スカイリムの世界にクラス転移したと思ったら憑依転生だった。 (如月 怜鬼)
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プロローグ
プロローグ『転移するらしい……。えっ?』


色々と作品が滞ってるなー。ぐぬぬ。
とりあえず霧がいいところまで毎日更新を頑張ります。

学生の息抜き程度ですので、生暖かく見守っていただければ何よりです。


 予鈴が鳴った。

 本来ならば九時開始なのに三十分以上も前に登校してしまった俺はその鐘の音を聞いて机から身を起こす。

 ずっと机に突っ伏していたせいだろうか、なんだか腰が痛い。

 

「お、ようやくお目覚めか」

 

 ボケっと時計を眺めていたら隣の席の友人にからかわれた。

 なんだが腹の立つ顔だな。

 

「いつもギリギリにくるお前が三十分以上前に登校とか、明日は台風でも出現すんじゃね?」

 

 まあ予想はできていたが斜め後ろからも声が掛けられた。

 

「……うるせえ。別にいいだろ。あれは登校時間と学校の滞在時間を極限にまでな──。お前らには前にも言ったから、もういいや」

 

 俺は斜め後ろにいる別の友人にも返答しつつも、再び机に突っ伏した。別に返答が面倒とかそういうわけじゃないぞ。

 

 ……という訳で自己紹介が遅れてしまった。

 俺の名前は近重如月(このえ きさらぎ)だ。

 苗字の後にまた苗字のような組み合わせだ。親には悪いけど、なんかイマイチだとつくづく感じてしまっている。まあ、イマイチって思うのは高望みしすぎているのか。

 まだ隣の席のやつの名前の方が良い。なんだか名前名前してるし。……意味わからないな。うん。

 ……それはさておくとする。

 

 では、本題に移るとしよう。

 友人は揃いに揃って明日は台風だとか何だか茶化してくるが、確かに自分でも明日は大雪にでもなるんじゃないのかなと思ってる。

 だが、この登校時間には訳がある。

 昨日の夜、夢を見たのだ!

 

 あ、いや。単純にただの夢とかそういう訳じゃないんだよ。

 女神様が出てきてこんにちはってしてくれたんだ。コミュ障の俺はろくに会話もできなかった。せっかくの未知との邂逅だってのにくそう。

 そんでもって、酷いコミュ障の最中に頑張って聞いてみたんだ。

 すると、転移が発生するからどうか平常心を保っていてくれだって。

 いや、そこはそのまま異世界とか別世界に転移させて貰いたいところなんですがね。

 起きてから今怒っていても仕方が無いと思ったのでサクッと準備を済ませて学校へと向かうことにした。

 ちなみに何かを持ってきても無意味だということなので、いつも通りの荷物だ。ちなみにDドライブは時限式で削除できるように準備してある。

 

 このような感じでズルズルと過ごした朝の時間。

 ……あれ、起きた時間はいつもより少し遅いくらいなんだけどな、どうして三十分も前に学校につけたのかな。

 べ、別に今日は古代の書物その5(SKYRIM)とか支払い日弐(PAYDAY2)とかやってた訳じゃないですし。

 うん、自分で言ってて悲しくなってきた。

 

 え? 自爆乙だと……?

 そうです、自爆です。はい。

 

 ……とりあえずは、まあそんなことは置いといて、一先ずはその召喚とやらを待つばかりである。

 ここまでの思考、わずか一分強。あと三分くらいで朝のHRが始まる。

 何だか楽しみで体の奥底からふつふつと耐え難いワクワクが湧き上がって、思わず笑みがこぼれる。

 え、嘘なんじゃないかって? シンジテマスヨー。

 

「……おい、どうした近重。気持ち悪いくらいにニヤニヤして」

 

 見られた、鬱だ、死のう。どうでもいいが、この思考まで行き着くのに一秒掛かってなかったりする。

 

「き、気持ち悪いは余計だろ。気持ち悪いは……」

「は? 本当の事だろ?」

 

 やばい、こいつのこの一言だけででも軽く死ねる原因になるわ。友人の罵倒を苦に自殺とか笑えねえ。

 急に召喚がどうとか言っても信じるわけもないだろうし当たり障りない嘘を吐いておく。

 突然召喚されるとか言われても信じるわけないもんね! 女神様(そういえば名前聞いてない)に直接言われた俺だって半信半疑だし。ア、ヤッパリ、シンジテマスヨー。

 とはいえもし本当だったらと思うとワクワクしてたりする。

 

「……あー、えっとなー、最近ハマってるゲームのMODの更新が来たんだよー」

「へえ。そうか」

 

 うん、知ってた。予想通りでド直球の無反応。勢いがつきすぎてデッドボール間違いなし。

 ま、手加減されたスローボールも打てない程の実力なんだけどな!

 

 おい、そこの男子勢も"なんだ"とか"つまらねー"とか言ってるんじゃねえ!

 ほら、そこの反応に呆れ返ってる番長(悪い顔してるが字が綺麗なので本当はイイヤツだ)を見習いなさいよ。

 あれ、番長も視線がこっちに固定されて睨まれてら。キャーコワイ。

 とはいえ、一年の頃は彼のグループによくいじめられてたんだけど大分丸くなったんだよな、番長も。

 

 実際の所、裏ではちょくちょく遊ぶ仲でもあったりする。表向きはあーやって距離を開けてはいるが。

 まあ俺との勉強会のおかげでお陰で地味に成績もつけたらしいし感謝してくれている。

 

「マジで気持ち悪かったぞ、今さっきの顔」

 

 うわあ。

 番長、どストレートに言ったぁ。

 この傷は一生心に残るわ、こりゃ。

 ピコン、っと俺のスマホに通知が。

 

番長殿:まあ、なんだ。元気出せ。

 

 死ねる。

 

「皆、おはよ──ってなんだこの雰囲気は?!」

 

 先生のキョドり具合に思わず笑いをこぼして(勿論、心の中で)しまったが、周りはしんと静まり返っている。

 そして微妙な空気を残したまま本鈴が鳴り、HRが始まった。

 

 ──と思った瞬間だった。

 

《神なき世界に住む、定命の者達よ》

 

 あの(女神様)、だ。

 

《訳あって説明は出来ないが、タムリエルの危機を救えるのはもはや貴方等しか残されてはいない》

 

 あれ、今のは空耳?

 タムリエルって単語が聞こえたんだが。それが嘘じゃなければ……!

 

《貴方達の魂と器は貰い受けさせてもらうわ。我が命に従って契約を果たしなさい!》

 

 説明の時間はなかった。

 それは即ち思考の猶予も与えられなかったということ。

 俺の意識が暖かい何かに包まれていくのが分かる。

 これが異世界転移って奴なのか。

 

 

 そして、弾けて消えた。




だいぶはっちゃけてます。
あらすじの厳格な雰囲気を壊してごめんなさい。
そして、次は三十分後です。

11/11
……ウザさを軽減しました。


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第1章『転移と憑依と転生もの』
第1話『タムリエルに立つ─1』


 ああ、瞼が重い。

 二度寝した時、若しくは十分な水分が足りない時の寝起きを思い出す。

 

「ふわぁ~、眠い……」

 

 鈴のような心地の良い声が密室に響き渡る。いや、どうやら俺は箱のような何かの中にいるらしい。って、箱みたいな何かって何なんだよ。

 いや、分からないから何かって表してるんだけども。

 地味に寝心地いいのが頭にくる。

 

 すっと力を込めるとそれは簡単に開いた。簡単に開いたそれは棺のような形をしており、これ棺?

 まさかと思い自分の手を見てみる。

 白くて細くてスベスベしてて、今にも折れてしまうんじゃないかと思えるような細い手。

 なんじゃこりゃと声を上げたくなる背の低さ(見慣れた景色じゃないが視点の低さはよく分かる)。そして、肩にかかるか、かからないかくらいの銀にきらめく髪の毛。サラサラシテルー。

 そして、付いていない。言わんでも皆ならわかるだろう? 直接見たから間違いないな。うん。

 それよか何があったんだ、俺は。

 ん? 転移のはずだろ? え、これどうなってんの?

 そして、ふと考え至った事を実行に移してみる。

 

「ファス、ロー、ダー!」

 

 ブォッと何もないところから沸き起こり、壁を余裕でへこませたのは風のような何か。いや、いわゆる衝撃波ってやつだろう。

 今やって見せたのはシャウトと呼ばれる声の魔法で、スカイリムなどのThe elder scrollsシリーズのゲームにおいて攻撃したり逃走に利用したりと非常に有用な魔法の一種なのである。

 箱版のスカイリムにて某kinectを用い、先程のようなドラゴン語を発することでこの魔法を発動することが出来る。あくまで、ネタ程度に。

 その影響でシャウトは大分覚えている自負はある。

 

 ってか、これが使用できたってことは。俺ってドラゴンボーン?

 と言うか鏡はないのか。鏡は。

 

 一応だが、この姿を目に焼き付けたい。様々なMODを利用して作り上げたであろうこの我がメインキャラクター「氷姫(ひょうき)」のきゃわゆさを!

 

 白金の如く煌めく1本1本の髪の毛、それを方よし少し長いくらいに整えたセミストロングの髪型。

 吸血鬼と相成ってしまった影響からか真紅に染まったその瞳に、小ぶりで引き締まった鼻と口。

 クーデレが好きなので表情は無表情でそこはかとなく幼さとあどけなさが──って、今そのキャラが俺自身だったのかっ。

 鏡ー! プリーズ!!

 

 ──などと、一通りきゃわゆさを想像し、興奮したが鏡が無いために、泣く泣く断念。ぐぬぬ。

 とはいえここに居続ける必要は無いので外に出ようと思うのだが、出口らしき所が見事に崩れ落ちていて出ようにも出られない。

 

 ……一旦状況を整理しよう。

 起きたら棺の中で、女の子になってた。

 そんで俺はドラゴンボーン。

 んで、髪の色と背の高さから推測するに恐らくゲームではメインキャラクターに使ってた吸血鬼ちゃん。確証はないがそんな感じはする。

 

 あれ、吸血鬼って単語は初出?

 ちょいちょい説明するなら、ドラゴンボーンはドラゴンの血脈を持っており、シャウトの習得が尋常じゃないくらいに早くなるチート。

 そんで吸血鬼は吸血鬼。

 説明はいらない。そのままだ。

 

 あ、でも吸血鬼の中でも吸血鬼の王とかいう奴だったな。

 吸血鬼の王ってのは吸血鬼と変わらないけど別のスキルツリーが出てくる。

 MODを導入したら余計に強くなっちゃう困ったちゃんとでも言っておこう。

 

 

 

 と、ここで俺はバッグ(ポーチみたいな見た目しているが中身は底なしの異空間に繋がっていた)を見つける。

 あれこれ、中に入ってるのゲーム中に使ってた装備じゃないか。残念なことにゲーム中に持っていた雑多なアイテムとかは無いが。

 武器MODの剣(伝説的)に、防具MODの装備(内部データは弄っており、大半がエルフ装備(伝説的)と同等かそれ以下と言っても(伝説的))の数々。

 

 ゲーム中でもお気に入りだった服を見て、きゃわゆい姿を妄想するが鏡がないので項垂れる。

 もし、データ通りならえげつない数値のはずである。

 因みに今の装備は多分ベルト付きチュニック的な物なのでサクッと着替えてしおう。

 

 

 さて、閑話休題。

 今回紹介いたしますこちらの装備はモデルを1からわざわざ作成したこだわりの一品(伝説的)……。

 あー、暇つぶしとはいえやっぱりボケは一人だと辛いものがあるな。

 まあ、これらは気が向いたら説明しようと思う。

 

 とりあえずはこの伝説級の可愛い装備(当社比)を身にまとった俺に敵なしだな!

 そして道無き道に無理やり道を作ろうとしていたら、ハラリと紙片がバッグからこぼれ落ちる。

 

 紙片には以下のように書かれていた。

 

"近重 如月 様

申し訳ありません。

私の手違いによりこのような事になってしまいました。

お詫びとしてこちらの品を持ってきました。

ぜひご活用ください。

P.S.

夢の話は無理そうなので、

別の人に頼んでおきます。

           女神メリディア"

 

 言語はもちろんシロディール語(英語)で、何故だかよくわかる。今なら平均点かそれ以上だった英語の定期テストが満点取れるかもしれない。

 勿論、この手紙にもシロディール語が使われている。

 

 ってこれの差出人メリディア様じゃないですか。生命を司るとも言われてるし、こんな憑依転生的なものも出来るのだろうか。……関係ないかも。

 裏の方には御丁寧にこの部屋からの脱出方法が書かれている。それにしてもこの追伸は、もはや悪意だけしか感じない俺は異常なのだろうか。

 てか転移って聞いてたんですけど、なんで憑依してるんですか。教えてメリディア様!

 

 一先ずはありがたくこれを利用させてもらうとしよう。

 多分このままだったらこの部屋で永遠に精神をすり潰すところだっただろうしね。

 という訳で、いざタムリエル大陸の世界へ!

 

 こうしてこの密室を何事もなく脱出した俺はタムリエル北端の大地に立つ事となるのだった。



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第2話『タムリエルに立つ─2』

まだまだ続きます3話目です。

11/14
フードの描写を追加。


 さてさてこちら、早速地上に出てきた吸血鬼の王です。

 太陽があってもう既にペナルティが痛いです。はい。

 吸血鬼ってのは皆も知ってのとおり、光に弱い。

 銀の剣とかにも弱くてDLCがないとかなりきつーい縛りプレイを要される。とは言え、DLCがあってもペナルティが軽減されるだけであって、きついことには変わりがない。

 

 その代わりイベントでなれる吸血鬼の王とかは新たなスキルツリーが出てくる。

 ちなみに、MODの中にはスキルツリーに色々なパークを追加する物もあり、その上太陽のペナルティを無くせるフードもある。

 よって、、吸血鬼ライフを充実出来るのでオヌヌメだ!

 

 ちなみにそのフードは持ってるけどとりあえず使わないでおく。ペナルティにもなれた方がいい気がしたんです。

 この調子だと慣れない気もするけどね。

 

 まあそんなこんなで、ドMプレイヤーな俺はMODでクリーチャーのスポーンポイントを追加したりと、難易度爆上げして遊んでたためにそこそこゲームバランスは取れていたはずだ。

 食事や喉の乾き、休息の概念を追加する私は必要とする(あいにーど)とかもオヌヌメだ。

 但し吸血鬼に腹減り喉の乾きのペナルティがないので逆にボーナスが付いて吸血鬼プレイが捗った覚えがある。

 まだまだ説明したいやつはあるが割愛させてもらう。

 

 とまあ、長くたらたらと言葉を連ねているが北の大地を絶賛迷子中である。

 あれこれ尋常じゃなく広くね?

 村とか城塞都市とか狭いとはちょくちょく思ってたけどゲームプレイにはちょうどよかった。そう、ゲームプレイには。

 

 例えを挙げるとするなら村とかは小さすぎて集落ってレベルだったし、ホワイトランとか城塞都市なのに狭く、思った以上にこじんまりとしている。

 何より、人口密度が思った以上に低くて草生えてたけども。

 いいや、草生えるどころじゃなくて大草原不可避ってレベルだった。

 

「はぁ……」

 

 気が抜けたのか思わず口からため息が溢れる。

 

 リアル体力だったら今頃足が持たれてただろうし、道中で力尽きていたであろう。

 マラソンとか完走したら小学3年の時から中学、高校と関わりなく毎年ぶっ倒れてたし、これには(無駄に)自信がある。

 それが今やこうやって悪路を何時間も歩いてるんだよなあ……。

 そして、人っ子一人も見ないなんて一体どうなってるんだってばよ。

 

 魔法は火炎とか氷雪とか基本はもちろん全部覚えてたし、アイスジャベリンなどの精鋭や熟練者の魔法も習得しており、俺Tueeeの準備は出来ているぜ。

 ちなみに今は炎のマントを使って寒さを凌いでいるのでスカイリムの気候は何の問題は無い。

 一言だけ言わせてもらうなら、触れても衣類とかが燃えないのが非常に不思議である。

 

 炎のマントに触れた瞬間に即座に手とかを引っ込めそうになるのはやめて欲しい。

 俺の脳よ、ビビりすぎだ。

 

「これだけ、歩いて、ようやく、辺鄙な、洞窟……」

 

 何時間も歩き続けてようやく何かの洞窟である。

 それもベルゲンの脱出にでも使われそうなもので、マップにマーカーも表示されなさそうな洞窟だ。

 ……完全にハズレだろうな。

 そう思い、俺は洞窟から離れようとした。

 

「ぅ……」

 

 呻きにも聞き取れるような声が聞こえた。ごく僅かにだが、確かに聞こえた。

 丁度、吹雪は晴れており、他の雑音は一切聞こえない状況のハズだ。俺の耳に間違いはない。

 俺は人肌恋しさに走って洞窟の中へと踏み込んでいく。

 念のためだが、魔法を解除しフードを被った。

 

「……だ、れか、い、るのか?」

 

 ひどく弱々しい瀕死と見て取れる声だ。

 目を凝らすと洞窟の地面に倒れ込む人の姿が見えた。

 服装は帝国軍のもので、俺としてはとても見慣れたものだ。

 声とかで恐らくハドバルであると推測される。ソースはあるMODでこのような始まり方が存在しているからだ。

 防具とかもMODで導入したものがあのカバンに入っていたし……。うむ、きっと間違いない。

 今はそれどころではないが、軽く説明するならばスカイリムの始まり方の幅を広げるMODである。確かI live なんちゃらっていう名前だったっけな。

 

「そこの、誰か、分からないが、俺に回復、のポーション、を……」

 

 こんな瀕死状態でも回復のポーションで復活できるのか。なあ、回復のポーション。お前って便利な代物だよな。

 とはいえ薬に頼るのは良くないと思うので魔法を使ってみることにする。勿論、回復関連の魔法がどのように使えるかどうかの実験も兼ねている。

 

「"治癒の手"」

 

 思っていたより発動は簡単だった。

 炎のマントを発動した時よろしく、異世界補正だかなんだかですっと口から詠唱が出てきたので一安心だ。

 後は二連の魔法による回復力にモノを言わせ、高速で瀕死の人物を回復させる。

 俺の魔術はとてつもなく効力を発揮したようでハドバルの険しげだった表情が即座に和らいでいく。

 

 これなら武器なしでも魔法だけでやっていけるかもしれないな。この様子ならほかの魔法で弓とか両手斧とか色々出せるだろうし。

 

「うう、ぐ……助かった。危うく死ぬところだったよ」

 

 まだ確定はしていないが、ハドバル(?)が俺に語りかけてくる。その語り草は正に人そのもので、この世界が現実であることを遠回しにだが教えてくれる。

 

「やはり夢じゃない……?」

「夢? 一体なんのことだ?」

「……ん、何でもない」

 

 思わず零れた想いはこの世界への感嘆だった。

 混乱はない。ただ、夢心地だった景色がどこか現実味を帯びてきている。俺にはそう思えた。

 

「俺の名前はハドバル、しがない帝国の兵士さ。怪我の件は助かった。君が来なければ俺はあそこで死んでいたかもしれない」

「礼はいい。私が好きでやったこと」

 

 俺はそう言ってハドバルに微笑みかける。良かった、本人だった。

 

「……はは、参った。君は飛んだお人好しのようだな」

 

 ハドバルは苦笑し、頬をかいている。決まった、どうやら美少女によるスマイルは段違いに効果があるらしい。

 フードの奥にある見えにくい表情ってものは時に……ゲフンゲフン。

 こんなことを考えている場合じゃないか。

 

「あー、お嬢さん。こんな所で話してるのも難だ。少し遠いがここから少し言ったところに村がある。そこで何があったか話そう……」

 

 おっと危ない、いつもの悪い癖(気持ち悪いニヤニヤ)が出ていたらしい。幸い、ハドバルには深くかぶっているフードのお陰で俺の考える邪な感情は分からなかったようだ。

 それに今に来ている服もありふれたローブなので、特に問題は無いだろう。

 

「村?」

「ああ、なるほど。君は見たところここに住んでいる訳ではないのか」

 

 ……ここに来るまで数時間ほども彷徨っていただなんて絶対に言えない。

 

「ど、どうした? そんなに遠い目をして」

「あ、えっと……、故郷を思い出しまして!」

 

 ハドバル、侮れんな。

 とか考えつつもフードが少しだけずれてることに気づき、深くかぶり直す。

 

「……」

「……」

 

 ……失言したわ。故郷とかしんみりするワードはダメだったか、ぐぬぬ。

 

「……えっと、その、リバーウッドとやらに向かいましょ! ええ、それがいいわ!」

「……? あ、ああ、そうだな!」

 

き、気を取り直してリバーウッドへ……。ってあれ、ハドバルまだ何も言ってなかったっけ……。

 ま、いっか。



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第3話『タムリエルに立つ─3』

芋づる式にどんどん出てくる最新話。
掘り出せ掘り出せ!


 出発はした。ああ、出発した。

 それはいいんだ。とりあえず出発できたんだから。

 

「……」

「……」

 

 この微妙な距離感よ。

 というかどうしてこんなに俺って喋れてたんだ?

 

 もしかして:ゲーム中の話術スキルLv.65

 

 うん、これだね。絶対これだ。

 多分、転移前の状態をリアル換算すると15も無いだろうね! 知り合いとの会話とかふざけ合いならともかく、知らない人に対してだったら0に限りなく近い何かなんじゃないかな!?

 

「……ねえ、何かあったの? それも、倒れ込むほどの怪我だなんて」

 

 さすが俺。さすが話術Lv.65だ。会話に難なく切り込めるぞ。

 

「……ああ、そうだな。でも多分その様子だったら、俺が言っても信じられないと思うからな」

 

 でも、原作経験者だし一体何が起こったのかはだいたい分かる。大方ヘルゲンにドラゴンでもやって来たのだろう。

 あー、見てみたかったなあ。アルドゥイン。

 ラストは──っとネタバレは厳禁か。とはいえ結末知ってるんだよな。

 目の前の人物、ハドバルの末路も。

 うーん、何だか自分が気持ちの悪い人間に見えてくる。事実ではあるけども、さ。

 

 さらに言ってしまえば人間ですらない。

 強いていうならば、元インペリアルの吸血鬼の王だ。シロディールの帝都出身(設定)は伊達じゃない!

 

「……大丈夫、話してみて。信じるから」

「……本当か?」

 

 本当か、だなんて聞かれたら妙に自信がなくなるじゃない!

 

「た、多分」

 

 建前上は多分と言っておくが、多分何言われても信じれるだろう。一応ストーリーの全容ならだいたい把握しちゃってるし。

 

「多分、ねぇ。こちらも自信をなくしてしまうよ」

 

 それ言うなら俺だって(魂は)異世界人だし。むしろこっちの方が信じてもらえない可能性が高いし。お互い様だ。うん。

 当然、言わないけど。

 

「ここから少し戻った所にあるヘルゲンという城塞にドラゴンがやって来たんだ。……ドラゴン、信じられないだろう?」

 

 俺は真剣な表情を変えずに小さく頷く。

 

「はは、だろうな……。今も故郷が襲われそうだっていうのになあ……」

「故郷が、襲われる……?」

 

 ふと、軽い焦燥感に襲われる。

 溢れ出てくる記憶が濁流のように押し寄せて俺の精神を飲み込もうとする。

 これは、元々の記憶なのだろうか。

 

「……っ、く。はぁ……」

 

 ……一体何なんだこりゃ、気分が悪いったらありやしない。

 

「お、おい、大丈夫か?」

「……勿論」

 

 俺は本当にこのメインキャラクター。氷姫(ひょうき)に憑依したって訳か。

 一体女神様は俺に何をさせたいんですかねえ……。

 

「ハドバルさん、無駄足でもいい。私、手伝うよ。絶対に……!」

「本当か……!」

 

 約束を取り付けると理不尽に感じる焦燥感が消え、幾分か女神に対する溜飲が下がったように感じた。

 こう知り合ってしまったからにはとことん助けなくては目覚めが悪いというものだ。

 

「……ん、九大神に誓ってもいい」

 

 こうなったらホワイトランだろうがソリチュードだろうが何処にだって行ってやるよ!

