俺は『簡易機動型 丁』 (飯妃旅立)
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簡単には落ちないぜ

そろそろ結界師とシオサマリンの終わりが見えてきたので新連載。
fate/とLccと同じくらいの更新頻度になると思います。


 ふよふよと中空を浮かび、視界から外れた頃合いを見計らって突進する。

 すると面白い様に相手は吹き飛び、悪態をついて倒れる。

 

 銃口を向けられたなら手振れに合わせて身体をずらす。 

 少し敵意を集め過ぎたので、戦線を離脱。 近接が横合いから相手を切り刻み、輸送と狙撃と装甲が光線を撃って体力を削る。

 耐久力のある輸送が削られているのを見つつ、再度自身が突進を行って突き飛ばす。

 

 

「うぜええええ!」

「くそっ! 市民(シヴィリアン)返しやがれ!」

 

 

 既に目的の市民(モノ)は輸送四脚が回収済み。 輸送四脚がPT(パノプティコン)に帰るまでサポートするのが自分たち簡易型の仕事だ。

 ピン! と輸送に取りつく赤い荊。 引き倒し(ドラッグダウン)。 でも、その行為は足を止める事になる。

 狙撃と装甲が静かな射撃でヘルスを削り、最後に自分や他の機動で突撃。

 

 

「ぐあっ!」

「くっ、今行くぞ!」

 

 

 愚直にも集う相手。 纏まっているならやりやすい。

 装甲へと意思を送り、上空と地上からの突進を行う。 3人クリア。

 

 

「この……!」

 

 

 相手の手から小さな球が投げられる。 フラッシュGだ。 だが、それをむざむざと破裂させてやるほど甘いつもりはない。

 放物線を描いて投擲されたフラッシュGを、自身の棘の部分で更に上へと跳ねあげる。

 

 

「はぁ!?」

 

 

 パァン! という乾いた音を立てて、上空で破裂するフラッシュG。 それを呆けた顔で見ている相手を、近接が切り裂いた。

 

 

「ボランティア規定時間、残り僅かです」

「分かってるよ! んな事言う暇あるなら、アレ一個でも落とせ!」

「了解です」

 

 

 相手とアクセサリに信頼は無いようだ。

 稀に、明らかに意思の疎通を可能にしているパートナーがいるから、それにだけは気を付けなければならないのだが。

 

 そこで、輸送四脚が任務を終えたとの通信が入った。

 

 輸送、近接、狙撃の順に転送し、殿は自身ら機動と装甲が務める。

 

 

「こなくそっ!」

「所持弾数、残り僅かです。 周囲のAMMOボックスからの補給を提案します」

 

 良い銃だろうと、使い手があれでは銃自体が可哀そうだ。

 丁度いい、資源として回収させてもらおう。

 

 装甲へと意思を伝え、相手のアクセサリを攻撃させる。 散々削っていての突進。

 

 

「損壊率、規定値を突破。 一時的に機能を停止します」

「はぁ!? っとに使えねえな!」

 

 

 突き飛ばされ、機能停止したアクセサリに悪態をつく相手。 勿論の事、アクセサリの方へ体ごと振り返っている。

 隙だらけ。

 

 

「がっ!? ……くそが……!」

 

 

 その背中に向かって突進。

 近くに敵PTの仲間は居ないようだ。 瀕死の時間が幾らか過ぎ、相手は転送される。

 その場に残されたEZ-カッツェⅠを棘に引っかけて持ち上げる。

 

 

「現在ダメージにより機能停止中。 蘇生をお願いします」

「現在ダメージにより機能停止中。 蘇生をお願いします」

「現在ダメージにより機能停止中。 蘇生をお願いします」

 

 

 主が助けに来ないアクセサリの無機質な声が響く。

 同族として、同情しない事も無い。 だが、戦場とはかくあるべきだろう。

 

 装甲と自身を含めた機動の転送が開始(はじ)まる。

 

 包まれゆく光の中で、遠方から憤怒の形相で走ってくる敵の姿が見えた。

 

 

 さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、知ってるか? クソ(つえ)え小型アブダクターの話」

「……知ってるも何も、前回のボランティアで交戦してきたよ。 咎人でも考えられねぇくらいの連携を取ってきやがった」

 

 

 ザナドゥPT・パノプティコン第1階層。 ロウストリート。

 そこで、2人の男が座り込んで話し合っていた。

 

 

「マジでか。 つか、お前がイラついてんのもソイツが原因だったり?」

「……あぁ、そうだよ。 ボランティアに失敗するわ、市民(シヴィリアン)持っていかれるわ、苦労してlv4にまで強化したEZ-カッツェⅠは奪われるわ……散々だ」

「ハメルンPTの市民(シヴィリアン)はそんなに優秀なんかねぇ。 ウチがダメダメなだけか?」

「なんでそこで市民(シヴィリアン)の話に……って、あぁAIが優秀ってことか?」

「それ以外考えられねえだろ? いっちゃなんだがコード1たぁ言え俺達もそれなりに戦ってきた。 だってのに、小型アブダクターの1つすら落とせずに市民(シヴィリアン)奪われるなんて、相当優秀なAI積んでるんだろうさ」

「……だと良いがな」

 

 

 どこか不安な顔付きで話す男。

 声色にも不安が色濃く出ている。

 

 

「なんだよ、他になんか可能性があるのか?」

「いや……あの時見た簡易機動型……他の簡易型の指揮を取っているように見えてな。 まるで、意思を以て統率しているかのように」

「……考えすぎだろ? イラついてると視野が狭くなるって奴だよ」

「……だな。 はぁ……っし、あと1122万8999年……とっとと返して、二級市民にまで上がってやるさ」

 

 

 イラついていた男の頭の上には1122,899という数字。 隣に居る男は982,767だ。

 

 

「先は長ぇなぁ……。 つかお前、刑期増やしすぎだろ」

「うっせぇ!」

 

 




フリーダムウォーズの続編も欲しいけどグラビティデイズⅡが1月19日に出るからそっちをやりたいです(真顔)


でもPS4持ってないよどうしよおおおおおおおおお


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生きるって大変ですね

1話とは打って変わってかなり明るく軽い主人公です。


 

 小型アブダクターに休みは無い。

 簡単な素材で量産されるからこそ、より多くの敵を撃破するために転送さ(おくら)れ続けるからだ。 酷い時であれば、ボランティア規定時間全てに駆り出される。 咎人に言わせれば、『無限湧き』という奴だ。

 

 そういう意味では、俺はその過労死しそうな(過労死と言う概念は無いが)職場ではないと言えるだろう。 何故なら、撃破される事が無いから。

 

 

 俺の意識がこの『簡易機動型 丁』に宿ったのは数年前だ。 正確な時間はわからない。 なんたって記録する物も手段も無いからな。 一応ボランティア規定時間を測るための時計が内蔵されてはいるが、そんなもので年単位を測る事は出来ない。

 俺はこの世界……つまり、『FREEDOM WARS』の世界を知っていた。 PSVITAで発売されたソフトで、特徴的なシステムである荊を駆使して様々なアブダクターと闘った者だ。 勿論ゲームとして。

 周りの熱が冷め行くなか、俺は、俺だけはという念で以てゲームプレイを続けていたんだが……。 本気でUZEEEEE!! と思っていた『簡易機動型 丁』に、俺自身が宿るとは思わなんだ。

 

 とまぁ、なってしまったものは仕方ない。

 このまま撃破されて俺の意識が他の『簡易機動型 丁』に宿るとも限らんし、何より俺が怖いからとりあえず銃弾も荊も攻撃も避けるように頑張っている。 恐らく小型アブダクター界では最高峰の貢献度を誇る自信があるぜ。

 

 ちなみにだが、ウチのパノプティコンの名前はハメルン。 俺がゲームをやっていた時のパノプティコン名だから、恐らく最も危険な主人公様が属していると思われるパノプティコンだ。 これを知った時とても安心したぜ。

 だって主人公だぜ? 武器の強化やPS(プレイヤースキル)次第とはいえ、単独で天獄アブダクターとかを倒しきっちゃう奴。 そんなの絶対に相手にしたくないね。

 他の仲間達も異様に強いし……。

 

 とはいえ危険が一切ないって事でもない。 ぶっちゃけ、少しでも気を緩めればAAW-M2とか、EZ-ナースホルンⅢ、EZ-イーゲルⅣなんかが襲ってくる。 今の所ロケットランチャー、グレネードランチャーしか多目的火器は見たことが無いが、コレがナンブMK.25みたいなホーミング付になって見ろ。 それだけで脅威になる事間違いなしだ。

 

 分隊支援火器で危ないのはMG-M7とEZ-ヴォルフⅠausf.Fだ。 集弾性能が低いから、下手に避けると逆に当たる。 狙いを定めなきゃいけないファランクスみたいなのは当たらないけどな。

 

 個人携行火器はSR-42/LA以外心配しなくていい。 AR-7/Lとかパルサーとか、弾速が遅すぎて欠伸が出るくらいだ。 欠伸を出す機構は備わっていないが。

 問題はSR-42/LA。 俺もそれなりの知覚範囲を誇るつもりだが、そんなの知らぬとばかりの遠距離から撃ってきやがる。 しかも一撃一撃の威力が高いと来たからさぁ困った。

 

 一応常に身体を不規則に揺らし続ける事で対策を取っているが、ぶっちゃけ明確にコレ! という対策が出来ていないのが現状だ。 できれば砂漠とかで戦いたくない。

 

 ちなみにだが、牙龍やバーバラ’sイージーギアは射程が短すぎて当たる前に針が落ちる。 

 

 荊は然程脅威にならない。 遅すぎるからな。

 

 

 お、また貢献の時間のようだ。

 市民(シヴィリアン)確保、と。 貪欲だねェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出た! 『簡易機動型 丁』だ!」

