異空人/イクウビト (蟹アンテナ)
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第1話    転移現象

話数が増えてきたら、時々更新するかもしれません。

登場人物ページは設定資料の方に移しました。

新たに書き直した1話を追加しました。



無限にも思える広大な宇宙、過去と未来にまたがる途方もない時の流れ。

無数の銀河と幾多の星々、そしてそれに宿る生命たち・・・それらは、様々な命の光を放ち、瞬く間に誕生と死を繰り返し続ける。

 

それは一つの宇宙だけでなく、無数に横たわる異なる次元・異なる物理法則の世界でも同じ事であった。

 

太陽系第三惑星・地球・・・そして異なる次元に存在する生命を宿す青き星。

運命の悪戯か、それとも神の意思か、それが綺麗に合わさりそのタイミングで次元の裂け目が生じた。

 

 

本来混じり合う事の無かった星と星の接点、それが未知の力によって入れ替わり、局所的な次元シフトが発生する。

 

何かが一つ狂っていればそれだけで二つの星は星としての命を失っていたであろう。

しかし、無数の奇跡によって二つの星は崩壊を免れ、その表面の生命達も消えずに済んだ。

 

それが環境の激変と二つの星の運命を大きく変える事だとしても、それはこの宇宙にとって非常に些細な出来事だったのかもしれない・・・。

 

 

地震の発生・オーロラの発生・今まで観測されなかった未知の天体・消えてしまった星々・海外からの電波の消失、それらが一度に引き起こされ混乱し、やがて状況を飲み込み始めた文明は愕然とする。

 

異次元に飲み込まれ未知の天体へと転移したその国の名は・・・日本。

 

地球と同じく青い海に囲まれ、地球の環境に近くも、大きく異なるこの惑星に転移した日本は、文明として生き残りをかけた生存競争へと駆られる事になる。

 

この新たな世界は酷く単純に出来ている。

食うか食われるか、滅ぼすか滅ぼされるか、無数の文明が、無数の生命達が己の命運を掛けて争い、激しく命を燃やしているのであった。

 

それは元より地球でも同じ事であったが、そこに機械文明は存在せず、かつて地球にも存在した原初の姿を色濃く残しているのである。

 

最初は己の拳、次は動物の骨や棒状の木片、鋭く削り取られた黒曜石、そして最後に鉱物を溶かし固めた純度の高い金属塊である。

 

 

久しく忘れていた世界の在り方を日本はこの星の大陸に進出して目にする事になる。

そしてあの荒々しくも生命にあふれた人々の営みを思い出す。

 

 

血肉と骨を断ち切る刃は鋭く、鎧を砕くための棍棒はなお重く、威力と殺傷力を増し、相手よりも離れた位置から一方的に攻撃する手段として、槍は長くなり、弓の弦は固く引き締まる。

 

しかし、決定的に地球とは異なる要素がある。

 

[魔法]の存在である。

 

火種の無い所から火を生み出し、大気中の水分を集めて水を生み出す。

根本的に物理法則の異なる現象を引き起こしている物質は[魔素]と言う。

 

地球と似て非なるこの世界で、日本は魔法と言う未知の法則を研究し解明し、取り入れる事で生存戦略を練る。



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第2話    転移せし列島

某所で連載していたものですが、諸事情により移転しました。

 

 

 

 

あれは、私の姉が成人の日を迎えた時に起きた出来事だった。

円柱状の祭壇で、成人の証であるサンゴの髪飾りと大真珠を削った三又の槍を父が姉に授け、成人の義を終えた直後に、海底全体を揺るがす様な

地震が起こり、海底火山から青白く輝く魔鉱石の溶岩が爆発するように吹き出していた。

地下から大量に噴出した魔力を含んだ溶岩が、私たちの国の大部分を消滅させてしまったのだ。

 

咄嗟に海面まで逃げた私たちは、唯々、溶岩に飲み込まれつつある海底都市の崩壊を見るしか無かったのだ。

 

「お父さま・・・。」

 

「何という事だ、私たちの故郷が・・・。」

 

「お姉さまは?お姉さまはどこなの!?」

 

「分からない、くっ、成人の儀を迎えたばかりだというのにっ!」

 

 

逃げ延びた生き残りの私たちウミビトは、地震が収まるまで寄り添うように海面を漂い続けた。

しかし、海面は私たちを狙ってリクビトたちが襲い掛かってくるかもしれない危険な場所でもある。それ故に、私たちは地震とリクビトの襲撃の恐怖と戦わなければならなかった。

 

私たちは、強力な癒し手でもあり、体内に宿す水の魔石の影響でその肉にも凄まじい癒しの力を秘めている。

リクビトたちは、私たちの肉を食すことで、不死身の体を手に入れると思い込んでいるが、決してそうはならない。精々その寿命を2~3年延ばす程度だ。

 

 

 

「大丈夫だ、何があっても私が守り抜くよ。」

 

父は、背中にしがみつく私を励ましつつ、黒真珠の三又槍を握り周囲の警戒をしていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・?

 

「おい、あれを見ろ!!」

 

「な、なんだあれは!? 何という事だ・・。」

 

「あ・・・あ・・・あああ・・・。」

 

 

それは、水中での活動が上手くないリクビト達が海の民の領域を侵すときに使う船という乗り物であった。

しかし、目の前に現れたのは「木」という水に浮かぶ素材ではなく、見たこともない硬質で灰色に塗られた素材で作られた巨大な船であった。

 

 

 

 

私は恐怖していた、海の国が青白く輝く溶岩に飲み込まれてゆく光景を目の当たりにし、只管、逃げ続けた。

気が付けば、海流に流され、知らない海域に来てしまっていた。

 

「お父様、ウルスラ・・・どこにいるの?」

 

 

もし、此処がリクビトの縄張りとする陸地が近い場所であったら、命に係わる。一刻も早く仲間たちと合流しなくては・・・。

 

「早くみんなを探さなくちゃ・・・リクビトに見つかったら、おしまいだわ!・・・・・きゃっ!?」

 

 

少しでもリクビトに見つからないようにと、海底まで潜ろうとしたとき、目の前に見えない壁が立ちふさがる。

いや、少し目を凝らしてみれば、細いツタのような物体が規則的に並んでおり、それは押しても引っ張ってもちぎれない丈夫な繊維で出来ているようだった。

 

「一体これは何?毒クラゲの触手でもこんなものは・・・・え?うそ・・・少しずつ狭まってくる!?」

 

「いや・・・いやぁ・・・・やめ・・・助けて!助けてぇ!!」

 

 

気が付けば、その規則的に並んだ繊維の壁は、ぐるりと周りを覆っており、少しずつその壁が狭まってきていた。

 

 

 

 

 

「おっ・・・なんか地震があったらしいぜ?」

 

「海の上だからいまいち感じなかったが、津波が来ると不味い、仕掛けを一度引き上げて母港に戻ろう」

 

 

ラジオから流れてくる緊急速報を聞き、漁師たちは、定置網を巻き取り撤収の準備をしていた。

 

 

「最近燃料代も上がって、唯でさえ苦しいってのに、本当についていないよなぁ・・。」

 

「ついでに、不漁続きときたもんだ、案外、地震を察知して安全なところに逃げてんのかもな」

 

「ま、野生動物のほうが自然災害に気付くのが早いみたいだから・・・・ん・・?な・・・なんだ!?」

 

 

引上げ中の定置網には、何か棒状の物体を持った人間・・・・のような生き物がかかっており、腕やら腰ひれやらを網にひっかけて苦しそうにもがいていた。

 

 

「なんだ・・・これ・・・?」

 

 

『ばかーーー!リクビトあっちいけぇぇぇっ!うえぇぇぇん』

 

 

 

同時刻、近海で、災害救助に派遣されていた護衛艦によりウミビトの集団が保護されていたという。

その後、彼女は保護されていた仲間たちと合流し、リクビトの新たに開発した拘束魔法「ティーチ・ア・ミィ」の情報を伝え、

海に生きる亜人たちに大きな恐怖と衝撃を与えたという。

 

 



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第3話    海の民との遭遇

2XXX年

 

 

日本は地球とは別の世界に「転移」した。

磁気嵐や、オーロラの発生、3つの月の出現などの異常現象が発生し、混乱が生じた。

 

 

異世界の民とのファーストコンタクトは、海にすむ知的生命体と護衛艦が遭遇したことだった。

海の民・・・・・その外見から正式に人魚と呼ばれるようになるまで時間はかからなかった。

遭遇した当初は、我々を非常に警戒している様子で、武器らしきものを向けてきていたが、彼らの長と思われる人物がその場を収め、

我々と同行する事になった。

 

 

それから暫くして、地形の情報収集のために派遣された調査隊が、武装した現地住民に襲撃され、これを撃退した。

銃撃で死亡した異世界人の遺体を回収した結果、非常に人間に近い進化を遂げた人間とは別の知的生命体だという事が判明した。

 

 

しかし、いくら外見が人間そのものでも、根本的に遺伝子配列が違うので当然ながら人間との交配は不可能の様だ。

だが、分かったことはそれだけではなかった、海にすむ人魚と陸にすむ異世界人と共通し、体内にある種の鉱物器官を持ち、

何かしらの力を互いに作用させることで傷を癒したり、細胞を活性化させることが出来るようだ。

 

暫くして判明したことだが、この世界では動植物共通で、この鉱物を体に取り込み、利用をしている様だ。

自然界でもこの鉱物は産出され、現地住民の言葉で「魔法の石」と呼ばれ重宝されているようだ。

 

 

 

 

「くそっ、リクビトめ、海面で待ち伏せしていたのか!?」

 

「どいて!今、幻惑の歌で足止めするわ!」

 

「リンダ!お前だけ残すわけにはいかないぞ!私も歌わせてもらう!」

 

 

「お父さま・・・・みんなが・・・。」

 

「ウルスラ、彼女たちは、海の国の聖歌隊の中でも上位の実力者だ、リクビトなんかにやられたりはしないよ。」

 

 

「~~~~♪~~~~♪」

 

「~~~~♪・・・・・な・・・・なぜだ!奴らの魔力に干渉できない!?これでは、精神を操れぬぞ!?」

 

「うそ・・・・あのリクビト達・・・・魔力を持っていない・・・?」

 

 

もう目と鼻の先という距離になって、灰色の船が動きを止め、奇妙な姿をしたリクビトが姿を現した。

 

 

「な・・・なんだ・・・こいつら?漂流者じゃないのか?」

 

「そもそも、人間なのか?何かの冗談だろ?」

 

「何か喋っているみたいだ、一応言葉を話せるみたいだな、何を言っているのかさっぱりだが・・・」

 

 

恐怖の象徴であるリクビトとの遭遇して動揺が走るウミビト、一方、得体のしれない未知の生物と遭遇して混乱する海上自衛隊。

この奇妙なにらみ合いは暫く続いた。

 

 

「ダメ・・・・いくら歌ってもまるで効果がないわ!」

 

「リクビトめ!いつの間に幻術の対策をっ!!」

 

「いや・・・・だが待て、彼らも困惑している様だぞ?そもそも、殺意がまるで見られない。」

 

「お父さま!」

 

「な・・・何を?黒刃の鮫牙とも謳われた貴方が血迷われるとは?ポール戦士長!」

 

「我々にもリクビトと交流を持っていた時期がある、我々をいつも襲う連中とは違う様だし、ここは一つ可能性にかけてみようじゃないか」

 

「正気とは思えん!」「あぶないよ、お父さま!」

 

「見ろ、あのリクビト達・・・身振り手振りで何かを伝えようとしている様だ、少なくとも発見次第襲い掛かってくる様な奴らじゃないみたいだぞ?」

 

「・・・しかし」「お父さま、リクビトがついて来いって・・・」

 

「交渉の余地は有り、か・・・さて、どう出るか・・・。」

 

「お父さま・・・プリシラお姉さまは・・・。」

 

「大丈夫だよ、きっと、どこかで生きているさ、今は生き残る事を優先しよう」

 

 



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第4話    異世界文明との接触

我が、日本国が異世界に転移した原因には諸説あるが、有力なのが魔鉱石の大規模な天然臨界による空間湾曲説と言う物だ。

 

当時、現在の日本がある位置にこの星特有の魔鉱石を含むマグマが高圧力下で発泡し、奇跡的ともいえる低確率で変性した魔鉱石が

粒子崩壊を起こしつつ大量のエネルギーを放出、日本本土の2倍ほどの範囲を吹き飛ばすスーパーボルケーノを起こし、膨大な魔鉱石のエネルギーは

空間を突き破り、たまたまこの星と同軸・同座標にあった地球の島国を飲み込み、大部分のエネルギーと交換する形で、

日本は、この世界の一部に組み込まれた。

別次元に存在する、我らが故郷、地球が現在どの様な状態かは知る術はないが、あれほどの噴火エネルギーが日本の在った位置に突如

現れたら日本海に面した国々は悲惨なことになっているだろう。

今現在は、マグマ溜まりの大部分が地球へ転移しているので、火山活動は落ち着いているが、これほどの力を秘めつつ当たり前の様に

この星に存在する魔鉱石と言う物質は、無限の可能性と危険性を持つ新資源なのではないだろうか?

 

 

「まったく、この世界の物には驚かされるよ。」

「文字通り、次元が違うと物理法則まで変わるもんなのかねぇ・・・。」

「魔鉱石は我々の常識を覆す奇跡の物質だ。」

「発熱・冷却・発電・送風・・・・あぁ、あと生物の突然変異誘発か。」

「人魚と異世界人の遺伝子がほぼ一致した事にも関係しているのかもな、同じ鉱物器官を持ち、骨格も一部共通しているし」

「案外、白人と黒人ほどの差しかないのかも知れんな、もしくは、チワワとゴールデンレトリバーくらいか・・・」

「流石に犬に例えるのは失礼じゃないのか?」

「はははっ、あぁ、そうだな全くだ。」

 

 

 

 

 

 

「どうしました?ニシモトさん?」

「あぁ、大陸での我が国の拠点に、とある国の使節団が来てね。」

「何か問題でも?」

「ウミビトの生息地でウミビト狩りをさせてほしいと言ってきたのさ、ふざけた話だ。」

「やっぱり、リクビトは乱暴者ね、私が捕えられたのが異空の民の漁船で良かったわ、すごく痛かったけど。」

「それは済まない事をしたね、でも、プリシラさんは、何故日本と積極的に交流を持とうと思ったの?」

「ニホンは大陸のリクビト達と違って、理性的に話せて、温厚な気質をもっているから、交渉するに足ると思ったのよ。」

「はは、それはどうも」

「リクビトとウミビトは祖を共にする種族だけど、海の国の中にはトカゲみたいな人たちも居るでしょ?」

「あぁ、あのサハギ・・・いやウミウロコビトね」

「見た目からリクビトに嫌われるから、何とか交渉して受け入れて貰おうと思ったのだけども、二つ返事で受け入れ許可してくれたのには驚いたわ」

「確かにインパクトはあったけど、話してみたら割といい人達じゃないか、彼らを受け入れるのは、やぶさかではないよ。」

「癒しの秘宝と不死の霊薬を持つウミビトとは違い、利用価値のあるものは背鰭と魔石の眼球のみ、リクビトは彼らを遊び半分で殺すわ」

「・・・・・・。」

「何が彼らを駆り立てるのかしらね・・・大昔は仲良くできていたのに・・。」

「西本教授、海の国の戦士長がお見えになりました。」

「お父様だわ、迎えに来てくれたのね。」

「では、また会いましょうプリシラさん、翻訳作業はまだまだ沢山あるから、これからもお世話になりますよ。」

「えぇ、では・・・。(それにしても、陸地でも動けるこのクルマイスって便利ね。)」

 

 



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第5話    異界の民の都

天を貫かんばかりに聳える巨塔群、その下には青銅の獣が走竜をも軽く追い抜く速さで駆け抜け、道の間に赤や緑に点灯する用途不明の魔法の柱が乱立する。これが、異空の民の都か!!

 

 

長い間、隣国ゴルグガニアに国境を荒らされていたが、その隣国は海岸沿いに現れた海の外の民と思われる集団を発見するや否や、奴隷として拉致しようと山賊に扮した襲撃部隊を向かわせ、返り討ちに合う。

その後、交渉しに来た彼らの使節団を騙し討ちし、彼らの逆鱗に触れ、圧倒的な魔導により首都ごと滅ぼされたという。

 

 

我が国は、頭痛の種であったゴルグガニアが滅びたことで喜ぶ一方、ウミビトの海域に突如出現した島国・・・ニパンの圧倒的な戦力に恐怖を感じていた。

だからこそ、我が国を含む周辺諸国はニパンに同盟を結ぼうと、使者を送ったのだ。

 

 

あれだけの魔導を操り、敵対するもの全てを無慈悲に叩き潰す冷酷さを持つ一方、ニパンは種族・信教を問わず平等に受け入れ、友好的に接してくる温厚な気質を持っている様だ。

 

国によっては魔物扱いされている海の民にすら・・・である。

 

 

今回、交渉のために彼らの首都へ訪れたのだが、私は余りの光景に目が回り続けている。

私がこの国に訪れる時に乗った、金属で出来ているのに沈まぬ船や、大人数を乗せられる青銅の蛇、そして億を超えるという凄まじい人口・・・。

 

これだけの国を作るのに何千年、いや、何万年かけたのだろうか・・・少なくとも大陸の小国群を全て合わせても彼らに敵う事は出来ないだろう。

 

 

しかし、驚くことに、自国だけで国民すべてを養うだけの食糧を生産できず、元の世界の国々からの輸入に頼っていたというのだ。

それは決して、彼らの農業技術が低いからではなかった、むしろ元の世界で5位の実力があったという。

 

少ない面積で最大の効率を得られる彼らの農業技術・・・彼らの代わりに大量の食糧を生産できれば、ニパンに恩を売ると共に大規模な穀倉地帯を得ることが出来るかもしれない。

 

元々鉱山も少なく平地が広がるだけの国土しか持たない我が国が、ニパンに送れる物など食糧程度だ、彼らが求めるならば喜んで受け入れるべきだろう。

 

 

唸り声を上げて牙のような突起が付いた一本腕の巨大な鎧虫が地面を掘り返したかと思えば、平たく長方形の箱に近い形状の大顎を持った鎧虫が自慢の大顎を使って地面の土を丸ごと削り取る。

 

それぞれの鎧虫の背中に鎧虫を使役する技術を持った猛獣使いが乗り、我々の常識では測り知れない速度で地面を整え建設・農地の整備・瓦礫の撤去などを行うのだ。

 

ニパンの力を借りることが出来れば、間違いなく我々は大きく前進する。

今までのように、僅かな比較的安全な土地に寄り添うように暮らし外敵に怯える必要もなく、今まで切り開けなかった土地の開拓も出来る。

 

我らは新しき世界に生きるのだ。だからこそ、かの国と友好的な国交を結ばねばならない。



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第6話    海の民と陸の民

異世界転移によって未知の世界に国ごと転移してしまった日本は、海の民と言う原住民と遭遇し、交流を持つようになっていた。

 

日本が転移した原因ともなる海底火山の活動の影響で彼等の国は壊滅状態に陥り、住居を捨てて逃げ出した生き残りの難民たちは、日本に保護してもらう事で滅亡を回避する事が出来た。

 

しかし、彼らの体内に宿る癒しの秘宝とも呼ばれる水の魔石を狙ってウミビト狩りに出る国も多く、大陸とは逆の方向にある伊豆諸島へと避難させ、日本が盾となっていた。

 

その過程で、水槽に入った状態で、陸路を進み日本国内を横断したウミビトも多く、その道中で日本に興味を持ち、不便ながらも陸で過ごす好奇心旺盛な者も居た。

 

 

「おや?ウルスラちゃん?まさか君とこんなところで出会うとはね。」

「あ、ニシモトキョージュ」

「西本でいいですよ」

「うん、ニシモトさんニシモトさん、まさか陸地でこんなに広い水たまりがあるとは思っていませんでしたよ!」

 

陸で生活を送るウミビトは、普段は水族館の様な巨大な水槽の中で過ごしており、街を見物する時は、車椅子などを使って移動している。

 

この少女もその好奇心旺盛な海の民の一人で、海の国でもそれなりの有力者の令嬢でもある。

彼女と交流を持つ異文化研究を専門とする西本教授が、行きつけのスポーツジムでバッタリ遭遇し、お互いに驚き、そのまま雑談する事になった。

 

「あぁ、ここはジムっていってね、普段体をあまり動かさない人が体を鍛えるために来る場所なんだ。」

「あのおじさんね、此処で一番泳ぎが速いって言うから、競争してみたの、でも私が勝ったんだよ?すごい?」

「まぁ、ウミビトは生まれながらに水泳の名手だからね(人魚と競争させられたのかあの人」

 

彼女が指をさした方向に視線を移すと、筋骨隆々とした海パンの男性がビーチ用の椅子の上で真っ白に燃え尽きていた。

 

「すごいでしょ?」

「あぁ、すごいすごい(棒)。そうだ、機会があったらお姉さん達も呼んであげなよ、気分転換にはなると思うよ。」

「うん、お父さまもお姉さまも、海の国のみんなも呼んで泳ぐの!」

「はは、みんな呼んだら流石にプールが溢れちゃうよ。」

 

海の民がスポーツジムのプールになだれ込む様子を想像し、思わず目頭を押さえてしまう。

 

「(しかし、こんな子供まで大陸の連中は狙うのか・・・人魚の肉が・・・不死の肉体がそんなに欲しいのか?)」

 

今でこそ笑顔を振りまいている彼女だが、初めて出会った時は緊張で顔が強張っており、余裕が無さそうであった。それはつまり、今まで度々陸の国々に襲撃され命を奪われる者も居たと言う背景があると言う事であり、同じく陸に住む我々に対して恐怖心を抱いていたという事であろう。

 

「どうしたの?」

「いや、何でもないよ。(彼らは故郷を失った、だからせめて新しい拠り所だけでも・・・。」

 

不思議そうな顔で首を傾ける少女の頭を撫でると、スポーツジムに備え付けられた自動販売機からジュースを買い、少女に炭酸飲料をあげた。炭酸によるプチプチとした未知の味に目を白黒させている少女を微笑ましい顔で見守りながら、習慣となっているトレーニングをするためにプールを後にした。



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第7話    海の民の歴史

我々は、かつて、陸の民と共に生き、平和を築いてきた。

しかし、陸の民の中に人食い族という者たちが現れた。

非常に好戦的な彼らは、我らと友好的だった陸の民を追い出し、ついに海の国までその勢力を伸ばしてきた。

彼らは戦いに敗れた者を食すことで、その力を我が物にすると言う迷信を信じており、彼らに敗れた者たちは例外なく彼らの胃袋に押し込まれてしまう。

魔石を宿すほどの魔力の持ち主を多く食すことで、彼らは禍々しく変質し、既に人間とは呼べる存在ではなかった。

地の利は我らにあったが、彼らの圧倒的な魔法で多くの戦士たちが破れ、次第に我々はその数を減らしていった。

しかし、陸の民の中で人食い族に挑む者たちがいた。彼らは、海の国の長が自ら差し出した肉の力で強力な治癒の力を身に着けていた。

人食い族に勝らぬとも劣らぬ力を持つ彼らは、長い戦いの末、ついに最後の人食い族を殺し、再び大陸に平和が訪れたかに見えた。

だが、人食い族や英雄達が宿していた癒しの力の根源が我々海の民の肉と知るや、陸の民によるウミビト狩りが始まった。

英雄たちの制止に耳を貸さず、彼らは不死の肉体を得るため、我々を裏切ったのだ。

そして、陸と海の民、双方に多くの死者を出し、我々は彼らと決別したのだ。

 

「これが、海の国に伝わる決別の書・・・ですか。」

「えぇ、リクビト達とは違い獣の皮ではなく石板に記すので少々重いかもしれませんが・・・。」

「うーん、虫食いでしか読めないけど、大陸の人たちと長い間争っていたみたいですね。」

「平和な時代では、陸の民と交流し、時には彼らとの間に子供ができることもありました。」

「えっ?人魚と人間・・・いや失礼、ウミビトとリクビトの子ですか?」

「あなた達とは違って、この世界の民は一部を除き、元々一つの種族だったのです。魔石の力で姿は大きく異なりますが・・・。」

「一見、私たちと変わらない様にしか見えないんですがねぇ、根本的に同じ生物ではないと今更ながら実感しましたよ。」

「我々も驚きました、全く魔力を持たず、それゆえに幻惑の魔法も癒しの魔法も受け付けない種族がいるなんて・・しかし、異空の民と聞き納得しましたが。」

「そういえば、自衛隊の方たちに最初、幻惑の魔法をかけて追い払おうとしたんでしたっけ?」

「ニシモト殿、我々は未だにリクビト達への不信感を拭えないのです。実際に襲われることも珍しくはありません。」

「大丈夫です、大陸のある日本海側は兎も角、あなた達の拠点は伊豆諸島の海域だ、海上保安庁と自衛隊が目を光らせている間は、彼らに手出しさせません。」

「あなた達ニホン人に感謝します。お返しできるものは何もありませんが・・・。」

「いいんですよ、困ったときはお互い様です。」

「ははっ、不思議な言い回しですね。ニホン人はお人が良いみたいですな。」

「買被り過ぎですよ、さて、預かった資料は後でまとめさせて頂きますね。」



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第8話    硝煙の残り香

まるで巨人の槌で叩き壊された様にぽっかり空いた城壁、そして、火山弾が降り注いだが如く破壊の跡が生々しく残る大陸のとある城塞都市。

大陸の近海に突如出現した謎の島国による、突然の襲撃により、その城塞都市は、都市機能の大部分を崩壊させ、多くの死者を出した。

その国は、太陽を模したという白地に赤い丸の描かれた旗を掲げ、この都市国家の主を公開処刑し、この周辺地域の支配者となった。

だが、彼らは何の理由もなくこの城塞都市を襲撃したわけではなかった、この大陸に初上陸した時、この国の人さらい部隊による襲撃を受け、撃退し、それの抗議の為に使者を送ったのだ。

しかし、この国の主は名も知れぬ蛮族と彼らを侮り、自衛のための武器を一切持たず、丸腰で訪れた愚かな使者を張り付けの刑に処した。

その事を知ったかの国は、烈火の如く怒り狂い、太古の昔に失われたという究極魔法を彷彿させる、圧倒的な魔導でこの城塞都市を一夜で滅ぼしたのだ。

 

そして、彼らはこの都市国家を再建し、この大陸の足掛かりとなる拠点を築こうとしているのであった。

 

「負傷者の方は、あちらの天幕へ移動してください!」

「食糧の配給は、中央広場にある大きな天幕です、列を乱さないでくださいー!」

 

「あの・・・ニッパニアの兵士様、本当に私たちに食べ物を分けてくださるのですか?」

「娘を医師様に本当に診せて頂けるのでしょうか?私は奴隷身分を返上したばかりの解放奴隷です・・・差し出すものは何もありませんのですよ?」

「お終いだ・・・俺は見たぞ・・・連中は、意識を失った者に怪しい管を刺していたのを。き・・きっと、この国の人間を何かの実験材料にするつもりなんだ・・・。」

 

 

「まったく、何でこの国の連中はこうも臆病なんかねぇ・・・俺たちを見ると何もしていないのに道の隅に寄って土下座してさぁ・・・。」

「今まで相当、国に絞られて来たんだな、しかも、俺たちは一夜でこの国を降伏させた謎の襲撃者だ、言葉も殆ど通じないのも相まって恐怖の対象だろう。」

「不幸中の幸い、海の国の人達と言葉が共通しているから翻訳もギリギリ間に合ったし、一部の奴らも異世界言語を習得している、市民の誘導は連中に任せておこうぜ。」

「はぁ、近いうちに異世界言語が必修科目になるかもな・・・・いや、確実になるな。」

「本当にこれからどうなるんだろうな、俺たちの国は・・・石油もまだ見つかっていないし。」

 

 

復興支援に派遣された自衛隊員たちは、けたたましく鳴り響くエンジン音を出しながら、壊れた城壁を覆うように掘り返す重機群を眺めつつため息を吐いた。

 

 



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第9話    鎧虫

「撃て撃て!奴らを近づかせるな!!」

「嘘だろ?たかが虫如きにこんな・・・・。」

「カールグスタフを使え!上手く当てろよ。」

 

 

大陸での活動拠点を得た自衛隊・・・しかし、現地にて危険な大型生物の群れと遭遇、鎧虫と呼ばれる大型の甲虫は城塞都市での戦いで出た

戦死者達の腐臭を嗅ぎ付け、自衛隊の駐屯地まで迫っていた。

 

 

「小銃じゃ、歯が立たない!」

「流石に榴弾砲には耐えられない様だが、数が多すぎる・・どうにかならんのか?」

「現地住民にも被害が広がっております、パニックが発生して避難誘導が遅れております。」

「畜生!奴らどこから湧いて出てきやがった!」

 

 

奇声を発しながら突進してくる不気味な巨大甲虫・・・小さなもので成人男性ほど、大きなものに至っては軽自動車ほどの大きさがある、サソリとハサミムシを割った様な姿の生物、

その外殻は分厚く、小銃程度では効果が薄い様で、自衛隊も対処に手を焼いていた。

しかし、彼らの弱点は意外な事で判明したのであった。

 

キュオオオオオオオオオオオオオオォォオ!!?

 

「な・・・なんだ?テントを荒らしている奴らが急に苦しみだしたぞ?」

「見ろ!体を丸めて痙攣している!他の奴らもあそこには近付いていないみたいだ!」

 

放棄した天幕の中に侵入した鎧虫は、缶詰や乾パンなどの保存食を物色している最中に、偶然殺虫スプレーの缶を噛み砕き、爆散させ大量の殺虫成分が周囲にばらまかれる、

そして、付近の仲間を巻き込み集団で中毒死したのであった。

 

暫くして、農薬散布用のヘリコプターによる殺虫剤の広範囲散布により、城塞都市を襲撃していた鎧虫は殆ど死滅し、鎧虫騒動は幕を下ろすのであった。

 

「・・・・で、これは一体どういう事なんだ?」

「鎧虫の外殻を剥がしたり、肉をはぎ取ったり・・・お祭り騒ぎじゃないか」

「現地の方によると、鎧虫の外殻は武具にも雑貨にも利用できて、肉は食用になるんだとか。」

「殺虫剤かかっているのに大丈夫なのかねぇ・・・。」

「あ、毒で死んだ奴は肉は捨てて外殻だけ剥がしているみたいですよ?連中も毒殺したと言う認識は持っているみたいなので。」

「そうか、所で貴様、何食っているんだ?」

「いや、その、鎧虫の鋏のボイル・・・・。」

「おい馬鹿早まるな」

 

 

 

 

 

 

鎧虫、アーマードインセクト。

異世界に生息する大型の昆虫型生物の総称。

ムカデ型、サソリ型、アリ型など様々な種類の大型昆虫がおり、基本的に魔鉱石から放出されるエネルギーに暴露し続ける事によって発生する突然変異のものが多い。

水生型の鎧虫も生息しているので、最近日本近海に出没し、襲われたり網が切断されたりする事故が発生している。

しかし、水生の鎧虫は、エビやカニなどの味に似ているので新たな水産資源として期待されている面もある。

実は、昔からウミビトの武具に利用され、海の民に重宝されていたりする。

 



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第10話   彷徨う空中大陸

「今日もいい天気ね、気流も乱れていないし飛ぶには最高の日だわ!」

「お嬢様、また散歩ですか?また下層部まで行かれては困りますよ?」

「大丈夫、リクビトなんてこの高さまで登ってこれるわけないんだから」

「それに・・・。」

「お嬢様?」

「もうそろそろ大陸の端っこだもん、暫く海の上だから眺めていても、つまんないよ」

 

 

 

異世界に転移した日本は、転移した事で化石燃料の入手手段を失い、少しでも延命させようと、既存の海上油田をフルに稼働させた。

そして、油田の探索の為、大規模な調査団を結成し、大陸各地に派遣するのであった。

また、未知の資源、「魔鉱石」にも注目が集まっているが、利用するにも実験室レベルの研究しか進んでおらず、これが化石燃料にかわる日はまだまだ遠い。

 

調査団を派遣する過程で、大陸のとある勢力と遭遇し、これと交戦、なし崩し的に戦争になり、自衛隊の圧勝で幕を閉じた。

向こうの自業自得とは言え、心臓部である城塞都市を一夜で滅ぼされ、王族や士族は一部を除き処刑されてしまったので、治安は一時最悪の状態になっていた。

しかし、異世界の軍勢が、代わりに統治する事で治安は回復、更に彼らは、城塞都市の整備や農地の改良まで着手するというのだ。

国民のほとんどが農地の開拓に駆り出される事になってしまったが、通常戦いに敗れるという事は、国民すべてが奴隷となり、

草木一本残さず略奪される事なのだ、その事を考えれば、まるで騙されているのではないかと思わんばかりの好待遇だろう。

 

「おんや、ニッパニアの兵士様、今日も町の見回りで?」

「えぇ、最近空き巣が増えているらしいので、数回この辺りを見回りしているのです、貴方も気を付けてくださいね。」

「もったいなきお言葉有難うございます、兵隊様にここまでお気遣いをして頂いたのは初めてです。」

「はは、いえいえ、どういたしまし・・・・な・・なんだ!?」

 

ふと辺りが暗くなったと思うと、町の上空に巨大な岩の塊・・・いや、浮島が通り過ぎた。

 

「な・・・な・・・な・・・。」

「あぁ、もうこんな時期で・・あれの進行ルートではない場所の人たちは、あの浮島を見ると驚くのですよ」

「島が空を!?一体あれは何なのです!?」

「さぁ・・・でも、噂によると空の民と言う種族が住んでいるとか・・・」

「空の・・・・民?」

 

 

ソラビト・・・元々は手先が器用な魔鉱石の豊富な土地に住むリクビトであったが、その高い技術力と莫大な埋蔵量の魔鉱石の鉱脈を狙って他種族に攻められる事が多かった。

そして、彼らは他種族からの襲撃から逃れるため、地下に眠る巨大な魔鉱石の結晶に細工を加え、地表を削り取り、丸ごと空に浮かせたのだ。

彼らは自ら手先の器用さを捨てて、己の肉体を魔鉱石の光で変質させ、有翼の民となった。

それから・・・謎の浮島の存在が当たり前になり、ソラビトの存在が忘れられかけた頃、大陸近くの海域に変化があった。

 

 

「レーダーに反応、巨大な飛行物体が日本本土に接近中」

「馬鹿な?なんだこの大きさは?」

「既にF-15がスクランブル発進しました、アンノン進行ルート変更せず。」

「一体何が起こっている?」

 

 

当てのない放浪の旅を続ける浮島・・・その地に住む生物は争いとは無縁の平和な毎日を過ごしていた。

かつては高度な文明を築いていたソラビトはかつて、自分たちがリクビトだった頃に建造した遺跡群を補修しながら生活しており、

大地と切り離されているがゆえに、資源が限られてはいるものの、公平にこれを再分配する事で安定した生活を送っていた。

 

「はぁ、もう海に出ちゃったのかぁ・・・数か月間は同じ光景が続くのね、つまんないなぁ・・。」

「また下層部に行っていたのですか、良くも飽きずに続けられますなぁ・・・」

「だって、私たちの以外の種族の集落が沢山見えるんだよ?ヘンテコな形のしかないけども、通り過ぎるたびに少しずつ形が変わって面白いんだもん。」

「我々空の民は、先人たちの作り上げた街を維持はするものの、新しく増やしたり、取り壊したりはしませんからなぁ・・。」

「そうそう、ご先祖様は手先が器用だったみたいだけど、争いを避けるために腕を翼にしたらしいじゃない?あぁ、両手が器用ってどんな感じなのかしら?」

「リクビト達は、我々の翼を羨むらしいですぞ?あれ程の器用な手先を持ちながら・・・私は理解に苦しみますが」

「本当にもったいない話よね、でも、私は空を飛ぶのが大好きだから今のままでも良いかも、はぁ、リクビトと友達になれないかなぁ・・・。」

「・・・・・ん・・・・・?」

 

 

ふと、雲を眺めていると小さな違和感を感じた。

最初は気のせいかと思ったが、少し目を凝らすと小さな点が2つこちらに向かってくるのが見え、それは少しずつ大きくなっていき最終的には異形の姿の何かとなって真上を通り過ぎた。

 

「きゃああああぁぁっ!!?」

 

灰色の翼を持つ、得体の知れない物体は、浮島の表面を衝撃波で叩き付け、旋回しながら周囲を監視するようにまとわりついた。

 

「ひっ・・・なに・・・?何なの?」

「ば・・・化け物っ!!」

「あれはおとぎ話の人食い怪鳥よ!きっとそうだわ、本当に存在するなんて!」

「お父様に早く伝えないと!」

「お嬢様、今は危険です、隠れながら向かいましょう!」

「飛ばないと何時間もかかる道なのよ!?危険が何だってのよ!」

 

 

 

「クーガー2、飛行物体を確認、これは・・・まるで空中大陸だ。」

「空中大陸だと?」

「巨大な島の様な物が浮いている、その上に集落らしきものを確認した。」

「クーガー1、現在空中大陸上空を旋回中、指示を待つ。」

「管制塔より指示を待て」

 

 

空の民は、平穏を破り上空を旋回する謎の物体にパニックを起こしていた。

「お父様!!」

「ミーティア!無事だったか!」

「お父様、大変なの!」

「わかっておる、化け物が空の民の領域に姿を現したとは・・・」

「領主様、大変です!陸地が下に現れました、見たこともない場所です!」

「何だと!?暫く海が続く筈だぞ!?」

「恐らく、未確認の陸地から上空の化け物が飛来したのかと・・・・」

「ぐぐぐっ・・・・何たることだ!」

「お父様・・・。」

「報告です!化け物は、未知の大陸と思われる場所に飛んでいったそうです。」

「そ・・・そうか、ひとまず安心だな・・・だが、また奴らが飛んでくるかもしれん、警戒を怠るな」

「はっ!」

「未知の大陸?・・・私たちの知らない陸地があるなんて・・・。」

「進行ルートが逸れただけなのかもしれないが、いずれ調査が必要になりそうだな」

「リクビトの土地なのかしら?それとも、おとぎ話の魔獣島?」

「ミーティア、変な考えは起こさないでおくれよ」

「っ・・・・わかりました。(知りたい・・・下界を見てみたい・・・。」



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第11話   空の民 空人

突如日本領空に現れた巨大な浮島は、そのまま福井県から東京都を突き抜けるコースで進行を続けていた。

 

「あの浮島の詳細な情報は届いていないのか?」

「はっ、どうやら太古の昔から存在するもので、日本が転移する前からこのコースを通っている様です。」

「それだけか?」

「大陸の国々は、浮島の住民たちとは基本的に交流が無い様で、ただ頭上を通り過ぎるだけの存在という認識しか無い様です。」

「ふむ、向こうの方から接触がないうえに、特に何をする事も無く唯通り過ぎるだけならば、問題はないのか?」

「ただ、気になる情報が・・・。」

「言ってみろ」

「その浮島の住民たちは、腕が翼の様な形状をしており、飛行能力を有するらしいです。」

「何だと!?」

「その気になれば、あの浮島から自由に降りてくることが可能かと思われます。」

「それをなぜ先に言わない!」

「このままやり過ごすか、浮島の住民と接触してみるか・・・。」

「難しい賭けだな・・・。」

 

 

 

空の国は、突如出現した未知の大陸の調査のために、自警団の中から有志を募り、千数百年ぶりに下界への接触を試みようとしていた。

 

「・・・・どういうつもりだ?ミーティア」

「私も行かせてください、お父様、下界の、それも未知の領域の探索なんて、またと無い機会です。」

「駄目だ、危険過ぎる。」

「何でも、例の怪鳥の目撃証言の中に、人らしきものが乗っていたと言う物があるではないですか。」

「俄かに信じ難い事だが、似たような証言が多く寄せられてきたので、信憑性はあるのだろう。」

「巨大な鳥の翼を借りて、空を舞う・・・リクビトの中で初めて私たちの領域に挑んだ者たちが居る大陸なのです。」

「そうだ、外界からの接触を断つ為に、我らは大地を捨てたのだ・・・しかし、それもここまでなのかも知れん。」

「だからこそ、私は彼らに会ってみたい、私たちに追いつき、手が届く程の力を持った大地の民に!」

「ミーティア、お前も歴史くらいは学んだのだろう?我々は太古の昔、他種族から度々襲撃を受けて続けてきたのだ、

もし、リクビト達が空の領域に手を伸ばす様になった場合、再び我らは危機を迎えるだろう。」

「大地を捨てる前の私たちは、多くの敵も居ましたが、多くの友も居ました、彼らが敵であると誰が決められましょうか?」

「しかしだな・・・・・。」

「領主様!大変です!未知の大陸から巨大な羽虫の大群が!!」

「何だと!?」

 

 

 

 

「本当にデカい島だな・・・まるで一つにくっつけたハワイが丸ごと空を飛んでいるみたいだ。」

ヘリから降ろされたジープに乗って、空撮された「空の民」の住居と思われる場所の写真を眺めながら呟いた。

 

「彼らの町の上空は気流が乱れていてヘリが近づけないみたいですね。」

「連中は、俺たちの接近に気付いて、何らかの装置を作動させたみたいだな、まぁそりゃ、警戒するだろうがよ。」

「ははっ、まぁ完全に不法侵入している訳ですからね。」

「構うもんか、こちとら領空侵犯されとるんだ、連中の首領に話つけなきゃいかんよ。」

 

 

ジープで島の中心部に向かっている今現在、既に浮島は日本上空にあり、太陽光を遮り場所によっては夕方の様に薄暗い地域がある様だ。

 

 

「今のところ浮島からの落下物は報告されていない様だな、まったく、地層が剥き出しな外観なのに、随分と頑丈な事だ。」

「浮島の下部に魔鉱石の塊と思われる発光体が確認されましたが、あれがこの島を浮かせている動力炉に当たるものの様です。」

「またまた魔鉱石か、この世界のものは殆ど魔鉱石に影響されたり依存していたりするんだな。」

「まさか、島を丸ごと空に浮かせるとは思ってもみませんでしたよ、でも、この性質は様々な用途に期待できそうですね。」

 

ふと、空を見ると、軽鎧を身に着けた人型の影が空に集まっているのが見えた。

「おい?あれを見ろ!」

「おおっ、本当に空を飛んでいるよ、ま、向こうの方から出向いてくれれば都合が良いか。」

 

 

彼らは非常に困惑していた、空から巨大な羽虫が飛んでくると思ったら、今度は空の民の領域に走竜を遥かに凌ぐ速さで、

汚い斑模様の鎧虫が街道を走っていたのだ。

その背中には、これまた汚い模様の服装をしたリクビトが乗っていたのだ。

 

「リクビトめ・・・空の民の領域に何をしに来たのだ?」

「お父様、彼らは短槍と思われるものを装備しているみたいです。」

「何とも奇妙な槍だ、あれだけ長い柄に取り付けられている刃が、短剣程度の短さとは・・。」

「一見軽装にしか見えんが、あの様な鎧虫を手懐ける者たちだ、何を隠しているかは分からんぞ?」

「お父様、彼らは私たちの首都へ向かっているみたいです。」

「ぬぅ・・・・彼らの目的が侵略であるのならば、容赦はせぬぞ」

「彼らもこちらに気付いたみたいですね、動きが変わりました。」

「ふむ、規則正しく整列し始めたな、話をする余地があるのかもしれん。」

 

 

 

 

 

「駄目だ・・・全くわからん・・・。」

空の民とコンタクトを取るために、空中大陸を訪れた自衛隊、しかし、大陸の言語と違う言葉で喋るため、まるで会話が進んでいなかった。

「うーむ、また人魚達の時みたいに解読作業を進めなきゃいかんのか?まぁ、一応覚悟はしていたんだが。」

「ジェスチャーで辛うじて意思を伝えることが出来ているが、このままじゃいかんよなぁ?」

「言語学者を総動員する必要がありそうだな・・・まったく・・・・あの西本っていう教授も喜びそうだ。」

「本当にどうした物か・・・・。」

 

 

 

「あの斑模様の連中の物言いは、よくわからん・・・。」

「斑のリクビト達は、複数の言語で話しかけてきた様に見えたな、残念ながら我々の言葉は喋れなかったみたいだが。」

「これで、少なくとも彼らが侵略目的で訪れた線は薄れたな、となると国交が目的か?」

「だが、言葉の壁がな・・・地道に解読する必要がありそうだが・・・。」

「あの、お父様?」

「何だミーティア、何か妙案でもあるのか?」

「その・・・彼らの話していた言葉の中で聞き覚えのある言語があったのですが・・・。」

「何?本当か?」

「恐らく、荒野の民の言語と思われます、学術院の先生から古文書を見せてもらったことがあったので」

「なるほど、彼らは荒野の民と交流を持っているのかもしれんな、して、話せるのか?」

「正確に発音出来るか不安はありますが、やってみます。」

「頼んだぞ、ミーティア」

 

 

こうして、ソラビトの代表として、領主の娘が護衛を付けて自衛隊の天幕へ訪れることになった。

 

 

『あの、私、ミーティア 、よろしく です。』

『大陸語が解るのですか?私、田辺 です。』

『ソラビト、場所、何ですか、用事、来る。』

『我が国、日本の空、貴方達、飛んでいる、理由は?』

『ニフォン?空?空は、皆の物、領土、関係ない?』

『私たち、元々、世界、空を飛べる、国々、だから、空に領土、ある。』

『元の世界?貴方、世界、違う?』

『私たち、地球、天災、巻き込まれた、それで、此処に来た。』

『チキュー?ここ、ウォルクス、世界、名前』

『世界?ウォルクス?アルクスと?違う?』

『呼び方、民によって、違う』

 

「何だか、向こうも片言っぽいな、話が通じるだけまだマシだが・・・。」

「まぁ、後はある程度話をつけて、それから国交を結ぶことになりそうだな、大使館を置くのには時間がかかりそうだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

エルティ・カータ(エーテルカイト

魔鉱石の結晶に特殊な処置を施し、力場を形成し、物を浮かせることが出来る機構。

空中大陸の底部にある魔鉱石の塊は、異世界に存在する魔法版偏西風の様な物を利用し、外部から魔力を取り入れて飛行を続ける。

自力で航行するというよりも、ヨットの様に魔力の流れに乗って動いているので、自力で航路を変更することは不可能。

ただし、何らかの影響で魔力の流れが変わると航路が逸れる可能性が高い。

過去に火山噴火などの影響で気流が乱れ、大幅に航路が変わったこともある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

番外編

 

 

2XXX年

 

地球は滅亡の危機を迎えていた。

磁気嵐や、オーロラの発生、そして、日本の消滅と同時にスーパーボルケーノが発生。

日本から発生した、その凄まじい火山噴火は、アジア大陸の一部を飲み込み、地殻をめくりながら、吉林まで到達する巨大なカルデラを形成した。

地殻津波が、各国の湾岸を飲み込み、世界規模で壊滅的な被害が発生し、かつて前例のないほどの人口激減を起こしていた。

 

 

長く混乱が続いていたが、懸念されていた噴煙による地球寒冷化が全く起こらず、各国の調査団は日本跡地のカルデラから、鉱物サンプルの収集を始めた。

驚くことに日本から発生した巨大火山の溶岩は、青白く発光しており、地球上では今まで確認されていない物質で構成されていることが判明した。

舞い上がった噴煙は光り輝く粒子となり、電離層に帯を形成、新たな地球の気象の一部となった。

 

この物質は、今までの物理法則を覆す驚異のエネルギー物質である事が研究により判明し、大打撃を受けた人類の復興に大いに役立つ新資源として期待されている。

 

しかし、この物質・・・消滅した日本と言う国の名前から取ったジャパニタイトという万能資源は新たな資源争奪戦の原因となるのだった。

 

 

 

 



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第12話   空中大陸の拠点作り

青の平原・・・・空中大陸の端に位置する平原で、魔鉱石の影響か降水量が少なく、晴天が続く土地で、これと言った

特産物も無いため、ソラビトに取って特に重要でもない空中大陸の一角と言う認識しか無い。

 

しかし、空中大陸に足を踏み入れた斑のリクビトは、この平原に集まり、異形の鎧虫を従えて、奇妙な魔導具を持ち込んでいた。

 

 

「ふむ、彼らは彼らの空の領域を持つらしいが、そこに我らが乗り込んできたと言うのか?」

「お父様、正確に翻訳できたわけではないのですが、彼らは元々別の世界に居て、天災によってこの世界に放り出されたらしいのです。」

「そして、偶々我々の移動ルートと被ってしまったと、お互い災難ではあるな、しかし、千と数百年間、我々はこの道を通ってきたのだ、後からやって来た者たちに彼是言われる筋合いはないだろう。」

「航路を修正できない事を告げると落胆していましたが、空の領域を持つ者同士、国交を結ぼうと彼らは言いました・・・。」

「しかし、大使館は用意出来ぬぞ?大地を捨てた時点で我々は腕を翼に変え、3本の指に辛うじてリクビトと同じ自由さを残し、物を作る事を止めたのだ、今更石切りなど出来る筈もない。」

「それは、彼らが用意すると、何でも大きな鳥をとめるための平らな石の道を作り、その近くに大使館を置こうと言うのです。」

「大きな鳥・・・例の怪鳥か?あれに乗って此処に来ると言うのか?」

「それよりも、もっと大きなものだと・・・あれほど大きな鳥より更に上をいくものが存在するとは・・・。」

「ふむ、何にせよ、彼らも空を飛べる以上、鎖国と言う選択も、もはや選ぶことも出来まいさ、彼らに伝えるがよい、大使館の建設の許可をすると・・・。」

「はい」

「(青の平原は、石材も木材も無い土地だ、果たして彼らにそれが出来るのか?)」

 

 

 

 

 

 

「大陸の端で、比較的地層も薄いが、十分に飛行機の離着陸に耐え得る強度を持つと・・・。」

「飛行場を建設するとなると、重機の持ち込みが必要になりますね・・・・。」

「あぁ、それに関しては、上の方で話をつけるらしいな」

「もし此処に出来た場合、着陸するときに空島を追いかけながら着地する事になりますね。」

「鈍足だが、向こうも移動している分、難易度も高そうだ。」

「まだまだ調査するべき所は多いです、空港と大使館を用意するにも、適している場所を見つけないと意味がありませんからね。」

 

 

 

 

 

 

後日、斑のリクビトが再び、青の平原に集まり、先日とは打って変わって慌ただしく活動をしていた。

 

 

「何やら騒がしいな、彼らは一体何をしているのだ?」

「分かりません、空を眺めては何かを耳に当て呪文の様なものを唱えている様ですが・・・。」

「大がかりな魔法を使おうとしているのかもしれんな、空をしきりに気にしている辺り天候に関係する魔法かもしれん。」

「何かを置いている?」

「まさか、建物が生える種でも植えているのでは無いだろうな?あれ程の怪物を従えているのだ、その様な物を持っていても不思議ではない。」

 

 

暫くすると、リクビトが眺めている空の方向に、奇妙な違和感を感じ、空の民はその方向に注視した。

前にも同じ事があった様な・・・そう、ニフォンの怪鳥が空の国に現れた時と同じ様な・・・。

 

 

黒い点が徐々に大きくなり、斑模様の巨鳥が数匹編隊を組んで、青の平原に現れ、轟音を響かせながら腹部から何かを生み落した。

 

「きゃああああぁぁーーー!!?」

「な・・何と!?」

「馬鹿な、巨大とは聞いていたが、あそこまで大きいなど・・。」

「何かを落としていったぞ?しかし、落ちる速さが妙に遅い?」

「斑のリクビトが、落下物に集まっている?」

「なぁぁぁっ!?鎧虫だ!黄土色の鎧虫が中から出て来たぞ!?」

「あれは、鎧虫の卵だったのか?一本腕の鎧虫とは・・・なんと面妖な・・・。」

 

 

斑の巨鳥・・・・C-130H輸送機は、重機と建築資材のコンテナを誘導ビーコンの位置に投下し、空中大陸を横切り空の彼方へ消えて行ったが、その巨体が故に、多くのソラビトに恐怖心を与えたという。

 

 

後に、空中大陸に空港と大使館を建設した日本は、空の国と国交を結び、世界を一周する空中大陸に観測機を持ち込み、観測衛星の代わりに利用し、低コストで大量の地形情報を集める事に成功した。

 



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第13話   少年たちの魔物退治

大陸の中心部へ向かうための玄関口に当たる大森林、かつて荒野の民と呼ばれたリクビト達が長きにわたる戦いの末、魔石を宿すほどの力を持った戦士たちの屍の山を積み上げ、やがて屍は魔力を持った土へと変貌し、荒野の植物を異常成長させた。

 

千年前に突如出現した大森林は、多くの魔獣を育み、近寄るものを貪欲に取り込み、大陸有数の魔境と化した。

 

今も時折、森から魔物が群れからはぐれ、地方の都市を襲撃する事もあり、定期的に討伐隊が組まれ、魔物の駆除が行われる。

 

 

「まったく、定期討伐の序に、新兵の試験をやる羽目になるとはなぁ・・・。」

角付きメットを被った討伐隊隊長がため息をつきながら、呟く

「ま、その分奥に進まなくて良いじゃないか?小型の鎧虫程度、倒せないようじゃ、この先やっていけんしな。」

羽飾りのついた額当てを付けた副隊長が、隊長の愚痴に付き合いつつ周囲を見渡し後ろを振り向く。

 

 

「お前たち、ここが大陸の玄関口だ、俺たちの故郷には生息していない危険な魔物がうようよしている!幸い作戦領域には比較的危険度の少ない小型種しか生息しておらん!対処を誤れば最悪死ぬかもしれんが、これが乗り切れなければ一人前の兵士とは言えん!心してかかれ!!」

 

 

「「はっ!」」

 

 

 

「なぁ、ココル、この任務が終われば晴れて、正式に入隊出来るんだよな?」

「うん、ここに来るまで本当に長かったよ、夢でも見ているみたいだねコリン。」

「ばーか、お前も聞いただろ?油断していると最悪死ぬって」

「大丈夫、僕は弓兵だし、危なそうな奴には近づかないから、それよりコリンは鉈と短剣しか持っていないけど大丈夫?」

「本当は両手斧を使いたいんだけど、まだ使う年じゃないって、隊長から・・・。」

 

 

 

「おいっ!そこの!私語は慎め!」

 

 

「ひゃい!?」

 

 

 

新兵をつれた討伐隊は、よく目印に使う巨大な倒木のある広場にベースキャンプを築き、一晩過ごし、翌日本格的な討伐を行う予定をしていた。

しかし・・・・。

 

キュオオオオオオオオオオオオォォォォ!

 

「火吹きトカゲだあぁっ!!逃げろおぉぉぉ!!」

「ぎゃああああああ!!」

 

 

本来ならば、大森林の奥に生息する火吹きトカゲが、群れからはぐれたのか森の入り口付近の森の広場に突如出現、火を恐れぬ火吹きトカゲは、ベースキャンプの篝火を踏み潰し、軽装備の討伐隊を襲撃した。

 

 

「ココル!?どこだ!生きているか?」

 

「こっちだよ、コリン!早く!!」

 

 

天幕の骨組みに押しつぶされた新兵たちを、踊り食いする火吹きトカゲを横目に、友人の呼び声に答え、茨の茂みに出来た小さな穴に滑り込み、その奥に続く獣道を辿って只管走り続けた。

 

 

気が付けば空が白み始め、嘘のように青い空が惨劇の起きた森を明るく照らした。

 

「はぁ、はぁ、奴はもう居ないか?」

 

「何とかまいたみたいだね、コリン」

 

「これからどうする?正直ここが何処だかさっぱりわからないぞ?」

 

「救助が来るまで待つしかないんじゃないかな?」

 

「おいおい、まともな装備もないのにどうやって森を抜けろってんだよ、小型の鎧虫程度なら何とかなるけど、またアイツに遭遇したら・・・。」

 

「その時は、その時だよ・・・でも、何もしないまま食べられちゃうなんてまっぴら御免だね!」

 

「まったくだ、それは置いといて、本当にどうするんだ?せめて目印になる物があれば・・・。」

 

「コリン!あっち見て!あの丘の上なら森の外まで見えるんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

森の木々の背を超える程度の、小さな丘を登って周囲を見渡す少年たちは、木々の間に上る煙を見つけ、自分たち以外にこの森に訪れている人間がいるのかもしれないと言う希望をもって、目印の煙を見失わないよう、草木をかき分け歩き続けた。

 

 

「これは・・・」

 

「はは・・・も・・・戻ってきちゃったみたいだね。」

 

「一晩中走り続けたと思っていたけど、こんなに近くにあったなんて」

 

「意味も無くうろついていただけだった、ってのか?」

 

「でも、でも、ここまで来れば後は来た道を戻るだけだよ!早くいこうよ!」

 

「待て!待ってくれ!・・せめて遺品だけでも・・・。」

 

「コリン・・・・。」

 

 

「みんな・・・みんな死んじまった・・・・!!っ隊長の・・・」

 

「隊長の青銅斧・・・コリン・・・皆の物を全部持ち帰るのは無理だよ、それだけでも良いから、はやく帰ろう」

 

「ココル・・・すまない、帰ろう」

 

 

悲しみに暮れる少年たちが、森を出る道へ向かおうとしたとき、背後の倒木が踏み砕かれ、赤い鱗の巨大な爬虫類が縦に割れた黄色い目をぎょろりと動かし、喉を鳴らしながら近付いてきた。

 

 

「っ野郎!!」

 

「不味いよコリン!早く逃げないと!」

 

「いや、無駄だな、追いつかれちまう」

 

「そんな!」

 

「だがな、何もしないまま食われるのは、まっぴら御免だ、そうだろ?」

 

「っ!!うん・・・」

 

火吹きトカゲが新たな獲物を見据え、その赤い鱗とは対照的に青い舌をちらつかせ、じりじりとにじり寄ってくる。

 

「俺が懐に潜り込む!牽制を頼むぞ!」

 

「うん、僕に任せて!」

 

火吹きトカゲが突進を開始すると、横にさけつつ、短剣を前脚を狙って投げつけ、鈍い音と血しぶきを上げる

 

「何処を見ているんだい!」

 

前脚を傷つけられたことに激昂した火吹きトカゲは、噛みつこうと大口を開けるが、視界から外れていたココルの矢に片目を射抜かれ悲鳴を上げつつバランスを崩し、頭から腐葉土に突っ込む。

 

「よしっ!」

 

「馬鹿!ココル!よけろ!」

 

「えっ?」

 

気が付けば、火吹きトカゲは体を捩じりこちらを向いており、開いたままの大口が赤く揺らめいた。喉元から押し出されるように

 灼熱の焔が直進し、寸前のところで回避する。

 

「ぬううううぅぅっ!!」

 

轟音と共に背後の若木が爆ぜるのを見届けた後、森の木々を盾にしつつ牽制攻撃を加えながら距離を取る。

 

 

キュオオオオオオオオオオオオォォォォ!!

 

固い鱗に守られ、浅く傷をつけるだけだったが、火吹きトカゲの怒りを高めるのには十分だった、必殺の火炎放射を避けられた事も火吹きトカゲのプライドを酷く傷つけた様で、我を忘れて森の木々をなぎ倒す勢いで突進を開始した。

 

「俺を忘れちゃ困るぜ!  うおらぁぁぁ!!!」

 

いつの間にか木の上に上っていたコリンが落下エネルギーを利用して、鉈と斧を同時に頭部に振り下ろし、鈍い音と共に土煙が上がり大量の血を吹き出しながら声にならない声を上げて火吹きトカゲが沈黙した。

 

「やった・・・のか?」

 

「やった・・・やったよ!凄いよコリン!魔法も使っていないのに勝っちゃった!」

 

「いや、よく見ろココル、奴の傷口・・・泡を吹いていないか?」

 

「ほ・・・本当だ・・・あれってもしかして・・・。」

 

「多分隊長たちが、毒を塗った武器で何度も切り付けたんだ・・・既に弱っていたから何とかなったんだよ。」

 

「隊長たちが?・・・そうか、最期の最期で僕たちを助けてくれたんだね・・・。」

 

「畜生・・・・火吹きトカゲめ・・・何でこんな浅い所まで来るんだよ・・畜生・・・。」

 

「コリン・・・。」

 

 

ゴルルルルルルルルルルッ

 

 

「「!?」」

 

そこに現れたのは、先ほど倒したばかりの火吹きトカゲよりも更に巨大で、赤黒い重厚な鱗に身を包んだ新たな火吹きトカゲだった。

更に、よく見ると、巨大な火吹きトカゲの後ろに何匹か、倒した火吹きトカゲと同じくらいの体格の個体が青い舌をちらつかせていた。

 

「む・・・群れ単位で迷い込んでいたってのかよ!?」

 

「お・・・お終いだ・・・今度こそ・・・。」

 

その時だった!!

 

『フ セ ロ !!』

 

異国語の発音と共に、どこからともなく現れた異形の羽虫が、空から強力な魔導で地上の火吹きトカゲを薙ぎ払った。

 

 

UH-1Jイロコイが側面に着けたM134ミニガンを乱射した。

M134ミニガンの圧倒的な火力に、火吹きトカゲの長の頑丈な鱗すら粉砕され、物の数秒で少年たちを取り囲んでいた火吹きトカゲの群れを殲滅したのである。

 

「「あ・・・あ・あ・あ・・・。」」

 

余りの光景に言葉を失う二人・・・・そこへ、紐の様な物を伝って降りてきた奇妙な兜をかぶった男が近づき、しゃがんで二人の頭を軽く撫でた。

 

『モー ダイジィョ ブ サー カェロー』

 

彼が何を言っているのかは、解らない・・・だが・・・二人の緊張を解くには十分だった。

 

「な~に阿呆な面してやがる!」

 

聞き覚えのある声に、思わず背後を振り返る。

 

「全員は助ける事が出来なかったが、お前たちが見つかってよかったよ、これで最後だな・・。」

 

「た・・・隊長おおおぉぉっ!!!」

 

異形の羽虫から出てきた隊長と副隊長の姿に思わず声を上げて、異国の兵士を突き飛ばす勢いで駆け寄った。

 

 

「隊長ぉ・・・僕・・・てっきり・・・じゃったかと・・・おも・・・」

 

「おいおい、泣くんじゃない、まったく・・・ひでぇ顔だな。」

 

『オォ ゲンキダナー マタック』

 

「隊長・・副隊長も?あの羽虫は何ですか?あの人たちは一体・・・。」

 

「海を越えた先にあるニッパニアの兵士様だ、空を飛ぶ乗り物があるからお前たちの捜索に手を貸してくれたんだよ。」

 

「ニッパニアってあの、隣の国を滅ぼした!?」

 

「あぁ、何でも戦いだけでなく救助の達人でもあるらしいからな、貴族の連中が息子の為に金を出して雇ったのさ」

 

「で・・・でも僕たちはただの平民で・・・。」

 

「俺もそう思ったんだが、連中は全員助けるって依頼以上の仕事をしてくれたんだよ、それも追加報酬なしでな」

 

『ア・ノー ハィヤック イコー アブナ・カラー』

 

「おい、隊長、そろそろ引き揚げるってよ、さぁ、あの羽虫に乗ろう!」

 

「「え゛ あれに?乗るの?」」

 

 

その日、討伐隊を襲った魔物の群れは一掃され、散り散りになった生存者を救助し、自衛隊は幾らかの報酬金と何か所かの農村部の土地の権利書を受け取った。

 

 

その見事な救助劇の噂を聞きつけ、多数の国や集落から自衛隊に依頼が舞い込むのはまた別の話・・・。

 

 

 

 

レディカクラウロ 通称、火吹きトカゲ 

和名:ワモンヒフキトカゲ

 

体内に発火性の粉じんを生成する器官をもった赤い鱗を持った大型爬虫類

粉じんには魔鉱石の粒子が微量含まれており、粉じんを獲物や外敵に吹き付ける時に喉元の鉱物器官で刺激を与え着火に利用する。

粉じんは吸着性が高く、一度張り付くと中々落とせないので、炎を浴びると長時間地獄の業火に苦しみ続ける。

基本的に単独で生活を送るが、繁殖期になると一時的にハーレムを形成し、雄は戦いの度に傷ついた鱗を硬質化させ、大型化して行く。

激しい生存競争と縄張り争いに勝ち続けた歴戦の雄は、鱗を赤黒く変色させ、ハーレムの規模も大きくなる。

繁殖期が終ると子育てを雌にまかせて単独生活に戻り、群れから離れる。



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第14話   空の民からの情報収集

「さて、今日はこれ位にしますかね?ミーティアさん」

「翻訳作業というのは存外体力と精神力を消耗するのですね。」

「私としては未知の言語を調べる事は、とても楽しい事なのですがね、好奇心を満たすには最高の素材です。」

「そうですね、根気のいる作業ではありますが、知識欲をそそられますし、大変有意義な作業でもあります。」

「ソラビトに私と波長の合う人が居て本当に良かったと思いますよ、お互い本の虫、仲良くしようじゃないですか」

「ははは、ニシモトさんは筋金入りですよ、しかし、ニフォンには空の国を超える量の書籍があるらしいのでうらやましい限りです。」

「故郷の世界では世界規模で交流がありましたし、国外の書籍も含めれば、一つの建物では収まりきらない量になりますよ」

「一つ一つが大陸の平均的な大きさを軽く超えるニフォンの建物ですら・・・ですか」

「いやいや、空の国の首都の写真を拝見しましたが、そちらも中々の大きさではありませんか」

「あれは、我々がリクビトだった頃に作られたものですから、今はもうあれ程のものは作れませんよ。」

「ソラビトは昔、大陸の中でも有数の高度な文明を築いていたリクビトだった様ですね、」

「えぇ、さすがに大陸一・・・とまでは行きませんが、技術力は平均を大きく上回ると言う自負はありますね。」

「そもそも、大陸の国々は未だに製鉄技術が未発達で、青銅を扱っている国が殆どだ、良質な鉄が取れる鉱山があるのに勿体無い。」

「魔法技術に関しては目を見張るものがありますがね、そもそも金属自体、魔法と相性が悪いのでそれも関係していると言えます。」

「ほう、金属と相性が悪いと?それは初耳です。」

「魔鉱石を含有する金属ならば、相性は抜群ですがね、しかし、製鉄技術が未熟な大陸の国々には製造が困難で、一振り作るのにも国を傾ける予算が必要になります。」

「・・・となると、作れなくはないのですね?」

「彼らは、その武器を魔剣と呼んでおりますね、鍛冶師と魔術師、そして錬金術師の連携があって初めて生まれる武器なのです。あと、希少素材も必要になりますね」

「希少素材・・・ですか?」

「魔鉱石と銅鉱石が混ざり合った、魔銅・・・オールカルコと言うものが必要になります。」

「ほほう、魔銅ですか・・・。(まんまオリハルコンだな」

「私たちの祖先は、銅鉱石と魔鉱石からこの合金を作り出すことが出来ましたが、彼らは元々混ざっていた鉱石を用いることでしか精製できないのです。」

「私達にとっても未知の金属ですな」

「物質構成的には割とありふれた物なのですが、彼らは魔鉱石との関連性に気づいていないみたいですね、そもそも銅とは別種の金属という認識を持っている様です。」

「成程成程、しかしそんな情報を私に教えて良いのでしょうか?この手の技術情報は国家機密に分類されるでしょう?」

「遅かれ早かれ、ニフォンはこの物質を発見するでしょうし、ニフォンは私たちに色々なものを教えてくれました、この程度では釣り合いませんよ。」

「それはどうも」

「正直あなた達の金属加工の技術に関しては祖先を軽く上回ります、悔しいですが認めざるを得ない。」

「製鉄技術に関しては故郷の世界でも自慢できるものですからね、その内この世界特有の金属を使って新たな合金を開発するもしれません。」

「全く末恐ろしい国です、でも、物作りが出来る体を持つのはうらやましいですね、もし、私たちがリクビトのままだったら・・・。」

「なに、3本指でも出来ることは沢山ありますよ、中指と人差し指と親指、それだけあれば十分です。」

「私たちも物作りに挑戦できると?諦めなくて良いと?」

「そうです、日本でも事故や生まれつき指の数が少ない人でも技術職に就いている人が沢山いるのです。」

「ふふふ、何か勇気をもらった気がします、あなた達と出会って空の民は良い方向で変われるのかもしませんね。」

 

 

 

 

 

ソラビト

指の数は5本だが、薬指と小指が長大化し、羽状に変形している。

筋力で飛ぶのではなく、物理干渉力を高めた魔力の渦を発生させそれに乗るようにして飛行をする。

いわゆる生体エーテルカイトである。

好奇心旺盛で、様々なものに興味を持ち貪欲に取り込んでいくのは、元々技術力に優れたリクビトであったが故かもしれない。

高い所に住むがゆえに、肺の機能は高い、魔鉱石の影響で渡り鳥に負けない効率的な構造をしてる。

 

 



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第15話   海神の巨槌

海の国が消滅したことで、海の民は安住の地を失い途方に暮れている所、異世界から突如現れたニホンと言う国が彼らに新たな住居としてイズ諸島近海を彼らの生活場所として提供し、付近の住民と奇妙な共生関係になってから暫くして。

 

海の国の聖歌隊員リンダは、海の国の跡地の様子を見るために、「転移」の爪痕である海底峡谷へ泳いでいた。

「見事なまでに海底がパックリ割れているわね・・・」

 

海の国を滅ぼした「災厄」と入れ替わる形で、この世界に組み込まれた証拠であり、その底は、未だに魔鉱石の青白いマグマが煮えたぎっていた。

「本当に何もかも無くなってしまった・・・私たちの聖歌の為のホールも、残っていないか・・・。」

「・・・少し、遠くに行き過ぎたわね・・・戻らないと・・・。」

 

 

ニホンに戻るため、反転し、海流に乗るために足鰭を動かそうとしたその時、遠方の砂場で爆発音が響いた。

「っ!?な・・・何?」

 

ニホンの漁師達が、拘束魔法を利用した漁をする事もある海域で、このような異常現象が起こる事を見逃すことは出来ない。

慌てて、爆発音が聞こえた場所へ泳いでみると、砂煙の中から岩の様にごつごつした物体が現れた

「あ・・・・ああっ・・・こ・・・これはっ!!」

 

それは、ウミビトの中ではある意味見慣れた物であった、だが、加工される前の生きた状態で見る者は海の国の中でもそうは居ない。

「重宝玉貝!!(ディプサ・サルタ!!)」

 

分厚い貝殻は、あらゆる衝撃を防ぐ盾に加工され、生成される巨大な真珠は、水竜の鱗すら貫通する槍の刀身に加工される。

しかし、個体数が少なく、生息域も深海になるため、探知力の高い専門の魔術師を派遣しなければ、まず見つからない。

それが、何故こんな浅瀬の砂場に転がっているのかは、不明だが、彼女にとって、海の民にとって大発見もいい所だった。

 

「転移の際に、海底から吹き飛ばされてきたのかしら?何にしても、こうしてはいられないわ!」

 

彼女は、体内に宿る水の魔石を振動させ、付近の海水と共振させて魔力を帯びた水流を発生させる。

「大口を開いているんなら、奇襲出来る筈・・・・はぁぁっ!!!」

 

凄まじい水流が、水の槍と化し、直線上の物を貫く聖歌魔法、水槍(アルネ・スロアー)を放つ・・・しかし。

バグン!!

 

「え?」

水の槍が到達する寸前に、防衛本能が働き、僅かな海中の魔力の濃度の変化を感知し、貝殻を閉じ、これを防御する

 

ギチ・・ガチガチ・・・・ガッポン!!

 

そして、分厚い貝殻を激しく振るわせた後、凄まじい勢いでこれを閉じる事で、爆発的な水流が発生し、周囲の物を薙ぎ払った。

「きゃあああああああああああ!!!」

 

その凄まじい衝撃波を浴び、リンダは吹き飛ばされながら意識を失った。

 

 

 

後日

 

「まさか、重宝玉貝がこんな浅瀬に生息しているとはな」

「いやいや、何かしらの影響で浅瀬まで移動しちゃったんでしょ、それにしてもリンダちゃんも災難だねー」

「阿呆抜かせ、本来たった一人で挑む相手じゃない、功を焦ったアイツが悪い、良い薬になればよいが」

「ヴィーナちゃんひっどーい、リンダちゃん、這う這うの体で報告しに来たのにー」

「ふん、この狩りで貴様の軽薄さも叩き直されるのならば何もいう事はあるまいさ」

「大丈夫だよ、重宝玉貝の事はしっかり予習してきたからさ、このネレイナちゃんに任せなさいー!」

「どうだか・・・・おっと、お喋りはここまでの様だぞ、ネロ、奴だ。」

 

 

「うへぇ、聞いた話通りのデカブツねぇ。」

「面妖な・・・。」

 

本来光の射さない深海に生息する重宝玉貝が明るい砂場に鎮座する光景は、ウミビトから見ても異様な光景であった

 

ギチギチ・・・ギギギ・・・

 

周囲に気配を感じたのか、貝殻を小刻みに震わせて不気味な音を周囲に響かせる。

 

「あれは、威嚇だな、これ以上近付いたら唯じゃおかないぞ、と言う意思表示と言う奴だ。」

「ああ、リクビトによると、大陸のほうでも鎧虫の一種が似たような行動をするらしいわね。」

「ねぇ、どうするの?殻が分厚くて攻撃が全く効かないらしいけど・・。」

「奴が衝撃波を出すときに一瞬だけ殻を大きく開く、そこに聖歌魔法 鮫牙(スクラトゥス)を打ち込む」

「それって、タイミングを誤ったら危なくない?」

「大人数で絶え間なく水槍を放ち疲労を誘う方法も無くは無いが、この人数では短期戦しかあるまい」

「ま、今の海の国が動かせる人員なんてたかが知れているし、5人も聖歌隊が集まれば良い方なんじゃないの?」

「よし、私の牙槍を触媒にする、合わせろよ?」

 

 

 