 

「すまない。命を救ってもらった受けに助けを借りてしまうか。……恩に着るよ」

「ううん、私が好きでやってることだから」

 

 お礼を言われると何故かこの言葉が喉を飛び出してくる。俺が入ってくる前まではきっとそういう性格だったんだろう。

 

「なあ、君の名前を教えてくれないか?」

 

 ハドバルがそう尋ねてくる。

 

「……私の名前は氷姫(ひょうき)。過去を捨てた──」

 

 吸血鬼。

 その言葉は紡げない。

 

「──名も無き少女、かな?」

「っ、なんだそれは」

 

 ハドバルが耐えきれずに吹き出した。うーむ、少し恥ずかしい。中二病チックになってしまったのが悪かったのかだろうか。

 ま、別にいっか。だって吸血鬼だもの。

 

「気に入ったよ。俺のことはハドバルって呼び捨ててくれても構わない。逆に俺がさん付けされることに慣れてないだけなんだがな」

 

 おおっハドバルスマイルが眩しい!

 これが後に故郷のリバーウッドで呑んだくれになるとは思えないっっ!

 

 なんて考えはいるものの、俺は嬉しそうに微笑むハドバルの手を取った。

 何だか長い付き合いになりそうな気がする。



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第4話『タムリエルに立つ─4』

おっと、勢いが急に、衰えて、き、た……。

返事がない。タダの執筆者の様だ。

※タイトルとあとがきだけを改変


 あの後、ハドバルとは他愛のない世間話をしていた。まあお陰で距離も縮まりましたし、結果オーライって奴である。

 

「なあ──」

「……どうしたの?」

 

 チラリとハドバルを見遣ると視線をそらしてバツが悪そうにした。

 ……なるほど、俺だって気持ちがわからんことはない。

 きっと俺の助けたいって気持ちを利用しているみたいで変に責任を感じているんだろう。きっと。

 

「……ん、大丈夫。自分の事は自分が良くわかってるんだから」

 

 きっとハドバルはいつか利用されるぞとか俺に忠告したいんだろう。

 そんなこと自分がよくわかってる。よく分かっていてもどうにもこうにも出来ないってのがどうにも尺に障るんだから、なんとも複雑な気分になってしまう。

 

「……ならいいんだが。着いたぞ。ここがリバーウッドだ。」

 

 ハドバルは俺を慈しむような目で見て視線をリバーウッドへ向けた。

 それはほんの一瞬の出来事であったが無意識のうちにその事までをも捉え切れていた氷姫の能力に俺は少し驚く。スキルレベルなのか地力なのかは分からないが、とにかくハイスペックらしい。そりゃそうだ。各スキルのレンジェンダリー化を何回してると思うんだ。

 まあお陰様でスキルポイントが無駄に溢れかえっとります。

 

「お前さん、リバーウッドは……初めてか」

 

 俺が答えるよりも前に結論を出したハドバルはおもむろに家の戸を叩き始めた。

 というかいつの間に日が暮れていたんだね。まだまだ明るく感じる。

 なんて言うか妙に夜目が効く。吸血鬼になっているおかげなのだろうか。

 うん、こんなに広いリバーウッドは初めてだよ! そして地味に民家が増えた分、ゲームとは微妙に配置が違うみたいだからゆっくり覚えていくよ!

 

「ん? こんな時間に誰だ」

「アルヴォア、俺だ。ハドバルだ」

 

 ハドバルが戸の奥にいるであろう人物に声をかける

 

「ハドバル! ヘルゲンにいたはずじゃ?!」

「ああ、そうだ。だが、場所が悪い。中で話しても大丈夫だろうか?」

 

 ハドバルとアルヴォアがどんどん話を進めていく。まあ特に会話に入る必要は無いっぽいけど。

 

「ああ、そうだな。そう言えば、少し前にレイロフが村に帰ってきていたな。妙な男を連れていた」

「レイロフ、妙な男……? まさか!」

 

 あ、はい。こっちも察した。

 

「それで、レイロフは!?」

「分からん、今日の朝にはもう行ってしまったよ。そして妙な男も時を同じくしてホワイトランに行ってしまった」

 

 なるほどなー。ゲームの枠を外れた俺とは別に主人公がいるのか。俺の場合は確かにスタートもバニラとかMODとか関係ない所だったしそこはかとなく予想は立ってたりしてた。まさか隠していた妄想が現実化するなんて……!

 ごめんなさい、見栄張りました。

 なんも考えてませんでした。

 

 ……それにしても、これは動きづらいな。正史にどう影響を与えるか分からないし。できる限りの影響を抑えたいとなると自由度のマシマシになったこの世界ではバタフライエフェクトだとかが恐ろしい。

 ブラジルにいる蝶の羽ばたき一つでテキサスでハリケーンが起こる──とかだっけ?

 ふむ、この体に憑依転生してからちょっとだけ頭の回転速度が良くなった気がする。

 うん、気がする。

 

「それで、ジャルデュルはなんと?」

「ああ、あの男がホワイトランから兵士を連れて来てくれるらしい」

「本当なのか!」

 

 なるほどねぇ。

 その男とやらが現状主人公をしているらしい。

 あ、いや俺が主人公したいわけじゃないよ。

 

 とりあえず現状の進行具合は把握出来た。

 それなら後はその男とやらの頑張り次第なわけだが、これは一旦ブリークフォール墓地に行ったほうがいいのかもしれない。手助け的な意味合いでも、ね。

 恩とか売っておけば今後の切り札にもなるだろうし、墓地にあるドラゴンワードは紙かなにかに書き写してプレゼントしてやればいいか。

 

「その男は頼れるのか!? 少なくとも裏切り者のレイロフと行動するくらいなら──」

「落ち着けハドバル。ああ、気持ちはよく分かる。でも、あのジャルデュルが信頼を預けるくらいなんだぞ」

 

 話から察するに男はブリークフォール墓地に向かう前にホワイトランへと向かったのだろう。

 

「……ん。その妙な男が行ったからには待つしかない。吉報を待とう、ハドバル」

「……氷姫。……ああ、分かったよ」

 

 アルヴォアと俺の説得で溜飲が下がったらしいが、少しむくれているようにも見えんことは無い。

 何だかゲームの時よりも性格変わってないかハドバルさんや。レイロフと脱出してもソリチュードではそんなに気にした素振りも見せてなかったのになあ。……あれ、レイロフと

 まあ、比較元がゲームだから致し方なしか?

 こっちは本物の(・・・)人間だしゲームのAIとは当然の如く比べ物にはならんか。

 

「ハドバル、もう夜も遅い。ここに泊まっていくといい。ちょうど空き部屋もある」

 

 そう言ってアルヴォアは俺たちを部屋の中まで案内してくれた。

 やはりゲームとは違い、家の中も段違いに広く、部屋があった。うん。部屋があった。

 もう一回だけ、部屋があった。

 

 大事な事なので三回も言ったが、ゲームでは容量の為か部屋はなく一部屋だけの簡素な作りになっていた。だが現実になってみると、住みやすくする為なのか部屋が出来てしまった。

 

「気遣い、ありがとう。アルヴォア。それなら遠慮なく休ませて貰うよ」

「ハドバル。……おまえ、この娘と一緒に寝る気じゃないだろうな」

「なに? い、いや、そういう訳じゃ…~」

 

 貸してもらえる部屋は一つ。

 要するに私は女の子なので優遇してもらえる、と。

 まあ逆に男がか弱い女の子を地面寝かすのかという話でもあるのか。

 ……迷惑かけてしまったな、ハドバル。

 

「……えっと。私は結構なので、部屋はハドバルさんに譲ります」

 

 何にせよこれからブリークフォール墓地にに行かなければならないのだ。

 何としても主人公と接触するためにもドラゴンストーンを先回りして見つけなくてはならない。

 

「……本当にいいのか?」

「……これから行かなきゃいけない場所が出来たから」

 

 ハドバルは床に寝るのも吝かではないと言った表情をしている。

 だが今の俺は吸血鬼、二つの意味でも夜に生きる種族だ。本音としては昼に寝たいところだがそこはグッと我慢するとしよう。

 

「行かなきゃいけない場所?」

 

 訝しげなアルヴォアの質問に小さく頷く。別に答えなければならないという訳でもあるまい。

 なぜ答えないのかって? 会話したくないからに決まってるでしょう。コミュ力は上がっていても対人力が低いんだよ。

 いや、なんでか知らんけどさ。

 

 もしかすると話術スキルで上がるのは会話力だけなのかもしれない。というかこの"……○○。"の汎用性が高過ぎる。これこそが話術スキルのおかげで体得できていた真髄(もの)なのかもしれない。

 ミステリアスな女性は魅力があるし、問題は無いだろう。

 

「……また帰ってくるから。それじゃ」

「おい、まってくれ!」

 

 ハドバルに懇願されるように頼まれたので振り返る。

 

「……どうしたの?」

「いや、このままだと君がどこか遠くに行ってしまいそうでな……。例えば、ソブンガルデのような何処かに……」

 

 ……うーん、確かにそうなのかもしれない。最終的にはソブンガルデでの決着にもなるしな。うーむ、どうなのだろうか。



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第5話『ブリークフォール墓地─1』

 実際のところゲームの枠から外れた私がどこまで行くのかは分からない。だがタムリエル大陸を遊覧したりするのではなかろうか。寧ろしたい。

 

「……そうかもしれない。今いるところよりももっと遠いところに行きたいなあ、だなんて思ってるのかも。なんて」

「そうか、君は強いな……」

 

 まあ、どう転んでも絶対に生き残ってやるつもりではあるが。

 まあインペリアルとしてはソブンガルデに行ってみるのも面白いだろう。

 本来ならノルドの英雄達が来るべく決戦に備えて宴会を続けているという考察もあったりする。是非ソブンガルデとやらをこの目で見てみたいものである。

 

「……私なんて強いだなんて大層なものじゃない。絶対に負けたくないってただの意地だと思う」

 

 何だか後半が自嘲気味になったが別に構わない。

 だって、負けたらそこでおしまいだ。俺はもっとこのタムリエルを堪能したい。だから、負けたくない。死ぬわけにはいかない。

 そして当然のごとくこの世界には滅んでもらうわけにはいかないのだ。

 

「……意地でもそれは立派な強さだ。出来れば意志が折れないことを祈るよ」

「……ん、勿論。そう簡単に、負けたりしない」

 

 こんなこと言ったらやっぱり○○には勝てなかったよ……的なフラグが立ってそうで怖い。

 

「……ん。それじゃあ出発する。こういう時、ノルドの人達ならなんて言うの?」

「タロスの御加護を。……本当なら白金協定で禁止されてるんだけどな」

「……そっか。それじゃあ、また」

 

 さてとハドバルに別れを告げた私はブリークフォール墓地にでも向かうことにした。

 ちなみにこの墓地は周回プレイヤー御用達のクエストの場所でもある(当然メインクエストに関連するのでどうせ行くことになる)。サブクエストだが道中で金の爪を取り返して持ち主に返すだけでも200ゴールドも得られるので周回プレイでは外せない。

 それに奥に住めば氷結の呪付の付いた剣や幾つかの魂石とかが手に入るので、ここに来たら多少は懐に余裕ができる。手に入った武器は近くのブリシルトン岬で分解して呪符のレベル上げもできちゃういい場所だ。

 後は"力"のドラゴンワードが手に入るのでまあ最初に来るべき土地でもある。まあ、ヘルゲンでハドバルかレイロフを掘りまくったプレイヤーならば何も苦戦する事はないだろう。

 初心者プレイヤーになにか一つだけ注意するならば、スキーヴァからの感染とか一匹だけいるやたらでかい蜘蛛とか一番奥にいる無駄に硬いドラヴニル・デス・ロードさんだろうか。ぶっちゃけその他は余裕で何とかなるだろう。

 いざとなれば道中で手に入るエクスプロージョンの巻物を使おう。使わなければ売るなどして金欠対策にどうぞ。

 ん、なんだって? アーヴェル?

 金の爪、韋駄天、トゲ付きトラップ……、うっ頭が。

 

 そんなことは置いといて、ブリークフォール墓地には道なりに山を登ったところ、徒歩で一時間弱と案外早くたどり着いた。道中の山賊の住み着いている砦は現実化の影響からか妙に大きくなっていたので襲撃するのは諦めた。なんか人数増えてそうだしちょっと怖い。

 

 まあ着いたはいいのだが、実はまだこの世界に来て人を一人も殺していない(さっき砦を襲わなかったのもそのせい)。ちなみに食事もトマトばかりを齧っているから問題は無い。こちらもMODの一つで、吸血鬼は本来な血を吸わなきゃいけないのだが、それをトマトを食べるだけでいいことにする素晴らしいMODである。

 吸血という無駄に煩わしい手間が省けるのでオヌヌメである。

 

 あとはトマトとリンゴが収穫できるようになるMODもあり、トマトを主食にする吸血鬼にはこちらをオヌヌメする。

 

 今はあんまり人殺しをしたくないので静かに無力化していく。死んでないけど、南無。隠密のスキルはガン上げしていたおかげが全く気取られること無く外部にいた山賊を排除することに成功した。

 という訳で外には用がないので、早速ブリークフォール墓地内部へと入って行くことにする。

 

 うう、寒い。吸血鬼にしたってインペリアルにはちょっと厳しい気候なのだろうか。うーむ、どうにか改善したいものだ。氷姫とかは名前ばかりで雪山で凍えるって考えると何とも微妙な感じだ。なにより、手先が悴んで動かしにくくなるのは辛いし。

 

「ッチ、アーヴェルの野郎。宝を独り占めする気かよ……!」

 

 おっと、奥から山賊達の会話が聞こえてくる。いーち、にーぃ……他にはここに居ないみたいだ。外の山賊は一人、二人増えてたけどここはあまり変わりないようで何よりだ。

 屋内は薄暗く、天井は6,7mと程ありそうだ。簡単に言い表すならホールみたいな部屋と言うべきか。

 柱は経年劣化で崩れており、部屋にはその欠片が散乱している。

 

「……ハークニール、もういいじゃない。いっその事、もうここで足を洗って仕舞えば」

 

 山賊の女が男を窘める。足を洗うとかみんな言ってる癖に好戦的だから困る。まあ殺されるとか捕まりたくないとかそういうのだろ。きっと。

 すっごく出にくいなぁ……。どちらも気を失わせるにも片方に気づかれちゃうし。

 ええい面倒だ。

 

「誰だ!?」

「……ごめんください。少し眠っていてもらえますか?」

「何を言って──」

「ファス!」

 

 間髪入れずにシャウト、揺るぎなき力を繰り出す。これは最初に使った奴の低出力版で、相手を吹き飛ばす程度の衝撃波を放つといったものだ。

 揺るぎなき力だけではドラゴンボーンってことはまあ分からんでしょう。

 ハイ・フロスガーっていう場所で10年くらい篭れば習得できるらしいし。そう簡単にはバレないよね!(震え声)

 バレたとしても国家レベルでのお話になるってだけで……ってバレたら詰みだわ、これ。

 

「うーん……」

「てめえ! この──、うーん……」

 

 吹き飛ばした片割れはしぶとく立ち上がろうとしていたので、手刀を打ち込んで休ませてあげる。

 もう片方は壁に頭をぶつけて気絶。べっとり赤くなってるけど死んでないはずだ。……しっかりと治癒魔法をかけてやらなければ。

 

「……ん、これでおしまい」

 

 血みどろの山賊にしっかりと治癒魔法をかけた俺はより奥へと足を進めていく。入ったばかりだし、流石にドラヴニルはまだ出てこないな。

 たしか、このまま進んだ先には最初の仕掛けがあったな。ゲームの方ではそこにも一人山賊がいたな。……オチとしてはまんまと罠にかかって死ぬんだよなあ。

 そうして奥へと進む。

 階段を降りた先には机(?)があり、色々と道具が置いてある。何かの巻物とかポーションだとか。

 ぶっちゃけ要らないが、女神から貰った異次元ポーチ(俺の装備品が入ってたカバンで、カバンに入る大きさであればなんでも入るっぽい)へと片っ端からねじ込んでいく。

 ……今気づいたけど、重さを全く感じないとかチートだなこれ。いや、事実重さは増えてるっぽいけどそこまで気になるほどではないようだ。エイドラの力ってすげー。

 

 そうして無事に最初の仕掛けの部屋へと辿り着くが、そこには史実通り(・・・・)に一人の山賊の姿が見える。やはりここもゲームの時(・・・・・)と変わりない。納骨壺や大きな壺の配置には多少の差異があるかもしれない。だが、言ってしまえばそれだけである。

 まるで誰かが作り上げた(・・・・・・・・)かのように状況が出来上がっている。いや誰だよ。プレイヤー相手にこんなヘタクソな舞台演出をしてる奴は。

 ……まあ、ここでグダグダ考えても一向に解決の糸口は掴めないし時間の無駄か。

 

「……うーん」

 

 ここまでずっと気絶させながら来ただけあってサクッと意識を刈り取ってやる。いやー、慣れたもんだ。

 目の前にある門の上にある柱を見てもわかるが、確かこの石碑を左から蛇、蛇、鯨の順にならべてレバーを倒すんだったな。

 

 石の擦れるような音がして門がゆっくりと上に開いていく。

 うーん。まだまだ静かだがここからドラヴニルっていう古代ノルドの守護者達が出てくるんだったよな。

 ゲームの通りであるなら当然の如く弱いはずなんだが。

 

 ……早速来たか。

 俺はもぞりと動くそれを見て、舌なめずりをする。

 

 壁の窪みから起き上がってくるドラヴニルを愛剣で軽く切りつけてやる。すると、バターのように上と下がおさらばしていく。

 ……我ながらなかなか綺麗な切り口だな。

 いやいや、何を考えてるんだ。俺は。

 

 目の前にいるのが死体だとしても元を辿れば人間。最初は抵抗感があるとばかりに思っていた。だがやってみれば抵抗感など微塵もなく、同じ人間として縛り付けられる彼らを憐れんでしまっている。

 もしかすると、やはり氷姫(この娘)の身体が精神へと影響しているのか?

 だから今までの俺とは思えない程に考え方が変わってきしまっているとでもいうのか?

 やばい、分からないことだらけで少し顔に熱が篭ってきた。ただ、俺の精神衛生上の問題を考えれば喜ばしい事ではないことは確かではあるのだが……。

 

 ……嗚呼、どうにも出来ない気持ちと現状。

 どうしようもなくイライラとする。

 



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第6話『ブリークフォール墓地─2』

二時間半くらい前に投稿したやつの修正版です。


 なんというか、どうというか。ずっと行き場のないモヤモヤが体の中で暴れている。

 別に比喩表現であって、実際に起こっているという訳じゃ……え、知ってた?

 

 とはいえ、とにかく怒りとも戸惑いとも取れないこの謎の感情をどうしたものかと考えている。考えているとか言っても解決への糸口を掴むどころか見つけきれてさえいない。

 思案を重ねるだけ無駄だとは思うが、このせめてもの悪あがきとしてだな……。

 

「だ、誰か助けてくれぇ!」

 

 人の叫び声。救助を要求するような声。助けを聞いて、この身体が勝手に動かないわけがない。無意識のうちに声の主の元へと走り出していた。

 

「ハ、ハークニールか!」

 

 きっと通路に張られた蜘蛛の巣に絡まれて動けなくなっていたのであろう。その男は助けの登場に思わず歓喜の声を上げる。

 ……蜘蛛の巣に掛かるなど無様にも程がある。いや、まあ上にいるフロストスパイダーに捕えられたのかもしれないし、多少は大目に見てやろう。

 初見だとここは少し厳しいしな。

 

「……ごめんなさい。人違いよ」

「だ、誰でもいい、助けてくれ!」

 

 僅かにだが錯乱しかかっているのだろうか。目の前にいる男の額には脂汗が滲み出ている。

 

「ヒィッ。う、後ろ!」

 

 恐怖に顔を歪ませて蜘蛛の巣から離れようと必死にもがいている。助けたくないことはないのだが、こいつが例の韋駄天さんなのであればこのあとの展開が目に見えている。

 

 まあ、それはゲームでの話。

 こっちは現実(リアル)の話。

 

 相手はたかが山賊。服従させたいなら、それはもう単純に逆らえない程の武力を示せばいいだけだ。

 なにより、……吸血鬼の王としてのスキルを使えないことはない。でもなぜかそれにはあまり頼りたくはない想いが強い。

 何か、この力にトラウマでもあるのだろうか。

 ……まあ、ここでそれを考えたところで仕方がないか。

 

「……"アイスジャベリン"」

 

 俺がほんの一瞬で詠唱を終えると生成された氷の槍が蜘蛛の口から胴体を串刺しにし、その一撃でその息を途絶えさせる。それは当然相手に自分との圧倒的力量差を見せつけてやるためだ。

 貴様の様な糸くずなど一瞬で葬れるぞ、と。

 

「ば、馬鹿な。こんなガキがァ……!」

 

 圧倒的な技量差を見せつけられた韋駄天さんは絶望に顔を歪ませる。いい気味だ。

 

「……ねえ、質問してもいい?」

「あ、ああ……。答えてやる代わりにここから下ろしてくれないか?」

 

 ツーっと韋駄天さんの頬を一筋の汗が流れる。いやさ、俺が主人公みたいなお人好しだったら降ろしてあげてたんだろうけどな。

 

「……貴方を下ろす必要はない」

「……っく」

 

 韋駄天の顔が心なしか青ざめ多様に見える。初プレイ時の恨みは忘れない。

 

「……答えてくれれば私はあなたを殺さない。でもその逆だったら……」

 

 俺は犬を二匹その場に召喚する。

 

「……その時にはこの子達が戯れてくれるわ」

 

 男の顔が益々青ざめていく。その目には薄らと涙のようなものが溜まっている。失禁しているところを見るに、脅しはこれくらいでいいだろう。

 

「……じゃあ、本題に入る。この先に行くための金の爪って奴。あなたがそれを持っているって聞いた」

 

 主人公を騙してあっさりと死ぬ男。ゲームではこいつが金の爪と呼ばれるアイテムを持っていた。

 

「あ、ああ、そうだ。だ、だから早く下ろしてくれ! そうしたらそいつをくれてやるからよ!」

 

 男が必死に叫びかける。

 ……流石にここまで脅してたら可哀想に見えてきたな。うむむ、やっぱり解放してやってもいいのかもしれない。

 

「……分かった。但し、約束は守ること」

「わ、分かってるよ」

 

 俺の言葉に目を泳がせたりと少し挙動不審で怪しい。訝しむような視線を浴びせつつも手持ちのダガーで蜘蛛の巣を切断していく。

 

「……解放した。だからその爪を渡せ」

「そうだなぁ。おっと、何処に仕舞ってたっけなー」

 

 わざとらしい仕草。見ている限りでは逃げ出す素振りは一切無い。

 

「……約束を反故にするの?」

「とんでもねえ! そういう訳じゃありませんぜ、姐さんよお!」

 

 ……何なんだこいつの態度は。

 手のひら返しが多すぎて妙にやりづらい。

 

「……なんてな。へっ、誰が寄越すもんかよ!」

「ガキはうちに帰ってお寝んねしてやがれや!」

 

 私は急な気配にに思わず振り返る。

 こいつは、入口に入った時に気絶させていたはずの山賊……!?

