元奴隷がゆくIS奇譚 (ark.knight)
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隷属の転生

始めましての方は初めまして、そうではない方はまたありがとうございます

ISのSS第2弾目ですがどうかよろしくお願いいたします


 

 

俺は奴隷だ。人として生まれ名前を得たが名前を奪われ人権を奪われ生活を奪われ全てを奪われた人形(ヒト)のなれの果てそれが俺だ。ただ知らない誰かのために働き続け死ねば補充されるただの人形(ヒト)でしかない俺は自分に起きたことが分からなかった。ただ何かが起きたことだけが分かっていたがここはいつも俺が働いている場所ではないどこかだったのはすぐに分かる。上下左右手前奥すべてが目が痛くなるほどに真っ白だった

 

『混乱していないとは珍しいのぉ』

 

どこからともなく男の声がするが全方向を見渡すが誰もいない

 

『いないもんを探してどうしたのじゃ?儂はそなたの脳内に直接語り掛けているのじゃからな』

 

姿を見せない奴を信用するほど俺は甘くはないがまずは俺がどうしてここにいるかを再考察するしかないみたいだ

 

『お主は死んだのじゃ、上から石材が落ちてきてのぉ』

 

話したつもりは無いが先ほどの脳内に語り掛けるというやつで話を聞いているのか?

 

『そうじゃよ、さてここは転生の間じゃ、死者は死に虚無へと帰るかどこかに転生するかを選べるのじゃがどうするのだ?』

 

正直どちらにも興味は無いのだがならば神とやらに任せてみるとしよう

 

『これぞ神頼みというやつじゃな、では転生してもらうのじゃがお主は自分が知らないだけでとてつもないものがあるようじゃな』

 

俺にはそんなものは無い、もしあるのであればあんな生活はしなかったはずだと思う

 

『無自覚は怖いものじゃのう、では特典を1つつけるがどうするのじゃ?』

 

特典だと?おまけみたいなものなら特にいらないがせめて普通に暮らせると俺は助かる

 

『普通じゃと?・・・それはしてみなけらばわからんのぉ』

 

ならその世界での全知識とかあると助かるなそれだけだ

 

『そっちならできるはずじゃ、では転生させるがいいか?』

 

勝手にしろ俺はとっくに死ぬ覚悟は完了している

 

『寂しい奴じゃのぉ、では死なないように祈っとるぞ』

 

少しずつ白い空間が消えていく・・・あぁ次の俺はうまくやって要領のいい人間になれたらどれだけ最高なんだろうな・・・

 

 

 

俺は1人の少女に抱えられている。それよりも俺の姿を確認したがどうやら赤ん坊からのようだな正面にいる女にも2人の赤ん坊が抱えられてるけどよそもそもこいつは誰だ?

 

「お母さん!!春十(はると)が目を開けたよ!!」

 

うるせぇな耳がいてぇよ、眠いから寝るか

 

しばらく白い天井と睨めっこしてたけど飽きた誰か来ねぇかな、暇すぎて仕方ねぇんだけどよ。ん?誰か入って来たなって、おい放せ!鞄に詰めんな!誰か助けてくれ!どうしてまた俺がこんな目に遭うんだよ!

 

 

 

千冬サイド

 

私にもようやく弟と妹が出来たんだ!長男の春十に次男の一夏、次女の円華!今日も学校が終わったから3人の様子を見に来たんだけど何か慌ただしいなどうしたんだろ?警察も来てるし何かあったのかな?千冬はカウンターに向かい面会できるか確認しに行く際にこの騒動を聞いてみた

 

「あのどうかしたんですか?」

 

「あらかわいい子ね、聞いた話なんだけど織斑春十って子が誘拐されたらしいのよ」

 

「春十がですか!?」

 

な、なんで春十が・・・嘘だ、そんなのは嘘だ!!こんなことってあるのか!?どうして春十なのだ!そこで私の意識は途切れた

 

目を覚ますとベッドの上で母が目の前にいた。外は真っ暗だったがなぜ倒れたかを思い出す

 

「お母さん!春十はどうなったの!?」

 

母は事の顛末を話してくれた。病院で春十が誘拐されいまだ捜索中で近くにあった監視カメラにはその時の映像は消されていたそうだ

 

「それじゃあ春十はどうなっちゃうの?」

 

自分でもわかる、いや直感で分かってしまったこの後がどうなってしまうのか。春十はもう私たちの下には帰ってこないのだと

 




お読みいただきありがとうございます

しばらくは原作開始にはなりませんのであしからず


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幼馴染

 

あれから7年もの時間が経つが俺はまたしてもこんな(奴隷)生活を余儀なくされていた。名前も付けて貰った佐野七実という名前だ。それはともかく前と違うのは今回の主は偽物の親だということだ。学校にも通っているし勉学の類は問題ないのだがそれ以外に問題が出来ていた。それはISの登場である。女性にしか動かせない宇宙開発用のパワードスーツなのだがそれを兵器として見てしまう事件「白騎士事件」が起きたのも2年前だ。日本に向けて各国からミサイルが襲ったのを<白騎士>と呼ばれるISが解決したのだがそんなせいもあってか世の中は女尊男卑なんていうつまらない世界になってしまった。そのせいで世の中の男性は冤罪なのにも関わらず逮捕されることも増え俺の通う学校でも女子による虐めも増えた。正直元奴隷としてはあまり辛くはないどころかそもそも友達すらいない俺にはどうでもいいのだがな

 

俺はいつも通りに朝5時に起床し朝食の用意をする。ここの家主はこの家における家事を俺に任せているのでサボろうとしたものなら容赦なくボコされる。それが例え高熱を出し寝込むものであろうとだが反逆しようとは思ったが今しようものなら返り討ちに遭うのが目に見えてわかるからしないだけでその内しようとは思ってはいる。無事朝食を作り終え次は洗濯と大変だがもう慣れた。1年間もしてるとさすがに嫌でも分かる。ただ1番面倒なのは不条理な暴力だ。気にくわないから、邪魔だとかいろいろあるがそれだけは解せない。さて全部終わったことだし見つからないようにさっさと家を出よう

 

俺は教科書をランドセルに入れ家を出た。だがまだ6時だから学校が開いていないため公園で時間を潰すのが日課だ。公園ではベンチに座りただただ空を見つめているだけだが何も無いと空を見上げてるだけで何もかもを忘れられる気がした。だが今日は違ったいつもこの公園で暇しているときに1匹の白猫が俺に近づいて体を摺り寄せてくる

 

「俺なんかに何の用だ白猫」

 

俺はその白猫を持ち上げ膝の上に乗せるとそのまま丸くなった

 

「はぁ・・・俺なんかに懐くなよな」

 

膝の方から猫の鳴く声が聞こえるが今までこういった経験がないためどうしたらいいか迷っていると着物を着崩して胸元が露出した着物と同じ赤い髪をした長身の女性が俺の隣に座りキセルふかし始める

 

「シャイニィがこうも懐くなんて坊やは余程いい人なんサ」

 

「・・・あなたがどんな人かは知りませんが俺はいい人ではないです。ただ何もかもをあきらめようとしてる人形同然のゴミです」

 

「・・・キミに何があったかは知らないけどサ、これからもっと大変な目に遭うのサ」

 

「それまでに俺が死んでいなかったらですけどね」

 

「はは、君は中々に見どころがありそうなのサ!」

 

キセルを吹きながら女性は俺の膝の上で丸まっている猫を肩に乗せ立ち去ってしまった。こんな世の中でもこんな俺に接してくれる人がいたのか。今日は何かいい気分で学校に行けそうだ・・・せめて名前でも聞いていておけばよかったな

 

俺はランドセルを背負い学校に向かうことにした。学校の自分の教室に着くなり俺は窓側の1番後ろにある自分の席に座り肘をついて空を見上げていた。次々に他の生徒が来るなり騒がしくなるが1番面倒なのは俺の目の前の席の奴だ

 

「やっほ~ななみん!」

 

彼女は布仏本音といいいつも幼馴染と一緒に学校に来ているそうなのだが俺の隣に座っている奴がそうらしい。名前は聞いたことはあるが興味がなかったので忘れた。本音はいつも勝手に話しかけて来るからなぜか覚えた

 

「今日もいい天気だね~」

 

「ほ、本音・・・やっぱり無理だよ」

 

「ううん、あとはななみんでこのクラス全制覇できるんだよ?私はやるよ~」

 

全制覇ってなんだよ?話すのか?それとも友達というものか?俺にはわからないものだ

 

「・・・お前ら一応話は聞いてるからな?」

 

「ひぃ!?しゃ、喋った!?」

 

「かんちゃん、それは酷いとおもうよ~?」

 

なんとなく雰囲気で分かるがかんちゃんと呼ばれる彼女が俺が喋ることが無いと思って驚いたのだろうな。こんな人形同然が喋るのはおかしいかもしれないが一応生物(ヒト)なのだから喋りもするだろう

 

「でも聞いてるなら話し返さないの~?」

 

「・・・面倒」

 

「なら勝手に話すよ~?」

 

今日も始まったよ。間延びした声で話してくるこいつのマシンガントークが、たまにかんちゃんとやらに振るがその反応が少し面白いのだが笑えない。笑うだけ無駄だと思える話だったが今日はいつもよりは気分が良いからある程度は反応しよう

 

 

 

簪サイド

 

本音はいつも彼に話しかける。彼は佐野七実、いつも無表情でつまらなそうにしているが私は彼がかっこいいと思う、だけどそれと一緒に怖いと思う。1度だけ彼の目を見たが黒く塗りつぶされたようなめで光は無く見た人を飲み込んでしまいそうになる目。たまに私たちと一緒の歳とは思えないほどの知識を披露するのはなんでだろう?

 

「な、七実君?」

 

「・・・」

 

そう彼はいつも決まって私達の話す内容を無視するの。他の生徒は元気に仲良く話しているが彼はいつも違う。誰とも話さないし、誰とも友達を作らない。たまに話したと思ったら一言二言で終わってしまうのが七実君

 

「わ、私と友達に・・・なってくれないかな?」

 

「・・・」

 

彼は首も降らず言葉も発しない。だが顔を支える手に親指と人差し指が動き丸を作ったのが見えた。これはいいってこと?

 

「いいの?」

 

「・・・自分で考えろ」

 

「う、うん」

 

やった!七実君とようやく友達になれた!でも大変なのはこれからだよね。七実君は反応に乏しいから分かりにくいところがあるからそこを察せるようにしなきゃね

 

「えぇ~なんでかんちゃんはよくて私はダメなの~?」

 

「うるさいから」

 

「え、酷くない?」

 

・・・あぁそういうことね、本音からは見えないけど私には見えた。彼はあんなこと言ってるけど私と同じように指で丸を作ってるね

 

「本音・・・大丈夫だよ」

 

「ほえ?」

 

こっちから見るように言うと本音は立ち上がり七実君を見ると大はしゃぎし始めた

 

「もう照れ屋さんなんだから~」

 

「・・・やっぱやめる」

 

「ごめんってば~」

 

今思うと彼はどこかでサインを送っていたが全員が全員見逃してたんだと思うな。怖いけどかっこよくて無表情で反応が乏しい彼はどこかではちゃんとなにかをしていたんだと私は思う

 

 

 

七実サイド

 

たぶん初めて気づいたんじゃないかな?ちゃんとどこかでサインを送っていることを。いや、でも最初でそこまで分かる人はいないのは知っているがどうせなら気付いて欲しいものだな

 

「ねぇ~ななみんはさ、家ではどんな生活をしてるの?」

 

やめろ、その話題は出すな。悪いけどイラついてきた

 

「ねぇ~どうな「黙れよ」っ!?」

 

悪いとは思う正直話してどうにかなるとは思えないから何も言わない、けどとりあえずは謝ってはおく

 

「ご、ごめんね」

 

「悪いとは思ってる、()()

 

泣きそうな声で謝られたら仕方ないがでも悪いのはそっちでもあるんだ

 

「い、今名前で呼んだよね?」

 

「ず、ズルいよ本音!」

 

かんちゃんとやら耳元で大声出さないでくれさすがに驚くからやめろ

 

「・・・耳元で大声を出すな、かんちゃんとやら」

 

「か、かんちゃん?」

 

「えーっと、もしかしてだけどかんちゃんの名前、知らない?」

 

まぁ知らないというよりも覚えていない。有象無象の一人だとは思ってたしとりあえず首を縦に振っておくか

 

「わ、私は・・・更識簪・・・簪でいい」

 

「・・・わかった()

 

「う、うん!」

 

はぁ・・・慣れないことはするもんじゃないな。あの女性に会ってからというもの変な感覚になったな。仕方ないここは寝るか

 

この後は退屈な授業が始まるまで本音の妨害にあいながらも寝た

 

 




今回もよろしくお願いします

うぷ主推しの簪と本音だい!!


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隠す瞳孔と見た恐怖

俺はあれからいつも通りの生活を送っていた。家では家事をしたまに暴力を振るわれ嫌になる毎日を送っていた。だがそんな俺にも少しは楽しみが出来ていた。毎朝いつもの公園でシャイニィと戯れながら空を見上げるがあの女性はあれ以来現れることは無かったがな。でもこんな生活でも癒しができただけでも十分だ。後は間延びマシンガンこと本音と簪との会話だ。たまに反応してやるだけでも嬉しそうに話してくれる簪にはありがたいと思ってる。さて今日も1日を過ごすことにしよう

 

俺は雨の中傘を差しいつもの公園に来ていた。シャイニィと戯れるだけだが今日はあいにくの雨で空を眺めても変わらない風景だったが今日はなぜかシャイニィは現れなかった。雨だから仕方ないだろうな。さて学校に行くか

 

登校途中で簪と同じ髪をした奴が校門の前で立っていたが俺はそんなのはスルーして校舎へと向かったが肩を掴まれ止められた

 

「無視しないでよ!」

 

「・・・邪魔」

 

正直な話邪魔なのだ。早く自分の机に向かい空を眺めてた方がマシと思えるくらいに

 

「あなたが佐野七実君ね。簪ちゃんと本音ちゃんから話を聞いてどんな子かと思ったけど聞いた通りに無表情ね」

 

「・・・邪魔」

 

俺は面倒臭くなって誰だか知らない奴の手を払い校舎の中に入るがまたしても邪魔される

 

「素っ気ないわね七実君は。もうちょっとお話ししましょう?」

 

「面倒」

 

「だから行こうとしないでよ!」

 

まだほとんどの生徒がいないから彼女の声が反響しているが俺には興味ない。さて今日も同じ生活が始まる。俺は自分の席について空を眺めてると窓に簪と本音が教室に入ってくるのが映し出されていた

 

「やっほ~ななみん!」

 

「お、おはよう七実君」

 

「ん」

 

肘をついて顔を支える手で軽く反応する。今日はなんとなくなんだか嫌な予感がするな

 

「ねぇななみんはどうして空を眺めてるの~?」

 

「・・・なんとなく」

 

そう空を眺めるのは趣味でもないただなんとなく眺めて時間を潰すためである。まぁ本当の理由は別にあるからな

 

「ん?」

 

窓には反射した教室全体が見えるのだが俺たちの後方、つまり入り口にはさっきの女がいた

 

「なぁ簪、お前に姉はいるか?」

 

「う、うんいるけどどうして?」

 

「後ろ見てみろ」

 

簪が後ろを見てみると外にいた女は驚いてどこかに行ってしまった

 

「あ、お姉ちゃんだ」

 

「すっご~い!なんでわかったの~?」

 

「窓を見てみろ、少し分かり辛いかもしれないけど反射して教室が見えるだろ?」

 

光の反射で見える簡易型鏡みたいなものだから分かるがこれは今日の天候だからできたこと

 

「七実君はなんでもわかるの?」

 

なんでもは知らない、知っていることだけと言ってしまえば簡単なのだろうが面倒だ。ここは知らないふりをしておこう。てかまたいるぞ簪の姉が、まだ教室には俺ら3人しかいないから呼ぶか

 

「入って来いよ簪の姉とやら」

 

「「え!?」」

 

「バレちゃったか、仕方ないわね」

 

2人は入口の方を見ると少し驚いてた

 

「よくわかったわね七実君、私が監視してたなんて」

 

「・・・なぁ簪、こいつどうにかしてくれないか?お前たちが来る前からやたらと邪魔してくるんだけど」

 

なんの目的で俺にそうしてくるのかはわからんが邪魔だから本当にやめて欲しい

 

「どうしてこんなことするのお姉ちゃん?」

 

「う・・・だってここ最近、簪ちゃんと本音ちゃんは七実君の話しかしないからどんな子かなって気になっちゃって」

 

俺を話題にできるほどに何か話をした記憶は無いが簪と本音には俺がどう映っているのだろうかは気になるがその前にだ

 

「だったら普通にしろ付きまとうな面倒だ」

 

「だってそうするしかないじゃない。私の方が学年が1つ上なんだから」

 

学年が1つ上か。まぁ全体の年齢で言えば俺はお前らの倍は生きているんだがな。そんな突拍子のない話をしても無駄だろうしな

 

「刀奈ちゃん、ななみんはね~こんな風だけどちゃんと普通に接してくれる人だよ~」

 

「そうだよお姉ちゃん!」

 

本音は俺を貶しているのか褒めてるのかわからない言い方だよなそれ?

 

「んーだったらどうしたらいいの?」

 

「お友達から始めるとか~?」

 

「それはいいわね!」

 

いや、それが普通なんじゃないのか?俺にはあんまりわからないけどよ

 

「それじゃあ私の名前を教えるわね。私の名前は更識刀奈よ、よろしくね七実君」

 

「ん」

 

付き纏われるのよりかはだいぶマシだが面倒なことをしない限りはいいか。とりあえず右手で反応しておくか。俺は簪と本音と同じく右手の親指と人差し指で丸を作る

 

「うん、わかったってお姉ちゃん!」

 

「え?そんなこと言ったの?」

 

「分からないよね~ななみんの右手にごちゅうもく~!」

 

「えっと丸を作ってるわね」

 

「えっとねこれがOKのサインなんだよお姉ちゃん」

 

「分かり辛いわよ!?」

 

知らん、そんなのは俺の管轄外だ。慣れろとしか言わん

 

「まぁいいわ、今日はもう行くわね」

 

さっさとどっかに行け朝一から面倒なことをしてくれた奴め

 

「ねぇ~ななみん~」

 

「ん?」

 

「私のお姉ちゃんにも紹介していい~?」

 

もう面倒ごとを増やさないでくれ大変なんだよ。とりあえず首を横に振っておくか

 

「そっかー・・・」

 

「でもお姉ちゃんが虚ちゃんに言いふらしそう」

 

もう勘弁してくれよ・・・なんかこいつらと友達になってからこうなったのか。やっぱなれないことをするんじゃなかったな

 

 

 

刀奈サイド

 

昨日は簪ちゃんと本音ちゃんのお友達の佐野七実君とお友達になれたわ。でも七実君はなんで私達を見ないで空ばっか眺めてるんだろう?まぁいいや今日は虚ちゃんも一緒に行くわよ!

 

「あ、あのどうして私もなんでしょう?」

 

「そんなの私の気まぐれよ、さて行くわよ~」

 

私は朝早くから登校して2年生の教室に行くと昨日と同じく七実君は簪ちゃんと本音ちゃんの話を聞きながら空を眺めていた

 

「今日も来たよ七実君!」

 

簪ちゃんと本音ちゃんが言うにはだいたい無反応なのが七実君らしい

 

「あれ~お姉ちゃんだ~!」

 

「ど、どうも」

 

「あ、虚ちゃん!」

 

「ふふーんどうかしら七実君、少しはこっちを向いて話しましょう?」

 

彼は首を横に振ると一言「面倒」といいそのまま外を眺めている

 

「あの彼は?」

 

「簪ちゃんと本音ちゃんの友達(お気に入り)の佐野七実君よ」

 

「七実君ですか・・・どうして外を眺めてるんでしょうか?」

 

「気分らしいよ~」

 

そう彼はいつも気分で私たちに顔を向けず外を見ながら会話に混ざっているの。でもね今日はこの目で見てやるわ!

 

「今日から虚ちゃんも友達でいいわよね七実君!」

 

「え!?そ、そんな急に決めないでください!」

 

「・・・勝手にしろ」

 

あれ?私達とは違った反応ね。なんで私たちの時は何も喋らずサインで教えてくれたのに虚ちゃんだけズルいわね

 

「いつもと違う反応だ~!」

 

「ず、ズルいです虚ちゃん!」

 

「悪いのは私ですか!?」

 

「そうね・・・どうしてそんな反応をしたのかしら?」

 

私は彼に聞いてみようと近づき彼の顔に触れまじまじと見たが顔は整っていてかっこいいと思ってしまったがそれと同じく目を見てしまった。彼の眼は普通の目をしていたが黒い部分には光が無くそこには闇があった。1度見てしまえばそのまま彼の眼に引きずり込まれる感覚に陥った。あぁ分かっちゃった。彼がどうして目を合わせないのかが分かっちゃった。あれは死を望む目だ・・・

 

「・・・ちゃん?お姉ちゃん!」

 

「ひょわ!?」

 

我ながら変な声が出たと思うわ。でもありがとう簪ちゃん彼の眼を見て嫌な汗が出てきちゃった

 

「なにしてるのかなお姉ちゃん?」

 

「えっと・・・七実君の顔を見ようとして」

 

「もう駄目だよ七実君が困ってるよ!」

 

私は彼の方に目を向けると首を縦に振っていた。・・・ごめんなさい、でもどうして彼はあんな目をしてたの?

 

「ご、ごめんね七実君」

 

「・・・俺に何を見た?」

 

何を?それは目だけど・・・どのことを言ってるのかな?

 

「な、何をってなに?」

 

「・・・忘れてくれ」

 

忘れるわけがないわよ。あんなにも怖い目は初めて見たわ・・・七実君、あなたは何を見て来たの?

 

 

 

七実サイド

 

ヤバい、刀奈にあまり見せたくない物を見せちまった。自分でもわかるほどに俺の眼は死んでいる。目で済めばよかったのだがそうじゃない。本当は俺自身が死んでいるに等しいからあまり見せたくはなかったのだ

 

「・・・悪いが今日は帰ってくれ」

 

「うん、そうするわ・・・」

 

元気がなくなっているな。すまん刀奈、でも今回は完全にお前が悪いんだ。わざと目を合わせないように空を眺めていたんだからさ

 

「ななみん大丈夫~?」

 

「もうお姉ちゃんたら!」

 

たぶんこいつらも俺の眼を見たら逃げ出してしまうだろうな。さて授業が始まるまで寝よう

 

 




今回もお読みいただきありがとうございました

ななみんの闇は深い(確信)


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知られたくない、助けたい

・・・正直もう耐えられなくなってきた。以前の俺だったら暴力を受けきることができたけど今の俺の体は幼すぎる。それ故に身体が悲鳴を上げてきているし胴体は痣だらけでろくに見せられないものになってきてる

 

「ねぇ~ななみん、一緒に帰ろ~」

 

「・・・あぁ」

 

正直あんな家に帰りたくない。でも帰らなければもっと面倒なことになるけど帰っても面倒なことになるのが目に見えて分かるのが嫌になってきた

 

「簪ちゃんに本音ちゃん、七実君一緒に帰りましょう!」

 

「あ、お姉ちゃんに虚ちゃん!」

 

面倒な奴第2号こと刀奈が俺らの教室の前で手を振って待っていた。後ろに苦労人こと虚を連れてな。虚も大変だな俺だったらこんなに面倒な奴とあまり関わりたくない・・・関わってしまったのは間違いだったか?

 

「ど、どうも」

 

「お姉ちゃんだ~!」

 

本音はランドセルを背負うと俺の手を引き教室の外にいた刀奈と虚のところに向かうけどどうして俺の手を引くんだよ

 

「あ、待ってよ本音!」

 

簪もランドセルを背負って教室を出る。てか俺はランドセル持ってきてないんだけどよ

 

「放せ、荷物を持ってくる」

 

「あ~ごめんねななみん」

 

やれやれ移動するのも面倒だけど持っていかないともっと面倒になるしな。俺はランドセルを背負うことなく片方の帯を肩にかけて4人の事を見向きもせず追い抜くと簪が俺の手を取って引き留めた

 

「待ってよ七実君」

 

「・・・なんだ?」

 

「今日は一緒に帰ろ?」

 

ここは2択、一緒に帰らなくて無理やり一緒に帰る羽目になる。もう1つは一緒に帰る・・・これ1択だ。ならどうするか

 

「おっと、逃げようったってそうはいかないよ!」

 

「放せ」

 

刀奈は俺の右腕に抱きついてくる。俺が逃げようとしてるのを見越してこういう行動を取ったのか?

 

「な、なら私も!」

 

「邪魔なんだが」

 

簪も刀奈が俺の腕に抱きつくのを見て抱き着いてくるが非常に動きづらいんだが

 

「動きづらいから放せ」

 

「「放したら先に帰るよね?」」

 

ご名答、正直お前らと一緒に帰らずにさっさとあの公園でシャイニィと戯れたいのだが。あぁ唯一の癒しよ、今日は行けないかもしれない

 

「・・・はぁ」

 

「大変ですね七実君も」

 

「お互い様だ」

 

「「はぁ・・・」」

 

こいつも刀奈や本音に振り回されてるんだろうな。2人して首を傾げてこっちを見てるけどだいたいお前らのせいで俺や虚が大変なんだぞ?

 

「早く帰ろうよ!」

 

「なら放せ。歩きづらい」

 

「「ダメ!」」

 

もうやだこの姉妹息合いすぎなんですけど。仕方ないから今日はおとなしくこいつらに従うか

 

「わかった。逃げないから放せ」

 

「んーダメ?」

 

「簪ちゃんと同じ意見かな」

 

俺は逃げた。しかし拘束されて逃げ出せない・・・もう詰みなんだからさっさと帰るか

 

「はぁ・・・ならさっさと帰るか」

 

「うん!」

 

俺はおとなしく腕に抱き着かれながら帰ることにしたが道中で男女関係なしに視線が俺に集中してきたのは言うまででもないが中には俺に殺意を向ける輩がいたのが俺にはどうでもいい。たまにこちらをちらちらとみてくる簪が愛らしいと思ったのは心の中にしまっていこう

 

 

 

虚サイド

 

私は刀奈ちゃんに連れられて簪ちゃんと本音のいる教室に行きましたけど今日も七実君は大変な目に遭ってしまっています。私もいつも刀奈ちゃんや本音に振り回されることが多いので七実君の心境は分かりますよ。私たちはそんな彼と一緒に下校していますが相変わらず刀奈ちゃんと簪ちゃんに腕に抱き着かれて歩きづらそうにしています

 

「七実君のお家ってどこなの?私行ってみたいんだけどいい?」

 

「・・・来るな」

 

「えーいいじゃない。簪ちゃんと本音ちゃんも行きたいわよね」

 

「「うん!」」

 

「面倒だから来るな」

 

このやり取りも何回目か忘れましたがそれ相応にやっていますが彼はいつも決まって拒否します。彼の家には見せられない物でもあるのでしょうか?

 

「虚ちゃんも行ってみたいよね?」

 

「え、私ですか?」

 

確かに行ってみたいと思いますけど七実君が嫌だと言っていますけど私も行ってみたいです

 

「おいお前、ここで何してるのよ」

 

目の前に私服姿の成人女性が現れると七実君は歩いていた足を止める。七実君が震えだしてくると何もしていないのにも関わらずその女性は七実君に平手打ちをする

 

「な!?」

 

「さっさと家に帰ってすることしなさい」

 

「すみませんでした」

 

思わず抱きしめていた手を解いてしまう刀奈ちゃんと簪ちゃん。すると七実君は私たちを置いて走り去っていく

 

「まったく()()も使えないわね。今度お仕置きしましょ」

 

「なんであんなことしたんですか!?」

 

「あら可愛い子ね。あんな()どうでもいいじゃない、どうなろうと私たちの勝手よ」

 

信じられない。自分の子供をそんな風に物みたく扱って七実君がかわいそうです!でも私たちが何か言おうとする前にその女性がどこかに行ってしまう

 

「ななみん・・・」

 

「何よあれ、七実君を物扱いなんて!」

 

もしかしたら七実君はこうなることが分かってたから先に帰ろうとしてたの?だとしたら私達にも責任があります

 

「今日は帰ろ?」

 

「・・・そうね」

 

私たちは重い空気の中で家に帰ることにした。七実君はどうなってしまうのでしょうか?

 

 

 

簪サイド

 

私たちは家に帰ってそれぞれの部屋に戻るなりベッドの上に寝そべるとどこか気が重く感じた。理由は七実君の事でいままでどんな生活を強いられているのかが気になって仕方ない。日常的にあんなことをされてるならそれは大変なことだ。かなりの時間ベッドの上で蹲っていると本音が部屋の中に入ってくる

 

「遊びに来たよ~かんちゃん」

 

「あ、本音」

 

私達更識家と布仏家は大人の事情で一緒の屋敷で住むことになっている。ちなみに本音は私の隣の部屋だ

 

「どうしたのかんちゃん?何か元気ないけど~」

 

「七実君のことでちょっとね。あんなことされるのを見ちゃったから」

 

もし彼がいつもあんな目に遭っているなら助けたい。友達としてそして私がかっこいいと思う人がそんな目にあってほしくない

 

「んーお父さんに聞いてみる~?」

 

「本音のお父さんに?」

 

「そうだよ~お父さんなら何か分かるんじゃないかな~?」

 

お父さん達は仕事で忙しいけどなんだかんだで私たちの話を聞いてくれてくれるしお願いも聞いてくれる。けどこんなこと言っちゃってもいいのかな?

 

「そろそろ夕ご飯だから~その時でも言ってみたら~?」

 

「・・・そうしてみる」

 

もうそんな時間になってたんだ。私も夕ご飯の用意をしなくちゃ

 

「先に行ってるね本音」

 

「私もいく~!」

 

私は台所に行きお母さんが作るご飯の用意をしているとお姉ちゃんと虚ちゃんも用意を手伝ってくれて早く用意が終わるとお父さんや本音と虚ちゃんのお父さんもやってきて家族全員で夕ご飯を食べてるとふとテレビからニュースが流れてくる

 

『本日、○○公園で何者かによって背中に大きな傷を負った少年が意識不明の重体で病院に搬送されました。なおその少年の身体には多くの痣があり日常的に暴力を受けたとみて・・・』

 

「物騒な事件だな、家庭内暴力でも受けていたのか?」

 

・・・なんだろうこのニュースが嫌な予感がする。まさかだけどこの事件に七実君が巻き込まれていないよね

 

「ね~お父さん、今日ね~ななみんが~」

 

「本音、今日もその話か。今は食事中だから静かに「家庭内暴力を受けてるかもね~」何?」

 

本音のお父さんは何かと子供好きでよく時間を見つけては私達や近所の子供と遊ぶのをよく見かける。そのくらい子供好きな人だ

 

「今日ね~帰る時にたぶんだけどお母さんらしき人がビンタしてななみんを物扱いしたんだよ~!」

 

「それは許せん!楯無様しばらくその少年の情報を集めてもよろしいでしょうか」

 

「お前の子供好きは今に始まったことじゃないからな。私がどう言おうが無視してまでもするつもりなのだろう?」

 

「ええ、そのつもりです」

 

「わ、私からもお願いします!七実君は私の友達なんです!」

 

さっきのニュースが的中してないことを祈っているけど今日のあの出来事を見てるとたぶん暴力を受けていたと思う。だったら彼には助かってほしい

 

「わかったよ簪ちゃん。明日から情報を探していくよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「それで簪、その七実君と友達になったとしか聞いていなかったから分からないんだがどんな人なんだ?」

 

「七実君はいつも窓から外を見ていて私達とも目を合わせないし言葉を発しない時もあるし話せたと思ったら一言しか喋らない人」

 

「それだけ聞いていたら凄い失礼な子供だな。もしかしてその七実とやらが好きになったのではないよな?」

 

「え!?」

 

お父さんの話を聞いてこころなしか自分の顔が熱くなってくるけどどうしてなのかはわからない。お父さんはこんな私を見て鬼みたいな顔になるしお姉ちゃんもにこやかな笑顔をしてるけどどこか怖い。ましてや本音と本音と虚ちゃんのお父さんも微笑ましくこっちを見てる、うぅ恥ずかしい///

 

「そんな失礼な奴に簪はやらん!」

 

「簪ちゃんは私たちのものよ!」

 

「・・・そんなことを言うお父さんとお姉ちゃんは嫌い」

 

「「え・・・」」

 

もう知らない、そんなことを言うお姉ちゃんとお父さんは知らない。私は夕ご飯を食べ終わると食器を片付けて自分の部屋に戻ることにした

 

 



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傷つく体と力

俺はこうなってしまうのを知っていてあいつらと一緒に帰ったのだからあいつらには一切責任はない。もしあいつらが責任を感じるならそれは違う。あれは俺が悪い、誰がどう考えても当たり前だ。それで俺は今母親()に仕事で溜まったストレス発散させるためにと殴られている。顔に腹に全身隈なく殴られている

 

「何よ!!年下で上司だからっていい気になるんじゃないわよ!!」

 

「ぐふっ・・・がはっ」

 

「くそっ!!くそっ!!くそっ!!」

 

流石に殴られ過ぎて感覚が無くなってきちまった。視界も霞んでくるしもうダメか

 

「あぁもうダメ、さっさと起きなさい。早くしないと殺すわよ!」

 

殺すか・・・もうなにもできないからいっそのこと殺してくれ。そうしてくれると俺も助かるしお前が言ったことも完遂できる、いいことづくしだろ?

 

「返事も何も無いなら別に死んでも構わないわよね」

 

あの女は台所から包丁を持ち出して俺の利き腕である左腕に包丁を深々と刺し鮮血が飛び散るとまだ痛覚が残っていたらしく激痛が走る

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

俺は床で転げまわるが激痛は止まることなく続いていた。この時俺の頭には死に対する恐怖と痛みに支配されこの場から逃げようと必死になり外に逃げ出そうとすると背中に何かが当たる感覚を覚えた。次の瞬間に背中を大きく斬られまたしてもかなりの血をまき散らしながら外に出た

 

「はぁはぁはぁ・・・誰か・・・助けてくれ」

 

血が出過ぎてもうダメだ。近所の○○公園だったら誰かいるだろうと思い入るが誰もいない。そんなのは仕方ないといえば簡単なのだろうがそれでも悔しいな。もっと楽しい生き方ができるかと思ったけどそんなことはなかった、それどころか前世とほぼ同じ生き方になった

 

「もうダメか・・・じゃあな()()()()()()()()()

 

俺はベンチに座りなぜか過去の楽しいと思えた瞬間が思い浮かぶ。無視する俺に友達になろうとしてくれたこと、簪が俺のサインに気付いてくれたこと、刀奈がいつまでも俺に構ってほしそうにしてくること、虚が俺と刀奈と本音に溜息をつきながら一緒に宥めたこと・・・なんだかんだでいい生き方をできてたのか。俺はゆっくりと眼を閉じようとすると白猫が俺のそばに近寄ってきた

 

「あぁ・・・お前もいたかシャイニィ・・・じゃあな」

 

だんだんと意識が遠のく。そんな中誰かが近づいてくる音が聞こえるがもうどうだっていい

 

「こんなに傷ついて大変ね。助けるとするサ」

 

 

 

刀奈サイド

 

あの後、簪ちゃんには謝って許してもらったけどやっぱり簪ちゃんが1番可愛いわよね。異論は認めないわ!でも七実君の事が気になっているのは知ってる。そんな私も少し気になって仕方ないのだけど今は本音ちゃんと虚ちゃんのお父さんに話さなくちゃいけないことがあるんだ。私は部屋をノックすると入っていいと言われたので中に入る

 

「ん、刀奈ちゃんか。こんな夜遅くにどうしたのかな?」

 

「七実君の事で少し話があります」

 

「件の子か、それで七実君がどうしたんだい?」

 

「彼はもしかしたら・・・」

 

そうあの日私が見た物を伝えなきゃいけない気がした。でも正直に言うのはどうかと憚られる気がしてならない

 

「彼がどうしたんだい刀奈ちゃん?」

 

「・・・彼はとても怖い目をしてたんです。闇のように深くて全てを飲み込んでしまいそうな光のない目で如何にも()()()()()()といっているような眼でした」

 

「そうだったんだね。でもどうしてそんなことが分かったんだい?」

 

「いつも彼が空を眺めててどうして目を合わせてくれないのかなって思って彼を正面から見てそう感じました」

 

そうそれ以来私は彼の眼を見ることはしなかった。それどころか彼の眼を極力見ないようにしていた、そうせざるを得なかった。だって私よりも1つ歳が下であんなにも絶望的に死を求めた目をしてるなんて誰も思わない。どうして彼に友達がいなかったのかも分かった気がする。彼は死ぬことを望んでいるのだから友達は作らない方がいい。ならどうして簪ちゃんや本音ちゃんと友達になったのかが分からないけど

 

「それを考慮するとおかしい点がいくつかあるけどそれは今は知る由はないか。ありがとうね刀奈ちゃん」

 

「いえいえ、それで七実君はどうするつもりですか?」

 

「私の友人に子供が欲しいって言っている夫婦がいてそこに任せようかと思ってるんだ。もちろん信用に足る親友だから安心してほしい」

 

「わかりました。それじゃあおやすみなさい」

 

「うんおやすみ」

 

この後はあの人に任せるしかないかな。私は寝ることにしよう

 

 

 

???サイド

 

私は鏡、性格や本性、能力、思考全てを映し出す鏡。まだ彼が知らないあの人の本当の力。私と彼は表裏一体で彼が傷つけば鏡も傷つき姿が見えなくなるただの鉄になる

 

俺はなんだ?

 

あなたは私、私はあなた

 

俺はどうして生きてる?

 

私が生きてるからあなたも生きてる

 

俺は何がしたかった?

 

それは私にもわからない

 

自問自答するけど結局は私をどう使うかはあなた次第でその力は巨大で誰にも映し出せない。それほどに巨大で誰にも勝てもしないし負けもしないのがあなたと私

 

お前は俺なんだな?

 

あなたは私だ

 

もう分かった、全てわかった。何もかもがつまらなく感じるほどにつまらなくなる力それが()

 

そう、私が嫌になる程に全てがどうでもよくなるよ

 

『ならこの力を使ってどうでもいい生き方をしよう」

 

 




今回もお読みいただきありがとうございました

最後のあれはストーリー進行に必要なものです。ただ厨2的なものですので自信はないですが冷ややかな目で見ないでください


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知る者と眠るもの

 

私は本音と簪ちゃんのお友達という佐野七実君の情報を集めていると悲惨な情報しか集まってこなかった。彼は日常的に暴力を受けていたり家の全ての家事をあの年で任されていたりとまるで奴隷のような目に遭ってきているようだった。さらに言うと本音が私に教えてきた時に流れていたニュースの事も彼が被害者でいまだ意識不明だそうだ

 

「どうしてこんな仕打ちができるのだろうか。子供は宝だというのに」

 

「それは私も思うのだが何度も同じことを言わないでくれ。耳にタコができてしまう」

 

「すみませんでした。でもそうだとは思いませんか?現に少子高齢化が進む中、女尊男卑で男児のイジメが増加し自殺も増えているにも関わらず学校の教員は関心を持たない!こんな世の中に嘆かない方がおかしいですよ!」

 

つい子供の事になると熱くなってしまうのだが子供は可愛いから仕方ないじゃないですか!

 

「一旦落ち着け、暗部たるもの冷静にならなければ救える者も救えないぞ?」

 

「それもそうですね。それにしてもこの子の戸籍がおかしいんですよ」

 

七実君の情報に彼の戸籍も含まれていたのだがそこには養子と書かれていたのだがその前にいた織斑家には今では子供を捨てて親のいない生活をしてはいるものの彼が生まれた時には経済的な問題もなかったのだ

 

「名前も以前と変わっていることから何かの問題に巻き込まれてあの家庭に入ることになったと思われます」

 

「ふむ・・・ではどうするのだ?彼にそのことを伝えてるのか?」

 

伝えても知らなければ意味が無いしそれに戻ることを決意しなければどうしようもないのだがこれを伝えるかどうかも憚られる

 

「それは一度彼と話してみないとわかりませんね」

 

「だろうな。それにしてもあんなに失礼な奴にどうして簪は惹かれたのだろうな?」

 

・・・楯無様も子煩悩じゃないですか。子供はいつか親の元を離れる定めですよ

 

 

 

簪サイド

 

今日も七実君の席は空席だった。あのニュースを見てからというものの嫌な予感があったけど本当に彼じゃないと祈る日々が続いていた。ただの病気であってほしいと願った

 

「ななみん、今日も来なかったね~これで2週間目だよ」

 

「うん・・・」

 

人見知りのせいか私には友達があんまりいなかったけどその中でも数少ない友達と呼べる七実君だけは席も近いせいか話すことは多かったけど本格的に心配していた

 

「本当にどうしたんだろう・・・病気だといいんだけど」

 

「それね~ななみんたら女の子に心配させちゃいけないんだぞ~!」

 

本音も少しおどけたように怒っているがこれでも心配していて毎日朝来ては彼がいるか確認しては落ち込んでいる

 

「ん~ちょっと待ってねかんちゃん。メール来たみたいだからさ」

 

本音はスマホを取り出すとメールを見るなり驚いた様子で私のスマホを見せて来るけど近すぎて文字が見えない

 

「文字が見えないよ!」

 

「あーごめんごめん、ほら」

 

差出人は暁斗さん、本音と虚ちゃんのお父さんからだった。メールにはこう書かれていた

 

今日は七実君のところに行くのだが一緒に行くかい?

 

「答えは決まってるよね~」

 

「うん。私も行く」

 

「らじゃ~!」

 

本音はだぼだぼな服のまま器用にスマホを操作しメールを打ち込んでいき送信するとすぐに返信が帰ってきた

 

「お姉ちゃんたちも来るってさ~早く行こう!」

 

「待ってよ!」

 

ゆっくりとだが本音は駆け出していくが本当にゆっくりだったためすぐに追いつくことができた。校門のところまで行くとお姉ちゃんと虚ちゃんが既にいて少し待っていると暁斗さんが運転する車が私たちの目の前に止まるとそれに乗り行先不明のままどこかへと発進するのであった

 

 

 

七実サイド

 

俺は目が覚めるいつだか見飽きた白い天井がすぐに見えた。体を動かそうにも酸素マスクやら液体を注入する針が刺さっているためろくに動かせない状態だった何もすることができないため何もする気は起きなかったが死ぬことはできなかったのか。残念のようでそうじゃないような変な感じがする外を眺めると既に夕暮れでもうすぐ日が落ちるようだった

 

「何かがなくなったようにつまらなく感じる・・・」

 

ここに運び込まれるまで何もすることが無かった俺はたとえ他人話していようが少しは気が晴れると思い空をずっと見ていたがそれさえもつまらなく感じた。それでもやることが無かったから空を眺めていると廊下側から窓を叩く音が聞こえてくる。俺に用がある人間なんて極少数だと思いながら首を動かしそちらの方を見ると見たことのない男といつもの4人がいた反応しようと思い左腕を動かそうとするが全く動く気配がなくそれどころか感覚さえも無くなっていた

 

「どういうことだよ・・・」

 

まさかとは思うが深々と刺された時に何かがあってそれで動かなくなったのか?異変に気付いた男は看護婦を呼びに行くが簪たちはまだそれに気付いていないようでこちらに釘付けになっていた。男が戻ってくると白衣を着た男性と看護婦と思われる女性が何人かやってきて針やらマスクを取り外してくると今の俺の状態を説明してくれた。左腕の神経が酷い状態でろくに動かせる状態じゃないこと、そして背中の傷のせいでもしかしたらろくに動けないかもしれないとのことだそうだ。これじゃあ完全に人形じゃねえか。部屋を移され個室に1人になると簪たちが部屋の中に入ってくる

 

「七実君!」

 

簪は部屋の中に入ってくるなり俺の傍に近寄ってくるが目を開けずに顔だけ向ける

 

「心配したんだよ!あの日から2週間も学校に来なくてどうしたのかなって!」

 

「すまん・・・それよりも2週間だって?」

 

そんなに長くここにいたのか。だとしたらあのクソ野郎はきっと捕まったことだろうな、あんな奴は死んでしまえばいいと思っていたしもうどうでもいい

 

「君が七実君だね?」

 

「・・・どちらさまで」

 

俺は男の方にそのままの状態で顔を向ける。他人を見てはいけないような気がしたからあえて目は開けないでおく

 

「申し遅れたね。私は虚と本音の父親の布仏暁斗だよ。君の事は調べたから既に知ってるから名前は言わなくていいよ」

 

「そうですか」

 

「話に聞いていた通りにあまり喋らない子だね。さて本題に入るけど君の養子になっていた親はどっちも逮捕されて君はある意味自由の身になったけどこれからも生きていかないといけない。そこで2つの選択肢がある、1つは私の信頼できる夫婦の養子になるか。元の家族のところに戻るかの2つどうする?」

 

元の家族が誰だかは知らないが多分一夏と円華と呼ばれた弟と妹ところに行くことになるのだろうけど正直に言って今の俺の状態では戻ってもあまりいいものではないと思うなら答えは前者

 

「前者で」

 

「随分と即決だね、どうしてかは教えてくれるかい?」

 

「後者は・・・あまり行きたくない」

 

「・・・わかったよ、後で連絡しておくからその内会いに来ると思うよ。それじゃあおじさんは外で待っているから同年代同士で積もる話もあるだろうし外で待っているよ」

 

そういうと暁斗さんは部屋の外に出ていってしまい俺は虚を除く3人にもみくちゃにされるのだった。悪い話ではないが一応病人だということは覚えておいて欲しいもの

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回から急展開で本編付近まで時間が飛びます


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本題と邂逅

あれから8年の時が過ぎた。俺の名前は佐野七実から鏡野七実へと変わり特に嫌な仕打ちもされずに愛されて生きた。こんなことは前世含めこんな経験なんて無く泣き出したのは覚えている。それから髪を伸ばし前髪で目を隠すようになった、ついでに後ろ髪は肩まで伸ばしている。学校は転校することなく通うことができたがただ違うと言ったら車椅子での生活だけだった。脚は動く事無く動かせるのは右腕だけで最初は苦痛でしかなかったが簪と本音のおかげで何とか学校の生活も送ることができた。今俺は中学を卒業し春休みを絶賛満喫中だが簪と本音と一緒に行動していた。理由は簡単で織斑一夏とかいう奴がISを起動させたらしく世界中一斉に他の男性IS操縦者がいるのかの調査をしていた

 

「すまんな簪に本音」

 

「いいってことよ~もしななみんがISを起動させたら高校でも一緒に3人で通えるじゃん!」

 

「私も七実には動かしてほしい・・・あと一夏絶対に許すまじ」

 

簪は中学に入ってすぐにISの適性検査を受けると、操縦者ランクAを取り日本代表候補生となるが世間で騒がれてる一夏とやらに専用機の開発を取られ専用機は未完成となっている

 

「もし俺も入学することになったら手伝う」

 

「その身体じゃ難しいと思うけど・・・気持ちだけはありがと」

 

「私も手伝っちゃうよ~!」

 

そんな話をしているとISの検査会場に到着し中に入ると行列ができていた。既に検査を終わらせ学園入りできなくて絶望してる奴やこれから受ける検査で合格する奴、ハーレム目指して意気込んでる奴と様々な思いが混ざっている所に正直行きたくない

 

「もう帰りたいんだが」

 

「「ダメ!」」

 

2人して却下しやがって。まぁどうせ検査に行かなかった場合も強制的に受けさせられるのだから今になるか後になるかの2択なんだけどな。しばらく2人と会話をしてると俺の番がやってきたようで簪に車椅子を押されながら部屋の中に入ると嫌な顔をした女性が俺に悪態をつけながら早く触るように指示してくると俺はISを触った。触った瞬間に光出し俺はISを起動させたようだ

 

「・・・おめでとう?」

 

「うっせ、どうやって解除すんだ?」

 

「念じればOK」

 

俺は簪に言われたとおりに念じてみるとISが解除され地べたに落とされた。それを見た簪は俺に肩を貸してくれて車椅子に座ることができた。先ほどまで嫌な顔をしていた女はせわしなく動きだし連絡を取っていた。俺は簪と本音ごと別室に通され待たされることになった

 

「やったねななみん!IS学園に行けるよ~!」

 

「「おいやめろ」」

 

「なんで動かせたんだよ・・・もっと普通がよかったのに」

 

あんな生活を送ってからというものの普通の生活を望むようになった俺は正直IS学園に行きたくないのだ

 

「私も応援する・・・だから頑張って」

 

「はいはい」

 

しばらくすると黒いスーツを着た凛々しい女性が入ってくるなり簪と本音が驚いていた・・・てか初代ブリュンヒルデこと織斑千冬か。そして本当の俺の姉・・・てことは一夏って俺の弟か

 

「因果なもんだ」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「空耳じゃないですか?」

 

暁斗さんに聞いた話だと俺が赤ん坊の時に誘拐されて離ればなれになった家が織斑家だそうで正直帰る気になれなかった。まぁある程度は知っていたが有名になった人が近くにいるってのにやすやすと本当はあなたの弟ですよーとかほざける人間がいたら教えてくれ

 

「お、織斑先生!?」

 

「更識妹か久しいな。テストの時以来か、それよりもなぜここにいるんだ?」

 

「七実の付き添いで・・・幼馴染なんです」

 

「そうだったのか。君も車椅子生活なんて大変だろう」

 

「この2人・・・正確に言うと4人のおかげで慣れました」

 

簪と本音もそうだが刀奈・・・今は楯無だったな、楯無と虚こんな俺の手助けをしてくれたから助かったのだ。もっとも楯無は俺で遊んでばっかだったが

 

「では感謝するといい。助けて貰ったことには必ず礼をするのだぞ」

 

「はい。話はこれくらいにして本題に入ってくれませんか?」

 

「おっとすまない。なんだか私の弟に雰囲気が似ていてな」

 

実際に弟だから何とも言えない。眩しすぎて何も言えない。この人が闇を照らす光だとしたら俺は消される闇だろう

 

「・・・そうですか」

 

「それでは本題に入るぞ。来年度からはIS学園に入ってもらうことになるが君のその状態を見るとなるべく早くIS学園に入ってもらうことになる。幸いなことに君の幼馴染もIS学園に入ることが決まっているから同室となるやもしれん。それでいいか?」

 

「なら親父と母さんはどうなるんですか?」

 

「両親については重要人保護プログラムにより離ればなれになってしまう。それだけはご了承願いたい」

 

離ればなれになっちまうのか・・・まだ恩返しもできてねぇのにか

 

「辛いかとは思うが受け入れてくれ。そうじゃないと親御さん含めもっと辛い目に遭うかもしれないんだ」

 

「・・・わかりました」

 

「そういってもらえると助かる。では明日私は行けないが別の教員が迎えに行くことになるので準備をしていてくれ。話は以上だが何か質問はあるか?」

 

質問なら特にないので首を横に振ることにした。すると帰され俺の気が重いまま簪に車椅子を押されながら帰ることにした。家に帰るなりそのことを親父と母さんに言うと頑張れの一言を貰った、今まで俺が生きてきた中で嬉しい一言だと思う

 

 

 

真耶サイド

 

私は昨日新しく発見された男性IS操縦者の家に行くと既にマスコミが押し寄せていて通るのは難しいと思い警察にも協力してもらうことになった。マスコミが退散すると私は七実君の家のインターホンを押して私が来たことを伝えるとすぐに出てきてくれました。織斑先生の言う通り彼は車椅子での生活を余儀なくされておりよくよく聞いてみると利き腕である左手も動かないそうです。いったいどんな生活をしたらこうなるのでしょう?

 

「それでは行きましょう七実君。ご両親に挨拶をしてください」

 

「分かってる・・・じゃあな親父に母さん、恩返しできなくてすまん」

 

「いいのよ七実。山田先生どうか七実をよろしくお願いします」

 

「私からもよろしく頼みます。そいつは色々と大変な思いをしてその体になってしまったんです。だから先生だけでも見捨ててやんないでください!」

 

「はい!任せてください!」

 

過去に七実君が何があったのか分かりませんが大変だったということは分かりました。でもこれからは私たちに任せてください!別れを告げると七実君の車椅子を押し荷物を車の中に積み、彼を車椅子から持ち上げるととても男の子とは思えないくらいに軽かったのは驚いたけど今は彼をちゃんとIS学園に届けなきゃね!車椅子も積み車を発進させる

 

「よろしくね七実君。これからIS学園に行きますが途中でどこかに寄らずに行きますので」

 

「・・・よろしく先生」

 

彼はそう一言いうとそのまま黙ってしまいました・・・うぅ、気まずいです。気まずい空気の中運転していくこと1時間でIS学園行きのモノレール駅に到着し車を止めると七実君を車椅子に乗せ荷物を膝の上に乗せモノレール駅の中に入りIS学園と向かうけどその道中も気まずいままモノレールの中に入る。IS学園に到着すると生徒会長の更識楯無さんと布仏虚さんが出迎えてくれた

 

「ようこそIS学園へ、歓迎するわよ七実君!」

 

「お久しぶりですね七実さん。また身長が伸びましたか?」

 

「椅子に座ってばっかだがな」

 

「私はスルーなの!?」

 

「・・・うるさい」

 

どうやらこのお2人は七実君を知っているみたいでさっきとは打って変わって少し楽しそうです

 

「さて寮に行くわよ!既に簪ちゃんと本音ちゃんが寮の部屋で待っているわ!」

 

「はぁ・・・なら引いてくれ。先生に迷惑を掛けてられん」

 

「え?ああ、大丈夫ですよ?」

 

「いや以前に姉妹喧嘩で迷惑を掛けられたんでこのシスコンに任せるんです」

 

「シスコン言うな!」

 

「勝手に言ってろシスコン」

 

「ムキャー!」

 

いつもは生徒から尊敬を向けられる楯無さんですが今はただの一人の生徒さんのようでした。七実君は楯無さんにとって気が許せる人ということでしょうか?

 

「山田先生お疲れ様です。後は私が連れていきますので大丈夫ですよ」

 

「あー、いいんですか?」

 

「大丈夫ですよ山田先生。彼の送迎でお疲れでしょうし後は私たちにお任せください」

 

「分かりました。もし困ったことがあったらいつでも言ってくださいね。私は職員室にいますので」

 

私は車椅子を虚さんに渡し職員室に向かうことにしました。それにしてもどこか雰囲気は織斑先生と同じというか似てるというか一体何なんでしょう?

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

少し早めのななみん入学です?


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変わり変わらぬもの

 

 

俺は虚に車椅子を押され寮の中に入り1階の部屋の扉の前で止められた

 

「少し待っててね。おーい簪ちゃんに本音ちゃんいるー?」

 

楯無は扉をノックして中にいるかどうか確認すると中から簪の声がした。ドアを開けてこちら側に簪と本音が顔を出してくる

 

「ななみんやっほ~。ようやく来たんだね待ちくたびれたんだよ~?」

 

「悪い」

 

「今日のニュースでもばっちり取り上げられてたね・・・流石マス○ミ」

 

俺にはどう映し出されてたのかは知らないが簪の嫌そうな表情を見るに内容は最悪な物だったのだろう。確かに俺や一夏は今や世間どころか世界中から注目されてる人間なのだろう。かたや第1回モンド・グロッソにおいて総合部門で優勝した元ブリュンヒルデの弟でもう片方は今ではただの一般人・・・もし誹謗中傷の対象にするのであれば一般人の方に誰だってするだろう。何せISはついこの前までは女性の特権だったのだからな

 

「仕方ないと割り切れ」

 

「でもあんな内容は許せない!七実の事を何も知らないのになんであんなことを言えるの!?」

 

「まぁまぁ落ち着いて簪ちゃん。話は中に入ってからにしましょう?そうじゃないと誰かに聞かれちゃうかもしれないわ」

 

簪は楯無の言葉を聞くと俺たちを部屋の中に入れてくれた。部屋の中にはベッドが3つにテレビにゲーム、ブルーレイ再生機器、PCと充実している部屋だった・・・こんな状態の俺じゃあゲームなんてできないけど簪がやっている所を見るのは楽しいが。部屋の中に入ると俺は本音と虚の手を借り真ん中のベッドに腰かけた

 

「ありがとう2人とも」

 

「良いんですよ。七実さんが大変なのは知っていますし昔からの仲じゃないですか」

 

俺は右腕以外が動かせないようになった日以来ずっとこの4人にはいろんなことで助けて貰っていた。車椅子の物珍しさから興味ない奴にからかわれ遊ばれ怪我した時なんかもあったがその時も俺はこいつらに助けてもらったし移動教室の時も助かった。まぁその分、簪と楯無の姉妹喧嘩には手を焼かされたのはつい2年ほど前の事だ

 

「それにしても七実君はこれから大変になるわね。ハニートラップには気をつけるのよ?もし引掛けてきた子がいたら教えてちょうだいね」

 

姉妹喧嘩以来、簪と楯無は妙に俺に好意的になってきている。簪はいつも通り話しかけてくるがその量も増えたが問題は楯無の方だ。楯無は脈絡もなく俺に引っ付いたり胸を押し付けてくる、その度に喧嘩しだすほど仲がいいのか悪いのかは知らん

 

「その時は守るから安心して」

 

「私も頑張っちゃうぞ~!」

 

「・・・すまんな。こんな身体のせいで迷惑をかけて」

 

もし俺がこの足を使うことができたらどんだけ楽な生活を送れたことかと常々考えるがその度にこいつらからは気にしなくていいと言われるがそんなに簡単に済まされる問題ではない。これは痛々しい記憶でもあるのだから

 

「いつまでもそんなこと言わないでください。私たちがついているんですから」

 

「無理だ」

 

「むぅ~ななみんの悲観的なとこヤだな~」

 

本音は俺の考えが気に食わないようでふくれっ面になる。俺がこうなったのは前世込みでこうなっているのだから仕方ないのだ

 

「相変わらず七実君も変わらないわね。まぁそのままでいいんだけどね」

 

「それには同意する。話は変わるけど七実の部屋って私達と一緒でいいんだっけ?」

 

おいちょっと待て、それはどういうことだ聞いていないにしろそんな話は無いよな。女子と一緒の部屋で寝るとか・・・とか考える奴がいるだろうが俺はそんなことはしない

 

「ええそうよ。七実君にはいる程度の補助が必要だからしてあげてちょうだいね」

 

「は~い!ななみんは私たちに任せてください楯無様!」

 

「よろしい。それじゃあ私たちは生徒会の仕事があるから今日はこれくらいにするわね」

 

楯無と虚は部屋を出ていくと簪と本音は俺が座っている所の隣に座ってくる

 

「これからもよろしくね七実」

 

「こちらこそ」

 

「ななみんは昔に比べたらいっぱい喋るようになったよね~一言で終わる時もあるけど」

 

確かにこいつらに会った時に比べてかなり話すようになったがこれもこいつらのおかげだろう。俺は元々話すのが面倒だっただけでどこかでサインを作っていたのだが誰も気づかなかったところにこいつらだけが俺のサインを知ってくれたのだからそれ相応に返すようにしたんだったはず

 

「どうせまたああなる」

 

「なんで?」

 

「うるさいのは嫌いだから」

 

なんとなく分かるが今まで女子しかいないところに男子が入ってしまうとどうなるかがわかる。大惨事になるか騒ぎ始めるのがオチだ

 

「・・・なんとなく想像できる」

 

「かんちゃんもうるさいのは苦手だもんね~」

 

簪はゲームやアニメが好きらしく以前にゲームセンターには行かないのかと聞いてみたことがあったがその時はあっさりと否定したのだ、うるさくて耳が痛くなるらしい

 

 

 

簪サイド

 

昨日七実を簡易IS適正検査場に連れていき彼に適性があることを知った。家に帰りそれをお姉ちゃんに教えたら明日朝早くにIS学園に行くと言われた。IS学園は海外からも生徒が来るため1週間ぐらい前から事前登校が許されてる。それで自分の割り振られた寮の部屋で待機してるように言われて2時間ぐらい暇を潰していた。その時ふとニュースを見たが七実の事を何も知らない人がバッシングしていた。腹が立ったのですぐに消したけど、それから少しすると七実を連れてお姉ちゃんと虚さんがやって来たのである。後はさっきの通りだけど七実と一緒の部屋なのは嬉しいかな

 

「暇だな」

 

「なら何か見る?流石にニュースは見せないけど」

 

今、七実にニュースを見せたら私もおかしくなっちゃいそう。怒り狂って何をするかわからないから見たくないってのもあるけど七実の過去をほじくり返して前の両親は犯罪者だとか言いたいように自由に言っているの

 

「別に見ても構わない。他人がどう言っていようとそれは第三者の視点であって俺の視点ではない。それに真実はお前たちが知っているからそれだけど十分だ」

 

「ななみんはそれでいいの?」

 

「俺の事を知っていてくれるだけで十分だ。ほかなぞ知らん」

 

嬉しいようなそうでないような話だけど七実はこんな感じでいつも自分の事はどうでもいいかのように話す。私としてはやめて欲しい

 

「そうだけど自分の事をどうでもいいみたいに言わないで」

 

そういうと彼は何も言わずベッドに倒れる。溜息をついてその後彼はこう言った

 

「昔からこびり付いた考えだ。お前らに変えられんし俺にも変えることはできない」

 

あの事件があった時から考えると昔と言えることはできる範囲かもしれないけど七実は私とお姉ちゃんが喧嘩して疎遠になりかけた時も助けてくれた恩人だから諦めて欲しくない

 

「なら変えてみよ?私も手伝うから」

 

「私もかんちゃんと同じだよ~無理やりにでも変えちゃうのだ~!」

 

「・・・勘弁してくれ」

 

いつもはここで引き下がる私だけど今回はそうはいかない。だって私が助けれなかった好きな人なんだもん

 

「嫌だ・・・だってここで引き下がったら変わるつもりないでしょ?」

 

「別にいいだろ」

 

「良くない!そうやってあなたは逃げようとしてる!」

 

私はベッドに倒れた彼を無理やり起こし両肩に手を当てそう言った。すると七実は震えだした

 

「あの時助けられなかったのが悔しかった。だから今度はあなたをあなたの傍で守りたいの!」

 

「・・・あの時も()()()も俺は何もできなかった俺にどうしてそこまでしようとする。俺にはさっぱりわからん」

 

「どうしてって・・・」

 

ここで伝えるのはちょっと恥ずかしい・・・けどいつか伝えるんだったらそれは今か後かの違いなんだから今伝えなきゃ!

 

「幼馴染で親友だからだよ~」

 

「へ?」

 

・・・変な声出しちゃった。というより先に言われちゃったよ!?本当にごめん何してくれてんの本音!?

 

「・・・もう勝手にしろ」

 

「ほーんーねー!」

 

私が決意して言おうとしたことを先に言われてしまったことに腹を立て本音に八つ当たりをしてしまった。反省はしてるけど後悔はしてない

 

「ほえ~!やめてかんちゃ~ん!」

 

「・・・騒がしい」

 

「あ、ごめん」

 

本音は目を回し七実の肩にもたれ掛かる。うらやま・・・羨ましい!

 

「むえ~」

 

「こうしていつも通りになると・・・何か言い残すことはあるか簪」

 

「えーっと、わ、私もしていい?」

 

「却下」

 

前は無口で無反応な彼は今では辛口で辛辣な彼になってしまったのでした・・・多分私とお姉ちゃんのせいだと思うけど

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

楯無に弄られれば誰だってある程度辛辣になると思うんですよ。うぷ主の好きなキャラですが


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何も無くつのるもの

 

 

結局あの後何もすることなくふくれっ面の簪とその簪にいいようにされた本音と一緒にアニメ鑑賞していた。本音は一度起きたものの耳元で奇声を上げ飛び上がったがその時も簪によってもみくちゃにされたがその時は俺が鎮めた。今は2人に寄り添われながらアニメを見ている・・・しかしあれだな、アニメとはなかなかに面白いと思う。作者が自由気ままに作った世界を反映しキャラクターがその中で物語を描いていく。主人公が苦悩し解決し全てが全てでは無いがだいたいはハッピーエンドで終わる幸せな世界。そんな素敵で救われる世界が妬ましいと思えるほどに面白い。無事終わりを迎えると俺は少し疲れたようでベッドに倒れこむ

 

「・・・どうして一気見なんだ」

 

1話から12話ぐらいのものを一気見したせいで少し疲れてしまった。途中で昼食も取ったが本当に簡単なものだった。幸いなことに俺は食が細いため量を食べるわけじゃないのだがアニメを見ながらの昼食だったため多少味気なく感じた

 

「だって撮り貯めしてたから全部見ようと思って・・・つまらなかった?」

 

「そんなことは無い。ただ疲れた」

 

「あ、ごめん」

 

「気にするな」

 

とは言ったものの慣れないことをしたせいもあるが恩を返せずに親と離ればなれになった事もあってか精神面でのストレスが尋常じゃない。あの時の生活に比べたらそこまでじゃないが一度知ってしまった蜜の味は忘れられない。俺は再び養子になって難から逃れて今まで生きてきた。そのせいもあってストレスを強く感じている

 

「顔色悪くなってるよ~、ななみん大丈夫?」

 

「分かんね」

 

「自分の事なのに分からないって・・・無理させちゃったかな」

 

「そんなことじゃない。悪いけど少し寝る」

 

俺はベッドに潜り寝ることにした。嫌なことは寝て忘れるに限る

 

 

 

本音サイド

 

あらら~ななみんに無理させちゃったかな?仕方ないよね、新しい環境がIS学園だしそれに優しかったお父さんとお母さんと離ればなれになっちゃったし。それにニュースじゃ非難されてるしたまったもんじゃないしね。ななみんが寝てしばらくすると部屋と扉の方からノックする音がし開けてみると織斑先生がいた

 

「鏡野に用があってきたが大丈夫か?」

 

「あ~今寝ちゃってます、起こしてきますか~?」

 

「寝ているのなら仕方ない。言伝を頼んでもいいか?」

 

「は~い!」

 

「明日は鏡野のISについての検査を行うから10時に第1アリーナに来ること。以上だ」

 

「わかりました~」

 

「・・・鏡野の様子はどうだ?ニュースでもあることないこと言っていたしご両親と離ればなれになって辛いだろうからな。何かあれば私達教員に言うのだぞ?」

 

ななみんの様子はたぶんあの時の状態と変わらないほど最悪だと思う。かんちゃんも思っていたと思うけどあの時は助けられなかった彼を今度はちゃんと助けてやりたい

 

「わかりました~」

 

「ではまた明日。あ、それとまだ食堂は開いていないから注意しておいてくれ」

 

「は~い」

 

そう言い織斑先生は立ち去ってしまった。部屋の中に戻るとかんちゃんは携帯ゲームを始めたけど夕飯はどうしよう?今から買いに行こうかな?

 

「ねえ、かんちゃん。夕飯どうしよう~?食堂が開いていないみたいなんだって~」

 

「え・・・なら買いに行く?」

 

「そうしよ~!あ、でもななみんはどうしよう?」

 

「それなら大丈夫よ!」

 

大きな音を立てて扉が開くと楯無様とお姉ちゃんが立ってるけど今の音でななみんが起きちゃったよ!

 

「うるせぇ・・・」

 

「七実さんが寝ていたようですね」

 

「ごめんね七実君。明日の事で少し話が合ってここに来たのよ」

 

「それならさっき織斑先生が伝えに来ましたよ~楯無様」

 

「そうだったの?あぁだからさっきすれ違ったのね。先に言われちゃったわ」

 

まだななみんには教えてないけど

 

「何の話だ?」

 

「あら?明日の10時からISの検査が行われる話、されてない?」

 

「まだ伝えてないんだけどね~」

 

「ちゃんと伝えなきゃダメじゃない」

 

「その時は寝てたので~起こすのもどうかな~って」

 

これは本当に思ったこと、無理に起こしてしまうのもダメかなって思って起きたら話そうと思っていた

 

「なら仕方ないわね。それじゃあ少し早いけど夕食を食べに行くわよ」

 

「学校が始まるまでは空いていませんよ?」

 

「えー、なら作るしかないわね。お姉さん張り切っちゃうわよ!」

 

おー楯無様がやる気になったのはいいけど食材もお弁当も何も買ってないんだよね~。お昼も適当に学校にあるコンビニで買ってきただけだし

 

「まだ買ってないよ?」

 

「・・・今から行きましょ、七実君はこの部屋で待機ね。もし生徒と接触して騒ぎになられても面倒だし」

 

「すまない」

 

「これくらいいいのよ。さてみんな行くわよ!」

 

こうして4人とも食材を買いに学園内にあるスーパーに向かった。お菓子やジュースも一緒に購入し荷物がいっぱいになって重いよ~

 

 

 

七実サイド

 

・・・やっぱりこの足ぐらい元に戻んねえかな。もし戻ったならあいつらに世話を掛けさせることもなくある程度は自分でもできるんだがな。料理や家事は嫌な記憶だがあの時に叩きこまれたからいいけどせめて何かあいつらの役に立てることはできないもんか?今の俺にできることは・・・そんなことを考えてると買い物に行っていた4人が大きな袋をそれぞれ1つ持って戻ってきた

 

「今戻ったよ」

 

「さて夕食を作るわよ。簪ちゃん手伝ってちょうだい」

 

「うん」

 

袋に入っていた食材や飲み物を冷蔵庫に入れたり夕食の準備を始める楯無と簪

 

「今日はお疲れ様でした七実さん。いろいろとお辛かったでしょう」

 

「虚や楯無程じゃない」

 

確かに朝からマスコミがやってきて煩かったし今の親とも別れここに来たのもストレスになったがそれは精神的疲れであって仕事を済ませてきた楯無や虚程のものじゃない

 

「今日のは簡単なものだったのでそこまでじゃないですよ。それに量も少なかったですし」

 

「でもお疲れさん」

 

「・・・ありがとうございます」

 

「ねぇななみん。1つ思ったんだけど~お風呂とかはどうしてたの~?」

 

「こんな身体だから濡れたタオルで拭いておしまい。髪はちゃんと洗ってた」

 

脚が動かなければろくに風呂に入ったこともない。てかシャワーも浴びれない。髪は母さんに手伝ってもらって洗ってたけどな

 

「なら今から背中拭くから待っててね~」

 

は?いやいや用意だけしてもらえるなら自分でできるしそれに見ちゃまずいもんがあるだろうが。そんなこともお構いなしに本音は洗面所に行き用意してくる

 

「・・・虚」

 

「分かってますよ。ダメじゃないですか本音」

 

「ほえ?」

 

「七実君は男の子なんですよ?その・・・刺激したらまずいと言いますかなんと言いますか///」

 

虚は顔を赤くし本音に伝える・・・いやあってるけど今はそうじゃない

 

「自分でできるしさすがにお前らの前でやるわけにはいかない」

 

「私は気にしないよ~?」

 

「俺が気にする。気遣いはありがたい」

 

俺は虚の肩を借りて車椅子に乗せられ洗面所に入る

 

「それでは頭を洗う時には言ってくださいね。手伝いますので」

 

「ああ」

 

虚は俺を残して部屋の方に行ってしまった。俺は片腕で器用に服を脱ぎ体を拭き始めると背中に左肩の少し下らへんから斜めに大きな傷に触れた。この傷はあのクソにつけられた負の記憶とも呼べる傷跡だ。治ることなく大きく背中を割りいつまでも残る呪いみたいだと感じだと思う。全身拭き終わり服を着始めると楯無が中に入ってくる

 

「やっぱり大きな傷跡ね」

 

「勝手に入ってくんな」

 

「やーだよ。そろそろ夕飯が出来るからねー」

 

「わかった。虚を呼んでくれ」

 

「はいはい、虚ちゃーん七実君が呼んでるわよー。それじゃあまた後でね」

 

楯無と入れ替わりで虚が入ってくるなり俺の頭を洗い始める。やっぱり申し訳なくなるだけで嫌になるな。前世からそうだが何もできない苦痛しか味わっていない生き方はもうごめんだ。何が悲しくてこんな生き方になっちまったんだ

 

「はい終わりましたよ。今からドライヤーで乾かしますので動かないでくださいね」

 

「いや、乾いたタオルを巻いてくれ。今までもそうしてきた」

 

「ダメですよ。こんなにもいい髪なんですからちゃんとしないとご両親に笑われちゃいますよ」

 

もう2度と会えるかどうかわからない親父と母さんの事を持ち出すのは卑怯だ。寂しく感じるだろうが

 

「・・・勝手にしろ」

 

「それじゃあ勝手にしますね」

 

俺はなすがままにドライヤーを掛けられるが違和感しか感じずにいられなかった。普段は頭にタオルを巻いて終わりだったから濡れた髪に暖かい風が当たるのは違和感でしかなかった。こうもある程度親しいが他人に触れられるのはあまりいいものではないな。髪が乾くとドライヤーの駆動音がしなくなる

 

「さらさらになりましたよ。これでちゃんと乾きましたよ」

 

「耳いてぇ・・・ありがと」

 

「いえいえ。それではご夕飯を食べに行きましょう」

 

車椅子を押され元いた部屋に戻ると既にテーブルに夕食が用意されており3人が待っていた。今日は楯無と簪の作った夕飯らしいがいい匂いが漂っていた。虚は俺をテーブルまで押し進めると空いてる席に座り夕飯を食べることにした。もしこの身体が元に戻ったらこいつらに俺の作った飯を食わせてやろう

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

お気に入りが100を超えて驚いているうぷ主です


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再起する鏡

翌日、俺は4人に連れられ第1アリーナに向かっている。ISの適正検査らしいがまず歩けるかどうかすらが不安だ。何せあの事件から8年の歳月が経っているのでもう8年も歩いていないことになるのだから不安で不安で仕方ないと思うはずだが実際はやってみなけらば全てわからないというのが本当に思うところだ。しかしこんな心配するほどじゃない、なぜなら基本に基づけば死ぬなんて早々は無いみたいだ。しかしISバトルとは言ったものの要は常時防御態勢の中でも殺し合いに等しいものだと思えるのは俺だけじゃないはず。しかし世界中に浸透してしまったものは神聖なスポーツとしての姿なのだからもうどうしようもない。そんなことを考えていると第1アリーナに到着し姉貴こと織斑先生と山田先生が既にスタンバっていた

 

「みなさんおはようございます!」

 

「あ、はい」

 

「鏡野、教師にその言い方は無いだろう」

 

これが俺が今までしてきたことなんだ。ちなみにこれでもある程度改善した方なんだがまだダメみたいだ。簪にも言われたがこれが最大限で頑張った結果なのだがまだ頑張れというのか

 

「これでも改善はしてるんですよ?最初は全然話さないしハンドサインや首振りで済ませてましたんですよ」

 

「コミュニケーションを取るのは苦手みたいだが貴様がこの学園に入るからにはそんなことはできないと思うぞ。世界で2人だけの貴重な人材だからな」

 

「・・・勘弁」

 

いや本当に勘弁してほしい。俺に何かを求める方がおかしい。俺は未だ誰かのために何かをしたことは無く自分の為にしか行動をしたことしかない人形に何を求める気だ?

 

「大丈夫・・・そうはさせないから」

 

「そうね。私と簪ちゃんの仲を取り持ってくれた七実君は何も手出しさせないわ」

 

・・・そう言ってくれるのはありがたいのだがどうも簪と楯無の思考は分からん。なぜそこまでして俺に構うのだろうか

 

「ふむふむ。更識姉妹はそういうことなのか?」

 

「「あ・・・」」

 

2人が声を揃えて失言したかのように何か言うが俺には何のダメージは無い。だってそれは俺に向けられた悪意でも何でもないから別に気にする必要はないからな

 

「この話は置いておいて始めるとしよう」

 

俺たちはアリーナのピットに移動するがあの時触ったのと同じIS<打鉄>が1機置かれていた。しかしこの前見た<打鉄>は灰色をしていたのだがこの機体は全てのものを跳ね返しそうな銀色をしている

 

「鏡野の専用機が来るまで使用してもらう訓練機だ。カラーリングは君の苗字から取らせてもらった」

 

「本当は・・・」

 

今の苗字は鏡野だが本当は違う。本当はあなたと同じ織斑だ・・・言えるわけもなく唯一人で空しくなるだけだ

 

「それじゃあ触って起動させてください」

 

「頼む本音」

 

「らじゃ~!」

 

本音に車椅子を押され俺はISに触れると全身に電流が流れるような感覚が発生した。声をあげることもできずただそのままじっとしていたが目を開けると何も異常は無く銀色の<打鉄>を纏っていた

 

「ふむでは動作確認をしてくれ。異常は無いかの確認だ」

 

ただ手を開く動作をするがすぐに違和感が訪れた。今まで動くことが無かった左手がわずかに動くようになったことに両足が普通に動くのだ

 

「違和感あり?」

 

「なぜ疑問形なのだ。とりあえず一旦降りてくれ」

 

降りると俺は投げ出され()()()()()地面に落ちた・・・は?

 

「大丈夫七実!?」

 

「肩貸してくれ」

 

俺は簪の肩を借り()()()()()事ができた。やっぱりこれは違和感じゃなく正常に戻っただけだった

 

「な、七実君・・・普通に動けるの?」

 

「え?あ、ほんとだ」

 

「あれに触れた瞬間電流が全身に流れ込んだ気がした。たぶんそれが原因」

 

「良かったですね七実さん。これでようやく本当の意味で解放されましたね」

 

まぁそうなんだが別に今じゃなくてもいい気がするんだよ。しかしISって自動回復機能でもついてるのか?それだとしたらかなり優秀なものになるんだがどうして誰も気づかなかったのかは不思議である。俺は動くようになった両足と利き腕である左腕を動かすが8年ぶりということもあってかかなりぎこちない

 

「まだか・・・」

 

「あんまり無理しちゃダメですよ七実君。今までろくに動けてなかったんですから」

 

「しばらくリハビリになるわね。付き合ってあげるわよ」

 

「助かる。さて続きをしよう」

 

再び<打鉄>に触るが今度は電流が流れることは無かった。だが今度は違和感が感じることは無くすんなりと纏うことができモニターらしきものが現れ文字が表示された

 

やぁ久しぶり俺。私は俺だよ、と

 

いつぞや夢で見た鏡合わせの俺のものとまるっきり同じものだった。しかしそれで終わりじゃなかった

 

私はこうして俺の目の前に現れることができた。IS様様だね。それはさておき私を纏っているってことはもうどうなるか分かるはずだ

 

・・・分かりたくないが全て分かる。どうせ一緒になるのだろう?

 

正解だよ俺。後は私に任せて

 

その文章を最後に文字が出ることは無かったがその代わり眩い光が放たれここにいる全員が目を閉じたと思う。俺でさえ目を閉じるほどだし多分そうなのだろう。光も消え目を開けると自分が纏っていた<打鉄>ではなく全くの別物になっていた。先生2人はそうだが簪たちも唖然としていた

 

「おい鏡野、貴様何をした」

 

「いや俺は何も・・・ただこいつが勝手に」

 

「馬鹿もん。ISは独自進化するようにできているが勝手に変化することはありえん」

 

いや意外と本当なんだけど信じてもらえないのはどうしようもない。面倒事を押し付けやがって

 

「でも七実君は一切動く素振りも見せていなくただボーっとしてただけでしたよ織斑先生」

 

「だよな。しかしそうなるとこれが鏡野の専用機となるが新たに問題が発生するな」

 

まぁ学園側のコアを専用機にしたしな問題になるわな。すみません織斑先生に楯無。モニターの表示が変わると機体名や詳細スペックが表示されるが名前以外は全て???と表示されていた

 

「名称<Mirror me(鏡の私)>・・・通称M.M.」

 

「それがその機体の名前か。さていろいろと調べることができたからさっさと始めるぞ」

 

スペック不明のこいつをどう使えというんですか?でもやるしかないのか。俺は渋々織斑先生の言う通りにすることにした

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

ななみんの専用機登場です。性能は次回明らかになります


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鏡合わせの2人

俺はピットから出ていき地面に降り立つ。8年ぶりの歩行だが視点がいつもより高く不安定ながら自分なりに歩くことができた。そんなことをしてるとどこからともなく通信が入る。なぜか俺はそれを知っていた。どうやって通信をしたらいいかと、今までは一切ISなんて興味ないものの知識は無かったはずなのだがなぜか知っていた

 

『無事歩行はできたようね』

 

「みたいだ」

 

『なら次は武器を確認してみてちょうだい』

 

言われた通りに武器があるかどうかを確認してみるがこれも知ってた。ISのハイパーセンサーに表示させるが()()()()()()()()()()()()()()。これはなんとなく知っていた。このISは俺自身を象ったものであるならば武器を所持、使用してこなかったから入ってるわけないのだ

 

「このISには武器は無い」

 

『・・・どういうことだ鏡野。一応<打鉄>をベースに一次移行(ファーストシフト)したのだから武器が無いなんてことがあるか』

 

「関係ない。これはこのISは()()()です」

 

あの会話で知っているかもしれんがこのISは俺自身でもあり()()()でもある。あの夢は夢なんかではなく俺の力を知る予言みたいなものだったはずだ

 

「このISは一切のスペック不詳で武器もない。でも俺はこいつの使い方を知ってる。誰か戦いましょう」

 

『ちょっと待ちなさい七実君。いろいろと聞きたいことがあるけどなんで戦う必要があるのよ?』

 

「そっちの方が分かりやすい、以上」

 

『なら待っていろ。その言葉を信じさせてもらうぞ』

 

さて誰がやってくるのだろうか・・・通信ではあーだこーだ楯無や山田先生が言ってるが多分誰が出てくるかが分かったぞ。<打鉄>を纏って織斑先生がやってくる

 

「待たせたな。それにしても武器が無いとは不遇だな」

 

「確かに俺には無いです。ですが俺にあって織斑先生にある、これだけで十分です」

 

俺は鏡、全てを映し出す鏡。力や思考、動作から何から何までを映し出す鏡・・・これが俺の力。強すぎて誰にも勝てないし弱すぎて誰にでも勝てる力

 

「対象<打鉄>、搭乗者織斑千冬。起動しろMirror is mine(鏡は私の物)

 

俺のIS<M.M.>は光を発し形を変えていく元々ウイングスラスターがある以外は人の形を模したISだったがその形を変え<打鉄>へと変化していく。そんな中織斑先生は驚きを隠せないようでただただ見ていることしかしなかった

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だと!?起動してから間もないというのに発現しているのか!」

 

「俺は鏡。今の私はあなたです」

 

さて俺の力を見せたんだから次は先生の番だ

 

 

 

千冬サイド

 

私は驚愕せずにはいられなかった。ついさっき仮だが専用機を得て歩行した程度で単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が使えるはずがない。ISと操縦者の相性が最高になった時にしか発動しないそれは世界でも発現している数は少ない。それどころかその能力は姿を真似ること。それに少し疑問があるが鏡野は私にこう言った。『俺はあなた』とこれがどういう意味なのかはまだ分からないが今は検査を兼ね戦うしかないのか。私が近接用ブレード葵を展開すると同時に鏡野もブレードを展開していた。あのISには武器が無かったのではないのか?

 

「やはり武器はあるではないか。どうして嘘なんて言ったのだ?」

 

「・・・ヒント1俺は鏡」

 

確かに貴様は鏡野であって鏡ではないだろう。そんなことを考えていると山田君から通信が入る

 

『お2人とも本当にいいんですか?こんな形で検査なんて行って』

 

「この場合は鏡野の希望に合わせるほかないだろう。どうなんだ鏡野」

 

「構いません」

 

『怪我しないでくださいね七実君』

 

ほう山田君は私があいつを怪我させると思っているのか

 

「それはどういう意味だ山田君」

 

『あ、えーっと右も左もわからない状態で織斑先生と戦うのは非常にあれかなって思って』

 

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよだって・・・」

 

何を根拠に大丈夫と言えるのかが分からんが慢心だけはしないでおこう

 

()()()()()()()なんですから」

 

「言いよるな鏡野。さて始めるとしよう!」

 

私はブーストをかけ鏡野に突撃を仕掛けると彼もそれに合わせて突撃してくるタイミングは一瞬!鏡野が振りかぶり振り下ろすであろう瞬間に急制動をかけ前方にブースターを吹かし後退するがそれを読んでいたかのようにさらに加速して無理やりにでも当ててきてSE(シールドエネルギー)を削られた

 

「ぐっ!」

 

「まだだ!」

 

さらに鏡野はアサルトライフル焔備(ほむらび)を展開し後退しながら銃弾をばら撒くがそれは悉く切り伏せることで防いだ

 

「よく今のを読んだな」

 

「・・・ヒント2鏡は全てを映し出す」

 

全く訳の分からんヒントだな。鏡か、確かに日常から使っているがそれは確かに自分の姿を映し出すことができるがそれがどうしたという感じだが

 

「ほれ来ないのか?」

 

「はぁ・・・では行かせていただきます」

 

焔備を量子化させ葵を持った左腕を下したまままたしても突撃してくるが今度は油断はしない。こいつはおかしいほどに強いのは分かるがどうしてはじめてに近い状態でここまでの機動ができるのか分からないがただ今はそれを迎え撃つだけだ

 

「はぁっ!」

 

「甘いぞ!」

 

下段から来る斬撃を葵で受け止めるがそれだけでは終わらず私の腕を掴み鉄棒のようにしてサマーソルトをしてくるが避けられる距離が足らず腹部を蹴り上げられそのまま1回転し地面に落とされるが普通ではそのまま叩き落されるところなんだがこれはIS戦。空中でブースターを吹かし姿勢制動をする。その最中に鏡野は焔備を展開して私に発砲していたらしく何発かいただいてしまった

 

「よもやここまでやられるとはな。本当にISの機動は初めてなのか?」

 

「初めてです・・・でも経験は初めて()()()()()()()()?」

 

またしても言っている意味が分からないが引っかかる言い方だ。なぜ問いかけの形なんだ?それにヒントもそうだ。1つ目は私の事を自分だと言い2つ目では全てだと言った、これらを掛け合わせると私の経験や実力=鏡野の実力に考えられるがそんなオカルトはありえない。ISは経験や実力が物を言うがそれに稼働時間が加わるという厄介極まりない物が全てを言うのだが腐っても元世界最強(ブリュンヒルデ)なのだ。ひよっこに負けてやる義理はない!

 

「ここからは本気で行かせてもらう!」

 

「ようやく分かったようですが遅いですよ。もう疲れたんでやめていいですか?」

 

「・・・はい?」

 

確かにこいつの体力やストレスを考えるとそろそろ限界だろうが納得いかない。ここまでしてやられたのにここでお終いとか普通許されるか?

 

「少し待っていろ。通信で聞いてみる。山田君応答できるか?」

 

『あ、はい大丈夫ですよ』

 

「鏡野のIS適正は調べ終わったか?こちらとしてはまだ終わっていないと助かるのだが」

 

『?・・・まだ検出されていないのでもう少ししててください』

 

「わかった。ほれ続けるぞ鏡野!」

 

まだやれる。こいつの力がどれほどのものかまだ調べることができそうだ

 

「えー」

 

「これが終わったら何か奢ってやるからそれで我慢しろ」

 

「・・・分かりました」

 

嫌そうな顔をするな鏡野。私としてはここまで張り合える者は少ないのだからもう少しやる気を出してもらいたいのだが無理やりにでもやる気を出してくれると助かるんだがな

 

「貴様に手を抜くといけないらしいから今の私にできる範囲でやらせてもらう!」

 

「はぁ・・・」

 

許せとは言わんがこれを使わせてもらう。瞬時加速(イグニッションブースト)を使用し鏡野の手前3m付近でやめ身体を横にして縦方向に回転しながら鏡野を背後から斬りかかるが最小限で避けられ焔備で撃たれるがそれはブラフ。本当の目的はこの回転を利用しながら至近距離で投擲することだった。SEもそれなりに削られ200を切ったがこれで大打撃を与えられると思ったがそんなことは無かった

 

「はぁ!?」

 

鏡野はそれを予言していたかのように焔備を回転しながら飛んでいくブレードの側面に投げつけ上に逸らし葵を展開してあまつさえも高等技術と言われる瞬時加速をして私に突きつけようとしてきた。だが回転もやめ葵の切っ先を両手で抑えるが瞬時加速のせいで壁際まで押されてしまった

 

「くっ!」

 

『織斑先生もう大丈夫ですよ!』

 

「わかった。鏡野もうやめていいぞ」

 

「あ、はい」

 

鏡野はあっさりと葵を量子化し元来たピットに戻っていった・・・もしかして鏡野が言っていた全盛期というのは()()()()()ということなのか?確かにあれは代表候補生時代にしたことがあったがそれを加味しての全盛期だというのであれば末恐ろしいな。思わず身震いしてしまったぞ。私も鏡野が戻ったピットに行くが更識姉が騒がしくしているな

 

 

 

七実サイド

 

今までろくに動いてないのにこんなに体力が必要なことをさせるとは鬼畜の所業だな。しかしこのIS<M.M.>はおかしいな。相手の経験や力を全て映し出し反映させ自分の力にするとかこんなんチートだろ。ピットに戻るとすっごくいい顔した簪と楯無がいた。もう嫌な予感しかしないのだが

 

「ちょ~っとお話があるんだけどいいかしら?あ、もちろん拒否権は無いからね」

 

「その前に降ろさせろ」

 

俺はISを解除すると地面に降りるがここでも無様に膝をついてしまった。早く筋肉をつけて歩けるようにならねば。簪と楯無は俺に肩を貸してくれて車椅子に座らせてくれた

 

「あなたのIS<M.M.>って言ったっけ?何よあの反則級な強さは。もう少し時間があれば織斑先生に勝てたかもしれなかったわよ」

 

「流石に体力がない。もう疲れたゴールしていい?」

 

「ダメ!そっちに行っちゃいかん!」

 

いつぞや簪と見たアニメのセリフを引用してみたがこれ死ぬ奴だ。いや疲れたのは本当だがそれにちゃんと乗ってくれる簪は優しい思う。てかなんで山田先生は涙目なんだ?もしかして見てたのか?

