで」

 

「ここに居たのかバーバルちゃん!!」

 

『ガ、ガウ?』

 

「・・・えっと」

 

「ここに居たのかバーバルちゃん!!!!!」

 

『・・・・・・そうか。ガウガウガー!!』

 

「おーよしよし。怖かったなバーバルちゃん!しかし、このガネーシャが来たからにはもう大丈夫だぞ!!」

 

ガネーシャ様と『バーバリアン』は熱い抱擁をしながら涙を流している。ていうか、今アイツ喋ったような・・・

 

「いやーありがとう、ベル・クラネル!!君がうちのファミリアが調教(テイム)したモンスターを見つけてくれたのだな!!感謝する!」

 

「は、はぁ」

 

「それでは行こうか!バーバルちゃん!!」

 

『カバディ!!』

 

勢いに任せて去っていくガネーシャ様とバーバルちゃんを僕達は呆然と見送った。

 

そしてそのまま帰るのかと思ったガネーシャ様が突然振り向き

 

「そうだ!ベル・クラネル、どうやらヘスティアがラキア軍に拐われたらしい。取り敢えずロキがいる北門まで急いで行くといい」

 

「え?あ、はい。わかりました」

 

「それでは、去らばだ!!」

 

へー、ヘスティア様がラキア軍に拐われたんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ

 

「はぁぁあああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

何事にも動じない心なんて無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神様!!!神様は大丈夫なんですか!?」

 

「うおっ!?ビックリした、なんやいったい!?」

 

食い付く様に顔を近づけた白髪の少年に赤髪糸目の女神、ロキは思わず仰け反った。血相を変えて女神に詰め寄るベルの肩を一人の小人族(パルゥム)が掴む。

 

「・・・端的に説明する。ベル・クラネル、よく聞いてくれ」

 

ヘスティアが連れ拐われた、という情報しか無かった少年にフィンは状況概略を伝え、聞き終えたベルは顔を強張らせる。

 

「神様がいる方角はわかりますか?」

 

「わからない。厄介なことに敵は北、西、東、それぞれに部隊をいくつも分けた。まだ追跡隊も出せていない」

 

真剣な表情のベルに、散り散りとなってヘスティアを抱える本隊の行方が知れない、とフィンが冷静沈着に答えた。

 

情けない話だが、と前置きして彼が語ったのは捜索がいかに困難を極めるか、という事だった。話が進みほどベルは俯き、自分の拳を力強く握りしめた

 

「ロキ、フィン。私が追う」

 

次第に震えるベルの肩を横目で窺っていたアイズが、前に歩み出る。

 

常に寡黙な【剣姫】の申し出に、その場に入るものは皆、驚きをあらわにした。

 

「ちょいまち、アイズたん。わざわざうちらがドチビのために出張る必要あらへん。そもそもしらみ潰しになるし・・・」

 

「でも、誰かがいかなきゃいけない」

 

「確かに誰かがいかなあかんな。でもなアイズたん、もしあの子と会ってしまったら我慢できるか?」

 

「それは・・・でも、この中で一番足が速いのは私」

 

ロキの指摘に言い淀むアイズはそれでも食い下がる。都市最強の一角とも言われる第一級冒険者と、その主神が口論になろうとしているのを防いだのは一人の咆哮だった。

 

「ファイアボルトォォオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

掲げられた右腕から突如放たれた緋色の稲妻は雲一つ無い青空を引き裂くかの如く、何処までも何処までも上に昇っていった。

 

「な、なんだあれ?」

 

「いま無詠唱で魔法を打たなかった?」

 

「お、おい。アイツ、世界最速兎(レコード・ホルダー)じゃねぇか!?」

 

「はぁ!?なんでこんな所に【ヘスティア・ファミリア】の団長が!?」

 

「・・・ベル?」

 

ざわつく周りを気にせず、空を向いていた顔を下げたベルは【ロキ・ファミリア】団長、フィン・オディナに紅の瞳を向ける

 

「フィンさん、本当にヘスティア様の場所は見当が全くつきませんか?」

 

「あ、あぁ。申し訳ないが・・・」

 

「そうですか・・・アイズさん、申し訳無いのですが東の方面を捜索してもらっていいですか?僕達は北と西を探します」

 

「う、うん」

 

「という訳でロキ様、アイズさんを少しだけ借ります」

 

「ちょ、ちょいまち!?自分何言うとんのかわかっとるんかい!!」

 

「何がですか?」

 

「何がですか、やあらへん!!今から自分のファミリア集めてヘスティア探す?そんなん何時間掛かるかもわからんのか!!!」

 

何でもないように話すベルにロキはその糸目を開きながら唾を飛ばす。しかし白髪の少年は怖じ気づかず、言葉を返した

 

「ロキ様、お言葉ですが・・・」

 

人差し指を空に向けるベルに釣られてロキも怪訝な表情を浮かべながら空を見た。周りの人間もつられて見上げると、その快晴な空には今一つだけ黒い点模様が浮かんでいる。

 

その黒がドンドン近づいてくるのをわかったロキは自分が勘違いをしていた事を理解した。さっきの魔法は自分の意見を述べるために打ったのでは無いのだ。

 

「あまり僕達を嘗めないで下さい」

 

空から勢いよく落ちてきた一羽の鴉はその背中に複数人の人間を乗せ、激しい轟音と土煙と共に不時着し

 

「ベル!!緊急時用のファイアボルトが見えたから、急いで皆かき集めて来たんだけど何があった!?」

 

一人は心配そうに此方に歩み寄りながら

 

「二億ヴァリス・・・リリの二億ヴァリス・・・」

 

一人は死んだ目で虚空を見ながら

 

「ちょっと色様!!降ろしてください!?(わたくし)には待っている沢山のファンがいるのです!!!」

 

一人はよく分からない事を喚きながら

 

「ほら、やっぱり天罰が下ったじゃないですか。ふふふ、これからもっと凄い地獄がまっているのですね」

一人は地面に向かってブツブツと呟きながら

 

「ク、クロ!?誤解だっていってるだろ!速くこの重いのを外してくれ!!?」

 

一人は仲間の武器に押し潰されながら

 

自分の前に姿を表した、何かもう色々凄いことになっている仲間達(ファミリア)を見たベルはオラリオの方に顔を向けながら

 

ギルドに報告書出しにいくのは大分遅れるだろうな。

 

と、若干現実逃避するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか色々ボカしてるけど次回で大体の説明会かな?


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第24話 はたらく女神さま!

もしかして一番苦労してるのはミィシャさんかもしれない



わーい!UAが10万越えた!!ありがとうございます!!


彼女の朝は早い

 

鳥の囀ずりが聞こえてくるより前に起床し、可愛らしい水玉模様のパジャマを脱ぎ、何時ものホルターネックの白いワンピースに着替えていく。

 

大きな胸の下から体に巻き付けるように青い紐を通し、綺麗な黒髪をツインテールに結い、純黒と白銀、二対四つの小さな(ベル)をその両方に括り着ける。

 

図書室の一角に作られた寝室から出て、大きく延びをし、最後に自身の両頬をパンッ!と勢いよく叩き・・・

 

「さぁ、今日も頑張ろう!!」

 

ロリ巨乳の女神様は今日も元気よく仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気合いを入れたヘスティアが向かった先は鐘楼の館一階の厨房だ。黒の少年に買って貰った黒色のエプロンを身に纏い、釜戸に火を付け手際よく眷属(ファミリア)全員の朝食を用意していく。

 

トントントン、と小気味良いリズムでまな板を鳴らしていると上の方から人影が

 

「おはようございます、ヘスティア様」

 

「おはよう命君、どうだい?眠気覚ましに一杯」

 

そう言ってヘスティアは眠たそうに目尻を擦っている命に緑の液体が入っている湯呑みをズイッと差し出した。

 

「これは・・・緑茶ですか?」

 

「うんそうだよ、確かに命君の故郷のお茶だったよね。この前見かけたから買っといたんだぜ!」

 

受け取った湯飲みを命は真剣な面持ちで見つめた。

 

「そうねすか。では一口」

 

・・・ズズ

 

「・・・」

 

「どうだい?命君」

 

「ヘスティア様」

 

「うん?」

 

「夕食はお茶漬けがしたいです!!!」

 

「お、お茶漬け?」

 

コップを置き、勢いよく両手を握られる。しかしヘスティアは聞いたことの無いワードに困惑しながら聞き返した。その様子に若干興奮気味の命は気づかずに巻くしてていく。

 

「そうです!お茶漬けです!ヘスティア様、夕食はお米を炊いて下さいね!!」

 

「あ、あぁ。任せてくれよ」

 

「任せました!!さて、こうしては居られません。自分はタケミカヅチ様の所に梅干しや塩こぶを別けて貰いに行ってまいります!!!」

 

命は最後に「早朝訓練が始まる頃には帰ってきます!!」と言い残し、物凄い速さで鐘楼の館から出ていった。唖然としていると、玄関から入れ違いに赤い髪を揺らした青年が入ってくる。

 

「何だったんだあいつ?あ、ヘスティア様おはようございます」

 

「おはようヴェルフ君。おっと、そのまま動かないでくれよ?」

 

挨拶をするや否やヘスティアは頭の鐘を小さく鳴らしてヴェルフの元まで駆けていき、人差し指を突きつける。

 

「まぁた工房で寝てたなぁ。家に居る時ぐらい寝る時はしっかりベットで寝ないと駄目って言ってるだろ?」

 

「す、すいません」

 

「ほら、お風呂沸かしてあるから入ってくるんだ。さっぱりするぜ」

 

「え?いや、いいっすよ。早朝訓練の後に入るんで」

 

そのまま横を通り過ぎて自室に戻ろうとするヴェルフの腕をヘスティアはパッと掴んだ

 

「こーら!そんなんじゃ女の子にモテないぜ。いいからその煤だらけの体を綺麗なお湯で流してくるんだ!!」

 

「ウィッス」

 

反省したように頭を掻き、風呂場に向かっていくヴェルフを微笑みながら見送ると、厨房に向かい料理を再開する。

 

鍋に先程切った材料を入れ、炊いていると上からまた人影が

 

「色様続きは!続きは本当に無いのですか!?あの後二人は無事にうさみみ空賊団になったのですか!?」

 

「だからあの話で終わりだって。ちょっ!?終わりって言ってるだろ!!ポケットの中に手を突っ込むな! ?スマホを取ろうとするなッ!!!」

 

「嘘ですね!!(わたくし)、続きらしき画像をチラッとみたんですよ。色様のイジワル!!」

 

「イジワルってなんだよ!?じゃいいよ!見せてやるよ!?ほれ!!」

 

「あふん」

 

「おはよう二人とも。朝から元気だね」

 

軽い言い争いをしながら降りてきた色と春姫に手が離せないので視線だけを送り挨拶をする。さっきまで声を張り上げていた春姫は泡を吹いて気絶しているが。

 

「はよー。ヘスティア、コーヒー頂戴。春ちゃんには水で」

 

「また二人で朝まで夜更かしかい?ていうか春姫君に何見せたんだい?」

 

「あー、えっと・・・ちょっと同人誌を」

 

「どうじんし?」

 

と聞いたことの無い単語に首を掲げながら、手早くコーヒーと冷水をコップに入れて色に渡した。

 

「春ちゃん起きろー水だぞー」

 

「う~ん・・・むにゃむにゃ」

 

「せっかくだし、もう少し寝かして上げたらどうだい?早朝訓練までまだ時間があるし、ダンジョンに寝不足で向かっても危ないだけだろ?」

 

「確かに、それじゃさっきの記憶の改竄も今の内にや」

 

「こらこら、そんな事で家族(ファミリア)呪詛(カース)を使うんじゃない」

 

リモコンに手を掛ける色を嗜めると、「へーい」という気の抜けた返事を返し、春姫を近くのソファーに寝かせる。

 

「あ、そうだ色君。命君が緑茶を飲んでお茶漬けが食べたいって言ってたんだけど何かわかるかい?」

 

「お茶漬け?たまに食べたくなる時があるけど、そんな難しいもんじゃねぇぞ?」

 

そこから暫くダイニングに料理の音と二人の会話を響かしていると、小さな人影が大きな欠伸をしながら二階から降りてきた

 

「ふぁ~、ヘスティア様、色さん、おはようございます。春姫さんは・・・どうしたのですか?」

 

「おはようリリ君」

 

「おはよーリリ。春ちゃんは耐性が足りなかったのだ」

 

色はソファーに寝かしている春姫の尻尾を弄りながらリリにそう返した。時折ピクッと動くのが気に入ったらしい。

 

「耐性?あ、ヘスティア様、手伝いましょうか?」

 

「ありがとうリリ君!でももうすぐ終わるから気持ちだけ受け取っておくよ。それより鐘を鳴らして来てくれないかな?」

 

お玉を頭上にかざしたヘスティアにリリは片手を上げて「わかりました~」と眠そうに目を擦りながら階段をまた上がっていった。

 

それを見送ると色も春姫を起こしに掛かり、ヘスティアも弁当用のタッパの中に食材を次々と放り込んでいく。

 

そして朝にやることが終わった頃、最後の足音が階段を降りてくる。

 

「おはようございます。神様」

 

「ベェェェゥルクゥゥゥゥン!!!!」

 

「わっ!!か、神様!?」

 

【ヘスティア・ファミリア】最後の一人にヘスティアは勢いよく抱き着き

 

鐘楼の館の二つの鐘がオラリオに鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな平和な日の夜、皆が夕食を終えて各部屋で寛いでいる頃、ボクは自室で色君とテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

「それじゃあ、今までよく働いてくれたヘスティアに給料を渡します」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ボクは思う。

 

おかしい

 

「えっと色君?確かにヘファイストスの所を辞めて、本拠(ここ)で家政婦の真似事をして給料を貰う事にしたけど、なんだいこれは?」

 

「なんだいって給料だよ給料」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

テーブルに置かれた物をジッと見つめる

 

やっぱりおかしい

 

「もう一回聞くよ?なんだいコレは?」

 

「おいおい大丈夫か?給料だぞ」

 

さも当然かの様に色君は大きな袋に入っているソレを指差して言った

 

「大体二千万ヴァリスあるぜ」

 

「馬鹿かキミはぁぁあああああああああああ!!!!!!!!」

 

大絶叫が部屋の中に木霊するが、図書室には防音設備が整えられており、その中に作られた彼女の部屋からは一切の音を外部に漏らさない。

 

「確かにボクは言ったよ!?ヘファイストスの所よりも給料上げてくれって冗談混じりに言ったよ!?でもね?流石にこんな大金貰えるわけないだるぉ!?」

 

「大丈夫、俺のポケットマネーだから」

 

「余計ダメだよ!?なんちゃって家政婦に二千万ヴァリスなんて採算まったく合ってないからね!!これじゃボクはヒモ同然じゃないか!?」

 

「あっはっはっ、自分の紐とヒモをかけてんの?ウケるー」

 

「ぶっとばすよ!?」

 

色君に掴み掛からんと身を乗り出したボクは、そのまま視線をテーブルの大金に移し

 

「大体こんな大金ボクはいらな・・・い?」

 

まさか・・・と急いで部屋の中に置いてある小さな戸棚に飛び付きガサゴソと漁り始めた。次第に冷や汗が吹き出してくる

 

「えっと・・・色君?もしかして」

 

「探してるのこれか?」

 

目を移した彼の指の間に一枚の紙がヒラヒラと挟まっている。自身の名前が書かれている借金契約書が・・・

 

「あ・・・・ああ・・・・・」

 

「それにしても二億ヴァリスって一体何の借金だ?」

 

「ああ・・・ああああ・・・・・」

 

「まぁ安心しろ。実は二億ヴァリス稼げて次いでに団員(ファミリア)を超強化出来る案考えたんだよね」

 

「ああああ・・・・・ああああああ・・・・・・」

 

「ほれ。まだ中途半端にしか出来てないけど、コレを実行すれば、あっという間に二億ヴァリス返せるぜ」

 

そう言いながら色君は一枚の紙を取り出した。

 

「ああああああああああああーっ!!」

 

グシャッと握り潰す

 

「あぁ!!せっかく書いたのに!?」

 

「駄目だ駄目だ!!コレはボクが勝手に作った借金だ!それを子供に立て替えさせるような事は絶対にしないぞ!!」

 

「お、落ち着けって。この金は俺が立て替えたんじゃなくて、お前が働いて稼いだ金だぞ?」

 

「まだその屁理屈をこねる気かい!?大体何処で見つけたんだそんなもの!!」

 

「え?普通に図書室に落としてたぞ?」

 

「ボクの馬鹿!!!」

 

頭を抱えて天を仰いだ。そうだ、確か昨日は明日が給料日だから浮かれて、ついつい夜中に調子に乗って契約書を取り出して、借金返済の舞いを・・・・・今思えば昨日のボクは一体何をやってたんだ・・・

 

 

「でも、やっぱり駄目だ。いいか?これは主神命令だ、君はボクの借金に一切の金をださないでくれ」

 

「はぁ!?馬鹿かお前!!いいか?借金なんて物は一刻も早く無くすべきなんだよ、いいから受けとれ!!」

 

「いやだ!!やめっ・・・ヤメロォー!」

 

無理やり金を押し付けてくる色君に目を閉じ拒絶する。プニプニの頬が金の入った袋で潰された。すこし、気持ちいいかも・・・って誘惑に負けるな、ボク!!

「むー!むー!」

 

「この、強情ロリ巨乳が!!だったら俺が直接ヘファイストスの所に行って金を渡して来てやる!」

 

「えぇ!?駄目だよ!!ま、待つんだ!!」

 

そこから激しいデットヒートが行われた。階段を蛇のように駆け降りる色に小さな体で小回りを生かし追随するヘスティア。普通なら恩智(ファルナ)がある色が負ける筈はないのだが、この時ばかりは神の意地が人間を上回った。

 

「お・い・つ・い・たぁ!!!」

 

「甘いなぁ!!ベクトルスルー!」

 

「なにぃ!?」

 

しかし、飛び付かれた色は一方通行(アクセラレータ)を使い、抱き着いてきた向き(ベクトル)を操り、すり抜けるように回避、そのまま玄関まで爆走していく。

 

「ふはははははは!!!お前の借金なんて俺が勝手に返してやんよ!!!」

 

「やめてくれぇ!!その借金は・・・その借金はボクの借金だぞ!!」

 

※大声を出している二人ですが、音声はベクトル操作により他の家族(ファミリア)に聞こえないようになっております。

 

「ばぁああああい!!」

 

ガチャ

 

「あ、会いたかったよ色君」

 

バタン!

 

「ヘスティア引けぇ!?ピンクの悪魔に飲み込まれるぞ!!!!」

 

ガチャ!!

 

「私は○ービィじゃ無いよぉ!?」

 

※大声を出していr

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鐘楼の館に現れた○ービィ、もといミィシャに二人が連れてこられたのはギルドだった。夜中なので殆ど人が居ないにも関わらず、応接間に案内された色とヘスティアはハンドシグナルでバレないように会話をする。

 

(ね、ねぇ色君?君、何かしたのかい?)

 

(し、知らねぇ)

 

(だったら何でこんな所にボク達が来てるんだい!?)

 

(俺は何もしてねぇよ!?)

 

緊張する二人にミィシャはニッコリと笑顔を向けた。しかし目が全く笑って無い、て言うより死んでるような気がするのは気のせいなのだろうか?

 

「それじゃあ手短に用件を話しますね~」

 

「「は、はい」」

 

「【ヘスティア・ファミリア】はダンジョンに行くの禁止」

 

「「・・・・・・・・は?」」

 

ビシッ、と固まる二人にミィシャは尚も変わらない笑顔を向けていた。

 

「な、なんで!?冗談だよね!ミィシャさん!!!

 

「ミィシャ君!!流石にダンジョン禁止は凄く困るぜ!?」

 

「安心して下さい。もう直ぐオラリオはラキア王国と戦争するので、それが終わるまでですから」

 

「戦争ぉ!?ヤベェじゃん!!」

 

「あ、なんだ。じゃあ安心だね」

 

「なにが!?」

 

戦争と言う単語に慌てふためく色を他所にヘスティアは安堵に大きな胸を下ろした。訳がわからない色は説明を求めようとるすが、その前にミィシャに肩を捕まれる。

 

「いい色君。絶対にぜぇったいにダンジョンには行かないでね!!戦争中は冒険者の数が少なくなって、もし怪物進撃(デス・パレード)に巻き込まれた人がいた場合救助に行く人手が足りないからね!!」

 

「お、俺も戦争に出た方が」

 

「駄目に決まってるじゃん!?これ以上私の仕事を増やさないで下さい!お願いします!!!」

 

「俺ミィシャさんになんかしました!?」

 

頭を下げて懇願してくるミィシャに色はたじろぎながらも了承する。一般常識を持ちながら常に色の情報を集め、怪物進撃(デス・パレード)の相手をしてきた彼女はよくわかっていた。

 

人手の足りない今、こいつら(ヘスティアファミリア)を何もせずに放って置いたら、絶対にとんでもないことをやらかすと。

 

そして自分の仕事量もそれに比例してとんでもないことになると。

 

故に彼女は一計を案じたのだ。

 

「こほん。とりあえず、ラキアとの戦争中に【ヘスティア・ファミリア】はダンジョンに行かない事。これ、ギルドからの強制任務(ミッション)ですから」

 

「そこまでするのかい!?」

 

驚愕するヘスティアにミィシャはビシッ!と指を突きつける。

 

「勿論大人しくしていてくれたら報酬は出ますし、破った場合はそれ相応の罰則があります。わかりましたか~?」

 

「「わ、わかりました」」

 

その返事を聞き、満足げに頷いた彼女は二人に退出の許可を出すのであった。

 

出ていった二人を見送ったミィシャは大きく息を吐き、応接間の高級ソファーに深く腰を下ろす

 

「いや~最初はラキア王国との戦争に情報屋を殆ど持っていかれて、どうなるかと思ったけど。この方法だったら手の届かない所(ダンジョン)から色君を遠ざけられるし、怪物進撃(デス・パレード)が持ってくる面倒事も無いだろうし、まさに一石二鳥。一応自分でも休みを入れて監視するつもりだけど、流石にギルドからの強制任務(ミッション)を破るなんて事しないよね~。これもしかして久々にゆっくり休めるんじゃないの?私ってあったま良い~!!」

 

と、言うわけで【ヘスティア・ファミリア】は大形休息に入った訳だが、その数日後・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グランカジノを潰すってどういう事よぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

彼女が想像を絶する程の仕事が舞い込む事になるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミィシャさん落ち着けって!!」

 

朝、【ヘスティア・ファミリア】本拠(ホーム)(つんざ)くような女性の絶叫が響き渡った。家の掃除をしていたボクはその声を聞き、ドアを壊す勢いで入ってきて色君に詰め寄る人物、ミィシャ君に駆け寄り、話を聞くことにする。

 

「おいおい、一体どうしたんだい?カジノがどうとか聞こえたけど?」

 

「そうなんですよ!!聞いて下さい!!!色君がカジ・・・ムグ!?んー!!んー!!!!」

 

「本当黙って!?何で知ってるのか知らないけど今は黙って!!!」

 

必死に口元を塞ぐ色に抵抗するように両手をバタバタと動かすミィシャ。その様子に困惑しながらも、さっきミィシャが漏らした言葉についてヘスティアは考えた

 

ミィシャ君はカジノって言ってたよね?カジノ・・・・・・カジノ!?

 

「あ、ヘスティア様、出掛けてきますね」

 

「今日は自分達は帰らないかも知れませんので夕食は要りませんから」

 

「そ、それじゃあ、いってまいります」

 

「へ?あ、うん」

 

バタバタしている色君達の後ろから、そそくさとリリ君達が出ていく。あれ?春姫君が後ろ手で隠しているのって色君の帽子のような・・・ってそれ所じゃない!?

 

「色君!!まさかカジノに行ってメンタ・・・ムグ!?んー!!んー!!」

 

「お前も何言おうとしてんの!?」

 

ミィシャ君同様口元を塞がれるが、暴れつづける。もし食蜂操祈(メンタルアウト)を悪事に使おうとしているのなら主神として絶対に止めなくちゃいけない!!

 

「「んー!!んー!!」」

 

「暴れんなっつうの!?二人とも話を聞け!!」

 

「俺出掛けるから・・・て何してんだ?」

 

三人のドタバタは小さな箱を持ったヴェルフが声をかけるまで続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミィシャ君に席を外してもらい、色君とボクは何時かのように図書室の部屋で向かい合っている。粗方説明を受けたボクはジト目で色君を見つめる。

 

「悪徳カジノを潰すんだって。悪気とかは一切ないから」

 

「へぇ~じゃあどうしてボクに隠す必要があったんだい?昨日のコソコソ皆に聞き回ってたのはこの事だろ?」

 

「いや、ほら、それは・・・・」

 

右往左往する色君に少し呆れながら確信であろう言葉を口にした

 

「まだボクの借金の事諦めてなかったのかい?」

 

「・・・借金の事は誰にも言ってないし」

 

頭を押さえる。いや、これはボクが悪いのだろう、借金を作った事もそうだが・・・

 

「あのさ?確かに借金は悪い事かもしれないよ?でもボクには返す目処があるし、自分自身で返すって決めてるんだ。だから君には手伝って欲しくない」

 

「ダメだ。まぁいいから俺に任せろって、二億ヴァリスぐらい簡単に返してやるから」

「・・・はぁ」

 

まさか色君がここまで自分が決めた事を曲げない性格だとは思わなかった。この頑固者め………

 

このままでは話が平行線になると思ったボクは話題を変えることにする。

 

「大体なんでカジノから一気に二億ヴァリス稼ごうと思ったんだい?前みたいに給料で渡せばいいじゃないか」

 

それはそれでボクは受け取る気はないんだけどね

 

「いやだって、戦争中はダンジョンに行けないんだろ?だったら早めに返しとかなきゃ。もし借金を理由に脅されたり戦争に強制参加とかになったら怖いじゃん?」

 

「・・・うん?」

 

何かボクと色君の認識に齟齬があるような?

 

「あのね色君。まず、ヘファイストスがボクを脅す何て事はあり得ないし。それにラキアとの戦争なんて10日あれば終わるよ?」

 

「はぁ!?戦争が10日で終わる!!!俺の世界じゃ戦争なんかしたら年単位で戦ってんぞ!!長いものでも百年戦争とかあるんだけど・・・マジで?」

 

「マジで。ていうか最長で10日だからね?早くて一週間ぐらいだぜ」

 

「ゴールデンウィークかよ!?戦争って言えば大体のラノベでも一大イベントだぞ?どうなってんだよ、この世界・・・」

 

項垂れる色君の肩を叩いた。あれだね、ジェネレーションギャップってやつだね、ドンマイ

 

「カジノの件はもう止められそうにないのかい?」

 

「あ~、実は外部から協力するって言ってきた人がいてさ、その人がLv.3以上だったら【食蜂操祈(メンタルアウト)】で誤魔化しきれないし。それにオッサンの娘さんは助けてやりたいなって思う」

 

う~ん、もうしょうがないか。ボクも覚悟を決める事にしよう

 

「よし、それじゃあ協力するぜ。それだとボクも稼ぎの何割かを報酬として貰えるだろ?」

 

そう言うと色君は歯を見せて笑ってくれた。ふふふ、さて、やるからには確実に悪いカジノを潰さないといけないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度作戦を練った後に色君達と別れたボクが向かった先は歓楽街の一角、女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)だ。色君とミィシャ君は家にいると私用で出掛けたベル君が帰って来たら不味いという理由で、外で作戦の調整をしに出掛けている。

 

町並みを歩いていると様々な種族の娼婦から声を掛けられ、それに手を振り答えていく。

 

「ヘスティア様!!○ンドーム買っていくかい!」

 

「ヘスティア様!!新しいバ○ブ入荷したけど、どうですか!!」

 

「ヘスティア様!!処女○破る時はかなり痛いから気をつけて!!!」

 

「うるさいよ!?」

 

時折叫び返しながら進んでいくと、人を掻き分け、一際強そうな女戦士(アマゾネス)が一人此方に歩いてきた。どうやら案内役が来たみたいだ。

 

「ヘスティア様、歓楽街へよくきたね。私達【イシュタル・ファミリア】一同、歓迎するよ」

 

「ありがとう、君はアイシャ君だったね。春姫君からよくお世話になったって話を聞たぜ」

 

「へぇそうかい、春姫の奴は元気にしているかい?」

 

そっけなさそうに返しているが顔を見ると嬉しそうだ。春姫君が言っていた通り、悪い子じゃないみたいだね。

 

「元気も元気さ!最近は命君と訓練したり、色君と朝まで色々な話をしていたり、毎日楽しそうだぜ」

 

「・・・ほぅ」

 

う、うん?何か雰囲気が変わったような・・・ まぁ色君だったら大丈夫だよね!

 

その後も春姫君の話だったりファミリアの話だったりしながら歩いていると大きな扉が目の前に。どうやらイシュタルの部屋までついたらしい。

 

「こっから先はヘスティア様一人でいっておくれ」

 

「あぁ、最初からそうするつもりさ。ありがとうアイシャ君」

 

そう言うと彼女は片手を振りながら廊下を歩いていく。その後ろ姿を見送ると、大きな取っ手を掴み、勢いよく扉を開けた。

 

「来たよ!!イシュタル!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん・・・ふっ・・・ふあ・・・・きぃ・・ひぐぅ・・しきぃぃぃぃ!!!!!」

 

バタンッ!!

 

「・・・・・・」

 

この時ヘスティアは誓った

 

今後ドアを開けるときは絶対にノックをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果を言うとヘスティアがイシュタルに協力してくれるように頼みに来た件については成功した。

 

後は簡単だ、中に潜入している色の合図に合わせて、ミィシャが配置したギルド局員と【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦(バーベラ)が突入。

 

その混乱の隙に色とフリュネの高Lv.&チートの二人で金目のものをゴッソリ頂き、何処かの大泥棒よろしく逃げるだけだ。

 

そして【ヘスティア・ファミリア】と、その傘下【イシュタル・ファミリア】の二つのファミリアは莫大な金を山分けし、借金も余裕で返せる額も集まり、悪徳カジノも潰れ、めでたしめでたし。

 

ただ一つ問題があるとすれば・・・

 

「・・・ギルドに報告書出してくる」

 

まさかベル君も協力していたとは。勿論色君はベル君にボクの借金の事は隠して、「目的は悪徳カジノを潰すため、その為にギャンブルで勝ちまくってくれ」と最初は言っていたらしい。

 

しかしベル君は何故かそれを嘘だと看破し、色君に本当の目的を問い詰めたそうだ。

 

その結果、借金の存在がバレて、次いでに借金がベル君のナイフの金だと判明し、そのままフラフラと出ていってしまった。

 

と、いうのがボクがお風呂掃除をしている時に起きた出来事でした。

 

「うん、とりあえず。どうして色君はボクの借金がベル君のナイフの物だとわかったんだい?」

 

「え?ミィシャさんに教えてもらったんだけど、ヘスティアが話したんじゃないのか?」

 

「話してないよ!?カジノの件といい何者なんだい、あの子、口止め料として稼ぎの何割かを渡しておいて正解だったかもね・・・それにしても」

 

うぅ、今すぐベル君を追いかけたいけど、先ずはヘファイストスに借金を返して来ないと・・・

 

決してベル君にどう言い訳すればいいか解らなかった訳ではない。

 

「それじゃあボクも行ってくるよ」

 

「おう、行ってらっしゃい」

 

二億ヴァリスの小切手が入った封筒を大事に鞄にしまい、靴を履き、色君に挨拶をして家を出掛けた。

 

そのあと確か、ヘファイストスは『オセロの森林』にさっき出掛けたって聞いて、今からなら追いつけると思い、追いかけていったら・・・確か・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、アレスの奴に誘拐されたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

深い眠りから覚めたヘスティアの目の前に、その光景は広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の神様に何をしたぁぁああああ!!!!!!

 

数々のクレーター

 

「てめェらぶっ殺してやるから覚悟しやがれェ!!!」

 

吹き飛ぶ将軍達

 

「消し飛べぇ!!!魔砲【フレイム・ブラスト】!!!」

 

消し炭になる山地

 

「何処にも逃げられませんよぉぉおおおおお!!!!」

 

押し潰される鎧

 

「いいですか?リリがこの手を離せば貴方は潰れてしまいます。それが嫌なら今すぐ二億ヴァリスを用意しなさい」

 

鼻先で大槌(ハンマー)を止められているアレス。

 

「あ、ヘスティア様、大丈夫ですか?(わたくし)達が来たからには、もう安心してください」

 

そして、見たことのある帽子を被っている彼女の後ろには

 

「うぉぉおおおお!!帽子姫様!!」

 

「帽子姫様、最高です!!!」

 

「帽子姫様バンザーイ!!!」

 

何故かラキア兵が歓喜の声を上げている

 

「・・・・・・・・・・・・寝よ」

 

頭の処理が追い付かないロリ巨乳の女神様は取り敢えず、もう一度瞳を閉じるのであった。

 

 




そりゃ、このヘスティア・ファミリアを怒らしたらこうなりますわ~


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第25話 とあるファミリアの優雅なる1日

八巻終わるまでに六話掛かるとは思わなかったぜ。


事の始まりは一人の男神がラキアを来訪した事だった。

 

「もしオラリオを落としたいのならヘスティアの所の黒鐘を奪えばいい」

 

拝謁の間で、その男神はラキア王国の軍神アレスにそう進言した。突拍子もない話に怪訝な顔をするアレス、しかしその男神は更に言葉を重ねる

 

「黒鐘を奪うというのなら協力するが?」

 

「ほぅ、お前はオラリオを落としたいのか?」

 

肩を竦める男神。冒険者たった一人を引き込むだけでオラリオを落とせるなど、本来なら馬鹿馬鹿しいと切り捨てる所だが、幾度もの戦争で敗北の苦渋を味わい、何よりあの戦い(ウォーゲーム)を見たアレスは一考する。

 

「・・・具体的な案を聞かせろ」

 

その男神は冷笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こらっ、アレス!?どういうことだ、早く下ろせ!!こんなことをして、ボクの家族(ファミリア)が黙っていないぞ!!」

 

「黙っていろ能無しのチビ神め!貴様はクロッゾの倅と黒鐘 色とを交換するための神質(ひとじち)だ、利用してやるから光栄に思え!」

 

「本当にどうなっても知らないからなぁあああああああッ!!!」

 

アレスの背中、鎧の上に綱で強引に結ばれているヘスティアが細い手足を振り回す。きつく縛られている綱を必死に解こうと暴れるが非力な彼女では緩めることすら叶わず「大人しくしてろ!」とアレスの膝鉄を脇腹に頂戴し「ぬぶぅ!!」と苦悶の声を上げた後、打ち所が悪かったのか気絶してしまう。

 

それが始まりの合図だった。

 

もし、ここでアレスがヘスティアに手を上げていなければ、追い付いた色達が上空からその場面を見ていなければ、【ヘスティア・ファミリア】全員が日々甲斐甲斐しく身の回りの事をやってくれているヘスティアに多大な恩を感じていなければ、結果は多少変わっていたかもしれない。

 

しかし、もう遅すぎた。

 

ラキア兵の中心に爆音が鳴り響き、それに全員の意識が向けられた瞬間、外側から同時に炎雷と豪雷が十字を切る様に軍隊を駆け巡る。

 

四分割された軍の後方、二分の一は重力の結界に潰されて、進む道は赤い閃光により消滅。

 

ようやく襲撃されたと理解した頃にはヘスティアは帽子を被った冒険者に奪われ、最初に爆音を鳴り響かせた小人族(パルゥム)の少女が目の前で大槌を寸止めしていたのだ。

 

ここまで約30秒、訳がわからない。

 

完璧な統率、完璧な協力戦闘(コンビネーション)。常に命の危険に晒されるほどの、馬鹿みたいな数のモンスター達と戦ってきた怪物進撃(彼ら)にとって、こんなこと(軍隊との戦闘)は当たり前に出来る事。いや、出来なければならない事だったのだ。

 

故に集団戦闘こそが、彼らの力量を存分に発揮できる場と言えよう。

 

その事を理解していなかったアレスは残り30秒。つまり目の前の小人族(パルゥム)に身代金を要求された時間で、残りのラキア兵を鎮圧され、漸く理解する。

 

【ヘスティア・ファミリア】に手を出すべきじゃなかった事を

 

「ま、まて!話を・・・ムグ!?」

 

声を発したアレスの顔に大槌(ビックハンマー)が押し付けられ発言を潰される。

 

「貴方が口にしていいのはイエスかノーのどちらかだけです。オーケー?」

 

底冷えする声と少しずつ押し潰される体に恐怖が走った。

 

「ねぇリリ、何してるの?早く元凶を消しさらないと」

 

「なンなら俺が殺してやろォか?」

 

「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください。ここで潰すのは簡単ですが、それでは勿体無いですよ。それで、どうしますか?」

 

幸運を運ぶ兎が牙を剥き、不幸を呼ぶ鴉が爪を立てる。黒と白の冒険者の威圧感に晒され、他の団員からも恐ろしい程の殺気を当てられたアレスに頷く以外の選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らないから天井だ・・・」

 

「朝っぱらから何ふざけてるのさ?」

 

ベットから起きてテンプレを言うと、その声に起こされたのか隣で寝ていたベルが呆れた視線を送ってくる。結構俺の世界に染まってきたベルだけど、このノリにはついて行けねぇか

 

「よく寝れましたか?皆さん」

 

扉を静かに開けて現れたのは、今お世話になっているこの村の村長、カームさんだ。

 

流石にアレスを脅して二億ヴァリスを受け取る場所がオラリオでは不味いので、ラキアが金を持ってくるまでの隠れ蓑として何処か適切な場所を探して、見つけたのがこの『エダスの村』だ。

 

周りは絶壁で囲まれて、ちょっとやそっとでは見付けられなさそうな隠れ里っぽくなっている村になっており。ちょうどいいと降り立った俺達は取り敢えず村長のカームさんに事情を説明し、何泊か泊めてくれないかを交渉。

 

もしダメでも【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使えばいいか、と思っていた俺だったが、以外な事にカームさんだけではなく、聞き耳を立てていた、その娘さんも二つ返事で迎え入れてくれた。

 

交渉材料として提案した万能薬(エリクサー)が余程嬉しかったのか、夕食までご馳走してもらった、しかもこの村の規模ではかなり豪華な食事。

 

緊急時用に万能薬(エリクサー)を最低一本持つことをファミリア全員に義務付けといて正解だったな。

 

と、言うわけで。只今我らが【ヘスティア・ファミリア】は使われていない小屋を一つ借りて、雑魚寝していたのである。最初は村長さんが家を貸すと言ってきたのだが怪我人がいるわけでも無いのに、俺達(冒険者)にそんな物はいらないと断った。

 

普通の女の子の力しかないヘスティアだけは特別に簡易ベットを作ってそこに寝かしたけどな。祭壇みたいだと皆で茶化したのはいい思い出になる事だろう。

 

さて、グースカ寝ている団員を起こしますかね

 

「お前ら起きろ!!朝だぞ!!!」

 

「「「「zzzzzzzz」」」」

 

・・・・・・【食蜂操祈(メンタルアウト)】入りまーす!!

 

 

 

 

 

 

 

 

カームさんの娘さんが用意してくれた朝食を頂いた俺達は、毎朝の日課、早朝訓練に取りかかることにした。最初は酷くゴネていた春ちゃんも、今では気合い十分に鉢巻までしている。やる気があるのはいいことだ

 

朗々と命ちゃんの詠唱が流れ始め、ファミリア全員が緊張感に包まれる。それにしても命ちゃんの詠唱が凄く早い、早朝訓練とダンジョンで何回も詠唱してたから自然と早くなっていたと前に言っていたが、最早某歌姫の消失レベルの早口ではなかろうか?あれで、しっかり魔法が発動出来ているのだから不思議なもんだ

 

「【フツノミタマ 】!!」

 

「「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

ファミリア全員を押し潰さんとする程の重力が襲いかかる。即座に自信に掛かる負荷以外の向き(ベクトル)を掌握、脚力と腕力のベクトルを操作して腕立てやスクワットに最適な動きを最速で行っていく。

 

そんな俺に追随する白い影

 

「おおおおおおおお!!!!」

 

「ああああああああ!!!!」

 

ベル速ぇ!!何時も思うんだけと俺に追い付いてくるっておかしくね!?こちとら結構ヤバいチート(アクセラレータ)使ってんだぞ!!!

 

そんなベルだが、勿論何もせずに身体能力だけで追い付いている訳では無い。確かにあの【ステイタス】なら追い付けそうだが、直接的な力が試される訓練ならば【一方通行(アクセラレータ)】の方がまだ分があるのだ。

 

その穴を埋める為に彼が行っているのは二つ。

 

まず一つ目は【英雄願望(アルゴノゥト)】の断続的な使用。腕立て伏せ、上体起こし、屈伸運動、一動作全てに細かく《スキル》を発動し、全体的な身体能力の底上げを行っているのだ。その為、ベルの体は訓練中、常に光輝き、鐘の音(チャイム)が鳴り響いていたりする。

 

二つ目は50(メドル)走における【ファイヤボルト】の使用。この説明は簡単だ、つまりは走る時に後ろに【ファイヤボルト】を打ち続ける。これによりジェット機並みの推進力で大きく色に追い付いていく。

 

まぁつまりは

 

ベル・クラネルは己の全てを使って黒鐘 色に並んでいるのだ。

 

「ウァアアアアあああああああ!!!」

 

「ウゥオオオオおおおおおおお!!!」

 

『エダスの村』付近にある『黒龍』の鱗に囲まれた大きな広場に二人の絶叫が鳴り響いた。いくら二人がチート能力を持っていても命の【フノミタマ】の重力結界では負荷が強すぎるのだ。その中で常に全力で動いている二人に激痛が走るが、無理やり足を動かすのを止める訳には行かない。

 

負けたくないから、絶対に勝ちたいから、意地と意地のぶつかり合い。激しい音を上げて爆走するベルに、色も負けじとベクトルを操り疾走する。

 

「がぁあああああああ!!!」

 

「るぅあああああああ!!!」

 

そして、【ヘスティア・ファミリア】団長と副団長(ツートップ)の決着がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ一着はリリなんですけどね」

 

「「ちくしょぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また・・・リリに負けた・・・・・」

 

「その《スキル》やっぱりバグじゃね!?」

 

「ふふん、色さんからその言葉を貰うとは。少し気持ちいいですね」

 

打ちひしがれる俺とベルをリリは得意気な顔で見下ろした。【怪力乱神(スパイラル・パワー)】が強すぎる件について・・・

 

うん何かね、あの《スキル》は本当に重ければ重い程(パワー)が倍加するらしい。つまり元々の力値が600だとすると二倍にしただけで1200、しかも力値の潜在値(ちょきん)が999あるわけで・・・前に『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を装備したリリとベルで腕相撲をしたらベルの腕が大変な事になったとだけ言っておこう。

 

それでも敏捷(スピード)では勝っているのだから負けないとは思っていたんだが、そこは命ちゃんの【フツノミタマ】が大分強くなっていたのが敗因です。

 

重い、真剣に重い。最初の頃とは比べ物にならないぐらい強くなった【フツノミタマ】は俺とベルのスピードを確実に削っていき、逆に『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を装備しながら訓練をしているリリにとってはそんなもの(重力結界)は焼け石に水らしく、スイスイ前に行かれるのだ。

 

相性の問題とは言え、端から見れば重い装備のまま訓練をしている小さな少女に負ける男二人・・・情けないね

 

若干落ち込みながら火照った体をベクトル操作で冷やしていると、訓練を終えた人影が俺に近づいてきた。

 

「はぁはぁはぁ、し、色様。回復薬(ポーション)を・・・」

 

「はい、お疲れ春ちゃん。歩いて往復出来るようになったし、回復薬(ポーション)飲む回数も減ってきたし、調子いいんじゃねぇの?」

 

「コクコク・・・ふぅ~、やっぱりそう思いますか?どうやら(わたくし)にも成長期が来たようですね」

 

そう言いながら朗らかに笑う春ちゃんに、いい感じに冷やした風を送ってやる。【フツノミタマ】の中で50(メドル)5往復、それが今彼女に課せられている訓練内容だ。

 

最初は皆と同じ訓練内容にしていたのだが、なんと自分から、こっちの方が効率よく制限値(エクセリア)を貯められるから変えてくれと進言して来たのだ。実際そうだったので、こうして彼女だけ違う訓練内容を行っている。

 

因みに、俺やベルでも厳しい空間なのに潰されないのは本人曰く【フツノミタマ】の弱所を見切っているのだとか、要するに危機察知能力の強化版みたいな感じらしい。

 

そう言えば春ちゃんに聞き忘れていたことを聞いとこう。

 

「あのさ、春ちゃん達がヘスティアの借金を返すために頑張ってた事は聞いたけど、あれは何なの?」

 

指差した方向にはアレスを幽閉している檻を見張っていたラキア兵がクキュロプスの羽帽子を被った春ちゃんに手を降っていた。借金返済の為だから勝手に借りていた事は許したけど、用途間違ってね?

 

「え?(わたくし)のファンの方々ですが?」

 

「・・・・・・そっか」

 

この女狐は一体どこにむかっているのやら

 

もしかすると金色繋がりで話した、あの漫画のアイドルヒロインに影響されたのかもしれない。

 

今後教える漫画の知識にも気を付けよう。

 

そうして体を休めながら待っていると、最後の一人が走り終わりそうになっていた

 

もう少しでヴェルフも終わりか。最近アイツも訓練を全てこなせるようになってきたし順調だな。おっと、速く動かねぇと

 

「ゼハァ!ゼハァ・・・お、終わったぞ」

 

「おう、お疲れヴェルフ。回復薬(ポーション)そこに置いとくから勝手に飲んでくれ。俺は」

 

ドシャッ!

 

「倒れた命ちゃんの面倒みるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「色殿、かたじけない」

 

「いいって、ゆっくりしときな」

 

仰向けに寝ている命ちゃんの額に手を当て、余分な熱を霧散する。器用値が上がったからだろうか?最近こういう【一方通行(アクセラレータ)】の細かな操作が出来るようになったのだ。

 

「あ~気持ちいいです。色殿、精神力回復特効薬(マジック・ポーション)を下さい」

 

「はいよ」

 

気持ち良さそうに目を細めている命ちゃんに柑橘色の液体が入った試験管をストロー付きで渡してやる。何故持っているのかって?それは各団員が常に回復薬(ポーション)系統を持ち歩く事を心がけているからです。理由?うちのファミリアは何時いかなる時でも現状みたいな事が起こることを想定しているんですよ。

 

因みにベルがファイヤボルトを上空に打つのは緊急事態発生と全員集合の合図だったりする。

 

我がファミリアはこういう細かな取り決めを行うことで世界一安全な迷宮探索を心掛けております。それなのに何故か入団希望者が現れない、解せぬ。

 

「ふぅ、もう大丈夫です。ありがとうごさいました」

 

「あいよ。でも大丈夫、命ちゃん?精神力回復特効薬(マジック・ポーション)を使う数、大分少なくしてるぜ」

 

「大丈夫です、気にしないで下さい。あの二人に負けたくないので」

 

立ち上がった命ちゃんの指差した方向には元気に回りを爆心地に変えているリリと、それを軽々と避け反撃の機会を伺っている春ちゃんの姿があった。

 

「あの二人も強くなったよな。リリなんかこの前俺の反射を力づくで破って来たんだよ。困っちゃうぜ☆」

 

いやー、あの時はビックリした。リリが「あ、ベル様!!」って言ったから振り向いた瞬間に目の前が真っ暗になったからな。何してもいいぞって言った手前、なにも言い返せなかったのは苦い思い出です。

 

「色殿、足が震えてますよ?」

 

「む、武者震いだし、ビビってねぇし。そう言う命ちゃんも次の組み手相手だろ、大丈夫?」

 

「ふっ、今回も敏捷値(スピード)で撹乱してやりますよ」

 

「あ、何かリリがその事に対策がある。とか言ってたから気を付けてね」

 

おっと、命ちゃんの動きが止まったようだ

 

「命様~!交代でございます。(わたくし)も油断していなかったのですが、負けてしまいました!」

 

因みに、春ちゃんとの組み手のルールは攻撃を当てた方が勝ちという事になっているが、同じLv.同士の場合はそんなものは無く、どちらかが戦闘不能になるまで戦う事になっている。

 

そして、避ける事に対して特化している春ちゃんに攻撃を当てたと言うことは・・・

 

「・・・・・・・・フッ」

 

ニヒルに笑う命ちゃんだが、足が震えていた。

 

がんばれ命ちゃん、

 

全く、うちの【小さな賢者(クレバー)】は最恐だぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は夕暮れ、ラキア兵を待っている俺達は途中村の近くで沸いたハーピーを殲滅したり、夜から始まる祭りの用意を手伝ったりして時間を潰し、ただいま2度目の夕食を迎かえ、入浴時間である。

 

勿論『エダスの村』にうちのファミリアが使うような大入浴場は無いので、俺達で即席風呂を作り、そこに入ることにしている。

 

作り方?適当に穴掘って、ヴェルフが加工して、川から水運んで、ベルが沸かすだけ、一時間で出来るね。

 

「もうなんでもありだね」

 

とはヘスティアの談だ。俺もそう思うけど、女子達が喜んでいたから細かい事は気にしないことにした。

 

と、言うことで、ただいま女子団員と女神様が入浴中で俺達は暇を持て余している訳だが、ここらで疑問に思っていた事を言ってみるとしようか

 

「お前らってさ、女湯覗かねぇの?」

 

「ブッ!?」

 

「いきなりどうしたんだ、クロ?」

 

飲んでいた水を吹き出したベルと違ってヴェルフは冷静に対応してくれる。流石に年上だな、ベルは耐性無さすぎ。

 

「いやさ、こういう時ってお約束じゃん?それなのに今まで一度もそう言う話しなかったなって思ったんだよ」

 

「ゲホッ!ゴホッ!な、なにいってるのさ!?」

 

「クロがそう言う話題出すって珍しいな、俺はてっきり強くなる事以外に興味ないと思ってたんだが」

 

「お前は俺をどういう目で見てたんだ」

 

心底不思議そうに見てくるヴェルフを睨み返す。いや、興味はあるよ?女体を見慣れているだけで、普通に恋人欲しいよ?裸を見慣れているだけで。

 

「で、どうする?覗く?覗かない?」

 

「覗かないよ!?」

 

「俺も反対だな、リリスケに殺される」

 

まぁそうなるよな、ただ気になったから聞いただけだし。この話はここで打ち切り、顔を真っ赤にしているベルの為に違う話題を振る事にする。

 

「なぁヴェルフ、例のアレはすぐに出来そうなのか?虚空が出来たって事は加工には成功したんだろ?」

 

「あ~、少し時間をくれ。できるだけ後悔しないように作りたいんだ。すまんなベル」

 

「急がなくても大事だから!?ねぇ色、本当に僕が貰っていいの?」

 

「気にすんなって、どうせ俺は使いこなせないんだし貰ってくれ」

 

期待と不安が入り交じったベルの肩を叩いてやった。ヘスティアがベルにナイフを渡してたから、俺も何か渡してやりたいと思って渡たそうとしたんだが、どうやら予想以上に好感度が取れたらしい。嬉しさが滲み出ているベルの顔を肴に酒を一口

 

それにしても女の風呂って本当になげぇな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】が即席で作った風呂場に真っ直ぐ向かっている数人の人影があった。団員が入っている事を計算に入れた時間帯、見つからない様に念入りに下調べをしたルート。

 

正に穴一つ無い作戦の下、黒い影は慎重に突き進む。

 

(ゴッデス、ターゲットβまで残り約50(メドル)です)

 

(了解、そのまま待機しといてくれ。フォックス、レーダーの反応はあるかい?)

 

(いえ、まだピリピリする感じがないですね。もう少し進んでください、プリンセス様)

 

ハンドシグナルで会話をし、コードネームで呼び合う者達に油断という二文字はない。しかし、もう少しで目標地点にたどり着くという所で、その中の一人が焦ったような声を上げた。

 

「本当にするんですか!!皆様!?」

 

「今さら怖じけついたんですか?シャドウ」

 

「シャドウも乗り気だったじゃないか」

 

「シャドウ様、いい加減覚悟を決めてください」

 

「もうその呼び方はいいですから!!それと、自分はずっと止めていますからね!?」

 

「「「またまたぁ」」」

 

「この人達怖い!?」

 

覗こうとしてるのは【ヘスティア・ファミリア】の主神と女性団員だった、彼女らの目標はただ一つ、ベル・クラネルのみ。しかし、命だけはその行為を止めようと奮闘する

 

「大体ベル殿の○○○何てどうでもいいじゃないですか!?」

 

「なに言ってるんですか、ベル様の○○○ですよ?重要に決まってるでしょう」

 

「そうです。ベル様の○○○を皆様で共有し絆を深める。どうでもいい何てとんでもない」

 

「フフン、まぁボクはベル君の○○○を見たこと有るけどね」

「「ぐぬぬ」」

 

「意外と大きかったぜ」

 

「「!?」」

 

「もう帰っていいですか?」

 

ガックリと項垂れ、踵を返そうとする命の肩はガシッと掴まれた。

 

逃げられない!

 

「それにしても問題はこの壁ですよね」

 

「色君もえらく高く作ったよね。いったい何(メドル)あるんだい?」

 

風呂場付近にまで近づいた彼女達を待ち受けていたのは、高く積み上げられた石の壁。「これぐらい高かったら何が来ても安心だろ」と色が風呂場を囲うように積んだのだ。

 

「ほら、もう諦めて帰りましょうよ」

 

頑なに帰ろうと主張する命だが、そんなものを聞き入れて帰るのならば、こんな所に彼女達は来ていないだろう。

 

「皆様、安心してください。(わたくし)にいい案があります」

 

「ほぅ、流石春姫君だ。リリ君も参謀の座が怪しまれるね」

 

したり顔で笑うヘスティアに済ました顔でリリは返した。

 

「いいんですよ、リリは前衛ですし。それに今後その役(参謀)後方支援(バックアップ)の春姫さんの方が適任ですから色々任せていこうと思っていた所です」

 

「リリ・・・様」

 

一つの戦力として認められている事に感動して瞳を潤ませる春姫。しかしその内容は男の入浴を覗く為の作戦立案、台無しである。今まで止めようとしていた命も少し感動して口元を押さえている所を見ると、もうこのファミリアは駄目かもしれない。

 

「それで?作戦を聞かせて下さい」

 

「はい!リリ様が石壁の上まで私達を投げ飛ばします!!」

 

「「「・・・・・・・それで?」」」

 

「以上です!!」

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

数分後、風呂場の上空で何かが雷に打たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、貴殿方はこんな所で留まっているのですか?」

 

「「「はい」」」

 

青筋を立てて眼鏡を光らしているアスフィさんに、説明をするために残った俺とベルとヘスティアは正座をしながら答えた。凄く怖い

 

「いいですか?オラリオでは良くも悪くも貴殿方の噂で一杯です。【イシュタル・ファミリア】だって黙っていませんし、今の【ヘスティア・ファミリア】がどれだけ重要な位置(ポジション)にいるか良く理解してください!!」

 

「「「はい、はい、すみません」」」

 

もう俺達は土下座をする勢いで謝っているのに弾丸の様な説教は止まらない。やはり、余計な魔力を消費しないため、上空にだけ飛ばしていたレーダーに掛かったアスフィさんをハーピーと間違え、雷を放ったのがいけなかったっぽい。

 

その後、助けた俺達の裸を見て気絶した事も原因だろう。

 

「これからはもう少し慎重に動く事ですね!!」

 

「「「すみませんでした!!!」」」

 

遂に三人仲良くDOGEZAした。何て言うか、本当にごめんなさい。

 

「まぁまぁ、それぐらいにして。お祭りの準備が出来たので良ければ一緒にどうですか?」

 

おぉ!!ナイスだリリ、その調子で助けてくれたら説明する時に逃げた事は忘れてやる。

 

「は?いえ、貴殿達はこのまま帰還してもらいま」

 

「祭りっていいですよね!!!!!」

 

あ、違う。これ俺達を助けようとしたんじゃ無くて、ラキアが金を持ってくるまでの時間稼ぎだ。

 

「えっと、アーデさん。いきなり何を?」

 

「だって祭りですよ!!リリ達冒険者はその職業上、殆ど関わらない事じゃないですか!?こんなに貴重な経験、やっておいて損はないはずです!!!!」

 

「は、はぁ」

 

二億ヴァリスは返せるって伝えたのに必死すぎだろ、この金の亡者め

 

「だったらアスフィさんも祭りに参加して、踊りましょう!!いえ、踊るべきです!!!朝方ぐらいまで!!!!!!」

 

「は、はい。え?朝方?そんな時間な」

 

「聞きましたか皆さん!!!言質・・・じゃない、アスフィ・アンドロメダのやる気を!!!ほら!色さん速くエスコートして上げてください!!!それでも男ですか!?」

 

あ、そこで巻き込んでくるんだ

 

(色さん!!マリウスさんが明日の朝方には来ると言っていたのでそれまで時間を稼ぐんですよ!!)

 

リリは鬼気迫る表情を浮かべ、ハンドシグナルで意図を伝えくる。しかしだ、生まれてから今まで踊りなんてものと無縁な俺は断固拒否さしてもらう

 

(ふざけんな、大体俺が踊ったり出きるわけねぇだろ?ベルだったら踊った事あるしベルにやらせろよ)

 

(うぇ!?ちょっと色、僕に振らないでよ!!それに色の方がアスフィさんと仲良いだろ!!)

 

(そうですよ!!それにベル様と踊るのはリリの役目です!!)

 

(ちょっとリリ君、それは聞き捨てならないぞ!!ベル君と踊るのはこのボクだ!!!)

 

(じゃあこうしましょう。時間を決めて交代制でどうですか?)

 

(クッ仕方ないか、それでいいよ)

 

(僕の意思は!?)

 

(おまえッ!?ベルお前ふざけんな!?三角関係とかどこのハーレム主人公だゴルァ!!!春ちゃんもお前に気があるっぽいし、代われ!!)

 

(最後本音漏れてるよ!?)

 

(とりあえず色さんはアスフィさんと踊っててくれたらいいんですよ!速く動いてください!!)

 

(色くん、これは主神命令だ!!その子と踊って出来るだけボクがベル君と踊れる時間を稼いでくれ!!)

 

(納得いかねぇ!?)

 

「アスフィさん俺と踊ってください!!!」

 

「え、あ、はい」

 

ここまで約3秒、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きである。

 

 

 

 

 

 

赤のロングスカートとゆったりとした白のブラウス、色柄のベストをボタンで止めた服装。何時もの冒険者の服とは違い、村人から借りた服を身に纏っているアスフィさんは変わらない空色の髪と銀色の眼鏡を揺らしながら、優しく俺をリードしてくれる。

 

こういった事に慣れているのか、足を踏まないように気を付けて踊ってる俺に対して、彼女は流れるような動作で郷土舞踏(フォークダンス)をこなしていく。やはり彼女と俺では釣り合っていないのでは無いのだろうか?

 

そんな不安を察してくれたのか、手を取り合っている俺に、宝石が溢れ落ちてきそうな澄んだサファイアブルーの瞳を向けて、一言。

 

「どうしてこうなるのよ」

 

「なんかすいません」

 

あ、違うわ。これ死んだ魚の目だわ。

 

「別に色君が謝る事はないわ。ただ、自分の拒否できない性格が恨めしいだけで・・・ふ、ふふふふ」

 

「は、ははははは!!」

 

怖えぇよ!?その死んだ瞳を虚空に向けて笑うの止めてください!!!ちょっ村人の皆さん!?そんな微笑ましい目で見てないで助けて!!な、なんかこの状況を打破出来るものは無いのか!?

 

「それではこの帽子姫、歌わせてもらいまーす!!!」

 

「「「「「「「うぉおおおおおお!!!!帽子姫様!!!!」」」」」」」

 

春ちゃん!!なに俺のスマホのカラオケ機能使って疑似アイドルライブやってんの!?ラキア兵もノリノリ過ぎだろ!!

 

「ベル様!!次はリリと踊ってください!!!」

 

「なぁ!?まだボクの番は終わってないぞ!!」

 

「ちょっ、二人とも、あまりくっつかないで!?」

 

アイツらは予想道理過ぎだぁ!!後で覚えてろよ!?ま、まだ常識人のヴェルフと命ちゃんが残ってるからな!二人とも助けて!!!

 

「ヒック、ヴェルフ殿~!!お酒ついで下さいよ~ヒック」

 

「こりゃだめだな。クロ、コイツ介抱しとくから後頼んだぞ!!」

 

「なにいってんれすか!?わたひはまだのめまふ!!!」

 

ベロベロに酔った命ちゃんはそのままヴォルフに連れられて家の中に・・・なんてこったい!?

 

「えっと、アスフィさん?ちょっと休憩しますか?」

 

「ふふふ休憩?知ってる?その言葉は私とは無縁の言葉なのよ。大体ヘルメス様は」

 

何かブラック企業に就職した人間の成れの果てみたいになってるんですけど!?会ったこと無いけどヘルメス様アスフィさんに何してんの!!

 

「そうだ、色さんに聞いておきたい事があるだけどいいかな?」

 

今までブツブツ呟いていたアスフィさんが急に質問してきた。キャンプファイヤーに照らされた瞳は先程の死んだような物ではなく、真っ直ぐ俺に向けられている。

 

「なんですか?」

 

回りの喧騒で聞き逃さないように耳を傾けた、集中すると少しだけアスフィさんの手が汗ばんでいるのが解る。暑いのだろうか?

 

「どうして上空にいる私の正確な位置がわかったの?」

 

彼女の柔らかな手が少しだけ震えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

17階層、大広間。

 

安全階層(セーフティポイント)の前に立ち塞がる階層主(ゴライアス)の目の前、ベル・クラネル率いる【ヘスティア・ファミリア】は当たり前のように相対していた。

 

『オオオオオオオオオオ!!!』

 

「弱ェんだよ!」

 

総身七(メドル)に達する灰褐色の巨人が振り下ろした両腕を空中で蹴り返した黒い少年は、仰け反っている巨人に落雷を落とす

 

『ガアアアアアアアア!!』

 

「ちょっと色さん!!今回はリリに任してくださいって言ったじゃないですか!!!」

 

激しい雷光に身を焼かれる巨人。しかしそれを見た小人族(パルゥム)の少女は、自信の何倍もの大きさがある大槌をブンブンと片手で振り回しながら抗議の声を張り上げた。

 

「いや、えっと」

 

「全く、今から手出し無用で頼みますよ!」

 

「はい、すみません」

 

「えっと、ドンマイ色」

 

ベルに肩を叩かれ慰めてもらっている色を尻目にリリは巨大な大槌を抱え跳躍、雷で麻痺して動けないゴライアスの腹部に狙いを定め、フルスイング。

 

『ゴゥッ!?』

 

超重量の一撃を横っ腹に受け、霞む程の勢いで吹き飛ばされた灰色の巨人は嘆きの大壁にめり込み、ようやく停止する。

 

「更にもう一発!!」

 

それに追い討ちを掛けるため、リリは【怪力乱神(スパイラル・パワー)】で何倍にも高められた力値を存分に使い、ゴライアスに向けて大槌を勢いよく投げ飛ばす。常識はずれのスピードで投げられた大槌(ビックハンマー)はブォォォン!!!と激しい音を立て、回転しながら一直線に進んでいく

 

『ゴブォッ!?』

 

あたり一面に飛び散る巨人の血飛沫、ゴライアスの推奨Lv.は4だ、それをLv.2のリリが軽々と倒した様は正しく異常と言えるだろう。その光景を目にしたヴェルフは怒りの声を上げた。

 

「おいリリスケ!!あんまり乱暴に扱うなよ!?それ作るのにどれだけの労力を注いだと思ってるんだ!!」

 

「大丈夫ですって。ゴライアスの頭を潰したぐらいで、どうにかなるような武器じゃないでしょう?」

 

「えっとリリ?壁にめり込んでる大槌(ハンマー)から目を背けちゃ駄目だよ?」

 

前でゴタゴタしだした三人を背後に、怒られて後方に向かった色は大広間に繋がっている通路から沸いてくる無数のモンスターを命達と殲滅していた。

 

「それにしても、二億ヴァリス受け取れて良かったですね」

 

「そうですね春姫殿。そういえば色殿はアスフィ殿とどういった話しをされていたのですか?自分、何故かあの時の記憶が曖昧で」

 

「んー?そんな大した話じゃねぇぞ?て言うか命ちゃんはお酒の飲み過ぎに注意な」

 

こんな会話をしている彼等だが、場面を見れば何十ものモンスターに囲まれている状態である。普通のファミリアなら前方のゴライアスと後方の大量のモンスターでパニックを起こしても仕方がない状況だ。しかし彼等は一切動じず殲滅、そのまま何事もなかったかのようにベル達と合流した。

 

これが怪物進撃(デス・パレード)と言われる者達の実力、そんな彼等が今回の迷宮探索で向かう先は・・・・

 

「何かあったら(わたくし)に教えて下さいね。直ぐに回復薬(ポーション)を渡しますから」

 

サンジョウノ・春姫は大きなバックパックを背負い直す。

 

「後衛は自分にお任せを、何が起きても魔法で時間を稼ぎます故」

 

ヤマト・命は自身の刀に手を掛ける。

 

「刃溢れしたら直ぐに俺に言えよ?」

 

ヴェルフ・クロッゾはそれぞれの武器を注意深く見つめる

 

「何が来ても叩き潰してやります」

 

リリルカ・アーデは大槌(ビックハンマー)を肩に担いだ

 

「油断すんなよ。作戦通りにしっかり攻略すんぞ」

 

黒鐘 色は黒い籠手(ガントレット)に包まれた掌を開閉する

 

「それじゃあ行こうか・・・19階層に!!」

 

そして、ベル・クラネルは19階層に向かって足を進めた

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】の伝説はここから大きく動く事になるのだ

 

 

 

 

 




◯◯◯の中身はそれぞれの想像に任せます


さて、次から九巻突入・・・


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設定 能力参照 25話時点

一応書いてみました。


黒鐘 色

 

 Lv.3

 力:F305

 

 耐久:B799

 

 器用:G292

 

 敏捷:F351

 

 魔力:B786

 

 耐異常:I

 

 祝福:H

 

 《魔法》

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

 

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

 《呪詛(カース)

 

食蜂操祈(メンタルアウト)

 

・特定の一工程(シングルアクション)による、精神操作

 

・自身のLv以下限定

 

・人類以外には失敗(ファンブル)

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

武器:黒籠手(デスガメ) リモコン(複数)

 

防具:クキュロプスの羽帽子 学校の制服

 

種族:ヒューマン

 

隊列(ポジション):中衛

 

到達階層:37階層

 

所持金:39170311ヴァリス

 

二つ名【滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)超新星(ビックバン)

 

本編主人公。チート持ちなのに中々無双出来ない残念な人。黒髪黒目の何処にでもいるであろう日本人顔、よくある普通の漫画やラノベが好きな異世界漂流型の主人公。しかし「ダンまち」は知らないようだ。

 

性格は基本的に初対面の人でも優しく接するお人好し。だけど、仲良くなればなるほど言葉が砕けていくなど内弁慶な面もあり、何より家族を傷付ける者には容赦をしない。実はこの世界の常識を知らなかった為、漫画の修行内容を次々取り入れた事により他の団員からは訓練狂とも思われている。

 

頭は良い方で、約一月でこの世界の共通語(コイネー)をマスターするほど。最初の頃は技名等を考えたり中二病な所があったが、痛恨の二つ名を付けられてからは鳴りを潜めた。

 

休息日には豊穣の女主人に足を運んだり、他の団員の修行に付き合ったり、師匠に鍛えてもらったり結構異世界生活を満喫していたりする。その過程でアイズ・ヴァレンシュタインとはちょくちょく喧嘩をしており、耐久値だけが異常に上昇している。

 

目標は【ヘスティア・ファミリア】を世界で一番のファミリアにすること。

 

《スマホ》12400円(月額)

 

黒いカバーがされている普通のスマホ。【御坂美琴(エレクトロマスター)】により充電が出来るようになり、使用可能に。中身は高校生らしく、多数のアプリをダウンロードしており、音楽なども豊富に入っている。最近春姫に勝手に使われていたりするのが悩みの種。

 

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル  

 

 Lv.3

 

 力:D556

 

 耐久:C685

 

 器用:D533

 

 敏捷:A889

 

 魔力:E451

 

 幸運:H

 

 耐異常:I

 

 《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

・速攻魔法

 

《スキル》

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

 

・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 

・懸想(おもい)の丈(たけ)により効果向上。

 

英雄願望(アルゴノゥト)

 

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

 

武器:ヘスティア・ナイフ 牛若丸 牛若丸弐式 大剣 短刀

 

防具:兎鎧(ピョンキチ)Mk-V

 

種族:ヒューマン

 

隊列(ポジション):前衛

 

到達階層:40階層

 

所持金:38103000ヴァリス

 

二つ名【リトル・ルーキー】

 

 

原作主人公。原作よりも成長しているのに回りの成長スピードも異常なので、実は自分はそんなに凄くないんじゃないか?と最近思っていたりする。

 

色と一緒に迷宮探索をしていたり【イシュタル・ファミリア】の遠征に着いていった事により原作の性格よりも判断力や決断力、リーダーシップが高くなっている。しかし恋愛関連には弱く、年相応の反応を示したりも。

 

良くも悪くも、色に一番影響されている人物

 

《大剣》

 

大群を相手取る時にリーチのある武器が欲しい、とヴェルフに頼んで作ってもらった一品。普通の武器よりかは頑丈に出来ている。

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

 Lv.2

 

 力:E408

 

 耐久:G216

 

 器用:I63

 

 敏捷:H101

 

 魔力:I16

 

 狩人:I

 

《魔法》 

 

【シンダー・エラ】

 

・変身魔法

 

・変身後は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は失敗(ファンブル)

 

・模倣推奨

 

・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

 

・解呪式【響く十二時のお告げ】

 

《スキル》

 

縁下力持(アーテル・アシスト)

 

・一定以上の装備加重時における補正。

 

・能力補正は重量に比例。

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

・装備加重時における倍率補正。

 

・能力補正は重量に比例し上昇。

 

・力値限定。

 

 

武器:右近婆娑羅(ウコンバサラ)

 

防具:鉄籠手(超重量) ハンマー型のネックレス(超重量)

 

種族:小人族(パルゥム)

 

隊列(ポジション):前衛

 

到達階層:18階層

 

所持金:10020600ヴァリス

 

二つ名【小さな賢者(クレバー)

 

みんな大好きリリルカちゃん。原作から一番かけ離れた存在になりつつある。

 

原作同様ベル様大好きだが、ファミリアの中で一番信頼を置いているのは色だったりする。第五話で取り乱したのも、その時点でそれだけ色の強さを信頼していたから。

 

リリルカ・アーデ育成計画を行ってから前衛ポジションを任され、【怪力乱神(スパイラル・パワー)】を手にした事により、色を一撃でノックダウンするほどの力を持つ。しかし耐久が追い付かないため、ヴェルフ特製の籠手をしていなければ、大槌を振り回した時の摩擦で掌がボロボロになる。

 

右近婆娑羅(ウコンバサラ)》26000000ヴァリス

 

【挿絵表示】

 

リリの約10倍の大きさ

 

ヴェルフ曰くゴライアスの10倍の重さ

 

ゴライアスの全長が七メートルと成人男性の平均身長の約六倍。

 

つまり成人男性の平均体重65キロ×6×6×10=23400

 

という訳で右近婆娑羅(ウコンバサラ)の重さは約23.4トン

 

ヴェルフ一人では重くて作れないので色との共同制作

 

 

名付け親はリリの懇願により、色がスマホの辞書機能から適当に引用した。もしそれがなかったら『きんに君二世』になっていた

 

 

 

 

ヴェルフ・クロッゾ

 

 Lv.2

 

 力:D523

 

 耐久:D561

 

 器用:E400

 

 敏捷:G255

 

 魔力:H117

 

 鍛冶:G

 

《魔法》

 

【 ウィル・オ・ウィスプ】

 

・対魔魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)

 

《スキル》

 

魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)

 

・魔剣作成可能。

 

・作成時における魔剣能力強化。

 

 

武器:大刀 魔剣(数種類) 炎刀・虚空(えんとう こくう) 魔弾(数種類)

 

防具:着流し

 

種族:ヒューマン

 

隊列(ポジション):中衛

 

到達階層:18階層

 

所持金:1126000ヴァリス

 

二つ名【不冷(イグニス)

 

ご存知、戦う鍛冶師。原作とは違い、魔剣を超える魔剣を作ることを目標に掲げる。

 

そのため、普通の武器と魔剣を作るために、ずっと工房に籠っている事もしばしば、それでヘスティアに怒られる事もしばしば。たまに息抜きとして、【タケミカヅチ・ファミリア】の人間と飲みに行ったりしている。

 

重力魔剣による修行は地道に続けているので、【ステイタス】の伸びも良い感じにバランスがとれている。

 

炎刀・虚空(えんとう こくう) 》12000000ヴァリス

 

特殊な材質で出来ている真っ黒な筒状の武器。色が言うにはバズーカ

 

強力な魔剣を溶かし合わせた常識はずれの威力を叩き出す魔弾。それを撃つためだけに作られた世界でたった一つの特殊武装(スペリオルズ)

 

ヴェルフ曰くもう少し小型化が必要。

 

配当されたラキアの金も直ぐにつぎ込み、新たな武器を鋭意製作中

 

 

 

 

ヤマト・命

 

 Lv.2

 

 力 :G228

 

 耐久:E460

 

 器用:B709

 

 敏捷:F366

 

 魔力:S963

 

 耐異常:I

 

 《魔法》

 

【フツノミタマ】

 

・重圧魔法。

 

・一定領域内における重力結界。

 

《スキル》

 

八咫黒烏(ヤタノクロガラス)

 

・効果範囲内における敵影探知。隠蔽無効。

 

・モンスター専用。遭遇経験のある同種のみ効果を発揮。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

八咫白烏(ヤタノシロガラス)

 

・効果範囲内における眷属探知。隠蔽無効。

 

・同恩恵を持つ者のみ効果を発揮。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

武器:残雪 虎鉄 地残

 

防具:戦闘衣(バトル・クロス)

 

種族:ヒューマン

 

隊列(ポジション):後衛

 

到達階層:18階層

 

所持金:16002300ヴァリス

 

二つ名【絶†影】

 

極東出身のお風呂大好き娘、兼突っ込み役。常識は捨てているが、そのポジションは捨て切れていない苦労人。

 

早朝訓練の内容的に魔力と器用値以外そんなに上がらないのだが、モンスターの群れに叩き込まれたり、魔剣を叩き込まれたりしたお陰で耐久値も結構上がっている。

 

戦闘面においても相手の武器を盗んだり、魔法で足止めしてから魔剣を叩き込んだり、搦め手?を織り混ぜるようになっている。

 

主に色の無茶振りが原因で、魔法に関しては原作を遥かに超えるほどの威力とスピードを出せるようになっており、【イシュタル・ファミリア】の女戦士(アマゾネス)が驚愕するほど。

 

 

【ヘスティア・ファミリア】で成長した彼女が【タケミカヅチ・ファミリア】に戻ったら一体どうなることやら・・・

 

《残雪》14400ヴァリス

 

原作ではアイシャに蹴折られた一振り。原作とは違いベルがダンジョンに入らず【イシュタル・ファミリア】に誘拐されなかった為、残存している。

 

 

 

 

 

サンジョウノ・春姫

 

 Lv.1

 

 力 :E421

 

 耐久:D532

 

 器用:S921

 

 敏捷:F397

 

 魔力:B778

 

《魔法》

 

【ウチデノコヅチ】

 

・階位昇華(レベル・ブースト)

 

・発動対象は一人限定

 

・発動後、一定時間の要間隔(インターバル)

 

・術者本人には使用不可

 

 

武器:なし

 

防具:青いノースリーブの着物

 

種族:狐人(ルナール)

 

隊列(ポジション):支援

 

到達階層:45

 

所持金:15600000ヴァリス

 

アニメに出ていない事を良いことに、ヘスティア・ファミリア内では一番やりたい放題書いている人物。

 

能力の上がり方がヤバい気がすると思うだろうが、Lv.1なのでこんなもんか、と他の団員は思っている。初めてダンジョンでまともに戦ったのがリリルカ・アーデ育成計画だった本人も、自分の成長スピードが異常だとは思ってない。

 

最初は色の無茶苦茶な訓練内容に唯一意義を申し立てていたが、リリルカ・アーデ育成計画を経たことにより、今では訓練内容にアドバイスを出すほどになっている。

 

夜にはほぼ必ず色の部屋まで行き、異世界の話を聞いている。そのため、漫画の知識に感化される事もしばしば。

 

描写こそ少ないが、この子も原作同様ベル大好きっ子。

 

《青いノースリーブの着物》

 

春姫が【イシュタル・ファミリア】から引っ越しするときに持ってきた着物を動きにくいから、という理由でヴェルフに改造してもらった一品。

 

防御力は無いものの、服の内部が改造されており、外見からは解らないが、多数の回復薬(ポーション)が入れられる程のポケットがある。

 

まんまキャス狐




絵心も欲しい。文章力も欲しい。


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第25.5話 悪夢ミール

9巻突入ならず。CD特典を聞いた時から書いてみたかったんだ


「おい、なんだよこれ・・・」

 

それは悪夢のような光景だった

 

「こんなの、ありえねぇだろ」

 

信頼していた仲間が次々と敵に寝返り、俺を追い詰めていく

 

「まさか、お前まで」

 

ずっと一緒に戦って来てくれた相棒もそいつの前では歯が立たず、堕ちてしまった

 

「嘘だ、こんな」

 

俺を追い詰めた金色の少女は薄ら笑いを浮かべ、容赦無く死刑宣告を下す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに飛車を指して詰みですね」

 

「相棒ぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

相棒(飛車)に止めを刺された俺は将棋板の前で膝を着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは約束通り一緒に出掛けてもらいますね、色様」

 

「へいへい、それにしても春ちゃん将棋強ぇのな」

 

「ふふっ、これでも参謀を任される予定ですからね。頭脳戦では色様にだって負けません」

 

どや顔を向けてくる春ちゃんを横目に、手早く出掛ける準備を済ましていく。まぁ準備といっても部屋から財布を取って来て制服のポケットに突っ込むだけなのだが。

 

「はぁ、やっぱり行きたくねぇな」

 

「以外と色殿はそういう事を気になさるのですね。てっきり自分の道は自分で切り開くッ!!と言われて気にしないのかと」

 

俺と春ちゃんの対局を観戦していた命ちゃんが心底意外そうに聞いてくる。命ちゃんの中の俺のイメージは一体どうなっているのだろうか?

 

「そこまで気にはしねぇけど、流石にこの結果は不安になんぞ?っていうか命ちゃんの方こそ、こういうのって気にするんじゃ無いの?」

 

「当たるも八卦当たらぬも八卦、ですよ色殿!」

 

「・・・・・・はぁ」

 

親指を立ててくる命ちゃんから、視線をスマホの画面に移すと、そこにはこう表示されている。

 

《基本運》

 

今日のあなたの基本運は大凶。ライバルには絶対負けたくないと言う気持ちが、空回りしてマイナスに働きます。個人的な感情を表に出すことは極力避けて。相手によってコロコロ態度を変えないことが、不安定な運気をスムーズに乗り切れるポイントです。運気を安定させたいならば、家でお茶でも飲みながらゆっくり音楽を聴いたり本を読んだりがお勧め。

 

《恋愛運》

 

今日のあなたの恋愛運は大凶。運気が不安定で、恋愛にとてつもない疲れを感じてしまう一日。過ぎたことをアレコレ悔やんでもダメ。落ち込めば落ち込むほど運気は下向きになっていきます。また、夢の内容には気をつけて。それは貴方の未来を暗示しています。

 

アンラッキーアイテム 薬

 

アンラッキーカラー 金色

 

なにこれ、何でどっちも大凶なの?しかもアンラッキーアイテムしか無いってどういう事だよ・・・

 

気紛れにおみくじアプリなんて起動するんじゃなかった。

 

「それじゃ行きましょうか」

 

「はいよ~」

 

しかし将棋に負けた俺は19階層進出の為の回復薬(ポーション)を買いに荷物持ちとして『青の薬舗(やくほ)』に春ちゃん(金色)と行くのである。

 

何も起きませんように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局何事もなかったな。寧ろおまけで回復薬(ポーション)を一つ貰ったし、いつもよりツイてるんじゃね?」

 

「む、駄目ですよ色様。鐘楼の館(ホーム)に帰るまで油断は禁物です」

 

巨大なバックパックを背負っている俺に春ちゃんが人差し指を立てながら言ってくる。この子は占い等をよく信じるタイプで今日一緒に出掛ける事になったのも、ラッキーカラーが黒色だからだとか。

 

そして俺のアンラッキーカラーは金色・・・徹底抗戦した理由が分かっただろうか?

 

まぁ所詮はスマホのアプリだ、何にもないだろ。そう思いながら帰り道を二人で歩いていると、人混みをかき分け、見知った褐色の女性が声をかけてきた。

 

「カラスくーん!!やっほー!!」

 

「あれ?ティオナさんじゃないですか」

 

手を降って駆け寄って来たのはアマゾネスのティオナさんだ。【ロキ・ファミリア】の団員で、アイツと喧嘩をしている時に何度も仲裁に入ってもらっている人の一人だ。

 

「この前はありがとうございました。お陰で五体満足で歩けます」

 

「いいよいいよ、何時もの事じゃん。それに悪いのは止められなかった私達だしね」

 

「その通りよ、気にする事ないわ。て言うか貴方本当にLv.3なの?アイズにあそこまでボコボコにされてるのに、自分の足で帰れるって普通じゃないわよ?」

 

ティオナさんの後ろからひょっこり顔を出してきたのは双子の姉のティオネさんだ。一部が似ても似つかないって?言ってはいけない。

 

「だから俺はLv.3ですって。何なら背中の【神聖文字(ヒエログリフ)】見ますか?」

 

そう言いながら背中を指差すと、ティオネさんがため息を吐きながら頭を押さえた。ティオナさんも苦笑いしている。冗談で言ったつもりなのだが、信じたのだろうか?

 

「二人ともな、最初にアイズたんと色君が喧嘩している時に止めへんかった事を気にしてんねんで」

 

「あ、お久しぶりですロキさん」

 

「久しぶりやな色君!!」

 

二人の間を割って入ってきた赤髪の女神、ロキさんに挨拶をする。この()とは【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わり、ベート君を向かわしてくれたお礼に行った時以来会っていなかったのだ。

 

「最初の喧嘩って安全階層(セーフティーポイント)での事ですか?別に気にすること何てありませんよ」

 

「それでも謝らせて頂戴。私達あの時貴方の事を第一級冒険者だと思っていたのよ。それがまさかLv.2だったなんて、道理で動きが拙かった訳ね」

 

「ごめんね、ゴライアスを単身で倒したって聞いたから勘違いしちゃてて。今まで謝ろうと思ってたんだけどタイミングが悪くてさ」

 

うーむ、本当に気にしてないのだが。すまなさそうな顔をするアマゾネスの姉妹に何て言おうか迷っていると、服の裾を引っ張る感覚が

 

「あの、色様?この方達はいったい?」

 

後ろに目を向けると春ちゃんが金色のケモ耳をピコピコ動かしながら上目遣いで俺を見上げていた。そのモフモフした耳を撫でくり回したい衝動に駆られるが、この人達を紹介する為に我慢するとしよう。

 

「この人達は「アイズたんなんでここにいるんや!?あの量のじゃが丸もう食べたんか!?」ん?」

 

なんかロキさんが叫びだしたんだが・・・もしかして、俺の背中に隠れた春ちゃんを金髪と勘違いしてる?

 

「いや、この子は「クッ、やっぱりこうなったわね。ティオナ、取り押さえるわよ!!」え?」

 

「わかった!!駄目だよアイズ!!何時もカラス君に謝ろうと思ったら喧嘩するんだから!!!」

 

途端に臨戦態勢に入るアマゾネスの二人。この二人も勘違いしているらしい、とりあえず春ちゃんを前に押し出して勘違いを解くとしましょうか

 

「春ちゃんチェンジ」

 

「え?」

 

「「確保ー!!!」」

 

「え!?」

 

飛び掛かるヒリュテ姉妹、二人の手にはそれぞれの武器が握られている。まぁ、つまり・・・タイミングミスっちゃった

 

「ひょえええええええええええ!!!!!!!!」

 

ごめん春ちゃん、飯奢るから許して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッグ・・・グズッ・・占い・・・ウゥ・・・だいぎぢだっだのにぃ・・・ヒッグ・・」

 

「ごめんね狐人(ルナール)ちゃん。謝るから泣かないで」

 

「ほら、料理が来たわよ。全部食べていいから泣き止んで、ね?」

 

ただいま『豊穣の女主人』、泣き止まない春ちゃんの目の前には恐らく食べきれない量の肉や魚がドンッと置かれている。お詫びとして奢ると言われ、連れられて来たのだが、あれでは逆効果なのではないのだろうか?

 

「いやーごめんな勘違いして」

 

「いいですよ。悪いのは全部あの金髪なんですから」

 

「本当に自分ら仲悪いな。でも安心してや、今アイズたん(ホーム)でじゃが丸早食い競争さしてるさかい」

 

「一応参加者を聞いてもいいですか?」

 

「ベートとレフィーヤや」

 

ベート君とレフィーヤは哀れじゃが丸馬鹿の犠牲になったのだ。そう言えばあの二人とも最近会ってねぇな、19階層から帰ってきたら飲みに誘ってみるとしよう。

 

「それでラキアから二億ぶん取ったんか。流石色君やな!!」

 

「ニシシ、それほどでも無いッスけどね。まぁヘスティアの借金チャラに出来て良かったですよ」

 

それからしばらく、酒を飲みながらお互いの近況報告をしていると話題はこの前のラキアとのイザコザの話になっていた。

 

「それにしても、あのじゃが丸おっぱいも易々誘拐されるなんて不用意やな!どうや色君、あんな危なっかしい()よりうちに乗り換えへんか?」

 

「またまたぁ、冗談がうまいッスねロキさん!!」

 

「「あっはっはっはっはっはっ!!!」」

 

うん、こんな冗談を言って来たって事はロキさんも結構酒が回ってきたのかもしれない。そろそろお開きにしようと立ち上がると、『豊穣の女主人』の扉から見知った人影が入ってきた

 

「あ、やっと見つけた!!さっき色達に渡したおまけの回復薬(ポーション)なんだけど、あれ非売品なの!」

 

入ってきたのは【ミアハ・ファミリア】のナァーザだ。彼女は何か騒いでいるが、しかし俺の意識はそこには無く、開いた扉の隙間から見えた人物に注がれている。

 

「すみませんロキさん、ちょっと席外します」

 

「え?ちょっ色君!?」

 

この時の俺は相当酔っていたのかもしれない。

 

「ぶっ殺してやるぜェ、金髪ゥ・・・」

 

何故なら、初めて自分からアイツに攻撃したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の暴風が金色の少女に襲い掛かった。しかし周りの人間はその先制攻撃に気付いた様子は無い。

 

怪物の咆哮(ジャバウォック・ボイス)

 

声を圧縮して放たれた見えない砲弾は、嘗て格上の猫人(キャットピープル)を怯ました物より威力が高められ、金色の髪に隠れた二つの鼓膜に真っ直ぐ向かって行く。

 

切り裂かれる

 

そんな事は解っていたとばかりに次の攻撃が繰り出される。それは上空からの雷槍、その数五つ。音速を超え放たれた死の槍は少女の死角から確実に当たる角度で打ち込まれた。

 

切り裂かれる

 

その瞬間、少女の周りを包み込むように砂鉄が回転を始めた。回避は不可能、透き通るような肌をズタボロにする死の砂が

 

切り裂かれる

 

突起した地面が少女を襲い

 

切り裂かれる

 

風の刃が

 

切り裂かれる

 

切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる切り裂かれる・・・・・・・・・

 

「死ねェ!!金髪ゥウウウウウ!!!!」

 

「うるさいゴミ虫ィイイイイイイ!!!」

 

街中は二人の戦いで完膚無きまでに破壊されていた。その光景にアマゾネスの姉妹は頬を引きつり、赤神の女神が頭を抱える。そんな三人を他所に周囲のオラリオの住人がどうしているかと言うと・・・

 

「おい!!また【剣姫】とカラスが戦いだしたってよ!」

 

「黒金戦争の幕開けだ!!今日は勝たしてもらうぜ」

 

「はーい!押さないで押さないで!!黒に賭けたら1835倍だよ!!」

 

「さぁ、張った張った!!黒に賭ける奴はいねぇのか!!」

 

「あ、(わたくし)色さ・・・引き分けに500ヴァリス賭けます!!!」

 

もう慣れたとばかりに破壊される部分に予測をつけ線を引き、声を張り上げ賭けをしていた。勿論、倍率(オッズ)は色の方が高く、一発逆転を狙う物達、神々さえも参加している。

 

「チッ、じゃが丸を食いきったアイズが居なくなったと思ったらやっぱりこうなってたか」

 

「ベ、ベートさん、どうしまウップッ・・・まだじゃが丸が」

 

そんな中、人混みを掻き分け現れた狼人(フェアウルフ)の青年とエルフの少女がロキとアマゾネス姉妹の横に並んだ。二人とも何処か顔色が悪い

 

「おっそいよベート!!」

 

「うるせぇ馬鹿ゾネス!!こっちはアホみたいな量のじゃが丸食って腹一杯なんだよ!!!」

 

「二人とも喧嘩している場合じゃないわよ!!ほら、武器を構えなさい!!!」

 

「そうですよ二人ともウップ・・・喧嘩してる場合じゃオェ・・・・」

 

「レフィーヤは先にトイレや!!大衆の場で吐くのは不味いで!!!」

 

かくして、第18回黒金戦争は【ロキ・ファミリア】により終結に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、そこには懐かしい光景が飛び込んできた。昔ながらの木造建築、よく駆け回った広い庭。珍しく弟がワガママを言ってきたので、代わってやった二階の部屋の窓。

 

つまりは俺の家がそこにあった。

 

「・・・帰って来たのか?」

 

そう呟いた俺はガラガラと横開きの扉を開き玄関を抜け、靴を脱いで中に入った。よく嗅ぎ慣れた家の匂いに包まれ、リビングを目指す。

 

「あ、お帰り色君!!もうすぐご飯出来るぜ!」

 

リビングに入ると、触覚の先端にじゃが丸を付けたヘスティアが、ピンクのフリフリエプロンを揺らしながら料理を並べていた。

 

「夢ですよねー」

 

なんとなく気づいていたけどね!!確か最後の記憶は金髪の拳が顔面に迫っていたと思うから、そのまま気絶したのだろう。おのれ金髪、目が覚めたら覚えとけよ。

 

「さぁ、腕によりをかけて作ったご馳走だ。今日は結婚して一年の記念日だから気合いはいってるぜ」

 

「・・・・」

 

へスティアはそのまま料理を盛り付け終わるとエプロンを外し、俺に笑顔を向けてきた。何故か料理の中央に置かれた大量のじゃが丸が気になるけど、我ながら分かりやすい夢を見たものだ。

 

いやー、まさかこんな所で自分でも自覚がなかった秘めたる気持ちを知ることになるとはな!!そっかそっか、ベルには悪いけど俺ってヘスティアのことす「それじゃ、後は若い二人でヨロシクやっといてくれよ!アディオス!!!」・・・・ん?

 

ロリ巨乳の主神様は玄関を開けると「待ってろよォ!べぇるぅくぅうううううううううううううん!!!!」と叫びながら足をロケットに変え、鉄腕ア○ムよろしく飛んでいってしまった。

 

「あ、あれ?」

 

呆然と玄関を見ていた俺の耳に二階から降りてくる足音が聞こえる。成る程、ヘスティアと見せかけて別に新ヒロインがいたって事か。さぁ、カモーン秘めたる想い!俺の心の奥底で眠っていた恋心を呼び覚ましたのは誰だ!!目が覚めたら猛アタックしてやんぜぇぇえええあえええええ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降りてきたのは飾りげの無い青いスカートと、フワッとした白いブラウスを着ている少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、帰ってたんだ。お帰り、色」

 

今まで一度も見たことがない笑顔を俺に向けてくる金髪の姿があった。

 

そして悪夢が始まる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった。

 

「ハムハム。うん、やっぱり小豆クリーム味美味しいね」

 

どうしてこうなった。

 

「色、醤油取って・・・ありがと」

 

どうしてこうなった。

 

「あれ、色は食べないの?美味しいよ?」

 

どうしてこうなったぁあああああああああああああ!!!!!!!!!

 

おかしいじゃん!!おかしいよ!?何これ!?ほんとなにこれ!?バグった!!ついに俺の頭がバグった!!そうに違いない、きっとあれだ、【食蜂操祈(メンタルアウト)】の反動でアレがああなってこうなったんだ。そうに違いない、そうに違「えっと・・・はい、あーん」止めろォおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!箸で摘まんだじゃが丸を俺に持ってくるな!?あーんして欲しくて食べなかった訳じゃないから!?怖いんだよ!!ここまでキャラ変わったら恐怖しか湧かないんだよ!!!!

 

「・・・食べないの?」

 

「・・・パク」

 

「美味しい?」

 

コクコク

 

「良かった」

 

そんなはにかんだ笑み見せられても、こちとら頷くしか選択肢ねぇんだよ!?理解して!!恐怖で支配して無理やり食べさせてるの理解して!!!

 

「ご馳走さまでした」

 

「ゴチソウサマデシタ」

 

終わった・・・地獄の晩餐が終わった。終始喉がひきつって変な声しか出せない時間が終わりを告げた。

 

よし、もう夢から覚めよう、【食蜂操祈(メンタルアウト)】でなんとかなるよね。夢の中で《呪詛(カース)》が使えるかどうかわからんが物は試しだ・・・あれ?ポケットにリモコンが入ってないぞ?

 

不意に裾をクイクイと引っ張られる感覚、振り向くと金髪が頬を朱色に染めながら上目遣いで見上げていた。

 

「お風呂、入ろっか」

 

「やだよ!?」

 

「え、何で?」

 

え?何で凄く不思議そうに首を傾けてるの?馬鹿なの?死ぬの?むしろ、それ(混浴)したら俺が死ぬわ!!精神的に死んじゃうわ!!

 

「何時もは色から一緒に入ろって言って来るのに?」

 

「言った覚えねぇえええええからああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

遂に叫んだ俺に金髪はビクッと肩を揺らした。なにその反応!?ていうかもう夢から覚めろよ!!覚めてくださいお願いします!!!

 

「・・・・グズッ」

 

泣いたぁあああああああああ!?夢さん!いや夢様!!俺の中の金髪をどうしたいの!!!これ以上俺に何をさしたいの!!慰めたらいいの!?

 

「ナカナイデヨ」

 

片言だよ!!

 

「だって・・・折角の結婚記念日なのに・・・・・・名前も呼んでくれないし」

 

一言だけ言おう

 

キャラ違い過ぎて罪悪感の前に違和感しか湧いてこねぇよ!?もうコレ別キャラだよ!!金髪の皮を被った、アイズ・ヴァレンシュタインさんだよ!!!まぁ風呂なんて入らないけどな!!!

 

「ふぅ・・・色、身体流してあげようか?」

 

あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!

 

俺は奴の前で階段を登っていたと思ったら、いつのまにか風呂に入っていた

 

な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった、【食蜂操祈(メンタルアウト)】だとか【一方通行(アクセラレータ)】だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・

 

「よし、俺上がるわ。じゃ」

 

「あ、駄目だよ!ちゃんと湯船に浸かって100数えなきゃ」

 

「子供かお前は!っておい!?」

 

そう言って湯船に引きずり込まれる俺、夢の中だからだろうか、全く温度を感じなかった。しかし顔を背けていたことで見えなかった金髪の裸体が正面に・・・

 

「グッジョブ聖なる光」

 

「?」

 

胸と大事な所は謎の光でガードされていた。R18じゃないからね、仕方ないね!!

 

「まさか色と結婚するなんて思わなかったな」

 

謎の語りが始まりました!!

 

「俺もまさか金髪とこんなことになるなんて思わなかったZE」

 

本音を吐き出す事にする。何回も言おう、どうしてこうなった。横を見ると憎き金髪が微笑んでいる姿が・・・お?ちょっと不機嫌な顔になってる?ははーん、成る程な、あれか、油断させておいて実は喧嘩しようぜって夢か。オーケー、それなら思いっきり暴れてやるぜぇええええええええええ「どうして名前で呼んでくれないの?」ゑ?

 

裸のアイズ・ヴァレンシュタインが黒鐘 色にすり寄ってきた

 

「ちょっとまてぇええええええええ!!!それ以上いけない!!や、やめっ!?名前で呼ぶから!!!アイズ!!アイズさん!!!アイズ様!?ちょっ近づくな!!抱きつくな!?あ、アッーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっぱりしたね、色」

 

「酷い目にあった」

 

危ない所でギリギリポルナレフ現象が起こり、場所は寝室に移動した、ていうか俺の部屋だ。

 

ゲームやラノベが所狭しと置かれている部屋の中央には一組の座敷布団が敷かれていた。

 

うん、一組の座敷布団だよ。もういいよ諦めたよ好きにしろよ。

 

「それじゃあ寝ようか、アイズ」

 

「うん」

 

青い水玉模様のパジャマを着たアイズが俺の入っている布団の中にモゾモゾと、何の抵抗もなく入ってきた。

 

「死にたい」

 

「何か言った?」

 

「何でもない」

 

今の現状を説明するとこうだ。日々自分をボコボコにしてくる女と結婚して、一緒に食事して、一緒に風呂に入って、一緒に寝る夢を見ている・・・

 

うおおおおおおお!!!フロイト先生助けてください!?いやむしろ殺してください!!何でこんな夢見てんの!!はっきり言うけどアイツをそういう目で見た事なんて一回もないからね!?むしろ殺意しか浮かんだことないからね!!

 

ギュッ

 

背中に抱きつくの止めろォ!!

 

「色は・・・・私と結婚して幸せ?」

 

幸せ処か恐怖を感じてるんですけど!?こんなシチュエーションだったらアスフィさんやフリュネ師匠やリオンさんの方が万倍よかったわ!!!それだったらコンマ数秒で幸せって言い返せたね!!

 

「・・・やっぱり私じゃ、嫌?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁああああああああああああ糞ったれぇ!!!!

 

振り向き、アイツの顔を見ることにする。金色の瞳から頬に流れ落ちる大粒の涙、それに手を添えて言ってやった。

 

「俺はアイズと結婚して幸せだよ」

 

不幸だよ!?俺の右腕大丈夫?幻想殺し(イマジンブレイカー)宿ってない!?あはははははだったら自分の顔面殴ってそげぶ出来ねぇかな!!!

 

「暖かい、私も色と結婚して幸せだよ」

 

え?なに!?待って、顔を近づけないで!?俺初めてだから!!やめっ・・・ヤメロォー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは悪夢ミール、夢ミールを作った時に偶々出来た粗悪品。だから飲ますなって言ったのにー」

 

「だって仕方無いではありませんか、(わたくし)の手元にあった回復薬(ポーション)が、おまけで貰ったこれ一本しか無かったのですよ?」

 

声が聞こえた。そうだ、俺は確か・・・

 

「あ、起きられましたか色様」

 

「おはよう色、身体の方は私とミアハ様でバッチリ治したから大丈夫だと思うけど、調子はどう?」

 

えっと何があったんだっけ?確かロキさん達とあって

 

「色様見てください!!臨時収入でこんなにお金が入りましたよ。これで嫌なことを忘れるぐらいパーと飲みに行きましょう!!」

 

「春姫、悪夢ミール無理やり飲ましたの隠す気?」

 

「ち、違います!!何を根拠に、それにあれは事故です!!」

 

「えー?でも、ここで倒れたら掛け金が、て言いながら無理やり飲ましてた」

 

そうだ、なんか夢を見て・・・

 

「ま、まぁよろしいではございませんか。結果的に色様の最後の攻撃がアイズ様にクリーンヒットし共倒れ、こうして大金を」

 

アイズ・・・あぁ、金髪のことか・・金、髪・・・・・

 

「色様、どのような夢を見られたのか存じませんが、気を落とさずに」

 

「死ねぇええええええ!!金髪ぅううううう!!!!」

 

「ひょえええええええええええ!!!!!!!!ごめんなさぁああああああああああい!!!」

 

その日の夜、眠れなくなった俺は【食蜂操祈(メンタルアウト)】で夢の記憶を消したのであった。

 




占いなんて当たるも八卦当たらぬも八卦ですよ!!