 

「クっ!?」

 

 俺は頭を強く打ち付けられ、床に横たわる。

 

 痛い。

 痛い痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

 意外と痛い!!

 

 俺が仰向けに倒れると山賊は更に追撃を繰り出してくる。それも、あらゆる動物において弱点であろう腹部にだ。

 

「あうっ!!」

 

 何度も、何度も、何度も。繰り返す。腹部に来る痛みに、俺は意識を手放すことも許されない。

 

「こんなこともあろうかと二つもエクスプロージョンの巻物を用意しておいて助かったわ。にしても、随分と頑丈ね」

「ああ、それだったら相当の手練だと思うのだがな。能力と中身がチグハグだな、こいつは」

「へっ、ハークニール。俺にもメイスを貸してくれ。こいつには俺も相当な恨みがあるんだよ……」

 

 韋駄天の野郎は下衆な笑みを浮かべつつもハークニールと呼ばれた山賊からメイスを受け取る。

 なるほど、そういう事だったのか。犬はエクスプロージョンで消滅した、と。……集中していなかったか、あまりマジカを込めなかったのが原因だろうか。炎のマントを使った時は大分疲労感が来たが、今回はさほどでもなかった。すぐに回復したから報告はしてなかった訳だけども。

 

「い、いた、い……!」

「へっ、てめえには散々煮え湯を飲まされたからな……。お仕置きってやつだ、そらよっ!」

「うぐっっ!」

 

 流石にメイスは鈍器なだけに衝撃が来るな……。だからたまらなく、腹が痛い。

 

「……アーヴェル、」

 

 繰り返されていた痛みが止む。だが、俺には動く気力など残されていない。ふと気が抜け、意識が段々と現世から剥離していく。そんなふうに感じた。

 うん、眠たい。

 最初の一撃以外が効かなすぎて笑い疲れた。メイスとか衝撃の割に痛みが来ないんだもん。当然肩透かしを食らった気分だよ。

 薄暗くて見えづらかったから良かったものの笑いを堪えすぎてお腹が痛い。頭ばかりに気が言ってたけど背中は焼けるように痛い。頭に比べて地味な痛さだけど実際こんがりと焼けてそう。エクスプロージョンを頭へと直にやられたんだね!

 

 ちょっと気を失ったふりでもしてみようと思う。

 ……え? 勿論、面白そうだからに決まってるじゃないか。

 

「さてと、このガキはどうするのさ。アーヴェル」

「奴隷にでもして売りに出した方がいいんじゃないか? 強くて、こんなにも美人なメスガキだぜ」

「おい、ケレン。アーヴェルはいいが、そんなことはやめておけ」

 

 そうだね、後で彼らにどんな仕打ちが待ってるかと考えるとゾクゾクするよ。

 さて、アーヴェル君が約束を反故にした罪は何にしてやろうかな……?




さ、最初からこうしようと思ってたよ(震え声)

なんかアレだなって思った人はバシバシご指摘下さい。
全部を反映は出来ないですが大変参考になります。
何より作者が喜びますので(ドM的発想)


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第7話『ブリークフォール墓地─3』

2日間投稿できなくて申し訳ないです。
本日は三話程度投稿するので見逃しがないようご注意を。


「アーヴェル!」

「わ、分かってるよ! ハークニール」

 

 俺が気を失ったとわかった途端、山賊たちは仲間割れを起こし始めた。俺が言うのも難だけど、ここに倒れてる妙に堅いガキを放置しちゃあかんて。

 俺はどのようなものかと薄目でその様子を見てみるが、なんとも言えない小競り合いだった。勿論だが、期待とかは一切なかったんだけどね。

 

「なあ、アーヴェル。覚えてるか? 勿論、俺達が最初にした約束をだ」

「あ、ああ。勿論だよ!」

 

 ハークニールと呼ばれる男の気迫に圧されてか、アーヴェルはすぐさまに金の爪を床に置く。その動作は無駄に洗練されていて、こうやって日常的に騙すことに慣れていたのかもしれない。

 ……こいつ、やっぱりとんでもなくクズだ。

 

「ふうん、ならこの状況は何なの?! 私とハークニールから金の爪を奪った挙句にこのザマ。もはや目も当てられたものじゃないわよ」

 

 女は最初こそ怒りを露わにしていたが途中で怒りを通り越して呆れているようだ。

 ハークニールも女と同様に、呆れているのが後ろから見ていてもよく分かる。

 

「……あのー。そろそろ相手してもらっても、いいですか……?」

「キサっ、気を失ってたはずじゃ……!?」

 

 ねえねえ、うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ? ……まあ、迷信らしい。残念だ。

 

「ガキはまだ寝んねしてろ!」

「……"オークフレッシュ"、"魔力の盾"、"魔力の剣"」

 

 ハークニールとか言うおっさんがメイスを構えて突進してくる。お望み通り魔力の盾で上手くいなし、剣の柄で首筋を叩いて逆に眠らせてやった。

 ガキ……とは流石に違うけど、もう寝んねしてなっと。

 

「なっ……、ハークニール! こんのっ、クソガキィ!」

「……甘い」

 

 ハークニールに続いて女が突っ込んできたのでこちらも夢の世界へと案内する。

 

「……うーん」

 

 身体が覚えていると言うと語弊がある。何らかの要因で、俺が既に知り得ていたと言うべきなのだろうか。

 氷姫の記憶の事然り、何故か戦い慣れている事も然り分からないことが多すぎる。深く考えすぎるのも視野を狭めるが、何でもいいから納得いく答えが欲しいものだ。

 因みにアーヴェルは、と言うと戦闘が始まった瞬間に金の爪を抱えてブリークフォール墓地の奥へと走り込んでいった。それも名前通り韋駄天のような速度で。誰だ、韋駄天とか名ばかりって言ったやつ。

 ……あ、俺です。ごめんなさい。

 

 それよりも早く逃げたアーヴェルを確保しないと、もしかするととんでもない事になってしまう可能性もある。

 

「あ゛あ゛あ゛ーーーッッ!?!?」

 

 遺跡の奥から聞こえて来る悲鳴(金切り声)

 ……どうやら遅かったようだ。アーヴェル、どうか安らかに眠れ。お前のことは多分忘れない。

 

 死に際に関しては……、もはや言葉は不要か。強いて言うなら、ベセスダはそんなにアーヴェルを殺したいのか、とだけ言っておこう。

 因みに現実化の影響もあってか、死に様は非常に惨たらしいものとなっていた。俺は金の爪をそっと持ち去りながらも心の中で合掌していたのだった。

 

 そして、先程の見たモノの影響ありテンションは下降するものの、俺は先へ先へと進んでいく。振り子のような斧をくぐり抜けたりドラヴニルにが大量に出てきたりとアーヴェル達の事を除けばゲームとさほど変わりがなかった。

 そして、物語の間へと繋がる扉の前へとたどり着く。ベセスダさんは周回プレイに優しく、ここに限っては全てを2回ずらすだけで扉が開くと言った仕様になっている。

 金の爪にヒントはあるが、周回プレイヤーにとっては一々見てられるものではないので大助かりではある。

 ガチャリガチャリと3セット繰り返して金の爪で扉を開く。

 重々しい音を響かせて扉が開く。

 

「……案外、あっけない?」

 

 現実化の影響とかで色々と期待してたんだが、そういうのはあまり関係はなかったらしい。ここでイレギュラーが出て来るとかは流石に考えすぎか。

 

 さてと、宝箱の中身とかそこら辺にあるものはバッグに全てねじ込んでっと……。リネン・ラップ? 何時か役に立つでしょ。きっと。

 俺は巨大な石版に近づき、書かれている文字にそっと手を触れる。

 

「"ファス()"か……」

 

 力なんて言葉はそれだけでは何の役にも立たない。竜の知恵(ドラゴンソウル)を得て初めて使える代物になるのだ。

 もはや度重なる修行(長いプレイ時間)を経た、チートの権化と言っても過言ではない俺には関係ない話なのだが。

 

「……はあ」

 

 蓋を自力で開き、起き上がろうとするドラヴニル・デス・ロードの首をサクッと削ぎ落とす。

 ドラゴンストーンとエンチャントされた古代ノルドの(重いだけの)グレートソード(でくのぼう)をバッグに投げ入れる。

 まあ、ブリークフォール墓地もこんなものか。

 

「そこを、動くなよ……」

 

 不意に私の首筋へと冷たい何かが触れる。それは刃物ではない丸い何か。それも、先端が筒状(・・)になっている武器。

 要するに、銃だ。

 

「……貴方は、何者?」

「……」

 

 後ろの男は答えない。

 

「……貴方の欲しいものは、一体なに?」

「その石だけだ」

 

 男の答えは簡潔だった。

 

「……もし、渡さなければ?」

「その時は殺すまで──」

「……ていっ」

「──んなっ!?」

 

 殺されたくないのででバッグにはいってる石を投げてみた。

 男は虚を突かれたらしく目をまん丸と、口をあんぐりと開いて固まってしまった。

 

「……別に、必要なものじゃないし。……じゃあ、私はこれで」

 

 俺はすかさずにそう言い残し、隙を突くまでもなく洞窟を出たのだった。




まどろっこしいので各話タイトルをシンプルなものに変更してます。……あまりネーミングセンスがないんです。


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第8話『リバーウッド─1』

本日三話連続投下中の三話目です。
見逃しにご注意を。


「……ふぅ」

 

 やっぱりシャバの空気は美味いな。あんな暗がりの空気をもっと我慢し続けろだなんて無理かもしれない。スカイリムは案外多いもんだし、これも慣れなきゃいけない事なんだろう。

 

 ブリークフォール墓地を抜けた先は切り立った崖になっていて、ぱっと下を見ると降りるのをためらってしまう。

 平和な日本で育ったからか高いところから低い場所を除くと脚がすくんでしまう。憑依前は股ぐらがぎゅーっと引き締まる思いだったんだが……。

 なあ相棒。どうして逝っちまったんだよ……。今は亡き相棒に思うところがありすぎて辛い。あ、涙が出そう。

 

「……じゃあね。わ、私の、相棒ーっっ!!」

 

 俺は自分が出てきた入口に向かってそう叫んだ。

 凍えるような寒さを齎す夜は、まだまだこれからなのだった。

 

 

 

 そんなこんなですぐに山を降りきった俺はリバーウッドを探すため、川沿いに歩き始めた。

 因みに崖は難なく降りることが出来た。多分、身体がなれていたのかもしれない。

 夜空は僅かに白み始めており、急がねばホワイトランにいる主人公と入れ違いになる可能性もありうる。

 ブリークフォール墓地がスッカラカンでしたとかなったらデルフィンが余計に可哀想に思えてしまいそうだ。

 

「……君は!」

 

 暗闇の中、後ろに気配を感じる。ついでに声も。

 

「……誰っ!?」

 

 つい反射的に腰につけていた片手剣を振り抜く。相手は急な動きに驚いたらしく尻餅を付き、慌てふためく。

 

「わっ、ちょ、やめてくれ! 誤解だよ! 俺はハドバルだってば!!」

「……ああ、何だ。ハドバルか」

「何だって何だよ……」

 

 何だって、そりゃあのハドバルじゃないですか。

 とまあ、ハドバル弄りはここで止しておこう。

 

「なあ、氷姫さんや。しっかり栄養とって寝てるのか? さっきからずっとトマトばかりを食べてるようだが……」

 

 ……なんだよ。トマトばかりを食べてちゃダメなのかよ。

 と、トマトには何の罪もないだろうが!

 

 だが、ハドバルは大きく溜息を吐くと、俺を置いてそのまま歩きだす。いやいや、話しかけてきたのそっちじゃないですかー。

 暫くハドバルの周りをちょこちょこと動き回ってみるが、顔に貼り付けたしかめっ面は変わらない。逆ギレだ、これ。いやまあ、俺がこうやって煽っちゃったのもあるけども。

 

「……ハドバル?」

「……」

 

 無言。

 

「……私、火に油注いだ?」

「……」

 

 やはり無言。憑依前ならこれだけで軽く死ねそう。

 ……まあ、実際に行動に移す勇気はないだろうけど。

 

「……ねえ、ハドバル? ……ねえ」

「頼む。今は、あまり話しかけないでくれ。一人になりたいんだよ」

 

 ハドバルがようやく口を開いたと思ったらこれだった。語調も少し荒く大分いい加減で、イライラさせてしまっていることが良くわかる。

 

「……っ、ごめん」

「あ、ああっ。違うんだよ」

 

 俺が謝るとハドバルは慌てて何か言ってきた。どうやら、あのイライラは俺に対してのものでは無かったようだ。

 

「俺は帝国の兵士だろ? ストームクロークとの小競り合いや戦いの中でだな、俺が殺した者達の顔が、こうやって夜になると思い浮かんでくるんだよ。それも、静かな夜なら尚更さ」

 

 ふうん。ゲームとあまり言っている内容に変わりはない。だけど、言葉の一つ一つに感情がある。この世界が作り物ではないと改めて感じさせられる。

 時々"ゲームでは~"とか、そう言った偏った思考へ、走ってしまう俺にはいい薬なのかもしれない。

 そうだ。このハドバルは仮想世界の住人なんかじゃない。

 

「あと、ブリークフォール墓地には行ってきたのか? まあ流石にあの大きさを間近で見たのであれば、お前さんは恐らく逃げてきたんだろう?」

 

 いや、目的のものはしっかりと持ってきたししっかりと踏破してきた。

 リバーウッドトレーダーの兄妹もこれで安心できるだろう。それに、これで主人公とほぼ確実に相見えることが出来る。

 と、俺が無言を貫き通していると何を考えたのかわからないがハドバルが盛大に勘違いを始めた。

 

「そうだよな。あそこには大量の山賊と大量のドラヴニルが住み着いているし、逃げるのが当然といえば当然か」

 

 ハドバルは当然と言わんばかりに頷いているが、俺には何を言ってるかわからない。いや、まあ。ただ単に強さの次元が違うだけの話なのかもしれないが。……どうなんだろうか。

 

「……ねえ、勝手に納得しているところ、悪いけど。あの墓地、踏破させてもらったよ」

「ああ、そうだろうな。流石に有能な治癒魔法が使えるとはいえ戦闘が万全にこなせるとは思え……」

 

 言葉の途中でハドバルが固まる。

 攻略したはいいものの、残念ながら"ファス()"の書き写しを手に入れることは叶わなかった。また今度、こっそり出口からでも再挑戦してみようか。

 

「……ハドバル?」

 

 俺は固まるハドバルの頬を軽く叩く。背が低く、少し背伸びをする形になったが気にはしない。

 

「ファイアボル──」

「ああ、大丈夫だ! 大丈夫」

 

 冗談半分で言ってみたがハドバルは慌てて我に戻ったらしい。

 

「……魔法を撃つつもりはなかったんだけどな」

「……」

 

 恥ずかしくなったのか、それとも呆れたのか、どちらかはどうでもいいがハドバルは鼻頭を指で抑えてる低く唸っている。

 

「……じゃあ、私は先にリバーウッドに戻っておくから」

「あ、ああ……。分かった。念のため伝えておくが、もう少ししたら俺は戻るよ」

 

 やはり吸血鬼は良いものだ。夜目が効いていて辺りが見やすい。この調子なら、リバーウッドまでの帰りも余裕だろう。

 

「おい、氷姫。何だか嬉しそうにしているのは知らないが……」

 

 ……あれ、どうしてハドバルが俺と同じ方向に着いて来ているんだろうか。

 

「──リバーウッドは、反対方向だぞ」

 

 前言撤回。俺はとんでもなく方今音痴になっているらしい。

 誰でもいいので、ファストトラベルをください……。




スカイリムの二次創作。広まらないかなー……。


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第9話『リバーウッド─2』

暫く日常回が続くと思います。


 結局、リバーウッドまでハドバルに無事送り届けてもらった。その頃には既に夜がすっかり明けてしまっていたのは言う迄もないかもしれない。

 アルヴォアさん宅はそろそろ起床の時間だったようで、私は再び歓迎された。料理等は遠慮させてもらったが。

その代わり、一つだけ質問をさせてもらった。

 

「……ねえ、アルヴォアさん。一つだけ、いい?」

「どうした、氷の嬢ちゃん」

 

 氷の嬢ちゃん……。アルヴォアさんの言ったシロディール語を日本語風に脳内変換してこれだ。原作では誤訳がひどかったけど、誤訳のまま読んであげようと思う。

 件のジャルデュルさんもそうだったし。なんというか、某バラエティ番組の芸人と関わりがありそうな名前なんだよなぁ。

 

「……鏡が置いてある場所って知らない?」

 

 私が聞きたかったのは、そう。鏡だ。場合によっては私の鍛治スキルの高さをお披露目することにもなるだろうし、ならないかもしれない。

 

「……鏡か、そういうのは大抵貴族か王族あたりしか持ってないな」

「……そう、ですか」

 

 やっぱりそうなのか。残念ながらこちらの世界でも鏡というものは貴重なのだそうで、高貴な生まれしか持っていないらしい。このキャラクターも設定上は高貴な生まれだけどね!

 

「なあ、前々から思ってたんだが氷の嬢ちゃんは何処生まれなんだ?」

「……シロディールの帝都。そう言い聞かせられてた。でも、本当のところは、分からない」

 

 ──という設定。我ながら脳内妄想が爆発しすぎだと思うが、どれもこれも我らが愛すべきフ〇ムのせいだ。あいつが俺のフロ〇脳(妄想力)を育んだからこうなったんだ!

 べ、ベセスダさんは悪くない! 多分。

 

「……鋳造器具、借りていい?」

「え? ああ、いいとも。別に構わないが、初心者もいいところの素人が鏡を作るのなんて、相当難しいと思うぞ」

 

 ごめんなさいアルヴォアさん。これでも俺、デイドラの武具を鍛えることが出来るんですよ。

 まあゲームで愛用していた作業着は残っていたのが幸いだろうか。試しに武器の強化もやってみたいし、これを着てやってみよう。

 

「……それは付呪が付いた服か」

 

 おっと、半分正解で半分間違いだ。なぜならこの作業着はMODで見た目を気に入った服装だった。

 ということで多少は参考になるサイトを見ながら少しばかり改造してたら一応軽装扱いで防御力が付いたのだ。

 それだけに1ヶ月掛けたと言ったら、俺のお気に入り具合が分かるだろうか。

 戦闘用と呪付兼鍛造用として用意している。あと他のものが何セットかあるが割愛させていただく。

 

 アルヴォアさんは気前のいいことに、俺が着替えるための個室を貸し出してくれた。

 有難くその親切を受け取ることにして、早速その服装に着替える。

 エプロンドレスの後ろには大きなリボンが映え、清涼感のある美しい青と白のコントラストがこの氷姫のきゃわゆさを何十倍にも引き上げてくれる。

 エプロンドレス。その単語を聞けば殆どの人が分かるであろう。

 言わずもがなであるが、これはメイド服であるとあえて言わせてもらおう。

 

 着替え終わった俺は、クルンとターンをうって脳内に現れる氷姫のきゃわゆさに思い馳せる。うごご。

 鏡が、欲しい!

 

「……」

 

 あ、ハドバルじゃん。おかえり。

 ハドバルは朝食を摂ってていなかったはずなのだが……?

 前述しているとおり、俺は自分の分は用意していたから遠慮させてもらっている。

 何度も言うが俺はトマトだけで充分なのだ。

 なるほど。さては、あれだな。

 アルヴォアさんがテンプレ的なことになると思ってわざと部屋に通したんだろ。

 言っても仕方がない、どうせ確信犯なんだろ?

 

 ハドバルからの好意を受け取っても、受け取る側の俺がそれを拒否するしかないからハドバル×俺の式は成立はしない。

 ÷0の計算よろしく、俺は計算不能なのだ。フハハ。

 

「……その、あれだな。似合ってる、ぞ」

「……ありがと」

 

 俺はそう短く返すとスッとハドバルの横を、小回りの良さにものを言わせてするりとくぐり抜ける。

 そうして、外に出るとアルヴォアさんが期待するような目で私を見ている。

 

「……あなたの仕業ですか」

「気に入ったか?」

 

 いや、そんな訳ないでしょう。

 中身は男なんだし。流石に野郎趣味なんて言語道断である。

 

 俺はそんなアルヴォアさんに溜息をつきつつも鋳造器具を手に取る。

 大振りのハンマーに暑くなった金属を持つための鋏、金床、水が貯められた箱。

まあだいたい予想通りだ。

 ……これだけだと鏡、作れないんじゃね?

 いや、まて。頭をクールに落ち着けるんだ氷姫(おれ)

 スカイリムではこんな鋳造器具でも皮の防具やらを作り上げていたではないか。出来ない、やらないのではない。

 できるはずだ!

 俺は意を決して金床に置いたインゴットを熱し始める。

 

 さて、ここからは速さと腎力、そして精神的な耐久力の勝負である。熱し、素早く強く、正確に叩いて形を整えていく。冷やし熱し、再び叩く。

 そんなスタミナと体力を消耗する行為は、鍛え上げられた氷姫にとっては容易いものだった。

 

 とはいえ、苦心して出来あげたそれは裏こそ無骨でなんとも言えないものに仕上がったが、鏡面処理はバッチリの鏡に上がっていた。

 因みに作成途中の記憶はなく、気が付けば現在時刻は夜を回っていた。

 疲労感はさほどでも無い事から致せり尽くせりなんだなと改めて感じる。

 

「……ふぅ、終わった」

「……」

 

 一息つこうとして後ろをみるとそこにはアルヴォアがポカンとした表情で突っ立っている。

 

「氷の嬢ちゃん。あんた、一体何者なんだ……!?」

 

 両肩をがっちりホールドされ、ガクガクと揺らされる。、

 物理的に脳が震えるるるる……。

 

「ち、ちょっとアルヴォア!? 何をやってるの!」

 

 うぅ、助かった。今頃アルヴォアの奥方が来なかったら脳震盪でアルヴォアに殺されてたところだった。

 

「すまない、氷の嬢ちゃん。あんな物凄い腕前を見たのは初めてだったんだ。俺の親父に優るとも劣らない……!」

「……それは、秘密」

 

 アルヴォアに尊敬と羨望の眼差しで見つめられているが、隣からは冷ました鉄よりも冷たい目線に射竦められている。

 勿論、目線の主は奥方のシグリッドだ。

 嫉妬の目線……。ひえぇ。

 

「……アルヴォア。……その目はやめていただけませんか。……それに、シグリッドも。……私はこれまでも。これからも。ずっと、独り身、だから」

 

 私の言葉を聞いてシグリッドの目に慈しみの光が宿る。ってアレ?

 なんか間違ったこと言ったっけ?

 

「氷姫ちゃん」

「は、はい」

 

 俺は訳の分からない状況になったので、助けを求めるようにアルヴォアを見る。

 ……って、この人もだっ!?

 

「「私(俺)の家の子にならない(か)?」」

 

 うげぇっ、ハモった!?