 

「それはともかく・・・七実お疲れ」

 

「ああ」

 

「簪ちゃんは優しいわね。でもお姉ちゃんはそうわいかないわよ!さぁきりきりあなたのISの事吐きなさい!」

 

「元気があってよろしいな更識姉。なんなら今から私と一線交えるか?んん?」

 

丁度いいタイミングで登場したな織斑先生。というよりも本当は俺が強いんじゃなくて織斑先生が強いで合っている。ただ俺はISの単一仕様能力を使っただけに過ぎない

 

「え、ちょっとそれはお断りしたいです」

 

「それは残念だ。それよりも山田君、彼の適正はどうだ?」

 

「非常に言いにくいんですが最高値のSでした」

 

周りを見渡すが逆に驚き過ぎて声が出ていない状況だった。正直こんな値は嘘なのは知ってる。だってこれは織斑千冬の値と同じだから

 

「なんとも言えんな、だろう鏡野」

 

「はい」

 

「なんでなのななみん?」

 

「これは俺のじゃないから。これは偽物」

 

あえて答えを言わないで考えさせる。俺が今までしてきた問いかけの仕方だが織斑先生は深くため息をついた

 

「鏡野が言わないなら私も何も言わないが貴様の言うことはそういうことだったのだな」

 

「ええ」

 

「あのお2人が言っている意味が分からないのですがどういうことですか七実さん?」

 

虚が俺に問いかけるが答えは全て出ているはず後は考えることだ

 

「戦闘中の音声は聞こえたか?」

 

「ええ。何を言っているのかはさっぱりでしたが」

 

「答えはそこにある。俺からは教えない」

 

「え~教えてよ~ななみん~」

 

「嫌だ疲れた」

 

「さてこれで解散になるが良いだろうか」

 

え、何勝手に終わらせようとしてるんですか?奢ってもらいますよ

 

「約束よろしく先生」

 

「忘れてなかったか。まあいいだろう貴様らに奢ってやる山田君以外だがな」

 

「え!?」

 

「当たり前だろう。私達教師は仕事でしてるのに対してこいつらはそうじゃないのだからな。一応の報酬ということだ」

 

優しいのかそうじゃないのか分からん先生だな。だがしたことに対してそれ相応のものを与えるのは流石上司なんかね。前世ではそういうのは無かったしな正直ありがたいと思う。部屋を出ようとすると簪と楯無のどっちが車椅子を押すか揉めたので自分で移動しようとしたところを本音に止められ本音に押されることになった。ドンマイ2人とも

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

ななみんの(チート)ISの初戦でした

性能としては通常では武器も一切積んでいなく貧弱です。単一仕様能力は機体名と搭乗者の名前を正確に言えばそれを完全にコピー、保存できその人の経験を反映させ最大スペックで使用できます。しかし、機体名はロックオンの際に正確に分かりますが搭乗者の名前が正確に言えない場合最大スペックとならず半減し経験も得られない効果があります


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平行線と密かな思い

 

俺は本音に車椅子を押され移動していた。本音の後ろで簪と楯無がこちらを睨んでいるが悪いのはお前らだろ。織斑先生と虚はこっちを見ては笑っているし山田先生なんかは少し顔を赤くしてるし一体なんなんだよ。自販機の手前で止まる

 

「さて何がいい」

 

「ミルクティーで」

 

「相変わらずの甘党ね」

 

「うっせ」

 

確かに今の俺は甘いもんが好きだがそれは前世込みで食べてこなかった分を楽しんでいるだけであってそこまで量を食うわけじゃない。てか俺小食だし。俺は織斑先生から奢ってもらった紅茶〇伝を受け取り飲み始める。うん疲れた時は甘いものに限るその後も織斑先生は簪たちにも奢り続ける

 

「そういえば鏡野のISの待機状態はどんなのなんだ?」

 

そういえばそうだ。専用機の特徴としてISを待機状態になることなんだが探してみると大きめな銀の懐中時計がベルトにぶら下がっていた。開いてみると蓋側には鏡がついていた。肝心の時計部分は英数字で12時間表示ではなく24時間表示になっていた。英数字の23、24の所だけ色が違っていた。23は灰色で24は銀色。それ以外は黒色だった。もしこれは推測なのだが形状の保存、維持を可能なのだろうか?

 

「これみたいです」

 

「懐中時計か。くれぐれも紛失することの無いようにな。そのISに使われているのは学園のコアなのだから問題が起きるのは目に見えているのでな」

 

「了解」

 

無くせるはずがないこれは俺自身であって私自身。とどのつまり俺が俺であるための証明でもあるのだから

 

「なぁ鏡野少しいいだろうか」

 

「なんでしょう?」

 

「私の弟もこの学園に入ってくるのだがどうか仲良くしてやってほしい。根は良い奴だし真面目なんだがどこか抜けていてな」

 

弟、一夏の事だろう。本当は俺の弟でもある織斑一夏と仲良くか・・・

 

「それは一夏次第。俺に迷惑を掛けるか否かで変わる。それに俺自身あいつに()()()()に私怨を抱いている。公私混同しないつもりですが」

 

そう生まれてすぐに誘拐された俺にとってはある種の運命のようにも感じたこの出会いは勝手ながら私怨を抱かずにはいられなかった。なんで一夏や円華と呼ばれる奴じゃなくて俺だったのだろうかと

 

「私の事はいいんだよ七実」

 

簪は暗い表情をし俺にそういうがそういうことじゃない。確かに簪の事もあるが元をただせば悪いのは一夏ではなく作っている側のせいだ。それに関しては簪がどう思うかだ

 

「・・・そうか。でもこれだけは言っておくが私の下共々よろしく頼む」

 

「分かりました」

 

「さて山田君行くぞ」

 

「は、はい!」

 

織斑先生は山田先生を連れてどこかに行ってしまった。俺は奢ってもらった飲み物を飲み干しゴミ箱に投げ入れた

 

「そういや円華も来ることすっかり忘れてた。あの子苦手だな」

 

「織斑先生の妹さんでしたっけ?」

 

「うん。織斑先生そっくりなんだけど追い越したいっていう理由で代表候補生になった超絶ブラコン」

 

一夏大好きっ娘か。あれ楯無と一緒じゃね?

 

「なんだ楯無か」

 

「んーなんでそういう風になるのかお姉さん知りたいなー。というより私は確かに簪ちゃんの事がね・・・」

 

地雷を踏んでしまったようだ。楯無は簪の事を好き過ぎて遠ざけようとしたのにそれが解消されるとこんな風に暴走してしまう。なんというか外見は良いとは思うが中身がシスコンシスコンしてるから残念である

 

「お姉ちゃんもういい黙って。いい加減にしないと嫌いになるよ」

 

「え・・・」

 

と、まあいつもこんな感じで簪が嫌いになる宣言で楯無が絶望した表情になり膝折れるまでがテンプレになっている。なんだかんだで見ている俺としては羨ましく思う

 

「帰ろ七実に本音」

 

「あぁ!待ってぇぇぇぇ!」

 

簪は車椅子を押してこの場から立ち去ると後ろから楯無の悲痛な声が聞こえてくる。哀れなり楯無。寮の部屋に戻るなり車椅子から立ち上がるが今の俺では何とか立ち上がるのが精一杯でろくに歩けなかった。明日から歩行訓練しようと心に誓い2人の力を借り自分のベッドまで行くことができた。明日から頑張るから今日はもう寝ることにしよう

 

 

 

楯無サイド

 

昨日はもういろんな意味でダメだったけど今日はもう大丈夫よ!さて今日はどんな悪戯をしてやろうかしら?私は深夜3時に簪ちゃんたちがいる部屋に侵入した。月明かりがあるものの全てが見えるわけじゃなく薄暗いが問題ない。私は真ん中のベッドで寝ているであろう七実君にターゲットとしベッドに潜りこんでやった。彼は眠りが深いのか起きることなく成功したがまだこれだけじゃ終わらないのが私。そのまま抱き着いて一緒に寝させてもらうわね。本当ならこんなことをしないけど私は密かに七実君の事が好きになっている。簪ちゃんと疎遠にならなきゃいけなくなっていざ実行しようとしたらそれを呆気なく止めた彼、実行しようとした時には分かっていたけど本当は簪ちゃんと離れようとするのが怖かった。でもそれを止めてくれた七実君には感謝してもしきれないしいつの間にか見かけるたびに目で追うようになっていた。でも簪ちゃんもそれは一緒なのは知っていた。また離れるのは怖いけど私だって七実君が欲しい

 

「ねぇどうしたらいいかな?」

 

聞いているかどうかも分からない彼に聞いてみるが返事は帰ってくるはずもなく寝息でかき消されてしまう

 

「やっぱり聞こえてないよね」

 

無口な彼は言い方や態度が悪いのはいつもの事だけどなんだかんだで私達をちゃんと上っ面じゃなく素の部分を見てくれる優しい彼に惹かれた

 

「可愛い寝顔ね。つい襲いたくなっちゃうわね」

 

今なら彼の怖い目も開いていないから見れる彼の眼。どうしてあんな目をしてるかは分かったけど今はどうなっているのかしら?でも今も隠しているってことはまだ七実君の中では解決してないことになるとしたらいったい何が問題なんだろう?

 

「でも今はいいわ。今はこの時を楽しむとしましょう」

 

抱き枕にして寝ましょ!

 

 

 

七実サイド

 

重い・・・身体に違和感を感じ目が覚めると隣に楯無が寝ていた。どうやって忍び込んだかは知らないがなんで俺と同じベッドで寝てるんだよ。俺を抱き枕にしてるせいか邪魔すぎて身動き1つ取れないため抜け出すことは諦め時計を見るとまだ朝の6時だった。後で面倒になるのもあれだからこのシスコンを帰らせておくことにしよう

 

「おい楯無起きろ」

 

起こそうとしても起きる気配なし。さてどうしたもんか。本音を起こしても簪を起こしても面倒ごとにしかならないしかといってこの状態では虚に連絡もできない・・・結論ふて寝して誤魔化す

 

「んー・・・七実起きてる?」

 

あ・・・詰んだ。ゆーっくりと簪の方に顔を向けると百面相していた。最終的には冷たい視線を送りながらにっこりと笑ってる

 

「一応起きてる。話を聞いて欲しい」

 

「とりあえず聞くから」

 

「俺は今楯無に抱き枕にされてるけどどうしてこうなったかは知らん。違和感を感じて起きたらこうなっていた」

 

なんか額に嫌な汗が出て来た。というよりなんで俺が問い詰められてるんだ?普通だったら楯無が対象になるべきだろうに

 

「はぁ・・・七実、嘘はダメだよ?」

 

「思い出せ。俺はお前らより先に寝たがわざわざ起きてまで楯無を招き入れるという行為ができると思うか?それよりもまず歩けるかどうかすらわからんのだぞ?」

 

「うーん・・・ならなんでお姉ちゃんが部屋の中に入ってきてるの?」

 

「いや知らん。てか俺としては安眠を妨害されてムカついてるんですが」

 

これで済ませている当たりまだ温情だと思う。昔からの付き合いであろうと関係なしにバッサリいうことにしてるしな、特にこのシスコンにはな

 

「ちょっと待ってて」

 

簪はベッドから立ち上がりドアの方に行くなり大きな溜息をつきながらこちらに戻ってきた

 

「侵入したみたい。ドアの鍵が閉められてなかったから今回は七実は無罪」

 

だから言っただろう。某親善大使風に言うのであればこれは楯無がしたんだ!という感じになる

 

「今からお姉ちゃんを起こすから待ってて」

 

「頼む」

 

まだ4月が始まった布団を剥ぎ若干の寒さが襲われ眠気が覚めてしまいもう寝る気にはなれなかった。楯無は両手で俺の腕ごと両足で俺の足ごと抱き着いていた。非力な俺じゃあまず抜け出せないわな。簪はそっと楯無の脇腹をくすぐり始める。最初は身を捩る程度だったが時間が経つにつれて声を出す。こういっちゃあ悪いけど耳元で声を出されるのはやめてくれ

 

「あ、そこはやめて!」

 

「ここがいいんでしょお姉ちゃん。というよりもう起きてるよね?」

 

「起きてる!起きてるからやめて!」

 

ようやく俺から離れてくれたようで自由になった。てかこんだけ騒いでても起きない本音も凄いな。俺なら起きて説教するまであるぞ

 

「おはようお姉ちゃん。早速で悪いけど説教ね」

 

「アイエェェ!?説教!?説教ナンデ!?」

 

「お姉ちゃんが七実と一緒に寝ていたから。しかも侵入してまで。それとも織斑先生に報告していいんだったらするけど」

 

「それだけはやめてちょうだい!私死んじゃうから!」

 

いつも思うがあの喧嘩以来楯無は簪に負けてばかりだ。今もこうして負けているのだからそうに違いない

 

「ギルティ。ということで否応なしに報告してくるから虚さんに」

 

「対象が変わっただけで私死んじゃうわよ!助けてナナえもん!」

 

俺に涙目で縋る楯無だが今の俺は安眠を妨害されている身だ。助けてやる義理は無い

 

「俺に振るな。潔く逝ってこい」

 

「もしもし虚さん?朝早くごめんなさい。今お姉ちゃんが」

 

簪は虚に電話して完全に退路を断った。残念系姉こと楯無よ、俺の睡眠を妨害した報いを受けてこい。しばらくすると虚がやってきて楯無を強制連行していったが俺は寝る気になれずそのまま起きることにした。簪はまたしても溜め撮りしていたアニメを見始めるが暇すぎてしょうもない。朝飯でも食ったら歩行訓練でもしよう

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回から原作開始です


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巡り合わせする因果

 

いよいよIS学園での学生生活初日だが入学式は執り行わないらしい。これは授業日数的な問題で他の高校に比べ一般教養の他にISの授業を入れなければならないためだそうだ。俺は山田先生からその話とISにおける法律、学校の校則が書かれている厚さ7cm位の冊子を渡され覚えなければならなかったがISに関する項目は全て知っていた・・・というよりよくよく思い出してみると転生した時に何を願ったかを思い出したら当然だと思う。この世界における知識とか言っていた記憶があるような無いようなだけど多分そうだと思う。そんなこんなで覚えることなんてあんまりなく無事初日を迎えることができた。ちなみに動けるようになってから歩行訓練を始めたがまだ人の手を借りないとろくに歩けなかったためまだしばらくは車椅子生活を余儀なくされそうだ。俺は本音と同じクラスになり1組に向かっていた

 

「同じクラスだよななみん!」

 

「本音が羨ましい・・・」

 

「こればかりは仕方ないだろう。こんなんでも男性IS操縦者は両方1組だからな」

 

ここに来る前に張り紙にてクラス分けがなされていたがその中に一夏と俺はどちらとも1組になっていた。保護のために一緒にまとめたと言えば簡単なのだろうがこちらとしては比較対象と取れるような組み合わせだと思う

 

「ここか。また後でな」

 

「うん、お昼に迎えに来るから」

 

1組の教室の中に入るがまだ時間が早いためか3,4人程度しかいなかった。俺らが教室に入ると嫌な顔をする奴や黄色い声をあげる奴といるが俺はただ暇を潰すか。俺の席は窓側の一番後ろの席だった。そこからはただ空ばかりを眺めていると徐々に教室内が騒がしくなり鐘が鳴ると山田先生が入ってくる

 

「おはようございます!私はこの1年1組の副担任を担当します山田真耶です。1年間よろしくお願いしますね!」

 

山田先生の紹介に誰も反応せずただ静かになった。先生は涙目になるもそのまま続行し始めた

 

「うぅ・・・そ、それじゃあ出席番号順に自己紹介をお願いしますね」

 

自己紹介ならある程度適当なのと自分の思いの丈を言うことにしよう。特にデマまがいの俺の情報についてだがな。簪には悪いが楯無からある程度は聞かせて貰ったが被害者である俺まで犯罪者扱いされてんだよ、あのクソ共が俺を殺そうとして逮捕されたようだがそのことを児童の殺害未遂した犯罪者の息子ということになっていたのは改変し過ぎだと思う

 

「織斑君?織斑一夏くん!」

 

「は、はいっ!」

 

どうやら一夏の番が来たみたいだ。あいつがどんな自己紹介をするのかが楽しみだ

 

「あ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね?で、でもね自己紹介が「あ」から始まって今「お」の織斑くんなんだよね。だからね、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?ダメかな?」

 

いやテンパりすぎですよ先生。たぶん一夏は慣れない環境のせいで緊張してるだけだと思いますよ。俺にとっては緊張するだけ無駄だと思っていつも通りを貫いてますけど

 

「いや・・・そんなに謝らないでください。自己紹介しますから」

 

「本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ、絶対ですよ!!」

 

・・・本当にこの先生大丈夫か?

 

「織斑一夏です・・・以上!」

 

「お前は満足に自己紹介もできんのか!」

 

立ち上がって名前だけを名乗った一夏は織斑先生に背後から出席簿で頭を叩かれ快音が響き渡る。てかあれは体罰じゃないのか?

 

「げぇ!?関羽!?」

 

「誰が三国志の英雄か!この馬鹿者!」

 

再度出席簿で頭を叩かれる一夏。もしかしてあいつは学習しない馬鹿なのか?だとしたら馬鹿ではなく馬夏と命名しよう

 

「織斑先生、もう会議は終わったんですか?」

 

「あぁ無駄に長引かされたがな。それはともかくクラスの挨拶を押し付けてすまなかった」

 

織斑先生は山田先生と入れ替わり教壇に立つ

 

「諸君、私が織斑 千冬だ。君達カラ付きのヒヨコ共を一年で使えるヒヨコにするのが私の仕事だ。私の言うことは絶対だ。反論は許さん。返事はハイかYesのみだ。出来ない奴はみっちり扱いてやるからな?」

 

発現のそれがもう独裁者かなにかだった。いやおかしすぎるだろ。拒否権ぐらいは欲しいんですが織斑先生の紹介が終わると一斉に黄色い声が沸き立つ。さすがブリュンヒルデだとは思うがこれは流石におかしい。もうこの域は信者、狂信者の域まで達してると思う

 

「毎年毎年、よくもこれだけ似た様なのを集められるな・・・わざとか?」

 

「なんで千冬姉がぁ!?」

 

「織斑先生と呼べ馬鹿者」

 

3度目出席簿チョップ。二度あることは三度あるという言葉をこの目で確かに見た気がする。簪風に言うのであればフラグ回収乙だろう

 

「そういえばどこまで自己紹介が終わったのだ山田君?」

 

「一夏君のところまでです」

 

「分かった。鏡野自己紹介しろ」

 

ようやく俺ですか。俺は立ち上がることができないのでせめて分かりやすいように教壇の方に車椅子で移動した

 

「名前は鏡野七実。趣味は空を眺める事と天体観測。今はリハビリ中で車椅子を使っているがその内歩けるようになるとは思う。それとニュースで俺がどんな奴かを知っているかもしれんがあれは重要なところが改変されているということは覚えていて欲しい」

 

一礼するが特に声が上がることは無かったが本音や少数の人は一応拍手をくれた。俺は元の席に戻るなり重要なことを思い出した

 

「詳しい話を聞きたい奴は織斑一夏の二つ後ろにいる本音とやらに聞いてくれ」

 

「ちょ、ななみん!?」

 

これである程度は逃げることができるだろう。すまんな本音、いつも迷惑を掛けられている迷惑料()だと思って受け取ってくれ

 

「さぁ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからみっちりと基礎知識を頭に叩き込んでもらう。その後実機を用いた実習となるが、基本動作は半月でこなしてもらう。良ければ返事をしろ。まずくても返事だ。私の言葉は絶対だからな」

 

やっぱり独裁者なのか?

 

 

 

一夏サイド

 

こんなところ(IS学園)に来てこんなことになるなんて思ってもいなかったぜ。それにももう一人の男性IS操縦者の鏡野七実だっけか?雰囲気が千冬姉に似てるのはなんでだろう?聞いてみるか。俺は七実の元に向かった

 

「えっと鏡野七実でいいんだよな」

 

「ああ」

 

こいつはさっき言っていたように趣味である空を眺めることをやめずにこっちにそう言った。随分と失礼な人だな

 

「俺は織斑一夏だよろしくな」

 

「よろしく」

 

「もうななみん!酷いよ!」

 

多分七実と友達であるだろう袖がダボダボな女の子が顔は笑っているけど口では怒っているような言い方をして七実の背中を叩く

 

「いつも迷惑を掛けてるだろ。その嫌なお返しだ」

 

「ほえ?そんなことしたっけ~?」

 

「はぁ・・・」

 

「あ、いっちーもななみんの事が気になったの?」

 

いっちー?・・・あぁ俺か!初めて言われたぞそのあだ名

 

「んまぁそんな感じかな。えっとお名前は?」

 

「私はね~布仏本音だよ~のほほんでいいよ~」

 

「おう、分かったぜのほほんさん。それはともかく七実って俺とどこかであったことあったけ?なんか懐かしいというかなんというか千冬姉みたいな雰囲気を「無いと思う」だよな」

 

食い気味で返してくるがどこか声が弱弱しく感じたのは気のせいか?でもどこか懐かしいとは思うんだよな

 

「ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

声の方に顔を向けるとISが開発されたことで転校せざるを得なかった篠ノ之箒がいた。身長から何まで成長していて少し分かり辛かったが面影があってすぐに分かった

 

「もしかして箒か?」

 

「此処ではなんだ、外で話したい」

 

「わかった。ごめんな七実にのほほんさん」

 

「大丈夫だってななみんは逃げられないもんね~」

 

「うるせぇ・・・まぁ行ったらどうだ?」

 

失礼な奴だけどなんだかんだで好感が持てるとは思う。これから2人しかいない男性IS操縦者として一緒に頑張ろうな!

 

 

 

七実サイド

 

正直気さくで良い奴だとは思う。ただそこで止まっている、確かにどこかであったと聞かれればはいと答えたいがその実、生まれてすぐなんて言えるわけがないし似た雰囲気だってするだろうさ。何せ本当はお前の兄なのだから

 

「はぁ・・・」

 

「また溜息ついてる~幸せが逃げちゃうよ~?」

 

「なら俺に平穏をくれ。それが今の俺が幸せと感じるものだ」

 

腫物を触るような目、奇異なものを見る目と様々な目で見られることには至極どうでもいいが正直うんざりはする。客寄せパンダじゃないんだぞ俺は

 

「ねぇ七実・・・君?」

 

「あ、まどっちだ。やっはろー!」

 

「?や、やっはろー?」

 

まどっちなるやつは俺に近づいてくるが正直あんまり興味は無い。それがもし絶世の美女でもたぶん変わらないとは思う・・・いやその時にならないとわからないな

 

「・・・なんだ?」

 

「こっちを向いて話してよ」

 

「はぁ・・・はいは・・・い」

 

一応要望通り振り向くがそこには織斑先生を小さくしたような感じの女の子がいた。予想だがこいつが円華か?

 

「ありがとうね。私は織斑円華、一兄さんとちー姉ちゃんの妹だよ」

 

「そうか。お前が・・・」

 

これで俺が知る限りの家族が全員揃ったのか。なんとも因果な世界だ。長女は世界最強の名を欲しいがままにした人で次男は最初の男性IS操縦者、次女は現日本代表候補生。最後に生き別れ前世での記憶を持つ憐れな長男か、もう何がなんだかわからなくなるな

 

「少し調べたけど七実君が関係ないのは知ってるつもりだから安心して」

 

「そうか」

 

確かにニュースは莫大な情報源となるが伝える側が意図して改変をしてしまえば真実は完全に闇の中になってしまう可能性だってある。だがこうして自分で調べてみる奴は本当に関心が高い

 

「これから兄共々よろしくね」

 

「こちらこそ。それと七実でいい」

 

「わかった。それと本音ちゃんくれぐれもお兄ちゃんを誘惑しようとしないでね!」

 

「ほえ?」

 

俺からは何も言わんぞ?確かに簪から聞いた通りにブラコン気質があるようだが一夏が誰と恋仲になるかなんてわからないのだからな

 

「このたわわと実った「貴様は痴女か!」いったぁい!」

 

鐘が鳴る寸前で教室に入っていた織斑先生によって魔の手(円華)から逃げることができた本音だが俺を楯にして後ろに隠れていた

 

「まったく男の前で貴様は何をしてるのだ」

 

「うぅ・・・だってのほほんがお兄ちゃんを誘惑しようとするかもしれないじゃん!」

 

簪が言っていたのはこういうことか。さすがブラコンだ。ほぼほぼ楯無と同じじゃないか、対象が違うだけでこうなるのか

 

「それだとしても鏡野の前でするのはおかしいだろうが」

 

「むー!」

 

ふくれっ面になる円華だがなんだこの状況。似た顔で呆れた表情をしているのとふくれっ面になっている2人が対面するまったくもって奇妙な光景である

 

「もうお姉ちゃんのお小遣いは減らしてやる!」

 

「ちょっと待て。それは勘弁してくれ、そうなったらどうやって私のストレスを解消したら・・・」

 

急に脱線し始めたぞ。まぁいいや授業が本格的に始まるまで外を見ていよう。余談だが何処かに行っていた一夏と箒は教室に戻って来たのは授業が開始した後だったので本日4度目の出席簿チョップを喰らっていたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

この作品だけなぜか筆が進む謎。他の2作品はもたつくのになんでだろう?


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入れ替わる私

ISにおける授業を受けるも知っている内容だったため聞き流していた。ちょくちょく一夏はこちらや箒とやらの方を見てくるがもしかしてあいつは勉強がダメな奴なのか?

 

「織斑君に鏡野君、どこか分からないところがありますか?」

 

「大丈夫です」

 

一応手元には馬鹿のように分厚いISにおける法律の本は持ってきているし既に覚えているから何の心配もない。これでも小中での勉強もできて成績も上位だったから普通科目でも行けるはずだがこのIS学園は入試の難易度は高く通常の高校よりも授業速度は高い。本音は勉強が苦手だったはずだがよくここに入れたな

 

「先生!」

 

「はい織斑君、何でも聞いてくださいね」

 

「ほとんどわかりません!」

 

クラスにいるほとんどが机に突っ伏した。いやいや俺が男性IS操縦者として発見される前にISを起動しているお前の方がなんでわからないんだよ?

 

「織斑兄。必読の冊子は読んだか?」

 

「古い電話帳と一緒に捨てたと思うぅ!?」

 

またしても快音を響かせ一夏の頭に振り下ろされる出席簿チョップ。頭を押さえ悶絶しながら椅子に座る一夏

 

「再発行するから1週間で覚えろ。いいな」

 

「いや1週間なんて「覚えろいいな」わかったよ千冬ね・・・織斑先生」

 

「山田君授業を再開してくれ」

 

「は、はいっ!」

 

授業が再開される。しかしつまらない授業からは逃げ出したくなるがあの出席簿チョップだけは食らいたくないから一応ちゃんと受けておこう。無事授業が終わり騒がしくなる教室だが俺はただ空を見ている。だだ流れる雲を眺めるだけでも時間を潰せるもんだ

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「なんだ?」

 

一応振り向くと金髪の縦ロールの如何にもお嬢様らしい女子がいた

 

「なんですの、その対応は!」

 

「これが俺だ」

 

「これだから男というのは嫌ですわ。ちなみにこのわたくしを知っていますわよね?」

 

さも当然知っているかのような口ぶりだが知っているわけは無い。何せまずあまり関わりを持とうとは思っていないのだから

 

「知らんし興味ない」

 

「なんですって、わたくしの事が興味ないですって!?」

 

「ああそういった」

 

「も~ななみんダメだよ~」

 

金髪の後ろからひょっこりと顔を出す。するとこの金髪は大変よく驚き慌てふためる

 

「ごめんねセッシー。ななみんはいつもこんな感じなんだ~」

 

「セッシー?」

 

「セシリア・オルコットだからセッシーね~」

 

面倒臭くなり空を眺めようとするが本音に頭をテシテシと叩かれる

 

「ななみんもダメだよ~?」

 

「男だから嫌といわれたから俺は突き放しているだけだ。もしその言葉が無ければ変わっていたかもしれん。以上」

 

そうそんな理由で嫌といわれたら俺としてもどうしようもない。歩み寄るどころかすでに違えているのだから

 

「それでもだよ~本当は優しいのは知ってるんだよ~?」

 

「ふん。()()()()()()が優しいですって?」

 

更にこういう風に言われたならもうこいつとは関わりたくない。あんな奴が親など認めない。周りの女子の数名は笑い出すが真実を知らない奴がそう言っているだけだ。例えばニュースだけを見てそれを信じ切ってしまうとか。それは本音も分かっているようで俺の頭に置いた手が少し震え始める

 

「だいたいなんですの?犯罪歴が身内にいる家庭で育った方がこの学園にいること自体間違っていますわ」

 

「はいはいそこまでにしておきなさいセシリア」

 

これを止めたのは俺や本音、ましてや先生でもなく円華だった

 

「おや日本代表候補生の円華さんじゃないですの」

 

「あなた、自分で何を言ってるのか分かってる?」

 

「分かっているつもりですわ。だって()()()()()なのでしょう?」

 

「っ!」

 

本音は何かを言おうとし俺の頭から手を放すがとっさにその手を捕まえた。この手の奴に何を言っても無駄というのが分かっているからの行動だ。世間知らずなお嬢様は嫌いだ

 

「やめておけ本音」

 

「でも!」

 

「あら何かあるのかしら?」

 

「何一つ当たっていない物を真実と言い張る馬鹿に付ける薬はないと思っていただけだ」

 

「なんですって!」

 

「貴様ら席に着け、授業を始めるぞ!」

 

丁度いいタイミングで入ってきた織斑先生には感謝せざるを得ない。今すぐに喧嘩でも勃発しかねん状況で入ってきてくれたからだ。クラスの生徒は全員自分の席に戻るが本音はいつもの眩しい笑顔ではなくどことなく悔しそうな雰囲気を漂わせていた

 

「本当はSHRで決めるべきだったのだが、再来週に行われるクラス対抗戦に出場するクラス代表を今の時間を使って決めようと思う」

 

どうせ俺は立候補されることは無い。なぜならばこのクラスには日本代表候補生である織斑円華が存在するし俺は嫌われものだ

 

「クラス代表者は、対抗戦等の代表選手になる他、生徒会の開く会議や委員会への出席。また、私達教師の補佐もする事がある。要は学級委員だな。再来週のクラス対抗戦は現時点でのクラスの実力を測るものだ。現時点では大して実力差は出ないだろうが、そう言ったイベントは競争力を生み全体の向上心に繋がる。特別な事情でもない限り、一年間は務めてもらうからそのつもりでいろ。ちなみに自薦他薦は問わんからな」

 

「はい。私がなりたいです」

 

円華は手を上げ自薦した。これが普通であるべき姿のいい見本だ。だがしかし周りはそう行かず一夏を推薦していく。確かに注目はされやすくなるだろうがそれは傲慢というもの。経験者と未経験者では実力は段違いだ。ならば効率よく実力者がなるべきだろう

 

「お、俺!?俺はなりたくない!」

 

「他薦されたのだから諦めろ」

 

「だったら俺は七実を推薦する!」

 

なんで俺を推薦するんだよ・・・てか巻き込むんじゃねぇよ。ダメだ一夏は良い奴かと思ったがそりが合わない。そう感じ肩を落とす

 

「待ってください、納得いきませんわ!」

 

金髪は立ち上がり反対の意を示そうとする

 

「この代表候補生であるこのわたくしセシリア・オルコットが選出されないのですか!そもそもこのような選出、認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!この貴族であるわたくしに一年間屈辱を味わえと言いますの!?」

 

いちいち癇に障る言い方だな。お嬢様ってのはこうやってヘイトを稼いでいくのか?

 

「だいたいなぜこんな下賤な男まで推薦されているのですか!」

 

オルコットは俺の方を指さししてくる。下賤な男とやらはやはり俺のようで本音の方を見るといつになく真剣な表情でセシリアの事を睨んでいる。こんな本音を見るのは初めてだ

 

「やりたいんだったら織斑円華よろしく自薦しとけ。それとも何か?推薦されて当然だとでも思ったか?」

 

「ええその通りですわ。この学園で1番の実力を持つ私がクラス代表を務めるのが1番ですわ!」

 

なら楯無や教師陣をタイマンで相手にしろとか言ってみたい。間違いなくフルボッコにされるだろうからな

 

「特に貴方が気に入りませんわ。この場で決闘を申し込み負けたら私の小間使い、いえ()()にしますわ!」

 

おい今この金髪はなんて言った?奴隷?おいふざけんじゃねぇよ・・・何が悲しくてまたあんな生活しなきゃいけぇんだよ!自由も権利も人権も何もかもを奪うことの何がいいんだよ!自然と俺の心臓の心拍数が増えていき呼吸も荒くなり視界も白くなりやがて意識がなくなっていった

 

 

 

本音サイド

 

ななみんの様子がおかしい。セッシーから決闘を申し込まれあまつさえも人権を損なう発言をされた辺りから呼吸が乱れているように感じた。私は一応授業中にも関わらずななみんの傍に近寄ろうとし立ち上がった瞬間ななみんがいる方から大きな音が立ちその方を見てみると力なく机に頭を打ち付けたななみんが目に映った

 

「鏡野大丈夫か!?」

 

私と織斑先生はななみんに近寄り体を揺するが全く反応を示さないが脈はあるようだったので気絶したようだ

 

「あら?わたくしに恐れおののき気絶してしまったのかしら?」

 

「ふざけないでよっ!」

 

さっきも言ってたけどななみんの過去も知らないでよくもそんなことを言える!私は思いの丈をぶちまけようとしたら頭に手を乗せられた

 

「いや~面白いこと言うねセシリア・オルコットちゃん」

 

「ほえ?」

 

聞こえてきたのは織斑先生の声でもなくななみんの声だった。だけどおかしいいつものななみんの声だったらもっと冷たいような声だけど今の声は温かみのある声だった。振り返ってみると口角を上げ目は髪で隠れているが笑っているかのような表情だった

 

「あなた何を言っていますの?」

 

「質問を質問で返すようで悪いんだけど君こそ何を言っているのか分かってるのかな()()()()代表候補生ことセシリア・オルコットちゃん」

 

ISを起動してからというもののこういうことに関して一切調べてこなかったななみんが的確にどこの国の代表候補生を当てていた。まぐれだとしてもこんなことはありえない。その数は200を変えるのだから

 

「君の言葉は国家の言葉と同義なんだよ?なのに人権を無視させるような発言はいただけないかな。それにこうして()を出したのもマズかったね。君、余程の愚か者と見えるよ」

 

「このわたくしを侮辱しますの!?」

 

「先に()を侮辱したのは君だ。()は違うけどね。まぁそれはどうでもいいし関係は無い。さて本題だ。君は()に何も知らないくせに知ったふりをして言ってはいけないことを言った。あまつさえ君は愚行を犯したくせに何気ない言葉で()()()と苦しめたことをしようとするんだから困ったものだよ。さてセシリア・オルコット、後はわかるよね?」

 

ただ私と織斑先生、クラスのみんなは見てるしかできなかった。彼の一人称が崩れおかしくなり徐々に狂気を孕んだ声で問いかける彼にはセッシーも黙ってしまった

 

「ここで何か反論がすぐに出てれば面白かったけどもう時間切れみたいだ。本音ちゃん()の事気にかけてくれてありがとうね」

 

「へ?」

 

先ほどの狂気を孕んだ声ではなく温かみのある声に戻り私の頭を撫でてくれた。私には何が起こってるのか分からず理解するのにしばらく時間がかかった

 

「一夏君と円華ちゃんそれに千冬ね・・・これはまだ言っちゃいけないんだったっけ、じゃあね千冬先生。気絶するんで後はよろしくお願いしますね~」

 

そういいまたしても力なく倒れたななみん。だが今回は織斑先生によって支えられ頭を打ち付けることは無かった。クラスを覆っていた緊張感にも似た何かがなくなり一斉にざわめき始める

 

「静かにしろ!しばらくここを離れるが自主学習とする。それとオルコットは昼休みに生徒指導室に来い」

 

「なぜですか!?」

 

「先ほど鏡野が言っていた通りに貴様は言ってはならないことを言ったからだ。それと布仏一緒についてこい」

 

「あ、はい。わかりました・・・」

 

車椅子を引き先に行ってしまった織斑先生。私はセッシーに近づきこれだけは言っておかなけらばならない

 

「セッシーがあんなことを言ったのは許さないから」

 

その後は何も聞かずただ織斑先生とななみんを追って教室を出た

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

やりたいこと第2弾です・・・セッシーにはどんな結末が待っているのでしょうかね?


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表裏一体の歪んだ鏡

保健室に到着し中に入るが誰もいない。そんな中織斑先生はななみんを軽々と持ち上げベッドで寝かせる

 

「さて布仏妹。鏡野の事で話がある、さっきの鏡野は一体なんなのだ?」

 

「さぁ~?私も初めて見たので分かりませんよ~」

 

7年以上の付き合いがある私でもあのななみんの豹変ぶりには驚かされた。でもおかしな点はいくつか上がっている

 

「本当か?いや、疑うわけではないがそれでも気になることがいくつもあるはずだ」

 

「ん~まぁそうですね~。一人称が崩れて俺や私と混在になってましたし~、セッシーがどこの代表候補生かも知らないのに的確に当ててますしね~」

 

「前者は混乱してああなっただけだと思うが、後者に関しては調べたのではないのか?」

 

「教室で興味ないし知らんって言ってましたよ~」

 

それに私の中ではもう1つ気になることがあった。なぜ何十年も苦しめたという一言をつかったのだろうか?確かに苦しめられたはずだけど、その年数は10にも満たないはずだからだ。何せ彼が体を動かせなくなったのは7歳の時で、それ以降は幸せな生活を送っていたのだから

 

「謎が出るだけで答えは闇の中・・・か。この時間はこいつの看病をしてやってくれ布仏妹、ここの担当が出張でいないのだが、山田君も今は電話の対応で来られんからな」

 

そういい織斑先生は保健室を出ていく。この授業は自主学習になるはずだから大丈夫なはず、そう思いななみんのお世話をすることにした

 

 

 

七実サイド

 

俺が目を覚ますと見知らぬ天井が目に映る。周りにはカーテンみたいなもので囲まれ、ベッドの上で寝ていたみたいだ。どうしてこうなったか思い出すと、あの金髪に奴隷と言われた後の記憶がないということはそこで気絶したのか?授業の始まりか終わりかもわからない鐘が鳴る。鐘が鳴って少しすると誰かが入ってくる音が聞こえてきた

 

「七実起きてるかな?」

 

「分からないよ~」

 

入ってきたのはどうやら簪と本音だった。ベッドの周りを仕切っていたカーテンを開けると、安堵したような表情を浮かべる2人

 

「ななみん大丈夫~?」

 

「気絶した以外は大丈夫だ、それよりも次の授業はお前ら大丈夫なのか?」

 

「え?だってもう昼休みだよ」

 

俺が気絶したのは2時間目だ。ということは2時間近くも気絶していたということになる

 

「そうか」

 

「それよりも七実、何があったか覚えてる?」

 

「・・・すまん。あんまり思い出したくない」

 

覚えているが思い出そうとするだけで、まるで頭蓋骨に杭を打ち立てられるような頭痛がしてくる。だが心配させるわけにはいかないと思い、平静を装うことに決めた

 

「それにしてもななみんの様子がおかしくなったのはなんで~?話し方も変わったのも一人称も崩れてたし~」

 

「すまんがそれは覚えていない」

 

本音が言っていたのは本当に覚えていない。俺の記憶はセシリアのところで途切れているからだ。一度も一人称を崩した記憶も無いし、話し方を変えたことはあるがそれは目上の人間にだけで、たかが代表候補生の為に変える必要も無いと思っている

 

「本当~?」

 

「これに関しては嘘偽りが無いと誓える。俺は何も覚えていない」

 

「そうなんだ~」

 

「七実君起きてるかしらって、簪ちゃんに本音ちゃん来てたのね」

 

今度は楯無と虚が入ってくるが、楯無はどこかイラついているようにも見えた

 

「七実さん大丈夫でしたか?」

 

「まぁ一応は」

 

「それよりも七実君。あのイギリス代表候補生のことどう思っているのか教えて貰えるかしら?」

 

オルコットの事か。確かにあいつのことは嫌いだ。だが一部を除きあいつの言い分も分かる気がするが、それでも言ってはならないことを言ったのは確かだ

 

「嫌な奴だ。あまつさえも俺の過去を再びほじくるようなことを言ったしムカついた」

 

だが彼女も人間だ。規模が違えど間違いを犯すこともあるだろう。たとえ()()()()()と思われようがこういうだろう

 

「だが1度だけは許す」

 

何せ俺はあの前世から既に狂っているのだから

 

 

 

楯無サイド

 

本音ちゃんから七実君に何があったかを聞いた。それは彼の過去をほじくり返す内容で、さすがの私も激昂しかけた。でもこれは聞いておかなきゃいけないと思い聞いたが、私達はどこかで気が付けばよかった。彼が他人より大人びているのではなく狂っているのだと

 

「・・・」

 

ここにいる私を含めた4人は言葉を発することができなかった。七実君の発言は予想できるものではない。普通ならキレて殴りかかるであろうことをあたかも当然のように許すと言ったのだ

 

「ち、ちょっと待ってちょうだい。今許すって言ったかしら?」

 

「ああ。人間誰しも間違いはあるものだ、規模の大小かかわらずな」

 

「それとこれは違う!七実はまたあの頃に戻るつもりなの!?」

 

簪ちゃんは声を荒げて彼にそう言った。私もそう思うし虚ちゃんや本音ちゃんもそう思っているはず。でも彼は違った

 

「あれは賭けだが、そもそも勝負すると宣言も無しに勝手にそう思い込んでいるだけだ。そこからがすでに違う」

 

「でも!」

 

「一旦落ち着きましょう簪ちゃん」

 

涙を浮かべて必死に伝えようとするけど、冷静にならないと伝えれるものも伝わらないと思って止めた。そりゃ彼がこんなにもおかしい考え方をしているとは私も簪ちゃんも思っていなかった分、心情的ダメージが大きい

 

「七実さん失礼します」

 

虚ちゃんは彼の頬に平手打ちをした。なんでこんなことをしたかは分かる。こんな異常とも言える発言が許せなくてしたのだろう

 

「確かに仏の顔も三度までという諺もあります。しかし今回の事は許されるものではありませんよ」

 

「知っている。知っているからこその発言だ」

 

「それでもあなたはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットを許すのですか?」

 

「そのつもりだ」

 

やっぱり狂っているとしか思えない。どうして彼はこんな考えをできるのだろう?更識という対暗部組織のトップになった私ですら、こんなにも狂人ともとれる考えは持ち合わせていない

 

「だがあいつには目にものを言わせてやるつもりだ。あいつが俺の事をどう思っていようが、それだけは決定事項だ。4人とも俺に力を貸してくれないだろうか」

 

その場で頭を下げそう訴える。あの考えは確かに狂っているが、よくよく考えてみれば負けなければどうということは無い。彼の実力は打鉄を纏った織斑先生でさえ上回ることは私達は知っている。目くばせで確認を取ると、虚ちゃんと本音ちゃんは了承してくれた

 

「簪ちゃんはどう?」

 

「七実の考えはおかしい、狂っているけど今回は置いておく。でもいつかは直させるから」

 

「・・・勝手にしろ」

 

いつも彼は肯定の場合こう言う。捻くれて考えが狂っている今の彼にはあまり考えを肯定はしたくないけど、またあんな生活に戻ってほしくない

 

「分かったわ。力を貸すけどその代わりに絶対に勝つことが条件よ!」

 

「助かる」

 

さてどんなメニューを組んでやろうかしら?そう考えるや否やそろそろ次の授業が始まりそうな時刻になっていた

 

「さて明日から本格的に行くから期待しておいてね」

 

「体力の事だけは気にかけてくれ」

 

「だーめ。さて出るわよ」

 

私達は保健室を出た。簪ちゃんも元に戻ったみたいで元気に駆け出して行った。さーてこれから忙しくなるわね

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

さてみんながどうなることやら?


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鏡に映る二色

 

 

あれから1週間経ち、クラス代表を決める為の勝負が開かれ俺は第1アリーナのピットに来ている。この1週間はアリーナが整備ということで使えなかったが、その代わり戦い方を映像を見ながら叩き込まれた。しかし俺のISは素の状態で戦える訳がないが虚曰く、やり方を知っているだけである程度の対策は取れるそうだ。まぁそんな感じで1週間が経過し今に至る

 

「なぁ箒。俺にISの事を教えてくれるんじゃなかったのかよ」

 

「ふん!」

 

「おい!」

 

どうやら一夏は箒という奴にISの事を教わろうとしたがダメだったらしい。お前には円華や織斑先生がいるんだからそっちに頼めばいいものを。というよりも近くで騒ぐな

 

「煩い。騒ぐなら外に出ろ」

 

「なんだと!」

 

というよりもここは選出された4人と山田先生、織斑先生以外立ち入り禁止のはずだがなぜいるんだ?

 

「そもそもなぜ部外者がここにいる」

 

「私は一夏の関係者だから問題ない」

 

そういう意味じゃないんだが・・・とりあえず箒とやらがどういう奴かが垣間見えたような気がする。円華や山田先生は思わず苦笑を浮かべているしな。それよりも最初は一夏とあの金髪が対戦するはずだが一向に一夏のISが現れない

 

「まだ来ないか・・・鏡野行けるか?」

 

「まぁ」

 

静かに精神集中でもしてリラックスでもしようかと思っていたがそうはいかなかったみたいだ。到着するまでの間の時間を稼げとのことらしい。仕方なく俺のISを起動させるが<打鉄>になっていた

 

「おい鏡野。まさかとは思うがそれでいくのか?」

 

「いやそのつもりは無いが・・・」

 

織斑先生がどっちの心配をしているかが分からない。俺のISが<打鉄>であることか、それとも<打鉄>で戦うのがマズイか。そんな心配をしているとモニターに文字が表示された

 

勝手に決めちゃってごめんね。でも私()許せないんだ。たった1発でもいいからぶちかましちゃって

 

・・・いや待て。何かがおかしい。なんで『()』なんだ?俺の考えていることはお見通しのようで新たにモニターに文字が表示される

 

俺が気絶した時に私が俺として出ちゃったんだよね。メンゴメンゴ。さて行くよ

 

本音が言っていた俺がおかしくなったというのも頷ける。全くもって面倒なことをしてくれた。だが今はやらねばいけないことがある。戦い方を教えてくれたあいつらの為にあの金髪を倒す。ピットを出て飛び立つと既にあの金髪ことセシリアは上空で待機していた。客席は生徒で埋め尽くされ、俺に向けての批難しか口に出さない。

 

「随分待たせてくれましたわね。それに訓練機で来るとは思いませんでしたわ」

 

「お前には何も見えちゃいない」

 

このISには機体名を偽るようなプログラムは無いが勝手に勘違いしてくれる分にはこっちとしてはやりやすい。俺は近接用ブレード『葵』を展開し構える

 

「それでは踊りなさい!このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でるワルツで!」

 

機体名<ブルーティアーズ>搭乗者セシリア・オルコット・・・締めにはあれを使わせてもらうか。セシリアは巨大なレーザーライフル「スターライトmkⅢ」を構えて発砲してくるが直線的過ぎて避けるのも簡単だった。まぁ、この機体(打鉄)を使っていた人が人だから仕方ないと思う

 

「なぁ!?」

 

「遅い」

 

まさか避けられるとは思っていなかったようで大変驚いているセシリアだが、そんな隙を見逃すわけもなく瞬時加速で近づいて、斬るのではなくブレードの刃の無い部分を使ってアリーナの壁に叩き付ける。しかし今は時間稼ぎをしろとの事らしいので追い打ちはかけない

 

「あなた舐めていますの!」

 

「さてな」

 

わざと煽るがこれにはちゃんとした理由がある。もしこの程度の挑発に乗るようなのであれば、ある程度こちらがやりやすいように動けるはずだ。しかし、この目論見は上手くいかなかったようで落ち着いた様子で飛行を開始された

 

「それに今、瞬時加速をしましたわね?」

 

「だったらなんだ?」

 

「とても初心者ができる技術ではないのにどうしてできますの!」

 

「教えてやる義理は無い」

 

葵を握りしめ、経験の中から構えを反映させる。織斑先生の構えしかないのだからそうなのだろうがな

 

「俺はお前の事が嫌いだ。お前が今、俺の事がどう思おうが知った事じゃあない。ただ俺はお前を叩きのめすだけだ」

 

ブースターを吹かしセシリアに接近していく。遠距離型の相手には近接は有効だそうで近づこうにも引き撃ちされ回避に手間取らされる。速度的なスペック差が大きいのだろう

 

「先ほどの威勢はどうしたのかしら?」

 

「仕方ない。機体名ブルー・ティアーズ、搭乗者セシリア・オルコット。起動しろMirror is mine(鏡は私の物)

 

2世代機の量産型ISと3世代機の専用機のスペック差は大きく、とてもじゃないがこの経験をもってしても瞬時加速で対応するしかなかったため作戦を変更した。スペック差を覆すには相手と同じ土俵にすればいい。俺のISは光を発して形を変え、俺の頭にセシリアの経験が頭に入ってくる

 

「お前は自分と向き合うことになる。俺のIS<M.M.>の力を見ろ」

 

「な!?」

 

搭乗者が違うだけで全く同じISに変化したことで動きを止めるセシリア。すまないがさっさと決めさせてもらうとしよう

 

「行けブルー・ティアーズ!」

 

ウイングスラスターから4機のビットを展開しセシリアの周囲に飛ばし縦横無尽に動き回り射撃を始める

 

「なんで!なんであなたが<ブルーティアーズ>を!?」

 

「さてな。とっとと落ちろ」

 

セシリアもビットを展開することができるがその最中は一切動くことができないらしい。射撃に徹するか、ビットを使うために射撃を諦めるかしかできないセシリアは詰み状態だ。回避するも逃げ場が無く被弾し、SEが徐々に減っていくのが分かる

 

「こうなったらこれしかありませんわ!」

 

「させると思うか?」

 

セシリアはミサイルビットを飛ばそうとするが、俺はスターライトmkⅢを展開し、正確に狙撃し爆発を起こさせるとセシリアは地面へと落下していく。セシリアの機体はボロボロになってミサイルビットは既に使えない状況だった

 

「終いだ」

 

スターライトmkⅢを量子化させインターセプターを展開し、追い打ちをかけるように後を追いかけ<ブルー・ティアーズ>を斬りつける。そこでSEが尽きたようで試合は終了となった

 

「おいセシリア。お前が気に食わないと言っていた男に負けたな」

 

「くっ・・・」

 

「さてお前が負けたということはどういうことか分かっているだろうな?」

 

乗った覚えのない賭けの事を思い出したようで顔が青ざめていくセシリア。ようやく事の重大さが分かったようだ。もし俺が負けていたらゾッとする話だが2つほど逃げ道を作っていた俺には意味を為さないがな

 

「い、嫌ですわ!なぜあなたなんかに!」

 

俺は再びあの頃に戻るつもりもさせるつもりもない。セシリアが勝手に勘違いし勝手に思いあがっているに過ぎない

 

「やめろぉぉぉ!」

 

「あ?」

 

一夏が純白のISを操縦して俺に斬りかかる。しかし全方位確認できるハイパーセンサーのおかげで回避できた

 

「何してんだよ七実!」

 

「俺はこいつと話してただけだ」

 

「ならなんで青ざめてんだよ!普通に会話してたらそんなことになるわけ無いだろ!」

 

何を勘違いしているかわからないが元は俺の後ろにいるセシリアが原因だ。お前も聞いてたはずなんだがな

 

「織斑さん!この方がわたくしに酷いことをしようとしてきたのです!」

 

「ふざけんじゃねえ!」

 

セシリアの言葉で生徒はブーイングを起こし、一夏は激怒し俺の方に剣を掲げ突撃してくる。さすがに1度は許すとは思ったがもう許せるものじゃない。一夏の剣を躱し距離を取る

 

「やっていいことと悪いことがあるだろ!」

 

「どっちがだ」

 

体力もそろそろ限界だし一夏も落とすことにする。一夏の周囲にビットを飛び回らせ牽制しスターライトmkⅢで動きを予測し射撃をしていく。IS初心者である一夏は回避はするものの機体に掠ったりしているためどんどんSEを削られていく中、一夏は剣を振るい当てようとするも掠りもしない

 

「くそっ!」

 

「お前の考えはまともだ。だが俺に押しつけるな、迷惑だ」

 

一夏からしたら俺は悪で自分が正義なのだろうが現実は違う。今回の悪はセシリアでそれにそそのかされた一夏も悪なのだ。故に俺としては少なからず正義でも悪でもない

 

「それでは終いだ」

 

ミサイルビットを飛ばし一夏へと誘導させた。それに対して一夏はそれを斬り落とそうとするがそこをビットで剣を握っている手に射撃し剣を落とさせ見事命中し爆発する。それでもまだSEが尽きていないようだった。仕方ないがあいつのISを調べ機体名を割り出す

 

「白式か・・・機体名白式、搭乗者織斑一夏。起動しろMirror is mine(鏡は私の物)

 

またしても光を発して形を変えていく。スペック上では<ブルー・ティアーズ>よりも上で武器は『雪片弐型』しか積まれていなかった。織斑先生の構えを取ると一夏は目を見開いてこちらを見ていた

 

「それは千冬姉のだ!」

 

「さてな。とっとと落ちろ」

 

瞬時加速で接近しウイングスラスターを刺突し貫こうとした時、一夏はとっさに『雪片弐型』を振るい俺を斬りつける。同時にダメージを食らうと一夏のSEが尽きそのまま気絶していった。対して俺は違和感を覚えた。左肩から斜めに切られたのだが、その部分が異様に熱く痛みがあった。左腕を動かせば痛みが増したので急いで元いたピットに戻った

 

「貴様!男ならば正々堂々と戦え!」

 

戻るなり第一声がこの言葉。箒は俺のやり方に気に食わないようでそう言ったが、何を基準にしているのかは知らんがISでの戦いでは正々堂々と戦っているのだが。ISから降りるとなぜか楯無が車椅子を引いてこちらに歩み寄ってくる。てかなんで楯無がいる?

 

「お疲れ様七実君。それにしても大変だったわね」

 

「まぁ・・・ぐっ!」

 

楯無に肩を貸してもらったが、左腕を動かされると激痛が走り思わず声をあげてしまった。慌てて楯無を突き放して膝を着いた。右手で服の中を確認すると、まるで斬られたかのような痣が左肩から斜めに伸びていた

 

「大丈夫ですか七実君!?」

 

「ちょっと左腕が」

 

「どれ見せてみろ」

 

こんな状態の俺を見た織斑先生と山田先生は俺のジャージを剥いだ。露出した痣を見て驚かれるが、俺が一番驚いている

 

「鏡野、なんだこの痣は」

 

「わかりません。一夏に斬られた後に激痛が起きたと思い、急いで戻って確認したらこうなっていました」

 

セシリアと戦う前にはこんな痣は無かった。嫌な考えだが俺のIS<M.M.>がダメージを受けたら俺にまで同じダメージを受けるという考えだ

 

「そうか。更識姉、鏡野を保健室まで連れていけ」

 

「はーい、痛いかもしれないけど我慢してちょうだいね」

 

ジャージを着せてもらうがその際にも痛みが発生した。今度は右腕の方で肩を貸してくれて車椅子に座らせてもらった

 

「そうだ。鏡野は代表はどうする?」

 

「やるわけ無いです。そもそも巻き込まれた側ですしやる気ないんで」

 

「分かった」

 

「待て!逃げようとするな!」

 

保健室に行こうとするが箒に肩を掴まれ止められた。いち早くこの痛みを抑えに行きたいのだが

 

「邪魔だ」

 

「なぜ正々堂々と戦わない!剣があるのだから剣だけで戦え!」

 

箒はそういうがおかしい。剣しかない一夏ならともかく他にも武器があるのだから使う他ない。そこまで剣に固執するのであれば剣道でもやっていろ

 

「剣道ならともかくこれはISだ。剣以外にも銃器もある。そこまで剣に固執するなら剣道だけやっていろ」

 

「貴様!」

 

「はいはい、2人ともそこまでよ」

 

箒が熱くなり肩を掴んでいる手の力が強くなるところを払い、そそくさとピットを出ていく。背後からは箒の声がするがどうでもいい

 

「助かった」

 

「いいのよ。それにしても災難だったわね」

 

「全くだ」

 

本来、俺は何も悪くないのに全て俺が悪いかのようになってしまったが、ちゃんと知ってくれる奴がいるだけで安心ができる。あとはなる様にしかならんしな。車椅子を押されながら保健室に向かうのであった

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

追加設定

七実のIS<M.M.>がダメージを受ければ同じように七実の身体にもダメージが入り痣なります


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丸くは収まらない

クリスマス企画深夜0時投稿です!

それではベリークルシミマース


保健室で医療用ナノマシンを注入され痛みは引いたが痣は消えずに残っている。これは予想なのだろうが俺のIS<M.M.>が攻撃を受ければそのまま俺の身体にも同じように傷跡が残ると考えると使用するのにも躊躇われる。もしSEが切れたらどうなるかとか爆発に巻き込まれたら、銃器で撃たれたらと考えるにも悍ましい内容だが、いずれは経験せざるを得ない物だと思う

 

「七実お疲れ様」

 

「かっこよかったよ~!」

 

既に夜となっていて自室に戻っていた俺は簪と本音と一緒にゆっくりとしていた。今日の事を思い出そうにも悪者扱いされたことしか思い浮かばない。元凶は全部俺ではないのに、どうしてここまでの扱いを受けねばならんのだろうか

 

「それにしても今日のあれはなんだったの?一夏が急に襲い掛かって来たけど」

 

「どうせ俺を悪者と思ってやって来たんだろ。話さえ遮って重要なところを言いそびれた」

 

あの時、俺はセシリアに対してあの事は水に流そうと言おうとした。だがセシリアの口車に乗せられた一夏によって遮られてしまった

 

「あいつから見たら俺は悪に見えただろうな。何が本当の悪かも知らずに」

 

「大変だったね七実」

 

「まぁな。それよりもあの後はどうなった?2人をボコしてさっさと出ていったから知らんのだが」

 

簪と本音曰く、あの後はお流れになったらしい。セシリアの機体は俺がボロボロにしたせいで修復に時間が2,3日必要らしい。一夏は気絶してしまい既に起きているが念のために安静にする必要があるらしい。円華は戦える相手がいなくなったため不戦勝という扱いになり、さらに代表を辞退するみたいだ。一夏のIS技術を鍛えるために辞退したそうだが、なぜそこまでしようとするのかは不明だ

 

「そんな風に落ち着いたのか」

 

「そうみたいだよ~」

 

「あのイギリス代表候補生を倒すのは凄かった。射撃の腕は代表候補生の中じゃ上位に食い込む程だし」

 

「機体の性能差だろ」

 

そう俺が写し取った<ブルー・ティアーズ>はスペック通りの性能が出せるが普通はそんな風にはいかないらしい。せいぜい出せてもスペックの70%ぐらいだそうだ

 

「同じ形状の機体なのにスペック差とは、これ如何に」

 

「うっせ」

 

こんな風に会話をしている時が一番気楽で楽しいと思う。誰にも邪魔されずに会話ができる。前世ではこんなことしようものなら鞭打ちされたからな。そんなことを思っていると扉をノックする音が聞こえてくる。本音が確認しに行き扉を開けるとそこにはセシリアがいた

 

「鏡野さんに謝罪しに参りました」

 

自分で何をしたのか、何を言ったのかがようやくわかったようだ。しかし、やってしまったことは消せやしない。ただ許しを乞い全てが解決するなんてことは無い。セシリアはベットに腰かけている俺の目の前まで来て深く頭を下げた

 

「先日の事、申し訳ございませんでした!わたくしがもう何を言っても変わらないとは思いますがせめて、この謝罪だけは受け取っては貰えませんでしょうか?」

 

「随分と虫が良いなセシリア・オルコット。それに今日の事はどうした。お前が原因でこうなったにも関わらず無関係の一夏を巻き込み、その上で俺に敵対するように仕向けた。お前が俺の事をどう思おうが自由だが、そこに他人を巻き込むな。俺も他人も迷惑だ」

 

「そのことも申し訳ございませんでしたわ!」

 

謝るだけだったら簡単だ。上っ面だけで済むし内面を曝け出す必要も無い。しかし信用はどうしようも無い。崩すのは簡単だが築くのは難しいのだが、こいつは最初の段階で信頼を築くのを拒んでしまったから俺もそうした。たぶんこの部屋にいる簪や本音だって悪印象を持ってしまっているだろうしな

 

「謝って許されるとは思うな。それぐらいの事をお前はしたんだからな、自業自得だ」

 

「そ、そんな!」

 

身を寄せるように両腕で自分の身体を抱きしめ震え始めるセシリア。自分のしたことに責任を取れないようで賭けなどするなと思う。さしずめ必ず勝てるという慢心の元に言ったのだろうが俺のISが相手だったのが最後だったな

 

「俺はお前が嫌いだ。さっさと失せろ」

 

「待ってください!」

 

「いい加減にしろ。俺は失せろと言ったんだ」

 

もうどうすることもできないと感じたようでセシリアは大粒の涙を浮かべ部屋を出ていく。あいつにどう思われようが関係ないし興味ない。それに後は楯無の方でやってくれるだろう

 

「これでよかったのななみん?」

 

「これでいい。別にあいつがどうなろうが知ったことじゃないし、そもそもの原因を作ったのはあいつだ」

 

本音は扉を閉めて、俺の隣に座ってくる。後はあいつが何とかしてくれると思う

 

 

 

楯無サイド

 

部屋の中での会話は本音ちゃんの携帯から聞いていたから知っているけど容赦無く言ったわね。しかも重要なところは何一つ言わないなんて、ちょっとズルいわよ七実君。さて私は私の仕事をしましょうっと

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「っ!?」

 

大粒の涙を流しながら走っているセシリアちゃんを止めて目の前に出る。走るのは校則違反だけど今日のところはお咎め無しにするわ

 

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットちゃんで間違いないわよね?」

 

「うっぐ・・・その通りですわ」

 

私が出たことで一旦泣き止んだ。話の内容は知っているからあれだけど少し罪悪感を感じちゃうわね。いくら私が生徒会長である程度の権限が与えられているからってあまりこういうことはしたくないのだけど七実君の事でもあるから仕方ないわね

 

「そういうあなたはどちら様ですの?」

 

「私?私はこのIS学園の生徒会長の更識楯無よ」

 

セシリアちゃんは目を見開いてこちらを見てくる。こんなんでも現ロシア代表なんで名前を聞いたら知っているわよね

 

「驚くのはいいけど話があるわ」

 

「な、なんでしょう?」

 

「あなたの事よ。セシリアちゃんは1週間前に鏡野七実君にとんでもない賭けを申し込んでいた。間違いないわね?」

 

「・・・はい」

 

目を逸らしてこちらを見なかった。彼女がどんな風な扱いを受けるかを考えているかもしれないけど本当はその必要はないのよね

 

「人権や自由を無視する発言だったそうね。代表候補生ともある人がそんな発言をしたということが世界中に広まったらどうなるでしょうね?」

 

「くっ!」

 

七実君も言っていたけど、これは自業自得だわ。国家代表である私や他の国家代表、代表候補生の人は発言に気をつけるように言われている。なぜならその発言が国の発言と捉えられるからである。

 

「さてセシリア・オルコットはこの学園から退学が言い渡されているわ」

 

「あ・・・う、嘘ですわよね」

 

彼女の顔が一気に青ざめて血の気を感じさせなくなるほどまでになった

 

「確かに学園長から言い渡されたわ。でもね」

 

渡されていた退学届を出し目の前で破る。もうこの話も学園長の了承を得ているから問題は無い

 

「ある人のおかげで取り消しになったわ。よかったわねセシリアちゃん」

 

「は・・・え、え?」

 

何が起こっているのかが分からず混乱し始めたところでネタバラシとするわ。七実君本人から言ってほしかったのだけどしなかったのがこうなったのね

 

「七実君が()()()()

 

たっぷりと皮肉で言ってやった。彼女は初対面の時に七実君の事を『犯罪者の息子が優しい?』とか言っていたのを聞いた。今回悪役を演じさせられた彼は本当は悪役なんかじゃなく正義としてやっていたのだと思う。戦った後に話すつもりで彼女と話していたのだろうけど

 

「え・・・」

 

「あんな発言を受けたのにも関わらず七実君は1度だけ許したのよ。まぁ今日の事で彼も怒っているでしょうけどね」

 

「で、でもさっき謝りに行ったときはそんな素振りは一切見せませんでしたわ!」

 

「だから言ったでしょう?1()()()()許したのよ。その後の事は知らないわ」

 

七実君の真意に気付いたセシリアちゃんだけど彼の信頼を得るのは難しいわよ。私だって彼と出会ってから1、2年は邪魔とか無視とかされたし。今でもたまにしてくるけど

 

「さてこれで話はおしまい。あとはセシリアちゃん次第よ」

 

これで仕事はおしまい。後で七実君に会いに行こうかしら。後で報告がてら七実君のところに行くことにして今は学園長室に向かうことにした

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回で一巻分は終了になります。ちなみに今日は普通に投稿しますので

追記:どう考えても1巻ではありませんでしたね。第1章ですね


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解かれた3本線

本日は2度目の投稿ですがあれはクリスマス企画です


 

翌日、教室に着くまでに俺が見た生徒は20人近くだがその生徒全員にゴミを見るような目で見られた。昨日のあれが響いているのだろうが真実はごく少数の人間しか知らないのだから仕方ない。まだ無人の教室に本音と一緒に入るなり俺は空を見る。今日は生憎の雨模様だが雨の降る音は俺にとって心地よく聞こえる

 

「ななみん今日は雨だね~」

 

「ああ」

 

昔の俺だったら声に出さず返答しただろう。根本のところはあまり変わらないが少しは変わることができたのだろうか

 

「ななみんはこれでよかったの~?」

 

「何がだ」

 

「セッシーの事だよ~。あんなに酷いこと言われたのに許しちゃうの?」

 

「完全に許したわけじゃない。あくまで許容しただけだ」

 

セシリアの事は嫌いだ。だけど一緒に生活する際にもしかしたら手を貸し借りすることがあるだろう。その時俺は余程の事じゃない限りは手を貸すつもりでいる。あいつは知らんがな

 

「それって同じじゃないの~?」

 

「違う。許せば全ての事は水に流れてしまうが、許容だったらまだ許してはいないが一応は受け入れるつもりがある」

 

「そっか~」

 

今日も一悶着あるだろうがどうせ一夏が食い掛ってくるだけだろう。その程度で済んでくれればいいがどうも嫌な予感がする

 

「やっぱり優しいね、ななみんは」

 

「さてな」

 

「そうだって~、かんちゃんと楯無様の事もそうだったし~」

 

「あれは偶然だろ。虚に連れられて遊びに行った時にたまたま遭遇しただけだ」

 

簪と楯無が言い争っている所に遭遇し、話を聞きただ本当の事をぶつけ合わせるようにしただけで過程は俺が作ったが結果を出したのはあの2人だ

 

「結果論だよ~。先代の楯無様だって感謝してたし~そこまでさせたのはななみんなんだから~」

 

「どうなんだかな」

 

「私はね、そんな優しいななみんがね好きなんだよ~」

 

好きか・・・確かにあの事があってからというものの簪と楯無は俺に必要以上に接触するようになったがそれは好意を持っているように感じた。「Like」なのか、はたまた「Love」なのかは知らないがそれに答えるだけの勇気がない。もし受け取ってしまえば今の関係が崩れてしまいそうで怖いのだ

 

「こんな捻くれた奴のどこがいいんだか」

 

「そこがいいんだよ~」

 

全くもって意味が分からない話だ。こんなにも狂っているかのような考え方ができる奴のどこがいいのだろうか。本音は話しているが聞き流すことにした。しかしこの話は同じクラスの他の生徒が来るまで続いたのだった。SHRが始まる10分ぐらい前には生徒は全員来ていて俺の斜め前にいるセシリアは何か言いたそうにこっちをチラチラ見ていた

 

「なんだセシリア」

 

「ふぇ!?」

 

「何かあるなら話せ」

 

周囲は静まりこっちの方を見てくるのが窓のおかげで分かった。遠くで一夏が立ち上がるのも見える

 

「昨日は申し訳ありませんでしたわ」

 

「それは昨日も聞いた」

 

「いえですから「セシリア、七実に謝る必要は無いぜ」はい?」

 

セシリアの謝罪に割り込むように話に入ってきた一夏。今日もお前はこんな風に全てをややこしくするのか

 

「俺は何と言われようがお前のすることを許さない!」

 

「はぁ・・・どうだセシリア。昨日俺が立たされた立場になった気分は」

 

「はい?」

 

「昨日話したがその時にこんな風に邪魔され話ができなくなった気分を味わうのがどうかと聞いた」

 

昨日は絶望的なところまで立たせた後に許すつもりでいた。しかし許す前に一夏に邪魔されたのだ。その気分をセシリアは同じ条件で受けてしまったのだ

 

「どういう意味だよ」

 

「どうもこうも無い。昨日もそうだがお前は他人の会話の邪魔をするんだな」

 

「してねえよ。というかふざけんじゃねぇよ七実!女の子にこんなことをして何になるんだよ!」

 

やっぱり前提を取り違えている。何が原因でこうなっているのかが分かっていないからこんな風に取り違えるのだ。静かになっていた周囲の女子も一夏に賛同するように罵声を浴びせてくる

 

「だったらそもそもの原因を作ったのは誰だ。他ならぬそこにいるイギリス代表候補生であるセシリア・オルコットだろうが」

 

「お前が昨日の戦いでセシリアに何かをしようとしたのが発端だろ!」

 

「いや違う。先週クラス代表を選出する際に何があったか覚えてるか?」

 

「あれだろ?七実とセシリアが口喧嘩してたやつ。それがどうしたんだよ!」

 

あれを口喧嘩で済ませるあたり頭がお粗末さんだな。今ならお粗松さんとでも言えば少しは笑いは取れるだろうが分かりずらいので却下だ

 

「その際にセシリアはなんて言った?。勝負で負けたら奴隷にすると言ったぞ。人権や自由さえも無視し全てを奪い家畜のように働く奴隷になれと言った」

 

「そんなの断ればいいだろ!」

 

「お前には分からないだろうな!」

 

8年ぶりに声を荒げたような気がする。死にかけた以来ここまで声を大にすることなんてなかった。周りもさすがに驚きを隠せないようで再び静かになる

 

「あんな生活を何年も送ってきた俺にとってはもう二度と聞きたくない言葉だった!けどな、けどな!」

 

「そこまでだよ、ななみんにいっちー」

 

熱くなった俺を鎮めたのは本音だった。何があったかを知っている本音は鎮めに来てくれたみたいだが本音がかすかに震えているのが分かる

 

「すまん本音」

 

「い、いいよ~」

 

周りの声も静かで一夏やセシリアも静かだった。ただ周りには雨の音しか聞こえてなかったのだろうが俺には本音が泣いているのが聞こえた。なぜ泣くのかは知らないがこの場合は俺に同情して泣いているのかそれとも俺の事を悪く言われて泣いているのかは知らない

 

「大丈夫だ」

 

「うん・・・」

 

こんな険悪なムードの中、織斑先生は教室の中に入ってくるなり咳払いして生徒を座らせたが本音はまだ抱き着いた状態で泣いているため動けなかった

 

「おい鏡野。後ろにいる布仏妹はどうした」

 

「精神的ショックで少しダウンしてるみたいなので放置してくれるとありがたいです」

 

「そ、そうか。てっきり泣いているものだと思ったが」

 

当たってます。意外と離れているのに当たってるとはさすがと言わざるを得ない。しかしこのままだと、ろくに授業に参加できないからなんと言われてどやされるかが分かったもんじゃない

 

「鏡野は昼休みに職員室の前まで来てくれ。話したいことがある」

 

「分かりました」

 

さてはてどうしたものか。険悪なムードにしたのは俺だがそもそもの原因は俺ではなく今回は一夏だ。突っかかってこなければこんなことにはならなかったし今日こそは丸く収まっていたはずだからな

 

 

 

あの後、本音は1限目が始めるまでには泣き止み顔を真っ赤にして自分の席で顔を隠すようにして机に突っ伏していた。その後、1限で一夏が代表に就任し円華が副代表に落ち付いたがそこでも一悶着あった。そして昼休みになり職員室の前まで本音に送られた

 

「あ、七実君こっちですよ!」

 

「あ、まやまやだ~」

 

誰でもあだ名をつけようとするな。特に先生とかはもってのほかだと思うぞ

 

「ま、まやまやですか?」

 

「聞き流してやってください。本音はいつもこんな感じなんで」

 

「酷くない、ななみん~」

 

「この通りです」

 

実演ありがとう本音。ここで本音と別れ山田先生に車椅子を押されて生徒指導室に入れられる。悪いことは何一つしてないはずなんだがなぜここに入れられなければならないのだろうか。しばらくすると織斑先生が入ってくる

 

「待たせたか?」

 

「いえ」

 

「そうか。早速だが話に移らせてもらう。朝のあの口論はなんだ?」

 

聞いてたんですか。確かに朝っぱらから口論でもしていれば気になりはするだろう。俺はなるべく事細かに説明した。昨日セシリアに何を話し何を話せなかったか。夜に何があったか。今日何があったかを説明するが徐々に織斑先生の顔は呆れたような表情になっていった

 

「というとなんだ。鏡野は昨日セシリアに言われたことを許そうと思ったが一夏に邪魔されセシリアに悪役を押し付けられた。その日の夜にオルコットは謝罪しに来たがその日は拒絶し、今日再びオルコットに謝罪されたら一夏に遮られ険悪な雰囲気になって鏡野が声を荒げたと」

 

「まぁ鎮めてくれたのが本音だったんですが泣かれまして、やむなく嘘をついたのは許してください」

 

「それぐらいはいいだろう。しかしなんだ頭痛がしてきたぞ」

 

原因は俺じゃないですけど心の中で謝っておきます。まだ一夏やセシリアは子供だ。思考や行動で間違えもするだろうが許されるものと許されないものがある。特に今回は許されないものばかりだったセシリアは奴隷宣言、一夏は考えもせずに俺を悪として敵対したことだ

 

「1人の姉として謝罪させてくれ。済まなかった」

 

「先生が謝らないでください。悪いのはあいつらなんですから」

 

「それにしても七実君はどうして許したんですか?。普通だったらもっと怒りそうなものですけど」

 

「怒った分疲れるだけなんで徹底的に真実を叩きつけてます」

 

山田先生は顔を引き攣らせ苦笑いを浮かべるがこれが1番手っ取り早いのだ。変えようのない真実はある。それが例え身の破滅に関わるものの場合もある。セシリアは最悪退学させられていたかもしれない。こんな嫌われ者でも世界に2人だけの男性IS操縦者を奴隷にしようとしたのだから

 

「それにしても鏡野が言っていた事が少しは分かったような気がする」

 

「何がですか?」

 

「以前に何十年も苦しめた事と言ってたのは覚えているか?」

 

記憶にはそんなことは一切ない近しいことは言ったかもしれないが織斑先生の前で言った記憶は無い。となると()が出てきた時だろう

 

「覚えていないです」

 

「そうか。その時の言葉の意味を思い出せば以前にこのような生活を強いられたのだな」

 

「・・・まぁ」

 

犯罪者の息子と言われる所以になったあのクソのような家庭で何が起きたか。奴隷のように扱われしまいには殺されかけたのだ

 

「ちなみに先生は俺の事はどういう風な奴かは聞きましたか?」

 

「えっとですね。確かに犯罪者の息子に位置するとは聞きましたがそれでも七実君は七実君だと思ってますしあんまり気にしてませんよ」

 

「私も同意見だ」

 

この2人には知ってもらっても構わない。どれだけメディアの力で真実を捻じ曲げられてかを知ってもらういい機会だ

 

「すみませんがちょっと見せたいものがあるんでいいですか?」

 

「なんだ?」

 

俺は上の服を脱ぎ始める。山田先生は顔を赤くし目を逸らすが本当はこれじゃない。2人に背中を見せるが何も声が上がらなかった

 

「俺が最初、先生方に出会ったときに体が動かせなかった原因です」

 

「な、なんですか。この大きな傷跡は」

 

驚くのも無理はない左肩から斜めに大きく斬られたような傷跡と左腕には変色している部分を見た。触れば分かるだろうが触らせも見せもしないのだから分かりはしない

 

「これ、誰にやられたと思いますか」

 

「・・・まさかとは思うが犯罪者として捕まったお前の前の親か?」

 

「正解です。あいつらは俺を扱き使いまるで奴隷のように扱い殴り蹴り何でもかんでも押し付けた。しまいにはこういう風に斬られ体が動かなくなった。本当は犯罪者の被害者である息子の真実です」

 

「そ、そんな・・・」

 

小学2年生で味わったこの世界における最初の出来事で俺はまたしても死ぬところだった。同じ扱いを受けて死んだように生きるのよりはマシだがったが動けないのも割と同じだった。俺は服を着て2人の方に向き直る

 

「辛かっただろうな鏡野」

 

「今となっては今の親父や母さんと別れなきゃいけなかったのが辛かったところですが」

 

「鏡野君辛かったら相談してくださいね?」

 

「今は特に無いんでいいですけどたぶんその内します」

 

しない時の常套手段だ。俺の抱えている問題はまだある。前世のせいで性格がこんなにも捻じ曲がっていることと本当の家族は織斑家だったことをどう伝えるかだ。前者はどうでもいいが後者は一夏のせいでほぼほぼ無理となっているからどうしたものか

 

「話は終わりでいいですか?」

 

「ああ、すまなかったな鏡野。その、一夏とは上手くやれそうか?」

 

「正直に言うと無理です。何も考えずただ真実から目を背けて逃げて話も聞かないんで」

 

「・・・そうか」

 

この時俺は織斑先生に背中を向けて既に生徒指導室から出ようとしていたため顔は見ることはできなかったがとても悲しそうな声に聞こえた。本当はもっと仲良くしたいが環境、タイミング、性格等いろんな原因で俺と一夏、円華の距離をあけてしまった。それ故に、もう2度と交わることは無いかもしれない平行線になってしまったかもしれない。俺は生徒指導室を出て教室に戻る事にした




今回もお読みいただきありがとうございました

そろそろ年越しですね。年越し企画でも考えれたら考えておきます


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訪れ変わる兆し

すみませんがこちらを見てください

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=136414&uid=155028


あれから2週間経ちあの事は闇に葬られた。しかしあの事があったせいで俺の事をよく思っている奴は少なくなっただろう。しかしどうでもいい。真実を知ってくれている奴はちゃんといるからな。そんな俺は松葉杖を使えば歩けるようになっていた。虚は素直に喜んでくれたが簪や楯無、本音は喜ぶも少し残念そうにしていた。どうやら車椅子を押すのが楽しかったようだ。怪我人で遊ぶな。今は放課後で簪と一緒に寮に帰る途中だ。本音は意外かもしれんが生徒会の仕事があるらしい。あんなにお惚けな感じな奴だがあれはあれ、これはこれらしくちゃんと仕事をしている・・・といいんだが

 

「そういえば部活に入らないの?」

 

「入れると思うか?」

 

どこに行ってもいい顔をされず、ゴミのように思われている俺は既にどうしようもないのだ。故に部活に入るなど面倒極まりない

 

「そういう簪は入ったのか?」

 

「私は適当なところに入って幽霊部員になってるから」

 

「そうか」

 

大して俺と変わりないことが分かる。もし俺も部活に入るようであればそうなるだろう

 

「ちょっといい?」

 

「あ?」

 

簪以外の女性の声が後ろから掛けられた。振り向くとそこには手にミニマップを持ちボストンバックを肩に下げたツインテールの少女がいた

 

「あんたが2人目の男性IS操縦者の鏡野七実ね」

 

「学園の嫌われ者が1番最初に付くがな」

 

「そこらへんは気にしないから。誰かが何を言おうがそこに嘘が混じってたら信用できないもの」

 

名前は知らんがこのツインテはある程度は信用に置けるかもしれん。自分の目で見て何が本当か何が嘘かを見抜こうとするとは一夏やセシリアとは大違いだ

 

「アタシは凰鈴音、鈴でいいわ。これでも中国の代表候補生よ」

 

「そうか」

 

「ところでさ、正面玄関ってどこか知らない?ここって広すぎて分からなくなっちゃったのよ」

 

手に持っていたミニマップを借りどういう順路で行けばいいのかを教えてやると走ってそっちの方へと行ってしまった。あいつが今後どういう風に関わっていくかは知らんが俺には関係の無いことだろう

 

「慌ただしい奴だったな」

 

「そうだね。帰ろっか」

 

俺たちはそのまま寮に帰ることにした。宿題も何も無いから今日は簪と一緒にアニメを見ることになったがたまに見る分なら面白いとは思う。勧善懲悪のアニメが好きなようでよく見るのだがこういうものに憧れるものなのだろうか?

 

 

 

翌日、いつもは6時半頃に起きるのだが今日は珍しく寝坊し朝食を適当に済ませ教室へと向かった。簪と本音も一緒に部屋を出たが健康体である2人は俺よりも歩くスピードは早かった。先に行った2人を追いかけるように校舎内に入り教室へと向かった。先生が職員室を出たのが見え、教室に入ろうとするが昨日出会った鈴が教室の前の扉で邪魔され通れなかった

 

「すまんが退いてくれ」

 

「ん?七実じゃない。おはよう」

 

「ああ、おはよう。それとそろそろ織斑先生が来るぞ」

 

「げぇ、千冬さん苦手なのよね。教えてくれてありがと。一夏、逃げるんじゃないわよ!」

 

どうやら鈴は一夏の知り合いらしい。鈴が退き教室に入るが一夏にはいい顔はされない。あの一件が許せないようでいつもこんな感じになっている。対して円華は手を合わせてこちらに謝っているのが見える。別に円華が悪いわけではないから気にしていない。自分の席に座るのと丁度同じぐらいに織斑先生が教室内に入ってくる

 

「貴様ら席に着け。SHRを始めるぞ」

 

今日もこうして1日が始まる

 

 

 

午前の授業が終わり昼食時だ。いつもは簪が弁当を作ってくれるのだが今日は寝坊してしまったため食堂で昼を取ることになった。本音は生徒会の方で呼ばれたため簪と2人でだ。食堂に入りチケットを購入して配膳してもらうのだがこの食堂のチケットは格安なのに量はそれなりにあるということで大変重宝されているらしい。俺と簪は人混みに入るなら別な場所で食べたいのだが今日は仕方なく食堂を利用している。俺は天ぷらうどんを注文し適当なテーブル席に着き簪を待つことにした

 

「七実じゃない」

 

「鈴か」

 

奥の方から鈴がラーメンを片手に持ってやってくる。器用に持っているが溢さんでくれよ

 

「どこも空いてないから同席してもいい?」

 

「周りは・・・空いていないか。こっちも待ち人がいるんでそっちに聞いてくれ」

 

丁度良く簪が来て鈴が同席することを教えると許可が出た。どうせ鈴だけだろうと思い食べ始めるが一夏や円華、箒、セシリアの4人がやってくるのが見え簪の箸が止まる

 

「こっちよ一夏!」

 

「おうここか・・・って七実」

 

一夏と一緒にいた箒は睨みを効かせて俺を見てくる。そして簪は暗い顔になり俯いてしまった。簪は一夏の事が嫌いである。専用機の事もあるが俺に必要のない敵意を向けているからだそうだ。鈴やあの4人には見えないところで握り拳を作り震えていた

 

「落ち着け簪」

 

「・・・わかった」

 

俺はそっと左側に座っていた簪の握り拳に手を置いて簪にしか聞こえないような声でそう言った。例え嫌いだろうと同じ場所で生活している以上、こういう場面も出てくる

 

「他に空いてる場所は無かったのか?」

 

「探したけどなかったわよ。え、何?一夏と七実って仲悪かったの?」

 

「全て悪いのはそっちの方だ。一夏には何の問題は無い」

 

箒がそういうが真実を知っている奴がいる。いの一番に気まずくなったのはこういう風になった原因でもあるセシリア自身だった。本来だったら友好的な関係を築けたかもしれんがぶち壊す原因となったためだ

 

「そう、でも飯を食べる時ぐらいは我慢しなさいよ。いちいち関係を気にしてたらキリないわよ」

 

「・・・それもそうか」

 

非常に正しいことを言うな。呉越同舟という諺があるように、こうして仲が悪い奴と一緒にならなければいけないことがある

 

「俺はお前の事を許してないからな」

 

「勝手にしろ」

 

一夏には一夏のやり方、思考、行動があるのだろうが俺だって同じだ。ただ真実を投げつけ考えさせどうするかを信条としている俺とは相性は悪いのだろうな。距離を置いて一夏は対角線上に座るが正面側には箒と一夏が座り、簪の隣には円華、セシリアの順で座る。円華は深い溜息をつきながら座った。ここの空気はとても悪く一触即発という雰囲気が漂っていた。俺はちゃんと食べたが簪は少し食べてそのままだった。アイコンタクトで簪にここを出るか聞いてみると既に耐えられないようで急いで出ることにした。元いた席では箒があーだこーだ言っているのが聞こえるがどうでもいい

 

「よく耐えたな」

 

「七実こそ」

 

「俺はあの日以降敵対されているから別に気にしてない」

 

例え本当の兄だというのが分かっていたとしても一夏が決めたのなら俺はどうしようもできない。俺は悪くないはずだが悪いと認定し食って掛かる一夏には身内に頑張ってもらうことにしよう

 

「気分転換に外に行かない?」

 

「ああ」

 

簪の様子を見るにいろいろとくるものがあったみたいで俺たちは屋上を目指すことにした。俺としてはもう少し仲良くやっていきたいがどうしたらいいのかさっぱり分からん

 

 

 

円華サイド

 

七実と簪が食堂から出ていったあとに、箒はあることないこと言うが本当は違う。全部は分からないけど断片的には分かる。あの事で七実が責められる理由は無い。むしろ一兄さんとセシリアが責められることを七実は全部引き受けている

 

「セシリア分かってる?」

 

「ええ、分かっていますわ。鏡野さんと一夏さんがどうしてこうなったかは」

 

セシリアは俯いてそう言った。もしあの時セシリアが七実にあんなことを言わずにと思うが過去には戻れない。してしまったことに責任を感じその重責はセシリアを襲っているだろうけど、一番重責を背負わされているのは七実自身だ。その事を一兄さんにも話したが意味がなかった。本当にどうしたらいいんだろう

 

「なーに、しょぼくれた顔してんのよ円華」

 

「そんな顔してた?」

 

「辛気臭い顔してたわよ。なんか悩み事?」

 

「いや、大丈夫だから」

 

指摘されるまで分からなかったけどそんな表情になってたんだ私。でもどうしたらいいか分からない

 

「円華、本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫だって一兄さん」

 

他人だからと言えば割り切ることもできると思うけど、一兄さんが関わっている以上禍根を残したくはない。一回ちー姉ちゃんに相談してみようかな?

 

「それにしても一夏や箒の話を聞いていれば七実って相当悪者じゃない」

 

「セシリアに酷いことをしようとしたしな」

 

「いいんです一夏さん、あれはわたくしに責任がありますの」

 

「いやあれはどう見ても七実が悪いだろ」

 

もし七実がこの会話を聞いていたらどんな風に思うだろうか。例えば完全に離れることもあるだろうしそこまでいかなくとも今後は友好的な関係を築けなくなってしまう。そんな風になってほしくない。彼が犯罪者の息子ではなく犯罪者の息子であり被害者であることを知っている私が変えなければならない

 

「なんとなくだけど話が見えた気がするわね」

 

「やはり鏡野が悪いのだ。この事実は変わらん」

 

「いえ、ですから鏡野さんは悪くないんですの。それにあの方はわたくしがあんなことを言ったのにも関わらず許してくださいました」

 

許した?あんな酷いことを言われたのに許したの?だとしたら本当に七実はなんであんなにも責められなきゃいけないの?

 

「ですから一夏さん。どうか鏡野さんのことを許して差し上げてくださいませんか?」

 

「・・・ごめんセシリア。それは無理だ。目の前であんなことをした奴をそう簡単に許せない」

 

「そう・・・ですか」

 

一度七実から話を聞いてみるのもありだ。自分なりにまとめるために何が本当で何が嘘なのか見極めて真実を知る必要がある。チラッと全員の顔を見たけど多分鈴も同じことを考えているはず

 

「そろそろ次の授業が始まっちゃう時間だから出ないか?」

 

「ん?そうね」

 

私達は食堂を出ることにした。セシリアは思うところがあってずっと俯いたままだった。対して一兄さんと箒はいつも通りにしていた

 

「ねぇ円華、あんたも薄々気付いてんじゃないの?」

 

「何が?」

 

「この話はどこかでおかしくなっているってこと」

 

鈴は私に近くに来て小さな声で話しかけて来る。多分だけど一兄さんの正義感が強くでてこの話をおかしくしているのだとは思う。でもいくつか疑問点が上がる。本音から聞いた話だと代表決定戦では何かを話していたらしいがその時の内容や彼の考え方。そしてどうしてセシリアを許したのかだ

 

「私も思った。近いうちに聞きに行こうと思う」

 

「なら今日聞きに行かない?夕方ぐらいまでは暇なのよ」

 

「ごめん、こっちは一兄さんにISの訓練をつけなきゃいけないの」

 

「なら私が聞きに行くわ。そのことをそのまま教えるから」

 

「ありがと鈴」

 

「いいのよ。変わった一夏を元に戻すのは私たちの役目よ」

 

鈴は小さい頃に中国から転校してきて虐めを受けた。けどそこを一兄さんに助けられ、一目惚れしたそうだけど今の一兄さんを見て驚いたと思う。素の部分は変わっていないにこうまで嫌うのは私も初めて見たからそうなんだと思う

 

「分かってる」

 

「おーい円華に鈴。授業に遅れるぞー」

 

「はいはい。今行くわよ!」

 

頼むよ小さな姉御(凰鈴音)

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

鈴ちゃんが出せましたが・・・大丈夫ですかね?


