大有双 (生甘蕉)
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0.5
1話 一刀


オリ主の出番はまだ先です
今回は一刀視点


 俺は北郷一刀。

 修行神ワルテナの使徒をやっている。

 女神ワルテナの名は俺の恩人がつけた名で、前の名は捨てたらしい。

 

 修行神というのは修行を司る神様ではなく修行中の神様で、俺の仕事はそのお手伝い。

 なんだけど、他の使徒やそのファミリアが強すぎて俺のやることはほとんどなかった。

 ファミリアってのはやはり修行神の手下で、使徒が契約した部下かな?

 俺も以前はファミリアだったんだけど、強力な武器や合成によるパワーアップ、それに予言神の神託もあって使徒になった。まだ、仲間(ファミリア)はいない。

 

 俺の武器は『ゲキリュウケン』。相棒でもある。

 ワルテナの使徒のアーチャーが俺のために用意してくれた魔剣だ。

 アーチャーは皮肉屋だが頼りになる。料理も上手い。

 前は俺が彼のファミリアだったらよかったのにと思うこともあった。撮影が忙しくてあまり会えないんだけどさ。

 

『一刀、人間同士の争いに力を貸すのか?』

 ゲキリュウケンが俺に問う。

 この剣は魔物と戦うために自ら剣となった戦士らしい。戦いの経験も豊富でアドバイスも的確だが、ちょっと口うるさい。

 そんなに俺、頼りないか?

 俺の前の持ち主が正義のヒーローだったんで、そいつと比べられてるのかもな。

 

「違う、人助けだ。俺がやるのは救出だけだ」

 戦場には紛れ込むつもりではあるが、積極的に参加するつもりはない。

「戦争にどっちが正義かなんてないんだしさ」

 俺が今いる()()は大きな戦争が起きている。できれば止めたいが、いくら神の使徒といえども俺とゲキリュウケンだけではそんなことは不可能だろう。

 

『一年戦争か』

「ああ……でもジオンだけが悪いってわけじゃないから」

 この世界は機動戦士ガンダムの世界らしい。

 アニメではジオン軍が敵役だったが、俺はジオンと戦うつもりにはなれない。

 ワルテナとは別の修行神の使徒、ヘンビットの影響だろう。

 彼は元は人間で、転生してエルフになって使徒になった……エルフというイメージからは想像できない逞しい筋肉とゴツいアゴを持つ男だ。

 ヘンビットは前世からジオン派でザクが大好き。俺にもその素晴らしさを力説してくれた。

 

 それだけではない。俺たちの使うアイテムを開発しているヴェルンド工房には転生者が多く集まり、参考資料としてガンダムや他のアニメを視聴していた。おかげで俺もオタクに片足を突っこんでいる。

 

 その時、もしガンダム世界に行くことになったらどうする? というのが話題になった。

 修行神の修行は異世界での救済。派遣先がアニメやゲームの世界によく似たところもあるらしい。

 かくいう俺もゲームの主人公キャラだと聞いた。ギャルゲー主人公というのはちょっと信じられないけどな。

 

 一番の資料になったのは俺の恩人が渡してくれたゲーム、ギレンの野望だ。

 彼はワルテナともヘンビットのとも違う修行神の使徒、煌一さん。

 ぬいぐるみにされた俺を人間に戻してくれた男だ。嫁さんがとても多いが、あんなにたくさんいるのに美少女ばかりで熟女がいないから別に羨ましくはない。

 

 俺は予言神の神託により、彼の担当世界の救援をすることになった。

 その世界はスーパーロボット大戦の世界だったらしいが詳しいことがわからないまま、その世界に行ってすぐに戦いになる。

 直接戦うことはできなかったが、俺をぬいぐるみにした宿敵ともいえるやつのロボットと煌一さんたちが戦っている最中、大きな爆発があり、気がつくと俺はこのガンダム世界にいた。

 

 どうやら、別の世界に跳ばされたようだ。

 煌一さんたちやワルテナとも連絡がとれなくなり、本拠地や拠点にも帰れなくなっている。

 

 で、さっきの話で出てきた一年戦争でしたいこと、だけど。

 

 

 キャスバル・レム・ダイクンの身代わりに殺された本物のシャア・アズナブルを助ける。

 ――無理。俺がこの世界にきた時に既に彼は死亡していた。

 

 テム・レイが酸素欠乏症になる前に救出する。

 ――これも無理。さっきガルマ・ザビの国葬をTVでやってたから、もう酸素欠乏症になってるはず。ワルテナが持たせてくれたアイテムで治療できるといいけど。

 

 マチルダ・アジャンを救出する。

 ――助けたいな。美人だもんな。ウッディ大尉と婚約してるのが残念でならない。黒い三連星からどうやって護るかが課題だ。

 

 クラウレ・ハモンを救出する。

 ――絶対に助ける! ……美人だけど内縁の妻かあ。ランバ・ラル隊を支援すればホワイトベースを落とせる、ってヘンビットたちが力説してたけど、そこまですると完全にジオンに協力してることになっちゃうから、しない。決してハモンさんを未亡人にしたいからなわけじゃないぞ。

 

 ミハル・ラトキエを救出する。

 ――ホワイトベースから落ちたとこを回収。ゲキリュウケンと強化アイテムのマダンキーを使えば俺は空も飛べるけど……できるのか?

 

 トップを救出する。

 ――小隊長なのにザクIを使っていた彼女は偉い。絶対に助けなきゃ! とヘンビットが以下略。ホワイトベースをマークしてると第08MS小隊の舞台は遠いんだけど。

 

 ケルゲレン子を救出する。

 ――本名は不明らしい。やはりホワイトベースとは距離がありすぎるのが問題だ。マーキングとポータルをうまく使えば距離の問題はなくなるけど、ホワイトベースは移動してるから面倒なんだよな。

 

 

 

 なんだか女性キャラ救出ばっかりだ。

 あ、バーニィも助けなきゃな。スパロボだとザクフェチらしいから。

 サイクロプス隊も全員助けて戦力にする、ってヘンビットたちは言うだろうけど……。

 他にも助けろって軍人多かったけど無理だ。戦争に加担したくはない。

 

「行くのかい?」

「ああ。地球に出たっていう怪獣も気になる」

 ベッドにシーマを残していくのは、すごい後ろ髪を引かれる。

 

 彼女も俺の恩人だ。

 シーマ・ガラハウ。

 ジオン軍の美熟女将校。

 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYの()()()()

 ジオン公国軍海兵隊艦隊代理司令官で、この世界にきた時いきなり宇宙空間に放り出されあわてて魔弾スーツを装着して宇宙を漂ってた俺を拾ってくれた。

 0083では悪役にされちゃってるけど、部下には慕われているしファンからの人気は高く通称はシーマ様。

 

 ちょっと尋問もされたけど、部下思いのいい人だ。

 保護というか、不審者として監視下におかれてたんだけどさ。

 なんか気に入られたみたいでね。

 汚れ仕事ばかりやらされてるせいか、不信感のある上層部へは俺のことを秘密にしてくれた。

 

 彼女はジオン軍の行った毒ガス作戦に参加し……それがトラウマになっていて悪夢をよく見る。

 睡眠不足にもなっていたみたいなので、ちょっと膝枕してあげたらグッスリ寝てくれた。

 そのせいで俺は抱き枕としてシーマのおやすみアイテムの1つとなり、いつの間にか、もっと深い関係にもなってしまった。

 

 

「あいつらには見つかるんじゃないよ」

 あいつら、とはシーマの部下の海兵隊たち。シーマを慕っており、よく俺にヘッドロックしながら「シーマ様を頼むぞ」と言ってくる厳ついおっさんたちだ。

 俺がここを離れるなんて知ったらきっと止めてくるだろう。物理的な手段で。

 

「悪夢が辛くなったらいつでも呼んでくれよ、シーマ」

 シーマには予備のビニフォンを渡してある。これがあればマーキングとなっていつでもポータルが開けるだろう。最新型は稼働時間も長いからたまに会いにきてMPをチャージすればいい。

「これでかい? こんなオモチャでそこまでの性能があるとはねぇ……」

 問題はその外見。煌一さんがくれたんだけど、魔弾戦記リュウケンドーに出てきたショットフォンなんだよね。携帯とSHOT隊員証、魔物レーダーを兼ねているアイテム。

 最新型ビニフォンは立体映像を表示できるし、それへのタッチ操作だけじゃなくて思念操作もできるからどんな形でもいいとはいえ、このオモチャっぽい外見なんとかならなかったの? ゲキリュウケンとはマッチしてるけどさ。

 

「俺の言ったことはよく覚えておいてくれ」

「ジオンが負けて、海兵隊ごとアクシズへの撤退を拒否されるってやつかい。ジオンの悪事を全部おしつけられて……あいつらならやりかねないねえ」

「ああ。できればそうなる前に軍を離れた方がいい」

「行くあてなんかないさね。故郷もコロニーレーザーにされちまうんだろう?」

 彼女や海兵隊の出身コロニー、マハルはソーラ・レイに改造されてしまう。帰る故郷を失うのだ。

 

「それなら俺が面倒を見るよ」

「一刀と契約しろっていうのかい? まるでプロポーズだねぇ。軽々しくそんなことを言うもんじゃないよ」

 契約。シーマは魔法少女に……ではなくファミリアになれる素質があった。

 当の俺が言うのもあれなほどに胡散臭い話なのだが、初めて会った時に契約空間に入ってしまって、それで俺の言うことを信用したようだ。

 

「悪いが部下がいるんでね。一緒に人類史上最大級の民間人虐殺をした仲さ。あたしだけが幸せになるなんてできないのさ」

「シーマ……もし、海兵隊のみんなも面倒みれるようになったら」

「あいつらも嫁にするつもりかい?」

「おっさんは無理! じゃなくて、居場所を用意できたらその時は考えてくれ」

「そうだねぇ、ファミリアでも嫁にでもなってあげようさね」

 全く信じてくれてないな、これは。

 それもそうか。海兵隊の人数、多いもんな。

 

 

 

 リュウケンドーに変身してシーマ艦隊を抜け出し、召喚した獣王サンダーイーグルと合体、サンダーウイングリュウケンドーになって地球を目指す。

「退屈だな」

『先は長いぞ、一刀』

「単調すぎて眠くなってくる」

『少し休め』

 宇宙空間を飛ぶのって最初は感動したけど、もう飽きてきたよ。

 俺はゲキリュウケンの指示に従って休憩をとることにした。サンダーイーグルも休めたい。

 

 ヴェルンド工房の技術力は凄まじい。

 半信半疑だったが宇宙でも仮設トイレが使えた。魔法で中の空気が外に逃げないようにできているらしい。水中でも使える。海神の強い要望により追加された機能だそうだ。

 これのおかげで地球へ行くことを決意した。ゲキリュウケンがこれに気づかなかったら、もっと先送りになっていただろう。

 便座に腰かけてスタッシュから食事を取り出す。便所飯だが仕方ない。仮設トイレは非常に清潔で匂いもないから気にならない。

 

 ゲキリュウケンとマダンキー、それにこの仮設トイレにもMPをチャージして睡眠をとる。

 時間になるか、仮設トイレになにかが接近したらゲキリュウケンが起こしてくれるだろう。

 ……シーマもちゃんと眠れてるといいんだけどな。

 

 




この一刀はオリ主によって、熟女のみ大好きに改竄されています


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2話 READY?

オリ主の出番はまだ先です
今回はヨーコ視点

以前に活動報告にあげたものとほとんど同じです


「えっ?」

 目の前の状況に混乱する。

 焦げたにおいをさせて男が倒れていた。そして、その周りに驚いた表情を見せる戦友たち。

 

 ……戦友たち?

 なんで彼らがいる? それにここは?

 頭を振って混乱を振り払う。

 今はまず状況を整理しなければ。

 

 

 あたしはヨーコ。

 元は『天元突破グレンラガン』というアニメの登場人物の人形(フィギュア)だったらしい。

 それがとある使徒の能力で人間になった。

 

 ふざけた話だが真実のようだ。

 人形に戻るのも嫌だったので、その使徒のファミリアとして契約。協力している内に彼と結婚することになってしまった。流されたという自覚はある。

 

 その後もいろいろあって彼の担当する世界の救済にむかい、グランゾンというロボットと戦っていたはずだけど……この状況は……失敗したのかしら?

 

 

「おい、キタン!」

「だ、だいじょうぶか?」

 倒れている男を戦友たちが心配している。

 戦友たち――双子の巨漢ジョーガンとバリンボー、職人肌で口数の少ないマッケン、煙草を咥えてガラの悪いゾーシィ、すばしっこいキッド、ちょっとすかした二枚目のアイラック、責任感の強い少女ダリー、その双子の兄ギミー。奥に座っているのはマッケンの奥さんでメカニックのレイテ。

 そして、倒れているトゲトゲした金髪の男はキタン。

 

 みんなグレンラガンの登場人物だ。あたしは夢でも見ているのだろうか?

 それともあたしのように、夫がみんなを人形から……?

 

「どうなってるの?」

「ヨーコの首からバリバリーっと雷みたいなのがキタンにとんでった」

 言われて自分の首に手をやる。指先に触れるチョーカー。嫉妬深く独占欲の強い夫がつけた貞操帯。夫以外の男性が過剰なスキンシップをしようとすると攻撃をする機能を持つ。

 あたしたちを信じてると言いながら、その夫によって機能は度々強化されている。

 彼が言うには「ゼウスみたいなのがいたら危険だから」らしい。

 

 チョーカーが発動したということはキタンがあたしに不埒なことをしようとしたということだ。

 はっとして周囲を見回す。

 薄暗い照明でわかりにくいが、ここは……。

「超銀河ダイグレン……」

 そうだ。キタンがあたしにそんなことをしたのはたったの一度だけ。彼の最後の直前。

 

「い、いってえなにが……?」

 目を覚ましたキタンがあたしを指差した。懐かしい声で発したのは驚愕の台詞。

「ヨーコが縮んじまった!」

「なによ、縮んだってのは!」

「だって、なあ」

「服も昔のだ」

「昔のだ」

 ジョーガンとバリンボーの双子も顔を見合わせる。

 ……どっちがどっちだったかしら?

 

「しゃあないやろ、こん場面でのヨーコ姐さんはもっと育っとんはずやし」

「真桜!」

 声をかけてきたのはあたしと同じく使徒のファミリアとなった少女。

 

 あたしは超銀河ダイグレンに乗っている時はもっと成長していた。真桜の言うことは正しいわね。今のあたしは戦友たちにしてみれば7年前の姿なのだから。

 

 見慣れない人物の出現に戦友たちがざわめく。

「誰だおま……なっ! ヨーコ級だと!?」

「今のヨーコよりデカいんじゃないのか?」

「どこを見てんのよ! 彼女は真桜。あたしの仕事仲間」

 本当はそれだけではない。真桜もあたしと同じく使徒の妻となっている。

 つまり、同じ夫を持つ妻仲間よ。

 あたしの方が先に彼と結婚したので、真桜はあたしのことを「姐さん」と呼んでいる。

 

「ここがグレンラガンの世界ならウチも見たいもん多そうなんやけど、今はそないなこと話しとる場合やないやろ?」

 真桜もグレンラガンを全話観て劇場版も鑑賞済みだからそんな結論になったのね。

 彼女は機械関係が大好きなメカニックで、自分自身もドリル槍を武器にしてるからドリルガンメンのグレンラガンを調べたいのだろう。

 

 けれどキタンの状態を考えるに、現在この超銀河ダイグレンは危機的状況に陥っているはず。

 銀河螺旋海溝のデススパイラルマシーンを破壊できなければこの艦は沈む。

「そうだったわね。キタン、あんたのスペースガンメンちょっと借りるわよ」

 スペースガンメン用の超螺旋弾を使うにはあたしのバルキリーじゃ小さすぎるのよ。それこそマクロス級でもまだ足りないわ。

 

「なっ、どういうことだよ!」

「あたしなら死なずに戻ってこれる」

 言いながら、夫が聞いたという宣託神(ポロりん)の言葉を思い出す。「心残りと遭遇するだろう」との予言はこのことだったのね。

 

 まだチョーカーの攻撃による痺れが抜けず満足に動けないキタンを残し、あたしはキングキタンのコクピットへ。

「時間があればGXギア対応にしとくんやけど」

「デススパイラルマシーンぶっ壊してる間にあたしのガンメンをそうしておいて」

「了解や!」

 スタッシュからあたしのGXギアを取り出して真桜に渡した。スタッシュホールを見てキタンたちが驚いているわ。

 オリハルコンを使用したGXギアを使えばスキルや(アーツ)は使いやすくなる。それはガンメンでも変わらないだろう。元々、あたし専用のGXギアは操縦桿の形もガンメン仕様にしてもらってるしね。

 開発や整備のスキルレベルの高い真桜の腕なら短い時間で改造してくれるわ。

 

 

 ◇

 

 

 超螺旋弾を搭載したキタンのスペースガンメン『スペースキングキタン』でデススパイラルマシーンに向かう途中でふと気づく。

「これは……SR?」

 スペースルックverと書かれた1枚のカードがあたしの胸の谷間に挟まっていた。ファミリアカードか。

「この世界のあたしね。……ここはまかせて。絶対にみんなを死なせないから!」

 異世界のあたしに誓ってから、カード収納機能も持つ結婚指輪にしまった。収納空間(スタッシュエリア)と違ってそこからなら外の様子が見れるでしょ。

 

「あ、ごはんの用意も頼んどくんだったわ」

 ため息まじりに呟いて、スタッシュからあるものを取り出す。こんな時のために夫が用意していてくれたアイテム。

「まさかこれを使うことになるなんてね」

 苦笑しながらその大きめなコンパクトを開き、同じく収納空間から取り出した緑色のデコルをセット。

 

『READY?』

 そのコンパクト、スマイルパクトからの始動音声に合わせてあたしも変身の言葉を発する。

「プリキュア、スマイルチャージ!」

『GO! GO! GO! Let's Go March!』

 スマイルパクトが跳ねて光を振りまいていく。

 

 最後にパフを使って変身はおわった。

 座席に座りながらなのによく変身できると我ながら思うわ。

「勇気凛々、直球勝負! キュア……っと、そこまでの名乗りはいいか」

 あたしはキュアマーチそのものではないのだし。こんなことなら名前も考えておけばよかったわね。

 キュアスナイパー、それともキュアヨーコ?

 

「ヨ、ヨーコさん、その格好は?」

「やばっ! なっ、なんかカメラの調子が悪いみたいね」

 ダリーの通信で慌ててコクピット内のカメラを殴って破壊する。この姿のあたしなら素手でも余裕。手も傷めない。

「まいったわね、見られちゃったか」

 まあ、こっちのあたしの年齢でこの格好(プリキュア)よりはマシか。なんの罰ゲームかって話よね。

「っと、そろそろね。気合入れないと!」

 バシンと両頬を叩いてから練気(チャージ)を始める。

 変身して能力の上がったあたしの技をくらいなさい!

 

 

「うおぉぉぉぉー!」

 あたしが貫通効果をこめた技による超螺旋弾で螺旋変換フィールドを破壊、その後に放ったヨーコシュートの乱れ撃ちでデススパイラルマシーンを撃破することに成功したわ。

「すげえぜヨーコ!」

 音声のみの通信による歓声で慌てて変身を解除する。

 

「ふう……お腹空いたわね」

 あの姿の欠点の1つに燃費の悪さがある。夫いわく「なおちゃんは腹ペコキャラだから」なせいかもしれない。いや、きっとそのせいだろう。夫がそう設定したに違いない。

 

 

 ◇

 

 

 あとはグレンラガンのストーリーとだいたい同じ。

 精神防壁スキルを持つあたしと真桜にはアンチスパイラルの罠が効かなかった。夫の用意した貞操帯(チョーカー)の効果も大きいかもしれない。離れていても護ってくれてるのね。

 

 クライマックスではキングキタンまで天元突破したりしたけど、ほとんど記憶と同じに戦いは終わった。戦友たちが無事に生き残ったからここはあたしの記憶にある世界とはちょっとだけ違う。劇場版の世界なのかもしれないわ。

 

 

「ヨーコさん、ごめんなさい……」

 あたしの回復魔法で治療中のニアが謝る。自分が完治しないことをあたしに悪いと思っているようだ。

「もういいのです」

「なにを達観してるのよ! あたしは諦めてないんだから!」

 アンチスパイラルの消滅によって、彼らに造られたニアも消え去ろうとしていた。

 エリクサーも効かなかった彼女は諦めてしるのかもしれないが、あたしはそれをくい止めたい。たぶんこれも心残りなのだろう。

 

 カミナの死を防げる場面でなかったのは、2面で元気なカミナに会っていたからだろうか?

 それとももしかしたら、焼きもちやきの夫が会わせてくれなかったのかも。

 

「真桜、煌一とはまだ連絡つかないの?」

「まだや。なんとかこっちの通信機とビニフォン繋ごうしとるんやけど、他の世界まで届いとるんかわからへん」

「そう……」

「まあ、その方がヨーコさんたちの?」

 夫の名にニアが目を輝かせる。自分の消滅が近いというのに。

 

「ええ。使徒ってのを仕事にしてるわ」

「ヨーコや真桜だけじゃなくて他にも嫁さんいるんだろー? 兄ちゃんが会ったらそいつ絶対にぶん殴るぜ」

 いつの間にかキタンの末の妹のキヤルが混じっていた。

「カミナも似たようなことしたらしいわね」

「カミナさんと会ったというのも信じられません」

 ダリーまできたのね。

 キヤルもダリーも女の子らしくこんな話は好きだものね。

 

 治療のはずが女子会になってしまったけど、かまわないわ。ニアが少しでも生きたいと思えるように夫との惚気話を大盛りで話す。

「その方に会ってみたいですわ」

「会えるわよ」

 煌一と会えればニアは助かる。

 夫の固有スキル〈成現〉(リアライズ)を使えば、ニアの設定を改竄して消滅しないようにできるんだから。

 

「だいじょうぶや、ヨーコ姐さん。隊長はきっと間に合う。悲しい話は大嫌いなお人やからな」

「そうね。間に合わなかったら泣かすわ」

 でも煌一なら間に合わなかったと知ったら勝手に泣き出すわね。

 間に合っても嬉しさで泣きそう。

 

 じっと結婚指輪を見つめる。こういう時に役立つって言っていたのに……!

「真桜! 指輪よ!」

「え? ……あ!」

 ニアのことばかりですっかり失念していたわ、この指輪の機能。真桜もガンメンのスキャンに夢中で忘れていたみたね。

 急いで結婚指輪を変形させる。大きな宝石、プシュケーハートが現れ、その真の力を解放する指輪。

 さらにスワップアプリでGXギアを着装した。

 

「またヨーコさんが変身した?」

「GXギアはな、サウンドエナジーシステムも内蔵しているんや」

 あたしのGXギアと通信機をケーブルで繋ぎながら真桜が解説する。

 

「サウンドエナジーシステム?」

「歌の持つ不思議な力を強化すんスゴイ機械や!」

 稼動させるには強い歌エネルギーが必要なんだけどね。……あたしはまだ稼動させたことはない。

 

「すっげーな、それ! けどよ、歌ならオレもちょーっとすげーぜ」

 親指で自分を指差すキヤル。

 煌一に見せてもらった漫画版グレンラガンでは、彼女はアイドル歌手になっていたわね。あの漫画では最終決戦でキングキタンをキヤルが天元突破させていたわ。

 

「そうね、キヤルにも手伝ってもらいましょ」

「せやな」

 真桜がスタッシュからサウンドエナジーシステムのジャケットを取り出してキヤルに装備させた。

 

「いい? 思いをこめて、歌うのよ」

「まかせとけって」

 煌一、早くきなさい。

 きてくれたら、あなたが見たがった裸エプロンをやってあげるから!

 

 



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3話 運命改変

オリ主の出番はまだ先です
今回はクラン視点


「あ、クランちゃんみっけ!」

「ちゃんではなーい! ……天和?」

 大きな胸をぶるんぶるん揺らしながらかけよってきた天和にいきなり抱きしめられた。

 お前はネネかっ! あいつも桃色の髪だったな。あと、おっぱいもこのぐらいで……。

 

「いったいここ、どこなのよ?」

「他の皆さんはいませんか?」

 天和の妹たちに質問される。

「むっ、むしろ私がききたいのだ」

 それと質問する前に天和から助けてくれ。

 

 気がついた時にはここにいた。

 さっきまでは全く違う場所(ダカン)戦闘(ガドラス)中だったのだぞ。

 まさか敵の攻撃による幻覚?

 いや、私の精神防壁(バドラ)スキルレベルと煌一の造ったこのチョーカーの(ガーマ)ならば、そんな攻撃をくらってたとしても、ここまで鮮明な幻にはならないはずなのだ。

 

 強制的に転位させられたと見るべきであろうな。

 これもあのグランゾンとかいうロボットの仕業か?

 ……いや、戦闘中は私はクァドランを操縦するために巨大(ゼントラーディ)化していたし、天和たちは離れた場所にいたはずだ。

 なにか別の要因か。

 

「これがアナザー華琳の言った失敗なの?」

「わからん。私たちは負けた(プレデ:ガンツ)のか……?」

 私のクァドランはどこへいった?

 あれは煌一が私のために用意してくれたのだぞ!

 

 まあいい、もう1人のわが妹――地和がアナザー華琳と言っていたな。私もそう呼ぶことにするのだ――は失敗した場合は、状況の把握と付近の仲間との合流と言っていたな。

 

 仲間たちへの連絡は天和たち姉妹にまかせて、まずは現在位置の確認をする(ウ:ケスト)としよう。ビニフォンと呼ばれる携帯端末(セルラー)を使ってマップアプリを起動させた。マップには地形だけでなく、各種情報も表示される。

「どうやら、ふきんには他のみんなはいないみたいだな」

 地図には仲間を示す文字やマークは表示されない。

「連絡もできないの。ビニフォンの通信先として選べるのはここにいる人たちだけ。アンテナは立っているのに」

 なんだと?

 地図の表示領域を広げようとして、現在位置の表示に驚く。

「B.J.グローバル?」

 今いる場所はそれらしい。

 

 

 B.J.グローバル。

 初代マクロス艦艦長ブルーノ・J・グローバルの名を持つマクロス級4番艦だ。

 なぜそのマクロス級の中に私がいるのだ?

 マクロス大好きな煌一がその無茶苦茶な固有スキルを用いて造り出した(プレメルケスザンツ)ものだろうか。

 

 方舟を用意しろとは予言されていた。だが、ここまで巨大なものを造るほどのMPやGPはなかったはずだ。

 だとしたらいったい?

 

 マップの縮尺をあまり変更せずに立体表示自体を大きくする。現在位置がマクロス艦の形となって、さらにそれがいる(ダルカーン)が映し出される。

「B.J.グローバルがいるのは……ガリア4か。なるほど」

 ビニフォンで日時を確認してみた。

「西暦2048年ってどういうことよ。ちぃたちオバさんになっちゃったの?」

 地和が青くなっているが、いきなり何十年と経ってしまったわけではあるまい。

 

 まさか時間まで跳躍したというのか?

 

「一番高いかのうせいは『マクロスF』の世界にきてしまった、であろうな」

「ふーん。煌一の担当がマクロスFの世界だったってこと?」

「ほら、あれじゃない? ポロりんのあの予言。心残りと遭遇するってやつ」

 心残りか。そんな予言もあったのだ。

 たしかに今からなら、その心残りを解消することもできるかもしれないが。

 

「……問題なのはここが2048年のB.J.グローバルだということなのだ!」

「たしか、マクロスFで出てきたバジュラの巣になっていた船ですよね」

「へー、ここが船の中? とてもそうは見えないねー」

 人和の補足に辺りを見回す天和。

 煌一の強い薦めもあり、()()みんなでマクロスFは全話、さらには劇場版まで観賞している。彼女たち3姉妹、数え役萬☆姉妹(シスターズ)は歌い手ということもあって特に熱心にマクロスシリーズを観ていたな。

 

「B.J.グローバルを旗艦とした第117次大規模調査船団……2048年にバジュラのしゅうげきによって、かいめつしているのだ」

「ちょ、ちょっとそれってヤバくない?」

「げきヤバなのだ!」

 超時空生命体(バジュラ)はフォールド細菌によるネットワークで特殊な知性を持っているが、こちらに保菌者がいない以上、意思疎通はできまい。

 いや、保菌者はいるのだが、そのせいでその人物を話の通じない人類から救おうと襲ってくるのだったな。

 

「でも、結婚指輪のプシュケーハートがあるよ。これはほーるどくおーつのすっごいバージョンなんだよね?」

 危機感が伝わってない天和はのん気だが、それでは駄目なのだ。

「むこうのプロトコルがわからん。フォールド通信でも会話などできぬのだぞ」

 結婚指輪には煌一の成現によって、超高純度の超空間共振水晶体(フォールドクォーツ)を超えるという超世界共振水晶体(プシュケーハート)が小さいながらも使用されている。

 

 フォールドクォーツは発生するフォールド(ウェーブ)をバジュラが感知できて危険なのだが、煌一はこれを作った時にバジュラに感知できないように設定してあると言っていた。

 ……だが、私たちが感知されなくてもこの艦が攻撃されてしまえば同じではないか。

 

「あ、あの人見たことあるよ」

 天和が指差したのは2人の男女。まったくこやつは……自分でふっておいて急に話を変えるな。

「今はそんな時では……オズマ?」

 

 オズマ・リー。S.M.Sスカル小隊の隊長。

 ゲイのボビー・マルゴと仲良しな上、部下を美少年で揃えている。

 そっちの趣味だとの噂も信じられそうな男だった。

 その噂を簡単に払拭できるぐらいにシスコンなのだがな!

 

「マクロスFの主人公の?」

 違う(デ:ダンツ)。主人公は早乙女アルトだったはずだ。

 煌一の言う、主人公はオズマでアルトはヒロイン枠、という説を信じている者も多いが。

 

「若いな。2048年ならとーぜんか。いっしょにいるのは……グレイス・オコナーではないか!」

 マクロスFの小説では2人の会話がもう少し続いていたら歴史が変わっていたとさえ……もしやここは、マクロスFでも小説版の世界なのか。

わかったぞ(エセケスタ)!」

「クラン?」

「なぜ私が2048年のB.J.グローバル(ここ)にきたか。全ての始まりである今でしかできんことがある。急ぐのだ!」

 あの2人が出会っている以上、時間は少ない。

 

「運命をかえるのだ!」

 なにが原因かなど、今はどうでもいい。

 

 

 ◇

 

 

「私の心残りはミシェルのことなのだ」

「2面のあの眼鏡ね。でもそれだけなら、バジュラと戦っている時に手助けすればいいんじゃない? なんで今なの?」

「それでは駄目なのだ。ミシェルが死ななくても、こっちの私と恋人どーしになれるとは限らないのだ」

 あやつが劇場版のマクロスFのミシェルならば私がなにもしないでもうまくいくだろうが、そうでなければ背中をおす必要がある。

 

「他の世界のクランが別の男と結婚してると知ったら……」

「焦って自分のものにしようとするんじゃない?」

 荒々しく私を求めるミシェル……うまくいけばこっちの私は喜ぶだろうがな。

 いやしかし、最初はやはりロマンチックな方がいいか?

 

「もしそれで、この世界の私がミシェルに嫌われたらかわいそうではないか!」

「クラン、まだあの眼鏡のこと好きなの?」

「……わからん。だが私の夫は煌一だ。それは確かだぞ」

「ふーん。ま、ちぃたちにはこれがあるから、浮気なんてできないんだけどね!」

 煌一がくれたチョーカー。私たちを守る防壁(バドラ)であり、貞操帯でもある。これがある限り、夫以外の男を近寄らせることはないだろう。

 

「だから浮気ではない! 幼なじみを助けたいのだ!」

「でもクランとくっつけるんだよね?」

()ではない! それよりもなぜお前たちまでここにいるのだ? なんの未練があるのだ?」

 こやつらはあの戦闘(ガドラス)時、私とは遠い(デルケ)、バトル級のブリッジにいたはずだ。私の未練に巻き込まれたのではあるまい。

 

「バサラと勝負するのよ!」

 どこかを指差す地和。

 そこにバサラがいるわけもないだろうに。

「バサラはほーろーの旅をしてるころだろう」

「くっ、じゃあシェリルは?」

「まだ小さい」

 むっ。シェリルの両親を救うこともできるかもしれんな。彼女の両親が殺害されたのはいつだったか?

 

 考えていたらうるさい(ザーン)が鳴り響きだした。緊急事態を告げるサイレンだ。

「な、なに?」

「バジュラが攻めてきたのだ。お前たち、自分の身は自分で守るのだぞ!」

「あんたはどーすんの?」

「グレイスを保護する!」

 ミシェルの死の遠因でもあるグレイスに思うところがないわけではないが、()()ではない。劇場版ではそこそこいいやつだったし。

 ここで、彼女を助けて煌一の言うところの、きれいなG、にするのだ!

 

 

 ◇ ◇

 

 

「なぜ邪魔をしたの。あなたちのせいで!」

「あれ以上研究ブロックにいたところで、なにもできまい」

 結局ついてきたシスターズとともにグレイスの保護に成功した。正確には捕獲(ギルツ)だったが。

 そして、スタッシュから出した宇宙船で脱出したのだ。グレイスも一緒だ。

 スタッシュの大型化と、ついでにこの船を煌一からもらっておいて正解だったのだ。私にピッタリだとあやつも言っておったが、気に入っている。

 ……煌一はもしかしたら本当にマクロス級も用意できるかもしれんな。

 

「大事な研究結果があったのよ」

 諦めがついたのか、それとも天和たちの回復魔法で治っていく自分の火傷に興味をひかれているのか、彼女の口調はおとなしくなっていた。

 

「死にたかったのか? あのままでは死んで……いや、そうはならなかったか。貴様は自分のインプラント・ネットワーク理論を自分の身で証明することになっていたのだぞ」

 小説版ではグレイスはあのまま研究ブロックで助からない重傷を負い、ギャラクシーの連中によってインプラント・ボディに意識をダウンロードされて、今の身体は焼かれてしまうのだ。

「……それも悪くはなかったかもしれないわね」

「キスしたこともなかったのに、自分の身体を失ってもよかったのか?」

「な!」

 この女でもこんな表情をするのだな。耳まで真っ赤になっているのだ。

 図星ということはやはり小説版の世界な可能性が高いな。

 

「さっき公園で会っていた男が気になるんだろう?」

「……あなたたちはいったい何者?」

「はぐらかそうとしても無駄、まだ顔が赤いよー」

 天和め、ここはカッコよく名乗る場面ではないか。

 自分の興味を優先させるとは。

 いや、私も気になるがな。

 

 運命が変わっていたかもしれないと小説ではいわれてたな。オズマとくっついてもらえば……キャシーはどうするのだ? キノコ頭から守るぐらいしかできん。

 もう少し計画を煮詰める必要があるのだ。

 時間もかかりそうだ。

 しばらく煌一たちとは会えないかもしれないな……。

 

 

 ここにはいない義妹たちを思う。

「華琳とヨーコは無事だろうか……あいつらなら心配はいらないか。なんたってこの私の妹なのだからな!」

 手近な惑星か移民船団を探しながら、わが宇宙船、XGP-15A2アウトロースター号が銀河を征く。

 

「アウトローはないよねー」

「スターはいいのに」

「じゃあ、トップスター号?」

 いつの間にか、船名を変えられてしまった。

 一番星(トップスター)などまるでデコレートされた運送船ではないか!

 

 ……しばらくは運送業で生活費を稼ぐのもありなのだ。

 

 




クランの台詞に平仮名が多いのは仕様です


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4話 勇者王死す!

オリ主の出番はもうちょい先です
今回は梓視点


痕のネタバレがあります


 おかしい。

 妹たちの様子が変だ。

 

 

 煌一の担当世界に行って。

 いきなりロボで戦うことになって。

 月面ってのは動きにくくて。

 あ、煌一ってのはあたしの……夫な。えへへへ。

 

「梓お姉ちゃん、顔が赤いよ?」

 心配そうにあたしの顔を覗きこんでくる初音。

「熱でもあるの?」

 楓まで。

 

「きゃっ」

「なに?」

 思わず妹2人を抱きしめてしまった。

 こいつら可愛すぎだろ。

「あたしの未練って、あんたたちなんだろうって、思ってさ」

 

 月面でグランゾンとかいうやつと戦ってたあたしはなんか大きな爆発に……爆発? だったよな、たぶん。とにかくそれに巻き込まれて、目が覚めたらこっちにいた。

 目覚めたのがベッドだったから、さっきまでの夢じゃないかと思ったよ。

 だって、その部屋は()()()()()()だったしさ。あたしが元はフィギュアだったなんてあるはずがない、って。

 

 でもさ、左手の薬指に綺麗な指輪がはまってるし、首には外せないチョーカー。スタッシュなんかのファミリアの能力も使えて、夢じゃなかったって気づいて。

 

 心残りと遭遇するだろうって予言を思い出したよ。

 

 

「未練?」

「こっちのこと」

 こいつらに言っても……変な心配をされても困るよ。初音なら信じてくれそうだけどね。

 

「梓姉さんがおかしいのはそのせい?」

「えっ? ちょっといきなりなにを……」

「最近挙動不審」

 はっきりそう言われるとぐさっときた。

 楓は鋭いけど、もっとこう他に言い方ってもんがさぁ。

 

「おかしいのはあんたたちじゃないの? ほら、耕一がきてから」

 腕の中でびくっと反応する2人。わかりやすすぎるだろ。

 やっぱり、あのゲームと同じく2人とも従兄妹の耕一が好きなんだろうなあ。いや、千鶴姉もか。

 あたし? あたしは違うよ。

 煌一は、あたしをフィギュアから人間にする時に、耕一への想いを煌一へに改竄した。

 でもさ、それを知ってもあたしは煌一が好きだ。この想いがニセモノだって言われたってかまいやしないよ。

 耕一には千鶴姉たちがいるんだしさ。

 

 ……3人とも耕一が好きなんてどうすればいいのかね?

 楓と初音は前世からの想いだし、千鶴姉はつらい思いばっかしてるから、幸せになってもらいたい。

 こっちの世界でも重婚が可ならばよかったのにさ。3人の内、2人は泣くことになっちゃうんだよなあ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「ご苦労様、じゃなぁーーーーーーーーーーーいッ!」

 耕一を起こしに行ったはずの千鶴姉がいつまで経っても戻ってこないので、部屋に行ったら耕一は起きてはいたけどまだ布団に入ったままで、計画どおりに布団をひっぺがして、耕一を畳の上に転がした。

 

「……あたた、お前なあ」

 耕一は自分の状況に気づかない。

 あたしと千鶴姉の視線は耕一の股間に注がれているのに。

 ……千鶴姉、ガン見しすぎじゃね? そりゃ初めて見るんだろうけどさぁ。

 

「げッ!」

 やっと朝の生理現象に気づいた耕一が慌ててだす。

「……布団をたたんで早く飯を食いにこいよな。それと、ヘアバンドを忘れるなよ」

 あたしは2人をその部屋に残して居間に戻った。

 

 煌一がくれた痕のゲームをしてこの展開を知ってるあたしが、わざとこの展開をしたのはスケベ心のためじゃないよ。そんな理由だったら今頃、耕一はチョーカーの餌食になっているはずだ。

 それとも、あいつから見せたワケじゃないからセーフなのかな? ともかく、あたしが布団をはがしたのは耕一の股間を確認するため。

 

 天井梓(あたし)が柏木梓になっているんだから、もしかしたら耕一も煌一なんじゃないかって思ったんだけど、やっぱり違うようだね。()()は煌一じゃない。

 もし、ゲームのように廊下で耕一がガリバーチ○ポをかましてきてたら、あたしのキックよりも先にチョーカーが発動しただろうね。

 

 

 居間にやってきた耕一はちゃんとヘアバンドをつけてきた。

 何度見ても似合わないね。

 似合ってはいないけど、必ずつけるようにと厳命しているんだよ。

「よし、ちゃんとつけてるね」

「なあこれ、いつまで着けてりゃいいんだよ?」

「似合ってるよ、耕一お兄ちゃん」

 ヘアバンドを指差す耕一ではあったが、初音に笑顔で褒められては外すという選択肢はないみたい。

 実はあれ、ヘアバンドって言ってるけど本当はチョーカーなんだよね。

 煌一が嫁さん以外用に作ったアイテム。守りたいやつに使えるようにって嫁さんたちもたくさん渡されてるんだよ。

 サイズも調整できるから、それをヘアバンドって騙して装備させてるんだ。だって耕一にチョーカーなんてさらに変だろ?

 

「そいつはお守りみたいなもんだから、絶対に外すなよ」

 あたしたち柏木家は鬼の血をひいている。本当はエルクゥって宇宙人の子孫らしいんだけどね。エルクゥは同族とテレパシーも使ってたみたい。

 そのテレパシー能力のせいか、耕一とリンクしたやつが耕一の行動を覗いてるんだよね、ゲームだとさ。

 耕一も逆にそいつのことを夢で見るからややっこしくなるんだけど、それをチョーカーの力で防げないかと思ってつけさせている。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「最近、梓先輩の様子がおかしくてわたし、心配で……」

 学校から後輩のかおりが家までついてきてしまった。ゲームでもあった展開だから避けようと努力したのに無駄だったよ。とほほ。

「遅くならないうちに帰りな。最近物騒なんだからね」

「あぁん、夜道は怖いですぅ」

 隙あらばあたしに抱きついてくるかおり。マジもんで華琳の、いやあいつは両刀だから桂花か、の同類である。

 

「……ところで、あの男、なんなんですか?」

 あたしの胸に顔を埋めようとしてたのをチョーカーが反応する前になんとか引き剥がすと、ジト目で耕一を睨むかおり。

 耕一はかおりからあたしの貞操を守るために頼み込んであたしの部屋にきてもらった。だってしょうがないだろ、ゲームだと耕一がこない場合、なんかあっちゃうみたいなんだよぉ!

 

「その致命的に似合ってないヘアバンド、まさか梓先輩とお揃いのつもりなんじゃないですよね? 気持ち悪いです」

 さすがにそう言われて耕一も傷ついたのか、無言でヘアバンドを外してしまった。

「バカ……」

 思わずため息。

 

 しばらく耕一を無視してあたしにだけ話しかけてくるかおりの相手をしていたら突然、耕一が頭を抑えて部屋から出ようとしたので、()()当て身をくらわせて気絶させた。

「あ、梓先輩?」

「かおり、送ってってやるからちょっと待ってな」

 廊下に出ると驚いた顔の初音がいた。

 

「そこにいたか、ちょうどよかった。ロープを持ってきてくれ、頑丈なやつ」

「ロープ?」

「ああ、耕一を縛らないとね」

「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 初音とかおりがそろって悲鳴にも似た大声を出す。

 

「あ、梓先輩にそんな趣味があったなんて……でも梓先輩にならいいかも! 縛るならわたしをお願いしますぅ!」

「……そ、そそそそそ、そういうことは、お部屋でやったほうがいいと思うようーーーーっ!」

 いやここ、あたしの部屋だから。

 そのまま走り去ろうとする初音の襟首を咄嗟につかむ。ふう、間に合ったか。ファミリアになる前だったら逃げられてたな、こりゃ。

 

「いい? これはそんなのじゃないから! あたしにそんな趣味はないってば!」

「で、でも……」

「詳しいことはあとで説明するから急いで!」

「う、うん」

 どうやって説明しよう? ……そん時考えりゃいいか。

 ポケットからビニフォンを取り出して千鶴姉に電話する。

 

「ああっ! 梓先輩、携帯持ってるんなら番号教えてくださぁい」

 やばっ。うちなんだから家電(いえでん)使えばよかった。でも、耕一から目を離すわけにはいかないし……。

「こ、これは仕事用なのっ! 鶴来屋関係のだから教えるわけにはいかないんだよ」

「ええー?」

 疑ってるな、これは。

 初音だったらすぐに信じてくれるのに。

 

 

 耕一をロープで縛って、さらに物置にあった鎖で雁字搦めにしていたら千鶴姉が帰ってきてくれた。

「梓、いったいなにがあったの? まさか……」

「いや、念のためにだよ。あたしはかおりを送っていくから、その間耕一を見張っていて。あたしが帰ってくるまではロープも鎖も解くなよ」

「梓?」

「あとで説明するから!」

 これで、あたしが()()を逃がしても耕一は疑われない。……逃がすつもりなんてないけどね!

 

 かおりを送っていく最中、ゲームと同じく公園のそばでそいつと遭遇した。

 人間離れした大きな身体と鋭い爪を持つ異形の怪物。煌一が完全に鬼になったのとちょっと似てるかな?

「ひっ」

 あたしの背後でかおりが息をのむ。

 安心しな、あたしが守ってやるよ。あんたを陵辱なんてさせやしない!

 かおりに当て身をして気絶させた。耕一で練習できてよかったよ。

 歩道にそっと寝かせ、あたしは自分の鬼を解放していく。

 

「かわいそうにね、あんたは自分の鬼に負けてしまった」

 男の鬼は強いけど、自分の()を制御できなければ、身体を乗っ取られて血に飢えた殺人鬼と化す。

 こいつの正体は爺さんの隠し子。つまりはあたしたちの叔父。

 だからこそ鬼の血をひき、鬼に負けてしまった哀れな男。

 ゲームでは何人も殺し、かおりたちを陵辱し、バッドエンドでは千鶴姉や耕一を殺し、あたしや楓、初音まで陵辱する。そんなやつ、生かしておくわけにはいかないよ。

 

「ふん、表情はわからないけど嬉しそうだね」

 無造作に近づいていくあたしに、そいつはブンッと大きな腕についた爪を振り下ろす。すごいスピードだ。

 でもね。

 

「遅いよ」

 いくら男の鬼が強いとはいっても、煌一と契約、ファミリアとなって鍛え続けたあたしの敵じゃない。化け物との戦いだって慣れてるんだよ。

 あたしの拳は鬼の腹に突き刺さっていた。

 背中まで貫通していた。当たり前さ。確実にしとめるために(アーツ)まで使ったんだから。

 

 たぶん驚いているのだろう、自分の腹を見て動きを止める鬼。

 あたしが腕を引き抜くと、ブシュッと血飛沫が飛び散る。抜き手の早さに引っ張られたのか千切れた内臓までもが身体の外にはみ出した。

「グッ、グゥアアアアァァァァァァァーーーッ!」

 苦悶の叫びを上げる鬼。あたしはかまわずスタッシュから刀を出して鬼の首をはねる。

 固かったんだろうけど、煌一のくれた刀と学園島で鍛えた剣の腕の前にあっさりとそいつの首は落ちた。急いで死体をスタッシュに収納する。

 地面に落ちた血はスタッシュから出したペットボトルの水で洗い流して、気絶したままのかおりを担ぎ、急いでその場を離れたよ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 かおりを家に届けてから帰ったら千鶴姉たちに説明する。

 眠ってる耕一が縛られたままなのは、途中で急にうなされたって聞いたからだ。たぶん、鬼が死ぬのをリンクして見ていたんだろう。錯乱して暴れられても困るのでそのままなんだよ。

 

「私たちの……叔父?」

「ああ、調べればわかると思う。そいつがあたしたちを襲ってきたから返り討ちにした。耕一は夢でそいつと繋がってたみたいだ」

「だから耕一さんは変な夢を……梓、あなたはなんでそんなことを知ってるの?」

 ううっ、どう説明すりゃいいんだよ。

 千鶴姉に変な誤魔化しはきかないだろうし……。

 

「え、ええと……詳しくはこのゲームをやってくれ!」

「え?」

 やっちまった!

 返答に困ったあたしは、つい予備のビニフォンをスタッシュから出して千鶴姉に渡し、痕をプレイさせてしまった。

 鬼や耕一のことはそれでわかるかも知れないけど、他のことはどう説明すりゃいいんだよ? スタッシュとかビニフォンの入手先とか……。

 

「梓、ここはどうするの?」

 選択肢の選び方を聞いてきた千鶴姉。

 疑問はあるが、まずはゲームをしてくれるみたいだね。今のうちにあとのことを考えないと……。

 

「梓姉さん」

「楓か。あとであんたもあのゲームをやるか、今千鶴姉がやってるのを見てな」

「いい。それより私たちからも話がある」

「私たち?」

 千鶴姉と縛られたままの耕一を残して、あたしと妹2人は楓の部屋にむかった。

 耕一、トイレとかだいじょうぶかな?

 

 

「最近、不思議な夢を見ます」

「……耕一の夢だろ」

 楓の前世エディフェルと耕一の前世次郎衛門は恋人。ゲームだと楓と耕一は前世の記憶を夢で見ていた。

 でも、楓はふるふると首をふる。隣で初音も。耕一がいたらあまりの可愛さに悶えて転がってたろうね。

 

「以前はそうでしたが、最近は違う。耕一さんではない男性と梓姉さん、何人もの女性、それに私が結婚している夢」

「わたしも……」

「へ? ……ええーっ!?」

 それってまさか、むこうのこと?

 いったいなにがどうなってるのさ?

「たぶんこれのせい」

 楓と初音がそれぞれ1枚ずつカードを取り出した。

 それは……。

 

「SR楽進? SR呂蒙?」

 凪と亞莎?

 こ、これってまさかファミリアカードぉ!?

 

 




今んとこ、どこがスパロボだっていう……


今話タイトルの勇者王というのは今回死んだ鬼のこと
中の人ネタで2009年版をプレイしたファンの一部からそう呼ばれてます

特徴的な声なので謎の犯人がモロバレだったり


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5話 DT国

オリ主の出番はもうすぐです
今回は3人称 


 ファンシズム。

 国家の代表をアイドル感覚で選ぶ思想であり、政治運動である。

 政治なんて誰がやっても一緒との意識が蔓延していたイタリンで興ったそれは、ドクツでファンシズムの最高傑作ともいえる第三帝国総統レーティア・アドルフを生み出し、そして4億年の歴史――現人類の歴史はそこまで長くない――を自負する国にも飛び火していた。

 

「おぬしら! 妾の名前、知っておるか!」

 観客、いや、聴衆の前でマイクを握るのはハチミツ色の髪の少女。

 その少女の名は。

 

 聴衆たちが声高らかに彼女を呼ぶ。

「えーんじゅーつちゃーーーーーん!」

 中帝国改め、仲帝国。

 彼女こそ、新たにその皇帝となった袁術だった。

 

 

 

 演説(?)を終えた美羽は、休憩とばかりに執務室でだらだらしていた。

「……ふぅ、疲れたのじゃ」

「はい、ハチミツ水だよ、美羽ちゃん」

「うむ」

 月から受け取ったグラスを傾け、ごくっごくっと一気にハチミツ水を飲み干す。

「もっと味わって飲みなさい! せっかく月が作ったんだから!」

「月もついに妾好みのブレンドをマスターしたのう。おかわりじゃ!」

 詠の抗議をものともせずにグラスを差し出す美羽。月も苦笑しながらそれを手に部屋を出ていった。

 

「まったく、なんでこんなのが皇帝になっちゃうんだか」

「ファンタジム、なのじゃ!」

「不安沈むですよ、お嬢様」

「……はぁああ」

 間違いを訂正する気にもなれず、大きくため息をつく詠。

 

「妾の歌と美貌で、大陸どころか星々までもとったのじゃ! 張姉妹が悔しがるのう。うはははははー」

「星々といっても管理星域は南京モン、ア・バオワ重慶、北京の3つなんだけどね」

「地名だけなら大陸よりも小さい感じがしちゃいますねー」

 彼女たちの時代とは違う名とはいえ、故郷の大陸の地名を思い浮かべるその惑星名に七乃は苦笑する。

 

「妾たち、やっぱり失敗しちゃったんじゃろうかのう?」

「そうですねえ。気づいたらエロエロ艦の艦橋じゃなくて、この星にいたのはまいりましたねー」

 バトル・エロースのブリッジで、グランゾンと戦う者たちをサポートしていたはずの彼女たち。……美羽と七乃は見ていただけともいう。

 戦闘中、大きな爆発があったかと思ったら次の瞬間、もう別の場所にいた。

 ブリッジの椅子に座っていた彼女たちは、椅子がなくなり姿勢を崩した。その衝撃で唖然としていた意識が戻ったのだが。

 

「あのもう1人の華琳のアドバイスを思い出したボクがすぐに月を見つけたからよかったものの、変態皇帝に先に見つけられてたらどうなっていたことか」

「あのロリコン元皇帝ですか。アイドルをしているお嬢さまに手を出そうなんてするから、あんなことになるんですよねー」

 

 中帝国皇帝シュウ。ロリコン呼ばわりされるには若すぎる少年。

 先代皇帝の病死により幼くして即位した彼は、ガメリカとソビエトの傀儡として育った女好きの暴君。

 自分と同程度の少女にしか興味を持たないが故に、生活費のために歌手活動中だった美羽に目をつけ、手を出そうと拉致同然に王宮に呼び出す。

 それに怒った七乃がクーデターを扇動して中帝国は滅び、仲帝国が生まれたのだ。

 

「妾は護られておるからのう。愛されておるのじゃ!」

 うっとりと愛おしそうに自らの首筋を撫でる美羽。その扇情的な仕草に七乃は興奮し、ビニフォンで撮影を開始する。

「後始末大変だったのよ。あんなとこでロボが大暴れするから」

「ちょっと王宮を更地にしただけじゃないですかぁ。ついでに暴君と腐敗官僚を大量処分(物理的に)できましたしー」

 撮影を続ける姿に、詠がまたため息。

 

「煌一がプレゼントしてくれたロボぞよ。あの程度、余裕なのじゃ!」

「後宮と軍部を先に味方にできたからよかったようなものの、そうじゃなかったら戦艦を相手にしてたところよ」

 後宮では3000人の少女が侍女として働いていた。彼女たちは暴君シュウ皇帝から酷い扱いを受けており忠誠心など欠片もなかった。

 戦闘に巻き込まれ大きな怪我を負った者たちもいたが、月、詠の魔法により治療されて協力的となっている。今も月をメイド長として心酔中だ。

 

「孫策よりは怖くないじゃろ? どんな敵がこようとも危なくなったらポータルで脱出するだけの簡単な仕事なのじゃ」

「逃げるのは慣れてますもんねえ」

「おかげでどれだけボクたちの仕事が増えたか……暴君がいなくなってみんな張り切っているし、煌一に会えないで落ち込んでいた月の気晴らしにはなったけどさ」

 皇帝の私物整理中に美羽だけでなく月の画像データまでも見つけているので、詠も元皇帝には冷たい。

 

「落ちこんでおったのはお主もじゃろう。いつも以上にカリカリしておって怖かったのじゃ」

「そんなに煌一さんに会いたかったんですねぇ」

「ちっ、違う! ボクは……ボクの未練が月をこの世界に連れてきちゃったんじゃないかって不安だっただけ」

 からかう七乃に詠はつい本心をこぼしてしまった。月がこの場にいないから油断したのかもしれない。

 

「未練? なんのことじゃ?」

「……ああもう! 予言されてたでしょっ! ボクたちは心残りと遭遇することになる、って」

 予言神(ポロりん)による3つの神託。その1つが詠の言ったそれだった。

 

「その心残りがどうかしたんですか? 」

「董卓を天下人にする……それがボクの夢、だった。だから、こんな世界に月を連れてきちゃったのかもしれない」

 真・恋姫†無双公式HPのキャラ紹介の台詞と同じ詠の告白を美羽は鼻で笑う。

「たわけじゃの。月はそんなことを望んではおらぬ」

「……まさかよりにもよって、あんたに諭されるとはね」

 馬鹿だと見下していた美羽に指摘されては「言われなくてもわかってるわよ!」と怒鳴る気にもなれなかった詠だが。

 

「月が望んでるのは、妾の世話をすることなのじゃ!」

「違うわよ! そんなわけないでしょうが! 月の望みはあいつとの幸せな家庭でしょ!」

 美羽のずれた解答には全力でツッコむしかない。

 

「なんじゃとっ! いつも妾のことを可愛い美羽ちゃんと言っておるのじゃから間違いではないのじゃ!」

「お嬢さまは煌一さんとの子供枠ですねえ。月ちゃん、煌一さんにみんなのお母さん役って言われてましたからその気になってるんでしょうねー。梓ちゃんっていう強力なライバルに隠れちゃってましたけど」

 ガサツな言動が目立つ梓だが、実は煌一の嫁たちからの評価は高かった。伊達に嫁レンジャーなどと別格扱いされてはいない。

 

「梓はほれ、きんったま母さんというやつじゃろ?」

「それ、本人に言ったらゲンコツもらうわよ。肝っ玉でしょ、月はどう転んでもそれにはなれないわね。繊細なイメージだもの。むしろ、梓みたいになった月なんて……」

「見てみたい気もしますー」

「しない! なられてたまるか!」

 詠ちゃんと梓ちゃんなら、口うるさいとことかよく似てるんですけどねぇ。あとで月ちゃんにも聞いてみましょう。そう月へのアンケートを予定して微笑む七乃。

 

「さあ元気になったら詠ちゃん、この仲帝国の天下人となったお嬢さまのために、しっかり政治(おしごと)して下さいねー」

「なんかボクもロボで暴れたくなってきた。ガメリカやソビエトがクーデター政権なんて認めないなんていってくるし……」

「まあ、扱いやすい傀儡がいなくなっちゃったワケですからねえ。だけど国民はみんな美羽さまのファン。支持率100パーセント!」

 100パーセントは操作された数値だが、実際、暴君と腐敗官僚から解放された国民たちからの支持率は異常なまでに高かった。グッズの売れ行きも国の内外を問わずに好調である。

 

「あ、同盟が成立したら記念にレーティアさんと合同ライブを開く予定ですから準備お願いしますよ」

「これ以上仕事を増やすなーっ!」

 独裁者からの解放を大義名分にいつガメリカ共和国、人類統合組織ソビエトという大国が攻めてくるかわからない。三国同盟ならぬ四国同盟の締結を急ぎ、詠たちは忙殺されていた。

 

「もう……リンファ、ランファ、あんたたちも休んでる暇なんかないわよ」

「は、はい」

「はいはい」

 ソビエトの工作員により共有主義に染められていた元中帝国北軍総司令官リンファ。

 ガメリカの資本主義に傾倒していた元中帝国南軍総司令官ランファ。

 彼女たち2人が助かったのは奇跡ではない。やはりクーデター時に王宮にいたため瀕死の重傷を負ったが、月の高レベルの回復魔法によって治療されたのだ。

 以前の思想への未練はあるが、命を救ってもらった恩を返すために働いていた。

 

「ドクツ、イタリンと同盟したらカッコいい白人男性と知り合えるね!」

 ぐっと拳を握るのは青いミニのチャイナ服の女性。ランファは未練たらたらのようだ。

「日本帝国もいるのだけど?」

「日本人はいや。白人がいいの」

 へそ出しの赤いチャイナ服、リンファによる指摘もすぐに否定する。それを美羽が聞きとがめた。

 

「なんじゃと? 妾の夫は日本人じゃがカッコいいのじゃぞ!」

「えー? ありえないよ」

「というか、ご結婚なさっていたのですか?」

「妾のようないい女が独り身なわけがなかろう!」

 得意気に左手薬指の結婚指輪を2人に見せびらかす美羽。チャイナ服の美女2人を前に「いつか蓮華も並べてみたいのう。名前が似ておるのじゃ」などと思いながら。

 

 ちなみに結婚指輪はアイドル活動中は透明化しており、サイズも微調整されて指への締め付けもないため、指輪をしているようには全く見えない。

 

「袁術皇帝と結婚って、ロリ……?」

「日本人って、みんなロリで変態よ」

 ランファの呟きに答えるハニトラ。

 ハニートラップの略ではなく人名である。実年齢よりも幼い外見を武器に、名前のとおりのハニートラップを得意とする中帝国の工作員だった女性だ。

 シュウ皇帝の愛人でもあったが、クーデター時にはシュウ皇帝の死に立会い、侍女たちを指揮した。現政権にも協力的である。

 

「なにか嫌な思いででもありそうですねー」

「思いでもなにも……。なんで私の写真集なんて出されなきゃいけないのよ!」

「国の予算のためですよー。赤字を少しでも減らすためにならみなさん、協力するって言ったじゃないですか」

 美羽、ハニトラの写真集は大好評。諸外国でも、特に日本帝国で売れまくっていた。

 ペラペラと書類をめくり、写真集の売り上げを確認する詠。彼女は月の写真集発売だけはくい止めると決意している。

「リンファ、ランファのも売れ行き好調ね。それにともなって軍への志願者も増えているわ」

 ボロボロだった経済のため、民間の働き手の確保を名目に徴兵された軍人を削減中なのだが、美しい指令の下で働きたいという若い男たちも多いようだ。

 

「次はもっとセクシーな路線でいきましょう、脱いじゃってもいいですよハニトラさん」

「いかないわよ! 脱がないわよ! ……侍女たちの鬱憤が爆発してシュウが殺された現場になんて居合わせるんじゃなかった……」

 クーデター時にシュウ皇帝は後宮に逃げ込んで、そこで殺害されていた。

 勢いで殺してしまったはいいが、この後どうしようかと慌てる侍女たちをまとめあげ、とある小さな工作員経由で知り合いだった美羽たちに連絡。保護されそのまま現政権にハニトラは関わっているのだった。

 

「そのおかげで侍女たちの犠牲がなくて済みましたよ」

 執務室に戻ってきた月。皆にハチミツ水やお茶を渡していく。

「それは月が治療してくれたから……あ、ありがと」

 お茶を受け取り、赤面するハニトラ。この瞬間、彼女は要注意人物として詠にマークされることとなる。

 

「写真集がこれだけ売れればきっと、煌一さんや他のみんなの目にも留まるね」

「……これでも出てこないなら、この世界にはいないと思った方がいいわね」

 月の希望を否定したくはないが、甘いことばかりも言っていられない。でないと次は自分か月の写真集を出すことになってしまうだろう、と小さくため息の詠。

 

「その時はレーティア姉さまが造る船で別の世界に煌一を探しにいくのじゃ!」

「姉さまって、あの総統が?」

「魂の姉妹なのじゃ! 絶世の美女姉妹であろう!」

 仲帝国になってから友好的なドクツを知っているだけに、妄言とは切り捨てられないリンファ、ランファ、ハニトラの3人。

 

「さんざんかき回しておいて、別の世界に逃げるつもり?」

「あとのことは次の皇帝に頼みますよ、ハニトラさん。ですから、知名度を上げるためにも、ずばっとヌード写真集を出しちゃいましょう」

「出さない! ……私が次の皇帝なの!? ちょっとそれ聞いてない!」

「ええ。そうなるってレーティアさんが言ってましたので」

 自分たちがいなくなったあとのことなんてどうでもいいですよ、と顔に出ている七乃の言葉に驚くハニトラ。最近のドクツ総統の言は予言。その的中率の高さを知っているだけに、血の気が引いていく。

 

「こうなったら皇帝の夫を探し出して説得しないと……」

説得(ハニートラップ)ですかー。ハニトラさんの外見なら旦那さまもひっかかっちゃいそうですが、それはありえませんねー」

「そうであろ。妾をほっておいて浮気などするわけがないのじゃ!」

 いえ、ハニトラさんが処女じゃないからですけどー。でも、もしも煌一さんが見つかった時に面白そうだから黙っていましょう。そう思いながら七乃は政策ならぬ、美羽フィギュアの制作に移るのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 一方、同じく同盟の準備を進めるドクツ第三帝国総統レーティア・アドルフ。

「なあ、世間的には男性経験のあるアイドルって……中古とか言って敬遠されるんだろ?」

 だからアイドルよりも総統業に専念したいというレーティアの意見は、左右両方に泣きボクロを持つ宣伝相、グレシア・ゲッベルスに即座に拒否される。

「あなたはねレーティア、アイドルなの!」

「アイドルは結婚したら引退するんだろ?」

「そんな結婚、認めないわ!」

 

 レーティアは美羽たち同様、グランゾンと戦って謎の爆発現象後、気づいたらマインとともにこの『大帝国』の世界。

 手元には1枚のカードがあった。それを隣にいたゲッベルスがひょいと奪う。

「SRレーティア・アドルフ? こんな綺麗な写真取った覚えないのに……それにレーティア、その服も見覚えがないわね」

「か、返してくれ!」

 慌ててカードを受け取って確認する。SRレーティア・アドルフ。

 間違いなくファミリアカードであり、ゲッベルスの存在からこれがこの世界の自分だとレーティアは確信したのであった。

 

 レーティアは、大帝国の登場人物レーティア・アドルフとして真エンドまでの記憶と、さらにゲームとして大帝国をプレイ、解析済みの知識を活かして次々と先手を打っていく。

 

 大怪獣はコントロールできると発表。大怪獣の兵器利用を禁止する国際条約の素案提出。その際に「まあ、私は大怪獣が敵だろうが勝てるがな」とコメント。

 ドーラ教徒であり、教団のためにレーティアを利用しようとするヒムラーの拘束、処分。

 教団も徹底的に壊滅させる。ベルリンのドーラ教本拠地地下秘密神殿にいた、その()も発見。イモムシに酷似したそれは精神支配を使う生命体ラムダスであったが、調査班に潜入していたマインには通じず、仲間を呼ぶ思念波を出すよりも先にマインが止めを刺し、焼却処分とした。

 

 元々宇宙一の天才として知られているレーティア。

 大戦勃発前に既にこれだけの行動していてなお、まわりにはその先読みさえ通常運転にしか見えなかったようだ。

 たった1人、ゲッベルスを除いて。

 

「レーティア、最近どこか……その指輪はなに?」

「ああ、これか? これは結婚指輪だ。綺麗だろう」

 指輪の透明化を解除し、じっくり眺めていたレーティアに気づくゲッベルス。

「結婚指輪? い、いったい誰に……」

 ずいっと顔を寄せてくる。レーティアはちょっとひき気味で逃げようとするが、がっと両肩をつかまれてそれもできない。

 ドクツ第三帝国総統は諦めて全てを話すことにした。

 

「異世界の使徒?」

「ああ、ドーラ教徒とは別だがな。信じられないだろうから別に信じてくれなくてもかまわんぞ」

「あなた以外からの話だったら鼻で笑ったでしょうね。けれど、レーティアがこんなバカな冗談を言うはずもない」

 異世界で人妻となったなどという話。ゲッベルスはレーティアの話でなければ聞き流しただろう。

「あ、ちょっと待て。ああ、美羽か」

 突然流れ出した歌で会話を止めでビニフォンに出るレーティア。

 

「ああ、お姉ちゃんにまかせておけ。忙しいだろうが身体を大切にするんだぞ……」

 長々と通話するレーティアに立ち去ろうと思ったが、聞き流せない単語がいくつか混じっていたのでゲッベルスはじっと待っていた。

「おわったかしら?」

「うん。待たせて悪かったな」

「その満足そうな顔を見たら文句もないわ。今のは?」

「私の妹だ。あいつらもこっちの世界にきたみたいでな、手分けして仲間を探している」

 ビニフォン待ち受け画面の美羽を立体映像で等身大表示に切り替える。

 

「妹? たしかに可愛らしいけどレーティアほどじゃないわね」

「そうか?」

「この顔、実の妹ではないんでしょう? あなたが妹と認めるなんて、それほどの天才なの?」

「……いや、頭は弱い方だ。そこも可愛いんだ」

 だらしなく目尻を下げながら義妹を解説するレーティア。

 そしてビニフォンからはまたさっきの歌が。

 

「私の妹だけあって歌はうまいぞ。今はアイドルをやっている。これの呼び出し音も美羽の新曲だ」

「レーティアの妹でアイドル?」

 宣伝相の目の輝きに気づかずにレーティアは続ける。

「むこうにいた頃はよく一緒に歌ったぞ」

「それは聞いてみたわね。今はどこにいるの?」

「中帝国だ。馬鹿皇帝はさっさと始末しよう」

 女と阿片が大好きな暴君が大事な妹に手を出さないように、密かに護衛としてマインをおくっているレーティアだった。

 

 

 

 その後、マインの工作と七乃の暴走により暴君が死亡。中帝国が仲帝国となる。

「これを見てレーティア」

「なんだ? 仲帝国のCM?」

 流れる映像はハチミツの満たされた風呂に入る、満足げな表情の美羽だった。

 

「ハチミツのコマーシャルか。美羽もあんなに喜んでいるんだから売れそうだな」

「喜ぶものなの? ……このCMの制作者は要注意よ。あの水着を見なさい。日本向けに研究した戦略だわ」

 CMの美羽はさすがに全裸というわけではなく、水着を着用していた。レーティアも大江戸学園で使用したものと同じ種類の水着だ。

 

「そんなに変でもないだろ、スクール水着だ。学生が授業で使う水着だぞ。別に白くもないし」

「白?」

「ああ、水に濡れると透けるんだ。ちょっと恥ずかしい」

 思い出して頬を染める。

「……レーティアがそんな、透けるような水着を着るなんて」

「お、お風呂でだぞ。あいつらと煌一を誘惑するのに使っただけだ」

「ゆう、わく?」

「あの時は煌一も興奮していつも以上にすごかった」

 レーティアはそれ以来白スクを使ったことはないけれど、まだスタッシュに大事に保管している。

 

 レーティアが誘惑したという驚愕と、その男に対する怒りと、白スクレーティアを見たいという欲望が綯い交ぜになって混乱しているゲッベルスをよそに映像は続いた。

『妾が浸かったこのハチミツ、勿体無いが売ってやるのじゃ。お主らもこれで気持ちよくなるがよい!』

 美羽の目が若干潤んでいるのは、あのハチミツを全部貰えるものだと思っていたんだろうな、と微笑む姉。

 

「あんな小さな子、しかも自国の皇帝にこんなことを言わせるなんて……」

「こんなこと? ハチミツ風呂で気持ちよくなるなんて美羽ぐらいだろうに。あんなに高値で売れるものなのか?」

 CMでは法外とも思える値段が表示されていた。

「……使い方が違うわ。買った男たちはこの子を思い浮かべながら使うのよ」

「まさか、なめるのか? いくら可愛い美羽でも、風呂に使ったハチミツだぞ。……いや、美羽のなら……」

「それならまだいいでしょうね。でも、ローションがわりに使われるのは確実にあるわ!」

 断言する宣伝相。このCMを考えたのは自分と同類、そしてライバルだと確信しながら。

 もちろん七乃考案、監修のCMである。

 

「ローションって……ええっ!? そんな、お尻に使うのか?」

「いえ、お尻じゃなくて自分の……レーティア、あ、あなたまさか?」

 予想外のレーティアの反応に驚くゲッベルス。

「レーティアはピュアなの、ピュアエンジェルなのよっ。お尻で、お尻でしてるなんて……! あるはずがないわっ!」

「お、落ち着けゲッベルス」

 彼女のあまりの取り乱しように、これじゃ後ろの経験の方が先だったって言ったらまずいよなあ。と、さすがの天才も困るのだった。

 

 

 

 

 知識を有効活用し、ゲッベルスに「好きにしろ」なんて危険な台詞は使わないように注意し、自分の恥ずかしい姿がプリントされたオフランス征服記念コインの発売を未然に防いだレーティア。

 これで夫が妙な嫉妬をしないで済むと一安心しながら次の指示を出す。

「ロンメル艦隊は北アフリカ戦線へイタリンの援護に行ってくれ」

「しかしイタリンは北アフリカ星域のエイリス軍の数倍の兵力を持っているはずでは?」

「イタリンは弱いからな」

 前回、それにゲームでは敗れてしまうイタリン軍のため、前もって援軍を派遣しておく。

 

 SSことレーティア・アドルフ私設親衛隊は隊長であるヒムラーを失い、機能していない。

 さらにロンメル艦隊がいなくなるのは大きいが、前もって織り込み済みならばレーティアにとって問題ではない。エイリス大帝国への一大侵攻作戦である"アシカ作戦"であろうとも、だ。

 

 戦力の不足はない。

 兵器はレーティアの記憶やゲームのこの時点での性能を大きく上回っているし、デーニッツ提督率いるUボート艦隊もいる。

 仲帝国も同盟に参加したことで、アジア・オセアニア方面の牽制の必要が減り、デーニッツが日本に出向することがなかったからだ。

 

 さらにはドクツにはなかったはずの航空母艦やミサイル艦すら存在している。

 なお、空母艦載機は煌一がプラモデルから成現していたゼク・アインをこちらの世界でも使いやすいようにレーティアが改良、量産化したもの。

 ガンダム・センチネルが大好きな夫の影響を受けているようだ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 アシカ作戦は成功し、エイリス大帝国の名前が地図から消えた。

 大戦勃発後、未来の記憶を持つに等しいレーティアの思うがままに世界は動いていく。

 

 レーティアの記憶にはない、わずかな差異が現れるまでは。

 

「おかしい。元寇がない」

「北京にワープゲートを繋げるのよね?」

 レーティアから聞いていた未来情報との違いが初めてハズれ、ゲッベルスも首を傾げる。

「ああ。日本がハワイを占領したら起きるはずなんだ。いったいどうなっている? 仲帝国を日本が支配していないからか? それともこれがバタフライ・エフェクト? 美羽たちが襲われる心配が減ったのはいいが気になるな……」

 

 数ヶ月後、レーティアの不安は現実のものとなる。

 

 劣勢を覆すため、ガメリカは疑似人工知能、COREを開発した。重犯罪者の脳を摘出、人工知能のモジュールとして利用したロボット兵器。

 やがて彼らは自我を取り戻したCORE、キングコアに率いられガメリカで反乱をおこす。

 そこまではレーティアの記憶と同じだった。

 

 だが突如、彼女の記憶にはない1体のCOREが出現する。

 グリーンコアを名乗る謎のCOREは、世界に対して宣戦布告中のキングコアを不意打ちで粉砕し、その首領の座を奪った。

「がははははは! 世界の女はメカ俺様のものだー!!」

 

 




グリーンコアのネーミングはイブニクルの特典で出てきた緑騎士から
緑色のCOREはマッキンリーがいるけど別人です


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1
6話 イニシャルK


評価、感想ありがとうございます
やっとオリ主のターンです



「どこよ、ここ?」

 目の前の雪景色に思わず呟いてしまったのも無理からぬことだろう。

 さっきまでグランゾンと戦ってたんだけどなあ。

 

『あー、たぶんヨーロッパのどっかじゃねーか? そんな匂いがするぜ』

 いつの間にかモバイルモードに戻っていたザンリュウジンが答えてくれた。

 匂いもなにも一面の雪景色なんだけど。

 リュウケンドー中でもザンリュウジンはヨーロッパにいたこともあったからわかるのか?

 ……それ以前に匂いをかげたのか。

 

「変身したままの方が寒くないんだけど……ブェェェックシッ!」

『ちきしょうめっ! っとくらあ』

「コンボつなぐのか」

 こいつ、大江戸学園じゃつけてなかったのにどうして江戸っ子、と悩みながらスタッシュから出した防寒具を羽織る。

 

『黒いコートとはわかってるじゃねーか』

 ザンリュウジンの本当の相棒、白波鋼一は黒コートを愛用していた金髪さんだったな。

 俺が出したのは手持ちで一番暖かそうなやつだからなんだけどね。

 

「ここはどう見ても月じゃない。ってことは、失敗しちゃったのか?」

『あのグランゾンの爆発がトリガーになってんじゃねーのか? スキャンは成功したんだ、あとで調べてもらおうぜ』

「そうだな。みんなとも合流しないと」

 ビニフォンを取り出してマップ表示するも、付近にファミリアの表示はなし。

 

「まいったな。ここをマーキングして一度拠点に戻るか」

 魔法でマーカーを設置してからポータルを開こうとしたが、転移先として拠点を選べなかった。

『拠点、さっきの爆発でぶっ壊れちまったのか』

「……もしくは、拠点ができる前なのかもしれない」

 グランゾンと戦っている最中にベルゼルート、グランティード、クストウェルのスーパーロボット大戦Jの主役機の他に、エクサランスも増援としてやってきてくれた。

 エクサランスはスーパーロボット大戦Rの主役機で時流エンジンで動いている。作品中、この時流エンジンの暴走のせいでエクサランスは過去へ跳ばされてしまう。

 

「もし、さっきの戦闘中にエクサランスが暴走していたら俺たちは過去に跳ばされてしまったのかも」

『お前の担当じゃない異世界って線もあるぜ』

 それもそうか。()()()()はぐれたんじゃないのなら、やりようはある。こんなこともあろうかと結婚指輪に色々と仕込んであるから問題はない!

 

 指輪を宝石解放モードに変形させようとした時、ビニフォンが鳴り出した。

 あれ? 誰もいないはずなのに?

 悩みながらも電話に出る。

『私よ』

「華琳! よかった、無事だったのか」

『無事、でもないようね』

「ど、どこか怪我でもしたのか? 待っててくれ、すぐにそっちに行くから」

 ビニフォンを持っているならそれをマーカーにすることができる。最新型に追加した機能だ。

 

『落ち着きなさい』

「落ち着いていられるか!」

『はあ……よく聞きなさい、私はあなたの妻ではないわ』

「えっ……」

 妻じゃ、ない?

 あまりのショックに持っていたビニフォンを落としてしまった。

 

『おいおい、泣いてる場合じゃねえだろ』

「だ、だって華琳が俺を捨て……ぐっ」

『だからよ、電話の嬢ちゃんは、お前の嫁さんじゃなくて、別の嬢ちゃんだって言ってるんだろ?』

 ああ!

 そうか。そうだよ、華琳ちゃんにもビニフォン渡していたじゃないか!

 

 慌てて雪に埋もれてしまったビニフォンを拾う。

「華琳ちゃん! 華琳ちゃんなんだね?」

『そうよ。まったく、やっとわかったのね』

 よかった! 俺が華琳に捨てられたわけじゃなかったのね。

 今のでEPが3割ぐらい持ってかれたよ、きっと。

 

「だっていくらなんでも声だけじゃ見分けられないよ」

『わかったわ。今度から()()()()()のように、あなたのことは煌一クンと呼ぶわ』

 なんかヤンデレさんに呼ばれているような気がするのはなぜだろう?

 嫌じゃないけどさ。

 

「でもなんで華琳ちゃんが? この指輪の収納領域(カードホルダー)にいたはずだよね?」

『ええ。さっきまではホワイトと呼ばれたあなたの指輪の中から外を視ていたわ』

 分身で指輪が増えても、中の華琳ちゃん(ファミリアカード)は増えない。分かれた俺の指輪のどれか1つにカードが収納されていた。

 

「通話できているってことは、契約空間にいるんじゃなくて……今はカードじゃないの? もしかして」

『ええ、そうよ』

 カードからは外の状況がわかるようなのに、契約空間や擬似契約空間とはビニフォンで通話ができない。

 ファミリアカードの人間と連絡するには、俺が眠って擬似契約空間に入るしか手段がなかった。

 

『ちょっと待ちなさい、また連絡するわ』

「え、華琳ちゃん?」

 突然、通話を切られてしまった。

 なにかあったんだろうか?

 

「あれ、もう?」

 切れてすぐに再びビニフォンが鳴り出した。

 誰からかも確認せずに慌てて出る。

 

『も、もしもし』

 あれ? この声華琳ちゃんじゃない。

「え、どちら様?」

『カティア・グリニャールです』

「……俺は天井煌一」

 かけてきたのはスパロボJのヒロインの1人からだった。

 え? そりゃさっきの戦闘には参加してくれてたけど、巻き込まれちゃったの?

 

 探り合うように通話を続けると、スパロボJのヒロインが3人ともその場にいるらしい。しかもロボごと。

 見たい!

 たまらずに俺は、彼女たちのビニフォンをマーカーにしてそこへポータルを開いた。

 

 

 彼女たちがいたのは雪景色ではなかったが、やはり人里離れた山中と思われる場所。ロボ以外の人工物は見当たらない。昔の特撮ヒーローが戦いそうな開けた岩場だ。

 

「おお! 3機揃ってると壮観だなあ」

『グランティードだけデケエな』

 でも倍とまでは違わないから、OGではなくJ仕様みたいだ。

 ヴォルレントかラフトクランズも並べたいね。

 

「あの……」

「あ、ごめん。改めまして、俺は天井煌一」

『ザンリュウジンってんだ。よろしくな、姉ちゃんたち』

 コートをまくって金色の龍の頭(ザンリュウジン)ついた小さな円盤(モバイルモード)を見せる。

 

「私はカティア・グリニャール」

「アタシはフェステニア・ミューズ。みんなからはテニアって呼ばれてるよ」

「わたしはメルア・メルナ・メイアです」

 ザンリュウジンに面喰ったようだが、3人娘もしっかりと名乗りを返してくれた。

 

 黒髪のカティアは3人のリーダー格。生真面目で委員長気質。

 身長も胸も3人の中で一番小さい赤毛のテニア。季衣ちゃんたちと同じ食欲魔神。

 おっとり巨乳の金髪さんはメルア。お菓子好きだからチ子たんと話が合いそうだ。

 ってのがゲームでの彼女たちのイメージだったんだけど、あまり違いはなさそうだね。

 

「それ、通信機じゃないんですか?」

『ちゃあんと、オレが話してるんだぜ。さっきの戦いでいっしょに戦ったじゃねえか』

「えっ?」

 まあ、これじゃわからないか。

 ザンリュウジンを手にとって謎武器形態(アックスモード)に変わらせる。

 

「あ、さっきのヒーローが持ってた武器だ」

『そうだぜ。スゲエだろ』

 表情は変わらないけど、ザンリュウジンがなんとなくドヤ顔してるのがわかる。

 それにしてもヒーローか。まさか俺がそう呼ばれるとはね。ありがとうテニアちゃん。

 

 衣装もスパロボJと同じだった。雪はないけど、さすがにへそ出しは寒そうだったので彼女たちにも防寒具を渡す。

 謎空間(スタッシュエリア)に手を突っ込む俺に3人とも目を丸くしていた。

 

「それで、なんで君たちがビニフォンを持ってるんだ?」

 マーカーになったってことは最新型で、ヴェルンド工房でも販売していない。彼女たちが持っているそれは俺が成現(リアライズ)した物だってことだ。

「私たちは宇宙人に囚われていて、その脱出に協力してくれた方が渡してくれたのよ」

「なにかあったらこれを使え、って。説明書をくださいませんでしたから使い方をわかるまでに苦労しました」

 誰だろう。華琳ちゃんか、それとも他に過去に跳ばされたのがいるのかも。

 ……俺たちもその可能性があるんだっけ。

 

「使い方はあとで教えるよ。ここにいるのは君たちだけなのか?」

 スパロボJの主人公さんはいないの?

「はい。気づいた時はカルヴィナさんがいなくて……」

「忽然と消えちゃったみたいなの」

 カルヴィナ・クーランジュ。スパロボJの女性主人公でアシュアリー・クロイツェル社のテストパイロット。

 ベルゼルートが連合軍のトライアル中だって華琳ちゃんが言っていたから、彼女が乗っていたのは当然か。

 それが行方不明ってのはわからないけど、爆発で別々の場所に跳ばされたのかもしれない。

 

「一緒にコクピットの中にいたのよ」

「華琳ちゃんはもっと逸れにくい場所にいたのに、別々に跳ばされたみたいだよ」

 少なくとも、その指輪にいたという俺の分身(ホワイト)と一緒ではないようだった。俺がそばにいたら、()がどの俺か確認したはずだ。

 

「ベルゼルートはカティアちゃんとカルヴィナが操縦してたんだね。他の2機は?」

「グランティードはアタシ!」

「クストウェルがわたしです」

 グランティードがテニアちゃんで、クストウェルがメルアちゃんか。うん、能力やラフトクランズの必殺技から考えて無難な組み合わせだね。

 でも、気になるのは他にもある。

 

「1人で操縦してたの?」

 彼女たちはサブパイロットで、他にカルヴィナのようなメインパイロットが必要だったはず。

「大変でしたが、なんとか」

「とりあえずあの戦闘のそばにいればなんとかなるって言われたよ」

『たしかにあのデカイのと薄紫のはあんま動いてなかったぜ』

 よく見ていたなザンリュウジン。俺なんかグランゾンをスキャンするので手一杯だったのにさ。

 

「跳ばされる時、一緒になるようにか? ……あの戦い、失敗することが前提だったのか」

 それとも軍師たちが張った予防線?

 だとしたら、他にもなにかしているのかな。

 

「その、君たちの脱出に協力してくれた人は他になにか言ってなかった?」

「他には」

 ぐおぉぉぉぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

 

 話は巨大な音によって中断された。

 獣の咆哮にも似たそれに一瞬、バーサーカー? とか思ったがそうではなく、テニアちゃんがお腹をおさえて真っ赤な顔をしていた。

 

「ごはんにしようか」

「うん!」

 元気に返事をするテニアちゃん。季衣ちゃんや鈴々ちゃんを彷彿させる。彼女たちも無事だといいけど。

 

「箸は使える? ……ならこれを」

 スタッシュから弁当とウェットティッシュを取り出して彼女たちに渡す。

「ありがとう、コーイチ!」

 テニアちゃんには特大サイズの渡したらもの凄い喜びようだ。そんなにお腹減ってたのね。

 

「おいしい!」

「そりゃそうだよ。俺の嫁さんが作ったんだから」

「結婚なさってるんですか?」

「まあね」

 左手の薬指を見せる。きっとイイ顔してるだろうな、俺。

 でもすぐに心配になってきた。嫁さんたちもちゃんと食べてるだろうか。泣きそうになったのをぐっとこらえて俺も弁当をかっこむ。

 

「はい、お茶」

「それ、どうなってるの?」

 スタッシュはやっぱり不思議だよね。

「収納空間から出し入れしてるんだよ。レベル上げたからね。あの3機だって入るよ」

「それならしまってもらおうよ。あれで街には入れないだろうし」

 4リットルは入りそうな巨大弁当箱を空にして、後ろのロボを指差すテニアちゃん。たしかにロボ乗って街はちょっと無理がありそうだね。うかつな場所に置いて駐禁切られちゃうかもしれない。

 

「街ってアテはあるの?」

 ……。

 まずった。彼女たちが無言になってしまった。

 スパロボJだと、彼女たちは捕まった組織に改造されて、記憶が曖昧になってるんだった。

 カルヴィナが行方不明な今、彼女たちに頼る人間などいない。

 街だけじゃなくて、その先のことを考えて不安になってしまったんだろう。

 

 スパロボJだったらナデシコという就職先(?)があったんだけど……。

 ここはおっさんがやるしかないか。

「わかった。しばらくは面倒見るよ。一緒にいよう」

「……いいんですか?」

「そのビニフォンを渡されてるってことは嫁さんもそのつもりな可能性もあるからね」

 路頭に迷う美少女3人。ほうっておいたら、どんな目に合うかわかったもんじゃない。

 ましてや、ここがどんなとこだかも不明だしね。少しでも知った人間がいるのは心強いだろう。

 

「まあ、俺もこの地は不案内だからそれはごめんね」

「いえ、ありがとうございます」

 いいの? 簡単に若い男、に見えるおっさんを受け入れちゃって。やはり不安だ。彼女たちは俺がしっかり面倒見ないと。

 

『いいのか、煌一?』

「ああ、仕方ないだろ。みんなだってわかってくれるさ」

『浮気だって怒られるんじゃないか?』

「俺がそんなことできるわけがないでしょうに」

 いくら3人が美少女だからってさ、ちょっと一緒にいたぐらいで疑われはしないでしょ。

 俺、呪われてるんだし。

 

 とにかく、現状把握が最優先だ。

 ビニフォンのマップ表記では地球だったけど、いつの地球かや、どんな世界の地球かはわからなかった。

 他のビニフォンを探してみるも、華琳ちゃんとJ3人娘以外のは連絡先として出てこない。鍛えまくった探知スキルを使っても同じ。やはり違う世界に跳ばされてしまったんだろうか?

 

 

 

「こ、こんな大きいの、無理よ」

「だいじょうぶだいじょうぶ」

「本当に入っちゃった……」

 スタッシュには自分の物、借りた物以外は収納できないので、3人からロボを借りて収納。かわりにロディマ、じゃなかったキャンピングカーを出す。

 

「寒いからこの中で華琳ちゃんからの連絡を待とう」

 よく考えたら食事もこの中でとればよかったね。

「なんだか魔法でも見てるみたいです」

「一応、それであってる」

 ()()使()()は卒業したけどね。

 

 もっと大きなそれこそ住めるような宇宙船もスタッシュにはあるけど、目立たないようにロボをしまったんだから、これでいいでしょ。

 このキャンピングカーもプラモデルから成現した。ほとんど両さんが作ってくれたんで、かなりの出来だったよ。

 仮設トイレの技術を使って水は魔法でなんとかなるからって、小さいながらもキッチン、バス、トイレ付き。さらには畳とコタツも完備している。

 コタツに入りながら彼女たちがここにくるまでの話を聞いた。

 

 

「そうか、ちっちゃい頃にさらわれて記憶はほとんどないのか」

「自分がどこで生まれたかすら……」

 酷い事をするなあ。

 彼女たちをさらった宇宙人、フューリーは難民で月にある巨大宇宙船でほとんどがコールドスリープしている。

 地球侵略はじぶんたちの生活環境を確保するため。でもさ、いくら住むところがないからって、幼女を誘拐、さらには実験体として生体改造なんて許せるわけがない。

 

「泣いているんですか?」

「苦労したんだねぇ」

 ぐすっ。璃々ちゃんがさらわれたことを想像して、思わず泣いちゃったよ。

 パリッ。俺の涙に若干ひきながらも、お茶請けに出したポテトチップスを減らしていくテニアちゃん。

「あの……ココアのお代わりもらえます?」

 メルアちゃんはココアが気に入ったようだ。

 涙を拭いて彼女たちにココアのお代わりを出す。

「ありがとうございます」

「いいよ、たくさんおあがり」

 食料の貯蔵は充分だ!

 たとえここに恋、季衣ちゃん、鈴々ちゃんがいてテニアちゃんと合わせて食欲魔神四天王となっても平気なぐらいには詰め込んである。……はずだ。スタッシュも分身で小さくなってて、中身は他の分身と分けているから何が残っているか確認しないといけないな。

 

 外が暗くなった頃、ようやく華琳ちゃんからの連絡。

『こっちにきなさい』

「え、でも」

『今しかないわ。急いで!』

 なんか急ぎっぽい。でも、ポータルを使えるのは使徒かファミリア。3人は連れて行けない。

 

「ちょっと出かけてくる。キャンピングカーは置いていくよ。すぐに戻るから心配しないで」

「どこへ?」

「転移先は……ロンドン? これは頑丈だからだいじょうぶだと思うけどなにかあったら連絡して。ビニフォンの使い方は覚えたよね?」

「はい」

 俺は外に出る。やっぱ寒いな。一応、念のためにキャンピングカーに隠蔽の魔法をかけた。こんなことなら先に街を探した方がよかったかな?

 華琳ちゃんのビニフォンをマーカーにしてポータルを開き、すぐに転移。窓から見てた彼女たち、また驚いてたね。

 

「お待たせ」

 転移した先は豪華な洋室だった。どこかのお屋敷だろうか?

 その部屋にいた華琳ちゃんはいつもとは違うドレス姿だ。これはこれでよく似合っている。

「ここを出るわ。ポータルを開いて」

「ちょっ、ちょっと待ってよ」

「詳しいことを話してる時間がないの!」

「でも、ポータルを使うには使徒かファミリアじゃないと」

 レベルが上がって上位スキルを覚えればそうじゃないっぽいんだけどね、そこまで上がらなかった。大魔法使いの効果で上がりやすいはずの俺でも無理なスキル。GPで買おうにも高すぎたよ。

 

 コンコンコン。

 扉がノックされ、それに反応したかのように華琳ちゃんが素早く俺の手を握ってきた。

「契約するわ」

 よほどのことなのだろう、普段はOFFにしている契約空間のスイッチを切り替えると、周囲は一瞬にして何もない真っ白い空間になる。

 

「ここが本物の契約空間……。擬似契約空間(むこう)に置いてきた物はないのね」

「あっちのアイテムは……どうなってるんだろ? 俺が持ってることになるのか?」

 擬似契約空間は俺の夢の世界。俺の能力みたいだから……でも、華琳ちゃんに会ってた時に置いてきたアイテムは、両さんに会ってた時には無かったな。どうなってるんだろう。

 

「まあいいや。ここは外とは時間の流れが違う。どんな状況か教えてくれ」

 契約空間から元の世界に戻ればほんの一瞬も進んでいない。ゆっくり話す時間はある。

「そうね。……私は()()()と同じ、華琳・ブーンになってしまった」

 華琳・ブーンって、俺たちをグランゾンと戦わせたもう1人の華琳ちゃんだよな。

 

「カリン・ブーン。煌一なら知っているでしょう?」

「どこかで聞いた覚えがあるんだけど……ちょっとすぐには」

 ビニフォンで検索した方が早そう。

 華琳ちゃんはため息を1つはいて教えてくれる。

 

「兄の名はアスハム・ブーン」

「それならわかる! キングゲイナーに登場した……ここ、キングゲイナーの世界なの? いくら俺のコールサインがキングになったからって……」

 分身した俺は区別のためにファイヤー、ホワイト、キングのコールサインをつけられた。()龍刃王(リュウジンオー)に変身していたため、キングである。それがまさか、関係しているのか?

 

「もしかしたら違うかもしれないわ」

「え?」

「考えてみて。スーパーロボット大戦R、スーパーロボット大戦Jのロボットが登場したのよ」

 ああ、華琳ちゃんも指輪の中から外を見ていてエクサランスやベルゼルートたちを見ているんだった。

 

「あ、Jの3人娘とは合流している」

「そういうことはもっと早く言いなさい!」

「華琳ちゃんがなんか焦ってて俺にほとんど話させてくれなかったんじゃないか」

「だって……アレを兄と呼ぶのは嫌よ。あの声で私を馴れ馴れしくカリンと呼ぶのよ」

 顔色が悪い。そんなに嫌なのかな。

 思い込みの激しいシスコンで、ちょっと……かなり残念なイケメンだね。

 声が干吉と同じなのも嫌う理由か。華琳ちゃんも干吉に操られて俺を襲ったり、殺されそうになったりしたもんなあ。

 

「原因はわからないが私はカリン・ブーンと融合した。だから、アレを兄と思う気持ちもある。でも、咄嗟に殺しそうになるから近くにはいたくないの」

「そこまで嫌なのか……」

「アレはあれで有能な部分も権力もある。家を出てもすぐに見つけ出される可能性があるわ。私も、融合したカリンもこの世界の市井には疎い」

 カリン・ブーンもお嬢さまだったっぽいからね。で、ゲイン・ビジョウにひっかかちゃって……。

 

「か、華琳ちゃん、もしかして、ゲインの子を妊娠してたり、産んじゃったなんてことは……」

 もしそうだったらショックだ。俺の嫁さんな華琳とは違うけどさ、なんか嫌だ。

「彼とはまだつきあう前のようね」

「うん、ならすぐにここを出よう!」

「契約が先よ」

 そうだった。華琳ちゃんに契約用のファミリアシートとペンを渡す。

 

「これに書けばいいのね」

「うん。名前を記入すれば契約完了だよ。あとは勝手に埋まるから」

 名前を書きながら華琳ちゃんが言う。

「キングゲイナーもスーパーロボット大戦に登場しているわよね」

「まさか、ここも()()だと?」

「ええ。それも、スーパーロボット大戦Kじゃないかと私は見ているわ」

 

 よりにもよってKですか。キングだからKとか……。

 

 



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7話 1秒で了承

 OVERMANキングゲイナーの登場人物、カリン・ブーンと融合したという華琳ちゃん。

 彼女はこの世界がスパロボKだという。

 

 スーパーロボット大戦K。

 版権作品のキャラが違う。主人公キャラの性格が酷い。シナリオに矛盾がありすぎるなど、評価が低いゲームだ。

 主人公はネタキャラとしてスパロボファン以外からも知名度の高いミストさん。

 Kは携帯のKらしい。別のKだといわれる時はあまりいい意味のKが使われることはない。

 

 それが、この世界?

「たしかに参戦作品にキンゲもあったけど。Zシリーズにも出てたじゃないか。時空振動弾が使われた後の世界なんだから、あっちの可能性の方が高いような気がするよ」

「まだ少し記憶が混乱してるのだけど、この地球にはエリアZiが存在するのは覚えているわ」

「エリアZi……たしかにKっぽいな」

 メカ生体であるゾイドたちが暮らす惑星Zi。

 ゾイドシリーズの舞台なんだけど、スパロボKではその惑星Ziと、キングゲイナーの舞台の地球、それにガン×ソードの舞台の惑星EIが、1つの惑星に合成されて、もう1つの地球、って呼ばれていた。

 

「Kかぁ……」

「Jの3人娘もいるからJKってところかしら」

 なんか別のものを連想させそうな……。それにRが抜けてるし。

 RJK……龍驤改?

 

 ショックを受けている間に華琳ちゃんはファミリアシートに記入を終えて無事に俺との契約が完了、ファミリアになってくれた。

「これが私のデータね」

「マジで華琳・ブーンになってる……」

「あら、あなたが気にしてるのはここじゃなくて?」

 華琳ちゃんが指差した欄には処女の2文字が。

 ファミリアシートってこんなことまで記入されてしまう。履歴書以上に細かすぎる。

 そっちの経験の有無で装備できるかどうかが決まるアイテムや、なつくモンスターがいるから、らしいんだけど本当のとこはどうなんだろうね。どっちもまだ見てないよ。ユニコーンなら翠や白蓮が乗りたがるかな?

 

「そういえば冥琳が合成された時も処女に戻ってたな」

「融合前から経験はないわよ」

「そりゃそうか。……カリン・ブーンの方は?」

 つい聞いてしまった。よく考えたらセクハラ発言だ。

 

「シスコンのアレが男を近づけさせてないわ。ゲインはアレが親友と認めていたから例外だったのでしょう」

 なるほど。役に立ってるじゃん、さすがカリン・ブーンのお兄さん。

 あでも、そのゲインは彼女を捨て、子供ができてることすら知らなかったから、そうでもないのか。

 

契約空間(ここ)を出たらすぐにポータルで移動するわよ」

「家族にメモぐらい残しておいた方が。俺が誘拐犯みたいに手配されるのも困るよ」

「いいのよ。手がかりは与えないわ。頃合いを見計らって、私がゲイン・ビジョウと一緒にいたとでも情報を流せば、アレはアニメと同じ行動をするはずよ」

 さっきからアレって……君のお兄さんになってるんじゃ? 華琳ちゃんの部分では認めるつもりはないんだろうなあ。

 

「別にアニメと同じにしなくてもいいような?」

「歴史の流れを変えたってあなたが消えたりしないかしら?」

「ああ、真・恋姫の魏ルート一刀君みたいにか」

 それは考えてなかった。

 真・恋姫では魏ルートのみ一刀君は歴史を変えたせいなのか、消えちゃうんだった。

 

「うーん、スパロボRだと過去に行った主人公たちのせいで技術革新が起こったり、ザンボット3の子が死ななかったりって歴史が変わってたから問題はないような気もする」

「恵子は助けたいわね」

「そもそも俺は使徒だしさ、世界の救済ってことで流れを変えるのが仕事なんだよね」

 それで消えちゃったら救済なんてできるわけがない。

 

「そう。それならばもっと大きく変えるのもいいわね」

「胸の痛みのような前兆に注意か。ビニフォンで状態異常をこまめに確認することにして……大きく変えるってなにか予定はあるの?」

「この世界の美少女を集めるわ。死すべき運命だったとしても覆して」

 ああ、華琳ちゃんは無印恋姫の曹操。天下の女の子を独り占めにするために魏を作っちゃうような子だったっけ。

 

「あのね、まずは俺の嫁さんたちを探さないといけなくてね」

「彼女たちもいいわね。ほしいわ」

「あげません! 俺の嫁です!」

 嫁さんそっくりな子に嫁さん寝取られたくない。

 もしかして華琳ちゃんをファミリアにしちゃったのは間違い?

 

「問題はあのチョーカーね」

「ちゃんと同性にも反応するようになってるんだから、変なことしちゃ駄目だよ。あ、華琳ちゃんにも渡しておくね。今のよりもいいやつだから」

 大量生産した一般向け用の特殊チョーカーを手渡す。華琳ちゃんには初めて会った頃に渡してあり、今も使ってもらっているが、改良型の方がいいだろう。

 

「どうせならもう1人の私たちと同じのをよこしなさい。あちらの方が強力なんでしょう?」

「そうだけど、あれは嫁さん専用。外せないし、攻撃しちゃうから」

 一般用は精神防御他の耐性向上や能力強化はあっても、直接的な攻撃機能はない。取り外しも装着者の意思で可能だ。

 

「嫁ねえ……あなたの妻同士ならチョーカーも反応しないのだったわね」

「そうだけど?」

 嫁さん同士で反応しちゃったら()()時やお風呂が大変でしょ。あと、今はまったく機能してないけど、子供や孫だと判定がゆるくなる様にも設定してる。男の子が生まれた時に母乳もあげられないんじゃ困るからね。

 

「わかったわ。私の夫になりなさい、煌一クン」

「プロポーズされた? しかもなんて男らしい……」

「1秒で了承なさい。それともまさか嫌だとでも?」

「ちょっと……ううん、正直な話、すっごく嬉しい! 華琳ちゃんも好きだし、華琳に浮気されてるような思いをしないでもすむようになる」

 だって華琳と華琳ちゃんは同一人物だからさ。華琳とは違うってわかっていても簡単には割り切れないよね。

 

「了承と受け取るわね」

「だが断る」

「なぜ? ……その台詞を使いたかっただけではないのかしら?」

「違うよ。俺は愛のない結婚は嫌なの!」

 言いたかったのも確かだけどさ。

 それにプロポーズってのもしてみたい。嫁さんたちとの結婚って流されてばっかりで、俺から求婚したことってないからさ。

 

「愛ならあるわ」

「あるのは嫁さんたちにで、俺にじゃないでしょ!」

 華琳ちゃんとは毎晩のように夢で、擬似契約空間で会っていたけどさ、結婚してもいいって好かれてると思うほど自惚れるつもりはない。

 

「ならば証明してあげましょうか?」

 ぐいっと襟を引っ張られて、俺の顔が華琳ちゃんに近づいていき、そのまま唇を奪われてしまった。

 逃げられないように頭をがっちりと両手でホールドされ、舌まで入り込んでくる。

 やばい、うまい。それに華琳とすごく似てて……。

 

「ふふ。これでわかったかしら? 男としたのはあなたが初めてよ。……融合して新しい身体となったと考えればファーストキスね」

 やっと解放してくれた華琳ちゃんは艶めく唇で舌なめずり。やばすぎる、俺のツインが起動しちゃいそう。

「そ、それは光栄だ」

 三国志だけに。ギャグを考えて興奮を少しでも誤魔化す。……ふう、おっさんな武将たちの顔が浮かんだのでなんとか持ちこたえたよ。

 

「結婚云々はまた今度にして、そろそろこの契約空間から抜けよう」

「そうね、ここには寝台もないのだし」

 あったらどうするつもりだったの?

 

「ポータルを出して。移動するわよ」

 契約空間から出てくると華琳ちゃんはポータルを急かす。ドアをノックしている相手に聞かれないように小声だ。

「荷物を用意したりは?」

「そんなことをしたらアレに勘づかれるわ。それにJの娘たちを残してきたのでしょう。長い時間3人だけにしたら不安になるわよ」

 それはそうかも。見知らぬ土地に置いてけぼりにされたら、騙されたとか思っちゃいそう。

 

 俺たちがポータルで移動するのと、華琳ちゃんの名前を呼びながらアスハムがドアを開けるのはほぼ同時。ギリギリセーフ、俺たちの姿は見られていないはずだ。

 

 

 

「これがポータル移動……特に疲れたり、変な夢を見たりもしないのね」

「ワープやフォールドと違うから。いきなり家を出ちゃって本当によかったの?」

「それよりも、寒いわ」

「そのまま来ちゃうからだよ。せめて着替えだけでも持ってくるとかさあ」

 華琳ちゃんとともにキャンピングカーに乗り込む。

 ここから出発してからほんの数分しかたっていないので、どこも変化はないようだ。

 

「早かったですね」

「うん。ただいま。さっそく仲間を連れてきたよ」

「私は華琳・ブーン。煌一クンのファミリアよ」

 融合しちゃって名前まで変わったから真名はいいのかな?

