少年と少女の心のバグ (クロウズ)
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人物紹介

 これまで通り、簡単な紹介文です。投稿まで長かった…(自業自得)


木林(こばやし)(みやび)

 

  本作の主人公。

 生真面目で特撮好きな少年。変身ポーズや名乗りは完コピだし殺陣も出来る。

  〈初等部編〉

 トランプを持参しては昼休みによくババ抜きをして遊ぶも、一度も勝ったことはないババ抜き最弱王。多分この先も勝てない。けど懲りずに挑み続ける。

 3年生中頃に、1人でいるレイに興味を持ち、毎日5分程話しかけ続けることで1週間かけて仲良くなった。レイから付けられたあだ名を地味に気に入っている。

  〈中等部編〉

 風紀委員会所属。敬語で話すのが苦手なようで、この頃から先輩や教師と話す時は「〜っす」口調になる。レイがサボりだすようになったことが目下の悩み。不本意ながら東雲世話係を任ぜられる。解せぬ。

  〈高等部編〉

 中等部から引き続き風紀委員会所属。サボり魔レイをとっ捕まえる為に今日も東奔西走。説教は最長2時間26分。たまにサボり魔先輩の某黒狗に説教することも。

 

 

 

東雲(しののめ)レイ

 

  本作のヒロイン。

 遅刻・早退・不登校の三拍子揃った不真面目天才ハッカー少女。

  〈初等部編〉

 学校でずっと1人でいた所を雅に捕まり、1週間の攻防を経て折れる形で仲良くなった。ミヤビンと呼ぶようになってからは、他のクラスメイトとも仲良くなった。表情がよく変わる雅をからかうことで楽しんでいる。

  〈中等部編〉

 雅に名前で呼ばれるのを恥ずかしがるようになって、普段は苗字で呼ぶことを強要する。たまに授業をサボっては屋上へ行ったり中庭に出たり。毎回早くにバレては雅に説教される。しかしどこ吹く風。

  〈高等部編〉

 念願の一人暮らしを開始。隣人が隣人なので、たまに部屋の掃除をさせたりパシったり。サボり常習犯となっては雅に説教されるまでがセット。その際少し嬉しそうに見える(クラスメイト談)ので、わざとサボっている説あり。

 

 

 

・木林英梨(えり)

 

 雅の妹。ブラコン。

 雅の事が好きすぎるあまり、レイの事を女狐呼びし敵意を剥き出しにしている。雅が絡まなければ良い子。上の兄に関しては興味なさげな様子。

 

 

 

常陸(ひたち)陽菜(ひな)

 

 雅達の2つ上の先輩。風紀委員長。

 (服装面で)風紀を乱す風紀委員長として有名。制服の第1、第2ボタンは留めないし上着は着崩す。寝坊して着崩してた際に大勢を検挙出来たのでこんなことになったらしい。朝に弱い。何度か下着が見えそうになり、指摘するとわざと見せようとしてくる、露出癖持ち疑惑が浮上。

 

 

 

五月雨(さみだれ)一姫(いつき)

 

 雅達の2つ上の先輩。風紀副委員長。

 真面目に見える方の風紀委員。委員長である陽菜の服装に関しては彼女の個性と捉えて何も言わないしそもそも改造制服くらいなら有りと思っている。遅刻には厳しい。高等部に上がってから一部分が急成長した為制服を着崩すように。下着くらいなら見られても平気どころかわざと見せる。痴女予備軍。

 

 

 

浅葱(あさぎ)信虎(のぶとら)

 

 雅達の1つ上の先輩。風紀委員会所属。

 陽菜の後任で風紀委員長となった人。校舎の見回りをすることが多い。顔が広く、他校の生徒からよく不良達の情報を集めている。

 

 

 

八束(やつか)由紀恵(ゆきえ)

 

 雅達の同級生。学級委員。

 3年間同じクラスだったので、レイの対応は雅に任せれば安心と判断して中等部の頃に東雲世話係を任命した張本人。高等部に上がると、中等部の頃より自由度が増したクラスメイトに四苦八苦。もう1人の学級委員は部活でいなくなる時もあるから余計に。

 

 

 

霧島(きりしま)良太郎(りょうたろう)

 

 雅達の同級生野球部所属。学級委員。

 貧乏くじを引きがちな雅の最初の友人。悪友の勇とはよく昼食を賭けてゲームをする。戦績は悪い。高等部に上がった時に学級委員になるも野球部が忙しく、普段は由紀恵に任せていることを申し訳なく思ってる。たまに雅に代理を頼む。

 

 

 

(さかい)(いさむ)

 

 雅達の同級生。水泳部所属。

 良太郎経由で雅と仲良くなった人。昼食を賭けたゲームで良太郎からおかずを巻き上げている。多分ゲーマー気質。

 

 

 

暮橋(くれはし)ユーキ

 

 雅達の同級生。日英ハーフの帰国子女。

 日本に染まりすぎて英語がカタコトになってしまった英語圏出身者。中等部3年間での英語の成績は及第点だったらしい。



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プロローグ

こちらには

・オリ主
・独自解釈・設定
・不定期更新

などの成分が含まれてます。これらにアレルギーのある方は急ぎブラウザバックをしてください


 これは、ボクとあいつのちょっとした物語。

 

 

「レイー、入るぞー。って、またこんなに散らかして」

「んぁ……?……ぁー、みやびん、おはよー……」

 

 

 一人暮らしのボクを、いつものように起こしに来るあいつ。あいつとの関係は、まだ幼馴染。でもボクは、もう一歩先の関係になりたいと思ってる。人をからかうのが趣味で、ひねくれたボクだけど、あいつのことを好きになっても、いいよね?

 

 

――――――

 

「…………」

「……何すか、これ」

 

 

 漫研に呼び出された俺、木林(こばやし)(みやび)東雲(しののめ)レイの2人が見せられたのは、俺達を題材とした作品だった。それを描いた3年の先輩、小野寺(おのでら)千鶴(ちづる)

 

 

「何って、次の新作。あ、勿論名前は変えるから」

「そういう問題じゃねえっすよ」

 

 

 笑いながら言ってくるけど、なんで人をネタに使うかなって、そういうことなんだよ。困った先輩だよ。

 

 

「で、どうかな?」

「風紀委員として処分するっす」

「ちょっ、職権乱用!?」

「冗談っすよ。そんな権利ないっすし」

「………君、だんだん風紀委員長に似てきたね」

「褒められてる気がしないっす」

「………なあ」

 

 

 そこへ、今まで黙っていたレイが声を出したかと思うと、

 

 

「ここ、ミヤビンの口調ちょっと違ってるよ。あと、みんなの前では苗字で呼ぶし、ここなんかも」

「あー、なるほど。じゃあこっちの描写はこうすれば」

「そうそう、そんでボクんとこは」

 

 

 2人で作品を改良し始めた。さっきまで妙に大人しかったのは無駄に読み込んでたからなのかよ。ただ、このまま放っておいたらこいつ余計なことも付け加えそうだし、俺は未だ話し込んでるレイの手を引っ張って漫研から出ていく。

 

 

「なんだよー、ミヤビン怒ってるのか?」

「怒ってはねぇよ。ただ、ああいうのが世に出回ると思うとな……」

「まーその辺は大丈夫じゃない?色々嘘混ぜたし」

「それはそれでどうなのさ。ってお前、それは」

「せっかくだからもらった」

 

 

 レイがもらったというサンプル本を嬉しそうに見せてきて、もはや何も言うまいと思って溜め息を吐いた。こうも嬉しそうにしてると、あまり口出しするのもはばかれる。というか、自分が題材にされた本が出て嬉しいものなのか?俺はそんな嬉しくないんだけどなぁ。

 

 

「まあ、こういうのも面白いからね。からかうネタも出来るし」

「悪趣味だな……。じゃ、帰るか」

「ついでに何か食べてこーよ」

「それもそうだなぁ」

 

 

 食事を外食で済ますこいつとは、こうして放課後に食べて帰ることが多い。とは言っても、いつも通りピザかファミレスになるだろうけど。こいつはそろそろ自炊を覚えるべきじゃないだろうか。あと、部屋の掃除とか洗濯に関しても俺任せなのはどういうことか。今度おばさんに相談しよう。

 

 

「ほらミヤビン、早く行くよ」

「はいはい」

 

 

 いつの間にか校門前まで行ってたレイに急かされて、隣に並ぶ。歩くの早いよ、体力低いくせに。

 

 

「さーて、何奢ってもらおうかなぁ」

「また俺の奢りかよ」

「いーじゃん、この前奢ってやっただろ?」

「ったく仕方ないな」

「ふふーん」

 

 

 まったく、こいつは。しょうがない奴だ。

 

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 ミヤビンは呆れながらも、10年近くボクとつるんでくれてる。それが嬉しくて、何度も迷惑をかけた。まあ、ボクも何度か迷惑かけられたことあるけど。

 

 

「ねぇ、ミヤビン」

「ん、どうした?」

「……ううん。やっぱり、なんでもない」

 

 この漫画の冒頭じゃないけど、ただの幼馴染じゃなくて、もっと別の関係に進んでもいいかなって、そう思ってる。




 どうも、クロウズです。まさかの3つ目です。
 これは2つ目の作品『俺達/私達の関係』内にて投稿した番外編、『ハッカー少女の心のバグ』をある読者さんの提案により独立させたものです。
 3つも同時更新は大変ですが、頑張っていきますので『カメラと棒付きアメと』『俺達/私達の関係』ともどもよろしくお願いします。



 今日はこの辺で。ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!