 さすが夫婦だな。羨ましいこと限りない。

 

「……え?」

 

 俺は顔を引き攣らせて一歩また一歩と後ろに下がっていく。当然アルヴォアとシグリッドも同じ様にして近づいてくる。

 いやまあ、純粋な好意で言ってくれてるんだし、嬉しいことに変わりはないんだけど……。縛られたくないって言うかなんて言うか……?

 

「……気持ちは嬉しい。……けど、お断りさせて貰う」

 

 我ながら、この娘(氷姫)は過ぎたる力だと思う。人をこんな簡単に魅力するし、強いし、何でもできるし……。

 ……ハンマーで形を整えるだけで鏡が作れるってどんな超人だよ。この一言に尽きる。

 

「「……そう(かぁ)」」

 

 本当に二人には悪いが養子の誘いは丁重にお断りさせてもらう。

 

「……でも、ありがと。気持ちは受け取っておく」

 

 そう言って俺は家の中に入ろうとして──。……アレ?

 

「ヒョウ!」

「ヒョウちゃん!」

 

 あれ、二人の呼び方がヒョウっていう愛称に変わっている。そして、物凄く眠い。

 

 その日、俺は教訓を得た。

 吸血鬼だからって一徹した翌日に鍛冶なんてするものではない、と。




日常回であれチートがあるのは変わりません。


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第10話『リバーウッド─3』

ゲリラ投稿です
後で二度目の本投稿があるので見逃し注意です。


 アルヴォア宅の裏でラジオ体操をする影が一つ。もちろん俺である。

 

「いっちにーっさーんしっ、ごーっろーくしーっちはーち……」

 

 リバーウッドの朝は早い。

 早いのは構わないのだが、俺は吸血鬼であって本来は夜行性……。相変わらず朝に起きたらペナルティが痛い。

 

 日があるうちは、当然あっつあつな鍛冶なんて出来たもんじゃない。

 もしかすると昨日のぶっ倒れとかはこれが根本的な原因なのかもしれない。

 だからといって俺は創作活動をやめるつもりは無い。

 

 ちなみにだが、鏡は使わなかった。

 なぜかと言うと自分を見る気になれなかったからだ。

 強いていうならば変な気持ちになったから、だ。

 

 そんなことは置いておくとして、とりあえず現状はアルケイン付呪器が欲しいところだ。

 付呪が出来ねば最高の武器防具を生み出すなどほぼ不可能かもしれない。

 実際問題、鍛造術強化とがないと厳しい。

 伝説的とかそんな銘を冠した武具は作れるがそれまでである。

 全世界の廃人製武具と比べれば平凡かそれ以下もいいところだ。

 なんてったって、鉄のダガーですら攻撃力100越えなんて夢ではない。とか言えば分かってもらえるだろうか。

 そう、それが付呪の恐ろしさである。

 まあ付呪する数だけ、極大魂石が必要なんだけどね。

 と言ってはいるが、現実化した今、攻撃力が目に見えないのでなんとも言えないのが現状だ。

 ただ、あるだけマシな部類であろう。

 

「……おはよ、ハドバル」

「おお、朝から精が出ているな。なんの踊りかは知らんが」

 

 ちょっとそれは酷い言いようだな。

 氷姫ちゃん、傷ついちゃうわー。

 

「他の帝国兵士にも見習ってもらいたいものだな、全く。俺の同期は禄な奴がいないんだ」

 

 ハドバルがそう言って溜め息をつく。

 

「それで、ハドバルはいつソリチュードに行くの?」

「ホワイトランから兵士が到着するまでかな。来たら来たで村を出るさ。お前はどこに行くのか分からないし、自分で見ておかないと心配だしな」

 

 ハドバルはそう自嘲的に言う。

 いや、俺はすごいと思う。そんな事をサラッと言えるなんてとんでもなく凄いやつだと思う。

 イイヤツだ。

 

「帝国を優先すべきだと言うことは分かってるんだ。なんてったって戦争状態が続いてるしな」

 

 だが私情を自分の立場よりも優先して親族や知り合いを守ろうとここに留まっている、と。俺は普通に凄いと思う。

 流石にソリチュードまで一緒に行き、ハドバルを庇ったりする事はできないけど、戦争は一番最善の形で止めてあげたい。

 それが仮初の平和なのだとしても、ハドバルにとってもタムリエルにとっても、気休め程度にはなるはずだ。

 きっと、無いよりは。ずっとマシのハズだ。

 

「おーい、ヒョウ!」

「……ん、どうしたのアルヴォア」

 

 アルヴォアさんがこっちにやって来る。

 もしかすると頼んでおいたことを伝えに来てくれたのかもしれない。

 

「ルーカンからの伝言で、あの男が来たらしいぞ!」

 

 昨日の晩の事だ。

 すぐに回復した俺は、こっそりとアルヴォア宅を抜け出して、金の爪とお手製の手紙を物語の間の扉の前に配置しておいた。

 そこにたどり着くまでにはイヤラシイ罠を沢山配置したので山賊に関しては問題無い。

 試すような真似をして悪いが、ドラゴンボーンならきっと突破してくれるだろうと信じてのことだ。

 出来ないならそれまでの男ってことで切り捨てる。

 よし、建前はこれでいいな。

 

 ルーカンにはゴールドを握らせて、協力を取り付けているので問題はないはずだ。

 多分、夕方までにはこっちにドラゴンボーンが来てくれるんじゃないかな?

 

「……ん。アルヴォア、ありがと」

「んにゃ、お前はもう俺の娘みたいなものだ。可能なことであればなんでもドンと頼んでくれ」

 

 ん? 今、なんでもって……。なんだ。可能なことであれば、か。

 と、冗談は置いておく。

 さっきのは言いたかっただけなんです。

 

「……そう言えばなんだが、あの鏡はどうするんだ?」

 

 ……ああ、完全に忘れてた。

 自分の顔を拝みたいその一心で魂を注いで作成したあの、鏡を。

 

「……どこにある?」

「あそこだ。あまり鏡の件は広めない方がいいかもな」

 

 そりゃそうだ。鏡ってだけでも希少だっていうのに。

 俺がむやみやたらに広めるわけがない。最悪、付け狙われてシロディールの帝都まで攫われて武具作成係にでも任命されるかも。

 案外、それもアリなんじゃないか?

 

 それよりも今は鏡の話だ。

 改めて出来具合を確認したい。

 昨日は鏡を見ることに対して嫌悪感しか抱かなかったので、そこまで気にしてもいなかったが出来次第では……うん。

 

「これだよ。何だか付呪されたように裏が薄く光るんだ」

 

 ……なあにこれえ。

 

 今回紹介する商品はこちら。氷姫ちゃん特製手鏡です。

 防御力はそこらのエルフの盾(伝説的)やドワーフの盾(伝説的)を余裕で凌駕するとんでもない逸品(当社比)。

 これ、今ならなんと単品で750,000ゴールドのところを……、鋼鉄の剣を付けて変わらずの750,000ゴールド! そう750,000ゴールド!

 余裕の金額ですよ。

 

 って何をやってるんだ、俺は。

 現実逃避するんじゃあない。よく目に焼き付けろ、俺がやらかしたことを。

 

「……ん、流石私。……ツルツルテカテカの鏡面処理は完璧。……流石。……私」

 

 って何ほざいてるんだ(おれ)

 流石とか言ってる場合じゃないんだよ。一体どんな効果なのかは分からんが、付呪器もなしに付呪した事が規格外なんだよ!

 一体この顔を見たいがためにどれだけの魂削ってるんだよ!

 顔を、見たいがため……?

 我ながら、気持ち悪い……。

 

「ヒョウ? ど、どうした」

「……死にたい」

「一体急にどうしたんだ!?」

 

 どうしたんだもこうしたんだもないんだよ。

 こうなってしまってるんだよ……。

 しょうもなさ過ぎる。

 

「おい、おじさん。なにがあったんだ?」

 

 どうやら剣を振っていたハドバルがこっちに来たらしい。

 困惑しているアルヴォアの代わりに俺が答えておいてやろう。

 

「……ふふフ。……何でもないヨー」

「いや、どう見ても何かあるんだが……?」

 

 思ったよりやらかした事への反動は強いらしい。

 平常心ってなんだっけ。

 

「あー、……ヒョウ。一先ず、これは作成者であるお前が持つべきだ。良いな?」

 

 あっハイ。

 喜んでそうさせていただきまする。

 

「ハドバルも何も見なかったことにしとけ。良いな?」

「あ、ああ。分かった」

「シグリッドにはこの件が重要な事であると、俺が伝えておいてやる」

 

 アルヴォアさんが俺のために致せり尽くせりだ。

 嬉しいけど、隠す必要もない気がしてくる。

 

「力を持った武具は使用者を堕落させる。そんな武器を出回らせるわけにはいかんだろう。ヒョウ」

 

 あ、これ隠さなきゃ。確かにドラゴンの一撃が雑兵に軽々と防がれたった一振りで細切れなんて考えたくない。

 別に隠さなくてもいいなんて思ってないぞ。

 本当だぞ。

 

「……ん、分かった。この秘密は墓場まで」

「そうするつもりだ。真のノルドに嘘はない」

 

 いや、真のノルドは引かない的なノリで言われても説得力ねえな……。

 ま、アルヴォアさんだからこそその言葉を信じようと思えるんだけどね。

 ドラゴンが来たら自ら死にに行くような真のノルドだからね!




気が付けば死んでしまう真のノルドことアルヴォアさん。
リバーウッドにドラゴンが来たが最後、アルヴォアさんを守るミニゲームが発生します。

アルヴォアさんの死亡回避のためにも、ドラゴンを速やかに殺してあげよう!


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第11話『リバーウッド─4』

……どうやら、書いたら出したくてたまらないお年頃の様です。
どうしたものやら……。

ちなみに本日2話目ですので前話を見逃し注意です。


 ドラゴンボーンが来るまでが暇で暇で仕方がない。

 だから俺は今、薪割りに勤しんでいる。

 たまに休憩を挟みながらアルヴォアやハドバルと他愛ない会話をする。

 うん、日常って素晴らしいものだ。

 出来ればこう言うスローライフをずっと続けていたいものだ。

 

「……ふーん。あなたが氷姫って言う娘ね。ホッドからあなたの事は聞いているわ」

 

 後ろから知らない声が掛けられたので少しだけ驚いてしまう。

 別に彼女の存在に気づいてなかったわけじゃない。

 目の前をハエが通ったのが悪いのだ。

 そうに違いない。

 

「……ああ、ジャルデュルか。すまない、氷姫の紹介を忘れていたな」

「気にしなくていいのよアルヴォア。あなたのような人が、危険な余所者を家に泊めたりしないでしょうから」

 

 アルヴォアに対する信頼が厚い。

 当然、憑依転生前の俺とは違って十分な人望があるようである。

 今更嘆いても遅いがとにかく羨ましい。

 

「ジャルデュル、それで用件は?」

「私の従兄弟が連れてきたあの男のことよ」

「……」

 

 ジャルデュルの言った従兄弟という言葉にハドバルが邪険そうな表情を作る。

 

「あの人が頼ってきたらぜひ手伝ってあげてちょうだい。あの人にはうちのレイロフを助けてもらったのよ」

 

 ハドバルはより眉間の皺を深くするが、非難の声をあげようとはしない。

 何を考えているのかは分からないが、何か思うところあるのかもしれない。

 よし、これは何としてでも休戦協定締結ルートに行き着かせなければならないか。

 最悪主人公がストームクロークについてしまえば帝国にとって戦況は最悪になる。

 だからといっておいそれと主人公を殺すことも出来ないし……。難しい問題だ。

 

 いっその事、ウルフリックだけでもぶっ殺すか?

 いやいや、そんなことをすればノルドの半分位からの反感がぶつかりかねない。

 暗殺もありなんだが……。どうしたものか。

 

「……おい、氷姫、あんまり変なことは考えるんじゃないぞ」

 

 ハドバルに何かを察されたのか釘を刺されてしまった。あんたの事を思ってのことなのにな。困ったものだ。

 乙女の秘めたる想いは伝わりづらいって事が分かんだね。

 

 とりあえずはウルフリックよりもドラゴンボーンの事が優先事項か。だってまだ戦争は膠着状態が続いているんだろうし。

 先に会っておけばいいって思う人もいるかもしれないけど、子供だからってだけで相手してもらえなかっただけでも軽く死ねる。

 

 襲いかかってぶちのめせば、相手にしてもらえるだろうけど逆に賞金がかけられてしまうだろうし……。

 不器用? う、うるさいっ。

 気が合うやつ以外はどうにも人付き合いは苦手なんだよ!

 

「大丈夫か? ……氷姫さんや」

 

 ハドバルが変な視線を俺に送ってくるが何のことやら。

 俺は目を逸らすことで返答する。

 それにハドバルは溜め息をついてこう独りごちた。

 

「俺がいなくなったらとんでもない凶行に及びそうだな。コイツは……」

 

 あ、我ながらそう思います。自分が信頼できないのは辛いね!

 逆に自分を含めてみんなからの信頼が皆無なのもどうなのだろうかと思う。

 ……全然逆になってねえ。

 

 まあ考えたことが現実にならないためにも、あの餌(俺の用意した手紙)を仕込んでおいたんだけどね。

 朝にアルヴォアから報告があったってことは主人公は現在ブリークフォール墓地へと向かってるわけだ。

 要するにあの時の謎の襲撃者とは別人ということになる。

 どんどん謎は深まるばかりだ。

 

「それじゃあ、アルヴォア。頼んだわね」

「任された。製材所に居るホッドにもそう伝えておくよ」

 

 どうやらハドバルに心の内を見透かされるうちに何かの約束を取り付けて行ったようだ。

 ……気にならないことは無いが、別に放置しておいてもいいか。

 

「……ハドバル」

 

 俺は後ろから唐突にハドバルの肩を叩く。

 

「どうした、氷姫……」

「……ん、引っかかった」

 

 当然ハドバル振り向こうと首を動かし、ほほに指がささる。

 

「……氷姫、どういう了見なんだ?」

 

 ふはは、引っかかりおった。

 

 あっちにいるアルヴォアさんが笑いをこらえているのが見える。

 

「……イタズラ?」

 

 そう言って小首を傾げる。

 ハドバルには効果抜群なようで、鼻頭を抑えて低く唸っている。

 怒っているのか恥ずかしがっているのかは知らないが、これは俺の勝利だ。

 

「もう、返す言葉も見つからないんだが……」

 

 あ、これは呆れられてたのか。

 やはり中身が高校生だと人生の先を行く大人には敵わないらしい。

 かくいう氷姫ちゃんは齢にして50歳超えだ。

 40年ほども吸血鬼として放浪していた。という、脳内設定だ。

 寝ていた時間は……多分、100年程度。今決めた。

 

 

 ハドバルさん、ごめんなさい。

 やっぱり負けです。




氷姫「あれ、何か忘れているような……?」

次回(明日)は転移者達サイドのお話です。


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第12話『吸血鬼といろいろ─1』

 相変わらず俺は暇で、とにかく無心で薪を割り続ける。

 カタ、コトン、シュッ、スコン。

 暇なので、この擬音を右から順に説明しよう。

 カタ、割る木を取り出す音。

 コトン、台の上に薪を置く音。

 シュッ、斧を薪に振り下ろす音。

 スコン、薪が綺麗に叩ききれた音。

 

 ちなみに派生版もあり、四つ目のスコンにはガコンという別の音がある。

 この薪割り、ゲームでは常に成功していたが、現実となった今ならではの現象だ。

 説明するとこうなる。

 

 ガコン、薪の途中まで切れたはいいものの力が中途半端で失敗した音。

 薪割りは慣れたらこっちのものだ。

 今ではスコンがガコンになる確率は、零割七厘と言ったところか。

 

 カタ、コトン、シュッ、ガコン。

 ……前言撤回。

 今ので零割八厘だ。

 

「おい、ちょっといいか。ここ辺りで氷姫っていう女を知らないか?」

 

 後ろから声が掛かる。氷姫、つまり俺?

 ……あ、そういうことか。

 薪割りに夢中になってすっかり忘れていた。

 

「……ん、初めまして。私が氷姫」

「どうやら、本名を明かすつもりは無いんだな」

「……遠い過去は捨て去ったの。あなたに関係はない」

 

 別に名前を教えてやってもいいけどRP(演技)を優先する。だって、楽しいし。

 

「……それで、何か用?」

「とぼけても無駄だろう。俺に石を渡してほしい」

 

 そう言って目の前の男は手紙を見せる。手紙には俺の書いた字でこう綴らられている。

 

"リバーウッドの製材所付近にいる。ドラゴンストーンが欲しければ来い。

             氷姫"

 

「……ん、確かに私の字」

「なあ、一つだけ良いか?」

「……分かった」

 

 闇が深く、普通の人間であれば認識するのも一苦労だが、その男は真剣な目をしている。

 

「あのトラップも……君が?」

 

 その瞳には怒りがこもっている。

 俺は静かに左へと目をそらす。

 

「あんなので俺が死んだらどうするんだ!?」

「そしたら、それだけの事。あなたは運が悪かった」

「……ぬぐぐ」

 

 男は何か言いたそうな表情をしているのが分かる。うん、それだけのことを私はしちゃったもんね。

 全ては愛のムチってやつか。

 

「……あなたの名前は、シャナリアね」

「……!」

 

 シャナリア=ヘリオ・ルシーン、ここから南にあるシロディールから国境を渡ろうとして捕まった人物。

 俺の最初のメインキャラ(主人公)……。

 

「インペリアルのシャナリア=ヘリオ・ルシーン。丁度三日前、ヘルゲンに護送されたはずの処刑囚」

「……どこまで、知っている?」

 

 いや、殆ど全部。

 だってアンタ作ったの俺だし。

 そう、俺の厨二病の全盛期だったはず。何をやっても許されるとか思ってた。

 やばい、これ以上は悶え死にそう。

 とにかくっ、俺の妄想全開で作り上げた、物理的にも、中二的にも、とんでもなく痛々しいプレイヤーキャラクターなのである。

 なんの因果かこうやって巡り会うとは、運命とはなぜこうも残酷なのだろうか。

 こうやって会ってみて、恥ずかしくて死ねそう。いや、もし今、近重如月の身体であったなら、既に喉首掻っ切ってたかもしれない。

 今考えてみろ、顔にあるキズとか眼帯とか。普通に痛そうなんだもん。

 そうだよ、カッコよくなんかないんだよ!

 今すぐにでも存在ごと消してしまいたいところだが、こいつは主人公。

 我慢しなくては……。

 

「……おい」

 

 シャナリアが内心悶えている俺に呼びかけてくる。

 やめろ、やめてくれ。話しかけないでくれ……!

 

「ど、どうしたんだ……」

 

 た、頼む。話しかけないで、くれ……!

 

「お、おい、大丈夫か?」

「い、いい……、い……」

「……い?」

 

 も、もう限界だ……。

 口から言葉が……、逆流する……!

 

『イケメンにキズとか眼帯とかカッコよくねえだろォーーーッッ!!』

 

 うわぁーーッ!!

 

 あの頃、近重如月という少年はこのイケメンと仲良く妄想の海に水没していたという。

 ……死ねるぞ、これは。

 

「フーッ、フーッ……」

「……」

 

 あ、すっごいビビってる。

 

「……落ち、着い、た。……こっち、から、も、質問、いい?」

「いや、全く落ち着いてるように見えないんだが……?」

 

 何を言っている。

 全力で息を繰り返しているだけであって別に落ち着いていないわけではないんだ……。

 いいや、落ち着け。俺。

 

「すー……、はー……」

 

 深呼吸をしたら落ち着くというので試してみる。ほら、ブラシーボ効果っていう言葉もあるだろ?

 

「……ん、落ち着いた」

「そ、そうか……」

 

 あー……、引いてる引いてる。

 本人である俺も引いてるんだ。彼の気持ちが痛い程に分かる。

 

「……コホン。……改めて、私からも一つ質問する。……質問には、一つ質問で返す。これでいい?」

「あ、ああ。分かった」

 

 よし、とりあえず契約成立と。第一印象なんて知ったことではない。

 まず、確かめたいことが一つ。

 

「近重如月っていう名前に心当たりは……?」

「……? いや、知らないな」

 

 ふむ、目は泳いでいない。

 

 なら、疑問は晴れたので良しとしようか。

 こいつがもう一人の俺、若しくはクラスメイトである可能性は限りなく低い、と。

 

「……じゃあ、俺からもいいか?」

 

 俺はその言葉に頷いて質問を待つ。

 

「さっきの言葉は一体なんだ? 少なくとも、シロディールの言葉ではなかった様だが……」

 

 あ、日本語で叫んでたのか。俺。

 

「……ただの絶叫だヨー」

「いや、だから。目を逸らして言うなよ」

 

 俺はこの時改めて思った。

 このドヴァーキン、思っていた以上に厄介である。




シャナリア「顔に剣戟を受けてしまってな……」


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第13話『吸血鬼といろいろ─2』

誤字報告ありがとうございます。
閑話等は構成がグダグダという訳で、近日中に大幅に改稿されると思います。
お手数をかけますがご了承ください。


 あのドヴァーキン、暫くはリバーウッドの宿屋、スリーピングジャイアントに泊まって行くのだそうな。

 ハドバルはさっさとホワイトランに行けばいいのにとか愚痴を言っているが、どうにか彼とこのドヴァーキンの仲を取り持つことはできないだろうか。

 例のごとく暇なので宿屋にて彼へ質問でもしようと思う。

 

「……ねえ、シャナリアって女みたいな名前って言われない?」

「ああ、そうだな。だが、逆に言ってしまえばそれだけだ。名前と実力は関係ない」

 

 ……悶え殺す気か。

 ゼータのパイロット的なノリで、シャナリアが男の名前で何が悪い、とか言ってくれればまたマシだったものを……。

 ごめんなさい。

 今のは悪い冗談です。

 

「逆にお前は氷姫、だったか。どうして過去を隠す必要がある」

「……決別。私の、過去と」

 

 ぶっちゃけこの問答はただRPしてるだけだけど、気にしない気にしない。

 だって、楽しいし?

 

「具体的に言うと過去と今の。時間が経って過去の私が認識されなくなればいいな。って思ったんじゃないかな」

「……なんだ、最後の一言は」

 

 俺の最後に付け足した言葉にシャナリア微妙な表情をしているのが横目でも見える。

 途中まではウルッと来てたみたいだったけど。

 

「……今の私には関係ない話だもの」

 

 間違えてはいないはず。俺は元男で異世界の別個人だったのだ。

 関係ないものはどうやっても関係ない。平行な二本の線が永遠に交わらないのと同じように。

 

「まあ、深くは聞くべきでないか」

「……ん、そうしてくれると助かる」

 

 ……当時は色々と爆発していたとはいえ、紳士プレイをしていたんだよな。

 これはその影響だろうか、紳士的な深く関わろうとしない様子。そうでなければこの世界にこんな奴は滅多にいないだろう。

 

「……シャナリアは、どうして国境越えを?」

「国境ねー。何となく越えてみたくなったんだが、ちょっとしくじってな……。今までいい加減やった分のツケが回ってきちまったんだろ」

 

 こいつ、何も考えずに国境を越えようとしていたのかよ……!?