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互いに

俺は鈴に呼び出され学校の屋上へと来ていた。真剣な表情で対応されたもので、きっと重要なことだろう。早速屋上に行くと鈴がいた

 

「呼び出して悪かったわね」

 

「いやいい。それよりも話があると聞いたんだが」

 

「なんとなく分かるでしょ?あんたと一夏の事よ」

 

一夏の事か。確かにあいつの正義感はいいのだが、押しつけがましいのはいただけない。何が悪いかを見極めねばそれは正義とは程遠いと思う

 

「いやね、おせっかいなのは知ってるけどあたしは全てを知りたいの。なんで一夏があそこまであんたを嫌うかを」

 

「わかった。だが一夏の考えは知らないから、そこは鈴が勝手に想像してくれ」

 

俺と一夏、そしてセシリアの間に何が起きたかを事細かに順を追って説明した。この問題の発端となったクラス代表の立候補の時、セシリアと戦い何を伝えようとしたか、そしてセシリアが謝罪し突っ撥ねたこと、一夏が食って掛かる様になったかを説明する。その最中はずっと鈴は考えながら話を聞いていた

 

「というわけだ」

 

 

「なるほどね、確かに一夏やセシリアが悪いわ。でもあんたも悪いところはあるわ」

 

「なら教えてくれないか?」

 

俺からは何か悪いようには思えない。もしあるとしたらなんだ?第三者の視点で聞いて初めて分かる事だとしたらなんだ?

 

「確かにあんたにされた、言われたことは最低よ。人としての全てを否定する発言は誰にだって許されないわ。でもあんたは一夏に事の全てを話さなかった。だから一夏もただ否定するしかなかったと思うわ」

 

「ならなぜ聞きに来ない?否定するだけ否定しそのまま流れていったぞ」

 

何も聞かずにただ否定するしかしてこなかった。それで今のような状態になったともいえる。まぁこれは俺にも言えることだが、それでも歩みを止めてしまったからこういう風になった

 

「あれでも一夏は正義感が強くて思い込みが激しいからね。自分が悪いと思ってないと思う」

 

「そうか。まぁ、今日の事で俺にも非があることが分かったからいずれ謝罪することにする」

 

そういえばそうだ。伝わっていることを前提として話していた節がある。今度からは注意するとしよう。そうすれば今回みたいな事は無くなるだろう

 

「今の時期はやめておいてね。もし代表戦に響くかもしれないじゃない」

 

「わかった、そうするとしよう」

 

「それにしてもあれね。あんたと言い一夏と言い不器用ね」

 

「うるせえよ。今に始まったことじゃない」

 

あいつらにちゃんと感謝の言葉を言えない俺は不器用を通り越して失礼という言葉がお似合いだろう。やっぱり俺はあいつらに甘えてばっかりだな

 

「そういえばあんた一夏と戦ったのよね?戦ってみてどうだった?」

 

「そうだな・・・」

 

一夏の戦い方を思い出そうにも『雪片弐型』という剣1本しかなく、ISの初心者ということしか浮かばない。そういえば俺のIS<M.M.>で写し取ったはずだから再現は可能か?腰につけている懐中時計の蓋を開けてみると英数字の2、5のところが黒文字で無くなっていた。2が黒枠に白文字、5の方は青文字になっていた

 

「まだ初心者だとは思う。だが今頃円華の手解きを受けていると思うから、わからん」

 

「円華が一夏にどんな仕込みをするか分からないってことね」

 

「そういうことになるな。クラスでも忌み嫌われている俺が言うのだからそうだろう」

 

なんとも自虐的だろう。嫌われているからと言って自分自身をこういうのはおかしい気もするが実際そうなのだから仕方ないだろう

 

「さて、そろそろあたし用事があるからまた今度ね」

 

「機会があったらな」

 

鈴は屋上から出ていくのを見た後、俺は唯一人屋上で考えに耽っていた。本当に俺が悪かったのだろうか?全て話して本当に解決するのだろうか。考えようにも一夏の考えを知らない。一から考え直すしかないようだ

 

 

 

夜、夕飯を食べ星を眺めに寮の屋上に出ていた。ここは明かりが少なく星を見るのには最適だ。昔から空を眺め何時しか星を眺めるようになった。ただ綺麗というわけで見ている訳ではない。今は別れてしまった親父と母さんと一緒に天体観測に行ったことがきっかけだ。あの時は本当に感動した。夜空を彩る星々が宝石のように輝いて見えた。それまでの生活では録に見ることができなかった。だからか余計にハマってしまった

 

「いつかまた親父と母さんに会いてぇな」

 

会えなくなってしまった親父と母さん。昔みたいに一緒に過ごしたい、しかし重要人保護プログラムのせいで二度と会えるかどうかわからなくなってしまった

 

「ホント一夏ったらなによ!」

 

そんなことを考えていると屋上と寮を隔てる扉が開き鈴の声が聞こえる。その声には今日、話したような元気な声ではなく泣いているかのような声だった。適当なベンチに座っている俺の事を見て鈴は同じベンチに座ってくる

 

「・・・」

 

「・・・」

 

互いに無言になるがすすり泣く声が聞こえてくる。先ほどの声からして一夏と何かあった事は感じられた。しかし、無理に聞こうとするのは少し違うような気がしたためそのままにしてやった

 

「何か聞くことはないの?」

 

「聞いて欲しかったのか」

 

女子とは本当に何を考えているか分からない。聞いて欲しいのであれば素直に聞いてと言って欲しいのだが察しろということみたいだ。理不尽極まりない

 

「なら聞くが何があった。一夏と何かあったみたいだが」

 

そういうと鈴は愚痴っぽく話し出した。鈴が一夏の幼馴染で、つい2年前に中国に帰る時に回りくどい告白をし、再会し一夏にそのことを聞いたら告白を勘違いしていたらしい。昔からそういうところがあるというのも聞いた

 

「これって酷くない!?」

 

「今日の放課後に鈴が言っていたように、お前も不器用だな」

 

暈して告白したそうだが伝えるならストレートに伝えた方が伝わる。それが悲しい結果になったとしてもだ

 

「うっさいわよ!もしストレートに伝えるとするじゃない?それでも一夏は勘違いするの」

 

「・・・」

 

俺は唖然とするしかなかった。回りくどく伝えてもダメ、かといってストレートに伝えてもダメ。難攻不落の要塞なのか朴念仁なのか、はたまた考えたくもない結論に至るか。そのどれかは俺の知る由ではない

 

「ああもう!考えるだけムカついてくる!」

 

「落ち着け。お前の言葉を借りるようであれだがお前も悪いだろ」

 

今日、鈴に言われたことが正しいなら全てを話さなかったことが原因だ。ならば鈴も何かを言えた義理では無いと思う

 

「ならどうしろって言うのよ!」

 

「俺からはどうしろとは言えん。諦めるか一夏の考えを改めさせる、もしくはそのままにするか、だ」

 

「だったらやってやろうじゃない!一夏の考えを変えさせてやるんだから!」

 

ここに来たときとは、うって変わってやる気になったようで屋上から出ていった。どうしてあそこまで一夏にああできるのだろう。これはたらればでしかないが、もしあの誘拐が無ければ一夏の立ち位置にいたのは俺かも知れなかった。もしそうでなくても一緒に遊んでたりはしたと思う。なぜあの時の誘拐は俺を狙ったのか知らない。なんの目的でああしたのかは知らない。だが、あれが全ての要因で変わってしまった。環境も関係も何もかもが変わった。もう過去には戻ることはできないにしろ、本来あるべきの姿には戻りたいと思う。その為にもまずは一夏の誤解を解かなければならない

 

「どうしたものか」

 

1人寂しく呟いた言葉は誰にも聞こえない。人がいないのだから仕方ないことだろうが、いずれは話すことになるだろう。そう思いながら自分の部屋に戻ることにした

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

投稿が遅くなって申し訳ございませんでした!

リアル事情とか作業スピードの低下等が重なりこうなってしまいました


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漸くあるいは・・・

翌日の放課後、特にやることが無くただ読書していた。今日は簪は4組の代表となっているらしく訓練をするらしく今日は空いていないらしい。本音も生徒会の仕事らしく帰りが遅いらしい。俺とは違ってあいつらは頑張っているんだな

 

「あ、いた。ねぇ七実」

 

「あ?」

 

一旦読書をやめ声がした方に顔を向けると円華がいた。その後ろには一夏と箒、セシリアの3人もいた。何やら気に食わないような表情を浮かべる箒。また何かあるのか?

 

「えっとね、頼み辛いんだけど1つお願いしてもいいかな?」

 

「なんだ」

 

「ISの事でちょっとお願いがあるの」

 

ISの事だったら円華、お前の方が詳しいだろう。いや、もしかしたら俺の専用機<M.M.>の事を言っているのだったら納得だ

 

「私達が一兄さんに教えてたんだけど、あんまり伸びなくてね。もしかしたら七実が教えてあげることが出来たらって思って」

 

「IS初心者に頼むことなのか?」

 

「この提案をしたのはわたくしです。IS初心者であろうと、イギリス代表候補生であるわたくしを倒したのは紛れもありません。それに変則的過ぎるISでしたら一夏さんの訓練に最適かと思ったまでです」

 

確かに事実であるが、それに一夏は賛同しているか。それとさっきからこっちを睨んできている箒を何とかしてくれ

 

「それで一夏はどうなんだ。セシリアの案に賛成しているのか?」

 

「俺は・・・」

 

煮え切らない返答が返ってくる。迷っているのかそれとも頼りたくないのか。どっちかは知らないがまだ何かが引っかかっているみたいだ

 

「すまんが一夏を借りていいか。少し話したいことがある」

 

「あ、俺?」

 

とりあえず教室を出てあいつを待つことにした。鈴にはああ言われたが守ることはできなかった。すまんな鈴

 

「な、なんだよ七実」

 

「来たか」

 

一夏が教室から出てくる。その後ろからは円華や箒、セシリアが覗いているのが見える。何かあったらどうなるか分かったものではないな。特に箒が

 

「そのなんだ、すまなかった」

 

「は?」

 

鈴に言われた事、それをこいつに伝えねばならない

 

「お前が勘違いしている原因が俺にあったようだ。そのことで謝らなければならん」

 

「勘違いってなんだよ。あれはお前が!」

 

「だから話を聞いてくれ。あの日、俺はセシリアに言われたことを言い返した。だがそれはあいつに何をしたのか分からせた後に許すつもりだった!だがお前に邪魔されセシリアにいいように仕向けられた」

 

セシリアがどんなに辛い目に遭おうが知らない。因果応報、自業自得なのだ

 

「じ、じゃあ俺が七実の事を・・・」

 

「確かにお前のしたことは俺からしたら最悪だ。だがお前にも何かの事情があってあんなことをしたんだろ?」

 

「ああそうだ。だけど、俺は七実に悪いことしちまった・・・」

 

握り拳を作り壁に叩きつける一夏。俺としては別に気にしてないのだが一夏は違うみたいだ。やれやれ困ったものだ

 

「1つ言っておくぞ。さっきの話は俺からの視点であってお前からの視点ではない。故にお前がどんな考えを持って俺に敵対した真意は知らない。でもあれはお前がやらなければいけないと思った、そうじゃないのか?」

 

「そうだけどよ。悪いことをしちまったんだ」

 

「はぁ・・・お前がどう考えていようが構わない。それが今回の事のようになろうとだ。だからお前が気に病むな、俺はもう気にしてない」

 

そう互いに最初から違っていた。考えが、行動が全て違っていた。あれだけ嫌な事を言われようが間違いを起こすのは普通だ。俺だってそうだった。鈴に言われてようやくわかったが間違いがよくわかった

 

「その、なんだ俺も悪く言ってごめん」

 

「だからもう気にしていない。それで一夏、セシリアの提案はどうする」

 

「俺からも頼む。虫が良いのは分かっているけどよろしく頼むよ」

 

どうやら、もうこのことで悩まなくて良さそうだ。鈴にも感謝しとくとしよう

 

「だそうだぞ覗いている3人」

 

「やっぱりバレてたよねー」

 

「その・・・本当に申し訳ございませんでしたわ」

 

「私はまだ信用したわけではない。だがこれからは普通にするとは思う」

 

円華、セシリア、箒の順でそう言ってくる。箒の発言に俺と円華は苦笑いを隠せなかった。あれで信用を獲得できないほどに嫌われているのだろう

 

「それで素人同然の俺は何をしたらいい?」

 

「七実が素人だったら、それに負けたセシリアはどうなの?」

 

「もうやめてくださいまし!」

 

その後、俺らは一夏にISでの戦闘を教えるために第1アリーナに行くことになった。その道中、俺は最後尾で歩いていたのだが円華が近づいてくる

 

「一兄さんが誤解してたみたいでごめんね。鈴からは話は聞いてたけどさ」

 

「なんだ聞いていたのか」

 

円華は前の奴らからは少し離れ小さな声で話しかけて来る。なんだ鈴から聞いていたのか。なら話は早くつくはずだ。本当に助かった鈴

 

「それにしても本当にセシリアの事を許したの?」

 

「1度だけな」

 

一夏を俺に差し向けたことはまた別だ。そのことは恨みこそするが関係には繋げない

 

「そうなんだ・・・七実は優しいね」

 

「アホか。俺が優しかったらこんなことにならずに、もっと良好な関係を築けていただろ」

 

もし俺がこんな解決をしなかったらの話をすると、俺と一夏は()()会った時から仲良くできていただろう。それは円華にも言えることだ。しかしどうだろう。セシリアの事は分からない、こんな状態にあった、置かれたから出来た事でもあるかもしれない。結果的にはセシリアは大事にならずに済んだとも言える

 

「それもそっか。でも私から見て七実は優しいと思うよ」

 

「あっそ」

 

何を思って優しいとするのかはあえて聞かない。聞いてしまえば俺の中にある何かが崩れてしまいそうで嫌になるからだ

 

 

 

円華サイド

 

鈴から話を聞いていた。何が悪くて互いにどう悪いのか聞いていた私は、できればこれで解決してくれると願っていた。最初はセシリアの提案で七実に手伝ってもらおうと思ったが、今の関係では難しいのが目に見えていた。今回はうまくいったようで一安心出来た。これで仲良くできると思うと嬉しくなるが、まだ問題は山積みだ。昨日、鈴と一兄さんの事でいつもの朴念神を発動してしまったらしい。七実の事が解決したのはいいけど今度は鈴の事か。セシリアは無いとして、一兄さんの事が好きなのは箒と鈴に2人だけ。正直なところ私は鈴とくっついて欲しいと思っている。箒はちょっと暴力的なところが目立つからご遠慮願いたいところだ。

 

「さてやろうぜ!」

 

予約していた第1アリーナに到着するなり、一兄さんは専用機IS<白式>を展開し空中に飛びあがる。こういう時は年相応だなと思う

 

「それでお前らはどんな風に教えていた。参考程度に教えて欲しいのだが」

 

「うんいいよ」

 

とても酷いものだけどね。箒の教え方は何というか感覚的な教え方。シュパッ、ドーン!みたいな感じだ。これに七実は「お前はどこの赤王だ?コラボするのか?」などと訳の分からないことを言っていた。次にセシリアは理論立てて説明をするのだが、これで分かったら初心者ではなく初神者とでも言えるだろう。これには七実もコメントはできなかった

 

「どうですか、この完璧なアドバイスは!」

 

「おーい一夏。正直に言えよ。このアドバイスで何か分かったか?」

 

「何を伝えようかは分かったけど、詳細は・・・ごめん」

 

「だそうだセシリア。その説明で伝わるのは国家代表か代表候補生ぐらいだ。相手は初心者だ」

 

一応、私が思ったことは感じ取ったのだろう。本当の事を投げつける七実は鬼畜だと思う。でも何が悪いのかも伝えている辺りまだ良心的だ

 

「ですがわたくしはこれで教わりましたよ?」

 

「なら理解の差だ。本格的にISに触る様になって2,3週間程度で、今まで触れることの無かった知識を原理から教えられて覚えられるわけないだろ」

 

「私の説明の方が伝わりやすいな」

 

「箒はあれだ。論外だ」

 

「なぜだ!あれで伝わっただろう一夏!」

 

一兄さんに話を振るが目を逸らされこの場が沈黙に包まれる。ドンマイ箒

 

「感覚で伝わるなら我流でも覚えられるはずだ。なんとなく何を言いたいのかは分かるが」

 

「あれで分かったのかよ!?」

 

私も理論立てて説明されるより感覚交じりで教えられた方が分かりやすい気がする。どうしてこうなるかの説明ぐらいは欲しいところだ

 

「それで円華はどうやって一夏に教えていた?」

 

「んー実践形式が気楽だと思ってやってた。ある程度やったら何が悪かったか話あったりして」

 

「もうそれしかないだろ」

 

「でもね・・・」

 

「私は一夏に剣を教えているのだ!それを邪魔されているのが私だ!」

 

「わたくしだって一夏さんに射撃の何たるかをお教えしているのですわ!」

 

こうやって一悶着あるのがいつもだ。こうやって箒とセシリアが言い争いを始めて一兄さんに訓練をする時間が減っていく。七実は私の肩に手を置き、大きく溜息をついていた。多分、同情してくれているのだろう

 

「大変だな円華」

 

「なんかもう慣れた。こうなるから七実の手を借りようとしたわけ」

 

「面倒なことをしてくれるな。ちなみに円華の戦い方はどんな感じだ。遠中近のどれが得意だ?」

 

「中近かな。私のISって少し変だから」

 

私の専用機IS<黒騎士>は、あの篠ノ之束が手を加えたということが教えられている。しかし構造やシステムが変わったわけでは無いらしい

 

「俺のよりは変では無いと思う。時の24、来い<Mirror Me>」

 

七実はISを展開する。全身銀色でスリムな形状をしているISだった

 

「この状態だと武器も無く貧弱極まりない」

 

「え、武器ないの!?」

 

()()()()ではな。機体名<白式>、搭乗者織斑一夏。起動しろMirror is Mine(鏡は私の物)

 

七実のISが突然、眩い光を発していく。次に目を開けた時には七実のISが形を変え<白式>へと変わっていた

 

「これでようやく戦えるようになったわけだ。さて一夏やるか?」

 

「おう!」

 

「ち、ちょっと待って!?どうして七実のISが一兄さんのISになってるの!」

 

「ヒントは俺は鏡。そして全てを映し出す」

 

何を言っているかわからない。でもあのISはおかしい。他人のISを模倣できるISなんて開発不可能と言われている。それどころかあれを展開装甲だと仮定しても4世代機となる。卓上の空論と言われている物をやすやすと使う七実は一体何者なんだろう?それにあのISの制作者及び開発したところはどこだ?考えることが増え訓練どころではなくなったが、その間は七実がキッチリ教えていた。ISの初心者のはずだよね?

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

ようやくエンジンがかかってまいりました!(相変わらずの駄作ですが)


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掘り返し、突きつける

 

昨日で俺と一夏の関係が元に戻った。だが、まだどこかぎこちなく接してくる一夏。あいつがどう思いそうしているのかは知らない。俺としても解決してよかったと常々思っている。だが1つ困ったことが出来た

 

「おーい七実。一緒に飯食おうぜ!」

 

やたらと構ってこようとしてくることだ。こう言っては失礼だが厚かましい。誘ってくれるのはありがたいことなのだが、俺は人混みが嫌いだ。食堂で食べる気も無いし、もとより簪や本音と食べるので遠慮しておく

 

「先約がいる」

 

「なら俺も一緒していいか?」

 

「すまんが遠慮してくれ」

 

簪はまだ一夏に苦手意識を持っている。昨日、互いに元に戻ったということを伝えたが喜んでいいのかそうでないのかはっきりとしなかった。簪の場合は互いに悪いのではなく、企業が悪いので気にする必要は無いはずだが色々あるらしい。それ故に今は離れておくことにした

 

「そっか、無理に頼んでごめんな」

 

「俺は人混みは苦手だ。食堂にはたぶん二度と行かない」

 

「お、おう。それじゃあまた後でな!」

 

一夏は教室を出ていく。俺も待ち合わせである屋上に向かうことにした。今日はこの後にISの実習が入っているから量は少なめに摂るつもりでいる。屋上に着くと既に本音は食事を摂っていた

 

おふぉふぁっふぁふぇ~(遅かったね~)

 

「食べながら喋るな」

 

口いっぱいに物を詰め込み頬が膨れた状態で話す本音。隣では簪が呆れたように本音の頭にチョップをくらわせ俺は適当なところに座る。今日は簡単に昼食を済ませることにしよう

 

「遅かったね」

 

「一夏に誘われてな。それを断っていた・・・簪もまだあまり、対面したくはないだろ?」

 

「その・・・ごめん」

 

簪は顔を背けるがその内、嫌でも接触しなければならない羽目になるだろう。今はこうして逃げることができるがその時にさえ、キチンと出来れば問題は無い

 

「謝る必要は無い。みんながみんな、誰かを好きになるなんて無いから別にいいだろ。然るべき時にちゃんとできればいい」

 

「・・・うんそうだね」

 

納得はしていない様子だが内容が分かればいい。一応だが簪も専用機持ちだからな。政府や企業の方から接触するように言われるだろう。俺の方はどうだが知らないが

 

「ななみんもよかったね~。いっちーと仲直り出来て」

 

「一応な。この先はどうなるか知らんが」

 

今はまだいいが、未来のことは誰も知らない。俺がどんな関係を築いているか、はたまた崩れているか。知らないことだらけだ

 

「そういえば簪は4組の代表なんだろ?何で出るつもりなんだ?」

 

「えっと、打鉄かな。なんだかんだで一番使ってるのはあれだし、それに専用機はまだ使えないから」

 

「専用機の方はまだ目途が立たないか。今はまだ無理だがクラス対抗戦が終わったら手伝ってもいいか?」

 

「その時はよろしくね」

 

「ああ」

 

その時は持てる知識全てを使って作業に取り掛かるとしよう。俺が持っているなけなしの知識(転生の特典)がどれくらい役に立つかは知らないけど

 

「ななみ~ん、そろそろ移動しないとマズいよ~」

 

「もうそんな時間か」

 

ISの待機状態である懐中時計で確認すると移動や着替え込みで丁度いいくらいにゆっくりとできる時間だった。残った昼食は実習が終わった後にでも食べるとしよう

 

「ちゃんと時間を作れなかったようだ」

 

「いや大丈夫、頑張ってね」

 

「んじゃ部屋でな」

 

簪と別れ、俺と本音はそれぞれ更衣室に向かうことにした。今年は特例ということでで女子は教室で着替えることとなり、男子は更衣室を使うようにとの事だ

 

「今日は何すると思う~?」

 

「基礎的なところでもするんだろ。代表候補生が2人いたところで素人の方が多いから」

 

「そだね~」

 

訓練機を貸し出して歩行や走行の訓練でもするのだろう。知らないことを教わる時、大抵は初歩のところから始まる。今回もそうなのだろう

 

「俺はこっちだから行くぞ」

 

「は~い、また後でね~」

 

本音と別れ俺は更衣室へと向かった。実習の後は放課後になり一夏の訓練が始まるだろう。それまで体力を温存しよう。昨日の一夏の訓練を体験したのだが粗が多く感じた。試しにセシリアに徹底した引き撃ちをしてもらうようにお願いし戦わせたのだが、多少は避けていたのだが最短距離で駆け抜け攻撃しようとしたのは流石に呆れた。あれを粗として片付けるのもどうかと思うと円華にも言われたな。それ以外になんて言えばいいんだよ。まぁこの後の実習は適当にこなすとしよう

 

 

 

実習を終えて俺はグッタリとしていた。再度セシリアと再戦させられ、SEの補給後に連戦で一夏との戦闘をやらされた。模擬戦と称しやらされたのだが攻撃を貰うわけにはいかなかった。そのことを念頭に置き遠距離から攻撃するだけのチキンぷりを徹底したのだ

 

「あ・・・残った飯どうしよ」

 

疲れすぎていて食べる気にもなれずにただ一人、更衣室で休憩していた。既に放課後なので別に問題は無いのだが、この後に一夏に訓練をつけなければならない。いっその事サボろうか

 

「大丈夫か七実?」

 

「げっ」

 

そう思った矢先に一夏が更衣室に入ってくる。どうやら逃げる(サボる)事は出来なさそうだ

 

「その反応、酷くないか?」

 

「知るか。それで何の用だ。今は無茶ぶりのせいで疲れてんだ」

 

「いつまで経っても来ないから迎えに来たんだ。てか、本当に大丈夫か?」

 

「この様子を見て大丈夫に見えたんだったら、お前の目は節穴だ」

 

「だからその言いよう酷くないか?」

 

これが俺にとって普通なんだ。別に変える気も無いが簪には矯正することを宣言されたのだったな。はてさてどうしたものか

 

「慣れろ。さて行くか」

 

「お、おう」

 

更衣室を出てアリーナに向かうことにした。今日はできることはそんなに無いがそれでもやるしかないのだろう。相手の中には中国代表候補生(凰鈴音)日本代表候補生(更識簪)がいるのだから油断はできない

 

 

 

一夏サイド

 

七実にはすまないと思っている。俺がやったことで周りからも冷たくされてしまった。それに一方的に突き放したのにもかかわらず謝ってきた。その時、俺は初めてやってしまったのだと気づいた。あいつがセシリアに何を言ったのかはピットの中で聞いてはいたが許せなかった。だから俺は七実に敵対したのだが、俺が聞かなかったこと、一方的に聞こうとせず突き放したことであの話は捻じ曲がってしまったんだ

 

「なぁ七実。本当に俺の事、気にしてないのか?」

 

思わず聞いてしまった。本当はどこか聞いてはいけないような気がしていたが聞かずにはいられなかった。あんなことをしたのにこうも簡単に許してもらえるとは思っていないから。七実は立ち止まり大きな溜息をつく

 

「まだそんなことを考えていたのか。大小問わず人は間違えるものだ、例え許せなくても許容ぐらいはする」

 

「そんなことって・・・結局お前はどうなんだよ」

 

「本音を言えば許してはいない。セシリアは言わずもがなだがお前は2度も邪魔した。あまつさえ無用な戦いも挑んできた。俺からすると非常に面倒だったがお前はお前で考えがあっての行動だったはずだ。意見が分かれもするだろう。対立することもあるだろう。だけどそれでいいだろ」

 

やっぱり許されていない。結局は互いに悪いと言われたが、このことで悪いのは七実ではなく俺だ。言わなかったことに問題があると言っていたが、それは聞こうとしなかったことの裏返し

 

「だけど、この程度は気にするほどでもない。もう既に解決したんだ」

 

「でもよ・・・俺は七実に」

 

「俺がいいって言ってるんだ。それで納得しろ、以上だ」

 

そういい歩き出す七実。あいつがいいと思っていても俺はそうじゃない。前に円華にも教えられたけど、その時も俺は片意地になって突っ撥ねた

 

「それに言ったろ。許しはしなくとも許容したって」

 

「・・・わかった」

 

本当に俺はどうしたらよかったんだろう。七実は許容したって言っても俺はそれを納得できない本当にどうしたらいいんだろう。このままアリーナに戻って訓練をするが何一つ身に付かなかった。4人には困った顔をされた

 

「おい一夏気合が足りんぞ!」

 

「ごめん箒」

 

「おーい一夏、ちょっとこっちに来てくれ」

 

今日は疲れている七実は見学ということになった。その七実に呼ばれ上空から降りISを解除する。同じぐらいの身長、もしくはそれよりも高い七実は俺の頬に拳を当てそのまま振り抜いた。力の入っていない拳だったけど痛く感じた

 

「引き摺ってんなよバーカ」

 

「何してんの七実!?」

 

「この馬鹿はな、俺とこいつに何があったかでこうなってんだよ。おい一夏、ここにいる奴らは誰のために時間を割いてる。他ならぬお前の為だろ?だったらなんだこの体たらくは。俺が気にしないことにしているのにお前はそうやってうだうだと悩むのか?他人の時間を無駄にして」

 

「そうじゃねぇよ!俺がこれでいいのか、このままでいいのか悩んでんだよ」

 

千冬姉はいつだか忘れたけど、人は何かを失ってから気付くようではダメだ。失う前に気付けと言った。今回の事で俺の中の正義を失ったかのような感じがしてならなかった

 

「悩むのは良いがここで悩むな。他の奴らに迷惑だ。今日はこれ以上付き合ってられん」

 

「あ、おい待ってくれよ!」

 

七実はアリーナを去っていく。確かに今は悩んでる時じゃないと思う。だけど俺は七実みたく割り切ったりはできない。イエス、ノーみたいに単純まではいかないにしろ、悩まざるを得ない

 

「一夏さんもお気になさらなくていいのですよ?」

 

「いや、俺が七実にしたことをな・・・」

 

「一夏!気に食わないがあいつも言ってただろう!うだうだと悩んでいる暇があったら剣を振って忘れてしまえ!」

 

凄い暴論なような気もするが確かに箒の言う通りだ。七実の言う通りで他人の時間を無駄にするわけにはいかない

 

「悪かったみんな。再開しよう!」

 

「あとで謝っておきなよ一兄さん。言い方はあれだったけど正しいこと言ってたし」

 

「ああ、分かってるさ!」

 

悩み事を脳内の片隅に追いやって訓練を再開した。先ほどとはうって変わって動きはよくなったがまだまだ精進しなきゃな。模擬戦でセシリアと対決したがボロ負けだった。だが昨日よりは弾幕を避けることもでき調子に乗って攻撃を加えようとしたところで撃たれるというオチがつくのだが少しずつできるようになっているとは思いたい

 

 



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0と1、観測する0

 

やってしまった・・・あの態度がムカついて殴ってしまった。やってはいけないと思っていたが手が出てしまった。また面倒なことになるだろうな。自分なりに反省はしている、殴ってしまった俺の拳も未だに痛い。だがこの痛みは一夏も同じことだろう。明日謝るとしよう、今は自室のベッドの上で寝っ転がっているのだがやることが無さすぎて暇を持て余していた。

 

「あの3人にどうやって伝えればいいんだ・・・」

 

何をと言われたら俺の名前の事だ。鏡野七実という名前ではなく織斑春十という本当の名前()、本当の関係をどう教えたらいい?ただ普通に伝えたら一蹴されて終わりだろう。いい加減、考えるべきだろう。あれからもう15年以上経過し、実の姉こと千冬も忘れ去っているだろう。事件的にはもう時効になっているはずだ、時の流れは無情であると感じる

 

「黄昏ちゃってどうしたのかしら?」

 

「ぬぉ!?」

 

部屋の鍵を閉めていたのにも関わらずどこからともなく楯無が現れたのだ。誰にも聞かれていないと思い声に出して考えていたのだが聞かれてしまうとは思わなかった

 

「どこから入ってきた。部屋の鍵も閉まってただろ」

 

「ふふふ・・・いつから七実君より後に侵入したと錯覚してたのかしら?」

 

懲りていない奴だ。前にも侵入した時に虚の説教3時間コースを受けたのにも関わらず同じことをしたのか。そして口元を開かれた扇で隠しながら笑っているのがイラっと来る。扇には「不忍」と書かれていた。これが余計にイラっとさせてくる、普通に忍んでただろ

 

「生徒会長がこんなことをしていいのか?」

 

「権限って便利よね」

 

「悪徳め」

 

流石にダメだろ。こんなことで権限を使うな、もっと重要なところで使え

 

「それよりもさっきの独り言は何?」

 

「・・・なんでもいいだろ」

 

「え~教えてくれてもいいじゃない。あの3人って誰の事かしら~」

 

この時ばかり、こいつが笑っている顔が苦手だ。少しずつ近寄ってくるのだが考えていた内容ではないがこういうとしよう

 

「まぁ、そのなんだ。いつもお前らにて貰ってるからな。どう感謝したものか、と」

 

「へ~そんなこと考えてたんだ。あら、でも1人足りなくない?」

 

「俺で弄りまわしてくる楯無は除いてだが」

 

「なんで私が入ってないのよ!?」

 

感謝はしているにしろ、大抵の場合は俺にちょっかい出してくるのだから感謝しにくい。車椅子で遊ぼうとするわ、俺で遊ぼうとするわで散々だった覚えがある

 

「でもこんなこと言うのは初めてね」

 

「そうだったか?ならすまん」

 

これが初めてだったのか。だとしたら簪や本音、虚もそうだろう

 

「そこはありがとう、でしょ?」

 

「・・・いままでありがとうな。こんな俺なんかの為にいろいろとしてくれて」

 

「いいのよ。私達だっていろいろとお世話になったし、特に簪ちゃんとの事で」

 

簪にも言ったがあれは偶然だ。偶然が起きなかったら今頃どうなっていたか知らないが今が良好ならそれでいいと思う

 

「あんま実感が無いから何とも言えない。別段何かしたって記憶もない」

 

「またまた~。でも本当に感謝してるのよ」

 

別に感謝されたくてやったわけでは無い。簪と楯無が不穏な感じの会話をしていたのを聞いた、ただ関係が壊れてしまうのではないかと思いやっただけ。要は自分自身のためにやったわけだ。そこに感謝されるのはどうかと思う

 

「あっそ。てか話を戻すがなんでこの部屋に忍び込んでたんだ?」

 

「それは教えてあげない。でもね」

 

ベッドに寝っ転がっている横に座り顔をこちらに向けてくる。優しい微笑みを浮かべこちらを見てくるのだが、俺は見ていられず窓側に体ごと顔を背けた

 

「たまには一緒にこうしたいのよ」

 

「だったら普通に来い。次は容赦せず通報するからな」

 

「融通が利かないわね」

 

それは小さいころからだ。だがこう思われるのも悪くないと少なからず思ってきた。あの時(前世)から俺は誰かに見て欲しいと感じたがその反対、どこかで裏切られたくない、失いたくないと常々考えている

 

「だとしたらなんだ?今回の事で言えばお前が悪いだろ」

 

「それを言ったらおしまいよ。さーてと、私は帰るわね」

 

「またな」

 

じゃあなとかさよならは言わない。別れの言葉みたくて嫌になるから、またなと言うことにしている。楯無は上機嫌に鼻歌を歌いながら部屋を出ていく。そういえば楯無、いやあいつに限ったことではないが簪や本音もそうだがどうして俺なんかに好意を寄せているのだろう。たまにあの3人からは感じられるのだ。俺は捻くれているし口は悪い、取柄なんて無いに等しいのにな。幼馴染だからか?

 

「考えるだけ無駄か。聞いてもいないことを考えるのも、なんか失礼だし」

 

これだけは言える。俺は今の関係が好きだ、だから壊したくない。例えどんな代償を払うことになったとしてもだ。嫌われるようなことはしないが今の関係を良好にしていきたい。ただの逃げとも取れるこの選択は果たして、正しいと言えるのか分からない。でもこうするしかないのだと思う、自分勝手だがな

 

「・・・今日は先にシャワーを浴びてしまおう」

 

俺は立ち上がりシャワーを浴びることにした。一応書置きをして誰も入ってこないようにさせるとしよう

 

 

 

???サイド

 

『良い兆候だ。周りの刺激で変わりつつあるのがわかるよ。でもこの先はどうなるかは選択肢次第で、無数に無限とも思えるような展開になるだろうね。この無限の成層圏ことISが彼に、彼らにどういう風に使われ成長していくか。それとも停滞するか。そのどちらかを私に見せてくれ。唯一、様々な視点で見ることを許されている私を驚かせられるような展開を喜劇を見せてくれ』

 

無数の線で繋がれたこの場所は、いわば空間でもあり集合団地みたいなもの。いろんな場所から視点を移動させることができるメタ的な空間。しかし誰も伝えることができない。なぜならここにいる()()は使用者との連携、信頼が確立できていない。それ故にただメタ視点で見ることしかできない。私は例外だけどね

 

『さてさて、今週末はクラス対抗戦だ。どんな風に活躍してくれるかな白式ちゃんと一夏君のペアは。期待の新人みたいだけど、最古参の意識の君はどう一夏君を導くんだろう。楽しみだな~、あの人も負けてられないね』

 

私を使う人はまだ弱い。でも血筋なのかな?何でもすぐに覚えられる。非戦闘だって戦闘事、教育なんでもござれな感じ。でもまだどこかで怖がっている。無意識で強すぎる力を使うのを躊躇っている。それも改善しなきゃね

 

『やることは沢山あるね。まずは彼の強化から始めるとしよう』

 

唯一人高笑いをする奴がそこに立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回もお読みいただきありがとうございました

最後のあれはちゃんと意味のあるものです


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何を基準とす?

 

翌日の放課後まで俺は特に何をするでもなくただ暇していた。どこか近寄りがたい雰囲気に当てられ一夏達に謝ることもできなかった。俺が深く考えすぎなのかもしれんが今後あいつらとどうやって接していったらいいか分からなくなっている。一夏と円華に関しては、より密接な関係を築きたい。箒はどうしたらいいか分からんし、セシリアはあの一件により苦手意識が強く残ってしまっている。はてさてどうしたものか

 

「まだここにいたんだ」

 

「円華か」

 

思いに耽っていると円華が声をかけてくる。昨日の今日で俺に何かあるんだろうか?

 

「今日も一兄さんの訓練手伝ってよ」

 

「・・・昨日あんなことをしたのにか?」

 

「やり方はいけないかなって思ったけど言っていることは正しいと思うよ。もしかして引き摺ってたの?」

 

「やった後の後悔ってやつだ」

 

あの時は疲れていたのだろう。そのせいもあってあんなことをしたんだと思う。どんな事情があろうとやってしまったことには変わりはない。こんな俺でも罪悪感ぐらいは抱く

 

「あんまり気にしなくていいよ。一兄さんも納得してたし」

 

「普通あんなことされたら納得なんてしないと思うのは俺だけか?」

 

「でもいいんじゃない?昨日七実が言ってたことを流用するなら本人が気にしてないから気にするなってやつ」

 

そんなんでいいのか。だとしたらこんなに悩んだ必要はあったのか?結果論でしかないがそれでよしとするならいいか

 

「わかった。それで今日は何をするかは移動しながら聞かせてくれ」

 

「はいはい」

 

円華は溜息交じりで呆れながらそう言った。いらん世話かけさせてすまなかったな。移動しながら話を聞いたのだがある程度の戦闘はできるようになってきたため、そろそろ難しいことを取り入れようとの事だ。機体スペックは高いものの武器は剣1本しかない専用機IS<白式>で出来ることは限られている。さて何をやるのだろうか。俺から教えることはできないが何かアドバイスぐらいはできるとは思うからな。アリーナに到着するなり既に一夏、箒、セシリアの3人は訓練を始めていた。実戦形式でやっているのだがやればやるほど一夏の上達が目に見えて分かる。あいつの戦い方は武器の関係上、ヒットアンドアウェイを基本とする戦法だ。しかし、まだまだ機体に頼りすぎている感が否めない。スペックを十全に使うのは良いがそれに頼り切って最後はごり押しになってしまっているのだ

 

「お、ようやく来たか」

 

「昨日はすまなかったな」

 

「いや、あれは俺も悪かったからさ。お互い様ってことにしないか?」

 

「ああ」

 

こいつは際限なく優しすぎる気がする。俺の事もそうだがセシリアの事もそうだ、簡単に許し過ぎている節がある。今回はそのおかげで助かったとも言える

 

「円華、今日はなにするんだ?」

 

「今日は少しステップアップしようと思うの。瞬時加速とか」

 

「冗談じゃありませんわ!瞬時加速は加速機動技術の中でも上位に位置する技術なのですよ!?」

 

もしセシリアの言うことが正しければそれ相応に難しいということになる。それを少しステップアップで済まそうとするなよ

 

「私はできるし、七実もできるって聞いたけど」

 

「・・・そういえばしていましたわね」

 

恨めしそうにこちらを見るな。俺の場合は特殊なんだよ

 

「一応できるが教えることは難しいぞ?」

 

「でも、鈴に対抗するならこれくらいはできないと難しそうなんだよね」

 

「とりあえず教えてくれよ。それにどんなものか見てみたいし」

 

「それじゃあ七実よろしくね」

 

なんで俺がやることになってるんだよ。円華もできるならやりながら教える方がいいだろ?

 

「お前がやるんじゃないのかよ」

 

「分担だよ、七実がやって私達が教える。これなら問題ないよね?」

 

確かに教えることができないが実行できる奴と両方できる奴ではそうなってしまうな。仕方なく従いISを展開した。今回は一夏に分かりやすくするために<白式>の姿で展開した

 

「・・・やっぱり七実のISって常識の範囲外なような気がするんだよね。どこ制作なの?」

 

「さぁ?」

 

どこ制作と言われてもベースは<打鉄>から派生した馬鹿げた機体だというのが答えになる。だから暈した。宙に浮上し一夏と同じ目線に並ぶ

 

「それじゃあ七実、実演よろしく」

 

「随分適当だな・・・」

 

その後、教えていたが今日では使用するには至らなかった。余程、高等技術なのだろう。これでは2,3日で習得は不可能だろう。だとしたらクラス対抗戦に間に合うのだろうか。最悪先生方の手を借りるやもしれん。別に先生を頼ってはダメという制約も無い、今日確認を取ってみるか

 

 

 

夕食後、俺は寮長室を訪ねていた。寮長は織斑先生の為、仕事が長引いていなければ寮長室にいるだろうと思い来たのだがノックしても出てこない。ということはまだ仕事をしているのだろう

 

「さてどうしたものか・・・」

 

手っ取り早く強くなるのであれば誰かを完璧に真似ることが最短距離で強くなる方法だ。真似た相手を超えることは無いが負けることも無いたった唯一の方法。最悪勝てはしないが負けもしない方法だが戦いにおいては十分すぎることだ。一夏はそこまで求めていないだろうが最終的にはあそこまでの高みを目指すのだろう

 

「あら七実さんではありませんか。寮長室の前でどうしたのです?」

 

帰ろうとしていたところにセシリアと対面した

 

「ちょっと一夏の事でな、聞かなければいけないことがあって」

 

「そうでしたの」

 

俺が言えたことじゃないがさっきからこっちを見ていないのはどうかと思う。対面している時ぐらいは俺でも目を合わせるぞ?

 

「はぁ・・・今、時間空いてるか?」

 

「ええ、空いてますわよ。それがどうかしました?」

 

「お前とも話がしたくてな。少し外行かないか?」

 

「・・・わかりましたわ」

 

この際キチンと話をしてこいつとの蟠りを無くした方がいいだろう。俺としてもこいつとしてもそうした方がいいだろう。寮の外に備え付けられていたベンチに距離を置いて座る

 

「なぁセシリア、お前には俺がどう見えていた?」

 

「どうとは?」

 

「ほじくり返すようで悪いが俺と初めて対面した時に俺を罵倒したな。その時、お前はどんな風に感じていた?」

 

この関係を修復するためにはまず根本から変えねばならない。ならばどういうことか。こいつにも真実を知ってもらう必要がある

 

「・・・あの時、わたくしは貴方の事が嫌で仕方ありませんでしたわ。なぜ犯罪者の息子なんかがいるんだと」

 

俺が思った通りだ。俺が知っていたのは旧名佐野七実こと俺がどんな目に遭ってあんなことになっていたかをニュースによって捻じ曲げられ改竄された結果としてこうなったのだろう

 

「やっぱりそうか、それはニュースで見て聞いた話か?」

 

「その通りですわ」

 

「だろうな。真実を捻じ曲げてまで伝えた報道に何の意味があるんだか。セシリア俺の背中を触ってみろ」

 

俺はセシリアに背中を向け触らせる。背中には斜めに二分割するような大きな傷跡があり服越しでも触れば分かるほどに抉れている。傷跡に沿ってなぞられるのだが嫌な記憶が思い出されて気持ち悪くなる

 

「犯罪者になったあのクソ野郎が斬った(付けた)証拠だ。犯罪者の息子では無く犯罪者の被害者というな」

 

「これは・・・大変でいらしたのね」

 

「簪や本音、楯無、虚。あの四人には本当に世話になった。それはともかくだ、何で俺がここまでしたかはお前とも良好な関係を築きたいからだ」

 

でなければこんなことはしない。この傷に触れさせること自体、あいつらにもさせる気はない

 

「どうしてそこまでしようとするのですか?どうあれわたくしのした事はあなたにとって許されざることだったはずですのよ」

 

「確かにその通りだが俺は水に流そうと思う。もう終わったことだしな」

 

「いいのですか?」

 

「かまわん。俺だっていつまで経ってもいがみ合っていないのにどうしてこんな関係を続けなきゃいかない」

 

「分かりましたわ。いえ、ここはありがとうございますでしょうね」

 

これでこいつとの蟠りも消えるもしくは、かなり少なくなるだろう。本当にこれでよかったと思う

 

「さて話はこれでおしまいだ。帰ることを勧めておく」

 

「あらどうしてですの?」

 

「俺は織斑先生を待っているからだ。お前は何にも用は無いはずだ」

 

「それもそうですね。わたくしは帰ることにしますわ」

 

セシリアは寮内に戻っていくのを見届けた後、俺は織斑先生がやってくるまで1人で星を見ることにした。簪に言われた通り、俺自身が変わること。今まではああいう風になった関係は悉く切り捨ててきたがどうだろう。少しは変われてきているような気がする。だが根本に残っている物はどうしようもなく変えられない。自身がどれだけ選択肢において切り捨てやすいか、真実を知りたいかということはどうしても変えられないのだ

 

「どうしたものか・・・」

 

俺は多分どうすることもできないのだろう。現に他人に理由を求めて行動することしかしていないのだから。とにかく今はやることをやるだけだ。俺は織斑先生が戻ってくるまで待っていた。織斑先生が戻ってくるなり約束を取り付け自室に戻ることにした。これでダメだったらもうどうしようもないがやれるだけの事はしたはずだ

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回は対鈴ちゃんまで飛びます


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対抗する白赤と巨黒、そして問題児

投稿遅くなってすみませんでした。リアルが忙しくて今月と来月上旬は投稿は難しいかもです


今日はクラス対抗戦当日である。前日まで一夏にはみっちり指導したがあれの成功確率は半々というところまでだった。一か八か、最初の1年目の最初期とも言える時点でここまでできるのは相当なものだと思う。しかし相手は中国代表候補生の鈴という組み合わせだ。まぁ俺からは頑張れとしか言えん。あれだけやったんだから後はお前次第、と言うのは緊張させてしまうからあえてやれるだけやって来いとは言ってやった

 

「んでどうしてここに連れてこられた?」

 

「どうせ席は埋まってるんだし、観戦中に何かあったら大変じゃない」

 

楯無に管制室に連れてこられていた。ここには織斑先生と山田先生もいる。凄い場違いな感じがする

 

「なんだ鏡野か」

 

「ども・・・ここにいていいんですか?」

 

「騒がなければな。というよりも鏡野、織斑弟と仲良くなったのか?」

 

「まぁ・・・色々と紆余曲折ありましたが」

 

本当に色々とあったんで。だが織斑先生の表情は何処か嬉しそうにも見えたような気がした。元々はこうなるべきだと思ってこうしたんだ。これから先の事は分からんがまた何か問題が起きそうな気がするのはなぜだろう

 

「それは良かった。同じ境遇に立たされてる者同士上手くやってくれ」

 

同じ境遇、確かに男性IS操縦者という立場としては同じだ。だがどうだろう、それ以外ではどうだ?俺と一夏はほぼ正反対と言える立場に立たされている。俺はニュースやセシリアの事もあり学園1の嫌われ者だが一夏は対極とも取れる学園1の人気者だ。到底同じ立場とは思えない

 

「・・・うす」

 

「七実君は大きく捉え過ぎよ。もっと客観的に歓楽的になりましょ?」

 

次は楯無にそう言われるがそうできたら本当に楽だった。過去の出来事も相まって、そうはできない。むしろ普通だったら人間不信になるまである。俺は前世の事もあり既に慣れている

 

「できたらいいな」

 

「・・・これはしばらく掛かりそうね」

 

お前も簪同様に俺を変えようとするのか。今は少し変わろうとはしているが根本は変わることはないだろう。前世も過去も変わることの無い経験、出来事なのだから

 

「そろそろ第1試合開始時刻です。選出された生徒は入場してください」

 

もう試合が開始されるのか。第1試合目は一夏対鈴だ。あいつが鈴にどこまで食らい付けるかどうか見なければならない。あいつらが入場してくるが鈴のISは赤み掛かった黒い機体を身に纏っていた。ここから見える分では何かを話している様子だ

 

「何をしているんだあいつらは」

 

「さぁ?・・・でも青春っぽくって私は好きですよ」

 

「あいつらに一悶着あったみたいなんでそのことで話してるんだと」

 

少なくとも俺は鈴からあの話を聞いている。一夏がやってしまった話。それを話しているんだと思うがどうだろう、ここで話をするのはあいつらにとって丁度いいのかもしれんが他にとって迷惑だ

 

「山田君、武器を構えたら試合開始にしてやってくれ」

 

「あ、はい。ではそう伝えておきますね」

 

付き合いが長いからある程度の事は分かるのだろう。とても妬ましく思う、本来なら俺もそこにいたはずなのに

 

「そういえば七実君、一夏君に円華ちゃんとかと何か教えてたらしいわね」

 

「見てれば分かると思う。成功するかどうかも分からんが」

 

「ふーん。それじゃあ期待して見てようかしら」

 

期待はしない方がいいとは思う。期待するだけできなかった時の失望感は凄い。あいつらは互いに武器を構えたところで山田先生が試合開始の合図がなされた。それと同時に一夏は吹き飛ばされた

 

「最初っから本気ね」

 

「なんだ今の?」

 

「衝撃砲よ。空間自体に圧力をかけて砲身を生成して余剰で生じる衝撃を砲弾として肩部もしくは腕部から射出する第三世代兵装よ」

 

よくもまあ知ってるな。さすが生徒会長なのか?

 

「こればかりは一夏君、分が悪いとしか言えないわね。砲弾は見えないし射角も無制限、空気の歪みに気付いてもその時には着弾しているからね」

 

「俺が言ったらマズイかもしれんが無茶苦茶な兵装だな」

 

「本当にその通りだ。鏡野の機体は異常すぎるせいか凰のISが霞んで見える」

 

と言われるが<M.M.>にも弱点、デメリットがある。SEの量も他の機体よりも少なく機体にダメージを受ければそのまま俺もダメージを受けてしまう。まだそのことは誰にも言っていないからこその反応だろう

 

「だが貴様はそこで止まっている。全て経験任せにするのもどうかと思うぞ」

 

流石にバレていたか。だが経験に引っ張られる形で俺の戦い方が形成されていくから何とも言えない

 

「これからの授業は期待してろよ?」

 

「無茶ぶりさえされなければ」

 

本当にあの時は大変だった。ただでさえ体力が無いのにあれだけの事をさせるとは鬼畜の所業だ

 

「今、失礼な事を考えなかったか?」

 

「いえ」

 

これは酷い。なぜ分かったし

 

「ふむ・・・どうやら躱し始めたぞ」

 

「よくやるわね。さすが織斑先生の弟さんってことですか?」

 

「楯無、私はおちょくられるのが嫌いだ。それ以上言ったら、分かるな?」

 

威圧するのはやめてやってください。結構ビビってますから

 

「そろそろ進展があるかもな」

 

「成功するといいんですがどうも上手くいかなかったんで」

 

「あいつは本番で力が出るタイプだ。現に今だってそうだ」

 

教師でありながら姉として見ているんだろう。故に一夏や円華の事がすぐ分かりどうするかの予測も立てている。ある意味理想的な関係だと思う。傍から見ていて羨ましく妬ましい

 

「今だぞ、一夏」

 

熱くなりすぎて苗字では無く名前で呼び始めた。今は教師では無く姉として見ているのだろう。だが織斑先生の予測通りに事は進み、この1週間で叩き込んだ瞬時加速で接近し斬りつけようとした瞬間だった。大きな衝撃がアリーナ全体に響き渡った。鈴の放つ衝撃砲なんかとは比べ物にならないほどの物。アリーナの遮断シールドさえもぶち破り何かがものすごいスピードで降りてくる。土煙の中に隠れてしまったが今回の出来事の犯人は降りてきた何かだろう

 

「ステージ中央に熱源反応あり!ISです!」

 

「すぐさま生徒を避難させろ!」

 

「外部からのハッキングで外へのシャッターが閉じ、アリーナの防壁が降りません!」

 

「2,3年の整備科の奴らと教員に要請を頼み、事の対処に当たれ。更識姉はそっちを頼む」

 

「分かりました」

 

「鏡野、生徒の避難に手助けしてやってくれ。シャッターの破壊を許可する」

 

「一番遠いところからやってきます。他の専用機持ちにも声掛けを」

 

緊急事態なんでとりあえず従うことにする。俺が困るからというわけでなく後々面倒な事を頼まれるぐらいならこっちをした方が楽であるという判断の元だ。遮断シールドは普通では破壊されないはずだ。ならなぜ壊れたのか、あのISは普通では無いからだ。戦うことなんてしたくない。一夏や鈴もすぐ逃げるだろうとの考えである

 

 

 

俺は距離が1番離れた西口に出来るだけ全速力で向かった。到着には少し時間はかかったが酷いものが目に映る。誰しもが命の危機を感じ、我先にと思っているだろうが終着点は空いていないという現実を目の前にして嘆いている奴や絶望している奴と様々だった。<M.M.>を<打鉄>として身に纏う

 

「邪魔だ。今からそこのシャッターを開く!」

 

みるみる道が開きシャッターまで到達できた。近接用ブレード『葵』を展開しシャッターを叩き斬り、道を開くが誰もが走り出し逃げようとするが俺には見えていた。視点が高く見えるのだが数名が転んでしまっている

 

「走るな!転んで踏まれている奴がいるぞ!」

 

誰もが強靭な体の持ち主ではない。人の体重分の荷重を掛けられてしまえば誰だって苦痛に感じる。骨だって折れる可能性もある。それすら考えず我先に逃げようとするのはおかしい。俺を批難する前に自分の行動を振り返ってみろ。とりあえずアリーナから生徒が避難し終わるまで見届けた後、管制室に通信を入れた

 

「織斑先生、西口の避難完了しました。なお避難の際に数名怪我人が出た模様です」

 

『そうか、ご苦労だった。今オルコットにも避難の援助を・・・山田君、先ほどまでいた篠ノ之はどうした?』

 

向こうでそんな会話が聞こえてくる。セシリアと箒が一緒に行動しているのはおかしいが個人を匿うには十分なのだろう

 

『もしかしたら避難したんじゃないですか?』

 

『・・・鏡野、すまんが見回りを頼む。こちらも離れるわけにはいかん』

 

「分かりました」

 

避難できていない奴および篠ノ之箒の捜索、もし見つからなかった場合は逃げたのだろう。西口には姿を確認できなかった。ならばもう1つの入り口である東口はどうだろう。先の会話からセシリアが向かっているはずなので通信を取ることにした

 

「こちら鏡野七実だ、セシリア聞こえるか?」

 

『どうなさいまして?』

 

「箒なんだが東口の方に逃げてないか?」

 

『いえ、まだ管制室にいると思いますわ』

 

最悪な事態だ、まだ逃げずにアリーナのどこかにいるようだ。一刻も早く探して俺たちも逃げなければならないというのに

 

「セシリア、よく聞け。管制室から箒がいなくなった。西口からの避難も無し、まだこのアリーナに残っているはずだ。避難が終わり次第、捜索の手伝いをして欲しい。俺は先行して探しに行く」

 

『分かりましたわ。どうかご無事で』

 

死ぬことは無いだろうがとっとと捜索せねばならん。1階はさっきまで混雑していたから逃げようとしたならまずはここに来るのだが来ていないから1階は除外だ。2階はトイレぐらいしかないが緊急時に行ってもいられんから後回しでも問題ない。ならば最上階の3階だ。ISを一旦解除し急いで駆けていく。ようやく少しは走れるぐらいにはなったが体力が無いのでそんなに走ることはできなかった。3階まで辿り着き息を整える。時計周りで探しはじめた途端見覚えのあるポニーテールが部屋の中に入っていくのが見える

 

「さっさと逃げろよ!」

 

体力もほぼ尽きかけたが体に鞭を打ち箒と思われる人物が入っていった部屋にたどり着く。そこは中継室と呼ばれる場所だった。なにか嫌な予感がする。第六感というべきか分からんが本当に嫌な予感がする。確認のために部屋の中に入ると箒と女性が2人のびていた。箒がやったのだろう

 

「一夏ぁっ!男なら・・・男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

中継室のマイクを使いそう叫んだ。モニターでは一夏と鈴が黒く腕の長いISと戦闘しているのが見えるが2人のいない方に手をかざし光を集めていた。嫌な予感が当たってしまった。こちらというよりも箒目掛けて何かをしようとしているのだろう。目の前で誰かが死なれるのは非常に目覚めが悪い。ISを展開し走って篠ノ之を突き飛ばすことにした。ISであれば一応防御機能がある。絶対防御という本当に絶対なのだろうかというものがある。俺の身体は大変なことになるだろうがそれでもやるしかない

 

「この・・・馬鹿野郎がっ!」

 

篠ノ之を突き飛ばした後、俺が目にしたのはこのアリーナの遮断シールドを破壊した光だった。それに飲み込まれ俺の意識は暗転した

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回鈴ちゃん編終了です。次回は後日談、その次は幕間的な話です


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結果が全て、そして帰るべき場所

書き溜め分です


後日談というよりも今回の出来事のオチ。あの黒いISの正体は判明せずということだ。いや話に来たのが織斑先生だということで反応が分からなかったと言った方がいいだろう。一夏は気絶したが全身に軽い打撲で済んだそうだ。あの時馬鹿をしでかした箒は1か月特別指導室という場所に入れられることになった。次のイベントである学年別トーナメント戦には出られないということ。本来だったら退学沙汰なのだが、学園上層部が篠ノ之箒の姉でありISの開発者篠ノ之束を恐れてそうしたということだそうだ。ちなみに俺というと棺桶に入れられている。いやこの言い方では語弊がある。本来は医療用カプセルなのだがろくに動けないし顔の部分でしか外を確認できない。だから俺は棺桶と呼ぶことにした。今はこの中で他人との接触を断絶されてしまい外がどういう風になっているかなど分からない

 

『七実君起きてますか?』

 

「一応起きてます」

 

目覚めてから既に3日経過している。朝と放課後の2回は必ず通信越しで山田先生か織斑先生が来てくれて少々話をするのだがそれ以外することもできることも無い。休みと聞けば普通は嬉しいものだがこれは流石に論外だ

 

『明日になったら出れますけど、二度と他の人を心配させるようなことはしちゃダメですよ!』

 

「いや・・・あの時はそうしなきゃいけなかったんで」

 

仮にあの時俺が庇っていなければどうなっていたか。あそこでのびていた奴と箒はもしかしたら死んでいたかもしれない

 

『確かに七実君がしたことは正しいかもしれません。ですがISはほとんど融解して七実君はついこの前までは生死を彷徨ってたんですよ!』

 

「あっはい」

 

『それどころか身体中は火傷したかのような酷いあり様でところどころ炭化していました!こうして生きているだけでも奇跡みたいな状況だったんです!』

 

そんなことになっていたのか。でも今の俺は見えなくとも全感覚は働くし一応は動く。五体満足で問題は無いのだが実際問題そうはいかないのだろう

 

『織斑先生も心配してましたし、何よりも本音さんや簪さんも心配してたんですよ!』

 

「・・・」

 

俺は何も言うことができなかった。簪や本音に心配をかけてしまったのか。だとしたら楯無や虚もそうだろう。なのだとしたら本当に申し訳ないことをした・・・のか?

 

『人を助けるのは良いですが心配を掛けちゃいけませんよ?』

 

「・・・」

 

『それじゃあ約束ですよ?私は仕事があるので失礼しますね。明日の朝には出れますのでその時、またきますね』

 

そういうと山田先生の声が聞こえなくなる。約束という形でなってしまったが今回と似たようなケースができてしまった場合、はたしてそれを守れるのだろうか。その時になってみないと分からないが多分無理だろう。こんな事態になるのであれば普通は無茶しなければならない。それも死ぬレベルでだ。当然無理としか言えない

 

「本当にどうしたものか」

 

俺は考えるのも面倒になり眠たくも無いが寝ることにした。ようやく明日にはここを出られるのだ。退屈で退屈で暇なこの棺桶とおさらばだ

 

 

 

翌日、山田先生の言う通りに棺桶から出された。既に普通に歩けるので松葉杖は必要ないのだが念のためと言うことで持たされることになった。とりあえず俺は体を捻ったり背伸びなどをするのだが何日も動かずあの姿勢のままだったため骨の関節からなる音が酷かった。まるで骨が折れたかのような音がした

 

「本当にすまなかった鏡野。私がお前に見回りをするように言わなければこんなことにはならずに済んだものを」

 

「それは結果論で、もしあの指示がなかったら中継室にいたあいつや他の2人は死んでた。結果だけを見たらこれが正解です。誰も死なずに済んだという結果がでましたし」

 

そう結果が全てなんだ。どうあれ誰も死なずに生還できているという最善の結果が得られた。采配としてはこれは間違いではない

 

「だからダメですよ!いくら結果だけ良くても七実君は大変だったんですから!」

 

「ならあの3人は死んでました。どちらの結末にも大変な目に遭う奴が必ずいます。それが俺かあの3人だったかの違いしかない」

 

「もうこの話はやめだ。さっさと帰るぞ」

 

山田先生には悪いと思うけどこれが本当の事だ。いくら涙目になろうと罪悪感は湧くが取捨選択は必要だ。今回の事も然り。山田先生の考えていることも分かるけど。俺は織斑先生の後に続きこの部屋から出ていくのだがどうも保健室の地下だったようだ。保健室から出ると2人は朝っぱらなのにも関わらず仕事があるということで別れ俺は寮に戻ることにした。今日は土曜ということでほぼ1週間まるまる無駄にしたかのような感覚になりながら誰とも会わずに自室の前に到着した。起きているか分からないがノックをする。だがまだ寝ているのだろう、返事は無い

 

「休日だから仕方ないか」

 

鍵を使い部屋の中に入るがまだ寝ている様子だった。腹も減ったし簡単な朝食を作るとしよう。ハムエッグにトースト、カフェオレでいいだろう。簡単に作れる割には十分な量だからいい。作っているだが簪がゆっくりと起き上がるのが見える

 

「おはよう」

 

「あ、おはよう七実・・・七実!?」

 

ベッドの横に置いてあるサイドテーブルに置いてある眼鏡をかけこちらを凝視してくる

 

「本当に七実だよね?」

 

「更識簪の幼馴染こと旧名佐野七実、現名鏡野七実だ」

 

「うん、七実だ」

 

何を基準にしたかは知らんが俺と認識したようだ

 

「簡単な朝食を作ってるから適当に座ってろ」

 

「あ、うん。てか料理出来たんだ」

 

「一応な。起きるかどうかわからんが本音も起こしてくれ」

 

多分起きないだろうが一応な。省いたとか言われてもあれだし。俺は出来たものをテーブルの上に並べて自分の席に座った

 

「本音起きて」

 

「むえ~今日は土曜だよー?まだ寝かせて~」

 

「なら七実が作った朝食はいらない?」

 

「ななみん~・・・ほえ!?」

 

勢いよく起きる本音は俺を見るなり立ち上がり俺の顔や腕など全身くまなく触り始める

 

「ななみん・・・ななみんだ~!」

 

「お、おう」

 

「おかえりななみん!」

 

本音は椅子に座った俺優しく抱きしめてくれた。それなら俺はこういうべきだろう

 

「ただいま簪に本音」

 

「おかえり七実」

 

今の俺の帰るべき場所はここなのだろう。母さんや親父を除けばこんなことを言うのは初めてだ。素直に嬉しいのだ。帰ってこれる場所があるというのは

 

「とりあえず冷めない内に食べるぞ」

 

「「うん!」」

 

俺が作った質素な朝食。だが2人は嬉しそうに食べてくれる。あの時はこんな風に食べてもらえることは無かった。俺も一口食べるが特に普通としか感じられなかった。だが美味いのであればこれからもこいつらの為に作ろうと思う

 

「そういえば七実、ずっとどこにいたの?面会拒絶って言われてたけど」

 

「保健室だ。まぁ面会拒絶になるくらいだからそれ相応の場所だ」

 

見せられないというのが本当の事だろう。何せ俺はつい4日前まで死にかけていたほどだそうだ。火傷もひどく見せられたものではない。今ではもうなんとも無いが

 

「そう、でも七実が無事でよかった」

 

「ん~」

 

本音はだいたいどういうことになっていたかが分かっていたのだろう。視線が泳いでいる

 

「何がともあれこうして俺は生きている」

 

「でも、もう無茶はしないでね。私、七実がいなくなったら悲しい」

 

「・・・善処する」

 

「それしないやつだよ?」

 

できるかどうかより起きるか否かがまず分からんからどうしようも無いというのが現実だ

 

「わかったわかった。無茶はしない」

 

無理無謀をしないとは言っていない

 

「無理無謀もダメだよ~」

 

今度は本音に封じられたか。でも仕方ないことだろう誰かがやらなければいけないことだったんだから。でなければもっと悲惨なことになっていたのだから

 

「・・・やれるだけな」

 

「ダメ、絶対」

 

前はあんなにもオドオドしていた簪は本当に強くなったと思う。我を通すその意志は本当に凄いと思う

 

「緊急時を除くならな。さすがに今回みたいな人命が関わっている場合は見逃してくれ」

 

「・・・わかった。絶対だよ。破ったら・・・分かってる?」

 

「脅迫まがいはやめろ。意外に効く」

 

「それぐらい心配したの、もうやめてね」

 

「ああ」

 

多分俺はどうすることもできないんだろう。仕方ないことだと割り切ることにした。朝食を食べ終わるなり片付けに入ろうとしたが楯無と虚がやってきてその後も大変なことになりました。厭らしい意味では無いからな。楯無と虚の朝食を作りアーンしろだの甘えさせろだのと大変だった。主に楯無がな、虚はそんなことはしなかったが小一時間程説教された程度で済んだ。休んで手に入れた体力が全て持っていかれた感じになるまで甘えさせることにした。特段悪いことをしたわけでは無いはずなのだがどうしてこうなったし

 

 

 

???サイド

 

あの2人目の男性IS操縦者が気に食わなかった。殺してしまおうと思ってあの無人機を突入させたがまさか箒ちゃんに攻撃するとは思わなかった。でも形はどうあれ、あいつは箒ちゃんを身を挺して助けた。死んだかどうかは知らないけど少し興味がわいた。あいつのISコアにハッキングを掛けても逆にしてやられる。確かにISコアにはそれぞれ疑似人格が埋め込まれているがあいつだけは奇妙に感じた。ただ何かを教えないかのような反応。それも相まってか1度調べることにした。なんであのゴミがISを動かせるのかが気になって

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

無事1巻分終了です


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打鉄弐式

書き溜め分です


翌日、俺は簪と一緒に整備室に来ていた。約束したとおりに簪の専用機の製作を手伝うことになっている。ちなみに俺のISはダメージレベルとかそういう範囲では無くISコアは無事だが機体はほぼ融解し使い物にならない。現在は整備室で厳重に保管されているとの事。どういう状況か知るために許可を得て、見ることにした。しかし見てから言うのもなんだが酷いあり様だ。原型を留めていなかった

 

「これは酷い・・・よく無事だったね」

 

「無事と言えたら本当に良かったな。大惨事だったらしい」

 

「具体的にはどういう風?」

 

あの状態を言うのは気が引けるので言わないことにする。俺だって聞いて血の気が引いた。誰だってそうだろう、あんな事を経験すること自体がありえないことだ

 

「今はどうしようも無いのかな?」

 

「まぁ無理だろ。触ればある程度反応するだろうけどそれでもまともに使えないだろ」

 

今日は一旦置いておくとして本題は簪の専用機だ。やるべきことはやってしまおう

 

「それで進捗状況はどれくらいだ?」

 

「うーんと、だいたいは完成しつつあるよ。でも武装と稼働データがまだ」

 

てことは俺もISを使った方がいいんだろうか。だが専用機は無いから訓練機を借りなければならないのか

 

「まずは武装からでいい?」

 

「はいよ。何があるのかはやりながら聞くがいいか?」

 

「それでいい」

 

武装はマルチ・ロックオン・システムによる高性能誘導八連装ミサイル『山嵐』が6門、荷電粒子砲『春雷』が2門、対複合装甲用超振動薙刀<夢現>が1本という遠、中、近と万能な構成になっている。先日の見た鈴の武装に考えればインパクトこそ無いが非常にバランスが良いため相手にしたくない。武装に関しては簪の方が詳しいので指示を受けながら開発を進めていった。1番苦戦したのは『山嵐』のマルチ・ロックオン・システムだ。複雑なプログラムのせいで制作の進行が遅れてしまっているみたいだ

 

「どうしたらいいんだろ?」

 

「マルチ・ロックオンだったか?ちょっと見てもいいか」

 

「いいよ」

 

空間に投影されているプログラム画面を見てみるがあまり進んでいない様子。だがなぜだろう、どういう風に組めばいいのかが分かる。だがこの手の作業は不慣れの為、作業効率は悪い

 

「なぁ簪、どういう風にしたらいいか分かるか?」

 

「参考資料はあるし、そういうのは分かる。でも参考資料が理解しづらい」

 

「そっちも見ていいか?」

 

参考資料も見せてもらうが割かし適当に書かれている感が酷い。もしこれが企業から渡された物だとしたら手抜きとしか思えないほどだ。それほどに簪の専用機より一夏の専用機の方が重要なのだろう。大人としてこの対応は無いと思う

 

「少しやってみるぞ。完全とは言えないがだいたいは理解できた」

 

「ならお願いする。私は他のをやってるから」

 

資料を参考にプログラミングするとしよう。すぐに終わるとは思えないが、次のイベントである学年別トーナメント戦には参加できるだろう。正直、俺としては参加したくない。機体が損傷も酷いというのもあるが何よりも使ったことの無い訓練機で出るのはことになるのだろう。正直1か月あるかどうかで使えるようになるのは厳しい。現に1年だけでも専用機持ちは現状4人もいる。あいつらを相手取るのは流石に厳しい

 

「・・み?七実!」

 

「あ、な、なんだ?」

 

「いや・・・手が止まってたから。昨日の今日でまだ本調子じゃない?」

 

「考え事をしてただけだから何の問題も無い」

 

簪は心配そうになって俺に近づいてくる。本当にただ考え事をしていただけだ。特段調子が悪いわけでもない

 

「本当に?」

 

「本当だ。調子が悪いんだったら最初っから言ってる」

 

「そう・・・でも本当に具合悪くなったら言って。またこの前みたいじゃなくても倒れちゃったら・・・嫌だ」

 

本当に心配してくれているんだろう。どうしてそこまで思うのか、幼馴染だからか?俺にはさっぱり分からないがありがたい

 

「その、なんだ。心配してくれてありがとな」

 

「ふふ、もっと頼ってくれていいんだよ?」

 

慣れないことしたものだから少し照れくさい。どうしてこんな風になっているんだろう。それになんとも言えないこの胸の高鳴りは何だろう。何も分からない

 

「七実?本当に大丈夫?胸なんか押さえちゃって」

 

「大丈夫だ。何も、何も問題無い」

 

とにかく気持ちを切り替えプログラミングを再開する。本当にどうしてしまったんだろうか、体調にも本当に問題ないはずだが異様に鼓動が早い。いったい何なんだろうなこれ

 

 

 

簪サイド

 

時々七実の様子を伺いながら<打鉄弐式>の武装を点検や最終調整を行ってるけど、少し様子がおかしい。顔色は悪くないけど、時たま胸を押さえたりこちらを見てくる。昨日の今日でまだ体調が優れないのかな?今日は早めに上がってまた今度手伝ってもらうようにしようかな

 

「ふぅ・・・七実、一旦休憩にしない?」

 

「俺はいい。後で適当に休憩を入れる」

 

真剣にマルチ・ロックオン・システムの開発を参考資料を元に行っているがそれでもまだ終わる気配は無い。そろそろお昼時だから1度休憩を挟んだ方がいい

 

「そろそろお昼だし、ね」

 

「ならもう少しだけ待ってくれ。半端なところで終わらせるのもなんかあれだし」

 

「じゃあ待ってる」

 

私の方は後1時間程もあれば終わるが七実の方はまだ終わりそうに無い。でも少しずつ進めているのがわかる。こういうのが得意なのだろうか?私は七実が区切りよく終わるのを待つこと20分、無事終了したようで作業を一旦終了させた

 

「一応終わったぞ。まだ完成には程遠いが」

 

「手伝ってくれるだけでも嬉しい。ありがとう」

 

「お、おう」

 

「それじゃあお昼にしよっか。適当に売店でもいい?」

 

「食堂以外だったらどこでも構わん。丁度いい時間帯だろうしな」

 

私達は購買に向かい弁当を買って外に出た。適当なベンチで食べることにした

 

「「いただきます」」

 

お弁当を食べ始めるけど七実はどこか上の空。また何かを考えているようだ。何かを食べている時ぐらい考え事をしなくてもいいんじゃないかな?

 

「また考え事?」

 

「考え事というよりも脳内でどうプログラムを組むか考えているだけだ」

 

その思考は社畜の考え方だよ。一旦忘れることを推奨する

 

「今は忘れよ?」

 

「こうでもしないと今日中に終わりそうになくてな」

 

あれを今日中に終わらせようとしてたの!?そんな無茶しなくていいんだよ?

 

「もしそこまでいかなくともどういう風に完成するかとかな」

 

「そ、そうなんだ・・・でも今は一旦忘れて」

 

「すまんが無理だ。なるべく脳内に残しておきたい」

 

本当にどうしよう・・・思考がもう大変なことになってるよ。頼ったのが間違いだった?いやでも七実の好意を無下にするわけにもいかないしどうしたらよかった?私がプログラムの方をやった方がよかったかな

 

「まぁ今日終わらなくとも今週には目途は立ちそうだが」

 

「本当!?」

 

「予想だがな。初めてやったがこういった方が楽で楽しいもんだ」

 

「ふーん。なら2年では整備科の方に進むの?」

 

学年が1つ上がる時に学科分けがある。操縦科か整備科の2つだがお姉ちゃんは操縦科、虚さんは整備科。お姉ちゃんはロシア代表のIS操縦者ということもあり操縦科のエースで虚さんは整備だけではなくプログラミング技術など色々と優れていて整備科のエースとしてIS学園でも活躍している。私は今どうするか悩んでいるけど七実はどうなんだろう?

 

「知らん。だが操縦を専門にする方には行かないとは言っておく。体力の無い俺には厳しすぎる」

 

「あはは・・・七実らしいね」

 

ということは整備科に行くのだろう。本音もそのつもりだと聞いていたから多分また一緒のクラスになるんだろうな。羨ましい

 

「そういう簪は決めてるのか?」

 

「いやまだどっちつかずって感じ。これでも日本代表候補生だし」

 

「こういうのはやりたいようにするのが一番だがな。俺は応援してるからな」

 

「ありがと」

 

そう言ってもらえると嬉しいかな。最近は七実も少し物腰柔らかくなってきている気がする。本当に少しずつ変わってきてるのかな。だと嬉しいな

 

「ごっそさん。先に戻ってやってるからな」

 

「え!?は、早い!」

 

七実はゴミ箱に空になった弁当を捨てて先に整備室に戻っていった。相変わらずこういうところは変わらないな。さてと、私も早く食べて終わらせないとね。私もお弁当を捨てて整備室に戻り作業を再開させた。今日は時間ギリギリまでやって私の方は完全に終わらせたんだけど七実の方は終わらなかった。というより残り半分まで終わらせていた。部屋に戻るなりPCで残りの作業を終わらせようとした時は本当に驚いた。七実には本当に整備科に入ることを薦めるよ。なんなら虚さんにも伝えようかとまで考えてしまうところだった

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

これで簪が次のイベントに参加することが確定的になりました(戦うかどうかはまた別ですが)


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金の貴公子、銀の軍人

投稿が遅くなってすみませんでした。たぶんこれからは、いつも通りに投稿すると思います


 

翌日、俺は何事も無く普通に登校した。朝早くなので部活に入っている奴らが朝練している以外の人には会わずにここまで来ることが出来た。登校できなかった1週間分の授業の遅れは本音からノートを借りることで何とか事なきを得たんだが教科書や参考書などを見比べても書いている部分が少ないのだ。元々そういうのは知っていたが今すぐにやるとするなら本音から借りるしかなかった。そのせいか、ほぼ貫徹と言って良いだろう。とても眠い。簪のISや授業の遅れを取り戻す為にした結果がこれである。机の上で腕を枕にして寝ることにした。どうせ朝のSHRが始まる前には騒がしくなって起きるだろう

 

朝のSHRが始まる前には教室内は騒がしくなり無事起きることが出来た。まだ眠いが今日の授業は実習となっている。その為なるべく体力は作っておきたいがもう無理だろう。貫徹なんてするんじゃなかった

 

「はーい、みなさーん席に着いてくださーい」

 

山田先生が入ってくると同時に朝のSHRが始まる。今日も始まるのか

 

「今日から鏡野七実君が復帰しました!1週間も授業に出れなかったので助けてあげてくださいね」

 

実際、そんなに助けを借りるわけでは無い。ただ普通に接してくれ。面倒事が増えなくてすむから

 

「それと、このクラスに転校生がやってきました!入ってきていいですよ」

 

髪を首の後ろで束ねた金髪で中性的な顔立ちの男であろう奴と長い銀髪をした眼帯をつけた小さめの女が教壇に上がる

 

「では自己紹介をお願いしますね。まずはデュノア君からで」

 

「はい、僕の名前はシャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますがどうぞ宜しくお願い致します」

 

なんとまぁ優等生的な自己紹介だろう。しかしなんだ?中性的な顔立ちのせいか、あまり男に見えない。もしかしたら杞憂かもしれない。それよりも俺はまず耳を塞ぐことにしよう。うるさくなるのは目に見えてわかる。まったく眠いというのに叫ばないでくれ。珍しいと思うが俺や一夏、シャルルだってここにいる全員と同じ人間だからな

 

「朝から煩いぞ!」

 

遅れてやってきた織斑先生に叱られ静かになる

 

「デュノアの紹介は終わったな。次はボーデヴィッヒだ」

 

「分かりました教官」

 

「教官では無い。織斑先生だ」

 

あの銀髪は織斑先生の事を教官と呼んだ。どうせIS関連で教鞭をとってこういう関係になったのだろう。あの眼帯は怪我でもしたのか?

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

『・・・』

 

ほぼ一夏の自己紹介と同じだった。名前だけ言って終わらせるのはどうかと思う。せめて出身国とかいったらどうだ?

 

「あ、あの・・・以上ですか?」

 

「以上だ」

 

異常だろ。そう思ったが口には出さないでおく。面倒事になるかもしれんし

 

「!貴様が」

 

ラウラが一夏に近づくとパチンッ!と平手打ちしてそんな音を出していた。初対面で何してんだか

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

「いきなり何しやがる!」

 

「ふん」

 

ラウラは指定されているであろう席に向かう。本当にこれからも面倒なことになりそうな予感をヒシヒシと感じさせやがって

 

「ではSHRを終了する。各人はすぐに着替えて、第2グラウンドに集合。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。では解散。あと織斑と鏡野はデュノアの面倒を見るように」

 

これぐらいはしなきゃなんねぇか。相手はなんだかんだで転校初日の奴だしな

 

「さっさと行くか。あいつらと行動すると面倒事しかないが」

 

毎回のように一夏を追いかける女子がわんさかといる。ましてや今回は新たにもう一人追加されたから本当に酷いことになるんだろうよ。教室を出ると既に騒がしくなりつつあるのが聞こえてくる

 

「急いでいくぞ七実にシャルル!」

 

「へ?な、なんで?」

 

「面倒事に巻き込まれたくなければ走れ。でなければ遅刻確定だ」

 

先行して走っていく一夏の後を追うが別に俺が急ぐ必要なんてないだろ。俺に構う奴なんて限られているからなそう思い俺は歩くことにした。先を行く2人を追う女生徒は、なぜか狩りを行う狼と得物になった鹿のように思えて仕方ない。何事も無く最短距離で更衣室に到着するがほぼ同タイミングで到着した

 

「ズルいぞ七実!1人だけ楽しやがって!」

 

「はいはい、悪かった悪かった」

 

「その返答は悪いって思ってないよね?」

 

当たり前だ。立場を利用したまでに過ぎない。だからなんだとしか言えない。とにかく俺は更衣室に入りさっさと制服を脱ぎ適当なロッカーに入れた。学校側から配布されたISスーツというISを使用する際に最も適した服が露出する。既に着てきたから脱ぐだけで問題ない

 

「先に行ってるぞ」

 

「早っ!?」

 

授業に遅れて怒られんのは面倒だ。というよりもここから先はほぼ一直線でご丁寧に案内板まであるから別に問題無いと思い、先に行くことにした。何人かちらほら来ているが俺にはどうだっていい。目を瞑って待つことにしよう

 

「あら七実さん。随分と早いですわね?」

 

「まぁ」

 

セシリアから声を掛けられるが、今の俺はとても眠いからそっとしてくれるとありがたい。眠すぎて色々とヤバい。とりあえず目を開けることにした

 

「もうお身体はよろしいのですか?」

 

「いつの話だよ」

 

「あのISの襲撃の後ですわ。わたくしが1番最初に発見したのですがあの時のあり様ったら酷かったですわ」

 

あの後、俺が誰に見つけられたのかまでは聞かなかったがセシリアが見つけてくれたのか

 

「見て分かってるとは思うが生死を彷徨ったとだけ言っておく。助かった」

 

「いえいえ、当然の事をしたまでですわ。でもISの方は・・・」

 

「あれを直で食らって生きてるだけでも十分だ。死ぬよりはマシだ」

 

山田先生も言っていたが死ななかったことが奇跡だ。十分に死ぬ可能性もあったはずだ。だがこうして死ぬこと無くこうして生きている

 

「そうですわね」

 

「久しぶりじゃない七実」

 

今度は鈴と円華か

 

「あんた、箒を助けるために相当無茶したみたいね」

 

「お前ら程じゃない。あれを相手にしてたんだろ?」

 

「あたしたちの方は何とかなってたけど・・・あれがあったじゃない?あの時に一夏に凄いことが起きてそれで助かったようなものよ」

 

やっぱり箒が起点となっていい意味でも悪い意味でもああなったのか。そのせいで俺は死にかけたがな。別に恨んでも問題は無いよな?

 

「貴様ら整列しろ!これから授業を執り行う・・・おい鏡野、織斑兄とデュノアはどうした」

 

「まだ更衣室から向かってる途中だと」

 

あの時点ではまだ着替えをしてたはずだがそこまで時間が掛かるものではない。すぐに来るだろう

 

「遅いぞ!」

 

ようやく到着した2人は織斑先生の出席簿チョップを食らっていた。恨めしい目で見られたが直線距離で走れば1分程度で着くというのに遅れた方が悪い。置いていった俺も同罪か?

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

『はい!』

 

気合を入れているようで結構だがどうもやる気になれん。というのもまだ夏では無いにしろ、晴天である。日が差し、直射日光が酷い。徐々に体力を奪われつつある

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。凰にオルコットは前に出ろ」

 

「「はい!」」

 

2人は前に出る。専用機持ちの2人であれば実演に向いているだろう。見ている方も参考になるやもしれん

 

「ふふん・・・ここはやっぱりあたしの出番よね!」

 

「イギリス代表候補生の実力、とくとご覧あれ!」

 

「意気込んでいるようで悪いが今回の相手は・・・」

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

上空から1機のISが降ってくる。しかも、生徒に向かって落ちてくる。てか山田先生じゃないですかーやだー。だが完全に落ちきる前に姿勢制動が出来たようで空中で静止した

 

「何をやってるんだ山田君」

 

「かっこつけようと・・・すみません」

 

「はぁ・・・2人が戦うのは山田先生だ」

 

2対1での対戦のようだが先生の実力はどれ程なのだろう?教員と名乗るからにはそれ相応の実力なのだろうか

 

「え?あの、2対1で・・・?」

 

「いや、さすがにそれは・・・」

 

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負けるさ」

 

いくらなんでも挑発し過ぎだと思う。鈴とセシリアは専用機を纏い上空へと向かっていった。織斑先生曰くすぐ負けるということはどういうことだ?力に関しては相応にあるはずだから、そう易々とは負けはしないと思う

 

「では始め!・・・さて、今の間に山田先生の使用しているISについて、デュノア説明してみせろ」

 

「あっ、はい」

 

機体名、ラファール・リヴァイヴ。打鉄のコンセプトは耐久を重視したものであるのに対してラファール・リヴァイヴは安定性を重視したIS。初期の三世代機にも劣らない性能で後付武装が豊富。使用者を選ばないことから、世界中でも数多くのシェア数が多くシャルルの実家が運営しているデュノア社が開発したIS、とのことらしい。途中で説明を打ち切られたが戦闘が終わったらしい。本当に鈴とセシリアが負けたようだ。シャルルが説明している間、わずか5分。その間で負けてしまったらしい

 

「くっ、うう・・・まさかこのわたくしが・・・」

 

「あ、あんたねぇ・・・何面白いように回避先読まれてんのよ・・・」

 

「り、鈴さんこそ!無駄にバカスカ衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

 

どっちも落とされてるから五十歩百歩、団栗の背比べという感じだ

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後、敬意をもって接するように」

 

普通、先生方には敬意をもって接するのは当たり前だと思うのは置いておこう。あんなにおっとりしている山田先生があんな実力があるとは思わなかった。そりゃ、IS学園の生徒というだけあるからにはそれ相応なのだろうけどそれにしたって相手は代表候補生2人だ。強いとしか言えない

 

「専用機持ちは7人だな。1人は修復待ちで専用機は無いが教えるぐらいはできるだろう。七人グループを作り実習を行う。各グループのリーダーは専用機持ちがやることいいな?では別れろ」

 

織斑先生の指示通りに別れたが一夏とシャルルに集中してしまっている。人気だから仕方ないだろうな

 

「ななみん~来たよ~」

 

「本音・・・と、後ろの奴らは?」

 

多分本音の友人なのだろう。友人を作ることに関しては本当に凄いと思う

 

「相川清香!ハンドボール部!趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」

 

「お、おう・・・」

 

名前を知らなかったものだから教えてくれる分には嬉しいのだが詳細までは言わなくてもいい気がする

 

「いや~本音に誘われちゃってね。前々から気になってたけど、近寄りがたい雰囲気を醸し出してて・・・ここにいる人はそういう人だよ!」

 

「あっそ」

 

誰もが嫌っているというわけではなさそうだ。特段、俺が気にすることでも無いだろうが関係なんていつ崩壊するか分からない。もし友好的になるんだとしたら、俺は崩壊させないようにするだろう。これ以上、惨めな気持ちにさせられるのもゴメンだしな。別にどう捉えようが他人の知ったことではない

 

「んじゃ、やるぞ。出席番号順にやるから並べ」

 

この後は指示通りに授業内容をこなしていった。多少のミスはあったものの平穏に終わった。一夏の方でISを立たせたまま解除した奴がいて騒ぎが起きたらしい。俺の方で起きようものなら対処のしようがないからしないように注意しておいた。本当に何事も無く本日の午前の授業が終わっていった

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

これから、どうするかはもう決めておりますがどうなるんでしょうね?


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決意の再確認

もうね・・・本当に申し訳ございませんでした。間違って投稿するとか馬鹿の極みですね。


 

授業が無事に終わり・・・訂正、2人を除いて無事に終わった。一夏とシャルルの2人は顔を青くしたり、変に汗を掻いていた。俺にとってどうでもいいことだがな。今は整備室に来ている。簪の専用機を完成させるために来ているのだが肝心の簪が来ない。ただ、簪の許可は貰っているので先に1人で作業に取り掛かることにした。プログラムの構成、構築に関しては貫徹したおかげで完成している。それをただひたすら丁寧に打ち込んでいく。視界の端には修復されつつある俺のISが鎮座している。あの調子だと学年別トーナメント戦には間に合うかもしれないが、練習期間はほぼほぼ無いだろう。あの時の判断が間違いではなかったと信じたいし、その代償としては十分すぎるほどに払ったつもりだ。あれに関しては許すつもりは無い。死にかけてまで許すほどお人よしでは無いからな

 

「お疲れ、七実」

 

「ん」

 

作業を始めてしばらくして、簪がやって来る。紙袋を持って来ているのが見える

 

「どう?」

 

「参考資料さえ間違えが無ければ完成する。だから安心していいぞ」

 

「ありがとう・・・あ、あの、七実、ちょっといい?」

 

一旦、作業の手を止めた。まだ時間はあるし少しぐらいはいいだろう

 

「なんだ?」

 

「ケーキ・・・焼いてきたから、その・・・食べる?」

 

「おー、食う」

 

これから疲れるであろうから糖分摂取してもいいだろう。簪は紙袋の中からたぶん抹茶と思われるカップケーキを1つ取り出し渡してきた

 

「サンキュー」

 

1口、2口と頬張ると抹茶特有の風味というのだろうか、渋みが口に広がった後に甘味がやってくる。こう言ったら失礼極まりないけどこっち方面でも食っていけるのではないか?