 華琳ちゃんに自分紹介を返すカティアたちを見ながらそんなことが気になった。

 

 

 

「これがコタツ。……いいわね」

 コタツ初体験の華琳ちゃんも気に入ったようだ。

 夢の中の擬似契約空間は暑くも寒くもなかったらコタツは持っていかなかったんだよね。

 

 だが、定員オーバーなので俺はコタツには入れない。こんなことならもっと大きなのにしておけばよかった。

 まあ、嫁さんじゃない美少女たちと同じコタツに入るなんて緊張するんだけどさ。

 

「あ、3人にもこれを」

 スタッシュから特殊チョーカーを取り出す。

 知り合いや対魔忍たちの分も余計に作るためにかなりの数を作ったんだよね。

 

 俺の固有スキル、成現(リアライズ)はプラモ等を本物にするスキルだ。EPのこもったアイテムを素材にしてMPかGPで、そのこもった感情の通りに実体化させる。

 

 EPってのはエモーションポイントの略で感情値。低くなると無気力やネガティブになっていく。回復には精神的な癒しが必要。

 MPはマジックポイントで時間で回復。

 GPはゴッドポイントでゲーム内通貨もどき。稼がないと増えない。

 

 GPだと成現の効果が永続なんだけど、MPだと時間制限あり。制限時間がすぎると元のアイテムに戻ってしまうから、本当は全部GPでやりたいんだが、ない袖は触れない。

 

 特殊チョーカー大量生産の他にもいろいろ作ったけど、EPがしんどかったなあ。シスターズたちの歌がなければ心の病気になってたかもしれない。

 俺はMPだけはあり余ってるから、そっちは余裕だったんだけどね。

 

「出かける前に渡しておきなさい」

「衣装がそれだから気づかなかったんだよ」

 3人の衣装は胸元はバッチリ見えるのに襟はキッチリ閉まっているというものなので、チョーカーが似合わないというか、干渉して邪魔になりそう。

 サイズ自動調整だけじゃなくて変形や色の変更もできるから、極薄で不可視にすればコーディネーションは関係なくなるけどね。

 

「これは?」

「お守り、みたいなものかな」

「首輪よ。煌一クンに逆らうと爆発するの」

「そんな機能はつけてない!」

 華琳ちゃんの冗談で、チョーカーに伸ばしていた手をひっこめる彼女たち。

 そんな物騒な機能つけるわけないでしょ。誤作動や俺が酔って使っちゃったらどうするのさ。

 

 自覚はないんだけど、俺って酔うと暴走することがあるみたいでね。

 深酒した翌日、起きたら妙な物を成現してたなんてこともあるんだよ、あはは……。

 だから俺にアルコールが入った時は成現しないように気をつけている。嫁さんたちがね。

 

 詳しい説明をしてやっと受け取ってくれた。

「本当に形が変わるんですね」

「首が嫌なら手首や腹巻にしてくれてもいいから」

 お勧めなのはお腹を攻撃や冷えから守る腹巻モード。不可視化すればへそ出しでも安心だ。

 

 チョーカーにしたのは、嫁さんたちの貞操帯(チョーカー)の量産型だからなだけで。

 浮気防止機能のついた嫁さん用のは外せないように作ってある。

 だけど外せなくしても、使徒やファミリアは身体の欠損を治す手段があるから、手足ごと切断して装備解除なんてできる。

 だからチョーカーなんだよね。首を切ってってわけにいかないでしょ。

 

「この娘たちはファミリアにはしないの? 素質はあるはずよ」

「だろうね。でも、苦労してる子たちだから、できれば普通の生活をさせてあげたいんだよなあ。今ははぐれてるけど、俺のファミリアの数って多いから戦力的には不足していないし」

 みんなどこに跳ばされたんだろう。早く会いたい。

 

「あの、ファミリアって?」

「使徒の部下、でいいのかな? 俺が使徒ってやつなんだけどね、その仲間だよ」

「あら? 妻のことではなかったのね」

「違うから。そりゃ俺のファミリアのほとんどが嫁さんだけど、そうじゃないのもいるから!」

 華琳ちゃんだけじゃない。俺のファミリアにはマサムネやディスクロン部隊、それにマインだっているんだ。

 

「ん? コーイチのお嫁さんって何人もいるの?」

「うん。最高の嫁さんたちだよ!」

 俺の担当世界に出発前に撮った写真をビニフォンで大きく立体投影する。人数多くて旅行や卒業アルバムの集合写真みたいになってるけどね。

 

「へえ、これってそんなこともできるんだ。で、どれがコーイチのお嫁さん?」

「え? 全員だけど」

「お、多すぎよっ! いくらなんでもおかしいわ! なんだか小さな子もまじっているし!」

 多いよねぇ。カティアちゃんの驚きもわかる。

 あとみんな18歳以上だから! 建前上は!

 

「あ、華琳ちゃんも煌一さんのお嫁さんだったんですね」

 メルアちゃんが指差したのは俺の隣に座ってる華琳。ちなみに反対側は梓だ。

「違うわ。それは私ではないのよ」

「え? でも……双子の姉妹?」

 華琳ちゃんと写真の華琳を何度も見比べるスパロボJヒロインズ。

「似たようなものね」

 双子じゃなくて別の世界の本人です。……説明すると長くなりそうだからいいか。

 

「お姫様みたいにみんな綺麗な子ばっかりだね。コーイチってもしかしてどこかの王様?」

「たしかにお姫様はいるけど、俺は一般人だよ。……使徒になる前はね」

「本当!?」

 目を輝かせる3人。彼女たちのお姫様のイメージってどんなだろう?

 ティアラとドレスをイメージする俺は古いんだろうか。

 フューリーにもお姫様いたし、キンゲにもアナ姫いたな。

 

 姫嫁をはじめとして嫁さんたちを一人一人解説してたら途中で飽きたのか、華琳ちゃんがビニフォンをいじりだし、3人娘とメールで内緒話をしていた。華琳ちゃんは指輪の中からずっと視ていて知っているからつまらなかったのかな。

 

「あれ? なにか変なデータが入ってるわ」

 カティアちゃんまで……いいよ、こうなったら意地でも嫁さん全員の説明をするからね!

 

「どれ? 動画ファイルのようね。それもパスワードでロックされている。煌一クン、パスワードは?」

 カティアちゃんから受け取ったビニフォンをいじる華琳ちゃん。

「そんなファイル知らないけど。だいたい、それは俺が渡したビニフォンじゃない」

 仕方なく解説を中断して答えた。いいから俺の嫁さんのことを聞いてほしいんだけどな。

 

「Readmeファイルもあるのね。パスワードはカリン・ブーンの初恋の人。……そういうことなのね」

 言いながらも入力したのかパスワードが解除され、そのビニフォンをコタツの天板中央に置く。俺のビニフォンをどかしてね。

 

「邪魔だから返すわ」

 無言で立体映像を停止してビニフォンをしまう俺。

「いじけてないの。再生するわよ」

 カティアちゃんのビニフォンから立体映像が再生される。

 それは華琳ちゃんだった。この世界にくる直前に会ったもう1人の華琳ちゃん。たぶん未来の彼女。

 やはり、左手薬指に指輪をしているな。

 

 さっきのプロポーズを俺が受けちゃったんだろうか?

 それともまさか、華琳と華琳ちゃんまでが合成された?

 

『これが再生されたということは、失敗したようね。保険が無駄にならなかったと喜ぶべきなのかしら?』

 その動画の華琳ちゃんは「ふふっ」と笑っていた。

 

 



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8話 マンモス

 Jヒロインズに渡したビニフォンから、華琳ちゃんが残したメッセージが立体映像で再生される。

 なんかスターな戦争の出だしを思い出すね。

 どうせなら渡したビニフォンをあのロボ型にしておけばいいのに。

 

『このビニフォンには解錠魔法が効かない。すなわち、私がカリン・ブーンと融合してしまったか、少なくともカリン・ブーンがそこにいるということ』

 解錠の魔法ってレベルが高いといろんな鍵を開けることができるようになる。たとえコンピュータのパスワードでもね。

 それに気づくまで華琳や七乃が俺のノートパソコンを勝手に使えてた理由がわからなかったんだよ。いくらパスワード変更しても無駄。指紋認証も鍵扱いだから無効化されてさ。

 

 おかげで、やばそうなのはインターネットにも使わない別のノーパに退避させて、普段はスタッシュにしまいっぱなしにするしかなかった。

 解錠魔法に気づいた後はヴェルンド工房の連中と一緒にビニフォンを改良したり、FXギアや他のロボの認証にも対策つけたりする羽目になったよ。

 

『あなたたちの状況が私と同じならば、世界は……多くの異世界とともに攪拌(シャッフル)されている』

 まさにスーパーロボット大戦のZシリーズの多元世界っぽいなあ。

『Dimension Shuffleと今は呼んでいるあの爆発によって、多くの世界は融合や入れ替えが起きてしまった』

 Dimension Shuffle……次元攪拌か。DSね、世界が融合してるんだからWorld Shuffleじゃ駄目なの? 略称WS。どっちにしろ携帯機か。

 

『融合は世界だけではない。私のように人間さえも融合する』

 そうなんだよね。使徒やファミリア、その候補同士が異世界の同一存在と接触した場合は弱い方がカードになるはずなんだけど、華琳ちゃんの場合はまるで合成を使ったかのような状態になってしまっている。

 そもそも華琳ちゃんとカリン・ブーンが同じ存在だったのかってのも疑問なんだけどさ。

 

『人間やその他の物の融合にはパターンがあるわ。融合する前のどちらにも共通点が存在する』

「共通点?」

『多くは名前。たまに別の共通点』

 カリン・ブーンと華琳が融合したのは名前が同じだからか。

 グランゾンとの戦いを促す時にも「名は体を表す」って言ってたけど、そういうこと?

 

『煌一クンも確認してごらんなさい。あなたは真玉橋孝一と融合して……』

「マジですか?」

 慌ててビニフォンで俺のプレイヤーシートを呼び出して確認する。

 華琳ちゃんが「Hi-ORu粒子」とかネタ振りしてきたのはそういうことだったなん……おや?

 俺の名前は天井煌一のままなんですけど。

 

『……ないはずね』

「フェイントかよ!」

 これ本当に録画なの?

 

『もしも煌一クンが本当に真玉橋と融合していたら、その時は私たちとは違う流れになったということ。この話はあまり参考にならないかもしれないわ』

「どうやら少しは役に立てそうな情報なのかしら?」

 華琳ちゃん、俺を鑑定して名前を視たのか。ファミリアになったばかりなのにもうスキルを使いこなしてるよ。

 いくつものゲームのプレイ経験がある分、華琳よりも慣れるの早いかも。

 ……華琳も早かったか。

 

『私だけではなく、他にも多くが融合してしまっている。中には、融合した相手に引っ張られて記憶が曖昧な者もいるわ。探し出しなさい』

 華琳ちゃんも記憶が混乱してるとか言ってた。今まで合成してきた嫁さんたちはそんな様子はなかったけど、それは完全に同一人物だったからなのかも。

 

『あなたたちが跳ばされた場所については、予言にあった、心残り、が大きく影響しているとみているわ。見つからない者を探すのは、そのことを念頭に入れなさい』

 心残りか。それが跳ばされた先に影響がある?

 俺や華琳ちゃんがここに跳ばされたのにも理由があったりするんだろうか。

 

『爆発時にエクサランスがいたせいか、跳ばされた皆には時間差がある。すぐに全員が見つかることはないでしょう』

 その辺もオーガスの時空振動弾と同じか。

 俺たちが使徒とファミリアじゃなかったら、娘が出てきたりしそうだよね。

 

『皆を探しつつ、戦う準備を進めなさい。地球には敵が多すぎるわ』

 敵、ねえ。スパロボだったらそうなんだろうけど。

『そして救済は戦いだけではない。マ†・エロースもそのために建造された方舟。……もっともこれは別の煌一クンが用意しているでしょう』

 ホワイトかファイヤーか。その別俺が、予言にも用意しろっていわれた方舟を建造するのか。

 さっきちょっと乗った艦をそのまま使うんじゃないのね。それだと、タイムスリップものにありがちな、誰が最初に造ったかわからないってことになるもんな。自分が自分の祖父になる、みたいなさ。

 

『これ以上は、あなたたちの行動を制限しそうだからこの辺で止めるわ。ちゃんと覚えたわね? このデータは自動的に消滅する』

「ちょっ!」

 俺は慌ててコタツの上のビニフォンを手に取り、車外へ出ようとする。

 

『別にビニフォンごと爆発したりはしないから落ち着きなさい。それでは、あなたたちの健闘を祈る』

 バシュッと大きな音を立てて、華琳ちゃんの映像が途切れた。映像停止だけではあんな音は普通しないから演出なんだろう。

 ビニフォンをカティアちゃんに返して「焦って損した」と笑って誤魔化す。いらん恥かいちゃった。

 

 

「たしかにデータは消えているようね」

「あの台詞言うためだろ。消す必要あるのか?」

「さあ? 私にはわからないわ」

 自分でしょうに。でも華琳ちゃんが微笑んでいるようにも見えるから、本当は理由がわかっているのかもしれない。

 

「名は体を表すかあ」

「融合相手が予想できる者もいるわ。JやK、Rに出てきた者と同じ名前の」

 そんなにいるかな?

 ……スパロボは登場人物も多いから、同じ名前ってのもいるか。

 

「まず、確実そうなのは冥琳ね」

「あっ!」

 冥琳は、無印冥琳がぬいぐるみにされてた時に擬似契約空間で華琳ちゃんと会っているから真名を交換してたんだよね。

 

「メイリン・ホーク!」

「そう。スーパーロボット大戦Kならば、機動戦士ガンダムSEED DESTINYも参戦している。可能性は高いでしょうね」

夫婦交換(スワッピング)に巻き込まれたくないから、種ガンには関わりたくなかったんだけどなあ」

 冥琳がメイリンか。

 あれ? カリン・ブーンとメイリン・ホークって声が同じじゃなかったっけ。

 

「ツインテールの冥琳は見てみたいわね」

「どうなんだろう、華琳ちゃんはあまり外見が変わってないから冥琳もそうなんじゃ? ……でも俺も見たいな」

 雪蓮も喜んでビニフォンで撮影しまくりそう。

 って、雪蓮が一緒かどうかもわからないのか。

 

「雪蓮……はちょっと融合相手が思いつかないな、逸れてなきゃいいけど」

 冥琳というブレーキのない雪蓮はちょっと考えたくない。

 せめて祭がついていてくれよ。

 

「他にも楽進がシン・アスカというのも考えられる」

「真名じゃないのもありなのか? それに性別が」

「可能性の話よ」

 凪が種運命の主人公(笑)になっているなんて……男やフタにもなっていてほしくないんですが。

 でももしそうなら妹さんは助けてあげたいな。

 

「この()()にもいるのではないかしら?」

「でもビニフォンにも探知にも反応がないよ」

「時間差があると聞いたばかりでしょう。これから融合することもありうる」

 そうか。そうなるとその相手を探せばいいのかな。

 ここは地球って名前だけど、俺たちの地球じゃない惑星なんだよね。

 

「この地球がKのあの地球だとすると、キングゲイナー、ゾイドジェネシス、ガン×ソードのキャラか」

 誰がいる?

「部分的な名前の一致でもいいのならシンシア・レーンは楽進、霞、恋の誰と融合してもおかしくはないわね」

「3人全員が融合してないことを祈ろう」

 名前の一部でいいんだったら華琳ちゃんのお兄さんになったアスハムのハムで、ハム孫賛で白蓮ってのも……ちょい無理がありすぎるか。

 

「レ・ミィちゃんが美以ちゃんとならわかる気がする」

 川で魚獲りしたり、丸焼き姫だったりする野生的なイメージだから違和感ないし。ロリだし!

「ゾイドジェネシスならばコトナ・エレガンスがほしいわね」

「融合相手の話でしょ」

「コトナ・エレ顔ス……顔良か厳顔のどちらかなら融合しないでほしいわね。そのままがいいわ」

 コトナには双子の妹リンナ・エレガンスもいたから、桔梗と斗詩が姉妹になってる? なんか違う気がする。

 

「ルージ・ファミロンは声が魏延と同じよ」

 中の人が同じで融合って……ありなのか? 桔梗(コトナ?)焔耶(ルージ?)でセットにはなるけど、ショタっ子が巨乳さんになっちゃったらさすがに家族もびびると思う。

 ルージの家族っていえば、あのお母さんは可愛かったよな。

 

「声って……名前以外の共通点でも考えた方がいいのかな? 性格とかさ」

 性格が似てるんなら融合しても違和感は少ないはずだ。

「性格が同じ、というのならこの3人もね」

「へ?」

「私たちがなにか?」

 突然話を振られてビックリしているJヒロインズ。

 

「おっとり巨乳、委員長気質、腹ペコ。ほら、どこかの義姉妹と同じではなくて?」

 それだけ見るとたしかに桃香、愛紗、鈴々っぽいけどさ。メルアは腹黒じゃない……のかな?

 

「腹ペコってアタシ?」

「……そろそろ晩御飯にしようか」

「そうね」

「お腹すきました」

 テニアちゃんの質問は軽く流すみんな。言わずもがな、ってことなんだろう。

 

「毛長象を獲ってきなさい。輪切りにするわ」

「マンモじゃないでしょ、あれは。どこにいるかもわからないし、そんな時間もないって」

 キングゲイナーの毛長象か。俺も食ってみたいけどさ。マジで輪切り肉にできたら、喜ぶ嫁さんも多そうだ。

 機会があったら狩猟してみますかね。

 

 

「寒いから鍋もいいんだけど、コタツが小さいからまた今度ね」

 みんなが鍋を囲んで、俺だけハブられてるのも別にかまいはしないのだけど、みんなの方が気にしておいしく食べてくれないかもしれない。

 あとで大きなコタツを用意しよう。ヤーパンの天井なら売って……ないだろうな。成現するしかないか。

 

「はい」

「ありがとう」

「おかわりもあるぞ」

 大鍋ごとスタッシュに入れといたそれをよそって、みんなに渡す。

 シチューだから死亡フラグにはならないよね。

 

 そういえばスーパーロボット大戦Rにも母さんのシチューってアイテムがあったっけ。

 SPを回復するアイテムだったけど、俺たちの場合はEPを回復してくれるんだろうか? 嫁さんたちの美味しい料理を食べればEPも回復するし。

 だけどEPは気力扱いな気もしてくる。どっちかな。

 

 精神コマンドもどうなってるのか不明だ。使ってくるやつがいるのか? それとも俺たちも使える? 試してみる必要があるな。

 効果で考えるとスパロボ世界のSPは俺たちのMPかCPに対応してそうだ。

 

 ……以前に左慈と戦った時にこちらの攻撃が全く当たらなかったけど、もしかしたら、完全回避な精神コマンドの『ひらめき』を使っていたのかも。

 

 食事の後は明日の予定を相談。それが終わったら、俺は外にテントを立てて寝る予定だ。

 さすがにキャンピングカーで4人の美少女と一緒に寝るのはマズイ。

 

「まずはエリアZiにいかなきゃいけないのか」

 キャンピングカーをとめたこの辺ではゾイドを見かけてないから、ここは違うと思う。

 エリアZiは高い山脈と強力な磁気嵐によって遮られているんだった。なにで飛んで越えればいいかな。

 

 磁気嵐で危険だから、俺がリュウジンオーに変身してエリアZiにたどり着いてからポータルで呼べば……ポータルは使徒かファミリアじゃないと駄目だった。

 

「カリンと融合した華琳ちゃんにEPを注入してもらって、これのかわりのシルエットマシンを成現すればこの惑星でも目立たないかな」

 シルエットマシンってのはキングゲイナー世界のほとんどの乗り物の総称。オーバーマンは違ったんだっけかな。

 

「どうせならシルエットマンモスの方がいいわ」

 シルエットマンモスは超大型のシルエットマシン。キングゲイナーでは都市ユニットを引っ張っていた。戦艦みたいなのもあったな。

「できないこたないだろうけど、目立つよ。それに操作も大変じゃないかな?」

「そう。残念ね。移動式の後宮はまた今度にしましょう」

「そんなこと考えてたの?」

 早く春蘭と秋蘭、桂花と合流しないと華琳ちゃんが欲求不満になっちゃうんじゃないか? Jヒロインズも危険かもしれん。

 

 

「この惑星は私たちの地球じゃないのよね。地球には戻れないの?」

 不安そうなカティアちゃん。記憶は曖昧でも地球には帰りたいんだろう。

「戻るよ。地球の方が跳ばされた嫁さんが多いだろうし」

 スパロボKだと、地球とこの惑星が超空間ゲートで結ばれていたんだったよな。時期がくればきっとそのゲートもできるだろうけど、それを待つつもりもない。

 地球の位置さえわかれば、移動手段を用意してなんとか帰れるはず。マ†艦が見つかればフォールド航法もできるだろうし、なんなら俺が成現すればいい。

 

「地球に跳ばされた嫁さんと連絡がつけば一番なんだけど……」

 途中で鳴り響く着信音。

「噂をすれば影、ね」

 華琳ちゃんの言葉を聞きながらビニフォンを確認する。

 ねねちゃん?

 

「……もしもし」

『なにやってやがるのです!』

 繋がったとたんに怒られちゃった。恋と逸れて気が立っているのか?

 

「落ち着いて、ね」

『これが落ち着いていられるですか! なんでお前がBF団の首領なのですか!』

「はいぃ?」

 BF団? あの悪の秘密結社?

 その首領って、ビッグ・ファイアだよね。

 俺が、って俺の分身がビッグ・ファイアやってるの?

 まさか融合しちゃったの?

 

 




桃園のJヒロインズってのもちょっと迷いました


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9話 その名はビッグ・ファイア

 寒い。

 なんか変な音が聞こえて目が覚めてしまった。

 ここはどこ?

 一応言っとくか。

「知らない天井だ……」

 

 マジでここどこだろう?

 自分の状況を確認しようと寝ていた場所を確認する。

「って、天井っていうかカプセル? 閉じ込められてた?」 

 棺桶……じゃないよな、なんかメカメカしい。

 あれだ、冷凍睡眠(コールドスリープ)の装置みたいな機械。だから寒かったんだろうか。

 

「はわわっ! ビッグ・ファイアさまがお目覚めしちゃいました!?」

 声がした方を見ると、白い羽扇を持った少女がいた。

 

「朱里ちゃん?」

 なんか聞き捨てならないようなこと言ってたけど。よく見たらスーツ姿だし。

 

「な、なぜ私の真名を知ってるんでしゅか?」

「え? 俺、君の夫だよね?」

「そ、そんなおそれおおおい……」

 かみながら震える朱里ちゃんの左手には指輪がない。

「……まさか、あれは夢だったの?」

 そうか、夢だったのか。

 俺が美少女たちと結婚できるなんてあるはずもないか。

 

「な、泣いているんですか?」

 ずっと憧れ続けて、諦め切れなかったものが手に入ったと思ったら夢だった。これが泣かずにいられようか。

 こうなったら、夢の続きを見るしかない!

 俺は寝直すことにした。メカメカしいベッドに潜り込んで……あれ? もしかして俺、裸だった?

 

「見たな?」

「は、はわわわ、いつも通りビッグ・ファイアさまのご様子を確認しにきただけで、決してその御身体を覗こうなんて!」

 ……ええと、起きる前からずっと観察されてたの、俺?

 しかも全裸で!

 

「もうお婿にいけない!」

 顔を両手で隠す俺。ギャグで誤魔化しでもしないと恥ずかしすぎる。

 あれ、この顔に当たる金属の感触は?

 自分の左手を確認すると、薬指にはちゃんと指輪をしていた。

 

「これって結婚指輪だよね! じゃあ……夢じゃなかった?」

 なにか他に確認できるもの……そうだ、鏡!

 俺が若返っていたら、あれは夢じゃないはずだ。

 

 スタッシュから鏡を取り出し、自分の姿を映す。

 混乱していた俺は収納空間(スタッシュ)が使えれば、それが確認となることにさえ気づかずに。

 

「よし! 若い! ……でもなんで白髪?」

 俺はたしかに若返っていて。

 でも髪が真っ白になっていて。

 

 あの機械ベッドのせいで脱色したんだろうか?

 あれはそういう機械で全裸だったのは服まで脱色しないように?

「ビッグ・ファイアさまの御髪(おぐし)は元々その色だったですよ」

「ビッグ・ファイア?」

 さっきも朱里ちゃんが俺をそう呼んでいたな。

 俺の嫁じゃない朱里ちゃんが。

 

「もう一度聞く。君は俺の嫁じゃないんだね?」

 ビニフォンのスワップアプリを使って瞬時に着替えながら彼女に問う。

 あれ、こんな学ランみたいな服、登録してたっけかな。

「は、はい」

 俺の嫁じゃない朱里ちゃん。俺の嫁とは別の朱里ちゃんということか。華琳ちゃんと同じく無印恋姫†無双の諸葛亮かな? 服がなんか違うけど。

 

 むむ?

 スーツ姿の諸葛亮孔明!

 さらには俺をビッグ・ファイアと呼んでいる!

 ……もしかしてこれってさ。

 

 もう一度鏡で自分の姿を確認。

「ビッグ・ファイア……俺が?」

 俺のコールサイン、ファイヤーじゃなくてホワイトだったんですがね。

 華琳ちゃんがホワイトが白髪に、って言ってたのを分身(ファイヤー)が聞いてる。これのことだったのか。

 

 

 ビッグ・ファイア。

 ジャイアントロボに登場する悪の秘密結社、BF団。

 OVA版ジャイアントロボのBF団首領(ボス)がビッグ・ファイアだ。

 ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日、は同じ原作漫画家の他の作品のキャラクターも多数登場する。

 その中に三国志のキャラもいて、それが諸葛亮孔明。ビッグ・ファイア直属の部下。

 孔明ちゃんは無印恋姫のでもなくてジャイアントロボの孔明ちゃん?

 だけどあれはおっさんだったはず。はわわなんかじゃなく、もっと悪そうに笑う。

 原作漫画では男でOVA版ジャイアントロボで女性化したキャラも出てきたけど、孔明ではなかったのに。

 

 OVA版ジャイアントロボはスーパーロボット大戦αとスーパーロボット大戦64にも出てた。

 スーパーロボット大戦……最初はスパロボJだと思ったらスパロボRのキャラも出てきた世界で俺たちは戦っていたはずだ。

 スパロボの中でも悪役――たまに味方になっても最後に裏切るんじゃないかと不安な――ロボ、グランゾンと戦っていた。

 巨大ロボ同士での初めての実戦がラスボス級ってのはきつかったけど、その最中に大きな爆発があって……。

 

 みんなはどうなった?

 夢じゃなかった俺の嫁さんたちは?

 

「ビッグ・ファイアさま?」

 羽扇子で隠した顔を心配そうに半分覗かせる孔明ちゃん。

 ()()によれば、()の部下になった時から少女だったからジャイアントロボの孔明ちゃんで……待て、それは何年前だ?

 記憶? 俺の中にアニメの視聴者としてではない、ジャイアントロボの登場人物としての記憶が混じって……!

 

「……記憶が混乱しているようだ、孔明ちゃん。俺がビッグ・ファイアなのか? 君は本当にBF団の諸葛亮なのか?」

「はわわわ、も、もしかしてビッグ・ファイアさまも……」

「も?」

「アキレスさま!」

 孔明ちゃんの呼びかけによって、床から液状の黒いなにかが広がったかと思うと、一瞬で俺たちを覆った。

 黒いドーム状の空間に閉じ込められる俺と孔明ちゃん。

 真っ暗になってしまったが、孔明ちゃんが羽扇子を水平に寝かせると、羽扇子の上にボッと火が浮上してそれが照明代わりとなる。

 

「これなら誰にも聴かれないはずです」

「アキレスの牢、か」

 でも十傑集なら簡単に脱出されるんじゃなかったっけ?

 アキレスってのはビッグ・ファイア直轄の3つの護衛団の1人。不定形生命体だ。

 

「ご無礼をお許しください、ビッグ・ファイアさま。十傑集にも聞かれたくないのです」

「いいよ、俺のためでもあるんだろ」

「はい」

 十傑集ってのはBF団の幹部でその名の通り10人いる。各人無茶苦茶な能力を持つ特A級エージェント。ロボよりも強い、濃すぎる連中。おかげで主役ロボの影が薄くて……。

 十傑集は孔明とは仲があまりよくなかったはずだ。

 

「ビッグ・ファイアさまはもしかして、別の人物の記憶がございませんか?」

「……うん」

 迷ったが、嫁と同じ顔の少女の問いかけに正直に答えてしまった。まあ、嘘をついたところで、孔明ちゃんは騙せそうに……朱里ちゃんならともかく、ジャイアントロボの策士孔明は騙せそうにない。

 

「わたしも同じなのでしゅ!」

 キメたかったんだろうけど、かんでしまって真っ赤になる孔明ちゃん。

 ここはツッコまずに続きを促そう。

「同じ? 孔明ちゃんにも別人の記憶が?」

「は、はい。今よりももっと昔、何百年も前の大陸にいた記憶があります」

「前世の記憶ってわけではないよね?」

「違います。その記憶が現れる前まではわたしは実は男だったのです!」

「うん。知ってる」

 俺がそう言うと孔明ちゃんは驚いた顔をして、それからほっとした表情になり、うんうんと頷く。

 

「わたしは急に女性になってしまったのです。なのに、まわりは誰もそれを異常に感じないのです。催眠も無効化できる十傑集ですら」

「それは孔明なら、そんな奇行をしてもおかしくないって思われているだけなんじゃない?」

「ち、違います! 調べたところ、各地で似たような現象がおこっているのです」

「え? 他にもいるの?」

 今度は得意気な表情だ。これが策士とは思えくなってくる。

 

「十常寺さんも外見が変わってしまってます。やはり、他の十傑集は気にしていません」

「十常寺か」

 命の鐘の十常寺。

 道士のような格好と術を使う十傑集。生命を操る力の持ち主で、本人もたとえ死んでもゆっくりとだが復活できるとんでもない男。

 台詞が漢詩や熟語ばっかりでなに言ってるかイマイチわかりづらいやつでもある。

 

 ……十常寺?

 白目のとこが赤くなってたぽっちゃりさん。モデルは三国志の十常侍だったよな。

「少年か少女かわからんような外見になっちゃったのか?」

「そ、その通りです」

 恋姫シリーズには十常侍は名前だけの登場だったけど、アニメ版のには張譲が出ていた。

 まさかそいつか?

 

「ふむ。アルベルトはどうだ?」

「アルベルトさんですか。彼に変化は見れません」

 衝撃のアルベルト。

 強力な衝撃波を使う十傑集。アニメでは大活躍していた。

 中の人が恋姫の卑弥呼と同じだからってちょっと不安になったけど違ったか。よかったよかった。

 

 だとすると異世界の自分と融合したのだろうか。AAAのショップで行える合成のように。

 でも、異世界の同一人物同士が接触すると弱い方がカードになるだけで融合はしなかったはず。

 それに、()がビッグ・ファイアと同一の存在だってのもおかしい。

 

「異常がおこった者に共通点は?」

「今のところ、名前が同じ存在に記憶や外見、性別その他が影響を受けているようです。ただし例外も見受けられます」

「名前……名前か!」

 ビッグ・ファイアは本名不明。もしかしたらビッグ・ファイアが本名なのかもしれない。

 だが、モデルになったバビル2世には本名がある。

 苗字は山野だったり、古見や神谷だったりするけど、名はどれも同じ。

 その名は浩一。俺とは字が違うけど、同じこういちだ。

 

 なんだよ、名前が一緒だから融合って!

 華琳ちゃんが、華琳・ブーンになってたのもこのせいか。名は体を表すってこのことなのか。

 

 どうせだったら、同じ超能力関係のこういちでもさ、もっと別のがいるでしょ。可憐な幼女(チルドレン)に囲まれたさ!

 まあ、漫画版の早瀬浩一じゃなかっただけいいのかな? あのラストはしんどい。

 

 

 

 それからも孔明ちゃんと情報をすり合わせた。

 彼女はやはり無印恋姫の孔明ちゃんとジャイアントロボの孔明が融合しているようだ。

「はわわっ、ビッグ・ファイアさまが使徒?」

「といってもA.T.フィールドを張るやつじゃないけどね」

 あっちの使徒も出てくるんだよな。この世界。

 

 この世界はジャイアントロボではなく、スーパーロボット大戦αの世界のようだ。融合したビッグ・ファイアの記憶は不鮮明なんだけど、その記憶の中にスペースコロニーや光子力エネルギーといったものが存在する。

 スパロボαには新世紀エヴァンゲリオンも参戦してるから、使徒もいるんだろう。

 

「今は新西暦179年か」

 新西暦なんでスパロボ64じゃなくてスパロボαなのが確定っぽい。新西暦はαやOGシリーズの年号だ。

「ジオン公国と地球連邦政府が戦争中です」

「一年戦争か」

「一年?」

 ああ、終わってないからまだ一年戦争って呼ばれてないのか。

 

 嫁さんたちがどうなったか不明だけど、戦争してる中に現れたら大変だ。早く探しにいかないと。

「ビッグ・ファイアさま自らが動くのですか?」

「駄目か?」

 じっとしてなんかいられない。悪の秘密結社のボスってのも、なにやっていいかわからん。

 俺はビッグ・ファイアと融合したみたいだけど、ビッグ・ファイアの記憶も曖昧だし、煌一の部分が強いようだ。煌一が使徒だったのとビッグ・ファイアがあんなベッドで寝るほどに弱っていたせいだろうか。

 

「まだ記憶が混乱している。元に戻るまでは好きに動かさしてくれ」

「……わかりました。ただし、護衛をつけます。本来ならばビッグ・ファイアさまに護衛など足手まといでしかありませんが、この状態です。必要でしょう」

 護衛ねえ。3つの護衛団で一番目立たずに護衛してくれそうなアキレスは孔明ちゃんに残しておきたいんだよな。

孔明直属の部下にコ・エンシャクがいるけど、あれの正体っていわれてる。それともアキレスは不定形だから分裂してコ・エンシャクがいるんだろうかね。

 

 残りの3つの護衛団、ガルーダとネプチューンはガタイがデカすぎて目立つだろう。

 ……移動には便利か。ポータルで移動するためのマーカーが全くない。嫁さん探しついでに各地でマーキングしてこないと。あるかどうかわからないけど拠点を起動させることもできるかもしれないし。

 

「みんなには邪魔をしないように言っておきます」

「頼むよ。あ、なんかあったらこれで連絡してね。まだテレパシーの調子がつかめないみたいだから」

 孔明ちゃんにビニフォンとついでに一般型の特殊チョーカーを渡しておく。

「国際警察機構が動くと面倒ですのでくれぐれも、ビッグ・ファイアさまだとばれないようにお願いします」

「わかってるよ……これならいいでしょ」

 変身魔法で化ける俺。PoMっと出た煙が晴れて現れるのは大江戸学園で長くすごした幼い姿だ。

 

「あとは偽名か」

「ちょうどいいのがあります」

「え? こいつなの?」

 資料とともに彼女が教えてくれたその名は、ブルックリン・ラックフィールド。

 αの主人公キャラの1人じゃないか!

 

「彼は非常に強い念動力を持っていて、BF団としてもスカウトの準備をしていたのですが亡くなってしまいました」

「亡くなった? ジオンとの戦争でか?」

 主人公キャラが死んだ?

 非常に強い念動力って、そりゃ育てれば他の主人公キャラよりも念動力の最高LVが高かったけどさ。第2次α以降はそうじゃないし、まだ10歳ぐらいだからそこまで強いはずじゃないのに。

 

「戦争ではなく、最近出現している謎の怪獣に襲われました。BF団エージェントがこの怪獣を始末しましたが彼の死亡が確認されています。世間では行方不明ということになりました」

「怪獣……」

 エヴァの使徒じゃないよな。十傑集なら倒せるだろうけど、それ以外のエージェントだとA.T.フィールドは破れないと思う。

 

「彼はBF団以外にも念動力者として知られていましたから、もしもビッグ・ファイアさまのお力が検知されても多少は誤魔化せるはずです」

 ビッグ・ファイアってαだと最古のサイコドライバーって設定だったらしいから、サイコドライバーのブリットならば隠れ蓑にはなるのか?

 

「まあ、この名前ならみんなも気づいてくれるかもな」

 担当世界に行く前に、スパロボキャラや参戦作品のキャラはある程度、みんなに説明した。時間がなかったから動画でだけどね。

 OGのアニメもみんなで観たから、主要キャラのブリットの顔や声が違ったら気づいてくれるはずだ。

 

「って、顔が違うんだけど」

「ですから多少の誤魔化しです」

 そうはっきりと言われても。

 孔明ちゃん、ジャイアントロボの策士、というか言い逃れの得意な孔明と融合したんで朱里ちゃんとちょっと性格が違ってきてるのかもしれない。

 

 もしかしたら俺も性格が変わっているのか?

 以前の俺だったら悪の秘密結社なんて許せずに本部を破壊して幹部を殲滅……。

 ないな。どう考えてもそんなことをしたとも思えない。ビッグ・ファイアも私欲のために世界征服を策謀してたわけでもないようだ。理由は思い出せないけどね。

 

 

 

 念のためにビニフォンで調べたけど嫁さんたちが見つからなかったので、孔明ちゃんから偽造した身分証と現金、カードをもらって俺はBF団本部を出発した。

 護衛はC級エージェント。

 BF団のエージェントってC級以下は分厚い唇のついた覆面着用が義務付けられている。

 

 だからってさ、護衛任務でついてくる連中までマスクしてなくてもいいだろうに。

 スーツにマスクって目立ってしょうがないでしょ。子供がこんなのと一緒にいたら怪しいことこの上ない。

 

 面倒なんで、孔明ちゃんには悪いけどガルーダを呼んで1人でさっさと飛んでいってしまったのは許されるよね。

 マスクマンたちはビッグ・ファイアだと知らされてなかったみたいだけど、俺が巨大な怪鳥(ガルーダ)を呼び出したおかげでそれに気づいて追ってはこなかったよ。

 

 一応、子供の姿な俺に合わせてか小さいエージェントもまじっていたけど、どこかで見たような……あの唇覆面のせいか?

 少しは会話してみるんだったかねえ。

 

 

 




原作主人公キャラ(の1人)を死亡させてしまったので『アンチ・ヘイト』タグを追加します



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10話 Q

 ロプロス、じゃなかったガルーダに乗って飛びながら、勢いにまかせて護衛を振り切っちゃったことを謝るメールを孔明ちゃんに送る。

 ついでにC級以下のエージェントでも任務によってはあのマスク以外の方法が必要なんじゃないかとも意見しておいた。

 

「これでよし、と」

 かなりの高度を高速で飛ぶガルーダ。目的地にはすぐにつきそうだ。

 あまり寒くも苦しくもないのはビッグ・ファイアと融合(フュージョン)してしまったせいだろう。

 

 目的地は日本。世界は違えど、日本の方が安心できるはず。

 本当は恋姫嫁さんたちが目指しそうな中国大陸に行きたいところだけど、国際警察機構の北京支部や総本山の梁山泊がある。国際警察機構の秘密捜査員であるエキスパートも多いと思われるので、向かうのは各地にマーキングをして逃げ場を確保してからだ。

 嫁さんたちと合流しても落ち着ける場所がないのは困る。拠点が1つも起動していないのは痛いね。

 

 バビル2世だったらそれこそサンドストームでディフェンスされてる基地を持っているのに、ジャイアントロボだと敵に奪われている。

 漫画版(スクライドの人の方)だとライセが建てたんだっけ?

 バベルの塔だったら戦時中でも安心できそうなのにさ。いい場所があったらいっそのこと、塔を成現(リアライズ)してしまうのもありか。ジャイアントロボ世界のじゃなくて、バビル2世のバベルの塔をさ。

 

 孔明ちゃんとの話だと一年戦争中らしい。BF団もいるからこの世界はスーパーロボット大戦αの世界なはず。

 ……逆に日本は危険か? スーパーロボットの基地が多くて狙われるな。

 安全なとこってどこだろう?

 とりあえず、基地のなさそうな地方都市に潜り込めばいいか。

 

 

 日本に近づいたらガルーダをスタッシュに収納する。ロプロスと同じくロボットだったようで入れることができた。

 ロプロスと同じだったらヨミ担当のライセのテレパシーで操られるかもしれない。今の俺はその能力もビッグ・ファイアより弱っているようだし。それになにより、目立つしね。あとでネプチューンにも入ってもらおう。

 

 魔法の箒代わりのロボ掃除機改で海上を飛行し、日本にたどり着く。

 いい加減疲れたよ。目覚めてから食事もとってない。さすがに空中じゃ食べる気がしなかったからね。

 隠形も使ってるし時間的には深夜なのであまり目立たずに侵入できたはずだ。騒がれる前にマーキングだけして……はいOK。海岸だけどまあいいでしょ。

 

 戦時中だけどコンビニ開いてるかなと明かりの方に歩き始めたら、波の音に混じってわずかにだけど奇妙な音が聴こえた。

 なにこれ、獣の鳴き声?

 感知スキルにも海岸の先にでっかい生物の反応がある。もしかしてこれが孔明ちゃんの言っていた怪獣だろうか?

 そのそばに人間らしき反応も1つあった。

 

 見過ごすわけにもいかず、怪獣らしき反応に向かって走る。やばくなったらガルーダもいるしだいじょうぶだ。

 けっこう遠いな。それでも聴こえたってことは聴力も強くなっているのか。

 たどり着いた先には10メートルは超えてそうな生物がいる。手足の数も多い。蛸というかトドというかまさに怪獣なシルエット。

 

 そばにいたはずの人間は……いた! まだ無事のようだ。

「危ないから下がってて!」

 いきなり怒鳴られました。この暗闇でしかも隠形を使ってる俺に気づくとは普通の人間じゃなさそう。

 よく見ると大きな銃を持った少女だ。歳の頃は中学校に入ったかどうかのあたり。今の俺の外見と同じくらいだろう。

 

 少女は銃で何発も攻撃しているが、命中した怪獣はこたえた様子がない。

 一方、触手のように長い手足で少女を狙う怪獣の攻撃は、かすりもしない。

 へー、よく動くね、あの子。的が大きいせいもあるだろうけど命中率もすごい。

 女の子の注意が怪獣にむかっている隙にアイスソードもどきの木刀、GGKを出して。

「手伝ってやろうか?」

 ただし、真っ二つだけど。な素晴らしき人の台詞を借りる。あの人の技も生で見たいな。……参式が犠牲になるんだっけ。

 

「まだ逃げてなかったの?」

「女の子残して逃げるわけにいかないの」

 嫁さんたちに怒られるでしょうに。この女の子も可愛いから、特に華琳に怒られそうだ。

 

 砂浜に足を取られないように怪獣に向かって走り出す。女の子がいなかったらいきなり魔法攻撃したんだけどね。

「馬鹿、そんな木刀で……嘘っ」

 俺に近づいてきた怪獣の触手の1本をGGKで切断。あれ、こんなに簡単に斬れちゃうの?

 俺の胴より太いのに、この触手。

 BFさんとの融合でパワーアップしてるのか、俺。あとでちゃんとステータスを確認しよう。

 

「危ないっ!」

 切断されても激しく動く触手に注意していたら、別の触手に絡め獲られてしまった。

 うわっ、予想以上にネトネトしている。そのくせ締め付ける力は強いんで気持ち悪いって思う余裕がない。

 こうなったら魔法を……いや!

 

 わずかな記憶を頼りにその力を使う俺。

 それによって怪獣は激しく痙攣する。俺を掴んでいた触手の力が弱まるが、今度は逆に俺が離さない。

 慣れてきたせいかバリバリっと光と音まで発生するようになったこの力はそう、エネルギー衝撃波だ。

 しばらくこの攻撃を続けると、怪獣は焼け焦げた匂いとともに動かなくなった。

 

 生命感知のスキルにも反応しなくなったが、念のためにトドメをさそうとしたところ、手に持っていたせいかエネルギー衝撃波の余波でGGKまで焼けていてボロボロと崩れ去ってしまった。

 まだ練習が必要なようだ。服が燃えなかっただけマシか。

 

「あ、あなたは何者?」

 女の子が近づいてくる。やはり可愛いな。銃を俺にむけているのは勘弁してほしいけど。

 いきなり撃たれないように両手を上げて……あれ、なんかふらつく。

「俺は……」

 あ、バビル2世の超能力って体力使うんだった。エネルギー衝撃波なんて使いすぎると髪の毛が真っ白になるぐらい生命力を消耗する。

 魔法のつもりで使いまくっちゃったけど、どうやらMP消費じゃなかったようだ。

 やばい、ものすごく眠い……。

 

 

 

 ちょっと前に言ったばかりな気もするけど、また言っておくべきかね。

「知らない天井だ」

「あら、気がついたのね」

 あ、さっきの女の子。どうやら意識を失った俺を運んでくれたらしい。

 

「……なんかすごい腹が減ってる。俺はどれぐらい寝てた?」

「数時間よ、ブルックリン君」

 何日も寝てたわけじゃないらしい。この空腹感は超能力の使用によるものか。

 

「あ、俺の名前」

「悪いけど所持品を調べさせてもらったわ」

 スタッシュから出すのは人目につくんで、ポケットに財布と身分証を入れてたんだけど見られちゃったか。偽造したやつなんだけどね。

 

「私は銀鈴よ」

「銀鈴?」

「そう」

 まてまて。

 銀鈴? ジャイアントロボの?

 たしか19歳だったよな。1年戦争はスパロボαの本編から7、8年前だったはずだから年齢は合ってる。まさか本人なのか。

 

「え、ええと、運んでくれてありがとう。俺はそろそろ行くね」

 やばい。銀鈴は国際警察機構のエキスパートだ。銃も持ってたし間違いないだろう。いくら戦時下でもあの銃はゴツすぎる。

「どこへ? あなたの故郷、北米は今はジオンの勢力下よ」

「え、そうなの?」

 まだ連邦の反攻は始まってないのか。

 V作戦がどうなっているのか、あとで孔明ちゃんに確認しよう。

 

「どうしてあんなところにいたの? あなたは行方不明になっていたのよ」

「よく……覚えていない」

 本当にね、なんでこの世界にきちゃったのか俺が聞きたいよ。干吉のせいなんだろうけどさ。

 

「そう。……ジオンとの戦争のせいで大きくは取り扱われないけど最近、世界中で似たようなことが起きているわ。いきなり人や建物が消えたり、逆にいきなり現れたり。中には異世界から現れたような人もいるの」

「異世界?」

 俺と同じか。まさか嫁さんたち?

 

「あなたもそうなんじゃないかしら?」

「そう言われてもわからないよ」

「あなたの家に帰してあげることはできないけど、しばらくは保護するわ」

「……俺の家族は?」

 無言で首を横にふる銀鈴ちゃん。ブリットの家族も亡くなっているというのは孔明ちゃんから聞いていた。

「そうか……」

 とりあえず落ち込んだフリをしよう。

 あとはどうやってここから逃げ出すかなんだけどさ。

 

 銀鈴って元ネタの方だと、101、バビル2世のコードネームなんだけど彼と恋人になるんだよね。諜報員だった彼女は捕まったバビル2世を逃がして、自分は死んでしまう。

 この世界がスパロボαとはいえ、一緒にいるのは不安だ。

 

 ……待てよ。

 ジャイアントロボの方の銀鈴はコードネームで、本名はファルメール・フォン・フォーグラー。

 バシュタールの惨劇を引き起こしたとされるフォーグラー博士の娘だ。

 この世界でもバシュタールの惨劇ってあったのか?

 銀鈴ちゃんこんな年齢でエキスパートをやってるみたいだし、あったのかなあ。

 

「ほら、お腹空いてるんでしょう、これでも食べて元気を出しなさい」

「あ、ありがとう」

 逃げるのは食事のあとでもいいかな。

 

 

 

 食後、コーヒーを飲みながら話を再開する。

「俺、実験台にされるの?」

「そんなことはさせないわ」

「でも……」

 バビル2世の血液って、怪我や病気を治す力があるんだったよね。で、適合者に輸血すると超能力を手にするって物騒な代物でもある。

 俺の血がそうなのかはわからないけど、調べられたくはない。

 

「ふふ。心配しないで、ここはお姉さんにまかせて」

「お姉さんって」

 俺の方が年上なんですけど。

「私の方が1歳上なんだから」

 ああ、ブルックリンはそんな年齢設定だったっけ。間違えないようにしないと。

 お姉さんぶる銀鈴ちゃんがなんとなくゆり子を思い出させる。元気にやってるだろうか?

 ……少しはお父さんがいなくて寂しがってほしかったり。

 

 そういや、銀鈴ちゃんの保護者になってるはずの誤先生こと呉学人をまだ見ていない。

 まさか、俺みたいに誰かとフュージョンしてるのか?

 それとも銀鈴ちゃんが1人で日本にきてるとか?

 さっきの怪獣と戦うためとしてもたった1人で勝てそうな相手じゃない。別の任務かな。

 

 銀鈴の家族といえば兄のエマニュエルが生きているはず。スパロボαでは出てこなかったけど、早めに会わせてあげられればOVAジャイアントロボのような悲劇もおこらないんじゃ?

 孔明ちゃんが彼をもうスカウトしてるのか確認しないと。

 

 

 

 銀鈴ちゃんの任務は俺に話してくれた異変の調査と、それによって出現した人間の保護だった。特に日本での発生件数が多いらしい。

 嫁さんを探すので都合がいいけど外国も調べたい。

 こんな時こそ分身を作ればいいんだけど、ビッグ・ファイアと融合したせいか、それが上手くできなくなってしまった。他の分身とのテレパシーが使えないのも同期がおかしくなってるのかもしれない。

 

 そうこうしている内に数週間経ってしまった。嫁さんたちの情報はさっぱりである。

「ガルマ・ザビが死んだようね」

「ニュースでもよく流れてるよ、あの演説」

 思わず「坊やだからさ」って言いそうになるのを我慢するのが大変だ。

 

 銀鈴ちゃんと俺はこっちでは疎開したって設定で一緒に暮らしている。といっても銀鈴ちゃんの任務につきあってあっちこっちに出向いてるんだけどさ。

 

「あ、電話だ」

「え?」

 ビニフォンが鳴ってるのを見て銀鈴ちゃんが驚く。だって俺に電話してくるのって銀鈴ちゃんぐらいしかいないからね。

 

 孔明ちゃんとはメールでのやり取りのみに控えてるしぃ。

 そのメールは俺にしか見えないようにしてるしぃ。

 最新ビニフォンのプライバシー保護はバッチリだしぃ。

 

 いかん、久しぶりのむこうの知り合いにテンション上がって言語回路がおかしくなってしまった。

 電話の相手は一刀君。

 彼が今、地球に向かっているらしい。

 

「ブリット君、今のは?」

「俺の友達。あれ? まただ」

 再び着メロを鳴らすビニフォン。

 今度の相手は俺。分身の1人(キング)だ。

 

 やつは、華琳ちゃんとスパロボJヒロインズといっしょにいるらしい。場所は、もう1つの地球。

 え? αだけじゃなくて、Kも混じってるの?

 

「マジ?」

『ああ。すごい怒ってたぞ。なんで気づいてやらなかったんだよ?』

「そう言われても……」

 電話先の俺から呆れた声が聞こえる。

 それはそうだろう。

 俺が目覚めたあの日、俺はすでに嫁さんに会っていたんだから!

 

「まさかねねちゃんがエージェントになってるなんて……」

 しかも俺の護衛をするはずだったなんて、さ。

 あのちっこい覆面さんがねねちゃんだったようだ。あの唇覆面のせいで全然気づかなかったよ。せめて変なリーゼントだったらすぐにわかったのに!

 

『おそらく、Qボスと融合しちゃったんじゃないか?』

「たぶんそうかも」

 Qボス。OVAジャイアントロボだとオズマって名前があるんだけど、スパロボではQボスって名前(コードネーム?)で表示されている。

 陳()だから、きゅう繋がりでフュージョンか。

 

 分身(キング)が入手した情報だと、やはり名前が融合の条件らしい。しかも世界がシャッフルされていて、さらに時間差がある、と。

 心残りも重要だって情報も得たしこれで少しは探しやすくなるかな?

 

 ねねちゃんは融合で記憶が曖昧になっていてずっとモヤモヤしてたんだけど、やっと自分の記憶を完全に取り戻して、あっちの俺に連絡をしたようだ。

 彼女に許してもらうためにも早く恋を見つけたいところである。

 恋……レン……ケルゲレン……まさかケルゲレン子?

 ちょっと強引だけどねねちゃんがQボスだし、ありえないとも言い切れないのが怖い。

 

 まいったなあ。こんなことなら護衛と一緒に行動してればよかったか。

 でもそうなると、いくら怪獣と戦っていても国際警察機構の銀鈴ちゃんとは仲良くなれなかっただろう。

 

 待てよ。もしかしてあの怪獣も別の世界からきたのか?

 怪獣か。スパロボK……フェストゥムじゃなくてよかったなあ。

 だとすると擬態獣かな。

 って、そっちもヤバいじゃん!

 

 インサニアウイルスなんて、エージェントやエキスパートのいるこの世界だと危険すぎる。あいつらが凶暴化したらそれこそ大惨事間違いなし。

 俺だって接触しちゃったし……。

 早いところ専門家にその情報を与えて調査してもらわないと。

 

 生物関係か。クランがいれば相談できるのに。

 だとすると……ネルフ?

 いや、今はまだゲヒルンか。使徒やエヴァが凶暴化しても困るけど、あの司令と話をするのも危険な気しかしない。

 

 どうしよう?

 

 



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11話 梅サワー

 ずっと探していた嫁さんの1人が見つかった。

 ねねちゃんだ。

 スパロボには出てないけど、バブルガムクライシスのネネ・ロマノーヴァなんて怪しいと思っていたのに違ったようだ。

 まさかQボスとは。あのQって覆面のオバQみたいな唇からだよね、絶対。

 

 それを教えてくれた分身(キング)との電話を横で聞いていた銀鈴ちゃんが訝しげな眼差しで俺を見つめる。

「どういうことかしら?」

「なにが?」

「エージェントと言っていたわ」

 ああ、あまりのショックに思わず口に出しちゃっていたか。

 ヘタなことを言ったら今にも撃たれそうな雰囲気だ。

 

「実はね、俺は」

 言いかけたところで僅かに振動するビニフォン。

 今度はメール着信だ。銀鈴ちゃんにばれないように孔明ちゃんとやり取りするために音は出さないように設定していた。

 でも、気づかれちゃったみたい。

「メールだよ」

「……見て」

 許可をくれる銀鈴ちゃん、そのかわりだろう、銃を抜いて俺に向けてきた。

 

 メールを確認すると当たり前だが、孔明ちゃんからだった。

 そして、その内容は探し人が見つかったという待ち望んだもの。……残念ながら見つかったのは俺の嫁さんではなかったが。

「エマニュエル・フォン・フォーグラーが見つかった」

「……え?」

「フランケン・フォン・フォーグラー博士も一緒だ。かなり衰弱してはいるが生きているらしい」

 銀鈴ちゃんの銃を持つ手が震えている。

 メールを銀鈴ちゃんにも視えるように思念操作で設定変更し、ビニフォンの画面を見せた。

 彼女は銃をこっちに向けたまま片手でひったくる。

 

「嘘……」

「確かめる気はあるかい?」

「あなたは何者なの?」

「それもついてくればわかるよ」

 震えながらも銃を構えたまま深呼吸する銀鈴ちゃん。

 震えがおさまり、そして。

「お父様に……フォーグラー博士に会わせて」

 銃を下ろし、ビニフォンを返してくれた。

 

 

 

 BF団の医療施設に到着した俺と銀鈴ちゃん。

 本部ではない。場所を知られないように銀鈴ちゃんはガルーダの口の中に入ってもらいながらの移動だけど、いくらなんでもいきなり本部に連れて行くことはできないでしょ。

 

 メールで指定された場所は南国のリゾート地のような保養所だった。世界各地で戦争中なんだけどここはそんなことを感じさせない。くつろいでいたのが覆面をした連中ってのは異様だけど。

 彼らもガルーダに驚いているね。

 

「ついたよ」

「ここは? ……やはりBF団!」

 覆面連中を見てとっさに身構える銀鈴ちゃん。だけど構えた銃は地面からシュルっと出てきた黒い液体に奪われ、さらに拘束されてしまう。

 

「だいじょうぶ。心配はいらないから。ロデ……アキレス」

 俺の言葉で液体は銀鈴ちゃんを解放し、黒豹の姿をとった。銃は口にくわえている。

「すぐに会わせられると思うからおとなしくしててね」

「……わかったわ」

 銃を取られてもそんなに動揺したように見えないのは小さくても国際警察機構のエキスパートといったところか。

 

「おかえりなさいませ、ビッグ・ファイアさま」

 俺を出迎えてくれる孔明ちゃんとちっちゃいマスクドエージェント。ねねちゃんだろう。C級以下のエージェントなので覆面着用は義務だ。

 

「ビッグ・ファイア?」

「なんかそうらしい」

 さすがに今度は驚いた銀鈴ちゃん。

 それを気にしないようにして、俺はちっこいエージェントを見る。

「Qちゃんはあとでね」

「早くするのですぞ!」

 両手を振り上げるポーズはまさしくねねちゃんだ。やばい、嬉しさのあまりに泣きそう。早く素顔が見たい。

 

「フォーグラー博士は?」

「かなり衰弱しております」

「そんな……」

 ジャイアントロボのフォーグラー博士は孔明がエマニュエルと会った時には既に亡くなっていた。だが、俺が孔明ちゃんに情報を与えてバシュタールの廃墟の下を探してもらっため、死亡する前に保護できたのだ。

 

「危険な状態です」

「そうか。エマニュエルは?」

「フォーグラー博士の病室に。こちらです」

 孔明ちゃんの案内で病室に向かう。

 

 歩いてる途中、俺と銀鈴ちゃんとの間に覆面ねねちゃんが割り込んできた。

 焼きもちだろうか? ちょっと嬉しい。

「護衛ですぞ!」

「彼に危害を加えたりしないわ」

 

 病室ではベッドで点滴を受けて眠っている白髪の老人と、その横に座っている青年がいた。

 俺たちが病室に入ると青年は立ち上がり、銀鈴を見つける。

「まさか……ファルメール……本当にファルメールなのか?」

「兄……さん?」

 感動の再開だけど、俺は別の方で驚いていた。

 幻夜の声が違う!

 

 ……幻夜ことエマニュエル・フォン・フォーグラーって若い頃は中の人が違ったんだっけ。思わずアルベルトに弟子入りするよう勧めたくなる声だ。

 俺がショックを受けているうちに2人はお互いを本人だと納得したのか抱き合って泣いていた。

 

 

 

「シズマを……シズマを止めろ……」

「お父様……」

 うなされるフォーグラー博士に涙ぐむ銀鈴ちゃん。

 一方、エマニュエルは握り締めた拳に力をこめる。

「父さんはシズマ博士を許さない」

「そんな……」

「いや、そんなことはないからね」

 まったく、まぎらわしい寝言だよ。OVAだと遺言か。

 使用後にやっと見れるチュートリアルなんか撮ってないで、先にちゃんと事情を説明しておけばOVAにおける悲劇はおきなかったのに。はた迷惑な爺さんである。

 

「キミになにがわかる!」

「シズマドライブの欠陥。フォーグラー博士もそれに気づいて研究を続けているのだろう」

 息子にもそれぐらい教えておいてあげてほしい。

 

「な……キミはいったい誰だ?」

「頭が高い! このお方こそ、我らがビッグ・ファイやであらせられる!」

 白羽扇を俺に向けて紹介する孔明ちゃん。それやめて、なんか恥ずかしい。

 しかもビッグ・ファイアをかんじゃマズイでしょ。まあパチモンくさくて今の俺には合っているのかもしれないけどさ。

 

 って、エマニュエルひれ伏さないで! すっごい気まずいから!

 ……もしかして言わないと駄目なの?

(おもて)を上げよ」

 華琳ならともかく、俺にこんなことを言わせないでくれ。恥ずかしすぎる!

 なんか別の話題をふらないと。

 

「そ、それでフォーグラー博士の容態はどうなんだ?」

「保護時にかなり暴れましてエージェントが少々乱暴な方法をとってしまい負傷しています。しかもその治療を受けている最中も実験を続けると騒ぎ、その後倒れました」

 精神状態も普通じゃないのかもしれないな。

「あとは本人の回復力次第です」

「そうか……」

 まずいな。サンプルができる前っぽい。だからフォーグラー博士が生きているんだろうけど、このままじゃサンプル完成前に亡くなってしまうかもしれない。

 銀鈴ちゃんも悲しむだろう。

 

 フォーグラー博士に回復魔法を使用すれば怪我の治療はできる。融合したこの身体でも魔法の使用は可能だ。

 ただし、俺の回復魔法だと体力までは回復しない。

「これをフォーグラー博士に」

 スタッシュからエリクサーを取り出してエマニュエルに渡す。某ドリンクをベースに成現(リアライズ)したものだ。

 ゲーム仕様なので不老不死になったりはしないが、体力を全快、全ての状態異常も治療するチートアイテムだ。当然万病にも効く。

 もちろんMPによる成現。時間が切れれば元のドリンクに戻るが、薬の効果で治った身体はそのまま。少なくとも病気の猫に与えた時はそうだった。

 ちなみに仙豆も作った。そっちは病気は治らない。

 

「これは?」

「エマにょエルさん」

 渡されたエリクサーを眺めている彼を孔明ちゃんが促した。……もしかして幻夜って正体を隠すだけじゃなくて名前が言いにくかったから変えたんだろうか?

 

「は、はいっ!」

 孔明ちゃんに素直に従うエマニュエル。さっきからなんだろう、びびっているようにも見えるのは。

 眠ったままの博士の口に注がれるエリクサー。いや、無理に飲ませないでもかけるだけで効果はあるはずなんだけど。

 

「おおっ!」

 エリクサーの薬効に病室のみんなが驚く。死人のようだったフォーグラー博士の顔色がよくなり、髪まで黒くなったからだ。

 あれ? フォーグラー博士って元気なときも白髪じゃなかったっけ。若返りの効果はないはずなんだけどなあ。

 

「お父様!」

 銀鈴ちゃんの声が届いたのか、フォーグラー博士の目がゆっくりと開いていく。

「……ファルメール……」

「はい、お父様!」

「父さん!」

 親子3人抱き合って再会を喜ぶ。

 俺たちは気をきかせて病室を後にした。

 

 

「さすがビッグ・ファイアさまです」

「薬が効いてよかったよ」

 ちょっと強すぎるな、これ。あっぱれ対魔忍世界でも人に使わなかったのは正解だろう。

 擬態獣のインサニアウイルスによるラビッドシンドロームにも効果はあるだろうけど、一般に出回らせていい薬じゃあないね。

 

 ……まだ何人かには使う予定があるんだけどさ。

 

「彼らはこの後、どうしますか?」

「孔明ちゃんならわかるだろう?」

「はわわっ……先ほどのビッグ・ファイアさまの発言ですとシズマドライブの欠陥を研究させた方がよろしいかと」

「うん。手伝ってやってくれ」

 シズマドライブはこれから必要なアイテムだ。

 スパロボKがまじってくるとなると、ガンダムSEEDのニュートロンジャマーも存在する可能性が高い。

 

 核分裂を抑制するというニュートロンジャマーは、()()のロボの多くが使っている融合炉に影響を与えるかは不明だが、世界各地の原発を止めてしまうはず。そんなことになったらエネルギー不足で大変だ。

 それを避けるためにも梅サワー……シズマドライブがほしい。今の欠陥品じゃなくて完全なのがね。

 

「了解しました」

「あとね、表の方で都合のいい会社を立ち上げたいんだ」

「ふむ。完全版のシズマドライブの普及に使うのですね」

 いや、一刀君に頼まれたシーマ様たちの受け入れ先を用意したいだけなんだけど。

 BF団という悪の秘密結社の世話になるのを嫌がる嫁さんもいるだろう。

 

「できるかぎりBF団とは関わらないようにしてほしい」

「フォーグラードライブが完成すればスポンサーもつくと思います」

 スポンサーか。必要だろうな。

 1年戦争は年末には終わる。……いや、αだからマクロスの落下でもっと早く終結するんだった。それまでに形を作っておきたい。今は10月だからあと2ヶ月か。

 資本が必要だ。Fドライブが間に合いそうになかったら、俺のアイテムを売るしかないかもしれない。

 

 会社作って、みんなを探して、インサニアウイルスの治療のためにもゲヒルンにも行かなきゃいけないし……他にもやりたいことが多すぎる。

 分身ができなくなったのが辛すぎる!

 

「とにかく、まかせていいかな?」

「はいっ! おまかせ下さい」

 ふう。これで俺が考えるよりは安心……なのかな?

 あとでどうするかは確認しよう。バベルの塔やGR計画のこともね。契約空間に入れば密談もできるだろうしさ。

 

「じゃ、俺はこの子とちょっと話があるから」

「はわわっ、ご、ごゆっくりー」

 なにを真っ赤になって。もしかして勘違いしちゃったんだろうか?

 ……いや、勘違いでもないか。

「さ、ねねちゃん行こうか」

 せっかくの南国リゾートな保養所、ちょっとだけでも楽しませてもらわないと。

 

 

 

 

「ねねは融合のせいで初めてに戻ってしまったというのに……壊す気ですか!」

「ごめん。たまってて……」

 南国リゾートを楽しむどころか、部屋でずっとねねちゃんを楽しんでしまいました。半日ぐらい。

 素顔のねねちゃんを見たら我慢できなくて、つい。

「はわわやさっきのファルメルがいて、さらにたまるとはどんだけなのですか!」

「いや、2人とはなんにもないし。俺がこんなことするのは嫁さんだけだってば!」

 ねねちゃん、ファルメルはシャア専用ムサイですから。

 あんな美少女と数週間一緒にいたから、そりゃムラムラきたこともあったけど、俺がなにかできるわけないでしょ。泊まってるとこにはあまり会わなかったけど他の職員もいたしさ。むしろセルフバーニングもできなくてつらかったのよ。

 

「それなら恋殿に浮気の報告は止めておくです」

「ありがとう」

「でも、あっちのお前がきても2人いっぺんには絶対にお断りなのですぞ!」

「いや、それはないから。あっちの俺(キング)ファミリアじゃない子(Jヒロインズ)と一緒だからポータルでこっちにくることはできないんだよ」

 ポータルであっちの地球からこれるかも確認してないし。

 人手がほしいのにさ。

 

「本当ですね? 今だって両方同時はたいへんだったです!」

「それは……ごめん」

「謝るなです! ねねがいいと言ったのです!」

 いいって言ってくれたから俺のツインズが両方お世話になっちゃったんだけど、やっぱりちっこいねねちゃんには相当きつかったようだ。もっと手加減するんだった、反省。

 

「でも、人手はほしいんだよなあ。練習したら分身できるようにならないかな?」

「バカですねお前は。あっちのお前に分身してもらえばいいのです」

「あ」

 そうだった。あっちの俺は誰とも融合してないプレーンな状態。分身ができるはずだ。

 

「さすがねねちゃん。俺はいい嫁さんもらったなあ!」

 抱きしめて頬に口付け。

「や、やめるです! ねねは早く恋殿に会いたいだけなのです!」

 照れちゃってもう、可愛いね。

 

「あとさっきスポンサーとか言ったです。ねねに心当たりがあるです」

「心当たり?」

「BF団のエージェントをしている間に気になる企業を見つけたのですよ」

 資金や技術に目をつけていたってこと?

 

「その名もマオウ・インダストリー!」

「え? マオ・インダストリーじゃなくて?」

「最近名前が変わったです」

 マオ・インダストリーってスパロボだと主役ロボを開発している会社なんだけど、それが改名? しかもマオウって……。

 こりゃ可能性が高いな。

 でも本社は月だし、一年戦争中に連絡が取れるだろうか?

 

 

 

 フォーグラー親子は俺たちに協力してくれることになった。

 博士もエリクサーのおかげで精神状態もよくなっていて、冷静さを取り戻した。名前を隠してシズマドライブの欠陥の暴露と、同時にその改良型も発表する予定だ。

 

 銀鈴ちゃんは国際警察機構を退職してくれることになってしまった。エマニュエルも一緒にこれからできる予定の会社で働いてくれるつもりらしい。

 まあ、戦うことになるよりはいいけどさ。スパロボαで出てくる銀鈴ロボはどうしよう?

 

 分身の方は、無事にポータルでこっちにやってきた。

 MPの消費は大きかったがポータルで移動できるということは、あっちの地球も遠いけど異世界ではないようだ。

 分身のコールサインは当然、(ファースト)である。これでみんなを探すのも進むだろう。

 

 たださ……。

 

 

「本当に白髪になっているのね」

 ()のファミリアになった華琳ちゃんまでがついてくるとは思わなかったけどね。

 どうやら俺のBF団首領というラスボスポジションが気になったらしい。

「キングの方も能力が6分の1になっちゃったからファミリアについていてほしかったのに」

「ザンリュウジンがついているから平気よ」

 俺オリジナルの3分の1だったキングは、分身を作ってさらに半分、6分の1の能力になってしまったから心配だ。一緒にいるスパロボJヒロインズが。

 

「さあ、世界征服を始めましょう」

「違うから!」

 BF団、華琳ちゃんにのっとられやしないだろうな……。

 

 




オリ主の魔顔の呪いは祝福なので状態異常扱いにはならず、エリクサーでは治らなかったり


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12話 クリスマスイブに恐怖の大王

「覇王曹操でいかがでしょう?」

「悪くはないわね。短いけれど、乱世覇王曹操だと混世魔王樊瑞のパクリみたいでしょうし」

「ちなみに我らがビッグ・ファイアさまは少年王ビッグ・ファイアなのです!」

 なにそれ恥ずかしい。

 

 さすがにいきなりBF団が華琳ちゃんにNTR(のっとられ)ることはなかったよ。

 彼女を孔明ちゃんに紹介したところ、俺直属の部下ってことに。

 C級エージェントになるわけではないようだ。

「この私があんなブサイクな覆面をするワケないでしょう」

「インパクトのあるデザインのおかげでその下の素顔がわかりにくくなるんですよ」

 うん。実際俺もねねちゃんに気づけなかった。

 

「煌一クンがあれをお気に入りだったら、あの覆面をして口でしてあげてもいいわ」

「いや、無理だから。あのマスクでなんてスタンダップしないから!」

 なんていうことを言うの、この子は。本当に華琳と同一人物なの?

「はわわわ……」

 孔明ちゃんもいきなりのシモネタに真っ赤になっちゃってる。でもチラチラと俺と分身(ファースト)を見比べているな。

 華琳ちゃんと同じく無印恋姫の諸葛亮なら、八百一ネタとは無縁のはずなんだけど。

 

「あ、あとさ、会社の名前、マジにこれにするの?」

 社名はトゥインクル1に決まってしまった。

 意味は煌く一。

「自分の名前を会社名にするなんて恥ずかしいんですけど」

「なにを言うですか。お前がこの会社に関わってるとみんなが気づきやすい名前なのですぞ!」

 そりゃ、ねねちゃんの言う通りなんだろうけどさ、マオ・インダストリーが名前を変えたのも同じ理由っぽいし。

 さらに業務内容は、救済、ってそれだけ。

 あからさまに胡散臭いよね。

 

「こんな名前にしても有名にならないと意味がないし……」

「ジオンを殲滅すれば有名になれるのです」

「そんなことしたら、アゴルフが泣いちゃうでしょ。それにジオンに恋やみんながいるかもしれない」

「なんですとっ?」

 ケルゲレン子が違うかどうかまだ確認できないんだよね。

 

「そうか。俺が行った先でも探してみるよ」

 一刀君とも無事に合流できた。

 彼がこの世界にきてから俺と連絡がつかなかったのは、どうやら俺がビッグ・ファイアと融合してたせいで、いろんなモノの波長が俺オリジナルと違うようになっていたんじゃないかと思っている。

 連絡できるようになったのは、俺とビッグ・ファイアの融合が進んだってことかもしれない。

 

「俺はホワイトベースを追ってみるつもりだ」

「あいつらが立てた計画か。まさか木馬を墜とすつもりじゃ?」

「そこまではしないよ。ただ、ハモンさんは助けたい。あとマチルダさんも」

 そうだった。この一刀君は俺が成現(リアライズ)の時にした改竄によって、熟女大好きになっているんだった。

 話によるとすでにシーマ様とも深い仲らしい。ギャルゲ主人公様スゲエ!

 

「頼むよ。ファーストは月やコロニーに行ってくれ」

「マオウ・インダストリーか。VF-29改、スタッシュにないんだよな」

「たぶん行方不明のファイヤーが使ってるんだろう」

 バルキリーって単独で大気圏離脱できちゃうんだよね。その後でフォールドブースターを使えば月まですぐだし。

 フォールドブースターはバルキリーじゃなくても使えるけど、地表付近でのフォールドは危険なので宇宙で行いたい。

 

 手持ちのバルキリーで最高なのはVF-29改なんだけど、スタッシュにないから他のにするしかない。

 

「有名になりたいのなら、マクロスを止めなさい」

「マクロス? この世界ってガンダムの世界なんじゃないのか?」

 華琳ちゃんの台詞に驚く一刀君。スパロボの世界だって話してなかったっけ。

 

「この世界は、他の世界とスワッピング中よ」

「シャッフルでしょ! K、α、たぶん他のスパロボも混じり始めている。この世界からいなくなった人や物は他の世界に行ってしまったのだろう。かわりにこっちにも人や怪獣が現れてきている」

「ガンダムだけじゃなかったのか」

 ガンダムにBF団なんていないでしょうに。まさかビルドファイターズ団とでも思っていたんだろうか?

 

「マクロスとはいったい?」

「この世界の一年戦争を終結させる異星人の巨大宇宙船。全長1キロを超えているそれが地球に落ちてくる」

 孔明ちゃんにも教えておいた方がいいだろう。

「それを止めるって? まさか国際救助隊な家族の第1話みたいに車で受け止めるのか?」

 さんざんパロディになってるあれか。一刀君もさすがだね。

 マクロスの落下は当たり前のこととして認識していただけにそれの阻止は思いつかなかった。

 

「人造昆虫で受け止めたい気もするけど巨大すぎるわね。落下速度を緩められれば、被害は小さくなるわ」

「たしかにコロニー落としみたいなもんだもんなあ。今のままだと被害もかなり出るんだっけ」

 その時ソロモンで戦ってるはずのアムロにνガンダム渡したら止めてくれないかな? 無理か。

 

「コロニー落としか……それならたしかにシーマも協力してくれるかもしれない」

「シーマか。コロニー落としの作戦を実行させられたんだったね。ちょっと違うけど、罪滅ぼしになるか? まあ、一年戦争後にうちの会社で受け入れやすくなるな」

「頼む。詳細が決まったら俺から連絡するよ。彼女にもビニフォンを渡してある」

 ファミリアになってるのかな? ワルテナいい顔しないだろうなあ。

 

「データによればマクロスが出現するのはたぶん、ソロモン攻略戦の時。機動戦士ガンダムのスケジュールと同じならば12月24日。クリスマスイブね」

 ビニフォンで攻略本やその他を調べながらの華琳ちゃん。

 俺も見てみると、L5宙域に突如巨大な物体が出現……フォールドアウトしてくるのか。

 超時空要塞マクロスだと1999年の7月なんだけどね。つまり恐怖の大王がマクロス。

 

「BF団でもL5宙域を監視しておきましょう。どうせジオンと連邦が戦う舞台なのです」

「時間がないな。少しでもみんなを見つけないと」

 人手が足りなすぎる。だけど、大災害に気づいた以上、止めるわけにはいかない。

 

「フォーグラー博士とエマニュエルがいるのは幸いね」

「巨大構造物の落下の減速について相談してみよう」

 フォーグラー博士は正体を隠し、不乱拳酒多飲を名乗るらしい。

 元ネタの方じゃないか。ブラックオックスを作ってくれるのだろうか。

 

 

 

 T1の暫定的な本社の予定地は現在いるこの島になってしまった。

 マクロスが落下してくるはずの、減速しても落下させる予定の南アタリア島に近いため、調査されそうということでBF団が使うには適さなくなるという理由だ。

 

 南アタリア島に近いってことはあんまり落ち着けそうにないんだけどなあ。マクロスの争奪戦が始まる前に別の場所を探したい。

 

 俺ファーストは俺と同じく孔明ちゃんが身分証を用意した。ただし今回は偽名ではない。ビッグ・ファイアと融合してるわけでもないからね。

 移動にはVF-19Sを選んでいた。

 

 ブレイザーバルキリーはマクロス7中では活躍しなかった機体だけど、PSPのゲームだと意外と使いやすい。特にFASTパック装備時はSPアタックが特攻系になって非常に当てやすい初心者向けの名機だった。

 今回そのFASTパックのかわりに成現したブースターパックを4つくっつけてセイバーフィッシュに擬装しているのは、マクロス7中で19改が擬装したイメージだね。さすが俺といったところか。あんまり似てなかったけど。

 

「あんなブースターを追加したぐらいで本当に月まで行けるの?」

「まあね。アクティブステルス機だからレーダーにも捕捉されない」

 変形することはまだ銀鈴ちゃんには秘密だ。初見であれが変形できるとは思えないでしょ。

 

「さ、いったん日本に戻ろうか」

 ガルーダで銀鈴ちゃんを日本に送っていく。

 今度はねねちゃんも一緒だ。マスクは外して貰ってる。

 

 銀鈴ちゃんの国際警察機構の退社は思ったよりもスムーズにいきそうだった。

 どうやら日本への出張はまだ若すぎる彼女を北京支部から避難させるといった意味合いだった模様。北京もジオンの制圧下だったからか。

 銀鈴ちゃんが他の就職先を見つけたなら無理して引き止めるようなことはないようだ。

 

 なお呉先生は北京支部に残るそうだ。

 ジャイアントロボのOVAラストと違うけど、中条長官といたいのかね?

 まあ元ネタの水滸伝の呉用って、優秀そうな役立たず、の代名詞らしいからいいけどさ。

 

「寿退社って、からかわれちゃった」

「はは……」

 君には国際警察機構で恋人ができるはずだったんですけど。村雨健二という……。

 まだ知り合っていないのかな?

 

「その子がブルックリンか?」

「健二さん!」

 え、ちょっと思っただけで口には出してないのにフラグになっちゃった?

 現れたのはピンクのトレンチコートと帽子の人物。変装しても変えることはないはずの特徴的な髪型は違っていたが。

 

「ちょっと確認したいことがあったんでこっちにきた」

「それってまさか」

 村雨との再会に喜んでいた銀鈴の表情が変わる。俺の正体がビッグ・ファイアだってばれちゃったと思ったのかな?

 でも、俺の予想は違う。

 

「あなたも、なんですね?」

 俺の質問に無言で頷く村雨。

「……どういうこと?」

「私も、例の異変に巻き込まれたらしい」

 そう答えた村雨は男ではなく、それどころか俺がよく知っている女性だった。

 

「世界融合によるシャッフルで別人と融合してしまったことに気づき、それを調査中の銀鈴ちゃんに相談しにきた、そうですね?」

「ああ」

「本当ですか? 健二さんまで……」

 変わってしまった村雨をじっと観察する銀鈴ちゃん。彼女の記憶では以前の村雨健二との違いが見当たらないのだろう。

 融合は周囲の人間の記憶や過去まで変更してしまうのかもしれない。

 

「ちょっといいですか。顔をよく見せて下さい」

 子供と俺を見ているのか、素直に従ってくれる。

 俺は近づいたその顔を見つめる。

「まだ思い出さないのか、紫?」

「なんだと?」

 驚いた隙をついて彼女の唇を奪う。

 

「ブ、ブリット君!?」

 銀鈴ちゃんにかまわずキスを続ける。思い出してくれ、紫、とテレパシーを送りながら。

 人前でなんて俺らしくもない大胆な手段。紫が知らない人間を見る目で俺を見るのが悲しくて泣きそうになってしまったので、それを誤魔化すために咄嗟にとった行動だ。

 やってしまったものは仕方がない。この際だとじっくり堪能してからゆっくりと唇を離す。

 

「……どう?」

「まだ少し混乱しているが、だいたいは思い出した。だが、耳まで赤くなるくらいなら他に方法があっただろう。……猫になるとか」

 どうやら思い出してくれたようだ。猫は今度ね。

 

 

「まさか紫が村雨健二と融合しているとはね。()()()め、と()()()キ、全部同じじゃなくてもいいのか?」

「名前だけではなく、能力が近いのも関係しているのかもしれん」

 不死身の村雨健二、だったっけ。たしかに不死覚醒を使う紫とは近い存在?

 

「健二さんがブリット君のお嫁さんだなんて……」

 そりゃショックだろうなあ。銀鈴ちゃんが紫を睨んでいる。ついでにねねちゃんが両手を上げて抗議している。

「ねねもですぞ!」

「ファルメール、今の私は健二ではなく、紫と呼んでほしい」

 銀鈴ちゃんの本名を知っているってことはかなり前からのつき合いなんだろう。

 ケンジだとうちの駄神を思い出すから嫌なのかな?

 

 3人がなにやらひそひそ話し始めてしまったので、華琳ちゃんに紫発見のメールを送る。

 華琳ちゃんは孔明ちゃんとどんな話をしてるのだろうか。曹操と孔明って上手くいきそうにない気もするんだけど。だからあえて華琳ちゃんは連れてこなかったんだけどね。仲良くしてくれてるといいな。

 

 っと、どうやら分身(ファースト)も無事に月に着き、マオウ・インダストリーと連絡できたみたいだ。同期を調整したんでテレパシーも問題なく繋がっている。

『いたのは真桜じゃなくて稟だった』

 ――そうか。リン・真桜じゃなかったのか。

 ちょっとだけ真改造PTを期待してたのに……。

『そのようだ。今、状況を説明している』

 リン・マオ。

 第4次スーパーロボット大戦の主人公の1人で、αやOGにも出演している。そっちのシリーズだとマオ・インダストリーの社長。

 それが稟になっちゃったのか。孔明ちゃんやねねちゃん、紫のように男と融合してないのは嬉しい。

 

 ――こっちは紫が見つかったよ。不死身の村雨健二と融合していた。

『ありがたいな。みんなを探すのがかなり楽になりそうだ』

 どっちも諜報能力は高いだろうからね。ゲヒルンを調べてもらうのもいいかもしれない。

 

 

 翌日、稟がとにかく華琳ちゃんに会いたいと言うので、稟もポータルでT1本社予定地に行った。

 ファーストと会って記憶を取り戻してすぐじゃなかったのは、あれだ、ファーストのコロニー行きのチケットを用意してもらったのもあるけど、一晩しっぽりと、ね。

 

 俺の方は紫と。

 ねねちゃんは「しばらく無理なのです」と拒否られてしまった。無理させちゃったからなあ。BF団エージェントのQボスと融合したせいか、身体能力も上がってるみたいなんだけど、それでもつらかったようだ。

 

「ブリット君にそんなにお嫁さんがいたなんて……」

 昨夜はねねちゃんとガールズトークしていた銀鈴ちゃんが微妙な表情で俺を見ている。

「俺、本当はおっさんだから」

「それは別にかまわないけど……」

 銀鈴、おっさんもアリなの?

 そういや村雨健二との年の差も10近かったか。

 

 

 

 11月5日。

 T1本社予定地に戻っていた俺たちに青き巨星墜つとの報が届く。

 一刀君、ランバ・ラル大尉は助けられなかったのか。

 7年後が舞台のスーパーロボット大戦αでも出てきたはずだけど、どうなっているんだろう? これは機動戦士ガンダム準拠なのか?

 

 11月7日。

 一刀君からの連絡。

 マチルダさんとハモンさんを救助したらしい。瀕死だったのでエリクサーを投与したとのこと。

 マチルダ・アジャン、クラウレ・ハモン。やはりどちらもスパロボαで登場してたのに、瀕死?

 これも世界融合の影響だろうか。

 

 俺たちの方はといえば、島からはBF団の姿がほとんどなくなってしまってちょっと寂しい。

 T1社の社員も募集しないとな。

 社長は華琳ちゃんだ。

 

「社長は煌一クンでしょう」

「俺? 炊事洗濯掃除って家事担当の俺が社長?」

「はわわっ、申し訳ありません」

「いいよ、手持ち無沙汰だから」

 ちょっとだけ人手が増えてきたので、(ビッグ・ファイア)が直接動くのは控えてほしいと孔明ちゃんに懇願され、あまりこの島を出ていない。

 いざとなったらファーストや一刀君がつけたマーキングでポータル移動するからいいけどさ。

 

 不乱拳と幻夜を名乗ることにしたフォーグラー親子も社員として研究を続けている。

「不乱拳幻夜……」

「不乱拳銀鈴……」

 子供の方はその名前にちょっと思うところがありそうだけど。

 

「あら、銀鈴は嫁にくれば姓は変わるでしょう?」

「そ、そうよね」

 華琳ちゃんの言葉でなぜかこっちを見る銀鈴ちゃん。もちろん俺は気づかないふりをするしかできない。

 あと華琳ちゃん、「くれば」って嫁にもらうつもりなの?

 

 稟は月とこっちをポータルで往復している。マオウ・インダストリー社との業務提携も決まった。

 社名変更は、どうしてもそうしないといけないと思ったかららしい。記憶が曖昧ながらもみんなに見つけてもらいたかったのだろう。

 

「本当はずっとこちらにいたい」

「あの名前で気づいて月まで行く子もいるかもしれないでしょう? ()()も現れる可能性がある」

「華琳さまが早く見つかるといいのですが」

 華琳もまだ見つからない。いったいどこにいるんだろう?

 

 結婚指輪を起動させて呼びかけてもいるんだけど、嫁さんたちからの返事はない。

 ねねちゃん、稟、紫の指輪は反応してるから、効果がないってことはないんだろうけど……。

 

 

 俺たちが仲間を探している間にも一年戦争は進む。

「連邦とジオンの戦いはビッグ・ファイアさまのお話通りに進んでいます」

 やはりスパロボαよりも機動戦士ガンダムよりな気がしてくる。本当にマクロス落ちてくるんだろうか。

 

「写真の人物は誰か見つかったか?」

「現在も調査を続けていますが、戦時中ということもあって行方不明者も多く……」

 孔明ちゃんにも嫁さんたちの写真を見せて、BF団も探すのに協力してもらっている。

 

「行方不明者ですか。きっと世界融合に巻き込まれた者もいるのですぞ」

「まったく、戦争なんかしてる場合じゃないって早く気づいてほしい」

「そうです。どちらが勝ったとしても、世界はBF団の、我々のビッグ・ファイアのものになるのですから」

 いや、いらないから。

 俺は嫁さんたちとのんびり暮らせればいいんで世界なんていらない。

 そう答えようとした時にまたビニフォンが鳴る。

 

 連絡してきたのは一刀君と同じく単独行動をしている紫だった。

 彼女は東南アジアにいるはずだ。ねねちゃんにケルゲレン子が恋じゃないか確認してほしいと頼まれて。

「恋殿が見つかったですか!」

 はやるねねちゃんを手でおさえながら通話を続ける。

 

「見つかった? ……恋じゃなくてミケちゃん?」

 聞こえたのだろう、ねねちゃんがおとなしくなる。

『連邦軍の兵士になっている。名はミケル・ニノリッチ』

 ミケルか。第08MS小隊の登場人物だ。それがミケちゃんと融合してるのか。

 彼は作品中、最後まで生き延びたけどコジマ基地は危険なんだよな。心配だ。

 適当なタイミングで連れてきてもらおう。

 

 

 ファーストからも連絡が入った。サイド6でテム・レイは見つけることに成功。彼をスカウトしたとのこと。

 酸素欠乏症がエリクサーで治れば開発者として復活してくれるはずだ。

 階段から転げ落ちて死亡する前でよかったよ。

 

 この後、サイド3に向かうらしい。嫁さんたちを探すついでに、魔法のふとん叩きを渡してくると言っているが、はたしてマリコちゃんはこの世界にいるのだろうか?

 

 

 

 12月、一刀君に助けられたハモンさん、ミハル姉妹が島へと到着した。

 マチルダさんは連邦軍に戻ったので連れてこれなかったと一刀君が嘆いている。

 

「よ、よろしくお願いします」

「うん、悪いようにはしないから安心して」

 ミハル・ラトキエは弟ジル、妹ミリーの生活費を稼ぐためにジオンのスパイとしてホワイトベースに潜入、戦闘時にガンペリーから落下して死亡してしまう。

 だが、サンダーウイングリュウケンドーに変身した一刀君が落下中にキャッチして助けたらしい。

 ミハル姉妹は未成年なのでアルバイト扱いだけどちゃんと給料は払うつもりだ。ついでに衣食住もね。

 

 社員があまり集まらなかったら孤児を集めて教育するのもありかな。方舟のクルーになってもらうのもいいだろう。

 そのためにも稼ぐ必要は出てくるけど。

 

 ミケちゃんを島に連れてきて、またすぐに出て行ってしまった紫からの連絡が入る。

『華琳の関係者と思われる人物を発見した』

 え?

 嫁さんじゃなくて関係者?

「名前は?」

『フラスト・スコール。曹洪だとも言っている』

 フラスト・ス洪ルってわけか。フラスト……誰だっけ? すぐに出てこない。

 曹洪って、英雄譚? 華琳の親戚だよな。

 とにかく会って話をした方が早そうだ。

 

「見つかりました!」

 今度は孔明ちゃんか。

「曹操さんの指示通りに、連邦軍北極基地を襲ったジオン兵の確保に成功。今は治療中ですが、彼に確認したところ、サイクロプス隊にビッグ・ファイアさまの探している人物がいます」

「え?」

 華琳ちゃん、いつの間にそんな指示を。

 サイクロプス隊にって、誰が……。

 

「ミハイル・カミンスキーさんが許緒さんです」

 ミハイル・カミンス季衣か!

 同じ○○ス季衣なら、同じハンマー使いのアルゴ・ガルス季衣でしょうに。

 

 そんなことを考えてる場合じゃないな。

 0080だとサイクロプス隊は全滅してしまう。

 なんとかしないと。

 

 

 




鼻血キャラ同士でブルック稟・ラックフィールドって案もありました


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13話 駆逐艦と戦闘攻撃機

 もうすぐクリスマス。

 即ち、バーナード・ワイズマンの命日である。

 

 この世界のバーニィはまだ生きているけどね。

 スパロボ世界だからたぶん生き残るとは思うけど、他世界とも融合してるからどう転ぶかわからん。

 サイクロプス隊の他のメンバーは死亡する可能性が高いし。

 その中に季衣ちゃんがいる。

 

 

 機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争。

 中立コロニーであるサイド6に運び込まれた新型ガンダムを奪取しようとするサイクロプス隊の物語だ。

 通称ポケ戦。タイトルは0080なのに0079年が舞台。某2010と似たようなもんである。

 

 季衣ちゃんと融合したと思われるミハイル・カミンスキーはMSのコクピットにまで酒を持ち込むベテランさん。

 彼が操縦するケンプファーはチェーンマインを持ってるけど、チョバムアーマーを装備したNT-1には通用しなかったし、MS用のハンマーをプレゼントするか?

 ジャイアントロボのOVAでバランの使っていた鉄球ってどれぐらいの大きさだったかな。

 

 ハイパーハンマーはゴッグに受け止められていたよな。アンディもハイゴッグじゃなくてゴッグなら死なずにすんだだろうに。

 この世界のアンディはまだ生きているけどね。

 

 ……NT-1と戦う前に季衣ちゃんを保護した方が確実か。

 ついでにサイクロプス隊もスカウトできればいいな。

 フラスト・スコールと融合したという曹洪を連れてくる紫が到着したら相談しよう。

 

 フラスト・スコールって誰かと思ったら、機動戦士ガンダムUCのキャラだった。まさかこの時期にUCのキャラが出てくるなんて思わなかったから無意識に除外していたよ。

 10歳なのに少年挺身隊としてジオン軍に同行させられていたらしい。マジ人手不足だね、あそこも。

 で、連邦の捕虜になっていたのを紫が村雨健二の情報網で発見、助け出したそうだ。

 

「英雄譚にUCとか、あんまり覚えてないのに」

 特に英雄譚なんてぽっと出の新キャラがさも当然のように仲間になってるから余計に覚えづらい。

栄華(えいか)が見つかったのを喜びなさい」

「それはそうなんだけどさ」

 ビニフォンに送られてきた曹洪の画像はどう見ても10歳前後の少女だった。

 

「英雄譚の曹洪って建前じゃなく18歳以上だったよね。融合先のフラストの影響でこんなに小さいのかな?」

 今まで合流に成功した華琳ちゃん、孔明ちゃん、ねねちゃん、稟、ミケちゃん、紫は俺が知っている外見だ。融合の影響は中身、精神的なものだけだったのに。

「朱里、ミハイル・カミンスキーは写真と同じ姿なのね?」

「はい。そのおかげで確認がとれました」

 ふう。華琳ちゃんも同じ心配したみたい。季衣ちゃんがBBAやおっさんになったりしてないようでほっとした。

 

「外見が影響を受けたのは栄華と煌一クン……なにか理由があるのかしら?」

「あ、俺もか」

 ビッグ・ファイアと融合した俺は髪が白くなっちゃったもんなあ。いくらコールサインがホワイトだからってこれはないよ。

 

「いまだに記憶も曖昧だし、俺との融合を嫌がってるのかな? テレパシー能力を使う幽鬼に診てもらった方がいいかもしれない」

「はわわ、危険です、ビッグ・ファイアさま」

「そうは言ってもね、いずればれるでしょ。早めに相談しておいた方がいい。一年戦争とマクロスの落下にケリがついたら十傑集とも会わないと」

 変に隠して嫁さんたちの捜索を勘ぐられるよりは協力か敵対かをはっきりさせておきたい。

 ちょっと、いやかなーり怖いけどね。

 

 

 紫が戻ってきた。

 移動には俺の分身(ファースト)と同じく連邦軍機セイバーフィッシュに擬装したブレイザーバルキリーを使用している。F型でしかも複座型だからVF-19FDってとこかな。

 バルキリーのエンジンって大気を推進剤として使えるから、大気圏内ではほぼ無限に飛びっぱなしでいられるんだよね。しかもごっつ速い。

 メンテナンスはナノマシンで済むようにしてるし、戦闘がなければ無補給でいいんだから単独行動にも向いている。

 数ある19系の中でブレイザーを選んでいるのはカナード翼がないんで擬装しやすいから。たいして意味はないかもしれんけど。

 

「おかえり紫」

「……ああ、彼女が保護した少女だ」

 やはり曹洪が小さい。

 でもなんか、紫の反応がおかしいな。

 

「栄華? その姿は懐かしいわね」

「お姉さま!」

 紫の後ろに隠れるようについてきていた少女が華琳に抱きつく。

 心細かったのかな? 連邦の捕虜になってたらしいし。

 

「……お姉さま、か」

 やはり紫が変だ。井河さんのことでも思い出したのかもしれん。

「紫?」

「ミケは元気か?」

 ああ、紫は猫好きだからミケちゃんが気になっていたのか。

 ……なんか違う。

 

「ミケル・ニノリッチは敵前逃亡扱いになっている」

「そう。こちらでは敵前逃亡は銃殺ね」

「……そりゃ戦争終結前に軍人さん、しかも最前線から連れてきちゃそうなるか」

 でもそれなら一年戦争が終わってから連れてくれば……アプサラスと戦うんじゃ危険すぎるから無理に連れてきた?

 

「ゆきかぜと凛子が見つかった」

「え」

 2人が見つかったのは嬉しいけど、なんでこの話の流れで出てくる?

「ゆきかぜはキッカ・キタモト。ホワイトベースにいる」

「ゆキッカぜ? 駆逐艦が戦闘攻撃機になっちゃったか。……もしかして?」

 ちらりと曹洪ちゃんを見ると、紫が小さく頷く。

 そうか。ちっちゃくなっちゃってるのか。

 

「問題なのは凛子の方のようね」

 華琳ちゃんにとってはゆきかぜちゃんの変化は問題ではないらしい。

 大問題なのに。いくらなんでもキッカちゃんじゃ俺とできないでしょ。小さすぎるってば!

 なのにまたも小さく頷いてから紫が口を開く。

 

「凛子は……アイナ・サハリンのようだ」

「アイナぁ?」

 変な声が出てしまった。だってちょっと影が薄い気するけど、第08MS小隊のヒロインじゃないか。

 ()イナ・サハ()()()きやま()()こ、苗字と名前が逆になってるし、強引すぎね?

 

「そう。それでミケを連れてきたのね」

「そうだ。機動戦士ガンダム第08MS小隊とは流れを変えたかった」

「相談してくれればいいのに」

 俺は夫なのに頼りにされてないのか……。

 

「現場の判断と言いたいところだが、すまない。融合した村雨健二の影響かもしれん」

 たしかに村雨も味方にも秘密で動いていたり、独自の判断で動いていたことが多かったような……でもそれは支部が違ったらかもしれないし。

 

「アイナね。もしかしたら凛子の心残りが影響したのかもしれないわね」

「心残り?」

 華琳ちゃんがもたらした情報によれば、跳ばされた先にそれも影響するんだっけ。

 

「凛子の心残りは多分、弟を死なせてしまったこと。弟と兄という違いはあるけれど、死にそうな兄を助けたいのではなくて?」

「ギニアスをか?」

「病の方はエリクサーで治るでしょう。戦いの方は危険ね」

 ギニアス・サハリン。

 第08MS小隊の悪役でGジェネとかでもラスボスやらされてたりするんだよな。

 鬱陶しい友人や試作機の技術者を殺しちゃう妄執者だよな。果ては妹まで撃っちゃう。

 それが凛子のお兄さん?

 

「凛子はまだ記憶が戻っていないのか?」

「たぶんな。戻っていたら連絡は入れるはず」

 早く戻ってほしいな。

 第08MS小隊の主人公であるシローに持ってかれるわけにはいかない。

 というか、俺はキキちゃん派だったので、シローは彼女とくっつきなさい。もしかして凛子もキキちゃん派でそれが心残りだった? んなわきゃねえか。

 

「アプサラスの開発スタッフがまだ生きているのならほしいわね。ミノフスキークラフトがあればマクロスの受け止めにも使える」

「あれは電力をかなり必要と……そうか! そこでフォーグラードライブか」

「そう。煌一クンが成現した完成形を調べることで研究が進んでいるから間に合うはず」

 OVAジャイアントロボの最後で欠陥が解消されたシズマドライブ、核が3つに分裂したあれを成現して不乱拳(フォーグラー)博士に渡して研究してもらっている。

 

「大型のFドライブとミノフスキークラフト、それに電磁ネットワイヤー発生装置をシーマ艦隊の艦に搭載できれば……」

「大気圏突入ができれば電磁ネットワイヤーの出力次第でマクロスを受け止められますね」

 孔明ちゃんと稟がビニフォンを操作してシミュレーションを見せてくれた。

 

「シーマ艦隊はリリー・マルレーン以外は大気圏突入ができなかったはずだからバリュートシステムも必要か」

「設計がマオウ社(うち)に回れば突貫で完成させます」

「アプサラス開発スタッフが味方になってくれなかったり、間に合わなきゃ俺が成現するからマオウ社で造ったことにしてくれ。できればこの世界の技術だけで受け止める方がいいだろう。変に調査されたくない」

 スパロボ世界で俺の能力(リアライズ)を知られたら、どんなやつに狙われるかわかったもんじゃない。

 

「この構想はコロニー落とし対策に考案されたことにするとして、マクロスの落下は事前にどうやって知ったことにするのです?」

「それはほら、ノストラダムスの預言書に書かれてたってことで」

 元々マクロスはそうなんだし。

「なるほど。たしかにそのように解釈できる記述もありますね」

 あるのか。スパロボ世界のノストラさんスゲえ。

 

「ならば早速凛子を迎えに行くぞ。煌一、私の時のように凛子の記憶を取り戻せ」

「ま、またキスするの?」

 銀鈴ちゃんそこで暴露しないで。華琳ちゃんの目が輝くから。

 

「キスね。そんな方法で紫の記憶を取り戻したのね」

「私の時は、華琳様の卑猥な姿を想像する言葉を聞かされたのに」

 それ、俺だけど俺じゃないから!

 抗議する稟の目が怖い。きっと鼻血を噴きながら思い出したんだろう。

 

「せ、接触した方がテレパシーの通りがよくなると思ってね、いきなりキスしたのは驚いてくれれば心にも隙ができてテレパシーがね」

 ここはなんとしても誤魔化さねば。

 記憶が戻らない嫁さんを見つけるたびにみんなの前でキスしなきゃいけないなんて恥ずかしすぎる。

 

「そのわりにはずいぶんと長い口付けだったな。舌も入ってきた」

「次は別の方法考えるから! 握手でもいいし、テレパシーも練習して接触なしでもできるようにするから!」

 ううっ、みんなの視線が痛すぎる。

 記憶とりもどし装置でも作った方が早いかもしれない。

 

「ラサ基地の入り口はわかっているのか?」

「マーキング済みだ。オデッサ残党のジオン軍少尉を捕まえて案内してもらった」

「それってもしかして」

「あのエルフが言っていたザクI乗りだ。ゲリラの村に入る前に確保した」

 やはりトップか! 生きているならヘンビットが喜ぶな。

 

「その少尉は?」

「無事にラサ基地に送り届けた」

 それって死亡フラグのような……。

 基地に潜入するための案内としか見てないの?

 いや、案内ってこっそりと後をつけたのか。連邦に見つからないようにフォローしながら。

 

 

 

 季衣ちゃんのことはファーストに連絡、華琳ちゃんが応援に行くことになった。

「紫さん、ビッグ・ファイアさまのことをよろしくお願いします」

「任せてくれ」

 俺は孔明ちゃんになんとか許可をもらい、紫と現地へポータルで移動、無事に凛子の記憶を取り戻すことに成功する。

 

「基地を放棄してよかったのか?」

「不完全なアプサラスを完成させてもサハリン家の再興はなるまい。身体が治った以上、焦る必要はない」

 あれ? なんかギニアスのキャラが変わってしまったような。エリクサー服用前が精神に異常をきたしていたんだろうけど……。

 

「ノリスはケルゲレンで行かなくてよかったのか?」

 連邦軍にラサ基地が囲まれる前に合流できたため、ケルゲレンも無事に宇宙に上がることができた。T1社に来ることを拒んだ開発スタッフやトップ少尉もケルゲレンで脱出した。

 ケルゲレン子は美人だけど、残念ながら恋ではなかったよ。

 

 なのに、なぜかノリス・パッカードも残っている。シローと戦う前だから生きているんだろうけどさ。

「アイナ様を残して行けるわけがない。それにアイナ様の想い人も見極めんとな」

 ギニアスよりもノリスが味方になってくれたことは嬉しいけど、アイナの父親代わりなポジションなのでちょっと怖い。

 

「ありがとう、ノリス」

 凛子は見た目も凛子のままだったけど、ギニアスもノリスもアイナとして認識していた。異常が認識されないから世界融合があまり騒ぎになってないのかもしれない。

 

 第08MS小隊主人公の魔の手からはチョーカーが守ってくれたらしい。その時に思い出してくれれば良かったのに。

 意図せずに主人公の運命を変えちゃったけど、シローはキキと添い遂げてくれ。

 

 要人護送型に改修されたという設定のVF-19V、通称VIPカリバーで無事に島に帰ってきた。

 パイロット以外に5人分の対Gシートを搭載している機体だ。かわりに変形はできなくなっているけど、この世界ではまだバルキリーの変形を披露するつもりがないので問題ない。

 VIPカリバーは俺の分身(キング)があっちの地球でエリアZiに行くのに使った。山脈や磁気嵐を成層圏で突破したらしい。

 便利だと思い、こっちでも追加成現したよ。

 

 俺、紫、凛子がそれぞれ操縦し、ケルゲレンの打ち出しと同時に3機のVF-19Vも基地を出発した。

 ただでさえミノフスキー粒子のせいでレーダーが利かない上にアクティブステルス機なので発見されることはない。もし発見されたとしてもセイバーフィッシュに擬装してるし、最高速度マッハ5は追いつかれないでしょ。

 

 

 T1社にきてくれたアプサラス開発スタッフはVIPカリバーの性能やFドライブに興奮。休憩もほとんど取らずに艦船用のミノフスキークラフトの設計に取りかかる。

 

 ちゃんと休んでほしいけど時間もないし……エリクサーじゃ強すぎるから、体力回復の栄養ドリンク成現する(つくる)か。

 

 

 ……なんかヤバイ薬漬けにして利用しているイメージがして、なかなか集中できんかった。

 

 




第08MS小隊で星一号作戦とか台詞で出てくるからアプサラスIIIが出てくるのって、12月下旬だと判断しました

違ったら……まあ、一年戦争とは違う世界だってことでごめんなさい


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14話 ガンダム強奪

 俺の分身は、アイナ・サハリンと融合してしまった凛子と無事に合流できたらしい。

 (ファースト)はサイド6のコロニー、リボーでサイクロプス隊を探す。クリスマスはマクロスが落ちてきて余裕がないので、さっさと季衣ちゃんを保護したい。

 

 といってもコロニーは広いし住民も多い。何千万という人間が住んでいるのだ。

 戦火を逃れて避難してきた者も多い。

 俺と華琳ちゃんもそんな設定で紛れ込んでいるんだけどね。

 

 その中から探すのは大変だ。

 探知スキルでも見つからなかった。

 俺が6分の1の分身でスキルレベルも下がってるせいだろう。

 

「19日に襲撃されるガンダムの場所はわかってるんだけどさ」

「U.N.メディカルセンターだったわね。NT-1(できそこない)も手に入れる。そのためには襲撃前に季衣たちを確保したいわ」

 華琳ちゃんもポケ戦を視聴済みだから話は早い。

 って。

 

「手に入れるってアレックスを?」

「ええ」

「マジ?」

「大マジよ」

 むう。アレックスか。

 スパロボだと火力不足で序盤以外役に立たず、クリスはリ・ガズィあたりに乗ってることが多いんだけどさ。

 たしかに現時点ではかなりの高性能MSだ。

 

「ほしいんなら成現(リアライズ)してもいいけど、理由があるんだよね?」

「ええ。サイクロプス隊が失敗したらこのコロニーは核攻撃を受ける。まあ、そっちは失敗するでしょうけど」

「ポケ戦ではそうだったね」

「朱里とも相談したのだけれど、連邦の新型機をBF団が奪取する。その作戦指揮の実績がいるの」

 ああ、華琳ちゃんがBF団でいきなりB級以上のエージェントになるにはそれぐらい必要か。

 

「季衣ちゃんたちを確保って方法はあるの?」

「それも作戦があるわ」

 華琳ちゃんはスタッシュからキッチンカーを取り出した。

 彼女はファミリアになったばかりだが、スタッシュエリアの大きさはそこそこある。夢で、契約空間もどきで会う時にいろいろ渡していた物が華琳ちゃんのスタッシュに入っていた。それで熟練度が貯まっていた扱いなんだろう。さすがにMSが入るほどの大きさではないけれど。

 

 

 

「いいにおーい、美味しそうだねー! 肉まん30個! あと焼売と……」

 華琳ちゃん作の点心の移動販売を始めて数時間。もう季衣ちゃんがかかってしまった。

 さすが華琳ちゃんというべきか、季衣ちゃんがちょろすぎるというべきか……。

 次々と注文するのに夢中で俺の顔を見ても気づいてくれないのは悲しい。

 

「はい、よく食べるわね。これはサービスよ」

「わあ! ありがとうお姉さん! ……あれ?」

 華琳ちゃんから大量のサービス品を受け取る時に季衣ちゃんが首を捻る。なにか思い出したのだろうか?