「チッ! マジかよ……! おい、市民(シヴィリアン)見つけたらすぐに救出して帰れ! こいつは俺らが止める!」

「ロストすんなよ! 直ぐに戻ってくるからな!」

 

 おや。 随分と警戒されているな……。

 咎人2人+アクセサリ2人が俺達小型アブダクターを相手して、残りの4人が大型(今回は砲撃二脚)を相手にするつもりのようだ。

 

 簡易輸送型に、出来るだけ天井付近を移動して砲撃二脚の援護に行くように指示をだす。

 さらに、砲撃二脚に頃合いを見計らって此方へ合流するように通信を入れておいた。

 

 俺に意思があるからなのか、俺は他のアブダクターと意思の疎通が図れる。 言語としてわかるわけじゃないが、何を思っているのか、何をしてほしいのかがわかるのだ。

 例えば簡易狙撃型が狙撃している時、ヘイトを集め過ぎたと思えば簡易装甲型や簡易機動型(おれたち)がその咎人を突き飛ばす。

 例えば簡易輸送型が狙われている時は、簡易近接型や簡易狙撃型に守るように指示をする。

 

 これにより、小型アブダクターによる咎人・アクセサリ撃破数が飛躍的に向上したと言えるだろう。

 

 

「喰らえ!」

「俺は下のを掃除する!」

 

 などと思考をしていたものの、しっかり敵を見ている。

 大振りなジャンプと共に放たれる槍の突きを、身体を少し揺らすことで避ける。 そんなのが当たると思っているのだろうか。 そういう風に思われている事自体が屈辱だな。

 もちろんそんな隙だらけの様を晒した咎人。 地上に居る奴らが援護が出来ない様に簡易近接型と簡易装甲型に支持をだしつつ、俺はその背中に向けて突進した。

 

「ぐぁあああ!?」

「ぐっ、くそっ! ちょこまかっ! と!!」

 

 フラグG。

 

 ――行けるよな?

 

 発破をしたからなのか、それともただ指示に従っただけか。

 そのフラグGを、簡易狙撃型が撃ち抜いた。

 

「だからッ!! 反則だって!!」

「ぐぅぅうううう! すまねぇ、そっち行った!」

 

 砲撃二脚が砲撃しながら突っ込んでくる。 良い頃合いだ。

 なんとかドラッグダウンを仕掛けようとしている咎人。 しかし、そいつを簡易輸送型と簡易装甲型が撃ち貫いていく。

 

「はぁ!? ちゃんと止めておけよ!!」

「簡易ヘルススキャン実行。 バイタルの低下を確認。 回復を提案します」

「損壊率規定値を突破。 一時的に機能の停止を行います」

「アクセサリが使えねェ!! クソが!!」

 

 使えないのはアクセサリではなく、視野を広げられないお前たちだ。

 しかし……なんだろうな。

 練度が低いと言うよりは、アクセサリとの信頼を築き上げていない咎人ばかりで楽々だ。

 

 主人公を見習え!

 

「あああああああ!! 小型UZEEEEEEE!!」

「ちっくしょ……が……」

「現在、ダメージにより機能停止中。 修復を――」

「うっせえ馬鹿アクセ!! 少しは自己修復とかしやがれ!」

 

 君が刑期を終えて、二級市民となってそういう機能を創ればいいんじゃないか?

 

 あ、ほじる鼻も指もねぇわ。

 

「ボランティア規定時間、残りあとわずかです」

 

 砲撃二脚ー。 そろそろ帰還だー。

 

 とるに足らない相手の判断し、帰還を促す。

 ゲーム中であればボランティア規定時間の最後まで大型・小型とわずアブダクターがいたが、ここは現実。 目的を達成し、既定の位置へと戻ればアブダクターだって転送されるのだ。

 

 それでは、貢献のための資材をありがとう。

 

 アデュー!

 




サマエルよりかなり明るい性格をしているので、感嘆符が少し多めになります。


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機能美じゃないんだよ。

原作開始~


 

 俺達小型アブダクターに休みは無い。 先日そうは言ったが、だからといって休みを作れない、なんてことも無い。

 

 パノプティコンってのはかなり巨大な施設だ。 その中には、ゲームで行くことが出来た咎人が収容されているロウストリートだったり、その外れ区画のモザイク広場だったりがあって、咎人監視用アクセサリと周辺監視用アクセサリ、あとパノプティコン職員(赤服)が目を光らせて異変・異常がないか監視している。

 だが、それは巨大なパノプティコンの1割、もしくは1割にも満たない程度の広さしか持たない。 それよりも狭い所は市民(シヴィリアン)の部屋くらいか。

 パノプティコンの5割程度は、資源や資材、俺達小型含めたアブダクターの収容に使われている。

 残り4割は建設機械がせっせせっせと動いている区画だろうな。 第6層のフラタニティがいる区画から、その様子がうかがえるだろう。

 

 さて、そんなパノプティコンの5割である俺達の保存施設だが、何も人力で管理されてるってわけじゃあない。 IDや位置情報の確認こそ市民(シヴィリアン)やパノプティコン職員が行うのだが、小型アブダクターの1つがしっかりとそこに在るかどうか、なんてのは機械任せだ。

 いくら貢献度が高いとはいえ、上層部にとっちゃ俺もその辺の小型アブダクターの一つ。

 定期的に行われるスキャン時にさえ戻っていれば、フラっと出かける事だって出来るのだ。 定期的なスキャンすらも、巨大な施設であるせいか一日1回くらいしか来ないしな。

 

 とまぁこういう理由(ワケ)で、現在俺は保管庫から抜け出して散歩を行っている。 歩いてないけど。 散策か?

 

 俺の意思疎通ってのは、言ってしまえばハッキング・クラッキングの類いだ。 俺も同じ機械だからなのか相手側にも意思があるように感じてしまうのだが、恐らく市民(シヴィリアン)達から見れば俺が他アブダクターをクラックして操っているように見えるのだろう。

 そんな事が出来るので、俺は区画ごとの転送装置との意思疎通も可能となっている。

 明確に目的設定されているアクセサリなんかと違って、こういう転送装置やら扉の開閉装置なんかは特に抵抗する事も無いからありがたい。

 ま、ゲームでも主人公が廃棄されたセルガーデンでわっちゃわちゃしてても見つからなかったしな。 

 

 現在俺がいるのは廃棄されたセルガーデンの中でも特に何もない区画。 非実在ゴミ資源すらない場所だ。

 

 そんな場所で何をしているか。

 

 これはゲーム時代からの趣味なんだが……Will’O磁性流体ってあるだろ? アブダクターから取得できる奴じゃなくて、セルガーデンの柱とかになっている奴。

 

 

 それを眺める事である。

 

 

 あぁ、言いたいことは分かる。

 だが、どうにも魅せられるんだ……。 この流れる美しい光に。

 Will’Oってのは俺達小型や大型、天獄ひっくるめて全アブダクターの動力だ。 これがなきゃ俺達は活動できないし、簡易輸送や大型達はこれを溜めている場所を壊されると大ダメージを喰らう。 人間で言えば心臓部分だな。 つか、資源である咎人も多分にWill’Oの恩恵で生きているのだと思うが。

 

 つまり、この光は命の光でもあるわけで。

 

 命の光に憑依したおれが魅せられるのも、仕方のない事であるというわけだ!(集中線)

 

 っと、そろそろスキャンの時間だな。

 転送装置に意思を送る。 転送開始。

 

 気付いた時には保管庫の中、っと。 

 一拍遅れてブゥンという音と共に青白い光のラインが身体を通り過ぎて行った。 アレがスキャンな。

 

 さて。

 

 今日在ったボランティアの記録でも漁りますかね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?」

 

 大型アブダクターに攫われ、それを咎人に助けられ姫抱きにされて運ばれる、という濃い経験をした市民(シヴィリアン)、ユリアン・サダート#eは端末の使用中、ある違和感を覚えた。 一瞬。 ほんの一瞬だけ、自らの扱う記録端末へのアクセスがあったように見えたのだ。

 しかし、どのような方法で履歴を浚おうともアクセス解析を試みようとも、その痕跡は見つからない。 消された、というよりは端末自らが記録する必要の無い物として処理したかのようだとユリアンは感じた。 それは技術者としての勘か、それとも……。

 

 原始的な手段であるが、一度端末を全ての回線から切断する。 持ち前の技術で完全に外界から端末を遮断した後、必要な情報だけを抜き取って初期化(フォーマット)した。

 

「他のPTからアクセス、とは考え難いし……何より僕の端末なんか見て、何になる……? まさか、あの人達の事が……? こうしちゃいられない!」

 

 ユリアンは立ち上がる。

 恩人である咎人に、たとえ杞憂であっても危機感を持たせるために。

 気付いている者がいるかもしれない、というだけで……あの咎人にとっては、その行動の阻害になるだろうから。

 

「それすらをも跳ね除けそうな気もするけどね……」

 

 咎人という存在は知っていた。

 自ら達市民(シヴィリアン)が技術を、咎人達が資源を調達し、このパノプティコンを維持・発展させているのだから。

 だが、今日までの自分はその咎人達の事をただのデータとしてしか見ていなかった。 偶に耳にするロストする、という言葉や、懲役100万年という途方もない数字。 どれも現実味の湧かない言葉だった。

 

 だが……

 

「共犯者……いや、協氾者か……。 ふふ」

 

 メガラニカPTの汎用弐脚のWill’O漕から引き上げられた時の、あの力強い腕。

 同時に感じた生きている体温。

 

 妻が居なければ惚れている所だった。

 恐らく市民(シヴィリアン)の中でも異端の考えだろう。 他の市民(シヴィリアン)の大多数は、それこそ咎人はイコールで資源としか見ていない。

 だが、彼女(・・)らは生きている。

 

「なら、僕だって生きている。 思想は自由……だよね」

 

 妻を危険に晒すことは出来ない。

 だけど、出来る限りの範囲で手助けしよう。

 

 ユリアン・サダート#eは端末片手にモザイク広場・ザッカーへと向かうのだった。

 




ちなみにWill'O磁性流体を見るのが趣味なのは私です。


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どうですかこのパーフェクツッ!