聖歌隊の一人が、槍を掲げタクトの様にリズムを取りながら上下させる。

~~~♪♪♪~~~♪♪♪

体内に宿る魔石を振動させ、海中を伝わり、聖歌隊同士の魔力を共鳴させ、魔力を帯びた水流が水獣の牙の槍に集まる。

 

 

ギチギチ・・・・ガコン!

威嚇から外敵の排除行動へと移り、貝殻を大きく開き、衝撃波を放つ準備をした・・・・その時!

 

「~~~♪♪♪♪・・・・・行くぞ!!聖歌魔法 鮫牙(スクラトゥス)!!!!」

 

圧縮された魔力が槍に集中し、凄まじい破壊力の水槍が突き進み、重宝玉貝に直撃、水の大爆発を起こし海底を砂煙が覆う

 

「単純な破壊力だけなら水槍の10倍だ・・・流石に奴も無事では済まないはず・・・・。」

 

ギギ・・・・ガチガチ・・・ガコン

 

「馬鹿な!あの速さの鮫牙を直前に防ぐだと!?」

 

ごぼぼ・・・・ガッポン!!

 

「っ!?・・・・ぐうっ・・・あああああああああああああぁぁっ!!」

 

 

===========================

 

--------------------

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「・・・・で、聖歌隊のメンバー5人も負傷したと」

「あの海域には近づかない方が良いと思います、ニホンの漁師の方にもお伝えした方が良いかと」

「ふむ、では大使館に連絡を・・・それと、重宝玉貝の監視を続行しろ」

「はっ」

「・・・そう言えば、第3太陽丸が近海で漁をしているらしいが・・・無事だと良いのだが・・・。」

 

 

「うーみぃーの、おとっこーはぁーー♪♪たいりょーーきぃ♪♪かっついーでぇーーー」

「船長、音痴な歌うたっていると魚が逃げてしまいますよ。」

「るっせぇ!別な世界に飛ばされて、ヘンテコな魚や化け物みてぇなカニが襲って来たり商売あがったりだ!歌わずにはいられるか!」

「ですが、単純な漁獲量なら地球以上ですよ、手つかずの漁場が延々と広がっているのです、調理法さえ確立すればビジネスチャンスですよ?」

「確かに味は悪くねぇけどよぉ・・・はぁー、久しぶりにカレイの煮つけが食いてぇなぁ・・・。」

「この世界にも似たような魚が居るじゃないですか・・・。」

 

一方海中

「あれは・・・ニホンの船だ・・・あれは、拘束魔法ティーチ・ア・ミィか?」(注.底引き網です。

「なるほど、不可視の壁で海底の魚を丸ごと捕獲するのか・・・むっ!?あの方向は・・・いかん!!」

 

 

「さて、そろそろ引き上げるか?」

 

ごおおおぉぉぉぉん!!ガキン! ピンッ!

 

「な・・なんだ!?網が丸ごと持っていかれた!?」

 

 

「ぬぅ・・・まさか、ティーチ・ア・ミィが破られるとは・・・あの衝撃波、侮れんな・・・。」

「ニホン程の力を持った国ですら重宝玉貝には敵わぬか・・・」

「っ!?誰かが潜って行く!?馬鹿な、誰か止めさせろ!!」

 

 

「はぁ、何で俺がこんな事を・・・どうせ岩か何かに引っかけたんだろ?・・・おっ?」

ギギギ・・・ガチガチ・・・。

 

「シャコガイ?か?こんな海域に・・・なんて大きさなんだ、異世界のシャコガイなのか?」

 

ガリガリ・・・ごっぽん!!

 

「っ!?があああああああっ!!!」

 

 

ダイバーが漁具の異常を確認するために、海へ潜るも、ウミビトの攻撃や、船の発する騒音に気が立っていた重宝玉貝の衝撃波を浴び意識を刈り取られてしまう。

 

あばら骨を数本折る重傷を負った彼は、病院に緊急搬送され、日本政府は近海で目撃されたこの害獣を駆除する事を決定した。

 

 

 

数日後・・・

 

 

巨大貝襲撃事件があった海域に白一色に塗られたヘリコプターが腹部に灰色の物体を抱えて飛行していた。

 

「水中戦のプロフェッショナルである人魚でさえ、手を焼く生物だ、銛で突ついた程度では駆除できんぞ?」

「まぁ、そのためにこれを持って来たんですけどね。」

 

本来は潜水艦への浅海面での攻撃や警告・威嚇目的に使用される対潜爆雷を抱えた哨戒ヘリSH-60Kは、ソノブイから送られてくる情報を元に機体を旋回させ、腹部から海中に潜む者にとって凶悪極まりない物体を投下した。

 

ドオオオオォォォォォォン・・・・・・・・・・・。

 

 

海中を蹂躙する衝撃波と、海面を貫く水柱を上げて、後に静寂がその海域を支配した・・。

 

「目標の沈黙を確認、帰投する。」

 

 

「・・・・・これが、ニホンの水軍の力・・・。」

 

事前に通告があって、避難していたウミビトたちは、平穏の戻った重宝玉貝の居た海域へ向かい、原型を留めないほどに四散した重宝玉貝の残骸を見て絶句する。

 

「まるで、海神の槌で叩き潰された様だ・・・どんな魔導を使ったというのだ?」

「ジエイタイの方から聞いたのですが、バグ・ラ・ウィと言う広範囲魔法を使用したらしいです。」

「バグ・ラ・ウィ・・・・まさかティーチ・ア・ミィを超える魔法があるとは・・・それも、まるで格が違う・・・。」

「ティーチ・ア・ミィですら、本気の魔法ではなかったというのか?何と恐ろしい・・・。」

「初遭遇の時に彼らと敵対していなくて本当に良かった・・・運が良いとしか言いようがない・・。」

 

その後、日本政府は、重宝玉貝のサンプルを一部受け取り、残りは海の国の武具を充実するためにウミビト達に提供したという。

 

 

 

 

ディプサ・サルタ 通称、重宝玉貝

和名:オニハガネシャコガイ

 

全長4メートルを超える巨大な二枚貝。

普段は海中の岩に挟まって海中のプランクトンを捕食しているが、外敵が近づくと貝殻を高速で開閉して衝撃波を発生させる。

その威力は凄まじく、至近距離では鉄の板も容易く粉砕し、周囲に死をまき散らす。

また、魔力の濃い海域では、高純度、高濃度の魔石を核とした、真珠を生成する。

貝殻と真珠は、常識では考えられないほどの軽さと硬度をもち、タングステンも顔負けの強度と、高い魔法的親和性を持ち、ウミビトが扱う武具の素材の中でも最上級の品質を持つ。

個体数が少なく、滅多なことでは見つけることが出来ないが、発見できたとしても、本種を狩るのには犠牲を覚悟で大人数で挑むしかない。

 

 

拘束魔法ティーチ・ア・ミィ(人魚視点

 

ニホンの魔術師が使用する強力な拘束魔法。

水上では、その実態を確認できるが、水中に降ろすと、背景と同化する魔法の糸を何重にもからめた網を使い、範囲内の生物を拘束する。

捕えられたが最後、魔法の糸で出来た檻の中に閉じ込められ、宙吊りにされてしまう。

 

 

広範囲魔法バグ・ラ・ウィ(人魚視点

 

ニホン水軍の使用する究極魔法の一つ。

まるで、伝説の海神が振り下ろす巨槌による大破壊を彷彿させる驚異の破壊力を持っており、その範囲内の生物は皆、一瞬で絶命する。

ニホンが操る、黒き海獣も同等かそれ以上の破壊をもたらす魔法を扱う事が出来るらしいが、詳細は不明。

ニホンの底知れぬ軍事力の一端が垣間見れる。



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第16話   瘴気の海を泳ぐ巨蟲

空中大陸の進行ルートに穢れた大地と呼ばれる広大な毒沼が広がっている地域がある。

そこは、沼地から湧き出る瘴気に当てられた変異した生物が生息しており、現地民も滅多にそこに近寄らないため、周辺国からも重要視されていない場所であった。

だが、大陸の地殻の海域に突如出現した謎の島国にとって、とても興味を引いた場所でもあった。

 

 

「異世界と言っても、見慣れた様な地形が広がっているだけと思っていたけど、こういう場所を見ると異世界って感じがするねぇ。」

「本当に見ているだけで息苦しくなってくるよ、禍々しい光景だ。」

 

現地調査のため訪れた、学者で構成された現地調査隊は穢れた大地の禍々しい光景に息をのんでいた。

 

「魔物だっけ?なんでも、魔鉱石に被曝して凶暴化した大型生物がわんさか生息しているらしいじゃないか」

「地球の常識では当てはまらない化け物ばっかりだからね、気を付けないと危険だよ。」

「一応、自衛隊の人が目を光らせてくれているから、幾らか安心できるけど、やっぱり不安だよね。」

「銃弾弾く虫が生息している時点で安心出来んよ、まぁそんなこと言っていても資源の調査は進まんから、さっさと始めてしまおう。」

 

 

地質調査、生物サンプル、気象観測、様々な用途の器材をトラックから降ろしていると、突如遠方で黒い水しぶきが上がり、調査隊の視線がそこに集まる。

 

「な・・・なんだ!?」

「でかいミミズ!?なんて大きさなんだ!?」

「警戒態勢!くそっ、調査を始めてそうそう化け物かよ!」

 

 

巨大なミミズの様な生物は、地中から突如現れ、コケを食べていた大トカゲを丸呑みにし、再び黒い水しぶきを上げ、地中へと潜っていった。

 

「こっちには気づいていないみたいだが、大丈夫なのか?地中にあんなのが生息しているなんて聞いてないぞ?」

「それにしても、少し掘っただけで黒い液体がにじみ出てくるが、本当に油田があるのかね?成分を調べてみないと何とも言えんが・・・。」

「現地民が試料として寄越してくれた黒い液体は炭化水素を含む混合液だ、ここで採集したものと同一のものと判明したのならば原油とみて間違いないだろう。」

「やや内陸になってしまうが、油田がもし確定したのならば、安泰とまでは行かないが、大分希望が見えてくるだろうさ、問題は先ほどの様な原生生物なんだが・・・。」

「石油プラントをここに建設したとしても、野生動物の襲撃で施設が破壊されることも起こりうるだろうな、何にしても一筋縄ではいかんという事か・・・。」

 

 

 

 

数日後・・・事態は起こった。

 

 

「はぁはぁーー・・・ああーー・・・うおー」

 

どす黒く染まった迷彩服と土色に顔を染めた自衛隊員が最寄りの駐屯地の医療施設に運び込まれ、意識混濁の重症を負っていた。

 

 

「大丈夫か?しっかりしろ!」

「くそっ、例の巨大生物か!?一体何をやられたんだ?」

「調査隊をかばって巨大生物が吐き出す液体を浴びたらしいのです、恐らく毒か何かかと・・・」

「毒の成分はわかっているのか?早く処置しなければ手遅れになる!」

「現在血液検査中です、そもそも初めて遭遇する生物の毒素なんてわかりやしませんよ!」

「畜生、何てことだ!とにかく、急がせろ!!」

 

突如、自衛隊員の容体が悪化し、天を仰ぐように体をくねらせ口から黒いあぶくを吹き出し始めた。

 

「あうおぉぉーー!うぐごげぇーーー!」

 

「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」

 

「ぐ・・げっ・・・・げびっ!!!」

 

体をのけぞらせ口から黒い液体を吐き出すと、体中から黒く変色した体液を吹き出しながら、見る見るうちに黒く溶けた肉片となり、無菌テント内は大参事となっていた。

 

「う・・・うぅっ・・・・お・・おえぇぇ!」

「なんだこれは・・・一体何なんだ!!」

「ありえない・・・・こんな・・・こんなこと!」

 

 

遺体や血液中から見つかった物は、毒素などでは無かった、この世界特有の嫌気性の細菌で、あらゆる物質を分解し、黒く禍々しい汚泥へと変貌させてしまう危険生物であった。

 

「現時点で治療法は見つかっていない、しかし、なんて凶悪な菌なんだ。」

「あの化け物が吐き出す液体は、この菌の培養液、恐らく体内にこの菌を培養するための器官があるのでしょう」

「何にしても、この地の生物は危険すぎる、未開の地の調査は犠牲がつきものとは言え・・・こんなことは・・・。」

「原住民はかの生物のことを蝕怪虫と呼んでおります、彼らも時々この生物による被害が発生しているとか・・・。」

「今更そんな情報を・・・・しかし、このままでは調査どころではないぞ?あの化け物を何とかしなければ!」

 

 

自衛隊に犠牲者が出たことで、調査隊のベースキャンプは物々しい雰囲気に包まれていた。

 

 

「いくら周辺警備のためとは言え、戦車まで用意するなんて・・・。」

「まぁ、乾燥してヒビが割れている場所と、ぬかるんでドロドロになっている場所と極端な地形だからなぁ、キャタピラが無いと動きにくいんだろう」

「それにしても、74式とは・・・まぁ、本土防衛用に10式が動かせないのは分かるし、数が揃っているのは未だに74式だし、仕方ないのかもね。」

「61式が送られてくるよりはマシでしょう、何にしてもあんな化け物が生息している以上、慎重になるに越したことはありません。」

 

「61式をなめるなや・・・。」

「おい、押さえろ、学者連中につっかかっても意味がないぞ」

「チッ、わかっている、化け物め・・・見てろよ、今度襲いかかってきたら105mmライフル砲をぶち込んでやる」

 

 

 

 

明朝、ベースキャンプ近くの毒沼で揺れを観測し、地響きの起きた場所へ重装備の部隊を派遣した。

 

 

「状況を報告せよ」

「毒沼に変化なし、ごく少数、毒沼に生える草を食べる動物が確認できますが、例の巨虫は確認できず。」

「了解。」

 

「まったく、馬鹿でかいサソリは居るわ、生き物を溶かすミミズは居るわ、本当に異世界は物騒だわ。」

「ゴジラを相手にするよりはマシと思ったほうが良いでしょう、銃が効く相手なら何とかなります。」

「ははっ、そんなこと言っていると、その内、熱線やビームを撃ってくる化け物が出てくるぞ?」

「止めて下さいよ、本当に出てくるかもしれないじゃないですか、ましてや異世界ですし。」

 

 

グボオオオオオオオオオオォォォォォォ!!

 

突如黒い水しぶきとともに現れ、遠方で草を食んでいた山羊のような野生動物に蝕怪虫が食らいついた。

 

「なっ!?」

「や・・・奴が現れた!早く車内に戻れ!」

「いや、この距離には流石にいきなりやって来れないだろう、俺が監視する、砲撃の準備をしておけ!」

 

双眼鏡で確認すると、山羊のような野生動物は、蝕怪虫の口から逃れようと暫く暴れるが、その内、目や鼻・口などから黒い液体を吐き出し、溶けながら蝕怪虫に飲み込まれていった。

 

「なんてえげつない捕食の方法だ・・・照準を合わせろ、外すなよ」

「了解!」

 

再び、地中に潜ろうとする蝕怪虫、しかし、大気を裂く音と共に、側頭部が突如破裂する。

 

グボオオオオオオオオオオォォォォォォ!?

 

どす黒い血飛沫を上げて、その巨体を大地に横たわらせ、痙攣すると次第にどす黒いヘドロ状の物体に溶け始め、魔石と思われる鉱物器官のみを残して原型を失った。

 

 

後の調査で、元々この生物、蝕怪虫は食物連鎖の頂点にある生物で、個体数もそれほど多くないため、新たな個体が縄張りを作らない限り、襲撃は起こらないと判明した。

その他にも石油の海を泳ぐ生物は多数存在し、調査の障害になるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

ヘルマス・ウォルム 別名.蝕怪虫

 

和名:ジュウユオオナマコ

 

重油の海を泳ぐ巨大な軟体生物、地球でいうナマコに近い生物だが、隔離された環境で独自に進化した。

普段は地下を掘り進みながら地中の微生物をこしとって捕食しているが、大型動物も襲うことがあり、体内に共生した微生物を含む重油を吐きつけ、弱ったところ土ごと捕食する。

地底での生活が長いため視覚はなく、太陽光線を微妙に感じる細胞を残すのみで、振動や熱に反応して獲物を探す。

体内に特殊な微生物を培養させる器官があり、この微生物を浴びると体内から分解され、どろどろの黒ずんだ炭化水素の塊にされてしまう。

この生物の生息地は穴だらけであり、原油の底なし沼が点在している。



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第17話   ヤングマーメイド

 ───アタシの名前はウルスラ。心に傷を負ったウミビト。モテカワスリムで恋愛体質の愛されマーメイド♪

アタシがつるんでる友達は援助交際をやってるリンダ、学校にナイショで

キャバクラで働いてるネレイナ。訳あって不良グループの一員になってるヴィーナ。

 友達がいてもやっぱり学校はタイクツ。今日もリンダとちょっとしたことで口喧嘩になった。

女のコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時アタシは一人で海の国を泳ぐことにしている。

がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな!

 「あームカツク」・・。そんなことをつぶやきながらしつこいキャッチを軽くあしらう。

「カノジョー、ちょっと話聞いてくれない?」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。

キャッチの男はカッコイイけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと等身大のアタシを見て欲しい。

 「すいません・・。」・・・またか、とセレブなアタシは思った。シカトするつもりだったけど、

チラっとキャッチの男の顔を見た。

「・・!!」

 ・・・チガウ・・・今までの男とはなにかが決定的に違う。スピリチュアルな感覚がアタシのカラダを

駆け巡った・・。「・・(カッコイイ・・!!・・これって運命・・?)」

男は釣り人だった。連れていかれてレイプされた。「キャーやめて!」まな板に乗せられた。

「ガッシ!ボカッ!」アタシは死んだ。スイーツ(笑)

 

 

んぬぬぬぐぐぐぐ・・・・。

 

「大丈~夫?ニシモトさん」

「ファッ!?あ・・あぁ、なんだ夢か」

「大分うなされていたみたいだけど大丈夫?」

「あぁ、いや、変な夢を見ていただけだよ、大丈夫大丈夫」

「そう?それなら良いけど・・・」

「ウルスラちゃん、日本の街を見物するのは構わないけど、変な人についていっちゃ駄目だよ?」

「うん、平気だよ、お父さまも一緒にいるもん。」

「あぁ、ポールさんね、あれだけガタイの良い人が居れば、変な人も寄り付かないでしょう。(筋肉質な男人魚と言うのも視覚的にインパクトあるしね」

「お父さまは、海の国でも一番の槍使いなんだよ!変な人も一発だよ!」

「うん、まぁ、変な人は変な言葉も教えてくるから、彼らの言う言葉はあんまりマネしちゃいけないよ。(確かこの子10歳だっけ?早めに釘をさすに越したことは無いけど」

「お姉さまにも言っておかないと、私よりもああ見えて好奇心旺盛だから」

「プリシラさんですか?彼女は大人だから大丈夫でしょう」

「うん、15歳になったばかりだからね!」

「じゅ・・・15歳!?海の国では成人は15歳なの?」

「お父さまも15歳の時にお母さまと結婚して17歳でお姉さまが生まれているからリクビトよりも少し早いと思うの」

「な・・・なるほど・・・道理でポールさん若い訳だ・・・。(いかん、プリシラさん、世代的にど真ん中だ・・・変な日本文化には触れないよう言っておかなければ」

「それじゃぁ、迎えが来ている筈だから、もう帰るね、ばいばい」

「じゃ・・・じゃぁね~~・・・。」

「はぁ・・・・どうしたものか・・・・。」

 

 



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第18話   冒険者組合

やれやれ、またもや魔物の被害か、最近増えてきているんだよね。

おっ?討伐依頼を受けてくれるのかい?最近君たち大活躍みたいじゃないか。

 

しかし、斑模様の制服か、軍隊の服にしては何とも地味と言うか奇妙と言うか・・。

 

え?森に潜むために使うって?なるほど、確かにその色なら森の中では見つけづらいかもね、街中で着るには目立つけどさ。

 

聞いての通り、村の住民や家畜を襲う、人食いトカゲの群れが近くの山に営巣してしまってね、あまりに危険過ぎて傭兵団も依頼を受けようとしないのさ。

炎を吐く様な事はしてこないんだけど、やたらと鱗が固い上に爪と牙に猛毒が仕込まれていてね、迂闊に接近できないから罠とかを仕掛けて仕留める事が多いんだけど、群れとなると数が多すぎてそれも効果が薄いし、どうしたもんか困っていたんだよ。

 

一番厄介なのが群れの長だね、あそこまで成長した人食いトカゲは、ちょっとした魔法も、デカい斧も通用しない、それこそ軍隊が死ぬ気でぶつからないと倒せないくらいに強いんだ。

え?罠は使わないのかって?いや、使っても効果が薄いし、深く掘ってもよじ登ってくるし、気休め程度にしかならないのさ、一応引っかかるけど下っ端と違って足止め程度にしか効果がないなぁ。

 

 

うん?なんて言ったの?罠に引っかかる程度の相手なら何とかなるって?

 

いやいや、話聞いていたかな?落とし穴程度の罠なら足止め程度にしかならないと言ったばかりだよ?それとも何か秘策があるとでも?

 

成程、落とし穴に引っかけた後、ありったけの火炎魔法をお見舞いするという認識で良いのかな?

まぁ、君たちの使う魔導は一般的な魔法使いのそれと桁が違うからね、一撃で不死身の人食いトカゲを仕留めてしまっても驚かないよ。

 

群れを統制しているだけあって、頭がやられたら、群れは散り散りになってしまう筈だよ、そうなれば傭兵団でも駆除する事は可能だね。

もっとも、君たちの場合は他の連中に獲物を奪われる前にすべて仕留めてしまいそうだけど

 

 

もし、人食いトカゲの事をもっと詳しく調べたいのなら奥に資料室があるから見に行くと良いよ、狩のノウハウもしっかり蓄積されているから参考程度にはなるんじゃないかな?

 

案内なら、そこにいるススビトに聞けばよいよ、あぁ、いかつい顔しているけど良い奴だよ、私たちは異種族に偏見を持っていないから、この町では普通に働いているのさ、こんな風にね。

この地方の領主様からの依頼だから、報酬は期待してよいと思うよ、それだけ重要な依頼という事さ、それじゃぁ武運を祈っているよ。

 

 

 

 

ススビト

力が強く、煤に汚れたような体色をもつ種族。

いわゆるオーク、一般的なリクビトに比べて力が強く、攻撃的だが、義理に熱く協力関係を結んだ相手に尽くす。

口腔からはみ出る程に発達した剣歯がいかつく、鼻は潰れた様に短いので、その外見から差別の対象になる事もある。

また、意外と知能レベルは高い為、学士を志す者も少数だが存在する。(ただし、人気職は戦士

 

 

ヴェノス・クラウロ 通称.人食いトカゲ

 

和名.ダイダイオオドクトカゲ

 

火吹きトカゲの近縁種で、特別なブレスを吐かない代わりに、爪と牙に強力な出血毒を持つ。

成熟した雄の個体をリーダーに大規模なハーレムを築くのは共通しているが、こちらは、生まれた子供が成熟するまで雄が群れを守る。

縄張りを狙う他の雄と、盛大な縄張り争いを繰り広げ、これに敗北すると生まれた子供と、孵化する前の卵を捕食され、群れの雌は勝者となった新リーダーの子供を産むことになる。

警戒色の色鮮やかな鱗は、鍛え抜かれた鋼なみに固く、その鱗の下には隆々と発達した筋肉があり、生半可な攻撃では仕掛ける側が怪我をしかねない。

ただし、腹部の皮はさほどでもなく、下側からの攻撃に滅法弱い為、棘を仕込んだ落とし穴で狩れる事もある。

それでも、リーダーの個体は頑丈で、腹部の皮も分厚くなっているので、傷を負わせることが出来ても致命打にはならない。

ヴェノス・クラウロの生息域にすむ文明は、このトカゲの鱗から武具を作る事もあり、特に腹部の皮は可動部分の最高の素材になると言う。

 



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第19話   森の起源と千年の残滓

何故・・・・私を呼び覚ます?

 

 

我々はすでに沈んだ存在、石にその名残を刻み、過去の日々を自己の中で只管繰り返すだけの者

 

この荒野は何も与えてくれない、死者の連なる丘陵は、大地を蝕み、風は濁り、水は腐り果てた

 

醜い争いの傷跡、私たちの、そして未来のお前たちの・・・きっと何度も同じことを繰り返すのだろう

 

だが、このままで終わらせるつもりはない

 

だからこそ、このままで終わらせるつもりがなかった

 

既に争うものは全て死に絶え、生き残った我々は、この広大な荒野に横たわる死者の丘陵に「種」を残した

 

種は魔を取り込み、成長し、この腐敗した大地を飲み込み、やがて森を形成するだろう。

 

長い時間をかけて不毛の大地に命を宿し、あらゆる生命を育む揺り籠を作り出すのが我々の目的だった。

 

それが決して報われぬものでも、それが我々の残した新たな傷痕・・・言い換えれば呪いだとしても

 

言い訳をすれば、大地を汚した後始末、本来あるべき姿に戻す行為、傷ついた大地の修復、幾らでも表現できた。

 

我々は、この咎と共に荒野の中心地に記録を残すことにした、決して、解放など・・・されぬものか・・・永遠に・・・。

 

 

 

 

 

 

自衛隊の調査隊は、現地人と共に、大陸の中心を覆うように広がる大森林の奥深くで、前時代の遺跡と思われる巨大な石板を発見した。

石碑には青白い炎の様な物が灯されており、近付くことで、それが高純度の魔鉱石の中に封入されているものだと理解した。

突如、石碑に刻まれた青白い光が、同行していた荒野の民の神官に降り注ぎ、光の束が彼の体を貫いた後、石碑に収まっていた魔鉱石の光が消えた。

 

暫く気を失っていた彼は、目が覚めると突如号泣し始め、周囲の者たちを驚かせたが、暫くして石碑が見せた過去の記憶を覚えている範囲で伝えた。

話を統括する限り、この森は過去の大戦で、戦死者が折り重なってできた丘の上に出来たもので、魔鉱石の突然変異誘発の性質を利用した改造植物を使って、腐敗した大地の浄化を計った物だと言う事が判明した。

日本が転移してくるよりも、はるかに過去の時代のリクビト達は、今よりもずっと強力な魔法が操ることが出来、その体内に生物濃縮された魔鉱石・・・魔石を宿す者が多かった。

彼らが言うには、魔法の素質を持った者が過去の大戦で多く死んでしまった為、現在のリクビトは魔法が上手く使えないと言うが、理由はそれだけではないと思われる。

日本の学者が提唱している説の中では、魔素がこの森に吸収され、魔素の循環が崩れてしまったのが原因だと言う物がある。

現に、海底火山から採集された魔鉱石の溶岩を精製した粉末を、現地生物に摂取させたところ、身体能力の向上及び、体内の鉱物器官の肥大化が確認されたのである。

この大陸は、過去に比べて魔素が薄くなっているのもこれらの原因があるからなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

マギナス 通称:魂炎

 

和名:アオビダマ、人魂

 

魔鉱石には、他次元に干渉する性質がある、魔鉱石を構成物質とする異世界の生命体にもこの影響があり、脳の神経構造が擬似的に他空間にも転写される事がある。

肉体を失う事で、通常はその擬似神経構造も分解されるのだが、時々擬似神経構造が壊れないまま残る事があり、生きた魔法エネルギーとして二つの次元を彷徨うものがある。

この現象を、異世界人の言葉でマギナスと呼ぶのだが、マギナスの中でもごく稀に生前の人格を残したまま存在するものがある。

とは言え、肉体を失っているため非常に不安定で思考力も低下しているので、異常行動に出る物も多く、エネルギー体のため、下手に近寄ると跳ね飛ばされたり、何らかの魔法で攻撃を受けたりと危険である。

特殊な技能を持った異世界人の神官や巫女は、この擬似神経構造体を自分の擬似神経構造と接続させる事で、その思考を読み取ることが出来る。

大抵は、接触後にその宿主の体に吸収されてしまうのだが、一時的に擬似神経構造が混じる為、実態を持った脳にも影響が出るが、暫くすると収まる程度である。

特殊な環境下では、百年単位で残るものもあり、生前に特殊な処置が施された者に至っては会話すら可能だと言う伝承がある。

 

・・・ちなみに、この擬似神経構造を利用した異次元リンク・コンピューターの構想を一部の企業がアイディアとして出している様だ。

 



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第20話   異世界の野獣

森の奥深くで前時代の遺跡と思われる石碑の調査を終えた我々は、更に森の奥へと向かうために装備を確認した。

すぐにでも出発したい所だったが、遠征に慣れていない異世界人の同行者が居た為、休憩を挟んだ。

 

荷物持ちと思われるバックパックを背負った従者は、何重にも巻いた布から塩漬けされた乾燥肉を取り出し、カチカチに乾燥させたパンに載せて簡単なサンドイッチを作っている様だった。

一方自衛隊は、白飯や鳥の野菜煮の缶詰を開封し、折り畳み式のテーブルを設置し、昼食の準備をしていた。

 

一見金属の塊で出来た何かの触媒に見える魔道具の様な物が、実は調理積みの食材を運ぶための物と分かり、驚愕と好奇心の眼差しで同行者の異世界人は見つめていた。

 

『ア・ タベマス・カー?』

 

野菜と何かの肉を煮込んだ料理と思われる物を差し出す、ニッパニアの兵士、不安と期待を感じつつ、青銅の器に入った料理を口に運び異世界人の神官は目を見開く。

 

「おおっ!?か・・かよう美味なる物が、調理したままの状態で持ち運べるとは!」

 

『シオカラ・ク・ナイデス・カー?』

 

「塩気が濃すぎていませんか?と仰っているそうです。」

 

「はははっ、何、そもそも携帯食など日持ちさせるために、塩は大量に使う物であろう?むしろ、良くここまで抑えたものだと思うよ。」

 

「何というか・・・我々の携帯食が彼らに比べて、少し寂しく見えますね。」

 

「言うな、まさか大鍋担いで調査する訳にも行かんだろう。」

 

「あ・・・・・・彼らに交換した塩漬け肉・・・意外と好評ですね。」

 

『チョ・ト・シオカラ・イ・ケド・ビーフ・ジャーキー・ミタイー』

 

「最初のうちは美味しく感じるかもしれないが、ずっとこれが続くと、不満が出てくるものなのだがな・・・。」

 

「ニッパニアの携帯食は、種類も多いみたいですし、飽きが来ない様になっているのかもしれませんね、青銅の容器の料理・・・我々も研究してみる価値が有りますね。」

 

 

 

食事の後片付けをした後、再び荷物を整理して、大森林地帯の奥地へ向かう調査隊一向、暫く歩き続けていると、生えている木々の種類が変わり始め、森の雰囲気が一変した。

こぶが多い、白い大木には、何かの動物の爪痕があり、その傷口から白濁液がしたたり落ちていた。

 

「妙な木だな、傷がつくと、白い液体が滲み出てくるみたいだが・・・。」

 

「何とも言えない匂いですね、っと・・・・ほら、ダガーで刺したら直ぐに樹液でべたべたになる。」

 

「しかし、この爪痕・・・・相当に巨大な野生動物がつけたんだろうな?熊でもいるのかもしれんが」

 

「妙ですね、この爪痕、少し焦げています。」

 

「こないだ、殲滅した火吹きトカゲと熊が争ったのかもな。」

 

「火吹き熊じゃない事を祈りますよ。」

 

「おいおい、勘弁してくれよ、魔物とかにカテゴリーされている原生生物は、冗談抜きでやばいんだよ、中には銃が効かない固い奴も居るんだし。」

 

「まぁ、戦車を相手にするよか、よっぽどマシだろう?」

 

「それはそうなんだが、鎧虫騒動がどうにも頭に残っていてな・・・。」

 

 

 

みしみし・・・・ベキン!!

 

 

斜め後ろの茂みから木をへし折る音と共に、赤黒い特徴的な剛毛に覆われた、ヒグマの様な動物が現れ、歯茎をむき出しにして調査隊を睨みつけた。

 

 

「で・・・でたっ!おぶっ!」

 

「馬鹿!刺激するな、視界を外さないで後ずさりしろ、静かにだぞ!?」

 

「だ・・・駄目です!突っ込んできます!!」

 

 

テリトリーを侵された巨大な熊型生物は、地球の熊の様に二足で立ち上がり、両手を広げて威嚇すると、地面を抉りながら、その巨体に見合わない速度で突進を開始した。

 

 

「こっちくんなオラァ!!」

 

安全装置を解除し、連射に切り替え、タタタン・タタタンと一定のリズムで熊型生物を攻撃した。

 

 

ぐぼおおおおおおおおっ!!

 

思わぬ反撃を受けた熊型生物は、突如咆哮を上げると、赤黒い体毛の特に赤い部分が発光し、折りたたまれていた爪を展開させ、戦闘態勢に移った。

 

「くそっ!効果が薄い!」

 

「血を吹き出しているところ見ると効いている筈だ!撃ち続けろぉ!!」

 

「隊長!あれを!!」

 

「っ!!おいおい、嘘だろ?」

 

 

熊型生物は、展開した爪から炎を吹き出し、赤熱するほど高温になった爪を振り回し、周囲の木々を蹂躙した。

 

「っぶねぇ!」

 

調査隊に向かって爪で吹き飛ばした木片を浴びせ、何人か負傷する。

 

「やろう、血が上ったと見せかけて、中々クールじゃねぇか!ついでに頭も良い」

 

「!!!来ます!」

 

両手を広げた状態から、抱き着く様に爪を交差させる・・・・寸前のところで、これを回避すると安全ピンを抜いた閃光手榴弾を熊型生物に投げつける

 

凄まじい閃光と、轟音が辺りに響き、それを至近距離で食らった熊型生物は、悲鳴を上げながら転げまわった。

 

両耳を塞ぎつつ、全力で走り、熊型生物から離れると、抱えていたロクヨンを構え、発砲しながら後退する。

 

 

 

「今だ!撃て!!」

 

「隊長!こいつで吹っ飛ばします!!」

 

「おい、そいつは・・・いや、分かった、奴から離れろ!」

 

「これでも食らえ!!」

 

「っ!!!全員伏せろ!!」

 

 

噴射音とともに射出された、光の矢が尾を引きながら直進し、吸い込まれるようにして熊型生物に命中する

断末魔の悲鳴と共に血肉をまき散らしながら下半身を吹き飛ばされ、白目をむいて血の泡を吹き出し絶命した。

 

 

「っぷぁ、流石にこの距離は近すぎるか、お前ら生きているか?」

 

「な・・・何とか・・・。」

 

「全く、馬鹿でかいハサミムシと言い、火を噴くトカゲと言い、一体何なんだよこの森は!」

 

「こんなのがうろついていたら、確かに開拓なんて進むわけ無いわな」

 

「後で、死骸を回収しろ、初めて見る種だ・・・」

 

 

 

 

『何という事だ・・・炎爪熊を倒すとは・・・。』

 

『彼らが居なかったら我々全滅していましたね・・・。』

 

『隣国はよくもまぁ、彼らに喧嘩を吹っかけたもんだよ、確かにこれ程の力を持ちながら侵略してこないのが不思議だが』

 

『確かに・・・だが、彼らには規律がある、暴力をむやみやたらに使わない自身を律する為の掟の様なものがあるのかもしれんな。』

 

 

「協力者の方、驚いていますね。」

 

「むしろ、俺のほうが熊の化け物にびっくりだよ。」

 

「確かにあんなの、剣だか槍だかで戦って勝つ自信なんてありませんな、人間の領域では無いと言うのも頷けますよ。」

 

「そろそろ、この調査もお開きだな・・・周辺の生体サンプルを採集後、撤収準備だ。」

 

 

 

 

今回の調査で、様々な生体サンプルや、遺物などが回収され、様々な有用な動植物が発見された。

中でも、天然ゴムに加工が出来る木が発見されたのはとても大きな収穫であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガムドロの木 通称、白泥樹

 

 

和名.コブアリゴムノキ

 

異世界の大陸に生息する天然ゴムが採取できる木。

大陸の中心部を覆うように広がる大森林地帯の奥に群生しており、こぶ状の膨らみのある樹皮に大量の天然ゴムの元となる樹液を溜めこんでいる。

花は燃やすと防虫効果のある煙を発生させるため、大陸の住民は、花を防虫剤として利用しているが、天然ゴム自体は発見していないので利用していない。

野生動物のマーキングに樹皮を傷つけられると、白濁液を漏らすので、不吉の象徴として集落に植えたがらない為、人里ではめったに見かける事は無い。

その為、この木の樹液を手に入れるためには必然的に危険な大森林へ向かわなければならないので、入手が困難。

少数人里でも確認されているので、人工栽培が出来ないか現在研究中である。

 

 

レディカ・ベルサ 通称 炎爪熊

 

和名.アカヅメホムラグマ

 

異世界の大陸に生息する赤黒い体色をもつ、熊の様な動物。

地球でいう熊に近い生物だが、爪が折り畳み式などと、地球の熊とは違う系統の生物という事が判る。

鋭い爪に高い含有量の魔鉱石を有しており、興奮時に折り畳み式の爪が展開し、爪が発火、赤熱するほどの熱量を誇る様になる。

基本的に雑食性で、大型昆虫や木の実などを食べて、食糧が無くなると別の場所に移動する。

番で子供を育てる習性があり、育児中や繁殖期の時期になると、雄雌両方が非常に狂暴化する為、この熊の生息域には近づかない方が良いだろう。

 



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第21話   亜人の相性?

「では、今回はここら辺にしておきましょう、お二人ともお疲れ様でした」

「えぇ、お疲れ様でした、ニシモトさん」

「お疲れ様です、しかし、ニフォンはウミビトとも交流を持っているなんて、驚きでしたね。」

「私もまさかソラビトと交流出来るとは思っていませんでしたよ、空の民の領域にまで行けるなんて、ニホンは本当に凄い国なんですね。」

 

とある大学の研究室で、異世界言語の翻訳作業を進める3人、異世界の大陸でも未だに世界中の言語の解明が進んでいない為、情報の共有もかねて複数の国の協力者を集め、行く行くは翻訳本を出版し、国際交流を活性化させようと言う目論見を立てていた。

 

「同じ年頃なだけあって、気が合うみたいですね、お二人とも」

「え?ぇぇっと・・・うん、まぁミーティアさんと話しているのは楽しいんだけど何というか・・。」

「そう、ね、プリシラさんとはお互いに故郷の話をして楽しく過ごしてるわね。」

「み・・・ミーティアさん・・・何でそんなに顔を近づけるのですか?」

「いやぁ、ウミビトって私たちと意外と相性が良いのかなぁって・・・・。」

「ミーティアさん、プリシラさんが困っていますよ、あと涎出ています。(あぁ、食物連鎖・・・」

 

息を荒げて涎を垂らすソラビトと本能的に身の危険を感じて無意識のうちに車椅子を後退させるウミビト、食物連鎖の縮図を西本教授は幻視した。

 

「あ・・・あら?私ったらはしたない・・・兎に角、彼女とは個人的な付き合いでも仲良くやって行きたいなと、思いましてね。」

「私も異存はないです、実は、これからシンジュクでお買い物をしようと思っているのですが、ミーティアさんもご一緒しませんか?」

「魅力的な提案ね、宿舎で本の山に埋もれるのも良いけど、たまにはニフォンの街を見物するのも悪くないわね。」

「本ですか?確かにそれも良いけど、折角ニホンに滞在しているのですから、もっと外に出て見物しましょうよ!勿体ないですよー!」

「あー、えっとプリシラさん、迎えが来たようですよ?」

 

「お姉さまー!!」

「あら?ウルスラ、お父様は一緒じゃないの?」

「うん、ちょっと用事があって、一人で行ってあげなさいって言っていたの。」

「あら?妹さん?・・・・・・・。」

「あの・・・ミーティアさん?」

「・・・・・・・か・・・。」

「か?」

「可愛いいいいぃぃ!!ちっちゃいプリシラさんみたいー!」

「きゃぁーーーお姉さまー!?」

「ちょ、落ち着いてください!ミーティアさん!?どうしたと言うのです!?」

「プリシラさんも可愛いー!二人とも大好きー!!」

「「嫌ーーーー!!!?」」

 

「大惨事だ・・・海の民と空の民の相性は良さそうに見えて、悪いのかもしれん・・・。」

 

 

 



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第22話   森の守護者 永久人

異世界の大陸に横たわる広大な大森林。大陸奥地に進むための玄関口にして、大陸有数の危険地帯。完全武装した兵士でも生きて帰れるものは少ない。それ故に調査が進んでおらず、過去に数回各国の調査団が派遣され、多くが帰らぬものとなる凄惨な結果となり、それ以来、調査は打ち切られている。

しかし、強大な魔物すら及ばない高空から、大森林を見つめる者が居た。電子の目を持って、グローバルホークが観測装置を用いて、大森林の隠された姿を暴こうとしていた。

 

 

 

「よう、アルティシア、また炎爪熊を仕留めたんだって?」

 

「村の畑を荒らしていた犯人がコイツだったからね、暫く肉料理には困らないと思うよ。」

 

「撃ち込んだ魔石の矢で心臓を凍り付かせたのか、えげつないねぇ。ま、腐りにくくなるし、勝負も一瞬で決まるし、毛皮も傷まない。一石二鳥って奴だ。」

 

「お蔭で大分費用がかさんだけどね。普通の矢だったら、数週間は追いかけっこさ。」

 

「あの大きさの魔物を氷漬けにするんだ、結構良い値だったろ?」

 

「それでも、仕留める事が出来たのだから、収穫のほうが上だよ。奴の爪も魔石みたいなものだしね。」

 

「あぁ、見たよ。あれほど状態の良いものは滅多に見かけない。良い仕事をしてくれたよ。」

 

「いい加減君も大物狙った方が良いんじゃないかい?タルカス、君ほどの槍の名手がレディカクラウロ数匹程度の戦果と言うのも正直あれだよ?」

 

「村の門番が活躍するときは、あまり好ましくない事だろうよ?別にこちらから出向いて魔物どもを潰す気にはならんし、我々に害する魔物だけを仕留めればそれで良いのさ。」

 

「村周辺に危険な魔物がうろついているだけで事だろうに・・・まぁ、魔物なんぞよりも、荒野の連中のほうがよっぽど厄介・・・・っ!?」

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオォォ!!!!

 

大気を叩く様な轟音と共に、空に巨大な槍の様な物体が上空を通り過ぎ、集落全体を眺める様に旋回しつつ、森の外へ飛んでいった。

 

 

「な・・・何だ今のは!?」

 

「見た事も無い魔物・・・いや、そもそも生き物なのか!?翼の生えた槍の様にも見えたが・・・。」

 

「少なくとも自然と生まれたものでは無さそうだね、古の魔導文明の産物か、それとも荒野の民の新型魔導兵器か・・・兎に角、村を見られた可能性があるのが不味いね。緊急招集がかけられるかもしれないね。」

 

「面倒な事になりそうだ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「グローバルホークが大森林地帯に集落のような物を観測したらしいです。」

 

「人が住まぬ土地では無かったのか?いや、そもそも、あんな危険な場所に好き好んで住む者が居るなんて。」

 

「集落近くに開けた場所があります。少し狭いですが、ヘリが着地出来るかもしれません。」

 

「何にせよ、接触するときは細心の注意を払え。無用な争いは避け、あくまで友好的に。」

 

「了解です、彼らならあの大森林の情報を多く持っているかもしれませんしね。」

 

 

 

 

 

 

 

数日後、朝の弱い日差しが昼の強い日差しに変わりつつある頃、大森林の空に無数の羽音が響き渡った。

UH-1Jの編隊が大森林の奥にある小さな草原に降り立ち、その腹部から数十人ほどの奇妙な斑模様をした兵士を吐き出し、再び空へ消えていった。

 

「まさかこんな奥地に草原があるなんてな。」

 

「草原と言うか、背の高い木が生えていない場所と言うか・・・。」

 

「何となく手入れがされた痕跡の様なものを感じるな。だが、大分昔に放棄された様な・・・。」

 

「見てください、鉄製の鍬が落ちていますよ?酷く錆びていますが・・・。」

 

「開拓したが、管理が出来ず放棄した畑だったのかもしれんな。近くに集落らしきものが確認できることと関係があるとみて間違いないだろう。」

 

「村に直接降りれないんですかね?」

 

「阿呆、そんな事したら相手を無駄に刺激する事になるだろ。下手したら攻撃されかねん。」

 

「隊長!あれを見てください!!」

 

「あれは・・・・成程、例の集落か・・・」

 

 

 

トワビト・・・・元々は、リクビトだった種族だが、莫大な魔力が満ちるこの大森林に適応する事で、強い魔力と長寿を誇る種族へと進化した。

外界と交流を断っており、外部から訪れる冒険者などを幻術で誘導し、集落から遠ざける。

集落全体にはその幻覚魔法を高出力で作動させ、村の住民の精神の深部を共鳴させ続ける事で無意識に幻覚魔法を使用する強力な擬態をしている。

これのお蔭で、大森林の深部に到達した冒険者や調査隊などに長らく発見されていなかった・・・・・異世界から現れた魔法が効かない種族が現れるまでは・・・。

 

 

「幻覚魔法の出力を最大出力で!自警団の方は、門の守備を固めて!」

 

「くそっ、一体何なんだ!鉄の羽虫がリクビトを落としていったぞ!?」

 

「斑模様の奇妙な格好をしている!森の景色に溶け込むつもりか?味な真似を・・」

 

「魔術師部隊はどうした!?」

 

「既に奴らに向かっています。幻覚魔法を至近距離で浴びせて追い払えれば良いのですが・・・。」

 

「あれ程の羽虫を操る者たちだ・・・・一筋縄ではいかんぞ!魔法戦を準備しておけ!」

 

「アルティシア、奴らは何者なんだ?」

 

「分からない、少なくとも寄せ集めの傭兵連中では無い様ね。動きに規律がある、つまり正式に訓練された兵士・・・。」

 

「こんな奥地にか?我らの領域を侵しに来たと言うのか?」

 

「彼らの目的は分からない・・・でも、出方によっては・・・。」

 

「あんまり早まった真似をするなよ?アルティシア。」

 

 



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第23話   森の民との遭遇

空から舞い降りた斑模様の兵士たちは、数年前に放棄された畑に一時拠点を作り、大森林の集落と接触をしようとしていた。

 

 

「全く、調査だけなのに、この重装備・・・・住民に威圧感を与えないかねぇ・・・。」

「前回の調査で馬鹿みたいにデカい熊が現れたらしいじゃないか?用意するに越したことは無いさ」

「その内、ドラゴンでも現れるんじゃないか?燃える爪を持った生物なんて、おとぎ話でしか見た事ないぞ?」

「ははっ、となると、俺たちはドラゴンスレイヤーと言う奴か?」

「ある意味、この前、イロコイのミニガンでミンチにした、オオトカゲがドラゴンと言えなくもないですね。」

「随分とショボイドラゴンだ事だ、まぁ、青銅の武器で挑みたくない相手だがな。」

「死の森と言っても、青銅器時代相当の文明の軍隊ですからね、我々なら何とかなるでしょう。」

「炎爪熊はロクヨンが効かなかったんだ、油断はするなよ?」

「隊長!天幕の設営が終了しました。」

「よしっ、30分後に接触に移るぞ?各自待・・・・」

「周囲に人影が!包囲されます!」

「何?」

 

 

大森林にすむトワビトの魔術師部隊は、焦っていた、既に何回も強力な幻惑魔法を浴びせているのに、まったく効果が無いように見えた。

こうなったら、接近して飛び切り強力な幻惑魔法を叩き付けるしかない、下手すると狂死するレベルの攻撃魔法に近い物になるが、背に腹は代えられない。

 

 

「アドル、奴らには幻惑が効かないのか?」

息も絶え絶えに幻惑魔法を広範囲に放つ魔術師が、魔術師部隊のリーダーに言う。

「仕方がない、近距離で浴びせるぞ!弓に警戒しろ!」

「追い払うのが目的でなかったのか?これでは、攻撃となんら変わらんぞ?」

近距離で浴びせるという事は、それだけ強力かつ高密度な魔法を浴びせるという事であり、並なリクビトなら精神負荷に耐えられずに死んでしまう魔術である。

攻撃されたと取られてもおかしくないものだった、そうなると相手を追い払うどころか正面からぶつかる事になってしまう。

「これだけ強力な物を浴びせられているのにも関わらず、風でも吹いたのかと言う顔だ、恐らく幻惑魔法にかけられていること自体に気付いていないのかも知れん。」

「この魔法すら効果がないのならば、攻撃魔法に切り替えるしかあるまい、だが、交渉可能ならば、穏便に立ち去って貰いたい所だ。」

「魔法をかけ続けていた相手に、それと気づかず交渉に乗ってくれる連中ならば良いのだがな・・・。」

半ば自虐的に答える魔術師、しかしリーダーのアドルは仲間が傷つかずに済むなら、それでも良いと思い始めていた。

 

 

 

「魔術師の部隊と思われる者が接近中です、包囲されつつあります!!」

「装備は・・・杖に短剣?恐らく魔法が本命なのだろう、魔法攻撃に警戒しろ!」

「いえ、既に魔法の杖が発光しています、何かをこちらに照射し続けているみたいです!」

「人魚の時と同じく幻惑魔法か?向こうとしても正面衝突は避けたいみたいだな」

「あまり気持ちの良いものではありませんねぇ・・・効かないと分かっていても」

「まぁ、我々は勝手に玄関に上がり込んだ不法侵入者だ、警戒されてもおかしくは無いだろう」

「同じようなやり取り、ソラビトの時もあったよなぁ、ま、お約束と言う奴だな」

「幻惑魔法は完全に無視しろ、体の構造上、我々には効果がない、それよりも火の玉や氷の槍のほうがよっぽど厄介だ。」

 

 

『何をしに現れた!?ここは、我らトワビトの領域、リクビトの居て良い場所ではない!』

 

荒野の民が使う言葉と共通した言語で怒鳴ってきた未確認種族、その姿はおとぎ話の妖精の様に、耳が細長く、神秘的な雰囲気を持っていた。

 

『我々は、日本国より派遣された、陸上自衛隊です!未調査領域の探索及び、交渉に訪れました!敵対の意思はありません!』

拡声器によって増量された声に驚きつつも、向こうも交渉の余地がありと認識し、返答をする。

 

『ニーポニア?聞いたことも無い国だな?敵対するつもりが無いならば、即刻立ち去るが良い!我らの領域を侵す者は何人たりとも許しはせん!』

『せめて、話だけでも聞いていただけませんか?我々と国交を結んでもらいたいのです!』

『断る!リクビトのいう事は信じられぬ!』

『我々はリクビトではありません、異世界よりこの世界に来た者です。』

『リクビトではない?いや、確かに魔力を全く感じられぬ、この様な者たちは今まで見た事が無い・・・一体どういう事だ?』

『詳しい事は後で話しますが、時空災害によって元の世界から切り離され、この世界に組み込まれてしまったのです。』

別な世界から訪れたと言う話に驚きつつも、魔法の杖の構えを解かないトワビトと名乗る種族の魔術師

しかし、言葉が通じる相手という事で、僅かにその場の空気が和らいだように感じた。

 

『いいだろう、仮にこの世界の者では無いとするならば、事情を知らなくても仕方あるまい、後ほど交渉役を連れて来よう。』

『有難うございます。』

『だが、我らの集落には近づくな、近づけば警告なしで攻撃するぞ?』

『分かりました、我々は、この草原に待機しています。』

『うむ、だが国交を結ぶことは期待するなよ?我らは、鎖国中でな、今までも自分たちの力だけで生きてきたのだ、他種族と交わる事は無い。』

『貴方達の気が変わる様に努力はしますよ。』

『ふんっ、好きにしろ。』

 

そう言うと笹の様に細い耳を持った未確認種族、トワビトの魔術師たちは集落に戻って行った。

 



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第24話   異邦人対策会議

空から舞い降りた異形の軍勢にトワビト達は、困惑していた。

幻惑の魔法が全く効果が無い事と、万物に宿るはずの魔力が一切感じられなかったこと、何よりも一番不味いのが集落を発見されてしまった事。

会議をするために使われている村長の屋敷の会議室は村の幹部たちでひしめき合っていた。

 

「まさか、森の外からの来訪者とは・・・」

 

「連中はこの森を調べるために派遣された調査隊と言っておりますが・・。」

 

「村の情報を外部に漏らすわけには行かん、すぐにでも始末しなければ村の存続にかかわるぞ!?」

 

「彼らは敵対の意思は無いと主張しております、更に彼らは巨大な羽虫に乗り、何十人も降りてきたのです、もし彼らと敵対したら次々と兵を空から送られ我々が滅びますよ。」

 

「更に悪い情報だ、奴らには幻惑魔法が全く効き目がない、他の魔法は試していないが、魔法の殆どを無効化されてしまう可能性がある。」

 

「なんと、魔法が通じぬと!?それでは、我らの最大の武器が無効化される事になるぞ?荒野の野蛮人じみた刀剣での肉薄しか手立てがないという事か?」

 

「少しは、争う事から離れろ、今は彼らをどうやって丸め込むかだ。」

 

「彼らは我々と国交を結ぼうと言ってきた、だが、そうなると我々の集落の位置を他の国々に漏らす可能性がある」

 

「忌々しいリクビトめ!空を飛ぶ巨大な羽虫だと!?魔法の無力化だと!?新しい玩具を手に入れた途端にこれだ!」

 

「千年以上も時を隔ててみたものの、相も変わらずか、人食い族との戦争の頃から全く変わっていない。」

 

「あの、盛り上がっている所申し訳ありませんが、彼らはそもそもリクビトではない種族らしいですが・・。」

 

「リクビトでは無い?リクビト以外が、あの荒野から訪れる事も無いだろう?亜人の使者など、そもそも連中が送り付けてくる筈がない」

 

「彼らと直接会った私が話そう、外見こそリクビトと余り差は無いが、彼らはその身に魔力を宿していない様なのだ。」

 

「アドル魔術長?それは真か?魔力がどれだけ弱い者でも、ほんの微量でも帯びている筈だぞ?」

 

「私も信じられなかった、極僅かな反応すら感じられなかったのだ、その様なリクビトは聞いたことも無い。」

 

「荒野に居た頃は、その様な種族は存在しなかったはず、魔鉱石によって変異したにしては、奇妙な話だ。」

 

「何にせよ、森の外の者たちを村に入れる訳には行かん、お引き取り願おうか」

 

「では、彼らに伝えましょう、使者を送る準備をしなければ・・・。」

 

森の外から訪れた斑模様の謎の集団の対応がまとまりつつあった、これから使者を送ろうとしたその時・・・。

 

「緊急事態です!ご無礼をお許しください!」

 

会議室の扉を叩き付ける様に開き、傷だらけの自警団の隊員が転がり込んできた。

 

「何事か!もしや例の連中が・・・」

 

「違います!鋼蟷螂の群れが現れたのです!!」

 

「鋼蟷螂の群れだと!?馬鹿な、奴らは鉱山付近にしか生息していないはず!?いや、兎に角、自警団と魔術師部隊を集めろ!急げ!!」

 

「はっ!!」

 

「ぐぐぐっ・・・・このような時に・・・。」

 



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第25話   蠢く白き巨蟲

「おいおい、連中弓だの槍だの用意して、裏に集まっているぞ?どういう事だ?」

 

自衛隊の一時拠点から見たトワビトの集落は、慌ただしく動いているように見えた。

余りにも物々しいその光景を見て、思わずと言った形で、自衛隊側も警戒態勢に移った。

 

「交渉と称して、騙し討ちでもするつもりなのでしょうか?」

 

「不味いぞ、此方が攻撃を受けない限り、反撃は出来ないぞ、弓や魔法の射程距離に入れば、此方にも被害が広がる」

 

「二の轍は踏むなよ、交渉中に襲い掛かってくるようなら、すぐにでも制圧できるようにしておけ」

 

 

一方トワビトの集落にて・・・・。

 

「鋼蟷螂はどこまで迫ってきている?」

 

「はっ、付近の鉱山から湧き出て、波状に広がっている様です。」

 

「それも、凄まじい数です、私の隊の仲間も傷を負いました、まだ死傷者は出ていませんが、余りにも多すぎて撤退せざるを得ませんでした。」

 

「鋼蟷螂の駆除に目途は立っているのか?」

 

「我ら魔術師部隊にお任せを、面での攻撃は、我が部隊が得意とするものです。」

 

「アドル魔術長、任せてよいのか?」

 

「はっ、我が身命にかけて、この村を守ります。」

 

「何の!我々自警団も、この村を守ります!魔術師部隊だけに手柄を立てさせませんぞ!」

 

「では、共同で討伐隊を組もうではないか?互いの不得意な分野を補い合えば、恐れる物は何も無しだ。」

 

「許可する、自警団は魔術師部隊の斉射から鋼蟷螂の群れに突撃せよ、魔術師部隊は鋼蟷螂に肉薄する自警団の援護を!」

 

「「はっ!」」

 

「森の外で待機中の異国人達はどうしますか?」

 

「放っておけ、鋼蟷螂に襲われて森の外に出て行ってくれれば、良い、どの道この森には寄り付こうとも思わなくなるだろう。」

 

「荒野の民は、森で生きるすべを知らないですからね、場所が知られるのは不味いですが、此処まで来れる軍勢が他にどれほど居るか・・・。」

 

「報告します!鋼蟷螂の群れが村に迫っています!直ぐに接触します!」

 

「うむ、では出撃せよ!我らが領域を侵す魔虫を殲滅せよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

自衛隊の野営地付近に仕掛けられた赤外線センサーが反応し、謎の侵入者を感知した。

警戒態勢中の自衛隊は、色めき立った、奇襲攻撃を仕掛けてくるのならば、反撃に村を攻撃を仕掛ける事も考慮していたが、謎の侵入者はトワビトではなかった。

 

 

「これは・・・鎧虫って奴か?蟷螂型の生物だ、恐らくこの森の原生生物だろう」

 

「いやいや、まてまて、何だこの数は!こっちに来るぞ?」

 

監視カメラの映像に映った異形の巨大昆虫は、金属質の光沢をもつ銀色の鎌を振り回し、次々と障害物の木々をなぎ倒し一直線に進んでいた。

偶然、監視カメラがヤマネコの様な生物を巨大昆虫が捕食する場面を捉え、画面に映し出された惨劇を見た自衛官の肝を冷やした。

 

「おい、まさか、連中が大騒ぎしているのって・・・。」

 

「この蟷螂野郎のせいって事か?・・・いや、不味いぞ!戦闘配置に着け!!」

 

「急げ!急げ!化け物は目前に迫っているぞ!!」

 

「念のために仕掛けておいたクレイモアがこんな形で役に立つとはな」

 

「まぁ人間相手に使うのは気持ち良い物ではありませんからね。」

 

「ハ 曲がりなりにも軍人が言う台詞では無いな。」

 

「軍人ではなく自衛官ですよ、いい訳みたいなもんですがね。」

 

「そろそろ、射程圏内に入る、引き付けた後に起爆しろ!」

 

 

 

森の奥から迫りくる、巨大な蟷螂の群れが、轟音と共に大量のボールベアリングを叩き付けられ、引き千切られてゆく・・・。

断続的に聞こえる破裂音は、トワビトの集落まで響いていた。

 



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第26話   群れる白刃の波

自衛隊の調査隊が鋼蟷螂と交戦するよりも少し前、トワビトの村の周りに、武装した自警団が集まっていた。

鋼蟷螂の群れとの衝突に備え、鉄板を張り付けた荷台を並べ、即席のバリケードを築き、長槍を持った戦士たちが横一列に並んでいる。

 

 

「鋼蟷螂は薄い鉄の皮膜を持つ鎧虫だ、魔法の威力を幾らか減衰させられてしまうが、外殻に傷をつけられれば魔法も通じる筈だ。」

 

「タルカス、ようやく良い仕事が出来そうじゃないかい?大物という訳ではないけどさ」

 

「数で勝負しろ、とでも言いたいのか?アルティシア。生憎、俺にはそう言うのには興味が無いんでね、俺は俺の仕事をさせてもらうだけさ」

 

「張り合いの無い人だ事、さて、そろそろ見えてくる頃合いだ、気を引き締めて行こう」

 

 

暫くすると、森の奥にキラキラと何かが反射するのが見えた、森の中で素早く獲物を発見する視力に優れたトワビト達の目は、すぐにその正体を見破った。

ギチギチと金属が擦れ合うような音と共に、無数の巨大昆虫が、トワビトの村へと押し寄せてきたのである。

 

 

「幻覚魔法で全ての群れの進行方向を逸らす事は出来なかったが、それでも数は大分減ったはずだ、残りは直接我々で叩こう。」

 

「一体何故こんなに湧いて出て来たかねぇ、普通は縄張りの鉱山から滅多に出て来ない筈なのに・・・。」

 

「鉱山で何かが起きたのかも知れんな、食糧が減ったのか、天敵が現れたのか・・・どの道、我々に危害を加える者は排除するのみだ。」

 

「そろそろ、射程圏内だ、魔法の一斉攻撃と同時に突っ込むぞ!」

 

 

村を覆う石材で固められた外壁の上から魔術長の指示が飛び、呪文の詠唱によって高められていた魔力が解放され、色とりどりの魔光弾が鋼蟷螂の群れに殺到する。

最前列の鋼蟷螂は、鋭い氷の槍に貫かれ、唸りを上げて飛来した火の玉に焼き潰され、青白い雷撃に身を焦がされた。

 

しかし、威力が高かったのは最初のみで、詠唱時間の短い魔法では、魔法を遮断する金属質の外殻に僅かな傷をつけるだけだった。

 

 

「魔術師部隊は再度魔力を集め、高威力魔法の準備を!自警団は、時間を稼げ!」

 

「アドル魔術長!ひよっこ共が魔力を使いすぎて目を回しています、後退させた方が・・・。」

 

「やはり無茶をさせてしまったか、しかし、ここで全力を出さねば明日は無い、見習いは牽制攻撃だけで良い、自警団を援護しろ!」

 

「了解、伝えてきます。」

 

「しかしこんな規模の襲撃は初めてだ、一体何が起きたと言うのだ?」

 

 

 

 

 

魔法の一斉攻撃で出来た鋼蟷螂の死骸の山を踏み越えて、次々と新たな鋼蟷螂が自警団に殺到する。

鋼蟷螂の群れの勢いが激しくなると、自警団はバリケードまで後退した。

バリケードの上から長槍で這い上がろうとする鋼蟷螂の頭部を潰し、あるいは熱湯や熱した油を浴びせ、鋼蟷螂の足止めをするが、早くも自警団に疲れが見え始めていた。

 

「ぐぅっ!何という数だ、このままでは押し破られる!!」

 

「タルカス!!持ちこたえるんだ!次の一斉攻撃まであと少しだ!死骸の山も積みあがってきたし、そろそろバリケードを後退させよう!」

 

「分かっているアルティシア、仲間の死骸を足場に上ってこられては困るからな!」

 

「一向に減る気配がないね、全く、暫く蟷螂の丸焼きには困らないかもね。」

 

「戦いに敗れれば俺たちが食われる!くそっ!一斉攻撃はまだか?」

 

 

ドオオォン!!!

 

その時、村から少し離れたところから、火炎魔法の炸裂と似た轟音が響いてきた。

別働隊が鋼蟷螂の群れを引き受けたのだろうか?断続的に聞こえてくる音に耳を傾けつつ、目の前の鋼蟷螂を倒し続けるトワビト達

 

「鋼蟷螂の群れが音のする方向に逸れて行く?別働隊が引き付けてくれたのか?」

 

「いや、そんな話は聞いていないが・・・。」

 

「っ!!まて!、確かあの方向は、森の外の連中が集まっていた場所ではないか?」

 

「馬鹿な、奴らは魔力を持たない種族ではなかったのか!?どういう事だ!アドル魔術長!!」

 

「分からぬ、あの者たちは魔力を持たず、幻惑魔法が効かぬ見た事も無い亜人だった筈、魔力を持たない者が魔法を使える訳がない・・・。」

 

「断続的に聞こえる炸裂音は魔法以外の何だと言うのだ!もしや、我らに感知されない方法で魔力を抑えていたと言うのか?」

 

「その可能性もあるな・・・いや、しかし、これは逆に好都合だ、鋼蟷螂どもが分散したお蔭で、我々もやり易くなる」

 

「そろそろ、次の一斉攻撃が撃てるな・・・・自警団に後退命令を出せ!」

 

 

 

一方、自衛隊のベースキャンプは、無数の鋼蟷螂の襲撃に忙殺されていた。

 

「良く狙って撃て!弾を無駄にするな!!」

 

「あんなデカい蟷螂が出るなんて聞いていないぞ!?」

 

「本部に支援要請は出したのか!?」

 

「イロコイの編隊が此方に向かっています、それまで持ちこたえてください!」

 

「畜生、どんどん集まってくるぞ!?持ちこたえられるのか?」

 

「耳長の連中は大丈夫なのかねぇ、槍や弓でこんなのしのぎ切る自信なんてねーぞ!」

 

「今は自分たちが生き残るのが先決だ、持ちこたえるぞ!」

 

鋼蟷螂の群れは、クレイモア地雷の炸裂で大きく数を減らしていたが、最後のクレイモアの爆発の後、勢いを取り戻した巨蟲達は、一気に自衛隊のベースキャンプに押し寄せてきた。

MINIMIやカールグスタフ、その他火砲類が次々と火を噴き、鋼蟷螂の肉体ごと地面を耕し、大量の死骸を作り上げ、物量で迫る鋼蟷螂の群れの進行を止めていた。

 

 

「意外と硬い、ロクヨン1発じゃ倒れねぇ!!」

 

「MINIMIがそろそろ弾倉が空になる、カバーしてくれ!!」

 

 

火線を集中させ、鋼蟷螂の群れを蜂の巣にするが、弾が尽きるのは時間の問題だった。

そんな中、一人の自衛隊員が、天幕の中から何か小さな缶の様な物を複数持って、おもむろに地面に設置した。

 

 

「おい、お前何やっているんだ?缶に水なんて注いで?」

 

「城塞都市で起きた鎧虫襲撃事件の時に偶然発見された、奴らの弱点さ。」

 

「それって、部屋でゴキブリが出たとき使う奴だろ?こんな開けた空間で使ってもあまり意味がない気がするんだが・・・。」

 

「ところがどっこい、こっちは風上なんだな、生態系汚染とか言ってられんよ、生きて帰ることが先決だ。」

 

「ったく、効果なかったら怒るからな!」

 

 

水を入れると大量の殺虫性の霧を発生させる室内用殺虫剤が、自衛隊のベースキャンプをモクモクと灰色に染め上げる。

日本のドラッグストアで誰でも手軽に買えてしまう室内殺虫剤は、途中まで凄まじい勢いで接近していた、鋼蟷螂の群れに劇的な効果を発揮した。

 



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第27話   古代重甲獣

自衛隊のベースキャンプから発生した殺虫剤の霧は、次々と殺到する鋼蟷螂たちを飲み込み、それを吸い込んだ鋼蟷螂たちの体を急激に蝕んだ。

 

「おいっ!奴らの動きが急に鈍ったぞ!?」

 

「最初煙幕なんか何故使うんだと思ったが、あれ殺虫剤だったのか・・・。」

 

「まったく、調査が進んでいないのに生態系を壊すような真似を・・・お蔭で助かったがな。」

 

「幼体と思われる小型の奴は死滅したみたいだが、成体らしき大型の奴は、まだこちらに向かってきている」

 

「へろへろ歩いてちゃ良い的だがな!装填完了!射撃を開始する!」

 

 

 

一方、トワビトたちは、鎧蟷螂の進行ルートが自衛隊陣地に逸れた為、残存勢力の掃討に移っていた。

 

「タルカス!もうすぐ一斉攻撃が始まるよ!援護するから離脱して!」

 

「応! そこをどけぇ!虫けらが!!」

 

鋼鉄の刃に首を切り落とされる大柄な体格をもった鋼蟷螂、その巨体が崩れ落ちる前に、蹴り飛ばして、先に後退したバリケードまで全力疾走する

 

「魔力を集中させろ!放て!!」

 

数を減らしてもなお、凄まじい数の鋼蟷螂の群れは、再び放たれた魔光弾の嵐に曝され、その多くが原型を失うほどの損傷を受けた

 

「はぁ・・・はぁ・・・・かはぁーーーっ!そろそろ打ち止めだろう!」

 

「お疲れさん、タルカス、途中で群れが逸れてくれなかったら危なかったよ。」

 

「まったくだ、余所者には気の毒に思うが、厄介者がまとめて処理されて助かったよ。」

 

「リクビトと鋼蟷螂が相打ちになってくれれば、後の処理が楽になるわね。」

 

ドオオオオオオォォン!!ドォン!

 

 

「しかし、さっきから響いている音は一体・・・奴ら魔術師部隊でも連れてきていたのか?」

 

「さぁ?でも、魔力らしき反応は無いし・・・一体連中は何をしているんだろうか?」

 

 

 

トワビトの村の魔術長アドルは、困惑していた、目の前の鋼蟷螂の群れを撃退することに成功したことは喜ぶべきことだが、既に鋼蟷螂の群れに飲み込まれている筈の異邦人どもが未だに戦闘を続けている事に、戦慄を覚えた

 

 

「断続的に響く炸裂音・・・・奴らはあれ程の群れを相手に未だに戦闘を続けているというのか?」

 

「どうも様子がおかしい、誰か様子を見に行って来い」

 

「私が直接向かう、魔力を感じぬのに炸裂音が続いているのが気がかりだ」

 

「魔術長が?貴女の身に何かあったら困ります、私が行きます!」

 

「私も行かせてください!まだまだ余力は残しております!」

 

「ならば、私について来るが良い、最悪差し違えるつもりで行くがな」

 

「なに、鋼蟷螂との戦いで疲弊した異邦人など恐るるに足らず、連中に敵意があれば殲滅するのみです。」

 

「先走るなよ、では、行くぞ!」

 

 

自衛隊のベースキャンプ周辺の森は、鋼蟷螂の死骸と砕け散った木片と殺虫剤の霧が混じった硝煙に包まれていた。

 

 

「あの木の陰にふら付いている奴が居るぞ、撃て!」

 

ターン!

 

「グッドキル!」

 

「大分片付いてきたな、殺虫剤万歳だな」

 

「しかし、一体なぜ行き成り鎧虫が湧いて出てきたんだ?この前空撮した時は、確認されなかったのに・・・」

 

「さぁな、軍隊アリの大移動みたいなのに、偶々ぶつかってしまっただけなのかもしれんが・・・。」

 

 

くぁわああああああああああああぁぁぁぁ!!

 

突如、森全体に響き渡る咆哮が、森の奥から響いてきた、それと同時に、轟音と共に遠くから土煙が上がる

 

「なんだ・・・・あれ?」

 

「嘘だろ?怪獣映画か何かじゃあるまいし・・・」

 

「もしかして、あの鎧虫の大移動は、あれが原因!?」

 

次の瞬間、自衛隊の目の前に散らばっていた鎧虫の死骸の山が赤い鞭の様なものに巻かれて森の奥に消えていった

 

 

「アドル魔術長・・・なんでしょうかこの臭いは・・・はぅ・・くさい・・。」

 

「わからぬ・・・だが、破裂音が収まった様だな、連中、ついに力尽きたか?」

 

「流石にあれだけの鋼蟷螂を相手にする事は出来なかったのでしょう、あの人数でここまで持ったのが奇跡なくらいですよ。」

 

「そうだ、私はそこが気になるのだ、あの程度の人数では断続的に魔法を使い続けることなど不可能なはずだ、死体から魔道具でも見つかればよいのだが・・・。」

 

 

ドオオオオオオオォォン!!

 

くぁわああああああああああああああぁぁぁ!!

 

 

「今の鳴き声はっ!?」

 

「まさか!?・・・そんな、いや、だが奴が原因だったと言うのか?」

 

「アドル魔術長!!今のは一体何です!?」

 

「100年に一度目覚める鎧を纏いし巨獣だ・・・私も幼少の頃に目撃したことがある。」

 

「古代重甲獣・・・。(アルマードグリプス」

 

 

森の木々をなぎ倒しながら現れたソレは、金属質の鱗を持つ巨大な獣だった、鋼蟷螂の死骸を夢中で貪り、地面を揺らしながら自衛隊のベースキャンプに近づいていた。

 

 

「な・・・あぁ・・・でか過ぎる・・。」

 

「鱗の一枚一枚が座布団位あるぞ?あの鱗はまさか、金属でできているのか?」

 

「調査に来ただけなのに何でこんな目に・・・あぁ畜生、撮り溜めしていたDVD見れるかなぁ・・・。」

 

「今はそんな事言っている場合じゃ・・・っ!?」

 

一通り鋼蟷螂を食べ終えると、突如、謎の巨大生物は鞭のようにしなる舌を伸ばして自衛隊のベースキャンプのコンテナに巻きつけた

 

「弾薬箱が!!」

 

「おいっ!狙われているぞ!よけろ!!」

 

舌を巻きつけたコンテナを機銃陣地に投げつけ、土煙が上がる

 

「っぷふ!!あぁ畜生、何てことしやがる!」

 

寸前のところで回避したおかげで、全員擦り傷程度で済んだが、MINIMIが一丁お釈迦になってしまった。

 

「攻撃を受けた!反撃する!!」

 

「カールグスタフを用意しろ!野郎を吹っ飛ばす!!」

 

噴射音と共に発射された多目的榴弾は、巨大生物の腕に着弾し、鱗を吹き飛ばすが、目立った損傷を受けている様子は無かった。

 

「んな阿呆な!?」

 

「困ったときのカール君が!!」

 

思わぬ反撃を食らった巨大生物は、激高してガリガリと金属の擦れる音を響かせながら自衛隊に向かって突進を開始した。

 

「く・・・来るぞ!!」

 

「だが、見た目通り動きが鈍いみたいだ、デカいうえに金属で出来ていりゃぁな・・・。」

 

「不味い!後退しろ!」

 

 

自衛隊のベースキャンプに巨大生物が到達しようとしたその時、空から光の束が降り注ぎ、巨大生物の背中に次々と突き刺さり、大量の鮮血が吹き出した!

 

ヴィィィィイイイイイイイイイン!!!

 

モーター音と発砲音が混じった独特の音を立てながら数機のイロコイとコブラの編隊がM134ミニガンを発射し、巨大生物を血祭りに上げる

 

「コブラだと!?イロコイだけじゃなかったのか?」

 

「遅かったじゃないか、もう蟷螂野郎は片付いているぞ?代わりにデカいのが居るけどな!」

 

「いや、見ろ!奴はまだ生きている!化け物め・・・!」

 

 

ぐおおおおおおぉぉぉ!!!

 

怒りに燃えた巨大生物は舌を振り回して周囲を旋回するヘリを叩き落とそうとするが、空を切るだけだった

 

「ミニガンが効かないならば・・・・これはどうだ!!」

 

コブラの脇に抱えられていたTOWが、尾を引きながら巨大生物の頭部に向かって直進する。

 

ぐぎゃああおぉぉぉぉん!!!

 

吸い込まれるようにして巨大生物の頭部に着弾したTOWは頑丈な鱗に覆われた巨大生物の頭部を吹き飛ばし、ついにその巨体を地面に横たわらせた

 

 

 

 

「なんだ・・・これは・・・。」

 

自衛隊と鋼蟷螂の戦いの様子を見に来たトワビト達は、目の前で起きた戦闘に戦慄を覚えていた・・・。

 

「あの古代重甲獣を倒すとは・・・。」

 

「これが奴らの戦闘だというのか?これは、まるで・・・・。」

 

「高火力の連続魔法に、火を噴く羽虫・・・我々はとんでもない物と遭遇してしまったのかもしれない・・・。」

 

 

『ア・ノー・・・スミマ・センー』

 

「ひっ!?」

 

いつの間にか近づいていた汚らしい斑模様の兵士に驚き、軽く悲鳴を上げてしまう

 

「っ・・・!お前達は一体何なのだ!それだけの戦力を集めて唯の調査隊だと!?我々をどうするつもりだ!?」

 

『アー・・・エット・・・ツーヤック、タノムー・・・。』

 

「我々ハ、ニホン国、ジェィタイです!貴方 仲良ク しようと思ウ したいデス。」

 

「仲良く・・・だと?馬鹿な、荒野のリクビトですら無い未開の亜人が我らと何故関係を持とうとする!?目的は何だ!?」

 

『ツーヤック・・・コレ・アッテール・ノー?』

 

『ヤメロ・フアン・ニ・ナッテクル・ジャナイーカ・・・』

 

「アドル魔術長・・・彼らは何と言っているのでしょう?・・私、怖いです・・。」

 

「うろたえるな・・・しかし、聞いたこともない言語だ、奴らは一体・・・。」

 

「スミマ・センー・・・私・駄目・モットー・上手いヒト・通訳呼ンデクマス・・・。」

 

片言で斑の兵士が、通訳を呼んでくると告げると、再び天幕の方向へと帰って行った・・・。

 

「一体なんだったんだ・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

スティラマティア    通称 鋼蟷螂

 

和名:シロガネオオノコカマキリ

 

金属質の外殻を持つ巨大な蟷螂型生物。

鉱山に生息する小型の金属質生物を捕食することで、自身の体に金属質の外殻を得た鎧虫で、ほかの近縁種よりも攻撃面と防御面に優れている。

生物濃縮で蓄積された金属成分は、捕食のために使われる鎌の部分に蓄積し、殆どインゴット化している。

その反面、筋肉には金属成分がさほど蓄積されないため、内臓と外殻以外は可食部位となる。

肉は味の薄い淡白なエビの様な味で、火を通すと薄桃色に変色し、エビ風味が少しだけ強くなるが、やはり薄味。栄養価は低脂肪で高たんぱくである。

定期的に大発生することがあるが、縄張りの外に出ないことが多いため、食料減少に伴い、共食いをして暫くすると個体数が元の数に落ち着く。

大発生中は周辺にある種のフェロモンが充満している為、これが大発生の原因と思われる。

 

 

アルマードグリプス 通称 古代重甲獣

 

和名:テイオウヨロヒオニムシクイ

 

100年単位で休眠と活動を繰り返す超大型の哺乳類、毛が変化した金属質の鱗を持ち、1枚1枚が非常に強固。

個体数が極端に少ないので、活動中の個体と遭遇する事は滅多にないが、繁殖期になると50年かけて子育てをすると言う伝承があるが、詳細は不明。

アルマジロの様に滑らかな曲線を描いた体躯を持つが、丸まることは出来ない。

雑食性で、金属質の生物を好むが、基本的に鎧虫の肉を狙って長い粘着性の舌を使って捕食する。

あまりにも活動周期が長いために生態系が殆ど判明しておらず、巨体のために捕獲もほぼ不可能なため、観察もできない。

ただし、活動周期がある種の鎧虫の大発生期間と被っているため、鎧虫を多く目撃した時には、休眠から目覚めた本種が徘徊している可能性がある。

武具を身に着けた自衛隊を、金属質の生物と勘違いして、捕食しようとした。

 



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第28話   トワビトとの交渉

金属の鱗を持つ巨大な哺乳類型生物を撃破した自衛隊は、死骸を解体して資料としてヘリコプターに吊るし、大陸にある拠点まで移動させた。

その間、ベースキャンプの防備の強化と、更に大口径の60式106mm無反動砲を持ち込み、原生生物の襲撃に備えた。

 

「退役した60式を引っ張り出してくるとは、在庫処分でもするつもりなのか?」

 

「全く、本格的にドンパチでもする感じになってきたな、はたから見ても調査の範疇を超えているだろ。」

 

「あのデカブツの画像を転送した途端これだからな、まぁ分からなくもないが・・・。」

 

「しかし、死骸なんか持ち帰って何に使うんだかな、学者連中が涎たらしそうなサンプルではあるかもしれんが・・・。」

 

「あのグリプトドンもどきを倒してから耳長の連中、村の門を閉ざしてるな・・まぁ普通は驚くし、恐れても仕方がないが」

 

「デカブツとの戦闘を横から見ていた奴が居たんだろ?それも、何か豪華な服を着た偉そうな雰囲気の耳長が」

 

「耳長は失礼だろ、トワビトと名乗っていたんだから、そう呼んでやれよ」

 

「あぁ、確かそんな名前だっけ?で、その耳長・・・トワビトは、此方の接触に応じているのか?」

 

「がっちり閉じた門ごしにお断りされたとさ、文字通り門前払いと言う奴だ。」

 

「困ったな、折角、調査隊の中から大陸語の上手い奴を連れて来たってのに・・・。」

 

 

 

トワビトの村は、未だかつてないほどの危機感と焦燥感に包まれていた。

村の自警団と魔術師隊を総動員して、ギリギリの所で撃退した鋼蟷螂の群れを、荒野から来たと思われる謎の亜人たちが、いとも容易く撃破した上に、大国を亡ぼすとも言われた古代重甲獣を、彼らの操る火を噴く羽虫が一瞬で首を刎ねてしまったと言う。

 

その圧倒的な破壊力と暴力が、そのまま自分たちに向けられるかもしれないと思うと、狂いそうになるほどの恐怖に苛まれてしまう。

 

「これは、我らの歴史の中でも史上最大の危機ですぞ!」

 

「誰だ、魔力を持たぬ蛮族と言ったのは!化け物ではないか!?」

 

「もしや、人食い族の末裔なのでは・・・?あのような大火力、操れるのはそれしか思い浮かばないです。」

 

「人食い族ですらその様な魔術は扱えぬよ、しかし、魔力を持たない亜人では無かったのか?」

 

「・・・・信じられない事に、奴らの放つ魔導弾からは一切魔力を感じず、古代重甲獣の首を刎ねた光の槍の爆発からも魔力を感じなかった。」

 

「それはどういう事だ?アドル魔術長、魔法以外の何だと言うのだ?」

 

「分からぬ・・・全く理解できなかった、魔力を持たない種族と言うだけでも理解の範疇を超えると言うのに、この様な事・・・頭がおかしくなりそうだ。」

 

「それで・・・・奴らに動きはあるのか?」

 

未だに村の外に居座る謎の軍勢の動向を知る事は最優先事項であるため、定期的に伝令が、会議室を出入りしていた。

会議室の入り口に待機していた伝令の戦士は、獣皮紙を広げ、報告する。

 

「何度も彼らの使者と思われる者が訪ねてきます、会議を理由に村の中には入れていないのですが、いつ強硬手段に及ぶか・・・。」

 

「くそっ、忌々しい!一体我らをどうしようと言うのだ!?」

 

「しかし、最初から強硬な手段に出て来ない辺り、彼らにはそれなりの自制心があるのだろう、だが我らと関係を持とうという目的が解らない。」

 

「森にまでその領土を広げるつもりなのでは?我々を身内に引き込めば、森での動きが幾らか出来るようになりますし」

 

「この森は我らの領域、余所者にくれてやるつもりはない!」

 

 

突如、会議室の扉が開かれ、新たな伝令が現れた、しかし、彼の表情は蒼白としていた。

 

「報告します!再び、使者が訪れました・・・し・・しかし!!」

 

「何事だ!一体どうしたと言うのだ!?」

 

「そ・・・それが、何時もの様に数名の兵士ではなく、巨大な鎧虫数匹に兵士が何人も乗って現れたのです!」

 

「何だと?くっ、遂に来たのか!兵士を集めろ!急げ!!」

 

 

 

自衛隊は軽装甲車に乗ってトワビトの村の門の前に訪れていた。城塞都市警備隊の中から特に大陸語が得意な者を引き抜き、交渉役として派遣した。

しかし、大陸語を習得した者は、まだ少なく、大陸と交流をする為、初期段階からウミビトから大陸語を学んでいた者は特に重宝した。

それ故に技術を習得した人員の安全を確保する為、大型ヘリで軽装甲車を運んできたのであった。

 

 

「交渉に当たる我々を守ってくれるのは有りがたいんだが、何というか・・・威圧感凄まじくないか?」

 

「そうか?戦車ならともかく軽装甲車たったの3両だぜ?」

 

「いやいや、この世界の住人は、自動車自体見た事が無いんだ、幾ら軽装甲車とは言え、ごつごつした金属の塊の勝手に動く車を見たら驚くだろ?」

 

「一応馬車自体はあるみたいだが、馬などに牽引させているからなぁ・・・城塞都市の連中も最初ビビっていたし、警戒している相手にこう言うの見せてよいのやら・・」

 

「おっと、噂をすればやって来た様だぞ?歓迎ムードでは無さそうだがな」

 

「仕方ないだろう、さ、腕の見せ所だぞ、交渉役さん。」

 

 

村を囲む防壁から、完全武装したトワビトが数名現れ、自衛隊の前に立ちはだかる。

 

 

『何度来ても無駄だ!その様な鎧虫を嗾けようと、我らは貴様らに組する事は無い!!即効立ち去れ!』

 

『アー・・・エーット・・・交渉役・・・連れて来タ・・・大陸語、上手い人。』

 

『ふん、多少会話が出来る者を連れて来ようが変わら・・・ん・・・?』

 

『初めまして、私は日本国の陸上自衛隊に所属します柳田と申します。』

 

『あ・・・あぁ、ところでお前のつけているそれは一体何だ?』

 

 

トワビトの戦士が、迷彩服に縫い付けられている青い鱗の装飾されたワッペンを指さしながら、驚きの表情を浮かべていた。

 

 

『?・・・これですか?これは、ウミビトの皆様から贈られた、飾りです、大陸語を彼らから学んだ者は、全員これを身に着けているのです。』

 

『ウミビトだと!?貴様らは海の民と交流を持っているのか?』

 

『えぇ、とは言っても、彼らの国は既に滅び、我々が保護している状態ですが・・・。』

 

『滅びた!?貴様ら一体彼らに何を・・・いや、保護したと言ったな?』

 

『彼らの国の中心で、大規模な海底火山が噴火したのです、国の建物は殆ど倒壊し、溶岩に飲み込まれ、壊滅的な被害が発生したと聞きます。』

 

『そんな・・・海の民が・・・ウミビト達が・・。』

 

『あの・・・もしかして、貴方達も彼らと交流を持っていたのですか?』

 

『うむ・・遠い昔、な・・・。』

 

『これ程内陸の、それも人が踏み込めない地で、海の民と交流を持っていた人達が住んでいるなんて・・・。』

 

『我々は元々、あの荒野に住んでいたのだ、それまでは荒野の連中と大して変わらん種族だったのだよ。』

 

『成程、荒野から森に移り住んだわけですね?』

 

『あぁ、しかし、お前たちとは一度話し合いの場を設けるほうが良いのかも知れんな。』

 

『それは、有り難い事です。では、いつ頃になりますか・・・?』

 

『準備が出来たら使者を送る、それまでは、外で待て、貴様等ほどの魔術師ならば、森の獣など追い払えるだろう?』

 

『我々は魔術師ではないのですが・・・・分かりました、森の草原で待機しております。』

 



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第29話   千年の断片と決別の意思

使者が来るまで自衛隊はトワビトの村の外で待機となった。数回、森の原生生物の襲撃を受けるが、何れも被害を出さず撃退、そして後日、トワビトの村から使者が訪れた。

 

 

『大分待たせてしまったな、トワビトの魔術部隊を指揮するアドルと言う者だ、階級は魔術長、我らの村へ案内しよう。』

 

『よろしくお願いします。』

 

豪華な刺繍が施されたローブのトワビトが、自衛隊のベースキャンプに訪れ、交渉役の自衛官と護衛を数名だけ村に入る事が許可され、彼女に村の案内を受けた。

ウミビト達と交流を持つ者という事が、彼らに知られたのが切っ掛けか、前に比べて多少態度の軟化が見られたが、それでもまだ警戒の色が抜けないのか、チラチラと交渉役の自衛官を監視する様な動きがみられた。

 

「やはり、警戒していますねぇ。」

 

「仕方ないだろう、外であれだけ大騒ぎをすりゃぁ、誰だって驚くさ」

 

「あのグリプトドンもどき、全長2500cm全高880cm程あったってさ、あんなの倒せばそりゃぁな・・・」

 

『雑談している所、悪いが、ここが村長の屋敷だ、村長の前で、くれぐれも粗相の無い様にな。』

 

『おっと、これは失礼、それではお邪魔させて頂きますよ。』

 

 

トワビト村の村長の屋敷に入り、会議室として使われている大きな部屋に入ると、トワビト村の幹部達と村長の視線が集まる。

 

『話し合いの場を設けてくれて有難う御座います。私は、日本国陸上自衛隊の柳田と申します。』

 

『前大戦の英雄の末裔にしてトワビトを纏めし者、オルディオスだ』

 

『自警団団長、タリス』

 

『村長オルディオスの娘、アルティシアです。』

 

『改めて、自己紹介しよう、魔術部隊魔術長、アドルだ、宜しく頼む。』

 

 

自己紹介が終わると、円卓に新しく設けられたと思われる、他の席とは違う小さな椅子に座るように、村長が目線を送る。

 

 

『すまんな、村の外から客人を招くという事が今まで無かったのだ、些か小さいかもしれんが、我慢してくれ』

 

『ははっ、大丈夫ですよ。』

 

『して、遠路はるばる我らの村に一体何の用事かな?』

 

『我々は森の調査を行っているのです、未探査領域の調査の最中、貴方たちの集落を発見し、交流を持とうと訪れました。』

 

『ハ 魔物がひしめく森に、訪れ、調査のついでに交流を持とうだと?私は騙されんぞ、我らを利用して、この森を貴様らの物にしようとしているのではないか?』

 

『タリス団長!!』

 

鎧を着こんだ自警団団長が、あからさまに柳田を威圧する。

 

 

『いえ、我々はあくまで学術的な調査を行っているのです、勿論資源調査も行っていますが、貴方たちの領域を侵そうとは思っていません。』

 

『資源調査?ふん、どうせ資源を見つけた瞬間、邪魔になった我らを滅ぼす為にあの鎧虫を嗾けるつもりだろう?』

 

『いいえ、我々日本人は、武力をもって他国から略奪をする事は、固く掟で禁じられております、そもそも、戦争を仕掛けること自体、掟破りなのです。』

 

『戦争を仕掛ける事を禁じる掟?そんな馬鹿げた物あるわけなだろう?』

 

余りにも彼らの常識から逸脱した話に、その場の数名があきれ返る。

 