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第26話 竜女

原作三巻使ってる異端児編突入!!かなーり原作解離します


ビキリ、ビキリ・・・

 

迷宮の一角で一体のモンスターが産み出された。

 

女性を彷彿とさせる滑らかな体躯、頭部から伸びる青銀の髪。人のようで、しかし全身を所々覆う鱗がそれを否定している。

 

額に美しい紅石を埋め込んだ一匹のモンスターは、虚ろな瞳で辺りを見渡し、樹木で塞がれた天井を見上げる。

 

「・・・ここ、どこ?」

 

細い喉が震えた。

 

その声はどこにも届かず、誰にも聞こえない。産まれたばかりの彼女は訳も分からないまま二本の脚で歩き、辺りをうろつき始めた。

 

『ガルルルルルルルルルル』

 

本能に従い、見つけたのは熊型のモンスターだ。自分と同じ匂いを発している存在に嬉しそうに近づいた彼女は声を発する。

 

「ここどこ?」

 

『グゥアアアアアアア!!!!!』

 

「え?」

 

返ってきたのは凶悪な咆哮だった。熊獣は少女を敵と定め鋭い爪を振り下ろしてくる。

 

「ひっ」

 

感じたのは潜在的な恐怖。尻餅をつき、動けなくった少女は、来るであろう痛みに震え目を閉じた。

 

「・・・・・・・?」

 

しかし痛みは来ない、むしろモンスターの悲鳴が聞こえた。何が起こったのだろうか?恐る恐る瞳を開けると、黒髪黒目黒の制服を纏った少年の背中が、琥珀色の双眸に写りこむ。

 

「大丈夫か?俺が来たからには、もう安心していいって裸じゃねぇか!?」

 

「はだか?」

 

それが、竜女と鴉の初めての出会いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず情報を整理しよう。ここは19階層で俺は下層攻略作戦の第一段階を実行中だった。

 

内容は階層の偵察、37階層まで通った事がある俺は、この階層に反射を突破出来るモンスターが居ない事がわかっている。

 

そのためモンスターの動向を探る目的で、19階層内の予め決めておいたルートを駆け回っていた。そして粗方探り終え、第二段階に移行するため踵を返したところ、目の前の少女がモンスターに襲われている所に出くわしたのだ。

 

驚愕する俺に青白い肌を晒している少女はキョトンという顔で首を傾ける。なんだこの反応?いや、まずは着るもの・・・は持ってないから制服の上着を脱いで渡すことにした。

 

「とりあえず、これ着とけ」

 

「着る?」

 

服を受け取っても首を傾ける少女。うんやっぱりおかしい、もしかしてこれは記憶喪失というものだろうか?

 

「自分の名前わかるか?」

 

「名前?」

 

記憶喪失ですね、わかります。だが残念、俺にその手の障害は意味をなさないのだよ。素早くリモコンを取り出し、制服を着ることができずクシャクシャにしている少女に向けて【食蜂操祈(メンタルアウト)】発動・・・

 

「効かない・・・だと」

 

「どうしたの?」

 

「ちょっとまってね」

 

「まつの?わかった!」

 

少女は可愛らしく腕を上げ、その場にペタンと女の子座りをした。因みに俺の制服の上着は結局着方がわからなかったのか腰に巻き付けられている、どうしてそうなった。

 

それにしてもこの子【食蜂操祈(メンタルアウト)】が効かないって事は俺より高いLv.の冒険者だったのか、確かにパッと見た感じ爬虫類っぽい見た目だったから、もしかしたら強い種族の人間なのかもしれない。龍人とかありそうだしな

 

「さて、どうしたものか「おい、そいつ!?」うん?」

 

振り向くと、そこにはモルドのおっさんがいた。確か俺の後ろをコソコソ着いて来て、倒したモンスターの魔石やドロップアイテムをせしめようとしてたんだっけか。

 

このおっさんにはカジノの時に世話になったから好きにさせてたんだけど、一体どうした?

 

「離れろ鴉!そいつはヴィーヴル、モンスターだ!!」

 

え、モンスター?いやいやいや、流石にそれはないだろ

 

「おっさん頭大丈夫か?この子モンスターに襲われてたんだぞ?それにな」

 

そう言いつつ少女に手を伸ばすと意図がわかったのか握り返してきた。そのまま立ち上がらせ、出来るだけ身体を見ないようにして手早く制服の上着を着せることに成功する。

 

「こんなに可愛い子がモンスターなわけねぇだろ?」

 

「可愛い?」

 

聞き返してきた少女をおっさんの前に出してやった。下の部分が絶妙に隠れてなんかエロい、【イシュタル・ファミリア】のお陰で耐性が出来てて良かったぜ

 

「なッ、モンスターが喋っただと!?」

 

「だからモンスターじゃねえって」

 

狼狽するおっさんに呆れた視線を送る。モンスターが喋ったって、12階層で出てきたアイツだって片言の呪文しか発声してなかったのに無理やり過ぎるだろ、どう見たって人じゃん。

 

「いや、でもその額の宝石は・・・」

 

「「宝石?」」

 

俺と少女の声が重なる。額の宝石ってこれか?ただの髪飾り・・・じゃねぇな、嵌め込まれてる感じだし。そう言えば爪もやたら長いし、本当にモンスター?

 

「おぉー」

 

やっぱりモンスターじゃねぇわ、だって額の宝石を今気付いたみたいにペタペタ触ってるし。これあれじゃね?無理やりモンスターの宝石嵌められて記憶喪失になった改造人間的なやつじゃね?

 

「まぁ何でもいいけど、取り敢えずモルドのおっさん」

 

「な、なんだ」

 

「ここでは何も見なかった。いいね」

 

ピッ

 

「さて、これからどうしようかね」

 

「これからどうしようかね!」

 

食蜂操祈(メンタルアウト)】でおっさんの記憶を弄った俺は、真似をしてくる少女の手を引き18階層の入り口まで目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず着る物と頭の宝石を隠す物が必要だな」

 

「隠す?」

 

少女を連れてリヴェラの町まで来た俺が真っ先に向かった先は服屋だった。これは18階層に帰って分かった事なのだが、どうにも他の冒険者は、この子の額の宝石と身体の鱗を見てモンスターと判断しているらしい。なのでそれを隠せば町の人間に一々【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使わなくても大丈夫だろうという算段だ。

 

因みに爪の方は【一方通行(アクセラレータ)】を使って、いい感じに整えてある。こんな所でヴェルフに教えて貰った鍛冶の技術が役に立つとは思わなかったぜ。

 

「お邪魔します」

 

「いらっしゃい」

 

「わぁー」

 

店の中に入いると、少女は何でもない武器や盾に感嘆の声を上げた、19階層まで来てたのに見たことが無いのだろうか?やっぱり記憶喪失なのかね

 

「えっ!!あんたそれ!?」

 

「はいはい、【食蜂操祈(メンタルアウト)】しますねー」

 

女性の店員に【食蜂操祈(メンタルアウト)】を発動し、武器屋の奥に入っていく。そう、このリヴェラの町には表面上、服屋というものは存在しない。当たり前だ、ここまで来た冒険者はそんなもの(ファッション)に拘るはずが無いのだから。

 

それなら何故こんな店の奥に隠すように様々な服が売られているのか・・・情報元が【イシュタル・ファミリア】だということで察してくれ。

 

「シキ、これ服?」

 

「そうだぞ、好きな物選んでくれ」

 

「選ぶの?わかった!」

 

元気よく手を上げた少女は、そのままハンガーにかけられている大量の服に突貫していく。

 

俺の名前も直ぐに覚えたし、やっぱりモンスターに見えねぇよな。今だってどの服を選ぼうか、ウンウン唸ってるし。

 

「おーい、そんなもん適当に決めちまえ」

 

「えー、だってシキと同じがいい」

 

それだけ言うと少女はまた、あれでもない、これでもない、と服を漁り始める。俺と同じ服ねぇ、確か俺の学校の制服はギルド局員の男性用制服と酷似しているから・・・あったこれだ。

 

「ほれ、これにしな」

 

少女に渡したのはギルド局員の女性用の制服だ。こんなものまで取り揃えてるとか、いい趣味してますな。

 

「わぁ、これにする!!」

 

「よし、じゃあこの子に着せてやってくれ、店員さん」

 

「はい、わかりました」

 

似通った服を渡すと少女はあっさり承諾した。そのまま【食蜂操祈(メンタルアウト)】で操った店員に任せ、着せている内に店の中を少しだけ物色する。

 

「みてみて、シキと同じ!!」

 

「おう、同じだな。ついでにコレとコレもそうちゃ~く」

 

「わっ!?シキこれなぁに?」

 

驚いている少女に装着させたのは、つば広帽とサングラスだ。これで爬虫類のような瞳と額の宝石も隠すことが出来た、完璧である。

 

「それじゃ行くか」

 

「どこに行くの?」

 

店員にお金を渡した俺は、少女の手を握りリヴェラの町の一角を指差しながらこう答えた。

 

「俺の家族(ファミリア)の所だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、色ってダンジョンに出会いを求めて入ってるの?真面目に攻略する気あるの?」

 

「何か知らんが、お前にだけは言われたくねぇよ」

 

少女を連れていった第一声がこれである。他の皆も、何してんだコイツ?見たいな視線を投げ掛けてくるが、俺が何か言う前に少女が皆の元に向かって行った。

 

「白いフサフサの髪に赤い目!あなたがベル!!」

 

「え、うん。僕がベル・クラネルだけど」

 

勢いよく指を突き付けられ困惑するベル。少女は他の団員にも次々と指を差していき

 

「赤い髪に大きな身体!あなたがヴェルフ!!」

 

「お、おう」

 

「色と同じ黒い髪!あなたが命」

 

「そうですが」

 

「モフモフの尻尾に耳!あなたが春姫!!」

 

「はい、(わたくし)が春姫です」

 

「ちっちゃいリリ!!」

 

「なんかリリだけ雑じゃないですか?」

 

道中教えた特徴通りに全員の名前を言い当てた少女は、俺の元に走りよって嬉しそうに手を握り

 

「シキの家族!」

 

と言ってきた。

 

得意気にしてるので、良くできました、と帽子の上から頭を撫でると「えへへー」と頬を綻ばす少女。皆の様子を見るに、あの服装で上手いことカモフラージュ出来ているみたいだな。

 

「それで、そのモンスターは何処で拾ってきたのですか?色さん」

 

バレてーら

 

「あー、なんだ。お前らもやっぱりモンスターだと思う?」

 

「思うも何もさっきから自分の《スキル》にビンビン反応してますし」

 

「雰囲気で何となく、な?」

 

あぁそうだった、確か命ちゃんは俺に習ってダンジョンに入る時は常にスキルを発動し続けているんだっけか。後ヴェルフよ、雰囲気ってなんだよ、お前そんなに直感良かったっけ?

 

「だったらモルドのおっさんが正解だったわけか。てかあんまり驚かねぇのな、おっさんなんかひっくり返りそうになってたぞ?」

 

「なってたぞ!」

 

俺の真似をすることを気に入ったのかオウム返ししてくる少女をまた撫でてやると「えへへー」と抱き付いてきた。可愛いなコイツ

 

「驚くって。色さん、今更モンスターが喋ったぐらいでリリ達が驚くと思っているのですか?むしろ想像よりマシな厄介事に命さん何かはホッとしてましたよ」

 

「え、そうなの?」

 

「はい、自分は最悪、黒いゴライアスの群れを引き連れて来るものと思ってました」

 

「流石の俺もそこまでのトラブルは持って来ねぇよ・・・多分」

 

ち、ちげぇし。目を反らしたのは俺から離れてリリに絡みに行ったあの子を見ていただけだし。ていうか別に俺がトラブルを持って来てる訳じゃねぇし、向こうから来ているだけだし

 

「それで、色はあの子をどうしたいの?」

 

冷や汗を流しながら、リリの次に春ちゃんに絡みに行った少女を見ているとベルから声を掛けられる。どうしたいって、そりゃあ

 

「うちで引き取ったらいいじゃん」

 

「クロならそう言うだろうな」

 

「ヴェルフに同感だね」

 

「どういう意味?」

 

聞き返すと二人揃って肩を竦められる。馬鹿にされてる訳じゃなさそうだけど、なんか納得いかねぇ

 

「それで、どうするのですかベル様。あの子を引き取るんですか?」

 

少女から解放されたリリがベルに訪ねる。頭がクシャクシャになっているはご愛嬌

 

「まぁいいんじゃない。喋るモンスターの一体や二体、僕もこの前見たし、多分珍しいけど全く無いことじゃないんだよ」

 

「ほぅ、流石はベル殿ですね。自分は初めて見ました」

 

「リリも初めてです。因みに何処で見掛けられたのですか?」

 

「確か、オラリオの」

 

会話をする三人を他所に、少女に揉みくちゃにされて目を回している春ちゃんの代わりに相手をしているヴェルフの方に足を進めた。

 

「あ、シキ!!ヴェルフがスゴいんだよ!!!」

 

取り敢えず今回の19階層進出は見送りになりそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通りの片隅、商店の前に止められた一台の荷馬車。馬が嘶いたかと思うと、ぐらり、と。高く積まれた荷物が、まるで積み木のように崩れようしていた。更にその下には、何も気付かない幼い犬人(シアンスロープ)

 

このままでは幼い子供は大怪我をするだろう、もしかするとその小さな命が失われるかもしれない。

 

しかし悲劇は起こらない。

 

そこに一陣の風が吹いたからだ。青銀の髪を靡かせ、落ちた帽子も気にせず犬人(シアンスロープ)を抱き抱えたギルド局員の服装の少女は、積み荷が崩れ落ちる前に離脱。助けた犬人(シアンスロープ)を爬虫類を思わせる瞳で見つめ

 

「大丈夫?」

 

と声を発っした。

 

「「「「「わあああああああああああああ!!!

!!!!」」」」」

 

沸き上がる

 

「ウィーネお姉ちゃん、ありがとう!」

 

歓声

 

「流石ウィーネちゃんだ!!」

 

「良くやった!!じゃが丸君奢るよ!」

 

「お姉ちゃんすごーい!!」

 

「この子を助けてくれてありがとうございます!!」

 

「お、おいあれって」

 

「馬鹿!!あのファミリアだ、関わんな」

 

エルフの女性に、ドワーフの男性に、ヒューマンの子供に、町行く人々から喝采を浴びた蒼の少女は、整った相貌を朱に染めながら「えへへー」と笑い、犬人(シアンスロープ)の親子に手を振り駆けていく。

 

じゃが丸君が入った袋を握り締めながら、帰り道を走る少女の服の背中には、とあるファミリアのエンブレムが刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!!」

 

鐘楼の館に先程の少女の声が響き渡る。すると奥の方から怪物が起き上がった。黒い怪物は少女に狙いを定め、常識はずれの動きで接近し、勢いよく抱きつく。

 

「おっかえり!ウィーネ!!!」

 

「えへへー、色あったかい」

 

そのまま黒い怪物、黒鐘 色はウィーネに頬擦りを始めた。しかしそれを許さんと鋭い声が投げ掛けられる。

 

「色様ッ!!真っ先に抱き付く(ハグ)するのは止めてくださいって言ったではありませんか!!!今日は(わたくし)がウィーネ様に抱き付く(ハグ)する番です!!!」

 

「馬鹿だな春ちゃんは、こういうのは早い者勝ちなんだよ。それにウィーネだって春ちゃんより俺の方がいいもんなー」

 

「貴方はまたそうやって!!何時も何時もッ!!」

 

二人の口論を、また始まったか、と頬杖を付きながら見ていたヘスティアの元にウィーネと呼ばれた少女が駆け寄る。二人の間から上手いこと逃れたようだ

 

「神様!じゃが丸君皆の分買って来た!!」

 

「ありがとうウィーネ君、あれ?一個多いよ?」

 

「あのね、これね!!」

 

さっき助けた犬人(シアンスロープ)の子供の件を一生懸命説明するウィーネ。それを微笑ましそうに見つめるヘスティアの横合いから、小人族(パルゥム)の少女が一言こぼした

 

「もう何でもありですね、あの人」

 

それは、未だに春姫と口論している色に向けられた言葉だ。

 

「【食蜂操祈(メンタルアウト)】で無理やりウィーネさんを認めさせるんじゃなくて、少しずつ認識をすり替えて行くって言ってたのに。たった5日でここら辺の住人の殆どが【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使わなくても、ウィーネさんをモンスターと似ている特殊な女の子って認識してますよ」

 

「ウィーネ君の人柄のお陰でもあるね。この前も、じゃが丸屋のおばあちゃんが、重い仕入れの荷物を運ぶのを手伝ってくれたって言ってたぜ。本当に、色君はいい娘を拾ってきたもんだ」

 

「ウィーネいい子?」

 

「はい、ウィーネさんは良い子ですよー」

 

「えへへー」

 

リリがそのままウィーネの頭を撫でていると、玄関の扉が開かれ、兎を連想させる少年が入ってきた。

 

「ウィーネ、そろそろ訓練しようか」

 

「はーい!」

 

ベルと共に外に向かうモンスターの少女を見送ったヘスティアとリリは、未だに口論を繰り返している二人を止める為にゆっくりと腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいですかウィーネ殿、(ランス)というのは突きに特化した武器です。故に単純に突くだけで相手を倒せるほどの威力が出せますが、その反面隙が大きくなるのが問題で」

 

「よく聞けよ。その大盾はアダマンタイトで出来てるから簡単には壊れねぇが、攻撃は真っ直ぐ受けんな。受け流して、上手いこと相手の隙を作るんだ」

 

ヴェルフと命、二人の説明(レクチャー)を受けているウィーネは右手に銀色に輝く(ランス)、左手に大盾を持ち、フンフンと頷いている。

 

「それじゃやろうか、ウィーネ」

 

「うん!!」

 

説明(レクチャー)を終えたウィーネの前に立つのは、ナイフを構えたベルだ。二人の間で緊迫感が高まり、ウィーネの足が動いた。

 

「やぁっ!!」

 

鋭い突きで放たれた銀閃は、真っ直ぐベルの胴体に吸い込まれ、ベルの身体がブレる。

 

ダッ!ダッ!ダッ!

 

聞こえた足音は三度だ。ヴェルフ、命、そして咄嗟に大盾を構えたウィーネの三人を置き去りにした敏捷値(スピード)で背後に回ったベルは、そのままナイフの切っ先を彼女の首元に突きつけた。

 

「僕の勝ちだね、ウィーネ」

 

「あぅ・・・」

 

その勝ち誇った様子にヴェルフと命は

 

「「やりすぎだ!!」」

 

と怒りを顕にした

 

「え、えと」

 

「お前は手加減がわかんねぇのか!!」

 

「そうですよベル殿!!これではダンジョンに向かう練習にならないじゃないですか!!!」

 

「ごめんなさい!!」

 

二人の声が大きくなる度にベルの体が縮んでいく。それを見ていたウィーネは次第にオロオロしていき

 

「ベ、ベルは悪くないよ!わたしが弱いから、だからベルを怒らないで!!」

 

ベルを庇うが、しかしそれは逆効果

 

「あぁ!!ウィーネ殿は何ていい子なのですか!!!」

 

「全くだ!!ベルも少しは反省しろ!!」

 

「ごめんなさいぃいいいい!!!!」

 

怒り狂う二人に、更に縮こまるベル。【ヘスティア・ファミリア(親バカ共)】の訓練はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、お前はまだ手加減がわからんのか?その手の訓練でもお前が一番下手だし、伸びしろが良いっていうのも考えものだな」

 

「あ、あはは。手加減しようと思ってるんだけど、ついやり過ぎちゃうんだよね。お陰でヴェルフと命さんに何回も怒られて」

 

「呼んだか?」

 

「いいいいやいや、なんでもないよ!?」

 

「?」

 

ホーム二階にある大浴場。脱衣所から続々と出てくる【ファミリア】の男性陣は、惜しみ無く晒すその筋肉質な身体を温かな湯けむりに撫でられる。

 

「それで、ウィーネは今何してんだ?」

 

「ヴェルフはあの後ずっと鍛冶場に籠ってたから知らねぇんだな。ウィーネは今、春ちゃんと一緒にリリ主催のダンジョン攻略講座を受けてるぜ」

 

「そうか、それにしてもウィーネもすっかり溶け込んだな。名前を決めるときなんか戦争に」

 

「ヴェルフ、それ以上はいけない」

 

男性陣は話ながらも身体の隅々まで洗い、湯船に向かった。女性陣に比べると烏の行水程度の時間だが

 

「はぁ~、気持ちいい。ねぇ色、いい加減ウィーネにベタベタするの止めたら?」

 

「なーに言ってんだお前は、妹にベタベタして何が悪い。ウィーネだって嫌がってねぇし」

 

「クロ、妹でもベタベタすんのは駄目だと思うぞ?」

 

ヴェルフの的確な突っ込みをスルーした色は、目を細め、何かを思い出しながら語った

 

「俺は昔から子供に好かれる体質だからな。近所の子供だって俺に懐ついて離してくれなかったんだぜ?」

 

「そう言えば色って弟も居たんだよね」

 

「そうなのか?どんな弟なんだよ?」

 

「あー、アイツは昔から無口な奴でな」

 

好奇心のまま聞いてくる二人に色が説明しようとすると、脱衣場からドタバタと激しい音と女性の焦った声が聞こえくる

 

「シキ!!一緒にお風呂入ろー!!!」

 

「ちょっ!?駄目ですよウィーネ殿!!」

 

「皆ッ、ウィーネ君を止めろぉ!!!」

 

「ウィーネ様!!お待ちになってください!!!」

 

「今日はやけに聞き分けが良いと思ったらこれが目的でしたか!!」

 

現れたのは裸の少女、判断は僅か0.01秒だった。

 

ガシッ!!

 

「おい!?」

 

「ウィ!?」

 

二人が何かを言う前に腕を掴み【一方通行(アクセラレータ)】を発動。リモコンが無い現状、最善の選択を行った色は生体電流を咄嗟に操り二人を気絶させた。

 

「いやー、一度もした事がなかったけど成功して良かったぜ。ウィーネ、男に気軽に裸を見せたらダメだぞ?」

 

「「「お前も気絶しろ!!!」」」

 

「プベラッ!?」

 

生体電流を操る事に集中し、反射を解除してしまった色も乙女達の鉄拳により気絶するのだった。

 

「ブクブクブク」

 

因みに男の裸を見たエロ狐も気絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれは」

 

使い魔である梟を回収しながら、屋上にたたずむ黒衣の人物は、フードの奥から呟いた。全身を余すところなく包んだ黒一色のローブが、嘆息するように揺れる。

 

「ミィシャ・フロットから聞いていたが、ここまでとは。常識外れにも程がある」

 

黒衣の人物は鐘楼の館と呼ばれる、かの【ファミリア】の本拠(ホーム)を見下ろしながら呟く

 

「ウラノスよ、私が見たものは間違いではなかった。私達の希望は直ぐそこまで来ているぞ」

 

その瞳の奥にはなにもないが、ハッキリと光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル  

 

 Lv.3

 

 力:C682

 

 耐久:B763

 

 器用:C660

 

 敏捷:S943

 

 魔力:D587

 

 幸運:H

 

 耐異常:I

 

 《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

・速攻魔法

 

《スキル》

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

 

・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 

・懸想(おもい)の丈(たけ)により効果向上。

 

英雄願望(アルゴノゥト)

 

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 




次回、ウラノス動く


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第27話 異端児

まだまだ序章


鎖の音が激しく打ち鳴らされている部屋で、複数の冒険者が一人のヒューマンに声を掛ける

 

「ディックス、やっぱり止めた方がいいって」

 

「そうだぜ、モンスター1匹ぐらい別にいいじゃねぇか。それでアイツらを敵に回したら割に合わねぇ」

 

焦った声色の団員にディックスと呼ばれた男は、煙水晶(スモーキークオーツ)が用いられたゴーグルを光らせ、怒鳴り散らした。

 

「馬鹿かてめぇらは!!喋る竜女(ヴィーヴル)なんざエルリアの貴族(へんたい)どもに売り払えばどれ程の大金になると思ってんだ!!!」

 

「お、落ち着けって、今アイツらを敵に回したら【イシュタル・ファミリア】も着いてくるんじゃねえのか?それにモンスターに似ている人間だって話もあるしよ、そこん所も考慮に入れてだな」

 

「うるせぇ!!グダグダ言いやがって!!!結局はビビって手が出せないだけだろうが!?」

 

苛ついた様子でディックスは赤い槍を鎖の音源である黒檻の中に突き刺した。黒檻の中にいた蠢く何かが絶叫するが、苛立ちが収まらないディックスは気にせず吠える

 

「モンスターに似た人間だぁ!?ふざけんじゃねえぞ糞が!!!オラリオの危険領域(ブラックホール)だかなんだか知らねぇが嘗めた真似しやがって!!!!」

 

咆哮と共に赤い槍を突き刺す威力が増し、檻の中から鮮血が舞う。回りの団員が止めようとする中、一人の男神がディックスの背後に現れた

 

「ひひっ、荒れてんなぁディックス」

 

背後を振り向き様に舌打ちをしたディックスは、苛立ちを隠さないまま、その男神に問いかける

 

「お帰りなさいませイケロス様。それで肝心な事は聞き出せたんですよね?早くコイツらの目を醒まさしてやって下さい」

 

ディックスが指差すのは、先程自分を止めた団員達だ。丁寧な口調とは裏腹に、その瞳の奥には憎悪が渦巻いている

 

「真実を、【ヘスティア・ファミリア】に居る女は、俺達が何時も狩っている怪物(バケモノ)共と同類だと

、嘘が見抜けるあんた()ならわかるはずだ」

 

男神は、ひひっ、と笑うと、その場に胡座を掻き顔を俯かせる。今まで見た事の無い主神の様子に動揺する団員、長い沈黙の後男神イケロスは初めてとも言える真剣な表情でディックス達を見つめた

 

「嘘が見抜けなかった」

 

「ッ!?」

 

何かを言おうとしたディックスだったが、口をパクパクさせるだけで言葉に出来ない、それだけの衝撃が彼を襲ったのだ。そしてイケロスが続けて何かを言う前にディックスが口を開いた。

 

「それはどう言うことだ主神様よぉ!!嘘が見抜けなかった!?あんた達超越存在(デウスデア)俺達(人類)の嘘が見抜けるんじゃなかったのか!!!」

 

ディックスは何かを振り払うように赤槍を檻の中の何かに思い切り突き刺し、響く悲鳴を越える程の怒声を室内に吐き出し、自信の主神を睨み付けた。

 

「何なんだアイツは!?何なんだアイツらはッ!!!どうして化物を助けられる!?どうして他の奴はなんも言わねぇ!?どうして、どうしてだ!!!教えてくれよイケロス様!!俺はどうすれば!?」

 

「落ち着けディックス」

 

錯乱したように教えを請うディックスの肩に手を置いたイケロスは、愛する子供を安心させるかのように話し出した。

 

「聞け、何も恐れることはない。今からアイツの対処法をお前に教えよう」

 

その姿は普段とは検討も付かないほどの、正しく超越者(デウスディア)であり、イケロスはディックスに啓示を授ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒鐘 色を味方に付けろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事はわかってるよウラノス、問題はタイミングだ」

 

はやる気持ちを抑えられないとばかりに言われた言葉に、黒いローブの男は呆れ口調で返した。いや、気持ちはわかる。あのウラノスが子供のようにソワソワする程の衝撃が、手元にある紙媒体には存在するのだ

 

「う、うむ確かにそうだが。報告書には僅か5日でオラリオ(迷宮都市)竜女(ヴィーヴル)の少女は溶け込んだと書かれている。それならばこの流れに乗るため、打ち明けるタイミングは早ければ早い程いいのではないのか?」

 

「いや、恐らくそれはウィーネが人形だからだ。他の者達を認めさせるには慎重に慎重を重ねるぐらいで丁度いいと私は思うのだが」

 

「あ、あの~?」

 

二人の弁論が加速する前に声を掛けたのは桃髪のギルド局員だ。ひきつった笑みを張り付かせた彼女に、顔を向けたギルドの真の主と黒衣の男は、さも当然の様に口を開いた

 

「いや、二人で話し込んでしまってすまないミィシャ君。是非とも君の意見を聞かせてくれ」

 

「そうだミィシャ・フロット。お前の意見も聞かせなさい」

 

「え~」

 

期待に満ちた眼差しを二人から向けられたミィシャは心の中で盛大に叫んだ

 

どうしてこうなった!!

 

いや、確かにあの子を助けたのは私だよ。でもあの時は色君の阿保が勝手に私の机の上に置いていった口止め料(賄賂)を隠すのに必死で、適当に探りを入れた情報をフェルズさんに提出しただけだし。その後助け出したあの子を私の家で匿ってるのだって隠し通せたことにホッとした(はずみ)で了承してしまっただけだし!?

 

それなのにこの二人、あれから妙に私を信頼してくるし。あの子の仲間の事も全部ぶっちゃけて来るし。ひょっとして私、すごーく不味いことに片足突っ込んでるんじゃ・・・

 

「どうした、ミィシャ?」

 

「うひゃ!?あ、い、いえ、その、作戦を思い付いたんですけど、聞きます?」

 

「ほぅ、流石はミィシャ君だ。オラリオの情報の魔女(ピンク・レディ)と言われているだけの事はある」

 

え?なにそれ私聞いてない

 

いや、確かに情報料が払え切れなくて【ヘスティア・ファミリア】の動きを纏めて安全に冒険が出来る地図を売ってたし、それを手に入れる為に上層から中層で活動している冒険者達が情報を横流してくれて、その中でも安全そうな情報を他の情報と交換したり売ったりして切り盛りしたお陰で、何かヤバめな情報(トップシークレット)も結構手中に納めてるけど!!

 

て言うか情報の魔女(ピンク・レディ)って私の事だったの!?その噂を仕入れた時なんか私「その人と連絡取り合えたら楽になるんだけどなー」とか言ってたんだけど!?

 

「それで、作戦と言うのは?」

 

「その前に一つだけ聞かせてください」

 

ウラノスの言葉を遮ったミィシャは何とか心を落ち着けた後、緊張した面持ちで二人を見詰めた。

 

「なんだミィシャ、言ってみろ」

 

少しの沈黙、意を決して自分が、どうしても掴めなかった情報の有りかを聞き出す為に口を開いた。

 

「色君はどこから来たんですか?」

 

「「・・・」」

 

や、ヤバい地雷だった?

 

「い、いやー何となく気になったから聞いただけでそこまで「一度しか言わないから良く聞きなさい」あ、はい」

 

予想外の雰囲気に誤魔化そうとしたミィシャだが、ウラノスの一言で強制的に黙らされる。そして、フェルズから聞かされた言葉に驚きの声を上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は19階層、通称『大樹の迷宮』

 

木肌で出来た壁や天井に張り巡らされた発光する苔の光の中、通り行く冒険者に攻撃を仕掛けた2Mにも及ぶ巨大な猪形のモンスター、『バトルボア』はその体をひしゃげながら、まるでボーリングの様にモンスターの軍勢に突っ込んだ

 

「リリ様!!そろそろ後退して下さい!!!色様、前衛お願いします!!」

 

「わかりました!!」

 

「あいよ!!」

 

リリが『バトルボア』を吹き飛ばした後、直ぐ様春姫が叫び、その声に従いリリと色が入れ替わる。『大樹の迷宮』を駆け抜けていく【ヘスティア・ファミリア】は現在、この階層全てのモンスターが生まれ落ちたと思われる程の『怪物の宴(モンスター・パーティー)』に襲われているのだ。

 

「前方からデッドリー・ホーネットとガン・リベルラ合計126体、来ます!!!」

 

「色、アレやるよ!!」

 

「何時でも良いぜ!!」

 

命の声により、ずっと前衛でモンスターの相手をしていたベルが叫び、前衛に追い付いた色もそれに答える。ベルの右腕からは、周りのモンスターの叫び声の中、一際目立つ程の鐘の音(チャイム)が鳴り響いていた。

 

「ファイアボルトォオオオオオ!!!」

 

進軍の速度(スピード)を落とさず放たれた魔法は、真っ直ぐにモンスターの軍勢に向かっていく。チャージ時間は3分、炎雷は凄まじい威力だが、それでも倒して20体程だろう。

 

「広がれ!!」

 

しかしそこに風の支援が挟まれる。色の風に包まれた【ファイヤボルト】はお互いを高め合うかの如く、威力と範囲が激増。空中にいた狙撃蜻蛉(ガン・リベルラ)巨大蜂(デッドリー・ホーネット)の軍勢は、ほぼ全て焼き払われた。

 

「後方からバグベアー、バトルボア、ホブ・ゴブリン、!!計182頭来ます!!」

 

「わかりました。命様、そろそろポイントですので詠唱をお願いします。リリ様とウィーネ様は命様のサポートを!!」

 

「了解です!!」

 

「わかりました!!」

 

「うん!!」

 

地図(マップ)を見ながら走る春姫が声を張り上げた。その声を合図に、リリとウィーネは命を守るように武器を構え、命も走りながら平行詠唱を始める。それと同時に春姫はバックパックから取り出した黄色い弾丸を片手でヴェルフに投げ渡した。

 

「ヴェルフ様は魔砲で迎撃をお願いします!!」

 

それを受け取ったヴェルフは弾丸を見た後「いい、チョイスだ」と呟き、素早く炎刀・虚空(えんとう こくう)に詰め込み、モンスターの上空に向かって構えた

 

「潰れろぉ!!魔砲【サンダー・ジャイアント】!!!」

 

放たれた黄色の魔弾は上空で爆発、そこに現れたのは雷の巨人だ。巨人は大きく右腕を振りかぶり、下にいる外敵(モンスター)を押し潰した後、更にその巨体を膨大な雷に変えて、周りのモンスターを蹂躙する。

 

「よーしよし、中々の威力だ。一点攻撃と広範囲攻撃を両立させるっていう仕掛け(ギミック)もしっかり生かされてるな」

 

「ヴェルフ様!?魔弾の評価は後にして、命様のサポートに回ってください!!あッ!?ウィーネ様が!!」

 

春姫の焦った声がする方向、そこには銀の槍と大盾を構えるウィーネが雷を逃れた三匹のモンスターに囲まれていた。

 

囲んでいるモンスターは『リザードマン』、屈強な三体の蜥蜴の戦士が雄叫びを上げながら、竜女(ウィーネ)に襲いかかる。

 

『ルォオオ!!』

 

「たぁ!!」

 

振り下ろされた花の天然武器(ネイチャーウエポン)を盾で弾いたウィーネは、武器を弾かれた拍子に仰け反ったリザードマン目掛けて勢い良く槍の先端を突き刺した。

 

『オオオッオオオオ!!!!』

 

『シュラァアアアア!!!!』

 

仲間を倒され激昂した残り二体のリザードマンが、大盾を前にして素早く迎撃体制に入ったウィーネに襲いかかる。

 

「やぁ!!!」

 

咆哮を上げるリザードマンにウィーネも負けじと叫び返すが、何処か可愛らしい印象だ。しかしその行動は的確に、一体目のリザードマンと同じ様に正面のリザードマンを突き殺した

 

『ガアアアアア!!!』

 

そして三体目のリザードマンは槍の弱点である攻撃した後の隙を付き、側面から天然武器(ネイチャーウエポン)の刃を突き刺してくる。普通の人間ならば反応が出来ない一撃、しかし

 

「うりゃ!!!」

 

『ゴブッ!?』

 

繰り出されたのは上段蹴り、モンスターとしての潜在能力(ポテンシャル)を生かし、上手いことバランスを取って繰り出されたそれは、見事にリザードマンの下顎を撃ち抜き、昏倒させた。

 

「お見事!!流石はウィーネ様です。しかしそんな技(上段蹴り)を何処で教えてもらったのですか?命様達からは確か武器の扱いしか教えてもらってなかった筈ですが?」

 

「えっと、夢で教えてもらったの」

 

「夢、ですか?」

 

聞き返す春姫にウィーネは無邪気な笑顔で答えた。

 

「うん!一人でいっぱいいっぱいモンスターを倒す夢なんだよ。寂しいなって思ったら、いっつも色が向かえに来てくれるんだ!!」

 

その言葉になにか言おうとした春姫だが、命とベルに声を掛けられ、中断される

 

「春姫殿!!詠唱終わりました」

 

「春姫さん!予定してたポイントに着いたよ!!」

 

「ッ!?わかりました、(わたくし)も詠唱に入ります。色様!!指揮の代わり任せました!!」

 

「任された!!」

 

色と春姫の会話が交わされた後、命が【フツノミタマ】をポイントに放った。重力結界の範囲から逃れている【ヘスティア・ファミリア】の団員は、詠唱を始めた春姫以外、色の指揮の下、命を守るために動いている

 

「ヴェルフとベル!!前方の敵は任せた!!」

 

「わかった!!」

 

「任せろ!!」

 

「ウィーネは二人が漏らした時の補助(バックアップ)を頼む!!」

 

「まかせろ!!」

 

「リリは俺の近くで最終防衛線だ、油断するなよ!!」

 

「するわけないでしょう!!」

 

そして春姫の詠唱が終わり

 

「リリ、こっちに来い!!飛ばすぞ!!!」

 

「了解です!!!」

 

【ウチデノコヅチ】がリリルカ・アーデを包み込んだ

 

「いっけぇええええええええええええ!!!!」

 

「いっきますよぉおおおおおおおおお!!!!」

 

光を纏ったリリは色の【一方通行(アクセラレータ)】で重力結界(フツノミタマ)の上空に打ち上げられた。そして落下、重圧魔法により相対性理論を無視したスピードで落ちていく小人族(パルゥム)の少女は、そのまま右近婆娑羅(ウコンバサラ)を力一杯ダンジョンの地面に振り下ろす

「ルゥアアアアアアアア!!!!!」

 

轟音、いやその表現すら生ぬるい程の音量が『大樹の迷宮』に響き渡り、【フツノミタマ】が放たれていた場所には巨大な大穴が空いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで、あってるんだよな?」

 

「た、多分」

 

階層ぶち抜き(ショートカット)という、馬鹿げた事を平然と行ったファミリアは現在一つの泉の前で立ち止まっている。理由は指定されたポイントに道が無かったから、いや道ならあったのだ、しかし

 

「リリの、右近婆娑羅(ウコンバサラ)が・・・」

 

「リリスケ、愛着持ってくれてるのは嬉しいんだが、そこまで落ち込むなよ」

 

ヴェルフに慰められてるリリは、orzの形で項垂れている。道はあった、泉の中の横穴に。何時もなら細い道がある場合、色のベクトル操作で無理矢理道を広げて右近婆娑羅(ウコンバサラ)を通しているのだが、泉の中では崩壊の危険が高いため、何時もみたいにはいかず、大槌を置いていく事になったのである。

 

「はぁ・・・いっそのことココもぶち抜きますか?」

 

「だめだよ!?あれはもっと下層でやろうって言ったよね!!今回出来たのは今が夜で人が少ないからだから!!!」

 

「わ、わかってますよ。冗談ですからそんなに慌てないで下さいよベル様」

 

焦るベルに苦笑いを浮かべるリリ、しかし視線が明後日の方向を向いてる辺り割りと本気だったのかもしれない。

 

「色、竜華槍(ドラミ)龍大盾(ドラタロウ)置いていかなきゃダメ?」

 

「あのバカデカイ大槌(ウコンバサラ)以外だったら俺のベクトル操作で持って行けるから大丈夫だぞ」

 

「本当!!わーい色大好き!!」

 

「俺も大好きだぞ!ウィーネ!!」

 

「うぅ、色様だけズルい」

 

抱き締め合いながらグルグル回りだした二人を羨ましそうに見詰める春姫、そんな彼女は現在命と一緒に皆の荷物をバックパックに詰め込んでいる。じゃんけんで負けたのだから仕方がないのだ

 

「皆様、荷物が詰め終わりました!!」

 

「命さん、春姫さん、ありがとうございます。それじゃ、行こうか」

 

そうしてベル達は泉の中に身を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水面から顔を出した【ヘスティア・ファミリア】は数え切れない程の視線に晒された。視線の主は敵意を隠さず、彼らに奇襲を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超電磁砲(レールガン)!!」

 

「【ファイヤボルト】!!」

 

「魔砲【フレイムブラスト】!!」

 

『『『『『『『!?』』』』』』』

 

そして逆に奇襲を受けた。

 

爆炎と轟音の中、訳も分からず逃げ惑う者達。

 

そもそも、『怪物進撃(デス・パレード)』に奇襲等は効かない。命の敵影探知(ヤタノクロガラス)もあるし、何より色は常にレーダーを発動させているので、感知された瞬間全員にハンドシグナルで音も無く指示を出して逆に奇襲を仕掛けるのである。

 

そうして奇襲を仕掛けられた敵意の主は、色の超電磁砲(レールガン)とベルのフルチャージ【ファイヤボルト】とヴェルフの魔砲の威力を目の当たりにして、今現在

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『すみませんでした!!!!』』』』』』』

 

全員総DOGEZAしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、悪い悪い。ベルが敵意を感じるって言うからついブッパ(全力砲射)しちまったぜ」

 

「確かに悪いとは思うけど色だってノリノリで同意してたじゃん。僕だけのせいにしないでよね」

 

ジト目で見てくるベルをあえて無視しながら目の前にいるコイツ等(モンスター)を見渡した

 

そう、怪物(モンスター)だ。種類は様々で、蜥蜴人(リザードマン)半人半鳥(ハーピィー)、知らないもんから知ってるもんまで、中には赤い帽子を被った小怪物(ゴブリン)なんかも存在している。しかもそいつ等の殆どが、言葉を喋っているのだから驚きだ。

 

「で、お前らなんなの?ミィシャさんに強制任務(ミッション)お願いねって言われて、ここまで来たけど事情は説明してくれるんだよな」

 

「お、俺達は異端児(ゼノス)、そこにいる竜女(ヴィーヴル)と同じ、フェルズが言うには理知を備えるモンスターだ。あ、あんた達の敵じゃねぇ、本当だ」

 

先頭に立っているリザードマンが何処かビクビクとした感じで説明してきた。余程先ほどの攻撃が効いたらしい。いや、ミィシャさんに、この先に居る者達を殺すな、とも言われてたから威嚇で打っただけだからね?誰一人として傷つけて無いからね?

 

「へー、そうなんだ。それじゃよろしくお願いします」

 

「・・・・は?」

 

そう言って差し伸べられたベルの右手をリザードマンは何度も瞬きながら見た後、自信の右手とベル右手に視線を交互に行き来させている

 

「なにやってんだよ、握手も知らねぇのか?」

 

俺は無理矢理リザードマンの腕を取り、ベルと握手させた。唖然とするリザードマンと少しムッとするベル。どうやら無理矢理握手させた事がお気に召さなかったらしい。

 

「あ、あなたタチ、ワタシ達が怖くないの?」

 

聞いてきたのは金翼の歌人鳥(セイレーン)だ、恐る恐ると言った声色に一歩前に出たリリはこう返す

 

「貴方達はリリ達の敵じゃないのでしょう?だったら怖がるだけ無駄じゃないですか。それにこのタイミングで強制任務(ミッション)が発令されたんですし、何となくこうなる事は予想できましたからね」

 

リリの言葉で、金翼含めるその場に居る大体のモンスターがリザードマンと同じ様に唖然とした。何か間違った事でも言ったのだろうか?

 

「イ、イヤ、ソレハ可笑シイ、オ前タチハ人間ダ。モンスターヲ恐レナイナド」

 

「どうでもいいけど、こっからどうすんだ?クロは何か聞いてないのか?」

 

「ド、ドウデモ・・・」

 

ガーゴイルの言葉を一刀両断したヴェルフが俺に聞いてくる。何て言うかさっきのはちょっと可愛そうだろ、ほら、見てみろアイツの顔をこんなん(´・ω・`)なってんぞ

 

「いや、俺も詳しく聞いてないんだよ。お前らどうしたいの?」

 

「・・・・・・・・ゥ」

 

「ウ?」

 

リザードマン達はまるで何かに耐えているみたいに肩を震わした、周りのモンスターも同じ様に肩を震わしている、どうかしたのだろうか?

 

「宴だぁぁあああああああああ!!!!!」

 

「「「「「「うおおおおおおおおあ!!!!」」」」」」

 

その日、感極まったモンスターの歓喜の声が20階層の『未開拓領域』に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね。皆がわたしの名前を決めるために喧嘩してたから神様がメッてしたんだよ!」

 

「あの人達を止めれる人がいるのか!?そりゃすげぇ!!」

 

「お前達を私達が信用すると思っているのか?今までの人間は」

 

「なーに宴の場で難しい事言っちゃってんですか、ラーニェ殿ぉ。それよりお酒を飲みましょう!!飲んでパーと騒ぎましょうよ!!!」

 

「い、いやまて!?わかったから、わかったから無理矢理飲まそうとするな!?」

 

「まったく、誰ですか命さんに酒を飲ませ過ぎたのは。あ、わざわざ注いでいただいてありがとうございます、フォーさん」

 

『ウォ!』

 

「お、モンスターの癖にいい酒飲んでるな。グロス、お前は飲まないのか?」

 

「バ、馬鹿ヲイウナ、ドウシテ人間ナドト」

 

「聞いてよヴェルフ、さっきグロスったら嬉しそうに」

 

「イ、言ウナ!フィア!?」

 

「でハ、私も歌いましょうか。この宴に彩りヲ添えられるように」

 

「それじゃあ(わたくし)も歌います!!久し振りに帽子姫の復活ですよ!!」

 

「おいコラ駄狐!!なんでその羽帽子持って来てんだ!?ダンジョンで使う必要無いから、家で大切に保管してただろぉが!!」

 

「落ち着いてくださいミスター・色、せっかくの宴ですので多少は多目に見られては?」

 

「いや、でもあの羽帽子、結構大切な物なんだよレッド」

 

「悪りぃな、あいつ等も・・・オレっち達も、色々あってさ。ここに人間が来るかもしれないって聞いて、みんな神経質になってたんだ」

 

「あぁ、その気持ちわかります。僕達もゴライアスを複数相手にする前なんか神経質になっちゃって」

 

「それは・・・わかりたくねぇな」

 

石竜(ガーゴイル)人蜘蛛(アラクネ)一角獣(ユニコーン)半人半鳥(ハーピィー)一角卯(アルミラージ)歌人鳥(セイレーン)蜥蜴人(リザードマン)が、様々なモンスターが大体の事情を説明した後、【ヘスティア・ファミリア】と楽しみ、中には困惑しながら宴を盛り上げている。

 

「クロっちもありがとな。あんたがウィーネを見つけてくれなかったら、そして保護してくれなかったら多分こうはならなかった」

 

その場に出されたダンジョン産の肉果実(ミルーツ)や酒がドンドン減っていく中、俺に声を掛けてきた蜥蜴人(リザードマン)のリドはそう言いながら隣に腰掛けた。

 

「何言ってたんだ?俺はウィーネを保護なんてしちゃいねーよ、あとクロっちは止めろ」

 

「保護してないってどういことだ?クロっち達はウィーネを家で預かってたんだろ?」

 

ニックネームを変えそうにないリドに、やれやれと肩を竦めた俺はウィーネの方向を指差しながら答える。

 

「ウィーネはもう俺達の家族(ファミリア)だ。だからダンジョンに連れてくる為に訓練もしてるし、服の背中にファミリアのエンブレムも刺繍してある。それなのに保護は可笑しいだろ?」

 

「!?・・・・」

 

目を見開き、沈黙したリドは暫くした後改めて俺に向き直り、土下座した。

 

「この度は俺っち達の同胞を受け入れてくれた事、本当に感謝する。これからもどうかその気持ちを忘れないで欲しい」

 

「お、おい!?そういうのいいから!!大体こんなことは俺の世界ではよくある事なんだぜ。モンハンとかドラクエとか、エグゼの飼育ウイルスだってそうだし」

 

「これはまた・・・予想の斜め上を遥かに越える展開になっているようだ」

 

あたふたする俺の後ろから掛けられる中性的な声、振り向くと黒衣を纏った不気味な人物が立っている。コイツも異端児(ゼノス)なのだろうか?

 

「フェルズ、来たか!!」

 

リドが気安く腕を振るい、その人物は俺の隣に腰掛けた。因みに他の団員と異端児(ゼノス)達は、歌人鳥(セイレーン)のレイと春ちゃんのダンスと歌に夢中で気付いていなかったりする。俺が言うのもなんだけど自由か

 

「やぁ黒鐘君。私はフェルズ、君とはずっと話をしたいと思ってたんだ」

 

「お、おう。黒鐘 色だ、よろしくなフェルズ」

 

握手をした手に違和感を感じて少しだけどもったが、フェルズはそれほど気にしてないらしく、そのまま話を続けた

 

「君は、異端児(ゼノス)達をどう思う?・・・いや、違うなこれではダメだ、どうしたい?・・・も可笑しいか・・・」

 

「おい、どうしたフェルズ?」

 

何やらブツブツ言い出したフェルズにリドが問いかけるが、尚も下を向いている。かと思えばガバッ!と此方を向いて、その勢いで捲れた黒衣(フード)の中身に俺は驚愕した

 

「頼む!!どうか異端児(かれら)を地上で生活出来るように!!異端児(かれら)の夢を叶えて欲しい!!」

 

その絶叫とも言える大声は宴に参加している全員に届き、黙らせる。シン、と静まった空間の中、頭を下げる髑髏の人間に俺はこう返した。

 

「おう、任された」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいた『彼女』はあたかも百舌鳥(もず)の早贄のように(はりつけ)にされていた。

 

いくつもの刺し傷や切り傷が体に走り、真っ赤な衣服は施された拷問を物語るように全身からの流血で真っ赤に染まっている。

 

両翼を鋼鉄の杭で貫かれた一匹の歌人鳥(セイレーン)は近づいてくる仲間の気配に、なけなしの気力を振り絞り、声を出した。

 

「・・・逃げ、テ」

 

血だらけの歌人鳥(セイレーン)は、目を見開きながら震える声で呟き。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引っ込んでろ三下がぁあああああ!!!!」

 

彼女の周りを旋回していた『デットリー・ホーネット』全てを、一撃で砕いた黒い怪物が、待ち伏せしていた冒険者をも吹き飛ばし、磔の歌人鳥(セイレーン)の下に降り立った

 

「え?」

 

「あぁもうクソッ!酷ぇことしやがって!!!」

 

歌人鳥(セイレーン)は自分を助けてくれた人間(怪物)を困惑しながら見詰めた。その人は的確に自分に刺さっている杭を引き抜くと、痛みが感じる前に素早く万能薬(エリクサー)を振りかけていく

 

「こんなもんか。どこか痛い所はあるか?」

 

「イ、イエ大丈夫です」

 

「よし、動けるならあっちの方に向かってくれ、そこにリド達が居るはずだ」

 

その人物はとある方向に指をさし、簡単に指示した後、黒いガントレットを開閉させながら攻撃の余波で未だに土煙が収まらない一角を睨み付ける

 

「おいおいおいおい!!このタイミングで来るのかよぉ!!!いちいち俺を苛つかせやがって!!お前は一体何様のつもりだ!!」

 

土煙から出て来たのは眼装(ゴーグル)の男、ディックス・ペルディクス。情報の魔女(ピンク・レディ)から特徴を聞いていた黒い少年は、相手が自身より格上と知りながらも後ろに控えている者達を守るように叫び返した

 

「俺の名前は黒鐘 色!コイツ等(異端児)の味方だ!!」

 

そうして鴉と【暴蛮者(ヘイザー)】の戦いが幕を開けたのだ。




因みにダンジョンは下になるほど岩盤が堅くなるので、今の色の【テンペスト】でも19階層をぶち抜くことは出来ません。


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第28話 VSイケロス・ファミリア

10巻のイラストを初めて見た時、この人がディックスさんだとは思わなかった


長時間行われた異端児(ゼノス)達との宴は終わりを向かえた。今は各自片付けの真っ最中で、俺も食べ滓等を集めて、ベルの魔法で焼却処分してもらっている。

 

「それにしても、お前ら異端児(ゼノス)って便利だよな。魔石食べるだけで強くなるってズルくね?」

 

「だよね、僕も魔石食べて強くなれないかなー」

 

「お、おい止めろベルっち。腹壊すぞ?」

 

「ははは。冗談ですよ、リドさん」

 

「勘弁してくれよ~」

 

と言う緊張感も何もない会話をするのも楽しいものだ。ウィーネも異端児(ゼノス)達と溶け込めたようで、現在『ファモール』のフォーに肩車をしてもらっていたりする。良かった、もしアイツが雄だったら、ぶっ飛ばしていた所だ。

 

「クロっち、ウィーネはどうするんだ?連れて帰るのか?」

 

掃除の手を止めずにリドが聞いてくる。取り敢えずクロっちは止めろ

 

「いや、ウィーネはここに残すぞ」

 

「えー!?いやっ!!色といっしょがいい!!」

 

恐らくモンスターの鋭敏な聴覚で聴こえたのだろう。乗っていたフォーの肩から飛び降りて走ってくるウィーネは、そのまま俺に抱き着いた。やだ、うちの子可愛い過ぎ

 

「安心しろウィーネ、俺もここに残るからな」

 

「お、おいクロっち!?」

 

「本当に!やったー!!!」

 

頭を撫でながらそう言うと、ウィーネは目をキラキラさせてギュー、と抱き着いてきたので俺も抱き締め返す。春ちゃんが、「(わたくし)も!(わたくし)も!!」と叫んでいるが命ちゃんに、まだ片付けが終っていませんので我慢してください、て止められていた。ざまぁ、勝手に人の物(羽帽子)を持ち出した奴は、そこで指を咥えて見とくがいい

 

「ほ、本当に残るのか?いいのかベルっち」

 

「いいよ」

 

「軽いな!?」

 

素っ気なく了承したベルにリドの蜥蜴顔が驚の声を上げる。ベルの態度に苦笑いていると、異端児(ゼノス)側から鋭い声が投げ掛けられた。

 

「いい加減にしろ!!お前がここに残る?私は人間など信用していない!!」

 

声を荒げる異端児(ゼノス)蜘蛛女(アラクネ)のラーニェは、俺を指差しながら誰もが見惚れる程整った相貌を憤怒に染めて叫ぶ

 

「いいか、良く聞け。お前達人間は狡猾で、残虐で、例え私達(異端児)を助けたとしても次の日には気の迷いだのなんだのホザき、直ぐに裏切る!!そんな貴様らを私達がっ!?な、なんだ、本性を現したか!!」

 

一方通行(アクセラレータ)】を使い、一瞬で近くまで来た俺に焦るラーニェ、その姿は近所に居た子供達の秘密基地に勝手に入った時の姿とダブって見えた。あん時も今みたいにめちゃくちゃ警戒されて大変だったなぁ

 

そんな昔の事を思い出しながら、目の前の蜘蛛女(アラクネ)に見せつける様に小指を突き出す。

 

「だったら指切りしようぜ、ラーニェ」

 

「ゆびきり、だと?」

 

恐らく初めて聞くであろう単語に警戒する彼女を安心させるため、指切りの説明をする。

 

「これは簡単に言うと嘘をつかない為の儀式みたいなもんだ。取り敢えずそっちの小指借りるぞ」

 

「お、おいこら!?勝手に触るな!!」

 

小指を無理矢理絡めさせられ、騒ぐラーニェ

 

固唾を飲んで見守る異端児(ゼノス)

 

少しだけ笑みを作る【ヘスティア・ファミリア】

 

そして真剣な眼差しを向けるフェルズ

 

その場に居る全ての生命の視線を浴びながら、その儀式は始まった。

 

「俺はずっとお前達の味方でいるし裏切らない、まぁ出来る限りお前達の夢も叶えてやる・・・約束だ」

 

「なっ!?そんな事、信用出来るわけ」

 

「ゆーびきーりげーんまーんうーそついたらはーりせーんぼーんのーます」

 

「!?」

 

「ハ、針千本!?」

 

「おいおい!?」

 

驚きの声を上げる異端児(ゼノス)達、しかし儀式は次の一言と絡めた小指が離れる事で終わりを向かえた。

 

「ゆーび切った」

 

「・・・・・・」

 

恐らく一番驚いているのは目の前の蜘蛛女(ラーニェ)だ、嘘をついたら針を千本飲む、そう言いきった男をあり得ない物を見た様に見つめる

 

「ほ、本気か?」

 

「応、男に二言はねぇよ」

 

「し、しかし私達は化物(モンスター)でお前は人間だ」

 

「そりゃお前達が俺達を襲うって言うのなら、この約束は無しだぜ?」

 

「ッ!?・・・・勝手にしろ!!!」

 

そう言うと彼女は上半身に着ている冒険者の鎧を大きく鳴らし、踵を返して奥に行った。ふぅ、取り敢えずこれで一件落着だな。

 

片付けに戻ろうとするとフェルズが黒衣を揺らしながら俺に近づいてくる

 

「彼等の為に愚者になってくれたこと。今一度、心より感謝する」

 

「馬鹿にしてんのか」

 

「!?」

 

いや、なに驚いた風に肩跳ねさせてんの?指切りしただけで愚者とか言われたら俺だって怒るよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして片付けが終わり、家族(ファミリア)の皆が集まってきた。どうやら別れの挨拶をするらしい

 

「色殿、取り敢えず針千本用意しときますね」

 

「命ちゃんが珍しくブッ込んできた!?」

 

突っ込む俺にアタフタと手を動かす命ちゃん

 

「い、いえ、これはリリ殿が緊張を解すためと言われて」

 

「なに言ってるんですか?まさか本当に言うなんて思ってなかったですよ。色さんの事を信用しているのなら普通は思い止まると思いますが?」

 

「リリ殿ォ!!!」

 

掴み掛かる命ちゃんに応戦するリリ。しかし右近婆娑羅(ウコンバサラ)を装備していなくても、鉄籠手と槌型のアクセサリーだけで力値は相当な物になっているので、投げ飛ばされる命ちゃん。いや、本当なにやってんの?

 

「わぁぁああ、ウィーネちゃぁあああん!!!」

 

「春姫泣かないで。また会えるから大丈夫だよ?」

 

案の定、春ちゃんはウィーネに抱き付いて号泣しているし。どっちが子供だかわかんねぇな

「いいかお前ら、良く聞け。これは氷の魔剣で、こっちが風の魔剣だ、これを同時に使って」

 

そして、そんもん関係ないとばかりにヴェルフは異端児(ゼノス)達に魔剣の説明をしている。

 

別れの挨拶なんて無かった

 

最後にベルが膨らんだバックパックを俺に渡してきた。

 

「色、取り敢えず回復薬(ポーション)系統全部と万能薬(エリクサー)は詰めといたよ。虚空はどうする?」

 

「いや、そこまでは要らねぇよ。回復薬(ポーション)だけで充分だし、寧ろ必要なのはお前らだろ?」

 

「ははは、大丈夫だよ。色一人が抜けたぐらいで、どうにかなる僕達(ファミリア)じゃない。安心してこの人(異端児)達の用心棒(ボディーガード)をしといてよ」

 

「言うねぇ」

 

そんな軽口を叩きながら、お互いの拳をぶつけ合わせる

 

「そっちは任せたぜ、ベル」

 

「うん任せて。色も、大丈夫だよね?」

 

「応、その為の階層ぶち抜き(ショートカット)、だろ?」

 

そうしてお互いの拳を離し、一旦別れることにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万能薬(エリクサー)で回復した羽根を羽ばたかせ、指差した方向へ飛んで行く歌人鳥(セイレーン)を見届けた後、改めて目の前のゴーグル男に向き直った。

 

「こいつらの味方だぁ!?化物を大量に殺してるお前が、化物に加担するってのか!?黒鐘 色ィ!!!」

 

ミィシャさんから聞いた通りの容姿をしている男の名前は、ディックス・ペルディクス。【暴蛮者(ヘイザー)】の二つ名を冠するその男(格上)は、まるで親の敵かのように赤い槍を俺に向けて来た

 

「化物を助ける義理が、価値が何処にある!!」

 

ギラついた瞳を眼装(ゴーグル)の中に隠して今にも飛び付いて来そうな男に、俺は深い溜め息と共に会話を試みる

 

「なぁ、人を恐怖させる物の条件って知ってるか?」

 

「あぁ!?お前いきなり、何の事だ!!」

 

怒鳴ってはいるが、動きは止まった。相変わらず物凄い殺気だが、話は聞く気らしい。

 

「一つ、怪物は言葉を喋ってはならない」

 

俺は見せつける様に指を立て

 

「二つ、怪物は正体不明でなければいけない」

 

そのまま教壇に立つ教師の様に歩き

 

「三つ、怪物は不死身でなければ意味がない」

 

最後に笑みを浮かべ、ディックスを見た

 

「以上が、人を恐怖させる化物の条件だ」

 

「なんだ・・・そりゃ」

 

何か呟きが聞こえたが、構わず続ける

 

「さて、これをあいつ(異端児)達に当て嵌めてみると、何とその条件に一つも当てはまらないんだな、これが」

 

「・・・・・・・・」

 

「まず一つ目、これは言わなくてもわかるよな?あいつ等は俺達人間と会話が出来てる」

 

「・・・・・・・・まれ」

 

「そして二つ目、あいつ等は自分達に異端児(ゼノス)っていう名称とそれぞれ固有の名前を付けてる。その時点で正体不明じゃねぇ」

 

「・・・だまれ」

 

「最後に三つめ、あいつ等言ってたぜ、死にたくないって。死ぬ事を恐れてる時点で不死身とは、かけ離れてる。以上三点で異端児(ゼノス)は化物じゃねぇんだよ」

 

「だまれ!!だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれぇええええええええええ!!!!」

 

 

判断は一瞬、フリュネ師匠との修行で前より研ぎ澄まされた感覚を頼りに腕をクロスさせ、突如視界から消えたディックスの赤槍が黒籠手(デスガメ)の手甲に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い『大樹の迷宮』の壁に戟音が反響し、【暴蛮者(ヘイザー)】と鴉の戦いは初っ端から最高潮(トップスピード)まで引き上げられていた

 

「ははははは!!!どうした黒鐘ェ!!防戦一方じゃねぇか!!」

 

「チッ!!」

 

縦横無尽。縦に横に宙に地面に怪物の様に駆け抜け、応戦する色に対して、ディックスの長槍はまるで蛇のようにうねり、繰り出される拳や蹴りを叩き落とし、空に逃げる事も許さず、激烈に突き刺していく。

 

「グッ・・・クソがぁ!!」

 

第一級冒険者(Lv.5)の攻撃力は当たり前の様に色の反射を突き破り、体の至る所に浅い傷を残していく。少しでも離れる隙が欲しい色は大声と共に狩猟者(ハンター)と自分の間の地面を蹴り抜いた。

 

畳返しの様に捲れ上がる地面、しかし槍を凪ぎ払い、力業で地面の壁を吹き飛ばしたディックスとの接近戦は、終わらない

 

「大層な事をほざいてた割には口だけだじゃねぇか!!所詮てめェはその程度なんだよ!!おら、何とか言ってみろォ!!!」

 

「ガッ!?」

 

激しさが増していく紅槍の応酬に、風を操る事も出来なくなり地面に叩き落とされた。止めとばかりに降ってくる矛先の雨を、地面に落とされた際の衝撃のベクトルを操り、滑るように離脱。黒髪三本を持っていかれながらもディックスとの距離を空けることに成功する

 

「ハッ!何度でも言ってやるよ!!俺はあいつ等の味方で、仲間だ!!てめぇとは違うんだよ、密猟者(ハンター)ァ!!!」

 

 

色の反撃が始まる。砂鉄の剣を生み出し、ディックスの両側から挟撃、更に発生させた小規模なプラズマを正面から飛ばす。

 

学園都市第一位(一方通行)学園都市第三位(御坂美琴)の力の一端がオラリオの第一級冒険者(Lv.5)に牙を剥いた。

 

「俺とお前が違うだと?違わねぇさ!!お前だって化物と長く居ればいずれ掌を返すに決まってる!!!」

 

その場に深く腰を落としたディックスは、腰のポーチからバトルナイフを引き抜き両刀の構えを取った。そして槍と剣を音を置き去りにする程の速度で振るい、砂鉄とプラズマを傷一つなく叩き落す。

 

想像を絶する第一級冒険者の絶技に思わず色の頬が引きつった。しかしそんな理不尽は何回も更に格上(アイズ)と戦っていたお陰で馴れていたのだろう、直ぐに散らばった砂鉄を操りディックスを囲うように旋回させる。

 

「何故ならなぁ、俺達が人間であいつ等がモンスターだからだ!!」

 

周りに漂う砂鉄を気にも止めず、ディックスは両手を開き色を嘲笑う。

 

「世間知らずのお前に教えてやるよ黒鐘!!モンスターってのは人類にとってはどうしようも無い病原菌なんだよ!!大量の人類をブッ殺してきた病原菌が、人間と仲よくなりたいだの誰も殺さないだの言ってるんだ!!そんな奴らと仲よくしてみろ?今に全ての人類がお前を殺しにくるぜ!!それでもお前はあいつらの味方でいられるのかよ!!!えぇ!!答えてみろ!!!」

 

確信だった。ディックスにとってこの問題は解決出来るわけが無いと断言出来る真実だ。神々が降りてくる遥か昔から人類を襲い続け、現代も犠牲者を出し続けるいる怪物達(病原菌)。そんなものと共存など出来る訳がなく、出来ると言った人間は大多数に頭がどうかしていると思われる何て当たり前の事、この世界の常識で、例えこの場では味方だと言い切れても、一度地上に出れば待っているのは自身の破滅か裏切り、道はそれしかないのだ。

 

しかし、ディックスは知らない。

 

この場にいるのが、この世界において最大級の異端児(イレギュラー)だということを

 

「味方でいる」

 

「・・・は?」

 

その言葉で戦闘中にも関わらず、ディックスの頭の中少しの間真っ白になった。

 

「味方でいるって言ってんだ。病原菌っていっても種類は様々だし、人間だって体の中には常に何かしらの菌と共存してる。それに病原菌からはワクチンだって出来るんだぜ?まぁ、それと」

 

そこで色は自分の小指をディックスに見せつける様にして言った

 

「約束したからな」

 

確かに、先程の言葉を反論出来る人間なんてこの世界には、それこそ神ですら居ないのかとしれない。しかし、この男(異世界人)にはその常識は当てはまらない

 

「は、ははははははははははははははははははははは!!!!!最高に狂ってるぜお前はァ!!!だったらどうするか言ってみろよ!!俺に苦戦しているような奴が全人類からアイツらを守んのか!?それとも隠すのか!?でも残念だったな黒鐘ェ!!俺は決めたぜ、アイツ等を全滅させてやる、例え何処に隠れようが見つけ出して(なぶ)って(なぶ)って嬲り殺してやらァ!!!!」

 

遂にディックスは本気で動き出した。周りの砂鉄も気にせずに振るわれる全力の突き。音速を超えるそれを籠手で受けた色は宙に飛ばされ、激しい音と共に壁に叩きつけられる。

 

「グッ!?」

 

「そうだなァ、まずはテメェが逃がした歌人鳥(セイレーン)からだァ!!翼の羽根を全部もいで焼き鳥にしてから死ぬまで仲間の化物達に喰わしてやる!!!」

 

攻撃は止まらない。

 

「ガーゴイルの化物もいたなァ!!アイツは固そうだから剣の試し切りに丁度いいぜェ!!」

 

防御もままならない。

 

「リザードマンの化物は尻尾から徐々に切り落として、上半身だけの置物(オブジェ)にしてやろうかァ!!」

 

回避も不可能

 

「最後はお前の飼ってるヴィーヴルだァ!!両手両足を切り落として、頭の宝石を引っこ抜いた後にお前を喰わしてから首を落としてやる!!!」

 

そんな中、黒鐘 色は三日月の笑みを浮かべ

 

「ディックス、お前何を焦ってるんだ」

 

ディックス・ペルディクスの瞳孔が開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディックスがそれを見たのは偶然と言えるだろう。偶然通りかがったとある通りに、偶然とある男女の楽しげな声が聞こえてきたのだ

 

「ねぇねぇシキ、あれはなぁに?」

 

「あぁ、これはじゃが丸君って言う食べ物だ、食べるか?」

 

「たべる!!」

 

片方は全身真っ黒な男、もう片方は青銀の髪に鍔広帽を被った女、二人とも服装からしてギルド職員だろうか?

 

昼間っからお熱いねぇ

 

男の方はポケットに手を突っ込み、女の方はその腕に自身の腕を絡めている。恋人オーラ全快の二人にディックスは呆れた視線を向けた

 

「じゃあ自分で買ってみるか?ほれ、お金渡してやるから何事も経験だぞ」

 

「いいの!?わ、わたし頑張る!!」

 

フンス!と気合いを入れる少女と優しく見守る男。身長からしてある程度の年齢と思われる二人のヘンテコなやり取りは、周りの人間からしたら奇異に映っているだろう。

 

もしここで少女がじゃが丸に興味を持たなかったら、もしここで少年が少女にお金を払わそうとしなかったら、もしここで少女がお金を取り溢さなかったら。

 

ディックスの運命は変わっていたかもしれない

 

チリーン

 

それは極々小さな音だった、しかし先祖からの血の呪いのより迷宮ダイダロスを築き上げる為に金に対して敏感になっている男の耳にはハッキリと聴こえた。

 

聴こえてしまった。

 

「おいおい、大丈夫かウィーネ?」

 

「あぅ、ごめんなさい・・・えっと、あったよ!あ!?」

 

落とした金貨を取ろう屈んだ時に、帽子が落ちたのだ。現れたのは異形の額、その宝石は誰が見てもモンスター『竜女(ヴィーヴル)』の物だった。

 

なぁ!?

 

ディックスから言葉が失われる。理由は町中にモンスターが出現したこと、ではなく。

 

町中にモンスターが出現したにも関わらず、誰一人としてパニックになっていなかったからだ。

 

「何が、起こってやがる」

 

理解が追い付かない間に異形の少女は人通りの多い昼下がりの道で堂々と帽子を被り直し、隣の男に教えてもらった手順で当たり前の様に買い物を済ました。

 

「はい、小豆クリーム味。一個オマケしといたからねウィーネちゃん」

 

「わぁ、ありがとう!」

 

「サンキューおばちゃん。それじゃ帰るか、ウィーネ」

 

「うん!」

 

ディックスはまるで時が止まったかのように静止していた。そんな彼に見せつける様に買い物を終えたモンスターと人間が寄り添って近づいてくる。

 

なんで、周りの奴は何も言わねェ!いったいどうなってやがんだ!?

 

男とモンスターの歩みは止まらない、近づいてくる化物(モンスター)の気配に周りにの人間も全く反応しない。

 

「ッ!?」

 

そして、男とモンスターはディックスの横を何事もなく通りすぎた。

 

見えた男の横顔は先日の戦争遊戯(ウォーゲーム)から話題が尽きない、とある【ファミリア】の副団長

 

「・・・黒鐘 色」

 

呟いた言葉は回りの喧騒に消えていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれからだッ!!あれから俺の中の何が変わっちまった!!お前のせいでッ!!!」

 

激化していく戦闘の中、ディックスは思う、コイツとあの竜女(ヴィーヴル)を殺せば元の自分に戻れると。

 

「あの化物共を辱しめ、泣かせて、絶望させて、ゴミクズみたいに扱ってるだけで満たされてた!!血の飢えを鎮めることが出来たんだ!!!」

 

赤槍と黒籠手の間に火花が激しく舞い、周囲の木々が削れ、散乱する。

 

「なのに満たされなくなった!!!あれを見た日から全く満たされなくなったんだよ黒鐘ェ!!!」

 

上に下に右に左にコロコロ変わる体制の中、武器と武器を撃ち合わせながらもディックスの言葉は止まらない。

 

「お前のせいだ!!お前のお前のお前のお前のお前のお前のお前のォ!!お前さえ居なければ!あの『呪い』に変わる『欲望』に浸っていられたんだ!!!お前が俺にあの『世界』を見せなければ!!!」

 

色とウィーネの光景はディックスにとって鮮烈だった、鮮烈過ぎたのだ。今までの価値観を根底から覆すほどに、別の世界を見せられていると錯覚する殆に、鮮烈過ぎた。

 

それを、頭の中から消し去ろうと尚もディックスの攻撃速度が上昇する。しかし色もただやられている訳ではない、相手の攻撃を受け流し、徐々に徐々にカウンターを決められるようになっていた

 

こいつ、動きが変わってきてやがる!?

 

驚愕するディックスに今度は色が言葉で応酬する

 

「俺のせいにしてんじゃねぇよ」

 

「あぁ!?」

 

「お前が『人造迷宮(クノッソス)』を完成させようとする先祖の血に抗うために、異端児(ゼノス)を傷付けて欲望を満たしていた事は知ってるぜ?」

 

「お前ッ!?」

 

どうして『人造迷宮(クノッソス)』の事を知っているのか、どうして自分の先祖の事を知っていたのか。

 

「でもな、その欲が満たされなくなったのは俺のせいじゃねぇ。お前も自分で気づいているんだろ?」

 

そんな事はどうでもよくなった

 

「テメェェエエエエエエエエエエ!!!」

 

殺意の塊が黒鐘 色に襲い掛かる。赤い槍が雨の様に降り注ぎ、確実に殺すという意思の下、逃げ場すら射程にいれて、遂に体の中心に矛先が向けられた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィン!!

 

という金属音と共に突如現れたリザードマンにその矛先が逸らされる

 

「な・・・にぃ!?」

 

「遅くなっちまった。わりぃクロっち」

 

「遅せぇよリド!!どんだけ時間稼ぎさせるつもりだ!!」

 

「すみまセン色さん、如何セン冒険者が強くて。それと砂鉄の道標もヤッテいただいて、助かりマシタ」

 

「お、レイが来たって事は全員揃ったんだな。それじゃあレーダー発動しますか」

 

「ありがとうございます色さん!魔剣のお陰で誰一人傷付く事無く対処出来ました」

 

「フィア、そのお礼はヴェルフに言ってやってくれ」

 

武器を弾かれたディックスに呆けている暇は無かった。次々と異端児(ゼノス)達が現れ、自分に殺到してきたからだ

 

「はぁッ!!」

 

「オオオオオオ!!!」

 

「てりゃ!!」

 

「チッ!クソッ!!何がどうなってやがる!?」

 

人蜘蛛(アラクネ)の糸が、石竜(ガーゴイル)の爪が、竜女(ヴィーヴル)の槍が全てディックス一人に向けられる。

 

そして次々と向かい来る脅威を避ける【暴蛮者(ヘイザー)】を、面白そうに見ていた黒い怪物が口を開いた

 

「あぁ、ディックスさん。一応言うけど、あんたの【ファミリア】は全滅した」

 

ディックスが言われた言葉の意味が分かるまで少しの時間が掛かった。しかし返しの言葉は言えない、リザードマンが参戦したためだ。

 

「あんた達の動きは最初からわかってたんだ。そもそも俺に隠れて尾行するなんて真似は意味が無いんだな~これが」

 

沸騰しそうな頭を無理やり冷ましてリザードマンの曲刀(シミター)を受け流し、反撃しようとした所を電撃で防がれる

 

「それで、尾行を無理矢理引き剥がす為に行ったのが階層ぶち抜き(ショートカット)って訳だ。そのお陰であんた等をどうやって罠に嵌めるか、考える時間が出来て良かったぜ」

 

途中で尾行が撒かれた理由が判明するが、鮮血を吹き出した体が口を開くことを許さない

 

「後は簡単だ、【イケロス・ファミリア】で一番強いあんたを俺が抑えて、その他の雑魚は異端児(ゼノス)が罠の所まで誘導、速やかに各個撃破。最後に全員でお前を倒す。スパロボとかの基本って言ってもわかんねぇか。まぁ、何にせよ俺との適当な会話(時間稼ぎ)に乗ってくれて助かったぜ、ディックスさん」

 

ディックスの過ちは黒鐘 色を偽善者だと思い込んでいた事だ。実際には違う、黒鐘 色の本質は偽善ではなく自己満足。

 

お人好し(黒鐘 色)の行動理由なんてそんなものだ、目の前に困ってる人が居て、自分が助けられる事が出来るから助ける。それで欲求が満たされる。

 

故に、自分の欲求を満たすために異端児(ゼノス)達をどんな手を使っても助けようとする所はどこかディックスと似ているのかもしれない。

 

その向き(ベクトル)は真逆だが

 

「と、言う訳でチェックメイトだ」

 

「黒鐘 色ィイイイイイイイイイ!!!!!」

 

憎悪、怒り、憤怒、殺意、考えうる全ての負の感情を一人の名前に込めて吐き出した。

 

そして・・・片腕を伸ばし

 

「【迷い込め、果てなき悪夢(げんそう)】」

 

いいか、ディックス。黒鐘 色の対処法は呪詛(カース)を発動しないことだ。ひひっ、まぁそれでもどっこいどっこいって所だかな

 

「【フォベートール・ダイダロス】!!!」

 

主神の忠告も忘れ、超短文呪文を発動させたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所はギルド本部、『祈祷の間』

 

「なるほど、 理知を備えるモンスターか」

 

ベル達が出掛けた後、直ぐにフェルズに連れてこられたヘスティアは、手で顎を押さえ、下を向き、目の前に座している巨神、ウラノスが語った異端児(ゼノス)達の事について考えを巡らせる

 

「一つ質問していいかな、ウラノス?」

 

「なんだ」

 

「ボクの子供、ベル君が見たって言ってたんだが、喋るバーバリアンについて何か知っているかい?ガネーシャに連れていかれたって聞いたんだけど、本神(ほんにん)は知らないって言ってるんだ」

 

「あれを助けたのはガネーシャに変装したフェルズだ。今は私の部下に匿ってもらっている」

 

「ふーん、ミィシャ君も大変だねぇ」

 

「!?」

 

目を見開いたウラノスに、露骨にぼかされた情報を言い当てたヘスティアはしたり顔を向けた。

 

「どうして、わかった」

 

「いや、わかって無かったよ。ちょっとカマを掛けてみただけだ」

 

それにしてもミィシャ君も苦労が絶えないね。なんてヘスティアは言っているが、その苦労の原因の大半が自分の子供関連だという事は理解しているのだろうか?

 

「それで、まだボクに隠していることがあるんだろ?言ってみなよウラノス」

 

「・・・鋭くなったな、ヘスティア」

 

「うちの子に嘘を見抜けない子が一人居てね。こういうのには馴れてるんだ」

 

「そうか・・・」

 

ウラノスは目を瞑り、少しの間思案した後、口を開いた

 

「お前は黒鐘 色がどうやってこの世界に現れたのか覚えているか?」

 

「ッ!?」

 

今度はヘスティアが驚愕に目を見開く。彼女は色がこの世界のに来た時の事を酔っていたため殆ど覚えていない、何より本人がどうやってこの世界に来たのか、わからないと言っていた事をどうして、祈祷の間(ここ)から動けないウラノスが知っているのか

 

「偶然フェルズが見かけてな。お前の目の前の何もない空間が罅割れ、出てきたらしい。まるでモンスターがダンジョンから生まれ落ちる様に、な」

 

「それは、どういうことだい?」

 

言葉が止まるウラノス、それはヘスティアも同じだった。二人の間の沈黙を先に破ったのはウラノスだ

「私はこう思うのだ」

 

空を見上げた巨神は呟く

 

「彼こそが、人と怪物(ゼノス)を結ぶ為に世界が産み出した存在なのではないのかと」

 

その瞳の先に映るのは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』』』』』

 

空を飛んでいる俺の眼下には理性を失ったモンスターが暴れ狂っていた

 

「こ、これは、どういうことだ」

 

呪詛(カース)・・・か?」

 

「カース?なんだそれは?」

 

小脇に抱える蜘蛛女(ラーニェ)が聞いて来たので、呪詛(カース)について簡単に説明する。日々命ちゃんの魔法を受け続けて魔力の気配に敏感になっていたお陰で、咄嗟に近くにいたラーニェを抱えて安全圏まで飛んで行けたが、もし俺が呪詛(これ)を食らってたらと思うとゾッとするな。

 

「なんだそれは!?防御不可能の呪いだと?どうやっても勝てないじゃないか!?」

 

「まぁ落ち着けって、この手の呪詛(カース)を解くには術者を倒すのが最適だ。それに呪詛(カース)の術者には何らかのペナルティがあるはず・・・!?」

 

俺の目に飛び込んできたのは暴れるウィーネをディックスが捕らえようとしている光景だった。

 

「あんにゃろう、ブッ殺してやる!!!!」

 

「お、おい!?まて、落ち着けッ・・・・色!!!」

 

突撃をかまそうとする俺をラーニェが止める。止めると言っても抱えられているので、必死に抱き付いているだけなのだが

 

「離せラーニェ!!アイツ殺せない!!!」

 

「冷静になれと言っているんだ!!今突っ込んだらお前の妹(ウィーネ)も巻き添えになるんだぞ!?後私も巻き添えだ!!」

 

「知るかんなもん!!すり抜けながらかっさらってやる!!」

 

「それ私の安全考慮に入れてくれてるよな!?」

 

キーキー騒ぐ蜘蛛女(アラクネ)を無視して突っ込もうとするが、ディックスとウィーネの周りには二人以外にも結構な量の異端児(ゼノス)が固まっていた

 

クソッ!めんどくせぇ!!異端児(ゼノス)が相手じゃ【食蜂操祈(メンタルアウト)】も効かねぇしどうしようもねぇじゃねぇか!?

 

「・・・いや、もしかしたら何とかなるかもしれねぇ」

 

「な!?本当か!!」

 

思い出した。それとも、思い知らされたと言うべきか。異端児(ゼノス)を救う方法、それはうちの【ファミリア】がちょくちょくやっている漫画の知識の活用、それの一つを使用することだ

 

「ダメ元でやってみるか」

 

片手を狂宴を続ける異端児(ゼノス)達に向け、とある漫画のを思い浮かべた

使用する能力は『めだかボックス』の登場人物の一人

 

都城 王土

 

使う能力は【人心支配】

 

まぁ人心支配なんて言っても、実際は指先から出す電磁波によって対象の駆動系に干渉し相手の体を意のままに操るだけだ。

 

漫画の描写を見て思ったのだが、同じような能力の御坂美琴でも似た事が出来るのではないのだろうか?異端児(ゼノス)に効くかはわからないが、成功すれば一気にこの窮地を突破できる

 

「ふぅ、いくぜ」

 

電磁波を広げる。レーダーとはまた違った感覚が俺に伝わり、異端児(ゼノス)を包み込んだ、瞬間何かを掴んだ気がして

 

「【ひれ伏せ】」

 

それは起こった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔力暴発(イグニス・ファトゥス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴッ!?」

 

「色!?」

 

体内で荒れ狂う魔力を知覚した色は、咄嗟にラーニェを投げ飛ばす。そして起った大爆発、花火の様に小さな電撃を撒き散らしながら血まみれになった黒鐘 色は、まるでゴミクズの様に地面に叩きつけれた

 

「なん・・・で?」

 

その疑問に答える物は居ない。色自身、黒いゴライアスに初めて使った時ですら、完璧に制御出来ていたそれを制御が出来なかった事に、痛みより先に疑問を覚えたぐらいだ。

 

そんな色に近づく人影が一人

 

「どんな魔法を使おうとしたのか知らねぇが、ざまァねぇな黒鐘」

 

色を見下ろすのは、異端児(ゼノス)達との戦いで血に濡れたゴーグルの男、ディックス・ペルディクスだ。その小脇には気絶したウィーネが抱えられている

 

「ウィ・・・か・・・・せ」

 

「本当は直ぐにでもテメェをブッ殺してやりてェ所だが、今ここでそれをやると化物に殺されそうなんで止めといてやるよ」

 

ディックスとの戦闘と魔力暴発(イグニス・ファトゥス)のダメージで色の手足は動かない

 

「だからまぁ」

 

それでも気力だけで必死に伸ばされた片腕は

 

「お前も狂えや」

 

竜女(ウィーネ)に届く事は無く

 

「【フォベートール・ダイダロス】」

 

色の意識は途切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ids殺wq」

 

 

 

 




いやぁ、【イケロス・ファミリア】は強敵でしたねぇ。


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第29話 暴走

結構ディックスさんのキャラが好きだったりします。

感想返しは、まとめてやろうと思います。




少女の前世(ゆめ)は常に暗闇から始まる。

 

狭い空間で外にも出れず、中に産み出されるモンスターを暇潰しに屠っていく。

 

暫くそうしている内に、モンスター以外の者が現れる

 

その者は痛みを感じた事の無い自分に痛みを与えた

 

だから必死に戦った、そして殺されないために殺した

 

そうしている内に大きな事を学んだ、殺されない技術だ

 

そして技術を磨く事も覚えた、モンスターを殺し、アイツらを殺す度に技術が上がっていく事に嬉しさを感じた

 

それから暫くすると誰も現れなくなった

 

闇が広がっていき、自分の声が虚しく響く

 

誰も訪れない、誰も話し掛けてくれない、誰も気に掛けてくれない

 

永遠に続くと思われた闇の中、ポツリと黒が現れる

 

黒は強かった、ずっとずっと殺しているモンスターなんかより、一撃で簡単に死んでいくアイツらなんかより強かった。

 

何より自分を見てくれた、声を掛けてくれたのが心の底から嬉しかった

 

だけど最後は呆気なく、自分の伸ばした腕が黒に届く前に、言葉を交わす前に前世(ゆめ)は覚める

 

だから少女は手を伸ばす。

 

自分を救ってくれた彼に手を伸ばし、今度こそ自分の言葉を伝えるために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・暑い

 

真っ先に感じた感覚がそれだった。まるで真夏のような蒸し暑さを背中に感じ、真っ黒な視界から、ゆっくりと瞼を開けていく。

 

飛び込んできた光景は大きな怪物の顔、どアップだ。

 

「うおっ!?」

 

「オオッ!?」

 

驚き仰け反ったら向こうも驚き仰け反る。て言うか落ち着いて見たらこの石竜(ガーゴイル)、グロスじゃねぇか。

 

「なんだよグロス、ビックリさせんな・・・ってこれどういう状況?」

 

起きた俺の周りにはグロスの他にも『獣蛮族(ファモール)』のフォーや『馬鷹(ヒッポグリフ)』のクリフ等様々な異端児(ゼノス)達が鎮座している。動物園みたいだな、なんて寝ぼけた感想をしていると、柔らかい感触が俺の背中を圧迫してきた。

 

「か、体は大丈夫か?どこか痛いところは?」

 

「お、おい、暑いから離せラーニェ!!大丈夫だから抱き付くな!?」

 

「暑いのか!?オード!!直ぐに水を持って来い!冷えた水だぞ!!」

 

「――――!」

 

俺の背中に抱き付いているラーニェに言われて、勢い良く頷いた『戦影(ウォーシャドウ)』のオードは、何処からか持ってきたコップに、溢れそうな程の水を入れて、まるでどこぞの騎士かの様に片膝を付いて俺に渡してくる。

 

「サンキュ、オード。でも今度入れる時は八分目ぐらいにしような。ほら、俺の服がビショビショだ」

 

「―――!?」

 

おぅ、謝ってくれるのはいいんだが、別に土下座するほどでもねぇよ。後、周りの異端児(ゼノス)達もざわざわしない、俺が気を抜いて反射を解除してたのが悪いんだから。アーニェはいい加減俺の背中から離れろ

 

「で、どういう状況か教えてくれない?」

 

蜘蛛女(アラクネ)を引き剥がしながら質問すると、まるで示し会わせたかの様に皆が下を向いて黙り混んだ。その中で、圧倒的な存在感を放ちながら進み出て来くる者が一人だけ居た

 

「自分が」

 

「アステリオスか。頼むわ、ディックスに呪詛(カース)を掛けられてた事までは覚えてるんだけど、その前後があやふやなんだよ」

 

漆黒の体毛に紅の角を持つ猛牛(ミノタウロス)のアステリオスは俺に気を使ったのか、傍らに巨大な両刃斧(ラビュリス)をそっと置き、その巨体で信じられないほど綺麗な正座をした。侍かお前は

 

「そして、貴殿は深い眠りに付いていたと言う訳だ。体の傷は万能薬(エリクサー)で完治出来ていると思うが大丈夫ですか?」

「いや、体は大丈夫だけど。ちょっと待って、情報を整理させて。呪詛(カース)を受けた俺が黒い翼を出してディックスの左腕を切り飛ばしたってマジ?ていうか、その後暴走して、異端児(ゼノス)達に攻撃しようとしてたからって、黒翼出した俺を気絶させるとか。お前どんだけだよ」

 

「すまない」

 

「いや、謝んなくても良いけどさ」

 

うん、なんかこの子だけ次元が違うんだよね。前に模擬戦やってみたらボコボコにされるし、ディックスの呪詛(カース)も見てから回避したらしいし、【イケロス・ファミリア】も何班かに分担して各個撃破する予定を一人で終わらせたみたいだし。

 

数ヵ月でリド(トップ)を抜いて、ここまでの強さになったらしいけど、多分あの黒翼を出した俺を無傷で気絶させるとか、絶対にダンジョンのバグだと思う。運営仕事しろ

 

「そうだ、ウィーネはどうした?リドやフィア達も居ねぇみたいだけど、食料調達にでも行ってるのか?」

 

うーん、でもそれだと何かおかしい気がする。だってウィーネ俺にべったりだし。もし俺が気絶したら、あの子は絶対に俺から離れないね。確信だから、自惚れじゃないから、てかお前らは何時まで俯いてんの?

 

「・・・・・ウィーネは」

 

ポツリと聴こえた声の方向に振り向くと、喋り出したのはアーニェだった。綺麗な顔を歪めて蜘蛛の体に一滴の雫を落とした彼女は、まるで懺悔するかの様に喋り出す。

 

「ウィーネは、ディックスに・・・・連れ去られた」

 

「・・・はあ!?」

 

「本当にすまない!貴方が片腕を切り飛ばしてくれたおかげで私達は正気に戻れたのにッ!!あの男を捕らえきれなかった!!ウィーネを片腕で抱いたあの男を私達は全員で捕り逃したんだ!!!貴方は私達の為にボロボロになって戦ってくれたのに、魔剣も罠に嵌める知恵も授けてくれたのに!!!私達は恩に報いる事も出来ず、みすみす貴方の(ウィーネ)を奪われてしまった!!!弁明のしようもない!!!本当にすまない!!!すみませ・・・ヒグッ・・・・ごめんなざい」

 

「えっと」

 

そこでアーニェの限界が来たのだろう。両手で顔を覆い、溢れる涙で裾を濡らす彼女は、まるで子供のように何度も、ごめんなさい、と繰り返し始めた。周りの異端児(ゼノス)達も彼女に感化されたのか、すすり泣く者や、号泣する者、グロスなんかは大声を上げて、泣きながら壁を殴っていた。

 

はぁ、何かコイツら見てると逆に冷静になってきたわ

 

「取り敢えず泣き止めよアーニェ。綺麗な顔が台無しだぜ?」

 

そう言って彼女を抱き締めながら背中を擦り、頭を撫でてやる。泣いた子供の対処法は大体これで何とかなるのだ。まぁ俺の経験則であって世間一般じゃ、どうなのか知らないが

 

「うわぁぁあ"あ"あ"あ"!!!じぎぃ!!ごめんなざぁい!!!」

 

「よしよし。アーニェは頑張った、アーニェはよく頑張ったよ。お前らも泣くことねぇって、暴走した俺を抑える為にアステリオスが捕獲に加われなかったんだろ?だったら俺にだって責任はある。だからもう泣き止め、な?」

 

『『『『『『うわぁああああああ!!』』』』』』

 

「ち、ちょっとお前ら落ち着け!!ぎゃー!?」

 

感極まったのか全員に抱きつかれた。いや、本当に落ち着け、潰れるから!反射がある俺はともかく、近くにいるアーニェが潰れるから!?お前ら少しはアステリオスを見習え!!あんなに堂々と・・・・・・おい、冗談はよせアステリオス、お前の力じゃ反射が効かないから抱き付くな!!やめっ・・・ヤメロォー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから暫くして、ようやく落ち着いたのか、赤い目を擦りながら少し名残惜しそうにアーニェは離れていった。何とかアーニェを守りきった俺を誰か褒めて。

 

「それで、リド達が見当たらないのはウィーネを捜索しているからって事でいいんだな?」

 

「ズズ・・・あぁ、そういう事だ。18階層に逃げ込んだ所までは確認したんだがな。そこから奴の消息が掴めなくなった」

 

いまだに鼻をスンスン鳴らしているアーニェが鼻声で説明してくれる。なるほど、『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』に逃げ込んだとすると、まだ希望が残ってるな

 

「とりあえずウィーネ奪還作戦を考えるとするか。今いる場所は20階層の俺たちが宴会した所で合ってるんだよな?」

 

「合ッテイル。本当ナラバ19階層二留マル予定ダッタノダガ、周リノモンスターガ異様二ザワツキ始メタノデ仕方ナク、一番近ク二アル未踏達領域(ココ)二擬似的ナ拠点ヲ作ッテイル」

 

グロスの言葉通り、薄暗い洞窟の中には食料や回復薬

(ポーション)が数多く置かれていた。そっかー、モンスターがざわつき始めちゃったかー、ならしょうがねぇな。うん、しょうがない

 

「色君!!無事か!?」

 

「お~フェルズか、この通り五体満足だぜ」

 

声の主は黄水晶から。これは通信端末のような物らしく、これのお陰で【イケロス・ファミリア】を完璧に罠に嵌められたのだ。それを譲り渡してくれた張本人は、酷くホッとしたように体を揺らした後、真剣な声色で話しかけてくる。

 

「色君、君がどこまで把握しているのか聞かせてもらっていいかな?」

 

「ウィーネが拐われて、ディックスが18階層に逃げ込んだ。それをリド達が捜索してるっつう所までは聞いてるぜ」

 

「そうか、それにしては冷静で助かるよ。君の背後にいる異端児(ゼノス)達の乱れようは酷かったからね。特にボロボロだった君を、地上にいる私の所にまで連れて行こうとしていたアーニェの説得には骨が折れた」

 

「ば!?余計な事は言うな!!フェルズ!!!」

 

顔を真っ赤に染めて声を上げたアーニェに、フェルズは本当の事を言ってすまないね、と更に皮肉を重ねた。なんかわからんがフェルズも苦労してんだな

 

「リド達が冒険者に見つかった」

 

「!?」

 

和やかな空気を一変させる一言が、俺達を驚愕させる。その場にいる誰もが言葉を発せられない中、フェルズの報告は止まらない。

 

「リド達になるべく目立たないように言い聞かせたのだが、運悪く冒険者と交戦してしまったらしい。その戦闘が思いの外大規模だったらしくてね、現在地上は大混乱だ。そして今、ギルドは一応の応急措置としてダンジョンの侵入を禁止。これから強制任務(ミッション)を【ガネーシャ・ファミリア】に発令して、なるべくモンスターを調教(テイム)するよう命令しようと考えている」

 

そこでフェルズは言葉を区切った、多分俺の考えを聞こうとしているのだろう。【イケロス・ファミリア】を一網打尽にしたことが、思いの外、好評化だったのかもしれない

 

「今、リヴィラの街に人は居ねぇんだよな?」

 

「あぁ、恐らく皆逃げている筈だ」

 

「オーケー、理解した。フェルズ、あと半日ダンジョン封鎖の時間を稼いでくれ。お前ら荷物纏めろ、移動すんぞって速ぇな!?」

 

俺の言葉を受けた異端児(ゼノス)達が、文句一つ言わず凄い勢いで荷物を纏めていた。怖いぐらいの統率力でお兄さんビックリ

 

「お、おい色君?何をするつもりだ」

 

「ちょっと早いけど、この窮地(ピンチ)希望(チャンス)に変える。あの人に作戦β始めるって言っといて」

 

その言葉を最後にフェルズの水晶も仕舞われた。すまんフェルズ、今は時間が足りんのだ

 

「さぁて、(ウィーネ)を取り返しに行きますか。

まぁでも」

 

もうすでに、うちの家族(ファミリア)が何とかしてくれてるかもしれないが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い液体が音を立てて垂れていく

 

「・・・・・・」

 

激痛が走る体に鞭を打ち、声を殺して人造迷宮(クノッソス)を走るのは眼装(ゴーグル)の男、ディックス・ペルディクス。その体は余すことなく血に濡れており、両肩から先にある腕に至ってはどちらも消失していた。誰がどう見ても手遅れと言う言葉以外は見つからないだろう

 

「・・・・・・っ」

 

しかしディッスは止まれない。両肩から夥しいほどの血液が流れていようと、『ダイダロスの瞳』で最硬金属(オリハルコン)製の扉を閉めようと、例えこちらの方がLv.が上だろうと、逃げる以外の選択肢は、はなからないのだから

 

「・・・・・ちくしょう」

 

足音が迫ってくる、化物の足音が。背後の視線に貫かれながらディックスは思う、何が間違っていたのか、どこがいけなかったのか。

 

化物が加速する

 

「ちくしょう!!」

 

薄暗い迷宮にディックスの声が反響する。それに対して化物の足音はほぼ無音に近く、それなのに嫌と言うほど自らの死が迫っているのを実感させられた。

 

「ふざけるなっ!!」

 

最初は良かった。怪物達から竜女(ヴィーヴル)を奪い取った時は、犠牲にした左腕の事が気にならないほど晴れやかな気持ちだった。しかしそれも住処(アジト)に戻るまでの間だけだ

 

「どうなってやがんだッ!?」

 

中はもぬけの殻、今まで必死になって集めた金も化物も迷宮を建築するための資材さえも、綺麗さっぱり無くなっていた。そして、それを数日で終わらせた張本人達は竜女(ヴィーヴル)を抱えるディックスを見た瞬間、目の色を変えて襲ってきた

 

「聞いてねぇぞ、こんなのっ!!」

 

ウィーネを抱え、武器も持たないディックスは呪詛(カース)を使わざるおえなくなり、使った瞬間、まるで狙い済ましたかの様に潜んでいた新手から背後からの奇襲を受けた。そして運が悪いことに暴走した化物までもがディックスに狙いを定めてしまう。

 

「この、化物がァアアああああああああ!!!!!」

 

暴走した化物と、奇襲を行った人間との戦いが始まった。持ったのは5分か10分か、敵わないと判断したディックスは時間稼ぎの為に竜女(ヴィーヴル)の額に手を伸ばし、その腕が根元から切り飛ばされる。

 

一瞬だけ飛ばした意識を執念で取り戻し、今度はLv.5の身体能力で蹂躙しようと両足に力を込めた。例え両腕を失おうと、そのLv.の差は絶対だ、出血で死ぬことなぞ最早頭にはなく、分泌されるアドレナリンが痛みを無くし、刺し違えてでも殺そうと飛び出したディックスは、その顔面を化物に蹴り飛ばされる。

 

その化物はあまりにも速すぎたのだ

 

「ッ!?」

 

ディックスは、団員の忠告を無視したことを今更になって後悔する

 

「キャハッ♪」

 

呪詛(カース)が切れたのに何故か暴走が止まらない白兎(化物)の無邪気な一撃は、叫ぶ【暴蛮者(ヘイザー)】の命をあっけなく狩り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴェラの街

 

迷宮の楽園(アンダーリゾート)』と呼ばれる18階層に存在する数々の冒険者が営んでいるその街は、ただ今大勢の怪物達と一人の人間に荒らされていた

 

「ヒャッハー、汚物は消毒だぁ!!!奪えるものは全部奪えよテメェら!!!!」

 

「いやクロっち!流石にそこまで出来ねぇよ!?」

 

「落ち着いてください、色さん!!キャラ変わってますから!?」

 

「ミスター色、乱心しすぎでは!?」

 

訂正、一匹の化物から知性者達が街を守っていた

 

「なぁに言ってんだお前ら!!いいか、この街の物は俺達が有効活用するんだよ。食料だって腐っちまうし装備だって他のモンスターに壊される前に救済するんだ。救済だ!!だから俺達はなにも間違っちゃいない、だよなぁお前ら!!」

 

「「「「「「そうだそうだ!!!」」」」」」

 

「アーニェやグロス達に一体何が合ったんデスカ?」

 

ウィーネを捜索していたレイ達は、別人のように色のイエスマンになっている異端児(ゼノス)達に困惑しまくっていた

 

 

 

 

 

 

「ー!」

 

「速かったなクリフ!!そうかそうか見つけたか!!良くやった!よーしよしよし」

 

「ー♪」

 

計算より速く帰ってきた馬鷹(ヒッポグリフ)を撫で回して誉めてやる。いや、お前ら、手を止めて物欲しそうな目でこっちを見るな

 

「それじゃあ今から作戦を説明します。時間が押してるので走りながら行くぞ」

 

そう言うと俺の前に颯爽と現れた鷲獅子(グリフォン)が膝を着き、ジッと見つめてくる。ここに来るときも乗せて貰ったので迷わず乗ることにした。走った方が速いって言ったら落ち込むんだもん

 

「クロっち、作戦ってなんなんだ?また人間を罠に嵌めるのか?」

 

全力で走る鷲獅子(グリフォン)に楽々並走するリドが聞いてくる。落ち込んだような声が聴こえたので頭を撫でてやった。

 

「ちょっと違ぇかな。俺達が向かっている先は、ディックスの住処(アジト)人造迷宮(クノッソス)だ」

 

「!?」

 

口を開けたまま固まってしまったリドに、話を続ける

 

「あぁ、安心して貰っていいぜ、中は俺の家族(ファミリア)が掃除済みだ。言っただろ?全滅させたって、その為にワザワザ【イケロス・ファミリア】を誘い出して罠に嵌めたんだよ」

 

そう、全ては作戦の内だった。俺達、異端児(ゼノス)組が【イケロス・ファミリア】を引き付け、人員が少なくなっている本元をベル達が叩く。中にいた奴等に少しだけ同情する、なんせうちの小人族(パルゥム)最硬金属(オリハルコン)製の扉が容易く開けられ、迷宮の罠などの情報も全て把握されているのだから。

 

「よし、到着。それじゃ中に入るぞ」

 

『待ってくれ、私も着いていく』

 

声のした方向には誰もいない。しかし聞いたことのある声とレーダーの反応を見るからに恐らくフェルズだろう。

 

「なにそれ透明マント?フェルズって実はドラちゃんだったりする?」

 

「どら?はよく分からないが、これは被れば透明になれる魔道具(マジックアイテム)でね。モンスター避けにもなってくれるから突然通信を切った君達に追い付くのには最適だったよ」

 

「お、おぅ、何かごめん」

 

根に持つフェルズの皮肉が俺に突き刺さった。

 

「それで、これからどうするんだい。作戦βとは何なのか、よければ教えて貰えないかな?私はあの人に【イケロス・ファミリア】を全滅させる所までしか聞かされてないんだ」

 

「え、そうなの?うーん情報の漏洩を防ぐ為に敢えて教えなかったのかもな。まぁ詳しいことは入ってから説明するぜ」

 

まるで歓迎するかのように開いていた岩壁、に見せ掛けた最硬金属(オリハルコン)製の人口の扉。人造迷宮(クノッソス)の入り口を色達は無警戒に進むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンとは違う人工的に作られた内壁、魔石灯の光に照らされた通路。広大な人造迷宮(クノッソス)をレーダーにより迷わず進んでいた色達は、思わぬ怪物により行く手を阻まれていた。

 

「で、ベルに何があったんだ!?リリ!!」

 

呪詛(カース)ですよ!!眼装(ゴーグル)の男が使った呪詛(カース)でベル様がおかしくなったんです!!!」

 

「はぁ!?ふざけんなよ!!お前らが手負いのディックス一人に遅れを取るわけねぇだろうが!!馬鹿みたいに全員で掛かって行ったんじゃねぇだろうな!!!」

 

「そんな訳無いでしょ!馬鹿にしないでください!!むしろ暴走したベル様を色さんの所まで誘導したことを褒めて欲しいぐらいです!!!」

 

「色っち!!リリっち!!来るぞ!!」

 

「「イッ!?」」

 

リドの必死な声が響き、レーダーで捉えたベルが色達に跳躍してくる。速すぎる攻撃に対応が遅れた色は吹き飛ばされ、人工の壁に叩き付けられた

 

「キヒヒヒヒ!!ヒャハハハハハハハハハ!!!!」

 

殺人ウサギ(ヴォーパル・バニー)

 

白い頭髪は所々赤墨にまみれ、全身を包む兎鎧(ピョンキチ)Mk-Vは返り血で真っ赤に染まっている。何より表情がヤバい、奇声を発しながら目を見開き、口元は常に笑みで歪められていた。

 

暴走した白い少年は完全に正気を失い、容赦なく吹き飛ばした黒い少年に片手で持った剣を向ける。

 

「ふっざけんなよクソがッ!!!!」

 

今までの理不尽な攻撃に怒りを覚え色は、眼前に迫っている剣に対して、不壊属性(デュランダル)が施されてある籠手を握り締め、殴り付ける

 

怪物の鉄拳(ジャバウォック・ブロー)

 

兎の剣と怪物の拳が激しい火花を撒き散らし、力負けした暴走兎が後方に飛ばされた。

 

「ヒャハァ~♪アハハハハハハハハ!!!」

 

空中で回転し体制を立て直したベルは、何が面白いのか色を指差し笑いだす。攻撃が中断された色はこれ幸いとリリに状況報告の続きをさせる

 

「それで、ヴェルフ達は暴走したウィーネを止めるために別ルートに向かったわけか。人数が多いから二手に別れて正解だったな、そっちのルートにはアステリオスとフェルズが行ったし、なんとかなんだろ」

 

「いえ、恐らく簡単には行かないと思いますよ?何のために、これほど恐ろしいベル様の相手をリリ一人に任されたんだと思ってるんですか」

 

「はぁ?それってどういうことだよ?」

 

「ですから」

 

「キシッ♪」

 

「!?」

 

色の体が驚愕で一瞬だけ硬直する

 

何故なら、さっきから攻撃を行わず、ただ笑ってばかりだったベルが視界から消えたからだ。色が油断していた訳ではない、レーダーで常に捕捉していたし、なにをされても対応出来るように距離も空けていた。

 

ただ、暴走兎が色のレーダー(電磁波)の探知スピードを越えた、それだけだ。

 

「色さん!?」

 

リリの声は色に届かない、ベルは音を遥かに越えるスピードを出しているのだから。そして硬直した事により動きが止まった色は、あまりにも致命的過ぎた

 

線が走り、噴水のように血液が舞い上がる

 

「ヒャハ!ヒャハ!ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

色の首を撥ね飛ばした怪物兎は、降り掛かる血に歓声を上げ、次の獲物を求めて駆け出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャン!?」

 

ベルの後頭部を殴って気絶させた俺は、ホッと一息付く。最後のは焦った。レーダーより速く動くとか頭おかしいだろコイツ、訓練の時でもそこまで速く動いてなかったじゃん

 

「ようやく止まりましたか、一応聞きますけど直接気絶させることは出来なかったのですか?」

 

「むりむり、試したけど効果なかった。ディックスとのLv.差が開きすぎてるからだと思うが、

食蜂操祈(メンタルアウト)】で幻覚を見せるのが精一杯。あ~疲れた」

 

その場で座り込んだ俺にリリが二属性回復薬(デュアル・ポーション)を渡してくれた。ベルにも万能薬(エリクサー)をぶっかけてるみたいだし、そのうち目を覚ますだろう

 

「それにしてもなんでコイツだけ呪詛(カース)解けなかったの?しかも暴走状態だからかメッチャ強くなってるし」

 

「リリに聞かれても分かりませんよ、そういう体質だったんじゃ無いですか?それより流石に今回はリリも怖かったです、全くベル様は、ベル様はッ」

 

口ではそう言いつつも万能薬(エリクサー)をドバドバ使っている辺り、そこまで怒っていないのだろう。それに今はベルの事に構っている場合じゃないみたいだな

 

「大変です!!色さん!!!」

 

全力で翼を動かし俺の方向へ飛んできたのは半人半鳥(ハーピィ)のフィアだった。明らかに焦ってます、という風な彼女は息を整えぬままに報告する

 

「ウィーネが外に!!は、早くしないと」

 

その言葉を聞き終える前に、後ろで声を上げるリリを無視して俺の足は駆け出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走れ走れ走れッ走れ!!!