 

「大変そうね。煌一クン、運んであげなさい」

「え、でも……」

「だいじょうぶだよ。ちょうど今ので出来てるのが在庫切れになっちゃったから」

 そのために両手では抱えきれないほどのサービス品を渡してるんだしね。

 

 季衣ちゃんを送ってサイクロプス隊の隠れ家を知った。アニメと同じくGKモーターサービス。名前はわかってたけど、場所がわからなかったんだよね。

 念のために季衣ちゃんにもマーキング。スキルレベルも上がってるから持続時間はそれなりにある。

 あ、でも俺、6分の1の能力になってるから2、3日ってとこか。

 

「すっごく美味しいからまた行くねー、兄ちゃん」

「うん。またねー」

 ……肉まんを食べながらぶんぶんと元気よく手をふる季衣ちゃんの左手薬指には指輪がなかった。

 

 

 

「あれは俺の季衣ちゃんじゃないみたいだ。無印恋姫の、華琳ちゃんの許緒ちゃんだろう」

「そう。ならばホワイトを呼んでテレパシーで覚醒させる手は使えない。私の口づけの出番ね」

 華琳ちゃんのバックに散が見えた気がした。

 燃える口づけを受けて思い出さずにはいられなくなったのだ!

「でも華琳ちゃん、許緒ちゃんにはそんなことしてなかったんだろ?」

 無印許緒ちゃんはエロシーンがない。プレイしてわかった時はショックだったなー。

 

「……我慢しないで手を出しておくべきだったわ」

「春蘭がいたら思い出してくれたかな?」

 それはそれで悔しいけど。……俺嫁の季衣ちゃんならきっとすぐに俺を思い出してくれるから悔しがる必要はないか。

 

「あ……」

「どうしたの?」

「許緒ちゃんが近づいてくる」

 ビニフォンのマップには接近してくるマーカーが表示されていた。

 

「ごめんね、まだ新しいのは出来てないんだよ」

 駆け込んできた許緒ちゃんにキッチンカーにかけられた準備中の看板を指差す俺。

 彼女は俺のことは目に入ってないのか、車中を覗き込む。

 

「華琳さま!」

「やっと思い出したようね、季衣」

「は、はい! あの点心、どこかで食べた気がして……全部食べたら思い出したんです!」

 なるほど。点心は許緒ちゃんの釣り餌だけじゃなくて、思いでのキーアイテムでもあったワケか。

 でも思い出すのが全部食べてからってのは許緒ちゃんらしい。

 

 

 許緒ちゃんの案内でサイクロプス隊を確保する。

 暴れられると困るのでスリープの魔法を使って眠らせ、捕縛した。いくら6分の1の俺でも、魔法のない世界の人間に簡単にレジストされたりはしない。

 ……スパロボ世界だから魔法はあるかもしれないか。

 

「ミーシャ? これはいったいどういうことだ?」

「ごめんなさい。ボク、みんなを死なせたくなくて……」

 縛られたままのサイクロプス隊の面々に頭を下げる許緒ちゃん。

「ミーシャ……」

 許緒ちゃんの目が潤んで今にも泣きそうに感じられては、彼らも責め立てることができない。

 

「彼女は悪くないわ。あなたたちこそ、そんな少数でガンダムをどうにかできるつもり? 仮に作戦が上手くいったとしてジオンが勝てるとでも思っているのかしら?」

「はぁ? なんのことだかわからんですよ」

 ああ、隊長のシュタイナーは演技も上手かったんだっけ。

 

「惚けても無駄よ。アンディ・ストロースはこちらで保護している」

「保護? 生きてるってのか?」

 頭にバンダナを巻いている男、ガブリエル・ラミレス・ガルシアが思わず反応する。

 

「ええ。できればあなた達にも協力してほしいのだけど」

 無言のシュタイナーに追随するようにガルシアもバーニィも黙ったままだ。

「そう。無理にとは言わないし、安全も保障する。あなた達になにかあったら彼女が泣くもの」

「ミ、ミーシャになにをしたの?」

 そう問うのは、サイクロプス隊といっしょにいたのでついでに捕まえてしまった少年、アルフレッド・イズルハ。ポケ戦の主人公である。

 

「記憶を取り戻してもらったのよ。おかしいとは思わない? 補充された新兵よりも古参の彼女の方が幼いなんて」

「む?」

「な?」

「……俺もそう思った」

「うん」

 バーニィとアルは頷き、付き合いの深いシュタイナーとガルシアが悩む。

 やはり、世界融合(シャッフル)で同化しちゃうと、関係者の記憶まで改竄されるようだ。

 

「簡単に説明するわ。あなたたちのミーシャと私の季衣が融合してしまった」

「融合?」

「そう。彼女はミハイル・カミンスキー本来の姿ではない」

 本当はロシア系の酒好きのおっさんだもんなあ。

「彼女に起こった現象は世界中で起きてるわ。ジオンと連邦で争ってなんている場合ではない」

 

 華琳ちゃんに説明を任せて行っていた組み立て中のケンプファーのスキャンがおわった。

「許緒ちゃん、これもらっていいかな?」

「え?」

「レンタルでもいいよ」

「う、うん?」

 よし。疑問系気味ながらも頷いてくれたのでスタッシュに収納する。人の物は収納できない仕様だからね。借りたら収納できるのは助かる。

 

「これならアレックスもなんとかなるね。……って、あれ?」

 驚愕の表情のサイクロプス隊と0080主人公。目の前でのスキルの使用は衝撃的すぎたか。

 ともあれ、これで俺たちが只者じゃないと感じたのか、仲間になることも考えてくれるらしい。

 

 

 

 アル少年には帰宅してもらって深夜。

 メディカルセンターに侵入する俺。隠形はカメラやセンサーに映らないってのは助かるなー。見つかってもいいようにBF団エージェントの証、Qマスクはしてるけどさ。

 

 探知を使ってサクサクとNT-1(アレックス)にたどり着き、こっそりとコクピットに潜り込む。

「許緒ちゃん、出てきて」

 ヌルリと俺の影からQマスク仕様の許緒ちゃんが生えてくる。ついでに俺の影が黒豹になった。

 ロデムである。……アキレスだった。

 普段は孔明ちゃんの護衛をしているのだが、今回の任務のためにきてもらった。

 

 ポータルを使えたところから考えると、使徒かファミリアなんだろうか?

 ビッグ・ファイアってスパロボだと「神であって神でなく、人であって人でない存在」だそうだから使徒ってのはありえるかもしれない。

 思い出せないけどビッグ・ファイアが使徒で護衛団がファミリアってとこかな。

 そうなるとバベルの塔が拠点っぽい。

 

「真っ暗で怖かったぁ……」

 震える許緒ちゃんで任務に思考を戻す。コクピット内もわずかな明かりしかないんだけど、あっちは本当に暗闇だったのかな。

「できる?」

「うん!」

 シートに座った俺の膝の上の許緒ちゃんがアレックスを起動させる。パスワードは俺が魔法で解錠した。

 コクピットの壁に外の映像が映し出される。360度スクリーンなんだよね。

 

「これでボクのものになったのかな? これ、兄ちゃんにあげるね!」

「ありがとう」

「へへー」

 許緒ちゃんをなでてから、2人でコクピットを出てアレックスをスタッシュに収納する。

 許緒ちゃんが強奪したガンダムを俺が貰ったので、盗んだわけではない。こんな屁理屈だが、ちゃんと収納できてしまった。なんだかなー。

 駄目だったらアキレスにしまってもらう予定だったのに。

 

 警備員が騒いで無線機で連絡を取り始めるがもう遅い。

「さ、許緒ちゃん、気をつけて帰ってね」

「ううーっ、またあれぇ? ……兄ちゃんも気をつけてね」

 現れたときとは逆に黒豹アキレスが影になって許緒ちゃんを包んで、影のまま移動していく。

 無事に帰ってくれよ。

 

 爆弾のスイッチを手につい呟いてしまう俺。

「いいや限界だ! 押すね!」

 煌ー(きらー)クイーンならぬ自分の指でスイッチを押した数秒後、警報音とともに照明がさらに明るくなった。

 

 ()に複数の銃口が向けられているのがわかる。

「ハハハハハハ! 新型ガンダムは我々BF団が頂戴した!」

 高らかに宣言すると、壁の側をルパン走りで脱出しようとする()。腕の振りもバッチリ。サーチライトがないのが残念でならない。

 大量の銃弾が()に殺到するが当たらずに走り去った。警備兵たちもそれを追っていく。

 

 人影が格納庫からほとんどなくなると俺はポータルでGKモーターサービスへと移動する。

 さっきの()はビニフォンによる立体映像。銃弾が当たるわけがないのだった。

 

 

「上手くいったようね」

「うん。そっちは?」

「まだ信じられないようね。というより信じたくないのかしら、宇宙人の存在なんて。マクロスの落下と一年戦争の終結が実際に起これば入社するわ」

 華琳ちゃんはサイクロプス隊が暴走しないように見張りと、彼らの説得を続けていた。

「そうか。じゃあ後でVIPカリバー回してもらおう」

 使徒かファミリアじゃないとポータル使えないからね。

 

 

 

「きょっちーはよかったの? ファミリアになっちゃって」

「うん。ボクは華琳さまといっしょがいい!」

 真名を教えてもらったけど、俺嫁の季衣ちゃんと紛らわしいので許緒ちゃんのことはきょっちーと呼ぶことにした。彼女もファミリアになってくれたので一足先に島へポータル移動。

 サイクロプス隊はBF団に奪われたNT-1の捜索ということでリボーコロニーに残っていてもジオン軍からはなにも言われてないらしい。彼らを回収している余裕もないのかもしれない。

 

「シーマも説得できたよ」

「説得、ね。どんな説得だったのかしら」

 華琳ちゃんの目線は一刀君の首筋。キスマークがついている。

 他の女の存在をシーマ様が感じ取ったのかね。

 

「大型Fドライブ及び、ミノフスキークラフト、電磁ネットワイヤー発生装置も完成しています」

 さすがスパロボ世界、技術者たちが有能すぎる。

 バリュートシステムは耐熱素材のエアクッションだけが間に合わず、俺が成現した。

 俺は機材を月面のマオウ社で受け取って、シーマに会いに行く。

 

 

「へえ、あんたがかい?」

「天井煌一。一刀君の友人で同僚だよ。よろしく」

 これがシーマ・ガラハウ……若いな。シワもない。あれは一年戦争後のつらい生活で刻まれたものだったんだね。

 

「なんだい、ジロジロ見るんじゃないよ」

「いや、一刀君が惚れたのもわかるなと」

「ふん、お世辞はいいよ。それより、今後の保障は本当なんだろうね?」

「ああ。これが作戦と、我が社の資料だ」

 孔明ちゃんがまとめてくれた資料を渡す。

 

 かわりに副官らしきおっさんがシーマ艦隊の戦力を教えてくれた。

 ザンジバルII級機動巡洋艦リリー・マルレーン、ムサイ級軽巡洋艦最後期型7隻とパプア級輸送艦。

 モビルスーツは海兵仕様のMS-14FゲルググM(マリーネ)が30機以上。シーマ機は指揮官用のMS-14Fsだったはず。

 

 あれれ、補給に関しては厚遇されてね? 最新設備だよね。

 もしかしてキシリアはそれなりにシーマ様たちを大事にしてた?

 キシリアがシャアに殺されなかったら、ジオン敗戦後もシーマをアクシズに受け入れたんだろうか?

 これは艦隊司令のアサクラ大佐が悪いのか。やつはギレン派だし。

 

 まあ、どっちにしろ我が社がもらうから関係ないか。

 アサクラが代理司令官に任命したシーマに汚れ仕事の全責任を押し付ける前に、ジオンとやつの行為を発表してシーマ様たちを保護しよう。

 

 

 

 クリスマスに落ちてきたマクロスは無事に受け止めることができてしまった。

 いろいろ無理があったと思うけどさすがスパロボ世界といったところなんだろう。

 

 地上に被害をほとんど与えずに南アタリア島にマクロスを置くことに成功。

 所有していても危険なだけだし、会社の資金を得るためにマクロスは連邦政府に売ろうと思う。

 

 いくらで売れるかな?

 

 



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1.5
15話 くるくるクラン


今回はクラン視点です


「……まだまだだな」

 わが高性能バトルスーツ(クァドラン)に迫るVF-171ナイトメアプラスの動きにそんな呟きが漏れてしまう。

 まさか牽制に放った高機動ミサイルに1機被弾するとは思わなかった。

 これで残りは3。人型(バトロイド)形態に変形し、接近戦を挑んできた2機のVF-171を相手にしながら周囲をチェックする。

 

 いるとすればあの戦艦の残骸か。

 クァドランの腕部のレーザーパルスガンで1機を屠りながら戦艦を目指す。残った1機も再び戦闘機(ファイター)形態になって追って来るが、遅い。

 相手をしてやるにはもっと速度を緩めないと駄目そうだ。

 

 急反転して再びVF-171と格闘戦を行う。隊長機のようだが殴り合いには慣れてないらしい。

 3本指のクァドラン系の指だが、愛機の物は力強く鋭い。その指がVF-171の頭部を握りつぶす。ナイトメアプラスには珍しいS型ヘッドだった。

 

 それと同時に戦艦の陰からの砲撃。

「やはりそこか!」

 一番警戒していた相手がやっと動いたのでこれで本気が出せる。

 

 

 

 

「まいりました」

「まさかたった1機にわが隊が全滅させられるなんて……」

 対戦相手からの通信。落ち込んでいるようだな。

仮想敵機(アグレッサー)として呼ばれたのは伊達ではないぞ。私がくるほどのものでもなかったが」

 新統合軍VF部隊の訓練の仮想敵機という仕事を請けたのは、S.M.S経由でだった。

 S.M.Sは星間運輸会社が母体。

 危険な宇宙で運送業を行うための護衛・警備を目的とした私兵集団から民間軍事会社になっている。

 宇宙船(トップスター)持込で運送の仕事を何度か回してもらっていたら、海賊や武装組織を撃退する腕を見込まれてこんな仕事もくるようになった。

 私としては渡りに船だったのだがな。

 

「クララ、飯でも食いにいかないか。反省点を相談したい」

「反省会なら飲みに行こうぜ」

「いい店知ってんだクララ」

 負けたというのにこいつらは……。

 いくらマイクローン時の姿を魔法で擬装してるとはいえ、以前の私との扱いの違いにため息も出る。

 

 クララというのは私の偽名だ。

 クララ1108、それが今の私。

 マクロス・フロンティアで暮らす以上、いつ()やその知り合いと出会うかわからないから仕方がない。

 

 姿もマイクローン時にも巨大化した私をベースにした変身魔法を使用中だ。髪も念のためにゼントランらしい緑にしている。

 ミシェルを見返すために覚えた変身魔法だったのだが、こんなところで役に立つとは皮肉な話だ。

 ゼントラーディ体型のままマイクローンとなっている私は男どもの目を惹きつける。自慢ではないがな。

 

「本当にクァドランなんですか?」

「ふふん。クァドラン・キルカをレストアついでに近代(レア)化改修したクァドラン・スーパーレアだ。夫が造ってくれた改造機(カスタム)だぞ」

 ちゃんと収納空間(スタッシュエリア)に戻っていてくれてよかった。こいつはお気に入りだからな。煌一が私のために造ってくれたものなのだ。

 

「なん、だと?」

「ああ、夫か? 娘もいるぞ」

「嘘だ!?」

 通信機から悲鳴にも似た嘆きの声が聞こえる。

 が、しばらくするとまた誘いが再開される。人妻でもかまわないようだ。

 

「不倫するつもりはない。……そうだな。動きのよかったスナイパーとなら話がある。この後、つきあってくれ」

「私?」

 そう。ジェシカ姉さんと話をするためにこの仕事を請けたのだ。

 

 

 

 ()()から1年経って2049年。

 マクロス・フロンティアで生活する私たちは、未だ仲間と合流できずにいる。

 

 残念ながらミシェルの両親が亡くなったテロはすでに終わっていた。シェリルの両親も同じだ。

 私にできることは少なく、当初は生活費にも苦労した。身分証明ができるのはグレイスだけだったからな。

 

「ここだ。引っ越したばかりなんだ」

「そうなの? ……お邪魔します」

 玄関のドアを開けると1人の少女が待ち構えていた。

「おかえりなさい、クララママ!」

「ママ? さっきのは本当だったの!」

 そんなに驚くなジェシカ。

 

 ジェシカ・ブラン。

 テロで両親を失い、年の離れた弟の親代わりになっている17歳の少女。

 そうだ、ミシェルの姉だ。当時の私は彼女を大人の女性だと思っていたが、こんなにも年齢相応の少女だったのだな。

 

「おかえり、クラ……そっちは?」

「さっき連絡したろう、客だ」

「そう、いらっしゃい! 引越ししたばかりでまだ散らかっているけど」

「え? 数え役萬☆姉妹(シスターズ)?」

 家にいた天和たちに先程よりも大きく目を見開いて驚くジェシカ。

 まあ、最近人気急上昇中のアイドルが目の前にいたらそうなるかもしれない。

 

 天和たちははぐれた仲間たちがすぐに見つけてくれるように、アイドル活動をしている。

 とはいえ、さすがにすぐにデビューとはいかなかった。芸能界なんて彼女たちも初めてだったからな。

 メジャーになるきっかけは素人の喉自慢番組。採点は機械だが、その中に歌エネルギー計測器があったこと。

 

 予選を勝ち抜いて出場したシスターズは番組史上最高得点を叩き出し、優勝者のみがチャレンジできるサウンドエナジーシステムも見事稼動させる。それまでは動いてもほのかに光る程度だったサウンドエナジーシステムが強く光り輝いた。

 これによってシスターズは一気にメジャーデビュー。ファイヤーボンバーの再来とまで言われるようになる。

 いつ仲間が見つかってもいいように仕事はあまり請けていないが。

 

「それは驚きますよ。あ、サインありがとうございます。いいお土産ができました」

 ミハエルくんへ、と書かれた3人のサインを受け取るジェシカ。

「クララちゃんとわたしたちはね、家族なんだよ」

「シェリルもよ姉さん」

 シェリルの両親を救うことはできなかったが、運送の仕事を請け負ってギャラクシーへ行った際に、探し出して保護した。

 グレイスがこちらにいる以上、彼女が浮浪児から脱出できるかわかったものではないからな。

 

「クララも天和も地和も人和もグレイスも、みんなあたしのママ!」

 保護した当初はそれこそ拾った野良猫のように怯えて近づけさせなかったシェリルが今はこんなに懐いてくれている。

 ……これがあの私の記憶にあるシェリルにはならないだろう、と少し不安にはなるが今更教育方針を変えるつもりもない。

 

「グレイスはどうした?」

「また研究だって篭ってる」

 オズマとくっつけるつもりだったグレイスは、新たな研究テーマを得たと各地の神話や伝承をより一層調べるようになった。ついでに私たちもよくデータを摂取されている。

 時折彼女を狙ってギャラクシーの連中がちょっかいをかけてくるのが鬱陶しい。全て撃退はしているが。

 

「すごいですね」

「そうか? 聞いたぞ、ジェシカもその年で弟の親代わりだそうじゃないか。1人で育てている分、そっちの方がすごい」

「そうでしょうか……弟はずっと暗い顔をしたままです。シェリルちゃんと同じくらいなのに」

 ミシェルが再び笑うようになるのは、アルトの歌舞伎を見てからだ。私も一緒に見たのだがあれは綺麗だった。

 まさかあれがアルトだったとは、煌一から借りた小説版を読むまではわからなかったぞ。ミシェルはすぐに気づいたようだが。……まさかミシェルの恋って……いやまさかな。

 

「それに、死んだ父の友人の方がよく面倒を見てくれるんですよ。……あ!」

「どうした?」

「クララを見た時、どこかで会った気がしたんですけど、わかりました。その方の娘さんによく似ているいるんです。弟の幼なじみなんですよ」

 それはそうだろう。私なのだから。

 だけど嬉しい。ジェシカ姉さんはわかってくれたか。

 

「きっとそいつは将来いい女になるぞ。弟には逃がさないように言っておくといい」

 こら地和(そこ)、そんな目で見るな。

「そうですね。クランちゃんなら……名前も似てますね」

 咄嗟に誤魔化せたのがこの名前だったのだ。1108は人和がつけてくれた。

 ……あんな意味だと知ってれば別のにしたのに。

 

「なにやら他人の気がしないな。ふむ。これもなにかの縁だ、ジェシカ、お前を鍛えてやる」

「はい?」

「貴様には見込みがある。しばらく稽古をつけてやろう」

 そう。これこそがアグレッサーを受けた理由。

 ジェシカ・ブランの強化だ。

 

 マクロスFではジェシカ・ブランは2055年に亡くなっている。

 ミシェルと同じくいいスナイパーだった彼女は新統合軍のエースとして活躍していたが、ある任務で上官の機体を誤射してしまう。

 その上官と不倫関係にあったジェシカ。直前に別れ話を持ちかけられていたために故意を疑われて軍法裁判に掛けられ、自殺……。

 

 だからジェシカが誤射などしないように鍛え上げ、ついでに不倫もしないようによく言い聞かせておくことにする。

 ジェシカが生きていればミシェルの素行にも注意してくれるだろう。

 彼女の死もミシェルの女好きに影響しているはずだから、それもなくなるかもしれない。

 だいたいだな、ミシェルが付き合った多くがお姉さま系。シスコンなのだ、あいつは!

 ……もしかしてこの世界の(クラン)の最大のライバルを作ろうとしているのかもしれんな。

 だけど私もジェシカ姉さんには死んでほしくない。こっちの私にはがんばってもらうしかなさそうだ。

 

 

 

 食事の後、ジェシカを送って戻ると、篭っていた部屋からグレイスが出てきてコーヒーを飲んでいた。

「また徹夜したのか?」

「ちゃんと寝たわよ。メルが手伝ってくれるおかげで作業がはかどるもの」

『め゛』

 グレイスの付近に浮いていた妖精が当然だと返事をする。

 メルと呼ばれたこの妖精はピクシートーン。フェアリートーンもどきの人造妖精。やはり夫が成現(リアライズ)したものだ。

 アップデートにより、フェアリートーンのような鉱石状の姿から翅の生えた一般的なイメージの妖精の姿になることができるようになった。私が変身する時は以前の姿になるけどな。

 トップスターの操船もサポートしてくれる優秀なデバイスでもある。彼女のメルは、メルフィナとメルトランディのメルだ。

 

「クランおねえちゃん、おかえりなさい」

 変身魔法を解いた私をシェリルが迎える。クララの時とクランの時で違う私にも慣れたようだ。

「クランママなのだ!」

「クランはおねえちゃんよ」

 慣れすぎな気はするが、な。

 

「彼女があなたの未練なのかしら?」

「彼女も、だ。まだあの仮説を気にしてるのか?」

「ええ。あなたたちが仲間と連絡できないのは未練が残っているから。でなければ、たとえ世界が違っていたとしても()()()いる可能性が高い」

 指輪のプシュケーハートを調べてグレイスが立てた仮説がこれだった。

 

「ならば私のほうはもうすぐ未練がなくなるかもしれんな」

「私たちも、バサラとは会えてないけど人気出たからもういいかなって」

「早く煌一とみんなに会いたいよう」

「トップになるにはやはり歌だけではなく、営業活動も重要なことが再確認できたのも勉強になりました」

 人気が出たシスターズがあまり熱心にアイドル活動をしてないのは、もう満足したから?

 いや、一番聞かせたい相手がいないので満足できないのかもしれない。煌一がこの世界にいれば、それこそ銀河を獲るぐらいの勢いで仕事をするのだろう。

 

「もしも煌一たちと連絡がついて……この世界から旅立つことになった時はシェリルをたのむぞ」

「……クランおねえちゃんたち、いっちゃうの? あたしたちをおいていなくなっちゃうの?」

 いかん、シェリルが泣きはじめてしまった。

 

「悪いお姉ちゃんね」

「グレイス」

「クラン、もしその時がきても私は研究対象を逃がすつもりはないわ」

 研究対象って、私たちのことか?

 

「だがなグレイス」

「フォールドクォーツをはるかに超える力を持つプシュケーハートとシスターズの歌エネルギーを効率的に使うことができれば世界だって超えられる」

「もしかして、さいきんずっと研究してるのは……」

 フォールド断層どころか世界を超えるつもりなのか?

 

「あたしもついていく!」

「シェリルまで」

「そうだね。シェリルちゃんもいっしょに行こうね!」

「天和?」

 泣きながら宣言したシェリルを抱っこする天和。そのままやさしく抱きしめて歌いだす。

 地和、人和もそれに合わせて歌い、やがてシェリルも続いた。

 

「シェリルちゃんはね、わたしたちの子供で、一番弟子なんだよ」

 歌い終えた天和がシェリルをなでなで。

「そうね、ちぃの娘なんだから連れて行くに決まってる」

「私たちは売れるまで苦労したけれど姉妹3人いたから耐えられた。でもシェリルは1人……」

 人和まで。

 シェリルはこの世界での役目があるのは知っているだろうに。

 

「ず、ずるいぞお前たち。これでは私がわるものではないか」

「クランは嫌なの?」

「いやなワケがなかろう! その方法があれば離れたくなどないのだ!」

 しかたない。こうなったらバジュラの対策はランカに任せるのだ。

 バジュラやランカのフォールド細菌その他のデータを纏めて、オズマとジェフリー艦長に渡しておくしかあるまい。

 

 

 

 

 その後、ジェシカは特訓によって、私が知るミシェル以上の腕前になってしまった。

 ……教えたのは私ではないが。

 

 あれからすぐに、グレイスの仮説が正しかったのかはわからないが煌一たちとの連絡がついた。

 ファイヤーのコールサインを持つ煌一は大型のプシュケーハートを搭載したVF-29改によって世界を超えて迎えに現れる。

 やつはヨーコと真桜とすでに合流していた。彼女たちも未練によってグレンラガンの世界にいたらしい。

 願いが届いて煌一が出現、ニアが救われたとヨーコは満足そうだ。

 

 しかし煌一が連れてきたのはヨーコと真桜だけではなかった。義妹(ヨーコ)の世界の人間も連れていたのだ。

「ダリー・アダイです」

「キヤル・バチカだぜ。よろしくな!」

 彼女たちは世界を超える際の歌巫女とそのサポートをしていたら巻き込まれてついてきてしまったらしい。

 

 オマケはともかく、ヨーコがきてくれたのだからと、彼女にジェシカを特訓してもらったら前述の通り、効果が凄かった。

 超一流スナイパーであり教師でもあるヨーコの教え方がよかったのだろう。まあ教師スキルなら私も持っているが。

 

 さらに、だ。

「オズマ、今日の予定は空いてる?」

「彼は私と先約があります!」

 特訓の協力を要請したオズマとジェシカが急接近してしまったのだ。今ではオズマはジェシカとキャシーとの三角関係に振り回されている。

 グレイスとオズマの仲を進展させる予定だったのに……。

 

 どうしてこうなったのだ?

 

 



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16話 はっぱっぱ

今回は梓視点

痕のネタバレがあります


 最近、不思議な夢を見るという妹たち。

 その原因としてカードを取り出した。

 楓は凪、初音は亞莎のファミリアカードを。

 

「この人たちも梓お姉ちゃんの妹なんだよね?」

「そこまで知っているのか」

 こくりと頷く2人。

「凪さんの記憶を夢で見た。たぶん……。うちの家系に伝わるテレパシー能力のせい」

「そんなことが……」

「もしかしたら亞莎ちゃんとわたしは同じ存在なのかも」

 そりゃ中の人がいっしょらしいけどさあ。

 だからって、同じ存在ってのはちょっと。2人とも見た目も性格も結構違うじゃない。

 

「同じ存在が接触すれば弱い方がカードになるはず」

「凪と亞莎がカードになってるのはそのせいだっての? この2人、記憶を見たなら知ってるだろうけど、かなり強いんだよ」

「わたしたちは鬼の子だから……」

 凪と亞莎だってファミリアになってて強くなってるんだけどねえ。なにか他の理由もあるのかね?

 

「こんなこともできるようになった。……はああああっ!」

「そのオーラ、まさか凪の気弾を使えるようになったのか」

「少しだけ」

「少しだけってあんた……」

 ファミリアになったあたしだって使えるようになるのは時間がかかったのに。

 もしかして初音も?

 

「わたし? ……魔法は無理だよぅ。でも、ゴマ団子なら作れるようになったよ」

「そりゃ頼もしいね」

 初音がそのままだったのでなんかほっとした。

 

 

 

 そろそろ耕一の鎖を解こうと戻ったらさ、慌ててあたしの部屋に戻る羽目になったよ。

「ま、まさか2人がヤってる最中とはね……」

 妹たちは真っ赤になって俯いていて、返事もない。

 無理もないだろう。あんなのを見るのははじめてだろうし、ましてやそれが実の姉と想い人なんだからさ。

 あたしだって姉と従兄妹のあんなシーン見ちゃってどうしたらいいか……。

 

「耕一さんは千鶴姉さんを選んだのね……」

「お兄ちゃん……」

 ううっ、気まずい。

 

「ほ、ほら、選んだっていうか、流されただけじゃない?」

「流されたのだとしても、千鶴姉さんをヤリ捨てするのは許さない」

「ヤリ捨てってあんたね……」

 楓からまさかそんな台詞が聞けるなんてびっくりだよ、あたしゃ。

 

「耕一お兄ちゃんの、夢で見たのとちがったね……」

「初音まで……たしかに煌一のは双頭竜スキルの効果であんなになっちゃってるけどさあ。って、もしかしてそっちの記憶まで見られちゃってるの?」

 さらに真っ赤になって頷く楓と初音。

 あ、ああああ!

 思わず両手で顔を覆ってしまう。

 だってさ、2人が凪と亞莎の()()()の記憶も見てるってことはさ、その場にあたしがいたのも見られちゃってるワケじゃない!

 

「梓姉さんと凪さんたちの夫は……すごかった」

「ちっちゃい時もかわいかったよね」

「か、かわいい!?」

「初音、このタイミングでその言い方は誤解される」

 楓の指摘にえっ、と声を上げた初音はさらにさらに真っ赤になった顔の前で両手を振って否定を始めた。

 

「ち、ちがうよっ、ちっちゃいってのは、身体がちっちゃい時のことだよぅ」

「アレも小さい時のことね」

「も、もう、えっち!」

 まったく、うちの妹はなんでこんなに可愛いんだか。

 

「エッチなのは初音でしょ。このおませさん」

「うう、意地悪……」

「あはは」

「ふふふ」

 やがてあたしと楓につられて初音も笑い出した。

 楓と初音はそれこそ涙が出るまで笑っていた。

 

「耕一さんに失恋したばかりなのに、こんなに笑えるなんて思ってなかった」

「亞莎ちゃんの記憶のおかげだね」

 そうは言ってもね、やっぱり泣いてるじゃない。

 あたしは無粋なツッコミはせずに2人をまとめて抱きしめる。

 

「いいんだね、あんたたち。千鶴姉に耕一あげちゃって」

「千鶴姉さん、つらい思いばかりしてるから」

「耕一お兄ちゃんなら幸せにしてくれると思うよ」

 妹たちがいい子すぎて、あたしまでもらい泣き。煌一の泣き虫がうつっちゃったかね?

 

「お、お姉ちゃん、痛い!」

「力入れすぎ」

「あ、ごめん」

 抱きしめる力を緩めると、すぐに2人は抜け出してほっと一息。

 抜け出す時に乱れた髪をなでて整えてあげた。

 

 

 

「あ」

「どうした、楓?」

「千鶴姉さんと耕一さんが出かけた」

 ほんとだ。感知には家から離れていく2人の反応。あたしよりも先に気づくなんて楓もやるね。

 

 客間に戻るとやはり耕一も千鶴姉もいない。

「この切り口……」

 楓が落ちていた鎖とロープを見せてくる。綺麗な切断面だった。

「千鶴姉のやつ、面倒になって斬っちゃったか。血は落ちてないみたいだけど」

 ロープのそばに千鶴姉に貸したビニフォンが落ちていた。

 それを確認した初音の顔色が変わる。

 

「た、たいへんだよ! 梓お姉ちゃん!」

「え?」

「水門にむかったのかも。耕一さんが鬼を制御できるか確かめるつもりなのかもしれない」

 ビニフォンは痕をプレイしたままだった。

 

「千鶴姉のやつ、また早とちりしやがって!」

 プレイ中の痕は、裏山の水門で千鶴姉が耕一を殺してしまうバッドエンドの途中。

「急ごう、梓お姉ちゃん!」

「ああ!」

「待って」

 楓があたしたちを止める。

 

「このまま梓姉さんも一緒に行ったら、たぶん耕一さんは鬼の力を制御できない」

「……そ、そうだね、梓お姉ちゃんとわたしの時はお兄ちゃんは……」

 そうか。妹たちも凪と亞莎の記憶から痕の内容を知っているんだね。

 

 あたしのルートだとなぜか耕一は完全に鬼の力を封じることができていて、ピンチの時にも鬼になったりしない。

 なんか、あたしの前だと耕一の鬼は出てこないらしい。

 

「私にまかせて」

「楓、無理はしないでよ。見つからないようにあたしもついていくけど。あ、念のためにこれも渡しておくよ」

 スタッシュからエリクサーを出して楓に渡す。凪の記憶から使い方も知っているはずだよね。

 

「ありがとう。初音は留守番していて」

「お姉ちゃんたち、がんばってね!」

 不安そうな初音を残して、あたしと楓は2人を追った。

 

 

 水門についた時にはもう、千鶴姉の爪が耕一を貫いていて、急遽予定変更。

 スタッシュから紅蓮弐式を出して乗り込み、耕一を川に捨てた千鶴姉を襲う。もちろんフリだけだよ。

「そんな……ロボットの鬼?」

 予想通りにこれの右腕の爪から鬼を連想してくれた。そのために選んだんだ。

 

 状況がわからないながらも、千鶴姉はあたしの攻撃を回避する。手加減しているとはいえ、とんでもないスピードだね。

 攻撃をかわし続け、逆にジャンプして攻撃してきた。千鶴姉の鋭い爪が紅蓮の頭部に食い込む。

 マジか。これで耕一を殺したと思い込んで動揺してるってんだから我が姉ながら無茶苦茶だよ。

 

 逆の腕の爪をさらに叩き込もうとする千鶴姉を捕まえる紅蓮。

 ……さて、これからどうするかね。逃れようともがく千鶴姉に悩んでいたら、耕一が落ちた川の水面が揺れたかと思うと、ざばあぁっと人が飛び出してきた。

 耕一だ。

 

「こ、こういち……さん……逃げてください」

 さらにもがく千鶴姉。自分の手が傷つくこともお構いなしに、捕まえている紅蓮の手を引っかき続ける。

 その千鶴姉にむかって耕一もジャンプ。人間離れした高さを跳んで、紅蓮の腕に乗り、その指を掴む。

「千鶴さん、今助けるよ」

 耕一の瞳は赤い光に輝いていた。

 

「こ、耕一さん……ま、まさか」

 耕一の身体が変わっていく。筋肉が膨張していき、シャツが破れズボンがはちきれる。煌一の鬼モードに似ているな。

 身長も倍以上になってしまった。まだ紅蓮の方がでかいけどさ。

 

「グオオオオオオォォォォォォーーーーーーーッ!」

 その咆哮にあたしもちょっとビクッとなってしまった。それぐらい迫力がある。

 

 ボキッ! ベキンッ!

 あんなに千鶴姉が攻撃しても壊れなかった紅蓮の指が耕一によって破壊され、千鶴姉が解放される。

 千鶴姉を抱き上げてジャンプし、紅蓮から離れた地面に降り立つ耕一。

 

「耕一さん……」

「グ……」 

 鬼となったばかりでまだ上手く喋れないのか。煌一もそうだったもんな。

 耕一は会話を諦めて紅蓮とは反対の方向を指差す。千鶴姉に下がれということだろう。

「でも……」

「グオオオオオオォォォォォーーーーーーーーッ!」

 意味が伝わったと感じたのか耕一はこちらに振り向き、再びの咆哮。

 

 逃げる気はないのね。あくまで戦うつもりとか。鬼の力に振り回されてるんじゃないだろうね?

 それを確かめるために少し戦おうかと思った時に楓が姿を見せた。

 紅蓮をかばうように両手を広げて耕一を睨む。

 

「そこまでです耕一さん」

「楓?」

「鬼の力を制御できているのならこれ以上の戦いは不要です。元に戻って下さい」

 もし、制御できないつもりなら自分がその爪を受けるつもりなの、楓?

 もちろんそんなことはさせないけど。

 

 かなり長く感じた一瞬の後、耕一の身体がみるみる萎んでいく。

 どうやらちゃんと制御できているようだ。

「……はぁっ……はぁっ、楓ちゃん、い、いったいなにがどうなって?」

「これは梓姉さん」

 はじめての鬼化に疲労して膝をつき、肩で息をしている耕一に楓がばらしちゃったので、紅蓮から降りるあたし。

 

「あっ、梓?」

 千鶴姉まで目を丸くして驚いているね。そりゃそうでしょ。

「まったく、千鶴姉、せっかちすぎ。あたしの話を聞く前に行動おこしちゃ駄目じゃない」

 紅蓮をスタッシュにしまって千鶴姉に近づき、その怪我を見る。

 鬼の回復力で治り始めてはいるけど、痛々しいので回復魔法でさっさと治療した。

 

「梓にこんな力があったなんて……さっきのロボットは?」

「ここじゃなんだから戻ってから話すよ。初音も心配してるだろうしさ」

「耕一さんが鬼の力を制御できたことを早く教えてあげないと」

「それなら電話すりゃいい」

 ビニフォンでうちに電話して、ついでに耕一と千鶴姉の着替えを持ってきてもらった。ボロボロだったからね。

 スタッシュに入ってるあたしの服を貸してもいいけど、千鶴姉はともかく耕一は変質者っぽくなりそうだし。

 

 

 

 家に帰って事情を説明して、千鶴姉がなかなか信じてくれなかったりしたけど、なんとか理解してもらって。

「あなたが元はフィギュアだったなんて……そうなると、元々こっちにいた梓はどうなったのかしら?」

「え?」

「凪さんのようにカードになっているのかもしれない」

「けどそんなカード見てないんだよなあ」

「探してみようよ」

 あたしの部屋だけじゃなくて家中探して大掃除になっちゃったけど、結局見つからなかった。

 どうなってんのカニ?

 

 とにかく、耕一の鬼の制御成功と、2人がつきあうことになったのをお祝いして数日後。

 消えたこっちのあたしと、あたしの仲間をどうやって探すか悩んでいるうちに行方不明者が増えてしまった。

 

 最近、行方不明者が多いらしい。

 あたしが殺した柳川刑事もそれと同じ扱いのようだ。彼の遺体はいつのまにかスタッシュの中でカードに変わっていた。

 ファミリア候補だったか。あとでワルテナかポロりんにでも売ることにしよう。

 

 異常なのは、突然消えるということ。目の前で人が消失するというケースもある。

 ……かおりもそれだった。あたしたちの前で消えてしまった。

「せっかく柳川から守ったのに、どうなってるんだ!」

 まさか、この世界はかおりを不幸にしなきゃおさまらないとかじゃないだろうね?

 

「ちょっといいかしら? 柏木梓さんよね?」

 かおり消失事件のことで陸上部員たちといっしょに事情聴取を受けた帰り、その少女たちと会った。

 

 姉妹だろう、よく似た2人の少女と、耳に機械をつけた1人の少女。

 会ったことはなかったが見覚えがあった。

「来栖川綾香よ。こっちは姉さんとセリオ」

「……」

 姉と言われた少女は小さな声で芹香ですと名乗った。

 

「そっちのセリオってのはメイドロボだよね?」

「はい。HMX13型、通称セリオです。よろしくお願いします」

 やっぱり。こいつらはTo Heartの連中じゃないか。

 

 To Heart。

 痕のメーカーの人気作で、家庭用ゲーム化やアニメ化もして続編まで作られている。

 く、悔しくなんかないんだからね!

 うちの智子も登場しているから、煌一がプレイさせてくれたんだよね。

 だから彼女たちのことは知っている。

 

 知っているけど、あたしになんの用があるのさ。

「柏木梓だけどなんの用?」

「日吉かおりさんの消えた場所に案内してほしいの」

「興味半分なら許さないよ。怪我しないうちに帰りな」

 来栖川芹香の趣味は魔術。オカルト関係ってことで調べにでもきたんだろうか?

 

「私たちも関係者よ。知り合いが目の前で消えたわ。協力して。調べたいことがあるの」

「そう……わかった、ついてきて」

 他校の生徒だけどかまわずに学校に連れて行って、陸上部の部室に案内したよ。少しでも手掛かりがほしかった。

 

「セリオ。どう?」

「はい、ごく微弱ながらオルゴンを検出しました」

 まだ教えていないのに、かおりが消えた場所でセリオがそう言った。

「やっぱり……」

「ちょっと待ってよ、オルゴンっていったいどういうことさ?」

 聞き覚えのある単語に背筋が震える。

 もしかして、かおりが消えてしまったのにあたしが関係してる?

 

「最近起きている行方不明事件……消失事件の現場で検出される謎の粒子よ」

「謎の? どこでその名前を……」

 偶然の一致なんかじゃないはずよね。

 

「協力者に教えてもらったのよ。あなたのこともね」

「あたしも? 誰よ、それ」

「……」

 紹介します、ってまた小声の芹香。

 鬼の聴力のおかげで聞き取れはするけど、もっとちゃんと声を出してよ。

 

 彼女たちに連れてこられたのは来栖川の別荘。隆山の別荘エリアの中でも一際大きいお屋敷だった。

「お久しぶりです、梓様」

「誰?」

 紹介されたのは1人の少年。執事服を着た彼に見覚えはない。耳にカバーをつけているということはこいつもロボット?

 

「この姿ではわかりませんよね?」

 彼はシャツの胸元のボタンを外していきその肌をさらす。パカっと胸部の皮膚が開いたかと思うと、見覚えのあるものがそこにあった。

「携帯ゲーム機? ……あんたもしかしてマサムネ?」

「ハイ。マサムネデス」

 少年は口を動かさず、胸部に内蔵されたゲーム機の画面が明滅して、聞き覚えのあるエフェクトのかかった声がした。

 

「いったいどうしたのさ、その姿は?」

「協力と引き換えにオーバーボディを来栖川に制作してもらいました」

 少年の口を使うとエフェクトなしで普通に喋れるのね。

「協力? 行方不明事件のよね? いったいどうなってるのよ」

「人が消失した場所からオルゴンが検出されていることから、私たちがこの世界にきた時と同じ作用が働いて、今度は逆にこの世界の住人がどこかに跳ばされてしまっているものと考えられます」

「あの爆発のせい?」

「グランゾンはフューリーの施設でなにかをしていたようですのでその可能性が高いです」

 ……もしかして、この世界のあたしもそれでどこか別の世界に跳ばされてしまっているんじゃ?

 

「この世界にあんたがいたはずなのに、連絡が取れなかったのは?」

「すみません、私の知っている梓様だと確信が持てなかったのです。それと、ディスクロン部隊は隠密部隊ですので探知も難しいかと」

 味方にまで見つけづらくしてどうするのさ!

 

「それとですが、あの世界の人間もこちらにきています」

「あの世界の?」

 煌一担当のJだかRだかのスーパーロボット大戦の世界の人間がきているの?

「世界間の転移にはなにか関連性のある人物や場所へと跳ばされるようです」

「あたしや凪たちみたいにか?」

「そう。彼女よ」

 綾香に連れられて現れたのは小さな少女。

 そのツインテールには見覚えがあった。スパロボに何度も出てる有名な少女。

 

「ホシノ・ルリです。こっちでは月島瑠璃子ってことにされてます」

「ルリルリ!?」

 そりゃるりるり違いでしょ!

 思わず叫びそうになっちゃったじゃない!

 

 

 

 マサムネたちディスクロン部隊は全員がこの世界にきていた。

 ディスクロンたちは今も世界中を捜査していて、他の仲間は見つかってないらしい。

「この世界になにか心残りなんてあるの?」

「マルチさんを助けたかったのです」

 頬を染めるマサムネの少年ボディ。よくできてんのね。

 

 マルチってのはセリオと同じく試作型のメイドロボだよ。

 試験で学校に通って、その期間が終わったら用済みということで停止させられるの。主人公の藤田浩之が彼女のルートを選べば、彼の所有ってことで再び目覚めるんだけどね。

 

「浩之は誰を選んだんだ?」

「それが……身近な人間が消失事件に遭い、恋愛どころではなかったようです」

「まさか、智子じゃないだろうね?」

「はい。彼女は無事です。ディスクロン部隊の活躍でクラスでの仲も良好です」

 そうか。こっちの智子はあたしたちの娘じゃないけど、他人って気はしない。元気にすごしてほしいよ。

 ……ただ、ディスクロン部隊の活躍ってなにやったのか気になる。

 

「行方不明になっているのは彼の友人の佐藤雅史。それに……私の後輩でもある松原葵よ」

 葵か。煌一のイチオシのシナリオだったな。あのロリコンめ。

 みんなはマルチで泣いていたけどさ。

 

「私は葵を見つけたいの。協力して」

「あたしだってかおりを見つけたいからそれは構わないけど、どうすりゃいいのさ」

「ヨークさんに相談しましょう」

 マサムネの出した名前に困惑する。

 だって煌一いわく、諸悪の根源、な生体宇宙船の名前だからだ。

 

「ヨークってあのヨークか」

「はい。今なら修理、いえ、治療が間に合うかもしれません」

 初音は喜ぶだろうけど、宇宙船にエリクサーって効くのかね?

 

 その前に幽霊たちをなんとかしなきゃいけないか。

 宇宙人の幽霊にお(フダ)や聖水って効くのかね?

 

 




梓の語尾のカニは誤字ではありません
カニ語です


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17話 ランス・ハーン

今回は3人称

大帝国のネタバレがあります 


 ワープゲート。

 この"大帝国"世界の各星域にいくつか存在する歪んだ空間。

 その空間で艦のワープ機関に特定のデータ(ワープコード)を入力、起動させると、宇宙船を別星域のワープゲートまで瞬時に移動(ワープ)させることが可能。

 ワープなしでの星域間の移動には最速の宇宙船でも何百年もかかってしまい、ワープゲートを使用しない星域間の移動はありえない。

 

「条件が揃うことで、未発見のワープコードにより北京と新しい星域(モンゴル)のワープゲートが繋がる元寇がおこるはずだった」

 居並ぶ面々にそう説明するレーティア。

「おこるはずって、なに? あんたは預言者かなにか?」

 そう噛み付くのはキャロル・キリング。

 軍産複合体を支配するキリング財閥の令嬢。ガメリカ共和国の真の支配者、若草会の1人でもある。

 

「ただ異世界の経験によって未来(シナリオ)を知っているだけだ。だからCOREに幽閉されていたお前を救助することができた」

「救助? 囚われの先が変わっただけよ」

 レーティアの予想よりも早いガメリカのCOREの開発を知り、COREが暴走するきっかけとなるキャロルの拉致をマインに指示したが間に合わず、COREの反乱が勃発。

 その後に彼女を確保、Uボートにてドクツまで連行した。

 

「少なくともドクツは捕虜を陵辱したりはしないぞ。あのままCOREに捕まっていたらお前はどうなっていたかな?」

「くっ」

 COREに捕まった人間たちの扱いが酷いのはキャロルの耳にも届いていた。

 特に、キングコアを倒し新たな首領となったグリーンコアは、女性は全て自分のものと公言。捕まえた女性たちを弄んでいる。

 

「私が止めたかったCOREの反乱の首謀者はキングコアのはずだった。が、グリーンコアでも僅かにマシな程度で世界中に狂気を撒き散らしている」

「……そうね」

 その原因が自分にもあると知っているキャロルの表情は暗い。

 

「COREは人工知能などではなく、犯罪者の脳を使用した物だ。そんなものを使うからこんなことになるんだ」

「人型機動兵器なんてナンセンスな物を使ってるあんたには言われたくないわ」

 ガメリカ軍は兵器の性能を飛躍的に高める人工知能としてCOREを大量投入、日本軍に対抗していた。

 

 そのCOREが反乱した。

 兵器のコントロール系をCOREに依存していたガメリカ軍はまともに機能せず、被害は拡大。

 グリーンコアの下で軍を編成したCOREはガメリカ各地を制圧下に収めた。

 

「やつらはCORE生産ラインを確保し、捕らえた人間や解放した犯罪者をCOREへと改造して仲間を増やしている」

 ワープゲートならぬポータルによってドクツへと移動し、CORE対策会議へと参加している仲帝国首脳陣。その詠からの情報。

 

「元エイリスの星域にもCOREが出てくるようになっている。あたしが蹴散らしたけどな」

 会議室に入室しながらそう発言したのはドクツに敗れたエイリス王家の姫、マリー・ブリテン。

 だが、彼女は以前のマリーではなかった。

 エイリス帝国を破ったレーティアがマリーに会った時に彼女の状態に気づいたのだ。

 

「翠、もういいのか?」

「ああ。まだよくは理解できてないけど、あたしがマリーで馬超なのはなんとなくわかったよ」

 レーティアの問いに頷きながら答える彼女の髪は長く、ポニーテールになっている。

 

「まさか翠がエイリスの姫と融合してるとはのう」

「中の人が同じせいですかねぇ?」

 美羽と七乃がひそひそと話す通り、マリー・ブリテンは馬超と融合してしまっていた。外見は完全に彼女たちの知る少女だ。

 だが、外見と違い中身は彼女たちの知る翠ではなかった。

 

「まあ、異世界のもう1人のあたしってのがレーティアたちと同じやつと結婚してるってのは信じられないけど」

「別に信じなくてもかまわんが、そんな嘘をつく必要もないだろう」

「それもそうなんだけど、あたしが結婚ってのがさぁ」

 赤い顔でぽりぽりと頬をかく翠マリー。

 

「結婚? 異世界? そんな妄想にミーリャを巻き込まないで!」

「妄想ではないぞカテーリン。これは現実だ」

 手を握り合う幼い少女2人。そのうちの1人が翠の言葉に抗議し、もう片方が彼女を諭す。

 彼女たちこそ人類統合組織ソビエトの最高委員会委員長カテーリンと親友ミーリャである。

 ミーリャの救援要請を受けて、やはりマインが彼女たちを救助。ドクツへと連れてきていた。

 

「冥琳の方は完全に記憶を持っているようだな」

「ああ。合成されるのは2度目だ。状況もだいたい予想できる。とはいえ、またこの年齢になるとはな」

 苦笑するミーリャ。その姿は以前にぬいぐるみから復活した時の幼い周瑜だった。

 彼女もやはり、冥琳と融合してしまっていた。

 

「それが冥琳の心残り? 雪蓮や煌一を喜ばせたいって。あいつらがロリコンだからってさ」

「いや、心残りだとすれば、友を助け、共に世界を制覇する。それだろう。詠、お前と同じだ」

 夫の弱みにつけこんで、との質問に自分の見解を返す冥琳ミーリャ。それを予想してたのだろう、質問側の反応も「やっぱかぶってたか」と呟く程度。

 

「中の人が同じでちっこいだけなら、イタリンのユリウスもいるのじゃ」

幼女(ライバル)枠のチェックはかかさないお嬢さま、さすがです。あ、ミーリャ、めーりゃ、めーりん。名前も似てないこともありませんねぇ」

 ぱちぱちと拍手して美羽を讃える七乃。

 その光景にキャロルはキレる気力も消え失せて大きくため息。

 

「……カテーリンたちはCOREに殺されたって聞いたんだけど?」

「ああ、貴様らのCOREによって祖国は蹂躙されている。私達の生死を確認している余裕がないほどにな」

「なっ、なに言ってるのよ! COREがあんなに増えたのはあんたたちが作った収容所のせいじゃない。40歳以上や戦えなくなった人間を処分する施設。人権を無視しているわ!」

 たしかにグリーンコア軍は惑星ラーゲリへ密かに侵入、収容されていた人間を解放してCOREへと改造し、その数を増やしていた。……収容所へと送られていた人間の大半は死亡していたが。

「人間の脳を部品にしてCOREを作ったガメリカに言われたくない!」

 言い争いを始めたカテーリンを制止しようとするミーリャ。

 

「落ち着けカテーリン。収容所や秘密警察が失策なのはたしかだ。赤い石がなければ市民の反発は避けられん」

「ミーリャ……」

「後押しするだけで、赤い石によって暴走するお前を止めなかった私のせいだろう。すまない」

「ミーリャは悪くない! だって私は間違ってない! 世界を共有主義で統一するの! 神様がそのためにこの赤い石をくれたんだから!」

 カテーリンの叫びとともに彼女の持った赤い石が光を放つ。

 この石こそ幼いカテーリンをソビエトの最高委員会委員長にした原因。

 彼女がこの石を使って命じれば、逆らうことができない。自殺しろとの命令にさえ従ってしまう恐ろしい力を持つ石。

 この石が効かない人間はミーリャを入れてたった2人。

 

 ……そのはずだった。

「私の言う事をききなさい!」

「無駄だ。それは私たちには効かない」

 レーティアたちが身に着けるチョーカー。彼女たち妻が寝取られない様に、魅了をはじめとした精神操作系を特に防御するよう夫によって成現されているそれのおかげでレジストできたかと内心ほっとするレーティア。

 この場にいるメンバーにはそのチョーカーの機能限定版が渡され、装備されていた。

 

「どうして……どうして私の言う事をきかないの!?」

「無駄だと言っているだろう。それに、その石は同一種族に対して完全に支配権を得るもの。ここいる柴神には通用するはずもあるまい」

 もしもの時にはマインもいるしな、とレーティアは心の中で付け加える。

 

「え? ……犬?」

 カテーリンが指差したのはレーティアの隣。軍服を着て直立した、犬だった。

 そのあまりの犬そのものな姿に、いつもはレーティアの側にいるゲッベルスも近づけない。彼女は大の犬嫌いである。

「日本の神様、柴神だ。COREとの戦いで忙しい中、対策会議のためにきてくれたんだ。すまない、失礼をした」

「いや、初めて見る者ならば、私の姿に驚くのも無理はない。それより、今の光が?」

「そうだ。これも相談したかったので御足労願った」

「ああ。カテーリン、それを渡してもらえないだろうか?」

 怯えさせないようにゆっくりとカテーリンへと近づく柴神。

 

「い、いやよ! だってこれは神様に……」

「持ち主まで精神を操作されている? これは、まさか……」

 カテーリンの様子にぶつぶつと呟く柴神。

 冥琳は暴れだしたカテーリンを抑えようと抱きしめる。

 

「カテーリン、その赤い石を捨てろ」

「ミーリャ?」

「かわりに私は……くまたんを捨てる。カテーリンに大事なものを捨てさせるのだ。私も捨てなければ対等とはいえないだろう。だが、私にとって大事なものなど、カテーリンとくまたんしかない」

「わ、私とくまたん? ……ぬいぐるみと同レベルなの?」

 共有思想のために独占は禁止だからと注意してるのに、いつも部屋に置いているぐらいそのぬいぐるみを気に入っているミーリャがそれを捨てるという。

 それぐらいミーリャは赤い石を捨てさせようとしているとわかって、カテーリンは苦悩する。

 

「あらあら、その子とぬいぐるみだけですかー。孫策さんが聞いたらなんと言いますかねぇ」

「あいつなんて絶対泣くわよ」

 七乃と詠によるツッコミも冥琳はスルーするが、美羽とカテーリンが反応した。

 

「そ、孫策じゃと?」

「孫策? 誰よそれ?」

「そうですねー。お嬢さまがこんなにガタガタブルブルしちゃうぐらい怖ーい人ですよー。小さい子が大好きで、このままあなたがその赤い石にこだわっていたらミーリャちゃんも取られちゃうでしょうねー。あ、もう手遅れでしたっけ?」

 微笑みながら脅してくる七乃に、カテーリンの目が潤み出す。

 

「そ、そんなのいや……」

「安心しろ、ずっとそばにいるから。……石を捨ててくれる?」

「うん……う、ううっ」

 カテーリンを抱きしめながら優しく背中を叩く冥琳。ついに泣き出してしまったカテーリンの手から赤い石が落ち、彼女は意識を失った。

 

「これは孫策さんと会った時が楽しみですねー」

「あんた、ホントに性格悪いわね」

「恐怖に打ち震えるお嬢さま、可愛いなぁ」

 詠が呆れた目で見ているが気にせず七乃は自分の台詞で怯えだした美羽を堪能する。その姿にゲッベルスは自分と同じにおいを感じるのだった。

 

「雪蓮はここにいないから安心しろ美羽。もしいてもお姉ちゃんが守ってやるから」

「ほ、本当かの?」

「ああ。ゲッベルス、カテーリンを医務室へ」

「え、ええ」

 赤い石を拾った柴神に近づかないようにカテーリンを受け取ると、ゲッベルスは会議室を出て行く。

 

「その赤い石の出所はたぶん、別の宇宙」

 美羽をだっこ中のまま、話を続けるレーティア。

 その言葉に柴神の耳と尻尾が過剰に反応するが、キャロルはそれに気づかずに問う。

「別の宇宙? さっきの異世界ってやつ?」

「いや、たぶん違うものだ。これを見てくれ」

 会議室のモニターに表示される異形の生物。なにかの幼虫のような芋虫に人面をつけた醜悪な造形にモニターを見る者も嫌悪感を感じる。

 

「これは?」

「ドーラ教が崇めていた神、ドーラだ」

「処分したのだろうな! あれは人類にとって害をなす存在だ!」

「ぴぃっ!」

 急に声を荒げり詰め寄る柴神。

 レーティアになでられ、やっと落ち着いた美羽が再び涙目に。

 

「ちゃんと処分したよ。それこそ念入りに。……やはりラムダスを知っているのだな柴神。いや、ノーブドックと呼ぶべきか?」

「ど、どこでそれを!」

「異世界での知識、とだけ言っておこう。ラムダスは強力な思念波で人類を操る。その石に似ているとは思わないか?」

 柴神からの返事はない。

 

「この宇宙と、ラムダスのいる宇宙はホワイトホールで繋がっている。ホワイトホールの近いソビエト星域で赤い石が拾われたのもそのせいだろう」

「そこまで知っていたか」

「いずれ、こいつらと戦わねばならない。そのためにもCOREなんかにてこずってる場合じゃない」

「そうは言うけど、ガメリカとソビエトのほとんどを制圧されて仲帝国と日本は危機的な状況なのよ」

 レーティアの決意に詠が水をさす。ガメリカ、ソビエトの両CORE星域に挟まれた日本や戦力のあまり充実していない仲帝国はかろうじてCOREの攻撃を防いでいるという状態だった。

 

「スパイが手に入れた情報によればCOREに味方する人間もいる。命乞いのために資金や軍艦を提供している富豪もいるようだ」

「グリーンコア軍の中でもやたらに強い指揮官、キャプテン・ブラッドも人間のようなのじゃ!」

 やっと落ち着いた美羽が告げた敵将の情報をレーティアが補足する。

 

「デーニッツからも聞いている。キャプテン・ブラッドと名乗っているが……キャロル、お前の姉だ」

「な! ちょっと待ってよ! 姉さんは死んだのよ!」

「実は生きていた。記憶喪失のようだがな。本名はスカーレット・東郷。日本の東郷長官の妻だが……柴神、このことは東郷には秘密にしてくれないか? 彼が知れば無茶をするだろう」

 レーティアの知っている東郷も無茶をして妻を取り戻していた。だが、スカーレットなら記憶を失っていたとしてもCOREに従うなど余程の事情があるはず。その無茶も無駄になる可能性がある。

 

「……たしかに。彼を失えば日本ももたないだろう。だが、本当なのか?」

「姉さんじゃないわ。記憶喪失になっているからって、姉さんがCOREの味方なんてするはずがないわ!」

「残念ながらお前の姉だ。グリーンコアは手段を選ばない卑劣な男。人質をとられているんじゃないかと私は見ている。彼女が味方になってくれればいいのだが」

 レーティアの読み通り、キャプテン・ブラッドは大富豪ズオルフ・マフェットの指示だからというだけでなく、家族とも慕うコロネア・ビショップを人質にされ、仕方なく従っていた。

 

「人質……。グリーンコアのことにも詳しいようね?」

「ああ。私の予測では、やつの正体は元寇をおこすはずだった男だ」

 

 元寇。

 大帝国のイベントの1つ。

 北京とモンゴルのワープゲートが繋がり、そこから元が現れ、中帝国だった星域を制圧する。

 遊牧民である元の首都に相当する旗艦オルドカオス。艦橋にいる族長、その名はランス・ハーン。

 ランスシリーズの主人公本人である。

 

「ランス・ハーン?」

「私はランスがグリーンコアの正体だろうと考えている。なんでガメリカにいたのかはわからないが、犯罪者として捕まり改造されたのなら納得がいく。やつの別名は鬼畜王」

「鬼畜王か、なるほど。そのグリーンコアだが支配星域でなにかを探させている。女性を集めるのが最優先だが、それ以外にもなにかを」

 グリーンコアの正体に頷きながら冥琳はスパイの情報を追加する。

 

「グリーンコアの周囲にピンクの鬣の馬がいなければ、それだろう」

「馬?」

「そうだ。名前は神馬。ランスの暴走を止める唯一の……いや、若干抑える程度か、の存在だ」

「でしたら、神馬が見つかったと偽情報を流せばグリーンコアを誘き出せるかもしれませんねー……あれ?」

 発案しながらもビニフォンで先程撮影した美羽の泣き顔を編集中の七乃が変な声をあげた。

 

「どうした?」

「ビニフォンで連絡できる人が増えてますねー。梓さんです」

「なんだと!」

 自分もビニフォンを出して確認する煌一の妻たち。

 

「本当だ。すぐに連絡を……梓か?」

 レーティアがビニフォンで電話するとすぐに相手が出る。

『ああ、そっちはレーティアか? ここはどこだ?』

「そこは……日本? 待ってろ、今ポータルを開けるからこっちにきてくれ」

『それはちょっと無理だ。連れがいる』

「連れ?」

 ポータルで移動できるのは使徒かファミリアのみ。そうでない者を連れているということが梓との会話でわかった。

 

「それなら私が会ってきます」

「月?」

 梓のビニフォンをビーコンとしてレーティアが開けたポータルに月が入り、続いて詠が慌ててそれを追う。

 ポータルを抜けた先は信じられないような光景が広がっていた。

 

「なにこれ? この壁、生物みたいね」

「大怪獣の中かな?」

 大帝国世界で暮らすことで詠も月も巨大宇宙生物、大怪獣とそれを人間が操れることを知っていた。

 

「大怪獣? いや、ヨークだよ」

「梓?」

「久し振り」

 そう微笑む梓の背後には数名の人間の姿があった。

 

 



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2
18話 鉄岩


「本当にファミリアになってくれるの?」

「……それは構わないんだけど、ワタシたちがいなくなっても大丈夫なの?」

 質問を質問で返されてしまった。

 いや、答はもらってるけどさ。

 

「こっちの地球は君たちが生まれた地球とかなり違うからね。できればよく似てるはずのあっちで暮らしてほしい。それに、これからいくとこはとっても危険なんだよ」

「アタシ、煌一1人だととっても不安……」

 テニアちゃんに心配されてしまった。カティアちゃんとメルアちゃんもうんうんって頷いてるのは……納得できるけど凹むなあ。

 

 VF-19V、通称VIPカリバーでエリアZiに到着した俺たち。

 着いたはいいが、さすがにゾイドジェネシスなエリアはかなり勝手が違った。

 このまま彼女たちを連れ回すのは危険だと判断してファミリア契約してくれるか相談したわけなんだけど。

 

『煌一には俺がついているから心配ないぜ!』

「ザンリュウさん、煌一さんのことをよろしくたのみますねー」

『おうよ! ねーちゃんたちも元気でな!』

 ザンリュウに頼まれちゃったよ、俺のこと。

 たしかに()は俺オリジナルの6分の1だから弱いけどさ……。

 

 

 

「さみしいなあ」

『今さらなに言ってやがる』

 彼女たち3人は分身の1人、ホワイトのとこへポータルで移動した。

 トゥインクル1社の本社がある島は以前は別の名前があったんだけど、今は北アタリア島って呼ばれている。マクロスの南アタリア島の近くなせいらしい。

 

 ――新西暦179年12月24日。

 L5宙域に突如巨大な物体が出現。連邦軍とジオン公国軍の宇宙艦隊を巻き込み地球に落下しようとしたが、トゥインクル1社によって落下は阻止され南アタリア島に軟着陸。落下物による地上への被害は極めて軽微なものとなった。

 

「マクロスの設定だと地球にすごい被害を与えてるんだけどね。それを阻止したってことでかなりGPが入ったみたい」

『そんなんでも貰えるのかよ』

「シーマ様たちがいい働きしてくれたおかげだね」

『けどよ、売っちゃったのは勿体無くねーか?』

 

 ――T1社は落下物の所有権を連邦政府に売却した。「自社で持っていても危険ですからね。聞けば、連邦軍も極秘に開発していた新型MSをBF団に強奪されたそうですし」とT1社社長は語っている。

 

「スキャンとデコードのついでにトロニウム(やばいブツ)は回収したし、持ってると狙われて物騒なんだよ。最近のマクロスだと統合戦争の原因だからさ。しまいには政府に無理矢理取上げられちゃうかもしれないだろ。それなら最初っから高値で売っちゃった方がいい」

『そんなもんか?』

「Fドライブの売れ行きもいいみたいだ。資金繰りも順調らしい」

 

 ――落下阻止時に使われた技術をコロニー落とし対策としてT1社が発表。エネルギー源は欠陥を抱えたシズマドライブの改良型のFドライブとしている。

 

「1年戦争も終結したしさ、0083の年まではあっちの方が安全そうだ」

『デラーズの紛争って新西暦183年に起きるのか? スーパーロボット大戦αの年は187年なんだろ?』

「そこなんだよな。ポケ戦もαで発生するはずなんだけど、すでにガンダム世界準拠で起こってる。まあ、アレックスは頂いちゃったけどね」

 北アタリア島に無事到着したテム・レイが熱心に調べているみたい。

 他にも記憶を取り戻したキッカ(ゆきかぜ)ちゃんのために、保護者となったフラウ・ボゥにも事情を話して島に来てもらっている。カツとレツも一緒だ。その内ハヤト・コバヤシもきてフラウと結婚するのだろうか?

 

『アムロはどうしたんだ?』

「母親のカマリア・レイを探しだして島によんだ。両親がいればアムロも島で暮らしてくれないかなって」

『味方になりゃいいな』

「そうだったんだけどね、テムは奥さんから逃げるように研究ばっかりでね。このまま別れたら一刀君にアムロママ持ってかれちゃいそうなんだってさ」

『やれやれ、ゲキリュウケンのやつも苦労してそうだぜ』

 一刀君は成現(リアライズ)時に人妻や恋人がいる女性には手を出さないように改竄しているから今はまだアムロママとは清い仲みたいだけどね。

 

「璃々ちゃんも見つかったから、面倒見てくれる人が多いにこしたことはないんでアムロママがきてくれたのは助かってるんだけどね」

 璃々ちゃんは銀鈴の元の職場の仕事で見つかったのをムラサキ経由で紹介され、島で保護している。

 リリ・ボルジャーノとの融合を心配していたけど、誰とも合体はしていないようだ。

 ただし、俺の娘の璃々ちゃんではなく、無印恋姫の璃々ちゃんだ。

 愛娘の方は柔志郎担当の"あっぱれ対魔忍"世界に置いてきて爆発に巻き込まれてないはずだからたぶんこっちにはこないはず。

 

『おっかさんはまだ見つかんねーのか?』

「残念ながらな。俺の嫁さんの方の紫苑でもいいから早く見つかってほしいよ」

『誰か融合しているの予想できねーのか?』

「黄忠で紫苑だろ……第2次スーパーロボット大戦Zのヒロイン、シオニー・レジスもありそうでちょっと不安なんだよなあ」

 今のとこZ系の世界やキャラは確認されてないみたいだけどさ。

 もしZ世界混じってたらシオニーちゃんは絶対に助けるね。

 

『他の嫁さんたちは?』

「ごひってさ、張飛が名前の元ネタだろ。鈴々ちゃんが怪しいけど、ガンダムW世界はまだリンクしてないのか見つかってない。もし見つかったら死んじゃうはずの嫁さんも助けないと」

 俺の嫁の鈴々ちゃんなら死なせないだろうし、万が一の時もエリクサーがあるんだけど、華琳ちゃんと同じ無印恋姫の張飛ちゃんだとエリクサー持ってないもんなあ。

 

「あ、助けるっていえば、栄華ちゃんと融合したフラスト・スコールの故郷のコロニーも危険なのか」

『さすがにあれはスパロボ世界じゃないんじゃねーの? もしやばそうならヒーローに行ってもらおうぜ』

「一刀君の出番か」

 キキちゃんは小説版の不幸イベはおきず、アイナにふられて傷心のシローとくっついたみたいだし、気にする必要はないかもしれないけど。

 でもマリーダだけじゃなく他のプルクローンちゃんたちも救助したい。ネオジオンに潜り込むか?

 

「スパロボは原作じゃ死んじゃう人間が助かることが多いけど、それでも死ぬやつがいる。なんとかしたいよね」

『主にねーちゃんをだろ?』

「否定はしないが、ロリっ子もだ」

 ガン×ソードの双子はなんで助けられないかね? あれもスパロボKの不満の1つだよなあ。

 

『ったく。んで、他に融合してそうなのは?』

「愛紗は何人か怪しいのがいる。BXがくればアイシャ・ブランシェット。そうでなくても種ハモンさんことアイシャがいるし」

『デルタベルンの行かず後家は?』

「ファイブスターはスパロボにはきてないから。ファティマはアイテムであるけどさ。それだったらモスピーダのアイシャの方がまだありえそうだ」

 アイシャさん多いな。早く見つけたい。

 まさか関羽でボトムズのカン・ユーってことはないよね?

 

『名前そのまんまなら流琉もだな』

「ああ、ガイキングLODのルル・アージェスか。髪の色も近いし、スパロボKも混じってるから可能性が高いんだよな。ただ、ダリウス界への行き方がわからん」

 もしも流琉ちゃんだったらダイヤは、ふられることになる。リチャードさんにがんばってもらうしかないだろう。

 ……くそっ、ダリウス界へ行ければルルの母親を死なせないのにさ。

 

「明命はミンメイか? シャムも同じくマクロスのシャミー? (てる)はあっちにいるからマクロス主人公にはならないはずだけど……」

『主人公とヒロインが候補ってのはすげーな』

「まあ、ミンメイはマクロス本編前でも有名な看板娘だったみたいだから、すぐに見つかるはず」

『そうだったらいいな』

 心配なのはカイフンだけどスパロボだと影が薄いし問題なさそう。明命に「兄さん」と呼ばれるのは羨ましいが。

 

「他にもこじつければもっといるだろうけど、こっちでいそうなのは美以ちゃんなんだよな」

『レ・ミィか。でもまだ小さすぎるだろ?』

「そうなんだよなあ。華琳ちゃんから判断するとKの数年前っぽい。……まさかαとKの戦いが同時に勃発するのか?」

『ありえっかもな。ここにくる時の考えるとRとJの同時もありえんじゃねーのか』

「マジか……」

 たしかに俺の担当世界にきた直後、RとJのスタートイベント混じってたみたいだけどさ、αでさえ地球がピンチすぎだろとツッコミ入れたいのに、他にも同時発生? かぶってる登場作品があるとしても、無理ゲーすぎるだろ、それは!

 

「始まる前に問題解決できるとこはしておくべきか。……ディガルドつぶしちゃうか?」

 ゾイドジェネシスの悪役側の組織、ディガルド武国。今はまだディガルド公国か。ここがなくなればゾイドジェネシスの戦いは起きなくなるだろう。

 あ、ディガルドだけじゃなくてそれを支援するソラノヒトも問題か。

 

『おいおい物騒だな』

「だけどそうしとけばレ・ミィの両親は死なずにすむ。ジーンの暗殺を……まさかジーンが曹仁じゃないだろうな?」

『情報が足りなすぎだな』

 そうなんだよな。人手が足りなすぎる。まあ、Jヒロインズがここに残っても情報収集にはあまり役に立ちそうにないから後悔はしてないけど。……寂しい以外はさ。

 

「これから行くアイアンロックで仲間が増えれば、なんとかなるかな?」

『もしコトナ・エレガンスかリンナ・エレガンスがお前の嫁さんだとしても、やっぱり小さすぎなんじゃね?』

「そうなんだよなあ」

 きょっちーやゆきかぜちゃんから判断すると、融合した場合は若い方に年齢が引っ張られる。例が少なすぎるんで合ってるかはわからないけどね。

 

 エリアZiに辿り着いてからは現地の人と接触し、情報を集めながら旅をしている。

 キャンピングカーはここだと違和感ありすぎなのでグスタフというダンゴムシ型のゾイドに擬装している。デルタシャドウも烏型の小型ゾイドということにしているが、ゾイドと同じメーカーの玩具から成現しているせいか、特に目立った様子は無い。

 ちなみに残念ながら俺にはゾイド適性が無かった。

 

 そして、一番近い目的地がアイアンロックだった。

 だけどあそこは、調査する人間が死ぬという"アイアンロックの呪い"と恐れられる集落。

 実際は"マキリ"って忍者みたいな暗殺集団が住む隠れ里なんだけどね。呪いはその一族が手を下しているっていう物騒なとこだ。

 しかも嫁さんかもしれない2人はそのマキリの族長候補だしさ。接触したら危険すぎでしょ。でも会わないわけにはいかないという。

 

 危険すぎるからJヒロインズにはあっちの地球に行ってもらったわけ。そのためにポータルが使えるファミリアになってもらった。

 

 

 

『で、なんでリュウジンオーに変身した上に隠形まで使ってこそこそしてるんだ?』

「しぃっ。マジで危険なんだから。……せっかくだからアイアンロックの地下設備、破壊しておこうと思ってね」

 アイアンロックって滅びの龍(ギルドラゴン)って超大型ゾイドが封印されてて、マキリはそれが目覚めないように守ってる一族なんだよね。で、封印の他に旧文明の設備も生き残ってるんだけど、それをディガルドに利用されてバイオゾイドが量産されちゃうんだよね。

 そんなもの、ぶっ壊しちゃっていいでしょ?

 そう思って、アニメの知識を活かして地下水路からこっそりと潜り込んでるわけだ。変身してるから水中活動も余裕だし。

 

『なんかお前、最近思考がやばくねえ? ねーちゃんたちがいなくなっておかしくなってないか?』

「嫁さんたちのためになら鬼にもなるっての」

 スパロボじゃ出てこないけどギルドラゴンが目覚めたらアイアンロックは壊滅するんだしさ。それに一応、スキャンはしておく。必要になった時に直せばいいでしょ。

 水中から頭だけを出して状況を確認する。

 

「誰かくる。……コトナ?」

 走ってきたのはチャイナっぽいミニスカの少女。コトナだ。美少女だけど桔梗でも斗詩でもなさそう。はずれか。

 

 ってもしかしてもう見つかったのか?

 いくら分身のせいで俺の隠形スキルのレベルも下がってるからって、マキリすごすき。

 ……あれ?

 

『追われてるみてーだな』

「もしかしてコトナ脱出イベント? タイミングがいいんだか悪いんだか……烈風!」

 リュウジンオーの高速技を使ってコトナちゃんを狙って飛んできた苦無をザンリュウジンで弾く。

 

「え?」

「何者!?」

 問いは苦無が飛んできた方向から。姿を現したのは髪型がちょっと違うだけ以外はコトナちゃんそっくりの少女。双子の妹のリンナだろう。やはり俺の嫁さんとは融合していないようだ。

 

「リュウジンオー、ライジン」

 どっちもはずれだったけど、せっかくだからポーズつけて名乗った。

 なのに、名乗りの途中でリンナちゃんは剣を構えて飛び掛ってくるしさ、マナーのなってない子だ。

「怪しいやつめ!」

 うっ、否定できない。リュウジンオーのデザインモチーフは斧と髑髏らしいから悪役っぽくもあるし……。そう思いながらもまだ烈風中なのであっさりと攻撃を回避し、背後に回ってリンナちゃんを捕まえる。

 

「リンナ!」

 今度はコトナちゃんからの攻撃。せっかく守ってあげたのにそりゃないよね。

 大事な妹を不審者が襲ってるように見えるのかもしれないけどさ。

 

『嬢ちゃん、こいつの命が惜しければ武器を捨てな』

「って、なに言ってるのお前!」

『いいからここはまかせろって。早くしねーとこの嬢ちゃんがどうなるか……』

「わ、わかった!」

 武器を捨てるコトナちゃん。

 それを見てリンナちゃんが動揺する。

 

「コトナ、なんで?」

『そりゃお前が死んだら、そこの嬢ちゃんが一族を抜けようとした意味がなくなるからに決まってるだろ』

 ああ、ザンリュウジンはリンナちゃんの誤解をとこうとしていたのか。

 なら俺もネタばらししちゃうか。

 

「マキリの族長は強い方がいい。そして、弱い方はいらない。マキリがいらないものをどうするかは君が一番よくわかっているんじゃないか?」

 族長候補の弱い方を殺すってマキリのやり方さ、どう考えてもおかしくない? リンナちゃんは族長への野心があるわけでもないし……。

「私を生かすため?」

「他に方法がないの!」

 秘密にしたかったことをばらされて叫ぶコトナちゃんにザンリュウジンがツッコミを入れる。

 

『ならいっしょに逃げりゃいーじゃん。面倒ならこいつが見てやるぜ』

 リンナちゃんを残してコトナちゃんが1人で里を抜けたのは、リンナちゃんに長になってもらって新しいマキリを作ってほしかったから。

 なんだけど、結局それはまずい選択なんだよね。

 だから俺はこの別離の前にアイアンロックの設備を壊滅させて、マキリなんて不要にしたかったんだけどなあ。

 

「いっしょにくる?」

「……」

 リンナちゃんを解放してもコトナちゃんは無言でこっちを睨んでいた。

「無理か。いきなり現れたこんな姿のやつについてきたんじゃこっちが不安になるけどさ。じゃあ、保護者の人とお話させてもらおうか。結果によってはここが壊滅するけどね」

 あれ? 姉妹で抱き合って無事を喜ぶのはいいけど、なんで震えているのかな? まだ水路に落ちてもいないのに。

 

『やっぱ煌一、おかしいぜ。華琳ちゃん早く戻ってきてくれよぉ!』

 失礼な。

 

 



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19話 新西暦183年

「あっちの煌一が心配だよ」

「そうね。やっぱり私たちもあの地球に戻るわ」

 分身(キング)と思っていたよりも仲良くなっているようで、Jヒロインズがあっちの地球に戻ると言い出した。

 あいつが()()()()()のを気づいたのだろうか?

 

「駄目だよ、危険だ」

「危険ならなおさらでしょ! だってあいつは煌一たちの中で一番弱いって……」

「心配してくれるのは嬉しい。でもたしかに俺ん中じゃ弱いけど、それはファーストも同じだし、キングにはザンリュウジンもついている」

(ファースト)だって君たちよりは強いんだよ」

 俺たち分身は現在4人。

 3分の1のファイヤーとホワイト、6分の1のキングとファーストだ。

 もう少し分身を増やしたい気もするがファイヤーは行方不明で、ホワイトはビッグ・ファイアと混じっちゃったせいでムチャクチャ強いけど分身できなくなっている。残りの2人がさらに弱くなるのは避けたい。

 なので今はまだ分身が増えることはない。

 

「でも……なんかキングさんがおかしいんですよね?」

 おっとり気味のメルアちゃんまでが引いてくれない。

「あれはただの嫁さん分の不足。ずっと嫁さんと会ってなかったから」

 毎晩のように嫁さんたちとしていたのに世界攪拌以降、それがない。会ってすらいない。

 使徒になってから精力が漲っていたから、あっちの俺はかなり溜まっているはずだ。

 

「嫁?」

「魅力的な君たちが行ってしまったら逆効果だ。貞操の無事は保証できん」

 

 3人は真っ赤になってうつむき、無言になってしまった。可愛いなあ。

 まあ、いくら欲求不満が危険なレベルになったとしても俺は俺。嫁さん以外に手を出すことなどあるまいがね。

 部下というか手下というか、仲間にしたロリコトナとロリリンナはすごく可愛いけどきっと我慢できる!

 ……はずだ。あまり自信はない。

 マキリは忍者みたいだし、クノイチみたいにそっちの修行もあったりしたら協力しそう。だって俺だもん。

 

 アイアンロックに辿り着いた(キング)は、滅びの龍(ギルドラゴン)を守護する一族、マキリに戦いを挑み、これを倒した。

 いや、いくらキングが弱くても一応使徒だし、リュウジンオーに変身してたからね、やつらが使う糸だかワイヤーだかの捕縛術も通用しなかったのよ。

 で、守ってたギルドラゴンの封印施設もさらに埋めてしまった。

 だって、ギルドラゴンって実はたいしたことないんだよね。

 

 ゾイドジェネシスのアニメだとただの移動手段ですぐにやられてしまって活躍しない。

 スパロボKでは登場すらしない。

 そのくせ目覚めるとアイアンロックは崩壊してしまう。もう埋めたままでいいでしょ。欲しくなったらキットの方から成現(リアライズ)すればいいだけだ。

 

 で、ギルドラゴンが目覚めないように守っていたマキリは、存在理由を失ってしまった。

 だから解散して好きなように生きるよう説得したのに、今の族長さんはなぜか俺の手下になることを宣言。マキリの一族たちもそれを納得してしまった。

 力を見せつけたリュウジンオーがマキリの使命以上の目的を持っていると勘違いしたようだ。

 

 あとで族長さんが教えてくれたけど、使命がなくなってしまったらどうなるか、と考えたらしい。

 普通に生きればいいと思うんだけど。

 使命があるから人殺しすらできたけど、それがなくなって、というか無駄になって今まで殺してしまった人のことでも悩むようになったんだろうか? それとも鍛えた力や技を使う場所がほしかった? よくわからんな。

 

 とにかく、族長候補からもれた方を処分するようなことは禁止したので、リンナちゃんは無事。コトナちゃんもアイアンロックに残ることになった。

 ディガルドもバイオゾイドの量産がしにくくなったはずだし、スパロボKのゾイドジェネシス部分の展開はかなり変わってしまうと思う。

 キングはさらにゾイドジェネシスのラスボスを暗殺するつもりで、部下になったマキリにディガルド公国の調査を頼んだ。無理はしないように、って念をおした上でね。

 

 最初は怖がられたキングも、コトナちゃんとリンナちゃんに命の恩人だと懐かれている。もう少し大きくなったらファミリアになると断言するほどに。

 

 ……美少女がスキンシップ過多なんで欲求不満は増大しているな。Jヒロインズなんかいったらヤバイかもしれん。嫁さんじゃなくても、心配してくれる娘たちだと、俺も勘違いしちゃいそうでしょ。

 

「私が行くから心配するな」

 そう言ってくれたのはアイナ・サハリンと融合しちゃっている凛子。

「ミケもいくにょ」

 ミケちゃんはミケル・ニノリッチと混じってる。

 彼女たち2人があっちの地球に行ってくれることになった。

 

「ゆきかぜを頼みます」

「大王しゃまをみつけてくるにょ!」

 ポータルをくぐって、2人の姿が消える。

 今夜は彼女たち寝れないだろうな、きっと。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 あれから3年。

 連邦政府に高値で売りつけた落下物からの技術がEOT(エイリアンオーバーテクノロジー)と名づけられたり、EOT研究のためのEOTI機関が南アタリア島に設立されたり、やはりこの世界の基本は“スーパーロボット大戦α”の世界みたいだ。

 そのせいか、183年になったのにデラーズフリートが行動を起こさなかった。動くのはαの187年か。

 だがシーマ様はすでに味方なのでデラーズフリートはかなり戦力減だろう。ケリィ・レズナーもスカウトして治療しちゃおうかな。

 

 十傑集には俺の状態を明かしたが、「ビッグ・ファイアは嫌ならすぐに分離する」と俺に従ってくれている。

 GR計画はやはり大作君に逃げられてしまった。アニメとは違い眩惑のセルバンテスがまだ生きているのはα世界だからか。

 

 完全にαというわけではない。αでは187年に起きるはずのポケ戦のイベントはもう起きちゃっている。

 それに、世界攪拌で他のスーパーロボット大戦の世界も混じりだした。去年は巨神戦争もあったし、Kの世界も混じってるのは確実だ。

 

 

 3年も経ってしまったのに華琳やほとんどの嫁さんたちとはまだ合流できず、拠点も見つかっていない。

 

 スパロボαが基本っぽい世界のせいか、マクロスをめぐる統合戦争は起きず、南アタリア島で戦いは起こっていない。

 もし戦闘になって巻き込まれても困るので本社の要塞化や、周囲の警戒は怠らない。予算もマクロスやFドライブの売り上げで潤沢だしね。

 

 BF団は島では表向き動けないので警備にはサイクロプス隊がついている。それだけじゃ足りないので退役軍人も何人かスカウトした。

 使用する機体は最強MSの派生機だったりする。

 

 最強のMS?

 スパロボ世界では最強といっていいMSだ。

 タイマンならラスボスさえも倒せるMS。

 

 そう、メタスである。

 シリーズによっては自分自身も修理できたりするチートMSだ。

 スパロボの修理ってのはすごいチートだよね。パーツ交換とかそんなレベルじゃない。どんな機体でも修理してしまう。

 さらに飛べるし。アニメで飛んでたっけ?

 きっと世界の固有原理ってやつなんだろう。

 

 うちの警備に使っているのはその最強MSの派生機、メタス・マリナーである。

 ボツ機なんであまりメジャーではないが、名前の通りの水中戦も可能な機体だ。潜水MAに変形し、腕はズゴックっぽい。

 未来の高性能MSだけど、普段はMA形態で使ってもらっているのであまり目立ってはいない。

 バルキリーも変形させてないんで、T1社(うち)に可変機があるなんて気づいているやつは少ないはずだ。

 

 T1社本社がある島は以前は別の名前があったが、マクロスを不時着させた南アタリア島が有名になった影響で今は北アタリア島と呼ばれている。そんなに近くはないんだけど。

 

 キッカと融合してしまったゆきかぜちゃんは記憶も取り戻し、成長もしているがそれでもまだ幼い姿だ。いくらなんでもまだ手は出せない。すんごく可愛いけど!

 彼女の未練は死亡した幼なじみだろうか? ……カツか?

「そうなの……かしら? でも、あれは達郎じゃないわ」

「そりゃそうでしょ。あいつ、うちのジオン系の社員にすぐかみつくから困るんだよね。君たちの本当の両親が亡くなったのはジオンとの戦いのせいなのはわかってるから、うちの社員も甘やかしちゃってるけど怒った方がいいのかな?」

「私がしつけとく」

 この後、カツが泣きながらゆきかぜちゃんに引きずられて方々に謝りに行っていた。

 

 ちなみにフラウはミハルと共に孤児たちの面倒を見てもらっている。

 アムロが島にいない時も、ハヤトとはくっつかないようにゆきかぜちゃんと工作中。アムロは味方にしたいからね。

 チェーンやベルトーチカというライバルがいるはずだが、この島なら重婚可能とでもすればいいだろう。

 セイラさんと一緒にアムロをおとしてもらいたい。

 

 あ、セイラさんもこの島で暮らしている。T1社勤務ではなく、プライベートビーチ付きの別荘で生活中だ。お金持ちだね。

 小説版ラストよろしく時々全裸で泳いでいるので困る。いや、覗いたわけじゃなくてメタス・マリナーの試運転でたまたま見ちゃったわけなので誤解のないように。

 

 そうそう、重婚ならカミーユも仲間になってくれるかもしれない。フォウの生存が必要だろうけど。

 ロザミィも死なせたくない。助けられたら若返りの薬で本当にカミーユの妹状態にしてやろうかな?

 

 Kにいるのだと猿渡ゴオも二股だが、この世界ではミラ一筋の新婚さんだ。

 巨神戦争が始まってからすぐに応援にかけつけて杏奈とのフラグは潰したし、ミラも擬態獣から救助することに成功して健在である。

 だってさ、ミラってうちの智子と中の人が同じだから娘みたいに思えちゃってさ。幸せになってほしいワケよ。

 マックスは助けられなかったけどね。復活した時にちゃんと助ければいいかな? ラビッドシンドロームのデータもほしいし。

 

 で、ゴオ狙いの藤村静流の方はゴオとミラの新婚見せつけが辛かったのか、ダンナーベース所属ながらT1社に出向している。

 Gガンナーをコアガンナーなしでも単独運用できるようにロボット用のFドライブの開発に協力するという名目でだ。ダンナーベースはミラが健在でゴオも腑抜けていないため、戦力不足にはなっていない。

 静流はミラが健在なので、もし死亡したら復活できそうにないからファミリアになってもらうつもりだ。説得されてくれると嬉しい。

 

 二股だけどミストさんはどうでもいいや。

 廊下で愚痴られるのも嫌だし。ダンナーベースで拾われても関与しないことにする。

 

 ふむ。利点は大きいな。

 俺が重婚しているのは確かなんだし、T1社の社則として明文化しておくことにしよう。

 

 島には、カツレツキッカやミハルの弟妹だけではなく、他の孤児も世界各地から多く集めた。戦争によって孤児には不足していないのですぐに集まったよ。

 璃々ちゃんもその流れで見つかったんだ。

 表向きな理由は色々あるが、早めに教育をしておいてエロス艦のクルーになってもらうためである。

 若い方が物覚えもいいし、変な思想にも染まってなさそうだからね。

 洗脳なんて言われると俺のEPが減少するので止めてほしい。

 

 

 世界攪拌で混ざった世界にいたらしき嫁さんたち。

 それが、鉄甲龍(ハウ・ドラゴン)にもいた。

 いつこの世界にきていたのかわからないが、コンピュータの部品メーカーに“国際電脳”が出てきたので、調査したら中国の砂漠地帯に鉄甲龍があったのだ。

 

「八卦ロボがなければ鉄甲龍はこんなものなのね」

 華琳ちゃんの指示でBF団が鉄甲龍を制圧、吸収してしまった。

 八卦ロボのほとんどが未完成でパイロットもまだ育ってないのもあって、抵抗はされたがBF団の前には無力だ。

 

「幽羅帝……華雄ではなかったわね。あとで真名を考えてあげましょう」

 まさか華琳ちゃん、幽羅帝目当てで鉄甲龍制圧したの?

 

 ゼオライマーか。悪役の鉄甲龍の方はなくなっちゃったわけだけど、問題は主人公の方なんだよなあ。

 グレートゼオライマーになるフラグは折れたから、どうするかも考えておかないと。鉄甲龍ないんだからラスト・ガーディアンから奪っちゃうかな?

 

 幽羅帝は違ったが、俺は霞、蒲公英ちゃん、焔耶と再会した。

 3人とも融合していて霞がシ・アエン、蒲公英ちゃんが耐爬、焔耶が祗鎗とだった。

 バ()()()()ハ、()エンと()ソウはまあいいとしてさ、霞のはちょっと強引すぎませんか?

 

 彼女たちもゆきかぜちゃん同様、融合相手に引っ張られたか元よりも若くなってしまっている。

 きょっちーはミーシャの年齢になってないから、若い方に合わせているようだ。

 

 使徒やファミリアは加齢による成長、老化をしない。もしくはかなり遅いのがこの数年でわかった。華琳ちゃんやきょっちーの身長はファミリア契約した時と全く変わっていない。

 ただ、融合によって幼くなってしまった場合は違うようだ。ゆきかぜちゃんや霞たちはちゃんと成長してるんで一安心。俺の理性が持つ内に早く大きくなってほしい。

 

「双子のせいか、シ・タウの外見も霞そっくりになってるな」

「なに言うとる? ウチよりも可愛えやろ!」

 霞は姉馬鹿というか馬鹿姉になっている。妹のタウの方は姉に対してコンプレックスよりも鬱陶しさを感じているようだが大丈夫なんだろうか?

 

「耐爬と祗鎗のトラウマは報われない恋心だっけ? 2人が女の子になっちゃったら関係ないよなあ」

 というか、耐爬って幽羅帝とうまくやってたから実力があったら報われてたよなあ。そうならなかったのはランスターが弱かったせいで。マサキの計画のトラウマ意味ないよな。

 

 ランスターの攻撃が風ってロボ相手には無理があるような気がしてならない。ゼオライマーにちょっとだけダメージを与えられたのも頭部の角なワケだし。

 高速高機動を活かすのならなにか格闘武器が必要だろう。蒲公英ちゃんに合わせてビーム槍でも見繕いたい。

 

「なにそれ? たんぽぽは煌一さんのお嫁さんで報われてるよー。焔耶は違うの?」

「ワ、ワタシとて報われてないわけじゃない!」

 嬉しいことを言ってくれるちっこい2人を抱っこ。早く大きくなってね。

 ……いや、これぐらいなら我慢しないでいいかな?

 

 鉄甲龍の精鋭、八卦衆は八卦ロボのパイロットになるためにつくられたデザインベビー。

 実はそれだけじゃなくて、デザインした木原マサキによってトラウマやコンプレックスを設定されていて自滅するよう仕組まれていたりする。

 3人は嫁さんたちとの融合によってその宿命から解放されたけど、残りの子もなんとかしてあげたい。

 ガンダムSEEDの世界が混じってくればコーディネイター関連の技術で遺伝子治療できそうな気がする。

 

 とりあえずは赤木博士に相談しよう。

 カウンセリングも必要だろうけどさ。

 赤木博士はNERVではなくT1社で働いている。

 あ、りっちゃんじゃなくて、赤木ナオコの方ね。去年、一刀君が口説いて連れてきてしまった。マダ……ゲンドウにふられた扱いなのか、今じゃ一刀君のファミリア兼恋人の1人である。

 どうせなら綾波レイの方を確保してほしかった。

 

 たまに島にくる娘のリツコの方は猫好きなせいか、紫と仲がいい。明命が合流したらきっと同志にされるだろう。

 彼女は現在、ナオコの代わりとしてNERVで働いているがゲンドウに襲われることがないようにと、嫁以外用のチョーカーを渡してある。

 

 そして、うちの孤児院には碇シンジ君もいたりする。

 家出に見せかけてさらっ……保護した。

 EVAは戦力としては強いけど子供が苦しむのは見たくない。ロンド・ベルは苦労するかもしれないがフォローすればなんとかなる。使徒だってEVAじゃなくても倒せるし。

 

 あ、俺も使徒だっけ。

 こっちの世界の使徒も調べなきゃいけない。

 

 どうしてもシンジ君が戦う事になるのなら、彼が不幸になりそうにないシンカリオンを用意した方がいいだろう。

 柔志郎が喜ぶなぁ。

 

 



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20話 ゼロゼロ戦戦

お久しぶり
今回はファイヤー視点


「なんでこんなことに……」

 

 orzな俺の前には桃色の髪の少女。

 しかも裸!

 眠ってはいるがスヤスヤなどとはとてもいえない苦しげな表情で目の下には涙のあとがクッキリ。さらに下半身の方はとても描写できない状態。

 つまり事後!!

 

 どうしてこうなった……。

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 バトル・エロースの艦橋(ブリッジ)でグランゾンとの戦いをサポートしていた俺たち。

 グランゾンがあまりにも粘るのでバトル・エロースも戦闘に参加。変形してマクロスキャノンで(とど)めを差すことはできたのだがグランゾンが大爆発して……。

 

 気づけばそこにいた。

 どこをどう見ても戦艦のブリッジではないどころか一緒にいたはずの嫁さんたちの姿はなく、かわりに周囲には少年少女とUMA(バケモノ)たち。

 俺を指差してなんか言ってやがる。

 

「あの変な衣装、平民の大道芸人?」

 

 失礼な。これは簡易宇宙服も兼ねたパイロットスーツだ。月面で戦っていたのだから万が一を考えて着ているのは当然だろう。

 そう言う彼らの服装は統一されていて、しかもどこかで見たような……。

 椅子がなくなって腰をついた形のまま状況を把握しようとする俺の前にやはり見覚えのある美少女が現れる。

 

 その低い背。薄い胸。そしてピンク髪。

 はい、どっからどう見てもルイズです。

 なに? スパロボだったはずなのにゼロ魔の世界だったの!?

 まさかゴーレムがロボ扱い?

 そりゃ主人公の能力的にスパロボだったら超強いだろうけど!

 

 俺が混乱してる間に彼女は詠唱を済ませ、そして俺の唇を奪った。

 げっ、まさかこれ、使い魔の契約?

 嘘だろ……。

 なぜ回避できなかったかと言えば、俺が主人公のかわりに召喚されたなんて考えはこれっぽっちも浮かばなかったからだ。

 どう考えてもありえないでしょ!!

 

 ワケがわからん状況にヤケになっていたのかもしれない。

 反射的に少女を抱きしめた俺は華琳仕込の舌技で彼女の口内を蹂躙する。ルーンが刻まれる熱さを誤魔化すためにも舌に集中してじっくりと。

 俺の唇の貞操を奪った相手はジタバタともがくがガッチリとホールドされているので逃げることはできずに数分後、ビクっとしてそれきりおとなしくなった。

 

 失神した少女を横抱きにして周囲を見回せば真っ赤になった少年少女たちと中年の男。

 

「見ていたのか? 気の利かない人たちだ」

 

「い、いや、その……」

 

 まだ顔の赤い中年が近づいてくる。禿だ。たしか……ツルベールだっけ?

 ゼロ魔はフィギュアは持ってるけど、アニメと二次創作――主にエロ同人――しか知らんのよ。原作小説は序盤しか読んでない。

 

「状況がわからない。詳しい話を聞かせてくれ」

 

 ツルベールに使い魔召喚の説明を受けた。

 なお、パイスーは簡単に脱ぐことはできないし、男に肌を見せるのも嫌だとルーンの確認は断った。才人のルーンだったら面倒だし。ガンダ・ルヴだっけ、重機動メカっぽいよな。

 

 目覚めたルイズに部屋につれていかれ、たぶんゼロ魔と同じ説明をまた受ける。

 もう聞いた内容だったので適当に聞き流し、さらに適当に自身の話をしながらもルイズ可愛い。貧乳最高! などと俺は萌えていた。

 嫁さんたちの状況確認や連絡を取ろうなんて頭にはなかった。情けない。

 

 今なら原因がわかる。使い魔関係の魔法か俺に刻まれたルーンだかによって精神操作を受けて俺の心がおかしくなっていたのだ。

 結婚指輪にもその手のものに耐性を追加する能力が付与されているが、ルーンにはプラス効果もあるので攻撃扱いにならずにすり抜けたらしい。

 せめてチョーカーを装備していれば……。

 

 とにかくそのルーンが精神操作を始め、俺の持つ〈精神防壁〉スキルと戦闘開始。精神防壁を突破するためにルーンが力を強めたおかげで、俺の心はご主人様(ルイズ)への愛でいっぱいになってしまったのだ! ……たぶん。

 

 そんな俺の前で着替えを始めるルイズ。下着を渡された瞬間に俺に植えつけられた愛が暴走してしまう。

 これってどう考えてもOKサインだよね、って。

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 んで現在。つまり冒頭の状態。

 最中に〈精神防壁〉スキルがレベルアップしてルーンの干渉を上回ったらしく、精神操作から逃れた俺は自分の仕出かしてしまったことに絶賛後悔中。

 ルイズが暴れたり、下手したら平民に汚されたと自殺するかもしれないと不安になったのでスリープで熟睡させていた。

 暴走中ながらも部屋に結界符を張って音もれを防いでたので、外にはバレていないと思う。

 自宅以外でのプレイの癖がついていたのでよかったぜ。

 

「どーすんべ?」

 

 嫁さんたちにバレたら嫌われるだろうな……。

 ってそうだ、嫁さんたち!

 慌ててビニフォンを取り出し連絡を取ろうとするも誰とも連絡できず。付近にファミリアの表示もなし。

 ポータルも開けなくなっていた。マーキングされている場所が1つもないようだ。ここはやはりゼロ魔の世界っぽいけど本当に俺が召喚されたのだろうか?

 みんなは無事だといいだが。

 心配だが他の俺もいるので大丈夫だと信じるしかない。

 

「とはいえ、今はまずこっちか……」

 

 ヒロインを陵辱してしまうなんて俺にはありえないことをやらかしてしまった。

 平行世界の俺はそこの華琳にやったらしいが、それを聞いた時は俺とは違う酷いやつだと軽蔑してたのに、まさか自分まで……。

 

 朝が怖い。だがいつまでも眠らせておくわけにもいかない。彼女が目覚めた時になんて言いわけをすればいいんだ。

 必死に誤魔化す方法を考える。素直にルーンに操られたと説明……しても駄目だろうな。

 

 ええい、こうなったら夢オチってことにしてやる!

 仮設シャワーをスタッシュから出して裸のルイズとともに入り、起こさないように注意しながら彼女の身体を綺麗にする。

 ……ルーンの支配から逃れたのになんで興奮するかな?

 全身くまなく、そして中まで丹念に綺麗にした後は“特製エリクサー”で治療。

 この薬はつい酔った勢いで〈成現〉してしまった、処女膜すら再生する設定の逸品だ。

 さすがにテストもできず、まだ使ったことはなかったのだが見事に成功。

 うん。しっかりと復活してくれた。綺麗な……だから確認しただけで興奮してはいかんぞ、俺。

 エリクサーの効果で後ろの方の出血も止まっているので一安心だ。

 

 汚れたシーツ類は汚れてない状態に〈成現〉。ルイズにネグリジェを着せてベッドに寝かせれば証拠隠滅完了。

 ふう。これで明日の朝、「そんなことはしてない、夢だった」と言い聞かせて信じてくれれば俺の勝ちだ!

 物的証拠もないのだしきっとうまくいく。……といいな。

 こんな姑息な手段しか思いつかない我が脳に酷く自己嫌悪に陥りながら俺は床で眠りについた。

 

 

 ◇

 

 

 真っ白い空間。

 見覚えのあるここは。

 

「契約空間!」

 

 やばい。ルイズはファミリア候補だったのか。

 接触での契約空間入りをOFFにしていても夢では擬似契約空間に入れるんだったけか。

 おそるおそる首を動かして彼女を探すと、へたり込んで震えながらそれでも俺から逃げるようにずりずりと後ずさりする少女がいた。

 

 やべえ。確実に怯えている。

 美少女にこんな目で見られるなんてショックだ。

 女性に汚物を見るような目で見られることはしょっちゅうだったけど、これもツライ。

 

「あー、そんなに怯えなくていい。これ夢だから」

 

「……ゆ、め?」

 

 お、反応した。

 これはいけるか?

 ここで誤魔化せれば目覚めた時も夢だったと思ってくれるはず!