 

「ど、どうかな?」

 

「ん・・・美味かった。店を開けるんじゃないか?」

 

「それは誇張し過ぎ?・・・でもそう言ってもらえると嬉しい、かな」

 

「そうか。でも美味かったのは事実だ。悪いが再開させてもらう」

 

今日で形にできなければ明日もやらなければならないからな。なるべくそれだけは避けたい。ただでさえ完全に疲れ切っている状態だから集中力がだいぶ欠けている

 

「あとどれくらいで終わりそう?」

 

「この調子でいければ1,2時間で終わる。今日はプログラム制作だけで明日に試験という形にしたい」

 

「・・・やっぱり疲れてる?」

 

「少しな」

 

本当は少しどころでは無い。ただ心配させたくないがために気丈に振る舞っているだけだ。気を緩めてしまえばすぐにでも寝てしまいそうなんだ。とにかくプログラム制作に取り掛かる。よくよく考えれば考えるだけ思うことであるがこんなにも大変な事を1人でやっていたのか。投げ出したくもなったことだろう。自分の成果がこんな形で戻ってくるなんて思いもしなかっただろう

 

「ちょっと七実のIS見てきていい?」

 

「勝手にしろ」

 

簪は奥の方で鎮座している<M.M.>を見に行く。内部構造も一切見えず修復中の物を見て参考になるものは無いはずだ。だが見たいのであればいくらでも見てくれ。その間に完成させとくから

 

 

 

簪サイド

 

今はもう寮の部屋に戻ってきている。今日で無事に完成して明日試験を執り行うことにした。七実は部屋に戻るなりすぐに寝てしまった。もうすぐ夕飯だというのに。でも私の専用機の為に完徹していたのは知ってる。そのせいもあってこうしてぐっすり寝ているんだよね

 

「ありがとうね」

 

聞こえていないだろうけどね。でも感謝しきれないんだよ。これでようやく同じ位置に、隣に並び立つことができる。でも今日見た限りだと七実のISは酷いあり様だった。あの時の詳しい状況は知らないけど生死を彷徨った程の大怪我。七実にも理由があってあんなことになったのだと信じたい。でも心配した。ずっと一緒にいて、ずっと想いを寄せた彼がひょんなことで消えて欲しくなかった。あの時程、専用機が完成してなかったことを悔やんだ日は無かった。あの時、私も一緒にいたら七実に助けることができた?とか

 

「悔やんでも悔やみきれない・・・でもどうしようもない。変えることはできないから」

 

過去は変えることはできない。この世にはセーブ、ロードみたいな便利な機能は無い。あったらどれ程、便利なのだろう。だけどそんなものありはしない。やはり現実はクソゲー

 

「勝手にどこか行かないでね・・・七実がいなくなったら本当に嫌、だからね」

 

私だけじゃない。七実を想っているのは少なくとも私とお姉ちゃんの2人。本音は分からないけど、虚さんはそういう対象じゃないと思う。あくまで親友という立ち位置を貫くというのを聞いたことがある。それでも心配してくれるだろう

 

「七実にはお姉ちゃんとのこともある。あの時、七実が来なかったら・・・」

 

彼は偶然と言ってたけど偶然にしては出来過ぎている。それほどにベストなタイミングに来て蟠りが起きなかった。でもあの時七実が来なかったら喧嘩、絶縁みたいな状態になっていかもしれない。そう思うと感謝しきれない

 

「・・・たぶん七実の事だから、私達が言っても無茶するよね。その時は私も・・・ね」

 

七実とだったら大丈夫と思える。重いと思われるかもしれないけど覚悟はある。あの時は何もできなかったけど今度は、ね

 

「・・・さて夕飯、作ろ」

 

そろそろ本音もお腹を空かせて戻ってくる頃だしね。今日は何を作ろうかな

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

この前のようなことは無くしていきたいですね


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新たな問題、そして再び

どうやら俺は部屋に戻るなり、すぐに寝てしまったようだ。時計を確認すると6時半、ここに着いたのがだいたい5時半だから1時間程寝ていたようだ

 

「んっふっふ~」

 

重い瞼を開けると目の前には、カシャカシャと音を立てながらスマホを構えている本音がいた。おいコラ人の寝顔を撮ってんじゃ

 

「お、おはよ~」

 

「全部消せ、バックアップ込みで全部消せ」

 

こういう場合、普通に全部消せというとバックアップ以外を全部消す。だから全て消させる、経験談だ

 

「え~、いいでしょ~?」

 

「良くないから消せ」

 

「仕方ないな~」

 

何が仕方ないだよ。本音だって寝顔は撮られたくないだろうに

 

「消したから~また撮っていい~?」

 

「ダメに決まってるだろうが」

 

消させたのに何でまた撮らせる必要があるんだよ。というよりもなぜに写真なんか撮るし。とりあえず俺は起きて体をほぐす。もう夜だからやることはほとんどないが、ストレッチとかするぐらいは寝起きですると少しは眠気が飛ぶ

 

「そろそろ夕飯だから、用意して」

 

「わかった」

 

ベッドから立ち上がった時だった。誰かが部屋の扉を力強く何度も何度も叩いてくる

 

『七実!いるか!?』

 

声からして一夏だろう。夕飯時というのにいったい何だ?俺は扉を開け廊下を確認すると何やら焦ってような表情を浮かべていた

 

「こんな時間に悪いけど一緒に俺の部屋に来てくれ!」

 

「はぁ?っておい」

 

一夏に手を引かれ、そのまま為すがままに部屋を出て一夏の部屋に入れられた。部屋の中に入るとジャージ姿のシャルルと思われる奴がいるのだが、おかしいことに気付いた。男ではありえない、胸部が膨れているのだ

 

「あはは・・・ごめんね七実」

 

「この通りだ、一緒にシャルロットを助ける手段を考えてくれないか?」

 

何がこの通りだ、だよ。状況の説明も無しに、はいそうですか、と答えるようなお人好しはいないだろう。的確で正確な情報が欲しいところだ

 

「俺にはさっぱりだ。何が何だか分からんから説明してくれシャルル」

 

「俺から説明する」

 

「一夏、お前に聞いていない。シャルルに聞いているんだ」

 

当事者というと一夏も当てはまるような気がするがそこじゃない。問題の中心にいる(デュノア)から聞かねばいけない。一夏では何か重要な事を話し損ねるような気がしてならない

 

「別に俺でもいいだろ?」

 

「良くない、事の中心にいる奴から聞かなきゃ見えるものも見えてこない。さぁ話せ」

 

「そんな言い方ないだろっ!」

 

一夏は俺の胸倉を掴み、壁に追いやった。情報が欲しいのもそうだが協力するとも何とも言っていない。話を聞いてから判断してもいいだろう

 

「やめて一夏!協力を求めた相手にそんなことをするのはダメだよ」

 

「・・・わかった」

 

手を放し解放された。前にもあった事だが目の前の問題に対して直情になりすぎて暴力を振るうのにも躊躇いが無さすぎるだろう。いや、俺も他人の事を言えないか。一度こいつを殴ってるし

 

「それじゃあ話すね」

 

暗い表情のままシャルル、いやシャルロットは話し始める。フランス代表候補生である、本名シャルロット・デュノアは今日の授業での説明通りデュノア社の社長の娘、より正確に言えば愛人の娘らしい。設定が最初の段階で滅茶苦茶過ぎませんかね?それは置いておいて、父には2度しかあったことは無く、本妻には痛い仕打ちをされたらしい。本当の母は病死し、社長である父に引き取られたがそこでは地獄のような毎日が続いたようだ。本来であれば無償の愛、養いを受けるべきはずだが一切なく、虐げられてきたそうだ。まるで奴隷のようにな。そんなある日、シャルロットに大きな変化が訪れたそうだ。それは高いIS適正が判明したことだ。そこからは今までよりも地獄の日々が続いた。検査と称し投薬実験を強いられたり、虐待の悪化と色々だそうだ

 

「それでも、僕はデュノア社の広告塔及び特異ケースと接触しやすくするために男としてIS学園に入れさせられたんだよ」

 

「本当に酷い話だと思わないか?自分の娘をこんな風に道具みたいにしやがって!」

 

確かに酷い仕打ちだ。前世を思い出すようで胸糞悪い。だが俺も言いたいことは沢山ある。ただ俯いて話しただけで何を求めているのか。どうして俺にお鉢が回って来たのか、諸々、何一つ話されていない

 

「で?」

 

「でって・・・今のを聞いて助けようと思わないのかよ!」

 

「思わないも何も助けを求められていない。事情を話してお終いというのは助けを求める側として言葉が不十分だ。それ以前にスパイ行為を強要されていてやる気が無いのであれば、なぜ教師や生徒会長に直談判しない」

 

そう、そこが分からない。身の潔白を証明するのであれば即決即断即時即答と言わんが早く言わないと証明が難しくなる。嫌なら嫌で伝えるに限る。何事も伝えねば何も分からない。感情も動機も全てだ。シャルロットは目も合わせようとせず言うだけ言った。それが気に食わない

 

「それに俺に頼る前に教師、特に織斑先生や山田先生に話したか?」

 

「いや・・・千冬姉とか先生には頼れない」

 

馬鹿なの死ぬの?頼る先が教師である姉とか生徒会長じゃなく、なぜ俺なんだ。頼るべき相手は俺よりもいるはずだ。優先順位を間違える程、切羽詰まっているということなのかもしれんが俺じゃないだろう

 

「呆れて言葉も出てこない。そもそもこんな問題を、たかが一般生徒なんかが解決できるわけがない。親との関係を切れば解決で済むような問題ならさっさと切ってしまえばいい。だがこれは家族間の問題でもあり会社、国家の問題だ」

 

そもそもの話だが、ISという超法外的な兵器の運用のために出来たアラスカ条約に基づいて設置された学園だがスパイ行為は禁止されている。あらゆる国家、組織が干渉してはならないという前提がある。しかし、シャルロットの祖国は前提を覆し干渉してきたことになる

 

「俺や一夏は通常ではありえない存在、イレギュラーだ。それを狙う理由はなんとなくわかるがそれとこれは話が違う」

 

「何も違わねぇだろ!いい加減にしろよ七実!」

 

いい加減にして欲しいと言いたいのはこちらだ。頼る先を間違えて厄介事に巻き込んで挙句の果てに問題が見えていない。狙う理由なんてモルモットだとか研究目当てでしかないんだから

 

「なら一夏はどうやってこの問題を解決するつもりだ?」

 

「学園特記事項21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。これならシャルロットを守るには十分だろ」

 

確かに本来であれば十分だと思う。だが最初から帰属していた場合はどうだ?シャルロット自身も自分で広告塔と言っていた。それはどういう意味か、既に帰属しているのではないだろうか。それに専用機の事で呼び戻されたら帰らざるを得ない。

 

「不十分だ。シャルロットが言っていた言葉を嚙み合わせると適応されるかどうか分からん。シャルロットはフランス代表候補生でもありデュノア社に所属している」

 

「ならどうしろってんだよ」

 

どうしろって、既に解が出ているはずだ。誰しもやらねばいけないことがある。真実から目を背けても、いずれ直面する羽目になるだけだ。問題を今解決するか、先延ばしにするかの違いでしかない

 

「頼るべき相手に頼る、以上だ」

 

「それができねぇって言ってんだろう!」

 

今度は胸倉を掴むだけじゃなく普通に殴られた。寝起きからそんなに時間も経っていなから一気に目が覚めた気分だ。てか口の中切れて地味に痛い

 

「一夏、お前はシャルロットを守ろうとしてるのか?」

 

「そうだよ!」

 

「それは素晴らしいことだ。感動すら覚える。でもな暴力に走るのはどうかと思うぞ」

 

「それは聞き分けが悪いお前が悪いんだろうが!」

 

俺は割と正論を言ってるだけなんだが、それで聞き分けが悪いのか?本当に俺は一夏とそりが合わないのが今回で証明された。やっぱり平行線なんだな俺と(一夏)

 

「シャルロット、お前がどう思っているかは知らん。助かりたいのかそうでないのかさえ分からん。だが覚悟だけはしておけよ」

 

「シャルロットに何をするつもりだよっ!」

 

再度、顔面を殴られる。1度ではない3,4回もだ。口の方が血の味がしてくる。こいつの「守る」とは、暴力を簡単に振るってもいいことなのか。そう思わざるを得ない。「守る」という行為には何か代償が必要になってくるのを忘れてはならない。俺が篠ノ之箒を助けた際に、俺は死にかけた。俺が生死を掛けたおかげであいつは死なずに済んだとも言える

 

「さてな。害をなすかもしれんし得となるかもしれん、とだけ言っておく。俺は帰らせてもらう」

 

一夏の手を無理やり振りほどき部屋を出る。本当に何のために連れてこられてんだか。ただ厄介事に巻き込まれて殴られるためだけに来たようなものじゃん。だがまぁ、話を聞いちまったからには仕方ない。慣れないことをするもんじゃないのは知ってるけど、俺が感じてしまったからにはやるしかない。俺は俺なりのやり方を綱抜くだけ。とりあえず今は部屋に戻るか

 

 

 

シャルロットサイド

 

僕と一夏の部屋から七実は出ていった。一夏は七実に対して何か思うところがあるのだろう。不機嫌というか怒っているというか何とも言えない表情をしていた。今日の一夏と七実の関係を見るに友人だと思ってたが、今はどうだろう?手を取り合うでもなく対立しているように見えた

 

「これなら、あいつに相談なんて持ちかけるんじゃなかった」

 

「それは違うんじゃない?」

 

どうやって説得して連れてきたのか分からないけど頼んだのは僕たちだ。そこで七実に当たるのはおかしい

 

「・・・シャルロットは今日転校してきたから分からないけど、前にも似たようなことがあったんだ。その時は、いろいろと思うところがあってもう和解したけどな」

 

僕のスパイ行為とは別に何かあったんだ。でも、その時がどんな状況でそうなったか分からない・・・あぁ、七実が最初に言っていた「見えてくるものも見えてこない」ってこういうことなのかな。内容が伝わってこない

 

「とりあえず今の状態で食堂に行くのはマズいからなんか持ってくるな」

 

「あ、うん、ありがとう」

 

一夏は部屋を出ていく。僕はやることも無く、1人で椅子に座ってた。いや、やることはあるね。一夏と七実が言っていたことを考える。とはいえ大半は七実の言っていたことになる。一夏の言っていたことは確かに正論に近しいけど、七実が言いたかったのは、僕がデュノア社に所属している以上、逃げられないということ。帰属していない場合のみに適応されるなら広告塔なんて言い方はしない。たぶんそのことを言おうとしたのかな?

 

「・・・今、頼れるのは一夏しかいないのかな?」

 

七実は多分助けちゃくれない。僕が一言「助けて」といえば変わったのだろうけど、怖くて助けを求められなかった。一夏は最初から乗り気だったけど。でも最初に頼るのは織斑先生だと思って覚悟を決めたんだけどなぁ。まさか七実が来るとは思わなかった

 

「それに覚悟って何を覚悟したらいいのさ・・・」

 

七実が言っていた覚悟、その内容が分からない。何を覚悟して待つの?厄介事に巻き込んだこと?それとも殴られた事?考えれば考える程、たくさん浮かんでくる。本当にどうしたらいいんだろうか。七実は僕に何をするつもりなんだろう。正直なところ怖いと思う。でも今の僕にはどうすることもできない、籠の中の小鳥なのかな

 

 

 

七実サイド

 

部屋に戻る前に1度口の中を濯いでから部屋に戻った。口臭が血の臭いとか嫌すぎるしな。部屋に戻ると中華系の匂いが充満していた。もしやこれは地獄を見る羽目になるのでは?

 

「あ、七実おかえりって、その傷どうしたの!?」

 

「気にすんな。俺の不注意でこうなっただけだ」

 

部屋に戻るなり調理を終えた簪に心配された。名誉の負傷とかそういうのじゃなくてただの殴られ損の傷だけどな

 

「本当?・・・一夏に連れていかれたから腹いせで殴られたとか・・・考え過ぎかな?」

 

いや、大方当たってるけどね。簪はエスパー技能でも持ってるの?弾丸で論破する作品のアイドル並みに鋭いのはなんでなんだか

 

「私達はもう食べちゃったけど、食べる?」

 

「食べる」

 

どうか口内に優しいものであることを希望します。もうね、ここ最近はヤサグレ気味ですよ。メディアによる真実改変から始まり、奴隷宣言、箒の救助で死にかけとどめに今日の事。本当にどうしろってんだよ

 

「はぁ・・・」

 

「やっぱり変・・・何があったの?」

 

「いやIS学園に来てからいろんなことがありすぎてな・・・普通と癒しをくれ、普通と癒しを」

 

「うわ・・・切実すぎる」

 

同情してくれるのはありがたいけど今はそうじゃない。もうね大変なんですよ。特に今日の事が

 

「はい、どうぞ」

 

テーブルには麻婆豆腐とか口に染みるような食事だった。本当に頑張らねばいけないのはここからだったか。あ、無事に食べつくしましたよ。激痛と共に完食しましたよ。殴られた時より痛かったと感じたのは秘密である

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

またしても対立って感じですかね・・・どうしましょ


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人知れず暗躍する

 

シャルロットの事を聞いた俺は翌日から動くことにした。簪には悪いが試験運転は明日にさせてもらった。こういう問題は早めに解決するに限る。だが頼る相手は決めておかねばならない。このIS業界において多大なる影響力を誇る元世界最強、ブリュンヒルデこと織斑千冬。筆頭として挙げられるのはこの人だろう。次に選択肢として上がるのはこの学園の生徒会長を務める、現ロシア国家代表の更識楯無だ。この学園で問題が発生なら事の解決に当たるのは真っ先にここが上がるほどだ。ならば手を借りる他ない。だが優先順位では織斑先生が先だろう

 

「あくまでも火の粉が降りかかる前に払うだけだ。後で一夏になんと言われてあーだこーだ言われるのは忍びないからな」

 

今回の目的として、シャルロットの援護だ。一夏の案に乗るわけじゃないがやらねばならないと思ったまでだ。俺が経験したことを身に受けた奴を放っておけない。だが、あんなことを言った翌日だ。1人でやるしかない

 

「失礼します」

 

生徒指導室の中に入る。放課後に織斑先生に約束を取り付け相談を持ち掛けたのだ

 

「来たか、とりあえず座れ」

 

「うす」

 

俺は織斑先生と対面するように椅子に座る。ここからは俺のやり方を見え、伝え、貫くのみだ

 

「相談事とはなんだ?」

 

「俺の事じゃないんですけどデュノアのことで」

 

相変わらず織斑先生の表情は崩れることなくただ聞いているだけだ

 

「・・・先生はあいつの事はどれくらい知ってますか?俺は昨日、全て聞きました」

 

「私も知っている。それでどうした?」

 

「どうか助けてやってくれませんか」

 

椅子から地べたに正座し頭を擦り付ける。土下座だ

 

「頭をあげろ、話しづらい・・・とりあえず理由を聞こう」

 

俺は頭をあげ、正座したまま話し始める

 

「あいつはデュノア社でほぼ非合法と言っても過言では無い程の仕打ちを受けていたと聞きました。そこに嘘があるかどうかは知りません。ですが強要されてやらされたことが嘘であるとは思いません」

 

「そうだな。ならなんでデュノアを連れてこなかった?」

 

これが1番痛い問題だ。昨日の言葉は正しいと思うけど、ここに連れてこられなかったのは大きすぎる。言葉に信用が生まれない可能性すらあるのだから

 

「それは・・・昨日の事なんですが、有り体言えば嫌われてしまいまして」

 

主に一夏に、だけどな。シャルロットは知らん。何も言わなかったし

 

「なら聞くが鏡野、お前は嫌われた人間に対してどうしてそこまでしようとする?」

 

「ぶっちゃけますと嫌われているとかどうでもいいです。聞いてしまった以上、やるしかないということ」

 

「・・・ふっ、お人好しか」

 

お人好しなんかじゃない。万人に好かれるような面倒なことはしない。ただ、ありのままを話し、伝え、理解してもらう。その後は他人次第だ

 

「それと俺が過去に受けてきたことに類似していたので、見過ごすわけにはいかないということ」

 

「過去?・・・もしや背中の傷に関係することか?」

 

「ええ、あれはまだ俺が小学2年の時ですかね。いやそれよりももう少し前、いつからだか忘れましたが俺はまるで奴隷のように扱われてました。病気になろうが怪我をしていようが家の事は何でもやらされました。逆らえば暴力を受けて、ただ死を望むかのような生活を送っていました。そんな境遇に置かれたこともあってかデュノアに共感したんだと思います」

 

俺が動いた動機はこれだ。奴隷のような扱いを受けたことに腹立たしさを感じ、突き放したとしても動こうと思った。代償として俺が払うわけでは無いがシャルロットがどういう罰を受けるかどうか分からんが

 

「そういうことか。鏡野もそういう経緯があって私に話してくれたんだな」

 

「簪達や親父、母さん以外に言ったのはこれが初めてですけど」

 

「まぁ鏡野が話してくるとは思わなかったな。実はもう動き始めているがな。生徒会の方にも書面で伝わっているはずだ」

 

・・・実は必要なかったパティーンですかね。こんだけ話して実はもう動いてますよーって、うわ、ナニコレ恥ずかしいんですけど。だが、たかが子供が解決できるような問題じゃないし

 

「と、とりあえずこの話はデュノアとか他の奴らには秘密にしておいてください」

 

「貴様はそれでいいのか?」

 

「いいんです。俺にとってもあいつらにとっても、知られない方が互いにやりやすいでしょう」

 

対立してもやることはやらねばならん。俺がやりたかったからやっただけでしかないのだから

 

「分かった。これは秘密としよう。話は変わるが鏡野、私から1つ頼まれ事を受けては貰えんか?」

 

「内容によりけりですが・・・重大な事でなければ」

 

「何、簡単さ。ボーデヴィッヒの事だ。あいつとは仲良くやってくれないか?」

 

初日で一夏にビンタした奴か。織斑先生の事を教官と呼んでいたし関係はあるんだろうな

 

「ボーデヴィッヒも辛い経験をしていてな、鏡野であれば取り持つことができるやもしれんのだがどうだ?」

 

「やれるだけはやってみます。あんま期待はしないでください。変に期待されても面倒なんで」

 

「自己評価が低いのか知らんが、私は鏡野を高く評価している。まぁいい、よろしく頼む」

 

頼まれたのであればやるしかないか。印象が一夏に対してのあれしかないというのはやり辛い。まぁ手段としては色々あるだろう

 

「それでは俺はまだ用があるんで、これで失礼します」

 

「どうか頼む」

 

立って一礼してから生徒指導室を出る。念には念を入れて楯無に頼みに行こう。無駄に終わるかもしれんがやらねばならんことだ。階を1つ上がり3階へ到着し、階段の空き教室を2つ横に進むと生徒会室がある。覚悟を決めノックを3回する

 

『はい、どうぞ』

 

中から虚の声が聞こえてくる。生徒会室の中に入ると楯無に虚、本音の3人がいた。少数精鋭でやっているという話は聞いたことがあるが、もう2,3人ぐらいはいてもいい気はする。楯無と本音が対面している机の上には多量の紙束が積み重なっている。虚にはそこまで無いが

 

「ななみんだ~」

 

「あら七実君じゃない。こんな時にどうしたの?もしかしてお姉さんに会いに来たのかな~?」

 

「まぁ、あながち間違いじゃない」

 

「へ?」

 

適当に言ったんだろうが当たってるんだよな。楯無の勘も凄いな、姉妹揃ってエスパーなんか?

 

「え、いや、何言ってるのかな七実君。お姉さんをからかっちゃダメだぞ!」

 

「別にからかってるってわけじゃないんだが」

 

「そ、そうなの?ふふん・・・お姉さんに何の用かな?もしかしてデートのお誘い?」

 

「いや違う」

 

にこやかな楯無の表情が一転して落胆したように見えた。いや、俺にそういったものを求められても何もできんぞ?

 

「じゃあ何のようなの?こう見えても忙しいのだけど」

 

「なら手短に、デュノアについてだ」

 

ほんの一瞬だが虚の手が止まったような気がした

 

「ふーん、シャルル・デュノア君がどうしたのかしら?」

 

「どっかの馬夏がデュノアの正体を俺にバラした。知らなかったら忘れてくれ。知っているなら本名を言ってくれ」

 

俺がそういうと大きな溜息が2つ零れる。楯無と虚の分だ。本音は・・・ずっとにこやかなままだ

 

「七実君、鍵閉めてくれるかしら」

 

どうやら俺を逃がすつもりは無いようだ。それはいい意味なのか悪い意味なのかは別として。ナニカされたようだ、的なことになっても織斑先生に伝えているから問題はないだろう。俺は素直に鍵を閉めた

 

「虚ちゃん、何か飲み物を用意してちょうだい」

 

「かしこまりました」

 

虚は作業を中断して虚は奥の部屋に入っていった。楯無は立ち上がり、隅に配置されたソファーまで移動し座ると俺を手招いた。それに乗って俺も移動し対面するように座る

 

「まったく面倒なことをしてくれるわ」

 

「俺が言うべきことじゃないと思うが、すまん」

 

「フランスの方よ。スパイを送ってくるなんて全く面倒なことをしてくれちゃって」

 

昨日聞いた限りでは、スパイを送ったは良いけどそのスパイがスパイとして活躍しないという珍事が発生してるがな

 

「どういう経緯でそうなったのかは聞かないけど話は聞いた?」

 

「今説明する・・・」

 

昨日聞いた事をありのまま隠さず説明した。説明とは言ったもののどこまでが本当かなんて分からない。それを前提とした話だ

 

「なるほどね」

 

「説明した後に言うのもなんだが本当かどうかは知らん。それを前提として1つ頼み事をしたい」

 

可愛そうな子羊(シャルロット・デュノア)を助けて欲しいの?」

 

「助けて欲しいといえばそうなる。だが勘違いはして欲しくない。本当かどうかは知らんが奴隷のような扱いを受けた奴を見過ごしたくない」

 

楯無だったら全部は分からないだろうけど、俺が今世でどんな仕打ちをされたかは知っているはずだ。別に否定されても文句は言えない。俺にはどうすることもできないからお願いという形をとっているに過ぎないのだから

 

「そうね。七実君ならそういうと思ったわ。でも彼女自身はスパイなの」

 

「知った上だ。助けを求められたからとかじゃない、許しを乞われたからでもない。ただ俺がしたいと思ったからお願いしに来てるだけであって拒否されても文句は言えないし言わない」

 

「それが七実君の決意?」

 

「ああ」

 

楯無はどこからか扇を取り出し口元を隠すように開く。そこには不合格の文字が書かれていた

 

「やっぱりダメか」

 

「あら?あっさり引き下がるのね」

 

「俺が言ってもダメなんだろうなとは思っていた。まぁ、織斑先生曰く、この問題について書面で伝えているという話はさっき聞いていたが」

 

「え」

 

何、驚いた顔してるんですかね。さっき聞いた情報なんで間違いは無いはずなんだが

 

「本音ちゃん知ってた?」

 

「はい~」

 

「虚ちゃんは知ってた!?」

 

「知ってるも何もお嬢様の山に入ってますよ。昨日から」

 

おっと急に心配になって来たぞ。いつものサボり癖のせいで伝わっていなかったのか?いつの間にか置かれていたカップには紅茶が入っていた。ありがたく頂こう

 

「ん、美味い」

 

「ありがとうございます。それでお嬢様、どうしますか?」

 

「今探してるから・・・これじゃない、これでもない・・・あったわ・・・七実君、シャルロットちゃんに伝えれたら、こう伝えておいてちょうだい」

 

なんかもうね、疲れた顔になってますよ楯無さん。疲れるのはこれからだと思うんですが

 

「嫌われてるから無理だ。自分から言ってくれ。あとこのことは一夏とシャルロットには秘密にしてくれると助かる」

 

あれだけ言っておいて勝手に助けたとか思われても恥ずかしいし傍迷惑だ

 

「なんでですか?」

 

「あいつらとはそりが合わないのが証明されてな。厄介事に巻き込んだくせに甘いことしか言わないのに腹が立ってな。俺が思ったことを全部言った。そしたら嫌われた、以上だ」

 

「たは~、昨日の傷は酷かったもんね~」

 

あれは、やらねばならない事の為の致しかない犠牲だ。謂わばコラテラルダメージだ・・・あれ、これ言うと死ぬんじゃなかったっけ

 

「へ~、ふ~ん。激しいことをしたの?」

 

「断じてしていない。そもそも俺は巻き込まれただけだ」

 

「・・・したの?」

 

「言い方が悪かったな。厄介事に巻き込まれただけだ」

 

あの時程、面倒だと思った事はねぇよ。腕を引っ張られながら「俺、これが終わったら簪の料理食べるんだ」とか感じてたと思う。その後で死にかけるという珍事が発生しましたけど

 

「まぁ、やることは一緒だしやれるだけやってみるわ」

 

「よろしく頼む」

 

「でも嫉妬しちゃうわね。ぽっと出の少女に七実君の意識が向くなんて」

 

「本人目の前で嫉妬とか言うな。生々しい」

 

別にそういう対象でシャルロットを見ているわけじゃない。嫌われているからこうして一人で動き回っているわけなんだがな

 

「今日はありがとうな。俺は帰ることにする」

 

「あー、そうだ。七実君、部活ってまだどこにも入ってないのよね?」

 

「入る気が無い。強制なのは知ってるが面倒だ」

 

「なら生徒会に入らない?お手伝いさんでもいいから」

 

「考えておく」

 

楯無と本音がサボるから虚が大変なんだろうな。お手伝いさんとか言って勝手に役職をつけそうだから怖い。とにかく俺は生徒会室を後にして寮へと足を向けることにした

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

もう少ししたらアンケートを取りたいと思います

内容はIS学園の夏休みでの話です。3,4話後にアンケートを開始します


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ここに集う

3回連続投稿・・・いやね、他のSSも書かなきゃいけないってのはわかるんだ。でもね、ネタが降りてこないの。どういう風に立ち回らせるとかそういうのが降りてこないから書けるやつを書いてるだけなんだ


 

生徒会室から出て、今は寮へと足を運んでいる。日も陰ってきて黄昏時というべきなんだろう、夕日が眩しい。目がー、目がー

 

「おい」

 

「んあ?」

 

脳内ムスカごっこしていると後方から声を掛けられた。振り返るとそこには眼帯軍人・・・ラウラがいた

 

「鏡野七実、話がある」

 

「なんだ?」

 

「まずはこれを見ろ」

 

手に持っていた紙を俺に手渡してくる。そこには学年別トーナメント戦のルール変更と書かれていた。理由は1年の代表候補生が多く、時間が取れなくなる可能性が出たためと書かれていた。内容は簡単、1対1から2対2、要はタッグトーナメントということに変更されていた

 

「タッグか」

 

「そうだ、タッグを組まねばならない。。そこで提案なのだが私と組まないか?」

 

別に誰でもいいんだが、さっき織斑先生によろしく頼むと言われたからな。それに当人は乗り気で提案してきているのを無下にするわけにもいかない

 

「いいぞ。織斑先生にもお前と仲良くやってくれと頼まれたからな」

 

「教官にか?」

 

「その教官ってのが織斑先生であれば、その通りだ。でも1つだけ面倒なことがある」

 

タッグを組んだのは良いが俺のISは修復作業中だ。確認だけでもしておきたいが時間は取れないのだ

 

「面倒事などどうでもいい。私が織斑一夏を潰す」

 

「・・・そういえばどうして一夏をそこまで恨む。私怨か?」

 

「私怨と言えば私怨だ。なぜなら教官に泥を塗ったからだ!」

 

この後のラウラの語りにはドン引きした。内容としては、一夏がいたから織斑千冬という完璧な存在に汚点が付いた。とのことなんだが、その語りっぷりが羨望とか憧れというレベルじゃない。もはや信者、狂信という感じだ

 

「・・・ということだ。これで貴様も織斑一夏が憎く思えただろう?」

 

「いや、俺をその手に引き込むな。何が原因で棄権せざるを得なかったかは知らんが、その話を聞いてみてはどうだ?」

 

あいつの肩を持つようだがラウラが言っていたことだけが真実とも限らない。一夏や千冬だって語っていないこともあるだろう

 

「例え、そうだろうと教官に汚点を付けたのは間違いない」

 

「そうですかい」

 

「詳しい話はまた後日する。ではな」

 

「ちょっと待ってくれ。1つ頼みたいことがあるんだがいいか?」

 

この場を立ち去ろうとするラウラに待ったをかける

 

「頼み事だと?」

 

「ああ、俺の幼馴染が専用機持ちでな。紆余曲折あって、昨日完成したばかりなんだ。それのデータ取りをしたい。だが、俺のISは使用不可で訓練機なんて1,2回程度しか使用したことが無い」

 

「私の力が必要ということだな」

 

「有り体に言えばな。頼めるか?」

 

「元はと言え、私から協力を申し出たんだ。それくらいならしてやる」

 

最初の印象からかけ離れて、中々に話が分かるやつだった。印象って大事なんだなってハッキリと分かった瞬間でもある

 

「助かる。今日、再度確認を取ってから明日の朝にでも伝える」

 

「わかった。ではな」

 

今度こそラウラは立ち去って行った。予測だがラウラと簪は相性がいいと思う。性格は真逆かもしれんが相手にしている人物が同じということもある。一夏には悪いが簪の恨みをその身に受けてもらう。俺は再び寮へと足を進める

 

 

翌日の放課後、俺と簪は第2アリーナに来ていた。今日は試験運転をするためである。ラウラは別行動だが許可はちゃんと取ってある

 

「再確認するけど、どうしてラウラ・ボーデヴィッヒまで?」

 

「今度のイベントがタッグになったよな。それで誘われたんだが簪と相性が良さそうだから、手伝ってくれるように頼んだ。まぁ、無いと思うがいざという時の保険だ」

 

試験運転ということだがバグやトラブルが起きて、怪我でもしようものなら大変だ

 

「ふーん・・・他意は無い?」

 

「あるわけ無いだろ。転校して間もないのに、すぐに良好な関係を築けるほど器用じゃないのは知ってるだろ」

 

「知ってる・・・七実とタッグ組みたかった」

 

「早い者勝ちだ。今回は無しということで」

 

あの時ラウラがいなかったら簪と組んでいただろう。それでも俺が足を引っ張りかねないが

 

「遅いぞ鏡野七実」

 

ピット内に入ると既にラウラがISスーツを着て待っていた。今日の為にわざわざ来てくれて助かる

 

「すまんな。とりあえず自己紹介でもしてくれ」

 

「なら私から、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

またしても名前だけの自己紹介だ。どうしてこうも口下手な奴が集まりやすいのだろう。気楽できるからいいんだけど

 

「ラウラ、自己紹介ぐらいはちゃんとしてくれ。編入初日のあれもそうだが、一夏と同じ内容だぞ?」

 

「なに!?」

 

あれだけ毛嫌いしているんだからこう言われたらキチンとするだろう。現に目の前で考え始めているんだから

 

「簪にはどういう奴か分からんだろうがある程度の説明はする。こいつはラウラ・ボーデヴィッヒ。経歴や成績は知らんが、こいつも一夏の事を少なからず憎んでいる」

 

「っ・・・本当?」

 

「その通りだ。あいつさえいなければ教官に汚点を付けずに済んだんだ!」

 

接点を持つのには最低なやり方だが今回の場合は有効な手段だろう。悪いが、今の俺はラウラ側だ。一昨日の事は必ず晴らしてやる

 

「私も同じ・・・一夏がいたから専用機が完成しなかった。代表候補生での努力を貶されたようでならない」

 

「ほう、ならば目的は同じということだな?」

 

「うん・・・私の名前は更識簪。よろしくラウラ」

 

「よろしく頼むぞ更識」

 

「簪でいい。お姉ちゃんもいるし」

 

「分かったぞ簪」

 

2人は互いの手を取る。新たな友情というのは変な気がするが、目の前に新たな関係が生まれていた

 

「改めて自己紹介させてもらうが、私の名前はラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍のIS部隊シュヴァルツェア・ハーゼに所属している代表候補生だ」

 

「軍属だから教官か。どういう経緯で織斑先生がそう呼ばれるかが分かった気がする」

 

「それで私は何を手伝えばいい?簪の為なら何でも手伝ってやるぞ」

 

目的が嚙み合っている者同士で思うところがあるんだろう。ラウラが乗り気になっているのは非常にありがたい

 

「私の専用機の試験運転をするから、補助して。七実はデータ採取とアナウンス」

 

「いいだろう」

 

「分かった」

 

「行こうラウラ」

 

2人はISを纏ってピットから飛び立つ。俺は俺でちゃんと仕事しますか。ピット内に備え付けられてある計測器とモニターを用いて試験の準備に入る。計測項目が書かれている冊子を読みながらの測定だ

 

「2人とも準備はいいか?」

 

『私は大丈夫。関節部も異常なく動くし歩ける』

 

そこに異常があったら最早論外だ。動けないだろ

 

「飛行して適当にブースターを吹かしてくれ。ラウラは簪に随伴するように」

 

『うん』

 

『了解した』

 

2人は一緒になって空を飛び回る。俺はモニターを確認しながら計測項目を確認していく。姿勢制動用のスラスター、推進用のブースター、センサー、その他の部分の数値は特に問題無く正常である。後は武装の展開及び使用ぐらいだ

 

「もう十分だ。後は地上に降りて武装の展開の準備に入ってくれ」

 

『わかった』

 

簪のISが下降を始めようとしたところで異変が起きた。右脚部のブースターが爆発し、姿勢崩壊しながらアリーナの外壁へと一直線に突き進んでいく

 

「ラウラ!」

 

『この手の事は任せておけ!』

 

ラウラは簪の機体目掛けて、ワイヤーを射出し全身に絡め引き寄せる。それでも動きは止まることなく徐々に壁へと近づいていく

 

『簪は全スラスターとブースターを切れ!後は私に任せろ!』

 

『そんなことしたら落下する!』

 

『いいから私に任せろ!』

 

こういう時にISを使えないのが痛い。目の前で起きていることを傍観するしかないんだから。簪はラウラの言う通りに全てを停止させると重力に従い落下していく。全身に巻き付かれているワイヤーを少しずつ引き戻していくと、地面に衝突することなく振り子のように揺られている

 

「大丈夫か簪?」

 

『ラウラのおかげでなんとか・・・ありがとうラウラ』

 

『いや、私にも似たような経験があってな。何がともあれ無事でよかった』

 

ラウラは揺れが収まる頃にワイヤーをゆっくりと地上に降ろされていく。なんともなくてよかった

 

「これは計測しなおしだな。一旦整備室に行くぞ」

 

『そうだね・・・』

 

遠くから見ても凹んでいるのが分かる。そりゃ完成したと思って使ってみれば1日目で部分的に破損する。クーリングオフはよ、とでも言いたいけど開発を凍結させられてちゃ無理だ。俺たちはアリーナを出て整備室へと向かった

 

 

 

ラウラサイド

 

鏡野七実というIS業界において2人目のイレギュラー。そいつの評判は最悪な物だった。嫌われ者、人格破綻者、異常者、と教官の弟に比べ酷かった。本国から接触を図る様に指令を受けたのだが、話してみるとそういうことは無かった。むしろ善人とは言い難いが話の分かるやつだと思った。どうして嫌われるのかはニュースでの報道では知っていたのだが、至って普通だ。平凡な一般人。どうしてハブられるのか分からない程に普通だ。私はそこが分からなかった

 

今は整備室に来て、簪のISを整備している。壊れた部品は廃棄し新たな部品を付けるのだが意外に鏡野の手先が器用なのだ

 

「おい鏡野七実。随分と手慣れているようだが経験はあるのか?」

 

「そんなことは無い。ここに来るまでは碌に動けなかったし、今では普通に歩けるが1,2か月前までは車椅子が普通だったな」

 

こいつも大変な環境にいたのだろう。表情は隠れていて分からんが暗いように見えた

 

「七実は・・・大変だったもんね」

 

「忘れたくても忘れられん。あの経験があるからこそ、今の俺が形成されたとも言える」

 

「そうかもしれないけど・・・そういう風に考えちゃダメ」

 

私もそれなりに大変だったがこいつも同じらしい。いったいどんな経験をしてきたのだ?と聞きそうになるが、そこは人の抱える闇。聞くわけにはいかない

 

「貴様も大変だったのだな」

 

「ん・・・そういやお前も大変だったそうだな。詳細は知らんけど」

 

「教官から聞いたのか?」

 

「一応な。お互いに辛い目に遭ってるから接点としては悪くないんだろうよ。同情を憐れむとかそういうのじゃないけど」

 

現に話は続いてるし、簪という仲間も紹介してもらってる。それ相応に相性は良く、教官の言うことに間違いは無いだろう

 

「そうだな・・・これからもよろしく頼むぞ、鏡野七実」

 

「へいへい」

 

この後、簪のISの修理は無事終了した。原因は途中で投げ出されてから開発途中だったらしく、接続不良だったみたいだ。なまじ、配線や基盤が多いため確認し辛かったのが今回の出来事に繋がったそうだ

 

「今日はありがとう」

 

「いいんだ。私もいい経験をさせてもらった」

 

「七実もありがとう・・・2人がいなかったら、怪我してたと思う」

 

「ラウラに頼んでよかったと常々思う。俺からも礼を言わせてくれ」

 

2人は頭を下げて礼を言われる。あの時に私がいなかったら、大変なことになっていたのは確実だ。だが、それこそ鏡野七実に感謝すべきだろ

 

「構わんさ。2人とも、これからもよろしく頼む」

 

「おう」

 

「うん」

 

私は2人と別れ、整備室を出ることにした。少なくとも、教官の弟よりは数段も好感が持てる奴だと確認できた。この調子で友好関係を築いて、あいつを叩き潰しやすくするとしよう

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

原作よりもまともな思考?・・・ですかね。


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解決の糸、積もる怨

 

次のイベントまで1週間を切ったところで俺の専用機の改修が終わった。見立て以上に早く終わってやれることが増えたのは嬉しいことだ。俺は機体の細部及びプログラムの確認を終え専用機を回収し、書類を少し書いてラウラの待つ寮の談話室へと向かうことにした

 

「あ」

 

「げ」

 

ちょうど職員室前を通り過ぎたところだろうか。運悪くシャルロットと遭遇してしまった。周囲に一夏はおらず1人で行動しているようだ

 

「あ、あの・・・七実、ちょっといい?」

 

「俺は急いでるんだ。時間を食うようなら夜か明日にしてくれ」

 

「ううん、すぐに終わるから。僕ね、考えてたの。一夏には居場所を貰ったけど本当はどうなんだろうって」

 

あの時の事だろうが、それは甘い蜜でしかない。上っ面で心は満たされるかもしれないけど結局は何も解決には至らない

 

「それでね、怖いけど話すことにした」

 

「そうか。今更信用してもらえるかどうかは別だが」

 

一応は話はつけてあるけど、そこから信用をもぎ取れるかはまた別問題だ。俺だって説得したは良いが、楯無の場合は失敗に終わっている

 

「分かってるよ。でも僕の話を聞いてくれたから話しておかないと思って」

 

「・・・」

 

既に動き出しているという話をしてはズルいだろう。もし、話しておけば俺が頼んだのもバレてしまうからな

 

「これから織斑先生と生徒会長を同時に相手をするんだけどね。胃がキリキリしてくるよ」

 

2人同時に相手とか地獄すぎやしませんかね。いや、多少は織斑先生が楯無を制御してくれる・・・といいんだが。いつもふざけているように見える楯無も、そう見せているだけなのであって普段はちゃんとしている。俺が頼みに行った時もそうだったしな

 

「まぁ頑張れ」

 

「うん」

 

俺はシャルロットと別れ再び寮へと足を進める。途中で詫びとして缶コーヒーを買い向かうことにした。寮の談話室に到着し中に入ると既にラウラが椅子に座って律儀に待っていた

 

「遅いぞ」

 

「すまない。詫びと言っては何だが、ほれ」

 

買ってきた缶コーヒーを投げ渡し対面の椅子に座る

 

「気遣いはできるようだな。ありがとう」

 

「好意を持って接してくる奴には好意で返し、悪意を持って接してくる奴には排他的に。誰だってそうだが、面倒事は避けたい」

 

「そうだな」

 

今日呼ばれたのは作戦会議ということだ。軍人さながら如何なる状況でも対応できるように、との事だ。予期せぬ出来事でも動揺してはならないということなんだろう

 

「早速、作戦会議とする。その前に確認だが貴様のISの特徴、要は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)について教えて欲しい」

 

「現時点で分かっていることは他者のISと経験の同一化。簡単に言えば他者と同じになるということだけだ」

 

「報告には聞いていたが末恐ろしい単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だな。貴様を敵に回さなくて良かったと常々思う」

 

だが、デメリットも存在する。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)以前では検証したことは無いが、機体が攻撃を受けた場合に俺にもダメージを負うこと。これは明かさなくてもいいことだろうか?

 

「なぁラウラ。俺とお前は短期間とはいえ同じ場所で戦う相棒のような者だと思う。それを見越してもう1つ提示したい情報がある」

 

「相棒か・・・良い響きだな。それで提示したい情報とはなんだ?」

 

「俺の機体は危険すぎる。相手にするのも操縦するのもだ。俺の専用機IS<M.M.>は攻撃を受けた際に操縦者にも、同様もしくはある程度軽減されてダメージを受ける」

 

「・・・要はISのダメージ=鏡野七実のダメージということか?」

 

ラウラの切れ目はより鋭くなり、俺を睨んでくる。よくISは現技術では欠陥機と称されているが本当にその通りだと思う。一夏のISでさえ剣1本しか無いのだから世代差を考えなければラファールリヴァイヴでも使っていた方がいいだろう

 

「その通りだ。それを踏まえた上での作戦にしたい。その上である程度の犠牲としてダメージを受けるようであれば受け入れるつもりでいる」

 

「ふむ・・・ならばそれを踏まえたうえで作戦を練るとしよう。意見があるならどんどん出せ」

 

これよりタッグトーナメントに向けての作戦会議を行うことになった。対一夏戦の時やそれ以外の専用機持ちの戦闘、訓練機相手にはどうするか、とかとか。いろんな事の対応について作戦を練るが上げても上げてもキリは無く、翌日の昼休みと放課後を返上して再度行うことにした

 

「やっぱりラウラは凄いな。初見の時の印象ではこんなにことをする奴に見えなかったが、今日ので見直した」

 

「当たり前だ。私は誇り高き軍人だぞ?それを言うなら貴様もだ。私に物怖じせず、意見を出してくるとは思わなかった」

 

「最初にも言ったように俺はラウラの事を相棒だと思っている。この程度で根を上げられては困るんでな。俺としても一度はあいつをボコしたい」

 

俺は俺で一夏の事を恨んでいる。あの時に殴られた恨みだ。だが、恨みを晴らすのは誰だっていい。俺でも簪でもラウラでもだ

 

「なんだ貴様もか。ならばよろしく頼むぞ」

 

「こちらこそな」

 

俺たちは別れそれぞれの部屋へと戻っていった。既に夕食時ということもあってか人気はあまりないが部屋には簪と本音は居ることだろう。部屋の扉を開けるとそこには簪と本音だけではなく楯無に虚までいた。てか楯無は俺のベッドで寝そべるんじゃない

 

「おっそーい。今までどこに行ってたのかな~?」

 

「談話室だ。ラウラと話をしていてな。というよりもなぜ楯無と虚がいるんだ?」

 

「まぁ一応報告がてら一緒に食事って感じかしら。簪ちゃんと本音ちゃんには許可は貰ってるわよ」

 

「無理矢理だったけど・・・用意しておくから着替えてきて」

 

「ああ」

 

着替えを取ってから部屋にある洗面所で着替えを済ませ戻ると既に料理が並べられていた。今日は和風のようだ

 

「さぁ早く座ってちょうだい」

 

「なんで楯無が指示してんだか。まぁ座るけど」

 

右隣には簪、左隣には楯無、対面には本音と虚が座り夕食となった。約半年ぶりだろうか、俺を含めたこの5人での夕食は。いや、その時には親父と母さんもいたからまた別か。だが俺はこの関係、空間が好きだ。笑いの絶えない4人との関係は大切にしておこう。夕食も食べ終わり、今日の作戦をPCでまとめ始める

 

「七実さん、お茶です。何をしてらっしゃるのですか?」

 

「ん、ありがとう虚。今日話してきた内容のまとめだ」

 

今は全員リラックスしていて簪と楯無は一緒に格闘ゲームをしている。BBだったかな

 

「それとこれを」

 

小声で4つ折りにされたルーズリーフを渡してくる。中身を確認すると

 

本日、シャルロット・デュノアが自身の事で話があったわよ。匿名で「僕の事でどれだけ幼稚な思考だったかを思い知らされた」とのこと。多分、七実君か一夏君のどちらかだと思うけど行動を考えるに七実君かな?

 

いったいどんなことを言ってそうさせたのかは知らないけどよくやったわ。これで証拠は揃ったし学年別タッグトーナメントの後には解放されると思う。アフターケアはまだ微妙なところもあるけど

 

まぁ、それは置いておいて、もうすぐ夏よね?臨海学校もあることだし今度一緒にデートしましょう?もちろん5人でね。もちろん拒否権は無いわよ

                                   by楯無

 

なんとまぁ大胆ですこと。だが、誘われる分には行くしかないな。IS学園に入学する前には外に出かけて買い物をしたなんて記憶早々無いから楽しみでもある

 

「この内容はまだ秘密ということで」

 

「了解」

 

小声での会話はこれで終わり虚も2人のところへと行ってしまった。さて俺も作業というよりもまとめ作業に戻るとしよう。後ろでは勝った負けたの勝負が行われているが淡々と作業を進めていった。そのせいか意外に早く終わった。とはいえ消灯の1時間前だが

 

「あら終わったのね?だったら一緒に遊びましょう!」

 

「・・・消灯時間まで1時間前だ。風呂とか入らなくていいのか?」

 

「入ってきたに決まってるじゃない。それともお姉さんの生まれたままの姿でも見たかったの?」

 

「シャワーでも浴びて寝ますかね」

 

こういうのは無視に限る。面倒事は極力避けるべきだ。下着を持って誰もいないシャワー室に入る。この時だけが1人でいられる時間だ

 

『七実くん、私達帰るからねー』

 

「ん、そうか。あーそうだ。あいつのことは助かったありがとうな」

 

『いいのよ、それじゃあデートはよろしくね』

 

「簪にも言っとけよ」

 

楯無と虚は帰ったようで部屋には簪と眠りこけている本音しかいないのだろう。さっさと浴びて俺も寝るとするか

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回はついに積年もとい積月の恨みを晴らすやも?


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晴れる瞬間、介入の始まり

本日は学年別タッグトーナメント戦、当日だ。出場する選手ごとで控室が用意されている。なんと豪勢なんだろうか。それはともかく、今は既に控室で待機させられている状態だ

 

「鏡野七実、作戦は叩き込んであるか?」

 

「この程度どうということは無い。やるべきことはやる」

 

「ふん・・・私の相棒を自称するだけの事はあるな。私とて、この程度で音を上げられては困る」

 

相変わらず上から目線なのはどうかと思うが、それはラウラの特徴なんだから仕方ない

 

「・・・鏡野七実、1つ相談してもいいだろうか」

 

「あ?」

 

ラウラの方に視線を向けると天井を見上げ、何かに怯えているように見えた

 

「つい先日、教官と話したんだ。なぜドイツに残らなかったのか、とな」

 

軍に戻ってきて欲しいという話なんだろう。俺自体、興味の無かった話だが第2回モンド・グロッソを棄権した後にドイツへ行った、だったか?

 

「その時に再び言われたのだ。『私には守るべき家族がいる。今はあいつらの為に頑張らねばいけないんでな』とな。どうして教官は、あの織斑一夏を守ろうとするんだ?」

 

俺にはあまりわからないが、本来家族というものはそういうものなんだろう。互いに何かを求めるでも無し、ただただ一緒に歩んでいける存在。それが俺には恨めしく思う。どうして、そこに俺がいられないのか

 

「織斑円華は分からんでもない。だがあいつだけは分からない。あれほど迷惑を掛けているというのに、どうして教官がそこまでしようとしたのかが分からないんだ。鏡野七実、どうしてなんだ?」

 

「俺には分かんねぇよ。でもな、家族ってそんなものなんじゃないのか?迷惑を掛けられようが守ってやりたいと思うのはよ。そこは本人にしかわからんと思う」

 

「・・・やはりそういうことになるか。これこそ分かっているが改めて認識するのは辛いな・・・湿っぽい話になってしまったな、すまない。そろそろ対戦表が発表される時間か」

 

やはりラウラも一夏、織斑家に対して思うところがあるんだろう。もちろん俺にだってある。これが対戦中に響かなきゃいいんだが。控室に置かれているモニターに対戦表が表示された。1つ1つ丁寧に確認していくと俺たちの名前を発見した。同時に対戦相手のペアも判明した

 

「一夏とデュノア・・・初戦があいつらか」

 

「手間が省ける。余計な事を考えなくて済むじゃないか。それでは行くぞ」

 

俺たちは控室を出てピットへ向かっていく。初戦の相手があいつらというのはツイているのかそうじゃないのか、分からないがやるしかない。どちらが悪いというわけでは無いが全力で行かせてもらう

 

 

シャルロットサイド

 

いよいよ学年別タッグトーナメント初戦、なんだけど相手は七実とラウラかぁ。ラウラはドイツの代表候補生だし噂には聞いてるから強いから分かるけど、七実は報告通りだと他人の専用機と同じになって戦うらしい。実力はセシリアを倒せるほどにはあるから慢心はできないね。僕たちは既にアリーナの上空で待機している

 

「それにしても相手があの2人だなんて驚きだよ」

 

「そうだな。恨みは無いけど七実からってことでいいか?」

 

恨みは無いって・・・僕の事で怒ったのはどこに行ったんだろ?一応、更識生徒会長と織斑先生に話は、すんなり通ってなんとかしてもらえる

 

「で、でもラウラのIS<シュヴァルツェア・レーゲン>の持つAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)も危険だし・・・どうする?」

 

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)、1対1では無類の強さを誇る慣性停止結界。その他にも遠中近全ての役割を果たせるワイヤーブレードに大型レールカノン、プラズマ手刀・・・あれ、もし七実がラウラのISと同じになって分断された瞬間、負けが確定するね

 

「一夏、どっちから先に倒そうとしても結局は変わらないよ。それよりも大事なのは分断されちゃいけないということ」

 

「なんでだ?」

 

「ラウラのISにはAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)、慣性停止結界っていう強力な兵装があるの。もし七実のISでラウラのISをコピーしたら手も付けられないし、分断された瞬間に負けが確定するの」

 

「・・・ならラウラからか?こう言っちゃなんだけど七実だって強いけど、つい最近までISに手を出してなかったらしいし後回しにするか?」

 

「多分そっちの方が得策だと思う。近すぎず離れすぎず、それでもってラウラを最優先で倒す」

 

作戦の方針も決まって、少しだけ余裕を持てた気がする。そんな時に対戦相手であるラウラと七実がISを纏ってやってくる。七実の方もラウラと同じISだが上空に来るのではなく地上で壁にもたれ掛かる様にしていた

 

「鏡野七実、貴様はそこで見ていろ。私が出る」

 

「へいへい、俺は見てますよーだ」

 

随分と舐められているのが分かるよ。いくら強力な兵装があるからってそれだけで勝てるとは思わないで欲しい

 

「2対1みたいだな」

 

「僕たちの力を見せてあげよう一夏。その後で七実を・・・ね」

 

会場では七実に対して罵詈雑言が飛んでいる。七実はこんな環境で頑張ってたんだね。試合開始のカウントが始まる。

 

「貴様ら程度、私1人で叩き潰してやろう」

 

「たかが1人で何ができるってんだよ!」

 

試合開始と同時に一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で、ラウラ目掛けて雪片弐型を振り上げて行く。しかし、AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)によって身動き1つ取れなくなっている

 

「開始直後の先制攻撃か。分かりやす過ぎるな」

 

「そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

 

「ならば私が次に何をするのかもわかるだろう?」

 

「させないよ」

 

ラウラが一夏にレールカノンを射出する用意に入る。その時を狙って僕は一夏の頭上から飛び出て61口径アサルトカノン「ガルム」を展開し爆裂弾の射撃を浴びせる。それによって一夏を狙った攻撃は空を切った。一夏を縛っていたAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)は解け、ラウラは急後退していく

 

「逃がさないよ!」

 

後退しながら6つワイヤーブレードを射出していくラウラに対して、僕の得意な戦術「高速切替(ラピット・スイッチ)」を活用し、連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」とガルムを使い分け、道を切り開く

 

「今だよ!」

 

今度は一夏が僕の頭上を越えてラウラに攻撃を仕掛ける。武器が剣ゆえに読まれやすくAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)によって止められるが囮なんだ。僕はラウラの背後に回り重機関銃「デザート・フォックス」を展開する射角は斜めにして一夏に当たらない角度で射出すると多少の被弾は与えることができた

 

「ちょろちょろと目障りな・・・」

 

「まだ俺の切り札を使ってないんだぜ?使わせてみろよ!」

 

うん、分かってた。一夏はあれだ。勝ちを目の前にすると暴走するね。仕方ないなー。突撃して見事にAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)に引っかかり、ワイヤーブレードでSEを削られるのを見て、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で接近を仕掛けてちょうど七実に背を向けた

 

「背中ががら空きだよ!」

 

今の僕も七実から見たらがら空きなんだろうけどさ、腕なんか組んじゃって暇そうに見えるよ。背中に腕についてある盾を外し、その下に収納されている69口径のパイルバンカー「灰色の鱗殻(グレー・スケール)」を1発叩き込む

 

「作戦成功だ」

 

「え?」

 

1発叩き込んでラウラの集中力が欠けAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)が解けて一夏が解放される。だけど僕はもう1発叩き込もうとして躍起になっていたところで動けなかった。ラウラの呟きは僕たちにはありえないものだった。攻撃を食らって作戦成功って・・・

 

「シャル!後ろだ!」

 

一夏の叫びは既に遅く僕の身体は、僕の後方から来ている6つのワイヤーブレードに巻き付けられ地面へと叩きつけられる

 

「きゃぁ!?」

 

「悪いな、しばらく捕まってろ」

 

最初から警戒していたはずだったのにいつの間にか無視していた七実の扱うIS<M.M.>によって、よりによってAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)で拘束されてしまった

 

「テメェ!卑怯だぞ!?」

 

「戦いに卑怯も糞もあるか。だいたい見ていろと言われただけで戦うなとは一切言われていない」

 

詭弁だと思うけどなー。でも確かにその通りなんだよね。七実が戦う意思が無いのなら、ちゃんと意思表示ぐらいはしそう。だけど、周りからは卑怯だななんだのってバッシングされてるけどね

 

「話は後だ。ラウラこいつは縛っておくから一夏を蹂躙してこい」

 

「言われなくともそのつもりだ!さぁ、かかって来い織斑一夏!貴様の言う切り札がどれ程の物か、この私に見せてみろ!」

 

壁際で拘束されてる僕はどうしようもなかった。何も動かないんだもん。遠くで戦ってる2人を見てるしかなかった。最初から警戒していたはずなのにいつの間にかラウラに集中してたんだから、僕も一夏の事を強く言えないな

 

『おいシャルロット、聞こえるか?』

 

個人間秘匿回線(プライベート・チャネル)で七実からの通信があった。もしやこれはチャンスなのでは?

 

『うん、聞こえるよ』

 

『そうか、なら聞くが楯無と話したんだろ?どうだったか聞いてもいいか?』

 

『・・・拘束を解いてくれたらね』

 

『多少の結末は知っている。証言は取らせてもらった、と聞いたぞ』

 

なーんだ、知ってたなら最初から言ってくれればよかったのに。チャンスなんて無かったんだね

 

『亡命することにしたんだ。会社も家族も地位も全てを断ち切って、こっちに亡命することにした。フランスでの思い出なんて死んだお母さんとの思い出ぐらいしかないし別にいいかなって』

 

『・・・これである程度自由になれたのか。よかったじゃないか』

 

『まぁね。でも専用機とか無くなっちゃうかもしれないし、やり辛いったらありゃしないって』

 

僕のやったことが正しいのかは分からない。でも気になる部分がある。どうして、七実がこの話を振って来たのか。あの時、あれだけ豪語して興味ない風にしていた七実がどうしてこうして気にかけて来るのか

 

『ねぇ1つだけ聞いていい?』

 

『なんだ』

 

『もし間違ってたら失礼なんだけど気になったことが1つだけあるの。どうして更識会長と織斑先生がすんなり了解を出したのか・・・もしかしてだけど七実、何かした?』

 

直接は見えないけどセンサー越しに見る七実の表情は一切変化は無く、無表情に等しいだろう

 

『もし何かをしたとして、それを教えることにはならん』

 

うん、なんとなくだけどこう返ってくるのは知ってたよ。こういう返しをしてくるってことは何かはやってくれたんだろう。ただ目の前で一緒にいてくれるんじゃなくて、知らない間に事の解決を図ってくれたんだろう

 

『そっか』

 

『さてそろそろ一夏のSEも切れて試合終了が見えるが・・・シャルロットはどうする?』

 

遠くで戦っている2人を見てみると一夏は燃費が悪いけど威力は抜群に高い単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)、零落白夜を使用してるけどラウラに至ってはAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)すら使っていない。舐めプ状態だ

 

『その時は素直に降参かな』

 

『そうか』

 

もうすぐこの試合も終わる。どこで選択を間違えたのかな?ラウラがヘイトを溜めたところ?標的をラウラに絞ったところ?でもいろんな状況でも結局は似たような結果になったように思える。さすが軍人なんだろうか

 

 

 

???サイド

 

全くもって面白くない。織斑千冬の弟じゃなくてもう一方の男性IS操縦者を屠って欲しかった。この選択は、候補生としては正しいものかもしれないけど、今の世の中的には正しくない。ISは女性だけが使用を許される神聖なる力。それを穢したあいつらを叩きのめす。それに見合うだけの過剰な力があるのだから公開してほしいわ。こんな公衆の面前で大々的な惨殺ショーを開幕して欲しいわ

 

「仕方ないわね。あまり使いたくなかったのだけれど」

 

私の手には、あるシステムを強制的に稼働させるパネルがある。これを使ってしまえばドイツ軍の人材が()()1人減るけど仕方ないわ。これも仕事の内。それに彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒは造られた存在、遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)なんだから複製が効くわ。ならばこの決断は酷く正しいものだ。これも私達女性が今まで虐げられていた過去を思えば致し方のない犠牲なんだから

 

「これを以て私達の復讐が始まるわ」

 

さぁ、手始めにそこの野郎共をブチ殺してちょうだい。パネルを操作し、後はEnterキーを押してしまえば始まる。私達の復讐がね

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

深夜テンションで後半を作ったのでグダグダ・誤字脱字が大量だと思います。ご指摘していただけると非常に嬉しいです


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暴走し見えない悪、深層の真相

いつの間にかお気に入りが1000、UAが10万を超えていました

この作品を見てくださりありがとうございます、そしてこれからもよろしくお願いいたします


結果だけ言おう、一夏は懸命にラウラに立ち向かうが敵うはずもなく一方的に蹂躙された。SEは少し残ってはいるものの既に詰み状態だ。AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)無しに巧みに兵装を使い分け、徹底した戦いぶりを見せた

 

「くそっ!」

 

「やはりこの程度でしかないのだな。教官の弟であるから少しは期待してたのだが、この程度でしかないなんてな」

 

某ラノベの台詞を代用させてもらえば、家族とは1番近しい他人だそうだ。家族であっても結局は本人ではない。同じ血族だとしても期待するだけ無駄だろう

 

「そんなの関係ないだろっ!」

 

「早くしてくれラウラ。集中し続けてるのも疲れる」

 

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)の最大の弱点、それは集中し続けなければ発動維持ができないところにある。かれこれ10分以上も使っているから非常に疲れているのだ

 

「それはすまない。では決着としよう」

 

ラウラは肩部から6つのワイヤーブレードを射出し一夏を拘束してグルグルと振り回す。ラウラを中点として円を描くように振り回し思いっきり地面に叩きつけられ、土煙を上げてSEが0になったアナウンスが流れる。残る敵はシャルロットだけになった

 

「これは詰みだね。僕も降参するよ」

 

何一つ身動きが取れず味方もいなくなったシャルロットは降参し、これまたアナウンスが鳴る。これで俺たちが勝ったことが証明された。いくら汚い、卑怯と言われようが俺はこの作戦に()()()までだ。シャルロットを拘束していたAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を切り、解放させるとそのまま地面へと着地した

 

「戦闘役お疲れさん」

 

「いやなに、鏡野七実がもう1人を抑えてくれたおかげで安心して戦えた。こちらこそ助かった」

 

ISに乗っている状態で握手を交わすが観客の方は納得いかないようで拍手喝采とはいかないようだ。いったい何が問題なんだか?俺らが勝ったことか?作戦か?

 

「全く、嫌われ者という面倒な立場にバミられているな」

 

「その嫌われ者と手を組んだお前も同罪だっての・・・戻るか」

 

俺らは元来たピットへ戻ろうとしてブースターを吹かしたそんな時だった。背後にいるラウラが一切動かずゆっくりと地面へと降下していったのだ

 

「あぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁっぁぁあぁっ!!」

 

悲鳴のような雄叫びを上げ、その場に蹲る。紫電をISに走らせ、黒い何かへと変化していった。アリーナでは警報が鳴り響き、シャッターが閉じ封鎖された

 

『織斑にデュノア、鏡野の3人聞こえるか!?』

 

個人間秘匿回線(プライベート・チャネル)から聞こえてくるのは織斑先生の声だった。状況も状況の為その場で静止し回線に集中した

 

「俺は聞こえています。あっちはデュノアがいるんで大丈夫でしょう」

 

『そう言うな。今、返答があった。緊急事態だ、さっさと退避しろ』

 

「・・・あいつが無事って言うなら退避しますが、すぐさまあれを何とかできるんですか?」

 

ラウラがいた場所には紫電を走らせた純黒の塊、ISのような何かが存在していた。一夏の方を見てみると何がなんやら、シャルロットが純黒の塊目掛けて走り出そうとしている一夏を取り押さえていた

 

『今すぐには無理だ。教師陣が陣を組んでボーデヴィッヒを救出する』

 

「なら俺は聞けません」

 

『なぜだ鏡野』

 

どう見ても異常としか思えない状況でラウラを中心として起きていることだ。俺らが放置したせいで出た被害はどうする?そもそもラウラは本当に安全と言えるのだろうか?自称相棒を自負している俺としては、ここで時間を稼ぐ程度しかできないだろうけどやるしかない

 

「放置している間に出る被害、ラウラの安否確認そういったこと込みでなおさら退避できません。これでも自称相棒を名乗っているんで時間を稼ぐ程度しかできませんがやるだけやってから逃げることにします」

 

『・・・5分だ。それ以上は時間を取れない、良いな?』

 

渋々という感じの返答だ。リーグ戦の事を思えば致し方ないことではあると思うがラウラを大事に思っている証拠でもある

 

「どんな手を使ってでも稼いでやりますよ」

 

俺は純黒のIS目掛けてワイヤーブレードを射出し、牽制を行うが何処かで見たような剣で一薙ぎされてしまった。そう簡単にはいかないようだ

 

『ねぇ七実、提案があるんだけどいい?』

 

「とりあえず聞くだけだ、勝手に話せ」

 

一夏を抑えているシャルロットから個人間秘匿回線(プライベート・チャネル)が入るがあいつらからあのISを遠ざけることで手一杯だ

 

『一夏のISには零落白夜っていうのがあるんだ。それがあればラウラを救出できるかもしれないそうだよ?』

 

「それに伴うリスク、何をしたらいいか詳細に教えてくれ。かも、じゃダメだ、確定できなければ意味がない」

 

常に確定なんてことは無いが少しでも不安要素を無くしたい。手を借りたいが一夏のISはSEが切れていて使えない。シャルロットに至っては一夏を抑えているから手を借りられない

 

『どうやら零落白夜にはエネルギーを消失させることができるそうなんだ。それを使ってあの黒いのを斬ればSEを大幅に削ることができるそうなんだ。あれだってISなんだから今はこれしかないよ』

 

「それなら補給してこい、その間に何とかしておく」

 

なんとか一筋の光が見えたような気がする。近接では心許無く、このISでは相性が悪いとはな。だがやるしかないんだ。いくら関係が悪かろうがやらねばならんことは互いに分かっているはずだ。今は誘導しなければならない

 

「牽制はここまで・・・これからは全てを賭してやらせてもらう!」

 

このISははっきり言って強い。だがその分、代償が大きいのは知っている。そんなもの度外視して助けてやらなきゃ相棒として失格だよな。俺はなりふり構わず突撃する。相手が何だろうが剣1本、いくら攻撃を食らおうが知ったこっちゃない。両手首から出現させたプラズマ手刀で間合いを詰める。当然相手も剣戟を加えてくるが必要最低限しか防御はしない。多少食らったところでなんだ、この体が傷付く程度じゃないか

 

「待ってろよ相棒、お前のISはそんな不格好なもんじゃないはずだ」

 

近づくにつれて剣戟が増えていく体の末端部を斬りSEが削られ、体には痛みが走る。それでも致命的なダメージは入っていない。まだできる・・・これで死ぬわけじゃないと信じて攻撃を受ける。完全に敵認識されているからできることだ。なんか機械と戦っている気分だ

 

「来いよ、手足なんか感覚が無くなりつつあるだけだ。この程度でやられる俺じゃないんでな」

 

流石に攻撃を受けすぎたせいか痛すぎる。そろそろ締めないと色々とマズいな。純黒のISは俺の胴に横薙ぎを入れてくるがそれを受け流す。既に痛覚が麻痺しているのか、あまり痛く感じない。そろそろ締めなければならないか?

 

「おらぁ!」

 

こちらも手刀で攻撃を入れるが簡単に回避される。慣れないことをやっているせいかバランスを崩してしまった

 

「しまっ!?」

 

完全に隙となってしまい兜割というのか、思いっきり縦方向に斬撃を入れられ剣ごと地面へと叩きつけられてしまった。SEもほぼ0となり、尋常ではない痛みが全身に走る。気を緩めてしまえば気絶してしまうかもしれない

 

「がはっ・・・・・・だが捕まえたぜ」

 

剣と腕ごと掴みワイヤーブレードで自分ごと絡めとる。これで攻撃手段の剣は潰した

 

「まだか・・・」

 

「これでおしまいだっ!」

 

ようやく一夏(切り札)がISを部分展開して剣に光を纏わせ1撃、2撃と切り込んでいく。するとラウラを覆っていた黒い何かは消え、ラウラが俺のISの上に落ちてくる

 

「よぉラウラ・・・元気か?」

 

「鏡野・・・私は、いったい・・・」

 

虚ろな目でラウラはこちらを見てくる。助けんのが遅くなってすまなかったな

 

「俺にもわかんね・・・教官とやらが教えてくれるだろうし・・・今は寝とけ」

 

「ああ・・・そうさせてもらうぞ、()()

 

そう言って気絶してしまった。ようやく相棒認定して貰えて俺は嬉しいが・・・俺もダメだな、全身が動かんし眠くなってきちまった

 

 

 

ラウラサイド

 

あの黒いのに飲まれ勝手に戦っていた私のISを何とか食い止めてくれた鏡野七実の姿をずっと見ていた。あいつのISの特性は教えられていたが、どうしようもなかった。だがそんな状態でも私を助けてくれた。何度も攻撃を食らいながら痛みに耐えながら私を助けてくれた

 

「やぁ」

 

ふと声が聞こえた。声質は私の相棒のものだがトーンが違う。冷たく鋭いものではなく暖かく柔らかい対照的な声。重い瞼を開けると見渡す限り真っ黒な空間で唯一人立っていた。服装は1枚のボロキレで、如何にも創作上の奴隷が着ていそうな服だった

 

「ようこそ深層世界へ」

 

「貴様は誰だ?」

 

「ひっどいなー。私は私だよ?いやラウラちゃんには俺は俺って言った方が伝わりやすいかな?」

 

一体何を言ってるんだ、私の相棒は?

 

「結局誰だ!」

 

「鏡野七実って言えばいい?私だって俺と同じなんだよ。全て鏡写しで全て正反対、そんな関係だよ?」

 

言っているのは何一つ分からない。だが髪型、声、身長は寸分違わず一致している。こいつが私の相棒?

 

「一方的に話すけど、君はISの意識内にいるんだ。私はその1つ<M.M.>こと<Mirror me>のコア人格でもあり、鏡野七実本人だよ。まぁ私の正体はどうだっていい、今回の事の顛末を語ろう。V.T.S.(ヴァルキリー・トレース・システム)が君のISに組み込まれていたんだ。まったく面倒なことをしてくれるよねー」

 

V.T.S.(ヴァルキリー・トレース・システム)、モンドグロッソの総合優勝者のデータをコピーして使用者の肉体に莫大な負担がかかる開発が禁止されているシステムだ。それが私のISに組み込まれていただと!?

 

「どういうことだ!?」

 

「どうもこうも無いね。きっとこっちに来る前にインストールされたんじゃない?こっちではシステム方面を弄った記録が無いし。ほんと無事でよかったよ。もう少し遅かったら死んでたかもしれない。俺が頑張った甲斐があったってもんだよ」

 

最悪、命を奪うシステムを組み込まれていたなんて誰も思わないだろう。現に私がそうなんだから

 

「うん、話は終わりだ。君は目覚める時だよ、じゃあね」

 

もう1人の鏡野七実は手を振ると距離が離れていく。特に走っているわけでは無く、勝手に離れていったのだ。私は手を伸ばし呼びかけるが既に遅く、姿が見えなくなったところで光に包まれ瞼を閉じる

 

「っ!?」

 

瞼を開けるとそこには知らない天井が広がっていた。私はその天井目掛けて手を伸ばしていた

 

「気が付いたか」

 

教官の声が聞こえてくる。外は既に夕暮れ時であれから3時間ほど経過していたのがわかる

 

「教官・・・」

 

「私は教官ではない、織斑先生だ。それと全身に無理な負担がかかったせいで筋肉疲労と打撲があるから無理に動こうとするな」

 

ゆっくりと腕を戻したが痛覚が働いて多少の痛みがやってくる

 

「何が・・・起きたんですか?」

 

先ほど深層世界とやらで教えて貰ったが確証はない。確認の意味を込めて聞くが同様の話だった。V.T.S.(ヴァルキリー・トレース・システム)が私のISに積まれていた。外部からの実行ということで私に降りかかる火の粉は少ないそうだ

 

「そうだったのですか・・・ところで鏡野七実は・・・どうなりましたか?」

 

「左隣りを見てみろ。ぐっすりだ」

 

多少の痛みをこらえて見てみるとあちこちに包帯や湿布を張られてぐっすりと寝ている

 

「相棒・・・すまない。私がこうしてしまったんだな」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「は、はいっ!」

 

「鏡野は相棒と自称し、私に貴様を助けると宣言した。その時のあいつは凄かったぞ。攻撃を食らおうが構わず食らい付き、結果として貴様を救出させることに成功した。織斑兄の協力があってこそできたものだが、相棒、ラウラ・ボーデヴィッヒを救ったのは紛れもなくそいつだ。謝る場面ではないだろう?」

 

この人はどこまで分かってるんだろう。すぐさま私の事を正し、他の追随を許さないこの人には全てお見通しなんだろうか

 

「しかし妙だ。ISには絶対防御があるというのにこの傷の量はおかしい」

 

「・・・聞いていないのですか?」

 

「何がだ?」

 

「相棒のISのダメージ=操縦者のダメージ、ということらしいですが」

 

言った瞬間、教官もとい織斑先生の表情が強張った。こんな重大な欠陥を見逃すわけは無いのだが気付かなかったのだろうか?

 

「その話、本当だろうな?」

 

「はい、作戦を考える際に告げられたことです。現にV.T.S.(ヴァルキリー・トレース・システム)で操られている際に与えたのは末端部、そして縦方向に胴ぐらいです」

 

「・・・一致している。実習の時も攻撃を受けないように引き撃ちばかりしていたのはそのせいか。こんなもの生徒に使わせるわけにはいかん。一旦生徒会長と学園長に話を通すとしよう。話してくれて助かった、すまんが今から行ってくる」

 

織斑先生は保健室から出て行ってしまった。これ以上、私の相棒が傷ついて欲しくないのでな。すまんが頭脳担当になってもらうぞ。しかし、今日は本当に疲れたな。もう少し眠るとしよう

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

以前言っていた通りにリクエストを取りたいと思います。ようやく2巻分の終了が見えてきました。お次は後日談です

リクエスト先
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=142710&uid=155028


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その信用は誰の物?

翌日、満身創痍の状態で教室へと向かっている。昨日は大変でしたよ。部屋に帰ったらあの4人が仁王立ちしていた時は絶望感満載でしたよ。夕食後、正座での説教はかなり堪えました。いや、これに至っては仕方ないだろうが。緊急事態だったから致し方ないだろう。教室に到着するがまだ誰もいない時間帯のせいか無人である。自分の席に着いて寝よう。昨日は体に鞭を打ち過ぎたからな、これぐらいは良いだろう。本当はサボりたかったが本音が同じクラスというのもあってかできやしない

 

「あー・・・机冷た」

 

「だろうな」

 

「あ?」

 

そのままの姿勢で顔だけ横に向けるとそこにはラウラがいた

 

「よう」

 

「挨拶ぐらいはまともにしてくれ。私の相棒としてみっともない」

 

「すまんな、結構疲れててな眠いんだよ。そういやお前さんはどうだ?」

 

「相棒のおかげで軽くて済んだ。それよりも昨日はありがとう」

 

感謝されるのは良いと思う。満身創痍になってまでやった甲斐があったというものだ。これで死んでいたのだったら俺は目も当てられない状態だったろう

 

「それとだな・・・教官にお前のISの事を伝えた」

 

「あっそ、いつかは知られることだとは思ってたし別に構わん。逆を言えば、これがあったから相棒を助けられたとも言える」

 

懐中時計を手にして俺はそう思う。これが無かったらラウラを助けてやることはできなかった。一夏が単体でどうにか出来たとも思えんし、ある意味最小の被害で救助に成功したとも言える

 

「それから、もうあいつを恨むのはやめにした」

 

「どういう心境だ?」

 

「一度、倒してしまってスッキリした。それに私を救出してくれたそうだし、これ以上恨むのも大変だしな」

 

恨み続けるのも大変だろうな。俺だってそうだ、いつまでも憎んでいたくない。でも、どうして俺を見つけてはくれなかったのか、もう見限られてしまったのか。どんな事であろうと既に事件としては時効を迎えている。もうどうしようも無いのだろうか?

 

「まぁそういうことだ。これからもよろしく頼むぞ相棒」

 

「はいよ、相棒さん」

 

だが、心強い味方が出来たのはありがたい。少しは気楽になるのかね。ラウラは自分の席の方に行くのを確認した後、寝ることにした。満身創痍のこの身体では、ちと厳しい数日間となるだろう

 

周囲が騒がしくなり目が覚める。微睡みの中で聞こえてくるものは少ないがそろそろ教師陣もやってくる頃合いだ。この騒がしさは良い目覚まし時計だとつくづく思う

 

「貴様ら静かにしろ!」

 

織斑先生の一喝と共にふらふらとした足取りの山田先生が教室内に入ってくる。これで完全に目が冴えましたよ。周囲を確認すると空席が1つある。シャルロットが座っていた席だ。というよりも篠ノ之、戻ってきてたのか

 

「み、皆さん、おはようございます・・・」

 

何処か元気が無いようだが、だいたい分かってしまった。シャルロットの件についてだろう。本当にお疲れ様です

 

「今日は、ですね・・・みなさんに転校生を紹介します。転校生と言いますか、既に紹介を済んでいるといいますか、ええと・・・」

 

「入って来い」

 

「失礼します」

 

言い淀んでいるところに織斑先生の一声が入る。それと同時に男装ではない本来のシャルロットが教室内に入って、教壇に上がる

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

シャルロットの一礼と共に生徒は騒ぎ始める。どうして女子はこうも騒ぎ立てるのが得意なんだろうか、あとで一喝されて終わるというのに。今回も見事に一喝されて静まる生徒たち

 

「書類の方に不手際があり、致し方なく男装を強いられていたそうだ。これからも仲良くやるんだぞ?」

 

『はい!』

 

中には最初から疑っていた奴もいたはずだが、そこはどうなんだろうか。そこの関係修復は本人が頑張るべきなんだろうさ

 

「それと鏡野、貴様は放課後に生徒指導室に来るように」

 

「はい」

 

どうせISの話だろう。どれ程危険な物かが分かってそれの対策でも取るんだろう。全く面倒だ

 

「これで朝のSHRを終了とする。2週間後に臨海学校があるからちゃんと準備しておくように、以上」

 

そういって山田先生の背中を押して教室を出ていく。今日も何事も無く終わるといいな

 

「やぁ七実、昨日はお疲れさま」

 

「っ!?」

 

空を眺め、時間を潰そうとしていたところに肩を叩かれ激痛が走る。不意の一撃だったので声をあげそうになったが我慢できた。肩を叩いた相手はシャルロットだった

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫に見えるならお前の目は節穴だ。眼科に行くことを薦める」

 

「そこまでなんだ・・・ごめんね」

 

謝ってほしいわけじゃない。ただ普通にしていてくれ。そっちの方が接しやすい

 

「今日のお昼って空いてる?」

 

「先約はいるが少し話すぐらいなら大丈夫だ。話を聞いた以上、事の顛末を聞いといて損はないだろう」

 

「そのつもりだよ。それじゃあまた後でね」

 

そう言ってシャルロットは自分の席へと戻っていった。てか、まだ痛いのは我慢するしかないのか・・・致し方あるまい。この状態で過ごすのか

 

授業も終わり、昼休みとなった。昼食を取る前にシャルロットと話をしなければいけないんだったか

 

「よう」

 

俺はシャルロットの席まで行き、話を聞くことにした。どんな結末になったのか、どんな代償を払うはめになったのか聞く覚悟は決めている

 

「それじゃあ話すね。僕は日本に亡命することにしたんだ。フランス代表候補生から日本代表候補生になって専用機もそのまま。だけど、フランスには悪いけど専用機は日本に献上して卒業するまで使えることになったそうだよ。会社は吸収されることが決まっていて、もうどうしようもないってことなんだ」

 

フランスざまぁ、という結果になったのか。経済的にもフランスは苦しくなっただろうがシャルロットにスパイ行為を押し付けた結果だと言えよう。フランスには憎まれる結果にはなっただろうがそれは自業自得という他ないのだから何も言えないだろう

 

「ねぇ七実、本当の事を教えて欲しいんだ。七実は先生と更識生徒会長に説得したんだよね?」

 

ここで「していない」というのは卑怯だろう。真剣な表情で見つめてくるのシャルロットには確固たる覚悟があるという感じだ

 

「楯無は面倒だった。俺が説得した時は失敗に終わっているしな」

 

「!・・・そうだったんだ。ありがとうね」

 

「・・・あの時はああ言ったが俺にも思うところがあってな、勝手にやったことだから気にされても面倒だ。忘れてくれ」

 

憐みというわけでは無い、同情と言えるだろう。あんな扱いされているのに見過ごすというのは、同じ経験をしたこともありできなかった。言い訳がましいが聞いてしまえば多分誰に対してでも動いたかもしれん。あながちお人好しというのも間違いではないような気がしてくる

 

「忘れられないよ。どんな形であろうと僕の為を思ってそうしてくれたんだから」

 

「はぁ・・・好かれるためにやったわけじゃないんだが。まぁいい、俺は行かせてもらう」

 

俺は教室を出ることにした。俺としてはいい気になろうとしてやったわけじゃないから好感を持たれても困るという話だ。とりあえず屋上で簪と本音が待っているはずだ。放課後で擦り切れる話し合いの前の憩いだ

 

「悪い、遅くなった」

 

「むっ・・・」

 

先に来ていた2人はお先に食べていた。だが2人がこちらを見る目が変だ。垂れ目の2人がジトッとした目、そんな目で見ていた。俺、なんかしたか?

 

「遅かったね」

 

「少し話をしていた」

 

「立った~立った~フラグが立った~」

 

そんな言い方したら俺が旗を立てた風に聞こえるだろ。いや、立てたかもしれんのは認めるけどよ。それともなんだ?2か月ぶりに俺が動けるようになったことの祝福なのか?

 

「またライバルが・・・この似非やさぐれめ」

 

簪が小声で恨めしそうに不吉なことを言っていたのをスルーしておくことにした。別にやさぐれている訳じゃないんだが。隣にいた本音は簪を信じられないものを見たような目で見ていた。見たんじゃない聞いたんだけどな

 

「いただきます」

 

ここ2か月で起きたことを思い返す。身体が動くようになって、入学しょっぱなで喧嘩売られて買ったら更にバッシングを受けるようになって、死にかけて、男装の真実を無理やり聞かされて殴られ、相棒ができて、相棒を助けて重症になった・・・いいことが2つしかない件について

 

「・・・どうしたの溜息なんてついて?」

 

無意識で溜息をついていたらしく簪が心配してくれた。この時だけは簪が女神か何かに見える。女神カンザシエル?語呂悪いからやめよう

 

「IS学園に来てからの事を思い出していた」

 

「ななみんは色々大変だったもんね~」

 

「大変なんかで済んだら死に目に遭ったりしない。今年は厄年かね?」

 

そう思っていないとやっていられないような気がしてきた。臨海学校では何事も無いといいな。多少の怪我は許せるが今回のラウラが暴走した件みたいなことになれば、今度こそ死んでしまうかもしれない。精神的にも肉体的にも

 

「あはは~かんちゃんも厄年かもね~」

 

「なんで?」

 

「だってラウラウや~デュッチーが参戦だよ~?()人から5人に増えるかもね~」

 

・・・聞き流すとしよう。3人というのが誰であるかなんて明白に分かってしまったからだ。虚は俺にその気はないというのを言ってきているからそうなんだろうが、残る3人は?という話だ。聞き流すことにしよう。隣2人で牽制しあっているのを視界に入れながら昼食を取る。あーいい空だなー

 

放課後、俺は言われたとおりに生徒指導室に行った。入学してから2か月、生徒指導室の中に入る回数3回と全生徒中で1番多いのではないだろうか。内2回は相談の為だがいつ来ても慣れないのは喜ばしいことなのか?

 

「失礼します」

 

ノックして中に入るが織斑先生と楯無、そしてスーツ姿の壮年の男性がいた。誰よ?案内されるがままにテーブルを挟んで対面するように座る

 

「あのそちらの男性は誰ですか?」

 

「私ですか?そういえば自己紹介がまだでしたね。轡木十蔵、このIS学園の学園長です」

 

確かIS学園の学園長は女性だったはずだ。苗字も一致していることから夫婦または家族関係なんだろう。体裁を保つためにはトップは女性の方がやりやすいというだけの話だろうな

 

「そうですか。それでここに呼ばれたのは何でですか?」

 

「鏡野、貴様のISについてだ」

 

予想通りでしかない。ラウラが言ったというのであればある程度見えてくる

 

「取り上げですか?」

 

俺は胸ポケットにしまっていたISの待機状態である懐中時計を取り出す。別に取り上げられてしまっても元はIS学園のISがこうなってしまっただけだ。だからこれが取り上げられようが文句はない。ただ使用が禁じられるというだけの話でしかない

 

「まぁ結論を急ぐな。更識姉、説明を」

 

「分かってますって。昨日織斑先生から話があって七実君のISについて話し合いが開かれたわ。通常、ISは装甲があって万が一のために絶対防御があるわ。でも七実君のISはあったとしても意味を為さない、通常ではありえないほど危険なものだわ」

 

最初は予感程度のものだったが一夏に1度斬られて確信している。メリットがあればデメリットも存在する。信じられないだろうが<Mirror me(こいつ)>も俺自身であると

 

「知らなかったじゃ済まされないわ。これは学園側からのお願い、使ってもいいけど絶対に無茶しないで」

 

「無茶というのがどの範囲かまでは知らんが、ラウラみたいなことが起きたらどうする。人命に関わり、周りには俺しかいないなんて状況が起きたらどうする。その時は流石に無茶せざるを得ないぞ」

 

言っておくが自身の評価は常に最低であることは自分で思っている。最低だからこそできることもあるし言えることもある

 

「揚げ足を取るものじゃありませんよ。彼女はただ貴方に前回、今回のようなことになって欲しくないのですよ」

 

「そうだぞ。鏡野は偏屈過ぎる、もっと周りを信頼してはどうだ?」

 

流石にその言葉は無責任すぎる。俺の事を思って言ってくれているのはありがたいが、どうして俺がこうして裏で頑張っているのか。俺は徐々に怒りが込上げてくる

 

「信頼しろ?ふざけないでくださいよ。ならなんで俺に対する罵詈雑言が消えないんですか。真実を曲げられ異物扱いを受け、何一つ悪いことをしていないというのにどうしてこうなってるんですか?」

 

どうしてこうなったんだ?ここに来るまで俺は大変な思いをしてきた。身体が動かず何もできない生活。今度は身体が動くようになったけど精神的に抉られる生活

 

「セシリアは俺の全てを抉って、()()()と受けてきたことを平然と行いを抉って、()()()()()()()()()()()()

 

水に流したとはいえ過去は消せない。あのせいで俺と一夏に最初の溝を作り本当の関係を戻し辛くした。そこから俺の苦悩は始まったとも言える

 

「篠ノ之箒の時だって俺が死に目に遭ってまで助けたというのに、のうのうと戻ってきては感謝の言葉すらない。」

 

俺が助けなかったら死んでいたというのに、なんで感謝されないんだ?それほどに俺が嫌いなのか?嫌いだとしてもしてもらったことには何かしらの返礼ぐらいはあるだろう

 

「シャルロットの時もそうだ。一夏はまず最初に俺じゃなく姉である千冬さんに頼むべきだった。聞き分けが悪いとか言って、なんで殴られなくちゃいけないんですか?何もしなかった奴がどうして威勢を張って俺に敵対するんですか?」

 

俺だって助けたいと思った。だけど具体的な案を持っていないのならできない。そもそも相手が悪すぎる、国家相手に対抗するには一般人では無理だ。それを知っているからこそ協力を頼もうとしたのに殴られた。理不尽極まりない

 

「こんな環境に置かれて誰かを信用しろ?教室内では減ってきていますが最初は酷かった。常に何かしらは嫌味が聞こえてきてた」

 

ただ普通でいたかった。それができないなんて苦痛でしかない。奴隷にも似たような在り方だ

 

「移動する際には暴言を浴びせられ嫌がらせもある。こんなストレスを抱えてまで周囲を信用しろなんて無理だ」

 

毎日毎日大変なんだよ。そんなことにならないためにも朝早くから人気の無い時間帯、通路を通って学校に来ているんだ。前世の経験で耐えられるけどいつか病んでしまいそうな程に苦痛だ

 

「逃げても先回りされているそんな状況でどうしろってんですかっ!!」

 

ここ最近は感情が昂ることが多くなってきた。どうも抑制できない。いつもは感情を切り捨ててきたものだから制御ができない。本当にどうしたらよかったんですか。生徒指導室に静寂が訪れ、誰も声が出ない。愚痴っぽくなってしまったけど今の俺の本音でもある

 

「すみません。今日は怪我の事もあるんで帰ります」

 

そう言って俺は生徒指導室を出ることにした。徹底的に改善してほしいわけじゃない。ただ普通でいたいだけなんだ。人の闇なんていやという程、知っていたはずなのに

 

 

千冬サイド

 

鏡野の闇を見たような気がする。私が不用心に信用という言葉を使ってしまったのが原因だ。私にも他人が信用できなかった時期があった。春十が行方不明になり、両親が蒸発したそんな時だ。金は置かれていたが、まだ幼い一夏と円華を育てなきゃいけず他人を信用できなかった。用心し過ぎかもしれなかったが、それくらいの注意はしなければいけなかったのだ

 

「その・・・すみません。私が不用心なことを言ってしまったせいで」

 

「昔から七実君は大変だったので、それもあってかあんな風な言い方になったんじゃないですかね。一番近くで見ていた私でもあんなに感情をあらわにしていたところを見たのは初めてですし」

 

楯無もあの状態を見るのは初めてだったんだろ。そのせいもあってか反応できなかったのか

 

「どうしましょうかね。彼のISについての運用方法の説明する前に帰ってしまいましたし、それと環境の改善にも手を出さないわけにはいきません。少し話し合いましょうか」

 

「分かりました」

 

会話の中で少々引っかかる部分があった。何十年も受けた、本当の関係・・・前者は時間的に矛盾が発生している。鏡野は16歳であるがどうして何十年なんだ?身体が動かなくなったことを加味しても矛盾だらけだ。後者は本当に分からん。私はIS学園に来てから初めて会ったはずだ。最初は雰囲気が一夏と似ているような気がしたがどうなんだろうか。まさかとは思うがあいつが春十なのか?いや、それは無いか。経歴が全て物語っているのだから

 

「まずは意識の改変、生徒全体に差別意識を無くさせることです。これは更識生徒会長が適任でしょうな」

 

「集会の際に厳重注意しておきます。それでも改善しない場合の対策も考えておきますね」

 

「では頼みました。それと気づかれない程度で監視の継続もよろしくお願いします。織斑先生には直で生徒の改善をお願いします。先ほどの彼の話ですとあなたのクラスでも起ているようですし」

 

「・・・分かりました」

 

そして一番気になるのは一夏だ。IS学園に来る前までは周囲には優しく人当たりがよくて誰にでも好かれるような人格者だったはずだ。だが彼の話を聞くと随分と荒っぽくなっている。以前にも鏡野に対して悪意を向けているのを教えられている。何がお前をそうさせたんだ?