 

フィアやリド達を遥か後方に残し、俺の体は烈風のように突き進んでいく。しかし、それでも足りない!!!

 

「すまんッ!!ここに置いとくから勝手に使えよお前ら!!!!」

 

前方に現れたのは倒れ伏した【ヘスティア・ファミリア】の団員だ、【一方通行(アクセラレータ)】を使い、予備に持っていた回復薬(ポーション)万能薬(エリクサー)をスピードを落とさず割れないように、それぞれの傍らに投げ落とす。

 

持っている全ての薬品を置いてきたけど、倒れてる家族を放って置くとか、罪悪感がヤベぇ

 

しかし足を止めることは出来ない

 

「クソッ最悪だ!!よりにもよって、あっちの方向に行ったのか!!!」

 

「風を止めてくれぇ!!」

 

風を背後から噴出して限界以上に加速をしている俺の後ろから、誰かが声を掛けてきた。振り向くと蜥蜴人(リザードマン)のリドが後ろから追い付いて来ている。

 

流石は異端児(ゼノス)のNo.2だな、なんて本人が聞いたら落ち込むような事を思いつつ。風の勢いを緩めてやった

 

「やっと追い付いた!!色っち、リリっちからこれを預かってる!!受けとれ!!!」

 

鱗で覆われていない掌には紅い宝石が一つ。一目でわかった、ウィーネの額にある宝石だ。

 

「ベルっちのポケットから見つけたらしい!!それをウィーネの額に戻せば暴走が止まる!!ディックスの呪詛(カース)が解けなかったのも、その宝石が原因かもしれないってリリっちが言ってたぞ!!!」

 

「・・・はは」

 

「色っち?」

 

そういうことか

 

そうだ、そういうことだ。呪いのせいで強くなっていたんじゃない、暴走したから限界を越えていた訳でもない、ポケットにしまってある紅石(ウィーネ)を守るために、アイツは限界以上の力を出し続けてたんだ

 

流石ベルだぜ、お前は正気を失っててもずっとウィーネの事を守ってたんだな

 

「応、任された」

 

そして俺は、紅石(ベルの想い)をリドから受け取った

 

「行くぜリドォ!!着いて来いやぁ!!!!」

 

「ちょっ!?オレっちこれ以上のスピードは出せねぇよ!?」

 

加速加速加速加速!!!!正しく俺の体は一方通行(アクセラレータ)、引き返す事なんて一切考えず四肢を使い疾走していく。

 

光が見える、見知った色が確認出来る。

 

追い付いた、でも足りない。

 

速さが足りない、【一方通行(アクセラレータ)】だけでは圧倒的な速度不足

 

ならどうする?決まってる。力を重ねればいい

 

空想(イメージ)しろ、自分は一発の弾丸だ

 

妄想(イメージ)しろ、自分は一発の砲弾だ

 

幻想(イメージ)しろ、自分は一発の凶弾だ

 

想いは受け取った!!ならばあの一撃を蹴散らす力をウィーネを、守る力を夢想(イメージ)しろ!!!

 

「ウォオオオオオオ!!超加速電磁砲(アクセル・レールガン)!!!!!!」

 

「【エアリアル】」

 

風と雷が爆発する。

 

風を纏った金色の少女が放つ神速の剣は、雷を纏った黒色の少年が放つ迅速な拳により弾かれた。

 

目を見開く少女を後方に吹き飛ばし、アステリオスの横に降り立った少年は、眉間に皺を寄せながら周にいる人間を睨み付ける。

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

目を見開く異端児(ゼノス)達を無視して、少年は大きく息を吸う

 

周りの冒険者達もざわつき始めるが、少年は気にせず息を吸う

 

空中で器用に制御し、建物の上に降り立った金髪の少女が睨み付けてくるが、構わず少年は息を吸う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を吸い切った少年は、この場にいる全員に叩き付けるような大声を響かせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の家族に手ぇ出してんじゃねぇぞゴラぁあああああああああああああああ!!!!!!|」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、黒の少年は全人類に喧嘩を売ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、アイツ何て言った?」

 

「確か、家族がどうのこうの」

 

「家族ってあの怪物(モンスター)の事か?」

 

「まさか、な」

 

「糞鴉が、なに言ってやがる」

 

肺の中を出し切った俺は突き刺さるような無数の眼差しを無視して、いまだに唖然としている異端児(ゼノス)達に唾を飛ばした

 

「お前ら、ウィーネは何処だ!!場所はわかってるんだろうな!!」

 

「ウ、ウィーネなら、あっちだ!」

 

「あっちだな、サンキューアーニェ。お前ら!殿はアステリオスに任せて撤退だ!!全員で生きて帰るぞ!!!」

 

『『『『『『『『オオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』』』』』』』』

 

俺の声に合わせて全異端児(ゼノス)が咆哮を上げる。その音に紛らせる様にこれからの指示を出し、誰かが放った煙幕に紛れ、アーニェが指差した方角にこっそり全力で駆け出した

 

背後から高周波や爆発音が聴こえる、上手いこと引き付けてくれてるみたいだな。

 

貧困街(スラム)を駆け抜けているその巨体はレーダーの探知には以外と早く掛かった、しかし違和感を感じる。何て言うか、竜女(ヴィーヴル)なのに形が竜じゃなくて人形だ。

 

『アアアアアア!!!!』

 

「ッ!?ウィーネぇええええええええ!!」

 

その疑問は彼女の声を聴いたことにより吹き飛んだ。なにより大切なのは今現在苦しんでいる(ウィーネ)を救うことだ、疑問なんて後からいくらでも解決してやる!!

 

地面を砕き、家を何件か突抜け、ショートカットをし、ベクトルを操りカーブを曲がる。

 

近付いて行くたびに上がる悲鳴が、鬱陶しいぐらい俺の鼓膜を震わせ、焦りを増幅させる。

 

「いたぞ、ここだ!!」

 

食蜂操祈(メンタルアウト)ォ!!」

 

とうとう現れた冒険者に、迷わず呪詛(カース)を発動し気絶させる。 急激なスタミナの変化に吐きそうになるが、胃の中の物を無理矢理飲み込み、街角を曲がった。

 

「うわあああ!!」

 

「嘘だろおおお!!」

 

「いやぁあああ!!」

 

「やべ」

 

不意に出た言葉に俺は唇を噛み締める。ウィーネが見つかった、いや見つかっただけなら呪詛(カース)で何とかなる、問題は俺の方だった。

 

精神疲弊(マインドダウン)

 

ずっと続けていたレーダーに超電磁砲(レールガン)の使用、そして先程から多発している食蜂操祈(メンタルアウト)。リリから貰った二属性回復薬(デュアル・ポーション)の効果でも賄い切れなかったらしい。

 

意識が霞む中、それでも声を便りに

一方通行(アクセラレータ)】で疾走する俺の視界は遂にウィーネを捉える

 

しかし、そこには見知った竜女(ヴィーヴル)の姿は無く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴライアス、だと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜の鱗を纏った女形の巨人が、多数の魔導師が完成させた『魔法』の一斉砲火を打ち砕くべく、その脚を振り抜ていた

 

「うそ、だろ」

 

「掻き消しやがった」

 

「ありねぇ」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!』

 

「ひっ!?」

 

「笑って・・・やがる」

 

魔法が打ち砕かれて呆然とする冒険者達に女形の巨人は、まるで力に酔しれてるみたいに壮絶な笑みを浮かべ

 

更なる力を試そうと拳を引き絞った

 

「お前ら、逃げろぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

黒鐘 色は叫んだ、あそこで冒険者を殺されたら全てが終わると感じたからだ。同時に頭の中で痛いぐらいに警鐘が鳴り響く

 

あの構えは、酷く色の頭の中にこびり付いている記憶の一つだ

 

何でだよッ!!ウィーネ!!!

 

それは嘗て戦った最初の障害が最後に放った技

 

何でお前が!!!

 

正拳付き、ウィーネの構えは正しくあの時のゴライアスと酷似していた

 

どうしてッ!!!!

 

そして、その指先にはヴォルフから渡されたと嬉しそうに語っていた、竜華槍(ドラミ)が装着されている

 

「止まれぇえええええええ!!!!ウィーネェエエエエエエエエエ!!!」

 

アイツ(ウィーネ)は理性の宿った瞳で、確実に冒険者(外敵)を殺そうとしていたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その貫手は巨体に似合わない速さで冒険者に迫った。

 

故に、色が割っては入れたのは奇跡に近い。

貫手を放つ時に出した足の力が、大地を震わせ地面を崩壊させる

 

故に、色が紅石を額に嵌めれたのは奇跡に近い。

 

そして、夥しい程の血液が竜女(ヴィーヴル)に戻ったウィーネを真っ赤に染め上げた

 

故に・・・体の中心に大穴が空いている色が生きているのは奇跡に、近い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しき?」

 

「・・・ぅ」

 

喋れない、それは当たり前の事だ。胸に大穴を空けられ、生きている人間なんていないのだから

 

「しき、なんで?」

 

ウィーネは理解が出来なかった。だって彼女は自分を傷付けようとするものを殺そうとしていただけなのだ

 

「ねぇなんで?しき、なんで!!??」

 

理解出来ない。どうして彼はアイツらを庇ったのか、どうして自分の前に出てきたのか

 

「しきッ!しきッ!!!」

 

どうして自分を救ってくれた人を、自分が殺しているのか

 

「やだ、やだやだやだやだやだ!!!しき、だめ!!!死なないで!!!!」

 

ウィーネは必死に色の体から流れる液体を元に戻そうとしていた、赤い液体を掬っては戻し、掬っては戻し。しかし、体からはそれ以上の液体が流れ出る

 

「冷たくなっちゃやだ!!!!だって色になにもしていない!!わたし、色になにも、なにも!!!」

 

大粒の涙が溢れ落ちて色の頬を濡らす。流れ落ちる滴は頬を伝い、鮮血で染め上げられている口元の血液と虚しく混ざりあった

 

「ありがとうって!!ウィーネね?ずっと色にありがとうって言いたかったんだよ?だから、だからお願い!!!目を開けて!?抱き締めて!!一人にしないで!!!」

 

地下通路の薄闇が彼女の潜在的な恐怖を助長させる。産まれたときから頼りにしていた少年は既に、事切れていた

 

「やだ!!やだよぉ!しきぃ、おねがいぃ!!おねがいしますぅ!!目を・・・めをあけてぇ・・・」

 

冷たく、固くなった少年を抱いた少女の嗚咽が響いた。

 

死んだ、自分を救ってくれた英雄が、自分の手で、自分の目の前で、命を散らしたのだ。

 

止めどない涙と後悔、痛みが彼女の全身を支配していく

「・・・・・ッ」

 

「しき?・・・色!!」

 

故に、それは最後の奇跡だったのだろう。死の淵から少年は引き返し、力の出ない腕を無理矢理《スキル》で動かし、ウィーネを抱き締めた

 

「しき!!しきしきしきしきしきぃ!!!」

 

抱き締められた少女は歓喜の涙を流し、抱き締め返す。

 

戻って来てくれたと、これで「ありがとう」を伝えられると

 

「ベル・・・を、たよれ」

 

「え?」

 

そんな事は有り得ないのに

 

「しき!しき!!!しきぃいいい!!!!いや、いやぁあああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

叫ぶ少女の腕の中、世界を敵に回した少年は、世界と戦う前に、呆気なく終わりを向かえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

故に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退きなさいウィーネ、こんな所で我々の英雄を死なす訳には行かない!!」

 

ここで魔術師(メイガス)が現れたのは、奇跡ではなく運命なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルド本部は騒然としていた、数々の怒号や罵声が飛び散り、耳が痛くなるほどの音声が常に流れている

 

彼女もまた、その中の一人だ

 

「だから色君を捜索してくれって言ってるだろ!!!金ならいくらでも出すんだ!!!!」

 

「ですから、今はそれ処じゃないんです」

 

「それ処だと!?君は色君の事をそれ処と言ったのか!?ふざけるな!!ボクの子供はなぁ!?」

 

「ちょっ、ちょっと落ち着いてください!?」

 

ロリ巨乳の女神は怒りの形相でギルド員に掴み掛かった。周りの人間が一瞬だけ彼女を気に掛けるが、すぐに元の喧騒に戻ってしまう

 

「あの、どうされましたか?神ヘスティア」

 

「き、君は!?」

 

背後から掛けられた声に振り向くと、見知ったハーフエルフのギルド員、エイナ・チュールが困惑しながら立っていた

 

「色君を!!色君を探して欲しいんだ!!君ならわかってくれるだろう!?」

 

必死になって語りかけてくるヘスティアに、エイナは痛々しい者を見るような目を向けた

 

「ヘスティア様、"昨日も言いましたが"黒鐘君の炎は消えたんですよね?」

 

エイナは言った、真実を。眷属(ファミリア)の炎が消えたことは初日から確認済みだ

 

「残念ですが、諦めた方がよろしいかと」

 

そしてもう既にその日から7日が経っている

 

「ふぐっ、きみ・・まで。もういい!!こんなところに頼るもんか!!!自分の足で探して来るよ!!!色君は生きてる!!ボクはあの子を信じるって決めたんだ!!」

 

「あ、ヘスティア様!?」

 

怒り脚で出ていくロリ巨乳の女神を追い掛けようとしたところで、後ろから他のギルド員に肩を捕まれた

 

「放っておけ、どうせまた明日も来るんだろう。全く、神の癖に乱心とかどうかしてるぜ!」

 

それは先程ヘスティアに絡まれていたギルド員だ、ストレスを隠す様子も無い彼は、一枚の紙をエイナに投げ渡す

 

「お前もそれ所じゃないぞ!!!またアイツが現れた、糞がッ!!」

 

「そう、ですか」

 

渡した紙と同じ物を持っていた彼は、その紙を地面に叩き付けてから踏みつけ、僅かに見える紙面を見たエイナは少しだけ目を伏せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂った帽子屋(マッドハッター)、現る!!世界を震撼させている謎の人物は、知性あるモンスターを引き連れ・・・・』

 

 

 

 

 

 




文字数が想像より多くてビックリした

次回からやっと、書きたかった話に近づいていく。




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第30話 狂った帽子屋

オラトリア、アニメ化おめ!




原作の扉絵風 黒鐘 色

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

街が朝焼けに照らされる少し前

 

早朝のオラリオに大小様々な影が跋扈(ばっこ)していた。全身を鱗で覆われている者や四足歩行でのし歩く者。その者達は正しく異形の化物(モンスター)だ。

 

彼らの進撃は止まらない。人類の宿敵はオラリオを徘徊し、蔓延るゴミに正義の鉄槌を下していた。

 

その中の一匹、石竜(ガーゴイル)にヒューマンの女性が近寄っていく、その手には棒状の武器が握られている。

 

「あらグロスちゃん、今日も朝からご苦労様」

 

「イエ、好キデヤッテイル事デスカラ」

 

ヒューマンのおばちゃんは、両手に自身の武器()を握り締め、周りにいる異端児(ゼノス)達と一緒に、何事もなくゴミ掃除を始めた。

 

暫くそのまま緩やかに時が過ぎていき、日差しが地面を暖めてきた頃、突如上空から一匹の半人半鳥(ハーピィ)が降り立たった。その背には黒い羽帽子を被った小柄な人間が乗っている

 

「てっしゅー!!【ロキ・ファミリア】に見つかった!!逃げんぞてめぇら!!!」

 

瞬間、羽帽子を被った小柄な女の子の声を聞いた異端児(ゼノス)達は、まるで訓練された軍隊かのような素早さで、脱兎の如くその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金色の髪の小人族(パルゥム)は、手元にある紙面に目を落とし、珍しく渋い顔をした

 

『怪物達がゴミ掃除!?』

 

『化物達が昼間から演説!我々は異端児(ゼノス)だ!!』

 

『怪物の歌姫、降臨!!』

 

どれもこれも、数日前までは考えられないような記事ばかり。しかしそれらは世間の間で真実として、連日取り上げられている。

 

その中でも取り分け目立つように書かれている一文を見て、更に顔をしかめた

 

異端児(ゼノス)達の親玉!!怪人、狂った帽子屋(マッドハッター)の正体に迫る!!』

 

狂った帽子屋(マッドハッター)か、一体何者なのだろうね。エルフの方で何か心当たりはないかな?リヴェリア」

 

小人族(パルゥム)のフィン・オディナは自身の体を覆う情報紙から顔だけを見せ、翡翠色の長髪から細く尖った耳を覗かせた絶世の美貌を持つエルフ、リヴェエリア・リヨス・アールヴに視線を投げ掛けた

 

「ある訳ないだろ。大体ソイツは、こないだドワーフの大男だと騒がれていたではないか」

 

「ははっ、その前は犬人(シアンスロープ)の少女だって言われてたね。ここまで情報が錯綜していると、流石に混乱してくるよ」

 

やれやれと言いながら、フィンは座っていた椅子に深く身を沈めた。それを見ていた筋骨隆々のドワーフ、ガレス・ランドロックは蓄えた髭を擦りながら、フィンに片目を向ける

 

「今回ばかりは、お前さんも参っているようじゃのう。帽子屋について、心当たり一つ出てこんのか?」

 

「いや、心当たりならあったんだ。あれだけの啖呵を切った彼なら、これだけの事を仕出かしても、おかしくない」

 

瞬間、室内に響き渡るような舌打ちが聞こえた。

 

「グダグダ煩っせぇぞフィン!要はその帽子野郎を取っ捕まえりゃいいんだろぉが!!!」

 

「ちょっと!アンタ団長に」

 

「いいんだティオネ。すまない、失言だ。謝るよベート」

 

「チッ!!何時までも死んだ奴の事喋ってんじゃねぇよ」

 

そのままベートはドアを蹴破り出ていく。周りの団員がオロオロする中、フィンは入れ替わりにドアから入ってきた人物に視線を移した

 

「あの、ベートさんは一体?」

 

「お帰りレフィーヤ、【ヘスティア・ファミリア】の様子はどうだったかな?」

 

「あ、はい」

 

困惑するエルフの少女、レフィーヤは自分の質問より団長の言葉を優先させる。

 

「えっと、やっぱり静まり返ってました。後、たまに泣き声らしきものも聞こえて、恐らくですが本当に亡くなられたのではない…かと」

 

「………そうか」

 

段々と小さくなっていく声と、少しだけ辛そうな表情に嘘は見受けられない。あれから異様に口数が少なくなってしまったロキが何の反応も示さない所を見ても嘘ではないのだろ。

 

「ただいま戻ったっす」

 

「お帰りラウル、人造迷宮(クノッソス)について何か解ったかい?」

 

レフィーヤの後から部屋に入ってきたヒューマンの男、ラウルは、ガックリと肩を落とした

 

「だめっす。ダイダロス通りに向かうだけでも賛成派に睨まれて、貧困街(スラム)にも辿り付けなかったっす」

 

「ちょっとラウル!アンタしっかりしなさいよ、シャキッとしてないからナメられるのよ!!」

 

「で、でも【イシュタル・ファミリア】の女戦士(アマゾネス)が出て来て、どうしようも無くて……」

 

猫人(キャットピープル)のアキが情けなく肩を落とすラウルに噛みつき、他の団員に宥められる。

 

騒がしくなる団員を他所にフィンは、初めて狂った帽子屋(マッドハッター)が載った情報紙の隅に小さく書かれている文字に目を走らせた

 

黒鐘 色(くろかね しき)、死亡。怪人がモンスター達の煽動を始めた同日、貧困街(スラム)に現れたゴライアスと相討ちになった所を多数の冒険者が目撃し、即死した事が明らかになった』

 

「………ティオナ、アイズはどうしてる?」

 

「えっと……今日も朝から姿が見えないかな」

 

苦笑いするアマゾネス姉妹の妹の言葉を最後にフィンは顎に手を添え、深く考える事にする。

 

冒険者に捕まらずにオラリオを動き回る怪物達、突如現れた異端児(ゼノス)賛成派や【イシュタル・ファミリア】の妨害、沈黙している【ヘスティア・ファミリア】、ギルドの待機命令、朝早くから何処かに出掛けるアイズ、黒鐘 色の死………

 

それと同じ時間に全く違う場所に現れた、狂った帽子屋(マッドハッター)

 

「君は本当に死んだのかい?」

 

フィンの呟きは団員の喧騒に溶け込み消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの声が聞こえた、俺を呼ぶ声だ。

 

その声は酷く悲痛で、聞いてるこっちが悲しくなるような音を耳に打ち付けてくる

 

起きてやるから泣くんじゃねぇよ

 

気合いでやたら重い瞼を開けていく。うっすらと光が射し込み、俺の前に見知った少女の泣き顔が飛び込んできた。

 

「グスッ……ヒック…………じぎぃ…」

 

涙と鼻水でボロボロになった少女の頬に手を添えてやる。ビクッと震えた肩に少しだけ吹き出しそうになった

 

「おはようウィーネ、何泣いてんだ?」

 

「し……き?、しき……しきっ!!しきしきしきしきしきしきしきしきぃ!!!!」

 

ぎゅっと抱きついてきたウィーネを、もう随分と抱き締めてやれなかったような気がしたので、少しだけきつく抱き締めてやる。穴が開いてボロボロの制服から涙の熱が伝わり、胸を焦がした

 

「ウィーネの前に飛び出した所までは覚えてるんだけど、そこから先はさっぱりなんだよね。説明頼むわ、フェルズ」

 

「良かった…本当に良かった………私の希望(まほう)が英雄に届いて……この八百年間は………無駄じゃなかった」

 

疲れた様子で片膝を付いているフェルズに説明を求めたら、酷く安堵しきったような声で、そんな事を呟いていた。あの、会話をして欲しいんですけど?

 

「あの~フェルズさん?」

 

「ダイジョブか!?色!!」

 

「色さん!!目覚めらレマシたか!!」

 

「色っち!!良かった!本当に良かった!!」

 

「ちょっ!?待てお前ら、抱き着くの止めろ!!死んじゃうから!?プチっと潰れちゃうから!?」

 

ウィーネが離れてくれず逃げられない俺は、最近同じパターンあったなー。とか思いながら、異端児(ゼノス)の群れに呑まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!?俺が死んでフェルズが魔法で蘇らせた!?フェルズさんアンタ、リザ持ちのヒーラーだったのか……うちのファミリアに入ってくれ!!」

 

「それは嬉しいお誘いなのだが、私はこのように体が朽ち果ててしまっていてね。背中の【神聖文字(ヒエログリフ)】が消えているから『改宗(コンバージョン)』も【ステイタス】の更新も出来ないんだ」

 

「そっかー、それは残念だ。それは兎も角、ありがとなフェルズさん」

 

「礼には及ばないよ。さん付けもいらない、良かったら今まで通り、フェルズと呼んでくれないかな?」

 

「お、おう。ありがとな、フェルズ」

 

という風な会話をしている俺達の現在地は、人造迷宮(クノッソス)の一室だ。と言っても、蘇った俺をあまり動かしたくなかったらしく、殆んど地上と同じ位置に装備やリヴェラで奪っ……救済した食料を持ってきて、立て籠っているらしい。

 

「む~、フェルズばっかり色と喋ってる」

 

不満そうに声を漏らしたのは、俺の胡座の上にチョコン座っているウィーネだ。蘇ってからずっと俺の側から離れず、くっついてくる可愛らしい少女の頭を撫でてやる事にする。

「えへへ~」

 

「おいウィーネ!お前は少し色とベタベタし過ぎだ!!」

 

「そうデス!私ダって色サンに抱き締メテもらいタイ!!」

 

「ラーニェもレイも落ち着いて……交代制にしましょう」

 

「それでは、今後の話をしようか」

 

後ろから聞こえる女の子(ゼノス)達の姦しい声を無視して話を進めるフェルズさん、流石っス。

 

「あー、その前にちょっと不味い事になってる」

 

「不味い事?体の具合が悪いのなら、もう一度私の全治魔法で……」

 

「いや、そうじゃなくて……多分なんだけど…………」

 

魔法の詠唱を始めようとしたフェルズを手で制し、起きた時からずっと感じていた背中の違和感を話した

 

「俺の『神の恩恵(ファルナ)』が無くなってるぽいんだが……」

 

「―――はぁ!?」

 

驚愕するフェルズに苦笑いする。うん、何かさっきから反射もレーダーも出せないんだよね。時々感じる背中の熱っぽさも全く感じないし。取り敢えず服を捲って背中をフェルズに見せてみた

 

「どう?」

 

「あ、あぁ、確かに無くなっている。私も初めて蘇生魔法を使ったのだが、まさか『神の恩恵(ファルナ)』が無くなるとは……」

 

「お、おい色っち。それってかなりヤバイんじゃないか?」

 

「ヤバイって言うか不安かな。ほら、お前らで言うと、いきなりダンジョン一階のモンスターになったみたいな?」

 

「ッ………」

 

え、なにその悲壮な顔。周りの皆も俯いてどうしたの?

 

「あれだ、そんな気にする事ねぇよ。『神の恩恵(ファルナ)』だったらヘスティアに付け直して貰えばいいんだし、問題はここから鐘楼の館までどうやってバレずに行くかだな……」

 

「もういい、色っち」

 

「………何て言った?」

 

「もう、俺っち達に構わないでくれって言ったんだ」

 

聞き間違いだと思った言葉を、今度はハッキリと声に出して言われた。他の異端児(ゼノス)達の顔を見ても真剣な表情をしていて、唯一見えない顔は、後ろから抱き締めているウィーネだけだ。その少女も今は黙りコクっている

 

「私は…私達は貴方二感謝いてイマス。アノ時家族だと言ってクレテ、心の底カラ嬉シかった」

 

「アァ、ダカラコソ私達ハ。コレ以上私達ノ事デ、色ガ傷付ク事ガ我慢デキナイ」

 

「と言うわけだ。本当に色っちには感謝してるんだぜ、でも俺っち達の為にあんなにボロボロになって、死んでまでッ………」

 

その言葉を最後にリザードマンのリドは声を殺して泣き出した。他の面々も、腕の中のウィーネも方を震わしている。唯一フェルズだけが、その光景を静かに見守っている

 

ゴスッ

 

人工の壁に鈍い音が鳴り響く、ウィーネを退かし立ち上がった俺が、リドを殴った音だ。『神の恩恵(ファルナ)』が無いから殴った拳が超痛かった

 

「い、いきなり何を?」

 

「お前らってバカなのか?」

 

全員を見渡しながら行った言葉に、返って来たのは沈黙。この際だ、言いたいことを言う事にしよう

 

「あのさぁ、今ここでお前らが引き返してダンジョンに戻って何になるんだよ?このまま泣き寝入りするつもりか?」

 

「あぁ……そうだ。でも、ほとぼりが覚めたら」

 

「違う違う、言い方が悪かったな。俺が言いたいのは、俺を殺してまでここまで来たのに、泣きべそかいて引き返すのかって聞いてんだ」

 

「………色っち。それってどういう」

 

リドの目の色が変わった気がするが、構わず続ける

 

「お前らが何をしようとしてるのか言ってやろうか?必死になってお前(異端児)達を地上で生活させようとしている俺の努力を踏みにじろうと……俺の命を何も考えずにドブに捨てようとしてんだよ!!」

 

「ち、ちがう!!俺っち達は真剣にアンタに恩返しをしようと考えたんだ!!!でも、俺っち達は……モンスターは!!アンタの側に居るだけで迷惑を掛けちまう!!だからもう、放って置いてくれ!!!」

 

「お前らがここで逃げて俺の為になると本気で思ってんのか!?ちったぁ足りない頭で考えやがれぇ!!!」

 

何かを堪えるように下を向いたリドと感情に任せ掴み掛かった俺の叫び声が、迷宮中に反響する。お互いの荒い息が静寂を許さず、もう一度口を開こうとした所で今まで黙っていたフェルズが口を開いた。

 

「ここで逃げる事は、私も反対だ」

 

「フェルズ。まだ色さんヲ戦わせるつもりですカ……」

 

「外道メ」

 

「骨め」

 

「鬼畜野郎」

 

「待てっ、誹謗中傷は止せ!そして骨も関係ない!!後、ラーニェの鬼畜野郎が一番心に刺さるから、話を最後まで聞いてくれ!?」

 

他の異端児(ゼノス)達の散々な言われようにフェルズが叫び返す。俺の命を救った事で感謝はされていると思うが、多分好感度が足りないのだろう。後、骨だし

 

「いいかい皆?色君は大衆の前で、君達異端児(ゼノス)の事を家族だと言ったんだ。そんな彼が今更オラリオで普通に暮らせると思っているのかい?」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

驚き一斉に目を見開く異端児(ゼノス)達にフェルズは続ける

 

「人類は彼の事を消し去ろうとするだろうね。どんな手を使っても」

 

「う……そ」

 

ウィーネ声が震えた

 

「なんだよ、それ………なんだよそれ!?」

 

「そんな、それじゃあ私達は一体……」

 

「取リ返シノツカナイ事ヲ……」

 

「フェルズうっさい、空気読め」

 

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

 

いや、え?って言いたいのは俺の方だからね?人類が俺の事を消し去ろうとするって何?大袈裟過ぎだろ……。まぁいいか、ビックリして頭冷えたし。クールになろうぜ色。

 

「いいかよく聞け。お前らがここでする事は差し伸べられた手を振りほどく事じゃねぇ。俺の手を取って、どうやってもっと上まで行けるか考える事だ」

 

「もっと」

 

「上まで?」

 

疑問符を浮かべる異端児(ゼノス)達をゆっくりと見渡し、溜め息を一つだけ落とした。

 

「ちっちぇんだよお前らは。地上への進出が夢とか、俺に迷惑を掛けたくないから放っとけとか、考える事が一々ちっちぇ。大体、お前らの地上への進出なんかは俺の中では確定事項だ」

 

そこで俺は言葉を区切り、異端児(ゼノス)達にむかって口元を三日月に歪める

 

「十日だ」

 

「は?」

 

その声は誰の声だったのだろうか。酷く狼狽したような声が聞こえたけど、まぁいい

 

「十日でお前らが地上で生活出来るようになるまで持っていってやる。その為の作戦も考えてあるし、お前らにも働いてもらうぜ?だから今更ダンジョンに帰るなんて言われても迷惑にしかならねぇんだって」

 

「いや!?でもそれじゃあ俺達はまたアンタに」

 

「だから!」

 

よし、深呼吸をしよう。今から言うことは恥ずかしい事じゃねぇぞ、こいつらを納得させる為に仕方なく言うんだ。

 

「俺に恩を返すって言うんだったら、地上で生活出来るようになってから飯でも奢ってくれ。豊穣の女主人って飯屋が旨いからそこ貸し切りで。勿論、自分で働いて稼いだ金でだぜ?」

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

無理矢理笑顔を作った自分の顔に血が上っていくのが分かる。やっぱ恥ずかしいわ、自分から恩を返せなんて普通言わねぇだろ。多分俺の顔は真っ赤だ、暗がりで助かったぜ!!

 

「プッ」

 

「「「「「「ぶはははははははははははははははは!!!!」」」」」」」

 

誰かが吹き出したかと思ったら、それを筆頭に大爆笑に包まれた。笑いが笑いがを生み、迷宮全体に広がっていくようだ。俺の顔が体感三度は熱くなった気がする

 

「ちょっ、そんな笑う事ねぇだろ!?」

 

「クハハハ、わ、悪い色っち。でも駄目だ、笑いが止まら………クハハ」

 

「クスクス、色さん貴方は最高デスね」

 

「フフフ、ミスター色。貴方の考えはわかりました、どうやら間違っていたのは私達のようです」

 

「ククッ違いない。本当に私は馬鹿馬鹿しい事を考えていたようだ………そうだな、先の事は彼等が地上に出てから考えよう」

 

「色!大好き!!」

 

「おふ。ウィーネ、今はベクトル操れないからいきなり抱き着くのは…………だぁー!お前らいい加減黙れ!!!」

 

ウィーネに抱き着かれながら、目尻に涙を浮かべて笑い続ける異端児(ゼノス)達に俺は怒鳴る。【ステイタス】があったら力づくで止めてやるのに!

 

因みに、笑いが収まった後俺の【神聖文字(ヒエログリフ)】を刻み直す為にフェルズがヘスティアを連れてくる事になったのだが、その時の騒動の方が大きかったりする。

 

神様って自分の『神の恩恵(ファルナ)』が消えた事が分かるのな。涙と鼻水で顔をボロボロにしながら泣き着いてくるヘスティアを慰めるのが大変だった。ちょっとウィーネちゃん、今【神聖文字(ヒエログリフ)】刻み直してるから、対抗して抱き着いてくるのは止めなさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰ったぞー」

 

幼げな声と共に最硬金属(オリハルコン)製の重厚な扉が開かれ、人造迷宮(クノッソス)異端児(ゼノス)達が入ってくる。ワイワイガヤガヤと騒がしくなる迷宮の中を歩く彼等の顔は、一仕事終えた人間の様にスッキリしていた。

 

「ご苦労様~、朝飯作ってあるから皆で食べてね」

 

「サンキュー(あね)さん。よっしゃ皆!今日は午後から講演会すっから腹一杯食べるぞ!!!」

 

「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」」」」

 

リドの掛け声と共に号砲の様な大声が轟いた。それを耳を塞いで見ていた姉さんと呼ばれた人物、ミィシャ・フロットは苦笑いを浮かべながら、食事をしている異端児(ゼノス)達からそっと離れていった。

 

ミィシャが向かった先は人造迷宮(クノッソス)の扉からかなり離れた所にある会議室だ。ドアを開け中に入ると、黒い制服を着た少年が椅子の上で胡座を掻きながら、机の上にオラリオの地図を広げていた

 

「色く~ん。もう皆帰ってきたから呪詛(カース)解いても大丈夫だよ~」

 

「はっはっはっ。あの大声聞けば誰だってわかりますよ、姉さん」

 

「次私の事を姉さんって呼んだらブッ飛ばすからね?」

 

「ウィッス」

 

一瞬で謝った色だが、彼女はまだ許していないのか、頬をぷっくりと膨らましながら睨み付けている。第三者が見れば可愛らしい姿だと思うが、彼女を怒らせてブっ飛ば(情報漏洩)されては堪らない色は頬をひきつらせた

 

「そ、そんな怒らないで下さいよ。大体、バーバルちゃんだって異端児(ゼノス)達だって呼んでるんだし別に俺が呼んでもいいじゃないっすか……」

 

「む~、あの子達はいいけど色くんはダメ」

 

「なんで!?」

 

フンッとそっぽを向くミィシャに色は狼狽する

 

「色君はもうちょっと私に遠慮するべきだと思うよ?【イケロス・ファミリア】攻略だって、他のファミリアから抜き取った情報を私がしっかり纏めたからこそ、安全に人造迷宮(クノッソス)を進めたんだし。あの子達の食料を運ぶ道順(ルート)が安全なのだって、私がギルドを(かい)して色君の呪詛(カース)が効かないぐらい強いファミリアを違和感が無いように配置しているお陰なんだからね?それなのに勝手に外に出ちゃうわ、作戦の実行日を早めるわ、バーバルちゃんの事だって………」

 

「はい、はい、すみません、すみません」

 

正座をして平謝りする色に、ミィシャは容赦なく説教を始める。それを見ていた黒衣の人物が、流石に色が可哀想だと声を掛けた

 

「ミィシャ、それぐらいにしてあげたら」

 

「フェルズさ~ん?貴方が勝手に出て行ったから外に出る異端児(ゼノス)達の先回りが出来なくて、【ロキ・ファミリア】に見つかったんですよ~?」

 

「うっぐ……す、すまない色君、私は力になれないようだ」

 

向けられた笑顔に恐怖を感じたフェルズは直ぐに掌を返した。そのまま説教から日々の不満へシフトチェンジする何時もの流れかと色が目を閉じた所で、新たな人物に声を掛けられる

 

「色さん、今回の狂った帽子屋(マッドハッター)の正体がバレたようですがどうしますか………て皆さん何を?」

 

「ご苦労様ですアスフィさん。ほらミィシャさんもアスフィさんが来たんだからこれぐらいに……ね?」

 

「………しかたないなぁ」

 

今度じっくり話すからね、と言いながら離れていくミィシャにホッと肩を撫で下ろした色は、そのまま異端児(ゼノス)賛成派として協力をしたいと申し出て来たアスフィに視線を移し笑みを作る

 

「直ぐに替わりの子を用意しますね。今度は足の早い狼人(フェアウルフ)にでもしましょうか」

 

何でも無いように言う色にアスフィは渋い顔をした。

 

「あの、貴方の呪詛(カース)が優れていることは解ります。しかし、何も関係の無い一般人を巻き込むのはどうかと思うのだけど?」

 

「大丈夫ですって。危なくなる前に【食蜂操祈(メンタルアウト)】を解除すれば記憶(証拠)は残りませんし、なによりアスフィさんから頂いたクキュロプスの羽帽子のお陰で今まで種族ぐらいしか正体がバレてないじゃないですか。側にアステリオスも着けてることですし、身代わりが危なくなることなんて万に一つもありませんよ」

 

色の言葉に薄気味悪さを感じたアスフィは、顔を強張らせながら「そうですか」と呟き一歩を身を引いた。そして先程の喧騒を行った人物とは別人のように黙ってるミィシャと、常に漆黒のローブを被りながら同じく一言も発しない魔術師の二人の視線に貫かれ、無意識の内に視線が下を向いてしまう

 

それからアスフィにとって不気味なほど長く感じた無言は、ここの作戦部屋に許可無く入ることを許されている一人の神人(じんぶつ)に壊される

 

「ヤッホー!ただいま帰ったヘスティア様だぜ?色君元気にしてたかい!!」

 

「あ、神様ズルい!ワタシも帰って来たよ!色ッ!!!」

 

「おう、お帰り二人とも」

 

挨拶も程々に飛び込んできたロリ巨乳の女神様と、遅れて飛び込んできた竜女(ヴィーヴル)の少女を《スキル》を使い軽く受け止めた色は、二人から情報を聞くために耳を傾けた

 

「今日もギルドの奴等は色君が死んだと思い込んでたぜ!まったく、それにしても実に不愉快だよボクは!!口を揃えて色君は死んだ!!って言っちゃてさ!あと今日なんか頭がおかしい女神様って陰口叩かれたんだぜ!?」

 

「色聞いて!わたし神様のぼでぃーがーどしてたら透明マントが取れそうになって大変だったんだよ!!それでねそれでね」

 

「うん、取り敢えず一人ずつ喋って。聞き取れないから、俺聖徳太子じゃねぇから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、もうそこまで来てるのか。流石は色君だ」

 

「いや、俺だけの力じゃねぇよ。ミィシャさんやフェルズ達、協力してくれる皆がいたからだ。呪詛(カース)を使ってる最中はちょっと走っただけでスタミナ尽きるしな、人造迷宮(クノッソス)の中に居るとき何か殆んど走ってねぇし」

 

そう言いながら苦笑いを浮かべる俺に、背中に乗っているヘスティアは【ステイタス】を更新しながら会話を続ける。

 

「まぁそのお陰で魔力の上がり方が凄いわけなんだけどね。ていうか、どれだけの無茶をすれば、この短期間で耐久値がカンストするんだい?」

 

「そりゃあ一回死ねば……アイタッ、ごめん謝るから針を突き刺さないで下さい!!!」

 

「君はほんとうにッ!!ボク達がどれだけ悲しんだと思ってるんだ!!!ベル君なんか見てられないぐらい酷かったんだぞ!!」

 

「悪かった!謝ります、謝りますから!!俺の背中血だらけになっちゃう!?」

 

そうして二人で騒いでいる内に更新が終わったらしい。ピョンと俺の背中から飛び降りたヘスティアは、バベルで直してもらった傷一つ無いピカピカの制服を投げ渡してきた。

 

「まぁいいさ、生きててくれたんだしそれでチャラだ。そんな事より本当に今日イシュタルの所に行って、こんな事をするのは最後にするんだろうね?」

 

「一応保険として最終日まで残しておくけど、大々的にするのは今日で最後にするつもりだ。ぶっちゃけ貧弱生活も限界だからな」

 

渡された制服を着ながら喋っていると、顔に掛かったシャツ越しにヘスティアの溜め息が聞こえる。安堵によるものか呆れたものかは分らないが、その深い溜め息に複雑な感情が込められている事だけは分かった。

 

「本当は今すぐにでも止めたいんだけどね。ボクから見ても、これから始める事は正直無茶だと思うぜ?それでもここらで辞める気は無いんだろう?」

 

「おう、約束したからな。それに俺の世界にはこんな言葉があるぜ」

 

着替え終わった俺は真っ直ぐにヘスティアの青い瞳を見つめた

 

「無理を通して道理を蹴っ飛ばす!!」

 

「それ言ったキャラ確か死んでるよね?」

 

「一回死んでるからフラグは折れてる筈」

 

一瞬で突っ込まれた。ベルの食い付きが良かったからリピートしまくったのが裏目に出たらしい。いっつも兄貴が死んだ所の話で泣くんだよなぁ、アイツ

 

「今度死んだら許さないからね、色君」

 

「おう、俺を誰だと思ってやがる!!」

 

ドヤ顔で決めてみた俺に、ヘスティアはまたなにか言おうと口をモゴモゴさせたが、それを飲み込み同じくドヤ顔を向けてきた

 

「キミは【ヘスティア・ファミリア】の副団長にしてボクの眷族(ファミリア)自慢のエースだ。だからこんな所で死ぬ事を禁ずる、これは主神命令だぜ?黒鐘 色(くろがね しき)

 

「その命令確かに承ったぜ神ヘスティア」

 

そう言いながら渡された黒い羽帽子を、芝居掛かった動作で片膝を着きながら恭しく受け取り、頭に被った。

 

両手には黒籠手(デスガメ)を装備して、正しく完全武装である

 

「それじゃあちょっくら行ってくるわ」

 

神出鬼没の怪人、狂った帽子屋(マッドハッター)が向かう先は歓楽街にある【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)

 

「さて、オラリオ攻略作戦γ(ガンマ)を始めるとしましょうか」

 

彼の迷宮都市(オラリオ)攻略作戦は最終段階に入ろうとしていた

 

 

 

 




まだオラトリア新刊読んでない、皆さんは読みましたか?


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第31話 神意

ある二人の神の思惑を中心に書いています


『みんなー!!今日ハ私達のライブに集まってクレテありがとー!!!』

 

「「「「「「うぉおおおおお!!レ~~イッちゃ~~~ん!!!!」」」」」」

 

『それじゃあ皆の為に歌っちゃうヨ!!!第一曲目!!!』

 

歓声は歓楽街中に響き渡った。ステージの中心に立った歌人鳥(セイレーン)の周りで、軽快に楽器を演奏するのは竜女(ヴィーヴル) 蜘蛛女(アラクネ)等の美しい顔立ちの女性(モンスター)達だ。

 

最初は彼女達も人気の少ない路地の広場でひっそりと活動していた。しかし、並外れた努力とプロデューサーKUROGANEのお陰で、歓楽街の一等地でライブ出来るまでになったのだ。

 

『大丈夫!さぁ前に進もう!!太陽を何時も胸に!!!』

 

彼女達は音楽を奏でる。プロデューサーKUROGANEのSUMAHOから盗み取った音と歌詞を、そのまま全力で奏で続ける。

 

KUROGANEは言った

 

大丈夫、版権なら問題ないさ!異世界だもの!!

 

『それじゃあ二曲目!!share the world!!』

 

「「「「「「「おおおおおおおお!!!!!!」」」」」」

 

その言葉の意味を理解していない。しかし、熱い想いは受け取った。

 

彼女達の熱いライブは歓楽街を越え、人類とモンスターの垣根を越え、オラリオ全域、いや全世界に響き渡る程に勢いを増した。

 

数日後、海に出るファミリアが続出したとかしないとか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)

 

美の女神によって贅の数々が用いられ建てられた【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)は、【フレイヤ・ファミリア】やベル達に半壊させられた時と比べて、更に豪勢に建て直されていた

 

有名な名匠が彫った獅子が刻まれた金の柱や、金剛石(ダイヤモンド)が散りばめられた魔石灯(シャンデリア)、まるで王宮のようにそびえ立つ建物の中には、足が抜けるのでは無いかと思わせる程に柔らかい赤絨毯(レッドカーペット)が敷き詰められている。

 

その上を我が物顔で歩く一羽の鴉

 

黒い羽帽子に黒い髪、黒い制服に黒い靴。全身真っ黒に包まれた少年、黒鐘 色はこの王宮の主が居る扉の前で立ち止まった

 

「ちょっと待ちなッ」

 

声を掛けられたので扉の取っ手から手を放し振り向くと、漆黒の長髪を臀部まで伸ばし扇情的な格好をした褐色の女性。流麗なアマゾネスが一人で此方に小走りで向かって来る

 

「こんにちはアイシャさん、何時もうちの団長がお世話になっております」

 

「え?いやこっちこそ、あのポンコツ狐を助けてくれたことに感謝してるよ……ってそうじゃないッ!黒鐘、あんた今勝手にイシュタル様の部屋に入ろうとしたね?」

 

腕を掴み、行かせんとするアイシャに色は困惑の視線を送った

 

「でも本人から何時でも入ってきていいよ、て言われてますよ?」

 

「たとえそう言われても、女の部屋にノックも無しに入るんじゃないよ!!このスットコドッコイ!!」

 

「すっとこ!?………ま、まぁそうですよね。俺が悪かったです、すいませんでした」

 

テレビで聴いたことしか無いようなアイシャの罵声に困惑しながらも、色は確かにデリカシーが無かったと、自分の非を認め謝った。

 

「フンッ、解ればいいんだよ解れば…………たく、何で私がこんな事を」

 

「何か言いました?」

 

「何でもないッ!!いいかい、私が許可するまで勝手に入るんじゃないよ!!!」

 

「は、はい」

 

その勢いのまま、扉の中に入っていくアイシャ。外に音が漏れない部屋なのか、やけに静かな廊下に一人で待っている事数秒。若干息を切らしたアイシャが、半眼で「入っていいよ」と色を室内に招き入れた。

 

「お邪魔しまーす」

 

軽い挨拶をしながら中に入った色の目の前には一人の女性

 

紫水晶(アメジスト)の瞳に、それと似た色合いを魅せる編み込まれた黒髪。空色に染められたチェックのワンピースに全身を包まれて、出来るだけ装飾が外された姿は何処にでも居る町娘を連想させる。しかし、豊満な胸や、しなやかな肢体は爽やかな色香を放ち、その女性が美を司る女神だという事を否が応にも主張していた。

 

「いらっしゃい。よく来たね、色」

 

わりと殺風景な部屋の椅子に、ちょこんと腰掛けていた女神イシュタルは、まるで少女の様に黒鐘 色に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、作戦β(ベータ)は上手く行ったようだな」

 

「はい。イシュタルさんのお陰で大成功です」

 

テーブルの向こう側に腰かける女神、イシュタルさんに作戦の結果を報告し終わった俺は。用意されていた紅茶のカップを手に取り、唇を湿らせる。

 

「なに、礼を言われるような事はしていない。【イケロス・ファミリア】を潰したのだって殆んど【ヘスティア・ファミリア】の功績だろ?オラリオに異端児(ゼノス)達を認識させる作戦βだってあの子(ゼノス)達が頑張っているからこそ、賛成派閥が出来る程になったんだ」

 

「それでも人造迷宮(クノッソス)の地図を提供してくれたり、【ロキ・ファミリア】を足止めしてくれたりしたじゃないですか。本当に感謝してるんですから」

 

「ふふっ、そう言ってくれるのなら此方も有り難い。地図なんかよりも鍵の方を渡せたら良かったのだが、【ヘスティア・ファミリア】の傘下になった私達が闇派閥(インヴェルズ)に加担していると思われる訳にも行かなかったからな。まぁ、返した品がこんなに早く手元に戻って来たのは驚いたが―――流石はオラリオの危険領域(ブラックホール)って所か」

 

「あ、あはは~」

 

危険領域(ブラックホール)

 

怪物進撃(デス・パレード)から昇華(ランクアップ)した【ヘスティア・ファミリア】の新しい通り名に苦笑いする。

 

原因はミィシャさんが、ラキアから金を巻き上げた件をオラリオ中に拡散させたからだ。確かに、賄賂を勝手に渡したのは悪かったと思うけどさ、そこまですること無くね?お陰でオラリオ中の中堅派閥以下のファミリアが近寄って来ないし、入団希望者が絶望的なんだけど………そんなんだから情報の魔女(ピンクレディ)とか言われんだよ

 

食蜂操祈(メンタルアウト)】も常に何かしらの対策をしてる見たいで効かねぇし、本当に何なのあの人。凄く頼りになるけど、オラリオで一番怖い人物は?って聞かれたら間違いなくあのピンクの悪魔(ミィシャさん)を押すね。

 

「色、話を聞いているのか?」

 

「あ、はい聞いてますよ。イシュタルさんは何時も綺麗ですね」

 

「はひゃ!?な、なんだいきなり、驚かすな」

 

俺が褒めた瞬間、身体を跳ねさせて顔を真っ赤にするイシュタルさん。可愛い

 

「いやいや本当に綺麗だなって思ったんですよ。何処から見ても完璧な女性です」

 

「ひゅい!?」

 

「服装も可愛らしいですし、凄く似合ってますよ」

 

「にゃ!?」

 

「同じ美の女神でもフレイヤとは大違いですよね。あの品の無い糞女神とイシュタルさんじゃあ、正しく月とすっぽんです。どっからどう見てもイシュタルさんの方が美しいじゃないですか」

 

「!?!?!?!?」

 

「爪の垢でも煎じて飲ませてやったら」

 

「ま、まて黒鐘!イシュタル様をからかうのもいい加減にしろ!!ほら、イシュタル様もしっかりしておくれ!?」

 

「プシュ~」

 

俺達のやり取りをずっと立ちながら見ていたアイシャさんが、顔を真っ赤にして頭から煙を出しているイシュタルさんを急いで介抱する。

 

ヤベェ調子に乗ってやり過ぎた、イシュタルさんって普段は頼りになる姉御肌のお姉さんなのに、褒められたら本当に美の女神なのかよって思うぐらい恥ずかしがるよな。

 

まぁそのギャップが可愛いから、ついついからかってしまうのだが……

 

今回の件も頼んだら快く了承してくれたし、何でこんないい()闇派閥(インヴェルズ)と関わっていたんだろうか?脅されていたとかかな………フレイヤとかに

 

そんな事を思いながら、イシュタルさんが正気に戻るのを紅茶を飲みつつゆったりと待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、やべぇぞ!【凶狼(ヴァナルガンド)】だ!!」

 

「ライブハ中止ダ!!速ク逃ゲルゾ!!」

 

「えー、アンコールやりたい!!」

 

「我ガ儘を言うんじゃアリません!?」

 

「どうするんだい!?匂いで追跡されちまうよ!! 」

 

「クソッ!最近降ってなかった雨がようやく降りそうだってのに……どうする?」

 

「落ち着けお前ら!俺達には対ベート・ローガ用決戦兵器があるだろうが!!」

 

周りの異端児(ゼノス)や冒険者が、前に押し出された一人のアマゾネスに視線を集中させる

 

「と、言うわけで頼むぜレナちゃん。君の愛がベート君を落とせる事を俺達は信じてる!!」

 

「まっかせてよ!!必ずベート・ローガと子作りしてくるんだからぁああああああ!!」

 

「よしっ!!今の内に異端児(ゼノス)を安全な所に避難させろ!!俺たちも撤収だ!!!」

 

「「「「「「「酷い!?」」」」」」」

 

ピッ

 

暫くイシュタルと歓談していた色は、窓の外から届いた大声を聞いて、苦笑いをしながら立ち上がった

 

「もう行くのか?」

 

「はい、ベート君が来たらしいので――――流石のレナちゃんでも五分持たせられるのが限界かな?」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ、なにも。それじゃまた今度、紅茶美味しかったです」

 

「あぁ何時でも来てくれ。次は甘いお茶菓子でも付けよう」

 

「お、マジっすか?俺、甘いもん結構好きなんで楽しみにしときますね」

 

そう言った色は、まるで風のように素早く部屋から出て行く。後に残されたのはイシュタルとアイシャの二人だけだ。

 

「まったく、あの祭り(ライブ)全てを囮に使うか。大した男だな、あの子は」

 

「………」

 

「しかし、それほどの危険を侵してまでロキの子供の注意を引き付けて、何をする気なんだろうな?」

 

「………」

 

「アイシャ、お前はどう思う」

 

「………あのさ、イシュタル様」

 

「なんだ?」

 

今まで一言も喋らず黙っていたアイシャが口を開く

 

「いい加減、黒鐘に慣れたらどうだい?」

 

「……………………むり」

 

その少女の様な可愛らしい声に、少女の様な恥じらう表情に、少女の様な熱っぽい瞳に、アイシャ・ベルカの中の何かが爆発した

 

「アンタは男を知らない乙女かぁああああああああああああああ!!!!」

 

「おいバカ!?大声で叫ぶな!!!万が一、色に聞かれたらどうする!?」

 

「別に聞かれたって構やしないよッ!!!事実アンタは今まで何人もの男と寝て」

 

「わあああああああああ!!!まてまてまて私が悪かったからその事は言うな!!!」

 

かぁぁ、と真っ赤にした顔を隠そうともせずイシュタルはアイシャに掴み掛かった。しかし神が『神の恩恵(ファルナ)』を刻んだ冒険者に勝てるわけもなく、簡単に組倒されてしまう

 

「どうしたんだいイシュタル様!!ほら、魅了を使ってみなよ!ほらほらほらほらぁ!!!」

 

「ば、バカ顔が近い!?それに服もだ!もう少し露出を控えめに」

 

「アンタがそれを言うかぁあああああああああああああああ!?」

 

そのまま二人の取っ組み合いは続けられた。まぁアイシャがイシュタルを一方的に蹂躙していただけだが……

 

「しくしくしくしく、汚された、自分の子供に汚された……」

 

「何が汚されただッ!!…………はぁ、本当どうしてこうなっちまったのかねぇ」

 

泣きグズるイシュタルを見たアイシャは天を仰いだ。切っ掛けは恐らくフレイヤに破れたあの時だ。そう、あの時から唐突にイシュタルは『(魅了)』を使えなくなっていた。

 

原因は不明、ディアンケヒトにも見せたが解ったのは心の病らしいという事だけだった。最初は団員全員が魅了が無くなった事により、フレイヤへの嫉妬が凄まじい事になるのでは無いかと戦々恐々としていたのだが、それはいい意味でも悪い意味でも裏切られることになる。

 

イシュタルに恥じらいが生まれた。

 

恐らく生まれて初めての感覚に混乱した彼女だが、幸い魅了が使えなくなっただけで『神の力(アルカナム)』が失われた訳ではなく、元々頭が切れる彼女はこの事をアイシャを含めた信用を置ける数人の眷族にしか話していない。そして力を失った事をバレないように隠れ蓑として、【ヘスティア・ファミリア】に表面上は下ることにしたのだ。

 

「時間を掛けて力を蓄えた後、内部から【ヘスティア・ファミリア】を支配して【フレイヤ・ファミリア】に復讐する手筈なんじゃ無かったのかい?」

 

「あぁ、そう言えばそんな事も言ってたな」

 

「そんな事って………」

 

イシュタルは変わった。衣服を纏い、露出を控えるようになり、男を遠ざけ、なによりも無欲になったと言うべきか。恥じらいを理解した彼女は数日後、元のギラギラした性格が鳴りを潜め、破壊された町の復興や団員の治療の為に、集めた財を売り払い、なによりあれだけ意味嫌っていた宿敵(フレイヤ)に、大して興味を示さなくなったのだ。

 

その事には【イシュタル・ファミリア】全員が困惑、なかには嵐の前の静けさだと恐怖する者も少なからず居る。

 

「私は別に無欲になった訳じゃ無い。ただ、欲しいものが無くなっただけだ」

 

「それが無欲になったって事だろう?」

 

アイシャは思った、うちの女神は馬鹿なんじゃないかと。最近ますますポンコツ具合が激しくなって来た主神に頭押さえようとして……

 

嘲笑に止められる

 

「クククッ、違うぞアイシャ。欲しい物が無くなったという事はな、欲しい物を全て手に入れたという事だ」

 

「それは………どういう事だい?」

 

久しぶりに魅せる残酷なほど美しい笑みを見せたイシュタルに、アイシャは緊張した。

 

「黒鐘 色。あの子はね、世界の『メ』そのものなんだよ。あの子さえ手中に納めておけば全てが手に入る。富も名声も全てだ」

 

「な、なんだいその『メ』って言うのは?」

 

まるで今まで泣いていたのが演技であったかのように口許を喜悦に歪めた女神は、聞き返すアイシャに饒舌に説明を始める

 

「『メ』と言うのは『真理』であり『法』であり『恐怖』であり『勝利』であり………言うなれば様々な『権力』の事だ。疑問に思わないか?売り払った財宝がカジノの一件で倍になって帰って来たり、人造迷宮(クノッソス)の鍵が直ぐに戻って来たり、なによりあの子が味方した異端児(モンスター)達が人間と良好な関係を結ぶなんて、普通では考えられない事が起こっているだろう?――――それを起こす事象こそがあの子の(権力)、『メ』だ」

 

「はぁ!?そんなの―――」

 

反則だ

 

もしそれが本当だったのなら、女神フレイヤに嫉妬しなくなったのも頷ける。何故なら黒鐘 色が側にいるだけで例え都市最強ファミリアであろうと勝利が確定しているのだから。そんな男と接点を作るためだったら自分でも春姫を喜んで差し出すかもしれない。

 

そして、異端児(ゼノス)達が人間と一緒に居る光景に今まで何の疑問を覚えなかった自分に少しだけ身を震わした

 

「そんなに凄い力なら、無理矢理奪わないのかい?言っちゃ何だが、ヘスティア様程能天気な神じゃ奪い方なんて幾らでもあるんじゃ」

 

「お前はバカか」

 

「ッ!?」

 

鋭い眼光を飛ばされたアイシャの体が硬直する。イシュタルはアイシャに言い聞かせるように重みのある声を発した

 

「力の無い神ほどあの子が怪物のように映っている筈だ、何せ敵意を持たれただけで運命が滅びに向かうのだから。力のある神ほどあの子に興味が湧く筈だ、何せ手に入れれば極上の娯楽が得られるのだから。しかしアイシャ、この言葉を覚えておきなさい『過ぎたる力は身を滅ぼす』、例え()であっても、あんな物を手に入れてたら最後、待っているのは等しく破滅」

 

「そ、それじゃあ【ヘスティア・ファミリア】は?」

 

不穏な言葉にアイシャの瞳の奥で妹分の狐人(ルナール)の影がチラついた

 

「だからこそ、全くと言っていいほど『(権力)』に興味がない、あのロリ巨乳の女神が適任なのだろう。ヘスティアの所にいる限りは安心の筈だ」

 

「ほ、本当かい?」

 

「本当だ、嘘じゃない――――ふぅ、少し喋りすぎたな。すまないが冷たい飲み物をくれないか?」

 

そこでイシュタルは言葉を区切った。女神のお墨付きを貰いホッとしたアイシャは、冷たい液体がなみなみ注がれたコップを素早く用意する

 

「コクコク………」

 

「あ、そう言えばイシュタル様」

 

「コクコク?」

 

飲み物を飲みながら視線を寄越してくる美の女神

 

「押し入れに突っ込んだ黒鐘のグッズはどうするんだい?」

 

「ブッフォ!?」

 

鼻と口から液体を噴出する美の女神

 

「ちょっと、汚いじゃないか」

 

「ゴホッ!ゲホッ!い、今いい感じに締め括ろうと………」

 

「あぁそれと、黒鐘の好みに合わせて服装を変えるのは何も言わないけどさ。いくらアイツのファンクラブから買い取ったからって、流石に他人の物で自」

 

「わああああああああああ!!!だまれだまれだまれそれ以上喋るなあああああああああ!!!!!」

 

顔を真っ赤にして再度掴み掛かった美の女神の絶叫は、声が外に漏れない使用の部屋の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が深くなり、月が雲に覆われた闇の中、俺は一人で街道を走り抜ける

 

「そろそろヘスティア達が到着いた頃かな、俺もスピードアップ!!」

 

深夜だからか、やけにテンションが上がった俺は、レーダーで回りに誰もいないこと確認しながら叫んだ。そのまま迷宮街を最速で駆け抜け、人造迷宮(クノッソス)の扉を鍵で開き、中に入った。

 

「おぅ?何だこれ?」

 

瞬間、体に違和感を覚えた俺は背中を擦る

 

背中の熱が消えた?

 

それは唐突な変化。再度『神の恩恵(ファルナ)』を刻まれた時からずっと感じていた熱がスッと冷めたのだ。今まで感じてきた熱より物凄く熱かったから風邪でも引いたのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。一体どういう条件で熱が出るのだろうか?その事に疑問を抱いていると目の前に見知った人影が現れた。

 

「あれ、どうしたんですか?」

 

通路の壁に体を預け、待っていたのは水色の髪と眼鏡を掛けた冒険者、アスフィさんだ。俺に気づいた彼女は真剣な眼差しを向けてきた

 

「色さん、作戦の方はどうなりました?」

 

「作戦ですか?異端児(ゼノス)達も上手い事動いてくれた見たいで、今の所滞りなく進んでますよ。」

 

「そう………ですか」

 

俺の言葉を聞いた彼女は少しだけ顔を俯かせた。何かあったのだろうか?

 

「あらかじめ決めておいた道筋(ルート)が【ロキ・ファミリア】に封鎖されました」

 

「はぁ!?」

 

いや、それ不味いじゃん!!かなり不味いじゃん!?

 

「ミィシャさんが考えた道筋(ルート)がバレたのか!?」

 

「いえ、【ロキ・ファミリア】の団員の独断行動らしいです。それより別の道を進みましょう。ここからだと二十番街に抜ける道が最適です」

 

そのまま彼女は走り出した、どうやら先導してくれるらしい。レーダーで他の生物が居ないことを確認しながら後ろに続く

 

「あの、独断行動ってどういう事なんですかね?」

 

「詳しくは知りませんが、ファミリアの幹部が一人陣取っているようです」

 

走りながらされた説明に頭を捻った。幹部つったらLv.6以上は確定か、ベート君は無いだろうし、ティオナさん達かな?うーん【ロキ・ファミリア】で独断行動する人間って………

 

そこで俺の思考は止められる、何故なら

 

先行していたアスフィさんの姿が消えたからだ

 

「へ?あれ?アスフィさん!!」

 

場所は迷宮に点々と存在する長方形の大部屋、縦にも広がっている三階程ある部屋の中でレーダーにすら感知出来なくなった彼女を視線を回して探すが、暗がりのせいか一向に見当たらない

 

「やぁ、会いたかったよ黒鐘君」

 

聞こえた声の方向、上階を見ると帽子を被った見知らぬ男性が、此方に笑みを浮かべていた

 

「オレの名はヘルメス、あって早々なんだけど」

 

変わらぬ笑みを纏いながら男は俺を上から見下す

 

「死んでくれ、怪物達の英雄よ」

 

この男の第一印象は悪意に満ちた存在、という率直なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に現れて物騒な事を言い出した男に、色は生唾を飲み込んだ

 

「何なんだアンタ、てかヘルメスってアスフィさんのファミリアの名前じゃ?」

 

「あぁそうさ、アスフィには感謝している。なにせ君をここまで誘い込んだんだからね」

 

「なぁ!?」

 

キョロキョロと回りを見渡す色だが、そこにアスフィの姿は見かけられない。当たり前だろう、ヘルメスはこの時のために様々な対策を練っているのだから

 

「悪いが君のレーダーじゃ彼女は捉えられないよ。厄介な呪詛(カース)も自分より高いLv.相手じゃ意味がないんだろう?」

 

帽子を目深に被った超越存在(デウスデア)は、陰る燈黄色の視線で動揺する色を見つめた

 

「君を救うために、とある少年が窮地に立とうとしている」

 

黒い怪物を見つめる神の相貌が細まる

 

「そして全てが丸く収まったとしても、その栄華を手に入れるのは君だ。オレはそれがどうしても我慢ならない」

 

「なに……いってんだ」

 

「君は彼に散々迷惑を掛けている自覚がないのかい?この一件、どう見たって君が厄介事(ウィーネ)を招き入れなかったら起こらなかった筈だぜ?今ごろ何事も無いように迷宮探索をしている筈なのに、今やオラリオ中―――いや全世界全ての人類を敵に回そうとして君の家族(ファミリア)を不幸に陥れている。ははは、正しく不幸を呼ぶ鴉だ」

 

「………」

 

嘲笑、嘲笑う、そんな表現が正しく反映された表情で笑うヘルメスを色は無言で見つめた

 

「世界は『英雄』を欲している。そしてオレは、あの白い輝きに全てを賭けたんだ。そして君は存在しているだけで、あの白い輝きを黒に染め上げるのだろう。そんなことは…………そう、あってはならない」

 

まるで舞台の役者のように両手を開いたヘルメスは語った。色もまた、同じように帽子を目深に被り視線を隠す

 

「…………なるほど、俺がベル達に迷惑を掛けているから死んでくれ、そう言うことだな?」

 

「理解が速くて助かるよ。なに、別に本当に命を絶てなんて言わないさ、ベル君達とは関わらず、オラリオを出てひっそりと暮らしてくれればいい。外までの道程ならオレの【ファミリア】が手厚く送ろう」

 

神意を聞かされた色は―――

 

「屁だな」

 

「………は?」

 

超越存在(ヘルメス)に向かって三日月の笑みを浮かべた。

 

「お前は聖人君子の正論を並べているつもりかもしんねぇが、実際に汚ねぇ口からプープー漏れてんのは屁だ」

 

「なん………だと」

 

怪物から発せられた罵声にヘルメスの目付きが変わった。下界に降りてから初めてかもしれないぐらい沸騰しそうな頭を、何時もの笑顔の仮面を被ることで治める

 

「はは、言ってくれるね、黒鐘 色。それじゃあ君はこれからもベル君に迷惑を掛け続けるのかい?」

 

「黙れニヤケ野郎。俺がベルに迷惑を掛けた?俺がアイツを黒く染める?ハッ、全てを賭けた何て言ってる割りには、うちの団長をえらく過小評価してくれるじゃねぇか」

 

それは絶対の自信、そして信頼

 

「ベル・クラネルは俺が側にいるからどうのこうのなるようなちっちぇ男じゃねぇんだよ。てめぇの方こそベルに泥塗ってんじゃねぇぞコラッ!!!」

 

「……………交渉決裂だな」

 

怒気を発する色に、笑顔を引っ込め能面のような顔になったヘルメス。ハデスヘッドを被り、《魔法》と《呪詛(カース)》対策の魔防のローブを着て控えているアスフィに男神は冷酷に命令する

 

()れ、アスフィ」

 

「し、しかしヘルメス様!?」

 

「元々そう言う予定だっただろう?それにこれは主神命令だぜ?」

 

「ッ!?………殺しはしません、気絶させるだけですよ!!」

 

そう言って上階から掛け降りたアスフィは短剣を片手に持ち、籠手に包まれた両手を構える色に肉薄する

 

「あぁ、君は本当に優しい子だねアスフィ」

 

アスフィ・アンドロメダはLv.4だ。しかしそれでは嘗て格上(レフィーヤ)に打ち勝った反射を突破する事は出来ないかもしれない。故にヘルメスとその子供は彼を倒すために、反則をすることを予め決めていた

 

「さて、暫く動かないで貰おうか」

 

神の力(アルカナム)』の使用

 

超越存在(デウスデア)の神意が、黒鐘 色ただ一人に降り注いだ。それは圧倒的な力で黒い怪物を縛り上げ身動きを取れなくする。抵抗は無意味、《スキル》の発動など論外。自信が消えるかもしれない危険を侵してまで放たれた力は、文字通り色の体をピクリとも動けなくした

 

「ハァッ!!」

 

そして無防備な胸にアスフィの短剣が突き刺さり

 

パシッ

 

「!?………ッァ」

 

突き刺さる前に腕を捕まれた彼女は、生体電流を操られ大きく痙攣した後、抵抗する間もなく気絶した

 

「アスフィさんも可哀想に。こんな奴に従わなければこんな目に会うこともなかったのにな」

 

「な、なにをした!?」

 

目を見開き激昂したヘルメスに色は冷やかな視線を送る

 

「どうでもいいけど、これ以上やるつもり?アンタら」

 

「ッ!?」

 

バレてる

 

息を呑んだのはヘルメスではない、その後ろに控えている【ヘルメス・ファミリア】の団員達だ。団長(アスフィ)を鎧袖一触してのけた漆黒の瞳に見据えられた彼ら彼女らは、アスフィと同じ魔防の装備をしているのにも関わらず存在がバレたことで、言い様のない恐怖に支配された。

 

「ヘルメス……様。手を引きましょう、敵いっこない」

 

「おい、なにを」

 

「そうだ、もう逃げましょう」

 

「こ、殺される」

 

「ヒエッ」

 

恐怖は伝染する。今にも逃げ出しそうな団員達にヘルメスは歯をキツく縛り、それでもなお安心させるために笑顔を作った

 

「なぁに大丈夫さ。確かにアスフィはやられたが、こっちにはまだまだ秘策が」

 

「わああああああ駄目だ!!!殺される!?」

 

「なッ!?」

 

ヘルメスの声を聞く前に逃走する団員。それを切っ掛けに他の団員も我先にと逃げ出した、ヘルメス自身もいつの間にか犬人(シアンスロープ)の少女に抱えられており、アスフィも回収されている。

 

「お、おいおい逃げるな!!これは主神命令だ」

 

「聞けません!!」

 

脱兎の如く逃げる団員達はヘルメスの言葉を無視して足を動かす。自分の声では止まりそうにない眷族達に男神はとうとう諦め、少女に抱えられながら項垂れた

 

「結局、今回も駄目だったか………」

 

そう、ヘルメスが黒鐘 色を消そうとしたのは今回だけではない。

 

最初はイシュタルとフレイヤの衝突だった。色が【イシュタル・ファミリア】の団長(フリュネ)を師と仰いでいる情報を得たヘルメスは、春姫を救いたいベル達に殺生石の件を話し、【イシュタル・ファミリア】から春姫を救うように誘導した後、アスフィに色を足止めする事を命じた。

 

後は簡単だ。ベルを懇意にしているフレイヤに、救済に向かった彼が【イシュタル・ファミリア】に捕らえられるかもしれないと告げ、頃合いを見て色を解放するだけ。

 

目論みは驚くほど上手く成功した。何も知らず【イシュタル・ファミリア】の味方をしている黒鐘 色は、ベル・クラネルを助ける為に【イシュタル・ファミリア】に攻めいった【フレイヤ・ファミリア】の幹部達と当たり前のように衝突する。

 

しかし彼は生き残った

 

理由は、アスフィに渡させた『クキュロプスの羽帽子』を彼が脱いでいたからだ。

 

全くもって予想外、万が一フレイヤに興味を持たされないように、『ハデスヘッド』の劣化品を渡して顔を認識させないように謀った筈が、直前になって脱がれるとは。

 

あの気紛れな美の女神は予想通りに色の事を生かし、ヘルメスは次の作戦を考える事になる。

 

そうして、ラキアによるヘスティア拉致事件は起こった。

 

「もしオラリオを落としたいのならヘスティアの所の黒鐘を奪えばいい」

 

何て適当な甘言で動いてくれた軍神アレスに感謝しつつ、運が良いことに外に出たがっているヘスティアを荷台の積み荷に紛れて出してやる、と騙し上手いことオラリオの外に待機していたアレスに引き渡した。

 

後はヘスティアを天界に送還させてから、ベルを【フレイヤ・ファミリア】にでも入れるように誘導し、力を失った色を消せばいい

 

筈だった

 

誤算だったのはラキアが逃げきる前に、情報の魔女(ピンク・レディ)がヘスティアを誘拐された情報を掴み、フェルズを通じて色に伝わった事だ。

 

しかし収穫はあった、羽帽子に取り付けられている発信器を辿ったアスフィが色から有力な情報を持ち帰ったのだ。

 

探知能力(レーダー)

 

確かにコレさえあれば彼に奇襲は効かない。しかし、逆に考えればそれさえ封じられたのなら、奇襲には滅法弱くなるのではないのか?

 

そうして思い付いたのが今回の作戦だ。アスフィに『ハデスヘッド』と『魔防のローブ』を装備させ、『神の力(アルカナム)』で厄介な《スキル》を発動される前に仕留める。

 

まぁ、この作戦も物の見事に失敗に終わったのだが

 

「これからどうするべきかなぁ。どう思うルルネ?―――ルルネ?」

 

自分を小脇に抱えて走っていた犬人(シアンスロープ)の少女、ルルネが急に立ち止った。一体どうしたのだろうか?

 

「あの、ヘルメス様」

 

「なんだいルルネ、落とし物でもしたのかい?」

 

「い、いや。そうじゃなくて………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――私は今まで何をしていたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘルメスの表情が凍りついた

 

「あ、あれ?」

 

「ここはいったい?」

 

「ヘルメス様、私達はどうしてこんな所にいるのですか?」

 

なんだこれは

 

なぜ自分の眷族(ファミリア)は全員が困惑した様な表情を浮かべているのか。なぜ自分の眷族(ファミリア)は初めてここ(人造迷宮)に入ったような素振りを見せるのか。なぜ自分の眷族(ファミリア)オレ(ヘルメス)に何が起こったのかと質問してくるのか

 

「………操れる人数は一人じゃ無い?」

 

ヘルメスはようやく理解した。自分がどれ程の化け物と戦っていたのかを

 

「すべて、全てがお前の掌の上だった訳か!黒鐘 色ィ!!!!」

 

自身の団員が見たことの無いような憤怒の表情を浮かべながら、ヘルメスは迷宮に声を響き渡らせた。偽の情報を掴まされたのだ、自分の『呪詛(カース)』は単体を完全に支配するものだと、団員の反応を見るに本来は複数の存在に有効な効果なのだろう。

 

つまり、アスフィにその事を伝えた時点で黒鐘 色は彼女が裏切ることを把握していた

 

把握して泳がしていた。何故か?そんなのは決まっている、親玉(ヘルメス)を引きずり出すためだ

 

「アスフィが簡単にやられる筈だ!!用意させた『魔防のローブ』が偽物だったのなら、レーダー対策なんて欠片も機能していない!!!」

 

ヘルメスは頭を押さえた、全くもって道化。それ以外の言葉が見つからない。一体何時から自分が命を狙っていると知っていたのか、それすらも理解できないのだから。もし、もし羽帽子を渡した時点で気づいていたのなら、イシュタルの件もラキアの件も知っていて放置していたのなら――――

 

「あぁ、成る程。確かに君は化け物だよ。黒鐘 色」

 

しかし

 

「何時だって化け物を倒すのは英雄だ。どうしてこんな中途半端な所で君は『呪詛(カース)』を解いたんだい?」

 

憤怒を撒き散らす神に怯える団員達を視界に入れず、ヘルメスは口元を壮絶に歪めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、『呪詛(カース)』発動させながら走るのしんどいんじゃ~」

 

俺は予定通り、二十番街に抜ける道を走っていた。しかし、嵌めようとしていることがバレてることをアスフィさんに気付かれないように、自分に【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使ったり。あの神様を騙すために現在進行形で【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使ったりしているので、雀の涙程になった体力がギリギリと削られていく

 

「いや~、でもフェルズが気づいてくれて良かったぜ」

 

体力が限界を迎えようとしたので、二属性回復薬(デュアル・ポーション)を煽りながら今回の功労者を頭の中で思い浮かべた。

 

フェルズが『クキュロプスの羽帽子』に取り付けられている発信器を発見したのはかなり早い段階だった。流石は賢者とも言うべきか、所見で見破った彼は俺に言った「これは悪意をもって渡された物だ。何故ならこれを作った者は更に良質な物を作れるにも関わらず、あえて劣化品を君に渡している」、まぁそれを聞いた時点の俺はお世話になった人(アスフィさん)から渡された物だから、と発信器を敢えてそのままにしながら活動することにした

 

そしてアスフィ・アンドロメダが俺に接触してくる

 

幸い、異端児(ゼノス)やヘスティアにはこの事を話してないので何も言われなかったが、この事を知っていたフェルズともう一人、ミィシャさんの二人はそれはもうこっちが引くぐらい警戒していた。

 

だからつい言ってしまったのだ

 

「そこまで警戒するなら【ヘルメス・ファミリア】を調べたらいいじゃないですか。どうせなら俺も協力しますよ?」

 

そしてミィシャさんの情報網と、【食蜂操祈(メンタルアウト)】で調べた結果―――真っ黒でした。

 

もうね、あそこまで俺を殺そうとするなんて変な笑いが込み上げてきたね。これは一発ガツンとやっちゃわないと行けないと思い、一芝居打ったわけですよ。あそこまで団員を怖がらしといたら、流石にもうちょっかい掛けてこないでしょ

 

「と、もう到着か」

 

巨大な最硬金属(オリハルコン)製の扉を確認した俺は、慣れた手付きで人造迷宮(クノッソス)の鍵を掲げ、扉を開けた

 

夜の冷たい風邪が体を包み込み、反射を展開しているにも関わらず肌寒く感じられる

 

「さ、後は一直線に進むだけ」

 

そう、一直線に進むだけ。

 

の筈だった

 

両端を壁に囲まれた扉の前には、まるで俺が来るのを解っていたように、堂々と一人の人物が待ち受けていた

 

蒼色の軽装に包まれた細身の体。

 

鎧から伸びる肢体は憎らしいほど叩きのめされた物で。

 

苛立ちを増幅させる体のパーツの中で、腰まで真っ直ぐ伸びる金髪は悪逆非道の代名詞を称えていて。

 

女性から見ても華奢な体の上に、罵声しか聞いた事が無いふてぶてしい顔がちょこんと乗っかっている。

 

黒雲で月が見えない夜空の中。

 

場違いな程、黄金色に輝きながら俺を睨み付けて来るのは。

 

蒼い装備に包んだ金眼金髪の怨敵。

 

「なんでてめぇがここに居るんだ、金髪ゥ」

 

「やっぱり生きてたんだ、ゴミ虫」

 

あぁそうか、アスフィさんの言っていた【ロキ・ファミリア】の幹部の一人が陣取っているって言うのは本当だった訳だ。

 

ギリィ、と奥歯を噛み締める

 

思えばコイツのせいで要らないもの(狂った帽子屋)を用意する嵌めになったんだ、コイツが俺が向かう先々で何故か待ち構えているから

 

だからこそ今回の作戦はコイツがいままで足を運んだことの無い、ここ(二十番街)道筋(ルート)に選んだ、その筈だったのに。

 

「なんなんですかお前わぁ、ひょっとして俺のストーカー?」

 

「羽虫だったんだ、ブンブンうるさいね」

 

あぁ、もうどうでもいいか

 

元々会話なんて無駄なのだから。コイツと話すことなんて………そう、一言しかないのだろう

 

気づけば俺は走っていた。雷を纏い、ベクトルを操作し、呪詛(カース)を解除する。驚くほど頭はクリアで、体力も魔力も先ほど飲んだ二属性回復薬(デュアル・ポーション)により全快していて、【ステイタス】も更新したばかりで握りしめた拳から力が溢れてくるようだ。

 

前を見ると憎らしい金髪が同じように此方に走って来ていた

 

そしてお互いが交差する瞬間、一言だけ発した声が重なる

 

「「死ね」」

 

黒鐘 色(くろがね しき)とアイズ・ヴァレンシュタイン

 

黒籠手(デスガメ)》と《デスペレート》

 

真っ黒な空から大粒の涙が落ちる瞬間

 

黒と金の冒険者が持つ二つの不壊武器(デュランダル)が、誰の眼にも止まらない場所で、大きな火花を散らそうとしていた

 

 

 




オラトリア8巻読みました。ベート君かっけぇ!!


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第32話 VSアイズ・ヴァレンシュタイン

ここで、物語の折り返し


ナイフと鞘の激しい殴打音が市壁の上に拡散する。

 

『遠征』までの期間、『鍛練』することになった白髪の少年の動きにアイズは驚嘆した

 

(何、この動き)

 

脚捌き、と言えば正しいのだろうか?激しい動きの中、極一瞬、稀にアイズがベルを見失う時があるのだ。その理由は恐らく視線、目の前の少年は異常なぐらい敵意と言う名の死線を知覚し、それを避ける体の動かし方を自然と身に付けていた。瞬き程とはいえ、自分(Lv.6)の認識から外れるぐらいに

 

(きっと今まで沢山のそう言うもの(敵意の視線)に晒されてきたんだ。それを避れるのは臆病だから?………違う、そうじゃない)

 

そう、そんなわけがない。だって今まで一度も目の前の少年は倒れていない、武器を手放していない、勝機を見出だす眼の輝きを失っていない。

 

そして

 

「少しだけ、休憩にしようか?」

 

「ハッハッ……まだまだぁ、丁度体が暖まってきた所ですよ!!」

 

決して脚を止めようとしない。アイズと鍛練を始めた時から、もうすぐ終わろうとする今までベルは脚を止めたことが無かった。たまに魅せる特殊な脚捌き以外は拙く、何度も吹き飛ばされながら、それでも決して脚を止めずに立ち向かってくる。

 

確かに目の前の少年は臆病ではないのだろう。しかし常に全力で前に出て、自分に立ち向かってくるその姿は、迫り来る何かに追われながら生き残るために必死に光明を探している小動物()の様に感じられた。

 

「今日はここまでにしようか」

 

「ぜぇ…ぜぇ……あ、ありがどぉ……ごじゃ」

 

「無理しなくていいからッ」

 

結局ボロボロになりながらも一回も止まらず、干からびるのでは無いかと思うほど滝のような汗を垂れ流しているベルに、駆け寄ったアイズは回復薬(ポーション)を手渡した。受け取った彼は、ゴキュ!ゴキュ!と言う液体を飲む時に出してはいけない音を出しながら、失われた体力と水分を補給した後、ハッとしたような顔になり、急いで自分のポーチから回服薬(ポーション)を取り出した。

 

「す、すいませんわざわざ!!これ、お返しします!!」

 

「いいよ、その回復薬(ポーション)は頑張ったご褒美」

 

「は、はぅ」

 

微笑みながらそう言ったアイズに、真っ赤になり固まったベル。先程の鬼気迫る表情とのギャップに少しだけクスッと笑ってしまう。

 

「ずっと脚を止めなかった、君は凄いね……」

 

「え?だって脚を止めたら死んじゃうじゃないですか?」

 

脚を止めたら死ぬ。それは最近出来たベル・クラネルの常識だ、数え切れない程のモンスターが生まれ落ちる『怪物の宴(モンスター・パーティー)』、上層で普通は起きないそれが、ベル達の回りには矢鱈と起こる、それも一階層で『コボルト』と遭遇するぐらいの気軽さで。

 

だから理解した、脚を止めたら死ぬ、攻撃を止めたら死ぬ、避け損ねたら死ぬ。迷宮都市(オラリオ)に来て一ヶ月にも満たず、ダンジョン攻略の常識を浅い知識でしか知らなかった少年は、もうすでにそんな非常識を常識だと認識するほどに、とある少年に毒されていた。

 

「それに僕なんて全然凄くないですよ、あの人に比べればまだまだです」

 

「あの人?」

 

「はい、実は最近僕のファミリアに新しい団員が入ったんですけど、その人が凄く強くて―――」

 

少年は語りだす。

 

とある冒険者の英雄譚(オラトリア)

 

どんな攻撃にも怯まず、指先一つでモンスターを屠り、集団で囲まれても傷一つなく帰還する。お伽噺に出てくるような無敵の英雄を想起させるそんな彼は、最近ダンジョンに潜り始めた新米冒険者だと言うから驚きだ。

 

「ズルいんですよあの人は!この前だって………あ、すみません、アイズさんも忙しいのに!!」

 

「ううん、もう少し時間あるから。その人の事教えて?」

 

「えぇ!?―――そ、それじゃあ、もう少しだけ」

 

再開する黒い冒険者の物語。白い少年は、挟み挟み強すぎる彼に自分の不満を口ずさみながらも、どこか楽しそうに話題の尽きない彼の事をアイズに教えてくれた。

 

「それじゃあ僕もそろそろ失礼します!!」

 

「うん、また明日」

 

「は、はい!また明日!!」

 

嬉しそうに走りながら帰路に着くベルの背中を見送ったアイズは、「全身真っ黒なのが特徴です!」と熱く語られた顔も見たこともない青年の事を、モンスターに囲まれても恐れず突っ込んでいく、どこか自分に似ている同い年の男の子の事を思い浮かべた。

 

「黒鐘 色……」

 

呟いた名前が風に溶けて消えていく

 

きっと、仲良くなれる。

 

漠然とそんな気がしたアイズは、雲一つ無い青空を見上げながら、まだ見ぬ冒険者との出会いに胸を踊らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒雲に覆われた夜空の下、雷を纏い、ベクトルを操り、凄まじい速度でアイズに向かっていく黒鐘 色は自分の勝率を考える。

 

――五分五分って所か

 

それは単純に計算した結果、弾き出された解答だ。前の衝突、迷宮から出た瞬間にぶつかったあの時、色はアイズの攻撃を確かに弾き返した。つまりは力値に関しては自分の方に分があると言う事、【ステイタス】を更新してカンスト間近までに伸びているのだから尚更だ。耐久だってカンストしている、恐らくあの速くて重い攻撃も反射圏内に入っているはず。故に、一番の懸念事項は

 

ここで木原神拳とか使ってくんなよ糞女

 

アポロン戦で使われた反射返しを使われる事。一応《スキル》の情報は封鎖してある、ミィシャ・フロットに任せたので絶対に漏れてはいないだろう。しかし、万が一冒険者の勘とかいう、ふざけた理由で反射返しを使われて突破されれば堪ったもんじゃない。

アポロン戦よりも制度の高い反射が出来るようになっているとはいえ、Lv.6(アイズ)の器用値の前には意図も容易く突破されることを、計19回にも及ぶ衝突の中で色は感覚的に理解していたのだ。

 

「「死ね」」

 

そして、弓のように引き絞られた剣と拳が解き放たれた

 

迷宮の楽園(アンサーリゾート)』から始まった、計20回目の衝突。今まで見出だせなかった勝機を見出だした黒鐘 色の一撃

 

超加速電磁砲(アクセル・レールガン)――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ!?」

 

当然、そんなもの(黒鐘 色の一撃)彼女(アイズ)には届かない。

 

剣先を器用に使い、弾かれた拳。

 

そのまま振り下ろされる剣に地面に叩き付けられ、バウンドする体。

 

浮いた体に突き刺さる足先

 

「ブゴッ」

 

流れるような動作で繰り出された二撃。たった二撃で黒鐘 色は思い知らされた、自分がどう足掻いてもアイズ・ヴァレンシュタインには勝てない事を、自分の身の程を。

 

手加減をされていたのだ、今までずっと。思えば当たり前の事だろう、彼女が本気になれば色の首など当の昔に跳ねられている。そうならなかったのは、常に彼女が一定以上の攻撃をして来なかったから

 

あの時攻撃を弾けたのも、彼女は自分の団長にモンスターを生け捕りにする事を命じられていたので全力では無かった。そして、スピードに乗っていた色と空中にいた彼女。あそこで色がアイズを弾き返せたのは、そういう偶然が積み重なった奇跡に近い。

 

それを自分と互角などと勘違いするとは、なんと烏滸(おこ)がましい事か

 

「……ァガ」

 

力付くで反射を突破され、鳩尾に蹴りを入れられ、壁に叩き付けられ、くの字に曲がった体が大の字になることでやっと停止する。口元から垂れ流れた体液が、激しく降り注いだ雨に洗い流されながらも、漆黒の相貌は前を振り向いた。

 

「…………ぅ」

 

絶望(銀閃)が迫ってきている。その速さは色のレーダー(探知速度)を遥かに越えていた。それが見えるのは恐らく色の視覚や聴覚が鋭敏になっているから

 

「………ょう」

 

その感覚は知っている。色は自分が死の間際に立たされている事を理解していた。ウィーネの時と同じだ、全てがスローモーションの様になり、その景色を見た瞬間に自分の命が消え去るのは確定しているのだ

 

「【テンペスト(目覚めよ)】」

 

「ちくしょぉおおおおおおおお!!!」

 

刻が加速する

 

緩やかな視界からフッと【剣姫】の姿が消えた。一回その感覚を味わったからか色の行動は迅速だ、降り注ぐ雨の向き(ベクトル)を操り、音速レベルにまで加速させた水弾を散弾銃さながら前方に向かってぶっぱなす。

 

しかし、風の鎧はそんなもの(雨粒)を寄せ付けない。

 

分かってんだよ!てめぇにこの程度の攻撃が効かねぇなんてことは!!

 

必死に手を動かした先に触れたのは砂鉄だ。ポケットの中のそれを目潰しになればと、ばら蒔きながら指先と脚力のベクトルを操り、めり込んだ壁から無理やり離脱する

 

――ドンッ!!

 

 

超硬金属(アダマンタイト)で造られた壁に、【剣姫】の牙突が突き刺さる。そこは数瞬前に色の頭が存在していた所だ、あんなものを食らえば一撃で即死。

 

「糞がぁああああああああ!!!!」

 

黒い少年は金の少女に背中を向けて逃げ出した。

 

逃げる事しか頭の中に思い付かなかった、ここで殺されたら全てが終わる。異端児(ゼノス)もフェルズもミィシャもベル達も、だから逃げるしかねぇだろ!!

 

そんな言い訳を心の中で反響させながら無様に背中を見せる鴉に対して、空から降る液体以外の雨、斬撃の雨が降り注いだ。

 

「フッ!!」

 

「ォ……ォオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

全く役に立たないレーダーには、複数の剣線が同時に襲ってきているかのように映っている。したがって色は己の生存本能のままに両手を動かした。反射が効かないモンスターが跋扈する37階層の闘技場(コロシアム)に単身乗り込み、師事したフリュネに死ぬかもしれない攻撃の嵐を毎回受けて磨かれた生存本能は確かに黒鐘 色の力となり、【剣姫】の斬撃から生き残る為の時間を稼いだ

 

約三秒ほど

 

足りない、余りにも足りない。技術も力も駆け引きも、今まで培ってきた全てが目の前の少女に打ち砕かれ、最早色の中には勝つ等という選択肢は存在していない。頭の中にあるのは生き残る事のみ、例え無様でも、地を這いつくばってでも、生き残る、それしか無かった。

 

そして、道が出来る

 

「ゥ……ア!?」

 

僅かな隙、天からもたらされた蜘蛛の糸、溺れた時に掴んだ藁

 

何でもいい、逃げ道が出来た!!

 

その空間を色は全力で駆け抜けた。掌握できる全てのベクトルを操り、【剣姫】から逃げる事のみに費やす。道は開けた

 

「終わり……」

 

死の道が

 

「………ァ?」

 

誘導された。わざと逃げ道を作っていたのだ、確実に殺すために。気付いた時には余りにも手遅れだった。全てのベクトルを逃げる事に費やした色に、その一撃を防ぐ手立てが無い

 

再度ゆっくりとなる視界の中、とうとう色の首筋に熱が走った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いた?あの冒険者の話」

 

「あぁ、あのボロボロだった人の事っすか?」

 

「なんでもLv.1なのに、一人であのゴライアスを倒したらしいよ?」

 

「あの体術を使ってくるゴライアスの強化種をっすか!?」

 

「プッ、なにそれ?冗談言うにしても、もっとましな事言いなさいよ」

 

「だよねー、流石の私だって嘘だってわかるよ。大方、解毒薬を取りに行ったベートが、フィンの言いつけを守んなくて倒したんでしょ?」

 

「団長の命令を破ったあの糞狼には後で躾がいるわね」

 

「Lv.1でゴライアスを……」

 

「ん?どうしたの、アイズ?」

 

「え?、う、ううん何でもない」

 

リヴェラの町で噂になっている冒険者の話はアイズの耳にも確かに入っていた。Lv.1の冒険者が一人でゴライアスを撃破した、そんな荒唐無稽な話。しかし、彼女はその噂が本当かもしれないと思っている

 

黒鐘 色(くろがね しき)………君)

 

白い少年が語った英雄の名前を思い浮かべた。そう、あの無敵の英雄ならLv.1でもゴライアスを倒せるかもしれない、いやきっと本当に倒してしまったに違いない。

 

アイズは特に疑いを持たず、顔も見たことも無い彼の事を無意識に信じていた

 

(お話、聞かせてくれないかな………)

 

今はまだ無理だろう。付きっきりで看病しているベル、そして心配でベル達を追ってきたヘスティア様。特にヘスティア様の警戒(マーク)がキツくてテントにすら近づけないが、この前ベルがやっと起きたと大喜びしていたから、もうすぐ会えるはず

 

(今度は………本人から直接聞こう)

 

どうやってゴライアスを倒したのか、どうやればそこまで強くなれるのか、短期間でここ(18階層)まで来れた彼の英雄譚(オラトリア)

 

「あっれー?アイズが何もない所で笑ってる!?何か良い事でもあったの?」

 

「え!?……う、うん」

 

「そうなんだ!!ねぇ、それってどんな事?教えて!」

 

「えっと………内緒」

 

「なにそれ気になる!?」

 

騒ぐアマゾネスから視線を反らしつつ風に撫でられた金髪を整えながら、彼女は顔も見たことも無い彼から直接話を聞く瞬間を想像する。

 

(少し………楽しみ、かな?)