『我々日本人は、日本国は、この世界とは別の世界から飛ばされて来たのです、その掟は前の世界で経験した大戦争の教訓で決められたものです。』

 

『別の世界だと?それこそ馬鹿げた話だ、貴様らが過去にどんな戦を経験したのか与り知らぬ所だが、人間とは、略奪と共に生き、破滅に向かう生き物だ、戦など禁じる事は出来ぬよ。』

 

『そもそも、貴方達の強大な魔導兵器の存在が、その掟とはかけ離れた存在に見えます。貴方は本当の事を言っているのですか?』

 

村長の娘であるアルティシアが疑いの眼差しで見つめる。

 

『我が国は戦争を禁じる掟は持ちますが、他国から戦争を仕掛けられた場合、国を守るために戦う事は許されております、自衛隊とは、自らを守る者達と言う意味を持ちます、軍隊ではありません。』

 

『お主らの持つ力は、国を守る力としては、余りにも禍々し過ぎる、古代重甲獣を仕留める火を噴く羽虫と破壊の矢、これだけでも一つの国を滅ぼせる。』

 

『遠目から観察させて貰ったが、貴方達は自警団と言うよりは、国の下で正式に軍人として訓練された騎士では無いのか?あそこまで規律のある動きは軍隊以外あり得ない。』

 

『我々自衛隊は、日本国を守るために日々鍛錬しております。そして、同時に戦わぬ事を誇りとし、抜かずの刀として存在し続ける事に意義を持ちます。』

 

『信じられんな、貴様らもまた、裏切るのだろう?我らとウミビトを罠にかけた1000年前と同じように。』

 

『それは一体どういう・・・。』

 

『タリス団長、お主は少し黙っていてくれんか? ふむ、では我らがトワビトの歴史を語ろうか・・・。』

 

 

約1000年前、この大陸全土を巻き込む戦いがあった。

大陸のとある小国が、ある日強大な魔力を持った蛮族の襲撃により滅びたのが、きっかけだった。

蛮族は、倒した者を食す事で、その身に力を取り込むことが出来ると言う信仰を持っており、同じ人間であろうと関係なくその胃袋に押し込んでいった。

事実、魔石を宿すほどの力を持った人間を食す事で、その力を丸ごと取り込んでいった彼らは、凄まじい魔力を持ち、魔力の影響で禍々しい姿に変貌していた。

大陸の国々は、後に人食い族、又は魔族と呼ばれる彼らの元につく者と、彼らと対抗する者に分かれ、血で血を洗う戦いを続けた。

元々青々とした大草原が広がっていた大陸は、戦火の影響で、次第に色褪せ、ひび割れた大地が続く荒野へと変貌していった。

だが、リクビトの中に人食い族に対抗する、超人が現れたのだ。超人は全身の骨を折るような外傷も瞬く間に完治してしまう驚異の回復力を誇り、肉体の限界を超えた力を発揮する事も出来た。

後に超人たちは、英雄と呼ばれるようになり、人食い族に対抗するための希望となっていった。

そして、人食い族の本拠地である城塞都市をたった数百名と言う少人数で陥落させ、英雄たちは、人食い族の長の首を刎ね、大陸を巻き込んだ大戦に終止符を打ったかのように見えた。

しかし、英雄たちの不死身ともいえる驚異の回復力の正体が、ウミビトの肉によるものと判明した瞬間、リクビト達は、同盟関係であったウミビトと英雄たちを裏切り、罠にはめた。

多くの英雄達とウミビト達が、凶刃に倒れ、散り散りに別れて行き、遂にその姿を見たものは居なくなったと言う・・・。

 

・・・・だが、その話にはまだ続きがある。

生き残った英雄たちは、残された力を植物の種子に注ぎ込み、大戦で出来上がった死者の連なる丘陵に埋めた。

死者の肉と魔力を吸収しつつ成長した木々が森と化し、腐敗した大地に生命を宿し、崩れかけた生命の循環を復活させ、英雄たちは森と共に生きる決意をした。

そして、魔物達との激しい生存競争と、森に満ちる濃い魔力の影響で、英雄の子孫たちは、リクビトとは違う姿に変異した。

これが後のトワビトである・・・。

 

 

『そう、我らが存在出来ているのは、ウミビトの王が自ら差し出した肉と、秘宝のお陰。故に海の民には返しきれないほどの借りがある。』

 

『我らは悔いているのだ、かつての友を裏切る事になってしまった事を・・・そして、己の欲望のために裏切ったかつての同胞であるリクビトを強く憎んでもいる。』

 

『故に荒野から訪れる者は、信用していない、放浪の旅から帰って来た仲間の話によると未だに争いを続けているそうではないか?貴様らも同じに決まっている。』

 

『我々日本国は、彼らの戦いに参戦しておりません、襲撃されたことはありますが、いずれも撃退・無力化して大事には至っておりませんが・・・。』

 

『身を守るための戦いと言う奴か?ふん、言葉遊びをするのが貴様らの中での流行りなのか?』

 

『ウミビト達も保護したと見せかけて、皆殺しにして肉を剥ぐつもりだろう?己の命を伸ばす為なら何でもするのがリクビトだ。』

 

『私たちはリクビトではありません、恐らくウミビトの肉を食べても寿命が延びることは無いでしょう。』

 

『リクビトでは無い?確かに貴様らから魔力を感じないが、一体貴様らは何者なのだ?』

 

『私たちは、地球と言う世界から、この世界に飛ばされて来た人間です。姿は似ていますが、全く別の種族なのです。』

 

『チキュー?先ほどから言っていた別の世界と言う奴か・・・確かに魔力を感じない人間を見るのは初めてだが・・・。』

 

 

使節団に疑惑の視線が集中すると、暫くして豪華な刺繍の施されたローブの女性が立ち上がり口を開いた。

 

『私が思うに、彼らは本当に別の世界から訪れた存在なのかもしれぬ・・あの羽虫と言い、魔道具と言い、魔力を一切感じることが出来なかった。』

 

『アドル魔術長?奴らの狂言を信じると言うのか?』

 

 

タリス団長が目を大きく開き、唖然とした表情でアドル魔術長を見つめる。

 

 

『では、聞くぞタリス団長?、魔力を感じず、我らの幻惑魔法を一切受け付けず、魔力を伴わない破壊をもたらす彼らの存在は一体何だと言うのだ?』

 

『それは・・・・。』

 

『確かに、別の世界から飛ばされて来たと言うのも最初は馬鹿馬鹿しく感じたが、此処まで状況的証拠が揃ってしまえば信じざるを得なくなる。』

 

『では、改めて聞こう、海の民を保護し、我らに接触を試みた異空の国ニーポニアは何を望む?』

 

柳田は、顎に手を当てる動作をした後、手を元に戻して、笑顔で答えた。

 

『我々は、貴方達と対等な友好関係を築きたいのです。海の民と荒野の民、そして貴方達、皆が手を取り合えば、きっと平和的な発展が望めると思います。』

 

『子供じみた事を・・・だが、お前たちを通じてウミビト達と接触出来るかもしれないのは、魅力的だな。』

 

『えぇ、一度私たちの国に訪れて、色んな国の人と話をしてみませんか?最近になって空の民とも交流を持ちましたし』

 

『空の民だと!?馬鹿な、大戦初期に空に逃げた連中が、何故貴様らと関係を・・・いや、あの羽虫を使ったのか・・・。』

 

トワビト達の中で再び衝撃が走るが、ふと空を舞う槍と火を噴く羽虫の存在を思い出し、納得の表情をする。

 

『百聞は一見に如かず、ですよ、見るのと聞くのでは大きく違います。』

 

『妙な言い回しをする・・・だが、興味がわいたのも事実だ。』

 

『では!!』

 

『うむ、アルティシア、アドル魔術長。』

 

『はっ!!』

 

『お主らを使節として彼らの国に送る、異論はないな?』

 

『異論など御座いませぬ!私も少なからず興味がわき始めていたので!』

 

『父上、行って参ります。』

 

『では、異空の民・・・いや、イクウビトとでも呼ぼうか、彼女らをお主らの国に連れて行くが良い。』

 

『えぇ、彼女たちは責任をもって無事に連れて行きます、貴方達と本格的に交流が持てるよう祈っております。』

 

『ふん、だが、他の国に我らの村の位置は漏らすなよ?面倒事を持ち込まれては堪らん。』

 

『お約束致します。』

 

 

 

彼女たちが日本へ渡航した後、日本のとある大学の研究室が賑やかになるのは、また別の話である。

 

 



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第30話   海を渡る英雄の末裔

青く穏やかな海を滑るように走る、純白に塗られた巨大な鉄の船、使節として派遣されたトワビトは、異空の民の地へと向かっていた。

 

「全く、改めて思うけど、イクウビトは何から何まで常識外れの物を持っているんだねぇ・・・。」

 

アルティシアが呆れたように呟く

 

「私も若い頃、森の外でリクビトの振りをして、荒野へ旅をした事があるが、帆が無く、鉄でできた船など初めて見たぞ」

 

「若い頃と言っても、貴女はまだ十分に若い方じゃないかアドル魔術長・・・ま、リクビトからみたら十分に年長さんだけどね。」

 

「イクウビト・・・この世界とは違う世界から訪れた民・・本当なのだろうか?」

 

「別世界から来たか来ないかは、私にとっては、あんまり関係ないね、兎も角、私達とはかけ離れた高度な文明を持つという事は間違いないのだから。」

 

「そうだな、何にせよ、これから奴らに話をつけるのだ、これ以上の事は陸地についてからにしよう。」

 

 

デッキから船内に戻ろうとすると、扉が開き、交渉役の自衛官が現れた。

 

「どうですか?海は、とても綺麗でしょう。」

 

「あぁ、ヤナギダ殿、森の中ではとてもこのような光景は見れません、こう言うのも悪くないものですね。」

 

「そうですね、ところで、素のままで話されても結構ですよ、そっちの方が気が楽ですし。」

 

「おや、そうかい、すまないね。しかし、ニーポニアは本当に凄い物を持っているんだね。」

 

「ふふっ、きっと我々の国を見ると驚きますよ、ウミビトもそこで暮らしている方も多いのですよ。」

 

「陸地で海の民が生活できるのか?ヤナギダ殿」

 

「えぇ、突貫工事ではあるものの、一部の施設をプールに改造しており、彼らの必要とする物をこちら側で揃えているのです。」

 

「プールと言うものが何だか解らんが、彼らを助ける事で貴方達にどの様な得があるのだ?不死の力も異空の民には効かないと聞くが・・・。」

 

「実際に回復魔法の類が効かない事が判明しているので、恐らく、効果が無いと予想されているだけです、未知の部分ですね。」

 

「試すつもりなのか?」

 

アドル魔術長が、睨みつけるような目で視線を送る。

 

「そんな、非人道的な事出来る訳がありませんよ!国を失い、拠り所の無い彼らにどうして、その様な仕打ちが出来ましょうか!」

 

憤りの混じった声で、思わずと言った感じで柳田が否定する、勢いに押されてややアドル魔術長は引くが、そんな様子を見てアルティシアはにやけていた。

 

「う・・・そ・・・そうだな、貴方達はどうやらリクビトと根本的に思考が違う様だ・・。」

 

「珍しく押されているねぇ・・・アドル魔術長。」

 

「茶化すなアルティシア」

 

「しかし、リクビトやその他、亜人の国から金銭や資源と引き換えにウミビト狩りを許可せよと言う打診があるのも事実、当然そんな要求は突っぱねておりますが、いつ強硬手段に及ぶか・・・。」

 

「不死の力に目が眩んだか、荒野の野蛮人共め・・・」

 

「ウミビトの肉の力と、森の魔力の影響で変異した私たちが言うのも何だけどね・・。」

 

「貴方達は海の民に借りがある、と言っていましたね、日本に着けば、彼らに会えますが、先ずは国交を結ぶために会談をする事になると思いますが。」

 

「国交を結ぶことになるかは、貴方達次第だ、我々は基本的に外部と交流を断っている。」

 

「むしろ国交の方はおまけで、ウミビトと話すことが主な目的だからねぇ。」

 

「アルティシア!!」

 

「ひゃっ!?・・す・・・すんません。」

 

「いや、良いのですよ、ぽっと出の私達より、古い友人のほうが信用できると言うのは理解できますし。」

 

「気を悪くしないでくれ、柳田殿、彼女はいつもこの様な調子なのだ。」

 

「別に気にしておりませんよ。ところで、現在の海の民は王族が居ないので、議会制になっており、各都市の有力な者を集って国を纏めているのです。どの代表と話すのですか?」

 

「王族が存在しない!?・・・そうか、あの戦乱で・・・いや、良い、我々と話が出来るウミビトの議員と合わせてくれないか?」

 

「えぇ、そう言えば、ある大学で海の国の戦士長とその娘たちが出入りしていると聞きましたな・・彼らも海の国ではそれなりの地位を持つ者ですし、彼らが良いかもしれませんね。」

 

「戦士長か・・・悪くは無いな、アルティシア、ニーポニアでの活動の予定に組んでおけ」

 

「はいはい、分かりましたよ魔術長。」

 

「では、そろそろ船内に戻りましょう、日本に着くまでまだ、少しかかりますし、ゆっくり寛いで下さい。」

 

 

 

 



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第31話   亜人娘のガールズトーク

日本が転移してきて暫く立ち、在日異世界人も少しずつ増えて来た。

主に駐在大使やその家族、ごく少数観光などで日本に訪れており、日本の彼方此方を見物している。

 

 

「プリシラ!遅いよー!」

 

「待ってよミーティア、車椅子だと人ごみを進むのは辛いのよ!」

 

とある日本の大学で出会ってから暫くして、大分打ち解けあった亜人の少女たちは、新宿でショッピングを楽しんでいた。

 

「ウルスラちゃんは、今日も学校?」

 

「えぇ、ニホンの教育水準の高さには驚きだわ、学者でも知らない事を私と同い年くらいの子が普通に知っているし、算術もすごく速いの。」

 

「プリシラは、学校行かないの?確か、海の国の難民の為に、大人用の特別教室を開いていると聞いたけど?」

 

「とっても興味深いんだけど、私も海の国の為に色々とやらなきゃいけない事が多いのよ、はぁ、その内知識でウルスラに負けちゃうわね。」

 

「あら、それは勿体ない話ね、はぁ、いいなぁ、ソラビトにも特別教室開かないかなぁ・・・。」

 

ため息をつきながら、空を眺めるミーティア

 

「私たちは保護してもらう代わりに、知っている限りの情報を提供しているからねぇ。」

 

「ソラビトも色々空から見た事をニフォンに教えているよ!はぁ、在日のソラビトが増えたら開くかなぁ、特別教室・・・。」

 

「きっとその内開かれるわよ!今の所、ニホンと親しい国は、大陸の一部の国と、空中大陸と私たち位だもん。」

 

「そう・・・ね、他の国に差をつけられないうちにニフォンと交流を深めておかないと・・・。」

 

「ところで、ミーティア、その服装動きやすそうね。」

 

プリシラが、ミーティアの服装をまじまじと眺める、露出の多い服だが、仕立てがしっかりしており、日本製の物と思われる。

 

「服?あぁ、短パンとキャミソールって言うらしいわ、翼とかに引っかからないから、とても動きやすいのよ。」

 

「いいなぁ、ウミビトが着れる水に丈夫な服無いかなぁ?」

 

「陸地で活動する分なら、別に普通の服で良いんじゃない?そう言えばウミビトって布をどこで調達しているの?」

 

「えっと、昔はリクビトと交流があったから布が手に入ったんだけど、今は沈没船の帆くらいしか入手経路無かったし困っていたのよ。」

 

「ふぅん?ニフォンに感謝しないとね、ウミビトがたまに水竜のヒレで作った中途半端に透けた下着つけているのは、そう言う趣味じゃなかったんだ。」

 

「う・・ウミビト全員露出狂みたいに言わないでよ!・・・く・・苦肉の策だったんだから・・・。」

 

赤面しながら、プリシラが反論するが、笑いながらミーティアが、まーまーと手(翼?)を突き出す。

 

「全員分まかなえる程布が手に入らなかったのね・・・その点、ソラビトは大陸を空に浮かせる前に布が作れる植物を他所から持ち込んでいて助かったわね。」

 

「備えあれば患いなし、と言うことわざがニホンにあるらしいわ、全く持ってその通りね。」

 

「・・・ところで、リクビトと交流を持つ前のウミビトは、どういう服を着ていたの?」

 

「原点回帰というか・・相変わらず水竜のヒレや海藻よ、特に海藻は何枚も重ねておかないと使い物にならなったから直ぐに廃れたわ」

 

赤面しつつ俯きながら、未だにウミビトの一般的とされる服装を思い描きながら、説明するプリシラ。服を作る技術はあるが、まともな素材が手に入らない現状を彼女なりに憂慮していた。

そんな所、日本と交流を得た事で、一応の深刻な布不足が解決したのは喜ぶべきことだが、海中で布の代替品の模索はウミビト達にとって重要な課題となっている。

 

「ウミビトの原点というか、海に住み着く前は、ヘビビトだったらしいわね、何を思って海に適応したのかしら?」

 

「言い伝えでは、とても大きな地揺れがあって、住んでいる所が水没してしまったからだそうよ、あと、厳密にいえばヘビビトとウミビトと別れる前の種族らしいわね?」

 

「ふぅん?きっと今はもう、存在しない種族なんだろうけど、どんな人達だったのかしら?とても興味深いわね。」

 

「情報が古すぎて私たちも知らないの、でも、ニホンの学者さん達があっという間に解明しちゃうかも知れないわね、ニホンは知識を持った人がとても多いから。」

 

「そうね・・・っと、暑くなってきたから近くのお店で飲み物でも買わない?一休みしたらニシモト教授の所に行くわよー!」

 

「賛成、陸地でこの暑さはウミビトにはきついわ・・・。」

 

 

彼女が一休憩をした後、大学の研究室に戻ると、大陸奥地からの来訪者が訪れていたのは別の話・・・。

 



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第32話   時を超えた友情

東京都の、とある大学研究所の図書室に、二人の異邦人が訪れ居ていた。

大森林奥地に住居を構えるトワビトの代表として海の国の有力者と会うべく、海を渡り、遠路遥々やって来たのであった。

 

 

「物凄い量の書籍だな・・・これと同じくらいの規模の図書館がこの国には無数に存在するらしいが、俄かに信じ難い事だ。」

 

「アドル魔術長、やっぱり職業柄こういうの物には興味がるのかい?」

 

「そう言うお前も子供みたいに目を輝かせているじゃないか、アルティシア、まぁ、文字が読めなければ意味がないのだがね、まずは翻訳から始めるか・・・。」

 

「待たせましたね、アドル魔術長、アルティシア嬢、海の国のポール戦士長が丁度この大学に訪れているみたいです、さ、彼らの下へ行きましょう!」

 

「手間をかけさせたな、ヤナギダ殿、すまない。」

 

「さて、私もトワビトの長の娘として、やるべき事はやらないとね。」

 

「では、そこのエレベーターに乗って、4階まで上がりましょうか。」

 

「「エレベーター?」」

 

機械仕掛けの鉄の箱が、強靭なワイヤーで吊り上げられ、上の階まで登ってゆく、二人のトワビトは、小さな小部屋がそのまま動く事に驚嘆していた。

 

「はぁ、こりゃ驚いた、小部屋が勝手に動いて上の階まで引き上げられるのかい?」

 

「何とも言えない感覚だな、やはり魔力は感じぬか、一体どのような仕組なのやら・・・。」

 

「大陸からくる人たちは皆驚きますね、日本ではまだまだ、貴方達にとって見た事が無い物で溢れていますよ。」

 

「それは楽しみだ。」

 

「では、こちらへ」

 

 

その頃、西本教授とポール戦士長は食堂で少し遅めの昼食をとっていた。

 

 

「このホットドッグと言う食べ物は、少し塩気が強いけど美味しいね。」

 

「へぇ、海で生活しているから、海水で塩味に慣れていると思っていたけど、塩辛く感じるんですか?」

 

「面白い着眼点だね、一応、リクビトと同じくらいには塩気を感じるよ。」

 

「意外ですねぇ、ウミビトは、海水を飲んで脱水症状にはならないのですか?」

 

「あぁ、リクビトはそういう症状があるみたいだけど、私たちは体表から塩気を排出できるからね。食事も海中でする事が多いよ。」

 

「そう言えば、海の国の食事事情と言うのは気になるところですね、どういう物を食べていましたか?」

 

「うーん、基本的に魚を丸かじりと言った所だけど、高熱魔法で海水を煮立てて、茹でる事もあるね。」

 

「ほうほう」

 

「海藻で包んだ水竜の肉と巻貝を凹型に削った岩に閉じ込めて熱する料理もあるね。ただ、海中だからリクビトみたいなスープ料理は楽しめないけどね、素材の味と言う奴だよ。」

 

「海に住もうが、陸に住もうが、食の欲求と言うのはあるのですねぇ。」

 

 

と その時、食堂の扉が開かれ、3人の人物が西本教授とポール戦士長が居るテーブルにやって来た。

 

「こんにちは、陸上自衛隊の柳田です。大陸の方から海の国の民に会いたいと言う方々がいらっしゃいました。」

 

「おっと、こんにちは、そのお二人は?」

 

「初めまして、大陸の大森林に住まうトワビトの長の娘で、アルティシアと申します。」

 

「お初にお目にかかる、同じく大森林のトワビトの魔術長、アドルだ、宜しく。」

 

「トワビト?大陸に大森林がある事は知っているが、そこに人が住んでいるなど聞いた事も無いが・・・。」

 

「英雄たちの子孫・・・と言ったら、驚きますかね?」

 

「!!」

 

「ポール戦士長、彼らはかつての大戦で生き延びた英雄たちの末裔らしいです。」

 

「柳田さん、どういう事ですかな?」

 

「西本教授、大森林の地形調査を行った時に、集落らしきものを発見したと言うニュースはご存知ですかな?」

 

「え・・えぇ、確かグローバルホークが大森林に大きな集落らしき構造物を捉えたと・・・それが、彼らですか。」

 

「英雄たちの子孫・・・と、仰いましたね、それを証明するものは?」

 

「アルティシア、あれを・・・。」

 

「えぇ、英雄たちの末裔にして、トワビトを束ねる族長の娘として、海の民にお返しする物が御座います。」

 

アルティシアが懐から幾何学模様の金属の小箱を取り出すと、呪文を唱え、金属の箱に光の筋が走り、箱の上部に画鋲ほどの長さの針の様な物が飛び出す。

 

「トワビトの長の血をもって、封印を解かん!」

 

箱から飛び出た針に指を押し付けると、血に濡れた小箱は赤い光を血管の様に走らせ、変形した。

スライド、回転、分解、再結合、小箱だった金属の外装は、中から現れた青い宝石をはめ込む装飾の様な物に変形していた。

 

「馬鹿な・・・これは・・・。」

 

「美しい・・・でも、これは・・・?」

 

「海王の魂・・・伝承通りの形をしている。」

 

「伝承って、決別の書の・・・?」

 

「貴方達が英雄達の子孫・・・我々を見捨てて大陸の何処かへ去った戦士たちの末裔か。」

 

「見捨ててなどいません!私たちは、荒野の民に裏切られ、死者の丘陵まで追いやられたのです!」

 

「リクビト達が、裏切ったのは知っております。しかし、何故今の今まで、我々から姿を消し続けていたのですか?」

 

「我らもまた、リクビトに追いやられていたのだ、海の国の戦士長よ、奴らは、この癒しの秘宝が目的だった様だが・・。」

 

「私たちは、命を懸けて、この癒しの秘宝を・・・海王の魂を守るため、多くの犠牲を出しながらも大陸各地を逃げ続けていたのです。」

 

ポール戦士長は、腕を組み暫く俯くと、首を振り、腕組みを解いた。

 

「癒しの秘宝・・・それは、かつて存在した、海の国を治めていた王の魔石、命と引き換えに不死と癒しの力を英雄たちに与えた海王の残滓」

 

「「・・・。」」

 

「魔族とも言われた人食いの鬼人を不死と癒しの力をもって打ち滅ぼした超人の力の源・・・。」

 

「まず最初に、よく海王の魂を守り通してくれました、感謝致します。」

 

「!」

 

「そして、次に、我々は遥か昔に、荒野の民とは決別したとお伝えします。」

 

「っ!」

 

「わ・・・私たちは、ただ、謝りたかったのです!海の国の王の命に!海の民に!・・・かつての友に・・・。」

 

「この通りだ、戦士長殿!我々は償いきれない罪を背負ってきた。許されない事も分かっている、だが、我々の意思を伝えたかったのだ!」

 

「何も許さないとは言っておりません、この問題は、海の国の代表達と話し合わなければ解決は出来ないのです。」

 

「で・・・ではっ!?」

 

「えぇ、これから海の国の代表を集めなければなりません、貴方達もその時に来て頂きたいのですが、宜しいですか?」

 

「元よりそのつもりでした、感謝致します!」

 

 

 

 

「・・・・何か、私達置いてけぼりになってしまっていますね。」

 

「柳田さん、随分な大物を連れて来たね。こりゃ、日本政府も動かなきゃならなそうだ。」

 

 

 

 

後日、日本政府の仲介の元で、海の国と森の民の代表者同士の会談を行い、ウミビト・トワビト・日本の3国の国交が正式に結ばれる事になる。

 



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第33話   日本に馴染むウミビト

水族館用の巨大水槽が連なる海の民の仮設住宅、廃業した水族館を改装し、海の国の建物に似せた内装に改造された大型水槽に彼らは住んでいた。

最も、海の民の大部分は、伊豆諸島周辺の海域に住居を移しており、都心で生活する者は、海の国の有力者や元貴族階級などである。

 

彼らは、体表が乾くのを好まないが、元々陸から海に適応した種族なので、長時間の陸上生活もある程度耐えることが出来る。

それでも、基本的に水中生活を好むのだが、この元水族館の仮設住宅では、少し事情が違う様だ・・。

 

 

元々客の休憩スポットとして設置されていた広間に置かれた大型の液晶スクリーン、そこに集う車椅子の少年少女たち・・・。

 

「それー!連続切り!」

 

「その技は見切った!スマァァッシュ!!」

 

「ああっーーー!!」

 

長期間の陸上生活でストレスがたまらないようにと、試験的に置かれた娯楽ルームで、海の民の子供たちは、日本の電子ゲームなるものに釘付けになっていた。

 

「ずるい!ずるいよ!ウルスラちゃん!崖に陣取って足払いばっかりするんだもん!」

 

「そういう時は、思い切って接近してメテオを狙うと良いよ。」

 

「ウルスラ・・・そうやって助言しておいて、新手の技で何度も苛めてるでしょ?少しは手加減しなさい」

 

「違うよ!プリシラのねーちゃん!本気で戦わないとダメなの!」

 

「お姉さまはゲームやらないの?テーブルで玉転がして遊んでいないで、一緒に遊ぼうよ。」

 

「わ・・・私は別に良いの!ミーティアとシンジュクを散歩したり、彼方此方食べ歩いたりしている方が楽しいし!」

 

 

ウルスラは、元からジト目気味の目をさらに細め、呟いた。

 

 

「お姉さま・・・ミーティアお姉ちゃんと買い物行く度に、ラムネ瓶とビー玉が増えているけど、程ほどにしておくんだよ。」

 

「そ・・・それは、関係ないでしょ!び・・・瓶は捨ててるし・・・時々。」

 

「そんなにビー玉好きなら、網に入っているの買えば良いじゃない、あっちの方が安くて種類も量も多いし・・・。」

 

その瞬間、プリシラの目に火が灯った!

 

「ラムネから集めるのが良いんでしょう!」

 

「びくぅっ!?」

 

「確かにね、網でまとめて売っているのは、種類も多くてとても綺麗だけど、ラムネ瓶からコロッと出てくる瞬間が堪らないのよ!」

 

「あの・・・お姉さ・・・」

 

「それにね、しゅわしゅわしたラムネが一度に口に流れ込み過ぎないように、栓をして、少ない量なのに長時間楽しめるのよ!」

 

「う・・・うぅ・・・。」

 

「最近気づいたんだけど、水を入れた瓶にラムネのビー玉を沢山詰めると幻想的な色で光り輝くの!網のビー玉とはまた違った趣が楽しめるのよっ!」

 

「はうはうっ・・・うぅ・・」

 

「それにね、それに・・・・え・・?ウルスラ・・?」

 

「うえぇぇぇぇぇん!お姉ちゃんが苛める~~~!!」

 

「びえぇぇぇぇぇん!」

 

気が付くと、娯楽ルームだった子供の憩いの場は、鬼の形相で迫るプリシラによって破壊され、悲鳴と泣き声のオーケストラ会場になっていた。

 

「えっ・・・えっと、ごめんなさい!ウルスラ、みんな・・・泣かないで!」

 

「お姉ちゃんの馬鹿~~~~!!」

 

「う・・・ウルスラ・・・う・・うえぇぇぇん!!・・馬鹿って・・・ウルスラに馬鹿って言われたぁぁぁぁ!!」

 

そこに、15歳とは言え、海の国ではすでに成人扱いの少女がオーケストラに加わる・・・。

 

 

「プリシラさん、海の国の歴史でちょっとお聞きしたいことが・・・って、うぉっ!?なんだこれ!?」

 

「プリシラ・・・何やっているのよ・・・。」

 

 

阿鼻叫喚の娯楽ルームを鎮めるのに1時間半近く費やした西本教授とミーティアは、大学研究所にプリシラを連れて戻るも、

気力を使い果たし臨時会も長続きしなかったと言う・・。

 



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第34話   聳え立つ城壁

かつて、大陸の中でも比較的力を持った国だったゴルグガニア、日本の使節団を虐殺した事でかの国の逆鱗に触れ、一度は滅ぼされたが、

日本の統治の元、復興を始めていた。

しかし、城塞都市を覆う巨大な防壁は自衛隊の火砲などにより無残に破壊され大穴が開いており、修復されずにそのままになっていた。

 

だが、城塞都市に住まう住民たちに不安の色は薄く、自衛隊に対する恐怖心はあるものの、平穏に暮らしていた。

と、言うのも・・・。

 

 

「なんだ・・・これは・・・。」

 

自衛隊によって破壊されて機能を失った防壁を覆うように、正六角形に城塞都市を包む様に作られた更に巨大な新防壁が、

この世界の常識では考えられない速度で建設されていたのだ。

 

「ゴルグガニアの防壁が破られたと聞いたので、様子を見に来たが、こんなものが新設されているとは思わなかったぞ」

 

「これがニッパニアの力だと言うのか?馬鹿な、あり得ない!」

 

遠目からでも確認できるほどに巨大な灰色の壁は、何の石材で作られているのか不明で、のっぺりとしている。

 

「しかし、これではっきりした事がある」

 

「あぁ」

 

「ニッパニアはこの大陸に覇を唱える気だ、あの街を拠点に勢力を広げるに違いない」

 

「あれ程の防壁を築き上げるのだ、大きな戦の前準備とみて間違いないだろう」

 

「あの国は危険だ」

 

「あぁ」

 

「だが、いかに狂暴な猛獣でも付け入る隙はある、あれを見ろ。」

 

日本が新設した六角形の防壁の内側に、修理されずにそのまま放置された旧防壁が薄らと見える。

 

「あの破壊痕、己の命を犠牲に行使する自爆魔法の物と酷似している、全力であの街を奪いにかかったのだろう」

 

「ニッパニアは、我々の常識では計り知れない数の魔術師を抱えているのかもしれん」

 

「だが、その数にも限りがある。」

 

「だからこそ、各国に大使館を置こうと、必死になっているのだろう。」

 

「むやみやたらに力を振りかざさぬ理性はあるようだが、いつかは、大陸に災厄を齎す国だ。」

 

「同盟国と連携して抑え込まねばならんな、不審な行動に出ないか監視を続けなくては・・・。」

 

 

黒装束に身を包んだ密偵は、闇に溶け込む様に消えていった・・・・。

 

 

日本領ゴルグ地区・・・使者騙し討ち事件と共に発生した戦争によって、短時間で自衛隊に制圧された城塞都市。

 

日本としては、武力によって他国を征服するつもりは無かったが、首謀者の王族や貴族をテロ容疑で処刑したため、治安が崩壊し、

放置する訳にも行かず、ズルズルとした流れのまま日本領に編入する羽目になってしまった。

 

だが、日本本土と距離が比較的近く、ある程度の海底の深さがあるため、湾岸地域を整備すれば大型船の入港も可能と言われ、

大陸への足掛かりの拠点として期待されている。

 

 

「石を積み上げて建造した元の防壁もすげぇけど、これはこれで壮観だなぁ。」

 

未だ建造途中であるが、ゴルグ地区の新防壁を眺め、サソリ型の鎧虫のボイル焼きを齧る自衛隊員。

 

「何があるか分からない所に城壁を壊したまま放置とかは出来ないからなぁ、出費は痛いが仕方ない。」

 

「元の城壁で7~6メートル前後、で今回の防壁は12メートル前後と・・・。」

 

「少なくとも投石器や破城槌で破壊されることは無いと思うが、砲撃には耐えられんぞ?」

 

「青銅器時代相当の文明に、そんな火力のある武器ある訳ないだろ?」

 

「魔法とかいう訳解らん不確定要素がある分、警戒するに越したことは無いだろう。」

 

「ないない、起こりえない事は考える必要は無い、だったら、最初から俺たちに使っている筈だ。」

 

「それは、そうなんだがなぁ、魔鉱石とかいうトンデモエネルギー物質のせいで、俺たちがこの世界に吹っ飛ばされてきたんだろ?」

 

「あくまで仮説だろう?確かに、未知の部分は多いが、この世界の人間が使う魔法とやらも、大した威力ではないし、連続で使える物でもないらしいし・・。」

 

「最近国交を持った、森の耳長連中とかは、威力も持久力も段違いだったらしいじゃないか、油断は禁物だと思うぞ?」

 

ため息をつきながら、食べ終えたボイル焼きの殻をごみ袋に放り込むと、音を立てながら土を掘り返す重機に視線を移し、呟く。

 

「あれは、特殊ケースだ、そもそも、魔鉱石を多く含む土地で変異した連中の話で、魔鉱石が少ないここら辺の連中に何ができるってんだ?」

 

「しかしだな・・・。」

 

「あんまり心配するな、禿げるぞ?」

 

「生憎俺の親父も爺さんも白髪頭で、禿げの家系では無いんでね。」

 

「はははっ、さて、休憩もそこそこにして、さっさと戻るぞ?」

 

 

雑談を交わしていた自衛隊員は持ち場へと戻ってゆく・・・しかし、彼らは知らない・・・魔石を宿す魔術師の命を犠牲にした自爆魔法が小型の榴弾砲に近い威力がある事に。

 

 



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第35話   教育の重要性

日本と海の国と森の民・・・3つの国が正式に国交を結んでから、暫くして日本に訪れるトワビトも幾らか増えて来た。

森とは違う環境に慣れるまで戸惑う事も多かったが、元々好奇心の強い種族なので、次第に科学文明に興味を持ち始めて行った・・。

 

 

「アルティシア!!凄い発見をしたんだ!」

 

「ひゃぁっ!?アドル魔術長!?脅かさないでよ!」

 

東京と呼ばれる地方の、とある公園で、材質不明な透明な容器に入った橙色の果物の搾り汁を、飲んでいると、いきなり声をかけられて驚きの声を上げる。

 

「済まぬ、しかし、見てくれ!これは、この国が10を数えぬ歳の子供に教育をするための本なのだが・・・。」

 

息も絶え絶えで、全身から蒸気でもあげようかと汗まみれになりつつも、アドル魔術長の目はギラギラと輝いている。

 

 

「あぁ、識字率が凄いって言うんでしょ?それは、最初に聞いたよ、驚いたけど何度も同じ事では驚かないよ?」

 

「見ろ、りか、と呼ばれる分野が載った本なのだが、植物の解体図や虫の生態系、そして簡単な薬学などが大まかに書かれているのだ!」

 

「え?あ?はぁっ!?確か、この国の子供が義務的に覚えなきゃいけない知識の本でしょ?教科書と言う奴?国民をすべて学者にでもするつもりなの?」

 

「植物が何故実をつけるのか、羽虫が何故季節によって姿を消すのか、我々にも良く分かっていない謎が、このような子供向けの本にっ・・・!」

 

「ニーポニア・・・末恐ろしい国だわ、それに、これだけの本を生まれてくる子供全てに支給出来る力も・・・。」

 

「思うに、彼らの文明をここまで押し上げたのは、知識の向上に国力を惜しまず注ぎ込んだ結果なのかもしれん。」

 

「この国の首都みたいな、石の巨塔の群れが出来るのも、知識を持った人間が、それこそ億単位で居るからこそ、という事かな?」

 

「そもそも、この人口は異常だ、億も人が居るのに、奴隷階級が存在しないという事自体も異常だ。」

 

「えぇ、本当に、彼らの故郷と言う世界は、どの様な世界だったのかしら?」

 

「我々が知る由もないがな・・・・だが、この国は、この世界に大きな変革をもたらすのは間違いない。」

 

「そうね、森の皆にこの国で知ったことを出来る限り伝えないと、他の国に差が付けられちゃうわ。」

 

「あぁ、未知の技術の宝庫で、豊かな文化を持ち、そして、信じられないほどお人好しのこの国の全てを伝えなければな。」

 

「拠り所を失ったウミビトを無償で保護したり、不死の霊薬に興味を示さなかったり・・・本当にリクビトとは大違いね。」

 

「さぁ、ニシモト教授の元に戻ろう、あのウルスラと言う少女と遊ぶ約束もしてある・・・。」

 

「アドル魔術長・・・昔から子供好きだからねぇ・・・。」

 

二人の森の民は、大通りにぽっかりと口を開けた地下道へ向かった、日本が交通機関として利用している鉄の蛇の巣穴に・・・。

 

 

 

 

 

 

 



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第36話   人魚式発電法

とある大学の研究所、言語や文化の研究の為に異世界の大陸の各地から、訪れた少女達が暗い休憩室でなにやら騒ぎを起こしていた・・。

 

 

「むり・・・もう無理っ!!」

 

「姉さま、耐えなきゃ、くぅっ!!」

 

「精神を安定させろ、集中を切らすなっ・・・ぐぅっ!!」

 

「だめ・・・もうだめ・・・んぁぁあああっ!!」

 

「ミーティアっ!・・・ちょ・・ちょっと、あっ・・ああぁぁぁぁっ!!」

 

「馬鹿者っ・・・ぐっ、すまん、ウルスラ、たの・・む・・・うぅぅっ・・んはぁぁっ」

 

「ま・・・まっ、ヴィーナお姉ちゃ・・・うぬーーっ!」

 

 

次々と、少女達が力尽きようとしていた、その時!!

 

ブゥゥゥン!・・・ぴんっ・・・ぴきんっ!

 

暗かった休憩室の電灯がつき、停止していた機械類が起動し始める。

 

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・た・・・耐え抜いたわね。」

 

「も・・・もうこりごり」

 

「はっ・・・はぁっ・・だから言ったはずだ・・・無茶だと・・・はふぅっ・・・」

 

「ね・・姉さま、姉さま・・・わたし生きている?」

 

 

部屋に明かりがついた途端に、糸が切れたように倒れ込む少女達・・・全員まるで長距離走をした後の様に、

息を荒げ、顔を紅潮させ、全身汗まみれになっていた。

 

 

「れーぞーこ と言う物は、便利そうに見えて、随分と問題の多い魔道具だな・・・。」

 

「てーでん したら、れーぞーこの中の食糧が腐ってしまうと、此処の学生が言うから、やってみたけど・・・」

 

「まさか、電撃の出力を調整しないといけないなんて・・・高度な技術過ぎるわ・・・。」

 

「みんなでお金だして買ったのに・・・プリンが腐っちゃうなんて、そんなの許せないよぉ・・・。」

 

「もうやらんぞ・・・くそっ、汗でぬるついて上手く車椅子に乗れん・・・。」

 

 

その時、ガチャリとドアが開けられ中年男性が部屋に入ってくる

 

「電源が復旧しましたよー・・って・・・どうしたんですかっ!?」

 

死屍累々と言った休憩室の光景を見て、思わず固まる西本教授、するとへたり込んでいた少女達がはっと我に返る

 

「きゃっ」

 

「うん?」

 

「きゃあああああああああああっ!!」

 

汗まみれで透けた服を見られたヴィーナは、そのサンゴ色の鱗や髪と同じ位、顔を真っ赤に染めて、

反射的に碌に形にもなっていない魔力の塊を衝撃波として西本教授に放つ。

 

「なっ・・ちょっまっ・・・どわあああああっ!?」

 

まるで爆風に当てられたかのように部屋の外まで吹き飛ばされ、コンクリートの壁に叩き付けられぐったりする西本教授、

これが、水鉄砲や火球などに成形されていたら、死なないまでも、病院送りにはなっていただろう。

 

 

「ヴィーナ!やり過ぎよっ!」

 

「はぁっ・・はぁっ・・・す・・・すまん。」

 

「ヴィーナぁ?だから意地張っていないで布の服にすれば良かったのに・・・。」

 

「ヴィーナお姉ちゃん、水竜のヒレを重ね着しても、汗かいたら台無しだよ。」

 

「だが、ニホンから何時までも布を購入する訳にも行くまい、海の素材だけで、まともな服を作らなければならないのだ。」

 

「分厚くすれば、そりゃ見えにくくなるんだろうけど、濡れると透けるでしょ、その素材、やっぱり鎧のインナー向けよ。」

 

「強度だけは問題ないのだ、それは、間違いないが・・・。」

 

 

「君たち、私の事忘れていないかぃ・・・っててててて」

 

ふらつきながらも、腰を摩りながら、西本教授がドアにもたれかかる形で休憩室の前に立つ。

 

「っ!!に・・ニシモト教授!?・・・済まないが、他所の方を向いててくれないか?何か羽織るものを・・。」

 

「あぁ、ごめんごめん、えっと・・・部屋の端のロッカーにジャージがあるからそれを着ると良いよ。」

 

「っ・・・こ・・・これか?・・・この金具は一体・・・いや、無いよりはマシか・・・。」

 

チャックの閉じ方を知らないヴィーナは、開いたままのジャージの上着を羽織り、両手で布地を引っ張って塞いでいた。

 

「ニシモトさん、ニシモトさん、私とお姉さま達は、れーぞーこ を動かすために雷撃魔法をずっと使ってへばっていたの」

 

「それは、随分と無茶なことを・・・(文字通り人力発電だな・・・っと言うよりも、誰が動かし方を教えた?」

 

「全ては、プリンなる菓子の為・・・。」

 

「物を腐らせない為の魔道具なんでしょ?だから、電撃魔法の出力を調整して、起動してみたの。」

 

「あぁ、冷蔵庫が停止したら中の物が腐っちゃうかもね・・・って・・・あれ?」

 

「ニシモト教授?どうしたのかしら?」

 

「ねぇ、君たちは、氷結魔法と言う奴を使える?」

 

「え?勿論、使えるけど・・・それがどうしたの?」

 

「冷蔵庫はね、物を腐らせにくくする効果はあるけど、それは凍らせたりするから腐りにくくなるんであって、不思議な力で問答無用で腐らせなくする機械じゃないんだよ。」

 

「「「「っ!!?」」」」

 

「だから、態々電圧と電流を調節した雷撃魔法を使う必要は無かった筈だけど・・・。」

 

「ば・・・っ」

 

「ヴィーナさん?・・・あれ?プリシラさん達もどうしたのですか?」

 

「ばかものーーーー!!馬鹿馬鹿馬鹿!ばかぁぁぁぁっ!!」

 

「最初に言えばよかったのに・・・・。」

 

両目に涙を溜めたヴィーナに魔法衝撃波を連続で食らう西本教授、そして冷ややかな目つきでその光景を見続ける3人

 

試験的に導入された魔鉱石式発電機のトラブルで、一帯が停電してしまったが故に起きた悲劇がこうして幕を下ろす。

 

 



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第37話   オノカマキリと香辛料

上から見ると綺麗な正六角形の防壁に覆われた、城塞都市ゴルグ、防壁の工事が終わり、いよいよ都市の改造に取り掛かりつつある現在、様々な商人がこの街を往来していた。

 

「・・・やはり、ニッパニア相手に、商機を見出し、ゴルグガニアを訪れる連中が多いな。」

 

「だからこそ、やりやすいと言う物だ。」

 

しかし、ゴルグに訪れる者は、商人だけでは無かった。

 

「ニッパニア本国は、海を越えた先にあるらしいが、どの程度この街を統治できるか、どの程度の規模の国力を持つのか、

それを推し量るには、こうして商人の真似事をしながら潜り込むのが一番だ。」

 

「あぁ、そうだな、一応俺達も商人の経験があるし、調査のついでに小銭稼ぎも出来る、割の良い仕事だ。」

 

『アノ・スミマ・セン~』

 

声をかけられた方向を見ると、斑模様で、どこか薄汚れた様な衣装の若者が近づいてきた、恐らくニッパニアの兵士だろう

 

 

「おや?ニッパニアの兵士様、何がご用で?」

 

『エーット・・・ツーヤック・タ・ノーム』

 

「食糧、トル?取り扱って・マス・ましたか?」

 

「あぁ、私達は、鎧虫を専門とする商人でして、食用から武具用と様々な用途の鎧虫を取り扱っております。」

 

「ジャァ・食用の、虫・鎧虫、お願シマスー」

 

「それでは、この斧蟷螂の卵巣なんてどうでしょう?とても狂暴なので、中々手に入らない珍味中の珍味!」

 

「魚卵に似た食感で、塩漬けや塩焼きが絶品なのですよ!」

 

『ムス・ノ・タマゴ?ダージョブ・ナノー?』

 

『サソリ・ミタ・ヤツ・ウマカッタ・ジャナカー』

 

ニッパニアの兵士は、時々、彼らの母国語と思われる言葉を挟み、仲間同士で会話をしている様だ。

 

 

「(やはり、ニッパニアの言語は、この大陸のどの系統とも違うな・・・。)」

 

「(くそっ、奴らが何を話しているのが分かりさえすれば・・・解読はまだなのか?学術院のボンクラどもめっ)」

 

 

「それでは、食ベル・食べる物・買います・マシタ?」

 

「それでは、銅貨4枚になります。」

 

「ウワー・タカイナー・・・それでは、それ、買います・貰いマス?」

 

「有難う御座います。」

 

「(しかし、片言とは言え、末端の兵士が大陸語を話せるとは・・・)」

 

「(発音がややウミビト訛りの所を見ると、海の国と同盟を結んだと言う情報は正しそうだな。)」

 

 

「リョーリ・ハン・ニ・モットコー」

 

「アイツ・ラ・コレ・チョーリ・デキルカー?」

 

「(海の国の協力があるとは言え、この短期間で、これ程に大陸語を兵士に習得させることが出来るとは・・・)」

 

「(やはり、侮れんな、ニッパニアは・・・)」

 

 

斑模様の兵士達は、露店近くの天幕に入って行き、仲間と何か話している様だ。

 

 

「・・・・?あれが奴らの天幕か?意外と近かったな?」

 

「俺が様子を見に行く、幸い、興味本位で覗く連中が多いから大して怪しまれんだろう。」

 

「だが気をつけろよ?」

 

 

斑模様の兵士が入って行った天幕を覗くと、火を噴く魔道具らしき物の上に、先ほど売った斧蟷螂の卵巣が、香ばしい匂いを放ちながら

鍋の上を、じゅうじゅうと音を立てて踊っていた。

 

 

「はれまぁ、見てみろよ、ニーポニアの連中、便利な魔道具をもってるぜ?」

 

「ジャー・ポニスは珍しい物を沢山持っているんだな、売ってくれないかなぁ・・・?」

 

「あの魔道具、中々高くつきそうですね。(移動式の調理器具だと?魔道具でそんな物を作っているのかっ!?)」

 

 

斑模様の兵士達は、折り畳み式のテーブルの上に置かれた金属の器からパラパラと黒い粉を焼いた斧蟷螂の卵巣にかけて食べている様だ。

 

「(あれは何だ?塩?岩塩?しかし、黒い岩塩など・・・。)」

 

「ヤッパリ・シオコショー・ガ・イイーナ」

 

「ショーユ・モー・アウ・カモナー」

 

「あっ!?あの器知っている!確か、商人の間で噂になっているニパンの香辛料だわ!」

 

「こ・・・香辛料!?高級品じゃないか!!」

 

「香辛料をあんなに気軽にパラパラと・・・。(一体どうなっているんだ!?奴らは正気か!?重量あたり、砂金と同じ価値がある物をあんなに大量にっ!)」

 

「アジ・オンチー・ニ・ナルゾー?」

 

「イイ・ジャ・ナイカー・ケチケチ・セズニー」

 

「(洒落にならん経済力だ、あんな汚らしい衣装の末端ですら、香辛料に手が出せるとは・・・。)」

 

 

あまりの光景に、ふらふらと、天幕から露店へ戻る密偵、先ほどの光景を、仲間に伝えると青い顔で、露店を畳み始めた。

 

 

「材質不明の透明な器に、金属の器の香辛料入れ・・・ニッパニアは、末端の兵士にもそれを支給出来る国力を持つとは・・。」

 

「やはり、正面からぶつかるのは無謀だ・・・しかし、奴らを止めるにはどうすれば・・・。」

 

「兎に角、情報を伝えるのが先決だ。」

 

「他国と連合を組んでニッパニアを抑えるにしても、力不足だ、全然経済力も兵力も足りない・・・。」

 

「ニッパニアを抑えるよりも、奴らに組した方が、我が国として利がありそうだな?」

 

「あの国が我が物顔で、大陸を闊歩するのは気に食わんが、あれを敵に回すなど自殺行為と同じだしな。」

 

「さぁ、我が主が早まった真似をしない内に、早く情報を届けるぞ!急げば来週までに間に合う!」

 

 

商人に扮した密偵達は、走竜に連結した荷車に、露店の道具を全て詰め込むと、ニッパニアの城門へ走り去った。

 

 

 

 

 

 

アクスラマティア 通称:斧蟷螂

 

和名:クロヅヤオノカマキリ

 

分厚いキチン質の鎌を持つ、巨大な蟷螂型生物。

シロガネオオノコカマキリの近縁種で、金属質生物を捕食しない為、頑丈さでは劣る。

しかし、キチン質の鎌は斧状になっており、Vの字に分かれた爪で挟み込んだ後、そのまま斧状の鎌で地面に叩き付け

獲物を両断するなど、攻撃面ではシロガネオオノコカマキリを超えており、非常に好戦的で危険。

肉は味の薄い淡白なエビの様な味で、火を通すと濃い桃色に変色し、汁が滴る。

低脂肪で高たんぱくな栄養価を持つが、こちらはビタミンB群も豊富。

全身が素材となり、食糧から武具など、余すことなく使える為、大陸では高値で取引されている。

生のままだと足が速いが、燻製にすると数か月は持つ。

繁殖期になると、雌をめぐって盛大に雄同士の戦いが起こるが、戦いに敗れて死んだ雄も交尾に成功した雄も、雌に食べられてしまう運命である。

交尾中に雌に襲われて死ぬよりも、交尾で力を使い果たして死ぬ雄の方が多い。

 

 



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第38話   音を奏でる小箱

大陸のとある小国にて、異世界から現れた謎の国で作られたと言う小さな小箱が話題になっていた。

 

「見てください、この小箱を」

 

綺麗に髭を整えた貴族が、布の上に大切そうに置かれた小箱を開き、箱の中身を指さす。

 

「この通り、金属の細い板が敷き詰められ、小物入れには使えそうもないのですが、この部分を回すと・・・。」

 

・・・ピロロン~~♪ポロロロン~~~♪

 

「突起のついた金属の筒がゆっくりと回転し、金属の板を弾いて音楽を奏でるのです!」

 

「これは・・・素晴らしい、一体どこの誰が、この様な物を作り上げたのだ?」

 

「それが・・・ウミビトの海域に突如として出現したかの国の物の様で・・・。」

 

「ジャー・ポニスか!?」

 

顎から胸まで届く髭を伸ばした貴族が驚きの声を上げる。

 

「えぇ、部下を使って、この小箱の生産者を探し出すよう命じたのですが、これを取り扱っていた行商人を拷問してやっと出所を掴んだと思いきや、よりにもよってあの国とは・・・。」

 

「むぅ・・・ジャー・ポニスの小箱を作る職人はゴルル・ガニスに訪れているのだろうか?」

 

「密偵をゴルル・ガニスに送ってはいるものの、その様な物を作っている職人は居なかった様ですね。」

 

「つまり、ジャー・ポニス本国で作られたものが、荷揚げされているという事か」

 

「残念です、もしその様な職人があの城塞都市に店を開いていたのならば、他国に先を越される前に連れてくるのですが・・。」

 

「多少強引にでも連れて来いと命じたい所だが、あの国は、元の国民でないゴルル・ガニスの住民ですら傷つけられると激昂するらしいじゃないか?」

 

「なに、そんな物、街を襲った盗賊連中の戯言でしょう、あれだけ大きな国です、人が数人消えた程度気にしないでしょう、」

 

「もし、仮に噂が事実ならば、我々もゴルル・ガニスの二の舞だぞ?かの国の民は、慎重に扱うべきだ。」

 

その問いに、かすかに鼻で笑うと、整えた髭を指で弾きながら答える。

 

「馬鹿げています、優れた職人とは言え、貴族でもない下賤の者に、国が総力を挙げて戦いを挑みますか?」

 

「しかしだな・・・。」

 

「それに、国交を持った国ですら、双方とも人が消えるのは日常茶飯事です、一々そんな誰も気にしない様な事で軍を動かしては、災厄をまき散らし、多くの国々から信用を失うだけで利点が無いです。」

 

「うむむ・・・。」

 

「何にしても、職人があの城塞都市に訪れていない以上は、ジャー・ポニスから輸入する他ありませんな。」

 

「そうだな、金を出せば、正当な手続きの元で取引が出来る、一番リスクが少ないやり方だ。」

 

「しかし、我が国の鍛冶職人の尻を蹴り飛ばしてでも、同じものを作らせなければなりませんね。」

 

「それをするにも現物が何個も無ければ話にならんな、多少の出費は覚悟してこの小箱を輸入しよう。」

 

「そうですね、商人を経由すると高くつきますので、部下にジャー・ポニスと直接交渉をさせましょう。」

 

 

後に、とある小国で、優れた職人が何人も謎の死を遂げる事件が発生するが、真相は不明のまま。

街工房の関係者は、その話題に関して答えず、口を噤んでおり、一説では、異界の民が作った、音楽を奏でる小箱が関係していると言う・・・。

 



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第39話   姿と心の形

ソラビトの空中大陸で破損した遺跡群の修復をする施工科

 

唸りをあげて土を掘り返す重機群、空中大陸に設置された空港から次々と物資が運ばれ、空中大陸での開発を進めていた。

 

 

「この瓦礫はどこへ運べば良いですかね?」

 

「山の方に集積所があるので、そこに運んでください。」

 

空港を中心に、少しずつ施設が増えて行き、最近では、空の民の遺跡都市の修復もするようになった日本、

リクビトからソラビトに変質した際に、器用さを失ってしまった為、高度な工作技術を持つ日本が修復してくれる事を空の民は感謝していた。

 

「それを・・・そう、はめ込んで、緑色の魔石を中に封入してください。」

 

「どっこいしょ・・・あぁ、こいつか?ほいっとな。」

 

ヴヴヴゥゥゥン・・・・ビリビリ・・・バチバチッ・・・

 

「うぉ!?」

 

「やった、空調制御装置が復帰した!」

 

ソラビトの魔導士に言われるがまま、重たい岩を組み合わせ、魔石をはめ込むと、独特の機動音を上げて、岩の柱が周りの空気を暖め始めた。

 

 

「岩の塊にしか見えない奴が、どうしてこんなに無駄に凄い事が出来るんかねぇ・・・。」

 

「えっ?ニフォンが使っている えあこん と言う物の方が精密に出来ていませんか?」

 

「まぁ、確かにそうなんだが、岩でできた柱みたいなモンで、同じ事されると、苦労に苦労を重ねて築き上げた技術って何だったんだろうなぁと思うのよ。」

 

「そんな事ありませんよ、この柱が出来る事は、精々、この柱の周りを少しだけ快適な温度に保つ程度ですし。」

 

「それでも十分凄いよ。」

 

「それに、よく見てください、一見ただの岩の塊にしか見えない柱にも、魔法式が複雑に刻み込まれていて、現在のリクビトには真似出来ない技術で作られているのです。」

 

遠目からでは確認できないが、近くでじっくりと観察するかルーペを用いなければ見えない程の細い線が、脈打つ様に光を走らせていた。

 

 

「おおうっ?まるで電子回路みたいだ・・・よくこんな細かいの彫り込めたな。」

 

「私たちがリクビトだった頃は、ツチビトにも負けないほどの技術力を持っていたのですよ!」

 

えっへん、と、無い胸を張るソラビトの少女を横目に、光を発し続ける柱を観察する施設科の隊員。

 

 

「でも、助かったなぁ・・・私たちの指じゃ、こんな重いの持ち上げられないし、半ば諦めていたのよ・・・。」

 

「まぁ、小指と薬指が翼の一部になっていたらなぁ・・・。」

 

「大地の民との争いを避けるために、リクビトからソラビトになったけど、少しだけリクビトのままの姿の同胞を残しておくべきだったかしら?」

 

魔導士の少女の呟きを聞くと、すこし眉間にしわを寄せて施設科の隊員が口を開く。

 

「いや・・・外見が異なる連中が居ると、対立する事になるかもしれんな。」

 

「どうしてですか?元は同じ民、身内ではないですか?」

 

「人間ってのは、自分たちと違う姿の集団が居ると、排除したがるのさ、頭では分かっていてもな。」

 

「そんな筈はっ!!」

 

「あぁ、下の方の大陸で、リクビトと亜人が暮らす多民族国家があってな、その国の中にはアンタらと同じく魔石で変質して、

リクビトから別の種族になった者が居るが、元同胞のリクビトに、ぞんざいな扱いを受けているのさ。」

 

「それは、リクビトが野蛮だから・・・」

 

「おいおい、それは逆差別的だぞ?」

 

「っ!!」

 

「餓鬼んちょ共が一番わかりやすい、子供たちの集まりの中で浮いた奴がいると、集団で排除にかかる事も珍しくない。」

 

「確かに、ソラビトでも、子供たちの間ではそういう事もあります。」

 

「それを国レベルで規模を大きくして、当てはめてみると、似たような物になる。」

 

「そんなもの・・・理性で押さえつければ良いじゃないですか!」

 

「そうだな、しかし、理性で押さえつけても外見の違いでどんな人間も自分の姿と違う相手に対して、違和感を感じてしまうのさ。」

 

「・・・ニフォンは、私たちの事をそういう目で見るのですか?」

 

「否定はしないが、アンタらの内面を知れば、日本は平等に受け入れるだろうさ、外見の違いで排除する奴は理性が足りない奴だけさ」

 

「それに、最初はアンタらも、俺達の事をリクビトと勘違いして、排除しようとしていた奴らが居たろ?」

 

「えっ!?えぇ、その・・・まぁ・・・。」

 

「地上の大陸の多くの国々は、自分の中の獣を放し飼いにしているのさ、だから争いが絶えんのさ。」

 

「リクビト以外の亜人を国民として迎え入れている大地の国は、全体で見ると少ないと聞きます。」

 

「日本も国交を持つべく、大使を向かわせているが、偏見の目で見られることも少なくないそうだ。」

 

「ニフォンの民を?」

 

「そうだ、流石に取って食うほど理性が無い訳ではないが、細かい所でぞんざいに扱われる事も珍しくない。」

 

「酷い話ですね。」

 

「それに、リクビトでは無いと言う理由で、大地の国にある駐屯地が、襲撃される事件も発生しているんだ。」

 

「そんなっ!ニフォンはどう対応されたのですか!?」

 

「心配はご無用、丁寧に丁寧に解体してやったさ、それ以降、襲撃の回数は一気に減ったね。」

 

「・・・・・時々貴方達と言う存在が怖くなりますね。」

 

「なに、突っかかってこないなら一方的に攻める事も無い、基本的に紳士的に対応しているから安心してくれ。」

 

「えぇ、今までの公正明大な行動と態度を見ればニフォンを信じる事が出来ます。」

 

「そりゃどうも、さて、雑談もそこそこに、そろそろ作業を再開するぞ?放置しすぎて崩れかかっている所が、まだまだ沢山あるんだ。」

 

 

 

 

 

 

惑星アルクス

 

地球の存在した世界とは違う別次元の地球型惑星で、様々な種類の知的生命体が共存している。

この星を支配する種族リクビトは、ヒューマノイド型知的生命体の基本形態であり近縁種含めて日本ではアルクシアン(アルクス人)と呼称される。

ごく少数、昆虫類や爬虫類から進化した知的生命体も存在するが、アルクシアンとの交配は起源が違う為、不可能。

元の次元とは違う物理法則が、この次元の宇宙を支配しており、魔法と言う要素が加わる。

魔鉱石と呼ばれるこの次元特有の物質が、ほぼすべての土地に存在し、環境や生物に様々な影響を与えている。

別次元から力を取り入れたり放出したりする性質から、「物質と言う形態をとった世界(宇宙・次元)の歪み」とも呼ばれている。

3つの衛星(月)が存在し、絶妙なバランスで影響しあっている。

 

 



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第40話   闇に蠢く悪意達

城塞都市ゴルグから、やや離れた位置にある、とある小国の地下砦にて、多くの兵士が傷病に苦しめられていた・・・

 

 

「ううぅ・・・ぐる・・・しい・・・。」

 

「俺の腕は?腕はどこに行った?」

 

「炎が・・・俺の足を・・・食いやがった・・・」

 

削った岩の上に獣毛を敷いただけの簡易ベッドに沢山負傷した兵士が並べられ、血生臭い悪臭が漂っている。

 

「ニッパ族めっ!!小癪な真似をしてくれる!」

 

「ゴルグガニアを手中に収め、大陸に覇を唱えんが為に、城塞の強化を行っていると聞いたが、ここまで完成されているとは・・・。」

 

「このままでは、巨大防壁の完成は時間の問題だ!少しでもニッパニアの魔術師を削らなければ、次は我が国が狙われる!」

 

「圧倒的な魔導によって、接近すらままならなかったのだぞ?削るにしても弓すら届かぬ長射程・・・手の打ちようが無いぞ?」

 

「遠目から確認したが、ニッパニアの魔導士が筒の様な魔導具を用いて爆炎魔法を打ち出している様だったな」

 

「恐らく1発1発に魔石が仕込まれているのだろう、ゴルグガニアで討ち死にした魔導士から抜き出したものに違いない」

 

「それにしたって多すぎる、ニッパニアには、大規模な魔鉱石の鉱脈でも存在するのだろうか?」

 

「魔鉱石の精製にどれだけ手間がかかると思っているんだ?あまりにも非現実的すぎる」

 

「密偵によると、ニッパニアには億を超える人々が、狭隘な国土にひしめいているらしい・・・かの蛮族自身から聞き出した事らしいが・・・」

 

「ハッタリの誇張表現・・・と思っていたが、無尽蔵ともいえる魔導力を目の当たりにすると信じざるを得ないな・・・。」

 

「自国民達から魔石を引き抜いて、大陸を我が物にせんとする・・・征服欲の塊だな・・・。」

 

「何にせよ、あれだけの火力に晒されては一たまりもない・・・どうにかせねば・・・・うん?」

 

 

不意に扉が開かれ、血相を変えた伝令の兵士が部屋に転がり込んできた。

 

「ほ・・・報告です!ゴルグガニアの城壁が完成しました!ニッパニアの鎧虫が、城塞都市に集結している様です!!」

 

「なんだとっ!?」

 

「は・・・早すぎる!」

 

「防壁が完成し、市街地や旧城に次々と物資が運ばれている様です・・・恐らく城塞都市の防衛機能の強化を・・・がっ!!」

 

突如、伝令の兵士が口から血を吐くと、胸を押さえながら地面に転がった。

 

「何事・・・がはぁっ!!」

 

「ぐわああぁぁぁっ!!?」

 

連続した炸裂音と共に、部屋にいた兵士たちが次々と血を吹き出し倒れ、無力化される。

 

「クリア!!」

 

「この部屋で最後ですね・・・・。」

 

「天然洞窟を利用した地下砦か・・・しかし、野戦病院の様だな・・・。」

 

『うぅぅ・・・・あががぁぁぁっ』

 

「生き残りが居ます、どうしますか?」

 

「その傷では、もう助からん・・・楽にしてやれ」

 

「・・・・・了解。」

 

パンッ・・・と言う破裂音と共に、苦しみもがく兵士の命が消える。

 

「大陸の一部の国に不穏な動き有り・・・と聞いていたが、ここまでとはな・・・。」

 

「奴らは、我々が大陸の国々を征服すると思っているみたいですね・・・。」

 

「殆ど言いがかりに等しいな」

 

「自分達ならそうするであろう・・・と言う基準で動きますからね・・・。」

 

「まったく・・・ゴルグ攻略戦以降、士気が低下していると言うのに、余計な事をしてくれるものだな。」

 

「銃火器の圧倒的な火力で戦いは一方的ではありますが、若い隊員ほど精神に傷を負う者が多く出てきていますからね。」

 

「初めて人殺しをしたんだ、まともで居られる筈が無いだろう」

 

「自衛隊は大陸でFPSを楽しんでいるとほざく記者が居たが、もし、俺がそいつの前に居たら殴り飛ばしてやっていた。」

 

「・・・・・人殺しが楽しい訳ないだろう・・・。」

 

「ゴルグの騙し討ちをした王族連中を処刑した時だって、後味が悪かったと言うのに、どうしたらそんな発想が思い浮かぶのやら」

 

「これからも人は沢山死ぬ・・・もし、我々が人殺しに慣れてしまったら、それは本当に自衛隊なんだろうかな?」

 

「さぁな、俺たちの仕事は国を守る事だ、日本を狙う奴らが居る限り戦いは続くだろう」

 

部屋に横たわる死体の中で豪華な装飾の施された鎧を着た兵士から、幾何学的な紋章の護符を取り出す。

 

「・・・・例の国の紋章です・・・これは証拠品になるでしょうね。」

 

「元からバレバレだが、これで街を襲撃したのが盗賊連中だとしらばっくれる事も出来なくなるだろう。」

 

「後は他の連中の仕事だな、撤収するぞ?」

 

自衛隊が地下砦から去ると、静寂だけが残された・・・・。

 



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第41話   戦争の爪痕

日本ゴルグ自治区、元々、ゴルグと言う都市国家であったが、国交を持とうと訪れた日本の使節団を騙し討ち身ぐるみを剥いだ事で

かの国の逆鱗に触れ、一夜にして滅ぼされしまい、現在は処刑を免れた王族や貴族などにより日本の監視下の元、運営されている。

 

現在は破壊されて大穴が空いているものの、この町全体を包み込む城壁が存在しており、それは、荒野の民が身を守るために築き上げた村が、

少しずつ発展して行き、大陸有数の城塞都市となったルーツを持ち、物々しい石造りの城壁も村を覆っていた柵が発展していった物である。

 

「オーライ!オーライ!よしストップー!」

 

「化学肥料に試作型魔鉱発電機か、暫く魔力をチャージしないと発電できない上に故障も多いが、無いよりはマシか。」

 

インフラの整備や、大陸での本格的な活動の開始の為に、次々と日本から物資が送られ、急ピッチで城塞都市ゴルグの開発が進められていた。

 

「街の様子も大分変って来たな・・・。」

 

「穴だらけになった家屋やら元は城だった瓦礫の山やら、酷い光景だったのにな。」

 

「道に放置された死体やら、民間人に引きずり出されて殺害された貴族の惨殺死体やらを見ていると、やるせない気持ちになったもんだよ。」

 

「俺達がやらかした事でもあるがな、だが、民間人から相当恨みを買っていた王族連中の自業自得でもあるが・・・。」

 

「あぁ・・」

 

「思い出すのか?あの日の光景を・・・全く、本当に後味の悪い事だぜ」

 

 

城塞都市の上空から降り注ぐ炎の雨、そして連続で放たれる致死の閃光、突如大陸に現れた謎の勢力によりゴルグは壊滅的な打撃を受けていた。

 

 

「馬鹿な・・・こんな事があって良い筈が無い・・・。」

 

『コレデ・ゼン・インカー?(これで全員か?』

 

「魔力を持たぬ劣った蛮族が我らを倒そうなど、不相応な事を・・・。」

 

『黙って・くだサイ(黙って貰おうか』

 

「貴様ら、この様な事をして、唯で済むと思うなよ!」

 

『状況・わかる・出来ない・負けてしまった・貴方(アンタらは負けたんだ、何もできやしない』

 

「馬鹿にしているのか?毛無し猿が人間の言葉を真似しおって、早くこれを解け!」

 

『フンッ!!』

 

「がぁぁっ!!?」

 

『貴方、オ前・使節団・私達・貼り付ケ・お肉焼く・突き刺す・長い竿(お前らが俺たちの国の使節団を貼り付けにして拷問して殺したんだ!』

 

「ぐ・・・ぐぅぅっ」

 

『責任・果たす・貴方・王様・私たちニ・命ノ為ニ(お前がこの国の最高責任者なんだろう?だったら、殺された人達の命に対して血の代償を払え!』

 

「ゆる・・・ざない、猿が・・・猿めっ!魔力を持たぬ蛮族がっ!」

 

『貴方・馬鹿・続ける・そレだケ。(馬鹿の一つ覚えで何度も同じ内容を喋るな』

 

「早くこれを解け!王である余に、奴隷の様な拘束具をつけるなど!・・・ぶぉぁっ!?」

 

『貴方・破壊者・殺戮者・事実です・自分の罪・知ってル(アンタは、唯のテロリストだ、自分が何をしたのか分かっているんだろう?自分の罪を知れ』

 

『チュー・オー・ヒロバー・レンコ・シロ・ソコデ・ザージョ・ヨミゲール(中央広場まで連行しろ、そこで罪状を読み上げる』

 

 

城塞都市ゴルグ中央広場、普段は露店などが立ち並ぶ、円形の大広場だが、現在は彼方此方に破壊痕と瓦礫の山が出来上がっており、

負傷した民間人や戦闘続行不可能な兵士が集められており、城から王族や貴族たちが謎の軍勢に連行されている光景が多くの住人の目に留まった。

 

『~~~ヨーリ、貴方達・死刑・確定・シタ(~~により、罪状は死刑に確定した!』

 

「ふざけるでない!余は蛮族を裁いただけだ!」

 

「わ・・・私は、陛下のご命令通りに動いただけで・・・どうかお助けを!」

 

「貴様!自分だけ処刑から逃れようと言うのか!?」

 

「くそくそくそくそっ!こんな筈では!魔力はおろか武器すら持たぬ使節を寄こす不届きものに!!」

 

『ミニク・ナ(醜いな』

 

『サスガ・ニ・ニッパ・ツリ・ショー・ケー・デッキナイ(流石に処刑の為に、日本の施設に連れて行くことは出来ないな』

 

『ジューサツ?(となると、銃殺刑か?』

 

『ソー・ナンル・ナー(そうなるかもな・・・。』

 

「あ゛あ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 

『ッ!?(っ!?』

 

手錠をかけられた上に、鎖でつながれた、豪華な赤マントの国王が、自衛隊に大きく口を開いて、襲い掛かろうとする

 

『シッ!!(疾っ!』

 

「ぱごぉっ!!」

 

『オー・ジョー・ギワ・ワル・ナー(往生際が悪い奴だな』

 

『マッーサーカ・カミツコート・スルー・ト(まさか、噛みつこうとするとは・・。』

 

「ぐぇぇっ!!はががぁっ!」

 

国王を殴り倒した自衛隊員が、首根っこをつかんで、縛られた王族や貴族の集められている場所に投げ飛ばす。

 

『オイッ!?(お・・・おいっ!?』

 

『シネ(死ね。』

 

獰猛な笑みを浮かべた自衛官は、腰からこぶし大の塊を取り出すと、一か所に固められた罪人たちに向かって投げつけた。

その直後、爆音と共に、激しい炎が噴き出し、鎖で縛られ動けない彼らを丸焼きにした。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~っ!!」

 

『オマ・ナニ・スルーダー!?(お前っ!何をするんだ!!』

 

『ヤッケテ・シマ・エ・・・(焼けてしまえ、焼けてしまえ、何もかも』

 

「ぎゃぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

焼夷手榴弾は破片手榴弾に比べて殺傷範囲は狭い物の、ちょっとやそっとの事では消えない炎をまき散らし、

一か所に集めらているが故に、次々と消えない炎が罪人たちに燃え移り、地獄の光景となった。

 

『オマ・ジブン・ナ二・シー・ワカッテ・ノカー!?(お前、自分がなにしたのか分かってんのかっ!?』

 

『ふ・・・ふふふっ・・・ふははっ・・・』

 

『ッ・・・ヒューマ・エラー・ダ・・・コーソック・シロー・・。(っ!ヒューマンエラーだ、拘束しろ』

 

 

 

後に日本は、テロ容疑で王族と貴族を死刑に処したと、発表し、大陸周辺に城塞都市ゴルグ陥落の報が広まった。

 

 

「で・・・・結局、王族連中を手にかけた自衛官はどうなったんだ?」

 

「一応襲い掛かられて反撃した形にはなったが、どう考えても過剰防衛だ、謹慎処分だけじゃすまなかったよ。」

 

「そうか・・・そいつは今、何やっているんだ?」

 

「自室で自殺したとさ、そもそも、王族連中を焼き殺す前に、少年兵を機銃掃射して、精神不安定になっていたらしいし」

 

「だからと言って、命令を無視して凶行に及ぶのは・・・。」

 

「自衛官としてあるまじき行動だ、どのみち擁護は出来んよ。」

 

「お蔭で、現地住民からは公開処刑扱いされとるし、怒らせると血も涙もない国だとも思われている。」

 

「全く・・・気が滅入るな・・・。」

 

「あーあー、やめだ、やめだ、こんな話題はさっさと切り上げて、復興活動を再開しよう」

 

「はぁ・・・そうだな、一度ついた印象は中々拭えないもんだが、地道な活動で良い国だと思わせないとな。」

 

 

新しく設けられた防壁から、次々とトラックが入ってくる光景を眺めつつ、自衛隊は、都市の補修を続けた。

 



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第42話   不思議作物(卑猥風味

日本が空中大陸に拠点を設けてから暫くして、ソラビトが修理できなかった遺跡都市の修繕が大分進み、空の民の活気が満ちていた。

 

「それにしても、このジュウキと言う物は凄まじいな。」

 

「本当に凄いです、これ程大きく力強い魔道具は、私たちがリクビトだった頃ですら作れませんでしたよ!」

 

「いやぁ、むしろ、人力でこれ程の建造物を作り上げた事に私たちは驚嘆しておりますね。」

 

「あいや、我々がリクビトの姿を維持していても、この工事は年単位を要したであろうな、それをたった数か月で成し遂げるとは、何たる偉業!」

 

「はははっ、大げさ過ぎますよ。」

 

「ご謙遜なさらずに、私たちはニフォンに心の底から感謝しております。」

 

「どういたしまして、さて、これから如何なさいますか?」

 

「ふむ、悩みの種だった気候制御装置の修復が完了したので、諦めかけていた農地の拡大をしようと思っていてな。」

 

「作物の種は、保存庫にそのままの状態で保存されております、恐らく植えれば直ぐに発芽し、根を伸ばすかと・・・。」

 

「ほほう、空の民の作物ですか、それは興味深いですね。」

 

「では、そろそろ昼食の時間なので、食後に保存庫へ向かいましょうか。」

 

空の国に設けられた、日本大使館で、昼食をとると、遺跡都市の中心部にある保存庫へ向かった。

 

「いやぁ、ニフォンの料理は素晴らしいですね、パスタなる穀物を糸状にした料理など思いつきませんでしたよ?」

 

「あぁ、あれは正確にいうと日本料理じゃないんですけど・・・ナポリタンは日本生まれだけどね。」

 

「ふむ、よくわかりませんが、原型は元の世界と交流していた国の物・・・なんでしょうか?それにしても、あの味は素晴らしい物でしたが・・・。」

 

「いや、私も本場のイタリアンは食べた事ないんですけどね。」

 

「さてさて、話をしているうちに目的地につきましたぞ?」

 

話をしながら歩いていると、石でできた建物と更に重厚な分厚い石の門が、見えて来た。

 

「これが保存庫・・・しかし、これだけ重そうだと、扉を開くだけでも一苦労ですね。」

 

「ふふふっ、そう思いますでしょう・・・。」

 

魔術師の少女がそう呟くと、爪で石の門をカリカリと擦る様な動作をした後、青白い光の線が脈打つように門の表面を走り抜けると

門は、細かいキューブに分解し、パズルの様にスライドしながら入口の壁と同化する。

 

「す・・・凄い・・・。」

 

「いや、取っ手がありますから、普通の扉みたいに開く事が出来るんですけどね?私達は非力ですから、魔法で開く手段も残していたのですよ。」

 

「うむ、リクビト時代は、そのまま開いていたが、今の姿ではあの方法でしか開閉しておらんのだ。」

 

「何というか、無駄なところに無駄に拘っていますね。」

 

「ニフォン風に言えば、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きと言うのだろう?」

 

「先人たちは、こういう遊び心も持ち合わせていたんでしょう、魔法でそのまま横にスライドさせた方が簡単なのに。」

 

「ささっ、作物の種が保存されている部屋は、この奥ですよ、行きましょう!」

 

 

ソラビトに案内されるまま、保存庫を歩いていると植物を思わせるデザインの紋章が描かれた石の扉の間にたどり着いた。

 

「この部屋です、扉を開きますよ。」

 

保存庫の入り口と同じく、細かく分解しながら開く作物の種子が収められている部屋の扉、そこには沢山の壺が並んでおり、その壺には空の民の文字で品種名が書かれている。

 

「今度植えようとしている作物の種子なんですが、これを植えようと思います。」

 

少女の両手に掬い取られた黒く楕円形の種子、どことなく小さな柿の種を思わせる形状をしている。

 

「ほうほう、どの様な物が育つのですか?」

 

「根菜類ですね、パルル・トテポチカといいます。」

 

「か・・・変わった名前ですね・・。」

 

「外側は、ニフォンでいうダイコンみたいに固いんですが、中心部はプルプルして甘いんですよ!」

 

「は・・・はぁ・・・。」

 

「こっちは、ニュニュポ・ポニュチカと言います、こちらはニフォンでいうジャガイモみたいな形状で・・・。」

 

「あぁ、えっと・・・。」

 

「表面は、意外とふにゃふにゃしていて、一対の塊根があって、中身はつるりと白い球があって、取り出すとにゅるん とでんぷん質の・・・。」

 

「なんだろ・・・名前もさることながら見た目も卑猥そうな・・・。」

 

「ん?何か言いましたか?」

 

「い・・・いえ、何でも・・・。」

 

「顔が赤いですよ?大丈夫ですか?」

 

「お・・・お気になさらず・・・。」

 

「そうですか?・・・とりあえずニフォンが直してくれた気候制御装置があって初めて育てられる作物なので、とても楽しみです。」

 

「お望みならば、ニフォンにも種子をお分けしますぞ?ニフォンは農業も発達していると聞きますからな。」

 

「本当ですか!?こちらの世界の作物の調査が進んで居なかったので、試料提供は助かります。」

 

しかし、内心は、日本で卑猥な形状の作物が育てられるのは嫌だなぁ・・・と思いつつ、作物の種子が収められた壺を眺めるのであった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パルル・トテポチカ 通称:甘汁根

 

和名:ウナギダイコン

 

先端が丸く膨らんだ白く太い主根とダイコンの様な葉を持つ根菜。

空の民の保存庫で保存されているが、原始的ながら品種改良がされており、大陸で育てられている原種よりも巨大。

表面の皮は渋く、食用に適さないが、内部はゼリー状で、味は米を噛み続けたときに感じる甘味に似る。

アロエの様に食物繊維の塊であるが、糖分を多く含み、ビタミン・ミネラルなども豊富で栄養価も高い。

ある程度温かい気候でないと、育たないが、日本の気候では普通に育てられるので、新種の作物として注目が集まっている。

・・・・・見た目的な意味でも。

 

 

ニュニュポ・ポニュチカ 通称:双球芋

 

和名:フタタマフクロイモ

 

ジャガイモの様な外見の塊根を二つ作るイモ類で中心部はヌルヌルした粘膜で覆われたデンプン質の部分がある。

表面は稲荷ずしの皮の様な触感で、引っ張ると容易く破け、粘液と共に可食部が転がり落ちる。

生のままでは、無味に近くドロドロして食べられたものではないが、茹でると、モンブランの様に甘くてふわりとした食感になる。

ビタミン類は左程でもないが、糖分を多く含み、珍味として大陸でもごく少数育てられている。

ある程度の温かさと、大量の水を要するので、育てるのが難しいが、水源さえ確保できれば量産が出来るかもしれないと注目が集まっている。

・・・・・見た目的な意味でも。

 

 

 

 



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第43話   広がるサブカルチャー

ギュオオオオオオオオオオン!!

 

猛獣のような雄たけびを上げつつ、高速で羽を回転させる巨大な羽虫、その羽虫の頭部から連続して発射される光弾が、相対する羽虫に着弾し、煙を上げる。

しかし、先ほど追尾していた羽虫が視界から急に消える、否、急減速したお蔭で目の前から消えた様に感じたのだ。

 

ババババババババババ!!

 

甲高い音共に放たれた光弾が、背後から浴びせられ、ついに耐久限界を迎え爆散する。

 

戦果を確認する様に旋回しながら、異形の羽虫は、太陽の光を反射させながら雲海へ潜って行く・・・。

 

 

 

「いやぁ、まさか大陸で映画が見れるとは思っていなかったよ。」

 

「下に出ていた文字は、大陸で荒野の民が使っている言語か?」

 

「そうそう、娯楽も少ないから、現地民も興味津々、チケットも現地通貨に合わせて安価に設定されているから、売り切れ御免状態さ」

 

「でも、これ少し前の映画だろ?最新作の映画は上映されていないみたいだし・・・。」

 

「贅沢言うなよ、個人シアターをちょっと大きくした程度の規模ではあるが、スピーカーにも金かけて重低音バッチリだし、そこら辺は目を瞑るもんだよ。」

 

「安価に設定しているのもそういう背景があるという事か、まぁ、良い暇つぶしにはなったよ。」

 

 

ぞろぞろと、上映が終わって、規模の小さい即席映画館からゴルグの住人が出て行くが、その中にローブで身を包んだ人物が裏路地に向かって行き、

同じような黒ずくめの衣装を身にまとった集団と合流した。

 

「ニッパニアの劇とやらは楽しめたか?」

 

「いや、驚きすぎて楽しむ余裕も無かったな。」

 

「あの施設で何が行われていた?」

 

「上から垂れ下がった布に、魔道具から色のついた光を照射する事で、動く絵を映し出す物だ。」

 

「動く絵・・・とな?」

 

「ニッパニアの兵士に聞いてみたが、何枚もの透けた獣皮紙に絵を描いて、それを高速でめくり続ける事で、あたかも絵が動いた様に見せるらしい」

 

「獣皮紙をそれ程までに調達できる資金力があると言うのか?」

 

「いや、正確には獣皮紙ではない未知の素材だったが、何にせよ、我々の理解の範疇を超える技術で作られているとみて良いだろう。」

 

「して、肝心の劇の内容は・・・?」

 

城塞都市ゴルグに訪れた密偵が、日本の上映した映画の内容を仲間に伝えると、渋い顔で顔を見合わせて口を開いた。

 

「あれは、恐らくニッパニアで実際に使われている魔導兵器の絵だろう。」

 

「空を飛び、狙った獲物を引き千切る致死の閃光、ゴルグガニアを襲撃した部隊に大打撃を与えた物と同質ものと見て間違いないな。」

 

「唯でさえ常識外れの火力を有しているのにも関わらず、空を自由に飛び回り、大地に死を降り注ぐ羽虫か・・・・。」

 

「幾ら近隣諸国と連合を組んだとて、敵う筈も無し・・・・か。」

 

「国に戻り、この事を伝えなければな、連合軍結成の件は見送るべきだろう。」

 

「そもそも、新たに建設されたゴルグガニアの防壁が完成した時点で手遅れだったのだ、いや、防壁が無くとも、ニッパニアを打ち破る存在などこの大陸には無い。」

 

「ニッパニアに動きが見えないのが不気味だが、動ける内に動いておくべきだろう、状況によってはニッパニア側についた方が賢明かもしれん。」

 

 

黒ずくめの密偵達は、商人風の服装に着替えて、馬車に荷物を詰め、旧城門をくぐり、その外に新設された新防壁の門へと向かうのだった。

 

「(・・・・しかし、あの動く絵の劇の内容・・・・続きが気になるな・・。)」

 

実際に映画を見た密偵の一人が心の中でつぶやくと、祖国にニッパニアの情報を伝えるために帰路へと急いだ。

 

 



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第44話   国交への道

「ニッパニアからの特使だと?」

 

異世界の大陸のとある小国にて、数匹の鎧虫に乗った斑模様の兵士が接近中と言う情報を聞き、その国は色めき立ったが、

彼らの目的は、国交を正式に結ぶために訪れたと言う。

 

「異形の鎧虫と兵士の護衛が多数、そして、ニッパニアの外交官です・・。」

 

「ぐっ・・・対・ニッパニアの為の連合を結成しようとしている時に・・・。」

 

「未確認情報ですが、連合を組む予定の国々にもニッパニアの特使が訪れているみたいです。」

 

「・・・・成程な、ニッパニアは複数の国を敵に回すよりも、味方に引き込んでしまうほうが良いと判断したのだろう。」

 

「なんとも狡猾な種族です。」

 

「ふん、流石のニッパニアも危機感を抱いたか、しかし、此方に大きな利益が無ければ、突っぱねてやるわ」

 

 

城門が開くと、鎧虫が独特の唸り声を上げながら、街道の石畳の上を走り、街の住民は、驚いて建物の中に逃げ込んだり、

異形の鎧虫と兵士を興味深く観察していた。

 

 

「日本国ゴルグ行政代行官にして今回特使として派遣されました山崎由紀です」

 

「ほほう、ニッパニアには女性の外交官もおるのか、遠路はるばるご苦労だったな。」

 

「ヤマザキ殿、このお方が、この国を治める国王です。」

 

「うむ、このまま立ち話も何なので、城の会議室で続きを話そうか・・。」

 

 

特使と言うのだから、少なくとも凶行に及ぶ事は無いのだろうが、万が一に備えて、監視と牽制を兼ねて数名の兵士を部屋の片隅に立たせる。

 

「では、早速ですが、対等な立場での国交を結びたいと思います。」

 

「貴国と国交を結ぶ事は吝かではないが、大陸に訪れてすぐ、ゴルグガニアを武力で制圧し、その手中に収めたと聞くが・・・。」

 

「日本は、貴国と争うつもりはありません、それに、その指摘に関しては日本に非は有りません。」

 

「ほほう?」

 

「ゴルグと国交を結ぶために、特使を派遣したものの、騙し討ちに遭い、使節団は全滅、拷問を受け、我々に見せつける様に城壁へ遺体を張り付けたのです。」

 

その話の内容に、国王は少なからず驚いた。特使を騙し討ちし、死体を晒すなど、まともな国ならばやらない、ましてや碌に戦力も分からぬ未知の国相手で・・・だ。

 

「ふむ、しかし、その様な情報は聞いていないが・・・。」

 

「特使の遺体が晒されていたのは、我々がゴルグを陥落させるまでの間の短期間でしたからね、現在は、本国の墓地に納骨されております。」

 

「さぞ無念であっただろうよ、ニッパニアがゴルグガニアを攻めるのも理解できる、その話が本当ならばな。」

 

「余りこういう会談の場で見せるべきものではないのですが・・・・仕方ありませんね・・・。」

 

山崎特使が懐に手を伸ばし、部屋の隅に立っていた兵士が、剣に手をさり気なく添えるが、彼女はそれに意にもせず、白い石板の様な物を取り出した。

 

「・・・・・これを・・・見てください。」

 

山崎特使が、魔道具と思わしき石板を操作すると、少し目を背ける様にしつつ石板を差し出す。

 

「こ・・・これはっ!!!?」

 

石板に映し出されたのは、焼け焦げ、血にまみれた死体が城壁に吊るされている絵だった、その惨たらしさ去ることながら、

その絵はまるで、その場面をそのまま切り取ったかの様に精巧に描かれていた。

 

「焼け焦げた死体に、損傷が激しいとはいえニッパニアの服と一目でわかる衣装、そして、これは間違いなくゴルグガニアの城塞。」

 

「写し絵、もしくは、写真と言う物です。その風景の一部を切り取る道具と言いましょうか・・・。」

 

「シャシン・・・・ニッパニアには、この様な魔道具があると言うのか・・・しかし、この光景は・・・・。」

 

周りの兵士も、遠目から確認できる石板の絵に驚きつつも、ゴルグガニアの行った蛮行に怒りを感じ始めていた。

 

「貴国の言い分は理解した、だが、その上で貴国は我が方に何を望まれるか?」

 

「我々が求めるものは以下の通りです。」

 

 