 ……なんて言うか背筋に気持ち悪い戦慄が走った。

 紳士的なのかどっちかにして欲しいんだけど。

 

「それじゃあ、俺はもういいか。オーグナーから山賊狩りの依頼を受けてしまってるんだ」

 

 これ以上の質問をする気はないのか、シャナリアは引き下がってしまった。

 それに、と彼は続ける。

 

「これで質問の数はお互いにぴったりなはずだ。最初を含めてな」

 

 ……別に最初のアレはカウントしてなかったんですが、それは。

 こいつ、無駄なところにまで手が回るようだ。

 必要以上は質問させないらしい。ギザに決めようとするか、コイツ。

 正直な話、心が悶えたがっている。

 出来ることならばここに穴を掘ってそこに隠れてしまいたい。

 ……本気(ガチ)で掘っちゃおうかな。

 

「おーい、ヒョウ。何やってるんだ。今日は鍛冶を手伝ってくれるって約束をしただろう」

 

 ……穴を掘るならシャベルを持ってこなくてはならない。

 ならいっその事一緒にツルハシも持って行って、炭鉱夫にでもなるのもいいかもしれない。

 どこぞのスティーブさんよろしく、ブランチマイニングで一攫千金も夢じゃない。

 あれ、無駄な、思考が、止まらないぞ。

 

「……そっとしてあげましょう。きっとヒョウちゃんも疲れてるのよ」

「……そうだな」

 

 ……ぷはっ。

 なんとか雑念の海から戻ってこれた! あと少しで自分の喉首をアイスジャベリンしていたかもしれない。

 落ち着け、落ち着くんだ。

 

 一旦落ち着こうと思い、静かに目を閉じる。

 こういう時は瞑想するのがいいとか聞いたことがある。

 

 私はゆっくりと目を閉じ、周りの喧騒を切り離そうと──。

 

「オーグナー、エールが切れてるわよ!」

 

 ──エールと言えば、俺はこっちの世界では飲んでも構わないのだろうか。

 憑依転生する前は高校生だったし、今はなんて言うか外見が子供だけど(脳内設定において)年齢は結構いってるし……。そこ辺りが曖昧だ。

 今度、飲んでみて検証してみようかな……。

 

「……そこに居たのか、氷姫。アルヴォアおじさんが心配していたぞ」

 

 ハドバルの声が聞こえる。

 私はゆっくりと目を開く。

 

「……どうしたんだ。そんな泣きそうな顔をして」

 

 瞑想するだけ無駄だった……。

 俺はヤケになり、目の前にあるオレンジ色のビンを無言で呷った。

 その甘い液体は喉を通り、口から喉、喉から胃。

 そうして身体の全身を熱していく。

 そして、すべてをのみほしたわたし(・・・)は──。

 

「お、おい……!」

「……むぐ、はどわりゅ!」

 

 あたまがぼわーっとする。

 おさけってこんなにいいきぶんなんだなぁ。

 うまくものごとをかんがえることができない。せいじょうじゃないということはたにんじゃなくてももわかる。

 

「ほへえはふぉおひへほうはふへひ、へほはほ……」

「ひ、氷姫!」

 

 からだにうまくちからがはいらず、わたしはたおれてしまう。

 めのまえがまっくらに染まっていく。

 ああ、なんてここちよいんだろう。

 ずっと、こうしていられたら。らくなのに、なあ。




お酒は20歳になってから。
別に推奨している訳ではありませんので悪しからず。

の、飲んだことなんてないんですからね!


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第14話『吸血鬼といろいろ─3』

昨日は投稿をサボりました。
ごめんなさい(´・ω・`)

あと、閑話を一時的に削除いたしました。
前触れも無くてごめんなさい(つд⊂)ウオォ...
多分ですが、後で読みやすくしたりして投稿すると思います。


 光が眩しい。

 そう思って目を覚ました俺だったのだが──。

 

「ここ、どこ……?」

 

 ──気がついたら訳の分からない森の中だった。

 いや、昨日何があったらこうなったんだ。そもそも無防備に寝てて、誰にも襲われてないこと自体が奇跡に近いんじゃなかろうか。

 うーん、上手く頭が回らないや。

 

 ……誰か、納得のいく説明を下さい。

 いや、昨日のことを思い起こすんだ。最後に至っては何が全身があっつあつになってた様な……。

 やっぱり分からない。

 

「……ようやっと目が覚めたか」

 

 右後ろから声を掛けられた。

 この渋くて太い声には聞き覚えがある。確か、一昨日ぐらいに出会ったあのドヴァーキンの声だ。

 ……って頭がすごく痛い!

 

 急に襲いかかる痛みに蹲っていると、男が呆れたように言った。

 

「ったく、はちみつ酒を一口飲んだだけでこれか……」

 

 成程、あの甘い液体はハチミツ酒だったのか。

 なんて馬鹿な真似を……。

 

 シャナリアはため息を吐きつつも松明を地面に刺して明るくしてくれる。

 俺はゆっくりと、身体を反対側に向ける。

 どうやら焚き火をたいていたらしく、何かを焼いているのがわかる。

 焚き火の向かい側にいる為かよく顔は見えない。

 

「うぅ……、シャナリア……?」

「ああ、そうだ。どうせ二日酔いだ。しばらく安静にしとけ」

 

 昔のノリとはいえ、今こうして実際に動いている様を見ると、昔の自分を見ているようで滅茶苦茶恥ずかしい……。

 

「あのハチミツ酒は奢りにしておく。まあ、背伸びするような奴に対して代までは取らん」

「……恩に、着る。……うぅ」

 

 成程、俺の勢いで勝手に飲んだハチミツ酒のお金はシャナリアが持ってくれたと。

 うん、イイヤツだ。

 

 段々と意識が覚醒してきており、どうやらまだ夜は明けていないことに、ようやく俺は気づく。

 太陽の光と勘違いしてたやつは魔法だった。

 焚き火もあるのに、これを使う必要はあったのだろうか。

 

 ……まてよ。灯明って、そんなに長く続いたっけ。そこあたりも、現実化とか色々影響を受けているのかもしれない。

 恐らく、魔法の自由度が上がっているんだろう。

 

 彼から聞くに、昼に俺が酔い潰れてどっかにフラフラと出て行ってしまったとか。

 シャナリアは、俺を止めようとしたのだろうズタボロのハドバルに、助けを求められたらしい。

 

「……酒はもう飲むなよ」

 

 アッハイ。

 俺もこんな思いは二度とゴメンである。

 夜が明けたらさっさとリバーウッドに戻って、ハドバルに謝らないと……。

 

「……シャナリアは、そのままホワイトランに?」

「ああ、そのつもりだ」

 

 ……そうか、行っちゃうのか。

 ドラゴンストーンは渡しておくべきだろう。

 

「それで、だな……」

 

 シャナリアが何だか言いづらそうに口ごもっている。

 ……ああ、成程。

 ホワイトランに戻るならファレンガーに渡すためのアレがいるのか。

 

「……これのこと?」

 

 俺は鞄からドラゴンストーンを取り出す。鞄は肌身離さず持っておいて良かったと思う。

 因みに、しっかりと錠前で固定してあったりもするので、盗難にも……。

 

 って、懐に入れてる鍵取られたら終わりじゃん。コレ。

 

「……本当なら、私も一緒に行きたいところなんだけど。……いいよ。持って行って」

 

 狙われてる石なんて、怖くて持っていられたものじゃない。

 シャナリアへの嫌がらせという訳では無いが、むしろ持って行って欲しい方だ。

 

 コイツなら多分ミルムルニルさんもフルボッコだろう。

 そもそも、衛兵だけでも倒すことが出来ちゃう奴だし。

 悲しきかな、veryeasyだと速攻とまでは行かないがあの竜は早めに溶けてしまう。南無。

 

「分かった。……多々納得いかない面もあるが、感謝する」

「……ん、気にしなくて、いい」

 

 シャナリアの渋い声を聞きつつも、俺は頭の痛みから逃れるように再び眠りについた。

 

 

 先程交わした会話から少し時間が経った。

 

「まだ、起きてるか?」

 

 俺は火の向こう側で横になる少女に問いかける。

 きっと、もう寝てしまったのだろう、

 

 氷姫、アイツは変な奴だ。

 出会ってすぐに訳の分からない叫びをあげ始める。

 その上、質問に関しても彼女にとってはどうでもよかったのだろう。

 内容も適当さがわかる程に雑だった。

 はっきり言ってしまえば、この少女は何がしたいのかがよく分からない。

 行動原理も何もかもがサッパリだ。

 

 だが、どこか俺に似ているようにも感じる。

 どうしてかは分からない。勘だ。

 

 そしてこれも勘だが、この少女とはこれから先、何処かでまた会う気がする。

 

 ……さてと、随分と遅いが夜食にでもするか。

 きっと、今晩は平和な夜になるだろうな。

 




これから展開をよく練って投稿したいので、時折投稿しない日が出てくるとは思います。
ですが、生暖かい目で見つめて頂ければ幸いです。
今後とも、この小説をよろしくお願いします。


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第15話『吸血鬼といろいろ─4』

申し訳ありません昨日に投稿できませんでした(><)
そして予約投稿も忘れてしまうという始末……。


 そして夜は明け、リバーウッドに向かう俺と、ホワイトランへと向かうシャナリアは別れた。

 

 吸血鬼とはいえ、夜に眠る習慣は抜けることはなく、昼に行動していても違和感かあるくらいで特に弊害はない。

 ただ、火に弱いだけである。

 

 ……ダメじゃん。

 ふと、遠くを見つめると、川沿いに建ち並ぶ木造の家などがみえてくる。

 あれは、リバーウッドだ。

 

「戻ってきた……」

 

 思えば長い道のりであった。

 ……別に期間とかそういうのではなく、純粋に歩いた距離的な意味合いでだ。

 

 リバーウッドに入った俺は、この村唯一の鍛治師であるアルヴォアの家へと向かう。

 そこにいるハドバルに謝らなくてはならない。

 

「……アルヴォア、氷姫だよ。戻ってきた」

 

 俺は扉を叩く。

 

「ヒョウ、戻ってきたのか。ハドバルがボロボロになって戻ってきたから心配してたんだぞ!」

 

 アルヴォアさんが心配そうな顔で飛び出てくる。

 そして続いて出てきたシグリッドが言葉にならない叫びをあげながら私に飛びついてくる。

 ……気が付かないうちに随分と深くにまで根を張ってしまっていたようだ。

 

「……ん、ただいま」

 

 皆の心配がどこか居心地が良い。

 生まれてこの方ここまで心配されたことは無かったので妙に頬がむず痒い。

 

「……はあ、何をやってるんだ」

 

 シグリッドが俺を抱きしめてくれていることはわかったが、ハドバルがため息をついているのがわかる。

 ほら、あなたの娘さんのドルテちゃんがそこで微妙な顔をしているぞ。

 

「良くも悪くも、シグリッドは好きなものには愛情を傾けるからな」

 

 へえ、そうだったのか初耳だ。

 というか、アルヴォアもそこで苦笑だけをしてないでシグリッドを止めてほしいんですけど!

 

 その後、シグリッドが暴走してドルテを抱きしめ(殺しかけ)たりなど、予想外のトラブルはあった。

 アルヴォア曰く、それは俺が来る前とは変わらないいつも通りの平穏なんだとか。

 

「……ん、ハドバル。……ごめんなさい」

「気にするな。まさかあそこまで打ち負かされるとは思ってもみなかったがな……」

 

 ハドバルも予想外にもすんなりと許してくた。

 ただ、私にぼろ負けした事はかなり気にしているようだ。

 

 そんなこんなで数刻過ぎ、俺はアルヴォアに割り当てられた部屋へと入っていた。

 リバーウッドに戻ってからとは言うものの、時折妙な胸騒ぎがしている。

 もしかすると、私がここにいることで悪いことが起こるのではないか。

 被害妄想に限りなく近いが、そう思ったりもしてしまう。

 

 そんな思いを抱えながら気がつけば夕刻に差し掛かろうとしていた。

 

『ドゥヴァァアキンッッ!!』

 

 空をつんざく様なとてつもなく強大なシャウトが響き渡った。

 恐らく聞こえたのはここだけではないだろう。

 少なくともスカイリム全域には聞こえたのではないだろうか。

 

 恐らく、(シャナリア)は無事にミルムルニルを討伐しきったのだろう。

 そして、その確かめるべく放ったシャウト、それに気づいたグレイビアードが招集をかけた。

 誰の台本なのか陰謀なのか分からないが、俺の知った筋書き通り(・・・・・)に進んでいる。

 

 俺が多少動いても特に変化は起こっていない。

 だからといって慢心するつもりではない。

 だが、少しぐらい俺が動いたところでバタフライエフェクトなんてものは起きないのではないのか。

 そんな風に思ってしまっている自分がいる。

 

 嗚呼、頭が混乱する……。

 やっぱり、憑依した所で思考能力は変わらないのだろうか。

 ……それを今ここで、考えたところで分かる訳もないか。

 それとも、良くも悪くも俺は俺ってことなんだろうか。

 考え事が多いな。

 

「ヒョウ、起きてるか?」

 

 ハドバルがヒョコリと部屋の入口から顔を出す。

 ベッドに横たわる俺は、彼に対して手をヒラヒラと振り、まだ起きているということをアピールする。

 

「今の声を聞いたか?」

 

 言わずもがな、先ほどのグレイビアードの招集の事だろう。

 私は無言で頷く。

 薄暗い部屋だから気づかれにくいだろうが、私はきっと疲れきった表情(かお)をしていることだろう。

 勿論、それは私が無駄な思考を張り巡らせているからなのだが。

 まあ、それはいいか。

 

「……今の声。つまり、グレイビアードのシャウトのこと?」

「ああそうだ。あれは一体誰が呼ばれたんだろうか。と思ってな」

 

 やっぱりそこは気になるところなんだろう。

 確かに俺は招集がかかったのは誰なのかを知っている。

 だが曖昧にぼかしておく。追及とかされたら面倒だし。

 

「……さあ。……私には、分かりかねる」

 

 僅かに困り声で返答する。

 普通であれば分かることはないのだろう。

 だが、筋書きを知った俺は大体予想がつくというものだ。

 当然、呼ばれているのは主人公(シャナリア)の事だろう。

 

「……そうかあ。まあ、生まれて初めてのことだし、ガラにもなく興奮してしまった。それじゃあ、また」

 

 はは、と軽く笑いハドバルは部屋を出て行った。

 部屋のない彼はきっと一階の床で寝るのだろうか。

 もし、そうなのであれば申し訳ないな。ハドバルに優先させてあげてと言っても、アルヴォアやシグリッドが譲らなかったのだ。

 アルヴォアからは宿に止まっているとか聞いてはいるが、その真偽は不明である。

 

 まあ、明日になったら、ここを出るか出ないかについて、ゆっくりと考えるつもりだ。

 この世界はまだまだ不安定なのだから俺が動くべきなのだろう。




修正しましたが、最後の文がが途中で切れていました。
申し訳ありません。


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第16話『平穏は続かない─1』

投稿の間隔がかなり開いてしまいました。
申し訳ないです。


 朝日が眩しい。

 吸血鬼は太陽光で、血が煮え滾ってしまう程に身体が熱くなる。

 ってこれ沸騰する!?

 思わず俺はベッドの上を転がり──。

 

「……ふべらっ」

 

 ──床に落ちる。

 ……痛い。

 鼻から一気に激突したんですけど。

 幸い鼻の骨は折れていない様で、ジンジンと痛みがする。

 

 微妙な顔をしながらも起き上がり、素早く身支度を整える。

 と言っても特に何もすることが分からないので、水に濡らした布で体全体をくまなく拭きあげたり髪型を整えることしかやっていない。

 

 家には化粧らしきものは見つからないので、もしかしたらこの世界にそういうのはないのかもしれない(もしかしたらシグリッドが見つかりづらい場所に置いているという可能性もあるが)。

 残念とは思うが、憑依する前の世界での風聞によれば、時間がかかるらしく元々面倒が嫌いだった俺には丁度良かったのかもしれない。

 あっても使わないと思う。つまりはそういう事だ。

 

 因みに、今の俺は自分から面倒事に突っ込んで行ってしまう体質っぽいので、何とも言えないのだが。

 

 部屋を出ると廊下でアルヴォアが歩いていた。

 様子を見るに、俺を起こしに来たのだろうか。

 

「ヒョウ、起きたのか」

「……ん、バッチリおきた」

 

 ……寝起きは最悪だったけどね。

 当然ながら吸血鬼(この身体)になった事で、朝に弱くなってしまった。

 だから、あの衝撃を喰らわなければ、未だに寝ぼけ眼だったかもしれない。

 

 アルヴォアと軽く会話をした後に、俺は食卓へと向かう。

 正直、食べるつもりはなかったが、朝食を用意してくれていたらしく、流石に食べないのも悪いので、有難く頂くことにする。

 食卓にはハドバルが見えない事を聞いてみると、やはりスリーピングジャイアントに泊まっているのだとか。

 

「ハドバルからトマトが好きだと聞いていてな。シグリッドがトマト料理を沢山作ってくれているぞ」

 

 アルヴォアが満面の笑みで私にそう言った。

 ……トマト料理で吸血鬼としての飢えが満たせるのかは分からない。

 ゲームではダメだったような記憶があるが、もしかすると現実化したこの世界でならば、案外イケるのかもしれない。

 物は試しとも言う。

 怖気付くことなく俺はそのトマト料理を食べる。

 食べたところで何の支障にもきたさないだろうし。

 

「……おいしい」

 

 定期的にトマトを齧っているので、吸血鬼の飢えが満たされたのかは不明ではあるが、自然とその言葉が零れ出ていた。

 瑞々しいトマトだけでは感じられなかったであろう、絶妙な甘味に優しい塩味、そして僅かに存在感をアピールするトマトの酸味。

 これは……、美味い……!

 

「ふふ、ヒョウちゃんが気に入ってくれたようで何よりよ」

「トマト、嫌い……」

 

 シグリッドが満足気に言う。

 ただ、娘のドルテはそうは思わなかったようで、不平を漏らしている。

 

 仕方が無いか。

 子供はトマトが苦手な子が多いだろうし。

 かくいう俺でさえ、昔はトマトは滅びるべき慈悲はない、とか考えていた程だったし。

 

「こら、ドルテ。好き嫌いしたら大きくなれないわよ?」

 

 シグリッドが優しくドルテの不平を窘めているが、俺の方を睨んでムッとしているのが見える。

 あ、これは俺が悪いパターンだ。

 

「……むぅ、分かった」

 

 ドルテが完全に拗ねてしまっている。彼女には、かなり悪いことをしたな。

 

「……外、散歩してくる」

 

 少しだけ悪くなった空気に居心地の悪さを感じた俺はアルヴォアの服を引っ張ってそう言った。

 俺が悪いのは承知ではあるが、何だか居続けるにも、嫉妬の炎で燃えたドルテが何かをしでかさないか心配だし……。

 

「ああ、分かった。外は気をつけろよ」

「……ん、大丈夫」

 

 それに、今後の予定に関して組み立てなきゃいけない。

 恐らく現状では、リバーウッドから離れることは難しいかもしれない。

 俺はNOとは言えない日本人。

 そろそろここを離れるとでも言い出せば、アルヴォアらに引き止められそれに俺は頷く。

 以降はそれの繰り返しが続くだろう……。

 

 なんやかんやと考えるうちにリバーウッドを出て、エンバシャード鉱山の入口付近に辿り着いていた。

 気晴らしに山賊でも蹴散らしてみようと思い、入口へと近づく。

 

 ゲームの時とは様子が違い、入口にいるはずの見張りの山賊がいないことに気づく。

 そして、代わりにそこにあったものは真っ赤な血溜まりだった。

 

 久々に見る血液に俺は喉を鳴らしてしまう。

 アーヴェルの際は吸血鬼の暗視能力を使っていなかったから特に思うこともなかった。

 だが、今回は違った。

 

 新鮮で、鼻腔に直接薫ってくる芳醇な血液。

 長らく血液を摂っていなかったせいなのだろうか。

 吸血鬼の()は血の味を識っている。本物(・・)の血の味を求めている。

 無意識のうちに、血溜まりへと手が伸びていく。

 

『ほう、餌につられたのは貴様のような奴か。上物を用意した成果はあったか』

 

 低い声が直接脳内に響く。

 正気を取り戻した俺が振り向くとそこにいたのは、漆黒の宵闇を体現したかのように真っ黒なドラゴン。

 そう、俺の記憶が正しければ、こいつはアルドゥインだ。

 ……俺の平穏は続かないのか。

 

「……」

 

 そして、俺は唾をゴクリと飲み込みつつも思った。

 トイレに行きたい、と。




トイレオチなんて最低っ!

不摂生のアーヴェル「不味そうな臭い……(´・ω・`)」


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第17話『平穏は続かない─2』

今日は二、三本立てでお送りします。


『……ふむ、驚かせたか。吸血鬼とはいえ、元が定命の者であれば身を固めるのも仕方がないか』

 

 ……やばい、こいつ超格好いい。

 アルドゥインがなんか言ってるけどそんな事どうでもいい。

 さっきまで血がどうとかって騒いでいたけどそんなことは無かった。

 

 でもこいつラスボスだし、敵対する道しかないのか。

 なんか破壊がどうちゃらって呼ばれてたし、コイツが現れたら世界の終わりとも言われるし……。

 よし、世界の夢と希望の為にサクッと殺しちゃってもいいかな?

 

『待て。我は今、戦いに来たわけではない』

「……む」

 

 ……怪しい。そんなこと言って、俺を上半身からパックリと食べちゃうんでしょう。

 まあ、無意味に相手方の戦意を抑えようとはしないだろう。

 何より、相手はあのアルドゥインである。一聞の価値はあるだろう。

 

「……それで、何用?」

『……咄嗟に言ったドヴァーの言葉を解すか、貴様は一体何者だ?』

 

 アルドゥインがそのおっかない顔を近づけてくる。視界が光科学的に真っ黒に染まる。

 不意打ちを仕掛けられて一気に食われそうでかなり怖いんですけど……。

 体の奥底からあるものが迫ってくるが、何とか抑え込むことに成功する。

 

「……名乗るなら、貴方の方から名乗るべき」

 

 俺はキッと目の前のドラゴンヘッドを睨みつけ言い放った。

 その言葉に奴はスッと顔を離し、得心したように頷いた。

 

『そうだな、我から名乗るとしよう。我は父、アカトシュに最初に作られし竜。名はアルドゥイン(全てを貪り喰うもの)だ』

 

 アルドゥインはそう言うと、次はお前だ、と言ってまた顔を近づけてきた。

 いや、本当にその顔は怖いんだってば。

 

「……わ、私は夜の支配者たる吸血鬼。名前は氷姫。……それ以上でも、それ以下でもない」

 

 アルドゥインは俺に対してじっとりと怖気の奔るような視線を向けている。

 俺の本質でも見極めようとしているのだろうか。

 

『……ふむ、貴様は本当は何者だ? 少なくとも、この世界の住人ではないのは確実だが』

 

 あいつ、核心を一突きしてきやがった。

 ……いやいや、それよりも破壊の衝動に囚われていたハズじゃないのか、あんたは。

 せき止めていたものが僅かに流れる。この程度、コラテラル・ダメージだ。

 

「……ん、貴方の予想は当たっている。……それじゃあ、逆に聞いてもいい?」

『……いいだろう』

 

 アルドゥインは目を細め、俺の言葉に頷く。

 

「……破壊の化身たる貴方は、このような界隈の小娘相手に、何をしている?」

 

 ほう、とアルドゥインは声を漏らし、余計に目を細める。

 その目は赤く光る糸くずみた──ゲフンゲフン。

 今は何も考えてなかった、イイネ?