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〈初等部編〉
1話目


「ミヤビーン」

「それの続きはないぞ」

 

 

 休日のある日。ボクはミヤビンの背中にもたれながら漫画を読む。もうすぐ読み終るから続きがどこか聞きたかったけど、予想してたのか先にないと答えられた。ちぇっ。

 

 

「……なあ」

「んー?」

「どうした?」

 

 

 勉強しにここに来てたミヤビンの友人、榎本(えのもと)秀敏(ひでとし)がボクらを怪訝そうな顔で見てくる。一応ボクにとってはクラスメイトだけど、そんなに会話なんてしたことない。あくまでミヤビンの友人だ。ちなみにどうでもいいけど、秀敏って名前だけど周りからは基本的に(しゅう)って呼ばれてる。

 

 

「2人って、付き合って」

「「ない」」

「さいですか……」

 

 

 声を揃えて否定する。よく疑われるし間違われるけど付き合ってはないんだよねー。

 

 

「付き合ってもないのにそんなべったりなのか?」

「まあ、家族みたいなもんだし慣れたし」

「昔のミヤビンはテンパってたよねー」

 

 

 あれ?そういえばボクらっていつからの付き合いだっけ?そのことをミヤビンに聞いてみると、

 

 

「初等部の頃からじゃなかったっけ?」

「あれ、そだっけ?もっと前じゃない?」

「確かアルバムに……ああ、あった。ほら」

 

 

 立ち上がったミヤビンがアルバムを持ってきて、ボクと肩を組んでる写真を見せる。日付は、今から11年前。この頃はまだ一人暮らしなんかしてなくて、ミヤビンとは出会ったばかりだったね。

 

 

「折角だし、話してやるよ当時のこと」

「あ、ちょっと聞きたいかも」

「ま、そんな大したことじゃないけどね」

 

 

 そう前置きしてから、当時のことを振り返る。入学して間もない、初めてミヤビンと出会った頃。

 

 

――――――

 

「ねえ、一緒に遊ばない?」

「……は?」

 

 

 退屈だけどすることもなく、教室の窓から外を見てると、1人の男子が話しかけてきた。黒髪黒目で、一見害のなさそうなやつ。ただ、ボクみたいなのに構うようなやつには見えない。大方先生に頼まれたから話しかけてきたとかそんなだろ。

 

 

「嫌だね。なんで知らないやつと」

「木林雅」

「は?」

「俺の名前。木林雅っていうんだ。これで、知らないやつじゃない」

 

 

 そういってこいつは笑いかけてくる。つられて笑いそうになったけど、ボクは慌てて表情を硬くする。

 

 

「それでも、遊ばない。どうせボクを哀れんでの行動だろ?」

「そんなつもりはないけど。でも、迷惑なら今日は諦めるよ」

 

 

 まるで明日もこうして話しかけてくるみたいじゃないか。まったくなんなんだこいつは。

 

 

 

 

 

 次の日も、そのまた次の日も、ボクが何度突き放しても、雅は諦めずに話しかけてくる。最終的にはボクの方が諦めて、雅と話すようになった。話してみれば、割と面白いやつだったし。それで、そこそこ仲良くなれたんじゃないかと思った頃、

 

 

「なーミヤビン」

「ん?って、ミヤビンって何?」

「オマエのあだ名。いいだろ?」

「あだ名の方が文字数多くないかな」

「いいじゃん。で、思ったんだけどさ」

「うん」

「友達、だよな。ボク達」

 

 

 ミヤビンはボクがそう言うとちょっとショックを受けた表情で、

 

 

「もしかして、レイちゃんにとって友達じゃなかった?」

「い、いや、そんなわけないだろ!?」

「よかったぁ!」

 

 

 慌てて否定すると、すぐ嬉しそうにしてボクの手を握る。こうして見ると犬っぽくてかわいいんだけど、教室だから恥ずかしい。すると、周りからひそひそと何か聞こえる。

 

 

「あの東雲さんが照れてる……」

「木林君てああいう子が好きなのかな」

「あいつら仲良いな。……ひゅーひゅー」

 

 

 

「う、うるさいぞオマエらー!」

 

 

 ひそひそ話はどんどん広がり、最後はクラス中からはやし立てられた。それで、ボクは思わず大声を上げる。それにびっくりしたのか蜘蛛の子を散らすように逃げるけど、どいつもこいつも笑ってる辺り、絶対懲りていないはずだ。しかもミヤビンがまだ手を握ってるから、またからかわれそうだ。

 

 

「み、ミヤビン……」

「それじゃ、帰ろっか」

「あ…うん……」

 

 

 手を繋いだまま、ミヤビンとボクは下校する。ミヤビンのやつ、気にしてないのかな。なんか、意識しまくってるボクが馬鹿みたい。それでもミヤビンの手をしっかり握り、離さないようにする。この、ボクの初めての友達を。

 

 

 

――――――

 

 

「とまあ、そうしてボクらは友達になったんだよ」

「へー、雅って意外とぐいぐい行くタイプだったんだな」

「若気の至りだ……」

 

 

 忘れてくれと、ミヤビンはテーブルに顔を伏せる。残念だけどボクは忘れられないなー。

 

 

「でも、ボクは結構感謝してるんだよ?ミヤビンのお陰で、いっぱい楽しめたし」

「そ、そうか?それなら、いいんだけど……」

 

 

 ボクは照れてそっぽ向くミヤビンの手に手を重ね、そのままゆっくり顔を近付け、

 

 

「ミヤビン……」

「れ、レイ……?」

「おーいお2人さーん。いちゃつくなら他所でやれよ」

「っ!?いいいいやこれはそのだな……!」

 

 

 もうちょっとでミヤビンをからかえるところで、邪魔が入った。ミヤビンは真っ赤になって慌てふためいて飛びのき、壁に頭をぶつけてうずくまる。面白いもの見れたから、これはこれでいいかな。もちろん、スマホで録画済み。

 

 

「あっはっはっは、ミヤビンテンパり過ぎ!」

「っ……!お前、さっきのからかってやがったな!?」

「いい画撮らせてもらったよー」

「お前らとっとと付き合えよ……」

 

 

 にしし、と笑いながらその証拠を見せてやる。いやー、これだからミヤビンと一緒にいるのは楽しいんだよねー。真っ赤になってるミヤビンとそれをからかうボクを見て、榎本は苦笑いだ。ただ余計なことは言わないでほしいかな。

 さて、ボクらが出会った頃の話はしたし、次はいつ頃の話をしようかなー。




 どうも、クロウズです。
 レイちゃんが語る初等部編第1話でした。多分あと2回くらい初等部編が続きます。
 話してる頃はまだ5月頃なんで2人は付き合ってません。付き合ってないのにべったりしてます。主にレイちゃんがからかう為に。



 今日はこの辺で。さあ、お前の罪を数えろ!


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2話目

 とある休日。ボクはミヤビンの家に呼ばれて、大きなマンションの前にいた。へー、ミヤビンってこんなとこに住んでるんだ。ただ、部屋は教えられてないからどうしようかと悩んでいると、

 

 

「おーい、こっちこっちー」

「ん、ミヤビン?どこ?」

 

 

 声はするけど姿は見えない。どこだろうときょろきょろ見渡してみると、急に目の前にミヤビンが現れた。

 

 

「うわあ!?」

「レイちゃんおはよー」

「お、おおおはようじゃないよ!どっから出てきてるんだよ!忍者か!」

「おー、レイちゃん朝から元気だね。いいことあった?」

「びっくりしてるんだよ!」

 

 

 なんなんだミヤビンは。ていうかほんとさっきのはどこから声掛けてきてたんだよ。

 

 

「それで、どこか行くのか?」

「うん、俺ん家にね。こっちだよ」

 

 

 そう言ってボクの手を取るミヤビンに引かれ連れて行かれたのは、ミヤビンの住んでる703号室。結構高く、下を覗いた時は覗かなきゃよかったと後悔した。

 

 

「さ、上がって上がって」

「……お、お邪魔します」

 

 

 誰かの家に来るのって、そういえば初めてだな。そのままミヤビンの部屋に案内され、真っ先に目に入ったのはバッタモチーフの特撮ヒーローのポスターだった。ミヤビンが特撮好きなのは知ってたけど、ポスター貼ってるくらいにまで好きだったとはね。

 部屋にはテレビとゲーム機、棚には特撮ヒーローのフィギュアに変身ベルト等。さすがにパソコンはないか。ボクの部屋にはあるけどね、ふふん。

 

 

「で、なんでボクを呼んだんだ?」

「ほら、前に言ってただろ?俺ん家見たいって」

「あー……そういえばそうだっけ」

「で、来た感想は?」

「うん、特撮ばっかだね」

 

 

 あまり見たことないけど、そんなに面白いのかな。今度見てみよう。

 

 

「それじゃあ、何する?」

「うーん、レイちゃんてゲームする?」

「まあ色々するけど」

「じゃあやろっか。いっぱいあるから」

 

 

 そう言ってミヤビンが準備してやることになったのは、あの赤い配管工達のレースゲームだった。真っ先にこれを選ぶってことは、一番やりこんでるんだろうけど、レースゲームならボクだって得意だ。特にこれは、何度もやったことあるやつだし。