:両国は互いに独立した国家であることを認める。

:両国は互いの国境を峡谷に流れる大河とする。

:両国は交易協定を結ぶ。

:両国は互いの安全を保障する相互不可侵条約を結ぶ。

:両国は互いの国に大使、並びに領事を派遣し自国民の権利を保障する。

:両国は正式に国交を結ぶにあたっての法整備をする。

 

「ふむ、妥当な内容だな・・・。」

 

「日本国は必要とあれば、あなた方の要請次第で支援や援助などを行う用意も御座います。」

 

「それは有り難いな、それならば我らも、力になれる事があれば手を貸そうぞ?」

 

「有難う御座います。」

 

ふと、何か思い出したかのように手を叩くと山崎特使は、視線を後ろの扉に移す。

 

「あぁそうでした、我が国から贈呈品が御座います。」

 

暫くして、広間に次々と鎧虫の荷台から降ろされた色とりどりの鮮やかな布や、工芸品などが並ぶ

 

「これは・・・何と見事な・・・。」

 

「それは、ガラス細工と言います。この大陸では珍しい物かと・・・・」

 

「ニッパニアにはさぞ優秀な職人が居るのだろうな?」

 

「えぇ、それも沢山です。」

 

「素晴らしいな、この様な国と国交を結べるのならば、我が国も現在よりも発展が望めるだろう。」

 

「ただ交易をするだけでなく、日本の技術を広く伝えたいと思います。」

 

「ニッパニアの技術とな?だが、その様な物を外部に漏らして良いのだろうか?」

 

「農業技術から、採掘技術など、他にも様々な技術を提供いたしましょう・・・その代り・・・」

 

 

会談が終わり、日本の特使が帰ると、国王は頭を抱えて椅子にもたれかかるのであった・・・。

 

「まさか、自国だけでは食糧を賄いきれないとは・・・・あれだけ強力な国が・・・。」

 

「意外でしたね・・。」

 

「ニッパニアの農業技術の内容が本当ならば、同じ面積で今の数倍は収穫量が見込めるが、その殆どを買い叩かれては・・。」

 

「最初に抱いた印象とは、また別な意味で狡猾な種族の様ですね。」

 

「ぬぅ・・・ヤマザキ特使が言うには、収穫量によってニッパニア側も輸入量を減らすと言っていたが、総合的にみると国民に食わせる量が以前よりも減ってしまうぞ。」

 

「ニッパニアから沢山の外貨が手に入るのは魅力的なのですがね・・・。」

 

「連合を組む予定だった国々も似たような事を言われているのだろうと思うと、何とも言えない気持ちになる・・・。」

 

「ニッパニアと相互不可侵条約を結べただけ良かったと思いますがね、あの国との戦に備えなくて良くなるのですから。」

 

「そうだな・・・・だが、ヤマザキ殿が最後に言っていた言葉が気になるな・・・。」

 

「他の国の代表者や特使をタネガシマと言う孤島へ招待する・・・ですか・・・。」

 

 

 

 



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第45話   天空へ昇る巨塔

空はやや薄暗くなりつつあるが、照明によって昼の様に明るい会場、異世界の国々の代表や特使が日本のある孤島に集められ、祭りの様な騒ぎになっていた。

 

「え~~本日は、大陸の皆様に集まって頂き、誠にありがとうございました。」

 

『ニーポニア直々に我々を招集するとは、どういうことなのだろうか?』

 

『分からぬ、私はニッパニアが見せたいものがあると言って、この孤島に案内されたのだが・・・。』

 

「この地に我が国日本が転移して、多くの時間と資金と資源を費やし、遂に実現しました。」

 

『ニパンの言葉は、まだそれ程理解できん、演説の内容くらいは、大陸標準語で話してほしい物だが・・・。』

 

『私も部分的にしか理解できぬが、なにやら大きな偉業を残すべく何かをするらしい・・・。』

 

「従来の人工衛星は打ち上げ後の姿勢制御に制限がありましたが~~~・・・・」

 

『っ・・・あれは、我が怨敵の帝国ではないか、奴らもこの国の招集に応じたと言うのか?』

 

『ふん、3つの小国を手中に収めたからと言って、帝国を名乗るだの身の程をしらぬ、ここがニッパニアで無ければ首を跳ねていた物を・・・。』

 

「新型の魔石機関を搭載する事で、半永久的にエネルギーが供給され続けるので~~~・・・」

 

『しかし、ニーポニアの料理は美味いな、これ程贅沢に香辛料を使用した料理など、滅多な事では味わえんぞ・・・。』

 

『この黒い茶も中々良いな、単体では苦みが強いが、この白い液と粉を混ぜる事で、まろやかな風味になる。』

 

『白くて甘い粉状の調味料など聞いた事も無い・・・一体何で出来ているのだろうか・・・。』

 

「そして、人類初、そして新世界(アルクス)初の魔石搭載型人工衛星打ち上げとなります。」

 

 

「それでは、皆様、カウントダウンがそろそろ終わりに近づいてきました、H-ⅡAロケットの発射まで残りわずかとなります。」

 

 

既に暗くなっていた空は、更に暗さを増し、星が見えつつあるが、その暗闇を切り裂くように、巨大な塔の様な物がライトアップされる。

 

 

『なんだ、あれは?』

 

『前から気になっていたのだが、あの塔は一体何だ?金属の塊で出来ている事は理解できるが・・・。』

 

『巨大な祭壇なのかもしれぬな、あれ程の大きさの触媒で儀式をすれば、何が起きても不思議ではない』

 

『ま・・まさか、あの塔を使って、我らを幻惑魔法で使役するつもりなのでは?・・・くそっ、迂闊だった!』

 

「それでは、カウントダウンに入ります、ここから見えるあの建物にご注目ください。」

 

 

10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・リフトオフ!!

 

 

突如、先端の尖った塔の様な物体が、爆炎に包まれたと思いきや、その巨体が炎を吹き出しながら空高く飛び上がる。

 

 

『なっ!?何だあれは!!??』

 

大陸の国々の代表達が、その光景に釘付けになる。

 

やがて、炎を吹き出しながら上昇する物体は、雲を突き抜け、本来ならば暗闇に包まれている筈の空を夕暮れの様に照らしながら、なおも突き進む。

 

 

『ニーポニアは・・・異空の民は・・・あの様な物を作り上げる事が出来るのか・・・?』

 

『彼らは、神か・・それとも、魔か?』

 

 

徐々に、火を噴き空を飛ぶ塔の様な物体の音が遠のき、夜を夕暮れの様に照らしていた光も消え、大量の煙だけがその場に残された・・・。

 

 

「では皆様、こちらを、ご注視ください。」

 

 

会場の隅に設けられた、大型スクリーン(大陸の代表達には何かの飾りに見えていた)に映像が映され、何やら図形の様な物が表示されていた。

 

 

「固体補助ロケット第1ペアは既に燃焼終了しており、固体補助ロケット第1ペア分離中です。」

 

勿論会場に居る大半は、その内容を理解できていない、しかし、彼らは黙って演説を聞き続けた。

 

「SRB-Aの分離画像が届きました、無事に分離しましたね。」

 

『何という光景だ・・・・この様な高さで地上を見下ろす事になるとは・・・。』

 

『あの塔は、ここまでの高さに打ち上げられたと言うのか?ありえん!』

 

「衛星フェアリングの分離の様子です・・・・ひすい1号、分離成功です。」

 

魔鉱石の青白い光を放ちながら、形状を変化させながら離れて行く奇妙な物体・・・異空の民は、ヒスイイチゴウと呼んでいる様だが・・・。

 

「新世界(アルクス)の地形の情報収集や、気象観測など、これからも衛星を打ち上げ続け、新世界の発展に努めようと思います。」

 

『・・・・・。』

 

「それでは、有難う御座いました!!引き続き、お食事をお楽しみください。」

 

 

 

打ち上げに関わったスタッフは、お祭り騒ぎではしゃいでいる様だが、大陸の国々の代表達は、お通夜の様に沈んでいた。

ある者は、放心状態で空を眺め続け、ある者は、唇を青く染めて頭を抱え込み、ある者は、魅入られた様にうっとりとスクリーンを眺めている。

 

 

後に、この島で起きた事を代表達は、それぞれの祖国に伝え、日本の得体の知れない力を恐れた大陸の国々は、連合軍結成の件を見送る事にした。

 

 



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第46話   異世界に広がる外来種

日本ゴルグ自治区から少し離れた港町、かつてゴルグが収める町だったが、ゴルグが陥落した事で、日本が統治する事になった。

 

大型船が乗りつけられるように拡張工事の最中である港町は、未だかつて無い程の繁栄をしていた。

 

「ほぉーーっ、ヘンテコな魚が沢山並んでいるぞ!」

 

日本と大陸を結ぶ交通の要となりつつあるこの港町は、休暇中の自衛官が見物しながら散財する事が多く、市場も賑わいを増していた。

 

「烏賊なのか蛸なのか微妙な生き物が壺の中を蠢いているぜ?味はどうなんだろうな?」

 

「いらっさゃいませ、何をお求めでしょうか?」

 

「この頭がまん丸くて白い蛸っぽい奴、どうやって食べるんですか?」

 

「あー・・・これは、〆た後、一晩塩に打ち込んでおいて、食べる時に水洗いをしっかりやった後、茹でてそのまま食べるんですぜ。」

 

「へぇ、美味そうだな、じゃ、それを1匹・・・・うん?」

 

異世界固有種と思われる魚介類に並んで、見覚えのある魚が葉っぱを利用した皿に山積みになっているのを見つける。

 

「赤目河豚と草河豚じゃないか?へぇ、こんなのもここら辺の海域でとれるのか!」

 

「あの・・・旦那、これは毒魚ですぜ?最近潮の流れが変わったのか、見た事も無い魚が釣れるようになりましてね。」

 

「見た事も無い魚?」

 

「へいへい、つつくと膨らんだり、ぎょっぎょっと、変な鳴き声を上げるから、珍しがって食べた奴らが居まして・・・・。」

 

「河豚を食べる!?・・・あの、その人たちはどうなったのですか?」

 

「暫くすると青い顔をして、口から泡を吐いたと思ったら、そのまま土色になって死んじまったよ、だから最近は毒矢の材料として使われるようになっとりますね。」

 

「何とも痛ましい事故ですね、日本ではその魚を食べてしまった場合の対処法がある程度確立されてはいますが、死亡率はやはり高いですね。」

 

「ニーポニアは、この毒魚の毒も対処済みという事ですか、やはりと言うか、流石は大陸に名を轟かせるだけありますな。」

 

「ちなみに、この河豚だけど、日本では毒の部位だけ取り除いて食べる方法もあるんだよ。」

 

「毒魚を食べる方法!?そんなのもあるんですかい!?」

 

 

魚屋の店主は信じられない事を聞いたと言う感じで、目を大きく見開く。

 

 

「私は、やり方を知っている訳ではないけど、専門の料理店が、河豚の毒を回らない様に毒の臓器を切り取って食べられるようにしているってさ。」

 

「ニーポニアは何故そこまでして、毒魚を食べようとしたんですかい?」

 

「はははっ、我々は食い意地を張っていますからね、」

 

「食い意地だけで毒魚に手をだすなんて、信じられませんな」

 

「最近ゴルグに進出した料理屋でフグ料理でも頼もうかね、店主さん、さっきの白い蛸1匹と草河豚を3匹くださいな。」

 

「は・・・はぁ・・・。」

 

 

自衛隊員が去った後、魚屋の店主は、茫然とした顔で自衛隊員の消えた城塞都市ゴルグに続く道を見続けた。

 

「ニーポニアは・・・異世界の国は、食い意地だけで毒魚すら調理してしまうとは・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レディカ・ポロクチオ 通称:赤毒玉魚

 

 

和名 アカメフグ

 

日本では、毒魚として認識が広い赤い目を持つ河豚の一種。神経毒のテトロドトキシンを含み、食中毒で命を落とす者が後を絶たない。

元々地球原産の魚だが、異世界へ転移する事で、惑星アルクスの海に生息域を広げ、生態系汚染を引き起こしている。

また、その特徴的な姿から、好奇心で口にする異世界人が多く、中毒死が多数発生している。

 

 

 

プクク・ポロクチオ 通称:緑毒玉魚

 

 

 

和名 クサフグ

 

 

日本では食用として広く知られている、毒魚で、その身には神経毒のテトロドトキシンが含まれる。

日本の転移に巻き込まれる形で、異世界にもその生息域を広げ、大陸沿岸部で食中毒の被害が発生している。

適切な処置を施していないで、食すと非常に危険、一方、ウミビトを初めとする海の民はテトロドトキシンに強い耐性を持つことが確認されている。

耐性もさることながら、肺機能が低下しても高い皮膚呼吸による酸素供給で生存性は地球人や陸生型アルクシアンよりも高いが、

それでも、摂取は危険で、海の国で法規制が検討されている。

 

 



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第47話   忍び寄る不穏な空気

大陸有数の城塞都市であるゴルグが日本によって新しい防壁が築かれ、機械化が進んでから早数か月、

民間からの大陸進出の要望と圧力がかかり、日本国政府によって試験的に城塞都市ゴルグとその周辺に限り、

民間企業の進出が許可された。

 

 

「いやぁ、異世界の大陸でも醤油と味噌が手に入るのは本当に助かるな。」

 

「地球には無い食材の味を楽しむのも悪くないけど、基本的に味付けが塩だけだしな。」

 

「まだまだインフラ整備は出来ていないが、日本の企業が進出してきたお蔭で、随分と嗜好品が手に入る様になったよ。」

 

「ただまぁ・・・・やっぱりと言うか、ゴルグに元々あった屋台とかは端っこに追いやられちまっているな。」

 

「立地条件の良さそうな所は買い占められちゃっているし、少し気の毒だよ。」

 

「崩れた建物は重機で撤去されているものの、まだ、新しい建物は建てられていないからな。」

 

「ゴルグは大陸に進出するための足掛かり、この街にも復興して貰わないとこっちも困るな、現地の人にも協力して貰わんと。」

 

 

ビニール袋では無く、支給されたマイバッグに醤油や砂糖などの調味料を入れ、宿舎に戻ってゆく自衛官、その後姿を見つめる者たちが居た。

 

 

「斑模様の兵士さん達、自国の店がゴルグに進出して来てから、めっきり来なくなってしまったな。」

 

「けっ、だから言ったんだよ、ニーポニアの連中は信用ならんし当てにするだけ無駄だと。」

 

「いやいや、最初の頃は焼き鎧虫とか穀物粥を買ってくれたんだし、今だって少ないけど客として来てくれているじゃないか。」

 

「アンタの気持ちは解るよ、爆炎魔法で店を吹き飛ばされて働き場所と住む場所を奪われているからね、でも、無償で小屋を提供してくれたのもニーポニアなんだぞ?」

 

「はぁ!?あんな木で出来た小屋と石造りの家を比べろってか!?一方的に住む場所を奪ったのは斑の連中だろ!!」

 

「いい加減にしろよ、そもそも戦争に敗れた国の住民は全員住む場所を奪われ、奴隷にされるのが普通なんだよ!」

 

「ぐっ・・・・。」

 

「防壁の外にあったスラム街の住民にも新しい木造小屋を作ってくれたんだ、それも端材じゃないしっかりとした木材の奴をな。」

 

「それによ、前の防壁の外にあるスラム街だった場所を覆うように新しい防壁を作ってくれたんだ、昔よりも安全で心強いじゃないか?」

 

「だが、俺達の生活を奪った事は事実だろ!奴らが攻めて来なければ、俺は貴族相手に商売を続けられたんだ!」

 

「もうだめだコイツ・・・・話にならない。」

 

「貴族お抱えの商人って奴は、傲慢なのが普通なのか?ニーポニアが攻めて来た理由だって、その貴族さまや王族さまだといのに・・・。」

 

「まぁ、元々王族の連中は腐っていたからな、石投げ遊びをしていた少女に馬車が傷ついたと難癖をつけて、荷台に押し込んで拉致する事もあったし」

 

「まったく、ニーポニア様々だよ。」

 

 

そして日が沈み、辺り一面は暗闇に包まれた。。

昔のゴルグなら既に町全体が静寂に包まれている筈だったが、異世界の国、日本が持ち込んだ魔道具が街を明るく照らし、

特に日本から進出してきた店の内部は、昼間のように明るかった。

 

「いやぁ、ニーポニアの店は夜遅くまでやっていて助かるなぁ。」

 

「飯も上手いし、酒も上質だ!狩の後にはこの、ビィル とか言う奴が最高だぜ!」

 

「姉ちゃん、ネギマ と言う奴もう1本頼む!!」

 

「はいはい、少々お待ちくださいねー!」

 

夜とは思えない活気に、多くのゴルグの住民は、心を躍らせていた・・・一部を除いては・・・。

 

「畜生、奴らさえ現れなかったら、あの客は俺の物だったのに!」

 

「何なんだよ、・・・何で香辛料が庶民にも届く値段なんだよ、砂金と同じ扱いだったのにっ!」

 

「(悔しい、妬ましい・・・ニーポニアが憎い、生活を奪った奴らが憎い、仕事を丸ごと奪った奴らが憎い!!)」

 

「奴らのせいで商売上がったりだ!どうすれば腹の虫がおさまるんだ畜生!」

 

『ソルディ・ア・オツカマスター・テェンチョー・モ・キョーツケテェー(それでは、お疲れ様でしたー!店長もお気をつけてー!』

 

「店仕舞いか、ふん、こんな時間にまで商売を続けていたのか?金の亡者め」

 

「しかし、こんな夜中に帯剣すらしていないとは、無防備な・・・舐め腐ってやがる」

 

「お・・おい、早まった真似をするなよ?ニーポニアの憲兵がうろついているんだ、手を出すなよ。」

 

「奴らは大きな建物一か所に集まって暮らしている様だ、なに、ちょっとだけ見学するだけだよ・・・くくくっ」

 

「厄介事を起こすなよ、何かが起きても俺は関係ないからな。」

 

「(ニーポニアの民だ、欲しがる所なんて幾らでもある、一人や二人いなくなっても誰も気にやしないだろう・・・。)」

 

 

民間の進出で、大きく変化しつつあるゴルグ自治区、表面上は、かつての都市国家時代よりも大発展し、活気に満ちている様に見えるが、輝きが強い分また闇も濃くなる。

治安は回復し始めてはいるが、大陸に進出した日本に降りかかる災厄の芽は人知れず育っているのであった。

 



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第48話   尾行する者

大陸中央部を覆うように広がる大森林地帯、魔力を多く含む土地の影響で異常に発達した巨木が光を遮り、部分的に夜のように暗い場所が存在する。

また、入り組んだ地形や、危険な生物も多く生息する為、調査があまり進んで居ない土地である。

 

例外的に、この森の原住民であるトワビトは、他の種族に比べて森の地形を熟知しており、地形調査をする自衛隊にとって大きな助けになっている。

 

『この先は、我らでも滅多に訪れる事が無い魔境だ、あまりにも危険な魔物が闊歩している、行くのは自殺行為だ。』

 

「えぇっと、この先は、危険生物がわんさか居るので行くのは自殺と同じだと言っているみたいです。」

 

「あぁ、成程、それでガイドさん汗かいているのね。こりゃ気を引き締めないといかんなぁ」

 

『それでも、お主らは、この先に進もうと言うのだろう?鋼蟷螂の群れを撃退し、国を滅ぼしかねない巨獣を打ち倒したその力、見せて貰うぞ』

 

「お手並み拝見だとさ、いやぁ、わくわくするねぇ」

 

「いや、嫌な予感しかしないのですが・・・」

 

『ここから遠目に見えるあの山には、以前この森を襲った鋼蟷螂の元々の生息地が広がっている、鋼蟷螂はむしろ食われる方の鎧虫でな、巨大な魔物が鎧虫を目当てに徘徊しているぞ。』

 

「ふんふん、成程、この前の蟷螂の化け物を餌にするようなデカい化け物も居ると?」

 

『流石に古代重甲獣を超える様な巨獣は居ないが、それでも十分に巨大だぞ?そして、数はそれなりだ、多くは無いが希少な訳では無い、まず遭遇すると見て良いだろう。』

 

『大丈夫です、前回の調査でこの森の危険生物の脅威度は十二分に検証しております。その為の重火器です。』

 

自衛隊員が仲間の背負っている筒状の物体、カールグスタフを指さしてガイドのトワビトに説明する。

 

「カールグスタフがあれば、大抵の野獣はイチコロだろうよ、そもそも野獣にこんな武器を使用するなんて想定されていないんだぞ?」

 

『アドル魔術長が言っていた火を噴く特大杖か、お主らの持つ魔術杖の大型版と言った所だろうか、それ程の大きさなら火炎魔法の威力も桁違いだろうな。』

 

トワビトのガイドが感心したようにカールグスタフを眺めながら頷く

 

「それでは、大森林の深部を目指して調査を開始しましょう!空からでは分からない事が多すぎます。」

 

調査を開始した自衛隊は、鬱蒼と生い茂る大森林の深部に向かう、大森林の中央部には巨大な山が存在し、そこには現地住民ですら立ち寄る事を躊躇う危険生物の生息地が広がっていた。

道中、未知の鎧虫に襲われたり、落とし穴と化した鎧虫の古巣へ同行していた生物学者が落下したりと、様々なトラブルに見舞われるものの、何とか目的地の山へ到着した。

 

「道中どうなるかと思ったけど、何とかなるもんだな、しっかしまぁ、随分と大きな山だ事。」

 

「形はそんなに綺麗ではないけどな、なんか中年のおっさんが横たわっているみたいだ。」

 

「そんなこと言っていると本当におっさんに見えてくるから止めてくれよ、取りあえず安全を確保した後は地質学者さんの出番だな、俺達はその護衛っと」

 

『見事な物だな、厄介な鎧虫として知られる、岩蠍を秒殺するとはな、我々がこれを倒すのに最低1つは魔石を使用しなければならないと言うのに・・・。』

 

『いやぁ、実際急所の眉間に火力を集中させていなかったら危なかったですよ?弱点を教えてくれて有難う御座います。』

 

『なに、ここら辺は我々にとっても未知の領域、お主らに同行する事によってこちらにも利益があるのだ、気にしないで良い。』

 

 

大森林中央部に聳える山には、今まで遭遇した異世界の生物の中でも異彩を放っていた、金属の膜をもつ苔やそれを貪るワラジムシの様な鎧虫、それを捕食する鋼蟷螂、そしてそれを捕食する大型の甲獣。

何れも体内に高純度の魔石を宿す生物ばかりで、荒野で見かける生物よりも比較的丈夫な体格を持つ様だ。

 

 

「ん?音が・・・・んぁっ!?上から何か来るぞっ!?」

 

『な・・・なんだこの魔物は!?』

 

「現地の人でも知らない生き物らしいです!!た・・・退避!退避!」

 

ギャオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

まるで全身が火成岩でできているような、ごつごつとした甲殻を持つ爬虫類が空から降って来る。まるで岩山の一部を削り取りそのまま蜥蜴に張り付けた様な歪な造形を持つ謎の大型生物が調査隊を獲物と見なし牙をむき出しにする。

 

タタタン!タタタン!と一定のリズムで、頭部を狙って銃撃するが、鱗を何枚か吹き飛ばすだけでまるで効果が無い様に見える。

 

「なんつー硬さだ!」

 

「カールグスタフを叩き込む!どいてろ!」

 

発射音と共に光の矢が岩の様な蜥蜴に向かって突き進むが、青白い光を発し粒子をまき散らしながらその巨体が宙を舞った。

 

「と・・・飛びやがった!?」

 

『馬鹿な、あの巨体で・・・・っ!!』

 

「え・・・・エーテルカイトかっ!?」

 

前脚に折りたたまれた翼膜を大きく開き、魔力の渦を発生させ、それに乗る様に飛行する巨大生物、丁度調査隊の真上に到達したころに、胸部が赤紫色に激しく点滅する。

 

『いかん!!』

 

光が胸から喉に、喉から頭部に移動し、口腔から光が漏れだす。そして目が眩まんばかりの光が辺り一面を覆いつくすと、轟音と共に放たれた強烈な電撃が、地上のあらゆる物を焼き、蹂躙する。

 

 

「うおおおおぁぁぁぁぁっ・・・・?・・・はっ?、・・い・・・・生きているのか?俺は?」

 

『何という威力だ、防ぐのに魔石を3つも使う羽目になるとは・・・』

 

気が付くと、トワビトの案内人が杖の先端に巻き付けた魔石を使って光の壁を形成し、光のドームが調査隊を包み込んでいた。

光のドームの外は真っ黒に焦げ付き、異臭が漂っている。

 

グルルルルルゥ・・・・。

 

巨大生物は、必殺のブレスが防がれた事で苛立たしそうな表情を作ると、岩山の壁面に着地し、威嚇する。

 

「お蔭で命拾いしたぜ、感謝する!」

 

「やってくれたな、こん畜生!まずは、動きを止めろ、スタングレネード!!」

 

壁に張り付いた巨大生物の眼前にスタングレネードを投げ込み、閃光を発し轟裂する。

 

ギャオオオオン!?

 

壁からずり落ち、地面に叩き付けられ、巨大生物は苦しそうにもがく

 

「装填完了、今度は外さない!!」

 

しかし、巨大生物は予想以上に早く体勢を立て直し、戦闘態勢に移ろうとしていた。

 

「なっ!?(自ら雷光を発するが故に閃光に耐性があったのかっ!!不味い!!)」

 

再び空を舞おうと翼が青白く輝き始めるが、翼膜に銃撃が殺到し、翼膜が穴だらけになる。

 

グァッ!?

 

魔力の渦を形成する器官に異常が発生し、暴発するように魔力の渦が片腕を跳ねあげ、そのまま体を岩壁に叩き付ける。

 

「今だ!!!」

 

2発目の光の矢が吸い込まれるように、巨大生物の胸部に飛んで行き、頑丈な鱗を吹き飛ばし、心臓を破壊する。

この世の物とは思えないほどの断末魔の叫びをあげ、辺りの空気がビリビリと震え、そして、巨体が力なく崩れ落ちる。

 

「終った・・・・のか?」

 

『この様な魔物が、大森林の深部に生息しているとは・・・・。』

 

「現地住民も知らないとなると、本当の本当に未確認生物だったという事か。」

 

「取りあえず解体した後、回収するぞ、森の入り口にトラックが待機している。」

 

『我々の先祖が育てたこの森は、この様な魔物すら生み出していたと言うのか・・・・。』

 

『たかが1000年でしょう?生物がその土地に適応進化するのに最低でも数万年はかかりますよ?』

 

『いや、唯の動物がその身に魔石を宿し、魔物へ変異する事もある、魔力がこの様に濃い土地では少なくとも3世代以内に変異し始めるのだ。』

 

『3世代・・・・つくづく地球の常識が通じない星ですな。』

 

『我々としては、魔力そのものが存在しない世界と言うのが信じられないがな。』

 

 

現地住民も知らない未確認生物を解体すると、試料運搬用のトラックが待機する森の入り口まで移動する・・・・しかし

 

 

「おい・・・・気付いているか?」

 

「あぁ、つけられているな。」

 

『獣の息遣いを感じる、山を下りる頃からか・・・・。』

 

「ガイドさんも気付いているみたいだね、でも、つかず離れずの距離を維持している・・・か、何者か?」

 

「一応回収部隊にも連絡済みだ、このまま追ってこなければ、それで良いのだが・・・・。」

 

 

薄暗かった森に光が差し始め、入り口が見えてくる、遠目だが、トラックが数台確認できる。

 

「おいおい、もう森の入り口だぞ?まだついてくるのか?」

 

「襲い掛かってくるわけでもなさそうだが・・・・仕方がない。」

 

調査隊の一人が無線で何かを呼びかけると回収部隊の待機する位置から発砲音が聞こえた。

 

ギャン!?

 

短い悲鳴と共に、調査隊の背後から何かが崩れ落ちる音が響く。

 

「さて、ストーカー野郎はどんな奴だ・・・・?」

 

悲鳴の聞こえた場所まで言ってみると、羽のついた麻酔弾が突き刺さったまま謎の生物が昏倒していた。

 

 

「ねぇ、こ・・・これってさっきの・・・。」

 

「いや、似ているが、少し小さいな。」

 

ギャフ・・・グルルゥ・・・。

 

調査隊は森の中央の山で回収した生物の死体と共に、山から調査隊を追跡してきた生物を生け捕りにし、大森林を後にするのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

ベルク・ヴィヴルム 通称 鋼飛竜

 

和名:ヨロヒオオミズチ

 

大陸中央部と沿岸部を隔てる様に広がる大森林の中心に聳える山に生息する大型の爬虫類。

金属の外殻を持つ生物を岩石ごと捕食する事で、金属質の外殻を得た肉食動物で、体内に魔石と連動した発電器官をもつ。

電撃は大抵の金属質生物に有効なので、この山の食物連鎖の中でも比較的高位に位置する。

普段は前脚に折りたたまれている翼は、魔力を発する器官と連動しており、魔力の渦に乗る様に飛行する事が可能。

これは、ソラビトと全く同じ原理での飛行方法であり、地球上の生物よりも大きな体格の生物が空を飛ぶ事が可能である事を示している。

この生物の発見と同時に、見た事も無い巨大な飛行生物が存在するかもしれないと生物学者の間で様々な論文が書かれる事になった。

 

 



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第49話   ワイバーン・パピー

ある獣は、悲しみに暮れていた。

親兄弟は、岩でできた様な外敵に食い殺され、群れは散り散りになり、自分自身も当てもなく孤独に山を歩き続けるしかなかった。

 

ある日、山の上から恐ろしい咆哮が聞こえてくる。あの恐ろしい岩の獣の鳴き声だ、獣は恐怖におののき、岩陰に隠れて様子を伺った。

 

岩の獣は山の上から急降下し、見た事も無い、不思議な動物に襲い掛かっていた。

その不思議な動物は、二足で歩き、体の表面に草木の様な模様の物体を纏わりつかせており、背中に黒く太い木の枝の様な物をぶら下げていた。

 

二足歩行の不思議な動物は、木の枝の様な物から炎を吐き出し、岩の獣を攻撃するが、岩の獣はひらりと火球を飛び避け、空から不思議な動物に向かって雷を落とした。

あの雷は、群れの仲間を一撃で何匹も殺した死の閃光だ、見るからにひ弱そうなあの動物が耐えられる訳が無いと思った。

 

しかし、二足歩行の動物の中でも耳の長い個体は、光の膜で雷を防いでいた。予想外の光景に驚いていると、岩の獣は閃光を浴びて岩の壁からずり落ちて、もがき苦しんでいた。

岩の獣は怒り、再び空から雷を落とそうと翼を広げたが、二足歩行の動物の放った小さな火の玉で翼に穴をあけられ体制を崩し、彼らは再び木の枝の様な物から火球を撃ちだし、今度は命中させた。

どれだけ爪で引っ掻いても、どれだけ牙を突き立てようとも、ビクともしなかった岩の獣の胸殻は、見事に吹き飛ばされ、岩の獣は恐ろしい叫び声を上げて地面に崩れ落ちた。

 

二足歩行の奇妙な動物は、岩の獣をバラバラに解体して集団で何処かへ持ち帰ろうとしている様だ、恐らく巣に岩の獣を持ち込んで、仲間と一緒に食べるつもりだろう。

獣は、岩の獣の肉と、その身に宿す青い石を食べると大きな力を得られると本能的に確信していた、せめて食べ残しのお零れにありつければ、と不思議な動物の後をつけた。

 

しかし、二足歩行の動物の巣までかなりの距離があるらしく、山を下り、森を抜け、荒野へと向かうようであった。

獣は、あまりにも元の住処から離れすぎているので、岩の獣の肉を諦めて山に戻ろうとしていた、その時、聞いた事も無い音と共に首筋にチクリとした痛みを感じた。

痛みの感じた部分を見ると、モコモコしたものと鈍く輝く棘の様な物が首筋に突き刺さっていた。獣の意識が遠のく・・・あぁ、毒を持った虫に刺されてしまったのだろうか?そう感じると気を失ってしまった。

 

 

 

==================================================

 

グゥゥゥゥ・・・・グルルルルルゥ・・・。

 

 

檻の中から爬虫類が唸り声を上げて、檻の柵をガリガリと齧り暴れている。

 

「それで、結局こいつは一体何なんだ?」

 

「大森林の中央部に生息する爬虫類の一種と言うしかありませんな、何故調査隊についてきたのかは分かりませんが・・・。」

 

白衣を着た生物学者と、調査隊に派遣されていた自衛官が要塞都市ゴルグの一角に設けられた生物研究施設で話をしている。

 

「トワビトですら見た事も無い動物らしいぞ?解体した岩の鱗を持つ奴と似ているから、それの幼体か何かじゃないのか?」

 

「遺伝子情報は極めて近い様です。幼体かもしれませんし、その近縁種である可能性もありますね。」

 

「はぁー・・・まぁ、貴重な生きたサンプルだ、ちゃんとデータを収集しないとな。」

 

グルルルルルゥ・・・・クゥゥン・・・・。

 

檻の中から悲しげな声が聞こえてくると、異臭が漂ってくる。

 

「うぇっ、糞たれてやがる・・・。」

 

「おっと、これも貴重なサンプルですな・・ちょっとちょっと、檻の扉を開けるから、その子押さえつけてて!」

 

グゥゥゥ・・・ギャフン・・・。

 

首根っこと背中を押さえつけられ、不服そうに上目づかいで睨めつける爬虫類、特に抵抗もせず、檻の端っこに排泄された糞を回収される。

 

「はいはい、良い子だねー、じゃ閉るね。」

 

ガシャンと、音を立てて扉が閉じ、鎖と南京錠で施錠される。

 

「意外とおとなしいもんだな、さっきまで散々暴れていたのに・・・。」

 

「狭い場所に長時間閉じ込められてストレスが溜まっているのでしょう、広めの檻の調整が終わったら、そこに移す予定です。」

 

「しっかし、こんなに早い時期に生物研究所が設置されるとはなぁ・・・未知の細菌やウィルス対策と聞いていたが、こういう奴も扱っているもんだな。」

 

「感染症対策と言うのは第一目標ではありますね、細菌・ウィルス・寄生虫、異世界の大陸では様々な脅威があるのです。動植物の生態調査もその一環ですね。」

 

「日本本土に妙な病気を持ち込んだら、たまったもんじゃ無いからな。」

 

「此処で食い止めるためにも、現地の研究施設は必要だったのです、しかし、まだまだ未完成な部分も多くて、増築が待たれます。」

 

「まぁ、現時点では研究所と言うよりは研究資材をログハウスに押し込んだだけと言った感じだしな、そう言えば、保管庫自体は大分完成に近づいているんだって?」

 

「そうですね、大森林の動植物を保管、飼育する施設はほぼ完成と言って良いでしょう、後は今回の調査で捕獲した生物の飼育をしながら調整を進めてゆきたいと思います。」

 

ングゥ・・・・ガリガリ・・・。

 

何かもの言いたげな目線で檻の柵を前脚で何度も引っ掻く爬虫類、唸り声を上げながら何度もそれを続けると諦めた様に檻の端っこで丸まってしまう。

 

「まるで犬みたいだな。」

 

「うーむ、このまま狭い場所に閉じ込めるのも良くありませんね、少し予定を切り上げて移動してみましょうか」

 

 

檻を専用のカートに乗せると、数軒隣の建物内にある、大型の檻に爬虫類を移し、様子を見る事にした。

獣は、暫くキョロキョロと周囲を確認すると、山積みになった藁に潜り込み鼻先だけを出して動かなくなってしまう。

 

「ふむ、色々な視線を浴びて精神的に疲れたのでしょう、暫くそっとしてあげましょう。」

 

「意外と繊細な動物なんだなぁ。」

 

「少し調べたのですが、あの動物はまだ幼体の様なんです、親からはぐれたのか元から単独で過ごすのかは不明ですが、まだまだ未発達な部分が多いのですよ。」

 

「そうか、まぁ餓鬼んちょなら、外部からの刺激に弱いのは解るな。」

 

「取りあえず、餌の鎧虫のひき肉だけ置いておきましょう。」

 

 

後日、空になった餌の皿を遊び道具に、口で咥えて床に叩き付けたり、投げ飛ばしたりする幼竜の姿を見る事になる。

 

ギャン!グワッ!ギャウン!!

 

「こらこら、ぎゃんぎゃん吠えるんじゃない!」

 

ンギャ・・・ギャ・・・ニ゛ャ・・・ニ゛ャン!

 

「にゃん でも無いからな?」

 

ふしゅん・・・・ニャフン・・・。

 

要塞都市ゴルグの生物研究所が後に、大陸初の動物公園になるのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

ヴィヴルム 通称 飛竜

 

和名:カンムリオオミズチ

 

大陸中央部と沿岸部を隔てる様に広がる大森林の中心に聳える山に生息する大型の爬虫類。

元はトビトカゲの様な生物だったが、魔石で突然変異したグループの中でも、最も変異前に近い種である。

生体は犬や狼に近く、群れのリーダーに従い、上下関係にも厳しい。

平均的に3メートルから3メートル半まで成長するが、体が大きな個体では5メートルに達する事もある。

翼の部分に体内の魔石と連動した器官をもち、自ら発生させた魔力の渦に乗る様に飛行をすることが出来る。

近縁種の鋼飛竜に比べて体が軽いので飛行能力に勝る。

他のユニークな近縁種に比べて地味ではあるが、頭部から胴体にかけて羽毛に覆われている部分がある。

体内にブレスを発射する為の器官らしきものが存在するが、研究が進んで居ないので用途は不明である。

 

 

 

 



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第50話   蟷螂鋼

大陸沿岸部と中心部を分ける、深く、広く、暗い大森林、多くの国はその森に住む危険な魔物のせいで進出はおろか接近すらも困難で、国によっては禁域として指定されて居る事もある。

しかし、その森にはトワビトと言うリクビトから派生した長寿の種族が集落を築いている。

 

 

『いやぁ、しかし凄い量の鎌が手に入ったな。』

 

『古代重甲獣が鋼蟷螂を追い立てて来たおかけで、こっちは大被害だったが、幸い死傷者は出ず、鎌や甲殻を手に入れることが出来たんだ、結果的には良しとするべきだろう。』

 

山積みになった鋼蟷螂の前脚を眺めながら満足する初老のトワビト。

彼らは、もいだ前脚の中に詰まった肉を棒のようなもので、穿り出し、肉と外殻を別々の容器に移している

 

「あれ、何やっているんでしょうかね?」

 

「何か茹でたタラバガニの身を穿り出している様に見えるな、美味そうな匂いも漂っているし」

 

「ちょいと聞いてみるか」

 

『アンノー・・・すみませんガ、それ、何をする、もぎ取る、分ける、移す? 』

 

自衛隊員が大陸共通語で日焼けした筋肉質なトワビトに話しかける。

 

『ん?あ・・・あぁ、何をしているのかって?鋼蟷螂の鎌を集めて、金属塊を作るのさ』

 

『金属塊?』

 

『鋼蟷螂の鎌を溶かして固めると、蟷螂鋼(マティア鋼)と言う特殊な金属が作れるのさ、武具から工具、日用品など様々な物に使える優れものだぞ?』

 

 

トワビトの鍛冶師が、粘土や砂の様な物で作られた溶鉱炉らしき物が収められている施設を指をさして説明する。

 

 

『マティア、金属?鉄鋼とは違ウ?』

 

『テッコウ?ニーポニアの金属の事?それは知らないけど、青銅よりも頑丈で、粘りもあるのがこの蟷螂鋼さ、魔銅の剣でも打ち勝てる強靭さを持つんだ。』

 

『スティラマティア、ニホン、調べる、主に鉄だっタ、それ、多分、鉄鋼?』

 

『ニーポニアには鋼蟷螂が生息していないと聞いているよ、残念ながら蟷螂鋼は鉱石から作る物じゃないんだ、多分別物だろう』

 

『アー・・・・もっと、調べる、時間ガ必要。』

 

『鋼蟷螂は、金属質の生物を食べて鎌を硬質化させるからね、山から蟷螂鋼が鉱石として掘り出せれば良いけど、そう言った事は聞いていないしねぇ。』

 

『金属塊、少シ、分けて貰エル?』

 

『魔石と交換なら考えても良いよ、さて、鋼蟷螂の肉も茹であがったみたいだし、一緒に食べに行かないか?他のイクウビトさん達も集めればよいよ。』

 

その晩、トワビトの村に派遣されていた自衛隊は、トワビト達に誘われて、鋼蟷螂料理を振舞われた。

 

 

後日、サンプルとして蟷螂鋼を持ち帰った自衛隊は、研究所に依頼して調べてみた結果、原始的な鉄鋼と判明した。

トワビトの鍛冶師などの技術者に、技術交流の為に、マテリアル企業の作った幾つかのインゴットを渡し日本の製鉄技術に驚嘆する事になる。

 

『うぬぅ・・・・見た事も無い金属だ、これは本当に鉱石から作り出したものなのだろうか?』

 

『ニーポニアにはこれ程、強靭な金属を作り出す技術があると言うのか?もしや、あの火を吹く羽虫も・・・。』

 

「こっちとしては、生物の外殻にあれ程、高純度な鉄をため込むなんて正直信じられないんだけどね・・・。」

 

余談だが、この時期、一部のマテリアル企業が、魔鉱石の単結晶の精製に成功し、魔道具の部品に転用できないか研究中である。

 

 

 

 

蟷螂鋼 マティア鋼

 

トワビトが鋼蟷螂の鎌から作り出した原始的な鉄鋼で、荒野の民が使用する青銅剣よりも丈夫。

大陸の多くの国々が鉄器ではなく青銅器を使用しているが、森の民は、数少ない鉄器を作れる文明と判明した。

 



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第51話   マイクロチップ爆弾

異世界に転移して、異世界人と遭遇してから間もなく発見された新資源、「魔鉱石」、

この惑星を構成する主な物質の一つで、様々な超常現象を引き起こす物質として注目が集まっていた。

 

最近になって、魔鉱石に興味を持ち研究をしていた、一部のマテリアル企業が魔石の単結晶の精製に成功、本格的な魔道具の開発を開始しようとしていた。

 

「リクビトの魔法陣のスケッチは全部、頭に叩き込んだか?」

 

「んー、少し怪しい部分はあるけど、ある程度は詰め込んだよ?」

 

「魔石の性質がある程度解明されて来たらスパコンに演算させて理想的な魔法陣を描かせることが出来るかもしれないな、この技術が上手くいけば今までの常識を打ち破る事が出来る。」

 

「無限のエネルギーは人類の夢だからねー、それが実現できるかもしれない奇跡の物質が目の前に転がっている、これはもう好奇心を抑えられないじゃないか。」

 

「天守博士の論文は見たか?観測衛星ひすい1号が観測したデータによると、魔鉱石はこの星だけの物質だけでなくこの次元の宇宙の全域に存在するらしい。」

 

「あー見た見た、何でも元の次元で言うグーゴルプレックス量のエネルギーのやり取りが既に行われていたかもしれないとか言う奴ね。」

 

「この次元は、異次元同士を結ぶ通り道みたいなもので、何もないところから唐突に物質が現れたり消滅したりする現象に関わっているかも知れないとかなんとか・・・。」

 

「時空の歪みが物質として固定されたものとか言われているけど、本当はどうなんだろうかね、凄く危なそうだけど普通に素手で触れるし。」

 

「本当に不思議な世界に来てしまったものだ、だが、興味深い。」

 

リクビトの魔法陣のスケッチが描かれた書類の束を机にしまうと、ドスンと、新しく机の上に置かれたソラビトの魔法陣のスケッチが描かれた書類の束を見てため息をつく。

 

「さて・・・・あー、次はソラビトの魔法陣か・・・リクビトの奴よりも細かいなぁ・・・。」

 

「自作のマムシ酒があるけど飲んでみる?」

 

「遠慮しておくよ、栄養剤に関して俺は錠剤派なんだ。」

 

 

それから暫く経って、精製した魔石の単結晶を使用した実験が某企業の実験施設で行われることになった。

 

「今回使用する魔法陣はリクビトの使用する火の魔法陣の実験だ、異次元から取り入れるエネルギー量が不明なため危険を伴うので、野外実験となる。」

 

「専用のソフトで魔術式を改良させたデザインだけど、集積回路並みに複雑で細かく編みこんであるから多分凄いことになるよ。」

 

「十中八九爆発するだろうよ、わかりきっている事だ。」

 

「問題はその規模なんだよね、今回使用する魔石の量も極めて少ないし、魔術回路も試作段階だから、まさか原子力爆弾並みになる訳ないと思うし・・・。」

 

「しかし、潜在的にはこの星を滅ぼすかもしれない危険性を孕んだ物質であるのは確かだ、だからその扱いに関して慎重にならざるを得ないだろう。」

 

「あっ・・・始まるみたいだよ!サングラスを付けて!」

 

 

実験装置を起動すると、荒野にぽつんと置かれた魔石を加工した魔術回路に魔力が流れ、鋭い青白い光が放たれた後、光が赤みを帯び始め、魔術回路は大爆発を起こす。

遠く離れているにもかかわらず、叩きつけるような轟音と閃光が放たれ、ごうごうと大気の渦が砂埃を巻き上げる。

 

「これは・・・・予想外過ぎるだろう」

 

「もう軽く兵器だよね、これ。」

 

「俺たちみたいな民間に扱わせるには危険すぎないかこれ?」

 

「諦めろ、魔石を含む鉱物はこの世界の彼方此方に転がっているんだ、遅かれ早かれ利用する企業が他にも現れるだろう。」

 

「ウラニウムやプルトニウムみたいな危険物質が石ころみたいに転がっている世界か・・・アルクス人が俺たちの技術に追いついたらどう言う事になるんだろうな。」

 

「最悪この星と共に心中だろうさ、石器時代からやり直せることが出来ればまだ良いほうだろう。」

 

 

 

今回の魔術回路実験によって得られたデータを元に魔石の出力を調整する研究が優先される事になった。

日本政府は、魔石の兵器としての利用に関して待ったをかける事になった。

 

 

 

 

魔法回路

 

魔鉱石を精製して得られる魔石は、特定の配列に結合すると何かしらのエネルギーを異次元から吸収するか異次元に放出する特性がある。

もっともポピュラーなのが顔料に魔鉱石の粉末を混ぜて、魔法陣を描く方法であるが、魔力の制御がうまいものは体内で術式を構成して魔法として放つことができる。

純度の高い魔石を液化させて印を刻んだ石板に流し込み凝固させたものを永久魔法陣として利用もするが、魔石の精製が面倒なうえに液化させる技術も途絶えているので惑星アルクスに現存する永久魔法陣は希少。

現存する永久魔法陣も当時の魔法技術の限界か、「上に乗っていると傷が早く治る」ものや、「気温を一定に保つ」程度にとどまっている。

今回、特定の配列で、どのように魔石が反応するか集積回路の様に魔法陣を複雑に細かく編みこんだ魔石を使用した実験をしたが、異次元から取り込むエネルギーが膨大になり大爆発が起こった。

ピー玉サイズの集積回路魔法陣だったが、その爆発の威力は500ポンドの無誘導爆弾と同等だったという。

 



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第52話   ゴルグ襲撃

大陸に進出した日本の拠点である城塞都市ゴルグ、日本が進出する前は周辺諸国へ度々ちょっかいをかける厄介者な扱いを受けていた国だったが、そんな国でも友好国は存在し、

ゴルグ陥落の報を受け激昂した国も少なくは無かった、日本の攻撃によって死亡した貴族の中にも友好国から嫁いできた者も多く、日本が占拠している城塞都市を奪還すべく、

侵攻を企てる国も多かった。

 

 

『我が名は、カーマ家、次期領主、カーマ・セドック!!我らルーザニアの盟友ゴルグガニアを滅ぼし、城塞都市を不法占拠する不届きものニッパ族よ!即刻降伏せよ!!』

 

唾を飛ばしながら、青銅鎧を身にまとった壮年の男が怒鳴り声に近い声量で、日本ゴルグ自治区の城壁付近で日本に降伏を勧告している。

 

「あー・・・また来たよ、この手の輩・・・。」

 

「盗賊に扮していたり、今回みたいに堂々と正面から喧嘩売ってきたり、本当にうんざりするよ。」

 

「で、ゴルグ付近の集落や街道に居た商人たちはどうなっている?」

 

「ご愁傷様です。」

 

「・・・つまり、そういう事か、外道どもめ。」

 

双眼鏡で丘を覗くと、丸太で作られたレールの様なものを敷いて、投石器らしきものが、みすぼらしい姿の奴隷に引かれてくるのが見える。

 

「あんなのじゃ、防壁に傷一つ、つけられないだろうに・・・。」

 

「あの奴隷、多分近くの村を襲った時に調達した者だろう、かわいそうに・・・。」

 

「ゴルグの開発がある程度まで進めば、近隣にも被害を出させないが、連中はそこまで待ってくれないからな、全く余計な事をしてくれるぜ。」

 

 

馬のような生物に乗り、降伏するよう勧告していた男が丘の上の本隊に合流すると、青銅剣や青銅斧などを装備した兵士たちが叫び声を上げながら突進を開始する。

 

『ゆくぞ!皆の者!ルーザニア王ハイ・ヴォックの命を受け、いざ、蛮族共を打ち取らん!!』

 

『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

ルーザニアの兵士たちの雄叫びが、束なり、まるで巨大な獣が咆哮するような音量になり、空気がピリピリと震える。

 

「見ろよ、この前の襲撃の時よりも、梯子の長さが延長されているぜ?」

 

「前回は盗賊に扮していたが、全滅させた後その場に残っていた梯子は全然長さが足りていなかったしな、やっぱりと言うかあの国が黒幕だった訳だが・・。」

 

「盗賊の洞窟に籠っていた奴らの所から証拠品を押収して、盗賊のせいだ、我が国には関係ないと白を切る事が出来なくなったと思ったらこれだよ。」

 

「まさに脳筋な発想だな、さて、もう十分に引き付けたんじゃないか?」

 

「そうだな、そろそろだ、指示を受けるまで引き金を引くなよ?」

 

 

敵兵が城壁に近づいてくると、城壁上部に備え付けられた銃座からMINIMIや89式の銃撃が雨のように降り注ぐ

 

『な・・・なんだぁ!?敵の魔光弾か!?・・がっ!?・・・げぇぉぁ・・。』

 

『怯むな!進め!進め!蛮族共を滅ぼぴゃっ!?』

 

 

城壁の上から撃ち込まれる十字砲火に、カールグスタフや迫撃砲が加わり、騎兵と歩兵の被害は更に増える

 

『ああああぁぁぁぁっ!!蛮族共め!おのれ蛮族共め!分不相応にも蛮族が我らを打ち倒そうなどおぉぉぉぉ!!』

 

騎兵の絶叫と共に、丘の上の投石器から岩石が放たれる、射程が足りなかったのか、城門手前に落ち、何回かバウンドした後、転がり、ゴツンと勢い無く城門にぶつかる

 

「おぉ、実際に見ると凄い迫力だな、直撃しても傷つかないけど、一応、攻城兵器だしな、投石器を破壊しろ!!」

 

二基のL16 81mm迫撃砲による砲撃で投石器を次々と破壊させ、敵に動揺が走る。

 

『馬鹿な!炸裂魔光丸だと!?あの距離まで届くと言うのか!?』

 

『ば・・・化け物がぁぁぁぁぁっ!!』

 

その日、ルーザニアが送り出した襲撃部隊は全滅し、日本はルーザニアに損害賠償を始めとする様々な要求を、かの国に突きつけた。

ある程度予想はついていたが、ルーザニアは徹底抗戦の構えで日本の要求を断固として拒否すると払いのけた。

 

「凄い数だな・・・・遺体の数は万には届いていないな、数千程か、魔法使いを除き歩兵や騎兵は全て男性と、男手が少なくなっているだろうな、あの国は」

 

「おい、城門に転がっている投石器の岩をどかすぞ、手伝ってくれ!」

 

「ハイハイ」

 

しかし、投石器から放たれた岩石をどかそうと手を触れた瞬間、岩石から青白い光が漏れ、盛大に破片をまき散らしつつ破裂する。

 

「なっ!?・・・がぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

死者は奇跡的に出なかったものの、その場にいた自衛官数名が大怪我を負う被害が発生した。

城門にもわずかながら傷がついたので、自衛隊は慌ててゴルグ自治区を守る防壁の強化を行う事になる。

 

 

 

 

炸裂の岩礫

 

魔鉱石を含有する岩に、魔術師の体から抜き取った鉱物器官(魔石)を詰め込み、衝撃で炸裂するように調整した原始的な榴弾。

今回、ゴルグ自治区の城門に衝突し不発だったが、自衛隊が不発の岩礫をどかそうと触れた途端に信管に当たる魔法回路が作動し、炸裂した。

日本政府と自衛隊は、これを重く見て、城塞都市の防壁の強化を行った。

 



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第53話   魔鉱石の研究

惑星アルクスに転移してから暫くして発見された新資源魔鉱石、未だにその特性の全ては把握できていないが、万能エネルギー資源として早い段階から注目が集まっており様々な魔法装置の試作品が作られる事になる。

 

某企業の研究室にて・・・。

 

「ソラビトがリクビトだった時代に作られた魔法回路は、精密で有用な物が多いですね。」

 

「高純度の魔鉱石が大量に眠る地で暮らしていたから魔石使い放題だったと言うのもあるが、彼らの技術力の高さは強い好奇心と探求心によるものだろう」

 

テーブルの上に置かれ大量の資料を眺めながら話す。

 

「彼らの研究がなかったら俺達も魔法回路の開発に更なる時間を要した筈です、ソラビトの先人たちに感謝ですね。」

 

「簡単な魔法回路、所謂、魔法陣と言われる顔料と魔鉱石の混合物で描かれる方式のものが、大陸に住むリクビトの使う主流の魔法だ、ソラビトの技術には及ばない。」

 

「触りには良いですがね、構造が単純だから理解しやすいですし、模様さえ覚えれば再現は簡単だと思います。」

 

「問題は、我々の体が魔鉱石を利用できるように作られていない点だ、アルクス人は自前で魔法陣を起動する為の魔力を流せるが、我々は機械装置を用いて擬似的に再現する事しかできない。」

 

「魔鉱石に電気的又は物理的刺激を与えると特殊なパルスを発する性質が解明されていなければ、そもそも魔法回路なんて使用できませんしね。」

 

「起動用の魔力パルスもそうだが、魔鉱石を精製して高純度の魔石に加工する技術が無ければ、実用性のある魔法回路は作れないぞ。」

 

大陸で使用されている魔法は極めて原始的な魔法回路で、大陸の小国群では十分な性能でも、日本が要求する実用性には程遠いものであった。

 

「高純度であればあるほど、魔力を生み出す力が増すのは判明していますけど、不純物の種類や含有量で変質化する研究結果も報告されております。」

 

「あぁ、聞いている、その代表例が海の民の希少金属を含む魔石だろう?アルクス人の生体に大きく影響を与える特殊な魔石だな。」

 

「アルクス人が持つ自己回復能力を極限まで活性化し、傷をたちまち癒す驚異の力を秘めており、遺族の許可を得て海の民の魔石の研究が行なわれております。」

 

水の魔石は、アルクス人の生体に作用し、代謝を活性化させ、自己回復力高める効果があるが、魔石を元から利用しない地球人には全く効果が無く、工業的な用途も見つかっていない為、研究が俟たれている所だ。

 

余談であるが、大陸の国々が、未だに水の魔石を入手する為にウミビト狩りの許可を求め、日本に打診してくる事があり、当然日本政府は人道上許可できないと要求を跳ね除けているが、

それを理由に貿易を拒否したり、酷い時には武力をちらつかせる等、外交官を大いに悩ませている。

 

 

「ちなみに、ソラビトの魔石はウミビトの魔石とは違うのか?」

 

「物理干渉力を持った魔力を放出する性質が確認されておりますね、生体への影響は未知数ですが、恐らく飛行する為の重要な器官として進化したものでしょう。」

 

「リクビトの魔石は単純に魔力のタンクみたいなもので、科学的に合成する魔鉱石の単結晶と性質自体は変わらないが、これはどういう扱いなんだ?」

 

「何にも特化していないので何にでもなるという事でしょう、ウミビトやソラビトにも扱うのが苦手な魔法は存在しますしね。」

 

ウミビトは住んでいる場所が海中なので、火炎魔法の技術が未発達で、ソラビトは翼に変化してしまった指があまり器用では無く、複雑な魔法を使えなくなってしまっている。

それらに比べて、リクビトは、技術さえ習得させてしまえば、あらゆる魔法を使用する事が出来るらしい、その代り高出力では無いらしいが・・・。

 

「ふむ、なかなか奥が深いな、何にせよ人工魔石は生体由来の魔石にはなりえないという事か、人工魔石は単純に工業用だな。」

 

「電撃魔法で電力を取り出す方法や、火炎魔法を利用した製鉄など様々な利用法がありますね。」

 

「特に今は、魔石を利用した発電装置の開発が急務だ、試作型だが魔石式ジェネレーターの開発に成功した所もあるらしいな。」

 

「今すぐ民間用に流通させることは出来ないですけど、大陸の拠点でモニター試験が行われているそうですよ?」

 

「魔石式ジェネレーターのモニター試験か、まぁ、今は大量に電力を使うような所じゃないから、データ収集には丁度良いという事か。」

 

「故障が多いとも聞きますがね、魔石内に魔力が溜まるまでチャージしなければならないのも今後、改良して行かなければならない点であります。」

 

「安全対策はしていると思うが、まさか行き成り爆発なんて起こさないだろうな?」

 

「火炎魔法の回路を組んでいなければ、大丈夫でしょう、理論上は・・・多分。」

 

「多分か・・・はぁ、まだまだ未解明な部分が多いから注意するに越したことは無いがな、課題が多いな。」

 

 

魔石を用いた工業用品の開発競争は、始まったばかり、日本の企業はこの新たな資源の用途を見出す為、日夜研究に励むのであった。

 



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第54話   純粋なる魔光

『おお、なんと眩い・・・これは本当に魔石なのだろうか?』

 

 

かつて都市国家ゴルグの統治下にあった港町に、異世界の国の大型船が入港していた。

次々と大陸では見る事の出来ない魔道具の様な物や、装飾品の様な物が荷揚げされている。

 

『何だあの魔石は・・・大きすぎる、一体何から取り出した魔石なんだ!?』

 

『海に生息する巨大海獣か、それともニーポニアに生息する恐ろしい魔獣なのか・・。』

 

魔鉱石から精製された魔石が、棒状に引き伸ばされて魔法回路に接続するための金具が取り付けられた状態でコンテナ一杯に敷き詰められており、それを見た現地住民は驚きの声を上げる。

 

「あー・・・やっぱり目立つよなぁ・・・アレ」

 

「異世界の生物の鉱物器官から取り出すにしても、自然界には存在しない純度だからなぁ、アレ」

 

「しっかし、燃料の節約の為とは言え、何も半分近く試作型の魔石ジェネレーターにしなくても良いだろうに・・・。」

 

「故障率半端ないっての、データが欲しいのは解るけど、こっちの身にもなってくれよ、普通の燃料式発電機で良いのに・・・。」

 

「油田自体はもう、見つかっているんだっけ?ここを足掛かりに大陸に手を伸ばしたいのは解るが、そっちの開発はどうなっているんだ?」

 

「もう少しで採掘可能になるらしいな、最も、狂暴な原生生物に襲撃される事もあって、上手くいってないそうだが・・・。」

 

「一筋縄ではいかんな・・・。」

 

人だかりの中から意を決した様な表情で荒野の民の老人が、よろよろと自衛官たちに近づいてくる。

 

『おぉぉ・・・なんと神々しい、これは一体何から取り出した魔石なんじゃ?』

 

「あー・・・えっと・・俺、大陸語苦手なんだよ通訳できるか?」

 

「仕方がないな・・・・えーー・・・。」

 

『こほん、この魔石が気になるのですか?』

 

『そうじゃ、これ程力にあふれた魔石は今まで見た事が無い、これ程の魔力を宿す魔物がニーポニアに生息しておるのかのぅ?』

 

『いいえ、これは魔鉱石から精製した魔石です、我が国の技術力を集結して作り出した高純度の魔石結晶なんですよ。』

 

『なんと!?魔物から取り出したものでは無いと申すか!?し・・・しかし、魔鉱石から精製される魔石は、小さく力が弱い物と聞くが・・・。』

 

荒野の民の老人は唖然とした表情で佇んでいる。

 

『大陸では、特殊な酸や魔獣の溶解液などを使って魔鉱石から魔石を単離・精製している様ですが、日本では、更に科学的な処置を施して精製するですよ。』

 

『おぉぉ、ニーポニアは魔鉱石をこれ程の魔石に精製する秘術を使うと言うのか!』

 

『日本企業の努力の賜物です、日本で精製した魔石はこれからゴルグの開発に使われる予定なのですよ。』

 

『これ程素晴らしい大きな魔石を持ち込むのですから、さぞ立派な祭壇が作られるのでしょうなぁ!』

 

『え?祭壇?』

 

「どうした、そんな顔して、何か言われたのか?」

 

「いや、ちょっと待ってくれ・・。」

 

『一度は滅ぼされ荒廃しかけたゴルグガニアにも魔光の加護が戻って来ると思うと感慨深いものがありますじゃ。』

 

『魔光の加護とは一体何のことなのでしょうか?』

 

『魔石から放たれる魔光が町や村に満たされれば、その土地の災厄や病魔が祓われるのですじゃ、わしは、この港町の呪い師をやっている者でのう、ひとつ拝ませてくれんかの。』

 

『おお、ありがたや、ありがたや、大いなる魔光よ、祝福を与えたもれ』

 

「ちょ・・・ちょっとこの爺さんどうしたんだ?」

 

「いや、純度の高い魔石って大陸の人達に崇められているみたいだから、アレを拝んでいるみたいなんだ」

 

『呪い師の爺様が拝んでいる・・・あれだけの魔石なら、魔光のご加護も凄まじい物になるかもしれないぞ!嗚呼、ありがたや、ありがたや』

 

「げっ・・・良く見ると周りの人もコンテナに集まっている!?」

 

『魔光の加護あれ、荒野に再び生命の息吹を・・ありがたや、ありがたや』

 

『ちょ・・・ちょっと、これからゴルグに運ぶのですから、コンテナに近づかないで下さいよ!?』

 

「え・・・え?なにこれ?、コンテナの周りに集まられるとトラックに詰め込めないんだが・・・どうにかできないか?」

 

「ごめん、何かスイッチ入っているっぽい・・・終わるまで待たないといけないのか?・・・コレ」

 

何とか、コンテナをトラックに詰め込みゴルグに運んだあと、運んだ先のゴルグで再び同じような事が起こるのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

単結晶魔石

 

 

魔鉱石を精製して、魔石を単一原子で結晶化させたもの。

凄まじい魔力を内包しており、惑星アルクスの自然界では存在しえない高純度な結晶である。

様々な分野で応用が可能であると期待されている新資源であり、発熱・発電・冷却・送風・突然変異の誘発などあらゆる力を持つ。

地球人の人体の影響は現時点では発見されておらず、高濃度の魔力に被曝しても、全くの無害であり、異世界人が同量の魔力に晒されると、身体的な異常や変質が報告されている。

魔石自体から発生する特殊なパルスに反応し、他の魔石が近くにある場合、共振する。

異世界人は、この特殊なパルスや魔力を感知する事が出来、魔光を浴びる事で体内の魔石を活性化させエネルギーを取り込む事が出来るため、魔光浴は生理的に重要な役割を持つ。

 

 

 

 



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第55話   城塞都市の日常

異世界に転移してから大陸に進出する為の足掛かりとして、都市開発を続ける城塞都市ゴルグ、仮設の発電所の少し離れた場所に本格的な火力発電所の建設を予定しており、ゴルグ近辺の集落の開発にも着手しようとしていた。

 

「ここが、日本ゴルグ自治区か・・・・まるで駐屯地と地方都市が合体したみたいだな。」

 

「まだまだ日本からの持ち込みが多いが、何れは、近くの鉱山から鉄鋼やら石灰やらが運ばれてくるだろうな。」

 

「現地住民から鉱山の位置の情報提供されているんだろう?重機で掘り返しちまえば良いんじゃないか?」

 

「馬鹿、まだ補強も終わっていないんだ、落盤、落石でぺしゃんこになっても知らないぞ?」

 

「それもそうか、一辺に全て片付く訳はないか、コツコツと開発を進めて行くしかないんだろうな。」

 

「違いない。」

 

元々自衛隊の施設科により、ある程度のインフラが整備されていた日本ゴルグ自治区だが、民間企業の進出によりさらに近代化が進んでいた。

故障が多発した試作型の魔石ジェネレーターも既に3回ほど改良されており、連続運転時間も延長されている。

 

『ソル リゴォ リ ルーザーニャ ディア レ ルジー ラ ニッパーニャ?』

 

 

 

『ルーザーニャ? シャル レ フォン ゴルグガーニャ フォス ヘム ニッパーニャ?』

 

 

 

『フォルル ラーダー! リド ヘル ルジー ラ ニッパーニャ! ラッド リ ヴィク ラ ルーザーニャ! 』

 

『ニェニェニェ! ヘム リキ ラ ゴルグガーニャ! ルジー ラ ワン ナイ ニッパーニャ! ヴィクト?』

 

 

『ルーザーニャ フォン ローダー レ フォレ ラ ゴー ラク ゴルグガーニャ ラフル』

 

 

 

 

日本領に編入されたとは言え、現地住民の比率の多いこの街は、大陸共通語が主流だ。

日本人の住むエリアと、リクビトの住むエリアがきれいに分けられており、商業地区では現地住民と日本人が共に商売をしている。

一部の企業は、早期に大陸共通語を学ばせた職員を派遣し、現地住民を試験的に雇っているらしい。

 

 

「日本本土から、そんなに離れていない場所なんだけど、こういう光景見ているとやっぱり外国なんだなーって思うよな。」

 

「一応ここは、日本だけどな、大陸共通語が分からないと不便な場所ではあるが・・・。」

 

「行く行くは大きな工場を立てて、現地住民を雇って、大陸沿岸部から開発を進めてしまおうと言った所だが・・・・。」

 

「そうも上手く行く訳ないんだよなぁ・・・。」

 

ため息をつくと、さんさんと照り付ける太陽に目を細め、額の汗をぬぐいながら、水筒の緑茶を一杯飲み干し、目的地に向かって歩く。

 

 

「魔鉱石の発電装置を利用して電気分解した水素を溜めているらしいけど、水素自動車はそれ程流通している訳でもないし、本当に資源が足りなくて困ったな。」

 

「油田が確定しただけでも良いだろ、危険な原生生物が闊歩している土地とは言え、あそこは宝の山だ。」

 

「山じゃなくて沼地だけどな、現地の人は魔境として定めて、立ち寄る事は滅多にないらしいが・・・。」

 

「トワビトとか言う種族が住んでいる森よりは近いんだが、あの油田は沿岸部から少し離れているから資材の運搬だけでも一苦労だよ。」

 

「危険な原生生物・・・魔物とか言う奴らが居なければ、開発もずっと楽になるんだがなぁ。」

 

実際に油田の採掘作業は遅々と進んでおらず、必死な思いで運び込んだ資材を魔物と呼ばれる生物に破壊される事も多かった。

 

 

「人が住む土地のすぐ横に、巨大なバッタとか三葉虫の化け物みたいな奴らの生息地が広がっている時点で、正味偽りなく此処は異世界なんだなと実感する処だな。」

 

「虫もデカいがネズミとか犬とかもデカいぞ?マスティフ犬っぽい野獣が、現地の家畜を襲っていたのを見た事あるぜ?」

 

「マジかよ・・・。」

 

「政府がゴルグ自治区近辺から外に出るなと、厳命している理由が良く分かるよ、勝手に外に出たら多分死ぬな。」

 

「それでも勝手に出て行く奴らが居るんだよな・・・身元不明の遺体が見つかったと言う噂も聞いた事があるし。」

 

政府が正式に確認をした訳ではないが、大陸行きの船に密航する者が出始めているらしく、しばしば身元不明の遺体が見つかると言う噂が実しやかに囁かれている。

 

 

「現地住民のじゃないのか?」

 

「遺伝子検査の結果、アルクシアンではなかったらしい、原型が付かない程、欠損が激しかったので性別くらいしか分からなかったが、間違いなく地球人だ。」

 

「うへぇ・・・・絶対俺は防壁の外に出ないぞ、ちなみに性別は?」

 

「女性だとさ、原生生物に食われてはいたが、刃物で刺された様な跡と、金属片が体内で見つかったらしい。」

 

「それって・・・・・。」

 

「盗賊か何かに襲われたんじゃないか?まぁ、何にせよ、勝手にゴルグ近辺から出ていったんだから自業自得ではあるが・・・。」

 

「昔から、危険地域に態々足を運ぶ奴って居るんだよなぁ・・・死人に鞭を打つ気は無いんだが、周りの迷惑位は考え欲しいもんだ。」

 

「さて、話している内に目的地の宿舎に着いたな、今日は軽くミーティングを済ませて、本格的な作業は明日からだ、しっかり体を休めておけよ!」

 

 

日本ゴルグ自治区の開発のために、日本企業から派遣されたエンジニア達は、自衛隊が整備したインフラに手を加え、更に強固に信頼性の高い物に改造をする。

大陸沿岸部の情勢は不安定なので、防壁内の開発しか許されていないが、いつの日か防壁の外へ街が広がる光景を思い描きながら、彼らは街の開発を進めるのであった。

 



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第56話   旅人 ジェイク・マイヤーの手記1

「ゴルグガニアが陥落したらしいぞ?」

 

とある国の小さな町の酒場で、そんな噂を耳にしたのが始まりだったのかもしれない。

 

開拓が進まず、寂れていった故郷の村を棄て、当ても無い放浪の旅を続ける私は、行きつく街々の酒場などで噂話を聞いては話題に上がった場所に、立ち寄るなど自由気ままに過ごしていた。

 

「ゴルグガニアが?あれ程巨大な防壁に囲まれた城塞都市が陥落するなんて、どんな国と戦ったんだ?」

 

「海の向こうの国と戦ったらしい、ええっと、ニッパーだかニッポーだったか、妙に言いづらい名前の国だ。」

 

「ニパンだった気がする、で、そのニパンが何故ゴルグガニアを攻撃したかと言うと、国交を結ぶために派遣した使節団が殺されたかららしい。」

 

「おいおいゴルグガニアは正気なのか?そんな事をしたら、どんなに大人しい国でも怒り狂うだろうよ?」

 

「確定情報じゃないんだが、派遣された使節団は武装もしていないし、魔力も全く無かったらしい、それで舐め腐ってニパンに戦争を吹っかけた様だが・・・。」

 

「魔力無しを使節として派遣するなんて完全に人選ミスだろ、しかも丸腰でか?迂闊に戦争を仕掛けたゴルグガニアもそうだが、ニパンとやらも正気とは思えんな。」

 

私もこの話を聞いた時は、信じられなかった、魔力が低い者を使節として派遣するという事は、それだけ力のない国だという事を宣伝するようなものだ。

少なくとも、上級魔術師を使節として派遣しなければ、相手の国にも失礼と言う物だ、少なくともゴルグガニアには不評を買った事だろう。

 

「しかし、ゴルグガニアが陥落したという事は、ニパンにも強力な魔術師が居たと言う事だろう?何故使節団に加えなかったんだ?」

 

「最初(ハナ)っからゴルグガニアを攻め滅ぼすつもりで挑発したんじゃないか?無礼に出て来ないなら国交を結んで、そうでないなら蛮族として滅ぼす、そんな所だろ。」

 

「それはそれで回りくどいな、しかし、態々海の向こうから要塞都市を落とす程の戦力を派遣するなんて、凄い国なんだな。」

 

「流石に誇張だろうが、たった一晩でゴルグガニアが瓦礫と化したらしい、ま、そんな事、御伽噺の食人鬼でも無理だろう。」

 

私は、何度かゴルグガニアに立ち寄ったことがある。見上げるほどの大きさの立派な防壁に覆われた難攻不落の要塞都市、それが瓦礫の山と化すなど到底信じられなかった。

酒場の酔っ払い共は、まだゴルグガニアを陥落させた謎の国の事を話題に、酒を煽っているが、それを尻目に、私は酒代を女将に渡して宿に戻り、旅支度を始めた。

 

 

私は馬も使わず、自分の足で街道を歩き続け、1か月ほどしてゴルグガニアに到着するが、そこで信じられない光景を見た。

 

巨人の槌で叩き壊されたかの様に、大穴の開いたゴルグガニアの防壁や、無残に崩れ去った家屋、そして何よりも見た事も無い巨大な鎧虫の群れが街に集っているのだ。

斑模様の服装の集団がぞろぞろと、要塞都市周辺を歩いている、恐らくあれが例の海の向こうの国・・・ニパンの兵士だろう。

 

兵士と同じく斑模様に塗られた角を持つ鎧虫や、橙色に塗られたひときわ目立つ一本腕の鎧虫が使役され、瓦礫を運び出す光景を見ると、口を魚のようにパクパク開閉させる事しかできなくなる。

 

「これは一体どういう事だ・・・あのゴルグガニアが本当に瓦礫になっているなんて・・・・。」

 

私は無意識にそう呟いていた。

 

『アー・・・・ソコ・アブナ・ヨー』

 

「うわっ!?」

 

気が付けば、斑模様の兵士が、真横に居た。視界を移すと、瓦礫を積んだ緑色の鎧虫が後退しながらこちらに迫ってきていた。

慌てて、飛び退くと、目の前を巨大な鎧虫が、ピーピーと、奇妙な鳴き声を上げながら通り過ぎて行く。

 

『リョコー・ノ・カタ?イマ・ココ・アブナ・イョー。』

 

「あ・・ああぁぁ・・・。」

 

斑色の兵士が大陸で使われている物とは違う言語で話してくる、しかし、身振り手振りで何かを伝えようとしているのは解るが、如何せん何を言っているのか分からない。

 

「わ・・・私は、放浪の旅を続ける根なし草な者でありまして・・・特に身分を証明するものは・・・。」

 

その奇妙な姿と、顔全体を黒く塗った戦化粧、会話が通じない異国語と言う組み合わせが揃い、私は恐怖を覚え後ずさりする。

 

『アー・・・ゴルグガニア、崩レる、壊れル、怪我人、沢山、近寄ル、危なイ。』

 

斑模様の兵士は、今度は片言ながら大陸共通語で話し、ゴルグガニアを指す。

 

「あ・・貴方達がニパンの兵士ですか?ゴルグガニアは一体どうなってしまうのでしょうか?」

 

『アー・・・ゴルグガニア、復興すル、時間、必要、ニホン、街の住民、助けル、保護スる、治療する。』

 

これは驚いた、ニパン・・・いや、ニホンと発音していたか、この兵士達は、ゴルグガニアの住民を奴隷とせずに、保護し、治療まですると言うらしい。

 

『ゴルグガニア、戦い、あっタ、何故、来タ、ました?』

 

本来ならば戦の在った地域は、治安が悪くなり危険で、私の様に野次馬根性の者や、戦死した兵士の武具などを目当ての``腐肉食らい``しか訪れない。

 

「いえ、興味本位です。ニパ・・・いえ、ニホンはこの街を復興させると言うのですか?旅人の拠点として利用している人も多いので、助かりますが・・・。」

 

『ニホン、戦い、したくなカった、デモ、ゴルグガニア、襲って来た。』

 

どうやら、ニホンは、ゴルグガニアとの戦争は不本意だったらしい、しかし、何故この城壁に大穴を開けられる程の魔術師を使節として派遣しなかったのだろうか?力を持つ者ならば戦争を回避できた筈であるが・・・。

 

『ニホン、この大陸、知らなイ、国交、結ブ、きっカけ、欲しカッタ』

 

どうやら海の向こうと、この大陸とでは、作法が違うらしい、成程、それならば魔力無しを使節として派遣した理由も解る。

しかし、これ程の国力を持った国が何故今までこの大陸に訪れなかったのだろうか?

 

『他の国、教エル、ニホン、仲良く、しタイ、旅する、先、出来ますカ?』

 

「完全に理解したわけではありませんが、旅の行く先々で、ニホンの事を話せば良いのですね?」

 

『ソー・・・・出来る、出来た?有難ウ。』

 

斑の兵士は、真っ黒な顔で白い歯を見せながらにっこり笑う。

周辺に目を向けるとゴルグガニアを訪れる旅人と親しげに話す事から、恐らくニホンとやらは、好戦的な国では無いのだろう。

 

旅人や商人が大陸を渡るための重要拠点でありながら、周辺国にちょっかいをかける、厄介者だったゴルグガニアだが、ニホンの統治の元、少しはマシになるだろう。

 

海の向こうの国が、初めて大陸の国々に接触を持ち、大陸の勢力図が塗り替えられる、虫使いの国ニホンの来襲、私は大きく歴史が動くかもしれないと感じた。

 

そして、それから暫く経ち、ゴルグガニアを訪れた私は、ニホンによって新たに作られた更に巨大な防壁と、今まで見た事が無い程に栄えた新生ゴルグガニアを見る事になる。大陸の歴史は、確実に動き出していた。

 



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第57話   ウミビトの休日

水族館用の巨大水槽が連なる海の民の陸上住宅、元は廃業した水族館だったが、改装が進み、仮設住宅程度の物であったが、現在は本格的な設備が揃っている。

伊豆諸島周辺の海域に保護された海の民の一部もこの陸上住宅に移る者も増えてきており、さらなる増築が検討されている。

 

さて、そんな彼らも巨大水槽から出て、娯楽ルームでくつろぐ事もあり、陸上でしか出来ない娯楽があった。

 

「罠を仕掛けたよ!そっちに誘導して!!」

 

「うん、わかった、それっ、角笛~~!・・・・あ、回復笛だった。」

 

「あ、馬鹿ーー!!!」

 

水中では故障と感電の恐れがあるので持ち込めない、電子ゲームに、海の民の子供たちは熱中していた。

 

「もー、ターゲットが逸れて、一気に3乙しちゃったじゃない!何のための作戦会議よー!」

 

「ウルスラちゃんだって、最初に1乙しているじゃない、間違えたのは悪かったけど、失敗は全員の責任だよー。」

 

「ウルスラ、間違えは誰にでもある事よ?またやり直せば良いじゃない。」

 

「う~~~・・・わかったよぉ・・・ゲーム下手なお姉ちゃんに言われるのは釈然としないけど。」

 

娯楽ルーム各所に設置されたウミビト用のビニール製クッションの上でだらしない恰好で携帯ゲーム機を弄るウルスラ、他の海の民の少年少女も似たような体勢である。

 

「もぉ、学校の勉強が大変なのは解るけど、息抜きもほどほどにしておくのよ?」

 

「そうだぞ、ウルスラ、勉学も必要だが、我ら海の民は武も極めなくてはならぬのだからな?子供の内に体を動かすことに慣れていなければ、一人前の戦士にはなれぬぞ?」

 

「あ、ヴィーナお姉ちゃん。」

 

プリシラの後ろから赤珊瑚色の髪と鱗を持った娘が車椅子に乗って現れる。

 

「あら?ヴィーナ?もう走り込み終わったの?」

 

「あぁ、車椅子は画期的な発明だな、陸上で動けて腕力も鍛えられる、多少体表が乾くのが難点だがな。」

 

ウミビトは体表が乾燥するのが苦手だが、保湿の為に肌や鱗部分から粘液が分泌されており、陸上でもある程度活動が可能である。

基本的に汗の様なもので、激しい運動をした時や暑い時に自然と流れてきてしまう。ヴィーナは日課として町周辺のルートを全力で車椅子を飛ばして数周する走り込みをしており、現在汗(粘液)だく状態である。

 

「ヴィーナ姉ちゃ・・・その、汗で・・服・・・透けてる。」

 

ウミビトの少年が顔を赤面させながら俯く。

 

「何だ?ませているな、大丈夫だ、水竜のヒレの服はインナーだ、外ではジャージを着ているから通行人には見られておらんぞ?」

 

「ヴィーナ・・・そういう問題じゃないと思うの、ジャージは腋に抱えていないで、せめて羽織るくらいはしてよ、後、もう水竜の素材の服にこだわるのは止めておきなさいよ。」

 

「何を言うか、プリシラ、この素肌に張り付くような密着感が良いのだろう!伸縮性や耐久性にも優れているのだぞ?」

 

薄い水色がかった色の水竜のヒレだが、水にぬれると半透明となるので、うっすらと胸が透けて見えてしまう、同性か子供しかいない場所なので、ヴィーナは気にしていないが、一度透けた服を見られて西本教授を魔法で吹き飛ばした前科がある。

プリシラとしては、偶発的な事故による被害の発生を恐れていた。

 

「でも透けちゃうよね?」

 

「ぐっ・・・だがな、プリシラ、何時までもニホンに頼り切りと言う訳にも行くまい?」

 

「海の素材で透けない素材は一応あるけど、海獣は凍てつきの海くらいでしか手に入らないし、海の民全員に行き渡る程の量は確保できないのよ、諦めたら?」

 

「いや、色々着てみたが、ニホンの服の素材でしっくりくる物があまり無くてな・・・水竜のヒレや皮の様な質感の物はついぞ見つける事が出来なかった、スクール水着と言う物は良い線を行っていたのだがなぁ・・。」

 

ため息をつきつつ、車椅子の籠からタオルを取り出して、汗を拭きとるヴィーナ、その時、娯楽ルームの扉が開き二人の人影が現れる。

 

「あ、居た居た、お二人とも、臨時会議ですので研究室に来てくださ・・・・・」

 

西本教授とミーティアが歴史研究の為に、聖歌隊メンバーを集めに海の民の陸上住宅に訪れたのだが、タイミングが非常に悪かった。

西本教授は、透けて服の中が露わになったヴィーナを見て固まり、横に居たミーティアは無言で西本教授の傍から離れる・・・・そして数秒後・・・。

 

「あ・・・う・・ひっ・・・いゃぁ・・・いやぁああああああああああああああああ!!!!」

 

「なばるでうおぉどあぁああああぁぁぁっ!?」

 

珊瑚色の髪や鱗と同じ位に顔を赤く染めたヴィーナに、いつぞやの魔力衝撃波を叩き込まれ、娯楽ルームから強制退場させられてしまう西本教授、ミーティアは、もう既に何回か巻き添えを食らっているので回避パターンは脳内にインプット済みである。

 

「ヴィーナぁ~~?もうこれ何回目なのよぉ~!?」

 

ヴィーナが水竜素材の服にこだわる限り、何回でも西本教授は吹き飛ばされるのだろう、ミーティアとプリシラは内心ため息を付きつつ、吹き飛ばされて気絶した西本教授の元へ駆け寄るのであった。

 

 



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第58話   旅人 ジェイク・マイヤーの手記2

いつ終わるのかも分からない当ても無い旅を続け、私は今、大陸沿岸部に近いトーラピリア王国の酒場でひと時の休息をしている。

 

「見てくれよ、この作物を!ニーポニアで作られている甘い粉の材料なんだ!」

 

「甘い粉?甘い食べ物だったら果物の方が食べごたえあるだろう?」

 

「いいや、この白い根っこ・・・テンサイと言う作物から作られるサトウと言う調味料は、果物の搾り汁なんかよりもずっと使い勝手が良く、料理の幅も広がるんだ!」

 

「ふーん?まぁ、別にどうでも良いけどね、この国は果物の栽培も行われているし、甘い食べ物にはそれ程困らないんだ。ニーポニアの商人に妙な物つかまされたんじゃないか?」

 

「ハッ、サトウの生産が軌道に乗れば、そんな事も言っていられなくなるぞ?俺は、この国で甘味の王者になる!!」

 

行く先々で、ニホンの噂を耳にする・・・・正直、復興したゴルグガニアの姿を見た私は、あの国が噂になるのも仕方がないと思う。

国によって、ニーポニア.ニッパニア.ニパン.ジャー・ポニス等、呼び名は違うが、いずれにせよこの大陸・・・いや、この世界の中でも規格外の存在というのが共通認識だ。

 

「ニーポニアと言えばさ、最近ゴルグガニアの新しい防壁が完成したらしいじゃないか?」

 

「新しい防壁?ゴルグガニアの防壁はニーポニアの攻撃で瓦礫の山になったんじゃなかったか?この短期間で防壁なんて作れないだろう?」

 

「それがよぉ、ニーポニアの使役する鎧虫が、その怪力をもって、あっという間に防壁を完成させちまったんだ!」

 

「あぁ、例の虫使いか、あの異形の鎧虫を使えば、確かに重い資材も楽に運べるだろうな・・・それにしても異常な速さだが」

 

 

ニホンは、巨大な鎧虫を使役する技術を持っている様だが、鎧虫の怪力だけで巨大な防壁を完成させる事は出来ない、そして私は防壁を完成させた魔法の正体を知っている・・・。

 

 

「おい、俺はこの前ゴルグガニアに居たんだが、どういう風に作ったのか分からないが、新しい防壁はのっぺりとした材質で作られていて、継ぎ目らしきものが見当たらないんだ。」

 

「継ぎ目が無い? え・・・でも、街を守る防壁と言ったら、石を積み上げて粘土を繋ぎにするもんだろ?何の石材を使っているんだ?」

 

あの防壁の材料は鎧虫の泥だ、巨大な壺の様な腹を持つ異形の鎧虫の肛門からひり出される、灰色の泥が、青銅の骨組みに流し込まれ、石のように固まる、これが継ぎ目のない防壁の正体だ。

 

「そう言えば、最近、ニーポニアの虫使い達が、旧ゴルグガニア領の鉱山で大量の石灰を削り出して、ゴルグガニアに運び込んでいるらしいぞ?もしかしたら石灰が材料なのかもな?」

 

それも知っている、あの鎧虫に石灰を食わせて、腹の中で固まる泥を作らせているのだろう、どこであの鎧虫を捕獲したのかは分からないが、その生態に興味がそそられる。

 

「石灰なんて虫よけにしか使わない物だったが、それで防壁が作れれば、価値が見直されて一気に値段が高騰するだろうな、最も、作れるのはニーポニア位なんだが・・。」

 

「正直、あれだけ計り知れない力を持っている国なのに、ニーポニアにちょっかいを出す国が未だに存在すると言うのが信じられないよ。」

 

「あぁ、ルーザニアの事か、他にも何ヵ国か妙な動きしている国もあるが、身の程知らずにも程があるってもんだ。」

 

「ルーザニアの軍が、ゴルグガニアを襲撃して返り討ちに遭った話だが、数千もの兵士をほんの十数分で失ったらしいな、まったく馬鹿げた魔力投射量だよ。」

 

酒場の酔っ払いはニホンの話題を酒の肴にしているが、私はそれに混じらず、酒代を酒場の主に渡して、旅支度を始める。

 

偶々ゴルグガニア行きの荷馬車に乗る事が出来たので、前よりは楽だったが、道中、土鋏に襲われたり、砂利道で揺れが激しくなり体調を崩したりもした。

自分の足でこの道を歩く事を考えると、気が遠くなる、荷馬車に乗れたのは本当に運が良い。

 

数十日かけて、ゴルグガニアに到着した私は、荷馬車の主である商人と共に、ニホンに荷物検査を受け、厳重に守られた門の通行を許可され、何とか城塞都市に入ることが出来た。

商人に運賃を支払うと、その場で解散して、久しぶりに訪れるゴルグガニアを満喫した。

 

「聞いたか?この前の戦いで敗北したルーザニアがニッパニアに対して、徹底抗戦の構えで挑むらしいぜ?」

 

「ルーザニアが?確か、ニッパニアが来る前のゴルグガニアと同じくらいの力を持った国だったよな?」

 

「馬鹿だよなー!あれだけ一方的にやられたと言うのに、勝つ気でいるんだ、あの国は」

 

「いやいやいや、同格だったゴルグガニアが一晩で陥落したのに、どうやってニッパニアに勝とうと言うんだよ?」

 

「ルーザニアの国王はよっぽどの暗君らしいな、このまま行けば、間違いなくゴルグガニアの二の舞だよ。」

 

ニホンに訪れた商人や、ゴルグガニアの住人が中央広場で雑談をしている、やはり最近の話題は、無謀にもニホンに挑んだ愚かな国の事だろう。

中央広場には、ゴルグガニアの住人の他にちらほら、ニホン人の姿が見える、顔立ちが荒野の民とは違い、肌の色も白色では無く、象牙色なので良く分かる。

 

ニホンに編入された影響か、次々と海の向こうからニホン人が、上陸してきており、沿岸部に近いこの街に訪れている様だ。

元々ゴルグガニアに住んでいた住人たちはニホンによって区分けされた地区に移され、ニホンは、その隣の地区に暮らしている様だ。

しかし、不可解なのが、損壊の少ない地区に元の住人を移し、戦いに勝利したニホン人は建物が破壊された地区を態々建て直してから使っているらしい。

一体どういう意図があるのだろうか?何にしても、ニホン様式の建物は、巨大で箱の様な形状をしており、用途不明の蔦を絡ませた奇妙なものなだが、彼らにとってその方が過ごしやすいのだろう。

 

『ニホン・ホード・カラー・ソナー・ニ・ハラレテ・イナー・バショー・ケド・コーイウ・コーケー・ミテルト・ヤッパリ・ガイコク・ナンダー・ット・オモー・ヨナ』

 

『イチオー・ココハ、ニホン・ケドナ・タイリック・キョーツーゴ・ワカラ・ト・フベン・バショー・デアルガ』

 

『イクイク・オーキナ・コージョー・テテ・ゲンジュー・ミン・ヤットテ・タイリック・ガンブ・カイハツ・スス・シマオー・イッタトコロ・ダガー』

 

『ソーモー・ウマーク・イク・ナイー・ダヨナー』

 

何処か汚れた色合いの服を着た、ニホン人が雑談をしながら、ニホンの居住区へと歩いて行くのが見える。

一見浮浪者の様なみすぼらしい姿だが、布自体はしっかりしており、丈夫そうに見える。恐らく元から汚れても良い恰好なのだろう。

命の危険のある長い船旅の後に、ゴルグガニアの開発を始めなければならない事を考えると彼らも相当苦労しているのだろう。

 

 

何時か私も海の向こうにある、異国の地へと行ってみたいものだ・・・ニホン本土は一体どの様な場所なのだろうか、私はまだ見ぬニホン首都を思い描きながら今日泊る宿を探すのであった。

 

 

 