咎人名の’’がうるさいかもしれませんが、初出の時だけは勘弁ください。
以降の地の分では名前のみの表記になります。

あと、捏造設定いっぱいでてきます。


「本ボランティアの目的は友軍アブダクターの護衛です。 ビーコンを使用して友軍アブダクターを誘導してください」

「援護する!」

「オォーケーィ!」

「私がやらなきゃ……!」

「行くよ!」

 

 今日の任務は市民護衛。 ゲームと違ってこちらのアブダクターもしっかり戦闘する。

 友軍はウーヴェ・’’サカモト’’・カブレラ、マティアス・’’レオ’’・ブルーノ、マリー・’’アルマ’’・ミラン、ニーナ・’’エリザベス’’・ディアスの4人+各自のアクセサリ。 そして俺達小型アブダクターだ。

 『任意:シ1-5号作戦:市民護衛』という、原作ゲームには無かったミッション。 まぁ今までもそうだったし作戦があんなに少ないわけもない。 主人公様がいないのは残念だが、仲間達の戦いっぷりを間近で見る事が出来るのは幸いだ。 

 まだコウシンがロウストリートに侵入したという記録も無い。 そういやその時って俺達は駆り出されるのだろうか。

 

 いつも通り不可思議イヴァラパワーのおかげでフレンドリーファイアは無いので、流れ弾を気にする必要が無いのはありがたい。 クリーミー・スクリーミーjrやパラドクサの攻撃がどうなるかはまだわからないが。

 

 とりあえず簡易近接に大型アブダクター(汎用弐脚)から少し離れた位置を保持するように指示し、簡易装甲で周りを固める。 簡易狙撃は物陰から狙撃、俺以外の簡易機動には遊撃を担当させる。

 簡易輸送は咎人1人につき2機同行させ、援護を指示した。

 

 俺は全てが見える・どこにいてもすぐに向かえるマップの中心に陣取り、随時他の小型、もしくは大型アブダクターに戦況と情報を与えて指示する。 残念ながら咎人やアクセサリには意思を伝えられないので、彼ら彼女らの動きにこちらが合わせるしかないだろう。

 

 さぁ、開戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡って。

 

「ふむ……」

「ん? 元のしかめっ面がもっと酷い事になってるよ? どうしたんだい?」

「……これを見ろ」

 

 『任意:シ1-5号作戦』の準備の為に武装整備を行っていた咎人ニーナは、同じく先程まで武装整備をしていた咎人ウーヴェの難しい顔に気付いて声を掛けた。 ウーヴェが唸りながら見ていたのは端末。 今回の作戦に関する資料のようだった。

 ウーヴェにそれを渡されたニーナは、その内容を見る。

 が、

 

「特におかしな所は見当たらないねぇ……何を悩んでたんだい?」

「友軍……小型アブダクターの欄だ」

「小型? ……おりょ?」

 

 ウーヴェに示されて再度見た端末。

 そこには今回のミッションに出動する小型アブダクターの一覧があった。

 

 簡易○○型 甲と示されるいくつかの種類の後ろに*○と数字が書かれており、どのアブダクターがどれだけ投入されるのかがわかる表記だ。 ミッションによっては制限無し・支援無しなどと書かれるその欄に、一際目立つものが一つ表記されていた。

 

「簡易機動型 丁……? なんでコレだけグレード高いんだい? 生産管理局らしくないねぇ、効率悪いじゃないか」

「だから呻っていたんだ。 もしかしたら、コイツが噂に聞く最強の小型アブダクターかもしれん」

「あー、他のアブダクターを統率するって奴かい? 眉唾もんだねぇ……」

 

 一覧には、

 汎用弐脚  甲 *1

 簡易機動型 丁 *1

 簡易近接型 甲 *50

 簡易装甲型 甲 *50

 簡易機動型 甲 *50

 簡易狙撃型 甲 *30

 簡易輸送型 甲 *30

 

 と表記されていた。 今までのミッションでは見る事の無かった表記に、ウーヴェは純粋な疑問を抱いていたのだ。 彼の娘がその噂を持ってきたことにも疑問は起因しているのかもしれない。

 

「ま、仲間だってんなら気にする事じゃない。 だろう?」

「……ふ、そうだな。 まさかお前に諭される日が来るとは……」

「あ、あの……そろそろ時間です……」

 

 同じく任務に参加する咎人マリーが2人に時間を告げる。

 2人は顔を見合わせ、その呼びかけに応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いやすい。 

 咎人マティアスはかつてない程に自分が今『ノっている』事に気が付いていた。

 彼の持つ大剣は高威力を出せる分取り回しが難しく、対咎人・アクセサリ戦ではその力を十全に発揮できるとは言い難い。 上級者ともなればできるのだろうが、今の自分にははっきり言って対人戦は苦手そのものだった。

 

「ヤッベぇ……」

「ぐあっ!?」

 

 レベル2まで強化したアリサカMk.1も3点バーストという特性上それなりの上級者向けであり、大型アブダクターのようなデカい的ならまだしも対人や小型相手には当て辛い。

 だが、この『任意:シ1-5号作戦』ではどうだろう。

 

「ヤッベェよ……」

「くそっ!? この、邪魔だ!!」

 

 彼が大剣を振る場所に丁度良くのけぞった咎人がいる。

 彼が引き金を引いた瞬間に丁度良くアクセサリが瀕死の状態でいる。

 

 視界の隅に映る撃破はマティアス>敵勢咎人という表記が何段にも重なっており、自らの功績を実感できた。

 

「今の俺、超shazだぜ!」

 

 勿論援護による賜物だということは重々承知だ。 上方から自分をお膳立てする様に放たれる光弾は敵のヘルスを削り、たまに突進してくる小型が敵を吹っ飛ばしてくれている。

 だが、それでもマティアスは昂揚を抑えきれなかった。

 

 マップを見れば護衛すべき大型アブダクターはあと少しで目標地点に辿り着く。

 なら、自分は自分の仕事――リスポーンする敵勢咎人を倒し続ける。

 

 マティアスは強く大剣の柄を握り直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 咎人マリーは酷く落ち着いていた。

 作戦行動中に落ち着くなど有り得ない事なのだが、彼女は落ち着いていた。

 

 ニーナとマティアスが遊撃、自分とウーヴェがアブダクターの護衛を務める作戦で今作戦を開始したのだが、一向に咎人が来ないのだ。

 見ればウーヴェも油断こそしていないが不思議に思っているようで、逐一マップを見ては状況の確認をしていた。

 

 戦闘音は聞こえる。 大型が自分たちの護衛する汎用弐脚しかいない故に大きな音は聞こえないが、時折「ぐぁっ」とか「くそがぁぁああ!」とか「UZEEEEEEEE!!」とか聞こえるので存外近くに敵勢咎人が来ているのだろう。

 だが、

 

「……来ない、ですね」

「そのようだ」

 

 自分たちの視界には全くもって敵を確認できない。

 視界の端に映るスコアはマティアス>敵勢咎人やニーナ>敵勢咎人が段々となっているほか、たまに簡易狙撃型>敵勢咎人や簡易輸送型>敵勢ACCと表記されている。

 マティアスは新人咎人だったはず。 対人戦をそれなりにこなしているニーナであればわからないでもないのだが、ここまで一方的な展開に成り得るのだろうか。

 

 ガッチャガッチャと音を立てて移動する汎用弐脚を見る。 ビーコンは既に目標地点に設置済みで、2つの距離はあと数mもない。

 

「んーっ」

 

 普段は絶対にしない伸びをマリーが行った所で、ボランティアコンプリートの報せが入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーフェクツッ!

 汎用弐脚には一切の傷をつけず、湧いて出る咎人・アクセサリは全て地獄行き!

 

 咎人達の目の前に追いやるように狙撃・突撃を指示する事で効率UP!

 

 ……おかげで今回の作戦は俺、1人も撃破してないんだけどな……。

 

 こちら側に落とされた小型は1機も居ない。 資材を守りつつ、完全なコンプリートをしたというわけだ。 

 唯一の失敗は戦闘に誘導しすぎて咎人達が資源回収をしなかった事。 というか主人公様以外は資源回収するのだろうか。 するよな?

 

 あと転送されて帰る前にめっちゃ不可解なモノを見る目で咎人ニーナに睨まれた。 睨まれたってより観察された。 まぁ1機だけ建物の上に浮かんでりゃ気になるよな。

 

 何はともあれ、ミッションコンプリーツ!

 




ちなみにエネルギー温存の為にガッシャンガッシャンとゆっくり歩かせていただけで、走らせようと思えば走らせることが可能な汎用弐脚君。


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ガードの硬い男だろ?

主人公の名前はオリジナルです。
あと、独自解釈・捏造設定が多分に含まれています。


 

「あレ? ……もしかして、見えてル?」

 

 はい。 ばっちりと。

 

「おかしいナ……そんなはずないんだけド」

 

 と言われましても……というか、俺の意思伝わってるんですか?