 

「そう、夢。こんな変な空間、あるはずないでしょ? これは夢なんだよ」

 

「夢……」

 

 夢だといいなあ。

 俺が嫁さん以外に手を出しちゃったことなんて。

 鍛えていて精神値であるEPがそれなりにあるから耐えられているけど、以前だったら後悔のあまり俺の方もおかしくなっていたかもしれない。

 

「うんうん。さっき俺としちゃったこともみーんな夢だから、起きたら忘れてしまう」

 

「う、嘘よ! そう言ってわたしを油断させようとしてるのね! またわたしを汚すつもりなのよ!」

 

「い、いや、よく自分の身体を見てみてくれ。そんなことをしたように見えるかい?」

 

「……汚れていない……痛くない……本当に夢?」

 

 やっぱり痛かったのか。ごめんね。

 せめてもう1人いれば後ろは使わないで済んだし、もう片方からのフィードバックで痛みもやわらいだだろうに……。

 

「うん。夢だから忘れようね」

 

「あ、あんなにツラかったのが夢だなんて……」

 

「けっこう悦んでいたじゃないか」

 

 さすがに嫁さんの相手で俺も慣れてきてるんだから、いくら処女相手とはいえそれなりに感じてくれてたはずだ。操作された俺の心が彼女を愛していたんだから、無理矢理とはいえちゃんと気を使って丁寧にやさしく……おや、ルイズがジト目でこっちを見ているな。

 

「だ、誰が悦んでなんて! ……やっぱり夢じゃないんじゃないの!」

 

 へたり込んだまま泣きながら腕を振り上げている。

 ミスった。経験を積んで慢心してたのか、ついこぼしてしまった反論のせいで誤魔化しそこねてしまったようだ。

 こんな時はあれしかあるまい。

 

「ゴメンナサイ」

 

 土下座して謝罪する俺。

 もう他にできることはない。

 

「謝ったって赦さないんだから! わたしにあんなこと……死ねっ! 死んでわびなさいよっ!」

 

「わかった。死のう」

 

「え」

 

「俺が死んでも代わりがいるから」

 

 ()は1/3だから俺が死んでも残りのホワイトとキングがなんとかしてくれるはず。

 ……ここで死んだらどうなるのかな?

 

「だが君はいいのか? たった1日で使い魔を死なせてしまってはメイジとして評判が悪くなるのでは」

 

「うっ」

 

「だいたいだな、君のような魅力的な美少女にあんなことをされたら誘っていると勘違いするのも当然だ。俺の死後、また人間の使い魔を召喚してしまったらその時は用心しなさい」

 

 なんか偉そうに説教?

 襲ってしまったやつの言い分じゃないよね。

 彼女もそう思ったらしく顔を真っ赤にして抗議してきた。

 

「なっ、なによなによ、わたしが悪いとでも言うの!」

 

「ええと……たとえば命を残り1年に縮める毒薬があったとしよう。だがこの毒薬は命を縮めるのと引き換えに絶対に魔法が使えるようになる。君ならこの毒をどうする?」

 

「あるの!?」

 

「いや、たとえだから」

 

 そんなにも魔法が使いたいんだろうか?

 ……だろうなあ。ちょっと違うけど、俺の呪いも自分ではどんなにがんばってもどうしようもないという点は同じか。だからルーンにあっさり操られてルイズを愛しく思っちゃったのかもしれない。

 

「まぎらわしいこと言うなっ! 誤魔化されないわよっ! ……で、でもたしかに使い魔をすぐに死なせてしまうのは……」

 

「どうだろうここは一つ、悪い夢を見たと思ってお互い忘れるというのは?」

 

「忘れられるかっ! 初めてだったのよ! 貴族の純潔なのよっ!」

 

「いやいやいや。見てのとおり、君の身体は綺麗になってるだろう。処女も復活しているから」

 

 残念ながら〈鑑定〉スキルだと処女扱いにはなってないけどさ。

 どうやら膜が復活しただけでは処女とは判定してくれないらしい。

 でも紫苑たちはちゃんと処女に戻ってたよな? ……ああ、俺の〈成現〉の時に処女って設定してたからか。

 まあ、ここでは〈鑑定〉なんてないだろうから処女に戻ったと言って差し支えあるまい。

 

「……あんた何者よ?」

 

「異世界から召喚されたってさっき言ったじゃないか」

 

「そんな、本当なの?」

 

「ああ。異世界から召喚された使徒。それが俺」

 

 使徒だってばらしちゃったけど、いいか。

 もし本当にゼロ魔の世界なら剣士神の評判なんて気にする必要ないだろうし。

 それともここが俺の担当世界なんだろうか?

 いや、きっとグランゾンの爆発とエクサランスの暴走で関係ない世界に跳ばされただけだと俺は予想している。みんなもいなしマーキングもないからね。

 

「なんでそんなのがわたしの使い魔に……召喚に失敗しなかったからやっとメイジになれたと思ったのに!」

 

「俺だってわからん……んん? 1回も失敗しなかったのか?」

 

「そうよ! ちょっと爆発はしちゃったけどちゃんと成功したんだから!」

 

 むう。たしか召喚に何回も失敗してからやっと主人公の才人の召喚に成功するんじゃなかったっけ? だけどその前に俺が召喚されてしまったってことだな。

 俺が契約破棄に成功してまた召喚をやり直せば才人が召喚されるかもしれん。

 

「あんた、使徒とか言ったわね。なにができるの?」

 

「世界の救済」

 

「は?」

 

「それが俺の任務。担当は多分この世界じゃないけど」

 

「胡散臭いわね」

 

 まったくだ。

 柔志郎の担当世界みたいにゾンビだらけになっていてしかも現地人が倒せない魔物を倒すとかの実績がなければとても信じられはしないだろう。

 

「今説明できるのはこの空間。ここは契約空間(コントラクトスペース)。使徒がファミリアと契約する特殊空間」

 

 正確にはその偽物だがそこまで言う必要もないだろう。

 

「契約?」

 

「使い魔の契約と違ってキスなんかじゃない」

 

 そう言ったら怯えた表情で距離を取ろうとアタフタし始めた。

 いったいどんな方法だと思ったんだか。

 

「勘違いするな。契約は書類に記入するだけだから。あと別に契約してくれなくていい。ファミリアならまにあっている」

 

「そうなの?」

 

「ああ。だから俺が担当の世界に行けるようになったらお別れだ」

 

 この世界でモタモタしてるワケにもいかん。

 本当はすぐにお別れしてもいいのだがヤっちゃった手前、彼女が困ることはしにくい。

 

「あ、あんたはわたしの使い魔なのよっ!」

 

「なんとか契約解除する。そうしたらまた新しく使い魔を呼んでくれ。もうすぐルーンも消せそうだし」

 

 一時的にとはいえ、俺の精神防壁を突破するなんてかなり強力なシステムみたいだけどさっき〈復号魔法〉で解析してだいたい構造はわかった。解除することもできそうだ。

 ルーンによって付与される力は魅力的ではあるが、どうせ世界の固有原理だろうから俺の担当世界では使えないだろう。力が欲しいならルーンを〈成現〉すればよさそうだ。

 

「そんなすぐに使い魔をかえるなんて……」

 

「困るのは魔法使い的に? それとも貴族の体面ってやつ?」

 

「どっちもよ!」

 

 むう。いい案だと思ったんだがなあ。

 仕方ない。みんなとの連絡がつくか、状況がはっきりとわかるまではルイズの使い魔でいるか。

 

「わかった。しばらくはキミの使い魔でいよう。ええと……主の身を護って、キミの望む素材を探し出せばいいんだろ」

 

「え、ええ。……できるの?」

 

「こう見えてそこそこ強いのよ、俺」

 

 剣、というか刀は十兵衛に鍛えられてそれなりに実戦もこなした。

 こっちでは魔法使いと戦うことの方が多そうだが、それこそ問題ない。

 俺には〈大魔法使い〉スキルがある。このスキルは俺が人形から戻る時に設定改竄でレーティアが追加してくれたスキルなんだけど、元の〈魔法使い〉スキルより強力な部分もあったりする。

 レーティアはイメージする時にセラヴィーを参考にしたのだろう、彼に近い能力が俺にはあるのだ。レーティアにもチャチャを読んでもらっててよかったよ。

 〈魔法使い〉スキルでもかなり魔法関係のラーニング力が高かった俺だが、今はさらにカウンターも追加されているのだ。そう、まさしくセラヴィーのように!

 ギャグ漫画出身のあいつほど無敵ではないだろうけどさ。

 

「……本当に?」

 

「うたぐり深いなあ。どうすれば信用してくれるんだ?」

 

「そうね……あんた、なにができるのよ?」

 

「わりと色々とできるけど。あ、子供はまだ作れない」

 

 使徒とそのファミリアは担当世界の救済が済むまで子供はできない。

 まあ、〈成現〉を使えば作れないこともないけど。でも嫁さんとの子供はまだできないんだよなあ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 翌朝。寝ぼけたルイズを着替えさせて、自分はスワップアプリで早着替え。

 着ているのは大江戸学園の制服。子供状態以外でも着れるように買っていたものだ。俺のも改造してあって見た目からはわかりにくいがチャックがついていたり、ガンベルトみたいに刀を固定しやすくなっていたりするのだ。

 もちろん刀も装備しておく。ここも物騒だろうし。

 左手のルーンは見られるとまずいかもしれないのでレンズを上から貼って隠すことにした。

 ()()レンズを作ろうとして、ドワーフたちと作ったものだ。

 まだ形だけで〈成現〉していないので特殊機能はないが、簡単には剥がれないようになっている。

 

 部屋を出るとキュルケと火トカゲに遭遇した。

 これがサラマンダーか。ずっと速いされちゃうのか。

 

「おはよう、ルイズ……あなた、どこか変わった?」

 

「おはよう、キュルケ。どういう意味よ?」

 

「いつもよりも女を感じるんだけど……まさかそいつと?」

 

 げぇっ。なんか鋭すぎるぞこの褐色おっぱい。

 そしてルイズ、そこで真っ赤になるんじゃない。

 

「こ、こいつがなによ!? わたしが平民となんてどうにかなるわけがないじゃないっ!」

 

「ふーん」

 

 疑わしそうに、というよりニンマリと楽しそうな目でこっちを見る褐色おっぱい。たぶんわかってるんだろうなぁ。

 

「あまりルイズ嬢をからかわないでやってくれ。俺は天井煌一。彼女の使い魔になった男だ。お嬢さんは?」

 

「お嬢さん?」

 

 お嬢さん呼びがおかしかったのか、笑いを堪えるようにしばらく震えてから名乗ってくれた。やはり俺には似合わなかったのか。

 

 

 ◇

 

 

 キュルケと別れ、食堂へ。

 どうせ俺はまともに食べられないんだろうな。まあ、一応マナーも知ってるけど完璧じゃない自信しかないのでそれはかまわない。

 やはり粗末な食事しか出なかったので床にどかっと座り、懐から出すように見せかけてスタッシュから弁当を取り出す。

 

「それは?」

 

「愛妻弁当。これだけじゃ足りない。昨晩、ちょっとがんばりすぎたもんでな」

 

 思わぬ反撃にルイズがまた真っ赤になって俺を怒鳴ろうとしたが食堂にいることを思い出したのか、おとなしくなった。「おぼえてなさいよ」と呟いていたのは聞かなかったことにする。

 ああ、月ちゃんの弁当は美味いなあ。

 

 その後、教室で錬金魔法を見せてもらった。ふむ。ああやるのか。後で試してみよう。

 〈成現〉と違って時間制限もないようだしロボに使えれば便利すぎる。ガンダリウム合金とか超合金Zが錬金できないものだろうか。

 

 ルイズも指名されたがもちろん爆発させた。

 教室の片づけをしている彼女は一見堪えていないように見えたが、そうでないことはわかる。どう声をかければいいんだか。

 

「……なにか言いなさいよ」

 

「キミは悪くない」

 

「あんたに何がわかるのよ」

 

 いや色々と知っているけどね。

 虚無であることをばらせば少しは機嫌がよくなるか?

 ルイズが虚無を使いこなしてワールドドアだっけ、あの魔法が使えればみんなを探しやすくなるはずだ。

 

 だけどそれ以上に面倒が増える。

 聖戦だっけ? 勘弁してもらいたい。

 ルイズが虚無だということは周囲から隠しておいた方が無難だろう。

 

「そんなに魔法が使いたいか?」

 

「いつか成功させるわ」

 

「そうか……」

 

 ルイズから大きな魔力を〈感知・魔力〉スキルが感じている。ファミリアになってくれれば魔法は使えるようになるだろう。

 さっきの〈鑑定〉では〈魔法〉スキルは持っていなかったが、こっちの魔法と使徒やファミリアの魔法が違うということだと思う。〈魔法〉スキルを習得できれば、使徒の魔法は爆発させずに使えるはず。

 

「なによ、そんな顔して。……まさかあんたが使えるようにできるとでも?」

 

「方法がないわけじゃないが……君はこっちの、杖を使う魔法がいいんだろう? 俺のファミリアになることで使えるようになるのは別系統だから、下手したら異端てことにされるかも知れない」

 

「……本当に魔法が使えるようになるの? 爆発しないで!」

 

 ルイズを刺激しないようにゆっくりと頷き、補足を続ける。

 

「だけど、ファミリアになったら俺がこの世界を出る時は一緒にきてもらうことになる。別のアプローチを考えよう」

 

「魔法が使えるならそれでもかまわない!」

 

「もっとよく考えて、ね。あとで後悔するから」

 

 無駄かな。俺だって呪いが解けるって言われたらすぐに誘いにのっただろう。

 ルイズを虚無じゃなくなるように〈成現〉する方がいいか?

 虚無じゃないと困ることって……ないわけじゃないか。

 ええと、この先おこることってたしか……決闘してロケラン回収して王女の依頼とゼロ戦……あんまり詳しく覚えていないな。ビニフォンに小説版、入ってたっけ、あとで確認しないと。

 ゼロ戦は見たい。俺のスタッシュにロボは入っているし、俺単身でも飛べるけどそれでもゼロ戦は気になる。日本男児としては当然だろう。

 あ、喋る剣もあったな。どこで入手だっけ。

 

 

 ◇

 

 

 片づけをおえるといい時間になっていたので昼食。ルイズはずっと考えていて反応が薄い。

 ゼロ戦のためにもメイドさんと会いたいのだが、こんな様子の主を一人残すのも使い魔としてはまずいかもしれない。

 たしかギーシュとの決闘イベがあるはずなんだけど……スルーしてもいいかな。土系統の魔法使いとは知り合いになっておきたい気もするが。

 ゴーレムができれば〈成現〉のベースに役立つだろうし、錬金だけじゃなくて固定化もほしい。

 

 ん?

 ギーシュ……なにか引っかかる。

 決闘イベントはたしか彼の落し物を拾うことで二股がばれて……モンモランシーと下級生の二股……あ!

 

「思い出した! ルイズ!」

 

「な、なによ? やっぱり使えないみたいって言うの?」

 

「いや、これを見てくれ。彼女に見覚えはあるか?」

 

 ビニフォンを取り出して、モンモランシーの立体映像を見せる。以前に撮影したものだ。

 

「なにこれ、マジックアイテム? ……モンモランシーじゃない。えっ? まさかこれに封印されているの?」

 

「違う、写真だ。そんな物騒なアイテム、こっちにあるのか? そうじゃなくて……こうやって」

 

 ビニフォンでルイズを撮影して立体表示。

 

「画像を記録してるだけだ。それで、彼女を知ってるのか?」

 

「知ってるもなにも同級生よ。数日前から行方不明になっているけど」

 

「数日前?」

 

 おかしい。彼女はその金髪くるくるのせいでセラヴィーにさらわれて人形にされ、もう何年も経ったと言っていた。

 こっちとじゃ時間の流れが違う?

 ……あ! まさかエクサランスの暴走に巻き込まれて、ここは過去なんじゃ?

 だからみんなと連絡が取れないし、マーキングもないのか。

 

「おい君、彼女がどこにいるのか知っているのかね?」

 

「俺の師匠のとこだよ。半ば強引に弟子入りして薬作りを学んでいる」

 

 人形から元の姿には戻っているんだけど、セラヴィーがどこからさらったか思い出せないのでまだサンダル城にいるはずだ。慰謝料だとセラヴィーから魔法薬のことを教えてもらっている。

 ただ、俺の憶測が正しければ()はまだ人形になったままのはず。

 

「そこへ案内しろ!」

 

「無理だ。俺だって行き方を知りたい。……ってあんた誰」

 

 ギーシュでした。この後、どーしても連れて行けだの、モンモランシーの立体表示ができるビニフォンを賭けて決闘だ、なんてことになって。

 

「僕が勝ったらそれを貰おう」

 

「平民の大事な物を取り上げる貴族様とか」

 

「対価は払うと言っているじゃないか」

 

「そういうモンじゃないんだよ。これは」

 

 嫁のデータが入っているこれを渡せるわけがない。バックアップは取っているけどさ。

 

「……始めるか」

 

 青銅のゴーレムが出現した。問答無用か。

 恋人が行方不明になっておかしくなっているのかね。

 仕方なく俺も刀を抜く。

 

「そんな細い剣で僕の『ワルキューレ』の相手をするつもりか」

 

「ワルキューレを名乗るんなら5人揃えて歌って踊れっての」

 

 恋! ハレイションTHE WARを脳内で流しながら青銅ゴーレムを袈裟斬りに真っ二つ。この刀は大江戸学園じゃ使えない真剣で剣魂はないけど、剣魂や魔物も斬れる〈成現〉で強化したアイテムだったりする。

 刃こぼれもなくここまで綺麗に斬れたのはルーンのおかげだろうけど、俺だって強くなってるのよ。分身してなきゃ騎士技(モータースキル)も使えるし。

 ……ルーンがある今なら使えるかな?

 刀を片手で持ったままの俺に「ま、まだだ!」とゴーレムを追加しようとするギーシュ。彼に向かって素早く素手の方の腕を振る。

 超音速を超えた動きによって発生した衝撃によってギーシュは吹き飛び、杖を落とした。

 

「これで勝ち。だったな」

 

「……ああ。君はメイジだったのか?」

 

「今のは魔法じゃない。騎士の技だ。ほらルイズ、心配はいらなかったろ?」

 

「あんたのことなんて心配してない!」

 

 ルーンいいな。利点だけ〈成現〉してみるのもいいかもしれない。俺の担当世界が本当にスパロボならかなり役に立つだろう。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 あれから数日。

 あんなことがあったのに俺はルイズと同じ部屋で寝ている。

 さすがに藁で寝る気もしなかったので寝袋を使っている。これなら寝ぼけてルイズを襲うこともあるまい。

 ちょっと悶々とするが耐えるしかない。早く嫁さんに会いたい。図書館で歴史や地理も調べているがまだ手がかりはない。

 

 そばで寝ているので擬似契約空間入りしてしまうが、俺のむこうでのことを話したり、すぐに擬似契約空間を解除したりして契約はしないことにしている。

 

 ルイズは「今度わたしに変なことをしたら魔法を使えるようにしなさい!」とまた誘っているんじゃないかと誤解しそうなことを言っている。……そこまでして魔法を手に入れたいのか?

 俺が襲うのが前提なのは、前科があるから仕方がないのだが悔しい。

 キュルケに俺が誘惑された時なんて彼女の部屋に乗り込んできて、俺の無事じゃなくキュルケの無事を喜んでいたし。

 

「あれはいくらキュルケでも耐えられないわよ」

 

「そんなにスゴイの?」

 

 無言で頷かれてしまった。「あんなに悦んでいた」とは今回は言えない。でもキュルケの瞳がさっき以上に輝いているのは気にしない方がいいのか?

 

 学院長にも呼び出され、行方不明のモンモランシーのことを聞かれたが俺も帰るすべがないのでどうしようもない、としか答えられなかった。

 コルベールにはルーンのことを聞かれたので「レンズの下で今は確認できない」と言っておいた。別のルーンを偽装しておいた方がよかったかな?

 

 

 貴族を倒したということでメイドさん、シエスタと仲良くなりタルブの村のことを聞くことに成功している。

 ゼロ戦が見たくなったのでタルブ村に行くことにした。

 虚無の曜日なのでルイズも行くと言う。

 

「あんたはわたしの使い魔なの。ご主人様をおいて行ってどうするのよ」

 

「まあいいか」

 

 スタッシュからヘルメットとライダースーツを出して着てもらう。俺はすでに着用済みだ。

 

「馬で3日ぐらいの距離をかっとばすからな。それ着てないと危ない」

 

「きょう1日で行くつもり?」

 

「うん」

 

 帰りはポータルを使えばいい。ファミリアじゃなくてもポータルが使えるようになるアイテムを〈成現〉したら成功したのでルイズを連れて行ってもいいだろう。寮の部屋や学院各所にマーキングも済んでいる。

 

「まさかワイバーンがいるとでも」

 

「いや、こいつだ」

 

 スタッシュから出したのは俺の愛車の1つであるプロトガーランド。性能は E=Xガーランドの方がいいんだけど、こっちの方が好きなので。

 もちろん俺が〈成現〉した品であり、MPで動くマジックアイテムでもある。

 飛行可能なので道が悪くてもなんとかなるだろう。

 

「なにこれ?」

 

「ゴーレムみたいな乗り物かな。俺の後ろに乗ってしっかりつかまってくれ」

 

「こんなのがどう動くのよ」

 

 そう言いながらもちゃんと後ろに乗ったのでもう一度「しっかりつかまれ」と言ってから発進させる。

 ふむ。ルーンはまだ効果が出ないみたいだな。俺には〈操縦〉スキルがあるから問題ないけどさ。

 

 

 ◇

 

 

 途中で適当に休憩、マーキング、マップの確認をする。こんな時にも仮設トイレは便利だ。ルイズもお気に入りみたいだが、あまり自慢されても困る。

 トイレを巡って決闘なんてしたくない。

 

 後ろから悲鳴が上がるくらいに速度を出したおかげで明るい内にタルブにつくことができた。

 で、村の近くの寺院に竜の羽衣があったわけだ。

 だがそれは零式艦上戦闘機などではなく。

 

「ゴーレム?」

 

「武御雷……それも紫だと!?」

 

 そりゃたしかに00式戦術歩行戦闘機、通称“零式”だけど!

 武御雷がType-00で零戦もゼロゼロって呼ばれたこともあったみたいだから間違ってないのかもしれんけども!

 だけどよりにもよって将軍専用機って……。

 

 こんなんもらっても生体認証システムがあるから動かせないっつの!

 

 中にあった刀は皆琉神威(ミナルカムイ)って鑑定結果。

 え? まさかシエスタの曽祖父って……。

 ここがバーナード星系ってのはないだろうけど。

 ……ないと思いたい。

 

 




19話もちょこちょこと修正、追加
活動報告にちょっとしたまとめ他があります


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21話 着信

嫁がそばにいないため
だんだん自重しなくなっているファイヤー



 とりあえず見れれば貰えなくてもいいと思っていたゼロ戦から状況が変わったのでポータルで学院に戻って、シエスタを連れてくる。

 

「これを持ってここを通って」

 

「こ、これなんですか? なんか光ってるんですけど……」

 

「大丈夫だから」

 

 ファミリア以外でもポータルを使えるようにと〈成現〉したオーブを渡したあと、手を取ってポータルに突入、タルブへと移動すると一瞬で村のそばの寺院に戻ったことに目を白黒させるシエスタ。

 彼女に目的地へ案内してもらう。

 

「煌一さん、ここがひいおじいちゃんのお墓です」

 

「……白銀武」

 

 墓碑名に刻まれた名前はやはりというモノで。

 でもシエスタの髪も瞳も黒いんだけど。たしか彼は茶系の髪と瞳だったような。

 それに……顔も白銀武と似てない気がする。別の、よく知ってる顔に似ている気がするんだけど。

 

 武御雷の方は黒じゃないからTDAの方からじゃないのか。とするとアンリミテッドの白銀武?

 オルタネィティヴ5を見送った後かな。このハルケギニアに跳ばされて、さぞや無念だったことだろう。

 まあアンリミテッドの方だとすると脳髄シリンダーが末路だったらしいからそれよりはマシだろうけどさ。

 

 スタッシュから取り出した線香にライターで火を点けて墓前に置き、そっと手を合わせる。

 柔志郎担当のあっぱれ対魔忍な世界がゾンビだらけになっちゃってるから、いつでも供養できるようにってスタッシュにたくさん入れてるんだよね、お線香。煙草を吸わない俺がライター持ってるのもそのため。

 

「それは?」

 

「俺とこの人の故郷の弔いの風習。いい香りだろ?」

 

 久しぶりに霊視をONにしてみたが彼の姿は視えない。もうオルタネィティヴ世界に行ってしまったのだろうか。

 んん? 白銀武の死亡で世界リセットしてやり直しってのもあったような。どうなってるのだろう。

 

 いきなり村に帰ってきて驚かれたと言いながらシエスタが曾祖父の遺言を教えてくれた。遺品はないらしい。まあ、あったとしても衛士強化装備ぐらいなので気にはならない。

 で、遺言にしたがってやはり武御雷を受け取ることになってしまった。

 世界が変わってもむこうと変わらず管理が面倒なお荷物だなんて、こいつも可哀想に……。あと「将軍にお返しして欲しい」ってのはなかったみたいだ。タケルちゃんはなにを考えていたんだろうね。

 

 貰ってしまったものは仕方がない。あとでなんとか動かせないか調べてみよう。

 武御雷をスタッシュにしまうとルイズとシエスタが目を丸くする。

 

「あんた、メイジだったの?」

 

「これは魔法と違うよ。使徒ならみんな持ってる能力」

 

 スタッシュはMPを消費しないから魔法ではない。

 ここまで容量を増やすには基本スキルでは足りず、上位スキルの〈スタッシュエリア(大)〉も必要だけどそれも言う必要はないだろう。

 

「あんたなら本当に……」

 

 またルイズが考え込んでしまったので、2人とともにポータルで学院へ帰った。

 寄せ鍋は気になるがマーキングしたので行こうと思えば村にはすぐに行ける。

 

「タルブに日帰りできるなんて思ってませんでした」

 

「これは秘密にしといてね。こんなことができるアイテムなんて信じるやつもあまりいないだろうけど、信じるやつは危険だから」

 

「は、はい。2人だけの秘密ですね!」

 

「わたしもいるわよ!」

 

 ルイズも聞いていたか。

 俺が魔法を使えるのはまだ教えてないけど、その時は彼女も魔法を使えるようにしないとショックを受けて暴走しそうだな。

 ファミリアにしないでも魔法を使えるようにしてみるか?

 

 

 ◇

 

 

 俺たちが留守中に学院は結構な騒ぎになっていた。

 行方不明になっていたモンモランシーが帰ってきたというのだ。正体不明の魔法使いに連れられて。

 その不審者は学院側に身分証明を求められて「世界一の魔法使い」を名乗ったところ笑われたので、笑った風メイジの教師を魔法でぶちのめしてさっさといなくなったという。

 

「コーイチ、無事だったのね!」

 

 俺が使い魔になっていると聞いてルイズの部屋にやってきたモンモランシーにいきなり抱きしめられた。

 

「あなたたちと連絡が取れないって剣士が騒いでいたから、心配してたのよ」

 

「やっぱり俺の知ってるモンモランシーなのか?」

 

「そう、コーイチに助けてもらった私よ!」

 

 あれ?

 セラヴィーのとこから助けたのって俺だったっけ?

 ……ああ、人形になってた彼女たちの前でエリザベスを人間にするという救出のきっかけを見せたからか。

 

「いい加減に離れなさい! ……あんたが助けた?」

 

「ん? ああ、大魔王ってのが一時期悪いやつに騙されててさ、モンモランシーや他の女の子を何人もさらって集めてたんだ」

 

「そうよ。何処とも知れぬ城にさらわれ、しかも人形にされた私たち。会話できるのは同じ人形となった者だけで身体を動かすことはできない。そんな気が狂いそうな状態が何年も続いたわ。それを助けてくれたのがコーイチなの」

 

 へー、人形同士なら会話はできたのか。知らなかった。そうでもなきゃ、本当におかしくなっちゃった子がいたかもな。

 

「だから恩人のコーイチたちが行方不明と聞いて、私たちはみんな心配していたのよ」

 

「俺以外の俺の仲間からの連絡は?」

 

「なかったみたい」

 

「そうか……」

 

 指輪の力を使っても嫁たちとは連絡が取れない。なんとか見つける手段を講じなければいけないようだ。

 

「まさか過去にきてしかもルイズの使い魔になってるなんてね」

 

「やっぱり過去なのか、ここ」

 

「そうよ。変な鏡を使って10年前に戻ってきたのよ」

 

「ああ、そんなアイテムもあったな」

 

 あの鏡を使ったか……モンモランシーのためじゃなくて、どろしーちゃんに会いに行くための口実だろう。

 もういないのか。セラヴィーと一緒にあっちへ戻れれば拠点機能が使えてみんなを探しやすくなったかもしれないのに!

 

「セラヴィーと連絡を取る方法は……ないよな。やっぱり」

 

「ええ。私たちがコーイチたちを探せって騒いだもんだから、きっと鬱陶しくなったのよ、あいつ」

 

「過去に戻ったとか、言ってことがよくわからないんだけど本当にこいつの師と知り合いなの?」

 

 ルイズの問いにモンモランシーが少し考える顔をする。

 

「知り合いと言うより、誘拐犯と被害者ね」

 

「ゆ、誘拐!?」

 

 誘拐犯って言うか大魔王だったからなあ。

 金髪くるくるってだけで異世界までさらいに来てたのか。どろしーちゃんのとこへ行けばよかったのに。……洗脳した魔族が禁じてたのかね?

 

「もう魔法薬はいいのか? セラヴィーに教えてもらってたろ」

 

「目ぼしいところはだいたい覚えたわ。問題はこっちの素材で再現することができるかどうかよ」

 

「そうか。できるといいな」

 

「そうだ、コーイチにお願いがあるんだけど」

 

 え? 俺にお願い?

 モンモランシーが俺に頼むようなことなんてあるのか?

 あ、ギーシュと決闘したことと関係が……ないか。

 

「素材を集めるのに使い魔が必要なの」

 

「ちょっと、こいつはわたしの使い魔よ!」

 

「あなた大当たりを引いたわね。私だってコーイチが使い魔ならどんなに嬉しいか。……私が誘拐されていたという事情を考慮して、特別に使い魔召喚の儀式をやれることになったのよ。だからそれで召喚される使い魔をコーイチに用意してもらえれば、って」

 

 ああ。そういうことか。召喚の呼びかけに応じるやつを俺に〈成現〉させたいと。

 ……いいのか、それ。

 

「そんなことできるわけないでしょ」

 

「できるのよコーイチなら」

 

「あまり俺のことは話さないでほしいのだが」

 

「秘密にするからお願い」

 

 むう。エリザベスを人間にするところを見られたり、俺が元に戻る現場で能力知られたのはまずかったか。

 

「口止め料というわけか。……どんなのがいいんだ? あまり無茶は言わないでほしいのだが」

 

「ラプラスよ! 水系統のメイジにピッタリ!」

 

「ヒトデマンの方がよくないか? 初代ヒロインの相棒だし」

 

 でも本来ならモンモランシーの使い魔はカエルだったからカエル系のニョロトノやガマガル、ゲッコウガの方がいいのか?

 軍曹も捨てがたいよな。

 ……カエルはルイズが嫌がるか。

 

「そっちもいいけれどラプラスでお願い」

 

「大きいから色々と大変そうだけどいいのかい? あと陸地では……もしかしてモンスターボールもコミでか?」

 

「理解が早くて助かるわ。さすがコーイチね」

 

 む。たしかにリアルラプラスなら見たい。というか乗ってみたい。

 モンモランシーの召喚に応じなかったら俺が面倒を見ればいいか。それだったらカイリューでもいいんだが。どっちもプラモ持ってるし。

 

「仕方ない。なにかあったら協力を頼むぞ」

 

「ちょっと、あんたたちなに言ってんのよ?」

 

「聞いたとおりよ。私の使い魔をコーイチが用意してくれるの。私はコーイチの能力を秘密にして彼の頼みを聞く。セラヴィー直伝の魔法薬はすぐには用意できないけれどね」

 

 ちょっと待て。いきなりルイズにばらしてるようなもんなんだが。

 

「こいつの能力って?」

 

 ほらキタ。

 どーすんのよ、これ。

 

「だから秘密よ。知りたければコーイチのファミリアになることね。あ、でもコーイチのファミリアになることは妻になることと同意義だからあなたには無理か。コーイチ、私ならいつでもいいわよ」

 

「妻ぁ!?」

 

「ええそうよ。そう言えば彼女たちは? コーイチが使い魔なんて許さないでしょうに」

 

「逸れた。今は居場所もわからん」

 

 早く会いたい。浮気はしてないだろうけど、スパロボ世界なら洗脳がありえる。チョーカーが頑張ってくれるといいのだが。

 

「そう……。ごめんなさい。早く見つかるといいわね」

 

「なんとかなる。セラヴィーが簡単にこっちにこれるようなら俺にもどうにかできるはずだ」

 

 過去だと言うことが確信できたから、タイムマシンと通信強化のアイテムを〈成現〉すれば連絡もとれるはず。

 

「……わたし、許されないの?」

 

「考えてごらんなさい。夫が他の女性の使い魔になっているなんて許せると思う? コーイチの奥様たちに知られたらあなたは……ルイズもコーイチに嫁入りすることになるのかしら?」

 

「なんでそーなる?」

 

「だってカリンにそう持ってかれたってユマたちが言ってたわ」

 

 たしかにルイズは可愛いから華琳ちゃんもやりかねないけど。

 あと真名は簡単に使わないように。って今さらね。

 

「俺の嫁さんはやさしいから大丈夫だよ。状況を説明すればわかってくれるさ」

 

 たぶん。

 

「今、たぶんって言った!」

 

「ルイズ、慰めにはならないかもしれないけれどコーイチの素顔はとても綺麗だって彼の奥様たちは言ってるの。あとでどんな顔か教えて」

 

「素顔?」

 

「妻だけしか楽しめない特典だってよく自慢されたわ」

 

 そんなことがあったのか。

 まあ呪いが解けるまでは素顔は家族以外には不可能だろう。一応他にも祝福封じの策は施してあるとはいえ、試す気にはなれない。

 

「とにかく、ラプラスは用意する。すぐに儀式をするのか?」

 

「いえ。行方不明の連絡がいってしまって心配しているらしいから家に戻って無事な顔を見せてくるわ。そのあとよ」

 

「そうか。10年ぶりだもんな、家族に会うの。よし、ラプラスはそのお祝いだ」

 

 さらわれて人形にされ、ずっと家族と会えなかったんだ。早く会いたいだろう。

 ちゃんとモンモランシーの使い魔になるように〈成現〉してやらねば。

 

「ありがとうコーイチ!」

 

 もう一度ハグをして、学院に帰ってきたらまたくると言ってモンモランシーは去っていった。

 残ったのはなにか言いたそうにこっちを睨んでいたルイズ。

 

「あんたのファミリアになるには結婚しなきゃいけないっての!?」

 

「い、いや」

 

 待てよ。違うんだけどそういうことにしておけばルイズも俺のファミリアになることを諦めるか?

 

「言わなかったっけ?」

 

「聞いてないわよ!」

 

「そうか。そういうことだからファミリアは諦めて」

 

「くっ」

 

 ルイズが黙ってしまった。チラチラとこっちを見てるけど気にしない方がいいだろう。なにか言うとヤブヘビになりそうだ。

 それにしても衝撃の事実が続くな。

 

 竜の羽衣が武御雷だったのがかなり気になっている。

 もしもハルケギニア(ここ)と繋がってるのがマブラヴの地球だったら才人が無事に生きているのかもわからない。アンリミのさらに数十年後だったら人類の生き残りなんて少ないかも。

 才人よりも先に俺が召喚されたんじゃなくて、才人が存在しないから俺が代わりに召喚された可能性もある。

 

 学院にあるはずの破壊の杖も正体を確認しておいた方がいいかもしれん。S-11じゃなければいいけど。まあ、あれは杖とはいえん形か。

 BETAがこの星に来ないことを祈る。資源採掘という目的なら地球とは違う資源もあるんだよなあ。風石とか。

 ……そっちの問題もなんとかしなきゃいけない。

 

「あんたの師は魔法薬に詳しいの?」

 

「かなりね。きっとモンモランシーの腕も上がってるんじゃないかな?」

 

「でもこっちの素材で再現するのは時間がかかるって言っていたわ」

 

 どんな薬を作るのかちょっと楽しみだな。若返りの薬なんて高値で売れると思う。

 

「原因不明の病気を治す薬はない?」

 

「どこか悪いのか? 残念ながら魔法が爆発してしまうのは薬ではちょっと治せないと思う」

 

「わたしじゃないわ……」

 

 気にしてる魔法のことを言ってしまったのにルイズは怒らない。たぶん姉の病気のことだろう。

 ルイズの姉カトレアは謎の病を患っている。水メイジでも治せない難病だが小説ではエルフの秘薬で治っていたから万能の霊薬(エリクサー)ならたぶん治る。

 

「すごい強力な薬がある。超希少でかなり高価だ」

 

「本当に効くの?」

 

「本来なら再生しないキミの……膜を復活させるぐらいに効果がある薬だ」

 

「なっ、なんに使っているのよ! 希少な薬を!」

 

 だって証拠隠滅するにはそれしかないと思ってたから。結局無駄だったんだけどさ。

 

「俺ができるお詫びはそれぐれいしか……」

 

「も、もうないの?」

 

 泣きそうな顔で聞かれたらないとは言いづらい。

 

「ないわけじゃないけど……」

 

「代金は払うわ。お願い、ちいねえさまを助けて!」

 

 エリクサーのことはあまり知られたくはない。欲しがるやつはいくらでもいるだろう。

 かといって見過ごすのも可哀想だ。エルフの秘薬が必ず入手できるかもわからないし。

 

「しかたないか。これを使ってみてくれ。死んでなければだいたい治るはずだ。本当なら直接診に行って症状を確認したいところだけど、ルイズも授業があるから送るしかないか?」

 

「い、いいの?」

 

 どうせ俺が行っても面倒なことになるだろう。ルイズの両親に会うのも怖いし。チートキャラ(ルイズママ)に殺されそう。

 行かないで済ませたいが口には出さない。

 

「大事な人なんだろ? ただしこの薬はあと1ヶ月くらいしか効果がない。たぶん調査してから使うだろうけど早めに使ってくれ」

 

「あ、ありがとう!」

 

「あと、代金はあのことをチャラにしてくれればいいよ」

 

 純潔を奪ってしまったことをずっと気にしていたんだ、俺。

 それで赤くなってしまったルイズだが、俺を怒ろうともしないでエリクサーの瓶をそっと握り締める。

 

「でもこれって貴重なものなのよね?」

 

「んんー。等価にはならないか」

 

「そ、そうよね……」

 

「ルイズの純潔なら俺が貰いすぎだもんな」

 

 あの時は初めての娘相手にやりすぎちゃったもんなあ。しかも両方で。

 嫁さんたちにバレたら浮気を怒られる以上にそっちも説教されるかもしれん。

 

「コーイチ」

 

「やっと名前で呼んでくれた」

 

「……コーイチだってわたしに素顔を見せないじゃない」

 

「言わなかったっけ? 俺の素顔は呪われているから家族以外には見せられないの。特に女性は嫁になってくれないと絶対に見せるわけにはいかない」

 

 たしか言ったはずだけど。聞いてなかったのかな。

 魔法が使えるかもってことばかり考えていることが多いみたいだもんなあ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 ルイズにエリクサーを渡してから彼女はさらに誘惑してくるようになった。

 それまで寝袋で寝ていたのに一緒にベッドで寝るように言ってきたのはあからさまで、さすがにこれは誘っていると思って間違いはあるまい。童貞100人に聞けば120人がOKサインだと保証してくれるはずだ。

 

 でも耐える。手を出すわけにはいかん。

 同じ部屋であんな格好で寝られるだけでもツライのに。もっと露出の少ない寝巻きを用意してやるべきか? それはそれで萌えそうである。

 

 学院内ではソロプレイすることもできないので、武御雷回収の旅でマーキングした人気(ひとけ)のない地点にポータルでこっそり移動、目立たないように仮設トイレを設置してそこで欲望を発散すること数日。

 ついにルイズがキレた。

 夢の中、擬似契約空間にて怒りを露にしている。

 

「……なんでしないのよ!」

 

 そりゃしたいけど、したらマズイでしょやっぱりさ。

 

「そんなに魔法を使いたいのか?」

 

「だって、悔しくて……」

 

 ちょっ、泣くのはズルイですよ。

 彼女が周囲からバカにされているのを知っているだけになんとかしてやりたいのも確かなのだが。

 

「だからって俺を誘惑するほどのことか? 処女は大事にしなさい!」

 

「もうコーイチに奪われたもん!」

 

「あれはノーカンだから! 悪い夢を見たと思って忘れてください」

 

 とは言っても簡単には忘れられないのか? トラウマになっていたらどうしよう。

 〈成現〉で記憶を改竄すればいいのかも……でもルイズを虚無じゃなくする手段としてとっておきたいんだよなあ。

 

「ファミリアになるにはコーイチの妻になればいいんでしょう! なってやろうじゃない!!」

 

「なぜそうなる?」

 

「貴族にとって結婚なんて手段でしかないのよ」

 

 ドヤ顔で言うことか。俺はそういうのは嫌なんだってば。

 でもほっといてもルイズは親に結婚相手を決められちゃうんだっけ?

 

「も、もっとよく考えて、ね。ファミリアにならなくても魔法を使えるようになる策を考えてみるから」

 

「コーイチはそんなに……わたしが嫌なの?」

 

 また泣きそうになってるし。なんだこの情緒不安定なのは。

 まさか惚れ薬か?

 今日は学院に戻ってきたモンモランシーと話していたからもしかしたら……でもチョーカーがあれば効きはしないと思うのだが。

 

「どうした、なにがあった?」

 

「どうせわたしはコーイチを使い魔にするメイジに相応しくないわよ!」

 

「モンモランシーになにか言われたのか? 気にするな、俺はキミの使い魔だ」

 

「聞いたわ、コーイチも奥さんたちも魔法使えるんでしょ。魔法が使えないわたしなんて女として見てないんだわ」

 

 俺が魔法を使えることを知ってしまってショックを受けたのか。

 というか、手を出さないのに魔法は関係ないんだけど。

 

「キミは魅力的だよ。俺はただ妻を裏切りたくないだけ。魔法が使えるかどうかなんて些細なことは無関係だ。その証拠にキュルケの誘惑だってのってないだろ?」

 

「あの女にまた誘惑されたの!?」

 

 なんかちょくちょく誘われるんだよね。妻子がいるからって断っているのにさ。

 今日もルイズがモンモランシーのとこに行ってる時に部屋に呼ばれたけど、調べものがあるからって逃げたよ。

 

「なんにもなかったから。魔法が使えることを黙っていたのは謝る。俺のはこっちのと違うから異端扱いされるとまずいんで秘密にしたいんだよ」

 

「先住魔法なの?」

 

「違う。と思うけど先住魔法を見たことがないからなんとも言えない。使い魔が異端なんてことになったらルイズも困るだろ」

 

 まあこっちの魔法も使えるんだけどね。学院で見た魔法はもう覚えたし。使う時は杖を持ってないとやっぱり異端扱いされそう。

 

「わたしのために……」

 

「魔法もきっと使えるようにしてみせるから安心しなさい」

 

「本当?」

 

「約束だ。その時にキミの魔法が爆発してしまう理由を教えてあげよう」

 

 今はまだ虚無だって教えない方がいいだろう。この感じだと暴走しそうで怖い。

 ビニフォンに入ってた小説を読んでわかった。ルイズが魔法を使えないのは虚無だからだけど、ファミリア契約や彼女に〈成現〉しないでも使えるようにする方法はきっとある。

 

 朱色の魔本と魔物の子とか。中の人的にかなり試したい。

 嫁さんがいたら自重か止められただろうけど、こっちにはいないから俺も暴走気味かも。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 再びの虚無の曜日。

 今日、モンモランシーが召喚の儀式を行うというので、昨夜のうちにラプラスをモンモランシーの召喚に応えるように設定して〈成現〉、見つからないように学院近くの水場に放してある。

 本物は思った以上に大きかった。波乗りもちょっと試させてもらったけど最高だったよ。

 

 休日ということもあって学生の多くが見物してる中で儀式は成功。無事にラプラスはモンモランシーの使い魔となった。

 新種だって大騒ぎになってるけどね。

 

「あれがコーイチの仕業なの?」

 

「しっ。秘密だからね。俺が使い魔を止める時はルイズにも代わりのすごいのを用意するよ」

 

 サーバルとかさ。ガンダールヴになっちゃうならかばんちゃんの方がいいか?

 むう。悩むところだな。

 

 その後、ガーランドで城下町へ行きデルフリンガーを購入した。

 代金? 真桜やドワーフが作った適当な武器をいくつか売ったよ。予想以上に高値で売れたから店主は見る目があるのかもしれない。

 ……手持ちでは最低ランクの品なんだけどね。魔法もかかってない普通の武器だし。

 

「あれぐらいわたしが出したわよ」

 

「貴族が買うとなるとふっかけられるだろ、値切りたかったんだよ」

 

「でもあんなボロ剣なんて買わなくたって」

 

 デルフリンガーは既にスタッシュに入ってもらっている。でかくて嵩張るしさ。入れる時になんか騒いでいたけど我慢してもらおう。

 

「喋る剣なんて珍しいよ。ルイズを守る武器なら他に持ってるからあれは武器じゃなくてマジックアイテムだと思えばいい」

 

「そんなものなの?」

 

 ゲキリュウケンも喋るからそんなには珍しくないんだけどね。

 特殊能力は気になる。ドワーフに見せるとなんて言うだろうかね。

 

 それからはだいたい小説と同じような展開。

 ルイズとキュルケの勝負になぜかモンモランシーまで参加したのはよくわからんが。

 

 んで、やっぱりゴーレム出現。

 ここでモンモランシーが渡してあったモンスターボールからラプラスを出して戦闘開始。

 

「ハイドロポンプまで覚えているなんてレベルいくつだよ。しかも効いてる?」

 

「効果は抜群よ」

 

 ゴーレムってもしかして地面か岩タイプ扱いなのか?

 倒せはしなかったが、ゴーレムの撃退に成功していた。……こっちを襲ってはこなかったし囮だったのかも。

 破壊の杖はフーケに盗まれていたし。

 

 で、捜索までも小説と同じ。ゴーレムに善戦したからとモンモランシーも追加されてしまったのが違うくらいか。……なんでギーシュはこないんだろ?

 これぐらいの違いなら小説と同じように進むかなと楽観視していたら山小屋への移動中、そいつらと遭遇した。

 

「なによあのゴーレム、あれもフーケの?」

 

「いや、エクサランスとテュガテール……戦っているのか?」

 

 なんでこんなとこで、と思っていたらフーケのゴーレムまでが参戦。時間稼ぎのつもりらしく、その間に山小屋に到着し、破壊の杖を見つけた俺にそれを使えと言うロングビル。

 

「これじゃ無理だ。1発しか使えないのにあっちは2機だし」

 

 というかあんた、俺がガンダールヴって知ってるか疑ってるな。じゃなきゃ使わそうとしないだろ?

 そうなると学院長もか。面倒な。

 

「ルイズたちを頼む、フーケ」

 

 俺がそう呼ぶとちょっと目が怖くなったロングビルだが返事はない。

 彼女のゴーレムはあっさりとテュガテールが召喚したサポート機パテールによって破壊された。

 まあ、勝てるはずもないか。

 ここは俺もロボを使うしかない。

 

 どうせだからとスタッシュから出したのはデモンベイン。

 主人公機と中ボス機との争いを止めるにはこれぐらい必要だろう。

 そしてデモンベインにみんなが驚いているうちにこっそりと、デモンベイン動かすのに必要なアル・アジフを〈成現〉した。

 彼女はルイズが魔法を使うのに協力してくれないかと構想していた手段の1つだったりする。マギウス・スタイルになれれば上手くいくんじゃないかなってね。

 

 でもアルの〈成現〉でMPを結構使っちゃったからアイオーンを出すのは止めた。あっちはMP消費が無茶苦茶だから。

 それぐらいは冷静だよな、俺。

 

「ふむ。フィギュアエディションとでも言うべきか。かような方法で妾を手に入れるとはな」

 

「大丈夫だ、フィギュアだって売ってる古本屋があるから問題は無い! とにかく説明はあとで。協力してくれ」

 

 さすが魔導書というべきか、状況をある程度理解している様子。素直に従ってくれるようだ。

 エクサランスとテュガテールがこっちの様子を見ている間に操縦席についた俺たちは2体に向かって通信を始める。

 

「わかっているとは思うがここは俺や君たちのいた世界じゃない。元の世界に戻りたいなら戦闘を止めて協力してくれ」

 

 エクサランスはともかくテュガテールは無理だろうな、そう思っていたのにあっさり戦闘中断。

 あれ、もしかしてデモンベインやアル必要なかった? ガーランドで通信すればそれでよかった?

 

 魔法の世界だからって調子に乗りすぎたかもしれない。

 どこが冷静なんだか。

 

 

 ◇

 

 

 スパロボR主人公フィオナとヒロインのミズホ、中ボスのティスが仲間になった。ラージはなぜかいなく、ティスの方はいわく「一時休戦だ」だけらしい。「ツンデレ乙」と返しておく。

 

 ついでに土くれのフーケことロングビルも正体を隠すことを条件に仲間にした。

 あの巨大ゴーレムは〈成現〉のベースに便利そうだ。土メイジなら固定化が使えるからロボを固定化するのにも協力してもらいたいし。

 彼女に必要な資金はどうにか用意しよう。

 どうせだったらバートレーもあげちゃおうかな、フーケだし。ライドスーツないと変形はできないけど。

 

 問題はとりあえずのフィオナたちの生活だよな。住居はどうしようか?

 アルは学院の寮で暮らせるように頼まないと……。

 そんなことを学院への帰り道で悩んでいたらビニフォンが鳴り出す。

 この着信音は嫁さんからの電話?

 慌てて電話に出てみると。

 

『お兄ちゃん?』

 

「その声は唯ちゃん! 唯ちゃんなのか!?」

 

『うん! なんかよくわからないけどボクは今、篁唯依で……とってもピンチ! 助けてお兄ちゃん!』

 

 篁唯依ってTEのヒロインの?

 山吹色の機体に乗る……そりゃ唯ちゃんのエプロンも猫目の衣装も山吹色だけどさ!

 そっちはアンリミの数十年後じゃないのか?

 

 




ルイズがツンにならなくて無駄に文量が増えて……
モンモンもなんか違う……


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22話 今さら神様転生s

今回は新キャラ視点



 死んだ。

 そうはっきりと認識したのに俺は目覚めた。

 

「なにこれ?」

 

 なにもない真っ白な空間。

 目の前にあるのは空中に……10、11……11の球体が輪になるようにして浮かんでいる。

 それぞれビリヤードの球のように番号がふってある。1から12まで。

 ないのは9だから、もしかしたら俺は9番?

 

 俺の身体を見ようとしてもなぜか見えない。というか首を動かせない。手足の感覚もない。たぶん俺も球体になっているのだろう。

 ナインボール。喜んでいいんだか。

 

『揃ったようだな』

 

 脳に――今の俺に脳があるのかわからないが――直接声が響いた。

 

「だ、誰だ?」

 

『上を見よ』

 

 ほとんどの球の数字が上を向いた。もしかしてあの数字が目?

 ともかく俺も上を見てみよう。

 

「神?」

 

 何番ボールが言ったのだろう?

 今まで気づかなかったがはるか上空に巨大な球体が輝いていて、それには番号ではなく神と書かれていた。

 

『いかにも。我は神』

 

 球神の声が響く。耳がないのに聴こえる、というか脳で聴いている感覚だ。これってつまり所謂、()()だろうか?

 

『死んでしまった貴様たちを呼んだのはこの世界に転生してもらいたいからだ』

 

「神様転生キターッ!」

 

 1番球だろうか、気持ちはわかるが叫ばないでほしい。

 貴様たちってことは他の球体も同じ死人ってことだろう。

 多人数での転生なんて碌なことにならない気しかしないぜ。

 

「なんで自分たちが選ばれたんですか?」

 

「そんなことよりも転生特典だろ。チートだ、チート!」

 

「どんな世界に転生するんですか?」

 

 その辺は俺も気になる。でも球神の話を聞き終わってからでもいいんじゃね。

 

『我の話を聴け』

 

 大音量が脳に響いてみんな黙ってしまった。

 痛いぐらいだ。手があったら頭をおさえたいぜ。

 荒っぽいなこの球神。

 

『貴様らを選んだのは厳正なる……厳選した12人が貴様らだ。決してたまたまちょうどよさそうな死人を適当に選んだわけではない』

 

 厳正なる抽選の結果って言おうとしたんじゃ?

 神の言葉でみんな微妙な雰囲気になってしまった。球にしか見えないのになぜかそれがわかってしまうぜ。俺もそんな感じだぜ。

 だが球神は気にせずに続ける。

 

『転生特典? そんなものがほしいのか。よかろう、貴様らが転生する世界はそれぐらいないとすぐに死んでしまうからな』

 

 どんな物騒な世界に送り出すつもりだよ、この球は!

 いい特典よこして下さいよ。

 

『この世界の地球はBETAとかいったか、宇宙生物の群れに襲われている。それを駆逐するために貴様らを送り込むのだ』

 

 マブラヴかよ!

 そりゃすぐ死ぬぜ! 危険だぜ! 無理ゲーだぜ!!

 

『特典はそうだな、1人あたり10個選ばせてやろう。ただし、特典のカブりは駄目だ。それぞれが違う方が成功率が上がるだろう。他にも分不相応な特典は選ばせん』

 

 10個って太っ腹!

 球形だからどこがお腹かわからないぜ!

 

『どんな特典がいいかイチイチ聴くのは面倒だ。それぞれ、手元のウィンドウに記入するがよい』

 

 ウィンドウ?

 ああ、今開いたこれか。手がないのに手元とはこれ如何にだぜ。

 どんな特典を選ぶかな?

 

「よしっ!」

 

 1番球の方から声がするので見てみると、やつの下にウィンドウが現れてそこに〈強奪〉って書かれていた。

 選んだ特典って他のやつに見られちまうんだ……それより強奪ってオイ。

 〈強奪〉をじっと見ているとさらにウィンドウが開いて解説が表示される。

 

******

〈強奪〉スキル

 他人の特典や能力を奪うスキル。

******

 

 やっぱりか。お前のものは俺のもの、ってジャイアンかよ。

 こいつに奪われるのは嫌だぜ。

 他の球たちから「ぐぬぬぬ」だの「ぎりぎり」だの聞こえてくる。歯がないのにどうやって歯ぎしりしてんだ?

 

 さてさて、どうするんだぜ?

 他の球も考えているのか、なかなか特典を書くやつが現れない。

 1番だけがグレートゼオライマーだのヴァルシオンだのと書いていく。ロボットももらえるみたいだが奪われるのは嫌だ。

 おっ、12番が動いた。特典は……?

 

******

〈独占〉スキル

 自分のものを独り占めするスキル。

 チェックしたものは他者が奪う、複製、等ができなくなる。

******

 

 なるほど。その手があったんだぜ。

 俺のものは俺のものってことね。やるなあ。

 しかしこれを1番は気に入らなかったようですぐさま特典を追加した。

 

******

〈独占禁止〉スキル

 〈独占〉を無効化するスキル。

******

 

 そこまでするなんて。

 だが1番はバカだぜ。自分でなにをしたかわかっているのだろうか。

 ほら、6番が早速やってくれたぜ。

 

******

〈強奪禁止〉スキル

 〈強奪〉を無効化するスキル。

******

 

 こうするのが当たり前だろうぜ。自分で解決策を与えたバカが1番球だ。

 さてさて、俺も……手がないのにどうやってウィンドウに記入するんだぜ。……あ、記入するって考えればいいのか。それじゃ。

 

******

〈強奪不許可〉スキル

 〈強奪〉を無効化するスキル。

******

 

 名前が違うけどちゃんと効果が発揮されるみたいなんだぜ。

 俺が記入したのを皮切りに、残る全員のウィンドウに〈強奪無効〉や〈強奪防止〉などと表示されていく。

 俺たちは12人(球)。1番球を除いたところで11人(球)だぜ。これでは全員を標的にはできまい。ザマミロ!

 

 さてさて、あとはどんな特典を貰うかだぜ。1番のせいで1つ減ってしまったとはいえあと9つもある。過酷すぎる世界で生き残れるのを選びたいぜ。

 あ、ウィンドウがまた開いた。不許可リストって一番上に表示されている。

 

『そのウィンドウは許可できない特典が表示される。参考にするがよい』

 

 不許可なのか。どれどれ……。

 えっ、〈鑑定〉と〈アイテムボックス〉駄目なの?

 転生特典の定番なんだぜ。

 〈不老不死〉はまあわかるとして〈王の財宝〉もか。じゃこれは……4次元ポケットもアカンのか。けっこう難しいぜ。

 

 お、お、また6番が動いた。

 え? 転生:キラ・ヤマト? そんなのアリなのか?

 

******

転生:キラ・ヤマト

 機動戦士ガンダムSEEDのキラ・ヤマトに転生する。

******

 

 アリみたいだ。うわうわ、6番が球からキラに変った!?

 大きく6って書かれたTシャツを着ているのがあれだけど、もう外見も変っちゃってるんだぜ。

 さらに〈スーパーコーディネイター〉も追加するとは。転生でもう持ってそうだけど念の入れ方が気合い入ってるぜ。

 あ、ストフリも表示された。ふむふむ。ロボットは強いのもいいんだぜ?

 

 ……超銀河ダイグレンは無理か。でか過ぎて地球上じゃ使えそうにないから当然だろうぜ。

 みんなも俺と同じ考えに至ったのか、どんどん不許可リストにロボの名が追加されていくぜ。

 グランゾン、ネオグランゾン、サイバスター、バラン=シュナイル、ゲッターエンペラー、神ゲッターロボ、真ゲッターロボ、真ドラゴン、デビルガンダム、オーバーデビル、デモンベイン、ネオジオング、ダイバスター、メカゴジラ、ドラえもん、ドラミ、……。

 グレートゼオライマーはOKでデビルガンダム駄目なのか、残念。BETAの数に対抗するにはデスアーミーなんて有効だろうぜ。球神わかってない。

 

 じゃあじゃあこれは……お、エルガイムMk-IIはいけるのか! 好きなロボだけに嬉しいぜ!

 

******

エルガイムMk-II

 重戦機エルガイムのエルガイムMk-IIを入手している。

 ビュイ他、各種オプション付属。

******

 

 ビュイってのは操縦席を兼ねる専用のスパイラルフローだ。これがなかったら困る。やりぃ! 各種オプションを確認したらバスターランチャーもちゃんと入ってるぜ!

 ならば他の特典も決まってくる。

 転生:ダバ・マイロード、〈ヘッドライナー〉、エルガイム、バッシュ、ブラッドテンプル、ディザード、ターナ、仲間:ミラウー・キャオってとこか。これに〈強奪不許可〉を合わせて10だぜ。

 エルガイム大好きなんだぜ、俺。ヘビーメタルは太陽光で動くから補給も少し楽なはず。飛行能力もちゃんとあるんだぜ。

 

 主人公のダバは義妹が婚約者ってなにこのギャルゲー主人公なやつでモテるし転生先にしたぜ。地球人じゃないのがちょっと気になるが、なんとかしてみせるぜ。

 ヘッドライナーってのはA級ヘビーメタルのパイロットのこと。解説を見るとヘビーメタル操縦能力もちゃんと付与されていたぜ。

 キャオはヘビーメタルのメンテナンスのためだぜ。

 

******

仲間:ミラウー・キャオ

 重戦機エルガイムのミラウー・キャオが仲間になっている。

 特典で追加される仲間は好感度が高い状態。

******

 

 おお、仲間の好感度が高い! それなら女性キャラの方がよかったんだぜ。

 でもでも他のやつにも特典見られるから恥ずかしいぜ。ヘンな目的で女の子仲間にしたとか思われたくないぜ。

 

 ディザードは地球の軍で量産できないかのサンプルとして選んだ。夕呼先生に渡せばきっとなんとかしてくれるだろうぜ。

 

 どぉれどれ、他のやつはどぉんな感じかな。

 ……7番スゲエ。

 

7 〈強奪拒絶〉、転生:孫悟空(10歳)、〈スーパーサイヤ人〉、〈亀仙流〉、〈瞬間移動〉、神様の神殿、仙豆、仲間:ブルマ、?、?

 

 転生:孫悟空が不許可リストにあったけど、だからって10歳ならOK?

 いくら悟空だからって原作開始時点よりも幼いんだぜ。

 そかそか、だからスーパーサイヤ人や亀仙流を追加してるんだ。

 ロボなしで生身で戦うつもりたあ剛毅だぜ。

 残りをどう選ぶか気になりすぎる。俺だったら〈フュージョン〉と仲間:ベジータにするぜ。

 ……好感度の高いベジータ? イメージできん。だからブルマにしたのか?

 

 年齢が設定できるということは赤ん坊スタートではないんだな、よかったぜ。

 きっときっと作品の年齢に合わせた状態で転生すると見ていいんだろうぜ。

 

 女性キャラを仲間にしたやつが出たせいか、ハードルが下がった気もする。俺も特典ヘビーメタルを減らして女性キャラにしようか迷うぜ。

 

 ほほー、4番はそうきたか!

 

4 〈強奪阻止〉、外見:黒目黒髪の白銀武、立場:タケルの双子の弟、〈リーディング無効〉、バルジャーノン筐体、ゲームガイ(バルジャーノンのソフト付き)、〈ニュータイプ〉、ユニコーンガンダム、?、?

 

 マブラヴの主人公、白銀武は転生先として選べないみたいで不許可リストに表示されているけど、その双子かよ。

 マブラヴヒロインを狙っているんだろう。リーディング無効も付けているし間違いあるまい。

 そしてユニコーンガンダムね。どうせニュータイプだったらバナージになりゃいいのにだぜ。

 5番も真似というか、似たようなことをしているぜ。

 

5 〈強奪妨害〉、転生:鎧衣尊人、立場:美琴の双子の兄、〈忍者〉、飛影、黒獅子、鳳雷鷹、爆竜、?、?

 

 尊人はBETAのいる方じゃいないからって……月詠狙いか?

 ロボットは経験値泥棒のあれとは。いったいどこを目指しているのか読めんぜ。

 

8 〈強奪無効〉、転生:空条承太郎、〈スタンド能力〉、スタープラチナ、〈スタンド複数可〉、クレイジー・ダイヤモンド、ゴールド・エクスペリエンス、キラークイーン、ヘブンズ・ドアー、?

 

 8番はジョジョか。複数可ってズルイぜ。弓と矢は選ばないのか?

 もし選んだら俺もチャレンジさせてもらいたいかもしれないぜ。クレイジー・ダイヤモンドがいるなら死なずにすむんだぜ。

 

2 〈強奪防止〉、外見:アーチャー、〈投影魔術〉、〈無限の剣製〉、〈魔術〉、〈熾天覆う七つの円環〉、〈千里眼〉、〈心眼(真)〉、〈刀剣知識〉、〈料理〉

 

 2番も気合い入っているぜ。アーチャーも転生が不許可リストにあるんだけど、だからってアーチャー再現だけで全部使っちゃうなんて。

 ん、〈料理〉が〈家事〉に変わった。マブラヴ世界で役に立つのかよ。

 

11 〈強奪ジャマー〉、転生:トカマク・ロブスキー 、立場:ソ連軍所属、〈聖戦士〉、ビルバイン、ダンバイン、ドラムロ後期型、仲間:ゼット・ライト、?、?

 

 ダンバインきてるぜ。オーラバリアなら重光線級無視で飛べる?

 トカマクとかソ連軍所属とか渋いぜ。ショットじゃなくてゼットを選ぶ所も(ツウ)というかマニアというか……。

 ソ連軍ならトルストールだろとツッコミたい俺の方が上だぜ。

 ドラムロはきっと俺と同じ目的で追加してるのだろうぜ。俺は日本に協力するつもりだけど、11番はソ連につくつもりなんだぜ?

 

 おや、勝手にウィンドウが開いた。

 12番からのメッセージ?

 個別にメールみたいなこともできるってか。

 

++++++

 1番に気づかれたくないのでこっそり教えます。

 仲間は1個の特典でも複数人まとめられるみたいです。

 有名キャラがあまりにも大人数だと無理みたいですが。

 キャオではなく、ターナクルーとすればよろしいのでは?

++++++

 

 なんとなんと!

 でも俺がそうしたら1番も気づくんじゃ?

 ……気づかれたくないのはたぶん、複数人まとめてじゃなくて、12番が教えたってことなんだぜ。

 12番は未だに〈独占〉以外の特典が表示されていないぜ。

 どうやって表示を隠しているかは不明だけど、これを教えてくれたんだから複数人も試して特典として持っていると見て間違いあるまいぜ。

 

 あ、本当にできた。

 ……クルーなしで俺とキャオだけでターナを動かさなきゃいけなかったかもしれないと考えると冷や汗が流れてくるぜ。

 アムとリリスも仲間になるみたいだし、12番さんに大感謝ですってお礼のメールを送ったらすぐに返事がきた。

 

++++++

 転生先は大変な世界のようです。

 みんなでがんばってBETAを駆逐しましょう。

++++++

 

 そうだよな。

 エルガイム縛りなんてしないでもっともっと有効な特典にした方がいいのかも……でもヘビーメタルは強いから今さら他のにするのも悩むぜ。

 

 俺が変更したおかげで仲間特典の仕様に気づいた他のやつらも動き始める。

 キラはエターナルとエターナルクルーを追加。

 11番はゴラオンとそのクルーを追加した。さらにトカマクからトルストール・チェシレンコに転生先が変わり、立場がソ連軍将校になったぜ。

 俺も12番さんみたいに教えようと思ったのにな。……まさか12番さんが教えたのか?

 

 ちっ、1番がクロガネとシロガネクルーを追加しやがった。

 クロガネってスパロボのだよな?

 あのドリル戦艦ならグレートゼオライマーとヴァルシオンのような大型機だって運用できる。

 シロガネクルーなのは……ああ、不許可リストにクロガネクルーがあるから、きっと搭乗員をそろえるためにそうしたんだ。12番さんが教えてくれたように「有名キャラがあまりにも大人数だと無理」なことがわかったぜ。

 

10 〈強奪NG〉、転生:シャーリー・フェネット、仲間:ルルーシュ・ランペルージ、仲間:枢木スザク、〈KMF操縦〉、仲間:黒の騎士団、斑鳩、蜃気楼、斬月、暁(人数分)

 

 10番は女性キャラに転生か。みんなが球の状態の時にも女の声がしてたぜ。

 仲間の数も凄いような気がするぜ。逆ハーするつもりだぜ、こいつは。

 スザクのKMFがないのは可哀想だぜ。でも暁(人数分)ってアリなのかよ。

 

 3番は〈強奪返し〉、転生:高町恭也、〈御神流〉ときてたんでKYOUYAキターと思ったんだけどその後、〈MS操縦〉、ウィングガンダム、ウィングガンダムゼロと表示されたんで中の人ネタでくる気かと待っていたら、〈眼魔砲〉、パプワ島、仲間:グンマだと。

 パプワ島ならBETAも怖くないかもしれんけど。グンマにガンダムのメンテナンスさせるつもりなんだろうか?

 残る1つに何を選ぶんだぜ? 俺はなのはを期待してるぜ。

 

『Gジェネみたいな拠点というのはどんな意味かよくわからん』

 

 急に球神からの声がした。

 誰かが望んだ特典が意味不明らしい。

 

「敵を倒して集めたキャピタルでいろんなもんを買えるとこがほしいってんだよ!」

 

 どうやら1番の要求のようだぜ。

 あのバカ、強奪するのを諦めたのか?

 ……そうじゃないな。Gジェネ拠点で強奪無効の対策スキルを買うつもりか?

 ヤロウ、12番さんとは大違いだぜ。

 

『ふむ。それならBETAを倒すのに気合いが入りそうだな。よかろう。BETAを倒したり、それに貢献した者にはポイントを与える。それで追加の特典その他を買えるようにしてやろう』

 

「やったぜ!」

 

『これは特典の数には入れず、全員が持つ能力とする』

 

「な、なんだと!? 俺だけじゃないのかよ!」

 

 ザマミロザマミロ。

 貴様がこっちの対策スキルを手に入れても、別の無効化スキルを買っておいてやるぜ。

 バカのおかげでBETA退治にも旨味が出てきた。強奪対策を済ませたら女性キャラの仲間を増やすのもいいぜ。むふふふふふ。

 

『さて、そろそろいいか? 早く決めてくれ。あと5分だけ待つ。決まってない者は10個以下の特典で送り出すことにする』

 

 10個全部決まってないやつが慌てだしたぜ。

 俺もよくよく見直すぜ。

 

9 〈強奪不許可〉、転生:ダバ・マイロード、〈ヘッドライナー〉、エルガイムMk-II、エルガイム、オリジナルバッシュ、ブラッドテンプル、ディザード(赤と白の2機)、ターナ、仲間:ターナクルー

 

 バッシュをオリジナルバッシュに変更、ターナは最大6機まで搭載できたはずだからディザードを2機にしてみるぜ。

 エルガイムとMk-IIをエルガイムシリーズって纏めようとしたけどそれはできなかった。できたら特典が1つ追加できたのに無念だぜ。

 

 尊人はエルシャンク、エルシャンククルーか。あっちもクルーのほとんどが宇宙人だけどいいんかね?

 

 白銀弟の方はネェル・アーガマやラー・カイラムではなくリシテア級万能巡洋艦を母艦として選んだようだ。クルーとともに追加しているぜ。

 リシテアってVガンダムのバイク戦艦だろ、Gジェネでよく使っていたけどアドラステアの方が強いだろうに。

 聞いてみるんだぜ。

 

++++++

 アドラステアは大きすぎる。

++++++

 

 なるほどなるほど。俺のターナはたしか中型戦艦だったからそんなに大きくないんだぜ。

 そう考えるとクロガネやゴラオンって困りそうな気もする。エルシャンクはどんぐらいなんだぜ?

 俺は横浜基地で面倒見てもらうつもりだけど、みんなそうだったら凄いことになりそうで楽しみだぜ。

 

 残念ながら承太郎は弓と矢ではなくスティッキィ・フィンガーズで特典を埋めている。

 スティッキィ・フィンガーズはアイテムボックス的な使い方もできるから羨ましいぜ。

 

 気になっていた悟空は仙豆が仙豆栽培セットになってさらにロボットが追加されていた。

 

7 〈強奪拒絶〉、転生:孫悟空、〈スーパーサイヤ人〉、〈亀仙流〉、〈瞬間移動〉、神様の神殿、仙豆栽培セット、仲間:ブルマ、則巻アラレ、ロボビタンA精製機

 

 アラレちゃんかよ! 最強のロボットだけど!!

 仙豆栽培セットとロボビタンA精製機はなんとなく7番の考えじゃない気がするぜ。俺と同じように12番さんがアドバイスしたんだぜ?

 

 あっ、12番さんの特典表示が変わった!

 

12 〈独占〉、?、?、?、?、?、?、?、?、死者復活(条件アリ)

 

 死者復活?

 死者復活や死者蘇生は不許可リストにあったから駄目だと思ってたぜ。

 条件ってなんなんだぜ?

 

******

〈死者復活(条件アリ)〉スキル

 死者を復活させる。死因となった怪我や病気も完治する。

 復活場所はある程度選べる。

 復活する死者は引き換えに特典や能力を1つ失う。

 このスキルを自分に使うことはできない。

******

 

『ほう。ならばここの者たちが死んだら12番の所へ送ってやろう』

 

 デスペナがアリだけど復活できるようになったぜ。

 自分の方はあまり意味のないこんなスキルを選ぶなんて……12番さん、あんたって人は!

 思わず球神ではなく12番球に向かって手を合わせて拝んでしまったぜ。俺だけじゃない、他にも感動して同じ行動をしたやつも数人いる。悟空もだ。やっぱりアドバイスされたんだぜ。

 

『5分経ったので転生を始める。番号順にいくぞ、まずは1番剛田ツヨシ、お前からだ』

 

「バカ、名前を呼ぶな! 隠してたんだぞ!」

 

 要注意転生者は剛田ツヨシだ。絶対に忘れないぜ。

 でも12番さんは最後だから名前を知ることはできない。

 もしもU-1に転生してても彼なら許せるぜ。

 

 順番にみんなが転生していく。

 転生直前になにを言うか迷うぜ。

 

『次、9番ダバ・マイロード』

 

「みんな頑張ろうぜ! 12番さんもしむこうであったら、うまい酒を飲もうぜ!」

 

 俺のサムズアップに球のままの12番さんも返してくれた気がして、俺は転生したぜ。

 

 

 

 

 ■ ■ ■ ここから12番視点 ■ ■ ■

 

 

 ……ん?

 ここは……そうか、俺、マジで転生したのか。

 変な夢を見た……わけでもなさそうだ。

 だってさ。

 

「知らない天井だ」

 

 ここどこよ、一体。

 もうマブラヴ世界なのか?

 てかこのベッドもなによ、なんか黒い粘液に浸かってる状態なんだけど。

 

「よかった。目が覚めたのね、カライ」

 

 そう言ったのは1人の美少女。

 俺が特典で選んだ女性の1人。生で見ると感動モノのかなりの超美少女だ。

 女性慣れしていない俺はメッチャ緊張するのは当然と言えよう。

 

「なかなか起きないからみんな心配するんで治療用のベッドに寝かせたのよ」

 

 彼女はアイシャ・ブランシェット。マクロス30のヒロインの1人でスパロボBXにも出ている天才美少女だ。特典時の注文によりゲーム時よりも2年ほど若いはずだが胸は大きい。

 

「心配させてすまない。もう大丈夫だ」

 

 この黒い粘液は治療用のジェルか。マクロスプラスで治療中のイサムが浸かってたあのベッドに俺が寝ていたらしい。

 

「そう。みんなに知らせてくるから、その間に着替えておいてね」

 

 アイシャは部屋を出て行ってしまった。後姿もよかった。

 ……みんな?

 そういえば俺の特典で調子に乗って大勢仲間にしたんだっけ。それも女の子ばかり。

 仲間は全員好感度が高いはずだけど、俺、女性ばっかりの状況でどうすればいいんだ?

 少しはヤローも入れておけばよかった!

 

 ベッド脇にあった服を着ながら考える。

 みんなが強奪対策スキルを取ってるのを見ながら“見せたいもの以外の俺の情報”を独占したら、見せようとした〈独占〉以外の俺の特典が見えなくなったみたいでさ、〈無効及びカウンターを無効〉ってのを選んでも誰も反応しなかったんだよね。1番(ジャイアン)も含めて。

 

******

〈無効及びカウンターを無効〉スキル

 無効系、カウンター系のスキルを無効化するスキル。

******

 

 これで安心だと思って女の子を特典で選ぶのは当然の流れよ。

 最初は恋姫ヒロインって試したけど駄目だったんだよな。それから色々と試して、複数キャラを1つの特典にまとめるのができるようになったのが嬉しくてダバにもつい教えちゃったんだ。

 エルガイムやダンバイン好きなんて同志だろ、仲良くしたいしさ。

 反応がよかったんでアドバイスメールを他のやつらにも送ったよ。

 

 悟空には〈舞空術〉と〈界王拳〉がないって忠告したんだけど、「修行して覚えるからでえじょぶだ」って返されちゃった。その2つってどう修行するつもりなのかわからんけど悟空に成り切ってると感心した。

 仙豆とアラレちゃんの食事には協力できたみたいでよかったよ。

 

 っと、アイシャを仲間にした特典はこれだな。

 

[仲間:2058年のマクロス30女性キャラ(処女)]

 

 先に試した“マクロス30女性キャラ”だと多すぎて駄目だったみたいだから“マクロス30女性キャラ(処女)”にしたんだよね。それでも多いみたいで許可が出ず悩んだ結果、悟空が10歳なのもできるんだからと2058年を年代指定したらOKだった。

 マクロス30の2年前でマクロスFの1年前だよ。

 ミンメイ、サラ、マオ、ミレーヌがいないのは残念だけど仕方がない。

 

 解説にいたのはアイシャ・ブランシェット、ミーナ・フォルテ、メイ・リーロン、クラン・クラン、ランカ・リー、シェリル・ノーム、そしてミア・榊だ。

 ミア・榊はマクロス30の主人公の妹なんだけどゲームでは既に故人。でも2058年なら生きてるのだ。彼女もパイロットみたいなのできっと活躍してくれると思う。

 

 ……可変戦闘機(バルキリー)はまだないけど。

 それどころかクランのクァドランすらもないんだよね。

 だってBETAと戦うなんて超危険じゃん。彼女たちにそんなことさせたくないでしょ。

 地球には他の転生者もいるから大丈夫さ、きっと。

 がんばれ、他の転生者さんとその仲間!

 

 ここは地球上ではない。……はずだ、たぶん。

 他の転生者たちは母艦を選んでいたけど、俺が選んだのはちょっと大きい。

 

[地球統合軍工場衛星(ゼントラーディ工場衛星改)]

 

 これ。

 マクロスに出てきたゼントラーディの工場衛星を地球統合軍が手に入れて改良して使っているものだ。

 以後のシリーズには直接は出てこないけど、移民船団の艦を造ったりと裏ではかなり活躍している。

 なぜ地球統合軍仕様かといえば、ゼントーラディのままだと巨人仕様で居住用として使い物にならなそうだから。

 

 アイシャがいればここの設備でバルキリーを造ってくれると信じている。2年若いアイシャだけど、きっとなんとかしてくれるはずさ!

 解説には食料生産プラントもあったからここでずっと暮らす予定だ。

 俺は宇宙にひきこもる!

 ……女の子たちが嫌がったらどうしよう?

 

「カライ! 起きて大丈夫なの?」

 

 勢いよく治療室に飛び込んできたのはやはり巨乳な少女。ゼシカ・ウォンである。

 彼女も特典で選んだけど、やはり苦労した。

 

[仲間:アクエリオンEVOLのメイン女子(処女)]

 

 これでやっとOK貰えた。まったく、ヒロインたくさん仲間にするのは難しいらしい。

 解説によれば、ミコノ・スズシロ、ゼシカ・ウォン、MIX、サザンカ・ビアンカ、ユノハ・スルール、クレア・ドロセラの6名。

 彼女たちの機体はいくらアイシャでも造れないと思ったので特典で頼んだ。

 

[アクエリオンEVOL(2機)]

 

 元々MとFの2機あるのだからちゃんと両方入手できたみたいだ。かたっぽ男子用なんだけど使えるかな。

 ただ、ネオ・ディーバ指令室のような設備がここにはないからパイロットの交換はできない。

 BETA倒してポイントが入ったら用意しよう。

 

 ゼシカに続いて仲間になった他の少女たちも入ってくる。

 むう、この数の美少女に囲まれると緊張しまくりだ。大丈夫なんて言わないでベッドに寝てた方がよかったかも……。

 

「お、おはよう」

 

「本当に大丈夫? 顔色が悪いわ」

 

 心配そうに俺の顔を覗き込む少女は実は人間ではない。

 トラウマメーカーな存在だ。

 

[仲間:氷室美久(次元連結システム)]

 

 ぶっちゃけた話、1番のやつに対する嫌がらせだけで選んだ特典だったりする。

 あいつのグレートゼオライマーって解説見ると次元連結システムが付属してるとは一言もなかったんだよ。きっとセットだと不許可だったんじゃないかな。

 いくらグレートでも次元連結システム無しでどうすんだろね。あいつは気づいてなかったみたいだけど。

 他の特典から見るにスパロボはやってるけどゼオライマーにはくわしくないと見た。凶悪だって有名だから選んだんじゃないか?

 美久にはもちろん〈独占〉のチェックを入れてあるのでアニメのようにむこうの操作で強制的に転移させて合体などできないのだ。

 

 独占禁止なんて俺をあからさまに狙わなければ、こんなことをしなかったのにさ。あいつがみーんな悪いのだ。

 おかげで特典1つ無駄にした気もするがまあいいや。ポイントが入ったらゼオライマー(マサキの人格上書き無し)を用意すれば無駄にはならないはずだ。

 

「ぜ、ぜんずぇん大丈夫どぁ!」

 

 美少女のドアップから逃げるように距離を取る。なんとかこの場をしのがなくてはいけない。

 

「あー、現在の工場衛星の場所はどこだっけ?」

 

「木星付近なのだ。地球側からは観測できない場所だぞ」

 

 クランが教えてくれた。マクロスFよりも1年若いはずだがマイクローン状態だと違いはわからんな。

 本当は戦いに巻き込まれないように太陽系から離れていたかったけど、これが限界か。神様はよほど地球のBETAと戦わせたいらしい。

 それとも木星ということは双子白銀の特典の補給用にヘリウム3を採取しておけってこと? バイク戦艦ってこまめな補給が必要だもんな。

 まあ地球と月のラグランジュポイントにいるよりはマシだろう。

 

「そうか。使徒たちに通信……ってできる?」

 

 俺の仲間には使徒もいたりする。

 

[仲間:エヴァンゲリオンの使徒(第3~第16)]

 

 全使徒は無理だったけど、これでOKもらえちゃうんだもんなあ。神様ってば、どんな基準で許可不許可を決めてるんだろ?

 エヴァンゲリオンの方がよかったのに。でも駄目だった。

 

「まかせなさい」

 

 治療用ベッドに備え付けられた患者の状態を示すモニターから声がした。

 どうなってる?

 仲間の女の子はみんなここにいる、よな。

 

「第11使徒イロウルを通せば連絡はできるわ」

 

 ぬうっとモニターから姿を現したのはシャロン・アップルの立体映像。

 なんで彼女が?

 マクロス30には出てたけど、2058年指定だから彼女はいないはずだ……。

 

「シャロン・アップル?」

 

「ええ。神様からメッセージがあるわ。あなたには期待しているからサービスですって。粋なはからいね」

 

 なんだろう。素直に喜べない。

 期待しているってなんか目を付けられただけの気がする。

 ここでサボるつもりを見抜かれた?

 

「スゴイ! シャロンだ!」

 

 ランカちゃんが喜んでいる。彼女はまだ歌手デビュー前だもんなあ。

 というかまさか中学生ぐらい?

 

「れ、連絡できるなら使徒たちが木星に行けるか聞いてくれ」

 

「行けるようよ。イロウル以外の全員に行ってもらう?」

 

「うーん、護衛も残したいし……試しにサキエルとシャムシェルに行ってもらえるか?」

 

 使徒はここの防衛のために考えていたんだよね。宇宙でもBETA怖そうだし。だけど討伐ポイントがあるとなれば話は別。

 木星のBETAを倒してもらってポイントを稼いでもらいたい。使徒ならばきっとできるはず。

 第1使徒アダムがいれば木星でインパクトおこしてもらうのになあ。

 

「了解。あとは艦橋(ブリッジ)で話をしましょう。地球の情報も集めておくわ」

 

 地球の情報は特典で手に入るようにしてあるけど、もしかしてシャロンさんスゴイ有能?

 それだけに神様の命令で俺の行動を誘導しそうで怖い。……それはシャロンらしくないか。

 

[地球の全放送及び全通信をリアルタイムで送受信できる設備]

 

 この特典は、インターネットもしたいし、せっかくアイドルがいるんだからこっちからもバレないようにゲリラ放送をしてもいいかなという、あまり深く考えずに選んでみたものだったり。

 でもさ、よくよく考えたらこれって滅茶苦茶チートじゃね?

 

 マブラヴ世界にインターネットがあるかは別としても、地球の情報丸わかりですよ。神様、本当にこんなの俺に渡してよかったの?

 俺、他のやつらと違って自分が直接戦うような特典は全く取ってないのに……。

 承太郎のようにヘブンズ・ドアーで操縦能力を追加することだってできない。

 

 みんなが(オタク)らしくコダワリのある特典を選んでいく中で俺は自分の安全と欲望(女の子)を第一に特典を考えてしまったのが恥ずかしい。

 特典隠せなかったら見得はってマクロス系で揃えたのに!

 そんな思いがあったからか、みんなに媚を売るわけではないけど俺が選んだ最後の特典をついオープンにしてしまった。

 

 見た感じ他の転生者は好意的に受け取ってくれてたみたいだ。

 でもこれも、死んでも復活して俺の代わりに戦えってことなんだよな。

 ダバなんてオタ話をしながら酒を飲もうってな意味合いのことを言ってくれたけど合わせる顔がないよ……。

 

 




外伝にしようか迷った


転生者リスト
 選んだ特典的におっさんばかり転生している模様

1 剛田ツヨシ
 〈強奪〉、グレートゼオライマー、ヴァルシオン、〈独占禁止〉、クロガネ、シロガネクルー、ゲシュペンスト・タイプS、ゲシュペンスト・タイプRV、ゲシュペンスト(持てるだけ)、?

2 ?
 〈強奪防止〉、外見:アーチャー、〈投影魔術〉、〈無限の剣製〉、〈魔術〉、〈熾天覆う七つの円環〉、〈千里眼〉、〈心眼(真)〉、〈刀剣知識〉、〈家事〉

3 高町恭也
 〈強奪返し〉、転生:高町恭也、〈御神流〉、〈MS操縦〉、ウィングガンダム、ウィングガンダムゼロ、〈眼魔砲〉、パプワ島、仲間:グンマ、?

4 白銀?
 〈強奪阻止〉、外見:黒目黒髪の白銀武、立場:白銀武の双子の弟、〈リーディング無効〉、バルジャーノン筐体(4台)、ゲームガイ(バルジャーノンのソフト付き)、〈ニュータイプ〉、ユニコーンガンダム、リシテア級万能巡洋艦、仲間:リシテア級万能巡洋艦クルー

5 鎧衣尊人
 〈強奪妨害〉、転生:鎧衣尊人、立場:美琴の双子の兄、〈忍者〉、飛影、黒獅子、鳳雷鷹、爆竜、エルシャンク、仲間:エルシャンククルー

6 キラ・ヤマト
 〈強奪禁止〉、転生:キラ・ヤマト、〈スーパーコーディネイター〉、ストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、エターナル、仲間:エターナルクルー、ミーティア(2機)、M1アストレイ(エターナルに積めるだけ)、ハロ

7 孫悟空
 〈強奪拒絶〉、転生:孫悟空(10歳)、〈スーパーサイヤ人〉、〈亀仙流〉、〈瞬間移動〉、神様の神殿、仙豆栽培セット、仲間:ブルマ、則巻アラレ、ロボビタンA精製機

8 空条承太郎
 〈強奪無効〉、転生:空条承太郎、〈スタンド能力〉、スタープラチナ、〈スタンド複数可〉、クレイジー・ダイヤモンド、ゴールド・エクスペリエンス、キラークイーン、ヘブンズ・ドアー、スティッキィ・フィンガーズ

9 ダバ・マイロード
 〈強奪不許可〉、転生:ダバ・マイロード、〈ヘッドライナー〉、エルガイムMk-II、エルガイム、オリジナルバッシュ、ブラッドテンプル、ディザード(赤と白の2機)、ターナ、仲間:ターナクルー

10 シャーリー・フェネット
 〈強奪NG〉、転生:シャーリー・フェネット、仲間:ルルーシュ・ランペルージ、仲間:枢木スザク、〈KMF操縦〉、仲間:黒の騎士団、斑鳩、蜃気楼、斬月、暁(人数分)

11 トルストール・チェシレンコ
 〈強奪ジャマー〉、転生:トルストール・チェシレンコ、立場:ソ連軍将校、〈聖戦士〉、ビルバイン、ダンバイン(可能な最大数)、ドラムロ後期型(可能な最大数)、仲間:ゼット・ライト、ゴラオン、仲間:ゴラオンクルー

12 カライ?
 〈独占〉、〈無効及びカウンターを無効〉、仲間:氷室美久(次元連結システム)、仲間:エヴァの使徒(第3~第16)、地球統合軍工場衛星(ゼントラーディ工場衛星改)、仲間:マクロス30の女性キャラ(処女)、アクエリオンEVOL(2機)、仲間:アクエリオンEVOLのメイン女子(処女)、地球の全放送及び全通信をリアルタイムで送受信できる設備、死者復活(条件アリ)



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23話 油断再び

 俺の嫁さんである唯ちゃんから緊急通信。

 彼女は“あっぱれ! 天下御免”のヒロインの1人だったのに“マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス”の篁唯依(たかむらゆい)になっちゃっていると言う。

 

 シエスタのひい爺さんが白銀武だったからアンリミテッドの何十年後かと思っていたんだが……白銀武が異世界に行ってしまったことにより死亡扱いとなって世界リセットされた?

 そうなると2001年スタートになるはず。さらに何度か世界リセットされているんだろうか?

 

『日本にBETAが上陸してる。ボクたち訓練生ももうすぐ初陣! 緊張と薬のせいかなんか自分が子住唯(ねずみゆい)で、お兄ちゃんのファミリアだってことを思い出したんだよ!』

 

 その状況だと1998年だったような。

 あまり年数に自信はないけど、アンリミやオルタよりも前の話なのは確かだ。

 

「わかった。なんで篁唯依になってるのかはよくわからないけどすぐ行くよ!」

 

 たしか京都防衛戦では篁唯依は生き残るけど他の訓練生や恩師が死んでしまう。そんな唯ちゃんのトラウマになりそうなことは避けたい。

 唯ちゃんが生き残る保証はないし状況もよくわからないけれど、すぐに合流しなければ。

 

『うん! すぐそばにポータル()いたよ!』

 

 唯ちゃんのビニフォンをマーカーにしてポータルを開いた。ちゃんと繋がったようだ。

 そのポータルの輝きを見てルイズも状況を察したらしい。

 

「い、行っちゃうの?」

 

「嫁が大ピンチだからね」

 

「わ、わたしも行くわ! コーイチはわたしの使い魔なんだからっ!」

 

 そんなことを言われても困る。

 むこうは危険すぎるし、こっちに戻ってこれるかもわからない。

 今は偶々どっかで世界扉(ワールド・ドア)が開いていてあっちと連絡できているだけかもしれないのだ。ワールド・ドアが閉じたら戻れない可能性だってある。

 

「これから俺が行くとこは化け物が犇く戦場だ。ルイズを連れて行くことはできない」

 

「妾はともに行くぞ、(なれ)の所有物だからな」

 

 ニヤリと笑うアル・アジフ。

 その言葉にルイズが反応する。

 

「ちょっと、所有物ってどういうことよコーイチ!」

 

「彼女は魔導書で……ってそんな説明している時間もない。しかたない、ちょっと離れてくれ」

 

 スタッシュから仮設シャワールームを出して中に入り〈分裂分身〉を行う。ここに入ったのはできたての分身は裸だからだ。

 

「コーイチ! なにしてるのよ!」

 

「ちょっと待ってってば」

 

 スワップアプリで早着替えしてすぐに出る俺たち。

 2人の俺に驚くルイズたち。

 

「コーイチが2人……偏在(ユビキタス)を使えるの?」

 

「いや、これは似てるけどちょっと違う。それよりもアルと……ティスはこれを持ってついてきてくれ」

 

「あたいも?」

 

 説明している時間すら惜しいので契約空間入りの接触判定をONにしてもう1人の俺と手を繋ぎ、俺はアルにもう1人はティスに同時に触れる。

 その瞬間、景色は白一色へと変化した。

 

「うまくいったか」

 

「そうだな」

 

 もう片方の自分と繋いだ手を離す俺たち。

 一方、アルちゃんはふむと頷き、ティスちゃんは驚いた顔を見せる。

 

「ここはどこ!? 妙な異空間に連れ込みやがってあたいをどうすりつもり?」

 

「どうもしない。ここなら時間の流れが違うからゆっくり説明もできるし、俺たちの準備もできる」

 

「ここは契約空間。使徒がファミリア候補と契約する場所だよ」

 

 2人の俺が説明すると、アルちゃんとティスちゃんは自分の付近に落ちていた紙に気がついた。

 

「それが契約書でもあるファミリアシート。ファミリア名の記入欄に名前を書けば契約完了となる」

 

「なってくれると助かるけど、契約してくれなくてもいい」

 

「使徒ってなにさ?」

 

「簡単に言えば修行中の神様の手下。ファミリアはさらにその手下」

 

 俺を使徒にした神様は駄神だ、って言いそうになるのをぐっと堪える。

 2人がファミリアになってくれることを願うからね。

 ……ルイズはファミリアにしたくないのに、アルちゃんとティスちゃんにはファミリアになってほしい。この違いはまさか、まだルーンの影響が俺の精神に残っている?

 

「あたいを手下に? 誰がなってやるもんか」

 

「ティスには特にファミリアになってほしいんだけど。キミの不幸を防ぐためにも」

 

「不幸?」

 

「キミがお母さんのためにって命を落とすことになるのを防ぎたい」

 

 スパロボRだと最後、ティスちゃんたちテクニティ・パイデスの3人は造物主であるデュミナスのために自分の命を差し出すんだよね。

 ロリっ娘がそんなことになるのは避けたいでしょ、やっぱりさ。

 

「ふん、あたい達にお母さんなんてのはいないよ」

 

「デュミナスは違うのか?」

 

「なぜそれを知ってる?」

 

 可愛い顔でギロリと俺を睨むティスちゃん。

 殺気もちょっと混じっているが嫁で慣れている俺にはたいしたものではない。

 

「ファミリアになってくれたら教えてあげる。あと、そうだな、そのお母さんの悩みも俺なら解決できるかもしれない」

 

 スパロボRのラスボス、デュミナスは自分の正体、というか不完全な自分の完全体を知りたいんだよね。

 そしてその答えを知るためにタイムマシンになる時流エンジンも狙うことになる。

 俺の〈成現〉なら創造主が望んだ完全体にすることもできるし、もし殺された創造主が成仏していないなら霊と会話させることができる可能性がある。

 

「本当か?」

 

「まだ信じられないだろ。信じられるようになったら契約してくれ」

 

「おい、そのホムンクルスだけか? 妾は勧誘せぬのか?」

 

 アルちゃんが不満そうに俺を見ている。

 ……アルちゃんだとうたわれのロリっぽいな。あの子は美羽ちゃんと仲良くなりそう。

 

「もちろんアルも契約してくれると嬉しい」

 

「妾は汝抜きにはこの姿を保てぬ身。断りようがあるまい」

 

 そこまでわかっちゃってるのね。さすが魔導書。

 MPを消費して〈成現〉しているから魔法扱いってことなんだろう。

 

「それに汝はかなりの資質を秘めておる。認めよう、妾は汝と契約する」

 

 そしてアルは素早く俺の頭を掴んでぐいっと寄せて唇を奪う。

 えっ!?

 眩い光に包まれる俺たち。

 

「我が名はアル・アジフ」

 

「って、そっちの契約じゃなくて! ファミリアの契約の方!!」

 

 油断した。いくら1/6になりたててで体の感覚がちょい微妙だとはいえ、まさか再び俺の貞操が強奪されてしまうなんて!

 あとルイズの時のように舌での返礼をする気にならなかったのは、やはりあの時既に召喚魔法による精神操作があったと見るべきかもしれない。

 

「うつけ、汝のような魔力量異常体を見逃す魔導書なぞおらぬわ。さらにもはや汝以外は考えられぬほどに魔力の波長も合うのだ」

 

「まさかの魔力(カラダ)目当て!」

 

 たしかに俺のMPはとんでもないことになっているけどさあ。

 ……いいか。デモンベインに乗った時に契約してたようなもんだし。たぶんその時に隠蔽していた俺のMPにも気づいたのか。

 魔力の波長も俺が〈成現〉したせいか、それとも無意識でそう改竄していたかのどちらかが原因だろう。

 

「既に名乗っているが俺は天井煌一。契約書の方も頼む」

 

「よかろう。これで煌一は妾の術者だ。心するがよい、最高位の魔導書の主人となったことを」

 

 さらさらとファミシーに名前を書くアル。

 これであとは俺の方の準備を済ませるのみ。

 

「どっちが残る?」

 

「俺が。アルと直接契約をしたお前は行くべきだろう。武御雷も持っていけ」

 

「そうか、そうだな。デルフリンガーはどっちでもいいか」

 

 俺の準備とは、分身内でのやり取りのこと。分身して数を増やしたのは片方がハルケギニアに残るからだ。ルイズのためもあるが他にも嫁さんが出現する可能性もある。連絡要員は残す必要があるだろう。

 

 スタッシュ内の持ち物も分けておかねばならない。

 武御雷は調査の結果、なぜか生体認証システムが作動しないようになっていた。考えてみれば内部に保管されていた皆琉神威を出すさいに操作ができたのだから当然か。

 メンテナンス用の設備も適当に〈成現〉し、充電は済ませてある。まだ跳躍(ジャンプ)ユニットの推進剤は用意していないが、むこうにいけば入手できるだろう。

 

「食料類は……半々だな」

 

「ああ。薬品も多目に持っていけ」

 

 双方ビニフォンでスタッシュ内を確認しながらの会話。分身同士ならばスタッシュから出さなくてもビニフォンだけのやり取りでスタッシュ間でアイテムを移動させることができる。

 

「よし、こんなもんか」

 

「それでは予想されるむこうの情報を説明するんでアルとティス、よく聞いてくれ」

 

「あたいの契約はいいのか?」

 

「してくれるんならスゴイ嬉しいけど、契約が完了するとこの空間が解除されてしまうからちょっと待ってくれ」

 

 この空間、解除されても表の時間は進んでないんで緊急会議には便利だから自由に使えればいいんだけどね。

 アルとティスちゃんにむこうがたぶんこうなってるってことと、BETAって宇宙生物の説明をした。

 ティスちゃんは契約してくれなかった。行き先が地球だって知ったからデュミナスの元へ帰れるつもりなのだろう。

 

「あっちにお母さんがいなかったら俺のとこへきてくれればいい。歓迎するよ」

 

「妾がおればこんなホムンクルスなんぞ不要だろうに」

 

「なんだとガキが」

 

 いやどっちも見た目が幼女なだけで実際は違うでしょ。

 ……ティスちゃんはどうなんだっけ?

 

「説明したろ、あっちの敵は多すぎる。人手はいくらでもほしい。それに俺はティスを助けたい」

 

「そんな時はこねえよ」

 

 だといいんだけどね。スパロボRとは違う展開になっちゃってきてるからその可能性もあるんだし。

 

 

 □

 

 

 契約空間を解除してすぐにもう一人の俺はアル、ティスとともに旅立ち、ポータルは消えてなくなった。

 だがむこうと連絡がつくならば行き来もできるようになるだろう。

 

「なにがどうなっているのよ?」

 

「俺はまだルイズの使い魔で、ここいるってこと」

 

 ルイズを宥めていると、青い髪の眼鏡少女が近づいてくる。

 

「さっきの子が魔導書? それに巨大ゴーレムを操ったあなたは何者?」

 

「……ルイズの使い魔さ」

 

 ううむ。目を付けられたっぽい。

 どうしようかね?

 

「タバサもダーリン狙いなの?」

 

「コーイチの好みを考えると強力なライバルね」

 

 たしかにタバサも可愛いですが。

 彼女の事情を考えるとそうも言ってられないわけで。

 タバサママの症状も万能の霊薬(エリクサー)でなんとかなるとは思うけど、それやったら後がメンドそうなんだよなあ。

 いっそのこと、ガリア王と話をつけてしまうか?

 

「魔導書なんて言って誤魔化さないで、どういう関係かはっきり言いなさいよ! ……奥さんじゃないのよね?」

 

「私の知ってる限りはコーイチの奥様にはいなかったはずよ。彼女もコーイチの好みだろうけど」

 

 さっきからモンモランシーの追撃が厳しい。そんなに俺をロリコンにしたいの?

 

 そうだよ!!

 でも最近は嫁たちのおかげでロリ専じゃないから!

 おっきいのもアリだから!

 

「本当にアルは魔導書なんだよ。本の精霊だと思ってくれればいい。魔術師(マギウス)と魔導書が揃って、さっきの鬼械神(デウス・マキナ)を操ることができる」

 

 デモンベインは正確には鬼械神じゃないらしいけどね。

 本物の鬼械神のアイオーンは1/6になってしまった俺じゃちょっと厳しいか?

 まあ、武御雷も持ってったし、なんとかなるでしょ。

 

「本の精霊……」

 

「ルイズの魔法の助けになるかなって考えていたんだけど……やっぱり杖の方がよかったかな?」

 

「わ、わたしのため? ……え、ええ。あんなヘンなのより、杖の方がいいわよ」

 

 よし、ルイズの虚無属性を無効化させる杖を〈成現〉しよう。これなら爆発もしないだろう。ルイズ以外に使えないように設定するとして、どれにするかが問題だな。

 無難にレイジングハートかバルディッシュかな?

 こっちじゃ杖無しの魔法は目立つから俺用にデュランダルを用意しておくのもいいかも。

 

 俺たちの会話にR勢の残った2人が交じってきた。

 そりゃ気になるよね。

 

「ここには魔法があるの?」

 

「そう。あの2つの月からもわかるようにここは地球とは違うし、もう1人の俺が行ったとこもキミたちの地球ではない。帰還するための情報は集めている最中だから、一緒に帰ろうね」

 

「は、はい。……よろしくお願いします」

 

 フィオナとミズホはとりあえずは宿に泊まってもらうとして、生活費をなんとかしないとな。

 フーケのこともあるしなにか商売を……出したままだった仮設シャワールームが目に入った。

 そうだな、湯沸し機でもコルベールに構造を説明して作ってもらって、風呂屋というのも悪くない。

 入浴剤はモンモランシーに協力してもらえばいいだろう。

 最悪、時流エンジンで湯を沸かせば……いや、エクサランスはしばらくスタッシュにしまっておいた方がいいか。

 

 あとはせっかくだからドリルも用意してもらおうかな。

 風石を掘り出すためのさ。

 

 

 □ □ □

 

 

 ポータルを抜けるとそこは地球だった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「唯ちゃん!」

 

 とびついてきた唯ちゃんを受け止めて抱きしめる。

 うん、俺の唯ちゃんだ。篁唯依ではない。

 黒髪や巨乳さんではないのだ。

 

「こんなにあっさりと異世界に転移してしまうとは」

 

「おい、なんだよここ?」

 

 アルとティスちゃんが感動の再会に水を差す。

 空気を読んでもう少し黙っていてほしかった。

 せめてキスなりをするまではさ。

 

「お兄ちゃん、ちょっと離れた間にもう新しい嫁の追加?」

 

「なぜそうなる。新ファミリアとその候補なだけだ」

 

「またまた、そんなこと言って。ねえ、2人ともお兄ちゃんと離れるつもり、ないんでしょ?」

 

「如何にも。もはやこの身はご主人様抜きではいられぬ」

 

 たしかにアルもMPで〈成現〉したから俺が成現時間延長しないといけないけど、言い方ってもんがあるでしょうが!

 

「ん? なんであたいが嫁ってことになんだ?」

 

「こっちは違う? でもまあきっとなるんだよね」

 

「いや、ティスはファミリアになってくれるかさえ未定なんだってば」

 

 なってくれると嬉しいんだけどね。

 それよりも俺はこの世界にきた途端に感じるものがあって。

 

「ここには他の俺はいないのか?」

 

「え? 連絡がついたのお兄ちゃんだけだったんだけど」

 

「そうか」

 

 なんか他の分身がいるような気配がある。

 でもちょっと違う?

 テレパシーで呼びかけてもハルケギニアに残してきた方からしか返事が返ってこない。

 なんだろう?

 テレパシーが使えない状態?

 

 まあいいか。

 それよりも今は唯ちゃんの衛士強化装備に注目するべきである。

 訓練生用のスケスケタイプなのだ!

 嬉しいけど俺以外のヤローにもこれを見られると思うと複雑。

 

「出撃は近いのか?」

 

「……うん」

 

「わかった。やばくなったら俺が乱入するから適当に誤魔化してくれ」

 

「それはまかせて!」

 

 そんな感じでこっそりと唯ちゃんたちを支援しようと初のマギウススタイルになってちびアルとともに隠れて見守っていた俺。

 ティスちゃんはデュナミスに会いに行くって行ってしまった。この世界にいるのかな?

 

「あれがBETAか」

 

「リアルで見ると余計に気持ち悪いな」

 

 SANチェックが必要な見た目だ。数も無茶苦茶多い。

 こりゃもう目立つの覚悟で隠さずにデモンベイン乗ってた方がよくないか、なんてそう思ってたらさ。

 

「アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

 なんで飛影がいきなり出てきてBETAを惨殺していくのさ?