ディプス・クネラ  通称 土鋏

 

和名:イセカイオニハサミムシ

 

 

乾燥した地に生息する、巨大なハサミムシの様な鎧虫。

分厚く発達したキチン質の外殻と、人間の胴体など簡単に両断してしまうほどの大きさの鋏を腹部に持つ。

動きは鈍重だが、振り下ろされる巨大な鋏は、容易く地面を抉り、鈍器としても十分な破壊力を持つ。

若い個体は餌を求めて当ても無く徘徊をするが、繁殖に適した齢まで育つと、自分の巣を作り、繁殖のために食糧を巣に集める。

大戦前は、緑に包まれていた大陸だが、1000年前から荒野と化したため、乾燥地帯が増え、土鋏の生息地が広がり、街道にも出没する様になった。

唾液腺とは別に、ゲル状の物質を分泌する器官を口腔の中に持ち、集めた食糧をゲルに包み込み保存食に加工する。

吐き出されるゲルは、殺菌効果に加え、浸透圧で菌類から水分を奪い、活動を阻害する効果がある。

 



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第59話   飛竜の太郎

要塞都市ゴルグの一角に設けられた生物研究所。

最初はログハウスに研究資材を詰め込んだ様な簡素な建物であったが、異世界の生物を飼育する為の檻や水槽などが充実した施設が完成し、本格的な研究が始まった、

 

異世界の病原菌や寄生虫を日本に持ち込ませないために、そして、危険な動植物が存在しないか、各地から捕獲された生物が試料として集められていた。

 

 

「今回の調査で見つかった甲殻類なんだが、やたらと重くて運ぶのに苦労したよ。」

 

「あぁ、ご苦労様です。それでは、奥の水槽に移してくださいな。」

 

大陸の野生動物は、猟銃を持ったプロの猟師でも危険な物が多いので、猟師の手に余る猛獣が現れた場合、自衛隊が手伝う事がある。

特に、大陸中央部を覆うように広がる大森林の生物は危険度が非常に高く、調査が難航しているらしい。

 

「あー・・・一応聞いておくが、こいつの鋏、滅茶苦茶固くて怪力なんだよ、水槽大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だと思います、多分。普通の水槽よりも何倍も頑丈に出来ておりますから、安心してくださいな。」

 

「だと良いんだが・・・。」

 

 

ガシャアアアァァン!!

 

突如背後から、大きな音が鳴り、反射的に振り返ると、餌のトレーを壁や檻に叩き付けて遊ぶ大きな獣の姿が目に入る。

 

「あっ!!こら、太郎!またやったな!!」

 

ギャン!ギャン!・・・ウギャン!!・・ニ゛ャ!!ニ゛ャ!!ギャ!!

 

飼育員が近づくと先ほどまで遊び道具にしていたトレーを投げ捨てて、檻にしがみ付きながら鼻先を檻の隙間に差し込みヒクヒクと動かす。

 

「まったく、図体もデカくなってきたからトレーを叩き付ける力も強くなるし、何度壊せば気が済むのやら・・・」

 

「あれって、この前、大森林で捕まえたチビ助だろう?大きくなったなぁ・・。」

 

「食べ盛り遊び盛りで本当に手がかかる子ですよ・・・・さて、開けるぞ太郎。」

 

ガチリと音を立てて鍵が開けられ、檻の扉を開くと同時に、飛竜の子供が飛び掛かってきて、そのまま押し倒されてしまう。

 

ギャン!ギャッ!ギャッ!クゥゥン・・・キュンキュン・・・。

 

「ちょ・・・ぶぇ・・・顔舐めるな、のしかかるな、重いっ!」

 

「は・・・はははっ、随分と懐かれているな。」

 

「此処に連れて来た時は、人見知りが激しくて、そわそわしていたんですよ?まぁ、餌上げた人には良く懐きますが・・・ぷぇっ!?顔やめっ・・・」

 

ングゥ・・グゥグゥ・・グゥ・・・グルルゥ・・・ンギャフ・・・。

 

飼育員が飛竜の、のしかかりから解放されると、涎でべとべとになった顔をポケットから取り出したハンカチで拭い、困ったように飛竜の幼体を眺める。

 

「親からはぐれたからか、凄い甘えん坊なんですよ、ほら、ひっくり返ってお腹みせているでしょう?」

 

「あぁ~~・・・いわゆる服従のポーズって奴か?」

 

「違いますよ、なでろ、って言っているんですよ、ほら、これ見てくださいよ。」

 

仰向けになった飛竜が、後ろ足をぴょこぴょこと動かし、流し目でこちらの方を見てくる、口角を釣り上げ、牙をチラリと見せながらご満悦の様子だ。

 

「動物でもジェスチャーってするんだな。」

 

「ここまで感情表現豊かな動物もまた珍しいですよ、子供の頃に飼っていたゴールデンレトリバーを思い出しますよ。」

 

グゥ・・グゥ・・・グゥ・・・ンニャフ・・・。

 

自衛官と会話を続ける飼育員が、いつまでたっても、触ってくれないからか、拗ねた様に諦め顔で、のそのそと藁が敷かれた寝床へと歩いて行く。

 

「おいおい、拗ねちゃったぞ?」

 

「いいんです、あの子には、もう少し我慢って奴を教えてやらないといけないんです。新人達が、ついつい餌を多くやったり甘やかしてばかりで困っているんですよ。」

 

「ほぉ~?アイツはこの研究所の中でも人気な奴なんだな?まぁ、太郎って名前を付けられる位には特別扱いされているんだな。」

 

「いいえ、名前を付けられている生き物は太郎だけじゃありませんよ、サボテンっぽい植物にも花子と勝手に名付けている職員もいますし。」

 

「ん?じゃぁ、太郎っていう名前も貴方が勝手に呼んでいるだけなのか?」

 

「いえいえ、あの子は、飼育施設に連れて来られてから一週間位で正式に名付けられましたね、投票でですが」

 

「投票か・・・色々と候補があったんだな。」

 

「基本的に犬猫の名前が殆どでしたよ、まぁ、あの子は性格的に犬寄りみたいですが。」

 

「確かにな、本当に犬っぽい奴だよ、見た目はワイバーンっぽいけど」

 

ふしゅん・・・・・クンクン・・・グゥ・・・クプププ・・プフッ・・・クププ・・プヒュッ。

 

退屈そうに藁の上で横たわっていた飛竜の太郎は、その内、トロ眼になり、暫くすると寝息を立てていた。

 

「図体デカいけど、寝顔は可愛いもんだな・・・。」

 

「でしょう?・・・しかし、このまま大きくなると、この檻も狭くなってしまいますね、もう1メートル半くらいありますし・・・。」

 

「前脚が翼で飛ぶ生き物だから、やはり狭く感じるんじゃないか?どれだけ大きくなるか判らんが。」

 

「そうですねぇ・・・予想よりも大きくなりすぎて困っているんですよ、予算が降りたらもっと大きな檻を作って貰わないと・・。」

 

ングゥ・・・ふぎゃふぎゃ・・・。

 

「どんな夢を見ているのやら・・・・おやすみ・・・太郎」

 

そっと飛竜の太郎の首筋を撫でてやると、二人は飛竜の檻を後にした。

 



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第60話   土の民

 

大陸の中央部には未知の領域が広がっていると言う、しかし大森林を始めとする様々な過酷な地形が大陸中央へ続く道を阻み、荒野の民は荒れ果てた地で開拓をしなければならない。

大森林に隣接した長大な山脈も大陸中央部への道を阻む障壁の一つである。

 

「お父さん、こんな浅い所じゃ魔銅鉱は掘り出せないよ。」

 

「おん?確かに魔銅鉱は無いが、良質な鉄鉱の鉱脈を見つけてな、他のモンに見つかる前に掘ってしまおうと思うんだ。」

 

「鉄鉱かぁ、確かに幾らあっても困らないわね、こんなに便利なのにリクビトは鉄の価値に気付いていないんだよね?」

 

「荒野の連中は、鉄の精製が出来んからなぁ、まぁ、リクビトの連中に鉄器が伝わってもどうせ碌な事にはならんだろうし、このまま知られずにいたほうが良いだろう。」

 

大陸中央部を覆う山脈には土の民と言う、荒野の民に、あまり知られていない種族が住んでいる。

彼らは、元々手先の器用なリクビトだったが、戦乱から逃れる為に旅を続け、魔物が犇めく辺境の山へとたどり着き、魔力の強い洞窟に身を隠すうちに、独自の変異を遂げた種族である。

狭い穴にも入れるように身体は小型化し、落盤や落石などから身を守るために体毛が発達し毛深くなり、洞窟内の岩盤を工具で穿つために手先が器用になり、体格に見合わぬ怪力を得た。

 

「へぇ、これがその鉱脈なのね、でも洞窟の入り口に近いから、リクビトに見つからないようにしないと・・・。」

 

「滅多にこの洞窟に訪れることは無いから心配するな、それに外は狂暴な鎧虫が徘徊しているから好き好んでこの山に近づく者などおらんだろう。」

 

「だといいんだけど・・・・。」

 

「さて・・・採掘を始めるか・・・・・むん?」

 

鶴嘴を振りかぶり、岩壁を掘ろうとした時、微小な振動を感じた。

意識を向けてみると、洞窟の入り口付近から微かに何かの音が聞こえる、恐らくこれが振動の発生源だろう。

 

「ペトラ、お前は街に戻っていなさい・・・。」

 

「お父さん?一体何を・・・・っ!入り口の方から音が!?」

 

「鎧虫でも入り込んだか・・・何にせよ、穏やかでは無いな、少し厄介な事になりそうだ。」

 

鶴嘴を横に置き、念のために荷車に積んでいたバトルアクスを取り出し、壁に身を隠しながら洞窟の入り口に近づく。

 

「な・・・なんだこれはっ!!?」

 

暗闇に慣れた目に、外界の光が染みるが、それどころでは無い、異形の鎧虫らしきものと、斑模様に染めた奇妙な格好のリクビトの集団が、洞窟周辺をうろついている光景が目に映っていた。

 

 

 

碌に整地されていない土がむき出しの道を進む自衛隊。

要塞都市ゴルグを拠点にし、国交を持っていない国や集落などと接触し、交流を持とうと各地へ赴くが、その道中は決して安全なものでは無く、賊や野獣の襲撃などに備え、武装車両で移動をしている。

 

大陸中央部への道を阻む大森林に隣接する山脈付近には、集落はごく少数しか確認されておらず、その殆どが開拓民で、自給自足の生活を営んでいるに留まっている。

 

しかし、開拓民の口から、鉱物資源の情報を得ると、資源調査の為に大森林に連なる山脈へと向かう事になった。その際に奇妙な噂も耳にする事になるのだが

 

 

「これまた、デカい山だなぁ・・。」

 

「山の上層部はうっすらと雪がかかっているな、相当高そうだ。」

 

「おいおい、ボーっとしているなよ?ここら辺は危険生物の生息が確認されている、現地民も滅多な事では訪れない場所らしいじゃないか。」

 

「とは言っても、デカい蠍とか百足みたいなもんだろう?そんなもん道中で山ほど倒してきたさ」

 

「まぁ、殆どは車の速力に任せて引き離していたがな、崖の一本道で通せん坊している奴とかは仕方がないから蜂の巣にするしか無いが、無暗な殺生はしないに越したことは無い。」

 

「さてと、野営の準備をするぞ?鉄条網は既に設置済みだが、相手が頑丈な鎧虫の場合は突破される可能性もある、油断せずに作業に移れ。」

 

 

それぞれ各員分担し、天幕の設営や、トラックからの荷降ろし、夕食の準備などの作業が行われる。

 

 

「なぁなぁ、所でさ、妙な噂を聞いたんだが・・・・。」

 

「あっ?なんだよ、こっちはまだ作業中だぞ。」

 

「ちょっと位いいじゃないか、あの山にさ、小人が出るらしいぜ?」

 

「小人?一寸法師みたいなもんか?」

 

「いいや、流石にそこまで小さくないが、何でも穴や洞窟に身を潜めて岩壁を掘りながら暮らしているって噂だ。」

 

「モグラみたいな奴だな?つまり、未確認種族の集落が存在するかもしれないって事か?」

 

「まぁ、ここら辺は野獣が出没する危険地帯らしいし、滅多に近寄らない上に目撃証言も少ないから、単なる噂かも知れないが、なかなか興味深い話じゃないか?」

 

「もし本当に居たら資源調査が上手く進むかもな、最も相手が温厚な性格をしているならばだが。」

 

「ちなみに、開拓民の連中はそいつらを 土の民 と呼んでいるらしい。」

 

「・・・・・それ、漢字に直して略したら失礼になりそうだな。」

 

「・・・・・せめて大地の民と呼ぶ事にするか。」

 

「違いない。」

 

 

 

暫く洞窟の外の様子を伺った後、斑のリクビトに気付かれない様に、急いで荷車に荷物を乗せて街に戻ると、街はちょっとした騒ぎになっていた。

 

 

「お父さん!!」

 

「おおっ!モーズ!!戻って来たか!!」

 

「ジルバかっ!大変なことになったぞ!洞窟の外にリクビトが集まってきている!」

 

「なんだとっ!?」

 

ジルバは、あまりの衝撃で一瞬硬直するが、直ぐに思考を切り替えてモーズに話しかける。

 

「リクビトの奴らは、この洞窟に気付いているのか?」

 

「いや、その様子は無い・・・それに、あの体格ではこの狭い入り口を通るにも一苦労だろう。」

 

「お父さん、私怖いよ・・・。」

 

「大丈夫だペトラ、俺が付いている、連中がもし襲い掛かって来るなら鉄の斧で両断してやる。」

 

「早まるなよモーズ、徒にリクビトに危害を加えて敵対する様な事になれば、我らとて唯では済むまい。」

 

「分かっているジルバ、いくら短気な俺でもそれくらいは心得ているぞ。」

 

「リクビトの連中がこの洞窟に気付かないならば、そのままやり過ごせ、もし気付いたのならば様子を見つつ、接触を待て、こちらから赴く必要は無い。」

 

「盗賊の類ならば返り討ちにするまでだが、荒野の開拓民ともなるとやり辛くなるな。」

 

「リクビトは口封じのために問答無用で殺すことも平気でやるらしいが、我らは蛮族では無いからな。」

 

「お父さん、リクビト・・・・来るの?」

 

「まだ判らんな、だがしかし、あれ程の集団で洞窟に押しかけられては堪ったもんじゃない」

 

「面倒なことになったわい、まぁ、今まで山と魔獣や鎧虫に守られていたが、何時までも洞窟に身を隠す事も出来ないという事だろうの。」

 

「何にせよ、街の幹部連中を集めなければならんな、ジルバ、西側から声をかけてくれ、俺は東側から行く!」

 

「・・・・・。(リクビトは怖いけど、外の世界は見てみたいな、どんな光景が広がっているんだろう?)」

 

 

 

 



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第61話   闇に蠢く鉄の蛇

各地の集落や国と交流を結ぶために、拠点であるゴルグから派遣された自衛隊は、大陸中央を覆うように広がる山脈付近の集落と交渉をしていた。

 

『つまり、土の民とやらは、あの山の洞窟に暮らしている小さな人達なんだね?』

 

『うん、ちっちゃくて、もじゃもじゃしていて、大きな金槌を持っているの!』

 

『その人たちは、どんな感じなのかな?優しそうな人かな?それとも怖い人かな?』

 

『うーんとね、こっちを見つけると、ささっと洞窟の奥に隠れちゃうの!多分凄い恥ずかしがり屋さんなんだね!』

 

山脈近くに集落を築く開拓民が噂をする謎の種族、土の民に関する詳しい情報を収集する為に、手当たり次第に聞き込みをするが目撃証言が少なく調査が難航していた。

 

「そっちはどうだった?こちらは、開拓初期の頃に、土の民を目撃したと言う爺さんに聞こうとしたら、既にボケが始まっていて、曖昧な情報しか得られなかったんだが・・・。」

 

「こっちは、洞窟付近で遊んでいたら土の民を目撃したと言う子供から聞いたんだが、金槌の様な物を持った警戒心の強い連中と言っていたな。」

 

「金槌だって?常に凶器を持ち歩いてると言うのか?いや、工具かも知れないが・・・。」

 

「いきなり襲い掛かれたりしないよな?未知の領域に踏み込むのは常に危険と隣り合わせだ。」

 

「現地住民に穢れた大地と呼ばれた油田で、資源調査中に原生生物に襲われ自衛官が殉職している、この山脈にも未知の脅威が潜んでいるかもしれん、警戒するに越したことは無いだろう。」

 

 

開拓民との交流もかねて、情報交換を行い、数日後、いよいよ山脈の洞窟の調査を開始した。

 

 

「補強されていない洞窟や坑道では落盤の危険性が高い、しかし、こんな事も有ろうと用意してあったコイツが活躍するんだ。」

 

 

自衛官が自慢げに筒状の物体を抱えて、同僚に見せつける。

 

震災対策などで活躍が期待されている、試作型の蛇型ロボットである。

頭部に備え付けられたカメラと、狭い隙間も問題なく侵入可能な柔軟性、そして水中での活動も可能と言う優れものだ。

元々は、とある研究所によって作られた災害対策用ロボットだったが、有志により自衛隊に提供され各地で稼働している。

未調査領域での調査中に野生動物に襲われ殉職する自衛官も多かったが、これらの無人機械に先行させる事によって一気に人的被害が減っており、評価は上々であるという。

 

 

「相変わらず奇妙な形をしているなぁ、うねうねした奴苦手なんだよ。」

 

「まぁ、便利だけどな、洞窟の中で野獣とコンニチワなんてごめんだぜ?こいつを先行させれば、その心配も無いんだが・・。」

 

「最悪でもロボットが破壊されるだけだしな、その場合は厄介な野生動物を駆除する羽目になるんだが・・・。」

 

 

蛇型ロボットが洞窟入り口に設置され、起動を開始する。

 

 

「調査開始、これより洞窟内部に侵入する。」

 

 

無数のローラーが回転し、蛇型ロボットがうねりながら、洞窟内部に侵入を開始する。

 

 

 

『ねぇ、お父さん、まだリクビトは外に居るのかな?』

 

『見張りによると、どうやら開拓民と交流している様に見えるらしいな、このままこちらに気付かず、帰ってくれれば良いんだが・・・。』

 

『逆にここに居座られる可能性もあるぞ?まぁ、鎧虫の生息域に定住する変わり者ならばだが・・・。』

 

『少しだけ様子を見に行かない?斑模様の人達、この洞窟には近づかないんでしょ?』

 

『ペトラ、危ないから止めときなさい、連中の監視ならワシ等がやるからな。』

 

『そうだぞペトラ、もしリクビトに見つかったら頭からバリバリ食われちまうかもしれないぞ?』

 

『えー?見に行きたいなー。』

 

『えーじゃない、言う事を聞くんだ。』

 

『ふーん?それじゃぁ、あの場所を他の鉱夫さんに教えちゃおうかな~?』

 

『お・・・おい、ペトラ!!』

 

『あの場所?』

 

『あ、いや何でもないぞジルバ、こらペトラ、余計な事を言うんじゃない!』

 

『実はねー、洞窟の入り口にねー!むぐっ!?』

 

『ちっ・・・わかった、わかった、ちょっとだけだぞ?その代り俺もついて行くからな?』

 

『わーい!やったー!』

 

『おう、モーズ、ワシもついて行こうかの?』

 

『いや、ジルバはついてこなくても・・・・。』

 

『何、もしもの事があったら大変じゃろう?大人二人も居れば安心と言う物じゃ!』

 

『・・・わかった。(鉱脈の匂いを嗅ぎつけたか・・・ジジイめ』

 

 

一方、自衛隊が操作する蛇型のロボットは、慎重かつ念入りに比較的浅い層を調査していた。

 

 

「おい、見ろよ、あれ多分鉱脈だぜ?」

 

「それよりも、明らかに採掘された跡があるじゃないか?もしかしたら、本当に開拓民が言っていた様に未知の種族がこの洞窟の奥深くに潜んでいるのかもしれないぞ?」

 

「線の様なものが洞窟の奥に続いているな・・・何かを引きずった跡かも知れない進んでみるか・・・。」

 

「うわっ、急な坂になっている様だな、落下してカメラを破壊しない様に注意しろ。」

 

 

 

 

『リクビトどうしているかなー?もしかして洞窟にひょっこり顔を出したりしてー?』

 

『こらこらペトラ、騒ぐんじゃない、はぁ・・何でこんなことに・・・。』

 

『まぁまぁ、娘っ子は元気が一番じゃよ、それよりもモーズ、お前が秘密にしているあの場所とやらはあれじゃろ?鉱石の臭いがプンプンするぞい!』

 

鶴嘴を振るう真似をして、にやけ顔をするジルバ、それを見たモーズは渋い顔をする。

 

『全く、ペトラが余計な事を喋らなけりゃこんな事にはなっていなかったんだが・・・。』

 

『お父さんが様子見を許してくれなかったからだよーだ!さてさてーそろそろ、洞窟の入り口・・・ん?』

 

『どうしたペトラ・・・何だこの音は?』

 

何やら聞きなれない音が、洞窟に響いてくる・・・ふと上を見ると、奇妙な物体が落下してくるのだった。

 

 

「おい、見ろよ、これって岩を削って作られた階段じゃないか?」

 

「どう見ても人工物だな、間違いなくこの洞窟に何かが居るな。」

 

「どうする?開拓民の連中によると警戒心が強くて滅多に姿を現さない連中らしいじゃないか?このまま奥に進んで良いのか?」

 

「そうだな・・・下手したら彼らの領域を侵すことになるかもしれないな・・・、」

 

「一応進めるところまで進んでおくか、もう少しだけ調査を続けよ・・・あっ!!???」

 

「何だ!?画面が・・・ずり落ちたのか?おいおい!」

 

 

かつん、かつんと、落下しながら何度か壁に跳ね返り、岩肌にローラーを擦りつけ辛うじて減速するが、勢いは止まらない・・・そして・・・。

 

ずぽっ・・・。

 

蛇型ロボットは、落下した先で何かに挟まるのだった。

 

 

『ひいいぃぃぃやぁぁぁぁぁっ!!とって!お父さん!とって!!服の中に何かがぁぁっ!!』

 

『ペトラ!落ち着け、この・・・娘に何しやがる!!』

 

『なんじゃこれは!?蛇・・・蛇か!?』

 

『やだぁぁっ!!とって!とって!そこ・・・だめぇっ!!・・・ひっ・・お・・・おしりぃぃっ・・・。』

 

娘の一言でぷつんと頭の中で音がした様な感覚がすると、モーズは鬼の様な形相で服の中で蠢く蛇を鷲掴みにする。

 

『この野郎めぇぇぇぇ!!!』

 

引きずり出された蛇の様な生き物に向かって、背負っていた金槌を振り下ろし、岩が砕ける様な音を立てて蛇の様な生き物は動かなくなった。

 

『うっ・・・うっ・・・ひっぐ・・・。』

 

『大丈夫か?ペトラ?』

 

『モーズ・・・暫く、そっとしておけ、しかし、一体何じゃこれは・・・。』

 

『蛇?・・・いや、鎧虫か?・・・だが、これは明らかに生き物では無い、人工物?だが勝手に動く物など・・・。』

 

『勢い余って叩き潰しちまったが、何だったんだこいつは?・・・いや、娘の服の中で暴れまわった奴だ、こうなって当然だ。』

 

先ほどの娘の姿を思い出した後、不機嫌そうに眉間のしわを寄せると、蛇型の物体を睨めつける。

 

『洞窟の外のリクビトが操っていた鎧虫と同じ臭いがするのぅ・・・もしや連中が持ち込んだのでは?』

 

『リクビトが?・・・って事は奴らが娘を・・・許さねぇっ!』

 

『阿呆、違うわい、ワシが言いたいのは、こいつを使って奴らに変わって洞窟を調べさせたんじゃないかの?』

 

『間諜と言う奴か?こんな蛇に?・・・・もしそうだとしたら、連中はただモンじゃないぞ?』

 

『相当な手練れの魔術師団じゃな、これは本格的に対策をした方が良さそうじゃ・・・直ぐに町に戻るぞ!』

 

『あ・・・あぁっ!わかった!・・・ペトラ・・ほら、行くぞ!』

 

 

洞窟の奥に潜む未知の民は、粉々に粉砕された鉄の蛇を抱えながら彼らの集落に戻るのであった・・・。

 

 

「一体何だったんだ?」

 

「カメラが激しく揺さぶられて訳わからんかったが、最後に映像に移っていた奴って・・・。」

 

「もじゃもじゃの体毛と背の低い人物・・そして大きな金槌・・・。」

 

「あれが・・・・・・・・土の民?」

 

 



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第62話   槌人

大陸中央部を覆うように広がる山脈のとある洞窟を調査中に、謎の人物に蛇型ロボットを破壊されてしまった自衛隊は、拠点でロボットから送信されて来た最後の画像を検証していた。

 

「うっわぁ・・・・これは・・・怒るわぁ~。」

 

女性自衛官達から冷たい視線が突き刺さる、ロボットの操作を担当していた自衛官も眉間に手を当てて俯いてる。

 

「つまるところ、土の民の女の子の服に入り込んで、下半身にカメラ部分が到達したと・・・確かにロボットを破壊されても仕方がないな。」

 

「で・・・どうするんですか?これから彼らの集落に直接乗り込んで謝罪でもするんですか?」

 

「それは・・・するべきなんだろうが、難しい所だな、少なくともあれで警戒心を持たれてしまったのは間違いない。」

 

「この大陸の国々と交流を広げるのも我々の任務だ、土の民との接触は出だしが悪かったが、それでも交流を持つべきだと思う、ロボットは失われてしまったが、洞窟の調査を引き続き行うべきだろう。」

 

「それじゃ、ロボットが破損した時のプランで行くか?とは言ってもやる事は単純なんだが・・・。」

 

 

地底都市に帰った3人の土の民は、頭部が潰れた鉄の蛇を持ち込み、街の有力者たちと会議をしていた。

 

 

『これを見てくれ、中身を見ればわかるが、この蛇の様な鎧虫は、無数の部品からなる複雑な構造の人工物だ、生き物では無い。』

 

『人の手によって生み出された人工の鎧虫だと?実物を見るまで信じられなかったが、これは・・・いや、外に屯しているリクビトの物である確証はあるのか?』

 

『恐らくそうだろう、洞窟の外に居るリクビト達は、斑模様の鎧虫らしきものに乗って移動している様だが、生物らしからぬ形状をしている。』

 

『あの時は頭に血が上っていたが、改めてみると、凄い構造をしているな、この鉄蛇は・・・棘のついた車輪を組み合わせて関節を動かしているのか・・・。』

 

『・・・・・・・。』

 

『ペトラ、もう大丈夫かの?』

 

『うん・・・・平気、下着の上からだったから大丈夫だよ。』

 

『そ・・・そうか・・・。(そう言う事を言いたかったのではないのじゃが・・・うーむ、返答し辛いのう・・・。』

 

『こほん、兎に角、外に居る連中がついにこの洞窟に入り込み、この街に何れ到達すると言う事ですね?』

 

『それでリクビトの連中はどうするんだ?こんなとんでもない物を扱う連中だ、相当な手練れに違いないだろう。』

 

『戦闘は避け、彼らがこの洞窟に訪れた意図を聞き出す必要があります、もし、向こうが話し合いを持ちかけて来たらそれに応じるべきでしょう。』

 

『一応娘に危害を加えられとるんだがなぁ・・・まぁ、襲い掛かって来る様な連中なら頭を金槌でかち割る口実が出来ると言う物だが・・・。』

 

『モーズ、ペトラの事で頭に来ているのは解るが、乱暴はいかんぞい?もし連中が最初からそのつもりならば、もう既に襲撃されているだろう。』

 

『分かっている別に怒っている訳では無い、ただ、あの鎧虫を嗾けた奴が現れたらぶん殴ってやるだけだ、冷静にな。』

 

『お父さん・・・・。』

 

やれやれと、ジルバは呆れ顔をして、再び目線を町の有力者たちに向ける。

 

『さて、話を纏めるとしよう、もし彼らがこの洞窟に訪れこの街に来る様だったら、彼らの首領に話をつけ、この洞窟に来た意図を聞き出し、可能ならば立ち去って貰う、これで良いかの?』

 

『この洞窟を無視して立ち去ってくれるのが一番だが、恐らくはそうも行かないだろうよ、街の門を警備隊が固め、住民は街の奥に一時避難、魔術師部隊は防衛兵器をいつでも動かせるようにしておけ。』

 

『了解致しましたわ。』

 

『あぁ、門はがっちり固めておくよ。腕が鳴るな!がはははっ!』

 

『荒事にならなければ良いがのぅ。』

 

 

土の民の会議はまだまだ続く・・・。

 

 

「予備のプランって、結局俺達が自分で直接乗り込むだけかよっ!!」

 

「だから、やる事自体は単純だと言っただろうが、つべこべ言わずに手を動かせ。」

 

「暗視ゴーグルは装備した?それじゃぁ行くわよ!」

 

 

周囲の様子を伺いつつ洞窟を慎重に進む自衛隊、時折足場の悪さに尻餅をつく事もあったが、滑落防止のために壁にアンカーを打ち付け、ワイヤーで身体をしっかりと固定する。

 

「此処までが、蛇型ロボットの通った道か、ここから先は完全に未知の領域だな、気を引き締めろ!」

 

「了解!!」

 

「・・・・・っ待て、暗視ゴーグルを外せ、明かりが近づいてくる。」

 

暗視ゴーグルのスイッチを切り、ライトを点灯させ、近づいてくる光源に向かって照射する。

 

「土の民とやらのお出ましか、思っているよりも早かったな?」

 

「警戒を怠るなよ?発砲は禁止する、さて、どう出るか?」

 

 

洞窟に入り込んできた謎の集団に対して土の民の警戒心は最大になっていた。武装し身を固めているが、相手の実力は計り知れない、決して油断はできない。

 

 

『まさかここまで早く来るとはな、監視が伝えに来てもギリギリか、街に近すぎるな。』

 

『見れば見るほど奇妙な姿をしているな、あの光る魔道具もかなり高度な技術が使われているのだろう、これだけ離れていると言うのに何という明るさだ。』

 

『相手の武装は・・・杖?いや、短槍か?それにしても奇妙な形状をしているが、あの短槍も魔道具なのだろう、見た目で油断するなよ?』

 

『むっ、此方に近づいてくるぞ?・・・何やら妙な仕草をしておるの?手話か?』

 

『どうやら、向こうも話し合いがしたい様だな、さて、何を要求されるのやら・・・・。』

 

 

 

『あーっ・・・日本国、自衛隊、洞窟、調査しに来た、貴方達、此処に住んでいる人?』

 

『ニハン?ジエイタイ?何の話じゃ?』

 

「あ・・・普通に大陸共通語なんだ・・・それじゃ私が変わりますね。」

 

「おう、頼んだぞ。」

 

『えー、こほん、私達は日本と言う国からこの山脈の調査を行いに来た者達です。』

 

『ニファン?何とも呼びづらい名前の国じゃのう?』

 

『にほん、にっぽん、と呼び方は幾つかありますが、発音しやすい方で構いませんよ?』

 

『ニポンか、わかった、そっちの方で呼ばせて頂こう、して、この洞窟の調査と言ったかの?お主らに聞きたいのじゃが、これに見覚えはないかね?』

 

白髪交じりの老人が仲間に目線を送ると、奥にいた男がカメラ部分の潰れた蛇型ロボットを運んで来る。

 

『あー・・・勿論見覚えありますよ、それは、我々が作り出した調査用の鉄の蛇でして、人に変わって危険の多い洞窟などを調べさせる道具です。』

 

土の民たちは、驚いた顔をするが、赤銅色の髪を持つ男だけは眉間にしわを寄せ不機嫌そうな表情をしていた。

 

『成程な、俺の娘に鉄蛇を飛び込ませたのはお前たちだったのか・・・。』

 

赤銅色の髪を持つ男は鋭い目つきで自衛隊を睨めつけてくる。

 

『(あ・・・やばい、操作したの俺だとばれたら殺される・・・)』

 

蛇型ロボットを操作していた自衛隊員は、顔を青くし体中に嫌な汗をかく。

 

『その節は大変申し訳ありませんでした、あの鉄蛇を操っていたのは私です、うっかり滑らせて崖から落下させてしまい、娘さんに怖い思いをさせてしまいました。』

 

女性自衛官が前に出て頭を下げる。そして、蛇型ロボットを操作していた自衛官に目線を向け短い無言の会話をする。

 

「(後で食事をおごってね。)」

 

「(すまない、助かった、借りは必ず返す。)」

 

『ふむ・・・女・・・か、まぁいい、後ろに居る男連中だった場合は、軽く殴っていた所だが、悪気が無かった様だし、相手が同性なら娘の気も少しは和らぐだろう。』

 

『えぇ、次は気を付けます。』

 

『所で、はるばるニポンとやらからこの洞窟へ訪れた理由は何かな?調査とか言っていたな?』

 

『鉱物資源が無いかこの山に調べに来たのです。後は近隣住民との交流でしょうか?』

 

『近隣住民の交流・・・ねぇ、それは俺達も含まれるのか?』

 

『えぇ、勿論です。宜しければ貴方達の集落に案内していただけませんか?』

 

『ふぅむ・・・・。』

 

赤銅色の髪を持つ男は腕を組み考え込むが、白髪交じりの老人が代わりに答える。

 

『我々としてもやぶさかではないのぅ』

 

『ジルバ!?』

 

『あの鉄蛇を見て、少しばかりお主らに興味が湧いた。どうかねモーズよ?』

 

『・・・・確かに、彼らの技術力には驚きはしたが、得体の知れない連中を街に入れて良いのか?』

 

『なぁに、鉄蛇を実際に手にもって調べた連中は、未知の技術に興味津々でのう、鉄蛇を作った彼らの話も聞きたくなる筈じゃ、ワシ自身がそうなのじゃからの!』

 

『そうですか、とても光栄です。これがきっかけで日本との交流が深まる事を期待しております。』

 

『おうおう、では案内しよう!こっちじゃ!』

 

土の民の集団に案内され、洞窟の深部を目指し歩き続ける自衛隊、そして洞窟の中とは思えない広大な空間が眼前に広がった。

 

「・・・・・これは凄い・・・・。」

 

過去に大規模な崩落があったのだろうか、天井の一部が崩れた跡があり、ぽっかりと青空を覗かせ、地底の都市を太陽が照らしている。

 

『どうかね?驚いたじゃろう?まさかこれだけ、洞窟の深部で太陽を拝めるとは思っていなかったじゃろう!!』

 

『え・・・えぇ、物凄い光景です。』

 

見上げるほどの大きさの城壁に囲まれつつも、その城壁は洞窟の天井には届いていない、大きな城壁に見合った巨大な門には、2本の金槌が交差した意匠の紋章が描かれている。

 

『リクビトよ、見るが良い、これが我らツチビトが作り出した地底都市だ!』

 

『ツチビト?・・・・それが、貴方達の種族名・・・。』

 

『土の民にして槌の民、それが我々ツチビトじゃ!!』

 

ツチビトの集団は、門番と短い会話をした後、大きな太鼓を叩いて門の向こうに合図を送ると、重い響きと共に巨大な門がゆっくりと開き始める。

 

「は・・・はははっ・・・てっきり洞窟を削って作った住居に暮らしているかと思えば、とんでもない所に来てしまったな。」

 

「同感ね、さてはて何が飛び出てくるのやら・・・・。」

 

音が止み、ツチビトの集団は、先に進み、自衛隊の方に振り向き手招きをする。これから土の民と日本国の交流が始まろうとしていた。

 

 



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第63話   黒き甲獣

巨大な地下洞窟の中に佇む城塞都市、それが彼らツチビトの住居であった。

自衛隊は彼らに案内されるがまま、城塞都市の門をくぐり、ひときわ大きい建物へ行くのであった。

 

 

『ようこそ、地底都市へ、済まぬがしばし待たれよ。』

 

建物の前の庭まで案内されると、白髪交じりの老人が扉の奥に消え、その待ち時間で自衛隊員達は、周りの景色を観察し始めた。

 

「まさか地下にこれ程の城塞都市が存在するとはなぁ・・・。」

 

「ゴルグの元の城壁は6~7メートルくらいの高さだったよな?ここのは少なくとも10メートルはあるぞ?まぁ、俺達が立てた奴よりは小さいが・・・。」

 

「それも誤差の範囲だな、しかし、これ程の防壁は一体何から守るための物なんだろうか?話を聞く限りでは、少なくとも外の人間にはあまり知られていない種族の筈だが・・・?」

 

「外敵から身を守るためじゃない?こんなに物々しい防壁を建造するんだから、ゴジラみたいな原生生物でも居るんでしょ?」

 

「・・・・あまり考えたくはないが、トワビトの集落付近で遭遇した前例があるからな・・・可能性としてはありかも知れん。」

 

自衛隊員の面々が、とりとめのない会話を続けていると扉が開かれ兵士を連れて白髪交じりの老人が戻って来る。

 

『待たせたの、それでは案内しようぞ。』

 

館の様な城の様な建造物を案内され、その道中、前後に引き連れて来た兵士がぴったりとついてくる、恐らく護衛と警備を兼ねてだろう。

 

ひときわ大きな部屋にたどり着くと、円卓・・・では無く、石造りの四角いテーブルに向かい合うように木製の椅子が並んでいた。

 

『遠路遥々のご来訪、ご苦労である、外部からの来客など久しく無かったが、まぁゆっくりしていってくれ。』

 

案内の時に同行していた兵士が、椅子に掛けるよう促すと、自衛隊員達はそれぞれ木製の椅子に腰を掛ける。

 

『話は聞いておる、お主らがニポンと言う国の使節だな?』

 

『えぇ、我々は日本国自衛隊です。この大陸の国々と交流を持つために、海の向こうからやってきました。』

 

自衛隊を案内した白髪交じりの老人は目を丸くして驚く

 

『なんと、それは初耳じゃったな!?海と言うのはあれじゃろ?世界の最果てまで続く尽きる事のない水溜りだと・・・。』

 

『えぇ、その海です。我が国は、この大陸から少し離れた場所に位置する島国なのです。』

 

『ふむ・・・では、そなた達が噂に聞く海の民とやらなのでないか?・・・むん?しかし鰭や鱗などは見当たらないが・・・?』

 

ツチビトの有力者たちは不思議そうに首をかしげる。

 

『いえ、我々は海の民ではありませんが、その海の民と交流を持ってはいます。』

 

『な・・・なんと・・・。』

 

ツチビト達は大いに驚き、暫く言葉を失う。外部と交流を殆ど持たないツチビトでも海の民の排他的な気質と目撃例の少なさは、風の噂で耳にしているのだ。

 

『海の向こうから来た島国、未知の種族と交流を持つニポン・・・か、大陸の国々と交流を持とうとしていると言っていたな?』

 

『えぇ、各地を回って交流を広げています。しかし、まさか地下にこれ程の国が存在しているとは思っていませんでしたが・・・貴方達とも交流を持ちたいと思っております。』

 

『むぅ・・・お主らの目的は本当にそれだけなのか?あの奇怪な鉄の蛇といい、お主らの身に着ける奇妙な魔道具といい、外交の為に訪れたにしては異様過ぎる。』

 

『我々は自衛官ですので、外交官ではありませんね。しかし、彼らに先立って接触するのが我々の仕事でもあります。』

 

『成程な・・・確かに我らは外部との交流を断っている、お主らが偶然この洞窟を調査しなければ接触も無かっただろうな。』

 

『正式に日本と交流をすれば、本国から外交官がやって来ると思います。所で、話をお聞きすると貴国は鎖国状態にある様ですが、宜しかったのでしょうか・・・?』

 

『うむ、鎖国と言えば鎖国であるが、積極的に外部と交わろうとしていないだけで、別段、この地下都市への往来を禁じている訳ではないぞ?』

 

『では!』

 

『うむ、そちらがそのつもりならば、正式に交流するのもやぶさかでは無い、それに、例の鉄蛇の他にも面白そうな物を扱っていそうだしな。』

 

ツチビトの老人はしわくちゃな顔で愉快そうに笑う。

 

『だが、外部には我らの事はあまり口外して欲しくない、厄介ごとは余り持ち込まないで貰いたいの。』

 

『分かりました、一応上にはその旨を伝えておきます。』

 

『唯でさえ厄介ごとを抱えているのに、外から悩みの種を持ち込むのはまっぴらごめんでのぅ。』

 

『厄介ごと・・・ですか?』

 

 

その直後、遠雷の様に地下都市の外から激しい音が鳴り響き、建物に微弱な振動を感じる。

 

「な・・・何だ今のは!?」

 

「地震?」

 

思わず椅子を蹴り上げる勢いで立ち上がる自衛官の面々、良く見るとツチビトも同じだ。

 

『噂をすれば何とやら・・・その厄介ごとが現れた様だ・・。』

 

『い・・・一体何ごとですか?』

 

『我らがこの洞窟に暮らし始めてから数百年、どこからか巨大な甲獣(グリプス)が現れてな、それ以来、不定期に襲撃を受けておるのだ。』

 

顔半分を覆うほどの髭に覆われているものの比較的若いツチビトが答える。

 

『まったく、お前らを連れてくる最中に遭遇しなくて良かったぞ、だが、間が悪いとも言えるな、悪いが暫く城門は開けない。』

 

赤銅色の髪を持つ男が額を抑えながら話す。

 

『甲獣?もしかして、あの分厚い防壁がこの街を覆っている理由って・・・。』

 

『そうだ、奴が原因だ。最初は土を固めた壁だった、そして何度も突破されるうちに現在の形にまでなったのだ、そこに至るまでの被害総数は凄まじい物だったよ。』

 

再び轟音が響く、今度ははっきりと解るくらいに揺れを感じ、パラパラと天井から粒が落下する。

 

『ふむ、音の位置的に丁度ここから見えるじゃろう、窓を見るが良い。』

 

オオオオオオオオオオオォォォォォォン・・・・・。

 

洞窟に反響して不気味な鳴き声が聞こえてくる。時折城壁の外側から土煙が上がる。

 

『あれは甲獣・・・・。』

 

『そうじゃ・・・奴こそ忌まわしき黒き甲獣・・・・黒鉄重甲獣(ベルグードグリプス)じゃ!!』

 

 

先ほどまでは温厚そうだった白髪交じりの老人は、射殺さんばかりに憎しみの籠った目つきで城壁の外の土煙を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルグードグリプス 通称:黒鉄重甲獣

 

 

和名:クロガネヨロヒムシクイ

 

大陸中心部を覆う様に広がる山脈に生息する中型の甲獣。

基本的には鎧虫を捕食するが、鉄鉱石や金属を多く含む殻を持つ木の実を食べることもある雑食性。

甲獣としては一般的な大きさの本種であるが、岩や砂に埋もれて長期睡眠する習性があり、

圧力で密集した外殻は他の甲獣に比べ非常に強固。

洞窟や峡谷などでの目撃例が多く、地面を削りながら獲物を捕食する姿は圧巻。

食物連鎖の上位に君臨するが、同種の縄張り争いや外敵からの襲撃で命を落とす個体も多い。

傷つくたびに強固に再生した外殻は鋼にも勝る強度を誇り、外殻は高値で取引されている。

とはいえ、この世界の技術では加工することが不可能なので丸ごと城壁に利用される。

 



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第64話   異形の羽虫

洞窟の深部にこだまする不気味な咆哮、巨大な凶器を振り下ろし堅牢な筈の城壁を大きく削り、土煙が舞う。

地下に潜み、土の民を襲い食らう黒き甲獣は、空腹より目覚め、再び災いを城塞都市に振りまこうとしていた。

 

『魔術師部隊!防衛兵器の起動はまだなのか!?』

 

『今やっています!』

 

『弓兵が火矢を放っているが、長くは持ちこたえられないぞ!?急がせろ!!』

 

岩盤を削るために発達した巨大な爪を振り回し、城壁の上から矢を放つ弓兵に城壁の破片をぶつけ、無力化する。

運の悪かった者はその場で即死し、更に運の悪い者は、甲獣の目の前に落ち、生きながらに食われた。城塞都市は混乱の極みに達していた。

 

「何て無茶苦茶な・・・。」

 

「大森林方面に派遣された部隊が遭遇した奴と同タイプの原生生物か・・・情報よりも小さい様だが・・・。」

 

「どちらにせよ、このままだとこちらも危険だぞ!?本部に早く連絡を!!」

 

「既に連絡済みです、増援が到着するまで持ちこたえてください!!」

 

『リクビトよ、間が悪い時に来てしまったな、だが、こうなっては覚悟するしかあるまい・・・しかし、今回はやけに凶暴だな。』

 

『寝覚めでも悪かったんじゃろう、ついでに腹も減っている様じゃ、幸いリクビトのお蔭で住民は奥に避難しているので、人的被害は兵士のみにとどまりそうだが・・・。』

 

『兵士も大切な我らの同胞だ!我々も加勢するぞ!ジルバ!ついてこい!!』

 

慌ただしく、館の兵士が武器を持って城壁方面に駆けて行く、自衛隊員達も背負っている武器の状態を手早く確認し、城壁に近く、背の高い建物へ向かう。

 

『準備完了、弓兵を退避させてください!!』

 

『良く持ちこたえてくれた!地獄に落ちろ!黒き甲獣よ!!』

 

事前に着弾予測がされた場所に投石器から発射された大岩が降り注ぐ、その殆どは近くに着弾するものの直撃はしなかったが、数発の大岩が甲獣の頭部と背中に命中する。

 

オオオオオオオオオオオォォォォォォン!?

 

曲線を描きながら直撃した大岩は、凄まじい運動エネルギーを持って、黒き甲獣に傷を負わせる。しかし、それだけでは終わらなかった。

 

『くははははぁっ!!これだけで終わりではないぞ!!』

 

直撃時に砕け散った大岩の断面は無数の青白い発光体が埋め込まれており、それが激しく光り輝き、青白い爆発を引き起こす。

外れて地面に落ちた大岩もそれに連鎖反応を起こして、次々と爆発を起こす。

 

『どうだ!黒鉄重甲獣め!!10年分の魔石を集めた、炸裂岩だ!貴様もこれでお終いだ!!』

 

『凄まじい魔力の濃度だ・・・これ程魔石を使えば当たり前か・・・。』

 

『やった・・・のか?』

 

青白い粒子の煙で覆われてその輪郭を薄ら確認できる程度だが、少しずつ煙が晴れて行き、その姿が現れる。

 

オオォォォン・・・。

 

『うっ!?こいつはっ?』

 

『手傷は与えたが・・・あれだけの爆発に耐えるだと!?』

 

鱗の隙間から赤黒い体液をまき散らし、爪や外殻などに細かいひびが割れているが、黒き甲獣は健在だった。それどころか、先ほどの攻撃で激昂している様である。

 

オオオオオオオオオオオォォォォォォン!!!!

 

地の底から響くような唸り声を上げると、後ろ足を何度も地面に蹴りつけ、首を引っ込める。

 

『いかんぞ!!突っ込んでくる!』

 

『弓兵!!火矢を放っている場合では無い!退避しろ!!』

 

今にも城壁に突進を開始しようとしていた、次の瞬間!!黒き甲獣に2本の光の矢が降り注ぎ、前脚の外殻を吹き飛ばし前のめりに転倒させる。

 

『なっ!?一体何だ今のは!!』

 

光の矢が放たれたと思われる監視塔の方向を向けば、斑模様の奇妙なリクビトが特大の杖の様な物を構えていた。

 

「こんな距離で当たるのかと思っていたが、当たるもんだな。」

 

「横風が無いのも大きいですよ、しかし、カールグスタフでは火力不足か・・・。」

 

「ツチビトとか言う連中も良くやるもんだよ。最初の岩石爆弾で倒せたかと思っちまったぞ?」

 

「指向性の爆発では無かったのだろう、黒色火薬と同程度と言った所か・・・。」

 

「もうひと押しだ!MINIMIを食らえ!!」

 

監視塔から放たれる無数の光の束は、黒き甲獣の頭部に殺到し火花や血しぶきを上げる、美しくも恐ろしい魔導にツチビトは戦慄していた。

 

『な・・・何と言う強力な魔法だ!!』

 

『見ろ!奴が後退しているぞ!?火矢の比では無い・・・なんて威力だ!!』

 

その一方、自衛隊側も焦りが見えていた。

 

「畜生、これだけ銃弾を浴びせても倒れないのか!」

 

「無反動砲に耐える獣に小銃を食らわせても牽制程度にしかならないぞ?」

 

「念のためにMINIMIを持ち込んだは良いけど、元々そんなに弾は持ち込んでいなかったのよね。」

 

「くそっ・・・増援はまだなのか?」

 

城壁の上から呆然と自衛隊の銃撃を見ていたツチビト達は、黒き甲獣の呻き声で我に返り、再び弓を構える。

 

『何だか知らんが、好機だ!我々も矢を放つぞ!!』

 

再び城壁の上から無数の火矢が降り注ぐ、自衛隊の曳光弾と弓兵の火矢が織り成す光の曲線が、美しく甲獣を血祭りにあげる。

 

その時、聞きなれぬ音が洞窟の上部から響いてきた。

 

『一体なんだ?この音は?』

 

『おいっ!!あれを見ろ!!』

 

弓兵の一部が指をさしながら、洞窟の天井を指さす。そこには、崩落して青空が見える大穴から異形の羽虫が2匹舞い降りる姿が見えるのであった。

 

「おいおい、増援ってコブラかよ!?」

 

「しかも、2機・・・地下洞窟にヘリコプターなんて、無茶な真似をするなぁ・・・。」

 

「てっきり後続部隊が携帯火器で砲撃してくれるもんだと思っていたが・・・・。」

 

洞窟内部に侵入した2匹の羽虫は、その羽音を洞窟中に反響させ、城塞都市周辺を睨みつけるように旋回をする。

 

『何という事だ・・・唯でさえ黒鉄重甲獣に襲撃されていると言うのに、羽を持つ鎧虫が2匹もだと!?』

 

『我々の命運も此処までと言うのか・・・・。』

 

気が付けば、監視塔のリクビトも魔力が切れたのか、閃光の魔導を放たなくなっている。黒き甲獣も2匹の羽虫に意識を向け睨みつけている。

次の瞬間、異形の羽虫の頭部から咆哮と共に強力な光の熱線が放たれた。

 

ヴイイイイイイイイイイイン!!!

 

モーター音と発砲音が混じった独特の音を立てながらコブラの編隊がM134ミニガンを発射し、黒き甲獣の外殻を吹き飛ばし、蜂の巣にする。

 

オオオオオオオオオオオォォォォォォン!!

 

怒り狂った黒き甲獣も負けじと、手ごろな大きさの岩石をつかみ、その怪力を持ってコブラに向かって投石をするが、機動力に優れるコブラには命中せずに明後日の方向へ飛んで行く。

 

「こんな高さまで岩石を投げつけてくるとは・・・正直ヒヤッとしたぜ、お返しだ!!」

 

コブラの両脇に備え付けられたM200ハイドラ70ロケット弾ポッドから、無数のロケット弾が発射され、次々と鱗や甲羅に突き刺さりその体を解体して行く。

 

声にならない悲鳴を上げ、黒き甲獣は、原型をつかめない程にバラバラに粉砕されてしまった。

 

『な・・・ば・・・化け物っ!!』

 

『くそっ、この距離では矢が届かない・・・むっ、着陸するぞ!?』

 

『っ・・・人・・・リクビト!?あの羽虫にリクビトが乗っていたと言うのか!?』

 

『それにあの服装・・・斑模様の・・・まさか・・・。』

 

ふと監視塔の方に目を向けると、魔道具と思われる照明器具を点滅させ、鎧虫の方向に合図を送っており、手を振っている者も居る。

 

『あの斑模様のリクビトの戦力の一端だと言うのか、あの羽虫は・・・。』

 

『奴らは・・・一体何者なんだ・・・・?』

 

ツチビト達は、監視塔の上で手を振る自衛隊に畏怖の目で見続けるのであった。

 



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第65話   大地の民との国交

「大丈夫か?飛べるか?」

 

「駄目だ、尻尾がヘタレちまった様だ。先に帰投してくれ。」

 

「了解した、洞窟を調査中の部隊と合流してくれ、オーバー」

 

テールローターに異音を感じ、緊急着陸したものの応急修理が出来ないので、仕方が無く近隣の部隊と合流しようとするパイロット、しかし、ふと周りを見渡すと武装した現地住民が集まってきていた。

 

「あー・・・不味いなこれ・・。」

 

『お主は何者じゃ、洞窟の外のリクビトの仲間か?その羽虫は一体なんだ?』

 

「大陸共通語か・・・何とかなるかもしれないな・・・。」

 

自分を落ち着かせるために息を吐き出し、呼吸を整えると、武装した現地住民に口を開く。

 

『あー・・・私、日本国、自衛隊です。仲間、危機を察して、空から来ました。』

 

『仲間の危機?あぁ、やはり地下都市に訪れた斑模様のリクビトの仲間か、お主も似たような服装じゃな・・・ふむ・・。』

 

『黒い獣、襲われていた。大丈夫ですか?』

 

『お主らの魔導と、後ろの羽虫のお蔭で何とかなった、それは感謝するが、それ程の鎧虫を引き連れ何をするつもりじゃ?いや、そもそもどうやって仲間の危機を知った?』

 

『あー、仲間、遠くからでもわかる合図、使える。』

 

『合図?ふむ、何らかの手段で連絡を取り合えるという事じゃな、気になるが詮索はせんよ、それよりも、仲間と合流したいのではないか?』

 

『仲間、あの街に居る、知ってる?会えれば助かるます。』

 

『いいだろう、案内する。その鎧虫は置いて行くのか?』

 

『あー、ヘリコプター、動かせない、置いて行く。』

 

『ヘリコプター・・・か、変わった名前の鎧虫じゃのう、まぁいい案内しよう、ついてくるが良い。』

 

 

斑模様のリクビトを城塞都市に案内するツチビトの兵士達は、時折後ろを振り返って、黒き甲獣を滅した異形の羽虫を見ながら城塞都市に戻るのであった。

 

 

「急にフラフラと着陸したからどうしたかと思ったが、テールローターの故障か、何にせよ無事でよかった。」

 

「まったく、とんだ災難だよ。ここ最近、原生生物の群れの襲撃や例の厄介な国(ルーザニア)のせいで忙しなかったが、遂にガタが来たという事か・・・。」

 

「大穴から侵入するときに擦ったのか?それとも、先ほどの戦闘でか?」

 

「いや、どちらも問題は無かった、被弾もしていないしな、一応しっかりとメンテナンスはしているが、まぁ今回運が悪かったんだろう。」

 

「確かに困ったことになったな、外なら兎も角、地下で身動きが取れなくなるとは・・・バラして運ぶにしても通路が狭いしなぁ。」

 

「最悪大穴を通って、大型ヘリコプターに吊り下げて貰うか、しかしなぁ・・・。」

 

不時着したパイロットと会話をしていると、突如扉が開かれ、赤銅色の髪を持つ男と白髪交じりの老人が現れる。

 

『仲間と合流できて何よりじゃの、羽虫使いよ。』

 

『話している所悪いが、本題に移って良いか?』

 

『えぇ、構いませんよ?』

 

立ち話をしていた自衛隊員たちは、石で出来たテーブルの席にそれぞれつき、後から入って来た二人のツチビトも席に座る。

 

『先ずは、先の戦いでの助太刀に感謝する。しかし、あれ程の魔導を操り異形の羽虫を従えるお前達は一体何者だ?ニポンはあれ程の怪物を大陸に持ち込み何をするつもりなのか?』

 

『途中で思わぬ横やりが入ってしまいましたが、当初の通り、この大陸の国々と交流を持つために、海の向こうからやってきました。しかし、この大陸は我々が想定した以上に過酷な地でした、それが戦力を持ち込んだ一つの理由です。』

 

『確かにこの大陸には鎧虫を始めとした狂暴な魔物で犇めいておる、あの黒鉄重甲獣(ベルクードグリプス)もその一つじゃな。』

 

『だがあの羽虫はそれらの魔物すら一瞬で消し去らんばかりの力を秘めている。まるで御伽噺の魔族の様にな。』

 

『憎き甲獣の死骸を確認ついでにお主らの羽虫を拝ませてもらったよ。だが、あれも鉄蛇と同じく人の手によって作られた鎧虫じゃった、複数の部品を複雑に組み合わせた異形の羽虫じゃな。』

 

『あれはヘリコプターと言う乗り物です。ご指摘の通りあれは生物では無く、無数の部品を組み合わせて作り上げた航空機という分類される乗り物の一種ですね。』

 

『お主らの鉄蛇には驚かされたが、今回はそれ以上じゃ、しかも調べれば魔術式はおろか、魔力の痕跡すら確認できなかった。ニポンは魔力を使わず魔法を使う事が出来るのかの?』

 

『あれは魔法ではありません、我々は魔法を使うことが出来ない種族なのです。正確には貴方達がリクビトと呼称する種族とは全く違う種族になりますね。』

 

『魔法では無い?ではあれ程の力は一体どこから・・・いや、その前にリクビトでは無いと申すか?・・・ふむ、確かにお主らから魔力を全く感じぬ。一体どういう事じゃ?』

 

訝しげな眼で白髪交じりの老人は自衛隊員達を見つめる。

 

『正直お前たちの存在はこの大陸で異質過ぎる。俺たち自身、地下に籠る変わり者だと言う自覚はあるが、お前達には劣るだろう。もう一度聞く、お前たちは何者だ?』

 

『海の向こうからやって来た、これは本当の事です。しかし、信じてくれないかもしれませんが、元々我々の国は別の世界に存在していた島国だったのです。』

 

『別世界じゃと!?』

 

『一体何を言って・・・・!?』

 

『なぜ我々がこの世界に飛ばされたのかは未だに正確につかめていないのですが、海の民によると大規模な魔力爆発が海底火山で起こり、気が付けば見た事も無い陸地・・・そう、我が国がこの世界に出現していたと言うのです。』

 

『海底火山!?海の中でも火山が存在すると言うのか!?いや、そもそも島国ごと別の世界から引き寄せる力が存在すると言うのか!?』

 

『・・・我々にとっても別の世界へ転移する事は異常事態でした。元の世界がどうなってしまったのか知る術はありませんが、国交を持っていた国を全て失い、すがる思いでこの大陸にやって来たのです。』

 

『俄かに信じがたいが、お主らが大陸の国々と交流を持とうと言う話には理屈として通るのぅ、この魔力とは異なる奇妙な力を操るのにも説得力がある。』

 

『リクビトではない別世界の種族・・・・か』

 

『大陸のとある人達には、イクウビトと呼ばれる事もありますね。我々は自分たちの事をその様に呼ぶ事はありませんが、まぁ、お好きなようにお呼び下さい。』

 

『イクウビト・・・・。』

 

『私達は、貴方達ツチビトと交流を持ちたいと思います。新たな世界で、新たな友と共に助け合い、生きて行きたいのです。』

 

『異世界の国ニポンと、異世界の民イクウビトか・・・実に興味深い。』

 

『うむ、同感じゃのぅ、海の向こうの世界の話を聞けると言うだけでも興味をそそられると言うのに、異世界からと来たか!これ程の存在との出会いは奇跡としか言いようがないの!』

 

『では国交を結ぶ為の細かい交渉は、外交官がこの街に来てからにしようか。』

 

年若いツチビトが扉の奥から現れ、会話に交じる。

良く見ると、その後ろから先ほど会議室に居た地下都市の有力者の面々が入室してくる。

 

『おおっ、お主らも来たか、しかし立ち聞きしとらんで入って来れば良かったじゃろうに。』

 

『いや、何となく入る間を逸してしまってな、興味深い話をしている様なので入らずそのまま続けさせてもらった。』

 

『元より国交を結ぶ予定ではあったが、まさか異世界の国とはな、益々もって興味深い。』

 

『悩みの種であった黒き甲獣を倒してくれた礼も言わなければならないしのぅ。』

 

『俺も異存はないぞ?しかし、国交か・・・何時までも地下に引き籠っては居られないという事か、これも時代の流れと言う奴だな。』

 

『それでは、我々は外の仲間たちと合流して、この事を本国に伝えようと思います。まだ国交を樹立出来てはいませんが、これから宜しくお願いします。』

 

『あぁ、外交官がこの街に訪れたら歓迎しようじゃないか、盛大にな。』

 

後日、地下都市に訪れた外交官は、ツチビトの作る強烈な酒で歓迎され、轟沈する事になると言う・・・・それは、また別の話。

 



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第66話   リーフブロワ―の恐怖

日本が大陸の拠点とする要塞都市ゴルグの一角に、異世界の動植物を研究する研究所が存在する。

主に未知の病原菌や危険生物の対策が最優先課題とされており、未知の感染症が日本に上陸する前に食い止めるための防波堤として機能する予定だが、未だに施設は整っておらず、増築が待たれる。

 

各地から捕獲した動植物を飼育する設備も間に合っておらず、要塞都市ゴルグの近辺でとれたものは、ある程度の観察が終わった後、自然に帰すこともある様だ。

 

 

「ふぅ、ここらへんの掃除は終わりだな、後は飼育施設付近か、無駄に広いから疲れるな・・・清掃員も増やしてくれないもんかねぇ。」

 

リーフブロワ―を使い、一か所に集めた落ち葉の山をビニール袋に詰め込み、焼却炉に放り込むと、軽く手を払い埃を落として、次の掃除場所に向かう。

 

飼育施設付近の街路樹由来の物と思われる、大量の落葉が絨毯の様に積もっている光景を前に、苦笑いしつつ、ため息をつき、リーフブロワ―を起動する。

 

 

一方、飼育施設内部にて・・・。

 

 

んぐ・・・ちゅぱ・・くちゅくちゅ・・・はぐはぐ・・・。

 

 

「なぁ・・・あの子さっきから何やっているんだ?」

 

「あぁ、太郎の事?少し前に自分の尻尾を追いかけまわしてグルグル回っていたんだけど、自分の尻尾を捕まえると同時に噛みついちゃってね、それからずっと舐めているんだよ。」

 

檻の中で飛竜の子供が、自分の尻尾を口に頬張ったり、舐めまわしている。余りにも長時間舐めまわしているせいで尻尾はベトベトになり、少しふやけてしまっている。

 

「ははははっ、馬っ鹿でぇ~~!自分で自分の尻尾を噛みついたってか?こりゃ傑作だな!」

 

クニュゥゥー・・・・アグニュゥ・・・はぐはぐ・・・。

 

「しかし、夢中だなぁ・・・もう痛みも引いているんじゃないか?」

 

「今度は尻尾を追いかける遊びじゃなくて舐めまわす遊びになっているみたいだな、可愛い奴め・・・。」

 

はぐはぐ・・・・ンギャ?・・・グルルルルルゥゥ・・・グゥゥゥゥッ!!

 

「ん?太郎?どうした?」

 

「何唸っているんだ・・・おいおい、震えているじゃないか、どうしたんだ?」

 

 

研究所の清掃員は、飼育施設付近の落ち葉をリーフブロワ―で一通り吹き飛ばした後、ビニール袋に詰め込み、軽く腰を叩く。

 

「あ~っ・・・疲れた、一人でやるには広すぎるっての、さて、報告に行くか・・・おん?」

 

ふと、窓から飼育施設内部を覗いてみると、研究員が何やら集まっている様だ。

 

「何かあったのかな?」

 

 

 

グルルルルルゥゥゥッ・・・グゥゥゥゥ・・・。

 

 

「どうした太郎?どこか体調が悪いのか?」

 

「震えている・・・何か怖い目に遭ったのか?」

 

 

クゥゥゥン・・・・ニャフン・・・・。

 

 

「おーい、何の集まりだ?」

 

「あ、掃除終ったのか?それよりも、太郎がおかしいんだよブルブル震えて蹲っているんだ。」

 

清掃作業が終わり、野次馬的に研究員たちの集まりに顔を出してみると、大きな獣が丸く蹲っており、不安そうな表情で震えている。

 

「風邪でも引いたのかな?」

 

ンギャッ・・・ふ・・・フーーー~~~~ッ!!グルルルルルゥ!グゥゥゥゥゥ!!!

 

「な・・・何だよ、何睨みつけているんだよ?」

 

飛竜の子供は、後から入って来た清掃員を睨めつけ、鱗や体毛を逆立たせている。

 

「太郎?どうした・・・って・・・あー、まさか・・・。」

 

「は?何?何で俺が睨まれているの?」

 

「それ、片手に持っている物、さっきからずっと起動しっぱなしじゃないか?」

 

ふと、自分の片手に握られているリーフブロワ―がいつの間にかモーター音を響かせて風を起こしている。

 

「これ?これでびびってんのか?」

 

グゥゥゥゥゥ!!!フゥゥゥゥゥッ!!ンギャン!ふーーーーっ!!

 

「うわー・・・色々逆立っているよ・・・毛玉みたいになっとる」

 

「早く止めてあげなよ・・・。」

 

「ほいほい、わかったよ・・・・って、あっ・・・。」

 

リーフブロワ―のスイッチを切ろうとするが、滑って床に落としてしまい、盛大に音を立てつつ跳ね返り、噴射口が飛竜の太郎のお腹に当たってしまう。

 

 

ずぶっ!ぶぼぼっ!!・・・ぷぅっ!

 

キャウゥゥゥゥゥゥン!!!???

 

リーフブロワ―から送り出される空気が肉を震わせ屁の様な音が響き渡る。

飛竜の太郎は、甲高い悲鳴を上げると、そのまま硬直し、床に生ぬるい液体を漏らしてしまう・・・。

 

「あーーーーっ・・・・やっちゃった・・・。」

 

余りにも未知の体験をしたために、飛竜の子供は恐怖のあまりに失禁してしまった、体は震えつぶらな瞳から涙がこぼれ始める。

 

クンクン・・・・。

 

「あ~・・・ええっと、その・・・ごめん・・・っていうか動物も泣くのか・・・。」

 

「いいから、さっさとそれ片付けて!後で反省文書けよ!」

 

クウゥゥゥン・・・。

 

「あ違うんだよ?太郎を怒った訳じゃないから・・・。」

 

 

その夜、清掃が終わった後の檻の中で、お漏らしをした場所の床をしきりに申し訳なさそうな表情で見つめる飛竜の太郎の姿が余りにも哀愁を漂わせていた。

 

この出来事の後、飼育施設付近はリーフブロワ―や掃除機を含む音を響かせる清掃具の使用は禁止され、昔ながらの竹箒が使われるようになったと言う・・。

 



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第67話   飛び去る巨虫

大陸の中心部を覆う様に聳える山脈の地下洞窟に、住居を構える土の民は、資源調査を兼ねて洞窟に侵入した自衛隊と出合い、日本と正式に国交を結ぶ事になった。

 

交渉中に巨大な魔物の襲撃を受ける物の、自衛隊は重火器と攻撃ヘリコプターを用いて撃退した事で計らずともその軍事力を示威する事になる。

その事で日本に対して畏怖と警戒心を抱くものも多く、特に、黒き甲獣を焼き払い、地下都市付近の平地で羽を休める異形の羽虫は、土の民の視線を集めた。

 

 

『これがニポンの操る鉄の羽虫か・・・・何とも面妖な姿をしているな。』

 

『嘴の様な部分から破壊の閃光を放ったのだとか・・・恐ろしい力を持つ羽虫だ。』

 

『ねぇ、この羽虫いきなり動かないよね?寝ているのかな?』

 

『いや、そもそもコイツは生き物じゃないだろう、どうやって作ったのか判らないが、コイツは人の手によって作られた人工の羽虫よ。』

 

『リクビト・・・いや、イクウビトと言ったか・・・彼らと国交を持つことで何が齎されるのだろうか・・・全く計り知れん。』

 

 

 

不時着したコブラの周りに人だかりが出来ている。その光景を地下都市付近に設置された天幕から自衛官たちは眺めていた。

 

 

「今日も集まっているな、ツチビトの連中は・・・まぁ、外せる部品は外しておいたから別に作業は残していないんだが・・・・。」

 

「そう言えば、そろそろ来るかもしれませんね。ずっと洞窟内に放置する訳にも行きませんし、早めに基地に運びましょ。」

 

 

ふと上を眺めると洞窟に大きな羽音が聞こえ始め、洞窟の天井にぽっかりと空いた大穴から巨大な羽虫が舞い降りる姿が見えて来た。

 

「噂をすればお迎えが来たな、さて、久しぶりの帰還だぞコブラさんよ。」

 

 

洞窟地下に降りたコブラよりも更に大型のチヌークの出現により、コブラに集まっていたツチビト達は蜘蛛の子を散らすようにコブラの近くから退避し、腰を抜かす物や転倒する者も出てしまう。

 

既に外せる部品を外して軽量化したコブラに吊下装置を作業員が素早く取り付け、チヌークは上昇を始める。

巨大な羽虫が、更に巨大な羽虫に吊り下げられ、洞窟の大穴から飛び去って行く。その現実離れした光景を地底都市に住む多くのツチビトの目に焼き付ける事になる。

 

『うひゃぁっ、な・・・何だぁ!?』

 

『あ・・・あ・・馬鹿な、唯でさえ巨大だったあの羽虫よりも更に大型の羽虫だと!?』

 

『それに、あの巨体を抱えることが出来る怪力を持つと言うのか・・・化け物め・・・。』

 

『もう何でもありだな、ニポンは・・・次に何が出てきても驚かないぞ。』

 

『鉄の羽虫・・・帰っちゃった・・・もっと見ていたかったな・・・。』

 

『ふぬ?』

 

 

 

「これで、片付いたな、まぁ何時までもあそこに放置していると邪魔だろうし、取りあえずひと段落と言った所か。」

 

「洞窟の入り口が狭すぎるから分解して持ち帰るのは難しいからな、拡張工事でもすれば良いのだろうが、無許可で行う訳にもいかないしなぁ・・。」

 

「先がどうなるかは判らないが、それらを可能にするためにも先ずは国交だろ?焦っても仕方がない。」

 

「そうだな、まぁ、細かい交渉はお偉いさんに任せて、俺達は俺達の仕事をこなさないとな。」

 

「確かゴルグで働く重役さんが来るんだっけか?日本本土から遠く離れた地で良くもまぁ頑張るよ。」

 

「違いない。」

 

「そう言えば、地下都市では滅多に訪れる事のない外からの来客にきっつい芋焼酎を振舞う習慣があるらしいが、大丈夫なのかねぇ・・・。」

 

「きっつい芋焼酎か、いいねぇ!暫く酒なんて飲んでないから羨ましい事だよ。」

 

 

後に、地下都市に派遣された外交官が、それ程アルコール耐性が無く宴の席で意識を失ってしまうのだが、それはまた別の話。

 

 



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第68話   地下都市の変化

大陸中央部を覆う山脈にひっそりと隠れ住み、地下で暮らしていた大地の民は、ふとしたきっかけで日本と交流を持つようになり、物資の運搬の為に、日本と共同で新規のトンネルを掘る事になった。

トンネルの出入り口は巧妙にカモフラージュされており、門を閉じると苔の生えた岩肌としか言えない外見になる。

魔物の出没する現地住民も近づかない森の中に建設された物なので、現時点では小型のトラックしか通れず、日本側は大変な苦労をしているのだが、大地の民は見た事も無い品々に目を輝かせ、トンネル堀りの熱意に火が灯り、爆発的な勢いでトンネルは拡張されて行く。

 

『よいしょっ、よいしょっ・・・ふぬぅ~~・・・ボタ石でも袋一杯だと重いよぉ・・・。』

 

大地の民、土の民、槌の民とも呼ばれ重量のある金槌を軽々と扱う怪力自慢のツチビトだが、子供は幾らか力が弱く(とは言え、日本人の小学生を基準にすると十分に怪力なのだが)大人の掘ったボタ石や砂利などを棄てる仕事の手伝いだけで採掘作業には加わっていない。

運搬作業だけでも日本なら大人でも悲鳴を上げる重労働なのだが、子供でもツチビトはツチビト、その無尽蔵とも言える体力で大人に負けじとボタ石を運んで行く。

 

『やぁ、おはようペトラちゃん、今日も朝早くから精が出るね。』

 

『あ、ジエーカンのおじさん、おはようー。』

 

ペトラが初めて出会った日本人の内の一人で、何度か顔を合わせるうちに顔見知りになった自衛官だ、しかし名前は知らない。今回は、トラックと言う鎧虫の護衛でついてきたらしい。

 

『みてみて、おじさん、このトロッコっていう荷車ってすごいねー、私達が使っていた荷車よりも楽に沢山運べるんだよー!』

 

『あぁ、凄いね、でも幾らトロッコとは言え、そんなに積んだら重くないかい?』

 

『ううぅん!大丈夫!普通の荷車よりも軽く感じるくらいだからっ!』

 

満面の笑みで、答えるツチビトの少女。額に汗をかき、大人用のぶかぶかな作業服を汗で湿らせ、相当な重労働さを感じさせている。

 

「(アー・・・コノコ、ハンスケドロワーズ デ、クロヒモパン ノ クミアワセ ナンダヨナー・・・。)」

 

『・・・・?』

 

小声でニポンの兵士が母国語で何かつぶやいているが、聞き取れなかった、多分取るに足らない事なんだろうと思い、再びトロッコを押し始める。

 

『それじゃぁ、気を付けてねー。』

 

片手でトロッコを押しながら手を振る少女を見送ると、ため息を付いて岩肌に寄りかかり、水筒に入れたスポーツ飲料を一口飲む。

 

 

以前、調査用の蛇型ロボットを操作している時に彼女の服に誤って突っ込ませてしまい、その時の映像記録に残っていた画像を見て呆然としてしまった事があるが、汗をかいている彼女の服の下は今どの様な事になっているのだろうか?

そんな事を一瞬想像してしまうが、首を振るって煩悩を消し去る。・・・しっかりしろ、彼女はまだ子供だぞっ!・・・と

 

 

拡張工事を続けるトンネルを抜けると、広大な地下洞窟が広がっており、その中央部に聳える城塞の様な物がツチビトの地下都市である。

日本と国交を結ぶまで、炎の魔石や篝火などで照らされていた地下都市だが、日本が持ち込んだLED照明で照らされており、遠目からでもわかる程に活気で満ちている様に見える。

電力は、日本の企業が研究に研究を重ねて改良に成功した正式採用型の魔石式ジェネレーターで賄っており、緊急用の補助電源装置として従来の燃料式発電機が設置されている。

 

日本から齎される宝飾品や、美味な酒類、書籍などは大地の民にとって垂涎の的であり、競う様に日本から購入をしている。主に町の有力者たちが・・・だが・・・。

 

 

『ふむふむ、このウィスキーなる酒は、穀物から作られた酒なのか・・・我らの芋焼酎とまた違った風味があるのだなぁ。』

 

『槌の民の芋焼酎も絶品ですな、嫌な臭いもしないし、焼けるような喉越しも酒好きにはたまらないです。』

 

『おう、ツチビト自慢の一品だぞ!がはははっ、このニポン酒とやらも素晴らしいな!透き通った味なのに酒精も強い!不思議な味わいだ!』

 

 

日本の商隊が訪れるたびに、飲食店の多い地下都市の広場で酒好き同士が集まり宴会が開かれており、休暇中の日本人も顔を出すようになり、計らずとも両国の交流が深まりつつある。

 

 

賑やかなのは地下都市だけでは無かった、日本が持ち込んだ採掘用の工具も重宝され、今までの常識ではありえない速度で採掘が進んでいる。

 

 

『ふははははっ!ふぅぅぅはははははぁ~~~~っ!!!俺のドリルが岩盤を貫くぜぇぇぇ!!』

 

『ヒャッハー!!穴だらけにしてくれるわぁぁぁっ!!』

 

『お父さん、ジルバおじいちゃん、恥ずかしいから止めて・・・・。』

 

苦心してやっとの事で掘りぬいていた頑丈な岩盤もガリガリと音を立てて呆気なく穿たれる。この脅威の日本の魔道具を手に、脳内麻薬をまき散らしながらハイになるツチビト達。

今までの鬱憤を晴らすかのように、関係ない岩盤も勢い余って掘りぬく事もあり、その度に差し入れを運びに来た娘や奥さんに引っぱたかれ正気に戻される光景が繰り広げられている。

 

『痛ててて・・・すまん、ペトラ、調子に乗り過ぎた。』

 

『はぁ、凄い魔道具を使わせて貰って嬉しいのは解るけど、程々にするんだよ?』

 

鶴嘴とハンマーが一体化した様な形状のツチビトの工具で軽く小突かれ頭を押さえるモーズは、反省する。

 

『お母さんも怒っていたよ?周りに迷惑をかけ過ぎだ~~って。』

 

『ルベルか、あいつにも最近苦労をかけているな・・・少し反省するべきか・・・。』

 

『ワシも年甲斐も無く暴れすぎたかのぅ・・・。』

 

『ちゃんと反省してね!!・・・・でも・・・。』

 

『どうした?ペトラ?』

 

『ニポンと交流を持つようになって、私達、良い方向に変われたかもね。こんなに楽しそうなお父さん達は初めて見るもん!』

 

採掘作業をしていた大人たちは口元を綻ばせ、少女の頭を埃で汚れた手で、ぐしゃぐしゃに撫でまわした。

 

『痛いよお父さん~~・・・』

 

『そうだな、こんなに楽しく穴掘り出来たのも久しぶり・・・いや、これ程の物は初めてかも知れんな。』

 

『ワシ等は少し、閉鎖的すぎたのかも知れんのぅ・・・。』

 

『外の世界はどれだけ危険なのか、どれだけ残酷なのかも知っているつもりだったが・・・・。』

 

『どれだけ多くの可能性を秘めているのかを忘れておったのだな・・・・。』

 

『えへへ・・・このトンネルみたいに外の世界の人たちと繋がれると良いね!!』

 

 

そして、彼らは日が傾くまで採掘作業を続けた。このトンネルが後に、大陸中央部まで通じる貫通トンネルになるのは、大分先である。

 

 

 

 

 

繭虫の糸袋服 通称:半スケのドロワーズ 

 

巨大な蛾の様な羽虫の幼虫から剥ぎ取られる糸袋の内側にある粘液を薄く広げると、半透明の繊維に固まる。

継ぎ目のない丈夫な繊維は、大地の民に重宝されており、衣服のインナーとして使われる。

 

 

 

虫食い蛇の皮下着 通称:黒紐パン

 

地下洞窟の湖に生息する鎧虫を主食とする巨大な蛇の皮から作られた下着。

摩耗に強く、張り付くような着心地が密かに人気らしい。

採掘作業などで消耗の激しい環境では、様々な服の補強材としても使用されている。

 



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第69話   拡張される動植物研究所

異世界の病原生物が日本に上陸する前に、水際で食い止めるために城塞都市ゴルグに建設された動植物研究所。

まだまだ規模的にはそれ程ではないので、増築が待たれていたが、正式に予算が降りて、建設機械が唸りを上げて地面を掘り返している。

 

主に不足している機器を設置する為の設備や、動植物を飼育する為の大型の檻などを作るのだが、その際に重機の音で捕獲した動植物にストレスをかけない様に隔離する事になった。

 

ギャウン!ニ゛ャ!ニ゛ャ!ギャン!!

 

重機の音はまだ遠いが、少ししたら飼育施設付近にやって来る予定なので、檻の中の飛竜をクレートに移そうと、鍵を開けると満面の笑みで飛竜の子供が近づいてくる。

 

ニ゛ャニ?

 

「ほーら、太郎~?元気にしていたか~?」

 

グゥ?・・・ギャン!ギャン!

 

「ほら、こっち来なさい、ふぐぉっ!?抱っこじゃないから!重い!重い!潰れる!!」

 

クゥゥゥン・・・・すんすん。

 

もう既に大型犬を超える大きさに成長した飛竜の太郎だが、施設にやって来たばかりの頃に抱きかかえられていた癖が抜けきらないのかよく職員に飛び掛かる。

昔から太郎を甘やかしていた職員は、根性で抱きかかえようとする者も居るが、登山用のリュックを背負った成人男性と同じくらいの重量のある太郎を抱えるには無茶であり、腰を痛めて午後出勤となったケースもあると言う。

 

「これこれ、そんなに抱っこして貰いたいなら、お尻掴んじゃうぞ!」

 

ンギャ?

 

「痛ててて、助かった・・・じゃぁ、俺は胸を掴んじゃうぞ!」

 

グゥ・・・。

 

「そ~~れ、わっしょい!わっしょい!」

 

ンギャ・・・ギャッ・・ハッハッハッハッ・・・ニ゛ャン!ギャッギャッニ゛ャッ!

 

二人がかりで太郎を抱えると、そのまま檻の外に置いていたクレートに入れて、鍵をロックし、ローラーカートで一時的に隔離するべく重機の音の聞こえない倉庫へ移動した。

 

 

倉庫には、無数のクレートが山積みになっており、その一つ一つから獣の鳴き声が聞こえてくる。

 

 

「じゃぁ、少し狭いけど、暫くそこに居なさい」

 

クゥゥゥン・・・・クンクン・・・。

 

「そんなに不安そうにしないの、時々様子見しにくるから。」

 

 

上目遣いで蹲る太郎を尻目に、倉庫の扉を閉めて、研究所へ向かうと、途中で研究に必要な機器がトラックから運び込まれていた。どうやら先日荷揚げされたばかりの様だ。

 

「あれは、HPLCに・・・オートクレーブか、人材も資材も足りていなかったから、嬉しいな。」

 

「パラフィルムやキムワイプなどの消耗品もダンボール箱一杯に積まれているな、そういや、在庫が少なくなっていたんだっけかな、助かる。」

 

「キムワイプで眼鏡ふいたり鼻かんだりする馬鹿のせいで、減りが妙に早いんだよ。ここじゃ貴重品だってのに・・・。」

 

「勿体ないから、普通にティッシュ使っているよ、転移前とは状況がまるで異なる。限りある資源は有効に活用するべきだ。」

 

「全くだ、はぁ・・・機材が揃っても人材は補充されない・・・・か、まぁ仕方ないか。」

 

「その癖、本国に居る奴らは、サンプルを寄こせだの、解剖させろ、動物実験させろだの煩いし、こっちの身にもなれってんだよ。」

 

「太郎は間違っても解剖なんかさせないぞ。」

 

「大陸で現地人に魔物と呼ばれている動物にも懐く奴も居るからなぁ・・・ま、そんなこと言っているとラットやマウスも懐くし、連中の言い分も解からなくもないんだが。」

 

「太郎を捕獲した日に持ち帰った岩みたいな飛竜・・・あれは、本国に送ったが、向こうの奴らは大層驚いたそうだ、で、太郎も送って来いと言ってくると・・・。」

 

「貴重な生きたサンプルだから、動物実験は止めるべきだと、所長が断ってくれたが、もう一匹捕獲して来いだの言ってくるし、もうやだあいつ等。」

 

「大体あの森は、入るだけでも命がけだし、自衛隊が銃火器担いでやっと五体満足で帰れるレベルの危険度だ、そうそう飛竜を捕獲する事なんて出来ないだろ。」

 

「しかし、太郎は一体何で調査隊の後をつけて来たんだろうな?それがとても不思議なんだが・・・。」

 

「さぁね、寂しかったんじゃないか?」

 

「あの甘えん坊さを考えると、実際そうなのかもしれんな。」

 

研究室の扉を開けて、それぞれの席に座り、PCを起動すると、やりかけで止まっていた作業を再開し、実験データの編集を始めた。

 

暫くすると、重機の音が響いてきた。どうやら飼育施設付近に手を入れた様だ、これで、飼育施設が拡張される。

そう思うと、自然と気分が良くなった気がして、何の面白みも無い作業が楽しく感じた。

 

 

ゴルグの動植物研究所の職員たちは、まだ知らない。

 

工事の為の重機を見物しに来ていた、現地住民たちに、大陸中の魔物が入った檻を目撃されていた事に・・。

 

 

後日、不安がった現地住民たちの一部が農具などで武装をして研究所に集まり抗議をする騒ぎに発展し、それが巡り巡って大陸初の動物園の開園の切っ掛けになるのは、また別の話。

 

 

 



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第70話   天から降り注ぎし破滅

「地下砦との連絡が途絶えただと!?」

 

ルーザニアの対日本前哨基地である地下砦の陥落が伝えられ動揺が走る。

 

「はい、様子を見に行った者も未帰還です。恐らくニッパニアにやられたと思われます。」

 

「おのれ!ニッパ族め!!蛮族のくせに鼻が利く!兵を集めよ!地下砦を奪還するぞ!!」

 

山岳部に建設されたルーザニアの砦は、日本に落とされたと思われる地下砦の奪還の為に慌ただしく動き始める。

馬に引かれて投石器も武器庫から出され、本格的な攻撃の準備をした。

 

「くくくっ・・・地下砦をも上回る兵の数、そして通常の物よりも大型の投石器、そしてこの装備!負ける筈が無い!」

 

「勿論です、蛮族風情に土を付けられたのは癪ですが、蛮族共が調子に乗れるのも此処までです。」

 

「くははは!土では無く、返り血ならば浴びても良いがなぁ!さぁ行くぞ!皆の物!蛮族共の頭蓋骨を踏み砕いてくれよう!!」

 

 

粗末な服を着た奴隷たちが縄を引き、重い音を上げながら城門が開かれようとしていた・・・しかし・・・。

 

「おいっ?あれは何だ?」

 

兵士が空に向かって指をさすと、黒い点の様な物が遠くの空に浮かんでいるのが見える。兵士たちが首をかしげていると、突如閃光と共に城門が吹き飛び、瓦礫と化す。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

城門を開けようとしていた奴隷たちは、爆風に巻き込まれ、その殆どが即死し、少し離れていた位置にいた兵士たちも少なからず被害を受けた。

 

「木片が!脛を貫いた!ぐああああああ!!」

 

「何だ!?一体何なんだ!?」

 

「何だあれは!?空に何かいるぞ!!・・・・・っ!何か光った!?」

 

城門が吹き飛ばされた事で、出入り口が塞がれ、右往左往する兵士達に容赦なく重機関銃が空から降り注ぐ。

見張り員ごと櫓は吹き飛ばされ、頑丈な筈の城壁は積木のように簡単に崩され、隊列を組んでいた兵士たちは一瞬で肉塊に変えらた。

 

 

「弓兵!!空の化け物に矢を放て!」

 

「駄目です!遠すぎて当たらな・・・ぎっ・・・・!!!」

 

空に浮かぶ謎の物体に向かって矢を放っていた弓兵が悲鳴を上げる間もなく肉片と赤い煙に変えられ、その周辺が炸裂音と共に城壁ごと粉砕される。

 

「な・・・あ・・・あれは・・・羽虫!?」

 

気が付けば、巨大な羽虫の様な怪物が砦の上空を旋回していた。どうやら空に浮かぶ黒い点の正体は羽虫の化け物だった様だ。

 

「見ろ!あの化け物に赤い丸が塗られているぞ!!」

 

「馬鹿な!ニッパ族は、あの様な鎧虫を操る技術を身に着けていたと言うのか!?」

 

「何と奇怪な!まるで骨の様な姿をしている!」

 

「羽虫がまた炎を吐き出すぞーー!!!」

 

羽虫の頭部が発光すると、光の束が一直線に突き進み、次々と破壊と死がまき散らされる。

まるで落書きの様に地面には線が引かれており、その道筋には土に混ざり兵士の鎧や兜が混ざっていた。

 

「だ・・誰か!助け・・ひっ・・・や・・やめ・・・」

 

這いずりながら武器庫の扉まで逃げた将兵は、背後を振り返り、その顔が絶望に染まる。

 

AH-1Sコブラの横に備えられたTOWが武器庫に向かって尾を引きながら直進する光景が目に映ったのだ。

 

山岳上部に建設された砦に、止めを刺すべく発射されたミサイルは、派手に火柱を上げ、その効果範囲内の物体を蹂躙した。

 

 

砦に動くものがなくなった後、機銃掃射に加わっていたUH-1イロコイから次々とヘリボーンし、崩壊した砦に自衛隊が展開して行く。

 

 

「こりゃ凄まじいなぁ・・・。」

 

「まさに地獄絵図って感じだな。」

 

「生存者が居るなら、確保しろ、とは言ってもこれだけ空から浴びせれば生き残りなんて居ないだろうが・・。」

 

「連中から仕掛けて来たんだ、文句は言わせんよ。」

 

「畜生、暫く肉料理は食えないな・・・硝煙と血の臭いで鼻が曲がりそうだ・・・。」

 

「我慢しろ、しかし良くこんな場所に砦を建造したな、重機も無いのに大した根性だよ。」

 

「奴隷を馬車馬のように働かせたのだろう、見ろ、兵士に交じって粗末な服をきた死体が転がっているだろ?」

 

「あぁ、巻き添えを食ったのか・・・気の毒に・・・・しかし、奴隷か、戦争に敗北した国の国民の成れの果てと言った所か・・・。」

 

「この世界では未だに奴隷が労働力として使われている。負ける可能性はほぼ皆無だが、仮に負ければ俺達もこの奴隷たちの仲間入りと言った所だろう。」

 

「弱肉強食だな、俺達の国に喧嘩を売るって事がどういう事か連中にきっちりと示してやらんとな。」

 

「全く・・・転移後の混乱から体制を立て直そうとしている時に、ゴルグにちょっかいをかけてくるとは・・・。」

 

「ルーザニアは、講和に乗って来るでしょうか?」

 

「乗ろうが乗るまいが関係ない、無理やりにでも交渉のテーブルにつかせてやるんだよ。」

 

「また火達磨は勘弁だぜ?ゴルグの王族の二の舞は避けたい所だよ。」

 

「さて、俺達は西側から内部を探る、お前たちは反対側を頼むぞ!」

 

 

 

 

その日、ルーザニアの山岳砦は、複数の攻撃ヘリによって僅かな生存者を残し壊滅した。

山岳砦の陥落の報が届いたのは、大分後になってからであった・・・。

 

 

火災蟲イル・コウィ

 

 

ニッパニアが操る巨大な羽虫。

その腹には無数のニッパニアの兵士を治める空間が備えられているらしく、敵対する相手の上空から兵士を吐き出し、凄まじい速さで制圧する。

そして、自身からも強力な熱線を発射する事が可能で、灼熱の光の束が哀れな獲物に降り注ぎ、十を数えぬうちに地上は地獄と化す。

地上に兵士を下ろすと言う役割を持つ以上、目撃数が多く、その姿を見た兵士はたちまち戦意を砕かれると言う。

兵士の目撃談によると凶悪な力を持つ割には、ずんぐりとした姿を持つと言う。

 

 

 

 

飛毒蟲コルベラ

 

ニッパニアが操る巨大な羽虫。

彼らの国の言葉で「毒蛇」を意味する名を持つ異形の羽虫で、その姿は生首だけの毒蛇とも、蛇の頭蓋骨を抱える巨大な羽虫とも言われている。

その羽音は死者の調べ、その鳴き声は憤怒の咆哮、爆ぜるは大地を飲み込む赤き毒。

かの羽虫が現れた戦場では、大いなる破滅が訪れる、それ故に、かの羽虫をその目で見て生きて帰ったものは数少ない。

いずれにせよ、生存者たちは心神喪失状態かそれに近い者ばかりで、その全貌は謎に満ちている。

 

 

 

 

凶雷蟲アーヴァンチ

 

ニッパニアが操る巨大な羽虫。

彼らが操る羽虫の中でも最も恐ろしく、最も強大な力を持ち、古の時代に猛威を振るった戦士達の名を冠する戦闘種という。

流石のニッパニアとて、この羽虫を捕えるのは容易では無いらしく、彼らの保持する本種の個体数は非常に少ないらしい。

しかし、その強さは一騎当千。千の兵士を一瞬で肉塊に変え、堅牢な砦を一撃で紅蓮の炎と共に吹き飛ばす力を持つ。

全てを焼き尽くす圧倒的な暴力により、目撃者は殆どおらず、天から雷鳴と閃光を落とす骨のような羽虫とも、無数の火炎弾を放つ深緑の蜻蛉とも言われている。

目撃者は全て、体の大部分を欠損した状態で、僅かな情報を齎しこと切れたので、他の羽虫以上に謎に包まれている。

 



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第71話   黄昏に向かう国

山脈に囲まれ、山の一部をくり抜き複雑な地下通路を持つ城塞都市・・それがルーザニアの首都である。