 

「Will’Oは『意思持つ電気信号』だかラ、そうしてはっきりこっちに発信されると感じちゃうんだヨ。 君が今疑問を感じている事はわかるけド……何を聞きたいのかはわからなイ」

 

 あ、そっすか……。 そりゃ残念。 久しぶりに人間? と会話が出来ると思ったのに。

 

「監視してる、ってわけでもないんだネ。 独立した意思があル……?」

 

 あぁ、このことをPT上層部に報告するとかは無いんで安心してください。 元から出来ないけど。

 

「安心してほしイ、って意思は伝わってきたヨ。 もしかしテ、人間レベルの意思が備わっているのかナ?」

 

 まぁ元人間ですし……。 市民(シヴィリアン)みたいな高度知識はもってないんですけどね。

 

「……? ごめんネ、よくわからないヤ。 サイモンなら何かわかったかもしれないけド……」

 

 あぁ、サイモンさん。 まだ種も出来ていないだろうし、会えないのは分かってますよ。 俺的にはアナタに会えただけでも結構嬉しいんですけど。

 

「嬉しイ? サイモンを知っていル、って事かナ? そんなはずないんだけド……」

 

 あ、誤解しないで欲しい。 今のはモノローグだから。 って、もしや意思と思った事の区別がついてない感じかコレは!

 

「また疑問……。 おっト、そろそろ時間みたイ。 それジャ、また会おうネ」

 

 はーい。 アリエスさんもお元気でー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやぁびっくりしたね。

 うん。 マジでびっくりしたね。

 

 いつも通りの散策してたらいきなり壁の向こうからカワイイ女の子が出てくるんだもん、

 

 アリエス・M。 主人公の導き手たる女の子であり、同時に最も謎に包まれたキャラクターだった。

 基本的に瀕死の世界か、起き抜けの夢と現実の狭間に顕れる彼女。 原作HPでは幽界の導き手なんて記されていた辺り、あの真っ白世界含めて死後、もしくはWill’Oの存在しない世界なのかもしれないな。

 ちなみに俺はあの真っ白世界が好きだった。 ゲーム時代は用も無く行っていたものだ。

 

 あー、カワイかった。

 

 気分もいいし、今日はもう少し深くまで潜ってみるかな。

 ベアトリーチェ辺りが見れたらラッキーだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんとに見れるとは思わなかった。

 

 深部セルガーデンの中でWill’O濃度が高い・普通の監視が入っていない区画を浚ってみた所、いくつか該当する区画が在った。 監視が入っていない区画を浚う方法は簡単で、浚った情報をパノプティコンの形に添う様に並べりゃいいだけだ。 そうすると不自然な区画が見つかるので、そこに直接転送してもらえばいい。

 俺が今いるベアトリーチェが拘束されている区画のほか、恐らく新しい棺を開花させるためのWill’O濃度が特別に高い区画、チェーザレが種を開花させたのであろう、目のような形をしたオブジェクトが倒れている区画も見つけた。

 前者は俺好みのWill’Oに溢れ捲った空間であり、時間が在ればまた行きたいと思っている。

 

 んで、今。 現在。 なう。

 

「俺じゃねえ! 俺じゃ、俺じゃねえ!」

 

 磔にされたベアトリーチェの前で拘束されたマティアスと……ずっと昔から存在を知っていた、主人公様がいた。

 俺のキャラメイクした顔・体型と同じ。 コーディネート権限が解放されていない故か服装は咎人配給服のままだが、俺と同じ趣味を持っていてくれるのならその服装となるのかもしれない。 ちなみに女主人公な。

 

 やばいな、愛着が……。 この後別に殺されたりするわけじゃないとはいえ、主人公が拘束されてるのはなんか……イヤだな。

 

 よし。

 

 助けちゃえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?」

「それで、って……そんだけだよ。 いきなり小型が監視アクセに突撃してきて、相棒が逃げろって言ってるって言うからその場はそのまま逃げてきたってワケ。 いや、あんときはびっくりしたよな!」

「……そーだな」

「まだ上の空かよ? んでさ、ユリアン。 どうにかして監視の目を欺けないかって相談なんだがよ……」

「それならいくつか資材を集めてきてくれればどうにかするよ。 それよりその小型だけど……コレだったりしないかい?」

 

 モザイク街・ザッカー。 監視用アクセサリ及びPT役員の目が入らないそこで、彼らはついさっきの出来事について語り合っていた。

 美女の幽霊に関する噂。 磔にされていた女の子。 そして、何故か自分たちを救ってくれた小型アブダクター。

 

 話を聞いていたユリアンは何か心当たりがあるらしく、持っていた端末を開いてその画面をマティアスとノクィート・’’ポー’’・ネィパに見せる。

 

「おー、これだよコレ! いつも見てる奴よりちょっと黒かったの覚えてるぜ!」

「……ユリアン、コイツは有名なのか?」

「うん。 数年前から確認されている簡易機動型でね、これを投入した作戦はただの一度も失敗していないんだ。 生産管理局も薄々気づいているみたいで、スキャンデータとかを市民に洗わせている。 僕も一度参加してみた事があるけど、普通の簡易機動型 丁と変わらなかったよ。 数年間一度も撃破されてないせいか、少しだけ他の簡易機動型よりWill’O濃度が高かったけどね」

「へぇー……。 誰かが操ってんじゃね?」

「そんな技術があるならとっくに作ってるさ。 烈火の憤怒(レッドレイジ)くらいだよ、使用者の意思のままに動くアブダクターなんて」

「レッドレイジ?」

「あぁ、レッドレイジっていうのは――」

 

 ユリアンとマティアスが会話を続ける中、ノクィートは逆手を口に当てて悩み込んでいた。 勿論、その簡易機動型について。

 

 先程マティアスにはこの簡易機動型は逃げろと言っている気がする、と言って逃走を促した。

 だが、そんな気がする、程度のものじゃないのだ。

 確実に「逃げろ」と言っていた。 聞き覚えの無い男の声で。

 もしかしたら自らの喪失した記憶の中に居たのかもしれない。 だが、今の自分は全く覚えていないその声。

 とりあえず1つ借りが出来た。 自分のやるべき事もしっかりある。 むしろそっちの方が大事だ。 だが、いつかあの簡易機動型に借りを返そう。

 

 ノクィートはそう決意して、会話を続ける2人を尻目に眠りに就いた。

 



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他力本願寺

サブタイは適当の法則。


 

 それに気が付けたのはほぼ偶然だった。

 

 アリエスさんにWill’Oは意思の力だ、みたいなことを言われてから、というかそれを意識するようになってから、微かだがアブダクター以外のWill’Oの気持ち? もわかるようになっていた俺は、とりあえずWill’O技術の使われていそうな場所(ほぼすべての場所に使われているのだが)を片っ端から彷徨っていたんだ。

 勿論見つからない様に。

 

 いつもの転送装置君や監視装置君以外にも、灯りだとか移動装置だとか、セルガーデン内部の足場を動かしているWill’O磁性流体とか。

 まぁ反応が返ってきたのは極わずかだが、それでもしっかりと意思を確認することが出来たんだ。

 

 ならばと思い、俺はパノプティコンの最上階……その上に向かった。

 外側から見た時にクレーンとかが見える場所だな。

 そして正にクレーンに話しかけようと、クレーンのWill’O磁性流体に干渉しようとして――。

 

 ――ォォォォオオオ!

 

 上方、遥か先の空に、とんでもないWill’Oの塊が居る事に気が付いた。

 俺が今まで見てきたアブダクターは多岐に渡るが、そんなもの目じゃないくらいのとんでもない塊。

 

 即座に全パノプティコン内の警報装置に干渉する。

 既に全て対話済みであり、クラッキングする必要は無い。

 やろうと思えばモニターに文字を出力してもらうことだって出来たりする。 

 今回はソレを使う。

 

 どうでもいいことを言おうとしていたプロパ君の映像に介入、外側の監視装置の映像を挿し込み、音声合成装置君とモニター君に頑張ってもらって現状を伝える。

 

『天獄アブダクター接近中! 咎人の皆さんは迎撃を、市民の皆さんは避難してください!』

 

 プロパ君の声を使う事で、信用度は上がっただろう。

 すぐにパノプティコン内が騒がしくなり始めた。

 まぁ、安全保障局辺りは違う騒がしさをしているのかもしれないが、コラテラルダメージという奴だ。 違うか。

 

『天獄アブダクター、残り1分で到達します!』

 

 転送装置君に働きかけて、俺のいつもの小型部隊や砲撃四脚、汎用四脚を勝手に出陣させる。

 ここまで近づけばもう見える。

 

 先行はディオーネ。 後続はコウシンとパラドクサだ。

 身体が小さくなったからか、ゲームで見ていた時より壮大で巨大だが、どうしてか……あまり恐怖を感じない。

 まぁいい。

 むざむざ襲われるのを待つ必要は無い。

 先手を打つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなっている!?」

 

 ナタリア・’’9’’・ウーは走っていた。

 先程、なんの連絡も無しにいきなり緊急警報が鳴り響いた。

 どれほど緊急であってもまず安全保障局(こちら)に連絡が来るのが常であるし、それを怠れば被害も混乱も大きくなるとわからないほど間抜けた上層部ではないはずなのだ。

 

 それになにより、プロパ君の声が普段の数倍……いや、数十倍はスムーズだった事に驚きを隠せない。

 あれは敢えて「親しみを残すため」「技術向上を悟らせないため」にたどたどしい口調にしてあるというのに、今の警報はその辺に居る咎人や市民となんら変わりない口調をしていた。

 

 緊急時だからといえば仕方なくも感じるが、同時に何故普段からやらないのかと問い詰められたらどうする気だと、ナタリアは奥歯を噛みしめる。

 

『天獄アブダクター、侵入します! 種別はディオーネ! 第2階層にいる人は姿勢を低くし、その他階層に居る人はフラッシュG及び怯みダメージの大きい武器で攻撃を行ってください! 少なくとも光線は防げます!』

 

 さらに言えば、この的確なオペレートが怪し過ぎる。

 歴戦の咎人でも天獄アブダクターとの交戦経験がある者は極僅かであり、その咎人の戦闘映像を熟知している者など1人2人居て多い方だろう。

 更には天獄アブダクターの種別を判断、且つ倒し方を知っている者など……。

 

『1分後に1層のロウストリートにコウシンが侵入します! 咎人各位、迎撃の準備をしてください! 他所のパラドクサはこちらが引き受けます!』

「こちら? ……どこのどいつだ、勝手な事を……!」

 

 ――今が非常事態でなければすぐにでも調べ上げ、その身分を最下層まで落としてやるッ!