 

「それにしてもストレスですか、そっちの方面は考えていませんでしたね。これは運営側の配慮不足でしょう。こちらでも動きますので、お2人もよろしくお願いしますよ?」

 

「分かってますよ。ね、織斑先生?」

 

「ああ」

 

ちゃんと聞きださなければいけない。姉として何が一夏をそうさせたのか、そして鏡野が話していた内容についてだ。その後日が落ちるまで話し合った

 

 

 

簪サイド

 

七実の様子がおかしい。部屋に戻って来たと思ったら服を脱ぎ捨てその場で着替えて寝巻に着替えてベッドに潜ってしまった。問いかけにも対応せずただベッドに潜っている。いつもなら洗面所に行って着替えるのにどうしたんだろう

 

「七実、どうしたの?」

 

何度も問いかけるが一向に返事は帰ってこない。本当にどうしたの

 

「ただいま~」

 

七実の心配をしていると本音が帰ってきた。2人でならいけるかな?

 

「ななみんどうしたの~?」

 

「分かんない、でも様子がおかしいの」

 

「あ~こういうことか~」

 

本音はスカートのポケットからスマホを取り出し私に見せてくる。差出人はお姉ちゃんだった

 

もし、七実君と会って様子が変だったらよろしくね。ここ2か月のストレスが溜まっちゃってるみたいよ。原因は言えないけどよろしくお願いね

 

追伸.今週の日曜までに元に戻ってないと5人でデート出来ないかもしれないわよ

 

うん頑張ろう。追伸は置いておくとしてどうしてこんなになるまで溜めちゃったかな。もっと私達を頼って欲しいかな。本音と一緒に七実を揺するが一向に反応が無い

 

「七実、何があったかはわからないけど、どうしてそういう風になったの?」

 

『俺、悪いことしたか?どうしてこうなったんだろうな。嫌われながらもなんだかんだ頑張って、死にかけようが重傷を負うことになってもただ苦しくなっただけ。本当に厄年だな』

 

布団に潜ったままで話し始める。多分ここ2か月の話なんだろう。お昼休みの時も思い返していたみたいだしそうなんだろう

 

「ななみんは本当に頑張ったよね~。セッシーの時も、しののんの時も、デュッチーの時も、ラウラウの時も。ぜ~んぶななみんが裏で頑張ったのにね~。避難誘導だってしたのにね~、だーれも感謝の言葉を送ってくれないしね~」

 

私もクラス別対抗戦の時は避難誘導を受けた身だ。その時、遠巻きで七実がしているのを見ている。感謝されたいわけじゃないんだろうけど、批難される理由は無いはずだけど今でも続いている。私のクラスでもたまに聞こえてくる

 

「私達は七実の味方だからね。頼りがいは無いかもしれないけど頼って欲しいの」

 

『いらん心配をかけたみたいだ、すまん。今日はもう寝かせてくれ。寝て忘れたい』

 

「うん分かった。本音今日はここまでにしよ?」

 

「はいなのだ~」

 

七実がどれ程辛かったのかは分からない。だって本人じゃないし教えて貰ってないもん。でもね、その気持ちはなんとなくだけど分かる気がする。1人になりたい気分だってあるはず、ここは大人しく引き下がることにする

 

「七実、私達食堂に行ってくる」

 

布団の中から手を伸ばし振ってくれた。声には出さないけどその気持ち嬉しいよ。私達は部屋に鍵を閉め食堂に向かうことにした

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

なんでしょうね・・・この話、中盤からすんごい滅茶苦茶になってしまいました


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真相はいずれ

寝てスッキリした、と言えば嘘になるだろう。だがそれでも1度溜まっているものを吐き出したからか、だいぶスッキリした気持ちになれている。布団から顔を出しISの待機状態である懐中時計を開き確認してみると朝の5時だった。かれこれ10時間近く寝ていたのか。眠気なんか感じないわけだ。寝汗が酷く、寝巻がぐっしょりとしていたためシャワーを浴びることにした

 

「・・・あとで謝っておかねぇと」

 

昨日したことは今でも鮮明に思い出せる。穿り返したくはなかった内容もあったがこの学園に来てからどれ程、ストレスが溜めてしまったかが再確認できた。子供の癇癪というのは分かっているが無神経な言葉に対して反応してしまったな。これではいかんな

 

「・・・ここに来てから色々と変わったな」

 

環境も関係も何もかもが変わったように感じた。変わりすぎて変化がどうでもよくなりつつあるが、それでも今の俺を形成する1つであることには変わりない

 

「俺も変われるのだろうか」

 

他人に周囲に左右されるわけでは無いが、本当の意味での真実を語るにはまだ早いようにも感じる。一夏との距離はどうしようもなく離れる一方でしかない。本当にどうしたらいいんだろうか

 

「・・・少し外に出るか」

 

シャワールームを出て着替え、濡れた髪をドライヤーで乾かすわけにもいかないためタオルを巻いて乾かすことにした。前髪は上げておいて視界を確保しないと水滴が目に入るのだ。こんなに早く起きるとは思わないが念のため書置きをして小銭をポケットに入れて部屋を出ることにした。寮の廊下は人気は無く静寂という感じだ。寮を出て適当にぶらついていると遠くで黒いジャージを着て、髪を1つに束ねた女性が走っているのが見える。てか、織斑先生じゃないですか

 

「詫びってわけじゃないが差し入れでもするか」

 

近くに合った自販機でスポーツドリンクとミルクティーを購入し再び戻る。設置されてあったベンチに座り、こちらに近づいてくるのを待って約5分、こっちに近づくにつれて織斑先生は俺に気付いてくれたようだ

 

「おはようございます」

 

「ああ、おはよう。前髪を上げてるのか」

 

俺はスポーツドリンクを投げ渡した。一言、ありがとうと言われ飲み始める織斑先生

 

「昨日はすみませんでした」

 

「は?」

 

「生徒指導室での話なんですが過剰に反応してしまったみたいで。1日寝てスッキリ・・・とはいきませんでしたが整理はしたつもりです」

 

そういうと織斑先生は大きく深い溜息を溢す。いやこんなんで溜息をつかれてもこっちが困りますよ

 

「鏡野、お前は馬鹿か?」

 

いきなり罵倒されましたよ。いったい何なんですか?

 

「こちらこそすまなかったな。早い段階で気付けばよかったのだが気付くことができなかったこちらの落ち度だ。鏡野が謝る必要は無い」

 

「そうですかね?」

 

「そうだ。お前がここに来る前から大変だったようだが、ここでは同じようにはさせない。一教師として宣言しておく」

 

「そうですか」

 

宣言されても反応のしようがない。子供の癇癪のようなものでしかないのだから、そう宣言されても困る

 

「実際に鏡野が置かれている現状としてはどうだ?」

 

「気にしてないの一言で終わりますよ。昨日は色々と取り乱しましたけど、気にするのも面倒なのでどうでもいいです」

 

「そうか・・・話は変わるが昨日の事で気になることがある。昨日の話で鏡野が言っていた本当の関係、何十年も苦しめたと言っていたがあれはなんだ?」

 

そういえばそんなことを言っていたようなそうでないような・・・だがまだ言えるわけでは無い。ここで織斑先生に信用してもらったとしても他の2人、一夏と円華はどうだ?信用されるわけがない

 

「まぁ・・・言葉の綾みたいなものですよ。入学当初みたいなことがありましたし、関係を築くなら本当の物を。怪我込みで何十年という表現で・・・今思えば、十年前後ですが」

 

「・・・」

 

今、すんごい睨まれています。蛇に睨まれた蛙状態です、はい。ただでさえこういう経験は慣れていないから余計に怖いです

 

「睨まないでください。割と怖いです」

 

「ん、すまなかった。その場凌ぎの嘘に思えてな」

 

女性の勘という奴だろう。当たってますよその考えは。俺もまだ決心がつかないだけなんですから

 

「さて、私は帰るとする。時間を取らせてすまなかったな」

 

「いえ、こっちこそです」

 

織斑先生は軽く手を振って寮の方へと向かっていった。俺も本格的に考えなければいけないのだろう。許しはできないかもしれないが妥協し関係の修復に諮るべきなんだろう。だが、それと同じく怖くもある。要は俺は知っていて騙しここに来ている。シャルロットと同じでしかない。その場凌ぎでこうしているに過ぎないのだからどうしたらいいのか分からない。あぁ、あいつもこんな感じだったんだろう

 

「・・・俺も帰るか」

 

思考の渦に飲み込まれそうになったので一旦切り捨てて、自室に戻ることにした。この時間帯でもあいつらが起きることは無いだろうが少しは眠れそうかもな。部屋に戻り自分のベッドに身を投げる。まだ2人が起きる時間ではないが2人の様子は何事もないかのように安らかである。眠気はすっかり飛んでしまっているが目を瞑るだけでも少しは休めるだろうと思い瞼を閉じた

 

 

 

千冬サイド

 

鏡野の様子からするとまだ何か隠しているように思える。辻褄合わせの嘘というような回答を貰い、考えなければならないとはな。考えることは色々あるがその中でも上位に位置しているのは鏡野と一夏、その2人に関することだ。前者はちゃんと話してくれるが全てを話しはしない。後者は話してくれることは少ないが話すときは全て話してくれる。対極のように感じるな。昨日の話でも一夏は鏡野に対して暴行を加えたらしいしその真相を聞きださねばならんな

 

「間違ったことをしたら正さねばならんからな・・・しかしいったいどうしたらいいのだろうか」

 

私は世界中で世界最強(ブリュンヒルデ)などと言われているがそんなことは無い。誘拐されてしまった長男の春十を見つけることができなかった只の人間に過ぎない。有名になれば春十の方から来てもらえるという幻想から力をつけたがそんなことは無かった。既に時効となって警察の手を借りることができない。かといって一夏と円華が成人するか職に就くまでは私も楽はできない。死んだかどうかすらわからない私の弟を探すのは困難を極める

 

「どうか・・・どうか無事でいてくれ春十」

 

1枚の写真を眺めてはいつもそう思う。まだ一夏達が赤ん坊の時の写真だ。これしかない写真は私しか持っていない唯一の写真だ

 

「・・・よし、今日も皆の手本となるべく頑張るとしよう」

 

今日やることは決めた。後は実行するだけなんだ。いなくなった春十の分まで一夏と円華を一人前の人間に成長させるべく、自らに鞭を打つ。私にはこれくらいしかできないのだから。朝食を済ませスーツに着替え、身支度を済ませ私の部屋である寮長室を出ることにした

 

 

 

七実サイド

 

朝食も摂り、制服に着替えて教室へと向かっていた。昨日の事で心配されたが気にされる程の事ではないような気がしたので、スルーしてもらうようにしてもらった

 

「ストレスが原因なんでしょ・・・七実が大変な環境にいるのは分かってるから、私達を頼って」

 

「まぁ・・・善処する」

 

「「しないよね?」」

 

2人仲良く声を揃えて言わないでくれ。信用されてないのか・・・ここ最近の出来事を考えれば仕方ないのか?

 

「するつもりだ。言葉より行動で見せるつもりだ」

 

「七実らしい・・・でもそっちの方が分かりやすくていい」

 

「ななみん頑張ってね~。あ、それと今週の日曜は空けといてね~」

 

「どっかに行くんだったか、年がら年中暇だし気晴らしにもちょうどいいかもしれない」

 

そういうと2人は顔を顰めて苦笑いをしていた。楯無からデートをするというのを聞いているが、いつものメンバーでは遊びに行くという感じに近い

 

「そういう意味じゃ・・・でもいいや。早く行こ」

 

「はいよ」

 

俺ら3人は学校へと向かっていく。昨日みたく足取りは重く感じない、寧ろ軽い方だろう。溜まりすぎていたストレスを吐き出したからだろうか、はたまた寝てスッキリしたかはわからない。でも多少は気楽でいられる。さて今日も面倒な1日が始まるのか

 

 



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出先、息抜きにしても

あれから時間が経ち日曜となった。今日はデートの予定だったな。とはいえ相手が4人もいるなんて贅沢だ。だが結果が目に見えて分かっている。いつものように楯無と本音に振り回されるのだろうな。俺は黒いワイシャツにジーンズと割と適当である。そもそもファッションには興味は無く、着れればいい程度にしか思っていない。簪には白い眼をされたが別にいいだろ。それはともかく既に用意は終わって後はモノレール駅へ向かうだけだ。財布も持って俺たち5人は部屋を出た

 

「てか、なんで楯無と虚が俺たちの部屋にいたんだ?駅の前とかで待ち合わせでもよかっただろ」

 

「ダメよ七実君、それじゃあ女性を待たせることになるわ。女性を待たせるのはいけないぞ」

 

マナーとしての話なんだろう。こう言っちゃ悪いが非常にどうでもいい。最低限の事ができてれば問題はないだろう

 

「そうか、それでどこに行くかなんて決めてないぞ」

 

「いいのよ、今日はレゾナンスに行って簪ちゃんと本音ちゃん、七実君の水着を買うのよ」

 

さり気に俺のも混ざってるのか。臨海学校ということで初日の夕飯までと最終日の4日が自由時間だそうだ。2日、3日はISの訓練と整備技術向上の為の授業らしい。この学園の特色がよく表れていると思う。それはともかく外出届を専用の投函箱に入れて寮を出ることにした。校門を出ると目の前にはモノレール駅がある。IS学園の生徒もちらほらと見える。休日ということで出かける奴や臨海学校の準備をする奴も見える。同じクラスの奴も複数いるしそういうことなんだろう。モノレールが駅に到着し乗り込むが4両編成の為、内部にはそれほど満員というわけでは無い。モノレールが発車し揺られ始める。たかが10分程度だがこの揺られ加減は眠くなる。電車特有のものなんだろうか?

 

「七実さん、眠いのですか?」

 

「そういうわけじゃないが、多少揺られているから心地よくはあるが」

 

となりに座っている虚にはそう見えたのか。この程度なら別にどうということは無いがこの程度は慣れている。それよりも対面で座っている3人の方が慣れない。本音に簪、楯無の3人がずっとこっちを見てきているのだ。これこそどうにかしてほしいものだ。モノレールに揺られること約10分、無事到着した。駅を出て歩いて5分のところにある大型ショッピングモール「レゾナンス」へと向かっているらしい。構造物の全体が見えてくるが予想以上にでかいな

 

「さーて今日はここで買い物よ。買ったものは七実君が持ってくれるわ!」

 

「「おー!」」

 

「買った奴が持て。なんで俺が持たなきゃいけないんだよ」

 

楯無の案に賛同する簪と本音だが面倒な事をせにゃならんのだ。レゾナンス構内に入ると人が多く混みあっているのが分かる。この中を進まなきゃいけないのはしんどいな。とりあえず、2階へと進んでいく。人混みは好きではないがこうやって普通の事ができるだけでも良しとしよう。2階にある水着売り場に到着したが男性ものでは無く女性ものの水着売り場だった。さすがに足を踏み入れようとは思わない

 

「んじゃ俺は別行動するな」

 

「「待って」」

 

この場を立ち去ろうとしたところを楯無と簪によって両手を掴まれ退路を断たれてしまった。別に水着を買う予定は無いから適当に時間でも潰そうかと思ってたんだが

 

「どこに行くつもりかな~?メインがいなくちゃ話にならないでしょ?」

 

「何をさせるつもりか知らんが俺はここに入るつもりは無い」

 

「ヤダ・・・恥ずかしいけど七実に決めてもらう」

 

センス皆無の俺に何を決めさせるつもりだ。お前らまで俺を精神的に殺しにかからないでくれ。虚に顔を向けるが溜息と共に首を振られた。多数決を取ったとしても無理というのが分かりきっている。諦めろというのか

 

「そもそもなんで俺が決めなきゃならん。お前らが着るものなんだから自分で決めろ」

 

「ななみんがどういうのが好みか知りたいんだよ~」

 

知ったところでどうするつもりだ。服なんて着れればいい程度にしか思ってないんだぞ?

 

「その後に七実君の水着も見て、その後に昼食よ」

 

「俺は水着なんか着ない。背中のあれを見せびらかすようで気が進まん」

 

「そうでしたね・・・お嬢様、ここは七実さんのお洋服でもどうでしょうか?」

 

まさかの発言ですよ虚さんや。味方だと思ってたら実は敵だったでござる。それもあんまり変わらないからな?

 

「お~お姉ちゃん、さっすが~!」

 

「いや若干路線が変わっただけで俺は乗り気じゃないんだが」

 

「ほら行くよ七実」

 

拒否権なんて最初からなかったんですね。俺は楯無と簪に手を引かれそのまま女性水着売り場の中へ連行されていく。なんかもうね、されるがままって感じですよ

 

「ねぇななみん~、私はどういうのがいい~?」

 

「知らん、俺に聞かないでくれ」

 

「むぅ~けちんぼ~」

 

そうむくれられても俺にはこういうのは向いていないんだ。身体が動かなかった時も服なんて着れればよかったのだ。だから制服とかスーツなんて最高過ぎる。着るものを選ばなくていいとか自由最高

 

「七実、これなんてどう?」

 

簪はフリルが付いた薄い水色の水着を持ってくるが・・・いやどうと言われても分からんよ。脳内で想像して感想でも言えってか?

 

「だから俺に聞くな。この手の事は本当に何もわからん」

 

「着てくる・・・だから感想をお願い」

 

そう言って近くにある更衣室へと入っていく。簪に釣られ本音も水着と言えるかどうか分からない物を持って簪とは別の更衣室に入っていく・・・というよりも本音、お前は何を持っていった?狐のような顔をした何かが付いていたような気がするんだが

 

「というよりも楯無と虚はいかなくていいのか?」

 

「行きたいのは山々だけどここに連れてきて放っておくのは失礼じゃない?」

 

「お嬢様が行ったとしても私は残るつもりでしたので」

 

こんなところで1人ぼっちとか死ねるからな。まぁその時はこの場から逃げるつもりでいたが

 

「つい2か月前ではこういうことは考えられませんでしたね」

 

「七実君が動けなかったから仕方ないわね。どう?外で買い物をしてみた気分は?」

 

「正直な感想だけ言わせてもらえるのであれば微妙だな。だがこうして気分転換としては良いと思う。滅多に来ようとは思わんが」

 

「なんとなく知ってたわ。でもこの前みたく爆発しちゃうのはお互いに望んでないでしょ?だったらたまにはこういうのもありなんじゃないかなって」

 

ああなる前に約束を取り付けておいてこじつけっぽいが、それには賛成だ。俺とてああなることは望んじゃいない

 

「1番はそうならないってのが最高だけど、今の環境じゃ難しいわ。改善に向けて頑張ってるけど早くても夏休み明けとかになるわ」

 

「してもらってる側としちゃ何も言うことはない。助かる」

 

「私も気に食いませんし。七実さんの過去を知っている分、原因であるメディアも七実さんを叩こうとしている人も許せなくて」

 

「でも生徒会に入ってるからそういうのができない。板挟みって感じか。俺が言うのもなんだがすまんな」

 

付き合いが長いからか、それとも生徒会として放っておけないのか。そのどちらなのかは分からないけど少なからずそう感じてもらえるのはありがたい

 

「七実さんが謝る必要なんてありませんよ。現に七実さんのおかげで助かった人もいることですし」

 

「感謝なんてされんがな」

 

「そう卑屈にならないの。そうね・・・例えば、そこにいるシャルロットちゃんとかは感謝してるんじゃないかしら?」

 

「えぇ!?」

 

楯無が柱を利用した商品棚の方を指さしそういうと女性、というよりもシャルロットとラウラが出てくる。いや、相棒さんは制服なんですか

 

「貴様やるな」

 

「ふふん、伊達に生徒会長を名乗ってないのよ。こっちにしてみれば敵が増えたような感じだけど」

 

「七実来て・・・ってシャルロットにラウラまで・・・七実どういうこと?」

 

更衣室からひょっこりと顔を出してこちらを見るなり俺に冷たい視線を向けてくる。なんで俺だけなんですかね?

 

「七実君たら私達を置いてシャルロットちゃんとラウラちゃんを引掛けてきたのよ?」

 

「流石に怒るぞ。具体的には更識姉とか言うようになるだけだが」

 

「本当にごめんなさい。昔みたいに戻るのはやめてちょうだい」

 

真顔で言うな。相手が嫌がることをしていいのは戦っている時か謀の時だけだ

 

「どうしてと言われると難しいが偶然いただけだろう」

 

「偶然・・・後をつけてきたの間違いじゃないの?」

 

どうしてそうややこしい方へ持っていくのだろう。いつもとは言わないが仲良くできないのだろうか

 

「知らん。そうかもしれないがたまたま見つけたかも分からん。んで呼んだってことは着替えたの・・・か・・・」

 

俺が言い終わる前に簪は更衣室のカーテンを開けた。顔を真っ赤にして恥じらっているが個人的感想を言わせてもらうのであればとても似合っている

 

「どう・・・かな?」

 

「あー、その、いいんじゃないか?似合ってると思う」

 

「ありがと・・・もう少し考えてみるけど、これは買う」

 

「おー!簪ちゃんかわいいじゃない!」

 

目の前で楯無が簪を抱きしめ撫でまわし始める。目の前で百合百合しい光景を見せるな。鏡越しでシャルロットがラウラの目を抑えているのは分からんがな。だが簪は時折苦しそうな声をあげている

 

「ほれ行くぞ」

 

流石に見ていられなくなったので楯無の頭にチョップを1撃加えて簪から離れさせる。

 

「あ~待ってよ七実君ー。簪ちゃんの写真を撮るから!」

 

「当店では撮影は厳禁」

 

流石に恥ずかしいのか再びカーテンを閉じてしまった。全く・・・はしゃぎ過ぎだっての

 

「へぇ・・・七実ってああいう水着が好きなの?」

 

「お前もか・・・だいたい俺はこういうのは苦手なんだ。服なんて着られればいいとしか思っていない人間だ」

 

「七実もなんだね・・・」

 

シャルロットは大きな溜息と1つ吐くとラウラを見た・・・もしやラウラも同じなんだろうか。というよりも制服で来ている時点で多少はおかしいのを気が付けばよかった

 

「相棒も同じ意見だとはな。さすがだ」

 

「「いや、それはおかしい」」

 

シャルロットと楯無が妙に意見が一致していたようでハモってしまった。お前ら実は仲良しだろ?

 

「更識会長、ここは一旦協力しませんか」

 

「いいわね。ここで買い物が終わったら次は七実君の服を買いに行くのよ。一緒に行く?」

 

「はい!」

 

すんごいにこやかな顔でそう言わないでください。ラウラの方へ目を向けると顔を引き攣らせている。こいつもなんとなく察しているだろう、これから俺たちがどういう目に遭わされるのか。ラウラもこちらに目を向けて視線が合った。もう察しているならやることは1つ!

 

「っ!」

 

「どこにいくのかな、七実?」

 

俺とラウラは一目散に逃げるつもりだったが、そうはいかなかった。なぜなら既に着替え終わっていた簪が俺の背後に立っており腕を掴まれてしまったからだ。振りほどこうにもろくに鍛えていない俺では簡単に振りほどけるはずがなかった。ラウラはというと同じく本音に先回りされ逃げ道を失ったところをシャルロットに取り押さえられていた

 

「逃げようとしちゃダメよ七実君」

 

「怖いんで近寄らないでください。本当に怖いんで」

 

にこやかに笑っている簪と楯無ににじり寄られる。ある意味でトラウマになりかねんよ、すんごい良い顔でにじり寄られて(服の着せ替えの)強制を要求されるとか

 

「・・・降参だ」

 

さぁ・・・地獄の1丁目が訪れようとしている・・・そこにいるのは俺とラウラだ

 

 

 

「なぁ相棒・・・ここはヴァルハラか?」

 

「いいえ、ここはファミレスです」

 

買い物が終わり既に13時を過ぎてしまったところでレゾナンス内にあるファミレスへと入っていった。俺とラウラは対面で座っておりテーブルに突っ伏していた。俺とラウラは着せ替え人形の如く遊ばれてしまい疲弊していた

 

「まさか買い物程度でこうなるとは思わなかったぞ相棒」

 

「同感だ・・・下手したら今までで一番疲れたかもしれん」

 

「あはは・・・ごめんね七実にラウラ。つい楽しくなっちゃって」

 

「「誰が許すか」」

 

ラウラの隣に座っているシャルロットを睨んでおく。その向こうでは虚は吹けない口笛を吹いており、簪と本音は目を逸らし、楯無に至っては少し舌を出して「てへぺろ」とか言ってる。というよりもなんだかんだで1番楽しんでたのが虚だったのは意外だった

 

「戦場とは兵器が飛び交うだけじゃないのは初めて知ったぞ」

 

「そういやラウラは軍人だっけか。んじゃこういうことは無縁に等しい・・・のか?」

 

「そうだ。大抵は訓練や整備、いろんなことをしてるな。そのせいかこういうことは慣れていない」

 

軍人とは大変なんだな。とはいえ休日ぐらいはあるだろう。その時ぐらいは買い物とかしてるんだろうけど、さっきの事を考えれば経験は少ない方だろう

 

「お待たせいたしました。こちらがご注文されたお品です」

 

ウェイトレスさんが注文したものを持ってきた。俺はパエリアを注文していた。目の前には量はそこそこあって海老や烏賊、ホタテなどが入っているパエリアが1つ。みんなに料理が行き渡り食べ始める。うん、美味い

 

「ななみん~少しちょうだ~い」

 

「ほれ」

 

取り皿に少し分け、本音に渡す。少し減ったところで別に問題ない。まだまだ量はある

 

「七実、僕も欲しいな」

 

「私も」

 

「お姉さんにも貰えないかな?」

 

「・・・俺の分がなくなる」

 

どうして俺の分を取ろうとするんだよ。自分の分があるんだからそっちを食え、もしくは少しこっちにくれよ

 

「じゃんけんで勝った奴にやるから、それでいいだろ」

 

隣でじゃんけんを始める3人。そんなに食いたいなら同じのを注文すりゃよかったのによ。勝者はシャルロットに決定したようだ

 

「やった!」

 

「ほれ、これでいいだろ」

 

既に半分近く減ってしまったパエリアに視線を向ける簪と楯無・・・はぁ

 

「食いたいなら少し寄こせ。それなら分けてやる」

 

「「本当!?」」

 

「こんなんで嘘をつくと思うか?」

 

「思わない・・・はい」

 

等価交換という感じだろう。簪と楯無から多少貰うが両方パスタの為、似たようなものに感じる。だが食べてしまえばどっちも同じだから関係ないはずと思いたい

 

「相棒は優しいな」

 

「どうだかな。その分俺が食う量は減ったとも言えるが少食でも済むから問題ない」

 

「そういう問題ではないぞ。キチンと栄養を取らねば緊急時に動けなくなってしまう」

 

「日本ってそこまで物騒じゃないからね?犯罪はあるかもしれないけど数は他の国より少ないらしいよ」

 

シャルロットのツッコミもおかしい気がする。ここでは「その考えは軍にいる時だけにしろ」が正解だと思う。ちなみにシャルロットの解説も正しいかもしれないがそれは観測者によって統計に差が出る。それでも基本的に安全だと言えよう

 

「楯無、この後はどこに行くんだ?」

 

「そうね・・・特に決めてないわね。疲れた?」

 

「どっかの誰かさんが俺で遊ぶからな。良い買い物が出来たとは思うが遊ばれちゃ疲れるに決まってるだろ」

 

「あはは、つい楽しくなっちゃってね。それじゃあ帰ろっか。みんなはどうするのかしら?」

 

簪はゲームショップに行って買いたいものがあるらしい、本音は簪に付き添い。残りは全員IS学園へと戻るらしい。昼食を取り終え支払いを済ませ、店をでた。簪と本音と別れ寮へと戻っていく。道中でラウラが疲れたのか、眠りこけてしまった。仕方なく背負い学園の寮へと戻ることにした

 

「流石男の子だね」

 

「うるさい、荷物を持った状態でラウラをおんぶしてんだ。少しぐらい荷物を持ってくれよ」

 

おんぶされているラウラに手を伸ばしちょっかいを掛けているシャルロットは手伝う気は無いみたいだ。あくまでも自分の分だけらしい。モノレールを降り、校門をくぐり寮へと足を運ぶ。道中、生暖かい目で見られたが気にするだけ無駄だ。寮に入るが楯無と虚は階層が違うためここで別れることになる

 

「今日は楽しかったわ。また行きましょうね」

 

「まぁ楽しくは感じた。今度行く場合は俺で遊ぶなよ。虚もな?」

 

「つい楽しくなってしまいまして、すみませんでした。でも七実さんも楽しめたようで何よりです」

 

「んじゃ俺はこいつを部屋に届けていく。というよりもこいつの相部屋って誰だ?」

 

「あ、僕だよ」

 

ラウラの相部屋の相手はシャルロットだったのか。確か一夏と相部屋だったはずじゃなかったか?

 

「なら部屋まで案内を頼む」

 

「うん任せて。それでは先輩方お疲れ様でした」

 

楯無と虚と別れシャルロットたちの部屋へと向かっていく。部屋に到着するなり部屋に通された

 

「ラウラのベッドは手前側ね」

 

言われた通りにラウラをベッドの上に寝かせて掛布団を掛ける。可愛い寝顔をしているが眼帯が気になる。軍にいる際に怪我でもしたのだろうか

 

「ありがとうね七実、今からお茶でも淹れるから飲んでいって」

 

「助かる」

 

シャルロットはキッチンでお湯を沸かし始める。ふと思い出したがここは女子の部屋だったな別に緊張しているわけじゃない。むしろ男子の部屋という方が分からない。いままで入ったことのある部屋は簪、本音、楯無、親父に母さん・・・後ろ2人は換算していいのか分からない

 

「ねぇ七実1つ聞いていいかな?」

 

「答えられるものならいいぞ」

 

「憶測でしかないんでけどさ、七実は僕のことで織斑先生や更識会長を説得してくれたんだよね?どうして説得してくれたの?」

 

あの時の話の続きか。どうしてと言われたら過去の経験が酷似していたとしか言えん

 

「話したくないなら話さなくてもいいけど、できれば教えてくれないかな?」

 

「・・・俺もお前と似たようなことを経験したからだ。説得した際は織斑先生にお人好しと言われたな」

 

「やっぱりそうだったんだね・・・本当にありがとうね。感謝しきれない程嬉しいな」

 

「前にも言ったが感謝されたくてやったわけじゃない。だが自由になれてよかったなシャルロット」

 

「うん!」

 

久しぶりにこうやって感謝されたような気がする。良い気もしないが悪い気もしないな

 

「はいどうぞ」

 

お茶というか紅茶が入って渡してくれた。1口啜ると口内に一杯に広がる味というのだろうか風味がすごくよかった

 

「どうかな?」

 

「美味いな。ありがとう」

 

「いいのいいの、おかわりもあるしどんどん飲んじゃって」

 

「そんなに量を飲もうとは思わないが、飲める分は飲む」

 

本来だったらこういう風にできることが普通だったんだろう。笑い、話し、何も考えなくて良いという普通。こういうものを望んでいたはずなのにどうしてこうも歪になってしまったんだろうか。まだ俺が知らなきゃいけないことが、話さなきゃいけないことがたくさんあるのが実感できる

 

「にやけちゃってどうしたの?」

 

「そうか?」

 

最近はなんかおかしくなってきたのか?溜まっていたものを吐き出して以来、無意識に笑ったりしてるらしい。これが感情なのだろうか。感情なんてやっぱりわからない

 

「口元がこう、にや~って感じで」

 

「無意識のようだ。昔から笑ったことなんて早々無いのだが、最近はどうもおかしい」

 

「笑うことはおかしくないよ。人間としてはいたって普通だよ」

 

「俺にはさっぱりだ。全くもってわからん」

 

「なんかラウラがもう一人増えたような感じだよ。ラウラもたまには笑うけどいつも、あの表情だし・・・似た者同士って感じがする」

 

「さてな。俺は俺、ラウラはラウラだ。似ていようが俺みたいな奴とは違う」

 

大きな溜息を吐かれた。そもそも俺が誰かと比較されること自体おかしいのだ

 

「なんら変わらない同じ人間でしょ?性別は違えど本当はみんな同じなんだよ」

 

「そうか」

 

俺は同じだとは思えない。俺個人の過去がそれを物語っているからである。原型は同じかもしれないが内容は全く違う。例えば前世持ちなんて俺以外にいないだろう

 

「・・・話は変わるけど、七実って好きな人いる?」

 

「知らん」

 

いったい何を口走ってるんだか。どういうのが他人を好きになるっていう感情なんかも分からないってのに

 

「知らんって・・・初恋の人ぐらいは居たんじゃないの?」

 

「そもそもの話だ。他人との関りなんて面倒にしか思っていなかったぞ。もし友好関係が多少なりにあるのであれば、もう少し生きやすい生き方をしていたはずだ」

 

「あはは・・・じゃあ僕にもまだチャンスはあるんだね」

 

乾いた笑いと共に小声で言っていたことは聞こえていた。好意を寄せられても応えるとは思わない。関係が壊れてしまいそうで怖いのだ。この後もお茶と会話を楽しんだ。来週は臨海学校だが何も起きないといいな。ここ最近はトラブルというトラブルが連続して発生しているから何かあるんだろうと警戒したくなる。何もなきゃいいんだがな

 

 




ご感想ありがとうございます

ここ最近、投稿ペースが速いのは他の2作品の案を練り直しているのと就活が忙しくなっているためです。決して思いつかないとかじゃないですよ


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臨海学校初日

 

IS学園を離れ、バスに揺られている。行先は臨海学校の舞台である花月荘へと向かっている。各クラスごとでバスを使い移動しているのだが、道中は暇でしかない。とはいえ隣の奴と会話する手もある

 

「おーい七実さんや、大丈夫かね?」

 

「いつもと口調を変わってるぞ円華」

 

そう隣に座っているのは円華だった。本音やシャルロット、ラウラでは無く織斑円華であった

 

「いやーなんとなくかな。隣にいるのが七実で話とかしないから暇なんだもん」

 

「すまんな。話のネタなんてない」

 

「んー、じゃあ七実の好きな食べ物は?」

 

唐突過ぎる話題だが振られた以上は乗っておこう

 

「食えればなんでもいい。美味かろうがマズかろうが」

 

「いやそんな回答が返ってくると思わなかった・・・今度セシリアの料理を食べさせてみようかな?」

 

「どういう意味ですの円華さん!?」

 

円華の左隣に座っているセシリアが反応を示す。もしかして料理ができないタイプなのか?

 

「だってこの前のあれを体験した側として、七実がどういう反応を示すのか知りたくてさーまた今度作ってよ少量だけでいいから」

 

「なんだか罰ゲームみたいですわね・・・」

 

「いや実際に罰ゲーム気分だったよ」

 

「お前らは何を作ろうとしてるんだか分からんが面倒事に巻き込むな」

 

いったい何を作らせようとしてたのかは知らんが面倒事に巻き込まれようとしているのは分かる。なんで巻き込もうとするんだよ

 

「・・・七実、1つ聞いてもいいかな?」

 

「なんだ?」

 

「最近、一兄さんとまた仲悪くなった?」

 

仲が悪いというものか、それだけで済んでいいものか。正直分からないがセシリアの時とは多少違う、と思いたい。だが関係は悪化していると言えよう

 

「だったらなんだ?」

 

「やっぱり・・・今度はどうして?」

 

「ここじゃあ話せない。あっちに着いたら俺は海で泳ぐことは無いからいつでも聞きに来い。その代わり秘密にしておけよ」

 

「分かってるって・・・これはちー姉ちゃんにも相談かなー」

 

実際、俺が勝手にやったことだが何もしないよりかはマシだと思う。一夏が何をしてたかは知らんが、あいつもあいつで動いてたんだろうさ。あれだけシャルロットに対して守ると言ってたんだからな。バスで揺られること3時間、ようやく到着したようで大きな和風の建物の前に停車した

 

「バスから降りて整列しろ」

 

織斑先生の指示通りにバスから降りて整列する。他のクラスの奴もバスから降りるなり整列し始める。整列が終わり教師陣が前に並び、建物内から着物を着た女性が出てくる

 

「それでは、ここが今日から3泊4日でお世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように」

 

「「「よろしくおねがいしまーす」」」

 

生徒全員で礼をする。毎年、臨海学校ではここに来ているらしいがこんなにいては大変だろうな。女性、もとい女将の一言を終え、それぞれが旅館の中へ入っていく。俺は最後の方に入っていけば通行の邪魔もされず、ならずで済むと思い残ることにした

 

「織斑兄に鏡野、ちょっとこっちにこい」

 

織斑先生のお呼びで近づくが挨拶でもしとけと言う感じだろうか

 

「どうも鏡野七実です。今回の臨海学校ではお世話になります」

 

「挨拶をしろ馬鹿者」

 

一夏は織斑先生に頭を押さえられていた

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「あらあら、まぁまぁ。ご丁寧にどうも。清州景子です」

 

なんだろう某スマホゲーのバーサーカーでも彷彿させるような前文だな。二面性があるのかね、と深読みはしないでおこう

 

「良い生徒さんではありませんか」

 

「毎回手を焼かされていますが。それと今年は男子が2人もいるせいで浴場分けが難しくなってしまい申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんなことはありませんよ。ささ、どうぞ上がってください」

 

ようやく旅館内に入るが不思議なことがあった。それは俺と一夏の部屋が決まっていないことだ。一夏が織斑先生に部屋の場所を聞いても、ついてこいの一言で終わってしまった。言われた通りについていくとそこには教員室と書かれている部屋の前で止まった

 

「最初は2人だけの部屋というのも考えていたが、諸事情と女生徒が押し寄せてきかねないと理由でここになった。ちなみに織斑兄は私と、鏡野は山田先生と同室だ」

 

「分かりました。山田先生の部屋はどこですか?」

 

「隣だ」

 

左隣の部屋を指さした、ということは隣部屋か。同時に角部屋でもあった。1階の角部屋か・・・まぁ楽ではあるな。一旦この場から離れ指定された部屋の襖の前に立ちノックする。しかし返答は無く中には誰もいないようだ。部屋の中に入るが中にはバックの一つも無くまだ山田先生が来ていない様子だった。制服を脱ぎ、黒いワイシャツと七分丈のズボンを履く。水着が許されるならこれくらいもいいだろうさ、別に禁止されているわけじゃないしな。必要最低限である財布とスマホをポケットに入れて部屋を出る。円華がどこかで待っているだろうしな。外に出ると目の前にある海岸には既に生徒たちが遊び始めていた

 

「おっそーい!」

 

「すまんな」

 

黒いビキニを着けてビーチサンダルを履いている円華が旅館入口で待っていた。織斑先生に似ているせいか雰囲気込みで似合っていると思う

 

「実はそんなに待ったわけじゃないけどね。あれ水着は?」

 

「無い、というよりも泳げるわけじゃない」

 

最後に泳いだのは小学1年の時だ。既に8年も前で泳げるかどうか分からんし、そもそも背中の傷を見せる訳に行かないからいらないのだ。そもそもの話、買ってすらいない

 

「もしかしてカナヅチ?」

 

「いやそういうわけじゃないが・・・ただ泳いだことなんて早々無い。小中と基本的には見学ばかりだったしな」

 

「そうなんだ。それじゃあ適当なところに行くから話してよ」

 

俺は円華に連れられていくが辿り着いたのは海の家だった。夏の風物詩と言えばこれなんだろうが真っ先にここというのはどうなんだろうか

 

「はい七実」

 

「いいのか?」

 

円華はカキ氷を2つ購入し片方を俺に渡してくる

 

「話を聞こうとしてるのはこっちなんだからこれくらいはね。ブルーハワイでよかった?」

 

「別に何でも構わない。シロップなんて匂いと色合いが違うだけで使っているものはほぼ一緒らしいしな」

 

「子供の夢を壊すような発言はしないの」

 

「すいませんでしたっと」

 

日陰になっている場所に椅子があったためそこに座ることにした。ここからだと遠巻きで生徒たちがビーチバレーやら砂で本格的な城を作っているのが見える。よくもまぁ元気でいられるものだな。ふと空を見てみるとオレンジ色の何かが落ちてきているのが見え旅館内に轟音と共に落ちていった

 

「おい円華、今何か見えなかったか?」

 

「私は何も知らない。ニンジンなんて見えななかったよ」

 

「あっはい」

 

見事なまでの即答だが何か知っているようだ。いや、マズイんじゃないのか?

 

「まぁ多分害は無いだろうし、ちー姉ちゃんしか何とかできないから私達が行っても無駄だよ」

 

「・・・あれが何か知ってるんだな。今の物言いを信じるとしてこの話題は打ち止めだ。そういや一夏の話だったな」

 

「うん。どうしてまた仲悪くなっちゃったの?」

 

「少し長くなるから食いながら話すぞ」

 

シャルロットには悪いが全てを話すとしよう。後で謝るとして、まずは事の発端からだ

 

「事の発端はシャルロットが関係する。話す前に注意をしておくがあくまで俺の主観でしかないということは言っておく」

 

「うん・・・シャルロットが関係してるんだ」

 

「そうだな・・・まず俺が一夏に強引に部屋に連れ込まれたな。どうして連れていくのかも教えず連れていかれた。一夏の部屋に入れられるなり、部屋の中にいたのは男装していないシャルロット自身だった」

 

円華はカキ氷を食べることは止めなかったが、話は黙って聞いていた。俺も同様でただ話していた

 

「流石に状況を見てどういうことかはわかったが、何も聞かされずただ助けるのを手伝ってくれと言われた。ただ助けを求めているだろうシャルロットから何一つ話さず、何かを求められるなんておかしく俺は全てを聞こうとした。原因を、現在の気持ちを聞こうとした。まず最初はここで一夏に阻まれた」

 

「どうして阻まれたの?」

 

「俺が話すと言ってな。憶測でしかないだろうがシャルロットが嫌がることだろうと思ったんだろう。だが他人から聞いた話なんて脚色される場合がある。だから本人が話さねば意味が無いというのにな」

 

その本人も脚色するかもしれんが他人よりかは信用できる。内容の良し悪しは度外視だが

 

「話が逸れたな。結局は本人から話を聞くことができた。内容に関しては秘密にさせてくれ。ただこの話は過去の話で終わってしまった。今どうありたいのか、どうしていきたいのか。そういうことを一切合切何も話さなかった。そこで追求したんだが、その時に問題が起きてな」

 

「問題?」

 

「一夏とどうやってシャルロットを守るかということで話したんだが、一夏は学園特記事項21というのを盾に取ったのを俺が否定した」

 

「確か21って・・・外部からの干渉を受けませんってやつ?それなら問題無いように思えるけど」

 

「文面上だとなそう思うだろう。だが落とし穴が1つある。それは外部が関係しない場合だ」

 

円華は頭を働かせているようで考え始めた。少し考えれば分かることだ。専用機はフランスの物で所属はどこだ?

 

「ああ!シャルロットってフランス代表候補生でデュノア社所属だから!」

 

「そういうことだ、期限なんてある程度決まっていただろうさ。イグニッション・プランだかの期限がある以上は急がなきゃいけない。夏休みに戻って来いなんて言われてみろ、重要な話・会議があるとかなんとかこじつけて戻らせて切り捨てられていたかもしれん」

 

「・・・それで七実はどうしたの?」

 

「俺は素直に頼るべき人間を頼ると進言した。たかが一生徒の身分だからできることなんてそうない。だが一夏はそれが気に食わないようでこう一撃入れた」

 

俺は円華に寸止めで拳を向ける。それがどういう意味なのかはすぐに分かるだろう

 

「俺は殴られて怒りはしたがそれを表に出すことは無かった。ここでやり返しても何も始まらない。その後一言だけ残して部屋を出ることにした」

 

「その時なんて言ったの?」

 

「確か・・・害を為すかもしれんし得となるかもな、だったか?」

 

「それってどういうこと?」

 

「助けになるかもしれんが誰の為でもない俺がやりたいからやる。簡単にいうと代償無しで助かると思うな、だ」

 

害なんてデメリット、今回も場合は代償だ。フランスに二度と入れないかもしれないし、今まであった関係を全て破棄しなきゃいけない。得というのは自由、ただ一つだ。しかし、結果論ではあるが亡命し日本国籍を手に入れ、日本代表候補生となり、自由となった。ある意味得と言えよう

 

「ふーん」

 

「重要なのはここからだ。これは秘密にしておけよ、バレても恥ずかしいし何よりも面倒だからな」

 

「いいよ、それでそれで?」

 

「その翌日に俺は織斑先生と楯無、まぁ更識会長に交渉を持ちかけた。会長相手には却下されたがな。そこで俺が知りたいのは一夏が何をしてたのかだ。俺を殴ってまで言ったんだからそれ相応の事をしてたはずだ。どうだ?」

 

円華の方に顔を向けるが苦い顔をしていた。それがどういう意味かは分かってしまったが話すまで待つことにした

 

「・・・ゴメン」

 

「お前が謝ることじゃないだろ。反応から察するしかないが、そういうことは一切してないと」

 

「流石に部屋の中での行動は分からないよ。けどいつも一緒にいてISの訓練をしてた。七実が望んでたことは分からないかな」

 

「まぁそこは本人たちが知るところだろう」

 

もし一夏がシャルロットに対して何かしていたというのであれば俺がやったことなど些細だっただろう。そしてその好意は俺に向けられるものではなかったはずだ。逆説での証明だが、一夏は何もしてないのだろう

 

「その後、シャルロット自身があの2人を一辺に説得しに行ったそうだがな。結果は知ってるだろ?」

 

「一応ね。まさか日本代表候補生になるなんて思わなかったけど」

 

「それだけの実力があったってことだ。この話はここまでだが、何か聞きたいことはあるか?」

 

「特に・・・ごめんね一兄さんが」

 

「だからお前に謝られても困るだけだ。まぁ今度織斑先生から話があると思うだろうし、説得するんだったらしとけ。家族なんだろ」

 

そこに俺が含まれていないのが妬ましいがな

 

「なんとか説得して謝るように言っておく」

 

「そうしてくれ。今の俺から歩み寄ることは無いだろうから大変だぞ」

 

「七実こそ覚悟しててよね。一兄さん、ああ見えてしつこいところあるから・・・でもどうしてそんなことしたんだろ。こういっちゃなんだけどIS学園に来るまでは、そう簡単に暴力なんて振るうこと無かったのに」

 

どうしてそうなったかは今の家族で知る必要があるんだろう。俺が知っても無意味にしか思わない

 

「頑張れよ」

 

「うん。あ、そういえば七実の部屋ってどこなの?」

 

「教員室だ。相部屋だが相手は山田先生だが来ようとは思うなよ?隣の部屋は織斑先生だからな?逃げ場がないぞ」

 

「ちー姉ちゃんかー・・・本音、力になれそうにないよ」

 

本音が聞き出してとか言ったのか。そんなことだろうと思ったけどよ

 

「んじゃ俺は戻るわ」

 

「え、遊んでいかないの?」

 

「面倒だし俺なんかと遊びたい奴なんてそういないだろ」

 

「んー、簪とか本音、ラウラはそう思わないかもよ?」

 

「そん時は俺を呼ぶなり捕まえろってな。俺は部屋でゆっくりと寝る」

 

「奢ったよね?」

 

どうしてそこまで俺を引き留めようとするのか分からん。あの中に行くこと自体面倒としか思ってないのだが

 

「なんだ?本音にでも頼まれたか?」

 

「うっ・・・」

 

「図星か・・・わかったわかった行きますよ」

 

「ん、ありがと。食べ終わったら行こ」

 

円華は急いでカキ氷を食べるが頭を抑えたりと忙しい奴だ。アイスクリーム頭痛だったか?食べる前に水を少量飲むといいんだったか?まぁもう遅いような気がするがな。カキ氷を食べ終わり出るが夏ということもあってか日差しが強い。そんな中で遊べるとかいろんな意味で凄いと思う。砂から凄い熱気を感じるしよ

 

「やっほー本音、連れてきたよ」

 

本音や簪、シャルロット、ラウラとか同じクラスの女生徒が数人見える。全員水着だが、本音は水着というよりかは着ぐるみだ

 

「まどっちありがと~。ななみんどこいってたの~?」

 

「そこらへんだ。どこでもいいだろうが」

 

「むむむ~、カキ氷でも食べてきた~?」

 

「そうだな。別に悪いことじゃないから別に構わないだろう?」

 

「一緒に食べたかったな~。ね、かんちゃんにデュッチー」

 

なら今から行ってこいというのは卑怯なんだろうが、俺は行きたくないぞ。また往復しかねないからな

 

「んー、行きたかったのはそうだけど今はいいかな。だってそろそろ昼食でしょ?」

 

「あ、すっかり忘れてた!」

 

そういえば昼食がまだだったな。てかそんな状態で遊んでいたのかよ

 

「ならそろそろ戻った方がいいかもな。もう12時近くだし」

 

「そっか・・・なら昼食を食べたらまたあとで遊ぼ」

 

「部屋でゆっくりしてたいんだが・・・そこまでできることなんてないぞ?」

 

「よし・・・言質は取った」

 

そう言ってみんなが更衣室がある方へ戻っていく。そもそも俺はこの上に制服を着こむだけで済むのでなんら問題は無い。さすがに下は着替えるがな。俺も部屋へ戻ることにした。部屋に戻るが相部屋が山田先生であるのでノックは欠かさない。もし浴衣に着替えている場面に遭遇でもしたら目も当てられない。確認すると「入っていいですよ」との事で襖を開けるがまだ浴衣は着ていなかった

 

「どうも」

 

「七実君も海に行ってたんですか?」

 

「話があるとの事で円華に連れられて。あ、臨海学校中は同室ですがよろしくお願いします」

 

「いえいえ。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

挨拶も済ませたからとりあえず着替えることにした。制服を持って部屋のトイレで着替える。着替え終わり、トイレを出て隅に置いた荷物の上に畳んで置いておく

 

「七実君は几帳面なんですね」

 

「癖みたいなもんです。嫌な記憶ですが家事はみっちり叩き込まれたんで」

 

「あ・・・す、すみません」

 

山田先生には関係ない話だから謝られても困るという感じだ。あの経験のおかげで家事は大抵なんでもできるようになっただけなんだから

 

「気にしなくていいです。悪気があって言ったわけじゃないんですし」

 

「そ、そうですね」

 

あとなぜ言葉が堅苦しいのだろうか。少し静かになるとそわそわし始めるし、静かなのが苦手なんだろうか?

 

「先生って静かなのが苦手ですか?」

 

「え、いやそういうわけじゃないですよ?ただ男性と一緒なのが慣れてなくて」

 

「あ、そっちでしたか。意識しないでくださいとは言えないですが普通でいいんじゃないですか?ただの生徒でしかないんですし」

 

「そう言ってもらえると気が楽になります。七実君ありがとうね」

 

「そうですか」

 

俺としても普通に接してもらえる方が気が楽だ。そろそろ昼食だし行くとしよう

 

昼食も食べ終わり部屋でゆっくりしていた。腹休めという感じだ

 

「どうぞ先生」

 

「あ、ありがとうございます」

 

旅館ならではのティーパックでお茶を淹れて差し出す。なんだかんだで世話になっている先生だしこれくらいは良いだろう

 

「七実君は海に行かないんですか?」

 

「もう少ししたら行きます。本音や簪と約束してるんで」

 

「そういえばあのお2人と付き合いがあるんでしたね。いつ頃からの付き合いなんですか?」

 

あの頃は割と他人との関りを極力避けていたんだったな。誰にも知られず、ただ1人でいる方が気楽だったあの時期

 

「確か小2です。あいつらには本当に感謝しきれないですね」

 

身体の動かない時期は本当にあいつらのおかげで学校生活を送っていたな。毎年、簪か本音のどちらかが一緒のクラスになり教科書を見せてもらったりな

 

「あいつらって楯無さんや虚さんもですか?」

 

「まぁ一応ですが。特に虚は暴走した楯無や本音を止めてくれたりと本当に助けて貰いましたね」

 

「それは大変でしたね。でも良い人と出会うことができて」

 

今までが酷過ぎたというのがあるがな。本当に色々あり過ぎたんで何度大変な思いをした事か。1回死んで、2,3回死にかける、極めつけに誘拐され奴隷扱いを受けるなんてな

 

「ここだけの話ですが本当にそうですよ。いまでもあいつらには助けて貰いっぱなしですが」

 

「ふふふ・・・七実君、IS学園に来るときのこと覚えていますか?」

 

「ええ、山田先生が迎えに来た時ですか?」

 

「はい。その時に先にニュースを見てしまって少し怖かったんです。ですが親御さんの言葉と楯無さんと虚さんの会話を聞いて、安心してたんですよ。本当はいい人なんだなって」

 

あのニュースを見てもなお、こう思ってくれたのは多分山田先生ぐらいだろう

 

「それで入学当初から色々あったじゃないですか。誰かを助ける為に重症になったりだとか、あれで確信したんです。あのニュースは嘘なんだなって。本当に優しい人なんだなって」

 

「それは言い過ぎです。やらなきゃいけない事だっただけで」

 

「そうかもしれませんが自分の身体も労わってくださいね?悲しむ人だっているんですから。もちろん私もです」

 

胸を張って言われるようなことではないと思うが、この人だったら本気で心配してくれるんだろう。なんだろう、山田先生を相手にしてると調子が狂うな

 

「そう言ってもらえるとは有り難いです。すみませんが俺は行きますね」

 

「あ、分かりました。あとお茶美味しかったですよ」

 

そう言って俺は着替えてから部屋を出た。まだ暑い日差しの中に出るのは面倒だが約束は約束。守らねばならんことだしな。行くとしようか

 

 




お読みいただきありがとうございます

ここ最初は3000文字が普通だったんですがここ最近5~8000文字とか急激に増えたような気がします。長いですか?


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今宵の話と月

 

日も完全に落ちてもう夜である。日が出ている時は本音や簪、シャルロットやらクラスの女子と遊んでいた。海には入らなかったがそれでもかなり遊んだと言えるだろう。今は夕食でクラスごとで別れているため簪は4組のところで食べている。昼食は天ぷらそばで夕食は海鮮盛りの豪華な夕食だ

 

「相棒、この緑色をした山はなんだ?」

 

「山葵だ。ホースラディッシュという呼ばれ方もしているがこれは国産のものだ。海外で売られているものなんて比較にならない程に辛味があるから注意しろ」

 

「分かりやすい説明をありがとう」

 

本当に辛いから注意だ。だが俺はあの鼻にくる感じが好きで多少多めにしている。刺身に少し多めに山葵を乗せ醤油に少しつけて食べる。美味いな

 

「ほう・・・その位でもいけるのか。では私も」

 

物を口に含んでいるので喋れないが、その最中にラウラが全く同じ量の山葵を乗せ、しょうゆにつけて食べる。この量は慣れた人ならいいが、そうでないやつはどうなるかというと

 

「っ!?」

 

答え、涙目になる。俺はこれでちょうどいいが慣れていないやつでは大変なのだ。涙目で悶えている姿はかわいらしく感じた。普段から表情が崩れることなく氷を彷彿させるが今の姿はそんなんではない

 

「ほれこれでも飲んどけ」

 

俺がお茶を渡すとそれを奪うかのように取り、一気に飲み干す。だから注意しろと言ったのに

 

「なんだこの山葵は!鼻にくるではないか!」

 

「だから注意しろと言っただろ」

 

「うんいい手本だったよラウラ。それにしても凄かったね」

 

隣で食べているシャルロットはラウラの反応を見てから刺身を食べ始める

 

「相棒が普通に食べているから大丈夫だと思ってしまったではないか」

 

「俺はあれでちょうどいいぐらいだ。個人差という感じだ」

 

「そうか、ではもう少し注意してみるとしよう」

 

その後も少しずつ少量にしていくがその度に悶えるラウラの姿が目の前で繰り広げられることになるとは思わなかった。夕食中はずっと簪に睨まれていたが、こればかりは運としか言いようが無いだろう。だからそう睨んでくるな。夕食も終わり部屋へ戻り一息つく。さすがに疲れたな。夕食前にはなかった畳んである敷布団と掛布団を重ね、その上に座る

 

「楽しかったが・・・疲れた」

 

山田先生は明日の打ち合わせでまだ部屋に戻ってきていない。ただ1人でここを使えるというのはいいが広すぎる。そんなことを考えていると襖をノックする音が聞こえてくる

 

「どちら様ですか?」

 

『ななみん~遊びに来たよ~』

 

円華に聞いたのか本音がやってきたようだが入れていいものなのか。悩んでいるうちに本音は襖を開けて入ってきた。その奥には簪とシャルロット、ラウラまでいた。髪が多少なりと湿気が見られるということは温泉に入ってから来たんだろう

 

「遊びに来たよ~」

 

「二度も言うな。というよりも勝手に入ってくるなよ、一応ここは教員室って名義なんだからよ」

 

「まやまやいないから大丈夫だよ~」

 

「おい・・・簪もここにいるってことは止めることができなかったってことか」

 

「そう・・・誘惑に負けて」

 

一切止めていないことが分かった。そこは止めてくれた方が俺としても助かったんだが

 

「ほれ戻った戻った。いつ山田先生と鉢合わせするか分かったもんじゃないしな」

 

「大丈夫だって~、ほらトランプでもしよ~?」

 

本音は浴衣の袖からトランプのケースを出しているうちに簪やシャルロット、ラウラも中に入ってしまった。少し広いかなと思った部屋の中が多少狭く感じる。暇ではあったが流石にもう遊ぶ気力は無いに等しい

 

「んじゃ適当に遊んでてくれ、俺はもう無理だ。疲れた」

 

「なんだ相棒、あれしきでへばったのか?」

 

「昔から体力がないんだよ。だから疲れてんの」

 

「昔が昔だったから・・・そうだよね」

 

簪と本音は昔の事を知ってるがシャルロットとラウラにはまだ教えていない。それもあって2人して首を傾げてしまった

 

「昔とは?」

 

「具体的には言えないが、今の比じゃない程に大変だったと言っておく」

 

毎日のように殴られ蹴られ、仕舞いには殺されかけられた。人間の闇を1つに小さい体に一身に受け、結果として死に目に遭い、五体不満足に至った。真実は俺が話さなければ誰にも知ることは無いはずだ

 

「そうだったのか。相棒も大変だったな」

 

「ああ、そう思うなら帰ってはくれんか?」

 

「それとこれはまた別だよね?」

 

誘導に失敗したか、適当に浴場に行って汗流して明日の為に早く寝たいんだが

 

「悪いが後20分もしたら俺は浴場に行くぞ」

 

「そういえば七実はまだだったね。それまででいいから遊ぼ?」

 

「はぁ・・・少し待ってろ。茶ぐらいは用意する」

 

人数分の湯飲みを用意してそれぞれに配る。わりかし適当だがな。それぞれ座っているが俺は特等席というよりか畳んである敷布団の上に座る

 

「ありがと」

 

「はいよ。んで何すんだよ?話すなら話すでいいけどよネタは無いし、遊ぶ気なんか一つも無かったから何も持ってきてないぞ?」

 

「トランプでもしよ~!ババ抜き~?、七並べ~?、それとも大富豪~?」

 

「そもそも俺はルールなんて知らんぞ」

 

「相棒と同じく。ポーカーとかブラックジャックなら知っているが」

 

呆れたような表情で俺とラウラを見んなよ。そもそも友達と呼べる人間なんてそうはいなかったし、遊ぶにも体が動かなかったんだよ。なんなら簪がやってたゲームぐらいしかできないぞN64のバン〇ズとかスター〇インズだとかなら見てたし

 

「なら少し話でもしよ~。お題は・・・何にする~?」

 

「適当でいいだろ。過去の話をできる奴なんてそうはいないだろ?」

 

簪は微妙なところがあるが本音は詳細を話せないらしい。理由も聞けなかったが楯無の命令だそうだ。シャルロットも同じく、雰囲気が重くなるのでNG。同じ理由で俺もダメ。残るはラウラだがどうなんだろうか

 

「すまんが私もできない。雰囲気を重くしてしまうかもしれない」

 

「やだっ・・・過去バナできない人多すぎ」

 

「そんだけ大変なことを経験してるってことだ」

 

「ななみんが言っちゃいけないよ~」

 

別に俺に限った話じゃないはずだ。IFの話をさせてもらえるのであれば簪だってありそうな話だ。ちょっとしたことが原因で楯無と喧嘩して仲違いとかな

 

「不幸自慢ってわけじゃないが、IS学園に来るまでは碌に手足が動かなかったしな。8年もその状態だったせいかまともに外に出たって記憶はないな」

 

どうして動けなくなったかの詳細は忘れたが本当の話だ。電流を流して神経に刺激を与えるだとかそう言った治療方法も試したが一切治ることが無かった。それは置いておいて海を見るのは初めてじゃないが実際に間近で見て感じたのは初めてだ

 

「手足が動かなかったの!?」

 

「知らなかったのか?」

 

「今の相棒では考えられん姿だな。どういう治療をしたのだ?」

 

「あれをなんて言ったらいいんだろうな」

 

別に恍ける訳じゃない。ただISに触れたら治ったとかいう突拍子もないことを言ったら信じれるだろうか?答えは否、摩訶不思議なこと程、信用ならん物は無い

 

「あー・・・ある意味凄かったよね」

 

「勿体ぶらずに言ったらどうだ?」

 

「わかったわかった。信用ならんかもしれないがISに触ったら全身に電流が走って体が動けるようになった、なんて信じられないだろ?」

 

俺としては何一つ嘘を言っていないのだが信用されることは無かった。ラウラとシャルロットは呆れた顔で俺を見るが今回ばかりは証人がいる

 

「嘘だと思う?・・・これほんとだよ」

 

「いや、疑っているわけではないのだが些か信憑性に欠けているから、なんとも言えないな」

 

「僕も同じかな。ISが完全に解明できていないことがあるからって、正直なところ本当に聞こえない」

 

「なんとなくは知ってたが本当の事だ。そのことを知ってるのは織斑先生に山田先生、簪に本音、楯無、虚だな。実際入学当初は車椅子だったし、お前らが編入する直前までは松葉杖だったぞ」

 

入学する前の方が大変だったと思う。何をするでも他人の手を借りねばいけなかったからな。もしIS学園に入学しなかったらもう簪達の手を借りることなんて無かっただろうしな

 

「今ではこうして五体満足ということか。よかったな相棒」

 

「ああ、親父と母さんに報告したかったが・・・それも叶わないとはな。今じゃそっちの方が辛い」

 

「ななみんのお母さんとお父さん優しかったもんね~」

 

あんな風に接する人なんて初めてだったもんで泣いたのはいい思い出だ。だがもう会えないと思うと少々くるものがある

 

「私にはそういう経験が無いが・・・それだけ相棒の事を思ってくれる人がいたんだな」

 

「そうだな、孝行させてもらえなかったのが唯一の心残りだな。さて俺の話は終わりだ」

 

「戻りましたよって、どうしたんですかみなさん?」

 

話し終わった直後に山田先生が部屋に戻ってきた。さすがに招き入れてしまったのはマズかっただろうか

 

「すみません、勝手に入れてしまって」

 

「いえいえ、良いですよ。清く正しく節度を持っていれば言うことはありませんよ」

 

案外あっさりと許されたな。話が分かるというよりもある程度許容しているんだろう

 

「ですが入浴時間も忘れないでくださいね。もう過ぎてますよ?」

 

「ありがとうございます。それじゃお開きか」

 

俺はバスタオルやタオルを持ち部屋を出た。それと同じく簪達も部屋を出たが隣の部屋で箒や鈴、セシリア、円華が襖に耳を当てて聞き耳をしていた

 

「・・・お前ら何やってんだよ」

 

「あ、七実。あんたの部屋千冬さんの隣だったのね」

 

「そうだが・・・なんかしてんのか?」

 

聞き耳を立てているが何してんだか。なぜだろう、悪戯心というものは突如沸き起こるものだ。襖に手を伸ばし思いっきり引いてやると雪崩のように倒れて部屋の中へと入っていった

 

「あんた何してくれんのよ!」

 

「聞き耳立てるくらいならと思ったまでだそれじゃあな」

 

俺はその場から離れ浴場へと向かった。ラウラは隣の部屋の主が織斑先生ということで3人を連れて中に入っていった。小銭は多少持って来たし、風呂上りになんか飲むか

 

 

 

円華サイド

 

くそぅ・・・七実にしてやられた。ちー姉ちゃんと一兄さんの部屋の中でマッサージをしているのを卑猥な何かと勘違いした3人で遊んでいたんだけどしてやられちゃったな。今は一兄さんを外に追いやって簪や本音、ラウラ、シャルロットも部屋に招かれていた。招かれたというよりもラウラに無理やり入れさせられたという感じだ

 

「おいおい、葬式か通夜か?いつもの元気の良さはどこに行った?」

 

部屋に入るなり全員が黙ってしまっている。それも仕方ないのかもしれない簪はセシリアの事を苦手に思ってるだろうし、箒の事だっていいようには思ってないと思う。そんな中に入れさせられて空気が悪くなるのは必然かな

 

「まったく・・・ほれこれでも飲んで少しは機嫌を直せ」

 

ちー姉ちゃんは部屋に備え付けられてある冷蔵庫の中から人数分の缶ジュースを取り出し放り投げ、渡してくる。気前がいいのは良いけどなんか裏がありそうなんだよなー。渡された私達はプルタブをを開け1口飲む

 

「飲んだな?」

 

「そ、そりゃ、飲みましたけど・・・」

 

「な、何か入っていましたの!?」

 

「失礼な事を言うな。ちょっとした口封じだ」

 

またしても冷蔵庫の中から缶を2,3つと取り出した。よくよく見るとそれは缶ビールだった

 

「あー!?ちー姉ちゃん、何飲もうとしてんの!」

 

「だから口封じと言っただろう?円華も飲んでるじゃないか」

 

「ぐっ・・・」

 

今回ばかりはしてやられたかな。でも来月のお小遣い、少し減らすからね。缶ビールを勢いよく一気飲みする姿はどこかオッサン臭いよ?

 

「さて、そろそろ肝心の話をするか。お前ら、あの2人のどこがいいんだ?」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

急な話題に対して箒、鈴、シャルロット、簪、本音の5人は一斉に噴き出した。幸い何も飲んでいなかったのが救いかな

 

「ふふふ、やはり篠ノ之と凰は一夏か?」

 

「わ、私は別に・・・以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」

 

「あたしは・・・」

 

鈴は煮え切らない反応を示し、回答をどもってしまった。前から一兄さんの事が好きだったのは知っているが、今の一兄さんの状態をどう思っているのかはさすがに分からない

 

「確かに一夏の事が好きです。でもなんか変わったように感じて・・・」

 

「・・・変わったか。人は変わる生き物だ、よくも悪くもな。だが正すことはできるぞ」

 

確かにIS学園に来てから一兄さんの様子は変わることは無かったけど、やり方が変わってしまったように思える。今日、七実から聞いた話だと暴力を振るい我を通そうとしたんだったけ

 

「更識妹と布仏妹は鏡野か。あいつの何がいいんだ?」

 

「え、あ、その・・・」

 

「んー、口は悪いですけど~なんだかんだで助けてくれたり~優しかったり~。ね~かんちゃん」

 

「うん、あと悲観とか卑屈になりますけど・・・七実は優しいですし、何よりお姉ちゃんとの縁を取り持ってくれて・・・それ以外にもありますが恥ずかしいので・・・」

 

最初こそは七実の印象は微妙と思ってたけど、日が経つにつれて七実の印象はいい方向に向かったと思う。学園中の反応は悪いかもしれないけど、一切悪いことはしていない。それどころか身体を張って箒やラウラを助けたりした。簪や本音の反応は頷ける

 

「確かに鏡野は偏屈かもしれんが中々に筋は通っている。しかし体を張りすぎてあの身でよく持ったと思うぞ。そこは注意しなければならんな。デュノアはどうなんだ?」

 

「えっとですね・・・な、七実です」

 

「誰よりも真っ先に動いてくれた、とかか?」

 

「酷いかもしれませんが一夏は何もしてくれませんでしたし、その分七実は誰にも言わずにただ1人で出来るだけの事をしてくれて・・・ごめんね簪に本音」

 

「別にいい・・・七実は旗が好きなの?」

 

旗と書いてフラグという心境なんだろう。本音は笑顔を絶やさないがどこか怖くも見える。簪はジト目でシャルロットを睨んでいる

 

「オルコットはどうなんだ?」

 

「わたくしはそういった感情は持てませんの。既に相手はいますし将来も決まってますわ・・・でも心残りでしたら入学当初のことぐらいですわね」

 

「貴族には貴族なりの事があるんだな。あいつも気にはしていたが・・・どうなんだ?」

 

「水に流していただきましたわ。背中のあれの事も教えていただきました」

 

背中のあれってなんだろう?もしかして本当は泳げないんじゃなくてセシリアの言う背中のあれを見せたくなかったのかな?

 

「そうか、関係の回復は難しいからな。そこは頑張れ。で、ボーデヴィッヒはどうだ?」

 

「清く正しく、相棒であります!」

 

「まぁ、鏡野自身も自称していたからな。一番対等な間柄はもしかしたらボーデヴィッヒかもしれんな」

 

学年別トーナメントの事で色々あったみたいだしね。本当に相棒と言える存在になれたんだろう

 

「円華はどうだ?一夏は無理にしても鏡野なんて「いい加減にしないと来月のお小遣い、半分にするよ?」・・・すまなかった」

 

「でも苦労は絶えない・・・」

 

簪が珍しく愚痴のような言葉を発した

 

「苦労って何よ?」

 

「ああ見えて家事が完璧だし料理は美味しいし手際いいし・・・女として負けた気がする」

 

「「あー・・・そっちも?」」

 

私と鈴は声を合わせて言う。七実って確か身体が動かなかった時期があったんだっけ?なのに家事スキルが完璧なの?この後、色々と発展して最終的に愚痴のような何か、本当に女としての嫉妬(愚痴のような何か)だったからね?そんな話をしていた。時間も過ぎそろそろ就寝時間が近づいてきた

 

「そろそろか、お前らここで解散だ。そろそろ一夏が戻ってくるだろうし部屋に戻れ。円華は少し残れ、話がある」

 

「あ、うん」

 

それぞれが部屋に戻り私とちー姉ちゃんだけとなった。多分一兄さんの話になるだろう

 

「帰ったか」

 

「そうだね。それで話って一兄さんのこと?」

 

「ああ。ここ最近鏡野から話があってな」

 

やっぱりその話か。七実から全容は聞いているからある程度、物言えるかな

 

「内容は七実から今日聞いた。シャルロットにも関わる話でしょ?」

 

「そうだ。確認だが前はこんな暴力沙汰は一切なかったんだよな?」

 

「一切と言えば嘘になるかな。でもちゃんと理由も目的もあったし誰かを守る為にしか使ってなかったはずだよ」

 

流石に七実の時のようにしたらマズイ場合もある。相手の目的が判明せず、聞き出せなかった場合とかは本当に危ない。実は手伝う気がありました、とか言われたら目も当てられないし信用を損なう原因でもある

 

「誰彼構わずという感じではなさそうだが、現状だと一夏にも鏡野にも悪影響となりかねん。夏休みにはまとまった休暇もある。そこで3人でキチンと話し合うとしよう。そろそろお前たちにも明かさねばいけないこともあるしな」

 

「分かった。なるべく一兄さんに逃げられないようにしなくちゃね」

 

夏休みには必ず判明させて、七実に謝らせなきゃ。約束したことはちゃんと守らなきゃね。その後私も部屋に戻ってすぐに寝ることにした。周りも明日から何があるか分かってるから部屋に戻った時には電気はついておらず暗く、寝静まっていた。さて明日はISの訓練か・・・こんな夏の中でやりたくないな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回は・・・兎か。若干原作より白いかもしれません


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天災とは上手い例え、天災と馬鹿は紙一重ではない

 

 

臨海学校2日目、今日は朝から晩まで丸一日利用してISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。俺以外の専用機持ちは武装やパッケージが多く、専用機持ちとそうでない奴に別れて行うらしい。珍しくラウラが遅刻したりと色々あったが無事開始となった。専用機持ちとなぜか箒が一緒に岩場まで連れてこられた

 

「今日は知っていると思うがお前らには大量にデータ取りをしてもらわねばならん。なので迅速かつ細やかに行動してもらう。織斑兄と鏡野については少々簡単だがそれ以外については各種装備、パッケージの変換をしながらしてもらうぞ。それでは始めてくれ」

 

それぞれが散らばってパッケージの変換を一斉に始める。しかし気になるのは箒がここにいるということ。それが何を意味するのか。専用機持ちしかいないのであれば専用機を持たねばならない。だが持っていないのであればこれから持つということ

 

「ちーちゃぁーん!」

 

岩場の向こうから人が全速力で走ってくるのが見える。徐々に近づき某配管工の如く3段ジャンプを決め、織斑先生へと飛び掛かる

 

「うるさいぞ束」

 

「あだだだだだ!?痛いってば!」

 

あたかも来るのが分かっていたかのように頭を片手で掴み、宙へ吊るし上げた。なんか鳴っちゃいけないような音が聞こえるのは気のせいだろうか。ちなみに服装は形容しがたいが、さながら1人不思議の国のアリスという感じだ。うさ耳に胸元が開いたデザインのエプロンドレスなんて世界中を探してもこの変人ぐらいだろう

 

「あ、一周回って気持ちよくなってきたよ、ちーちゃん!」

 

訂正、只の変態だった。周囲の奴らも釘付けになり織斑先生の方を見ていた

 

「ああもう面倒だ。ほれお届け物だ篠ノ之」

 

織斑先生は変人を箒へと投げるが、箒自身が受け止めることなく避けその場から離れた。変人であろうとお届け()って、さすがに酷過ぎじゃないか?

 

「私はこんなお届け物知りません」

 

「酷いよ箒ちゃん!?」

 

物扱いに飽き足らず知らんって・・・発送先でも間違えたんかね。いや、こんな冗談はおかしいか

 

「全くちーちゃんや箒ちゃんたら恥ずかしがり屋なんだから!」

 

「束、もし次同じことを言ったら・・・わかってるな?」

 

「はいはい。んー、あ、いっ君に、はー君やっほー」

 

束と呼ばれる人物は立ち上がり、周囲を見渡す。俺を見るなり手を振って近寄ってくる。それにしてもはー君?

 

「やっほーはー君」

 

「おい束、そいつは鏡野七実だぞ。お前が気に入ったのは驚きだが、あだ名としてはなー君ではないか?」

 

「あー・・・そうだったそうだった。ごめんね、なー君」

 

なー君と訂正した、と言うことを示す意味は何か。鏡野七実という人物では無く本当は、「は」で始まる名前はただ1人しかいない。そう織斑春十ただ1人しかいない

 

「っ・・・」

 

言葉にできない怖気が訪れ、1歩後ずさりしてしまった。この真実を知っているのは本音と虚の父親の暁斗さんと俺しかいないはず。それを完全に調べ上げたということだ

 

「とりあえず自己紹介でもしろ。でなければここから追い出すぞ」

 

「それは困るな~。んじゃISの開発者の篠ノ之束だよ。よろしくしないから」

 

「はぁ・・・知っての通り、ISの開発者の篠ノ之束だ。こんな見た目だが中身は、はっきり言って自他共に認める天()だ」

 

イントネーションが多少違うように聞こえた。天才なのか天災なのか、それを知ってるのは箒や一夏、円華、織斑先生ぐらいだろう

 

「そんな話はどうだっていいからさ、箒ちゃんとなー君はこっちに来て~」

 

「うす」

 

なぜ俺まで呼ばれたのかは分からないが仕方ないだろう。これで冷やかしだと言うことは無いと思う

 

「まずは箒ちゃんからね、と言いたいところだけどその前に言うことがあるよね?」

 

「何があるんですか?」

 

「何って、なー君に助けて貰ったことだよ。無人機がIS学園を襲った時に体を張って箒ちゃんを助けたなー君に何の一言も無いなんておかしいよね?」

 

今更謝られても困るという感じだ。既に終わったことでしかないというのが本音だ

 

「あれは七実が勝手にやったことです。ですので私は関係ありません」

 

「確かに一理あるけどさ、箒ちゃん。もしあのまま、なー君が庇ってくれなかったら死んでたんだよ?」

 

勝手にやったことでお前とお前に気絶させられていた2人を助けることになったのはもう覚えてないってか。こう言われるなら助けなきゃよかったか?いや、どうせその後に「なぜ助けなかった」とか「本当に助けられなかったのか」とか言われるんだろうな

 

「もう面倒なんでいいです。箒がこういう奴ってのは分かったんで」

 

「侮辱しているのか!」

 

「そんな気は無い。お前がどう思っていようがどうでもいい。謝る気が無いということだけは分かった」

 

箒は食って掛かろうとするが一夏によって止められる

 

「何をするんだ一夏!?」

 

「落ち着けって箒。七実の口車に乗せられてるぞ」

 

だからそういうわけじゃないんだがな。ただ本当の事を言ってるだけなんだがな

 

「なんで束さんが七実の事を気に入ったかは知りませんが、ここまで酷い奴は知りませんよ?」

 

「あはは、忠告ありがとうねいっ君・・・まだ誰にも教えてないの?」

 

視線だけこちらに向けて小声で言ってくる。現状で真実を伝えても何一つ信用してもらえないは分かってるだろうに

 

「言えると?」

 

「思わないね・・・さて箒ちゃんが謝る気が無いっていうんだったら私が謝るよ。ごめんなさい」

 

織斑先生に天災と言わせるほどの人物、篠ノ之束が綺麗なお辞儀と共に謝られた。姉だからという理由でされても姉は姉、本人ではないから意味がない。織斑先生は目を丸くして平謝りする篠ノ之束を見ていた。そんなに珍しいことなのか?

 

「俺はあなたに謝って欲しいんじゃないんです。なんで頭を上げてください」

 

「うん、やっぱりこういうのは慣れないや。お詫びって訳じゃないけど良い物あげるよ。へいカモン!」

 

リモコンのような何かを天に掲げスイッチを押すとコンテナが上空から振ってくる。いったいどんな技術なのかは知らないが、コンテナが開き中身が見えてくる

 

「じゃじゃ~ん!シールドビットだよ!名前はなんてつけよう?いまは遥か理想の〇(ロード・キャメロット)とか?」

 

「著作権侵害になるんで却下」

 

それならラウンドシールドにしろよ。てかそっち方面のネタを拾えんのな

 

「無くてもいいじゃないですか」

 

「命名権はなー君にあるから自由にね。それじゃあ後付装備(イコライザ)として付けるからISを展開して」

 

言われるがままISを展開して設置する。後に関しては篠ノ之束の方でやっておくということだが、手際を見るいい機会だと思い観察することにした。俺の後方から箒の声が聞こえるが無視安定だ

 

「ふんふふ~ん。見てて楽しい?」

 

「早くて見辛いがやってることを見とかないと、整備しなきゃならん時が大変なんで」

 

実際何をしているのかは全てでは無いが7割ぐらいは理解できているつもりだ。この際C言語でも覚えてみるのもありだと思った。作業開始から約15分が経過し、完成したらしい。セシリアのISみたいに無線型のビットでは無く有線型のビットらしい。だが10基と多く、春十の漢数字から踏襲したんだろうか?

 

「それじゃあ試験してみようか!」

 

「おい束、鏡野のISは「全部知ってるよちーちゃん」どういうことだ?」

 

「この束さんにはISで知らないことは無いんだよ!なー君のISがどういうものかも知ってるし、だからあのチョイスにしたんだからね」

 

全部知っての事だったのか。俺のIS<M.M.>がどういうものなのか知った上で、この選択は大きいはずだ

 

「お前・・・少し変わったな」

 

「なーんにも変わってないよ。だって、なー君のISってある意味じゃ第4世代機の理想形なんだし興味が出てさ。性能は2世代機となんら変わりないけど」

 

篠ノ之束の一言で周りで聞いていた専用機持ちは凍り付いてしまった。それもそのはず、現状では第3世代機のトライアル段階でしかないのだが、篠ノ之束の一言は大き過ぎた。第4世代機は装備の換装無しでの全領域・全局面展開運用能力の獲得・・・だったか?他人のISと同一になれて経験も吸収できるとか、ある意味では全領域・全局面がカバーできている。他にも条件があったはずだが忘れた

 

「どういうことですの篠ノ之博士!?」

 

「あ?うるさいよ金髪ドリル」

 

セシリアに冷たく当たる篠ノ之束だが、一夏の言う気に入るとかそういうことなんだろう。気に入らないなら排他的になる、と言う感じか?

 

「あー、束姉ちゃん。さっきのってどういう意味なの?」

 

「良くぞ聞いてくれたねマドちゃん!展開装甲無しでISの姿を変化できるし、余分な物が無く戦いなんて基本負ける()()がない。その分デメリットが大きすぎるけどね」

 

負ける訳がないではなく、はずがないという表現はこのISを正しく理解できている証拠だ。技術さえ経験さえ追いついていなくとも他力本願でどうにかできてしまうということ

 

「まさに第4世代機の理想形だよね。もはや存在そのものが戦術核兵器並みだよ。まだ束さんでもここまで作ることはできないかな」

 

「七実、あんたのISってどこ製作なのよ!」

 

鈴が質問を投げかけるがどこと言われると難しい。ISが変化した結果がこれということであるが、それを知っているのはこの場で俺と簪、そして織斑先生だ。篠ノ之束は流石に分からないと思うがどうなんだろうか?

 

「どこの製作でも無いんだな~これが。誰が作ったでもなくただそこにあって、正しく鏡野七実という人間にだけ反応して現れたISなんだよ。なんで柄にもなく解説してるんだろ?」

 

「ある意味で当たっているな。おい束、お前はこういうのは想定してたか?」

 

「いんや、してないから興味が湧いてるんだよ。ちーちゃん」

 

「ちーちゃんと言うな。これだけ説明しておくが鏡野のISはIS学園所有のコアが元となっている。近い将来で第4世代機が普及するやもしれんぞ」

 

その場合、このISが完全に解明されることになる。なんか人体解剖みたく聞こえるのは気のせいなんだろうか

 

「さーて試験するよ!それじゃあこれを防いでみて!」

 

無数のロケットがどこかしらから飛んでくるがシールドビットを自在に操り防ぐことが出来た。これでもし全方位だったら絶望しかねん量だぞ。某スマホゲーの宝具を彷彿させるのはやめろ、心身共に死ぬわ

 

「異常は無いみたいだね。これでおしまいだよ!」

 

「急にやられて非常にイラついてんだけど」

 

「許してヒヤシンス?」

 

いい加減マイペース過ぎませんかね?さすがに堪忍袋の緒が切れそうですよ、ストレスでブラックななみん降臨しかねんぞ。ISを量子化し待機状態へ戻し、地上へ降りる。鈴達が俺のISについて聞いてくるが、詳細ばかりは知らんのだ。後ろの方では箒が篠ノ之束に詰め寄って何か話しているがさっきの話の続きだろう。一夏は俺の事を恨めしそうに見ているがなんでかは知らん

 

「織斑先生!大変です!」

 

山田先生がタブレットを持って岩場を軽快に降りて走ってくる。織斑先生の元に到着するなりタブレットを手渡し確認しているが、徐々に顔が険しくなる織斑先生。またしても厄介事に巻き込まれるのだろうか。距離が空いていて何を話しているのかは聞き取れなかったが、途中からハンドサインに変わってしまった

 

「そ、それでは、私は生徒や他の先生方にも連絡してきます!」

 

「了解した。全員注目!現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日の稼働テストは中止。専用機持ちは私についてこい。念のため篠ノ之も来い」

 

『はい!』

 

今回も嫌な予感がする。箒を助けた時と同じぐらい嫌な予感がする。岩場を離れる時、ふと篠ノ之束を見たが腕を組み何かを考えているかのような仕草を取っていた。いったい何が待ち受けているのだろうか。場所は変わってモニターやらPCやらが壁際にびっしりと設置され、部屋の中央には巨大な空中投影ディスプレイが浮かんでいる部屋へと通された

 

「では現状の説明をする。2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型の軍用IS<銀の福音>(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

何を言ってるか分かりたくなかった事態である。関係の無い他国のISの暴走。しかも軍用ISという規格外の暴走であるふざけんのも大概にしてほしい。だが全員が全員厳つい表情になっている

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに行ってもらう」

 

たかだか一般人が多い現状でなんてことを企画するんだよ。むしろ教員が作戦の要になるべきなんじゃないですかね?

 

「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

 

俺は誰よりも先に真っ先に手を上げた。そうしなければならないような気がしたからだ

 

「なんだ鏡野」

 

「なんで俺たちに白羽の矢が立ったんですか?正直な話、専用機持ちだとしても役割が逆なんじゃないですか?」

 

「それは重々承知の上だ。私としても心苦しいが訓練機では相手にできない。だから専用機持ちであるお前たちに話が上がった」

 

理由としては妥当だと思う。別にこの案件から逃げようというわけでは無い。いや逃げたいけども。面倒事であろうとこれもやらなければいけない事なんだろう

 

「これは言っておくが命の危険を伴う任務でもある。今ここで離脱しても誰も責めはしない」

 

「うす」

 

「よろしいでしょうか?」

 

次に手を挙げたのはセシリアだった

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「分かった。ただし、これらは2か国の最重要軍事機密だ。けして口外にはするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる」

 

暴走させておいてこれって・・・国を守る為には重要な事なんだろうけど、俺たちに任せっぱなしで投げっぱなしでこの内容。ふざけてんのか、と言いたくなる。中央にある空中投影ディスプレイには、ISの名称や造形からスペックと何から何まで表示された。周りでは真剣な意見交換が繰り広げられるが個人的に気になっているのは、誰が乗っているかだ。データ上で無人機と表記されているがあまり信用ならない気がする。何せ暴走したのだから隠蔽とか考えられる。これも考えすぎなんだろうか?

 

「織斑先生、これって本当に信用していいんですか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「いや、俺のISだと少しでも間違っていた場合には支障をきたすので、ちゃんとした確証が欲しいんです」

 

「大丈夫だ。アメリカとイスラエルの研究所から直接送られてきた情報だ。そこに間違いは無い」

 

だからこその裏付けが欲しいところではあるんだが・・・間違いがあった場合はこのデータを元に賠償でも取ってやろうか?