 

 

「ボクに勝てると思うなよ、ミヤビン?」

「勝負はやってみないと解らないよ?」

 

 

 お互い負ける気はないと笑いあい、レースが始まる。ボクの強さ、見ておけよ。

 

 

 

 

 

「ふふん、またボクの勝ちだな」

「うぐぐ……」

 

 

 結果として、ボクの圧勝。アイテムもここぞという時に逆転できるものがよく手に入った。そしてミヤビンは上手いんだけどカーブとかで体も動いてた。ほんとにいるんだ、こうなる人って。ま、それはさておき、大敗を喫したミヤビンには罰ゲームでも受けてもらおうかな。

 

 

「じゃあミヤビン、ちょっと寝るから抱き枕役頼むなー」

「なんで、なんで抱き枕!?」

「いいからいいから、敗者は勝者に従えよなー」

 

 

 ミヤビンをベッドに投げ入れ、ボクもベッドに入ってミヤビンに抱き着く。うわ、ミヤビンあったかい。昨日ちょっと夜更かししたからこれならすぐ寝れそうだ。

 

 

「……な、なあ?恥ずかしくないのか?」

「なんで?友達なら一緒に寝たりするだろ?」

「一緒に寝ることはあっても抱き着いたりはしないって」

「そうか?まあいいじゃん、お休みー」

「おい、レイちゃん!?……っ、寝やがった」

 

 

 ミヤビンは何か文句言いたそうだったけどボクはすぐに意識を手放して微睡みの中に落ちていった。その後、おばさんとお兄さんに見られて盛大にからかわれた、ミヤビンが。

 

 

 

 

 

 また別の日。今日はミヤビンをボクの家に呼んだ。そして部屋に案内したら、まずパソコンがあることに驚いてた。

 

 

「うわー、すごい。レイちゃん自分のパソコン持ってるんだ」

「まあね。これでも色んな技術も持ってるんだよ」

「すごいなー、レイちゃんってパソコン好きなんだねー」

「まあ、小さい頃から触ってたからね」

「小さい頃って、今も小さいじゃん……」

 

 

 ボクの言葉にミヤビンは呆れとも取れる表情で溜め息を吐いた。そりゃ、まだ9歳だから小さいけどさ。

 

 

「でも、なんでそんな小さい頃からパソコンを?」

「んー、秘密。それよりさ、ミヤビンのこと教えてよ」

「すでに十分教えた気もするけど……まあいいか」

 

 

 ミヤビンの好きな物や事とかは友達になった時に聞いたけど、まだまだ知りたいと思う。体育の時なんて、1人だけずば抜けてアクロバティックな動きしたりするし、クラスのやつらと一緒にババ抜きしたら絶対にジョーカー握って、しかも誰かに引かれてもすぐに戻ってきてるし。ある意味強運なのかなー。絶対ジョーカーとか、ババ抜きでは最悪だけどポーカーとかじゃ強いもんな。

 

 

「うーん……あ、そういえば俺妹いるって、話したっけ?」

「いや、初耳。お兄さんは前会ったけど。妹もいたんだ」

「今7歳の妹がね」

「へー、どんな妹?」

「えーと………うん、ブラコンってやつかな」

 

 

 どこか遠い目をして語りだすミヤビン。これはあれだな、妹に滅茶苦茶苦労してるな。曰く、眠れなくなるとミヤビンの布団に潜り込んだり、ことあるごとにミヤビンに飛び込んで甘えたりしてくるらしい。可愛らしいことだと思うけどね、一人っ子だからボクには解らないけど。

 

 

「今度会ってみる?」

「そうだねー、気が向いたら」

「じゃあ今度紹介するな」

「楽しみにしとくよ」

 

 

 他にもミヤビンから色んな話を聞いた。おじさんとおばさんが新婚とか付き合いたてのカップル並にいちゃついてばかりだとか、お兄さんがドジで何度も後始末手伝わされたりだとか。それは次男の定めだね。

 

 

 

 

 

――――――

 

『あー、あったなそんなこと』

 

 

 昨日夢で見た昔のことをミヤビンに話したら、ミヤビンは懐かしむような声でそう言った。あの後妹ちゃんに会った時は、いきなり女狐呼ばわりされてびっくりしたよ。まあ、当時は女狐がどんな意味なのかは知らなかったけどね。なんで7歳であんな言葉知ってたんだろ。今でも妹ちゃんはボクを目の敵にして、会う度威嚇されてる。ボクが何をしたって言うんだか。

 

 

「そういえばお兄さんは元気?」

『エロゲ送ってくるくらいには』

 

 

 電話の向こうでのミヤビンの声は呆れてた。お兄さんは小説家希望だったらしいけど、何故かエロゲのシナリオライターになったらしい。ドジで済む話じゃないぞそれ。しかもミヤビンが言った通り、あの人は自分が携わったエロゲのサンプルを便り代わりに送ってくるようだ。普通にメールとかにしてやれよと思う。

 

 

『っと、じゃあそろそろ寝るよ。お前も早く寝て、明日学校来いよ?』

「気が向いたらねー」

 

 

 通話を終えるとベッドに寝転がる。これで寝坊とかして遅刻したらまたミヤビンに怒られるかな。モーニングコールでも頼もうかなー。という冗談はいいとして、どうせなら起こしに来たらいいのにと思いながら、ボクも眠りにつく。




 どうも、クロウズですです。
 初等部編とかやってると、他2作品とネタ被りの心配が少なくていいですね。ただやっぱり3作同時は大変。せめて1作は完結させてからの方が良かったかもですがこのまま続行していきます。




 今日はこの辺で。キバっていくぜ!


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3話目

 とある休日。この日ボクは姫島とゲームに勤しんでいた。内容はモン狩っていうハンティングアクションゲームだ。でも、ボクはこれを大体やり尽くしてるから若干飽きている。

 

 

「ぐおー!また死んだ!!」

「こいつ強すぎだよなー。あ、麻痺って……あー、ボクもだ」

「あーもうっ、やめやめっ」

 

 

 姫島はゲームを放ってベッドに寝転ぶ。人ん家なのに自分の家みたいにやってんなー。いいけど。

 

 

「そういえば気になってたが」

「ん?なんだよ」

「お前のアルバムあの風紀委員とばっか映ってるな」

「……何勝手に人のアルバム見てんだよ」

 

 

 今までアルバム見ながらやってたなら、そりゃ2回もやられるっての。久しぶりにボクも見てみると、姫島が言った通りミヤビンと映ってるものが大半だ。特に初等部の頃なんて、ミヤビンと映ってないものがないって言えるほどだ。

 

 

「幼馴染なのは知ってるが、ここまでとはのー」

「何か言いたそうだな……」

「いーや?ただ、レイがここまで楽しそうにしてるのが意外だなと」

「ほっとけ」

 

 

 そろそろ恥ずかしくなってきたからアルバムを取り上げる。

 

 

「で?昔のお前らはどんな感じだったんだ?」

「ニヤニヤするな、気持ち悪い。別に、ただの親友だし」

「本当かのぅ?ほれほれ、正直に言ってみな」

「……っ、あーもう解ったよ。話せばいいんだろ話せば」

 

 

 

――――――

 

「ほい、上がりー」

「うぅ、また負けたー……」

 

 

 昼休み、ボクらはトランプで遊んでいた。ゲームはもちろんババ抜きで、最後までババを握ってたミヤビンの負けで終了。これで5連敗だね。

 

 

「ちくしょう、誰だよババ抜きやろうって言いだしたやつ……」

「いや、木林君が今度は勝つって言ったんじゃん」

「でも相変わらずの負けっぷり………ぷぷぷ」

「所詮ババ抜き最弱王よ」

「うわーん!」

 

 

 一緒にババ抜きしてた友達にボロクソに言われ、ミヤビンは泣きながら走り去ってしまった。………あ、途中でこけた。しかも先生に注意されてる。

 

 

「オマエら、あんましミヤビンいじめんなよー?」

「からかってばかりの東雲さんがそれ言っちゃう?」

「さーて何のことかなー」

 

 

 クラスメイトの女子に言われて、とりあえずすっとぼけておく。でも仕方ないよな、ミヤビンからかうと面白いし。

 

 

「でも解るなぁ。木林君かわいいし」

「え、お前雅みたいなの好きなのか?」

「そ、そこまで言ってないよぉ」

「駄目だぞー、木林君は東雲さんのなんだし」

「なんでボクのものになってんのさ」

 

 

 確かにミヤビンとはよく一緒にいるし、初めての友達だから他のやつよりも仲良しのつもりだけど。だからってボクのものなわけないだろうに。

 

 

「えー、だってよく木林君といるし」

「雅のことよく見てるし」

「何かあれば雅君に相談してるし」

「1人だけミヤビンてあだ名で呼んでるし」

「いいねぇ、青春だよね」

「小6のガキが何言ってんのさ……」

 

 

 その後もボクとミヤビンがどうだこうだと、ミヤビンが戻ってくるまで話は続いた。ボクはそれから気まずさでミヤビンの顔を見れず、ミヤビンは何がどうなってるのか解らず首を傾げるその様子を、こいつらはニヤニヤしながら見ていた。くそっ、腹立つ。

 

 

 

 