 

軽くなった足取りは、少し前には想像できないぐらい騒がしくなったテントの一角に向いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイズの放った不可避の一撃が、神速の《デスペレート》が黒鐘 色の首を切断する

 

事は無かった

 

「遅ぇじゃねぇか!!」

 

弾かれる銀閃、見開かれる金眼

 

そして

 

兎を想わせる頭髪

 

「ベルぅううううううううううう!!!!!」

 

「ああああああああああああああ!!!!!」

 

「ッ!?」

 

白兎の猛攻(ラビット・ラッシュ)。鴉を殺されそうになった兎は、狂ったようにアイズにナイフを振るう。その速度は第一級冒険者(フリュネ)を唸らせる物で、その力は第一級冒険者(ディックス)を切り伏せた物だ

 

予想外の一撃を死角(色の後ろ)から受けた【剣姫】は、体制を崩し、思わず後ろに下がってしまった

 

「あー、怖かった。死ぬかと思った、文字通り首の皮一枚になる所だった」

 

「それ洒落になんないからね!?僕が来なかったらどうするつもりだったの!?」

 

「団長様を信じてたんだっつうの。愛してるぜ、ベル」

 

「会って早々気持ち悪いこと言わないでよ副団長様。ここからが本番なんだからしっかりしてよね、色」

 

白と黒、兎と鴉、【ヘスティア・ファミリア】のツートップ(団長と副団長)。ベル・クラネルと黒鐘 色(くろがね しき)は何時もの様に軽い受け答えをした後、目の前の金の少女、アイズ・ヴァレンシュタインを静かに見据えた。

 

「べ……ル?」

 

「アイズさん」

 

少し困惑した顔をするアイズを、ベルは睨んだ。ずっと憧れていた憧憬の少女を、始めて睨んだのだ。

 

「このまま何も言わず色を通して下さい」

 

「…………できない」

 

雨音に消えそうな程小さく発せられた声、ベルの眉がピクリと動いた

 

「何故ですか?貴方の団長からは、色を殺害しろなんて命令は出ていない筈です」

 

「………………狂った帽子屋(マッドハッター)を捕縛しろと」

 

「貴方は!!」

 

アイズの言葉を遮ったベルはそこで一呼吸置いた。そして、激しくなって行く雨音に負けないように息を吸い込む

 

「フィン団長から帰還命令が出されていた筈だ!!」

 

「!?」

 

まるで悪戯がバレた子供のようにビクッと彼女の肩が震えた

 

「で、でも!」

 

「そしてこうも言われていたでしょう。もし黒鐘 色を見かけても、手を出すな」

 

「ッ!?」

 

ベルの言った全部が図星だった。彼女は自信の団長からの命令を無視し続けて、色をずっと探していたのだ。周りの仲間が死んだと言っても、偵察から帰った後輩のエルフが死んだと言っても、頭の切れる団長が死んだと言っても、愚直なぐらい色の生存を信じ、朝早くから夜遅くまで鴉の気配を感じては走り回っていた。そして遂に諦めたフィンから、探すのは構わないが、もし見つけたら手を出さずに尾行しろ、と言われている

 

「どうして………しっているの?」

 

それは当然の疑問。ずっと館に引き込もっていたと聞いているベルが、何故そこまで【ロキ・ファミリア】の事情に詳しいのか?

 

「いえ、少しカマを掛けてみただけです」

 

「…………へ?」

 

気の抜けた声を上げたアイズに、ベルはニッコリと笑った。隣で静観していた色は、今にも笑い出しそうなほどに顔を歪めている。

 

「プククッ………ベル聞いたか?『へ?』だって、『へ?』って。なんつー間抜けな声出してんだよウケるー」

 

「こら、ダメだよ色。やっと穏便に終わりそうなのに」

 

「へいへい、それじゃあな金髪ゥ。団長の命令通りに、大人しく尾行してろ」

 

「もう!すみませんアイズさん、後でお詫びしますから、それじゃ」

 

降りしきる雨の中、そのまま何事も無いように隣を通り抜けようとする二人

 

その二人に

 

「クッ!?」

 

「てめぇ!?」

 

斬撃が跳んだ

 

「アイズさん!?」

 

辛うじて防いだベルと色は、扉の方向へ跳ばされる。これで振りだし、両隣を壁で囲まれたその先には、変わらない黄金の少女が剣を携えている

 

「私は、【ロキ・ファミリア】の幹部。アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

【剣姫】、いや違うそこに居るのは【戦姫】

 

怪物(モンスター)を家族と言った人類の敵を、都市最強ファミリアの幹部として独断で排除します」

 

(いくさ)の姫は、自分が満足する(戦いが終わる)まで逃がさないとばかりに剣の切っ先を鴉に向けた。

 

俺の家族(ゼノス達)が人類の敵だと?………やるぞベル、ぶっ殺してやる」

 

「またそんな事言って………ふぅ、気合い入れて行くよ、色」

 

雨の勢いは増すばかりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井の水晶が『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』の朝を報せる。水晶の光にキラキラと照らされた美しい金髪を靡かせながら、金眼の少女は同じ場所を何度も何度も行ったり来たりしていた。

 

(まだ………かな?)

 

ソワソワと視線を寄せる先には一つのテント。無敵の英雄が寝泊まりしている場所がそこには有った。彼が起きたと言う知らせを聞いてから彼女は何回も、様子を伺う為に脚を運んでいる。

 

(でも、どんな話をしようか?)

 

勿論、今までの冒険の話を聞くつもりだ。しかしどうやって話を切り出せば良いのか、口数の少ない彼女は悩んでいた。

 

(だ、大丈夫……)

 

この日の為に予行練習(シュミレーション)はバッチリしている。ベルからも、何だかんだ言いながら結局は優しいお人好し、という話を聞いている。いきなり話し掛けても迷惑がられない……はず

 

「おいこらヘスティア!?抱き着くのは止めろ!!」

 

「なぁに言ってるんだ!!ボクが着替えさせて上げるって言ってるんだから大人しくしないか!!」

 

「余計なお世話だっつうの!?」

 

耳を澄ませば声が聴こえた。荒々しい口調だが、仲間の狼人(ウェアウルフ)の様な突き放す感じの声ではなく、人を惹き付ける様な、そんな声

 

(うん、色々な話を聞こう…………出来たら、ちょっとだけ強くなれる秘訣も教えて貰おう)

 

後、ずっとテントの中に居たからリヴェラの町を案内してあげて、それと一緒にダンジョンにも潜ったりして、モンスターを倒す為に共闘とかも………

 

「アイズさーん!!」

 

「ッ!?」

 

ビクッ!!とアイズの肩が跳ねる。後ろを振り向くとエルフの少女が此方に駆け寄ってきていた。

 

「皆さんで水浴びをする事になったんですけど、良かったらアイズさんも、ご一緒しませんか?」

 

「えっと……ごめん、今は」

 

拒絶されたエルフの少女は、ガーン!と肩を落とした。多少の罪悪感を感じながらも、アイズはテントから極力視線を外さないでいる。

 

「………ふ、ふふふ。そうですか、またあの男の子ですか」

 

何を勘違いしたのか、幽鬼の様にフラフラと着替えのテントに向かって行くエルフの少女に、声を掛けようとしたアイズだが、向けた足は―――動かない

 

「やぁ、キミが『ゴライアス』の強化種を単身で倒した、黒鐘 色君だね?」

 

「ど、ども、黒鐘色です」

 

居た

 

待ち焦がれた人が、聞き慣れた声が、黒髪黒目の男の子が

 

そこに居た。

 

「………ァ」

 

(話を聞かなきゃ!!)

 

予行練習(シュミレーション)なんて無意味だった。何故なら彼を見た瞬間、頭の中が真っ白になったからだ。それでも彼女は小人族(パルゥム)の団長と話している彼の元に駆ける。

 

君の冒険譚(オラトリア)を聞かせて!!

 

熱い想いで胸を焦がしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(で?仕上がりはどうなの?)

 

(オール3で1つ4)

 

(はいバケモノー!!いっつも思うんだけど、お前やっぱ頭おかしいわ)

 

(オラリオの8割を支配している色に言われたく無いんだけど?そっちの方がバケモノじゃないか)

 

(はっはっはっ………で?その化物二人が揃って、目の前の怪物を倒せる確率は何割よ?)

 

(………殆ど0かな。さっき撃ち合って分かったけど、もう一度付与魔法(エアリアル)使われたら絶対に勝てない)

 

(マジ?)

 

(マジ)

 

それは、ベルとアイズが会話を行っている時に、水面下で行われた色とベルの会話(ハンドシグナル)だ。つまり、この二人は会話でアイズの剣が引っ込むなど、微塵も考えていなかった。

 

そして、兎と鴉と剣姫。2対1の戦闘が始まる。

 

「シッ!!」

 

「「ッ!!」」

 

最初に動いたのはアイズだった。

 

漆黒のナイフと紅刀を前方に構えるベルと両手両足を地に付けている色に、神速の三連撃が見舞われる。自分達の反応速度を遥かに越えた剣撃に、鴉と兎は反応した。

 

「フッ!!」

 

「チィッ!!」

 

そう来る事は予め分かっている。ずっと訓練を受けてきたベルに何回も戦ってきた色、二人はアイズの癖を把握していた。把握していたからこそ、この最初の攻撃で反撃(カウンター)を決めなければ、そのまま敗北まで持って行かれる事を感じ取った。

 

キィィイイイイイイン!!!

 

剣腹を激しく叩き付けた音が響いた、色に向かっていた剣閃を《神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)》で反らしたベルは、逆手に持った紅刀をアイズの脇腹に走らせる

 

「クッ!?」

 

「オラァ!!」

 

咄嗟に手刀で弾いたアイズ、その頭に色の《黒籠手(デスガメ)》が叩き込まれた。それを僅かに体を反らすだけで避けたアイズに今度はベルのナイフが突き刺さる。弾いたアイズに色の蹴りが、避けたアイズにベルの刃が、ベルの色のベルの色のベルの色のベルの色のベルの色の――――――

 

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

「ァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「ッ!?」

 

兎と鴉の猛襲(カオス・ラッシュ)

 

二人の攻撃は止まらない。それは【炎金の四戦士(ブリンガル)】の様な完璧な連携(コンビネーション)ではなく酷く歪な共闘。当たり前の事だ、面制圧を得意とする色に、一点突破を基本としているベル、そもそもの戦闘の形(スタイル)が違う。しかし、だからこそ隙が無い、呼吸を合わせようともしない二人の歪な共闘は、歪だからこそアイズに反撃を許さない。動きを合わせようともしない二人の噛み合わない共闘は、噛み合わないからこそアイズに《魔法》を使わせない。歪なのにカッチリ合った二人を例えるなら、鍵と鍵穴。

 

ずっと二人でダンジョンに潜って来た二人だからこそ出来る闘い方、ずっと二人で高め合ってきたからこそ出来る戦い方、無呼吸で繰り出される攻撃は、息が合わないからこそアイズ・ヴァレンシュタインを追い詰めた。

 

「ハッ!!」

 

「イッ!?」

 

「ベッ!?」

 

嘗めるな

 

そう思わさせる程に強く振り抜かれた一閃は、濡れたベルの毛先を数本持っていき、色の制服の裾を切り裂いた。

 

たった一撃で今までの均衡が崩れる

 

【テン】

 

「クッソォオオオ!!!」

 

【ペス】

 

「ッ……アアアアアア!!!」

 

【ト】

 

「「ガッ!?」」

 

二度目の付与魔法(エンチャント)、巻き起こる暴風は兎と鴉を容易く吹き飛ばし、壁に叩き付けた。息つく暇もなく次の攻撃がやってくる。速すぎる剣速は色の視界が死を感じる様(スローモーション)になるよりも速く、先程のように逃げる事を許さない

 

「作戦Dィイイイイイイイイイ!!!!」

 

逃げ切れなかっただろう、一人なら。

 

ベルの叫んだ『作戦D』、基本的に色と春姫が立てている【ヘスティア・ファミリア】ダンジョン攻略作戦に、そんなものは存在しない。

 

「ゥ……ォオオオオオオオオ!!!!!」

 

しかし、色には分かった。『作戦D』の正体が、内容が、言葉を交わさなくても理解できたのだ。絶叫と共に、先程撒き散らされた砂鉄が舞い上がる。周りの雨粒を電気分解させるほどの電力で高速回転する死の砂は、【剣姫】が大凡(おおよそ)動ける範囲全てを包み込み、漆黒に染め上げた

 

「シッ!!!!」

 

一降り、風を纏わせた一撃で全ての砂も雨粒も彼女に届く事なく切り伏せられる。しかし、その一降り、コンマ1秒で仕込みは終わった

 

(行くぞ、ベル)

 

(いいよ、色)

 

過去に一回だけ、ベルの力が色を大きく上回った瞬間がある。ポケットに手を突っ込んだ色は、その瞬間をヴェルフ特性のリモコンのボタンを押すことで、強制的に再現した

 

(狂えベル!!フォベートール・ダイダロス!!!)

 

「………キャハァ♪」

 

「ッ!?」

 

殺人ウサギ(ヴォーパル・バニー)が再び現れる

 

「キャハッ!キャハッ!ギャハハハハハハハ!!!!」

 

奇声を上げながら撒き散らされた砂鉄を隠れ蓑にアイズの視界から消えた兎は、なんの迷いもなく背後からの奇襲を行った。雨を切り裂きながら振り下ろされる漆黒のナイフは、アイズの首筋に叩き込まれ

 

ギィィィン!!!

 

《デスペレート》で防いだアイズの腕が痺れる。全ての能力(全アビリティ)が上昇している今のベルの力が、アイズに届いたのだ。独特の足捌きでアイズの視界から消えながら四方八方から放たれる奇襲に、遂に彼女の足が止まった

 

「そこッ!!」

 

「キャ!?」

 

違う、止まったのではない、足を止めたのだ。そもそもベルに基本的な技と駆け引きを教えたのはアイズである。彼女はベルの動きを当の昔に見切っていた、例え全ての能力(全アビリティ)が上昇していても、視界から消えて見えなくても、癖のある足音がアイズに兎の居場所を教える

 

剣先が狂ったベルを捉える

 

「プラズマ弾!!!」

 

「!?」

 

圧縮された風の砲弾がアイズの頬を掠めた

 

確かに兎だけなら捉えられていただろう、しかしこの場には鴉もいるのだ。広い視野(レーダー)を持つ鴉が狂った兎を切り裂くことを許さない。再び二人の歪な共闘が始まった。足を止めてしまい、ベルに基礎能力(ステイタス)を追い付かれ、先ほど見せた一撃を警戒している二人から逃げ出す事が【剣姫】には出来ない

 

「………ッ!?」

 

遂に、兎の牙と鴉の爪が戦の姫に届いたのだ

 

「ゴフッ」

 

「ベルッ!?」

 

しかし、届いたのは一瞬だけ。色は実際にディックスの『呪詛(カース)』を使用した訳では無い。ベルにやったのは人間が無意識に付けている安全装置(リミッター)を外す事と、痛みの緩和。もし本当に再現できていたのなら、狂ったベルは色にも攻撃してしまうのだから。

 

そして、無慈悲にもベルの限界が来てしまった。痛みの緩和によりハイになっていたテンションが急激に冷えていくのが分かる。色が『呪詛(カース)』を解除し、吐血したベルを抱えながら、後ろに跳んだからだ。

 

「ジギ……もっがい」

 

「アホか!!出来る分けねぇだろ!?何とか時間稼ぐから万能薬(エリクサー)飲んどけ!!!」

 

胸の内ポケットに仕舞ってある万能薬(エリクサー)をベルに半ば強引に押し付けた後、更に後ろに投げ飛ばした。地面を削りながら転がるように後退していくベルを見送る暇なんて無い、既に目の前に金髪が迫っているのだから

 

「速………ぇ!?」

 

ッ間に合わない!?

 

目と鼻の先には、《デスペレート》の切っ先が降り注ぐ水を切り飛ばしながら向かってきている。いくら異次元の動きを出来る色でも、ベルを投げ飛ばした不安定な体制で避けること何て出来ない

 

完全に詰んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタイの獲物を捕るんじゃないよォ、バカ弟子ィ」

 

後ろに引かれる感覚

 

横目に見える赤い鎧

 

そして、二(メドル)を超える程の巨躯

 

気付いた時には色が最も信頼する女戦士(アマゾネス)が、【剣姫】の前に立ち塞がっていた

 

「フリュネ師匠!!」

 

「あなた……は」

 

「ゲゲゲゲゲゲッ!!今日こそは、その面グチャグチャにしてやるよォ!剣姫ィ!!!」

 

バゴッ!!!

 

フリュネの踏み抜いた地面が壮絶な音と共に砕け、爆発的な加速力でアイズに向かって行った。正しく砲弾のように打ち出された戦斧が、アイズの『デスペレート』と激しくぶつかり合う。

 

「ゲゲゲゲゲッ!!何時までもお前を上に置いている訳ないだろォ~~~ッ!!!!」

 

「クッ!!」

 

始めてアイズの顔が苦悶に歪んだ。その攻撃は激しく、鋭く、アイズと同じ頂きに至っている事が如実に現れていた。フリュネ・ジャミールはLv.6になったのだ、その贅力を持ってアイズ・ヴァレンシュタインを後方に吹き飛ばす。

 

「行ける、行けますよフリュネ師匠!!俺とベルと師匠の三人ならアイツを」

 

「逃げな馬鹿弟子ィィイイイイ!!!!」

 

「は?」

 

フリュネは頬をひきつらせる。化物が、決して口には出さない言葉を心のなかで呟いた、後方に吹き飛ばしたんじゃない、自ら後ろに跳んだのだ、その理由は―――

 

「リル・ラファーガ」

 

確実に仕留める(必殺技を打つ)ため

 

「クッオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

暴風がフリュネ・ジャミールの巨体を吹き飛ばした。紙屑のように後ろに飛んで行く師匠を見送った色は、急いで駆け寄ろうとして

 

「速く行けッつってんだよ!!!馬鹿弟子ィ!!」

 

「ッ!?」

 

突き刺さるような鋭い声に止められた。見ると、一撃でボロボロになったフリュネは鎧を貫通した切っ先に脇腹を血まみれにされながらも、しっかりとアイズの腕を掴み、一緒に吹き飛んでいたのだ。これにより、色とアイズの居場所が逆転し、漸く活路が開けた。

 

「離……してッ!!!」

 

「くっこのっ!!大人しくしなァ!!!」

 

「し、師匠!!!」

 

「速く行けぇえええええええええええ!!!!」

 

「…………ぅ」

 

黒鐘 色は決断する

 

「ゥオオオオオオオオオおおおおおおお!!!!!」

 

腕を掴みながらボコボコにされてる師匠(フリュネ)

 

「おおおおおおおおおおおおお!!!」

 

フラフラになりながらも何とか立ち上がろうとしている団長(ベル)

 

「おおおぉ………ゥオオオオオオオオオおおおお!!!」

 

二人を見捨てることを

 

「行かせないッ!!!」

 

「それは!!」

 

「こっちの台詞(セリフ)さァ!!!」

 

フリュネの拘束を解いたアイズが逃げる色を追おうとするが、立ちふさがったベルの渾身の一撃で更に後ろまで後退し、フリュネがその前に陣取った

 

「いい動きだァ。だけどこっからは死ぬ覚悟をしなァベル・クラネル」

 

「そんなもの、とっくの昔に出来てますよフリュネさん」

 

「くくっ、上等だねぇ」

 

「ははっ、ありがとうございます」

 

「くくくくっ」

 

「ははははっ」

 

二人は笑った、今まで味わった事が無いほどの強烈な殺気を飛ばしてくる【戦姫】に笑うしかなくなった。しかしそんな物はダンジョンでは日常茶飯事だ、だからこの震えは恐怖ではなく武者震い

 

「【ヘスティア・ファミリア】団長、ベル・クラネル。ここを死守します」

 

「【イシュタル・ファミリア】団長、フリュネ・ジャミール。潰してやるよォ」

 

己の武器を構える二人の団長と

 

「【ロキ・ファミリア】幹部、アイズ・ヴァレンシュタイン。押し通るッ!!!」

 

都市最強ファミリアの幹部が

 

「いくよぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

「ああああああああああああああ!!!!」

 

「シッ!!!」

 

更に激しさを増す雨の中、その矛を交えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)、黄昏の館

 

長く降り注いだ雨もすっかり止んだ夜空の下、高層の塔がいくつも重なってできている邸宅に、一人の男が訪問していた

 

「やぁ、よく来たね。狂った帽子屋(マッドハッター)

 

その男の容姿は一言で言うと黒

 

「いや」

 

黒髪黒目黒い制服に黒い帽子

 

黒鐘 色(くろがね しき)

 

「お待たせしました。フィンさん」

 

色が異端児(ゼノス)達を地上に出してやると宣言した10日まで、残り2日

 

物語は加速する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い少年に駆け寄ろうとした少女は、一人の幼い女の子に腕を捕まれた

 

(………え?)

 

それはいつか幻影した心の中の幼い自分(アイズ)

 

透き通るような金色の髪に、純黒のドレス

 

黒金色の容姿を魅せる少女(アイズ)は、困惑する自分(アイズ)に金色の瞳を向け、小さな口を開いた

 

(試さなきゃ)

 

(試……す?)

 

意味が分からず、自分(アイズ)は聞き返した。幼い少女(アイズ)は真っ直ぐに彼を見つめる

 

(あの人がどれぐらい強いのか、試さなきゃ)

 

(何……を)

 

言っている意味が分からない。試す?彼を?そんなの駄目に決まって―――

 

(どれ程の高みに連れて行ってくれるのか、試さなきゃ)

 

(…………)

 

その時、自分(アイズ)の中の黒い炎が疼くのが分かった。

 

(…………でも)

 

そう、そんな事をしてはいけない。あの人を試すなんてそんな事―――

 

(大丈夫だよ)

 

そんな事

 

(だってあのひとは)

 

そんな

 

(ムテキノエイユウナンダカラ)

 

そん………な?

 

(だから試そう?)

 

(………試…す?)

 

もし、アイズ・ヴァレンシュタインが白い少年とミノタウロスの死闘を見ていたら。自分が幼い時に封印したものを呼び起こされていたら。運命は変わっていたかもしれない

 

(試そう?)

 

(………うん、試してくる)

 

気が付けば、アイズ(自分)アイズ(少女)から手を離し、拳をきつく握り締めていた

 

(さぁ、速く。あの人を(ころ)してきて)

 

金色の瞳の奥で、黒い炎(熱い想い)が燃え上がる

 

 

 

 

 




もう少し答えは先延ばし


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第33話 交渉

うーん、中々書くのが難しい話だ


「キャハッキャハッギャハハッハハハアアアアアア!!!!!」

 

「ベル殿!?リリ殿は戻ったのにどうして正気に戻らないのですか!?」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「クソッ、ふざけろ!!アイツ腕飛ばされる前にウィーネの紅石抜き取りやがった!?」

 

「ベル様!!ウィーネ様!!ど、どちらから対処すれば!?」

 

人造迷宮(クノッソス)の道中、ディックスに紅石を抜き取られゴライアスに変貌したウィーネと、呪詛(カース)が解けたにもかかわらず暴走が止まらないベル。【ヘスティア・ファミリア】の団員達は、圧倒的な潜在能力(ポテンシャル)を持つ二人の怪物に、今にも襲われようとしていた。

 

「キャハハハハハハハハハ!!!!」

 

『ゴオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「く、くるぞッ!!」

 

振るわれる豪腕と消えた兎に、ヴェルフの咆哮が飛ぶ。混乱の中それでも身構える団員達。

 

そして――――――――

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

 

「ギャ!?」

 

『オッ!?』

 

怪物の二人は突如響き渡った轟音に止められた。ヴェルフ、命、春姫の三人も驚き、音のした方を見ると、そこには小人族(パルゥム)の少女が最硬金属(オリハルコン)製の扉を力づくで破壊している姿がこの場にいる全員の眼に映る。まるで時が止まったような静寂が、一瞬だけ訪れた

 

「春姫さん!!貴方はこのファミリアの頭脳でしょう!!!!自分の役割を全うしなさい!!!!!」

 

「!?」

 

最硬金属(オリハルコン)を破壊した反動で巨槌を手落とした少女は、腕から吹き出る血液を高級回復薬(ハイ・ポーション)で洗い流しながら狐人(ルナール)の少女に叫んだ。

 

その声で再び時が動く、凶声を上げながら前屈みになるベルと咆哮を上げ突っ込んでくるウィーネ、その二人に毛先が栗立つような危機感を感じた狐人(ルナール)の少女は、自身の背負うバックパックからあるものを取り出した。

 

「は、春姫殿それはッ!?」

 

「ま、待てッ!?」

 

ヴェルフと命の焦る声が飛ぶ。春姫は二人の声を無視して、バックパックから出した筒状の黒い武器、《炎刀・虚空(えんとう こくう) 》襲ってくる怪物に構えた。

 

「魔砲【フレイム・ブラスト】!!!」

 

「『!?』」

 

キッと睨み付けて放たれた朱光は寸分狂わず暴走した仲間に当たる事なく間をすり抜け、『オブディシアン・ソルジャーの体石』を混ぜ込み『魔法』の効果を減殺させる超硬金属(アダマンタイト)の壁を容易く溶かした。余りの威力に冷や汗を掻きながらまたしても止まる二人、その二人に鋭い獣光が向けられる

 

「次は、当てましょう」

 

 

【挿絵表示】

 

―――ゾクッ

 

銃口を向けられた二人は、《炎刀・虚空(えんとう こくう) 》を構える春姫に潜在的な恐怖を覚えた。それは自然界における弱肉強食、この時の二人は確かに目の前の力も速さも劣っている狐人(ルナール)の少女に食い殺される姿を幻想したのだ。

 

「キャァ!?」

 

『アアアアアア!?』

 

そして逃げた。ベルはリリが開けた大穴の奥へ、ウィーネは扉が開かれている通路の道へ、脇目も降らず逃げ出した。

 

「命様、詠唱をお願いします。ヴェルフ様は(わたくし)と先回りしてウィーネ様をもう一度この部屋まで誘導、リリ様はベル様を追いかけてください」

 

唖然としている団員達に冷静になった春姫が指示を下す。たとえ驚きで体が固まっても数々の修羅場を潜ってきた団員は即座に指示に従い、命の詠唱を筆頭に最低限の装備をするためそれぞれ動き出した

 

「リリ様、恐らくベル様はリリ様の計算通りに先程呪詛(カース)を使われた冒険者様の所に向かっている筈です。その為にわざわざあの扉に大穴を空けたのでしょう?」

 

「まぁ、昔そういう事をよくやってましたので。それで?見つけた後どうすれば良いですか?」

 

「見つけ次第リヴェラの町の方角に誘導して下さい。そろそろ色様も人造迷宮(クノッソス)に入られた頃だと思いますので出来たら合流を」

 

「ははっ、あの状態のベル様をリリ一人でですか?無茶苦茶言いますね」

 

苦笑いをするリリに、春姫はバックパックから取り出した二属性回復薬(デュアル・ポーション)等、回復系のアイテムを手渡しながら自身の考えを喋りだす。

 

「ウィーネ様を元の状態に戻したら(わたくし)達も直ぐに合流に向かいますよ。それに、多分ですがあの状態のベル様は少なくとも(わたくし)達を殺す事はない筈です」

 

「その根拠は?」

 

「勘です」

 

「ふ、ふふふ勘ですか」

 

「くくっ、頼もしいな」

 

その言葉にリリやヴェルフだけじゃなく、詠唱している命も笑った。馬鹿にする笑いではない、信頼の笑みだ。想定外の事ばかり起こる【ヘスティア・ファミリア】の迷宮探索では、この第六感こそが重要であることを団員達は理解していた。取り分けその中でも春姫のそれは、命の重力魔法の弱所を見切るなんて馬鹿げた事が出来るほどに逸脱している、リリから参謀を任された彼女は伊達ではないのだ。

 

「皆様準備は整いましたね。それでは、命様はこの部屋の何処かにウィーネ様の紅石があると思いますので、何時でも魔法を使えるようにしながら探し出して下さい」

 

「了解です」

 

「リリ様はベル様をリヴェラの町の方角、色様の所まで誘導をお願いします。あの人なら今のベル様を何とかしてくれる筈です」

 

「わかりました」

 

「ヴェルフ様は(わたくし)と共にウィーネ様を誘拐します。それと最低限の魔剣の使用を許可しましょう。超硬金属(アダマンタイト)を軽々と破壊したあの鱗の前ではヴェルフ様の魔剣でも傷つける事は難しいと思います故、誘導には持ってこいですね」

 

「複雑だなチクショウ。それで、もし紅石が壊れていたらどうする?見た限り見つからねぇが……」

 

渋い顔をしながらヴェルフが見渡した部屋の中は、逃げる為に暴れたウィーネと虚砲の砲撃により、悲惨な事になっていた。先程から詠唱をしていた命も探しているのだが、一向に見つからないため最悪の事態を連想させる

 

「その時も……色様に任せましょう。異世界の膨大な知識なら、きっと暴走したウィーネ様を元の姿に戻せる方法があるはず」

 

「まぁ、大丈夫でしょう。何だかんだ言って結局何とかしてしまうのが色さんですからね」

 

「あぁ、確かにそうだな。何も無い所に風呂場作ろうって言い出す奴だもんな」

 

「無茶苦茶ですからね、色殿は。ヘスティア様の借金二億ヴァリスだって直ぐに返しましたし」

 

共通して思い浮かべるのは黒髪黒目の少年、そこで四人の視線が絡まり、笑みが溢れた。

 

「さて、それじゃあ行動開始ですね。皆様ご武運を」

 

「はい」

 

「応」

 

「任せてください」

 

こうして【ヘスティア・ファミリア】の団員達は、団長と副団長が不在の中、人造迷宮(クノッソス)で行動を始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)、黄昏の館は。とある人物の来訪によって騒然としていた。

 

「お、おいあれ」

 

「まさか……」

 

「生きてたん、ですか?」

 

その人物の名は狂った帽子屋(マッドハッター)、黒鐘 色。今回、クキュロプスの羽帽子とは違い普通の羽帽子を被ってる彼は、顔が割れているにも関わらずポケットに手を突っ込みながらやけに堂々と黄昏の館内を歩いてる。

 

「てめぇ!!生きてやがったのか糞鴉!!!」

 

周りのどよめきがピタッ止まるような大声を出したのはベート・ローガだ。そのまま大股で色に向かって足を進める彼は、色を先導していた小人族(パルゥム)の団長、フィン・ディムナに止められた。

 

「ベート、すまないが彼は君に構っている余裕はないんだ。これから大事な話があるからね」

 

「あぁ!!フィンてめぇ!!なに言って」

 

「ティオネ、頼んだ」

 

「は~い!」

 

愛する団長に命令された女戦士(アマゾネス)は、俊足の狼人(ウェアウルフ)を難なく捕らえ、そのまま拘束する。

 

「な!?こらっ!!話せバカゾネス!!」

 

「馬鹿はどっちよ!!大人しく団長の言うことを聞いてなさい!!!」

 

暴れる狼人(ウェアウルフ)の青年に、黒い少年は少しも視線を寄越さず小人族(パルゥム)の後ろを歩き、館の奥に入っていく。その後方から盛大な舌打ちが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――許可する】

 

ギルド本部の方角から重々しく響き渡る神威のこもった宣言を感じた二柱の女神はパチンッと指を鳴らした。すると【ロキ・ファミリア】の団員達から、いやオラリオの住人全てから困惑と畏怖の声が漏れる。理由は迷宮都市の上空、夜空の星々を隠すほどの大きさの巨大な『鏡』が出現したからだ。その壮絶な光景に、とある美の女神は面白そうに口許を緩め、とあるウェイトレスは唖然と口を開き、とある帽子を被った男は憎らしそうに顔を歪めた。

 

「いやぁ、皆ごめんな。いきなり驚いたと思うけど、今からする話は今後のオラリオに関わってくる重大な話やから、こういう措置を取らしてもらったんや。堪忍してや」

 

『鏡』に映るのは赤髪糸目の女神、ロキだ。陽気な声で喋る女神は少しだけ身を引いて、その部屋の中に居る全ての人物を映した。

 

「ここに居るんは、今世間を騒がしている喋るモンスターの頭、狂った帽子屋(マッドハッター)や。正体聞いたら皆驚くで~、何とその正体は、死んだと思われていた黒鐘 色!!やったっちゅうわけやな。どや、驚いたやろ」

 

そこに映っている映像には確かに、黒鐘 色がソファーに座っている姿が映されていた。その隣には女神ヘスティアが、コーヒーカップが四つ置かれた机を挟んで対面にはフィンの姿も確認できる。つまりはこの四人だけで話が進められる訳だ。

 

「それじゃあ早速始めよか。オラリオの今後を決める重大な話を………な」

 

そう言うとロキはフィンの隣に座り、ヘスティアに向けて薄目を開ける。対面に座る赤神にフンッと鼻を鳴らしたヘスティアはカップに入っている紅茶を一口含んだ。

 

「今回、ボクは口を挟まないよ。全て色君に一任しているんだ。口を開く時は君が嘘を付いた時だけだぜ、フィン・ディムナ」

 

牽制、ヘスティアはその為だけにここにいるのだ。嘘を見抜ける神が居ることで交渉に不純物を混ぜないために。

 

「大丈夫ですよヘスティア様。嘘は言いません、嘘はね」

 

「ふーんそうかい。『嘘は』言わないんだね」

 

意味深な笑いを浮かべながらフィンがコーヒーカップを浮かせ、ヘスティアの長いツインテールがウネウネと動く。

 

「落ち着けよヘスティア。とりあえず此方の要件を手短に言わしてもらいますね」

 

「おう言うてみい。散々手ぇ焼かされた異端児(ゼノス)の首領が、都市最強クラスのファミリアの所までわざわざ足運んだんや。生半可な要件やないんやろ?」

 

「まぁそうですかね。……要件は二つです。一つ、異端児(ゼノス)達の安全の確保。二つ、異端児(ゼノス)達の居住区の設立。とりあえずその二つを約束して下さい」

 

一つ目は予想の範囲内だったのだろう。しかし二つ目を聞いた時、ピクリとフィンの眉が動いた。

 

「本気かい君は?そんな事が出来るわけないだろう?大体僕らが認めても街の住人が認めない筈だ」

 

「それはどうでしょうか?現に異端児(ゼノス)賛成派だって出来てるんですよ?不可能では無い筈です」

 

勇者と怪物の視線がかち合い、火花を散らすのが幻想出来た。二人は少しだけソファーから背中を離す。

 

「怪物趣味、と言う言葉を君は知っているかい?怪物に心を奪われた者の総称さ。彼らにとっては確かに、君の考えは素晴らしい物に思えるかもしれない。しかし、それとは逆の人種も居るんだ。モンスターがこの街に住み着く事で夜も寝られない人間が居るの事を君は考えた事があるのか?」

 

「考えてますよそれぐらい。だからこその居住区の確立でしょう?恐がる人が居るからこそ、住み分けようって提案してるんですよ?」

 

「ふふ、少し頭が足りてないんじゃないのかな黒鐘君?翼を持ったモンスターが居住区を出ない保証が何処にある?その不安を君は払拭出来るのか?」

 

「はは、ちっちぇ頭だからそんな事も解からないんですかね?何の為に俺がこんな所に足を運んだと思ってるんですか?」

 

ドス黒い何かがその部屋に充満してるような気さえする中で、言葉を区切った色は紅茶をズズッと飲み、喉を潤した

 

「居住区の管理を貴殿方【ロキ・ファミリア】にお願いしたいのです。都市最強ファミリアなんだから簡単でしょう?」

 

そんな無茶苦茶を笑顔で言った切った色に、フィンが言葉を投げ返そうとする。しかし、一人の()物が言葉を区切った

 

「いい加減にせぇよ、糞ガキ」

 

都市最強ファミリアの主神が、その細い眼を開けて、無礼を働く黒い怪物を殺しそうな程の殺気を乗せて睨み付ける。

 

「弱小ファミリア風情が、交渉のつもりか?今ここでお前らプチッと潰してもええんやぞ?こら」

 

しかし色は並大抵の冒険者でも気絶するぐらいのそれを受けても平然としていた、ここからが本番なのだからビビる訳にはいかないのだ。

 

「てめぇらこそ立場をわきまえろよ?最強風情の雑魚共が。ここで俺が指を鳴らすだけでオラリオの八割が一瞬で壊滅するぜ?」

 

「!?」

 

「あぁん?どういう意味や、糞ガキィ?」

 

驚くロキに親指を押さえるフィン。ヘスティアは宣言通り無言を貫いている。

 

「この街の至る所に潜伏させてる異端児(ゼノス)達を一斉に暴れさせたらどうなるかわかりますよね~?ちっこい勇者様?」

 

「狂ってるね、君」

 

三日月の笑みを浮かべる色に、フィンは吐き捨てた。

 

目の前の男は話をしに来た訳ではない、交渉しに来た訳でもない、脅しに来たのだ。要件を飲まなければこの街を滅ぼすと、堂々と民衆の前で宣言したその姿は、正しく魔王

 

「理解したなら、この契約書にサインしな。誓いの書っつって魂さえも束縛される違約不可能の契約書だ。例え神でさえ、この契約を破る事はできねぇ」

 

魔王は悪魔の契約を二人に突き付けた。紙面には様々な取り決めが書かれており、その全てが異端児(ゼノス)に有利に働くものだ。その紙を手に持った二人は

 

ビリィ

 

「お断りだ」

 

「お断りや」

 

破り捨てた。当たり前だ、魔王の前に座っているのは勇者なのだから。ここでフィンとロキが膝を屈する事等あり得ない

 

「………へぇ、じゃあオラリオが滅びても」

 

「好きにするといいさ」

 

「ッ!?」

 

色は、まさかそんな事を言われるとは思ってなかったかの様に驚いた。初めて見せた魔王の驚愕にフィンの口が嘲笑に歪む

 

「街で異端児(ゼノス)が暴れる?オラリオを滅ぼす?そんな事を僕達がさせる訳ないだろ?対策はしっかり打ってあるさ。嘘だと思うならその指を鳴らしたらどうだい?」

 

「な……に…」

 

ヘスティアは無言、つまりは今から異端児(ゼノス)が暴れても何とか出来る自信が【ロキ・ファミリア】にはあるのだ。それを聞いて愕然とした色は――――変わらない笑みをフィンに向ける

 

「はっ、どの道俺達には後退の二文字は無いんだ。救えるもんなら救ってみろ勇者様。サイン一つ書くだけで救えた、罪もない一般人を傷付けたのはお前だぜ?」

 

「残念だよ黒鐘 色。交渉決裂だ」

 

勇者は槍を取り出し、魔王は指を掲げた。一触即発の中

 

「待つんだ」

 

「待てや」

 

お互いの主神が神威を放つ

 

「茶番はここまでやドチビ。お前らの本当の落とし処を話せや、脅しなんてうちらに効かんの端からわかっとるやろぉが」

 

「はんっ、さっきも言ったが全部色君に任せているんだ。ボクじゃ無くて色君に質問するといいぜ?」

 

尊大な態度を取るヘスティアに舌打ちを一つ打ったロキは、視線を色に向ける。相変わらず余裕そうな表情でコーヒーカップを傾けた魔王は、オラリオの全ての住人に聴かせるようにハッキリと言い放った。

 

「俺達【ヘスティア・ファミリア】異端児(ゼノス)連合と戦争遊戯(ウォーゲーム)だ、【ロキ・ファミリア】」

 

それは宣戦布告の合図

 

「僕達が負ければさっきの契約書にサインするとして、そちらが賭けるものは?」

 

フィンもそう言われるのを初めから分かっていたかの様に振る舞い

 

「俺と異端児(ゼノス)の命」

 

ヘスティアは無表情になり、ロキは面白そうに目を弓なりに細める。

 

「………いいだろう。君達は先程オラリオを滅ぼそうとした大罪人だ、手加減はしない」

 

「まぁそうなるやろうな。勝った方が正義、シンプルイズベストっちゅうわけや」

 

納得がいったような表情を浮かべる二人に色は続ける

 

「ルールは、争奪戦でどうだ?」

 

「場所は?」

 

フィンに聞かれた色は、指を真下に向けた

 

人造迷宮(クノッソス)

 

「「………」」

 

3拍ほど無言になった部屋の中で、ロキが口を開く

 

「面白いやんけ糞ガキ。ルール追加や」

 

「あぁ?都市最強ファミリアが新参の俺達に怖じ気付いたか?」

 

「逆やボケナス。他派閥の冒険者、誰でも一人助っ人に入れてこいや」

 

「な!?」

 

驚きの声を上げたヘスティアにロキは続ける

 

「当たり前やろドチビ。うちら(強者)お前ら(弱者)を一方的にボコボコにした所で賛成派は納得せえへん。だからこれは対抗措置や」

 

見下す様に喋るロキに、色の眉間に皺が寄る

 

「………てめぇ嘗めてんのか?ちょっと強いからって粋がんなよ糸目ぇ」

 

「真正面から叩き潰したる言うとんねん。頂点(オッタル)でもなんでも呼んできぃ、力の差思い知らしたるわ糞ガキ」

 

「随分な余裕だねロキ、ボクの子供達の通り名を知らないのかい?」

 

危険領域(ブラックホール)だったかな?酷い名前負けだ」

 

「「「「…………」」」」

 

四人の視線がテーブルの上で火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ッ」

 

「大丈夫ですか、ベル様?ヴェルフ様もう少し慎重に走ってください!」

 

「無茶言うなリリスケ!大体お前が他の冒険者に見つかる前に急いで帰りましょうって言ったんだろ!?」

 

「どさくさに紛れて運よく人造迷宮(クノッソス)から脱出出来て良かったですね。しかし色殿は大丈夫でしょうか?あの回復薬(ポーション)の類いを見るに殆ど自分達に渡されたのでは?」

 

「大丈夫ですよ命様。あの色様ですよ?そう易々捕まるとは思えません。それにもし捕まったとしても(わたくし)達が必ず救いだします」

 

【ヘスティア・ファミリア】はボロボロになった体を走らせながら自らの本拠(ホーム)に向かっていた。ずっと暴走していたベルは、身体に掛かった負荷が万能薬(エリクサー)一本では回復しきれなかったらしく、ヴェルフに背負われている。

 

「ごめんヴェルフ、ありがとう」

 

「気にすんな。それに礼を言うならクロにだぜ、暴走したお前を元に戻した後、ウィーネも何とかしてくれてるみたいだ」

 

入れ違いで異端児(ゼノス)達と情報を交換していたヴェルフ達は、色がウィーネを探して貧困街(スラム)の方に向かって行った事を聞いていた。

 

「それにしても運が良かったですね、ここまで誰一人とも会わないなんて。もう館に到着しましたよ」

 

右近婆娑羅(ウコンバサラ)人造迷宮(クノッソス)に置いてきて寂しくなった背中を擦りながら、リリはガチャと両扉の片方のドアノブを捻って開けた。

 

「ただいま帰りました」

 

この時

 

「また工房に込もって魔弾作り直さなきゃな」

 

【ヘスティア・ファミリア】は

 

「自分は早くお風呂に入りたいです。血が固まってベトベトで」

 

初めて気づいたのだ

 

「それじゃあ(わたくし)と一緒に入りますか?」

自分達が

 

「あれ、そんな所でなにしてるんですか神様?」

 

何を失ったのか

 

「………色君の………炎が…消えたんだ」

 

床にペタンと座っているヘスティアの言葉の意味が、ベル達には解らなかった。何を言われているのか理解できない

 

「――――色君が、死んだ」

 

理解できなかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】が戦争遊戯(ウォーゲーム)を行うと宣言してから2日が経った。その間、人造迷宮(クノッソス)の中はスッキリ整備されており、不正が出来ないよう【ガネーシャ・ファミリア】に罠の類いも全て撤去させている。

 

広大な迷宮だが、使う区間がダンジョン数層分であるのと、とある協力者が居たため、スムーズに事が運んだのだ。

 

「よしっ皆、準備はオッケー?」

 

「そりゃ良いけどよ。本当にこのエンブレムを背負わせてもらっていいのか、ベルっち?」

 

「まだそんな事を言ってるんですか、リドさん。貴方は異端児(ゼノス)のリーダーなんですから、いい加減堂々として下さい」

 

「で、でもよぉ」

 

そわそわしているリドの装備の背中には【ヘスティア・ファミリア】のエンブレムが刻まれている。それはリドだけではなく、全ての異端児(ゼノス)が着けている装備の何処かに、必ず白鐘黒鐘のエンブレムが刻まれていた。

 

「我々ニコノ装備ハ勿体無イノデハ?」

 

自分の腕にピッタリと装備出来ている鉄爪を動かしながら聴いてくるのはグロスだ。異端児(ゼノス)達全員に専用武器(オーダーメイド)を作った張本人は、グロスの肩に腕を回し、ニカッと笑った。

 

「気にすんな、俺だってモンスターの装備を作るなんて初めての経験でワクワクしたんだぞ?それに、そんな顔してたら武器が泣く」

 

「武器ガ泣クノカ?」

 

「そうだ。使い手次第で武器も泣くし笑う、覚えとけよ?」

 

「その武器を無駄に凝って作ったせいで、魔弾を製作する時間が無くなった~って泣いてたのは何処の誰でしょうね?」

 

「おい!それは言わない約束だろ!?」

口喧嘩を始めたリリとヴェルフから目を離したグロスは、鉄爪の根元部分に彫られているガーゴイルのマークを見詰めた。他のモンスターの装備にも、自身のモンスターと同様のマークが彫られている。それは各モンスターの事を思い浮かべながら武器を作ったという証だ、グロスは心の中でヴェルフに頭を下げた。

 

「みてみてー、竜華槍(ドラミ)龍大盾(ドラタロウ)すっごくキラキラしてるんだ!!」

 

「ははは~ヴェルフ殿は凄いですね~、自分もまさか人造迷宮(クノッソス)から持ってきた最硬金属(オリハルコン)でウィーネ殿の武器を不壊武器(デュランダル)にするとは思いませんでした」

 

「むむむ、これはもしかしてヴェルフ様が一番の親馬鹿?」

 

「お前ら俺を虐めて楽しいか!?」

 

わいわいガヤガヤするヘスティア陣営。それを暖かい眼差しで見ていたロリ巨乳の女神は自分の真下で【ステイタス】を更新している黒い少年に話し掛ける

 

「ボクは色君を信じてるぜ?」

 

それは信頼に溢れている。更新された【ステイタス】もあの《スキル》のお陰か絶好調だ

 

「その信頼とアイツらの想いに応えたから俺はここにいんだぞ?今更ヘマはしねぇさ」

 

顔は見えないがきっと笑っている。そんな気がしたヘスティアは【ステイタス】のとあるスロットに手を触れた。それは色の背中でずっと熱を発していたレアアビリティ

 

「どうしてこれのランクが上がってるんだい?」

 

「なんか言ったか?」

 

「いや、何でもない。ほら、次はベル君の番だよ!!」

 

「はーい!!」

 

ベル達の【ステイタス】を更新し終えたヘスティアは、何となくそのアビリティの効力が解ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよだね」

 

「緊張してんのか、ベル?」

 

「当たり前でしょ、相手は都市最強のファミリアだよ?」

 

「負ける気は?」

 

「無い」

 

「即答かよ、流石は我らが団長だな」

 

「茶化さないでよね。色の方こそ緊張してるんじゃないの?」

 

「………まぁ、それなりに」

 

「へ~、色が、珍しいね」

 

「どういう意味!?」

 

「はははははっ――――任せたよ色」

 

「………」

 

「色?」

 

「任せろ、ベル」

 

「うん、任せたよ色」

 

 

 

 

 

 

 

 

VS【ロキ・ファミリア】

 

戦闘形式(カテゴリー)――――争奪戦

 

勝利条件は、敵象徴(エンブレム)の奪取

 

オラリオ史上最高最悪の戦争遊戯(ウォーゲーム)と呼ばれる戦いが、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

黒鐘 色

 

 Lv.3

 力:S999

 

 耐久:S999

 

 器用:S999

 

 敏捷:S999

 

 魔力:S999

 

 耐異常:I

 

 祝福:G

 

 《魔法》

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

 

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

 《呪詛(カース)

 

食蜂操祈(メンタルアウト)

 

・特定の一工程(シングルアクション)による、精神操作

 

・自身のLv以下限定

 

・人類以外には失敗(ファンブル)

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鐘楼の館

 

割れた窓、破壊された家具、そして時折聞こえる啜り泣くような声、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)は一言で言うと悲惨な事になっている。

 

その中で女神ヘスティアは、黒鐘 色がいかに自分の家族(ファミリア)にとって大切な存在だったのか痛感させられていた

 

「グズッ……ヒックッ……色様ァ……じぎざまぁ…」

 

泣き崩れる春姫

 

「大丈夫ですよ。大丈夫です、大丈夫大丈夫」

 

慰める為に大丈夫しか言わなくなった命

 

カァン、カァン………ガンッ!!ガンッガンッ!!!

 

工房に籠りっきりで出て来ないヴェルフ

 

「嘘ですよ……色さんが死んだ?………そんなの……だってあの人は………強くて頼りになる………だから嘘です…………嘘に決まってます…」

 

膝に顔を埋めブツブツ言っているリリ

 

そして

 

「ぁ…ァ?……ぁああああああああ!!!」

 

「ま、まてベル君!?何してるんだ!!」

 

「色の所ですよ!!ほら、あそこに!!!あそこに色がいます!!!」

 

腰を掴んで止めるヘスティアが見たベルの指差す方向は壁だ。勿論そんな所に色が居る筈もなく、なんの変哲もない壁に必死に手を伸ばしているベルをヘスティアは必死に止めた

 

「前にもそう言いながら壁に突進して頭から血を流したじゃないか!?いい加減現実を見てくれベル君!!!」

 

「現実?現実ってなんですか!!!色は彼処に居るんだ!!!離せ!!!」

 

引き離そうとするベルに食らい付くヘスティア、この二人のやり取りを止める者は、今の【ヘスティア・ファミリア】に存在していない

 

「いいかい!?色君は死んだんだ!!認められない気持ちは解る!!でも、認められなきゃ………認めなきゃ前に………まえにずずめないじゃないがぁ」

 

「ヘス………ティア…様?」

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"じぎぐぅん」

 

「神様……かみ……さまッ」

 

ヘスティアも堪えきれずに泣き出した、ベルと抱き締め合って、二人して子供の様に泣いていた。あの日から【ヘスティア・ファミリア】内で泣いていない者は居ないのだ。そんな本拠(ホーム)に一人の魔術師(メイガス)が訪れる

 

「これは……酷いな。大丈夫か君達………ッ!?」

 

自分のが現れた瞬間音が無くなる部屋

 

マジックアイテムを使い、玄関から音も姿も無く現れた黒衣の魔術師、フェルズは身が無いのにも関わらず、身の凍るような感覚に支配された。その理由は殺気、今まで感じた事の無いほどの殺気が自身に当てられている

 

「お前………れば……色…………んだ」

 

コロサレル

 

汗をかく所が無いのに冷や汗を感じたフェルズは咄嗟に叫ぶ、自身が生き残れる魔法(言葉)

 

「色君は生きている!!!!」

 

その言葉でピタッと喉元で止まった刃の切っ先は五つ。ベル、命、リリ、春姫、ヴェルフ、唖然としている五名に突き付けられた武器をゆっくりと引かれ、フェルズはホッと一息着いた

 

「本当……ですか?」

 

「あ、あぁ、本当だ」

 

「色さんは無事なんです?」

 

「無事だよ、今は傷一つ無い」

 

「で、でも、だって色殿は、ヘスティア様が」

 

「一回死んだけど蘇生させたんだよ」

 

「それじゃあ色様は生きてるんですね!!」

 

「だからそう言っているだろう?」

 

「……ぁ……よ、よかったぁああああああ!!!!!」

 

ヘスティアの安堵の声を筆頭に、各自歓びの叫び声が高鳴り、フェルズは咄嗟に無い耳を抑えた。そして経験則に則りローブで姿を隠す

 

「フェルズ君!!色くんを助けてくれてありがとう!!!!」

 

「「「「「ありがとうございます!!!!!って居ない!?」」」」」

 

フェルズは知っていた、色を助けた事で感極まった者が自分に抱き着いてくる事を。異端児(ゼノス)だけでも自信に全治癒魔法を使うほどのダメージを受けたのだ、リリなどに抱き着かれるとどうなるのか、想像もしたくなかった

 

「とりあえず落ち着いくれて、色君からの手紙を渡す」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

驚く一同は、消えたフェルズからスッと出された手紙に食らい付いた。血眼になって読み漁るその姿は、少し怖い

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

そして、その手紙を読み終えた【ヘスティア・ファミリア】の一同は真顔になった、めっちゃ怖い

 

「これ、リリの目がおかしく無ければ【ロキ・ファミリア】と喧嘩するって書いてあるのですが」

 

「安心しないで下さいリリ殿、自分の目にもそう書かれている様に見えます」

 

異端児(ゼノス)全員分の武器製作?なにそれ怖い」

 

「口調がおかしくなってますよヴェルフ様………(わたくし)ちょっとお花摘みに行ってきます」

 

「相変わらず…………無茶苦茶なんだから」

 

「妥協してない感じが色君らしいって言うか何て言うか」

 

皆で頭を抱える事になった、これからの作戦内容が書かれた文章の最後にはこう書かれている。

 

打倒【ロキ・ファミリア】!!

 

「その、済まないが時間が無いんだ。色君の【ステイタス】を復活させたいので、ヘスティア様だけ来てくれるかな?」

 

「あぁ、わかったよ。それじゃあ皆、一足先に色君に会ってくるけど何か伝える事はあるかい?」

 

そう言ったヘスティアに団員達は、言いたい事は自分で言います、とだけ言った。それを聞いたヘスティアは苦笑いした後、フェルズと共に出ていった

 

「さてと、今からどれぐらい強くなれるか解らないけどやれるだけやってみようか」

 

「はぁ~やるしか無いんですよね。いいですよ、やってやりますよ」

 

「自分は【ミアハ・ファミリア】の所に行って回復薬(ポーション)類を出来るだけ買い込んできますね」

 

「クロが呪詛(カース)を使って、周りを誤魔化すまで待った方が良いんじゃないのか?」

 

「皆様、これをやりましょう!!」

 

皆の集まる視線の先に居るのは、お花を摘みに行っていた春姫だ。その手には皺だらけになった一枚の紙が持たれてる

 

 

 

 

 

『2億ヴァリス返済までのデスマーチの実施』

 

「「「「………………」」」」

 

 

 

 

これは、いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、原作より強化されたヘスティアファミリアとロキファミリアの全面戦争、これがやりたかったんや!


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第34話 VSロキ・ファミリア

もうすぐ原作12巻発売だ!やったぜ!!


「おい、大丈夫かアンタら?ってエライ怪我してんじゃねぇか!?リリ、回復薬(ポーション)渡してやれ」

 

あなたは知っていますか?あの時自分達がどれだけ救われたかを

 

「はぁ、わかりました……ちょっ!?渡し過ぎでは!?」

 

「いいじゃん別に今まで俺ら使ってねぇんだし。あぁ?遠慮すんなって、いいから貰っとけ」

 

あなたは知っていますか?あの時自分達がどれだけ感謝したかを

 

「そんなに何回も頭下げなくていいって。じゃああれだ、今度俺達がピンチになったら助けてくれ」

 

「クロっちって、意外とお人好しなのな」

 

あなたは知っていますか?あの時自分達がどれだけ涙を流したかを

 

「ほら、行くよ色」

 

「あいよ、アンタらも気を付けてな」

 

あなたは知っていますか?あの時自分達がどれだけ恩を感じたかを――――

 

雲一つ無い澄んだ夜空の下、『残雪 』『虎鉄 』『地残』ヴェルフによって新たに鍛え直された三本の刀を携えた彼女は、空に浮かぶ満月を真っ直ぐに見つめる。

 

「タケミカヅチ様。このヤマト・命、明日こそは色殿から貰い受けた大恩、必ずや返して見せます」

 

周りには誰も居ない、これは誓いだ。彼女が最も敬愛する男神に立てる絶対の誓い。

 

「――――この命に代えても、必ず」

 

月を見上げるその背中には、特殊なゴライアス(暴走したウィーネ)を数時間止めたことにより、【タケミカヅチ・ファミリア】に居た頃よりも更に昇華した【ステイタス】が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ間もなく始まります!!!オラリオの未来を賭けた世紀の一戦【ロキ・ファミリア】VS【ヘスティア・ファミリア】!!実況はギルドのふわふわピンク担当!!ミィシャ・フロットでお送りしまーす!!』

 

バベルの頂上で魔石製品の拡声器を片手にノリノリで声を響かせたピンク髪の女性は、オラリオ上空に映されている巨大な『鏡』を満足げに見てから視線を隣に移した

『解説はこの方!!大衆の主!!ガネーシャ様!!!の、眷族(ファミリア)の一人!!イブリ・アチャーさん!!!!』

 

『――――俺がイブリ・アチャーだ!!ってあれ!?ガネーシャ様は!?』

 

居ると思っていた自身の主神が居ないことに狼狽するイブリ。しかし、オラリオの住人達はガネーシャの事など誰も口にしないほどの盛り上がりを見せている。

 

「さぁ張った張った!!!都市最強と危険領域(ブラックホール)!!どちらに賭けるか早く決めないともうすぐ締め切りだよ!!」

 

「【ヘスティア・ファミリア】だ!!アイツらはアポロンを降してイシュタルを飲み込んだ格上の殺し(シリアルキラー)だぞ!!今回も勝つに決まってる!!」

 

「馬鹿を言うんじゃない!!【ロキ・ファミリア】は未踏達領域の59階層まで足を進めたファミリアだよ?あんなぽっと出のファミリアに負けるものか!!」

 

「うーん、難しい。普通ならロキの所に傾くんだが、この前の一方的な蹂躙(ワンサイド・デスゲーム)を見せられちゃなぁ。しかしお前らもヘスティアの所に賭けていいなのか?化物(モンスター)と共存するかも知れないんだぞ?」

 

「そん時はそん時ですよ。それにアイツら(異端視)も悪い奴等じゃないっぽいんですよね。俺、このまえ落とした財布拾って貰ったっすから」

 

「おい、てめぇ何時から賛成派になったんだ!どんなに良いことしようと化物は化物に決まってる!!モルド、お前もそう思うだろ!?」

 

「…………」

 

「モルド、まさかお前まで……」

 

「そんなんじゃねぇ、ただ―――」

 

『ここで、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)のルールに付いておさらいしましょう!!まず各自』

 

『ちょっとギルドのおねーさん!!ガネーシャ様はどこ行ったの!?』

 

『イブリさーん?今いい所なんですから邪魔しないでくださーい。……の事バラしちゃってもいいんですかー?』

 

『うぇ!?なんでそのことを知って』

 

『実はこのイブリさん!!ふ――』

 

『ごめんなさい!!すいませんでした!!もう邪魔しないので好きなだけ説明して下さい』

 

『はい、ありがとうございまーす。それじゃあ争奪戦のルールを説明しますね。まず、両陣営にはファミリアの紋章が刻まれた旗をそれぞれ用意して貰います。その旗はギルドが指定した部屋に分かりやすいように立て掛けといて下さい。そして、その旗を指定した部屋から先に持ち出した(奪った)方の勝ちになりまーす』

 

『なるほど、それで争奪戦ってわけか。しかしミィシャさん、今回の戦う場所(ステージ)人造迷宮(クノッソス)っていう、大昔のイカれた工匠がダイダロス通りの地下に張り巡らした迷宮だ。その規模はダンジョン20階層分以上って聞いたんだが、そんなに大きかったらお互い見つからずに何日も迷ってしまうんじゃないんですか?』

 

『イブリさんの乗りがよくて助かりまーす。そうなんですぅ実はこの迷宮、1000年も掛けてダイダロス通りの地下に拡大されたっていう大規模な物なんですよね。ですから、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)では少しだけルールが付け加えられてます』

 

『と、いいますと?』

 

『まず、各陣営にはギルドから人造迷宮(クノッソス)三階層分の地図が普及されています。その地図には各陣営の線引きがされてあって、戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まるまで各陣営はその線から先に進む事を禁じられてます。つまりは、その範囲全てがスタートラインって事ですね』

 

『ほぅほぅ。その地図ってもしかして、お互いの旗の場所も書かれてたり?』

 

『ご名答で~す!!これにより二つの陣営が迷子になる事なくスムーズに潰し合う事が出来るって訳ですね!!』

 

『あ、あのミィシャさん?ちょっと口調が………』

 

『あ、因みにただ今ダイダロス通り及び貧困街(スラム)付近は、万が一に備えてギルド主導で住民の避難は済ませておりま~す!!これからもし、近づこう何てバカな人間がいた場合、遠慮なくブタ箱にぶちこむので覚悟していてくださ~い!!!』

 

『ミィシャさん!?口調!!可愛い笑顔だけど口調が下品になってる!!』

 

慌てるイブリの声に、言葉をかき消されたモルドが顔をしかめた。

 

「はいはい、もう締め切るよ!!!」

 

「ちょっ!?ま、待ってくれ後少し!!」

 

「チッ、うるせぇな。それでお前はどう思ってるんだよ………どうしたモルド?そんな顔して」

 

「いや、お前らはすげぇなと思ってよ。俺なんて、たった数日でこんな大事(おおごと)になったからか、現実感が全く無いぜ」

 

「あん?どういう意味だそりゃ?」

 

「………なんでもねぇ。おい!!俺は兎に10万だ!!!!」

 

何かを振り払うように叫んだ冒険者の声を聞き付けた商人により会話は中断される。オラリオに住む全ての人々の頭上には、迷宮の中の陣営を映す鏡とミィシャとイブリの声が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迷宮の各所に張り巡らされた拡声器(スピーカー)から始まりの鐘の音が鳴り響き、戦いの火蓋は切って落とされた。鳴り響くその音を合図に異端児(ゼノス)達はギルドによって予め決められていた(ライン)より先に走りだし、作戦により決められた道順(ルート)を進出する。

 

「いよいよだな、リド。覚悟はできているか?」

 

「当たり前だろ?ここにいる全員、覚悟なんてとうの昔に出来ている。お前もそうだろラーニェ」

 

「ふふ、あぁその通りだ」

 

少しだけ微笑んだラーニェが後ろを振り向いた、釣られてリドも後ろを振り向くと、先行していた二人の後ろから真剣な眼差しで追い付いてくる五十匹ばかりの異端児(ゼノス)の姿がそこにあった。

 

「信じられるか?オレっち達があの人達と出会ってからまだ半月にも満たねぇんだぞ?」

 

「信じられないだろうな、半月前の私達ならば。地上で生活する為に都市最強(ロキ・ファミリア)と戦争する事になったなんて誰が信じるものか」

 

「シカシ我々ハコウシテココニイル、全テアノ御方ノオ陰ダ」

 

後ろから近づいてきたグロスが二人の間に割って入り、ニッと笑った。普段なら見せない石竜(ガーゴイル)の表情に驚く二人だか、直ぐに釣られて同じように口元を弓形にする。

 

「ちげぇねぇ。あの日見た朝日も夕焼けも人々との触れ合いも全部色様から貰った物だ、だからあの方に受けた恩をこの戦争で少しでも返さなきゃならねぇ」

 

「その通りだ。化物(モンスター)である私達の為に二度も命を賭けてくれたあの御方に、勝利を――」

 

「「「「「「「「勝利を!!!!!」」」」」」」

 

異形の者達は研ぎ澄まされた聴覚で三人の会話を聞き付け、声を合わせて勝利を叫んだ。まるで人間の様にその瞳の奥には『崇拝』の二文字が浮かんでいる。

 

それは常に自分(ゼノス)達と対等の関係を望んでいた色本人の前では決して見せない色の瞳だ。彼等の色に対しての感情は、既に信頼などという生易しい物とは一線を画していた。

 

「皆すごいね、わたしも頑張らなくちゃ!」

 

「えぇ、何が起きよウトこの戦いに勝利シます。貴方ノお兄様を二度も殺させハしまセン!!」

 

「全部終わった後にいっぱい『恩返し』しようね、ウィーネ」

 

「うん!!」

 

竜女(ウィーヴル)歌人鳥(セイレーン)半人半鳥(ハーピィ)が、全ての異端児(ゼノス)が自分達を導いてくれた聖者に対して浸透仕切っている。もし彼に死ねと命令されたら進んでその首を差し出す程に

 

「黒鐘 色、我々ノ救世主ヨ、何時カ必ズ受ケタ恩ヲオ返シマス。ソノ為二我々ハ、コノ戦争デ負ケル訳ニハイカナイノダ!!!」

 

「行くぞ皆ぁああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」」」」

 

加速する異端児(ゼノス)達の目の前には、救世主(黒鐘色)の作戦通りに【ロキ・ファミリア】の冒険者達が慌てて武器を構えている姿がそこに有った。完全に虚を突かれた【ロキ・ファミリア】と勢いに乗る異端児(ゼノス)達の戦いが幕を開ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてここの位置がわかったんすか!?」

 

「ラウル不味い!?あっち側からも来てる!!」

 

「挟まれた!?」

 

開戦直後、ラウル達【ロキ・ファミリア】の中堅所は咆哮を挙げる異端児(ゼノス)達の奇襲に慌てふためいていた。無理もない事だ、彼らの団長からこの戦いに置いて一番大切なのが相手より先に向こうの位置を探る事だと教えられていたのだから。しかし蓋を開けてみれば、真っ先に此方側の居場所が特定され奇襲を受けている、偵察を命じられてたラウル達は訳も分からず自分達より圧倒的に数の多い異端児(ゼノス)達と交戦する事になる。

 

「うわああああああ!!」

 

「オオオオオオオオ!!」

 

ガーゴイルの鉄爪とラウルの短剣が火花を散らす。それを合図に20数名ばかりの【ロキ・ファミリア】の団員達と50程いる異端児(ゼノス)の集団との戦争が始まった。

 

「―――――――――ッ!!!」

 

「ウガアアアアアア!!!」

 

「クソッくそおおおおおおおお!!!」

 

「怯むなぁあああああ!!!」

 

「いくよッ!!!!」

 

「負けまセン!!」

 

「このッ化物がああああああああ!!!」

 

片手剣が振るわれ、超音波が放たれ、宙から鉄羽(ナイフ)が降り注ぎ、盾が弾け、矢が放たれる。一瞬で血みどろの戦場になった迷宮の部屋(ルーム)は、まるで計られたように翼の生えた異端児(ゼノス)でも戦いやすい程の大きさだった。

 

「だ、だめだ!!このままじゃ!?」

 

「ラ、ラウルどうしよ!?」

 

「ッ!?」

 

目に分かるほどの速さで形勢が異端児(ゼノス)達に傾いて行く。絶叫に近い音量で喋り掛けてくるアナキティの声を受けたラウルの脳裏に最悪の事態が過る

 

(もしかしてこれは―――)

 

「ボーとしてんじゃねェぞ!ラウル!!!」

 

「す、すいませんっす!!ベートさん!!!」

 

目の前に迫った曲刀(シミター)を蹴りで弾いた狼人(ウェアウルフ)の青年によって思考の渦に沈んでいたラウルがハッと我に返った。

 

(そうだ、今はそんなことを考えている場合じゃない!!幸いこっちはベートさんも含めた精鋭部隊、目の前の火の粉を払うことに集中するっす)

 

剣をキツく握りしめたラウルは嫌な考えを一旦切り替えようとして

 

木竜(グリーンドラゴン)だぁあああああああ!!!!」

 

全長10M以上の竜が現れた事により、切り替えられなくなってしまった

 

「チッあんな奴まで居やがったのか」

 

(不味い)

 

「おっと、アンタの相手はオレっちだぜ【凶狼(ヴァナルガンド)】。あれから吐くぐらい魔石を食べたからな、油断してると痛ぇ目見るぞ?」

 

(不味い不味い)

 

「上等だ蜥蜴野郎、今すぐ蹴り殺してやる」

 

(不味い不味い不味い不味い不味い!!!!)

 

「べぇえええええええとさぁあああああああん!!!!」

 

「なッ!?耳元で叫んでんじゃねぇぞラウル!!」

 

「そんな事言ってる場合じゃ無いっす!!!木竜(グリーンドラゴン)が移動してる!!速くあの通路の先に行ってください」

 

「お前何言って――ッ」

 

「ガアアアアアアアア!!!」

 

聞き返そうとしたベートはリザードマンの咄嗟の攻撃に声を出すのを止められる。まるでそれ以上会話をさせまいと乱打された曲刀(シミター)を避けていたベートは

 

「こんのおおおおおおお!!!!」

 

「グオゥ!?」

 

横合いからリザードマンに襲いかかったラウルにより、攻撃から解放される。

 

「いいから速く行って!!!ティオナさん達を追いかけてください!!」

 

「馬鹿が!!てめぇじゃソイツの相手は」

 

「行けって言ってるだろ!!!この班の指揮を任されているのはこの俺だ!!!命令に従えぇえええええええええええ!!!」

 

叫ぶラウルは嫌な予感が確信していたことを目の前のリザードマンにより思い知らされた。前回ここに来た時と一緒だ、自分達は完全に罠に嵌められている。

 

「チッ!!ラウル後で覚えておけよ!!!」

 

「行かせねぇ!!」

 

「お前の相手はこっちっすよリザードマン!!!」

 

「邪魔だぁああああ!!!」

 

「ぐあっ!!」

 

リザードマンの前に飛び出したラウルが腹に一撃を入れられ、なす統べなく宙に浮いた

 

(あぁ、いくらなんでもこれはないっす)

 

腹部の一撃をギリギリ短剣で防いだラウルは体を宙に浮かしながらも、自分の考えが妄想であって欲しいと切に願った

 

(でも、この仮説が一番正しいと思うんすよ)

 

ラウルが必死になってベートを向かわせた通路は、この階層唯一の敵の旗の元にたどり着ける道だ。複雑な迷宮だが、そういう道の束が一つになっている部分がポツポツとある事を、地図を暗記していたラウルは理解していた。そんなラウルだからこそ、この異常事態に直ぐ様対応できたのだ

 

(団長今回の敵は異端児(ゼノス)と【ヘスティア・ファミリア】、それと――)

 

思えばこの奇襲はおかしい事ばかりだ。補足されたスピード、異端児(ゼノス)に有利な地形、唯一の通路に立ちふさがる木竜(グリーンドラゴン)、そして――――

 

(ギルドっす)

 

挟み撃ちにされた事

 

これら全てが可能なのが、人造迷宮(クノッソス)の地図を書き出し、現在もリアルタイムで戦いの様子を見られるギルドの人間だ。恐らくなんらかの方法で敵側にこちらの動向を伝達(リーク)しているのだろう。主神(ロキ)も言っていたではないか、ギルドの長(ウラノス)は怪しいと

 

(早くこの事を団長に伝えないと!!)

 

もしこの仮説が正しいのなら不味すぎる。動向を監視されていると言うことは作戦が筒抜けだと言う事だ。つまりはフィンが下したティオネとティオナの奇襲作戦もバレている可能性も高い。一番最悪な未来は先行している二人が待ち伏せされ各個撃破されてしまう事、警戒していた一番強いモンスター(黒いミノタウロス)がこの場に居ない事実が、ラウルの仮説を確信に変えていく。

 

「グッ………皆聞くっす!!!今から――」

 

地面に不格好ながら着地して仲間に指示を出そうとしたラウル・ノールドは、自分の仮説より事態が深刻になっていることを思い知らされた。

 

「なんすか、これ。他の仲間はどこに行ったんすか!?」

 

【ロキ・ファミリア】に敵対しているのはギルドよりも更に恐ろしい怪物なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「色、状況はどうなってる?」

 

『うーん、【ハイ・ノービス】の部隊は上手い事嵌めれたんだがベート君に突破された』

 

「うわぁ、不味いねそれ。あの二人には伝えてあるの?」

 

『一応、出来る限りの情報は伝えたぞ。でも時間制限はグッと縮まったと思ってくれ』

 

「了解」

 

手甲に付いている眼晶(オルクス)から色の声を聞き終えたベルは、走るスピードを落とさず現状を後方の仲間に伝えた。

 

「なるほど、【凶狼(ヴァナルガンド)】が………狼人(ウェアウルフ)のあの人なら臭いで直ぐに追い付きそうですね」

 

「うん、だからもう少しスピードを上げようと思うんだけど皆大丈夫?」

 

「余裕だぜ、心配なんかすんなベル」

 

「大丈夫ですよベル殿、自分達はあの地獄を生き抜いた同志ではないですか」

 

「あはは、そうですね命さん。――――あれやりきったんだよなぁ、僕達」

 

一瞬遠い目をしたベルが一気に加速する、後ろの仲間達もそれに合わせて脚を速めた。

 

現在【ヘスティア・ファミリア】が居る場所は、ギルドから提供された人造迷宮(クノッソス)の地図には書かれていない場所、四階層目だった。今回のルールには確かに地図が普及されているが、その中でだけで戦えとは言われていない。そう、ベル達は色のレーダーの先導の元、地図外からの奇襲を行おうとしているのだ。

 

『おっしゃ、もう直ぐ目的地(ポイント)に到着するぜ。命ちゃん『魔法』の用意をしてね』

 

「了解です。【掛けまくも畏(かしこ)き――】」

 

息をする様な気軽さで平行詠唱を始めた命の足元には普段とは違う変化が生じられる。

 

「【いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、尊き天よりの導きよ】」

 

それは昇華(ランクアップ)した事により発現したとあるアビリティによる変化、魔方陣(マジックサークル)

 

「【卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を】」

 

しかしその魔方陣はエルフが使う様な複雑な紋様では無かった

 

「【救え浄化の光、破邪の刃。払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう)。今ここに、我が命(な)において招来する】」

 

命の足元に展開されたのは、白の勾玉と黒の勾玉が均等に混ざり有った不思議な形

 

「【天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい)】」

 

天と地 光と闇 白と黒 陰と陽 表と裏

 

「【フツノミタマ】!!」

 

それ即ち太極なり

 

「ゼァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

太極の魔法円(マジックサークル)を足元に光らせた命は、莫大な魔力を乗せた深紫の光剣を眼下に現れた小人族(パルゥム)ただ一人に叩き落とした。

 

『よっしゃ!!ナイス命ちゃん、ドンピシャだ!ベル、リリ、ヴェルフ!!今の内に突っ込めぇ!!』

 

「行くよ皆!!任せました命さん!!」

 

「頼みます!!」

 

「気合い入れろよ!!」

 

重圧の檻に捕らえた敵が行動する前に、ベル達は命を置いて敵陣に突っ込んだ。彼らは知っている、この先に居るのはハイエルフの女性とドワーフの男性の二人だけだと言うことを、そしてその奥の部屋に目的の旗が立て掛けてあることを。

 

「グッ……この魔力と鬼気、昔のリヴェリアを思い出したよ」

 

「悪いが、自分が力尽きるまで付き合って貰うぞ!!フィン・オディナ!!!」

 

力を一点に絞り、限界まで出力を上げた【フツノミタマ】は、Lv.6のフィンでさえ身動きが取れなくなる程に強力な物だ。しかし、その代償は大きい

 

「確かに…………強力な『魔法』だ。でもそんな勢いで精神力(マインド)を注ぎ込んでいたら直ぐに精神疲弊(マインドダウン)を起こす、最悪死ぬよ?」

 

「望む所だ!!!例えこの命尽きようと、色殿を殺させてたまるか!!!!」

 

「ガッ!?」

 

激情した感情に呼応するように【フツノミタマ】の威力が更に増す、ヤマト・命の生命(いのち)を掛けた足止めが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇティオネ、本当にカラス君大丈夫かな?」

 

「はぁ、何回も言わせないで頂戴。団長が悪いようにはしないって言ってたんだから大丈夫よ」

 

「でもさぁ」

 

「団長を信じなさい」

 

ピシャリと言い放ったティオネは、会話は終わりとばかりにティオナの前を無言で走り出す。不満そうに口を尖らせたティオナだが、それ以上反論する事なく黙って後ろを走った。

 

暫く無言のまま、地図を便りに人造迷宮(クノッソス)の人工の道を二人で突き進んでいくと、見知った人影が二人の前に現れる。

 

「………あれは?」

 

狐人(ルナール)ちゃん?」

 

そこに居たのは少し前に双子の姉妹が間違って襲ってしまった狐人(ルナール)の少女だった。仲間とはぐれたのだろうか、一人でいる彼女は此方側に気付くと慌てて逃げてしまった

 

「ティオネ、どうする?」

 

「う~ん、一応捕まえておきましょう。仲間と合流されたら面倒だわ」

 

「了解!」

 

姉の言葉を聞いた妹は、力強く地面を蹴りグングンと必死で逃げている狐人(ルナール)に近付いていく。

 

「ひょえええええええ!!!」

 

「ごめんね狐人(ルナール)ちゃん。大人しく捕まって」

 

そう言いながら、直ぐに追い付いた狐人(ルナール)の首元に手を伸ばすティオナ・ヒリュテは

 

「エグッ!?」

 

知覚外から来た何かに体を真上に吹き飛ばされ、物凄いスピードで天井に叩き付けられた。

 

「な、なにが――――クッ!?」

 

驚愕するティオネにも同様の攻撃が真下から繰り出される。しかし、妹の惨状を目の前で見せ付けられた姉は、その攻撃にギリギリ対応し、何とか防ぎ切った

 

「なんだテメェ…………ぁ!?」

 

怒りを顕にしたティオネは信じられない物を見たかの様に目を見開く。そこに居たのは神々しく光輝く一人の少女、褐色の肌に銀髪を携えたその姿は正しく妖精、いや美の女神だ。もしくはそれ以上の何か――――

 

「ケケケケ、あの一撃を防ぐか。中々やるじゃないかぁティオネ・ヒリュテぇ」

 

片手で自分の何倍もある戦斧を軽々と振り回す小柄な女性の名前は、フリュネ・ジャミール。

 

フリュネの本来の姿を目にしたティオネは、自身より美しすぎる彼女を前に動く事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二階建てになっている部屋の上段、そこに胡座を掻いて座っている人物の前には様々な色の水晶が置かれていた

 

『レフィーヤ達は何処に行ったっすか!?』

 

『ケケケケ!!それじゃあ、いくよぉ!!!』

 

『リリ、ヴェルフ、武器を構えて。僕が先行する』

 

「はっはっはっはっ!!いやぁ、ここまで作戦通りに進んでると気持ちいいぜ」

 

高笑いを上げる人物の名は黒鐘 色(くろがね しき)。この戦場をレーダーで全て把握し、水晶で指示を出しながら戦況を思いのままに動かしている怪物の救世主、魔王だ。

 

「でも、流石は【ロキ・ファミリア】だな。あの一瞬でベート君を先に行かす判断が出来るか、普通?」

 

両腕を組み合わせ難しい顔を浮かべた魔王は

 

「まぁ全部折り込み済みな訳なんですけどねぇ!!クックックッ……ハーッハッハッハッハッ!!!!」

 

直ぐ様口元を三日月の笑みに歪め、そのまま楽しそうに笑いだす。勝利を確信している笑いは人造迷宮(クノッソス)の隅の方にポツンと存在する一部屋に響き渡った。

 

「はぁ、はぁ………ふぅ…。笑った笑った笑い疲れた、と言う訳で、お前が迷わずこの部屋に真っ直ぐ突っ込んで来るのも想定済み何だよ、金髪ゥ」

 

「…………」

 

見下げた所には彼の言った通りに金色の少女の姿が有った。しかし、何時もなら問答無用で攻撃を始める彼女は、剣を抜く事もなく無言のまま佇んでいる。

 

「そんな顔するなよ金髪。何回もボコボコにされてる俺がこんな大事な場面で何の策も無くお前と戦う訳無いだろ?」

 

視線で人を殺せるなら殺しているであろう程の殺気を放って来るアイズに対して、色は小馬鹿にするように鼻を鳴した。

 

「フンッ、そんな殺気を放ってもお前は指一本動かせねぇよなぁ?あぁそうそう、こういう時の代名詞言っときますか」

 

彼は横に居た人物の首元に手を掛け

 

「動いてみろ、仲間を殺す」

 

アイズ・ヴァレンシュタインを脅迫した。

 

そう、黒鐘 色は【ロキ・ファミリア】のLv.3以下全ての団員を洗脳済みだった。故に相手側の作戦も全てが筒抜け、先手も取れるし待ち伏せも出来る。そしてアイズを取り囲むのは洗脳された【ロキ・ファミリア】の全団員、その全てが人質として敵としてアイズの前に立ち塞がっているのだ。

 

「防御も攻撃もするなよ?――――やれ、レフィーヤ」

 

「【アルクス・レイ】!!」

 

色に首元を押さえられている人物、洗脳されたレフィーヤ・ウィリディスは一切の躊躇も迷いも無く、憧れのアイズ・ヴァレンシュタインに光の『魔法』放った。

 

白色の閃光が一直線に無防備な剣姫に突き刺さり――――切り裂かれる

 

「な!?………てめぇ!!仲間がどうなってもいいのか!?」

 

狼狽する魔王に抜刀した剣姫は迷う事なく次の言葉を言い放った

 

「ゴミ虫に人を殺せる度胸なんてないよ」

 

色の誤算があるとしたらただ一つ

 

もう既に、アイズ・ヴァレンシュタインの瞳の奥は黒金色に染まり切っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの戦場で激しい火花が散らされる中

 

「――――」

 

ただ一人、漆黒の怪物はその時が来るのを静かに待つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤマト・命

 

 Lv.2→Lv.3

 

 力 :D581→I0

 

 耐久:B760→I0

 

 器用:A885→I0

 

 敏捷:D542→I0

 

 魔力:S999→I0

 

 耐異常:I

 魔導:I

 

 《魔法》

 

【フツノミタマ】

 

・重圧魔法。

 

・一定領域内における重力結界。

 

《スキル》

 

八咫黒烏(ヤタノクロガラス)

 

・効果範囲内における敵影探知。隠蔽無効。

 

・モンスター専用。遭遇経験のある同種のみ効果を発揮。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

八咫白烏(ヤタノシロガラス)

 

・効果範囲内における眷属探知。隠蔽無効。

 

・同恩恵を持つ者のみ効果を発揮。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

 

 

 

 




さぁて、どの戦闘シーンから書いていきましょうかねぇ


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第35話 狂戦士と娼婦

「え?色様と最近、ですか?」

 

ある日の昼下がり。久しぶりに顔を見せた知り合いのアマゾネスの質問に、尻尾の毛繕いをしていた春姫は首をかしげた。

 

「う~ん、別にいつも通りですよ?早朝訓練をして、ダンジョンに潜って、帰ってから食事をして、夜寝る時にお話を聞かせて貰う………あ、この間、無敵のゲーマー兄妹が異世界に行ってゲームで無双をするという、とても面白いお話を聞かせてもらったのですけれど、良かったら聞きますか!!――――はぁ、別にいいですか……………面白いのに」

 

ボソッと呟いた春姫の言葉に微塵も耳を貸さずに、アマゾネスは色との関係について根掘り葉掘り聞くことにした

 

「寝る時?それはまぁ、同じベッドで寝ますけれど――――え?肉体関係!?な、無いです無いです!!(わたくし)、これ以上体を重ねる殿方はベル様だけと決め………ハッ!?今のは聞かなかった事に~」

 

顔を青くしたり赤くしたりしてワタワタしている春姫に、この生娘の頭の中は何時でも春なのかい、とアマゾネスは頭を抱えた。

 

「そ、それに色様は一切そういう事をされない方なので安心で、安心なので御座います!!確かに、一緒に寝たり買い物に行ったり攻略作戦や訓練内容を二人っきりで話し合ったりしていますが、これまでに触られたとしても尻尾や耳だけですし!!!」

 

――――ほぅ

 

経験豊富なアマゾネスは思う、普通そこまで近くにいる男女がお互いに何も想う所が無いことが有るのだろうか?いや、そんな事有る筈がない。恐らく目の前の色ボケ狐はベル・クラネルに恋をしながら黒鐘 色にも惹かれているのだろう。

 

これは――――少し引っ掻き回してやったら面白くなりそうだ

 

「え、二人の関係ですか!?それは勿論同じ眷族(ファミリア)の家族………だ、男女としてどういう関係か、ですか?えーと、それは……そう、兄妹です!!色様は(わたくし)のお兄様見たいな方なので御座います!!」

 

まぁ、落とし所はそこら辺になるだろうねぇ―――だけど私はそんなに甘くないよ。

 

もう少し具体的に突っ込んで意識させてやろう、心の中でアマゾネスの主神が涙目でヤメロと言っている姿が幻想されたが、そんな事お構い無しに口を開こうとして

 

その時、件の人物が扉を蹴破るほどの勢いで部屋の中に入ってきた。

 

「おいこら駄狐!!また俺のスマホ勝手に持ち出しやがったなぁ!!!!」

 

ビクッと肩を跳ねさせた春姫は、直ぐに顔を真っ赤にして色に食い掛かる

 

「か、勝手に部屋の中に入ってくるのは止めてくださいって何度も言っているでは御座いませんか!!貴方にはデリカシーと言うものが無いのですか!?」

 

「てめぇがスマホや帽子を勝手に持ち出すからだろうがぁ!!いいから返せッ!!そしたら出て行ってやる!!!」

 

「嫌で御座います!!別に少しぐらい貸して下さっても良いでは御座いませんか!!色様のケチンボ!!」

 

「ケチ!?お前の少しが何回も何回も回数が多過ぎるからこうやって取り返しに来てんだよ!!!もう怒った!無理矢理にでも取り返す!!!

 

そう言って色は盗られたスマホを取り返そうと春姫に襲い掛かった。ドタバタし出した二人の間に男女の中の甘酸っぱい空気など欠片も見受けられない

 

「あっ、ちょっ!!着物を引っ張らないで下さいますか!せめて新曲を覚えるまで待って下さいまし!」

 

「くそっ!このっ!生意気に魔防の着物なんて着やがって!!何が新曲だ!人の曲パクって歌ってる著作権侵害女(エセアイドル)が!!」

 

「あぁ!?今(アイドル)を馬鹿にしましたね!!夜道にファンの方々に襲われても知りませんよ!?」

 

「上等だ!!こっちだってファンの一人や二人いるもんね!!お前だけが特別じゃねぇんだよ!!って痛てぇ!?爪立てやがったなこの女!!もう容赦しねぇ!!!」

 

「ふぐッ!?こんな事で《スキル》を使用するなんて大人げないとは思わないのですか卑怯者!!ならばこちらにも考えがあります!!アイシャ様!《魔法》を使うので応戦を――居ない!?」

 

自分が巻き込まれる前に部屋の外に退散したアマゾネスは、服を乱れさせ傷を付けながら暴れ出した二人に呆れた視線を送り

 

「何にしても、春姫が取っ組み合いの喧嘩をする所なんて初めて見るね」

 

そんな言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっとぉ!!他の【ロキ・ファミリア】の高レベル冒険者が合流しましたぁ!!これでは戦局がどちらに傾くか全く見当がつかなぁぁぁぁぁい!!!!!』

 

『の、ノリノリですねミィシャさん』

 

『イブリさんの方こそテンションが低すぎるんじゃないですか!?よくそれで『喋る火炎魔法』なんて自称出来ましたね!!』

 

『ぉお!?言ってくれるじゃねぇか!!それじゃあこっからは、この『喋る火炎魔法』ことイブリ・アチャーの独壇場だ!!』

 

そんな大声と共に天高く展開されている鏡には、人間の様に指示を出し普通のモンスターとはまるで違う戦い方をする異端児(ゼノス)達と、増援が来たことにより希望の顔色を浮かべる【ロキ・ファミリア】の激しい乱闘が大々的に映されていた。例え違う生物でも、熱い戦いを見せられた冒険者達は歓声の声を上げる

 

「色さんは!?何故色さんを映さないのですか!!」

 

その中で、エルフの女性の野次が飛んだ。普段とは違う彼女の様子に隣に佇むヒューマンの女性が少しだけビックリした

 

「リュー、今日はどうしたの?」

 

「シル、貴方はおかしいと思わないのですか!!さっきから異端児(ゼノス)と【ロキ・ファミリア】の戦いばかりに映してクラネルさんや色さんの様子はちっとも映さない。カメラマンは何をやっている!?」

 

「お、落ち着いて。そんなに怒鳴らなくても今は異端児(ゼノス)さん達が頑張っているんだから良いじゃない。それにベルさん達も今は移動しているだけでその内映るわよ」

 

「しかしシル。あの人達がここまで時間が経っているのに何もしていないのは考え辛いのです!!――――ッ!?」

 

大声を上げたリューは押し黙った、理由は自分に集中されている視線だ。「今、良いところだから静かにしてろ」そんな言葉がありありと乗せられた複数の視線を一身に受け、思わず「すみません」と謝ってしまう

 

「今はベルさん達を信じて静かに見守りましょう。きっと何とかなるわ」

 

「……………はい」

 

隣友人にそう言われ、言葉を返してから空に浮かぶ大鏡を見ると

 

『おおっと!!これは!!【ロキ・ファミリア】のアマゾネス姉妹の前に!!絶世の美少女アマゾネスが立ち塞がっているぅぅぅぅぅぅううううううううう!!!!!あの子が【ヘスティア・ファミリア】の助っ人なのかぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?』

 

『イブリさん、やっぱり五月蝿いので黙っていてください』

 

『酷い!?』

 

まるで自分の(願い)を聞き届けたかの様に、見覚えの有る美少女アマゾネスが大斧を優雅に振り回している場面に映り変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なによそれ)

 

面積の少ない踊り子のような衣装に裸足の足、光の粒を纏った銀髪黒眼の少女(アマゾネス)を前にティオネは一歩後ずさった。

 

(ふざけんじゃないわよ)

 

それは恐怖で怖じ気づいた訳でもなく、威圧感に身を竦めた訳でもない

 

(あれは一体なんなんだ!!)

 

ただただ美しい少女に感心しただけだ。例えば、夜空に落ちる流星群を見掛けたときの様に、町に沈む夕焼けを見かけた時のように、美しい風景を見かけた時に人間がする行動(リアクション)をティオネは取っていた

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

そうなった自分を認めないかのように、彼女は目の前のアマゾネスに双剣を差し向ける

 

「ケケケケ!!それじゃあ、いくよぉ!!!」

 

その怒号を合図にフリュネも戦斧を振り回し、唐突にその先端を人造迷宮(クノッソス)の固い地面に突き立てた。意図が解らないが訳の解らない怒りに突き動かされたティオネは止まらない。そのままLv.6の身体能力を存分に活かし、二つの刃を首元に走らせ――――投げ飛ばされた

 

「な!?」

 

「フッ」

 

驚愕で眼を見開くティオネにフリュネは薄く笑い、宙に浮いている彼女を向かってきた勢いのまま地面に叩きつける。

 

「ガッ!?」

 

「ケケケケッ、あたいと戦うには少~しばかり器用と敏捷、それと技が足りないねぇ」

 

小振りな唇を喜悦に歪め、ポールダンスの様に戦斧に体を絡めているフリュネをティオネは憎々しげに見上げた。

 

先程の一瞬で起こったのは単純にティオネが投げ飛ばされただけではない。まずフリュネはティオネが全力で振り抜いた二つの刃を上に弾いた。それはまるで雨の中で行われたアイズと色の一合い目を想起させるが、彼女はその上を行く。戦斧に体を預けバランス取りながら、剛速で襲いかかる双剣を指で摘まみ押し上げたのだ。

 

更に体制を崩したティオネを右足蹴り上げ、その時のスピードを殺さないまま左足を胴体に絡めて、全身を使い頭から叩き落とす。その一連の動作を目の前の華奢な少女はティオネ(Lv.6)が反応出来ない速度でやりきったのだから、冒険者という者は恐ろしい

 

「その気持ち悪い体をこれ以上私に見せるんじゃねぇ!!!」

 

そう、冒険者は恐ろしいのだ。例えあれだけの力の差を見せ付けられたとしても、ティオネは怒りの形相で戦斧に張り付いて離れないフリュネを罵倒した。

 

「中々いい表情で吠えるじゃないかぁティオネ・ヒリュテぇ。そうさ、その反応がこのみすぼらしい身体に最も相応しい評価なんだよぉ………ケケケ」

 

「笑ってんじゃねぇぞ、蛙女!!」

 

普段では絶対に見せないような自傷気味な笑いを見せたフリュネに、ティオネの攻撃が飛んだ。それは投影型のナイフ、フィルカだ。深層のモンスターでも切り裂けるナイフを三本、少女が逃げられないよう両面と真っ正面に投げたティオネは、それに追い付く速度で自身も駆け出す。

 

「ふんっ、考えが浅いねぇ」

 

そう呟いたフリュネは三角形(トライアングル)に投げられたナイフの二つを両手の人差し指と中指で摘まみ先程と同じ様に逸らし、真ん中のナイフは体をクルッと旋回させ、地面に固定させた戦斧(ポール)の棒の部分で弾いた。そして弾かれたナイフを右足の指で器用に挟み、姿勢を低くしながら迫っていたティオネに投げ落とす。

 

「チッ!!」

 

「ほぅ」

 

舌打ちをしながらティオネが取った行動は後ろに下がることでも横に避ける事でもなく、更に加速し前に突き進むこと。振り下ろされたナイフを腕に受けながらバランスを崩したフリュネに向かって再度凶刃が振り上げられ

 

「ガッ!?」

 

体を壁に投げつけられた。強制的に肺から空気を吐き出さされたティオネは、酸欠でクラクラしながらも少し冷静になった頭を押さえ、さっきの現象について考えを巡らす

 

(なんだ、何もしていなかったのに私が投げ飛ばされた?)

 

そう、ティオネは刃を走らそうとした瞬間、何もしていないフリュネに直角に投げられ壁に叩き付けられたのだ。普通ならばあり得ない現象だが、何かの《スキル》が働いているのかもしれない。

 

そう結論付けたティオネは、今度は持っているナイフ全てをフリュネに向けて投げ放った。

 

「ケケケッ、自棄になったのかぁい?」

 

戦斧に体を絡めるフリュネは、迫り来る無数のナイフをまるでダンスを踊るかの様にクルクルと回りながら捌いて行く。腰まで伸びている銀髪を揺らしなが行われる回避(ダンス)は何処までも幻想的で、何処までも美しい。

 

「ティオナ!!!」

 

「ほいさっ!!!」

 

フリュネの背後、掛けられた声に復活した妹の武器が上段から振り下ろされた。しかし、超硬金属(アダマンタイト)を幾つも重ねて作られたな重厚な刃は身体を捻って側面から放たれた小さな掌底に簡単に弾かれる。

 

「うっそぉ!?」

 

「甘いね」

 

涼しい顔で姉妹のコンビネーションを防ぎきったフリュネは、光輝く妖精の様なしなやかな足先で掴み取ったフィルカを流れるような動作で容赦なく体制を崩したティオナに解き放った。

 

「うッ!?くッ!!」

 

何とか両腕をクロスさせて頭はガードしたものの、腕から血飛沫が飛び散り。バックステップで大きく後ろに下がる妹に気を取られているフリュネの背後から姉が横凪ぎに振り抜こうとして――――視線を向けられただけで投げ飛ばされた

 

「糞がッ!!さっきから鬱陶しい《スキル》だな!!ティオナ二人で行くわよ!!!」

 

「う、うん!!」

 

挟撃――【ロキ・ファミリア】が誇る最強の双子のアマゾネス姉妹が、たった一人のアマゾネスを打ち倒すために駆けた。弾丸の様に放たれた拳、鞭のようにしなる脚、戦斧に張り付くフリュネは隙間の無い攻撃を

 

「な、なんで!?」

 

「当たらねぇ!?」

 

白銀の毛先に触れさせる事もなく、美しい蝶の様にヒラヒラと捌いて行く。

 

「たしか制空権と呼吸投げだったか?ケケケッ馬鹿弟子の知識も中々役に立つじゃぁないか」

 

数秒後、ティオネは当たり前のように何もされていないのに投げ飛ばされ、ティオナは自分の力を利用され地面に叩きつけられた。

 

「それにしてもアイツの『魔法』は相変わらず凄まじいね。元の身体を使ってここまで慣れるのに時間が掛かるとは思わなかったよ」

 

「うぐッ」

 

「くそっ!くそっ!!」

 

無様に転がる姉妹を前に、変わらない輝きと美しさを撒き散らす幼げな女性が、遂に戦斧を地面から引き抜き、突き付けた

 

「それじゃあ準備運動も終わった事だしぃ」

 

フリュネ・ジャミールは姿勢を低くする

 

「見せてやろうかぁ」

 

咄嗟に武器を構えたヒリュテ姉妹

 

「器用と敏捷の極みをねぇ」

 

迷宮の一角、双子の女戦士(アマゾネス)は目の前の女戦士(アマゾネス)との戦いが激化する事を肌で感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはなんて事の無い普通の日、とある家で一人のアマゾネスが生まれた。子が生まれて喜んだ母親も出産に立ち会った人物も勿論全員がアマゾネスだ。そんな中生まれた子はアマゾネスの中では珍しい銀髪で、とても美しいという噂が近所でもあっという間に広まるぐらい輝いていて、母親も己の事のように自慢していた。

 

「お前みたいな醜い子、生むんじゃなかった」

 

生まれてから三年後、銀髪の少女は捨てられた

 

少女の母親は日に日に美しくなっていく子供の美貌に耐えきれなくなったのだ。しかし娘に手を上げる訳にもいかず、そして遂に限界に達した。

 

「あんたみたいな不細工、これ以上家に置いておけないよ」

 

引き取られた先に居られたのは半年、そこから転々とたらい回しにされた。

 

それはまるで自分が何処までも醜く映る鏡を見せられているような感覚、どれだけ着飾っても価値が高い化粧品をどれだけ使っても、少女の美貌の足元にも及ばない。

 

「ふんっ、なんだその気持ち悪い髪は」

 

恩恵(ファルナ)】を初めて刻んだ時、主神にはとある美神と似ている頭髪を指してそんな事を言われる。

 

その頃には自分の容姿が嫌で嫌で仕方がなかった。幾ら食べても大きくならない体、伸びない身長、他のアマゾネスとは違う髪色、その全てを周りの人間から罵られる。ある日から少女は不細工な身体を隠す為に全身を覆う鎧を被り、顔を隠してダンジョンに行く事にした。

 

「なんだい弱っちいね。弱い女戦士(アマゾネス)なんて醜いだけさ」

 

ダンジョンに潜った彼女の回りの評価は散々だった。体質的に華奢な身体では力値と耐久値が殆ど伸びないのだ。それでも彼女は努力を怠らなず、せめて器用値と敏捷値は伸ばせるだけ伸ばそうと躍起になった。強いアマゾネスはそれだけで美しいと賞賛されるだから。

 

だから自分も、Lv.さえ上がれば――――少女がダンジョンに籠るようになるまで、差ほど時間は掛からなかった

 

「へー、中々やるじゃないか」

 

どれだけ努力しても力と耐久が殆ど上がらない、その代わり器用値と敏捷値は馬鹿に出来ない程に伸びていた。なのでモンスターの弱点を的確に突き、攻撃を全て避けて行くのが少女の戦闘スタイルになっていく。全身鎧(フルプレート)を纏った動き難そうな格好で、器用に敵を屠っていく姿は少なからず周りのアマゾネス達の感心を集めた。

 

そして少女が年頃の女性になる頃、遂に【ステイタス】を昇華(ランクアップ)させる。

 

これで誰にも馬鹿にされない!!

 

そして少女は鎧を脱ぐ事にした。Lv.が上がった彼女は初めて見せる素顔に困惑する周りのアマゾネス達を引き連れてダンジョンに向かう。

 

重い鎧を脱ぎ捨てた彼女はモンスターの攻撃を全て避け、傷一つ付けず踊るように戦った。その姿はまるで妖精のようだと周りの男性冒険者に絶賛され、やっと認められたと他のアマゾネスに輝かしい笑顔で振り向き

 

「それ以上その身体を私達に近づけるな!!」

 

何時もと同じ様に罵声を浴びせられた

 

アマゾネス達が彼女の容姿を口汚く罵るのは最早、防衛本能に近くなっている。せめて言葉で汚さなければ自分が保てなくなるほどの暴力的なまでの美さは、美神の魅力とは真逆の向き(ベクトル)でアマゾネス達を苦しめていたのだ。

 

「どうして、だれもあたいを認めない!?」

 

美しい事は罪だと誰かが言った、しかし彼女はあまりにも美し過ぎた。

 

そして何よりも不幸だったのは、周りに女性(アマゾネス)しか居なかった事だろう。(異性)が一人も居ない種族だらこそ、嫉妬という感情しか差し向けられたことの無い彼女は、自身の本来の美しさに気付けない。

 

「この身体のせいかッ!!!」

 

昇華(ランクアップ)しても変わらない評価、彼女は自分の銀髪や華奢な身体を心の底から憎んだ。全てを撃ち壊す力さえあれば、どんな攻撃にも怯まない耐久力があれば、この貧弱な体さえ無ければ!!