 結構ビビって色々とヤバくなったなんてことは無いったら無い。

 

『わざわざ、貴様という(ひずみ)を取り除きに来たと言えばいいだろうか』

 

 アルドゥインのその言葉に俺は無意識に腰に携えている剣の柄を握っていた。

 しかし、そんな俺の無意識の行動を知ってか知らずか、だがと、途切れた言葉を続ける。

 

『我を見て超然とし続ける貴様を見て興が削がれた。我はこれにて去らせてもらうとする』

「……」

 

 予想外のアルドゥインの言葉に俺の口がだらしなく開いている。

 興が削がれたって言われても……。

 

『気まぐれだ。次は無いぞ』

 

 その言葉とともに、グルルゥ……、と喉を鳴らし重低音を響かせて唸る。

 俺は思わず全身の穴という穴から汗が漏れ出す。

 ……ヤバイ。

 

『さらばだ、歪な魂を持つ吸血鬼よ。ただ、再会の時は近いだろう。我も、貴様も心しておくべきだろう』

 

 そうとだけ言い残し、破壊の龍、アルドゥインは私の目の前から去って行った。

 去り際に奴は僅かな間だけ振り向いた。

 その目は紅く見開かれていて、私を滅すべきものとして認識したと伝えたかったのかもしれない。

 

 暫くして、アルドゥインの姿が見えなくなり、俺はへなへなと地べたにへたり込む。

 独特な臭いが鼻をつくが、俺は目を閉じて悟りを開く。

 

 押し寄せる絶望。

 生半可な覚悟を持った奴が、こんなものを我慢するだなんて考えるんじゃなかった。

 きっと朝のトマト料理だろう。

 吸血鬼として必要の無いものを食べたから排出された。それは自然の摂理である。

 そもそもであるが、今まで出なかったことの方がもっともおかしいのだ。

 

「……着替え、どうしよ」

 

 僅かに地面が暖かく感じる中、俺は寂しく独りごちたのであった。




恐らく4時間後に投稿します。


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第18話『平穏は続かない─3』

試験勉強の合間をぬって書いていたので遅れました。


 そしてアルドゥインは去った。

 吟遊詩人ではないが、そんな言葉が頭に浮かんでくる。

 

 今何をやっているのか?

 川で洗った下着を乾かすために焚き火を炊いているのだ。

 あんな黄金に塗れた下着でアルヴォアのとこに戻るわけにはいかないだろうし。

 

 一糸纏わぬ姿で水浴び中である。

 この眺めを覗く輩は死すべし。

 慈悲はない。羨ましいだなんて思ってないんだからね。

 

 視界の端に一つの黒い影が映る。

 

「……"アイススパイク"」

 

 俺の得意なアイスクナイ(スパイク)を使って、相手の眉間を狙い擊つ。

 苦しみは一瞬だ。楽にナムアミダブツさせてやる。

 

「……なんだ、クマか」

 

 最初は正確に魔法を撃ち込む練習になるかなとでも思っていた。

 だが、魔法の扱いに関してはこの身体(氷姫)がしっかりと覚えているようで、鋭い氷が綺麗に眉間に突き刺さっていたのには驚いた。

 どうなってるのやら。

 

 倒したクマは……、解体方法とかが分からないので、燃やして処分するとしよう。

 もしかすると身体が覚えているとか有りうるが、流石にクマの解体方法までは分からないだろうし。

 そう考えるとスカイリムの主人公は色々と凄かったんだなと実感できた。

 

「……ふぅ」

 

 とりあえず気がすんだので一旦陸に上がり、代わりの下が長めのスカートタイプのゆったりとした衣服を着る。

 地味に肌触りの良い生地でどうしてこんなものが鞄に入っていたのかはよく分からない。

 最初はあまり気にしていなかったが、下着がないので余計に股下がスースーするのが気になる。

 

「……ほう、可愛い嬢ちゃんが、こんな所で何をやってるんだァ?」

 

 山賊(男) が あらわれた!

 気持ちの悪い笑みを浮かべている。

 多分、俺がゆっくりとしている所を見かけて即襲いに来たのだろう。

 

「一旦、ここで寝んねしな!」

 

 短絡的にも奴は殴りかかって来るが、身を反ってソレを躱し、回し蹴りで弾き飛ばす。

 手元の小さなカバンから、鉄のグレートソードを取り出して首に突きつける。

 この間の体感時間はわずか5秒弱。

 多分もっと短い気がする。

 

「……永遠におやすみ」

 

 山賊は顔に涙を浮かべていたが知ったことではない。

 躊躇することもなく、鉄のグレートソードで、その首を叩き落とした。

 

 

 あの後、俺は山賊の血を頂いた。

 心なしか、トマトを食べたあとよりも落ち着くような気がする。

 初めて血を摂取したのだが、何とも言い表すことの出来ない独特な風味で、これは病みつきになってしまいそうだ。

 通りで吸血鬼が好んで血を吸うわけだ。

 

 ……思えば、これが憑依して初めての人殺しだったのかもしれない。

 今までは現実化がどうちゃらとか言って、気絶程度で済ませていたしな。

 

 昼の日差しの暑さとは正反対に、俺の頭の中はすーっと冷たく、感覚がクリアに冴え渡っていく。

 

「ロルドの奴、どこに行きやがった。カシラが切れちまってるのによ……」

 

 道から別の男の声が聞こえる。

 いや、さっきの奴は首を跳ねてしまったから当然っちゃ当然なんだけど。

 

「……貴方の探し物?」

 

 衝動的にだが、その男の前にゴロリと先程の男の首を転がしてみる。

 驚きなのがこれだ。人の生首に全くの嫌悪感が湧かない。

 ……あー、これはただ単に精神がイカれてる人だな。

 

 血の匂いを嗅ぐと僅かに空腹感が生まれる。鉄の生臭さとかではなく最早美味しそうな別の何かの匂いである。

 ……やっぱりただの狂人じゃないか。

 

「ヒィッ! ろ、ロルド!?」

「……コレ、貴方のお友達?」

 

 わざとらしく言ってみる。

 男は歯をガタガタと鳴らして恐怖の表情を顔に浮かべている。

 1歩、また1歩と進む度に「ヒィッ」という悲鳴をあげて顔の色が青くなっていく。

 姿を現してから6歩くらい進んだら気を失い、動かなくなってしまった。

 

 罪悪感はないことは無いが、愉悦の感情が8割以上を占めている。

 ……はは、段々と人間の感覚から別のナニカに変わっていってるな。

 

 思いつきでやったことを改めて客観的に見るとに乾いた笑いが止まらない。

 やばいってこれ。

 笑えないよ、これ。

 

 ゆっくりゆっくりと塗り変わっていく自分に恐怖を覚えつつも、アルヴォアやシグリッドらに、これからどう顔合わせしたものかと思案する俺だった。

 




次は六時間後になら、投稿できると思います。


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閑話1『転移者達と帝国』

……やっぱり遅れてしまいました。
番外編の改変版です。


 それは冬のとある日の出来事だった

 僕ら、吹陽(ふくよう)高等学校の二年D組は、謎の女性の声が聞こえたと同時に突然に異世界へと召喚された。

 

 最初に見たホールらしき場所は僕ら40人が入るには少し小さいくらいで、高さは学校の多目的ホールより少し高いくらいで横と縦は僅かに短いのだろうか。

 細かく言うと高さが6mくらいで、横が20m縦が15m程だった。

 少し小さいが、よく学校等で見るプールを思い浮かべたら早いかもしれない。

 

 ホールには僕ら以外にも人がいて、呆然と立ち尽くす僕らの前でその様子を見ている。

 ただ、その様子はどこか訝しげで、僕らの命の価値を計っているかのようにも見える。

 学級委員長であるこの僕、唐木 稜(からき りょう)がしっかりとしなくてはならないのだろうが、突然の事態に足がすくみ、身体と口がうまく動かない。

 

「突然申し訳ありません、異世界の勇者様方」

 

 僕らの前で様子を見ていた1人がよく響く声でそう言った。

 一瞬、その声の鋭さから刺されるわけもないのに、自分の耳を刃物で刺されたかのような恐ろしい寒気がした。

 筆舌に尽くせない、そんな底無しの恐ろしい感覚。

 

「我々には残された時間は少ない。ついてきてもらう」

 

 僕らの周りにはいつの間にやら斧や剣、メイスを持った兵士が待機している。

 

「これより、陛下と謁見となる。くれぐれも、変な気は起こすなよ」

 

 当然だが、逆らえば殺すといった雰囲気を醸し出している。

 彼の鋭い声音からも分かる通り、僕らには拒否権はないのだと遠回しに伝えているのだろう。

 皆、それを分かったようで不満そうなクラスメイトも入るが渋々従っている。

 

 一触即発。

 正しくそう言えるのかもしれない。

 クラスメイトの不満は見るからに臨界点ぎりぎりというのが分かる。

 対してこちらの兵士らしき奴らの方は、逆らえば殺すという事がオーラだけでも分かる。

 

 だが、僕の心配は杞憂に終わった。

 誰も逆らう人が出ることがなく、僕らは謁見の間へと辿り着いた。

 僕はほっと一息を吐き、僅かに下にズレた眼鏡の位置を整える。

 

「貴様らはこれより皇帝に謁見することになる。粗相のないように」

 

 こんな急な状況でもはや言葉も出ないのか、僕を含めて皆は黙り込んでいる。

 

「よし、通れ」

 

 兵士は僕らの沈黙を肯定と見なしたらしく、僕らを謁見の間へと通した。

 

「陛下、召喚した者共をお連れ致しました」

 

 僕らは謁見の間へと足を踏み入れていく。

 謁見の間と呼ばれた空間は想像したよりもそれなりに広く、目の前の人物の発するオーラに僕らにも僅かながら緊張が走る。

 

「聞け! 皇帝陛下より、貴殿ら異世界人へ話がある!」

 

 皇帝のそばに控えた男が大きな声で言った。非常にハリがあって、よく通る声だ。

 その威厳のある声に僅かにざわめいていた、クラスメイト達の話がピタリと止んだ。

 そして静まり返った謁見の間を皇帝は見遣ると静かに唇を動かし始めた。

 

「余はタイタス・ミード二世である。此度は貴殿らを世界(ニルン)へと招致させて貰った」

 

 先程の男の声と比べると声は小さいが、静かになったこの部屋ではその声はよく通っている。

 

「余の部下が失礼をしたようでたいへん済まなく思っている」

 

 兵士達の態度とは正反対に、皇帝は僕達に謙った挨拶をした。

 僕は驚いたが、周りの兵士や臣下らしき人物の顔を見るとそちらの方が驚いていたようだった。

 そして、皇帝はだが、と言葉を続ける。

 

「──どうか余の話。いや、頼み事を聞いてほしい」

「はいはーい、質問!」

 

 クラスメイトの平井(ひらい)が1人が軽い口調と共に手を挙げる。

 僕は思わずしまったと思い振り向いたが、もう遅かった。

 

「貴様ッ、誰に向かってその口をきいているッッ!!」

 

 怒鳴る兵士は平井、皇帝が謙ったばかりに調子に乗ったクラスメイトへと歩み寄り、──腰に携えていた剣で首を跳ねた。

 彼の血が周囲へと撒き散らされる。

 鉄っぽくて生温い液体が僕の頬に沢山、大量に掛かった。

 よく見知ったクラスメイトの死に、現実味が失せていくような気がした。

 

「これ、ゆめ。ゆめだよね……」

「ひらいが……、ひらいがぁ!」

 

 一部のクラスメイトが叫び声をあげる中、僕らの半分は阿鼻叫喚の嵐に包まれていた。

 もう半分は僕のように正気を保っていながらも、黙り込んでいる。

 または状況を理解出来ずに、呆然と静かに眺めることしかできないでいるかのどちらかだ。

 

「……異世界人を斬った者を処断せよ」

 

 皇帝がシンプルな命令を下す。

 その瞳に一瞬の躊躇が見られたが、それが気のせいだと思わせるほどに、彼の決断は早かった。

 命令を受けた部下は兵士の首を切り落とした。

 

「余の部下が話の腰を折り、あまつさえ其方らの仲間の命を奪ってしまい申し訳ない。帝国には、余には、もはや彼のような、暴走した者を止めることさえできぬのだよ」

 

 つまるところ、先程のは見せしめという事なのだろう。

 自身が謙る事で調子に乗るものが出る。そして、その人物の態度に激怒する部下がいることを分かっておきながら、放置したと。

 

 ……この老害、白々しいにも程がある。

 

「不躾ながら、質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか」

 

 また新たにクラスメイト、一ノ谷(いちのや)が手を挙げる。先程のことを踏まえてか丁寧な口調だ。

 

「異世界人の分際で──!」

「──良い、続けても構わんよ」

 

 先ほどとは違った兵士が抱き混じりに立ち上がるが、皇帝はそれを軽く窘めた(・・・)

 

「……感謝します。では、早速ですが──」

 

 流石、学内随一の優等生と言われるだけはあり、問答は淡々とスムーズに行われていく。

 途中、彼の命令次第では反乱するといった過激な発言で、兵士が度々反応するような出来事はあったものの、その都度に皇帝が窘めた。

 そして、僕はその度に肝が冷やされ胃が痛くなった。

 

 皇帝との長きに渡る問答の末に、一ノ谷は気に入られたのか謁見の間に で2人になることとになった。

 一ノ谷には僕だけしか知らないある前科があり、何かをしでかさないかと気が気でなかった。

 

 だが、そんな心配も杞憂だったようで、数十分後に五体満足で帰ってきた彼に、もう大丈夫っぽいぞと言われた時は安堵のため息を漏らした。

 まだ、首の皮が繋がっていることだけは分かったのだ。

 

 彼曰く、僕らはここより北にあるスカイリムのソリチュードに向かい、反乱勢力の鎮圧に参加しなくてはならないらしい。

 一ノ谷は僕らを助けるためにそのように条件を提示したらしい。

 ただ、ほかの条件が何なのか聞いても答えなかったので、どうやら隠していることがあるらしい。

 それは僕らが元の世界に戻る方法か、あるいは別の何かか……。

 今の時点では想像が及ばない。

 

 一先ず、明日のことを考えて進まなくてはならない。

 僕はクラスメイトを出来る限り守ると心に誓いを立て、皇帝により用意された床につくこととする。

 きっと、元の生活に戻れると信じて──。




今回も誤字報告ありがとうございます。


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閑話2『ミルムルニル』

主人公と別れた後のドヴァキンさん。


「タロスよ、……う、うわぁッ──!?」

「ヨル、トール、……シュル」

「ぐあぁぁっ!」

 

 目の前のトカゲ、否、ドラゴンはその仰々しい口で一人を喰らい、一人をその息で焼き尽くし、無謀にも戦いに身を投じた衛兵たちが数を減らしてゆく。

 俺の隣では首長の護衛、ダークエルのイリレスが肩口から流れる血を薬で抑えながら息を荒らげている。

 手足も出せない、まさかこのような機会で思い知るとは考えてもみなかった。

 

 

 最初、俺達はドラゴンというものがどのようなものかなど分かっていなかった。

 

 所詮ドラゴンなど伝記の遺物に過ぎず、それほどの力を持たない。

 俺がドラゴンストーンを届けた後にドラゴン襲来の報告を聞き、イリレスがそう言い、それをファレンガーが窘めた。

 その様子をバルグルーフ首長は難しい顔で眺めていた。

 

 遅々として進まない状況を鑑みて、俺はイリレスの肩を持つことを決めた。

 ドラゴンを倒さなければ、次はここ、ホワイトランが襲われるのは明白であるからだ。

 ここに住む人々に罪はない。

 誰かがその責務を背負わなければならないのだ。

 ドラゴンは恐ろしいと言うファレンガーや、伝説などは参考にならないと言うイリレスに挟まれ、バルグルーフ首長は兵を派遣するかさせないかと迷っていたようだった。

 だが、俺の後押しにより遂に出撃の命令を下した。

 

 それが、昨日の出来事。

 今日の朝、兵を集め、砦に向かったのだ。

 昼過ぎに襲われたという砦にたどり着くことが出来た。

 

 だが、いざ蓋を開けてみたらどうなっている。

 こんな惨事は一体誰が引き起こしたんだ。

 

 直接的な原因であるドラゴンなのか?

 それとも、出撃すべきだと言ったイリレスか、出撃の命令を下したバルグルーフ首長なのか?

 はたまた、バルグルーフ首長を納得させてしまった、俺、なのか?

 

 思考の海に溺れ掛けていた意識がイリレスの小突きで元に呼び戻される。

 戦況は変わらず、ドラゴンが衛兵達を蹂躙している。

 最初は10程もいた兵士達だったが今は数を大きく減らし、半数以下になってしまっている。

 

「人間よ、なかなか強くなった様だ。だが、我には遠く及ばぬようだ!」

 

 ドラゴンは声と共に(・・)叫ぶ。

 衛兵の叫び声が、再び聞こえる。

 また一人、減ったのか。

 ふと、"すまない"というイリレスの呟きが聞こえた。

 俺は口を開こうとしたが、思いつめた表情を見て彼女の言葉に返答をできなかった。

 

 嗚呼、神よ。

 アカトシュよ。

 どうか、俺を、俺達を助けてくれ。

 

「隠れている者も出てくるがいい! 我が纏めて逝かせてやるぞ!」

 

 俺の祈りは虚しく、ドラゴンは止まることを知らない。

 伝承によると彼らを作ったのはアカトシュ様だとも聞く。

 もしかすると、俺達はここで終わりという運命だったのかもしれなかった。

 

「……どうした、イリレス。まさか──!」

「まさかもへったくれもない。最後まで私は戦うのさ。……休んでいた分は返上して仕舞わなくては」

 

 無謀だ!

 思わず、その言葉が出かけた。

 だが、実際にその言葉を声にすることは無かった。

 

 イリレスの表情は真っ直ぐにあのドラゴンを見つめており、奴を倒し、生きて帰るといった表情を見せている。

 俺こそ、己の生に対して一体何を諦めていたんだ……?

 

 勇敢と無謀は別物だ。

 いつの間にか、イリレスや戦う衛兵たちを無謀だと考えてしまっていたらしい。

 

 彼らは、自分たちの街を守ろうと必死になっている。

 当然、それを無謀などと言うのはクズも同然だ。

 

 俺も再び剣と弓をとる。

 彼らを無謀だと思ったことは許しては貰えないかもしれない。

 だが、俺も勇敢な彼らと共に戦う仲間なのである。ここで死力を尽くさないでどうするのだ。

 

 俺は矢を引き絞り、狙いを定める。

 

「俺は、この生命に換えてでも、貴様に一矢報いよう……!」

 

 そうして、奴に向けて最後の矢を放った──。




このミルムルニルさん、本作主人公(要するに氷姫)が予想したより強化されちゃってます。
ミルムルニルを倒せたか倒せなかったかについては本作主人公との合流後の展開にでもゆっくりと語らせます。

また、これからの投稿は基本的に2日に1回のペースになると思われます。
早く書けたら毎日投稿します。
……その逆も然りなのですが。


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第19話『椅子から降りる─1』

気づかなかったが、どうやら予定の一時間前に投稿していたらしい……。



「……そうか」

 

 アルヴォアは下に俯きつつも、俺の話を聞いてくれた。

 ……因みにだが、シグリッドが隣で崩れ落ちている。

 嫉妬深いが愛情深いとはこういうことか。アルヴォアも大変だな。

 下着? 帰ってから鞄に入れっぱなしだよ。ついでに言うと、あの悪戯からはそこまで時間もたっていない。

 思い立ったが吉日とも言うし、一抹の不安を感じた俺は、巻き込まないためにもアルヴォアにこうやって話をした訳だ。

 

「シグリッドはこんなだが、いいんじゃないか? また、戻るんだろう?」

「……ん、顔は見せるよ」

 

 そう言ってはにかんで見せた。

 美少女のはにかみは時に理不尽な弓の攻撃よりも凶悪である。

 

「……ああ、ならいい」

 

 ……まあ、アルヴォアには効かなかったか。

 多分、俺のことをしっかり娘として見てくれているんだろう。……ドルテちゃんもいるのに罪作りな人だ。

 まさか短期間でここまで根が張れるとも思っていなかったし、ここまでアルヴォアらと仲良くなるのは想定外ではあった。

 俺がアルヴォアに踵を返して家を出ようとすると、蹲っていたシグリッドが思い出したかのように言った。

 

「……ここを出ること、ハドバルにはしっかり伝えてあげて。ヒョウちゃんのことを気にしていたから」

 

 俺は手を振って同意の返事をする。

 ……まさか気があるパターン?

 いやいや、ないでしょ。

 ……いやね、まさかね。

 

 そう思いつつもやって来た宿屋スリーピングジャイアント。

 中にお邪魔するとデルフィンは出払っていたらしく、オーグナーが一人カウンターに取り残されている。

 客の方もそこまでいないようだ。

 

「……あの、ハドバルを呼んでいただけますか?」

「ああ、あいつか。分かった。少し待っていてくれ」

 

 オーグナーはたった今思い出したかのような表情をして、カウンターから立ち去って行った。

 何だか不安になってきたが、きっとこれはオーグナー表情からくるものだ。きっと。

 

 ──などと思っていた時もありました。ハドバルが来た途端にビビッときたね。

 ゾクッとする。うん、悪寒が。

 肉体的にはアレだが、精神的には、その"アッー♂"なので……。

 

「……ハドバル。……私、この村を出る」

「……それは、どうしてもか?」

 

 ハドバルが妙に念を押してくる。

 疑惑が段々と確信に近づく。

 

「……ん、私にはやらなければならないことがある」

 

 それっぽい感じに言ってみたが、我ながら演技の完成度は高い。

 ハドバルは僅かに悲しげな表情を見せる。

 

「ああ、行くなら、俺を倒してからにしてくれ。そうしなくては、俺の気が、済みそうにないんだ……」

 

 出、出~〜www、行俺倒言奴~~wwwww

 ……おっと、あまりの衝撃に取り乱した。うん、取り乱した。

 言ってみたかったとか、そういう理由なんかじゃない

 これは、脈アリだ。……ハドバルとはいえ、野郎が相手なんて嬉しくねえわ。

 かと言って俺の倫理観に於いて、百合路線に走るのもおかしいとは思うんだ。ホントだよ?

 

「……えっと、理由を聞いていい?」

 

 我ながらだが、顔がひきつっているのが分かる。

 言うのは憚られるのだが、俺としては元の出来事(イベント)であれ元にない出来事(できごと)であれ面倒な展開をすっ飛ばしていきたい、という考えを持っている。

 

「……俺に言わせるのか?」

 

 文字だけだと判断し辛いが、怒ってない。寧ろ俯いている。

 いや、ちょっと待ってほしい。ハドバルが俺に脈アリとか、想像の中の展開だけでいいだろ。

 

「どうしても、か?」

 

 勝手に眉がピクピクと動く。

 いやいや、ここで俺が怒ってどうするんだよ。

 相手は男、俺は昔は男とはいえ今は女だ。

 精神的には男だが肉体的、生物学的には雌として確立した存在なのだ。

 落ち着け、俺よ。近重如月よ。

 

 よくよく考えてみろ。

 死にかけのところを救出して、なおかつ村が危ない時に無償で守るとか言われたらどうするんだ。

 もし、それが俺であったのならば、性別とか関係なく惚てしまうはずだ。

 

 危なっかしい、可愛い、不思議ちゃん。

 なんだ、この可愛すぎる生物。余裕で惚れるわ。確定だね。

 

「……べつに、いい」

「そうか……」

 

 但し、中身は(おれ)だ。

 例え、世界が滅亡しても絶対的に精神衛生上無理だ。

 今後がどうであれ、今はそういうことである。

 訳の分からん何かに精神を蝕まれつつあるが、まだまだ俺は男なのだよ。

 

 ふはは、ハドバルめ。話を聞いてもらえなかったからとはいえ、そんな残念そうな顔しても俺には効かないぞ!