 

「それじゃあレイちゃん、また明日ー」

「ばいばーい」

「ん、またなー」

 

 

 ミヤビン達と別れたボクは家に戻ってすぐ自室のベッドに寝転ぶ。今日は沢山からかわれたから疲れた。……確かにミヤビンて呼んでるのボクだけだけど、だからってそんなミヤビンといるかな?そりゃ知り合った当初こそミヤビンとずっと一緒だった気もするけど…………そういえばクラス替えでもミヤビンとはずっと同じクラスだし、席替えしたら高確率でミヤビンと隣になってたな。うわ、そう考えたらミヤビンといてばっかりだ。そりゃあいつらにもからかわれるわけだよ。ま、まあ、偶然だから仕方ないよな。ミヤビンも特に何も思ってないだろうし、うん。

 

 

「……とりあえず、お風呂入って寝よ」

 

 

 変に恥ずかしくなってきたから、さっぱりして忘れよう。そうと決まればさっさと入ってしまおう。

 で、結局忘れることは出来ず、翌日はミヤビンの事を直視出来なかったりしてまたからかわれることになった。

 

 

 

――――――

 

「爆ぜろ」

「なんだよいきなり」

 

 

 聞き終えた姫島の感想はそれだった。爆ぜるような内容を話したつもりはないんだけどな。

 

 

「その頃の延長で今も一緒にいるんだろ?爆ぜろ」

「ただの腐れ縁だよ」

「そのただの腐れ縁に日常の世話させてんのかお前は」

「あれ、ミヤビン来たんだ」

 

 

 声のする方へ首だけ向けてみると制服姿のミヤビンが突っ立っていた。休日にも関わらず制服なのは風紀委員会か何かがあったからだろうね。

 

 

「玄関前でピザ受け取ったからな。来ざるを得なかったんだよ」

「あー、そういや頼んでたっけ。悪いね」

「どうせいつものことだし。ああそうだ、姫島お前明日補習な」

「なぬっ?なぜあたしなんだ」

 

 

 ミヤビンから補習の内容が書かれたプリントを渡された姫島はぬぉぉ~っと呻きながらプリントから目を逸らす。そんなことしてもミヤビンは見逃してくれないんだから諦めたらいいのに。ちらっとプリントを見てみると、姫島の他にも補習を受ける生徒の名前が書いてあった。その中にはボクの名前もあって、っておい。

 

 

「ミヤビン、これボクもなの?」

「当たり前だろ。お前もサボってんだから」

「ちぇ~」

 

 

 ミヤビンはボクのことも見逃してくれなかった。幼馴染なんだしちょっとくらいは見逃しても罰は当たらないってのに。ま、そういう真面目なところが、結構好きなんだけど。

 その後は、ピザを食べながらミヤビンも巻き込んでモン狩で奴にリベンジしたりと、明日の補習がめんどくさいからその分今日を楽しんだ。




 年明けました、クロウズです。
 今回で初等部編は終了。次回からは中等部編だと思われます。早く高等部編を書きたい。中等部ではもうちょっと登場人物増やそうかなと考えたり考えなかったりです。




 今日はこの辺で。通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!


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〈中等部編〉
4話目


「行ってきまーす」

 

 

 4月。この春から中等部に上がった俺は、朝早くに家を出て学園に向かう。普段ならこんな早くに出る必要はないけど、風紀委員である俺は今日、校門前で服装点検をするため早めに学園に着いておく必要があった。風紀委員の仕事は主に今日みたいな服装点検に校内の見回り。地味だけどやりがいはあると俺は思う。

 

 

「おはよーございまーす」

「おはよう木林くん」

「おはよーごぜーます。今日はよろしくおねげーしますね」

 

 

 今日の当番は五月雨(さみだれ)一姫(いつき)先輩と委員長である常陸(ひたち)陽菜(ひな)先輩と俺の3人だ。しかしこの常陸先輩、風紀委員長なのに第一第二ボタンが外されてたりへそ出しだったりと服装がだらしない。曰く、この方がやる気のないと判断して油断した生徒を捕まえられるからとか。だからって風紀委員が服装乱すなよ……。

 

 

「常陸先輩、委員長なんすからちゃんとしてほしいっす」

「いーんですよウチはこれで」

「………。五月雨先輩もなんとか言ってくれないっすか?」

「んー、言っても仕方ないからね。諦めたら?」

「服装点検で真っ先に注意すべきは常陸先輩っすね……」

 

 

 いずれ先輩の服装も正すと決意し、登校してきた生徒達の服装をチェックしていく。服装が乱れてる生徒はそんなにいなかったけど、ネクタイやリボンを忘れた先輩がいたりスカートを規定より短くしてる女子なんかが、中にはちらほらいた。

 

 

 

 

 

 点検も終ると、先輩達と別れて教室に入る。教室内はいつも通り駄弁っているクラスメイトで賑やかだ。俺は自分の席に座って一息吐いてると、前の席に幼馴染が座ってくる。

 

 

「お、やっと来たねミヤビン」

「ああ、おはよーレイちゃん」

 

 

 この幼馴染、東雲レイとは初等部の頃退屈そうにしてたから声をかけたのが始まりで、最初は何度遊びに誘っても断られてたけど、今では大切な親友の1人だ。そんなレイちゃんは未だちゃん付けで呼ばれることに照れてるのか、顔が少し赤い。

 

 

「……ちゃん付けは恥ずかしいからやめてくんない?」

「俺は呼び捨てにするの照れくさいんだけど………レイ?」

 

 

 顔を見ながら言って、恥ずかしくなる。やっぱりレイちゃんの方がまだいいかもしれない。そう思ってると、レイちゃんも徐々に顔を赤くして、

 

 

「みみ、苗字で呼べばい、いいいんじゃないか?」

 

 

 と、上擦った声で言ってきた。東雲……東雲かぁ。確かに、恥ずかしさはない。ないんだけども、

 

 

「東雲。うーん、すっごくよそよそしいな……」

「まあ、その内慣れるよ、ミヤビン」

「って、お前はそのままかよ」

「いいじゃん。これはボクの特権だよ」

 

 

 というわけで、俺はこの幼馴染を苗字で呼ぶことになった。でもなんかむかつくから休日とか2人の時はレイちゃんって呼んでやる。恥ずかしがってもやめる気はない。

 

 

「お2人共、おはようごじゃいマース!」

「よー暮橋(くれはし)。相変わらず能天気そうだな」

「暮橋、お前遅刻ギリギリだぞ」

「実は寝坊しまシテ。レイはともかく、ミヤビは朝強そうデスネ」

「ボクはともかくってなんだよ。喧嘩売ってる?」

 

 

 レイちゃん曰く能天気そうな金髪少女の暮橋ユーキは、イギリス生まれのハーフで去年まではイギリスで暮らしていたいわゆる帰国子女らしい。イギリス生まれイギリス育ちのハーフって、来日は帰国になるんだろうか?

 

 

「それデ、ミヤビは朝強いデスカ?」

「まあ、風紀委員の仕事で朝早かったりするし」

「日曜は絶対7時半には起きるしね」

 

 

 特撮は見逃せないからな。

 そうこう話してるうちに予鈴が鳴って、授業を受ける。受けるんだけど、4時間目の英語が何を言ってるのかさっぱり解らない。先生発音良すぎ。こういうのは本場イギリス出身の暮橋の独壇場かと思ってると、

 

 

「それでは、次の英文を……暮橋さん」

「うぇ!?えーとえーと……。でぃ、ディス、イズ、ア、ペン?」

「This is a pen.です。さあ、もう一度」

 

 

 駄目そうだった。イギリスって英語圏だよ、な?

 

 

 

 

 

「ユーキちゃん、英語苦手だったの?」

「向こうニいた時はそこそこ話せたのデスが、こっちニ来てからハ日本語ばかりデ」

「母国語忘れちゃうほど染まったのね」

「しっかりしなよ英語圏出身者……」

 

 

 授業終了後の昼休み、暮橋の周りには女子が集まってさっきの話で盛り上がってる。暮橋は俺の目の前の席だから必然的に会話が聞こえてしまう。

 

 

「家にいテモ、日本語で話すこと多いデスカラ」

「じゃあ向こうの友達から手紙来たりした時はどうしてるの?」

「あ、それハ大丈夫デス。ちゃんと書けマス!」

「喋るのだけが苦手?」

「というより、授業だトどうしても緊張シテ」

「へー、なるほど」

 

 

 つまり緊張さえしなければ授業でもまともに話せるってことなんだろうな。………授業で緊張するか?