 

「この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは1回が限度だろう」

 

一撃必殺(ワンショット・キル)と言えれば余計な事を考えなくて済む。ただそんなことをできるのは、専用機持ちでは誰1人としていない

 

「1回きりのチャンス・・・ということは一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

 

鈴は一夏の方を向いて言い放つが無茶苦茶な提案だ。俺は零落白夜というものがどういうものかは知らない。ただ一夏の技量や行動が不安を掻き立てる

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!俺が行くのか!?」

 

「あたしが知ってる中では一夏、あんたが一番攻撃力が高いのよ」

 

「織斑、先ほども言ったがこれは訓練ではない、実戦だ。覚悟が無いなら無理強いはしない」

 

「やります。俺が、やってみせます」

 

口だけなら簡単だが、現実は言っただけでどうにかなるもんじゃない。同じ第3世代機であろうと相手は軍用ISだ。タイマンで勝てるような相手じゃない

 

「よし。それでは作戦の具体的内容へと入る。現在、専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

「それでしたら、わたくしの<ブルー・ティアーズ>が。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「20時間です」

 

「ならば適任か」

 

「一応もっと適任なのがいるよ、ちーちゃん!」

 

この部屋と廊下の仕切りとなっている襖を大きな音をたてながら開かれた。そこには篠ノ之束がいた

 

「おい束、勝手に入ってくるな。部外者はこの作戦に参加は認められない」

 

「まぁまぁ、聞くだけ聞いてってば~」

 

「・・・いいだろう。聞くだけは聞いてやる」

 

「束さんが作ったISがあるんだけどそれだったら普通に追いつけるよ。第3世代機なんて既に通過して第4世代機が完成してるんだよ!」

 

どこの国でもISは第3世代機のトライアル段階だというのにただ1人、1つ上の段階に進んでいるという事実。さすがと言うべきなのか。天才と馬鹿は紙一重と言うが天災は馬鹿とはかけ離れ過ぎている。そのせいか周りが霞んで見えるのだろう。織斑先生も呆れて何も言えなかった

 

「元々は箒ちゃんにあげるつもりだったんだけど・・・箒ちゃんほしい?」

 

「欲しいです」

 

「いいよー。でもその前に、言うことあるよね?」

 

「そこまでお膳立てされてもしないって思う程度の事なんで、されても困る。個人的にはさっさと終わらせたいので渡してもらえると俺もみんなも大助かりなんですよ」

 

さっきの繰り返しになるだろうからちゃっちゃとこんな状況から別れを告げたい。本当は部外者だから頼ってはいけないんだろうけど

 

「おい七実!そんな言い方無いだろ!」

 

「あ?謝る気があるんだったらここに来る前にでも謝れただろう。だが来ようともせず何も言わずの箒の方が悪いんじゃねぇのか?それに今は緊急時なんだ。状況を考えて冷静に、効率良く、何が必要なのか考えろ」

 

「落ち着け2人とも。今回の場合、鏡野が正しい。それよりも束、私からもお願いできないか?」

 

「そこまで言われちゃ仕方ないね!箒ちゃん外で初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)済ませちゃうよ!」

 

「その前にちょっといいですか篠ノ之束さん」

 

部屋を出て行こうとする篠ノ之束に待ったをかけて聞いておきたいことを聞いておく

 

「何かな、なー君?」

 

「一旦、全ISコアの停止ってできないんですか?」

 

これさえできてしまえば、俺たちが<銀の福音(シルバリオ・ゴスぺル)>を撃退しに行く必要なんて無くなる。周りも倒すことに躍起になってただ1つの簡単な案を見逃し、はっとした表情になる

 

「出来ないことはないけど、そのための準備とか装置が無いから無理だよ」

 

「あともう1つ。今回の事ってあなたが仕組んだことじゃないですよね?」

 

「束さんはね、ISの事は自分の子供みたいに思ってるの。だからこれだけは言える()()()()()()束さんのあずかり知らぬところだよ」

 

今回の事件では何もしていないということだが、裏を返せば今回以外の事件では関与しているということでもあるが・・・それは今追及するものでは無い

 

「それとねちーちゃん、この作戦になー君を入れた方が確実性が増すよ」

 

最後にとんでもない地雷を仕掛けてこの部屋から出ていきやがった

 

「・・・では今回の作戦で出動してもらうのは織斑兄、篠ノ之、鏡野の3人による目標の追跡及び撃墜を目標とする。作戦開始は30分後とする。念のため他の専用機持ちは各自準備をするように」

 

本当にただ1回の戦闘で終わればいいんだけどな。作戦の内容を頭にインプットしこの部屋を早急に出ることにした。少しでも作戦に影響を出さないように外でリラックスすることにした

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

リアル事情(就活)とバイトで時間が取れなかったというのと今回の話が納得がいかず遅れてしまいました

それとちょっとしたななみんのIS強化です



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罅割れ、

 

 

俺は外に出て適当なベンチに座ってゆっくりとしている。少しでも落ち着いていないとやってられないからだ。あんな銀の福音(キチガイスペック)を相手にしなきゃならないのは俺達の仕事じゃないような気がする。下世話な話、俺達に投げっぱなしという暴挙に対して無償というわけ無いよな?

 

「こんな危険な作戦がタダってのは・・・さすがに無いよな?」

 

「何言ってるの・・・七実?」

 

1人で寛いでいると隣に簪が旅館の中からやってきて距離はあるものの同じベンチに座る

 

「簪か、いやこんな無茶苦茶な作戦だし多少なりと報酬はあるのかなと考えていたところだ」

 

「作戦前になんてことを・・・出たとしても学園側に回るんじゃない?」

 

「・・・タダ働きってか」

 

嫌すぎる条件だな。篠ノ之束から貰ったシールドビットがどれ程活躍できるのか、それと銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)との対峙がどれ程大変な物かは想像できるが味方が不安でしかない

 

「七実、怪我してでもいい。必ず帰ってきて」

 

「当たり前だ。死んだら元も子も無い」

 

「前科あるんだよ?・・・私達も作戦が成功することを祈ってるから」

 

「助かる」

 

こうして心配してくれるとはな。なんだか慣れないな

 

「その・・・なんだ、心配してくれてありがとな」

 

「ふふふ、七実、顔赤いよ」

 

「そうか?」

 

自分の顔を触るがいつもより少し熱く感じた。なんでこうなってるんだ?

 

「緊張でもしてんのかね?」

 

「そっちなんだ・・・でも絶対ここに帰ってきて」

 

「・・・ああ」

 

不安が残る中、俺は作戦開始場所である砂浜の奥にある岩場に向かうことにした。嫌な予感は今尚続いている。何が原因でそうなっているかは、正直な所いろんなことが思い浮かぶ。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のキチガイじみたスペック、情報の真偽・・・いやこれは一旦は信用しておこう。そしてチーム編成と不安になるところが多すぎる。足を進めていくと目的地に到着した。既に一夏と箒は到着していて何かを話しているようだった。何を話しているかまでは聞こえないが表情や仕草を見ている分には楽し気に見えた

 

「ふん、遅いな七実」

 

「まだ時間じゃない。少しぐらいはゆっくりさせろ」

 

これから命の取り合いが始まるというのにお前らはどうしてそんなにも笑えるのだろうか俺にはさっぱり分からない。あと5分で作戦開始ということでここにいる全員がISを展開する。箒は赤い機体で腰に左右1本ずつに刀が装着されていた。機体名は・・・<赤椿>か

 

『織斑兄、篠ノ之、鏡野聞こえるか?』

 

ISの一般開放回線(オープン・チャネル)から織斑先生の声が聞こえる

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間の決着を心掛けろ』

 

「了解」

 

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『そうだ。鏡野も同じだ。だが、無理だけは絶対にするな。特に篠ノ之はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。何かしらの問題が出るとも限らない』

 

今回は一夏を死守しなければならないが、俺の取れる行動は移動後に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を写し取って戦闘を一手に引き受ける際に一夏や箒が打ち倒せばいい

 

『鏡野』

 

「なんですか?」

 

今度は一般開放回線(オープン・チャネル)ではなく個人間秘匿回線(プライベート・チャネル)で織斑先生の声が届く

 

『先に謝っておく。お前に押しつけたように感じただろ?』

 

「必要な事だったんですよね。それなら気にしないです」

 

『ああ・・・それとだ。どうも篠ノ之が浮かれている。あれでは仕損じるやもしれん』

 

「サポートしろってことですね・・・はぁ、やれるだけやってみますよ。こういうのは一夏の方が適任だと思うんですがね」

 

一方的に言うだけ言って個人間秘匿回線(プライベート・チャネル)を切って、作戦の為の足を整えることにした。そう、<赤椿>を写し取ることだ

 

「機体名<赤椿>、搭乗者篠ノ之箒。起動しろMirror is mine(鏡は私の物)

 

俺のISは金色の光を発して、形状が変化する。寸分違わず全てが一緒になるが有線のシールドビットは健在だ。それを見た箒は俺の事を気に食わないと感じ、表情は怒っているように見えた。そして作戦開始時刻となり箒は一夏を背に乗せ飛翔した。俺も続くように後方を飛翔した。あってはいけない保険の為に、あってはいけない事態の為にラウラに個人間秘匿回線(プライベート・チャネル)を試みた

 

「ラウラ聞こえるか?」

 

『聞こえるぞ。今は指令室にいるがどうした?』

 

「保険だ、できればでいいが・・・簪とシャルロットを頼む」

 

『冗談は止せ相棒。その言い方だと死ぬのが分かっているように聞こえるぞ?』

 

ある意味、それに近しいのは分かるだろう。だが、俺とて死ぬつもりは無いがちょっとした事故が連鎖的に反応して不幸に繋がる、なんてことにならないといい。ただそれを言っているに過ぎない

 

「そんなつもりは無い。さっきから嫌な予感が止まらない、それもとびっきりの奴がだ」

 

『・・・必ず生きて戻って来い。相棒の死ぬところなんて見たくない』

 

軍人がそんな事を言ってて大丈夫なのか?と言いそうになったがここは抑える

 

「分かっている。どんな状態になろうとも帰ってくるつもりだ。では行ってくる」

 

ラウラとの通信も切り、作戦へと気持ちを切り替える。衛星とのリンクを確立させ、目標の現在地及び距離を確認するがそろそろ接触するようだ

 

「加速するぞ!目標に接触するのは10秒後だ。一夏、集中しろ!」

 

「ああ!」

 

センサー越しだが徐々に接近するのが分かる。機体名通りに銀色で天使を彷彿させるかのような翼型のスラスターで全身装甲(フルスキン)のIS。ただ見ている分には惚れ惚れするISだと思うが今回は敵でしかない。一夏のISの武器である「雪片弐型」に光を纏わせ間合いを一気に詰める。光の刃が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に触れようかという瞬間、最高速度を維持したまま反転し、後退の姿となり身構えた

 

「失敗か・・・機体名銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)、搭乗者無し。起動しろMirror is mine(鏡は私の物)!」

 

本日2度目の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の使用。距離は多少あるものの今は一夏達の方にヘイトが溜まっているようで注目は俺に向いていない。ISの形状が変化していく。これで多少はやりやすくなるだろう

 

「敵機確認。迎撃モードへ移行。≪銀の鐘(シルバー・ベル)≫、稼働開始」

 

一般開放回線(オープン・チャネル)から聞こえたのは抑揚の無い機械音声だった。しかし完全に敵意を感じさせていた。体を1回転させ幾度となく一夏と箒の攻撃を回避していた。片や一撃必殺の剣、片やビームやら斬撃を飛ばしているというのに当たる気配は一切感じられない。俺と銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はほぼ同タイミングで翼を広げ、光の弾丸を射出し相殺していく。だが様子がおかしい。同じ機体、同じスペックだというのに()()()()()()()が出ているように感じる。相殺し爆発が起き誘発するように何発も破壊されているだろう。こちら側の光の弾丸が完全に消えているというのになぜか相手側の光の弾丸が俺たちに降り注いでいる

 

(全てが同じというのにどうして差が出る。本来であれば量や質は全て同じだ。こんなの始めてだぞ!?)

 

移動や回避、攻撃から何もかもしていて手は空いていないが念のためスペックの確認をした。そしたらまさかの結果だった。旅館の一室で見たスペックから、だいたい半減している。どうやら情報のどこかが間違っていたらしい

 

「一夏!私が動きを止める!!」

 

「分かった!」

 

二手に別れそれぞれで攻撃を行っている一夏と箒だが、数に物を言わせた戦い方で少しづつ押していた。そこで一夏が上空へ駆け上がり、一気に急下降して銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に一太刀浴びせる・・・はずだった。一夏はそのまま銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を通り過ぎ、海に向かっていった光の弾丸を破壊した

 

「何をしている!?折角のチャンスに!?」

 

「船がいるんだ!ここら辺、一帯は封鎖されてるはずなのに。ああくそっ、密漁船が!」

 

その台詞はこちらの台詞だ。何が密漁船だ?封鎖されていないならそれは教師陣の責任だ。俺らの知る由じゃない。それよりも面倒なのはあの2人が攻撃の手を止めて会話し始めたことだ。こんな戦場のど真ん中で棒立ちとか正気の沙汰とは思えない

 

「馬鹿者!犯罪者などを庇って・・・そんな奴らは!」

 

「箒!!箒、そんな・・・寂しいことを言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて・・・どうしたんだよ、箒らしくない。全然らしくないぜ?」

 

良い風に語ってるがそんなことをしてるなら戦ってくれませんかね?戦闘における全てを俺に投げて話してんだろ。さすがにしんどいという他ないだろう。そこで最悪な事態が発生する。こちらに来ていた攻撃が全て一夏達の方へ向かってしまった。動き出すまでにどれ程の時間が掛かるだろう。まだ動き出していないあいつらの為にこのシールドビットを使うのは勿体無いように思えるが仕方ない。死ぬよりかは、何かが壊れるだけで済むならこれでいいだろう。呑気に会話している2人をシールドビットを使い巧みに光の弾丸から防ぐが量が多く、完全には防ぎきれない。その分は回避はするが被弾もした

 

「がぁ!」

 

1発貰っただけでも異常なほどに熱を感じ、全身を焼き尽くすかのような錯覚に捉われる。視界も白く霞んでしまった。指先には血溜まりでもできているかのようにも感じる。今までとは違く肉が焼ける匂いさえも感じてしまった

 

「七実!?」

 

「話してる暇があるんだったら・・・戦えよ!・・・あれを倒した後ならいくらでも話せるだろ!」

 

ようやく動き出した一夏と箒は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)へと向かっていった・・・1発で済んでいたらどれだけよかっただろうか。あの2人の為にただでさえ少ないSEを犠牲にしてまでやったことに意味があったと思いたい。両手に違和感を抱き、センサーのおかげでどんな状況かは確認できるがまともに瞼は開かない。自分がどんな状況かも分からない状態だ。確実に帰ったら簪に怒られるだろうな。でも仕方ないと思いたい

 

「後は・・・頼むぞ」

 

どんどんと遠ざかる意識の中で最後に見たのは「雪片弐型」を光らせ銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に当たる瞬間だった

 

 

 

ラウラサイド

 

指令室からは衛星から経由して空中投影ディスプレイでの戦闘映像を確認している。教官の弟は2度もチャンスを潰し、篠ノ之博士の妹と会話しているのを見て呆れていた。周囲を見渡すも簪やシャルロットは当然のことながら、教官の妹である織斑円華や中国代表候補生の凰鈴音、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットでさえ唖然としていた

 

「何してんのよ一夏!?」

 

「あの馬鹿者・・・今のはチャンスだったろうに」

 

「待って、ちーね、じゃなくて織斑先生。海に船が!」

 

「なんだと?あそこは封鎖しているはずだが。伝達、あのエリアで警備に当たっている奴に確認を取れ!」

 

1人の教員が通信を始めるが一向に返事が返ってこない。何者かにやられたか、裏切りの可能性があるかもしれんな。ただここで見守るだけというのは歯痒い

 

「七実・・・」

 

「大丈夫だよ簪。帰ってくるって約束したんでしょ?」

 

「うん・・・でもここに至るまでの事を思い出すと・・・嫌な予感が、ね」

 

私の事もあるだろう。だがその前にも何かしらあったんだろう

 

「簪、相棒は帰ってくると誓ったんだろう?だったら私達は信じて、帰ってきたら暖かく迎えてやればいい」

 

「ラウラは強いね」

 

「私とて相棒に助けて貰った身だ。そう思っているならあいつのおかげだ」

 

VTSの時に助けて貰わねばどうなっていたかなんて想像もしたくない。相棒には助けて貰ったからにはこれくらいの事はしなければならん。ディスプレイに視線を戻すと何やら相棒があの2人を篠ノ之博士から頂いたシールドビットを使って庇っている様子。ただ物量で押されシールドビットで何発か貰っている。相棒のISの特性上、1回でも攻撃を受けた場合、人体へダメージが入ってしまう

 

「なんとか持ちこたえてくれ・・・」

 

掌に汗を感じながら見ているがどうやら凌ぎきったようだ。だが様子がおかしい。その場から支援することも無く微動だにしない。激痛と戦っているのだろうか。しかし、戦局的には振り出しという感じだ。篠ノ之博士の妹の力を借り、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にとどめを刺したそんな時だった

 

「七実!」

 

簪の一声でディスプレイに映し出された七実に注目が集まる。そこには重力に従って自由落下を始めている相棒の姿がそこにあった。先ほどの攻撃で気をやったのだろう。そう信じたい。大きな水柱が上がると今度は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)も相棒と同じく自由落下していく。一旦水柱が収まるが海の色が徐々に変わっていった。青から赤黒い色に変化したのだ。オイルとかそういうのではなく単純に赤黒いのだ

 

「嘘だよね・・・七実。帰ってくるって約束、したよね・・・なんで、なんで!!」

 

簪の悲痛な叫びに誰も反応は返せなかった。泣きじゃくる簪を見ていることしかできなかった

 

「織斑兄に篠ノ之、聞こえるか」

 

ただ1人、教官はこの現実を受け止め冷静に通信を行っていた。相棒の回収を命じていた。あの出血量では早く治療しなければ命の危機となりかねん。こんな中、私ができることは簪の傍にいてやることだけだ

 

「織斑先生、異常発生です!海中から熱源発生、これはISです!」

 

1人の教員から告げられた言葉はある種、希望のように感じた。しかし、そんな希望はいとも簡単に打ち砕かれた。海中から出てきたのはシールドビットの無い銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)。つまり相棒ではなかった。さらに銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の形状が変化していたのだ鋼鉄の翼からエネルギーの翼へと変化していた

 

二次移行(セカンドシフト)!?」

 

世界でも稀有なケースの出来事。()()()の稼働時間と戦闘経験が蓄積されることで起きる、世代を1つ繰り上げてISが強化される現象を目の当たりにした

 

「織斑兄、篠ノ之!作戦は中止だ!引き上げろ!」

 

教官の声は届いていたはずだが戦闘は開始されてしまった。そこからは早かった。<白式>は為すすべもなく堕ち、篠ノ之箒は敵前逃亡を余儀なくされた。より正確に言ってしまえば織斑一夏に逃がされたのだ。作戦は異例の事態が起きた上の失敗。それにより全体の士気が落ちてしまった。だがここで終わる私ではない。許可をもらい、簪を一旦落ち着かせるために部屋の外へ連れ出し、私は私で出来る行動を取ることにした

 

「よくも相棒をやってくれたな銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)。ただでは済まさんぞ」

 

今はただ1人で策を練ることしかできないが相棒の仇を取る為、静かに闘志を燃やし続けることにした

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

なんか若干ダイジェストっぽいところが出てしまいました。あと3話ぐらいで臨海学校編は終了となります

活動報告の方もご自由にアンケートを書いてもいいんですよ?(チラッチラッ)


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それぞれ思うもの、悪意の原因

七実不在の為、ラウラサイドスタートです

それと原作から少しずつ離れてしまいます・・・タグも追加しておきます


 

相棒と織斑一夏が撃墜され、私達は1つの空き部屋へと入れられた。あの後銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は陸地に上がることなく、まるで死肉が浮かび上がるのを待ち望んでいるかのようにその場で円を描くように徘徊していた。不可解すぎる行動のせいで救助班も出動させることができないそうだ。簪は茫然自失で微動だにしない。私やシャルロットの呼びかけにも答えず、まるで人形のようになってしまった。相棒とは長い付き合いで仲も良好、そして互いに助け支えてきた仲というのは知っていた。だからこそのこの有様である。それと同じくもう1人同じような状況に陥っている。それは先ほどの戦いから戻ってきた篠ノ之箒だ

 

「…………」

 

あの惨劇を目の当たりにしてああなってしまったのだろう。だが、忘れてはならない。呑気に織斑一夏と対面で何かをしている時に相棒が庇っていたことを。そのせいで相棒の海に堕ち、血が流れてしまったことを。たられば、なんていくらでも言える。今重要なのは一刻でも早く救助へ行きたいところだ

 

(何かいい手は無いだろうか・・・位置も分からなければ虱潰しに探さねばならない。だがそんなに悠長なことは言ってられん。どうしたものか)

 

「ああ、もうじれったい!あんたたちそんなに落ち込んでて申し訳ないとか思わないわけ!?一夏と七実がやられて、あたしたちはただ黙っているだけなの!?そんなのおかしいでしょ!」

 

これからどうしようかと考えていたところに鈴音の一声が響き渡る。その声は鶴の一声に感じた。どんなに呼びかけても反応を示さなかった簪さえ鈴音の方を見たのだから

 

「あそこにはあの2人が救助を待っているのよ!?」

 

「待て鈴音、私も相棒を助けに行きたいのは山々だ」

 

こう言っては簪に失礼かもしれんが織斑一夏は知らんが相棒は大量の血を流し海へと落ちていった。その事実だけは変えようのないことだ。ISには生命維持装置があるとしても生かされているだけでしかない。機体にはどこかしら損傷し穴ができてしまったから血が出ているから海に出てしまったのだ

 

「私だって必死に考えている!一刻も早く相棒を助けねば生命の危機に陥ってしまうかもしれんのだ!」

 

「だったら行くわよラウラ・・・って言いたいところなんだけど、位置情報が分からないのよね」

 

一番の問題はそこである。助けに行こうとも場所が分からないのだ。相棒は衛星からのリンクがあったから行けたものの現在は使用不可能だ

 

「待てよ・・・そこにいる篠ノ之箒のISからバックログを引き出せば銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の元まで行けるのではないか?」

 

「それだと1度ISを展開しなきゃいけないからすぐにバレるわ」

 

「ちょっと待ってよ鈴にラウラ。本当に一兄さんと七実を助けに行くつもりなの!?」

 

2人で作戦を練っているところに織斑円華が割り込んでくる

 

「あたしはそのつもりよ」

 

「鈴音と同じく」

 

「2人とも怖くないの?一兄さんみたいにやられちゃうかもしれないし、七実みたいに血を流すかもしれないんだよ!」

 

怖いかどうかと問われたら、それは怖いに決まっている。だが命令違反をしてまで相棒を助けに行くか、現状を維持して打開策が見つかるまで待機しなきゃいけないのであれば、軍人としてはいけないが前者を取るつもりだ

 

「私は1度相棒に助けられた。ならば次は私が相棒を助ける番だ」

 

「・・・そうだねラウラ。僕も行かせてもらえないかな」

 

質は完全に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に軍配が上がる。だが量では微妙なところだ。量に対抗できるのは量でしかない。あの光弾は人数の分だけ分散できる。シャルロットも作戦に参加してくれるのはありがたい

 

「わたくしも行きますわ。罪滅ぼしと言えば聞こえは悪いでしょうが、わたくし自身も七実さんにはお世話になりましたのでそのお返しと行きますわ」

 

「私も行く・・・七実の仇を取る」

 

「シャルロットにセシリア、簪まで・・・ちー姉ちゃんのお説教も怖いけど、何よりも家族を失う方がもっと嫌だな・・・よし決めた!私も行くよ!」

 

これで戦力は6人、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を相手には十分とは言えないかもしれないがある程度の戦いにはなるだろう

 

「箒、あんたは行くの、行かないの?」

 

「私は・・・もうあれと戦うのは怖い」

 

一種のトラウマと化しているのだろう。1人、2人と堕とされ逃がされこそしたがその光景は凄まじかっただろう。もし、その場に私がいたならこいつと同じようにトラウマを植え付けられていたかもしれん。毎年のように誰かとの別れがある軍でも、相棒の撃墜は堪えた

 

「そう、ならそこでジッとしてなさい。私達で一夏と七実を助けに行くわ」

 

ただ1つ疑問に思うのはなぜ相棒のISで敗北したのかだ。相手と同等になれるのであれば負けるはずがない。何か見落としでもあったのだろうか

 

「みんな、1つ疑問に思ったことがあるんだがいいか?」

 

「どうしましたのラウラさん?」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)二次移行(セカンドシフト)したのは覚えているか?」

 

「してたね・・・」

 

「なぜ銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)二次移行(セカンドシフト)できたんだろうか。今までも二次移行(セカンドシフト)をした人はいたと思うが、長期の稼働時間と経験がものを言うはずだ。ならばどうして試験段階の銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)二次移行(セカンドシフト)に至ったのだろうか?」

 

考えたくもないことだが報告ではあれは無人機だということだ。だが相棒のISが姿を写し取る時、機体名と搭乗者を宣言していたのは覚えている。あれに意味があるとしたら間違えてはならないはず。ならば報告の通りで行ったというのであれば間違いが起きてしまったのだろう。その間違いは報告の中にあるということ

 

「何の話よ?」

 

「いや、仮説に過ぎないが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は有人機なのではないかということだ」

 

「ありえないってラウラ。報告で上がってた情報だと無人機なんだよ?それにあの中に人がいるっていうのにどうして暴走してるのさ?」

 

「そこは分からない。ただ私はあの中に誰かしら人がいるんだと思う」

 

でなければ相棒が撃墜されるわけがない。いやあの時は足を引っ張られたから撃墜されたようなものか。しかし、撃墜とまではいかずとも負傷だけで済んだかもしれない。それを考慮しても篠ノ之箒は戦力に含めない方が戦いやすいだろう

 

「だとしてもあたしたちがやらなきゃいけない事は変わらないんでしょ?だったらさっさと行くわよ!」

 

「待て鈴音、1つだけ頼りの綱となるかもしれんところがある。もし上手くいけば銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の位置を特定できるやもしれん」

 

「当てがあるんだ」

 

バレてしまったら軍法会議に掛けられるかも知れんが、リスクは承知の上だ。あの時に助けて貰った命、ここで使わねば何に使うのだ。

 

「暫し待っていろ。連絡を取ってみる」

 

そう言ってみんなから距離を置いて通信をすることにした。相手はシュヴァルツェ・ハーゼの副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフへと通信を掛けることにした

 

『どうしましたか隊長。今は臨海学校ですし楽しんでいますか?』

 

「本来だったらそうなんだろうが今は違う。クラリッサ、我が国の衛星を使用は可能か?」

 

『申請してみないと分かりません。なぜ衛星を?』

 

「すまない、内容は言えないが緊急時なんだ。できるだけ早急に頼む」

 

『分かりました。許可が下り次第、再度連絡いたします』

 

通信を終了し後は待つだけとなった。どうか申請が通ってくれれば銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の位置が判明し、相棒の敵討ちができるようになる

 

「どうだったのラウラ?」

 

「申請待ちだ、これが通ればいつでも出撃可能だ。それまで時間が掛かると思うから各自睡眠をとるなり、ISのパッケージの取り付けやして万全の状態で出撃できるようにしておいてくれ」

 

念のためということもあるが最後の確認ということもある、戦闘中に眠気がきて支障をきたしてもいけない。だからここが本当の意味での戦闘前の時間だ

 

「私は作戦を考えておく。くれぐれも教官、いや教員に悟られないようにな」

 

「うん・・・七実待ってて・・・もうすぐ助けに行くから」

 

簪の目には光が見えずとも闘志が燃えているように感じる。簪の為にもどうか死んでくれるなよ相棒

 

 

 

 

簪サイド

 

もうあれからどれだけ経っただろう。ラウラは少しでも寝て待って欲しいと言っていたがそんな気分にはなれない。早く七実を助けたい一心で今を乗り切ってるような感じだし、もしこれ以上の事が起きたら・・・私どうなっちゃうんだろ?日も完全に落ちて時間も3時を回った頃だっただろうか

 

「助かったクラリッサ。ではな」

 

みんなが睡眠を取っているところでラウラはただ1人で作戦を考案していた。最初こそはみんなで考えてはいたが案が無くなってしまい、最終的にはラウラに頼る形になってしまった

 

「これで準備万端だな。簪、みんなを起こすぞ」

 

「わかった」

 

寝ているみんなを叩き起こす。鈴なんか、寝相が悪いらしくシャルロットだったり箒を蹴って寝ていた

 

「あ~、よく寝たわ」

 

「り~ん~、結構蹴られたんだけど」

 

「雑魚寝してたらそういうこともあるわよ。起こされたってことは許可が下りたの?」

 

「ああ、これでいついつでも出撃が可能だ。相棒を助けに行くことができる」

 

あれからどれくらい待ちわびた瞬間だろう。これで敵討ちができる

 

「これが最後の忠告だ。この戦いから降りるのであればここだ。最悪の場合、相棒や織斑一夏のように撃墜され重傷を負うか死に至るかもしれん。篠ノ之箒みたくトラウマを負うかもしれん。それでも行くか?」

 

「そんなの分かってるわよ。それでどういう風にやるのよ」

 

「みんなも大丈夫か?頭を冷やす意味もいれて睡眠を取ってもらったつもりだが」

 

そういう意味の休息だったんだ。でも誰一人として首を横には振らなかった。覚悟は決めている

 

「そうか、ならば作戦の手順として私とセシリアで先制で狙撃をする。その後、他の者はそれを合図に牽制を入れながら包囲する。間違っても接近だけはやめろ。あくまでも遠距離中距離での攻撃を心掛けるように」

 

「ならあっちから近付いてきたら?」

 

「その時は何が何でも逃げろ。今回の作戦の要は数だ。あちらも数で攻撃してくるが分散させてしまえば対処しやすい。現地に着いたら再度内容の説明を行う、いいな?」

 

「早く行かないと助かるものも助からなくなるからね。見つかる前に行こうか」

 

私達は廊下から出る事はなく部屋の窓から外に出ることにした。もしここで見つかってしまうと破綻してしまうがそんな事は無かった。無事、七実を含めた3人が出撃したと思われる岩場まで移動しISを展開する。七実と一緒に完成させたこのISに乗って敵討ちへ向かう。もうすぐ助けに行くから!

 

 

 

???サイド

 

あの忌々しい男性IS操縦者は堕とされ、死に目に遭ったことだろう。死んでくれれば最高だ。実は生きてましたなんてことにはならないためにあれからずっと海上を徘徊させている。念には念を入れて海から出てきたところをブチ殺してもらわなくちゃね。私達がどれくらいの資金を回して、人材を派遣させて、この日を成就させるためにどれだけ苦労したことか

 

「なんでニヤニヤしていらっしゃるのでしょうか?」

 

「あらそう?不快だったかしら」

 

「そういうわけではございません。いつもの風景をご覧になっていたのですか?」

 

「いつものよりも刺激的な物をね、貴女も見てみなさい」

 

映像の映し出されているPCを私の秘書に見せる。海上には薄まっているけど汚い血と剥がれたISの装甲の破片や織斑千冬の弟の唯一の武器の『雪片弐型』も浮かんでいる

 

「これはこれは」

 

「軍用ISなんかの相手になるわけじゃあるまいし。ね、スコール?」

 

対面のソファには今回の事の協力者でもある亡国機業(ファントムタスク)の幹部。長身で豊かで美しい金髪とバストを併せ持った、セレブ然とした抜群の美貌を誇る彼女はぜひ私のところに欲しいわね

 

「そうね。()()をしたから今回は普通に負けるはずよね?」

 

「毎回助かるわ。ところでそろそろ私のところに来てもいいんじゃないかしら?」

 

「私達は仕事関係だけよ。それにあの子のISも頂けるっていうから乗っかった話でもあるのよ?」

 

「つまらないわね・・・」

 

「そろそろ移動のお時間です()()。それではまたいつの日か」

 

この手の職のトップも時間が取れなくて面倒ね。元大手のIS企業を吸収して更に仕事が増えた感じだけど、これも理想郷の為の布石。今は苦労しても5年後10年後には完全に私達が支配する世界へと変わるわ。その為の犠牲ならば多少は許されるわよ。例えば神聖なISを穢す男性IS操縦者なんてね

 




今回もお読みいただきありがとうございます

今日は就活のセミナー、明日は大学が始まる・・・鬱ですわ

FGOとSS書いて寝たい人生だった


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現れるもう1人と本当

 

 

深淵とはなんだろうか。暗くて何も見えないし、寒くて身体が動かないという感じだろうか。俺が落ちた後、どうなったかは知らないが撃墜できたんだろう。というかしてもらわないと困る。あれだけ余裕に感じて話していたんだからやれたはずだ。そもそも俺が落ちたのだって無防備にしていたのが原因だ。今、俺の身体がどんな状況かなんて分からない。もしかしたら今こうして考えていることも死後の世界での話かもしれない

 

『そんなはずないじゃない。()はちゃんと生きてるし()もこうして生きてる。正確に言うのであればISの生命維持装置で何とかなってるって感じかな。出血量は多いし、海水が傷口に当たって凄く痛いし』

 

どこかで聞いたことのあるような無いような声が聞こえる。ただ瞼が重くて開かないので姿は見えない

 

「何言ってんだ?」

 

『現状の報告だよ。まぁ、痛みは本来共有されるけど今は肩代わりしてるって感じ。上には二次移行(セカンドシフト)した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)もいるから救助も出せないし来れない。いやもう来てるだったか』

 

少しずつぼんやりとしてくる思考はただ言葉として受け止めてはいるものの内容までは完全に把握してくれなかった

 

「そうか」

 

『素っ気ないね。あぁ、そういうことか。意識はあるけどぼんやりしてるんだったね。()の身体を少し借りてやらなきゃいけない事をやらせてもらうとして・・・ねぇ()、君はこれからどうしていきたいんだい?一夏や円華、千冬姉さんとの関係もそうだし簪や本音に刀奈、更にはシャルロットからの好意。わかってるんでしょ?』

 

「あー・・・悪い。何言ってんのか聞こえなくなってきたわ」

 

『あらら、仕方ないね。積もり積もるストレスはどうしようも無かったし、福音も外部からの影響でどうしようも無かった。()がどうして庇ったのかは詮索はしないけど、あれは自業自得と言えるんじゃないかな?あんなところで話している方が悪いっての。()と違って()って生易しいんだから。一度分からせてやった方が身のため・・・って、この話も碌に聞こえちゃいないんだっけか?』

 

俺には何をしゃべってるのかは分からない。ノイズや雑音にしか聞こえない

 

『仕方ないね、少し疲れたろう?だったら眠るといいよ』

 

なぜだろう、急に眠気が襲ってきた。寒いところで寝ると死ぬって言うがまさにそんな感じなんだろう。このまま死んでいくのか。あいつらに礼の1つもしてやれないまま

 

『その間、身体を借りるけどさ』

 

不吉な言葉は聞こえず、そのまま何もかもが沈んでいく錯覚にさせられやがて、何も聞こえなくなり感じなくなった

 

『でもその前にやることがあるね。さてちょっかいでも掛けに行きますか』

 

 

 

一夏サイド

 

俺は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦っていたはずなのにいつの間にか水平線上がはっきりと見えるビーチのようなところに立っていた。どことなく足を進めると白い髪で白いワンピースを着ている少女が歪なソファに座っていた

 

「えっと・・・君、ここがどこだかわかる?」

 

「ここはISの深層世界、ISの操縦者が来るべき時に問答をしてその人を試す場所」

 

「試すって・・・何を試すんだよ?」

 

「力を欲しますか?」

 

試すっていうから何かと戦うのかと思ったけどそう言うことじゃないのか。いや、問答って言ってたしそういうのは無いか

 

「んー・・・難しいことを聞くなぁ。でも友達を、いや仲間を守る為かな」

 

「仲間を・・・」

 

「世の中って結構色々戦わなきゃいけないだろ?単純な腕力だけじゃなくて、色んなことでさ。そう言う時に、ほら、不条理なことってあるだろ。道理の無い暴力って結構多いぜ。そういうのから、できるだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う、仲間を」

 

『織斑一夏、君が一番言っちゃあいけない台詞ナンバーワンのものが聞けて片腹痛いよ!』

 

俺の後方から聞いたことのある声が聞こえてくる。七実の声だ。あの時、俺と箒を庇って堕ちたあいつの声だ。ただ少し違和感を感じる。柔らかく暖かいそんな声だった。俺は後ろを振り返るとそこには大きな布を適当に服にしたようなものを着ていた

 

「どういう意味だよ!」

 

『意味も何も無く、純然たる事実だよ?不条理?道理の無い暴力?それは君がしてきたことなんじゃないかな。()には関係ない話だけど()に対して殴ったくせにシャルロットちゃんに何もしなかったり、戦っている最中に箒ちゃんと呑気に話したりして・・・どうして()が庇ったのか分からないよ』

 

「分からないって・・・お前こそ何も感じなかったのかよ!?」

 

『あくまで()の話であって()の話じゃないからね?そこだけは取り違えないように』

 

さっきから七実の一人称が異様なまでに崩壊している。俺が知っているのだと俺で統一してたはずだが前にも似たような事があったな。その時も今みたいに一人称が崩れていた

 

『それにしたって君が尋常じゃない程に馬鹿だってことは思ったよ。いつもいつも迷惑を掛けられるわ、殴られるわでもうやってられないよ。口は達者だけどそれだけ。結局は何もしないんだよ』

 

「俺はシャルロットの傍にいてちゃんと守ってた!それに七実だって同じだろ!」

 

そう、七実はシャルロットの一件では何もしてなかった。それこそ七実も言えた義理じゃない

 

『なーんにも知らないんだ。上辺だけで上っ面で心も満たない言葉は()には通用しない。ちゃんと知った上で言わないと全部意味が無いよ?今の君は何も知らない赤子のようなものだよ。いや、なまじ知識がある分、赤子じゃないか・・・阿呆と言えばいいかな?』

 

「いい加減にしろよ七実、今はこんなことしてる場合じゃないって分かってるだろっ!」

 

『そりゃ分かっててやってるよ。でもね、これは言っておかなきゃいけないんだ。()が撃墜されて()()()()()()()現状を作り出したのは織斑一夏と篠ノ之箒なんだよ?』

 

「なんで俺たちなんだよ!?銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がやったことだろ!」

 

『それもあるさ。でも撃墜される原因を作ったのは君達2人なんだよ。この言葉の意味と重さをちゃんと理解した上で()と正面でぶつかることを推奨するよ。んじゃ、()は帰ることにするよ。じゃあね一夏君に()()()()

 

そういうと七実の身体は塵となって消えていった。本当に何がしたくてここに来たんだろうか。まだ銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を倒し切っていないというのに、いったい何がしたかったんだ?

 

 

 

簪サイド

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦い始めて、既にどれくらいの時間が経っただろう。包囲してありったけの弾薬や砲撃、特殊兵装をつぎ込んでいるが一向に撃墜できる見込みが立たない。二次移行(セカンドシフト)する前の状態でどうして苦戦したのかがようやくわかった。こんなの相手にたった3人で相手にするなんて無謀すぎる

 

「これだけやってまだなの!?」

 

「もう少しだけ持ちこたえてくださいまし!こっちも大変ですのよ!」

 

いくら攻撃を与えようともSEは削れているが機動力は落ちることなく光の弾丸を撒き散らしている

 

「いくらなんでも速過ぎる!私が殿を務めるから、みんなは一旦撤退しろ!」

 

『その必要は無いよ、むしろこのまま包囲して攻撃してくれてるとありがたいな。Mirror is all Main(鏡は全て私の物)

 

一般開放回線(オープン・チャネル)で誰かが機械音声で告げてきた。次の瞬間、水中からISが現れたが何かおかしい。全身装甲(フルスキン)なのはまだいい。それ以外が問題だ。装甲が所々壊れていて、有線のシールドビットが幾つか破壊されているが4つ付いている。機体はボディが赤く、腕部は黒く、手には剣が1本、ウイングスラスターは翼状で銀色。どれも1度は見たことあるようなもので出来ている合成獣(キメラ)みたいなISだ。海上から浮上際に一閃、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のウイングスラスターの片方を破壊した

 

「ここに来て新たな敵か!」

 

『あらら、警戒されちゃったか。でも今はそんなことに興味無くてね、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)をちゃっちゃと倒したいんだ。手伝ってくれないかな』

 

「もしかして・・・七実?」

 

『うん、そうだよ。()()()の為に倒しておかないとね。時間的には約1時間でね!』

 

七実のISは全身装甲(フルスキン)じゃないし、今まで色々と見てきたけどこんな状態のISになっているのは初めて見た。それにしても話し方といい、雰囲気や声が柔らかいような気がするのはなんでだろう?

 

「相棒!生きていたんだな!」

 

『あはは、ごめんねラウラちゃん。さて話は後にして、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を倒すことにしようかっと、やっぱり会話しながら戦うってのは大変なんだね。()じゃ到底考えられない行動だよ。()は正面から真っ当に戦うから支援よろしくね』

 

そういって七実は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)へ突撃していく。そうやっていつも七実は無理するんだから。こうなったらやれるだけのことをやろう。私は背中に搭載された連射型荷電粒子砲『春雷』で逃走範囲を削っていく。ラウラも私の行動を見て、みんなに指示を出していた

 

『斬りかかった後に聞くけど、降伏してくれないかな?』

 

『La-』

 

『今は無駄だったね。んじゃ鏡の本質を見せてあげるよ。()は生易しいけど()はそうじゃないからね。()()()()()()()()なんてことは無いのは知ってるからさ、そこはちゃんとやるさ』

 

七実はラウラが予想していたことを知っていた。なんで知っていたのかは後で聞こう。七実のISのウイングスラスターから銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と同じように光の弾丸が射出し、次第に七実が持つ剣に光が集まってくる

 

『逃げ場を無くされちゃたまったもんじゃないよね、零落白夜発動』

 

「あれは一夏の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)!?」

 

みんなによる攻撃のせいで逃げ場が無くなってしまった銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は、七実に光の弾丸を集中させて仕留めようとしていた

 

『一度見てしまったものは効かないよ。あらよっと!』

 

「La!?」

 

光の弾丸を見事に躱し、逆に光の弾丸を当て、また一閃、二閃と入れていた。センサーで分かるように銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のSEが尽きかけていた。なんで鈴が一夏を作戦に入れたのがわかるけど、私はあの行動は許しはしない。そのせいで七実が撃墜される原因になったから

 

「La!」

 

『だから効かないんだってば、バッシュからのとどめっ!』

 

もう片方のウイングスラスターを破壊して顔面に剣の柄で殴ってちょうどSEが0となる。最後の攻撃が柄ってどうなの?銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が量子化すると中から人が現れ、そのまま七実が受け止めた

 

『これにて銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)、撃墜ってね!』

 

「これで倒したのよね?」

 

『無事、撃墜完了ってね。一夏君を捜索するもよしこのまま帰るもよし。()はこの人の事もあるからもう帰るけどみんなはどうするんだい?』

 

「あたしは一夏を捜索するわ。円華もそうするんでしょ?」

 

「うん、私もそうするよ。セシリアは?」

 

「わたくしも捜索いたしますわ。シャルロットさんはどうなさいますの?」

 

「僕は帰るよ。七実にも言いたいことがあるし、一足先に怒られることにするよ」

 

すっかり忘れてたけど無断で出撃してたんだった。嫌になるなぁ

 

「教官に怒られるのはいつぶりだろうか」

 

()は織斑先生よりも山田先生に言われるだろうね。あの人に()()()は頭が上がらないんだよね。それじゃあお先に』

 

七実は俵のように女性を担ぎ、ゆっくりと旅館へと向かっていく。それを追いかけるように私とシャルロット、ラウラも七実に続いていった

 

『そういえばこの状態で話すのはラウラちゃん以外は初めてだったね』

 

「七実の話し方、変」

 

「まさかと思うが()()()()()()なのか?」

 

『大正解!簪ちゃんやシャルロットちゃんには分からないと思うけど、簡単に説明しとくよ。陰陽みたいな関係だよ。基本的には()にできることは()にはできない。一部例外を除くけどだいたい逆も然りって感じだね。声なんかもそうでしょ?』

 

全くもって違うけど、これも七実の一面ということらしい。二重人格?

 

「うんいつもと違うね。僕も今の七実は知らないよ」

 

『知ってるとしたら1組の生徒に教師陣かな。大半は忘れちゃってると思うけど、具体的な話だとセシリアちゃんとのいざこざの時かな。鈴ちゃんは知ってるか分からないけど2人は知らなくて当然だね。全くあれも面倒な事を任されたものだよ。()は根っからの引きこもりなんだけどね!』

 

「そこは誇っちゃいけないと思うよ!?」

 

ツッコむところはそこじゃないように思う。自称引きこもりを自負している七実の別人格が出る羽目になったのか。それほどの何かを抱えてしまったの?

 

『そういえば誰でもいいんだけどさ、この人担いで貰えないかな?』

 

「なぜだ?別に相棒が運べばいいではないか?」

 

『えっとね、装甲が壊れてたりしてて不安定だったりするからというのと、全身の感覚が無くなってきてるからうっかり落としかねないんだよ』

 

そんな状態で出てきて銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦っていたんだ。七実は無茶し過ぎ。納得したようでラウラは七実から褐色の女性を受け取った

 

「肩貸す・・・シャルロットも」

 

「うん、分かったよ」

 

『あはは、ありがとね3人とも。もう少しで到着するけど迅速な救護をしてもらわなきゃね。そもそもの話虚偽報告が無ければ()が出ることなく無事完封できたはずなんだけど、これに至ってはしょうがないの一言で終わるなぁ。よし、賠償金の請求をしよう』

 

「思いっきりやるといいよ・・・下手したら死んでたかもしれないし」

 

この場合、相手はアメリカとイスラエルのどっちになるんだろうか。それでも勝てる見込みはあると思う。こんな会話をしていると旅館付近の岩場に到着した。そこには織斑先生と山田先生、それと担架やら医療器具を持った人が何人かが待ち構えていた。七実を除いた私達はISを量子化させ横に整列した

 

「よく戻ったと言いたいところだが勝手に出撃するとはな」

 

『それよりも先にこの人と()を助けてやっては貰えませんかね?こっちの人も暴走してた福音に乗ってたわけですし、こっちだって死にかけたんですからいいですよね』

 

「・・・わかった。鏡野はISを量子化させて担架上に乗ってくれ。ラウラはその女性も乗せてやってくれ」

 

ラウラは指示通りに女性を担架に乗せるが、七実はISを解除することなくその場で膝をついていた

 

「どうしたの七実?」

 

『あまり見て欲しくないんだけど仕方ないか。かなり痛いのを我慢してるんだよね』

 

七実がISを量子化すると辺り一面に生暖かい赤黒い液体が流れ出した。私やシャルロットの顔にもかかってしまった。七実はその液体の中に倒れる。所々焼け爛れていたり骨が折れていたりしていた

 

「七実!?」

 

揺さぶりかけても反応は返ってこない。脈を測ろうともとても弱い

 

「先生!七実が!」

 

「ああ、分かっている。山田先生は七実についていってくれ。何が何でも鏡野の救助を最優先で行ってくれ」

 

「分かりました!」

 

先生たちは七実を担架の上に乗せて旅館の方に走っていった。七実が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦っている時に言ってた1時間という意味が分かった。なんで自分の死ぬタイムリミットが分かっていたんだろうか

 

「安心しろ更識、もう鏡野は助かったも同然だ」

 

「私も七実のところに行ってもいいですか!」

 

「後でな。今は貴様らを説教だ。残りのやつらにも同様でやるつもりだ。覚悟しろよ?」

 

鬼のような表情(とてもいい顔)で拳を作り骨を鳴らしていた。いったい私達はどんな目に遭うの!?

 

「だが、よく銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を倒した。よくやったな」

 

「実際、相棒が来なければジリ貧でした。でもSEなどではこちらの総量の方が多いため勝てる見込みはありました」

 

「だね、僕ももうあの手の相手はごめんだよ」

 

「とりあえず指令室に行ってろ。私はここで残りの奴らを待っている」

 

私達はこの場から離れ、指令室へと向かっていった。これで本当に終わりなのかな?

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回で臨海学校編は終了となります。それに伴い、一旦リクエストを終了するつもりです

1人1つとか言っていないので誰でも複数いいですよ?(採用できるかどうかは分かりませんが)



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終わり、通常へ

俺はまたしても棺桶(医療用ポット)に入れられていた。気が付いたら入れられていたし、臨海学校も終わっていた。それどころか期末テストも開催1週間前ということになっている大惨事だ。臨海学校から期末まで約1週間と3日間の時間がある。ならば3日も眠っていたということになる。ただでさえ何回か授業を休んでいた時もあるもんでどうしたものか

 

『は~い七実君今日こそは起きてるかしら?』

 

「なんだ楯無、今日は起きてるぞ」

 

通信越しで聞こえてきたのは楯無の声だった。今の時刻は日曜の17時、既に夕方の時刻だ。こんな時刻にどうしたんだろうか?

 

『昨日は起きてなかったからね。怪我の方はどうかしら?』

 

楯無に言われて思い出し確認してみるが右腕に包帯が巻かれていた。一夏と箒を庇った時にでも折れたんだろうか。それ以外に特に外傷という外傷は見当たらない

 

「骨でも折れてんのか?」

 

『そうみたいよ。でも、その骨折も終業式が終わる頃には治ってるわよ。それはさておき、これでそこから出せるわね。ちょっと待ってて』

 

こちらからは姿は見えないが声は聞こえなくなった。少しすると棺桶(医療用ポット)の扉が開かれ、解放された

 

「お久しぶり七実君、だいたい1週間ぶりかしら?」

 

「そうだな。腕の骨は折れてるが痛みもそういう感覚も無い」

 

「そこは医療用ナノマシン様様ね。というよりも、また無茶したそうじゃない」

 

そう言われると痛いな。でもあんな状況になるなんて思わなくてな。情報を過信し過ぎたのが原因でああなってしまったんだからな。いや、あの時は本当にふざけるなと言いたかった

 

「悪いな。だが、文句を言うべきは俺じゃないんじゃないのか?」

 

「それもそうね。それも含めて少し話があるから学園長室に行くわよ」

 

「はいよ」

 

この部屋を出ようとすると左腕に楯無が抱き着いてくる。この部屋は涼しいのだが外はまだ暑いだろう。そんな中で抱き着かれようものなら突き放す・・・つもりだが、今回は俺が心配をかけたからこのままにしておこう

 

「さっさと行ってゆっくりするか」

 

「・・・あれ?いつもだったら振りほどこうとするのに・・・熱でもあるの?」

 

俺の額に手を当てる楯無だがさっきまで棺桶(医療用ポット)に入っていたのに、熱なんてあるわけが無いだろ

 

「振りほどいていいんだったら振りほどくぞ?」

 

「ううん、このままでお願いね。それじゃあ行きましょ」

 

この部屋から出て、学園長室へと向かった。曜日と時間も相まって人気は無く、俺たちの足音以外は何も聞こえてこなかった。簪達と過ごす時間も悪くないがずっととは言わないが、たまにはこういう時間が欲しいと思う。5分ぐらい歩いただろうか、学園長室の前に到着した

 

「ちょっと待っててね。先に来たことを伝えに行ってくるから、後で入ってきて」

 

「あいよ」

 

楯無は先に学園長室へと入っていった。残された俺は窓から外を眺めるとまだちらほらと部活動をしている生徒やら寮に向かっている生徒の姿が見える。何かに対して目標を持って活動してるのは凄いことだな、とは思うが俺には到底できるとは思わない。いや、しようとは思わない。俺だったらゲームだとかアニメを見ていたり本を読んでいたりしていた方が有益に思える

 

「七実君、入ってらっしゃい」

 

「ん、もういいのか」

 

楯無の招きで学園長室に入るとやはりそれ相応の部屋と言うべきか。多くのものは置いてはいないが1つ1つが高価そうなソファやらテーブルと多かった。目の前の机に肘をついて待っていたのは轡木学園長だった

 

「お待ちしてましたよ。ささ、ソファにでも座ってください」

 

「分かりました」

 

適当な場所に座るとその隣に楯無が座って右腕に抱き着いてくる。ここでもそうなんですか?

 

「おやおや、お2人はそういう関係でしたか」

 

「いや違うんで。それよりも話って何ですか?」

 

「そうでしたね。すみません、こんな老いぼれでもこう言う話は好きでして。それはともかく臨海学校ではお疲れ様でした」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の時の事を言ってるんだろう。お疲れというか散々といった方が合っている

 

「いろいろと言いたいことはあると思いますが、まずはこちらの話から。あのISと戦っている時、何か疑問に思いませんでしたか?」

 

「無人機という報告だったはずなのに本当は有人機だった。そのせいで本来の性能を出せず、撃墜してその後どうなったかは知りませんが死にかけたんじゃないですか?」

 

「・・・その通りです。アメリカ側から送られて来たのですが記載が間違っていました。鏡野さんのISの特性は知っていたのにこういう事態が起きてしまいました。申し訳ありませんでした」

 

学園長には一切関係ないはずだ。なのになんで謝るんだろうか?

 

「なんで学園長さんが謝るんですか?」

 

「依頼の受注をしたのはこちら側です。情報の真偽を確かめる猶予も無く遂行してもらうことになってしまいました」

 

「いや、だとしても虚偽報告をしてきた方が悪いじゃないですか。依頼の受注をしたのだって近隣の住民、はたまたこの国の防衛・・・これは言い過ぎか。まぁでも守る為にやったんですし、撃墜された理由だって一夏がチャンスを潰した上で箒と呑気に話してたのが原因なんです」

 

今更どうこう考えても変えようのない事実だ。そこは誰にだって揺るぎはしないだろう。あいつがどう思っていようが然るべき罰は下ってるといいんだが

 

「まぁ、俺が思ってることは虚偽報告のせいで死にかけたんでアメリカとイスラエルには訴えようかと思ってます」

 

「そうですか。ではその話についてはこちらでやっておきます。学生の身分で国が相手では分が悪いでしょうし、私に任せておいてください」

 

「あ、んじゃお願いします」

 

面倒事は極力したくは無いがこればかりはかまわないだろう。やってくれると言ったからにはちゃんとやってもらうことにしよう

 

「わかりました。思う存分やってくることにします。あとこの手紙を貴方宛てに預かっています」

 

学園長から一枚の手紙を渡される。書いたのはアメリカ在住のナターシャ・ファイルスという人物からの手紙だった

 

「誰ですか、ナターシャ・ファイルスってやつは?」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の操縦者です。臨海学校で七実君がまだ眠っている間に彼女は起きたようで、その時に書いた手紙だそうです」

 

「そうですか。とりあえず後で見ることにします。んで、話ってこれで終わりですか?」

 

「はい、これで話は終わりです。こんな時にわざわざ呼んでしまってすみません。来週から始まるテスト、頑張ってください」

 

「うす」

 

俺と楯無は学園長室を出て、寮へ向かうことにした。臨海学校が終わってあいつらがどうなったかは知らんがあまり興味は無い。ただ普通の生活ができれば問題ない。ただそれだけを切に願っている。寮に到着し部屋へと向かう途中で今一番会いたくない人物と出会ってしまった。空気を読んだのか知らんが楯無は腕から離れてくれた

 

「・・・七実」

 

そう臨海学校において、一番やらかしてくれた奴が目の前にいる状況。面倒だしさっさと素通りさせてもらうことにする。だが素通りしようとしたが先回りされ立ちはだかる

 

「なんだよ。さっさと部屋に戻りたいんだけど」

 

「その・・・臨海学校の時は本当にごめん!」

 

平謝りをする一夏に対して俺が思うのはただ3つ。臨海学校だけか?、ごめんで済まされるようなことではない、この謝罪が本心かどうかも分からん、ということだ。臨海学校の時もそうだがシャルロットの時とかどうだ?ごめんで済んだら警察なんていらないなんて言うのはもっともだ。こっちは死にかけた身だぞ。ごめんで済まされる訳がない。最後に今まで関係を悪化させる原因を作っていたのに、今更という感じだ

 

「馬鹿じゃないのか?あれだけ自分勝手な行動取ってんのに許されるとでも思ってんのか?聞けば俺は死にかけたそうだな。原因は分かってんだろ?この腕もこの通りだ。情報が間違っていたとはいえ、お前がチャンスを逃してくれなきゃこうはならずに済んだかもな。俺はお前の事が許せるわけ無い。じゃあな」

 

俺は足早にこの場から離れた。後ろで一夏がどうなってるかは知らんが自業自得だ。部屋の前に到着し中に入るが本音を中心に取り囲み、簪とラウラ、シャルロットの3人が勉強をしていた。そら、この時期だからそうなってるわな

 

「また本音に教えてんのか?」

 

「あ~、ななみんだ~!」

 

簪やシャルロットが物凄い勢いで立ち上がり近づいてくる

 

「七実・・・生きてる?」

 

「勝手に殺すな」

 

「七実が無事で一安心だよ」

 

「骨は折れてたけどな」

 

「・・・この様子ではあの時の事も覚えていないか。相棒よ、事の顛末は聞いておくか?」

 

当事者と言っては分からんが知ってても損は無いだろう。一旦、席に着いて話を聞くことにした。本音や楯無は生徒会ということもあって内容は知っているみたいだ。結末としてはこうだ、簪やシャルロット、ラウラ、鈴、セシリアが支援で逃げ場を無くし俺が撃墜させた。な、何を言ってるか分からねぇが・・・なんて状況だ。俺の記憶では撃墜されたところで終わっている。なのに俺が撃墜したってことは力としての俺が出てきたんだろうか。戻ってきたら戻ってきたで機体はボロボロで死にかけていたとのこと。俺以外はみんな弩が付く程の説教された

 

「というわけだ」

 

「なんとなく理解した。みんな面倒な目に遭ったって解釈でいいんだな?」

 

「だいたい合ってる・・・でも群を抜いて大変だったのは先に出撃した3人」

 

「一夏は撃墜されて救出された後に説教に織斑先生との1対1での話し合い。箒は福音のせいでトラウマを抱えちゃった。七実は言うまでもないかな」

 

それぞれが自業自得という感じか。あまり俺も人の事は言えないだろうがそれでもやれるだけのことはやったはずだ。咎められるようなことはしていないはずだ

 

「全く七実君たらいつも心配させるんだから。今回の事は仕方ないにしろ、無茶だけはして欲しくないわ」

 

「すまんな。これからは無くしていくつもりだ」

 

「ななみん、本当に心配したんだよ?」

 

「本当に済まなかった」

 

「だからお願いくらい聞いてくれるよね~?」

 

「ああ・・・はぁ?」

 

シリアスな雰囲気だったはずなのに急に変な方向転換があったぞ?お願いを聞け?

 

「よし!みんな言質は取ったわよ!」

 

「ちょっと待て、本当にちょっと待て、いや、ちょっと待ってくださいお願いします。さっきまでのシリアスな雰囲気はどこに行った」

 

「それはそれだよ~。さ~あ、ななみん覚悟しな~」

 

「はぁ・・・これくらい仕方ない。困難な物を除き要望は聞くから、それで妥協してくれ」

 

甘くなったとかそれ以前だがこの程度はいいと思う。IS学園に入学してから今日まで何回心配をかけた事か。それを思うとこの程度は安いと思う

 

「とか言ってるがその前にテストだな。ある程度はもうまとめてあるし少し見直しておくか」

 

「ななみん~、私にも見せて~」

 

「・・・ほれ、できてるやつだけな。個人的に重要なところを抜粋して書いてあるから見やすいはずだ」

 

いつもは教室の机が個人用のPCにもなっているため、そっちに書き込んでいるが時間を見て暇であれば個人的に分かりやすくルーズリーフにまとめている。だから授業に関してはあまり気にしていない。むしろ自分勝手に進んでいる方だ。こっちの方がやりやすいし分かりやすい

 

「お~いつ見ても凄いね~」

 

「てか楯無はこんなとこで油売ってていいのか?」

 

「これでもちゃんとやってるわよ。だから今は休憩中。というよりも七実君、やっぱり本音ちゃんに甘いわよね?」

 

「休んだ時は大抵本音にノートとか見せて貰ってるからな。中学までだったら見せてないがこれくらいはいいだろ」

 

飴と鞭というわけじゃないが世話になったならこれくらいはする。赤点でも取った日に泣きつかれる前に手をうとうとなんて思っていない・・・本当は思ってます。居残りとかになると絶対せがまれるんだよ。普段はしないだけでしたらした分だけ点を取るんだから、普段からやってくれ

 

「とはいえ、本音がちゃんとやらなければ意味が無いからな。後は本音次第だ」

 

「頑張るよ~。お~!」

 

1人で張り切っているようで悪いが、本来は1人でやるべきことだ。俺ができることはここまでだ。俺は俺でやるか。しかしなんだ、今学期はいろんなことがあったな。一夏がISを起動させたことが原因で強制調査から始まって、セシリアとの一悶着、鈴との出会いと無人機で死にかける、そして相棒と呼べるラウラとシャルロットとの出会いとVTS事件、最後に臨海学校であった銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走・・・イベント毎に問題が起きているのは気のせいだろうか

 

「そういえば、さっき手紙を貰ってたわよね?それは見ないの?」

 

楯無の発言でラウラを除く全員の視線が俺へと浴びることになった。火種になりかねんから後でこっそり見ようと思ってたんだが

 

「まじまじと見るな。言っておくが福音の操縦者からだぞ」

 

「なら余計に心配・・・一緒に確認する」

 

自棄というわけじゃないがこれも仕方ないことだと割り切ってテーブルの上に開いて置いた

 

堅苦しいことは抜きにして、あの子を助けてくれてありがとうね。私はこの先どうなるか分からないけどこの恩は忘れないわ。もう1人の方には明日伝えるから心配しないで。ありがとうね魔法の鏡さん

 

手紙の下にはキスマークを添えて、簡潔な内容だ。暴走の原因は俺には分からんがあれだけの事態に発展してしまったら、俺にだってどうなるかなんて分からない。だがそれよりも重要視したいのは虚偽報告の方だ。仮に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を暴走したとして、あれを操れる人材なんてそうはいないはずだ。それを隠したかったのか、それとも使い捨てとして見ていたのか・・・それを考えるのはやめておこう。今はそれよりも重要なことがあるはずだ

 

「・・・さて、少し勉強して夕飯にしようぜ」

 

「話をそらさないでよ七実。僕たちは聞きたいことがあるんだ。まだ時間はあるしたっぷりとお話し、しよ?」

 

逃げたいが逃げられそうになさそうだ。年貢の納め時という感じだろうか?このあと、無茶苦茶OHANASIした

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

これでようやく3巻分が終わりました

この話を以てリクエストを締め切りたいと思います。リクエストしていただいた方、ありがとうございます


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裏話(ネタバレ注意)

マジでネタバレを含みます。ご注意してください


 

 

裏話的トーク

 

うぷ主(以下省略)「はーい、ぐだっとしてますが始めて行こうかと思います」

 

「FGOで明治維新やってるからって、お前もぐだっとしていいわけじゃないだろうが」

 

「手厳しいな~、まぁその通りなんだけどね。今年いっぱいは物理的にも精神的にも死にそうな程動き回らなきゃいけないしね~。合間合間で別作SSの案を考えたり、この話を作ったりと大変なんだよ」

 

「だろうな。死なない程度で頑張れ。この駄作を見てくれてる人だっていることだし、何より中途半端はもうできないんだからな」

 

「せやの、単位も取らにゃいけんし就活もせなあかんし」

 

「留年なんて目も当てられんしな」

 

「だね。んじゃ1つやっていこうか。七実のプロフィールからやっていきましょう。はい、ドーン!」

 

名前 鏡野七実 (本名 織斑春十)

 

身長 182cm

 

体重 67Kg

 

姿身 前髪で目を完全に隠しており、後ろ髪は肩まで伸びている。幼少期の際に身体を動かせなかったせいか筋肉が発達しなかったため全体的に細い身体になっている。小学2年の時に殺されかけ左腕に包丁で貫かれた跡と背中に斜めに斬られた跡がいまだに健在である

 

性格 冷静かつ排他的。意外と真面目

 

「こんなもんかね?」

 

「だな、過去も過去で悲惨だがその経験があってこその今がある。一概に何も言えん」

 

「大変だもんね。それはともかく色んなコメントを頂いているよ。まずは福音戦後の処分はどうなったのか、七実が眠っていた時の行動だね」

 

「実際、ラウラから説教があったとしか聞いていないんだがどうなんだ?」

 

「総合的に処分が原作寄りでもあるが反省文と特別訓練メニューを1週間、それと福音と戦ってのレポートぐらいかな?」

 

「思ってたより軽いな」

 

「仮にも周辺の地域を救う結果と命令違反の出撃、これの両天秤にかけても前者の方が大きいと思うんだ。だからある程度は軽くなったと思う」

 

「そうか。それであいつらの行動はどうなんだ?」

 

「原作と違うのは箒がトラウマを抱えてしまって、専用機を抱えたまま最悪退学しかねない状況になっています。それと一夏のISは条件は満たしているものの二次移行はしていません。この話はまた後にして、一夏は福音戦後旅館で目を覚まして千冬から直々に説教を食らいました。今までのことを溜め込んでいたのを吐き出したこと、福音戦での失態についてきつく言いつけています」

 

「別にそこまでする必要は・・・あったか」

 

「うぷ主は深く言わないけど、この話は夏休み編を使って詳しくするつもりです。セシリアや鈴、円華は七実の事を心配していますが福音戦の時の処分もこなしながらテスト勉強もしてって感じです。千冬は・・・少しネタバレになってしまいますが、七実の事を怪しむようになりました。原因は束、以上」

 

「ここって原作の崖での話ってことでいいのか?」

 

「だいたい合ってる。真耶は一番通常運転ですね。中の人繋がりでCCCコラボオメ、BBってキャスターなんですかね?」

 

「今はそんな話しなくていい。だいたいはこんなところか。ここで紹介していない奴は本編で話を組み込むつもりだ」

 

「そうだね。あ、唐突だけど七実の詳細として裏表あることについて話そうか」

 

「・・・俺としては話しづらいな。あっちが出てきている時は基本、俺が気絶している時しか出ていないしな」

 

「そうそう、詳しく話すと全て七実の一面です。全て鏡に写したように反対じゃない理由はそこにあります。結局は表があるなら裏がある。陰陽、光と影。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということです」

 

「伏線乙、こういうのは本編でやれよ」

 

「なんなら言うけど、このSSはEND3つある予定だよ?トゥルー、ノーマル、デッドの3つ」

 

「バッドじゃないのかよ。え、何、俺死ぬの?」

 

「・・・ナナミダケダトヨカッタンダケドナー」

 

「さすがにそれは書き直せ、本当にマズイ」

 

「少しは手直しするつもりではいるよ。案に対する話でもしようか。これまたドーン!」

 

原案タイトル 鏡が往くIS記

 

内容

 

対暗部用暗部「更識」と協力関係の暗部組織「鏡野」の跡継ぎとして生を受ける。「鏡野」は潜入工作、と言った隠密系の暗部である。刀奈や簪、本音、虚とも面識在り。人当たりは良く好かれやすいが家の関係上で悉く疎遠にしてきた。その名前は鏡野七実、変装においては誰にも見破ることもできない天才ぶりを発揮する

 

ヒロイン対象 楯無、簪

 

「と、まぁこんな感じかな。あ、ちなみに今の案でどこまで行くかというとこういう順で進んでいきます」

 

本編

 

プロローグ

クラス代表決定戦

クラス対抗戦

学年別タッグトーナメント

臨海学校

夏休み

学園祭

キャノンボール・ファスト

ワールド・パージ(ここで本編終了予定)

 

オーバータイム

 

全学年専用機持ちタッグマッチ

大運動会

修学旅行

後は適当

 

「後は適当って・・・」

 

「ここは後にアンケートを取るつもりでいます。何せオーバータイムは七実の全てが終わるので、何でもし放題です!苦労するのは・・・頑張って。ちなみに一夏との関係も修復しているはずです」

 

「聞けば聞くだけ怖いな。原案では一夏との関係はどうなんだ?」

 

「概ね良好に見えるだけで、印象は最悪だから大して今と変わんないかな。俺は俺、あいつはあいつで考えられるから話としてはアンチとはいかないけど、対立はするんじゃない?」

 

「そうか。今は言うまでもないか」

 

「そうなんだよ。ここで一夏の話が出てきたから各キャラクターの現在の心情の鼻塩塩」

 

「シャダイネタはいいから、早くしろ」

 

「その前に目隠ししといてね」

 

一夏

 

入学当初、七実の事はどこか千冬に似た雰囲気を醸し出していたのを感じていた。セシリアとの一悶着に関しては話半分でしか聞いていなかったため、七実のもう一つの一面が出てきていたことが印象に無く覚えていない。七実の事は自分勝手な悪い奴と思っている節がある。正当な力としてISを振るっているがそのせいで無意識に強くなったと勘違いしている

 

 

一夏同様、七実の事はよく思っていない。理由は汚いやり方で戦うためとニュースの印象のせいである。IFの話なら篠ノ之神社の道場で出会っているとも知らずに。現在、福音との戦いで七実が落とされ血溜まりを見て、一夏も落とされたことによりトラウマを抱えてしまっている。一夏へ惹かれている

 

円華

 

入学当初、七実に対して兄である一夏に似ている気がする、と感じていた。自身で七実の事を調べていたので嘘であるということは知ってはいるが、七実が兄であるということは知らない。そもそも千冬から実は3人兄妹ということは円華も一夏も知らない。様々なイベントを経て、七実を知っていくが手段は選ばないが道理は通っているのを見ていた。福音事件を経て、一夏に対して疑惑を募ることになった

 

セシリア

 

入学当初はメディアによって捻じ曲がられた真実によって印象は最悪だった。一悶着の際に七実のもう1つの一面を見ることになった。クラス代表決定戦で完膚なきまで叩きのめされる。その後に七実の真実を知り、七実の印象が良くなっている

 

 

七実の最初の印象は普通だった。良くも悪くも無い、ただ2人目の男性IS操縦者というだけで終わってしまった。その後、謎の黒いISに襲撃を受けた際に七実が箒を庇う瞬間は見ているの。それをきっかけに印象が良くなっている。なんだかんだで友人という枠で収まっている

 

ラウラ

 

七実の最初の印象はどうでもいい。この時は一夏を完全に倒すことだけを目標としていた。原作と違うのは千冬を軍に引き連れようとしない事。円華の存在は知っていたが一夏は原作の誘拐があったためモンド・グロッソを辞退させた原因とみている。1人で倒そうとしていたが七実の協力を受け入れ、完全撃破と至った。その相性も相まって相棒と思いあえるほどの関係となった。余談だが密かに七実を自分の隊に入れようと考えている

 

シャルロット

 

転入当初、男装で転入してきたが命令という名の強制で転入したが初日で対象である一夏にバレてしまった。ちなみにこの時点では普通という印象を持っていた。その後、自分の問題の解決を図ってくれる一夏に目を向けていたが何もしてはくれなかった。それどころか対立した七実の方が動いていたことに目を向けることになる。問題の解決後は七実に惹かれるようになる

 

 

最初の出会いは小学2年の時。一目惚れという形が今も続いている。七実の惨状を知ってしまい簪だけじゃなく楯無や本音、虚は七実の手助けをすることにした。中学に上がった頃に対暗部用暗部「更識」を継いだ楯無に突き放されるが七実によって阻止し、今尚楯無と良好な関係を築いている

 

楯無

 

最初は簪が気になっているということで近づいたが一緒にいるうちに仲良くなっていった。簪とかと同じく身体が動かなくなった七実の手助けをしていた。簪達が中学に上がった時に対暗部用暗部「更識」を継いで17代目楯無となったが暗部の事で巻き込みたくないが為に突き放そうとしたが七実の手助けによって簪に理解して貰えて疎遠になることは無かった。そのことで仲が良い、から想いを寄せることになった

 

本音

 

簪同様、小学2年の時に出会うことになった。その時はただ仲良くなろうとしていただけだが、七実の惨状を知り手助けをすることにした。七実は日常で本音は勉強面で、と持ちつつ持たれつつという関係だが一緒にいるうちに好きになってしまった

 

 

最初の出会いは刀奈に連れられて出会ったのが最初。一緒にいる時間が増えていく内に七実と一緒に暴走する本音と刀奈を静めることになった苦労人同士という認識。好きではあるがそれは友人、親友としての好きである

 

千冬

 

七実の事は高い評価をしているが、束の発言で少し疑問に思っている。織斑春十が実は七実ではないかと思っている。これについては夏休み編でやるつもり

 

 

最初の印象はゴミ。ただ、箒を助けたため少し興味を持つことになり全てを調べあげた。結果として七実が行方不明となった織斑春十ということを突き止めた。更に興味を持ち、束の予定になかった七実のISの後付装備として有線型シールドビットの製作に至った。福音事件後、千冬と会話して回りくどく七実が春十であることは伝えている

 

「という感じです」

 

「・・・おいうぷ主、いつまで目隠ししてればいいんだ?」

 

「もういいよ~。言いたいことは終わったし、後は締めに入るよ」

 

「おう、とりあえずこれは言っておく。うぷ主の駄作SSを見てくれてありがとう。コメントやUAを見るたびに制作意欲の向上に繋がっているそうだ」

 

「いやマジでそうです。今、いろいろと突き詰めているんで徐々に荒んできてるんですが、SSを書いてる時間やコメントの返信をしている時間が癒しになってきました。どう見ても末期です、ありがとうございます」

 

「こんなうぷ主だがこれからもよろしく頼む」

 

「よろしくお願いします。それではこれで裏話はお終いです。次回は夏休み編です!読者さん!夏休みですよ、夏休み!」

 

「唐突に普通のアイドルネタ出すな。マスターにP業を3件掛け持ち、騎空士の団長だとか決闘者にイメージしろとかで有名なカードゲームプレイヤーだったりするもんで、唐突なネタ振りは生暖かい目で見守ってくれ」

 

「それはやめてください、(精神的に)死んでしまいます。というわけでこれで終了です。ありがとうございました!」

 

 



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そうだ、温泉に行こう

リクエスト第1弾、温泉もとい小旅行です


無事テストも終え、終業式も終わり夏休みとなった。寮の中も生徒は帰省したり、帰国したりと人気が少なくなった。ただ中には家に帰ろうともしないやつもいるので食堂はやっていないが学園内のスーパーだったりコンビニはちゃんと機能している。いや、してくれないと俺が困る。聞いた話だが7年間暮らしていた家は既に別の誰かが住んでいるとの事で家が無いのだ。金や服はあったとしても家が寮って複雑な気分だ

 

「暇だなシャルロット」

 

「そ~だね~。やることも無いっていうのが一番暇なんだね」

 

簪や本音も家でやることがあるとの事で今は寮にいない。それどころか本音に約束を取り付けたらしく、本音がいない間はシャルロットが本音のベッドを使うとの事。ちなみにシャルロットの同室であるラウラはドイツへ帰ってしまった。軍属ということもあり大変なんだろう

 

「・・・適当に夏休みの宿題でもやっとくか」

 

「それもそうだね。ちょっと勉強道具持ってくるよ」

 

シャルロットは椅子から立ち上がり部屋から出ていった。なんだかんだで行ったり来たりをしているのは効率は悪いように思う。外の日差しが熱いため適温でクーラーを入れて、カーテンなんて締めきっている。暑すぎて外に出るのも躊躇われる。とりあえず俺も立ち上がり勉強道具を用意しようかと思った時だった。俺のスマホが振動を始めた。見てみると楯無からの電話だった

 

「もしもし」

 

『もしもし七実君、昨日ぶりね。元気にしてた?』

 

「今日も元気に引き籠ってるぞ。んで何の用だ?」

 

『こんなに天気がいいのに引き籠っているなんてお姉さん的にポイント低いぞ』

 

逆にこんなにいい天気で糞暑い中、外に出ようと思っている奴いるのか?少なくとも俺は出ようと思わない

 

「・・・切っていいか?」

 

『もう少しだけ待ってちょうだい。七実君、明日温泉旅行行くわよ!』

 

聞いた瞬間、思わず切ってしまった。明日行くとか急に言われても準備なんて前もってしておくものだ。急にするものではないだろう。今から遊びに行くよ、的な発言は止めていただきたいものだ。再び俺のスマホが振動を始めた。相手も同じく楯無だ

 

「・・・はい」

 

『なんで切ったの?』

 

「今から遊びに行くよ、的な感覚で言われたのがムカついた。反省はしない」

 

これに関しては両方悪いように思う。故に俺は反省はしない。したとしてもすぐに忘れるかもしれんが

 

『潔すぎない?』

 

「これくらいがいいんだ。んで明日?」

 

『そう明日。迎えに行くからシャルロットちゃんと一緒に準備して待っててね』

 

今度は一方的に切られてしまった。どこに行くのかとか何時に待ち合わせしていればいいのかぐらいは聞きたかったものだ。一応メールだけでも出しておくか

 

「七実どうしたの?」

 

いつの間にかシャルロットがこの部屋に戻ってきて、首を傾げていた。既に勉強道具をテーブルに置いて広げていた

 

「楯無からの伝言だ。明日温泉行くから用意しとけってさ。無論、お前もだぞ」

 

「お、温泉!?」

 

 

 

翌日、モノレールに揺られていた。時間通りに着くように出発しているのだが如何せん隣に座っているシャルロットが近い。1両に俺ら以外誰もいないというのにピッタリとくっ付いているのだ。役得と思えばそうなのかもしれんが日差しや密着度のせいもあってか普通に暑いというのもあるが花のような匂いと柔らかい感触が伝わってくる

 

「おいシャルロット、離れてくれ暑い」

 

「えー、いいじゃんか。臨海学校で心配させた罰だと思ってさ」

 

そう言われると弱い。実際、俺は悪くないと言いたい。まぁ今回は役得と思うことにしよう

 

「勝手にしろ。っていってもそろそろ着くぞ」

 

「うん、でも今はこのままでいさせて」

 

・・・他の生徒が帰省したりしているのを見て、もうフランスの地を踏めないシャルロットにはくるものがあったんだろうか。そこは俺が知る由は無いがそれを紛らわせるためにもこうしてるんだと思うことにしよう。だいたい7分ぐらいだろうか、それぐらいで到着した。荷物を持って駅の外に出るが今だそれらしい人影は見えない

 

「あっつ・・・」

 

「本当にね・・・それにしても温泉だなんて急だね」

 

「思い付きじゃないにしろ、もう少し準備期間を欲しかったもんだ」

 

スマホを取り出すのも面倒だしISの待機状態である懐中時計に触れるがじわじわと真夏の日差しによって熱くなっていた。二度手間だがスマホを取り出して時間を確認するが既に集合時間である9時半になっている。そろそろ到着するころだろうと思っていた矢先、近くに黒塗りの高級車が停止した。助手席からは楯無が顔を出していた

 

「やっほー七実君にシャルロットちゃん。後ろに乗ってくれる?」

 

「はいはい、ほれ行くぞ」

 

「うん」

 

この場から逃げるように車の方へ向かう。車の中から楯無が出てきて、バックドアから荷物を入れて車の中に入る。こんな暑いところにいられるか、俺たちは車の中に入るぞ。ドアを開けて中に入るが後方に虚と本音、真ん中に簪が座っていた。シャルロットに背中を押されながら中に入れられ、簪とシャルロットに挟まれる

 

「おはよ七実・・・元気にしてた?」

 

「簪も楯無と同じことを聞いてるぞ。昨日ぶりとはいえ急に病気になるとか無いと思うぞ?」

 

なんだかんだで簪はやっぱり楯無の妹と認識してしまった。仲が良いことはいいんだろうな。羨ましい

 

「それじゃあ出発するわよ。運転お願いね運転手さん(お父さん)

 

自分の親を運転手にしているのはどうかと思うのは気のせいだろうか

 

「任せておけ・・・とはいえ運転だけでいいのか?お父さんも一緒に宿泊しなくていいのか?」

 

「もう・・・お父さんも引退したとはいえやることは残ってるんでしょ?」

 

「うぐ・・・と、とりあえず出発するから2人はシートベルトを着用してくれ」

 

安全は大事だしな、言われた通りにシートベルトを締めるとゆっくりと出発した。どこに行くのか聞かされないまま出発したがそろそろ答えてもいいだろう。だが答えることなくどんどんと進んでいく。車内では会話が続いているが、話を振られた時にしか反応しなかった。いつの間にか都会から外れ、山奥に進んでいた。道は整備されているがこんなところに何があるのかさえ分からない。何も無い道路を進んでいくと旅館が見えてきた。駐車場も広く、建物も大きい。駐車場に停車すると旅館内から人がぞろぞろと出てくる

 

「到着したからみんな降りてちょうだい」

 

車から降りて荷物を持ちいざ旅館へ、と言う時に運転手をしてくれた簪と楯無の親父さんに声を掛けられた。先に簪達は旅館の方へ向かっていった

 

「・・・一応言っておくが、娘たちの仲を取り持ってくれたのは本当に感謝している。だが手を出したら何が何でもお前を許さんからな?」

 

「しませんよ、こう見えても今の関係が好きなんで壊したくありませんし」

 

「ならいい。それじゃあな」

 

そういって来た道を戻っていった。本当に簪や楯無の事を大事に思っているからこその発言なんだろう

 

「ななみん、早く早く~!」

 

「おう」

 

俺も旅館の中に入っていくがだいたい20人ぐらいの出迎えなんてされたことは無く、少なからず緊張してしまったが中に入ると和のテイストで臨海学校の花月荘を彷彿してしまった。楯無が部屋の鍵を受け取り、2階へと上がっていく。部屋の前に到着するなり鍵を回し、中を見てみるが1部屋だけで6人はざらに寝れるだろう

 

「・・・おい楯無。1つ質問してもいいか?」

 

「なにかしら?」

 

「もしかしてだが俺もこの部屋なのか?」

 

「当たり前じゃない。全く七実君たら何を言ってるの?」

 

その台詞は俺が言いたかった。なんだかんだで女子5:男子1という構造の中で全員が同じ部屋で止まるというのはよろしくないと思う。寮でも似たような状態だが本当によろしくない。最悪、虚を頼ることにしよう

 

「というよりも結構いいところだな。それなりに高い金額だったんじゃないか?」

 

「ここは「更識」の管轄にある旅館なの。ただっていうわけにはいかなかったんだけど、それなりに格安になってるのよ。ここも所謂VIP専用だったりするしね」

 

だとしてもこういうところに来るのは初めてなもんであまり慣れない。とりあえず適当に荷物を置いて部屋の中を確認して回るが備え付けの露天風呂や大きめの冷蔵庫、トイレや洗面所なんかはあった

 

「今、お茶を淹れますのでごゆるりとしてもらってもいいですよ」

 

「そうか」

 

虚がお茶を淹れてくれるとの事で適当に座るがティーパックなのはしょうがないことだ。茶葉なんてあったなら、盗まれかねないしコストが尋常じゃない程に高くなるだろう

 

「シャルロットちゃんは水着は持ってきてるわよね?」

 

「え、無いですよ。どういうところに行くかとか聞いていませんし、七実からも言われていませんし」

 

「あらー、せっかくここの近くの沢に遊びに行こうかと思ったんだけど・・・七実君も当然行くわよね?」

 

臨海学校の時は買うのが面倒になったので買わなかったがこんなところで使うのか。聞いても無駄だと思うが聞いてみることにする

 

「拒否していいんだったら拒否するぞ?」

 

「だーめ」

 

「こんなこともあろうかとななみんの水着を用意したのだ~」

 

本音は旅行バックの中から中身が入っているであろうビニール袋を取り出し渡してくる。それを受け取り、中身を確認するが男性用の水着が入っていた

 

「・・・これを使えと?」

 

「その通りよ。でもその前に昼食ね、それまでは自由時間にしましょ」

 

自由時間か、適当に旅館内を探索してくるとしよう

 

「七実さん、どこに行かれるのですか?」

 

「ちょっと探索でもしてくる。何か飲み物でも買ってくるか?」

 

「それじゃあ適当に私達の分もお願いねー」

 

「はいはい」

 

「私も・・・行く」

 

簪は立ち上がり一緒に部屋を出た。とはいえここの探索と言っても簪がいるのであれば簡単に済んでしまいそうな気がする

 

「そういえば簪はここに来たことはあるのか?」

 

「小さい頃に何度か・・・でも最近はめっきり。でも建物内の構造は覚えてる」

 

「なら飲み物を買うついでに案内してもらっていいか?」

 

「任せて」

 

建物内を一周グルッと回って案内してもらっていたがここの温泉には3種類あるらしい。1つは普通の温泉、2つ目は露天風呂で夕方に入ると夕焼けが山に沈んでいくのが見えるらしい。3つ目は混浴風呂。これは楯無が何かしない限り入ることはなさそうだ。というよりもそんな状況にならない・・・はずだ

 

「お姉ちゃんなら何かしてきそう」

 

「だな。何かあったらよろしくな」

 

「わかった・・・その時はどうしよう。虚さんに手伝ってもらって説教?」

 

さすがにそこまでしなくてもいいが、面倒になるよりかは全然いいだろう

 

「ほどほどにな」

 

「そういえば骨折してたけど・・・本当に大丈夫なの?」

 

「完全に治っている、医療用ナノマシン様様だ」

 

あれとISだけ世界観が違い過ぎる気がするのは俺だけだろうか。しかし、その世界観が違うこの2つにより2,3度命を救われている。あれを作ったところには感謝すべきだな

 

「ならよかった・・・なんで何度も無茶するの?」

 

なぜ無茶をするのか。それを問われると答えに困るのだ。なぜならいくら関係が最悪で修復が困難だと思っていても、それだとしても血縁関係だ。ましてや兄という立ち位置であれば、何か行動を起こすだろう。例えそれが無意識だとしてもだ

 

「・・・すまん」

 

「謝らなくていい・・・でもその内、話してね?」

 

「ああ、その時が来たらな」

 

俺自身が元に戻れないと思う反面、元に戻りたいという矛盾した願望に挟まれている。そんな状態にいる。俺としてもどうしていいか分からない。とりあえず適当に自販機で人数分購入して部屋に戻ることにした。部屋に戻るなり、テーブルには昼食と思われる品が置かれていた。この旅館の場所が山というわけで山の幸をふんだんに使った昼食となっている

 

「遅いよ~待ちくたびれたんだよ~」

 

「悪いな、これは冷蔵庫に入れとくからあとで適当に飲んでくれ」

 

「ありがとうございます七実さん。それではいただきましょう」

 

俺たちも座り昼食を食べ始める。山菜の天ぷらだとかそばだとかがあるから目移りしてしまうが結局は全部食べてしまうので適当に食べることにしよう

 

 

 

昼食も食べ終わり俺たちは山の中に来ている。旅館内を探索する前に言っていた沢へと向かっている。道はある程度、整備されていてあの旅館を利用する家族連れでは有名らしい。ただ今日は俺達以外には旅館の利用者はいないため貸し切り状態になっているとのこと

 

「さーて到着っと」

 

目の前には深そうに見える川と浅く水が溜まっている場所があるが、どこも水が透明なので水中に何があるのかもはっきりと見える

 

「さて七実君、さっき本音ちゃんが渡した水着履いてきた?」

 

「一応な。でも泳ぐ気は無いし、適当にいるつもりだ」

 

「まぁいいわ。それじゃあ思いっきり遊ぶわよ!」

 

俺以外も部屋で水着を着てきて、その上に薄い上着とズボンを着てきている。楯無と本音の上着がぴっちりしているのは気のせいということにしておこう。その上着を脱いで川の中へと飛び込んでいった。ちなみに楯無の水着は水色のクロスワイヤーの水着を身に付けていた。本音に至っては臨海学校では着ていなかった黄色で水玉模様がはいっているフレアワイヤービスチェビキニを着ていた・・・一瞬だけどことは言わないが着痩せするタイプなんだなと思ってしまった

 

「・・・くっ」

 

「どうしたんだ簪」

 

「なんか負けた気がする・・・七実はお姉ちゃんや本音みたいなのが好きなの?」

 

自分の胸を擦りこちらに質問を投げかけてくるが別にそういうことは無い

 

「人によって良いところ悪いところが違う。外見だけで人を判断するのは失礼だ・・・こんな回答でいいか?」

 

「うん・・・ありがと」

 

「僕たちも行こう?」

 

「うん」

 

簪とシャルロットも楯無や本音の元に行ってしまった。俺は水着は履いているものの上には黒いワイシャツを着ている。背中にある傷だけでは無く左腕にある傷がある為、あんまり見せたくないのもある

 

「七実さんはいかないのですか?」

 

「俺はここで見てるだけで十分だ。虚はいかなくていいのか?」

 

「私もいいです。一応年長ですし監督でもしておきます」

 

そう言って虚は脚だけを水の中に入れていた。楯無や簪、本音にシャルロットもそうだが虚も十二分に美少女もしくは美女という言葉が似合う。この姿も絵になっている

 

「どうしました?」

 

「なんか似合ってるなと思って」

 

「お世辞でもありがとうございます」

 

「世事とかそんなんじゃないんだが・・・ん、どうした楯無」

 

「べっつにー、虚ちゃんにはそういうこと言えるんだ。私達には何にも言ってくれないのは寂しいなー」

 

期待するかのように楯無たちは俺へと視線を向けてくるが何を期待しているのだろうか。虚みたく何か言えばいいのか?

 

「そうやって遊んでいる所を見て元気だな、と思った」

 

「そういうのじゃなくて・・・もっと何か無いの?」

 

「冗談だ、凄く綺麗だし可愛いと思う。その水着だって髪の色に合わせて似合っている」

 

「え、あ、そ、そう?」

 

珍しく楯無は顔を赤くして俯いてしまった。そういう風になるのであれば言わなきゃいいのに

 

「ねぇ簪。七実って女誑しなんだね」

 

「ここ最近だけど・・・なんだかんだ先生だから」

 

蒼の魔導書を腕に宿した犯罪者なんかになれはしないからな?

 

「なんでもやるわけじゃないからな?それに誑しってのも間違いだ」

 

「うっそだ~」

 

簪や本音、シャルロットから冷たい視線を貰う羽目になってしまった。解せぬ。俺は俺で生きやすいように生きてきたつもりだ。その結果が今の現状なのであって、誑しではないと思いたい

 

「お前らが俺の事をどう思っているのかもわかったが何気に酷いな」

 

「そういうわけじゃないと思いますよ?ただお嬢様が羨ましいんだと思います」

 

「羨ましい?何が羨ましいんだ?」

 

羨ましいというのであれば素直に言えばいい。でなければ、俺にはわからない。人の感情程伝えなければ他人には分からない。伝わらないものはない。人は言葉を話す生物故に知ることを怖がり、重要視しなければならない。あくまでも持論だがな

 

「・・・七実さんって鈍感なんでしたね」

 

「さてな。でも言わないだけでみんながそうだとは思っている。俺も俺で言うことははっきり言っているつもりだ。聞きたいならはっきりと聞いてくれ」

 

その言葉をきっかけにいろんなことを聞かれた。スタイルがどうだとか、水着がどうとか。遊びながらだが聞かれた。聞かれたことに対しては全て当たり障りのないように答えはした。この時だけは少々しつこく感じたが、それでも聞きたいから聞かれたのだろう。こういう話こそ旅館の部屋の中でされるのではないのだろうか?