 

彼女は願う。最も強く美しい身体を、誰にも負けない強靭な肉体を、強く強く強く強く願い―――

 

一つの『呪詛』が権現した

 

【プリンセス・フロッグ】

 

その効果は自分の【ステイタス】を好きなように振り直しが出来るという、とてつもない『希少呪詛(レアカース)』。しかし、彼女が眼を輝かしたのはそこでは無い、『呪詛』を発動した時に振り分けた【ステイタス】の量に比例して自分の体が変化するという『代償』に希望を見出だしたのだ。

 

彼女は身体を大きくする為に嬉々として器用値を力値と耐久値に振り分け、本来の美しさという『代償』を湯水のように支払い、銀髪の美女は蛙の巨女に変貌する。

 

そこから彼女の人生は変わった。周りの嫉妬が畏怖に変わり、罵倒が賞賛に変わり、掌を返したかのように褒め称えるアマゾネス達に優越感を覚え、何より【イシュタル・ファミリア】の団長にまで上り詰め、オラリオ最強の女性冒険者という名声まで手に入れた。

 

「ゲゲゲゲゲッ!!だぁれもアタイには敵わない!!アタイこそが最も美しく、最も強い女なのさ!!」

 

そんな彼女の栄光に泥を塗ったのは、一人の金髪金眼の剣士

 

初見で気に食わない奴だと思った。あんな人形顔の不細工だれも相手にしやしないよ。そう思いながらLv.2の最速記録(レコード)を持つ生意気な小娘に冒険者としての洗礼を加えようとして、失敗に終わる。

 

自分(フリュネ)より強く、自分(フリュネ)より美しい』

 

それからフリュネ・ジャミールの地位も名声も実力も、全てが金髪の少女に追い抜かれるのに差ほど時間は掛からなかった。気付いた時には気に食わない金色が都市最強の女性冒険者の名を欲しいままにして、美しさすら己の方が劣っていると蔑まれる始末。

 

「アタイの方が美しいに決まっている!!!どうしてあんな不細工が持ち上げられる!!」

 

あり得なかった。あの容姿で、あの姿形で、自分より美しいと言われ強くなっている彼女が到底信じられなかった、そして何よりも憎かった。

 

憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて――――自身の本来の姿を醜いものと信じて疑わないフリュネは気づけない。その気持ちこそが、他のアマゾネスが自分に向けていた感情だと言うことに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、イシュタル様にも困ったもんだよ。作戦決行日までLv.を上げるのを保留にして限界まで経験値(エクセリア)を貯めて来いなんてさ。わざわざこの姿で器用値を上げなきゃなんないじゃないか」

 

そして月日は流れ

 

「春姫を使って確実に【剣姫】をぶっ潰す為に、一刻も早く弱味を握って脅すしかないねぇ。レナの奴、上手くやってたらいいが………ん?」

 

「何が【剣姫】だ!何がオラリオ最強の女剣士だ!あんなのただの暴力女じゃねぇか!!!!」

 

銀髪のアマゾネスは黒髪の少年と

 

「へ~、中々面白いことを言う奴がいるねぇ。ちょっと行ってみるかぁ」

 

師弟関係を結ぶ事になるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「グッ!?」」

 

「なんだいなんだい、その程度かい?ヒリュテ姉妹ぃ」

 

もう何度目か分からない程に地面に叩きつけられた二人を、再び戦斧に張り付いたフリュネが銀髪を掻き上げ艶かしい表情で挑発する。

 

「ぶっ殺してやる蛙女ぁ!!」

 

「ちょっとティオネ!?さっきから様子がッ」

 

フリュネの美貌は例え自覚がなくても同じ種族のアマゾネスに取っては毒でしかない。特に恋をしている女性(ティオネ)には、一瞬で怒りに支配されるほどの猛毒と化していた。

 

「フッ」

 

そのため、怒りに任せて力押しをすればするほど昔から相手の力を利用する事に長けていた彼女の餌食となり、例え【噴化招乱(バーサーク)】を発動している状態の彼女でも例外は無く

 

「あぐっ!?」

 

戦斧が跳ね上がり、双剣ごと身体を絡め取られ地面に叩きつけられた

 

「ティオネ!!連携しなきゃ本当に負けちゃうよ!?」

 

「うるせぇ!!散々やって無駄だっただろうが!!!」

 

「でも!!私たちもうッ!?」

 

「ペチャクチャと、よく動く口だねぇ」

 

一瞬で懐に入られたティオナは反応できない。光を纏いながら放たれる究極(Lv.7)の一撃は、【大熱闘(インテンスヒート)】を発動さしている彼女の腹部を意図も容易く撃ち抜いた。

 

「ティオッ!?」

 

「姉妹仲良く飛んじまいな」

 

眼にも止まらないスピードで回り込んだフリュネは、姉の方も同じように妹が吹き飛ばされた方向に戦斧の腹で吹き飛ばす

 

「まぁ、可愛い愛弟子を殺させる訳にはいかないからねぇ。春姫、やりな」

 

「わかりました」

 

言葉を掛けられ、ずっと隠れてた狐が構えたのは一本の魔刀だ。その刀はフリュネに掛けられた《魔法(ウチデノコヅチ)》を吸収し、淡い光を纏い

 

「魔刀・集月!!」

 

吹き飛ばされた先で仲良く折り重なっている姉妹に向けて容赦なく放たれた。

 

「「!?」」

 

月の形に飛ぶ斬撃は双子を飲み込み、更に奥の超硬金属(アダマンタイト)の壁すら傷つける。気絶寸前でだった二人の意識は簡単に刈り取られ、この戦いの勝者が決定した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、あらゆる魔力を吸収し斬撃に変える次世代の魔剣ですか。ヴェルフ様も面妖な物を作られますね、これで失敗作の出来損ないらしいですけど」

 

「あんたその魔剣の威力を知らずに放ったのかい!?って言うかそれで失敗作ってどう言うことだい!?」

 

アマゾネス姉妹を特殊なワイヤーで縛っていたフリュネは、刀剣を繁々と見ていた春姫がポツリと漏らした言葉に思わず突っ込んだ。どう考えても重症(オーバーキル)になっている二人と(えぐ)れている壁を見て、流石のフリュネもやり過ぎだと思っていたのだ。

 

「何でも、完成品は魔力をずっと留めて置くらしいですよ。そんな事が可能なのかは知りませんが」

 

「………なんかそれ聞いた事があるねぇ」

 

「そうなのですか?あっ、それよりフリュネ様」

 

「なんだい?」

 

「撫でても良いですか?」

 

「ぶっ飛ばすよ」

 

「残念です」

 

あっさり引き下がった春姫はフリュネの縛ったワイヤーの上から更に何十も巻き付けに掛かった。芋虫のようになった双子を見たフリュネは思う、あの春姫が数ヵ月でここまで変わるとは。少し前まで人の後ろに隠れて『魔法』を唱えるだけだった少女が、今では【ロキ・ファミリア】のヒリュテ姉妹に容赦なく魔剣を放ち、自分(Lv.6)に物怖じせずに意見を言うほどにまで成長している。

 

まぁ、あのキチガイ・ファミリアに何ヵ月も居れば誰だってああなるのかねぇ

 

【ロキ・ファミリア】と闘うまでの間、修行を付けてくれと言われて一人で色以外の団員の相手をさせられた時の事を思い出して少しだけフリュネは身震いした。

 

とりあえず、いつもの(ヒキガエル)状態では絶対に勝てなかったねぇ………

 

うん、思い出すのは止めよう。そうフリュネが結論付けた時、芋虫状態の双子を一纏めにしていた春姫の耳がピコピコと動き嫌に機械的な声を投げ掛けられる

 

「フリュネ様、新手が来ます。足音からして男性、段違いな速さから計算するとベート・ローガ様ですね。この二人を囮にして罠を仕掛けましょう」

 

「へぇ、そいつは面白」

 

「二人を助けようとした所を三人纏めて『強臭袋(モルブル)』と『集月』の餌食にします。『魔法』を掛けますので、向こうで待機していて下さい」

 

「あんたあのアマゾネス達に何か恨みでもあるのかい!?」

 

「大丈夫です。あの二人なら良い感じにワイヤーで巻いてあるのでダメージは無い筈ですから」

 

「いやいや、顔面おもいっきり出てるじゃないかい」

 

「顔面セーフです」

 

「アウトだよ!?」

 

「ピーチクパーチク煩せぇぞ、女ども!!」

 

「「………」」

 

真顔になった二人が後ろを振り向くと、そこには【ロキ・ファミリア】が誇る俊足の狼人(ウェアウルフ)、ベート・ローガの姿が存在していた。どうやら馬鹿な事をやっているうちに到着していたらしい

 

「春姫、作戦は?」

 

「うーん、そうですね」

 

その瞬間予め唱えていた呪文により、フリュネの身体がベートと闘うために最適な【ステイタス】に振り分けられた事で変化し。春姫の『妖術』により更にブーストされる。

 

「当初の作戦通りに、真っ正面から潰してください」

 

「あいよぉ――――来な糞狼、お前を潰す為に一週間この身体で慣れさせたんだ、今度こそ【男殺し(アンドロクトノス)】の二つ名の恐ろしさ、その身体に刻み込んでやるよぉ」

 

「あのヒキガエルがどんな手品使ってそんな体型になったのかしらねぇが、娼婦は娼婦らしく男に尻でも降っとけ雑魚が」

 

娼婦と凶狼の第2ラウンドが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備は良い?」

 

「何時でも」

 

「行けるぜ」

 

「うん、それじゃあリリもヴェルフも手筈通りに任せたよ」

 

「「任された」」

 

「ガレスさんとリヴェリエさん、あの二人を三分以内に落とす。それで僕たちの勝ちだ」

 

声を掛け合った三人は【ロキ・ファミリア】最強クラスの二人に向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンジョウノ・春姫

 

 Lv.1

 

 力 :C621

 

 耐久:A819

 

 器用:S999

 

 敏捷:D566

 

 魔力:S990

 

《魔法》

 

【ウチデノコヅチ】

 

階位昇華(レベル・ブースト)

 

・発動対象は一人限定

 

・発動後、一定時間の要間隔(インターバル)

 

・術者本人には使用不可

 

 




フリュネさんの元ネタの女性は本当に美しかったらしいですね


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第36話 怪物進撃と勇者一行

やっぱりうちのパルゥムはおかしい






鐘楼の館の一角、開けられた工房のドアから熱風が吹き抜ける。真っ赤に放熱する炉の前には、赤い頭髪のヒューマンが真剣な表情で金槌を振り下ろしていた。

 

「―――リリスケか」

 

「おや、バレていましたか」

 

掛けられた声におどけて返事したのは小人族(パルゥム)の少女、リリルカ・アーデだ。

 

「春姫を横に付けてずっと打ち続けてたからな。アイツほどじゃないが、ファミリア内の人間だったら足音だけで誰か分かるようになっちまった」

 

「春姫さんですか。あの人も凄いですよね、育成計画の事覚えてます?音だけで周りにどのモンスターがいるかを判断しだした時はビックリしたものですよ。狐人(ルナール)って皆ああなんでしょうか?」

 

「さぁな、それより何しに来たんだ?お前が工房(ここ)に来るなんて珍しいじゃねえか」

 

「あ~、ちょっとお話を聴いて貰おうかと。これ、差し入れです」

 

そう言いながら近づいたリリは、手に持っている大きめのコップをヴェルフの前で軽く降った。液体の音が聞こえ、恐らく中身は水か何かだろうと見当を付けたヴェルフは持っている金槌を置いて受け取る。

 

「あれ?手を止めて良かったのですか?」

 

「あぁ、これは何回か休憩を挟んで打つ代物だからな。そうしねぇと俺の神経が持たねぇ」

 

「なに作ってるんですか………」

 

呆れた声を呟いたリリを連れてヴェルフは熱された工房の外に出た。火照った身体が外気で冷やされ、空を見上げると満天の星が広がっている。

 

「それで、話ってなんだ?」

 

コップの中身は水ではなかった。少しだけ芳ばしい香りに、たしか烏龍茶だったか、と思いながら一気に半分ほど飲んだあと、身体を伸ばして未だに話すのを渋っているリリに振り向く

 

「どうした?言い辛い事なら無理に話さなくても良いんだぞ?」

 

「あ、いえ。そうですね、少し言いづらいです」

 

歯切れ悪く口をもごもごさせたリリは暫く下を向いて、ヴェルフはその前でジッと待った。

 

「ヴェルフさん最初に謝っておきます、ごめんなさい。それと、今から話すことは全部推測ですので、聞き流してもらっても構いません」

 

「おう」

 

時間を掛けて顔を上げたリリの視線をヴェルフは真剣に見つめる。二人の間に少しだけ重い空気が流れ、トーンを低くしたリリの声が小さく響いた。

 

「………あの地獄を生き抜けた事を疑問に思いませんか?」

 

「…………」

 

押し黙ったヴェルフの表情が少しだけ強張る。

 

「確かに、リリ達は『デスマーチ』と言う地獄を生き抜き、そのお陰であり得ないぐらい【ステイタス】が伸びました。しかしですね、根本的にどう考えても色さんが抜けている状態で、あれを生き残れたのは奇跡と偶然が重なり過ぎてるんですよ」

 

「どういう意味だ?」

 

それは疑問と言うよりかは確認に近かった。ヴェルフも薄々気づいていたのだ、『デスマーチ』をやり遂げた自分達の異質さに。

 

「『モス・ヒュージ』の強化種に襲われた時の事を覚えてますか?」

 

「あぁ、覚えてるぞ。リリスケに殴り殺された可哀想な奴だったよな、振り下ろしたメイスごとぐちゃぐちゃになって………」

 

「いや、あれは『魔石』が大量に詰まった重いバックパックを背負っていたリリを、攻撃して来たあのモンスターが悪いんですよ……って違います!リリが言いたいのは『種子』を飛ばしてきた攻撃についてです!!」

 

「『種子』って最初にして来たあの攻撃か?蔦が絡まって少し動き辛かったな、でもそれだけだろ?」

 

「ええ、そうですね。”リリ達は”それだけで済んでました」

 

「どういう意味だ」

 

先ほどと同じ問いかけ、しかし今回は言っている意味が分からないと眉を潜めた

 

「あの『種子』に当たったのはリリとヴェルフさんと命さんですよね。そこから『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が起きて乱戦になったので他の方は分からなかったと思いますが、実はもう一体あの『種子』に当たってたんですよ」

 

「一体って、モンスターか?」

 

「………はい、それでそのモンスターは『種子』を受け、身体中から蔦が生やしながら明らかに衰弱していました。つまりあの蔦には、何かしらの異常事態を起こす効果があったと思うんです」

 

「なるほどな、でも」

 

偶々人間には害の無い攻撃だったんじゃねぇのか?、そう言おうとしたヴェルフの口が止まる。何故なら、目の前の小さな小人族(パルゥム)の表情が、今にも泣きそうなほど悲痛に歪んでいたからだ

 

「リリスケ、お前……」

 

「確かに、人体には影響の無い攻撃だったのかもしれません。少し前ならリリもそう結論付けていたでしょう。しかし今のリリはそうは思えません」

 

声を掛けたヴェルフを無視して、リリはどこか言い訳をしているみたいに早口で捲し立てた

 

「似てるんですよ、ベル様が暴走した時と。あそこで春姫さんは暴走したベルさんがリリ達を殺すことはないって断言してました。実際、リリに軽い攻撃をして来ても致命傷になるような攻撃はしてきてません。『モス・ヒュージ』の時もそうです、『種子』を受けてもリリ達には対して致命傷になるような効力が出なかった。そう考えると、こう思いませんか?まるで何かに『祝福』されている様だと」

 

「クロのアビリティか……」

 

合点がいった訳ではない。ヴェルフも薄々気づいていたのだ、黒鐘 色の用途の分からないアビリティの正体に。それは他者に加護のようなものを与える物なのだろう、そして恐らくそれだけでない

 

「俺達の急激な成長の原因もそれにありそうだな」

 

「ヴェルフさんも感じていたんですね――――背中の熱を」

 

それはヴェルフ・クロッゾが常日頃から感じていた物だ。魔剣を打つとき、己の《スキル》【魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)】の効果が発動され背中に熱が籠る、それと同じ感覚()を訓練時にもずっと感じていた。

 

「つまりクロの祝福(アビリティ)は、仲間(ファミリア)の成長補正と耐性補正を同時に行っているって訳か。凄まじいな」

 

「そうですね、どこまでリリ達に影響を与えているか分かりませんが、凄いアビリティに変わりありません。ですが、ベル様は色さんに致命傷になるような攻撃をしてました」

 

「それって………」

 

リリの目尻に溜められていた涙が堰を切ったように溢れた意味を、ヴェルフは漸く理解した。

 

「つまり………あの『発展アビリティ』は色さんに何の効果も与えてないんですよ!!!」

 

リリルカ・アーデの哀哭が、夜空の星に届きそうな勢いで大きく響く。

 

「本当の本当の本当にあの人は大馬鹿者です!!どれだけお人好しになったらこんな技能(アビリティ)が発現するんですかッ!!!」

 

『発展アビリティ』が発現する条件は、どれだけそのアビリティを発現させる経験値(エクセリア)を貯めているか否かだ。つまり、黒鐘 色という少年は『祝福』という自分以外の者しか効果がでないアビリティを発現させるほど、他者を思いやっていたという事では無いのだろうか?

 

しかしそれは

 

「こんなものは呪いです。いえ、呪いより質が悪い。自分には一切効果が無くてリリ達だけに有効なアビリティなんて、そんなの――――そんなの、抱えきれる訳無いじゃないですかッ!!!」

 

リリルカ・アーデにとって、決して喜べるような事ではなかった。

 

「何でですか!?何であそこまで平然とリリ達のために自分を削れるんですかッ!!!重いんです!!持ちきれないんです!!!いっぱいいっぱいなんですッ!!!あの人の優しさが怖いんですッ!!貰ってばかりいたら今にも潰れてしまいそうでッ!!だから何時か絶対にッ………このご恩を返すんだって!!それなのに!!!死んだんですよ色さんは!!!あっさりと、簡単にッ!!わかりますかリリの気持ちがッ!!!いえ、わかるでしょう貴方なら!!!あなただって色さんから沢山の物を貰っているのですから!!!」

 

リリの言う通り、ヴェルフも色から貰ったものは大きい。それは『祝福』の効果などという目に見えない様な物では無く、魔弾を作るための切っ掛け、『炎刀』の製造方法の提案、何より、クロッゾの魔剣への固執(今までの常識)を完膚なきまでに撃ち壊し、更なる高みへの道標を示してくれたのだ。

 

そして、リリと同じ様に自分も何時か色に借りを返すため、最高の武器を持たせてやろうと思っていたからこそ、黒鐘 色が死んだ時の『喪失感』は、まるで自分の身体が幾つも切り離されたかの様な凄まじい物だった。

 

ヴェルフに掴み掛かったリリの瞳から大量の涙が零れ落ちる。

 

「あんな思いはもう二度としたくないんです!!!もうしたくないのにッ!!今回あの人は勝手に自分の生命(いのち)を賭けるって言い出したんですよッ!?そんなのッ………耐えられません!!二度も同じ様な事があれば、リリはきっと色さんの生命(いのち)の重さに押し潰されますッ!!!!何一つ返せないまま、貰ってばかりのリリは……きっと………うぅ」

 

そこから先はただ嗚咽が続くばかりだ。泣き続けるリリの肩にそっと手を置いたヴェルフは、暫くそうしている内に泣き止んだリリに「ちょっとまってろ」と言い残し、工房の中から何かを取ってきた。

 

スンスンと鼻を鳴らすリリの前に、見知ったものが突き付けられる

 

「これは………お酒ですか?」

 

「おうそうだ。たまに色と二人で飲んでたりしてな、味は保証するぞ」

 

「そうでは無くて………何故今お酒を?」

 

ヴェルフはドカッと庭の芝生の上に胡座を掻き、リリの質問にドヤ顔で答える。

 

「悲しい事があれば酒を飲んで忘れろ」

 

「…………」

 

「おい、その蔑んだ目は止めろ!?」

 

「…………はぁ、今回はヴェルフさんの提案に乗って上げます。しかし、その一本では少々足りませんので、厨房に行ってお摘まみと一緒に幾つか見繕ってきますね」

 

そう言ってそそくさと館の中に入っていこうとするリリを見送ろうとしたヴェルフは、ふと疑問に思った事を聞いてみる。

 

「なぁリリスケ、ベルにはこの事を話さないのか?」

 

その言葉に少しだけ顔を向けたリリは

 

「――――――ベル様にはこれ以上背負って欲しく無いんです」

 

と、悲しそうな声色で呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんと【ヘスティア・ファミリア】の助っ人アマゾネスが【ロキ・ファミリア】の【怒蛇(ヨルムガンド)】と【大切断(アマゾン)】の姉妹を相手に圧倒している!!!あの銀髪の美少女は一体何者なんだぁ!?』

 

大空の鏡には、圧倒的な美しさを誇る銀髪のアマゾネスが、舞いを踊るように双子のアマゾネスをあしらっている姿が映されている

 

「面白くないわね……」

 

バベル最上階からその光景を見ていた美神は、心底機嫌が悪そうにその一言を呟いた。目に分かるほど機嫌を崩した己の主神を前に、控えている眷族(ファミリア)の間にピリピリとした空気が流れる。

 

「フレイヤ様、どうか気をお諌め下さい」

 

「オッタル、私に命令?」

 

ひたすら冷えきった言葉がオッタルの心を震わせた。しかし、オラリオの人々から【猛者(おうじゃ)】と謡われる彼は、一切揺るがず、怒気を発するフレイヤに忠言する。

 

「お手を……」

 

その一言で、フレイヤは初めて自分の掌がキツく握りしめられている事に気づいた。

 

「…………はぁ、私とした事が少し取り乱してしまったわ」

 

握りしめていた拳をほどき、その手を額に持っていく。己の主神が落ち着いたのを感じ取ったオッタルは、一歩だけ身を引き、大空の大鏡を眺めた

 

「まぁ、今はいいわ…………けど。この借りは近い内に返してもらう事にしましょう」

 

大鏡には既に先ほどとは違う光景が映し出されている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らが来たようだ、行ってくる」

 

旗が置かれている部屋の扉の前の大部屋で、親指を一舐めしたフィンはその言葉を残し、ガレスとリヴェリアの二人を置いて、薄暗い人工の通路の先に姿を眩ました。

 

「リヴェリア、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)どう思う?」

 

「どう……とは?お前にしてはやけに具体性に欠ける質問だな?」

 

「ふんっ、ハッキリ言えば何者かの掌の上で踊らされている感覚をずっと感じておるんじゃ。気に食わん」

 

リヴェリアの翡翠色の瞳に映るガレスは、少しだけ鼻息を荒くし、前方にある何もない通路を睨んだ。

 

「まぁ、確かに何もかもがトントン拍子に進められている気もするが…………む、どうやら始まった見たいだ」

 

膨大な魔力の流れを感じ取ったリヴェリアは、ガレスと同じように前方を静かに見つめた。二人が居る大部屋は広さこそ有るものの出口は一つしか無く、もし何者かが来たとしても、そこから入ってきた敵をリヴェリアの『魔法』で一方的に殲滅する作戦が立てられていたのだ。

 

「ガレス、警戒しろよ?相手は確かに格下のファミリアだが、前回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で見せた『魔法』や魔剣は強力だ。それに向こうにはあの漆黒の猛牛がいる。あの通路の先から力業で来られたら、例え私たちでも一溜まりもない」

 

「分かっておる。例えフィンであってもあの突破力は驚異じゃ。例え僅かな可能性だとしても最終防衛線(ここ)まで来られる警戒は怠らんよ」

 

そう言いながら、どっしりとした大戦斧(だいせんぶ)を軽々と肩に担いだ老兵の背中を、ハイエルフの彼女は頼もしそうに見つめた。

 

その時――――

 

リヴェリアの首筋に漆黒の短刀(ナイフ)が翔る

 

「ッ!?」

 

咄嗟に杖で防げたのは今まで培ってきた経験が生きたからだ。そして、武器(魔杖)を構えた彼女は驚愕に目を見開いた

 

(敵が、見えない!?)

 

敵の姿が見えないだけではない、気配すら感じ取れない。恐らく、並大抵ではない暗殺者(アサシン)が、姿を隠す魔道具の類を着けているのだろう。最初の一撃を防いだリヴェリエは瞬時にそう結論付けて『魔法』の詠唱に移った。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ】」

 

「………ッ!?」

 

平行詠唱、その韻律(せんりつ)を聞いた途端に暗殺者が加速した。

 

(速い…………しかし)

 

「【黄昏を前に風(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

(……若い)

 

両手で振り抜いてくる無数の斬激を浴びせられながらも、第一級冒険者(リヴェリア)は冷静に防御しつつ、平行詠唱を紡いでいく。暗殺者と彼女の間にそれだけ力の差が開いていると言うことだ

 

「【吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】!!」

 

そして、遂に『魔法』が完成し

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!――――ッ!?」

 

当たり前のように魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こした。

 

自身の膨大な魔力が暴走し、自爆した彼女は。朦朧とする意識の中、この後【ヘスティア・ファミリア】の本当の恐ろしさを身を持って体験することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴェリアが襲撃されるのと同時に、ガレス・ランドロックの元にも姿を隠した襲撃者が襲い掛かっていた

 

(なんじゃ………)

 

しかし、それは襲いかかる等という生易しい攻撃では無い

 

(なんじゃッ!!)

 

何か、巨大な壁の様なものが迫ってきている感覚を感じたガレスは、咄嗟に両腕を頭上に持っていく

 

(何が来る!?)

 

そして、上から叩き落とされた壁はLv.6のガレス・ランドロックを――――

 

「ぬぅぅぅぅぅぅうううううううううううッ!?」

 

押し潰した

 

全身の筋肉が内側から張り裂けそうになるほどの衝撃が駆け巡る。

 

体が地面(迷宮)にめり込んだ勢いで、幾つものひび割れを大部屋に作り出したドワーフは、振り下ろされた一撃で起きた風圧により吹き飛ばされた『リバースヴェール』の中身を目視して、漸く自分を押し潰さんとする壁の正体をその瞳に焼き付けた

 

(これは…………槌か!?)

 

その正体は、並みの冒険者が何人集まっても持ち上げる事すら叶わない巨大な槌だ。そして、それをガレスを更に押し潰す程の力を込めて振り抜いているのは、今だ公式に発表されていないLv.2になったばかりの小さな少女

 

(は、ははは………まさか、小人族(パルゥム)か?アレ)

 

ガレスは後に、この時心底こう思ったと言う。

 

ワシ、アイツラ、キライ

 

「るぅぅぅぅぅぅぅぁあああああああああああああああ!!!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

小人族(パルゥム)の少女とドワーフの老兵という前代未聞な力比べが始まった。最初は面食らって押し潰されようとしていたガレスだが、今では踏ん張りを効かせ徐々に押し返す

 

(なんじゃこの力!?こやつ、(オーガ)の強化種か何かか!?)

 

事は出来なかった。

 

ガレスは知るはずもない。目の前の少女()が使用している《スキル》の名前は【怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

「怪」は尋常でないこと

 

「力」は力の強いこと

 

「乱」は道理に背いて秩序を乱すこと

 

「神」は神妙不可思議なこと

 

その怪力は道理を無くし、Lv.2のリリルカ・アーデとLv.6のガレス・ランドロックを拮抗させる

 

(やはり、「金剛」だけでは攻めきれませんか)

 

リリルカ・アーデは《右近婆娑羅(ウコンバサラ)》に備え付けられた黄金の剣、『勇剣・金剛』を見ながら苦々しい表情を浮かべた。その魔剣の効果は『鈍刀・重』と同じ重力魔剣、装着させた武器()の重さを何倍にも引き上げる、正しくリリ専用の心強い武器だ。

 

ヴェルフが、やっと完成に漕ぎ着けたと言い、オラリオ一有名な小人族(パルゥム)の二つ名から一文字貰った魔剣は『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を何処までも重くしていき、それに比例してリリの力値を何倍にも引き上げていく。

 

しかし、それでもガレス・ランドロックには届かないと悟った彼女は、奥の手を使用する覚悟を決めた

 

「ぐぅぉぉぉおおおおおお!!!!」

 

「ぐぎぎぎっぎいぎぎぎぎっっぎぎぎ!!!!」

 

段々と押し返えされていく大槌を強く握りしめ、握力で取っ手を変形させながら一つの呪文を唱える

 

「【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】!!!」

 

変身魔法により小人族(パルゥム)猫人(キャットピープル)に姿を変える。その光景にドワーフは何度目か分からない驚愕の表情を浮かべた。

 

その程度で驚いている暇は無いと言うのに

 

「行きますよぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!儀刀・螺旋!!!!!!」

 

もう一度言おう

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)】つまり、その力は人の域を越え、鬼神の如くどこまでも強くなるという事

 

故に、ガレス()を潰しきれていない鬼の小人族(パルゥム)は、まだその本領を発揮してはいなかったのだ。

 

「ぬぁあああああああああああッ!?」

 

猫の尻尾で腰のポーチから器用に絡めとられた灰色の魔剣が金剛に当たった瞬間、今までの拮抗があっという間に崩れ落ち、今まで力強く支えていたドワーフの膝が轟音と共に地面に着いた

 

彼女が使用したのは『儀刀・螺旋』、それは叩いた魔剣の力を何倍にも引き上げるという、ヴェルフ・クロッゾの試作品の一つ

 

既に『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』の重量は元の100倍は優に超え、リリの力値は1000倍を軽く超えている。

 

―――――だからどうした!!!

 

「嘗めるな、小娘ッ!!!」

 

太い腕から血管が浮き出るほどの力を込めたガレスによって、ゆっくりと最重量の大槌は押し返され始めた

 

それはドワーフとしての意地だ。力自慢が多い彼等の一族の意地が、本来の力値を越え、《スキル》の限界を越え、小人族(パルゥム)に負けてなるものかと火事場の馬鹿力を発揮し、地に着いた膝を今一度、宙に浮かせる。

 

気づくべきだったのだ

 

経験値(ステイタス)だけでは計れない、ドワーフ(ガレス)頭の悪(脳筋)さを

 

そして

 

小人族(リリルカ)の狡賢さを

 

リリルカ・アーデは別に、力比べに固執してはいない。ただ、ガレス・ランドロックを足止めするのに力比べ(それ)が最適だっただけだ。なので、ガレスが僅かに膝を着いたのを確認した彼女はあっさりと大槌から手を離し、猫人(キャットピープル)になったその身軽さで『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を足場に安全圏まで登り切った。

 

そして彼等の作戦は完了する。

 

「魔砲【アブソリュート・ゼロ】!!」

 

叫びと共に打ち込まれた青色の魔弾は、魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こし、ふらついている所を攻撃され、後退させられたリヴェリアと、今だ大槌を押し返しきれていないガレスの中心で弾け

 

そこにいる二人を青白い円環()で包み込む。

 

その数秒後、人造迷宮(クノッソス)の大部屋の一つには場違いなほど精巧な、ハイエルフとドワーフの氷像が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦の内容はこうだ

 

命が『魔法』を発動し、その魔力に釣られて出てきたフィン・ディムナを足止め

 

そして、命が『魔法』を全力で行使できる三分間の間に、フェルズが作った『リバースヴェール』を被り透明化したベル、リリ、ヴェルフの三人で、残った二人を無効化、奥の部屋にある旗を奪取

 

単純に分ければこの二つだけだが、細部を分ければ馬鹿みたいに綿密な計算と無数の細かな作戦の上で彼等は戦っていた

 

「終わったね」

 

「はい、終わりました」

 

「これで、俺達の勝ちだな」

 

そして作戦が見事成功し、氷像見た彼等の感想は酷く淡白な物だった。

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「はい、いってらっしゃい。ベル様」

 

「おう、行ってこい。………それでリリスケ、腕は大丈夫か?」

 

奥の扉に走っていくベルを見送ったヴェルフは、隣のリリに心配そうな視線を向け、だらんと下げられている腕に装着されている鉄籠手をゆっくりと外した

 

その瞬間、バシャッという音と共に大量の血液が地面に広がる

 

「金剛と螺旋を同時に使ったら、こうなるって分かっていただろ?」

 

「しょうがないじゃないですか。この人を止めるにはこれしか無かったんですから」

 

ドワーフの氷像を見ながらそう言ったリリの両腕に、慣れた手つきでヴェルフは万能薬(エリクサー)を浴びせていく

 

『勇剣・金剛』と『儀刀・螺旋』の二つは『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を装備したリリの力値を確かに、何処までも強化させていった。しかし、その莫大な力を支える為の耐久値が【縁下力持(アーテル・アシスト)】を持ってしても圧倒的に足りてなかったのだ。その結果、膨れ上がった力値に耐えられなかった両腕が鉄籠手の中で風船のように弾け、ミンチの様になっている。

 

「あんま無茶すんなよ、リリスケ?」

 

「リリだって無茶はしたくないんですけどね。まぁ、それでもあの時の痛みと比べたら遥かにマシです」

 

それは色が死んだ時の事を指しているのだろう。痛みに顔を歪めながらも決して口に出さない少女を、ヴェルフは頼もしそうに見て――――

 

「全くこれは………悪夢か何かかな?」

 

ベルがこちらに吹き飛ばされて来た事に戦慄した

 

「ふざけろ………何でアイツがここに居やがる」

 

「命さんの魔力は…………今だに感知できます。あの人は何を足止めしてるんですか?」

 

「ごめん二人とも、攻めきれなかった」

 

三者三様の感想。三人の前に佇むのは、小柄な少年、小人族(パルゥム)の勇者、本来ここには居る筈の無い人物

 

フィン・ディムナ

 

「さて、反撃と行こうか」

 

「「「ッ!?」」」

 

勝負は一瞬で着いた。リリが巨槌を拾い上げるよりも速く戦槍を振り抜き、ヴェルフが虚空を構えるよりも鋭く戦槍を撃ち付け、辛うじて防げたベルの身体は出口まで宙を踊らせる。

 

奇襲という大前提がなければ、いくら怪物進撃(デス・パレード)と言えど、反撃する事すら儘ならない。これが第一級冒険者の実力、真っ正面で戦えば三対一でも絶対に仰せない力の差

 

「【ファイアボルト】!!」

 

しかし、兎は吠えた。

 

「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルトォォオオオオオオオオ!!!」

 

遮二無二(しゃにむに)に放たれた緋色の閃光は、全て黄金色の槍に弾き返されたいく。しかし、兎は止まれない、止まらない、止まることが出来ない

 

「ファイアボルト!!」

 

「無駄だ」

 

「!?」

 

炎雷を横凪ぎで引き裂いたフィンは、息つく暇もない程の速さでベルに急接近し、更に通路の奥の方まで叩き飛ばし

 

「………ぅぁ」

 

追撃を加えようとして、その呻き声に足を止めた。

 

「すまない、注意していたつもりだったんだが、ベル・クラネルの流れ弾(魔法)が当たったんだね」

 

フィンが向かった先には小人族(パルゥム)の少女が。露出した肌を火傷で染め上げながら蹲っていたリリに近づいたフィンは、当然の如く自前の高等回復薬(ハイ・ポーション)をかけ流していく。

 

「いいん………ですか?リリは敵ですよ」

 

「僕は小人族(パルゥム)に希望を与えるために冒険者になったからね。こんなに可愛い小人族(パルゥム)が傷ついた姿を見かけたらほっとけないよ」

 

「ふふ、またまたお上手ですね。大勢の観客(小人族)が見ているから仕方なく助けたって正直に言えばいいじゃないですか」

 

「…………なるほど、君は随分頭が切れるようだ。でもさっき言った事は本心だし、仕方ない何て思っていないよ。最も、信じるかどうかは君次第だけどね」

 

「………わかりました。それじゃあ一つだけ願いを聞いてください」

 

「悪いが、負ける事は出来ないよ」

 

「今さらそんな事言いませんよ――――抱き締めてもいいですか?」

 

「なっ!?」

 

その抱擁はフィンですら予想外な事だった。小さな少女の暖かい温もりに包まれ、発展途中の柔らかな胸部が、鍛え上げられた胸板に押し付けられる。僅かに緊張した【勇者】の耳元で、シンデレラはポツリと呟く

 

「しっかり守ってくださいね。小人族(リリ)の勇者様」

 

リリルカ・アーデはベルの『魔法』に当たってはいない

 

リリルカ・アーデは自前の『魔法』で自身の姿を変身させている

 

リリルカ・アーデは魔剣を複数所持していた

 

そして

 

リリルカ・アーデの本来の戦い方は、相手を騙し罠に嵌めること。

 

「死ぬ気かい?」

 

フィンは気付いた。『リバースヴェール』により隠された、周囲にばら蒔かれている大量の魔剣の存在に。

 

「死にませんよ、だってリリ達は」

 

リリは理解していた。大鏡に映されている戦いの中で、目の前の小人族(勇者)が、この状況で自分を突き放せない事を。

 

「あの人に勇気を頂いたので」

 

――――大爆発

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

削れた床、剥がされた壁、破壊された階段

 

その部屋は既に、言い表せないほどの破壊の傷跡を残していた。

 

そして、その部屋の上段、数々の魔剣と呪道具(カースウェポン)の成れの果てが、まるで墓標のように血塗れの黒の少年の回りを囲っている。

 

この部屋で起こった事を語るなら

 

【ロキ・ファミリア】の団員達は、たった一人の少女に気絶させられ、部屋の外まで運ばれ

 

黒鐘 色はアイズ・ヴァレンシュタインに敗北した。

 

「「……………」」

 

見上げるアイズの金の瞳と、見下ろす色の漆黒の瞳が、視線を絡ませる

 

――――そして

 

黒の少年は自分の頭にリモコンを押し当てた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフ・クロッゾ

 

 Lv.2

 

 力:A874

 

 耐久:A889

 

 器用:A812

 

 敏捷:B781

 

 魔力:H160

 

 鍛冶:G

 

《魔法》

 

【 ウィル・オ・ウィスプ】

 

対魔魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)

 

《スキル》

 

魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)

 

・魔剣作成可能。

 

・作成時における魔剣能力強化

 

 

 

 

 




何回でもボロボロになる主人公

次回、アイズの罵倒や行動の真意、二人の関係。全て書きましょう


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第37話 風神と雷神

ここまで書くのに時間かかったなぁ




もしかして俺って最強じゃね?

 

それが、初めて【ランクアップ】した時の感想だ

 

だってしょうがないだろ?推奨Lv.4の巨人をLv.1の俺が一人で倒して更に【ランクアップ】までしたんだから。

 

そんなの誰だって多少の全能感に包まれると思うし、それに加えて俺には【一方通行(アクセラレータ)】っていう最強チート能力と、追加であの超電磁砲(レールガン)の能力まで発現したんだぜ?

 

ちょっとぐらい調子に乗るだろ、普通?

 

それに、あの時の俺はこの世界の強さの常識をあんまり実感してなかったし、たとえあの巨人よりも強そうな小人族(パルゥム)が出て来ても、全力だしたら負ける事はねぇだろ、なんて思ってたりもした。

 

そう思えば、あの事が無かったら俺はここまで強さに固執して無かったのかもしんねぇな。

 

Lv.3になった時だって、わざわざ危険な37階層に突っ込んで行かなくてもベート君に対人戦をちょこっと教えて貰うだけで【アポロン・ファミリア】なんて軽く捻れただろうし。

 

探知速度を上げるレーダーだって、Lv.2の団員より遥かに格上を想定して考えたものだし

 

あの早朝訓練だって考えも付かなかっただろうし

 

フリュネ師匠にだって出会って無かった筈だ

 

だからまぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人生で初めて心の底からキライになった女だが

 

天狗の鼻を折ってくれた事だけは、少しだけ感謝してやるよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ?俺は何を………痛ッ)

 

痛みで意識が覚醒する。眼下に映った金髪が、気絶したエルフの少女を丁重に部屋の外まで運んでいるのを見て、何が起きたのか思い出した

 

(そうか………俺は)

 

魔法は全て切り裂かれた。

 

用意した魔剣は当たらなかった。

 

イケロスの所から押収した呪道具(カースウェポン)は触れる前に叩き折られた。

 

この時の為に練っていた【ロキ・ファミリア】を操ったコンビネーションは無意味だった。

 

途中から体力が無くなるのを覚悟で参戦したが、一分も持たなかった。

 

そしてこの現状は、つまり

 

(――――負けたのか)

 

それも現状の俺が考えうる限りの

 

”どんな手でも”使った上での完全敗北だ。

 

「………ははっ………ふふふ………くくっ……くはははははははははっはっはっはっはっ!!!」

 

もう笑うしかねぇわ

 

ラスボスっていうよりバグだろ、コイツ。どうやったら倒せんの?ゲームで言ったら絶対に倒せないエネミーだぜ、絶対。ていうか【一方通行(アクセラレータ)】と【御坂美琴(エレクトロマスター)】と【食蜂操祈(メンタルアウト)】を持ってる異世界人なんて普通だったら主人公クラスの人間を、最終決戦っぽい場所で傷一つ付けずに一方的にボコボコにするって逆に空気読めてないんじゃないんですかー?まぁ、初対面の時にいきなり顔面殴られた時点でコイツが空気読めない何て事分かってましたけどね!!それにしても表情変わらねぇな、今まで散々ボコボコにしといて無表情で睨み付けてくる顔しか見せないってどうなの?生まれてから笑った事無いんじゃねぇの?ちょっとぐらい笑ったら可愛げ………無いわー、逆にここまでボロクソにされてその上笑われたらぶちギレる自信があるね、ていうか毎回キレてたけどね。生まれてこの方ここまでキレたのお前だけだよ、書状でもやりたいぐらいだね。それと俺から喧嘩吹っ掛けたのもお前だけだし、どんな手を使っても倒したいって思ったのもお前だけだから、喜んでいいぞ、近所で優しいと評判な俺にここまで憎まれるってそうそうある事じゃねぇから、ネス湖でネッシー見つけるよりも希少な事だから。どうしても許して欲しかったら土下座でもして欲しいもんですな、アイツがそんな事するなんて天変地異が起こってもあり得ないだろうけどな!!おっと、そんなどうでもいい事を考えてたら操っていた【ロキ・ファミリア】の団員達を気絶させて外に放り出す作業が終了したらしい。攻撃してきたからって自分のファミリアを容赦なく峰打して気絶させるってちょっと酷すぎるんじゃないんですかね?血も涙も無いんじゃないんですかね?本当に人間なんですかね?………てまだその顔なのかよ、ふざけんなよ、お前の完全勝利だろぉが、少しは喜べよ、嬉しそうにしろよ、睨んでくんなよ、その表情苛つくんだよ、毎度毎度顔合わせる度に無表情になりやがって、泣いてみろよ、笑ってみろよ、驚いてみろよ、出来ねぇのか?出来ねぇんだろ?だったら俺がその無表情ぶっ壊してやるよ

 

「《チート》持ち舐めんじゃねぇぞ、糞女」

 

眼下で睨み付けてくる金髪を盛大に嘲笑ってやりながら、痛みで動かし難い右腕をポケットの中に突っ込んだ。

 

【イケロス・ファミリア】と戦った時から心の隅でずっと考えてた事がある。それは、暴走した異端児(ゼノス)達を【御坂美琴(エレクトロマスター)】で操ろうとした時、どうして魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こしたのかだ。

 

考察していくと、俺の『魔法』は根本的におかしい。

 

まず、誰にも『魔力』が感知出来ない。

 

それは、街の人間を操ったり、【御坂美琴(エレクトロマスター)】で広範囲にレーダーを展開していたにもかかわらず、『魔力』の流れによる違和感を誰一人として感じてなかったので確定だろう。

 

次に、【ステイタス】に記入されている名前や効果だ。

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

どうして使用者の名前が使われているのか?

 

この場合『超電磁砲(レールガン)』か『電撃使い(エレクトロマスター)』、【食蜂操祈(メンタルアウト)】だって『心理掌握(メンタルアウト)』が普通なのではないのだろうか?

 

効果の方も、ベルの『速攻魔法』やリリの『変身魔法』みたいに、『――魔法』って付いてない。ヘスティア曰く、『魔法』の詳細情報には必ず付いている物らしい。しかし俺の『魔法』には、電気を自在に発生させる事ができる、という一文だけ。

 

そして最後の疑問、俺の『魔法』は成長していない。

 

命ちゃんやベルの『魔法』は【ステイタス】の『魔力』が伸びる度に威力が上がっていってるのに、【御坂美琴(エレクトロマスター)】は【ステイタス】が伸びてもLv.が上がっても、一向に威力も範囲も変わっていないのだ。

 

結論を言おう

 

つまり、【御坂美琴(エレクトロマスター)】と【食蜂操祈(メンタルアウト)】は、根本的に『魔法』や『呪詛(カース)』では無い。

 

それじゃあなんなんだって?そりゃ勿論、『超能力』だ。

 

俺の仮説はこうだ、【御坂美琴(エレクトロマスター)】と【食蜂操祈(メンタルアウト)】は、御坂美琴と食蜂操祈という二人の超能力者の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を、俺の『魔力』を使って行使するという物なのだろう。

 

だかこそ、初めて『魔法』を使った時も、黒い『ゴライアス』を吹き飛ばす程の威力を出せたし。『呪詛(カース)』だって最初から万全に扱える。

 

異端児(ゼノス)達が暴走した時に魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こしたのは都城 王土の【人心支配】が御坂美琴では使えないから。又は、都城 王土という御坂美琴ではない人物の能力を使用しようとした、からなのだろう。

 

もし、この仮説が正しければ、面白い事が出来る

 

「「…………」」

 

金髪と睨み合いながら、リモコンを頭に押し当てた

 

操るのは、オラリオの八割に【食蜂操祈(メンタルアウト)】で植え付けて置いた保険

 

ホストは俺に設定し、共感覚性を利用して使用者の『脳波に合わせて調律する』

 

そうする事で複数の人間の脳を繋げ、擬似的な『幻想御手(レベルアッパー)』を再現。

 

大丈夫、俺の考え通りに行けば、そういう状況を用意するだけで能力が勝手に進化していく筈だ。

 

共感覚性をさせる為の音声ファイルの代わりは、あれでいいか。

 

さて、準備は整った。

 

いくぜ――――――アイズ・ヴァレンシュタイン

 

今度こそブッ飛ばしてやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)を観戦する為に巨大な神殿のバルコニーに集まっていた黒鐘 色のファンクラブ達は、大鏡に映されているボロボロになった色を固唾を飲んで見つめていた

 

「嘘………色くんが」

 

「しょうがないよ、だって相手はあの【剣姫】だもん」

 

「でも……でも!!あの色くんだよ!?こんな簡単にッ」

 

「狼狽えるな!!」

 

「「「!?」」」

 

娼婦達は声の主の方向を向いた。そこには、玉座に座る己の主神の姿が――――

 

「私の見込んだ男だ、あの程度でやられる訳が無いだろう」

 

威風堂々と言い放った美神に娼婦達(ファンクラブ)は何度も頷き、血まみれの色に大声で声援(エール)を送り始めた

 

「あのさ、イシュタル様」

 

「なんだ」

 

「そこまで言うんなら、さっきから握っている私の手を離してくれるかい?」

 

「………もう少しだけ」

 

先程とは違い、震えた声で小さく言う美神。アイシャは小さなため息を付き、空いている方の手で額を押さえた

 

「ねぇねぇアイシャ」

 

「ん?なんだいレナ?」

 

そんなアイシャに声を掛けたのは、さっきから懇意にしている狼人(ウェアウルフ)が出ないと騒いでいたアマゾネスの少女、レナ・タリーだ。不思議そうに首を傾けながら聞いてくる少女は、アイシャに疑問を溢した

 

「さっきから変な音しない?」

 

「変な音?」

 

「うん、なんていうか――――大きな鐘の音が聞こえるんだよね」

 

その疑問に対する答えは、声援がより大きな歓声に変わった事により、かき消される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なに………あれ)

 

アイズ・ヴァレンシュタインは今まで憎らしく思っていた黒の少年に、初めて困惑の視線を向ける。

 

否、そこにいるのは最早、黒の少年等ではない

 

アイズは見た、黒の少年がよく分からない物を頭に押し当てた瞬間、正体不明の黒い力が少年を包み込む所を

 

そして、少年が人間から怪物、更に上の存在に姿を変える所を

 

(翼と……角?)

 

そこに居るのは怪物でも人間でもない

 

物質化したAIMと電熱融解した超硬金属(アダマンタイト)で構築された羽衣(つばさ)

 

頭上に生えた一本の巻き角

 

完全に黒に染まり切った瞳

 

全身を隙間なく覆う雷

 

雷神

 

「ッ!?」

 

雷を司る神の様な存在感を放つそれは、呆然と見上げる【剣姫】に無動作で雷の裁き(砲弾)を上空から叩きつけた

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

バックステップ

 

咄嗟に風を纏いながら後ろに飛んだアイズは、一瞬前に自分がいた場所が雷により破壊されている事に途方もない危機感を感じた

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!!」

 

雷の翼が横凪ぎに払われ、屈んだ際に触れた自分の髪先が雷に触れた事により消滅する。足を止める訳にはいかない、そう感じた【剣姫】の頭の中に、今までに無い程の警鐘が鳴り響く

 

「ivsf飛wq」

 

気付いた時には、雷と同等の速さで目の前まで迫っていた雷神が、異界の言語を呟きながら、雷化した自身の鉤爪(右腕)を振り下ろそうとしていた

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!!!」

 

咄嗟に唱えた三度目の付与魔法(エンチャント)。己の内に眠っていた力を噴出させるかのごとく、産み出した大いなる『風』は烈風となり、その全てを敵対する雷神を打倒すべく振るわれた

 

ゴオッ!!!バシュッ!!!

 

大部屋の中心で音が弾ける

 

吹き飛ばされたのは力負けしたアイズの方だ。後ろに飛んだ身体を何とか風で制御し、着地した瞬間放たれた雷砲を転がりながらギリギリ避ける。

 

彼女は思う、このままでは勝てないと

 

(それじゃダメ)

 

彼女は想う、あの人に勝ちたいと

 

(それでもダメ)

 

彼女は憎む(おもう)、アイツを殺さないと

 

(うん、それでいいよ)

 

「ちょっと強くなったからって、私に勝てると思わないで」

 

(さぁ、速く。目の前にいる大好き(ダイキライ)無敵の英雄(ゴミムシ)(コロ)してきて)

 

「ゴミ虫」

 

黒金色に染められた瞳の奥には燃えるような懸想(憎悪)羨望(狂気)が渦巻き、血液が沸騰するような感覚を感じながら。

 

(貴方ノ全テヲアノ人ニブツケテキテ)

 

いつの間にか隣に居た、漆黒のドレスを着ている幼い自分(アイズ)に促されるように、彼女(アイズ)は四度目の『魔法』を唱えた。

 

「【荒れ狂え(テンペスト)!!!!!】」

 

その呪文を唱えた瞬間、アイズは身体中の魔力が外側に放出される実感と共に、迫り来る雷神を打倒出来るだけの力を手に入れた快感を得る。

 

小さな竜巻(サイクロン)となった彼女は手に持った《デスペレート》を今まで以上に力強く握りしめ――――僅かに笑みを浮かべた

 

「………行く」

 

「――――yjrp悪qw」

 

そして

 

風神(アイズ)雷神(しき)が激突する

 

それは神話に刻まれるレベルの激闘

 

超硬金属(アダマンタイト)で建造された硬質な壁は紙の様に裂け、最硬金属(オリハルコン)ですら数秒も持たない。

 

雷翼が風の鎧と接触する度に耳を(つんざ)くような轟音が鳴り響き、雷速と風速で駆け抜ける二人の背後には当たり前のように破壊が撒き散らされた。

 

途中から雷神の力が更に強まり、体が異形に変化し、それに呼応するように風神も五度目の魔法を唱える。

 

風の鎧を通常の攻撃では突破出来ないと察した雷神は、剣、槍、斧、弓矢、様々な武器を具現化し雷速で射出するようになり、風神はその尽くを風の閃光を纏う一本の剣で切り払った。

 

「あああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

声になら無い雄叫びを上げながら、アイズは自身の精神力(マインド)が限界に近づいている事を感じていた。しかし、その事に焦りはない、焦っている暇など無い!!

 

「――――――――ッ!!!!」

 

「クッ!?」

 

突如後ろから振るわれる雷爪、眼前の雷剣や雷槍を切り伏せていたアイズは、咄嗟に身体を捻り、剣を横凪ぎに振るう

 

バゴゥッ!!!

 

光と音に支配される空間の中、アイズは更に剣を真下に叩きつけるように振り下ろす

 

バジンッ!!!

 

下からかち上げられた雷斧を叩き折った彼女は、更に背後を突き刺す

 

ズンッ!!!!

 

様々な武器と自身の爪を雷速で振るう雷神()と、限界以上の風を付与し条件反射で動いている風神(アイズ)の間には、『技と駆け引き』など存在しない。

 

常に全力、常に全開、考える事すら無駄とばかりに化物の様に(本能のまま)殺し合う

 

「GAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」

 

「はぁッ!!!!」

 

そして、その時がやって来た。二人の間に奇跡的に空いた10(メドル)程の空間、雷爪(右腕)と剣に込められた莫大な風と雷の力。

 

疾風迅雷

 

裂けたのは、雷神の爪。

 

「…………クッ!?」

 

そして、風神の脇腹

 

「――――ッァアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

雷神はこの時、勝機を見出だし、駆けた。雷の軌道のようにジグザグに動き回りながら、血が流れる脇腹を押さえている風神に容赦ない雷蹴を浴びせる

 

「――――シッ!!!」

 

しかし、それは囮だ。

 

少女は自分の窮地に、何時か誰かに教わり、また教えた事を断片的に思い出していた

 

止めの一撃は、油断に最も近い

 

「ウッ!?」

 

雷神の脚から、風神が流した同じ量の血液が噴出する。普通ならこれで決着が付いている筈だ、本来なら脚を失った人間は動けないのだから。しかし、この戦いは人間の戦いの範疇には収まらない、故に、まともに動けない二人が取った行動は

 

接近格闘(インファイト)

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

防御を捨てた死闘

 

腕を振るう度に血を飛ばし

 

脚がブレる度に肉が削れ

 

身体を動かす度に命を燃やす

 

この時点で意識を飛ばしながら闘っている二人は、お互いの事しか考えていない

 

異端児の事も忘れ

 

仲間の事も忘れ

 

家族の事も忘れ

 

自分の生命(いのち)の事すら忘れ

 

ただ目の前の存在を殺す事だけは忘れずに

 

そして

 

遂に決着の時が来た

 

それは隙だ、風神の僅かに出来た隙。しかし先ほどの事で学習した雷神は飛び付かず、身体を宙に踊らせる

 

「「………」」

 

一瞬だけ絡まった視線

 

覚醒する意識

 

煮え滾る想い

 

超電磁砲(レールガン)!!!!」

 

「リル・ラファーガ!!!!」

 

今までの数倍強力になっている、お互いの必殺が放たれた。上から落とされた黒雷と下から跳んだ神風は、部屋の中央で爆発に変わり。

 

閃光と破壊に包まれた空間で色は唯一動かせる左腕を振り絞った。

 

(てめぇにだけは、二度と見下されねぇッ!!!!)

 

見下ろしてくる金髪(格上)は、紛れもなく黒鐘 色の強さへの原点(オリジン)

 

だから少年は手を伸ばす

 

自分の奥に秘められた力に手を伸ばす

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

雷翼が黒翼に変わり

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

黒翼が白翼に変貌した

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

 

「エェェアァァリィィアァァルゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!」

 

拳と剣、二つの不壊武器(デュランダル)があり得ない程の衝撃で軋みを上げ

 

色とアイズは白い光に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――貴方は誰?

 

真っ白な空間の中、大人の自分(アイズ)は純黒のドレスを纏った幼い自分(アイズ)に問いかける

 

(貴方は私)

 

――――――――違う

 

明確な否定、大人の自分(アイズ)の腕には一降りの銀剣が握られてる

 

(私を殺すの?)

 

――――貴方はいらない

 

否定、銀閃が少女(アイズ)を貫こうとした瞬間

 

 

 

 

 

 

 

――――純黒を纏ったアイズが三日月の笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当にいいのかよ?お姫様)

 

気づけば、幼いアイズは何処にも居なくなっていて

 

(今の戦いはアンタだって悪くなかっただろ?)

 

代わりに居るのは――――何かだ

 

(だってよ、この一戦だけでアンタの【ステイタス】は劇的に延びている筈だぜ?)

 

何かは、やけに愉しそうにアイズに語りかけてくる

 

(今までは確かに、こっちが一方的に楽させて貰ったけど?こっからはお互いWin-Winの関係ってやつだ。だから仲良くしていかないか?)

 

その言葉の羅列にピクリとも耳を貸さず、アイズは銀剣を振り上げた

 

(チッ黙りかよ。糞っタレのアビリティが、何処までも俺の邪魔をしやがって。あーあ、せっかく相性抜群の混じり者を見つけたってのに勿体ない)

 

一閃――――アイズの中に居た、何かは、これ以上喋らせたくないかの様に、容赦なく切り捨てられる

 

(まぁいい、方法は幾らでもある。止まっている暇はないぜ――――)

 

 

 

ご主人様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、彼女(アイズ)は意識を取り戻し、一人の少年を限定に反転していた想いが通常に戻った反動により、全身に流れる血液がドクンッと揺らいだ

 

「……………ぁ……」

 

溢れてくる記憶は過去の自分

 

「ぁぁ…………」

 

何時も何時も、彼の姿を見かけては攻撃していた自分

 

「んあっ…あぁ……あああああ……ああああああああああッッ!!!」

 

激しい雨の中、常に彼の命を散らそうとしている自分

 

「わたしっ…わたしっ……なんてことを………」

 

限界越えた力を使い、全力で彼と殺し合う自分

 

「わたしっ………私なんて事をッ!!!!!」

 

そして、ボロ布の様に墜ちていく彼と、それを見上げる自分

 

「あああああ…!!!あぁ…!!あぁあああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

溢れてくる涙、喉から絞り出される叫換、絶え間ない後悔

 

少女は顔を涙でぐちゃぐちゃにさせながら、全力で風を纏い彼の元へ駆け抜けた。

 

――――速くッ

 

――――もっと速くッ!!!

 

――――もっともっと速くッ!!!!

 

産まれて初めて叩き出した最速のスピードは、少年が地面に落ちる前に追い付いた。しかしそこで魔力が切れたのだろう、体の制御が効かなくなった少女は、傷だらけの少年をしっかりと抱き締め、その勢いのまま最硬金属(オリハルコン)の壁に衝突する

 

「……う……ぐっ………死な……ないで……」

 

先程の戦いと、ぶつかった衝撃で意識を朦朧とさせながらも、決して放さなかった腕の中の少年にアイズは言葉を掛けた

 

「死なないで………死なないでッ!!!」

 

何度も掛ける言葉とは裏腹に、色の心音は徐々に小さくなっていく。その事に顔を青ざめさせたアイズは回りを見渡すが、あるのは瓦礫と破壊の傷跡だけ

 

(なにか………なにかないのッ…………あ!?)

 

思い出した、確かあの時彼は!!

 

アイズは色の衣服を脱がし初めた、ボロボロになっている制服だが一ヶ所だけ無事な所がある。それは心臓の部分、手を伸ばすのはそこの内ポケット。

 

(………あった!!…………ッ!?)

 

そこには三本の試験管が入っていた。うち二本はアイズの目論み通り万能薬(エリクサー)だ、そして最後の一本は

 

対専用呪詛(アンチ・カース)の…………秘薬………)

 

考えずとも理解できる。

 

どこまでも優しい彼はきっと、ずっとあんな態度を取っていた自分ですら救う手段を用意していたのだ。

 

溢れた涙が止まらない

 

(………これでッ!!)

 

万能薬(エリクサー)一本を赤黒くなった腕や、出血が酷い足に丁重に掛けていく。そして、二本目を半分ほど掛けた時に彼女は気づいた。

 

傷が塞がった彼の容態が、少しも好転していない事に

 

「なんでッ!!!なんでッ!?」

 

アイズは知らない、黒鐘 色は限界をとうに越え過ぎていた。【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使った状態で、雷速で動き回っていた身体は、その代償により内側から弾け。【一方通行(アクセラレータ)】の細かい操作が無意識に出来ていなければ3秒で即死に至っていただろう。

 

故に、外傷は完治出来たとしても、内蔵は取り返しの付かない事態になっている

 

「死なないでッ!!生きてッ!!色ッ!!!」

 

それは咄嗟の判断

 

試験管に半分ほど残っていた万能薬(エリクサー)を口に含んだ少女は

 

血を垂れ流す少年の唇に、自身の唇を押し当てた

 

(お願い………生きて…………色…………死なない………で………)

 

精神疲弊(マインドダウン)により薄れていく意識の中、遠い幼い日に父と母に言われた言葉を思い出す。

 

――――あなたも素敵な相手(ひと)に出会えるといいね

 

――――いつか、お前だけの英雄に巡り会えるといいな

 

二人の言葉に、純白の衣服を着込んだ幼い自分(アイズ)は困り顔でこう言った

 

『うん、会えたよ。でも私ね、その人にいっぱい酷いことしちゃった。だから今度は………』

 

数秒後、アイズはずっと自分と戦ってくれた(英雄)を包み込むように優しく抱き締めながら、ゆっくりと意識を落とすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は移り変わる

 

 

 

 

 

「なんでですか………」

 

白の少年は自分に立ち塞がる存在に声を震わせた

 

「やれやれ、死ぬところじゃったわい」

 

「聖衣が無ければ危なかったぞ」

 

それは氷像から自力で解き放たれたドワーフとハイエルフ――――ではなく

 

「君の勇気、見せてもらったよ」

 

大爆発の中、小さな少女を守り切った小人族(パルゥム)――――ではなく

 

「なんで…………どうしてッ!?」

 

漆黒の体皮、紅色の角、片手に持った両刃斧(ラビュリス)

 

「どうしてですかッ!?アステリオスさんッ!!!!」

 

あと少しで旗の部屋(ゴール)に届きそうな兎の前に立ち塞がるのは――――漆黒の猛牛

 

「悪いけど彼は」

 

勇者は錯乱する兎に、絶望的な一言を投げ掛けた

 

「すでに『調教(テイム)』済みだ」

 

ベル・クラネルの死闘が始まる

 

「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「ッ!?」

 

歴史に刻まれる死闘が

 

 

 

 

 

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

 Lv.2

 

 力:A870

 

 耐久:D541

 

 器用:I83

 

 敏捷:G206

 

 魔力:I28

 

 狩人:H

 

《魔法》 

 

【シンダー・エラ】

 

・変身魔法

 

・変身後は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は失敗(ファンブル)

 

・模倣推奨

 

・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

 

・解呪式【響く十二時のお告げ】

 

《スキル》

 

縁下力持(アーテル・アシスト)

 

・一定以上の装備加重時における補正。

 

・能力補正は重量に比例。

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

・装備加重時における倍率補正。

 

・能力補正は重量に比例し上昇。

 

・力値限定。

 

 

 

 




ふはは、誰もアイズが色とチューするとは思ってなかっただろう。

ベルとアイズのフラグをバッキバキに折っていたのは殆ど、この為だったんだぜ。

【ロキ・ファミリア】との戦いの行方と

これからの色とアイズの関係の変化をお楽しみに





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第38話 最終決戦 英雄白兎と漆黒猛牛

日頃の特訓+アイズさんとの戦闘+デスマーチ+祝福+憧憬一途=スーパーベル・クラネルVS五体満足アステリオス君






それは何でもない日常の1ページ。

 

『神々の叡智』と呼ばれる、世界中の様々な本が収納されていると噂の図書室で、一人の少女が一冊の本を抱えながらトテトテと走っていた。

 

「かみさまー、ご本よんでくださいー!!」

 

図書室の一角に備え付けられている『神々の叡智』の主の寝室に勢いよく入った少女は、中に居る神物に飛び付く。

 

「ゴフッ!?……き、君は相変わらず元気一杯だね。でも図書室では静かにしなきゃ駄目だぜ?」

 

「はーい!!」

 

元気よく大声で手を上げた少女に、嗜めた神様は困り顔で頭を傾け、髪に結わえている純黒と白銀の小さな鐘を鳴らした。

 

「全く、素直な所はあの子そっくりだし。話を聞かない所は彼そっくりだ」

 

そう言いながら少女の白髪を優しく撫でた神様は、青と黒の珍しいオッドアイをした幼げな瞳を懐かしそうに見詰める。

 

「むぅ、かみさまご本~」

 

「はいはい、昨日の続きを読めばいいんだろう?」

 

「はい!ありがとうございます!!」

 

そう言った二人は、何時もの様にベッドにゴロンと寝転がり。少女が持ってきた古ぼけた本を広げ、神様が朗読していく。

 

本の内容は、とあるファミリアが戦争をする話で、二転三転する話に少女は手に汗を握りながら聞き入っていた

 

「なんと【勇者】は迷宮の王、アステリオスを調教(テイム)してしまったのです。【絶†影】が足止めしていたのが調教(テイム)されたアステリオスだった事に気付いた【英雄】の前には、【勇者】とアステリオスの他にハイエルフの【九姫魔】とドワーフの【重傑】が立ち塞がりました」

 

「えぇ~、ずるい!!かみさま、ゆうしゃさんずるいです!!」

 

頬を膨らましてプンスカと怒る少女の頭を一撫でした神様は、ゆっくりと頁を捲る

 

「【勇者】は【英雄】に言いました。『このままではあまりにも一方的だ、だからルールを変えて上げよう』、そのルールとは………おや?」

 

「かみさま、これなんですか?」

 

頁を捲った時にハラリと落ちた羊皮紙を、少女は不思議そうに見詰めた。それを受け取った神様は少女に説明する

 

「これは、アステリオスと闘った時の【英雄】の【ステイタス】さ」

 

「すていたす?」

 

「そうだよ。懐かしいな、こんな所に挟んでたのか」

 

やっぱり分からないと首を捻る少女に、神様は続きを朗読する事にした。五分もすれば、少女は【ステイタス】の事など忘れ、古びた本の内容に聞き入るのであった

 

 

 

 

ベル・クラネル  

 

 Lv.3

 

 力:SSSSSSS2019

 

 耐久:SSSSSS1938

 

 器用:SSSSSSS2103

 

 敏捷:SSSSSSSSS2504

 

 魔力:SSSSSS1800

 

 幸運:G

 

 耐異常:H

 

 《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

・速攻魔法

 

《スキル》

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

 

・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 

・懸想(おもい)の丈(たけ)により効果向上。

 

英雄願望(アルゴノゥト)

 

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負内容(ルール)を……変える?」

 

アステリオスさんの咆哮を受け、咄嗟に両手に持った武器を構えながら混乱する僕に、フィンさんは言葉を続けた

 

「あぁそうだ。このまま四対一で君一人を倒したとしても、賛成派が納得しないだろう。だから――――」

 

観ているであろうオラリオの人達に見せつける様に、仰々しく両手を上げながら

 

「目の前に居るアステリオスを、【ヘスティア・ファミリア】の旗が奪われる前に、君が一騎討ちで打倒出来たのなら。君達の勝ちにして上げるよ」

 

「………………………」

 

これは――――見せしめだ

 

たぶん、僕達を助けようとしている異端児(ゼノス)達の中で最も強い怪物を手懐けて、更にこちらの団長(トップ)の僕を一対一で打ち倒させる事で、賛成派や異端児(ゼノス)達の逆らう意思を完全に砕こうとしているんだ。

 

昔の僕なら思いも付かなかった作戦だけど、イシュタルさんの所と一緒に活動していて、こういう作戦がどれぐらい効果的なのか嫌と言うほど教えられている。

 

「この一騎討ち(決闘)、受けるかい?」

 

まるで、挑発するかの様にフィンさんは――――フィン・ディムナは聞いてきた

 

正直、僕はまだアステリオスさんが調教(テイム)された何て信じたくない。だって、色が言っていたんだ、模擬戦して手も足も出させずに勝てるほど強いと、暴走した自分を一方的に抑えられるほど頼もしいと、嬉しそうに僕に聞かせてくれたんだ。

 

でも

 

「………………受けます」

 

これが現実なんだ

 

「その勝負(決闘)、受けます」

 

戦うしかない

 

どんな理由であれ、この場にいる四人を相手にするより、アステリオスさん一人を相手にした方が遥かに勝率が高い。そう判断した僕は、漆黒のナイフと紅刀を腰の鞘に戻し、背中に差していた黒い大剣(グレートソード)を引き抜き、眼前に構えた。

 

「すみませんアステリオスさん。色の命は貴方の命よりも――――重い」

 

「――――」

 

僕の言葉に何も返さず、アステリオスさんは静かに両刃斧(ラビュリス)を構える。

 

ヴェルフに作って貰った両刃斧(ラビュリス)を――――

 

「最後の確認です。貴方は本当にフィンさんに調教(テイム)されたんですか?」

 

「……………自分は」

 

僅かに、緊迫した時間が流れる中で、【ヘスティア・ファミリア】のエンブレムが刻まれた腕輪を外している漆黒の怪物はゆっくりと口を開き

 

「【ロキ・ファミリア】のアステリオスだ」

 

低い声音で、僕の導火線に火を着けた

 

「――――そうかよッ!!」

 

これで、僕は負けられなくなった

 

色を裏切ったコイツだけには負けられなくなった

 

色が守ろうとした全てを踏みにじったコイツだけには負けられなくなった!!!

 

「かかって来いよ怪物(ミノタウロス)!!お前は僕が打ち倒してやるッ!!!」

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

――――僕はもう迷わない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪物は喜びに震えた

 

ずっと見ていた『前世()』、血と肉が飛ぶ殺し合いの中で、確かに意思を交わした、最強の好敵手との再戦が叶ったのだから。

 

今も忘れる事のない、あの情景に最高の形で届いたのだから。

 

(再戦を、ベル・クラネル。貴方ともう一度戦いたい!!)

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

Lv.6でも怯ますほどの自分の『咆哮(ハウル)』を正面から受け、少しも速さ(スピード)を落とさず迫ってくる憧れの存在(ベル・クラネル)に獰猛な笑みを浮かべる。

 

しかし、その笑みと情景は

 

ゴォォォォォォン!!!

 

大鐘楼(グランドベル)の音と共に消え去った

 

(消えッ!?)

 

白の少年が音を残して消えた。しかもそれだけではない、Lv.6の冒険者と互角に戦える程の潜在能力(ポテンシャル)を持つ漆黒の猛牛(アステリオス)ですら、すくむ程の強烈な殺気が叩き付けられた。

 

咄嗟に後ろに突き刺した白銀の両刃斧(ラビュリス)と、横凪ぎに払った少年の黒い大剣(グレートソード)が甲高い音を鳴らす

 

――――こっちを見ろよッ!!

 

死んでいた。この言葉を思い出さなかったら今の一合いで漆黒の猛牛(アステリオス)の命は刈り取られていた。

 

ゴォォォォォォン!!!

 

大鐘楼(グランドベル)は鳴り止まない。

 

焦燥する猛牛に次の攻撃が向けられた。狙いは右の脇腹、大剣を突き刺すように放ったベルを振り払う様に、アステリオスが両刃斧(ラビュリス)を上段から叩きつけ

 

――――とんっ

 

驚く程の身軽さで、両刃斧(ラビュリス)を紙一重で避けた兎が跳んだ。迷いがない動きから察するに、本当の狙いは脇腹ではなく、首。

 

その明確な殺意に、モンスターである本能が鎌首をもたげる

 

『ォ……ォオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

反射的に突き出したのは角だ。首に向かって来る袈裟斬りに、己の最大の武器(紅の双角)をぶつけ合わせ――――すり抜ける

 

(なに………が?)

 

「らァッ!!!!」

 

ボンッッ!!!!

 

少年の白光を纏った左拳が、猛牛の顔面に勢いよくめり込んだ。

 

数十(メドル)も吹き飛ばされる、全身型鎧(フルプレート)を装備した巨体の主は、いまだに何が起きたのか理解できない。

 

ベル・クラネルがやった事は単純であり複雑だ。武器(大剣)武器()接触(インパクト)の瞬間に、自分の武器を右手の手首を返すことで引く。それにより、アステリオスは角が武器をすり抜けたような錯覚に陥り、ベルは飛び出した勢いのまま左腕を振り抜いた。

 

これは、【ステイタス】が上がるたびに精密になっていく色の反射の精度でも、反射返しが出来る様に努力し続けたけたベルの絶技。

 

鍛え上げられた人の技に歯を何本か持っていかれた怪物は、ようやく己の愚かな過ちに気づく。

 

(なにを慢心している)

 

漠然と、勝てると思っていた。深層で鍛え上げた肉体は暴走した黒鐘 色を一方的に押さえ付けられるほど強靭で、Lv.6の【ロキ・ファミリア】幹部でさえ引けを取らないもの。だからこそ、この勝負で勝ち、一勝一敗に持ち込み、次の戦いで器を更に昇華させた彼と決着を着けようと、そう思っていた。

 

(なんて………無様)

 

そんな考えでいるから、こんな情けない姿を最強の好敵手に晒しているのだ。

 

(殺す気………それでも、まだ甘い)

 

そう、殺す気でも甘すぎる。今のベル・クラネルと本気で闘うなら、それこそ"殺される気"でいかなければ瞬殺される

 

だからこそ、アステリオスは解き放った

 

己の全力を

 

背中に携えた、二つ目の両刃斧(ラビュリス)

 

双斧の構え

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

白銀の斧が、光と音を纏いながら突っ込んできた白の少年を十字に引き裂く

 

引き裂いた筈だった

 

(なんだ、時間が………ッ!?)

 

――――戻った

 

アステリオスはそう感じただろう。しかし、この仕掛け(カラクリ)も単純、ベル・クラネルは向かってくる斧を姿勢を変えずに、一歩だけ入れた超光速のバックステップによって避けただけ。

 

それがどれほど高度な芸当なのか理解出来ないまま、アステリオスが斧を振り抜いた状態で、時間が再び動き出す。

 

『ヴォオオオオオオオオッッ!?』

 

隙だらけの脇腹に、通り抜けざま入れられる漆黒の一閃。

 

全身型鎧(フルプレート)に守られたため、吹き出る鮮血はそれほどでもないが。咄嗟に振り返った先にはやはり

 

(くっ………)

 

少年の姿は見えず、残っているのは光粒と鐘の音のみ

 

それは、天井や壁を使った立体的な軌道で相手の死角から死角に跳び、捕捉されれば歩幅に緩急を付けた特殊な走法で、消えたように見せ掛ける技術。

 

幻影兎(ファントム・バニー)

 

ゴォォオオオオオオオオオン!!!

 

『オオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

影すら掴めない兎の軌跡を猛牛は必死に追い掛ける。しかし振るった剛撃は当たらず、逆に手痛い反撃を三撃もらった

 

(なぜだ!?何故ここまで…………ッ)

 

ゴォォオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

『ヴゥンン!?』

 

咄嗟に仰け反って交わした黒閃は頬を掠め、血飛沫が舞う

 

ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

『ヴオッ!!』

 

切り裂いたのは幻影で、光蹴が全身型鎧(フルプレート)を砕く

 

ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!

 

高らかに大鐘楼(グランドベル)が鳴り響き、両手の両刃斧(ラビュリス)が中心からスパッと切り払われた。

 

(何故ここまで差が開いている!?)

 

モンスターをおびき寄せるトラップアイテムを身体中に巻き付けながら、重圧魔法を受けた状態で、27階層に篭り続け。更に一定間隔でフリュネ(化け物)が襲ってくるという『デスマーチ(本当の地獄)』を生き抜いた兎が死に物狂いで身に付けた圧倒的な技と駆け引き(生き残る術)は、アステリオスとベル・クラネルの絶望的な潜在能力(ポテンシャル)の差をいとも簡単に埋めてしまっている。

 

(何故ここまで差が縮まらないッ!?)

 

アステリオスは気付くべきだった。

 

怪物を打倒するのは何時だって英雄なのだ。

 

"殺される気"で闘っていては怪物は英雄に勝利できない。

 

『ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!!』

 

「シッ!!!」

 

武器を失った漆黒の猛牛(アステリオス)英雄の白兎(ベル・クラネル)の牙が突き刺さった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両手と両足で絶え間なく行われる三ヶ所同時使用(トリプルアクション)

 

英雄願望(スキル)】の引鉄(トリガー)、思い浮かべる憧憬の存在は

 

『平賀 才人』

 

それは、魔法の使えない少女に召喚された使い魔の少年の物語。

 

色に初めて聞かされた異世界の話、その中でもベルのお気に入りのシーンは少年がたった一人で七万の軍勢と戦う所だ。

 

異世界の少年は、一本の剣でどれだけ絶望的な戦力差でも戦い続けた。

 

たった一人の少女を守るため、自分の想いを貫くために、自分一人に向けられる魔法を避けきり、降り注ぐ弓矢を切り払い、そして勝ったのだ。

 

――――自分の命を犠牲にして

 

『ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!!』

 

「シッ!!!」

 

心臓(魔石)に迫った斬撃を薄皮一枚でかわしたアステリオスは、瞳を恐怖に染めてベルを見つめた。しかし、ベル・クラネルは止まらない

 

――――決めたんだ

 

ベルは異世界から来た黒の少年を、物語の少年と重ね合わせた。

 

――――君が自分一人を犠牲にして、大切な者全てを守ろうとするのなら

 

確かに、ベルにとっての憧憬(英雄)はアイズ・ヴァレンシュタインなのだろう。

 

――――僕は君一人を守れるような

 

しかし、ベルが何時も見ていた背中(英雄)は何時だって黒鐘 色なのだ。

 

――――そんな英雄になってやる

 

ベル・クラネルの狂おしいほどの願望が背中を燃やす

 

大切な何かを、大切な誰かを、自分を犠牲にして守り抜こうとするお人好しを、守り抜けるような強さが欲しい。

 

ここで目の前の怪物を打ち倒して、英雄()を助けたい

 

もう二度と、黒鐘 色を失いたくないッッ!!!!

 

「ああああああああああああああああああッ!!!」

 

――――一閃

 

――――二閃

 

――――三閃

 

頭を庇うように腕をクロスさせている巨躯が、白黒の閃光が煌めく度に夥しい紅血を吐き出す

 

兎の速さを際立たせている理由は、常識はずれの【敏捷値(ステイタス)】と技の他に、振るっている黒剣にもあった

 

黒幻(こくげん)

 

刀身200(セルチ)程もある黒大剣(グレートソード)の特性は

 

強く、硬く――――そして、軽い

 

武器素材は37階層に現れる『迷宮の孤王(モンスターレックス)』、黒き骸王(ウダイオス)が扱った全長六(メドル)を越える大剣だ。

 

修業のために潜っていた黒の少年達とウダイオスの命懸けの戦いで、今まで闘技場に散らばり回収出来ないでいた大量のドロップアイテムや魔石は消滅したが、この大剣だけは最後に残り持ち帰って来た。

 

自分には扱えないからと、黒の少年はそのレア・ドロップアイテムを鍛冶師に渡し、膨大な魔力を送り込まれても傷一つ付かない柄の部分は『炎刀・虚空』に。

 

魔力が伝わりやすい刀の部分は、鍛冶師の重力魔剣の技術を流用して、第一等級武装にも引けを取らない大剣に生まれ変わる。

 

そして、ベルは二人の想いが宿った一等級の特殊武装(スペリオルズ)を扱うために、命やフリュネから技を吸収し、アイズの剣技を自己流にアレンジして、極めてきたのだ。

 

大きくて、軽くて、硬くて、強い、まさに幻のような漆黒の大剣は、初めて扱う白の少年の掌にピッタリとフィットし、三人の想いに答えるように刀身を煌めかせた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

電光石火の如く、無数の斬撃がアステリオスを削っていく

 

勢いは止まらず増すばかりで

 

すでに全身型鎧(フルプレート)は原型を留めていない

 

しかし

 

『ここで、ベル・クラネルに負ける訳にはいかんのだッッ!!!!』

 

猛牛の想いが破裂した

 

「ッ!?」

 

踏み抜きからの蹴り上げ、巻き上がる無数の石に、高速で動き回っていた兎は堪らず後退する。ベルにダメージはない、それは黒鐘 色がよく使っていた戦法と酷似していたからだ。

 

だが、距離を開けてしまったのが不味かった。

 

覚悟を決めたアステリオスの瞳が、【勇者(ブレイバー)】に向けられる

 

「ガレスッ!!!」

 

「後で説明してもらうぞ!!!――――――受けとれぇぇえええええええええええええ!!!!」

 

『ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!』

 

投げ渡された大戦斧(グランドアックス)をしっかり握りしめた漆黒の猛牛に、ベルは内心舌打ちした。

 

(――――なんだよ)

 

死線を潜り抜け、研ぎ澄まされた警鐘が鳴り響く。

 

再び構えられた武器は《黒幻》と同じ一等級武装、最上級鍛冶師(マスター・スミス)が打ったそれは、堅く、重く、確かに驚異になるだろう。

 

しかし、警鐘の正体はその武器ではない。

 

(なんだよその目はッ!!!!)

 

それは何かを守ろうとする英雄の瞳だ。

 

怪物に似つかわしくない覚悟の瞳だ

 

よく見知った瞳を向けられたベルの頭が怒りで燃える。

 

「ヴェルフ!!!!」

 

「使えッ!!!ベルッ!!!」

 

気絶から回復した鍛冶師から投げ渡されたのは『勇剣・金剛』

 

あの瞳をした猛牛に、今まで通用していた技術は通らないと察したベルは

 

半ば叩きつける様な形で、黄金に輝く重力魔剣を《黒幻》に押し当てた

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

両腕を輝かせたベル・クラネル 

 

血塗れのアステリオス

 

大質量を誇る二つの武器が、二人の英雄によって激突する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『すごいすごいっ!!!!両者一歩も引かずにお互いの武器を撃ち合わせているぅぅううううううううう!!!!!これはまさしく伝説に残る一戦だぁあああああああああああ!!!!!』

 

『……………』

 

『おっと、どうしましたミィシャさん?確かに試合内容(ルール)が変更されたことを現場にいる審判から報告された時はビックリしましたけど、こんなに熱い闘いなんです!!実況しましょう!!!』

 

『あ、はいそうですね………本当に凄い』

 

戸惑いの言葉が天から落ちてくる。しかし、オラリオの冒険者達にはそんなものは聞こえていなかった。

 

「おい、やべぇぞ。なんだこの戦い」

 

「俺、今すぐダンジョンに行きたくなっちまった」

 

「熱いじゃねぇか。兎も……牛も」

 

「いけぇええええええええええええええ!!そこだぁああああああああああああああ!!!!」

 

「モルドうるせぇ!?」

 

「俺は牛を応援するぞ!!!!」

 

「ぶっ殺せぇ!!!アステリオス!!!!」

 

「勝ってくれ!!!!ベル・クラネル!!!!」

 

「お、おいお前ら!?」

 

「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」」」」」

 

二人の乱舞に魅せられた冒険者達からドッと歓声が巻き上がった。しかも、その応援の対象には人とモンスターの垣根など存在しないかの様に異端児(アステリオス)の物まで混じっており、冷静に試合を観ていた神々が驚愕の表情を浮かべる

 

「ヘルメス様………」

 

「あぁ、わかっているよアスフィ」

 

水色の髪の冒険者に声を掛けられた男神が、顔を隠すように帽子を押させながら上空を見上げ、とある冒険者に言われた言葉を思い出した

 

全てを賭けた何て言ってる割りには、うちの団長をえらく過小評価してくれるじゃねぇか

 

ベル・クラネルは俺が側にいるからどうのこうのなるようなちっちぇ男じゃねぇんだよ

 

「…………ッ」

 

人々の心を燃え上がらせる人間と異端児(ゼノス)の決闘に――――英雄譚の一幕に、神は握りしめた拳を震わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

『ヴォルァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

 

二人の咆哮と大鐘楼(グランドベル)の音色が武器同士の撃奏と混ざり合い、人造迷宮(クノッソス)舞台(ステージ)に世界で最も激しく美しい交響曲(シンフォニア)が鳴り響いた。

 

「『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!!!!」』

 

袈裟斬り、大薙ぎ、斬り上げ、鍔迫り合い、逆袈裟斬り、突き、振り下ろし

 

英雄兎の猛攻(ヴォーパル・ラッシュ)

 

黒猛牛の暴攻(オックス・ロデオ)

 

兎は背中を燃やす《想い(スキル)》で

 

牛は積み重ねた《想い()》で

 

譲れないものを守るために戦う二人の英雄は己の全て(想い)を天秤に乗せて、目の前の英雄を打倒するために大剣と大斧を絶え間なく高速で振るった。

 

「ふっぐぅうう!!!!」

 

『グッッ!!!』

 

腕が軋み

 

「はぁッッ!!!」

 

『ヴァアアアア!!!』

 

身体が悲鳴を上げる

 

しかし二人(英雄)は止まらない、止まれない、止まるわけにはいかない。

 

負けられないのだ

 

意地があるのだ

 

守るべき者があるのだ

 

「『お前にッッ!!勝ッッ!!!!」』

 

バキィィィィィン!!!!!!

 

金属音と共に仰け反ったのは――――兎だ

 

『フゥウウウウウウウウウウウ!!!!!』

 

牛は容赦なく隙だらけの胴体に斧を差し向け

 

「ファイアボルトォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

緋色の炎雷が、止めの一撃を放とうとしている猛牛の鳩尾に放たれた

 

三分半の蓄積(フルチャージ)

 

『魔法』を放った部位は脚

 

常識を越えた攻撃は【剣姫】や鴉でも反応出来ず、ありとあらゆる物を破壊する

 

『魔法』の効果を減殺させる超硬金属(アダマンタイト)の壁も

 

最硬金属(オリハルコン)製の扉も

 

【ロキ・ファミリア】の象徴(エンブレム)

 

しかし

 

『フッ!!!!』

 

漆黒の猛牛には当たらない

 

それは、彼が最も警戒していた攻撃だからだ

 

それは、彼の命を消し去った攻撃だからだ

 

たとえ、【剣姫】や鴉が反応出来なくても

 

自分(アステリオス)だけには当たらない!!!!

 

「――――――――がっっっ!!!」

 

『魔法』を避けるために屈んだ状態から、下からすくい上げるように大戦斧(グランドアックス)を振るう。

 

その衝撃で、白の少年の体が天高く舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――夢を見ていた

 

「ベルくん、可愛いね」

 

「うわァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

初めて《スキル》が発現した日の夢だ

 

「なに騒いでんだ?」

 

「お、色くん見てくれ。ベルくんの《スキル》の名前、可愛いだろ?」

 

「神様ァ!?」

 

あの時の僕は、色に《スキル》の名前の事でバカにされると思っていた

 

「え~となになに………あ、アル………あるごのぅと?」

 

「英雄願望って読むんだよ」

 

「一々説明しなくていいですよ、神様!!」

 

―――――でも

 

「英雄ね――――――――格好いいじゃん」

 

「「えっ?」」

 

―――――違ったんだ

 

「分かってねぇなヘスティア、男はみんな英雄に憧れるもんだぜ?――――それにな」

 

―――――君は本当に

 

「ミノタウロスと一騎討ちで戦って勝ったお前は、間違いなく英雄だと俺は思う」

 

―――――最初に出会った時から

 

「ま、それでも願望があるってんなら」

 

―――――どこまでも、常識はずれで

 

「最強の英雄でも目指してみるか?」

 

――――どこまでも、僕の心を震わせる

 

 

 

 

 

 

 

一瞬だけ意識を落とした少年が覚醒する

 

(大丈夫だ、ヴェルフの兎鎧(よろい)のお陰でダメージは思いの外少ないし、《黒幻》だって手放していない)

 

――――――よしっ!!

 

英雄願望(スキル)】の引鉄(トリガー)、思い浮かべる憧憬の存在は

 

最強の自分(ベル・クラネル)

 

――――その物語は

 

妖術を扱う狐に重力を操る武人

 

伝説の鍛冶師や鬼の小人

 

怪物鴉と英雄兎

 

『ダンジョンをとあるチート持ちが攻略する』

 

―――きっと、何処までも続いて行くそんな物語

 

 

だから

 

 

―――――なろう

 

―――――最強の英雄に

 

――――あの憧憬(アイズ)背中()を越えて、最強の英雄にッ!!!!

 

ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!!!!!

 

殻を破った白の英雄を祝うように、祝福の鐘(ブレッシング・ベル)が一際大きく鳴り響く

 

「勝負だぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

『ヴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

少年は吠え

 

怪物は答えた

 

考えずとも分かる、この一撃を避けてはダメだと

 

この一撃を真っ向から打ち破らなければダメだと

 

構えるは黒牛最大の紅角(ぶき)

 

対するは白兎最強の黒剣(ぶき)

 

潜在能力(ポテンシャル)を最大限まで引き出した突進をする怪物の勢いは、地を脚が蹴る度に地震を起こし

 

『魔法』の爆発力を利用した高速の立て回転で落ちてくる英雄の勢いは、回転速度が上がる度に空間を切り裂いた

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

天地が破れ

 

砕ける《黒幻》

 

「――――ッ!?」

 

そして

 

『ヴオッ!?』

 

斬り飛ばされた紅角

 

「『まだだッ!!!!」』

 

二人の戦いは止まらない、まだ終わってはいない

 

大剣が無くなったからなんだ!!!僕にはまだ短剣(ナイフ)がある!!!

 

角が無くなったからどうした!!!自分にはまだ大斧(アックス)がある!!!

 

ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!

 

破鐘の音が反響する

 

英雄願望(アルゴノゥト)】 限界破壊(リミット・ブレイク) 四ヶ所同時発動(クワトロ・アクション)

 

限界を破壊された背中の刻印が、灼熱に焦がされた。

 

その熱に押されるように、輝ける四肢で目の前の猛牛を打ち倒すべく、英雄は駆ける。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおッ!!!!!」

 

同じタイミングで足元の石を砕いた猛牛は、大戦斧(グランドアックス)を構えながら突進する。

 

『ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒のナイフと紅刀を両手に構えたベル・クラネル

 

 

 

 

ドワーフから借り受けた大戦斧を片手に構えたアステリオス

 

 

 

 

両者は再び迷宮の一角で

 

 

 

 

激しい火花を散らさなかった

 

 

 

 

 

 

 

――――嘘だ

 

崩れ落ちる膝

 

 

 

 

 

 

――――嘘だ

 

落とされた大戦斧

 

 

 

 

 

 

「…………………嘘だ」

 

少年の物とは違う、終わりを次げる鐘の音(ブザー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

VS【ロキ・ファミリア】

 

戦闘形式カテゴリー――――争奪戦

 

勝負結果

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】――――敗北

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッッ!!!!」

 

兎の慟哭が人工迷宮(クノッソス)に響き渡った

 

 

 

 

 

 

















本当に大切な話は次回になります


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第39話 敗北者の末路

メモリア・フレーゼまでに間に合って良かった。


「うわぁぁあああああッッ!!ぁぁああああああ…………アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

ベルの拳が石畳を砕いた。いや、砕けたのだ――

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も、石畳を殴り続けた拳が、砕けた

 

「やめるんだ」

 

指が変形してまともに握れなくなった拳で、尚も石畳を殴ろうとするベルの腕を、黄金色の小人族(パルゥム)が止めるために掴む。

 

「うっ………ふぐっ……がっ!!」

 

「……………」

 

その腕は予想以上に力が入っていなかった。振り払おうとしても、弱々しく動くだけだ。腕を捕まれた状態で、ベルは泣きながら頭を石畳に打ち付けた。

 

ガツッガツッガツッ………

 

「止めんのか」

 

「止まらないよ」

 

後悔、無念、そこにはありとあらゆる負の感情が浮かんでおり、フィンは腕を掴んだままベルの嗚咽が止まるのを待ち続ける。

 

やがて気絶でもしたのだろう。頭から血を流しながら糸が切れたように動かなくなったベルをリヴェリアに任せ一息吐くと、何もない天井を見つめた。

 

「…………さて、これで終わりにしよう」

 

瞬間、何処からともなく浮游して来た水晶がフィンの目の前で停止する。

 

「聞け!!!オラリオの住民達!!!この戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者は僕達【ロキ・ファミリア】だ!!!!!」

 

その終戦宣言の声は水晶を通してオラリオ中に響き渡り

 

「よって!!異端児(ゼノス)達と一連の事件の首謀者、黒鐘 色の命は僕達の手に委ねられた!!」!

 

間近で聞いていたヴェルフは、顔を手で覆いながらへたりこみ、(こうべ)を垂れた。

 

「しかし命までは取ろうとは思わない。何故なら、僕は彼らの勇気を見たからだ!!!!」

 

そして、フィン・ディムナの演説が始まる。

 

「よって、黒鐘 色は【ステイタス】を封印して【ヘスティア・ファミリア】を追放、異端児(ゼノス)達は厳重な管理下に置き、労働力として働かせる事にする!!!」

 

唖然とする異端児(ゼノス)達、騒然とするオラリオの住人達を置き去りにして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒鐘 色の思惑通りに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は数日前、色がアイズ・ヴァレンシュタインから、逃げ切った所から始まる。

 

彼が向かった先は人の居ない古びた一軒家、その地下室だった。

 

「遅かったじゃないか、色君」

 

「ちょっと野暮用が出来てな。ヘスティアも無事に到着していてよかったぜ」

 

「そりゃあ護衛にアステリオス君が………ってボロボロじゃないか!?」

 

小さな魔灯の明かりの下には、ツインテールを逆立ててビックリするヘスティアの他に、複数の人影が見え隠れしており、唐突にその中の一人がヘスティアを押し退け色に抱きついた。

 

「しっきく~ん!!!生きとったんかぁ!!!!」」

 

「わぶっ!?お、おいロキぃいいい!!!!」

 

「実は生きてたんですよ、心配掛けてすいません」

 

「ええんやええんや!!うちは色くんが生きとったらそれでええ!!!」

 

「ボクの話聞けぇ!!!と言うか、色君からはぁなぁれぇろぉ!!!」

 

色の胸に顔を埋めるロキを引き剥がそうとするヘスティア、その三人を苦笑いをしながら見ていた小さな人影に気づいた色は、片手を上げながら挨拶した。

 

「お久しぶりです、フィンさん。お待たせしてしまってすいません」

 

「やぁ黒鐘君、元気そう……ではないみたいだね」

 

そう言いながら、【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナは、ズタズタに切り裂かれた制服を困り顔で見つめる。

 

「すまなかった。その傷はアイズに付けられた物だろう?」

 

「いや、悪いんはあの金髪なんでフィンさんが謝ること無いっすよ。それより、早速始めましょうか」

 

「その前に、色君は回復が先だよ~?」

 

軽い挨拶を済ませながら、ロキから解放された色がそのまま席に着こうとすると、肩に手を置かれる。声の主は、後ろに『バーバリアン』を控えさせたミィシャだ。

 

「いや、でも………あ、はい。よろしくお願いします」

 

「素直でよろしい。それではフェルズさん、頼みました~」

 

「大丈夫、魔法は完成しているよ」

 

時間がないから、という言葉を笑顔の威圧感だけで黙らせた彼女は、『魔法』を完成させているフェルズの元まで色を引っ張って行き、ロキとフィンが高位の回復魔法に驚嘆の声を上げる。

 

「凄い治癒魔法だね。回復力だけならうちの魔導師(リヴェリア)を凌ぐんじゃないかな?」

 

「おぉ、ほんまやな。色君の傷がすっかり治っとる。なんやドチビ、こんな隠し玉もっとったんかいな」

 

「私は【ヘスティア・ファミリア】の一員じゃないよ。ただの協力者だ」

 

「へー、協力者……ね」

 

含んだ物言いをするフィンに、黒衣の賢者はそれ以上は何も話さないと口を閉じた。

 

数秒で体の隅々まで回復した色が、ヘスティア、ロキ、フィン、ミィシャが座っている丸テーブルの椅子に腰かけ。その周りには座っているメンバーを三角形に取り囲むように、黒衣の賢者、バーバリアン、漆黒のミノタウロスが佇んでいる。

 

「さて、それじゃあ―――――オラリオを攻略しましょうか」

 

そして、怪物達の作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その作戦会議で真っ先に口を開いたのはフィンだった。

 

「まず最初に、聞きたい事がある」

 

「なんすか?」

 

「君はレフィーヤに何をした?」

 

この質問は疑問ではない、攻撃だ。彼の目は鋭く色を居抜き、色もまたその視線の意味を深く理解している。

 

「そうですね、始めに俺の『呪詛(カース)』について話しましょうか」

 

「いいのかい、色君?」

 

少しだけ不安げに聞いてくるヘスティアに、色は「大丈夫大丈夫」と軽い声色で答えたあと

 

「その代わり、これ以上腹の探り合いは無しだ」

 

と、フィンとロキに『呪詛(カース)』の情報と釣り合う対価を要求した。

 

「なるほど…………いいだろう、女神フィアナに誓って嘘はつかないと」

 

「フィンさん、それじゃあダメだ」

 

言葉を遮った色は、真っ直ぐな瞳でフィン・ディムナと視線を合わせた。そして、漆黒の瞳に映った自分を確認した瞬間、急激な痛みが親指に走り、咄嗟に握りしめる

 

(なんだ、この痛みは!?いままで感じたことが――)

 

「”嘘をつかない”じゃ甘いです。聞かれなかったから言わなかった、嘘は言ってないけど本当のことも言っていない。そういうのも全部無しにして下さい」

 

「………………わかった、誓うよ。腹の探り合いは無しにしよう」

 

顔をしかめながら言ったフィンを面白そうに眺めたていたロキが、色に話の続きを催促する

 

「うちもそう言うの無しにするから、さっそく教えてくれへん?レフィーヤに何をしたのか」

 

糸目が少しだけ開けられ、薄い暗がりの中、深紅に光るる神の目が色に向けられた

 

「わかりました。まず、俺の『呪詛(カース)』は自分のLv.以下の人間の精神を自在に操れます」

 

「「…………」」

 

二人は特に驚かず、なるほど、と予め解っていた事を聞かされたように頷く。いきなりレフィーヤが自分達に、この場所と集合時間、細かな取り決めを無表情で淡々と話し出した時はひっくり返りそうになったが。よくよく考えてみれば、希少呪詛(レア・カース)にでも操られているという結論に至ったからだ――――まぁ

 

「因みに、その『呪詛(カース)』を使って情報機関とギルドの人間と一般市民と俺のLv.以下の冒険者と………そうですね、大体オラリオの八割の人間を支配下に置いてるんで」

 

「「ブッッ!!?」」

 

その規模までは予測出来ないでいたのだが。

 

「あぁ、勘違いしないで下さいね。完全同時に操れるのは精々三十人ぐらいですので。他の人間は認識をすり替えれる程度です」

 

「ま、まってくれ。流石にそれは………ロキ、彼の言っていることは真実かい?」

 

「えッ!!色君が嘘ついてるかどうか分からへんねんけど!?どうなっとんねんヘスティア!?」

 

「ちょっ!?掴み掛かるな!!色君はそういう体質なんだ!!!」

 

肩を捕まれ激しく揺さぶられながら、ヘスティアは叫ぶように答えた。それを聞いたロキはピタッと止まり頬をヒクつかせる

 

「体質ぅ?それ本気で言っとんのか」

 

「ロキ様、時間が惜しいので色君の体質の事はこれぐらいにして、話を先に進めてよろしいでしょうか~」

 

遮ったのは、朗らかに笑うミィシャだ。当然ロキもフィンも納得は出来ていないが、二人の口が開かれる前にミィシャは釘を刺す

 

「色君の『呪詛(カース)』の情報の対価は貴方の誠実さです。それ以上の物を求めるなら、それ相応の対価を用意して下さい」

 

その言葉を聞いて、二人の時が一瞬だけ止まった。

 

「…………そういうことか、やられたわ」

 

「あぁ、まんまと一本取られた」

 

つまり、こちらも同じ様にして欲しいなら、それ相応の対価を用意しろ、それがなければ嘘も付くし、"そういうこと"もする、という事。

 

そして、『呪詛(カース)』の効力を教えられた事により、こちらは誤魔化しの効かない本物の情報を提供しなくてはいけない。

 

なぜなら、もし誓いを破って誠実さの欠ける行為をした場合、先程聞かされた『呪詛(カース)』により、【ロキ・ファミリア】の団員達や、フィンの一族までも根絶やしにされる危険があるのだから。

 

「たった一つの情報で、ここまで追い詰められるとは思わなかったよ。君は何者なんだい?」

 

ニコニコと、不気味なほど変わらない笑顔を向けるミィシャにフィンは質問した。動揺一つせず、ここに居るということは彼女も一般人じゃないのだろう

 

「私は色君のアドバイザーですよ~」

 

「アドバイザー、ね。ンー……もしかして、君が『情報の魔女(ピンク・レディ)』かい?」

 

「不本意ながら、そう呼ばれてるみたいですね~」

 

――――――やけに親指が疼くわけだ

 

相手が『情報の魔女(ピンク・レディ)』なら分が悪すぎる、最近台頭し始めた情報屋はあの闇派閥(イヴィルス)の一挙一動すら容易く手繰り寄せてしまうのだから

 

フィンの背中に、珍しく冷や汗が流れた

 

「今回は敵、てことでいいのかな?ヴァレッタの【ステイタス】や闇派閥(イヴィルス)の動向をこちらに渡してくれた時は君の事を女神か何かだと勘違いしたんだけどね?」

 

「前も言いましたけど、あれは”偶然”ですよ?それに私は貴女方の敵ではくて、色君と異端児(ゼノス)の味方です~」

 

「そうかそうか!!わかった!!だったらうちらも、色君と異端児(ゼノス)の味方になるわ、それでええんやろ?」

 

桃髪の女性と、小さな勇者が醸し出していた微妙な空気を壊したのは赤髪の女神、ロキだ

 

「ロキ――」

 

「フィン、うちらの負けや。色君の『呪詛(カース)』に『情報の魔女(ピンク・レディ)』、そこの『ミノタウロス』と『バーバリアン』も相当なもんちゃうんか?つまりあれや、詰みってやつや」

 

「…………はぁ、わかった認めよう。それで、そっちの用件はなんだい?『情報の魔女(ピンク・レディ)』がいるって事は、僕達の情報には大して興味ないんだろう?」

 

その言葉を聞いた色が――――三日月の笑みを浮かべる

 

「そうですね、取り合えず俺たちと『戦争遊戯(ウォーゲーム)』をして下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうですかね、この作戦」

 

「いや、良く出来ていると思うよ。戦争遊戯(ウォーゲーム)なら異端児(ゼノス)達の動向を堂々と一般人に公開出来るしね」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!?戦争遊戯(ウォーゲーム)にわざと負ける!?そんな事私は聞いてないぞ!?」

 

「そりゃあ言ってなかったからな。サプライズっやつだ」

 

「色君、あとで説教」

 

「ウィッス」

 

ミィシャさんからボソッと言われた言葉に背筋を伸ばす、怖えぇ

 

「色君、作戦を変えることは何も言わないけどさ。ロキ達とボク達の陣営を戦争遊戯(ウォーゲーム)でわざと拮抗させるってのは出来る事なのかい?」

 

「「可能だ」」

 

ヘスティアに返答した俺とフィンさんの言葉が重なる。うん、やっぱこの人頭いいわ

 

「『人造迷宮(クノッソス)』にまつわる全ての情報、黒鐘君の『呪詛(カース)』、両陣営の作戦立案者、ここまで揃っていたら寧ろ出来ないことを探す方が難しい」

 

「それにミィシャさん(情報の魔女)フェルズ(賢者)が居るんだから文字通り不可能なんて無いんだよな。まぁ、問題があるとするのなら――――――【フレイヤ・ファミリア】(もう一つの都市最強)だけだな」

 

そう、これはカジノの時と一緒だ

 

無意識の内に、すべて俺の有利になるように場面を整わせ、勝てるように仕向ける。ここで重要なのはいかに高レベル冒険者に何もさせないか。前回はリンちゃん一人だけだったから何とか誤魔化せたけど、今回はどうしても【ロキ・ファミリア】の協力が必要になってくる。そして、その事は自前に『呪詛(カース)』の効果を話したフィンさんも理解してくれていて

 

「そうだね、【フレイヤ・ファミリア】には、なにもさせるわけにはいかない。ンー、でもだからこそ、僕達にわざと異端児(ゼノス)達を発見させたって事かな?」

 

「勿論、【フレイヤ・ファミリア】には異端児(ゼノス)達の尻尾すら掴ませてねぇよ。これでアイツらは、今回の件で常に成果を上げている【ロキ・ファミリア】に強くでれねぇ」

 

「くっくっくっ、いいね君。あの【フレイヤ・ファミリア】を手玉に取る人間なんてそうそう居ないよ?」

 

「あっはっはっ、フィンさんの鋭い読みで異端児(ゼノス)を捕捉してくれるから、ここまで出来たんですよ」

 

「くっくっくっ」

 

「あっはっはっ」

 

「な、なぁロキ、この二人実は邪神とかじゃないのかな?」

 

「わからん、でもあんな楽しそうなフィン久しぶりに見たわ」

 

ボソボソ話してる二神に気付かず、笑い合う俺とフィンさん。なんか、この人とは旨い酒が飲めそうな気がする

 

「さて、先ずは僕の報酬の話をしようか。都市の住民全員を騙すんだ、いくら道化師(ピエロ)のエンブレムを背負っていると言っても、流石にタダではそんな危険を犯すことは出来ない」

 

「な、報酬だと!?【勇者(ブレイバー)】、君は自分の立場が分かっているのか?それに、先程負けたと言ったばかりではないか」

 

「フェルズうっさい、空気読め」

 

「またそれか!?」

 

声を荒げるフェルズに説明しようとして、ミィシャさんの笑顔が増したのを視界に捕らえ、発言を止める。最近この人笑顔が凄く怖くなってきたんだけど………

 

「フェルズさん、私達がフィンさんに『呪詛(カース)』の情報を渡したのは誠実さを求める為であって脅して無理矢理従わせる為では無いんですよ~。だからこの場合――――」

 

「報酬を求めない方が不誠実、か」

 

「はい、そういうことですー」

 

ミィシャさんの簡単な説明が終わり、フェルズが黙りこんだ。その様子をフィンさんとロキさんは面白そうに眺めている

 

「それじゃあ報酬の話をしますね。俺達がアンタ達に払う報酬は名誉だ」

 

「ンー、それは、【ロキ・ファミリア】に対して払う報酬だろ?僕は、”僕の報酬”の話をしてたんだよ?」

 

「分かってるよフィンさん」

 

片目を瞑って向けられた碧眼に答えるように、俺は親指で後ろに佇む最強の異端児(ゼノス)指した

 

「―――――アンタにはアステリオスをくれてやる」

 

「………乗った、でもそれじゃあ今度は僕が貰い過ぎている。その差を何で埋めようか?」

 

「自分は、ベル・クラネルとの再戦を望む」

 

初めて重々しい声で発言したアステリオスに、フィンさんは何かを感じ取ったらしく瞳を閉じて「わかった」とだけ言った

 

「それで色君、うちは?うちには何くれんの?」

 

「え?」

 

あ、それは考えてなかった。フィンさんが協力してくれるのなら、ロキさんも自動的に協力してくれる物だと思ってたわ。うーん、そうだなぁ

 

「俺の出来る範囲で何でも一つ言うことを聞くってのはどうですか?」

 

「おぉマジで!?よっしゃあ!!うちなんでもしたる!!」

 

「ちょっ、色君!?」

 

ロキさんの歓喜とヘスティアの困惑の声が重なった。まぁ、いいじゃん、ロキさんの事だし無茶は言わないと思うよ?