 

 ナタリアは内心をも憤らせながら走る。

 自らもまた、パノプティコンを守る市民であるが故に。

 

 途中で合流した咎人数名を引き連れ、ナタリアはディオーネの現れたモザイク広場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大型はパラドクサの頭部と武装ポッドを集中攻撃しろ。 お、ナンブ持ちがいるのか。 なら全ロックを集中させてくれ。 ヴォルフ持ちも同じだ。

 簡易輸送型は逃げ遅れた市民(シヴィリアン)を回収、出来るだけパノプティコンの奥へ移動。 簡易装甲型と簡易狙撃型はその援護な。

 簡易近接型及び簡易機動型は天兵を見つけたら見敵必殺、その他咎人のフォロー。

 

 俺達人工アブダクターが、天獄アブダクターに劣っていないと言う事を見せつけてやれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わった、のか……」

 

 誰かが呟いた。

 壁には大穴が空き、内部の鉄筋が完全に露出した個所ばかりの、ボロボロのパノプティコンの一画。

 ロウストリートであるにも拘らず、全ての咎人が武装しているという異常な光景を咎める者はいない。

 ただ、「生き残った」という事実を噛みしめていた。

 

 そして、

 

『最後の天獄アブダクターの撃破を確認。 ハメルンPTの勝利です。 お疲れ様でした』

 

 普段より大分(だいぶん)なめらかに喋るプロパ君のその一言によって、咎人も……そして市民も、大きな歓声をあげた。

 

 地上に居る者にとって天罰とは、天獄とは絶対的な恐怖の象徴だ。

 それが自らのパノプティコンに起こると言う事は刑期の加算よりも恐ろしい物であり、咎人であればロスト、市民であれば連れ去られるという事が確定したということでもある。

 否、あった。

 

 それは今日、覆されたのだ。

 

 

 

「……」

 

 ノクィートはマティアス、ウーヴェ、マリーと共にロウストリートへ侵入してきた天獄アブダクター・コウシンと闘った。

 戦果は上々、いや最高だったと言えるだろう。

 咎人にロストは無く、アクセサリが連れ去られると言う事も無かった。

 的確な指示を受け、的確な行動をとったが故の当たり前の結果ともいえるだろう。

 

 そんな伝説染みた結果を出した彼女は、未だ後片付けに追われるロウストリートを出て、ガソリンのテーブルで自らの手を見つめながら座っていた。

 

「よっ! お疲れ様だな、相棒」

「……マティアス」

 

 彼女の隣に座りこんできたのは同じくコウシンと交戦したマティアス。

 

「ものたりねぇ、って顔だな?」

「……」

 

 無言は肯定だった。

 ノクィートは戦闘狂というわけではない。 だが、折角戦うのならば楽しみたいと思う性質(たち)である事は自他ともに認められている。

 天獄アブダクターの襲来は彼女にとっても唐突な物だったのは事実だ。

だが、ベアトリーチェを助けた時点で彼女の呟いた「天罰が来る」という発言から、何かが来るのはわかっていた。

 その恐怖を見るに、相当なものが現れるのだと少しだけ期待していたのだ。

 

 だが、結果はどうだろう。

 

 確かに敵PTの繰り出す大型アブダクターよりは強い。 動きは独特で攻撃力は高く、機動力もある。 

 だが、これをして天罰というのなら……何をそんなに恐れているのだろう、というのが内心感じた事だ。

 そしていま、マティアスに見抜かれた己の気持ちである。

 

 聞けば自らの戦ったコウシン以外にもディオーネという竜の姿をしたアブダクターや、パラドクサという蜘蛛のようなアブダクターが侵入したらしいではないか。

 ディオーネの方はナタリアや咎人のベテラン達に、パラドクサの方はアブダクターが迎撃したらしいのだが。

 

「おい」

「ん……? げぇっ!?」

 

 と、ノクィートとマティアスに対して鋭く冷たい声を投げかける者が現れた。

 何事かとマティアスがそちらを向けば、そこには赤い服を纏った長身の女が1人。

 ナタリアだ。

 

 彼女は思わずえずいたマティアスを完全に無視し、ノクィートの前までツカツカと歩いてくる。

 マティアス含めベアトリーチェに関する事情を把握している幾人かは冷や汗をかいていたりするのだが、最も中心だろうノクィートは素知らぬ顔で、涼し気だった。

 

「なんだよ、ナタリア」

「相変わらず口が悪いな。 まぁいい。 貴様、コイツに見覚えはないか?」

 

 そう言ってナタリアは抱えていた端末をノクィートに見せる。

 そこに映っていたのは、簡易機動型。

 

「……そりゃあるけど」

「従来の物ではない。 意思を持ち、他のアブダクターへ指示を出す……現在のWill’O技術ではあり得ない動きをする簡易機動型だ」

 

 見た事がある。

 しかしそれは違法な手段で侵入した違法な区画での事であり、見たことがあると馬鹿正直に言えば場所を追及されるだろう。

 だからノクィートは嘘を吐く事にした。

 

「あぁ、さっき見たよ。 天罰が来た時に、開いた壁の穴から見た」

「……第3情報位階権限のロウストリートに開いた穴、という事か。 つまり……」

「なんでそんなの探してんの?」

 

 純粋な疑問だった。

 どうあってもアレは味方の小型であり、こんな指名手配染みた方法で探すものではない。

 もっと言えば、ユリアン含め市民(シヴィリアン)に探させればいいだろうという意見も含んだ疑問ではあったのだが。

 

「貴様が知る必要は無い。 と、言いたいところだが……この簡易機動型は現在捜索中でな。 保存場所に戻らず、どこかをふらついているらしい。 貴様ら咎人にも捜索ボランティアを課す。 期限は発見し、捕獲するまでだ」

「敵対したって事?」

「いや、先程発行された復興ボランティアには割り込むようにして戦場に突如出現し、咎人達をサポートしていた。 敵対しているわけではないと見ている。

 だが、何者かが後ろで操っているにせよコレに意思があるにせよ、一度は確認をしなければならないのだ」

「ふぅん……ま、わかったよ。 黒い簡易機動型な」

 

 ガソリンにいた面々はナタリアの開示する情報量に驚きを隠せなかった。

 それほどまでに重要な案件である、ということも、彼らには伝わった。

 

「精々はげめよ」

「あいよー」

 

 そしてこのノクィートの態度もまた、信じられないものの一つだった。

 














これで人間との意思疎通が可能になったよ!!


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Tell me about yourself !

凡そ8か月ぶりの更新という事実に恐れる()

しかも短い

※今回オリジナル要素が出てきます。


 最近ずっと追われている。

 何にって、ハメルンPTの安全保障局と咎人に。

 市民(シヴィリアン)の端末から状況は理解したが、何故俺が追われなならんのか。

 むしろ好待遇で労ってもらいたいね。

 

 さて、俺はいまとある作戦に参加している。

 転移装置君そのものに割り込みをさせてもらっているのでログなんかは残らないし、出撃するアブダクター達全機が俺と友達(?)であるので戦闘中映像も残らない素敵仕様。

 咎人とアクセサリにだけ記録される、まるで幽霊のような簡易起動型丁の出来上がりである。

 

 シトシト、ではなくざぁざぁと降り注ぐ雨。

 放置市街区域3と呼ばれるここで今から行われるのは、シ3-6号作戦:目標排除。

 ()()()()P()T()の「砲撃四脚」を「排除」せよ。という作戦。

 要はいつも通りの防衛戦なのだが、違う事が1つある。

 

()()()が黒い簡易機動型か?」

『ノクィート。その問いは無意味かと思われます』

「YESなら1回、NOなら2回その赤いトコを光らせてくれ」

 

 ぺか。

 

「おお、ほら見ろ。通じたぞ」

『情報修正中……』

 

 こいつらである。

 主人公様こと、ノクィート・”ポー”・ネィパ。そしてそのアクセサリ。

 仲間を連れる事なく付いてきた主人公様とそのアクセサリは、俺を見つけるなり眼を輝かせて近づいてきた。コイツにも俺の捜索任務が課されているはずなので逃げようとしたのだが、その手に或る武器はSR。 逃げられる気がしない。

 

「あ、これ持ってるから信用されてないのか。いや、お前を傷付ける気はないんだ。ただ、お礼を言いたくて」

 

 主人公様はその見た目の愛らしさとは裏腹に男勝りな口調で話す。

 あぁ、うん。 正に俺のキャラメイキングのままだよ……。実際にこうしてまみえると、すんごい感慨深い。

 そして主人公様は、俺にお礼を言いたいと言う。

 

「お前さ、助けてくれただろ? 深部セルガーデンで。そのお礼が言いたかったんだ」

『ノクィート。現時点までの会話ログを削除しました』

「あぁ、サンキュ」

 

 ぺか、とコア部分を光らせる。

 しかし、なんだ。アクセサリと物凄く仲良くなってんじゃん。流石主人公!!