 

 

 

あれから時間は過ぎ、夕食も取り終えた。みんなが浴衣に着替え、これから温泉へと向かう途中であった。多少の小銭を忍ばせ、風呂上がりに何か飲もうという算段だ。とにかく移動するがある程度の旅館内の構造は知っている。簪に説明されたので知っているのだが・・・

 

「おい楯無、ここに入るつもりは無いぞ?」

 

目の前には予約制の混浴風呂の立て看板が置かれている。楯無は部屋に通ずる鍵を振り回してにやりと薄気味悪い笑顔を浮かべていた

 

「此処しか空いていないのよ。そもそもどうしてこの旅館に私達以外、いないのか知ってるかしら?」

 

「おい、まさかとは思うが・・・」

 

混浴以外の風呂が使えないからという理由じゃないだろうな?もしそんな理由だったら俺は部屋に戻るぞ

 

「多分思っている通りだよ~。この混浴風呂以外が~使えないのだ~!」

 

「・・・俺は戻る。んで寝る」

 

その場で回れ右、即座に部屋へと帰ろうとしたががっちりと肩や腕を掴まれてしまった。その数8つ。虚以外なんだろう。そもそもお前らは良いとして虚はいいのか?

 

「放せ、んで1つ聞かせろ。お前らは良いとして虚はどうなんだ?賛成なのか反対なのか」

 

「私はどちらでも構いませんよ。公序良俗、キチンとルールさえ守っていただければ問題ありません。それに七実さんはそんなことしないと信じていますし」

 

信じてもらえるのはありがたいのだが、ここで言うべき台詞ではない。もっと重要なことを言って欲しい。「すみませんが別々にしませんか」とかな

 

「これでいいでしょ七実君?」

 

「ほぼ事後承諾になってるがな。折れたくは無かったが折れることにする」

 

「よしよし、素直が一番よ。それじゃあ行くわよ!」

 

掴まれたまま引き摺られるようにして中へと入れられてしまった。どんな目に遭うのか、それを知る由はない。俺はみんなとは離れて個別の棚に浴衣を脱ぎ捨て、腰にタオルを巻いてさっさと温泉の中へと入っていく。まだ楯無たちは入ってきていないが、先にさっとシャワーでも浴びて少し温泉に浸かってすぐに出ることにしよう。シャワーを浴び、身体を洗う。ここまではいいのだが終えた途端、浴場の扉が開いた

 

「な、七実はもう来てたんだ」

 

そこにはシャルロットと本音の姿があった。簪や楯無の姿は見えないものの、扉の奥からはちゃんと声は聞こえていた。ちなみにタオルは巻いていて見えてはいけないものは全て隠しているが出ているところは出ているので一瞬だけ見てしまったが、すぐに目を逸らした

 

「・・・正直こんな状況から抜け出したくてな」

 

「ななみんたら照れ屋さんなんだから~」

 

こんな状況で照れなくてどうするんだよ。そもそもの話だがこんな状況になるなんて思いもしなかったのだから当然である。照れ屋なんて遥かに通り越して心臓が爆発しかねんが

 

「とりあえず露天風呂の方に行ってる。できれば来るなよ。本当にフリとかじゃなくて本当にな」

 

「む~、別にななみんが減るものがあるわけじゃないでしょ~?」

 

注意、色々と減ります。正気度だったり理性だったり、最悪心拍数が上がりすぎて寿命が減るかもしれん。だからやめてくれ。今のお前らに目を向けないようにして姿を確認しないようにしているのはそういうことなんだからよ。とにかく俺は外にあるであろう露天風呂に向かった。外へ繋がる扉を開けるとそこには石で出来た窪みだけ。お湯が引かれているはずである露天風呂がなかったのだ。ここで本音が先ほど言っていた言葉を思い出す。そう、混浴風呂以外が使えないのだ。今思い返せばなるほどなと言いそうになったがこの時だけは勘弁してくれと思う。渋々、中に戻り中にある温泉に浸かることにした

 

「あれ七実、露天風呂に行かないの?」

 

「・・・無かった」

 

シャルロットも同じように温泉の中に入ってくる。それと入れ替わる様に簪と楯無、虚もこの室内に入ってきたようだが目も合わせられない。目を合わせようともしない

 

「七実、1つ聞いていい?」

 

「・・・なんだ?」

 

「左腕の変色してるのと背中の傷、それってどうしたの?」

 

初めてシャルロットに見られてしまったのだ。過去の負の遺産とも言える二つの傷。基本的に簪や楯無、本音に虚もあまり見せないこの傷。臨海学校でも今日行った沢でも上着で隠していた。以前にセシリアに俺の過去を教えることになったのも背中の傷を触らせたのは特例だが、誰にもそうするわけじゃない

 

「ニュースで俺がどんな人間か報道されたのは知ってるか?」

 

「一応はね、でも僕には関係ないって思ってた。それで?」

 

「それを嘘と言い張ることのできる証拠、犯罪者と化したあの糞野郎共につけられた傷だ」

 

あの時ばかりは死を覚悟した。いつもは死んでも構わないと思っていたがあの時はなぜか死から逃れようとしていた。あまり思い出したくないが体が勝手に動いていたのだ

 

「・・・なんかごめんね。思い出させるようなこと言っちゃって」

 

「別に構わん。この話題はここまでだ、もう触れてくれるなよ?」

 

「うん、そうする」

 

あれも過去の一部、消せはしない過去の一端。それが右腕以外が動かなくなったとしても今の俺を形成する過去の一部だ。決していい思い出では無い。だが今に至るまでの過程の一部であった

 

「あの時ばかりは私達も焦ったのよ?」

 

いつの間にか本音や楯無たちも温泉の中に入っていた。俺の左側にはシャルロット、右側には本音。少し距離はあるものの正面には楯無と簪、虚が温泉に浸かっていた。両隣が密着してきているので肌やら何か分からないが柔らかい感触と共に、俺の心拍数やら体温が上昇しているように思う。ただ単に温泉の水温が高いからそうなっているのかは分からない

 

「俺だって焦ってたさ、でも結果的には助かった。夜の公園に逃げて誰が助けてくれたのかは知らんが」

 

そういえばあの白猫、シャイニーだったか?その飼い主の名前も聞けずにいた。あの一件以来、シャイニーも眼帯を付け、煙管を使っていた和服の女性とも会っていない。どこかで元気にしているといいな

 

「それよりもだ、シャルロットと本音。お前ら近すぎないか?」

 

「そ、そんなことないよ?」

 

「そ、そうだって~」

 

噛んだ上に棒読み、自分でもそう思っているんだろう。だけど非常によろしくない。俺の理性ががりがりと削られているのだ。そんな状態では何が起きても仕方ないだろう。心頭滅却すれば火もまた涼し、煩悩を断ち切るなんてことは出来ないがこの時だけは断ち切りたい

 

「ふっふっふ~、ならこれはどうかしら?」

 

目を瞑っているが水をかき分ける音が微かに聞こえてくる。声からして楯無だろう。足を延ばして温泉に浸かっているが、その足に重量がかかる。というよりも足の自由が無くなってしまった。確認のために目を開けてみるが目の前に楯無がいた。それも対面してだ

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「・・・おい楯無。さすがに悪ふざけが過ぎるんじゃないのか?勘違いしそうになる」

 

「してくれてもいいのよ?」

 

本当にやめてくれ、ただでさえ理性が無くなってしまいそうなのに、後押しするように攻めてくるのはどうかと思う。少しだけ頭の中が揺さぶられるような感覚にさせられた

 

「お嬢様、さすがにやり過ぎです」

 

「ちぇ~、仕方ないわね」

 

楯無が俺の足から退いたのを見計らい立ち上がろうとした時だった。急に力が抜けて楯無目掛けて倒れこんでしまった

 

「きゃ!」

 

もう思考が回らない。手に何か柔らかいものを握っている感触があるものの上手く思考が回らず何であるかは覚えていなかった

 

「七実君たら大胆ね・・・って大丈夫?」

 

「もしかしたらのぼせたんじゃないですか?なんだかんだで一番最初に入っていましたし」

 

「・・・お姉さんやっちゃったんだぜ」

 

「お姉ちゃん、後で説教ね。虚さんも手伝って」

 

「わかりました。この際ですから今まで溜まった鬱憤を晴らさせてもらうことにします」

 

なんか熱く感じてきた。それが温泉の熱さなのか、そうでは無いのかすらわからなくなり、徐々に瞼が重くなっていったのだった

 




今回もお読みいただきありがとうございます

書いたら15000~20000字ぐらいになりそうだったので分割することにしました

今日は就活・・・一発試験だぁ


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矛盾しながらも思うこと

リクエスト第1弾、温泉旅行後半です


 

 

 

目を覚ますと浴衣に着替えて、部屋の布団の上で寝っ転がっていた。確か混浴風呂に浸かってのぼせたんだったか?

 

「あ、七実起きた」

 

「簪か」

 

布団から出て身体だけ起こしたら部屋の隅で楯無に本音、シャルロットの3人が虚に説教されていた。しかも正座で畳の上でだ。原因はなんとなく分かるが俺からは強く言えない。なんだかんだで役得に思ってしまったからだ

 

「悪いな、また迷惑かけたようで」

 

「ううん・・・こっちこそ、お姉ちゃんがゴメン」

 

「別に気にしてない。のぼせたのだって俺の自己責任だ。あいつらに何の問題は・・・なかったとは言えないかもしれないが責め立てるようなことはしなくてもいいんじゃないか?」

 

甘いと思われるかもしれないが別に悪い気はしなかった。それ故にあの3人に助け船を出すことにした。姿だけ見るとちゃんと反省しているように見える

 

「もうそれくらいでいいんじゃないか虚。こいつらを見るにちゃんと反省しているだろうし」

 

「分かりました。ではお嬢様だけ続行させていただきます」

 

「なんで!?」

 

「なんとなくです!」

 

理不尽極まりないが説教している時の虚には誰も勝てないのだ。ご愁傷様だな楯無。時間を見てみるがまだ9時を回った直後だ。眠気はまだないとはいえ、このまま暇なのもつまらない。かといって1人でゲームをするのはどうかと思う

 

「ちょっくら外で涼んでくる」

 

アイスでも買って外で涼しみながら食べることにしよう。昼間は夏の暑さで出たくないが、夜に限ってはそうでもない。むしろ、外に出て風を浴びながらアイスを食べる。これが夏の過ごし方になっている。アイスを買い、外に出るが電灯が少ないため星が鮮明に浮かび上がっている。天体観測は趣味だったがIS学園では光が多すぎて星が見えなかったりしていた。昔の事を思い出す、俺の身体が動かなかった時に親父と母さんが丘の上に連れて行ってくれたこと。あの時の興奮は今でも忘れることができないが今ではもう叶わない

 

「ななみん、そこにいたんだ~。外で何してるの~?」

 

旅館の外にある階段に座って星を見ていると本音がやってきた。いつものダボダボな着ぐるみみたいなパジャマでは無く浴衣なのが珍しく思う

 

「星見てんだよ」

 

「そういえば好きだったもんね~。あ~、アイス食べてる~!」

 

本音は花より団子というタイプだったな。半分ぐらい食べたカップアイスだったが物欲しそうな眼差しを向けられてしまった

 

「・・・食うか?」

 

「わ~い、ありがと~!」

 

素直に受け取ってくれたようで何よりだ

 

「ん~、うま~」

 

「・・・ありがとな」

 

どうしてか分からないが、ふと頭を過ったのはそんな言葉だった。本音はカップアイス片手に口に木のスプーンを銜えながら首を傾げていた

 

「ふぉ~ふぃふぁふぉ?」

 

「口に物を入れながら喋るな・・・なんかこんな言葉が頭を過ってな」

 

「ん・・・へ~」

 

口の中に残っていたアイスを飲み込み、興味なさそうなそうでないような曖昧な返事が返ってくる。間が抜けたような感じの返答には苦笑いしか出てこなかった

 

「でも本当にいろいろあったね~。全部は知らないけど~ななみんは頑張ったのは知ってるよ~」

 

急にどうしたんだか。唐突な本音の言葉に戸惑ってしまった

 

「いっぱい傷ついて、自分なんか顧みず大変なことに巻き込まれて、私もだけどお嬢様やかんちゃん、お姉ちゃん、デュッチーに心配かけて~」

 

足をぶらぶらとさせながらIS学園に来てからの出来事として語られるが如何せん恥ずかしくもある。決して褒められたものでは無いからだ。結局のところ、自己満足でしかないのだから

 

「・・・その、すまない」

 

「謝ってほしいわけじゃないんだ~・・・ただ、もうななみんが傷つくのを見るのも知るのもいやなの」

 

俺はどんな顔をして本音を見たらいいんだろうか。今までのツケが一気に回ってきた瞬間だ

 

「お嬢様は言ってなかったけど、ここに来たのだって1学期で出来た傷に効果のある温泉だっていうことで来たみたいだし。みんなななみんの事を大事に思ってるんだよ?」

 

今まで無碍にされたことは多いが誰かに大切にされた事なんて早々無い。全くなかったわけでは無い。前世込みでも数や年数は少ない。それ故に戸惑ってしまった

 

「特段、大事にされるようなことはしていないと思うが・・・まぁ、そう思ってもらえるとは思わなんだ」

 

「なんとなく知ってたよ~。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

何がとは聞けない。何を聞いているのかが分かっているからだ。どうして俺なのかと問いたいがそれは聞いていいことなのだろうか?人として聞きたいと思う反面、知りたくないという恐怖。知ってしまえば依存してしまいそうな甘い誘惑になるだろう

 

「・・・もし知っていたとしたらどうするんだ?軽蔑でもするのか?」

 

「しないって~・・・でもズルいかな~って思うのかな~?」

 

曖昧な反応には慣れたものだが、この反応はどうだ?怒りもせず呆れもせず、無関心に近いのか?

 

「もしもだけど~言い渋ってるなら理由があるんじゃないかな~?ななみんはちゃんと言ってくれるし~、()()してるからね~」

 

信頼とは随分と残酷な言い方だと思う。勝手に俺に何かを期待して貰っても困るというもの

 

「そうか?」

 

「そうだよ~。見てる人はちゃんと見てるんだよ~」

 

「・・・評価なんて知っている奴だけで十分だ。ともあれ、ありがとな」

 

「どういたしまして~。報酬はアイス1個でいいんだよ~」

 

カップアイスの半分とはいえ食ったのだから我慢しろ、とは言い辛い。でもたまには甘くさせてもいいか

 

「んじゃ、あいつらの分買って戻るか」

 

「お~、太っ腹ですな~!」

 

「たまにはな、あいつらには世話になってるし、これくらいはするさ」

 

俺と本音は旅館内に戻り、俺を除く人数分のアイスを購入し部屋に戻ることにした。部屋に入ってみると既に説教が終わっていたようで虚と簪、シャルロットは座椅子に座っていて寛いでいた。肝心の楯無は布団の上で足を擦っていた

 

「戻ったぞ。アイス買ってきたから食いたい奴は食ってくれ。一応奢りで俺は食ってきたから自由にしてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

楯無の分を1つ取り、持っていくが未だに足を擦っていた。正座のし過ぎで血行が悪くなったのでこうなるんだったか?悪戯心か、つい指で足を触ってしまった

 

「ひゃう!?」

 

突然の大声でみんなの視線がこちらに集まってしまった。楯無を見てみると顔を真っ赤にして俺を睨んでいた

 

「何してくれてるの!?」

 

「すまん、いつも悪戯されてるもんでしてみた。悪いとは思っている」

 

「悪いって思ってるなら最初からやらないでちょうだい。その点、私は悪いとは思ってないし」

 

「お姉ちゃん・・・それもそれでどうなの?」

 

今回は俺も何も言えないが全くその通りだ。学校が始まる前に侵入して、抱き着いて寝てたのはどこの誰だったのだろうか

 

「とりあえずほれ、楯無の分だ」

 

「あっれー、七実君が食べさせてくれるんじゃないの?」

 

「誰がやるか。自分で食えるんだから自分で食えよ。俺が食ってもいいんだぞ?」

 

「ちぇー。それじゃあ、ありがたくいただくわ。ありがとうね」

 

手に持っていたアイスを取り、布団の上で食べ始める。せめて布団の上で食うなよ。ともかく俺は潜っていた布団に戻って、入ることにした

 

「もう寝るんですか?」

 

「いや入っておくだけだ。特段することは無いしな」

 

もちろん俺の場合だ。簪達の場合では知らんが話のネタは持ち合わせていないのだ。人に合わせるのも面倒に思う

 

「そういえばだけど七実君、お風呂で言ってたこと覚えてるかしら?」

 

「俺がのぼせる前の話か?」

 

少し思い出してみるが途中から記憶があるような無いような、はっきりとしていない。もしかしたらとんでもないことを口走ったのだろうか

 

「悪いがそんなに・・・というよりもこっちを睨んでどうした?」

 

簪に本音、シャルロットの3人がこちらを見ていたのである。そんなに見られるような事をしたのだろうか?

 

「別に・・・七実が誑しなのは知ってるから」

 

「どういう理解だよ。その、なんか悪いことしたなら謝る」

 

「悪いことはしてないわ。でも気になるのよねー。この中で好きな人、いるの?」

 

本音といい今日はなんだ?随分と押してくるな

 

「もし、いたらなんだ?」

 

「聞いてみようかなって。で、いるの?」

 

「いたとしても誰が言うか」

 

「・・・七実さん、そろそろ自分の気持ちに素直になってみてはいかがですか?」

 

虚からはまさかの言葉だった。素直になってみるとしてもどうしたらいい?今の関係を崩さずにするためにはどうしたらいい?

 

「私は知ってますよ。七実さんが誰にどのような想いを思っているか」

 

虚が俺の気持ちを知っているのだとしたら、なぜ答えないのかも分からないのだろうか。いや、そこまで知っているのならこんな話をするとは思えない

 

「虚ちゃんは知ってたの!?」

 

「完全とはいきませんが、一応は知っているつもりです。ですが、どうして答えないのですか?」

 

これは逃げだと思われても仕方ない。だが現状に満足している俺にとってはこれ以上進むのが怖くて仕方ないのだ

 

「七実はどうなの?・・・私は知りたい」

 

「なんなんだよ、本音も簪も随分と積極的だな。()()()()()()()()()()()

 

「なら僕たちを見てよ。目を逸らさずに言ってくれなきゃ僕たち分かんないよ!」

 

シャルロットが声を大にして俺に近づいてくる。さすがに真剣な話をしているというのに今の状態は無いと思い、一旦布団から出て座りなおした

 

「それでななみんは私達の事はどう思ってるのかな~?」

 

「なんで俺なんかに好意を向けてるのかが分からない。そりゃ悪い気はしない」

 

「分かってるならなんで・・・どうして?」

 

「だから言っただろう、()()()()()()()()()()()って。これ以上はただ望めない」

 

俺にも言いたいことは沢山ある。どうして好意に気付いていたにも関わらず、気付かないふりや無関心になりかけたのかはこれ以上望んではいけないように思ったからだ

 

「望まないんじゃなくて望めない?」

 

「ああ、望めない。これ以上他人を望んだことも無いし、望まれたことも無い。いや、俺の知らないところではどうだか知らんが俺はそんな風に思った。あと怖い」

 

「怖いって、何が怖いのかしら?」

 

「今までの生き方でいいことなんて少なかった。そのせいもあってか、これ以上の幸福を感じてしまうと自分でもそれが当たり前になってしまいそうになる。甘い蜜を吸っていたくなる、依存してしまいそうになる、関係が壊れてしまうんじゃないかと思う」

 

今まで知っていることや慣れていることにはすぐに理解できるが今回の事に関しては全くの未知だ。理解もできず関係が崩壊してしまうのではないかと感じてしまったのだ。そんなに軟な関係では無いと思うがそれでも崩れてしまうように思えてしまうのだ

 

「七実君の言い分も分かるわ。でも私達の関係ってそんなに軟じゃないわよ?」

 

「そんなことは言われなくても知ってる。知っているからこそ、もしもが怖いんだ」

 

決してありえないとは思わない。以前、楯無が簪と疎遠になろうとしたこともあるため、ちょっとしたきっかけで全てが無くなってしまう可能性だって無いとは言わせない。それに昔からの関係にシャルロットまで加わってしまった。それに俺の感情としてもまだはっきりしない部分がある

 

「大丈夫・・・そんなことは起こさせない」

 

「僕はあまり知らないけど、そんなに簡単に壊れるものなの?」

 

「俺だってそうだとは思わない、思いたくない。でも怖いんだよ。今まででも十分に満足しているのにこれ以上望んで自分で壊したくないんだ」

 

「深く考え過ぎとは言いませんが七実さんはみなさんの想いを無碍にするおつもりですか?」

 

「だからそういうことじゃない。誰か1人を選んでこの関係を崩壊させてしまうぐらいなら誰も選ばないつもりなだけだ」

 

一夫多妻なんて非常識な選択は無い。ならば誰かを選ばなくてはならない。それ故に疎遠になったり、関係がギクシャクしてしまうなら現状のままで十分に満足なのだ。俺たちの想いなんて度外視する覚悟は既にある

 

「なーんだ、そんなことで悩んでるの?」

 

「いや一番大事なところだぞ。そんなことで、というには大きすぎることだと思うんだが」

 

「こんないい言葉があるわ。バレなきゃ犯罪じゃない、ってね」

 

いやいや、ダメなものはダメだろうが。そのせいでどんだけ悩んでんのか知ってるのかよ。虚を除く4人は一斉に立ち上がりこちらににじり寄ってくる。俺の後ろは壁の為、逃げ場なぞ存在しない

 

「さて、私も一仕事したのでもう一度温泉に入り直してきます。だいたい2時間ぐらいしたら戻ってきます」

 

こんな状況で口角を上げて一瞬だけこちらを見た後、虚はこの部屋から出て行ってしまった。そもそもこの話を切り出したのは虚だったな。もしやこの展開になるのを知っててやったのであれば多少は恨むかもしれんがありがとうと思うだろう。ああ、親父に母さん、今日俺は人として本当に意味で最低に成り下がるでしょう。こんな不出来な俺を育ててくれてありがとう。俺はまだ上ってはいけない階段を駆け上がることになりました

 

 

 

翌日、俺は尋常ではない倦怠感に苛まれながらも疲れと汚れを落とす為に温泉に浸かることにした。某ゲームでは、昨夜はお楽しみでしたね、みたいな会話があったが本当にそうなのだろうか。本当に必要最低限の回避方法は取りましたとも。楯無様様です。ゴムですたい。最後の方は乗ってしまったところもあったかもしれんが罪悪感と虚無感、それと快楽が尋常では無かった。たった2時間でだ。眠りに耽る瞬間に虚が生暖かい眼差しを送ってきたことに関しては触れないでおこう。脱衣所に到着し、浴衣を脱ぎ捨て、シャワーを浴びることにした

 

「・・・やってしまったことには変わりない。無責任というわけにはいかないからな。ただ、バレてしまったらタダじゃ済まされないんだよな」

 

こんなご時世では男性の立場が弱すぎる。もしバレてしまったら終身刑やら死刑になるのではないだろうか。最悪、女性を誑かしたとかで研究所送りなんてのも考えてしまう。いったいどうしたらいいんだか。身体を洗い終わり最後の温泉に浸かることにした。昨日は知らされていなかったが傷に対して効能があるらしいがどうなんだろうか。気遣いとして本当にありがたい

 

「効能って言っても古傷には効果無いんだろうな。まぁ、最近のものには効果はあるんだろうけど」

 

身体には昔から付いていた傷以外にもIS学園に来てから出来た傷も多く存在する。医療用ナノマシンで完治はしているものの修復されてはいない。要は傷としては治っているが跡は残っている。IS学園の1学期の記憶では本当に最悪の結果としか思えないが、自分で出来ることは全てやってこの様である。意味はあったんだろうけどなぜか虚しさだけが残っていた

 

「気にするだけ無駄か。これ以上、面倒事に巻き込まれないようにするしかないというのに」

今は考えてもどうしようもない問題が頭を過った。織斑家の問題だ。この問題に関しては修復不可能な程に深い溝が出来てしまった。俺が求めていた本当の関係(家族)が既に消えかけてしまう。それほどに儚いものだったのだろうか

 

「そろそろ上がるか。長く入ってると昨日みたくのぼせるかもしれんしな」

 

早めに浴場から上がり、しっかりと水気を落としてから浴衣を着る。髪はタオルを風呂で使った奴とは別のを巻いて乾かす。虚に見つかったら怒られそうだがこの際は朝ということで音を立てたくないという理由にしとこう。部屋に戻るとすやすやと寝息を立てて5人が寝ている。微かに栗の花の匂いが残るこの部屋はとてもではないが居たくない。とりあえず気を紛らわす為に布団に潜り直すことにした。自分の使用している布団からも微かに栗の花の匂いが漂っているが気にしないようにしよう

 

「ん・・・あ、七実戻って来たんだね」

 

隣で寝ているシャルロットはどうやら起きていたようだ。昨日あれだけの事をしたせいか、まともに目も合わせることができなかった

 

「ふふふ、顔真っ赤にしてどうしたの?もしかして昨日の事でも思い出したのかな?全く、七実ったら厭らしいんだから」

 

「うっせ、ここにいる虚以外はみんなそんな感じだったろうが」

 

「それもそうだね・・・責任を押し付けたみたいでごめんね」

 

謝られても困る話なんだがな。とりあえず決意したことを言うとしよう

 

「シャルロット、1つ話がある」

 

「ん、何かな?」

 

「後であいつらにも言うつもりだが、やってしまったことには責任を取る。その俺で良ければよろしく頼む」

 

「うん、こちらこそよろしくね。それと僕を助けてくれてありがとう」

 

俺のやり方でも誰かに手を差し伸べることができた。その結果が現状に繋がったのだろう。だとしても流石に笑えない状況だがな

 

「俺は俺で勝手にやっただけだ・・・なんてことはここでは言わない。あんな解決方法しかなかったがこれで良かったのか?」

 

「良かったんだよ。お母さんのお墓参りには行けなくなっちゃったけど心残りなんてそれくらいだし、僕は気にしないよ」

 

「そう言ってくれると助かる。俺としても少しは気が楽になる」

 

シャルロットの問題に心残りがあるとしたら、本人の同意なく勝手に行動してしまい問題の解決を図ったことだ。しかし、今の言葉でそれも解消された

 

「何から何までして貰っちゃって悪いなんてことは無いよ」

 

「俺が全部やったわけじゃない。織斑先生だったり楯無が動いた結果だろうに」

 

「確かにその通りかもしれないけど、その説得だって七実がやったんでしょ?」

 

「まあな。あの時俺がしたことが正しかったのかどうかは分からん。だが現状で満足しているのであれば俺から言うべきことは何一つも無い」

 

「ありがとうね七実。大好きだよ」

 

そう臆面も無く言われると俺は恥ずかしくなってしまう。やはりこういう経験がないので慣れない

 

「そうだシャルロット。一応だが風呂に入っておくことを薦める」

 

「あー、そうだね。なんだかんだで結構汗掻いちゃったし、七実は先に入ってきたの?」

 

「ああ、後で簪達が起きたら言っておくから。先に入ってきたらどうだ?」

 

「そうするよ。それじゃあまた後でね」

 

ゆっくりと音を立てないようにして、シャルロットは部屋を出ていった。俺ももう少し体力を取り戻す為に休むとしよう

 

 

 

いよいよ1泊2日の温泉旅行も終了する。帰りは行きと同じく迎えの車に乗せられて帰る。現在は既に旅館から離れ、行きと同じ車、運転手に乗せられ帰るところだ。簪達にはシャルロット同様に自分なりの決意を示した。その結果、快く受け入れてくれた。今日は虚が助手席に乗り俺は1番後ろの席の真ん中。その両脇には本音と楯無が座っているのだが、ナニとは言わんが疲れが残っているのか俺の肩に頭を乗せて眠っている。ルームミラーからは運転手(親父さん)の鋭い眼光が俺に向けられている。かなり怖いのでやめてもらえませんかね

 

「楽しかったね。またこういうところに行きたいね」

 

「ん、ああ、そうだな。温泉ものぼせるぐらいよかったしな」

 

「実際にのぼせたしね・・・お風呂よりシャワー派だっけ?」

 

「派閥というよりも体が動かなかったからそれが習慣付いていただけだ。まぁ、温泉自体初めてだったが」

 

今回の温泉旅行は疲れはしたものの最高の結果となったと思う。だがこれからどうしていこうか。この関係を知られないように生きていくために後にキチンと話をしなければいけないな。後に全員集めて話をしよう。ふと窓から外を見ると街中の風景だった。そろそろIS学園に向かうモノレール駅に到着するため、楯無と本音を起こすことにした。だが揺さぶりをかけても一向に起きる気配は無く到着してしまった

 

「簪、こいつらを起こすの手伝ってくれないか?」

 

「うん・・・脇腹抓れば一発で起きるけど、その後に七実が被る被害が大きいからやめとく」

 

最悪の場合は使わせてもらうが今はそんな時ではない。普通に起こすことにしよう。しかしなんだ、こうしてみるとこんなにも好意を寄せてもらっていたのだと再確認できた。それがとても嬉しく思う

 

「七実も笑ってないで・・・なかなか起きない」

 

「もういっその事、脇腹抓るか」

 

「それやったらお姉さん怒るわよ!?・・・あっ」

 

どうやらどこかのタイミングで起きていたらしく、見事にやらかしたかのような表情をしていた

 

「も~お嬢様~、しっかりしてくださいよ~」

 

「これでずっと会えなくなるわけじゃないんだから良いだろうが」

 

「そういうことじゃないわよ・・・全くこう言う時だけ鈍いんだから

 

声が小さくなろうとも聞こえているものはどうしたらいいんだろうか

 

「暇がある日だったらまた会えばいいだろ。幸いにも俺は基本的に暇人なんだから」

 

「なら~明日よろしくね~ななみん!」

 

楯無に対して言った言葉に本音が答えてどうするんだか。だが言ってしまったことには変わりはない

 

「明日は今日の疲れが取れてたらな。俺だってゆっくりしたいのとさっさと宿題を終わらせたい」

 

「ん~それじゃあ明日は寮に行くから~」

 

「・・・あれここは私の場面じゃなかったの?」

 

「お姉ちゃん、いつから自分の場面だと錯覚していたの・・・残念、本音の番でした」

 

流石にこれ以上車の中でやり取りをするわけにいかない。虚は頭を抱えているし、運転手(親父さん)の怒りが有頂天に達しそうなんで急いで車から出て、駅に向かうことにする

 

「んじゃ、また今度な」

 

「明日行くからね~!」

 

「電話の1本ぐらい寄こせよ。迎えにも行けんし用意も何もできないからな」

 

俺とシャルロットは駅に向かう前にせめて見送りだけはと思いその場に残った。車は発進していき徐々に車が小さくなっていく。やがて見えなくなり、俺たちは寮に帰ることにした。翌日の事だがなんだかんだで本音だけでは無く簪と楯無も寮に戻ってきて日帰りで家に帰っていったのは言うまでもなかった。だが簪は家よりも寮の方が色々と融通が利くとの事で夏休みも寮で過ごすことになった

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

最後の方は凄い駆け足になってしまいました

分かる人には分かるかもしれませんがR18は書かない(かも)です



どうでもいい余談

GWイベントの深海電脳楽土SE.RA.PHってイベントでいいんですよね?1,5章の間違いじゃないですよね?さすがCCCコラボ、ラスボスがあの人なのはなんとなく予想できてましたとも。ガチャの方もメルトが当たりここ最近のガチャ運に驚愕しているうぷ主

復刻本能寺で沖田、直前ピックアップで嫁王、CCCでメルト(全て呼符と配布石、ストーリーでの入手石)・・・正月の剣式と武蔵で爆死したのを凄い勢いで回収している気がします

なおフレンドが心許ないので辛いです。興味のある人は申請していただけないでしょうか
ID:457966475


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IS学園発地獄行き、修行行進

リクエスト第2弾、ドイツでの修行準備編です


 

今現在、燦々と直射日光を浴びながら汗水垂らし地べたに這い蹲っている。砂が口の中に入りじゃりじゃりとしていて気持ち悪く、吐き捨てようにもそんな気力は無い。夏が1番嫌いな季節だというのに暑いのが嫌いだというのにどうしてこういう状況に陥っているのかというと3日前に遡る必要がある

 

 

 

夏の日差しとそれに伴う熱が最も嫌いである俺は基本的に寮の部屋で引き籠っていた。部屋には俺と簪、シャルロットの3人が居着いてぐうたらな毎日(夏休み)を満喫していた。簪やシャルロットは日本の代表候補生ということもあり、時たまこんな糞のように暑い中に外出してIS委員会やら企業へ赴いてはいた。俺も必要最低限ながら買い出しや料理、掃除等々の家事全般を請け負っている。無論、買い出しは夕暮れ時に行くがな

 

「暑い・・・ただいま」

 

「この部屋は最高だね。涼しいし何よりもご飯が待ってるからね。僕、もうお腹ペコペコだよ」

 

今日は珍しく2人が同時にIS委員会の方へ外出していた。その2人が帰ってくるなり一斉にだらけはじめた

 

「おかえりさん。だらける前に風呂なりシャワーでも浴びてこい。沸かしてあるぞ」

 

「ありがと七実・・・最近オカン属性でも付いた?」

 

「馬鹿言うな。お前らがちゃんと働いているというのに俺だけ何もしないのは気が引ける。まぁ、今の俺の仕事はこれだしな」

 

俺は専業主夫かよ。相手は4人もいるけど・・・家が広くなければできそうだ

 

「でも七実の家事スキルには驚かされるよ。僕もそれなりにできると自負してるけど、差が大きすぎるよ」

 

「はいはい、とりあえず冷える前に入って来い。夕飯の準備をしておく、今日は冷製パスタにしてみた」

 

「はーい、それじゃあ入って来ようか」

 

簪とシャルロットが浴場に入るのを見てから準備に取り掛かった。既に料理は作り終えているのだがデザートも用意している。これは後でもいいだろう。豚しゃぶサラダに冷製明太子パスタ、麦茶やらを用意する。疲れているだろうし一応、量もそこそこ作っていた。おかわりぐらいはできるだろう。テーブルに用意し終わり一息ついたところで部屋の扉にノックする音が聞こえた

 

『夕飯時にすみません、山田真耶です』

 

「山田先生ですか。少し待っててください」

 

扉を開けると声がした通りに山田先生がいた

 

「こんばんわ、こんな時間にどうしたんですか?」

 

「実はですね、七実君宛てに招待状が届いていましてお届けに来ました」

 

おかしい、個人宛てに来るのであれば寮のポストに入っているはずだ。先ほど簪とシャルロットが帰ってきた時には何も持っていなかった

 

「ちょっと話しにくい内容なのですが、研修と言いますか修行と言いますか・・・そんな感じの招待状です!」

 

「具体的な内容が一切頭の中に入ってこないのですが、要はどこかに行って何か学んで来いってことですか?」

 

「はい、そうです!」

 

こんな俺でも招待したいと思う輩がいるのか。希少性故に招待と偽っているだけなのかもしれんが

 

「んじゃ、その招待状なんですが見せて貰ってもいいですか?」

 

「はい、これです」

 

大きめの茶封筒が2つ手渡された。1つじゃなかったのか?

 

「1つじゃないんですか?」

 

「今回送られてきた招待状は2つあります。宛先を確認して貰えば分かりますが1つはアメリカ軍からで差出人はナターシャ・ファイルスさんからです」

 

確か銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を操縦していた人だったか。なんでそんな人が招待するんだか

 

「もう1つなんですが、実はボーデヴィッヒさんから送られてきたものです」

 

「あいつからですか」

 

まさかの人物からの招待状だった。どうして俺に送ってきたのかは知らんがありがたく受け取ることにした

 

「それから明日ですが織斑先生と学園長から話があるとの事で、学園長室に10時に来て欲しいそうです」

 

「10時ですか、基本暇人ですし宿題も全部消化させたんで特別な用事も無いんで行きます」

 

「では、そう伝えさせていただきますね。私はまだお仕事が残っていますのでこれで失礼しますね」

 

「お体にはお気をつけて」

 

山田先生が立ち去るのを見送ってから室内に戻る。手元には2つの封筒があるのだがこれを確認するのはは夕飯を食ってからでもいいだろう。一旦自分の机に封筒を置き、準備を再開する。さてさて、今日も喜んでもらえるといいんだがな

 

夕食も食べ終わりそれぞれ一息ついたところで俺は先ほど山田先生から頂いた封筒の中身を確認することにした。まず最初に確認したのは相棒ことラウラが送ってきた方だ。封を開けてみると中には2枚のチケットと3,4枚の書類が同封されていた

 

「はい、お茶どうぞ。何見てるの?」

 

湯飲みにお茶を淹れて差し入れをしてくれたシャルロットだが素直に受け取ることにしよう

 

「お前らが風呂に入ってる間に山田先生が来てな、ラウラと銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の操縦者であるナターシャ・ファイルスからの招待状らしい」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)っ・・・」

 

俺たちは銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にいい思い出が一切ない。敵対し撃墜さることになった原因となった存在にいい思い出がある方がおかしいか。顔を歪めたシャルロットの表情も納得のものである

 

「俺にとってはどうでもいいことだが向こうはそうもいかないらしい。貸しを作ったままにしているのも気が引けるんじゃないのか?」

 

「それだけならいいんだけど・・・ちなみにラウラのはどうなの?」

 

「これから見るところだ」

 

書類に手を伸ばし見てみるが1週間体験として訓練の参加をしてみないかとの事。現状、俺に足りないものなんて分かりきっている。それを補うためにも丁度いい機会かもしれない。面倒かもしれないが俺は俺で確固たる力を手に入れなければならないだろう。それこそ簪達と対等に並び立つには、いつまでも守られるわけにはいかない。その為にはもってこいの時間だ

 

「ドイツに行くの?」

 

「俺は行くぞ。というよりも行かなきゃいけない理由が出来た」

 

「その理由・・・聞かせて」

 

いつの間にか俺の後ろでこっそりと書類に目を通していた簪がいた。少々恥ずかしくもあるが言うしかないだろう

 

「簪はなんとなく分かるかもしれんが、IS学園(ここ)に来る前までは貧弱そのものだった。身体が動かせなければそんなもの当たり前だ。いつもお前たちに頼ってただ日常を過ごしていた。だが今ではそうはいかない。IS学園(ここ)は謂わば非日常。常にどんなことが起きるかもわからん。現に1学期での生活が物語っている。今まで通りにいかないのなら俺自身が覚悟を持って、力をつけなきゃいけない」

 

「そっか・・・頑張ってね」

 

「それにな、お前らとこうして関係を結んでしまった以上、俺が弱味になるわけにはいかない。ある種の覚悟として受け取ってくれ」

 

「七実・・・」

 

俺としても足手まといなのは勘弁だ。だったら力をつけるまで、あくまで自衛としての力を欲する。最強なんて望みはしない。某流浪人では無いが手が届く人達(簪達)と一緒に居たいがための力が欲しいに過ぎない

 

「僕も協力するよ。簪も一緒にどう?」

 

「う、うん。毎日とは言えないけどできる限りの協力はさせて」

 

1人で出来ることなんて数が限られている。簪達も協力してくれるのは非常にありがたい申し出だ。断るなんてことはしない

 

「・・・ありがとな。さてと、明日はお前らは予定は入ってないんだったよな?」

 

「そうだね、明日は無いけどそこからは毎日入れ替わりで企業だとかに顔出しがあるかな」

 

「ならもう一人ぐらい頼めそうな人探すか」

 

開始の日取りは翌週の月曜から日曜までの間で行われる。付け焼刃程度でしかないがしないよりかはマシだろう。とりあえず両方の書類に目を通した後にシャワーを浴び、明日に備えることにした

 

翌日、俺は指定された時間通りに学園長室に到着していた。相当のことが無ければ生徒はここに来ることも無いし、入ることなんて無いだろう。なんだかんだ2回目だが多少は落ち着いている。3回ノックすると中から男性の声、轡木十蔵さんと思われる声で入室許可を頂いたので入ることにした。学園長室には織斑先生に轡木十蔵学園長の2人が座っているソファの対面に誘導された

 

「とりあえずおはようございます」

 

「うむ、おはよう」

 

「おはようございます。夏休みはどうお過ごしかな?」

 

「帰る場所も無いんで寮で毎日家事でもしてますよ。相部屋が代表候補生なんで家事全般はキッチリと俺がこなしています」

 

「専業主婦か。もっと学生みたく自由にしたらどうなんだ?」

 

「あいつらが疲れて帰ってくるってのに俺だけ何もしてないのは嫌なんで、俺の今の仕事みたいなものです」

 

母さんから聞かされた話だが子供は遊ぶのが仕事だ、だそうだ。今では子供と大人の中間地点。遊ぶのもいいがそれ以外にも手を出すべきだ。たまたま俺の場合は家事だっただけだ。なぜか織斑先生が遠い目をしていたのは気にするべきだろうか

 

「それよりもここに俺を呼んだ理由は何ですか?」

 

「そうでしたそうでした。まずは銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)での一件の話が纏まったのでその話からしましょう」

 

どうやらあの時の話が纏まったらしい。アメリカとイスラエルの両国には軍事的、経済的な処罰が下されるとの事。別に戦争に発展するとかそういう話では無く、ISコアを2,3個没収され、正式に出撃命令が出された3人には謝礼として額は知らないが払われるということらしい。ただ学生の身ということもあり全額は知らされないらしい。一夏や箒は親権を持った人が近くにいるため即支給されるらしい。俺はIS学園を出ることになったら全額受け取ることになったが極一部をつかうことが出来るとの事だが何十万という額が使えるみたいだ

 

「学生の内から金銭感覚がおかしくなってはいけませんから、私個人で預かることにしました。それでよろしいですか?」

 

「構いません。今貰えるか、後で貰えるかの違いしかないんで言うことは無いですよ」

 

「ではそうします。後は織斑先生からの話ですのでどうぞ」

 

「分かりました。それじゃあ鏡野、昨日山田君が封筒を2つ渡しに来たと思うが中身は見たか?」

 

「とりあえずは両方見ました。ドイツとアメリカからの招待状の事ですよね」

 

昨日渡された2つの書類を渡されたが1つだけ難しいところが存在した。それは開催の時期がほぼ被ってしまっていることだ。なのでどちらかを選択しなければならない

 

「ああ、私も昨日はここにはいなかったので知らなかったのだが開催日がぶつかっている。そこでだ、鏡野はどうする?」

 

「ドイツで」

 

即答してしまったが特段驚かれるようなことは無く、織斑先生は平然としていた。それどころか予感していたようにも思えてしまった

 

「なんだ、もう決めていたのか」

 

「言っちゃあ悪いですけど行くならドイツ一択です。あんなことがあったのにどうしてアメリカに行かなきゃいけないんですか?」

 

送られてきた書類には親善だとか和解のためだとか記載されていたが、あんなことがあった直後でそんなことが書かれてても信用できない。それにドイツにはラウラがいるがアメリカには知っている人なんて誰もいない。厳密に言えば向こうは知っていて俺は全く知らないなんていう状態だ。余計に行くのが躊躇われるというもの

 

「お前の言い分もちゃんと分かる。だがそう言ってやるな、向こうは本当にそういう気持ちなのかもしれんぞ」

 

「まぁ、そん時はそん時です」

 

そもそもの話だが、謝罪の文章やら送ってきていない時点で怪しいとしか思えないのは俺だけだろうか

 

「それではボーデヴィッヒには伝えておくとしよう。あと何か質問はあるか?」

 

「質問じゃないんですけど1つお願いしてもいいですか?」

 

「ほう・・・なんだ?」

 

織斑先生は太腿の上に置いていた手を上げて腕を組み、凛とした表情のまま俺に目を向けてくる。その表情は普段見ているものでもあるがどこか決意のようなものを感じた。俺の気のせいだろうか

 

「今回のドイツ行きに当たって鍛えたいのですが手伝っては貰えませんか」

 

「構わんぞ、むしろ大歓迎だ。そういえば聞き忘れたがどうしてドイツに行くことにした?失礼だが以前の鏡野であれば断りそうなものだが」

 

織斑先生の思っているのは正しい。以前の俺なら絶対と言える程、面倒だの疲れるだの言って断っていただろう。だがそうもいかない理由が出来てしまったのだ

 

「以前の俺なら実際に断っていたと思いますよ。でももうそんな甘ったれたことが言えないんです」

 

「・・・続けてくれ」

 

2人の俺を見る目がかなり厳しい目になっていた。話の内容が内容だからだろう

 

「IS学園に来て約3か月、色んな事が起きました。1組のクラス代表から臨海学校まで文字通り色んなことが起きました。その度に大変な思いをしてきました。なので自分を鍛えて力をつけることが出来たら少しは改善できるのでは、と思ったというのと既に求めていた日常から非日常に変わってしまったんだなと思ってしまったからです」

 

普段から起きることなんて無い生活に触れてしまったせいで既に普通ではない日常に変化してしまった。ならばこれは非日常と言わずしてなんと言えよう

 

「非日常か・・・」

 

「これから日常に変わるかもしれませんが、今までの生活とは大きくかけ離れているので何とも言い辛い状況なんですよ」

 

「そうでしょうな。鏡野君もさぞ大変だったでしょう。こちら側の配慮も遠く及ばずにすみません」

 

運営側としても大変なところだろう。何せ今は女尊男卑の世の中でたかだか貴重な要員だとしても少数でしかないのだ。多数には勝てないのだ。これは当然運営にも俺にも当てはまるのだ

 

「別に気にしませんよ。えっと轡木学園長も大変なのは重々承知ですし」

 

「子供が大人に気を使うものじゃありません、なんて言えればよかったのですが1学期はなんとも言えませんでしたからね。2学期からは改善していくことを更識生徒会長と協議させていただきました」

 

2学期から改善してくれるのはありがたい話だ。しかし改善したとしても裏ではどこかで恨んでは何かしてくる輩がいないとは限らない。そこはどうなのかは俺が知る由は無い

 

「そうですか、よろしくお願いします」

 

「ええ、お任せください。織斑先生はどうですか?」

 

「こちらも引き受けます。よし、昼食を食べてから動きやすい格好でグラウンドに来るように。1時から開始だ、いいな?」

 

「了解です」

 

「では私はやることができましたのでここで失礼します」

 

どこかやる気に満ちた表情で織斑先生は先に学園長室を出ていった。いやそこまで全力を出さなくてもいいんですよ?

 

「さてお話はここまでです。何か質問はありますか?」

 

「いえ今のところは思いつかないです。それではまたいつか」

 

俺も学園長室を出ていき、早めに昼食を取ることにした。これから動くのに腹の中に物を入れた状態でやるとか自殺行為でしかないからな

 

 

 

話は冒頭に戻るのだが、今の体力を計るためにひたすらに校庭を走らされた。1周が幾らかは知らんが500mと仮定しよう。1周半すら走れたかどうかも分からん。それぐらいで力尽きてしまい地面に転がっていたそこそこ大きな石に躓き大きく転んでしまったのだ

 

「大丈夫!?」

 

転んでしまったことで心配したのか駆け寄って来てくれた。なんとも見っとも無いところを見せてしまった

 

「悪いが口の中に砂が入った。水か何か持ってないか?」

 

「はいこれ・・・あと怪我ない?」

 

ボトルを手渡ししてくる簪から受け取り、急いで口の中の洗浄を行った。まだ口の中が気持ち悪い

 

「念のために下にISスーツ着てるから何ともない」

 

「まったく・・・これほどまで体力がないとはな。いや、鏡野の過去を思えば致し方ないが・・・しばらくは体力の増強にするか。一旦休憩にするぞ、今のままでは効率が悪いだろうしな。10分後にまた開始するぞ」

 

覚悟を決めた以上は甘ったれたことは言えない。もうやるしかない、守る為にも対等でいるためにもやらなきゃいけないんだから

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

ななみん決意の巻でした。次回はドイツからスタートです



どうでもいい余談

FGOでフレンド申請していただいた皆様ありがとうございました。皆様の鯖に比べて弱いかもしれませんがちゃんと育てていきます・・・リップが欲しいんじゃぁ・・・

基本的に

全、メルト 剣、嫁王か剣スロット 弓、エウリュアレ 槍、エリちゃん 騎、ドレイク
術、玉藻かニトクリス 殺、エミヤ 狂、アステリか茶々、べオ

の構成となっております。


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してきたことの結果

1週間ほどIS学園と簪達と別れを告げ、現在ドイツ行きの旅客機に搭乗している。ここに至るまで織斑先生との体力増強メニューや筋トレ、格闘訓練をしてこの日を迎えた。本当に長く苦しい戦いだった。ためになったとはいえ、よく1週間も耐えたと思う。格闘訓練では俺の最大の武器になりえる足を重点的に使う足技や絞め技、拘束なんかを覚えさせられた。やられた技は見様見真似でやって見たが通用しなかったがな。準備万端、後はラウラの元に向かうだけとなった。どうやら空港に迎えが来るみたいだがせめてラウラが来てくれないと、俺はキツイ思いをする羽目になる。知らない奴の案内でラウラの元に向かうことになる。12時間も搭乗したあとにそんな仕打ちでもされたら多分俺は泣く。そんなこんなで無事にドイツのフランクフルトに到着した、既に夜だけどな!

 

「あー・・・腰痛ぇ」

 

旅客機から降りて、キャリーバッグを受け取り空港のロビーへと進んでいく。ISの待機状態である懐中時計を確認してみると時差を合わせることなくキッチリと空港の時計と合致していた。さすがISと言えばいいだろうか。てか12時間も搭乗してたが時間だと5時間しか経過していないのか。とりあえず簪に連絡しとくか。ポケットからスマホを取り出し簪へ電話を掛ける。2,3コールがなった後に繋がったようだ

 

「よ、簪」

 

『ん・・・無事ドイツに着いた?』

 

「座席に座りすぎて腰がやばい。まぁ、無事に到着したぞ」

 

『お疲れさま。時差のせいで体調不良にならないでね・・・ん、ちょっと待ってシャルロットに変わる』

 

電話の向こうで少し会話が聞こえた後にシャルロットの声が電話越しに聞こえてきた

 

『七実、ちゃんとドイツに着いた?』

 

「簪と同じことを聞いてるぞ」

 

『知ってるよ。僕も心配なんだってば』

 

「お、おう」

 

そう臆面も無く言われるとなんだか恥ずかしくある

 

「その、心配してくれてありがとな」

 

『お、珍しく照れてるの?』

 

「うっせ、とりあえずそろそろ誰かしら来ると思うから切るぞ」

 

『うん、あっちに行ってもいつでも電話待ってるからね』

 

到着した連絡を終え、スマホをポケットにしまったところで背後から咳払いする声が聞こえてきた。振り返ってみるとそこには軍服を着たラウラと同じく軍服を着てラウラと全く同じの眼帯をつけていた女性の姿があった

 

「んんっ、誰に連絡していたかは知らないが私の事に気付かないとはどういうことだ?」

 

「悪いな、電話ぐらいは自由にさせてくれ。というよりもそっちの女性は誰だ?たしか・・・シュヴァルツェア・ハーゼ隊の人か?」

 

「ああ、その通りだ。より正確に言えば副官、隊の副長だ。ではクラリッサ、自己紹介を」

 

「かしこまりました隊長」

 

クラリッサと呼ばれた女性が陸軍式の敬礼をして、俺に鋭い視線を向けてきた。てか隊長はラウラなのか。どれくらい階級が高いんだか

 

「ドイツIS配備特殊部隊、シュヴァルツェア・ハーゼ隊副隊長のクラリッサ・ハルフォーフと申します。以後お見知りおきを」

 

「んじゃ俺もか、鏡野七実。世間一般ではどう呼ばれてるかどうかなんて知らない。百聞は一見に如かず、聞くより見て判断してください。あと、そこまでかしこまれても面倒なんでもっと楽にしてください。俺も接し辛いんで」

 

「良くも悪くもいつも通りだな。さて2人ともそろそろ行くぞ、長時間のフライトで疲れたろう。訓練は明日からだ」

 

「はいよ」

 

俺らは空港から出て駐車しているであろう場所へ先導してもらった。向かった先にはジープがあった。なぜだろうか、軍が使う車がジープで概念として固定しているのはなぜだろうか。それはともかく荷物を車に乗せて乗り込む

と他の2人も乗り込みこの場から出発した

 

「そういえばここから基地までどれくらいかかるんだ?」

 

「だいたい1時間程度で到着するぞ。なんなら寝ててもいいんだぞ」

 

「ならそうさせてもらう。疲れたままで行ったところで何言われるか分かったものではないしな」

 

「別に隊長はそういうことを言っているわけではないのですが・・・」

 

クラリッサの言葉を聞いていたが集団で思考が同一になるなんてことは無い。誰かが誰かしらにどのような感情を持つのかなんて知ったこっちゃない。少しでも疲れを取るために寝ることにした

 

寝てからどれくらいの時間が経っただろうか。瞼を開け外を見てみるが未だに運転中だった。しかも舗装された道路があるが周りは森林でその中を走っているところだった

 

「ちょうどいいタイミングで起きたな。そろそろ到着するから降りる用意をしておくように」

 

「はいよ」

 

森林を抜けて目の前には想像していたよりも大きい基地があった。ISの登場で使用頻度が少なくなった、航空機や戦車、装甲車を整備しているのが見える。備えあれば憂いなしとは言うがそれは軍も同じなのだろう。基地の中に入っていき案の定駐車場で停車した

 

「ご到着いたしましたのでお荷物をお持ちの上、私達に付いてきてください」

 

「分かりました」

 

いつになったら柔らかい口調になるのだろうか。硬すぎると俺も話しづらい。まぁ俺のことなんて知ったこっちゃないだろうが。荷物を持って移動すること5分、IS学園の寮より小さいが宿舎のようなところに連れてこられた。その宿舎の前にはラウラやクラリッサさんと同じように軍服に眼帯をつけていた。人数は20人を少し超えたぐらいだろうかえ、何、みんなして同じように怪我でもしてるのか?将又、中二病なのか・・・そもそも聞いていいことなのだろうか?

 

「これでようやく本題に入ることができるな」

 

「本題?」

 

本題というのであれば1週間の訓練参加だろう。ラウラの言う通りであれば明日からのスタートだったはずだ

 

「ああ、ようこそ鏡野七実。1週間の招待に際して我が隊で歓迎会を執り行う!」

 

「は?」

 

相棒ことラウラは何を言ってるのだろうか。歓迎会?

 

「何を唖然としているのだ?」

 

「いや、すると微塵も思っていなかったことをやると言われると唖然とするだろ」

 

「そのことは私から説明させていただきます」

 

ラウラの横にいたクラリッサさんがこちらを向いていたがその表情はどこか消えてしまいそうな笑顔だった

 

「この歓迎会の企画をしたのは隊長を除く私達です。世間一般では先ほど鏡野さんも仰っていたように最悪な物だと思われます。元々はキチンと調査した上で接触いたしましたがIS学園でも最悪な評価が報告に上がっていました。ですがそんなお方が隊長を救ってくれました。それだけで私達には恩を返すに値します」

 

「あー・・・」

 

俺が命を張ってまでやった行動がきっかけになるとは思わなかった。シャルロットといい今回といい報われた瞬間だろう

 

「いい人に恵まれてんなラウラ」

 

「そうだとも。もっともその中に相棒も含まれているがな」

 

「さいですか」

 

簪達の関係に続き、俺の知らないところでこんな関係が形成されているとは思わなかった

 

「そうだとも。それはともかく自己紹介をしてくれ」

 

「はいよ、2人目の男性IS操縦者の鏡野七実だ。どういう評価を俺にしているかは知らんが口よりも行動で示す。これから1週間よろしく頼む」

 

軍ということで俺も敬礼をしてみるとそれに合わせて敬礼を返された。思わず笑みが零れてしまった

 

「相棒が笑うとは珍しいな」

 

「かもな、最近はなんだかんだで笑うことが多くなったそうだ」

 

「良かったではないか。これも簪のおかげか?」

 

「その通りつったらそうかもな」

 

何処か引っかかるようで首を傾げるラウラ。先週から複数の女性と関係を結んでしまったなんてバレてしまうなんてことはあってはならない

 

「とりあえず部屋に案内してくれ。荷物の整理だとか休憩したい」

 

「了解だ。それではみんなは準備に取り掛かってくれ!」

 

『はっ!』

 

ラウラの掛け声とともに敬礼をして宿舎の中に戻っていった。何だろうか、公私混同しないのであれば今は本当にはしゃいでいる時間なのだろう。だがこれだけの人数で歓迎会をされても大人数は苦手なんだよ。ラウラの案内で宿舎の中に入るが内装は綺麗でキチンと清掃が行き届いているのが見て取れる。軍とはこういうところにまでキッチリしているのだろう。宿舎内を進んでいくと数ある部屋の前でラウラが立ち止まった

 

「今日から1週間住まう部屋はここだ。それとこの部屋の鍵を渡しておく」

 

「助かる。ここもIS学園同様で誰かと相部屋なのか?」

 

「その通りだとも。もっともその相手は私だがな」

 

知らない誰かが相手なのより十分ありがたいのだがラウラも一端の女性だ。ある一定の線引きはしなければならないだろう

 

「では中に入るぞ」

 

扉を開けて中に入るがテーブルが1つに椅子が2つと机が1つ。2段ベッドが1つとなんとも質素な部屋だった。IS学園の寮程広くは無いがそれでも人が2人住むのには十分な広さだろう

 

「相棒のベッドは上だ」

 

「了解だ」

 

一旦、自分の荷物を整理するために広げてみるがとりあえず大丈夫そうだ

 

「そういえばこれから歓迎会をするんだろうが俺はどうしてたらいい?」

 

「そうだな・・・ここで1週間暮らすわけになるがその際の行動を伝えておくとしよう。知らずに行うより事前に教えられていた方が気の持ちようがあるだろ?」

 

「そうしてくれると助かる」

 

いい意味でも悪い意味でも気を保てる。織斑先生の時は気が保てるとかそういう次元じゃなかったしな。そのおかげで俺は鍛えてもらえたのだから文句は無い。内容を聞いてみると格闘訓練から射撃訓練、ISの戦闘、整備を1週間行うそうだ。その際に毎日レポート制作を要求されるのだが最もだろう。俺としても今後の成長を望む上で文章にすることで分かりやすくするためだ。軍としても、もしかしたら改善点が見つかるかもしれないということで互いに益を生み出すとのこと・・・基本的に俺の方が益は多いと思うのはどうなのだろうか?

 

「というわけだ。理解してくれたか?」

 

「理解したが1つ聞きたいことがある。どうしてここに俺を呼んだんだ?」

 

「どうしてと聞かれたならこう答えよう。私は相棒を我が軍に、我が隊に引き込みたいからだ」

 

「はぁ?」

 

俺を軍に引き込みたいとか大丈夫なのだろうか。世界中では悪評が知れ渡っているというのに軍に引き込んだとしてもメリットは少ない、もしくは無いに等しいだろう。自信満々な表情を浮かべながら言い放つラウラを目の前に俺は思わず顔を顰めてしまった

 

「なんだ、不満か?」

 

「不満も何もどうして引き込もうとするんだ?」

 

「男性IS操縦者という史上例を見ない稀有な人間。捻くれているがその実は誰よりも思考を巡らせ、誰が相手でも物怖じせず発言をする。それに相棒でもあり、1番相手にしたくないからだ。主にISの性能で」

 

こいつ、最後に本音を漏らしやがったよ。だが高く評価して貰えているとはな。だが捻くれているわけではないんだがな

 

「何ならIS学園を卒業した暁には、私から入隊できるよう申請しておくぞ?」

 

「今すぐに決められることじゃない。受け入れるにしても断るにしても覚悟が決まったら、その時にもう一度伝える」

 

「なるべくいい方向で頼むぞ」

 

「あいよ」

 

こんな形だとしても俺は内心嬉しくてどうしようもなかった。今までこういう風に何かを求められることは正直少なかった。いや、簪達や親父と母さんは除くが。それを抜きにしても誰かに必要とされているのは慣れていない。そのせいか俺はすぐに荷物を片付けて二段ベッドを上り、顔を壁に向けて寝っ転がった。後にラウラに聞いた話では、この時の俺の顔は仄かに赤くなっていたそうだ。いや、誰得なんですかね?

 

 

 

歓迎会も無事終了し、今は宿舎の外に設置されているベンチに1人で座っていた。明かりはあるが夜空を見るには十分な暗さだ。夏休みはこうしてのんびりと夜空を眺めることが多くなっている。肉体的、精神的、時間的余裕がある時にしかやらないのだが、なんとなく見ている分には日本で見ていた時とあんまり変わらないように思える

 

「おや、鏡野さん。こちらでどうしているのですか?」

 

女性の声がした方に顔を向けてみるとそこにはクラリッサさんが立っていた

 

「ただ星を見てただけです」

 

「星、ですか?」

 

「ええ、ただの趣味程度のものですが」

 

「そうでしたか。あ、お隣いいですか?」

 

「あ、いいですよ」

 

隣と言っては距離はあるものの同じベンチにクラリッサさんは座っていた。ただ横に座って、何も喋らずただベンチに座っていた。そんな彼女を横目に俺は再び夜空を見上げた。静寂に包まれこの時一瞬、一秒をこの目に焼き付けては過去を思い出す。決してすべてがいい思い出では無いが、そんな中にもいい思い出は少なからず残っている。親父と母さんとの思い出、簪や本音、楯無、いや刀奈に虚との思い出。それに少なくともシャルロットとの最悪な出会いに相棒と呼べるラウラとの出会い。これからも何かしらの思い出は残るだろう

 

「・・・鏡野さん。1つ話を聞いてくれませんか?」

 

「あ、はい。いいですよ」

 

思い出に浸っているとクラリッサさんの方から話しかけてきた

 

「ここに来た時にも言いましたが隊長を救っていただきありがとうございました」

 

「まぁ・・・そちらからしたら指揮官を失うのは非常に痛いでしょうね」

 

「いえ、そう言うことではありませんよ。以前の隊長はもう1人の男性IS操縦者である織斑一夏の事を憎んでおられました。ですが、貴方と出会ってからというものの、そう言うことは一切無くなって優しくもあり厳しくもある隊長になられました。聞いてみれば貴方がきっかけで恨むのをやめたとのことで、私達は感謝しているのです」

 

今では冷静でただただ目的のために躍起になっていたラウラは、タッグトーナメントまでは一夏の事を憎んでいたのだったな。俺も少なからず今も憎んでいる。向こうの両親が今、どうなっているかなんて知らない。だが俺を除いてあんなに近くて、触れ合うことができて、羨ましいと

 

「きっかけは俺かもしれないが、変わると決めたのはラウラの意思だ。俺がそこまで言われるような事をしたわけじゃない」

 

「それでもいいのです。きっかけを与えた事には変わりませんし、何より隊長がそれで納得しています」

 

「さいですか。最もな話ですが織斑先生の紹介あってこそ出来た関係なんですが」

 

そもそも織斑先生の話が無ければ・・・いや、これも詭弁に過ぎない。話しかけてきたのはラウラ自身だ。そこは変えようもない事実だ

 

「だとしてもです。そろそろ鏡野さんは自分のしてきたことを自覚して、素直になった方がいいと思いますよ?」

 

「十分に素直な方だと思うんだが・・・」

 

言いたいことは全部言ってるし、言われることは素直に受け止めている。俺の考え方が混じっているせいで曲解してしまうかもしれんが

 

「これでは隊長も引き込むのには苦労するでしょう」

 

「それはもう答えは言ってるんだが。先延ばしだけど」

 

「ええ、知っていますよ。ですので苦労と言わせていただきました」

 

「あー・・・納得したわ。まぁ俺も隊長の評価しか分からんだろうし、口ではなく行動で勝手に評価してくれ。俺もそうする」

 

「そうさせていただきます。では、また明日訓練で会いましょう」

 

そういうとクラリッサさんは立ち上がり宿舎の中へ入っていった。俺も明日から始まる訓練ではどうなることだろうか。付け焼刃程度の体力では不安しか残らないが覚悟を決めた以上はやるしかないんだ。さて、明日の為にいつもより早いが寝るとしよう

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

ドイツ編は3話を予定していましたがもしかしたら4話になってしまいそうです
(あと1話で終了がもしかしたら2話になるかも)

これからは日曜投稿になる予定です


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初日といえど甘くはない

 

今日から訓練開始だ。と思っていたのも束の間、初日から無様な姿を見せてしまうことになるとは思わなかった。自分でも分かり切っている弱点。それは体力の無さだ。それこそ、日常生活では決して支障をきたすことは一切ないが授業での体育やらIS操縦の実習の時はまた別だ。俺にはそんなものは無いため、初日早々から出遅れてしまったのだ。そう、早朝ランニングによって

 

「昨日はあんなことを言っておいて、初日からこのあり様か」

 

「悪かったな。言い訳をさせてもらうが元々体力が無いんだよ」

 

現在は宿舎にある食堂で朝食を摂っているのだが対面に軍服を着たラウラがいる。早朝に走り、その後に朝食という順番となっている。腹に物を入れた状態で走るよりかは何倍もマシだ

 

「臨海学校の時に聞いてはいたが、本当に体力が無いとは思わなかった」

 

「織斑先生曰く、体力さえどうにかできればあとはどうとでもなるとの事だ」

 

飲み込みは早いらしく手が掛からないとのことで、本当に体力さえどうにかできればいいと言われた。自分自身でも自覚させられた瞬間でもあった。IS学園に戻っても日課にするとしよう

 

「ふむ、そうだったか。しかし、誰だって完璧な人間なんていないのだから相棒にも弱点はある。ISは言わずもがなあれだが、生身では体力だな」

 

「これからは自力で励むことにする・・・というよりもこの視線はどうにかできないか?」

 

こうして食堂で朝食を摂っているのだが周囲の隊員からの視線が痛い。物珍しいのだろうが見られている方は溜まったものじゃないんだ

 

「男っ気の無い部隊だから仕方ないだろう。この1週間は隊員にも美味しい思いをさせてやってくれ」

 

「俺なんかでそんな大役ができるとは思わんが、それでもいいなら勝手にやってくれ」

 

「相棒本人からもお許しが出たぞ。自由に接してもいいそうだ」

 

これはまたしても墓穴を掘ってしまったかもしれん。周りではガッツポーズをする奴やハイタッチする奴もいた。本当に面倒なことをしてしまったようだ

 

「はぁ・・・」

 

「どうしたのだ?」

 

「いや、こういう時だけはIS学園の女子みたいに騒ぐんだなと思っただけだ」

 

俺の事を除いてしまえば騒がしいと思ってしまう。それこそ、早朝の目覚まし代わりにしてしまえる程にだ。女三人寄ればなんとやら。この場合では3人以上いるが

「公私は分けているみたいだからいいだろう?」

 

「さいですか。んじゃ、俺は先に戻らせてもらうな」

 

ごちそうさま、と一言言って食器を返却して食堂を出た。IS学園にも似た状況だが、そこはあくまで似ているだけ。明確に違うのは今の俺の事を差別しないということだ。たったそれだけの違いではあるが、邪魔されることは一切ないのだ。それだけで今は十分なのだ

 

「さてと、少し早いが準備しますか」

 

早朝ランニングではジャージで出てしまったがこれからはそうはいかない。朝食前にドイツ軍の軍服を支給されたのだ。これから1週間はこの軍服に身を包み、訓練に励まなくてはならない。俺がここに来た理由の為にも最大限学ばなくてはならないのだから

 

 

 

時はそろそろ8時を回ろうかという時だ。既に軍服の袖を通し指定されていた訓練場へと到着していた。これから動くのでストレッチを済ませることにした。ただあれだな、時差のせいもあってか少し気怠いが無理矢理にでも目を覚ましやるとしますか

 

「やる気が出ているようで」

 

ストレッチを開始しようとしていると前方からクラリッサさんが歩いてきた。他の隊員はまだ来ていないが、彼女は毎回早く来ているのだろうか?

 

「ども。一応、招待を受けた身ですから、ちゃんとやらなければならないと思ってますんで」

 

「それは上々です。慣れないことだとは思いますが応援しています」

 

「ありがとうございます。朝は見っとも無い姿を見せてしまったんで、ちゃんとやるべきことはやろうかと」

 

「真面目ですね。朝は何事だと思いましたけど、疲れが残っていたのでしょうか?」

 

俺としては真剣な問題だがそれを疲れと言われてしまうのは些かキツイものがある。まるで体力がまるでないかのように言われているようで

 

「言い訳にしか聞こえないと思いますが、体力はほとんどないので疲れとかでは無いです」

 

「そうでしたか。そういえば、隊長からお聞きしましたがIS学園に入学する前までは車椅子で生活なされていたのでそうならざるを得ませんね」

 

「そこは早く追いつけるように頑張る。あーだこーだ言うのは面倒なので」

 

論より証拠、物を言う前に確実性のあるものを見せつける。とか言いつつも早朝での失態についてはどうしようもないがな。だが、その方が信用を得るにはもってこいだ。それが形として現れないものであろうと。クラリッサさんと会話しつつストレッチをしていると、続々と隊員が集まってくる。時間的にもそろそろラウラが指定した時間帯となりそうな時にラウラが到着した

 

「ふむ、揃っているな。では整列!」

 

ラウラの号令と共に一斉に整列を始める隊員たち。俺は最後尾に整列することにした

 

「全員集合しているようだな。では、これより格闘訓練を開始する。2人組を作れ」

 

ラウラがそういった瞬間に隊員のほとんどの目が俺へと向けられた。その様子を見てラウラとクラリッサさんは大きなため息を1つ零した

 

「まったく何している。鏡野は招待を受けて来ているのと新兵同然だというのに、アドバイスしてやらねばならないのに・・・独断でクラリッサ、鏡野のペアをしてやってくれ」

 

周囲の隊員は納得のいかない様子で抗議しようとするが、ラウラがそうはさせてくれそうになさそうだ。現に時間は失われていく一方で無限にあるわけじゃない

 

「翌日は相手を変えるが、その時もこちらで勝手に選抜する。運が良ければ当たるやもしれないと言っておくぞ。ペアを組んだ者から組手を開始してくれ」

 

明日からは隊員たちと組むことになると思うと少し憂鬱になりそうだが、招待を受けている以上は余計な注文はできない。文句を言う前にやることはやるとしよう。この場から離れて、クラリッサさんと少し距離を置いて対面する

 

「体力には自信が無いようでしたがこちらではどうですか?」

 

クラリッサさんは両手を腰に据え、足を肩幅に開き構える

 

「どうしました? 構えないのですか?」

 

「ん、ああ、俺は構えとか分からないんでしないです」

 

ここに来る前に織斑先生に教えて貰ってはいたが、全て性に合わなかったというか何一つしっくりこなかったのだ。それ故に俺は自然体であることを構えとしていた。簪に言われたことだが、某小説の姉が俺と名前が同じで同じことをしていたそうだ。その通りにつけるのであれば零の構え「無花果」だったかな

 

「かといって、一応格闘訓練は織斑先生に教えて貰ったので」

 

「ほう・・・では少しは期待させて頂きます」

 

おっと、これはまずいことを言ってしまったようだ。先ほどと打って変わって拳に力を更に込めて前傾姿勢になるのを見て、俺は多少後悔してしまった。先手で戦えるだけの力は無いので織斑先生に教えては貰ってはいないが見様見真似で覚えた方法で乗り切ることにしよう

 

「どうしたのですか?先手はお譲りいたしますよ」

 

「さいですか。んじゃいかせてもらいます!」

 

駆け出して接近するがこちらから攻撃を仕掛けることはしない。ただどんな風に仕掛けてくるのかを見てみたいのだ。どんな戦いにおいても相手を知らなければまともに相対することができないのだから。互いの間合いに入ったぐらいに俺は牽制として、右足で腹部目掛けて蹴り上げるがクラリッサさんが受け流しバックステップで後退して距離をとっていた

 

「織斑教官に教えて貰っただけはありますね。迷いの無い鋭い蹴りでした」

 

「それをいとも容易く受け流してる時点でお察しレベルなんですが」

 

「これでも軍人なので一般人に負けていられないので」

 

「でしょうね。でも俺だって負けてらんないんで、しっかりと学ぶもとい見させて貰います!」

 

再び牽制のために駆け出していく。いくらやられようと喰らいついて効率のいい攻撃方法や仕掛け方を学ぶとしよう

 

 

 

クラリッサさんには勝てなかったよ・・・全てやられた訳ではないが隙を見つけて突けば1回で修正されるわ、カウンターを狙おうにも距離を空けられるわでどうしようもなかった。できたことといえば足技からの投げと関節技ぐらいだ。まぁ、一番自信があった足技がほぼ完全に使えたのは収穫とも言えよう。何せ相手は軍人だ。戦闘においては信用できる存在相手に通用したのだから十分と言えよう

 

「お疲れ様です鏡野さん。これにて組手を終了となりますがいかがでしたか?」

 

「専門職だけあって強かったです。でも、いい勉強になりました」

 

「そう思っていただけたのでしたら幸いです。私も慣れない手合いでしたので非常にやりづらかった。隊長が招待した理由はこれでしたか。型に填ったやり方だけではなく柔軟に相手に合わせてみろと」

 

どのように思っていてもそういう理解になる・・・のか?

 

「とてもいい刺激になりました」

 

「それでは本日の訓練を終了する。各自、通常業務に戻ってくれ」

 

『はっ!』

 

組手を終え、隊員たちがこの場を去っていく。通常業務の詳細は知らないが書類仕事だったりISの整備だったりするのだろう。それぞれの行先が半々ぐらいに分かれているから

 

「初日の訓練を終えてみてどうだったか相棒」

 

先ほど訓練を終了させたラウラが近寄ってくる。正直な感想としてはとても疲れたといいたいところだが、こんなところでそんな甘ったれたことは言えない

 

「正直、慣れないことだらけで精いっぱいだ。だが、少しづつ学べているようにも感じる」

 

「それは上々。クラリッサから見て鏡野はどうだ?」

 

「筋はいいのでこのまま訓練を続けていけば私でも勝てなくなるでしょう。現に今日の段階で何度かしてやられましたので。織斑教官からご指導を受けたのもあるでしょう」

 

「ふむ・・・教官直伝というわけか」

 

直伝というよりも見様見真似でやっているに過ぎないんだけどな。それでも成果を出せていると信じたい

 

「ならば私もそのうち組手をさせてもらおうか」

 

「そん時はお手柔らかにな。ところでラウラやクラリッサさんも業務に戻るんだろうが、その間俺はどうしてたらいい?さすがに部屋に引き籠っている訳は無いだろ?」

 

「そういえばその説明をしていなかったな。レポートを書いて貰うんだが、部隊の大半がいる部屋でやってもらう。書き終わったのであればある程度の自由は許すが出来れば見学ついでに雑務を頼む」

 

「はいよ。貰うもんだけ貰って何もしないのは気が引ける」

 

「助かる。それでは私とクラリッサについてこい」

 

俺は2人の後ろをついていく。歩いていく先には左右対象で2階建ての大きな建物が2つあり、そのどちらかなんだろう。左側の建物の前に着くなり、建物構内へと入る。そのまま入口から進んでいき階段を昇っていき、2階へと上がり右へと曲がる。そのまま奥へと進んでいくと、とある扉の前で止まった

 

「ここが我が部隊の部屋だ。訓練が終わった後はここでレポートなり雑務をしてもらうことになる」

 

「了解。入る前に確認しておくが何か注意しておくべきことってあるか?」

 

「特には無いが問題になりそうなことがあれば早めに言ってくれ。その方がお互いのためになるだろう?」

 

「だな。その時はラウラかクラリッサさんを頼ることにする」

 

「ええ、そうしてください。たぶん席的にも私は近くにいると思います」

 

それは頼もしい。近くに頼れる人がいるというのは安心できる。だが、どこか心無し2人の表情が暗くなっていた

 

「・・・ほら行くぞ」

 

ラウラが扉を開けるとそこには女性、女性、女性。ほぼ180度見渡すも女性しかいないのだ。いやまぁ、ISの部隊だから女性のほうが必然的に多くなるのは分かっているがこれは些か厳しいものがある。クラリッサさんに背中を押され中に入ると俺へと視線が集中する

 

「雑務等を担当させていただきます・・・こんなんでいいか?」

 

「私に聞くな相棒。とりあえず相棒の席はこっちだ」

 

ラウラの後を追うと皆同じの机に椅子、ノートPCが1つに筆記用具やら必要最小限の物は置かれていた。その斜め後ろにも空席があるがこっちがクラリッサさんの席なんだろう

 

「ここでレポートを制作して最終日に提出だ。一応、訂正が無いように完成したらデータでいいから見せてくれ。何せ軍の上層部にも見せなければならないのでな」

 

「了解です、隊長殿」

 

「その言い方はやめろ。いつもの呼び方のほうにしてくれ」

 

隊に入隊した時を想定して呼んでみたが慣れないわ。でもいつかはこういう未来があるんだろうか。それはともかく今はレポートの制作に専念するとしよう。どうでもいい話なんだが元々この席には誰がいたのだろうか?

もし急増したというのであれば端に置いておくというのに部屋の真ん中と言える場所に配置されていた。そしてラウラとクラリッサさんはこの席の話をしたとき、表情が暗くなったような気がする。俺の思い違いかもしれないが、もし俺の予想が正しければドイツ軍を去った人間の席なのだろう。それも退役とかではなく嫌な結末で去った人間だ

 

(今はそんなことを考えるべき時じゃないな)

 

考えたことを一旦放棄して、俺はレポート制作するためにノートPCを立ち上げた

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

なかなか話が思いつきませんでした。申し訳ございませんでした

次回でドイツ編が終了となりますが、次の投稿は早めにできるよう頑張ります



余談

SS専用のTwitterアカ作りました

@alex_SSwriter


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再び日常へ

 

7/28 月曜日 天候:晴れ

 

IS学園から離れてドイツ軍に招待を受けこの地に降り立った。今回の招待を受けた理由は深くは話せはしないが自身の身を守るために、やらなければいけない目標ができたからだ。その目標を最短で効率よく行える機会を頂いたという幸運。それを生かす為に、ドイツへ向かう1週間前にIS学園の教員から格闘について手解きを受けてから来ていた。何をするでもなく、初日で移動だけでもほぼ半日を有したということもあり内容の再確認を受け、施設の軽い説明を受けて終了となった。知っている誰かがいるだけでも安心できるのは大きいと思う

 

 

 

7/29 火曜日 天候:晴れ

 

2日目、早朝のランニングでは自身の弱点である体力の無さが顕著に表れた。世間では酷評されているのは知っているが、自身の過去を語ると面倒なので割愛するが身体が動かせなかった7年間があるため体力が無いのは自覚している。今までは最低限のことだけで十分だったため体力を必要としなかったのがツケとなった。ここからIS学園に戻っても自主的にランニングを継続していくつもりだ。そして、この日の格闘訓練はシュヴァルツェ・ハーゼ隊の副隊長のクラリッサ・ハルフォーフ副隊長との組手では付け焼刃程度のものではあったが通用するものはちゃんとあったのが確認できた。その後、事務作業の手伝いをすることになったが1つの疑問が浮上した。どうしてあの机があったのかだ。それを俺が知る由ではないだろう

 

 

 

7/30 水曜日 天候:曇りのち雨

 

3日目、天候は良くないが午前は雨も降ることもなく早朝ランニングから始まり、格闘訓練と続いた。相手は変わるがそれでも相手は軍人、技を決めれば決め返されやることなすこと返されるのだ。だが昨日のようには遅れは取らない。負けないためにはどうするか。相手の行動を真似ることだ。真似るとは、学ぶの語源にもなった言葉であり、上の立場の人間の行動や教えを真似る。これにより何が有益かと言えば技術の向上は勿論のこと、選択肢の幅を実践を交えて経験として得られるということ。自分のISの特性に感化されたのか、ここ最近はこのやり方がしっくりくるのだ。それはともかく、午後にはISの整備の見学をさせてもらった。学生とはいえ、ドイツ軍のISに触れることはできない。保身的な意味も兼ねているが、遠巻きながら見てて思うことがある。どこぞのキチガイ兎の技術は凄いと思った。

 

 

 

7/31 木曜日 天候:雨

 

4日目、生憎の悪天候により訓練内容が変更されてしまった。室内練習場にてランニングから始まり格闘訓練、場所を移動して実物による射撃訓練。ドイツ軍基地に来て、早くも4日目となったが最初は慣れないことばかりだったがどうやら体は覚えてきているようで、ランニングに耐えられるようになった。さらに言うと格闘訓練においては選択肢が増えてきているおかげで対応力が出てきたまである。そのおかげで満足とはいかないがそこそこの実力が持てたと思う。だが、先ほど記述したようにこれで満足とは言わない。こんなレベルじゃ自分が満足しない。完璧とはいかないが目標を掲げるとしたら打倒織斑千冬である。この話は置いておくとして、射撃訓練について1つ疑問に思ったが銃を撃った時、薬莢が排出され後に回収するのは経費削減のためには理由として十分だが、回収の仕方が問題だと思う。わざわざ、地面に落として排熱させてから拾うよりか虫網を使って回収した方がいいと思う。拾う苦労もなくペアを組んで片方が射撃、もう片方が薬莢の回収した方が効率的だと思う。購入費用は掛かってしまうが、それ以降は修繕を繰り返していけば何度でも使える。この方式は日本の自衛隊でも導入されており、十分な効果が保証されている。あくまで提案、疑問でしかないので悪しからず

 

 

 

8/1 金曜日 天候:晴れ

 

5日目、移動日を考えて今日を含めて残り2日となった。恒例の早朝ランニングですらこなせるようになっていた。慢心をするつもりはないがようやくこのレベルまで到達できたのだと実感した。しかしだ、早朝ランニングに格闘訓練は慣れたものの、もう一つの訓練であるIS模擬戦は流石に堪えた。情報として入手していることだろうし記述するが<M.M.>の特性上、被弾できないため苦戦よりも長期戦を強いられる。且つ、回避技術が伴っていなければできない行動も多く存在する。IS部隊であるシュヴァルツェ・ハーゼ隊の隊員は生半可な技術では打倒できないのは知っていたが、よく勝てたものだと思う。やはり自分はISを操縦しているのではなく、操られているのだと感じた瞬間でもあると感じた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

8/2 土曜日 天候:曇り

 

最終日、ここまで来ると名残惜しいものも感じるが感傷に浸っている暇なんてない。最終日とはいえこの日も早朝ランニングから始まる。このランニングも随分と慣れたものだ。その次の格闘訓練では、訓練初日で相手をしたクラリッサ・ハルフォーフ副隊長との手合わせをしたが五分五分とはいかずともほぼ対等に戦えるようになっていた。だが、上には上がいるものだ。クラリッサ・ハルフォーフ副隊長にはほぼ対等だとしても、ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長には歯が立たなかった。副隊長よりも隊長が強いのは想像できたが身長差をものともしないあの力には驚きを隠せなかった。午後の訓練はサバゲーもとい実地訓練だった。ペイント弾を使用したサバゲーという認識でやっていたが軍隊の本気を見た気がする。部隊を半分に分け。森林の中で条件、状況を指定してその範囲内での銃撃戦やステルス戦をしたが、これがまぁ尋常じゃなかった。指示や地形での行動予測、侵入経路の探索等々。的確すぎて怖すぎるほどなのだ。もしかしたら、何度も経験して慣れてしまったのだろうと思っていなかったが年に2回という開催で慣れるはずがない。昨日は晴れていたものの一昨日は雨だったため、ぬかるんでいたところも多々あったのだ。怪我もなく無事訓練を終えたが被弾したペイント弾が落ちないのは流石に堪えた

 

 

 

8/3 日曜日 天候:晴れ

 

訓練の全工程を終え、そろそろ出立する時間だ。忘れ物は無し。この一週間で得るものは多く、有意義な時間を過ごすことができた。自らの力を再確認でき、伸ばすことができた。それだけでも十分な収穫だったがそれでも最後に言うとしたら、隊の人員が女性だけなのは些か厳しいものがありました

 

 

 

「まったく・・・」

 

相棒が既に日本へ帰っている頃だろう。相棒が書いた報告書に改めて目を通しているがこのまま提出できるような状態じゃない。臨海学校で現れた篠ノ之束博士の事を示唆する内容が含まれている。そのことで問い詰められるのもが記されていた

 

「しかも、書いておきながら一本線を入れておくだけ・・・2学期が始まる前に戻るから、その時に毒づいてやろうか?」

 

このくらいなら軽いくらいだろう。あれやこれやとこちらも忙しい時期に来させてしまったので、確認はしたがサラッとしかできていなかったのがこうなるとはな。私は自分の席に着かず、相棒が座っていた席に座っていた

 

「どうぞ、コーヒーです」

 

「ん、ありがとうクラリッサ」

 

卓上にカップを置き、自分の椅子へと戻るクラリッサ。既に他の隊員は宿舎へと戻っているため二人きりである

 

「先ほどからPCを覗いてどうなされましたか?」

 

「あぁ、相棒が書いたレポートを見ていてな、出来はいいかもしれんが内容に呆れてな」

 

「そうでしたか・・・ですが、その割には笑っていらっしゃる」

 

どうやら無意識のうちに笑ってしまっていたのか

 

「そのお顔を見るのはあの時以来でしょうか」

 

「・・・そうかもな。いや、訂正しよう。IS学園でも多少は笑えてた・・・と思うぞ」

 

あの時と言えば織斑教官がドイツ軍に来る前、4年前の事だろう。不慮の事故で死んでしまった、元この机の持ち主である()()()。当時の隊長を務めていた彼女は尊敬の値するただ一人の女性だった

 

「時が経つのは早いものだ・・・」

 

「いろんなことがありましたね。隊長が織斑一夏を恨んだり、和解したり、相棒ができたり」

 

「ここ最近の出来事が多いな。まぁ、その通りなんだが」

 

これからもあんな出来事が無ければいいな。

 

「私たちを見守ってくれているだろうか」

 

「きっとあの人なら見守ってくれていますよ」

 

「・・・それもそうだな。あの心優しき彼女のことだ、きっと見守ってくれているに違いない」

 

()()()()()()()()()隊長、私は元気にやっております。どうかこれからも、シュヴァルツェ・ハーゼ隊の行く末を見守ってくれ

 

 

 

七実サイド

 

ようやく日本へと戻ってくることができた。この1週間で学んだことはこれからに役立つこともあるだろう。空港から離れ、IS学園のモノレール駅に到着した。まだ日も暮れていないが夏の暑さが未だに残っている。さっさと寮の部屋に戻ろうと駅から出たところを後ろから誰かに抱きしめられた

 

「お帰り七実・・・1週間ぶり」

 

「その声は簪か。久しぶりだな、そしてただいま」

 

周囲を確認してみるが簪以外には誰一人としていない。もし見られていたとしたら互いに悶絶しているだろう、恥ずかしくて

 

「うん、おかえり。疲れたでしょ?」

 

「正直に言うと疲れた。ただ、その分いい経験を積むことができた」

 

「それはよかったね・・・それじゃあ部屋に戻ろ、今日はシャルロットが食事当番なの。そろそろ出来上がるころだと思う」

 

「ん、了解だ。さすがに腹も減ってるわ、疲れてるわで少しキツイ。さっさと戻ろう」

 

「それじゃあ・・・はい」

 

抱きついていた手を解き、俺へ手を差し伸べてくる。俺はその手を握り、寮へと歩き出す。心なしか体が熱く感じるが夏の気温のせいだろう。寮の中に入ると、いくらか冷房が利いていて涼しい。ここは極楽ですな

 

「着いたよ」

 

「おー、ようやく帰ってこれた」

 

扉を開けると冷気が部屋の中から漏れ出すのと、肉を焼く音と匂いが同時に襲ってくる。簪に背中を押され部屋の中に入ると、キッチンには黄色いエプロンを付けたシャルロットがいた

 

「帰ってきたんだね、おかえり七実!」

 

「ただいま、シャルロット」

 

「もう少しでお夕飯できるからシャワー浴びてきたら?」

 

「んじゃ、そうする」

 

「今日はハンバーグだから期待しててね!」

 

ぶっちゃけシャルロットの作る料理は初めて食べるからどうなんだろうか。まぁ、さっきチラッと見た限りでは特に問題無かったように見える。今はシャワーでも浴びて、ゆっくりと夕飯でも食べるとしよう

 

夕飯も食べ終え、今はベッドの上で寝っ転がりながら某スマホゲーをしていた。ここにいない間はログインすらしていないから久しぶりの感覚だ

 

「ねぇ、七実。さっきから何してるの?」

 

「FG〇」

 

「FG・・・何?」

 

「要約、過去の偉人やら英雄、はたまた英雄とは正反対の人物を仲間にして、戦うゲーム。知ってそうなキャラではジャンヌ・ダルクにマリー・アントワネットとかか」

 

人によってはアストルフォとかか、俺は持ってないが。だが、どういう人物か知っている人からしたらあのアストルフォってどう思うんだろうな

 

「へぇ、やってみようかな?」

 

「おう、やってみたらいいさ・・・んで、2人してどうしてこのベッドに座ってるんだ?」

 

「ん・・・久しぶりだから一緒にいたい・・・ダメ?」

 

おっふ・・・こうも素直に言われるとは。だが、声に出して言われてしまった以上はどうしようもない。スマホを充電してサイドテーブルに置い2人を抱き寄せ、ベッドに倒れこむ

 

「急にどうしたのさ、七実?」

 

「気のせいじゃないことを祈って言うが、寂しい思いをさせてしまった。今日はこうしててもいいだろうか」

 

「いいよ。ううん、僕からもお願いしていいかな?」

 

「私も・・・いい?」

 

3人では少し狭いベッド。互いにより密着しているせいか涼しい部屋でもどこか熱く感じてしまう

 

「バッチこいや」

 

「それじゃお風呂入ってくる・・・覗かないでね」

 

「僕も一緒にいい?」

 

「いいよ」

 

2人はベッドから立ち上がり、着替えを持って浴室へと向かっていった。それにしても、1週間とはいえ長く辛い訓練がようやく終わったのだ。もっとやらねばいけないことはたくさんあるだろうし、不安なことはたくさんあるだろう。だが今回のドイツでの訓練で得たもので対応できるようになればいいな。そもそも、そういうことにならなければもっといいのだが。ちなみにこの後3人で一緒に寝ましたとさ。R18的な展開は無いからな?