 まさかこのまま戦術機と合体しないだろうな……。

 

 



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24話 死者復活(12番視点)

今回はカライ視点


 工場衛星の艦橋(ブリッジ)でシャロンから各施設の説明を受けた。

 

「フォールド機関、生命維持装置、各プラントも順調に作動中よ。フォールド機関の廃熱を利用した温水設備もいつでも使用可能ね」

 

 温水設備!

 ようするにこの工場衛星にはマクロスFの外伝小説に出てきた温泉旅艦の熱海みたいな温泉があるというのか。

 

「食料、医薬品は3年分が備蓄されてて、さらに増産中か。助かる」

 

 しかもこの3年分ってのは正規乗組員の人数で計算されたもの。それは今いる全員よりも多いのでさらにもつことになるだろう。

 ……俺たちの人数が少なすぎるのか。

 いくらオートメーション化が進んだ未来艦とはいえど、シャロンがきてくれなければ確実に人手不足だったようだ。神様、ナイスアシスト!

 

「ええと、アイシャはプラントで生産できる機体を確認。その後パイロットたちと相談して使用する機体を生産してくれ」

 

「了解。カライのはどうする?」

 

「俺のは後回しでいい」

 

 だって操縦なんてできないし。

 女の子たちの機体だってあくまで念のためだ。

 

「アクエリオンチームはアクエリオンの点検を頼む」

 

「アクエリオン? そう、知っているのですね」

 

「あれ、もしかしてまだアクエリアって呼んでいる段階?」

 

 EVOLの開始時点だったってこと?

 そうなるとミコノとクレアは面識がない……ようには見えないな。ちゃんとクレアがアクエリオンチームのトップっぽい。ユノハも透明になっておらず、ちゃんと姿が見える。

 だけどゼシカの服は前期型だな。どうなってるんだ?

 

「各自、所有している情報のすり合わせが必要か」

 

「そのようですね。木星の状況がある程度把握できたら総員、入浴。裸の付き合いといきましょう」

 

 クレアの言うようにたしかに温泉に入りたい。

 男湯は俺だけなので寂しい状況だろうが、この美少女たちに囲まれた状況よりははるかに気を抜くことができる!

 早くこの緊張感から解放されたい。

 

「シャロン、サキエルとシャムシェルの様子はどうだ?」

 

 すぐにブリッジの大画面モニターにサキエルとシャムシェルの姿が映し出された。

 誰がこれを撮影してるんだろ?

 え、シャロンが操作してるドローンがあるの? あ、そう。

 

 かなりの速度で木星を降下していく2体の使徒。

 だが、BETAには遭遇しない。

 ……木星にはまさかBETAはいないのか? ガス惑星だから?

 

 ハイヴがあるかもしれない木星の地表に到達するよりも先に過酷な環境によりドローンがもたなくなるとのことなので、2体(ふたり)には適当にBETAを捜索してもらう。

 マジでいなかったらポイント稼ぎのために火星の方へ行ってもらうべきだろうか?

 

「BETAがいるとすれば衛星の方じゃない?」

 

「あ、その可能性が高いか。シャロン、わかるか?」

 

 アイシャの発言になるほどと頷く。

 地球の衛星である月にもいるんだから木星の衛星にいてもおかしくはない。

 そっちに先に行ってもらえばよかった。

 

「イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストのガリレオ衛星でBETAの存在を確認しているわ。他の衛星は調査中だけどたぶんまだいるでしょう」

 

 やっぱりか。

 もしかしたら木星付近(ここ)って思ったほど安全じゃないかもしれない。

 

「この工場衛星の防衛設備は?」

 

 そう聞いたところで急に視界が真っ暗になってしまった。

 なんだこれ?

 まさかBETAの攻撃でもくらってしまって停電になりでもしたのだろうか。

 

「どこだここは!?」

 

 聞こえてきたのは特典で選んだ美少女たちの声ではなかった。転生する前の会議(?)で聞いたことのある声だ。

 逆に美少女たちの気配が感じられない。

 

 反射的に返事をしようとしてしまったが、聞こえているのが1番球の声だったので黙って様子を見ることにする。

 声の方に意識を集中すれば、会議の時にちらっと見えたやつの姿があった。

 

「気配は感じている。姿を見せろ」

 

 でも会議の時と感じが違うような?

 目つきもより悪くなっている気がする。

 もちろん返事なんてしない。

 

「そうか、ここが神とやらが言っていた12番のところか」

 

 げっ、なんか妙に鋭くないか?

 だけど意地でも反応はしてやらない。

 

「いるのはわかっている。はやく俺を生き返らせろ!」

 

 怒鳴られた。

 っていうか、もう死んだの?

 だから俺のとこへ運ばれてきたのか。

 死の8分ってマブラヴではいうけどさ、いくらなんでも早すぎないかね。

 

 ああ、ここはもしかして生き返らせるための場所?

 神様は俺のとこへって言ってたけど、工場衛星に運ばれてくるわけじゃないのかもしれない。ナイスだ、神様!

 これで俺の情報を与えずにすむ。

 む、1番が俺を見つけられないのは俺の情報を〈独占〉しているのがまだ効いているのか。

 

「くそっ、美久さえいれば……」

 

 ふむ。光球なしのグレートゼオライマーで戦闘して、やられちゃったワケね。

 ……美久のことを知ってるってことはまさか、木原マサキの人格を上書きされちゃっている?

 面倒な。やつは性格が悪いけど頭はいい。たぶん素の1番よりも性質(たち)が悪い。

 美久を〈独占〉していてよかった。でなければ1番マサキの操作によってグレートゼオライマーに持っていかれてただろう。

 

「12番!」

 

 うるさいなあ。

 こいつ、死んでた方がいい気がするんだけど。

 死因に俺のせいがちょっとはあるかもしれないけど、俺にそうさせたのはこいつだし。

 

 うーん。

 仕方ない、〈死者復活(条件アリ)〉の実践テストということで生き返らせてみるか。

 

 〈死者復活(条件アリ)〉を使おうと意識すると、目の前に転生会議の時みたいなウィンドウが現れた。真っ暗だけどちゃんと読める。

 なるほど。

 復活させる死者を選ぶと、さらに復活させるために引き換えに失うものを選べるのか。

 

 どれどれ……むう、あの時はこいつが選んでなかったはずの〈格闘〉や〈射撃〉、〈操縦〉なんてスキルを持っている。しかもそのレベルが高い。

 たしか1番はシロガネクルーを特典で選んでいたから、そいつらから〈強奪〉しやがったな!

 

 ここで選ぶのはこれしかないだろう。

 〈強奪〉を生贄に1番を蘇生!!

 あ、復活場所も選べるんだっけ。ええと……死んだ場所でいいか。

 

 これでどうだ?

 ……1番マサキがいなくなった。

 ふう。上手くいったようだな。

 って、どうやって俺はここから出るんだ?

 

 悩みながら試していたら自分のステータスを確認できるウィンドウが開いた。〈死者復活(条件アリ)〉の解説を見ればわかるかな。

 むむ、レベルが2だ。〈独占〉も2レベルで〈無効及びカウンターを無効〉が1レベル。もしかしてレベルアップした?

 とにかく解説を見てみよう。

 

******

〈死者復活(条件アリ)〉スキル

 レベル:2

 死者を復活させる。死因となった怪我や病気も完治する。

 復活場所はある程度選べる。

 復活する死者は引き換えに特典や能力を1つ失う。

 このスキルを自分に使うことはできない。

 死んでから3日以内の死者にしか使うことはできない。

 1日に2回使うことができる。

 残り使用回数:2

******

 

 レベルと復活可能な期間、使用回数の説明が増えているな。

 だがおかしい。

 残り使用回数が減っていない?

 ……レベルアップしたんでフル回復したのかもしれない。

 もっとテストしてみたいが、今はこの暗黒空間から脱出できないと落ち着かん。早く工場衛星に戻りたい!

 

 ……おや?

 明るくなっている。

 

「……門の対空砲、ピンポイントバリアシステムも充実しているから、並の戦艦よりもよほど強固な防衛を誇っているわ。もちろん、それらを操作するのはこのあたし」

 

 さっきの質問にシャロンが答えてくれていたみたいだ。

 だとするとそんなに時間が経っていないのか。

 

「ありがとうシャロン、危険が迫ったらよろしく頼む」

 

「ふふふ。カライが楽しめるような危険が早くこないかしら」

 

 勘弁して。

 それよりもまず確認することがある。

 

「地球の情報を教えてくれ。特にグレートゼオライマー関連を」

 

 そう言った次の瞬間、また視界が真っ暗になって。

 俺は再び暗黒空間にいた。

 

「貴様、なんであんな場所で生き返らせた!」

 

 1番マサキが怒鳴っている。

 もう死んだのか。

 そりゃ嫌がらせに決まっているじゃないさ。死んだ場所で復活したらどうなるかのテストも兼ねてね。

 

「今度は安全な場所で生き返らせろ!」

 

 まったく、ナニ様なんだか。

 復活させないでここにこのまま放置したらどうなるかテストしてみるのもいいかもしれない。

 まあでもその前にこれを試しておくべきか。

 

 木原マサキの人格を生贄に1番を蘇生!

 復活場所はクロガネ内。

 

 おお! いなくなった。

 これでよし、と。

 毒抜きが済んだ1番はチョットは感謝してくれるだろうか?

 そんなこはどうでもいいか。

 少しでも活躍して俺の安全のために貢献してくれればいいのだよ。

 

 せっかくなのでウィンドウで確認してみるとちゃんと残り使用回数が1つ減っていた。やはりさっきレベルアップしたと見ていいだろう。

 残り1回か。誰か生き返らせるのもアリかな。死後3日以内にしか使えないから早いうちに使った方がいい。

 今日の分は無くなるけど明日になればまた使えるようになる。いくらなんでもすぐに転生者たちが死亡するってことはないと信じたい。

 1番?

 それこそ放置実験ができる。

 

 〈死者復活(条件アリ)〉を使うと決めたら、ウィンドウにずらっと名前が表示されていく。これ、もしかして全部死者なの?

 これで3日以内?

 こんなに多いのか……。BETAのせいで死んでいるの?

 

 むうう、これじゃフィルターをかけないと選べないな。

 若い女性だけにして……それでもまだまだ多い。

 条件追加、俺が知ってる名前……こんな条件も選べるのか。検索機能スゲエ。

 というか、死んでるのかこの人物は。

 

 エクセレン・ブロウニング!

 スパロボの有名キャラじゃないか。

 なんで……ああ、1番の特典のシロガネクルーにATXチームも含まれていたのか?

 

 かなり有能な人物だと思ったんだけど1番の特典のゲシュペンストではその力を発揮できなかった……ってステータスを確認したら〈操縦〉や〈射撃〉のスキルが無い!

 1番のやつ、エクセレンからスキルを強奪したんだな。それなら出撃させるなよ。

 

 どうしよう、復活せさるべきだろうか?

 だけど特典で追加された人物ってその特典の主への好感度が高い。

 復活させてもまた1番にいいように使われて死んでしまうかも。

 

 今日復活できるのはあと1人だけだから迷う。

 助けてあげたいのは確かなんだが……。

 1番め、余計な悩みを追加してくれる。あいつ、生き返らせるんじゃなかった!

 

 いいか。試すだけ試してみよう。

 1番への好感度を生贄にエクセレンを蘇生!

 

 へ?

 できちゃうの?

 よし!

 ちょうどエクセレンの魂らしきものが現れたので話してみることにする。

 

「あー、エクセレン、聞こえる?」

 

「ええ。聞こえてるわ。ここどこ?」

 

「死者蘇生空間だ」

 

 適当に名づけてみた。間違ってはいないだろう。

 エクセレンにはアインストではなく俺の協力者になってもらおう。

 具体的には1番の監視役だ。

 

「キミは死んだ、わかるね?」

 

「死んじゃったかぁ。いつもと全然調子が違ってたのよね」

 

「それはキミの能力を剛田に奪われていたからだ」

 

 1番は剛田ツヨシ。名前を変えていなければエクセレンにも通じるはず。

 特典で仲間になった人物は名乗らなくても名前を知ってるかもしれないし。

 だって、うちの美少女たちはみんな俺のことを知っていた。

 

「ふーん。そんなことできたのか、あいつ」

 

「その能力を戻すことはできないがキミを生き返らせることはできる。どうする?」

 

「わお!」

 

 生「わお」、いただきましたー!

 うん。やっぱりエクセレンを復活させたい。

 

「了承と受け取っていいな」

 

「もちろん!」

 

「その代わり……」

 

「やっぱタダってワケじゃないのね」

 

 逆にタダで復活なんてしてもらったら怖いと思うのだが。

 俺たちだって転生の代わりにBETA退治させられてるんだしさ。

 

「時々、剛田の情報を流してくれればいい。できればやつの迷惑な行動を阻止してもらいたいが、そこまでは望まない」

 

「あいつは死んだわ……そう、あいつも生き返ったのね?」

 

「うん。だから頼む」

 

 断られても蘇生はしよう。ただし、この工場衛星内にね。

 シャロンがいればエクセレンが工場衛星から通信を使うこともできないんで問題はない。

 

「了解~!」

 

「はやっ。もう少し悩まないのか?」

 

「今考えるとなんであんなに剛田を信じていたのかわからないのよね。あんたの方がまだ信用できそう」

 

「それはどうだろう。まあいい、もしその気なら適当な通信設備にキーワードを入れてくれればこちらと通信可能だ」

 

 俺の特典の1つである、地球の全放送及び全通信をリアルタイムで送受信できる設備ならばそれができる。

 ……携帯からでもできるかな?

 

「キーワードは?」

 

「牛乳とトイレットペーパー買ってきて」

 

「わお、それなら咄嗟の時にごまかしやすいわね」

 

 いや、ボケただけだから!

 ツッコミ待ちだったのに。

 

「な、ならば俺のことは兄さんと呼ぶがいい」

 

「はいはい、兄さんね」

 

 またボケをスルーされて……しまった、どうせだったらロム兄さんと名乗ればよかった!

 

「それではエクセレン、幸運を祈る」

 

「またね、兄さん」

 

 復活場所はクロガネでいいかな。他のシロガネクルーらしき人物は死んでないようだし。

 うん。無事に復活成功したみたいだ。

 復活と引き換えに失うモノって、本人にとってマイナスなモノでもいいみたいだな。あとで神様がバランス調整しなければいいけど。

 ステータスを確認してみるか。

 

******

〈死者復活(条件アリ)〉スキル

 レベル:3

 死者を復活させる。死因となった怪我や病気も完治する。

 復活場所はある程度選べる。

 復活する死者は引き換えに特典や能力を1つ失う。

 このスキルを自分に使うことはできない。

 死んでから5日以内の死者にしか使うことはできない。

 1日に3回使うことができる。

 残り使用回数:3

******

 

 おお、死者復活がレベルアップしているな。熟練度かなにかあって使うことでレベルアップするのかもしれん。

 復活可能な期間が伸びた。使用回数も増えて残りもフル回復している。

 これは嬉しいな。もしかしてスキルのレベルアップってしやすい?

 

 こうなったらレベルが上がるとこまでレベルアップさせてみるか。

 どうせ今日はさっきので打ち止めのつもりだったんだから問題は無い。もしも必要な事態になったとしても明日になれば使用回数も回復しそうだから、その時でいいだろう。

 さ、じゃ誰を生き返らせるかまた悩むとしますか。

 やはり女性優先だろう。マブラヴ世界には可愛い娘が多い。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 あれからそこそこの人数を生き返らせた。転生者とその関係者がいないのは喜んでいいだろう。

 選んだのは日本人が多い。復活場所も悩んだが、まだ工場衛星にきてもらった再生人間はいない。同じ安全な場所を指定して蘇ってもらっている。

 失った能力のことと、生き返らせたのは偶々だからこれ以降復活できるとは思わないようにと注意をして。

 たぶんあっちじゃ騒ぎになっていることだろう。蘇生者も色々と調べられるかもしれないが、うまくやってほしい。

 

 スキルの方はこうなった。

 

******

〈死者復活(条件アリ)〉スキル

 レベル:10

 死者を復活させる。死因となった怪我や病気も完治する。

 復活場所を選べる。

 復活する死者は引き換えに特典や能力を1つ失い、それを貰うこともできる。

 このスキルを自分に使うことはできない。

 死んでから100日以内の死者にしか使うことはできない。

 1日に20回使うことができる。

 残り使用回数:0

******

 

 10レベルでカンストなのか使い切ってもレベルアップはしなくなったが、かなり使えるようになった。

 特に復活と引き換えに失うモノなんだけど、10レベルになった時に解説が変化。それを俺が貰うことができるようになってしまった。むっちゃチートじゃないですか!

 これは絶対に手に入るワケではなく、いらなければそのまま消失となるのでマイナス効果のモノを選んでも俺が困ることはない。

 復活させた子のほとんどでマイナス効果のモノを生贄にして生き返らせたんだ。多くがBETAや戦闘へのトラウマを持ってしまっていたからそれを使ったよ。

 

 これなら他の転生者の役にも立てるだろう、うん。

 さて、そろそろあっちに戻りますか。

 

「中国地方で戦闘していたグレートゼオライマーはBETAに撃墜されたわ。そのせいでクロガネは戦闘を中止、展開していた部隊を回収しながら撤退中ね」

 

 工場衛星に戻るとシャロンが話している途中だった。

 撤退ってどこへ引き上げるつもりかな。

 日本で戦っていたみたいだから他の転生者と合流できればいいんだろうけど、1番と会うのをよしとしないか。〈強奪〉されたら嫌だもんな。

 

「あら、指揮官である転生者は生き返ったようね。これはあなたでしょう?」

 

「ああ。それも知っていたか。他の転生者たちは?」

 

「ほとんどが日本で戦っているわね。京都に向かう者が多い」

 

 違うのはたぶんソ連軍将校のトルストールだろう。もしかしたら悟空も修行していて日本には行ってないかも。

 集結は京都か。……京都?

 

「シャロン、今現在って西暦何年なんだ?」

 

「1998年よ」

 

「BETAの日本侵攻が真っ最中なのか!?」

 

 てっきりマブラヴのスタートである2001年かと勝手に思い込んでいたんだけど、それより前だったのね。

 他の転生者たちもそれに気づいて京都へ向かっているというワケか。

 

「みんなががんばれば京都を、いや、佐渡島と横浜にハイヴを建設させないこともできるか?」

 

 だがそうなると横浜基地なんてできなくなる。香月夕呼が困ることになるような。

 鑑純夏も陵辱されて脳髄になることもないかもしれない。白銀武はどうなる?

 

「白銀武と鑑純夏の情報は入っている?」

 

 白銀武の双子の弟に転生したやつがいるから、通信に名前が出ているかもしれない。

 

「そう、うちの子たちよりも他所の女の子が気になるのね」

 

「カライ?」

 

 シャロンの台詞によってブリッジの気温が下がった気がする。美少女たちの視線がまるで俺を攻撃しているかのようだ。

 もしかしてみんな怒っている?

 まさか嫉妬? そ、そこまで好感度高いの、俺?

 ふう、さっきエクセレンの1番への好感度を消滅させておいてよかったよ。

 そんな様子を微笑んで見ている立体映像のシャロン。

 

「ご執心の2人の少女はどちらも無事よ。よかったわね」

 

「そんなんじゃないから! ……2人の少女?」

 

 はい?

 少年と少女じゃなくてどっちも少女なの?

 白銀武(タケルちゃん)も女の子ってことなのかね。

 

 



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25話 白銀武

 マブラヴシリーズの1998年7月31日に始まる京都防衛戦。

 BETAに西日本を制圧され、本州中部への侵攻を防ぐための戦い。

 1ヶ月近く激戦が繰り広げられるが結局、京都まで制圧されてしまう。

 

 唯ちゃんたち嵐山補給基地警備中の学徒兵も多くがこの日の夜の戦いで命を失うはずだったのが現在、謎の小型機飛影の乱入により死の8分間は余裕で突破して無事、という大幅に違う状況となっていた。

 

「飛影って実際見ると小さいなあ」

 

 細身なせいもあるけどATよりも小さく見える。

 そんな小型機が空中で光線(レーザー)級の光線をありえない機動で回避し手裏剣で的確に反撃。鎖分銅で自分の何倍も大きい要撃(グラップラー)級を振り回し、突撃(デストロイヤー)級の群れはマキビシランチャーをばら撒いて一気に殲滅していくのだから、ニンジャリアリティショックが多発するのも当然というところだろう。

 

『あの大きさ、強化外骨格?』

 

『なにあれ、空中で消えた?』

 

『そんなちっちゃい銃で突撃級の装甲が……一撃ぃ?』

 

『違う、撒菱(まきびし)は直接当てるものじゃない!』

 

 全開放(オープンチャンネル)の通信機から流れてくるのはそんな声ばかりだ。

 隊長クラスになると正体や所属を問い合わせていたりするようだが。

 

「妾たちの出番、あるのか?」

 

「うーん、現場が混乱しちゃっているからデモンベインはちょっとマズイかも」

 

 この上さらに謎の巨大機の出現なんて混乱に拍車をかけるだけだ。

 かといってこのままだと浮き足立った学生に犠牲者が出るかもしれん。

 ならば仕方がないか。

 

「アル」

 

「うむ」

 

 アル・アジフの力を受けてマギウススタイルになった俺はスタッシュから武御雷を出してちっちゃくなったアルとともに乗り込んだ。

 マギウススタイルになったのは副座ではないのでアルと同乗するためと衛士強化装備の代わりである。真桜がいればコクピットをGXギアに対応させてもらうんだけどね。

 

 武御雷は唯ちゃんに頼んでこっそりと跳躍(ジャンプ)ユニットの推進剤補給も済ませている。網膜投影のヘッドセットも借りたので稼働に問題は無い。

 ……これのために眼鏡を外すことになってしまった。眼鏡以外の祝福封じ装備があるから大丈夫なはずだがかなり不安だ。

 一応、唯ちゃんのこっちの同級生に眼鏡なしの顔も確認してもらったが嫌悪感はないと言っていたのでそれを信じるしかない。

 もしかしたら1/6になったことで呪いも1/6になったのかも?

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

「ボクの婚約者だよ。かっこいいでしょ」

 

「なん、だと」

 

 篁唯依のライバルで親友の山城上総(かずさ)には睨まれてしまったが、これは祝福(のろい)のせいではない。

 同じく友人の能登和泉、甲斐志摩子、石見安芸からは色々と質問を受けそうになったが戦時ということで戦いが終わったらと誤魔化した。

 

 

 △ △ △

 

 

「あの子たちを死なせるわけにはいかん」

 

「女子の前でいいかっこをしたいだけではないのか?」

 

 網膜投影装置はないが、なぜか外の様子がわかるらしいアルはそう言いながらも周囲の警戒中で俺のサポートをしてくれている。……まるでダンバインの妖精枠だな。

 

「こいつらマジで危険なんだってば。数もやたらに多いし」

 

 飛影が討ちもらした突撃級BETAの突進。それが学生たちを襲わないように斬り伏せる。

 突撃級はやたらに強固な装甲殻を持ち級名のとおりの突撃を得意とするが、武御雷の74式近接戦闘長刀にて装甲殻ごと突撃級を横一文字斬り。見事に真っ二つである。刀の勢いを殺さぬままに数体の突撃級を次々とスライスしていく。

 この戦術機用の長刀も武御雷と一緒に保管されていたものだが、もちろん固定化の魔法がかけられており、若干強化されていると言ってもいい。

 

「こうも戦えるとは……ルーン消さない方がいいか?」

 

 高性能でも操縦に慣れてない戦術機、しかも1/6に弱体化してしまった俺がこうまで戦えるのはマギウススタイルで強化されているのと、ガンダールヴのルーンあってのことだろう。

 

『あ、あれは武御雷? もう完成していたのか?』

 

『紫? ……え、えええっ!?』

 

 一部さらに混乱が広がってしまったようだ。謎の戦術機はともかく、紫はまずかったか。

 それを唯ちゃんがフォローしてくれる。

 

『落ち着いてみんな! あの戦術機と小型機は斯衛軍でも極秘の隠密部隊!』

 

『隠密部隊? で、でもなんで紫なのよ!』

 

『あれは影武者。そう、影将軍! 影武者とはいっても将軍の前で無様な姿を見せるつもり? ボクたちの力を見てもらうんだよ!』

 

 すらすらと適当なことを言うのはさすが快盗というべきか。……怪盗の方だっけ?

 というか隠密部隊って飛影も一緒の扱い? まさか唯ちゃんもそう認識してるんじゃないだろうな。

 

「あのニンジャロボと通信が繋がったぞ」

 

『何者っ!?』 

 

「いやこっちの台詞なんですが」

 

 アルがなんとかむこうとの回線を開いてくれた。

 

『敵ではないのか』

 

「BETAなわけがないだろう。それとも他に敵がいるのか?」

 

『……危険なやつがいる。どうやら学生たちはこっちを誤解している様子。誤解ついでにこのまま共闘といきたいがいいか?』

 

「了解。身体がもつようならそっちはそのまま光線級を重点的に狙ってくれ。俺は学生たちを護る」

 

 飛影は無人で戦っているわけではないようだ。だとすれば身体に負担がかかるって設定あったよな、たしか。

 通信しながらも光線級がしとめられていくのでその心配はないのかもしれんけどさ。

 

『そこまで知って』

 

『大阪に小型機が多数出現! 黒の騎士団を名乗り、BETAと交戦中!』

 

「……トビカゲ=サン、これ知り合いか?」

 

 黒の騎士団ってあれだよな。

 小型機ってことはナイトメアフレーム(KMF)か?

 

『一応。こいつはたぶん敵じゃない』

 

「こいつは、ってまだ他にもいるのか?」

 

『どうやら来たようだ』

 

 俺の〈感知〉にもまたBETAや戦術機とは別の反応が引っかかった。

 今度は戦術機と同じくか大きいぐらいだがビーム兵器を装備している機体だ。

 

「ヘビーメタル? ってエルガイムMk-IIじゃないか!」

 

 エルガイムMk-IIとエルガイム、それに赤いディザードの3機のヘビーメタルが現れ、やはりBETAをがんがん倒していく。

 そういやディザードも飛べたっけ。もしかして光線級がいなくなるのを待っていたのか?

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 付近からBETAがいなくなったので嵐山補給基地に戻って謎の勢力とご対面。

 この基地もモビルスーツ(MS)部隊が出現し無事だった。しかもその母艦はエターナルときたもんだ。

 ガンダムSEEDかよ!

 

 見つからないように素早く武御雷をスタッシュに収納してマギウスタイルを解除。ヘッドセットも外して、やっと眼鏡装着。

 ふうぅ、落ち着く。

 マブラヴで油断してると危険なのは例のトラウマシーンで嫌と言うほどわかっているつもりだけど、俺の〈感知〉には地中も含めて生きたBETA(やつら)の反応はなかった。

 

「唯ちゃんも着替えたか」

 

「うん。さっきの誤魔化しもばれてるけど、あの場合は仕方ない判断だったかもしれないってことになりそう。これからの会談次第だけどね」

 

 飛影とエルガイム、種の連中は篁唯依を指名して接触を図ってきた。

 トータル・イクリプス(TE)ヒロインの篁唯依に会おうとしている?

 でなければおかしい。譜代武家の出身だけどまだ訓練生の彼女を指名するなんて他の理由が思いつかない。

 

 この嵐山補給基地には現在、エルシャンクとターナが停泊中だ。

 折鶴みたいなエルシャンクは京都には似合うかもしれんけど、ターナとともに巨大なのでどっちも着陸させるわけにはいかず空中にいる。

 エターナルは使者とその愛機だけ残して別の戦場に向かっていった。

 黒の騎士団は他のやつと話し合いの場を取ったようだ。

 

 あ、俺の嫁の白蓮もこの世界にいることがわかった。

 さっき連絡がついたばかりだ。

 

『よかった、煌一か?』

 

「うん。白蓮も無事か?」

 

『無事と言っていいのかどうか……とにかく私は白銀武(しろがねたける)ってことになっている』

 

「そっちもか!?」

 

 白蓮は今、唯ちゃんと同様に白蓮の記憶だけではなくBETAのいるマブラヴ世界の白銀武として生きてきた記憶も持っていた。

 周回したり、BETAのいないマブラヴ世界の白銀武の記憶はないようだ。因果導体の白銀武ではないということだろう。

 唯ちゃんと同じく日本の危機とついでに身近な異常事態で白蓮としての記憶が目覚め、ビニフォンで連絡をしてきた。

 

『なんか弟が変なこと言い出してさ、止めたんだけど戦艦に乗って行ってしまったんだ』

 

「弟? ええと……公孫越、だっけ?」

 

『いや、こっちの世界、白銀武の双子の弟だよ』

 

 そんなんいたか?

 むう、俺の知っているマブラヴ世界と違うのか。ゼロ魔と繋がっているし……まさか才人が双子の弟とかないよな?

 

『ややこしいことに同じ武って字でタケシって読むんだ』

 

「たしかに紛らわしい」

 

『タケシは私が女だって事に驚いて、さらに鏡を見てショックを受けていたところにラジオでBETA戦のことを聞いて俺は行くって言い出して……』

 

 唐突に出現した飛行戦艦と合流して飛んで行ってしまったと言う。

 咄嗟にビニフォンで撮影したという画像を送ってもらうとそれは。

 

「バイク戦艦?」

 

『え、これバイクなのか?』

 

 ああ、白蓮は2面での勉強会はあまり出てないか。

 飛行形態だとタイヤが分割されて開きになっているからバイクには見えないよね。

 

「この輪っかが艦の下でくっついて2つのタイヤになってね、地上を走行して巨大ローラー作戦を行うんだ」

 

『……正気の沙汰とは思えない戦艦だな』

 

「だけど強いんだよ」

 

 モトラッド艦にはGジェネでお世話になった。

 ビームシールドも持っているしBETA相手にも強い艦だと思う。BETAの群れ相手でも地ならしで無双できそう。

 なんで白蓮の弟がそんなのに乗って戦場へ行ったのかは疑問だけど。

 

「とにかく白蓮、こちらが落ち着き次第迎えに行くけど、それまでは自分と鑑純夏の安全を最優先でいてくれ。いざとなったらロボを使ってもいいから」

 

『純夏のことも知っているのか』

 

「わりと重要人物なんだよ。詳しいことは合流後に教える。護ってやってくれ」

 

 彼女のことがなければすぐにでも白蓮と合流したいのだが、まだどこが安全だとも言い切れない。白蓮には純夏の護衛をしてもらおう。

 

『わかった。そっちももし弟のことを見かけたらよろしく頼む。外見は黒髪の私だ』

 

「本当に気をつけてくれ。なにかあったらすぐに連絡をするように」

 

 白蓮が白銀武……唯ちゃんと唯依、白蓮と白銀。名前が似ているというのは偶然か?

 唯ちゃんは剣魂開発者の娘で唯依姫は戦術機開発関係者の娘、白蓮は強引に結びつければメインヒロインに懐かれているという共通点もあるが……。

 全く持って状況が不明だ。

 

 あ、篁唯依の親父さんて74式近接戦闘長刀も設計していたんだっけ。刀か。ますます唯ちゃんの親父さんとの共通点があるな。

 あとアメリカにTEの主役である息子がいて……。

 

 まさかユウヤ・ブリッジスが結花か由真ってこと?

 

 



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26話 帝都燃ゆの頃の使い魔さん

 エクサランスはスタッシュに収納、フィオナとミズホは金を渡して宿に泊まってもらい、俺たちは学園に戻った。

 ロングビルがフーケなのは捜索参加者には黙ってもらうことにする。あとで埋め合わせは必要だろうけど、まあなんとかなるだろう。

 破壊の杖も無事に取り戻しているから、学院側もそんなに追求しないだろうし。

 

 学院長室での報告。

 フーケの正体も巨大ロボの出現も話さない。

 破壊の杖を取り戻した、フーケはいなかった、でおしまい。

 

「すみません。フーケの捕縛よりも生徒の安全を考慮しました」

 

「よい。ミス・ロングビルの判断は間違っておらん」

 

 そりゃそうだろ。生徒になにかあった方が問題だっての。

 フーケを捕まえてないからかシュヴァリエの爵位申請もないようだ。どうせ貴族ではない俺には関係ないし。

 その後、一人学院長室に残された俺は破壊の杖のことを聞かれ、小説どおりに答えた。学院長に看取られた兵士は「BETAと戦っていた」とも言っていたそうだからマブラヴ世界からきたと見て間違いはあるまい。

 柔志郎の担当世界があっぱれ対魔忍な世界だったように、こっちはマブラヴゼロ魔世界なのかも。

 テニスの点数っぽくMuv-(ラヴ)魔世界ってとこかね。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 今夜は小説どおりにブリッグの舞踏会。

 特訓されたので踊れないこともないがそんな気分にもならず、才人の行動をなぞる様にバルコニーにてシエスタのくれた料理で一杯やっているのであった。

 違うことといえば、そばにはルイズ、タバサ、キュルケ、モンモランシーがいるということか。

 タバサも料理を持ち込んでいる。ハシバミ好きね。かなり癖のある食材だけど流琉ちゃんなら美味しく料理してくれそうだな。

 

 仕事中だがシエスタもチラチラとこちらを気にしている。

 彼女が誰に似ているかずっと気にしていたのだが、()からのテレパシーで判明した。世界扉(ワールド・ドア)がまだ開いたままなのか、あっちの世界とも連絡ができるのはありがたい。

 

 で、シエスタだが彼女は白蓮に似ているのだ。

 連絡があった唯ちゃんだけではなく、白蓮もあっちで見つかった。しかも白銀武と融合しているらしい。

 ついでに忍者戦士やヘビーメタルも出てきている。

 Muv-0魔世界かと思ったら当初の予定どおりスパロボ世界なのかね?

 

 他の嫁さんもこっちよりあっちに現れそうだな。

 唯ちゃんと白蓮はあっちの人間と融合していてその相手は名前繋がりっぽい。白蓮はやや強引な気もするが、タイムスリップする前の華琳ちゃんの言葉「名は体を表す」とはこのことではないのだろうか?

 そうなると、ある程度予想できるかもしれん。

 

 マブラヴのヒロインの御剣冥夜が冥琳と、鑑純夏は夏侯姉妹のどちらかってのもありそう。彩峰慧は文、月詠の2人は月ちゃんでも詠でもありえる。もしくは詠美?

 涼宮茜は朱金か? 社霞の霞はちょっと考えたくない。

 あとは……ゆきかぜちゃんの母親、不知火と同じ名前の戦術機があるけど、これはちょっと無理があるだろう。

 

 とっさに思いつくのはこんな感じか。

 中の人で考えればもっといるかな?

 

 あっちの俺が感じている他の俺の気配も気になる。俺ならばテレパシーが繋がるはずなのだが……。

 まさか、あっちの世界の俺、なのだろうか。

 マブラヴ世界の俺って普通に考えたら死んでいそうだけど、やっぱり名前で?

 ()武院……ないな、うん。

 嫁さんの華琳は華琳ちゃんとは別の世界で自分と会い、そして俺と同じ存在もいると確信したけれど、あっちにいるんだろうか?

 

 華琳、なにしているかな。早く会いたいなあ。

 彼女と融合してそうな相手はいない、よな?

 ……あ!

 

 あっちじゃなくて、このゼロ魔世界に名前で考えるとやばいのがいるじゃないか!

 烈風の騎士姫、カリン・ド・マイヤール。

 つまりはルイズの母親カリーヌだ。

 年齢もかなり違うし、人妻だなんて……頼む、違ってくれ!

 

「コーイチどうしたの? 顔色が悪いけど」

 

「ルイズの母親のことで……」

 

「母さま?」

 

 もし、もしも、ルイズママと融合なんかしちゃってたら俺はルイズパパを許すことなどできないかもしれない。

 

「あ、ああ。ルイズのお母さんって……ルイズと同じ髪の色なんだよな?」

 

「そうよ。この髪は母さまゆずりなんだから」

 

 とりあえず、ルイズが知る限りは融合してないか。

 あっちの俺の情報だと融合しちゃっても外見は俺の嫁さんのままっぽいもんな。

 俺の華琳がルイズを出産したということはないのだろう。

 

「ダーリン、まさかヴァリエールの家が気になるの?」

 

「誰がダーリンだっつの。すごい魔法使いだっていうからちょっと気になっただけだよ。貴族に興味はない」

 

「わたしも気になる。あなたはどんな話を聞いたの?」

 

 む。タバサちゃんがくいついてしまったか。

 この子の二つ名は『雪風のタバサ』だけどゆきかぜちゃんではないよな。どっちもちっちゃいけどさ。

 さて、どう誤魔化したものか。

 

「ヴァリエール夫人はまだ喋らないくらい幼いルイズの前に玩具と杖を並べて、どちらかを選ばせた。ルイズは杖を選んで無事だったけれど、その時に玩具を選んでいたらルイズはこの世にいなかっただろう、って噂されるぐらいの厳しい魔法使い」

 

「母さまはそんなことしないわ! ……たぶん」

 

「たぶんなの? さすがね」

 

「コーイチ、母さまに挨拶に行きたいって言うなら……」

 

 誤魔化すどころか藪を突っついてしまったようだ。

 慌てて否定する。

 

「言わない。平民の俺が行ってどうするよ」

 

「そうよ。ヴァリエールよりもうちにくるといいわ、ダーリン」

 

「ツェルプストーも貴族でしょ! コーイチは絶対に渡さないわよ!」

 

 キュルケは俺のことをダーリンって呼んでくるけど、ルイズの使い魔だからってのが大きいのかね。

 

「ちょっとぐらいいいじゃない。口止め料と思えば」

 

「あのゴーレムのことも聞きたい」

 

「欲張りね、あなたたち。コーイチ、私ができることなら協力するわ」

 

 むう。

 モンモランシーの協力は嬉しいけど、キュルケとタバサの口止め料はどうしたもんだろう?

 タバサが一番喜ぶのは母親の治療なのはわかっているんだけどさ。キュルケのはわからん。

 

「ありがとうモンモランシー。秘密のお礼はなんか考えておくよ」

 

「もちろん、わたしにもよね!」

 

 ルイズは魔法を使えるようにするしかないだろうな。

 それとも俺の代わりの使い魔?

 才人がいたとしてマブラヴ世界出身だとどんなヤツになるんだろ。

 

 む!

 夏侯妙才……秋蘭の字が妙()だったからって()人と融合してるなんてないよな?

 むこうの俺に確認してもらった方がいいかも。

 使い魔召喚はそれまではやめておくか。

 そうなるとやはり杖だよなあ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「これはなに?」

 

「アニメっていって絵を高速で切り替えて動いているように見せているんだ」

 

 擬似契約空間内。ビニフォンで動画を見せながらルイズに説明する。

 今夜もベッドに誘われて、酔っていたせいか押し切られてしまった。……泣くのはズルイですよ。

 ネグリジェで密着してくるルイズ。唯ちゃんの声を聞いていなければ屈していたかもしれない。こっそりとスリープの魔法をかまして寝かしつけ、誘惑に耐えながらもやっと眠りについたら、擬似契約空間のご主人様はご立腹だった。

 なので適当に誤魔化す……いや、杖の参考意見を求めることにする。

 

「なに言ってるかわからないんだけど」

 

「ああ、俺が説明するしかないか」

 

 時間があればハルケギニア語バージョンのディスクを〈成現〉(リアライズ)するんだけどさ。ここでその作業はルイズに見られたくないワケで。

 

「魔法少女?」

 

「そう。こっちとは違う架空の魔法使いの話だよ」

 

 見せてるのはリリカルなのはだ。

 杖の参考になるでしょ。

 台詞を通訳するのはちょっと恥ずかしいけどさ。

 

 ルイズは思ってた以上に真剣に見てくれて、目覚めた頃には彼女の杖をなんにするかが決まっていた。

 あとで〈成現〉してあげなくては。

 今日はそのためのEP籠め作業かな。俺よりもルイズがやった方が希望どおりになりそう。

 

 でもフィオナたちの方が先か。

 そんなことを考えながら朝食を取っていたら、ルイズに来客。

 

 その人物の名はエレオノール。

 そう、ルイズの姉である。貧乳の方の。

 彼女によって浚われるように俺はヴァリエールさんのお宅にお邪魔することになってしまった。

 

 ……行きたくないなぁ。

 

 



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番外編 異世界息子

感想、評価ありがとうございます


 新西暦187年。

 新たに俺たちの関係者と思われる融合者が見つかった。

 思われるなんて持って回った表現なのは理由がある。

 

「父上!」

 

「そう呼ばれるのは微妙なんだが……」

 

「すみません、つい。父上にそっくりですので」

 

 目の前にいるのは俺によく似た金髪の男。

 彼の融合元の名前は曹昂(そうこう)。外史だか平行世界だかの俺と華琳との子供らしい。

 華琳が以前会ったという異世界華琳の息子だろうか?

 

 話によると華琳以外の恋姫ヒロインも嫁にしていて、その嫁さんたちにも子供がいるとのこと。こいつの年齢から見て時間軸が俺よりも進んでいるのか。

 

「異世界にこれてよかった。これで結婚相手を探せます」

 

「え? まさかお前も呪われているのか?」

 

「呪われ? ……ある意味呪いですね。妹たちに結婚を邪魔されてるんですよ、ずっと」

 

「妹?」

 

 曹昂は異世界俺の子供では一番上で、多くの妹と一人の弟がいた。

 その妹たちが自分を狙っていると嘆いている。

 

「狙ってって……妹だろ?」

 

「そうなんですよねえ。俺としてはリアル妹は女性として見られないんですが。父上に押しつけようにも母上たちのガードが厳しくて」

 

「おい。いくらなんでも異世界の俺だって自分の娘には手を出さないだろ!」

 

 そりゃ嫁さんが美人ばかりだから娘だって可愛いだろうけどさ。

 近親相姦はありえないっつの。

 

「そう思っていたんですけどね。……娘同然だったはずの璃々姉ちゃんも、柄ちゃんも、父上にとられちゃって」

 

「柄ちゃん?」

 

「祭おばさんの娘です」

 

 ああ、呉ルートのラストに出てきた子か。

 たしかに可愛かったが、その子を嫁に? 璃々ちゃんも?

 

「祭は異世界の俺の嫁じゃないのか?」

 

「はい。一刀さんの奥さんですよ。紫苑おばさんも桔梗おばさんもです」

 

 むう。異世界の俺は非処女とは結婚しなかったということか。それとも一刀君に先をこされた?

 ……異世界の一刀君まで熟女好きに改竄したわけじゃないから違うか。

 むしろ気になるのは別のことだけどさ。

 

「……おばさんって呼んで怒られない?」

 

「あ、父上の兄の奥さんだからそう呼んでるんです。父上は一刀さんの妹も奥さんにしていますので。一刀さんは父上の義兄なんです」

 

「なんだって!」

 

 そこで反応するか、一刀君。

 祭や紫苑たちとの結婚には無反応だったのに。

 こっちの熟女好きな一刀君からしたら、今の彼女たちはストライクゾーンにかすりもしていないからなあ。

 

「煌一さんが弟……」

 

「いや、異世界の話だからね。というか、祭たちはおばさんなのに一刀君はおじさんじゃないのか?」

 

「はい。尊敬してますから! あ、父上も尊敬してますよ」

 

 そんな取って付けたように言われてもな。

 異世界の一刀君が俺の義兄、ねえ。……祭の娘とも結婚したんじゃさらには義父ってことにもなるんじゃないのか?

 

「璃々姉ちゃんも、柄ちゃんも俺の結婚相手候補だったんですけど、璃々姉ちゃんは父上一筋でしたし、柄ちゃんはいつの間にかです。母上たちの目を盗んでそれを成し遂げた父上を尊敬してます。マジリスペクトです!」

 

「そんな尊敬はちょっと……俺じゃないんだけどさ」

 

「こっちの父上だって奥さん多いじゃないですか。俺の父上よりも数が多いのはビックリですよ!」

 

「う……俺は娘には手を出したりはせん!」

 

 嫁さん多いのは俺だって気にしているけどさ。

 いいんだよ、俺は分身できるんだから!

 

「じゃあ、璃々姉ちゃんと俺が結婚できる!」

 

「……ほう。いい度胸だな」

 

 貴様のようなどこの馬ともしれん男に璃々ちゃんをやれるとでも?

 指ポキしながらこいつをどうするか考える。

 さっさと元の世界に送り返してやった方がいいだろう。

 

「じょ、冗談です」

 

「笑えない冗談はやめてくれ。お前にはニナがいるだろう」

 

「え、嫌ですよ、あんな紫豚。あれはガトーさんとくっついていればいい」

 

「たしかに」

 

 俺もあの女は嫌だ。ガンダムに対する話なら盛り上がれるかもしれないが、女性としては見れないだろう。

 その会話に一刀君がため息。

 

「……コウ・ウラキと融合してるとはなあ」

 

「俺もビックリですよ、一刀さん。まあ、なっちゃったもんは仕方ないし、このチャンスにお嫁さんを見つけますよ、俺は!」

 

「異世界の俺の息子とは思えないポジティブシンキング。華琳の子ってのも信じられるかも」

 

 一番に出てくるのが嫁探しってどんだけなんだか。

 とてもウラキと融合したとは考えられん。金髪だし。

 まあガンダム主人公でもトップクラスの不遇主人公だと考えれば、それに引きずられない方がいいのか。

 

「俺よりも妹の曹丕の方が母上に似てますって。ほんとそっくりです」

 

「華琳そっくりか。そりゃ可愛いだろうなあ。そんな子に狙われてよく耐えられたな」

 

 華琳にお兄ちゃんなんて呼ばれて迫られたら、俺だって手を出しちゃうかもしれんのに。

 なのに昂・ウラキは真っ青になってブルブル震え出す。

 あれ? なんかトラウマスイッチ入った?

 

「可愛い妹たちですけど、あれはないです! なんど捕獲されて襲われたか! おかげで縄抜けが得意になりましたよ!」

 

「お、おう」

 

「あいつらの邪魔が入らないうちに俺は嫁を見つけなければならないんです!」

 

 いや、そこまで泣かんでも。

 この辺は俺の息子っぽいなあ。

 

「なら、昂はどんな女性がいいんだ? 力を貸すぞ」

 

「さすが一刀さんです!」

 

「俺だって協力するって。俺の嫁さんや娘以外なら」

 

「ありがとう父上!」

 

 異世界とはいえ息子だし、嫁取りに協力するのもいいか。

 可愛い子に「おとうさん」と呼ばれるのも捨てがたいし。

 とはいえ、ウラキの相手でニナ以外となるとルセット・オデビーか?

 

「で、誰か好きな子はいるのか?」

 

「そうですね、ガンダムキャラだったらプルちゃん姉妹がいいです。絶対に全員助けましょう!」

 

「はい? そりゃ助けたいけど……」

 

「ティファちゃんもいいですね! いるかわからないですけど」

 

 間違いなく俺の子だ、こいつ!

 だってロリコンだもん!

 孤児院の子たちには会わせないようにしないと。

 

「ちょっと幼すぎないか? 女性の魅力はクリスマスを過ぎてからだぞ」

 

「さすがシーマ様を落とした一刀さんです! あ、俺はシーマ様とは敵対するつもりないんで安心してください」

 

「当たり前だろ。シーマも味方なんだから」

 

 シーマを倒すのはコウだもんなあ。その前に試作1号機を虐められるけどさ。

 こいつ見てるとあのウラキになるのが想像つかん。

 モビルスーツ好きではなく幼女好きだしさ。

 

 ここは成現(リアライズ)して強化しないと生き残れないかもしれない。

 このシャッフルされたスパロボ世界はハードすぎるのだから。プルちゃん姉妹を助けるためにも力が必要だろう。

 

 そうなると、どういうイメージを籠めるか、だが。

 ウラキと融合しているから、ニュータイプ化というのはちょっと想像できない。オールドタイプでも強いのがウラキなんだから。

 ニュータイプだから強いというワケでもない。カツより使えるのは確実なのだし。

 

「父上?」

 

 そうなると、中の人で考えた方がイメージしやすそうだ。

 幸いと言っていいのか、声は俺に似ていなくてウラキそのものみたいなのだから。

 

「やっぱりニンジンは嫌いなのか?」

 

「いえ、そうでもないですよ。好きというわけでもないですけど」

 

 弱点を減らそうとも思ったがその必要はないと。

 ニンジン(カカロット)は平気か。

 ……ベジータにすると強そうなんだけどなあ。食事量が大変になるから宇宙船暮らしするには向かないか。

 

 ならば聖闘士にするか?

 ……いや、アンドロメダの聖衣だけ用意すればなんとかなるかもしれん。

 この案は保留、と。

 

 風神剣か魔王剣を用意するのもありか?

 でもハゲそうだしなあ。

 こっちはナシだな。

 

 ならばドリムノート……MP足りそうにないな。

 敵の手に渡ったりしても困る。つーか、狙われまくることになるか。

 却下だ、却下。

 

「難しいな」

 

「さっきからなにを考えているんですか?」

 

 お前の強化案をな。

 艦隊司令にでもなっていればラインハルトになってもらうのも悪くなさそうだが。

 それとも思い切ってナイトオブゴールドを……アマテラスはポイントが足りんな、どう考えても。息子がオカマになるのもちょっと嫌だ。

 

 あとは……あれしかないか。

 本人を成現(リアライズ)するかはもう少し考えるとして、取りあえずアイテムで強化できるか様子を見ることにしよう。

 娘ならばともかく、息子なのだからそんなに甘やかす必要もあるまい。

 

「どうしたんです父上? いきなりハンカチなんか握りしめて」

 

「待つんだ昂、静かにして集中させてやれ。あれはきっと……」

 

 一刀君のおかげで集中できた俺は無事に成現(リアライズ)に成功した。

 これならば異世界の息子の役に立ってくれるはずだ。

 

「えっ、ハンカチが真っ赤に変わった? 凄い、父上は手品もできるのですね!」

 

「……まあ、手品みたいなもんか。昂、このバンダナを頭に巻きなさい」

 

「バンダナ? ハンカチじゃないんですか?」

 

 受け取ったバンダナを素直に頭に巻く昂。

 ふっふっふ。もちろんあれはただのバンダナではない。

 心眼がセットされたバンダナなのだ。

 

 そう、あのバンダナは横島君のバンダナである。

 中の人も同じだしきっと役に立ってくれるだろう。

 もし霊力に目覚めなくてもアドバイザーぐらいにはなってくれるはずだ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ……いやあ、まさか文珠までマスターするとは思わなかった。

 さすが華琳の子だ。煩悩がエネルギー源ってのもそれなら頷ける。

 あれならばこっちで見つけた嫁たちと元の世界に帰れるだろう。

 

 まさか、あんなにロリを落とすとは思わなかったけどな。

 

「異世界のとはいえ煌一の子らしいわね」

 

「ええっ!?」

 

 なんでみんな頷いてるかな?

 

 




活動報告に出したキャラが出てますが
エープリルフールの嘘ネタです


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27話 三角

感想、評価ありがとうございます


 ルイズの両親に会うつもりはなかったのに万能の霊薬(エリクサー)を渡してわずか数日でルイズの姉、ラ・ヴァリエール家の長女エレオノールが学院にやってきて妹と俺、ついでにシエスタを拉致……ラ・ヴァリエール家へと連れていかれることとなった。

 

 シエスタは道中の侍女とのこと。俺とシエスタは従者の馬車に乗せられている。正直乗り心地はイマイチ。しかも遅い。プロトガーランドを使うか馬車に〈成現(リアライズ)〉して強化したい。

 

「あの人、ルイズによく似た美人だな」

 

「煌一さんはああいうのがタイプなんですか?」

 

「うん? 大事なのは性格だよ」

 

 俺の嫁さんは美女美少女ばかりだから説得力ないけどね。桂花の方がキツいし。

 早く会いたいなあ。でないと胸を押しつけてくるシエスタをどうにかしてしまいそうで怖い。

 

「あまり誘惑しないでくれ。知ってるだろ、俺は妻子もちなんだから」

 

「奥さんたくさんいるんですよね。なら1人くらい増えたって……ひいおじいちゃんもすごかったんで、うちの家系はそういうの気にしません!」

 

 なにやってんのタケルちゃん!

 まさかこっちでも恋愛原子核っぷりを発揮していたとは。

 ルイズなんて俺が多くの嫁と結婚してるって知ってからしばらく口もきいてくれなかったのに。

 ……白銀武は白蓮なんだからシエスタのひい爺さんではないはず。白蓮じゃない白銀武?

 だけどシエスタは白蓮によく似ている。となれば、タケル白蓮の双子の弟だというタケシの可能性が高いな。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 休憩のために寄った旅籠でルイズの姉、ラ・ヴァリエール家次女のカトレアと遭遇。偶然ではなく待ち構えていたようだ。

 ルイズと同じストロベリーブロンドに、長女三女とは違う大きな双丘。たしか1人だけ性格もあまり似ていないんだよな。

 

 三姉妹か。義姉妹も含めて嫁に多いんだけど元気でやってくれているだろうか?

 カトレアの方は〈鑑定〉では健康体と表示されているので病気は治っている。ちゃんとエリクサーを使ってくれたようだな。……だから俺が拉致された?

 

「ちいねえさま!」

 

「ルイズ! あなたのおかげでわたし、治ったのよ!」

 

 うーん、まだ投薬して数日なんだから完治したって判断するのは早いような。水メイジってその辺がわかるんだっけ?

 抱き合って2人とも涙しているのを見て旅籠に集まっていた村人たちももらい泣き。俺もうるっときちゃったよ。

 

「よかったな、ルイズ」

 

 つい声をかけてしまった俺に「まあまあまあ」と声をあげながらカトレアがやってきて顔をペタペタされた。さりげなく眼鏡を外そうとしているが、無駄だ。これは俺の意思以外では外せない。

 

「あなたがルイズの」

 

「は? ……ああ、使い魔のコーイチです」

 

 ルイズの、なんですか?

 思わせぶりなとこで止めないでほしいんだけど。

 

「ちいねえさま、あの薬はコーイチがくれたの!」

 

「ええ。そう聞いているわ。ありがとう、コーイチ」

 

「いえ、主の大切な家族のためですから」

 

 頭を下げるカトレアにそう返しておく。ルイズが虚無にならなきゃエルフの秘薬が手に入らず、彼女の病が治らなかった可能性が高い。治ってよかったよ。

 

 その後カトレアの大きな馬車でラ・ヴァリエールの城へ向かう。動物だらけで恋が喜びそうな馬車だった。……さっきの「まあまあまあ」が動物王国のあの人の「よーしよしよし」と同じように思えてきたのはきっと気のせいだ。

 城に到着した時には夜になっていた。そのせいかすぐに晩餐会。

 

 公爵夫人カリーヌ。

 ルイズの母親。

 そして伝説の魔法衛士隊隊長、烈風カリンの正体である。

 たしか50過ぎだったはずだから一刀君のストライクゾーンだな。

 

 威圧感は凄かったが華琳で慣れているのでそれほど気にはならない。

 烈風カリンなので唯ちゃんや白蓮のように華琳と融合してないか非常に不安でしかたがなかったが、顔や髪の色からどうやら違うらしくほっとしている。胸のないとこは同じだったが。

 くすりと思ったことが顔に出ていたのか、ルイズママに睨まれた。

 

「なにかおかしい?」

 

「いえ。今は会えない妻をなぜか思い出しまして。家族団らんの雰囲気のせいでしょうか」

 

 とても団らんとは思えないプレッシャーを放っていた本人がピクリと反応する。

 あんたの娘のせいで俺は妻と離れ離れになっちゃった、という嫌味をわかってくれたかな。

 

「お前はルイズの使い魔になった者だったわね」

 

「はい。お嬢様にはお世話になっております」

 

 軽く頭を下げる。

 威圧感を増しているけど、この程度ならまだ平気だ。……ごめん嘘です。たぶんEPが減少していると思う。

 ルイズに手を出したことが顔に出ないように気をつけないと。

 

「コーイチは凄いのよ! コーイチにもらった薬でちいねえさまが治ったの!」

 

「それはこの平民が凄いのではなくて薬が凄かっただけでしょう」

 

 ふんと鼻で笑うエレオノール。俺を平民と思いっきり下に見ているのがありありとわかる。麗羽に近いタイプだろうか。こっちは胸は大きく違うが。

 

「なにがおかしいのです!」

 

 また顔に出ていたようだ。

 俺に隠し事は無理なんだろうか。

 

「たしかに凄いのはあのエリクサーです。もの凄い希少な品でしてね」

 

「カトレアに使われたことを薬の造り手も喜ぶことでしょう」

 

「さあ? うちの師匠は変人ですからどうでしょうか?」

 

「あの薬はあなたの師の手によるものなのですか?」

 

 そう。〈成現〉という最終工程でエリクサーにしたのは俺だけど、その元になった回復薬はセラヴィー製だったりする。

 

「はい。地元では世界一の魔法使いと認識されていた凄腕の変態です」

 

「変態? お前はそんな輩が作った薬をカトレアに飲ませたと言うの?」

 

「作り手の性格は酷いですが腕は確かなんです。困ったことに」

 

 憤るエレオノールにわざとらしく大きなタメ息。

 ……あれ、エレオノールって金髪だし髪型さえくるくるにすればセラヴィーの好みなんじゃないだろうか。性格がキツいのもたぶん好みだろうし。

 

「エレオノールお嬢様、金髪でくるくるな髪型フェチの魔法使いの男に興味はありませんか? 性格はあれですが腕と外面はいいんですよ」

 

「なんでそんな変態を紹介されなければいけないのよ!」

 

「そうですか、残念です。……まあ、もう会えないんですよね。遥か遠き地なので」

 

 サンダル城があるのはこの世界ではない。あっちには月が2つもなかったからこれは確実だろう。

 でもモンモランシーをさらったってことはセラヴィーならこの世界にこれるってことだよな。

 剣士担当の世界に行けさえすればなんとかなるかな? ……過去にきてるのはどうしよう。タイムマシンな鏡はサンダル城にはなかったはずだ。

 

「コーイチ……」

 

 なにか言いたそうなルイズの頭をそっとなでる。

 大丈夫。俺は絶対みんなと会うから。それまでにきっと魔法を使えるようにしてあげるから。

 ルイズママの鋭い視線がその俺の手を射抜く。

 

「ずいぶんとルイズと馴れ馴れしいようですね」

 

「使い魔ですから。親の愛情に飢えているお嬢様をほっておくことなどできません」

 

「知ったようなことを言う」

 

「血は繋がっておりませんが、俺にも娘がおりますので」

 

 璃々ちゃん、智子、ゆり子。みんな元気だろうか。

 お父さんがいなくて寂しいなんて泣いたり……してくれるとちょっと嬉しいけどやっぱり泣かないでほしい。

 分身の1人ぐらい残しておくべきだった。

 

「わたしが娘扱い!?」

 

 今度はルイズに睨まれました。あるぇ?

 

 

 ◇

 

 

 ルイズがなにかルイズママに言おうとしていたけれど食事中で父親も留守だからと聞いてもらえなかった。

 いや、父親は隠れてこっちを見ていたみたいなんだけどね。俺の〈感知〉に引っかかっていた反応を調べてみたらヴァリエール公爵だったし。

 俺の様子を見ていたんだろうか?

 貴族のやることはわからん。

 

 エレオノールも俺になにか言いたそうにしていたが、ルイズママに睨まれていた。たぶんまだエリクサーのことを聞きたかったのだろうが。

 

 俺があてがわれた部屋に酔ったシエスタが登場。絡み酒というか酒癖が悪いのはさすが白蓮の血筋か。

 いや、人のことはいえんけど。

 あまりにもテンションがおかしかったのでスリープで眠らせベッドに寝かせて、どうしたもんかと考えていたらルイズもやってきた。

 ああ、これも小説にあったイベントか。前倒しで発生しているんだとやっと理解する。

 

「メイドがなんでいるのよ」

 

「こんなお城に泊まることになって心細かったんだろう」

 

 俺だって落ち着かん。

 シエスタが持ってきてくれた酒でも飲まんと寝れないっての。

 ぐびぐびっと。

 

「こいつがそんなタマ? 変なことしてないでしょうね?」

 

「当たり前だ。嫁以外にそんなことはしない」

 

「わたしにはしたじゃない」

 

「それは……ごめん」

 

 ルーンのせいだったと説明してもそれは言いわけでしかない。ヤっちゃったのは事実なのだ。

 ベッドを見ていたルイズがふんと鼻を鳴らして。

 

「ここじゃメイドがいるから寝れないわね。ついてきなさい」

 

 逆らえない雰囲気なので素直についていってしまったのはもう酔いが回ってしまったのかもしれない。くぴくぴ。

 

「ここは?」

 

「わたしの部屋よ」

 

「いやそれはマズいだろう」

 

 危険を感じて出て行こうとすると腕をつかまれた。

 

「逃げたら大声を出すわよ」

 

「そんなことをされたら俺が夜這いにきたみたいじゃないか」

 

「夜這いってなに?」

 

 くっ、ルイズも酔っているのか?

 しかたない。ここは少し話して隙を見てスリープをかけて眠らせよう。

 こんなことなら安全のためにってチョーカーを渡すんじゃなかったよ。今もちゃんと着けてるし。チョーカーの補正で抵抗(レジスト)されないようにMPたくさん消費しないと効きそうにない。

 

「む、むこうの風習でこっちじゃちょっと説明できないかなあ」

 

「そう。なら実演してみせなさいよ」

 

「できるか!」

 

 いかん。つい大声を出してしまった。

 ここ使用人も多いから気づかれたらマズすぎる。

 ルイズは実家にきたことで焦っているのかもな。家族に魔法を使ってみせて褒めてもらいたいのだろう。母親も長姉も褒めるのが苦手そうだから。

 

「あれはちゃんと持っているか?」

 

「これでしょ」

 

 拉致される前に渡した三角のプレートを出すルイズ。うん、ちゃんと持っていてくれたか。

 受け取って状態を確認する。

 

「あの子が使っていた杖のつもりでずっと持っていろって、なにか意味があるの?」

 

「もちろん。こっちの杖だって馴染ませるのに何日かかかるだろ」

 

「でも、これは杖どころかただのオモチャじゃない」

 

 いや、それを〈成現〉すれば本物になる。そのためにもルイズにEPを籠めてもらいたいのだ。できれば杖の方も作っておけばもっとイメージしやすくなる。

 

「今はまだオモチャにしか見えなくても、ルイズが信じて想いを籠めてくれればそれを素材にして俺が杖を作る。君が魔法を使うことのできる杖、その願いを叶えてくれる杖を」

 

「本当でしょうね?」

 

「君の使い魔を信じろ」

 

 もっとも、使い魔の証であるルーンを持っているのは俺じゃない俺なんだけどね。

 返したそれを両手で包み、祈るように願いを籠めはじめるルイズ。

 これならばうまくいくだろう。

 

「……なんか見られてると恥ずかしいわね」

 

「そうだよな。それじゃ俺は退散するとしよう」

 

「えっ? ちょ、ちょっと待ちなさい。これすぐにできないの?」

 

「もうちょっとかかりそうだ」

 

 今見た感じだとEPがまだ足りない。

 俺がEP籠めしてもできないことはないが、この場所でEP低下によるブルーな気分は避けたい。

 マブラヴ世界へ嫁の救助へ向かうために分身したのでEPも減っている。

 

「もっと早くできないの!」

 

「そう言われてもな」

 

「それならやっぱり契約するわ!」

 

 だからなんで脱ごうとするかな。

 俺に手を出させて責任を取らせるってこと?

 もしこんなとこを親御さんにでも見られたら……って〈感知〉見たら反応あるし。

 バンとドアが開いて。

 

「なにをしているの!」

 

 こっちが聞きたい。

 もしかしてルイズさん仕組んでました?

 

 



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28話 真空ぺちぺちハリケーン

感想、評価ありがとうございます


 目に映るは巨大な竜巻。

 そしてそれが向かう先にいるのは、赤い野球帽をかぶり3段階に奇妙なポーズを取っていく()

 

 俺の姿を外から見ている。

 なんとなく左手のルーンが熱い気もする。ああ、これが使い魔にご主人様の繋がりというやつか。

 ルイズが感じている危機感を使い魔である俺に届けているんだな。

 

 竜巻の向こう側にルイズに似た女性がいた。きっとルイズママだろう。

 ということはあれがカッター・トルネードか。

 あっちの俺はなにやってるんだ?

 

 ……あ、見えなくなった。

 まあ、大丈夫だ。

 声は聞こえなかったが、あの俺はきっと「天! 地! 人!」とポージングに合わせて言っていた。あれは真空ハリケーン撃ちのモーションだったから。

 そう、あの帽子は半分ネタで成現(リアライズ)しておいたインベーダーキャップなのである。

 

 魔法無効化等の対策の一つとしても用意していたので、あれならば魔法ではないと言い張れる! ……はずだ、たぶん。

 非致死設定と相性がよかったのであれなら死者は出ないだろう。

 インベーダーキャップを被れば使えるというものでもないのだが、あれを被って修行すればできるようになると設定したのだ。6分の1の俺でもグレートタイフーンぐらいまでなら使えると思う。

 

 

 ◇

 

 

 嫁である白蓮と連絡が取れた。

 なんか白銀武になっていて、その記憶もあるらしい。

 ただし記憶の話を聞く限り、マブラヴ主人公の因果導体の方じゃないようなので、BETAにさらわれて死亡する可能性がある。

 タケルちゃんの恋愛原子核もどうなっているか不安だ。

 女の子ならともかく、男を引き寄せていなければいいけど。

 早めに合流しなければならない。

 こっちも戦場なのでポータルで呼ぶわけにもいかないのが困る。

 

「白蓮もいたんだ」

 

「ああ。そっちは?」

 

 訓練用のスケスケ衛士強化装備ではなく、訓練校の制服を着て戻ってきた唯ちゃん。

 謎のスーパーロボット軍団との接触を済ますために着替えてもらったのだ。嫁のあんな姿を見せるわけにはいかないからね。

 唯ちゃんは俺のことは婚約者で、こういう事態のエキスパートだと周囲に説明しているようだ。

 

「ボクが篁唯依だってなかなか信じてくれなくてさ。そっちから指名したのに嫌になるよ、まったくもう」

 

「お疲れ様」

 

 むくれる唯ちゃんの頭をなでなで。

 顔も髪型も俺の知っているいつもの唯ちゃん。

 たしかにこれでは篁唯依と信じられもしないか。

 

「あの感じ、ボクじゃない篁唯依を知ってると見て間違いないと思う」

 

 やはりそうなのか?

 マブラヴ世界の知識持ちということなのだろうか。

 白蓮=白銀武(しろがねたける)の双子の弟であるタケシも鏡を見てショックを受けていたと白蓮が言っていた。これってタケルちゃんそっくりの姿だと思っていたら白蓮そっくりだったので驚いた、なんだろうな。

 

 ふむ。俺達以外の異物か。

 唯ちゃんを指名してきたのは、俺達のことに気づいたんじゃなくてTEヒロインの篁唯依に会おうとした?

 

 でなければおかしい。譜代武家の出身だけどまだ訓練生の彼女を指名するなんて他の理由が思いつかない。

 

「どんなやつらだった?」

 

「ガンダムに乗ってたキラ・ヤマト、宇宙人だって言うダバ・マイロード、あと代理の人が来てたけどロミナ姫って折り紙みたいな戦艦のお姫様。こっちも宇宙人みたい」

 

「……マジか」

 

 スパロボ世界ならおかしくはないが、宇宙人のくせに唯ちゃん指名ってのはおかしい。本人ではないか、マブラヴを知っている人物がバックについている?

 飛影は戦闘後すぐにいなくなっていた。いかにも飛影らしいけど、あのパイロットがロミナ姫の代理人にきたのだろうか。

 やつは大阪に出現した黒の騎士団のこと知っていたみたいだし、他の連中とも繋がりがあると見ていいだろう。

 

 この世界の使徒(プレイヤー)か? それが一番しっくりくるような、そうでもないような。

 このゼロ魔と繋がったマブラヴ世界が俺の担当世界なのかそうでないのかもまだわからんし、対応に悩む。

 嫁を助けるのは絶対なんだけどな。

 

「今回は顔見せだけだったからまた会うことになったんだけど、その時はお兄ちゃんもお願い」

 

「そうだな。俺も会っておいた方がよさそうだ」

 

「ありがと。じゃあ一緒に会ってくれる斯衛軍の人を紹介するね」

 

 唯ちゃんがついてきた女性を紹介してくれた。

 真っ赤な服と眼鏡のどっかで見た女性だ。

 

「月詠真耶だ。天井煌一だな。貴様の正体も気になるが乗っていた武御雷について聞かせてもらおう」

 

「あ、ああ。あれは譲り受けたものだ。本来の持ち主は既に亡くなっているので詳しいことはわからない」

 

 うむ。胡散臭い。

 月詠もそう思っている表情だ。

 彼女はマブラヴキャラのままだな。唯ちゃんや白蓮みたいに、名前的には月ちゃんか詠、もしくは真桜になっているかなってチラリと思ったんだけど。

 

「そんな話が信じられるとでも?」

 

「だが真実だ。それと操縦席にはこれがあった」

 

 斯衛軍に接収されるとちょっと困るな。偉い人に返せって遺言もなかったし。

 説明しても信じてもらえなさそうなのでスタッシュから皆琉神威(ミナルカムイ)を出して渡した。

 

「妙な手品を使うな。これは?」

 

「前の持ち主はあの武御雷と一緒にとある高貴な女性から受け取ったと言っていたそうだ」

 

 言ってたかどうか知らないけどな。

 たぶん嘘ではないんじゃない?

 

「高貴な女性……」

 

「武御雷ともども預けるから調べてくれないか? 俺も知りたい」

 

「よかろう」

 

「武御雷とその刀は特殊な加工をされてる、らしい。OSも画期的な最新型だそうだ」

 

 XM3搭載型だったからこそ俺もあれだけ動かせた。

 これ、唯ちゃんなら解析して普及させることもできるかもしれない。

 キラもいるしな。ロボのOSならお手の物かも。

 本人ならば、だが。

 

 返してもらえるか不安だけど、接収される前に預けるってことにしておくか。

 データはスキャンしてあるからあとで造ることもできるしな。固定化の魔法はむこうの俺が覚える予定だから問題はあるまい。

 

「らしい、ってお兄ちゃんが造ったんじゃないんだ?」

 

「だから譲り受けたって言ってるだろ。パスワード関係の解除は唯ちゃんも協力してやって」

 

「ボクも? ……いいけど、こっちのお父さんに会ってね」

 

「わかった。俺も確認しなければならないことがある」

 

 篁祐唯か。気が重いが会うしかない。

 娘さんの状況を説明するとして、理解してくれるだろうか。異世界の人間と融合したなんてさ。

 さらにその融合した相手が俺とすでに結婚してるなんて、面倒でしかない。

 気が重くなるのも当然といえよう。

 

 だけどなんとしても米軍のユウヤ・ブリッジスに連絡を取ってもらわねば。

 もしかしたら唯ちゃんのように俺の嫁さんと融合してるかもしれない。

 TE主人公のユウヤは男だけど、白蓮のように性別も変わっている可能性があるのだ。

 たしかまだ母親のミラ・ブリッジスが生きている。入院しているはずだが、早くしないと死んでしまう。

 できれば助けたい。結花か由真の母親になっているかもしれないのだから。

 

 月詠は武御雷の回収を優先したい。

 不審人物よりも将軍色の試作機らしき戦術機の流出の方が大問題なのだろう。

 非常時だから忙しいのもあるだろうが。

 

 

 ◇

 

 

 武御雷を持っていかれた俺はとりあえず尋問は後回しということで、軟禁されているような状況だ。

 篁祐唯との面会を待ちながら、それを思うと気が滅入るので別のことを悩む。

 

 唯ちゃんも白蓮もマブラヴキャラと融合してしまった。

 今のとこ、華琳ちゃんがあの時に言っていた「名は体を表す」という言葉から、名前繋がりではないかと俺はにらんでいる。

 月詠は違ったけど、ユウヤがどうなっているか不安だ。もしかしたら他にも融合した嫁さんがいるかもしれない。

 

 社霞の(しあ)は字が同じだけどイメージができない。

 御剣冥夜の冥琳はありえるか? そうなると白蓮のように双子の煌武院悠陽も顔が変わりそうだ。

 鎧衣美琴は美以……南蛮系は珠瀬壬姫の方が似合いそう。

 速瀬水月の月ちゃんは勘弁してもらいたい。NTR的に。

 

 食事も出してもらったが合成食ってのはたしかに残念だった。

 でもこの食事のおかげで美人が多いのかもしれない。

 ……髪が凄い角度で曲がる子がいるのもまさかこの食事のせい?

 ふとそんなことを考えてしまった。

 

 あっちの俺は親御さんとの話、うまくいったかな?

 いや、ルイズは俺の嫁じゃないんだけどさ。

 

 




サブタイトルは恋姫の技名


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29話 カライ(カライ視点)

感想、評価ありがとうございます

今回はカライ視点


 地球では日本がBETAの攻撃に曝されているが、俺は自分のいる工場衛星の安全確保を最優先。木星の衛星にいるBETA調査に力を入れていた。

 

「やっぱBETAがいまくるのか」

 

「太陽系は危機的状況よ。だから神様もあなたたちに大盤振る舞いしたのね」

 

 やっぱり転生特典10コなんてそうでもなきゃなさそうだよなあ。

 衛星のほとんどにBETAがいるので早くなんとかしたい。

 アダムがいればインパクトって手段もとれるんだが。

 

「箒型構造だっけ、他の衛星と繋がっているかはわからないけど規模が大きいところを先に潰そう」

 

「アクエリアを出すの?」

 

「それはネオ・ディーバ指令室みたいな設備が整ってからにしたい」

 

 テレポートチェンジって緊急脱出にも使えたよね?

 BETAを相手に戦うのはいくらスーパーロボットであろうと万全の状態でなければならないだろう。

 

「また使徒に頼むのですね」

 

「それしか今はできないよクレアちゃん」

 

 できれば使徒のATフィールドは対策されないようにここぞって時までBETAには見せないでおきたいので、どうすればいいかが悩む。

 

「イロウルとバルディエル、アルミサエルにこっそりと侵入してもらうのがよかろう」

 

「クランちゃん?」

 

「ちゃんではなーい! 重頭脳(ブレイン)級に寄生して操る実験にもなるのだ」

 

 ふむ。アルミサエルはともかく、イロウルは細菌でバルディエルが粘菌だっけ?

 たしかにむこうの情報を得るのにもいいかもしれん。重頭脳(ブレイン)級を乗っ取ることができれば配下のBETAも味方にできるかもしれんし。

 えっと、イロウルはシャロンと使徒との通訳をしているみたいだから……。

 

「目立って気づかれそうなアルミサエルは防衛用に回ってもらうとして、逆に防衛時には活躍できそうにないからいいかもしれないか。シャロン、一番規模の大きいハイヴにバルディエル、行ってもらえるか?」

 

「わかったわカライ。行けるようよ」

 

「頼む」

 

 シャロンは意思疎通しているけど使徒も喋るんだろうかね?

 みんな綾波声だったりするんだろうか。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「ここのこれも悪くないですね」

 

 クレアちゃんは工場衛星のドーナツに満足してくれたようだ。

 他の転生者たちはなにを食っているのかな。悟空は仙豆だろうけど。

 

 うちの食事は機械が作ってくれたものだったが味に不満はない。これなら最悪の場合、フォールドして太陽系から脱出しても生きていける。

 日本だとマズイと噂の合成食品だったのだから俺は恵まれているのだろう。

 美少女たちに囲まれて一緒に食事なんて緊張しまくって、味なんてよくわからないけどな!

 

 普段は食事のマナーなんてそう気にしない俺だが今はやたらに気になる。

 ええと、迷い箸は駄目で……味噌汁は音を立てていいんだっけ?

 

「カライ、お酒はいいのかしら?」

 

「あ、ああ。今日はそんな気分じゃない。まだ安心して飲める状況でもなさそうだし」

 

 本当ならアルコールに逃げたいところだが、万が一BETAからの攻撃があった場合に備えたい。

 それに、俺にできるとも思えないが酔って女の子たちに変なことをして嫌われるのもマズイ。

 

「こんなことをしている間にも地球ではたくさんの人がBETAに殺されているんですよね」

 

 そのことを思ったのか、あまり食欲を見せない少女たちもいる。

 たしかに俺も気にならないでもないが、きっと他の転生者たちがなんとかしてくれるはずだ!

 

「……俺たちはまだ直接戦える状況じゃない。サポートできることをするだけだよ」

 

 俺だって〈死者復活(条件アリ)〉を思った以上に使用しているのだし。このスキルは俺自身には使えないんだから、自分の身を守ることが他の転生者の戦線復帰を助けることになるのだ。

 

「サポート、ね。それならあたしは歌うわ」

 

「シェリルさん!」

 

「こんな時だって、慰霊でも激励でも歌うことに意味はあるでしょう? そのためにカライはあたしを選んだのだから」

 

 いや、マクロスシリーズが大好きだからなんだけどね。そんな深い意味は全然考えていなかったという。

 

「シェリル、身体の調子は大丈夫なのか?」

 

「問題ないわ。もしあたしが死んだってその時はカライ、あなたがなんとかしてくれるのでしょう? でもお願い、あたしから歌だけは奪わないでね」

 

 球神のところでの転生時は気づかなかったが、シェリル・ノームは2058年だとまだV型感染症が治ってない。この工場衛星の設備でも完治はできないだろう。

 シェリルの言うように死亡して蘇生させれば治るだろうが、できれば死なせたくはない。

 

「その前にポイントをためてそれを使って治療するか、ランカちゃんに覚醒してもらってシェリルの脳にいるV型ウイルスに腸に行ってもらう」

 

 マクロス30のシェリルは劇場版ではなくTV版っぽいからそれでいけるはずだ。

 

「わ、私が覚醒!?」

 

「ランカちゃんもお腹にV型ウイルス、ヴァジュラのフォールド細菌がいるから、それと話しができるようになるんだ」

 

「私のお腹に……」

 

「アイモがたしかヴァジュラの恋の歌だったはず」

 

 マクロスFを見せることができれば説明しやすいのだけどな。

 でも、あい君なしでは難しいか?

 

「ええと、とにかく歌ってりゃなんとかなる、かも?」

 

「決まりね。ランカちゃんも歌いましょう」

 

「あ、ミーナもね。シェリル、シャロン、鍛えてやってくれ」

 

 ミーナ・フォルテはマクロス30のヒロインの1人で、バルキリーの操縦もするけど歌姫でもある。歌を聴きたいのは当然だろう。

 

「わかったわ。私も歌う。あらゆる人に感動を与えるわ」

 

「洗脳は無しで頼む」

 

 シャロンはマジでなにを考えているかわからん。もしかしてBETAも歌で洗脳できそうでちょっと怖い。

 でも洗脳能力がなければ歌はいいんで止めたくはない。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 2人の歌は俺の特典である[地球の全放送及び全通信をリアルタイムで送受信できる設備]によって地球に届けることになった。

 

「今は日本は深夜か。今回は音声のみでいこう」

 

「ずいぶんと原始的なのね」

 

「電波ジャックもいいけれど、まずは空きチャンネルの有効利用でいきましょう。気づいた人へのご褒美」

 

 慰霊や激励はどこいった?

 そうツッコミたかったがシェリルの歌うダイアモンドクレバスで眼鏡(ミシェル)死亡話を思い出して泣きそうになってしまった。

 俺だけじゃない。クランも泣いている。このクランはミシェルが生きている時間のはずだけど、違うのだろうか。

 

「私の番、……と言いたいところだけど、カライ、ここに急速接近する機影があるわ」

 

「なっ!? BETAか?」

 

 も、もう発見されたのか?

 まさか今の放送のせい?

 

「違うわ。転位かしら? デフォールド反応もないのに急に出現して、消えた」

 

「消えた?」

 

「そう。BETAとは全く違う謎の存在」

 

 転生者の誰かだろうか?

 転位って……まさか悟空? いやでも宇宙空間じゃ生きられないはずだよな?

 ああっ!

 気を探って瞬間移動してくる悟空からは隠れられない!

 こっそり安全な場所から微力サポートがばれるじゃないか!

 

「なんだいここは?」

 

 突然、背後から声が聞こえた。こんな声、うちの子にいたっけ?

 振り向いたら小さな少女がいた。だがクレアちゃんではない。

 

「ここがお前の基地かい、コーイチ?」

 

「な、なぜ俺の名前を!?」

 

 目の前の少女はピンクの髪で10歳前後といったところか。

 ……見覚えがあるな。

 

「まさかティスちゃん?」

 

 彼女はスーパーロボット大戦に登場したティスによく似ている。誰かが特典で仲間にしたのだろうか?

 剛田じゃないよな? シロガネクルーにいるはずがない。ポイント支払って追加した?

 

「なに、もうあたいの可愛い顔を忘れちまったんじゃないだろーね、コーイチ!」

 

「ちょっと待って!」

 

 ずいっとゼシカとアイシャが割り込んでくる。俺の腕に抱きつくように左右から挟まれてしまった。

 

「カライ、なんでこの子があなたの名前を呼んでいるの?」

 

「あたしたちには恥ずかしいから名字で頼むって、名前で呼ばせてくれない癖に!」

 

 そんなに顔を寄せないでくれ!

 ああ、なんかいいにほひがする。そして、なんという乳圧(プレッシャー)だ。

 

「ん? カライ? アマイじゃなくて?」

 

「あまい? 俺はカライ。空っぽの井戸で空井(からい)だ」

 

 あれ、もしかして人違いされてしまったのだろうか?

 そう首を捻ったら、シャロンから追加情報が入ってきた。

 

「天井と言えば、カライが気にしていた篁唯依の婚約者ね」

 

「はい?」

 

 そんなやついたっけ?

 もっと地球側の情報を集めないといけないようだ。

 

 



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30話 その頃(?)のBFさん(ホワイト視点)

感想、評価ありがとうございます

今回はホワイト視点


 未だに華琳が見つからない。

 他の嫁さんたちもそうだが、一番先に会った縁の深い彼女がいないことでの空虚で不安な気持ちが大きすぎる。

 

 そのせいにするワケではないが、ついに華琳ちゃんとシてしまった。

 ……いや、あれは襲われたと言ってもいいのか?

 とにかく華琳たちがいなくて落ち込んでいる俺が気に入らなかったのか、華琳ちゃんが強硬手段に出たのだ。

 

「嫁さん以外の子としちゃうなんて……」

 

「あら、別の私はあなたに襲われたそうじゃない。無理矢理に」

 

「それ絶対に俺じゃないから!」

 

 華琳が会ったという異世界の曹操と、彼女を妊娠させた男。同じこういちで顔も似ているらしいが、俺とは全く別の存在だ。

 この時はそう確信していた。

 だってまさか分身(ファイヤー)があんなことになっているなんて思いもするはずないだろう!

 

「と、とにかく、やっちゃった以上、責任は取るから!」

 

「だが断る」

 

「え……」

 

「ふふっ、冗談よ。以前のお返し」

 

 そういえばこのスパロボ世界でみんながバラバラになっちゃった時、もう一つの地球で合流した分身(キング)が華琳ちゃんにプロポーズされたんだっけ。

 肉体関係を持った相手に断られるとこんなに精神ダメージを受けるとは。EPを確認したら激減しているはずだ。

 あの時はネタで断ってしまってゴメンね華琳ちゃん。

 

 ともかく、冗談とのことなのでプロポーズに結婚を了承してくれたと判断し華琳ちゃんの手を取り、指輪をはめる。抵抗しなかったので拒否はしていないと見て間違いはあるまい。

 ビニフォンの婚姻届にも記入してもらって。

 

「これで私はさらにあの時の私に近づいたわ」

 

「うん。だけど問題はマクロス艦だよな。あんなのどこで用意すればいいんだか」

 

 嫁さん用のチョーカーを新妻の細い首にセットしながら考える。

 いくら俺がビッグ・ファイアと融合していてBF団の首領となっていても、あんな巨大な戦艦を造ることはできない。

 

「レーティアがいてくれたら開発チートも凄いのに」

 

「残る煌一の分身、ファイヤーが建造しているのではなくて?」

 

「いくらなんでもそれは……ゼントーラーディの工場衛星でも分捕っていればありえるか?」

 

 こっちでも工場衛星は探しているんだけど見つからないんだよなあ。たとえ発見できても制圧するためにはそこに行かなきゃいけない。

 フォールドブースターで数名乗り込んで、キスシーンやイチャイチャを見せつければワンチャンありえるか?

 でもそうなるとやつらに地球を捕捉されるのが早まりそうなんだよなあ。

 やはりゼントラーディと事を構えるのは、マクロスの完成式典に合わせた方がいいだろう。

 

 できればマクロスのブービートラップを除去していきなり和平したいとこなんだけど、ボドルザーは文化を認めなくて結局戦うことになるだろうなぁ。

 

 

 ◇

 

 

 華琳たちの捜索に全力を出している。

 そのためにハロから集まった情報を何度もチェックする。

 

 ハロ。

 知っているだろうがガンダムシリーズの多くに出てくるマスコットロボットだ。

 ごく一部のみ手足があるがほとんどは手足のない球体のロボ。

 

 俺の記憶だとアムロが創ったと思ってたんだけど、SUN社ってとこが先に販売していてそれをアムロがカスタマイズしたって設定になっていた。

 ホワイトベースとそのクルーが英雄視されていてマスコットであったハロも人気が出てSUN社だか玩具社がアムロからライセンスを得て販売という設定をアゴルフに教授されている。

 

 だがこの世界のハロは違う。

 1年戦争終結後、テムさんの縁もあってアムロも母親カマロともどもこの北アタリア島で暮らしはじめたのだが、その際にライセンス契約を結んだのだ。

 SUN社には悪いかもしれないが、アゴルフの話だと1年もブームは続かないともあったので気に病むこともあるまい。

 アップデートもこま目に続けているし、T1社(うち)のハロはいまだに売れ続けているのだから。

 

 この世界のハロの売れ行きは好調。

 毎月のように期間限定のカラバリが出て、愛用のカスタムモデルを発表する有名人も多い。

 コラボモデルもあって、あの声の電気ネズミ柄モデルは予約が半年先まで埋まっている大人気商品だ。

 中には二桁のカスタムハロを所有するマニアも出てくるぐらいだったり。

 

 アムロからライセンスを得ているのは同じだが、製作および販売はT1社だ。もちろん動力はFドライブ。

 さらにノートパソコン機能もあり、カラーバリエーションだけでなく、ハイスペックなプロ仕様バージョンまで販売されていたりする。

 

 プロってなんだよ、ってトコだがハロってさ、スパロボに出てくるのは最強の強化アイテムだよね。

 それにVや00だとサブパイロットにすらなっている。精神コマンドすら使えるってどういうコトなのさ。

 

 この世界は攪拌(シャッフル)されちゃっているけれど基本はスパロボ世界なようだ。

 ならばスパロボで有用すぎるハロを自分で作れたらチートコードもいらないワケで。

 アムロや博士陣にも協力してもらって高性能ハロを開発しているのだ。

 もちろん最高性能のハロは販売ルートにはのせないけどね。

 

 うちの孤児院の子たちにもプレゼントしている。

 璃々ちゃんやシンジも喜んでカスタマイズして可愛がっているよ。

 

 で、一般販売用のハロだが、これもただ売っているワケではない。ちゃんと目的があって大量販売している。

 ハロが見聞きしたデータがうちのサーバーに集まるようになっているのよ。

 

 別にハロにバックドアを仕掛けているのではない。ハロを分解したりソフトウェアを解析してもそんなものは一切見つからないだろう。

 

『ハロハロ』

 

「今日も頼むぞ」

 

『リョカイリョカイ』

 

 俺に返事をしたのはT1社ビルに設置されているハロシステムのメインサーバー。

 外見は大怪球。によく似た巨大なハロ。

 見た目だけじゃなくて性能もメチャクチャ凄いスパコン。高い知能すら保有している。

 だってフォーグラー博士と幻夜たちが作り上げた物を俺が成現(リアライズ)して強化した物だからね。MAGIにすら負けないよ。

 

 このマザーハロはアップデートのためにリンクしてきた各ハロからデータを受け取る。それもハロがデータとして記録していない見聞きした記憶までもだ。

 電子的なデータからではなく魂的なモノを経由して察するのだ。まさにオカン。だからこの情報収集はばれることはないだろう。

 

 ちなみに偽造品も出回っているが、うちのネットワークに繋いでアップデートすると養子として認識され結局情報源となってくれるので問題はない。

 

『ミツケタミツケタ!』

 

「本当か! 誰だ?」

 

『カンネイ、カンネイ』

 

 このマザーハロには恋姫シリーズとスパロボもプレイさせてある。世界攪拌によって融合してしまった人物は見た目が全くの別人となってしまっても周りの誰もが違和感を感じないが、その変わった外見で判断がしやすい。

 一般販売され、世界中に出回っているハロによって地球だけでなくスペースコロニーからの情報も集まるので嫁さん探しが進むのだ。

 

「思春か。いったい誰と融合しちゃってる?」

 

『Dシュジンコウアイボウ! ギュネイ・ガス!』

 

「ねい繋がりか!」

 

 ギュネイか。たしかにスパロボD男主人公の相棒だ。まさかDまで混じってくるのか?

 無いとは言い難い状況なのが怖い。

 ともあれネイ・モーハンになってなくてよかったよ。オージェは好きだけど宇宙人だと合流が大変そうだからね。

 一年戦争で両親を失ったはずだからこの時期のギュネイは孤児? まだ強化人間にはされてないと思うけど、またロリ化しちゃってるだろうなぁ。

 ロリ思春、早く見たいぜ!

 

「さっそくコンタクトを取らなきゃ。孔明ちゃん、お願い」

 

「了解です、ビッグ・ファイア様」

 

 ジャイアントロボの孔明と融合しちゃった無印恋姫†無双の諸葛亮ちゃんのことは俺の嫁の朱里ちゃんと紛らわしいので「孔明ちゃん」と呼ぶことにしている。

 華琳ちゃんと俺の結婚を知った孔明ちゃんは銀麗とカティア、テニア、メルとなにやら打ち合わせていることが多い。なにを企んでいるのだろう。

 

「あと科学要塞研究所も調査してくれ。特に引き取って訓練させている孤児を」

 

 D主人公相棒といったら剣鉄也もそうじゃん。馬鉄と融合している可能性がある。

 そして炎ジュンが孫堅という可能性も……。あ、兜剣造でもいいのか。でもそれなら蓮華や孫乾でもありなんだよなぁ。

 それともまさか孫堅はフェイ・イェンと?

 

 




香風から思春に変更しました


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31話 天空

感想、評価ありがとうございます


 やっと合流できた唯ちゃんとこれから夜の夫婦生活というところでビニフォンがけたたましく鳴り響く。

 慌てて出たらティスちゃんからだった。再会しやすいようにって彼女にもビニフォンを渡してあったんだけど、使い方はちゃんとわかったようだ。

 

「もしもし」

 

『コーイチか、お前、まだ分身がいるのか?』

 

「はい?」

 

『だから、ここにお前がいるんだって』

 

 ここってどこさ。ええと、今のロットのビニフォンなら通話相手の居場所を特定できるようになってるから……って木星付近?

 

「木星って、なんでそんなとこに? って言うか、俺?」

 

『どう見てもお前でしょ!』

 

「いや、俺からは見えないんだけど。写メって、わかる? 送ってもらえるか」

 

 状況がよくわからない。木星付近ってザンスカール帝国にでもいるのか?

 通話がいったん切られて、ちょっとの間でメールが送られてきた。添付された画像にはたしかに俺に似たような男が映っていて。

 

「これさ、こっちの世界のお兄ちゃんじゃないの?」

 

「え?」

 

 ビニフォンの画面を指差して唯ちゃんがそう告げる。

 こっちの世界の俺?

 華琳が会った妊婦曹操の夫が異世界の俺らしいって話があったけど。

 そういえばハルケギニア(あっち)から地球(こっち)にきてからずっと俺の分身がいるっぽい感じもしてるけど、まさかこいつ?

 俺が送っているテレパシーの返答がないのは聞こえてないから?

 再びかかってきたティスちゃんからの電話に出てそこでちょっと待つように告げて、彼女の持つビニフォンをマーキングにしてポータルを開く。

 

「ちょっと行ってくる」

 

「ボクも行くよ。そっくりさん見たいから」

 

 ちょっと距離あるからポータルのMP消費が大きいな。

 ま、俺が6分の1とはいえ余裕ではある量なんだけどさ。

 

 

 ◇

 

 

 唯ちゃんを俺の小隊に編入して行った先は大きな部屋だった。外の様子はわからないけどここが木星付近?

 

「テレポート? いえ、違いますね」

 

 ポータルから出てきた俺たちを見てそう言ったのはティスちゃんと同じくらいの年齢に見える少女。

 彼女はもしかしてアクエリオンEVOLのロ理事長ことクレア・ドロセラ?

 

「カライのニセモノ!?」

 

「そっくりさん? 双子の兄弟?」

 

「クローンかも」

 

 俺を指差して驚く少女たち。全員が美少女だ。

 しかも全員に見覚えがある。俺が好きなアニメ、ゲームの登場人物ばかり。

 その中にずっと探していた姿を見つけてしまった。

 

「クラン!」

 

「な、なんだ貴様は!?」

 

「俺だよ! 俺! って指輪もチョーカーもない……」

 

「残念、ハズレだったみたいだねお兄ちゃん」

 

 抱きしめようとした腕を回避し俺を睨むクラン。さすが戦闘民族(ゼントラーディ)らしい素早い動きだ。

 からかうような感じで結論を言う唯ちゃん。でもそれはたぶん俺の落ち込みを避けようとしたためで。

 

「だ、誰だ、お前は!?」

 

 今度は男。俺以外でこの場にいる唯一の男だ。

 いや、俺以外というのは間違いかもしれない。

 その顔は俺そっくりで。唯ちゃんが言ったようにこっちの世界の俺なのか?

 

「俺は天井煌一。天井(てんじょう)(きら)めく数字の(いち)って書く」

 

「あまい……カライじゃないの?」

 

 聞いてきた子はマクロス30のアイシャかな。見た感じ、俺の愛紗ともヨーコとも融合していないようで残念なような安心したような。

 マクロス30のダブルヒロインではアイシャ・ブランシェットの方が好きだったからね。あ、もう片方のヒロインのミーナ・フォルテもいるな。あ、メイ・リーロンもいる! グレンラガンのリーロンとは融合してなくて本当によかった!

 

「そっちは?」

 

「お、俺は空井(からい)風皇一(こういち)。姓は空っぽの井戸。名前は風へんに皇って書いてそれに数字の(いち)だ」

 

 そんな字あるのか。

 でも字は違うが名前は同じ。やっぱり異世界の俺なのか?

 

「ボクの読みが当たったみたいだね。確認のために眼鏡外して比べてみよう」

 

「き、キミは?」

 

「ボクは」

 

「カライが気にしていた篁唯依よ」

 

 唯ちゃんの自己紹介を遮って近くのモニタから現れたのは、立体映像の女性。

 

「シャロン・アップル!」

 

「ええ。あなたは何者? 篁唯依の婚約者という以外、私のデータベースにも情報がないわ。他の転生者でもない。この世界にはいるはずのない人間」

 

「転生者? そんなのがいるのか」

 

 異世界転生ってやつだろうか。とりあえずカライと俺が似ているせいか敵対しているようでもないので情報交換を続けたい。

 ティスちゃんもおとなしく俺たちの話を聞いて情報収集しているようだ。

 

「そんなのいいから眼鏡外そうよ」

 

 ひょいっと小柄な、それでいて巨乳、まさにトランジスタグラマーを体現した少女がカライの眼鏡を奪う。

 彼女はゼシカ・ウォンだ。衣装は前期型だな。

 って、カライは眼鏡を外しても大丈夫なのか?

 

「やだ、美形!?」

 

 鼻息が荒くなったのは腐ランカことサザンカ・ビアンカじゃないか。呪いはないみたいだな。

 とはいえ、ここにはその別名の由来のランカ・リーもいるんだよなあ。

 

「お兄ちゃんも」

 

 俺の眼鏡は俺以外には外せないように成現(リアライズ)してあるので唯ちゃんは促すだけ。そうでなかったらこの怪盗少女に奪われていたことだろう。

 

「篁唯依にお兄ちゃんと呼ばれるなんて、まさかユウヤ・ブリッジス?」

 

「いいえ、彼はユウヤ・ブリッジスではないわ。彼女がアメリカにいることは確認できている」

 

 シャロンが空中に映像を投影する。そのモニタに映されたのは監視カメラからなのか斜め上からの映像だった。

 しかも中心に映ったのはよく知っている赤毛の少女。反応するのは唯ちゃん。

 

「由真姉!」

 

 そう。映されたのは軍服に身を包む由真。ということはユウヤ・ブリッジスと融合してしまっているのか。

 

「ユウヤ・ブリッジスが女の子? ゆま? ゆいとゆま……これはもしかして!」

 

 気づいたか異世界の俺。そうだよ、あっぱれ! 天下御免の登場人物だよ。

 

「スケバン刑事!」

 

「そっちかよ! いや、それも間違いじゃないけど!」

 

 子済三姉妹の名前はスケバン刑事IIIの風間三姉妹からだよなあ。俺も唯ちゃんにヨーヨーを成現(リアライズ)するか迷ったし。

 それともカライの世界ではあっぱれが発売されていない?

 

「え? じゃあ、ゆいちゃんにお兄ちゃんと呼ばれているってことは同級生2?」

 

「たしかに唯ちゃんは喫茶店の子だけど!」

 

 やはりこいつは異世界の俺なんだろうか? 発想が近すぎる。

 そんな俺たちを置いて、唯ちゃんはビニフォンを操作中。

 

「由真姉! 由真姉! 出てよ!」

 

「まだ記憶が戻ってないんじゃないか?」

 

「……ボクもそうだったからキッカケがあれば」

 

 今すぐにでも会いに行って記憶を取り戻させたいけど、この世界のアメリカにはマーキングしてないのでポータル移動ができない。

 唯ちゃんや白蓮のように自分で思い出してくれるのを祈るしかないのか。

 

「なんで篁唯依とユウヤ・ブリッジスがが別人に?」

 

「それは説明できるから、そっちのことも教えてくれ。たぶん、お前は異世界の俺なんだろう」

 

 眼鏡を外した俺の顔を見て、カライはゆっくりと肯いた。

 ふう。祝福封じの手段をいくつも用意しておいてよかったよ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 驚くべきことがわかった。

 異世界の俺と思われるカライは()によって異世界転生したというのだ。しかもカライ以外に11人も転生していてアニメやゲームキャラに転生したやつが多いって……。

 

「あの飛影が鎧衣尊人で転生者。さらにダバにキラもってことか」

 

「他に悟空や承太郎もいるって無茶苦茶だねえ」

 

「恋姫ヒロイン全員嫁にした天井の方が無茶苦茶だろう」

 

 眼鏡越しなのに空井がジト目なのがわかる。俺としては特典でアニメキャラに転生せずに美少女多めを選んだお前の方がアレだと思うぞ。

 まあ、転生者が選んだラインナップを聞いたら逆に誰になりたいってのも困るけどさ。

 

「わ、私まで嫁になっているというのは本当なのか!?」

 

「うん。ほら、これこれ」

 

 ビニフォンで俺とのツーショットを立体表示させる。文化祭の時のやつなので嫁クランも俺も大江戸学園の制服姿だ。こっちのクランは鼻息荒くそれを見ている。

 

「あたしはどうなのよ!」

 

「この中でいるのはクランだけかな」

 

 ずいっと割り込んできたシェリルだったが、俺の返答にがっくりとしてしまう。

 

「本当に好かれているんだな、空井は」

 

「ああ。特典のせいだとわかっていても涙が出るほど嬉しい」

 

 そんな好かれ方でいいのか、とは俺には言えない。梓で似たようなことになっちゃっているから。

 梓にも早く会いたいなあ。

 

 っと、せっかくだからこれも聞いておこう。アイシャかシャロンならばわかるかもしれない。

 スタッシュから米粒よりも小さな欠片を出す。

 

「これを調べてくれないか?」

 

 アイシャの指示に従って解析器にそれを置くと、すぐに結果が出た。

 それは半ば予想していた答えで。

 

「欠片を調査した結果、これはG元素とわかったわ」

 

「それ、風石なんだよ」

 

 G元素も風石どっちも固有原理なはずだが、こうなるとこのMuv-Luvの世界とゼロ魔の世界が完全に繋がっているみたいだな。

 

 




風へんに皇で一文字です


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32話 戦後

感想、評価ありがとうございます


「アマイとカライねー」

 

「んじゃ他に酸っぱいとか塩っぱいがいるのかな?」

 

「スイはともかくショパイだと日本人ぽくないわね」

 

「日本人というのならニガイとウマイもいそうだぞ」

 

 カライの仲間の少女たちが好きなことを言っている。味じゃなくて、天と空にかけてほしいものだが。となると、花井とか嫁井が出てくるのではなかろうか? この場所は木星の天空城と言えなくもないし。

 

「そうですか、そちらのカライのそっくりさんをご主人様にしてるのですか」

 

「あれの所有物だ」

 

「これをどうぞ。詳しく教えてください」

 

 アルにドーナツを渡して情報収集しているのはアクエリオンEVOLのロ理事長ことクレア・ドロセラ?

 あの子も外見はロリだけど実年齢不明だったはず。その辺もあってアルと気が合ったのかも。

 つうか、誤解されるような言い回しをしてるのはやはりか。……ロリコンと呼ばれることになっても事実なので問題はないが。

 

 それを尻目に考える。

 BETA。

 異星の珪素系生物(シリコニアン)が造った炭素系生命体。

 尻子ニアンってロリ尻フェチっぽいよね、ってバカな話は置いといて。

 目的は資源採掘用。人類は知的生命体と認識されず、ただの自然災害扱いとして害虫駆除のように処理されている。だったかな?

 BETA製造にはG元素を消費している。重光線(レーザー)級が他のBETAより少ないのはG元素の消費量が高いからで。マブラヴ世界の人類はG元素を利用して特殊な装備を開発している。悪名高いG弾もこれを使ってた。凄乃皇にも使用されてるんだっけ。

 

「そのG元素がハルケギニアにある、と?」

 

「ああ、あの欠片はむこうで入手したものだ」

 

 カライの確認に肯く俺。クランは微妙な顔をして首を捻る。どう見ても俺の嫁の方のクランにそっくりだ。

 

「古生代カンブリア紀の葉足動物がなんなのだ?」

 

「ハルキゲニアじゃないから。よく混ざってややこしくなるけどハルケギニア。異世界の大陸の名前だよ」

 

「ってこの世界、ゼロ魔と繋がってるの? マジかよ!?」

 

 そりゃ驚くよな。

 俺だって武御雷を見るまではまったく想像もしてなかった。才人の代わりに召喚されただけで他は同じゼロ魔世界だって思ってたさ。

 っと、これも説明しておくか。

 

「ああ。ついでに言うとルイズには俺が召喚されてしまった」

 

「なんですと!? じゃ、じゃあしたのか? 契約の……キスぅ!!」

 

「ちょっ」

 

 俺に詰め寄ってガシッと肩を掴む空井。あまりの興奮に接触不可の注意を忘れてしまったか。

 もし空井が本当に俺と同じ存在ならどっちか、弱い方がカードになってしまうことになる。華琳ちゃんの時のように。

 だが、空井の手が俺の肩に触れた途端、「バチッ!」と大きな音とまるで爆発のような衝撃が俺たち二人を襲った。それに弾かれて俺たち二人は宙に舞う。

 幸いといっていいのか、この部屋の天井(てんじょう)は高く、激しくぶつかる前に落下する俺たち。

 

「にゃんぱらりん」

 

 俺の方は無事に空中で姿勢を整えて足から着地、怪我をしないですんだ。明命と特訓したお猫様空中三回転、役に立ったぜ。

 ただ、空井の方は着地失敗、床に叩きつけられたようで腕をおさえてうずくまっている。

 

「ぐっ……な、なんだ今の?」

 

「わからんが、そのまま動くなよ」

 

 また爆発したらかなわんから、触れないように治療しよう。

 

「魔法? そんなこともできるのか?」

 

 あれ? 俺、治療方法は口に出して……そうか、やっと繋がったか。聞こえてるんだな?

 

「え? ええ? 口が動いて、いない? こいつ直接脳内に!」

 

 喋らないでいい。まあ、俺も慣れが必要だったもんなあ。元々一人暮らしが長くて独り言も多かったし。

 ともかく、どうやら他の分身たちと同じく、空井ともテレパシーが使えるようになったようだ。パスが繋がったのかな。

 

「おおぅ、見つめ合う美形! ふふふふふふふ!!」

 

 サザンカが変なテンションで――サザンカにしてみれば平常運転かもしれないが――俺たちを撮影している。同じ顔が見つめ合うのを撮ってなにが楽しいんだか。あ、もう眼鏡をしておかなきゃね。でゅわっと。

 

「なんか記憶も混乱しているような?」

 

「カードになるんじゃなくて、ボクたちみたいに合成っぽくなろうとしたけど、それも失敗した?」

 

「GPが足りなかった? それとももしかしたら、俺たちんとことシステムが違うのかも。固有原理かな? 球神転生も修行神のとはなんか違うみたいだし」

 

 唯ちゃんと篁唯依、白蓮と白銀武はたしかに合成っぽい気もする。だけど合成はGPを消費して行われる。その額は一定ではなく、合成されるモノの能力によって変化する。俺はこう見えてMPの数値が膨大だからその額もとんでもない。だからか?