 

 そしてお礼を言われて嬉しい。素直に嬉しい。

 それこそ俺の現状って天獄アブダクターからPT守ったのに追われているって状況だったから、労いの言葉とか感謝の言葉とかがグッサグサ刺さる。

 よーし、おいちゃん頑張っちゃうぞー。

 

『ノクィート。まもなく来ます』

「お、来たか。確かアンタ、アブダクターを操れるんだっけ? 損害ゼロで行こうぜ」

 

 ぺかー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あれ……!」

「あぁ、簡易機動型 丁だな。 高い所から見下しやがって……撃ち落してやる!」

 

 アガルタPTの咎人達は戦々恐々としていた。

 簡易機動型 丁。 高情報位階権限のボランティアにも型式で言えば同じものが出現するらしいが、歴戦の咎人達であるならばたとえどれほどウザかろうとも敵にはなり得ない。

 だが、コイツは違うのだ。 色が、ではない。 黒い簡易機動型なんて呼ばれてはいるが、高位階に行けばいくほど金属部分は黒くなるのでコイツそのものを現す言葉としては正しくない。

 コイツは他アブダクターを指揮し、統率する。 フラッシュGやフラグGを無効化し、銃撃を避ける。 明らかに意思があるのだ。

 

 コイツを御するハメルンPT以外は、かの”原初の三機”である憤怒の烈火(レッドレイジ)に倣って怠惰の静水(ブルーレジー)とコイツを名付けた。 ほとんどの戦場で高空に佇んでいるだけで何もしない事からつけられた名前だ。 無論、コイツが現れると戦場の人工アブダクターがレッドレイジたるや、というほど手が付けられなくなるのだが。

 

「クソッ、あたんねぇ!」

「……なんでハメルンPTは第3情報位階のボランティアなんかにコイツを投入するんだよ……ッ! もっと上の奴らに当てろよッ!」

 

 雨天。 雷鳴も響いているこのジオフロントはいつにもまして視界が悪く、倍率の高くないSRではブルーレジーを狙い落とす事は不可能に近かった。

 咎人の周囲には段々と簡易近接型や簡易狙撃型が集まり始めている。 これ以上ブルーレジーに構ってはいられない。

 

「いくぞ! 砲撃四脚を排除すればボランティアは終了だッ! 余計な事を考えるなよ!」

「わーってるよ!」

 

 アガルタPTの咎人達はかなり遠い場所にいる砲撃四脚に向かって駆け出し、

 

「ガッ!?」

「グギャッ!」

 

 四人の内の二人が、崩れ落ちた。

 

「狙撃ッ!? 簡易狙撃型の弾速じゃねぇッ!」

「上だッ! ビルの側面に咎人が貼り付いてやがるッ!」

『友軍、会敵しました。 援護を、』

 

 何とも反応の遅いアクセサリがその文言を言い終わる前に、空から降ってきた砲弾によってその身を吹き飛ばされる。 まさかもう来たのかとマップを見るも、砲撃四脚は変わらず遠方にいるまま。

 つまり、弾道を計算して上方に放たれた砲弾がアクセサリを直撃したのだ。

 

「身を隠せ! 遮蔽物を探せ! 砲撃は弾速が遅いから、ギリギリまで引き付けりゃ回避できるはずだ!」

「嘘だろ!? この距離から撃ってきたってのかよ……!」

『――了解、殲滅します』

「が、ぐ、ァァアアッ!?」

 

 比較的近くにいる咎人、見えない砲撃四脚の脅威に機を伺っていたからだろう。 アクセサリや仲間達を助ける余裕が少しでも彼らにあれば、気付けたかもしれない。

 だが、気付かなかった。

 すぐそばまで迫っていた、ヒュウガMk2を持った敵アクセサリの存在に。

 高威力の螺旋の一撃がアガルタPTの咎人1人を刺し貫く。 

 

 アクセサリは安全保障局から配給された物であり、弾薬は随時転送されてくる。 故に咎人と違って携行弾数が無限で、機械ゆえに命中精度も高い。 よって普通は銃火器を持たせるものだ。

 だから意表を突かれた。

 だから、隙を晒してしまった。

 アクセサリ一体ならば勝てると、TB-32Hを振りかぶり――、

 

「ッテぇ!?」

 

 突進してきた簡易装甲型にその身を吹き飛ばされ、背後にゆらりと近づいていた簡易近接型に切り刻まれ、簡易輸送型の光線と簡易狙撃型の狙撃に滅多打ちにされた挙句、簡易機動型の突撃によってライフを削り取られるのだった。

 

 どこに復帰してもすぐさまHSと砲撃の嵐が降り注ぎ、少ない遮蔽物に身を隠そうとするとアクセサリによって貫かれる。

 恐ろしい程の連携だった。 

 戦場を俯瞰し、アブダクターを操っているのだろう怠惰の静水(ブルーレジー)と、正確無比な狙撃でHSを狙ってくる咎人。 咎人に合流している気配はないのに所々で『了解』と言ってからヒュウガで攻撃してくるアクセサリ。 

 

 今日この日。

 この3存在に、アガルタPTは圧倒的敗北を経験したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、戦いやすいわ。 上には通報しないでおくから、またよろしくなー」

 

 ぺか!

 

『ノクィート。現時点までにおける簡易機動型 丁、呼称名怠惰の静水(ブルーレジー)に関する情報記録(ログ)はどういたしますか?』

「ん、自然な感じに消してくれ」

『了解』

 

 いやー、すごいわ。

 一発の撃ち漏らしなく、全弾HS(ヘッドショット)を決める主人公様。

 遠く離れていても淀みなく主人公様の命令を遂行するアクセサリ。

 

 こりゃすぐに第8情報位階まで登って行くだろうな。

 うん、俺も鼻が高い。

 

 また、一緒に戦おうな!

 

「! ……あぁ、またな!」

 

 およ、伝わった?

 ……あれか、戦友同士のアイコンタクト的な。

 いや、いいね! そういうの嬉しいよ! 人とのかかわりに餓えていたんだ……アクセサリの方もよろしくな!

 

『……』

 

 こっちは流石に伝わらないかー!

 







freedom wars 2の噂が聞こえてくる中、ブルーなんていう絶対に使われそうなものを選ぶ勇気!!


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It's kind of weird

もう6か月もたってる……
ちょっと長めかな?


 

 「サ4-1号鬼灯作戦:目標排除」。

 

 vsパラドクサ、もとい特殊S型 錆朱(ヴァーミリオン)の出てくるミッション。

 相手さんは最近まで交戦していたアガルタPTではなく、レムリアPTの咎人&アブダクターで、内訳は錆朱(ヴァーミリオン)が一体と近接、機動、咎人にアクセサリという、パラドクサの機動力や拘束力を考えれば割と合理的で効率的なパーティだ。

 

 対する此方は主人公様ことノクィート、ウーヴェ、ニーナ、カイというバランスのいいメンバーに加え、俺といつもの小型部隊。小型部隊は元からであるが、例によって俺は飛び入り参加である。

 

「あ、アイツ! 安保が追ってた奴じゃないかい?」

「どうする、ノクィート。捕獲を優先するか、無視してレムリアPTを叩くか」

「……お前に従っておこう」

 

 目敏く俺の存在に気付いたニーナが彼らに俺の存在を伝える。

 え、まさかここで敵対するの? ちょっと困るなー……。

 

 等と思っていたのだが、

 

「いや、どう考えてもアイツは味方だろ? 悪い奴でもないし、このままとっとと相手方潰して帰ろーぜ」

 

 ……うぅ。

 主人公様の優しさが染みる……。

 

「いや、悪い奴じゃないって……」

「おっし、いつも通りいくぞーウラウィ。私が狙撃するから、隠れた奴は全部貫け。いいか、一撃でも食らったら離脱しろよ?」

『了解しました、ノクィート』

 

 おお、アクセサリも同じ名前なのか!

 しかし物凄く仲良くなってるなぁ。第4情報位階権限で既に好意MAXなんじゃないか?

 相変わらずアクセサリには意思を届けられないが、いつか二人でノクィートの可愛らしさについて語り合いたいぜ。

 

「相変わらず……」

「来たぞ、気を引き締めて行け!」

 

 カイがその光景をみて何かを言いかけたが、ウーヴェの言葉に瞬時に臨戦態勢に入った。

 広大な砂漠、岩の影に隠れて様子を窺っていたのだが、どうやらあちらさんが痺れを切らせて打って出てきたようだ。

 

 さぁ、お前達。

 ノクィートとウラウィだけじゃない、彼女らの仲間となる咎人達の信頼を得るためにも、今日もはりきっていくぞ!

 あ、ネットには気を付けろよ! お前達が死んだら元も子もないんだからな!

 

 

 

 

 

 

 

「会敵した!」

 

 まず戦闘を突っ込んでいくのはニーナ。小剣を握りしめ、楽しそうに笑いながら敵咎人の軍勢に突貫する。多少の被弾は気にせず果敢に斬りかかって行く姿は相手に恐怖を覚えさせるもので、だからこそヘイトがニーナに集中する。

 彼女のアクセサリはアリサカ持ちで、ニーナの漏らしを逐一狩りとって行く。歴戦を感じさせるコンビネーションは戦場を引っ掻き回し、流れがグッとこちらに来た。

 

「回復する」

 

 そんなニーナの被弾を見てか、即座に彼女へと荊を繋ぐカイ。ニーナもそのタイミングをわかっていたようで、滅多に使わないEzカッツェに持ち替えて周囲を牽制する。勿論、回復が終われば即座に飛び出し、また戦場を掻きまわす。

 カイもまた対人戦を好むので、ニーナに続く様に斬りかかって行く。

「ふんっ!」

 

 特殊武装であるナックルを大振りに振り上げ、咎人やアクセサリを叩き潰しているのはウーヴェだ。とはいえ今回はニーナとカイという小剣二大アタッカーがいるので、もっぱら荊による防御力上昇をして回っている様だった。

 

「ウラウィ、そのまま真っ直ぐ突っ込めよ?」

『了解』

 

 体力が十分にある敵勢咎人二人+アクセサリ一体に対してダッシュ攻撃を行うウラウィ。隙の大きいその攻撃に敵が対応したその瞬間、タン、タンと二発の狙撃弾が彼らを貫いた。一人はHS、残りの一人と一体は胸を貫かれ、ヘルスが半分以上減る。

 そこを刈り取る、ウラウィの攻撃。

 

 これで第一波は終わりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 いやいや。

 あれ? これコード4だよね?