 ……いや売られた牛みたいな目はやめてほしいんですが。ある合唱曲思い出しちゃって悲しくなるからさ!

 

「コホン、……決闘は無しの方向で」

「……分かった」

 

 親しくなったせいなのか罪悪感が押し寄せてくる。うーん……。

 

「まあ、言ってみただけだよ……。あんまり気にしないでくれ」

 

 気にしないでって言われても、気にしてほしいって位にどす黒いオーラが漂っているんだよなぁ。

 

「お前がホワイトランに行きたいというなら俺は止めないさ」

 

 ハドバルはついに折れたのか、寂しげにそう言った。いや、いい加減にその目をやめてほしいんですけど……。

 今にもドナドナされそうだからさ。いや、うん。

 

「本当なら俺もついて行きたいところだが、未だにホワイトランからの防衛戦力が到着していない。だからもう少しここで待つとするよ」

「……ん。わ、分かった」

 

 俺はそのまま宿屋を出ようとするが、あのハドバルが気になって振り返ってしまう。

 案の定と言っては失礼だが、中年退職した親父のようにカウンターに向かって、背中を丸めたハドバルが大量にハチミツ酒を注文している。

 ……本当にごめんなさい。ハドバル。




いつかドーンガードにドナド、誘拐されそうな人が何言ってるんですかねぇ……。
何されるのかって?
そりゃもう、ナニ(拷問)に決まってるじゃないですか。

でも、目標がフラグブレイクなウチの子(氷姫ちゃん)なら、どうにか切り抜けそうな感じはする……(ただし切り抜けれるとは言ってない)。


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第20話『椅子から降りる─2』

大学試験が本日行われました。
とりあえず、埋めました。

さて、そんなことは置いておいて、本編へゴー!


 思っていた以上にすんなりと(幾多の困難もあり)アルヴォアやハドバルと一時の別れの挨拶をすることが出来た俺は、ついにリバーウッドから出ることになった。

 何だかんだ、根を張ってるやらとか言って、平穏という椅子の上に胡座をかいていたのかもしれない。

 冒険者としても、(元)人間としても、これ以上彼らに甘え続けるのは駄目なのだろう。

 

 うぅっ。

 こんなこと考えてると早速戻りたくなってきたよ。

 こ、心細いけど負けるな俺。頑張るんだ、俺。

 お、俺は吸血鬼だもんね。例え一人になっても魔物だろうが野生動物だろうが怖くないもんね。

 ……いや、ホントです。別にフラグじゃないです。

 

「どうやら、悪い時に道に迷ったようだな……」

「生きているやつから盗むより、死体から盗む方が簡単だからなぁ!」

 

 ファッ!?

 あの盗賊全身が綺麗な薄緑で統一されてるんですけど!?

 

 って、これは……!

 アイエエエ!!

 碧水晶、碧水晶装備ナンデ!?

 全く聞いてないんですけど!

 そりゃそうか、言ってくれる人とかいないもんね!

 

「……"魔力の壁"、"魔法の両手斧"」

 

 左手にマジカの障壁を、右手にマジカの両手斧の顕現させる。

 両手斧を片手で持つなって?

 ゲームじゃない事が影響してか、吸血鬼は何だか身体能力が高い。

 俺のか細い腕でも鋼鉄の両手斧を軽く振り回せるんだぜ。

 

「婆さんの財布みたいに腹をビリビリにかっさばいてや──、あ……」

 

 片手斧で切りかかってきた女(恐らくレッドガード)の首を横からの一閃で切り離す。

 その身体と永遠におさらばしたってね。

 

 血飛沫を魔力の壁で弾き飛ばし、続いてその現状に呆然としている男オークの腹をかっさばいてやった。

 血が僅かに付着したが上着だなので着替えられる。だからそれほど気にするほどでもないだろう。

 酷いことに、さっきの女が言っていたみたいになってしまった。

 やったのは俺だけど、あんまり見たくない。

 

 他一名は逃げた、か。

 背中が見える、恐らくあれは帝国の鎧を着ているのが見える。

 多分、脱走兵のインペリアルなのだろう。

 それほど時間は経っていないらしく、まだ背中(えもの)が見える。

 

 俺は右足に力を込め、軽く飛翔し──。

 

「ひ、ヒィッ──。コヒュー、コヒュッ……」

 

 勢いのままに、手に持った魔力の斧でその首を跳ねた。少し刃が通りづらかったが、血液は俺に飛び散ることはなかった。

 正直、そこまで強くもない敵だったと思う。

 恐らくだが、装備の力だけに頼ったゴリ戦法で生き残ってきたんだろう。

 だから地力の差に気が付かなかったのか。もしくは外見が原因か。

 ……八割方後者だろうな。

 

 さて、と。

 軽くだけど血をすすって(当然ながら、返り血には気を付けるつもり)、トマト食って元気にホワイトランへ向かうとしよう。

 ……と、これは?

 

 ふと、目に入ったのは川端に打ち捨てられた黄色の服を着た衛兵。

 見た感じ女一名と男三名の死体だ。

 あの山賊に襲われて死んだのだろう。ベアトラップや他の罠の後が見え、そこまで衣類が血液で汚れていないことから、不意をつかれて一気に決着がついたのだろう。

 足や腕は見ていられない程に紅く染まっている。

 

 ……可哀想にな。

 それ以上の感情は湧かなかった。

 この自らの冷酷さから来ているのだろうか。自分が自分ではないような僅かな気持ち悪さと、4人の死体へのいたたまれなさから眉をしかめてしまう。

 俺自身、どうしてここまで考え方が変わっているのかと首を傾ける。

 

「……御冥福を祈る」

 

 その言葉には上手く、感情が籠っていなかった。棒読みだったと言えばうまく伝わるだろうか。

 んー、相変わらず気持ちが悪い。

 もしかすると、俺は人と接していないと人間としての道徳観念が失われるのかもしれない。

 兎は寂しいと死ぬとは言うが、俺は孤独だと消えちゃうということなのだろうか。

 前者は迷信ってのは知っているのだけど、後者は洒落になっていないよね。これ。

 

「んー、何だか萎えるなぁー」

 

 しばらく歩きながら独り言る。寂しいし、このままだと俺が消えてしまいそうだし。

 別に俺が消えゆくことを自覚している訳では無い。

 気が付かぬうちに、知らぬ違和感が増えていく事が恐ろしくて不安で、いつか本当に別人になってしまうのではないかと、延々と被害妄想が広がっていくのだ。

 

 ホワイトランまでの道のりは思っていたよりも長い。

 朝に出て昼につくというのだから、あと少しで城塞都市が見えるのだと思う。

 生で見るドラゴンズリーチや城壁の迫力は、どのようなものなのかというワクワク感とか。

 あのイリレス達の誤訳がどんな感じだったのかという残念さとか。

 もし、叶うならシェオゴラスのおっちゃんと話してみたいという望みとか。

 色々な想いが浮かんだり沈んだり。

 

 ふわり。

 ふらり。

 

 

 ホワイトラン続く林道に、木漏れ日がカーテンのように差し込んでいる。

 

 

「俺は……。私は、一体誰なの?」

 

 不意に吐いた疑問に、答える人など誰もいない。

 まるで静寂がこの世を支配しているようで、ここにいたらそんな錯覚がしてくる。

 静かにしているだけで、段々と自分という存在が曖昧になって行きしまいそうで──。




投稿時間は19:00でも20:00でもどっちでもいいですが、自分の好きな投稿者さんが19:00に投稿しているので、今度から投稿時間を19:00にしようと思います。
読者だって早く読める方がいいですものね!


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第2章『吸血鬼とシャウトとドラゴン』
第21話『ホワイトランと吸血鬼─1』


皆様、お待たせしました!
それとゴメンナサイ。
創作のスランプに新たに始めたぷそにフレンズなアニメーションで遅れましたッ!!


 ホワイトラン要塞とはスカイリムの中央に位置する城塞都市で、ドラゴンズリーチと名前にもある通り元来ドラゴンをとらえるために建造されたものである。

 また、ストームクロークと帝国の東西に挟まれており、戦いの中心にもなりやすい。いわば戦争の最前線でもある。

 

 まあ、それが生で見られるなんてつゆにも思っていなかったけど。

 広く、巨大になって大迫力って言葉だけじゃ言い表せないものだな……。

 壮大っていう言葉がゲームの時よりも似合う感じの風貌だ。

 

「さて、ゆるりと行こうじゃないか」

 

 ホワイトラン要塞に向かって大きく一歩を踏みしめ、川沿いの道をまっすぐに進んでいく。

 確か道中の農場で同胞団が巨人討伐をしているんだよな。遠目でも巨人の影も見えないので、きっとそのイベントは我らが主人公君(シャナリア)がとっくの前に済ませてしまっているのだろう。

 遠くには崩れた監視塔が見える。

 そして遠目に見えるのは運ばれていくドラゴンの死骸。どうやらシャナリアは上手くミルムルニルを倒せたらしい。まあ、ハイフロスガーの声も聞こえたし当然っちゃ当然のことだろうが。

 

「貴様、どこのものだ?」

「ひゃいっ!」

「そんなに驚かなくてもいいだろう……」

 

 突然話しかけられたもんだからへんな声がでたじゃない。

 び、びび、びっくりしたよ。

 それに、突然横からひょこっと出てこないでほしい。突如現れたみたいな感じでびっくりだよ。

 まるで、最初は透明だったみたいな感じだな……。まあいいや。

 

「……そういうあなたは。えーと、帝国軍の兵士?」

「ああ、そうだとも。俺の名前はガルス・ヘッダ。しがないホワイトラン要塞周辺担当のパトロールさ」

「へぇ」

「こっちの自己紹介はしたぞ。今度はそちらの番だ」

 

 名前なんて聞く気などなかったがあっちが勝手に自己紹介を始めてきてしまった。

 まあ、いいか。

 

「え、そっちが、勝手に……」

「まあまあ、そう言わずに。ほら」

 

 ……仕方ないな。

 別に、偽名だから構わんが。

 

「……氷姫。本名は教えないわ」

「ふんふん、氷姫ね。覚えたぞ。はっはっ、偽名なのは残念だよ」

「ところで、しがないパトロールさん。私に何用?」

「別に、何用というわけじゃないが偶然にも嬢ちゃんが視界に入ってきてな」

 

 怪しいことこの上ないぞ、このパトロール。

 

「……私は厄介ごとしか持ち込まない。かかわらないで」

 

 というか面倒だからさっさとここから去ってくれ。

 人の名前が苦手分野なんだよ……。特にこういうモブとか、さ……。

 

「ははは、固いこというなよ。別に減るもんじゃないだろ?」

「……そう、だけど」

 

 いえ、俺の心がすり減ります。

 

「はは、ならいいじゃないか」

「……えっと。とにかく。お願いだから消えて。本当に」

 

 本気でお願いします。こういう絡みしてくる人わたくし苦手ですのよ。

 

「……そこまで言うのか。そういうの結構傷つくんだぞ」

「はぁ……」

 

 俺はガ……なんたらを無視して歩く。

 ずっとついて来ているがそれを気にしたら負けだ。

 

「ここの近くにあるホニングブリューのはちみつ酒はいいぞー。っと、嬢ちゃんはまだ飲める年齢じゃなかったな。失敬失敬」

 

 そう、気にしたら負けだ。

 にしても、はちみつ酒か……。いやな思い出だ。

 

「それにしても、ここら辺は山賊とかやたらと出没すっからあんまり一人で出歩かないのがいいぞ。嬢ちゃんにはうまく言葉で言えないが、奴隷とかいいようにされちまうのがオチだからなぁ……」

 

 山賊に関しては問題ないし、言葉はもっと遠回しに言えばいいだろう。もう奴隷とか言ってる時点で汚い裏社会を口走ってるじゃないか……。

 

「知ってるか? ここにドラゴンが現れたらしいが、ドラゴンボーンによって打ち倒されたらしいぞ。今日はそのパレードだとか」

「……ねえ」

「なんだ? かかわりたくなかったんじゃないのか」

「……傍でずっと語り掛けないで。そっちがいつまでも話しかけてくるものだから、こっちとしてもかかわりたくもなる」

 

 いやね。最悪となると、そのおさまりの悪い口にアイススパイクをぶち込んでやってもいいんだぞ……?

 

「……えっと、その手は何でしょうか」

「アイススパイク。その口にちょうどいいと思って」

「どこが!?」

「冗談」

「足元に本当に撃ってくるあたり冗談じゃないんですが!?」

 

 そっちが、悪いんだぞ?

 そんな感情を精一杯こめて、最大限の笑顔で微笑む。

 

「……すみませんでした」

 

 よろしい。

 

「ところで、そのドラゴンボーンの話。聞かせてほしい」

「ドラゴンボーン? ああ、そのことならいいぞ。なんてったって、俺はその戦いに参加した数少ない生き残りだぞ」

「それは、どうでもいい。ドラゴンの力と、たたかったドラゴンボーンについて」

 

 ないと思うが、ドラゴンボーンとやらが同一人物とも限らないかもしれない。まあ、多少はドラゴンについても聞いておかないといけないしね。

 今後、ゴラゴンとの戦いにおいて参考になるだろうし。

 備えあれば憂いなし、である。

 

「あれは、つい先日のことだ」

「……前置きはいい。短く、簡潔に」

「あ、アイススパイクだけは勘弁を!」

 

 コイツ。思いの外、扱いやすいかもしれない。



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第22話『ホワイトランと吸血鬼─2』

 ひとまず、帝国のパトロールの情報からわかった事をまとめるとしよう。

 

・ドラゴン

→滅茶苦茶強い。

 パトロール含めて20人がかりで挑むが、スゥームやブレス、かみつきなどによる死傷者が多数。

 ドラゴンボーンもすんでのところで殺されかけた。

 ちなみにパトロールさんの同僚は2人いてスゥームで砕かれたりブレスで焼かれたりしたらしい。うむぅ、悪いことを聞いてしまった……。

 

・ドラゴンボーン

→ドラゴンの力を吸収し、シャウトを使うことができる。

 ドラゴンとの戦いの生き残りのなかで最も傷つき、力強く奮闘したとのこと。

 帰還したところを宮廷魔術師により集中治療。

 どうにかこうにか一命をとりとめたとのこと。

 

 そこまで大した情報は得られなかったが、何の因果かドラゴン自体が異常に強くなっているということはよくわかった。

 これが身に沁みで分かったというだけでも儲けものだろう。

 当然のことながら、ゲーム感覚のままでは確実に死ぬのは確実だ。

 

「……役立つ情報をありがとう」

「魔法で脅されて役立たない情報なんて出せるわけないだろう……」

 

 それもそうだろう。いろいろとゴメンナサイ。

 今更だと恥ずかしいから言葉にはしないよ!

 

「えっと、パレード? っていつ始まるの?」

「パレードか。それならとっくに始まっているはずだな」

 

 あー、とっくに始まっていたのか。少し残念だが別に焦って見に行く必要もないだろう。

 人が多くて面倒くさそうな催しだし、仕方ないね。

 

「……が、が。……パトロールさんはなぜ参加していないの?」

「別にそこまで込み入った理由はないよ。空気が今の俺に合わなかっただけさ」

「ん、ありがと」

「それとだな、名前はガルス・ヘッダだ。ガ・ル・ス・だ。まあ覚えなくてもいいが。無理して思い出そうとしなくてもいいよ。そうされると、結構傷つくんだぞ」

「……留意する」

 

 もし、次会えて、覚えていればの話だが。

 本人には流石に言えたものではないが、確実に忘れそうだな。

 

「他に、何か変わったこととかは? あるなら、教えてくれると嬉しい」

「ふんふん。いいだろう。もしかすると知っているかもしれないが、帝国がデイドラよりもたらされた魔法で異世界から大量の"勇者"とやらを呼び寄せたらしい」

「……初耳。詳しく」

「といってもたかが40人。俺からしてみれば大した期待はできないな。細かい情報は特に入っていないが、スカイリムにも近々派遣されるとかいう噂だよ。もしかすると、既に派遣されている可能性もある」

 

 ふむふむ、思っていたよりもいい情報を得られた。

 クラスメイトの行方は知りたかったんだ。

 

「にしても、こんな話題に食いつくなんてな。お嬢ちゃんも結構タイムリーなんだな」

「……お嬢ちゃんじゃなくて、私は氷姫。名前で呼んで」

「わかった、氷姫さんよ。でも言いづらいから嬢ちゃんと呼ばせてもらうぜ」

「……ん。わかった」

 

 RPのモチベーションにもかかわるからな。別にどちらでも構わなかったけどね。

 

「にしても偽名とはいえ、名は体を表すとはまさにこのことか。氷のように冷たいんだな嬢ちゃ……すんません」

「……よろしい」

 

 何をしたって? 言わずもがなである。

 

「冗談ってのはわかってるんだが、決まって足元にソレを突き立てるのはどうしてだ?」

「使わなかったらマジカがもったいないから?」

「ああ、分かった」

 

 ようやく諦めたか。

 

「それにしても、世の中って広いもんだねぇ……」

「どうしたの?」

「いや、嬢ちゃん。いや、氷姫さんやらみたく若くてもこんなに強い方もいるもんだな、とな」

 

 ごめんなさい。見た目で騙して悪いが設定上、結構歳食ってます。

 それに、ゲームの特性上、ロリでも大人と同様に強くなれるんだから仕方ないよなぁ……。

 うん、仕方ないね!

 

「なあ、嬢ちゃん。あんた、もしかして……。いや。なんでもない。忘れてくれ。俺の思い違いさ。気にすることはない」

 

 なんだいそりゃ。もったいぶられた上に途中で思い違いとか言われたら尋常じゃなく気になるじゃないか。言うなら最後まで言ってほしいものである。

 

「ほれ、ここから道なりに行くとすぐにホワイトランの門前につく。俺はもう少しここら辺をほっつき回るさ」

 

 そう言うだけ言ってガ、が、……パトロールさんはこの場を去っていった。最後まで名前を覚えきれなかったよ。ごめんよパトさん。

 それにしてもようやくホワイトラン要塞の中身が見られるのか。期待半分不安半分ってところだ。まあ、変に考えても仕方なし。気楽にいくか。

 

「止まれ、貴様。何処のものだ」

 

 エイヘーさんじゃないですか。そこはスタップとか……言わないか。

 

「旅するブレトン。……これでいい?」

 

 そう言ってエイへーさんの手に1千Gを握らせる。……悪いお金じゃないです、どうやったかわからないけどゲーム時代から引き継がれた潤沢な資金ですー。

 

「……いいだろう。通れ」

 

 ちょろーん。

 

 というわけで、俺はホワイトラン要塞の中へと突入を果たした。

 早速パレードに熱されて沸き立つ群衆とご対面するが、正直パレードよりもホワイトラン要塞がどれだけ広くなってどんな感じになっているのか見てまわる目的のようなものである。パレードはある意味では丁度よかったのかも。

 さて、パレードもあっていることだしどこからゆっくりと見て回るのがいいだろう。

 雲地区……、は流石にパレード熱が凄そうだから適当に下のほうをゆっくりとみていよう。

 うん、それがいい。

 この世界にきて初めて一人で羽根を伸ばせそうだ。やったね。




書くときは書いて書かないときは書かない。
仕方がないね人間だもの。
無駄にきれいにまとめましたが作者はいつも通りのザコなので定期更新は期待しないでください。

いやね、完全に蛇足だけど。まさか再度更新た日が年越してに三か月過ぎるとなると皆様に申し訳ないったらありゃしない。つきましては皆様、今年もこの駄文をよろしくお願いします。


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閑話3『転移者と希望と不安』

本日は更新をサb……休んでいた事のお詫びにもう一つ奮発させていただきます。
というわけで19時に再び投下させていただきますので見逃しに注意してください。(本日1話目)


 私たちは帝国の兵士に連れられてとある教会(?)のような廃墟へと連れられて来た。

 兵士曰く、もともと協会として使われていた建物であるらしいのだが、別途に大きな教会が建てられたために不必要になった廃墟なんだとか。

 取り壊すのにも費用がかさむためにそのまま放置していたらしい。

 なぜか補修工事だけは行っていると聞くあたり何かに再利用する計画はあったんだと思える。

 

「この建物にあるのは、蜘蛛の巣と埃に巨大なネズミ? で、いいんだよね」

「スキーヴァなんて言ったっけな。いまだにこんなネズミ信じられねえよ」

「……本当に、私たち。異世界に来たんだね」

 

 クラスメイト達が口々に感想を言っている。帰りたいなどという生徒はおらず、すぐにでも家に帰りたがっている私とは大違いだ。

 こんな弱虫な所を近重君に見られたらどう思われるだろうか。

 鬱陶しがられてはいたけど、最終的には心を開いてくれたんだっけ。

 

「そう言えば、近重って一ノ谷たちと合同でどっかに行ったんだってね」

「アルドメリ自治領? だっけ」

 

 先頭の最前線ともいわれている場所に行くなんてばかげている。

 最初は私も反対したが、一ノ谷君や委員長らに窘められて強く言い返すことができなかったのが今でもたまらなく悔しい。

 今頃、体の弱い彼あ死んでしまっているのではないのかと内心ヒヤヒヤしている。

 だから、彼をおいてここから帰るだなんてできっこない。

 それほど、私は彼が大好きなのだ。

 

「ね、ねえ。円香(まどか)は不安になったりしない?」

 

 心のうちで高まっていく不安をかき消すためにも友人である識宮円香(しきみやまどか)に小声で話しかける。

 なんだか利用するようで申し訳ないと思いつつも話さずにはいられない。

 

「んー。やっぱりみんな不安なんだと思うよ。みんな口には出してないでしょ。だからみんな同じ気持ちなんじゃないかな? 私だって。……その、怖いし」

「そ、そうだよね。私みたいに直ぐに顔に出す人なんてあんまりいないものね。うん」

 

 円香の言うとおりだ。一抹も不安がない人なんていないわけがない。

 確かによく聞いていると、この世界とは違う元の世界の話題とか趣味の話題とか。

 みんな忘れようとしている節が見受けられる。

 

「みんながみんな完璧超人じゃないんだよ。だからさ。麗奈(れな)ちゃん。がんばろ?」

「う、うん。うんうん! 一緒に。みんなで帰ろう!」

 

 私は円香に対して力強くそう返した。

 それだけのことでも、希望が見えてきた気がする。

 

「そういえば、男女それぞれで代表者を作っておこうってなったんだけど……」

 

 クラスメイトで部類の本好きで有名な神奈沢(かなざわ) 里奈(りな)が学級委員長と話し合った内容をみんなに伝えている。

 そして、言葉を終えると私に近づいて頼み込んできた。

 

「雪里さん。あなたにその役目を頼めないか、と思ったのだけど」

「わ、私? いやいや、別に適役な人がいるでしょ?」

 

 確かに小学校や中学校では学級委員長を務めたことはあったけど昔の話しだ。

 上手くやれる自信はない。

 

「いえ、あなたを見込んでの話。きっと適役だと思うわ」

 