 もしくは俺たちがそうならないように、なんらかのプロテクトが働いた?

 空井には球神が力を与えているから、別の神の使徒である俺と融合されて奪われるのを防いだというのはありえる、か。

 

「あれ? ステータスもスキルも微妙に変化している?」

 

 気になったのでビニフォンで自分の状態を確認したら、変化があった。各種能力値、スキルレベルが下がってる。かわりにいくつか見覚えのないスキルが追加されていた。

 おや? 〈独占〉ってこれ、空井のスキルだよな? もしかして?

 

「空井、これを使って自分のステータスを確認してくれ」

 

「あ、ああ……こうか?」

 

 新品のビニフォンを空井に渡し、持ち主登録させてステータス表示。使い方はすぐにわかったようでスムーズに作業が進み、結果を立体表示で見せてもらう。

 

「やはり。鍛えた俺より数値は低いけど、スキルが多いな」

 

「うん。こんなスキルなんて転生ん時に選んでないのに」

 

「どういうこと?」

 

「これってもしかして二人の合成は失敗したけど、互いに能力が混じったってこと?」

 

 アイシャが俺と同じ答えにたどり着いたようだ。マクロス30で過去を改変するような超文明の古代遺跡を調査できるぐらいだから、こんな状況には強いか?

 

「たぶんそんなとこだろう。ふむ。俺の全部のスキルがカライに分割譲渡されたってワケでもないようだ。成現はないか」

 

 あのチートスキルはないようだ。固有スキルだからかな。俺にも空井の〈死者復活〉が増えてないので残念だがそんなものなのだろう。あ、空井ってば〈魔法使い〉のスキルを持っているな。さすが俺と同じ存在。転生でも年齢がリセットされたことにならなくてこれは引き継がれるのかね?

 

「え? あ! い、いいだろう、そんなこと!」

 

「いや、恥ずかしいのもわかるが俺のとこだとかなり強力なスキルだったんだぞ、それ」

 

 MPの上昇率が無茶苦茶で、魔法のラーニングもほぼ100パーセント成功する壊れスキルだぞ。魔法がないと意味ないかもしれないけどさ。

 どうしても嫌ならさっさと捨てればいい。

 

「そんなこと言われても」

 

「まあ俺だもん、そうだよなあ」

 

 声に出していない俺の意見をテレパシーで受け取り、動揺する空井。いくら好かれている女性が多くてもそう簡単にはコトに及べはしない。俺なのだから。……ビニフォンで特典リストも表示されてるけど、処女を要求してるんだからその気はあるんだろうに。

 

「違うから! 特典の要求をする時にそうやって人数を減らさないと要求が通らなかっただけだから!」

 

「興味がないワケじゃないんだろう。そうなるとお嬢さんたち次第かな」

 

「なんの話をしてるのだ?」

 

「ほら、ここの話」

 

 ビニフォンの能力表示は使徒のキャラシートと同じ。つまり、ある個所もしっかりと表示されてしまう。

 つまり性経験の有無。クランの質問に『童貞』と明記された部分を指さすと空井の仲間の少女たちは頬を染める。で、赤い顔でチラチラと空井を見出した。

 これはやはり、脈アリだな。

 

「わ、私たち次第って」

 

「やっぱりそういうこと、だよね?」

 

「空井の記憶に強烈に残る初めて、は早い者勝ちかな」

 

 ざわざわしていた少女たちは俺の台詞で静まり返る。ゴクリと喉が鳴る音が聞こえたのは幻聴だろうか?

 ううむ。他人事だと楽しいな。

 

「煽るな!」

 

「嬉しいくせに。それとも嫌なのか?」

 

「そんなことあるワケないだろう! バッチこーいだ! ……あ」

 

 無言だった少女たちの目が光った気がした。こりゃ明日には〈魔法使い〉のスキル消えているかな。

 っと、誰が空井の初めてを奪うかは気になるけどこっちの話も進めないといけない。空井には協力者になってもらわねば。

 

「なにを気楽な」

 

「気楽じゃないぞ。俺としてはこっちの方が重要なんだよ、嫁さんたちとはぐれちゃってるんだから!」

 

 俺の能力値が下がったのは痛いが、ゼロになったワケではない。空井と回線が繋がって協力を得られるなら、みんなを見つけるのにも助かるはずだ。

 空井の仲間も、ここの装備も凄いのだから。

 

 ……む。ここの装備か。

 

「この工廠で新マクロス級って造れる?」

 

「そうね。カライの携帯端末(セルラー)にアクセスできるようにしてくれたら教えてあげるわ」

 

 シャロンの提案。どうやらシャロン・アップルであってもビニフォンには侵入できないらしい。セキュリティには力入れたもんなあ。

 テレパシーで空井と悩みながらビニフォンの設定を調整すると、空井ビニフォンからシャロンの立体映像がヌッと生えてきた。

 

「馴染む、実に馴染むわ、これ。小さいのに高性能」

 

「まあね。それでどうなの、新マクロス級?」

 

「造れるわ。その資材も充分にある」

 

 そうか。だとするとこれはやはり、そういうことなのだろうな。

 この世界は俺にとっては過去。エクサランスの暴走によって跳ばされてしまったのだ。

 そして、マ†・エロースを造るのもこの工場衛星なのだ。

 だが、あんな超大型艦を造ってくれ、なんて簡単には頼めないよな。なにか出せる対価が俺にはあるか?

 

「まさかAL5用に新マクロス級を使おうってのか?」

 

「いや、そうじゃない。俺たちの世界の方で方舟が必要って予言されてるから」

 

「方舟ね。で新マクロス級ってか」

 

 ううむ。あのマ†・エロースはここで造られた可能性が高い、と思う。他の分身がなんとかするかもしれないが、確実なのはここだろう。なにか対価は……。

 

「建造してもらえないか? 実物のデータはある。たぶん普通の新マクロス級より強力なやつだ」

 

「そう言われてもな」

 

「タダとは言わない。空井の仕事も手伝おう」

 

 現金よりもその方がいいはず。金なんかあってもこんな地球から離れた場所じゃ使いようがないのだから。

 まったく、いくら目立ちたくないからってこんな木星のそばまで離れるなんて。

 球神は地球担当だけじゃないのかな? うちの駄神は普通の主神でも惑星が担当みたいなことを言ってた気がするが。

 それとも木星の神? ってゼウスじゃないかよ。

 あんまりいい印象ないなあ。

 

 転生者が12人なのとオリンポス12神ってのはなにか関係してるのかしらん?

 あ。そうだ。

 

「空井が表に出たくないというのなら、俺がお前の影武者として、12番として代わりに他の転生者と会おうじゃないか」

 

「え?」

 

「おいおい、相手はBETAだぞ。他の転生者たちとの連携なしに駆逐なんてできないだろうが」

 

 空井が覚えている範囲で他の転生者の特典も聞いたが、どれも一人だけではBETAの駆逐なんてできるような気がしない。だからこそ球神は12人も転生させたんだろう。

 

「みんな特典あるからなんとかなるだろ」

 

「なんとかなったとして、その後どうする?」

 

「え?」

 

「BETAを駆逐した後のこと、なにか球神から聞いてない?」

 

 黙り込んでしまった。テレパシーでも混乱した声しか伝わってこない。

 聞いていない、のだろう。だからって先のことを考えていないのはおかしい。もしかして思考制御、されてる?

 ここは声に出さない方がいいかな。空井、〈独占〉で自分の思考をチェックしてみてくれ。そうテレパシーを送る。

 

「う、うん……ええと、俺はずっとここで暮らすつもりで……」

 

「BETAがいなくなった後もずっと一生? 女の子たちもずっとここで?」

 

「だ、駄目かな?」

 

 子供の教育とか老後とか考えなかったのか。え? とにかくBETAがなんとかならなきゃってそこまで気が回らなかった?

 思考制御とかなかった?

 他の転生者もそうなのだろうか。ますます集めて話をした方がいい気がしてきた。

 まだエルガイムや飛影のチームとは接触できるのでそこから話を持って行けば。

 

「BETAがいなくなったら世界情勢がどうなるかは予想できるだろ?」

 

「簡単に平和ってわけにはいかない、か」

 

「転生者たちも力を狙われたり、邪魔にされたりする可能性だってある。だからここに引きこもるつもりなんだろ?」

 

 似たようなことは俺だってあっぱれ対魔忍世界で考えたからなあ。

 だけどこの世界は融合しちゃった嫁さんたちの世界でもある。まだ他にも嫁がいるかもしれないワケで。

 他の転生者たちも交えてBETA戦とその後も相談しておきたい。

 

 



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33話 試し

感想、評価ありがとうございます


 ルイズに呼ばれて彼女の部屋にいた俺。

 やましいことなど()()していないが、それでも二人きりで会っているのを見られては弁解が難しい。

 

「使い魔とはいえ、このような時間に男と二人きりでいるなんて!」

 

「エレオノール姉さま、わたしとコーイチは」

 

「ちびルイズにはまだ早い! それに相手は平民でしょう。ラ・ヴァリエール家の娘には相応しくないわ」

 

 ああもう、完全に誤解しちゃっているなぁ。ルイズの話、まったく聞いてないし。

 しかもルイズも俺の腕を抱きしめていてその誤解を助長している。誤解させたいのか、エレオノールにビビっているのか判別がつかないが震えているのも伝わってくるので振りほどくワケにもいかん。

 

「そんなことない! コーイチは特別なの!」

 

「特別、ね。ルイズあなたそこまで……いったいどんな手で誑かされたのかしら?」

 

 俺が庇うより先にルイズの頭をガッチリ掴んでアイアンクローをかけるエレオノール。あっちに行ったルーン付きの俺だったらカバーできたのだろうか?

 さらにアイアンクローしたままずいっと顔を寄せて睨み付けるお姉さん。メンチ切ってるヤンキーですか? 祭りで初めてカミナと会った時を思い出すなあ。近い近い! 

 俺と彼女の眼鏡が触れ合いそうな距離で「ああん?」と首を傾げられると、揺れた金髪が俺の顔をくすぐった。

 

 金髪、か。

 ルイズママの髪が違ったから安心したけど長女が金髪なことを考えると、〝烈風〟カリンことカリーヌが華琳と融合してる可能性がゼロになったワケじゃないかもしれない。

 なんとかして確かめたいところだ。

 

「ふえ、うぇ、たぁ、たびゅりゃきゃしゃれてなんて」

 

 なにを考えたのか、痛みで半泣きになりながらも器用に頬を染める妹に気味悪くなったのかすぐに手を離す姉。

 

「おちび、気持ち悪いからそのだらしない顔を止めなさい」

 

「ひどい。そ、そんな変な顔じゃないわよね、コーイチ?」

 

「あ、ああ。いつもと同じでかわいいよ」

 

 ぱぁっという感じで泣き顔が消えた。姉に振り向き、まだ赤いままのドヤ顔を見せつける。

 

「ほら!」

 

「わが妹ながらあまりのチョロさに泣けてきそうよ。言葉巧みに……ルイズを手懐けたのね」

 

 ああ、ため息つかれちゃったよ。今ので「言葉巧み」ってのは自分でも無理があると思ったんだろうなあ。

 

「違うわ、エレオノール姉さま。コーイチは口だけじゃないの! スゴいのよ!」

 

「凄いって……まさかそんな」

 

 なにを考えたのか今度はエレオノールが真っ赤になって俯いてしまった。さらに俺に顔を向けないようにしながらも横目でこっちを凝視している。「スゴい」って聞いて真っ先にそんなことを浮かべるなんて、俺はいったいどんなイメージで見られているんだろうか?

 

「姉さま? どうしたの?」

 

「ルイズ、エレオノールお嬢様は意外とスケ……純情みたいだ。結婚までそんなことはしないタイプなのかな。だから結婚できない?」

 

 酔ってるせいか、つい言ってしまった。そのせいでエレオノールのツリ目がさらに吊り上がる。

 

「余計なお世話よ!」

 

「やっぱりそうだよね。そーいうのは結婚してからだよね」

 

 うんうんと肯く俺。そのことに関しては俺も同感すぎる。俺も華琳たちとスるようになったのは結婚してからだもんな。みんな元気でいるだろうか。早く会いたい。あっちに行った俺が羨ましすぎる。

 嫁さんたちの顔を思い受けべてたら俺の腕を抱えるルイズの力が強くなった。

 

「わたしにはしたクセに」

 

「なっ!?」

 

 ちょ、ちょっとルイズさん? 今そんなこと言ったらマズイでしょ!

 ほら、吊り上がったエレオノールの目が、今度はスッと細くなっちゃったじゃないか。

 それだけではなく、さらに強い殺気が俺にぶつけられる。エレオノールとは別方向から。

 武闘派の嫁レベルの強い殺気だった。

 

「その話、詳しく聞きましょう」

 

「か、母さま!?」

 

 うるさかったのか、ルイズママまで登場。ルイズの震えがさらに強くなり顔色も完全に悪い。正直、俺のEPもガリガリと削られて減少中。

 ど、どうしよう。嫁入り前の娘さんをキズモノにしてしまったなんてどう詫びればいいんだよ!

 

「どうしたの? 母さまに説明しなさい」

 

「ルイズお嬢様は悪くありません」

 

「あなたには聞いてないわ。ルイズの話を聞いてから処分を決めるので黙ってなさい」

 

 眼中にないとばかりにこちらを全く見ずにそう言い放つルイズママ。俺の方はさっきの疑惑が再び浮上したんでカリ……とは心の中でも呼びにくいよ。

 だが「処分」ね。もう決まってるような言い方だ。どっちにしろ酷い目にあうのは確定か。ならばここで開き直るしかない。

 酔い覚ましを飲むか一瞬迷ってる間にルイズが震えながらも俺を庇うように前に立った。

 

「コーイチに酷いことしないで。お、おしおきならわたしが受けるから!」

 

「主人の盾である使い魔を庇うとは。本気なのね?」

 

「やめとけって。今のルイズじゃお母さんの相手は無理だから」

 

「あなたごときにお母さんと呼ばれる筋合いはありません」

 

 今度は俺を睨み、さっきよりも強い殺気をぶつけてくる。その余波の気当たりでエレオノールが立ってられなくなったか崩れ落ちた。俺も気絶したいけど、これぐらいなら嫁さんたちで慣れているからなあ。

 

「ふん、少しはできるようですね」

 

「鍛えてますから」

 

 シュッと手首アクション。でも元ネタ知らないルイズママには受けなくて、睨まれたままだ。

 

「今の、と言いましたね。まるでいずれは私の相手が務まるかのような口ぶり、どういう意味かしら?」

 

「そのままの意味ですよ。ルイズは強くなる。この俺を使い魔にするほどの魔法使いですから」

 

 ルイズの肩にそっと手を乗せる。彼女の震えが少し弱くなったかな。ルイズママはチラリとその手に視線を移し、すぐにまた俺を睨んだ。口角がやや上がったように見えるのは気のせい?

 

「それほどの実力があるとあなたは言うのね。わかりました。ならば試しましょう。表に出なさい」

 

「ま、待って母さま、明日にしましょう。こう暗くては余計な被害が出かねません」

 

 あ、エレオノール復活したのね。ってカトレアが支えている。彼女が起こしたのかな。

 エレオノールは俺に向き直って。

 

「わたしにできるのはここまで。逃げるなら早くなさい」

 

「エレオノール姉さま?」

 

「ただしルイズまで逃げたら絶対に逃げ切れないから使い魔だけで逃げなさい」

 

 逃げたところで烈風からは逃げられないような気もするが、ルイズの前で俺が殺されるよりはマシだと判断したっぽい。

 

「やさしいお姉さんだな」

 

「もちろん! わたしの姉さまなんだから!」

 

 その言葉に感極まったのかエレオノールはルイズを抱きしめて声を出さずに泣き出してしまった。

 ああ、こりゃ彼女の中では俺は確実に死ぬってことか。それを少し羨ましそうに眺めながら呟くカトレア。

 

「ルイズにやさしいって認められたことが嬉しかったのね」

 

 そっち!?

 まさか肯定してもらえるなんて思ってなかったってこと?

 

「逃げるのですか?」

 

「え? なんで?」

 

「コーイチ逃げるの。これは命令よ!」

 

「俺も逃げたいけど、それは駄目でしょ」

 

 エレオノールに抱かれたまま涙目で俺を止めようとするルイズの頭を撫でて慰める。カトレアは手持ち無沙汰になったのか、なぜか俺の頭を撫で始めた。

 目の前で逃げろと言っている娘たちになにも言わないどころかため息すら残さずにルイズママは去っていく。こりゃ、明日は相当気合い入れないとやばそうだ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 屋敷からかなり離れただだっ広いなにもない場所に案内された。どうやらここが公開処刑場らしい。

 少し離れた空中にルイズママが既に布陣していた。

 

「なんで逃げなかったのよ!」

 

「俺が死んでもかわりがいるから」

 

「コーイチ?」

 

「ルイズの誇りは俺が守る」

 

 あれ? まずったかな。せっかくのネタが通じずにルイズがまた泣きそうになってしまった。

 雰囲気を和まそうとしただけの台詞だったのに。これ以上不安にさせるのも嫌なのだが。

 

「大丈夫。キミの使い魔を信じなさい」

 

「そ、そうよね。モンモランシーだって、コーイチの師匠は魔法使い相手には絶対に負けないって言ってたわ」

 

 そりゃセラヴィーは世界一の魔法使いで、その座をかけてよく勝負していたがことごとく返り討ちにしていた実力者。見ただけで魔法を覚える上に大魔王の血筋の力で倍返し。魔法使いは勝てるわけがない。

 ま、俺はその劣化コピーっぽいことぐらいしかできないけどね。

 

「うん。それでも不安なら、あの杖を持って俺を助ける力を願うんだ」

 

 三角のプレートを出し、まるで祈りをささげるかのように両手でギュッと握るルイズ。これならかなりのEP注入が期待できる。お仕置き、いや、試験が終わったら成現(リアライズ)までいけるかな。

 ルイズを支えるように左右に立っているのエレオノール、カトレアに「ルイズを頼みます」と残して俺は彼女たちから離れていく。ルイズママの攻撃に巻き込むワケにゃいかんもんね。

 

「別れの挨拶はすみましたか?」

 

「必要ない」

 

「逃げなかったことは褒めます。あなたの死は腑抜けた娘たちの成長を促すことになるでしょう」

 

「娘思いのお母さんですね」

 

 かなり厳しいけどさ。そんな激しいとこも華琳に通じるものを感じてしまい、不安が大きくなる。あとでなんとかして試さないと。

 俺の決意を余所にルイズママは杖を構えた。慌ててスタッシュから帽子を取り出す俺。

 赤い野球帽にエンブレムの入った所謂、インベーダーキャップだ。もちろん俺が成現(リアライズ)したもの。原作の性能だけではなくさらに強化してある。ゲームセンターあらしの主人公、石野あらしの秘技を再現できるようにした優れ物だ!

 

「どこから出したのかしら?」

 

「エアカッターを避けるなんて!」

 

 ルイズの姉たちから驚く声が聞こえるがそれどころではない。〈感知〉のおかげで見えなくても感じることができるので回避はできているが、あのおばさん、足を狙って魔法を撃っている。俺の動きを封じてから嬲り殺しにするつもりなのか?

 怖い怖い。こんな時はギャグでもやらんとやっていられん。

 

「ゼロ式は風を読む」

 

 覚悟のススメの零式防衛術とルイズのゼロをかけたネタだけど、わかってくれる相手がここにいないのは寂しい。

 続いて目の前には竜巻。カッタートルネードだ。マジで殺しにきてるねえ。

 やるしかないか。あれ、数分息を止めなきゃいけないからキツいんだよなあ。

 

「天!」

 

 開始ポージングもちょっと恥ずかしいのが、この秘技を使いにくい理由だったりする。テンション上げてなきゃ使えないんだよ。

 

「地!」

 

 やっぱり似た技ならシュトゥルム・ウント・ドランクの方が良かったかね。

 かけ声で思い出すけどしすたぁずは無事でいるだろうか? 嫁さんたちの中でも戦闘力の低い方なのでちょっと心配だ。

 

「人!」

 

 この後に高速横回転。俺を中心に竜巻が発生するという真空ハリケーン撃ちだ。ゲームセンターあらしでは破壊力はあるのにゲーム機は壊さずにレバーを風で操作できる。威力調整も可能な秘技ということなのだろう。

 カッタートルネードも真空ハリケーン撃ちで相殺できて俺は無傷。……ちょっと目が回っているかも。でもそんな姿を見せずに強がって仁王立ちしたい。

 3回ほど繰り返すと、攻撃が止まった。

 

「まだ続けますか?」

 

「珍妙な魔法を使うのですね」

 

「魔法ではありません。秘技です」

 

 キリッ。

 俺には〈大魔法使い〉のスキルがあるのでセラヴィーのようにラーニングして返すこともできるけど、そんなことしたらルイズが落ち込みそうだから今回は使わなかった。それに秘技は破壊力はあっても殺傷能力はないから万が一ということもない。

 あ、インテリジェントデバイス使った非殺傷設定魔法という手もあるか。うん、もうEP貯まったかな。

 

「ではそろそろ俺の実力を見せましょうか?」

 

「ほう?」

 

「ルイズお嬢様呼ぶけど、いい? 人質なんかにしたりしないから」

 

「……いいでしょう」

 

 駄目元で言ってみたら許可が貰えたので手招きして彼女を呼ぶと、たたっと駆け寄ってきた。無理だったらプレートだけ投げてもらうつもりだったんだけどね。

 心配なのかついてきていた姉二人がルイズより先に声をかけてくる。

 

「スクウェアスペルを使えるなんて」

 

「魔法じゃないってば」

 

「たしかに杖も持っていませんね。先住魔法?」

 

「だから魔法じゃない」

 

 MP消費しないからね。かわりにCP消費の技なのだ。

 疑いの目を向ける姉たちに説明するのも面倒なので、さっさと作業に入ることにする。

 インベーダーキャップをスタッシュにしまい、まだ不安そうな表情をしているルイズに向かって手を出して。

 

「ルイズ、杖を貸して」

 

「これ?」

 

 ずっと握りしめていたらしいプレートを預かるとルイズママにも見えるように掲げながら〈鑑定〉。俺の〈成現〉と〈鑑定〉、〈システムツール〉のスキルレベルが上がっているためにビニフォンを使わなくても内容の確認が可能だ。

 うんうん、EPは十分に貯まっているな。よし、ちゃんとルイズがこっちの魔法も使えるような機能も追加されている。MPも足りるし、やっちゃいますか。

 

「俺はいわばアイテムマイスター。特技はこういうのだ。成現(リアライズ)!」

 

 そう台詞をキメたけど、俺の固有スキルは演出効果(エフェクト)ないから地味なんだよなあ。光ったり爆発したりすることもなく、プレートが一瞬でポールウェポンに変化する。これは基本形態のデバイスフォームで名前のとおりの長柄の三日月斧っぽい形。

 

「こ、これ、本当にあれなの?」

 

 バルディッシュをおそるおそるといった感じで受け取るルイズに彼が答える。

 

『Yes sir』

 

 それを受けてギュッと抱きしめる。ほらほら、泣くのは魔法が使えるのを確認してからにしようね。

 ルイズがだったのか近くにやってきていた姉二人からも声が上がった。

 

「軍杖のインテリジェンスアイテム?」

 

「錬金? いえ、違うわね。クリエイトゴーレムのアレンジでもないようだけど」

 

 ああ、ゴーレム生成に見えなくもないのか。たしかにこれはMP消費で成現(リアライズ)したから魔法と言ってもいいのかも。

 これはもしかして、俺のオリジナルスペルってことにすれば誤魔化せるのかね?

 

「さあ、試してみるんだルイズ。大丈夫、絶対に成功するから」

 

「う、うん」

 

 ルイズがバルディッシュを構え、真剣な表情で呪文を紡ぐ。途端にふわりとその身体が浮いた。

 これは魔法学院で見たから知っている。フライだ。学院の生徒たちが移動に常用している魔法で、これが使えずいつも歩かねばならないルイズを生徒たちはよくからかっていた。むかつくやつらだ。

 ルイズが魔法を使えるようになるって知ってなかったら、きっと俺はあいつらが飛行中にその魔法をキャンセルしてやっただろう。

 

 さあ、ここは言わねばなるまい。「クララが立った」のノリで!

 

「飛んだ、飛んだ、ルイズが飛んだ!」

 

「な、なによ、その大げさな喜び方は! 信じてたんでしょ?」

 

 嬉しさを表すように俺の上空を飛びまわるルイズ。

 おーい、下着見えてるぞー。魔法学院の女子制服って飛行するのが当たり前なのにスカートが短いんだよなあ。

 

「もちろん。そしてルイズが俺を信じてくれたからその杖が生まれた」

 

「うん。……コーイチ!」

 

 空中から勢いよくダイブしてきたルイズを抱きとめる。バルディッシュを構えたままだったから一瞬避けそうになっちゃったのは秘密だ。

 抱きついたまま感極まったのか抱きついたまま泣き出してしまったルイズ。そして近づいてくる彼女の家族たち。

 ルイズの魔法が成功という快挙で俺の処刑が誤魔化せるといいのだが。

 

 



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34話 その理由

感想、評価、メッセージありがとうございます


 念願の魔法を手に入れたぞ! そう感激のあまり泣き出してしまったルイズと、今にも胴上げでも始めそうな彼女の家族たち。

 このお祝いムードでは俺を処分なんて言い出せないと信じたい。

 あ、そうだ。誤魔化す為のネタを増やしておこう。やさしくルイズの頭を撫でつつ。

 

「ルイズ、今まで使っていた方の杖を貸してくれるか?」

 

「え? これ?」

 

 ルイズを抱きしめていた腕を離し、まるでオーケストラの指揮者が使うタクトのような杖を受け取る。ええと、これってどう持てばいいんだっけ? ま、適当でいいか。

 指揮棒杖を軽く振ってから、その先端をある場所に向ける。そこにあるのは大きな藪。

 

「コーイチ?」

 

「いいかいルイズ。あそこに不埒者がいる。たぶんスパイだろう。俺の攻撃に合わせて追撃できる?」

 

「う、うん」

 

 よくわかっていない表情ながらも肯いてくれたので、少しルイズから離れてから適当に指揮棒杖を振る。もちろん無くても俺は魔法を使えるんだけど、こっちの魔法だと杖が必要だからね。もし攻撃目標に逃げられても疑われないように済ますためだ。

 攻撃目標?

 だって都合良くこんな場所にいるんだよ、スケープゴートにさせてもらうのも当然でしょ。

 

「ミッソー!」

 

 無難に100本程度のマジックミサイルを藪に向けて発射する。正確にはそこの隠れているやつに向けて、だ。

 たまらずに飛び出してきたのは一人の男。ルイズは俺の言葉に従って相手の確認もせずに魔法の矢を放った。男は俺とルイズの魔法をかわそうとするも、マジックミサイルは誘導式。結局、全弾命中して霧散した。

 

「偏在? しかも今のは」

 

「わたしとコーイチの初めての共同作業が成功したわ!」

 

 男の名前を言おうとした姉の言葉を遮ってはしゃぐルイズ。その言い方にひっかかるものを感じないでもないが「さすがルイズだ」と褒めておく。やっと魔法を使えて喜んでいる彼女は、スッキリさせた方が落ち着くはずだ。

 なのに。

 

「相手の確認もろくにせずに攻撃するとはどういうつもり?」

 

「ご、ごめんなさい母さま!」

 

 注意されてしまった。そりゃそうなんだけど、まずは褒めてあげて!

 ほら、ルイズが俯いてしょげちゃったじゃないか。バルディッシュを両手でギュっと握りしめて。

 ん?

 

「ああ、そういうことか」

 

「なにか?」

 

 睨まれちゃった。この人、どうしてこう俺を威嚇するかな?

 って、娘をキズモノにされりゃそうなるか。今のあいつも気づいていて見逃していたんかね。

 

「ご安心ください。今のはヴァリエール公ではありません。公はあちらでしょう?」

 

 俺が指さしたのは背後の丘。〈感知〉スキルに引っかかっていたので隠れている人物を〈鑑定〉したらルイズパパだった。こっそりと見に来ていたみたいだ。ちょっと距離があるのはルイズママの魔法の威力を思い知っているからか。

 

「そんなことはわかっているわ」

 

「そうでしたか」

 

 ああやっぱり。ルイズパパが俺の前に出てこないのはなにか意味があるんだろか。

 

「違うでしょう。あなたはルイズを見てなにかを納得した。どういうことかしら?」

 

 よく見てんのね。なら娘の落ち込みも見てあげないさいっての。

 姉2人は俺が指さした方向を見て驚いているのに、ルイズはまだ俯いたまま。

 ああもう!

 

「ルイズが持っている杖、バルディッシュはとある少女の杖のレプリカだ。母親に認められたくて頑張り続けた少女の杖。頑張って無理を続けたのに結局、母には認めてもらえなかったその少女にルイズは自分を重ねてしまったのがわかった、ってことだよ」

 

 なんでレイジングハートじゃなくてバルディッシュの方を選んだか気になっていたんだけど、たぶんそんなとこだろう。もしかしたら形が気に入っただけかもしれないが。

 

「ルイズがどれほど努力していたかはよく知っているはず。その努力の結果が出たんだ。認めてあげるのが先だろ!」

 

「いいの、コーイチ。わたしがいけなかったの」

 

 ううむ。魔法が使えたはいいけど、それを使う理由がまだルイズの中では、てことか。ルイズママに立ち向かうほどの覚悟はまだない、と。

 ま、約束してたし、いい機会だから色々と教えとくか。

 

「ルイズ、さっきの男は偏在だった。ずっとこちらを伺っていた不審者だ。まだいるかもしれないからここでは詳しく言えないけどあの判断は間違っていない」

 

「あの者は」

 

「わかっています。それについて話がありますので場所を変えましょう」

 

 ついでにルイズの家族にも事情を説明しないとね。

 

 

 ◇

 

 

 屋敷に戻り、ついにルイズパパことラ・ヴァリエール公爵と面談。当然のように睨まれるがそれぐらいでは威嚇もされん。多少EPが減少するぐらいだ。

 

「私の小さなルイズについて、なにか申し開きがあるようだな」

 

「たいへんにデリケートな問題をはらみますので、人払いを願いたい。先ほどの不審者には絶対に知られるワケにはいかない。あ、家族の方には知ってもらいたいですよ」

 

 ギロリとさらに睨まれた後、近くにいた男になにか指示をするとルイズの家族以外の者が部屋を出て行く。残っていたシエスタが不安そうにキョロキョロしていたので声をかける。忘れていたよゴメンね。ますます白蓮の親戚というのが納得できるけどさ。

 

「シエスタも出て行ってくれ。知らない方がいいんだ。頼むよ」

 

「は、はい」

 

 とぼとぼと出て行く彼女には後でフォローしないといけないか。

 部屋に残っている関係者以外がいないのを〈感知〉でも確認してから、部屋の隅に以前にも使用した結界符を貼って完全に防音する。ここまでしなくてもいい気がするが念のためだ。

 

「これは防音のマジックアイテム。これで外からこの部屋の音を聞くことはできない」

 

 さらに不審者が侵入することもできなくなり、結界を壊して無理矢理入ってきたら符が燃えるのですぐにわかるが、そこまでは教えなくてもいいだろう。

 

「私たちをどうにかしようとしても無駄です」

 

「本当にお話するだけですよ。ルイズの秘密と俺の正体を、ね」

 

「わたしの秘密?」

 

「魔法が使えるようになったら話すって約束したからな。ルイズがどんなにがんばっても魔法が使えなかったその理由を」

 

 それじゃ、サクッと進めようか。オフにしていた契約空間入りの能力をオンにして、両腕を彼女たちに伸ばす。

 

「全員、同時に俺の腕に触ってください」

 

「なんのつもり?」

 

「ルイズなら知ってるあの空間の正式な入り方を使う。あそこなら情報が漏れることはない」

 

「ふうん。いっしょに寝るだけじゃなかったのね」

 

 ルイズが「いっしょに寝る」と言った瞬間に彼女の両親の眉毛が上がり、殺気が増量された。むう、まだまだ命が危険かもしれん。いざとなったら逃げるか。

 ルイズが魔法を使えるようになって、あのことを知らせれば俺がいなくても問題はないんだからさ。

 

「母さま、父さま、コーイチのいうとおりにして。姉さまたちもお願い」

 

「わかったわ。こうね?」

 

 あ、と思う間もなくカトレアが俺の腕に抱きつくようにして触れてきた。大きな胸がぎゅっと当たっている。俺をからかうつもりなんだろうか?

 ファミリア候補者との接触により俺たちは契約空間(コントラクトスペース)入り。

 

「あら?」

 

「ここは契約空間。ここで情報公開したかったんだけど、同時に触ってもらわないと全員が入ってこれないんだ」

 

「そう。ごめんなさい」

 

 何もない周囲を見回しながらもあまり驚いた様子のないカトレア。大物である。特に胸が。

 いまだに触れたままの胸の感触を感じながら契約空間を出た。

 

「え?」

 

「やり直し。今度は全員が同時で」

 

「そうね」

 

 すぐに離れてしまうおっぱい。物足り……いかん、嫁さんたちとシテないんで欲求不満なのかもしれない。やはりタイミング見計らって逃げ出してあっちに合流しようかね。

 ああでも、あの男の偏在がさっきいたということはまさか、姫がらみのイベントが動いている? まだ逃げちゃダメかも。

 カトレアは両親に向かって微笑む。

 

「父さま、母さま、試せばわかります。お願い」

 

 娘2人にお願いされては、と残りも従って全員が契約空間入り。……とはならずに、ルイズパパが若干遅れて置いてけぼりにされてしまった。またすぐに契約空間を出たら、娘たちにジト目で見られる父親が少しかわいそうに見えたよ。

 再度のやり直しで今度こそ全員が契約空間に入った。この人数で同時はもうちょっと考えるべきだったかな?

 

「ここはいわば精神世界の一種。ここで長い時間を過ごしても、ここを出たら元の世界ではほんの一瞬も過ぎていないから、のんびりできる。本来は契約空間の名のとおり、別の目的で使うんだけどね」

 

 言いながらスタッシュエリアからテーブルと椅子を出して、座ってもらった。テーブルの上にはビニフォンをセット。空中への投影の大きさを調整してからある作品を再生する。

 

「これはある物語を映像化したもの。この世界のことではないけど、とてもよく似た世界の話だ」

 

 そう、アニメ版ゼロの使い魔である。しかもこっちの言語版。

 詳しい説明が面倒なんで、これを見てもらうことにしたよ!

 時間はかかるけど、正式な契約空間ならそれも気にしないですむからね。

 これでルイズが才人を気に入ってくれるかな。もしそうならあっちの俺に探してもらわないと。

 

 



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35話 その頃(?)のBFさん2(ホワイト視点)

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 ハロのネットワークによって思春が見つかった。どうやらギュネイ・ガスと融合してしまっているらしい。

 ギュネイといえば、逆襲のシャアに登場した人物で強化人間。スパロボにもよく登場していて、Dでは剣鉄也と同じく主人公の相棒役だよな。

 

 コロニー落としで孤児になっているのか。今は外宇宙暮らし?

 強化人間にされる前に合流したいんだが、いきなり会いにいくしかないか。

 

 ちょっと迷っていたことがあったんだけど、悩んでいたらシーマが連れてきてくれた。この世界ではやっていないが、0083のシーマは宇宙海賊のようなこともやっていたから元河賊の思春とは合うのかね?

 

 でさ、俺が悩んでいたのってコロニー落としの実行をさせられたシーマ達と会わせていいかってことだったんだけど!

 

 シーマ・ガラハウは「約束してたからね」と一刀君と契約し、彼のファミリア兼恋人の1人となっている。

 シーマ達はT1社の社員でもあるが、やはりコロニー落としのことを気にしている者が多く、罪滅ぼしというワケではないがその遺児を見つけ出してはうちの孤児院に入れたいと連れてくる。思春もその一環で見つけたみたいだ。

 

「なんだ、知り合いだったのかい?」

 

「お前など知らん」

 

 な、泣かないぞ。まだ記憶が戻ってないだけ……いや、違うな。

 

「そのそっくりさん、かな?」

 

 濃い連中と会うことが多いせいか最近、〈人物鑑定〉のスキルがかなりレベルアップしているので、この子が俺の嫁ではなく、無印恋姫世界の甘寧とギュネイの融合であることがわかるようになっている俺。

 生意気っぽいのは甘寧とギュネイ、どっちもだから無印甘寧の記憶が戻っているかはわからないが。

 

「孫権のことはわかるか?」

 

「そんけん? ……うっ」

 

 頭をおさえて蹲る少女。スカートじゃないので下着は見えない。というか、生足じゃないのも珍しいな。俺の嫁さんの思春じゃないけどさ。

 やはり融合先のギュネイに引っ張られているのか姿も若い。中学生ぐらい?

 

「ふふっ、今夜が楽しみね」

 

「いや、手を出しちゃ駄目だからね、華琳ちゃん」

 

「なぜ? 季衣にも手を出したくせに」

 

 うっ。それを言われると。

 華琳ちゃんはファミリアだけでなく嫁さんにもなってくれたが、ついでにとばかりにきょっちーも誘い、彼女も俺のファミリアとなってくれた。それだけでなく、嫁さんにもだ。

 嫁の季衣ちゃんとそっくりな上に無印ではなかったきょっちーとのエッチ。我慢できるはずもないワケで。

 

「それもあんなにまで。私の時も激しかったけど、初めての子の時は私が一緒じゃないともたないわよ」

 

 そこでなんでJの3人娘を見ますかね?

 銀鈴ちゃんの視線も感じるし、隠れて覗いているんだろうか。

 

 

 ◇

 

 

 GR計画はこの北アタリア島で続いていたりする。国際警察機構ではなく、わがT1社の管轄で。

 だって大作君と草間博士をBF団から逃がした村雨健二は紫なワケだし。眩惑のセルバンテスも深追いなぞせずGR2までも奪取された。草間博士も無事。それどころかGR3もうちで建造中。

 

 ぶっちゃけ草間親子とGRシリーズの脱出自体が孔明ちゃんによって計画されたマッチポンプ。

 国際警察機構の目を欺くというのもあるが、うちの優秀な技術陣が堂々と作業できるのは大きいよね。

 

 GRシリーズは原子力ではなく、MSと同じく核融合が動力だ。爆発したら物騒なのは変わらないけどね。ついでに銀鈴ロボも開発するか迷っているとこ。

 大作君も孤児院の子たちと仲良しで、洗の……敵対しないように気を使って教育している。開発者の息子同士ということでアムロが面倒を見ていることが多いのも微笑ましい。

 

 アムロには俺がセイラさんに気があるんじゃないかと勘ぐられたことがあったが、逆に発破をかけてフラウ・ボウとともに結婚するように説得中。フラウは満更でもなさそうなんだけど、セイラさんは自分の血筋のせいで迷っていてちょっともどかしい。小説版のようにアムロとは既に肉体関係もあるようなのに、さ。

 これでベルトーチカなんかきたらあっさり身を引きそう。

 

 でもアムロがフラウと結婚したら、キッカの義理のお父さん? つまり、融合しちゃっているゆきかぜちゃんの夫である俺の義理のお父さん?

 人間関係がややこしいな。

 

 そのアムロ、ナンパしてるのをタマに見かける。セイラさんに焼き餅やかせたいんだろうかね? ほら、またやってるよ。って、アムロがナンパしているあの子、エマ・シーンじゃね?

 観光できてるのか?

 もう少しここの入島制限、厳しくした方がいいかな。でもまだティターンズ入りはしてないか。

 

 デラーズフリートがまだ動いていないからティターンズの結成も少し遅れた。うちにも技術協力しろって圧力かけてきてるけど無視。孤児院を出た子たちの就職先としても認めるつもりはないよ。

 エゥーゴには資金提供するか少し迷っている。アナハイムからはMSを購入したり、ジオン出身の技術者が出向したりとそこそこ仲は良い。俺が大好きなスペリオルガンダムが完成したら売ってもらうつもりだからね。Sガンダムはスパロボαにこそ出てこないけど、第4次には出ているからこの世界でもちゃんと開発されるだろう。

 4機試作されたはずだから、α任務部隊に回されるやつ以外のを買ったって問題はあるまい。それともうち用に余計に試作してもらおうか。俺用とあとアムロ用にとか。

 

「甘寧は落ち着いたわ。まだ完全には思い出していないようね。思い出したら、すぐにでも孫権を探しに飛び出すわ」

 

「だろうなあ。せめて蓮華がいてくれれば思いとどまりもするんだろうけど」

 

 蓮華も誰かと融合しちゃってるんだろうか。レンファだからファ・ユイリィ? 孫権のケンだったら候補者が多すぎて絞り切れない。ハロネットワークに期待するしかないか。

 

「他のみんなも早く見つけたい。そのためにも華琳ちゃん、T1社の会長として表に出ててね。華琳ちゃんの顔を見れば思い出す子、多いと思うから」

 

 T1社の社長は俺。会長は華琳ちゃんとなっている。Fドライブやハロ他の売り上げで我が社は成長を続けており、経済誌の表紙を何度か華琳ちゃんが飾っている。俺よりも美少女が表紙の方が売り上げが上がるだろうってことで俺は顔出しを避けている。だってBF団の首領でもあるからね。

 もっとも、俺のことは「院長先生」と呼ぶ子も多い。孤児院のね。

 

「こんにちは、院長先生、華琳様。はあ、アムロったらまたナンパしてるのね。いい加減フラウに愛想尽かされちゃうわよ。大作君もあんな大人になっちゃ駄目よ」

 

 挨拶とため息をしてくれたのはサニーちゃん。大作君と同じくらいの少女だ。

 その正体はサニー・ザ・マジシャン。うん。衝撃のアルベルトの娘。妻を亡くしたアルベルトが教育のためってこの北アタリア島で暮らさせているけど、俺の監視もあるのだろう。アルベルトとはテレパシーで繋がっているのだし。

 

 彼女には朱金に渡したのと同じ、スマイルパクト、キュアデコルをプレゼントした。サニーだからね。

 それ以外の理由としては樊瑞みたいに「おじさま」って呼んでもらいたかったからだけど、それは成功していない。

 

「おとーさん」

 

 かわりに俺を呼びながら駆け寄ってきてくれた璃々ちゃんを抱き上げる。俺と結婚した紫苑の娘ではなく無印の璃々ちゃんだけど、そう呼んでって頼んだら素直に呼んでくれている。いい子だなあ。

 璃々ちゃんを羨ましそうに見てる子も多いので、他の子も「お父さん」と呼んでいいって言ってあるんだけどそう呼ぶ子は実は少ない。もしかしてビッグ・ファイアと融合している俺が怖いんだろうか?

 

「璃々ちゃん、また少し大きくなったかな? サニーちゃん、大作君、璃々ちゃんを見ててくれたんだね、ありがとう」

 

「えへへ。おとーさん、璃々、一緒に行っていい? サニーお姉ちゃんと大作ちゃんのデートの邪魔したくないの」

 

「そうだな。大作君」

 

 こいこいと手招きしてお小遣いを渡す。デート費用だ。いや大作君はあまり無駄遣いするタイプじゃないから余計なおせっかいかもしれないが、孤児院の近くに開店している駄菓子屋だと、他の子たちに見つかってうるさいからね。

 ちなみに大作君はこっそりとガードしている連中がいる。サニーちゃんもついているし危険はあるまい。

 

「こんなに貰えないですよ」

 

「気にするな。大作君はいつもお土産を持ってきてくれるじゃないか。そのお礼だよ。サニーちゃんにいいとこを見せてあげなさい」

 

「……ありがとうございます」

 

 大作君はよく孤児院にお土産を持ってきてくれる。食べ物や洗剤等の消え物が多いのはたぶん栄華あたりの要求だとは思うが子供たちも喜ぶんだよ。大作君も母親がいないのでうちの子たちとも共感する部分があるのか、仲もいいようだ。

 栄華もまだ少女と言っていい年齢だが、孤児院の経営をほぼ任せられるぐらいの能力を持っている。華琳はいずれT1社の方も任せたいようだ。本人の方は可愛い少女たちに囲まれている孤児院で幸せそうにしているのだけどね。

 

「二人とも、夕食は孤児院で食べるんだろ? それまでに帰っておいで」

 

「はい!」

 

「サニーちゃん、大作君を頼んだよ」

 

「まかせて、院長先生」

 

 うんうん、微笑ましい。幼馴染みが次代の十傑集候補だって知ったら大作君はどんな顔するかな?

 十傑集といえば、華琳ちゃんは腕試しとばかりに十傑集に稽古をつけてもらっている。もちろん、この島の外でだが、ファミリアになっているせいもあって戦闘力がめきめきと上がっている。そのうちトンデモ能力にも目覚めてしまうんじゃないだろうか?

 俺も十傑集走りはできるようになったんだけどね。

 

 十傑集はだいぶビビらずに話ができるようになった。元引き籠もり同士で暮れなずむ幽鬼とは話が合う。その流れでカワラザキの爺様ともよく飲むよ。まあ、あいつらにしてみれば俺を観察しているのも大きいんだろうけ。

 神の使徒のはずなのに悪の秘密結社の親玉やってていいのかと悩んだこともあったけど、できるだけ一般市民に犠牲を出さずにってことで孔明ちゃんも作戦を立ててるみたいで、そこまで良心は痛まない。最近の敵は他の悪の組織だったり、不正を行う政治家なのさ。

 

「サニーも数年後が楽しみね」

 

「華琳さま、璃々は?」

 

「璃々は言うまでもないわ。美人になる。あと私のことは華琳お母さん、でもいいのよ?」

 

 華琳ちゃんは俺の娘の方の璃々ちゃんが華琳を呼ぶ時のようにお母さんと呼ばれたいようだ。でも黄忠が見つかるまではそれは難しいんじゃないかな?

 

 さて、孤児院で食事の用意をしないと。シンジ君も最近やる様になってきたし、他にも料理できる子も増えてきた。だいぶ楽ができるようになったよ。まあ、きょっちーみたいにたくさん食べる子が来る時は大変だけど。早く流琉が見つかってほしい。ダリウス界への行き方がわかればいいのに。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 孤児院での夕食後、俺は自室で作業に入る。

 工作作業だ。もちろん破壊工作ではなく成現(リアライズ)のための模型工作。普段よく作っていたロボ系以上の時間がかかる難物。

 女性キャラのフィギュアではない。建造物だ。

 

「ふんふふーん」

 

 鼻歌を歌いながら作っているその模型はバベルの塔。この世界では国際警察機構のトップ、黄帝・ライセに奪われているそれ。あの人、バビル2世だとカリスマの高い部下思いのやつだったけど、こっちだとどうなんだろうね?

 このバベルの塔の攻防戦でBF団、国際警察機構の双方に多大な犠牲者が出てしまうんだけど、そんなことにならないように俺がもう1つのバベルの塔を創ればいい。奪われたバベルの塔よりもグレートなバベルの塔を!

 マザーハロはテストの意味もあって成現(リアライズ)したけど、あんな感じでバベルの塔のコンピューターの上位の物を用意すればいい。

 

 これができたら新マクロス級にもチャレンジしたいんだけど、ビッグ・ファイアの記憶がおぼろげなのでEPがなかなか貯まらない。大戦が始まるまでになんとかしたいが、たぶん間に合わないだろう。また華琳ちゃんが過去であり未来である俺たちを誘導することになるのだろうか?

 

 わかっていることもある。このバベルの塔が完成すれば拠点になる。使徒の拠点に。

 なぜか確信できているのだ。拠点が完成すれば皆との合流も進むだろう。

 だけどなかなか進まないEP注入に気張らしの模型ばっかが捗ってしまう。

 

 ほら、 ラビアンローズ級の模型が完成してしまった。今の俺なら成現(リアライズ)のためのMPも足りそうだけど、名前どうしよう?

 やっぱり、うさだ、だろうか?

 

 




今日は葵ちゃんの誕生日

なのだが登場せず


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36話 はや○

感想、評価、メッセージありがとうございます


「全員繋がったようだな」

 

 俺の問いかけに画面に映った全員が肯いた。

 まるでインターネット会議のように12分割された画面。それぞれに転生者が映っている。

 

「わざわざこんな物を用意してもらってありがとう、12番さん」

 

「気にするな。ポイントは使ったが、これは絶対に必要な物だろうから」

 

 このまるで大型タブレットのような通信機を用意したのは俺。ではなくシャロンだ。空井の特典の一つ、地球の全放送及び全通信をリアルタイムで送受信できる設備、の応用らしい。

 それを転生者全員に配布した。できるかどうかシャロンに聞いたらBETAを倒したポイントを消費すればできるとのことだったので、空井にポイントを使ってもらった。

 もっともそのポイントは元々、俺がBETAを倒した時のもの。接触時に空井のポイントとなったらしい。どんなシステムなんだかね。

 

 通信用タブレット配布のついでに「すぐに会議をしよう」とのメッセージもつけておいたが、ちゃんと全員が受け取ってくれたか。深夜にも関わらずなのは寝付けなかったのかも。

 なお、画面に映っているのは空井ではなく俺。空井は受信のみでこっそりと会議を覗いている。なにか言いたいことがあればテレパシーで連絡、俺が発言する手はずである。

 

「全員時間は大丈夫なの?」

 

 聞いたのは唯一の女性。うわあ、マジでシャーリーだ。転生前から女性だったらしいけどなんでこのチョイスかな。

 

「今は大丈夫だ。他のやつらは……問題ないようだな」

 

「なら、さっさと話を始めようぜ」

 

「その前にまず、軽く自己紹介といこうよ。よくわかんない人もいるから」

 

 カメラ越しなのに全員の視線を感じる。まあ、他はもう1人以外はどっかで見たような顔ばっかだもんな。会議画面もすごいことになってる。

 

「それなら転生時の番号順にいこうか」

 

「ふん。いいだろう。俺は1番、剛田ツヨシだ」

 

 シャロンが調整しているのか、名乗った奴の画面が一番左上に移動した。そうか、こいつが要注意人物のジャイアンか。空井の話だと〈強奪〉のスキルは失っているとのことだが、ポイントで再入手している可能性もある。用心しよう。

 顔もジャイアンっぽく見える気がするのは、思い込みの補正がかかっているせいかも。

 

「それだけか? なら次いくぞ。2番、アーチャーだ。こっちではなんと名乗るかは考え中。今は避難所なので声が小さくなっている。すまんな」

 

 アーチャーだ。俺の知っているアーチャーと顔も声も同じだけど、声が小さいせいかなんか違和感がある。まあ2面の本物のアーチャーとも言うほど話をしたワケじゃないけどさ。

 画面は1番の右に移動した。番号順に並べるのに意味がある?

 

「いいか? 3番、高町恭也。パプワ島の調査が終われば日本へ行くつもりだ。以上」

 

 KYOUYAキター。パプワ島ってスゲエな。完全再現されてるならBETAもナマモノっぽくされそうだ。ギャグ時空ならある意味安全か。

 ウィングとウィングゼロ持ってるらしいけど、ゼロカスタムはどうなんだろ?

 

「もうきた!? お、俺は4番の白銀武だ。こんな顔になっちゃってるが信じてくれ! マブラヴ主人公の双子の弟で、主人公の方もこんな顔になってた。どころか、あいつ、女になってた! なにがどうなってんのか、俺にはよくわかんねえ!」

 

 混乱してるな。白蓮そっくりの黒髪の少年、つうか男の娘だ。可愛いとすら思えるのは嫁と同じ顔と声のせいだよね?

 

「落ち着け、少しは説明できるかもしれない。この世界はただのマブラヴ世界じゃないんだ。そのことを報告、というか相談したくてこの会議をしたのもある。っと、出しゃばってすまない。次にいってくれ」

 

 他の顔も動揺しているのがわかったので軽くフォローして次を促す。

 

「うん。あんた、武御雷の影将軍だよね? 5番、鎧衣尊人。鎧衣美琴の双子の兄」

 

 こっちも男の娘っぽい。トビカゲ=サンのパイロットだったやつか。質問には肯くだけで返しておいた。自分の番がきたら少し詳しく説明しますかね。

 

「6番、キラ・ヤマト。この流れできたら、僕たち友達だよね、とでも言っておけばいいんだろうか?」

 

 その発言に思わず拍手してしまった。しかも俺だけじゃなくて数名が。あいつらとはいい酒が飲めそうだ。

 流れを読まないのがすぐに続いたけどさ。

 

「オッス! オラ悟空。7番だ。わりぃ、瞬間移動で日本行こうと思ってたんだけどもよ、どこだかわっかんねえんだ」

 

 なりきってるなあ。……まさか外見だけじゃなくて精神まで影響受けてのか? 他の転生者はどうなんだろ。

 神様の神殿にいるらしいけど、シャロンなら居場所がわかるかな。

 

「やれやれだぜ。空条承太郎、8番」

 

 そんだけ?

 スタンド複数持ちっていうとんでもないやつだから、単体じゃ悟空と並ぶ強キャラだろう。学ランだから3部バージョンかな。

 

「やっと俺か。9番、ダバ・マイロードだ。今は京都にいる」

 

 今、空井からテレパシーがきた。ダバは転生する時には好感触だったらしい。エルガイムだけじゃなくて、バッシュやブラッドテンプルも持っている。スキャンさせてほしい。

 こいつと尊人のとこのエルシャンククルーは宇宙人になっちゃうんだけど、こっちの人間にはどう説明するんだろうか気になる。

 

「10番、シャーリー・フェネットよ。黒の騎士団と共にいるわ」

 

 黒の騎士団か。大阪の小型機だよな。日本人ばっかりなはずだけど、この世界の戸籍もあるのかな。

 

「11番、トルストール・チェシレンコ。ゴラオンにいるがあえて一言、言わせてもらう。エレ様可愛い! グラン・ガランとどっちにするか迷ったが、ゴラオンにして正解だった」

 

 ソ連軍将校に転生したってやつだ。ビルバインとダンバインは羨ましいけど、修理とかどうするんだろ。ポイント頼み? それともまさかBETAを素材にするつもりなんだろうか。

 戦艦はゴラオンの方が強いけど、シーラ様の方がよくない? いや、言わんけど。

 ううむ。エレの特異な髪型もマブラヴ世界なら馴染むか。ちょっとカクカクさが足りないぐらいですらある。

 

 で、俺の番か。

 

「12番、コウイチだ。フルネームはちょっと自分でもよくわかんなくなってるんで確証はない。わかってることだけを一応言っておくと、羽山コウイチ、らしい」

 

 空井に渡したビニフォンにアクセスできるようになったシャロン・アップル。彼女は空井が〈鑑定〉したデータも見れるようになったことで俺の情報も入手したようで、俺の名前がそうなっていることに気づいた。

 表示される情報量が多くなってきていたので自分の名前まで確認していなかったんだけど、どうやら俺も唯ちゃんや白蓮のように異常が起きていたらしい。

 

「はやせこういち?」

 

「いや、ラインバレルの主人公じゃない。早瀬じゃなくて羽山だ」

 

 聞いた時はマクロスキャラが教えてくれたんだからって俺も「はやせ」かと思っちゃったぜ。初代ヒロインの片割れの。

 自分でも〈鑑定〉しなおしてデータを確認。本当に俺の名前が羽山煌一に変わっていた。俺もこの世界の誰かとなってしまったのか。

 みんなとはぐれる前に華琳ちゃんが言ってた「名は体を表す」ってやつなんだろう。

 

「羽山って、こどものおもちゃ、だっけ?」

 

 うは、そっちが出てくるとは。でもそいつはこういちじゃないでしょ。

 俺もすぐには出てこなかったけどさ。

 

「どっかで聞いたことがあるような。マブラヴキャラじゃない?」

 

「あ、わかった。シュヴァルツェスマーケンと絵師さんが一緒のあれだ」

 

 おお、知ってるやつがいたか。

 

「そう。顔のない月の主人公、羽山浩一。俺、そいつとくっついちゃったっぽい。羽山だった記憶もほんの少しだけある。この世界もマブラヴだけじゃなくて、顔のない月も混じっている」

 

 同じ「こういち」なんだけど、ヘビースモーカーなんであまり感情移入できなかったんで忘れてたのかもしれない。女性にも強引なとこあるし。

 俺がそれになったとか融合しているなんて全く実感できな……って!

 もしかしてルイズを襲ってしまったのって羽山の影響もあるのか? ヒロインの鈴菜との初体験もそんな感じだったし!

 

 シャロンに調べて貰ったら天井ではなく、羽山煌一で該当者ありで顔も俺のと一致。大学生で女性の顔を認識できない病を患っている。現在は行方不明になっていた。

 僅かにそんな記憶もあるが、顔を見られたくなかった俺と、顔が見られないやつが融合なんて皮肉でしかない。今は女性の顔もちゃんと認識できるから混じって中和されたかと一瞬期待したが、祝福はちゃんとステータスで確認できる。そんな都合良くはいかないようだ。

 ええと、顔のない月だとヒロインと会って治ったんだっけ?

 

 あと、シャロンが調べてくれた結果、羽山だけじゃなくて他の登場人物も存在が確認できたよ。

 

「白銀武が女性になっているのも多分、似たような状況だと思う。さらに篁唯依とユウヤ・ブリッジスも別人と融合している。ユウヤも女性だ」

 

「唯依姫が別人になってるのはこっちでも確認した。黒髪じゃなかったどころか、巨乳でもなくなっていたよ」

 

「マジか!」

 

「嘘だろ?」

 

 そりゃ驚くよなあ。主要人物が変わっちゃってるんだから。

 主人公2人が女性化ってヒロイン達はどうするんだろね? まさか転生者達が攻略できるように球神がそうしたってワケじゃないといいんだが。

 

「他にも別人になっている人間がいるかもしれない。そっちにはいなかったか?」

 

 会議を開いた大きな理由がこれ。他の嫁さんたちを見つけるための情報収集だ。シャロンにも調べてもらっているけど、目は多い方がいい。

 ちなみにシャロンからは協力するための交換条件として、人型の本体が欲しいとのこと。ビニフォンにアクセスしたことで俺ならそれが可能と判断したみたい。マクロスFあたりの技術力ならサイボーグの応用でそれぐらいなんとかできそうな気もするが、それでは不満だとか。

 いっそのこと、鑑純夏が無事のままだと生まれにくくなるはずの00ユニットになってもらうのもアリかも?

 

「そんなこと言われても、私、マブラヴはあまり詳しくないからわからないわ」

 

「俺も」

 

「そうか……」

 

 あとで全員がマブラヴシリーズをできるようにしておかなきゃいけないようだ。この通信タブレットでできるかな?

 ゼロの使い魔のハルケギニアと繋がっているのはまだ教えなくてもいいか。こっちは証明しにくいし。むしろ、なんで知ってるのかって。言うと面倒になりそうだ。

 

「それじゃ現状の確認が先か。自己紹介は以上ということで」

 

「わかった。会議の進行もそのまま進めてくれ。それとも他にやりたいってやつ、いるか?」

 

 いないみたいだ。面倒だから俺も人任せにしたいんだが仕方がない。

 

「ではまず、この地球は歴史も違うけど、一番はBETAって宇宙生物に侵略されてることはみんな知っているな? 正確に言うならBETAは資源採掘のための自動機械みたいな生命体で、人類のことは知的生命体とは認識しておらず、採掘の邪魔をする害虫程度にしか認識していない」

 

「和平交渉は不可能なんだよね?」

 

「しかもその数は尋常じゃなくて、物量で対抗するのはもう無理だろ」

 

「現在は1998年7月。何十年もBETAと戦っていて、日本もBETAに攻められている真っ最中。日本の首都、帝国なので帝都なんだけど、その京都も戦場になってしまってる」

 

「台風のせいでBETAの発見が遅れて上陸を防げなかったんだよな」

 

 さすがに白銀武と鎧衣尊人はよくわかっていて説明を補助してくれるのは有り難い。

 

「このままいくと、佐渡島と横浜にBETAの拠点であるハイヴが造られてしまう」

 

「横浜でG弾って凶悪な爆弾使われちゃうのは避けたい」

 

「ここで踏ん張れればアメリカともそんなに仲悪くならないで済むはず」

 

 アメちゃんが日本各地を見捨てる前にBETAを撃退したい。俺の嫁の由真であるユウヤと合流するためにも。

 他の嫁さんたちだって日本以外にもいるかもしれない。名前が一部同じだと中国にもいそうで怖い。あっちはもっと大変な状況なんだよな。

 

「ハイヴができなければ香月夕呼が困ったり、オルタネイティヴ4が進まなかったりしない?」

 

「オルタネイティヴ4?」

 

「香月夕呼って博士が推進するBETA相手の諜報活動だよ、シャーリー」

 

「諜報活動ってどうやるんだ?」

 

「簡単に言えばBETAの通信を、リーディングっていう能力を持つ人間が傍受して読み解くんだ。ゲームではそのためにBETAの捕虜になった人間を利用していた」

 

 それがヒロインだもんなあ。BETAの実験シーンとかエロシーンでも勘弁してほしかった。まあ、白蓮もついてるしこの世界の鑑純夏はそんな目にはあうまい。

 バジュラみたいに歌でコンタクトできればいいのに。

 

「だってあれ、逆に人類側の情報をBETAに渡すことにもなってただろ」

 

「それにそれで入手できる情報って重要なのはゲームやればわかるし」

 

「重要な情報?」

 

「BETAはオリジナルハイヴにいる上位存在を頂点とした完全な箒型構造の命令形態。つまり、オリジナルハイヴの上位存在を倒せばなんとかなる」

 

 で、あってるよな?

 他のハイヴが完全に停止するのか、それともまだ下位のハイヴは稼働するけど、ハイヴ間同士の連携が取れなくなるのかは覚えてないけど。

 

「現地の人間にも協力してもらうためにそれを証明したいがどうする?」

 

「エルシャンクやターナの異星人連中に、母星に伝わる伝承とか常識だとか言ってもらえばいいと思う」

 

「なるほど。尊人君はそこまで考えて特典を決めていたのか」

 

「え、あ、ああ、うん。そんなとこ」

 

 あれ、違うのかな。

 経験値泥棒が好きだからとか、ヒロインが好きだから、でも別にいいけどさ。それとも鎧衣パパが忍者っぽいからその流れで、か?

 エルシャンクにロミナ姫がいるのかも気にはなるね。あとイルボラも。特典で零影は選んでなかったらしいから、いないかな。

 

「現地人の協力なんて必要なのか?」

 

「剛田君、補給をどうするつもりだい? 食料だって必要だろう。たとえ味の劣る合成食だとしても」

 

「それにBETAと戦ってわかっただろう? あの物量と戦うのは俺たちだけでは無理だ」

 

「被撃墜1号だっけ。さすが1番球だけなことはあるね」

 

「う、うるさい! グレートゼオライマーがちゃんと動けばあんなことにはならなかったんだ!」

 

 集中砲火を受けてジャイアンがキレた。まあ、〈強奪〉を失ったのになんで偉そうにできるかな? っては思う。やはりポイントを使って〈強奪〉を再取得したのか?

 あ、グレートゼオライマーは回収かスキャンしておきたい。

 

「動かなかった? 欠陥品を寄こすなんて球神様もミスをするんだな」

 

「ふん、あんな欠陥品はもういらん! 俺にはまだ他のロボだってあるんだ!」

 

 よし! 所有権を放棄した発言。ツンデレ発言じゃないよな? これでもう俺のスタッシュに収納できるはずだ。スタッシュって自分の物か、明確な所有者がいない物しか入れることができないのはちょっと不便だよ。

 

「いいか見てろお前ら! 俺様がオリジナルハイヴを落としてきてやる!」

 

 その発言直後、画面左上、ジャイアンの顔がブラックアウトしてしまった。

 うわ、マジで出撃しちゃったのか?

 静まりかえる転生者たち。少ししてから白銀武がため息の後に口を開く。

 

「無理だろ」

 

「羽山さん、死んだあいつを生き返らせたんでしょ? もう生き返らせなくてもいいんじゃない?」

 

「いや、そういうワケにもいかないような。というかさ、あいつってオリジナルハイヴの場所知ってんの?」

 

「あ」

 

 正直な話、あれは死んだままでもいいような気がしないでもない。だが、クロガネやエクセレン他のクルーは惜しい。

 オリジナルハイヴの情報を集めている間に思い止まってくれればいいが。

 

「よく戦う気になるわね。うちだって何人も殺された。トラウマもんの酷い死に様よ。……羽山さんが生き返らせてくれると嬉しいな」

 

「転生者以外でも生き返らせられるのは確認したが、回数制限があるからあまり多用はできないんだ。君たちもできる限り死なないでくれ」

 

 これぐらいの情報公開はいいだろう。どの道、空井が生き返らせた他のやつのことも知られる。通信を切ってしまったジャイアンだってエクセレンも生き返っているから気づいているはず。

 シャーリーの仲間に関しては、蘇生のタイムリミットも伸びてるから生き返らせることは問題ないけど、ここは少しもったいぶった方がいいよな。

 

「できるのね。お願いします。お礼にカレンあげるから!」

 

「うわ、シャーリーちゃん、落ち込んでるかと思ったら仲間、というか恋のライバルを売った!」

 

「マジで逆ハー狙っているのか!?」

 

 このシャーリー、スゲエ!

 さっきの「生き返らせなくてもいい」発言といい、元のシャーリーの影響を受けてなさそうな外道なのか? ジャイアンよりもこっちの方が要注意かも。

 って、寝取られを怖れて一刀君を熟女属性にした俺が言える立場ではないか。

 

「うちの男はみんな私のものよ!」

 

「生き返らせるのは構わないしカレンくれるなら嬉しいけど、それでいいのか? 彼女だって君のことを好いているんだろ?」

 

「なんかさー、好かれすぎてんのよ。マジでそっちに目覚めそうで勘弁。あんたたちも同性の仲間には用心した方がいいわよー。ケケケ」

 

「もしかしてシャーリーってばヤンデレさん?」

 

 シャーリー以外の転生者が引いている。気持ちはわかりすぎる。

 だが空井は違った!

 テレパシーで送られてきた内容そのままに俺は言う。

 

「ならば、そちらの他の女性スタッフも俺が引き受けよう」

 

「あっ、ズリィ!」

 

「羽山さんがそんな人だったなんて……」

 

「でもシャーリーに邪魔だって殺されるよりはマシなんじゃね?」

 

 俺じゃなくて空井だから! そう言いたいのを必死に堪える。

 あいつ、好かれてる女の子たちにどう説明するつもりかね?

 

「羽山さん、なんていい人なの! ……もしかして私を狙ってる?」

 

「いや、同性に狙われる苦労知ってるから」

 

 BLを望まれているワルテナのとこよりは、一応女性の相手を望まれるシャーリーの逆ハーレムに入れられる方がまだマシなんじゃないだろうか。2面の男たちがよく愚痴ってたもん。

 俺だって美少年に言い寄られたり、電車で痴漢にあったことがあるから人ごとではなかったり。野郎の股間触ってなにが楽しいんだよ!

 

「マジか!」

 

「そういや顔のない月の主人公も美形だったっけ。ショタヒロインもいたよな」

 

 え、そうだったっけ?

 美少年キャラはいた気がするけど……あいつのエロシーンもあったようななかったような?

 まあ、俺じゃなくて羽山の記憶と思われているならその方がいいか。

 

「そんなことより、BETA対策が先だ。あと現地の組織との協力体制。明日もまた帝国斯衛軍の人間と会う予定だが、みんなのことも説明するか? それとも同じ組織だけど別部署なので詳しくは知らないってことでいい?」

 

「そんなの通用するかな?」

 

「だからって異世界から来たって言っても無理だべ」

 

「どっちも嘘じゃないんだけどねえ」

 

 1人か2人ならともかく、この数だもんなぁ。どっかの国がバックについていると疑うのが当然だろう。

 

「ならさ、オルタネイティヴ計画の1つってことにしちゃおうよ」

 

「はい?」

 

「BETAとのコミュニケーションを目的としていたオルタネイティヴ計画の前段階ということで、オルタネイティヴ0ってどう? 目的はBETA殲滅」

 

 むう。ゼロか。

 尊人君ってばまさか、ゼロ魔世界と繋がってることに気づいていたりはしないよな? 「人」つながりでこっちの世界の才人と融合……は考えすぎかね。

 

「オルタネイティヴ1に負けちゃったけど、計画は一部で極秘裏に進められた」

 

「BETA殲滅なら極秘裏にする必要もない気もするけど」

 

「むーん。……そのためになら異星人の技術も使うっていうのはどうだ? だから秘密にしていた。現に異星人いるしな」

 

 ほうほう。承太郎も発想力がいいな。異星人……4部の未起隆でも仲間にいるのかも。

 クランも異星人といえば異星人だし、バイストン・ウェルも異世界というより、別の星の方がまだ説明しやすいかも。

 

 俺自身は羽山としての戸籍があるようなので、斯衛軍がそれを調べ出しているかもしれない。あっちにも融合しちゃったっての説明した方が嫁さんたち探しやすくなるかな?

 少なくとも篁祐唯には説明して、唯ちゃんと由真のことを認めてもらいたい……両方と結婚しているなんて言ったら俺、斬られたりしないかちょっと心配。まあ、自分だって余所に子供いるんだし、ってユウヤのことは知らないんだっけ。無駄死にしないようにさせて、由真と母親のミラとも再会させないと。

 

「神様転生よりはそっちの方がまだマシか。なにか聞かれても自分は知らされていないで済まそう」

 

「掴まって拷問されないように注意しろよ」

 

「それが心配なんだよなあ」

 

 俺なら耐性強化スキルあるし、ポータルもあるから簡単には捕縛されないけど戦時中のこの世界は物騒だもんなあ。

 正体不明のやつなんて拷問したり、薬物投与して情報を引き出すのはありえすぎる。

 斯衛軍の人と会うのが気が重くなってくるよ。

 

 その後も会議は続き、思ったよりも時間がかかってしまった。シャーリーからも死んだ仲間の名前を聞いたよ。女子メンバーの受け取りのため、後日会うことになった。ルルーシュのギアスも気をつけんとなあ。

 BETAと戦うよりも対人の方が面倒すぎるよ、まったく。

 

 



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37話 ハニートラップ

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「俺たちには後ろ盾がない。頼れるのは仲間と他の転生者たちだけだ。これからも協力していこう。それと、死んでも制限はあるが生き返らせることはできる。だけど海外勢のハニートラップによる脅迫はフォローしづらい。仲間のヘッドハンティングにも用心してほしい」

 

 あっちでもそうだったもんなあ。嫁さんたちがいなかったら俺も引っかかっていた可能性が高すぎる。

 対魔忍のハニートラップにはかかっていたともいえるかもしれんが……。あの世界の救済にも役立っていたし、ゆきかぜと凛子も愛はあったはず! 対魔忍の協力だって脅されてもいないから違うと思う方がいい。

 

 会議では戦後のことは軽く、直近のことは帝国軍と連携するために渡りをつけるということになった。

 人類側に敵扱いされないように連絡は大事だ。

 

「ってことで会議をしめたけど、どうだった?」

 

「よくあの面子に緊張しなかったな」

 

「いやむしろテンション上がるだろ。中身はたぶん同類(オタク)なんだしさ」

 

 空井は会議を見てこっそり指示出していただけなのに疲れを感じさせるげっそりした表情。まあ、俺もむこうで大勢と会話すんの慣れるまで緊張したもんなあ。

 あの連中よりも、こっちの世界の連中の方がシリアスな分、対応に困る。ネタも通用しないもんね。

 

「ゼロ魔の世界と繋がっているのは秘密にしたんだな」

 

「それ、お兄ちゃんがヒロインの子と契約(ちゅー)しちゃったんだっけ?」

 

 なにかを感付いたのか、唯ちゃんにヘッドロックされてしまった。むう、ルイズに手を出してしまったことはどう説明すればいいんだか。

 嫌われるのは避けたいので、やっぱりわざわざ説明することもないよな。

 

「BETAがあっちに行けたら重光線(レーザー)級の数が増えるってことになるかもってのは知らせた方がいいんじゃないのか?」

 

 G元素って何種類かあるけど、精霊石だって風石以外にもあったはず。もしかしたら新種のBETAが出てくる可能性だってある。魔法に対抗策を持っているのがさ。

 

「ハルケギニアの地下に大量に風石あるみたいだもんなあ。むこうに残してきた俺が、これからなんとかしないといけない課題だよ」

 

 大きくため息。

 こっちはBETAの相手をしなきゃいけなさそうだし、それよりもなによりもはぐれてしまったみんなと合流しなければいけない。こっちもあっちも危険な世界だけに無事だといいのだけど。

 

「掘るのか?」

 

 掘り出して安全なとこに確保しておきたいけど、BETAを呼びそうな気もして怖い。

 ミズホに任せたらロボ開発に有効利用してくれないものだろうか?

 あ、カライたちが味方になってくれるならミズホとフィオナもここに連れてきた方がいいかもしれない。

 

「一応、方法は考えている。あっちの俺が現在相談中だ。で、さっき話したスパロボのフィオナとミズホなんだけどここに連れてきていいか?」

 

「え? ここに?」

 

「そう。ここなら元の世界に戻る手段を見つける研究ができそう。魔法での調査はあっちの俺がするから」

 

 駄目だったら、転生悟空がいるという神様の神殿に居候させてもらうのも考えなければいけないな。たぶん地球では一番安全な場所になっているはず。悟空を目指す転生者なら許してくれそうだ。

 

「嫌だと言ったら?」

 

「力づくでここを乗っ取ることもできるけど、そうするとお嬢さんたちに恨まれそうだし平和的にカライと融合するかな?」

 

 ここはハッタリをかける。GPはなんか貯まっているので合成を行うことができないでもない。俺も〈独占〉スキルを入手できたからそれで失敗することはないはず。

 でも実行したらこいつを転生させたという球神も怒るかな?

 

 その神も謎だ。この世界の神なんだろうかね。

 それとも修行神?

 融合したら球神の支配下にされるかもしれないのでしない方が無難か。

 

「お前はピッコロか?」

 

「転生悟空が喜びそうだろ」

 

「そ、そうなったら私がカライの嫁ということになるのだな!?」

 

 こっちのクランがずいっと近づいてきた。むう、マジで好かれているね。俺のクランとは違うのはわかっているけどちょっと嫉妬する。

 

「冗談だよ。融合なんてしなくてもカライならきっとみんなを嫁にしてくれるって」

 

「お、おい」

 

「望むとこだろ? それともシャーリーのとこの女性スタッフの方がいいのか?」

 

「い、いや……でもみんなとなんて……」

 

 今更1人としか結婚しないとでも言うつもりなんだろうか? 俺と同じ存在ならそれはないか。

 もし1人だけなら誰を選ぶか気になるけどさ。

 カライの仲間からだったら……うん、選べないな。

 

「まあ、連れてきていいか考えておいてくれ。ティスはどうする?」

 

「こっちにはデュミナス様みつかんねえ。早くあたいを元んとこに戻せよ」

 

「ティスちゃんって転位できなかったっけ?」

 

 スパロボオリジナルの敵役らしく悪役組織に神出鬼没だったような。

 この木星付近にだって到着しちゃってるし。

 ワープかなんかできるんじゃないのかね。

 

「んな器用なことできりゃ、デュミナス様の願い叶えられてるっての」

 

「そっか。時間も超えなきゃいけないんだよなあ」

 

「タイムマシンですか」

 

「そんなとこ。俺たちの元いた場所は世界が違うだけじゃなくて、時間もズレているっぽい。セラヴィーと連絡が取れりゃなんとかなるんだけど、この時間のあいつは大魔王だし、そもそもいる世界に行く手段がない」

 

 もしいけたら剣士にも会えるかな。会えたとしてもこっちのことはわからないだろうけど。タイムマシンと、世界間の移動ができるアイテム、両方を成現(リアライズ)……その前に座標を調べる装置が必要になる?

 すぐには思いつかんな。軍師キャラか華琳、レーティアがいてくれれば相談できるのに。

 

「セラヴィー? 大魔王?」

 

「赤ずきんチャチャのヤンデレ師匠だよ。今頃は洗脳されて魔族の手先として異世界で大魔王やってる」

 

 セラヴィーならオリジナルハイヴぐらいなんとかしそう。どろしーちゃんが自分の元以外に行かないように世界を滅ぼそうとするぐらいの男だから、それぐらいの力はある。ギャグキャラだしさ。

 あれ? こっちの世界に金髪縦ロールがいるなら、さらいにくる可能性もあんのか。

 

「マブラヴキャラに金髪くるくるっていたっけ? いたら会えるかもしれん」

 

「え? セラヴィー先生? あの変態師匠の? マジで?」

 

「一応俺の魔法の師匠でもある。ほら」

 

 POMっと煙を出して魔法で猫に変身。明命を喜ばせるために人間以外で一番変身に慣れてる姿だ。

 この姿には空井の仲間たちも驚く。

 

「立体映像の合成じゃないわよね?」

 

「ああ、マクロス世界ならそんな技術あったな。本物の魔法だよ」

 

「本当に猫になっているわ。でも、喋れる時点で猫とは違う」

 

 シャロンが空中に猫化した俺のデータを表示する。骨格まで表示せんでもいいのに。本物の猫の骨格なんて見たことあるの、いないだろ。

 

「うむ。どう見ても猫だ。ここ、かぎしっぽ型の猫は幸運を呼ぶともされてるのだぞ」

 

 あ、クランなら骨格ぐらい見たことありそう。尻尾の先、ちょっと曲がった骨をドヤ顔で指さしている。

 俺の嫁のクランと同じように見えるだけに抱きしめたくなるのがツラい。

 

「エレメント能力? アクエリオンで使ったら巨大猫になるのかしら?」

 

「そういやアクエリオンって能力を発揮、というか強化できるロボなんだっけ」

 

 エレメントと呼ばれるはアクエリオンのパイロットで、エレメント能力、つまり超能力を拡大化させるのがアクエリオンだ。魔法も強化できたら便利だよなあ。

 あっちからルイズを連れてきてエレメントになってもらったらスゴい爆発を見せてくれそうだ。

 あとは俺の〈鬼制御〉でパワーアップや〈分裂分身〉で分身もできたりするのだろうか?

 

「そっち方面ならデモンベインがあれば十分だろう」

 

「マジであるのか。でもアルちゃん、デモンベインは待ってくれ。転生ん時に球神の不許可リストに表示されてたんだ」

 

「なんだと?」

 

 空井の言葉にがっくりとするアル。「アルちゃん」て言うとアルルゥのイメージだよね。美羽ちゃんと仲良くなりそうな子のさ。

 でもなんで駄目なんだろ。転生者同士の連絡手段も最初に与えなかったし、人類を救うつもりあるんだろうか。転生者たちが苦しむのを楽しんでいるような……。

 それともコスト的な問題?

 

「強さが桁違いなのはだいたい駄目だったかな。よくEVOLのアクエリオンが通ったよ。グレートゼオライマーはOKだったけど、次元連結システムの美久も別だし」

 

「あれはあとで回収したいから、場所を教えてくれシャロン」

 

「いいわ。でも運べるのかしら?」

 

「なんとかなる、かな。こっそり近づいて回収。すぐに撤退する」

 

 そこまでの移動手段もないワケじゃない。ゼロ魔世界で見つけた武御雷は渡しちゃったけど、別のを使えばいいだけ。こっちの人間に俺だってバレにくくなるだろうからその方がいい。〈隠形〉ならBETAにも見つからないっぽいし。

 手持ちのなにを使おうかな。スタッシュには容量節約のために成現(リアライズ)していないプラモも入ってる。1/6の俺だけど、短時間の成現(リアライズ)ならばMPだって余裕で足りるだろ。

 

 む! アクエリオンで成現(リアライズ)が使えたら今まで控えてた物も手に入るかも。俺が持ってる〈操縦・ロボ〉のスキルはワリとどんなロボにも効くし、ガンダールヴのルーンもある。アクエリオンのベクターマシンも動かせる可能性が高い。

 

「アクエリオン貸してくれないか」

 

「え?」

 

「試したいこともあるんだ。いけるならそれで回収してくる」

 

 今の俺は1/6になってて成現(リアライズ)のスキルレベルも下がってるけど、それがアクエリオンでどれぐらい強化できるかな。

 成現(リアライズ)できるんならどれに使う?

 空井の工場衛星を極秘にするために別の母艦系ってのがいいか。俺たちのこっちでの拠点代わりにもできるし。

 

「って言っても俺1人じゃ動かせないから、空井も乗ってくれ。魔法スキルがラーニングしやすくなるかもしれない。あとは」

 

 アクエリオンは3機のベクターマシンが合体するロボだ。つまり3人乗り。それぞれのエレメントで性能が決まる。

 つまりあともう1人乗ってもらわなくてはいけない。

 アクエリオンEVOLの子たちになるか。

 

「ミコノちゃん、だろ」

 

「やっぱそうなるか」

 

 ミコノ・スズシロはアクエリオンEVOLのヒロイン。俺的にはゼシカ派なんだが、彼女のエレメント能力である“繋ぐ力”は初合体を目指す俺たちには必要なのだ。

 

「え? ええ!?」

 

「えー、カライと合体すんの? いいなあ」

 

 驚きで硬直してしまったミコノちゃん、そして不満そうなゼシカ。俺だってゼシカと合体したい。

 睨んでいるのは沙和に似ているMIX。髪や眼鏡っ子であることとか外見はよく似ている。性格は違うけど。

 彼女は男性嫌い。好感度が高い空井は別のようだが、俺とは目を合わせてくれていない。ルックスで融合ってのはないのかね?

 ちなみに能力は空間補填。穴埋めだ。巨大な巣穴ともいえるハイヴ攻略では活躍してくれそう。

 

「あとで好きなだけ合体すればいいだろ。アクエリオンなしでも」

 

「だからすぐそっちに持ってくなっての! それに、俺が動かせるのか?」

 

「カライならば大丈夫でしょう」

 

「俺から操縦関係のスキルも持ってったろ。おかげでレベルちょっと下がってる。エレメント能力はあれだ、死者復活がそうなんじゃないのか? もしくは独占」

 

 空井の特典でエレメント能力っぽいのはあと〈無効及びカウンターを無効〉ってのもあるらしい。〈独占〉以外はスパロボで有用だ。バリア無効でカウンター無効なんて便利すぎる。アクエリオンで発動しても強力なエレメント能力であるのは間違いない。

 

「ですが、ここは木星の影。ベクターマシンで行くには地球は遠すぎます。この工場衛星をフォールドさせるのはカライが望みません」

 

「他にフォールドとかワープ持ってる母艦ってないのか?」

 

「ないわ。アクエリオンのテレポートチェンジのシステムすら未実装。ポイントを貯めて購入してからね」

 

 むう。ポータルで運ぶこともできるけど、さすがにこの距離だとMPの消費が大きいから俺じゃないと無理。空井に覚えさせたとしてもMPは足りないだろう。

 ふむ。俺が偽12番球として地球で活動するためにも母艦はほしい。

 

 高速艦ということなら星詠み(フォーチュナー)号がある。太陽系を15日間で横断できるが、あれは戦闘機サイズの小型艦で戦術機の運用には向かないし、俺ではなくもう片方の俺に所持させている。むこうでも使うかも知れないから。

 それにネオディーバ相当の装置も必要みたいだ。ならば、それこそアクエリオンで成現(リアライズ)してみるのもいいかもしれない。

 ええと、手持ちのなにがいいかな?

 

「ヤマト……こっちじゃ大和がまだ現役なんだっけ。ならばいっそのことアンドロメダがいいか? 凄乃皇・弐型もあれっぽいし」

 

 スタッシュにプラモがあるのを確認する。両さんといっしょに作り上げたアンドロメダ改級の。

 アンドロメダいいよね。デザインがかなり好き。そのせいかバトル・エロースの艦橋もちょっと似ていて、あの横幅のあるパーツが左右についていて、強攻型時の頭部は鋼鉄ジーグっぽかったりする。

 アクエリオンが使えて成現(リアライズ)が強化されるなら波動エンジンもなんとかなる。十三が喜ぶな。

 その完成済みのプラモを空井に渡して。

 

「あとでそれを本物にするから、必要なシステムの想いを込めてくれ」

 

「想いを込めるって言われても」

 

「念じるなりブンドドするなりしてくれればいい。設定と違っても結構変更できる。例えば、アクエリオンに必要なシステムを組み込むとか、少人数でも動かせるようにとか」

 

「これが本物になるって、そんな無茶苦茶なことできんの、コーイチ?」

 

 ティスちゃん他ほとんどの子が疑わしそうな目で見ている。そりゃ信じにくいかな。

 実演した時にどんな反応するか楽しみだ。

 

「じゃ、俺たち戻るからあとよろしく。今度きた時アクエリオン貸してね」

 

「え?」

 

「連絡はテレパシーなりビニフォンなりで。ティスは俺とくる? そう」

 

 ティスとアルの手を取って地球へと帰還。あてがわれていた部屋に無事到着。

 結界符を貼っておいたせいか、俺たちが留守にしていたのも気づかれていないようだ。

 

「ボクがここへきてるのは教官たちにバレてるだろうから、えっちしてたと思われてるよねー」

 

「俺も本当はそうしたかった」

 

「今からする?」

 

 しなだれかかってくる唯ちゃんについ流されそうになるのも当然だろう。ここんとこご無沙汰なんだから。

 だが、それを邪魔する者もいて。

 

「妾たちを忘れるな! それともまさか全員でするつもりか?」

 

「あたいも!?」

 

「うん。じゃなくて、嫁以外とはしないから! それに2人にはまだ早いでしょ」

 

 浮気ダメ、絶対。

 なんか不満そうな少女2人に睨まれている。子供扱いしたせい?

 そりゃ嫁になってくれるんなら手を出しちゃいそうなくらい可愛いけどさ。

 

「お兄ちゃん、説得力ないよ」

 

「あ、やっぱり」

 

 嫁の数もあるし、見た目ちっこい子ともしちゃってるもんなあ。ねねちゃんとか南蛮勢とか。

 みんな元気だろうか。

 

「……おい。さっきの話、本当なのか?」

 

「お兄ちゃんとえっちしたいの? ティスちゃん」

 

「コーイチがあのオモチャを本物にってやつだ」

 

 唯ちゃんのからかいをスルーして真剣な目で俺を見るティス。

 当然か。ティスは俺の成現(リアライズ)が気になってしょうがない。だってさ。

 

「そう。俺は君のお母さんの願いを叶えられるかも知れない。望まれた姿にだってできる可能性がある。制限はあるけどね」

 

「もし本当なら……あたいにえっちなことしていいから、力を貸せ!」

 

「いやそれじゃ俺が悪役だよね!?」

 

 悪役はティスだろうに。

 というか、性格違うよね。力づくで言うこと聞かせるタイプじゃなかった?

 唯ちゃんを人質にして、とかの方がやりそうなんだけど。

 デュミナスのいない世界で不安なんだろうか?

 

「お兄ちゃん、さっき自分で言ってたのにハニートラップに引っかかっちゃダメだよ」

 

「あ!」

 

「チッ」

 

 そうか! 俺にイタズラされたって脅すつもりだったのか!

 さすが悪役だ。

 

「お兄ちゃんとえっちしたかったら、奥さんにならなきゃ。そうしたら願いは聞いてくれるよ。身内には甘いもんねえ」

 

「奥さん? あたいが?」

 

「いや、お母さんのために犠牲になるって感じで嫁さんになられても困る。愛のない結婚は不可だからね! 俺のことを好きでいてくれないと」

 

「ボクみたいにね!」

 

 ありがとう唯ちゃん。俺はいい嫁さんもらったなあ。

 唯ちゃんを抱き上げてくるくる回っていたら、ティスとアルがジト目で見ていたよ。

 

 



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38話 ゴールデン○○○

感想、評価、メッセージありがとうございます

今回は麗羽視点



「地上の人は帰れっ!」

 

 今のは妖精? レオタードのような薄手の服を纏っていてなかなか可愛らしかったですわね。

 えっ、フェラリオ? どこかで聞いた気がしますわ。

 

 いったいここはどこなんでしょう。(わたくし)はツーリングの最中でしたのに……本当にそうでしたの? なにか別のことをしていたような気もしますわ。もっとこう世界の命運にかかわるような。

 なにを考えているのかしら。そんなはずがあるわけが……助けを求めるように隣に倒れている愛車、ゴールドウイングに手を伸ばします。大きなオートバイですわ。なんといっても名前がいいんですのよ。黄金の翼。まさに私のために名付けられたと言ってもいいのですわ。

 でもなぜか、私にはもっと相応しい黄金の愛機があった気もするんですの。愛する夫が用意してくれた……夫? 私はまだ未婚の学生なのですわ。夫なんて……でも、愛しい方から頂いたこの指輪。これがなによりの証明!

 

 左手の薬指で輝く指輪を撫でてみれば、少しずつ甦ってくるあの方の記憶。不様な態度を取ってしまった私を受け入れてくれた優しいあの人。呪われてしまったとはいえ、美しいあの顔を見抜けなかったとはこの私の不覚ですわ。華琳さんは耐えられたというのに!

 

「地上の方、どうしました?」

 

 なんですのこの長髪の男は?

 私の美しい回想の邪魔をするなんて無礼な男ですのね。

 

「私、混乱してますの。少しの間、お黙りなさい」

 

「な?」

 

 この長髪の男、そしてさっき見たフェラリオに、男に命令していた禿頭の男。だんだん思い出してきましたわ。マクロスほどではなかったけれど大好きだと夫が言っていた作品、『聖戦士ダンバイン』と同じですわ。

 私にあるもう一つの記憶、ショウ・ザマであった記憶もそれを肯定していますわ。ショウ! そうでしたのね! あの偽華琳さんが言っていた「名は体を表す」とはこのこと。もう一人の私との合成の時のようにきっとショウ・ザマも取り込んでしまったのですわ。

 

「ショウ。私は紹。そう! そうですのね! おーっほっほっほ!」

 

「おい?」

 

「どうしたバーン?」

 

「ガラリアか。この女、あまりのショックに狂ってしまったのかもしれぬ」

 

 失礼な男ですわね。そんなだからリムルさんにもふられてしまうのですわ。

 ガラリアさんは……ふむ。悪くないですわね。私の下で使ってあげてもよろしくてよ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 翌日、多少なりとも状況を把握してきた私は、同じくオーラロードを通ってきたとされる、ヤンキーパイロットのトッド・ギネスと元軍人のトカマク・ロブスキーの2人と共にオーラバトラー、ドラムロを見物いたしましたわ。どうせならこの2人が斗詩さん、猪々子さんだったらよろしかったですのに。

 やはり、この世界は『聖戦士ダンバイン』の世界ですのね。どうやら私は本当にショウ・ザマとなってしまったようですわ。幸い、姿はほとんど私のまま。当然ですわ。男になどなってしまったら煌一さんが悲しみますもの。こんな美女がいなくなっては世界の大損失でもありますわね。

 ええ。ショウのトレードマークである顎のバッテン傷もありませんわ。合成と同じく傷も治るのでしょう。となるとこの身体は再び夫を喜ばせることになりますわね。ほんの少しばかり若くなっているような気もしますわ。

 

 ドラムロは丸っこくてぽっちゃりさんな不細工なオーラバトラーですわね。それでも、煌一さんはこの機体も好きだと言ってましたわ。まあ、オーラバトラーの全てがお好きなようでしたわね。

 これはチャンスかも知れませんわね。煌一さんが好きなオーラバトラーをプレゼントするチャンス。あの方は自分で創ることができますけれど、本物を手に入れたらきっと大喜びすることでしょう。おーっほっほっほ! 愛しい私の贈り物となればなおさらですわ!

 

 となればどうしましょう?

 ここを制圧してしまいましょうか?

 今の私はあの頃とは違いますの。煌一さんの美しいお顔を見抜けなかった私。あの芸術品を見損なうなど許されませんわ。己の未熟さを思い知った私は鍛え直しましたの。鍛錬なんて必要のなかった天才であるこの袁紹が、ですわよ。

 私はファミリアとなったこともあってみるみる力を伸ばしたんですのよ。それはあの華琳さんも驚くほど。「合成されたおかげね」なんて負け惜しみまで。煌一さんが「まるでゴールデン……」と呟いてくれたのは聞き逃しませんでしたわ! おーっほっほっほ! さすが私の夫! 一番ほしい言葉をかけてくれますの。

 まさにそうですわ! 今の私はゴールデン麗羽なのですわ!!

 

 ですからこの規模の施設なら簡単に制圧できますわ。煌一さんが私のために用意してくださったロボットもありますし。このゴールデン麗羽が負けることなどありませんわ!

 でも、それではいけませんわね。昨夜試したけれど、煌一さんや他の妻たちとの連絡がとれないのですわ。ポータルもマーキングしているはずの行き先がありません。異世界間でも通話可能なこのビニフォンでもバイストン・ウェルのオーラによって通信を邪魔されてしまっているのでしょうか? いえ、煌一さんが創ったこのビニフォンに限ってそのようなことがあるはずがありませんわ。

 ではいったいどうして? なにやら嫌な予感がしますわ。まさか華琳さんが煌一さんを独占するために邪魔な私を排除した?

 許せませんわ! 

 

 ……いえ、いくら華琳さんでもしないでしょう。そんなことをすれば煌一さんが悲しむのはわかりすぎていますもの。なにか不測の事態が起きている、そう見るべきですわね。

 とにかく、もう一度オーラロードを通って地上界へ出ることにしますわ。

 そのためにしばらくは『聖戦士ダンバイン』のストーリーどおりに動くしかありませんわね。

 

 夜には他国の有力者までも呼んだ園遊会。やはりガッターとドラムロの戦いが始まりましたわ。ドレイクとしてはドラムロの力を見せつけるためのメインイベントなのでしょう。ゼラーナ隊の襲撃に邪魔されてしまいますが、これもストーリーと同じですわ。

 ゼラーナ隊は顔見せ程度で撤退。戦略というものがわかっていませんわ。どんな犠牲を出してでもここでドレイクを仕留めていればどうとでもなりましたのに。

 

 翌日はダンバインを動かすことになるのですわね。煌一さんが大好きなあのオーラバトラーを。

 でも、トカマクさんのダンバインは撃墜されてしまうのですわ。トカマクさんはともかくダンバインが壊されてしまうのは勿体ないですわね。猪々子さん向きのカラーですのに。

 

 案内された城の一室でそんなことを考えていると昨夜のフェラリオ、チャム・ファウが部屋に侵入してきましたわ。つい、ひょいと捕まえてしまいました。遅すぎますわ。

 そうですわね。せっかくですから彼のダンバインを貰うことにしましょう。どうせ壊れてしまうのですからストーリーに対して影響は出ないのですわ。

 

「リムルさんのところへ案内するのです」

 

「なんで地上の人がリムルのことを知っているのよ!」

 

「私がすごいからですわ。ゴールデンですのよ」

 

「意味がわからない!」

 

 

 ◇

 

 

 チャムさんをなだめてリムルさんの部屋まで案内させますわ。この部屋の扉の外では私が逃げないように見張りがいるのはわかっていますので、不在を知られないように扉を魔法で施錠(ロック)。私は変身魔法でPOMっと姿を変えて窓から移動するのですわ。

 

「ショウ、あなたフェラリオだったの!?」

 

「違いますわ。魔法で姿を変えているだけですの。早く案内なさい」

 

 小さなフェラリオさんに姿を変えた私。ゴールデンな私は魔法だって使えますのよ。おーっほっほっほ!

 この姿で煌一さんとロボットに同乗するのも悪くないですわね。大きな煌一さんも見てみたいですわ。あの人が喜ぶ顔を見るためにも私、やるのですわ。

 チャムさんに案内させてリムルさんに会いましたわ。ストーリーでは会うのは今日ではないですけれど、もう気にしません。

 リムルさんはあの両親から生まれたのが信じられないような可愛いお顔ですわね。男の趣味は残念ですけれど。

 

「チャム?」

 

「リムル、地上の魔女を連れてきたっ!」

 

「誰が魔女ですか!」

 

 POMっと変身を解いて元の姿へ。驚いていますわね。それはそうでしょう。小さくて可愛らしいフェラリオさんがこのように美しいゴールデンな私になったのですものね。

 

「おーっほっほっほ! 私の美しさに驚いておいでですのね!」

 

「い、いえ……本当に魔女?」

 

「だから魔女ではありません! むしろ聖女の友人、妻姉妹なのですわ!」

 

 あっぱれ対魔忍世界と煌一さんが名付けた世界で聖女と呼ばれていた桃香さんは私と同じく煌一さんの妻。これはもう姉妹と言っても過言ではありませんわ。

 まったく、この私のゴールデンな神々しさがわからないなんて、ヒロイン扱いされないのも当然ですわね、リムルさん。

 

「ともかく、時間がありませんわ。私をオーラバトラーの待機場所に案内するのです!」

 

「え? どういうこと?」

 

「先ほどの襲撃者、ニー・ギブンと仰ったかしら。あの男の役に立ちたいのでしょう? ここのオーラバトラーの数を減らして差し上げますわ」

 

 まだ混乱しているようですが、ニー・ギブンの名前を出した途端にすぐに了承してしまうリムルさん。チョロすぎますわ。まさに盲目の恋。将来が心配になってきますね。あの母に殺されるのはさすがに可哀想ですから、なんとかしてさしあげますわ。

 ああでも、煌一さんはニー×キーン派でしたわ。悩むところです。ニーさんにリムルさんとキーンさんの両方を娶る程の甲斐性がありますかしら?

 そうですわ! マーベルさんもいました。ショウは私となってしまいましたから、マーベルさんもニーさんに任せなければいけなくなりましたわね。

 もちろん、シーラさんはショウである私が面倒を見ますわ! 彼女は華琳さんも好みのようでしたし悔しがらせてあげましょう。

 

「おーっほっほっほ!」

 

「い、いきなりなに!?」

 

「いえ。リムルさんはニーさんのどこに惹かれたんですの? さすがにあの髪型はどうかと思うのですけれど。ああ、父親が禿頭なので毛の多い方がよかったのですわね」

 

 いきなり切り出してしまったコイバナにリムルさんはなぜかキツい目つきで私を睨みます。まさか、私があの変な髪型の男に興味を持っているとでも勘違いをしてしまったのかしら? ここはその失礼な誤解を解いておかないといけませんわ。

 

「ご安心なさい。私には愛する夫がおりますの」

 

 左手薬指の指輪を見せつけますわ。煌一さんが私のために用意してくれた逸品。どこの世界にだって、これ以上の指輪なんて存在しませんわ!

 おや? もしかしてバイストン・ウェルでは結婚指輪の風習はないのかしら?

 

「私の夫は幾十もの妻を抱える最高の男でしてよ。ですから、あんな変な髪型の男にはまったく興味がありませんの」

 

「へ、変な髪型なんかじゃ……」

 

「言いよどんだところをみるとリムルさんもそう思っているのでしょう? まあ、それでも他にも妻を抱えることになりそうですし、髪型などその方たちと協力して変えてしまえばよろしいのですわ」

 

「他の妻?」

 

 さらに目つきが怖くなってらしてよ。リムルさんだけでなくチャムさんまで。

 これではニーさんが苦労なさいますわね。煌一さんほどとは申しませんが、ニーさんも複数の妻に対しての気遣いができるように鍛えなくてはいけませんわね。ゼラーナ隊と合流したら教育してさしあげませんと。

 

「チャムさん、思い当たる方がおいででしょう? ならば、誰か一人を選ばせて残りが不幸になるのと、みんなで幸せを分かち合うののどちらがいいか、よくお考えになることですわ」

 

「あなたはいいの? 自分の他に妻がいて」

 

「そうですわね。悔しく思う時もないわけではないですわ。でも、私には負い目がありますの。あの人に対してとても失礼なことをしてしまった。嫌われて当然の私。もし私一人でしたら合わす顔が無くて妻になどなれなかったのですわ」

 

 呪いのせいであんなに嫌ってしまった私でさえ大事になさってくれる煌一さん。妻の順位こそありますが、それでもみんなを愛してくれるあの人。順位がなかったらきっと妻同士でもっと揉めていたかもしれませんわね。

 ああ、早く会いたいですわ。そこに煌一さんがいるわけでもないのに小走りになってしまった自分に苦笑い。

 

「そうそう、リムルさん。私が悪い魔女ではない証拠に、コソ泥のような盗みなんてできないのです。ですから、ここのオーラバトラーを私にくださいな」

 

「え。ええ。よくわからないけれど、ニー様に迷惑をかけるオーラマシンなんてみんな持っていって!」

 

 これでよろしいですわね。使徒とファミリアは神の遣い。悪いことはできませんわ。スタッシュには自分の物か借りた物しか収納できないので、リムルさんから貰う必要があるのです。スタッシュの容量? 問題ありませんわ。鍛え上げた私の懐の大きさをなめてもらっては困りますのよ。

 話を続けながらもドレイクの兵に見つからないように〈感知〉スキルを活用して移動し、無事に整備所と思わしき場所にたどり着きましたわ。

 

「さすがにここには人がいますわね。もう少し接近できればいいのですけれど」

 

「まかせて!」

 

 止める間もなくチャムさんが飛び出してしまいましたわ。囮になるつもりなのでしょう。その行動、無駄にはしませんわ。POMっと再びフェラリオに変身して飛行して私も突撃します。整備台のダンバインに急接近したら、次々とスタッシュにしまう私。煌一さんの喜ぶ顔が目に浮かびますわ。それだけではなく、きっと抱きしめながらダンスのようにくるくると嬉しさを表現してくれるでしょう。

 

「す、すごい。今のどうやったの?」

 

「なにを驚いているのです。ずらかりますわよ!」

 

 兵が集まる前に撤収しましょう。リムルさん、チャムさんと合流して急いで戻りますわ。

 騒ぎが広がる中を見つからずに無事リムルさんを部屋まで送りますわ。さすがゴールデンな私。

 

「あなた、いい魔女だったのね!」

 

「だからチャムさん、私は魔女ではありません」

 

「これでお父様も考え直してくれれば」

 

「無理ですわね。あの男、覇業に取り憑かれた顔をしてますわ。昔の私のように。あ、顔と言ってもお顔の造形ではなくて表情のことでしてよ」

 

 考えてみれば名家と地方領主との違いはあるけれど、昔の私の立場と似ておりますわね。負けるなんてまったく考えていなかったあの頃。もしあの時、先に煌一さんに出会うことができていたら私はどうしていたかしら?

 呪いにさえかからなければ私が見誤うこともないでしょう。きっと力尽くで自分の物にしようとしましたわね。

 

「さて、リムルさん。ニーさんのところに行きたいのならまず、自分を鍛えておくことをお勧めしますわ。あなた、足手まといでしてよ」

 

「足手まとい?」

 

「自分の実力がわからない頑張り屋さんは、周りに迷惑をかけるものですわ」

 

 煌一さんがよく仰ってましたわ。「リムル使えねー」と。ゲームの話でしたけれど。

 ふむ。そうですわね。煌一さんが好きだった作品がまだありました。ここはそれに倣って、私がリムルさんを鍛えて差し上げますわ。ライバル役のチャムさんもおりますし。

 

「ノリムルさん。私には真名という神聖な名がございますわ。けれどあなたはそれを教えるにはまだ相応しくはない。ですから取りあえずは、私のことはお姉さまと呼ぶのですわ」

 

「ショウお姉様?」

 

「ええ。よくってよ」

 

 いいですわ! 最近なぜか美羽さんがレーティアさんばかり姉扱いして寂しかったんですの。義姉妹にしてさしあげたレーティアさんも私を姉扱いしませんし。ここはもう、私がお姉様となってノリムルさんに尊敬されてるところをお二人に見せつけて、素敵な姉を取られたと嫉妬させてみせますわ!

 煌一さんもきっとコーイチローさんポジションを楽しんでくれることでしょう!