 なんでこの子達こんなに強いの?

 

 出る幕ないぞ!

 

「第二波! 遠いぞ、狙撃を警戒しろ!」

「へっ、上等!」

 

 少し離れた所に出現する第二波の敵勢力。

 ファランクス、火炎放射器、そしてスナライ。

 よーし、通じろ! ぺか!

 

「? ……乗れ、って?」

 

 ぺか!

 

「いいね、そう言うのも出来るのか! ウーヴェ、ニーナ、カイ! 空中の簡易機動型にとっつけ! 乗せてってくれるってよ!」

「なんだって?」

「……わかった」

 

 ノクィートの言葉にニーナは訝しげに、カイは柔軟に反応する。

 即座にカイが荊を機動型に伸ばして取りつく。

 

 よし、あっちまで全速力で!

 

「どうやら本当のようだな。いくぞ、ニーナ」

「あぁ、全く、デタラメだね!」

 

 ウーヴェがニーナの肩を押し、二人も機動型に取り付いた。

 さぁ、機動型の本領発揮だ! 市民(シヴィリアン)運びなら輸送型が一番だけど、ただ早けりゃいいなら俺達に敵う小型はいない!

 

「私はアンタで?」

 

 ぺか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは恐怖の光景だったと言えるだろう。

 歴戦として名高いウーヴェ、ニーナ、カイに加え、狙撃の名手と名を上げ始めているノクィートが()()してきたのだから。

 距離をとれば一方的に攻撃できる遠距離武器だからこそ、こうも一瞬で接近されては隙を晒しすぎる。

 さらに武器を変えようとする隙を縫って小型が邪魔をしに来るものだから、彼らがハメルンPTの面々の刀の錆になるのは到底変えられぬ運命であった。

 

 ならば、と。

 

「第三波! ……小型の群れか!」

 

 戦場に一斉に転送される小型アブダクターの軍勢。

 その数は圧倒的にハメルンPTの小型部隊を上回り、咎人を足しても余るほど。

 これなら、という淡い希望を抱くレムリアPT。

 

 だが、そこに待っていたのは当然の帰結だけだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、出てきた傍から狙撃や突進を受けて刈り取られていくレムリアPTの小型達。狙撃と言っても光弾の弾速は遅く、SRには遠く及ばない。だが、転送した瞬間に目の前にあったのでは避けようもない。

 蜘蛛の子を散らすように少数の小型部隊が大勢の小型を蹴散らしていく様は、ハメルン・レムリアPTの咎人双方にとっても中々見られぬ光景で、つい上空を見上げて立ちすくんでしまう者も少なくなかった。

 

 そんな彼らを見下すは、真黒の身体から僅かに青い光の漏れ出す簡易機動型 丁。

 名を、怠惰の静水(ブルーレジー)

 “原初の三機”ではないはずなのに、その姿はまるで戦場に君臨するかの如く。

 

 恐怖からか、悔しさからか。

 その存在を喪失(ロスト)しかけているレムリアPTの誰かが、抑えきれぬ怨嗟を込めて呟く。

 

「……ちまえ」

 

 否、叫ぶ。ありったけの呪いを込めて、その名を叫ぶ!

 

「やっちまえ、錆朱(ヴァーミリオン)!!」

 

 まるで彼の存在を贄とするかのように、その消失とほぼ同時でソレは姿を現した。

 

 まず目立つのは八つの脚。中心から大きく外に広がった足は堅牢な装甲があり、足先は鋭い鉤爪が鈍く光る。

 その中心には何本もの筒を重ねたような形の頭部センサーが付き、寄り添うようにして二本の武装ポッドが重く鎮座している。

 大きく晒された腹部のケージは、しかし堅牢な脚の装甲によって数多の攻撃を通さない事が容易に予測できた。

 

 これこそが錆朱(ヴァーミリオン)。天獄アブダクターであるパラドクサを鹵獲(ろかく)したレムリアPTの、現時点における最大戦力だ。

 錆朱(ヴァーミリオン)は出現と同時に威嚇するような金切り声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……SR-42/LA(コイツ)じゃちょっと分が悪そうかね……ウラウィ! 下がっときなよ! 蘇生優先だ! 近づかないで、蘇生して周れ!」

『了解』

 

 未だ天獄アブダクターはコウシンとしか交戦経験の無いハメルンPTの面々だが、即座に相手の特性を見抜いたノクィートが指示を飛ばす。

 ウーヴェはAAW-M2に持ち替えるが、ニーナとカイは気にしないと言わんばかりに突っ込んでいった。

 

「そんじゃ、私もいこうかな」

 

 そんな好戦的二人組に続く様にして出るノクィート。

 その肩には今まで一度も使わなかった大きな分隊支援火器が担がれている。

 

 先に走り出していたニーナ、カイの合間を縫って赤色の荊が伸び、錆朱(ヴァーミリオン)の脚の根元へと接触、即座にドラッグダウンを始めるノクィート。

 ニーナとカイは共に左右へと別れ、そのドラッグダウンへ加勢する。

 

 煩わしそうに身体を回転させ始める錆朱(ヴァーミリオン)。だが、耐性の付いていない一度目のドラッグダウンは即座に成功し、一時的に無力化されてしまった。

 しかし焦らずとも、錆朱(ヴァーミリオン)はその復帰の早さが特長だ。即座に持ち直し、立ち上がる――、

 

「まずは、一撃」

 

 その一瞬、時間にしてたった四秒。

 へたれこむようにして接地した錆朱(ヴァーミリオン)のその頭部センサーに、余りにも強力な一撃が叩き込まれる。

 錆朱(ヴァーミリオン)の巨体が一瞬怯んだように錯覚する勢いで叩き込まれたのは、大口径の鉄針。

 

 分隊支援火器――牙龍による一撃だ。

 

 いわゆるパイルバンカーであるソレは、発動から発射までに三秒もの時間を要する。

 つまり、ノクィートは距離を詰めて狙いを定める工程をたったの一秒で終わらせたのだ。

 とはいえ勿論ノクィートはどこぞの”最強”のような縮地染みた移動方法を持っているわけではない。

 むしろ分隊支援火器を担いでいる以上、その走りは普段より遅いだろう。

 

 それを助けているのは、

 

「レジー、あっちの岩まで離脱頼む!」

 

 呼び声に紅点を一度点滅させた、怠惰の静水(ブルーレジー)だ。

 まるでノクィートの専用機であるかのようなタイミングで飛来した怠惰の静水(ブルーレジー)の身体に荊を接続し、ノクィートはその場を離脱する。

 一歩遅れて咆哮を放った錆朱(ヴァーミリオン)だが、その周辺には誰もいない。ニーナもカイも同じように機動型に飛び乗り、しかし咆哮が終わったと見るや否や飛び降りて、錆朱(ヴァーミリオン)の武装ポッドへ取り付いた。

 

「おら!」

「シッ!」

 

 溶断を始める二人。

 その武装ポッド二本の中心、双方にダメージの行く場所へAAW-M2によるロケット弾が二発突き刺さる。

 

「ニーナ、カイ! 離れろ!」

「あいよ!」

「了解した」

 

 ノクィートの指示が飛び、二人が離脱した直後に錆朱(ヴァーミリオン)が回転を始める。それも今回はただの回転ではなく、弱いとはいえホーミング性能のある垂直ミサイル攻撃を交えての回転だ。

 ミサイルの速度は機動型の速度に勝り、少なくない数が撃墜される。

 

 だが、咎人やアクセサリに被害は無かった。

 

「守られたか……!」

「すごいじゃないか、この小型達!」

「有能だな」

 

 彼らに届きそうなミサイルは全て輸送型と装甲型が阻み、身を削ってでも通さない。

 

 ガンッ! と強い音がする。

 何事かと咎人達が音のした方を見れば、そこにはケージが壊れて無力化されている錆朱(ヴァーミリオン)と、静かに佇む怠惰の静水(ブルーレジー)

 まるで自らの指揮する小型部隊を傷付けられて怒っているかのようだった。

 

「ウラウィ!」

「了解、追撃します」

「私も、二撃目だ!」

 

 もちろん怠惰の静水(ブルーレジー)にくっついていたノクィートもそこにはいて、先程まで隠れていたらしいウラウィと共に己が武器を構えていた。ウラウィはヒュウガを、ノクィートは牙龍を。

 

 三秒後、高速回転する螺旋と超高威力の貫通針がパラドクサの頭部をぶち抜いた。

 吹っ飛ぶ頭部センサー。

 

「レジー、私達を守る必要はないよ、自分で勝手に避ける! なぁ?」

「言う通りさ、アタシ達には必要ないね!」

「問題ない」

「ふん、確かにそうだな」

 

 ぺか、とライトを一度点滅させる怠惰の静水(ブルーレジー)

 ノクィートを連れて離脱し、冷静になったとでもいうかのようにまた上空で静止する。

 

 その後はもう、語るまでも無い。

 小型に軽微な損害はあれど、ほぼ圧勝という形でハメルンPTは錆朱(ヴァーミリオン)を下したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いや、うん。

 割と、悲しいものだなぁって。

 個々の性格があるワケじゃない。ただ、そこに意思はちゃんとあった。

 彼らは俺の部下なんかじゃなくて、俺としては友達みたいな認識で……。

 

 彼らを守るように言ったのは俺だ。こうなる事も予測していた。

 それでも、怒りを抑えきれなかった。

 錆朱(ヴァーミリオン)にも、馬鹿らしくも俺まで身を挺して守ってくれた彼らにも。

 

 小型は量産機だ。一体一体の事なんて気にしている咎人はいないだろう。

 だからこそ俺くらいは……俺だけは、彼らの事を大切に思って上げなきゃな。

 

 いいか、お前ら!