元々あった天然洞窟を繋げる事で、内部構造は更に複雑さを増しており、その全貌を知る物は数少ない。

 

多くの民は、山の麓の城下町で暮らしており、有事の際には王族や上級貴族の住む山頂付近の城塞都市の防壁として機能する。

民間人を犠牲にする事で、上流層の逃走の時間を稼ぐやり方に、不満を抱く民も多く、それが不安材料になりつつあるが、現時点でそれに気づく上流層は少ない。

 

 

「これより御前会議を開始します。」

 

 

定期的に行われるルーザニアの御前会議では、平時では税収や農作物の育ち具合など他愛もない内容で会議は終了してしまうが、今回はいつもとは大分異なる。

大陸に上陸し、瞬く間に友好国ゴルグガニアを占領してしまったかの国の対処が議題に挙げられている。

 

 

「ゴルグガニアを不法占拠する蛮族、ニッパ族の討伐の為に編成された部隊が全滅し、前線基地の地下砦も陥落したとの事です。」

 

それは日本にとって、もう既に古い情報であったが、情報伝達に時間がかかるこの世界の基準では非常に早い方である。

会議に参加している者達は顔を見合わせ、ざわざわと騒ぎ始める。

 

「馬鹿な、あれだけの兵団を率いて当たったのだぞ!?しかも、地下砦に逆侵攻されるだと!?」

 

「勢いだけが取り柄の蛮族かと思いきや、中々にやりおる!このままにはしておけぬぞ!」

 

「名門カーマ家も落ちたものよの・・・蛮族風情に打ち取られるとは・・・。」

 

「それよりも、ニッパニア側に与えた損害は!?どれだけ殺したのだ!?」

 

 

「静まれぃ!!」

 

玉座に座る国王の一喝により、ざわめきが収まる。

 

「蛮族共の動向はつかめているのか?」

 

「はっ、どうやらゴルグガニアに無数の鎧虫が終結している様です。恐らく蛮族共の操る鎧虫部隊かと思われます。」

 

「鎧虫を操るだと?・・・そんなことが・・・。」

 

大陸の国々は一部の動物を家畜化する事に成功しているが、狂暴な鎧虫を操る方法は未だに発見できていない。

馬や走竜などの騎兵は存在するが、もしニッパニアが鎧虫を操る技術を発見し、それを実用化しているとなると驚異的だ。

 

 

「ニッパ族の操る鎧虫とは一体どの様なものか?ツチバサミか?イワカブトか?」

 

「いえ、全く見た事も無い姿をしております。イワカブトの倍の大きさで、走竜の2倍は早い大型の鎧虫です。」

 

「走竜の2倍だと!?鎧虫の体格で突進されると防ぎようが無いぞ!?」

 

「更に悪い情報があります、走竜の2倍と言いましたが、その鎧虫はまだ余力を残している様なのです。もっと早く走れてもおかしくはありません。」

 

「ぐっ・・・・平地で戦うには分が悪いかもしれんな。」

 

「ならば山頂にある砦に連絡を寄こせ、峡谷を蛮族共が通る際に、上から岩を落とすのだ。流石の鎧虫も一たまりも無いだろう。」

 

「成程、確かに峡谷の街道ならば鎧虫の動きも大分制限されるはず・・・奴らをおびき寄せ、そこを突けば良いのか。」

 

「こちらからも兵を送ろう、山岳砦と対岸の山から挟撃するのだ、鎧虫に頼り切った貧弱な蛮族等、屈強な我が騎士団にかなうまい。」

 

 

突如、広間の扉が開くと装飾のされた鎧を着込んだ若い男が入って来る。

 

「父上、その役目は私に任せていただけませぬか!!」

 

「ジーンか、確かにお前なら適任だな、日々の鍛錬の成果・・・見せて貰おうぞ。」

 

ルーザニアの王子、ハイ・ジーン、小国群の小競り合いに積極的に参戦し、次々と拠点を落とし、20代の若さで騎士団の連隊長を任されている。

 

「勢いの乗った重槍の一撃ならば、鎧虫の甲殻も貫けるでしょう、くくくっ、蛮族共の慌てふためく姿が思い浮かびます。」

 

「うむ、だが決して抜かるでないぞ?」

 

「心得ております。」

 

 

「待ってください!!」

 

開かれていた扉の向こうから、ドレスを着た少女が息を切らせて走って来る。広間に居る者の視線が、少女に集まる。

 

「ニッパニアにはまだ未知の力を秘めています。ゴルグガニアに使節を送り交渉をして時間を稼ぐべきだと思います!!」

 

「何が言いたいスペッカ」

 

「父上、ニッパニアは鎧虫を操る技術を身に着けておりますが、それだけではありません。魔力を持たない兵士にも魔法を放てる魔道具を装備させている様なのです!」

 

ルーザニアの王女、ハイ・スペッカ、ジーン王子とは腹違いの妹で、彼女の母親はジーン王子の母親よりも位の低い貴族の出なので妾の娘という事も相まって発言力も影響力も低い

 

「魔道具だと?」

 

「原理は不明ですが、金属の礫を撃ちだす魔道具の様で、かなり遠くから放ったのにも関わらず分厚い青銅鎧を貫く威力がある様です。」

 

「成程、確かに厄介だがニッパ族は魔力を持たぬ脆弱な種族なのだろう?魔道具の魔力が尽きれば、唯の猿だ、何も恐れることは無い。」

 

「しかし!!」

 

「くどいぞスペッカ!それに、その魔道具もニッパ族から奪えばよい!落石で混乱している所を突き、鎧虫共々葬り去ってくれるわ!」

 

「父上の言う通りだ、スペッカ、それに何時から王に意見を言える身分になったというのだ?うん?」

 

「兄上・・・。」

 

「もういいスペッカ、お前はもう下がれ、ジーンよ、ニッパ族の討伐を任せるぞ。」

 

「はっ!この身命を賭してニッパ族の首を打ち取ってまいりましょう!!」

 

 

その夜、ハイ・スペッカ王女は自室のベッドで蹲っていた。

 

(ニッパニアとぶつかっては我々が滅ぼされてしまう・・・。)

 

首に下げられたスターサファイアのネックレスを握りしめる。

 

(ニッパニアは人の手でこの様な宝石すら作れてしまう人知を超えた技術力を保持しているのだ・・・先端技術が集まる軍事の分野ともなると想像もつかない。)

 

(商人を通じてニッパニアの情報を得なければ私も特に反対はしていなかっただろう・・・しかし、ニッパニア・・・魔力を持たぬ蛮族?冗談では無い。)

 

「敵対するにしてもまず先に情報を集めるべきでしょう、父上・・・・初代ルーザニア王ハイ・クオリアならばそうしていた筈・・・。」

 

ルーザニアの未来を憂いつつ、建国の英雄にして初代国王の英雄譚を思い出していた。

人食い族の侵攻を多くの犠牲を払いながら振り切り、険しい山を新たな故郷とし、岩壁を削り街を造り、人々を導いた賢君ハイ・クオリアの建国記を・・・。

 

「賢王ハイ・クオリアならば、ニッパニアと友好的な関係を築いていただろうに・・・。」

 

(しかし、この くれさんべーる と言う宝石は美しいな・・・。)



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第72話   爆ぜる雨

無数の層になった様な連峰に囲まれたルーザニアの城塞都市からニッパニア軍を討つ為に、騎士団が出撃する。

大型の投石器から弦を馬や走竜に引かせるバリスタなどの攻城兵器を武器庫から運び出し、ニッパニア軍を撃破の後、各拠点から部隊を合流させ、ゴルグガニアに逆侵攻する、これが彼らの任務である。

 

「壮観な光景ではありませぬか、ジーン殿下。」

 

街道を馬に乗って進んでいると、装飾のされた鎧を着た釣り目の美女が白馬に跨り近付いてくる。

 

「むっ?セイーヌか、やはり討族隊に参加していたのか、父君の敵討ちがしたいのか?」

 

「えぇ、父上だけではありません、セヤックお爺様が父上の訃報を耳にされたその日に、怒りと悲しみのあまりに狂死してしまったのです。」

 

「何だと!?」

 

「狂った様に自室を荒らした後、口から泡を吐き、心の臓が止まり、そのまま亡くなりました。私は決して蛮族ニッパニアを許しません、一匹残らず駆逐してやります!!」

 

名門カーマ家の娘であるカーマ・セイーヌは、ニッパニアによって父と祖父を一度に失い、その復讐の為に討族隊に参加していた。多くの蛮族を殺す為に・・・手段を択ばず残酷に殺戮し尽す為に・・・。

 

「そうか・・・カーマ家もお前で最後の一人、流行病と戦で多くの貴族が没落してしまったが、名門であるカーマ家には残って欲しい物だ。」

 

「ゴルグガニアを陥落させた後は、海の向こう、即ちニッパニア本国に向かい蛮族共の王の首を跳ね、そして、カーマ家の再興を果たします。」

 

「くくくっ・・・頼もしい限りだ、しかし、人間一人には出来る範囲と言う物がある、小娘一人が粋がった所で、事は動かせぬものよ。」

 

「弁えております、今は目の前の敵を切り伏せるだけです。」

 

 

進軍を続け、山をいくつか超えた後、ニッパニアの軍勢が通ると思われる峡谷が見えて来た。

ルーザニアしか知らない天然洞窟を通り、近道をした甲斐もあり、まだニッパニア軍は予測地点には到達していない様だった。

 

「伝令はそろそろ、山頂の砦にたどり着いている筈だ、幾らか早くこちらが動く事になるが、直ぐに砦の援軍が来るだろう、狼煙を見逃すなよ。」

 

「しかし、鎧虫ですか・・・今回ばかりはこちらも多少の被害は免れないでしょうね。」

 

「それは仕方がないだろう、何せ相手は走竜の2倍も速いのだ、狭い峡谷ではその機動力を活かせないだろうが、それでも鎧虫の体格で暴れられたらそれだけで脅威だ。」

 

「最初の奇襲で如何に数を減らせるかが肝心な所ですね・・・腕が鳴ります。」

 

ルーザニアの討族隊は、山の稜線に隠れ、ニッパニアの軍を待ち伏せしていた・・・・しかし・・・。

 

肉眼で捉えるのが困難な程の高空に、電子の目を持ってルーザニアの軍を捉える者が存在した。

RQ-4グローバルホークが大地を這いずる者達を監視しているのである。

 

「遅いな・・・走竜の2倍と言う機動力ならば、もう既に姿が見えてもおかしくないと言うのに・・・。」

 

「ニッパ族も慎重なのでしょう、奴らも峡谷が奇襲を受けやすい地形だと理解している筈です。」

 

「遅いと言えば山頂の砦からの増援はまだなのか?これだけ長く待たされると伝令が戻ってきてもおかしくない筈だが・・・。」

 

対岸の山の頂上に建設された砦の動きが見られない事に疑問を感じていると、どこか遠くから聞きなれない音が聞こえた気がした。

 

「む?何か聞こえなかったか?」

 

「はて、何でしょうか?」

 

その直後、後列に並んでいた兵士たちが轟音と共に吹き飛ばされ、次々と爆発が起こり被害が広がって行く。

 

「何事かぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

「で・・・殿下!これは一体っ!?」

 

各陣は大混乱に陥っていた、風切り音が聞こえたと思うと、鼓膜を破裂させんばかりの轟音と爆風が発生し、臓物をまき散らしながら兵士達が千切れ飛んで行く。

 

「これは一体なんだ!?・・・っまさか、ニッパニアの攻撃魔法か!?」

 

「くそっ、何処にいる!?何時の間に接近を許したと言うのだ!?」

 

「何という威力の攻撃魔法だ・・・儀式級でもこれ程の威力は出せないぞ!!」

 

「撤退だ!洞窟まで一時撤退し・・っげぎぃ・・・きょっ」

 

再び爆発が発生すると、ジーン王子の少し前に居た兵士が爆風で飛ばされてきて、上半身のみ原型を留めた死体が転がる。

 

「ひぃっ!?」

 

白目を剥いて顔の穴と言う穴から血を吹き出した兵士の上半身を目にして情けない声を上げる。

 

「おのれっ卑怯な蛮族共め!姿を現さぬかっ!!」

 

「セイーヌ、被害は甚大だ、一時地下洞窟まで撤退するのだ、態勢を立て直そう。」

 

「ぐっ・・・致し方ありませぬ・・・撤っ。」

 

次の瞬間、近くで爆発が発生し、爆風に煽られてジーン王子は落馬してしまい、くぐもった悲鳴を上げる。

 

「ぐおっ・・・おのれぇ・・・・?・・・セイーヌ?」

 

「何・・何が・・なに・・・なにに・・にぃぃぇぇぇぇ・・。」

 

爆発で砕け散った戦斧や刀剣の破片が飛んできたのだろうか、カーマ・セイーヌの頭部を銀色に反射する金属片が通り過ぎた後、頭頂部がフリスビーの様に回転しながら跳ね飛び、目の焦点の合っていない彼女が転げ落ちる。

 

「あぃぅぇっ?・・・・うぃ・・・にゅぃぬぃ・・。」

 

落馬した衝撃で頭頂部を失った頭部の断面から脳の一部が溢れ出る、ついでに彼女の乗っていた白馬も首から先が無くなっていた。

 

「ひ・・ひぃいいいいいぃぃっ!!!」

 

それからジーン王子は死に物狂いで迫撃砲の雨から逃げ続けた、気が付けば一緒に逃げていた筈の兵士たちはその数を大きく減らし、地下洞窟にたどり着く頃には百人を下回っていた。

 

「あが・・・あががっ・・だずげ・・・だずげでぐ・・ぐぃっ」

 

地下洞窟に転がり込む様に逃げ込む事に成功したが、入り口に砲弾が直撃し、落石によって入り口が塞がれ、間に合わなかった兵士が岩に押しつぶされ暫くもがいた後に息絶える。

 

「あわ・・あわわ・・・ひぃぁぁっ・・・。」

 

洞窟に逃げ込んだ後も、爆発音が響き、悲鳴らしきものも聞こえてくる。しかも、度重なる砲撃によって両側の出入り口も落盤が発生し、洞窟を抜ける事が出来なくなってしまった。

 

「は・・・はひっ・・・はひひっ・・。」

 

ルーザニア方面に抜ける道は落盤によって塞がれてしまっている・・・先ほど逃げ来た入り口も塞がれているが、そちらに戻ると言う発想は浮かばない。

 

「逃げなければ、逃げなきゃ、殺される・・・殺される、皆殺しにされてしまう・・・。」

 

洞窟に閉じ込められた者達は、何かに憑りつかれた様に、落盤で塞がった通路の石や岩をどかし始めた、最初の内は斧や剣などを使って、岩をずらし、耐久限界を迎え折れてしまった後は素手で岩を運び・・・。

 

「逃げなきゃ・・・逃げないと・・・にげ・・ひぃぃっ」

 

幽鬼の如く、目をギラギラと輝かせ無心に岩をどかし続けた、既に爪は全て剥がれ落ち、手は見るも無残にズタズタに裂けてしまっている。

それでも、地位も階級も関係なく、閉じ込められた者達は岩をどかし続け、無限とも感じられる長い時間をかけて、辛うじて人が通り抜けられるほどの穴を開ける事が出来た。

 

気が付けば砲撃音は収まり、洞窟の外に出る頃には、星空が広がっていた・・・。

 

「はははっ・・・ひひひっ・・・駄目だ、外に出ても真っ暗だ・・・ひひひひっ・・・。」

 

爆ぜる雨を経験した者達は、命からがら祖国の在った地に帰る事が出来たが、まともに歩く事は出来ず、獣の様に這いずりながら戻った頃には既に祖国は存在しなかった。

 

彼らこそが、この世界で初のシェルショック患者であった。



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第73話   亡国への道と喉元の刃

山をくり抜き堅牢な城塞と化した城塞都市国家ルーザニア。

元々は人食い族から逃れるために、険しい山々に身を隠し、過酷な環境下で開拓を続けた民の集落であったが、長い年月を経て国となったものである。

 

そして、ルーザニアは現在上から下へと、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 

日の出と共に突如現れた異形の羽虫が、降伏勧告文と、その裏側に黒い煙を上げて崩れ落ちた砦の精巧な絵が描かれた紙をばら撒いたのである。

人々は異形の羽虫に怯え、そしてルーザニアが戦争をしている蛮族の国ニッパニアのばら撒いた紙を見て狂乱状態に陥った。

 

 

「これより御前会議を開始します!!」

 

 

今回の御前会議は、定期のものでは無く緊急に開かれたものである。

事が事だけに、会議に参加した者達の顔は暗く、もしくは青く、緊迫した空気が漂っている。

 

「先ほど空から飛来したニッパニアの物と思われる羽虫がばら撒いた紙に描かれた砦は恐らく山頂砦でしょう。」

 

「山頂の砦が陥落しただと!?馬鹿な、ニッパ族は嘘をついている!唯の心理戦だ!」

 

「だが、これ程精巧な絵を寸分違わず1枚1枚描けるのだろうか?それに、ばら撒かれた紙によっては微妙に角度が違う絵もある。」

 

「ニッパニアは・・・魔力を持たぬ蛮族では・・・・なかったのか・・・?」

 

ニッパニアの持つ得体の知れない力の一端を、ここに来て初めて理解する面々、しかし、玉座に座る人物は怒鳴り声を上げてそれを否定する。

 

「黙れ!!魔力を持たず、一切の魔法を使うことが出来ぬ蛮族に何を恐れろと言うのだ!!兵を集めよ!今すぐにだ!!」

 

「し・・しかし、空を我が物顔で飛び、こちらの手の届かぬ位置から、この様な脅しをかけてくるニッパニアにどの様に対抗すれば・・・。」

 

「所詮鎧虫を操りいい気になっただけの蛮族だ、それに、我らには地の利が・・・そして魔導がある!」

 

「鎧虫を操ると言っても、地を這う種だけでなく、空を舞う種までも手懐けるとなると、唯の蛮族ではありませぬぞ・・・。」

 

 

怒り狂う王と、空を舞う羽虫の件で狼狽える臣下達、それを冷めた目で見つめる少女が居た。

 

 

(蛮族、蛮族と・・・そこまでして、ニッパニアの力を認めることが出来ないのか・・・?)

 

誰にも聞こえない様に、小さくため息を付くルーザニアの王女ハイ・スペッカ

彼女もニッパニアの操る羽虫の姿を直に見て、内心、盛大に衝撃を受けているが、ルーザニアの重鎮の面々のあまりの情けなさに、現実に戻らざるを得なくなってしまったのである。

 

(正直予想外だった、あの様な羽虫を操るとは・・・そして、羽虫の腹から顔を覗かせていた斑模様の兵士・・・あれがニッパニアの兵士か。)

 

「蛮族にしては力を持つ方なのであろう、それは認める、しかし我らはリクビトの中でも高等種族に部類する存在、鎧虫に頼り切った弱小軍など魔導の力にひれ伏すのみ!それこそが世の理なのだ!!」

 

(馬鹿げている、あれだけの機動力にどの様にして対抗できると言うのだ?投石器の岩礫を当てるのは無謀ぞ、それにあの兵士の持っていた杖・・・アレが例の魔道具か?)

 

「・・・た・・・ただいま兵士を集めますので、お待ちくだされ!」

 

(金属の礫を吐き出す魔道具、そして異形の羽虫・・・勝ち目など最初から・・・。)

 

「おのれニッパ族め!調子に乗り追って!!」

 

(父上、貴方は何故あの様な国に戦を仕掛けたのですか?・・・これでは、我が国は・・・。)

 

暫くすると、兵を召集する為に離れていた貴族が、駆け足で戻って来る。

 

「兵を集めました!城門前に集合しております、王命を!」

 

「うむ、ルーザニアに仇なす蛮族に鉄槌を下す!先行隊と合流し、ニッパ族を・・・。」

 

ルーザニア王ハイ・ヴォックが王命を下そうとした時、突如兵士が慌てて広間に転がり込んでくる。

 

「で・・・伝令!!無数の鎧虫とニッパニアの軍勢が城下町の付近に姿を現しました!!」

 

「何だと!?」

 

「そんなっ!!(早すぎるっ!このままでは・・・。」

 

思わず玉座から身を乗り出すが、鼻を鳴らすと再び玉座に座りなおす。

 

「ふんっ・・・こちらから出向く手間が省けたと言う物だ・・しかし、ジーン・・敗れたと言うのか・・。」

 

蛮族の討伐へと出撃した先行部隊を撃破したのだろう、ハイ・ヴォック王は息子がどの様な運命を辿ったのか、それを想像して一瞬だけ悲しげな表情を見せる。

 

「兄上・・・。」

 

ハイ・スペッカも同様に兄の最期に悲しんでいた、対立する事が多く、意見も食い違う兄であったが、少なくとも腹違いの妹なりに兄として気遣ってくれていたのだ。

 

「ニッパ族め・・ハイ家に土を付けてくれたこと・・・後悔させてやるぞ!!」

 

(・・・もう遅いよ、父上・・・未だかつて敵軍に此処まで攻め入られた事など無かったのだ、それがどういう意味を成すのか理解できない訳でもありませぬか?)

 

ルーザニアの王女ハイ・スペッカは、密かに王城の地下に広がる天然洞窟を抜け、王都からの脱出をすると心に決めるのであった。

 

(地下迷宮は、広大過ぎて全貌を把握出来ていない・・・王城の地下ながらも野生の猛獣も出没する天然迷路だ、護衛が必要だな・・・・。)

 

 

一方、ルーザニア首都の目前へと迫っている自衛隊は、車両に備え付けられたスピーカー装置でルーザニア側に降伏勧告を読み上げるのであった。

 

『アーッ・・・アーッ・・・テステス・・・・』

 

「我々は、日本国自衛隊である!ルーザニアに告ぐ!王城は既に射程に収めている!無駄な抵抗はよせ、我らに降伏せよ!」

 

『アー・・チョット・・・コーアツ・・スギ・・ナイカー?』

 

『バカ・・・コーイウノハー・・・サーショ・カージン・・・ナダーヨー。』

 

『マイク!マイク!オト・・・モレテールッ!』

 

「ご・・・ごほん、無駄な抵抗は止めろ!既に王城は射程距離内だ!武器を捨て、投降せよ!!」

 

自衛隊の降伏勧告は、車両からだけでなく、ヘリコプターによって城下町上空からも行われた。

 



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第74話   敗者の墓標

ルーザニアの城下町付近に姿を現せた異形の軍勢、声を大きくする魔法でも使っているのか、町全体に響く声量で降伏勧告を呼びかけている。

 

「おいっ・・なんだよあの化け物は!?」

 

「も・・もしかして、アレが例の蛮族?魔法が使えない弱小種では無かったのか!?」

 

「羽虫からも声が!?一体何が起こっている?」

 

突如現れた軍勢に城下町の住民たちは、扉と言う扉を閉じて、小さな隙間から覗きながら不安そうに住居に籠った。

 

一方、山頂の城塞都市では、慌ただしく武器庫から投石器やバリスタを引っ張り出し、異形の軍勢に対して攻撃準備をしていた。

 

「高い位置から放たれる投石器の威力は、平地で放つそれとは違うぞ!」

 

「鎧虫程度、叩き潰してくれる!魔法が使えぬ劣等民族め!」

 

常時待機している防衛兵器に武器庫に格納している投石器やバリスタが加わり、城塞都市はまるでハリネズミの如く攻撃的な姿に変貌する。

 

「陛下、攻撃態勢は整いました。」

 

「うむ、ニッパニアに動きはあるか?」

 

「いえ、生意気にも我らに降伏勧告を呼びかけ続けている様です。」

 

「ふんっ、無謀も此処まで突き通せば逆に大したものよの、お蔭で態勢を整える時間が稼げたわ。」

 

「新型の炸裂岩の威力を披露するには丁度良い相手です、蛮族共の慌てふためく姿が目に浮かびますな。」

 

「我らに仇なす愚か者共に教育してやらねばならぬ。我が妹のハイ・ターイそして、勇ましく散ったハイ・ジーンの敵討ちを果たそうぞ!」

 

城の一角に設けられたテラスから、眼下に広がる城下町を見渡し、砂粒の様に見える深緑の影を見つけると、ルーザニア王ハイ・ヴォックは凶悪な笑みを浮かべた。

 

 

場所は変わって、城下町付近の峡谷にて・・・。

 

 

『アー・・・ジカーン・・・セマッテル・ナ』

 

『マッ・・サーシ・コーナル・オモッテ・タ・ヨー』

 

相変わらず、降伏勧告を呼びかけている自衛隊だったが、ルーザニア首都の本格的な攻撃までタイムリミットが迫っていた。

 

 

『シカタ・ナ・イ・コーゲ・カイシッ!』

 

峡谷に巧妙に隠されていた各種火砲から次々と榴弾が天高く発射され、ルーザニア城下町を飛び越え、直接山頂の城塞都市に飛んでいった。

 

 

ルーザニアの兵士にとって死は唐突に訪れた。今まで聞いた事も無い様な轟音を響かせ、城壁が一瞬で瓦礫と化する。

一瞬で死ぬことが出来た者は幸運であろう、しかし、中途半端に生き残ってしまった者は、体中の骨を砕かれ、破片を浴び、地獄の様な苦痛が全身を引き裂く。

 

「ぐわああぁぁぁ!!」

 

「腕が・・・腕が食われたぁぁぁ!!」

 

「い゛・・・い゛や゛だ!・・・死にたくな・・・がああぁぁっ!!」

 

 

155mmりゅう弾砲やMLRS等から放たれた榴弾やロケット弾が、頑丈な筈の城壁を粉砕し、高熱の赤き破壊が、死を伴って城塞都市を舐めまわす。

 

「一体何が起こったのだ!?ニッパニアは悪魔でも味方につけているのか!?」

 

「悪魔だと?そんな生易しいものでは無いぞ!?」

 

「邪神だ・・・ニッパ族は邪神の加護を受けているのだ!!」

 

「蛮族だと?いや違う、このような・・・このようなモノ、奴らは人間では無い・・・・化け物だ・・・。」

 

出撃しようと城壁の内側に待機していた兵士たちは城門ごと吹き飛ばされ、榴弾の雨に遅れる様に、無数のロケット弾が到達し、数千を超える命が一瞬にして消滅する。

 

破壊が通り過ぎた後、不意に砲撃が止む。

余りの出来事に生き残りは、放心状態になる者が多かったが、彼らに訪れる不幸は此処で終わらなかった。

 

一息すらつけずに、先ほど空から降伏勧告を呼びかけ続けていた羽虫が、舞い降り、その腹から次々と深緑の兵士たちを吐き出したのであった。

 

 

場所は変わって、城下町の住人たちは、自分たちの頭上を飛び越えていった光の槍が山頂の城塞都市を破壊し瓦礫の山に変えた光景を見て戦慄した。

目の前の異形の軍勢は突然大きな音を立てて視界が塞がる程の煙を上げたので、火の不始末でも起こしたのかと思ったが、それは違った。

 

「城が・・・山頂の城塞都市が燃えている・・・。」

 

「奴らは一体何をしたんだ!?」

 

大きな音がしたと思えば、時間差で山の上の城塞都市に爆発と黒煙が上がる。尾を引く光の槍は、目視しやすいのでニッパニアの攻撃だと直ぐに気付く事が出来たが、砲撃は見えない攻撃としか認識できない。

正体不明の破壊魔法を放つ目の前の軍勢に、自分たちが何を相手にしているのか、この国の住民たちは強制的に理解させられた。

 

「化け物っ!!」

 

「あの様な魔法を操る人間がいると言うのか!?何が蛮族かっ!怪物ではないか!!」

 

「っ・・・・・お・・・おいっ!自警団が突っ込んで行くぞ!?誰か止めろ!!」

 

山の麓の城下町の警備を任せるために、有志の民に騎士団が直接、戦闘訓練を行わせ、自警団を結成させたのだが、それは下級市民の防衛に騎士団を使う気にはなれない国が、国民を納得させるために行ったものであった。

切込みには申し分ないのだが、如何せん教育らしい教育を受けていない自警団では、些か蛮勇に過ぎ、はぐれ甲獣(グリプス)に突撃する事もある程で、危険察知や引き際と言う物を理解しない。

 

「ニッパニアの鎧虫は、唯の鎧虫では無い!甲獣以上の脅威だ!無謀すぎる!!」

 

街の防壁の扉から一斉に飛び出していった自警団は、ニッパニア軍が陣を構える峡谷付近に到達したところで、何かが弾ける様な連続音と共に血を吹き出しながら倒れて行く。

最初は何をやっているのか遠目からでは理解できなかったが、通常弾に混じり光を放つ曳光弾を見て、強力な遠距離攻撃を受けているのだと理解した。

 

「何だあれは!?爆発こそ起こらないが、兵士一人一人が、あの様な強力な魔法を使えると言うのか!?」

 

「馬鹿な・・あの噂は本当だったのか・・・?」

 

「お前?なにか知っているのか?」

 

頭を抱え、唇を青くしている男に声をかける。

 

「ゴルグガニアの城壁がたった一撃で大穴を開けられたとか、無数の光の矢が鎧と盾ごと重装兵を薙ぎ倒したとか・・・唯の誇張された噂話だと思っていたんだ。」

 

男は、「それが・・・こんな・・・。」と続け、血の気の失せていた青い顔は白くなっており、死人の様な容姿となっていた。

 

小銃による銃撃に迫撃砲が加わり、更に視界は煙に覆われて行く・・・。

 

音が鳴りやむと、視界を妨げる煙が風に流されて行き、赤く染まった土と元は人間だった何かが散らばっていた。

煙が晴れ、次第にニッパニアの軍勢の姿も見えてくる。

 

「警告する、抵抗するならば先ほどの歩兵と同じ末路を辿るだろう。武器を捨てて投降せよ。」

 

再び町全体に響く音量で、ニッパニアから降伏勧告がされる。城下町の住人たちは、すぐさま農具や刀剣を下ろし、降伏した。

 

 

そして、王城にて。

 

「ば・・馬鹿な・・・あれ程の精強な我が軍が、蟻の様に叩き潰されて行く・・・。」

 

「へ・・・陛下・・・我々は悪夢を見ているのでしょうか・・・?」

 

城から下界を一望できるテラスから兵舎や武器庫などが光の槍に吹き飛ばされ、出撃しようと整列していた兵士たちが肉塊に変えられて行く光景を目の当たりにし、衝撃を受ける。

 

「陛下・・・一度戻りましょう、危険です。」

 

王の間にルーザニア王を連れ戻すと、玉座に座った王は、わなわなと震えだす。

 

「お・・おのれえええええええええええええぇぇぇぇ!!!ニッパ族めえええぇぇぇぇ!!」

 

「陛下!!」

 

王の顔は、はっきり認識できるほどの青筋が浮かんでおり、怒りのあまりに茹蛸の様に赤面させている。

 

「殺してやる!滅ぼしてやる!内臓を引き千切り、煮えたぎる鉛を鼻から流し込み、生皮を剥ぎ取ってくれる!」

 

人間の顔は此処まで歪むのだろうか、聞くに堪えない言葉を吐き続ける国王の姿に家臣たちは顔を蒼白させる。

 

「陛下!お気を確かに!」

 

「煩い!煩い!貴様が先に死ね!!」

 

「あぎぃっ!?」

 

ルーザニア王ハイ・ヴォックが持つ王笏が青白く発光すると、文官の頭部に氷の柱が生え、王の間に鮮血が飛び散る。

 

「な・・・。」

 

「生き残った兵を集めよ!!蛮族共を皆殺しにするのだ!此処までルーザニアを・・ハイ家を貶めるとは万死に値する!!」

 

狂った様に王笏の先を赤い絨毯の敷かれた床に打ち付け、音が室内にこだまする。

 

しかし、次の瞬間、王の間の装飾された扉が爆音と共に吹き飛ばされ、扉近くの運の悪い兵士や家臣を巻き込まれ、その場に居合わせた者達が硬直する。

 

「残念ながらそれも叶いますまい、ルーザニア王、ハイ・ヴォック陛下?」

 

「ルーザニア王、ハイ・ヴォック、貴様をテロ容疑で拘束する。」

 

「な・・き・・貴様ら、何時の間に!?蛮族が王の間に土足で踏み込みおって!であえい!であえぃ!」

 

扉の爆破に巻き込まれなかった近衛兵がすぐさま駆けつけ、戦闘能力を持たない文官は、蜘蛛の子散らす様に逃げて行く。

 

「蛮族共め!王の御前であるぞ!無礼者め!」

 

「劣等民族がわざわざ死にに来たようだな!!」

 

近衛兵は、槍や剣等、変わったものでは杖を振り上げながら、扉を破壊した自衛隊に飛び掛かる・・・しかし。

 

 

「っ!!?」

 

ーーー・・・・・乾いた連続音。

 

「が・・・はっ・・・。」

 

たった数名の兵士が放った無数の光の矢が、十数名の近衛兵を打ち倒す。

 

「馬鹿な・・・何だと言うのだ・・・。」

 

ルーザニア王ハイ・ヴォックは、見えない何かに薙ぎ払われる様に倒された近衛兵達の姿に驚愕し、思わず後ずさる。

 

「大人しく投降すれば、命まで取ることは無い・・・無駄な抵抗は止めろ。」

 

ルーザニア王ハイ・ヴォックは鼻で笑い、要求を突っぱねた。その顔には明確な怒りと恐怖が滲んでいた。

今この瞬間は、命をとることは無いのだろうが、ニッパニアに囚われてしまえば、一方的な裁判を受け、処刑されてしまうのが目に見えていたからだ。

 

「ぐっ・・・使えぬ駒め・・・」

 

ハイ・ヴォック王は、王笏を構え、王笏の先端に取り付けられた魔石に光の粒子が集まる。

 

パキパキと音を立てて杖の先端に大きな氷の塊が出現し、強い魔力が注がれているのか王笏全体が淡く発光していた。

 

「ハイ家に逆らった貴様らには死んでもらおう!ひれ伏すが良い!!」

 

杖の先端から十分な大きさに成長しきった氷の槍を発射し、着弾地点に氷の破片が勢いよく散らばる。

 

寸前の所で氷の槍を回避した自衛官たちは、ハチキューを構え、反撃する。

 

連続した発砲音と共に足を撃たれたルーザニア王は、勢いよく転倒し、四つん這いになる。

 

「ぐぅぅぅっ・・・来るな!近寄るなぁぁぁ!!!」

 

這いずりながら、自衛官たちから逃れようと、近くに転がっている近衛兵の兜や王の間に飾られている宝飾品のゴブレットなど手あたり次第投げつけながら扉の方に逃げる王。

 

「ちっ・・・醜いな・・・。」

 

当然ながら、そんなもので自衛官を退けることなど出来ず、最後に王冠まで投げつけてくる始末。

 

「往生しろ!」

 

這いずるルーザニア王の横腹を蹴り上げると、ルーザニア王は呻き声を上げた後、芋虫の様に痙攣する。

直ぐに、取り押さえ、流れるような動きで、両手を後ろに回した後に手錠をかけ、拘束する。

 

「全く・・・王族の証たる王冠まで投げつけてくるとは・・・最初っから王の素質が無かったんじゃないか?」

 

「ぐぇぇぇ・・・あが・・・あがががっ・・。」

 

その後、外で待機していたイロコイに拘束したルーザニア王ハイ・ヴォックを乗せ、ゴルグガニアまで搬送するが、銃撃による負傷からか応急処置を施されていたにも関わらずルーザニア王は衰弱死した。

少なくない失血をしていたのが原因では無いか?日本に比べて衛生環境が整っていなかったのが原因ではないか?等と諸説はあるが、有力なのは魔力を持たない民に一方的に蹂躙された衝撃から、精神的に壊れてしまい生きる活力を失ってしまったのではないかと言われている。

 

かつて、ゴルグガニアに並ぶ軍事国家とも言われたルーザニアを束ねる王の末路は、余りにも惨めな物だった。

 

 

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ルーザニアの城塞都市の地下に広がる巨大な地下迷宮、有事の際は緊急脱出用の通路として使用されるが、今までこの地下迷宮を使うほどの非常事態に見舞われる事無く過ごしていたので、大まかな地図しか残されていない。

 

一応過去の再調査で、地下迷宮に住処を作った野獣や魔物が駆除され、何通りか外部に通じる出入り口を確認しているが、補強工事すらされず、簡単なマーキングをするに留まった。

 

「非常事態時に使用する通路だと言うのに、何と言う杜撰な・・・。」

 

「姫様、ニッパニアが攻めてきます、早く進みましょう。」

 

「わかっておる・・・っきゃぁっ!?」

 

ずんっ・・・と揺れを感じ、天井から埃がパラパラと落ちてくる。

 

「ニッパニアの攻城兵器は、此処まで届くのか・・・早く脱出しなければっ・・・。」

 

 

古びた煉瓦が敷き詰められた道を歩いていると、急に視界が広がる・・・どうやら山の斜面に空いた穴から外が見える様だ。

 

「・・・・そんな・・・城が燃えている・・。」

 

ハリネズミの様に武装されていた筈の城塞都市は、巨人の振り下ろした金槌に砕かれた様に瓦礫と化しており、黒煙が天高く立ち上っている。

 

ルーザニアの王女ハイ・スペッカは、膝から崩れ落ち、頬を涙が伝う。

 

「姫様・・・。」

 

「ルーザニアは・・・この国はもう終わりだ・・・。」

 

「ハイ・スペッカ王女殿下、貴女だけでも生き残れば、また再建できます・・・かつて、初代国王ハイ・クオリア陛下が成し遂げた様に。」

 

「ははっ・・・どうだろうな・・・私の様な小娘に国民がついてくるのやら・・・。」

 

自嘲気味に乾いた声で笑い、立ち上がり膝の埃を払うと、護衛の兵士たちに向き直る。

 

「先に進もう、まだ地下迷宮に入ったばかりだ、先は長い。」

 

「はっ!」

 

手入れのされていない通路は足場が悪く、割れた煉瓦に足を躓かせる事もあり、脱出用通路を進む王女と護衛達の気力を削いで行く。

 

「これは・・・何という事だ、通路が崩れて先に進めない・・・。」

 

「ニッパニアの攻撃で山が揺れたのだろう、仕方がない別の道を進もう。」

 

脱出ルートは幾つか地図に簡単に記されている、少し遠回りだがニッパニアの陣を構える峡谷の反対側に出る事が出来るルートが確認できる。

 

「此処からだと、こちらの道を進んだ方が良いな、行こう。」

 

古びた煉瓦の通路から、少しずつ人工物が無くなって行き、ジメジメと湿った鍾乳洞の様な道に変わって行く。

 

「大分深くまで降りて来たな、恐らく山の中腹近くだろう。」

 

「水の流れる音が聞こえますな、そして動物の気配・・・気を引き締めて行きましょう。」

 

一応目印に地面に金属の杭が刺さっているが、洞窟の湿気にやられたのか青い錆に覆われており、元は綱が引かれていたのであろう杭の穴には朽ち果てた繊維片が垂れ下がっているだけであった。

 

ごるるるるる・・・・・。

 

突如通路のわきから赤黒い鱗を持った大型爬虫類が現れる。

 

「火吹きトカゲ!?この様な所にっ!?」

 

「姫様、退避してください。」

 

「行くぞ化け物め!!」

 

ハイ・スペッカ王女の護衛が、短槍や斧などで火吹きトカゲに切りかかる。

 

キュオオオオオオオオオ!!

 

火吹きトカゲの口が大きく開かれると、喉から押し出される様に紅蓮の焔が突き進む。

 

狭い通路では、回避が難しく、凶悪な威力を誇る火炎放射だが、金属の大盾に阻まれ、護衛の兵士達には届かない。

 

火炎放射が止むと、その隙をついて、杖を持った兵が氷の塊を精製して、口の中に氷結の魔法を叩き込む。

 

キュオオオオオオオッ!?

 

火炎放射を放つ口が塞がれ、気道まで塞がれたのか苦しそうにもがき、何度も頭部を壁や地面に叩き付け暴れる火吹きトカゲ。

 

そこに、首や腹などに短槍や斧などが叩き付けられ、短い悲鳴を上げると、そのまま動かなくなった。

 

「まさか火吹きトカゲまで巣食っているとはな・・。」

 

「姫様、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、しかし今まで良く迷宮から地上に這い出て来なかったな・・・。」

 

「入り口付近は定期的に討伐が行われておりますからね・・・皮や肉は臨時の収穫にもなりますし・・。」

 

「見事な火吹きトカゲだな・・・今は捨て置く事しかできないのがもどかしいが、先を急がねばならん。」

 

「生き物の気配が集まってきています、先ほどの戦いで侵入者を感知したのでしょう。」

 

「更に悪い事に、火炎放射のせいで盾が燃えて使い物になりません・・・暫く炎が消えないと思うので、これも破棄する事にします。」

 

火吹きトカゲとの戦闘で、注意を深め、集まって来る生物の気配を避ける様に天然洞窟を進んでいると、急に広い場所に出る。

 

「洞窟の壁面が淡く光っている・・・これは・・・魔鉱石かっ!?」

 

「洞窟が脈打っている様だ、光が流動する・・・っ奥に何か!?」

 

広場の中央部に石板の様な人工物が聳え立っている、石板の中心部には青白く光り輝く巨大な魔石が埋め込まれており、広場全体を照らしている。

 

「この様な物が城の地下に存在するとは・・・これは一体なんだ?」

 

ハイ・スペッカ王女が、石板に触れた途端に魔石が光り輝き、青白い閃光がスペッカを貫く。

 

「きゃああああぁぁぁっ!?」

 

「姫様ーーーっ!!」

 

意識がそこからぶつりと途切れ、再び目を覚ますと星空の様な空間に彼女は居た。

 

「此処は一体どこだ・・・?」

 

(この記録を読んでいるという事は、王国に危機が迫っているという事だろう、嘆かわしい事だ・・・。)

 

「っ!何者だ!?」

 

声の主は、スペッカ王女の問いかけを無視する様に続けられる。

 

(ルーザニアの王族の血を引く者よ、我の記憶を魔石に封じ込めた、生き延びてこれを後の世代に語り継いでほしい。)

 

「一体何を言って・・・。」

 

(かつて我々は高山に住む部族の一つであった、しかし紺碧の大地で起きた大戦の影響で我々も人食い族の侵攻を食い止めるために、手を貸さなければならなかった。)

 

星空の様な空間は、急に青空に変わり、山の上にある小さな集落の上空から見た様な位置に固定される。

 

「・・・・・・・・。」

 

(人食い族達との戦いは熾烈を極めた。英雄と唄われた超人たちの力も海の民の聖歌魔法も、人食い族の誇る蛮力の前に、少しずつ押されていった。)

 

(我々も彼らに加勢し、多くの犠牲を出しながらも、人食い族の数を確かに減らして行ったのだ。)

 

(しかし、英雄たちの力の源が海の民の持つ青き秘宝と血肉と判明すると、我らの中で裏切者が現れた。)

 

「・・・・この声は・・・この記録は、まさか・・・。」

 

青空は、少しずつ夕暮れの様に染まり、やがて禍々しい血の様な色の瘴気の渦が空に満たされる狂気の空間に変わっていった。

 

(英雄たちを、そして海の民を裏切った一派は、人食い族の陣営に付き、形勢は逆転し一気に我々は紺碧の大地から、山々に追いやられてしまった。)

 

(人食い族達の侵攻は続き、各拠点を落とされ、遂に山に逃げ込んだ我らの集落にまで達した。)

 

(壊滅的な被害を出しながらも、囮に出ていった仲間達の犠牲を払いつつも、今まで誰も開拓しようとしなかった高山に僅かな生き残りが辿り着き、辛うじて生をつないでいた。)

 

禍々しい空は、やがて幻想的な星空に変わり、集落の上空から視界が移り、やがて見覚えのある山が見えて来た。

 

「この山は・・・・ルーザニアの王都ではないか!・・・まだ何も開拓されていない頃はこの様な形をしていたのか。」

 

(やがて少しずつ数を増やしていった我々は、高山を削り外敵から身を守るための防壁を作り始めた。)

 

(高山に広がる地下洞窟を繋ぎ、岩壁を削り、時折襲い来る魔獣に被害を出しつつも惑乱することなく冷徹に計画を進めていった。)

 

(そして長い時を経て、大戦で培った建築技術を持つ技官達を総動員して決して揺るがぬ城塞を建造することが出来た。)

 

「これは旧都か・・・しかし、今はもう・・・。」

 

(これ程の大事業を成し遂げた後に残ったものは呆けにも似た空気だった、少なからず達成感も喜びも感じていた。)

 

(だが、今まで出してきた犠牲に目を瞑り、全てが終わったと、それらの差し引きで穢れた手をぬぐえるほど我々は腐ってはいなかった。)

 

(この地下迷宮は、我らの墓標、無能な我らを呪った、犠牲者の血にまみれた慰霊碑。かつての友を裏切り落ち延びた、我ら高き民を戒めるための敗北の碑。)

 

(ルーザニアの王族の血を引く若者よ、後世に語り継ぐが良い、若さは記憶を引き継ぐ資格、王国に危機が迫りし時に記憶の鍵は解き放たれる。)

 

(そして紺碧の大地[アルクス]を取り戻す日まで・・・・・全ては戦友達の為に。)

 

急に視界が目も眩まんばかりの光に覆われる。

 

再び目を覚ました時は、護衛の兵士たちに介抱されており、その顔は涙に濡れていた。

 

「姫様、お目覚めですか・・・一体何故涙を流しているのです?お体は大丈夫ですか?」

 

「あ・・・あ゛あ゛・・・大丈夫だ、ひぐっ・・・これが・・・この記憶が・・・。」

 

「姫様?」

 

「ルーザニアの起源だと言うのか・・・。」

 

「姫様・・一体何が起こったと言うのですか?」

 

「そ・・ぞれは・・・。」

 

 

突如、広間の横穴から、強い光が照らされる。通路の奥から斑模様の兵隊が現れたのである。

 

「っ!!姫様、ニッパニア軍がっ!!」

 

「おのれ蛮族め、姫様に手出しはさせんぞ!!」

 

武器を構える護衛の兵士達、しかし、スペッカ王女は手を差し出し静止させる。

 

「お前達も見たであろう、我々では手も足も出せぬ・・・・。」

 

「我々が時間を稼ぎます、お逃げ下さい!!」

 

「もう・・・いいんだ、辱めを受けてでも生き延びよう、武器を捨ててニッパニアの軍門に下ろう。」

 

「姫・・・様・・・。」

 

護衛の兵士たちは己の無力さに涙を流し、膝をつく。

 

「この記憶を・・・語り継がねば・・・生き延びて生き延びて、この身が擦切れようとも・・・。」

 

 

 

 

 

 

その日、日本はルーザニアとの戦争に勝利して、王都に駐在する軍を派遣し、占領下に収めた。

最後に、グローバルホークによって撮影された、地下通路の入り口から進軍した別働隊によって、洞窟の中心部で遭難していた王族の少女が保護された。

 

 



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第75話   虹色ドロップ

砲撃により瓦礫と化し、無残な姿をさらす山頂の城塞都市と早期に降伏したが故に殆ど無傷の城下町が残ったルーザニア。

かつて、大陸有数の軍事国家として、その名を覇していたが、海の向こうからやって来た島国との戦争で、壊滅状態になっていた。

 

 

「しっかし、随分と派手に吹っ飛ばしたな、この距離からでもハッキリと認識できるぜ。」

 

「ほぼ無傷で残った城下町と、瓦礫と化した城塞都市か・・・何とも皮肉な話だな。」

 

「俺達がやった事だがな、城下町の被害らしい被害と言ったら、突撃してきた歩兵部隊だろう。」

 

「それでも沢山人が死んだんだ、数で言えば山頂の方が多いだろうが、そもそも城下町と比べる意味は無い。」

 

会話の途中で視界の端から石ころが飛んで来る。

 

「おっと・・・。」

 

石ころが飛んできた方を向くと、血まみれで変形した兜を腋に抱えた少年が涙を流しながらこちらを睨んでいた。

 

「おいっ、そこの・・・はぁ、逃げたか。」

 

「全く・・・やるせないな・・・これだから戦争は嫌いなんだ。」

 

「軍人が言う事でもないがな。」

 

「軍人じゃなくて自衛官な、まぁ実体は大して変わらんが・・・。」

 

山頂の城塞都市に比べて死者は少ないが、それでも十字砲火を受けた自警団には、ほぼ全滅に近い被害を受けており、数えきれないほどの未亡人や孤児を作っていた。

 

「城下町に被害が殆ど無いから、仮設住宅の設置数も少なくて済むのは幸いか・・・。」

 

「資材を運び込むのにも苦労するよ、こうも山奥にあると物資がなかなか届かないもんだ。」

 

「トンネルも無ければ、舗装された道路も無い、それでもある程度はトラックで届くんだ、贅沢を言うもんじゃない。」

 

「了解、了解、さてと作業を再開するか。」

 

 

作れる分の仮設住宅を組み立てると、住居をなくしたり、親を失った子供や、夫を失った女性などが集まり、この世界では見られない箱の様な形状の家に住まう事になった。

仮設住宅は、ルーザニアの住人たちにとって未知で溢れているものなので、興味深そうに電灯をON,OFFに切り替え、質の良い布団に入り感触を確かめてみたりしていた。

 

彼らは、敗戦国の住民である自分達がいつ謎の島国に奴隷に出されてしまうか恐れており、その恐怖心を抑えるために、あえて好奇心を抑えずにあらゆる物に触れ続けた。

 

ある程度時間が経ち、仮設住宅の暮らしに慣れはじめた頃、自衛隊に直接接触を持つ者が現れ始めた。

 

『あっ、こら!捕まえたぞ!盗人めっ!』

 

すれ違いざまに、自衛官の持ち物を盗もうとした少年が、捻りあげられ、関節を固められる。

 

『離せよ野蛮人!おれ達から全てを奪ったんだ!お前達から奪って何が悪い!!』

 

顔を赤く染めながら怒りの形相で自衛官を睨みつけるが、自衛官は凄まじい力で関節を固めているので、抜け出すことが出来ない。

 

『一応言っておくが、先に仕掛けてきたのはお前らの国だぞ?・・・ったく、ボールペンなんて盗んで何するつもりだったんだ?』

 

ふと、取り押さえた少年をよく見てみると、どこかで見た様な顔をしていた。

 

『お前、この前あそこで兜を抱えていた・・・。』

 

『そうだよ!父ちゃんの形見だ!お前たちのせいで父ちゃんは!!』

 

少年を取り押さえた自衛官は、眉間にしわを寄せ暫く沈黙する、ほんの数秒程度だったが、二人には長い時間に感じた。

 

『それで、仕返しに泥棒を?』

 

『・・・・そうだよ、何に使うか分からないけど、無くなったら困るだろ?』

 

『ったく・・発想が子供だな、ついて来い、盗んだのがボールペンだろうが泥棒は泥棒だ、こっちにも決まり事があるんだ。』

 

『やめろ!離せ!野蛮人!野蛮人!何をするつもりだ!野蛮人!!』

 

「ウルセェ・・・。」

 

少年を捕えたまま、自衛官は占領地の一角で事務処理をする為に接収した宿屋に向かった。

 

その後、盗んだものがボールペン1本で、日本で言えば小学生の低学年の年齢だったので、厳重注意で釈放され、仮設住宅に戻され顔を真っ青にした母親に拳骨を食らわされて終った。

 

 

 

・・・数日後、非番で城下町の観察をしていた自衛官は、あの少年を偶然見かけて立ち止まる。

 

「アイツは、この前の・・・。」

 

砲撃によって部分的に損傷を受けた街の防壁の上に腰掛け、憂鬱そうな顔で、迫撃砲で穴の開いた戦場を眺め続ける少年。

 

少年は、ふと後ろを振り向くと、驚いて少し体が震えた。数日前、棒状のものを盗もうとして捕まえられた、あの蛮族の兵士が立っていたのだ。

 

『よぉ、坊主、また会ったな。』

 

『あっ?てめーは!』

 

『こんな所で、何してやがるんだ?』

 

『てめーには関係ねーよ!』

 

 

自衛官は、『そうか』と呟くと、少年と同じく崩れた防壁の上に登って、迫撃砲で穿たれた大地を眺めた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

暫く無言で、お互い同じ風景を眺め続け、時間が流れる。

 

『父ちゃんは、自警団の中でも勇敢な戦士の一人だったんだ・・・。』

 

ぽつりと少年が呟く。

 

『最初は母ちゃんも街の皆も止めたんだ、山のお城が吹っ飛ばされた光景を見て誰もが勝てる訳が無いと思ったんだ。』

 

『・・・でも、父ちゃん達は、あの光景を見て家族を守るために、故郷のために、勝ち目のない戦いに行かなくちゃいけなかったんだ。』

 

自衛官は、穴の開いた荒野を眺めながら言った。

 

『降伏勧告に何故乗らなかったんだ?』

 

『もしおれ達の国が、蛮族の街を占領したら、そこに居る奴らは全員奴隷になって、金とか宝物とか奪うだろうな。彼方此方から恨みを買っているから何されるかわからねーし。』

 

『随分と野蛮な事だな、まぁ、この世界の国々は皆そう言うモンなんだろうけど・・。』

 

『(この世界?)笑うのか?おれ達の事を野蛮人だって笑うのか?』

 

目線だけ少年の方に向けた後、興味なさげに鼻息を付くと、再び穴の開いた荒野に目線を向ける。

 

『笑わんよ、興味も無いしな・・・何にせよ滑稽な事だ。』

 

崩れた防壁の上に腰を掛けていた自衛官は立ち上がり、手で埃を払うと、少年に向かって金属の箱を投げつけた。

 

『わっと・・・な・・・何だよ、コレ?』

 

『中に食いモンが入っている、受け取りな。』

 

自衛官は、崩れた防壁の斜面を滑り降り、元来た道へ歩いて行く。

 

『・・・俺にも坊主くらいのガキが居てな、お前みたいな年齢のガキがそんな顔をするもんじゃねーぞ。』

 

自衛官は少年を一瞥すると『じゃあな』と一言つぶやいた後、去っていった。

 

 

『一体何だったんだよ・・・中に何か入っているな?・・・音からして堅そうだ。』

 

金属の箱を悪戦苦闘しながら開けた後、小さな口から色鮮やかな宝石の様な物が手のひらに転がり落ちる。

 

『なにこれ?食い物じゃなかったのか?・・・・でもいい匂いだ。え?食えるのコレ?』

 

恐る恐る、赤い宝石の様な物を口にすると、今まで食べた事のない程の強烈な甘さに目を見開く。

 

『甘っ!?・・・こんな味初めて・・・でも、なんか懐かしい・・・。』

 

宝石のような食べ物は、強烈な甘さだけで無く果物のような酸味も含んでいた。

少年は、ふと思い出す。数年前、街の外の森で太陽の色の粒々の木の実がいっぱい実っている秘密の場所に今は亡き父親が連れて行ってくれた事を・・・。

 

『とお・・・ちゃん・・・・。』

 

果物のような甘い味のする食べ物は、途中で少し、しょっぱく感じた。

 

 

その後、暫くして街道が整備され、トラックの往来が増えた頃、子供たちがトラックに群がり飴玉などをねだる光景が見られるようになったと言う。

反面、大人たちは一方的に国を滅ぼし、占領下に収めた日本の兵士たちを恐れて近付く事は滅多になかった。

 



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第76話   飛竜の一日

城塞都市ゴルグに設けられた生物研究所、異世界の大陸から集められた動植物を研究し、

生物学の更なる進歩と、未知の病原生物の日本上陸を阻止する為に、日夜活動を続けている。

 

 

しかし、日本が集めた生物の中で、現地住民が魔物と呼び恐れる大型動物も含まれていたため、最近では近隣住民から苦情と不安の声が届いている。

 

 

ギャウン!ギャン!ギャン!

 

「ほれ、餌だぞー、またトレーを壊すんじゃないぞ?」

 

ニ゛ャギャ!

 

「壊したらごはん減らしちゃうぞ?」

 

ニャフン・・・。

 

 

大陸中から集められた動植物の中でも、特に大陸中央部を覆う大森林と言う高濃度の魔力が満ちている場所に生息する生物は、特異な性質を持っている。

多くは強力な魔力を秘めており、狂暴な生物も多いので、飼育には細心の注意が必要だが、中には人に懐く生物も居る。

肉のお零れ目当てで自衛隊の後をつけて来た、飛竜の子供がそれである。

 

 

========================================

 

 

 

ある獣は昔を思い出していた。

 

故郷の山で岩のような獣に群れの仲間を食い殺され、散り散りになり、自分自身も孤独に過ごしていたが、故郷の山を離れた時に転機が訪れる。

 

最初は、見た事も無い二足歩行の動物に捕えられ、食べられてしまうと恐ろしく感じていたが、二足歩行の動物は自分に食べ物を分け与えてくれた。

 

獣は知っていた、血縁関係のない後から群れに入って来た仲間が、最初は食糧を分け与えて貰っていなかったのを・・・・。

獣は知っていた、新米の群れの仲間は、率先して群れの為に外敵を追い払ったり、獲物を捕まえやすくするために追い立ててくれていたことを・・・。

獣は知っていた、暫くして群れの仲間と正式に認められた新米は、群れ全体の連携で仕留めた獲物を、そこで初めて分け与えて貰えることを・・・。

 

・・・・そう、獣は本能的に知っていたのだ・・・。

 

獣は孤独な毎日から、初めて満ち足りた生活を手にしたのだ・・・。

 

二足歩行の動物の群れに加わった覚えも無ければ、彼らの為に体を張った覚えも無かったが、獣はとても嬉しかった、自分に貴重な食糧を分け与えてくれたのだから。

それ故に、早く自分でも食糧を調達できるように、日夜、食糧が入れられた奇妙な光沢を放つ岩を、獲物に見立てて叩き付けたり転がして追いかけたりしているのである。

 

 

『コラー・タロー・マターコワシターナー!!』

 

ギャン!ギャン!ギャッ!ギャッ!(あそんで!すき!すき!

 

『グェェ・・・オモッ・・ナッターナー?ダッコ・ハ・ムリヨー?』

 

クンクン・・ギャン!ギャッ!ギャッ!!(もちあげられるのすき!かおなめる!すき!

 

『モーソロソロ・サンニー・ジャナイト・ムリダナー?』

 

ニ゛ャニ?(なに?

 

『ナン・デモー・ナー・ヨ?』

 

グゥ?(そう?

 

 

檻の中で飼育員と遊んでいると、檻の外でカートに荷物を積んだ男が檻の前を通って行く。

 

『オーイー!コレ!ドコニ・ハコ・ブンダー?』

 

『アーソレハ・ソーコ・ニー・モットコ・ンドヨー?』

 

ギャ!・・グルルルルルッ・・・グウゥゥゥゥゥ!!!(こわい!やだ、やだ、ないない!

 

『アア・ソージキ・モ・アル・ノカー・・・ハヤク・ハコンデー!』

 

グルルルルル!!グゥゥゥゥゥゥゥ!!!ふーーーっ!!(やだやだ、こわい!あっちやって!ないない!ふーーっ!!

 

『ホラホラー・モー・コワイノ・ナイーヨ?』

 

ニャフン・・・クンクン・・・。(ないない?こわいの、ないない?

 

『ホラー・ナニモ・ナイーヨッ?』

 

クンクン・・・ンギャ・・ギャ・・・フギャ・・ふしゅん!!(ないない?あそぶ!すき・・・ふにゃ・・くしゅん!!

 

飛竜の子供がくしゃみをすると同時に、その直線上の空間が一瞬だけ歪み、爆風の様な衝撃波が放たれ、床に転がっていたトレーを盛大に壁に叩き付けた。

 

『オアーーーーッ!!?ナンジャ・コレハー!!??』

 

ギャン!ギャン!ギャ!ギャ!(あそぶ!あそぶ!すき!すき!

 

『チョ・・チョット・マッテテ・・・・ショチョー!ショチョー!』

 

グゥ?ギャフン・・・ンギャン・・・。(えぇ、ないない?つまんない・・・。

 

飼育員は慌てて、研究所の所長に飛竜の放ったブレスの報告をしに、檻の外へ走り去って行く。

走り去った飼育員の後姿を飛竜の子供は暫く見つめた後、つまらなそうに、ふてくされた顔で山積みになった藁に体を横たえた。

 

 

 

その日、長い間、用途不明のブレス発射器官の正体は、衝撃波ブレス用の器官と判明した。

飛竜が成長し、未発達だった器官が成熟した事により、飛竜の研究が一気に進んだのであった。

 

 

 

飛竜の衝撃波ブレス

 

 

魔鉱石には、物理干渉力を持つエネルギーを放出する特性があるが、それを熱や電気などのエネルギーに変換する事で魔法と言う現象を引き起こしている。

しかし、未加工の魔力を放出しても、物を押す程度に留まり左程威力も無いが、出力を高めるとそれは衝撃波となり、重量のある物体も吹き飛ばす事が出来る。

エネルギーを放出するだけなので、複雑な工程を組まずに済む分、負担が少ない。

飛竜は、外敵を空中で衝撃波ブレスを集団で浴びせる事で、相手のバランスを崩し墜落させる戦法を用いる様だ。

 

 

 



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第77話   大陸水族館

日本がこの世界で初めて接触した国であり、そして初めて日本が戦った国、ゴルグガニア。

自衛隊の砲撃で街は大部分が崩壊し、瓦礫の山となっていたが、日本が占拠して月日がたち、街は機械化が進み夜も眠らぬ光の街となった。

現在は、大陸に展開する為の重要な拠点として更なる開拓が進み、飛行場や港まで通じる大きな道路が設置される予定である。

 

城塞都市ゴルグの一角に建設された大陸中の動植物を研究する生物研究所にて、一部が一般に開放され、大陸初の催しが開かれるのであった。

 

「なぁ、凄い人集りだな、ありゃ一体何なんだ?」

 

「さぁ?スイゾクカン?とか言う物が開かれるとか?何でも水に住む生き物を集めて見世物にするんだとか?」

 

「はぁ、水の中の生き物ねぇ・・・美味そうな奴は泳いでいるのかな?」

 

「おいおい、やめとけやめとけ、あの建物の動物はニーポニアの物だ、勝手に持っていこうとすると兵隊さんに連行されちまうぞ?」

 

「うぇぇ、おっかえねぇ・・・でも、そんなもん見て面白いのかね?川に行けば、魚なんて幾らでも取れるだろう?」

 

「噂では、大森林の魔物も飼育しているらしいぜ?」

 

「はぁっ!?大森林の魔物だって?そんな危ない物捕まえて、見世物にするのか!?人死にが起こるぞ!」

 

「まー、真偽はともかく、危険な生き物は頑丈な箱に入れているらしいから、安全らしいけど、怖い物見たさで行ってみたくなるな。」

 

「俺はごめんだぜ、行くってんなら、止めやしないが骨は拾えんぞ?」

 

「はははっ、無事に戻ってきたら自慢してやるよ!」

 

 

元々、一般公開する予定は無く、生物の研究により伝染病の予防や治療方法の模索、危険生物の対策などを行う研究所であったが、度々武装した農民などに囲まれ、魔物を飼育している事に対して抗議を受けていた。

そこで、研究所は民間にも魔物と呼ばれる大型生物に慣れてもらうために、捕獲した生物の中で安全と判断された物だけ、動物園や水族館と言う形で、一般公開された。

 

まだ設備は整っていないので、持ち運びが容易な水槽を並べ、急造された大型水槽に大型生物を移し、フェンスで囲っただけの簡単な構造の物であるが、娯楽の少ないこの世界では、開館前から話題になっていた。

 

 

 

 

ママスチオ   通称:斑鱒

 

日本に生息する鱒に似た姿の魚。大陸中の河川に生息しており、高い適応能力を持つ。雑食性

幼魚の頃は、特定の縄張りを持たず、餌を探して徘徊するが、成体になると餌が多く取れる岩場などに縄張りを持ち同族を排除する。

雌は産卵のために栄養を蓄えるために縄張りから出て来ないが、繁殖期になると雄は、縄張りを放棄し、雌を探しに行く。

雌を見つけると、雄はヒレを大きく開いてセックスアピールをするが、他の雄に妨害される事もあり、体当たりなどで実力で排除される事もある。

また、他の雄を撃退しても、雌に気に入られなければ、雌に体当たりを受け絶命する事もある。

各地で食用に捕獲され、斑模様のきめが細かければ細かい程、高く取引されている。

 

 

 

レージママスチオ  通称:虹斑鱒

 

日本に生息するニジマスに似た姿の魚。濁りの無い澄んだ河川に生息する雑食性の魚。

繁殖力は斑鱒よりも高く、倍以上の卵を産卵するが、その内に生き残るのは極僅かで、その多くが天敵に捕食される。

生息地域付近の集落では、食用魚として親しまれており、産卵期になると肉の味が落ち、旨みが卵に凝縮されるので産卵期の虹斑鱒の肉と骨は肥料にされる事が多い。

しかし、産卵前の若い個体は、脂が少なく、淡白としつつ甘みのある味なので、塩焼きが絶品。

虹斑鱒は、ヒレで雌にセックスアピールするのではなく、太陽光を鱗に反射させ、踊る事で雌の気を引く。

 

 

「へぇー・・・いつも食っているこの魚って、こんな風に暮らしているんだなー。」

 

「ねぇ、この箱の中の魚食っていいの?」

 

「駄目に決まっているでしょう!見世物なんだから!」

 

「ちぇ~・・・後で釣って来るかぁー・・・。」

 

この大陸では・・・いや、この世界では人間以外の生き物がどの様な生態系を持っているのか興味を持つ者は少ない。

しかし、水族館で簡単な生態系の一部を書く事で、この街の住人には動物の生態系と言う新たな概念が生まれつつあった。

 

「うわぁ・・・でっけぇ箱だなぁ・・・。」

 

「箱と言うよりは、建物でしょ?・・・でもこれってどう見ても魔物だよねぇ?」

 

大きな水槽の底に、人間の胴体ほどの大きさのある赤茶色の甲殻類が蠢いている。

そして、水槽のガラスに鋏を叩き付け、鈍い音が響く。

 

「ひっ!?」

 

「こ・・この透明な板、割れないだろうなぁ!?おっかねー。」

 

 

 

レディカガロヴァ  通称:紅重殻蟹

 

水深の深い河川に生息する蟹に似た甲殻類。雑食性

普段は水底の水草を毟っては口に運んでいるが、近くを小魚や水生昆虫などが通ると、巨体に見合わぬ俊敏さで副腕を使い捕食する。

大きな鋏はさながら巨大な金槌の様で、捕食には適さないが、外敵や縄張りを犯した同族に対する武器として機能する。

雄は巨大な鋏を持つが、雌はそれほど大きくならない。その代り、繁殖期限定で雌は雄よりも大型化する。

雌は産卵後、力尽き、生まれてくる幼生の糧となり、幼生が肉眼で確認できるほど大きくなる頃には親の死骸は外殻しか残っていない。

本種を食用とする集落は現時点では確認できないが、泥抜きして臭みを消せば、食用は可能と判断された。

 

 

 

ベルグードガロヴァ 通称:黒鉄重殻蟹

 

水深の深い河川に生息する蟹に似た甲殻類。鉱物食を含む雑食性

水底で、鉄分を多く含む砂粒と一緒に有機物を食べているが、小動物の存在を感知すると砂に潜り、待ち伏せする。

鋏は金属質に変性しており、天然の金槌となって獲物に重い一撃を打ち付ける。

産卵期になると、より大きな獲物を求めてより水深の深い場所に移動して、時には天敵さえも戦いを挑むほど狂暴になる。

雄は、仕留めた獲物を巣に集め、雌を招いてそこで産卵・放精し、次の繁殖期に備えて新たな巣を作りに行く。

古巣で羽化した卵は、雄の集めた獲物を糧に成長し、備蓄が無くなると独り立ちし餌を探して彷徨う。

本種は食用に適しておらず、いくら泥抜きしても泥臭さが消えず、重金属を含む疑いあり。

 

 

「こ・・こんな生き物もニーポニアは見つけていたんだ・・・川にこんなのが居るなんて知らなかったよ。」

 

「いや、漁師が時々、網に引っ掛かったのを見つける事はあるぞ?もっとも、危なっかしくて逃がしちまうが。」

 

「ん?見てみろ、何かするらしいぞ?」

 

強化ガラスの向こう側から、飼育員が現れ、バッタの様な虫を水槽に沈め、もぞもぞと溺れた様に蠢いている。

そして、次の瞬間、水底に居た赤茶色の甲殻類が、砂煙を上げながら飛び、器用に副腕でバッタの様な虫を捕える。

 

「うおおおおおぉぉぉっ!!」

 

「すげぇ、あんなにデカいのに素早いのか!」

 

「お・・お母ぁさん~~。」

 

「だ・・大丈夫よ、多分、見世物にしているくらいだから・・。」

 

水槽の赤茶色の甲殻類は、バッタの様な虫を口に運び、引き千切る様に咀嚼して飲み込んで行く。

 

「街の外で見かける魔物もどんな風にして暮らしているんだろうなぁ?」

 

「そうだよなぁ・・・そもそも、スイゾクカンと言う奴は、水の中の生き物しか扱っていないんだよなぁ・・・?」

 

水族館に訪れた観客の一部は、ちらりと水族館の隣にある、獣の声が聞こえてくる施設に目をやった。

 

「あっちの中身も気になるよなぁ・・・?」

 

「あぁ、こんなもの見せつけられちゃ、あっちの魔物も気になるよ。」

 

 

そう、既に生物研究所に運び込まれた魔物のクレートは目撃されているのである。

水族館の公開後、陸の動物を見たい住民が、陸のスイゾクカン・・・すなわち動物園を求めたのであった。

 

これ以降、娯楽の少ない世界で、水族館と動物園は大陸中の国々から見物客を呼び込む観光名所として、大きく機能するのである。

その人気ぶりは、お忍びで異国の王族や貴族が訪れるほどのものであった。

 

 

 



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第78話   空中大陸とタンカー

惑星アルクスを周回する空中大陸・・・・長い間、地上との接触を断ち、空で平和を謳歌していた空の民だが、自分たち以外にも空の領域を持つ種族と接触し交流を持つようになった。

度々、その民の国の上空を通過し、定期的に情報交換を行うのだが、彼らが空を飛ぶために必要な 燃える水 を空中大陸に持ち込まなければ、地上に戻れないと言う問題があった。

 

その為に、空中大陸は燃える水を貯える巨大な鉄の樽の設置を許可し、定期的に燃える水を補給する為に低空飛行するのであった。

 

 

「久しぶりの日本だな、空中大陸の暮らしも悪くは無いが、壊れた遺跡の修理ばかりで、中々町の観光が出来ないのがなぁ・・。」

 

「しょうがないじゃないか、彼らは手が翼になっているんだから手先の器用さは無くなっているし、空の民との交流の条件にも入っているし・・。」

 

「おっと、そろそろ海の上に出る頃だな?・・・チューブを下ろすぞ!お前は、ソラビトの連中に伝えといてくれ!」

 

「あぁ、時間だな、それじゃぁ行ってくるわ。」

 

 

 

空中大陸の中心部に広がるソラビト達の街、その多くは彼らが地上で暮らしていた頃に建設された古代都市であり、高度な魔法技術が随所に使われた生きた街である。

彼らソラビトがリクビトだった頃、手先の器用さが変異によって失われる事を見越して、ある程度の修復機能や、修理しやすい構造になっているのだが、それでも経年劣化により多くが使用不可能な状態になっていた。

それでも、彼らは使えなければ使えないで良いと、割り切る事が出来る(様に作られている)ので、別な物で代用したり、簡略化された物を再開発したりするのである。

 

しかし、ソラビト以外の種族を空中大陸に迎え入れるとなると、彼らも壊れた箇所が気になり始める。器用さを失った自分たちの代わりに修理をしてもらいたいと思い始めたのである。

 

そして、更に予想外な事が起こった。魔法技術に関してはまるで赤子の様だが、それ以外の技術・・・魔法を使わない物理法則を極めた技術を操る異界の民は、彼らがリクビトだった時代でも実現できていなかった事を容易く実現したのである。

最初はソラビトが、古い設計図を出して、手先の器用な異界の民に指示を出しながら、修理して行く予定だったが、彼らの技術力はソラビトの祖先の更に上を行く。

 

魔力を利用してその周辺だけ気温を過ごしやすい温度に整える魔石の柱よりも、更に出力の高いエアコン、魔力を供給する事で、薄ぼんやりと光る魔石灯より、明るいエルイーディーなど、枚挙に遑がない。

それらの科学技術の産物と、古代都市の魔法技術の産物の技術交換・交流を条件の一部に組み込み、異界の国ニパンと交流をしている。

 

 

『おぉぃ、イクウビトが燃える水の補給をしたいから、高度を落としてくれってさー!』

 

『あぁ、そろそろ来ると思って準備していたぞー!それじゃぁ、始めるかー!!』

 

 

圧倒的な技術力を持つ文明国だが、ニパンの科学技術の結晶とも言える道具を動かすにも弱点がある。

その多くが、燃える水に依存しているのである。

 

幾らか、魔法技術を伝える事で、燃える水を使わない魔法の発電方法が可能となり、消費量を抑える事が出来たのだが、それでも彼らの技術には燃える水が切っても切れぬ資源なのである。

 

『魔石柱の位置を変えるぞ!魔力を第七回路に流せ!』

 

『位置を変更しました!第六、第五回路を遮断します。』

 

『よし、今のうちに第二回路を接続しろ、主力魔石柱の出力を徐々に押さえろ!急に落とすなよ!』

 

『分かっています、墜落するのは御免ですからね!第一回路、出力を徐々に低下させます、魔法力場、安定しました。』

 

 

僅かに揺れを感じると、徐々に空中大陸の高度が下がり始め、海面が空中大陸の陰に隠れ薄暗くなって行く・・・。

 

 

『・・・見ろよ、海があんなに近いぜ?』

 

『高度が低下中・・・えぇ、しかし、タンカーと言う物はいつ見ても壮観ですね・・・。』

 

『リクビトが作る船なんて、池に浮いた木の葉みたいな物だが、イクウビトの船は、まるで島だな・・・。』

 

 

高度を徐々に落とした空中大陸と並走するように航行するタンカーは、空中大陸から垂れ下がる太いチューブを確認し、燃料供給の準備を開始していた。

巨大な空中大陸の陰に隠れ、薄暗くなっているので、夜間の様に照明をつけ、燃料供給用に改造が施された装置を上部に向け、チューブの垂れさがる位置に合わせようとしていた。

 

「見ろよ、空中大陸が降りて来たぜ?」

 

「チューブの位置を確認、並走します・・・・えぇ、しかし、空中大陸と言う物はいつ見ても壮観ですね・・・。」

 

「空を浮く島なんて、御伽噺でしか聞いた事が無いが、ソラビトは凄い事をするもんだな。」

 

「地表を丸ごと削り取って、空に浮かせるんですからね・・・しかし、魔石の放つ力場は凄いですね、ダウンウォッシュが激しい・・・。」

 

「あんなもんを浮かせているんだ、相当な出力が必要なんだろう、それでも1000年以上降りてこないってんだから、とんでもない話だな。」

 

「東京ドームでも収まらないサイズの巨大な魔石の塊・・・・あんなものが剥き出しになって1000年以上リクビトの国々の上空を飛んでいたんですね・・・。」

 

「地域によっては、神として崇められているんだとか・・・ははっ、どうやら神様とやらは随分と気さくな連中の様だ。」

 

「えぇ、良い人達ですよね、彼らのお蔭で魔鉱石を利用した技術が一気に進みましたし、今後も仲良くやって行きたいです。」

 

 

空中大陸の降下が止まると、チューブが徐々に延ばされて行く・・・・タンカー側の燃料供給装置も吊りあがり、鈍い音を立てて接続される。

 

「ーーっ!・・・よしっ、チューブの接続に成功!さて、こっちのタンクを空にするぞ!ありったけ流せ!」

 

「今回の機会を逃すと、上の人達干上がっちゃいますからね、ソラビトの皆さんとも協力して頂いていますし、成功させないと!」

 

ポンプが作動し、チューブに燃料が送られて行く。

日本と交流を持った空中大陸には、日本の大使館と空港を含む施設が、沢山存在する。

電力は魔法技術で賄っているものの、やはり燃料が無ければ維持できない物も無数に存在するのだ。

 

 

「おーっ・・・来た来た!燃料だ!これで当分は安心できるな。」

 

「先に、食糧や電化製品の空輸が終わっているから、無くてもギリギリ行けたけどな、やはり、燃料が無いと困るんだよ。」

 

「例の油田から採掘して、精製が終わったばかりの燃料だろ?悪くない品質だと聞いているが・・・。」

 

「むしろ最高品質らしいぜ?」

 

「穢れた大地と現地の人は言っているが、俺達から見れば宝の山だ・・・ヘンテコな怪物さえいなければ良いんだがなぁ・・・。」

 

「あー・・・殉職者が度々出ているんだろう?埋蔵量は魅力的だが、何とかならないのかねぇ・・・。」

 

「でっかいナマコに、足の生えたウミウシ・・・更に、原油を採掘するパイプに紛れてタンクを泳ぎ回るスカイフィッシュもどき・・・何で見た目がグロテスクな奴らばかり何だか・・・。」

 

「資源は見つかったけど、簡単には行かないか・・・そう言えば、例の無人島・・・大規模なリン鉱石の鉱脈が見つかったんだって?」

 

「あぁ、今調査隊が派遣されているんだが、例によって化け物が出るらしい・・・。」

 

「・・・・本当に、なんでこんな星に来ちまったんだろうなぁ・・。」

 

「手つかずの資源が転がっていても、周りに協力できる国が存在しなかったら国が持たぬ・・・か。」

 

「ソラビトと国交が持てて本当に良かったよ、彼らとの技術交流は、もはや生命線だ。」

 

「そうだな・・・まだまだ、国交を持っていない国は沢山ある・・・多くと手を結び、地球の頃よりも日本を発展させてやらないとな!」

 

「さて、細かい調整を行うぞ!電動ポンプの様子を見に行くから燃料タンクの方を頼む。」

 

「ほいほい、了解!これが終わったら暫く羽を伸ばせるな!」

 

 

日本の近くに寄って来た空中大陸に滞在する職員の人員交代、物資の補給、情報交換を終わらせると、再び空中大陸は上昇する。

空中大陸の長い旅はこれからも果てしなく続いて行くだろう・・・しかし、日本に接近する際に高度を落とすことで、日本以外の地上に住む民に、影響を与えるのはまた別の話・・・。

 



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第79話   かつて人だった者

まるで火山弾が降り注いだかのように、破壊痕が残るルーザニアの城塞都市。

未だに正確な死者の数は判明しておらず、行方不明者を含めると数万人に上ると言う。

 

 

捨て駒にし、貴族層の逃亡の為の時間を稼ぐ様に想定されていた山の麓の城下町が早期に降伏したため、殆ど無傷に近い状態で残っており、皮肉にも物資の調達や復興のための拠点として機能する事になった。

中枢機能を失った山頂付近の城塞都市は、比較的被害の少ない山の中腹の関所にその機能を臨時で移され、主を失った兵舎を書斎に改装して、戦後の処理を行う場となった。

 

「なに?峡谷付近に怪しい集団を見つけただと?」

 

ハイ・スペッカ王女が、積み上げられた書類の山に埋もれながら、首を擡げた。

 

「えぇ、薄汚れた鎧を身にまとった、集団が街の近くをうろついていたらしいのですが・・・。」

 

「どうした?」

 

「どうにも、獣のように四つん這いで歩き、奇声を上げながら自傷したり、あまりにも不気味な様子なのです。」

 

「それは・・・・なんとも・・・。」

 

「既にニッパニア軍によって、全員拘束されている様ですが、彼らにとっても扱いに困るらしく・・。」

 

「我々に押し付けたという事か。」

 

「兎に角、放置するわけにはいかないので、破壊を免れた牢獄を使用できないかとニッパニアから打診がありました。」

 

「まったく、力で我らをねじ伏せたと言うのに律儀な事だな、何にせよ不審者を放置するのは問題がある、牢獄の使用を許可しよう。」

 

「はっ、ニッパニア側に通達します。」

 

伝令が山の麓の城下町の自衛隊に、牢獄の使用許可を通達すると、暫くして土煙を上げながら数体の鎧虫が、山の中腹の関所に拘束した不審者たちを乗せて来た。

しかし、関所の警備を任されていた兵士たちが、その不審者たちを見て、驚愕と共に狼狽えていた。

 

「お・・・おい?お前さん、まさか討族隊の・・・。」

 

「あぇ?」

 

薄汚れて判別が困難になっていたが、それは、かつてニッパニアを撃退する為に結成された討族隊の兵士であったのだ。

声をかけられ反応したものの全く呂律が回らない状態で、顔の筋が不自然に引きつり、まるで悪趣味な造形の人形の様に固まっていた。

 

「あぇっぱにあ・・・ぃっぱにあ、ばけもの・・・ばけもの・・・。」

 

「おいっ!歩き方が変だぞ、大丈夫かアンタ!?」

 

「あ゛っ・・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!」

 

突然蹲り、頭を掻き毟り始める兵士、その指の爪は剥がれ落ちて黒い瘡蓋が層になっており、頭皮もずたずたで、部分的に毛が抜け落ちて禿げていた。

 

「ひっ!?」

 

「に・・・ニッパニア軍のジエイタイよ・・・一体彼らに何をしたと言うのだ!?」

 

胸に、異世界大陸共通語をマスターした証である人魚の鱗のワッペンを付けた自衛官に、警備兵が恐る恐る尋ねる。

 

「・・・山頂にある城塞都市を吹き飛ばした兵器と同じ様な物で彼らを攻撃しました。一部が洞窟に逃げ込み免れましたが、恐怖のあまり精神が壊れてしまったのでしょう。」

 

「あ・・・あれを受けて生き延びたと言うのか!?・・・いや、しかし、これは・・・。」

 

「我々がPTSDと呼んでいる精神疾患の症状が出ております。できれば衛生面の整った設備に隔離しておきたいのですが、城下町では場所がありません。」

 

「何という事だ・・・・っ!?あの方は・・・まさか・・・。」

 

「うぅ・・・うぃひぃぃ・・・。」

 

「ジーン殿下!!ご無事でしたか!・・・ジーン殿下?」

 

かつて煌びやかに磨き抜かれた鎧は泥まみれになって見る影も無く、ジーン王子は頭を抱えながら地面に何度も頭を打ち付けている。

 

「ジ・・ジーン殿下・・・・まさか貴方まで・・・。」

 

「殿下?彼は王族の方なのですか?」

 

「あ・・・あぁ、このお方は、ハイ・ジーン殿下だ。ハイ・スペッカ殿下の腹違いの兄上であり、最も高い王位継承権を持つお方なのだ。」

 

「成程、では一度、ハイ・スペッカ殿下と面会させた方が宜しいですね。お召し物を用意しなくては、他の兵士の方も汚れた鎧を脱がせて清潔な服に着替えさせましょう。」

 

「ニッパニアは何故、敗者である我らにそこまでしてくれる?本来ならば捉えた時点で打ち首は確定していると言って良いのに・・・。」

 

「武士の情けでありますな、敗者にも情けは必要なのですよ。」

 

「敗者にも情けを・・・か、我らには存在しない概念だ、しかし、感謝するぞ、ニッパニアの兵士よ。」

 

ニッパニア軍は、敗残兵をルーザニア側に引き渡し、牢獄の視察をすると、顔を顰め書類に何かを書き込み、鎧虫に乗って城下町の拠点へと戻っていった。

 

『想定はしていたが、あの牢獄設備は予想以上に衛生環境が悪い。』

 

『まぁ、罪人や敵兵捕虜の扱いなんてこの世界じゃこんなものだろう。』

 

『しかし、衛生環境の悪化から疾病が広がる可能性もある。部分的に劣化している所もあるから、早急に応急修理を施す必要もありそうだ。』

 

『いっその事、新しく作っちまえば良いんじゃないか?その内、街道も整備されてこの国に来る車両も増えてくるだろうし、重機も持ち込まれるだろう。』

 

『ゴルグの開発がまだ途中だ、他の所にまで手を出そうとすると、無駄に費用がかさむだろう、この国には悪いが、もう暫く辛抱してもらうほかないだろうな。』

 

自衛隊は、視察を終え占領下のルーザニアの戦後処理を進めるため、大量の書類の山と格闘する事になる。

少しずつ人員は補充されてきているが、それでも限界近い処理能力を発揮し続け、脱落者が続出したと言う・・・。

 

 

 

 

ニッパニア軍が城下町に戻った後、ハイ・スペッカ王女は、生還したハイ・ジーン王子と面会し、兄の生還を喜んでいた。

しかし、兄の様子がおかしく、やがて変わり果てた兄に絶望するのであった。

 

 

「兄上っ!しっかりしてください!お気を確かに!?」

 

「ふぇっか・・・すぺっ・・・はひょふぉ・・・。」

 

目の焦点の在っていない兄の両肩を持ち、椅子に座らそうとするが、痙攣するように身体を上下させ、安定して座らせることが出来ない。

 

「兄上・・・・お疲れの様ですが、そろそろ休みましょう、王宮の物と比べると少し狭いですが、士官用のベッドがあります、さぁ行きましょう。」

 

「ひゃふむ・・・・すぺっか・・ひゅひゃない・・・。」

 

足がもつれて、上手く歩けない兄の手を引っ張り、寝室まで連れて行こうとするが、這いずる様に歩くジーン王子はまるで獣の様な姿であった。

 

「日が傾いてきましたね・・・長旅の疲れを癒してくださいな、兄上・・・。」

 

「ひ・・ひゃ・・・ひゃだ・・・嫌だ・・・。」

 

「兄上?」

 

「暗い!暗い!ひゃだ!嫌だ!真っ暗だ!やめろぉ!!」

 

「あ・・・兄上っ!?」

 

「暗いのは嫌だあああぁぁ!!明かりぃぃぃ!空が降って来る!崩れる!潰されるぅぅぅ!!!」

 

「だ・・・誰かおらぬか!?燭台を持ってくるのだ!なるべく多く!」

 

騒ぎを聞きつけた警備兵たちが、異様な光景に驚きつつも、兵舎にある燭台や松明をかき集めて、寝室に持ってくる。

 

「兄上、明かりをお持ちしました、もうこれで暗くはありません。」

 

「あ゛・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

「兄上っ!?」

 

「ジーン殿下!?」

 

「火ぃぃぃぃ!!!火は嫌だぁぁぁ!!燃える、人が燃えている!やめでぐれぇぇっ!!」

 

ガリガリと血が出るまで頭を掻き毟り、ベッドのシーツを引き千切りながら体に巻き付け、激しく体を上下させる。

 

「兄上っ!火が無ければ夜の暗闇は明るくなりませぬ!お気を確かに!」

 

「がぁぁぁぁあああああ!!!」

 

突然スペッカ王女に掴みかかり、彼女の着ている服を肩から腹部まで強引に引き裂いた。

 

「きゃぁああああああっ!?」

 

体のリミッターが外れているのだろうか、凄まじい怪力で、それなりに丈夫な筈の布地が千切られており、スペッカ王女の引っ張られた部分が赤紫色に、うっ血している。

 

「兄上っ・・・な・・・なにを・・・ひっ!?」

 

「ジーン殿下!お止めください!!ぬぉっ!?」

 

その場に居合わせた者は、余りの光景で絶句した、千切った服やシーツを自分の首に巻き付け、締め上げ始めたのだ。

 

「がぁぁぁ!!ぐるじい!ぐるじい!やべでぐれぇっ!ぜぃーぬ゛!!俺が悪がっだぁ!!見捨てないでぐれぇぇ!!」

 

「っっ!!いかん、ジーン殿下を取り押さえろ!魔術兵!睡眠魔法を!なるべく強力な奴を頼む!!」

 

「兄上っ・・・兄上・・・あに・・ひっく・・・・あにぅぇぇぇぇ・・。」

 

ジーン王子によって、引き裂かれ、はだけた胸を隠すように手で押さえつけているスペッカ王女に警備兵が背中からマントをかけてやり、自室まで連れて行った。

 

 

 

その日、ニッパニアによって捕縛され、収容された敗残兵の殆どがジーン王子と同様の症状であり、戦後のルーザニアの混沌とした状況を更に悪化させた。

ちなみにスペッカ王女は、ショックのあまり不眠症となり、睡眠をとる時も魔術師の力を借り、強制睡眠魔法を施される事が多くなったと言う・・・。

 

 



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第80話   音楽祭

異世界に転移してしまった日本が、初めて接触した陸上の国にして、初めて戦端を開く事になった国ゴルグ、この世界の常識ではありえない速度で進軍し、そして占領した事で多くの国々から注目を集めていた。

 

初めは、ゴルグを足掛かりに、その勢力を大陸中に広げる侵略国家であると、警戒され水面下で対日同盟を組む動きがあったが、日本側のアプローチで同盟案はお流れになった。

現在も警戒を継続中であるが、多くの国々が想像していたように武力を用いての侵略行為を行う様子は無く、貿易による交流を続けている様だ。

 

そして、そんな所で、城塞都市ゴルグに大きな動きがあった。

小島の様な、とてつもない大きさの船が次々と交代するように港に訪れ、様々な種類の鎧虫や物資、そして異形の軍勢を、その腹から吐き出して行ったのだ。

 

連日のように行われる大量の物資の搬入と、日本軍の集結に、大陸の国々の警戒心は跳ね上がった。

最悪の事態を想定し、各国々は、首都の防備を固め、商人や旅人などに変装させた密偵を放ち、ゴルグに侵入させたのだった。

 

 

「ジャー・ポニスめ・・・これだけの軍を集め何をするつもりだ?」

 

「今までこれ程大きな動きは無かった筈だ・・・。」

 

「そもそも、唯でさえ常識外れの技術力を持つジャー・ポニスが、更にこれ程の力を隠し持っているとは、思ってもみなかったぞ。」

 

「海の向こうのジャー・ポニス本国は、一体どのような国なのだろうか・・・・。」

 

 

商人としてゴルグに潜入した、密偵達は、ゴルグの中央広場に大規模な会場らしきもの日本が建設をしているのを確認し、それとなく日本人から情報を聞き出し、近日中に式典が行われる事を知った。

 

 

「どうやら、ゴルル・ガニスの都市開発が一段落付いた記念に式典が行われるらしいな。」

 

「つまり、ジャー・ポニスの要人が訪れる可能性があるという事か、道理でこれ程厳重な警備体勢になっているわけだ。」

 

「確かに、この短期間でこの城塞都市は大きく生まれ変わった。破壊を免れた一部にその面影を残すだけで、ジャー・ポニス式の背の高い建物に押されつつある。」

 

「皮肉な事だな、瓦礫の山になったからこそ、都市の拡張が進むと言うのは・・・。」

 

「しかし、式典か・・ジャー・ポニスもこの情報を隠すつもりは無い様だ、恐らく我々を含めた各国の密偵達にも気付いているのだろうな。」

 

「あえて情報を広め、その力を見せつけるつもりだろう、全く、舐められたものだな。」

 

「何にせよ、ジャー・ポニスが此処まで大きく動くのだ、不測の事態に備えるに越したことは無いだろう。」

 

 

それから暫く経ち、会場の建設や飾りつけなどが一通り終わり、いよいよ日本の式典が行われる当日、城塞都市ゴルグは、かつて無い程の賑わいを見せていた。

 

「凄い賑わいだな・・・我が国の王族の婚姻でも、これ程賑わうことは無いぞ。」

 

「各国の目ざとい商人やら、噂を聞きつけた旅人も集まっているのだろう、ゴルル・ガニスの元々の人口以上の見物客だ。」

 

「やはり、厳重な警備だな・・・まぁ、我々はジャー・ポニスと事を構えるつもりは無い、ジャー・ポニスの要人の顔ぶれでも拝むとしようか。」

 

 

聞き慣れない音楽と共に、日本軍が整列しながら、行進をしている。一人一人の動作が、規則正しく動き、高い練度であると言う事が解る。

体格の良い馬に引かれた馬車に乗る、老夫婦が手を振りながら、厳重な警備の中、笑顔を振りまいている。

 

「むぅ・・・ジャー・ポニスは着飾るという事をあまりしないのだが、あの老人の身に着けた宝飾品は見事な物だ・・・恐らくあの二人が・・・。」

 

「ジャー・ポニスの王族・・・か?しかし、地味な色合いながら見事な仕立てだ・・・要所要所に宝飾品を身に着けるのは、お国柄という事か。」

 

王族らしき老夫婦が、多くの観衆に挨拶をし、ゴルグの開発に携わった者達にねぎらいの言葉を贈った後、日本軍に見守られながら退場する。

そして、入れ替わる様に、広間に日本軍が集まり、様々な楽器で演奏を始めた。

 