 

「さて、それじゃあ、作戦の詳細を決めていこうか」

 

と言うフィンさんの声を皮切りに、俺達は明け方まで作戦を練るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんなもんかな。ミィシャ、一応聞いておくけど、これからの事を都市外には流しているのかい?」

 

「はい~、もう情報の拡散は済ませておりま~す」

 

「流石は『情報の魔女(ピンク・レディ)』だ、仕事が早いね。それじゃあ僕達は帰らせてもらうよ、小さな神様も寝てしまったみたいだしね」

 

フィンの言う通り、ヘスティアは机に突っ伏し眠っていた。普通の人間の身体能力と変わらない身体では、徹夜に耐えられなかったらしい。

 

「全く根性のないドチビや。色君、はいこれ『誓いの書』、にしても便利な体質やな、こんな適当に書いた嘘っぱち言っても神々にばれへんねんから」

 

紙を渡してから席を立ったロキにそんな事を言われた色は苦笑いする。今は余計な混乱は避けるために、異世界の事は黙っていることにしていたからだ。

 

「まてまてまて!?ほ、本当にそんな事をするのか?私が水晶に写された戦争遊戯(ウォーゲーム)を編集して、都市の住民を騙すなんて無茶では!?」

 

作戦の内容を上手く飲み込めていなかったフェルズが困惑の声を荒げた。そんな賢者に、色の眉が少しだけ寄せられる

 

「騙すって人聞き悪いな。良い感じに異端児(ゼノス)達が映えるように、ちょっとアレンジするだけだろ?それにロキさんやヘスティアにも手伝ってもらうからビビんなって」

 

「怖がっている訳ではないのだが…………そ、それに色君の『呪詛(カース)』が届かないLv.の冒険者は騙せないんじゃ」

 

「フェルズ、大多数の意見が真実になるのは何処でも同じなんだよ。例え一人の高Lv.冒険者が黒だと騒いでも、残り99人の一般人が白だと言えば白になるようにね。そこにLv.なんて物は意味がないんだ」

 

フェルズに肉体があれば、フィンの暴論に頬を引きつらせていただろう。しかし、これを可能とする人物が目の前にいるのだから、諦めて「わかったよ」と頷くしかなかった

 

「さて、帰る前に一つだけ確認しておこうか」

 

フィン・ディムナの相貌が、漆黒の瞳を覗き込む

 

「色、君は自分のしようとしている事の意味を理解しているんだね?」

 

小人族(パルゥム)の勇者は問い

 

「アイツらと約束したんですよ、地上で生活させてやるって。その為には、出来ることは何でもするつもりです。俺、約束は守る男なんで」

 

異端児(ゼノス)の救世主は答えた

 

「なるほど。例え世界中の人類が君を魔王だと非難しても、僕だけは君の英断を賛称するよ」

 

「そりゃ、有りがたいですね」

 

素っ気なく返した色にフィンは見た、彼の圧倒的な善の気配を。何回も闇派閥(イヴィルズ)と戦ってきたフィンは、この世界にどうしようもない極悪人が居ることを知っている、恐らく彼はそれとは真逆の存在、どうしょうもない善人。

 

きっと、その向き(ベクトル)が違うだけで根元的には快楽を求める為に都市を破壊していたヴァレッタ達とそう変わらない、ただ目的の為に自分の全てを犠牲にしてでも人を助けようとする――――冒険者

 

「それじゃあとりあえず解散しますか、また今日の夜行きますねフィンさん」

 

「あぁ、待っているよ、色」

 

二人の冒険者は少しだけ視線を交差させた後、別れ

 

 

そして――――――世界最大規模の八百長(パフォーマンス)が始まったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の状況を説明しよう

 

両手には手錠が掛けられ、【ステイタス】も封印されている

 

そして目の前には、【ロキ・ファミリア】の黄昏の館(ホーム)

 

なんでやねん

 

「やられた、ロキさんの何でも言うことを聞く権利をこんな所で使われるなんて予想してなかった」

 

うん、予定道理に行けば、自分のホームで数日間謹慎する筈だったのに、まさかの【ロキ・ファミリア】で監禁、にしてしまうとは。

 

やべぇよこれ、金髪との戦いは『呪詛(カース)』の効力を隠すために、俺が下位団員を倒して回って、たまたま金髪と遭遇したって記憶に改竄してるんだよ。もしかして袋叩きにされるんじゃね?

 

なんて考えていても目的の建物に到着してしまったのだからしょうがない。護送の為の【ガネーシャ・ファミリア】は途中で帰ったし…………いや本当、なんで帰ったの?不確定要素の塊みたいな不審神物をこっそり閉じ込めておいたのがいけなかったの?

 

「はぁ、ここでグダグダ考えてても仕方がないか。よし、行こう!!」

 

そして、やたら大きな門を潜り

 

「「「「「「「「「ようこそ!!【ロキ・ファミリア】へ!!!!!!」」」」」」」」」」

 

なんか、めっちゃ歓迎された。

 

と、いうのが数時間前に起きたことだ。今はロキさん主催の俺の歓迎会の真っ最中である、て言うか、記憶改竄してた皆から「次は負けません」みたいなこと言われたのだが、凄い向上心だね。

 

「…………」

 

「…………」

 

うん、現実逃避は止めようか。そうだよね、ここ【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)だもんね、そりゃいるよね、何がだって?勿論―――――天敵(金髪)

 

「…………ぁ」

 

やばいやばいやばい、殺される!?

 

「助けてぇぇぇぇええええええええ!!!!!べぇぇぇぇぇとくぅぅぅぅぅぅん!!!!!」

 

目の前の金髪が動く前に、全力で叫んだ。

 

聞こえる遠吠え

 

近づく足音

 

「ルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

持ち上げられる体

 

「バーカバーカ!!お前になんか捕まらねぇんだよォ、金髪ゥ!!」

 

「馬鹿はてめぇだ、挑発すんな糞鴉!!!」

 

「え!?ちょっと、ま――」

 

小脇に抱えられた俺は、大人しく挑発を止めることにした。だって【ステイタス】封印中だし、撫でられただけで殺されちゃうぜ。ちなみに、追って来ようとしていた金髪は、ティオナさんとティオネさんに止められている。ざまぁww

 

「アイズ!!大人しくしててって言ったでしょ!!」

 

「そうだよ!!カラス君本当に死んじゃうよ!?」

 

「二人とも、通してッ!!!」

 

「「強ッ!?」」

 

え?あの二人突破されたんだけど…………これヤバくね?

 

「ベート君急いで!!来てる!?金髪が迫って来てるぅ!!!!」

 

「喋んな!!舌噛むぞ!!!」

 

「待って!!!」

 

そこから激しい競争(デットヒート)が始まった。獣の動きで、館内を疾走するベート君、それを追いかける金髪、そして――――――あの、まずトイレに行かせて貰えませんかね?そもそも、そこに向かってたからアイツと鉢合わせになってしまった訳で…………

 

「ベート君おしっこぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」

 

「ふざけんなよてめぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!」

 

「いや、ふざけてないから!?全力だから!?速くトイレ!!!漏れちゃう!?」

 

「くそがぁぁぁあああああああ!!足止めしといてやるから速く済ませやがれ!!!」

 

そう言いながら、殆ど投げ込む形でトイレの前に転がされた。よし、今のうちに手早く済ませてしまおう――――――大の方

 

激しく揺さぶられたから仕方ないね

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「ああああああああああああああああっ!!」

 

【剣姫】と【凶狼(ヴァナルガンド)】の壮絶な戦いが、トイレの前で繰り広げられる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、何だかんだあって、結局俺は金髪に捕まってしまった。場所はどっかの倉庫の中だ、何て言うかこう、ひょいって感じでベート君から掠め取られて、ここまで連行された。

 

黄昏の館は半壊した

 

「それで、なんの用だよ。言っとくが戦えねぇからな?【ステイタス】封印してる状態だから、死ぬから」

 

「ち、ちが………そうじゃなくて、その」

 

暗い倉庫の中でもハッキリ解るくらいに揺れる金色の眼差し。

 

なんじゃこりゃ、今までとは明らかに違う金髪の対応に俺は困惑した。まぁ、いきなり殴られて、首から上が吹き飛ばなくて安心したって感情の方が大きいが

 

「用事が無いなら早く解放してもらっていいですかねぇ。俺も暇じゃないん………で?」

 

え?あれ?ちょっとまって………これって

 

「お前………………泣いてんの?」

 

「っ!?」

 

ビクッと肩が揺れた。その姿に、何か見てはいけないものを見てしまったような、やってはいけない事をしてしまったような、そんな感覚に心が締め付けられた。

 

いや、おかしいだろ。こいつに何度殴られたと思ってるんだ、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)だって殺されかけたんだぞ?それをちょっと泣き顔見せられたぐらいで――――

 

「…………なさい」

 

「…………………………………………………………………………………………はぁ?」

 

聞き間違いかと思った

 

「ごめんな……さい」

 

聞き間違いではなかった

 

「ごめんなさいっ!!!ごめんなさい、ごめんなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き間違いであって欲しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさ「謝んなッ!!!!」―――え?」

 

―――この時、俺は人生で一番キレていた

 

「謝んなっつってんだよボケが!!!俺の、全てを賭けた戦いを馬鹿にすんなッッ!!!!」

 

―――それはちっぽけな誇りを傷つけられたからだろうか?

 

「《スキル》も《魔法》も《呪詛(カース)》も!!!卑怯な手も!!!全部使った俺に勝ったのはお前だろ!?それを、ごめんなさい、だと!?ふざけんなよ!!ふざけんじゃねぇ!!!!!」

 

―――もしくは、殺されかけたからだろうか?

 

「俺はあの時お前に謝って欲しくて戦った訳じゃねぇんだよ!!!お前に勝ちたくて、戦かったんだ!!!!」

 

―――多分、どっちも違うのだろう

 

「その気持ちは、お前だって同じだったろぉが!!!!だったら勝者が敗者に謝んな!!!」

 

―――恐らく俺は

 

「お前が俺に掛ける言葉は一つだけだ!!違うか!!!!」

 

―――こいつを泣かした俺自身にキレていたのだ

 

「………………」

 

合わさった視線から、俺が何を言って欲しいのか分かったのだろう。暫くした後、彼女は震える声で、これから先使わなくなった俺の蔑称を口にした。

 

「わたしの………かち、だね…………もっと……強くなってから…………出直してくると…………………いい……………よ…………………………………ごみむし」

 

「ハッ!!上等!!次に勝つのは俺だ、その時まで首を洗って待っときな、金髪ゥ」

 

――――まぁでも、この時の俺は負け犬の遠吠えをする事ぐらいしか思い付かなかった訳で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんなことになるなんて、思いも付かなかったんだよなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、言うわけで、33話から全てが色とフィン達の思惑通りだったと言う訳です。一応ヒントは出してたけど気づいてた人いるかな?少なくても33話でフィンと色が裏で繋がってるって気づいてた人はいないと思うけど・・・




次話はアイズと色を中心とした閑話、やります


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第39.5話 後日談であり前日談

この話の後、恐らく彼女は色の回りの女性に対して無意識のうちに全方位の攻撃をかましている



微睡みの中、ふんわりとした香りが鼻腔をくすぐり少しだけ意識が浮上する。

 

やたら良い匂いに思わず口元が緩み、うっすらと瞼を開けるとそこには、窓から射し込む日に照らされ金色に輝いている髪の毛が微かに見えた。

 

「…………あぁ春ちゃんか」

 

ボソッと呟きながら、狐人(ルナール)の耳を触るため、ゆっくりと頭に手を持って行く。一応、娼婦(笑)な彼女は、どうやらヘスティアと同じく俺と一緒に寝る事に抵抗はないらしい。まぁ別にいやらしい事をする気はさらさら無いが、それなら好都合と寝てる間に耳や尻尾をモフモフさせてもらっているのだ

 

と、言うわけで―――モフモフ~

 

「……………ぁぅ」

 

「……………ん?」

 

掌で触れた感覚は、何時ものモフモフではなくサラサラ。

 

いや、意味わかんねぇし、とりあえずモフモフさせろ

 

ぼー、とした頭でそう思った俺は、今度は反対の手を尻尾の方に持っていく

 

ふにふに

 

「……………ぅ…ん」

 

あー、ここ背中だわ。もうちょい下に尻尾が、モフモフがあるはず

 

むにむに

 

「……ふぁ……ぁ…」

 

あれ?ねぇな。もっと下か?どこだ~尻尾~

 

むにゅむにゅ

 

「………んぅ…………ゃ」

 

わかった、これ服の中に入ってんだ。ふへへ、引っ張りだしてやるぜぇ

 

むにゅん

 

「あんッ!」

 

「…………」

 

皆さん、おはようございます。完全に意識が覚醒した黒鐘 色です、唐突ですが現状を説明させてもらって宜しいでしょうか?

 

ベッドの上で寝ている金髪を、俺が抱き締めている………

 

なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!?!?!?!?!?

 

どういう状況!?意味わかぁんなぁい、混乱がヤバい混乱が!?どうなってんの!?

 

「…お………とう……さん」

 

ちょっまって!?そっちから抱き締めるな!!!離れられねぇから!?あとお父さんじゃねえから!?

 

「おかあ…………さん?」

 

お母さんでもねぇぇぇからぁぁぁあ!!!!おい、本当に待て、待ってください!?足を腰に絡めて来ないで下さい!?誰か助けて!!!ステイタス封印されてる状態じゃあ逃げれねぇ!!!

 

ガチャ

 

「色さん、朝御飯出来た……す」

 

「あ、ラウルさんたs」

 

「し、失礼したっす!?」

 

あの野郎逃げやがったぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!

 

「ふへへ…………きぃ……」

 

近い近い近い!?背中に腕を回すな馬鹿!!!胸に顔を付けるな馬鹿!!!スリスリするなぁぁぁぁぁあああああ!!!!!ああああああれか、実は俺を社会的に抹殺する作戦か!!!でも残念でしたぁぁ、この状況誰がどう見ても俺がお前に襲われてる様にしか見えねぇからぁあああああ!!!!

 

「ん…ぅ……もっ……と」

 

ごめんさないごめんなさいごめんなさい!!!!謝るから早く起きてくださぁぁぁぁあああいいいい!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数十分後、ようやく起きた金髪から解放された俺は、この館の神室の扉を勢いよく開けた。

 

「どうなってんすか、ロキさん!!!!!」

 

「ぶははははは。朝から大変やったなぁ、色君」

 

俺の顔を見た神物(じんぶつ)、ロキさんはゲラゲラと笑いだした、どうやらラウル経由で俺と金髪の話は耳に入っていたらしい。

 

「昨日の歓迎会の時にやけにニヤニヤしてると思ったらこういうことだったのか!!ていうか

お前も早く離れろっつうの!!!」

 

振り向くと、起きた時からどんだけ止めろと言っても俺の服の裾を指でしっかり摘まみ、離さないでいる金髪がキョトンと首を傾け

 

「でも私、ロキにぼでぃーがーどを頼まれたから」

 

とか言ってきた。そして、朝っぱらから何回も聴かされたその言葉を金髪に吹き込んだであろうロキさんは、腹を抱えて大爆笑してる。

 

「お前ボディーガードの意味わかってんの?」

 

「任せて、私は色………君から、離れない…から」

 

絶対意味分かってないだろコイツ。少なくても俺の知ってるボディーガードは、守る対象のベッドに潜り込んで一緒に寝たりしねぇよ。

 

「まぁそういうことや、色君がここに居る間はうちのアイズたんがしっかり守ったるから安心しぃや」

 

「安心出来ないんだけど!?」

 

この人俺がコイツにどんな目に会わされて来たかわかってんの!?このままじゃ、ふとした拍子にくびり殺されちゃうかもしれないよ!?

 

「まぁまぁ、落ち着きぃや色君。いいか、ファミリアじゃあ主神の命令は絶対や、そんなうちがアイズたんにボディーガードを命じたんやで?だから色君は大丈夫や」

 

「これまでロキさんの命令に背いて攻撃されてたんですけど!?」

 

「………………じゃあ、こうしよ」

 

この人誤魔化したよ!?

 

「アイズたん、今日から色君が帰るまで色君の言うこと何でも聞くんや、わかったな?」

 

「うん、わかった」

 

驚くほど素直に首を縦に振った金髪は

 

「オッケー。じゃあ今日から俺が帰るまで一切近づくな」

 

「嫌」

 

驚くほど速く先程の言葉を撤回した

 

「ロキさぁん?」

 

「い、いややわぁ色君、ボディーガードやのに一切近付かへんなんて出来るわけないやん。それに、そんなに嫌やったらアイズたんが添い寝してる時になんで大声出して無理矢理起こさへんかったん?」

 

「…………………………いや、でもあんな気持ち良さげに寝られたら起こし辛いって言うか――――てそんな事はどうでもいいんですよ!!!」

 

がーっと吠えながら詰め寄る俺を、ロキさんはニヤニヤした顔を隠そうともせず言葉巧みに追い詰めていく。そして数分後には完全に言いくるめられてしまった

 

「な?うちと色君の仲やねんから折れてくれてもいいやん」

 

「う、ぐ…………わかり、ました。今回だけ、ですよ」

 

「いやぁ色君なら分かってくれると思ってたわ!!」

 

異端児(ゼノス)の事を引き合いに出すとか卑怯なんじゃないですかねぇ!?

 

「あぁもう、こうなったらやってやるよ!!フェルズ、あの人にちょっと伝言頼むわ」

 

緊急時用の水晶にそういいながら神室を後にした。勿論、俺の後ろには服の裾を摘まんだ金髪が付いてきている、散歩されている犬か俺は。そのまま二人で黄昏の館の廊下を歩いて行くと、対面から大きな影を引き連れた小さな人影が手を降ってきた。

 

「やぁ、おはよう色。今朝は、というより今まさに大変そうだね」

 

「お早うございますフィンさん、現在進行形でマジ大変っす。アステリオスもおはよ」

 

スッと会釈したアステリオスと、苦笑いしているフィンさんの前で盛大にため息を吐いた。後ろからは、頭に?マークを出しながら首を傾けているであろう金髪の気配を感じる。いやお前が原因だからな

 

「それで、アステリオスはどうでしたか?フィンさん」

 

「彼は良くやってくれてるよ。今朝も破壊された館の修繕と少しばかり手合わせをしたんだけどね、正直想像以上だ」

 

フィンさんの言葉を受けたアステリオスが少しだけ誇らしげに胸を張り、彼が羽織っている【ロキ・ファミリア】のエンブレムが刺繍されているマントが揺れる。うん、上手いことやって行けそうで良かった。

 

「あぁそうだ、ティオネさんとティオナさん借りても良いですか?ちょっと出掛けるんで」

 

「ンー、その様子だとロキが関わっていそうだね。いいだろう、二人は門の前で待たせておくからその間に外出する準備をしてくるといい。僅かばかりだが金貨も渡そう」

 

「本当にすいません」

 

相変わらず察しの良いフィンさんに深々と頭を下げ、そこから外出する準備をするために廊下をズンズンと歩いていく。すると後ろから金髪の声が

 

「あの、どこ行くの?色………君」

 

「あぁ?なんでてめぇにそんな事言わなきゃなんねぇんだ、金髪ゥ」

 

何時ものやり取りの様に口を開いた。すると、裾を引っ張る力が僅かに強められる

 

「…………ごめん……なさい」

 

「………………………………はぁ、港だよ。港に行く」

 

「あ、ありがとう!」

 

何故か強まった裾の感覚に俺はこう思う――――くっそやりづれぇぇぇぇえええええええええええ!!!!

 

そのあと、寝巻きから私服に着替える為、引っ付いてくる金髪を引き剥がすのに30分ぐらい掛かり、何故か俺がアマゾネス姉妹に滅茶苦茶怒られた。やっぱり罠じゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、フェルズに探知機能を外して貰ったキュクロプスの羽帽子を被りながらやって来たのは、都市を出て直ぐにある港町、メレンだ。雑多に停泊されている船の上、自前に連絡していたTHE海の男みたいな格好をしている男神に手を降って挨拶する

 

「どうも、来ましたニョルズさん!!」

 

「おぉ!!色君、良く来てくれた!!」

 

手を振り返してくれた漁業系ファミリアの主神、ニョルズさんは、身軽に船から飛び降りたあと、俺のところまで駆けつけ、わざわざ握手をしてくれる

 

「本当に良く来てくれた、君は海の英雄だ!!」

 

「あの、それは流石に言い過ぎ、てか手が痛いです」

 

ギュウと両手で握り締められた右手が悲鳴をあげ、顔が引き攣る。しかしテンションがハイになっているニョルズさんは気づかずにそのまま腕をブンブンと振りだした

 

「言い過ぎなもんか!!君が流行らしてくれた海の歌のお陰で漁業系ファミリアが増えたし、それに――――おっとすまない、今日はあの子に会いに来たのだったね」

 

その言葉と共にようやく右腕が解放され、ニョルズさんはロログ湖に向かって大声を上げた

 

「おーい!!マリィちゃん!!色君が来たぞー!!!!」

 

腹から出されたであろう大音量が水面に響き渡り、暫くすると停められてある船の近くがちゃぽんと音を立てた

 

「色ィ!!オ久シサシブリ、ネ!!」

 

現れたのは見た者全てを魅了出来そうな美貌と、幼げな表情を併せ持っている人魚(マーメイド)異端児(ゼノス)、マリィだ。【ニョルズ・ファミリア】のエンブレムが刻まれたネックレスを首に掛けている彼女は、戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる前に人造迷宮(クノッソス)経由で【一方通行(アクセラレータ)】を使い水ごと運び出していたのだが、それから一回も会えてなかったので、こうやって様子を見に来た訳である。

 

「ようマリィ、久しぶり。元気そうで良かったぜ、ニョルズさんの所で良い子にしてるか?」

 

「ウン!!今日モイッパイモンスターヲ散ラシタンダヨ!!ロッド達ニモ褒メラレタ!!」

 

元気に両手を上げた人魚(マーメイド)の頭を撫でてやると「ムフー」と嬉しそうに鼻を鳴らす。マリィの配属先を【ニョルズ・ファミリア】にして正解だったみたいだな

 

「この数日でマリィにどれだけ助けられたか。君には感謝してもしきれない、俺達に出来ることがあるなら何でも言ってくれ」

 

キラキラした瞳で詰め寄ってくるニョルズさんに若干引きながら、俺はもう一つの目的

を果たすため、ティオネさんとティオナさんが奮闘しているであろう小屋を指差し

 

「ここら辺でどっか良い感じのスポット無いですかね?」

 

と耳打ちした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、やるぞ!!」

 

「えっと………これは」

 

ニョルズさんから借りたサーフパンツを履いた俺の目の前には、白い上下一組(ツーピース)の水着を纏った金髪が顔を真っ青にさせながら水面を見つめていた

 

「お前俺から離れないって言ったよな?取り敢えず、ちょっと深い所まで泳ぐから付いてこいよ」

 

「その、私は………うぅ」

 

はっはっはっ、付いてこれないよなぁ!!だってお前泳げないもん!!俺は決めたのだ、自前に調べ上げていたこの情報使い、コイツに今までの仕返しを存分にすると!!

 

「ほらほら、どうしたぁ?海にはモンスターが多いって聞くから襲われちゃたらどうしよう?」

 

勿論嘘だ、この海域はマリィの魅了(チャーム)により、モンスターどころか危険な魚全般が近づいてこないし、いざって時にはアマゾネス姉妹に待機してもらっている。ふふふ、そこで指を加えて俺の優雅な泳ぎを見ているが良い!!!

 

「い、今行くから!?待ってて――――――――がぼっ!?」

 

「なにしてんの!?」

 

わりと浅瀬でぼこぼこと溺れだした金髪に慌てて泳ぎ寄った。そしたら、うんまぁ、抱きつかれるよね

 

「た、たす!!色、助けて!?」

 

「わ、わかった!!わかったから抱き付くなバカ!?自分がどんな格好してんのか分かってんのか!?」

 

「離さないで!?離しちゃやだ!!!」

 

「痛い!?」

 

完全にパニックになった金髪は、必死になって俺の背中に両手を回し、ギュウギュウと体を押し付けてきた。混乱して力加減を忘れたためか、俺の体もギュウギュウと嫌な音を立てている。

 

「あぁ、もう落ち着け!!!」

 

「あう!?」

 

本当は全力で嫌なのだが命には替えられない、仕方が無いので抱き締め返してやる。溺れていた子供を助けた時に落ち着かせた方法なのだが、どうやら金髪にも有効だったらしく、数秒で静かになった。

 

「うぅ……くそ、なんでこんな事に」

 

「…………しき……くん?」

 

悪態をついて見下ろすと、海水と涙で目を充血させている金髪が腕の中から見上げてきていた。ウルウルとした瞳を真っ正面から見返し、俺は自分で自分の頭を疑う発言を口から捻り出す

 

「俺が……俺がお前に……泳ぎ方を…………教えてやる」

 

「いい……の?」

 

ベル達が居たらこう言うだろう、本当にお人好しなんだから、てな

 

「ボディーガードが泳げなかったら困るから仕方なくだ、分かったな?仕方なくだぞ?勘違いすんなよ?」

 

「う、うん。ありがとう、色……君」

 

でも、いくら嫌いでも泣いてる女ほっとけるほど俺は非情になれねぇんだよなぁ。

 

「あと、その君付け止めろ気持ち悪い。呼び捨てでいいから」

 

「あ、ありがとう…………色」

 

名前を呟いた後、自分の状況を理解した金髪は頬をほんのりと紅く染めらせながら、溺れないように俺の肩に手を置き、ゆっくりと体を離していく。

 

え?なにその反応、かわ――――

 

「いくねぇから!!危なかった!!何か知らんがすげぇ危なかった!!!」

 

「?」

 

「いいから手を取れ、始めるぞ!!」

 

「う、うん」

 

もう本当に、どうしてこうなった!!!!

 

そして、泳ぎの練習が始まって数時間後――――

 

「大丈夫だから、落ち着いてゆっくりと顔付けて体浮かしてみな」

 

「わ、わかった」

 

色はわりと真剣にアイズに泳ぎを教えていた。

 

「飲み物持ってきたよ~ってあの二人まだやってるの?」

 

「えぇ、まだまだ止める気配がないからゆっくりと待ってましょう」

 

「うわー、カラス君って面倒見いいんだねぇ」

 

その様子を木陰に隠れながら見ていた姉妹は、殆ど上達しないアイズに根気強く泳ぎを教えている色に感心した眼差しを向ける

 

「あいつは人に物を教えるのが得意なのさぁ。そのお陰で平行詠唱を覚えられたって言う人間がいるほどにねぇ」

 

「「!?」」

 

気配を全く感じなかった事に二人は驚き、慌てて振り向いた。

 

そこには、赤いワンピースを羽織った絶世の美少女、フリュネが棒アイスをペロペロと舐めながら、面白そうに泳ぎの練習をしている二人を眺めている

 

「あ、あんたどうしてここに!?」

 

「そ、そうだよ!!確かここの場所は誰にも知られてないはずじゃあ!?」

 

「ふんっ、たまたま通りがかっただけだよぉ」

 

本当は色からフェルズ経由で教えられていたのだが、わざわざ話す義理もないフリュネは素っ気なくそう返した。そんな分かりやすい嘘を付かれたティオネが、怒りに眉をつり上げる

 

「口封じにぶっ殺してやろうか、この蛙女!!」

 

「ダメだよティオネ!?落ち着いて!!」

 

「すみません、ミス・ティオネ。彼女は今、イシュタル様から負けた罰として【ステイタス】を封印されているので、矛を納めてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「「!?」」

 

唐突に声を掛けられた姉妹は、恭しくお辞儀をする赤帽子(レッドキャップ)小怪物(ゴブリン)に声を失った。ピシッとした燕尾服に身を包まれた彼は、モンスターとはかけ離れた気品に満ちており、両手には大きな宝石が輝く指輪が数種類はめられている、首から垂れ下がっている高級そうな懐中時計に彫られている【イシュタル・ファミリア】のエンブレムを見るまでもなく、彼が何処の所属か分かるだろう

 

「余計な事を言うんじゃないよぉ、赤帽子(レッドキャップ)ぅ」

 

「すみません、貴方を御守りするのが私の役目なので、どうか御容赦を」

 

まるで、どこかのお嬢様と執事みたいなやり取りに、アマゾネス姉妹は絶句する。しかも、中々に様になっているので、笑うことも出来ないでいた

 

「いいぞー、顔を上げて、浸けて、また上げて、浸けて」

 

「ゴボゴボ、し、色!?だめ、おぼれ、溺れる!?」

 

「いやいや上手く行ってたから。俺に抱き付いたまま体を浮かせられる様になったんだから、もう少しで泳げるって」

 

「クックックッ、馬鹿弟子が面白い見せ物があるって言うから来てみれば、あの【剣姫】が泳げなかったとはねぇ。よぉし、あれを摘まみに飲むよぉ、赤帽子(レッドキャップ)

 

パチンッと指を鳴らすフリュネは、一瞬のうちに用意された椅子に腰掛け、一瞬のうちに用意されたテーブルとパラソルの下、脚を組みながら一瞬のうちに用意されていた、程よく冷やされたカクテルに口を付けた。

 

「「す、凄い」」

 

目にも止まらない速業を見せられたアマゾネス姉妹は、フリュネの言葉に反応すら出来ずに唖然と佇み。それを行った小怪物(ゴブリン)は、何事も無かったかのようにフリュネの脇で、肉果実(ミルーツ)を上品に切り分けている。

 

その後、ティオナがフリュネにちょっかいを掛けたり、フリュネの年齢を聴いた二人が驚きの声を上げたり、赤帽子(レッドキャップ)が一芸として手品を披露したり、アイズが何とか平泳ぎを習得するまで騒がしくしながら海辺を眺めているのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば空が紅に染まり、黒い鳥が鳴いている。ティオネさん達を先に帰らして正解だったみたいだな

 

「ただいま帰りました~」

 

「ただい………ま」

 

夕暮れ時にようやく帰って来た俺達を迎えてくれたのは以外な人物達だった

 

「そう、俺がガネーシャだ!!!」

 

「いや、それはわかったってガネーシャっち」

 

「リド、放っておけ。ガネーシャ様のそれは何時もの事だ」

 

玄関先を騒がしくしているのは【ガネーシャ・ファミリア】の主神、ガネーシャさんと団長のシャクティさん、配属先になったリドだ。リドは俺たちに気づくと両手を降って像のエンブレムが施されているブレスレットを光らせながら近づいて来る。

 

「クロっちじゃねぇか!!謹慎中なのに出掛けてて良かったのか?」

 

「おう、ロキさんから許可貰ってな。他の異端児(ゼノス)達の様子を見てきたんだ」

 

まぁその条件が、金髪のわがまま(ボディーガード)を受け入れるって事だったのだが

 

「悪ぃな色っち、本当ならリーダーのオイラがしなきゃいけねぇのに」

 

「いいって、俺が好きでやった事何だから気にすんな。それで?ガネーシャさん達はどうしてここに?」

 

顔をガネーシャさん、ではなくシャクティさんに向ける。悪い()ではないんだけど、あの人何時も話を脱線させるから進まないんだよなぁ

 

「あぁ、私達は治安調査の事後報告に来ただけだ。もっとも、オラリオの外から来た人間にはオラリオの冒険者が特殊な調教(テイム)を覚え、喋るモンスターが増えたなどと言う()が蔓延っていたお陰で、大した問題にはなっていなかったがな」

 

「あ、あはは~、そりゃよかった。そんなことよりリドはどうっすか?」

 

ミィシャさんがやってのけた裏工作(根回し)を笑って誤魔化した俺は即座に話題を変える。勘の鋭い女って怖い

 

「良くやってくれているぞ、実力も申し分ないしな。今度の遠征には是非付いてきてもらう」

 

「黒鐘 色よ、よくぞ彼ら(ゼノス)の存在意義を証明してくれた!!ガネーシャ大感激!!!」

 

「俺やることあるから、じゃ」

 

「「「え!?」」」

 

驚く三人を他所に俺はそそくさと黄昏の館の門を潜った。勿論俺の後ろには不思議そうに俺達をやり取りを見ていた金髪が付いてきている

 

「あの、どうしたの?色」

 

「なんでもねぇよ」

 

うん、本当にあの神様は何するか分かんねぇな!!!なんでサラッと今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)の本当の目的を話そうとするの!?異端児(ゼノス)の有用性をオラリオの住人達に見せつける為に生放送(リアルタイム)で大鏡の映像を良い感じに編集していたフェルズの努力が無駄になる所だよ!?

 

「これからどうするの?」

 

心の中で不確定要素の塊(ガネーシャさん)に盛大に叫んでいると、相変わらずピッタリと付いてくる金髪が聞いてくる。その両手には、帰る時にニョルズさんに貰った袋が音を立てていた。

 

女に荷物を持たせるのはどうなのかって?相手が金髪なのだから気にしちゃいけない

 

「用があるのはここだよここ」

 

「厨房?」

 

そう、俺が向かった先は黄昏の館の厨房。つまり、今からすることは料理だ

 

「言っとくけどロキさんから許可は貰ってるからな。さぁて、やりますか」

 

腕捲りをした俺は手を洗い、魔石製の冷蔵庫から適当な材料を放り出していく。

 

「なに、作るの?」

 

「あん?これだよ、これ」

 

そう言いながらスマホの画面を見せるが、俺の世界の文字が分からない金髪は首を傾けるばかりだ。いやぁ、昔ノリでスクショしたクックパッドの画像が残っていて良かったぜ。

 

「さてと、先ずはキャベツを切って…………これキャベツだよな?」

 

多分キャベツであろう野菜をトントントンと小気味良く刻んでいく。あぁ、ちなみに俺の料理の腕は

 

「――――痛ってぇ!?指がぁぁ!!!」

 

あまりよろしく無かったらしい。

 

だってしょうがないじゃん、料理なんて家庭科の授業でピーラー使ってジャガイモの皮剥いたぐらいだもん。そんな都合良くどこぞのラノベ主人公の様にはいかないって。

 

「し、色大丈夫!?血がっ!!血が出てるっ!!!」

 

そしてお前はどうして俺よりパニクってんの?言っとくけど、お前に付けられた傷の方が遥かにヤバイからね?まぁ、お陰で冷静になれたからいいけど

 

「落ち着け、ちょっと切っただけだから、そのうち治るから。ていうか俺って包丁も使えないのか、【ステイタス】封印されても武器の適正ねぇのは変わらねぇのな」

 

うーん、どうしたものか。キャベツ刻むのはいいんだけどやりきった時には俺の両手がズタボロなるだろうし、フェルズ呼んで治癒してもらいながら料理する訳にもいかねぇし…………ん?

 

「なぁ、お前これ刻んで」

 

「え?うんわかった」

 

瞬間、金髪が持った包丁が俺の視界から消え、ズダダダダダダっという音が厨房に鳴り響いた

 

「出来たよ?」

 

まな板の上には、可愛そうなぐらい刻まれ尽くしたキャベツだったものが置かれている。滅茶苦茶雑だけど、これならまぁ何とかなるだろ。

 

「それじゃあ、これ全部刻んどいて。俺は他の事しとくから」

 

「わかった!」

 

勢い良く頷いた金髪は、何故かやたらと気合いを入れ、物凄い勢いで大量の野菜達を刻んでいく。その後ろ姿に少しだけ頼もしさを感じた俺は、鐘楼の館(ホーム)から持ってきていた自家製ソースを冷蔵庫から取り出しながらボソッと呟いた

 

「やるじゃん―――アイズ」

 

「ひゃ!?」

 

ストンッッ!!!

 

「ちょっ!?包丁飛んできたんだけど!?」

 

「い、いま、ななななななま!?」

 

「お前やっぱり俺の事殺そうとしてるだろ!?」

 

ちなみに、この後二人で何とか作り上げた海鮮お好み焼きは【ロキ・ファミリア】の人達、特にロキさんに好評だったと言っておこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでお前は何で今日も俺のベッドに潜り込んでんの!?」

 

「それは…………色を一人にしちゃいけないと思って」

 

「余計なお世話だっつうの!!いいから離れろ!!」

 

「やだ」

 

「色さん、朝御飯の――――失礼したっす!?皆ぁ!!やっぱりあの二人そういう関係みたいだったっすぅぅうぅぅぅううううううううううう!!!!」

 

「あぁもう、またかよこんちくしょう!!――――行くぞ、アイズ!!」

 

「ッ!?…………うん!!」

 

 

 

 

これは、どこまでも自分に厳しい少女が初めて他人に何かを求め、どこまでも他人に優しい少年が初めて自分の為に戦った、そんな二人の後日談(エピローグ)であり前日談(プロローグ)なのだ。

 

 

 

 

 




メモリア・フレーゼ中々面白いです。他のキャラの小説以外の一面が見れるのが良いですね。近いうちに、メモリア・フレーゼ風の色君のステイタスを活動報告にでも書いておくので、興味があれば見てください


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第40話 ロキ・ファミリアと黒鐘

「皆!!よぉ集まってくれた!!」

 

色が【ロキ・ファミリア】に来てから数日、完全に修復された黄昏の館の大会議室に【ロキ・ファミリア】の団員の殆どが集合していた。

 

「今日集まってくれたのは他でもない、色君の事や!!」

 

ロキは壇上に立ち、大声で自分の胸の内を言い放つ

 

「いいか?うちは色君をこのまま【ロキ・ファミリア】に勧誘しようかと思っとる!!」

 

その暴挙とも取れる言葉に、ロキの眷族達は動揺し

 

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」

 

てなかった、むしろ乗り気である。その理由は、色が【ロキ・ファミリア】に起こした改革にあった。

 

「色さんの料理の知識を失うのは惜しいッス!!!」

 

それは料理の知識

 

お好み焼きから始まり、たこ焼きや串カツなどロキの眷族の心を鷲掴みにする料理の(レシピ)を数多く有しており。今日はどんな夕食になるのかを楽しむのは、団員等の共通の日課になっていた。

 

「まだ、まーじゃんの負け分を取り返していませんからね。せめてそれまで残って貰わないと」

 

それは娯楽の提供

 

麻雀や花札、トランプならば大富豪など、今まで思い付かなかった新しい遊びの数々。また、それを賭けにして競い会う楽しみも、すでに団員達に染み付いて、その輪の中に色が居るのも当たり前の様になっている

 

「まぁ、あの子のあんな姿見せられたらねぇ」

 

「あはは、カラス君には残って欲しいかな」

 

それは、とある少女の変化

 

今まで色の事を見かけてはケンカしていた彼女が、まるで性格が正反対になったかの様に色と仲良くなろうとしている。ティオナに至っては今まで一度も興味を示さなかった服装について相談されたのだから驚きだ。

 

「あの子をどうにかして、【ロキ・ファミリア】に入団させられないかしら?」

 

つまり

 

「難しいんじゃないですか?まずは【ヘスティア・ファミリア】を説得して」

 

この数日で

 

「もういっそ、無理矢理改宗(コンバート)させてしまえば」

 

黒鐘 色は

 

「ふぅむ、それなら酒に酔わせてその勢いで」

 

【ロキ・ファミリア】に気に入られ過ぎていた。

 

「静粛に!!皆いったん落ち着きぃ!!それと、無理矢理ってのは無しやで!!!」

 

パンパン!!っとロキは手を叩き、物騒な事を言い始めた団員達を静める。シンっとなった会議室を壇上でじっくりと見下ろしたロキ()は、細目をカッと開き声を張り上げた

 

「我に!!秘策ありや!!!!」

 

そして、【ロキ・ファミリア】の一大プロジェクトが始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今日は何の用ですか?」

 

「嫌やわぁ色君。そんな怖い顔しんとって?」

 

「はいはい」

 

ロキさんの言葉をおざなり返した俺は、後ろに存在するアイツの気配にため息を吐くのをグッと堪えた。

 

「今日はな?ちょっと行って欲しい所があんねん」

 

「行って欲しい所?」

 

疑問系で返した俺に、ロキさんはスッと一枚の封筒を差し出してきた。裏を見ると、とあるファミリアのエンブレムが

 

「【ヘファイストス・ファミリア】ですか?」

 

「まぁ、中身見てみい」

 

言われるがままに封筒を破り、中身を確認すると、そこには一通の手紙が入っていた。

 

「なになに、手前が防具を作ってやるから来い・・・え、これだけ?」

 

差出人不明の手紙には、その一文だけが書き殴られている。あまりにも雑な字に、他に何か書かれていないかひっくり返したりして、注意深く見てみるが、どう見てもその一文しか書かれていない。

 

「ちゅう訳で、色君には【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)まで行って欲しいんよ」

 

「ふーん、まぁいいですけど。どうしてロキさんが封筒に入っていた手紙の内容を知ってるのか説明はありますか?」

 

「…………向こうに着いたらヘファイストスによろしゅう言っといて」

 

「うぃッス」

 

さて、何か企みがあると分かった所で行くとしましょうか。【ヘファイストス・ファミリア】には俺も行こうと思っていたから丁度良い――――クイクイ

 

「うん?」

 

部屋を出た所で不意に服の裾を引っ張られたので後ろを振り向くと、アイツが不思議そうに上目使いで見てくる

 

「どうした?」

 

「何も、聞かないの?」

 

「いいんだよ。ロキさんの事だから――――」

 

俺の言葉に納得したアイツは、コクッと一回だけ頷いてから何時ものように服の裾をちょこんと摘まみ、ピッタリと後ろにくっついてくる。

 

慣れて来ている自分が怖いです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして俺がこんなくだらねぇ事をしなきゃならねぇんだ!!」

 

「まぁまぁ、ベートもあの二人の事気になるやろ?」

 

「あぁ!?」

 

「しっ!!ほら動いたで」

 

ロキにせっつかれたベートは前を歩いている二人、羽帽子を被っている色とその後ろを歩いているアイズを渋々尾行する。勿論、第一級冒険者(アイズ・ヴァレンシュタイン)にバレないように遠くからコッソリとつけているのだが

 

『フォ!!』

 

「サンキュー、フォー……ほれ」

 

「え……あの」

 

「早く取れよ、朝ごはん食べてねぇだろ?」

 

「うん、ありがと」

 

大きな身体に合った特製のエプロンをしている異端児(ファモール)から大きめの袋を貰った色は、その中からじゃが丸くんを一つ取りだし、ごく自然な流れでアイズに手渡した。

 

「ハムハム」

 

「モグモグ……おっ新作の雲菓子(ハニークラウド)味結構イケるな」

 

「ハニー………クラウド」

 

「食べるか?高かったから一個しか買ってねぇんだよ」

 

「うん食べる………ハグ。あ、帽子ずれてるよ色」

 

「ん、ありがとよ」

 

色の帽子を直したアイズは、そのまま食べかけのじゃが丸くんを租借し始めた

 

ベートは思う

 

帰りてぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

「何が凄いって、二人とも特になんも感じとらん所やな。あれぐらいは当たり前って感じや」

 

「おい、本気で帰っていいか?」

 

「あかんって、ヘファたんの所から戻ってくるまで見張るんがうちらの仕事や」

 

「…………チッ」

 

軽い舌打ちを行ったベートは、葛藤のすえ結局二人を尾行することにした。何だかんだ言ってあの二人の動向が気になるのだ。

 

その後、いくつかの露店をフラフラと行き来しながら、時間を掛けて【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)に到着した二人は、何をする度に無自覚な戯れ(イチャつき)でベートに膝を付くほどダメージ与えた事も知らずに、中に入っていく。

 

「はぁ……はぁ……なんでアイツら真っ直ぐ進まねぇんだ……」

 

「うんうん、昨日の内にうちが渡したマニュアルしっかり活用出来てるみたいやな」

 

「てめぇのせいかよ!?」

 

ロキが何処からか取り出した、オラリオ露店巡りマニュアルと書かれたパンフレットを、とりあえずベートは破り捨てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どもー、お邪魔します」

 

「おお、来たか黒鐘。待ちわびたぞ………ん?後ろに居るのは【剣姫】か?」

 

「お邪魔……します」

 

執務室に通された俺達を出迎えたのは【ヘファイストス・ファミリア】の団長、ハーフドワーフの椿さんだ。片眼に眼帯をしている彼女は、俺の後ろにアイツがいるのが余程不可思議なのか、顎に手を当てながら首を捻った

 

「ううむ、確か黒鐘とお主は心底仲が悪かったのではなかったか?それが――――」

 

「悪くないです」

 

「「…………」」

 

俺と椿さんは沈黙した。その原因は、椿さんの言葉を遮ったアイツが一瞬の内に椿さんの目の前に瞬間移動していたからだ

 

「私と色の仲は悪くない……です」

 

「お、おう。仲睦まじいようでなによりじゃ」

 

「なっ………そこまで仲良くも、ないです」

 

そこまで言ってからアイツは頬を染め、スススと俺の後ろに隠れる。何がしたいんだよお前は

 

「とりあえず、この手紙の送り主は椿さんって事でよろしいですか?」

 

「うむ、手前で合っておるぞ。用件はこれじゃ」

 

高級っぽい椅子に腰かけた俺の向かいに座った椿さんは、手紙に送り主が書かれていなかった事を軽くスルーして、今回俺が訪ねた用件(りゆう)を机の上に置いた。

 

「…………はぁ、やっぱり直りませんでしたか」

 

机の上には指の部分が消し飛び、所々に穴が開いている手袋の様な何か――――黒籠手(デスガメ)の成の果てが置かれていた。本来、不壊属性(デュランダル)が施されているガントレットはどんな衝撃を受けても、ここまで壊れないらしい、それがここまでボロボロになっているのは理由がある

 

「すまん、手前が昔作った出来損ないが、よもや市場に売られていようとは。お主達の最初の戦争遊戯(ウォーゲーム)を見た時に気づくべきじゃった」

 

そう、この黒籠手(デスガメ)は椿さんが昔に作った初めての不壊属性(デュランダル)だったらしく。壊れたのはその硬度が後ろでシュンとしている奴のデスペレート(デュランダル)より脆かったからだとか。

 

「別に謝る事ないですよ。黒籠手(デスガメ)には危険な時に何度も助けてもらいましたから。俺が使ってここまで持っててくれただけでも御の字です。黒籠手(デスガメ)サイコー」

 

「そ、そうか。だがの黒鐘、そのぅあまりソレの名前を連呼しないで欲しいのだが………」

 

「なに言ってんですか。良い名前だと思いますよ《黒籠手(デスガメ)》、ヴェルフも褒めてましたし、黒籠手(デスガメ)サイコー」

 

「おおおお主!!わざとやっておるだろう!?」

 

顔を茹で蛸の様に真っ赤にした椿さんは、机をバンッ!!と叩き立ち上がった。実は黒籠手(デスガメ)の制作者が椿さんだと分かったのは【ヘファイストス・ファミリア】に異端児(ゼノス)を配属する時、偶然ここの主神、ヘファイストスさんに黒籠手(デスガメ)を見られたからなのだが、その時にたっぷりと椿さんの黒歴史について語ってくれた

 

「まぁまぁ、椿さんが昔作った最高傑作じゃないですか。名前がおかしい上に渡した人間の腕に全く合わなくて突っ返されたからって恥ずかしがる事無いと思いますよ?」

 

「お主意外と良い性格してるな!?」

 

突っ込まれたので取り合えず「あっはっはっ」と笑っておいた。俺は悪くないよ?悪いのは俺にそういう情報を渡したヘファイストスさんだ

 

「はぁ……はぁ……ま、まぁ、悪いのは主神様が勝手に市場に出していた事を把握してなかった手前だ。新しい防具をタダで作ってやる」

 

「あ、いいです」

 

「なんでじゃ!?」

 

眉間に皺を寄せて顔を近づけてくる椿さんに苦笑いを返す。ちょっとからかいすぎたか

 

「防具ならうちに優秀な鍛冶師(スミス)が居ますから。ソイツに作って貰いますよ」

 

「優秀な鍛冶師(スミス)?ひょっとしてヴェル吉の事か?」

 

「ウッス」

 

出来るだけ、どや顔を作って言ったのだが、椿さんは納得がいってないのか顎に手を置きジロジロと俺の顔を見ながら次の言葉を溢した

 

「ふぅむ。前に会った時は鎧の様に周りをガチガチに固める男だと思っとったが、今はその鎧が取っ払われておるのか」

 

え、鎧?この人なに言ってんの?

 

「はっはっはっ、なに、先ほどからかわれたお返し、冗談だ。だからその殺気を納めろ、【剣姫】」

 

いきなりカラカラと笑いだした椿さんは、いつの間にか剣の柄に手を掛けていたアイツを言葉で制止させた。

 

「…………えい」

 

「あうっ!?」

 

取り合えず脳天にチョップをかましておく。何が気にくわなかったのか分からんが、幾らなんでも抜刀しようとしたのはいかんでしょ

 

「すみません椿さん」

 

「いや、なに…………ほぉ、【剣姫】よ。お主、いい鞘を見つけたな」

 

「!?」

 

先ほどの険悪な雰囲気を霧散させ、真っ赤になってワタワタしだしたアイツとニヤニヤと笑いだした椿さん。話の流れに付いていけないので、今の二人の言葉を考えてみた。

 

うん、俺が鞘で鎧ってやっぱよくわかんねぇわ

 

「黒鐘、やはりお主の防具は手前に作らせろ」

 

「え?いやだから」

 

「作らせろ」

 

「…………」

 

あ、これ駄目なやつだ。

 

アイツをからかっていた椿さんから唐突に向けられた瞳の奥には、良く知る炎が煮えたぎっていた。初めて渡された武器を壊した時にヴェルフが見せた、グツグツと湧き出すような(おもい)

 

「手前はな、あの戦争遊戯(ウォーゲーム)を見るまで、こう考えておった。才能であろうが『血』であろうが、あるもの全てをそそぎ込まねば子供(われわれ)は至高の武器には至れん、とな――――しかし」

 

そこまで言った椿さんは何かを思い出しているかの様に目を瞑った

 

「あの黒大剣と筒は手前の考え(常識)を根本から覆した。特にあの筒、恐らくあれは手前が何もかもを注ぎ込んでも届かない、女神(ばけもの)の領域を超えた何かだ。神の領域を目指していた手前一人では、どう足掻いても、全てを注ぎ込んでも、アレには敵わぬ」

 

次に開かれた瞳に奥には先ほどの炎は消えていて、代わりに何処までも真摯な眼差しが合った

 

「頼む黒鐘…………いや、色!!手前にあの領域を越えさせてくれ!!!武器では敵わん、あの《スキル》の前に手前の力は無力だ。しかし、防具なら越えられる!!お主の《スキル》と手前の技術。この二つが合わされば、あの筒の威力を()えられる筈じゃ!!!」

 

「ちょっとまて!?何で俺の《スキル》の事知ってんの!?」

 

情報の魔女(ピンク・レディ)から情報を買った!!」

 

ミィシャさぁぁぁぁああああああああああああああああん!!!!!!

 

「恥を忍んで頼む!!手前にあの武器を越える防具を!!!最強の鎧を作らせてくれッッ!!!」

 

「えぇ~」

 

とうとう土下座しだした椿さん。どうしよう、梃子でも動かなさそうなんだけど………

 

「あら、もう来てたのね、貴方たち」

 

どうするべきか悩んでいる俺の背後から声を掛けられた。振り向くと、紅い髪に椿さんと同じ眼帯、少しだけ煤の付いた作業着姿の女性が扉を開けており。その背後には、女性と同じような作業着を着て、両耳には【Hφαιστοs】のロゴが彫られた耳飾り(イヤリング)を付けている石竜(ガーゴイル)の姿が伺える

 

「こんにちは、ヘファイストスさん。グロスも久しぶりだな」

 

「此処ニ配属サレタ時以来ダナ、色」

 

「こんにちは―――あぁ、やっぱりこうなったのね」

 

挨拶を交わしたヘファイストスさんは、土下座をしている椿さんを困り顔で見た後、そのまま俺に言葉を繋げた

 

「その子のお願いを聞いて貰えないかしら」

 

どうしよう、すごい断り辛いんですけど

 

「色………あの……取り合えず様子見で作ってもらったら?」

 

「…………はぁ、そうするか。わかりました、一応様子見って事で作ってもらってもいいですか?」

 

結局、横から口出ししたアイツの言葉に便乗することにした。

 

「おぉ、本当か!?許可は貰ったぞ!!」

 

ガバッと顔を上げた椿さんは、瞳をキラキラとさせながら俺の両手を握る。うん、多分様子見って言葉忘れてるね

 

「はっはっはっ!!!よし、では早速取り掛かろう。おっとその前に、その帽子を貸してくれんか?」

 

「え?」

 

ハイテンションで断りもなく俺の帽子をシュッと奪い去った椿さんは、次の瞬間には親の敵でも見ているかの様に手元の羽帽子を睨み付けた

 

「ふん、劣化品の上に《キュクロプス》なぞ生意気な帽子じゃ。色よ、これを使った防具を作りたいんじゃが駄目か?」

 

ニヤリと挑発的な笑み。あぁ、そうか、この人の二つ名。羽帽子の名前教えるんじゃなかったなぁ。

 

「…………わかりました、どうせ駄目って言っても聞かないですよね?だったら好きにして下さい。でも今は使うので止めてくださいね」

 

「よし、決定じゃ!!任せておれ、本物の【単眼の巨師(キュクロプス)】の羽帽子をくれてやる!!!」

 

椿さんが拳を掌に打ち付け、パンッ!!と小気味良い音が部屋に響き渡った。

 

「さて、改めて自己紹介をさせてもらおう。【ヘファイストス・ファミリア】団長にして、現オラリオ最高の最上級鍛冶師(マスター・スミス)、椿・ゴルブランドじゃ。これからよろしくのぅ、黒鐘 色」

 

「はいはい、って一応言っておきますけど、まだ様子見期間ですからね?それと、ヴェルフが嫌がったら止めますからね?」

 

スッと差し出された右手に、自分の右手を近づける。握手が交わされる瞬間、更に上からゴツゴツした石の手が重ねられた

 

「ソウイウ話ナラバ私モ混ゼテクレ。今ハマダ修行ノ身ダガ、イズレハドンナ鍛冶師(スミス)ヨリモ色ノ(ちから)二ナッテミセル」

 

「おい、グロスお前まで」

 

「ははっ、大きく出たな生意気な新米(ガーゴイル)め、手前と好敵手(ライバル)にでもなるつもりか?身の程をしれ」

 

「フンッ、人間風情ガ。スグニ越エテヤル」

 

「おーい、俺の話聞いてます?」

 

頭を垂れて項垂れる俺を他所に、二人は勝手に盛り上がってい。そんな俺の左肩に、隣に座っているアイツがポン、と右手を置いて一言

 

「どんまい」

 

「お前今晩じゃが丸抜きだから」

 

「!?」

 

これから先、何度も二人の防具に助けられる事になるなんて知る由も無かった俺は、固まったアイツの前で盛大に溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方になるまで身体の採寸などをしていた色達がようやく黄昏の館まで帰ると、そこには昼とは見違えるほど変わり果てた館の姿が広がっていた

 

「これってアレだよな」

 

色とりどりに吊るされた提灯(ネオン)に、たこ焼きや射的、くじ引きまで揃った様々な屋台………つまりこれは

 

「焼きそば、焼きそばはどうッすか!!」

 

「りんご飴、出来立てですよ~」

 

「一等は高価な魔剣だよ!!よかったら引いていってね!!」

 

「何故に祭?」

 

【ロキ・ファミリア】の団員達がわざわざ店と客に別れてやっているのは紛うことなき祭だった。しかも学園祭でやるような適当な物ではなく、かなり本格的に作り込まれており、祭囃しまで聴こえてくる。

 

「遅かったやん色君、アイズたん!!」

 

「なんか凄いことになってますね」

 

「うん、凄い」

 

ロキさんの事だから、俺の居ない間に何か仕掛けるつもりだ。とは思っていたものの、ここまで大掛かりな事を僅かな時間で仕出かしたロキ達に、色とアイズは素直に称賛した

 

「ふっふっふっ、凄いやろ?色君がくれた情報を元に極東の祭を再現してみたんや!!」

 

そう言いった後、上機嫌に持っていたジョッキの中身を煽ったロキは、酒気を滲ませながら色とアイズに近づいていく

 

「さぁ、色君もアイズたんも今日は楽しむでぇ!!!」

 

「いや、楽しむのは良いんですけど。どうしていきなり祭なんですか?」

 

色の至極当然な質問に、女神(ロキ)は歯を見せながら

 

「ちょっと早いけど、今日は色君のお別れ会しようと思ってな!!」

 

と、宣言した。

 

そして、数分後………

 

「ぐへへへ~、色きゅんとアイズたんの両手に花(サンドイッチ)状態サイコーや!!!」

 

右手に色、左手にアイズを携えた酔っ払い(ロキ)は、下卑た笑いを浮かべながら、祭風に改造された黄昏の館内を練り歩いていた

 

「あの…………色、ごめんね?」

 

「なにが?―――お、金魚すくいあんじゃん、行きましょうロキさん!!」

 

「おぉ!?」

 

腕を引っ張られ、たたらを踏むロキ。黒鐘 色は結構ノリノリだった。

 

「三回分お願いします」

 

「うむ…………お、誰かと思えば色達か」

 

「ありゃ、ガレスさん」

 

「ガレスも、お店やっているの?」

 

三人分のポイを受け取った色とアイズは、捻り鉢巻きをしながら金魚が入った水槽の前で座っているドワーフの老兵眼を丸くする

 

「がははは、クジ運が悪くてな」

 

「店側と客ってクジで決めてたのか。でも、それだったら面白く無くないですか?」

 

「そこら辺は大丈夫やで、一定時間で交代する事にしてるからな。あ、祭の主役の色君とそのボディーガードのアイズたんは別やで?勿論、主神のうちも」

 

「職権乱用っすね」

 

神の理不尽をしみじみと感じた色は、特に追求することなく金魚すくいをする事にした。結果は、基本不器用な色、力が入りすぎたアイズ、酔っ払って狙いが定められないロキの三連敗だ。

 

次に向かった先は、共通語(コイネー)でお面屋と書かれた屋台だ

 

「三人共、いらっしゃあい!!」

 

「よし、あそこはあかん。回れ右や」

 

「了解」

 

「わかった」

 

「ちょーとまったぁあああ!!!」

 

すぐに引き換えそうとした色達の前に、ネコミミを生やしたティオナが立ち塞がった。まぁ、それはいいのだ、お面じゃなくてもネコミミは可愛い。ティオネがしているイヌミミも似合っている。問題は、あと一人

 

ティオナに強引に連れてこられた三人は、最後の一人の格好を見て頬をひきつらせた

 

「やぁ、良く来てくれたね」

 

「どもっす…………フィンさん」

 

フィン・ディムナは、お面では無く仮面をしていた。飾られているお面も全て仮面だ、しかもロキですら突っ込めないほどの、祭との雰囲気とは場違い過ぎるド派手な仮面。

 

「せっかく取り寄せたのに何故か売れ行きが悪いんだよ。よかったら一つ買ってくれないかな」

 

「えっ………と」

 

色が後ろに居る二人に視線を送ると、ブンブンと左右に首を降っていた。やっぱり嫌かぁ、と思った色だが、フィンの隣で迫力のある笑顔を放っているティオネに逆らうという選択肢は無かった

 

「アイズに一つ下さい」

 

「!?」

 

「アイズたん、どんまい」

 

禁止されていたじゃが丸を解禁されるまで、少女の崩れた機嫌は治らなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベンチに座りながら夜空を見ていたら、少しだけ冷たい風が全身を撫で付ける。ずっと歩いて暖まっていた身体が冷やされ、気付けばホっとした息を吐いていた。

 

「隣、いいか?」

 

「いいですよ~、ってリヴェリアさんじゃないですか。ギルドにする報告書の製作は終わったんですか?」

 

「あぁ、お前達が自前に纏めていた資料のお陰で、滞りなく終わったよ。全く、どこまで掌の上だったのか」

 

「あ、あはは」

 

片目を詰むって向けられた翡翠の瞳に苦笑いしか返せない。因みに、資料とか報告書とかは、俺は関与しておらず、大体がミィシャさんの仕業だ。一連の作戦の大元もミィシャさんが考えたってフェルズから聴かされたし、恐らくこのオラリオで一番手を出してはいけないのは彼女なのでは無いのだろうか?

 

「まぁ、今は過ぎ去ったことだ。そんな事より、ふむ………良く寝ているな」

 

「何か酔っ払ったみたいで」

 

「なっ!?アイズに酒を飲ましたのか!?」

 

俺の膝の上に頭を置いて、気持ち良さそうに眠っているアイツに、何故かリヴェリアさんは信じられない物を見ている様な表情を浮かべる

 

「そ、その大丈夫だったのか?怪我とかは………」

 

「怪我ですか?ベートさんが売ってた甘酒飲んだら直ぐ酔っぱらって、そっからは何時も以上に俺に引っ付いて来ただけなんで、転んだりしてないから大丈夫だとは思いますけど」

 

ていうかLv.6のコイツが酔った勢いで転んだとしても傷一つ付かないと思うのだが。以外と過保護なのかな、リヴェリアさん

 

「はぁ………最終的に俺の背中で眠りやがるし、酒に弱かったら弱いって言えっつうの」

 

「うぅ…………しきぃ、喉乾いたぁ」

 

「はいはい、もうすぐロキさんが飲み物取ってきてくれるから、それまで待っとけ」

 

「うん、待つぅ…………えへへ」

 

アルコールが回っている為か、熱くなった頬に手を当ててやった。風によっヒンヤリとした掌が気持ちいいのか、アイツは今まで見た事も無い程にだらしなく頬を緩め、自分の手で俺の手を包み込み、頬擦りを始める。冬場にカイロを持った人間みたいだな。

 

「天然なのか、わざとなのか」

 

「何がですか?」

 

「やはり、天然か―――なに、お前とアイズは似ている所が少々あるようだ」

 

「心外なんですけど!?」

 

二度寝を始めたアイツの頭を撫でながらそう言ったリヴェリアさんに、即座に突っ込む。俺とコイツの共通点なんか人ってことだけだからね?

 

「さて、私もたまには羽目を外すことにしよう。うちの娘を頼むぞ、黒鐘色」

 

「あ、はい」

 

生返事を返した俺に、やけに生暖かい視線を送りながら、リヴェリアさんは祭の喧騒に混じりにいった。何だったんだあの人?

 

「色君ジュース買ってきたで~、アイズたんは大丈夫か?」

 

「さっき起きたんですけど、また寝てしまって」

 

「あのアイズたんが酔った後普通に寝とる、やと………色君はいこれ」

 

「ありがとうございます」

 

リヴェリアさんと入れ替わりにやって来たロキさんに、コップを貰いストローに口をつけた。中身はオレンジジュースらしく、柑橘系の甘酸っぱい味が乾いた口内を満たす。

 

「なぁ色君」

 

俺の隣に腰掛けたロキさんが、自信のコップを見詰めながらポツリと言う

 

「うちの眷族()にならへんか?」

 

「ブッフォッッ!!」

 

予想外の一言に吹き出す

 

「ゲホッ……ゴホッ…いきなり何の冗談――」

 

「本気やで、喉から手が出るほど、うちはアンタ欲しい」

 

「なんで、そこまで?」

 

「理由か?他の眷族()らとの仲も良いし、実力も申し分ない。アイズたんも懐いてるし、何より、今まで聞いたことも見たこともない未知を色君はうちらに教えてくれた。それにな――――」

 

紅眼がうっすらと開かれ、思った以上に真剣な眼差しに息が詰まった。

 

【ロキ・ファミリア】(うちん所)やったら、色君をこれ以上傷付けさせへん」

 

「…………」

 

祭囃しの音が消え、静寂が俺とロキさんを包み込む。気付けばアイツの頭に手を置いていた俺は、サラサラとした感触に感情のうねりを抑えられている事を理解し、大きく溜め息を吐きながらその手を自分の前頭部に持ってく

 

「”何を言っているのか解りませんが”、俺は【ヘスティア・ファミリア】を抜ける気はありませんし、これからずっと彼処が俺の居場所です」

 

言い切った俺に、ロキさんは少しだけ寂しそうな顔をした…………と思う。次の瞬間には明るい口調になっていたので気のせい

 

「かーっ、スカウト失敗かぁ!!いやぁ、フラれたフラれた!!久しぶりに真面目なフリしたら喉乾いたわ!!!」

 

なわけないか

 

「俺、ロキさんの事結構好きですよ?」

 

「ブッフォッッ!!」

 

さっきの俺と同じように、ロキさんの口から液体が噴出された。ベンチの前がビシャビシャ

になっているが、まぁしょうがない。

 

「ゲホッ………ゴホッ………い、いきなり何を言うんや、色くん」

 

「いやいや、本心ですよ?ふざけていてもちゃんと眷族(かぞく)の事を見てたり、落ち込んでいたら笑顔で励ましたり――――」

 

「ななななんや、褒め殺しか!?」

 

「俺もロキさんみたいになれたらいいんですどねぇ」

 

「……ぅ………………うちみたいにって………そんなん………言われたん初めてや…………」

 

ロキさんは下を向いて震えだした

 

ロキさんはコップの中身を一気に煽った

 

コップの中身はアルコールだった

 

「………ぃ」

 

「い?」

 

「いやや」

 

「あの、えっと」

 

「いややいやや!!うちは色君ともっと一緒に居たい!!!色君をうちの眷族にするんや!!!」

 

「ろ、ロキさん?」

 

「もうこうなったら無理矢理色君をうちの眷族にしたる!!グヘヘ~、覚悟や~しっきキュ~ン――――ぼへぇ!?」

 

ルパンダイブを仕掛けたようとしたロキさんは、俺の肩越しからニュッと出てきたお盆により撃墜された。後ろを見ると、黒い巨体がいつの間にか佇んでいる。

 

「サンキュー、アステリオス」

 

「いえ」

 

「くぅぅ、アステリオス!!自分うちを裏切るつもりかー!!うちは主神やぞー!!」

 

「自分が使えてるのはフィンなので」

 

「そうやった!!」

 

そのまま米俵を抱えるように持ち上げられたロキさんは、アステリオスの背中をバシバシと叩きながら黄昏の館に連行されていった

 

「色君カムバァァァァァァック!!!」

 

という絶叫を残して………

 

「あちゃー、駄目だったね」

 

「そりゃそうでしょ、こんな作戦上手くいく訳ないわよ」

 

「チッ、使えねぇ」

 

ゆっくり後ろを振り向くと、何故か【ロキ・ファミリア】の幹部の面々が普通に居た。

 

「フィンさんまで、なにしてんすか?」

 

「んー、スカウト………かな?」

 

「スカウトって………」

 

茶目っ気を少し含んだ物言いに呆れた視線で返す。ベート君はそっぽ向いてるし、ヒリュテ姉妹は苦笑いしてるし

 

「最初っから全員グルってわけか」

 

言った俺は今だに膝の上で寝息を立てているアイツの頬っぺたを摘まんでみた。この人達が集まってるって事はコイツも―――――

 

「んにゅ…………はむ」

 

指を食われた。どうやら寝たフリではなかったらしい。

 

手がベトベトなんですけど

 

「おい」

 

「なんですか?」

 

少しだけ耳と尻尾をピクピク動かしたベート君が一言

 

「入れ」

 

「嫌です」

 

ピシッ

 

「ねぇ、色」

 

「なんですか?」

 

ティオネさんがしなを作って一言

 

「入ってくれるなら、お姉さんがイイコトしてあげるわよ?」

 

「俺年上には興味ないんで」

 

ピシッ

 

「で、でもでも」

 

「なんですか?」

 

ティオナさんが両手を忙しなく振りながら一言

 

「アイズとカラス君すっごく仲良くなったよね!!だから」

 

「俺コイツの事嫌いですよ?」

 

ピシッ

 

半眼で言い返した俺の前には、三人分の石像が出来上がった。

 

「とりあえず、俺は【ロキ・ファミリア】に入る気は無いですから」

 

「ふぅ…………色の意思は固いようだ、解散する事にしよう」

 

「う~、でもアイズが…………」

 

「元々、無理強いはしないって事になっていただろ?」

 

「はぁい。ほら、行くわよ二人とも、団長の手を煩わせない」

 

「ぶーぶー」

 

「チッ」

 

納得していない表情を浮かべる二人は、ティオネさんに背を押されロキさんと同じように強制退場させられていく。最後に残ったフィンさんに視線を向けた

 

「で、作戦の内容は?」

 

「君の故郷を再現して感傷に浸らせ、弱っている所を抱き込む、だったかな」

 

「最悪ですね」

 

「悪いとは思ってるよ」

 

隣に座ったフィンさんにそっぽを向いて、アイツの頭をひと撫で。しかし、気持ち良さそうに寝てるなコイツ、あの騒ぎでもグッスリ寝てやがる

 

「大体なんで俺の事を欲しがるんですか?アステリオスだけで充分でしょう」

 

これは率直な感想だ。フィンさんの目的を達するだけならアステリオス一人だけで何とかなるだろうし、俺よりもアイツの方が強い。まぁ、【食蜂操祈(メンタルアウト)】は有用かもしれんけど、結局俺のLv.より上には効かないし、ロキさんなら兎も角【ロキ・ファミリア】の団員がそこまで俺を欲しがる理由が分からん

 

「確かに、これから先アステリオスが立てた功績は、全て調教師(テイマー)となっている僕の物になるだろうね。ファミリア的にも戦力が増えて助かってるよ。でもね、それでも僕は、僕達は、君の事が欲しかったんだ」

 

「過ぎたる欲は自分の身を滅ぼしますよ」

 

「返す言葉もないよ」

 

フィンさんと俺の間に一陣の風が吹いた。まるで、これで話は終わりだ、と言っているかのように

 

「気分を害して申し訳ない。さて、お詫びと言ってはなんだが、眠り姫を部屋まで送らせてもらおうか」

 

「いいえ大丈夫です、どうせ何時ものように部屋に転がり込んでくるので俺が運びます」

 

キザったらしい台詞を吐いたフィンさんは、瞳を二、三回パチパチさせる。

 

「いいのかい?アイズは華奢な体だがそれでも冒険者だ。君じゃ「余裕ですよ」…………」

 

「こんな奴、【ステイタス】が無くたって重くも何ともないんで」

 

スースー寝ているアイツを背中に移動させる。すると当たり前のように抱きついてきやがった、やっぱ寝たフリなんじゃねぇのコイツ?

 

「色」

 

「なんですか?」

 

「【ロキ・ファミリア】に入ってくれないかい?」

 

「お断りします」

 

そして数日後、俺の【ロキ・ファミリア】監禁生活は何事もなく終わりを迎えたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまぁ!!!」

 

鐘楼の館に黒の少年の大声が鳴り響いた。反響する音が消える頃に、パタパタという足音が館の奥から近づいてくる

 

「しっきくーん!!!おっかえりぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!」

 

「ゴフッ!?」

 

弾丸の様に飛んで来たツインンテールが色の腹に直撃、そのままロリ巨乳に抱きつかれながら悶絶した

 

「だ、大丈夫かい!?まさかロキの所の眷族()に虐められていたんじゃ!?」

 

「…………ぉ」

 

「お?」

 

「お前のせいだぁぁぁあああああああ!!」

 

「うにぁぁぁあああああああああああ!?」

 

瞳に涙を溜めた色がとうとうヘスティアに掴みかかった。餅みたいな頬っぺたが縦に横に斜めに伸ばされ、みょんみょん蹂躙される

 

「わるはっは!!あやまふはらゆるひへふれ!?」

 

「全く、アイツだってそんな抱き付き方しねぇぞ…………」

 

「痛たたた、ボクの頬っぺたがぁ―――――ん?アイツ?色君、アイツって誰だい?」

 

「…………誰でもねぇよ」

 

「あぁ!?隠そうとしてるね!!ま、まさかロキの眷族()と如何わしい関係に!?」

 

「なってねぇよ!?」

 

全力で突っ込みを入れた色は、そのまま館の中にズンズンと入っていく。置いてかれたヘスティアは、少しだけ赤くなった頬を不満そうに抑えながら、その後ろ姿を追った

 

「まぁ、誰に抱きつかれたかは聞かないでおくよ。でも【ロキ・ファミリア】でどんな事をしていたのかは教えてくれるんだろう?」

 

「ん?あぁ、後でな」

 

背中に投げ掛けられた声にそう返した色は、そのまま階段を上がっていく

 

「えぇ、今教えておくれよ。ボクだって戦争遊戯(ウォーゲーム)罰則(ペナルティ)で館から殆ど出ていなかったから、娯楽に飢えてるんだ」

 

「だから後でって言ってるだろ?先ずはやる事やってからだ」

 

色が向かった先は自室だった。扉を開けると、簡素なベットと魔石灯(ランプ)が備え付けられた勉強机やノートと本が立て掛けられている本棚が出ていった時と変わらずに鎮座している。

 

「ねぇ、色君」

 

「積もる話は後だ後、先ずは【ステイタス】の封印を解いてくれ」

 

「…………」

 

ベットの上に寝転がった色の言葉に、ヘスティアは

 

「君の【ステイタス】の封印は解除しない」

 

と言った

 

 

 

 

 

 




レフィーヤは報告書作りを手伝って疲れて寝てるっていう設定。

本当は次の話と一纏めにする予定だったんですけど、文字数多すぎて重くて書けなくなってきたので区切らしてもらいます。


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第41話 色のファミリア

お気に入りが2000越えました!!

ここまで見てくださった皆様に感謝を


黒鐘 色

 

汝、血を分け与えた第二の眷属。

 

ヒューマン、特異の子。

 

揺らがぬ魂を内包する身にして未来を見据える瞳を持つ。

 

数に恵まれし繁栄の種族。

 

神すら想像出来ぬ異界の旅人。

 

自由に歩み進む、優しき光明。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の【ステイタス】の封印は解除しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――言われた言葉の意味を理解するのにたっぷり五秒

 

「なんだよ、冗談キツいぞヘスティア。いいから速く【ステイタス】の封印を―――」

 

「冗談?バカを言うなよ、ボクは真剣に君の【ステイタス】を解かないって言ってるんだ」

 

―――――何かが込み上げて来るまで三秒

 

「いい加減にしろよ、ヘスティア?」

 

「何度でも言おうか?ボクは君の【ステイタス】を解く気はない」

 

―――――感情が吹き出すまで一秒

 

「ふざけんじゃねぇぞッッ!!!!!!」

 

「ふざけてるのは君だろうッッ!!!!」

 

立ち上がって睨み付ける俺をロリ巨乳が下から睨み返しており、額に皺を寄せた憤怒の表情が漆黒と蒼穹の瞳に反射される。

 

「あぁ!?俺の何処がふざけてる!!【ステイタス】の封印を解除しないお前の方がよっぽどふざけてんだろぉが!!!!」

 

「よくもそんな事が言えたね!!!だったら帰って来てからベル君達が居ない事に何にも言わないのは、どういうことなんだい!!」

 

「それは【ステイタス】が解かれたら聞こうと思っていたんだよ!!!」

 

「そうかいそうかい!!君はベル君達より自分の【ステイタス】の方が大事なんだね!!!」

 

「ッ!?…………このぉ」

 

頭の中を埋め尽くしていく感情を制御出来ないのが手に取るように解った。しかし、俺にはそれどうこうする術を持ち合わせていない。ただ、目の前の存在に叩きつけるだけだ

 

「いいからお前は黙って俺の【ステイタス】の封印を解いたらいいんだよッッ!!!!それで全て丸く収まるんだから大人しく従え!!!!!」

 

気付けば少女の胸ぐらを掴み、足を空に浮かせていた。頭の中の何かが警鐘を鳴らすが、真っ赤に染まった思考がそれを掻き消す

 

「ぐッ…うぅ…………何が……丸く収まる………だ」

 

「あぁ?」

 

「何が丸く収まるだッ!!!」

 

「ぶッ!?」

 

叫びと共に、浮いた足が鳩尾を貫く。形容できない痛みと肺の空気を全て吐き出した衝撃で涙目になっている俺に、解放されたロリ巨乳は言葉を続ける。俺が一番言われたくない言葉を―――続ける

 

「ボクは言ったはずだぜ?”こんな事をするのは最後にしろ”って!!!!」

 

―――――やめろ

 

「君はよくやったよ!!!異端児(ゼノス)達は君のお陰で《呪詛(カース)》が無くても人々に受け入れられている!!!」

 

―――――黙れ

 

「だからもう、自分の感情を誤魔化すのはやめるんだ!!!!」

 

―――――喋るな

 

「【食蜂操祈(メンタルアウト)】で自分の心を操るのは止めるんだッ!!!!!」

 

「うるせぇぇええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」

 

ドンッ!!

 

回復した俺はヘスティアの小さな肩を両手で掴みを壁に無理矢理押し当てる。

 

「感情を誤魔化すなだと!?ふざけんな!!!」

 

限界はとうに越えていた

 

「人の気も知らねえで!!お前に俺の何がわかるってんだ!!!」

 

切っ掛けはウィーネを妹と呼び始めた時だったのだろう。町の住人の精神を操る際、無意識の内に自信に心理定規(メジャーハート)の様な暗示を掛けて、ウィーネとの心の距離を兄妹と同等に置いていたのだ

 

「たった一人で意味の分かんねぇ所に置いてかれて!!たった一人で!!!家族にも会えねぇんだぞ!!!!」

 

それを漸く認識出来たのは、一度死んで【ステイタス】が剥がれ落ちた時。【食蜂操祈(メンタルアウト)】から解放された色は、いつの間にか異端児(ゼノス)達を家族と同じ心の距離感に置いている事に愕然とする。

 

「もういっぱいいっぱいなんだよッ寂しいんだよッ!!【ステイタス】の封印を解かないならはやく俺をッ!!!」」

 

しかし、その頃にはあまりにも手遅れだった。周りには冒険者にボロボロにされた異端児(ゼノス)達が存在しており、それを見捨てる事など黒鐘色に出来る筈がない。

 

ヘスティアに【ステイタス】を刻み直して貰った色は今度は自らの意思で異端児(ゼノス)達との心の距離を自分の家族と同じ位置にもっていく事になる

 

「元の世界にッ!!帰えしてくれよッッ!!」

 

ゆっくりと侵食されていく感覚を黒鐘色は受け入れ、ついでとばかりに都市全体の人類を異端児(ゼノス)達と知り合いまでの距離に設定する。

 

それだけだ、それだけでいとも簡単に慈善活動をする異端児(ゼノス)達を都市の住人は受け入れた。一度受け入れられれば例え【食蜂操祈(メンタルアウト)】の効力が切れても簡単に感情が変わることは無い、

 

しかし、【食蜂操祈(メンタルアウト)】で自分の心を操っているのを理解していた色は別だ。自分が偽の感情を抱いているのを知っていた色だけは別だった。

 

【ステイタス】が封印された黒鐘色の心は孤独の痛みに苛まれる

 

この世界に置いて、黒鐘色は何処までも孤独(ひとり)なのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾いた音と共に色の頬が張り飛ばされた。

 

「寂しい?帰りたい?なめるなよ――――"私"は神だぞ?」

 

ドンッ!!!

 

ヘスティアは自身の内で荒れる狂う『神の力(アルカナム)』を押さえ付ける。そうしないと本能(神意)のままに、目の前の子供の心情を力ずくで吐露させかねないからだ。

 

「嘘を付くんじゃない。君が言いたいのはそんな事じゃないだろう?」

 

色に超越者(ゼウスディア)の言葉が突き刺さる。心の奥底を見透かされる様な初めての感覚に、頬の痛みも忘れ唖然とした。

 

「―――逃げるな」

 

「………………」

 

その言葉に対する反応はあまりにも鈍く

 

「自分の家族を口実に本心から逃げるなッ!!黒鐘色ッ!!」

 

「ッ!?」

 

続けて耳に入った鋭い声に、叱られた子供の様に肩がビクッと跳ねた。

 

「俺………は」

 

あえて言おう、例え異端児(ゼノス)達との心の距離を家族と同じ位置に設定していなくても、彼らは黒鐘 色によって救済されてただろう。

 

「俺は………」

 

何故なら、人を助けるのは黒鐘色の心の在り方だからだ。

 

困っている人間に手を差し伸べるのは黒鐘色の当たり前だからだ。

 

それは例え化物でも変わらない。手を差し伸られたら掴み、自分の出来る範囲内で助けられるなら全力を尽くす。

 

「おれ…………」

 

確かに、家族にずっと会えず、その寂しさでホームシックに掛かかったのは事実だ。

 

しかし、"その程度"でどうこうなるほど黒鐘色は弱くない。

 

それは目の前の小さな神様がこの世界の誰よりも理解していた

 

「色君、ボクは君の主神だ」

 

言葉が出て来ない眷族(子供)に語り掛ける

 

「己と向き合い、懺悔する事をボクは許そう」

 

それはヘスティアだけに許された言葉

 

「君の心の内を吐き出す事をボクは許そう」

 

冒険者でもなく、救世主でもなく、怪物でもなく

 

「君の罪を、君の全てをボクは許そう」

 

ただ一人の主神として、神は迷える眷族(ファミリア)に言葉を紡ぐ

 

「大丈夫だよ色君。ボクもベル君も眷属(ファミリア)の子供達も異端児(ゼノス)君達だって君の事をが大好きなんだ。だから―――」

 

その一言は閉ざされた口を少しだけ開け

 

「なわけねぇだろ」

 

「……………」

 

「だい……じょうぶなわけ、ねぇだろ」

 

「……………」

 

「大丈夫なわけッ………ねぇだろッ………俺はアイツらを――――――裏切ったんだぞ…………」

 

―――黒鐘色は力が抜けたように俯き、己の罪を吐き出していく

 

「本当になにしてんだろうなぁ俺は。アイツ等のこと家族家族って言っておきながら何で【食蜂操祈(メンタルアウト)】使ってんだよ、馬鹿かよ、意味わかんねぇよ。ちょっと寂しくなったからって《呪詛(カース)》使いやがって、ふざけんなよ、ふざけんじゃねぇよ」

 

心の奥底を蝕んでいたのは寂しさではなく、ベル達を家族と言っておきながら異端児を家族と同じ距離にして、寂しさから逃げた罪悪感

 

「しかも、あれだけ強くなったアイツらをわざと負けさせて、異端児(ゼノス)達も騙して、何が家族だ………」

 

街の人々に偽りの感情を植え付けた事を隠し、異端児(ゼノス)達に自らの手で信頼を勝ち取ったと誤認させた罪悪感

 

「死ねよ、死んでくれ。アイツらに会わせる顔なんかねぇよ。こんな糞野郎は死んだら良かったんだ。あの時アイツに殺されとけば良かった」

 

それは仕方が無いことだ、黒鐘色は最善を選んだ、選ぶしかなかったのだから。

 

しかし、黒鐘色は許せない

 

家族を裏切った自分自身が許せない

 

家族を裏切った自分の心が許せない

 

黒鐘色は黒鐘色を許せなかった

 

片手で顔を覆い膝を着いた色に、ヘスティアは同じ様に膝を着いた。

 

「大丈夫、誰にも理解されない罪であってもボクが君の罪を許から。だから今は、納得がいくまで懺悔するといい」

 

「……う……ううっ………っく……」

 

そして少年の顔を隠すように、そっとその頭を自分の胸元に引き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛ましい程の少年の慟哭が、鐘楼の館前に集まった者達の耳を打つ

 

「色サン………」

 

「キュウ」

 

「クゥン」

 

そこに集まっていたのは、色が【ヘスティア・ファミリア】に帰って来たお祝いをする為、駆けつけた異端児(ゼノス)達だ。しかし、自らの救世主の声にアルミラージ(一角兎)ヘルハウンド(黒犬)異端児(ゼノス)達全員が不安の表情を浮かべている

 

「…………聞いたか、皆」

 

その中でただ一人、毅然とした声でリドは声を掛けた

 

「彼は俺っち達を人間と生活させるために、この街の殆どの人間を操っていたらしい」

 

聴力が優れている異端児(ゼノス)達には全て聞こえていた

 

色が街の住人を呪詛(カース)で操っていた事も

 

その力を異端児(ゼノス)に隠し、自らの力で信頼を掴み取ったと思わせていた事も

 

「あの人は救世主なんかじゃない」

 

自分で自分を操り、異端児(ゼノス)達を家族だと誤認させていた事すら聞こえていた

 

そんな彼らは、黒鐘色を

 

「あの人は――――――俺達の神様だ」

 

神と崇めた

 

「アァ、ソノ通リダ。天カラ降リテ来タ神々ガ人間ノ神ナラバ。地上カラ降リテ来タアノ方コソ我々ノ神二違イナイ」

 

「例え偽りの感情でも彼が私達を救い、世界を敵に回してまで家族だと叫んでくれた事は事実です。ならば私は例えこの先裏切られようとも、彼を自分の家族として信じましょう。皆さんはどうですか?」

 

「ふん、知れたことを。色に助けられた者達全員が、あの方を主神だと認めているに決まっている」

 

「フフフ、まるで人間と神の眷属(ファミリア)のようデスね」

 

「まぁ、迷惑になるから公言は出来ねぇけどな。でも、これだけは誓おうぜ。これから先、俺っち達はあの方を信じ、敬愛し、敬う、どうだ?」

 

晴天の下、リドの言葉に全員が小指を突き出した

 

それは、何時か教えて貰った約束のおまじない

 

中にいる彼に聞こえない程の小さな声で、それぞれがおまじないの言葉を言い終わり。異端児(ゼノス)達は今日の所は帰る事にしたのであった。

 

数年後、異端児(ゼノス)達が自らの超越存在(ゼウスデア)の名前に因んで黒い鐘の刺青を体の何処かに彫り出すのだが、それはまた別の話である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そう言えばベル達はどうしたんだ?」

 

久しぶりに人前で泣いた気恥ずかしさを隠すため、優しい瞳で見てくるヘスティアに目元を擦りながら話題を振った。

 

「えっと、その」

 

てっきり顔が赤くなっている俺を茶化して来ると思ったんだが妙に歯切れが悪いな。どうした?

 

「ひょっとして俺の快気祝いの買い物とかか?」

 

「そ、その、ベル君達は………だね……」

 

適当な当りをつけてみたが、ヘスティアの表情を見る限りどうやら違うらしい

 

まぁ何にせよ、アイツの強さにビビって作戦を引き分けから負けの方向に変更した事に関しては、しっかりケジメつけなきゃいけねぇな。土下座で許してくれるかどうか…………

 

「し、色君。落ち着いて聞いて欲しいんだ」

 

「お、おう」

 

てか、こいつは一体どうしたんだ?さっきまでとは別()の様に動揺してるんだけど

 

「いいかい?ベル君達は………」

 

「…………」

 

「べ、ベル君達は…………」

 

「…………」

 

ヘスティアの真剣な表情にゴクッと喉が鳴り、遂に衝撃的な一言が俺を襲った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家出しちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁあああああああああああああああ!?!?!?」

 

その言葉はあまりにも、今まで色々考えてたのがぶっ飛ぶぐらい衝撃的過ぎた

 

「なんで!?どうして!?」

 

「わわわわかった!?説明!!説明するから揺らさないでくれれれれれ!?」

 

肩を掴んで揺する俺の腕をヘスティアは掴み取り、必死に制止させる。

 

「はぁ……はぁ……せ、説明するとだね」

 

「せ、説明すると?」

 

「今回の作戦の全容を話したら………み、皆、無言になって………そのまま…出て行ったん……だ」

 

ダラダラと冷や汗をかき、後半の声色も低くなりながらヘスティアは言った。

 

て、おい

 

「もしかして、俺が話す前にバラしたの?」

 

「…………うん」

 

「まじかぁ」

 

「ご、ごめんね色君。ベル君達には言わないって事だったんだけど。やっぱり眷族(ファミリア)に隠し事は良くないって思って、それにベル君達なら分かってくれると思ったんだよ。それが、まさか出て行っちゃうなんて……」

 

しだいに涙目になっていくヘスティアの頭にポンッと手を置いた。

 

「しき………くん?」

 

「骨は拾ってくれよ」

 

「色君!?」

 

いや、だって。黙って出て行ったって、それぶちギレてるじゃん。やッべェよ、出会った瞬間殺されちゃうかもしれん

 

「い、いやいやいや流石にそんな事にはならないと思うよ!!考えすぎじゃないかい!?」

 

「わかってねぇなヘスティア。人間ってのは怒りに捕らわれたら何をするか―――」

 

ドンッ!

 

「「うおっ!?」」

 

下から聞こえた扉を叩く音に、二人揃って飛び上がった。

 

「え、なに帰ってきたの!?ちょっとタイミング良すぎない!?」

 

「ももももしかしたら異端児(ゼノス)君達かもしれないよッ!?」

 

「と、とりあえず下に降りるか」

 

「そ、そうだね」

 

ドンッ!

 

「「うひゃあ!?」」

 

続けて鳴らされたノックの音にビクつきながらも、二人揃って階段を降りていく。

 

そのまま玄関先までたどり着いた俺はゆっくりと扉に近づいて行く。ヘスティアは出て行った時のベル達が余程怖かったのか、玄関近くの部屋に隠れたらしい

 

そ、そうそう。危ないから扉を開ける前に、一応覗き窓から確認を―――バンッ!!!

 

「うぉ!?」

 

こちらが開ける前に勢いよく蹴り開けられた扉の向こうには、見知った【ヘスティア・ファミリア】の眷族達が勢揃いしていた。

 

その先頭に居るのは、俺にとって仲間であり、団長であり、弟の様な存在で…………

 

「ちょっと待って!?俺まだ【ステイタス】更新してないから!?死ぬって!!!」

 

前髪で目元が隠れたベルが俺に掴みかかる。転ける身体は制御出来ねぇし、他の眷族(ファミリア)もなだれ込んできた!?ヤベェ!!

 

「おおおお前ら、落ち着け!!落ち着いて俺の話……を………」

 

押し倒された俺は何とか話を聞いて貰おうと大声を出し、やめる。

 

何故なら、ベル達の姿を間近で見たからだ。

 

ボロボロだった

 

全員当然の様に衣服が裂け、血が滲み出ている。リリの掌は赤く爛れていて、ウィーネの身体は所々鱗が剥がれ、命ちゃんなんて腕が折れているのではないのだろうか。

 

ヴェルフも頭から血を流してるし、春ちゃんは毎日手入れされて何時も綺麗な尻尾や耳の毛並みが、血と泥が固まって見るも無残な有り様になっており、ベルだって全ての指がおかしな方向に折れ曲がっている

 

絶句する俺に、唯一気を失っていない少年の、ギラギラと輝く深紅(ルベライト)の瞳が向けられた

 

「僕達………負けないから」

 

静かに、しかしよく聞こえる声で

 

「次は絶対勝つから………だから」

 

一言一言ハッキリと

 

「だから、一人で何でも抱え込むなよ」

 

ベルは俺に語り掛ける

 

「僕達、家族じゃないか」

 

それだけ言い残して気絶したベルの背中に携えているある物を見て、俺は自分の家族(ファミリア)が何をやって来たのか直ぐに理解できた。

 

それは37階層に潜む『迷宮の孤王(モンスターレックス)』を倒した証

 

――――――黒大剣

 

「………ふっ………ははっ、ははは………はははっ、あははははははは!!!!!」

 

何故だろうか?直ぐこの馬鹿達を青の薬舗連れて行かなくてはならないのに笑いが止まらない、止められない。

 

そのまま俺は、ヘスティアが声を掛けて来るまでずっと嗤い続けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウラノス。これ以上、黒鐘色を擁護するなら【ヘルメス・ファミリア】は協力出来ない」

 

四炬の松明が照らす祭壇で、そう言ったヘルメスは、木塊をナイフで削り完成させた醜悪な翼が生えた怪物の駒を、兎の駒が立つチェス盤の上に置いた

 

「そうか――――残念だ」

 

心底悲しそうにウラノスは言い、それに対して橙黄色の瞳を向けたヘルメスは小憎らしそうな笑みを浮かべる

 

「やけにあっさりだな。俺を止めるなら今の内だぜ?」

 

「その目を見せられて止められるとは思えん」

 

それに、とウラノスは続けた

 

「お前に彼は殺させんよ」

 

「ふぅ、やれやれ。ウラノス、まさか君まで」

 

―――あの怪物に魅了されるなんてね

 

ウラノスの目が鋭く細まり、ヘルメスは帽子の鍔で目元を隠した。その場に子供(人間)が立ち会っていたなら、二柱の間の空気の重みで卒倒していただろう

 

「ウラノス、貴方は本気で黒鐘色の味方で居続ける気か?あんなものがオラリオに住み続けたら、いずれこの街は、いや、この世界はあの怪物に飲み込まれるぜ?」

 

まるで確定事項だと言わんばかりの物言いに、ウラノスは特に否定の言葉を並べず、憤然と言い放った。

 

「―――私は彼を信じると決めた。それが異端児(ゼノス)達を救ってくれた彼に対するせめてもの償いだ」

 

「それが、オラリオの安寧を守り続けて来た神の言葉か」

 

「それが、私の神威だ」

 

松明の火が風に吹かれ、二人の影が大きく揺らいだ。それはまるで二()の内心を表しているかのようで、揺らぎが収まった時、ヘルメス何時もの調子で喋り出す

 

「じゃあお暇させて貰うよ。もう此処に来ることは無いだろうけど、せいぜい達者で居てくれ、ウラノス」

 

巨神の返事を待たずに男神は『祈祷の間』から出て行った

 

その背中に計り知れない何かを背負いながら

 

しばらくすると、階段とは別の『秘密の通路』の隠し扉が音を立てて開いた。影を払って現れるのはフェルズである。

 

「帰ったよ、ウラノス。……誰かいたのかい?」

 

「ヘルメスだ」

 

男神の名前を聞いた黒衣の魔術師は暫し黙り込み、やがて大きな溜息を吐いた

 

「まぁいいか、色君ならあの男神程度、どうとでもなる」

 

「フェルズ」

 

「分かってるよ、もしもの時は私も全力を尽くす。どんな手を使っても、異端児(ゼノス)達の存在意義を証明し、人類との共存の道を開いてくれた彼の助力になろう」

 

力強く言い切ったフェルズに、ウラノスは安心したかのようにうっすらと笑った。そんな普段見せないような表情を見せた老神に魔術師は少し驚いた風に黒衣を揺らす

 

「それで、彼の様子はどうだった?」

 

「どうもこうも、鐘楼の館に着いたらもぬけの殻、掃除をしていたヘスティア様に聞いたら、力試しするために皆でダンジョンに向かったぜ、と言われたよ。【ロキ・ファミリア】に居た時は【剣姫】がずっと傍に居て寿命がいくらか縮まったと思ったんだが、まさかファミリアに帰って数日も経たない内にダンジョンに向かうとは……やれやれ、せっかく復帰祝いを持って行ったのにとんだ無駄足だったよ」

 

疲れてそうな、嬉しそうな、楽しそうな、退屈そうな、響く声色に様々な感情が去来する。

 

何時もより遥かに饒舌に、異端児(ゼノス)達の救世主に対する愚痴を、フェルズは報告としてウラノスに延々と語るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円形の階層全体が城塞の如く五層もの大円壁で構成されており、上層とは比べ物にならない程の巨大な通路や広間が白濁色の壁面で形作られた広大な迷宮

 

通称『白宮殿(ホワイトパレス)

 

迷い込んだら二度と出て来られないと言われている37階層に、とあるファミリアは果敢に挑んでいた

 

『『『『『『『『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』』』』』』』』』

 

「【フツノミタマ】!!!」

 

「【フレイム・ブラスト】!!!」

 

超電磁砲(レールガン)!!!」

 

「【ファイアボルト】!!!」

 

『『『『『『『『『『『ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』』』』』』』』』

 

―――訂正

 

虐殺の限りを尽くしていた

 

「【ココノエ】!!皆様、制限時間は九分間です!!」

 

狐人(ルナール)の使った妖術により、輝きだしたファミリアが力強く駆けだす。そのスピードは本来の彼等よりも遥かに速く、その中でも特に速い兎が、真っ先に夥しい『オブシディアン・ソルジャー』の群れに突っ込んでいく

 

「ぜぁぁああああああああああああああああああああ!!!!」

 

『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』』』』』』』

 

人の体を持った中級型以上のモンスターは、兎の影すら踏めずに殺戮されていった。赤い短刀と漆黒のナイフで秒刻みで消されていく同族に、他の『オブシディアン・ソルジャー』は恐怖し、一目散に撤退を始める。

 

そこを

 

「せぇッのぉッ!!!!!」

 

『『『『『『『グギッ!?』』』』』』』

 

物凄い勢いで回転しながら向かって来た、雷を帯びた巨槌(ハンマー)に一網打尽にされる。

 

大量の灰を生み出した巨槌(ハンマー)はクルクルと勢いを落さずに、持ち主の小人族(パルゥム)の手元に戻っていき、鈍い音と共に鉄籠手越しの掌に掴み取られた

 

「ベル様、少しばかり先行し過ぎですよ!!!リリのモンスターも残して置いて下さい!!!」

 

「ごめんねリリ、でも速く階位昇華(レベル・ブースト)の体に馴れておきたいんだ」

 

そんな会話を、苦笑いしながら聞いていた武人を思わせる少女は、何かを察知したらしく、表情を変えて両隣で戦っている黒髪の少年と赤髪の鍛冶師に声を掛ける

 

「お二人とも、どうやら階層主が現れたようです。手筈通り動かれてよろしいかと」

 

「だよねぇ、イレギュラー起こるよねぇ」

 

「倒してから数日しか経ってないのに復活したウダイオスなんて、今更イレギュラーの内に入らないんじゃないのか?」

 

「前だったら何も思わなかったんだけど、【ロキ・ファミリア】で色々常識を教わってな」

 

そう言った黒髪の少年は、盛大にため息を吐いた。そんな見慣れない様子に鍛冶師は不思議そうな顔をする

 

「――――まぁいいか、行くぞ!!」

 

「応よ!!」

 

威勢のいい声で答えた鍛冶師は握っていた幅の広い大剣を放り投げた。

 

その剣は地面すれすれの所で重力に逆らい、浮いた剣の腹に足を置いた鍛冶師は―――――飛んだ

 

グングンと上昇していく赤髪を面白そうに見ていた黒髪の少年は、風を纏い追随する様に飛ぼうとし―――銀の盾と槍を装備した竜女(ヴィーヴル)に声を掛ける

 

「それじゃあウィーネ、兄ちゃん行ってくるから頑張れよ!!」

 

「うん!!行ってらっしゃい!!お兄ちゃん!!!」

 

そう言いながらブンブンと槍を振るう竜女(ヴィーヴル)を一瞥した少年は、今までに出した事の無いスピードで、剣を使って飛んでいる鍛冶師の背中を追う

 

そして、相まみえるは37階層最強の階層主(モンスター)黒き骸王(ウダイオス)

 

『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「色、任せたよ!!!」

 

下から追いついた白い少年の声が聞こえ、漆黒の骸骨の上を取った黒の少年は固く拳を握りしめた。

 

「任された!!」

 

何時ものやり取りを終えた少年に迷いの二文字は存在しない

 

例え相手が、自身の何倍もの大剣を振り上げてこようと、己は拳を振り下ろすのみ!!