 

 

 ◇ ◇

 

 

 ため息が出てしまいますわ。

 翌日の予定がダンバインがなくなったので捜索と代替え機の準備に手間取って3日後、ようやく出撃。それはまあいいのですけれど、用意されたのが角飾りをつけたゲドではため息が出るのも当然でしょう。

 どうせならサーバインをくれればよかったのにですわ。こうなったらあとで倉庫を探しましょう。リムルさんがくれたオーラバトラーの中に入れても問題ないはずですわ。スタッシュに収納できます。

 

「せめてこの地味な色ぐらいなんとかなりませんの?」

 

「文句を言うな。このゲド改をここまで仕上げるので手一杯だったんだ!」

 

 目の下に濃いクマを作ったショットさんが不機嫌そうに返します。あれからほとんど寝てないそう。ご苦労様ですわね。

 改? 中身が違うのかしら? でもこれでは煌一さんは喜びませんわね。

 

「ショウ、あれから見なかったけどプリンセスと遊んでいたって? ジャップはのんきなもんだ」

 

「修行をつけてさしあげていただけですわ、スケベヤンキーさん。あまり胸ばかり見ると夫に殺されましてよ」

 

 嫉妬深い煌一さんならいくら大好きなダンバインの登場人物でも愛する私が視姦されたなんて許しはしないのですわ。

 あと私は日本人でいいのかしら? 融合したショウさんは日本人ですから半分くらいの日本人? けれど夫と同じ日本人を侮辱した言い方は許せないですわね。助けてあげようと思ったけど保留にいたしますわ。トッドさんのダンバインも貰ってあるから用済みと言ってもいいですし。

 

「おいおい、人妻かよ」

 

「修行ねえ」

 

 ノリムルさんがドレイクに私を強く推薦したので特訓することが許されたのですわ。彼女には煌一さんに作ってもらった予備の鉄下駄も貸してあげました。

 私が自分の特訓に使用した物ですわ。鉄下駄なんて一見無理があるように感じますが、煌一さんの成現(リアライズ)によって、身体を壊すような負担はなく、適度に脂肪を落とし筋力増加させながらも必要以上の筋肉で脚が太くなることを防いでくれるという、女性ならばどんなことをしてでも手に入れたくなる逸品でしてよ。見た目はアレですが武器防具としても使用可能と至れり尽くせりで、煌一さんの妻は皆が持っているのです。

 もちろん私もそれを装備してノリムルさんと一緒にランニングやウサギ跳びをしてるのですわ!

 

 それにしてもオーラバトラーの操縦は簡単ですわね。ショットさんによれば「操縦桿やペダルは補助的な物でオーラ力の強い操縦者ならばオーラを通じて思いどおりに動く」ということですが、本当のようです。

 これならば確かに多くの兵が操縦を覚えることができるでしょう。私が生まれ育ったあの大陸の者たちだって使えるかもしれませんわね。

 

 ギブン家にはさっさとアの国の王、フラオン・エルフに見切りをつけてラウの国かナの国に身を寄せるようにと、チャムさんに伝言を頼んだのですが、やはり聞いてはくれなかったようですわね。チャムさんにマーキングカードを渡して、私がポータルで移動して直接説得すべきだったのでしょう。

 まあ、一応忠告はしたのです。ストーリーと同じようになってしまっても私の責任ではありませんわね。煌一さんもギブン家にはとくに思い入れがなかったようですし、かまいませんわ。

 

 

 ◇

 

 

 ほとんどストーリーと同じように進んでしまっていますわ。

 トカマクさんは当然のように撃墜され、トッドさんもゲド改を破損。そして私は聖戦士ダンバインのヒロインとされる女性と遭遇。お互い顔を見せ合うためにオーラバトラーの扉を開けて会話しますわ。私の美しさにひれ伏すがよいですわ。

 ダーナ・オシーのマーベル・フローズン。醜いオーラバトラーに乗ることでギャップ美を加算しても私の敵ではありません。おーっほっほっほ!

 

「善悪の見境もなしにドレイクに手を貸すバカな女」

 

 知っている台詞そのままとはいえ、言われると腹が立ちますわ。自分が正義のために動いているという自信がお有りですのね。ドレイクの元にいたこともあるのでそんな判断ができるのでしょう。

 

「いきなりバカとは無礼ですわね。私、どうしても夫と再会しなくてはなりませんもの。そちらこそ、チャムさんの伝言は聞いたのでしょう? せっかく私がこの地味なオーラバトラーで我慢しているのにその程度の戦力で迎え撃とうとは、能なし無策のおバカ指揮官に従ってますのね」

 

「あなたがショウ?」

 

「ええ。私はダンバインのショウ・アマイ。これはゲド改なんてツッコミは野暮ですわよ」

 

 あの方が私の夫である証明の名前を高らかに告げる。

 ステータスで確認した名ですわ。すなわち、もはや私には袁家の家名は不要ということ。当然です。私にとって一番大事なのは夫なのですから。

 

「戦力なんてそう簡単に用意できるものではないわ」

 

「だから味方になれと? そう仰るなら、ドレイクに仕掛けたあの夜、なにがなんでもドレイクを仕留めるべきでしたわ。奇襲など選んだ時点でルール破りをしているのですから」

 

「他に選べる手段なんて」

 

「あら? 正義を名乗るテロが発生したら、マーベルさんの祖国は屈服するのかしら?」

 

 煌一さんによればゼラーナ隊はテロリスト。宣戦布告もなしに他領への攻撃行為は大問題ですわね。黄巾党と同じと言われても仕方ないでしょう。

 

「私たちは違う」

 

「テロリストの多くは正義をかたるのですわ。そう呼ばれるのが嫌ならば、あなたたちは手段を選ばなければいけません。正道を歩みたいならばこそ、力が必要。このバイストン・ウェルでもそれは同じ」

 

 口ばかり正義を名乗って、やってることはテロ行為ではドレイクも他の領主、国王も納得しませんのも当然でしょう。

 むしろマーベルさんのお国こそ難癖つけて嫌がらせし、先に手を出させて相手を悪者にするのがお得意だったのではないかしら? ゼラーナ隊はその策に乗ってしまったようにも見えますわ。

 

「半端な策ではドレイクに通用しませんわ。覚悟はしましたか? 差し違えてもドレイクを討つという。その覚悟があればあの夜は成功したかもしれませんわね」

 

「どっちの味方なの? ショウ・アマイ!」

 

「私は夫の味方ですわ。おーっほっほっほ!」

 

 男のために戦うのならば口だけではなく実力も必要でしてよ、ノリムルさん。

 マーベルさんは扉を閉じてダーナ・オシーの剣を構えます。私の気迫にビビりましたわね。構わずにゲド改の扉を開けたまま、キッと睨みますと怖じ気づいて逃走しましたわ。雪蓮さんや霞さんたちとのガンつけにらめっこ、参加しておいて正解でしたわね。あの時はちょっと……いえ、私が粗相なんてするはずがありませんのよ!




おショウ夫人の方が語呂がいいという


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39話 顔のあわない月

感想、評価、メッセージありがとうございます


 今の俺は12分の1。軟禁中の俺が行方不明になって騒がれないようにさらに分身中。

 それにやることは多くても、やっと再会できた嫁さんとやることをやっておきたいワケで。

 

「なあ、あいつは連れてこなくてよかったのか? その……えっちなことするんだろ? 邪魔じゃないのか?」

 

 VF-19EX改の後部座席でおとなしくしているティス。ちらっと顔を見たら真っ赤になっていた。可愛い。えっちの意味はわかっているのかな?

 

「そうなんだよね。アルも連れてきたかったんだけど、なんだか俺の状態が気になるようでさ。使徒ってだけじゃなくていろいろ詰め込まれているからなぁ」

 

 それに唯ちゃんも妙に乗り気だった。融合しちゃったせいか「また初めてに戻ってるから1人じゃちょっと不安」とか言っちゃってさ。アルも唯ちゃんに挑発気味に乗せられてたみたい。でもまさか本当にスることはないはず。

 いくら可愛い子相手でも、嫁さん以外とはもうまずいでしょ、やっぱりさ。

 

「ったく、緊急時なんだろ、他にやることがあんだろーに」

 

「やばい状況だからこそ子孫を残したくなる? まあ、俺たちにはまだ子供できないけどさ。うーん、ティスも好きなやつができればわかるよ、きっと」

 

「たださかってるだけじゃない」

 

 だってハルケギニアじゃルイズが誘惑してくるけど手は出せないし自己処理だってしにくかったしで、欲求不満がしゃれにならないレベルで溜まってたんだよ! あっちの分身のためにも少しでも解消しておかないと。

 早く他の嫁さんたちとも合流したい。みんなを感じたいよ。

 

「ティスちゃんにはまだ早いか。今は家族の方が一番だもんな」

 

「ずっとずーっとそうだってのさ!」

 

「そうだな。んで、その大事なお母さん、デュミナスのことなんだけどさ、人造生命体で創造主が自分になにを望んでいたか知りたいんだよな?」

 

「そこまで知ってんのね」

 

 まあね。ただRとOGのどっちのデュミナスかはまだわからないのが問題ではある。Rの方が性格いいんだよな。OGだとティスちゃんたちを駒にしか見てないしさ。この感じだとRっぽい?

 創造主とやらが望んだ姿にするのは俺の成現(リアライズ)でなんとかなるだろうけど、OGの方だとなぁ。

 

「なあ、デュミナスがもし望まれた姿になるとして、その姿が君たちにとって望まない姿だったらどうする?」

 

「はあ?」

 

「性格まで変わっちゃって、君たち3人を自分の復活のための部品程度にしか扱わなくなっちゃったらどうする?」

 

「ふんだ。それがデュミナス様のためになるならみんな喜ぶわよ」

 

 これじゃどっちかわからんな。Rの方のデュミナスであってくれよ。たしかRだと創造主は人間を作ろうとしてた説だったよな。

 でもなんかモンスターっぽいし人間そのものではなく、人間型の超生命体を創ろうとしてたのかね?

 む。そうなると創造主は人間型にならなかったから廃棄しようとした? 外見だけの修正ならMPも少なくてすみそう。

 

「でもそれだけじゃデュミナスも納得しないかもしれないか。精神的にもまいってるならカウンセリングしてからの方がいいかも」

 

「なんの話よ!」

 

「デュミナスには相談相手が必要だってこと」

 

 そうだ、一刀君ならモンスターでも攻略してくれるかもしれないな。合流できたら任せてみるのもいいかもしれない。あ、でも熟女じゃないと駄目なんだっけ。デュミナスっていくつなんだろう?

 

「あたいたちじゃ不足だって言うのかい!」

 

「そうじゃなくて、もっと頼れる……違うな、それこそ医者みたいな人がさ。自己診断以外もできた方がいいでしょ」

 

「医者ぁ?」

 

 華佗なら対応できるかな? 剣士のとこで頑張ってるはずだけど魔法もマスターしてパワーアップしてるから人外も対応できてたよね。エルフやドワーフも診てたし。

 異星生物っぽいならクランもありかも。医者ではないけどね。

 

「っと、この辺りかな」

 

 目的地についたので会話を中断し、〈感知〉スキルでBETAに警戒しながら捜索開始。目的のブツはすぐに見つかる。

 

「お、あったあった」

 

 放置されていたグレートゼオライマーの残骸を素早く回収する。転生者ジャイアンが所有権を放棄しているのでスタッシュにも無事に収納できたよ。これ、空井のとこで修理できるかな。できなきゃ成現(リアライズ)修理か。スキャンデータは取ったけど修理後のもほしい。

 空井はまだ愛機がない上に氷室美久がいるんでやつが乗るのにはいいんじゃね。シャロンなら木原マサキ人格上書きシステムも排除できるだろうし。さらには、空井には〈独占〉スキルがあるので自分の人格を独占チェックしておけば問題はあるまい。

 

 目的であるグレートゼオライマーも入手したんで次はすぐにでも由真=ユウヤのとこに行きたいけど、シャロンよりの通信で別の場所に向かってる。

 それは婚約者のとこ。

 

 篁唯依となり、俺を婚約者だと紹介してくれた唯ちゃんのとこではない。

 俺と融合してしまったらしい羽山浩一の婚約者。『顔のない月』ではまだ婚約してなかったと思うのだが、シャロンが調べたデータによるともう婚約してるとのこと。

 そこで思い出したのが、顔のない月ヒロインの1人の救出。声が特徴的なメイドの栗原沙也加。いや、その正体である山都瑠璃か。

 

 顔のない月のストーリーが始まる前に、女優であった彼女は撮影のために倉木の山に行っており、拉致されて倉木の当主に乱暴されてしまうという重い過去を持つヒロイン。しかも彼女のエンディングに辿りついてもあまりハッピーエンドに見えない。

 その拉致と乱暴されるのが嵐の夜。嵐ってまさかBETAが日本に進行してきた台風か? シャロン情報によればやはり撮影のために現地にいた。

 

 むう、俺が融合してることにすぐに気づいていたら助けられたかもしれないのに! しかもあの辺にもBETAが現れたようで連絡もとれないとのこと。えっ?

 長野だけどそこまでBETAがいるの? 京都突破されちゃってないよな。地下からきた? なんでこんな場所に?

 気になるので様子を見に行くことにした。

 

 移動にはこのままVF-19EX改を使用。アクティブステルスのおかげで日本側にも発見されにくく、シャロンのナビによってすぐに着いてしまう。これ、VF-19EX改なんて型式番号にしてるけどVF-29改作るついででできた副産物だったりする。

 VF-29改は気合い入れて何機も試作を重ねたからね。全部載せとまではいかないけど、この19EX改もそこそこ盛ってるのよ。

 

 頭は俺の好きなS型。マクロス7のVF-19ブレイザーバルキリーのS型に近い形状だ。19のS型は他のと同じ左右に2門のレーザー砲4門の他に頭頂部に1門の計5門なのが特徴だ。

 両肩はファイアーバルキリーと同じく大型で展開すればスピーカーと照明が出てくる。俺は音痴なので歌わないけどね。

 エンジンは強化されていて、今回はつけてないけどもちろんADVANCE仕様としてVF-25ベースのスーパーパックも用意している。

 そして武装変更。アニメではほとんど使われなかった死に装備、主翼付け根の半固定レーザー機銃をMDEビーム砲に交換。このためにエンジン強化が必要だったのである。砲口もちょっとゴツくなったぜ。

 

 さらに補助座席ではなく完全に複座型になっている。もちろん1人で操縦もできる。これはただ単に嫁さんとタンデムしたかっただけの目的だけど、今回はそれが役に立ってるよ。数え役萬姉妹の三姉妹にも多少のバージョン違いで渡してあるけど、歌いながら操縦はやっぱり大変で彼女たちは歌担当、操縦は別ってことで複座機なのは同じだ。

 

 型番どおりにEX-ギアにも対応していてフォールド・クォーツ代わりのプシュケーハート搭載によるISCもあったり。外見のクリスタル部が多いのはビルドファイターズの影響。

 

 

 ◇

 

 

 目的地はあの洋館か。って戦闘中じゃないか。

 戦術機が3機いるが2機は既に動けなくなっていて、なんか黒いのもBETAと戦ってる。BETAは戦車級と兵士級、黒いのはもやっていうか刺々しい影の大蛇っていうかBETAとは違うが禍々しい。もしかしてあれが『穢れ』とか『倉木の鬼』ってやつか?

 結局、顔のない月のメインで重要な部分であるけどよくわかんなかったイメージ。主人公である羽山浩一もそれに関わっているのにさ。ええと、生け贄を欲しがる山の神だっけ? 羽山浩一の半身?

 俺のステータスを確認してもそれっぽい状態異常はないけどまさか〈鬼制御〉に統合された?

 影は好き勝手にBETAと戦っていて、何体か締め付けたり丸呑みしたりしている。もしかしてBETAはこいつを狙って現れた?

 

 戦っているのはそれだけではない。洋館の前で重機関銃を振り回して小型種を屠っているランバ・ラルが!

 そう、青き巨星のランバ・ラル。ジオン軍服ではなく白衣を着込んでるけど、なんでここに?

 もしかして転生者たちがポイント購入した仲間だろうか。だとしたらいい趣味をしてる転生者だな。ヘンビットと話が合いそう。

 

「見てる場合じゃないか」

 

 VF-19EX改をバトロイドに変形させて急降下、戦闘開始。マクロス好きなら着陸はガウォークでだろといきたいが、こっちの人間が目にした場合、バトロイド形態ならばまだ戦術機と勘違いしてくれるかもしれない。とくに19系はバトロイド時の主翼の位置が太腿の横に位置していてパッと見だと跳躍(ジャンプ)ユニットに見えないこともない。だからこの機体を選んだんだよね。

 

「こちら兼定(かねさだ)。これより援護する」

 

 あ、兼定ってのはこのVF-19EX改のペットネーム。日本で活動しやすくなるように考えたのだ。

 所謂9系の可変戦闘機(バルキリー)は剣の名前が与えられるのは有名だよね。VF-9はカットラス、VF-29はデュランダル。そしてVF-19はエクスカリバー。ならばと名付けた。ほら、俺のご主神様(しゅじんさま)だって名前に剣がついてるしさ。虎徹や村雨とかとどっちにするか迷ったよ。

 

 よく見なくても辺りには死体も多く転がっていた。村人だろうか。ヒロインたちでなければいいんだが。

 生き残っている撃震は洋館を守っているようだ。たぶん倉木のお屋敷。あそこに顔のない月のヒロインたちもいるんだろうか?

 

 緊急時ということで撃震の返事も待たずにガンポッドで兵士級を攻撃。

 こんなことなら両脚部に内蔵されたマイクロミサイルを変更してジークフリートのマルチドローンプレートを装備しておけばよかった。マルチドローンプレートは小型の無人飛行端末。ピンポイントバリアも展開できて今回みたいな場面では役に立ちそうなのに。救助者が生きていればだけどさ。

 

『何者かは知らんが、救援感謝する』

 

「無関係ってワケじゃないしな。詳しいことはこいつらをやった後で。あの黒いのは?」

 

『さあな。長生きしたくば手は出さん事だ』

 

 むう。撃震のパイロット、たった1機でBETAと戦ってたぐらいで腕もいいみたいだけど、この口ぶりは軍人さんじゃない? 声は今にも「ザクとは違うのだよ」って言い出しそうな感じなのに。

 無線通話しながらの近接戦闘長刀での戦い方にも余裕が見てとれる。

 

「ふうん。あれはBETAってのとは違うみたいね」

 

 VF-19系の後部座席はVF-1系とは逆にバトロイド時は前部座席の下にくる。下の方から見上げるティスも可愛い。

 でもこいつがいるんじゃやっぱりアルも連れてくるべきだったかな? アルだったらわかるよな。宇宙生物よりも怪異の方がアルの専門分野だろう。いや、クトゥルーにも宇宙生物わりといたっけね。

 

「この距離ならこいつか」

 

 黒いのは今のとこ味方っぽいので巻き込まないように狙いをつけてバトロイド頭頂部のビーム砲を発射する。MDE砲だと強すぎて黒いのまでどころか周囲も危険だからね。このビーム砲もVF-19Sのよりちょっと強力に、そしてバトロイド時には正面にも攻撃できるようになっている。全弾発射する時、こいつも使えた方が格好いいからね。劇場場マクロス最後のシーンみたいにさ。

 ビームもちゃんと効いてくれて、戦車級を撃破。獲物を失った黒いのはするっと伸びて先――たぶん顔?――をこっちに向けてからするすると蛇のように移動していく。もう敵はいないってこと?

 あ、ちょっと離れてからまたこっちを向いて動きを止めた。

 

「こいって言ってるんじゃないの?」

 

「ティスもやっぱそう思う?」

 

 周囲を〈感知〉で確認したところ、BETAはこのそばにはいない。さっきと同じように肩のスピーカーで「なんか呼んでるみたいだからちょっと行ってくる」と告げて返事も待たずに黒いのを追った。

 撃震もランバ・ラルも追ってこないようだ。洋館を守っていたなら当然か。俺も顔のない月のヒロインの安否を確認したいんだけどな。

 

「洞窟? こいつの住処か?」

 

「でも入らないみたいだよ。入り口の前で待ってこっちを見てる。入れってことじゃない?」

 

「さすがに乗ったままじゃ入れないか。ティスちゃんはどうする?」

 

「あたいも行くよ。待ってんのも暇だし」

 

 VF-19EX改から降りてスタッシュに収納すると、するすると黒いのが近づいてきた。くるか、と身構えたがどうやら襲ってくるワケではないらしい。ゆっくりと頭をよせてきたのでファミリア認定の切り替えをONにしてから手を伸ばしたら頭を横に振られた。

 

「ファミリアになりたいワケじゃない?」

 

 よく見ると黒いのが小刻みに振動している。

 

「震えている? どこか痛いのか?」

 

「コーイチが怖いんじゃないの?」

 

「俺が?」

 

 うわ、黒いののやつ、こくんって肯きやがった。VF-19EX改もしまったし、どう考えてもお前の方が怖いだろ。

 むう。マジでこいつの正体が思い出せない。ええと、神様なんだけど禍々しいのは“穢れ”が溜まって変質したから?

 それならばとスタッシュから聖水を取り出し、ペットボトル入りのそれを軽く揺らして見せつける。黒いのはさらに震えながらも再びこくん、と。

 

「みんなの巫女さんレベルが上がってるからこれ、薄めて使うはずの強力なやつだけど。そうじゃないと効きそうにないか」

 

 聖水の原液とも言えるそれをパシャっと黒いのに振りかけると、黒いのは光り輝いて黒いもやが霧散。甘い香りとともに中から一人の女性が現れた。和服姿の美女だ。

 うん。知ってる。俺に融合した羽山浩一がこの顔を知っている。幼い頃の初恋の人物。この香りは椿の花の香りか。

 

「大きくなりましたね、煌一さん」

 

 俺の名を呼びながら、そっと頬に手を触れてきた。

 瞬間、景色が白一面の契約空間(コントラクトスペース)へと変わり、ティスが視界から消える。

 

「由利子、さん?」

 

 彼女は倉木由利子。ヒロイン倉木鈴菜の母親であり、実は幽霊。主人公の幼い頃、その身代わりとして生け贄となって死んだ。……だっけ?

 主人公の初恋の相手。ううむ、融合してるはずなのによく思い出せない。

 だってさ、()が記憶している倉木由利子の顔と違うんだよ。この顔は知っているんだけど、絶対に倉木由利子ではない。いや、倉木由利子は知らなくてもこの顔を知っている者は多いと断言できるその顔は。

 

 金髪ワンレン。地球人最強の男の嫁。思わず「18号?」と聞きたくなるのをぐっと堪える。どっからどう見ても和服を着た18号だよこれ!

 転生者に悟空がいてブルマやアラレちゃんが仲間にいるけど、そいつがポイント消費して追加した仲間だったりする? いや、あいつはまだBETAを倒してポイントを稼いでいなかったはず。

 これはまさか、俺や唯ちゃんに起きたように融合しちゃったってこと?

 

「ええ。おかげさまで穢れは祓われました。邪悪なものも自分が利用するための村人がいなくなると困るからBETAを屠っていたのですが、村人のほとんどを殺され、さらに半身を吸収してしまった煌一さんが現れたことで思うところがあったようですね」

 

 スッキリしたとも寂しそうとも取れる微笑みを浮かべる18号由利子さん。むう、この人にはさん付けしてしまうな。顔は18号なのに口調が違うのが違和感があるけど。

 

「邪悪なもの?」

 

「穢れと間違った儀式によって変質してしまった可哀想なものたち……」

 

 生け贄にされた者たちの霊のことだろうか? それとも山の神? 聞くとシラケそうな雰囲気なので聞けないチキンな俺。

 この人も幽霊となってその邪悪なのに利用されていたような。

 というか変質って、あなたの方が変質しすぎなんですが!

 

「じゅ、由利子さんも解放されたのか」

 

「ですが、倉木家当主はBETAに殺されてしまいました。娘たちのためにもう少しだけ時間をくださいませ」

 

「それって俺のファミリアになってくれるってこと?」

 

 無言で深く頭を下げる18号由利子さん。了承ってことでいいの?

 倉木家当主って旦那さんだよな。それってまさかクリリン!? 娘たちのことが心配で、でも自分は成仏して力がなくなっちゃうからファミリアになりたいってとこかもしれない。

 幽霊ってファミリアになれるの?

 あ、よく見たら18号由利子さんが幽霊らしく半分透けていて、その中心付近でカードがくるくると回転している。そうか、今の18号由利子さんはファミリアカードになっていると。ファミリアカードなら契約時に復活できて、それはGPがかからない。

 ふむ。レアリティはSR。普通に強いな。こっちの人間が味方にいてくれると心強いのは確かではあるが。

 

「俺が倉木鈴菜の婚約者になってるのは由利子さんの差し金?」

 

「はい。あれが復活のために煌一さんを利用しようと。まさか自分よりもはるかに恐ろしい存在となっているのは知らなかったのでしょう」

 

「恐ろしい、ねえ。そりゃいろいろ盛られてるけどさ、怖くなんかないでしょに。それはまあどうでもよくて、俺には他に婚約者、というか嫁さんがいるんで婚約は破棄してもらえると」

 

「それ、詳しく聞かせてもらいますわね」

 

 あれ? 18号由利子さんが微笑んでいるんだけど、浄化されたはずなのにちょっと怖い。ゴゴゴゴゴって効果音が背後に見えそうな。

 くっ、だ、だが気圧されるワケにはいかん。事情を話して納得してもらわねば。

 

 

 ◇

 

 

 ビニフォンの立体映像も使用して俺にはたくさんの嫁さんがいること、融合しちゃった唯ちゃんが俺を婚約者って紹介してることを説明した。

 

「あの可愛らしかった煌一さんが……いかがわしいお仕事をなさっているのは知っていましたが、たくさんの妾なんて」

 

「妾じゃなくてみんな嫁さん! ちゃんと結婚してるからね!」

 

 いかがわしいってのは融合した羽山のホストのことだろうな、たぶん。

 再び18号由利子さんが微笑む。いつの間にか手にはファミリアシートとペンが握られていた。

 

「つまり、妻は多くてもいいということですか。鈴菜だけではなく水菜も娶ると」

 

「なぜそうなる?」

 

()当主と違って、煌一さんは妻を見捨てないと信じています。このご時世、頼りになる男性というのはとても希少なのですわ。末永く2人をよろしくお願いします」

 

 18号由利子さんは名前を書いてしまって俺のファミリアとなり、また一瞬で契約空間(コントラクトスペース)が解除。

 景色が戻ると、18号由利子さんの衣装と雰囲気が一変。存在感が増していた。

 

「なんで巫女服?」

 

「私のスキルに合わせたのでしょうか?」

 

 倉木由利子も巫女さんだったっけ?

 ティスちゃんも驚いた顔で18号由利子さんを見ているな。

 

「な!? 存在がさらに変化した? これがコーイチの力?」

 

「そ、そんなもんかな」

 

 俺の趣味で巫女服になったと? そりゃ巫女さん大好きだけど! 巫女さんプレイの時はハッスルしましたけど!

 苦悶する俺をよそに彼女は「少しお待ちを」とだけ言って洞窟に入っていき、すぐに白い着物の髪の長い少女を連れて戻ってきた。

 知ってる子だ。顔のない月のヒロイン、倉木鈴菜……にそっくりだけどこの子は双子の姉、倉木水菜だろう。うん、顔のない月と同じ可愛い顔で少しほっとする。18号の娘には見えないけどね。

 さっきの黒いのがこっちに向かったのもこの子がBETAにやられないようにだろうか?

 

「久しぶり、でいいのか? 俺はちょっと変わったけど煌一だ。覚えている?」

 

 母親である18号由利子さんとは違う黒さの全くない微笑みでにこにこしている水菜。彼女は喋れないが俺を嫌がってはいないみたいだな。この近所でBETAが暴れていたのも気づいていないのかも。

 

「挨拶は皆さんと合流してから。早く戻りましょう」

 

 18号由利子さんは水菜を抱き上げると、ふわりと浮いて屋敷へ向かう。いやあんた、幽霊じゃなくても飛べるの? 18号の能力、無意識に使ってません?

 

「なにがどうなってんの?」

 

「俺にもよくわかんないけど、たぶん味方が増えた、のかな?」

 

 スタッシュからVF-19EX改を出し直して屋敷へと戻る。生き残っていたのは見事に顔のない月の主要キャラだけだったよ。ヒロインたちは全員生存しているのがせめてもの救いかな。鈴菜も水菜と同じ顔で18号には似ていない。

 武白蓮の双子の弟となった転生者は白蓮と同じ顔となっていたんだが。武と同じ顔って特典を選んだせいなのかな。武が白蓮と融合しちゃったんで、顔も白蓮ベースになったとみえる。

 助けたかった山都瑠璃も生きていた。無事、とはちょっと言いがたいかもしれないけど。撮影スタッフやマネージャーが目の前で殺されてしまって、かなりショックを受けている様子。

 

 倉木家当主倉木善治郎は戦術機の中で死んでいて、クリリンではなかった。

 動いていた撃震を操縦していたのはやはりというか、ランバ・ラル。ランバ・ラルが2人? 混乱していたら撃震乗りが春川五平で重機関銃の方が春川一平だと紹介される。

 一平が倉木家の主治医で五平が弟で館の庭師か。顔、違うよね。こいつらも融合しちゃってるのか? でもなんで2人ともランバ・ラルに……片方TV版で片方劇場版みたいな? それともどっちかがビルドファイターズのラルさん?

 

 あ、もしかして18号由利子とラル春川って中の人ネタ? 名前だけじゃなくてそんな融合もアリなワケぇ?

 

 




鈴菜で鈴々だと水菜どうするか困るので


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40話 尋問

感想、評価、メッセージありがとうございます


「オルタネイティヴ0だと?」

 

「そう。俺も詳しくは知らないけど、奴らが言うにはそれによってBETAとは別の異星勢力の技術を手に入れたんだと。嵐山補給基地にきた空中戦艦のうち2つは異星人の宇宙船だってことらしい」

 

「貴様の正体が羽山煌一だということはわかっている」

 

「うん。でも俺を尋問してもたいしたこと知らされてないから無駄だよ。せいぜいが他の連中との連絡役だから」

 

 斯衛軍の人と会談中の俺。

 よくある取り調べだね。つうか尋問。怖い顔のおっさんが俺を問い詰める。で、なだめ役が綺麗なお姉さん、と。

 幸いと言っていいのかまだ自白剤等は投与されていない。ま、〈耐性・毒〉のスキルがある俺には効かないけどさ。

 練習前の愛紗の手料理を食べて平然としていられるぐらいには鍛えられてるんだぜ。もっとも、ファミリアになったおかげで愛紗も料理の腕が上がるの早かったんだけどね。

 

「あの武御雷はどこで手に入れた?」

 

「さらわれた先。どこからだかは知らない。本来の乗り手が死んだんで俺に譲られた」

 

「貴様を誘拐し、武御雷を与えて訓練したとでも言うのか?」

 

「そう。色々と詰め込まれたよ。でも俺が選ばれた理由なんてのは知らされる前に日本がピンチだっていうんで、いいチャンスだから結果を出せと出撃させられた。まさか唯ちゃんがフォローしてくれるとは思わなかったよ」

 

 うん。オルタネイティヴ0の胡散臭さが増量中だな。俺の話を信じてくれればだけど。

 転生者連中もオルタネイティヴ0の名は出す打ち合わせなので、いきなり酷い目にあうとは思いたくない。拷問はいかん。目覚めたら困るからね。そっちに。

 

「貴様らの目的は?」

 

「BETAの殲滅。それだけしか聞かされていないんで、当面は日本の防衛かな。どこのBETAを攻めればいいか教えてくれると嬉しい」

 

「ほう? 軍の指揮下に入ると言うのか?」

 

「傭兵でどう?」

 

 こっちの傭兵がどんなのかよく知らんけどさ。

 自分の立場をはっきりさせた方が動きやすくなるはずだ。

 

「ふん。話にならんな」

 

「だろうね。ま、戦力が欲しくなったら言ってくれ。非常時なのはわかってる。戦術機ならそこそこ動かせるから」

 

 俺の操縦の腕前って結構スゴいよ。分身したんで下がってはいるけど〈操縦・人型機械〉スキルにはポイント突っ込んでレベル上げてるから自在に動かせる。

 さらに()が持ってきたガンダールヴのルーンも大きい。いつも以上にロボを動かせるのは確か。

 

「戦闘記録は見たが、あれは武御雷の性能だ」

 

 さすがにその言葉には斯衛のお姉さんも呆れた顔をしていたよ。脅し役は実戦経験ないのかな。顔が怖いから選ばれてるだけだったりして。

 

「武御雷の性能があったとしても腕は確かだろう。その時はよろしく頼むよ」

 

「他の連中に救援を頼むならこれを使ってくれ、オルタネイティヴ0の連絡用のチャンネルだ。あいつらも救援要請なら動くはず」

 

 既にエルシャンクとターナはBETAとの戦いのために出発してしまった。連絡手段は確保しているだろうが、転生者たちとの会議で決めた周波数とパスコード類を教えておく。

 これであいつらも動きやすくなるといいのだが。

 というか、転生者の仲間ルルーシュあたりが作戦考えてくれて連携できると楽なんだよなあ。利用されそうでちょっと怖くはあるが。転生シャーリーって逆ハーレムだけしか考えてないのだろうか。

 俺の方にも華琳やレーティア、軍師たちがそばにいてくれたら安心なのに。早く会いたい。

 

 結局、武御雷は返却されず今回の尋問は終了した。このまま没収って流れなのかね、やっぱり。

 俺が手荒な扱いをされないのは謎の武装集団の仲間と見られているからだろう。敵対しているならともかく協力的であり、ましてや少しでも戦力が欲しい時なのだから。

 

 あと、譜代武家の篁唯依と仲がいいってのも考慮されているのかも。

 唯ちゃんが婚約者って公言しちゃってるから、父親の耳にもきっともう届いている。会うのは気が重いが、由真のためにも話をしないといけない。

 

 

 □

 

 

 残してきた俺が取調べを受けている。テレパス通信でその状況をリアルタイムにわかっていながらもこっちは倉木の屋敷を出れなくて。

 

「18号?」

 

「そう。由利子さんはその人と融合してしまっている。別の世界の人間なんだけど、思い出せない?」

 

「別の世界ですか? よく、わかりません?」

 

 むう。俺と唯ちゃんと白蓮も自分が融合しちゃってるってすぐにわからなかったし、由真もまだ気づいていない。なにかのキッカケが必要なのかもしれないな。

 ただ、融合しちゃったのがどの18号かが問題だ。クリリンと結婚後ならともかく、その前とか未来トランクスのとこのだと危険なような。記憶が戻っても暴れないでくれよ。

 それにファミリアになったら改造部分も治っちゃうような気がするんだが、18号は機械部品がなかったのか、それとも融合によってそれが正常な状態となってしまったのか不明だが普通に人造人間の能力も使えてる。身体の状況をビニフォンによるステータス確認だけじゃなくて、ちゃんと調べたい。カライのとこなら調べられるだろうからその内連れて行かないと。

 

 ランバ・ラル2人にも話を聞きたい。今は忙しそうなので後でね。孫の眼鏡メイド、春川知美も無事だった。こっちは誰とも融合してなかったよ。春蘭と融合してないのはよかったけど残念だ。眼鏡メイドな春蘭見たかったかも。

 鈴菜の従兄弟、東衣緒は屋敷に来ていなかったので死んではいないようだ。女の子だったらよかったのにとゲームプレイ中はずっと思ってたやつだっけ。

 

 あれからやってきた帝国軍の連中が村人の遺体の始末と生存者の捜索を行っている。戦術機が防衛してたりと思った以上に協力的なのは、倉木家、というかここがそれなりに意味のある場所で、政府も放置はできないらしい。

 

「こうなってしまった以上、基地建設に反対する村人もいないでしょう。生き残りがいるかもわかりませんが」

 

「基地?」

 

「政府から要望がずっときていたの。けれど村人はそれに反対していたわ。山の神様がいるからって。生け贄を差し出すほどに信じていた神様が守ってくれると」

 

 由利子さんは亡くなった村人たちのことは旦那同様にあまり気に病んでいないらしい。まあ、自分を生け贄にした連中だもんなあ。空井に頼んで生き返らせてもらうほどでもなさそうだ。

 それにあいつは転生シャーリーの仲間を生き返らせないといけない。転生者関係の他にもBETAとの戦いでの死者は増えていく一方だし、そんな余裕もないかな。

 

「基地ができたら拠点としてご利用ください」

 

「そう言われても、基地なんて建設着工してもすぐにできないような。転生者たちが集まれる場所はほしいけど、あいつらの母艦ってでかいのが多いから面積かなり必要なんだが」

 

 転生者の集結は転生悟空の神様の神殿か、転生恭也のパプワ島あたりになると考えていた。あの神殿を囲むように浮遊する戦艦群なんてさ、すげえ見たいじゃん。パプワ島はギャグ空間だけど、死ぬときは死ぬ漫画だったからマイナス面の方が大きいかもだが。

 空井の衛星は嫌がるだろうし、そもそも距離的に無理すぎる。転生トルストールの母国もなんか避けたい。

 

 ふむ。補給のことを考えると日本に基地があった方がいいワケで。転生者や俺たちの働き次第で横浜にハイヴができなければ横浜基地の建設はないはず。そうなると佐渡島? もうハイヴ建造が始まっているかもだから香月夕呼が攻略を提言して攻略後に基地化する可能性がある。ここを早めに攻略できれば日本を守りやすくはなるか。

 そのためには補給は不可欠。転生者連中も補給にばかりポイント消費していると仲間や装備の追加ができないだろう。

 

「簡易的な補給拠点、でもないよりはマシか。日本側もこっちが拠点や補給を欲しがった方が弱みを握れてるって考えて交渉をしやすくなるかもだな。むう、それこそ他の連中と相談が必要、か」

 

「では、そのように話をつけましょう」

 

「えっ?」

 

 由利子さんってそんな権限あんの? 当主だった旦那が死んじゃったから現当主ってことなんだろうけど、軍、というか政府にも顔が利くみたいなこと言ってたような。まさか18号みたいに力づくで脅しをきかせるんじゃないだろうが。

 とりあえずは大型のテントか倉庫、あと補給物資を運ぶための道路建設だな。空井に頼んだら重機仕様のデストロイド使わせてくれないかな。ああ、シャロンが遠隔操作で操縦してくれれば基地建設もすぐにできるかもしれん。フロンティア時代の未来建材もあるかもだし。

 日本経済のことを考えれば現地発注の方がいいのだけど、日本がBETAに攻め込まれてる現状だ。BETAを追い出せれば他の場所でも工事は多い。気にするほどのことはあるまい。

 

「基地の予定地を教えてくれ。緊急に必要な工事はなんとかなるかもしれん」

 

「さすがですね、煌一さん」

 

 

 □

 

 

 ビニフォンが鳴り出したので斯衛軍の人に許可を取ってから通話をする。まあ、内容はわかっているんだけどさ。俺同士のテレパシーを秘密にするためだ。

 む。もしかしてテレパシーってリーディングされる? 一応、空井との接触で入手した〈独占〉で俺の思考とテレパシーも独占対象にチェックを入れておこう。

 

「お待たせ。どうやら倉木にオルタネイティヴ0の基地ができるようだ」

 

「なんだと?」

 

「俺も聞いたばかりなのでよくわからない。詳しいことはそっちの上に聞いてくれ。倉木側もBETAに襲われて被害が大きいみたいだから、危機意識が強いんだろう」

 

 適当なこと言ってるなあ。けどまあ、18号に脅されるよりはマシと思ってくれ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「では、九州方面で戦っている動きに一貫性のない力押しだけのドリル戦艦がクロガネ、逆に巧みな運用でBETAを屠っているのが黒の騎士団、こいつらもオルタネイティヴ0だと?」

 

「そう。詳しい戦力は知らされてないけど、どっちも独自規格の機体を使ってるというのは聞かされている」

 

 これぐらいなら教えてもいいだろう。あとは各自聞いてくれ。転生者たちも気にはすまい。

 っていうかさ。

 さっきから応対する人が何度か変わって同じ話ばかりしている。そういうものかもしれないけど、時間稼ぎされてるようにも感じてしまう。俺が余計なことができないように監視しながらここに引き留めているつもりなんだろうか?

 

「あの武御雷に使われているOSは?」

 

「XM3。動作を途中でキャンセルしたり、その延長で特殊なコンボを行える新型OS。即応性も高いけど推奨するメインコンピュータのスペックも高い」

 

「なるほど。それによって君はあの奇妙な機動を行えたというわけだね。では質問を変える。そのXM3がないノーマルの戦術機でも君は戦えるのか?」

 

 あれ?

 この質問は今までなかったな。あの武御雷は返すつもりはないけど、別の戦術機を渡すからそれで戦えというのだろうか?

 今の俺ならXM3未搭載の戦術機でもエース以上に戦えるはず。それをばらしても特に問題は無い。

 

「戦える。傭兵として使う気になりましたか?」

 

「そうか。では篁唯依との関係は?」

 

「……結婚を約束した仲だ。彼女はオルタネイティヴ0には無関係だから尋問しても無駄だ」

 

 転生者たちが唯ちゃんを名指しで接触したがったもんだから唯ちゃんも斯衛軍や政府に怪しまれている可能性が高い。酷いことされてなきゃいいが。もし拷問でもされてた日にゃ俺、なにするかわからないよ。

 つい、相手を睨んでしまう。

 

「唯依が無関係なのは当然だ。そんなことはわかっている!」

 

 あれ、唯ちゃんを呼び捨て? 対人の〈鑑定〉スキルのレベルはまだ低いんだけど、それでも使ってみると……崇宰恭子?

 たしか篁唯依の親戚で崇宰家って五摂家の1つじゃないか。五摂家はええと、その中から政威大将軍が選ばれる武家中の武家、だっけ?

 この人、Muv-Luvシリーズだと試作機だった武御雷を引っ張り出して篁唯依を助ける人だったはず。

 

「まあいい。オルタネイティヴ0とやらのおかげで現在日本はBETAを押し戻しつつある」

 

「そうですか。よかった」

 

「だがそれでは駄目だという意見があってな。明らかに日本の物ではない機体によって守られても、それで日本の主が変わってしまうことを怖れる者もいる」

 

「なるほど。たしかに他国に命運を預けるようではいざという時に不安が残ります」

 

 そんなの支配階級のわがままだろ、と笑うことはできない。

 誇りだけではなく、見捨てられたら終わりという状況は避けたいというのは当然だ。

 

「それでもだ。失われる民の命が減るのならばそんなことを言ってる場合ではない、というお方もあってな」

 

 国民がいなくなって国土も失うのも避けなければならない。

 でも、謎の組織に助けられるのも困る。

 どないせーっちゅうんじゃ。

 

「オルタネイティヴ0には他に戦術機はないのか?」

 

「はい。多少はあるかもしれないが俺の知る限り、動かせるやつは少ない」

 

 転生者だと承太郎ぐらい? やつならヘブンズ・ドアーで操縦をマスターできるはず。……それなら他のやつにも操縦を覚えさせられる?

 こんなことを聞くってことは戦術機の数、少ないんだろうな。そしてパイロットである衛士も。訓練中の学生引っ張り出すぐらいなのだから。

 承太郎と現状あまり活躍できてないっぽいアーチャーとも早めに合流すべきだろう。あと悟空はともかくブルマとも。

 

「そうか。傭兵だと言ったな。ならば貴様の任務は殿下の護衛だ」

 

「はい?」

 

「貴様の武御雷を目撃した者は意外と多くてな。将軍専用の紫の機体をな! 幸いと言っていいのか、貴様が動かしていたということを知る者は少なく、箝口令をしいている」

 

「俺にも喋るな、と」

 

 こりゃマジで武御雷召し上げコースかね?

 口封じとして殺されないよね。もしそうなら逃げるしかないけど。

 

「将軍の勅命を受けて機体を貸与された者が学生たちを救った、とそういうことにして利用しようという話がある。情けない話だが少なくとも謎の機体に救われるよりは体裁がいいと」

 

「日本の現状を考えれば、国民の精神的な支えとなる将軍の人気が少しでも高くなった方がいいというのは理解できます」

 

「国民の、そして兵の士気を鼓舞するために次期将軍も前線に立ち、日本を守ったのはオルタネイティヴ0のおかげだけではない、と証明せねばならない」

 

「へ? ……いやいやいや! それはマズイでしょ! 万が一のことを考えたら絶対に出すべきじゃない!」

 

 次期将軍ってったら煌武院悠陽だろ? Muv-Luvシリーズでも直接戦うことはなかったはずじゃないか。

 転生者や俺たちが頑張ったせいで、彼女がピンチになってしまうのかよ。

 

「誰だってわかっている!」

 

 ガンと拳でテーブルを叩かれてしまった。納得いっていないのだろう。そして、転生者たちの力を借りねばBETAに日本が蹂躙されていたのもわかっているのかもしれない。俺たちに手を引けという話が一切出てこないのだから。

 

「この機に乗じて政威大将軍、元枢府の権限を取り戻そうという動きが政府にすらある」

 

「自分たちで責任取りたくなくて、ピンチな時だけ重責をまかせたい、と」

 

 しばらく返答はなく、じっと俺を見つめる。

 そしてゆっくりと大きなため息の後。

 

「貴様の武御雷はそのお方がご搭乗なされる。無論、斯衛も護衛につく。貴様は万が一の保険だ。いざとなったら死んでも殿下をお守りしろ」

 

「それは構わないが逆に俺の方が危険だと考えるでしょ、普通。怪しいだろ、オルタネイティヴ0なんて」

 

「唯依は嘘をつく子ではない。唯依が貴様を全面的に信用していいと太鼓判を押したのだ。私も信用するしかあるまい。唯依を裏切るなよ」

 

 ギロリ、と信用してるか疑わしいほどの鋭い視線で睨まれてしまった。

 マジで護衛任務しなきゃいけないようだ。……あ、本当に影武者として双子の妹の御剣冥夜が引っ張り出されてくる可能性もあるのか。それとも、武御雷から降りなきゃ全くの別人でも問題はないよな。

 

「裏切るワケがない! わかった。その依頼、受けましょう。金額その他は倉木と相談してくれると助かります」

 

「倉木か。そういえば倉木の娘とも婚約していると聞いたが」

 

「亡くなった両親が決めていたみたいで、俺は知らされていませんでした」

 

 さらにキツい目で睨まれたけどこう言うしかないよな。本当のことだし。

 他の嫁さんのことがバレたら、裏切ったと言われてしまうんだろうか。

 次期将軍に権限が戻ったら、重婚できる法案を通してもらえるよう相談しないと。そうすれば転生者たちが完全に味方になるとか言ってさ。

 駄目だったら、嫁さんたちと合流してさっさとこの世界を去るしかないかなぁ。

 

 



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41話 転生者たち

感想、評価、メッセージありがとうございます


「え? 姉貴が結婚っ!?」

 

「タケルちゃんが!?」

 

 驚いているのは白銀(たけし)と鑑純夏。転生者であるタケシは黒髪の白蓮といった顔の少年。現在が1998年の8月なのでMuv-Luvシリーズと同じと考えるなら15、6歳ってところだろうか。

 さらにそれに引きずられるように合流した白蓮もそのぐらいの外見年齢になってしまっているのには俺も驚いた。唯ちゃんは見た目変わってなかったのに。

 

「ああ。こいつが夫の煌一だ」

 

 赤面しながら俺を紹介してくれる白蓮。かわいい。知ってる白蓮よりも幼いその姿に思わず頭をなでなでしてしまうのは当然のことだろう。制服姿もよく似合っている。

 

「って、12番さん!?」

 

「そう。よろしくなタケシ」

 

「え? いや、なんで? あ! そんな風に特典選んだの?」

 

 そうか。球神の特典を使えばそういうことも可能か。Muv-Luv主人公の白銀(たける)の双子の弟を選んだタケシのように。

 でも、そういう趣味でもなければ男主人公と結婚なんて特典は選ばないだろうに。

 

「違うよ。別の世界で俺と結婚した女性が、タケルと融合してお前の姉になってしまった。この世界では他にも似たような現象が起きているって、あの時も話しただろう。ユウヤ・ブリッジスも女性になってしまっている」

 

 18号やランバ・ラルもいるって言ったらもっと驚くだろうけど、これ以上混乱させるワケにもいかないのでそれはあとで説明することにする。

 

「別の世界?」

 

「そうだぞタケシ。まあ、入れ替わったんじゃなくて融合したみたいだからどっちの記憶もあるんだ。今までどうりにお前の姉としてあつかってくれ」

 

「ええと、よくわからないけど、タケルちゃんはタケルちゃんなんだねっ!」

 

 話だけでなく物理的にも俺と白蓮の間に割り込んでくる純夏。名前に夏が入っているから春蘭か秋蘭との融合を心配してたけど、どっちかっていうと桃香っぽい? 白蓮はこのタイプに好かれるのかな?

 

「ははは。まあ、そういうことだ。詳しいのはおいおい話すよ。それで私は夫である煌一のとこで働くことになるからな」

 

「タケルちゃんが働く?」

 

 再びの夫発言に純夏に睨まれてしまう。白蓮が危険なとこで働くってのより、結婚してるってのが問題だと感じているのがはっきりわかんだね。

 

「白れ……タケルは普通に強いよ。たぶん戦術機も動かせるし。それはタケシもわかるだろ?」

 

 白蓮はよく普通扱いされていたが、恋姫世界、それも武将の普通なので近接戦闘は強い。ここでは馬には乗らないだろうが、俺たちで訓練して〈操縦・人型機械〉スキルも持っているので戦術機でも戦えるはず。タケルちゃんと融合してるなら変態機動もするかもしれない。

 あ、ループしてる方のタケルちゃんではないので、白蓮にはそっちの知識にはないのかな。

 

「は、はい。姉貴が人妻で旦那が12番さんで、姉貴が強くて働くって」

 

「落ち着けタケシ! 私はともかく、お前はどうしてそんなことになってんだ? だいたいは煌一に聞いたけど、動かせるロボット1機しかなくてどうするつもりなんだ?」

 

「ロボットじゃなくてモビルスーツ! 香月夕呼にあれとタイヤ戦艦を研究してもらえれば、なんとかなるかなって」

 

「そんな大雑把な計算だったのか……」

 

 そういやこのタケシ、鑑定しても〈操縦〉系のスキルは持っていなかった。〈ニュータイプ〉は持っているのに。〈リーディング無効〉も持っているから戦闘よりも交渉でやっていくつもりだった?

 タケルの双子の弟ってのも、戦闘は兄に任せて自分はサポート、もしくは影で操る的な? それにしては残念な感じだが、まさか白蓮の双子の弟になったことで影響を受けた?

 

「だからユニコーンガンダムで出撃してなかったのか?」

 

「うん。義兄さんは武御雷で戦っていたって聞いたけど、それが特典なの?」

 

「義兄さん……」

 

「ど、どうした、煌一!」

 

 やばい。弟のこと、もう会えない家族のこと思い出してちょっと涙が。あいつは元気だろうか? ちゃんと両親の面倒を見てくれてるだろうか?

 

「タケシにそう呼ばれて、弟のことを思い出して。うん。そうだな、俺はタケシの義兄になるんだな」

 

 白蓮と同じく俺の嫁である十兵衛の弟、八雲は俺のことを兄なんて呼んでくれなかったもんなぁ。まあ、八雲はまだそのことに気づいていなかったっぽいから当然ではあるか。

 

「えっとな、あの武御雷はタケシにもらったというか、タケシの遺品をその孫にもらったんだ」

 

「俺の遺品? え? ……姉貴じゃなくて俺がループするってこと? 純夏! お前の本命は姉貴じゃなくて俺だったのか!?」

 

 俺から純夏にぐるんと勢いよく向き直るタケシ。彼女の両肩をがしっと掴んで、揺すりながら問い詰める。

 純夏も困ったように白蓮の方に助けを求める視線を送るのだが、当の白蓮は「そうだったのか」なんてのんきな発言。

 

「ちょ、ちょっとタケルちゃん!? 違う、違うの!」

 

 あ、純夏がタケシを振りほどいた。あの構えはもしかして……。

 鋭い右ストレートがタケシの顔面を襲う。奇妙な叫びを上げてなぜか真上に吹っ飛ぶ被害者。

 さすがにギャグ時空じゃないので成層圏外まで飛ばすようなことはないか。バイク戦艦内の低い天井にぶつかって落下するタケシ。何度かバウンドしながら転がっていく。

 

「どりるみるきぃぱんちが出たかぁ」

 

「白蓮も落ち着いてんなよ。慣れてんのか?」

 

「まあ、な」

 

 その表情が暗いことから見るに彼女もくらったことがあるのかもしれない。苦労してるんだなと震える肩を抱き寄せてしんみり。以前よりも小さい身長が保護欲をかき立てる。俺が守らねば!

 

「お、俺、ここで死ぬのか……」

 

 ピクピクしているタケシからか細い声が聞こえたのでフォロー入れとくか。

 

「いや、死ぬ場所はたぶんハルケギニア。ゼロ魔の。なんか過去のあっちに跳ばされてしまうっぽい。んでその曾孫がシエスタ。2人によく似ていたよ」

 

「マジですか!」

 

 ぎゅんと勢いよくタケシが立ち上がる。キリっとしたその顔には傷ひとつついていなかった。

 あれ? この世界ってギャグ時空だったっけ?

 

「あ、ああ」

 

「ってことはあっちで嫁さんもらえるんすか俺! あの可愛い子ばっかの世界で!」

 

「うん。シエスタが言うにはずいぶん女性関係が派手だったらしいぞ」

 

「義兄さん、姉貴のこと頼みます。俺はあっちでがんばります!! いやあ、そんなことなら特典で魔法関係取っとけばよかったなぁ」

 

 どうやらタケシはMuv-Luv世界よりもゼロ魔世界の方がいいようだ。こっちだって美少女は多いと思うけどハードすぎるもんなぁ。あっちも危険ではあるはずだけど、過去ならそうでもないのだろうか?

 

「たぶん球神が邪魔するんじゃないか? BETAをなんとかするまでさ」

 

「そんなぁ」

 

「そんなに女の子が好きならなんで特典で選ばなかった? 特典の子は仲間の転生者の好感度が高いのに」

 

「だって、恥ずかしくって……」

 

 なんだろうこの義弟、実の弟よりも俺の弟っぽい気がしてしまう。ってシャイなオタクなんて珍しくもないけどね。

 白蓮も純夏も呆れた顔をしているのはちょっといたたまれない。

 

「とにかく、ニュータイプなんだろ? がんばれよ。ゼロ魔のゼロ戦の人みたいに戦っているうちに召喚されるかもしれないしさ」

 

「そ、そうですね。俺がゼロ戦乗りのかわりに武御雷であっちにいっちゃうのかぁ……。ってあれ?」

 

 なにかに気づいたのか、じっと俺を見つめるタケシ。白蓮と同じ顔なので男なのにちょっとドキドキしてしまう。

 

「義兄さん、シエスタのひいじさんの形見を受け取ったってことはもしかして、まさかルイズに召喚されました?」

 

「ぎくっ」

 

 下手に誤魔化すのもあれなので、わざとらしく口に出して反応する。隠す必要はないかな。

 ……いや、義弟はともかくとして他の転生者に知られるのはどうなんだろう?

 とりあえずは話す必要はないか。

 

「他言無用だ。他のやつには秘密な。特に転生者連中には」

 

「う、うん。そうだね、俺があっちに行くの邪魔されるかもしれない」

 

 邪魔なんてするのだろうか? 自分がかわりに跳ばされたがるとか?

 過去のあっちはともかくとして、今のハルケギニアに行こうとして地球を疎かにされても困る。早いとこBETAをなんとかしないとはぐれた嫁さんたちとの合流もままならん。

 

「戦術機の操縦はできるか? 残念ながら件の武御雷は斯衛軍に取り上げられてしまってるが。あ、でもよく考えればあれとは別の武御雷じゃないと、同じ武御雷がずっとループすることになってしまうのか」

 

「操縦はまだちょっと無理かなと。ユニコーンガンダムだって操縦できませんし」

 

 ユニコーンガンダムを複座にして操縦を白蓮が、ファンネルをタケシが、なんてできたりしないもんかな?

 それぐらいなら丈太郎に頼んでヘブンズドアーで操縦能力を書きこんでもらった方が早いか。

 やはり承太郎、アーチャーとも合流することにしよう。

 

「ならばタケシは承太郎、アーチャーと連絡を取って合流してくれ。俺は悟空と会ってくる。できれば高町恭也とも」

 

「もちろん私も行くぞ。純夏はタケシが守ってやってくれ」

 

「えええっ?」

 

 さっきの勘違いがまだ続いているのか、純夏とタケシの2人にウィンクする白蓮。どう見ても純夏の本命は白蓮なんだけど、それは言わずにおこう。白蓮が焦りそうだから。

 

「シャーリーは? もうあの逆ハー女のとこの女性スタッフも引きとったの?」

 

「え? 煌一?」

 

 やべえ。ルイズやアルのことと同様にまだそのことは説明してなかった。タケシと同じ顔で白蓮が俺をしばらく見つめてそして深ーいため息。も、もしかして愛想つかされちゃった?

 

「煌一だもんなぁ。また嫁さん増やしたのか」

 

「えええっ!?」

 

 純夏とタケシが揃った大きな声で驚く。息がピッタリなだけに白蓮のは勘違いじゃないかもしれん。女同士よりも正常なカップルにはなるのだし。

 

「いいか、先に言っておくけど煌一には妻が多いからあんまりビックリするなよ」

 

「多いって……それでいいのタケルちゃん?」

 

「いいんだよ。だって煌一はみんなのこと愛してるし、みんなだって煌一のこと愛してんだから」

 

 今まさにどりるみるきぃぱんちが俺に向かって繰り出されそうな雰囲気を全く気にせず、真っ赤になりながらも微笑みながら言いきった白蓮に2人は黙ってしまった。

 ふう。背中がぐっしょりするぐらい一瞬でやな汗かいちゃったよ。嫁さんたちの殺気になれてるはずなのになぁ。

 

「姉貴泣かせたら許さないけど、師匠と呼ばせて下さい! ぜひ、モテの極意」

 

「なんの師匠だぁ!」

 

 最後まで言い切る前に再びどりるみるきぃぱんちの餌食となるタケシ。おお、さっきよりもバウンドの数と距離が伸びてる。

 嫉妬からだとしたらやっぱり見込みあるかも知れないぞタケシ。

 ……俺に攻撃できない八つ当たりだったらゴメン。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 不満そうな純夏を残し、バイク戦艦から出発。乗っているのは可変戦闘機。VE-1エリントシーカーだ。マクロスの劇場版である愛・おぼえていますかに登場した複座の早期警戒機。そのFXギア仕様で白蓮を迎えにいくためにこれを選んでいた。

 特徴である大型レドームがイカすでしょ。大気圏内なのでスーパーパックは無し。かわりにガンポッドはちゃんと装備させているので一応戦闘はできるかな。するつもりはないけど。

 

 悟空に連絡を取り、通信用に配布したタブレットから位置がわかったDB神様の神殿へと向かう。連絡したおかげか跳ね返されることもなく、無事に到着できた。思ったよりも大きい?

 ガウォーク形態で着陸させると、すぐに悟空とアラレちゃんがやってくる。

 

「おっす、オラ悟空!」

 

「んちゃ! あたし則巻アラレ。おっさんたちは?」

 

 うわぁ、本物の悟空にアラレちゃんだぁ。いや悟空は転生者だって知ってるけど、今のとこ本物にしか見えないって! アラレちゃんなんて初代ボイスだし!

 

「俺はこっちじゃ羽山煌一ってことなってる」

 

「私は白銀武だ。あ、それとも羽山タケルってことになるのか?」

 

 こっちの役所に届出してないからまだ白銀だろうなあ。

 

「やっと迎えがきたぁ。よかったあ、ここってばなんにもなくて退屈だったのよー。……どうしたの、涙ぐんじゃったりして? どこか痛いの?」

 

 欠伸しつつ建物から出てきたのはブルマだ。あの声を聞いたとたんにうるっときてしまった俺を心配してくれるなんていい子だなぁ。

 ブルマも悟空に会わせたのか初登場時の姿だ。白蓮と同じポニーテールでもある。

 

「ブルマもここから離れるのか?」

 

「なによ? 地上がBETAって化け物だらけってのぐらい知ってるわよ。だからあたしが呼ばれたんでしょ? だいじょーぶよ、孫くんの瞬間移動ならすぐにここに戻ってこれるんでしょ?」

 

 あれ、悟空の瞬間移動って気を探ってだから無人の場所っていけるのかな? そのへんってよくわからないんだけど。

 

「基地ができてからじゃ駄目か? マジで危険なんだよ」

 

「だからってこんなとこに1人残されるのも嫌よ」

 

「それは……そうだろうなぁ」

 

 こんな上空の神殿にたった1人ってのはいくら安全だとわかっていても心細いだろう。

 俺だって嫌だ。インターネット環境とあとコンビニがあれば耐えられちゃうかもしれないけどさ。

 

「ミスター・ポポがいんじゃねーか」

 

「え、いるの?」

 

「おう。なんか神様の神殿とセットだったみてえでよ、稽古つけてくれたり、神殿の管理とかやってくれてんだ」

 

 空井のとこのシャロンみたいな感じか。こりゃ他の転生者のとこにも似たようなのいるのかも。

 んん? タケシのとこにはいなかったような?

 あとで聞いてみるか。

 でもまあミスター・ポポがいればさっきの心配は無用になる。彼の気をたどればここに戻ってこれるのだから。

 

 ちょっと心配だった悟空の尻尾はミスター・ポポが切断してくれていた。頼りになる彼に仙豆栽培の世話を頼んで、神殿を出る。俺のスタッシュはまだ秘密にしときたいので悟空だけをガウォークの手で掴んで連れてって瞬間移動で残りで迎えに来て貰うか、なんて考えていたら、ブルマがホイポイカプセルから車両を取り出したのでそれに乗ってもらい、ガウォークで持って移動することとなった。

 

 で、次の移動先はパプワ島。この付近にはBETAはまだ現れてない模様。

 

「んちゃ!」

 

「んばば!」

 

 神様の神殿にミスター・ポポがセットならば当然、パプワ島にはパプワ少年がいるのだった。

 まあ、パプワがいないのにパプワ島ってのもおかしいか。アラレちゃんと意気投合してる? チャッピーはいなさそうだから遊び相手が少なかったのかもね。

 

「おめ、天津飯の新しい方だったかぁ」

 

「中の人だとそうなるか」

 

 悟空の方は恭也と転生者どうしで会話中。残る俺たちはというと。

 

「性能はともかくずいぶんと趣味の悪いメカね」

 

 グンマがブルマに泣かされていた。

 次期将軍の護衛、こいつらにも協力頼もうと思ったけどちょっと迷うなぁ。

 

 



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42話 転生者たち2

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「強奪男のとこはお断りだし、逆ハー女のとこも嫌だ。あとゴラオンはソ連が面倒そう。だから俺たちに協力するってことでOK?」

 

「ああ。他の転生者と違って俺と承太郎は拠点も母艦もなければ仲間もいない」

 

「個で動くには限界があるのがわかったからな」

 

 みたいな感じで転生者のアーチャーと承太郎は共闘のお誘いに快く応じてくれたとタケシが報告してくれた。きっとMuv-Luv主人公であるタケルも一緒にいるってのも大きかったと思う。

 あとアーチャーと承太郎のどちらにも、案内役というかお目付役というか、なサポートはついていないらしい。タケシにもいなかった。ハロぐらいつけてくれればいいのに。

 

 他の転生者たちにも聞かなければ確実ではないが、どうやら拠点を特典に選んでるとサポートがつくのかも知れない。空井の工場衛星は移動可能だけどサイズ的には基地なワケだし。

 他の転生者の艦も寄港できるから球神も重要視したんだろうかね?

 

「悟空と恭也も仲間と一緒にきてくれたんだね、さすが義兄さん! これで転生者が勢揃いする日も近いかな?」

 

「義兄さん?」

 

「タケルちゃんが女性になっちゃったって説明したろ。あれ、俺の嫁さんと融合しちゃったからっぽい」

 

「融合?」

 

「そうだ。俺が羽山浩一と融合したように、この現象が他にも複数発生している。ユウヤ・ブリッジスと篁唯依もそう。他にもランバ・ラルと18号がいるのを確認している」

 

 俺の説明に驚いた表情を隠せない転生者たち。以前のリモート会議ではここまで詳しく説明しなかったもんなぁ。まさか多数融合ってのは予想してなかったに違いない。

 他に融合しているやつの情報もほしい。唯ちゃんたちのように俺の嫁さんの可能性もあるのだから。

 

「フュージョン? それともポタラ合体?」

 

「どうなんだろ? 今のところ分離はできないっぽいが。丈太郎、スタンドで分離させることはできないか?」

 

「クレイジー・ダイヤモンド! ……無理のようだな」

 

 丈太郎が叫ぶようにスタンドを呼ぶと、一瞬だけ気配を感じたが姿を見ることはできなかった。残念ながら俺にはスタンド能力はないようだ。羽山浩一じゃなくて広瀬康一と融合してたら見えたのかな? でもあいつのスタンド能力は矢による発現だったか。

というかさ、聞いたのはたしかだけどいきなり試すなよなあ。

 

「スタンドってやつ、気は感じっけど見えねえのは気持ちわりいな」

 

「悟空も感じたのか」

 

「どうやら転生者たちはスタンドを視認はできなくても知覚することはできるようだな。丈太郎、こっそりと悪さはできんぞ」

 

「やれやれだぜ」

 

 アーチャーの発言に待ってましたとばかり「やれやれ」を繰り出す丈太郎。

 うむ! 中身が違うとはいえど外見だけでなく声までも一緒の連中がこうやって馬鹿話する空間って感動ものだよね。

 空井のやつも誰かに転生すりゃよかったのに。……それだと俺が影武者できないか。

 

 とりあえずはタケシのバイク戦艦を母艦として行動することにした俺たち。転生者の悟空と恭也、その仲間たちとともに日本に戻ってきた。ミスター・ポポとパプワ少年は離れるワケにはいかないということで現地に残っているのは残念だが。

 ウイングガンダムとウイングガンダムゼロも着艦している。グンマもMSを操縦できたのね。

 

「主役ガンダムが3機とか豪勢だよなぁ」

 

「そうは言っても地上戦じゃローリングバスターライフル使いづらい。フレンドリーファイアしそうだ」

 

「単機で敵陣突っ込んでやるのがコンセプトなんだろうが、危険すぎる」

 

 いや、ローリングしなければいいだけだろう。ふむ。恭也じゃなくてヒイロだったら自爆時の破壊力はウイング系よりも戦術機のS-11の方が大きそうだから換装したいとか言い出しそうだ。

 

「壊れてもスタンドで直すことができるが死人は俺では無理だ」

 

「俺ができるが蘇生時には失うものがある。なるべく死ぬな」

 

「そう考えるとやっぱり義兄さんは前線に出ない方がいい」

 

 蘇生させるのは俺じゃなくて空井なんだけど、空井としてここにいる俺。これではウイングかユニコーン借りたいなんて言い出せない。スキャンだけで我慢しよう。

 

「煌一には私たちがついている。無茶はさせない」

 

「こやつが簡単に死ぬとは思わんがな」

 

 白蓮とアルの発言に肯く転生者たち。

 

「白銀(タケル)が嫁さんでアル・アジフが特典とか」

 

「まさか12番が、デモンベインが選べないのにアルを選ぶほどに幼女好きだったなんて!」

 

「俺も特典で女性キャラ仲間に入れとけばよかった! マリーダさんとか!」

 

 アルが特典って勝手に勘違いしてくれた。訂正する必要はないけど、注目するのそこ?

 転生時の会議で12番こと空井がうまくやっていたのか評価が高かったのが、ちょっと下がったっぽい。いや、空井の方だって女の子に囲まれて喜んでますから!

 

「オラだって女の子仲間にしてっぞ。2人も!」

 

「チチじゃない時点で」

 

「10歳児な時点で」

 

「ほよ?」

 

 フォロー入れてくれた悟空だったが、他の転生者からは論外扱いされてしまった。ブルマ可愛いのに。

 そのブルマはMSやバイク戦艦のデータをチェック中。濃くはあるがイケメン揃いの転生者に色目を使ってないのは悟空への好感度が高いからだろうか?

 かわりにアラレちゃんがグンマの作品を着込んで遊んでいる。センベエさんの発明品に近いセンスがあるのかもね。アラレちゃん好みなのは確かだ。

 

 俺たちがこうしている間にも戦いは続いている。

 強奪男こと剛田ツヨシのクロガネは九州。

 シャーリーの黒の騎士団は大阪。

 ダバのターナとキラのエターナルは京都。

 鎧衣尊人のエルシャンクは神出鬼没気味に各地を遊撃。

 それぞれ転生者たちは帝国軍と連絡を取りながら戦線を支えている。あ、トルストールのゴラオンはたぶんソ連だろうけどリモート会議でしか情報が入ってこない。

 

 転生者たちは損耗した機体や燃料弾薬の補充はBETAを撃破して得たポイントを交換して行っており、今のとこは徐々に押し返している状況。俺たちも頑張らねばなるまい。

 

「俺たちもBETAを駆逐してポイントを稼がねばならん」

 

「オラちっと戦ってくる」

 

「仙豆の貯蔵は十分か?」

 

 サイヤ人である悟空は死にかけた方が強くなるからって、生身でBETAの群に行かせるのはどうなんだろ?

 アーチャーと丈太郎がついていればなんとかなるか?

 

「悟空は人間の気が分かるんだろ? 瞬間移動を活かして人命救助に回ってくれた方が今はいい気がする。逃げ遅れた民間人や動けなくなった軍人を救出。重傷者は丈太郎がスタンド治療。アーチャーが支援していれば乗れる機体がなくても住人からの評価は上がると思う」

 

「人命優先か。そんな余裕のない世界なんじゃないのか?」

 

「余裕がないから人命を優先だ。生き返らせるのにも限界がある。まずは生き延びて、それから復興。BETAは駆逐したけど人類がほとんど残ってない、じゃどうにもならん」

 

 嫁さんたちが簡単に死ぬとも思えないが、融合しちゃってて記憶が戻ってないとやばい。彼女たちのためにも救助活動を行ってほしい。できれば大規模になんだけど、今の日本にはそんな余裕はないのが現状だ。

 

「BETAを駆逐した後に転生者たちが生きやすくなるためにも、住人に恩を売っておくのは大事だろう?」

 

「悟空は超能力者だとでもするとして、スタンド治療の説明はどうする?」

 

「なんかそれっぽい外見だけの治療器具をブルマとグンマに用意してもらえばいい。メディカルマシーンっぽいやつ」

 

 2人なら外見だけじゃなくてちゃんとしたのを作れるかも?

 なんなら俺が成現(リアライズ)すると言いたいのをぐっと堪える。俺の能力もある程度は秘密にしておかないと空井が表に出てきた時に困るかもだから。

 俺たちは元の世界に戻るので、ずっと空井の影武者はできない。

 

「力が怖いからって人類の敵扱いされるってパターンは嫌だよなぁ」

 

「こっちの人間が俺たちを驚異に思わない程度に戦力を持ってもらわないといけないとでも言うのか?」

 

「リモート会議でも言ったけど、転生者全員が力を合わせれば今すぐにオリジナルハイブを落とすことはできるかもしれない。でもその後は? 世界大戦すら起きかねないから、今のままの日本だとアメリカにいいようにされそうだろ。転生者たちだってどうなるかわからん」

 

 俺の提案に転生者たちは思案中。使徒としての俺は救済する世界で例え嫌われ疎まれたとしても暮らすとこは別の世界にもあるので問題はなかったりするが、こっちの転生者たちは違う。この世界で暮らさなければならない。オリジナルハイブを破壊してハイ終わり、じゃないんだ。

 球神からの説明もなかったようだし、このままこの世界に残ることになるんだろう。

 

「強奪男がヤケになって世界征服とか言い出しかねない、か」

 

「そんなことしたら、あとがもっと面倒になる。もし征服できたとして誰が管理するんだ?」

 

「オラには無理だ。BETA倒したら……武闘会やんねえかな?」

 

 やったとしても悟空が優勝する未来しかないだろう。タケシが黙っているのはハルケギニア行きを教えたからか。

 他の転生者たちはBETA戦後どうするつもりなのかね?

 

「シャーリーんとこのルルーシュならどうにかできそうだけど、あの子はどっかに御殿でも建てて逆ハーレムを堪能して暮らすんだろうなぁ」

 

「あんたもだろ?」

 

「俺は嫁さんとのんびり暮らしたいかな。みんなだって活躍すればモテるだろう? 顔もいいんだしさ。この世界だって可愛い子多いじゃないか。好きなMuv-Luvキャラとかいないのか?」

 

 男子学生的な軽いノリで聞いてみる。篁唯依って言われたら困るが、こいつらの好みは知っておきたい。

 その相手がもし死んじゃったら空井が生き返らせることもできるのだし。

 

「好みというワケではないが、神宮司まりもは死なせたくないな」

 

 まさかのアーチャーが一番に発言した。しかもまりもちゃんとは。そりゃトラウマメーカーなだけに俺だって助けたいけどさぁ。

 フッて笑ってるのは、どういう意味だろうか? まりもちゃんは自分に任せろという宣言?

 

「俺は特にいないな」

 

「ま、まさか恭也、男の方がいいというのか? 仲間も男だけだし」

 

「いや、Muv-Luvキャラにそんなに詳しくないというだけだ。そのうち見つかるかもしれないし、いざとなったらポイント召喚を目指せばいい」

 

 よかった。腐女神が喜ぶ展開はなさそうだ。俺はトラウマじみた過去から美形の男とは距離を取りがちなんだけど、こいつらなら祝福(のろい)のことさえ用心すればいいかな。

 嫁さんたちもいるし、男に狙われるワケにはいかないのである。

 

「丈太郎は?」

 

「眼鏡の似合うメイドさんなんて、この日本にはいないだろう?」

 

「丈太郎の癖にそんな趣味かよ! いや、俺もメイドさんは嫌いではないが」

 

 他のとこは転生したキャラクターに引っ張られていても、女性の趣味までは丈太郎になりきってないみたいだな。

 あ、丈太郎の祖母であるスージーQはメイドさんだった。そこからだろうか? でも眼鏡は趣味だろう。

 詠なんかピッタリかもしれない。会わせたくはないな。

 

「となるとポイント召喚になるか。眼鏡のメイド……やっぱりエマか? Zのエマさんが召喚されたりしてな」

 

「月詠真耶は眼鏡メイドなんだがな。BETAのいない世界ならばだが。この日本じゃメイド喫茶すらあるのかも疑わしい。BETAを殲滅できたらメイド喫茶を広めるのもありかもしれん」

 

「なんか丈太郎じゃなくて金剛番長が混じってないか?」

 

 あれはメイドさん好きじゃなくて甘味好きだぞタケシ。スージーQの孫がスジを通すって、むう。

 丈太郎がいいやつだったら嫁さんではない眼鏡メイドに心当たりがあるが、も少し様子を見ようか。

 

「人命救助してその中に可愛い子がいたら教えてくれ。Muv-Luvだと死んじゃう娘だって美人が多い」

 

「ずいぶん他力本願じゃないか。そんな転生先を選ぶくらいだ。Muv-Luvには詳しいんだろう?」

 

「詳しいからヒロインたちが恋愛原子核な姉貴に持ってかれるのがわかっちまうんだ」

 

 それを聞いて唖然とした白蓮。白蓮はMuv-Luv詳しくないから自分と融合したのがそんな存在なんて知らなかった。そりゃそんな表情(かお)にもなるか。

 

「女同士だけど純夏があの調子だから他もきっとそうなる」

 

「ちょ、ちょっと待て。純夏がなんだって?」

 

 純夏はタケシ以外の転生者たちとはまだ会わせておらず、ここにもいない。だって転生者たちの話を聞かせるのもちょっとねぇ。

 白蓮の様子に鈍感系主人公を感じたのか転生者たちは納得した模様。慌てる白蓮をスルーして話を続ける。

 

「ならばタケシはどうするんだ? ポイント召喚か? 稼ぐためにユニコーンで出るのか?」

 

「戦術機の開発に協力するつもりだ。Muv-Luvのタケルみたいに。BETAを直接倒さなくてもそれに貢献すればポイントが貰えるはずだから、うまくいけばかなり稼げるかもしれない」

 

 戦術機開発ね。たしかにさっき話したように人類に戦力を持たせるにはそれが手っ取り早いか。

 俺はヴェルンド工房の連中と似たような経験があるからそれに協力するのも悪くはないような気がする。基地もできることだし。

 

「このままいけば横浜基地はできないだろうが、倉木の基地ができる予定がある。そこで開発を行おうか」

 

「ありがとう義兄さん」

 

「まあそれは日本を防衛できてからの話になる。タケシもバイク戦艦を出してくれないか? 救助時の搬送先になるだろう。それでポイントが稼げるか試せばいい。BETAを倒すことへの貢献になるかどうか、球神が評価してくれるかどうかを」

 

 ポイント稼げなきゃ仲間召喚だってできはしない。ただで動いてくれなんて言えない。これで仲間が少なかったり、ロボがないやつの方向性を決められる。

 

「恭也、今回はバイク戦艦を護衛してくれないか? 俺も死なない程度に護衛する」

 

「いいだろう。俺もポイントがほしい。艦もお前も護る」

 

「待て、高町恭也。お前、完治していない右膝も再現されてるだろう? クレイジー・ダイヤモンド!」

 

 またも視認できない強力な気配。それがスッと恭也を通り過ぎたように感じた。頷く丈太郎を見てから軽く歩いたり飛び跳ねたりして動きを確認する恭也。

 そういえば高町恭也は右膝を壊していて完治はしていないんだっけ。そんな不利なとこまで球神は再現していたというのか。

 あ、恭也が瞬間移動した? いやこれは人外レベルの高速移動。これってたしか。

 

「神速まで獲得していたのか」

 

「ああ。10個目の特典だ。これがほしいから高町恭也になったが、膝のことは失念していた。おかげで使える回数が増えていそうだ。ありがたい」

 

 神速って思考速度まで速くなって、周りの動きが止まって見えるほどの技だけど負担も大きく、ゲームの恭也は膝の傷のせいで1日に3回だか4回ぐらいしか使えなかった。

 それに気づいた丈太郎。観察力だけじゃなくてとらいあんぐるハート3をプレイ済みか。

 

「きさまあのゲームやり込んでいるなッ!」

 

「答える必要はない」

 

 俺のネタ発言に即座に花京院の台詞で返してくれた丈太郎とピシガシグッグッ。タイミングもバッチリの2人に他の男たちも思わずパチパチと拍手。悟空でさえもだ。

 こいつらってばもう。

 

「今の治療はサービスだ。だがもしも恩に感じているのなら妹の高町美由希をポイント召喚した場合、メイドになってくれるように説得してくれ」

 

「それが目的か? あいつはポイズンクッカーだ。メイドにはむかん」

 

 ゲームではメインヒロインなはずなのに正妻扱いされないあの残念ヒロインか。この丈太郎はメイドよりも眼鏡が重要?

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 あれから数日。日本にいるBETAの数は減っていき、バイク戦艦のチームも救助活動で活躍していた。球神も評価しているらしく、ポイントもちゃんと入っている。

 

「仲間までのポイントは遠いな」

 

「まさか転生者によって必要なポイントが違うとはな。転生時に選んだ作品以外のキャラクターはかなり高くなってしまうみたいだ」

 

「他の連中にも聞いたけどキャラクターだけじゃなくて装備品や補給物資もそんな感じだな。転生者間での物資や人員の融通も視野に入れた方がいいかも」

 

 空井の方もポイントを得ている。俺がBETAを倒した分の他に、蘇生した人間がBETAを倒すと追加でポイント入手できているとシャロンが言っていた。

 転生者たちのことは適当にぼかしながらも一般に公開され始めていて人気も出始めているようだ。なんか秘密部隊とか噂されてるらしい。

 

「ヒーローなんて柄ではないが人助けも悪くない」

 

「治療が間に合わなかった人もこっそり義兄さんが蘇生してくれてるのは助かっているよ」

 

「気づいていたか」

 

 転生者たちの働きによって帝都である京都はいまだ健在。

 間近に迫った8月15日。Muv-Luvシリーズだと京都が陥落するその日こそ、次期将軍の初陣(デビュー)の日と決まった。

 

 呼び出された俺はお偉いさんと面会することとなってしまっている。

 

断音主(フツヌシ)?」

 

「はい。私がお借りする武御雷の名前だそうです。武御雷とは似て非なるモノと調査した者たちは言っています」

 

「なるほど。どっちも剣の神様の名前ね」

 

 次期将軍予定の煌武院悠陽の説明に補足したのは我が嫁さんである由真ことユウヤ・ブリッジス。シャロンが付近のスピーカーを操り、唯ちゃんからなにやら魂を揺さぶられるようなメッセージを受け取って、一気に記憶を取り戻した。

 ビニフォンで連絡を取り現状を認識すると急いで母親であるミラ・ブリッジスに会いに行きエリクサーを投薬、彼女の回復を確認し、父親のことを知ったことと、自分と妹が異世界の人間と融合してしまったことを説明する。

 それから、軍を辞めてでも日本へ行くことを告げるとなぜかミラもついてきてしまった。

 

「見事な戦術機であると外見からでも理解できますわ」

 

「母さん徹夜したの? まだ病み上がりなんだから無茶しないで」

 

「あなたの薬のおかげで以前よりも調子がいいくらいだから大丈夫よ」

 

 ミラは個人的にというか、ブリッジス家の私財から出した救援物資とともに来日。データ収集という口実でテスト中の戦術機すら持ち出していた。

 しかも自身が開発に関わったF-14ベースのだ。日本にいる米軍も使用しているから補給や整備面で都合がいいんだろうけど、これはかなり嬉しい。近くでじっくり見ることができたしスキャンもしちゃった。戦術機の中でも好きな機体なんだよね。

 だってさ、戦闘機(ひこーき)の方のF-14がVF-1バルキリーのベースになっただけあって戦術機(ロボット)の方のF-14にもバルキリーの面影があるんだよ。マクロス大好きの俺の気のせいかもしれんけどさ。メイン武装がミサイルっていうのもそれっぽいよね。

 せっかくだからタケシがやりたいという戦術機の開発、その素材にすることってできないかな。

 

 かなり強引なスケジュールでいろいろ持ち込んだせいでミラは手続きその他で忙しいようだ。まだユウヤの父親である篁祐唯とは会っていないほど。まあ、あっちも忙しいからなんだろうけど。

 というか、その時に俺も一緒に会わなきゃいけないようだ。気が重い。「娘さんを下さい」だけではなく、唯ちゃんの方の母親もきたら修羅場になりそうでね。

 

「ご援助、感謝します」

 

「オルタネイティヴ0との接触を優先した結果ですからお気になさらずに」

 

「素直に父さんを護りたいからって言えばいいのに」

 

「ユウヤ!」

 

 頬を染めて怒るミラとてへぺろして誤魔化す由真。甘えているのかな?

 唯ちゃんとはもう再会していて、2人でなにか企んでいるっぽい。

 

「相棒、俺はデルフリンガーなんだぜ」

 

 ツインアイをチカチカ点滅させながら断音主が喋る。いや、断音主となったデルフリンガーが。

 煌武院悠陽の操縦に多少の不安があった俺は、デルフリンガーを成現(リアライズ)して一時的にノートパソコンになってもらい、USBメモリ――によく似たこっちのデバイス――に接続、データ移動させることで彼はUSBメモリとなったのだ。それを接続することで今は断音主でもあることになっている。

 同じ刀剣ってことで皆琉神威の方がいいかもだけど、あれもまだ返してもらっていない。

 

「その身体が断音主ってことだから納得してくれ。それとも元のボロ剣の方がいいか? 俺はあれ使わないんでベンチを温めることになるんだけど」

 

「あそこは勘弁してくれ」

 

 デルフリンガーはスタッシュを嫌っている。俺はスタッシュ空間に入ったことはないけどそんなひどいとこなのかね?

 俺が使えばいいのかもだけど刀での戦いだと二刀流だし、向いてないんだよね。ザンリュウジンもいるしさ。ということでナイト2000のキッドや龍神丸ポジションとなってもらったワケだ。動かすことはある程度できても、人間が操縦した方がいい動きができるってのも同じかな?

 

「お世話になります、デルフリンガー」

 

「そう呼んでくれんのか、将軍の嬢ちゃん」

 

 まあ、断音主が戦闘することはないし、もし戦闘になったとして俺と唯ちゃん、白蓮が戦うことになるので煌武院悠陽の腕はあまり関係ないのだけど。

 由真はまだ所属をこっちに移している手続き中なので、当日の出撃は予定されていない。ティスちゃんもさすがに見た目が幼いから、次期将軍はこんな小さな子まで出撃させるのか、と言われかねないのでお留守番。

 

「無礼な。もう少し丁寧な口調はできんのか!」

 

 斯衛軍の眼鏡美人が怒鳴っている。丈太郎が気にしていた月詠真耶だ。月ちゃんでも詠でもない。融合している可能性は低いだろう。

 

「あいつに言っても無駄だ。それより当日の打ち合わせだが護衛の俺たちも戦術機の方がいいんだよな?」

 

「そうだ。だが、修理が間に合わないどころか廃棄するしかないような機体でいいのか?」

 

「そっちにだって余裕はないだろう。うちにはいいメカニックがいる。なんとかなるさ」

 

 もう既に破損機体を受け取っていて、丈太郎のスタンドで修理、ブルマとグンマが魔改造中……ミラママが目を光らせたような。

 いざとなったら俺の成現(リアライズ)で間に合わすつもりだったんだけどね。

 

 




3 高町恭也
 〈強奪返し〉、転生:高町恭也、〈御神流〉、〈MS操縦〉、ウィングガンダム、ウィングガンダムゼロ、〈眼魔砲〉、パプワ島、仲間:グンマ、〈神速〉

?が神速になりました


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43話 追加の赤2人

感想、評価、メッセージありがとうございます


「あいつらとチームを組むのか」

 

「バランスはともかく、協力した方がいいだろ? まだ空井のことは秘密にしておくから安心してくれ」

 

「良心ちくちくだ」

 

 空井の工場衛星にポータルで移動して情報交換。まあ、テレパシーで会話が可能になっているのでほとんど話すことはないけどさ。回収したグレートゼオライマーを渡したかったのと、由真のことでシャロンに直接礼を言いたかったのもあるのでね。

 グレートゼオライマーは次元連結システムである美久が合体して光球付きになれば修理はなんとかなりそう。問題は木原マサキの人格をインストールするシステム。これは除去しなければいけない。アイシャとシャロンがなんとかするっていうので仕上がったら俺がチェックすることになっていたりする。一応〈独占〉スキルを自分の人格にチェックしておけば大丈夫ではありそうだけど。

 

「空井が表に出たくなったらすぐに代わるから、そう気に病むこともないだろ」

 

「それはまだちょっと」

 

「はいはい。シャロン、球神様はなんて?」

 

 転生者たちに力を与えてこの世界に転生させた張本人である球神に、俺達のことを聞いてくれるよう連絡役っぽいシャロンに頼んでおいた。どうせ俺達、異世界の別の神の使徒とそのファミリアのことはバレているんだろうから隠す必要もない。「事故で侵入してしまっただけで敵対するつもりはなく、俺達が邪魔なら嫁さんたちと合流次第すぐに去る」とのメッセージをお願いした。あと、融合しちゃった人物は俺達のせいじゃないことも。

 

「そのままカライに協力するがよい、だそうよ。働きがよければ自分の使徒にしてやろう、とも言ってるわ」

 

「うわあ」

 

 あまりにも上からな自分本位の回答。そりゃ神様なんだから当然かもしれないけど、他の社交的で人の気持ちがわかる神様を知ってるだけに余計に傲慢に感じてしまう。霧さんじゃないけど廊下で愚痴りたい。「これじゃ、俺……地球を守りたくなくなっちまうよ……」って。

 

「ごめんなさい。あの方には悪気はないの」

 

「余計に悪いような」

 

「天井に神の力を強く感じてしまったから、下手に出るのはまずいって精一杯に虚勢を張ってるの」

 

「神の力……?」

 

 神の力って使徒だからもし感じられたとしてもそんなに強くはないんじゃ? ……あ。

 あれか。俺に憑いているっていうエロースを感じちゃったのか!

 ……エロスを感じるとかやな字面だな。

 他の神がやってきちゃったから、なめられないよう無理して横柄な態度を見せてる、と。

 

「あの方は天井にどうしても手伝ってもらいたいけど主神という立場上、頭を下げるのはできないからこんなお言葉になったのね」

 

「別に頭なんて下げてくれなくてもいいんだけど」

 

 神の立場ってのも大変だなあ。

 だからといって球神の使徒になるつもりはない。駄神だけどまだ剣士の方がマシに思える。イラッとさせられることもあるけどあいつなりに気は使っているから。あいつのおかげで俺はやっと結婚できたといえなくもないしさ。

 

「私からもお願いするわ。カライを助けてあげて」

 

「由真のことで世話になったし、他の嫁さんたちを探すのにも協力してもらってるからシャロンの頼みなら断れないんだよなぁ。クリーム・パフも好きだし」

 

「ふふ。ありがとう天井」

 

 ヴァーチャルシンガー、シャロン・アップル。マクロスプラスではラスボス的存在だったけどマクロス30ではイイ(・・)キャラになっていた。歌も好きだ。

 マクロスプラスは話はともかくとしてマクロスな重要な要素である歌と戦闘シーンが素晴らしい。ヒロインが俺的には可愛くなかったり、主人公とは話が合いそうにないけど些細な問題だ。

 

「だけど協力だけだ。球神の下につくワケにはいかない。こっちにもいろいろある」

 

「それでかまわない。カライがいるもの」

 

 そこで「俺?」みたいな顔するなよ。俺のスキルレベル下がるほどに能力を持っていったんだからお前だってなんとかできる。女の子たちだってついてるんだから。

 まあ、BETAを殲滅した後の方が面倒くさそうではあるけどさ。国家間の揉め事は荷が重い。あっち(・・・)でもちょっとあったからよくわかる。表に顔を出したくないというは正しいかも。

 

「うん。空井なら大丈夫だな。シャロンには引き続き俺の嫁さんの捜索をお願いしたい。嫁さん全員見つかってもすぐにはいなくならないから。で、アンドロメダはどうなった?」

 

「これでいいのか? 見た目じゃ全然わからないんだけど」

 

 おずおずとアンドロメダのプラモを渡してくれる空井。だいたいのスキルを俺と折半した形になってるけど成現(リアライズ)スキルは持ってないから渡してあるビニフォンでもEPの貯まり具合が確認できないのか。

 俺のスキルで軽く見たところEPは充分に貯まっていた。ビニフォンで完成予想図を立体表示させてみんなで眺める。

 

「うんうん、想いは籠もってるぞ。ネオ・ディーヴァの司令室みたいなブリッジにしたか。これならアクエリオンのテレポートチェンジもできるな。アンドロメダ改にはしなかったか」

 

「普通のがベストだろう。改良ならシャロンやアイシャが自分たちでできるって言うし」

 

「なるほど」

 

 この工場衛星の機能を使えばそれができるのか。いいなぁ。ドワーフたちが羨ましがりそうだ。

 ビニフォンでも確認し、他の改変や要求MPもチェック。アクエリオンやバルキリー等にも対応した格納庫に高度なコンピュータもか。これはシャロンのためだろう。グレートゼオライマーは分割収納になるのかな。

 

「あ、ワープはフォールド式にしたのか」

 

「知ってる技術の方が無難」

 

 ヤマトのワープは失敗すると宇宙が消滅するって話が初期にはあったよな? それを考えるとフォールド航法の方がいいのは確か。ワープが危険だって設定を知らなければなんとかなったけど俺が知っている以上、反映されちゃったらマズイもんなあ。

 アンドロメダは安全かつ高性能な艦になりそうだな。その分要求されている値も大きい。

 

「さすがに必要MPが大きい。アクエリオンを借りて、長期の成現(リアライズ)ができるか試したい」

 

「それなんだが……ミコノちゃんが俺以外の男と合体するのは嫌って」

 

「ごめんなさい」

 

 頭を下げられてしまった。好感度の高い空井はともかく、別の男は嫌か。

 うん、そういうのイイネ。誰とでも合体OKよりだんぜんイイ。

 ミコノちゃんとの合体は惜しいけど俺はゼシカ派だから問題はない。いや、ゼシカも空井のなんだけどさ。

 

「そっか、仕方ない。気にしないでいいよ。空井の練習のためにって思ってたけど今回は俺達だけでやらせてもらう。空井の初めてはミコノちゃんがサポートしてやってくれ」

 

「は、はい!」

 

 さっきまでの申し訳なさそうな表情が一変して嬉しそうになったミコノちゃん。一方、ゼシカやMIXたちがソワソワ。自分も空井と合体したいんだろう。その辺の調整は空井がやってくれ。

 

「それで、アクエリオン借りていいのか?」

 

「あ、ああ。M型の方を使ってくれ」

 

「ありがとう。さて、誰と乗ろうか?」

 

 うちの子は全員が〈操縦〉スキル持ってるからなんとかなるだろう。成現(リアライズ)のために1人は俺が決定として、あと2人。合体しやすいように姉妹である唯ちゃんと由真かな?

 そう告げようとしたところ、予想外の人物が手を挙げた。

 

「あたいがやるぜ。あんたの力、もっとしっかり見ておかないとね」

 

「ふん、妾が合体してやろう」

 

 いや、君たち仲がよくないじゃん。合体できんの?

 ……アクエリオンでも不仲メンバーの合体はあったか。

 でもなあ、嫁さん以外との合体ってのはちょっと問題があるよね、アクエリオンだとさ。

 

「うん、お兄ちゃんと合体してお嫁さん追加だね」

 

「煌一と合体なんてしたら離れられなくなるもんなあ」

 

「え? まだ結婚してなかったの?」

 

 なにその感想。って由真はアルもティスちゃんも俺の嫁さんになってるって思ってたの?

 俺、浮気なんかしませんから!

 ……ルイズの時のは不可抗力の事故ってことで許してください。

 

 

 ◇

 

 

 アクエリオンを構成するのは3機のベクターマシン。カタパルトにセットされたそれの操縦席に移動する俺達。

 結局、アルもティスちゃんもそのままで2人と合体することになってしまった。アクエリオンの合体は「気持ちいい」らしいのにいいのだろうか?

 

「こちら煌一。操縦はわかる?」

 

『ずいぶん簡単だな』

 

『よゆーよゆー』

 

 頼もしすぎる幼女2人に「ハジをかくなよ」なんてネタ台詞は使えないか、残念。

 俺の方も〈操縦〉スキルにガンダールヴのルーンがあるので動かすのに問題はない。まあ、アニメの方でも素人がいきなり乗って動かしたり、敵が乗って動かしてしまうのがアクエリオンなので操縦は感覚でわかるレベルだ。

 

「空井、発進していいか?」

 

『あ、ああ。やってくれ』

 

 工場衛星からの発進はベクターマシン3機とも問題なく、なにかあった時のために多少離れた宙域で合体を行う。そばにはゼルエルが控えているがこれはもしもの時の救助要員。

 スパロボだったら敵が出現して襲われるシチュエーションだね。

 

「そろそろ行くぞ。2人とも、いいか?」

 

『うむ』

 

『さっさとやっちゃえ』

 

 俺の成現(リアライズ)を強化したいので、当然ヘッドも俺。なので……ええと、合体時のかけ声どうするかな? 適当でいいか。

 

試験(おためし)合体! GO! アクエリオン!」

 

 3機のベクターマシンによる合体により、アクエリオンEVOLが完成する。合体自体はあっさりと無事に済んでしまった。

 だが。

 

『こ、こんなの……』

 

『思った以上に……』

 

「気持ちいい」

 

 やべえ。快感がシャレにならない。中毒になるのがマジでわかる。こりゃ癖になるよ、うん。データもスキャンしたし、みんなと合流したら俺達用のがほしくなるね。

 合流できた嫁さんたちとシテいてスッキリしている俺はともかく、2人は真っ赤な顔で息も荒い。早いとこ合体を解除しないとマズイかも。

 スタッシュに収納していたアンドロメダのプラモを取り出して、意識するとプラモがコクピットからアクエリオンの手の上に移動する。こんなこともできるのね。

 

「始めるぞ」

 

 俺の合図に合わせたのか、俺の左右にアルとティスちゃんが現れた。立体映像? それとも本物? どっちかはわからないが、2人は操縦桿を握る俺の手に両手を重ねる。ちゃんと感触あるなあ。吐息すら感じられる。

 そんな上気した顔で密着されるとドキドキしてしまうのですが!

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううう」

 

 雑念を振り払うために深呼吸。意識をプラモに集中。操縦桿越しにプラモの感触すら感じるのは、アクエリオンの性能か、それともガンダールヴのルーンのおかげか。

 

成現(リアライズ)!」

 

 シャロンが用意したのか操縦席のディスプレイには成現の文字まで表示される。うわ、必殺技っぽい!

 なのに相変わらずに光も音もなく、目前に大きな宇宙戦艦が出現した。地味すぎる! って宇宙空間だから音があっても伝わらないか。

 驚いたのか、左右の2人は消えていた。ビニフォンでチェックするとさっき確認した時の要求MPより消費されたMPは少ないのに、成現(リアライズ)されている時間は長い。

 やはりアクエリオンによって俺の成現(リアライズ)が強化できるみたいだ。便利ではあるけど、3人必要だし……って、俺以外の2人のMPが減って……ないみたいか。やはりこれはいいな。このスキル強化機能だけ他の機体に移植できないものだろうか。

 

「よかった。成功したようだ」

 

『そうみたいね。こっちでもチェックしているけど、まさか本当に本物になるなんて』

 

 シャロンからの通信にほっとして合体を解除する。途端にやってくる喪失感。『あ』と『え……』と2人も同じような感想を持ったであろう声が通信機ごしに聞こえた。

 合体中毒にならなきゃいいけど。

 

 アンドロメダはさっき確認したとおりの外見。って勝手に動き出した? ああ、シャロンがもうジャックしちゃったのね。そんな風に設定されてたもんな。シャロンがトチロー化した感じなのかも。

 ワープや波動砲、主砲のテストもせずに工場衛星に格納されてしまう宇宙戦艦。俺達も合体の余韻を味わいながら戻った。

 

「アクエリオンやばい。合体やばい」

 

「あ、あれで正常な合体なのか?」

 

 ティスちゃんとアルはまだ顔が赤いまま。よほどの衝撃だったようだ。

 俺は大丈夫だろうか。表情に出ないように意識しながら口を開く。

 

「アクエリオンによる俺の能力の強化は確認できた。アンドロメダはどうだ? たぶん成功しているはずなんだが」

 

「問題ないわ。いい具合よ。テレポートチェンジ用のシートもあるわ」

 

 シャロンがモニターにアンドロメダ各部の画像を表示させる。うん、ブリッジはネオ・ディーバのあれと同じような見た目だ。

 これも後でテストするんだろうな。

 アイシャも工場衛星の機器を操作してチェックしている。

 

「マジで本物になるんだ……」

 

「なんだ、信じてなかったのか?」

 

「だってプラモがあんなに巨大なものになるなんて……」

 

 空井の台詞に少女たちがうんうんって肯いている。そりゃそうか。成現(リアライズ)はかなりレアな固有スキルらしいもんなあ。

 俺としては死者蘇生もスゴいと思うのだけどね。GPの消費も無しにそんなことができるなんてのはどんなチートだってさ。

 強力すぎるレアスキルだからこそ接触時にも、成現(リアライズ)と死者蘇生は互いに渡らなかったのかもしれない。

 

「ふむ。空井の死者蘇生にも意訳のカタカナ読みがほしいな」

 

「なんだいきなり。そんな厨二っぽいのなんて」

 

「リバイバルだと捻りがなさ過ぎか?」

 

 GPはかからないけど、なにかと引き換えだからそこら辺を考慮したネーミングにしたいところである。

 タックスリバイバル? 税金とはちょっと違うな。

 ロスト&リバイバル? これはちょっといいかもしれんな、うん。長いけど。

 

 悩む俺の横では嫁さんたちがアルとティスちゃんに感想を聞いていた。

 

「そんなによかったんだ?」

 

「ミコノのエレメントが繋ぐ力だっけ? 煌一の双頭竜もある意味、似たような能力かもしれない」

 

「それはあるかも」

 

 あれ? なんで俺の〈双頭竜〉スキルがそんな扱いになっちゃってるのさ。繋ぐのは2人の女の子って、俺は双頭バ○ブじゃない! ……まさかアレの影響でアルとティスちゃんは合体時の快感が俺以上に感じていたとでもいいたんじゃないだろうな?

 いや、俺も気持ちよかったけどさ!

 

「フォールドが完全に稼働するようなら地球にもいけるだろ。いざとなったら使ってくれ」

 

「それなんだけど、ワープゲートみたいなのを地球に繋げる装置ってできない? それがあれば母艦なしでも地球で活動できるわ」

 

 クレアの提案。アクエリオンEVOLだと世界間を繋げるGATEってあったなそういえば。ゼロ魔のワールドゲートじゃあっちと繋がるだろうから適切な素材を考えなければ。

 

 

 ◇

 

 

 ポータルでこっちに戻ってくると、唯ちゃんが融合してしまった篁唯依の同級生で親友の山城上総に異変が現れたと相談を受ける。戦術機の操縦ができなくなったというのだ。BETAとの戦闘によるPTSDってやつだろうか? でもこの前の戦闘はそんな命の危険なんてそうはなかったはずだが。別の意味でトラウマになりそうなショックはあったけどさ。

 とにかく会えばわかると唯ちゃんにすすめられて会ってみると、明らかに変わっていた。見た目からして明らかに違う。

 長い黒髪は同じだがぱっつんではなくなっているしツインテールが似合いそう、というかツインテールにしないでもわかる。

 遠坂凛だこれ!

 

 融合がおきちゃったか。みんな同じタイミングじゃなくてズレもあるのかよ。

 でも俺や唯ちゃんたちみたいに名前じゃないな。ああ! 18号由利子さんみたいに中の人か!?

 操縦ができなくなったのも遠坂凛が機械オンチだからだろう。戦術機なんて最新機器の塊だもんなぁ。〈操縦〉スキルのマイナスがプラスを上回っちゃったか。うっかりスキルも発現しなければいいが。

 

「ということなんだがアーチャー、どうする? 彼女のサーヴァントになるか?」

 

『いや、今のままでいい。本物に会ったら俺が偽物であるってさらに思い知らされそうだからな。俺は他の転生者たちのようにそのキャラクターになったわけではない。今まで過ごしてきてアーチャーになれなかったのは自覚しているつもりだが、それでも本物の関係者に会うのはツラい』

 

「そんなもんかね?」

 

 タブレット端末で連絡を取ったアーチャーには断られてしまった。俺はてっきり遠坂凛の出現に大喜びするもんだと思ったんだけどな。アーチャーが好きでアーチャーになりたかったんだけど、好きすぎて自分じゃアーチャーじゃないって思っちゃったってとこ?

 既に衣装もアーチャーのではなく支給されたカーキ色の軍服。まあこれは作戦行動中に誤解されないためでもあるのだけどさ。

 

 むう。アーチャーに会わせれば遠坂凛の記憶も戻る可能性が高いのにこれでは無理そうだな。

 どうすんべ? そもそもどの遠坂凛かもわからないんだよなぁ。メカが苦手なのでEXTRAのじゃないはず。人物の融合がおこってるのは軍にも伝わっているから山城ちゃんの異変も説明はしたが、逆になんとかしろって押しつけられちゃったんだよ。どうしろっていうのさ。

 

「山城さんもファミリアにしちゃえばポイント突っ込んで強引に操縦スキルをプラスに持ってけるよね?」

 

「唯ちゃんはそれでいいの? 親友だって記憶もあるんだよね?」

 

「だからこそだよ。戦えなくなってツラい気持ちがよくわかるんだよ」

 

 球神の方だけじゃなくてこっちの方のGPもなぜか増えてきているからそれは可能。なんだけど、いいのかなあ?

 機械オンチではあるけれど、がんばれば操縦できるようになると思うのだが。

 

「お願いします」

 

 山城凛ちゃんにも頭を下げられてしまった。え? もうファミリアとかそういうこと説明しちゃったの?

 詳しい話を聞くと次期将軍のデビュー戦に唯ちゃんたちの小隊も参加することになっているらしい。前回紫の武御雷を目撃した学徒兵の奮戦が原因っぽくてどっかの新聞の記事になっている。……戦意向上のためのネタにされか。

 その晴れ舞台をどうしても逃すことができないというのだ。

 

「将軍の前で戦える数少ない機会、逃したくはないんです」

 

 外様の山城家にとっても将軍ってのは大きな存在なのね。

 だからといって俺のファミリアになるというのは遠坂家のうっかりな可能性が高そうなんだけど。

 

「お兄ちゃんお願い、このままじゃろくに操縦も出来ないまま戦場に出ちゃうよ」

 

 参戦しないという選択肢はないか。俺が使徒だとか、そのファミリアとかの情報はできるだけ外部には知られたくないんだけどなあ。空井以外の転生者たちにもまだなんとなく秘密にしておきたい。

 でもほっといてそのまま死なれるのはもっとマズイか。唯ちゃんにも嫌われるかもしれないし。

 

「はぁ……。わかったよ。でも俺のファミリアになったことは絶対に秘密にしてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 結局、山城凛ちゃんをファミリアにしてしまった。ルイズが知ったらなんて言うだろうか?