 そこまで言われてしまえば周りにはクラスメイトがいるせいで、強く言い返して辞退するなんてできない。したらしたで私の立場も危うくなるし。

 適役が他にいないのであれば、引き受けてもいいんじゃないかなという思いも出てくる。

 

「……わかった。引き受けるわ」

「ありがとう。押し付けがましくてごめんなさい」

「いいのよ。私もこういう責務みたいなのがないと、いつかつぶれちゃいそうだし」

「もとはと言えば、一ノ谷が副委員長を連れて行ったのが問題なんだけど……」

 

 そうか近重君以外にも一ノ谷君はクラスメイトを連れて行っていたのか。

 正直な話、近重君が連れていかれたこと以外はどうでもよかったのだが……。

 

「それじゃあ決定の旨を学級委員長に伝えてくるわ」

 

 そう言い残すと里奈さんはそそくさと学級委員長のもとへと歩いていく。 

 

「おい、雪里」

 

 ふと、名前を呼ばれてハッとする。

 声の主を見るとそいつはがたいが無駄によく、番長とか呼ばれている有名な奴だった。

 

「……何かしら。坂部(さかべ) (たくみ)

「いい加減俺の名前をフルネームで呼ぶのはやめろ。雰囲気も悪くなるだろうが」

 

 ……なによ。勝手に話しかけてきておいて。

 番長ってもてはやされて、近重君を集団でいじめたくせに。

 昔の話かもしれないけど、妙にむかつく。

 

「その、だ。これから。迷惑をかけるかもしれないが。よろしく頼む」

「……」

「仲良くしようだなんて言わない。だが、これだけは言っておきたかった」

 

 坂部はそうとだけ言って歩き去っていった。

 

「今更、なにがよろしく頼む、よ……」

 

 アンタのせいで。アンタのせいで、近重君は一回死んだというのに。




こういう調子のいい時はいいんですが沈むときは沈むのです。


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第23話『吸血鬼とホワイトラン─3』

本日は2話投稿しています。見逃しに注意してください。(本日2話目)


 こういう街並みも情緒あって素晴らしいものだ。

 ゲームの時よりもホワイトランがより街らしくなっている。

 それに少し歩いてみて気が付いたが要塞の外にも少しだが家が建っている。

 門も地味にもう一つ増えているし。

 この様子じゃグレイメーン家とかバナードメアとかの場所はわからんな。

 なんかここら辺の土地勘がある知り合いがいたらよかったんだけどちょうど今いないものだし仕方ないかー。

 あーあ、ジョルバスクルやキナレス聖堂とか行ってみたかったなー。

 って、これは雲地区方面か。パレードの影響で見る気力が失せていくな……。

 

 他に気になるとしたら、アルカディアの大ガマとか酔いどれハンツマンとか戦乙女の炉とかか。他は民家だし気にする必要はないかな。

 いや、でもブリーズホームとかが気になったり気にならなかったり。

 

「バトルボーン!」

 

 ふと、少女の声が聞こえた。幼げなその声は少女と言うにふさわしい声であろう。

 だが、なんだろうな。このモヤモヤするような感じは。

 むしろイライラを通り越してしまい、呆れているのかもしれない。

 べ、別にいじめに対してどうとか思っているわけじゃなくて、ゲームの時と同じすぎてびっくりしてるんだよ。

 事情を知っている身としては、いじめもといケンカの理由なんてかわいいものだと思う。

 

「お金を渡しなさい!」

「今はお金持ってないよ……」

 

 反面加減を知らずに多少行き過ぎた面もあると思うが、それはまだ幼いから仕方がないのだろうとも思う。

 しみじみと考えつつ、俺は二人の様子を見守る。

 

「この前もそうだったわよね!?」

「ひっ、ごめんなさいごめんなさい!」

 

 ん、あれ? なんだか違う。

 

「今度渡さなかったら殴るって言ったわよね!」

「ごえんなはい!」

 

 言った傍から殴るとは……。流石ブレイス。ホワイトランのヘイト稼ぎでは次席だと思うぞ。

 え、首席? 雲地区に行ったことはあるかい?

 

「こ、今度、今度持ってくるから!」

「……ふーん」

 

 なんだか雲行きが怪しいぞ。

 ここは私自らが出るとしよう。

 

「……あなたたち、何をやっているの?」

「む、何よあなた」

 

 ……ごめんなさい。私が悪うございました。

 目つきがやばいの。めっちゃ怖いんだよ。

 

「通りすがりの旅人よ」

「ふうん、私と同じくらいの子が旅人なのね。ちっとも怖くないわ」

 

 うわ、ダメだこりゃ。相手も引き下がらないし。

 こっちもこっちで引き下がったら、今後ずっとなめられ続けることになるかもだぞ。

 

「私は弱い者いじめは好かない。だから止める」

「ふうん。よく言うわね。どうせここへ来たばっかりの新参者なんでしょ」

 

 ……ぐぬぬ。面倒な。

 

「ここでは誰が上なのか思い知らせてやるわ!」

 

 そういって跳びかかってくるブレイス。

 動きそのものは予測が容易な直線的なもので、普通によけてもよかったが避けるとブレイスが危ない。ここは甘んじて攻撃を受ける。痛くないだろうしね。逆にこっちが殴ったらブレイスが危ない。

 つまりどっちにしてもブレイスが危ないのだ。打つ手なしってこっちゃ。困ったね。

 

「どうして倒れないのよ!」

「いい攻撃。でもまだまだ詰めも動きも甘い」

 

 思いの外、ダメージは通った。この子、グラップラーに向いているかも。と言ってもこの世界はグラップラーには厳しい世界だからおすすめはしない。

 人狼になるとか吸血鬼の王になるとかであれば話は別だが、そんな機会なんか生きていて廻ってくることはないだろう。

 

 とはいえ、飛びかかってきて殴られ続けるとは思わなかった。

 これ以上の被弾は精神的に来るのでいったん避けに徹することにする。

 

「あなた。成長すれば、いい戦士になる」

 

 なめられないためにも偉そうにそれっぽいことを言ってみる。

 だが、なぜか確信をもってそれが言えた。氷姫の体にはまだ本人の魂が残っていて俺に影響を与えているのか? まあ、なにはともあれこの延々と殴られるのをどうするかだ。

 

「わぁ……」

 

 そこのラーズ・バトル=ボーンはさっさか逃げなされや。感嘆とした声を出して人様の戦いをジロジロと観戦するんじゃないよ!

 

「この、この!」

 

 むぅ、困ったな。

 このままだと俺が折れるかブレイスのスタミナが切れるまで戦いが終わらないぞ。

 

「この、てりゃぁ!」

「……それは、薪」

 

 この時を待っていた。

 意外と長く近くにある薪に手を伸ばさなかったから心配していたところだった。

 

「そうよ、何か文句ある!」

「ないよ。ならこっちも獲物を使っても文句は言えないね」

 

 そういって取り出したるは木製の剣。

 なぜか鞄に3本くらい入っていた子供用のおもちゃである。

 

「この、このっ!」

「無駄に振りが大きい。隙だけしか見えない」

 

 薪はメイスみたいなものか。持ち手がない分扱いづらそうなので今後、できれば使いたくはないなと思う。

 

「そのような武器はただやみくもに振り回していると、命がいくらあっても足りない」

 

 って、俺は子供相手に何を言っているんだ。偉そうにベラベラと語ったところで得るものはないだろうに……。

 対してブレイスは焦っているのか余計に大振りになっており、隙がどうこうじゃなくてもはや心臓をさらけ出しているといった感じだ。

 

「……じゃあ、決着をつける」

「っ!」

 

 ガコンッという音が響き渡ってブレイスの薪は砕け散った。

 当然、俺の持っていた木製の剣も同様で、すごい手ごたえと同時に木っ端みじんに砕け去った。

 

「子供がなに危ないもの振り回しているんだ。薪におもちゃに。いいか。馬鹿なことはやめろ」

 

 男は腕にリネンを巻いており、手には長弓を持っている。え、射貫いたの? それってどうやったの? すごく怖いんですけど……。

 

「……ごめんなさい」

 

 ブレイスはそいつが怖いのか、謝りをいれる。うん、俺も怖い。

 だが、その顔には見覚えがあった。

 眼帯をつけており、顔には痛々しく残った傷跡が……。うん。

 

「……シャナリア、久しぶり。と言ってもほんの数日振りだけど」

「あぁ、氷姫か! まあ、確かに久しぶりな感じがするな」

 

 ……にしても、どうしてパレードの主役であるドヴァキンがここにいるんだ?




こ、これからもがんばります!


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第24話『吸血鬼とホワイトラン―4』

読者さん、お許しください!
長期間サボった見返りに何でもしますから!(何でもするとは言っていない)


「どうした? なんか俺の顔についてるかい?」

 

 いや、ついてるもなにもないだろう。まあ、何もついてないけどさ。

 

「……シャナリア。いや、ドラゴンボーン。大胆なことするね」

 

 いや、ブレイスとかってゲーム中だとドラゴンボーンにもビビらないのに、あんなに黙りこくっちゃって、めっちゃ怯えてるって……。

 これはやりすぎじゃないです……?

 

「はっはっは、バレなきゃいいんだよ。それに、ああいう輩にはこれくらいしなきゃいけないんだよ」

「……大人気ねえな、クズかよ」

 

 流石に後ろに首長の威光がある従士でもやっていいこととやってはいけないことがあるだろうになぁ。

 

「ん? 今何か言ったか?」

「……わー、シャナリアのゆみのうでまえすごいねー」

 

 何だろうこの感じ。

 どこか既視感があるのが払拭しきれない。

 

 推測だが、実はコイツ大人じゃないのかもしれない。

 おそらくだが、ドラゴン退治して英雄呼ばわりされて調子に乗っている大人気ない冒険者(ガキ)だ。

 いやうん、俺も俺で高校生(ガキ)なんだけどさ……。いやなに、流石にこれは度が過ぎてると思うんだよ。

 

「ふふ、どうしてか聞きたいか?」

「んん……、遠慮する」

 

 どうしよう。

 こいつ、話し方が非常に腹立たしい……!

 

 まるで中3の時の俺を見ているようだ。

 ……んんっ?

 

「……ああ、なるほど」

 

 何処まで行っても、俺のキャラは俺であり続けるのか……。

 何がどうなのかだって? 俺が高3であることと、このゲームと出会ったのが4年前、と言えばわかるだろう? あとは少し前にある言葉を参照してくれ。

 

 ええと、うん。

 俺が憂さ晴らしにと介入したのが悪かった。

 許さなくてもいいけど、許せブレイス。

 

「……調子、いいの?」

「そうさ。なんたって俺は伝説のドラゴンとも戦える。あの、ドラゴンボーンなんだしな」

 

 ええと、この世界に召喚された理由もはっきりと理解できる。

 大方、アカトシュだかキナレスだかマーラだか、とにかく呼び出した神はわからないがドラゴンボーンが死なないように俺が守っておけとでも言いたいのだろうか。

 

「……へー、……あー、……うん」

 

 最初は頼れそうなやつだと思ったが、こうなったか……。確かにそのあとでいろいろと殺されまくった記憶がおぼろげにある。

 何も知らない初心者にフロストトロールとか、何度でも死ねます。

 

「そうかぁ? 今のうちに聞いておくことは無駄にはならんぞ?」

「……得意げなのは分かった。うん。おなか一杯」

 

 まずいな、このまま会話を続けていると流石にいろいろと暴発が起こってしまいそうだ。

 よりによって、どうして俺のプレイスタイルに忠実なんだよ。

 どうして黒歴史(びょうき)のギリギリ抜けきってない時期の状態なのさ……。

 

「シャナリア、……私はこれでお暇する。またすぐに会うと思うけど」

「ん、そうか?」

 

 ここは一旦退却を選ばせてもらうとしよう。

 流石にここで俺がブチギレると何が起こるかわからん。

 

「ええと、私マッドクラブの肉を食べに行くから……。また、ね?」

 

 無表情ロールが板につき始めてるとは思うんだが眉が小刻みに震えていることがわかる。

 流石にこれ以上の耐久はやばそうだ。

 

「マッドクラブ程度なら、この俺が仕留めて見せようじゃないか!」

 

 なん、だと……!?

 どうしても俺TUEEEアピールしたいつもりか、こいつ……。

 

「それに、マッドクラブならいい調理方法を知っているぞ?」

「……ん、ご助力には及ばない。私は十分に(・・・)強いから」

 

 後半の言葉をつい強めに言ってしまった。これ、大分イライラきてるな……。

 自身の精神状態を客観的にとらえつつもシャナリアと相対する俺。

 そんな中ついに折れたのか、それともしびれを切らしたのかはわからないがシャナリアが「ならいいさ。好きにするといい」とかいって踵を返して去っていった。

 

 やばいよ、あいつ大分みこしに乗ってるじゃないか……。

 イリレスと衝突が起こりそうだが、それはまた別の話って感じか。

 まあ、漠然とここまで来たけどシャナリアとは会えたし、ひとまず新たな目標を達成するとでもしようかな。

 

「……待ってて、私の蟹!」

 

 味覚を追求する俺は蟹さんを目指して近くの沼か川へと向かおうと思い立つ。

 あいつら、泥とかでいろいろとあれかもしれないが、しっかりと処理をしたらおいしくはなりそうな予感がする。

 

 ふと、中3の頃にやらかした事件等が脳裏によぎった。

 あの時は冗談抜きで命とかが危なかったのを記憶している。

 

 心配だねぇ……。

 俺はマッドクラブ7割シャナリア2割で考え事を進めながらホワイトランの扉へ向かった。




とまあ、失踪しかかっていた自分ですがこうしてどうにかモチベを奮い立たせて戻ってきました。
まあどうにかこうにがつなげていきますので気長に……。
あ、ごめんなさい。
気長は嘘ですしっかり書きます。

ええと、期待も不安も半分半分で見守っていただければ幸いです。


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第25話『マッドクラブと鍋と吸血鬼―1』

 俺は衛兵に軽く挨拶をしてホワイトランの郊外へと出る。

 ちなみに衛兵は俺が声をかけると機嫌がよさそうに、かつどこか敬うような感じで返事をくれた。うん、いいひとだ。

 

「おや、年端もいかない毛無し族の子供が場外に一人で出てくるとは。珍しい」

 

 猫っぽい男が声をかけてくる。

 振り向くとそこにはテントが立っていて、旅をしているのだと一目でわかる。

 まあ、猫っぽいと言えばやっている人ならわかるだろう。まあ簡単に言い表すとカジートという種族(じゅうじん)である。

 いろいろと種類はあるらしいが大抵のカジートは自分たちの土地から出ることなく生涯を終えるらしい。

 

「……行商人?」

「そうだよ。南の暖かい州(エルスウェーア)から遥々この寒風の吹き荒れる地(スカイリム)へと一山当てにね」

 

 まあ、結果は見ての通りだが、とそんな雰囲気である。

 

「難しい話はわからんだろう。リサードは気にはしないが」

 

 カジートはこの様に一人称で話すのが特徴でもあったりもする。

 また、このリサードというカジート達はホワイトラン担当のキャラバンで、序盤でのロックピック調達にお世話になる方だ。

 他にもこの4人のうち1名は隠密のスキルトレーナーで、チュートリアルでハドバル・レイロフ掘りをしていない人にとって隠密レベルを楽に上げることができる場所でもある。

 

「それで、何か買いたいものはあるか?」

「……塩」

 

 頭の中ではマッドクラブの料理(まつろ)が思い浮かんでは消えていっている。

 そのうちの数少ない可能性を選りすぐって思考する。

 

「ふむ、どれくらいの量が必要だ?」

 

 俺は桶を差し出し、これいっぱいに詰めてと伝える。

 他にもパンやら食用油やらの調味料に加え、添えるものまでをも揃える。

 

「こんなにたくさん買ってくれるなんてねぇ。合計で170ゴールドだよ」

「……ん。野宿するのに丁度食料が欲しかったから」

「そうか、一人となると相当な腕前か……」

 

 リサードはうなりながら俯く。考え事だろうか。

 

「……どうしたの?」

「いいや、なんでもない。お代は丁度いただくよ」

 

 どうしたのやら。明かさないところはなんだか怪しくも思える。

 まあ、こっちが手を出さなければいい人たちなんだろうが。

 

「……ん、それじゃ。行商、気を付けて」

「こちらこそ、幸運を祈るよ」

 

 なんだかリアルになって変な感じだったリサードの話は置いておくとして、手に入れた者はキャベツとトマト、ジャガイモに塩、それにパンだ。ちなみに鍋やらの調理道具は既に持っている。

 

「おや、それは……」

 

 俺が大量の食材を鞄にしまっているとリサードがこちらを覗き込むようにして見ている。

 ああ、そうか。そうなるよな。ワバジャックとかと同類ってことだよな。どちらにせよ物理法則を無視しているし、なによりも便利すぎる。

 

「珍しい、鞄型のアーティファクトか。よく話には聞くが現物を見るのは初めてだよ」 

「……ん。有用だし、私の大事なもの」

「どうやって持ち運ぶのかと気になってはいたが……。いやはや、いいものを見れた」

「……?」

 

 うーん、怪しい。

 何とも言えないけど怪しすぎるぞ。

 このかばん狙い?

 いやぁ、まさか、ねぇ……?

 

 俺はゾワリとする自身の体をさすりながらカジートキャラバンのキャンプを後にする。

 怪しいだろうが関係なく俺にはやることがある。




前回も短めだけど今回のほうが短いです。
しばらく書いてなかったりしてだいぶ合間があいたのでしばらく筆慣らし状態が続くかもです。


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第26話『マッドクラブと鍋と吸血鬼―2』

ある人は言った。
「完全主義では、何もできない」と。
書き直したいけどひとまず簡潔だけでも目指して動きます。ヤルゾー

それにしても前回の投稿から2年近くも経過してるんですね……、元号変わってますし。
そんなわけで遅筆ですがどうにかがんばりますのでよろしくお願いします。

三日坊主だけは嫌だな……。


 愛しのマッドクラブを求めて早数百メートル。沼が大量に見えてきた。

 あれ? ここまでホワイトランの平原って広かったか?

 今ここでこの平原は無限に続くといわれても納得してしまいそうな広さで辟易してしまう。

 ここをまっすぐ進んだらロリクステッドがあるんだろうが……、本当にどこまで続くんだこれ。

 

 俺は汚れを厭うこともなく沼の中へと入っていく。足ぐらいなら靴を脱いでおいて、後で洗えばいい。

 マッドクラブの攻撃? あたるわけないじゃないですかやだー。

 

「……見つけた」

 

 カサカサと動く灰色の岩。これがマッドクラブだ。

 大分ごついが蟹は蟹。大丈夫、中身はやわらかいはずだ。

 流石にリアルとなった今では殺してしまうと食べにくい状態になるので生きたまま捕獲する。やはり手が人間にとって一番有能なツールだと実感する。

 

 3匹の蟹を捕まえた俺はホワイトラン要塞近くを流れる川へと向かう。そこで泥をきれいに洗い落とし、水をくみ上げ鍋に入れる。

 あらかじめ用意しておいた薪に火をつけ、そこの上に鍋をかける。

 蟹はゆでる前に締めなくてはならない。

 生きたままゆでると手足が切り離されるのだと祖母に聞いたりしたことがある。

 冷凍締めというのもあるので、今回はそれにしようと思う。うん、魔法って便利だね。

 

 マッドクラブは重かったが、不思議とそこまで重さを感じなかった。流石、異世界補正。

 

「これはこれは、あの時のお嬢さんじゃないですか」

 

 丁度近くを歩いていたのか見知った男が声をかけてくる。帝国軍兵士の装いをしているパトロール。あれ、コイツの名前何だったっけ?

 姿や声とかなら覚えているんだけども、なぜか名前だけが出てこない。

 

「……久しぶり、ガイル?」

「ガルス、だ」

 

 あーそう言えばそんな名前だったか。

 なーぜーかー、懐かしい気がする。なんでだろうか。

 

「ところで、嬢ちゃんは何やってんだ?」

「見ての通り」

 

 俺は冷たくガルスを突き放し、蟹をゆでるのを再開する。

 あー、これまだ泥が取れ切れてなかったか……。汁とかは飲めそうにないな……。

 

「これって、マッドクラブを煮てるのか?」

 

 苦笑いになりつつ言う。

 蟹はおいしいからね。俺が食べたくなったんだ。仕方ないだろ。

 

「……ん、泥を取るのに失敗した」

 

 湯が茶っぽく濁った汁を見て俺は落胆する。凍らせて上手く取れたと思ったんだけどな……。何が悪かったんだろ。

 コイツでも解剖したらわかるかな。二匹目と三匹目の蟹を見てそう考える。

 

「なあ」

「なに」

 

 よくわからんが聞いて来るガイル。

 

「コイツって、煮たらうまいか?」

 

 知らんわ、これから食って確かめるところなんですが。

 

「食べる?」

「いいのか?」

 

 ガルスの返事に頷くと何故かガッツポーズをしている。

 暫く様子を見ているとマッドクラブは赤くゆであがり、思ったよりも綺麗に仕上がった。

 

「ほー、赤くなるんだな」

「食べたことない?」

「蒸したやつしかな」

 

 そう言えば蒸した料理があったか。マッドクラブだもんな。そりゃ泥は食べたくない。

 

「はい、どうぞ」

「うぉ、あちちっ」

 

 俺はマッドクラブの足をもぎとるとガルスになげる。

 ゆでたばかりのモノは流石に熱かったようだ。やりすぎたかと思ったがスカイリムならちょうどいいくらいだろう。

 

「悪くないな」

 

 ガルスが率直な感想を言う。俺的には塩味がほしいところだ。

 そっと鞄から塩の容器を手繰り寄せて食べかけの脚に掛ける。……うん、確かに悪くない。

 

「塩か、いいな。俺にもくれよ」

「図々しいから断る、……くふ」

 

 ガルスの表情が絶望に染まる。あまりに面白かったので吹き出す。

 

「面白くないだろ!? 塩くらい分けてくれてもいいだろぉ?」

「仕方ない」

 

 パラパラと塩を掛けてやると勇んで食べ始める。

 

「塩があると結構いけるな! 蒸さなくていい分手間もかからないし、雪で代用できそうなのがいい感じだな」

 

 ……雪、それを溶かして使うという手もあるのか。なるほど、参考になる。

 

「おっし、ごちそうさん」

「もう行くの?」

「ん? 残ってほしいか?」

 

 図らずも上目遣いになったようで盛大に勘違いされた。いい笑顔で言ってくるもんだから尚の事質が悪い。

 丁重にお断りしてやると残念そうにしてた。こっちは遠慮したいまであるんだが向こうはそうでもないらしい。

 

「さて、私も出発する」

「出発? どこにだ?」

 

 どこに? そうだな……、星霜の書でも取りに向かおうかな?

 さしあたっては……。

 

「ペイル地方ね」

「ペイルか……。大してみるものはないと思うぞ? あってもドゥーマーの遺跡ぐらいだろう。あそこはややこしい勢力関係だからな……」

 

 元より観光のつもりでもないので十分だ。運が良ければ闇の一党に会えるかもしれないがあまり首を突っ込んで事をややこしくしたりはしたくない。安全に、うん。安全に。

 俺はガルスに別れを告げると歩みをペイル地方へと向けるのであった。




にゅう……、地の文が気に入らぬがどんどん書いていくぞ……!
それを超え、書きたいものを書き上げて……、創作者足りえるのだ……!

そんなわけで区切りがつくところまでしっかり書きます。
打ち切り風ルートを目指すのだ。たぶん書きたいものが加わってくるけど気にしない!


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