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

「くらえええええええええええええええええ!!!!!」

 

そう、これは

 

「スーパーミラクルベクトルすごーいッッ!!!!ぱーんちッ!!!!!」

 

いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 

 

 

 

 




この41話を一言で言うなら、難しかった、ですね。

次回からは、今までより更にバージョンアップを果たしたヘスティアファミリアが暴れますので、よろしくお願いします


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第42話 とあるファミリアの嬋媛なる一日

すみません、長くなりました。


小鳥の囀ずりが心地よく聞こえる早朝、とある館の一室からベットの軋む音と共に少女の甘えるような声が溢れる

 

「いっしょに………イク?」

 

「いや、お前一人でイケよ」

 

男に跨がった少女は耳元でそう言い、面倒臭そうな声が返された。

 

「でも私、色と……いっしょにイキたい」

 

「………はぁ、全く」

 

その後、何度かモゾモゾと衣擦れの音が部屋の中に響き―――ガチャ

 

「で、何で俺の部屋にコイツを居れたんだよ、ヘスティア」

 

「ヒッ!?」

 

扉の前で聞き耳を立てていたヘスティアは、聴いた事もない眷族の冷たい声に赤くなった顔を真っ青にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、色君とヴァレ………アイズ君が仲良くなったらいいなぁって思っただけなんだよ」

 

「余計なお世話だっつうの!!【ロキ・ファミリア】に居た時ならいざ知らず、何で自分の家でまでコイツと一緒に居なきゃならんのだ!」

 

「またまたぁ、アイズ君が傍にいてくれたから余計な事を深く考えずに助かったって言ってたじゃないか」

 

「それは、そう言う事じゃねぇって、何度も説明しただろうが!!!」

 

「色、一緒にダンジョン行こ?」

 

「行かねぇよ!!どこまでマイペースなんだお前は!!!」

 

アイズに突っ込んだ色は、最近恒例になりつつあるやり取りに、頭を押さえた。

 

切っ掛けは、色が【ヘスティア・ファミリア】に戻った翌日、【ステイタス】を更新した日だ。

 

色の背中に跨がったヘスティアは【ステイタス】を更新しながら、色々あってそれまで聞けなかった【ロキ・ファミリア】での生活の話を切り出した。

 

その時、色はアイズとの変化した関係をポロっと話してしまい、ヘスティアは盛大に勘違い。

 

翌日から色をダンジョンに誘いにきたアイズを、息子に出来た彼女を快く招き入れる母親よろしく、館に普通に入らせてお茶まで出すようになり。

 

とうとう、部屋には入れるな、と張っていた最終防衛ラインも普通に破って来たのだから、色にとってたまったものじゃなかった。

 

「おはようございます、アイズさん」

 

「おはよう、リリ」

 

「色さんは朝から騒がしいですよ。いい加減慣れたらどうですか?」

 

「うっせぇ」

 

因みに、アイズが鐘楼の館に出入りしている事は、既に殆どの団員にとって当たり前になっていた。これは、日々の異常事態で感覚が麻痺している事も関係しているのだが………

 

「それで、今日はどこまで進展したのですか?」

 

「ベットの中までは入ったらしいんだけどね。何もなかったみたいだ」

 

「そうですか、まぁ色さんはその時の欲情に流されるタイプでは無いですからね。仕方ありません、とりあえず今日もベル様とは一番離れた位置に座ってもらいましょう」

 

「了解した。誘導は任せておくれ」

 

恋する乙女の嗅覚により、余計な虫(一番の強敵)をベルから遠ざける為の苦渋の決断により実行された作戦の賜物だったりする。

 

人はそれを生け贄、または人柱と言う。

 

「それじゃあ皆、手を合わせて。いただきます」

 

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

 

アイズを合わせた計8人が、ヘスティアの合図と共に食事を始めた。ある者は味噌汁を啜りながら、ある者は金色の少女に緊張しながら、ある者は漬物に舌鼓を打ちながら、朝の食卓に会話という花を咲かせる

 

「今日ボクは神会(デナトゥス)に行くんだけど、夜の調整をするから他の皆の予定を聴かせてくれないかな?」

 

「予定ですか?僕は遠征の為に青の薬舗にポーション類を買いに行こうと思ってますけど―――あの、その、良ければアイズさんも……」

 

「ベル様はリ・リ・と・行くんですよね!!!随分前から約束してましたからね!!!」

 

「ベル、どうかした?はい色、お醤油」

 

「ん、あんがとよ」

 

「な、何でもありません、あはは………はぁ」

 

「自分は色殿と一緒に入団試験ですね。今回こそ新しい団員が入ってくれればいいのですが……」

 

「どうなるかねぇ。別に厳しすぎる試験って訳じゃねぇと思うんだけど」

 

「色、私もその試験見に行って良い?」

 

「どうせ拒否っても着いてくるんだから、勝手にしろよ」

 

「うん、着いてく」

「俺は春姫と新武器の試し撃ちだな、食べ終わったら工房前でいいか?」

 

「はい、わかりました。ヴェルフ様が(わたくし)の為に作って下さった武器。今から楽しみで御座います」

 

「ウィーネ君はどうするんだい?色君に着いていくかい?」

 

「ううん、わたし神様に付いていく!!」

 

「ボクにかい?うーん、まぁいいか、それじゃあ一緒に神会(デュミナス)に行こう」

 

「うん!!」

 

それぞれの予定が決まった所で朝食の中身は殆ど空になっており、【ヘスティア・ファミリア】の一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は館前の大きめの庭、少し大きめの台に乗った色は眼下に広がる大勢の亜人種(デミ・ヒューマン)に声を掛ける

 

「えぇ、皆さん。本日はお集まり下さってありがとうございます。それでは早速、【ヘスティア・ファミリア】入団試験を始めようと思います」

 

音の向き(ベクトル)を操り響かせた声に、庭に集まった大量の冒険者は少しだけざわついたが、そんな者を気にせず色は試験内容の説明に移った

 

「まずは簡単な体力テスト、その後に面接ですね。合格された方は後々報告に行きますので、出来るだけ住所は変えないで下さい、それと………」

 

「わかったから早く始めろ!!!」

 

「俺はもう三日前からこの時を待ってたんだ!!!」

 

かなり義務的な声で色は話していたのだが、【ロキ・ファミリア】と良い勝負まで持ち込んだ新参ファミリア、というネームバリューを聞きつけて、オラリオの外からやって来た腕自慢のならず者達には、その違和感に気付ける筈も無く。

 

「まったく、これだから野蛮な種族は。体力テストと面接なんて簡単な試験で、万が一アイツらと一緒のファミリアになったらゾッとするな」

 

「ほんとねぇ。でも私達みたいな高貴な種族と、あんなのとを一緒に合格させるなんて思わないけど?」

 

また、遠い異国からやって来たエルフ等は他種族を卑下することに頭を使っており、同じく何度も説明して疲れた様な機械的な声に全く気付けなかった。

 

「はい、それでは説明終わりましたので、体力テストを始めます」

 

程無くして説明が終わり、やっとか、と殆ど話を聞いていなかった亜人種(デミ・ヒューマン)達は意気込んだ

 

「それじゃあ、一時間以内にあそこまでたどり着いて下さい」

 

「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」

 

色が指さしたのは、彼等が居る所から100(メドル)付近の所。入団希望者達は一瞬呆気に取られた。本来ならここは馬鹿にされている、と憤る所だろう、しかし色の次の言葉にそんな余裕は消滅する

 

そう、彼らは知らないのだ。この体力テストに合格した人類が、今まで繰り広げられた入団テストで一人も居ないという事を………

 

「それじゃあ、命ちゃん。よろしくね」

「わかりました――――【フツノミタマ】!!」

 

「「「「「「「「「グギャ!?」」」」」」」」」

 

ずっと溜められてた《魔法》が解放され、入団希望者達からカエルが潰れたような声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、今日はどれぐらい残ると思いますか?」

 

「0」

 

「ですよねぇ」

 

眼下に広がる地獄絵図を見た二人は淡白な会話をする。勿論、命は全力を出しておらず、100(メドル)という距離も、最初の試験よりかなり妥協した結果の距離だ。

 

しかし、《魔導》が発現した命の【フツノミタマ】は、例え手加減していても平均的なLv.2の冒険者が身動き取れなくなる程の威力を誇っていた

 

「あ、あの、色に命……さん?あの人……気絶してると思うんだけど、大丈……夫?」

 

「そうですね………あれぐらいなら後で高等回復薬(ハイ・ポーション)掛けとけば大丈夫ですよ」

 

「おい、あんまり他のファミリアの入団試験に口出すなよ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「まぁまぁ、色殿も最初はアイズ殿と同じ様に、入団希望者の方々を心配なされて―――」

 

「ちょっと命ちゃん!?余計なこと言わないで!!」

 

因みに、この入団試験がやり過ぎだと【ヘスティア・ファミリア】が気付くのは、もう少し先の話だったりする。

 

「おぉ、ヴェル吉の言う通りおったな。久方ぶりじゃのう色に【剣姫】、防具を届けに来てやったぞ!!」

 

「お久しぶりです椿さん」

 

「お久し……ぶりです」

 

談笑している三人に声を掛けて来たのは、【ヘファイストス・ファミリア】の団長、椿・コルブランドだ。長身の彼女は色を見かけた後、直ぐに入団試験の有様に気付き頬を引きつらせる、しかし一団長として他ファミリアの入団試験に関わる訳にもいかず、見なかった事にした。

 

決して泡を吹いたり、白目を向いている人間を見捨てた訳では無い

 

「遂に完成ですか。丁度、もう直ぐ遠征だったので助かります」

 

「そうかそうか、間に合って何よりじゃ。それじゃあ早速着けてみてくれ」

 

「ち、ちょっと待って下さい。あの、この方は?」

 

事情を把握していなかった命に色は一連の経緯を説明した

 

「えぇ!?あの椿・コルブランドを専属鍛冶師(スミス)にしたぁ!?」

 

「いや、いうて防具専門だけどな」

 

「それでもオラリオ一の鍛冶師(スミス)ですよぉ!?うぅ、何と羨ましい」

 

「はっはっはっ、そのオラリオ一の鍛冶師(スミス)の専属を、こやつは一回蹴っておるのだ」

 

「はぁ!?」

 

「ちょっと椿さん!!そんな事より防具の説明をお願いします!!!」

 

色は冷や汗を掻きながら椿に防具の説明を促した。理由は、ヴェルフに椿の防具を使っていいか聞いた時に、冒険者が質の良い防具を使うのは当たり前の事だ、だからいらん気を使うんじゃない。と、泣きそうになるぐらいこっぴどく説教されたからだ。それ以来、色にとって専属鍛冶師(スミス)を蹴った話は思い出したくない記憶(トラウマ)になっていた。

 

「うむ、まずはこれが新しい防具じゃ」

 

色の前に差し出されたものは、黒籠手(デスガメ)とほぼ同じデザインのガントレットだった。受け取って上下ひっくり返してみるも、変わった所は手首の部分に散りばめられていた石が一つの大きな石になっている事ぐらいしか無い

 

「とりあえず、前のより丈夫なのは何と無く解りますね。同じ最硬金属(オリハルコン)でも鍛冶師の腕だけでここまで違うもんなんですか?」

 

「当たり前じゃ。料理とて一級品の食品を使っても料理人の腕がぞんざいじゃったら、大したもんも出来んじゃろ?それと同じじゃ」

 

「なるほど、一理ありますね。それで、丈夫になっただけじゃないんでしょ?」

 

「ほぅ、よくわかったの」

 

「まぁ、その瞳は見慣れていますから」

 

新作を作る度に、ギラギラと瞳を輝かせる鍛冶師を思い出した色は、苦笑いしながらそう言った。

 

「まずは雷を発生させてくれんか?」

 

「分かりました」

 

椿に言われた通り、色は《魔法》を発動させる。バチィッという効果音と共に、周囲に影響が及ばない程の微弱な電気を周りに纏った

 

「よし、そのまま《スキル》を使って全部の電をガントレットに持っていけ」

 

「ウッス」

 

アイズと命が見守る中、返事をした色が雷を集めてくと、ボゥと小さな雷の槍が掌に出現した。

 

「え、なにこれ?」

 

「………これって」

 

「なんとも面妖な」

 

「ふっふっふっ、成功じゃな。それじゃあ、打ち出してみろ」

 

色が雷槍をベクトル操作で空に打ち出すと、バシュという効果音と共に物凄い速度で上に上がっていき、数秒でアイズも黙視できない高さまで打ち上げられた

 

「え、本当なにこれ?」

 

色は戸惑った。何故なら、あの小さな槍は明らかに超電磁砲(レールガン)以上の威力が出てたからだ。

 

「その籠手の名前は《雷霆(ライテイ)》、お主の雷に形を与える防具じゃ」

 

三人の説明を求める瞳が一点に集まり、単眼の鍛冶師(スミス)は大いに口元を歪めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャー!!なにこれ!?触ってもいいかしら!?」

 

「いいですけど、あまり動かさないでくださいね」

 

何時もなら、鉄を打つ音と少しの喋り声ぐらいしか出て来ない【ヘスティア・ファミリア】の工房に、珍しく女性の黄色い声が鳴り響いた。

 

「すごい、凄いわヴェルフ。これも魔剣、あれも魔剣、こんなのも魔剣なの!?」

 

「あの、ヘファイストス様?本当に触るだけにして下さいね?間違って発動でもしたら、この工房吹き飛ぶんで」

 

様々な形の魔剣を観て、まるで子供の様にはしゃぐ鍛冶神を、ヴェルフはずっと心配そうに見守っており

 

「ふふふ、ヴェルフったら心配性ね。私は鍛冶神よ?大丈夫に決まって―――グピャ!?」

 

「ヘファイストス様!?」

 

遂に誤って重力魔剣に触れ、重力に潰されたヘファイストスをヴェルフは慌てて助け出した。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「え、えぇ……大丈夫よ。そう、これが重力を操る魔剣なのね」

 

一回痛い目を見て冷静になったヘファイストスは、今度は直接触れずに『鈍刀・重』をジッと見つめた後、ゆっくりと向き直り

 

「………今日、私が来た理由はね。その魔剣の鞘を作らせて欲しいの」

 

と、ヴェルフが背負っている一本の大剣を指さしながらそう言った。

 

「コイツのですか?」

 

そう言いながら背負っていた魔剣をヘファイストスの前に持って行き、厳重に巻かれていた布を解いて行く。まるで封印から解放されたかのように現れたのは、黒い刀身に星座の様に広がる幾何学な赤模様、柄にも特徴的な紅い宝石が填めてあるバスターソード並みの大きさの魔剣だった。

 

それを見たヘファイストスの頬が吊り上がる

 

「何時見ても素晴らしいわね。この”完成された魔剣”は」

 

「止めて下さいヘファイストス様、前にも説明しましたが、これはまだ完成してないですから」

 

「そういえばそうだったわね。でも名前ぐらい決めたら?」

 

「いや、完成してない武器に名前なんて付けられません。それより、この鞘を本当に作ってくれるんですか?」

 

「えぇ、ちゃんとした鞘を用意してあげるわ。代金は良い物を見せて貰ったって事でチャラにしてあげる」

 

ウインクを飛ばしてくるヘファイストスにヴェルフは苦笑いしながら、代金はしっかり払いますよ、と流石に遠慮してしまう。

 

しかし、ヘファイストスも良い物を見せて貰ったのから鞘代をタダにする、と一度言ったからには引き下がる訳にはいかず、詰め寄ろうとした時

 

ガチャと扉を開けて、見惚れるほど綺麗に手入れされている金色を携えた少女が一人、慌てた様子で入って来た。

 

「すみません、ヴェルフ様!!遅れてしまいました!!」

 

「ん?春姫か、あまり待ってないから気にするな。えっと、やっぱり鞘代は払いますよ、ヘファイストス様?」

 

「いえ、その事は後でいいわ。それより、彼女は?」

 

「え?あぁ、こいつは同じ眷族(ファミリア)の春姫です」

 

「は、はじめまして!!(わたくし)、春姫と申します。話には存じております、ヴェルフ様の前の主神様のヘファイスト様ですよね?」

 

「えぇそうよ。私がヘスティアの前にヴェルフの主神だったヘファイストス、よろしくね」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

ヘファイストスに差し出された手を春姫は緊張の面持ちで握り返す。それを見ていたヴェルフは微妙に居心地が悪くなり、話を切り出した。

 

「これから新しい武器の実験をしようと思うんですけど、ヘファイストス様も来ますか?」

 

その提案にヘファイストスは春姫の手を握りながら笑顔で答える

 

「それよりも、ヴェルフ」

 

「なんですか?」

 

「この子は貴方の何なのかしら?」

 

「は?」

 

鍛冶師のなんとも間抜けな声が工房を僅かに震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフ達が向かった先は屋敷の裏庭だった。そこそこ広い広場は、普段から武器の実験に使われているにもかかわらず、とある異世界人によって常に整備されていたりする。

 

「それじゃあ早速だが、お前の武器の説明をするぞ」

 

そう言ったヴェルフは工房から持ったて来たアタッシュケースを地面に置き、不思議そうにのぞき込んで来る二人に見えるようにゆっくりと開けた

 

「これは?」

 

中に入っていた九つ武器の見たヘファイストスは困惑する。彼女はその中の一つだけ知っていたが、他の八つがあまりにも形状が違いすぎるからた。

 

しかし、色にほぼ毎日異界の物語を聴きに行っていた春姫は、その武器の名前を知っていた。

 

「銃で御座いますか!?」

 

特徴的なグリップと引き金、黒色の銃身には白い狐のマークが彫られてあるそれは、色の世界において絶対的な力の象徴だ。

 

スマホの画像でしか見たことのないその一つを、春姫は少しだけ興奮しながら持ち上げた。

 

「凄い!!本物、本物ですよヴェルフ様!!」

 

「いや、色の話を聞いたら結構足りないところがあってな。そこん所は他の物で代用してあるから本物とは違うぞ」

 

「そんな事よりヴェルフ様!!試し撃ちしてもよろしいでしょうか!?」

 

「お、おう、そのために裏庭に来たんだからな。向こうに的を用意してるから撃ってみろ」

 

「流石はヴェルフ様、素敵です!!」

 

「そりゃどうも。ていうか、お前今日はヤケにテンション高いな」

 

「最近緋弾のアリアと言う物語を色様に聴かせて貰ったんですけど――――」

 

ゴホンッ

 

「その話は後にして今はヴェルフからその武器の説明を聞きたいんだけどいいかしら、春姫さん?」

 

「え…あ、はい。その、舞い上がってしまい、申し訳ありません、ヘファイストス様」

 

「わかってくれれば良いのよ?」

 

「ヒッ!?」

 

無意識にヴェルフに迫っていた春姫は、鍛冶神にニッコリと笑われながらそう言われ、小さい悲鳴と共に全身の毛を逆立てた。

 

その後ヘファイストスに視線で先を促されたヴェルフは、冷や汗をかきながら武器の説明に移る。

 

「と、とりあえず、これはヘファイストス様も知ってますね」

 

ヴェルフが指差したのはヘファイストスが唯一知っていた銃、『炎刀・虚空』だった。首を縦に降ったヘファイストスに今度は細長い銃を持ち上げたヴェルフが説明を始める

 

「虚空は大型の魔弾を打ち出す銃何ですけど、これは鉛弾を打ち出す銃何ですよ」

 

「鉛弾?」

 

「まぁ実際見た方が分かりやすいと思うんで一発撃ってみますね。春姫」

 

「畏まりました!!」

 

他の銃を見ていた春姫は長銃を受け取り、一本の木に標準を合わせ引き金を引いた。

 

バンッ!!

 

あまりの銃声にヘファイストスの瞳が見開かれた。一瞬の沈黙の後、木の中心には見事に穴が空けられ、銃口から煙が出ているのを確認したヴェルフの口から

 

「この九つの銃の名前は『炎刀シリーズ』と言いまして………」

 

後の世に《伝説の武器(レジェンド・ウエポン)》と呼ばれる武器の説明が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある薬舗まで向かう大通り

 

そこには、人目を一身に引き付ける大きな影と小さな影がその歩みをゆっくりと進めていた

 

「それで買い物リストには、ちゃっかり超硬金属(アダマンタイト)が書かれていたの?」

 

小さな影は、白髪赤目の何処か兎を連想させる少年、ベル・クラネルだ。彼は隣を歩く大きな影の持ち主が持っているメモ用紙に視線を落した

 

「そうなんですよ。人造迷宮(ダイダロス)から盗んだ資材を使い込んだからって、ヴェルフさんにはもう少し財政の事を考えて欲しいもんですね」

 

その影の持ち主は背中に巨大な槌(ビック・ハンマー)を背負っている小柄な少女、小人族(パルゥム)のリリである。自身の五倍ほどもある槌を軽々と背負っている彼女は、難しい顔をしながら鉄籠手に挟まれているメモ用紙を凝視していた

 

「まぁまぁ、ヴェルフのお陰でその武器も完成したんだし、今回ぐらい多めに見てあげたら?」

 

「それはそれ、これはこれですよ、ベル様。【ヘスティア・ファミリア】は今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)のお陰で絶賛財政難なのですから、出費は出来るだけ抑えないといけません」

 

「で、でもイザとなったら、お金の事は任せろってイシュタル様が―――」

 

「幾ら従属神だからってお金の貸し借りはもっと考えないと駄目ですよ!!」

 

「す、すみません」

 

その鋭い指摘にベルは縮こまる。リリがここまできつく言う理由は、ひとえに【ヘスティア・ファミリア】の莫大な出費と激減した稼ぎにあった。少し前までは、まだ中層で荒稼ぎした金で何とかなっていた。と、言うよりも稼ぎ過ぎていたぐらいだ。それは異常なモンスターの大量発生を完璧に処理し、近くに換金出来る街(リヴィラ)がある事が主な要素だったのだが、つい先日ダンジョンに潜った所、中層以上の階層の大量発生がピタリと無くなったのだ。

 

それは正しく【ヘスティア・ファミリア】にとって―――いや、その稼ぎを計算に入れていたリリルカ・アーデにとって青天の霹靂とも言える異常事態だった。

 

幸い、下層からはいつも通り『怪物の宴(モンスター・パーティー)』の連続発生が起こったのだが、馬鹿みたいな数の閃燕(イグアス)が飛び交うような所で手に入れた魔石を守りきれず、結果的に37階層の階層主(ウダイオス)の魔石と他のモンスターの魔石合わせて数千万ヴァリスしか稼げなかったのだ。

 

これは大量の武器素材と回復(ポーション)系統を常日頃浪費する【ヘスティア・ファミリア】には由々しき事態である。

 

「全く、ベル様も色さんもヴェルフさんに甘いんですよ。確かにい良い武器を作ってくれるのは感謝しているんですけど、それだけ出費が重なるって事も理解して欲しいもんですね」

 

「はい、ごめんなさい。反省します」

 

つらつらと流れるように滑り出した小言(マシンガントーク)にベルの頭は上がらない。そのまま歩きながら謝罪し続けなければならないのか、ベルがそう覚悟したその時、思わぬ所から救いの手が差し伸べられた

 

「やぁリリ、こんな所で会うなんて奇遇だね」

 

黄金色の髪に、リリと同じぐらい低い身の丈。子供のような外見にかかわらず、大人の貫禄を纏った小人族(パルゥム)、【ロキ・ファミリア】の首領、フィン・ディムナ

 

並みの冒険者なら出会っただけで動揺するであろう第一級冒険者の登場に声を掛けられた張本人はというと

 

「また貴方ですか、勇者様」

 

溜息を吐きだしそうな程、心底面倒臭そうな瞳で対応するのであった。

 

「ははは、随分辛辣だね。でもここで会ったのも何かの縁だ、良かったら一緒にお茶でもどうかな?」

 

「はぁ?これで五回目なのに偶然って言い張るんですか?【勇者(ブレイバー)】なんて呼ばれてるわりには随分小賢しいんですね、勇者様?」

 

「は、ははは、手厳しいね」

 

(リリィいいいいいいいいい!?)

 

いくら戦ったとはいえ、オラリオの有名人に対する容赦のない毒舌にベルの胃が締め付けられる。

 

「それで、良かったらお茶でも」

 

「行く訳無いじゃないですか。これまで四回とも同じ返答なの覚えてないんですか?勇者様?」

 

そう、リリの言う通りフィン・ディムナは色が本拠(ホーム)に帰ってから計四回こうやって偶然を装いリリを誘っていた。それは彼が掲げる一族の再興に彼女が必要だと判断したからであり、その事情をある程度解っていたリリも最初はここまで塩対応はしていなかったのだが、とある事情により関係は最悪な物になりつつあった。

 

「そうか、すまない。またころ合いを見て――――」

 

「来なくていいですから!!馬鹿なんですか貴方は!?いい加減にしてください、リリはですね!!」

 

「リ、リリ落ち着いて!?ほら、あまり騒ぎ大きくするとあの人が来るよ!!」

 

「わかっていますよ!!でもしょうがないじゃないですか!!この腐れ勇者様はそれが狙いなんですよ!!!」

 

叫ぶリリはもう手遅れだと感じていた。何故なら、今までしつこく食い下がってた男が忽然と姿を消したからだ。代わりに鳴り響く地響きとうなり声、大通りにひしめく群衆をかき分け、とある少女が怒りの形相で向かってくる

 

「リィリィルゥカァアァアアアアアデェェェェエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

そのアマゾネス名はティオネ・ヒリュテ。黒い正気を漂わせた彼女は、ドドドドドドドドドッと地鳴りを起こしながら突き進み、リリの前で停止した。今にも殺しそうなほどの殺気を放っている凶戦士(バーサーカー)に対し、小さな小人族(パルゥム)の少女は

 

「ちょっと顔が近いんですけど離れて貰えませんかねぇ、ヒリュテさん?」

 

一歩も引かずに真っ向から鬼のような形相で睨み返した

 

「おいヤベェよ、ヤベェよ」

 

「ひぃぃぃい、神様お助け!!」

 

「黒金が最近やらねぇと思ったら今度はあいつ等かよ!?勘弁してくれ!!」

 

周りの人間は被害が及ばない範囲に脱兎のごとく逃げていく。最後に残った兎は冷や汗をかきながら、これから始まる勝負を見届ける為に僅かに身構えた

 

「全く、毎回毎回面倒臭いですねぇ。いいでしょう、せっかくのデートを邪魔されてイライラしてる所ですし今回の勝負はリリの一撃を100(メドル)まで耐えられたら勝ちにしてあげますよ」

 

「小娘が粋がりやがって!!上等だ、どこからでも掛かってきやがれ!!!」

 

その場でドカッと胡坐を掻き完全な待ちの態勢に入ったアマゾネスに、リリは容赦なく背中の巨大な槌(ビック・ハンマー)を持ち上げた。すると鉄籠手から雷が生じ、瞬く間に巨大な槌に絡みつき、瞬間リリの足元がその重量に耐え切れずひび割れる。

 

「言っときますけど、この『観醉屡爾鏤(ミョルニル)』はリリが持った最重の鎚です。生半可な覚悟じゃ――――死にますよ?」

 

その光景を遠目から見ていた民衆は、顔を真っ青にしており、流石の【怒蛇(ヨルムガンド)】もゴクリと生唾を飲み込む。しかし闘気は衰えず、更なる覚悟を持った目で睨んで来る凶戦士(ティオネ)(リリ)は犬歯を見せて獰猛に嗤う

 

「いいでしょう。そこまでの覚悟がおありなら、リリも全力を見せましょうか」

 

ブワッ

 

そう言ったリリルカ・アーデの体から、突如白い霧が発生した。

 

その瞬間ティオネは目の前の小人族(パルゥム)が何倍にも膨れ上がったような感覚に陥る。勿論、それはティオネが作り出した幻覚で実際にリリが大きくなった訳ではないのだが、この霧に包まれた人間全てが、小人族(パルゥム)の少女が巨人に見える錯覚に陥っていたのだ

 

誰一人動行けない空間の中で

 

ただ一人、白髪の少年だけは声を荒げる

 

「リリッ!!白い霧は駄目だよ!!!!」

 

しかし、その声が届くのはあまりにも遅すぎる

 

(嘘………でしょ)

 

―――死ぬ

 

アマゾネスの凶戦士は振りかぶられた大槌に数秒後にある自身の結末を視た

 

あれは耐えられるなんて次元の物ではない

 

あれは防ぎきるなんて次元のものではない

 

あれは生き残るなんて次元のものではない

 

確実な死、引き伸ばされる時間

 

しかし、しかしだ

 

この一撃を堪え切れたら愛しき人と一夜を過ごせる

 

走馬燈に映る自身の思い人がティオネを心の底から奮い立たせた

 

(負けて堪るか!!!!)

 

両腕をクロスさせ、頭を低くする

 

完全な守りの態勢、覚悟を決めたに、鬼の一撃が襲い掛かった

 

ドンッッ!!

 

「な!?」

 

「あぁ」

 

「へ?」

 

しかし少女は成す統べなく100(メドル)以上吹き飛ばされる

 

「えっと、リリ?」

 

槌を持っている逆の手に持たれている風の魔剣によって………

 

「てんめぇぇえええええ!!!糞小人族(パルゥム)がぁぁぁあああ!!どうしてその槌で攻撃してこねぇ!!!」

 

「いや、本気でやる訳無いじゃないですか。さ、今回の勝負もリリの勝ちだったんですからとっととお家(ホーム)に帰って下さい」

 

「んだとぉ!!!」

 

100(メドル)以上の距離をひとっ飛びで無くしたティオネに、リリは先ほどの威圧感が嘘だったかのような笑顔でこう答えた。

 

「いいんですか破って?貴方と勇者様の大事な大事な契約ですよね?」

 

満面の笑みで言い切った小人族(パルゥム)にティオネは若干涙目になりながら

 

「ううぅぅ、わかったわよ!!次は勝ってやるんだから首洗って待ってなさい!!」

 

捨てセリフを残しながら大人しく退散し

 

「いや、どっちかっていうと貴方が待っているのでは?」

 

「リリも大変だね」

 

「「はぁ………」」

 

後に残された【ヘスティア・ファミリア】の二人は大きく肩を落とすのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オラリオ中心にそびえ立つ摩天楼施設『バベル』

 

その三十階層の大広間は、いつにない喧騒に包まれていた。

 

神会(デナトゥス)』である。

 

暇を持て余した老若男女の神々がこぞって出席し、何時もは名ばかりの諮問機関を開催しているのだが。今回は異色の一人の少女が神々を沸かせていた

 

「はいはーい!!わたしは『桃饅頭(ハピ☆ナス)』がいいと思います!!」

 

「おおおおおお!!流石ウィーネちゃんだ!!」

 

「ナイス二つ名!!」

 

「いやー、こんな可愛い子に命名して貰って、その子供も幸せだな!!!」

 

「ねぇねぇ、わたし凄い?」

 

「「「「「「「「「「「凄い!!凄い!」」」」」」」」」」」

 

「えへへー」

 

進行は滞りなく進み、二つ名を決める命名式で竜女(ヴィーヴル)の眩しい笑顔が神々に炸裂。するとまるで孫を持った爺婆並みに神達は破顔した。

 

「「「「「「「ウィーネたん超かわいい!!!!」」」」」」

 

「やめてくれぇえええええええええええええええ!!」

 

たった一柱、痛い名前を付けられた子供の親という犠牲者を除けば………

 

「くふふ、ウィーネちゃんなかなか良いセンスしとるやんか。アレはドチビの仕込みか?」

 

「な訳ないだろ。アレはボクの眷属(こども)の入れ知恵だよ。はぁ、あれだけ純粋だったウィーネ君が、まさかあんな言葉を覚えるなんてね」

 

「入れ知恵?ウィーネが真似するという事は、やはり色か。ふむふむ、あのネーミングセンス。ふふふ、いくら力が強かろうと色もまだまだ子供という訳か」

 

「あ~イシュタル?言っとくけど色君は神々(ボクら)よりのセンスだから、あれは色君から学んだわけじゃないからね?ああっと、でも誰からの仕込みかは聞かないで欲しい、あの子の名誉の為にね」

 

ヘスティア、ロキ、イシュタルの三神は、異端児(ゼノス)を含めた異例の『神会(デナトゥス)』であるにも関わらず、自分の眷属(ファミリア)以外の事は関係無いとばかりに身内ネタに花を咲かせる。それは正しく強者の余裕と言うやつだ。

 

実際、【ロキ・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)を間近で見た神々は、推定A等級(ランク)に届きうる規格外のファミリアを約半年で育て上げ、あのイシュタルを従属神に下したヘスティアに戦々恐々としていた。異端児(ウィーネ)を連れて来ても、特に何も言われなかったのだから、その影響力は、隣にいるロキとそう変わらない程に肥大化している

 

「さて、それじゃあ次は貴方の眷属(こども)の二つ名を決めましょうか、ヘスティア」

 

しかし、そのヘスティアを挑発的に見る女神が一柱。珍しく今回の『神会(デナトゥス)』の進行役を買って出たフレイヤだ。部屋の片隅で本来の進行役だった大衆の神がいじけているが気にしてはいけない

 

「あぁ、そうしようか。フレイヤ」

 

ヘスティアの声を聞いた他の神々が、予め配られているギルド作成の資料をパラパラめくる。多くの神々はその最後の数ページを見て頬を引きつらせた。

 

「お、おいこれマジかよ」

 

「いやいやいやいや、流石にこれは………」

 

昇格(ランクアップ)した冒険者の数、六人。てか全員ってなんだよ………」

 

「しかも、前回の神会(デナトゥス)から2回【ランクアップ】してる子が一人居るぅぅううう!?」

 

予想以上の事態に円卓から大きなどよめきの声が広がる。流石に不正をしているのでは?と、次第に視線はロリ巨乳の女神様に向けられるが、何を勘違いしたのか当の本()は、どうだと言わんばかりにムフー!と鼻息を荒げていた。

 

「なぁドチビ?一応聞くけど神の力(アルカナム)使ってへんやろな?」

 

「はぁ!?使っている訳無いだろう!!これは、あの子達の血と汗と努力の結果だよ!!」

 

「わかったわかった。耳元で騒ぐなボケ」

 

(たく、不正疑われてんのをフォローしたろ思ったんがわからんのか。この能天気ドチビが!!)

 

と、言いたげに眉間に皺を寄せたロキがヘスティアから視線を外し隣を見ると――――――

 

「どうだウィーネ、そのお菓子は。最近外国から取り寄せたんだが美味いか?」

 

「うん!イシュタル様は甘ーいお菓子いっぱいくれるから大好き!!」

 

「そうかそうか、それは良かった。まだいっぱい取り寄せているから今度本拠(ホーム)まで来なさい。出来れば()と一緒にな」

 

「はーい!!」

 

命名式を一通り終えたウィーネを膝の上に乗せたイシュタルが外堀を埋めようと餌付けしている最中だった。

 

「ちょぉまて、イシュタル!!おどれなにウィーネちゃんから篭絡しようとしとんねん!?」

 

「ふん、悔しかったらお前もしてみたらどうだ?この貧乳神め」

 

「なぁんやぁとぉ!!その余裕ブッこいた顔、直ぐに吠え面かかせたるわ!!―――――なぁウィーネちゃん、ウチの所には、そこの腹黒女神より甘ーくて蕩ける様なお菓子い~ぱい置いてんねんけど、色君と一緒に」

 

「いかない」

 

「な、なんでや!?」

 

「わたし、ロキ嫌い」

 

「ガーン!!」

 

ここに勝者と敗者が決定した。まぁ、大好きな家族をボコボコにしたファミリアの主神という時点で、本来の作戦を聞かされていないウィーネはロキを悪者だと断定している結果なのだが……

 

「じゃあ、リリルカ・アーデの二つ名は【小さな賢者(クレバー)】で決まりになるけど、いいわねヘスティア?」

 

「勿論、それは本人の申告だから文句なんてある訳無いよ。皆も文句ないだろ?」

 

「「「「「「は、はい」」」」」」

 

ロキ、イシュタルがとある眷属の事で揉めている間に、小人族(パルゥム)の二つ名まで決まったらしい。普通なら本人の申告なんて通る訳無いのだが、ロキがフィンの二つ名を【勇者(ブレイバー)】にした時と同じく、力ある神の言葉に他の神々は逆らず、ただ首を縦に振る事しか出来なかった。

 

因みにヴェルフの二つ名は、ヘファイストスが神会(デナトゥス)をサボるぐらいヴェルフにお熱だからという理由で【不冷(イグニス)】と付けられていたりする。

 

「さて、次はこの子の番ね」

 

ざわ………

 

その名前を呼ばれた瞬間、室内の空気がガラリと変わる。ヘスティアはツインテールを揺らめかせ、先ほど落ち込んでいたロキは薄目を開き、ウィーネを優しく膝から下ろしたイシュタルは腕を組む

 

そして、唯一この三柱に真っ向から対立出来る美神が口元を歪めた

 

他の神々は、その空気が何時もの戦争(イザコザ)の規模とは違う事を漠然と感じる

 

すなわち、終末戦争(ラグナロク)が始まると

 

「そうね、【滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)超新星(ビックバン)究極の一撃(アルティメット)】なんてどうかしら?」

 

「却下だ!!!」

 

「駄目に決まってるやろ!!!」

 

「今度と言う今度は容認するもんか!!!」

 

「あら、お気に召さない?だったら【滅雷の神風(カタストロフィライトニングゴットブレス)超新星(ビックバン)絶望的な究極の一撃(デスペレイション・アルティメット)】なんてのは」

 

「増えとるやんけ!?」

 

「何で増やした!?」

 

「どうしてこうも色君に容赦がないんだ!?」

 

他の神々は天を仰ぎながらこう思った

 

今日は長くなりそうだな―、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ色君完全復帰&全員【ランクアップ】おめでとうパーティ、はっじめっるるよぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」

 

かくして、それぞれの日常が終わり迎え

 

「聞いてくださいアイズさん!!色と僕の二つ名がカッコいいんですよ!!」

 

「そうなの?」

 

「何喋ろうとしてんの!?恥ずかしいからコイツには言うなっつうの!!!」

 

「別に減るもんじゃないんですから、いいじゃないですか」

 

「そうだぞ色。俺だって【不冷(イグニス)】って二つ名を誇りに思ってるんだ。むしろかっこいい二つ名を付けて下さったヘスティア様に感謝すべきだぞ」

 

「そそそそうだね!!――――不味い、ヴェルフ君の二つ名の由来がアレだって事、どう説明しよう………」

 

「ふふふ、可愛さでは(わたくし)の二つ名が一番ですね。なんたってウィーネちゃんが付けてくれたのですから!!」

 

「えへへ~褒められちゃった♪」

 

「良かっタデスね、ウィーネ」

 

「うへへぇ、ラーニェ殿はまだ飲んでないんですかァ、ほら折角の宴なんですから飲まなきゃ損ですよぉ」

 

「お、おいまて命、お前もう酔ったのか!?ちょっ、無理矢理呑まそうとするな!?」

 

「今ハ我々ノ奢リダタラフク食べテクレ」

 

「おいおい、そう言いながら俺っちの肉に手を出してんじゃねぇよグロス!! 」

 

異端児(ゼノス)達が自らが崇める神との約束を守る為に、自分で稼いだ金で行われる宴が始まったのだが

 

「随分煩い店だな。本当にここで合ってるのか?バーチェ」

 

「ティオナが言うにはここで合ってる筈だが……さて、少々あそこの騒がしいのを黙らせるか」

 

数舜後、宴の会場のとあるお店が戦場に変わってしまうのはまた別のお話である

 

 

 




今回はヘスティア・ファミリアの大幅なテコ入れ回ですね。次はもっと速く書けるとイイナ―


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第43話 酒場

酒場と言えば?


人の従来が絶えないオラリオのメインストリート

 

様々な酒場が開店の用意を始める日が沈み始めた時間帯に、周りにある酒場の中でも一番大きな店の中に一人の少年が入っていった。

 

「チィース」

 

「まだ店は開いてないよ―――って色坊かい、どうしたんだい?」

 

「えっと、今日五人ほど予約したいんですけど大丈夫ですか?」

 

「今日かい?随分唐突だね。まぁとりあえず座りな」

 

カウンターの中で忙しなく手を動かしていた女店主がパタパタと走り回るウェイトレスに声を掛け、色をカウンター席に座らせる。

 

程なくして猫人(キャトピーブル)の少女が飲み物をカウンターに置いた所で、店主は手を休めて少年の方に顔を向けた。

 

「何時も前日には予入れてるあんたにしちゃあ、珍しいじゃないか」

 

「いやー、ちょっと森の妖精を怒らせてしまいましてね。ほら、女の子って引きずると怖いじゃないですか」

 

「なんだい女かい?色坊も隅に置けないねぇ」

 

呆れた様子の店主に色は、あははーと誤魔化しの笑い声を上げた後、カウンターに置かれた飲み物に口を付けた

 

「まぁ今日は空いてるからね、予約なら大丈夫だよ」

 

「マジっすか!!いや~良かった良かった!!」

 

「その対価と言っちゃなんだが、この前のやっておくれよ」

 

「お安い御用っスよ!」

 

言うと同時に色はカウンター席から立ち上がり店主の双肩に掌を置き

 

「どうっすか。ここら辺でいいですか?」

 

「あぁ、いいねぇ。そこだよそこそこ」

 

レベルが上がってから更に磨きかかったスキルを使い、店主の肩コリをほぐしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから悪かったって。許してくれよレフィーヤ」

 

「許すとか許さないとか、そういう問題じゃないでしょう!?」

 

色とりどりの料理が並べられている机の上でパンッと両手を合わせて謝る俺に、レフィーヤはその整った顔をプンスカさせながら、声を荒げた。

 

「大体、何の確認も無しに魔法をぶっぱなすって頭おかしいんじゃないんですか!?」

 

「いやー、何時も流れでやってたから、ついやってしまったんだ」

 

「ついってなんですか!!ついって!!!」

 

どうやらこの年下のエルフは俺の精一杯の謝罪がお気に召さない。よし、それじゃあ物量作戦だ

 

「とりあえず、これでも食べて落ち着けって。今日は俺の奢りだぞ~」

 

「ハグッ!?」

 

口に突っ込んだのは『豊饒の女主人』自慢の一品、極上の素材を外国からわざわざ取り寄せ、手間暇掛けて作られた究極の『合鴨ロース』。

 

薄く切り分けられたそれを口に放り込まれたレフィーヤは、リスの様に頬をもごもごした後、ゆっくりの口の物を飲み込み、まるでこの世の全ての快楽を口の中で味わった表情をした後こう言った

 

「こんな美味しい物を頂いても誤魔化されませんからね!!」

 

「チッ、騙されなかったか」

 

「ローガさん、色さんはウィリディスさんに何をしたのですか?」

 

「あぁ?アイズを探して本拠(ホーム)に入ったアイツを入団試験に巻き込んだんだとよ」

 

「都市で最も厳しいと噂されてる【ヘスティア・ファミリア】の入団試験に?それは災難だったねぇ、レフィーヤちゃん」

 

俺とレフィーヤのいざこざを尻目に、今日集まった37階層攻略パーティー(ベート君、ミィシャさん、リオンさん)の三人は助ける素振りなんて微塵も見せずに談笑しながら食事を続けていた。

 

たまにはこのメンバーで集まろうと考えていた所にレフィーアが丁度現れたから声を掛けたのだが、せっかくの酒の席だというのに、まだ今朝の事を怒っているらしい

 

「もう、聞いているんですか色さん!!」

 

「わかったわかった。じゃあどうやったら許してくれるんだよ?」

 

「ふふん、それはですね」

 

即座にドヤ顔を向けて来る辺り、既にどうやったら許すか決めていたのだろう。

 

「私を【ヘスティア・ファミリア】の遠征に同行させてください!!!」

 

「いいよ」

 

「即答ですか!?」

 

怒った顔がちょっと面白かったから今までのらりくらりと躱していた、なんて言ったらもっと怒るんだろうなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも本当にそんな簡単に決めちゃっていいんですか?」

 

「良いって良いって、むしろレフィーヤみたいな強いエルフなら大歓迎だって」

 

「そ、そうですか……」

 

強いという言葉に照れたのか、それとも酒のせいなのか、若干赤らめた顔に両手を持っていくレフィーヤ。そんな可愛らしいエルフに更に飲み物を奢ってやるとしよう

 

「店員さーん!!キンッキンに冷えた麦酒持ってきて!!」

 

「はーい!!」

 

返事をしたのは、ここで住み込みで働くことになった半人半鳥(ハーピィ)のフィアだ。忙しそうな店内で、パタパタと羽根を揺らす彼女は、笑顔を絶やすこともなく、注文をこなすため厨房の奥に入っていった。

 

「あっという間に異端児(ゼノス)さん達オラリオの町に馴染みましたねぇ」

 

「だろ?頑張った甲斐あったってもんだ」

 

そう言いながら両手を後頭部で組み、背もたれに体重を預ける。今思えば本当に上手いこと事が運んだよな。一歩間違えたらどうなっていた事やら、少なくとも協力者が一人でも欠けていたらこうはならなかっただろう

 

チラッとその協力者の一人であるミィシャさんに視線を向けてみた。

 

「ングッングップファ~。んんー!!久々の休日に飲むお酒さいこ~。店員さーん麦酒もう一本追加で!!」

 

「はーい!!」

 

(あね)さん、あまり飲み過ぎると明日の仕事に差し支えますよ?」

 

「大丈夫だって。心配性だなぁバーバルちゃんは!!」

 

ミィシャさん、日々の仕事に疲れたおっさんみたいになってますよ。バーバリアンのバーバルちゃんはそれでも、長い期間匿ってくれたミィシャさんに恩を返すため、彼女に対してまるで執事の様に接しており、今日だって甲斐甲斐しく料理を切り分けたりしている。

 

「おい、持ってきてやったぞ」

 

それから暫く話ながら飲んだり食べたりしていると背後からぶっきらぼうな声が、釣られて後を向くと真新しいウェイトレスの衣装を着ているアマゾネスが慣れない接客している姿が視線に映った。

 

いやー、随分面白いことになってんな。ちょっと声かけてみるか

 

「店員さーん!!接客してんだからもっと笑顔を見せた方がいいですよー!!」

 

「そうだぞ、アマゾネスの姉ぇちゃん!!」

 

「他の店員を見習えー!!!」

 

「笑った方が可愛いよー!!!」

 

「なっ!?お、お前ぇ!!!」

 

俺の大声を合図に周りの冒険者が一斉に一人のアマゾネスを囃し立てた。その光景をはっはっはっーと笑い飛ばしていると、店員が顔を真っ赤にしながらズンズンと此方へ向かってくる

 

「ええ!?ししし色さん!!何挑発してるんですか!?ちょっとあの店員さんこっちに向かって来ますよ!?」

 

慌てるレフィーヤを尻目にその店員はドンッ!!とテーブルに両手を力強く叩きつけ、綺麗な顔と砂色の髪に似合わない形相で俺を睨みつけて来る

 

ま、それぐらいの事しか出来ない訳なのだが

 

「あぁ?なんだよバーチェ、文句あんのか?」

 

口元に弧を描き挑発するような口調で喋りかける俺に、彼女は「うっ……ぐっ……何でもない!!」とだけ言って予想どうり何もせず店の接客に戻って行った。

 

「あ、あのー色さん?今バーチェって名前が聞こえた様な気がするんですけど……」

 

「おい糞鴉、あのアマゾネスに何しやがった?」

 

何故か恐る恐るといった感じに聞いて来るレフィーヤと面倒そうに聞いて来るベート君。もしかして二人ともバーチェと知り合いだったのかな?

 

「あ、そっか。【ロキ・ファミリア】ってカーリーの所と戦った事があったんだったっけ」

 

「「!?」」

 

ポンッと手を打つと驚いた顔をする二人。あれ?これ言っちゃダメなやつだったっけ?

 

て痛い痛い!!

 

「ベート君!!頭超痛いんだけど!?」

 

「テメェは!!何処まで調べてやがった!!!」

 

拳で米神をグリグリされて涙目になりながら、戦争の時の主な情報源に目を向けた。

 

助けて『情報の魔女(ピンク・レディ)』!!!

 

ニッコリ

 

ですよねー、うっかり口を滑らした俺が悪いですよねー

 

「まぁまぁ、落ち着いてくださいローガさん」

 

「そ、そうですよベートさん。一応【カーリー・ファミリア】との件は終わったんですし。それに、もう色さんの顔が真っ青に………」

 

「チッ」

 

「ノおおおおおお!!!!」

 

「確か色君達は【カーリー・ファミリア】との勝負に勝ったから、何でも言う事を聞かせる権利を使ってバーチェさんを豊饒の女主人(ここで)で働かせてるんだよね」

 

「えぇ!?」

 

「はぁ!?」

 

解放された頭を抱えながらのたうち回っていたらミィシャさんが事の経緯を説明してくれたらしい。わりと最近の出来事だけどやっぱり知ってたんですね。

 

「まぁ勝った権利って言っても五億ヴァリスほど請求しただけですよ。それでカーリーたちがダンジョンで稼ぎ終るまで人質としてうちで預かってるバーチェをここで働かせてるって訳です」

 

「いやいやいや、あの【カーリー・ファミリア】に勝っちゃったんですか!?どうやって!?」

 

「え?腕相撲でだけど」

 

「腕相撲!?」

 

そう、腕相撲だ。

 

宴会を開いている時に喧嘩を売って来たバーチェとアルガナは、俺達の有用性をさりげなく理解させ負けた方を好きなように出来る権利をチラつかせただけで何の疑いも無くこっちが提案した勝負内容に自信満々に承諾してきた。あとは簡単だ、力比べをうちの力値最強にあっさりと勝ってもらうだけ。

 

正しく【カーリー・ファミリア】はカモがネギを背負ってやってきた感じですね!!とはうちの力値最強の談である

 

「それにしても【ヘスティア・ファミリア】が指定した条件で勝負するなんて馬鹿だよねぇ」

 

「確かに、周りの冒険者が必死に止めていたのを聞かなかった彼女達は擁護のしようもなかったですね」

 

そうそう、店の中じゃ迷惑掛かるからって机引っ張り出して外でやる事になったんだけど、その時周りの冒険者が凄い騒いでたんだよな…………ん?

 

「あれ?リオンさんあの時の居たんですか?」

 

「えっ!?――――あっ!!」

 

「大丈夫ですか?」

 

俺の何気ない質問に酷く動揺したのかリオンさん手に持ったコップを落しそうになった。まぁ、この人レベル高いから空中でキャッチしたんだけど、それにしても何でこんなに動揺したのだろうか?

 

「あの……」

 

少しだけ気になった俺はリオンさんに更に質問を重ねようとして――――

 

「なははは!!!こんな所で立ち止まって何してんですか!!!丁度いいです一緒に飲みましょう!!!」

 

「ちょっ、待って!?」

 

「な、何だ貴様は!?」

 

姦しく店の中に入って来た3人に先の言葉が見事に潰されたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切っ掛けは、だし巻きや枝豆などのおつまみが追加された頃合いにレフィーヤが「私、今度【ヘスティア・ファミリア】の遠征に着いて行くことになったんですよ」と口を滑らした事だった

 

まずそれに反応したのは自称偶々通りがかっただけの【剣姫】だ。

 

彼女は言う「どうしてレフィーヤは良くて私は駄目なの?ずるい」と

 

次に反応したのは自称偶然通りがかっただけのエルフだ。

 

彼女は言う「貴様らみたいな危険な集団にレフィーヤを任せる事は出来ない」と

 

最後に反応したのは店の前でコソコソしていた二人を酔った勢いで店内に引っ張って来た小人族(パルゥム)だ。

 

彼女は言う「おかわりくださーい!!!」と

 

「リリ、幾らなんでも飲み過ぎだぞ。てか、お前ソーマさんの所に顔見せに行ってたんじゃないのかよ?」

 

「あぁ、ちょっと飲み比べしてたらファミリア全員飲み潰れてしまったんですよね。本当はまだまだ飲み足りなっかったんですけど勝手にお酒を貰う訳にはいかないじゃないですか。それで、色さんがここに居る事を思い出しまして飲み直しに……と」

 

「向こうでも飲んで来たのかよ。お前そんな酒好きだったっけ?」

 

「うーん、そんな事はなかったんですけどねぇ。何かレベルが上がってから体がお酒を求めてるって言いますか……お、来たようですね。色さん、乾杯です!!」

 

「たく、しゃーねーなぁ」

 

「「かんぱーい!!」」

 

「かんぱーい!!じゃないですよぉ!?こっちから目を逸らさないで下さい!!!」

 

やたら無表情の二人に挟まれて完全に酔いが完冷めてるであろうレフィーヤの涙声が、ジョッキを打ち付け合った俺達に突き刺さる。いや、リリは完全にお構いなしに酒を煽っていた。何時も思うけど、この子抜け目ないって言うか結構図太い所あるよね

 

「てか、フィルヴィスさんは【ロキ・ファミリア】じゃないしレフィーヤの事に深く突っ込まない方が良いんじゃないの?」

 

そう言いながら店主が持ってきたジョッキを純白の衣装を着た黒髪のエルフの前に差し出した。彼女は少しだけ躊躇するも、それを受け取り一気に煽る。その飲みっぷりに感心するのも束の間、ドンッと空のジョッキが机に叩き落とされた

 

「いいか!!【悪夢を運ぶ黒翼(クロウ・ザ・ナイトメア)】!!!」

 

「おい、その二つ名で呼ぶの止めろや」

 

「お前達は世間からどれぐらい危険な存在に思われてるか理解しているのか!?」

 

話し合いじゃ埒が明かないからと、くじ引きで決められた痛恨の二つ名を叫んだフィルヴィスは、俺の制止に全く耳を貸さずに話を続ける。リリは自分が進言した二つ名になったのにどうしてこうなった

 

とりあえず今度から神会に行くときはヘスティアに開運のお守りを持たせることにしよう。

 

「ダンジョンに入れば大規模な『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が必ず起こり、ダンジョンから出ても問題が絶えない!!そこの小人族(パルゥム)も最近は【怒蛇(ヨルムガンド)】と争っていると聞いたぞ!!こんな無茶苦茶で馬鹿みたいなファミリアにレフィーヤを任せられるものか!!!!」

 

「あ、あのぅ、【怒蛇(ヨルムガンド)】は私のファミリアの先輩なのであまり悪く言わないで欲しいんすけど」

 

「勘違いしているようですが、あれは向こうが絡んできてるのであってリリは被害者ですから」

 

レフィーヤは遠慮がちにリリはだし巻き卵をつつきながら反論するが、顔を赤らめたエルフは関係ないとばかりに俺に詰め寄って来た。

 

「そもそもお前みたいな胡散臭い男は信用ならん!!!」

 

「いやいやいや、好き勝手言ってくれるけど着いて行きたいって言ったのレフィーヤだからね?」

 

「それもお前が唆したのだろう!!!!」

 

何この酔っ払い、凄い腹立つんですけどー。リモコン忘れてなきゃ速攻廃人にしてたからね

 

「だったらもシャリアさんも着いた来たらいいじゃないですか」

 

「ちょっとリリさん、いきなり何言ってんですか?」

 

「色さん、どうせ一人や二人増えた所で変わりませんよ。それで、どうですか?」

 

「臨むところだ!!!」

 

「あれ俺の意見は?俺、副団長なんですけど………」

 

もうヤダこの酔っ払いども

 

「大変だねぇ、色君」

 

「お前も苦労してんだな」

 

ベート君とミィシャさん、労いの言葉を掛けてくれるのは嬉しいんですけど口元がニヤけてますよ。

 

「色、私も……」

 

「お前は駄目に決まってんだろ」

 

「!?」

 

いや、そんな絶望的な顔されても、お前だけは絶対に連れて行かねぇから。ただでさえ付きまとわれてるのにダンジョンまで顔会わすとかありえねぇから

 

「あ、あの、良かったらアイズさんも連れて行って貰えると……」

 

「レフィーヤの頼みでも却下。大体俺達のパーティーにコイツは飛び抜け過ぎてんだよ。レベル3とか4とかしか居ないのにレベル6なんて連れて行けるか」

 

「うぅ、でもですね………えっと……」

 

下を向いて落ち込んでるアイツを見て、オロオロするレフィーア。だが残念、俺の理論武装には強い味方が付いているのだ

 

「俺達みたいな中堅ファミリアの遠征にレベル6を連れて行くなんてギルドが許すわけないですよねぇ、ミィシャさん?」

 

そう、我らがギルドマスターミィシャ・フロッドさんがここ居ますのですよ。結構ルールに緩いこの人でも流石に遠征に第一級冒険者を連れて行くのは許可しないだろう。

 

さぁ、無理だって言っちまってくだせぇ!!

 

「えっ?別にいいんじゃないかな?」

 

「うへぇ!?」

 

あれ、なんで!?あまりにも予想外の返答だったから変な声出たわ!!

 

「おかしくない!?だって俺達のファミリの最高レベルが4なのにレベル6なんて連れて行ったらパワーバランス崩れすぎじゃん!!」

 

「確かに普通のファミリアじゃあそうかもね。で・も・ね」

 

そこで言葉を区切るとミィシャさんの人差し指が俺の鼻先に突き付けられた。あ、これ不味いパターンだ

 

「【ヘスティア・ファミリア】の等級(ランク)は幾つだっかな~?」

 

「………Bです」

 

「ハイよくできましたぁ。これがDなら許可しないんだけど派閥の格付けとしてB相当なら、例えレベル4が最高レベルでも一人ぐらい第一級冒険者を連れて行っても誰も文句言えないんだよね~。まぁ本来、レベル4が二人だけの【ファミリア】がB等級(ランク)ってのが異常なんだけどさ」

 

あれ?理論武装とはいったい………。てかミィシャさん俺に対する嫌がらせで遊んでるだけですよね!?

 

「てへぺろ☆」

 

あざといぃぃぃいいいいいいいい!!!!

 

「じゃあ、着いて行ってもいいの?」

 

「良かったですね、アイズさん」

 

舌を出してウィンクしてきたミィシャさんに頭を抱えているとそんな不穏な声が耳に入る。まてまてまて、この流れは非常に不味い!?

 

ドンッ!!

 

「却下です!!!」

 

俺が口を開く前に叩きつけられたグラス。音の発生源は―――

 

「え?何でここにいるの春ちゃん。確か【イシュタル・ファミリア】の宴会に呼ばれてたんじゃ……」

 

「二次会だよ、二次会。久しぶりだね黒鐘、【栄光を導く白脚(グローリー・ラビット)】は元気かい?」

 

新しく付けられたベルの二つ名を口にしたのは、踊り子の衣装を纏ったアマゾネスの女性。彼女は他のアマゾネスが座っている席から自分の椅子を持ってこちらに歩いて来た。

 

「おぉ、久しぶりですねアイシャさん。うちの団長なら呆れるぐらい元気ですよ。今夜もうちの主神とデートしてるぐらいです」

 

「へぇ、中々お盛んじゃないか、あの発情兎。どれ、隣いいかい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

少しだけ詰め、隣に座って貰う。割と大きめのテーブルを予約しといてよかったぜ。

 

「貴方は少々【ヘスティア・ファミリア】に関わり過ぎです!!ヘスティア様やリリ様が寛大でなければ、本拠(ホーム)に無断で入るなんて暴挙、この【プリンセス・天狐(てんこ)】が絶対に許しませぬ!!!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ちょっといきなり何なんですか貴方は!!アイズさんに失礼ですよ!!!」

 

「貴方こそ何なんですか?これは(わたくし)の【ファミリア】と、この方の問題です。余計な口は挟まないで下さいませ!!」

 

うわー、春ちゃん顔真っ赤にして相当酔ってるな。まぁ酒あんま強くないのに二次会なんて行ったんだから、そうなるわな。それと、本人が気に入ってるから面と向かっては言えないけど、あの二つ名を高らかに叫ぶのは本当に恥ずかしいから止めて欲しいです。

 

「おい鴉。あの狐人(ルナール)は大丈夫だったのか?」

 

レフィーアと春ちゃんが今にも幕開けそうなキャットファイトを止めようとしたら、不意にベート君から声を掛けられた。恐らく戦争遊戯(ウォーゲーム)の時の怪我の事を言っているのだろう。その割と真剣眼差しに、まさか……と俺は思い、一言

 

「惚れた?」

 

「違うわ!!殺すぞ糞鴉!!!」

 

「だよねー。いやー、ベート君にはレナちゃんが居るもんねー」

 

「本当に殺すぞ!?」

 

ガチの殺気を飛ばして来たので冷や汗を掻きながら、冗談だって、と慌てて両手を振った。うーん。レナちゃん可愛いと思うんだけどなー

 

「と、とりあえず春ちゃんはあの通り五体満足で元気ですよ」

 

「……………」

 

「ベート君?」

 

「チッ、なんでもねぇ」

 

それ以上会話をしたくないのかベート君はグビッとジョッキの中身を勢いよく煽った。何だったのだろうか?まぁ、そんな事を考えてる暇なんてなくなった訳だなのだが

 

「わたしはしきとダンジョンにいきたいの!!!」

 

さて、問題です

 

この子供みたいに駄々をこねて、座った俺に正面から抱き着いて来てるのは誰でしょう?

 

「しきぃ、いっしょにダンジョンいこ?」

 

答え?もちろん

 

「離れてください!!!アイズ様!!」

 

「離れてください!?アイズさん!!」

 

酔っぱらったアイズ・ヴァレンシュタインさんでしたー

 

誰だこいつに酒飲ませやがった奴!!!

 

「おい!?離れろっつうの!!!」

 

「やーだー!!しきがいっしょにダンジョンいくっていうまではなれないもん!!」

 

「何が、もん、だ!!子供かお前は!!」

 

レフィーアと春ちゃんが懸命に引き剥がそうとしてくれてるが、レベル6のコイツを引き剥がせるわけも無く、力の方向(ベクトル)を操っても酔っぱらったコイツは更にギュッと抱きしめる強さを増していくばかりで殆ど無意味になっている。

 

こういう時は、うちの力値最強に頼むとしよう

 

「助けてリリえもん!!!」

 

「全く、しょうがないですねぇ」

 

そう言うとリリは新たな《スキル》を使い、その小さな体から黒い霧を噴出させて自身に纏わせた。ひゃっほう、やっちゃってくだせぇ、リリの姉御!!!

 

「………うぷ………す、すいません。ちょっとトイレに……」

 

「えぇ!?」

 

そう言うとリリの姉御は纏った霧を霧散させ、店の奥に―――どうやら朝から飲み続けた弊害がここに来て現れたようだ

 

ヤベェこれどうしよう、《スキル》のお陰で一応染めつける痛みは殆どないけど、このままじゃ俺の世間体が非常に不味い。

 

他に何か打開策は………お?

 

「お、おいバーチェ!!助けろ、お前の力ならコイツを引きはがせるだろ!!」

 

「すまないな、私は今仕事中だ」

 

あの女、それだけ言って厨房の奥に引っ込みやがった!?くっそ、注目がここに集まってやがる、明日の情報誌にスキャンダルで取り上げられでもしたら目も当てられねぇぞ

 

「ベート君助け――」

 

「自分で何とかしやがれ」

 

ですよねー。ベート君そこまで甘くないですよねー。

 

「いい加減離れろ!!!」

 

「やだ!!」

 

「は、離れてくださいアイズさん!!―――でも酔っぱらったアイズさん可愛い……」

 

「貴方はいつもいつも色様とくっつき過ぎですよ!!!」

 

「あはは~、色君顔真っ赤だ~」

 

「なんだい、黒鐘も隅に置けないじゃないか。こりゃ、うちの主神様も大変だねぇ」

 

因みにこの後ミアさんの拳骨が何故か俺の上に落とされ、更に俺に抱き着いたまま寝始めたコイツをダンジョンに連れて行くように約束させられたのであった

 

「全く、酒の席で女を泣かすんじゃないよ色坊」

 

「い、いやミアさん!?俺とコイツはそんな関係じゃないんですって!!」

 

世の中って本当に理不尽だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンの遥か下、深い深い階層

 

過去、迷宮都市の頂点に君臨していた【ゼウス・ファミリア】が名付けたそこの名前は『竜の壺』。

 

階層を無視して強力な砲撃を放つ『ヴァルガング・ドラゴン』

 

(メドル)もの紫紺の体を空に躍らせる『イル・ワイバーン』

 

本来なら都市最大派閥が決死の覚悟を持って攻略するその階層は―――

 

『ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

たった一体のモンスターによって地獄と化していた

 

それは唐突に生れ落ち、瞬く間にその場にいる竜達を食い尽くしたのだ

 

その光景を、まともな人間が見たならばこういうだろう

 

「悪夢だ」と

 

逃げようとする飛竜に食らい付く長い首

 

砲竜の砲撃を受けてもビクともしない漆黒の鱗

 

天にも突き抜けるほどの巨体

 

そして、周りを纏う瘴気。

 

その禍々しさは、かの黒龍にも匹敵するかもしれない。

 

『見ィツケタ』

 

しかし、周りに散らばっている食い散らかされた魔石をかき分け、その悪夢に近づく影が現れた。

 

『ゴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

 

無造作に近づいて来る生物に、一つの階層を単身で壊滅させた怪物は咆哮する。それは警告であり、あと一歩でも近づけば死ぬ事を意味していた

 

『ォォオオオオ……』

 

『コレデヤット』

 

だが、怪物よりも遥かに小さな影は歩みを止める事はなく、怪物も攻撃に移れない

 

『オオォ………』

 

『アノ外敵ヲ、コロセル』

 

まるで運命の様に二つの化物は近づき――――――

 

 




さて、次回はダンジョン回になります。

大規模になっていくキャラたちを上手く活躍させられるか心配であります……


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設定 能力参照 43話時点

気付いたら一周年越えてたので、記念としてステイタスを書こうと思った


黒鐘 色

 

 Lv.4

 力:I25

 

 耐久:I5

 

 器用:I35

 

 敏捷:I41

 

 魔力:I37

 

 耐異常:I

 

 祝福:G

 

 原石:B

 

 《魔法》

 

御坂美琴(エレクトロマスター)

 

・電気を自在に発生させる事ができる。

 

 《呪詛(カース)

 

食蜂操祈(メンタルアウト)

 

・特定の一工程(シングルアクション)による、精神操作

 

・自身のLv以下限定

 

・人類以外には失敗(ファンブル)

 

《スキル》

 

一方通行(アクセラレータ)

 

・範囲内の向き(ベクトル)を自在に操れる

 

・自身のステイタスにより能力増大

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

・レベルアップまでの最適化

 

・レベルアップ時の【ステイタス】のブースト

 

 

武器:雷霆(ライテイ)・リモコン(複数)

 

防具:学校の制服

 

種族:ヒューマン

 

隊列(ポジション):前衛・中衛

 

到達階層:40階層

 

所持金:56000ヴァリス

 

二つ名【悪夢を運ぶ黒翼(クロウ・ザ・ナイトメア)

 

本編主人公。いろいろあって異端児(ゼノス)に神として崇められたり、くじ引きで付けられた新しい二つ名によって周りから誤解されたりしているのだが、本人は全く知らなかったりする。というより、最近自分の天敵であった女性の変貌に戸惑いまくっておりそれどころでは無い模様。毎日くっ付いて来る彼女を本気で追い払えないのは、色の性格上仕方のない事だったりする。

 

目標は変わらず【ヘスティア・ファミリア】を世界で一番のファミリアにすること。

 

雷霆(ライテイ)99000000ヴァリス

 

不壊属性(デュランダル)

・【ヘファイストス・ファミリア】椿・コルブランド作。

・色の《スキル》と《魔法》を最大限生かすために作られた漆黒の籠手(スペリオルズ)

・とある映像を見た彼女が雷に質量を与える、と言うのがコンセプトで制作した防具。

・これを装備した色は、盾や剣などの形を持った雷を変幻自在に操れるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル  

 

 Lv.4

 

 力:H131

 

 耐久:I79

 

 器用:H126

 

 敏捷:H180

 

 魔力:I97

 

 幸運:G

 

 耐異常:H

 

 剣士:I

 

 《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

・速攻魔法

 

《スキル》

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

 

・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 

・懸想(おもい)の丈(たけ)により効果向上。

 

英雄願望(アルゴノゥト)

 

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

英雄本能(ガンダールヴ)

 

・武器装備時における全アビリティ能力高補正。

 

・格上との戦闘時のみ、闘志(おもい)の丈により効果向上。

 

 

武器:ヘスティア・ナイフ・白幻・黒幻

 

防具:兎鎧(ピョンキチ)Mk-X

 

種族:ヒューマン

 

隊列(ポジション):前衛

 

到達階層:40階層

 

所持金:28000ヴァリス

 

二つ名【栄光を導く白脚(グローリー・ラビット)

 

原作主人公。原作とは似て非なる経験をした事により、発現した発展アビリティやスキルの内容が少しだけ変わっている。彼の二つ名は色の二つ名を決めるついでにくじ引きで決められた。普段ならヘスティアが普通の二つ名にしてくれ、と断固抗議するのだが、色の二つ名を決める戦い(くじ引き)で精魂尽きてしまい、灰になっている所を流れで決められてしまった。因みにベル本人は凄く気に入っている。

 

白幻(はくげん)10000000ヴァリス

 

・ヴェルフ作。輝白色のロングナイフ。刀身は35(セルチ)

・ウダイオスとの戦闘で破壊された牛若丸と牛若丸弐式の代わりに制作。

一角獣(ユニコーン)の角を素材とし、毒を受けた際、刀身を用いる事で解毒効果も発揮する。

 

 

 

 

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

 Lv.3

 

 力:H111

 

 耐久:I31

 

 器用:I15

 

 敏捷:I16

 

 魔力:I7

 

 狩人:H

 

 破砕:I

 

《魔法》 

 

【シンダー・エラ】

 

・変身魔法

 

・変身後は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は失敗(ファンブル)

 

・模倣推奨

 

・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

 

・解呪式【響く十二時のお告げ】

 

《スキル》

 

縁下力持(アーテル・アシスト)

 

・一定以上の装備加重時における補正。

 

・能力補正は重量に比例。

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

・装備加重時における倍率補正。

 

・能力補正は重量に比例し上昇。

 

・力値限定。

 

萃力夢想(ミッシング・パワー)

 

・同恩恵を持つ者の『力』のアビリティ値を自身に上乗せ(レイズ)

 

選択発動(コマンドトリガー)

 

 

武器:観醉屡爾鏤(ミョルニル)

 

防具:鉄籠手(ヤールングレイプル)鉄のネックレス(メギンギョルズ)

 

種族:小人族(パルゥム)

 

隊列(ポジション):前衛

 

到達階層:40階層

 

所持金:78900ヴァリス

 

二つ名【小さな賢者(クレバー)

 

みんな大好きリリルカちゃん。かの勇者とアマゾネスのお陰で最近巷では怪力少女とか怪物小人とか噂されている。ランクアップしてから、いくら飲んでも酔いにくい体質に変わってきており、それに伴いアルコールの摂取量が増大。近いうちに本拠(ホーム)に彼女専用の酒蔵が出来るまで、そう時間は掛からないだろう。

 

観醉屡爾鏤(ミョルニル)79000000ヴァリス

 

・ヴェルフ作。小人族(パルゥム)五人程の大きさの巨槌(スレッジハンマー)

・ウダイオスとの戦闘で右近婆娑羅(ウコンバサラ)が破壊された為、制作された。威力は低いが雷属性効果。

・実はヴェルフがずっと構想していた武器で、新しい発展アビリティのお陰で直ぐに製作可能になった。

・その重さは、とある仕掛けにより発揮され、色と一緒に作った際には二人でも重すぎて、設計より柄を少しだけ削ったとか

 

 

 

 

ヴェルフ・クロッゾ

 

 Lv.3

 

 力:I75

 

 耐久:I80

 

 器用:I43

 

 敏捷:I31

 

 魔力:I46

 

 鍛冶:G

 

 神秘:I

 

《魔法》

 

【 ウィル・オ・ウィスプ】

 

・対魔魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)

 

《スキル》

 

魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)

 

・魔剣作成可能。

 

・作成時における魔剣能力強化。

 

 

武器:魔剣(無名)

 

防具:着流し

 

種族:ヒューマン

 

隊列(ポジション):中衛・後衛

 

到達階層:40階層

 

所持金:1120ヴァリス

 

二つ名【不冷(イグニス)

 

戦う鍛冶師というより、武器研究者みたいな感じになっている男。最近とある鍛冶神といい感じになっているが、その熱い視線を軽く受け流し、一心不乱に鉄を打つ事の出来る鍛冶師の中の鍛冶師。その鉄の心を作り出すには、周りがあり得ない程のモンスターに囲まれようとも、鉄を打ち続けなければならないとか。デスマーチ時に即席鍛冶場周辺のモンスター引き付け役を務めた春姫とは、かなり仲良くなっていたりする。

 

・魔剣(無名)

 

・ヴェルフ作。200(セルチ)以上の大きな黒い刀身に紅い幾何学模様が描かれている魔剣

・完成された魔剣

・この魔剣は他の魔剣とは違い自壊することは無く、使いかた次第では理論上永遠に使っていられる。

・遠い未来、伝説に残るこの魔剣は製作者の二つ名で呼ばれることになり。それを扱うものは空を飛び、山を切り裂き、海を穿つとされる。

・その特殊な材質により複製は不可能とされ、未来永劫値段が付けられる事はない。

 

 

 

 

 

 

 

ヤマト・命

 

 Lv.3

 

 力 :I28

 

 耐久:I33

 

 器用:I51

 

 敏捷:I91

 

 魔力:H185

 

 耐異常:H

 

 魔導:I

 

 《魔法》

 

【フツノミタマ】

 

・重圧魔法。

 

・一定領域内における重力結界。

 

【トツカノツルギ】

 

・収束魔法

 

魔法窃盗(マジックスティール)

 

衝撃窃盗(アタックスティール)

 

 

《スキル》

 

八咫黒烏(ヤタノクロガラス)

 

・効果範囲内における敵影探知。隠蔽無効。

 

・モンスター専用。遭遇経験のある同種のみ効果を発揮。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

八咫白烏(ヤタノシロガラス)

 

・効果範囲内における眷属探知。隠蔽無効。

 

・同恩恵を持つ者のみ効果を発揮。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

武器:村雨 地残

 

防具:戦闘衣(バトル・クロス)

 

種族:ヒューマン

 

隊列(ポジション):中衛・後衛

 

到達階層:40階層

 

所持金:69000ヴァリス

 

二つ名【絶†影】

 

ツッコミ役を放り投げた人。とうとう常識が破壊されてしまい、厳しすぎる入団試験についても特に何も感じていない。遠征に行くメンバー(ツッコミ役)を増やす事になったのも彼女のせい。シレっと新しい魔法を覚えているが、その際にはひと悶着あったらしい

 

村雨(ムラマサ)8600000ヴァリス

 

・ヴェルフ作。100(セルチ)程の青みを帯びた刀身

・ウダイオス戦で破壊された虎鉄・残雪の代わりに制作された太刀。

・青い刀身は付与された水属性の物で、これのお陰で切断した生物の血液により刀身が錆びる事が無く、切れ味が損なわれない。

・『巨蒼の滝(グレート・フォ―ル)』に生息するモンスターの素材から作られた特殊武装(スペリオルズ)

 

 

 

 

 

サンジョウノ・春姫

 

 Lv.2

 

 力 :I12

 

 耐久:I10

 

 器用:I95

 

 敏捷:I22

 

 魔力:H100

 

 精癒:I

 

《魔法》

 

【ウチデノコヅチ】

 

・階位昇華(レベル・ブースト)

 

・発動対象は一人限定

 

・発動後、一定時間の要間隔(インターバル)

 

・術者本人には使用不可

 

【クラマ】

 

付与魔法(エンチャント)。 ・詠唱連結

 

・第一段位(ココノツ)

 

・第二段位(ココノエ)

 

・第三段位(クラマ)

 

 

武器:炎刀シリーズ

 

防具:改造された青い着物

 

種族:狐人(ルナール)

 

隊列(ポジション):後衛・支援

 

到達階層:45

 

所持金:430000ヴァリス

 

二つ名【プリンセス・天狐(てんこ)

 

【剣姫】に密かな対抗心を燃やす狐人(ルナール)の少女。ロリ巨乳や小賢しい小人族(パルゥム)とは違って、彼女が色にベタベタしてるのが妙にイラッとするらしく、たまに小姑みたいに小言を言っている。ランクアップした事により回避能力にさらに磨きがかかっており、本人曰くレベル6の攻撃でも三発までは避けれるとのこと。

 

・炎刀シリーズ350000000ヴァリス

 

・それぞれが特殊な弾を打ち出せる、九つの銃

・【炎刀・虚空】から派生させた魔弾を撃つための三つ、鉛玉を打ち出すための三つ、更に特殊な三つに分けられており、ヴェルフが春姫の為に全財産はたいて制作した特殊兵装(スペリオルズ)

・器用値が低ければ止まってる的に当てるのも困難なほどで、伝説の武器(レジェンド・ウエポン)と呼ばれるまでに何回も改造されることになる。

・上記の値段は現時点の推定額

 

 

 

 

ウィーネ

 

異端児(ゼノス)

 

武器:竜華槍(ドラミ)龍大盾(ドラタロウ)

 

防具:ギルドの制服

 

種族:竜女(ヴィーヴル)

 

隊列(ポジション):中衛・後衛

 

到達階層:40

 

所持金:1000ヴァリス

 

【ヘスティア・ファミリア】の可愛い担当。防具を着ていないのは彼女の鱗が並の防具より頑丈で、動きやすいから。いろいろあって色の事をお兄ちゃんと慕っており、その為彼女に手を出すと鬼ぃちゃんが駆けつけて来ると言われているとかいないとか。実際、ウィーネに手を出せば地獄の窯が空けられるので、そんな者はこのオラリオには居ない筈。戦争遊戯(ウォーゲーム)の件でロキの事を嫌っており、逆に何時もお菓子をくれるイシュタルの事は好いている。意外な事に黒金戦争を見た事の無い(あまりにも教育に悪いので全力で視界に入る事を阻止された)おかげで【剣姫】とは仲が良く、色にくっ付いてる彼女を見かけたら、自分も、と一緒にくっ付き、そのたびに狐が爆発している。

 

竜華槍(ドラミ)78000000ヴァリス

 

・ヴェルフ作。

不壊属性(デュランダル)

人造迷宮(クノッソス)から調達した最硬金属(オリハルコン)を用いて制作した(ランス)特殊兵装(スペリオルズ)

・モンハンに出て来るランス並みの大きさで、龍大盾(ドラタロウ)と共に装備すると並の大人でも動くのですら困難。

 

 

 




最新刊が延期されたので、これから先は完全オリジナル展開となります。まぁ、もうすでに原作とは殆ど乖離してるんですけどね・・・


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第44話 遠征

お待たせしまた。やっと書けたなぁ


時刻は早朝。朝靄が掛かった鐘楼の館の門前に、【ヘスティア・ファミリア】の面々と、今回の遠征に参加する他のファミリアの団員が集合していた。

 

「……と言うわけで。今回の遠征は、僕たち【ヘスティア・ファミリア】が到達していない41階層を目指すことになります。ここまでの説明で意見はありますか?」

 

普段の彼等からは考えられないほど静まり返った静寂が、白髪の少年が緊張した面持ちで始めた、少しだけ長いダンジョン探索の説明の終わりを告げる。

 

一息ついた少年は、武器や巨大なバックパックを持った冒険者達を高台から見渡した後、自分の隣で誇らしげに胸を張っている小さな神様に顔を向けた。

 

「行ってきます、神様」

 

「行ってらっしゃい、ベル君。皆も気を付けて」

 

「よし、それじゃあ行きますか!!」

 

掛け声と共に黒の少年が指を振ると、館の鐘の音が大きく鳴り響いた。その音を合図に、巨大な鎚とバックパックを器用に背負った小人族(パルゥム)やファミリアのエンブレムを楽しそうに掲げる竜女(ヴィーヴル)、黒と白の少年も先頭に立ちダンジョンに向けて足を進めていく。

 

【ヘスティア・ファミリア】の遠征が始まったのだ。

 

「行っちゃったか。少しの間寂しくなるね………」

 

「ドチビの癖に、なぁにしんみりしとんのや」

 

感慨に浸っているヘスティアの後ろから、赤髪の女神がひょっこりと現れる。

 

「うるさいなぁ。別に君は来なくても良かったんだぞ」

 

「なに言うとるんや。うちの大切なアイズたんとレフィーヤと色きゅんが遠征に行くんやから見送りに行かへんわけにはいかんやろ?」

 

「何が色きゅんだ!!言っておくけどあの子をボクの本拠(ホーム)に招いているのはベル君の興味が無くなるまでだからな?ベル君がボクにメロメロになった暁には誰がロキの子供なんて招くか!!」

 

「それはこっちのセリフやど阿呆。色君居ぃひんかったらうちのファミリアの子をドチビのファミリア何かに近づけるか!!」

 

「なんだと!!」

 

「なんや!!」

 

「「…………ケッ!!」」

 

向き合わせた顔を、お互いに勢いよく背けた。ヘスティアとロキの関係は、例え子供達に交流が出来ても、そう易々と変わりはしないらしい。

 

その筋金入りとも思える中の悪さだが。しかし、ロキは帰ろうとはせず、そっぽを向きながらヘスティアに不満を隠そうともせず質問した。

 

「おどれ、何時色君にあの《スキル》の話するんや?」

 

「…………」

 

その質問に対し、ロキがヘスティアの顔を見ることは叶わない。未だにお互いに反対を向いたままだからだ。

 

「ま、ドチビが言おうが言うまいが今のうちには関係ない事やけどな?」

 

糸目を開き、紅色の瞳で天を居抜きながらロキは続ける。

 

「もし、異端児(ゼノス)の一件があの《スキル》のせいやったとしたら。こっから先何が起こるんやろうなぁ」

 

その言葉は予告でも警告でもなく、感想に近かった。

 

異端児(ゼノス)との出会いも、そこからの一連の事件も、【幻想御手(レベルアッパー)】が全ての元凶なのだとしたら。

 

色が一回死んだのも、レベルアップまでの最適化、に含まれるとしたら。

 

【ロキ・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)で色のレベルが上がるまでの流れが、最初から決められていたのだとしたら。

 

次にあの子がレベルアップにはいったいどれ程の………

 

「わかってる」

 

意外にも速く、口を開いたヘスティアの口調には迷いが感じられない。予め決めてあった台本(セリフ)を音読するように、スラスラと言葉を繋いだ。

 

「この遠征が終わったら、【幻想御手(レベルアッパー)】の事を全部話すよ」

 

目を瞑り、自分と同じ色を持つ少年の事を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さんこんにちは、私はレフィーヤ・ウィリディスと言います。

 

今日は訳あって【ヘスティア・ファミリア】の遠征に同行させて貰っているのですが、実は今、非常に大きな問題に直面しています。

 

「ほらほら、キリキリ働けサポータァ!!」

 

「コーンコンコン!!ぶざまですねぇ剣姫さまぁ?」

 

その問題とは、経験値(エクセリア)を考慮してアイズさんをサポーターにすると言い出した色さんが、素直に従いサポーターとして一生懸命働いているアイズさんをあの狐人(ルナール)と一緒になじってる…………事ではなく

 

「ウィーネ、防具の方はどんな感じだ?一応邪魔にならないように作ってみたんだが」

 

「凄い動きやすいよ!!ヴェルフ、ありがと!!」

 

「そりゃ、何よりだ。よし、それじゃあ向こうを殲滅するぞ!!」

 

「うん!!」

 

いきなり翼を生やしたウィーネちゃんと剣に乗ったヴェルフさんが当然のように空を飛んで行き、この階層で普段は現れない飛行するモンスターと戦い始めた事………でもなく

 

「じ……ぬ………もぅ……むり」

 

非常に大きな問題、それは私の精神力(マインド)が度重なる連戦により枯渇して死にかけているという事です。さっきから誰かの叫び声が聴こえてきますが、意識が朦朧としている私の耳には入りません。

 

あぁ、どうせ死ぬなら、アイズさんの膝の上で………

 

「レフィーヤ殿、精神力(マインド)が枯渇なされたのなら何時でも言って下さいね」

 

「もがっ!?」

 

命さんに無理矢理口内に突っ込まれた試験管から、遠征を始めて何度もか分からないほど飲まされた液体が流し込まれ、喉元を通り過ぎます。失われた精神力(マインド)が強制的に回復する感覚が体中を駆け巡り、試験管の中身が無くなった頃には、魔法が何発か打てるほどには回復してしまいました。

 

「あ、あの……もうそろそろ休k」

 

「それではレフィーヤ殿、そっちの方面から『オブシディアン・ソルジャー』の群れが向かって来てるようです。広域攻撃魔法での殲滅、お願いします」

 

「で、でも『オブシディアン・ソルジャー』は魔法が効きにくいんですけど」

 

「大丈夫ですよ!!レフィーヤ殿の魔法なら2、3発撃てば殲滅できる筈ですから!!」

 

広域攻撃魔法(ヒュゼレイド・ファラーリカ)を2,3発ですか……は、ははは」

 

サムズアップして答えた命さんに思わず乾いた笑いを浮かべてしまいました

 

まぁ、撃てることには撃てますね

 

でも撃ち終わった後に精神疲弊(マインドダウン)が起こって気絶しちゃいますけどね

 

そして、意識が飛ぶ前に精神力回復薬(マインド・ポーション)を口の中に無理矢理突っ込まれて、休む間もなくまた魔法を撃てって言われるんでしょうね

 

「ガボガボっ」

 

詠唱を行いながら隣を見ると、リリルカさんが気絶して白目を向いているフィルヴィスさんの口に二属性回復薬(デュアル・ポーション)を何本も流し込んでいました。

 

フィルヴィスさんも頑張っていたみたいですけど、流石に慣れない階層で限界が来たんですかね?

 

でもあれは溺死とかしないんでしょうか?

 

まぁ、この人達は回復薬(ポーション)を使うのが手馴れて居るので恐らく大丈夫なんでしょうね。

 

回復薬(ポーション)を他人の口に流し込むのが手馴れてるって意味が分からないですね

 

「春姫さん!!前方からかなりの数のモンスターが生まれたみたいです!!!」

 

「分かりました、ベル様はそのまま左を押さえといてください。色様、恐らく『怪物の宴(モンスター・パーティー)』です。(わたくし)と一気に殲滅しましょう」

 

「オッケ―、任された」

 

「あの、私も」

 

「【剣姫】様は手を出さないで下さいね?貴方は()()()()()なのですから」

 

「………はい」

 

あぁ、聞きたくもない情報が聞こえた気がしました。

 

怪物の宴(モンスター・パーティー)』?気のせいですよね、気のせいに決まってます、もう何回起こったと思ってるんですか。

 

10を越えた辺りからもう馬鹿らしくて数えてませんけど、私が【ロキ・ファミリア】に入団してから起こった回数越えそうな勢い何ですけど?

 

もしかしたら、別世界のダンジョンに迷い込んじゃったんじゃないんですか?

 

「レフィーヤ殿、後ろからも『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が発生したようです。この数は不味いですね。自分も手が塞がると思うので、幾つか精神力回復薬(マインド・ポーション)を渡して置きます」

 

「………はい」

 

この時、私の中の何かが音を立てて壊れて行く気がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、危なかったな。『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が()()()()()に発生した時は死ぬかと思った」

 

「死ぬかと思ったじゃ無いですよ。色さんが大人しく【剣姫】様に応戦を頼んだら、ここまで苦戦すること無かったんじゃないですか」

 

「は?俺がアイツに頼る何て死んでも嫌なんですけど」

 

「はぁ、色さんがここまで強情だったとは………本拠(ホーム)に帰ったらヘスティア様と計画を練り直した方が良いかもしれませんね」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないです」

 

リリと色の二人は、せかせかと両手を動かしながら、そんな他愛の無い会話を白亜の壁に響き渡らしている。暫くすると、食欲をそそる匂いが辺りに漂い始めた。

 

「さて、出来ましたよ。お皿とスプーンお願いしますね」

 

「オッケー。おーい!!出来たぞ!!」

 

色の一声で、分担して大掛かりな休息(レスト)の準備をしていた遠征メンバーは一旦手を休め、慣れた手つきでダンジョンの壁を加工して作った即席の机や椅子を並べ始める。

 

そんな中、一人の女性が悲痛な声を上げた。

 

「お、おいお前達、本当にこんな所で休息を取るつもりか!?」

 

声の中心は赤緋の瞳を持つ長髪のエルフ、フィルヴィスだ。

 

ここまで来るまでに余程堪えたのだろう。何かにすがるように周囲を見渡し、不安そうに瞳を揺らす彼女は、誰でも一目で分かるぐらいビクついていた。

 

「んんッ!!」

 

普段の凛とした彼女からは想像できないほど、あまりにもかけ離れた弱々しい姿を見たベルが、その原因に向かって大きく咳払いをする。

 

「うっ………」

 

半眼のベルの視線の先、ピクリと手を止めた色は、バツが悪そうに視線を反らした後、怯えきっているフィルヴィスに足取り重く近づいていった。

 

「あ、あのねフィルヴィスさん?ここは37階層の外壁を破壊して作った休息地(セーフポイント)だから他の所と比べると比較的安全って言うか、まぁ何か有っても俺達が居るから安心して欲しいって言うか……」

 

「わ、わかってる。私みたいなどうしょうもない女と違ってお前達は強い。こ、この不安は私の中の弱さであって、決してお前達を信頼してない訳では無い事を信じて欲し…ぃ」

 

(この人どうしちゃったの!?)

 

語尾がしりすぼみになり、今にも泣き出しそうな彼女に、色は本気で混乱しるが、実は問題は初めから起きていた。

 

「ふん、その程度か。言うほどではないな、やはり噂は噂か」

 

この台詞は中層に入った頃の彼女が色に言い放った物だ。

 

彼女は知らなかった。【ヘスティア・ファミリア】が中層に行くまでにも頻繁に起きていた『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が何故か起こらなくなっていた事を

 

「貴様、何だその動きは?本当にLv.4なのか?情けない」

 

彼女は知らなかった。防御値の上がり方が著しくない色か自ら攻撃を喰らいに行ってた事を

 

「な、何だこの地響きは。まさか『アンフェス・バエナ』か!?ばかな、周期は外れている筈だぞ!?」

 

彼女は知らなかった。【ヘスティア・ファミリア】の本番は下層に進出してからだという事を

 

「何なんだこのモンスターの数は!?」

 

そして彼女は思い知った。【ヘスティア・ファミリア】とダンジョンに行くという事がどういう事なのか、命が幾つ有っても足りないという言葉の本当の意味を

 

「あはははははは、ざっこ!!エルフざっこ!!!あれあれあれ~?さっきまでの威勢はどこに行ったんですかぁ?まさかアレだけ大口叩いたフェルヴィスさんが、この程度のモンスターも対処出来ないなんて言わないですよねぇ?情けないのは俺とあんたのどっちなんですかねぇ?そんなんじゃ仲間一人守れませんよ?」

 

そして、一番の問題は色が彼女の過去を知らなかった事なのだろう。

 

度重なる『怪物の宴(モンスター・パーティー)』で心身共に摩耗していく彼女に対して色は、今まで煽られていた分や、最近変わった金髪の少女の自分に対する対応等のフラストレーションを爆発させてしまった。

 

普段の色ならこんなことにはならなかった筈だ。モンスターに囲まれる度に変わる、フェルヴィスの微妙な変化や仕草に気付き、いくら煽られても労いの言葉で返したかもしれない。

 

しかし、そうはならず、心の奥底で貯まっていたストレスが色の視野を狭め、的確にフェルヴィスのトラウマを抉ってしまい、結果彼女の心を叩き折ってしまった。

 

「と、とりあえずご飯食べようか。今日はヘスティア自作のルーを使ってカレーを作ってみたんだけど、フェルヴィスさんはカレー食べたことある?」

 

「…………無い。すまない、私のような無知な者が貴方達の遠征に同行してしまって本当にすまない」

 

「ただのカレーで、それ以上自分を卑下しないで!?」

 

「あの、色殿はどうして【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使わないんですか?《呪詛(カース)》を使えば直ぐに解決すると思うのですが?」

 

「使わないんじゃなくて、あのエルフ相手に何故か使えないらしいぞ?まぁ、何でもかんでも【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使って解決するのもどうかと思うがな」

 

「強すぎる力は何とやらってやつですか。確かに、あの《呪詛(カース)》は便利な反面、人道的にちょっと思うところがありますね」

 

冷や汗をダラダラ流しながら必死にフェルヴィスとの会話を続ける色に代わり、武器の整備をしていたヴェルフと、その手伝いをしていた命が食事の準備を進めていく。

 

「アイズ凄かったね!!ビュンって風が吹いたらぶわってモンスターを倒しちゃうんだもん!!」

 

「ありがとう。ウィーネも凄かったよ」

 

「本当!!」

 

「ちょっと【剣姫】様、あまりウィーネちゃんに近付かないで貰えます?それに弾が勿体無かっただけで、(わたくし)だって炎刀を使えばアレぐらい倒せるのでございますからね!!」

 

「えっと、春姫も凄いね」

 

「別に、誉めて欲しかった訳では御座いません。さ、ウィーネちゃんも食事の用意を手伝いましょう」

 

「はーい!!」

 

そこに、見張りから戻ってきたアイズ、春姫、ウィーネの三人が加わり、一気に全員分の食事が巨大な机の上に行き渡たった。

 

「ふぁ、すみません今起きました………え、何ですかこれ?」

 

今までの連戦で疲れはて一人だけ寝ていたレフィーヤは、深層では普段お目にかかれないであろう、本格的な休息地(セーフポイント)に目をぱちくりとさせる。

 

そこにあるのは正しく、家の中の風景だ。

 

机の上に揃えられた食事、寒さを凌ぐ暖炉、大きな人数分のベッド、入浴場と書かれた扉にしっかりとした出入口

 

寝ている間に地上に戻った、と言われたら直ぐに信じてしまいそうになるが、この階層特有の白濁色の壁が嫌と言うほどここをダンジョンだと認識させられた。

 

「おぉ、よく起きてくれたレフィーヤ!!お願い助けて!!」

 

「え、えぇ!?」

 

休息地(セーフポイント)とは思えない場所に驚いている間もなく、レフィーヤは色によってフェルヴィスの隣に座らされる。隣を見ると、瞳が完全に死んでる変わり果てたエルフの姿が………

 

「レフィーヤ、私は自分がどれだけ矮小な存在か思い知ったんだ」

 

「どうしたんですか、フェルヴィスさん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し開けたダンジョンのルームで、一組の男女が睨み合っている。

 

ピリッとした空気の中、先に動いた異国の少女は鯉口を切った

 

「シッ」

 

水を纏った神速の居合いは、少年の頭上を切り裂く。見切られたのだ、それを自身が理解するより速く、少女は再び刀を鞘に納めた

 

キンッ

 

二度目の居合い、少年に対する遠慮等なく、もう一度鯉口が切られる。しかし結果は同じ、下から放たれた斬撃は少年の右頬スレスレを通りすぎ、その瞬間少女は(やいば)を自身の鞘に納めた。

 

キンッキンッキンッキンッ

 

それから何度も何度も行われる居合いを、少年は避け続けていく。二人の間合いには刀が鞘に収まる音と吐息しか聴こえず、その激しさは時が経つほどに増していき、

 

「そこまで!」

 

「ぷはぁ!!」

「ゴホッゴホッ!」

 

唐突に発せられた少年の一声で、異国の少女と異世界の少年はお互いに腰を下ろし、張り詰めた空気が霧散した。

 

「二人ともお疲れさま。はい、飲み物」

 

「サンキュー、ベル」

 

「ありがとう御座います、ベル殿」

 

差し出されたコップの水を色と命は一気に飲み干した。滴る汗から先ほどの攻防がどれ程神経を使っていたのかが窺える。

 

そのまま一息付こうかと色がダンジョンの壁を背もたれにしてたら、命が心底不思議そうにこう言った。

 

「色殿、反撃されても良かったんですよ?」

 

「避けることしか出来なかったんですぅ!!」

 

頬に流れる汗を拭った色は口を尖らせて叫び返した。

 

「色は《スキル》を使わないと本当にポンコツだよね」

 

「グフッ」

 

そんな二人を見ていたベルが発した遠慮の無い言葉に、思わず色は自分の胸を押さえる。

 

「自分の考えたように身体が動かないんだよ。

一方通行(アクセラレータ)】を使えば《スキル》で身体を動かして反応出来るんだけどな」

 

「それにしてもLv.4の色がLv.3の命さんとの戦闘で避けることしか出来ないのは問題じゃない?」

 

「面目無い」

 

項垂れた色は先ほどの訓練を振り返った。訓練内容は、《スキル》や《魔法》を使わずお互いの純粋な【ステイタス】だけで戦うという物だったのだが、色は特にこの手の訓練が苦手で、Lv.が一つ下の命に、しかも居合いしか使ってこない彼女に手も足も出ないほど弱かったのだ。

 

「大体この訓練は命さんの《魔法》を完成させる為に始めたんだよ?色がしっかりしないと訓練にならないじゃ無いか」

 

「そりゃそうなんだけど、俺は昔から運動音痴なんだよ。Lv.が上がったら多少はマシになると思ったんだけど、我ながら酷くて泣きそう」

 

「大丈夫ですよ色殿、《スキル》も自分の能力ですし。例え恩恵が無くなったら糞雑魚ナメクジでも、色殿なら何かしらファミリアのお役には立てる筈です!!」

 

「命ちゃん、それ慰めてるんだよね?」

 

ガッツポーズをしながら暴言とも取れる励ましの声を掛けてくる命を色は半眼で睨んだ。そんな色に向かってルーム外からやって来た新たな人物が駆け付けてくる。

 

「おにぃーちゃーん!!」

 

「おっと、お疲れウィーネ」

 

すかさず《スキル》を発動させた色は飛び付いてきたウィーネをコップの中の水を一滴も溢さず軽々と受け止め、青銀の長髪に手を添え撫で始める。

 

優しく頭を撫でられた竜の少女は気持ち良さそうに眼を瞑り。そんな竜女(ヴィーヴル)の後ろから、とある人物が笑顔で色にタオルを渡してきた。

 

「訓練は終わったみたいだな、お疲れ色君」

 

「フィルヴィスさんもウィーネと対人戦の訓練をしてくれてありがと。うちって経験豊富な冒険者少ないからスゲー助かるよ」

 

「なに、気にすることはない。今の私は君達の世話になっている身だからな、これぐらいやらせてくれ」

 

「そう言って貰える嬉しいっス。さぁて、訓練も終わったし飯の準備でもしようかねぇ」

 

「それなら私も手伝わしてもらおう」

 

黒髪のエルフはダンジョンに入った時からまるで別人の様な顔を浮かべて色と会話を続けていく。そんな仲良さげな二人を見ていたベルと命がポツリと一言。

 

「洗脳ですね」

 

「洗脳だね」

 

そう、この数日の間にフィルヴィスに行われたのは、まさしく洗脳。同じファミリアのベル達すらドン引く程の人心掌握術だった。

 

それは別に色の《呪詛(カース)》を使ったわけでもなく、怪しげな薬を使ったわけでもない。

 

基本的に誰にでも優しく接する色が、心がボロボロになったフィルヴィスを何とかする為に全力で気遣った結果と言えば理解できるだろうか?