 

 

「おーい雅、飯食うぞ飯」

「はいはい」

 

 

 友人に誘われたから弁当を持って席を立ち、移動する。この友人は霧島(きりしま)良太郎(りょうたろう)。中等部に入っての初めての友人だ。ネーミングセンスがなかったりとてつもなく不運な感じのする名前だ。移動した先には良太郎の他に1人、(さかい)(いさむ)がいる。こいつは良太郎の悪友らしく、2人でよくやんちゃしてたとかなんとか。

 

 

「さあ良太郎、昨日の約束覚えてるだろ?」

「解ってるよ、好きなの持ってけ」

「約束?」

「昨日こいつと勝負してな。昼のおかず1品賭けて」

「んで、オレが勝ったからこのミニハンバーグを貰うと」

 

 

 そう言って勇は箸で良太郎のミニハンバーグを一突き。まったく、何をやってるんだかこいつらは。

 昼休みが終りその後待ち構える午後の授業を乗り切り(ただ暮橋は寝ていたから先生に怒られてた)、放課後。風紀委員の仕事もないからさっさと帰る。

 

 

「明日は数学で当てられる可能性があるから予習しておいて、体育があったからサボろうとするレイちゃんをどうにか説得して……」

 

 

 体操着忘れたとか言いそうだから迎えに行くべきか?あ、確か委員会が昼休みにあるんだっけ。無駄だとは思うけど一応常陸先輩に服装正すよう言って。あー、忙しそう。とりあえず帰ってゆっくり考えよう。

 

 

――――――

 

「ふーん、木林君て中等部から風紀委員だったのね」

 

 

 話を聞き終えた霧生(きりゅう)は缶コーヒーを一口飲む。校内見回り中に急に昔の俺がどんなのか知りたいって言うからびっくりしたが、隠すことでもないし休憩を兼ねてさっきまで話してた。

 

 

「それに東雲さんとは幼馴染。だから扱い上手なのね」

「そうか?そうは思わないけど」

「これからも東雲さんは任せるわね。さ、見回りの続きしましょ」

「はいはい」

 

 

 空になった缶を捨てて先を歩く霧生の後を、ゆっくり追う。後日この事を誤解したレイに色々問い詰められることを、俺はまだ知らない。




 3月ですね、クロウズです。
 今回からは中等部編です。そして次回はクラス対抗ライダー大戦勃発編です。雅達がライダーに変身して生き残りをかけた戦いを繰り広げます。嘘です。聖櫻生の何人くらいが中等部にいたんでしょうね。気になります。



 人物紹介は高等部に入るまでお預けだ!
 今日はこの辺で。ひとっ走り付き合えよ!


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5話目

 中学生活も慣れたら早いもので、気が付けば2学期になった。夏休み明けということで、生徒会役員と一緒に早速服装点検が行われる。

 

 

「そこの男子、ネクタイはちゃんと締めなさい」

「すんませーん」

「スカート短すぎです。規定の長さに戻して下さい」

「今日暑いですし、見逃してくれても」

「駄目です」

 

 

 長期休暇による休みボケの所為か、服装がだらしない生徒が多かった。もちろん、うちの委員長もだらしない格好だ。しかも今日はいつもよりだらしないような。しかも周りが注意しててもこの人終始無言な気もする。この人ほど服装点検で厳しい人いないのに。厳しいのにだらしないのもどうかと思うが。

 

 

「委員長、ボタン留めて下さ――委員長?」

「……………あ、何かいーました?」

「ボタンちゃんと留めて下さいって言ったんですけど、ちょっと失礼」

 

 

 反応も鈍かったから正面に立って委員長の額に自分の額を合わせる。すると結構熱が伝わってきた――熱っ。

 

 

「あらまぁ、大胆というかなんというか」

「そういうのいいっすから。委員長熱出てるんで保健室に連れて行きます」

「ウチはだいじょーぶですから……」

「さっきからふらついてる癖に何言ってんすか」

 

 

 服装点検は他の人達に任せて、有無を言わさず委員長を保健室まで運ぶ。あいにく先生は不在で、少しの間は俺が看ることになった。途中、サボり目的なのかレイちゃんがやってきて、俺を見るや否や逃げ出したからとっ捕まえた。

 

 

「まったく。なんで保健室に来たんだよレイちゃん」

「だからその呼び方止めろって。くそ、1限目サボろうと思ったのに」

「やっぱりか………はぁ」

「ん………不純いせーこーゆーはいただけねーですよ」

「そんなんじゃないっすから、委員長は寝てて下さい」

 

 

 委員長は軽い風邪程度だとは思うけど、38℃を少し超えてた。なのでスポーツドリンクを飲ませて冷えピタを貼っておいた。ついでに、レイちゃんに汗を拭かせた。それは男の俺には無理だし。その際レイちゃんは何かぶつぶつ言ってたけどあいにく俺には聞こえなかった。

 後は戻ってきた先生に任せて、俺達は教室に行く。レイちゃんは逃げ切れないと解って諦めてるのか、どこまでもダルそうな足取りだった。

 

 

「レイちゃん、授業サボる気だっただろ?」

「だからちゃん付け止めろって」

「これから授業サボる、もしくはサボろうとする度に一日レイちゃんって呼ぶから」

「なにその嫌がらせ。ボクに何か恨みでもあんのか?」

「別に?昔弄られまくったことなんか全然気にしてないぞ?」

「滅茶苦茶気にしてる奴のセリフだろそれ」

 

 

 レイちゃんはそんなこと言うが、本当に気にしてないし恨みなんてない。

 教室に着くと1限目の先生は既に来てたから急いで席に着いて教科書その他を引っ張り出した。と思ったら別の教科書で、肝心の1限目の教科書を忘れるという失態を犯してしまった。

 

 

「雅が忘れ物って珍しいな」

「風紀委員でしっかりしてるようで、休みボケはあったと」

 

 

 休み時間になると勇と良太郎がそう言ってくる。運動部の2人はこの夏に大会があったからだろう、日焼けで結構黒くなっている。そんな色黒野郎共の発言は少しぐさっときた。1学期の頃は忘れ物なんて1度もしなかったのに長期休暇明けの今日に限って忘れ物をするなんて。

 

 

「そこの3人。課題出してないの貴方たちだけよ?」

「あ、よう委員長おっす」

 

 

 2人にいじめられてるとクラス委員長の八束(やつか)由紀恵(ゆきえ)に課題の提出を急かされた。彼女は腰に手を当ててどこかむすっとしたような表情の、クラスでも特に真面目な生徒だ。絶対俺よりも真面目だ。とりあえずこの2人と同類にされたくはないからさっさと課題を出す。

 

 

「ほれ。しっかし、八束も苦労してるな」

「木林君ほどじゃないわよ」

 

 

 労おうと思って言ったら、そう返された。俺はそんなに苦労してるように見えるんだろうか。

 

 

「東雲さんの相手任せてるしね。不純異性交遊は駄目だけど」

「俺とレイちゃんはただの幼馴染だ。あと心読むな」

「解りやすく顔に出てたわよ?それじゃ」

 

 

 残りの2人からも回収するため、八束はそっちに向かう。それにしても、委員長といいさっきの八束といい、俺とレイちゃんはそう見えるんだろうか。別にそういうのじゃないってのに。

 今日は休み明けの登校日だったこともあり、授業は午前で終了。弁当忘れたって焦るところだった。内心結構焦ったけど。

 

 

「さて、帰ろっかレイちゃん」

「んぁー……おぶってって…………」

「お前さっきまで寝てたな……?」

 

 

 今まさに起きたと言わんばかりの寝ぼけ眼で机に突っ伏して動く気がなさそうなレイちゃん。駄目だこの幼馴染、何とかしないと。おぶって帰ろうとしたらしたで、誰かに見つかれば風紀委員が風紀乱してるだとか不純異性交遊だとか言われかねない(偏見)し、何よりこいつのぐーたらっぷりがさらに増す。初等部の頃はこんなのじゃなかったのに。とりあえず、

 

 

「叩き起こすか」

「体罰じゃねーか……ったく」

 

 

 仕方なさそうに、変な呻き声を上げながらレイちゃんは体を起こして席を立つ。最初からそうすればいいのに。ほんと、気まぐれな猫みたいというかなんというか。

 

 

「ん……ボクの顔に何か付いてる?」

「え?あ、いや……」

「じゃあなんで撫でてんだよ」

 

 

 気が付いたらレイちゃんの顎、というか頬の辺りを撫でてた。さっき猫みたいって思ってたからか。慌てて飛び退――こうとして机に腰をぶつける。勢いありすぎて痛い……!

 

 

「何やってんだか。ほら、帰るよ」

「お、おう……」

 

 

 先を行くレイちゃんの後を、未だ痛む腰をさすりながら追いかける。レイちゃんは隣に並んで俺を見上げて笑いかける。なんだろ、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 

 

 

 

 なお、このやり取りが見られてたのか、後日快復した委員長に色々と問い詰められることになった。




 暑いですね、クロウズです。もうすぐ梅雨入りですねー。
 中学生になると、色々厳しくなりますよねー。ミヤビンは相変わらず幼馴染の世話をしてるだけですが周りから見ればそうではないので、誤解が生じます。そのまま修羅場になればいい。
 今回八束さんとこの由紀恵ちゃんが出ましたが、中学の頃聖櫻にいたかは知りません。ほんと知りたい。




 今日はこの辺で。宇宙、キターーー!!


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6話目

「時に木林。黒狗を知っているか?」

「黒狗、っすか?」

 

 

 中等部2年目の春、春というか6月某日。放課後に校舎の見回りをしてると新しい風紀委員長、浅葱(あさぎ)信虎(のぶとら)先輩がそんなことを言ってきた。黒狗って、黒い毛をした犬のことじゃないのか?