 

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回はちょっとしたメタ視点があるのでご注意ください



どうでもいい余談

FGOでは羅生門に鬼ヶ島が終わり夏イベですね。

酒呑童子で爆死したので頼光さん当てました、まる

今年は異様に1%を引き、4%を引かない何とも言えない半年でした

正月でジャンヌ、剣式狙いですり抜けドレイクやらマルタ、マリー、剣スロ・・・

6月段階では星5が7体、星4が11体でした。残り半年は確率収束で当たらないんだろうな…


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私についての説明をしよう。

 

ドイツから戻ってきた翌日、俺は新たにやるべきことを追加した。それは体力増加のためのランニングである。早朝であるがために、簪やシャルロットを起こすわけにはいかない。1人で静かにやるべきだ。簪とシャルロットを起こさないようにベッドから抜け出し、ジャージに着替えて集中しやすくするために音楽を聴きながら走るように外に出た。寮を抜け出し、外に出て軽くストレッチをしてから走り出す。IS学園を1周しよう。外周で1周がどれだけ辛いものかは知らないが、目測でだいたい10㎞ぐらいあるだろう。もしかしたらもっとあるかもしれないが

 

「んじゃ、行きますか」

 

ドイツでの訓練さながら軽快に駆け出す。早朝ということもあって、そこまで暑くなく風もあって結構快適である。海上にあるとはいえ、異様なほど金を掛けた学園で見晴らしはいい。真上か真下から来なければ対策はしやすい。まぁ、この場所だし全方向の対策はしているだろう。守に易く、攻めるに難い。内部反乱でも起きない限り十分だろう。ISの待機状態である懐中時計を開いて時間を確認すると6時半。朝食にはまだ早いが下準備ぐらいはしておこう

 

「少しスピードを上げますか」

 

イヤホンを付けているせいなのか、IS学園という場所に信頼していたのかはわからないが俺は油断していたのだろう。何か紐のような何かに絡めとられ、後方に引っ張られ狭い筒状のコンピューターが大量に設置された部屋に入れられた。扉を蹴っ飛ばし外に出ようかと思ったが、部屋自体が揺れて立っていることすらできなくなった。人生2度目の誘拐、なんだろう、昔のことを思い出し気持ち悪くなってきた。この部屋で揺られること約20分、ようやく停止し扉が開く

 

「んっふっふ~、お目当ての人物ご到着ー!」

 

声がした方を見てみると、そこには臨海学校で見た兎耳の1人不思議の国アリスこと篠ノ之束だ。一体何の用で連れてきたんだよ

 

「どうだった、どうだった?この束さん特製のニンジンロケットは!」

 

「今すぐトイレに案内してくれ。汚物ぶちまけそうだ」

 

「げぇ!?そんなことしたらただじゃおかないんだぞ!」

 

誰のせいでこういう状況になってるんだよ。とりあえず汚物はぶちまけずに済んだがまだ気持ち悪い

 

「気分は収まったかえ?」

 

「一応は。てか、なんで俺をここにこんなやり方で連れてきた」

 

「まぁまぁ、ここに呼んだ理由は2つあるのだ。1つは、はー君の持っているISを貸してほしいんだ」

 

「はぁ?」

 

どんな理由で連れてきたかと思えば<M.M.>を貸してほしい?天災様が何をおっしゃってるんでしょうかね?

 

「ISコアには疑似人格が埋め込まれているのは知っていると思うけど、そのISコアは異常を起こしてる可能性があるんだ」

 

「だったら織斑先生に護衛でも頼んで、そこでやればいいだろうに」

 

「特殊な手段を使うから、この吾輩は猫である(名前はまだ無い)に連れてきたんだよ!」

 

それならそれで事前に伝えておいてほしいものだ。急なことで心臓に悪すぎる

 

「要はISコアの点検か?」

 

「理解が速くてよろしい、束さんに着いてこーい!」

 

意味不明な場所に連れてこられてやることは点検。帰ろうにも帰る手段もこの場所の位置もわからん事尽くし。仕方なく俺は篠ノ之束の後をついていくことにした。歩くこと3,4分したところでとある部屋に入った。そこにはISを掛けるハンガーや置いたISに繋げるケーブルにコンピューターがいくつも設置されていた

 

「それじゃあ、ISを展開してここのハンガーにかけておいて」

 

「うす。それが終わったら何してればいいんですか?」

 

「適当にしてていいよ~。なんならクーちゃんと話しててもいいし」

 

そのクーちゃんって誰ですかね?メイ〇なの?槍ニキでもいるの?それはそれでむっちゃ会いたいけど。ISを展開してハンガーにかけてから離脱する

 

「これでいいんすか?」

 

「OKOK、点検ついでに整備もしとくから少し時間がかかるかもしれないから」

 

「はぁ・・・んじゃ、適当にぶらついてます。外に行くとこなんてできないでしょうし」

 

「行けることは行けるけど死んじゃうよ?」

 

死ぬんかい。ならそれは行けないと同義だっての。とりあえず俺はこの建物内の構造がわからんから適当にぶらついていけばクーちゃんとやらにも出会えるだろうさ。でも簪に電話でもして織斑先生に伝えてもらうとしよう

 

 

 

束サイド

 

「これでようやくご対面だね」

 

外部からハッキングできないこのISコアには正当な方法で対面するしかなかった。今まではこんな方法を取る必要は取る必要が無かったためこんなのは初めてである。そう、電脳ダイブだ。操縦者個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって、ISの操縦者保護神経バイパスを通して電脳世界へと仮想可視化して侵入させる。これによって<M.M.>のISコア内部に侵入する

 

「何を知っているのかを聞きに行かなきゃね。この束さんが興味を持つ理由がこれからも続くか否かはそれ次第」

 

目を閉じて電脳ダイブを行う。身体に電流が流れてくるのがわかる。次に目を開けた時には視界は真っ暗。周囲を見渡しても真っ暗闇である

 

「おい、出て来いよ。誰だか知らないけどお前がいるのは束さんはお見通しなんだぞ!」

 

言ってみるだけ言ってみたが返答がない。このままここで待っていようとした時に異変が現れた。暗闇の中から木製のドアが現れたのだ。他に手立てもなく恐る恐るドアに近づき、ドアノブを回し開くとそこには和室が広がっていた。テーブルにはかき氷を作るための手動のやつ、床にはご丁寧にクーラーボックスも完備してやがる。それはともかく呑気にかき氷を食べているボロキレを着た鏡野七実がいたのだ。

 

「やっほー篠ノ之束ちゃん。引きこもりの私に何の用かな?」

 

「いやいやいや、ここまで自由奔放にやってるなんて思うわけないでしょうが!?」

 

この束さんをちゃん付けで呼ぶなんてふざけてるのも大概にしてほしいものだよ!

 

「たまーに白ちゃんだとか紅ちゃんとか来てるけどね。とりあえず夏っぽさを満喫してるところさ。あ、かき氷食べるなら自分で作ってね」

 

そこははっきりしてるんだ。それに白ちゃんだとか紅ちゃんって誰よ、架空の友人?いや、そうじゃない今日は聞きに来たんだ

 

「お前に聞きたいことがある。お前、いったい何者?」

 

「この世ならざる者、とでも返答しておけば満足してくれるかい?篠ノ之束ちゃん、君はそんな回答じゃ納得しない」

 

「あぁ、しないよ」

 

「だろうね。だからかき氷でも食べて落ち着いて話をしようと遠回しに言ってたんだけどな」

 

そんなことは知っている。早く話せと言ってるのがわからないのだろうか?

 

「急がば回れってやつだよ、篠ノ之束ちゃん。君が今思っていることも感じているし、知っている。全てを知りたいんだろう?ならここは乗せられてくれないかな?こっちの話も聞けない奴に話すことなんて無いんだし」

 

そんなことを言われてしまったらどうしようもない。目的が果たせなくなるのでここは乗せられておこう

 

「んで、何が聞きたいんだい?」

 

かき氷を食べながらそういう彼には呆れるしかない。そういや自分の分は自分で作るんだったけ

 

「まずは何者かを知りたい」

 

「はいはい、さっきも言ったけど私は()()()()()()()()()()。もっと言えば()()()()()()()()()()()()

 

「この世の人間じゃなかった?そんなSFだとかファンタジーの世界みたいな話じゃないんだからさ、現実味のある話をしろよ」

 

「なら、信憑性のある話でもするとしよう。神様転生という言葉は知っているだろうか?」

 

なーにを唐突に話題を逸らそうとしてるんだか

 

「聞いたことだけはあるよ。でも、そんなのは架空でしかない」

 

「普通ならね。でも私たちはその経験者だ」

 

「頭でもイっちゃった?」

 

「おいおい、こっちは割と真剣な話をしてるんだ。こんなところで嘘はつかないさ、んで話を戻すけど神様転生には大抵、特典が付き物だ。その特典に選んだのはこの世界における()知識さ」

 

なんか話がしっちゃかめっちゃかになってきた気がするが一旦考察してみよう。ここまでの話が全て噓ではないとするのであれば、織斑春十こと鏡野七実は転生者である。とんでもない話であるが仮にそうであるなら特典とやらがどれほどの物か

 

「ん、特典は全知識って言ったの?」

 

「そうだよ。おっと・・・急にどうしたのかな?汗なんか掻いちゃって。そんなにこの部屋が暑いのかな?」

 

そんなわけがないと思い、額を手で拭い確認してみるがびっしょりと濡れていた。脳内の片隅で警報が鳴り響いている。目の前の奴は危険だと

 

「ヤだな~篠ノ之束ちゃん。そんなに目つきを鋭くしなくてもいいじゃないか。ほら、深呼吸深呼吸。君は話し合いに来たんでしょ?」

 

髪のせいで目は見えないが口角が上がり、笑っているように見える。私にはそれがとても不気味に見えた

 

「その気持ちは分からなくないよん。でもさ、特典の内容わかっちゃったんでしょ?()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

 

「たぶんだけど、全知識ってI()S()()()()()()()()もって事?」

 

「大正解、そう()はISコアの製造方法を知っている。それだけじゃない、ここまでに出会う人間のことは大抵知っていた。君も一夏君も箒ちゃんも全員知っていた。知識として知っていたし、いつ、どこで出会うのかも知っていた」

 

そこまで来ると既に知識じゃない。未来予測だ、なのにどうして彼はその知識を使うことをしなかったのだろうか。そんな知識があるだけでも十分に楽できただろうに

 

「あのさぁ・・・大天災はやっぱり馬鹿なのかねぇ?」

 

「なーにを言ってくれとんじゃい!?」

 

「たかが一般人がISコアの製造方法を知ってたらどうすんのさ。それこそ誘拐、殺害されるでしょうが。だから私がきっちり漏れないように預かってるだけ。単純な思考すらできなくなっちゃったのかい?」

 

「お前、おちょくるのもいい加減にしろよ」

 

「悪かったよ。でも、私が言っていることは至極当然だろう?」

 

確かにこいつの言う通りだ。私しか知らないものを知っている。それ知ることは通常ではありえないことだ。だが、転生特典のせいで知ってしまった以上放置できない

 

「一応保身のために言っておくけど、ISコアの製造方法は俺に求められても外に漏らすつもりはないからね?」

 

「あっそ。ならいいんだけど本当に漏らすつもりはないんだね?」

 

「無いに決まってんじゃん。俺には絶対に渡すわけにいかないしね。これで何者かについては話したよ」

 

「いやまだ話してない。いま、束さんの目の前にいる奴と表に出ている方の説明がまだだ」

 

予想外の話になってしまったが重要なことには変わりはない。なぜ表に出ているのと同じ顔やら体格なのか

 

「そういえばそうだ。んじゃ説明するけど、私はあくまでも俺の一部分でしかない。もしくは歯車だ」

 

「歯車・・・なるほどね。君がいなければ本体(織斑春十)が機能しないと」

 

「御明察。私がいないことで何が機能しなくなるのかはご想像に任せるよ」

 

何が起こるかは分からないが、これで知りたいことは全て知れた。まだ利用価値はある。未来予知ができるのであれば十分だ。私は立ち上がりこの部屋を出て現実へ戻ろうとした時、こいつから声を掛けられた

 

「なんだよ?」

 

「私のことを聞いたんだ。こちらも頼みごとを3つほど頼まれてはくれないだろうか。篠ノ之束ちゃんの技術力なら全て簡単なものさ」

 

「まぁ・・・いいけど何さ?」

 

「それはね・・・」

 

そのあと、特に問題もなく頼まれ事を了承した。1つはISコアに改造を施してGPS機能を付けてほしいということ。2つ目は表の方に電話番号を教えろとのこと。この2つがどんな意味を為すのかわからないが、きっと意味のある事なんだろう

 

 

 

七実サイド

 

あれから2時間が経過した。研究所内を適当にぶらついていたら銀髪の少女に出くわした。どことなくラウラと同じ雰囲気を醸し出していた

 

「どうなされましたか春十様?」

 

「ん、暇だなと思って。それよりもお前さんはそっちの名前で呼ぶんだな。篠ノ之束から教えて貰ったのか?」

 

「ええ、それとお前さんではなくクロエ・クロニクルと申します」

 

このクロエという少女は目を開くことなく洗濯物を干していた。何もすることがない俺はそこらへんにあった椅子に座って暇をつぶしていた

 

「そういや、簪に連絡しとかないと心配させるな」

 

スマホを取り出し電話を掛けようと操作した時、腕を掴まれた。どうやらここではスマホを操作するなということだろう

 

「これじゃダメってことでいいんだよな?」

 

「洗濯物を干し終わりましたら、専用の通信機の場所に連れていきますので少々お待ちを」

 

量的にもう少しかかりそうだ。他人の物を手伝うのは気が引けるし何よりも面倒だ。そして干し終わったようでようやく連れて行ってもらえる。クロエの後をついていく。いくつかの部屋を通り過ぎると通路に黒電話があった。まさかとは思うがこれじゃないだろうな?

 

「こちらとなります」

 

「この黒電話がか?」

 

「はい、束様が1から制作なされました。こちらは特殊な電波と共に発信されるため妨害及び盗聴が不可となっております」

 

だからってこんな旧時代的な装置にしなくても、もっと機能が付けれただろうに。それはともかく簪の携帯番号へと電話をかけると1コール後に繋がった

 

『誰?』

 

「俺だ、鏡野七実だ」

 

『七実!?いったいどこにいったの!探したの!』

 

まぁ、そうなるわな。朝起きたらどこにもいなくて、探しても探してもどこにもいない。声を荒げるのは仕方ないことだろう

 

「えっとだな、朝6時半に起きてランニングしようとして外を走ってたが、篠ノ之束博士に誘拐された。理由はISコアの点検だそうだ。終わったらすぐにそっちに戻れると思う」

 

『それ信じていいの?』

 

「ああ、信じてくれ。それと心配をかけて悪かった」

 

『帰ったら覚えておいて・・・私とシャルロットだけじゃないからね』

 

帰ったら・・・大変な目に遭うんだろうなー

 

『早く帰ってきて・・・その、早く一緒いたい』

 

そう言って簪は通話を切った。本当に心配してくれているんだろうがドギツイのはやめてほしいな

 

「おーい、クーちゃーん!はーくーん!ここにいたんだ」

 

大手を振ってこちらに向かってくる篠ノ之束。片手にはISの待機状態である懐中時計を握りしめていた

 

「いやー。結構手間取っちゃったぜ。ほれ、これどーぞ」

 

持っていた懐中時計を放り投げて渡してくる。慌ててキャッチするが落としてしまったらどうするつもりなんだよ

 

「束様、他人の物を投げてはいけないでしょう」

 

「はーい。それとクーちゃん、束さんのことをお母さんと呼んでいいんだよ?」

 

「お断りします。あと、勝手に人を連れてきてはいけません。事前にアポを取るように」

 

なんだろう。身長とか考えても篠ノ之束の方が姉とか思えるんだが、クロエの方が姉っぽく感じる

 

「えー、面倒なんだもん。あ、そうだそうだ。はいこれ」

 

「なんだこの紙切れは?」

 

「束さんお手製の通信機の番号だよ。ISのことで困ったらここに連絡するよーに!それじゃあ元来た道を帰るよ。ほーれさっさと行く!」

 

手を引かれ元来た道を引き返す。妙に手に込められている力が強いせいで痛いがさっさと帰るためには仕方ない。そして最初の場所に戻ってくると、そこには巨大なニンジンがそびえたっていた。凄く・・・大きいです

 

「これでお別れだね。これに乗って早く帰るんだ」

 

「誰のせいでここに連れてこられたと思ってんだよ。とりあえず織斑先生に報告するからな」

 

「げぇ!?それだけはご勘弁を!」

 

「やなこった。でも、点検はありがと」

 

言うことは言ってニンジンの中へ搭乗する。すると、扉は閉じ発進する。このニンジンロケットって通常じゃありえない形状で飛行してるような気がする。もーね、飛行中はね、暇で暇で仕方ないの。下手に動けば舌とか嚙みそうで怖いしなジッとしてよう。そのままでいることこれまた20分ようやく停止して、扉が開く。着地の衝撃で立っていられず背中を打ってしまった

 

「束、どういうご身分だ・・・って鏡野がなぜこれに」

 

扉の先には織斑先生が仁王立ちしていた。おー、スーツ姿とはいえスタイルいいからいろいろとはっきりてんな。どことは言わんが凄い

 

「そういえば鏡野、デュノアに更識と布仏()()が心配してたぞ」

 

おんやー、これはヤバげですわ。一応報告だけでもしておきましょうか

 

「俺は悪くないんですけど・・・篠ノ之束に誘拐されまして・・・その、ISコアの点検だとかで」

 

「ん、ISコアの点検だと?」

 

「疑似人格が異常を起こしているだとかなんとか。よくわかんないですが、そういう理由らしいです」

 

何やら織斑先生にとっては考えることがあったようで考え込んでしまっていた。その間に立ち上がり外に出ると夏特有の暑さがやってくる。やべぇよ・・・やべぇよ・・・

 

「とにかく鏡野は早く戻るといい。あいつらが心配しているだろうしな」

 

「了解です」

 

背を向けて走り出した時に織斑先生は「あの時の話だろうか」と言っていたが何のことだかさっぱりだ。寮に戻り部屋の扉をこっそり開けるとそこには5人がきっちり揃っていた。その光景見た瞬間、扉をそっと閉じた。どないせっちゅーねん。朝一で心配かけて何事もなく帰ってきましたーってか?い、いや簪に何があったのかは説明しているから何事もないはずだ

 

「覚悟を決めて、いざ行かん」

 

再び開けて中を確認すると扉の前で5人が仁王立ちしてたので、またしてもそっ閉じしました。ごめん、あんな状況で飛び込めというのが無茶すぐる

 

『ねぇ七実ー、いい加減入ってきたらどうかなー?』

 

『そこにいるのは分かってるのよ?』

 

『絶対に逃がさない・・・今度は離さない』

 

声からしてシャルロットに楯無、簪なんだろうけどその言い方結構怖いからな!?急に目の前の扉が開くとそこには本音がいた。当然のごとくその後ろでは4人が待ち構えているわけで、そんな中で本音は抱きついてきた

 

「朝から大変だったね~ななみん。とりあえず部屋の中に入ろ~?」

 

「お、おう」

 

もう反抗する気も無くなったが、部屋の中に入るのは怖いがしょうがないと割り切ろう。部屋の中に入るなり、特に責められるわけでもなく今日1日はずっと一緒に過ごした。ただ、心配させた罰として1日は執事服を着て家事全般をするようにとのこと。それくらいは仕方ないと思ったが、本音も別方向に乗り気でメイド服を着て一緒に家事をしましたとさ。念のために言っておくが、この執事服を持ってきたのは楯無や本音じゃない虚だ。なんなら手作りだそうだ。その労力を別のところに回せよ、と言いかけたのは俺だけじゃないと思う

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回は8/6以降に投稿します

それと次回はOHANASHI回となります


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真実、知らずにはいられない

今回は千冬サイドオンリーとなっております


 

月明かりが照らすその顔は子供のように、そして退屈そうないつもと変わらない表情。篠ノ之束その人である。束は岬の柵に腰かけた状態でぶらぶらと足を揺らし、目の前に広がる海をただ眺めていた

 

「ん~・・・いるんでしょ、ちーちゃん」

 

多少は隠れていたつもりだが、こうも簡単に見つかるとは。このまま隠れているわけにはいかないので森から姿を現すことにした

 

「よく分かったな」

 

「束さんにできないことは無いのだよ。それはそれとして、何の用かな?」

 

「それこそ分かっていそうなものだがな。今回の暴走、あれは本当にお前の仕業じゃないんだよな?」

 

私には疑うしかなかった。この世界でただ1人、ISのことを完璧に理解している人間は篠ノ之束しかいない。開発者にして理解者。ならば今回の銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走に何か関与しているのではと思ったのだ

 

「もー、ちーちゃんも疑うんだからー。はー、じゃなくて、なー君もそうだったけどその考えは馬鹿馬鹿しいってもんだよ」

 

「だといいんだがな・・・話題を変えるがどうして一夏と鏡野の2人がISを起動できたんだ?」

 

単純な疑問だが今まで存在しなかった男性IS操縦者が急に現れたのか。そしてなぜ関連性のないあの2人なのか

 

「んーとねぇ、考えられるとしたら・・・ISに対して無欲だった、悪事や偽善のために使わない人限定に使えるとかね。もしくは・・・いや、これは束さんが()()言うわけにはいかないことだね」

 

何か隠しているようで聞き出そうと束に近づくが、右手を前に出して静止された

 

「このことはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。束さんはせいぜい助言程度しかできない」

 

「すまんがどういうことだ?」

 

私の問題でもあり、私たち家族の問題というのはどういうことだ?

 

「文字通り意味通り。あとは君たち次第さ!」

 

そう言って束は岬の柵から飛び降りた。その後、岬の下からジェットの噴出音がした。たぶん束のロケットの音だろう。それにしても束が言っていたことには考えざるをえない。だが、想像の範疇でしかないが束の言うとおりであるとしたら()()()()()()()()可能性を示唆している。いつか聞いてみなければ

 

 

 

「ん・・・」

 

朝、目覚めて起き上がり背伸びをする。先ほどの夢は臨海学校で発生した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走事件の後、密かに束に会っていた時のだった。どうしてこのタイミングであの時の情景が出てきたのかはわからない

 

『おーい、千冬姉!朝ごはん出来たぞー!』

 

ちょうど一夏が作る朝ごはんができたようだ。休暇を取ることができ、久しぶりに家に帰ることができたのだ。カーテンを開けると強い日差しが部屋の中に入ってくる。今日も今日とて暑い。ベッドから抜け出し部屋を出ると朝食のいい匂いが廊下まで伝わってくる。これだけでも食欲をそそるというものだ。リビングに入ると既に円華と一夏が席に座って待っていた

 

「おはよう、ちー姉ちゃん」

 

「ああ、おはよう円華に一夏。今日もいい天気だな」

 

「そうだな。でも、今日は重要な話があるんだろ?」

 

「・・・そうだ。だが、先に朝食だ」

 

一斉に「いただきます」と言い食べ始める。うむ、今日も一夏の作るご飯は美味い

 

朝食を摂り終えて今は午前10時。一夏と円華は2人掛けのソファに座り、1人掛けのソファに座り対面する

 

「んで、話って何だ。千冬姉?」

 

「IS学園でのことだ。様々な状況変化があった1学期だったと思うが2人はどんな感想を抱いた?」

 

「俺は大変だったの一言だな。触れたことのない方面だったからわからないことだらけで、それにISの操縦だったり戦い方も俺なりに学んだけど今でも慣れないかな」

 

一夏に関してはこんなものだろう。むしろあんなことがあったというのによく頑張った方だと言える

 

「私は・・・いつも通りかな。やることはやってるし、ほぼ毎日のように訓練してた。それでも考えさせられることばかりだった・・・かな」

 

円華はそういうもどこかぎこちない表情を浮かべていた。私が知っている限りだと一夏に関しての事だろう。できればそうであってほしい。いや、そうであったとしても如何せん苦しいものではあるが

 

「一夏は・・・そうだな、近接仕様のISであるが故の対策を考えるのがこの夏休みでの課題だろう。鏡野(比較対象)もいることだし、これからも精進するように」

 

「七実か・・・なぁ千冬姉、1つ聞きたいことあるんだけどいいか?」

 

「ん、なんだ?」

 

「俺さ、臨海学校での事件でやっちまったことを謝ったけど許してもらえなかったんだよ。謝るだけじゃダメだったのか?」

 

そう聞いてくるがまったく理解していないのかこの愚弟は

 

「まさかとは思うが一夏自身が気づいてないのか?」

 

「え、いやどういうことだよ?」

 

「一兄さん、一応念のために聞いておくけどシャルロットが男装してた時の一兄さんは何をしてたの?」

 

「そうだな・・・シャルロットが女の子だってばれないようにいつも一緒にいたぞ。それがどうしたんだ?」

 

ここまで来ると一夏(愚弟)がしでかした事の大きさが知れてしまう。()()()とはしていたが結局のところ、何も出来ていなかったということになる。あの時、鏡野が私や更識生徒会長に話してくれたことが事の解決に繋がったのだ。頭が痛くなってくるな

 

「一夏、その時の鏡野の行動は知ってるか?」

 

「知ってるも何も、あいつは()()()()()()()()()()んだぜ?」

 

この様子では鏡野の行動は知らないようだ。これに関してはどうしようもないのだろうか。鏡野が話していないこと、そして一夏が聞かなかったこと。この2つが丁度噛み合ってしまったことで起きたことなんだろうが先に手を出したのは一夏だ

 

「それは違うだろう一夏。お前が鏡野を殴ったのが原因でお前に協力しなかった、の間違いじゃないのか?」

 

「いやいやいや、七実が聞き分け悪かったのが原因だって!」

 

「・・・ねぇ、一兄さん。殴ったのは否定しないんだね」

 

「それは・・・」

 

円華の問いかけに対して言い淀む一夏。ここで即答できないというのは肯定を意味してしまう

 

「だって仕方ないだろ!他に頼れる人がいなかったんだよ!」

 

「どうして、私やちー姉ちゃんには頼ってくれなかったの?そんなに頼りないかな?」

 

「そういうわけじゃないって円華。ただ、あの問題に関わらせるわけにはいかないって思っただけなんだって」

 

「だから鏡野に頼ったと。ふざけるなよ、一夏」

 

流石に我慢の限界で言ってしまった。しんと静まるこの場を流すように1つ咳払いをする

 

「デュノアの問題は、たかが一般人が解決できるような問題じゃないのは考えればすぐにわかるだろう」

 

「でも、俺のやり方で問題は解決したじゃないか。現にシャルロットは今もIS学園に通ってるのがいい証拠だろ?」

 

「馬鹿も休み休み言え。一緒にいただけで問題が解決するわけあるか。私や学園長そして生徒会長が証拠を集め、事の解決に当たることができたんだぞ」

 

「それじゃあ誰が解決したっていうんだよ。ほかに誰にも言わなかったんだから知る由もないだろ?」

 

確かに私も鏡野から教えて貰うまでは知らなかった。もしかしたら学園長や生徒会長は知っていたかもしれないが私が知ることはほとんどなかったのだ。円華は臨海学校の際に教えて貰ったそうだが、事が事なので喜べるわけがない

 

「・・・たった1人だけ知っている人物がいるよね。誰にも言っていないわけじゃなくて協力を求められなかった。そうじゃなかったっけ?」

 

「ああそうだよ・・・まさかとは思うけど七実がやったわけじゃないよな?」

 

「何を言うか、お前でなければデュノアか鏡野の2択になるだろう。そして、デュノアの近くにいたというなら消去法で鏡野ということになるだろが」

 

「じゃあなんで俺に協力してくれなかったんだよ!?」

 

一夏はソファから立ち上がり、額に汗を噴き出しながらしどろもどろとしていた

 

「お前の対応の仕方が悪かったのだろうさ。頼みごとをする相手を殴るなんてのは以ての外だ」

 

「だったとしても!」

 

「いい加減にしろ!デュノアの件に関して一夏は何一つ()()()()()()()()。むしろ危険な目に晒してしまっていることに気づけ!」

 

ついに言ってしまった。避けるべき言葉なんだろうが教師として保護者として言わねばならんことがある。一夏も既に高校生なのだから責任感を持って貰わねばならんのだから。だがそれとは裏腹に一夏はリビングから飛び出し家から出て行ってしまった

 

「待って一兄さん!・・・ちー姉ちゃん、言いすぎだよ!」

 

「これくらいは言わなければならなかったんだ・・・円華も鏡野がどういう立ち位置に立たされているかは知っているだろう?」

 

「知ってるよ。だからこその言い方なんだろうけど、もっと優しくできたんじゃないの?」

 

そう言われても私にはこのやり方しか思い浮かばなかった。優しくしすぎても結局は一夏のためにならない。かといって最初から叱りつけても効果は薄い。これくらいがベストだと思ったのだが、そうはいかなかった。この場から一夏は出て行ってしまった

 

「どうしてそこまで七実に関連させる必要があったの?」

 

「あったさ。本当は一夏にも教える予定だったんだが・・・こうなっては円華だけでも聞いてくれ」

 

一夏には少し時間をおいておくしかないだろう。反省する時間も含め、しばらくはこのようにしておこう。円華も私が追いかけないのを見て意図は汲んでくれていることだろう

 

「その話は一兄さんが戻ってきてからでもダメなの?」

 

「ダメではないが明日にはまたIS学園に戻らねばいけない。ようやく取れた休暇もこの日のためにと思ってたんだ」

 

「そっか・・・なら聞いて、一兄さんにも伝えておくよ」

 

「実はな、一夏と円華以外にも兄弟がいたんだ」

 

私はズボンのポケットから1枚の写真を取り出す。その写真は幼い頃の私たちが全員映し出されている写真である。無論、この中にはいなくなってしまった春十の姿も見える

 

「えっと・・・実は4人兄妹だったってこと?一番大きいのはちー姉ちゃんだとして真ん中が私かな?」

 

「ああ、それで左が一夏だ。そして右にいるのが春十だ。ちなみに上から春十、一夏、円華の順で生まれた」

 

「じゃあなんで春十がいなくなったの?」

 

「ちょうどこの頃に誘拐されていなくなってしまった。そして今も行方不明となっている。だが、ここ最近束から確信に近いヒントを得た。信じられんが鏡野が春十である可能性が出てきた」

 

円華からしてみればまさかの人物が挙げられたと思う。実際にありえないという顔をしていた

 

「一番ありえない人物なんだけど」

 

「私だってそう思う。だが、私は鏡野が春十であると信じたい。そして、どうしてすぐに帰ってこなかったのかと問いかけたい」

 

「はぁ・・・それならそれで頑張るしかないね。私、このままでいいのかな・・・

 

円華は小さく何かを呟いたが私には聞こえなかった。本当にこれからどうしていこうか。一夏のこともあるが鏡野のこともある。いつかはきちんと4人で話をしなければならないな

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

こんなんでいいんですかね?作っていて若干コレジャナイ感がすごいです

次回は円華、一夏(もしかしたら箒も)サイドになりそうです

あ、それと今週末が終えたら本格的に執筆再開するようになりますので投稿が早くなるやもしれません


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すれ違う兄妹

一兄さんが出て行ってしまった後、私はというと特に何をするでもなく外に出てリフレッシュしようと決めた。ちー姉ちゃんも考えることがあるということで1人家に残ることになった。私自身も特に行く当てもないが、強いて言うならば昼食時なのかお腹が空いてきた。既に街中の方まで来てしまっているからそこら辺のファストフードで食べようかと思っていたところで、ふととあることを思い出した。中学の友人の実家が食堂を開いていることを

 

「久しぶりに会うわけだし、少し気晴らし程度に行きますか」

 

ここからならある程度距離は離れているが十分に歩いて行ける距離だ。来た方向へと戻る。この時間帯ならたぶんあいつはいるであろうと思い、足を進めていく。話してみれば何かアドバイスを貰えるであろうという多少の期待と共に向かう。そして歩くこと約10分で友人の実家が経営している五反田食堂に到着した。今日も営業しているようで戸の前からでもいい匂いが漂ってきて空腹感を刺激してくる

 

「お邪魔しまーす」

 

戸を開くと満席ではないにしろ7,8割の席が埋まっていた。正面には厨房があり、そこでは中華鍋を2つ振っている筋骨隆々のおじさんが1人で厨房を回していた。てか、あの人確か80歳超えてたような気がするんだけど

 

「あら、お久しぶりね円華ちゃん」

 

「お久しぶりです蓮さん」

 

自称五反田食堂の看板娘である私の友人の母親。常に笑顔を絶やさず、とても愛嬌のある美人だ

 

「弾なら上にいるわよ」

 

「ありがとうございます。でもその前に昼食を食べにきました」

 

「あらあら、それはごめんなさいね。それと今日は()()()()()()()()()()()()

 

「ちょっといざこざがありまして・・・」

 

ここに来るときは大抵が一兄さんと一緒で来てたから蓮さんにもそういう認識をされていたと思う

 

「あらあら、それは大変ね。ところでご注文はいつものでいいかしら?」

 

この食堂において、いつものとはオススメメニューである業火野菜炒めである

 

「はい、それでお願いします!」

 

「一名様、業火一丁!それじゃあ円華ちゃん、どこか適当に座って頂戴。お冷持ってくるから」

 

「分かりました」

 

適当に空いてる席に座り昼食を待つことにした。周囲からは定食や業火野菜炒め等のいい匂いが常に漂ってくるせいか、店に入る前よりも空腹感が強くなってきた。中学の時は週に1回は弾や数馬、鈴と一緒に遊んでいたためそのペースで食べていたのを思い出す

 

「おう嬢ちゃんじゃねぇか。お待ちどうさん!」

 

ここの店主である五反田厳さんが出してくれた業火野菜炒めが目の前に置かれた。量こそ多いがこの空腹感ならすぐにでも平らげてしまいそうだ

 

「お久しぶりです」

 

「おうよ。ここんとここの店に来てくれなかったもんで一部の客が嘆いてたぞ」

 

「あはは・・・」

 

なぜだろうか、自称五反田食堂の看板娘を置いておいて一部の客に人気がある客って・・・

 

「忘れてないと思うがここのルールだけは破んなよ?」

 

「分かってますって。それじゃあいただきます」

 

この見た目で豪快であるこの食堂の店主はかなり食事のマナーに厳しい。もし破ろうものならお玉が飛んでくる。ピンポイントに額にだ。どうやってるんですかと言いたくなるほどの命中率である。それはおいておくとして今はこの業火野菜炒めを食そうじゃないか

 

 

 

うん、やっぱり美味しい。いつ食べてもここの野菜炒めは真似できないおいしさがある。料金も払い、蓮さんからも弾がいる2階へと通してもらった。蓮さん曰く、今日も部屋でだらだらしているとのことでしっかりさせてくれということだそうだ。弾といえば弾らしいのかな。とりあえず弾がいるであろう部屋の襖をノックすると中から弾と思われる声がした

 

『うーい、今日は手伝いしなくていいんじゃなかったかー?』

 

「蓮さんでもなきゃ厳さんでもないよー。円華よー」

 

『げぇ円華!?急に来んなよ!しゃあねぇから少し待ってろ!』

 

アポなしで来てしまったことには後で謝ろう。でも部屋ぐらい少しは片づけておいた方がいいと思う。ネットで見たことだが部屋に溜まった埃は換気や掃除をしないと放射線の量が増加するとかなんとか。末恐ろしい話である

 

「おうよ、入っていいぞ」

 

襖を開けてもらい部屋の中に入れさせてもらうが、和室で6畳ぐらいの部屋で所狭しとベッドから机などが置かれている。この部屋を使用している五反田弾は私や一兄さんの中学時代からの友人である。髪は赤くオールバック。身長は一兄さんよりも少し小さいくらいだ。顔立ちは悪くはないのだがとにかくモテないのだ。理由としては性格が少し残念なのだ

 

「お邪魔しまーす。それとアポなしでごめんね」

 

「んなもん別にいいっての。それとお邪魔されまーす」

 

こんな感じで適当な返しをしつつも気楽でいられるというのは本当にありがたいところだ。IS学園ではいろいろとありすぎたから、このくらいがちょうどいい

 

「適当に掛けてくれ。それと何か飲み物でもいるか?」

 

「ううん、大丈夫。それはそうと、さっきなんであんなに慌ててたの?」

 

「あ、え、えっとだな・・・見られたら不味いというかなんというか・・・察してくれよ」

 

「あっはい」

 

もしかしたら、やらしい本でも隠したのだろう。そうであれば納得という感じだ。現に弾の焦り様が半端ない

 

「そういや、今日は一夏は一緒じゃねぇんだな」

 

「蓮さんにも言われたけど四六時中、一緒にいるってわけじゃないからね?」

 

「そんなことは知ってるっての。そのなんだ?IS学園ってどんな場所なのかとかいろんなこと聞いてみたいんだっての」

 

実際に経験したことを聞いてみたいのだと思う。百聞は一見に如かず。IS学園に行ってどんなことをしていたのかというのを男性視点で話せるのはたった2人しかいないのだ。しかも、それが友人であればなおのことだ

 

「あわよくば誰かを紹介してもらおうかと」

 

「そんな都合よくいくわけないでしょ」

 

「ですよねー。ちくしょう、1つぐらい夢見させてくれてもいいじゃねぇかよう。だってIS学園と言えば可愛い子しかいないことで有名なんだぞ!?」

 

そんな簡単に出会いが生まれるのであればちー姉ちゃんは既に・・・おっとこれ以上この話題に触れないようにしよう。もしかしたら私も同じ道を辿りかねないし

 

「まぁ、それはともかくIS学園はどうだ?楽しいか?」

 

「んー、まぁまぁかな。可もなく不可もなくって感じかな」

 

楽しかった事は確かにあった。だが、それと同じように疑問や不快に思うことが多々あった。日を追うごとに積み重なりこのままでいいのかという疑問が、どうしたらいい方向に事が進むのかという思いが強くなっていく

 

「煮え切らない返答だな」

 

「まぁ、本当にいろいろあったからさ。どうしたらいいのか分からなくなっちゃったりして大変なんだよね」

 

「ふーん。いつも通りに中途半端だな」

 

「そんなことは分かってるよ。でも事が事だから悩まなきゃいけないの」

 

一兄さんが迷惑をかけているのが私だったら、まだ妥協できたかもしれない。だが、相手は七実だ。辛辣で聞かれたことには本心で語る、学園1嫌われ者。しかし、本当のところは私たちの中で最も活躍し、傷ついたのが彼だ。周囲から感謝されること無く今までの学園生活を過ごしてきたのだ。だからこそ私は間違えてならないような気がする

 

「そういや、もう1人一夏とは別にIS学園に男性IS操縦者っていたよな?」

 

「ん、七実こと?」

 

「そうそう。そいつのこと知ってんの?」

 

「知ってるも何も同じクラスだよ。それでもって・・・一番迷惑をかけてる相手かな」

 

私もそうだけど一兄さんやセシリア、箒にシャルロットだってそうだ。もしかしたらラウラだってISの暴走を含めばそうなってしまう。同じクラスのたった1人の人物に全員の面倒事を押し付けてしまっている。私はそのことで申し訳なく思う

 

「んで、今日ここに来たってことはそういうことなのか?」

 

「そういうことだよ。なんかごめんね?」

 

「いいんじゃねぇの?相談事とか中学の時と結構あったしな、どっかの朴念仁の事前準備だったり後処理だったりな」

 

これには苦笑いするしかなかった。中学の時は一兄さんが告白をぶち壊したり、不用心な言葉で期待を持たせてしまったりともう本当に女の敵である。このことは私は許せなかった。しかし、弾と数馬がアフターケアをしてくれていた。流石にあんなことになってしまった娘をそのままにしておくのはダメだ、ということで率先して行動に移していたらしい

 

「あはは・・・それはともかく、もしさ弾は見知らぬ人を助ける場面に出くわしたとして選択肢が2つ頭によぎったとしよう。1つは過ごしている場所の規則に則ってその人を助ける。もう1つはその人が生きてきた国や環境を全て取り払って全てリセットさせる方法。どっちの方法も実行に移せるだけの力はあるとする。弾ならどうする?」

 

「はぁ・・・凄い突拍子もないことを聞くな」

 

弾は呆れた顔でそういうがすぐさま考え出した。実際にあった話だし、一兄さんと七実の行動を選択する問だがどっちを選択してどうなるとかは分からない。結果論として七実の行動・案によってシャルロットは救われた。だが一兄さんの方法では何もわからないのだ。甘い話をすると、デュノア家の誰かがわざとそうさせてシャルロットをIS学園で保護してもらえるようにわざとそうしたのかもしれない。話を聞いただけで全てを知っているわけじゃない。だからこそ、関係のない第三者に聞きたかったのだ

 

「でもさ、前提を覆すようで悪いけど結局のところ本人がどうしたい、どうありたいってのが分からんからどうしようもないってのがあるな」

 

「そこ?」

 

「いや、一番重要だと思うぞ。だってよ、その人を完全に安全と言える状況にできたとしても自分が助かろうとしなきゃただの無駄骨だぞ?」

 

確かにそうだが、私としてはそんな回答が返ってくるとは思ってもいなかった。前者か後者で返されるものだと思っていたから呆気に取られてしまった

 

「それでもし、助かりたいのであればちゃんと助けるさ。解決方法はその人次第だけどよ」

 

「・・・そっか」

 

「んで、その人が可愛い女の子なら嫁にしたい」

 

さっきのところで止めておけばいい話だったのに・・・シャルロットは七実に目が行ってるから無理だろうけど。環境さえ違えばワンチャンスあったかもしれないけど

 

「なぁ円華、マジで誰か紹介してくれよ!」

 

「自分で頑張ってよ。きっかけぐらいは作れるかもしれないけど」

 

「マジで!?おぉ、円華様ありがとうございます!」

 

と言って目の前で土下座し始める弾を見て、どれだけ出会いに必死になっているのかが実感できたような気がする。なるべく弾にいい出会いが生まれるよう助力しよう

 

「私と弾の仲でしょ?たまにはこういうこともいいんじゃないかなって。それと頭上げて」

 

「ははぁ~、いや、マジでありがとうな」

 

「はいはい、今日は早いけど帰ることにするね」

 

「あー、そうだ。1つ聞いておきたいんだけどよ、その七実って奴はどんな奴なのかだけ教えてくれねぇか?」

 

「七実?・・・別に構わないけどどうしたの?」

 

弾にとっては七実の事なんて知らなくていいことだけど、今日は話を聞いてくれたこともあるし話してもいいと思った

 

「お前が相談、もとい質問するなんて大抵は一夏や自分の事が多いけど内容を考えると一夏や円華の考え方じゃないって思ってな。なんとなくそう思っただけだよ」

 

「ふぅん・・・でもだいたいは当たってるよ。ちなみに後者の考えが七実だよ」

 

「んで前者がお前とか一夏か。一夏らしいと言えばそうなんだろうけど、円華だったららしくないわな」

 

自分でもわかってるとも。葛藤するだけして解決まで至らない。それが積み重なり忘れるまで延々と続く。まさにその現状の真っただ中。だが弾に話したことにより、どうしたらいいのかは分からないが少しは気が晴れた気がする

 

「そう言われるとキツイなぁ・・・それはともかく七実の事だったね。何が聞きたいの?」

 

「んっと、じゃあ七実って奴が円華から見てどんな奴だ?」

 

「最初は不愛想な人だと思ったよ。話す時も適当だし髪の毛で視線もわからない。でも日を追うごとにみんなが七実に負担をかけているにも関わらず、誰よりも辛辣で誰よりも優しい人なんじゃないかな」

 

結局のところ自分のことを顧みず箒を助けたり、一兄さんと対立してもシャルロットを助けたりした。極めつけには臨海学校で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)攻撃から一時的に身を挺して助けた。七実がどういう心境で行動に移したのかは知らない。だが私はその行動を見て実際にそう感じたのだ

 

「辛辣で優しいと。変な表現だが円華がそう感じたならそうなのかもな。さてとそろそろ帰るんだろ、店前まで見送るわ」

 

「ん、ありがと」

 

私たちは立ち上がり部屋を出る。ここに来た時よりも幾分かは気は楽になった気がする。弾には申し訳ないことをしてしまったのでここは彼のお願いをなるべく叶えてあげよう。店に出ると蓮さんに目を細めて首を傾げた後に私が帰ることを察してくれたようで手を振ってくれた。店の外に出ると日も落ちてきて少しは気温も下がってきていた

 

「んじゃ、今度は普通に遊ぼうぜ。一夏から聞いたけど鈴もこっちにいることだしな」

 

「そうだね。その時は一兄さんや数馬も呼んで全員でね」

 

「おうよ。さてと、俺もしなきゃなんねぇことがあるからここまでな」

 

「うん、今日はありがとうね。このお礼はいつかするから」

 

そう言って私たちは別れた。この後、家に帰るのだが一兄さんはこの日、帰ってくることはなかった。ただ、メールで軽く一文「今日は友達の家に泊まる。頭を冷やすから」との事で、私とちー姉ちゃんは1日一兄さんの帰りを待つことにした

 

 

 

弾サイド

 

急な円華の襲来には驚かされた。俺の部屋に()()()()()のがバレてしまったら余計に面倒なことになっただろ、絶対。食堂を経由して部屋に戻ろうと母さんに声を掛けられた

 

「よかったの?」

 

「いいんじゃねぇの?指摘されなかったのと言わないように言われてたしな。だますようなことは性分じゃないんだけどな」

 

「でも友達の、()()()()()()なんでしょ?」

 

円華が来た時には既に一夏が家に来ていた。ちなみに靴は隠していた。理由はあの状態の一夏を蘭に会わせるわけにはいかなかったからだ。蘭は一夏に対して完璧な王子様のようなイメージを押し付けていた。だが、一夏も人だ。勝手につけられたイメージの通りにはいかない。焦燥し、間違え、踏み外したりもするだろう。そんな状態の一夏を見たら、どう思うだろうか。よくは思わないだろうな、ということで爺さんや母さんには黙っててもらっている。本当に蘭には甘い爺さんだよ

 

「一夏の為であり蘭の為であるって感じだな。店番降ろしてもらってまでやってるんだ、今日中にはいいとこまでは解決しておくよ」

 

「よろしくね。夕飯は部屋に持っていくわ」

 

「サンキュー。んじゃ上行くわ」

 

俺は食堂を後にし自室に戻った。襖を開けると気まずそうに押し入れから出て俯き座っていた。さっきの円華の話を押し入れの襖越しで聞いていたため堪えているのだろう

 

「んで、思わぬ人物(円華)から話を聞けた訳なんだが・・・どうなんだ?」

 

「円華の言う通りだよ。俺がシャルロットの事を守ろうとしたけど結局のところは何もできてなかったんだ・・・やろうとしたことが逆に危険なことに巻き込んじまった・・・」

 

そのシャルロットって人が中心の出来事なんだろうが、円華曰く辛辣って言ってたし多分一夏の案では無理だというのが分かって、その上で全てをリセットするなんて案を出したんだろう

 

「んで、それは謝ったのか?」

 

「いや・・・してない。このことを知ったのは今日なんだ。あれだけ守るって言っておいて何もできてなかったって思い知ったら・・・自分がしてきたことが無意味に思えて・・・それで逃げてきたんだ」

 

「そうかい。何があってそうなったとかは聞かないけどよ、やることはきっちりやんねぇと言ったことも何の意味も為さなくなっちまうからな?」

 

言うだけなら誰にだってできる。その先が重要なのである。我が身に余る宣言しても期待させるだけで何もできず、結局のところ無意味に終わってしまう。こう言っては何だが今の一夏に惹かれる要素がほとんどと言っていいほど無くなっていると言っても過言ではないと思う。誰からも好かれ、信念を貫くところに惹かれた人間としては見過ごすわけにはいかない

 

「ああ・・・なんかありがとうな」

 

一夏は申し訳なさそうにするが俺としては今の状態からさっさと抜け出してほしいものだ

 

「気にすんなって。友達なんだからこのくらいはするっての」

 

「ありがとうな。いつかお礼するよ」

 

「なら今度でいいから勉強、もとい宿題を手伝ってくれ!教えてくれるだけでいいからさ!」

 

そういうと言うと唖然とした表情をしていた。いやね、そんな顔しなくてもいいじゃないか。某錬金の漫画じゃないけど等価交換というか、急に押しかけてお邪魔しに来たのはそっちだと思うんだがなぁ

 

「でも今回は俺が迷惑をかけたしな、それくらいでよければ手伝うよ」

 

「うっし!これで課題はなんとかなる!やっぱ持つべきは友人だな!」

 

なんだかんだでIS学園ではどうだか知らんが中学までは成績優秀だったのだ。それもあって結構、課題だとか手伝ってもらってたっけな。それはそうと約束を取り付け一安心したところで次の話題へと移そう

 

「そうだ一夏。1つ聞きたいんだけどよ、今日お前どうすんの?」

 

「どうって、何がだ?」

 

「あのなぁ・・・仮にもお前は家から逃げてきたんだろ?クールダウンとか顔が合わせづらいだとかあるんじゃねぇのか?」

 

「確かにあるな・・・すっごい気まずいな」

 

「だったら家に泊まっとけ」

 

エレベーター式の学園を蹴ってまでIS学園の試験勉強をしている蘭に息抜きがてら適当に遊ばせるつもりなんだが、俺だけでは無理だろうという腹積もりから一夏にも協力してもらおうという算段である。蘭に滅法甘い爺さんならこれで許してくれそうだし、何とかできるだろう

 

「でも急にいいのか?」

 

「いいんだよ。爺さんと母さんには俺から上手く言っとくから、円華だったり千冬さんに連絡しておけよな」

 

返事を聞く前に俺は立ち上がり部屋を出て、説得するために食堂の方に降りていった。思惑通りにどうにか説得できた。長時間の詰込みは効率悪いだとか最もらしい言い訳を並べつつ蘭の話に持って行けたのが大きいだろう。本当に甘すぎだろ爺さん。とりあえず今日は徹夜とはいかないが夜遅くまで遊べそうだ。ちなみに一夏が家にいることを知らない蘭を驚かせようと、一夏に迎えに行かせたらなぜか殴られたぜ。理不尽だよ。あとは一夏がどう七実だとかいう奴と上手くやっていくのかは聞かないでおいたが、何かあったら円華経由でまた話だあるだろう。それまでは俺ができることはこれくらいだろうしな

 




今回もお読みいただきありがとうございます

前回に円華、一夏視点(箒も)と言っておきながら話の方向性が変わっててすみません

ぶっちゃけここで弾を出した方が話をまとめやすいかなと思ったので変えました


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日常の一幕その1

投稿が遅くなって申し訳ございません。

バイトに講義と新しいリズムに慣れなかったというのと執筆意欲が極端に少なくなってしまったのが原因でした

次話はなるべく早く投稿できるように頑張ります


8月9日、そろそろ夏休み中盤も抜けつつ終盤へと差し掛かっていた。具体的には2週間を切り、残るは12日となっていた。楽な時間程過ぎ去るのは早く、そしていつまでも満喫していたいと思うのは誰だって思うことだろう。俺、鏡野七実もそう思う1人である

 

「はぁ・・・」

 

「どうしたの?」

 

椅子に座り、紅茶を飲み、ただただ暇を潰していた。簪は出かけておりいないが同じ部屋にはシャルロットがいる。1つ溜息を吐き、退屈そうに見えてしまったのだろう。実はそんなことはなく夏休みを満喫しているだけなのだ

 

「いや、どうもしないぞ」

 

「だったら溜息なんてしてるの?」

 

なんてとはなんだよ、と物申したい。どうでもいい雑学ではあるが溜息は自然にできる深呼吸であってリラクゼーション効果があるんだぞ。まぁ、人前でするなと言われればそこまでなのだが。

 

「課題も終わらせてやることもやったし、来週は念のために予定は空けておくとして・・・引きこもりしすぎるとやることが無くなるな」

 

この部屋に置いてあるゲームは簪の物なのだが許可を貰ってやらせてもらっているが、やりすぎてしまいいくつかクリアしてしまったものもあったものもある。個人的にはT〇Lが気に入ってしまった。王道のRPGではあったがメインシナリオの他に他のキャラのシナリオも存在しており、どういう経緯で今までを生きて、これからを生きていこうとするのかというのが個人的には好きになった。文句を付けるとしたら戦闘システムだけだろう

 

「んー・・・今日は風もあって涼しいから外に出かけてみる?」

 

「特にやることもないが何しに行くんだ?」

 

俺がそういうとシャルロットは顔を赤くし、俯きながらこう答えた

 

「えっと、その、付き合い始めて2人っきりでデートしてなかったから・・・ダメ、かな?」

 

確かに暇があったら何人かでデートすることはあった。その代わり1対1でのデートはまだ誰とも経験したことはなかった。あくまでも平等に、としてきた結果がこれだから仕方ないと思う。だから今回の場合もまた平等にと考えてしまった

 

「んじゃ、これから用意するか」

 

「いいの!」

 

「いいのもなにもシャルロットは行きたくないのか?」

 

「ううん、それじゃあ僕も用意するね!」

 

ここ最近は本当に専業主夫化しつつあったせいか、出不精となっていた。もちろん自分を鍛えるために筋トレだとか1人でできる範囲はしていた

 

そんなこんなでIS学園から離れ、街中まで来ている。シャルロットの服装は白いノースリーブに青いスカート、胸元にはISの待機状態であるオレンジ色のネックレス。服とかはよくわからんがよく似合っていると思う

 

「んで、どこにいくとかは決めてるのか?」

 

「特に決めてないよ。七実は行きたいところとかってある?」

 

ここら辺の地理はさっぱりなもので、どこに何があるとか目的の場所が分からん

 

「俺も特にない。適当にぶらついて良さそうなところがあったら入ってみる感じにするか?」

 

「そうだね」

 

特に行く先は決めないが自由気ままに歩いては、スマホで地図を確認しながらこの先に何があるのかというのを調べながら道を進んでいく。互いに手を取りこの先の道を適当にぶらつくが特に店に入ろうとはせず、本当にただひたすら景観を楽しんでいるだけのようだ

 

「ちょっとこの公園に入ってみてもいい?」

 

駅から離れてしばらく歩いたところで一つの公園の前で止まった。この公園には大きな池があり、手漕ぎだか足漕ぎのボートで遊べるというのがウリだそうだ

 

「別に構わないぞ。ここにはボートがあるそうだ」

 

「ボートね、それじゃあ乗ってみようか」

 

池の近くに向かうと足漕ぎボートの代名詞とも言えるアヒルボートは既に使われており、残っているのは手漕ぎボートしか残っていなかった。仕方なく手漕ぎボートを選択し、料金を払い乗り出す。水面上にあるせいか、不安定だったため先に乗ってある程度安定したところでシャルロットに手を差し出す。目を見開いて少しだけ動きを止めたと思えば、今度は頬を緩め、手を取ってボートに乗った。まったくどうしたんだか

 

「ありがとうね」

 

「あいよ」

 

出始めるまで、ろくに顔を合わせることなくそっぽ向いたままだった。ボートを出して少しするとこちらに向き直りまじまじとこちら見てくるシャルロット

 

「ほんと、七実ってズルいよね」

 

「何がだよ」

 

「さっきのだよ、さっきの!手を引いてくれたのは嬉しかったけど、今までのことを思い返したらあんなことしないと思ってたからさ」

 

今までの出来事を思い返すがそうとしか言い返せなかった。助けようと思ったが1度突き放したりしてたしな。それでも俺が悪いとは言わないけどな

 

「・・・でもここ最近の七実は変わったと思うよ。優しくなったというかなんというか」

 

「そんなわけないと思うんだが・・・まぁ、でも、シャルロットが近くで見て感じたならそうなんだろうな」

 

自分では変化なんてわからないが、他人がそういうのだから少しは変わったのだろう

 

「正直な話、俺が変わったなんて分からん。だが変わったのであれば、それはシャルロット達がいてくれたからだろう。ありがとうな」

 

「僕たちと七実の間柄でしょ。たまーに偏屈なところもあるけど、それも七実の1つなんだから僕も向き合っていかなきゃね」

 

「そこまで偏屈か?」

 

「僕が編入したてはだいぶ偏屈だったと思うけど」

 

思ったことをはっきりと伝えるのが悪いことなのだろうか。むしろ、いいことなのではないだろうか。思いは言葉にしなければ他人には伝わらない。それが悪いことであろうとだ。隠し事は流石に除くが

 

「でも、今思えばあれは僕たちが悪かったから受け入れるしかなかったんだけどね。そして、僕に居場所をくれてありがとうね、七実」

 

「へいへい」

 

適当に返事をしたが、内心はとても恥ずかしくあるのだ。意図してしなかったからか、突き放したせいかまさか自分がそんな立ち位置になるとは思わなかった

 

「ふ~ん、素っ気ない七実、顔真っ赤」

 

「うっせ、ニヤニヤしながらこっち見んな」

 

内心だけではなく顔にも出ていたようだ。まったくこういうのはやめてほしいものだ。弄るだけ弄った後、シャルロットは何かを探すように周囲を見回していた

 

「何か探してるのか?」

 

「露店のクレープ屋さんをね。ちょっとした噂なんだけど、ミックスベリークレープを食べると縁起がいいって話を聞いてね。あるなら食べたいなーと」

 

「露店のクレープね、そろそろいい時間だし適当に昼食がてら探しにいくか」

 

「ん、ありがと。安全に漕いでね」

 

んなこと分かってるっての。こんな時に水に落ちたら最悪だ。事故が起きることなくボート置き場まで到着し、ボートから降りてこの公園から出ることにした。スマホで今いる公園付近の飲食店を検索してみると割と少なかった。多分だがモノレール駅からすぐのところにあるレゾナンスに客を取られ、閉店してしまった店も多かったのだろう

 

「適当に検索してみたから、どこにするか決めるか」

 

「うん、そうだね。ちょっと僕にも見せて」

 

横並びでスマホを見ながら歩いているとシャルロットが1つの店を指さしていた

 

「この『@クルーズ』って店に行ってみたいんだけどいいかな?」

 

「別に俺はどこでもいいぞ。食えればどこでも変わんないだろうし」

 

「料金が馬鹿のように高いかもしれないよ?」

 

そんなぼったくりみたいな店だったら嫌だが、こうしてネットに出回っているのだからそんな心配はいらないだろう。その『@クルーズ』という店までのルートを検索してみると歩いて10分ぐらいのところにあるらしい。銀行や郵便局を通り過ぎ、行きついた先にはオープンテラスのある大きめのレストランがあった。看板にはでかでかと『@クルーズ』と書かれているためここで間違いないだろう。店の中に入ると目に入ってきたのはホールで働いていたメイド服を着ている女性と執事服を着た男性が数人ずつ。。ヴィジュアル系に特化した店なのだろう、とこの時は頭の片隅に置いておくことにした。店員に案内されるままに小さいテーブルに到着し着席した

 

「さてと、何にすっかね」

 

「どうしようね。種類多いから悩んじゃうね」

 

「こういうのは食いたいものでも食っとけ。俺はカルボナーラで」

 

「いくら何でも早すぎない?まぁ、いいや。えっとね・・・」

 

「俺が決めんの早いだけで時間はまだまだあるんだ。だからゆっくり決めていいからな」

 

俺1人ならこれでいいんだろうが、俺以外がいる場合はもっと周囲に合わせた方がいいのだろうか。そんなことを考えているとようやく決めたようで注文するボタンを押していた

 

「はい、ご注文をお伺いいたします」

 

「海老とクリームトマトのパスタを1つ」

 

「あと、カルボナーラ1つ。以上で」

 

「かしこまりました。少々時間が掛かりますのでご了承ください」

 

そんなものだろうと思うがそれにしても、周囲が賑やかになっていた。時間的にもいい頃合いだったようで客入りも良くなってきたのだろう

 

「人が多くなってきたね」

 

「だな。飯処はこんなもんだろうけど、やっぱり人が多いのは慣れねぇわ」

 

「でも、これからは慣れていかなきゃいけなくなるんだから少しずつ慣れていこうよ」

 

そんなことは百も承知だ。この先でも人間関係は生まれてくるだろうけど今のうちはある程度選ぶ余裕はあってもいいだろう。少なくとも敵対及び険悪視する輩とは上手くやるつもりもするつもりはないけどな。鈴だったりラウラだったり本音の友人である相川達ならまだ何とかできそうだが。シャルロット的にはそういうことを言っている訳じゃないってのも分かっているがどうしてもそういう考えになってしまう

 

「へいへいっと。とはいえ、勝手に敵対視してくる奴らなんかと慣れあうつもりなんて無いけどな」

 

「うん、知ってる。僕だってそういう人とは関わりたくないよ。ましてや、その相手が七実だったら余計にね」

 

慣れなきゃいけないって話なのに関わりたくないって・・・あくまでシャルロットの話か。俺との関係はあるものの、なんだかんだで交友関係は広いのか

 

「あー・・・でも、矛盾するなー・・・」

 

「何がだよ?」

 

「あ、いやね、七実にも交友関係を持って欲しいけど、それと同じぐらい反対の気持ちがあったりするかな。簪曰く、なんだかんだ先生?だとかでフラグがなんとからしいから」

 

絶句だよ。何が絶句かって、俺はあそこまでフラグ乱立させたり強くもカッコよくもないっての。なんだかんだ先生(モテ眼鏡有)だなんて俺は認めたくないぞ。それと簪、余計な知識を吹き込むんじゃないっての

 

「そこまで心配するようなことか?」

 

「僕たちは心配なの!意図してないからこそ可能性としてラウラだってあったんだし、これからも増えちゃうかもしれないんだから!」

 

さすがにこれ以上、増やしようが無いということは考えていないだろうか。現状ですら4人と関係を作っているダメ人間だと思っているほどだというのに、これ以上増やせるかっての。そんな話をしていると注文した品が来た

 

「お待たせいたしました。ご注文の品をお持ちいたしました」

 

「美味しそうだね」

 

「だな、今度作れるか挑戦してみるか」

 

今のご時世、大概の物はインターネットで検索すると簡単に見つかるものだ。ましてや、料理のレシピなんて以ての外だ。簡単に見つかるだろう。今後、やってみることを考えているとシャルロットが浮かない顔をしていた

 

「七実って色んなことできるよね。僕もそこそこ料理だとかできるけど、七実ほど手際よくできないもん。羨ましくもあり、悔しくもあるなー」

 

「悪いけど他人に教えられる程では無いが、見て覚える分には別に構わんぞ。なんなら、一緒にやりながら覚えるのも手だと思うし」

 

「なら、お願いしてもいいかな?」

 

「どんとこい。とはいえ、時間に余裕がある時に限るからな。じゃないと構ってらんないし」

 

こればかりはしょうがないことだ。人は基本的に何かをしながら作業では物事を教えることができないのだからこれくらいでいいだろう。言い方が最悪かもしれんがな。のんびりと昼食を摂るが、こういう風に落ち着いて過ごせるのは素晴らしいことなんだろう。俺としてこんな日々であればストレスを感じずにいられたのだろうか

 

「ん・・・なんか外が騒がしくないか?」

 

「そう?」

 

微かだけどサイレンのようなものと乾いた破裂音。今年になって妙に聞き慣れたような、それでもってここ最近聞いたような音だ。この平穏も束の間、昼食を摂っていたシャルロットにも聞こえたようだった

 

「どんどん近づいてきてない?」

 

「だな。まったくもって騒々しい」

 

だが、次の瞬間には最悪の瞬間が訪れたのだ

 

「全員、動くんじゃねぇ!」

 

ドアを蹴破らん勢いで雪崩れ込んできた男3人組。1人は小さく、1人は横に太く、最後は高身長。左手にはトランクケース、右手には銃器、顔面には覆面。ハンドガンにサブマシンガン、極めつけにはショットガンなんて持ち込んでいた。この日本にどうやって持ち込んだんだか。店内の全員が何が起きているのか理解できていないようだったが、銃声によって絹を裂くような悲鳴が上がっていた

 

「日本って安全な国なんじゃなかったっけ!?」

 

「比較的安全なんだろ。この国でも死傷事件は発生するっての!」

 

身を隠すためテーブルの下に隠れるが脳裏に、ふとあることが思いついた。身の安全を守るためならばISを展開してもいいはずだ。むしろ、この状況で展開したことを咎める奴はいないだろう。念のためにシャルロットに確認を取っておこう

 

「シャルロット、1つ聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

「こんな緊急時に下らない事じゃないよね?」

 

「んなもんかよ。専用機持ちってこういう時、ISを展開してもいいんだよな?」

 

「するつもりなの?」

 

流石に銃器持ちを相手に素手だけで立ち向かうなんて創作の中だけで十分だ。瞬間的に展開すればトリックなんてわからないだろうし、最悪頭部にぶち込まれなければ死にはしない。一応ISスーツも着ていることだしな。吸汗速乾な上に防護機能満載というチートアイテムを使わない手は無いだろう。現に活躍しそうだってのに

 

「あくまでこの状況から脱するためだけにだ。しかも、相手は銃器持ち。使わない手は無いだろう」

 

「それじゃあ大騒ぎだよ?」

 

「んなことは分かってる。だから、ある程度は手は打つし、それまでは何もしない。やられたらやり返す」

 

まったく、と溜息交じりでそう言うがどこかシャルロットも一応の納得はしてくれたようだ。外からは旧時代的な警察の対応が聞こえるが銃器を持った3人組を刺激している。刺激してしまえば更なる危険を生み出してしまう可能性だって・・・

 

ドスンッ!

 

警察の煽りを一喝するように店の天井に向けてショットガンを1発ぶち込んだ。それを見た周囲の客は更なる悲鳴を上げた。俺やシャルロットはIS操縦者ということもあってか、あまり動じなかったがこういう時に動じないって相当狂ってるんじゃなかろうか。そんな考えは放っておいて、どうやらショットガンを持っている奴は短気なようだ。いや、マジでどうするか迷う。こんな時、相棒(ラウラ)がいたのなら簡単に事が済んだのだろうと勝手ながら予想してしまった。

 

「さてと、どうすっかね。銃撃沙汰だけは避けたいがどうしようもないし、これ以上傷を増やしたくないしな。ま、なるようにしかならんか」

 

「怪我なんてしたら承知しないからね」

 

「無茶難題過ぎるだろ。とりあえず頑張ってみるさ」

 

この場から離れようと立ち上がると長身の男が近づいてきた

 

「おいテメェ、何立ち上がってんだよ」

 

「すみません、どうも朝から腹を下しておりまして、どうしてもトイレに行きたいのですが・・・」

 

「リーダーどうします?」

 

「あぁ?お前もついていけばいいだけだろうが、逃げだそうもんなら見せしめとして人質を殺すからな」

 

そう思われても仕方ないだろうさ。これからするのは逃亡なんかではなく制圧なんだけどな。銃を突き付けられながらトイレに向かう訳なのだが、ガラス越しから見える外には警察の包囲網があったがこうして見える状態は最悪だろう。扉を開けてトイレの中に入ると外から見えないような構造となっていたのは好都合だ

 

「さっさと済ませろよ」

 

「分かりました。んじゃ、さっさと済ませますねっ!」

 

ハンドガンを持った長身の男が目を逸らした隙に、左フックを顎を掠めるように放つ。微かに感じる骨の感触から手応えはあった。現に目の前で脳震盪を起こし倒れていた。まずは1人目を撃退したわけなのだが、回復されて撃たれるのは最悪なので弾倉を取り出してから銃器に残った弾丸を吐き出させる。これで完全に無力化できただろう。弾倉を手に持ち投擲できるようにしておこう。約6~700gの弾倉を投擲して当たれば痛いなんてものじゃないだろうけど、そこは相手方の自業自得である

 

「おーい、まだ入ってんのかー?」

 

と、突然扉が開いたのだった。目の前にはサブマシンガンを持った小さい男がいた。ばっちりと目が合ってしまった。俺の足元には脳震盪で気絶しているお仲間が1人いるのだから、銃殺待ったなしである。そうなる前に先に動き出して蹴り上げてしまった

 

「―――――ッ!?」

 

小さい男は声にならない声を上げて人体の急所を押えていた。もちろん武器を放してだ。蹴り上げた場所は男性における、最大の急所である睾丸だ。俺自身もあまりしたくなかったが、とっさのことでやってしまったのだ。後悔はしてない

 

「わりぃな。でも、悪いのはそっちなんだからな?」

 

相当な勢いで蹴り上げたせいか、その場から動けなくなってしまった小さい男をトイレに放り込んでおくことにした。店内を見回すが、外のサイレンのせいなのか難聴なのか、こっちのは全く聞こえていなかったようで安心した。しかも、その場から一歩も動こうとはせずカウンターから動こうとはしない。隠れるようにトイレからでて近づく。多少の重量がある弾倉を思いっきりぶつければ真っ赤な華が咲き乱れる(たいへんなことになる)ことになりかねないので、あえて手首のスナップを利かせる程度で投げた

 

「あぁ?テメェ戻ってきガァ!?」

 

「適当にくたばっとけや!」

 

投げた弾倉が見事にクリーンヒットし、その場で仰け反った。そこを思いっきり跳躍し鎖骨及び顔面にドロップキックを喰らわせると何回転か転がった後に壁にぶつかった。念のために鳩尾に追撃をかまして動けないようにした。正確に言えば呼吸することを困難にさせただけなのだが

 

「店員さんガムテープありますか?」

 

「ガ、ガムテープですか?探せばあると思います」

 

「なら早急に持ってきてください。縛って、突き出して終わりにします。男性の店員はトイレにいる無力化させた2人を押えつけといてください。動かれても面倒ですし、武器は放しておいてあるんで馬乗りで大丈夫だと思います」

 

顔を引きつらせながら、わかりました、と一言告げて店員に指示を出していた。トイレの2人には検査はしてなかったが念のため服の内側を見てみることにした

 

「・・・・・・シャルロット、来てくれ」

 

「ん、何って・・・この強盗ってバカなの?」

 

服の中を見てみるとそこには爆発物が大量に仕込まれていた。横に太く見えたのはこれのせいだったのか、と。服を剥ぎ取り、その服で手足をきつく縛り上げてから一つ一つ丁寧に爆弾を取り外していった。隣で爆弾を俺から受け取り床に置いていく姿は、後ろから聞こえる小さな悲鳴が証明してくれている。ISに慣れすぎた弊害なのだろうか、手荒くしなければ起爆しないというのが分かっていること自体がおかしいのだろう

 

「ガムテープ持ってきました!」

 

「あざます。手足縛ったら裏口借りていいですか?さすがにここまでやったんで騒ぎになりたくないんで」

 

「それくらいならお安い御用です。その前にお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

ここで名前を出すのは面倒事になりかねない。いる場所が場所だから面倒事が増えてせっかくの休みが消えてしまうかもしれない、というのが頭をよぎった。ここは適当に流すとしよう

 

「そこらへんにどこにでもいるただの一般人ですよ。少しばかりこういうのに慣れてるだけなんで」

 

横からは、そんな一般人がいるかという視線が送られてきているが無視させてくれ。爆弾を取り終えたところで手足をガムテープで縛り、トイレの2人組も縛っておいた。これでもう大丈夫だろう。俺たちはさっさとこの店の裏口から出ることにした

 

 

 

「お疲れ様」

 

場所は海辺にあるベンチで先ほどの事件の疲れを取ろうとしていたところだ。店の裏口から出たものの周辺には警察がいたものでどう逃げたものか、といろいろ走り回って今に至る訳なのだが如何せん走りすぎた

 

「全くだ」

 

「ドイツに行った成果が現れてるのかな?」

 

「だといいんだけどな。あいつだったらもっとスマートにやってたかもな」

 

「あはは・・・そのビジョンがはっきり見えるよ」

 

日も陰りを見せて、夕暮れ時だ。時間が経過するのが早くそろそろ簪も帰ってくる頃合いなのだろう。夕飯の準備もせねばな

 

「あ、あそこにクレープ屋が、行ってもいい?」

 

「いいぞ。でも、そろそろ寮に帰るからな。夕飯の支度もしなきゃいけないしよ」

 

「わかった。それじゃあ行こ!」

 

シャルロットは俺の手を取りクレープやのところまで走っていく。少しは歩かせてくれと言いたいところではあるがシャルロットが楽しそうなんでいいか。クレープ屋のところまで来るとイチゴやらバナナ、黒蜜きな粉、ブルーベリー等々の約20種のメニューが勢揃いしていた

 

「おじさん、ミックスベリーってありますか?」

 

「ん・・・あぁ、悪いけど今日、ミックスベリーは終わっちゃったんですよー」

 

店員の回答に落胆するシャルロット。目的の品が無かったのがそんなにも悔しいのか。しかし、ミックスベリーねぇ・・・

 

「んじゃ、イチゴとブルーベリーを1つずつ」

 

「はい、わかりました」

 

そもそもメニューにはミックスベリーのミの字もない。なぜシャルロットは無いものを注文したのだろうか

 

「シャルロット、適当に席取っといてくれ。そして奢らせてくれ」

 

「え、でも僕が来たかった場所だし」

 

「いいから、卑怯かもしれんがここは花を持たせてくれや」

 

戸惑いながらではあるが了承してくれたようで視界に映るベンチに座って待っていた

 

「君はこのダジャレに気づいたのかな?」

 

「ストロベリーとブルーベリー、メニューには無いけどヒントはあるみたいな一周回って回りくどいですね」

 

「失礼な、これでも業績を上げた魔法の呪文なんだけどね」

 

その氷菓をアイスクリーム(I Scream)みたいなダジャレは。個人的には氷菓好きだけどさ。食う方も見る方も

 

「はい、お待ちどうさん。彼女さんにできるといいね」

 

「あ?」

 

店員の言っている意味が分からんが料金を払ってクレープを受け取りシャルロットのところまで戻った

 

「ありがと、このお店だったけどもっと早く来なきゃダメだったかー」

 

「そういや、なんでミックスベリーなんだ?」

 

「七実には話してなかったね」

 

シャルロット曰く、縁結びだとか。なんでも好きな人と食べるとその恋が結ばれる、永遠に続くと。ならばしょうがないと思えてしまった。あの店員は頑張ってと応援していたのか。無論される必要は全くないわけだが

 

「ほれ、一口食うか?むしろ食うことを推奨する」

 

「推奨するんだ・・・そ、それじゃあご相伴に預かりましてっと」

 

俺の持つブルーベリーのクレープを1口パクリと食らう。これでシャルロットは食えたわけなのだが、気づいているだろうか?

 

「七実もこっち食べる?」

 

「おう、いただくわ」

 

たぶん理解していないみたいだから追及はしないでおこう。シャルロットの持つイチゴのクレープを1口食らう。ほんのりと口の中に広がるイチゴの甘さがとてもいい。その後食べ終わりIS学園へと足を向ける。何も無い道のりではあるがシャルロットとの思い出の1つとして残るだろう

 

 

 

無事IS学園に到着し、自室に入るのだが既に簪が帰っていたのである。ベッドに腰かけながらどこか物寂しそうに

 

「たでーまっと」

 

「おかえり七実とシャルロット・・・どこか行ってたの?」

 

「あー・・・っと、えっと・・・」

 

「デートに行ってた。10時頃から今まで」

 

言い淀むシャルロットをよそにきっぱりと簪に伝えると、それはそれはまるでリスのように頬を膨らませていた

 

「むー・・・シャルロットだけズルい・・・私も行きたかった・・・!」

 

「なら行くぞ。さすがに今日は無理だが明日とか明後日なら大丈夫だしな。誰か一人を特別扱いはしないっての。シャルロットも簪も本音も楯無も、それぞれでちゃんとした思い出を作りたい」

 

今回のデートはそういう意味合いも込めていたのだ。今回のトップバッターはシャルロットだっただけで次回は簪になるのだろう。言いたいことをキチンと言えたわけだが、簪が俺に近づいて軽く胸を叩いてくる

 

「なら、七実から誘って・・・私もちゃんと答えるから」

 

「はいはい。簪、今度俺とデートしてくれるか?」

 

「うんっ!」

 

答えるなり、そのまま抱き着いてくる簪。放すこともせずただ抱き寄せ満足するまでそのままでいることにした。シャルロットには苦笑いだったようだけども。さて、簪とはどこに行くとするか考えますか

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

というわけで夏休み編最後を飾るは各ヒロインとのデートにございます

一応順番は

シャル、簪、本音、楯無、夏祭り(虚)となっております


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日常の一幕その2

本当に遅れてしまい申し訳ございませんでした

SKYRIMやらNieR:Automataとゲームに現を抜かしていたり、ただ単純にスランプだったりしました


8月11日、本日は簪とのデート予定日である。前回、シャルロットとのデートの事を伝えた後、簪は一から予定を立てていた。このことで俺は何一つ関与させてもらえなかった。理由を尋ねてみたところ、周辺地域に何があってデートスポットなんかわからないでしょ?とのこと。全く持ってその通りである。この前のシャルロットとのデートがいい例だ。デートスポットなんか何一つ知らない俺なんかよりも、簪の方がたくさん知っているはずだ。ならば簪に合わせる方がいいだろう

 

朝5時、早朝とも言える時間に起きる。今日も今日とて日課である走り込みをするために手早く着替え外に出た。IS学園の外周を走るのだが10㎞をジョギングで、5㎞をインターバル走を行う。以前にIS学園の外周なんて1時間もあれば走り切れるだろうと高を括っていたが無理だった。敷地面積がしゃれにならない程に大きかったのだ。今はこれで十分な量の距離である。もう少し距離を増やしてもいいんだけれども、朝食を作ったりするため時間が無いのだ。走る前には入念なストレッチをしてから走り込みを開始する

 

6時半、走り込みを終え自室に戻りシャワーを浴びていた。汗を掻いた状態で料理とか衛生上最悪なので洗い流して普段着に着替える。さて簡単ではあるが朝食を作るとしよう。サラダにホットサンド、オムレツと朝に食べやすいチョイスにした。てか、食材がほとんど無くなってんな

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

ガバリとゆっくりベッドから起き上がったのは簪だった。今日は珍しく簪が早起きをした。彼女は朝は目を覚ましても布団の中でぬくぬくと過ごしたりするのが好きなようで、夏でも冬でもそれは変わらないのだが今日は違ったようだ

 

「・・・シャワー浴びてくる」

 

よくよく簪を見てみると寝汗でびっしょりだった。じろじろ見るのも気が引けるし、いい気はしないだろう。そこはかとなく足取りは重く、ふらふらしているように見えた

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫・・・何も問題ない」

 

なんか違和感を感じる。いつも通りに受け答えをしているにしても覇気がないというか元気がないというか。どこかが、何かが違うという感じだ。夏休み期間中とはいえ、かなりの頻度で外に出ていっていたし疲れが溜まっているのだろうか?

 

「あんまり疲れさせないようにしないとな。残り少ない休みを満喫させるためにも、するにも風邪やら熱で台無しにさせるのはいかんしな」

 

もし簪の体調が優れないようであれば延期というのも考えざるを得ない。悪化してしまえば今後の予定も何も計画できないのだから、延期もできなくなってしまう。さすがに俺の思い違いであってほしいものだ。調理すること10分で出来上がってしまったのだが、まだ誰も起きていない。簪は起きているが今でもシャワーを浴びている。あまりにも長いようだったら声をかけて返事が無かった場合、シャルロットに見てきてもらうか

 

「自己管理がしっかりしているからこそ、何か溜め込みすぎたのかね」

 

ここら辺は簪に聞いてみなければわからない事ではあるが心配だ。もし最悪の場合は本音とか楯無に連絡を入れるとして、看病をしなければならないのか。薬の備蓄でも確認しておくか?

 

「んー、あ、七実おはよ」

 

薬箱に何があるのか確認しているとシャルロットが起きたようだ

 

「おはようさん。起きてすぐで悪いがちょっとシャワールームにいる簪の様子を見てきてくれないか?」

 

「簪?別にいいけど、珍しいね」

 

「寝汗が酷くてシャワーを浴びに行ったんだが、足取りがふらふらしててな。念には念をということで見てきてほしい」

 

「うん、わかった」

 

寝起き早々であるがシャルロットに簪の事を任せて俺は薬箱を再確認しておくことにしよう。そう思う束の間、シャワールームの扉が勢いよく開かれた

 

「少しの間でいいから七実、部屋の外に出てくれないかな?理由はちゃんと話すから」

 

「ん、わかった。入ってよくなったら声かけてくれ」

 

もしかしたらヤバイ状況だったのかもしれない。シャワールームで倒れていただとかだったりしたら、シャルロットはもっと困惑なりしていただろうし、こんなんですまなかっただろう。シャルロットに言われるがままに部屋の外に出た

 

 

 

んで、簪はというと39度の熱を出していた。今はベッドの上で顔を赤くし寝っ転がっている。夏休みで溜め込んだ疲れが今日という日に出てしまったという何たる不幸。シャルロット曰く、シャワールームで声をかけても反応が無く確認してみたところ、案の定ということだ

 

「うー・・・」

 

「残念だったな。熱だし今日は無理か」

 

「や!」

 

やって・・・その状態でデートに行こうにもすぐに限界が来るだろうし無理があるだろう。そもそも外出させるわけないけどな

 

「今日はゆっくりして治そうな。そしたら後日ちゃんとデート行こう」

 

「うん・・・でも、今日行きたかった」

 

簪の場合、暇である日が少ないというのもあって現状に至るので強く言うことができない。これが働くということなのかっ

 

「そういや食欲とかってあるのか?あるなら何か作ってくるが」

 

「特に・・・今は、七実が近くにいればいい、かな」

 

簪は、ベッドから少しだけ顔を覗かせては力無く微笑む。その顔をは熱を帯びていて、いつもの簪ではないように思えた

 

「わかった、あとで家事だとかしなくちゃならんから離れることはあるかもしれないが、それまではちゃんと近くにいる」

 

「約束、ね」

 

「ああ」

 

俺自身、過去に病人というか身体が動かせなかったのもあってか看病とかは見慣れている。というよりもされ慣れている。だからあえて言おう。要望はどんどん言ってくれ、と。寝込んでいる時だったりすると何かと心細く感じることがある・・・みたいだしな

 

「ねぇ七実・・・その、手、握って?」

 

掛け布団に包まりながら手を見せてくる。言われるがままにその手を握り返す

 

「ん、これでいいか?」

 

「ありがと・・・七実の手、冷たくて気持ちいい」

 

簪は握ったまま俺の手を顔に当てる。その顔はとても熱く火傷するかと思った

 

「予想以上に熱いな。熱さまシートだとかいるか?」

 

「お願いしてもいい?」

 

「はいよ。っつっても近くにあるから動きはしないんだけどな。じっとしてろよ」

 

簪の額に熱さまシートを張り付ける。その間は手を放してくれたが、終わるとすぐさま俺の手を取っては握っていた。しばらくはこのままなのだろうか・・・まぁ、簪がそれでいいならいいか

 

「今はいいけど、後でちゃんと寝とけよ?」

 

「わかってる・・・けど、今は甘えさせて?」

 

そんなことを言われた日にはさせるに決まっている。簪が寝るまではこのままでいるとしよう

 

 

 

 

簪サイド

 

「んん・・・」

 

熱を出していた私はいつの間にか眠っていたらしい。眠る前までは手を繋いでいたはずの彼の手は無く、この部屋に1人寂しくベッドに横たわっていた。機械の駆動音も無く静寂に包まれていた

 

「七実いる?」

 

私の問いかけに対しても返ってくるのは静寂だけ。いつもなら気にも留めない事だけど、今日はなぜか違った。熱を出していたことで、どこか心細くなっていた。重たい身体を動かし、部屋中を探し始めていた。普通に考えていないであろう場所を、いつもいそうな場所を、部屋の中を隈なく探したが見つかることはなかった

 

「どこ・・・どこにいるの?」

 

熱に侵されているこの身体は、徐々に自由を無くし立つことすらままならなくなっていた。どこかに彼がいるであろうという直感は外れ、私はただただその場にへたり込むことしかできなくなっていた。次第に1人でいることへの不安と約束してくれた彼(鏡野七実)がいなくなってしまったことへの恐怖が入り混じり、1人縮こまって身を寄せていた

 

「たでーまー」

 

なんとも気が抜ける一言だが、聞きたかった声が、居て欲しかった彼が扉の向こうから現れたのだ。両手にビニール袋を引っ提げて。私は感極まって七実に抱き着いていた

 

「七実ぃ、七実ぃ!」

 

「お、おう、急にどした?」

 

「起きたら誰もいなくて、1人で怖かったよぅ!寂しかったよぅ!」

 

とめどなく溢れる涙と共に七実が近くにいてくれるという安心感、1人ではないという安堵。その2つの感情が湧き上がってきた。それに対して七実は、両手のビニール袋をそっと置いて屈み、私の事を抱き寄せてくれた

 

「1人にして悪かった」

 

それ以上の言葉は無く、抱きしめる力を強くしそのままでいてくれた。七実の体温が、鼓動が、息遣いが直で聞こえてくる。これほど近くにいることを待ち望んだ日はそうないだろう。今の私の状態など忘れて強く抱きしめあっていた

 

 

 

あれから何分経っただろうか。それほどに私にとっては心地よく暖かい時間だった。泣き止んだのを確認され、抱きしめる力を弱めていた。むぅ・・・もう少しあのままでよかったのに

 

「ほれ、立てるか?」

 

「大丈・・・あれ?」

 

差し出された七実の手を借りて立とうとしたのだが腰が抜けて立つことができなかった

 

「ごめん、腰抜けちゃった」

 

「まじか。んじゃ、多少手荒だけど我慢してくれよ」

 

投げかけられた言葉とは真逆で優しく、膝の裏と背中に腕を伸ばし持ち上げてくれた。そう、いわゆるお姫様抱っこ言われるものだった。七実がこんなことするとは思わず唖然としていたが、理解したとたん顔が熱を帯び始めてしまった。いつもぶっきらぼうなくせに、こういうところで急に優しくなったりカッコよくなったり本当にずるいよ。でも、嫌じゃないから為すがままされていたんだと思う。気づいたらベッドに降ろされていたんだもん

 

「もっと、して」

 

「あのなぁ・・・今日はちゃんと治すんだろ?だったら大人しくしてろ」

 

「や!」

 

「またそれかい・・・まぁ、でもちゃんと治せたら考えとくわ。それでいいだろ」

 

口約束ではあるものの約束を取り付けることができた。治せたらやってくれるんだもんね、忘れないからね

 

「しかし、書置きしてたの見てなかったのか?食材無くなったのと簪用に食べやすそうなもの買ってくるって書いといたんだが」

 

「え」

 

そんなものあったっけ?七実はサイドテーブルの上から1枚の紙を取り、私に見せてきた。そこには先程七実が伝えた内容とそっくりそのままの内容が書かれていた。あるぇ・・・ちゃんと探したはずだったのに恥ずかしっ!

 

「お、おやすみ!」

 

有無を言わさず、私はベッドに潜り込んだ。だって、だって恥ずかしいんだもん!一声掛けてから行っても良かったんじゃないかな!?

 

 

 

七実サイド

 

簪には寂しい思いをさせてしまったようだ。書置きしたから大丈夫かと思ったんだが、そうでも無くどこか心細かったんだろう。これだけは本当に俺の失態だ。どうすりゃよかったかね?気を取り直して、買ってきた食材を冷蔵庫なり棚に入れておく。食べやすそうなものを買ってきてみたが、饂飩にゼリーとかは完全に俺の経験上の物でしかないからな。あとはスポドリだとかか

 

「おーい、簪。これから饂飩でも作るけど食うか?」

 

「食べる」

 

掛け布団からひょっこりと顔を覗かせる。さながらカタツムリのように。食べるってことはある程度食べやすいのにしないとな。シンプルに醤油ベースで長葱だけでいいか

 

「パパっと作りますか」

 

特に苦労とかは無く切って、茹でて、出汁を作って終わり。約5分で完成。弩が付くほどのシンプルな饂飩が出来上がったので早速食すとしよう

 

「出来たぞ」

 

「うん」

 

ベッドの上で食べさせるのは忍びないが、今日ぐらいは大目に見るか

 

「まだ熱いから気を付けろよ」

 

「ありがと。熱も少し引いてきたみたい」

 

「それは良かったな。ぶり返しなんていったら大変だしな」

 

簪のスケジュール的にも、後日に回したデート的な意味でも大変だ。俺としても、ぜひ今日治してくれた方が助かる。簡単な話だけして食事を進めていくが家事もやることが無くなってしまった。手持無沙汰という訳なのだが本当にどうするかね

 

「ごちそうさま。七実はこの後どうするの?」

 

「やること無くなったから暇。なんなら手でも繋ぐか?」

 

簪からしたら意外な提案だったらしく、珍しく無反応だった。え、何、嫌な提案でもしてましたかね?

 

「七実ってたまにズルくなるよね・・・無自覚で」

 

「これは罵倒と捉えていいんですかね?」

 

「違う・・・絶対に私たち以外にはこういう発言しないで」

 

それにはどういう意図があるかは明確には分からんが、突っ込んで聞いた方がいいのだろうか。いや、今日のところはやめておくとしよう

 

「基準が分からんから、なるべくなと答えておく。んで、手は繋ぐか?」

 

「繋ぐ」

 

食い気味での即答には圧倒されそうになった。手を差し伸べるとゆっくりと手を重ねる簪。食ったばっかで横になると逆流性食道炎になりやすいとかなんとか。だが、こんなことを言ってもしょうがないので横になる簪の手を握り続けることにした。明日は俺が熱を出しましたなんてオチはいらねぇからな?

 

今日は簪の看病で付きっきりだったが、それで分かったことが1つある。更識簪という少女は内側に入ると駄々甘になるというところだ。なんとなく今まではそんなことはあるかな、と思った時があったのだが今日の出来事で確信した。その信用に答えられるようにならねばな。今回のオチ、夜には回復はしたようで元気になっていた簪ではあるが、朝に昼と自分の行動やら言動を振り返ってしまったようであえなく撃沈していた。そのことでシャルロットに問いただされ、簪の言い訳も虚しくシャルロットだけではなく本音や楯無、はたまた虚にまで伝わってしまったそうな。これからいろんなことせがまれるんだろうな、という俺の思考はそこで固まっていた。簪とのデートは2日後に決行され映画館やらウインドショッピングに連れまわされましたとさ

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

今話は簪を看病というテーマでやらせていただきました

何かが足りない?・・・表現できなかったんや!


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