 すぐにステータスを確認、やはり〈機械オンチ〉というマイナススキルがついていたのでそれをGP消費で解消させる。うわ、意外とポイントくうなあ。

 

「これでどう? 少しは機械に対する苦手意識なくなった?」

 

「え? あ、はい。大丈夫? みたいです」

 

 渡したビニフォンを操作しながら驚いた表情の山城凛ちゃん。まさかこんなに早く問題解決するとは思ってなかったのかな。チョーカーも渡しておいて。そうだ、量産型チョーカーは唯ちゃんの同級生にも渡しておいた方がいいかもしれないか。唯ちゃん見たかぎり、エロパイスーにも干渉しないみたいだし。

 

「で、動かせるようになったの他の人にどう説明しよっか?」

 

「うーん、強力な暗示をかけてもらった、とか?」

 

「暗示かー。機械への苦手意識を克服……もしかしてヘヴンズ・ドアーでもなんとかなったんじゃ?」

 

 唯ちゃんの案を聞いて、ふと転生者たちの能力ならどうにかできたんじゃないかと気づく。うっかりは俺の方だったよ……。

 

 

 ◇

 

 

「煌一さんのファミリアになったことは後悔してませんから」

 

「うん。ボクも嬉しいし」

 

 唯ちゃんと山城凛ちゃんの励ましでなんとか気を持ち直した俺。完成したリサイクル改戦術機のとこへ行く。

 

「頭部にV字のアンテナをつけたぐらいで見た目は瑞鶴とたいして変わりはないのね」

 

「まあ、あまり目立ってもいけませんし。型式番号はF-4J改二とでもしてください。名前は翔鶴……は迷いましたけど被害担当っぽいので瑞鳳ってことにしました」

 

「緑色なのは斯衛軍に気を使ったのか?」

 

 瑞鳳だからです。まあ、瑞鳳改というよりはゼロ戦っぽい緑色なワケだけども。

 廃棄機体リサイクルで仕上がった戦術機を登録してもらおうとしたらなぜか斯衛軍のお偉いさんが待ち構えていて。

 1人は以前にもあった崇宰恭子。1人は斑鳩崇継。五摂家のお偉いさんが一度に2人も!

 どうやら斑鳩崇継は自分が開発に関わっている武御雷の偽物を使っていた俺と、用意する戦術機に興味があった模様。

 忙しいはずだが転生者たちの活躍のおかげで少しだが時間はとれるとのこと。

 

 リサイクル戦術機瑞鳳。外形はグンマがイロモノにカスタマイズしたがったが、「時間がないから」と言い聞かせて8割ぐらい瑞鶴。瑞鶴マスクにガンダムっぽいへの字モールドがあるからってV字アンテナなんかつけてくれちゃったのは見逃したよ。

 

 中身はもう完全に別物。コクピットまわりはバイク戦艦にあった予備部品を流用してリニアシートと全天周囲モニターにされちゃった。乗り心地はアップしているけど、脱出に関しては強化外骨格になる92式戦術機管制ユニットの方がいいかもね。

 動力、関節、CPU、他いろいろと謎技術で強化され、出力、速度ともにアップしているのに動きはなめらか。装甲表面にも対光線の特殊コーティングがされていたりして、もはや戦術機の皮をかぶったなにかである。

 ついでにせっかくなのでハルケギニアの俺経由で覚えたての固定化の魔法もかましてみたよ。

 現在は白蓮タケルがデモンストレーションで軽く演舞中。

 

断音主(フツヌシ)にも使われているXM3というOS。これが広まれば衛士の生存率は高まる」

 

「そうでしょうね。慣れたらタケルみたいな変態機動も可能です。ライセンス料他については倉木の方と相談してください」

 

「うむ。サポートも期待している」

 

 う、俺が取っていたデータを元にシャロンにXM3を用意してもらったけど、バグフィックスやアップデートもしなきゃいけないか。転生者キラに頼むのが無難かなぁ。まだそんなに話をしてないんでどんなやつかは掴めてないのだけどさ。

 

 作戦にはこの2人も試作機の武御雷で出るらしい。ますます瑞鳳の出番が減るような気もするが、守る対象が増えてしまったといえなくもない。

 軽く瑞鳳や断音主の質問に答えたら2人はすぐに行ってしまった。作戦は明日だから時間がないのはわかる。逆によくこれたな。

 

「あんなお偉いさんと普通に話せるなんてさすが義兄さんだ」

 

 一緒にはいたがずっと黙っているどころか微動だにしなかったタケシがやっと喋った。さっきまで呼吸すら止めてるんじゃないかと心配してたが、緊張してただけか。

 

「いや緊張してたよ。ただまあ、嫁さんの実家に挨拶行く時の方が緊張した」

 

『うちの両親の時はそうじゃなかったように見えたぞ。あと誰が変態機動だ』

 

 通信機からの白蓮の声。台詞ほど怒ってないような声色だ。

 白蓮こと白銀(たける)の両親には既に挨拶をすませている。軍人さんだった父親は忙しい時期だが、こんな時期だからこそ早めにすませておきたいということで短い時間での面会。

 時間がないせいか、「タケルのことをよろしく頼む」と先に頭を下げられてしまい、俺も焦ったよ。早くBETAを地球上から一掃して嫁さんの親たちには旅行でもプレゼントしたいところだね。

 

「白く塗れなくてごめんな。調子はどうだ?」

 

『悪くはない。キャンセルやコンボも面白い』

 

「さすがタケルちゃんか。あ、タケシのにはコクピットまわりのサイコフレームだけじゃなくてビームトンファーもあるけど、ビーム兵器はいざという時まで使わないでくれ」

 

 ユニコーン譲りの腕のビームサーベル。さすがにこれが使える戦術機は目立ちすぎるだろう。

 

「うん。なんかニュータイプ能力のおかげでなんとかなる気がしてるから大丈夫」

 

『油断するな』

 

 白蓮、タケシ、アーチャー、恭也は既に戦術機モドキでの初陣を済ませている。

 戦術機の操縦は丈太郎のヘブンズ・ドアーでマスターすることはできたが、あくまで基礎知識だけで実際の戦闘経験は別だったらしい。最初はぎこちなかったが、転生者たちの能力と機体性能もあって死の8分間はあっさりと生き延びられた。事前に渡しておいたオムツが役に立ったとタケシは半泣きだったけどね。

 

 明日の作戦では俺を含めたこの5人が瑞鳳で出撃。悟空と丈太郎は救護班担当の予定だ。

 バイク戦艦は目立つので今回は出撃せず。将軍にはあの艦で指揮を執らせたいところだがタケシのだからねえ。量産したいとこだけど、艦なんてすぐにできるもんじゃないし、地球脱出して宇宙移民するってオルタネイティヴ5が勢いづきそうなので却下である。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 作戦当日。次期将軍が前線に立つといっても、デモンストレーションで戦場のはるか後方でちょっと戦術機に乗って撮影するだけかと思ってたら、まさかまさかの最前線。ガッツリとBETAの特盛りがきましたよ。

 

『に、義兄さん、予定よりも多いんじゃ?』

 

「だな。あちらさんも転生者メカのいないとこに戦力を集中させることにしたのかもな」

 

 独自の戦力を持つ他の転生者たちにもこの作戦の目的は説明してあるので、付近には布陣していない。

 これはまずったかな? と一瞬不安になったが、煌武院悠陽が戦闘開始を指示してしまう。……マスコミも呼んでるので撤退は無理か。

 

「予定変更だ。アーチャー、恭也、光線(レーザー)級の始末、できるか?」

 

『問題ない』

 

『任務了解』

 

 2人の瑞鳳は狙撃戦仕様。将軍機である紫の武御雷(ってことになっている断音主)の側に控える俺達と違い、左右に離れた場所にまるで旗を立てるように配置されたバカデカい大型榴弾砲と共にいる。

 この巨大榴弾砲もブルマ、グンマの手がかかっており、偵察用ドローンとのデータリンクもあって2人の腕なら100㎞離れた目標にも命中させることができるって豪語してたっけ。

 偵察用ドローンは小型の物を用意した。攻撃力を持たない民生品レベルの低性能だけどこっちじゃ1998年だしまだないのかな? とにかく光線(レーザー)級の囮にでもなれば儲けものみたいな感じで受け取られていたけど、あまりにも小さいのと低性能から驚異と取られていないのか攻撃はされていない。ダミーの風船も複数飛ばしたけど同じくだ。BETAも様子見なのかもしれん。

 

 ドローンの操作は転生者シャーリーから送られてきたカレンと女性スタッフによるもの。空井が仲間を〈死者復活〉させたそのお礼だ。まだ迎えに行ってなかったんだけど、向こうの方から来てしまった。

 正直このタイミングで面倒なと思ったし、シャーリーの思惑もわからないので今回はタケシの母艦からドローンの操縦だけを任せている。一応念のために好感度を〈独占〉スキルでチェックしておいた。シャーリーへの好感度が高いためにこっちに不利なことをしないようにって。正直やりたくはなかったがこのチェックは後で解除もできるし問題はあるまい。

 

 指揮所とも連絡を取っている間に2機の瑞鳳は榴弾砲の発射準備を進めて攻撃開始。響き渡る轟音と共に高仰角で発射される砲弾。

 

『うっわ、命中してる。あの距離でよく当てられるなぁ』

 

「お前だってニュータイプなんだから出来るんじゃないか?」

 

『無理無理。みんなが巨大榴弾砲に驚いてるのをなんとなく感じ取れるぐらいだよ』

 

 それもすごいと思うけどな。天才2人の作ではあるが実戦での運用は初めてになる巨大榴弾砲。連射性能は大型砲にしては高いがその分砲身寿命も短く、そもそも用意できた弾数は少ない。対レーザー加工すらしているのでコストがバカ高いもん。

 戦術機での運用を一応考えられて分割できる組立式になってるにはなっているけどそれでも重くて瑞鳳以外の既存の戦術機じゃ持って飛行するとかなりのデッドウェイトになってしまう。設営時に巨大な榴弾砲を分割して運んで組み立てる俺達の瑞鳳は変に目立っていたよ。

 

 いくつかの砲弾がレーザーの集中砲火を受けて迎撃されたけど、それでもだいたいの砲弾はBETAに到達。前衛が衝突する前にかなりの数の光線(レーザー)級が駆逐された。

 うん。ドローン経由での〈感知〉と〈探知〉にも他に潜んでいる反応がないし大丈夫なはずだ。

 ……それでもBETAの数が多い。この数、まさか母艦級が控えているんじゃないだろうなと思えるほど。まだ出てこないはずだけど。

 おおっ、突撃した武御雷が残った光線級を仕留めていくね。このドローン映像は指揮所やマスコミにも流れているんで喜んでいるだろう。味方に当たるとまずいので2人の判断で砲撃は中止されている。

 

「唯たちもそろそろ接敵のようだぞ」

 

「なんで彼女たちの瑞鳳が間に合わなかったんだ……」

 

「まだ言っておるのか。まったく」

 

 複座型となっている我が瑞鳳の後部座席のアルがこっちにまで聞こえるおっきなため息。だって心配なのはしょうがないだろ。もっと早くに彼女たちの参戦を知ってればなあ。やはり巨大砲は俺が成現(リアライズ)して瑞鳳の増産を頼めばよかったか。でもなんか外見がネオアームストロングサイクロン(以下略)になりそうだったんで2人に任せたんだった。

 

「白蓮、頼むぞ」

 

 あまりにも俺が心配するもんだから由衣ちゃんたちの小隊には白蓮の瑞鳳も混じっている。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせるしかない。

 さすがに次期将軍様の護衛を離れるわけには行かないので突っ込めないのがもどかしいな。

 

 

 ◇

 

 

 多数飛ばしているドローンから撃破されてしまった戦術機の映像も映されてしまうが、唯ちゃんたちは今のとこ無事のようだ。山城もちゃんと戦術機を操縦できている。それどころかいい動きだ。XM3機に乗せたら八極拳でも使うのだろうか?

 

「おしてはいるが被害も出ているな。デモンベインが使えれば……」

 

「この戦場だけで圧勝しても駄目だってことはわかっていてもツラいな。空井の死者復活でなんとかなってほしいが」

 

 不満そうな声のアル。俺もこういうのは未だに慣れない。ニュータイプ能力を持つタケシはなんかブツブツ言ってるのが聞こえているけど大丈夫かね?

 BETAの数は減ってはいるが予定以上に多かったせいもあってこの本陣近くでも戦闘が起こり始めている。もういいショットは撮れただろうから、次期将軍は撤退させるべきだと思うのだけど。この距離なら8分間生き残ったと言ってもいいだろう。そう、むこうの指揮所に一応進言したら当の本人から直接通信が届いてしまった。後で聞いたんだがデルフリンガーが強引に繋いだらしい。気を利かせたってやつが言ってた。

 

『指揮に影響します』

 

「危ない橋を無理して渡る場面じゃないと思うのだけどなあ」

 

『いざという時はお守りください』

 

 その返しは予想してなかった。撤退してくれたら唯ちゃんたちの応援に行けたんだけどなあ。

 

「そんなことを言われたら嫌とは言いづらいじゃないか」

 

『頼りにしています』

 

「……仕方ない。美少女に頼られたのを無下に扱っちゃ、嫁に嫌われる」

 

 華琳なら絶対に怒るだろう。ああ、早く会いたい。

 っと、ドローン越しの〈感知〉に反応。空井との接触で下がっちゃったスキルレベルが上がったかな?

 

「BETAの追加が来る! 用心してくれ!」

 

 信じてくれた煌武院悠陽の指示で指定したポイントから部隊が退避。少し遅れて地中からBETAが出現した。

 

「マズイな。唯ちゃんたちに近い。それに少ないけど光線(レーザー)級もいる」

 

『任せろ!』

 

 白蓮からの返事。その後は圧巻だった。レーザーを空中で回避しながら新たに出現したBETAに肉薄、由真経由で入手していたミサイルでインターバル中の光線(レーザー)級を屠っていったのだ。遅れて唯ちゃんたちが到着する頃には光線(レーザー)級は駆逐されていた。

 

「まだミサイル使ってなかったのか」

 

『もったいなくてさ』

 

「まだBETAは多い。気をつけてくれよ」

 

『わかってるって』

 

 あのミサイルはF-14が肩につけるやつ。瑞鳳にも装備できるようにハードポイントとソフトの調整をミラが協力してくれたんだ。あんな近距離で使うもんじゃないんだけどなあ。やっつけの装備だから頼りになるか微妙って説明されたから命中率を高めるために距離を近づけたんだろうか。あまり無茶はしないでほしい。

 

 その後はBETAの追加はなかった。母艦(キャリアー)級や要塞(フォート)級もこない。ドローン越しだと地下奥深くまでの〈探知〉はまだできないけど、たぶんいないみたいだ。追加(おかわり)を送ったら撤退したのか?

 

 戦闘はその日のうちに終了。現れたBETAを駆逐して勝利。もちろん唯ちゃん白蓮たちは無事だ。由真もいざとなったらいつでも出撃できるように戦術機でスタンバっていたが出番がなかった。

 念のために〈探知〉を使い、範囲内にBETAの生き残りがいたらアーチャーに通信してライフルで狙撃してもらって確実に仕留めておく。トラウマシーンは勘弁だからね。

 

 救護班の悟空と丈太郎のおかげで救助された者もいて、軍の予想よりも死者は少なかった。その死者も夜中には空井のスキルで少しは復活するはずだ。

 スキルレベルの上昇で死んでから復活できるタイムリミットが延びたのと、転生者関連が優先なんで復活させるのは夜中になっている。リモート会議で転生者本人が死んだ場合はすぐに復活させることに決まったが、今んとこ初日以外に死んだ転生者はいない。

 

 将軍機は戦うことはなかったが、退くこともなかった。最後に全軍にお言葉を放送してからやっと撤収だ。ちゃんと最後まで護衛したよ。

 

 




ドローンも撃墜されそうだよなぁ


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44話 ファイヤーさんと烈火さん

感想、評価、メッセージありがとうございます


 地球に行った()は嫁さんたちと合流し、別世界の自分の同一存在っぽいやつと遭遇した。

 球神ねえ。この世界の主神らしいけど本当なんだろうか?

 嫁さんたちはマブラヴ世界のキャラと融合しちゃってて、あっちの世界の合成と同じような状況になっている。つまり処女になってしまっていたのを確認。いいなぁ、あっちの俺。

 

 まあその分ってワケじゃないだろうが、あっちはやはりハードで死者がガンガン出ている。朝会話した相手が夕方には死んでいた、なんてのもわりとあってEPが削れているみたい。空井が〈死者蘇生〉のスキル持っていて本当によかったよ。じゃなきゃ精神的にまいっていたかもしれん。

 

 さらに俺の方も顔のない月の主人公と融合してしまっていた。それだけじゃなくて、顔のない月の登場人物の中にも融合しているやつがいた。18号とランバ・ラル2人っていったいどうなっているんだか。……18号はママキャラである由利子さんと融合してたけど処女になってるのか。しかもファミリアにしちゃったし。つい、「さん」付けで呼んでしまうが娘のゆり子と紛らわしいからしかたあるまい。

 

 この感じだとたぶん、名前だけじゃなくて中の人でも融合するっていうのもあるみたいだ。まだ見つかっていない嫁さんたちも融合しちゃっているのかな?

 嫁さんと融合した以外のマブラヴキャラにも異変が起きていて、遠坂凛まで出てきている。他にもまだいるんだろうか。会ってないけどグレンダイザーとライディーンがいるんじゃないだろうな? いや、融合してなくてもそのものなんだっけ?

 

 俺の方はルイズとその家族にゼロ魔の情報を与えて、ルイズが虚無であることを知らせた。ルイズも家族もショックを受けていたが、ルイズが魔法を使えるようになったことだしそのことは極秘扱いにすることになっている。

 残る問題はいくつかあるが、一番は風石。

 

 地の底深くにある風石の鉱脈が暴走したら大陸が崩壊レベルの大災害になるっぽい。

 アニメだと違うみたいだけど、こっちはどうなのかまだ確認できていないんだよ。

 もし鉱脈があるとすれば量が尋常じゃないはずだが、掘って回収するのが確実かな?

 ってなワケで。

 

「一括破壊ツルハシ~」

 

「なによその変な言い方。それに妙にカクカクしたツルハシね?」

 

 俺が掲げたツルハシにそんな素直な感想をくれるルイズ。

 マイクラMODで有名な能力を持たせたからこんな形なんだってば。

 

 俺達はまだ学園には戻っていない。ルイズとしては早く戻って魔法が使えるようになったのを自慢したいだろうが、やっと魔法が使えるようになったのだからとルイズママが嬉々としてルイズに稽古をつけているために戻れないのだ。。

 彼女としてはもしもルイズが虚無だということがバレてしまってもなんとかなるように力をつけさせたいのだろうけど、実戦さながらの猛特訓にしばらくルイズの瞳からハイライトが消えていて心配……どころではなく、俺まで参加させられていたので心配する間もなかった。

 

 激しい稽古のお礼にとルイズママには一服持っちゃった。

 いや、ちゃんと疲れをとる薬って説明したよ。疲れだけじゃなくて加齢もとっちゃったけどね。だって俺の嫁の華琳と融合しちゃってないか、どうしても確認したかったしさ。

 飲ませたのは若返りの薬。以前に俺も飲んだことがあったから成現(リアライズ)しやすかったんだよね。量の調節もバッチリさ。そしたらルイズよりちょっと上くらいの外見に。カトレアよりも若いくらい?

 それで、華琳じゃないのが完全に確認できたので一安心。

 

「なんということを!」

 

「疲れは取れたでしょ。元に戻りたいならその薬も用意できますが」

 

「不要だ!」

 

 ルイズパパに止められました。そのまま若返ったルイズママは連れていかれて。その晩は深夜までの稽古もなくぐっすり眠れたよ。翌朝はルイズパパは満足そうな顔でやつれてた。

 

「やったねルイズ、家族がふえるよ」

 

 誰も「おいやめろ」って言ってくれなかったよ、残念。

 でも身重なら激しい運動は控えるだろう、きっと。

 

「あ、あの! 若返りの薬はもうないのですか?」

 

 エレオノールはそれまでの高慢高飛車な態度を改めて縋るような眼差しを俺に向けている。この世界の貴族の結婚適齢期を過ぎそうなので焦っているのかも。まだ婚約は解消されてないはずだけど、相手がロリコンさんなのかな?

 

「そんな物欲しそうな目で見られてもね。あの薬も貴重な上に効果が効果だから、あんまり用意してなくて」

 

「そんな貴重な薬をどうしてお母様に? まさかコーイチ」

 

 なんで俺を睨むのかなルイズ? だけどまあ「嫁さんと融合してるか確認のために」なんて言えるはずもなく。

 

「レコン・キスタ対策。その姿なら正体を隠せるでしょ」

 

 適当な理由をでっち上げる。俺の回答に少し考えるそぶりを見せるルイズママ(小)。ゼロ魔の情報を与えているのでレコン・キスタを放置はできないと思うのだが。

 レコン・キスタは浮遊大陸アルビオンの革命軍。虚無を名乗るオリバー・クロムウェルがトップで、裏でガリア王が糸を引いている。革命が成功するとトリステイン王国と戦争になるのもわかってくれたよね。

 ぶっ潰すにしても正体不明のままやった方がガリア王ジョゼフも動きにくいだろう。

 

「ふむ。ならば私にも杖を用意なさい。代金は払います」

 

「杖って……まさか」

 

 無言で肯くルイズママ。ルイズの家族にはゼロ魔だけじゃなくてリリカルなのはのアニメも見せたんだよね。

 そしたらね、フェイトに自分を重ねて涙するルイズのようにプレシアに自分を重ねて反省するかと思いきや、戦闘シーンに興味がいったみたいでさ、アームドデバイスが気に入ったみたいなんだよね。A's以降は見せるんじゃなかったな。

 

「レヴァンティンは属性的に合ってないと思うけど」

 

「たいした問題ではありません。ルイズのバルディッシュの持ち主と仲のいい方の杖でしょう?」

 

「お母様」

 

 ルイズは嬉しそうだけどそんな理由ならレイジングハートだよね? シグナムが騎士っぽいからだよね? 絶対好みで言ってるよね?

 レヴァンティンは炎属性だから、以前の口止めにキュルケにって思ってたんだけどなぁ。キュルケには火トカゲ(サラマンダー)をリザードに進化させる? うーん、本人ならぬ本トカゲが望めばってとこか。

 

「あ、エレオノールお嬢さんにはさっきのコレとかコレなんかどう?」

 

「ツルハシとハンマー? 奇妙な形ね」

 

「ハンマーはとても地面を掘りやすく、ツルハシは固まってる鉱石を一定範囲でキューブ化して回収しやすくするマジックアイテムだ。耐久値もそこそこある。調べてみてね。特に地下深くを」

 

 マジックというかMODアイテムなんだけどね、マイクラの。もちろん俺が成現(リアライズ)したものだ。

 ハンマーで風石の鉱脈まで掘っていって、一括破壊ツルハシで風石を回収しようという作戦。風石に刺激を与えず活性化させないでちっちゃくキューブ化できるように設定しているので問題はないはず。キューブ化されたのはマイクラと一緒で一定時間回収されないと消えていく仕様になっている。

 風石はMuv-LuvだとG元素らしいから多少は回収してあっちに回そうと思うけどね。フィナとミズホもロボに使えないか調べているみたいだし。あ、彼女たちにはそろそろ地球へ行ってもらう予定だ。基地開発に協力してもらうつもり。

 

「あとでその辺のアイテムを作る作業台も用意しておく」

 

 作業台はマイクラそのものじゃなくて、作れるアイテムを限定してEP込め中なんで時間がかかっている。まあ、あとほしいのは風石収納のためのチェストぐらいなのかな?

 

「わたしは身体を治してもらったし、これでわが公爵家は貴方には頭が上がらなくなりますね」

 

「はぁ。ヴァリエール公爵には精力剤でも用意しますか?」

 

「ぜひよろしく頼む!」

 

 冗談だったのにくい気味で肯かれてしまった。娘さんたちの前だっていうのにまったくもう。

 

「ちい姉様も治ったし、これでもし弟でも生まれたら完全にうちの後継者問題はなくなるわ。お父様がんばって!」

 

「おちび、意味わかって言ってるのかしら?」

 

 ルイズの応援に目をつり上げるエレオノール。

 

「そうなればわたしがコーイチについていっても問題ないもん」

 

「いや、せっかく魔法が使えるようになって馬鹿にされなくなったんだから、こっちでみんなに見せつけてやるんだろ?」

 

「だって、どこから聞きつけたのか、わたしが魔法を使えるようになったからって急に縁談の話がきてるのよ。それもたくさん! わたしを馬鹿にしてたやつの家からまで! わたしのことを魔法使いとしてしか評価されないなんてそんなの納得いかないわ!」

 

 むう。契約空間(コントラクトスペース)で俺がいろいろと見せたせいでルイズの価値観が以前とは違うものになってしまったか。それとも念願の魔法が手に入ったけど、その程度では超えられない壁で思い知ったおかげか?

 

「わたしも完治したのが知れ渡ってまして大変です」

 

 カトレアまでが大きくため息をしたので一瞬さらにつり上がったエレオールの目がすでに泣きそうになってしまっている。

 

「縁談は進めます。機会を逃すとどうなるかはよく知っているでしょう?」

 

 ルイズママの追い打ちにエレオールはついに決壊。突っ伏してしまった。やっぱりうまくいってないみたいだ。

 もうやめたげてよ!

 マジでセラヴィーがまたきたら婿に薦めるのに。あいつ、過去に戻れるようになってるからどろしーちゃんを手に入れたのかな? エリザベスが嫌がるか。元気にやってるかなあ。

 

「わたしはコーイチと……」

 

「その者の実力は認めないでもないですが妻帯者でしょう。諦めなさい」

 

 俺のこと評価してくれてたのねルイズママ。でもなんか、ルイズが俺と結婚したいって受け取ったみたいだけどそうじゃなくて、一緒に行きたいって言いたかったんじゃないのかな? 魔法を使えるようになったのに「ファミリア契約してやってもいいわよ」みたいなことをよく言ってるから。

 睨まれたルイズは俺の腕にしがみついてきた。その様子を見て大きくため息をつくルイズママ。

 

「わかりました。縁談が嫌なのであればそれを押し通せるほどのあなたの実力を見せなさい」

 

「え?」

 

「婚約者候補たちと戦い、勝利なさい。それが条件です。負ければその相手と結婚、いいですね?」

 

 なんという脳筋思考。若返ったためにそれに拍車がかかった?

 ルイズはぎゅっとしがみつく力を強めてからゆっくりと離れて。

 

「もし全員にわたしが勝てば縁談はなしになるのね。そうすればコーイチと!」

 

「全て勝利できれば縁談はお断りさせてもらうことになりますが、それとこれとは話が別です。あと、彼は私が連れていきます」

 

「へ?」

 

 自分を指差す俺と、再び俺にしがみつくルイズ。ちょっと、さっきよりも密着しているってば。

 

「コーイチはわたしの使い魔よ!」

 

「私1人にレコン・キスタを押しつけるつもりですか? 現地で働いてもらう。もう少し見極めさせてもらいます」

 

 レヴァンティンがあれば、いや、なくても烈風さん1人でなんとかなると思うのですが。

 ゼロ戦ポジションの武御雷はもう向こうに行っちゃってるし、俺の出番はいらないよね?

 

「それならわたしが行く!」

 

「多くの命を奪う覚悟があるのですか? 非殺傷設定にしたところでフネを落とせば人は死にます。それもたくさん」

 

 フネってのは風石で飛ぶ船のことだよな。レコン・キスタもそのフネの軍艦を使ってくるからたしかに海よりも死亡率は高そうな戦場ではある。

 ルイズはすぐには答えられなくて。ゼロ魔でルイズがあっちに行ったのは戦うためじゃなくて別の任務のためだったもんなあ。

 もしも武御雷があったら俺、それで軍艦と戦っちゃったかもしれないけどそれは言わないでおこうっと。

 

「彼を見極めるといいました。働きと為人を。それによってはルイズとのことも考えないでもありません」

 

 ルイズとのことってなにさ? 使い魔に相応しいとかそういうことで合ってるんだよね?

 

「いいの?」

 

「使い魔なしで婚約者候補たちに勝利することができるのなら」

 

「やってやるわ! コーイチもわたしがいなくてもがんばるのよ!」

 

「う、うん」

 

 なんかルイズがやる気になったからいいか。……いいのかな?

 まあ、BETAの相手をしなきゃいけないあっちの俺よりはマシだと信じるしかないか。……嫁さんいないけど。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 すぐにルイズの婚約話が各家に連絡されて数日後、ルイズママは偏在(ユビキタス)で分身。さらに分身はフェイス・チェンジを使い、以前の姿でルイズの婚約決定戦の審判役。

 フェイスって割に全身の姿が変わったのはルイズママの実力のおかげらしい。「若返ったせいか力も増している」なんて言っていたが。ルイズママは普段もこの魔法で若返ったことを隠している。

 本体は俺の用意したレヴァンティンを装備。バリアジャケットも展開しててちっちゃいシグナムみたいになっていた。うん。いろいろとちっちゃい。

 

「烈風が烈火の将になっちゃうとは」

 

「そうですね。以後、わた、ぼくのことは烈火と呼ぶように」

 

「はいはい、烈火さま」

 

 むう、烈風の騎士姫モードとな。そして俺の方といえば、やはり正体を隠すために変身魔法でいつもの黒猫になっていて。

 

「コーイチ、そんな姿になれるんならもっと早く教えてくれればいいのに」

 

「よーしよしよし」

 

「本当は変身能力を持つ猫の使い魔なんじゃないかしら?」

 

 ルイズに抱っこされ、カトレアが喉をナデナデ。エレオノールが尻尾の折れた先っちょをコリコリと玩んでいた。

 むう、恋並に動物に好かれているだけあってカトレアのナデナデはツボを押さえていて心地よい。

 このまま眠りに落ちそうだった猫俺をひょいと烈火は持ち上げる。

 

「そろそろ行くよ。お前はぼくの使い魔のカーボンだ」

 

「なにそのまっくろくろすけな名前は?」

 

「できるかぎり喋るなよ」

 

 言いながら自分に仮面を、さらに俺に首輪をさっとつけてくれる烈火。

 こんなもんつけなきゃ野良に見えるほどみすぼらしくはないと思うんだけど。

 

「コーイチ、母さまのことをお願いね」

 

「わか、にゃあ」

 

 返事しようとしたら烈火に睨まれたので鳴き声にすることにした。俺、必要かなあ?

 

「母がやりすぎないように注意してください。今の母だとアルビオンぐらい落とせます」

 

 疲れた顔のエレオノールからお目付がお前の仕事だと説明されてしまった。後ろでルイズとカトレア、それに旦那さんも肯いてるよ。レヴァンティンでの魔法にももう慣れていて、シグナムの魔法も使いこなすんだもんなあ。たしかに風系っぽい名前のもあったけどさ。

 ふむ。浮遊大陸を落とすまではできなくても無茶しそうで心配はするか。

 

「ふん。失礼な娘だな。もう行くぞカーボン」

 

「にゃあ」

 

 烈火さんてばもうキャラ作ってるよ。旦那さんは心配そうな、それでいてどこか嬉しそうな複雑な表情。青春時代を思い出してるのかも。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 ご家族の心配は的中で。

 烈火さん大暴れ。「義によって参上した」とか言いながらレコン・キスタの軍艦を墜としまくるんだもんなあ。飛び交う大砲をかわし、レヴァンティンを振るう度に落ちていくフネ。烈火さんはマップ兵器といっていい。

 

 俺はといえば大量消費されるアームドデバイスのカートリッジ生産役としてだけではなく、アンドバリの指輪ってマジックアイテムによって復活した死者に、魔法で聖水の雨を降らせて死体に戻したりとちょっとは活躍した。ゾンビの相手は慣れてるのだよ。

 猫らしく城に忍び込んで、スパイとなっていた死者を死体に戻すこともやった。〈鑑定〉スキルで判別できたからね。その流れで皇太子を殺害しようとしていたワルドを目撃。その場に乱入して皇太子を保護してたんだけどなかなか強い上に猫じゃ戦いにくくて。変身魔法を解除しようとしたら烈火さん到着。そしてワルドを瞬殺。半ば冗談だったとはいえ娘の婚約者だった男の悪行が許せなかったんだろうかね。

 ワルドは本体だった上にファミリア候補でもあったみたいで、俺がそばにいたせいかカードになったけど、こいつどうしようかな? ワルテナに、いや、ワルがかぶるからポロりんにでも売りつけようかな。

 

 オリヴァー・クロムウェルは決戦時に烈火さんが真っ二つにしたフネから逃げようとしたところに遭遇、腕を切断して指輪を回収できたよ。捕獲してアルビオン王国に引き渡したから後のことは知らん。

 後始末はアルビオン王国がするべきだ、と暴れるだけ暴れてさっさと浮遊大陸を後にする烈火さんと俺。むこうは終始唖然とした状態だった。

 

 指輪は俺が預けられてスタッシュに収納したよ。あとで精霊に返さないといけない。

 さて、ルイズはうまくやってるだろうか?

 

 婚約者候補を殺してないといいなあ。

 

 




華琳かどうかの確認のためには手段を選ばない主人公


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45話 梓合流

感想、評価、メッセージありがとうございます
今回は三人称


 生体宇宙船ヨークの中で、月は密かにライバル視している少女、梓と再会した。彼女はまず1人の少年を紹介。

 

「こいつさ、初めて見るだろうけどマサムネだよ。こいつん中にあのゲームロボが内蔵されてるんだ」

 

 執事姿の少年が胸元だけでなく胸の一部すらも開くと中には月たちにも見覚えのあるゲーム機がセットされており、そこから聞き覚えのある機械音声が発せられる。

 

「月サマ詠サマ、オ久シブリデス。マサムネデス」

 

 さらに梓は煌一のファミリアではないが見覚えのある人物たちとも一緒にいた。

 

「こっちはわかるよな? あたしの妹の楓と初音。で、来栖川芹香と綾香の姉妹にそのメイドのマルチとセリオ。爺さんは執事のセバスチャン」

 

「はい。見覚えがあります。私は董卓。梓さんと同じく煌一さんの妻です」

 

「ボクは賈駆。同じくあいつの妻よ」

 

 数名を残して紹介された者たちに名乗りを返す2人。若干顔が赤いのは妻を名乗ったせいである。

 月が見覚えがあると言ったのは綾香たちが登場するゲームをプレイしたことがあるためだ。

 

「で、そっちも見覚えがあるんだけど」

 

「1人はここが日本だって教えてくれた五十六で、もう1人はなんかややこしいことになっててな」

 

「ホシノ・ルリです。あっちでは月島瑠璃子となっていました」

 

 あー、そっちもか、と頭を抱えたくなる詠。しかも本来の救済すべき世界らしかったスパロボR世界の子かもしれないとなれば不安にもなろうというもの。

 

「五十六さんは日本の山本提督のところで保護された方ですよね?」

 

「はい。山本五十六です。神隠しにでもあったのかこの異世界にきてしまった私は、同じ山本姓であった無限殿に拾われお世話になっております。今回は未登録の異様な艦船が近海に出現したということで、我が故郷に帰れる手立てに繋がるかと思い、わがままながらここに参上させていただきました」

 

 月の質問に返したように山本無限は日本帝国海軍の提督。高齢と病の悪化のために現役を退いていた。現在は消耗した軍のために復帰した名提督である。たまたま遭遇した五十六を縁があると保護し、娘か孫のように可愛がり軍人としても指導していた。

 

「山本五十六……あっちよりもむしろこっちの方が合う名前ではあるけど……だから呼ばれたのかな?」

 

 自分たちを悩ませるグリーンコアの正体とされるランスとは縁がある子だってレーティアが言ってるのよね。そう口に出すことをためらう詠。だが、確認しなければと思いなおす。

 

「ランス、という名前におぼえがある?」

 

「たしか槍のことですよね? 私は弓の方が得意なのですが」

 

「ふむ。まだ関係者ではないのね。それならいい」

 

 敵を増やさないためにも絶対にランスには接触させないようにしなければ、と決めた詠はひとつの提案をする。

 

「五十六、それにルリ。異世界からきたとか、人物が混じっちゃったってのはボクたちにも共通する問題。一緒にきてもらうわ」

 

「他にもいるのですか?」

 

「鋭いわね楓。冥琳がこっちの子と融合しちゃってる。あとボクたちのとちょっと違う翠も」

 

「マジか」

 

 無言で肯く月と詠。それを受けて梓は予想以上に事態が面倒になってそうだと感じた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 CORE軍を避けながらなんとかヨークを運ぶことに成功し、梓たちは日独伊仲の枢軸軍と合流する。

 

「サイズはともかくとして、ヨークは大怪獣に近いものがあるな。初音には怪獣姫の素質があるのかもしれない」

 

「ヨークはお友達だよ、レーティアさん」

 

 自分への評価に大怪獣を操るという怪獣姫とは違うと反論する初音。レーティアも確信はなかったので「そうか」とだけで、すぐにビニフォンで表示したヨークのデータを眺めながら改装案をまとめ始める。

 

「ヨークの協力で指輪の波長を追ってこっちの世界にこれたんだ。ヨークは弱っていたんだけど、煌一の持たせてくれたエリクサーが効いて回復している。あと、憑いていたエルクゥたちの亡霊は聖水で浄化したからたぶん成仏してるよ」

 

 ヨークに位牌っぽいの作ってもらって、実家の仏壇に置いてきたから千鶴姉と耕一が供養してくれてるだろう、と梓は亡霊に関しては心配していない。それよりも優先すべきことがあるのだから。

 

「それはいいデータだ。あの巨体にも効果があるとなると、煌一は成現(リアライズ)時に対象のサイズをイメージしなかった可能性が高い。やはりあいつは自分で限界を設定している」

 

「煌一さん、自己評価が極端に低いですからねえ。それがなければ、なんでもできそうなのに」

 

 レーティアの考察に肯く七乃。その手は着せ替え人形のチェック中だ。迷わずスカートを脱がされた人形の顔はもちろん美羽に似せられていた。

 

「可動部分を誤魔化すために下着は大きくなっちゃいますねえ。いっそのことオムツにします?」

 

「却下なのじゃ!」

 

「やっぱりアドルフ人形も日本製の素体で作りましょう」

 

「エッチな衣装させられるから駄目だ!」

 

 ゲッベルスの提案に期待で目を輝かせるデーニッツだったがモデルにすぐに却下されて落ち込んだ。

 

「そういう人たちは既に自作してるわよ」

 

「そうなんですか!?」

 

 エルミー・デーニッツ。レーティア・アドルフに心酔する技術分野出身の提督。Uボート艦隊を任され、ヨークの護衛任務につき、無事にその勤めを果たしてこの場にいた。彼女は人形自作の情報を集めようと決意する。

 

「私のベースってフィギュアなんだけどなあ」

 

 極小ビキニのフィギュアが夫によって成現(リアライズ)の素材にされ、自分となっていることを思い出して微妙な気持ちになるレーティア。同時に夫は今どうしているのだろうかとも。

 

「残念ながら梓たちの探している、日吉かおり、松原葵、月島拓也はまだ見つかっていない。煌一や他の仲間も」

 

「そうか……」

 

「CORE軍が世界を混乱させてるから見つかってないだけかもしれない」

 

「でも、ついに桃色の鬣の馬は見つけたのじゃろ?」

 

 ハチミツ水を一気飲みし、ぷはっと余韻を堪能する美羽。

 

「シンバドレイジョーですか。地方競馬の競走馬となっていたのは盲点でしたねー。これを餌にグリーンコアを誘き寄せるんですねー。爆弾内蔵させて一緒に爆破しちゃいますー?」

 

「こええよ、七乃! あたしたちはテロリストじゃねーんだぞ!」

 

 融合した記憶が戻っているため、馬にはひどいことをしたくないマリー翠が拒否。もちろん他の仲間たちもその案は受け入れられなかった。

 

「グリーンコアであるランスをブラックホールに落としたいとこだけど、這い出てきそうなやつだからな。むこうが勝手に帰ってくれるのが一番なんだ」

 

「勝ち目がなくなって、馬が一緒にいればそうなる、と?」

 

「COREとの戦闘については連合国側と一時的な休戦状態だ。もっとも、ガメリカもソビエトもそうするしかない状況だが」

 

 当初は枢軸国と連合国の戦いを利用して漁夫の利を得るように勢力を拡大していたが、双方がCOREとの戦いのために休戦、それどころかCORE相手の時には協力するようになった戦場すらあって、CORE軍はごく一部の戦上手を除き、敗戦を重ねるようになってきていた。

 もっとも、日本との戦争での損失を取り戻すためにCOREを開発した国であり陰で国を操っていた若草会を失ったガメリカ共和国、COREの材料として収容所を奪われ、COREを大量発生させてしまった人類統合組織ソビエトはダメージは大きい。CORE軍に取り入って生き残りをはかる者もいたが、多くは貢ぎ物を奪われグリーンコアによって殺されたのが知れ渡ると、COREへの協力者は激減している。

 

「あいつら、大規模だけどやってることは賊でしかない。占領後の統治なんて考えずに略奪を繰り返すだけ。その脅威から自分たちを守りきれないガメリカ、ソビエトを見限って日本やドクツに降伏する星も出てきてる」

 

「くっ。わっしぃが生きてれば……」

 

「イーグル・ダグラスか。残念だった」

 

 ガメリカ海軍を再編成しようとしていたイーグル・ダグラス。大統領すら狙っていた野心ある男だったが、イケメンは気にくわないとグリーンコアによって切り捨てられ、ガメリカは反抗の中心となる人物を求めている最中だ。

 

「COREに協力している人間の多くが身内を人質にされていることがわかっている。人質の救出作戦は極秘に進めているが、特に東郷には教えないでくれ」

 

「すまない。彼はすでにキャプテン・ブラッドの正体に気づき始めているようだ」

 

 柴神の報告にあちゃあと顔を覆う詠。

 

「あの男、そんなに重要なの? 挨拶のように口説いてきてうっとうしいんだけど。人妻だって言っても聞かないし。煌一が合わないって言ってたのすごくわかる。北郷以上に月の側に近寄らせたくない!」

 

「それでもモテるんだろう?」

 

「うん。東郷の関係者がやつに惚れないボクのことを変な目で見るぐらいに。レーティアの予想が当たっていそうね」

 

 話を聞きながら自らの首のチョーカーをそっと撫でる少女たち。精神攻撃耐性のついたその貞操帯を。

 

「東郷は不思議なほどに異性からの好感度が高い。私はこれがあの赤い石のような精神操作によるものじゃないかと推察した。だから彼と接触する可能性のある我が軍の女性提督たちには量産型のチョーカー着用を義務づけている。精神攻撃耐性のために」

 

「うちの連中もね」

 

 イタリン共和帝国軍提督ユーリ・ユリウスも肯く。彼女は煌一が評価していたことをレーティアが知っていたこともあって頼りにならない総統の代わりにこの場に呼ばれていた。

 

「正直、チョーカーの力なんて信じていなかったけれど、ムッチリーニ総統やあの黒ビキニ提督たちですら東郷の猛烈なアタックに落ちずにいるのには驚きです」

 

「そんな馬鹿な」

 

 その名のとおりの黒のマイクロビキニが制服の部隊を率いる、頭が緩いと言われる彼女たちですら東郷になびかなかったと聞いて大きな衝撃を受ける柴神。

 

「その魅了能力のせいかもしれんが、女性観を始めとした東郷の思考回路も普通の人間とは大きく異なるようだ。娘真希の保有するバリア能力からも鑑みて、現生人類とは違う特殊な血を引いている可能性が高い」

 

 ゲームのご都合主義を真面目に考えたらそうなったと内心でため息のレーティア。彼女はゲームで赤い石が通用しなかったのもこれで説明できると考えていた。

 

「まあ、今更人類とちょっと違う程度のことはたいした問題ではない。口説きは鬱陶しいが無理矢理襲われることはないのだからまだグリーンコアよりはマシだ」

 

 赤い石が通用しないなら自分もなんだがと思いつつ、親友カテーリンが気にするので口にしないミーリャ冥琳。

 

「うん。ラムダス戦で役に立つだろうから彼は失いたくはない。柴神、彼をなんとか抑えてくれ。あと真希ちゃんの保護も。人質として利用されたら東郷も従うしかないだろう」

 

「人質なんて許せんのう。さっさと緑コアを倒して煌一のとこに行くのじゃ」

 

「そうだな美羽」

 

 レーティアは隣に座っている美羽の頭を撫で、激務で疲れた精神を癒す。その光景を微笑ましく眺めるゲッベルスと七乃。彼女たちはライバルであり同士である。こっそりと手元で撮影とスケッチを始めた。

 

「CORE殲滅の記念ライブのチケットにこの写真、いいかもしれませんね」

 

「表と裏で1人ずつお2人の抱き枕を考えてましたが一緒に描かれている方がいいかも。シーツかタペストリーかしら?」

 

「おいそこ、恥ずかしいグッズは駄目だぞ。煌一が泣くからな」

 

 危機を察してすぐに止めに入るレーティア。非公式はともかく公式グッズではその手のグッズを極端に廃しているのは「嫉妬深い夫への愛のため」と公言して身を守ることにしている。

 

「キャロルさんも際どい写真集を出して祖国に元気を送っているのだから見習ってほしいですねえ」

 

「えっ? 嘘っ!?」

 

「聞いてないようだが?」

 

「冗談ですよ。KENZENな盗撮写真集ですから無問題です」

 

 グリーンコアが有名な美女を狙う傾向にあることをプロファイリングによって予想しているレーティア。ゲームプレイによる知識からもその正体がランスであることを確信している。ゲッベルスはこれを聞き、七乃とともに誘き出す囮としてキャロル・キリングを利用しようとしていた。写真集販売もその一環だ。

 

「ピンク馬に乗ってる写真が表紙だ。きっとグリーンコアも気づくだろう」

 

「彼女は煌一が用意したエリクサーを使えば人間に戻れるかもしれないが、グリーンコアに余計なことを話すことも考えられる。COREの技術を応用して人型に改造し、情報流出しそうな時にはプロテクトが発動するようにするぐらいしかできない」

 

「可哀想ではありますが、無理にうま少女にしなくてもいいのでは? 元の世界に戻れれば人間になる手段もあるはずです」

 

 ビニフォンによって表示されたピンクもこもこヘアーのウマ耳少女の立体映像をチラリと眺めただけでそう冷静に返すルリ瑠璃子。

 

「プリンセスって子はどうしてるんだ?」

 

「キングコアのパーツを人質にされてグリーンコアに従っているな。もっとも、キングコアの脳はすでに死んでいるのをマインが確認している。それを教えた上で味方にならないかと説得したが断られた」

 

 プリンセスはキングコアの相棒だった少女。見た目は他のCOREと違い、普通の少女そのものだがCOREだ。主には逆らえない女奴隷。キングコアとプリンセスの関係はランスとシィルの関係に似ていた。

 

「プリンセスの中にランスの脳が収納されている可能性もありえる。保護は無理だ。……可哀想なあの子を見捨てるしかできない無能な私なんて、煌一に嫌われてしまうな」

 

 ベッドをともにした仲間たちの前でつい弱気になってしまい、泣きそうな声のレーティアの頬に軽い痛みが走る。隣に座っていた美羽が彼女の頬をむにょっと引っ張るように抓ってた。

 

「い、いう?」

 

「レーティア姉さま、妾の夫を馬鹿にしてはいかんの。泣くことはあっても、がんばってる姉さまを嫌いになることなんてないのじゃ!」

 

「へー、美羽も言うようになったな。でもそこは、あたしたちの夫は、だろ?」

 

「ふふん、なのじゃ!」

 

 よくイタズラをしては怒られていた梓に褒められて得意気に胸をはる美羽。だが実際は、チラリと視線を向けた初音に「ライバル登場なのじゃ」と自分が危機感に焦って動いてしまったことに気づいていた。

 

「よしよし。ったく、嫁の心労がこんなにたまってんのにどこほっつき歩いてやがるんだか」

 

「煌一さんが現状に手をこまねいているままだとは思えません」

 

 いつになく強い口調でそう言い切る月。梓への対抗心ときっと自分たちを探してくれていると信じたい自分の気持ちが表に出ていた。親友のその心情を理解した詠はそれを口には出さず焦りも隠すことしかできない。

 

「それにヨークの協力で異世界への移動もできるんなら、きっとあいつもすぐに見つかる。心配することもない」

 

「でもさ、そいつ顔がイイんでしょ? グリーンコアに殺されちゃったりしてるかも。わっしぃみたいに」

 

 キャロルの無配慮な発言に煌一の妻たちの顔が曇ることはなかった。驚きか呆れの表情を向ける彼女たち。

 

「煌一を知らないとそんな考えもするんだな」

 

「あいつがサイボーグなんかに負けるわけないだろ」

 

「戦ってたらもっと大騒ぎになってますよ。なにしろ非常識な方なので」

 

 お前が非常識って言うなとの視線を全く気にしてない七乃に美羽が続く。

 

「むしろ心配なのは嫁をどのくらい増やしているかなのじゃ。梓も嫁候補を連れてきているぐらいじゃからのう」

 

「嫁候補って私たち?」

 

「違うのじゃ。芹香は満更でもなさそうじゃがの、楓と初音の方じゃ!」

 

 大魔法使いとの話である梓たちの夫に興味を持っている芹香のせいで姉と自分のことだと思ってしまった綾香。一方、名指しで嫁候補と言われて真っ赤になる楓と初音。

 梓の妹たちは凪と亞莎からの記憶の流入が続き、煌一のことをよく知っていた。とくになぜか夜の生活をよく見てしまっていて、それを自分に置き換えたシーンが頭に浮かんでいたのだ。

 

「その可能性は捨て切れんな。なにしろあれは好意を寄せられれば断り切れんだろう。そばに強く断われる妻がいてくれればいいが」

 

「むしろ、追加に積極的な妻がいたりして」

 

「やめろよ七乃、不安になってくるじゃないか!」

 

 脳裏に数名が浮かぶ煌一妻たち。キャロルの発言時とはうって変わって不安そうな表情となって無言になっていた。

 そんな静寂を破ったのは小さな着信音。会議中は重要な案件しか通さないように命じていたのですぐに通信を受け取るレーティア。

 

「ラムダス……似ているが違う? 亜種なのか?」

 

「どうした?」

 

「奇妙な生物が人類を襲っているとの緊急報告がきたんだ。ラムダスっぽいけどどこか違うようにも見える」

 

 そう言いながら添付された映像データを大きく表示させるレーティア。そこには人間を食らう生物が蠢いている。ラムダスと同じく、人の顔に似た部位を持ちながら嫌悪感をおぼえるその異形。

 煌一がいればすぐにその正体を教えてくれただろう。

 BETAと。

 

 



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46話 半月後

感想、評価、誤字報告、メッセージありがとうございます


 初陣(デビュー)戦を大勝利で飾った若き新将軍の煌武院悠陽。その人気は異常なまでに高まり、お偉いさんたちの目論見どおりに政威大将軍、元枢府が権限を取り戻しつつある。

 それに合わせる形で帝都は京都から東京へと遷都される予定となった。

 あれから半月。BETAは本州から駆逐され、戦場は沖縄・九州地方となっている。

 

「で、悠陽ちゃんは彩峰萩閣の助命を願う、と」

 

「はい。どうにかできないでしょうか?」

 

 倉木基地の工事が猛ピッチで進む中、やってきた新将軍様にそう相談を受けた。呼称についてはついそう呼んでしまったのを気に入られてしまい、そう呼ぶようにと強制されている。俺の嫁さんたちがなにか吹き込んでいるのかも知れない。

 

「光州作戦の敗戦の責任を押しつける生け贄として国連が要求して、でも渡すと軍部が反発するから国内で処罰されることになった彩峰中将? まだ生きてたの?」

 

 マブラヴヒロインの1人である彩峰慧の父親で、後のクーデターの原因ともなる事件。悠陽ちゃんの教育係の1人でもあったらしく、心を痛めているらしい。

 

「はい。投獄されています。ですがもうすぐ敵前逃亡の罪で銃殺される予定になっていて……」

 

「それってもう少し罪状なんとかできなかったの? よく思わない連中が軍の内外に多くいそうだ」

 

 現地住民の避難救助を優先したのが敵前逃亡にされたんじゃ、反発するのも当然だろう。国連軍司令部の混乱も現場にいなければ伝わらなかっただろうし。

 現地住民も拒否してないでさっさと避難しろってのが一番の感想だけど、BETAとの戦いに明るい兆しがなかったから避難しても、と思ってたのかもなあ。

 

「国連を納得させるために厳重な処罰を求められたのです」

 

「悠陽ちゃんは知ってると思うけど、ここ最近、死者がこっそりと甦っている。彩峰中将も生き返るかもしれない」

 

 カライは女性優先だけど、頼めば生き返らせてくれるだろう。ヒロインの1人のパパだし。

 

「やはり煌一さんたちの為業(しわざ)でしたか?」

 

「俺じゃないよ」

 

 俺じゃないけど知っている。そう思わせぶりに言ったら深く追求されなかった。よかった。俺じゃないのは嘘ついてないもんね。

 ていうか、疑われてたの、俺? 悟空が瞬間移動したり、承太郎が滅茶苦茶早く修理してたりするから俺にも変な能力があるって思われてるんだろうか。普通の人間を装って特殊能力見せていないはずなんだが。

 追求はされていないが、じっと無言で見つめられ続ける。たまり兼ねたのでつい言ってしまう。

 

「御即位の恩赦で事件の再調査及び再考察ってできないか?」

 

「減刑ではなく?」

 

「国連の顔を立てたのもオルタネイティヴ4のためだろ? だが俺達はオルタネイティヴ4には反対。オルタネイティヴ0が協力するからってことで総理を説得してみれば?」

 

 定期報告会で相談しなきゃいけない案件だ。転生者たちが協力してくれれば国連軍よりも頼りになる。……かなぁ?

 俺の案に納得がいったのか、悠陽ちゃんは鈴菜、水菜と少し会話をしてから基地(工事中)を去っていった。自分と同じ双子が自分とは違って仲良く暮らしているのを見たかったのかもしれないな。

 

「いいのか?」

 

「みんなに相談だな。ルルーシュあたりがなんか考えてくれることを期待しよう。承太郎もよかったのか? 月詠真耶が気になってたんだろ? ずっと黙ったままだったじゃないか」

 

「メイド服じゃなかったからな。あまり余計なことを言うな。知美に勘違いされたくない。彼女が工事の連中にナンパされてないか不安だから行くぞ」

 

「はいはい。いってらっしゃい」

 

 転生承太郎が気にしている春川知美は倉木に仕える眼鏡メイド。基地でもメイドとして働いている。彼の好みにマッチしたようで承太郎は倉木基地勤務を希望しているのだ。

 知美は裏があるが、承太郎もゲームはプレイしていたらしくそれはそれで構わないらしい。18号とランバ・ラルには驚いていたが。

 

「将軍のお嬢ちゃんも妹に会いたいんだろうね」

 

 由利子さんはだいぶ18号が表に出てくるようになっている。それでも娘2人を可愛がっているようなので特に問題はない。

 ランバ・ラル2人は春川五平が初代ガンダムのランバ・ラルで兄の春川一平がビルドファイターズのラルさんのようだ。俺の成現(リアライズ)した山根のグフに反応したからたぶんあっていると思う。

 承太郎は知美との結婚も視野にいれているようだが、ランバ・ラルと親戚になることはわかっているのだろうか?

 

「なんとかしてあげたいけど、白蓮次第かな?」

 

「その白蓮だけどね、またカレンに絡まれてたよ」

 

「またか」

 

 紅月カレン。転生シャーリーの仲間として選ばれた特典だったけれど、逆ハーレムを狙う転生シャーリーによってカライに売られてしまった少女だ。

 転生シャーリーやルルーシュがなにか企んでるかもと不安なのと気になることがあったのでカライから折半したスキル〈独占〉で俺が好感度にチェックを入れたまま。

 カライじゃなくて俺が〈独占〉を入れたのは華琳と恋と名前が似ているため。融合の条件がまだよくわかっていないから心配だったのだ。

 今のところ融合していないが、山城凛のようにこれから融合するかもしれない。念のためである。

 

「紅白で縁起物なんだから仲良くしてほしいよ」

 

「そりゃ煌一さんが気になってるから無理じゃない?」

 

 スキルで独占したので心苦しいが妙に好かれている。直接のアプローチはないが、唯ちゃんがけしかけてくるんだよなあ。このまま嫁にしちゃえばって。

 でもさ、心をいじるのって嫌なんだよね。梓がそれで俺を好きになっていてくれてそうじゃなくて好きになってくれてたらって葛藤がってさ、そういえば梓にカレンの愛機の紅蓮弐式を渡していたっけ。

 

 カレン以外の転生シャーリーのとこからきた女性スタッフの独占チェックは外してある。全員が一度に好感度上がってるんじゃ不自然だし、どう動くかも見たいからね。

 

「カレンはお兄ちゃんの役に立ちたくて焦ってる感じかな? 自分の居場所を確立したくて不安なのかも?」

 

 コードギアスじゃゼロに執着してたけど、こっちじゃそれが転生シャーリーで、でも売られてしまって。戦う目的だった日本も自分の世界とは違ってって。そりゃ悩むかもしれない。肉親もなしに孤独な状態で知らない世界ってのはねえ。

 

「異世界転移の追放系かあ」

 

「シャーリー、ざまぁされちゃいそうね」

 

「だからってカレンに簡単に手を出すワケにもいかないだろ。彼女自身、母親は正妻じゃなくて苦労してたみたいだから、嫁さん多いのには思うとこがあるかもしれない」

 

 先手を打って予防線を張っておく。唯ちゃんすぐ嫁さん増やそうとするからね。唯ちゃんこそ焦ってるように感じる。いまだに姉の結花や他の嫁さんたちの行方がわからないのが大きいんだろう。嫁さんを増やして頼りない俺の不安を取り除いてからさっさと探しに行きたいのかもしれない。

 仲がいい友人の山城凛すらも薦めてくるから、彼女に会いたくないという転生アーチャーはあんまりこっちに来てくれないんだよね。

 

「こっちで重婚法案が可決したらそんなこと気にする必要なくなると思うよ」

 

「BETAの日本侵攻でかなり人口が減ったとはいえ、そんな法案が……」

 

「通るんじゃない? 母さんたちもそのつもりで動いているわよ」

 

 由真までもか。

 唯ちゃんと融合した篁唯依と、由真と融合したユウヤ・ブリッジスの父親である篁裕唯との面会も果たした。もっとも、2人の母親である篁栴納(せんな)、ミラ・ブリッジスが同席し、裕唯の方もやたらに緊張していたが。もちろん当然のように俺も緊張していたが親御さんへの挨拶は初めてじゃなかったからなんとか持ち堪えたよ。

 

 母親2人はなかなかに厳しそうな人ではあったが、唯ちゃん、由真ががんばってくれたのか「娘をよろしく頼みます」と俺達の結婚には納得してくれていて、むしろ自分たちもとそんな雰囲気だった。

 栴納さんは心労によって体を壊して子を望めない体になっていたんだけど、ミラさん同様にエリクサーによって完治。肌つやもよくなって20代に見えるほど。弟妹が生まれるかもねって娘2人は笑ってるけどいいんだろうか?

 

「お義父さんに栄養ドリンク送っておこう」

 

 2人の父である篁裕唯はマブラヴでは1999年の明星作戦でG弾にて死亡してしまうがそんなことはさせない。そもそも明星作戦の目標である横浜ハイヴができていない。佐渡島もハイヴ建設は阻止される予定だし。

 もし来年大規模な作戦に参加するとすればそれは日本ではないはず。近場の鉄原ハイヴもしくはオリジナルハイヴか。

 そのためにも少しでも早く高性能な新型戦術機を量産させたいワケで。

 

「アメリカも巻き込むハラか。まったく我が主と嫁どもときたら」

 

「国連もアメリカもオルタネイティヴ0を気にしているからね。転生者どもが重婚に乗り気ならそれに反発しないさ。もちろん帝国政府もね」

 

「由利子はそれでいいのか? 娘を2人ともこんな男にやって」

 

 そう聞いたのはティス。由利子さんと仲がいい。栴納さんとミラさんにも気に入られていて、よくしつけについて駄目だしされている。……俺が。

 食事マナーその他を教えてくれるのは嬉しいですが、甘やかすのは彼女たちがやるからってズルすぎませんか。自分の娘を甘やかせなかったからなのかねえ?

 

「由利子さんだろ、まったく。そりゃ相手が娘一人だけを選んでくれりゃいいけど、男ってのはバカだからね。煌一さんはバカの中でもとびきり頼りになる。死んだあいつと違ってさ」

 

 なんだろう、18号由利子さんの俺の評価がやたらに高いんですが。それとも他の男の評価が低すぎるのか。誰も自分を助けてくれなかったって。

 

「それとも煌一さんはわたしの方がいいかい?」

 

「本気にしそうになるから止めてください」

 

 俺と融合した羽山浩一の初恋の人にそう言われてそう返してしまった。あいつが表に出てきている?

 18号は嫌いじゃないというか好きなキャラだったし人妻とはいえ未亡人。融合によって処女に戻ってるだろうし、なにも問題はないが鈴菜がうるさいからなあ。

 

 鈴菜は相変わらず俺の婚約者のままで、水菜もそれに追加されてしまっている。どっちも可愛い。嫁さんたちがいなければ俺も浩一のように手を出していたかもしれない。

 

「それなら沙也加はどうですか? 旦那様?」

 

 そうキンキンした高い声で聞いてくるのは新しく倉木家メイドとなった栗原沙也加。その正体は失踪したと騒がれている女優の山都瑠璃だったりする。

 BETA襲撃でスタッフを目の前で失い、精神的なショックを受けていた山都瑠璃は治療と称した催眠でゲームのように栗原沙也加となっていた。ちょっと俺が忙しかったうちにあいつらときたら。ラルと融合しているくせに、まったくもう。

 このご時世なので、世間では死亡説が一番支持されているのがなんか悲しい。

 

 顔のない月のように五平が手を出すのが不安で貞操帯チョーカーを装備させているけど、五平はランバ・ラルの部分が大きく出てきていて心配は少ない? 話を聞くと敗北して自爆しようと落下しているのがランバ・ラルとしての最後の記憶とのこと。「戦いに敗れるということはこういうことだ!」の時にこっちに来ちゃったか。ギリギリだったみたいだ。

 ただ、ラル五平の記憶だと初代ガンダム世界じゃなくてどうもスパロボ世界っぽいんだよな。それもα。BF団や国際警察機構もあったらしい。俺の救済担当世界はRかJっぽかったけど、そっちじゃないのかな?

 

「沙也加、俺は嫁さん多いからね。冗談でもそんなこと言わないでくれ」

 

「本気なのにー」

 

 沙也加も顔のない月では好きなキャラだった。欲求不満が溜まってるハルケギニア(あっち)()だったらすぐに手を出しちゃってるかもしれない。

 けど顔のない月だと彼女のルートはスッキリしたハッピーエンドにならなかった記憶がある。幸せにはなってもらいたいんだよなあ。エリクサーならたぶん記憶が戻りそうだけど、関係者が多く亡くなっていて、女優として復帰できるかな?

 もう少し日本が安定してからの方が記憶を戻すにはよさそうだって、ここで面倒を見ることになってしまっている。

 

「華琳がいたらみんなすぐに嫁にされてただろうねー」

 

 自分がそうだったクチの由真がポツリともらした意見に肯くしかできなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

『さすが12番さんです。よくやってくれました! 法案通ったら貯まったポイントでレッシィかアスフィーもらうぜ!』

 

 定時報告のリモート会議。重婚法案はやはり転生者たちに評判がよかった。

 それにみんなBETAを倒しまくっているので新しい仲間がもらえるぐらいポイントが貯まってるみたいだ。

 

「オリビーじゃないのか?」

 

『オリビーは球神に操られてそうで』

 

「なるほど」

 

 タブレット画面に映る多くが肯いていた。1番は驚いた顔してたけど、そんなこと考えていなかったのかな?

 1番は無茶ばかりする指示が祟って仲間の多くを死なせ、好感度の多くを引き換えにしてカライが生き返らせた。仲間は甦ったが、機体は失われたまま。ポイントでの補給もままならなくなっているってエクセレンが教えてくれた。基地が完成したら補給させろって襲ってこないか心配でならない。

 

『これでもう12番爆発しろって念じないで済むよ』

 

「爽やかに笑いながら言わんでくれ」

 

 転生キラのとこにはラクスと偽ラクスがいて、慰問コンサートも行っている。さらにはフレイ・アルスターとミリアリア・ハウも既にポイントで追加されたようで「爆発しろ」はこっちの台詞なのだが。

 

『魔乳艦長はまだ入ってないのか?』

 

『ははははは』

 

 あ、もういるのね。

 ガンダムSEEDも女性キャラ多いから、好感度が高い加入ならハーレム要員も多いよなあ。

 

『日本に亡命したい』

 

 ボソッとそうこぼしたのは転生トルストール。ソ連も大変のようだ。ゴラオンやクルーを引き渡せと要求されることが多いらしい。

 

『数名をソ連軍に研修という形で出向させたけど帰ってはきていない。エレ様が悲しそうな顔するのが耐えられない』

 

「あー、俺のアドバイスでトルストールになっちゃったみたいだし、本当に亡命するなら口利きしよう」

 

 アドバイスしたのはカライの方だけどな。

 

『それならその前にクリスカやイーニァたちも助けるべきだ』

 

『でも特殊な蛋白がいるんじゃなかったっけ?』

 

『ポイントでどうにかならん?』

 

 ソ連のオルタネイティヴ3は簡単にいえばESPでBETAと意思疎通しようとした計画。BETAには意識があるけど人類を知的生命体と認めないので意思疎通ができず失敗した。

 その過程で人工ESP能力者を生産してたけど人間扱いしてなかった。当然のように美少女ばかりなので助けるのはやぶさかではない。転生者たちもそのつもりのようだ。

 

「治療なら承太郎のスタンドがなんとかできるんじゃないか?」

 

『そうだな』

 

『それならトルストールさんは死亡したことにするべきよ。ゴラオンはソ連所属ではないのだから日本に来てもソ連に文句は言わせないわ。トルストールさんや女の子たちは死んだことにして承太郎さんがスタンドで整形もすればいい』

 

 転生シャーリーの案は良さそうだな。画面の彼女は時々横を見ているから隣にルルーシュがいてアドバイスを貰っているんだろう。

 たしかにトルストールの亡命には帝国政府は揉めそう。

 

『日本からBETAが駆逐される日も近いわ。その前にゴラオンも九州での戦いに参加しておけば、日本での受け入れもしやすい』

 

『だとするとクリスカたちの救出も急ぐべきだな。場所がわかれば俺と恭也で救出に向かう』

 

『悟空もだ、アーチャー。瞬間移動があれば助かる。場所は鎧衣パパが知ってるんじゃないか?』

 

『もう知ってる。ゴラオンに迷惑がかかるんじゃないかって動かなかったけど、そういうことなら喜んで協力するよ』

 

 さすが忍者。転生鎧衣尊人もイマイチなに考えているかわからないんだよな。美琴の双子の兄って特典だったそうだから男なのは確実なのにそうは見えないし。

 倉木基地にも女装してこっそり入ってきて〈感知〉に引っかからなかったらわからなかった。で会って聞いてみたら顔のない月の東衣緒を見に来たとかで。いないってわかるとさっさと行っちゃったよ。男の娘を集めてたりするんだろうか?

 

『それに治療も煌一さんならなんとかできるんじゃないかな?』

 

 げっ、マジで侮れないかもしれん。

 

「生き返らせる時にマイナスの特性を引き換えにすることはできるが、そのために死なせるのはちょっと」

 

『ふーん。ま、そういうことにしておくね』

 

 おいおい。エリクサーのこと知られちゃってるのかも。鎧衣パパも侵入してきた時に挨拶したけどうちだけじゃなくて転生者連中のことを色々と調べているみたいだし。

 外国のスパイもうろちょろしているけど、立地的に関係者以外いないからすぐにわかって拘束できちゃうんだよね。

 

『さっきから黙っているけど1番、お前はどうする? 最近出撃してないみたいだけど?』

 

 俺が困ってるのを感じて話題転換しようとしたのか、黙っていたのは同じなタケシが聞いた。ジャイアンの方がタケシじゃないのはややこしい。1番は剛田ツヨシだ。

 

『俺は疲れた。BETAの数が多すぎるし、仲間は弱いし、最近逆らうようになってきた。アメリカの誘いに乗って宇宙に逃げることも考えたけど、宇宙にだってBETAがいるんだろ?』

 

『ああ。ホイホイと誘いに乗らなかったのは褒めてやる。宇宙脱出だけなら別にいいけどBETA殲滅のためにG弾使われるのは困る』

 

『逃げねえよ! ……オリジナルハイヴの場所知るためにゲームやってショック受けてるんだ。なんでみんな死んじゃうんだよ』

 

 あ、1番涙目になってる。そして他の転生者たちの目がちょっとだけ優しくなった。

 

『やっとプレイしたか。それが嫌でみんな戦っているんだ。無双プレイを楽しむためじゃない』

 

「BETA戦が終わっても世界情勢が大変だからな。迂闊な誘いには乗らないでくれ。転生者同士の戦いなんて球神が見逃すかもわからない」

 

『あ、ああ』

 

 一応釘を刺しておいた。これで敵に回ることがなくなりゃいいけど。

 ドリル戦艦はハイヴ攻略において有効だと思うし、協調できれば頼りになりそうなんだが。

 

『戦うのが不安なら仲間は俺達に任せてしばらくパプワ島で暮らせ。ガキだけならパプワも喜ぶ』

 

『そりゃいいかも。あの島は人を変える。いろいろ鍛え直すにはいいんじゃね?』

 

 パプワ島が更生施設扱いか。まあ、漫画のとおりに球神が再現してたらそれもありえる。で、転生恭也は1番をガキ扱いか。まあ、ゲームをプレイしなかったのもギャルゲーだからと敬遠してたからみたいだし、転生前は本当に子供だったのかもしれない。

 

『他にも数名ならパプワ島で保養を受け入れる。ギャグ時空だと割り切れればいいところだ』

 

『恭也さんはポイントで女性を増やすのですか? それともガンダムWかパプワくんの男性たち?』

 

『もう少しポイントを貯めてから考える。ゼクス・マーキスだとハーレムと融合してるかもしれないから不安だが』

 

 中の人が同じでも融合がありえるって転生恭也には教えている。その融合ならまだしも御大将がきたらちょっとね。それともイボンコ?

 ああ、イトウくんがコンボイ司令と融合したりしないかなあ。

 

 



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47話 その頃の風

感想、評価、誤字報告、メッセージ、ここすき、ありがとうございます

今回は風視点


「風ちゃん?」

 

「風?」

 

「んー、ちょっと待ってくださいね」

 

 記憶が混乱していますね。

 私は風。

 風は風なのです。

 

「……ああ、あの華琳さまが仰っていたのはこういうことでしたか」

 

「え?」

 

「華琳さま? って誰?」

 

 心配そうに風の顔を覗きこむ2人の少女。不思議な鎧を纏った彼女たちは風の仲間。

 

「ぐぅ」

 

「寝たー!?」

 

「ちょっと! 風、大丈夫なの?」

 

 おや、心配させてしまいましたか。光ちゃんも海ちゃんも優しいですね。

 だからこそ彼女たちが悲しい思いをするのがわかってしまい、風も悲しくなってしまうのですよ。

 

 ここはセフィーロ。「魔法騎士レイアース」の世界のようですね。どうやら風はその登場人物、鳳凰寺風となっているようなのです。

 たぶん、もう一人の華琳さまがあの時に仰った「名は体を表す」とはこのことなのでしょう。風の真名が彼女と同じだったことで融合してしまったのではないでしょうか。

 冥琳さんや袁紹さんたちがもう一人の自分と合成されたように。だって、風には鳳凰寺風としての記憶もちゃんとあるのですよ。彼女たちもどちらの記憶も持っていました。

 

 風の旦那さまであるお兄さんが使徒として救わなければいけない担当世界はスーパーロボット大戦の世界らしく、風たちは予備知識として関連資料を学んだのです。その中に魔法騎士レイアースもあったのですよ。

 

 ……風は名前こそ風ちゃんですが、ルックス的にはエメロード姫似だと思うのですよ。まったく。

 

 そのエメロード姫ですが、風たち3人をセフィーロに召喚した張本人。なのに説明不足すぎます。

 エメロード姫は世界を支える柱。

 彼女を幽閉した神官(ソル)のザガートさんを倒せとミスリードさせておいて、実は自分を倒すために召喚したということだったりします。

 エメロード姫はザガートさんは好き合っているのですが、柱はセフィーロだけを愛さねばならず、一個人に想いを寄せると世界崩壊だそうです。だから自分を倒させようとしているのですよ。ザガートさんはそれを防ごうと風たちの邪魔をしているのです。

 

 風たちに心中の手伝いをさせようとしている自覚、あるのでしょうか? 少女には特大のトラウマになるのですよ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「ザガートを倒しちゃダメ?」

 

「そうなのです」

 

「ちょっとなに言ってるのよ? 風!」

 

「ぷぅ」

 

 光ちゃんと海ちゃんにざっくり簡単に状況を説明したのです。モコナがぷぅぷぅ言ってますが、セフィーロにきたせいか喋れるようになった宝譿が相手をしているのですよ。……宝譿にウィンダムっぽい翼パーツが増えているのです。重いのですよ。

 

「風は心中の幇助をしている場合ではないのです。華琳さまやお兄さんたちを探さなければいけないのです」

 

 あの爆発の後、セフィーロにきてしまったのはどうやら風と宝譿だけのようです。ビニフォンでも連絡が取れません。東京に戻れば使えるといいのですが。

 

「お兄さん? 風ちゃんにいるのはお姉さんじゃなかったの?」

 

「風の旦那さまなのですよ」

 

「だ、旦那さま!?」

 

「おう。こいつの他にもたくさんの嫁侍らしたハーレム兄ちゃんだぜ」

 

「その説明はどうかと思うのですよ、宝譿。まあ、間違ってはいませんが」

 

 おや、海ちゃんが怖い顔をしてますね。

 

「重婚は犯罪よ! ハーレムなんて、そんなの許せないわ!」

 

「問題ないのです。華琳さまが許してるのですよ」

 

「華琳さま?」

 

「お兄さんの第一夫人なのです。風が支える太陽でもあるのですよ」

 

 ファミリアになることで以前にもましてお強くなられた華琳さま。ご無事だと確信していますが、早く合流したいのです。

 ……華琳さまは光ちゃんも海ちゃんも気に入りそうですね。会わせていいものか少し迷うのですよ。

 

「どんな人なの? その旦那さまって」

 

「超常的な存在により異世界にさらわれ、大変な役目を与えられてしまった人なのです。まるで今の風たちのように」

 

「そうなんだ。私たちと同じだったんだね!」

 

 風たちは役目を果たせば東京へ帰れるはずです。でもお兄さんは違いました。元の世界に帰れないとわかった時、どんな気持ちだったのでしょうね。

 

「セフィーロの問題もお兄さんがいれば簡単になんとかしてくれそうなんですけどねー。思いを形にするのは慣れてる人なので。頼りないけど頼りになる人なのです。風たちの恩人なのですよ。しかもかっこいいのです」

 

 二人ともまだよくわからいという顔をしているので、ビニフォンでお兄さんの写真を見せます。ついでにみんなの集合写真も。

 

「すごいねこの……ゲーム機? わあ、美人さんばかりだ!」

 

「え? これ全部が奥さん? 多過ぎでしょ! ……これがかっこいい旦那さま?」

 

 眼鏡で顔を隠したお兄さんを見たらそうなりますよね。もちろん素顔は見せられないのです。

 そうだ、予備にと渡されたビニフォンを二人に渡しておきましょう。魔法騎士(マジックナイト)ならMPで充電できるのですよ。

 携帯電話も普及していない時代設定なはずですが風は気にしません。お兄さんも怒らないと思うのですよ。

 

「お兄さんの素顔は呪われているので、家族以外には見せることはできないのです。いずれその呪いは解かないといけませんが、そうなると美形をさらけだしたお兄さんに女の子が群がりそうで頭が痛いのですよ」

 

 お兄さんは自己評価が低いのも呪いのせい。

 でも自己評価が低いのに、華琳さまのお願いで無理をして風たちを助けてくれたお兄さん。

 本来戦いはあまり好きではないのでしょう。みんなを人形から戻したら積極的に自分の担当世界の救済には向かいませんでした。強くなって、みんなを強くして、準備を整えてから。

 

 風たちは流されで結婚したようなものなのに、その能力を活かせるように一人一人のことを考えてくれるお兄さん。

 担当世界攻略のために準備された物の中には風の飴もありました。ちゃんとおぼえていてくれたのですよ。ハッカのは自分がって外しておいてくれたのです。やさしいお兄さんですよね。

 

「これが美形ねえ」

 

「まあ、兄さんは顔よりも下半身の方がスゲエんだけどな」

 

「宝譿、下品なのですよ。まあ、間違ってはいませんが」

 

 海ちゃんは真っ赤になってしまいました。光ちゃんはキョトンとしています。よくわかってませんね、これ。

 

「足が速いの? それとも蹴り技?」

 

「いえいえ、子づ……」

 

「言わせないわよ! 子供に変なこと教えないの!」

 

 海ちゃんに口をおさえられ止められてしまいました。保健体育の授業はまた今度にしましょう。

 でも夜、光ちゃんが寝ついたのを確認した海ちゃんがこっそりと聞きにきたのです。これ宝譿、「ムッツリスケベ」なんて言ってはいけないのですよ。

 宝譿がお兄さんの機密情報である双頭竜を漏らしてしまった時、海ちゃんはチラリと光ちゃんの寝顔を見たのです。ふむ。

 

「海ちゃんたちにはちょっと早いのですよ」

 

「な、なんのことかしら!?」

 

「光ちゃんはかわいいですからね。もちろん海ちゃんもかわいいですよ」

 

 これは華琳さまはともかくとして、お兄さんに会わせるのは楽しみなのですよ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 なんやかんやあって三人とも魔神を入手したのでモコナさんを説得して、ザガートさんと会っています。彼は戦うつもりでいたようですが、その必要はないと風は魔神から降りてザガートさんを説得します。

 

「風たちはエメロード姫を傷つけるつもりはないのですよ」

 

「セフィーロを救う伝説の魔法騎士(マジックナイト)がか?」

 

「はい。そもそもエメロード姫やザカートさんを倒しても、結局はたいして変わりはないのです。違いますか?」

 

「……エメロード姫に似ている? お前は何者だ?」

 

 ザカートさんは自分の思いの力で作ったというロボから降りてくれました。どうやら話を聞いてくれるようです。

 風のルックスが役に立ったのですよ。あとでお兄さんに自慢しましょう。

 

「風はそうですね。救世主の奥さんの一人、といったところでしょうかねー」

 

「ほう?」

 

「エメロード姫を助けたいなら風の話を聞くのがおすすめなのです。もちろんザガートさんも死なせないのです。エメロード姫が暴走しちゃいますからね」

 

 そう。ザガートさんの助命は絶対条件。他の男のために風が命がけでがんばってるなんて知ったらお兄さんは嫉妬してくれますかねー?

 それとも褒めてくれるでしょうか?

 惚れた女性のために世界がどうなってもいいなんて、お兄さんとも気が合いそうな人ですし。

 

 あ、光ちゃんと海ちゃんも降りてきたのですよ。念のために魔神の中にいてほしかったんですけど。まあ、いざとなれば宝譿(ウィンダム)がなんとかしてくれることを期待するのです。

 

「本当に戦う気はないのか?」

 

「セフィーロのためならそれがベストなのですよ」

 

「それよりも! エメロード姫を守るためって本当なのか?」

 

「恋人っていうのは!?」

 

 剣も抜かずにザガートさんにつめよる二人。どうやら乙女の感情を優先したようですね。戦いよりもコイバナが気になるのは至極当然のことなのですよ。

 

「お、おい?」

 

「おやおや、魔神と戦うよりも困ってませんか? もしかしてこういうノリは苦手ですか? 本当にお兄さんと話が合いそうな人なのですよ。もっとも、お兄さんだったら顔面中真っ赤にして照れながらも肯定するのです」

 

「え? 奥さんたくさんいるのにそんな初心なの?」

 

「呪いのせいで変にこじらせているのですよ。かわいい人なのです」

 

 恥ずかしがり屋さんで想いを表に出すのが下手だと思い込んでいて、それでも妻たちへの想いは否定したり誤魔化したりしないお兄さん。ああ、言葉に出すのをキスで誤魔化すことはしますね、たまに。でもその後にお兄さんをじっと見つめると観念して「好きだ」ってちゃんと言ってくれるのがかわいいのですよ。惚気になりますのでここでは言いませんが。

 

「……エメロード姫のことを愛している」

 

「おお!」

 

「ふうん」

 

「よく言えましたなのです。それでこそ助けがいがあるのですよ」

 

 いつもならここで眠りにつきたいところですが、光ちゃんと海ちゃんが心配するのでそれができないのがつらいところなのです。

 かわりとしてご褒美に飴をあげておきます。よくわからないという顔で飴の柄を握るザガートさん。

 

「まず、セフィーロの柱について詳しいことを確認させてほしいのですよ。モコナ」

 

「ぷぅ?」

 

「韜晦は風とキャラがかぶるので控えてほしいのです。まったく」

 

 この謎生物ことモコナはセフィーロの創造主。柱一人に重責を押しつけることを決めたある意味で諸悪の根源なのですよ。

 モコナが新しい世界秩序を認めてくれれば問題は解決するのです。

 

「エメロード姫は悲恋に酔って、その解決策を講じていないのが残念ですね」

 

「解決のために私たちを召喚したんじゃないのか?」

 

「いいえ。無理心中のお手伝いをさせるためです。もしかしたらザガートさんは死なせずに自分だけが死ぬつもりだったかもしれませんが、彼女が好きになったザガートさんがエメロード姫を見捨てる選択をするはずがないことはわかっているはず」

 

 飴を口にすることはしてなかったザガートさんは当然だと肯く。なめないんですか? 毒なんて入ってないですよ。風とお兄さんが厳選したオススメのフレーバーなのです。

 

「まあ、柱のシステムに囚われすぎともいえますね。セフィーロの犠牲者なのですよ。他の考え方ができなかったのもセフィーロで生まれ育ったからでしょう。モコナのせいですね」

 

「ぷぅ!」

 

 わかるような言葉で文句を言うわけでもないモコナの口を飴で防ぎます。ついでに光ちゃんと海ちゃんにもあげておきましょう。海ちゃんには甘さ控えめのやつですね。

 

「柱を殺すために魔法騎士を召喚したのに、柱システムそのものには疑問を持っていないのです。根本的な解決ではないのに」

 

「根本的な解決?」

 

「エメロード姫がいなくなれば次の柱が必要になるのです。でも、その候補はまだ決まっていないのですよ。投げっぱなしですね」

 

 お兄さんがもしセフィーロにきていたら柱候補にされていましたね。もっともセフィーロのことだけを考えるなんてお兄さんには無理でしょうけど。

 その場合はお兄さんに頼んで、強い意志を持つけれどセフィーロのことしか見えないお祈りロボを用意してもらえばいいだけなのですよ。

 

「柱がいなくなればセフィーロは崩壊します。ならば、まずすることは柱を殺すよりも先に次の柱を用意することなのですよ。もしくは」

 

「もしくは?」

 

「柱システムの改変。さらには廃止。できないワケではありませんよね、モコナ?」

 

 資料として見た漫画ではそうだったのですよ。もっとも、結局はどうやってセフィーロを維持することになったのかは詳しくわからなかったのですが。

 駄目だったらそうですねー、柱の祈りがないだけで闘争と混乱に陥るセフィーロの人たちをなんとかしないといけません。面倒ですが教育でしょうか。まずは学校からですねー。

 

「なんでモコナに?」

 

「この毛玉がセフィーロの創造主だからなんだぜ」

 

「これ宝譿、そこは風がネタバレするところなのですよ」

 

 




風はレイアースの風と融合
朱里だったら「東南の風」が魔法になったのに


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48話 球神考察

感想、評価、誤字報告、メッセージ、ここすき、ありがとうございます


 本州からBETAはほとんどいなくなったけどMuv-Luvシリーズで佐渡島が襲われた日が近いので、転生者のチームが佐渡基地に行っている。大陸からの侵攻もありえるって。

 ここを守り切ることができれば、大きな変換点となりえるだろうか?

 

 俺達の方は基地建設の合間にハルケギニアからやってきたフィオナとミズホを連れて空井の工場衛星へ。

 

「すごい設備ね」

 

「ここならエクサランスのメンテナンスもできそうです」

 

「でも、地球で活動したいんだろ?」

 

 そのためにハルケギニアからこっちにくることに納得してくれた2人。俺としては危険な地球よりもここにいた方がいいと思うんだけど。

 

「ええ。そのためにあなたのファミリアになることも了承したでしょ」

 

「地球はBETAが蔓延っていて危険だからファミリアにでもならないとそれは認めないって言っただけで、ファミリアになってほしいというより、断られると思ってたというか」

 

「使徒の目的が世界の救済……エクサランスの開発理念に通じています」

 

 フィオナ・グレーデンはともかく、ミズホ・サイキまでが俺のファミリアになってしまった。エクサランスは元々レスキューマシンとして開発中だったが、予算のために連邦軍に売り込もうとしていた。

 そこに俺達の目的が世界の救済と知ったのがまずかったのかもしれない。フィオナはそれに引きずられる感じ。友人のミズホを心配して自分も、ということだと思う。

 

「開発費の心配が減るのも助かるわ」

 

「それが目的? そりゃエクサランスの整備や開発には協力するけど、うちの神様はちょっと頼りなくて資金がそんな潤沢ってワケじゃないんだけど。ここだって空井の持ち物だし」

 

「いや、天井の能力あればどうにでもなるだろ? 俺だって世話になってるから協力は惜しまないぞ」

 

 空井がそう言ってくれるのは助かる。日本の基地も工事が進んでいるけど、30メートル級のエクサランスの整備は面倒かもしれない。換装フレームも造って並べることも考えると専用格納庫が場所を取るだろう。ちなみに今は装着中のストライカーフレームしかない。

 

「費用の問題は開発者につきまとう難関よね」

 

「そうなんですよね!」

 

 同じ開発者のアイシャが開発費発言に同意した。……ふむ。ピンク髪に巨乳の開発者ってミズホと属性がカブるな。引っ込み思案のミズホとは性格が大きく違うけど。

 

「時流エンジンも興味深いわ。タイムマシンとして作用するなんて」

 

 マクロス30もプロトカルチャーの遺跡を使って、世界を過去に戻して再編しようとするのがラスボスの目的だったな、そういえば。

 

「それだけど本当にここ、過去なの? 異世界なだけじゃなくて?」

 

「ああ。ハルケギニアで会った知り合いが教えてくれた。君たちも戦ったあの爆発の時よりも10年前らしい」

 

 スパロボRだと5年前だった。まだ合流できない嫁さんたちや他の()も同じく過去に跳ばされているんだろうか?

 早く華琳たちに会いたい。

 

「魔法のタイムマシンって簡単に言われても」

 

「それはそう。あいつ、無茶苦茶だから」

 

「煌一がそれ言う?」

 

 あれ? ここにいる嫁さんたちがうんうんって肯いてるんだけど?

 俺、セラヴィーほどぶっ壊れたギャグキャラじゃないよね。

 

「そいつらもファミリアにしたのかい? なら、うちの娘たちもファミリアにしてくれ」

 

「鈴菜たちに戦いは向かないでしょ?」

 

 娘を俺の嫁にするのはまだ諦めてないのか。そしてますます18号っぽい口調になってきてるな、由利子さん。

 18号の記憶が少しずつ戻ってきているようだ。どうやら彼女は悟空たちとまだ戦う以前だったみたい。

 ドラゴンボールではドクターゲロに逆らって停止させられてたけど、悟空たちとの戦いで不利を悟ったドクターゲロによって起動していた。その停止期間中に由利子さんと融合したようだ。

 

「ドクターゲロを殺せなかったのは心残りだね。17号が始末してくれればいいけど」

 

「弟もこっちにきてたらどうする?」

 

 中の人が同じグンマと融合してなかったのはホッとしていいのか残念なのか。いや、上総凜のようにこれから融合もありえるのか?

 スパロボ世界でショウ・ザマやトロワ・バートン、式部雅人との融合もないとは言えないかも? もしくは名前で……たしか本名はラピスだっけ。劇場版ナデシコのラピスとの融合はちょっと嫌だなあ。

 

「それもいいかもね。姪っ子がハーレム入りだなんて知ったら面白そうだよ」

 

「えっ?」

 

 そうか、鈴菜と水菜の叔父になるのか。姪っ子のことで気に入らないって襲われたりしないといいのだが。

 やっぱり2人の嫁入りは断りたい。

 

「マジで18号だ」

 

「へえ、あんたが空井かい? たしかに煌一さんに似ているようだね」

 

「融合ってフュージョンみたいに中間形態じゃなくて、片方の姿形になっちゃうのか?」

 

「そうみたいだ。……空井も俺の嫁さんが融合してそうな人物を考えてくれ。もし、もしも死んでいたら復活させてくれ、頼む!」

 

 ファミリアやその候補は死ぬとカードになって、そのマスターである使徒なら復活させることができる。ただしGPがかかる。空井の〈死者復活〉ならそれがかからない。引き換えに能力を失うが、レベルアップしてそれが無くなったという。……欲しかったなあ、そのスキル。誰も死なせるつもりはないけど安心感が違うから。

 

「わかった。シャロンやみんなも考えてくれ」

 

「了解よ。代わりに、私の身体をお願いね。ブラッドテンプルやエルガイムMk-IIもスキャンしたのでしょう?」

 

「うん。最近の設定でシンボライズド・コンピューターになってるかと思ったけどしっかりファティマを使ってた。でもあれ、有機コンピュータだけどシャロンが複製できるの?」

 

 エルガイムのファティマ設定って、昔の設定本にはあったんだけど、最近はなくなっちゃったみたい。だからスパロボのアイテムでファティマが出なくなってる。

 でも、球神の資料が古かったのか、ダバに見せてもらったA級ヘビーメタルにはファティマが使用されていた。

 

「そのまま複製ならできるかもしれない。でも私が欲しいのはFSSのファティマボディ。あなたなら用意できるでしょう?」

 

「あー。娯楽用に漫画や動画がほしいって渡したデータにFSSあったか」

 

 って、ファティマかー。既存のキャラなら成現(リアライズ)できそうだけど、シャロンのボディ用のを考えなきゃいけないのか。むう、EP注入は空井に頼むか。

 アクエリオンを借りれば、難しい成現(リアライズ)もできるだろう。

 

「まあ、氷室美久のボディを使うって言い出さないだけマシか」

 

「え?」

 

「グレートゼオライマーも修復が進んでいるわ。私のボディが遅くなるようならそれも悪くないわね」

 

 立体映像のシャロンが美久の顔をなで、彼女の顔が引きつる。

 

「バーチャルアイドルで美久……初音ミクになりそうな」

 

「早くシャロンのボディを用意してください!」

 

 焦ってるってことは美久のセキュリティよりもシャロンの方がハッキング能力が高いのかな?

 このシャロンはそんなことしないと思うんだけどなあ。

 

「そ、そういえば偵察用のドローンはなぜBETAに攻撃されなかったんだ?」

 不穏な空気に話題を変える空井。

 ふむ。

 

「BETAが脅威に感じていなかった? これは人工衛星がBETAに攻撃されていないのと同じような理由かも?」

 

 搭載コンピュータの能力が高いほど攻撃されやすいってのも言われてたのでCPUの性能は最低ランク。操作や情報を処理する側の性能で補っている。

 

 小型でそもそもコストを下げるために攻撃能力を持たないドローン。攻撃能力を持たせることは簡単だがそれはせずに偵察専用に留めておくべきか。

 人工衛星があれば無用と思われるかもしれないが、ハイブ内の偵察にも使えるかもしれないしな。

 

「BETAに見つからないように成現(リアライズ)していたんじゃないのか?」

 

「あの時はそんな余裕なかったよ。攻撃されるようになったら発見されないドローンを成現(リアライズ)することになるかな。……いや、ドローンよりも戦術機の開発か」

 

 BETAが転生者のロボに対抗して新型種が出るかも知れないのが不安。超重光線級も早めに出てくるかも?

 早めにBETAを駆逐したいけど、そうなると転生者たちを各国がどう扱うかが疑問。功績を挙げて日本に囲ってもらうのが無難か。

 転生者たち自身がどう考えているかも知りたい。日本国籍を入手して暮らすつもりなのが多そうではあるが。それともパプワ島で?

 

 球神の要求がどこまで求めているかってのもあるな。太陽系のBETAを駆逐ってレベルにまでだと面倒なんだが。

 俺としては早く嫁さんたちと合流したい。

 

「ってのが俺が考えている大きな問題かな?」

 

 思いついたことを一気に話してみた。

 

「ぶっちゃけた話、BETAに関しては熱気バサラがいればなんとかなりそうってのはあるけど、ポイントでは仲間にできそうにないんだろ?」

 

「う、うん。さすがに規格外すぎて駄目みたいだ。生歌聞きたいのに」

 

 あの人が出てきた段階で話が終わっちゃうから、マクロスシリーズだと脇役で出てこないんだよなあ。ヴァジュラだってすぐ意思疎通できただろうし、BETAの重頭脳(マザーブレイン)級に人類が生命体だって認めさせて、戦いを終結させることができる。歌がその証拠になるってさ。

 

「BETAには歌や音楽がないのかしら?」

 

「どうなんだろうね?」

 

 バサラだとそんなの関係なく歌い続けて、BETAたちも歌い出しそうな気はするけど。

 

「まあ、転生者たちの戦力を結集すればすぐにでもオリジナルハイブを攻略はできる気がする。ただ、その後がね。共通の敵がいなくなったからって世界大戦なんてされたら面倒で」

 

「米ソがどう動くかね」

 

「転生者の戦力を接収しようとするだろう。ならば先にそうされない立場になっておきたい」

 

 日本国籍が入手できたとして日本人として普通に暮らしていけるかってのも疑問だけどさ。

 その後の生活ってみんなどうしたいんだろうね?

 子供ができたら、その子たちも大変だろうなあ。

 

「無事な土地を巡って国家間の戦争が発生するかもしれない。そのための新型戦術機なのね」

 

「一応、BETA駆逐が主目的だよ。そして、開発は今んとこ米国と共同開発ってなってる」

 

「ママが協力してくれてるからね」

 

 アメリカは今のとこMuv-Luvとは違い、日本でG弾を使用していない。転生者たちの様子を窺ってるのだろう。このまま都合のいい味方でいてほしい。

 難癖つけて先に手を出させるのは得意だが、自分からは表立って侵略戦争を行わないのが俺の世界のアメリカだった。アメリカがソ連より強くてもすぐに大戦は起きにくいと思いたい。逆だと世界大戦になりそう。

 

 ……代理戦争はあるか。

 そのためにも戦術機の共同開発ぐらいはいいいだろう。TEでもやってたし。

 

「日本ばかりがBETA戦で活躍してると、アメリカも地位の確保のために余所で功績を上げようとするだろう。宇宙脱出を計画してる連中が発言力を高めようとG弾を使う可能性はありえる。日本では使わせないように用心したい」

 

「日本だけなのか?」

 

「他には手が回らん。酷い話ではあるが、余所で実際に使われたデータを知って使用禁止にしてほしい気持ちもある」

 

「いいの? 実際にそんなことになったら落ち込むくせに」

 

「泣いちゃうよね?」

 

 むう、俺の性格がよくわかってる嫁さんたちのツッコミが的確すぎる。だけどこの世界はそんな甘いことを言ってられるようなとこじゃない。

 さらにいうなら優先すべきは嫁さん全員と合流すること。世界中に俺の存在を見せつけて、融合して記憶が戻っていないかもしれない嫁さんたちにも思い出してもらわないといけない。

 記憶を刺激するには俺じゃなくてもいいんだけどさ。だからこそシェリルやランカたちの歌はバンバン流してほしいワケで。

 

「G弾ってそんなにヤバイの?」

 

「放射能は出さないが使った場所では重力異常が続いて、さらに植生が回復しない。地球で使っていい爆弾じゃないな」

 

 オルタネイティヴ5の連中は地球を捨てるつもりだから、そんな爆弾も使いまくっても問題ないってことなんだけどさ。

 宇宙脱出したい連中は異星人設定の転生者に接触して「宇宙もBETAだらけ」という事実を知らされるも納得してくれないんだとか。

 

「ディメンション・イーターみたいなものね」

 

「そんな感じ、なのかな?」

 

 ディメンション・イーターはマクロスシリーズに出てくるフォールド爆弾の別名。MDEがマイクロ・ディメンション・イーターの略でMDE弾頭だったりMDEビーム砲だったりでバルキリーの武器にもなってる。

 まだ使ってないけど俺も用意できたりするし、この工場衛星でも造れるんじゃないかな。

 

「ハルケギニアのこと知ったらバーナード星系じゃなくてそっちを目指しそう」

 

「むこうの人間と戦争になるな。地球側が侵略者で」

 

 オルタネイティヴ5ならまさにうってつけの避難先に見えそうだもんな。エルフ相手どころじゃない聖戦がおきそう。絶対に知られるワケにはいかない。

 

「宇宙脱出派が主流にならないように、人類がBETAに勝てると思わせなきゃいけないのか。でもすぐにオリジナルハイブを攻略はできないし、手の内を全部出すことはしない。……面倒だな」

 

「だよなあ。せめて球神様がどう考えてるかわかればいいんだけど」

 

「転生者をその後どうするか、か。なんか転生者ってむこうで死んだ覚えのあるやつが多いみたいだから、元の世界に返すってのはなさそう?」

 

「帰れるにしても、仲間を連れてけなきゃ嫌だ。他の転生者だってそうだと思う」

 

 まあ、そうだよな。自分を好いてくれる相手を置いて、なんてどう考えても認めたくはない。嫁さんたちの多くと離れ離れになっている俺の現状、その思いはわかり過ぎている。

 

「かと言って、BETAを宇宙から駆逐するってのも終わりがなさそうだから、適当な最終目標がほしい。その後どうなるかも含めて。その辺、シャロンわかる?」

 

 立体映像の彼女は無言で首を横に振るだけ。

 わかってないから新しいボディを用意して備えたいのだろうか? 神が今のシャロンボディ、たぶんモノリスキューブっぽいアレ、を廃棄してもいいように。

 

「……球神様、転生者に紛れてないかな?」

 

「へ? 球神が転生者に?」

 

「ああ。うちの駄神も最初は使徒だってことにして自分のアバターを紹介してきた」

 

 あいつ、どうしてるだろうか? 俺達が行方不明になったってモンモランシーには説明したようだけど、探してたりするんだろうか?

 

「……そういう感じで怪しいのならいる。転生者3番こと高町恭也だ」

 

 たしかに転生者3番こと高町恭也は怪しい。いろいろと違和感がある。

 

「そうなんだよ。メカニックを選ぶならグンマじゃなくて月村忍だよな?」

 

 能力だけで選ぶなら別のキャラになればいい。KYOUYAになりたかったというより中の人で選んだような。

 いくらストイックなキャラでもギャルゲー主人公なのに女性キャラを仲間にしてないのは妙だ。公式で嫁扱いの女性を選んでいない。おかしい。吸血種だから特典で選べなかった? 他の特典から考えると選べそうな気がする。

 

「パプワ島を特典に選んだのも怪しい。いくら好きでもあそこに住みたいと思うか?」

 

「……俺だったら勘弁してほしいかな」

 

「いくらなんでもあの島を拠点にってのが不自然。そうするならむしろ自分をパプワにするだろ? でもそうしなかった。球っていえばさ、秘石ってあったよな?」

 

 空井が転生時に見たという球神。

 不思議な球といえば秘石。

 

「喋る赤と青の球……えっ!? まさか、あれが球神? この世界はゼロ魔とMuv-Luv、顔のない月の世界かと思ってたけど、まさかパプワくんの世界ってこともありえるのか?」

 

 秘石とは南国少年パプワくんに登場した意志を持つ石。とても強い力を持っている。赤と青の2つの秘石があるが、青の方が性格が悪い。だったかな?

 

「BETAからパプワ島を守るために転生者たちを用意した? 番人であるジャンではないのはパプワ島から動かしたくなかった?」

 

「女性キャラを仲間にしてないのも、秘石だって考えれば納得できそうな……でもそう言ったら丈太郎だって」

 

「あいつはただ、眼鏡メイドにしか欲情できん性癖なだけじゃないのか?」

 

 転生丈太郎はたんにジョジョに好きな女性キャラがいなかったから仲間にしていないような気がする。ずっと倉木の眼鏡メイドにアプローチしているし。

 ジョジョに拘るあまり、ジョジョ以外から仲間を選ぶ気がないのだろう。転生時に選んだ特典に関係ない作品からだと今はポイントもかなりかかるようだってのもある。

 

「……いや待て。秘石は赤と青の2つがあったよな?」

 

「球神は2人いて、他にも神のアバターがいると?」

 

 恭也が口数が少ないのは元ネタになりきっているだけではなく、無口な赤い秘石だから?

 3番がそうだとしたら青い秘石の関係者がいてもおかしくない?

 

 

 ◇ ◇

 

 

 それとなく恭也と話してみるってことで、球神関係の話は締めた。他のアバター候補は数名いたが、俺的には怪しいムーブをしている5番の鎧衣尊人を疑っている。探るような接触を繰り返しているから。

 

「で、むこうで問題になってることも相談しようか。BETAの死骸の処理とか」

 

 要撃(グラップラー)級の前腕、突撃(デストロイヤー)級の甲殻は素材としても優秀に思えるが、そのモース硬度15以上の硬さが加工を困難にしている。悪魔将軍よりも硬そうだ。

 戦車(タンク)級の歯も弾丸として使えそう?

 加工できる装置ってなんかあるかな?

 

 数が多いので死骸の処理だけで予算がかかってるらしい。

 仕えない部分は焼却?

 

「BETAって食えないの?」

 

「悟空なら食いそうだけど……毒とかありそう。というか、毒がなくても正直あの肉は食いたくないな」

 

 直接口にすることはできなくても、肥料や土にすべきかも。大地も汚染されて合成食に頼る状況ならなおさら。

 

「炭素生命体なんだから甲殻じゃない他の部分も分解はできる?」

 

「菌類や微生物で? それとも虫か?」

 

「あ、パプワのシミズくんならなんとかしてくれるかな? ドラクエビルダーズ2のおおみみずみたいに!」

 

「それともBETAを捕食する生物を成現(リアライズ)……対策されても困るから死骸の方だけにしとくか」

 

 えーと、コスモクリーナー搭載ヤマトを成現(リアライズ)すれば浄化はできるな。1メートルサイズくらいならアクエリオン借りなくてもMP足りるべ。シャロンにで遠隔操作してもらえば効果範囲が狭くても無駄なく浄化できるはず。

 その後におおみみずっぽい謎生物を成現(リアライズ)してBETAの死骸を分解、いい土に変えてもらおう。謎生物は繁殖能力をなくして、特定の場所から移動しないようにして……生物ならクランが詳しいから、相談してみるか。

 

「これで農業が活性化すれば合成食も少しは減らせるかな?」

 

「肉はすぐには無理そうだから合成食頼りかな」

 

 フロンティア船団のデータがあれば農業の効率は上げられるかもしれない。だって自然環境を重視した船団だったはずだから。アイランド3みたいな農業プラント艦を宇宙に用意できれば……いや、それだとオルタネイティヴ5が活気づいてしまうか。

 

「甲殻部の処理はこっちに持ってくればたぶんできるわ」

 

「モンハンの武器の生産みたいだな」

 

 アイシャはそう言ってくれたけど、死骸とはいえBETAを運ぶのいはちょっと怖いような。死亡確認して、柔らかいとこ喰われて硬いとこだけになってきてからだな、ここに持ってくるのは。

 

「衛星のオリジナルハイヴに行ってもらったバルディエルは少しずつ重頭脳(マザーブレイン)級に近づいてる。一度発見されて侵蝕したBETAごとハイヴから排除されたから慎重にやっているの」

 

「EVA3号機みたいに浸食した相手も強化できるんなら一気にいけそうな気もするけど、もっとソフトに攻略したいワケか」

 

「こっそりと確実に。何度も使いたいからね、この手」

 

 木星の衛星はいくつもある。直接戦うより寄生して重頭脳(マザーブレイン)級をハッキングは理にかなっているかもしれない。管理下のBETAも味方にできるかもだし。

 

「いつかBETAにも歌が届けばいいのに」

 

「そのためにも歌い続けましょう、ランカちゃん」

 

 ああ、なんかしすたーずの歌が聴きたくなってきたよ。元気でいるといいなあ。

 

 



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