 

 

「いや、知らないっす。なんなんすか、その黒狗って」

「黒狗というのは去年現れた黒髪紅目の不良でな。先日この近くで目撃されたんだ」

「は、はぁ……不良っすか」

 

 

 なんでも、不良グループに絡まれてるうちの生徒がいて、たまたま居合わせた黒狗がその不良グループと乱闘騒ぎを起こしたらしい。その生徒の証言では、絡まれてるところに割り込んできて、一応助けてくれたとのこと。そこだけ聞くと、普通に良い人なんじゃないかと思うけど。

 

 

「結果的にはそうだ。ただ、その生徒が言うには相手の腕を食い千切らん勢いで噛み付いていたようでな」

「狂犬かなんかっすか、その人」

「だから黒狗なんだ。お前も、もし会ったら気を付けるんだぞ」

「ちなみにその黒狗って、ここの生徒じゃないっすよね?」

「ああ、違う学校だ。確か、今は3年だったかな」

 

 

 先輩っすかその黒狗。それにしても不良、ねぇ。一応、警戒しておくか。

 そのまま見回りを続け、特に異常はなかったのでさっさと帰る。

 

 

 

 

 

 その翌日の土曜日、家にいても特にすることのなかった俺は暇潰しに街の方へ出掛ける。出掛けたからといって何をするわけじゃないんだけど。1人だし。

 ちなみに昨日、帰ってから他校の友人達に連絡して黒狗先輩の情報を集めてみると、この辺りでも目撃されたことがあるらしい。ただ、喧嘩してたとかそんなんじゃなく、ドーナツを10個ほど買って満足そうな表情をしてたとかなんとか。見た目がそっくりの別人じゃないかなそれと思ったけど、その黒狗先輩と同じ学校の奴からの情報だから間違いないんだろう。行動範囲は広くて、狂犬みたいで、甘党。なんだろこの情報。

 

 

「まあ、遭遇することはないだろ「てめぇこっち来い!」……なんだ?」

 

 

 キレ気味、いやあれは完全にキレてるな。そんな声がした方を見ると、遠目からでも解るくらいガラの悪い2人組が誰かを路地裏に連れ込んで行った。うーむ、あれはまずくないか?

 跡を追ってみても、結構奥に行ったのかなかなか見付からない。

 

 

「いっ、ぎゃぁあああぁぁああ!!?」

「……あっちか」

 

 

 叫び声というか悲鳴というかがした方へ足音立てないようにこっそり近付くと、誰かが横を走り抜けていった。ちらっと見えたのは、制服姿に鋭い目付きをした紅色の目。振り返ってももういなくなってたけど、黒狗先輩っぽそうだった。黒狗先輩(仮)が出てきたとこを覗いてみると、満身創痍っぽいガラの悪い2人組が残ってた。ナイフらしきもの見えたし、一応通報しておこう。

 

 

 

 

 

 路地裏から出て通報だけした後はさっさと離れて、街をぶらついた。で、今は、

 

 

「うー……痛い……」

「慣れない靴で遠出するから。たまたま俺がいたから良かったものの」

 

 

 レイちゃんを背負って帰路に着いていた。どうしてこうなったかというと、パソコンショップの前で座り込んでいる、靴擦れで足を痛めたレイちゃんを発見したから。いつも履いてた靴は干してたから仕方なくこの前買った靴で散歩に出た結果がこれらしい。

 

 

「ミヤビンてさ、昔より大きくなったよな」

「何年経ったと思ってんだよ」

「そうだよね。……ボク、この背中好きだなぁ」

 

 

 そう言って密着してくるレイちゃん。かわいいけど、正直恥ずかしい。抱き締めてくるから体の柔らかさとかダイレクトに伝わるし、吐息が首筋に当たるし。やばい、汗かいてきた。れ、レイちゃんはただの友達。ただの友達だから!

 

 

「んぅ……みやびん………」

(しかも寝やがったこいつ……!)

 

 

 寝息がくすぐったい!だが落ち着け、木林雅。ここで取り乱したりすれば周囲からは奇異の目で見られ、クラスメイトに知られればからかわれることは必至。何よりレイちゃんを落として怪我させてしまう。それだけは絶対に避けないと。

 それにしても、寝言で名前呼ばれたけど一体どんな夢見てるんだろ。

 

 

「みやびん……カレーパン買って………きて」

「パシリかよ」

 

 

 別に何かを期待してたとかそんなんじゃないんだけど、それでもパシリはなぁ。

 それから、そんな夢の中でもパシリにしてくる幼馴染の寝息によるくすぐったさを何とか耐えて家に届けることに成功した。

 

 

「ただいまー」

「お帰りなさいお兄ちゃん」

「おう、ただいま」

 

 

 家に帰るとさっきまで料理してたのか、エプロン姿の我が妹英梨(えり)がお出迎え。先日13歳の誕生日を迎えたこいつは俺に狙いをつけて飛び込んでくる。これは昔からのことなのでいつも通り受け止めて、キャッチアンドリリース。もう中学生なんだからいい加減兄離れしてほしい。

 

 

「今日の晩御飯は?」

「お好み焼きだよー」

「……昨日はたこ焼きじゃなかったか?」

 

 

 2日連続で粉物とは。関西出身のお袋のせいか、そこそこの頻度で粉物が出る。嫌いじゃないけど、連続は勘弁、かな。食べるけど。

 

 

「ん?………すんすん。お兄ちゃんから女狐の匂いがする」

「人の匂い嗅ぐな」

 

 

 しかも女狐て。まだレイちゃんに対してそんなこと言ってんのかこいつは。というか、俺が女の子と仲良くしてると機嫌悪くするのは、ちょっとなぁ。兄貴に対してはそうでもないのに、何故俺だけ。

 

 

「ねぇ、なんでなのお兄ちゃん?」

「おぶってたからな、さっきまで。いいからお前はお好み焼き焼いてこい」

「……はーい」

 

 

 不満そうに頬を膨らませてキッチンの方に戻って行く英梨を確認してから、部屋に入ってベッドに寝転ぶ。あー、今日も疲れた。あ、やべ、宿題してない。そのことに気付いた俺はベッドから降りて机に向かう。明日も休みだけど明日は授業の予習とかに時間割きたいし、さっさとやってしまおう。あ、今日の黒狗先輩(仮)のこと、今度委員長に報告しておいた方がいいかな。

 

 

 

 

 なお、この日の20時ごろ宿題を忘れていた勇が写させてくれと頼みに来たけど追い返した。時間考えろってんだ。




 Bonsoir.クロウズです。
 2ヶ月と少し間が空きましたね、もう8月です。クーラーないと死にそうになる軟弱者です。夏なんて滅びればいい。
 恐らく次回、または次々回が中等部編最後になります。多分話数的にはこれが一番少ない形で終りを迎えそうです。更新遅いですが、最後までお付き合いください。




 今日はこの辺で。オンドゥルルラギッタンディスカー!?


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7話目

「……なんでこうなったかなぁ」

「ボクが知るかよ」

 

 

 壁にもたれ掛かって溜め息混じりに呟くと、レイちゃんにそう返された。俺たちは今、体育倉庫に閉じ込められているのだ。さっきの授業に使った用具を俺たち2人で片付けていたら強風が吹いて扉が閉まったのが原因だ。ここの扉、建てつけが悪い所為なのか内側からはなかなか開かないし、今日はここの用具を使う部活ないって聞いたしで、詰んだ。今頃教室ではHR中かな。誰か気付いてくれないかな。

 レイちゃんはやる事がなくて暇なのか、マットを1枚広げてその上に寝転んでいる。無防備すぎて心配になる。

 

 

「みやびーん、暇ー」

「暇ならそのまま腹筋でもしたら?」

 

 

 もちろん、レイちゃんがそんなことするわけなく、片手を伸ばしてるかと思えばボフボフとマットを叩き始める。何をやってるんだと思ったけど、自分の隣を叩いているから、どうやら俺で暇潰しをするつもりらしい。俺はどうやってここを開けようか考えているっていうのに。

 しかし、無理矢理開けようとして壊したりしたら迷惑だし放置し過ぎてイライラ度MAXになったレイちゃんを相手にするのもきつい。だから仕方なくレイちゃんの相手をするしかない。

 

 

「ほら、もっとこっち来いよ」

「何をするつもりか解らないからいやだ」

「みやびんの癖に生意気な」

 

 

 ペシペシと叩いてくる手を払いのけて頰をつついてると、急に腕を掴まれて引っ張られる。完全に油断してた俺はそのままレイちゃんの胸元に倒れこむ形になった。その際に踏ん張ろうとした右手にレイちゃんの胸をしっかり触った感触が。女の子の胸って、柔らかいんだとこの時初めて知った。あといい匂いがした。男としてはこのままというのも悪くはないと思うけど、俺とレイちゃんはそういった関係じゃないし早く退かないと後が怖いのですぐさま起き上がる。というか飛び退いて土下座してた。

 

 

「ごめんレイちゃん!」

「………」

 

 

 レイちゃんは何も言ってこないけど、これは絶対に怒ってる。無言の圧力って怖い。顔上げれない。あとこれの所為で今後どんな無理難題押し付けられるか解らないから怖い。

 それからどれくらい経ったか解らない(体感時間は10分くらい)けど、レイちゃんはいまだ何も言ってこないから顔を上げてみる。すると、レイちゃんは顔を赤くして自分の胸に手を当ててた。あと何かぶつぶつ呟いてた。

 

 

「触られた揉まれた小さいから絶対がっかりされたいや別に喜ばれたかったわけじゃないしそもそもミヤビンにどう思われたかは重要じゃないし」

「……レイちゃん?おーい、レイちゃーん」

 