「これは・・・・。」

 

「何と力強い・・・。」

 

戦い傷つき力尽き、あの世で戦友と会おうと約束を誓う歌、休日返上で軍艦の整備に勤しむ曲など、日本軍の軍歌が演奏された。

悲壮な印象を与える曲や、軍歌にしては軽快な曲調のものもあったが、異国の音楽は、ゴルグに潜む密偵達の心すらも揺さぶる。

 

「見た事も無い楽器だらけだ、美しい・・・あれだけでも芸術品として通るぞ?」

 

「高価な楽器を此処まで使いこなすとは・・・それも、軍人が・・・。」

 

「む?楽器がさらに加わるぞ?」

 

奏者が一部入れ替わり、新たな楽器が加わる。

 

重低音を響かせながら、一風変わった音楽が演奏される。

 

異世界の大陸の国々には知る由もないが、軍歌の次に演奏された題目は、怪獣映画の主題曲や電子ゲームの曲、はたまた、幼児向けの変身美少女の曲など、軍事パレードにしては、余りにも娯楽的な内容である。

 

「これ程力強いのに、何と透き通った旋律だ・・・・。」

 

「いや、まて、前の曲も遊び心を感じさせる曲では無かったか?無邪気な曲だ。」

 

「むっ、曲が変わるぞ・・・・っほう!これはこれは・・・。」

 

気が付けば、密偵達は、任務の事をほんの一時だけ忘れていた、そして日本の齎した音楽は後に大陸各国へと影響を与えて行くのであった。

 

式典が終わって、数日間、その熱気が冷めなかったが、少しずつ元の日常へと戻り始め、ゴルグに集結していた日本軍もいつの間にか元の規模に収まっていた。

 

「あれだけ集まっていた、ジャー・ポニス軍も元通りか・・・結局のところ、我々の警戒も取り越し苦労だったということか?」

 

「ふむ、ジャー・ポニス軍を本国に戻したという事は、これ以上ゴルル・ガニスに軍備を裂かないという事か。」

 

「なに、警戒するに越したことは無い・・・何も起きなくて良かったではないか。」

 

「はははっ、唯の見物客として式典に出るのも悪くは無いな。当初の目的とは違うが収穫もあった。」

 

彼らは市場で売られていた、日本式の楽譜と楽器を馬車に詰め込んでいた。

 

「流石に大型の物は、まだ売られていなかったが、トランペットと言うのやらリコーダーとやらは手に入った。」

 

「しかしガクフか、ジャー・ポニスは面白い事を考えるのだな、音の流れを記号にするとは・・・。」

 

「我々は師となる者から、口伝で弟子に伝授するだけだからな、ジャー・ポニスは我々の先を行っている。」

 

「流石にこの場で解読する事は出来なかったが、まぁ、それは楽士の連中に任せるとしようか。」

 

密偵達は、日本から購入した楽器を弄りながら祖国へと帰って行った、娯楽の少ない長旅も、彼らにしては珍しく満たされた物であったと言う・・・・。

 



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第81話   大陸の機械都市

日本によって開発が行われ、生まれ変わった新生ゴルグ、日本の民間企業が多く進出し、インフラ整備が行き届き、日本の技術力を大陸の国々に大きく宣伝をしていた。

もう既に、数ヶ国から日本企業にインフラの整備の注文が入っており、地下資源の採掘権などの交渉で、契約を締結している所もある。

特に最近になって開通した、港と城塞都市を結ぶ貨物列車が、休むことなく大量の物資を運搬し、大陸の拠点となるゴルグの開発をさらに加速させた。

 

「船が港に到着する度に貨物列車が往復しているな。」

 

「昨日は重機の群れで、今日は鋼材の山か・・・防壁の中は、そろそろ空きが無くなって来たし、防壁の外の開発が始まるのかもな。」

 

 

ゴトゴトと音を響かせながら、港で乗せたコンテナを城塞都市に運ぶ貨物列車をフェンス越しに眺めながら、煙草を吸い一服する、ある日本企業の職員達。

 

 

「防壁の外か・・・今の所、昔みたいに盗賊や傭兵の襲撃を受ける事も無くなったし、精々はぐれ魔獣が迷い込むくらいだから問題は無いかもな。」

 

「そう言えば、街が発展するにつれて、街や街道での襲撃が一気に減って来たなぁ、まぁ、これだけの規模になると流石に襲撃は躊躇うか。」

 

「自衛隊の人たちが、彼方此方で活動しているから、その実力が知れ渡ったんだろう、特に巨大な甲獣を被害ゼロで倒した実績がデカいらしい。」

 

この大陸で猛威を振るう最強の捕食者[甲獣]グリプス、種によって体格差はあるが、その多くが屈強な肉体と頑丈な外殻を持ち、一たび姿を現せば大被害を齎すと言う。

ある国の支援活動中に現れた、人里に迷い込み暴れる個体を、重火器で一方的に屠った事で、その名が知れ渡り、斑模様の蛮族と言う偏見と蔑称を吹き飛ばし、かわりに緑の魔法騎士団の異名を持つようになった。

余談だが、甲獣討伐作戦を遂行した自衛官たちは、その国から勲章と男爵の位を授与され、貴族との縁談が舞い込む様になったと言う。

 

 

「高圧的な態度をとっていた国が行き成り下手に出て来たのは、コントみたいなもんだったな、しかし、それだけ弱肉強食な世界なんだろう。」

 

「そうそう、取引先の商人が人格が入れ替わったんじゃないかと思うくらいに態度が変わって驚いた事があったが・・・つまり、そういう事だったんだな。」

 

「さて、そろそろ休憩時間も終わりだ、仕事に戻るぞ。」

 

 

 

昼食の時間が終わり、飲食店がラッシュの時間帯を終えて、食器を片付けている頃、臨時で雇われた現地人がリヤカーで建築資材を運びながら貨物列車を見物していた。

 

 

『あぁ、重てぇなぁ・・・でも、仕事の内容を考えると破格の給料なんだよなぁ・・・。』

 

『あの胴長の鎧虫が休まずに、荷物を運んでいるんだ、俺達も負けないようにしなくちゃな。』

 

元々ゴルグに住んでいた現地の者は、国が崩壊して職を失っていたが、瓦礫の撤去や清掃活動などの単純労働で自衛隊側から給料をもらい、日本企業が大陸に進出してくると自然とそちらに流れていった。

猫の手も借りたい日本企業は単純労働だけではあるが、現地人を低賃金で雇い、物資の運搬などの労働力を確保していた。

日本人から見れば、低賃金の単純労働だが、現地人にとっては破格の待遇であり、職を失った者や元兵士などが飛びつくように日本企業と契約を結んでいった。

 

 

『ニーポニア様々だな、高慢な貴族に頭を下げる必要も無くなったし、給料も高い、ついでに飯も上手いと来た!』

 

『あぁ、オコノミヤキだっけ?最初は見た目で敬遠していたが、あの甘辛いタレのかかった熱々の生地を味わっちまうと今まで食っていた穀物粥が食えなくなりそうだ。』

 

『それも捨てがたいが、やっぱりホットドッグだろう?パンも柔らかければ、肉も美味い!さらに新鮮な野菜も挟んでいると来た、貴族様だってこんな美味いの食った事ないだろう。』

 

 

日本企業に雇われたゴルグの住民は、社員食堂を初めて利用した時に、そのレパートリーの広さと味に感動を覚えていた。

今まで彼らにとって食べるという事は、体を動かすために腹を膨らませるだけであり、食の娯楽と言えるのは、ドロドロとした穀物酒くらいであった。

副次的なものとはいえ、それが噂になり、更に就職希望者を増やしたのは日本企業にとって嬉しい誤算であった。

 

『仕事は重労働かも知れないが、あの飯が食堂で食えるんなら耐えられると言う物さ、後はペラペラ銀貨。』

 

『獣皮紙の時点で銀貨じゃないだろう、でも、持ち運びもしやすいし便利な金だよな、最初は不安になったけど。』

 

『ニーポニアの金さえ持っていれば、他所の街で商人と有利な交渉も出来る、それだけこのペラペラの価値が高いという事なんだろうよ。』

 

『そのペラペラ1枚で小銀貨10枚分の価値があるんだろう?半信半疑でニーポニア本国から来た飯屋で使ったら、普通に使えるし銅貨や鉄貨が釣銭に渡されるし、本当にびっくりしたよ。』

 

『しかし、本当に奇妙な国だな、通貨に獣皮紙を使ったと思ったら、銅貨や鉄貨は普通に存在するのに、銀貨と金貨が存在しない。』

 

『まぁ、ニーポニアにも何かしらの事情があるんだろう、金も銀もニーポニアには価値のある金属らしいしさ。』

 

『そうだな・・・この獣皮紙に描かれた絵も寸分の狂いも無く一枚一枚、同じ絵が描かれているし、それだけでも芸術的な価値がある、恐らく金属を節約しつつ獣皮紙に金としての価値を持たせたのかもな。』

 

『変な話だが、金の為に金をかけるって奴だな、この光加減によって中心に浮かび上がる絵とか、文字は映る銀色のキラキラとか、どういう風に描いているのか皆目見当がつかないし・・。』

 

使い古されたボロボロの鞄から、一万円札を取り出し、太陽光に当てて観察する。

 

『このペラペラをニーポニアが置いた魔道具に入れれば、食べ物と交換できる券が買えたり、飲み物が出てきたり便利だよなぁ。』

 

『ニーポニアはこの街を魔道具で満たして、勢力を拡大している。ニーポニアの通貨でしか動かないこの魔道具もその一端だな。』

 

『銀貨を穴に入れようとしても大きさが合わなくて入らないし、ニーポニア式じゃない銅貨を入れてもそのまま出て来ちゃうし、本当にニーポニアに塗り替えられたって感じだな。』

 

ふと、貨物列車の道を辿って見ると、破壊されて放置された元の防壁が見えた。貨物列車が通る部分だけ、解体されて無くなっているが、ニーポニアは文化遺産として残す様だ。

 

『・・・・思えば、あの防壁があんな事になってしまう力を持った国と戦ったんだよな、俺達は・・・。』

 

『生き残ってこの先を見れる俺達は、幸せ者なのかもしれないな、奴隷にされる事も無かったし、危険な鉱山で無理やり働かされる事も無かった。』

 

『国が戦いに敗れるという事は、その国民全てが奴隷になるか殺される事を意味する事だったが、ニーポニアにおいては違う様だ。』

 

空を見上げると、巨大な鳥が轟音を響かせながら城塞都市の外部にある、[巨鳥の道]へと舞い降りる姿が見える。

 

『本当に・・・何もかも規格外だな・・・。』

 

 

大陸と日本を結ぶ要所となりつつあるこの街は、空港や港、そして後に大陸中を結ぶ予定の長距離列車の拠点となる。

空中大陸との連携で、世界各地の資源地帯を把握しつつある日本は、確かに前に進み始めていた。



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第82話   重火器と甲獣

ゴルグより遠く離れた国、トーラピリア王国、温暖な気候で植生も亜熱帯に傾いており、荒野の広がる大陸の中で数少ない緑の多い国である。

最近になって、トーラピリア王国側からの接触で、日本と国交を持つようになり、交易品や、農業指導、インフラ整備などを行い、交友を深めている。

 

 

「暇ですね。」

 

「何事も無くて良いじゃないか、ここ数日、野獣の襲撃は起きていないし、平和なもんだ。」

 

 

96式装輪装甲車の上で、双眼鏡をのぞきながら呟く自衛官。

 

 

「民間企業が大陸に進出してきて、彼方此方開発が進んでいるのは良い事だろうけど、こうも広範囲に散らばられると護衛が大変だ。」

 

「その癖に、退屈な仕事ばかりで、遠回りな嫌がらせとも感じてしまうよ。」

 

「いや、初期のころは割と盗賊やら野獣やらの襲撃が酷かったじゃないか?」

 

「盗賊連中も俺達を襲ったらアジトごと潰される事を学んで襲ってこなくなったし、野獣も大音量で音楽鳴らしていると近寄らなくなったろよ。」

 

「それでも襲ってくる奴は襲ってくるし、油断ならんのよ、まぁ外付けスピーカーのお蔭で大分平和になったもんだが・・・。」

 

 

現在進行形で、CDプレイヤーから大音量で音楽が流されており、近くで農作業をしている現地人達も興味をひかれているのか、手を動かしつつ目線だけ96式装輪装甲車に向けている。

 

重厚な曲が終わると、軽快な曲調の音楽に変わり雰囲気が一変する

 

「・・・・・って、おい!誰だこんな曲を入れた奴は!!」

 

「古い曲ですね、確かえっちなゲームの音楽だったような・・・。」

 

「元ネタ知らなかったがエロゲーの曲だったのかコレ・・・。」

 

「暫く怪獣王とか空飛ぶ亀の曲ばかり続いて油断している所に、これか・・・あぁ、農作業している人、曲調が変わったから変な顔しているよ。」

 

「一度止めろ、CDを取り出せ・・・・っち、柏木の奴か・・・。」

 

「柏木さん、あぁ、あの悪戯好きな・・・。」

 

「ゴルグに戻ったらとっちめてやる、道理で意味有りげな にやけ顔で手を振っていたわけだ・・・。」

 

別のCDに取り換え、再び音楽を流すと、今度はあるロボットゲームのサウンドトラックが大音量で流され始める。

 

「柏木ぃぃぃーーーーーーーーー!!!!」

 

「・・・・もうあの人狙ってやっているとしか思えない・・・。」

 

 

 

一方、日本人農業指導者を守る自衛隊とは反対方向に位置する場所で、異常が発生していた。

トーラピリア王国の警備隊が定期的に街道を巡回しており、首都と隣接した村を結ぶ道で、木っ端みじんに破壊された荷馬車が発見された。

 

 

『見ろ、また荷馬車の残骸だ・・・ここ最近増えてきているな・・・。』

 

『この破壊痕・・・・人間では無いな、魔獣か?』

 

『この荷馬車の持ち主と、馬はもう既に犠牲になっているかもしれんな・・・』

 

『しかし、荷車の積み荷は、鉱石類だったのだろう?食糧なら兎も角、何故鉱石が盗まれているのだろうか?。』

 

『魔獣が鉱石を盗む訳が無かろう、どさくさに紛れて盗んだ者がおるのだろう、足のつきやすい工芸品でもない唯の鉱物だ、これを盗品だと立証するのは難しい筈であるしな。』

 

『ふむ・・・しかし、重量のある物でもある、これと同じ大きさの荷馬車が必要になる筈だが・・・そのような物を用意する盗人がいるのだろうか?』

 

『むぅ、確かに・・・何にせよ不自然だな・・・・・・ん?何だこの揺れは・・・?』

 

 

警備隊が現場検証をしていると、地響きと共に、少し離れた林から土煙が上がり、刺々しい影が木々を薙ぎ倒しながら、街の方向へと向かっていた。

 

 

『何だあれは!?』

 

『まさか・・・・甲獣!?』

 

 

 

警備隊が、慌ててトーラピリアの首都に戻り、甲獣出現の報告をした頃には、農家が数件犠牲になっていた。

重武装をした騎士団が、次々と城門から吐き出され、少しずつ集落に近づく甲獣に向かって行く。

 

 

「何だって!?甲獣が近くに現れただと!?」

 

「はっ、もう既にトーラピリア軍は、甲獣と交戦に入っているそうです。」

 

「甲獣と言ったら、大森林調査隊が遭遇したと言うデカブツじゃないか、刀剣で挑むには無謀だぞ?」

 

「大森林の奴は、特別大きな種類の甲獣だ、一般に目撃される奴は、まだ常識の範囲内のサイズだぞ?」

 

「平均で、バスか大型トラックくらいのサイズの野獣が常識の範囲内ねぇ・・・。」

 

「その化け物が、トーラピリアの首都に接近中とのことだ、街には日本人も多くいる・・・不味いぞ。」

 

「奴がいる場所は・・・・街を挟んで正反対の位置か、遠いな。」

 

「出来れば、騎士団が壊滅する前に間に合えばよいのだが・・・・そう都合よくは行かなそうだな。」

 

「そりゃそうだろうよ、大型車両に刀剣で挑むようなものだ、勝敗なぞ最初からわかりきっている事だ。」

 

「急ぎましょう!!」

 

 

もう既に、甲獣と交戦中のトーラピリア騎士団は、苦境に立たされていた。

青銅鎧をも貫く鎧虫の角を加工した投げ槍も、狂暴な鎧虫の牙や爪を数回は耐えられる分厚い盾も、甲獣には全くの無意味であった。

 

『爪が来るぞ!盾は捨てろ、どの道防げん!避けるんだ!!』

 

不気味な風切り音と共に、肉厚な甲獣の爪が横薙ぎにされるが、判断を誤って防御態勢に入った騎士が数名、盾と鎧ごと断罪される。

 

『・・・・馬鹿者どもが・・・。』

 

血の海に沈んだ仲間を視界の端に捕えつつも、眼前に迫る爪の暴風に意識を向け、回避を続ける騎士団隊長。

とてつもない質量の肉厚かつ鋭い爪、生半可な攻撃ではこちらが負傷しかねない鋭角な外殻。

絶望を体現したかのような、存在に騎士団は次第に数を減らし、半数近くが死傷もしくは負傷、生きている者も戦闘を続けられる状態では無かった。

 

『!!舌を振り回してくるぞ!絡めとられたら一巻の終わりだぞ!』

 

 

くわああああぁぁぁぁぁっ!!!

 

 

まるで、アリクイの様に長い舌を伸ばし、鋭い爪の直撃を受けて死亡した騎士の死体を巻き取って、鎧ごと咀嚼する甲獣。

骨や金属が砕かれる嫌な音が響き渡り、次々と地面に転がっている死体が消えてゆく光景に、生き残った者達は顔を蒼白させた。

 

『お・・・お・の・・れぇぇぇ!!よくも仲間を!!』

 

激昂する隊長の横に赤い線が伸び、隣に居た負傷兵が甲獣の舌に絡めとられる。

 

『ひぃっ!?足に舌がっ!?・・・やめ・・・・やめろおおおおぉぉぉ!!!』

 

『おいっ!!誰かアイツを助けろぉぉぉ!! ぐわあああぁぁぁっ!』

 

 

舌と爪を振り回しつつ、周辺の物を薙ぎ倒しながら行進する甲獣、筋骨隆々とした腕に弾き飛ばされた物体は、殺傷力を持った塊となり、騎士団を追い詰めて行く。

 

 

ぐぎゃおおおおおおぉぉぉん!?

 

 

負傷兵を捕食しようとしていた甲獣の頭部が突然火花を散らし、投げ槍でも貫けなかった外殻から血が噴き出る。

 

『うぐぅっ!?』

 

『おいっ、大丈夫か!?』

 

甲獣の舌から解放された、仲間を引きずりながら、後退し、甲獣の方向を向く。

 

『甲獣が・・・・傷ついている!?』

 

『一体何が起こっているんだ!?』

 

『いや・・・まて、何か聞こえる・・・音楽?』

 

 

何処か遠くから勇ましい音楽が流れてくる、そして何かが破裂する様な音を連続で発しながら、斑模様の鎧虫が高速で接近してきた。

 

 

『あれは・・・ニーポニアの鎧虫!?』

 

『加勢してくれると言うのか!有り難い!!』

 

まるで戦士たちを鼓舞させるために作られたような激しくも胸が熱くなる音楽が鳴り響く

 

 

「畜生!途中まで殺獣光線戦車の曲だったのに!!」

 

「次も怪獣王の曲かと思ったら、これだよっ!アイツ曲をごちゃ混ぜにいれやがって!!」

 

「このまま突っ込むぞ!射程距離に入ったら、ぶっといの叩き込んでやれ!!」

 

 

「うぉらああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

既に騎士や甲獣に、踏み荒らされてボロボロになった穀物畑の上を高速で走行する96式装輪装甲車、その上部からM2重機関銃を撃ちながら、自衛官が雄叫びを上げる。

 

ぐぎゃおおおおぉぉぉ・・・・グルルルルルッ!!!!

 

 

銃撃により釘づけにされた甲獣と、撤退を続ける騎士団との間に距離が広がっていた。その間に96式装輪装甲車が滑り込み、甲獣と対峙する。

 

「おー、おー、随分とご立腹の様だな。」

 

全身を覆う自慢の外殻を傷つけられ、目の前の斑模様の生き物を自分を害しえる敵として判断した甲獣は、殺意を持った眼で96式装輪装甲車と自衛隊を睨みつける。

 

くわああああぁぁぁぁぁっ!!!

 

甲獣は、近くにあった手頃な大きさの岩を器用に手でつかむと、96式装輪装甲車に向かって投げつけた。

咄嗟に回避行動を取るが、間に合わず被弾してしまう。

 

「っぐふ、大丈夫か!?」

 

「額から血が出ただけです!問題ありません!」

 

余りの衝撃に、車体が大きく揺さぶられて、壁に打ち付けられる者も居たが、高まった闘争心の影響か、あまり痛みを感じていない様子であった。

 

『何という頑丈な外殻だ、あの鎧虫ならば甲獣に対抗できるかもしれん。』

 

投げつけられた岩礫は、凄まじい運動エネルギーを保有していたが、96式装輪装甲車の頑強な装甲が岩礫の直撃に耐えたのだった。

 

『あの速度で走ることが出来るんだ・・・・あの鎧虫が甲獣の横腹に体当たりを食らわせれば勝機があるな・・・。』

 

『いや、待て・・・あの鎧虫、魔法を奴に浴びせながら距離を取ったぞ!?』

 

『引き付けるつもりか!?・・・まさか、我々の為に?』

 

『だが、大きな一撃を浴びせなければ、じきに魔力切れを起こすぞ?このままではジリジリと追い詰められるだけだ!』

 

 

くわああああぁぁぁぁぁぁ!!!

 

鋭い爪を地面に食い込ませながら、その巨体と似合わぬ速度で突進を開始する甲獣、96式装輪装甲車よりは遅い物の、その威圧感は凄まじく、暴走トラックを彷彿させる。

 

 

「よーし・・・いい子だ、こっちに来な・・・・。」

 

「騎士団との距離が開いたぞ、そろそろだ、上手くやれ!」

 

96式装輪装甲車が突如、反転しながら急停車すると、無反動砲を担いだ自衛官が後ろの扉から次々と降りてきて、甲獣に照準を向けた。

 

「距離はまだある、落ち着いて狙え。」

 

「後方の安全確認良し!!」

 

「くらえっ!!」

 

 

甲獣の高い防御力に対抗するには、カールグスタフでは火力不足と判断した自衛隊は、カールグスタフよりも更に強力なパンツァーファウスト3が各部隊に回されていた。

信管を引き延ばされた対戦車榴弾が発射され、安定尾翼が開き、ロケットモーターに点火され加速しながら甲獣に向かって直進する。

 

 

!!!!?

 

甲獣の眉間に吸い込まれるように飛び込んだ対戦車榴弾は、その内部から紅蓮の破壊を解放し、頑丈な甲獣の頭部を跡形も無く粉砕した。

 

悲鳴を上げる遑すらなく上半身を吹き飛ばされた甲獣は、そのまま宙を浮き、何度も地面を跳ね、転がり、やがて停止した。

 

 

『な・・・・・・。』

 

『今のは一体・・・?』

 

トーラピリア騎士団は、目の前で行われた戦闘を信じられないという驚愕の表情を張り付けながら見続けた。

たった一匹で騎士団を壊滅状態に追い込んだ怪物が、たった一撃で原型を失うほどに損壊しつつ絶命したのだ。

 

『何という魔道・・・斑模様の鎧虫では無く、たった数名の兵士が放った魔法で倒してしまうとは・・・。』

 

『これが・・・ニーポニアの力・・・。』

 

 

ニーポニアの兵士が放った破壊の魔法、常識はずれの防御力を誇る異形の鎧虫、そして一糸乱れぬ連携を見せる練度の高さ。

トーラピリア騎士団は、ゴルグガニアを一夜のうちに滅ぼしたと言う異世界の軍勢の力を、決して誇張などでは無いのだと確信し、戦慄するのであった。

 

「ふぃぃ・・・・これで終いだな、曲も丁度良いタイミングで終わったぜ。」

 

「冷静に考えれば音楽消しといた方が良かったんじゃ・・・。」

 

「良いんだよ、気分が高揚していた方が戦えるしな。」

 

 

キリが良く曲が終わったが、自動的に次の曲が再生され、軽快なピアノの音楽が流れ始める・・・。

 

「猫ふん◎ゃった・・・・アイツ、何も考えず詰め込んだな?」

 

「曲・・・・止めておきますね・・・・。」

 

「しまらねぇなぁ・・・・。」

 

 

戦いを終えた自衛隊は、報告の為に最寄りの駐屯地と通信をし、トーラピリア王国と協力して甲獣騒動の後処理を行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スティラードグリプス    通称:白鉄重甲獣

 

 

和名:シロガネヨロヒムシクイ

 

 

大陸中広範囲に生息する中型の甲獣。

主に山岳部や洞窟などに好んで住み込み、金属質の外殻を持つ鎧虫を求めて徘徊する。

長い舌で絡め取り、頑強な牙で主食の鎧虫の外殻を易々と噛み砕く。

縄張り争いに負け、縄張りを追い出された個体や、縄張りを新たに作る個体が、時折人里に現れて大被害をもたらす。

毛が変化した白銀に輝く外殻は、とても丈夫で、成熟しきって通常個体よりも力を持つ老齢な個体の外殻は軽装甲車に匹敵する硬度を持つ。

銃火器なしでの駆除は難しく、剣や槍などで本種を狩猟する事は無謀に等しい。

しかし、試験運用していた投石器の偶発的な命中により討伐される事もあり、異世界の大陸では倒せない事も無いが大被害が出る魔物として認識されている。

ただし、投石器が有効なのは若い個体までである。



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第83話   魔光と突然変異

異世界大陸に進出した日本が、大陸の拠点としている城塞都市ゴルグ、機械化が進み夜も眠らぬ街となりつつあるが、それを支える物は魔石を利用した発電施設であった。

 

 

「だぁーーーっ、魔石式発電機にまた、蔦が絡みついてやがる!!」

 

「初期型の奴は特に酷いが、最新型の奴には全く蔦が絡みついていないな・・・一体何が違うんだ?」

 

「さぁな、でも現地のリクビト連中は、初期型の発電機の近くが心地よいとか言っているから、周辺に何かしらの影響を与えているんだろう。」

 

「ふむ・・・・そう言えば、初期型の魔石式発電機は、外部に青白い魔光パルスが隙間から見えているから、これが原因なのかもな。」

 

「密閉度が高い新型の奴は、魔光が漏れていないから、周りの植物に影響を与えていないのか、じゃぁ、旧式の奴も覆って魔光を押さえておくか?」

 

「やめとけ、やめとけ、放熱の為に隙間開けているんだから、素人が下手に弄ると故障してしまうぞ。」

 

「ちぇっ・・・まぁ、そろそろ試用期間も終わりに近づいているし、少しずつ新型の発電機に移って行くから面倒な手入れからも解放されるのも時間の問題だな。」

 

 

日本の有志の企業が、開発した魔石式発電機によって広範囲に電力を供給しているが、魔石と言う物質はまだ未知の部分が多く、同時期にゴルグに従来の火力発電も建設されており、魔石式発電に異常が生じた際のバックアップを兼ねている。

魔石の性質が解析されるにつれ、バージョンアップが進んでおり、ゴルグのある一角は魔石式発電機の実験場か博物館の様な光景が広がっている。

 

そして、初期型の試用期間が終了する直前、事件が発生した。

 

初期型の魔石式発電機から眩い燐光が漏れ始め、盛大に部品をまき散らして爆発を起こしたのである。

幸い、その場に人は居なかったので、被害は巻き込まれた他の発電機と、発電機を覆うフェンスのみで、人身事故には至らなかったが、青ざめた企業は即座に調査団を派遣した。

 

 

「あーあー・・・こりゃ酷いな・・・。」

 

「発電機がまっ黒焦げだぜ、一瞬だけ広範囲を電気が荒れ狂ってリヒテンベルク図形が出来あがっているよ。」

 

「それにしたってこれは・・・蔦が絡んでいたのか?変な消し炭が発電機にへばりついてやがる・・・。」

 

「もしかして、これが故障の原因?メンテナンスの際に草刈りはしていたと聞いたが、これは一体どういう事だ?」

 

 

ボコボコ・・・・ッ・・メキメキ・・・。

 

 

「ん?なんだこの振動は?」

 

「っ!!何だ!?発電機がっ!!」

 

 

突如、黒焦げになった発電機が浮き上がったと思ったら地中から触手が伸び始め、発電機を握りつぶす様に蔦が外装を破壊し、内部の高純度魔石に蔦が侵入した。

 

「うわあああぁぁっ!?なんじゃこりゃー!!」

 

「化け物!!?ひぃっ!?」

 

発電機内部の魔石を取り込んだ瞬間、植物は、内部の管が青白く光り、脈動した後に他の発電機に触手を伸ばして次々と魔石を取り込んで行く。

 

「ま・・不味いぞ!?このままだと発電機が全てやられる!何とかしないと!」

 

「警察・・・はまだ居ないんだった・・・・・・自衛隊を呼ぶんだ、早く!!」

 

数名の調査団に派遣されていた職員が触手に弾き飛ばされ、怪我を負うが、人間には興味が無い様で、魔力を帯びた物質を取り込もうと周辺を探る様に触手がうねっている。

 

自衛隊が駆けつけた頃には、電柱程のサイズまで急成長しており、その中心部にはかつて、魔石式発電機の物だった魔石がコアとして鎮座していた。

 

「うわぁ・・・パニック映画に出て来そう・・・。」

 

「言っている場合か、あいつを何とかするんだよ。」

 

「無傷の発電機も近くにあるから、火炎放射器は使えないし・・・困ったな」

 

「取りあえず、あの狙ってくださいと言わんばかりに発光するアレを撃ち抜いてみるか、良く狙えよ。」

 

ロクヨンで発光するコアに向けて狙いを定め発砲すると、何かが砕け散る様な音共に青白い粒子が舞い上がり、触手の集合体は、一瞬だけ痙攣すると見る見る内に萎れて行き、遂には完全に枯れてしまった。

 

その後、直ぐに触手を振り回していた謎の植物の残骸は自衛隊によって回収され、その正体を突き止めるため、生物研究所に持ち運ばれた。

 

 

 

「・・・で、こいつは結局何だったんだ?」

 

「この地で広範囲に生息している蔦植物の変異体でしょうね、魔光パルスを長期間浴び続けた事によって突然変異を引き起こしたのでしょう。」

 

「まじかよ、昔怪獣映画でこういう奴見かけたぞ?放射能で巨大化したバラみたいなお化け植物。」

 

「流石にそれ程たちの悪いものじゃありませんよ、そもそも、急激な変化によって細胞組織がアンバランスになっており、枯れるのも時間の問題でした。」

 

「枯れたのはコアを直接破壊されたのが原因じゃなかったと?」

 

「それもありますが、魔石と絡みついてコアと化した細胞組織は、悪性腫瘍の様な形に変異しており、強力過ぎる魔光パルスに耐えきれず半ば自壊していました。」

 

「確かに自然界には存在しない濃度の魔石だが、まさか発がんするとはな・・・人間には影響はないんだよな?」

 

「我々含む地球の生物は、元々魔石を利用しない生物ですからね、精密検査を重ねましたが、ほぼ無害と見て間違いないでしょう。」

 

「現地人達への影響は?」

 

「・・・・非人道的な人体実験は禁止されております、それが例え地球人じゃなくても・・・です。」

 

「まぁ、そうだよなぁ・・・。」

 

眼鏡を指で押して、位置を調整すると、鞄の中からファイルを取り出して、テーブルの上に置く。

 

「しかし、同じような事故で魔光が周辺に漏れた事があったのですが、1名、強烈な魔光パルスを浴びて意識不明になったリクビトがおります。」

 

「何だって!?そいつはどうなったんだ?」

 

「その人物は、元々とある国から派遣されたスパイで、重要施設の破壊活動を行おうとしていたのです。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「そして、今回破壊されたタイプと同系統の発電機・・・それから魔力を感じたのでしょう、魔石を奪取しようと破壊した瞬間、魔光パルスを浴びて神経を焼かれた様です。」

 

「自業自得とは言え、何ともエグイ話だな・・・。」

 

今度は別のファイルをテーブルの上に追加で起き、資料を指さす。

 

「そもそも、アルクス人は魔光パルスで、やり取りすることが出来、神経を惑わしたり、細胞に調整した魔力を流すことで細胞分裂を促進し傷を塞いだり、まさに魔法の様な現象を引き起こすことが出来ます。」

 

「現地人も魔法って言っているしな、特に精神操作魔法は、聞く限りではハッキング合戦の様だ。」

 

「では、その魔光パルスでやり取りするアルクス人に、強力かつ無秩序なパルスを浴びせたとします・・・どうなるでしょうか?」

 

「あぁ・・・焼き切れたって・・・。」

 

「そうです、アルクス人が生理的に必要不可欠な魔光も強すぎる物では毒となります。」

 

「おっかないな・・・魔石が人体に悪影響のある物質じゃなくて良かったぜ。」

 

「噂では防衛研究所で、対異世界人スタングレネードの開発が進められているとか・・・魔石を利用した兵器の開発は、表向きにはされていない事になっているのですけどね。」

 

「なんつーか、聞いているだけで碌な事になりそうにないな・・。」

 

「恐らくアルクス人・・・いえ、この星の原生生物すべてに強烈な影響を与えるでしょう。」

 

話を聞いた研究員の表情が強張る。

 

「あぁ、あくまで噂の域を出ませんからね、でも、精密魔石回路の大爆発現象の確認実験の件もありますから、魔石の兵器利用は時間の問題と見て良いでしょう。」

 

「危険物質がごろごろ転がっていて大丈夫なのかね、魔石自体は珍しくもなんともないんだろう?」

 

「昔ほどは見かけなくなったみたいですけどね、でも地下の埋蔵量は大したものですよ、むしろ地表に出ている物は、全体のほんの極僅かな方ですし。」

 

「突然変異を引き起こしたり、爆発したり放電したり、全く持って訳わからん物質だな、魔素と言うのは。」

 

「そうそう、訳わからんからこそ研究されている訳ですよ、この物質を知る事によってこの新しい世界の法則が理解できると言う事です。」

 

「まぁ・・・これ程の資源、利用しない手はないがな・・・。」

 

「さぁ、この変異体の研究を続けましょう、何かしらの対処法が見つかるはずですし・・・。」

 

 

 

その後、各メーカーは、魔石を動力に組み込んだ製品は、魔石が外部に露出しない様に密閉度に力を入れて開発するようになり、自然環境下に高純度魔石が露出される事は少なくなった。

しかし、今回の事故でまき散らされた大量の魔石粒子が、周辺に影響を与えるのはまた別の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

ハリツキヅタ変異体

 

 

魔素の集まる魔石式発電所の敷地内で発生した植物の変異体。

元々は枯れた樹木に絡みつき、太陽光線を代わりに吸収する寄生植物の一種であったが、魔光パルスを浴び続ける事により魔光で光合成する植物に変異した。

そして、魔光の発生源である魔石を取り込む事により無秩序な変異が始まり崩壊・暴走状態になった。

強烈な魔素が全身を廻っている所に魔石を砕かれ、魔力を失いリバウンドに耐えきれずに崩れ落ちた。

 

 



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第84話   拡散される魔素と魔力不足

惑星アルクス・・・異次元の宇宙に浮かぶ地球型惑星。

この次元特有の物質、魔素を構成物質にしつつも、地球に酷似した環境で知的生命体も発生し、文明を発達させているが、とある文明の引き起こした天災に等しい戦災により大陸の広範囲の魔力が失われていた。

かつて、広大な平原に青々とした草木が生い茂っていたが、干し草の様に萎れた草や葉の少ない痩せた樹木が多く、色の濃い植物は少ない物となっていた。

そんな時、別次元から突如出現した異星人の国、日本によって、ひび割れた黄昏の大地に変化が訪れる・・・。

 

「ここ最近雑草が増えて来たな・・・。」

 

「まったくだ、抜いても抜いても生えてきやがる。」

 

「先の発電所事故の件もある、魔石を使用した機器の近くの雑草の処理は念入りにやらなきゃならん。」

 

「ったく、荒野なら荒野らしく干乾びていろってんだ・・・しつこい雑草め・・・。」

 

「でも日本から持ち込んだ作物は、普通に育つんだよな、土の質自体は言うほど悪いものでは無いが、この土地の植物には合わないという事なんだろうか。」

 

「土自体は悪くないのか、しかし元々生えている植物が育たないと言うのは妙だな・・・いや、まてよ?」

 

「どうした?」

 

「雑草が生え始めた時期と、発電所の事故が起きた時期って被らないか?」

 

「あ・・・・・。」

 

「一応調査する必要がありそうだな・・・。」

 

日本ゴルグ自治区の、各所からの報告があり、魔石の粒子が拡散された付近の調査が始まり、その結果、動植物の活性化が認められた。

 

日本ゴルグ動植物研究所にて、魔石の粉末を摂取させた生物が活性化し、特定条件で急速に環境に適応する変化が確認されていたので、魔石粒子の拡散は重要な問題として日本ゴルグ自治区は動き出した。

 

この大陸は、現在は黄昏の大地・荒野の地等と呼ばれているが、この惑星の名称であり、大陸の名前でもあるアルクスと言う本来の意味は紺碧の大地・青き世界である。

伝承では、元々この大陸は魔石由来の青白く輝く草花が咲き乱れ、生命の息吹に包まれた土地とされていた。

何らかの影響で環境が激変し、魔素が大地から失われ、この星の生物にとって水や空気と等しく必須な元素である魔素が枯渇した事により、生命活動を縮小せざるを得なくなってしまったのではないかと、分析されている。

 

「元々の環境に戻ると言うのならば、魔素をばら撒いて荒れ果てた大地を本来の自然豊かな姿に復活させた方が良いんじゃないか?」

 

確かに、そう言う意見もあった、しかし、伝承の1000年前に起きたとされる大戦で、魔素が枯渇した環境下で細々と営まれていた生態系に、急激な変化を齎すのは危険を伴う物である。

もし、発電所を破壊した突然変異体の様な生物が溢れかえってしまったら、流石の日本も大陸の開発に支障をきたし、現地の文明を滅ぼしかねない危険性を孕んでいる。

 

「既に拡散してしまった魔石の粒子は回収しようが無い、これはある程度諦めるべきだろうが、これ以上の拡散は防がなくてはならない。」

 

「現時点では悪影響らしき悪影響は起きていないな、ただ、農民がこの土地特有の作物の育ちが良いと喜んでいる様だ、閉鎖環境下での実験で、バイオプラントに応用できないか研究するべきだろう」

 

「現地のリクビトの健康状態が良好になったと言う情報を確認、新陳代謝の活性化と体内の鉱物器官の肥大化が確認された、魔術師クラスに成長したケースもある様だ。」

 

「栄養状態が悪かった筈の農民が、急に血色がよくなり、健康が改善されたケースを確認、ただし、魔素以外の栄養素は依然として不足しているので、引き続き養成が必要。」

 

 

日本ゴルグ自治区が懸念していた様な悪影響は無く、逆に多くの恩恵を齎した。

元々魔石を必要としない日本人には、全く影響は無かったが、赤茶色にヒビの割れた大地は次第に青々とした草花に覆われ始め、濁っていた川も魔素の供給により復活した微生物の働きか透明さを増していた。

これが、かつてアルクス[紺碧の大地]と言われていた、荒野の地の本来の姿の片鱗であった。

 

そして、アルクシアン[アルクス人]の持つ生物本来の性質により、魔素を求めて無意識にゴルグに向かう旅人や商人も増え、結果的に日本ゴルグ自治区の繁栄をもたらしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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第85話   お土産屋

『なんだぁ?あの店は?』

 

休憩のために立ち寄った村に以前は存在していなかった、レンガとも岩ともつかない石材で作られた建物を目にして、旅人は呟いた。

 

どうやら、工芸品を扱う店のようで、風変わりな置物が材質不明の透明な板の中に展示されていた。

 

『へぇ、変わったものを売っているな・・・とても凝った造りだ。』

 

日本ゴルグ自治区の付近に点在する小さな集落に一部の民間企業が進出していた。

主に大陸の資源地帯開拓のために派遣された各企業の職員向けの飲食店などが多いのだが、少数ながら現地住民向けに日本の製品を売り出す企業も存在する。

 

『4つ足の獣が魚を咥えている木彫りの置物に、陶器の器・・・美しい。』

 

当てもない旅を続け、時折立ち寄った集落で日雇いの仕事で金を得る旅人は決して多く金を持ち歩ている訳ではないのだが、時折珍しい品を買い取り、遠く離れた地で転売する事で儲ける者もいる。

 

『うむむ・・・どれも素晴らしい物だが、少しばかりかさばるな・・・指輪のような持ちやすい物は・・・ん?』

 

旅人が、展示ケースを眺めていると、その横に立っていた金属の柱に無造作に吊るされている物に目が向いた。

 

『これは、宝石?いや、中に色とりどりの装飾が入っている?この様な工芸品があるとは・・・それに何だこの値段は、何かの間違いではないのか!?』

 

これまた材質不明の網の中にキラキラと光り輝く宝玉に目を奪われ、そしてその値札に更に驚く旅人

 

無理もなかった、たったの銅貨4枚である、物価を考えると日本で買うよりも少しばかり割高だが、大陸の現地住民からすれば破格の価格である。

 

『これを、遠くの街で売れば一儲けできる・・・くそぅ!もう少し金を持っていれば良かった!』

 

旅人は、迷わずにニーポニアの宝玉・・・ビー玉を可能な限り購入する事に決めた。

食糧などの都合を考えると、そう多くは買えないが、それでもこの宝玉の魅力には抗えない、数日間断食する事も覚悟で旅人は購入したビー玉を背嚢に入れるのであった。

 

「アリガト・ゴザ・マシター!」

 

ニーポニアの商人が後ろから笑顔で挨拶をして頭を下げる。旅人はよく訓練されたニーポニアの商人に感心しつつ、店の扉を押し開け出て行く。

 

『ニーポニアの建物は扉に透明な板を使うのか、何で出来ているのか分からないが、相当金がかかっているんだろうな。』

 

高台へ上ると、日本が建て直したゴルグガニアの巨大な城壁が遠くに霞んで見える。

 

『ゴルグガニアに寄る予定は無いが、一儲けさせて貰ったら立ち寄るのも良いかもしれないな・・・。』

 

その後、旅人は日本がまだ進出していない遠くの国で、ビー玉を転売して、ちょっとした財を築いた。

 

個人用の小型馬車を購入した旅人は、数カ月後再び訪れた村の変化に驚き、そして初めて訪れたゴルグガニアに圧倒されるのであった。

 

『ニーポニア・・・この国が関わった場所は別世界に改造されちまうんだな・・・』

 

隅々まで行き届いたインフラ、馬にも引かれていない自律走行する馬車、港で荷揚げされた物資を纏めて大量に運ぶ鉄の蛇・・・彼らにとって、まさに異世界と呼べる地であった。

 

『旅人を辞めて、商人になるのも悪くないかもな・・・。』

 

後に、一部の日本企業は、現地住民を力仕事の単純労働でだけはなく、商売のノウハウを学ぶ社員として雇う制度を試験的に導入し大陸中の国々に少しずつ影響力を与えて行くのであった。



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第86話   資源地帯へ延びる線路

大陸に進出し、現在確認されている資源地帯を抑えつつある日本は、大規模な輸送網を形成する計画を進めていた。

 

港から城塞都市ゴルグへスムーズに物資の運搬をこなす為に、線路が敷かれているが、ゴルグを拠点に各地の資源地帯まで線路を伸ばす予定だ。

 

そして、その第一号がコンクリート用の石灰を採掘する採掘場に完成しつつあった。

 

「ふぃぃぃ・・・・そろそろ休憩を入れようか」

 

濡れタオルで顔や首筋などに付着した粉じんや汗を拭き取り、適当な場所に腰を下ろす作業員たち、休憩場に置かれていたクーラーボックスを抱えた年配の作業員が中身を取り出し、緑茶やアイスコーヒーなどの飲み物を投げ渡して行く。

 

「ほれ、これでいいか?お前は緑茶派だったな?」

 

「ほいほい、助かる。」

 

「かぁぁーー仕事の合間に飲むスポーツ飲料は堪らねぇな!」

 

「俺はコーヒー派かな」

 

それぞれ自分の好みの飲料を飲み一服する作業員たちは、採掘場の端に増設された設備を眺めていた。

 

「そう言えば、午後から運行が始まるんだっけ?貨物列車」

 

「ああ、これでトラックで何度も往復する手間も省ける。」

 

「大量の物資を一度に運べるからやっぱり便利ですよね、列車は」

 

採掘場で採掘された石灰石は、ベルトコンベアーで破砕機に運ばれて砕かれ、細かくした状態でトラックに詰め込まれ、日本ゴルグ自治区にある工場に運ばれてセメントに加工されているが、線路が敷かれたおかげで一度に大量のセメント原料を運搬できるようになっていた。

 

此処だけでなく、彼方此方の資源地帯に伸びる線路が敷かれる予定だが、現在需要が増して、供給が追い付かない建築資材の調達が優先されている。

 

「さて、そろそろ仕事を再開するか・・・。」

 

「あんまりだれていると、辛くなりますからねーさっさとやっちゃいましょう。」

 

「水分補給も良いが、トイレは済ませておけよ、まだ少し時間は残っているからな。」

 

「行ったばかりだから良いや」

 

仕事を再開しようと立ち上がる作業員たち、休憩時間が終わると同時に、遠くから列車の音が聞こえてくる。

 

「おっと、噂をすれば早速か、まぁ作業の手順は今朝伝えた通りだ。」

 

「あぁ、トラックから列車に変わっただけだ、問題はない。」

 

ゴトゴトと音を立てながら貨物列車が採掘場の駅に停車すると、作業員たちは砕き終わった石灰石を貨物列車の荷台に移し、採掘作業を再開した。

 

 

元々、城塞都市国家ゴルグが管理していた石灰石の採掘場だが、虫よけ用の石灰を少量採掘する程度で、あまり重要視されていない場所だったが、日本がゴルグを陥落させて以降は、重要な資源地帯として開発が進められることになり、やがて採掘場で働く者達が集まる村に発展するのであった。

 



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第87話   食の交流

魔力が大地から失われ荒野が広がる大陸、その中でも数少ない緑が多く生命の息吹に包まれた国トーラピリア王国。

 

国土の殆どを占める密林地帯からは、魔物の毛皮や骨、希少価値の高い薬草、珍味など、様々な資源が採れる。

異世界から現れた国、日本と国交を樹立した事により、今まで難航していた開拓が進み、トーラピリア王国は特需によって潤っていた。

 

国交樹立から、早い段階から日本ゴルグ自治区とトーラピリア王国を結ぶ道路が作られ、トーラピリア王国に開発や観光に訪れる日本人も多く、文化交流が深まっている。

 

 

「いやー・・・温暖な気候とは聞いていたけど、本当に暑いな此処は・・・。」

 

「沖縄に近い気候ですからね、ここならバナナもサトウキビも育てられるんじゃないでしょうか?」

 

「あー・・・外来種を不用意に植えると問題が起こるかもしれないから、そこら辺は学者連中に任せるべきじゃないかね?」

 

「まぁ、そうなんですが・・・。」

 

ジメジメとした服が張り付くような湿気と、容赦なく照り付ける太陽に晒され、大汗をかく日本企業の職員。

肩にかけていた濡れタオルで、顔にまとわりつく汗を拭き取った後、首に巻き付けため息を付く

 

「俺達が来るまで開拓が難航していたと聞くが、固い植物が多いことに加え、野獣の襲撃があるんだな。」

 

「聞きました聞きました、危うく殉職者を出すところだったとか」

 

「飛び掛かられて食い殺されそうになったところ、職員の一人が機転を利かせてフォークリフトで串刺し、それでも暴れるからチェーンソーで首チョンパ、凄いニュースだったよな。」

 

数か月前に起きた赤斑豹の襲撃事件の記事を思い出し、渋い顔をする二人

 

「それ以降、トーラピリア王国側から騎士団が、日本側からはプロの猟師が派遣されて、開拓団の警護についたんだよな。」

 

「今思えば、想定が甘かったとしか言いようがありませんね、トワビトの大森林でも被害が出始めているのに・・・。」

 

自衛隊が大陸中の国々に派遣され、度々魔物と呼ばれる危険生物の奇襲により殉職者を出している事は、既に知れ渡っていた。

その際、自衛隊の大陸派遣に反対する野党が騒いだのだが、資源問題の解決を最優先とする世論に押され、現在は静かなものだ。

 

 

「王都に近い集落の森だから、油断していたんだろう、人里近くだからって安心し過ぎだな。」

 

 

開拓団を派遣する前に、一応事前調査を行い、その時は集落近くに危険生物の生息は確認されていなかったのだが、極稀に密林の奥深くから縄張り争いに負けた魔物などが人里に迷い込むことがあると判明したので、改めて気を引き締め開拓行事を進めていった。

そしてこれは、トーラピリア王国に派遣されている職員だけではなく、大陸各国に派遣されている日本企業職員達にも言える事で、それぞれの場所で現地に対応した自衛策を講じているのである。

 

 

「まぁ、日本でも街中に熊や猪が迷い込む事もありますし、私達も気を付けた方が良さそうですね・・・。」

 

「全くだ・・っと・・迎えのワゴンが来たな、王都の宿に戻ったら飯でも食おうぜ。」

 

「そうですね。」

 

エアコンの効いた車に転がり込む様に乗り込み、舗装のされていない土がむき出しの道を走るワゴン車に身体を揺さぶられながら王都へ向かった。

 

途中から踏み固められているのか、比較的平らな街道に入り、そして王都に近づくと日本が敷いたアスファルトの道路が見えて来た。

 

「あ゛ぁ゛~~・・・・やっど着ぐのかー・・・。」

 

「此処まで来れば後はもう直ぐです・・・ぬふぅ・・やっぱり、アスファルトが一番ですね、サスペンションが効いているとはいえ、お尻が痛いです。」

 

「ただでさえ乗り物酔いに弱いと言うのに゛、こうも揺さぶられてはがなわんな゛」

 

「宿に戻ったら少し休みましょう、食事はその後で良いでしょう・・・っとと、もう目と鼻の先ですね、降りる準備を」

 

「あ゛ぃ゛・・・」

 

 

日本から派遣されている企業職員に向けた宿が王都の各所に開かれており、その一部は機械化がされ、ソーラーパネルや水車などから電力を得ている。

トーラピリア王国の大商人の別荘だった物や、使わなくなった商店などが元になっており、大商人と日本企業が、お互い良いビジネス関係築ければと互いに出資しているのである。

 

「ふぅ・・・すっきりしたのは良いけど、大分寝過ぎたか?」

 

「午後6時くらいですね、それ程寝ていたわけでも無いですよ。」

 

「そうか・・・しかし腹減っちまったな」

 

「夕食の準備はもうそろそろ済むそうですよ、私は先に食堂に行っていますね。」

 

「いや、俺も今すぐ行く」

 

階段を降りると、作業服を着た企業の職員や現地の商人など様々な面々が食堂に集まっていた。

 

『このコロッケとか言う奴は、本当に美味いな!芋と細かく刻んだ肉を熱した油で煮詰めるとは贅沢だ!』

 

『油で煮詰める事をアゲルと言うらしいぞ?全く貴重な油を大量に使えるとは羨ましい物だな。』

 

『ニーポニアには油が沢山とれる作物が存在するのかも知れんな、オルルの実よりも大量に油を搾りとれる作物を我が国に持ち込めば、食生活も大きく変わるだろう。』

 

日本から齎された料理に舌鼓を打つトーラピリア王国の商人たち、そしてその反対側ではトーラピリア王国の料理に驚く日本企業職員たちが居た。

 

「凄く良い香りだ、このパナパナの葉の酒蒸しって奴は酒が進むな!」

 

「パナパナと言う木の葉で魚や肉を包み、パナパナの実で作った果実酒で蒸し上げるか・・・異世界の料理も侮れないな。」

 

「味付けは砕いた岩塩だ、なんつーか、素材の良さを最大限に生かしたって感じだな。」

 

「根菜の漬物やサラダも中々ですよ、やっぱりご飯が美味しいと言うのは良いですね。」

 

「どこの世界も美味い物の探究には熱心になるんだろうな、この味を知ると合成調味料まみれの食生活ってのも考え物かもな」

 

「そうですねぇ・・・舌を鍛えれば、素材の味も感じられるようになりますし、濃い味付けだけが全てじゃないんでしょうね。」

 

「さて、美味い飯を食ったら漲って来たぞっ!さっさと書類の山を片付けちまおう!」

 

 

トーラピリア王国の暑い気候で汗を流した職員たちは、宿で食事をとり英気を養った、美味なる食事は新たな一日を乗り切る原動力となるだろう。

古今東西問わず、人間は美食を求めるのである。

 

 

 

 

オルルの木   通称:黒玉油樹

 

和名:タイリクアブラスノキ

 

常緑樹の低木で、温暖な気候に群生している植物。

果肉部分に、ごく微量のヒストニンを含むアルカロイドを含んでいるので、注意が必要。

現地では、果肉を発酵させて酢や果実酒を作り、種を絞り植物油を精製する。

基本的に灯油として使われる事が多く、裕福な貴族層や大商人しか食用として用いていない。

油はオリーブオイルに似てはいるが、少しえぐ味がある。

 

 

 

パナパナの木  通称:房玉扇樹

 

和名:バショウスモモ

 

常緑樹の高木で、温暖な気候にのみ生息を確認している植物。

人間の身長を超える大きさの植物だが、草本性であり、バナナの葉に似た形状の葉を茂らせる。

木の実はグレープフルーツの様に房状にならせ、味はスモモの様に強い酸味と程よい甘みがある。

生食の他、酢や果実酒の材料になり、葉は皿の代わりや、風味づけに煮込まれる事もある。

 

 



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第88話   開拓の障害

日本が異星に転移してから平和的に国交を結べた数少ない国の一つであるトーラピリア王国。

黄昏の荒野と呼ばれた大陸の中でも希少な木々の生い茂った土地に存在し、希少価値の高い動植物の資源が各国と取引されている。

 

しかし、国土の広さの割に、人が暮らしている土地は狭く、王都を中心として農村地帯が円を描くように広がっているだけで、それ以外の集落は少ない。

 

ほんの少しずつではあるが、森を切り開き土を耕し人が住めるように開拓を進めてはいるのだが、中々それも進まなかった。

だが、最近になってそれは大きく改善された。

 

「たーおーれーるーぞー!!!」

 

メキメキと音を立てて太くて硬い大木が倒れ始め、横倒しになると同時に土煙が上がる。

 

「随分と丈夫な木が生い茂っているな、これじゃ開拓も進まない訳だ、手斧で切り倒したくねーな」

 

「チェーンソーでも結構時間がかかりますしね。」

 

唸りを上げながら回転するチェーンソーに絡まった繊維片を取り除き、次の木に取り掛かろうとする作業員。

彼らがトーラピリア王国に派遣されてから、重機などが持ち込まれ、開拓の速度が大きく上がった。

 

勿論、日本側も開拓の見返りに、トーラピリア王国から大量の資源や食糧などの輸出を約束させているので、トーラピリア王国の負担も大きいのだが、それでも人が住める土地が増えると言うのは彼らにとって、とても魅力的に映った。

 

 

『ニーポニアが持ち込んだあの魔道具、チェーンソーと言ったか、とても便利そうだが恐ろしくもあるな・・。』

 

『切り倒すのに時間のかかる大木もあっという間ですしね、恐ろしい切れ味です。』

 

『恐ろしいと言えばあの橙色の鎧虫もそうじゃないか?』

 

視線の先には、切り倒した大木を運ぶ4つの車輪がついた鎧虫と、土を掘り返すごつごつとした爪と長い一本腕を持つ鎧虫が居た。

 

『鎧虫の頭部に人が乗っているな・・・恐らく手練れの虫使いだろう』

 

『さっきから唸り声を上げていますけど、圧力が凄まじいですね。』

 

『あれだけの怪力を意のままに扱えるなら、開拓も我々が想像している以上に早く進むだろうな、だが、その力が戦に使われない事を祈りたいものだ・・・。』

 

 

一通り木を切り倒した後、昼食をはさみ、現地住民と雑談を交わすと、再び作業を再開した。

 

 

木々を切り倒した後に残った切り株を重機で掘り起こし、整地して翌日の作業を進めるための下準備をするが、作業員の知らぬ所で、不穏な気配が近づいていた。

 

 

「何というか、変な感じしません?」

 

「?」

 

「なんかこう、何かに監視されているような感じがするんですが・・。」

 

「・・・・俺は何とも・・・。」

 

その時、異変が起こった!茂みの奥から黒い影が飛び出し、角材を運んでいた作業員に飛び掛かったのである。

 

 

「うわああぁぁぁぁ!!?」

 

 

鋭い爪で殴り倒され、持っていた角材に押しつぶされ身動きが取れなくなってしまうが、逆にそれが作業員の喉笛を食いちぎろうとしている牙を防いでいた。

 

『赤斑豹だーーーっ!!!』

 

トーラピリア王国の現地人が顔を蒼白させ叫ぶ

 

森の悪魔とも呼ばれる大型の肉食獣で、現地住民から恐れられており、鋭い爪は興奮時に赤熱すると言う。

現に、飛び掛かられた作業員は爪の殴打を受けた横腹の衣服が焦げ付いており、押さえつけられている角材もブスブスと煙を上げている。

 

 

「だ・・・誰か助けてくれぇっ!!」

 

 

角材と牙の鍔迫り合いをしている作業員が顔を涙と鼻血で濡らしながら絶叫する。絶体絶命の危機に身体は震え、死を覚悟した・・・その時!!

 

 

「うおおおあぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁ!!!」

 

資材運搬用のフォークリフトが赤斑豹にぶつかり、器用に押し倒されていた作業員を避け、そのまま赤斑豹を抱えたまま近くの大木に激突する。

 

「早く逃げろ!くそっ・・・こいつ、まだ暴れるか、しぶとい奴めっ!!」

 

「あう・・うぁ・・・ひっ・・・」

 

襲われた恐怖からか、まともに動けず、這いながら逃げるが、直ぐに仲間が肩を貸してくれ、這う這うの体で退避する。

 

グルルァァァァ!!!

 

フォークリフトに突き刺された赤斑豹が怒り狂いながら車体に牙や爪を立て、金属音を立てて車体が悲鳴を上げる。

 

「くっ・・・このままでは・・・。」

 

「そのまま抑え込んでいろ!!」

 

「っ!!」

 

フォークリフトとはまた違ったエンジン音を響かせながら、チェーンソーを持った作業員が、フォークリフトに突き刺された赤斑豹に躍りかかる。

 

グルァァァァァ!!!?

 

高速回転するチェーンが赤斑豹の首筋を捕え、生々しい音を立てながら血肉をまき散らし、赤斑豹の生命を削って行く

そして、遂に限界点を超え、赤斑豹の首は胴体と泣き別れした。

 

 

「はーー・・・はーー・・・はぁぁぁぁっ・・・。」

 

「死ぬかと思った・・・。」

 

「大丈夫か?」

 

「何とか・・・。」

 

本来の用途とは違う使われ方をして異音を立てる赤く塗れたチェーンソーを地面に置き、へたり込む

 

「こんな人里近くに猛獣が出るなんて聞いてないよ。」

 

「しかも、フォークリフトの一部焦げ付いているし・・火を噴く爪なんて馬鹿じゃねぇのか?」

 

『あ・・あの、大丈夫ですか?』

 

現地語で話しかけられ、視線を向けると心配そうな顔で開拓民が作業員を覗いていた。

 

『アー・・・大丈夫デす・・・此処、魔物出ル?何時も?時々?』

 

『いえ、滅多にありません・・・私もこんな魔物初めて見ました。』

 

すると、もう一人の開拓民が現れ、襲撃してきた魔物の正体を告げた

 

『赤斑豹だよ、森の奥に潜む化け物だ・・・しかし、何でこんな浅い所に・・・。』

 

『食ベ物・・少ナイ?森、降りテ来た?』

 

『縄張り争いに負けて、偶々人里に降りて来たとか・・・。』

 

いつの間にか、赤斑豹の死骸に現地住民が怖いもの見たさで集まって来ていたが、その人混みをかき分けて、作業員仲間がやって来る。

 

「大丈夫かっ!?」

 

「何とかな・・・危うくフォークリフトごとこんがり焼かれる所だったよ。」

 

「はぁ、寿命が縮まるかと思ったぞ・・だが、良くやった。」

 

「作業は中断だな・・・本部と連絡つけないと・・・。」

 

「アイツはどうしている?怪我はないのか?」

 

赤斑豹に飛び掛かられた作業員の安否を気遣うが、何とも言えない微妙な表情をしながら小声でつぶやいた

 

「幸いにも軽傷だが、ズボンとパンツは無事じゃなかったらしい。」

 

「・・・・あぁ・・・。」

 

色々と察しながら、ため息を付くと、気を取り直して現場検証や安全管理の緊急会議を開くため、臨時で設置された拠点へと向かった。

 

 

 

この後、トーラピリア王国側から騎士団が、日本側からはプロの猟師が派遣され、森を開拓する際の警護につくことになった。

それ以降も、魔物の襲撃はあったが、赤斑豹程の大型獣は現れず、開拓は順調に進んだ。

 

これ以降、各地で魔獣の襲撃に対する意識改革が進み。安全対策が進められたお蔭で、民間企業の作業員の殉職者は激減したと言う。

地球とは全く異なる生態系を持つこの星の生物の脅威を正確に認識するまでに、少なくない血が流れてしまったと判るのは、少し経った後である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レディカヴェンサー   通称:赤斑豹

 

 

和名:アカヅメホムラヒョウ

 

異世界の大陸に生息する赤黒い斑模様の体色をもつ、豹の様な動物。

地球で言う豹に近い動物だが、鋭いスパイク状の爪は、興奮時に赤熱し、走るたびに地面が焦げ付くと言う異様な形態をしている。

繁殖期のみ1頭の雄をリーダーに数頭の雌のハーレム形態の群れを形成する。

一見派手な模様だが、暗い森の中では見つけづらく、現地では森の悪魔として恐れられている。

 

 

 



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第89話   魔力無し

異空間に浮かぶ惑星アルクス、日本がアルクスに転移してから暫く経ち日本は大陸に進出し、小競り合いに巻き込まれつつも拠点を設け、少しずつその勢力を広げていった。

日本の国力を恐れた国々は、連合を組み日本の襲撃に備えたり、小国を飲み込むであろう日本と同盟を組みお零れを狙う国もあった。

 

しかし、彼らの予想に反して日本側から攻め込む事は決してなく、日本からの接触も交易や文化交流を目的とした交渉が主であり、平和国家を自称するだけあって非好戦的であった。

 

そして、そんな彼らを甘く見て無謀にも戦争を仕掛けた国々は、圧倒的な破壊力を持つ兵器と軍勢によって灰燼に帰した。

それによって大陸諸国は、日本に挑む事は国を滅ぼすと同義と言う共通認識を持つに至った。

未だに魔力の無い劣等民族や亜人と平気で手を組む蛮族と日本人を蔑視する地域もあるが、表立って態度を露わにする事は滅多にない。

 

 

「活気がある街だな、ここら辺では人口が多い方と聞いているが・・・。」

 

「豊穣祭の時は一時的に王都よりも人が多くなるらしいぞ?まぁ、近くに大きな川もあるし、この国の交流の要でもあるからな。」

 

 

大陸に進出した日本は企業それぞれのルートで各国と交渉に出向いており、インフラの整備や交易品などと引き換えに資源の採掘権などを得ていた。

 

 

「日本の地方都市くらいは人口ありそうだな?」

 

「流石にそこまでは居ないだろ、それでもここに来る途中の村々に比べたら多いけどさ」

 

「国土の殆どが禿山で、首都以外にほぼ人が住んでいない国もある。この世界は集落から少しでも離れたら文字通り人間の領域ではなくなるんだ。」

 

「あぁ・・・。」

 

「それを考えたらこの規模の街を複数持つこの国は、この世界でも有数の大国と言っても過言ではないだろうさ」

 

「面積だけなら日本ゴルグ自治区よりも広そうだな?発展度合いは雲泥の差だけどな。」

 

「あー・・・ゴルグは日本の大陸の拠点ではあるけど、あのバカでかい防壁のせいで街を広げるのが難しくなっちゃっているんだよなぁ。」

 

「防壁の外に町を広げて、更にその外側を設置の楽な鉄条網で囲って、徐々に発展させようと言う計画もあるらしいぞ?」

 

「最近周辺諸国からちょっかいをかけられる事も少なくなって来たし、それも良いかもしれないなぁ・・・。」

 

 

雑談を交わしていると目的地が見えてくる、インフラ整備の交渉をしに街を訪れた日本企業職員が領主館の前に立つと、召使が現れ職員達を案内する。

 

 

青銅製と思られる調度品の飾られた部屋に案内されると、この世界基準では仕立てのしっかりとした服を着た壮年の男が椅子に座っていた。

 

『遠路はるばる御足労頂き申し訳ない、私がこの街、そしてこの地方を治める者だ。』

 

『始めまして、私たちはこう言う者で・・・・はい・・・・此方こそよろしくお願いします。』

 

日本企業職員と領主が互いに自己紹介を行うと、雑談を交えながらもインフラの整備や鉱物資源の採掘権の交渉を進めて行く。

 

『しかし、あの鉱山の採掘権とは、ニッパニアも変わったものを要求しますなぁ。』

 

『変わった物・・・と言いますと?』

 

『いえいえ、以前地質調査・・・と言う物を行ったニッパニアの学士様があの鉱山に大層興味を示されましてな。』

 

『はぁ』

 

『確かに、あの鉱山はかつて青銅が良く採掘されていましたが、既に青銅は掘りつくされ、奥に続く道も現在、地下水で水没しており閉山されているのですよ』

 

『つまり、廃鉱と?』

 

『えぇ、加えて奥に進むにつれ岩の質が変わって行き、深部は灰色の頑丈な岩盤に阻まれ、鋭利な鶴嘴でも穿てないために、甲獣の額とも呼ばれているのです。』

 

『ふむ・・・。』

 

『その甲獣の額とも呼ばれた岩盤を何とかする為に、我が国精鋭の魔術師がありとあらゆる手段をもって魔法で岩盤を破壊しようと試みたのですが』

 

 

領主の男は嫌らしい笑みを浮かべ、大袈裟に両手を広げた後、そのまま両手で頭を抱えるような動作をした。

 

 

『しかし、あぁっ、何という事でしょう!甲獣の額は炸裂の魔法によって砕け散ったものの、魔術師を飲み込む炎を吹き出し、鉱山の一区画を焼き尽くしたのです!!』

 

(・・・それって、唯の粉塵爆発では・・・。)

 

『その影響で水溜りのあった場所に穴が開き、通路は水没、魔術師の遺体も回収できずに鉱山の入り口は閉鎖されたのです。』

 

『それは・・・大きな事故でしたね。』

 

『ニッパニア人は魔法が扱えないと聞いておりますので、その焼け焦げ水没した鉱山を渡すのが心苦しくて仕方ないのですよ。』

 

『魔法・・・ですか?』

 

『えぇ、水没した通路に甲獣の額と呼ばれた岩盤・・・魔法に秀でた我が国でも手を付けることが出来ない廃鉱された鉱山では釣り合わないでしょう?』

 

『・・・・。』

 

『ですので、代わりと言っては何ですが、採掘量こそ少ない物の幾らか安全で我が領地に近い鉱山の採掘権も用意しております。』

 

『それって、防壁の外に山に見えるあの小さな集落の事ですか?』

 

『えぇ、そうです。あの廃鉱に比べて幾らか安全とは言え、黴臭くて湿っぽく、先月落盤事故も発生しています。』

 

『それでも火だるまになるよりはマシですけどね』と領主の男は付け加えると、笑みを浮かべるがどことなく侮蔑の感情が混じっていた。

 

『どうでしょう?廃鉱と裏山の鉱山の採掘権を合わせて頂くのは・・・そのかわり・・・。』

 

『いえ、その必要はありません。我々の採掘技術なら廃鉱された鉱山の開発も進められると思いますし』

 

『ほう?』

 

領主の男は方眉を上げる

 

『当初の予定通り、この街の発展のお手伝いをさせて頂きますが、追加で融資する事はありません。』

 

『私の提案を断ると?』

 

『地質調査の結果が出るまで保留という事にしてください、その時は宜しくお願いします。』

 

『ふむ、まぁいいだろうニッパニアは魔力を使わぬ奇妙な術を扱うと聞く、余計な話をしてしまったな忘れてくれ。』

 

 

つまらなそうに息をつくと、獣皮紙にサインをして魔石を砕いた顔料に指を浸し、書類に押し付ける。

 

『これで交渉成立だな、お互いの発展を願っているよ。』

 

『こちらこそ、宜しくお願いします。』

 

領主の館を出た後、不機嫌な面持ちで街の外に待機している車に歩いて行く

日本企業職員は、表面こそ平静を保っていたが、暗に馬鹿にされていることに腹を立てていた。

 

 

「ムカつくおっさんだったな。」

 

「隠しているようで全然隠せていない所とかな、魔法が使えないだけで随分と侮られたものだ。」

 

「魔法か・・・確かに憧れはするけど、体の構造自体違うし、魔法とは言っても出来る事はたかが知れているんだよなぁ。」

 

「体の構造的には使えない力だけど、道具にするなら使えるんだよな、ほら、この魔鉱石式電熱ライターとか」

 

ポケットから青白い結晶体に繋がれたライターを取り出し、煙草に着火する。

 

「はぁーうめぇー・・。」

 

「車に乗る時は止めてくれと言っただろうに、はぁ・・・帰るぞ。」

 

 

後日、重機が貿易都市に運ばれ、河川の改修工事や道のアスファルト舗装などが行われ、現地住民を驚かせた。

そして採掘不可能と思われていた鉱山の開発も行われ、電動ポンプで地下水を排水し、粉塵爆発の対策がされた安全に気を配った採掘により次々と有用な鉱物資源が運び出されていった。

 

余談であるが、自分達では採掘不能だった鉱山がいとも容易く掘り進められ、精製技術の無い未知の金属(日本にとってはコモンメタル)が見つかった為、領主は酷く悔しがったと言う。

 



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第90話   空飛ぶ太郎

地球から転移してきた日本によって近代化が進められた城塞都市ゴルグの一角に存在する動植物研究所で、研究資材や施設の増築がされた事により作業がスムーズになり大陸の生物の研究が飛躍的に進んでいた。

 

更に、元々は現地住民に恐れられる魔物と呼ばれる生物の飼育をする研究所の理解を得る為にと、一般公開した水族館が思わぬ大当たりをし、決して無視できない収入と観光客を呼び込むことが出来た。

 

現在では、比較的安全と判断された陸上に住む動物の一般公開の準備を進めており、その為の施設の改修が急ピッチで進められている。

 

「はぁ・・・疲れた。」

 

「おっ?水槽の掃除、全部終わったか?」

 

「あぁ、やっと済ませた所だよ、明日も大勢客が来るだろうし」

 

「おう、お疲れさん。しかし水族館くらいでここまで人が集まるなんてなぁ・・・。」

 

「そりゃ俺達からすると動物を飼う事は珍しくも無いが、ゴルグの人達は家畜以外の動物を飼うような事はしないからね。」

 

「まぁ酒と女くらいしか娯楽が無いらしいから新鮮に映ったのかもしれんな。」

 

「実は他の国の貴族や王族もお忍びで一般人に紛れているらしいよ?」

 

「マジかよ?」

 

「動物園の公開がされたら、本当にどうなるのやら・・・もっと人員増やしてほしいもんですわ。」

 

「あの広さを今の人数で回すには無理があるしなぁ、っとと、ちょっと檻の方を見に行かなくちゃいけないんだった、また後でな!」

 

「あぁ」

 

 

会話を途中で切り上げ、研究所の隣にある飼育施設に向かい、更衣室で作業服に着替える。

 

グルルァァァァ!

 

ピーヨー・・・ピーヨー・・・ジジジジッ・・・グェェッ!

 

ヴェェェェ!

 

檻やフェンスの向こうから、大陸各地で捕獲した動物たちの声が聞こえてくる。

中には、研究員の顔を見て笑顔を見せながら甘えた鳴き声を上げてくるものもいる。

 

「おぉぅトラか、元気か?・・・ピョっちは起きていてピー助は・・・寝ているみたいだな・・・まつ毛君は相変わらずマイペースだな・・・。」

 

ギャン!ギャン!ニ゛ャン!!

 

ガタガタと檻が揺さぶられ、檻の隙間から鼻先が突き出ている。檻の奥の動物は嬉しそうに目を細めて研究員を見つめている。

 

「太郎・・・お前・・・また太ったな?」

 

大陸有数の危険地帯で知られる大森林の奥地に生息している魔物でありながら、非常に人懐っこい性格を持つ飛竜の太郎は、この動植物研究所の中で最も人気があり、陰に隠れて太郎を甘やかす者が続出中で、研究所の所長も頭を悩ませている。

 

おやつを与えられ続けた結果太郎は・・・。

 

たゆん たゆん ぷるん ぷるん

 

と言う擬音が付けれそうなほど、体が丸っこくなっていた。

 

「あーあー・・そんな目で見つめても俺は何も出さんし何も持っていないからな?」

 

グゥ・・・ニャフン・・・。

 

「本当にある程度言葉を理解するんだな、頭の良い子だよ、だったら少しは痩せなきゃいけなことくらいわかるよな?」

 

ギャン!ギャン!

 

「わかっていないな・・・その顔は。」

 

「あれ?太郎を見に来たの?」

 

動物の檻の見回りをしていると横から女性の研究員から声をかけられる。

 

「いや、動物園の公開の前にこいつらの様子を見に来ただけだ。」

 

「そうなの、太郎ちゃん可愛いよね、特に最近ころころして来て愛嬌も増したし」

 

「お前・・・何持って来てんだよ・・・。」

 

「あっ?バレた?ただの干し肉だから太らないと思うんだけど・・・。」

 

「お前らあげすぎだ、今度見かけたら所長に報告するぞっ!」

 

「えぇそれは勘弁してよっ!・・・っという事で太郎ごめんねー?」

 

鼻先を檻の隙間に刺していた太郎は、露骨に残念そうな表情をすると、その場に座り込み上目遣いでこちらを見つめてくる。

 

「まぁ、餌のあげ過ぎってのもあるけど、根本的な問題運動不足だからな、太郎も図体がデカくなって来たし、もう一回り大きな設備が必要なのかもしれん。」

 

「十分な広さに見えるけど、確かに昔に比べて太郎大きくなったわね。」

 

ンギャ?

 

「元々はその翼膜を使って大空を飛び回っている動物なんだから、こんな狭い所じゃストレスも溜まるんじゃないかねぇ?」

 

「そうね、私たちが相手してあげている間は機嫌良さそうだけど、離れて監視カメラで様子を見ていると殆ど藁の山で寝ているみたいだし・・・。」

 

「動物園が出来たら、もっと大きな檻を用意してやるのも良いかもな?」

 

ニ゛ャニ゛?

 

「何でもないよ。」

 

 

その後、正式に政府から降りた追加予算によって動物園を含めた収容施設が増築され、飼育にある程度広さが必要な動物がそこに移される事になった。

 

だが、動物を別の檻に移す作業中に事故は起こった。

 

「前はクレートに入れるくらいだったんだけどなぁ・・・。」

 

動物檻用のフォークリフトで檻ごと太郎を新たに増設された収容施設まで運搬していると、檻の中で太郎がくしゃみをする。

 

フシュン!!

 

くしゃみと同時に暴発した衝撃波ブレスがフォークリフトのアームに直撃し、車体が大きくバランスを崩すと、激しい音を立てながら檻が落下し、その反動か施錠が甘かったのか、檻の扉が開いてしまう。

 

ギャン!キュゥン・・・ギャン!ギャン!

 

「ぬおわぁぁぁっ!!?た・・・太郎っ!?」

 

驚いて檻から飛び出した太郎は、施設中を走り回り、近くにいた研究員たちが慌てて太郎を捕まえようと追いかけ始める。

 

「不味い!外に出てしまうぞ!入り口を固めろ!!」

 

「縄と刺又持って来い!取り押さえるんだ!」

 

ギャン!ギャン!

 

入り口を固めていた研究員たちに太郎が走り寄って来てのしかかって来る。

 

「ぐおおおっ!?重いっ!・・だから顔舐めるな、のしかかるなっ!・・・い・・今のうちに何とかしてくれっ!」

 

「首と胸を縛ったよ!早く檻に押し込んで!」

 

「ぐっ・・大人しくしろ、落ち着け・・・おわぁっ!?」

 

縄で縛って檻に引っ張ろうとしていると、太郎はおもむろに翼を広げ、翼膜が青白く脈打つと突風が吹き荒れ、研究所の入り口から飛び立った。研究員をその背に乗せたまま・・・。

 

「ぬわぁぁっ!!落ちる!落ちる!降ろしてくれ太郎ーー!!」

 

ギャン!ギャン!ニ゛ャン!!

 

生まれて初めて自分の力で空を飛んだ太郎は、上機嫌そうに鳴き声を上げ、城塞都市ゴルグ上空を旋回する。

 

魔鉱石由来の青白い鉱物器官から発生した魔力の渦が翼膜の下部に渦巻き、光の粒子をまき散らしながら飛行する。

それは、ソラビトや空中大陸と全く同じ構造であり、それはさながら生体エーテルカイトであった。

 

「た・・・太郎っ!・・・ぐっ縄が腕に絡んで・・・いや、今離したら死んでしまうっ!」

 

絵面的には、白衣のドラゴンライダーと言った感じではあるが、当人にとっては何の心の準備も無く上空に連れ去られている状態なので洒落になっていない。

 

降りるにも太郎次第なので、太郎の背中に囚われた研究員は生きた心地がしなかった。

 

しかし、下から女性の声が聞こえてくると、太郎は首をもたげ、声の聞こえた方向に進路を変え、降下を始めた。

 

「太郎ーーっ!太郎の大好物だよー!!」

 

機転を回した女性研究員が、飼料保管庫から鎧虫のひき肉をかき集め、メガホンで太郎を呼んだのである。

 

ちなみにこの女性研究員は最も太郎を甘やかしている筆頭的な人物なので、動植物研究所の所長からいつも注意を受けているのだが、同時に最も太郎が懐いている人物でもある。

 

ニ゛ャッ!ニ゛ャッ!ギャッ!

 

まだ制御が出来ていないのか、着地時にバランスを少々崩していたが、翼膜のついた前脚を地面にぶつける程度の怪我で済んだ様だ。

 

・・・背中にしがみ付いていた研究員はその際に失神してしまったが・・。

 

 

その後、太郎は研究員たちに、こってり怒られ、厳重に施錠された一回り大きな檻の中に入れられ不貞腐れた表情で藁山に頭を突っ込んでいた。

 

この騒動で、研究員の意識改革が行われ、安全対策が強化されたのは言うまでもないだろう。

 

その他にも、レーダーに空飛ぶ太郎が引っかかり、危うく自衛隊機がスクランブル発進する所であった。

 

 

人をその背に乗せた飛竜の姿は、ゴルグの住民たちからも目撃され、その中には他国の密偵も含まれており、別な意味でも魔物を飼育する動植物研究所に注目が集まるのであった。

 

 







良いお年を!!


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第91話   日出ずる餅

異世界に転移してから月日がたち、大陸の開拓の足掛かりとなる拠点、城塞都市ゴルグは年明けを迎え、お祭りムードになっていた。

 

建物の窓から大小様々な日本の国旗である白地に赤い丸が掲げられており、売店ではいつもと違う雰囲気の商品が並んでいた。

 

『なぁなぁ、ゴルグガニアの雰囲気が前来た時と違うんだが、こりゃ何だ?』

 

『何でも年明けを祝うお祭りだとか、彼らにとって縁起が良い日なんだとさ』

 

『縁起が良い日か、俺たちにとっては収穫祭以外で縁起の良い日なんてそうそう無いがなぁ・・・。』

 

『ニッパニアの風習って言うのは変わっているな、そう言えば前の祭りも赤と白の飾りが多かった気がする。』

 

『あの白い団子の山は一体何だろうな?上に黄色い木の実が必ず乗っかっているが・・・。』

 

『尖った木の置物も気になるが、多分縁起の良い物なんだろう、ニッパニアはそういったものを好むと聞いた事がある。』

 

 

旅人が商店街を歩いていると、甘い香りの黒い汁物を出している店が目に留まる。

ドロドロして黒い液体の中で、白い何かがチラチラと見えるのは不気味でも奇妙でもあるが、客は笑顔でそれを食べている。

 

『前はこんな食べ物売っていなかったぞ?』

 

『黒くて不気味だな。』

 

『でも良い香りだ、そこそこ小腹もすいてきた事だし試してみるか』

 

『美味かったら俺の分も買っといてくれよ。』

 

仲間と別れて暫く雰囲気が違う城塞都市ゴルグを歩き、土産店を見物していると、先ほど別れた旅仲間が血相を変えて現れた。

 

『お・・・おい、さっきの黒くて白い食べ物、とんでもない代物だったぞ!?』

 

『うぉ!?どうしたんだ一体?』

 

『どうしたもこうしたもあるもんか!良いから食ってみろ!』

 

木箱の封を解き、蓋を開けると、黒い何かに埋もれた白い物が入っていた。まだ温かいのか湯気がでており、甘い香りが漂ってくる。

 

『食うって、此処でか!?ま・・・まぁ、うん食ってみるか・・・。』

 

ごくりと唾を飲み込み、木箱に備え付けられていた木製の二股フォークで白い物を突き刺し口に運ぶ。

 

『ふむ・・・はむおぉぉぉっ!?』

 

強烈な甘さと、食べた事も無い柔らかな食感に雷が落ちたような衝撃が走る。

白い物にフォークを突き刺し口に運ぶ、それを只管無言で何度も繰り返し、木箱の中身はついに空になる。

 

『・・・・・とんでもない物を食わされた。』

 

『だろぉ?』

 

悪戯が成功した様な笑顔で、仲間の顔を覗くと、商店に飾られている白い物に指をさして自慢げに説明を始める。

 

『この白い奴はモチと言うらしいぞ!!』

 

『モチ・・・・。』

 

『この前、この街に来た時も食ったことがあると思うが、ニッパニアの主食であるオ・コメを何度も潰して練り上げて作るそうだ。』

 

『オ・コメ・・・・。』

 

『ちなみにモチは、オ・コメの中でも粘度の高いモチ・コメと言う特別な品種を使わないと作れないらしい。』

 

 

『モチ・コメ・・・。』

 

『で、モチを年明けに二段重ねにして飾る奴は、特別にカガ・モチと呼ぶらしい・・・って、お前さっきからどうしたんだ?』

 

 

『カガ・モチ・・・なぁ、お前・・・こりゃぁ、商機なんじゃないか?』

 

 

『商機?・・・何のことだ?』

 

『これだよ!この穀物なんだ!これ程のものが作れるんなら、その種子を買い取って売れば大儲けが出来るぞ!!』

 

 

『大儲けって・・・異国の作物がどれだけ育てるのに苦労するのか分かってんのか!?』

 

 

『んなもん知った事か!俺はやるぞ!惚れた!オ・コメの無限の可能性に惚れてしまった!』

 

 

『だぁー!モチに頭やられちまったんじゃねぇのか?言い出したら止まらないんだから、お前はっ!』

 

 

 

ニッパニアの特別な日にだけ出回る食べ物、モチ・・・・元々知られていたオ・コメの亜種モチ・コメの噂は、瞬く間に大陸中に広がり、その味にほれ込んだ大陸の国々がニッパニアから輸出された種籾を育てようと試みるのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

オ・コメ

 

ニッパニアが主食とする穀物の一種で、踝までつかる程の泥の中で成長する。

噛めば独特の甘みと食感があり、腹もちも良い。

それだけでなく、狭い土地でも大量に取れ、大地の力を吸い取り過ぎない驚くべき性質を持つ。

その代り、この穀物の生育に適した土壌を整えるのは難しく、多くの費用と時間が必要になるだろう。

 

 

モチ・コメ

 

ニッパニアが主食とする穀物の一種で、オ・コメに比べてコシのある食感。

基本的にオ・コメと似たような性質であるが、ニッパニアはこの穀物をモチと言う食品に加工する。

そのまま炊いて食べても美味であるが、モチに加工した場合、様々な料理に派生することが出来る万能性を持つ。

 

 

モチ

 

モチ・コメを炊いて木槌で何度も潰すことによって作られるニッパニアの食品。

ニッパニアの豆を発酵させた調味料に浸して食べる方法が主流のようだが、その他にも甘く味付けした豆と共に煮詰める調理法や、豆を砕いて粉にしたものを塗して食べる調理法もある様だ。

まるで穀物を圧縮した様な腹持ちの良さが人気で、ゴルグガニアを訪れた旅人が土産に買って行く事も多い。

 

 

カガ・モチ

 

ニッパニアが年明けの祝いの日にだけ作る特別なモチ

大小合わせて二段重ねのモチの上に、黄色い木の実を乗せて飾ると言う奇妙な風習であるが、ニッパニアの商店に並ぶその姿は壮観でもある。

ただし、カビが発生しやすく飾る期間を過ぎた頃には食べられなくなってしまう事も多い。

しかし、カビが生えた部分を切り取り、カビに浸食されていない綺麗な部分を食べる事も出来なくはない様だ。

 

 




三が日を過ぎちゃっていますが、明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いします。


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第92話   討伐隊

私は国の命を受け首都から少し離れた村を荒らす魔物の討伐作戦に参加していた。

この村は、水源に恵まれており他の村に比べてかなり広範囲を開拓して畑を広げているので、我が国にとって重要な穀倉地帯である。

 

ここ最近になって何処からか迷い込んだのか、草食性の大角猪の群れが村の裏山に住み着き、厄介な事に大角猪を狙って巨大な人食いトカゲが現れたと言う。

 

「しかし、人食いトカゲか・・・それもかなりの巨体を持つ個体だとか」

 

「それ程の巨体を持つ個体が単体でうろついていると言うのは妙な物だな、群れの長が新しい長に敗北して群れを追い出される事があるらしいが、もしやそれか?」

 

「あり得る話だな、何にせよ大角猪も人食いトカゲも我々にとって害獣に過ぎん、かなりの強敵だがなに、その為に入念な準備をしているんだ。」

 

「油断さえしなければ対処可能だろう。」

 

大角猪は視界に何かが横切ると、それが外敵であろうが無かろうが、取りあえず突進をしかける程の知能しか持ち合わせていないので我々の敵ではない。

 

問題は、その爪と牙に強力な出血毒を持つ人食いトカゲだ。

柔らかい腹部を、棘を仕込んだ落とし穴で貫けば討伐は簡単なのだが、群れを追い出された元長の巨大な個体ともなると、そうもいかない。腹部の皮が若い個体に比べて分厚くなっており、棘付き落とし穴に落としても大した傷を負わせることが出来ない可能性がある。

 

だからこそ少数精鋭の我々討伐隊が対処に当たるのだ。

当たり前のように攻撃魔法が扱え、その制御力に長けたものしか人食いトカゲの第二の弱点口腔に魔法を撃ち込む事は出来ないだろう。

 

今回は村の協力で、大角猪用の罠を既に設置して貰っている。

人食いトカゲの対処は専門家である我ら討伐隊が勤め、人食いトカゲ用の罠も我々が設置する。

最も、罠が足止め程度の効果しかないと言うのも予測済みである。

 

 

「ほぉ、既に大角猪が罠にかかっている様だ。」

 

「これで奴をおびき寄せる材料は確保できましたね。」

 

「止めを刺せ、急所を一突きしろ、こいつらの皮は使える。」

 

 

罠にかかって足を木に縛り付けられていた大角猪の首筋に青銅槍が撃ち込まれ、どくどくと赤黒い血が勢いよく流れだし、そのまま息絶える。

 

大角猪は、皮と牙と角に需要があるので、はぐれ個体を村人が狩って貴重な収入減としている。肉は癖が強く、血抜きが甘かった場合臭みが非常に強くなってしまうので、それ程流通している訳ではない。

 

だが、肉食の魔物はこの強い臭いを好む為、罠用の肉として使われる事もある。

 

手際よく大角猪を解体し、その肉を罠に使用し、一部は我々の昼食となった。

 

「ふむ、臭みが強いと聞いていたが処理がしっかりしていれば中々奥が深い味わいではないか。」

 

「そうだな、最近になって流通し始めたニーポニア製の香辛料のお蔭で生臭さも打ち消すことが出来るので、この肉にも価値が出るだろう。」

 

「腹ごしらえも済んだことだ、そろそろ罠の様子を見に行こう。」

 

「そろそろ奴の活動時間だ、気を引き締めてかかれよ。」

 

 

日が傾き始め、村から得た情報をもとに目撃のある場所に設置した罠を確認する為、我々は慎重に複数個所の罠の設置場所を回った。

 

その殆どが罠肉を小動物に盗まれ機能しなくなっていたが、最後に回った罠に人食いトカゲがかかった痕跡があり、血痕が森の奥に続いていた。

 

「見ろ、落とし穴を抜ける時に付いた独特の爪痕と毒のしみ込んだ黒ずんだ地面、間違いなく人食いトカゲのものだ。」

 

「やはり、仕留めきれなかったか、ふむ、脱出した際に落ちた鱗の大きさからすると相当な巨体なんだろう。」

 

「厄介だな、周囲に警戒しつつ捜索に当たれ」

 

手傷を負った人食いトカゲのものと思われる血痕を辿ってゆくと、傷が塞がったのか途中で血痕が無くなっていたが、気が立っているのか随所に破壊痕があり木々がなぎ倒されている。

 

我々は、痕跡を辿っているとついに、村を脅かしている巨大な人食いトカゲを発見した。奴は、傷を癒すために岩穴に身を潜め、行きずりに仕留めたと思われる大角猪を無心に食らっていた。

 

「霧よ、集まれ、そして怨敵を貫く凶刃となれ!」

 

隊員が氷槍の魔法を唱えると、勢いよく射出された氷の槍が人食いトカゲの眼球を貫く。

 

直撃寸前に、こちらの攻撃に気付いた為に、首をひねり氷の槍が脳まで届かなかった。