 

ファミリアに向けるそれすら普通の範疇だと考えている色が、たった一人の為に自分が考える限りの優しさを向けた結果、完全にフィルヴィスは黒鐘色に依存してしまったのだ。

 

まぁ、もっとも……

 

「ちょっと色さん!!不用意にフィルヴィスさんに近付かないで下さいって何度も言っているのにどうして守ってくれないんですか!?」

 

「大丈夫安心しろって。俺達スゲー仲良くなったからこの前みたいな事は起こらねぇよ。それより、帰って来てそうそう大声だすなんて。最初は疲れて帰ってくるなり直ぐに寝てたのに、レフィーヤも成長したな」

 

「起きる度に闘技場(コロシアム)に放り込まれてたら慣れたくなくても慣れますよ!?って私の事はどうでもいいんです。それより、フィルヴィスさんの事をディオニュソス様にどう言い訳するんですか!?」

 

「言い訳?何を?」

 

「もおおおおおおおおお!!!!!」

 

色本人は全くと言っていいほど自覚がないのだが。

 

「ベルさん、一刻も早く帰りましょう!!ここはフィルヴィスさんに取って毒にしかなりません!!」

 

「すみません、もう少しここに留まる予定なので……」

 

「もうこの階層に留まって7日目ですよ!!何時になったら41階層を目指すんですか!?」

 

広いルームに大声が響き渡り、ベルがドウドウとレフィーヤを宥める。

 

そんな二人の間に小さな影が割って入っていく。

 

「レフィーヤさん、騒ぐのはそこまでにしてもらえますか?下手に音を立てるとモンスターが寄ってきて面倒くさい事になるので」

 

「うっ、すみませんリリさん」

 

栗色の瞳を向けられたエルフは先ほどの勢いはどこへやら、自分より遥かに小さな小人族(パルゥム)に縮こまるように謝罪した。

 

そんなレフィーヤを一瞥したリリは更に言葉を重ねる。

 

「いいですかレフィーヤさん。貴方がどのような経緯でベル様と知り合ったのかは知りませんが、くれぐれも間違いが無いようお願いしますね?」

 

「あ、あの……間違いって?」

 

「…………はぁ、まぁいいでしょう」

 

ジトッとレフィーヤを睨んだリリは暫くしてため息を吐いた後、パンパンッと両手を打ち注目を集めこう言った。

 

「ベル様。彼女が来られました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】の休息場所(レスト・ポイント)の前に立っているその女性は、モンスター蠢くダンジョンにおいて実に不釣り合いな格好をしていた。

 

フリルの入ったスカートにエプロン状の前飾り、頭には白色と黒色を基準とした可愛らしいデザインのカチューシャが用いられており、彼女の砂色の髪と相待って何とも魅惑的な雰囲気を醸し出している。

 

褐色の肌によく映える真っ白なメイド服を着たアマゾネスは、背中に背負っていた自身を覆い隠すほどの大きなバックパックをゆっくりと下ろした。

 

「よぉ、遅かったなバーチェ。いや、初めてのダンジョンを地図だけ見てここまで来たんだから速い方か?」

 

「うるさい。頼まれた物を持って来てやっただけ感謝しろ」

 

「へいへい」

 

そう言いながら、睨みつけて来るバーチェを尻目にカバンの中を確認する。その中身にはしっかりと、出発前に頼んでいた物が入っていた。

 

「あの、何を持って来られたんですか?」

 

後ろからレフィーヤが不思議そうに覗いて来た。まぁ別に隠すものでもないし、教えてやることにする

 

「ちょっとした食料や調味料、後は予備のバックパックだな。水は上から持ってきたらいいし、これだけあればざっと五日分は行ける計算だ」

 

「………は?」

 

俺の言葉を聞いたレフィーヤが石の様に固まった。ふむ、やはりレフィーヤも女の子だからかダンジョンに何日も滞在するのは衝撃的だったらしいな。だけど、その辺りもばっちり対策済みだ

 

「安心しろよレフィーヤ、予備の着替えと洗剤も持ってきてるからな。風呂だって毎日入ってるんだからそこまで汚れる事も無いだろ」

 

「そんなことどうだっていいんですよぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

「うおっ!?」

 

鼓膜が千切れそうな大声に、思わず両手を耳に当てる。

 

あれ?最近帰りたがってたのは洗濯してるとはいえ何回も同じ服を着るのが嫌だったからと思ってたのに、違うのか?

 

「大体、こんなに長い事37階層に留まって何がしたいんですか!!」

 

「いやー、実は今【ヘスティア・ファミリア】って資金難なんだよね。だから無限にモンスターが沸いて来る闘技場(コロシアム)があるここで稼ぎまくろうかと」

 

「そんな俗物的な理由で留まってたんですか!?てっきり貴重な素材を手に入れる冒険依頼(クエスト)や『強制任務(ミッション)』があるんだって思ってたのに!!」

 

「いや、それ(クエスト)はもう終ったから」

 

「それなら余計に早く帰りましょうよ!?フィルヴィスさんはもう限界なんです!!」

 

「いや、だからなんでそこでフィルさんが出てくんだよ?」

 

「なんですかその愛称!?」

 

目をまんまるにして驚くレフィーヤ。ふふん凄いだろ、最初はどうなるかと思ったけど根気強く話しかけてようやく此処まで仲良くなったんだぜ

 

「色さん!!もう本当にあなたって人は!!あなたって人は!!!!何時、何処で、どうやってフィルヴェスさんとそんな愛称で呼ぶ仲になったんですか!?それに今確信しましたよ、その話術でアイズさんともあれだけ仲良くなれたんですよね!!この、人たらし!!!」

 

「ちょっとまて、俺は別にアイツと仲良くなろうなんて一瞬たりとも思った事ねぇからな!?」

 

「嘘ですね!!神様じゃなくても今の言葉は嘘だってわかりますよ!!どうせ、仲良くなった所でちょっと突き放して興味を抱かせるって言う作戦なんでしょう?私知ってるんですからね!?」

 

「なにが!?」

 

俺の言葉を無視して詰め寄って来るレフィーヤに、思わず目を背けると

 

「はいバーチェさん、これが上に持って行って欲しい魔石です。でも本当に休憩しなくてもいいんですか?」

 

「大丈夫だ、ベル。これでも私はLv.6だからな、これぐらいの距離は造作もない」

 

此処に来た時に背負っていたバックパックよりも一回りも二回り大きくパンパンに詰まったバックパックをベルから受け取っているバーチェが目に映った。なので、これ幸いとそっちの方に駆け寄る事にする

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずに休憩して行けよバーチェ。そんな重たそうなバックいったん下ろしてさ」

 

「おい、いきなり何だ貴様。気持ち悪いぞ」

 

「ちょっと色さん、まだお話は終わってませんよ!!」

 

「落ち着けってレフィーヤ。そんな事よりも単身ここまで来たバーチェを労うのが先だろ?それともお前は37階層まで頑張って休まず来たバーチェを休憩もさせずに上まで帰らせるって言うのか?」

 

「え?流石にそれは休憩された方がいいと思いますけど」

 

「だよなぁ!だったらまず食事にしようそうしよう、準備手伝ってくれるよなレフィーヤ!!」

 

「は、はい」

 

「おい、私は別に休憩せずにここまで来た訳でも無いし、疲れてもいない」

 

ふぅ、何とかさっきの話はうやむやに出来そうだな。ちなみに、俺の邪魔をしてくるアマゾネスがいるみたいだが、音の向き(ベクトル)を操れる俺の前では無意味だぜ。

 

勝った、第三部完

 

「って誤魔化されませんからね!!」

 

ガシッ掴まれた肩に敗北を悟った。そうですよね、そんなにちょろくないですよね。でもですねレフィーヤちゃん、本当にあの女の態度が急変したことについては俺は関与してないんですよ。だからきっとあれはアイツなりの俺に対する新しい苛め方なんじゃないかなと最近思いまして………

 

そんな言い訳じみた事を頭の中で並べてから振り返ろうとした瞬間、足元でベクトルを感じた俺は咄嗟に叫んだ

 

「ベル!!」

 

「了解、僕はリリ達を呼んで来るから色は応戦。バーチェさんは大丈夫だと思うけど、レフィーヤさんとフィルヴィスさんは任せたよ!!」

 

「任された!!離れるなよレフィーヤ!!」

 

「ちょっといきなりなんなんですか!!話はまだ終わってな……い………」

 

押し黙ったレフィーヤは事態を理解したのか、すぐさま休息場所《レスト・ポイント》の中に入って行った。恐らくフィルさんを呼びに行ったのだろう。流石【ロキ・ファミリア】、判断が速い

 

「さてバーチェ、これからちょっと強いやつが出て来るんだけどお前はどうする?」

 

「ふん、ここまでのモンスターにはさほど手ごたえを感じなかったからな。いいだろう、私もお前らと一緒に戦ってやる」

 

「流石闘国(テルスキュラ)女戦士(アマゾネス)、そうこなくっちゃな。でも指示は守れよ?これは()()だ」

 

「………チッ、わかっている」

 

渋々了承したバーチェに満面の笑顔を送り、腰にぶら下げていた《雷霆(ライテイ)》をはめる。そうした後、直ぐに大きな地割れが起こった。

 

『―――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!』

 

過去二回、俺はコイツと戦ったことがある。一回目は【アポロン・ファミリア】との抗争の時、二回目はLv.上がった【ヘスティア・ファミリア】を試した時。そのどちらもコイツは黒い大剣を握っていた、金髪いわく一対一(さし)でしか出て来なかった大剣をだ。

 

「うーん、ベル達だけが行った時も大剣もってたらしいんだけど、やっぱりこれは異常事態(イレギュラー)だよなぁ」

 

目の前に現れた『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』、推定Lv.6、『ウダイオス』。

 

その両手には二本の黒剣

 

更に背部から生えた二本の腕の手にも同じように黒剣

 

計4本の黒剣を携えた異形の『ウダイオス(怪物)』が出現する。

 

うん、おかしいよね。なんか体が一回りも大きいっぽいし、鎧兜みたいなの装備してるし絶対おかしいよね

 

「まぁ、やるだけやってみますか!!!」

 

《スキル》を使い《雷霆(ライテイ)》に雷を集め、次の瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――地面が爆砕した

 

 

 

 

 

 

 

 

突き上がる轟炎

 

 

 

 

そして紅蓮の衝撃波

 

 

 

 

37階層に居た俺達は

 

 

 

 

燃え上がる『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』と共に

 

 

 

 

 

 

更に深層からの『砲撃』により焼き払われた

 




何か月も待たせたのに見て下さった皆様に感謝を。続きももっと早く書けるように頑張ります


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第45話 ドラゴンズ・ヘル

すみません、リアルで色々あって長いこと書けませんでした。

これからボチボチ続き書いていきます。


落ちる、落ちる、落ちる

 

何層もの階層をぶち抜かれて作られた縦長の大穴の中、間一髪で『砲撃』からの防御が間に合った俺は、そのまま重力に逆らうように風を展開、空中で体制を整え下を見下ろした。

 

そこには正しくSFの象徴とも言える伝説的なモンスター、『ドラゴン』が上層にいる俺達に無数の牙を向けている。

 

その信じられないような光景に、こう叫ばずにはいられない。

 

「何だよこれ無茶苦茶過ぎんだろ!!階層の下から攻撃してくるとか反則かよ!!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「おいおい!?」

 

打ち上げられる竜の雄叫びと共に、数発の大火球(フレア)が再び上空に打ち出された。

 

迫りくる『砲撃』の規模を見て理解する、()()()()()()

 

一度目を防げたのは階層のお陰で威力が減少していたからだ。

 

Lv.が上がった事により向上した【一方通行(アクセラレータ)】の能力を持ってしても、二撃目を受けたら間違いなく反射を突破され………死ぬ

 

「これ、かなりやべぇな」

 

下から迫ってくる『砲撃』に冷や汗をかきながらも、風を操り10メートルほど落とされた距離を全力で昇っていく。何とか昇りきった俺は、その『砲撃』が更に上の層をぶち抜いている光景を見て、流石に頬をひきつらせた。

 

「な、何でこんな所に砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)が居るんですか!?」

 

「あ…………あぁ……」

 

37階層に戻った俺を出迎えたのは、顔面蒼白なフィルさんと、なにやら叫んでいるレフィーヤだ。

 

お前はあのモンスターの情報を知ってるんだな?

 

「すまんレフィーヤ、許せ」

 

俺は、直ぐにポケットに手を突っ込み、リモコンのボタンを押した

 

「ふぇ?」

 

食蜂操祈(メンタルアウト)】を発動し、レフィーヤの頭の中からこの現象についての記憶を抜き出していく。

 

ふむふむ、でっかくて紅い竜は58階層に生息していて、6階層ぐらい貫通させる砲弾を撃ってくるモンスター、『ヴァルガング・ドラゴン』

 

それと、砲撃で空いた縦穴を飛んでくるのは飛竜の『イル・ワイバーン』か。

 

「流石に20階層も下のモンスターが攻撃してくるなんて想定してねぇぞ。て言うか何でこんな上層にあんなモンスターが居るんだよ」

 

穴に電波を飛ばすと縦穴はきっちり6階層分空いている、つまりあのドラゴン達は43階層で産まれたか、それとも…………

 

『何故か上の階層まで上ってきたか、ですか』

 

頭の中に聞こえたのは【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使ってレフィーヤの記憶を共有した春ちゃんの声だ。

 

『そう言うことになるよな、それでどうする?春ちゃん』

 

『そうですね、相手はかなり強力なモンスターですので、対処法は限られます』

 

ふむふむ、対処法は()()()()、ね。

 

春ちゃんの返答を聞いた俺は今一度ズボンのポケットに手を突っ込みリモコンのボタンを押した。

 

チャンネルはうちの頼れる団長様、質問するのは簡単な二択だ。まぁこれはただの確認事項だけどな、うちの団長様なら答えは一択だろう

 

『ベル、逃げるか戦うかどっちにする?』

 

そして、予想道理の返答を聞いた俺は三日月の笑みを浮かべながら、ファミリア全員に【食蜂操祈(メンタルアウト)】でチャンネルを繋げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レフィーヤ、フィルさん、捕まれ」

 

「「!?」」

 

その言葉を聞いた二人は、色の声を疑問に思う間もなく、直ぐさま肩に捕まった。

 

ドォォォオオオオオオン!!!!

 

「「ヒッ!?」」

 

一瞬の浮遊感の後の爆音。色の肩に捕まりなが空を飛んだ二人は、先程いた場所が砲撃により跡形もなく吹き飛んだことに肝を冷やし

 

「フィルさん盾!!レフィーヤは範囲攻撃!!」

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】!!」

 

「【盾となれ、破邪の聖杯】!!」

 

次の声により、息つく暇もなく詠唱を始める。

 

何故違うファミリアの二人がここまで素早く対応できるのか?

 

それは、この数日間で嫌と言うほど司令塔の指示に従う事の大切さが身体に染み付いていたからだ。

 

特に黒鐘色とサンジョウノ春姫の指示だけは何がなんでも守らなければ自分の、ひいてはパーティー全体の命に直結するのをエルフの二人は既に体験していた。

 

「『雷爪(エッジ)』!!」

 

二人の詠唱が完成する前より速く、色の両腕にはめられた漆黒の籠手に雷が集まり、巨大な鉤爪が形作られていく。色の新しく手にした防具、『雷霆(ライテイ)』は雷に質量を与えるものだが、その形は色の『空想(イメージ)』に依存している。

 

そのため、普段使用している【一方通行(アクセラレータ)】と明確にイメージを分ける為に、固定させる雷の形を『魔法』の詠唱の様に声に出すことにしているのだ。

 

『『『『『ガギャアアアアア!!!』』』』』

 

瞬く間に死神の鎌にも似た刃が両手に三本ずつ生成され、空中を飛び交う飛竜(ワイヴァーン)の両翼を切り裂いた。

 

「【ディオ・グレイル】!!」

 

『ギッ!?』

 

前方で潰された仲間を見た飛竜の一体が、前方からの突撃を諦め後方から攻撃を仕掛けようとして、円形の障壁に阻まれる。

 

それを見た飛竜達はうなり声を上げ、自分達に成り代わり、空を支配しようとする不届き者の更なる死角、下方からの攻撃に移り

 

『アアアアアアアッ!?』

 

落下してきた狐人(ルナール)の右手に握られた単身の銃から発砲された散弾によってその翼を撃ち抜かれ、飛竜は真っ逆さまに墜落した。

 

ポンプアクションによって弾薬を排出され、新しい弾薬が薬室に装填される前に、もう一つの銃を片手に持ち向かってきた竜に向ける。

 

『オッ!?』

 

ボウガンのような銃身から打ち出されたのは、『イグアスの羽』を元に作られた薄い刃だ。精確に放たれた薄刃は飛竜の目玉を撃ち抜き、空の支配者は痛みに悶えながら墜落する。

 

「ヴェルフ様、《砕羽(さいは)》の調子は良好でございますが、《(なだれ)》は少々反動が強うございます」

 

「了解、もう少し銃身を厚くしてみるか」

 

落下する春姫を受け止めたのは、仮名として《全刀(ぜんとう)不滅(ふめつ)》と名付けられた魔剣の腹に乗ったヴェルフだった。

 

「飛べ!!」

 

ヴェルフがそう叫ぶと、黒い刀身に散りばめられた赤い幾何学模様がまるで血管のようにドクンと脈打ち、刀身の腹から魔力が混じった風が噴出され、ヴェルフは空中起動を開始する。

 

春姫を抱えながら飛竜の猛追を落ち葉の如くヒラヒラト躱してくその動きは、まるで空中でスケートボードに乗っているかのようだ。

 

『ギャオォォォオオオオオオオオオ!!!』

 

しかし、その動きを正確に捉える、負けじと逸脱した動きをする飛竜が二人に牙を剥ける。

 

「クソッ、強化種か」

 

「ヴェルフ様、私が撃ち抜きます。少しだけ静止できますか?」

 

「すまん、無理だ。まだ空中で静止はできねぇ」

 

「それは………困りましたね」

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】」

 

『ギャ!?』

 

生物を逸脱した動きを空中でするヴェルフに追いついた飛竜は、風を纏った少女の銀閃により切り伏せられ、墜落した。

 

「大丈夫、ですか?」

 

その光景を見たのがレフィーヤなら深く感謝しただろうしベルなら感涙したかも知れない、色ですら渋々ながら感謝の言葉をぽつりと漏らすタイミングだ。

 

しかし、ヴェルフの腕の中で頬を引く突かせている狐だけは違った

 

「あ…あ……」

 

「あ?」

 

まるで何事も無かったように聞いて来る金髪の金眼の少女、アイズ・ヴァレンシュタインに、春姫は怒鳴る。

 

「貴方は手を出さないで下さいッ!!そういう契約です!!!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「おい、助けてもらったのにそんな言い草ないんじゃないか?」

 

縮こまるように謝ったアイズを見かねたヴェルフが、諭すように春姫に語り掛けるが……

 

「知りません、契約は契約です」

 

そう言った彼女はフンッといいソッポを向いてしまった。

 

たしかに、アイズが【ヘスティア・ファミリア】の遠征に同行する条件は、『サポーターに徹し、出来るだけモンスターを倒さない』だったが、ここまでの緊急事態でそんな条件を持ってくる方が異常だ。

 

しかし、ヴェルフはそれ以上言葉が出せずに

 

(こりゃあ、相当『重症』だな)

 

とだけ思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おし、到着」

 

「し、死ぬかと思った」

 

「生きてる、私生きてる……」

 

俺達は飛竜と砲竜の攻撃を掻い潜りながら、ようやくダンジョンの修復が終ったらしい穴の開いていないまっさらな地面に降り立った。ざっと6、7階層は降りて来たか、つーか何であのドラゴンたちはこんな所まで登って来たんだ?

 

「おい黒鐘、なんだあれは」

 

「おぉ、バーチェじゃん。生きてたんだ」

 

「私があれぐらいで死ぬか!!それより、あれは何だと聞いている!」

 

叫ぶバーチェに思考を遮られ、渋々ながら彼女が指を刺す方向に目を向ける。そこには牙を剥けて威嚇してくる大量の砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)……では無く、リンリンリンという鐘の音と眩い白光を放つ謎の物体が、巨大なドラゴンたちを蹴飛ばしている光景があった

 

「あれはベルだよ」

 

「あれが、ベルだと!?いやしかし、ベルはLv.4なんだろ、あんな動き出来る訳が……」

 

「別に吹っ飛ばしてるだけで倒せてる訳じゃねぇけどな。てか、リリに腕折られたお前がいまさら何言ってんの?」

 

「ぐ………」

 

ぐうの音も出ないとはこの事か。それにしても【ウチデノコヅチ】を掛けられた状態といっても、あれだけ動けるんだから、やっぱアイツは化物だよな。もしかして新しい《スキル》も発動してんのかねぇ

 

「よし、春ちゃん達も無事に到着したみたいだし、そろそろ動くか。バーチェ、そこの二人連れて出来るだけ離れてくれ」

 

凄まじい緊張感から解き放たれた反動で、へたり込んでいるエルフ二人をバーチェに任すことにする。まぁ、あれだけの規模の攻撃を初見にかかわらず、メイド服に汚れ一つ付けていないバーチェも相当な化物だからな。安心して任せられるだろう。

 

「それはいいが、何をするつもりだ?」

 

「決まってんだろ。アイツらを殲滅する」

 

当然の如く言い切った俺にバーチェは複雑な顔をした後、無言でエルフの二人を抱え、俺に背を向けて走っていく。彼女の背中が見えなくなるまで見送り、ポケットの中のリモコンに手を触れた。

 

(命ちゃん、準備できてる?)

 

(大丈夫です。いつでも行けますよ)

 

(オッケー。ベルの方はどうだ?)

 

(こっちも大体集まって来たかな)

 

(よし、それじゃあ始めるぞ)

 

((了解))

 

二人の返事を聞いた後、それまで【食蜂操祈(メンタルアウト)】でファミリア全員に繋いでいたチャンネルを切った。これをしておかないと、後で大変な事になるからな

 

「ふぅ………よし、気合入れるか」

 

パンっ、と両手で軽く頬を叩き、【御坂美琴(エレクトロマスター)】で電波を飛ばす。レーダーで捉えるのは穴の開いた階層内にはびこる、数百を軽える竜たちだ。その全てを把握しきり、がばっと両手を開く。

 

カッと熱くなる背中

 

その力が発動したのを肌で感じ取った俺はがばっと両手を広げ、目の前に現れた『説明のできない力』をグッと掴んだ。それと同時に空間が歪み、さっき把握した竜たちの所と繋がったのを感覚的に理解し、広げた腕を抱き込むように動かしながらこう叫ぶ。

 

「こんじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

『『『『『『『『『『『『『グオオオオオオオオオオオ!???』』』』』』』』』』』』』』』

 

ドラゴンたちの悲鳴が、階層内に響き渡る。それはまるで無数の隕石がブラックホールにでも吸い込よせられている様な光景だ。翼を懸命に動かす『イル・ワイバーン』も、体勢が崩れ砲撃が撃てない『ヴァルガング・ドラゴン』も、等しくよく分からない力に体を掴まれ、一か所に引き寄せられていく。

 

(すげぇな、削板軍覇(そぎいたぐんは)の力は)

 

そうこれは、新しく発現した『発展アビリティ』、『原石』の能力だ。

 

まぁ原石と言っても、原作の学園都市のような人工的な手段に依らず超能力を発現させた天然の異能者の『異能(ちから)』では無く、『削板軍覇(そぎいたぐんは)』限定で同じ超能力を扱えるらしい。

 

ここまでは、今までの《スキル》や《魔法》の流れから、自然と言ってもいいだろう。しかし、【原石】には【一方通行(アクセラレータ)】や【御坂美琴(エレクトロマスター)】とは違う例外が含まれている

 

(やっぱり、Bもあるのが原因だよなぁ、これ)

 

そう、『原石』は《発展アビリティ》だ。《発展アビリティ》は力値など他の基本アビリティとは違い専門的な能力に特化しており、『耐異常』ならばG評価もあれば殆どの異常状態を無効化出来る程強力らしい。

 

その《発展アビリティ》が、俺のLv.アップ時に何か一つのアビリティが凄く上がるっていうヘスティアの言う所の特異体質のせいでBまで爆上りし、数百いるドラゴンを一か所に纏められるほどの力を発揮できていた

 

(まぁ、倒せるわけじゃねぇけどな)

 

そう、これでもまだこの竜たちを倒すには足りない。今はベルが地上の、俺が空中のドラゴンを纏めただけだ。作戦の最後には強力な一撃が必要であり、ここまではその為の前段階

 

(後は頼んだぜ、二人とも)

 

穴の上を見上げた俺の耳に、ほぼ毎日聞いている詠唱が入って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膨大な竜たちが自ら開けた一つの巨大な縦穴に集められていた。

 

「【掛けまくも畏(かしこ)き――いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ】」

 

そのドラゴン達も数秒もすれば散り散りになるだろう。

 

「【尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を】」

 

それは必然とも言える。そもそもたかが人間二人が強大な力を持つドラゴンを押さえつけておける訳が無いのだ。

 

「【救え浄化の光、破邪の刃。払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう)。今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ】」

 

しかし

 

「【神武闘征(しんぶとうせい)】!!」

 

ベルと色の二人が作り上げたこの好機を、この少女達が見逃す訳がなかった。

 

「【フツノミタマ】!!」

 

『『『『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』』』』』』』』』』』

 

太極の魔法円(マジックサークル)の元、完璧なタイミングで詠唱された強力な重圧魔法はドラゴン達を飲み込み、更に一か所に凝縮される。

 

「【八咫黒烏(ヤタノクロガラス)】で見た所、すべてのドラゴンを捕らえました。行ってください……リリ殿」

 

「了解です」

 

そして、まるで満員電車の様にギュウギュウになった結界の上、37階層の指定された場所から一歩も動かなかった小さな少女が身の丈に合わないハンマーを背負い、飛び降りた。

 

「さぁ、皆さんの力を(あつ)めますよおおおおおおおおおお!!!!」

 

叫びと共に少女は体から噴出された白、黒、赤、紫、金色が混ざった高密度の霧を身体に纏った。

 

それはリリルカ・アーデの新しい《スキル(ちから)》、【萃力夢想(ミッシング・パワー)】の能力、同恩恵を持つ者の『力』のアビリティ値を自身に上乗せ(レイズ)するというもの。

 

彼女は選択する、ベル・クラネルを黒鐘色をヴェルフ・クロッゾをヤマト・命をサンジョウノ・春姫を。すべての家族(ファミリア)の力値を上乗せされたリリの力は、更に【怪力乱神(スパイラル・パワー)】の倍率補正で跳ね上がる。

 

「るぅぅぅぅぅうううううううううううううううううあああああああああああああああああああああ!!!!」

 

凄まじい力で振りかぶられるのは『観醉屡爾鏤(ミョルニル)』と名付けられた、柄が短い巨大な魔槌。

 

《神秘》のアビリティが発現したヴェルフ・クロッゾの手によって製作されたそれは、とある迷宮から拝借した『最硬金属(オリハルコン)』を大量に使用する事によって不壊武器(デュランダル)の属性が付属されているだけではなく、色によって異世界の知識も取り入れられている。

 

それは磁場と星の引力を利用して、槌の重量を増加させるという仕掛けであり、その力が全開で発揮されれば魔槌の重さは『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を軽く越える程であった。

 

萃力夢想(ミッシング・パワー)

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

観醉屡爾鏤(ミョルニル)

 

雷《いかづち》を帯びた魔槌の重量は、更に命の重圧魔法で際限なく加算され、身体に鬼のような力を宿した小人族(パルゥム)一撃(必殺)が、纏められたドラゴンの群れを魔石すら残らない程に粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が起こったんですか……」

 

一度も聴いた事のない程の轟音と衝撃に見舞われ気絶していたレフィーヤは、眼を開けて始めに飛び込んできたクレーターを唖然と見ていた。

 

半径200M(メドル )もありそうなそのクレーターは底が見えず、まるで巨大な(うろ)の入り口のようだ

 

気絶からする前に詠唱のような声が聴こえてきた気がしますが、まさか【魔法】でこんな穴を作ったのでしょうか?

 

「レフィーヤ、こっち手伝って!」

 

「え?」

 

そんな事をぼーと考えている彼女に、駆け寄ってきた竜女(ヴィーヴル)のウィーネが声をかける。

 

その両手には大量の回復薬(ポーション)万能薬(エリクサー)が抱えられており、あの戦いの合間かレフィーヤが気絶していた間に、必要な物を持って下に降りていたらしい事が伺えた。

 

「速く、こっちこっち!!」

 

「ちょっと待ってください!?」

 

スンスンと鼻を鳴らしながら予想外に素早い動きで先導していくウィーネの後を、回復薬の半分を渡されたレフィーヤは訳も分からず必死に追いかける。

 

そうして、目的地らしいクレーター付近に到着した彼女は顔をしかめる事になった。

 

(何ですか、これ………)

 

そこにあったのはモンスターの魔石でもドロップアイテムでもなく、赤黒く変色した血塗れの肉塊だ。

 

「何をしてるんですか?」

 

モンスターを呼び寄せるアイテムにも似たそれに、突如万能薬(エリクサー)を掛け始める。一本、二本と疑問の声も聴かずに万能薬(エリクサー)をバケツをひっくり返す勢いで肉塊に浴びせ続けるウィーネは、遂にレフィーヤが持っていた高等回復薬(ハイ・ポーション)まで使い始めた

 

「これって………」

 

そろそろ静止の声を掛けようと思ったレフィーヤだが、肉塊だったものが僅かに動いたことで、その声は止められた。

 

「………人?」

 

レフィーヤが持っていた万能薬(エリクサー)高等回復薬(ハイ・ポーション)の殆どが浴びせられて数秒、足、腹部、腕とようやく効果が出始めたのか徐々にその原型を取り戻し始める。傍から見れば子供の様に非常に小さなパーツたちは、この肉塊だった者が【ヘスティア・ファミリア】唯一の小人族(パルゥム)だという事を主張していた。

 

「リリルカさん……ですか?」

 

彼女の言う通り、肉塊の正体はリリルカ・アーデだ。

 

まるで体内から爆発したようなスプラッタな光景に、レフィーヤは思わず自分の口元に手を当てた。

 

どうして彼女がここまで悲惨な状態になっているのか?それを簡単に説明すると、自分の器量を遥かに超えた力を振るったからだ。

 

萃力夢想(ミッシング・パワー)

 

そのスキルの能力は確かに強大かつ最強だが、それ故に普段は黒霧(黒鐘 色)の力までしか加算しないように制限をしていた。

 

白霧(ベル一人)の力さえ、今のリリが振るえば腕の骨に罅が入るほどの負荷があり、今回のような全力の使用など普通は絶対にさせないのだが、状況がそれを許さなかった。

 

そして、【ヘスティア・ファミリア】には自分の限界を超えた力を振るった者がもう一人………

 

「色君!!気をしっかり持って!!!」

 

レフィーヤが声をした方に目を向けるとそこには、唇は真っ青、目は虚ろ、まるで前身から生気が………いや、魂が抜け落ちたような黒鐘色の姿があった。

 

そして、縋るような悲痛な声で衰弱しきった色の体を揺すっているのはフィルヴェスだ。

 

家族を失った少女の様に取り乱す彼女に、気付いたらレフィーヤは駆け寄っていた。

 

「フィルヴェスさん、大丈夫ですか!?その……色さんの容態は?」

 

彼の状態を一目見れば、誰でも深刻な状態だとわかるだろう。それでもレフィーヤが声を掛けたのは、取り乱したフィルヴィスを落ち着かせるためだ。

 

しかし、それで彼女が落ち着く訳もなく、レフィーヤの腕を掴んで

 

「レフィーヤか!!頼む、色君に回復魔法をかけてくれ!!!」

 

と、懇願した。

 

「は、はい!」

 

レフィーヤは勢いに押され、リヴェリアの回復魔法を詠唱する。あの【魔法】ならば多少なりとも色の体を回復することが出来るだろうと咄嗟に判断したのだが……

 

「何をしているのですか貴方は!!」

 

黒の少年を助けるであろうその詠唱を咄嗟に止めたのは、いつの間にか近くに来ていた狐人(ルナール)の少女だ。

 

「な、なにって、色さんの回復を……」

 

「いりません、精神力(マインド)の無駄です」

 

春姫にぴしゃりと言い切られたレフィーヤは信じられないような物見た顔になり、口から出た言葉に音を乗せられなくなるほど混乱する。

 

口をパクパクする彼女の代わりに、純白の衣を纏ったエルフが、無慈悲な宣告をした春姫に食って掛かった。

 

「き………さま……色君の容態を見てよくそんな事が言えるな!?見損なったぞ狐人(ルナール)!!」

 

着物を捕まれ憤怒の形相で睨み付けてくるフィルヴィスに、春姫は真剣な顔をでこう返した

 

「いいですか、今の色様は調整の出来ない力を使用したせいで動けなくなっているだけで、二、三時間もすれば意識が戻ります。ですから、別に色様を見捨てるわけではございません」

 

そう、色は春姫の言う通り『原石』の反動で動けなくなっているだけだ。

 

本来ならランクIから始まり徐々に上昇していく力をいきなりランクBから使用しているため、その強力な力を制御出来ずに、一度使えば体力が根こそぎ絞り取られる程の諸刃の剣と化している。

 

それでも何回か検証を重ねた結果、一時的に動けなくなるだけで死ぬほど体力を消耗するほどではない事が分かっていた。

 

むしろ死の危険を伴う攻撃をしたのはリリの方だったりするのだが………

 

「いま(わたくし)たちは非常に危険な状況に陥っています。現在、【剣姫】様とバーチェ様にも迎撃を頼んでおりますが―――ッ!?」

 

気付いたら消えていた女戦士(アマゾネス)やアイズ、他の団員達の事を二人に説明しようとした春姫が唐突に尻尾をピンと立てた。

 

いや、尻尾だけではない。全身の体毛が何かを知らせるように逆立っている。

 

「どう、したんですか……?」

 

ただならぬ気配を感じたレフィーヤは、リリによって出来た巨大なクレーターや砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の砲撃によって元の原型が全くと言っていいほど留められていない階層の暗闇、そのどこか遠くの一点を緊張した面持ちで見つめている春姫に聞き返す。

 

その瞬間

 

遠くで何かがカッと光り

 

超硬金属(アダマンタイト)』すら焼き付くす程の熱線(ブレス)がこの場に居る全ての者に喰いついた。

 

「!?」

 

もし、それが春姫の放った魔砲に迎撃されなかったら、レフィーヤは声を上げる間もなく消し炭になっていただろう。

 

「二人とも、今すぐここから離れる準備を!!」

 

一瞬で命を刈り取られていたかも知れない事実に思考が真っ白になりかけたエルフの少女は、それでも冒険者として培ってきた経験からか、歯を食い縛りその声に従うべく無言で足を動かす。

 

その際、馬鹿げた威力を叩き出す魔砲と拮抗する程の威力を超長距離から放った何かの正体をせめて一目見て確かめておこうと、眼を凝らした。

 

「あれは………ドラゴン?」

 

激しい爆炎に見舞われた攻撃が終わり、元の薄暗い階層に戻ったことで、暗闇に慣れてきたレフィーヤの瞳にその異形が飛び込んできた。

 

遠目で見えるその巨躯は、あの砲竜すら子供扱いに出来そうな程巨大であり、優に100M(メドル)を軽く越えているかもしれない。

 

その全身を覆う漆黒の鱗はあの場に居る冒険者の攻撃をものともせず、あの風を纏ったアイズの剣撃すら弾いているらしく、傷一つ負った様子もない。

 

そして特徴的なのは、その頭だ。

 

信じられないことに、そのドラゴンは八つの首を振り回し、立ち向かう冒険者を苦しめていた。

 

「う………そ」

 

しかし、そんな事はレフィーヤにとって問題ではない

 

もっと重要な部分がそのドラゴンには存在していた

 

それは存在してはいけない者の筈なのに

 

「どうして……」

 

レフィーヤはカチカチと自分の奥歯が鳴っているのに気付かない、それはレフィーヤにとって絶望の権現とも言える存在だった。

 

「だって………」

 

もし、【ヘスティア・ファミリア】と深い関わりがなければ、この遠征に慣れて居なければレフィーヤの膝はきっと屈していただろう

 

「だってっ!!」

 

そのドラゴンの八本の首の付け根、そこには【ロキ・ファミリア】が死力を尽くして倒した筈のモンスターが狂笑を浮かべていた

 

「あの精霊(モンスター)は倒したのに!?」

 

復活を果たした『穢れた精霊』は真っ直ぐレフィーヤ達の方に視線を向け、八首のドラゴンの砲撃と共に絶望の呪文(うた)を紡ぎだした。

 

 




後で色々手直しするかもです


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第46話 穢れた精霊

お待たせして申し訳ないのと、待ってくれてありがとうございます。


その『精霊』は生き延びていた。

 

ドワーフの斧で触手を切り裂かれ

 

エルフの魔法で全身を焼かれ

 

天女と見間違う程の美しい顔に小人族(パルゥム)の槍が突き刺ささり

 

黄金の少女の剣に胸を貫かれたとしても。

 

都市最強の一角と謳われるファミリアとの死闘を彼女は生き延びたのだ。

 

まるで蜥蜴の尾切りのように、自分の核たる『魔石』の代わりを複製し、それを砕かせて難を逃れた。

 

それは彼女の知恵ではなかった。

 

それはダンジョンの悪意ではなかった。

 

それは運命。

 

突如ダンジョンに吹き抜けた一陣の風が現在戦っている冒険者の殲滅よりも、その場を生き延びる事を彼女に選ばせたのだ。

 

そうして生き延びた彼女は弱った身体で上を目指した。

 

それは至極単純な理由で、あの風を生み出した存在を殺すためだ。

 

途中で出会ったモンスターを糧とし、力のある冒険者から身を隠し、上に上にひたすら上に

 

そうしてたどり着いた階層に()()()が居た。

 

『ミィツケタァ』

 

ソイツは彼女にとって、明確な敵だった。

 

ダンジョンを破壊するほどの風を操り、階層主を滅ぼすほどの雷を扱い、人の精神を支配するソイツは、彼女にとって存在してはいけない者だった。

 

だから殺す、絶対に殺す、殺さなきゃいけない

 

『シネ』

 

絶対の殺意をもって、ソイツと彼女の闘いが始まった。

 

確かに彼女は深層で黄金の少女達と闘った時よりも弱い。

 

幾ら他のモンスターを喰らい、()()()()()力を取り戻していても、触手の数も魔法の威力も当時の彼女には遠く及ばないだろう。

 

しかし、それでも彼女はソイツよりも強い、それで十分。

 

触手を操り攻撃、吹き飛ばす

 

風で応戦される、効かない

 

触手を叩き付ける、まだ生きている

 

雷を飛ばされる、効かない

 

『アハハハハハハハハ!!!』

 

あぁ、なんて清々しい気分なのだろう。

 

一方的に敵を叩き潰す生まれて初めての快感に、彼女は酔いしれる。

 

そうして敵を追い詰め、止めを刺そうとした所、彼女に初めてダメージが与えられた。

 

『アアアアアアアアアッッッ!?』

 

それは冒険者の間で『魔剣』と呼ばれる武器だった。

 

とてつもない威力で放たれたそれは、彼女の触手をいとも簡単に焼き払う。

 

あまりの痛さに見悶えしながら、昂った気持ちを地の底まで叩き落とした存在を睨み付けた。

 

「おいおい、なんだコイツは」

 

「これはまた、珍妙なモンスターを引き寄せましたね、色殿」

 

そこには着流しを羽織っている青年と戦闘衣(バトル・クロス)を装備している少女の二人組が、それぞれの武器を携え対峙している。

 

『…………』

 

「「っ!?」」

 

無言で二人に向かって鞭のようにうねらせた触手を飛ばす。

 

彼女はダンジョンを上がっていく過程で、その存在がどれぐらい強いのかを大まかに把握出来る能力を有していた。

 

それは力を取り戻す為にモンスターを喰らう過程で少なからず戦闘になった時の経験の賜物であり、その経験があの二人組の力は自分に遠く及ばない事を告げている。

 

だから彼女は自分を唯一傷つけられる『魔剣』にだけ注意を払い、血塗れになった敵を確実に殺すため、まずはその二人を殺すことにした。

 

殺すことにした瞬間、彼女の触手の半数以上が高らかに鳴り響く鐘の音と共に消滅する。

 

『ッ!?』

 

唐突に彼女の触手を無慈悲に滅ぼしたのは、たった一人の白い冒険者だった。

 

「全く、しっかりしてよね副団長様?」

 

白い冒険者は蹲る敵に言葉を投げ掛けた後、驚くべきスピードで彼女の触手を切り飛ばし始める。

 

『ウアアアアアアアアア!!!!』

 

それはなんて不条理な出来事なのだろう

 

あと一歩で自身の敵を殺せるのに、あと少しで目の前の敵を潰せるのに、あとちょっとでその存在を滅ぼせるのに、そのほんの僅かに彼女の手は届かない。

 

彼女は()()()理解していた、あの黄金の少女に迫るほどのスピードで攻撃してくる白の冒険者には、今の自分では(かな)わないと

 

しかし、彼女が退く事はない

 

この盤上をひっくり返す(すべ)を彼女は持っていたからだ。

 

あらゆるモンスターを焼き払い、あの冒険者達ですら苦しめられた魔法を彼女は唱えた。

 

『【地ヨ、唸レ――】』

 

本当は、この脆い階層では撃ちなくなかったが仕方がない

 

後で破壊しつくした階層の中、敵の亡骸を確認すればいい

 

『【来タレ来タレ来タレ大地ノ(カラ)黒鉄(クロガネ)宝閃(ヒカリ)ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢(カイビャク)ノ契約ヲモッテ反転セヨ】』

 

そんな事を考えていた彼女の耳にその歌が入って来る。

 

「【掛けまくも(かしこ)き――】」

 

それは彼女と同じ力、『魔法』だ。

 

しかし彼女は知っていた、短い歌じゃ自分に届かない。長い歌じゃ自分に追いつけない。

 

『【空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地(ヒトツ)ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災――】』

 

だから彼女は歌を唄う。絶対の自信をもって自分の歌に莫大な魔力と殺意を乗せて

 

『【代行者ノ名二オイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ】』

 

「【我が()において招来する。天より(いた)り、地を()べよ――神武闘征(しんぶとうせい)――フツノミタマ】!! 」

 

『!?』

 

しかし、あり得ない事に、あまりにも速すぎる冒険者の詠唱は彼女の歌を追い抜かす。

 

それは冒険者(少女)が毎日欠かさず続けている地獄の訓練の過程で得た高速詠唱と呼ばれる技術。

 

第一級冒険者の詠唱すら置き去りにするほどの詠唱速度で放たれた魔法が彼女に落とされた。

 

『ウウウウウウウ……』

 

強力な『重圧魔法』に縛られた彼女は――

 

『【地精霊(ノーム)大地ノ化身(ケシン)大地ノ女王(オウ)】!!! 』

 

それでも唄を歌い切った

 

歌い切ってしまった

 

『【メテオ・スウォーム】』

 

「【ウィルオ・ウィスプ】!!」

 

『ウッ!?アアアアアアアアア!!!』

 

対魔魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)

 

彼女が最も警戒すべきだったのは、白の冒険者でも戦闘衣(バトル・クロス)を装備した少女でもなく、着流しを着た青年だったのだ。

 

訳も分からず強制的に魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を誘発させられた彼女は、爆炎と共に敗北を悟った。

 

アァ、ソレハダメダ、テキヲコロセナイ

 

燃える身体に向かって、鐘の音と共に向けられる白い冒険者の右腕を記憶に刻み付けながら、過去と同じように自分の核を守り、新たなる成長を求めダンジョンの底へ這い戻る。

 

今度こそあの『外敵』を確実に殺す為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴン達を殲滅し、体制を整えようとした時に現れた八首の怪物(モンスター)の力は【ヘスティア・ファミリア】を以てしても想定外だった。

 

「春姫さん、出来るだけ速く皆に指示をお願いします!!」

 

「承知しました!!」

 

さっきからベルの頭の中で五月蝿いぐらい警鐘が鳴っている。

 

その理由は先ほど一緒に落ちた階層主(ウダイオス)の強化種を八首の巨竜が一方的に喰らった光景を見たからでも、魔砲と同等の威力の砲撃(ブレス)を放ったからでも、最長蓄力(フルチャージ)英雄の一撃(アルゴノゥト)が殆ど効かなかったからでもなく。

 

『『『『『『ガアアアアアアアアアア!!!』』』』』』

 

ただ暴れているように見える巨竜の進行方向が、どうみても色を狙っていたからだ。

 

色が居るだけでダンジョンの難易度が跳ね上がる事を身に染みて理解しているベルは、それだけで現状がどれだけ危険なのかを察せられた。

 

「ウィーネちゃんはリリ様を探して回復を、他の皆様は出来るだけ時間を稼いでください!!」

 

その危険性を理解していたのは近くにいた春姫も同じことだ。

 

【ヘスティア・ファミリア】の誰よりも敵の力量を見極める事が出来る彼女は、あの巨竜と戦闘すれば一方的に蹂躙されるだけだということを肌で感じ取れていた。

 

それに砲竜との戦いで色とリリの二人が倒れて動けない今、どの道あの怪物と戦うという選択肢は取れない。

 

「【剣姫】様とバーチェ様、お二人は準備が整うまであの巨竜の相手をしていてください――――撤退戦です」

 

「わかった」

 

「……仕方がない」

 

異変を感じ近くまで来たアイズとバーチェに指示を出した春姫は、二人の了承も聞かないまま《炎刀》を構え、色とリリを寝かせている所まで急いで後退する。

 

それを横目で見送った後、ベルも前線に加わるべく背負った大剣、《黒幻》を構えた。

 

すると新たに発現したスキルにより、全身に力が漲ってくる。

 

英雄本能(ガンダールヴ)

 

武器を装備するだけで全アビリティに高補正が掛かる、能力上昇系では破格の『スキル』

 

その新たな力は始めて使った時からベル本人すら驚くほどに馴染んでいる。

 

「ちっ、あの化物、魔剣がちっとも効きやしねぇ」

 

「すみません、自分の重圧魔法も効果が薄いようです」

 

「ヴェルフ、命さん」

 

Lv.6の二人が前線に加わったことにより、魔剣と魔法でなんとか注意を反らしていた二人がベルの方にやって来た。

 

二人の話を聴くに、事態は思ったよりも急を要するみたいだ。

 

「二人とも、この場所を撤退までの時間稼ぎをする防衛ラインにしよう。春姫さんの合図があるまでに、あの怪物がこのラインを越えるようなら、全力で逃げるよ」

 

「了解」

 

「わかりました」

 

二人の返答を聞いたベルは、少しだけ眼を瞑りあの巨竜の事を分析する。

 

(まず、全身を覆う黒い鱗は魔法の類いを通さない可能性がある。じゃなければ、命さんの魔法やヴェルフの魔剣が効かないなんて事はあり得ないし、僕のチャージした【ファイアボルト】ですら傷一つつかなかった事の説明が出来ない。それと、あの砲撃(ブレス)は放たれた後、地面が溶けてるから当たったらアウト。強い酸か毒を帯びているかも。厄介なのは首が八つの在ることだけど、その首すべてが砲撃(ブレス)を放てる訳じゃ無い?)

 

「ねぇ、ヴェルフ。一応聞くけどあの熱線(ブレス)、ヴェルフの『魔法』で何とかならない?」

 

「いや、あれは『竜肝(りゅうたん)』で撃たれた攻撃だから無理だな。魔法攻撃じゃなくて、アイツのスキルみたいなもんだ」

 

「うわ、ズルいなぁ」

 

そう言いつつも、あらかた考えが纏まったベルは力強く地面を蹴り、駆け出した。

 

(あの春姫さんが、現状の戦力ではアイズさんやバーチェさんが居ても勝てないって判断したんだから、あの巨竜の危険度は最大。勝利条件は全員無事に逃げ切る事だ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は未だにあの光景が夢か何かだと思う時がある。

 

切っ掛けは姉が気紛れで、ティオナに聞いたとある店に行くと言い出した事だった。

 

「随分煩い店だな。本当にここで合ってるのか?バーチェ」

 

「ティオナが言うにはここで合ってる筈だが……さて、少々あそこの騒がしいのを黙らせるか」

 

その店では数人の人間とモンスター達の宴会が行われていた。

 

観光という名目で来た私たちは、入国の際ファミリアのエンブレムを掲げているモンスターには危害を加えない事を契約させられたが、アルガナや他の団員はモンスターに危害を加えない契約など鼻で笑い、守る気など微塵もなく、もし何か言われれば力で黙らせようなどと言うものすら居た。

 

そう、この時の私達はこの国の常識をまだ知らなかった。

 

「おい、貴様ら………」

 

「悪いけど、今日は貸しきりだよ」

 

少し黙らせようと騒いでいる者達やモンスターに殺気を飛ばそうとした瞬間、店の店主に声を掛けられる。

 

一目で、この店主がただ者ではない事が分かったが、別に闘いに来たわけでもないので素直に店を出ようとした。

 

が、強者を見つけたら黙ってられない者がうちのファミリアには一人居る

 

アルガナだ

 

「それは、このモンスター共が店を貸しきっているということか?」

 

あくまで挑発的に、アルガナは店主に声を掛けた。

 

若干の殺気を滲ましたそれを店主は「そうだよ」と涼しい顔で受け流す。

 

やはりこの店主、ただ者では無いようだ。

 

「ならそれもここまでだ、後はワタシ達が貸しきらせてもらう」

 

しかし、それで食い下がるような(アルガナ)ではない。

 

あの化物はここの店主を喰らう気だ。ここに女神(カーリー)が居ない今、止められる者は誰一人として居ない、筈だった。

 

「ちょい待ち」

 

「なんだ、お前は?」

 

いつの間に居たのか、気づけば全身に黒の衣服を纏った男が命知らずにもアルガナの肩を掴んでいた。

 

今まで見た事がない程の深い漆黒の瞳を持つ男は、掴んだ手と反対の手をポケットに入れながら私達に笑い掛ける。

 

「俺は黒鐘色、しがない冒険者だ。よろしくな」

 

「―――ほぅ」

 

黒鐘 色

 

それは近頃世界中で話題になっている冒険者の名前だ。

 

いわく、化物を従える怪物

 

いわく、オラリオを滅ぼそうとした魔人

 

いわく、闇の支配者

 

『闘争』にしか興味のないアルガナは、【ロキ・ファミリア】の【剣姫】と渡り合ったと言われている男に、直ぐさま標的を変え獰猛な笑みを浮かべる。

 

「お前がワタシの相手をしてくれるのか?」

 

「貴様、色ニ何ヲスルツモリダ!!」

 

「その人に手ぇ出したら、流石にオレっち達も黙っちゃいねぇぜ?」

 

「良いって、周りの皆も気にすんな」

 

その殺気に周りのモンスターが初めてざわついた。そして殺気立ったモンスター共を一声で大人しくさせた所を見るに、どうやらあの噂は本当のようだ。

 

「しかし、お前があの黒鐘色か。なんとも弱そうだが、まぁいい。ワタシの国では―――」

 

「戦士に肩をぶつけたら殺しあいの合図ってか?馬鹿らしい」

 

「―――お前、ワタシの国の事を」

 

「あぁ、()()()()。テルスキュラとか言うゴミみたいな国の事も、【カーリー・ファミリア】とかいう糞みたいな『ファミリア』の事も、お前らアホ姉妹の事もな」

 

アルガナ、バーチェ

 

と、男は怒りを滲ませながら私達の名前を言い当てる。

 

何故初対面の私達にここまで怒りをあらわにしているのかは分からないが、私達をそこまで調べて挑発してきたのなら余程の馬鹿か、それとも噂通りの実力者なのか。

 

しかし、アルガナの言った通りそこまで驚異には思えない。身のこなしが戦士のそれではないし、マジックキャスターにしては雰囲気が違いすぎる。

 

何よりも、一目見ただけでソイツのLv.が私達より低いことが分かる。

 

やはりただの馬鹿か

 

「そこまで調べてあるのなら言葉は要らないな?」

 

「おいおい、肩をぶつけたら、だろ?俺は肩を掴んだだけだぜ?」

 

「ワタシの事を調べたのだろう?なら、そんな些細なことをワタシが気にすると思うか?」

 

「はぁ~、これだから脳筋の猿は困る」

 

やれやれとでも言いたげに首を左右に振った後、男は口許を三日月に歪めながらこう言った。

 

「お前らの国と同じように、この国にも闘いの作法ってもんがあんだよ。もし勝負がしたいのなら、お前らもその作法に則ってもらうぞ?」

 

「―――いいだろう」

 

この国にそんな作法があるのは初耳だが、アルガナは簡単には了承した。

 

それは相手の土俵に立っても勝てる自信があると言うことだが、当然だろう。

 

何せ私達姉妹はLv.6

 

このオラリオに置いても数えるほどしか居ない実力者だ。

 

「決まりだな。じゃあルールはアームレスリングで」

 

「アームレスリング?」

 

「腕相撲だよ腕相撲。知らねぇのか?」

 

そう言いながら黒鐘は近くのモンスターに声を掛け、説明をしながらデモンストレーションを行った。

 

テーブルに腕を置き、絡ませた相手の手の甲を下に着けた方の勝ち

 

なるほど、単純な力勝負か

 

「理解したか?」

 

「大丈夫だ」

 

「オッケー。じゃあルールの確認するぞ、勝負内容はアームレスリング、三回やって二回勝った方が負けた方の言うことを何でも聞くってのはどうだ?」

 

「いいだろう。ワタシが勝てば、ここにいる者全員を喰らう」

 

「俺達が勝ったらお前とお前の『ファミリア』全員奴隷な」

 

「いいだろう」

 

その理不尽とも言える要求にアルガナは直ぐに頷き、獰猛な笑みを浮かべる。

 

姉が望むのは()()ではなく、本当の()()だ。

 

こんな勝負は姉にとってただの前座に過ぎず、その先にある死闘を見据えている。

 

他の女戦士(アマゾネス)達もアルガナの強さを疑わず、ただ黙って見ていた。

 

「それじゃ始めるか――――リリ、頼むわ」

 

「仕方無いですね」

 

そう言って一歩前に出たのはひ弱そうな小人族(パルゥム)の女だ。

 

アルガナは疑問を口にする。

 

「なんだと?お前が相手をするんじゃないのか?」

 

『ばーか、俺じゃ相手になんねぇよ』

 

何を血迷ったのか、私の国(テルスキュラ)の言葉で発せられたそれは、明らかな侮辱だ。

 

アルガナの顔が歪み、他の女戦士(アマゾネス)達が殺気立つ。

 

この男の死刑が決まった瞬間だ。

 

「お前が来い、直ぐに殺してやる」

 

当然、アルガナは殺意を微塵も隠さずに牙を向いた。

 

神の祝福が無い者が受ければ気絶は免れない程の殺意が籠った言葉を、男は顔色一つ変えずに受け流しながら、更に挑発的を続ける

 

「なんだよ女神の分身(カーリマー)、もしかしてリリ(小人族)にビビってんのか?」

 

「…………」

 

姉の顔から表情が消える。

 

こんなことは初めてだが、どうやら怒りの沸点を通り越したのかもしれない。

 

「店の中じゃ迷惑だから外でやんぞ。ごめんミアさん、テーブル何個か買い取っていい?」

 

「仕方無いねぇ。料金は後で請求するよ」

 

「オッケーッス」

 

そして――――――轟音と共に姉の腕がへし折られた。

 

「あああああああああああああああああああああッッ!?」

 

産まれてから一度も聞いたことのない姉の悲鳴がオラリオの一角に響き渡る。

 

周りの女戦士(アマゾネス)達は理解が追い付かないのか眼を白黒させており

 

私自身、放心から戻るのに数秒掛かった。

 

「どうしたんですか?三回勝負って言いましたよね?」

 

情けない声を上げている姉に聴こえるように、アルガナの耳元で小人族(パルゥム)が呟く。

 

「あぁ、でもその右手はもう使えないみたいなので、左手でしましょうか」

 

アルガナの手を握り潰し、血で赤く染まった掌をゆっくりと開けながら、今度は左腕を新しく置かれたテーブルに乗せる。

 

その左手を眼にしたアルガナは信じられないことに、小さな悲鳴を上げガタガタと震えだした。

 

Lv.6になって―――――いや、この世に生を受けてから初めて味わったであろう圧倒的な強者からの蹂躙は、その腕だけではなく心までも完全に折ってしまったのだ。

 

この時になって漸く、周りの女戦士(アマゾネス)達にも状況を理解出来たのか、姉の恐怖(きょうふ)が伝染しだす。

 

小刻みに震える者、頭を抱えるもの者、息を呑む者

 

【カーリー・ファミリア】の全員が、一体何に手を出してしまったのか分かったのだろう。

 

自分達が踏んだのは虎の尾だったのだ。

 

しかし、私は皆ほど恐怖を感じていなかった。

 

それは、恐らく私自身が元々そういう類いの恐怖を知っていたから。

 

ずっと姉を恐怖の対象にしていた私は、どうやら恐れに対する耐性が、少なくともここにいる女戦士(アマゾネス)達よりかはあるらしい。

 

「すまない。姉はもう、戦えそうにない」

 

そして、しんと静まり帰った大通りの中、私は一歩前に足を動かした。

 

「代わりに私が相手をしよう」

 

【カーリー・ファミリア】の副団長として、これ以上ファミリアの無様を晒さないように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、法外な金を請求された私達は、この街で資金繰りに勤しむことになり

 

私はファミリアが勝手に逃げない為の人質になり

 

そうして使いに出された先で、【ヘスティア・ファミリア】(コイツら)でも計り知れない程の化物と戦うことになる………か

 

我ながら、英雄譚に出てくる登場人物みたいな展開だな

 

『グオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

「チッ」

 

薙ぐように振るわれた巨大な首を避けながら、返しの攻撃で蹴りを入れるが、その攻撃は強固な竜鱗に阻まれた。

 

これも効かないか。全く、この街に来てから少し前までは想像もつかない事が立て続けに起こる。

 

「すみません、助力しますッ!!!」

 

そう言いながら駆け付けた白い閃光は、アイツらの団長のベル・クラネルだ。

 

そいつは両手に携えた漆黒の大剣で私と同じ所に攻撃し、私ではビクともしなかった竜鱗にLv.4にも関わらず僅かだが傷を負わせる事に成功する。

 

「これで、Lv.4か……嫌になるな」

 

【ヘスティア・ファミリア】に身を置いてから初めて聴かされた時は自分の耳を疑ったものだが、コイツら全員、私よりLv.が低いのだとか

 

流石に詳しいことまで聞けなかったが、コイツらが私達に勝ったのは恐らく『魔法』か『スキル』――それに合わせて、私も知らない何かがあるのだろうか?

 

「《金剛》で重くした《黒幻》でも(たい)して効果ないか。フルチャージしてこれは本気でヤバいかも」

 

「ベル、どうする?あのモンスター凄く強い、私達だけじゃ撤退までの時間稼ぎはちょっとだけしか出来ないかも」

 

「一応春姫さんの合図があるまで時間稼ぎをする予定で、一定ラインを越えたら合図を待たずに撤退します」

 

一旦引いた私達の近くに、風を靡かせた【剣姫】がベルに指示を仰いでくる。

 

あのクレーターを作り出した小人族(パルゥム)もそうだが、このダンジョンと呼ばれる魔窟を抱え込んでいる都市の、最強の一角を担うファミリアのLv.6に指示を仰がれるLv.4と言うのも可笑しな話だ。

 

私達が手をだしたのは虎では無く竜だったのかとつくづく思い知らされる。

 

「それと、あの砲撃(ブレス)は毒を帯びている可能性があるので出来るだけ撃たせないで下さい、無理なら後ろに居る皆の射線から反らすだけでもいいです」

 

「わかった」

 

「お、おい!」

 

短い了承と同時に、【剣姫】が風を纏い再度巨竜に向かっていく。

 

もう少し対策か何かを練った方がいいんじゃないかと思う私に、鐘の音を響かせたベルが声を掛けた。

 

「バーチェさん、『魔法』を使ってもらってもいいですか?効くかどうかわかりませんが、やってみる価値はあるの思うので」

 

「それはいいが―――ちょっとまて、私はお前達に『魔法』の話はしていなかった筈だが、いつ知ったんだ?」

 

「え!?………えーと、色に教えて貰いました!!」

 

冷や汗を掻いたベルは、そう言い残すと逃げるように【剣姫】の後を追いかけていく。

 

ふむ、それにしてもあの男、ティオナに読み聞かせた英雄譚に出てくる英雄みたいな奴だと思っていたが、どうやら嘘をつくのが苦手らしいな。

 

曲者揃いのファミリアだと思っていたが、意外な所に穴があるのかもしれん。

 

「【食い殺せ(ディ・アスラ)】」

 

長短文詠唱を唱えながら、とりあえず今度アイツに色々話を聞いてみるか、と私は思考を巡らし。

 

「【ヴェルグス】」

 

闘い以外の方法で状況を打開しようとしている私自身に、何故か笑みが零れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのモンスターが真の姿を現したのは、撤退戦が始まってから数分後だった。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

一同は突然発せられた高周波に耳を塞ぐ。

 

その『女』は、まるでダンジョンから生れ落ちるモンスターかのように、ひび割れた巨竜の龍麟から現れた。

 

炎や風、それに毒の『魔法』で戦っていた三人の冒険者は、その女を見て三者三葉の表情を浮かべる

 

「何だこいつは!?」

 

ある者は未知への驚愕

 

「何でこのモンスターが……」

 

ある者は既知への困惑

 

「…………うそ」

 

そして、絶望

 

『…………ィ』

 

背にまで届く美しい光沢を帯びた黒髪に、傷一つない瑞々しい両腕。

 

胸や腰といったなだらかな上半身を覆うのは、漆黒の(ドレス)

 

その美貌は女神にも劣らず、身に着けている装飾も美しい黒の宝石などで彩られており。

 

見る者が視れば感嘆のため息が漏れると軽く予想できる程の絶世の美女が巨竜の背に顕現する。

 

しかしその美貌を裏切るように、瞳孔も虹彩も存在しない金色の瞳が獲物を見定める狩人の如く細められていく。

 

『世界ノ敵イイイイイイイイイイィィィィィィイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!』

 

『『『『『『『『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』』』』』』』』

 

八首の龍の背に現れた怪物()は爆発したかのように黒髪を乱しながら呪詛にも似た叫び声を上げ、それに呼応するかの如く下半身に繋がっている巨竜の八首全てが雄叫びを上げた。

 

その叫びを聞いた冒険者全てがこう思っただろう

 

ヤバい、と

 

だが、その場の誰かが言葉を発する前に、怪物から砲撃(ブレス)が放たれる。

 

毒々しい紫の熱線の数は、今まで一度もして来なかった八首の同時攻撃(フルバースト)

 

その全てが、黒鐘色が居るであろう方向に撃たれた

 

「ッ!!」

 

動けない冒険者達の中で最初に足を動かしたのはアイズだった。

 

風を纏って全力のアタック(エアリアル)

 

一直線に向かった【リル・ラファーガ】はドラゴンの顎元に直撃し、その軌道を僅かでも反らすことに成功する。

 

色達が居る場所はかなり離れており、例え僅かでもズレれば大きなズレになるので、この判断は決して間違いではない。

 

しかし、それでも一首分だけだ。

 

残り七本、死でダンジョンの地表を抉り取る極彩色の熱線は、たった一人の冒険者を焼き殺すために、差し向けられる。

 

「【フツノミタマ】!!」

 

その内の3本は突如現れた光剣によって生み出された強力な重圧によって、その方向を地面に向けた。

 

いざという時の為に魔法の発動準備をしていた命の機転によって、クレーターが出来た階層の地面に更に深い三本の大穴が出来上がる。

 

これで残り四本

 

命がLv.2の時よりも一回りも二回りも大きくなった重圧結界でも三本捉えるのがやっとだった熱線は、残り四本になった時点で漸く対処可能な攻撃になった。

 

その魔銃の名は【炎刀・(まどか)

 

銃口を下に向けて撃たれた【グレイト・トルネード】と名付けられた『魔弾』は着弾と同時に四方に散らばり、それを起点に強固な風の障壁を作り出す。

 

ただでさえ強力な魔剣数本分を圧縮して作られた魔弾を、『魔砲』として放出もせずに更に圧縮させて創ったそれは、地上のどの物質ですら溶かし尽くすであろうブレス四本分を耳が痛くなるような風切り音と共に削り切り、春姫たちを守りきった。

 

だが、その一発を撃った春姫の顔は青ざめている

 

(色様の【原石】の力で削っても数分は持った『(まどか)』で撃った障壁が消滅した!?もし、あのブレスが連続で撃てるのならいとも簡単に全滅してしまいますが!?それにあのドラゴンから生えて来た女性は第二形態みたいなものですか?『魔弾』も残り少ないのにイレギュラーが起こり過ぎでございまする!?)

 

「二人とも、今すぐここから離れる準備を!!」

 

混乱しながらも、春姫は即座にエルフの二人に撤退を命じる。

 

恐らくあの場にいるベルも「なりふり構っている場合じゃない」と判断するだろう

 

それほどまでに今の一撃(ブレス)は【ヘスティア・ファミリア】の冒険者にとって衝撃的だった

 

しかし、瞬時に下されるその判断も無駄と言わんばかりに、その精霊の歌が鼓膜を震わす

 

『【地ヨ、唸レ――来タレ来タレ来タレ大地ノ(カラ)黒鉄(クロガネ)宝閃(ヒカリ)ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢(カイビャク)ノ契約ヲモッテ反転セヨ】』

 

「ヴェルフ様!!」

 

「【燃えつきろ、外法の業】!!」

 

春姫の指示とほぼ同時に『対魔魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア))』の詠唱がヴェルフの口から吐き出される。

 

これでとりあえず、『魔法』の脅威はなくなる

 

なんて思考を嘲笑うかのように、その精霊は顔を歪め両の手をドラゴンの体に置いた。

 

『【契約二従イ我二従エ氷ノ女王(オウ)――】』

 

『【契約二従イ我二従エ高殿(たかどの)ノ王――】』

 

『【契約二従イ我に二従エ炎ノ覇王(オウ)――】』

 

その歌は、詠唱は、何処から聞こえて来るのか?

 

理解が及ばない?イレギュラー?そんな言葉では片づけられない

 

()()()から発せられるそれは、禍々しいながらもしっかりとした詠唱であり、たった数刻でかなり消耗した【ヘスティア・ファミリア】の遠征軍に、絶望を叩きつけるには十分な衝撃が与えられた

 

「ヴェ……ルフ様、『魔法』を――」

 

「―――ふざけろ。あの竜の『魔法』、多分だが『竜肝(りゅうたん)』で造られてやがる。『魔法』の手ごたえがちっともねぇ」

 

「【空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地(ヒトツ)ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災――】」

 

「め、女型の方を……狙われては?」

 

「【魔法】を止めた時点で解ってると思うが、それも無理だ。あの怪物女が身に着けてる装飾、何処の冒険者から奪ったのか知らねぇが、見る限りじゃあ耐魔力の性質を持った物だな」

 

「うぅ……」

 

春姫は思考を手放しそうになるが、頭を振って打開策を考える。

 

そうして高速で回転する頭の中で行きついたのは、この状況で無事に逃げきるにはあまりにも時間と情報と戦力が足りないという結論だった。

 

まるで罠にでも嵌められたかのように春姫は感じる。

 

そもそもヴェルフの【ウィル・オ・ウィスプ】を対策している時点でおかしな話なのだが、それ以前にあの女型の怪物が最初から出現していたらもっと速く逃げていただろうし、もっと言うなら落ちている最中にその姿を確認さえ出来れば、高火力の二人(色とリリ)を温存する手だって考えられたはずだ。

 

しかし、そうはならなかった。

 

あの精霊は身を潜め、機をうかがい、万全の準備をした後、確実に倒せると判断したから出現したのだ。

 

まるで【ヘスティア・ファミリア】を攻略するかの如く。

 

そうとは知らない彼らに向けて、四つの『魔法』は同時に完成される。

 

『【代行者ノ名二オイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊(ノーム)大地ノ化身(ケシン)大地ノ女王(オウ)】』

 

『【来レ永久(トコシエ)ノ闇永遠ノ氷河全テノ命アル者二等シキ死ヲ()ハ安ラギ(ナリ)】』

 

『【来タレ巨人ヲ滅ボス燃ユル雷霆(ライテイ)(ジュウ)(ジュウ)ト重ナリテ走レヨ稲妻】』

 

『【来タレ浄化ノ炎燃エ盛ル大剣(ホトバシ)レヨソドムヲ焼キシ火ト硫黄(イオウ)罪アリシ者ヲ死ノ(チリ)二】』

 

それを呼称するのなら並列詠唱

 

外敵を倒せる悦びに打ち震えながらその精霊は完成した四つの『魔法』を解き放つ

 

『【コオルセカイ】』

 

『【センノイカヅチ】』

 

『【モエルテンクウ】』

 

空間が凍り付き、雷が埋め尽くし、大地が燃える

 

―――更に

 

『【メテオ・スウォーム】』

 

上空から隕石が降り注ぐと同時に、『魔法』を詠唱していない他の竜の顔から熱線(ブレス)が放たれた。

 

『アハハハハハハハハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハ!!!!!!!!!』

 

たった一人を殺す為に地獄を創り上げた精霊の狂笑が、ダンジョンの奥地に響き渡る。

 




話が書くたびに長くなって話数が増えていく問題


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第47話 真価

緩やかな視界の中、ありとあらゆるものが破壊されていく。

 

悲鳴を上げる階層内を満たすのは炎、雷、冷気、熱線に隕石、レフィーヤの視界内にある全ての消滅が遅く写し出された。

 

恐らく、自分の死がすぐそこまで迫っているから世界がゆっくり見えるのだろう

 

だけど自分は生き延びている。それは何故か?

 

答えは一人の狐人(ルナール)に護られているからだ。

 

半月を連想させる銃を構えた彼女は、強力な障壁を作り出す『弾丸』を三ヶ所に的確に撃ち込み、見事にその場に居る冒険者を守っていた。

 

だが、その障壁にも限界があるようで、次第に(ひび)が走り初める。

 

「ッ!?」

 

入り込んで来た障壁外の『死』で頬を焼かれながらも狐人(ルナール)は新たな『魔弾』を撃ち出した。

 

障壁の消滅と同時に撃ち込まれた新たな『魔弾』から障壁が非常に遅く展開される。

 

(――――このままじゃ)

 

一瞬でもタイミングを間違えれば、この場に居る人間は骨も残さず消滅するだろう。

 

『魔銃』の引き金に指を掛けている狐人(ルナール)の頬に一筋の汗が流れる。

 

コマ送りの様な遅さで新たな障壁が消滅していくのと反比例するかのように、レフィーヤの頭の回転は加速度的に上昇していった。

 

(――――お願い)

 

遅い、遅すぎる。

 

恐らく人生で初めて感じるであろう莫大な焦燥感の中、レフィーヤは漸くその口を開いた。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ】!!」

 

今まで行ってきた詠唱とは全く異なる叩き付けるような詠唱

 

必死の形相で召喚魔法から呼び出すのは自身が知る最硬の結界魔法

 

(速くッ!!)

 

炎に焼かれて死ぬ

 

冷気に当てられて死ぬ

 

雷に貫かれて死ぬ

 

隕石に潰されて死ぬ

 

熱線(ブレス)に溶かされて死ぬ

 

そう、間に合わなければ死ぬ。簡単に死ぬのだ。

 

(もっと速くッ!!!)

 

「【至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい】!!」

 

レフィーヤがこの『遠征』に付いていくと決めた理由は、自分と同じLvぐらいの冒険者との遠征を経験してみたいと思ったからだ。

 

しかも色々な噂が飛び()い交流のある【ヘスティア・ファミリア】なら、自分をより鍛えられる冒険が出来るだろうという打算もあった。

 

そして、その考えがどれだけ甘かったのかを身に染みて理解させられた。

 

「【舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契を結び、大地の歌をもって我等を包め】!!」

 

詠唱時間中ずっと守ってくれる壁役(ウォール)何て居ないし、前衛後衛が入れ替わるタイミングは唐突だし、精神力回復特効薬(マインド・ポーション)を無理矢理飲まされるし、恐怖心で少しでも足が竦めば危ないからと投げ飛ばされる。

 

そして一番理不尽なのが、そのどれもこれもが一歩間違えたら死に直結する事だ

 

正直、今までの【ロキ・ファミリア】の遠征がどれだけ安全だったのかを涙と共に味合わされた。

 

まるで天窓付きのふかふかのベットで寝るのと寒空の下の固い地面で寝るぐらいの違い、なんて何度思った事か。

 

しかし、だからこそ

 

これまでの経験がレフィーヤの心に火を灯していく。

 

(もっと速く動いてッッ!!!!)

 

「【我等を囲え大いなる森光(しんこう)の障壁となって我等を守れ――我が名はアールヴ】!!

 

守ってくれる何て甘えるな、詠唱時間が足りなかったら速く歌え、精神力(マインド)が尽き掛けたら回復薬(ポーション)(あお)れ、緊急時に指示を待つな自分で考えろ

 

そうだ、自分が動かなければ、自分が動かなくちゃ、自分が護らないと!!

 

「【ヴィア・シルヘイム】!!!!!」

 

体と頭がチグハグになりながらも、ありったけの精神力(マインド)をつぎ込んだ結界は、仲間の死を拒絶するかのように消滅する障壁内に張り巡らされ、そこでようやくレフィーヤの視界は通常の速さを取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが収まった時、その階層に原型を留めている物質は何もなかった。

 

あの状況で人が生きていられる訳が無く、モンスターですら生存出来ないだろうと予想される

 

だからこそ、この状況で生き延びた彼らは()()()と呼ばれるのかもしれない

 

「はぁ…はぁ…ナイス判断です。命様」

 

「い、いえ、ウィーネ殿が居なければどのみち色殿とリリ殿を近くに持ってくるのは無理だったので」

 

「うううん、命が声を掛けてくれなかったらワタシも皆も死んじゃってた。ありがとう」

 

「は、はは」

 

気絶している色を背負っているウィーネにから笑いで返答した命の脇には、回復途中だったリリが抱えられている。

 

最初のブレス三本を防いだ直後に、これは不味いと直感した彼女は急いで《スキル》で二人を探しだし、ウィーネに指示を出して次の攻撃で障壁の範囲外に漏れないように移動してきたのだ。

 

それが無ければ階層を埋め尽くさんと言わんばかりに放たれた『魔法』と砲撃(ブレス)に障壁が届かず、動けない二人は助けようとしたウィーネ諸共、為す術もなくやられていたかもしれない。

 

「レフィーヤ様も助かり―――」

 

「いいから次の指示を!!」

 

「………今ので『魔弾』は残り一発になりました。()()()()()()()

 

礼を言う時間すら惜しいとばかりに指示を急かしてくるレフィーヤに答えるように、春姫はこの場に居る全員に現状の報告と次の指示を飛ばす。

 

「ウィーネちゃんは持てるだけの回復薬(ポーション)類を、ヴェルフ様とフィルヴィス様は色様とリリ様をお願いします。レフィーヤ様は(わたくし)を背負って下さい」

 

「わかりました」

 

何の疑問も持たずにレフィーヤ達は春姫の指示に従う。

 

ヴェルフは色をフィルヴィスはリリを背負い、ウィーネは回復薬(ポーション)類の入ったバックパックを背負った。

 

「それでは皆様、撤退します」

 

背負われた春姫の声に従い、冒険者達は破壊され尽くされた薄暗い階層内でレフィーヤを先頭に()()()()()()()に向けて走り出す。

 

「一点に強力な攻撃が可能な《魔法》の準備を、(わたくし)も詠唱を始めるので、これからは手で指示を行います」

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ】 」

 

「【大きくなれ。()の力に()の器。数多(あまた)の財に数多の願い】」

 

走るレフィーヤと春姫の詠唱が重なる。

 

言葉は要らない、返事もいらない、欲しいのは皆で生き残る(すべ)だけ。

 

レフィーヤの集中力が極限まで高められていく。

 

「【同胞の声に応え、矢を(つが)えよ。帯びよ炎、森の灯火(ともしび)】」

 

「【鐘の音が告げるその時まで、どうか栄華(えいが)と幻想を】」

 

苛立ち、焦り、力み、緊張、不安、プレッシャー

 

付きまとう感情に振り回されるな。

 

「【撃ち放て、妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

 

「【大きくなれ。神撰(かみ)を食らいしこの体。神に(たま)いしこの金光(こんこう)】」

 

感情も身体も全部、コントロールしろ

 

戦友(みんな)を守る為の力を!!!

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!!」

 

妖精の魔法が完成したと同時に、前方から極彩色の光が放たれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(追い……付けない!?)

 

春姫はその妖精(レフィーヤ)の詠唱速度に驚愕する。

 

本来なら彼女の魔法が完成するより前に自分の魔法が完成しているはずだった。

 

何故なら遠征が始まってから彼女の……いや、遠征メンバーの全員の魔法の詠唱速度は頭に叩き込んでいたからだ。

 

多少早くなったとしても問題は無い筈だったのだが、春姫の計算はレフィーヤによって大きくズレた

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!!」

 

(マズいですね)

 

前方から竜の砲撃(ブレス)が放たれる。ほぼ計算通りの攻撃だが、自分の魔法は未だ完成せず、レフィーヤの魔法は完成しているのは完全に計算外だ。

 

(賭けますよ、レフィーヤ様!!)

 

元々、この場から無事に逃げきるなんてことは不可能だった。

 

ここまでグチャグチャに壊された階層では降りる道も上がる道も分からず、今進んでいるのだって一%未満の希望に縋っての事だった。

 

せめて誰一人死なずに切り抜けるには、ここにいる全員の力を一切の狂いなく完璧にぶつけなければならなず、運よく事が運んでもどれほどのリスクを背負う事になるか分からない

 

なのに、ここに来てその綱渡り的な計算を前提からひっくり返されたのだから堪らない

 

しかしだからこそ。自分の計算を越えて来るレフィーヤにすべてを託す覚悟を決め、スッと魔法を放とうとしているレフィーヤの前に手を伸ばした。

 

「【権限せよ――全ての厄災を()つ神々の(やいば)】」

 

その間もなく訪れる砲撃(魔法)砲撃(ブレス)がぶつかり合うと予想される場所に入って来る人影が一つ

 

「【険しき道を切り開く原初の(かたな)――――神武闘征(しんぶとうせい)】 」

 

一人だけ()()()()()()()()()()()()その少女は、『魔法』の詠唱を終えると同時に鞘に納められている刀の(つか)を緩やかに握った。

 

「【トツカノツルギ】」

 

三閃の煌めき

 

同時に春姫の指示通りに放たれた【ヒュゼレイド・ファラーリカ】が巨竜の放った三発のブレスと激突する。

 

「――――ッッッ!!」

 

そのとてつもない衝撃にレフィーヤの顔が歪んだ。

 

それもそのはず、ただでさえ走りながらの魔法行使は高度な技術が要求されるのにも関わらず、巨竜の砲撃(ブレス)はレフィーヤの魔法の数段上の威力を誇っているのだ。

 

普通なら拮抗する間もなく一同は消し炭になっていた筈だが、レフィーヤは必死に両手を前に突き出しその砲撃(ブレス)を自身の砲撃(まほう)で受け止めきった。

 

「ッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「【ウチデノコヅチ】!!!」

 

咆哮するエルフに狐の妖術が掛けられる。

 

その瞬間拮抗していた砲撃の均衡は崩れ、まるで滑るように三本の熱線(ブレス)はレフィーヤ達の上を通り過ぎた。

 

(ここまで一緒に冒険して来たからとはいえ、砲撃(まほう)を少し下の角度から正確に撃つという無茶な注文を指の指示だけで遂行されましたか。威力も、命ちゃんの魔法もありましたがあのブレスを一瞬でも止められたのは素直に称賛できますね)

 

春姫の中でどんどんレフィーヤの評価が書き替えられていく。

 

本来なら命に掛けるはずだった妖術すらも彼女につぎ込むぐらいには今のレフィーヤを春姫は信頼していた。

 

しかし、その言葉を出す時間など敵は与えてくれない

 

『『『【火ヨ、来タレ】』』』

 

「!?」

 

()()()()()()()()禍々しい詠唱を耳にした狐の全身の肌が粟立つ。

 

アレをまともにやり合うのは不味いと生存本能が全力で警鐘を鳴らし、春姫は即座に次の指示を出した。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ、誇り高き同胞よ】」

 

『『『【(タケ)ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ(チカラ)ヲ借リ世界ヲ閉ザセ】』』』

 

「【我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか力を貸し与えてほしい】」

 

『『『【燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命】』』』

 

「【エルフリング】」

 

最早春姫には聞き取れない程にレフィーヤの詠唱が速さを増していく。

 

畳みかけるように発せられる詠唱(ことば)は、巨竜の三つの咢から発せられる詠唱(ほうこう)の速度を完全に上回っている。

 

『『『【全テオ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲(ゴウホウ)ヲ我ガ愛セシ英雄(カレ)ノ命ノ代償ヲ】』』』

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬―――終焉の訪れ】」

 

己の出来る限りの力と速さを込めて行われる高速詠唱は―――更に連結

 

「【間もなく、()は放たれる。忍び寄る戦火、(まぬが)れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。】」

 

『『『【代行者ノ名二オイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊(サラマンダー)炎ノ化身(ケシン)炎ノ女王(オウ)】』』』

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲な猛火、汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣、我が名はアールヴ】」

 

巨竜(かいぶつ)妖精(エルフ)の同時詠唱は遂に終わりを迎え

 

『『『【ファイヤストーム】』』』

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!!!!」

 

その場に居る全員の視界が紅に染まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

撃たれたのは本来王族(ハイエルフ)の王女のみに許された『連結詠唱』から呼び出される地獄の火炎。

 

対するは火の精霊を彷彿させる、極大の炎嵐―――その三重

 

正面から喰らい合うお互いの『長長文詠唱』から放たれた魔法(ほのお)によって、世界は灼熱に包まれた。

 

その激突は先ほどダンジョンを破壊しつくした地獄ですら越えようとする程の光景だ

 

しかし、無謀にもその業火に突っ込んだ一人の冒険者が、世界を切り裂くように己の刀を抜刀する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「レフィーヤ様、二属性回復薬(デュアル・ポーション)です」

 

「んぐ」

 

後ろから口に突っ込まれた二属性回復薬(デュアル・ポーション)を無理矢理喉の奥に流し込みながら、私はそれでも足を前に進める。

 

自分でも不思議なぐらい力が湧いて来るのを実感していた。背中に器用にしがみついている春姫さんの重さだって今は全く感じない、これが春姫さんの妖術ですか…………

 

いやいやいや、あり得ないでしょうこれ!?

 

確かに遠征の途中で春姫さんの妖術(まほう)について聞かされましたが、全てのステイタスを少し上げる程度って嘘ですよね!?少しどころじゃないですよね!?

 

なんかもう、凄い威力の『魔法』打てちゃってるんですけど!?まるでランクが一つ上がったような―――

 

『【黄昏ヨリモ暗キ存在(モノ)、血ノ流レヨリモ赤キ存在(モノ)】』

 

何ですか、この魔力!?

 

そんな私の考えを断ち切るように、今度は巨竜ではなく穢れた精霊(デミ・スピリット)が詠唱を始めた。

 

その『魔法』には、圧し潰されると錯覚するほどのあり得ない量の魔力が込められている事が、まだかなり距離が開いているにもかかわらず分かる。

 

もし、【ヘスティア・ファミリア】の遠征に着いてくる前の私ならば、なにも出来ずに膝を屈していたかもしれない

 

『【時間(トキ)ノ流レニ埋モレシ偉大ナル汝ノ名ニオイテ我ココ二闇ニ誓ワン】』

 

「盾の展開を」

 

「【ウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ】」

 

だけど私は背中から下された命令に何の反論もせず、即座に詠唱を始めた。

 

自身の《スキル》か春姫さんの妖術の影響か、先ほどから()()()()()()()()()()身体が噴火する火山のように熱を持っているように感じる。

 

しかし逆に心の方は悲鳴を上げたくなるほどのピンチの連続なのに、まるで鳥も魚も居ない凪いだ水面のように落ち着いていた。

 

もしかしたらこれがリヴァリエ様が言っていた『大木の心』なのかも

 

『【我ラガ前ニ立チ塞ガリシ全テノ愚カナルモノニ】』

 

「【どうか力を貸し与えてほしい―――】」

 

考えよう。

 

あの穢れた精霊(デミ・スピリット)に対して今更盾一枚でどうにかなる筈がない。それに今度の指示は手じゃなくて言葉だ。つまり今、春姫さんは手で指示が出せない……両手が塞がっている?

 

「【エルフリング】」

 

『【我ト汝ガ(チカラ)モテ等シク滅ビヲ与エンコトヲ】』

 

そこでレフィーヤは両手で春姫の足をがっちりと固定した。走る歩幅も小さくし、彼女の体を安定させるように

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】」

 

フィルヴィスさんの盾、これであの魔法に対抗できないのは明白だ。

 

でも、多分私の考えが正しければあの魔法は…………

 

『【ドラグ・スレイブ】』

 

「【ディオ・グレイル】」

 

レフィーヤの予想通り、その魔法は発動しなかった。

 

いや、正確には()()()()()()

 

「ッ!!」

 

大規模な魔力暴発(イグニス・ファトゥス)の余波をレフィーヤの盾が受け止める。

 

彼女の肩越しに、いつの間にか置かれていた槍のような銃の先端。これがこの現象を起こした原因だ。

 

【炎刀・刹那(せつな)

 

魔弾の超長距離射撃を想定して作られたこの魔銃は、【虚空(こくう)】の線や【(まどか)】の面とは違い、点の攻撃を意識して造られており、その究極までに絞られた魔弾の威力は最硬金属(オリハルコン)すら容易く貫く

 

しかし、如何せん魔弾を使うような場面は大量のモンスターに囲まれている時か、階層主と戦う時ぐらいなのでその小さな攻撃範囲が生かせずあまり使えなかったのだが、相手が『魔法』を使うと言うのなら、その凶悪な攻撃力は充分有効だ。

 

装備している魔防の装飾の数々なぞ歯牙にもかけず、喉元を貫かれた穢れた精霊(デミ・スピリット)は、詠唱を完成させる間際で『魔法』のコントロールを手放し暴発した。

 

「命様!!」

 

「御意」

 

次の瞬間、春姫は背中から飛び降り自分の足で走り出す。

 

唐突な行動にレフィーヤが疑問を浮かべるよりも速く、背中に他の重みが追加される。

 

「頼んだ!!」

 

そう言って担いでいた色をレフィーヤの背に乗せたのはヴェルフだった。

 

命とヴェルフの二人は己の武器を構え、一同の前に躍り出る。

 

この時点でレフィーヤも理解した。

 

どうして春姫が降りたのか、色を任されたのか。

 

それは次の対応が自分では間に合わないから

 

『魔法』が失敗したあの精霊がどういう行動を取るかなんて火を見るよりも明らかだ。

 

一斉掃射

 

全ての巨竜の首から、またも極才色の砲撃(ブレス)が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二度目の八首同時攻撃(フルバースト)

 

最後の魔弾を失い、主力の二人(色とリリ)が戦力に数えられない【ヘスティア・ファミリア】にとって、この攻撃は致命的だった。

 

しかしそれは、もしこの砲撃(ブレス)がこの場面(タイミング)で撃たれて無ければの話である。

 

「護れ!!」

 

ヴェルフの大刀(魔剣)が、その幾何学模様の刀身を紅に染め上げていた。

 

その魔剣は、()()()()()()()()()()という特性が付与されており、これまでの強大な『魔法』の衝突で蓄えた『魔素』の量はとんでもないことになっている。

 

「ぐっ……おおおおおおおお!!!」

 

しかし蓄積された魔力は、今はただの魔力の塊に過ぎず、このままでは魔剣は自壊を始めてしまうだろう。

 

だからこそ、鍛冶師はその場で魔剣を()()()()()

 

「おおおおおおおお!!」

 

咆哮と共に魔剣を握っているヴェルフの両腕が膨れ上がり、背中に刻まれた【ステイタス】に熱が宿る。

 

『全刀・不滅』

 

後に『魔剣・不冷(イグニス)』と名付けられるその完成された魔剣の真価は成長

 

新たな発展アビリティ『神秘』により造られたそれは、本来ならあり得ない己の《魔剣血統(スキル)》と【鍛冶(アビリティ)】を発動させ、戦闘中に打ち直す事が可能なヴェルフだけに扱うことが許された魔剣であり特殊武装(スペリオルズ)

 

真っ赤に染め上げられた刀身がヴェルフの雄叫びと共にドクンと脈打ち、魔剣の10倍程の蓄えていた魔力を使い果たして元の幾何学模様に戻っていく。

 

そうして一同を包むように造られたのは防壁(シェルター)だ。

 

これで、巨竜の砲撃(ブレス)をやり過ごそうと言うのだろうか?

 

いや、そうではない

 

あくまでこれは、これから起こる事の余波から身を護る為のもの

 

東洋からやって来た少女が、一歩前に躍り出る

 

「【トツカノツルギ】――第六の太刀(たち)

 

眼前に迫る八条の熱線(ひかり)にヤマト・命は真っ向から対峙し

 

「【天羽々斬(あめのはばきり)】」

 

群青色の鞘に納められた刀の柄に手を添え―――抜刀した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この『魔法』が発現したのは、力試しと称して行ったダンジョン探索で階層主(ウダイオス)を倒した翌日だった。

 

「いやー、すまんすまん。まさか気絶するとは思わんかった」

 

「いやー、すみません。まさか体がグチャグチャになるとは思いませんでした」

 

はっはっはっと笑いながら『迷宮の孤王(モンスターレックス)』に全力で挑み、全力で自滅した馬鹿二人(色とリリ)は、朝食の席で笑いながら詫びている。

 

そんな二人に呆れた視線を送るのは春姫だ。

 

「笑っている場合じゃありません。とても大変だったのですよ?次からは気を付けて下さいね、お二人とも」

 

「「すみませんでしたぁ!!!!」」

 

「えぇ!?」

 

(たしな)められた二人は椅子から飛び退き全力で土下座。春姫はそんなに必死で謝られるとは思っていなかったのか、オロオロしている。

 

そんな様子を端眼に捉えながら、命は小さく溜息を吐いた。

 

「どしたの、命ちゃん?」

 

「色殿?」

 

さっきまで土下座していたと思っていた色が、下を向いていた命の顔を覗き込んでいる。その速さに少し疑問を持ったが、それほど自分の気が抜けていたのかもしれないと思い直した。

 

「いえ、少々自分の『魔法』について考えておりまして」

 

「『魔法』?」

 

問い返す色に、命は自身の悩みを打ち明ける。

 

「階層主との戦いで思ったのです。自分の結界魔法では決定打にならないと」

 

「決定打?………うーん、確かに【フツノミタマ】だけじゃ階層主は倒せんかもしれんけど、強力な足止めって時点で俺らなら詰みに持って行けるから、それだけで十分だろ?」

 

「それは、わかっているのですが……せっかく魔導の『発展アビリティ』が発現したのに……」

 

歯切れが悪くなる命の思考を色は汲み取る。

 

つまり、勿体ないと思っているのだろう。

 

アビリティの魔導は確か、『魔法』の威力を上げるものだったか?

 

それなのに切り札(フツノミタマ)を持ってしてもモンスターを倒せないのが口惜しいのかもしれない。

 

ならば、とそこまで考えた色は何処かから一冊の本を手にした

 

「命ちゃん、これ読んでみて」

 

「えっ?は、はい」

 

言われるがまま、命は手渡された本を広げ

 

――――憤慨した

 

「色殿ォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

「ど、どうしたの命ちゃん?」

 

「どうしたもこうしたもありません!!!一体どういうことですかこれはッ!!!」

 

命はかつてない程怒り狂っていた。

 

一冊の使い終わった魔導書(グリモア)を持って。

 

「やったじゃん命ちゃん。新しい『魔法』ゲットだぜ!!」

 

「ゲットだぜじゃない!!!」

 

バチコーンと、両手に掴んでいる使い終わった魔導書(ガラクタ)を親指を上げて笑っている色の頭の上に落とした。

 

勿論、『反射』されたが

 

「何処でコレを手にしたのですか!!」

 

「フェルズから貰った」

 

「だったらそれは色殿の報酬でしょう!?どうして自分に使ったのですかッ!!!」

 

「え?だって命ちゃん新しい『魔法』欲しかったんだよね?」

 

「あぁもうっ!!!」

 

話にならないと、命は頭を抱えた。

 

「どうしたんだい、二人とも?」

 

そんな二人に声をかけるのは、命が魔導書を視ている間にとっくに朝食の後片付けを終わらせたヘスティアだ。

 

「どうしたもこうしたも無いです!!聞いてください、ヘスティア様!!」

 

正に神頼り。

 

どうか叱ってくれと言う意味を込めて、捲し立てるように命はヘスティアに事の顛末を説明する。

 

しかし

 

「なんだ、新しい『魔法』を覚えたのなら結果オーライじゃないか。良かったね命君!!新しい『魔法』ゲットだぜ!!」

 

色と全く同じように親指を上げるヘスティアを見て、命はとうとう机に突っ伏した。

 

眷属()主神(おや)を映す鏡とはよく言ったものだ。

 

ヘスティアも色も全くといっていいほど、数億ヴァリスは下らない魔導書(グリモア)を命に渡した事に気にも掛けない。

 

「いいですか?自分はいずれこのファミリアを去る身なんですよ?」

 

「そうだな……」

 

「そうだね……」

 

向かい合った机の向こうから少しだけ寂しそうな声色が聞こえる。

 

その声に胸が痛くなるが、今はそうは言ってられない。

 

「そんな自分に貴重な魔導書(グリモア)を使ってどうするのですか?ああいうのは最初期にファミリアを支えられたベル殿や色殿が使うべきです」

 

とてもとても真剣に、命は直談判を始める。

 

一年で抜ける予定の自分にどうして貴重なアイテムを使うのか、というよりこれ以上恩を売られたくないのだ。恩を返す為に『改宗(コンバート)』したのにこれでは本末転倒である。

 

「まぁまぁ俺の国じゃあ『損して得取れ』って言うし、気にしなくていいって」

 

「そうだぜ命君。それにどうせタケミカヅチの所に戻るんだったらずっとボクの眷属()のようなものさ!!」

 

「…………はぁ」

 

全くと言っていい程()()()()()()()なんて感じていない二人に、命は深い深い溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで手にした『魔法』だが、ものすっごく使いづらかった

 

どれぐらい使いづらいというと、あり得ない程限定された条件で一撃しか使えないと言うのに、その制御(コントロール)が非常に難しく、さらに発動するまでにかなりの危険が伴うという徹底ぶりだ。

 

しかし、それを乗り越えれるのなら――――

 

「【トツカノツルギ】――第六の太刀(たち)

 

『魔法』を開放する呪文を唱え、鞘に納められた荒れ狂う(うばいとった)力が発動鍵(スペルキー)により指向性を形成する。

 

「【天羽々斬(あめのはばきり)】」

 

奪った攻撃量に比例して第十段階まで変化する【トツカノツルギ】の斬撃

 

その第六段階目の発動鍵(スペルキー)

 

天羽々斬(あめのはばきり)

 

抜刀と同時に放たれたその斬撃(まほう)の特性は、奪った攻撃に対する()()()()

 

たった一閃

 

たった一閃で眼前に迫る八条の砲撃(ひかり)を全て断ち切る。

 

更にその巨大な斬撃は砲撃(ブレス)を放った巨竜に届き、強固な鱗に傷を追わせた。

 

『『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!??』』』』』』』』

 

始めてその巨竜は痛みで悲鳴を上げ、極東からやってきた一人の少女に戦慄く。

 

それは、その背に君臨する穢れた精霊(デミ・スピリット)も同じだった。

 

切り裂かれた巨竜の砲撃(ブレス)の残骸は、威力が減少しても階層に深刻なダメージを与えている。

 

にも関わらず、赤髪の青年が展開した防壁によって冒険者達には届いていない。

 

黒髪の少女と赤髪の青年を血走った眼で精霊は睨みつけた

 

またアイツラが邪魔するのか……と

 

『先二アイツラヲ殺シテ!!!』

 

巨竜に命令し、精霊(じぶん)は詠唱を始める

 

先ほどからギリギリの所で敵を倒せていない事に、彼女(せいれい)は多大なストレスを感じていた。

 

本来ならとっくの昔に殺せているはずなのに、黒髪の女が攻撃の威力を弱め(うばい)、耳の尖った女が攻撃を凌ぎ、着物を着た女が『魔法』の邪魔をしてくる。

 

私はただ敵を殺したいだけなのに!!!!

 

だから、穢れた精霊(デミ・スピリット)は周りの人間を殺すことにした。

 

まずは黒髪の女と赤髪の男だ、あの二人が最も邪魔だと精霊はこれまでの経験で理解していた。

 

「ファイアボルト!!!」

 

「リル・ラファーガ!!!」

 

『グッ、ウウウウウウウウウウウ!!!』

 

しかし、その隙を二人の冒険者は見逃さない。

 

これまで巨竜に邪魔されて思うように行かなかった二人の攻撃がようやく精霊(ほんたい)に届き、さらなる隙を生み出す

 

顔を焼かれ、右腕を落された精霊が怒りのまま自身を攻撃した冒険者を殺すよう、巨竜に命令を下そうとするが

 

「撤退!!!」

 

「うん!!」

 

「にげるのか!?」

 

ベルとアイズは脱兎のごとく巨竜の攻撃範囲から脱出、少し遅れて女戦士(バーチェ)も追走する。

 

三人が目指す先は春姫たちのいる場所だった。

 

ここでようやく、【ヘスティア・ファミリア】遠征連合は全員集合する。

 

そんな冒険者達に怒り狂った精霊は容赦無く『魔法』を落す。

 

『【天光満ツル処二我ハ在リ黄泉ノ門開ク処二汝在リ出デヨ神ノ雷】』

 

とても『短文詠唱』とは思えない量の『魔力』が込められているその『魔法』は、信じられない事に集合した冒険者達の頭上に展開された。

 

『【インディグネイション】』

 

『魔弾』も使い切り、『魔法』を使う間もない冒険者達は、雷の白光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな一同を守るように

 

「『雷鱗(スケイル)』!!!!!」

 

漆黒の雷が展開された。

 




本来なら前の話の中に入れる予定だったのに長くなって途中で投稿したりしてるから予定より話数が増えていくことになんだかなぁって感じ。


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