 

 よく解らないけどこのまま放置しててもあれだから声をかけてみたらこっちに気付いたレイちゃんは指をさして、

 

 

「言っとくけどボクは70近くはあるからな!?」

「いきなり何の話?」

「うるさい!いいからさっさとそこ開けて帰るぞ!」

 

 

 何が70近くあるのかよく解らなかったけど、それには触れず扉をがんがん叩いてるレイちゃんを手伝う為、扉を力任せに押してみる。それとほぼ同時に、

 

 

「おらっ」

 

 

 レイちゃんが扉に蹴りを入れる。するとガタンッと音を立てて扉が開いた。開いたけど、ノブを持たずに押してた俺はその所為でバランスを崩して前のめりに倒れてしまう。うぇっ、口の中に砂入った、ぺっぺっ。

 とりあえず、なんとか体育倉庫から出られたわけで。伸びをしながら上を向けば、空はもうだいぶ赤く染まってる、というか若干濃紺色だから、結構長い間閉じ込められてたってことになる。冬も近いとここまで暗くなるんだなと思いながら、俺達は走って(レイちゃんは俺の背に乗って)教室に向かった。着替える時間とかないだろうから、今日はこのまま帰るか。

 

 

 

 

 あの後教室で荷物を回収して職員室で先生に事情を説明してようやく家に帰ってこれた。時間も遅かったし、そこそこ長い間閉じ込められてたからか、レイちゃんは精神的に参ってたみたいだったから家まで送り届ける羽目になったしで、着替えとかもすることなくベッドにダイブした。布団気持ちいい……。

 

 

「うぁー……疲れた……。今日はもう何もしたくない……」

 

 

 でもさすがに風呂には入らなきゃ……。汗臭いかもしれないし。あ、明日って服装点検だったっけ。早めに寝ておかなきゃ、風紀委員が遅刻なんて笑い者だし……。

 こうして今日も、どたばたして1日が終る。今回は建てつけの悪いあの扉が全部悪い。はぁ、久しぶりにゆっくりしたい……。




 お久しぶりすぎです、クロウズです。2年以上も空いてしまいました。
 ちょくちょく書いてはいたのですが、この2年間に引っ越しやら転職やら入院やらで忙しかったのですorz。今はある程度落ち着いてるので更新速度あげたいなーと思ってます。
 一応、次回からは高等部編になると思います。まぁ、それより先にもう2つの方を更新するかもですが。


 今日はこの辺で。命、燃やすぜっ!


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<高等部編>
8話目


 新学期というか新学年になり、ボクらは高等部に上がった。とは言っても、学校生活自体はこれまでとあまり変わってない。やっぱりミヤビンとは同じクラスだし、ちょくちょくサボったりしてるからその都度ミヤビンが追っかけてくるし。あぁでも、最近はミヤビンの説教が長くなってるかな。あとそういう時でもボクのことは東雲呼びのままだった。さすがにレイちゃん呼びは恥ずかしいから良かった。

 あ、変わったことと言えば、ボクが一人暮らし始めたことかな。親には色々言いくるめて念願の一人暮らしを勝ち取った。ミヤビンとこの隣にだけど。隣が知り合いなら都合いいんだろうけどさ、相手ミヤビンだよ?学校とか無理矢理連れて行かれそうじゃね?折角の一人暮らしでも悠々自適とまではいかないかもしれないんだよねー。

 

 

「みやびーん、そろそろ帰ろうぜー」

「あー、悪い。この後風紀委員会あるんだ。先に帰っててくれ」

「えー…なんだよそれー」

 

 家が隣になったから、ミヤビンにおぶさって連れて帰ってもらおうと思ってたらあっさり断られた。折角朝から出席したのに、なんで今日に限って風紀委員会あるんだよ。仕方ないから終るまで屋上にでもいようかなーと、教室を出る。

 ここの屋上は基本鍵がかかってないからサボる際によく利用させてもらってる。高等部になってからはたまに先客がいるけど。日によっては2人くらい。あ、ミヤビンに委員会終ったら屋上に来いって言っておこっと。

 放課後だからかグラウンドの方からは運動部の掛け声が色々聞こえて、ちょっとうるさい。ミヤビンを待ってる間は特にすることもないから、ベンチに座ってスマホをいじる。けどそれもすぐに止めて寝転がる。今日は晴れてるし風も吹いてるから目を閉じたらすぐにでも眠れそうだ。てか寝よう、ミヤビンなら起こしてくれるだろ。

 

 

 

 

 

「………んぇ?どこだここ?」

 

 

 どれくらい時間が経ったのか、ぐっすりと寝てたボクは目を覚ましたら学校の屋上じゃなくて知らない部屋……じゃないな。見知った部屋にいた。視界の隅っこに某特撮ヒーローのポスターあったよ。あんなポスター貼ってある部屋なんて一つしかない、ここはミヤビンの部屋だ。きっと起こそうとしても全然起きなかったから仕方なくおぶって帰ってくれたんだろう。ボクん家じゃなくてこっちなのは、鍵がどこにあるか解らなかったとかそんなとこだろうね。

 長居するのも悪いし、ミヤビンに軽く挨拶してから帰ろうと思ってリビングに行くと、妹ちゃんと喧嘩してた。何やってんだこいつら?

 

 

「あの女狐ばっかりずるい!私もお兄ちゃんのベッドで寝たい!」

「だからその呼び方止めろって言ってるだろ!いい加減にしないと本気で怒るぞ!?」

 

 

 あー、妹ちゃんがいつも通りブラコン拗らせてんのか。別にボクとミヤビンはただの友達……いや、親友ってだけなのに。そう、ボクらは親友……うん、親友だ。自分で言っててもやもやとかしてないからな?

 とりあえず帰る前にこの喧嘩は仲裁した方がいいな。原因ボクだけど。

 

 

「はいはい、2人ともその辺にしときなよー」

「あ、レイちゃんおはよ」

「あ、女狐!ここで会ったが百年目!」

「いい加減にしろ英梨!」

 

 

 ボクが声を掛けると妹ちゃんは敵意剥き出しで睨んでくる。飼い主を盗られたペットみたいだなぁ。

 

 

「心配しなくても、ボクとミヤビンはただの親友だから。だからそんな睨まないで」

「男女の友情は成立しないの!私知ってるんだから!それにお兄ちゃんは私のこと好きって言ってくれるし私はお兄ちゃんが大好き!つまり両想い!イコール恋人!」

「とんでも理論やめな?」

 

 

 大丈夫かよこの子。言ってることやばいの解ってるのかな。ミヤビンも大変だろうな、こんな様子だと。

 この後も妹ちゃんのとんでも理論が出てくるけどその都度聞き流し、もとい受け流して隣の自分家に帰る。さっきまでぐっすり寝てたけど妹ちゃんの相手をして結構疲れた。ミヤビンが絡まなけりゃいい子なのになぁ。上のお兄さんの方には特に興味なさそうなのも謎だ。一体ミヤビンの何が妹ちゃんをあそこまで駆り立てるのか。そういえばさらっと聞き流したけど、妹ちゃんはミヤビンに好きって言ってもらってるだっけか。なんかそれって、

 

 

「ちょっと羨ましいなぁ…」

 

 

  …………待って今ボクなんて言った?羨ましい?何が?ミヤビンに好きって言われるのが?…………。

 

 

「はぁ!?いやいやないないそんなわけないって!」

 

 

 これじゃあまるでボクがミヤビンにそういう感情があるみたいじゃんか!ミヤビンは親友なんだぞ!?このままじゃ変なこと考えそうだから、お風呂に入って頭を冷やそう。……うぅ、なんだってこんな事になるんだよ。




 お久しぶりです、クロウズです。待たせすぎて申し訳ありません。
 今回から高等部編になりましたが、高等部ネタよりも木林兄妹の方がメインになってました。次回は学園内での光景を届けようかと思います。ついでにあっちの短編で書いたレイちゃんの目撃情報を加筆してお届けしましょうか。


 今日はこの辺で。ここからが、ハイライトだ


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9話目  "準NEW"

 今日も今日とて屋上でサボってると、息を切らせたミヤビンが現れてはボクを教室まで連行する。息切らせてるってことは今日は先に中庭の方とか行ったのかな?