一撃で仕留めることは出来なかったが、奴の視力を奪えたので、こちらが有利であるのには変わらない。

 

我々は、人食いトカゲの出血毒を警戒しながら、つかず離れず腹部を槍や魔法で攻撃し、少しずつ人食いトカゲの体力を削りにかかった。

 

時々踏み込み過ぎた隊員が、毒の爪に弾き飛ばされ解毒薬を傷口に振りかける為、戦線を離脱する事があったが、それでも堅実に固めた重戦士の壁には人食いトカゲも攻めあぐねている様子であった。

 

しびれを切らした人食いトカゲが大口を開けて、重戦士の一人に噛みつこうとしたところに無数の氷刃が飛来し、内部から破壊されて巨大な人食いトカゲは沈黙した。

 

 

これで、大角猪の群れとはぐれ巨大人食いトカゲの討伐が終わった。

そう安堵した所で、最悪の事態が起こる。

 

ゴルルルルルルル!!

 

巨大な人食いトカゲを群れから追い出したと思われる、もう一匹の巨大な人食いトカゲが群れごと現れたのである。

 

 

「な・・何ぃ!?」

 

「馬鹿な!群れを追い出された個体の近くには寄り付かない筈なのに!!」

 

「そ・・・想定外だっ!」

 

既に巨大な人食いトカゲの猛攻に体力を削られているのである、大盾は既にボロボロになり、その身を毒から守る青銅鎧も軋みを上げていた。

 

罠の設置場所まで後退するにも、装備の重量が災いして罠の場所まで誘導しきれるか微妙な所である。

 

「俺達が足止めする、お前は装備を捨てて王都まで走ってくれ!」

 

私に重戦士の隊員が話してくる。

だが、彼はつい最近第二子を設けたばかりだ、この様な危険な役目をさせる訳には行かない。

 

「どの道、鎧を脱いだとしても俺じゃお前ほど早くは走れん、お前しかいないんだ。」

 

私はどのような表情をしているのだろうか、どの道まともな顔はしていないであろう、私は杖を血が滲むほど握りしめていた。

 

「・・・分かった、少しでも可能性があるのならばそれに賭けるしかない、だが、死ぬなよ?」

 

「ふん、お前が戻って来るまでに片付けるつもりで挑むさ、伊達に討伐隊に選ばれていないんでね。」

 

 

我々は、覚悟を決めると、それぞれの役割を果たすべく人食いトカゲの群れに立ち向かった・・・いや、立ち向かおうとしたと言うのだろうか・・・。

 

「?なんだ、この音は・・・。」

 

 

『フ セ ロ !!』

 

 

空から耳をつんざく様な轟音を響かせながら、光の束が人食いトカゲの群れに降り注ぎ、ほんの数秒で頑丈な鱗で覆われている筈の人食いトカゲが肉塊になった。

 

余りの光景に我々は言葉を失っていたが、ふと空を見ると骨の様な姿の羽虫が我々の上空を旋回していた。

 

「アーアー・・・我々ハ・ニーポニアの・・・兵隊・軍隊だ・・・ソチラ、無事か?」

 

異形の羽虫から片言で非常に訛りのある声が聞こえてくる。

よく見ると、異形の羽虫の頭部に奇妙な兜を被った兵士らしきものが乗っている。

 

「なんだあの化け物は・・・。」

 

「噂に聞いた事がある、ルーザニアの山岳城塞を一瞬で焼き尽くしたニーポニアの羽虫が存在すると言う・・・。」

 

「間違いない、断片的でしか無かった情報だが、かの羽虫と対峙したものからの証言と一致する。」

 

「アレが・・・飛毒蟲コルベラ・・・。」

 

複数飛んでいた羽虫の内、どこかのっぺりとした形状の羽虫の腹部から、紐のようなものを伝って、兵士らしきものが降りてくる。

 

 

「アー・・・任務、途中・・貴方達襲われてイタ。無事でスか?」

 

『ソレジャ・・ツタワ・・ナイ・・ダロー?オレガ、カワリニ・ヤル』

 

「あー・・・コホン、我々はニーポニアの兵士です。偶々貴方達が魔獣に襲われている所を目撃し、加勢しましたが・・・無事でしょうか?」

 

討伐隊の面々は、呆気に取られていたが人食いトカゲの死骸の山を見ると、はっと正気に戻り、窮地を救ってくれたニーポニアの兵士に敬礼をする。

 

「このたびは窮地を救ってくれて感謝する。」

 

「我々は、この国の魔物の討伐に特化した討伐隊だ、これ程の事態に遭遇するとは予想していなかったが、そなた達のお蔭で助かった。」

 

「いえいえ、人里を荒らす危険生物の駆除は我が国にとっても重要な課題ですから、ましてや人が襲われているとなれば放っておけません。」

 

「この恩は忘れない、首都に戻れば相応の礼はさせて貰う。」

 

「見た所、怪我人がいるようですが?」

 

「あぁ、一応解毒薬で応急処置をしているが、あまり動かすべきではないだろうな。」

 

「それでは、怪我人からヘリに乗せませんか?王都には我が国から派遣された医師が居る筈です。」

 

「こ・・・これに乗ると言うのか!?」

 

 

その後、討伐隊は怪我を負った者とその付き添いをイロコイに乗せてもらい、残った者は人食いトカゲの死骸の処理を行った。

 

村の危機を救った討伐隊は、王都に戻ると歓待を受け、治療を終えた仲間と再会をし宴会を開いた。

その席には、討伐隊を絶体絶命の危機から救った自衛隊員の姿もあったと言う。

 

元々、ニーポニアの軍事力を恐れ、衝突を避けるために国交を結んだ間柄であったが、この国はこの件のお蔭で急速に親密化が進んだのであった。

 

 

 

 

 

 

ホーレンボルファ 通称.大角猪

 

和名.イッカクイボイノシシ

 

眉間から伸びた鋭い角と発達した牙が特徴の猪の様な動物。

蹄の形状が三又で、地球の猪とは違う形状をしており、急な斜面も走破する事が出来る。

鋭い角と牙を使い、外敵に対して強烈な突進を繰り出すが、血の気が多いため、無害な生物にも襲い掛かる危険な性質を持つ。

知能はそれ程高くないので、簡単な罠に引っかかり、駆除も比較的楽なので、ばったり遭遇しない限りはそれ程危険ではない。

基本的に草食性に傾いた雑食性であり、食糧難の時はアリの巣を掘り起こしたり、小動物を捕食する事もある。

皮や角・牙に需要があり、各地でそれなりの価格で取引されているが、肉は癖が強いのかあまり流通していない。

日本は、これを加工品にして新たな食糧源とする為に調理法を研究中である。

 



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第93話   スペッカの苦悩

鋼鉄の嵐が降り注ぎ殆ど原型を留めていないルーザニアの王城、戦後処理と損害の埋め合わせの為に忙殺され、未だに瓦礫の撤去にすら着手できずにその巨大な躯を横たわらせている。

 

中枢機能が失われていたが、早めに避難していた王女と一部の文官が生き残っていたので、辛うじて復帰が出来た。

 

現在は、比較的被害が少なかった山の中腹の関所に各資料や器具が移されており、多少の不便はあるが、それでも少しずつ復興は進みつつあった。

 

 

「姫様!国境付近に蛮族共が現れ、村が襲われました!!」

 

「また・・・か、損害は?」

 

「はっ、矢が民家の屋根に僅かに刺さっただけで、突撃される前にジエイタイが蛮族の前に立ちはだかり、蛮族共は逃げ去ったとの事です。」

 

「全く情けない限りだ、ニッパニアに感謝だな、複雑な気持ちではあるが・・・。」

 

「未だに我々が奴隷に堕ちて居ないのが不思議でしょうがないです、本来なら敗北するとは国そのものが消滅する事を意味する筈です。」

 

「だが、我々は独立を許された。」

 

「監視下に置かれていますがね。それでも、此処まで温情をかけてくるとは想像したことすらありませんでした。」

 

「ニッパニアにはニッパニアの戦いの掟があるのだろう、この大地に広がる幾多の国々が持つ不文律の掟とは全く違う何かが・・・そう、彼らの矜持らしき物を感じる。」

 

「蛮族共には理解出来んのでしょうな、ニッパニアの思考が・・。」

 

「よせ、我らも直接相対するまで彼らを蛮族呼ばわりしていたのだ、残念ながら我らもその手合いと同類だろう。」

 

「!・・・い・・いえ、口が過ぎました。」

 

「何にせよ、国境警備を増員せねばな、ニッパニアに打診してみるか」

 

ルーザニア側から国境警備の為の兵を増員する許可を得ようと、城下町の大使館に使者を送り、協議をすると、日本はすんなりと了解し、国境の警備が施設を含めて増強される事になった。

 

日本も流石に国を守るために兵を国境警備に当てる事は当然と考えており、国を守る力を使うことを禁じる事は無かった。

 

日本側も敗戦国ルーザニアを狙ったハイエナ国家が次々と国境を侵犯して来ることに頭を悩ませ、直接日本にお零れに預かろうと接触してくる使者たちの応対にも苦労していた。

 

「先の戦いは見事でした、あの悪辣で狡猾なルーザニアの蛮族たちをその力で屈服させた貴国に敬意を表します。」

 

「・・・・お褒めに預かり光栄に存じます。しかし、貴国は占領下のルーザニアに侵入して何をされているのでしょうか?」

 

「っ!!・・・ほうほう、これはこれは妙な事をおっしゃりますなぁ、我々はルーザニアの動向を国境付近から監視をしているだけで、領域を侵すことはしておりませんよ?」

 

「成程、では先ほど国境付近でルーザニアの警備隊と交戦した襲撃者の身に着けていた装備が貴国のものと一致したのは何故でしょうかな?」

 

ドローンによって撮影された写真を取り出すと、使者の顔がどんどん青ざめて行く。

そもそも、彼らは写真と言う物自体の存在を知らず、そして何故自分たちの装備の詳細が知られているのか分からなかった。

 

情報伝達が極めて未熟な世界では、情報の共有がされておらず、噂が独り歩きして全く別の情報になっていることも珍しくないのだ。

 

それ故に、まるで自分たちを丸裸にするような力に恐怖し、武力とはまた別の力を持つ日本に戦慄を覚えるのであった。

 

「これは・・・一体どういう事だ?」

 

「この特徴的な青銅剣の形状、そして鎧、貴国にある砂壁工房の卸す物と酷似していると思うのですが?」

 

「っ!何故工房まで・・・い・・・いや、知らぬ!奴らは盗賊に違いない!」

 

「・・・・お引き取りを、占領下とは言え他国の主権を侵害する様な国とは交渉は出来ない。」

 

「な・・何故だ!ルーザニアは敗者だ!何故貴国が守る必要がある?それに、我が国もルーザニアには散々辛酸をなめさせられたのだ!我らにも取り分が無ければおかしい!」

 

「我々には与り知らぬ所でございます。」

 

「ルーザニアがあれ以上軍備を増強できなかったのは、我らが奴らを削っていたからこそだ!我らの手柄は一体どうなる!?」

 

「・・・これ以上の交渉は無意味でしょう、お引き取りを・・。」

 

「くっ!・・・覚えておれっ!!」

 

 

日本ゴルグ自治区やルーザニアに設けられた大使館にこの手の輩が連日の様に押し寄せ、日本が大量に確保したであろう[元ルーザニア国民の奴隷]を購入しようと、交渉を持ちかけてくる者も多い。

 

当然ながら奴隷を禁止する日本はルーザニア国民を奴隷化せず、監視下の元ではあるが自治を認めており、復興の為に物資を送り届けてもいる。

 

しかし、日本はゴルグ自治区の開発を優先しており、広範囲に自衛隊を展開する能力は無い、ルーザニアに派遣された自衛隊員の数も少数であり、国境警備も彼ら自身の手でやって貰わなければ、とてもでは無いが手が回らないのである。

 

「お疲れさん、毎度の事ながら連中もしつこいもんだね。」

 

「いえ、慣れていますから、それにしてもルーザニアの姫様は大したものですね。」

 

「あぁ、あのお嬢ちゃんか、唯でさえ国がボロボロになり復興に苦労していると言うのに、横槍を入れられちゃぁ堪らないだろうなぁ。」

 

「あの方はあの年齢であの書類の山をほぼ一人で処理しているのです、あれほどの逸材は滅多にお目にかかれませんよ。」

 

「補佐する文官も、砲撃で大分お亡くなりになっているそうだしな、彼女が倒れたら中枢機能が再び麻痺するんじゃないか?」

 

「なまじ自己処理出来てしまうのですから、周りが支えてあげないと気付かない内に限界を迎えてしまうでしょう、我々にとってもそれはよろしくない。」

 

「生き残った王族の中でまともな状態なのはスペッカ姫だけ、本来なら王座に就く筈の王子も先の紛争でPTSDになり療養中、ゴルグの件もそうだが、中枢を叩きすぎるのもまた問題だな・・・。」

 

「今後の課題ですね、そう何度も戦争なんかしたくないですが・・・。」

 

 

その後、ある程度ゴルグ自治区の開発が進み安定すると、ルーザニアに派遣された自衛隊を増員する事になり、ルーザニアの国境を侵犯する件数は激減した。

 

日本側も深くは干渉したくなかったが、復興と自立の為に最低限のサポートをすることになったのである。

 

その一方で、ハイエナの様に火事泥棒的に国境付近の村を襲っていた国々は日本に対して不満を覚えるのであった。




ルーザニアの国境を襲撃していたハイエナ国家の言い分では、ルーザニアが自分たちの支配下に置いていた村を奪ったと主張していたりします。

しかし、アメーバのように領土が拡大縮小を繰り返す戦乱の世では、その主張もあいまいで、戦禍に巻き込まれた村はその度に荒れて行きます。

調査によると、元々ルーザニアの開拓者が泉を発見し、そこを開拓して小さな集落を形成した説が現時点では有力だったりします。


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第94話   マラソン大会

異世界の大陸に進出し、本格的に開拓に乗り出した日本によって近代化が進められている城塞都市ゴルグは道路交通網が整備され、港と街をつなぐ線路から日夜大量の物資が日本から送られてくる。

そして、ゴルグからは各地で集めた資源が日本本土に送られて行く。

 

開拓初期のころは主に進出してきた日本企業の職員がゴルグのインフラを整備していたが、荷物の運搬やその他力仕事など比較的単純な労働を現地住民を雇う事で、労働力を確保している。

 

 

『ニーポニアのキギョーと言う商人集団の所で働けば、纏まった金が手に入るぞ!』

 

『ニーポニアのキギョーは料理屋を抱えており、彼らに雇われているものは格安で豪華なご馳走を食べられるらしい。』

 

『働けば働いた分だけ金が手に入る、決して踏み倒される事なく努力が報われる。』

 

 

現地住民を雇い始めた頃は、口減らしに奉公に出された農民の子供や青年、日本との戦いで怪我をしたり戦意を砕かれたりして戦えなくなった元兵士などが、働き口を求めて日本企業に集まっていた。

 

彼らは、今までの待遇が嘘のように、快適な環境で働けることに驚き、貴族でも食べた事がないであろう美味な料理を毎日食べられる事に感激した。

 

噂が噂を呼び、ゴルグの外からも日本企業の元で働くためにやって来るものも多い。

 

体中をぼろ雑巾の様になるまで酷使して、天候の気まぐれに畑を駄目にされ、重い年貢を取られる生活が当たり前である彼らからすれば、日本から見てややブラックな環境でも余裕で耐えられる範囲である。

 

そもそも、努力が報われる事なく、金も食糧も手に入らず理不尽に餓死する事もあるのだ。

働かなければ食べられない、食べなければ体を動かすことが出来ない、体を動かせなければ働けない。

大して塩気も無い萎びた野菜と穀物粥で腹を膨らませ、生きる為に畑を耕し作物の世話をし、数少ない娯楽である酒も発酵が不十分で酸味のきつい濁り酒を飲む淡白で無色な生活。

 

そんな毎日を海の向こうからやって来た来訪者によって丸ごと作り替えられてしまった。

 

彼らの網膜に焼き付くのは、鮮烈な色味と輝き、それは光彩を放ち夜の闇すらも打ち払うものだった。

 

彼らは、底知れない活力を発揮し、日本人も驚くほど精力的に働いた、そして彼らが働けば働いた分だけ、ゴルグの開発は進んで行く。

 

そして、防壁内部の開発が終わりつつある現在、防壁外部の開発の計画が立てられている。

 

城塞都市ゴルグの開発が一段落した一つの区切りに、ある催しが開かれる事になった。

 

 

『なぁ、聞いたか?ニーポニアのキギョーが共同で競技をするらしいぞ?』

 

『聞いた聞いた、何でもゴルグガニアから港町までを往復する競争だとか。』

 

『速足自慢の奴らが志願しているんだってさ、こりゃぁ面白くなりそうだな!!』

 

『色のついた棒を渡しながら走るんだと、つまり一人で全部走る訳ではないんだな。』

 

『はぇー・・・それじゃぁ俺も参加しようかな?短距離なら足に自信があるんだ。』

 

『おうおう、行ってこい行ってこい!キギョーも参加者を積極的に募集しているからな!』

 

 

日本でもお馴染みのリレーマラソンであるが、彼らにとっても競争と言う競技は存在し、兵士の訓練もかねて数年おきに行われており、賭けの対象になる事もあった。

 

娯楽の少ない彼らにとって今回のイベントは堪らない物である。

しかし、リレー方式は存在しなかったので、ある意味では新鮮でもあった。

 

足腰に自信のある若者や、訓練の一環として異国の兵士などが参加し登録人数が上限に達すると、選手たちは開催日に備えて仕事の合間を縫って足を鍛え続けた。

 

街は選手の走行を阻害しない様に、コースが整えられ、鮮やかな飾りつけが随所に見られ、街の住民は開催日が近づくにつれて心がときめき期待が膨らんでいった。

 

そして、リレーマラソン当日・・・。

 

「さぁ!さぁ!ついに始まりました日本ゴルグ自治区リレーマラソン大会!新大陸の開拓の節目となる記念日に、日本と大陸からそれぞれ参加した選手たちが、手を取り合ってリレーをします。」

 

『アー・・・アー・・こほん、ゴルグガニアの住民の皆様、ついに待ちに待ったゴルグガニア・港町の往復競争です!優勝チームには賞金と記念盾が贈られます!ニーポニアとこの紺碧の大地を結ぶ神聖な儀式をお楽しみ下さい!!』

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

『オィィエェヤァァァ!ヒュー!ヒュー!』

 

元々人が集まり、賑わっていた城塞都市ゴルグは、更に人が増えていた。

上空から見れば渋谷のスクランブル交差点にも匹敵する程にも感じるだろう、元々人口の少ない異世界大陸でこれである。

 

スタートの合図に空砲が鳴ると、選手たちは疾風の如く走り出す。

 

最初は、城塞都市ゴルグの防壁の外周をぐるりと一周し、港まで通じる街道へ向かう。

防壁の外周を一周するだけでも相当な距離があり、線路と並行する街道でバトンを交換し、そして港町の入り口で2回目のバトンタッチがある。

そして往復を含めて計4回のバトンタッチで、旧王城広間のゴールへ向かう過酷な競争なのである。

 

この大会に参加する為にライバルを追い抜き選抜された選手たちは、この記念すべき大陸初のリレーマラソンに参加できたこと自体を誇りにし、己の全力を最後の一滴まで絞り出す勢いで走り続けた。

 

最初のバトンタッチで走り終えた選手たちが次々とコースの外に設けられたスペースに転がり込み、大の字で倒れたり、膝に両手を付き肩で荒々しく息をする。友人からペットボトルに入った水を浴びせられ、笑顔で肩をたたき合う物も居る。

 

この光景は、会場のオーロラビジョンにも映され、観客たちが歓声を上げる。

選手の身内もその中に居て、思わず涙を流す者も居た。

 

燃料事情でヘリコプターからの撮影は行われていない物の、車で並走しながら、リアルタイムで送られ続けている映像は、迫力があり観客たちは自分たちが走っていないにも関わらず目まぐるしく流れ続けれる背景に息をのみ、バトンタッチが行われる度に歓声を上げる。

 

『いっけぇぇぇ!!』

 

『おいっ!諦めるな!頑張れ!』

 

『並走してやがる・・・どっちが勝つんだ!?』

 

最後のバトンタッチが行われ、防壁の出入り口に差し掛かりラストスパートに入る。

息を切らし汗まみれの姿で走る姿が、オーロラビジョンから観客の肉眼で確認できる距離になると、応援する声がどんどん大きくなってゆく。

 

ほんの僅かな差で日本人選手を追い抜いた、元伝令の兵士の選手はゴールのロープを切り両腕を振り上げ雄たけびを上げる。

 

それに呼応するかのように会場が歓声に包まれ、音の爆発が起こった。

 

リレーマラソン大会が終わってからも暫く熱気が冷める事が無く、この大会を観戦していた観客たちは故郷に戻った後、この事を熱く語り、大陸各地にリレーマラソンと言う概念が広まって行くのであった。

 

 

そして、この大会は毎年恒例の行事へ組み込まれる事になったのは言うまでもない。



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第95話   日本の片鱗

異世界の大陸では、各集落同士で交流や貿易・そして対立や侵略などが行われており、その領域はアメーバのように目まぐるしく形を変え続ける。

 

『聞け!蛮族共よ!これよりこの地は我が国の領土となる!!』

 

『なっ!?この村は数年前に山岳城塞都市の支配下におかれたばかりですぞ?』

 

『あぁ、お前達を支配していた国は我らの手に落ちたぞ?蛮族らしい最後だったなぁ?』

 

『あ・・・あぁぁ・・・何という事だ』

 

『実情調査の為に兵を派遣する。今すぐに我らの歓待の準備を始めたまえ!』

 

『そ・・・そんな急には準備はでき・・ぶえぇぇっ!!』

 

木製の盾で殴り倒され、侵略者に踏みつけられる村人

 

『蛮族め、口答えするつもりか?我が国の慈悲と温情により加護下に加えてやろうと言うのだ、意味は分かるよな?』

 

『わ・・わがりましだ・・・い・・いのぢだけはどらないでぐだざ・・ぐぅぅっ』

 

『ふん、楯突かなければこうならなかったのだ。』

 

 

この様な光景は、此処だけではなく大陸各地で行われている事である。弱肉強食の世界で小さな集落は戦禍に呑まれ滅び去るのも珍しくない。

大きな塊である都市国家から遠く離れた辺境の村ともなると、国の支配下におかれる事も殆ど無いが、代わりに鎧虫や魔獣などの野生動物の襲撃に怯えることになる。

 

この世界は必ずしも人類が支配者として君臨している訳ではない、ほんの少し集落から離れると、そこは人類の領域ではないのだ。

だからこそ、魔物の比較的少ない地に寄り添うように集落が生まれ、その土地を狙って紛争や戦争が起こるのだ。

 

『ふむ、奇妙な意匠だが仕立ては見事な物だな?何故蛮族がこの様な服を着ている?』

 

『見てください!蛮族の農民の癖にこの様な短刀が全ての家に備えられています!』

 

『・・・見事な物だな、山岳城塞にはこれ程上等な物は無かった筈だが・・・。』

 

『おい!そこの蛮族!!』

 

地面に頭をつけ体を震わせている農民の胸ぐらをつかみ、首筋に青銅剣を突き付け尋問する。

 

『これらの品をどこで手に入れた?山岳城塞の猿どもから支給されたのか?これ程の業物を分不相応に貴様ら蛮族が所持していると言うのは、どうにも腑に落ちぬ。』

 

『に・・ニッパニアです!ニッパニアに出稼ぎに出た若者が手土産に服や道具をわが村に送ってくれたのです!!』

 

『ニッパニア・・・例の島国か!』

 

不快そうに顔を歪め掴んでいた手を離すと、青銅剣の柄で村人を殴り倒す。

 

『全く、魔力を持たぬ虚無の民の影響力がここまで及ぶとはな、腹立たしい!』

 

『確か異界より国ごとこの世界に現れたと主張する人モドキどもですか。』

 

『一部の国はあの亜人共をイクウビトと呼ぶらしいな?魔力を持たぬ欠陥品が調子に乗って此処まで領域を犯してくるとは!』

 

『遺憾ながら、この短刀は我が国の鍛造技術では作る事は出来ないでしょう、一部の技術は我らよりも優れていると認めざるを得ませんな。』

 

『不愉快だな、気が変わった。村を焼き払え!』

 

『そ・・そんな、慈悲も無・・・がえぇぇぇっ!!!』

 

右目に青銅剣が突き刺さり、後頭部から刃先が飛び出て、四肢の力が抜け崩れ落ちる。

 

悲鳴を上げながら逃げ惑う農民に矢が突き刺さり、年老いた者は首を切り取られ女子供も容赦なく殺され犯された。

侵略軍の気分次第で村を焼き払われ、生存者は奴隷に堕ちる。当たり前の様に大陸中で繰り広げられる光景、この戦乱の世で力なきものは容赦なく食い殺されるのだ。

 

 

数か月後、焼け野原になった村に戻って来た出稼ぎの若者は、変わり果てた故郷の光景を見て力なく膝をついた。

 

 

異世界大陸の国々は、城塞都市ゴルグから遠く離れた部落にもその影響を及ぼす日本の国力に警戒心を抱きつつも、日本から齎された文字通り異次元の技術により作られた品々に驚嘆し、それらを我が物にしたいと欲望を募らせるが、日本に戦争を仕掛ければ間違いなく食われるのは自分達であることを知っている。

 

なので、それらを所持する者達から奪うのが一番楽であった。

 

日本の影響力が濃い地域では、日本の加護下にある可能性が高いので襲撃する者は滅多に居ないが、日本から遠く離れつつも個人や小さなキャラバンが日本の品を運んでいる村には侵略軍や盗賊の襲撃が起こりやすいのである。

 

しかし、彼らの誤算は一部の日本人や団体が、開発援助の為に城塞都市ゴルグから離れた集落に遠征する事があり、村の襲撃中に[うっかり]日本人をその刃で殺めてしまう事であった。

 

数名程度であれば実行犯の引き渡しと賠償程度で済むが、派遣された支援団体が丸ごと奴隷にされ、その大半が殺害されていた場合は、再起不能の報復が待っている。

 

数件の[痛ましい事件]が起こり、多数の日本人死者が出て以来、大陸各国は決して日本人、つまりイクウビトに手を出してはならぬと言う不文律が出来上がる事になる。

 

 

・・・・・・・異界の民に決して手を出してはならぬ、イクウビトを殺めればかの国は怒り狂い、火の雨を降らせ、光の矢が城壁を穿ち、屍山血河を築く事になるだろう。

 

 

未だに日本と接触をしてない国はまだ多く、日本もまた異世界大陸全てを知り得ている訳ではない。

流石にゴルグを占領したばかりの頃に比べて襲撃回数は減って来ているが、大陸の内陸部に進出しようと試みた時はその限りではない。

資源問題の解決の為に手を広げれば広げる程、不幸な事故は起こるのである。

 

 

 



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第96話   嫉妬と羨望の炎

『何だこれは、これがニッパニアの国力だと言うのかっ!?』

 

日本によって建設された巨大な防壁を潜ると、そこはまさに異世界であった。

まだ日が昇っていると言うのに、建物と言う建物に明かりが灯っており、馬にも引かれず自走する馬車の様な乗り物や、大量の積み荷を一度に運ぶ金属の蛇など、未知の存在で溢れかえっている。

 

『確かにゴルグガニアは栄えている街と聞いていたが、これ程までとは・・・・。』

 

そもそも唯でさえ巨大な防壁の外から見える更に巨大な灰色の塔を遠目から見た時から、違和感を感じていた。

あののっぺりとした灰色の壁の向こう側に一体何があるのだろうか?と・・・

 

『近くで見ると途方もない大きさだ、まるで雲にも届かんばかりだ。』

 

日本人から見れば、都心のビル群に比べてまだまだ低い方で、雲にも届くと言う表現を大袈裟に感じるかもしれないが、石を削り出し人力で積み上げていくこの世界の建築方法では、これ程の大きさの建造物は存在しない。このビル群よりも高い位置と言う条件ならば、ルーザニアの山と天然洞窟に手を加えた自然要塞がそれに当たるが、山にへばりつくように建設された城塞自体はそれ程高くはない。

 

『やはり石材の継ぎ目らしい継ぎ目が見当たらぬ、一体何の石材で出来ているのだろうか?』

 

『旦那様、情報収集に向かわせた者達によると、灰色の泥を流し込み、それを固めたものを使用しているとの事です。』

 

『灰色の泥・・・か、奇妙な物を使っているのだな。』

 

『詳細は不明ですが、何かしらの鉱物を加工している様です。』

 

『それは中々興味深い、それ以外にもこの地は未知の技術で溢れている。』

 

『えぇ、しかし未だに信じられませんね、これ程の都市を魔力を持たない亜人が作り上げるとは・・・。』

 

『ふん、どうせ遺跡から発掘した技術を流用しているだけだろう、1000年前に起きたとされる大戦の時代では現代よりも遥かに進んだ技術力を持った大国が存在したと言うではないか?』

 

『で・・ですが、御伽噺でもこれ程の都市は存在しませんでしたよ?』

 

『1000年前の大戦で多くの技術や歴史が失伝している、海の向こうの島国では、たまたまそれらが無傷・手付かずで残っていたのだろう。』

 

『旦那様・・・それは・・。』

 

『どの道、魔力無しの下等種族が自力で作り出せる筈もない、猿真似の上手さだけは褒めてやるがなっ!』

 

『・・・・・・・。』

 

 

海の向こうの島国に作り替えられたゴルグガニアを見物する異国の貴族たちは、活気と笑顔に満ちた街と祖国の首都を比べ、煌びやかな街並みに惹かれつつも、心の底に嫉妬と羨望が渦巻き始めていた。

思えば、未知の国によってゴルグガニアが陥落させられ、ゴルグガニア解放を掲げ戦いを挑む大陸の国々を返り討ちにし、大陸中にその影響力を広めていった事が始まりだった。

この国が作り上げる奇妙かつ便利な道具が、祖国に齎され、貴族や豪商だけでなく民間人にも広がり始め、貴族お抱えの鍛冶工房がその波に押され次々と閉鎖されていった為、ついに貴族たちは重い腰を上げ、直接視察に赴いたのだ。

自分たちの利益と名声を奪われる嫉妬、祖国よりも遥かに優れた文明に対する羨望、それらは大陸の国々の有力者たちの中で黒く渦巻き熱く煮えたぎり、悪意と化していた。

 

 

『何故だ!我が国と我が領の発展に貢献できるのだぞ!?これ程の名誉なことは無い筈だ!拒む理由などないだろう!』

 

『あー・・・そう言われましても、困るんですよね。それにこれらの設備を作るにも大掛かりな工事が必要ですし、そもそも簡単に渡せるものでもないんですよ。』

 

『ならばすぐに作りたまえ!お主らの鎧虫の足の速さならば、我が領までそれ程時間がかからないだろう!』

 

『いえ、無理です。仮に設備を建設したとしてもそれを動かす為には専門知識も必要です。』

 

『ならば技官を派遣しろ!』

 

『それも難しいです。ましてや短期間で技術を習得する事は出来ません。』

 

『魔力無しが出来て我らに出来ない通りなどない!!』

 

『いずれにせよ、貴国との間に交流はまだ結べていません。お引き取りを』

 

『おのれっ!覚えておれよ!!』

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

 

「そろそろウチの工場でもマニュアルを導入しようかねぇ・・・。」

 

 

異世界の大陸に進出した民間企業の一部は、現地で採集された資源を加工する為の工場を建設しており、今まで日本本土で加工していた物を現地で加工できるようになり、ますます発展速度を加速させていた。

事前のアポもなしで工場に押しかけた異国の領主たちは、当然のことながら断られた。高慢な態度で無償で技術と現物を提供しろと言う輩は想像以上に多く、既に一部の企業では適当にあしらう為のマニュアルすら完成している所もある。

 

魔力の無いそれも唯の一般人に良いようにあしらわれた事で怒りは更に熟成され胃袋の底から煮えたぎるような憎悪が沸き上がる。

 

『おのれ蛮族めっ!分不相応な技術を持ちおって!』

 

『旦那様・・・。』

 

『1000年前の技術・・・それらは継承者たる我らにこそ相応しいのだっ!!』

 

『その・・・未知の技術の事ですが、彼ら異界からこの世界に現れたと主張する事と何か関係があるのでは・・・?』

 

『そのような出鱈目を信じると言うのか?大方、未知の遺跡を独り占めにするための嘘に決まっておろう。』

 

『は・・はぁ・・・。』

 

『盗賊どもめ、いずれ我らの手にその力を取り戻させて貰うぞ!』

 

『・・・・・。』

 

荷馬車に大量の品々を乗せながらこの地を後にする貴族たち・・・彼らの祖国は今まで他者の持つ優れたものは奪い取り、技術を取り込み、あたかも最初から自分たちの物であったと思い込み続けていた。それは、文明力に差がある日本に対してもそうである。

何よりも、[魔力を持たない劣等民族]と言う彼らの認識が決め手であった。

その後、とある国の領主が商談に訪れていた日本人を拉致監禁した事件を切っ掛けに一つの国が終焉を迎える事になるのは別の話。




慎重な国は生き残り、偏見に囚われる国は滅びます。
情報収集に力を入れている国は途中で「あ・・・これは無理だ」と気づき、手を出しません。

ただし、慎重に動いていても彼らの持つ偏見によって「痛ましい事件」は発生します。
衝動的な物であれ、無知から来る物であれ力を持つ個人によって、国の崩壊の切っ掛けになったりします。

屍山血河の不文律も機能しない時があるのです。


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第97話   光の実る樹

戦禍の傷跡を生々しく残すルーザニアの城塞は、大部分の瓦礫は撤去されているものの、殆ど更地のままになっており、即席で作った木柵で囲われ少しばかりのログハウスが建てられていた。

 

少し前は、中枢機能が山の中腹の関所に設けられていたが、関所の小さな砦でそれを行うには限界があり、日本からの支援で王城跡地近く建てられた仮設住宅だが、丸太で作られた硬いベッドから、折り畳み式とは言え柔らかいベッドにかわり、燭台のぼんやりとした明かりではなくLEDランプの眩い明かりに変わった事で、文官たちは驚いていた。

 

あの火山弾を思わせる猛撃から生き残ってみれば、敵国に元に下りかの国の国力をまざまざと見せつけられ、今更になって何を相手にしていたのか現実を突きつけられた気分であった。

 

『っ・・・・明るい・・・目に染みる・・・。』

 

LEDランプの光量を調節する為にスイッチを動かして、一部を消灯させ、丁度良い光量に抑えると山のように積まれた書類を仕上げるためにボールペンを走らせる。

 

『インクを付けずとも書き続けられる筆に、油を使わず燭台よりも遥かに明るい魔道具か・・・全く、とんでもない国と戦争したものだ。』

 

チェックを済ませた書類にサインをすると、既に仕上げた書類を木箱に移し、新しい書類束を机に置く。

 

『まさかこの時間まで書類と睨めっこする事になるとはな、便利なのは良いが、遅くまで仕事を続けると言うのも考え物だな・・・・。』

 

昔なら既に寝ている時間帯まで、仕事をしなければならない事に眩暈を感じつつも、戦後の処理が少しでも早く終わらせられる事に喜びを感じていた。

 

ふと視界を書類からずらすと、窓の外に山の麓の城下町が見えた。

 

『しかし、あまり攻撃に晒される事が無かったとは言え、活気に満ち溢れているものだな・・・まるで空の星が大地に落ちて来た様だ。』

 

山頂の王城跡地から眺めるルーザニアの城下町は、日本が設置した仮設の街灯で明るく照らされていた。

 

 

ルーザニアの城下町・・・元々は、山頂の城塞が狙われた時に敵の進行を遅らせ、王族・貴族の避難する時間を稼ぐ事を想定していた捨て駒の町であったが、早期に降伏した事により皮肉にも一番無傷に近い状態で残ったのであった。

 

現在は定期的に往来するトラックにより運ばれてくる物資により、活気を取り戻しており、噂を聞きつけた商人が日本人相手に商売をする為に、各地から集まって来ていた。

 

『ゴルグガニアの様にルーザニアも眠らぬ街へと生まれ変わるかもしれない』

『ジャー・ポニスに特産品を沢山売って儲けることが出来るかもしれない』

『ニッパニアの珍しい品を仕入れ転売出来るかもしれない』

『ニーポニアの民に気に入られ繋がりを持てるかもしれない』

 

本来ならば、この世界の敗戦国にこれ程の数の商人が集まることは無い、兵士崩れの盗賊が出没し、奴隷目的の人間狩りが横行し、治安も悪化するからだ。

 

この世界では敗戦国をこれ程厚遇する国は存在しない、そもそも日本の行いは非常識だとも言えるだろう。

日本は別にルーザニアを手厚く保護しているつもりでは無く、治安悪化と難民の流入を避けるため、そして最低限の人道を守るために復興支援をしているのであって、一通り処理が終わった後は、賠償で手に入れた資源地帯の開発を進めるための拠点へと利用するつもりであった。

だが、そこに住まう民からはまた違った視点で見られるであろう。

 

『ふぅ・・大分寒くなって来たな・・・。』

 

公共事業の瓦礫撤去の力仕事に従事していた、町民が今日の仕事を終えて山の麓の城下町へと降りて行き、バタバタと奇妙な騒音をまき散らしながら臭い煙を吐き出す謎の魔道具に繋がれた魔法の燭台に照らされた道を歩き続ける。

 

『松明を持たずにこの時間を歩けるのは便利だな・・・さて、飲みまくって体を温めるとするか!』

 

昔馴染みの宿屋から男臭い歌声が聞こえてくる、どうやら先客が既に酒盛りをはじめているらしい。

 

『おぉ、遅くまでご苦労だったな!こっちは先に始めさせてもらっておるぞ!』

 

『ああ、ニッパニアは払いが良いからな、たっぷり稼がせて貰わんとな。』

 

『日雇いの仕事とはいえ、銀貨で払われるんだ、ニッパニア様様だな!』

 

ここ最近出回り始めた日本の酒で乾杯をする日雇い労働者達は、以前では考えられなかった収入で懐に余裕があるので、モチベーションに満ち溢れている。

 

鉱山の採掘の為に進出した日本企業がルーザニアに拠点を築くために、道路などのインフラ整備が進められ、それに伴い現地住民を雇用する事で、安い人件費で開発が進められている。

 

『ちっ・・・敗戦国の癖に何故そこまで余裕がある・・・。』

 

肩を組んで歌を歌う労働者達から少し離れた席でちびちびと葡萄酒を飲むローブを身にまとった痩せた男がつまらなそうに呟く

 

『ニッパ族からルーザニア人の奴隷が手に入ると思って交渉してみれば、奴隷にした住民は一人もいないだと?ふざけおって・・・。』

 

隣の席で干し肉を齧っている老けた男が呟く

 

『ふん、ニッパ族と戦争していた癖に飼い慣らされおって、しかし敗者をここまで厚遇する理由は一体何だろうか?』

 

『勢力を広げるために決まっておろう、ルーザニアは確かに厄介な隣国であったが、更に危険な国と隣接してしまうとはな・・・。』

 

『一部の王族や貴族は処刑されずに、国として一応存続するらしいが、実質傀儡だろうな、隣にニッパニアが現れたのとそう変わらんだろう。』

 

『いつ我らにニッパ族の魔の手が伸びるかわからん、危険だ、危険過ぎる相手だ。』

 

『いや、嘆かわしい事に、我が国の外交官も既にニッパ族の魔法の犠牲になっている。タネガシマと言う島に行って以来、狂言を吐くだけの役立たずにされてしまった。』

 

『精神操作魔法か・・・姑息な真似をっ!』

 

『手段を択ばず他者から奪った資源で栄える征服欲の塊の国・・・・わが国だけではどうにもならないが、かと言って放置する訳にも行かない。』

 

『我々はルーザニアの様にはならない、牙を抜かれて蛮族から餌を貰って生きるなどもってのほかだ。』

 

『そうだ、だからこそ何時かは滅ぼさねばならぬ。』

 

『『1000年前に大陸を荒野の地にした、人食いの魔族の様にっ!!』』

 

民宿の主に銀貨を支払うと、ローブの男たちはルーザニアを後にする・・・・。

日本が設置した光の実る樹を忌々しそうに眺めながら。




少々忙しくなって来たので、投稿頻度が少なくなると思います。
まだ先が見えにくい状況なので、ご了承ください。


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第98話   養鶏場

異世界の大陸に進出してから暫く経ち、沿岸部の開発を進める日本は、城塞都市ゴルグを拠点にその影響力を広げて行く。

 

最近になって城壁外に建設された建物から毎朝甲高い鳥の鳴き声が響き、付近の住民たちが不思議そうな顔で眺めていた。

 

 

『なぁ、あの建物から鳥の鳴き声がするんだが、一体何をしている所なんだ?』

 

『ん?あぁ、何でもニーポニアに生息する毎日卵を産む鳥を飼育しているらしいぞ?市場で見かけるようになった卵も全部あそこで作っているらしい』

 

『なんだって毎日卵を産む鳥だと!?』

 

男は驚いた、鳥の卵と言うのは通常、高い木に登り親鳥が留守の内に巣から盗むもので、繁殖期にだけお目にかかれるごちそうと言う認識であった。

 

そもそも、過去に卵を産む鳥を飼育しようとする試みは一部の物好きな貴族によって既に行われていたが、鳥に逃げられたり巣を放棄されたり親鳥が衰弱死してしまったりし、失敗に終わっている。

 

それ故に、鳥は家畜化できない生き物と認識されている。

これは、鶏に該当する鳥類が存在しないかまだ発見されていない為であるが、荒野の民にとって食生活が変わる事は衝撃的であった。

 

『そんな奇跡のような鳥がニーポニアに生息していたのか!!』

 

『いや、ニーポニアは卵を産みやすい鳥同士を掛け合わせて何世代もかけて更に卵を産みやすい鳥を作り出したんだとか・・・元々はそれ程卵を産むわけでは無かったみたいだぞ?』

 

『それで、卵を産まない方の鳥はどうなったんだ?』

 

『当然ながら鳥の丸焼きだろう、あと卵から孵化した雛鳥は雄と雌を専門職が分けて、雄は殆ど潰して肉団子にしてしまうとか』

 

『すげぇな・・・ある意味食に関して物凄い執念を感じる』

 

『ニーポニア人は食い物に関してはかなり煩いからなぁ、食い物の怨みは恐ろしいと言うニーポニアのことわざもあるんだと』

 

『あ、それ何となくわかる気がする。』

 

現在城塞都市の外部に住んでる住民は、近隣の村から移住してきた者や元スラム民であり、今でこそ日本から職を貰って人並みの生活が送れているが、ほんの少し前は食うにも困る暮らしをしていて少量の麦粒を廻って喧嘩が起こる程の物であった。

 

成長期の栄養不足により発達障害を起こして体が小さい成人も多いが、このまま何事もなく日本による統治が進めば本来の健康的なリクビトの体格に育つ者も増えてくるだろう。

 

『そう言えば、雄は雛鳥のうちに潰しちまうらしいが、そいつは売り物にしてんのか?』

 

『勿体ない事に廃棄物として処理しているんだとか、良くて畑の肥やしだろう』

 

『何だよそれ、多少骨が多くても雛鳥の丸焼きくらい骨ごと食っちまう自信があるのにな』

 

『まぁ、ニーポニアの方針だ、俺達が口を挟む事でもないだろう』

 

『それもそうだがよぉ・・・やっぱり勿体ないな。』

 

 

新鮮な卵が流通し始め、食の事情が大きく変化しつつあるが、鳥の卵はまだ一般的な食べ物ではない為、その調理方法はあまり知られておらず、大抵が目玉焼きに塩を振りかけたものに留まっている。

 

新たな食材の流通に目を付けた商人たちは、日本の企業に鶏の購入を持ち掛けて、自分たちの手で卵の量産を試みたが、日本企業側から提示された鶏の品種の数々と品質に驚き、殺菌処理が施された生でも食べられる卵を試食し、その味に舌を巻いたと言う。

 

『ナゴヤコーチン』

『サツマドリ』

『ヒナイジドリ』

『ウコッケイ』

『ホワイトレグホン』

『ブロイラー』

『シャモ』

 

 

『どれもこれも見た事ない種類の鳥だ。正直目移りしてしまうな。』

 

養鶏場の近くに設けられた鶏のふれあいコーナーに日本の噂を聞きつけた周辺諸国の商人たちが群がっていた。

 

『みんな頭に鶏冠がついているのか、卵も肉も最上級だな。』

 

『正直1羽あたり中々良い値段だが、これさえ手に入ればわが国でも鳥肉と卵が安定的に生産できるようになるぞ?』

 

『流石にニーポニアの様な大量生産は不可能だろうが、これはまさに金を産む鳥だ、何としても故郷に持ち帰らなければ!』

 

『ニーポニアの宝飾品が目当てだったが予定変更だな、ナゴヤコーチンの雄を5羽と雌を20羽だ!』

 

『ちと高いが、ウコッケイの雄を3羽と雌を10羽だ。くそぅ、もっと金を持ってくるべきだった。』

 

『飼育方法の書かれた本と合わせてホワイトレグホンの雄を8羽、雌を30羽だ』

 

『そうだ、肝心の飼育方法を知らなければ!俺もその本買うぞぉぉ!!』

 

 

その後、鶏の飼育の試みは大陸各地に広がって行き、初めは失敗も多かったが、少しずつ大陸の・・・いや、惑星アルクス全体の食文化に影響を与えていった。

流石に日本のように生の卵を食せる程の品質に至る国は無かったが、小さな村でも鶏小屋が作られ、肉や卵が出回るようになった。庶民でも手の届く肉の出現により、ほんの僅かだけこの世界の住民の満足度が上がったと言う。

 

 

 

 

通称ニワ・トリ  和名ニワトリ

 

最近になって商人を通してニーポニアから広まっていった鳥。

家畜化が難しい、もしくは不可能とされて来た鳥類の家畜化をニーポニアは太古の昔から実現していた。

楕円形の卵を産み、丸々太った肉は非常に美味で、雛鳥から短期間で成長し、従来の家畜よりも早く食肉に適した大きさになる。

様々な品種が存在し、共通して皮膚が垂れ下がったような装飾器管をもち、独特な鳴き声で早朝に鳴きはじめる。

飼育を始めた者達が、この独特な鳴き声で叩き起こされるが、ニーポニアは昔からこの鳥の鳴き声を目覚ましに使っていたと言う。

ニーポニア人の規則正しい生活文化に昔から影響を与えていたのかもしれない。

 



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第99話   異世界の悪意

青年は身もだえるような激痛により目を覚ます。

この地に訪れた時に着ていてた服は剥ぎ取られ、粗末なぼろ切れを巻き付けたような服を着せられ、下腹部からは絶え間なく血が流れ続けている。

 

一体何故こうなってしまったのか?

この様な目に遭ってしまったのは身に覚えがある、自分に非が無かったとは思わない・・・・しかし、理不尽に貶められたのは事実だ。

 

「うぅ・・・あぁ・・・あがぁぁぁっ・・・」

 

『無様な姿だな、魔力無しの盗人め』

 

「どろ・・ぼう?・・・ち・・・違・・・」

 

『生憎蛮族の言語なんぞには興味がない、獣のように呻いておれ』

 

去勢され、傷口が化膿し赤黒い血が流れ続け、体が発熱し意識が朦朧とする。

 

 

青年は日本が異世界に転移したと言う信じられないニュースを耳にしてから数年間、見た事も無い異世界の地を歩く事を夢見ていた。

 

それまで富士の樹海を歩いたり、本格的な装備で山登りしたりと自分の好奇心を満たすために活動していた。

 

そして、ある伝手で日本ゴルグ自治区行きの船に密航し、異世界の大陸に足を踏み入れる事に成功した。

 

友人からは、異世界の地で日本のガラス製品や装飾品などが飛ぶように売れ、その資金を元手に異世界大陸に工場を進出させると言う話を聞いていた。

 

日本から異世界の大陸に持ち込んだ安物の装飾品や食器などを路銀に変え、自由気ままに大陸中を歩き回っていた。

 

時々自衛隊の車両などとすれ違い、肝が冷える思いをしたが、大陸で購入した現地の装束を身に着け、フードを深くかぶっていたので気付かれる事は無かった。

 

歩き続け、時に乗合馬車に乗り、大分日本ゴルグ自治区から離れた国に訪れた時に、災難が降りかかる

 

『まて、見慣れぬ者だな?少し荷物を拝見させてもうぞ?』

 

『アー・・・この国・商談・交易品・装飾品・売る・キタ』

 

『っ!!これは・・・おい、一体何処から盗んできた!?』

 

『エー?ニホン・作る・装飾品・持ってきタ』

 

『ニホン・・・ニッパニアかっ!!魔力を持たぬ蛮族め!蛮族にこれ程の美術品を作れるはずが無い!盗賊風情が・・・堂々と虚言を弄するとは良い度胸だな?』

 

『!?ナンデッ・・・タスケテー!!』

 

その後は記憶が曖昧だ、金属製の何かで頭を強く殴打された事は覚えているが、何故自分がこの様な薄暗い所に繋がれているのか、何故陰部を切り落とされるような理不尽な目に遭っているのか理解できなかった。

 

そして、生ごみ一歩手前の様な野菜屑と泥水を与えられ続け、辛うじてその日その日の命を繋ぎ止めていると、ある日薄暗い牢屋に光が差す。

 

「あ゛・・・う・・・ぇ゛?」

 

『運が良かったな、迎えが来たようだ。』

 

「・・・?ぇ゛・・・?」

 

『斑模様の蛮族が我が領に現れたのだ、部不相応にもこの私と交渉しに来たらしい』

 

「斑模様?・・・じえい・・自衛隊っ!!」

 

『ジエイタイ・・・ジエイタイ・・ジエイタイ!!えぇい忌々しい!!』

 

「た・・だすかっだ!・・・日本に゛がえれる゛!」

 

『ジエイタイ・・それが貴様ら蛮族の軍の名称か、何とも野蛮な響きだ。』

 

「日本!帰る!・・・密航な゛ん゛でも゛う゛じな゛い゛!ごめんなざい!ごめんざ・・・・・ぎっ・・・がえええぇぇぇっ!!?」

 

不意に、今まで感じていた下腹部の痛みが無くなる、それどころか首から下の感覚がまるで無い・・・自分の体を下から眺めているような光景が一瞬流れ、側頭部に軽い衝撃を感じると次第に意識が薄まって行く・・・そしてもう二度と意識を取り戻すことは無かった。

 

 

 

 

自衛隊は、不法な手段で異世界大陸に散らばっていった日本人たちを連れ戻すために、各地を奔走していた。

 

全体の7割ほどは、ゴルグ周辺で確保・補導されるが、残りは遠く離れた地へと散らばりその所在が不明で、時に盗賊等に襲われ無残な姿で発見される事もある。

 

日本政府としては、これらの無断出国する日本人が頭痛の種になっており、無断出国を禁止する告知を出している。

 

 

そして、今回行方不明となっていた邦人の捜索の為に、自衛隊はある国を訪れていた。

写真を現地住民に見せ、ついにその所在地を確認した。最悪な事に領軍に捉えられ牢屋に繋がれていると言うのだ。

 

『おやおや、ニッパニアの兵士が我が領に何の用かね?』

 

『貴殿の領主館に我が国民が匿われているとお聞きしたので、確認をしに来ました。』

 

『ほう?それはどこの誰から聞いたのかね?』

 

『・・・・既に領軍の方から伺っております。少しばかり手心をつけましたので』

 

『チッ・・・買収されおって・・・あぁ、貴国の民は確かに保護している、しかし今や我が領民だ、貴国に帰すわけにも行かないのだよ。』

 

『領民?我が国は了承しておりませんし、未だに異界の地での国籍の改変は許可されておりません。』

 

『・・・・・。』

 

『さらに言えば、どうやら盗みを働いた罪人として連行されたともお聞きしております。・・・・そのような虚言に惑わされると思っているのか?我が国民を返して頂きたい』

 

自衛官が手を上げると、何処からともなく装甲車が現れ領主館を取り囲む

 

『っ!鎧虫か!・・・小癪な』

 

『我が国民の引き渡しをして頂きたい、最悪強硬手段を取る事になります。』

 

『・・・いいだろう、返してやろう!おい、そこの衛兵!斑の連中を見張っておれ!ニッパ族の男を連れてくる!』

 

領主は自衛隊を領主館の前で待たせ、館の奥へと消えて行く・・・・。

そして、暫くすると悲鳴のような声が響き渡り、自衛官たちが一瞬だけ動揺する。

 

「っ!!?なんだ!?」

 

脳裏に嫌な予感が過る。

そして、最悪の事態が現実となる。

 

眼の焦点があっていない人間の生首が自衛官の目の前に投げ込まれたのだ。

 

『返せばよいのだろう!?魔力無しどもめ!これもくれてやる!もう二度とこの地を踏むな!乞食どもめ!』

 

生首の口には金貨が咥えられており、追加で自衛官のボディアーマーに銀貨がぶつけられる。

 

『貴様らのせいで我が国の産業が潰されたのだ!本来ならば1000年前の遺物の技術は我らの物だったのに!この盗人めが!』

 

癇癪を起こし地団駄を踏む領主を侮蔑を含んだ目で睨みつけ、無言でその胸倉をつかむ。

 

『な・・何をする!賠償なら足りている筈だろう?汚らわしい手で触れ・・・』

 

「このっ・・・・腐れ外道がぁぁぁ!!!!」

 

鍛え抜かれた剛腕から鋭い一撃が繰り出される。目にもとまらぬ正拳突きが領主の顔面を貫き、宙を舞い錐もみ気味に地面に落下しくぐもった悲鳴を上げる。

 

そして馬乗りになり何度も領主の顔面を殴打する。

 

『ご・・・ごろぜええぇ!!!皆殺じだぁぁ!!』

 

「正当防衛だ!射撃を許可、領主の身柄を確保せよ。」

 

領軍が領主館の周りを取り囲む装甲車に襲い掛かり、自衛官たちはそれに応戦する。

青銅剣を振り上げながら近づいてくる領軍は、装甲車に取りつく前に遠距離から小銃で撃ち倒されて行く。

 

遠雷のように響いていた銃声が鳴りやむ頃、辺り一面は死体の山と血の海が広がっていた。

 

この国と自衛隊との衝突後、日本政府は正式に非難声明を出し、日本人の拉致監禁・殺害を行った国ザーコリアを弾劾した。

 

そして、ザーコリアは領主の拉致と領軍への攻撃を宣戦布告と見なし、日本ゴルグ自治区へと進軍を開始するのであった。




うーん・・・・ヘイトの溜まる話は、ちょっと書くのを躊躇いますね・・・。

偏見に支配され判断を誤る国は意外と多いのです。
しかし、領主をちょっと狂人にし過ぎたかもしれませんね・・・話自体もちょっと無理やりだったかもしれません。


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第100話  残酷への代価

異世界大陸に進出してから日本の名は広く知れ渡り、現在は多くの国々と交流をしている。

友好的な国も多いが、隙を見せれば即座に攻めてくるかもしれない国も存在し、日本政府も彼らの動向を注意深く監視している。

 

そして今、遠方の国ザーコリアと不幸な事件が起こり、それが原因で交戦状態に陥り、日本ゴルグ自治区に訪れている各国の外交官たちに緊張感が走った。

日本ゴルグ自治区に向けてザーコリア軍が進軍を開始したと言う報を受け、各国の大使館に通達されたのだ。

 

 

『ザーコリア軍が進軍を開始しただと!?』

 

『一体いつの話だ!?まさか、もう既に目の前にいるという事は無いだろうな?』

 

『いや、何でも空からザーコリアの動向を監視して遠くでも会話ができる魔道具で通達されたらしい、つまりここに到達するまでまだ日がある筈だ。』

 

『空から監視だと!?・・・いや、あの羽虫を使えば可能か』

 

『あの遠くと会話ができる魔道具には、やはり驚かされるな・・・あれさえあれば今までの戦いが根底から覆されるぞ』

 

『しかし、ザーコリアか・・・あの欲深な連中がニーポニアとやり合えると言うのか?』

 

『恐らく戦いらしい戦いにもならないだろうな、私はルーザニアにこの街が襲撃された時に居合わせたのだが、一方的な蹂躙だった。』

 

 

突如扉が開かれ、大使館職員が息を切らせてやって来る。

 

『ニーポニアから打診です。今回の戦に観戦武官を派遣して頂けないかとの事です!』

 

『観戦武官だと!?・・・通常なら危険を伴う物だが・・・。』

 

『ニーポニアならばその危険性も低いだろうな、丁度良い、頭の固い連中にこの国の力を直接目に焼き付けさせるとしよう。』

 

 

 

日本ゴルグ自治区にある各大使館に打診して観戦武官の派遣を約束させると、自衛隊はゴルグへと進軍するザーコリアへと備え、ザーコリア軍が通過すると思われるルートに存在する集落に避難勧告をし、日本の領域の境界へ自衛隊を配備した。

 

 

「ザーコリア軍と思われる集団を確認しました。恐らく数千ほどです。」

 

「ルーザニアに比べると少なく見えるな、こんな規模でゴルグに襲撃を?」

 

「見ろよ、連中まさか待ち伏せされているとは思っていなかった様だぞ?こっちを見て大騒ぎしてやがる」

 

「衛星と偵察機で丸見えだってのにな」

 

双眼鏡でザーコリア軍を観察する自衛官の後ろから羽毛で装飾が施された鎧の武官が異世界語で話しかけてくる。

 

『数だけならば向こうの方が多い様だが、本当にこの少人数で戦えると言うのか?確かに後ろの鎧虫の巨体ならば刃を寄せ付け無さそうだが・・・。』

 

『ニーポニアの軍は遠距離武器で戦う戦士と聞く、しかし弓矢や投げ槍だけで戦えるはずが無い、もしや後ろの鎧虫を使って敵を蹴散らすのでは?』

 

双眼鏡を下ろし自衛官が答える

 

『恐らく戦闘と呼べるものにはならないでしょうね。ザーコリア軍はこちらに傷一つ負わせる事なく崩壊する事でしょう。』

 

観戦武官たちがどよめき、互いに顔を見合わせると再び自衛官に話しかける。

 

『それはつまり、その・・・飛び道具だけであの数を打ち倒すと言うのか?』

 

『ニーポニア人は・・・イクウビトは魔法が使えない種族だと聞くが、あれ程の軍を遠距離で倒すには魔法でも不可能だ、それは本気で言っているのか?』

 

『えぇ、確かに我々は魔法が使えません。しかし、貴方達は今、魔法とは違う力をその目に焼き付ける事になります。』

 

『魔法とは違う力・・・ゴルグを作り替えたあの異質な力の事か・・・』

 

「っ!!ザーコリア軍、動きます!!」

 

観戦武官との会話に割り込む様に、ザーコリア軍の様子を伺っていた自衛官が叫び声を上げる。

 

視線をザーコリア軍の方に向けると、雄叫びを上げながらザーコリア軍が突撃してくる光景が目に映る。

指揮官と思われる男が長槍を振り上げると、奥の林に隠されていた投石器が奴隷と思われる粗末な服を着た者達に引かれ姿を現す。

 

『数の上では向こうの方が有利ではあるが、ニーポニアの噂が本当ならばあるいは・・・。』

 

『黄昏の大地にその名を轟かせるニーポニアの力、見極めさせてもらおうぞ。』

 

『ご安心を、貴方達の身を危険にさらすような真似はしません。我が軍の火力を披露いたしましょう。』

 

奇妙な形状の短槍を構えながら不敵に笑うニーポニアの兵士の様子に観戦武官は思わずつばを飲み込む。これから一体何が起こるというのか?

 

 

 

ザーコリアの切り込み隊長は、想定しているよりも早くニッパニアの軍隊と交戦する事に驚きと興奮を覚えていた。

進軍中に間諜らしき者は見受けらなかったので、奇襲の可能性は低いと思っていたが、進軍ルートを読まれ待ち伏せされていた事は想定外だった。

しかし、思いのほか敵の数が少ない事でこちらの数の有利を活かし正面から叩き潰せると判断し、部下の動揺を抑えるために檄を飛ばす。

 

 

『ニッパ族は待ち伏せをしていたようだが、数の上ではこちらが有利だ!異形の鎧虫の皮を剥ぎ、戦利品に持ち帰るぞ!』

 

『あの程度の数で我らに挑むとは舐められたものだ。』

 

『所詮は蛮族の浅知恵、もっと多くの兵を用意しておくのであったな!!』

 

 

青銅剣を振り上げながら、ニッパニアの陣地に突撃するが、奇妙な違和感を覚えた。

ニッパニア軍はその場から動かず、こちらに向かってくる様子はない。

 

先ほどまで沈黙していた斑模様の鎧虫の触覚らしきものがこちらの方向に向けられたとき、本能的に危険を感じた。

 

次の瞬間、横の戦列が轟音と共に吹き飛ばされ人間だった何かが飛び散り、それは連続して起こった。

 

『何だ!?一体何が起こっているっ!?』

 

『鎧虫です!鎧虫が火を噴きました!』

 

『火を噴く鎧虫だと?そんなものが存在していたのかっ!!』

 

『突撃だ!組み付けば奴も自滅を避け火を噴くことが出来なくなるはずだ!』

 

そうは言っても、これだけ開けた場所ではあちらから一方的に狙い撃ちされてしまう筈であり、鎧虫の前には斑模様の兵士達が並んでおり、接近できたとしても乱戦になり鎧虫に刃を突き立てるのも容易ではない。

敵の陣地に取りつくまでに多くの兵があの火炎弾にやられてしまうだろう、しかしそれしかやりようが無い。

 

『ぐあぁぁっ!!』 『ひぎぃ!!』 『あ・・足がっ!!』

 

次々と轟音と共に土と混じって行く仲間達を尻目に彼らは蛮族の軍勢に向かって突撃を続けていた。

 

(まだか、まだか・・奴らは目前だと言うのに、この程度の距離が無限に感じられるっっ)

 

敵軍の陣地に近づいて行き、少しずつだが蛮族の兵士の輪郭がつかめて来た。あともう少し走り続ければ、この刃を黒く汚れた顔で薄汚く笑う蛮族の首筋に打ち込むことが出来るのだ。

 

・・・いや、まて何故笑う?

 

突如、何かが弾ける様な音と共に戦列が崩れる。

 

『!!?』

 

ニッパ族が構えていた短槍から鋭く相手を貫く光弾が放たれたのだ。

それも常識的に考えられない程の短い間隔で放たれ、革鎧や青銅鎧を易々と貫き、魔術兵でも真似できない圧倒的な殲滅力で自軍がなぎ倒されて行く・・。

 

『馬鹿な・・・そんな馬鹿なぁぁっ!!』

 

不利を悟り後退させるにも、突出させ過ぎていた。

今この瞬間にも短槍に見せかけた魔法の杖から放たれる光弾に仲間が討ち取られて行くのだ。

 

『やむを得ん!後退しろ、陣形を立て直・・・がっ!!?』

 

『隊長が討ち取られた!後退・・・いやっ、撤退だ!撤退しろおおぉぉ!!』

 

89式装甲戦車や迫撃砲による爆風で退路を遮られ、自衛隊の小銃で狙い撃ちにされザーコリア軍の先行隊は1時間立たずして溶け崩れた。

 

後に残るのは、砲撃により投石器を破壊され呆然とする攻城兵器引きの奴隷と、戦意を失い投降したり、その場から動かなくなったザーコリア兵だけであった。

 

 

ほんの少し前までは、数の上で不利と判断していた観戦武官たちは、目の前で行われた戦闘・・・いや、一方的な殺戮に戦慄していた。

 

『・・・・・なんという・・・・。』

 

「状況報告。」

 

「こちらの損害は無し、ザーコリア軍の撤退を確認しました。」

 

「・・・とは言っても良くて十数人程度だろうな、投降してきた捕虜を含めても百に届かないだろう。」

 

『これが・・・これがニーポニアの戦いだと言うのか?これでは戦闘ですらないではないか・・・。』

 

顔を蒼白させた観戦武官が、砲撃で耕された死体と土の混じった戦場を眺めながら掠れた声で呟いた。

 

『その通りです。しかし、この力を無暗に振り回す事はありません。』

 

『・・・・・・。』

 

『そもそもザーコリアとの衝突は我が国としても不本意かつ不幸な事でした。』

 

『ニーポニアは・・・・。』

 

身体を硬直させたまま豪華な装飾の鎧の観戦武官がぽつりと呟く

 

『何故この力で大陸全てを手中に収めない?何故交流・交渉と言う形で各国と繋がりを持とうとする?』

 

『・・・・魔力を持たぬ虚無の民?馬鹿な、ではこの光景は一体何だと言うのだ。』

 

自衛官は、ヘルメットの位置を修正し姿勢を正すと彼らと同じく穴の開いた大地に目を向け答える。

 

『我々は・・・元居た世界で貴方達よりも長く凄惨な血の歴史を歩みました・・・そして、その教訓から戦争の恐ろしさと愚かさを学び、無暗に無秩序に力の行使をする事を止めたのです。』

 

『元の世界?異空の地と言う奴か?』

 

『えぇ、しかし国が外部から悪意を向けられた時にだけ我々は防衛のために動きます・・・・そう、我々は抜かずの刃なのです。』

 

『自衛隊(ジエイタイ)とは、自らを守る者と言う意味を持ちます。防衛のために存在し、こちらから攻めることは無く、そして決して負ける事が許されない軍隊、それが自衛隊です。』

 

未だに体は硬直したままだが、油の切れた壊れた機械のように辛うじて首だけを動かして自衛官の方へと向く観戦武官。

 

『防衛の為の軍隊・・・抜かずの刃・・・。』

 

『この世界は・・・紺碧の大地(アルクス)は、多くの国が互いに争い合い、血を流し続けています。我々は暴力を振り回しその勢力を広げる事はありませんが、力なくして事を成し遂げられると世迷い事を言うつもりもありません。』

 

『正義無き力は意味がありませんが、力なき正義もまた戯言に過ぎないのです。』

 

額に手を当てながら暫く目を瞑ると、観戦武官は体を自衛官の方に向け口を開いた。

 

『それがそなた等の戦い方なのだな・・・。』

 

神妙な顔つきで自衛官に語り掛ける。

 

『魔力を持たず用いず、圧倒的な破壊と暴力により敵対者を打ち滅ぼす軍勢、しかし抜かずの刃であるか・・・。』

 

『戦術的な興味もさることながら、そなたらの事にも興味が湧いた。我らはこの戦の行く先を見届けたいと思う。』

 

『えぇ、こちらこそよろしくお願いします。本来ならば、我々は抜かずの刃のままでいる事が一番なのですがね・・・。』

 

 

この日、ザーコリアは無視できない損害が与えられ、日本ゴルグ自治区への侵攻を断念し、首都である峡谷の城塞都市に籠り防備を固めた。

 

ザーコリアと言う国の終焉は目前に迫っていた。



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第101話  崩落の流星群

峡谷の間に建設された巨大な砦と、その巨大さに見合った石の扉、その奥に広がる城塞都市がザーコリアの首都である。

 

活気のある市場は、ごく最近遠方の国から齎された高品質の宝飾品や食器などが出回り、富裕層だけでなく中流層にも行き渡っていた。

 

『ほうほう、これは中々良い品だ。一体何処から仕入れたのですか?』

 

『あぁ、何でもコイツは貴族の館に忍び込んだコソ泥が捕まって、押収された物らしいけど、盗まれた物など汚らわしい!と貴族がお得意先の商人たちに売り払って、ここまで流れて来たんだとさ』

 

『それはまた、いわくつきの品ですな・・・。』

 

『で、犯人のコソ泥は裁かれて牢屋に繋がれて、裁かれた時に落ちたアレは向こうの生薬店で干されているんだとよ。』

 

『ここ最近は、蛮族狩りが行われていないから品不足だったのですよねぇ・・・。』

 

『かっかっかっ!我々の技術を盗むしかできないコソ泥どもは乾物にでもなっていれば良いのだ!』

 

『そう言えば、また討族隊が出陣されたとか?』

 

『あぁ、詳しい事は知らんが、どうやらまた我らに楯突いた愚かな国が現れたらしい』

 

『そうですか、これで我が国の威光もまた大きく広がる事でしょう。』

 

 

突如、擦れた音共に石の扉が開き、ボロボロになった兵士達がフラフラと戻って来る。

 

『なっ?』

 

『あれは一体どういう事でしょうか?』

 

兵士の顔には疲労と何かに恐れるような表情が現れており、城門を開けるために縄を引いていた奴隷に八つ当たりか、棍棒をわき腹に叩き付ける者も居た。

 

気力を振り絞る様に、王城へと向かう兵士の列をザーコリアの住民たちは呆然と眺めていた。

 

 

それから数日後、ザーコリアは厳戒態勢へと移った。

城塞都市の前に、異形の鎧虫の群れが現れたのだ。

 

『アーッ・・・アーッ・・・我々は、日本国自衛隊である!ザーコリアは包囲されている!無駄な抵抗はよせ!我らに投降せよ!繰り返す、無駄な抵抗は止めて我らに投降せよ!!』

 

 

『コレデー・トーコー・シタ・タメシ・ナーヨーナー・・・』

 

『シカタ・ナイー・ダ・ロー・キマリ・ナー・ダカラー!』

 

 

日本ゴルグ自治区へ向かう先遣隊を撃退し、グローバルホークによる偵察後、速やかにザーコリアの城塞都市を制圧する為に補給を終えた自衛隊は、彼らの本拠地の目の前まで進軍していた。

 

『い・・一体何が起こっている!?それに、あの空を飛ぶ不気味な羽虫は何なのだ!?』

 

『ニッパニアです!ニッパニアが攻めて来ました!!』

 

『ニッパニアだと!?魔力が使えぬ蛮族ではなかったのか?何だあの不自然な大声は!?まさか、魔道具で拡張しているとでも言うのか?』

 

『そんな魔法聞いた事も無いぞ?・・な・・・何にせよ、あの蠅を撃ち落とさなければっ!』

 

城門上部に取り付けられた投石器から岩礫が、ヘリに向かって放たれる。

当然ながら飛距離が足りず明後日の方向へ飛んで行き、岩が砕け散る音だけが空しく響き渡る。

 

 

「---・・・---・・・敵の攻撃を確認、繰り返す敵から攻撃を受けた。敵攻撃意思あり、反撃せよ。」

 

 

自衛隊への攻撃を皮切りに、ザーコリアを包囲していた鋼鉄の獣が黒煙を吐きながら唸り声を上げる。

 

砲身が動き照準をザーコリアの城門に向けて、狙いを定める。

 

「っっってぇぇっ!!!」

 

90式戦車の砲口から赤々とした炎が噴き出し、多目的対戦車榴弾が放たれ、吸い込まれるように複数の砲弾が城門に着弾する。

 

 

ザーコリア軍は、城塞都市を囲む鎧虫の群れを迎え撃つために城門前の広場に集結していた。

 

歴戦の戦士たちが、長槍と大盾を振り上げ、闘争心を高めるために雄叫びを上げる。

鞭に打たれながら奴隷が城門を開くために縄を握ろうとすると、突如轟音と共に石の扉が砕け散り、城門の裏側で待機していた兵士や奴隷が散弾の様に降り注いだ破片に体を引き裂かれ絶命する。

 

 

『うぎゃぁぁぁぁぁ!!』

 

『ひぇぇっ何なんだぁぁぁっ!?』

 

目の前で仲間たちが一瞬にして肉塊に変わり、跡形もなく吹き飛ばされた堅牢な筈の城壁がぽっかりと大穴を開けている。

 

すっかり風通しが良くなってしまったザーコリアの城壁は土煙が晴れるにつれ、その凄惨な姿が明らかになって行く。

 

『ば・・馬鹿な!あれだけ分厚い城壁が一撃で粉砕されるだと!?』

 

『そんな馬鹿な・・・。』

 

正確には複数の90式戦車から一斉に放たれた砲弾によって吹き飛ばされたのだが、正確で精密な一斉砲撃により音が一発しか聞こえなかったのだ。

 

『お・・・おのれぇぇぇ!蛮族が我らの誇りに土を付けてくれたなぁァ!!!』

 

『あれ程の大魔術だ、そうは連発できまい!』

 

『魔力無しめ!魔力が無いからと言って盗んだ魔道具に頼りおったな!!』

 

『その皮剥いでくれるわぁぁ!!』

 

目の前で起こった破壊から目を背ける様に、現実逃避するようにやけくそ気味に隊列を組まず自衛隊に向かってザーコリア軍が突撃する。

 

それは戦術も何も無い無秩序な突撃であり物量攻撃であった。

 

凶器を持った暴徒でしかない彼らは、機銃掃射によって次々と打ち倒されて行く。

 

時折戦列を貫き後方に火柱を上げる90式の砲撃と空から降り注ぐ迫撃砲によって撤退する事も出来ず、ザーコリア軍は阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とされる。

 

『ば・・・化け物だぁぁぁ!!』

 

『魔力無しの蛮族じゃなかったのかよぉぉぉ』

 

恐慌に駆られた兵士たちが蜘蛛の子散らすように逃げて行くが、天空から垂直落下してくる迫撃砲が退路を塞ぎ、その混乱を突きMINIMIやハチキュウの掃射で次々と撃ち抜かれて行く

 

魔力の無い民という偏見を持ち情報収集を怠り、いつも通りの手口でかの国の民に手を出し、あまつさえ使節さえ亡き者にしようとした彼らは、その身をもって代償を払う事になったのだ。

 

 

ザーコリアの住民たちは、遠目から蛮族と自軍の戦いを眺め、その地獄のような光景に言葉を失っていた。

 

『何なんだよ・・アレ・・・。』

 

『俺達は悪夢を見ているのか?』

 

唖然とした顔で立ち尽くす彼らは、ふと奇妙な違和感を感じ空を見上げる。

 

『・・・あれは?』

 

『流れ星か?』

 

それは、155mmりゅう弾砲やMLRSから放たれた砲撃とロケット弾であった。

流星の如く放たれた光の槍は、軍事施設のみを正確に貫き、内部から解放された爆炎が破壊と死を纏って着弾地点を舐めまわす。

 

 

この国の守りの要であり、彼らの象徴であった城壁を一瞬で破壊され、その瓦礫と化した城門を軽々と飛び越え放たれた崩落の流星群によってザーコリアは恐慌状態に陥った。

 

ザーコリア軍を撃破し、城塞都市に足を踏み入れた自衛隊が見た物は、パニック状態に陥った住民によって放火され、略奪され自己崩壊を起こし始めた街の姿であった。

 

自衛隊の攻撃とは無関係の火災は、瞬く間に広がり、その凄惨さから自衛隊が思わず動揺する程であった。

 

『ひ・・・ひぃぃっ!い・・命だけはお助けをおおぉぉっ!』

 

『娘を・・・うちの娘を差し上げますから、見逃してくださいぃぃ!』

 

自衛隊の姿を見た商人の男は、傍にいた自分の娘の首根っこをつかみ地面に叩き伏せ、泣きさけぶ娘の服を脱がせようとする。

 

その姿を見た自衛隊員達は、何とも言えない表情で顔を歪ませる。

 

「お前ら・・・・最低だよ・・・。」

 

住民たちによって引き起こされた暴動に紛れて脱出しようとした王族や貴族たちは、住民や護衛の筈だった兵士によって身ぐるみを剥がされ、物言わぬ躯の状態で発見される。

 

中枢機能を喪失したザーコリアは、誰一人と責任を取らず取るべき者も持たず、空中分解した。

 

計らずとも行われた焦土化によって、日本は得る物が少なく、幾つかの鉱山を手に入れただけで終戦を迎えた。

ザーコリアの城塞都市から逃げ出した住民の多くは、今まで略奪を繰り返していた周辺諸国に捕まり奴隷化され、今亡き王族と街を襲撃した日本に怨嗟の声をあげるのであった。

 




散々周りに迷惑をまき散らし、今までの不摂生が祟り体を壊し、見当違いの怨嗟を吐きながらこの世を去る人間はごく少数存在しますが、それが国家単位になったらまさに悪夢ですね。



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第102話  流星を見つめる者

あの日・・・我が故郷にして、怨敵であったザーコリアは消滅した。

私の母は、ザーコリアの略奪によって滅ぼされた小さな集落の娘だったと言う。

 

奴隷となった15にも満たぬ母は、ザーコリアの兵士に犯され私を身籠り、その後重労働によって息絶えたと私の育ての親は言った。

言葉も喋れない幼き私を買った商人は、ザーコリアに潜伏する異国の間諜であった。

私は、奴隷の身分でありながら家族のように大切に育てられ、礼儀作法や商売の知識・情報収集の技術を仕込まれた。

何故私は、ここまで大切に育てられたのか?疑問に思った私は、育ての親である商人に聞いた事があった。

 

少し困ったような笑みを浮かべ、今のように間諜ではなく普通の商人だった頃にザーコリアの襲撃で妻と共に失った息子に瓜二つだったと言う。

本当は私の母も購入するつもりだったが、鉱山を所有する貴族に買われてしまい離れ離れになってしまったと彼は謝罪していた。

 

私は、彼の謝罪を悲しく感じた。まるで実の父親のように無償の愛を注いでくれた我が主の事をどうして責められようか、真の悪は平穏に暮らしていた母の集落を襲ったザーコリアだと言うのに・・・。

 

彼もまたザーコリアに家族の命を奪われた被害者である。

我が主はある国の影の組織に入り、厳しい訓練の末に敵国に潜んで情報を収集し、時に破壊工作を行う間諜となったのだ。

そして、私は彼にとっての最初の弟子であり、義理の息子でもある。

 

私は来るべき日に備え情報収集の為に、ザーコリアの有力貴族に近づくために下男として潜伏した。

ザーコリアの貴族に仕える奉公人は、万が一貴族の令嬢や夫人との関係を持たない様に必ず去勢しなければならず、私はもはや子孫を残すことは出来ない。

 

ちなみに、下男は去勢されるが下女はその身に高貴なる血を残す機会が与えられている。その殆どが無残にも使い捨てられ、運が良くても領地から追い出される運命なのだ。

狂気の沙汰としか言いようがない。

 

 

我が主は、私が奉公人になる事に強く反対していたが、反対を押し切り奉公人となり去勢され、変わり果てた私の姿を見るなり泣き崩れてしまった・・・。

だが、私はこの国に一矢報いる為にこの身を捨てる事も厭わないつもりだ、許してほしい。

 

それに・・・私はザーコリアの穢れた血を引いている・・・私の些細な報復を果たす為には、この血を残す訳には行かないのだ。

 

 

ザーコリアの領主に仕える私は、下男として働きながら情報を収集し、時に理不尽に鞭を振るわれながらも、我が主に情報を渡し続けた。

 

ある日、遠く離れた魔力を持たぬ民が征服し作り替えられた都市国家へ向かう事になった。

貴族のお付きとしてゴルグガニアへ連れて行かれた私は、天に届かんばかりの巨大な建造物群に言葉を失っていた。

どうやら、これらは城塞などの軍事施設ではなく、沢山の商会が集まり一つの巨大な商店として運営されていると言うのだ。

 

色とりどりの照明で彩られた店は幻想的であり、未知なる美味・洗練された宝飾品・一国全ての本を集めた様な大規模な書店など、まるで御伽噺の様な世界が広がっていた。

 

しかし、この醜悪な領主は嫉妬と羨望に支配され、いつもの様に癇癪を起し、これら全てが自分達の国から盗まれた物だと言う妄想に駆られていたのだ。

 

なんと愚かな

 

確かに、これ程のものが魔力を一切持たない民によって生み出されたとは通常考えられないが、現に目の前に広がる光景がそれを否定する。魔力とは違う未知の力を持っていると考えるのが普通だろう。

 

散々未知の国・ニッパニアの住民に狂言をまき散らし、悪態を付いた後に領地に戻ったこの愚かな領主は暫く不機嫌になり奉公人達や領民に当たり散らし、領地は荒れに荒れた。

 

そしてある日、事もあろうに偶々領地を訪れたニッパニア人の旅人を捕え、身ぐるみを剥いだ末に投獄したのだ。

 

拷問され去勢され、ボロ布を服の代わりに着せられたニッパニア人に同情するが、ただの下男である私にはどうにも出来ず、羽虫がたかる変色した野菜屑を彼に差し出す事しか出来なかった。

 

そして、転機は訪れた。

どの様にして察知したのかは不明だが、行方不明になったニッパニア人を探し当てたニッパニアは、異形の鎧虫でこの領主館を包囲したのだ。

 

去勢されているとはいえ、生きて返せばまだ良かったものをあの男は、ニッパニアの兵士の前に彼の生首を投げつけ、はした金で解決しようとしたのだ。

 

私は、この後に起こる事を察し、領主館の隠し通路を使って、領主館から少し離れた場所まで音を立てずに駆け抜けた。

 

私があの館から避難するまでに事は終わっていた。遠目からでもわかる程に領軍の兵士の死体の山が積みあがっていたのである。

 

意外な事に、ニッパニア軍は領主館で働いていた奉公人までには刃を向けなかった様で、後日領主館から逃げ出した下男下女と再会した。

 

恐らくすぐにもザーコリアとニッパニアは戦争を始めるだろう。

我々がザーコリアに破壊工作を仕掛けずともこの国は終焉を迎える筈だ・・・完全に自滅である。

 

ザーコリア人など一人残らず死に絶えれば良い、しかし、短い間ながらも共に働いた奉公人は憎む事は出来なかった。友と呼べる者も出来たし、私と似たような境遇の者も居たのだ。

 

領地を離れる前に幾らかの旅費を渡し、彼らを国外へ逃がすと、我々は首都から少し離れた高台の小屋へ潜んだ。

ザーコリアに潜んでいた間諜はそれなりに多く、一か所に集まると大所帯である。

 

 

ザーコリアの先遣隊が出撃し、ゴルグガニアへ進軍を開始したと思えば、たった数日で返り討ちに遭い、逆にニッパニア軍に包囲される事となった。

 

常識では考えられない進軍速度に我々は驚き、そして全てを焼き尽くす破壊の力に言葉を失った。

 

轟音と共に放たれ、ザーコリア軍の戦列を引き千切る爆炎と、短槍と思われる武器から放たれる白い閃光に次々と兵を打ち取られて行く。

 

そして、大分離れている場所に潜んでいた鎧虫から、火を噴きながら飛翔する大槍が無数に放たれたのだ。

まるで流星群の様に尾を引きながらザーコリアの首都へ美しい曲線を描き降り注ぐ大槍は、今まで見た事も無いような規模の大爆発を起こし、ザーコリアは火の海になった。

 

・・・いや、正確には語弊がある。ニッパニア軍の精密無比な破壊の力は、兵舎や倉庫のみを的確に狙い、それ以外の施設には被害を及ぼさなかったのだ。

 

だが、錯乱した住民によって火が放たれザーコリアは瞬く間に火の海に沈んだ。

 

火が広がる前に上空を旋回していた羽虫から降りて来たニッパニアの兵はその光景に呆然とし、少し間をあけて我を取り戻すと何かを探すように王城へ散らばっていった。恐らく王族や貴族の身柄が目的であろう

 

 

嗚呼、街が燃えている・・・何と美しい・・・。

 

私は、あの時笑っていたのだ・・・。

 

やはり、私はあの国の人間の血を引いているのだろう・・・この光景を見てその様に感じるとは。

 

 

あの時、赤々と燃え続けるザーコリアを眺めながら私は思った。ニッパニアは強大な力を秘めている、それもこの大陸の国全てを滅ぼしてしまえる程に・・・。

 

あの力は危険過ぎる・・・しかし、敵国の住民を火災から守るために避難誘導を始めると言うのはどういう事なのだろうか?

 

ザーコリア人を助ける行動に私は苛立ちを覚えつつも、それがとても尊い姿に見えたのであった・・・・。



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第103話  観戦武官と間諜の分析

土煙を上げながらひび割れた荒野の大地を走り続ける輸送トラック。

ザーコリアとの戦闘を終えた自衛隊は、観戦武官を乗せて日本ゴルグ自治区へと帰路に就くのであった。

 

『・・・・ニーポニアは・・・本当に一体何者なのだろうか?』

 

『あれ程の威力の魔法を操りつつ、その身に魔力を宿さない民・・・。』

 

『この鎧虫といい、あの羽虫といい、彼らの持ち込むものは何もかもこの世界の理から外れた物ばかりだ。』

 

トラックの荷台に乗り、ザーコリア戦を観戦していた彼らは日本の戦い方と彼らの兵装の考察をしているが、彼らの常識とあまりにもかけ離れた戦闘を見せられ、混乱し過ぎて正確な評価が出来なくなっていた。

 

『そもそもあれは本当に魔法だったのだろうか?』

 

『!!』

 

一人の観戦武官が呟くと、周囲がざわめく

 

『い・・・いや、確かに魔力は感じなかったが、あのような現象は魔法以外に考えられないぞ?』

 

『考えても見ろ、ニーポニアはこの大陸に訪れた時、魔石や魔道具の存在すら知らなかったのだ。そうなると、魔法以外の何かの力であれらを動かしているとしか思えん。』

 

『では、一体なんだと言うのだ?』

 

若い武官が問いかける。

 

『わからん、だが彼らの持つ装備の数々が無数の細かい部品の集合体と言うのは間違いないだろう。』

 

『つまり、どういう事だ?』

 

『縄引きの城門や投石器などの魔素を使わない、からくりの類なのだろう、それも我々の想像もできない次元に昇華された加工物だ・・・。』

 

観戦武官たちは唸り、魔法関係の技術ではない未知の技術に思考を巡らせる。

 

『投石器は確かに魔素を使わないが、それでもあれ程の攻撃力は無い、そもそも儀式級の魔法でもあれ程の火柱を上げる事は出来ないだろう。』

 

『問題は儀式と言う手順を踏んで引き起こす現象よりも更に強力な力を飛翔体に詰め込み、投石器よりも遥か彼方へ投射する技術だ、これに関して我々は構想すら練られていない。』

 

『油に浸した布に包み火をつけて投射する岩石弾の様な物ならば、既に配備されておりますが、敵の施設を炎上させることは出来ても、粉々に破壊すると言うのは流石に・・・。』

 

『爆散するように印を刻んだ魔石を投射する物もあるぞ?最も実戦に使用できるような大きさの魔石は魔術師部隊に回される事が殆どだがな。』

 

『どの道、あれ程の力を見せつけられては、ニーポニアを敵に回すなど愚かな考えに至る者は居ないだろうな・・・。』

 

 

彼らの考察は、日が明けるまで続いた。サスペンションが効いているとはいえ、余り整備が進んでいない凸凹道で車体が大きく揺れるのも関係しているが、日本とザーコリアの戦いの光景が目に焼き付いており、その余韻と興奮が彼らの睡眠を妨げる一番の原因であった。

 

 

 

 

 

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一方、未だに煙を上げ燻り続けるザーコリアの首都にて

 

 

『ぐっ・・・何という事だ、これがニッパニアの力だと言うのかっ!?』

 

『化け物どもめ・・・。』

 

日本の出方を伺う為に城門付近に潜んでいた間諜は、盛大に砲撃の余波に巻き込まれ、多くの人員を失っていた。

 

『そもそもあれ程分厚い城門を簡単に瓦礫の山に変えてしまう破壊力は一体何だと言うのだ!?』

 

『・・・城門の外から監視していた者によると、火を噴く鎧虫の火炎弾がほぼ同時に城門に着弾し、あれ程の被害をもたらしたそうです。』

 

『・・・一撃では無かったという事か、しかし音が一つしか聞こえなかったところを見ると、そんじょそこらの魔術師部隊よりも訓練が行き届いているな。』

 

『厄介な連中が現れたものだ、もし連中がこの周辺まで手を伸ばして来たら一たまりも無いぞ?』

 

『ニッパニアに攻め込まれては、我が国の戦力では抗いようもない。見ろこの光景を、あれはもはや戦闘と呼べるものでは無い。』

 

木造の建物は元より、丈夫な石造りの建物も木っ端みじんに吹き飛ばされており、大火災の後には原型をほとんど残さない黒焦げの枠組みと瓦礫の山が残されていた。

 

『火を噴く鎧虫、鎧すらも穴だらけにする魔法の杖、上空から兵士を降ろし自らも熱線を吐く羽虫、そして崩落の流星・・・。』

 

『どれ一つ取っても国が滅びかねない脅威だ・・・一体どうすれば・・・。』

 

間諜達は日本の一方的な虐殺に等しい戦闘に恐怖を覚えていた。

 

『いや、連中が最初から武力で訴える事は無いだろう、ルーザニアに潜んでいた奴らによると、何度か文章による抗議するをするだけで、ルーザニアを攻撃したのはルーザニアが本格的に戦争準備を始めた辺りからだと言う話だ。』

 

『成程、思ったよりも理性的な国なのだな。あれ程の力があると言うのに不思議なものだ。』

 

『いや、まだまだ安心は出来ないぞ?彼らと友好を結んだ国は大きく発展してはいるが、彼らの影響力が大きすぎて主要な道の整備などは殆どニッパニアが行うほどになっているらしい。』

 

『何だと?・・・それは・・・それでは、武力を使わない侵略そのものではないか?』

 

『友好的に装いつつ、気が付けば取り返しのつかない状況になっていた・・・か。』

 

『ニッパニアに依存した経済・ニッパニアの力なしにはいられない形に国を作り替えられてしまうという事か、これは脅威だな。』

 

深刻な表情で俯く間諜達、しかし比較的若い者が声を上げる。

 

『待て待て、あまりにも悲観的に過ぎるぞ?確かに脅威的ではあるが、上手く付き合えば我らは大きく発展できるかもしれないのだぞ?警戒はしなければならないが、確たる証拠もなく危険視するのは早急だ。』

 

『・・・そうだな、何にせよニッパニアに関する情報を集めなければ。』

 

『恐ろしい国だ、付き合い方を間違えれば国ごと業火に焼かれるか、気づかぬうちに骨の髄までしゃぶりつくされるか・・・。』

 

『どの道我らが出来る事はたかが知れている。だが、抗うだけ抗うさ』

 

 

異世界から現れた未知の国日本、その勢力がゴルグから遠く離れたザーコリアにまで及び、一方的に首都ごと叩き潰される。この出来事はザーコリア周辺国を色めき立たせるのに十分な衝撃をもたらしたのだ。

 

そして、彼らは日本の実力を正確に測るために、日本と蜜月の関係を築くために、日本の弱点・弱みを知るために、それぞれの目的を持って日本ゴルグ自治区を目指すのであった。



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第104話  混沌と希望の渚

『おらっ!さっさと次の場所に移れ!死にたいのか?それとも・・・殺してやろうか?』

 

『ぎひぃ・・やめ・・わがりましだ!・・・殺さないでください!』

 

無心に鶴嘴を振るい、砕けた石を荷車で運び出し、ろくに水分すら取れず次々と倒れて行く奴隷たち。

 

人攫いによって奴隷にされた者や借金のかたに売り飛ばされた者、騙されて奴隷に堕ちた者など経歴は様々だが、ここ最近になって奴隷の数が急激に増えた。

 

そう、日本との戦争で壊滅したザーコリアの住民たちが街を捨てて逃げ出したときに、周辺諸国の軍や人攫い組織に拉致され、奴隷化されたのである。

 

『ぜぇ・・・はぁ・・くそっ、こんな筈じゃ、あの糞国王がっ・・・・』

 

怨嗟の声を上げながらボタ石が満載された荷車を引き、鉱山の出入り口まで歩いて行く