 俺を守るのも、咎人やアクセサリを守るのも無しだ!

 ただ! 攻撃あるのみ! それが俺達だろう?

 防御するなんてらしくない事すんなよ! そういうのはシールドジェネレーター持ちにでも任せておこうぜ!

 

 ……伝わってるといいなぁ。

 

 

 





ウラウィ ulawey
ヒュウガ Mk.2を持たされた主人公のアクセサリ。赤髪赤目、赤い服。信頼度は既にMAX。


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壁に耳あり障子にメアリー

年末歳末セール一作品目


 

 ユートペディアというものを知っているだろうか。

 咎人、市民、そのどちらでもない者も含めて、パノプティコンにいる”資源”すべての情報が載っているデータベースだ。正確に言えば、載っているはずの、と言ったほうが正しいかもしれないが。

 というのもこのデータベース、それなりの技術があれば書き換えは然程難しい事ではないようで、フラタニティの連中や市民たちが頻繁に書き換えている。故に、存在しない筈の咎人がいたり、データはあるのに実在しない市民がいたりと、正直役割を全うしているとは言い難いのだ。

 

 とはいえ、普通に貢献して、普通に受刑している分には何も問題ない。

 どころかユートペディア自体触れたことのある咎人が少ないので、技術分野にかかわらなければすっかり忘れてしまっていた、なんてこともあり得るようなのだ。

 

 さて、どうしてこんな話をしたのか、といえば。

 

『どうしても君は捕まえられないようだったからね、君のWill’O粒子から君の意思パターンを割り出して、こっちでユートペディアに”仮登録”させてもらったよ。あぁ、安心してくれ。僕は君を民生院や安保に報告する気はないからさ』

 

 コイツ……直接脳内にッ!!

 なんてふざけている場合じゃない。

 声からしてユリアン・サダート#eだが、そんなことまでできたのかコイツ。

 

『驚きか……すごいな、本当に人間の思考パターンに似ている。あぁ、もしかして僕のことを知っていたのかな? 彼女と協力している市民は少ないから、ばれるのは時間の問題だとは思っていたけど、まさか小型にバレているとは思わなかったよ。

 君の驚きは……そうだな、君のパターンに割り込んだことと、その技術力に関して、かな?』

 

 肯定する、が……。

 あ、いや、そうか。アリエスさんも似たようなことやっていたし、出来ないわけではないってことか……それにしたって。

 

『僕の上司にね、こういう分析とか根回しとか改竄が得意な人がいて』

 

 ……あぁ、ベアトリーチェを追う安保を煙に巻いたっていう。

 その上司有能すぎてなんか怪しいんだよなぁ。カルロスとかいう名前だったりしない?

 

『疑問? さすがにわからないな……。あ、そうだ。君、文字も理解しているんだろ? 天罰の時のプロパくんをクラックしたの、君しかいないと思うんだけど』

 

 肯定。

 すぐにユリアン・サダート#eの端末に入り込む。

 コマンドプロンプトを勝手に立ち上げ、その場で書き換え。目の前の入退監視端末君のカメラを繋げて俺を映し出し、その下に簡易のテキストボックスを生成した。

 うぃるおーってすごい。それっぽい事をしたい、という意思が大体の操作をしてくれる。

 

「うわっ……これ、君が?」

『そうだ。ユリアン・サダート#e。何か用か。ログは辿られないように処理しているが、物理的なスキャンは避けられん。用件は迅速に頼む』

「……本当に意思があるんだ。裏で誰か市民が操っている、とかでもなく」

『肯定する。それだけか』

 

 ……なんかすっごい久しぶりに会話をしたせいか、こう、無駄に威圧的になっている気がする。いや、なんというか、機械語ってこうなんだよ。全部命令口調っていうか、簡潔に話すもんなんだよ。

 

「待ってくれ。君と話したいのは確かにあるけど、用件はそれじゃあないんだ」

『そうか』

「君がノクィート達に協力してくれる姿勢なのを見込んで、頼みたい。彼女らを」

『助けてやれ、という用件であれば聞き届ける事はできない。彼女らは十二分に強く、俺たちの助けを必要としていない。加え、俺達が助け続けていては……何れ来たる憤怒に、幽光に抗う事は叶わないだろう。

 無論俺達も出るが、あれらには有効的な手段が現状見つからない。俺単体ならば届くやもしれんが……先日の錆朱と戦って理解した。現在の小型部隊では天獄アブダクターには勝てん。ノクィート含め、咎人とアクセサリの成長が必要だ』

 

 所詮小型は”UZEEEEE”止まりなのだ。

 それが脅威に成り得るのは、俺のように意思が乗っている場合だけだろう。天獄アブダクター……特に範囲攻撃に長けたペルタトゥルムやディオーネを相手にした時、小型と大型軍団で相手足り得る自信は、少なくとも今は、ない。

 

 せめて全小型が俺……つまり簡易型の丁クラスの硬さを手に入れられれば話は別なんだが。

 

「すごいな……君、どこまで見据えているんだ? Will’Oに発現した意思。意思を持つ電気信号が、完全な偶然で生まれた人間に近しい自我。怠惰の静水(ブルーレジー)……」

『協力の要請は理解した。彼女らがロストする可能性のある場合のみ、力を貸そう。その代わり、協力を要請する。ユリアン・サダート#e』

「なんだい?」

 

 つまるところ――俺達も強化しないといけないのだ。

 ランクアップ、をな。

 

『彼女らにボランティアを発行したい。今はまだ第3情報位階権限(コード3)だが……いずれ第4、第5へ上がっていくことは目に見えている。その中で、小型のフレーム強化に使用するための素材収集をボランティアとして発行しよう。何、報酬の刑期はこちらで都合する』

「わかった。つまり君が僕にお願いしたいのは、ボランティア発行のプロセスと、名前の貸し出しだね?」

『素晴らしい。さすがに怠惰の静水(ブルーレジー)の名で発行するわけにはいかないからな』

 

 そんなことをすれば発行された側の彼女らが真っ先にブタ箱行である。

 まぁ、ここがすでにブタ箱ではあるんだけど。

 

「よし、じゃあ交渉成立だ」

『無欲だな、ユリアン・サダート#e。お前の願いはないのか』

「恩があるからね。当然だとも」

 

 ……良いヤツだなぁ、本当に。

 よーし、突き放すような言い方はしたけど……ま、見守るよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、と……ユリアン・サダート#eは、ようやく、といった様子で肩を撫でおろし、一息ついた。

 

 ユリアンの上司が、例の小型を補足できたかもしれない、と言ってきた時は肝が冷えた。あの小型は彼女たちに協力している機体であり、それが捕獲されてしまおうものなら彼女へ仇を返すことになってしまう。

 しかし上司は、ハハハッ! と笑って、ユリアンに一連の件を一任する、と言ってくれた。元から理解ある上司だったからその時は例の一言で済ませてしまったが、本来であれば完全な反逆である。

 その技術力の高さと豪快さには舌を巻く思いだった。

 

 そんな上司の協力もあって、小型――彼と、対話する事が実現したのだ。

 

怠惰の静水(ブルーレジー)……まさか、ここまで高度な知能を持っているとは思っていなかったけど」

 

 まるで、ひとりの人間を相手にしているようだった。

 否、それ以上の……何か、別の次元の魂と対話しているような気さえした。

 意思を持つ電技信号が、自我を持つ電気信号へと進化した。

 その事実に技術者として、多大なる興奮と……僅かな、しかしゼロではない恐怖を覚えている。

 今でこそこのパノプティコンに協力してくれている彼だけど、もし、他のパノプティコンや……天獄に、彼がついたら。

 

 いや、全てのアブダクターを、反乱させでもしたら。

 ……こんな、僅かに残された咎人を制御する技術だけで成り立っている砂上の楼閣など崩れて消え去るだろうな、と笑う。

 

「……仮定の話をしていても仕方ないか。とりあえず……強力な味方がついたことを、喜ぼう」

 

 ……細部まで思い描いてしまえば、それが現実になってしまうような気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 と、いう経緯(いきさつ)があって。

 

 晴れて俺は――市民権を、獲得したわけである。

 だってそうだろう。仮とはいえ、ユートペディアに載ったのだ。

 

 ならばやる事は一つだろう。

 咎人を――非実在咎人を――無駄な資源を――!

 

 ユリアン・サダート#eとの対話で思い浮かんだ事なのだ。

 裏で操っている人物。そんなものはいないが、そんなものが()()()()()()()()()()。何故なら、責任は全てソイツに押し付けられる。功績もソイツが得ることになるが……ま、そこはどうでもいい。主人公様にはしっかり意思が伝わるし、他、ユリアン・サダート#eやアリエスさんもわかってくれることだろう。

 

 俺に原因があると断定されて、ウィルス等のソフトの可能性から今いる小型が全部廃棄処理、なんてことにもなりかねんからな、現状。

 決して尻尾を掴ませない、実在すら怪しい怠惰の静水(ブルーレジー)を駆る者。怠惰を駆るヤツだ、自ら戦場に出てこないのも”らしい”だろう。

 

 さぁ、キャラメイクのお時間だ。バックストーリーとかも決めよう。一応咎人として武器も決めておくか? いや、二級市民扱いで技術を得た、みたいなのも……。

 

 ふ、ふふ……安保を撒くためだけとはいえ、いい仕事をしてくれたユリアン・サダート#e。

これはいい暇つぶしになりそうだ――。

 




ようやく会話ができたー!


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