 

 

「はーなーせーよー!」

「いいや駄目だ、今月だけで5回もサボりやがって」

「別にいいんじゃんかそれくらい」

「よくない!帰ったら説教だからな」

 

 

 うげぇ…。最近説教の頻度がいつもより多くなってる気がする。まぁ、どれだけ言っても聞かないボクが悪いんだろうけど。あとミヤビンはミヤビンでボクに甘いから、厳重注意ってほどもいかない。途中で雑談になるし。正直言うと、あの時間はミヤビンと2人だけになるから意外と居心地いい。……待ってここだけ聞くとボクってミヤビンのこと好きみたいになってない?この前からミヤビンのことになると思考がおかしくなってる気がするんだけど。今も結構ドキドキするし。

 そんなボクの心境を知ってか知らずか、ミヤビンはしっかりと手を握ってーーいや、違うな。これは掴んでるだね。逃げられないようにって感じで掴まれてるねこれ。そう考えるとさっきまでのドキドキとかなくなってきた。

 

 

「なー、ミヤビン。反省してるから手離してくれない?」

「去年そう言って逃げたのは何回だった?」

「10から先は数えてないなー」

 

 

 やっぱ駄目か。こうなると逃げるのはほぼ不可能だから諦めるしかない。ちょっとくらい大目に見てほしいけど、まぁいっか。

 

 

「ほれ、東雲連れてきたぞ」

「あ、木林君。今日もお疲れ様」

 

 

 教室に着いたボクは席に座らされ、ミヤビンと委員長(確か、八束由紀恵だっけ)に挟まれる。ミヤビンが隣の席になるのは昔から変わらないから諦めるけど、ミヤビン並に生真面目な堅物委員長まで隣の席なのは何かの罰か?教室はボクの安息の地にならないのか。

 

 

「やっぱり、東雲さんは木林君に任せて正解ね」

「一応俺は風紀委員であって学級委員じゃないんだけどな?」

「適材適所よ。何年も一緒なんだから、慣れてるでしょ?」

「そういう問題じゃねぇよ。てか、良太郎もいるだろ」

「霧島君は野球部忙しいみたいよ」

「学級委員と運動部って両立難しくないか……?」

 

 

 席の都合上仕方ないとはいえ、2人はボクを挟んで雑談してる。いやなんでだよ。せめてどっちかの前とかに移動してからにしろよ。なんでそのまま雑談するんだよ。ミヤビンもなんか楽しそうにしてやがるし、むかつく。

 

 

 

 

 

 またある日、中庭の方でミヤビンが戸村となんか打ち合わせみたいなことしてた。てかなんだあの組み合わせは。

 

 

「だから違う。このポーズまでの動きはこうだ」

「ちょちょ、ストップ!もうちょっとゆっくり教えてってば!」

 

 

 ボクに気付いてないみたいだし、ちょっと観察しとこ。てかあいつらそんな接点あったのか。クラスで話してたりしてるとこ見たことないんだけど。そもそもボクはサボってばっかで教室にいないとか思った奴、焼き土下座な?

 

 

「え〜っと、こっちだとこういう動きで……?」

「その際の腕の角度はここで……あぁ違う、ここだ。ちゃんと覚えろ」

「ひゃん!?急に触られたらくすぐったいよミヤビン!」

「ミヤビン言うな」

 

 

 ポーズ指導に熱が入ってるからなのか、戸村のポーズを調整してるミヤビンを見てるとなんかむかついてくる。どっちに対してかは知らないけど。あぁでも、ミヤビンって呼んだ時の戸村には確かにイラっときたかも。あの呼び方はボクの特権だし。

 

 

 

 

 

 そのまたある日、掃除当番だけど少しだけやってこっそり抜け出して屋上に向かう途中、3年のフロアでミヤビンが風紀委員らしい上級生2人と一緒にいた。そういえば今日は風紀委員会あるって言ってたっけか。

 

 

「いつまで経っても、委員長は服装正さないっすね」

「ウチはこれが平常運転ですからね」

「下着見えるっすよ?」

「んー?何なら好きなだけ見ていーんですよ?」

「あら、それなら私のも見る?」

「やめろっす。あと、五月雨先輩も前閉めてほしいんすけど」

「胸が急に成長しちゃって、サイズが合わないのよ」

 

 

 何話してるかよく聞こえないけど、なんか顔真っ赤にしてんなミヤビンのやつ。てかミヤビン、ここ数日は色んな女子とばっかいないか?そう考えるとムカついてきた。

 屋上に行けば行ったで、サボり仲間のクロチャーが女子(確かモッチーって名前の盗撮犯)と抱き合ってキスしてた。しかもディープで。人の憩いの場で何やってくれてんだよ。

 

 

「うわ、あんな舌絡めるんだ、やば……えっ、待って。人の唾液ってあんな糸引くの……?うっわー……モッチーとか恍惚としてんじゃん、エロ……」

 

 

 他人に見られてるなんて知らない2人は今なおお互いを貪るようにキスをし続け、ボクはそれを出歯亀の如くがっつり覗き見中。で、この後何も知らない不知火がやって来て2人の逢瀬を目撃して急に泣き出して、それを宥めて家に送る羽目に。

 家に帰ってベッドにダイブして、屋上での光景が忘れられず悶々とする。キスってそんな気持ち良いのかな…?

 

 

「もし、ミヤビンにあんな風にされたら……。……?だっ、からぁ!」

 

 

 なんで今ミヤビンとの想像した!?ボクらはただの親友だっての!

 この事があってか、ミヤビンと顔を合わせるのは気まずくてこれまで以上に不登校と化した。正直まともに顔見るなんて出来ないし。……はぁ、ボク一体どうしたんだろ。




 どーもクロウズです。
 今回もレイちゃん視点でお届けしました。普段の生活上仕方ないですが、雅にばっか目を向けすぎでしょこの子。自分で書いててなんですが、ここまで拗らせるつもりはありませんでした。でも筆が乗ってしまったんです。


 次回は雅視点で行こうかな。
 今日はこの辺で。今の俺は、負ける気がしねぇ!


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10話目  "NEW"

 ここ最近、東雲の様子がおかしい。教室とかでは目が合えばすぐにそっぽ向くし、いつもなら人をタクシー代わりにしてくるような状況でも頼んでこない、そんな日が週に何回かある。これはもしかして、ようやく真面目になってきたということか。いや、ないな。サボり、遅刻の頻度は相変わらず多いし。

 

 

「東雲に何かあったとか、誰か知らないか?」

「貴方が知らなかったら他の誰も知らないわよ」

「なんでだよ」

「雅が一番、東雲さんといるからじゃないか?」

 

 

 学級委員の2人に訊ねてみても、こんな返答。親友だからって何でも知ってると思うなよ?いくらなんでも心境の変化とかまでは解らないし、そういう事を話してくるわけでもないし。

 ちなみに当の東雲は風邪を引いてダウン。多分、風呂上がりに髪を乾かさなかったんだろう。一日中看病してやりたかったけど今日は風紀委員会があるから、仕方なく看病は母さんに頼んでいる。余計なこと言ったりして悪化させてないといいけど。

 

 

 

 

 

 授業も終り、委員会も滞りなく済んだ帰り道。コンビニに寄ってスポドリとゼリーを買う。その途中でバイト帰りらしき戸村に捕まってしまった。

 

 

「やー、この間はありがとね。ミヤビンのお陰で盛り上がったよ」

「ミヤビン言うな。俺も興味あったし、いい体験になったから気にするな」

 

 

 この間というのは、先週の土曜日にデパートの屋上でやってたヒーローショーの事だ。暇だし観ようと思っていたら舞台袖から顔を出した戸村と目が合い、急病で来れなくなったスーツアクターさんの代役を務めることになるという、嬉しくもとんでもない展開になった。

 

 

「にしても、やっぱりミヤビンは逸材だねぇ。スタッフさんも絶賛だったし」

「見様見真似でも何とかなって良かったよ。あとミヤビン言うな」

「えー、いいじゃんミヤビン。東雲ちゃんだって呼んでるんだし」

「その東雲専用の呼び方だっての」

「東雲ちゃんのこと好きすぎでしょ」

 

 

 どういうわけか解らないが、東雲以外にミヤビン呼びされても全然しっくり来ない。だから戸村には何度も止めるよう言っているんだが、一向に話を聞かないので困ったものだ。

 戸村との雑談もそこそこに、足早に帰宅して東雲の様子を見に寝室の方に行く。するとそこには、

 

 

「あ、お兄ちゃんお帰りなさい」

「んぁー?…ぉー、ミヤビンおかえりー」

 

 

 母さんじゃなくて英梨がいた。え、なんで?この2人一緒にして母さんどっか行ったのか?英梨のやつ、東雲に噛み付いたりしてないよな?流石に病人相手にはしないよな?

 一応話を聞いてみると、どうやら2人は休日によく会ったりしてるらしく、いがみ合い(というか英梨の一方的な敵意)は解消しているらしい。妹と親友が仲良くなってくれたことは素直に嬉しいけど、いつの間にそんなことになってたのか、まったく気付かなかった自分の鈍さを恥じたい。

 

 

「とりあえずこれ、ゼリーとスポドリ」

「ぁー、ありがと………」

「レイちゃん?」

「いや、えっと……」

「はいはい、お兄ちゃん。後は私が見てるから帰った帰った」

「えぇ……まぁいいけど。じゃあ、レイちゃんのことよろしく」

 

 

 よく解らないけど、英梨に追い返されたので渋々隣である自宅に戻って着替える。一体どうしたんだろうか東雲は。顔が赤かったしまだ熱っぽかったのかもしれないな。

 

 

 

 夕食と風呂も済ませて寝ようとしたところで、東雲から連絡が来た。曰く、さっきのはパジャマ姿を見られるのが恥ずかしかったかららしい。確かに初めて見たかもしれない。可愛かったぞと送れば、怒ったネコのスタンプを連打された。解せぬ。




 どーも、こたつむらないクロウズです。
 雅視点だとレイちゃんの出番少ない時があるようですね、新発見。以前、雅は普段からも東雲呼びになったみたいに書きましたが、2人きり、もしくは家族といればレイちゃん呼びです。その度レイちゃんは恥ずかしがってます。

 次回は2年生になってます。こっちでも京ちゃんが出せますね。
 今日はこの辺で。あちこち行ったけど、楽して助かる命がないのは、どこも一緒だな!


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