vivid trans! (偽作者(ハザードフォーム))
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Memory:00 「プロローグ」
活報にも記述されてる通り、今回は長年リアルにおいて多忙となった事で投稿出来なかった小説とオリ小説(一次小説)のリハビリも兼ねて投稿します。
いきなり作品を非公開にしたり、生存報告で何かやってたり、作品の更新が止まったり…色々と途中で止まってしまい申し訳ありません。
最近はvivid strike!のリンネしゃまの活躍を楽しみにしているという…
…えっとでは始まります。(言葉が足りない気がする…)
歴史の終焉まで様々な思いを持って生き抜いた人々がいました。
その世界の名は「ベルカ」
今はもう、歴史の中で名を残すだけの世界…
あれは、まだ私がインターミドルに出場出来る年齢だった頃の事です。
私にはある一つの野望がありました。
冗談に見えるかもしれませんが「雷帝の名と力をこの世に知らしめる」という野望があったのです。
誰もが私を「天才」と称えましたわ…かの古代ベルカ時代の王の一人であった雷帝の血筋を持ち、成績優秀、高魔力ランク、インターミドルでは3位の座。
これ等の偉業を成し遂げた自分自身を私は今でも誇りに思っています。
ですが、それは私を支えてくれた人々が居たから…エドガーやジーク達が居たからこそ成し得た業。
…私なんて所詮一人では何も出来ませんでしたわ
確かに、今まで聞いた話からして、誰もが私自身が鍛えた力だと言うでしょう。
――ですがそれもエドガーが、ジーク達が傍に居て、支えてくれたから…
そんな昔の私が居たから、今の私があるのです。
もしエドガーが私の執事でなかったら…ヴィヴィ達やジークと出会わなかったら
――今の私はなかったでしょう。
それに私自身、雷帝の名を持つ事を誇りに思うと先程言いましたが、本音を言うと…分からなかったのです。
一体何のために雷帝の名を誇りに思うのか、何故私は誇りだと言ったのか…受け入れた後もその矛盾は残り続けました。
雷帝の名を継ぎ、その名を世界中に知らしめるという野望も結局は雷帝の血を引く者として、その流派を受け継ぐように教育されたから自分自身の野望だと言えた…ただそれだけ
私の意思でしていた事じゃなかった…それでもひたすら自分に言い聞かせ、それが自分の生きる意味であると……
私は生きる意味が欲しかった…私が生まれた理由、私が生きる理由が欲しかった…
これまで私はずっと生きる意味を探し続けて来ましたわ…跡継ぎ、そして今の雷帝の血筋をもつ者としての誇り…様々な物を探して来ましたわ…
でも見つからなかった…私の生きる意味としては、存在意義としての意味としては成り立たない…
――でもそれは違っていた。
重要なのは生きる意味じゃないと
そう教えてくれたのは――小さな少年でした。
* * *
澄んだ暁色の空の下…一人の少女が道路を疾走する。
規則正しく息を吐いては呼吸に合わせて腰まで伸びた金髪が左右に激しく揺らすこの少女は外見からしておよそ17~18歳だろう。
透き通った翠の瞳は前を真っ直ぐ捉え、少しずつだが夜明けの光により晒されていくいかにも美少女とも呼べるその姿からは大人びた雰囲気を漂わせる。
走り続けて数分後、少女はある場所へと辿り着く。
そこは自然公園とも言うべきであろう、先程まで通って来た道路とは違って木や茂み等といった植物が生い茂っており、何処となく吹くそよ風に身を任せ、木々が微かな音を立て揺らぐ。
ふと見ると近くには従来の公園と同じく遊具やアスレチックがあり、中には最近の流行りであるストライクアーツ等といったスポーツが可能な程の大きさを持つグランドも存在していた。
少女は昔から行き慣れたかのように、ある方向のみへと視線を向けたまま、走って行く。
少女にとってこの公園は昔からの馴染みある場所だった。
幼い頃から毎朝欠かさず日課であるトレーニングのうちの一つであるランニング。そして少女はランニングコースの一環として良くこの公園を通っており、今や少女にとって馴染みある場所だった…そう、一つだけ変わった光景を除けば
(…あら?)
走っていた少女は何かを見つけたのか、足を止め、その場である方向へと視線を向けたまま立ち尽くす。
少女の視線の先…そこには一人の小さな男の子が居た。
小さな男の子、否、少年は何処となく子供のような幼い印象を与えるが、少女と背は殆ど同じである事から、恐らく少女と同い年であろう。
だが少女を止めたのは小さな男の子の印象ではなかった
(あんな小さな子が…どうしてこんな所に?)
少年は少女が見てきた従来の同年代、子供達とは違っていた。
他の子供や自分の同年代の者はTシャツやズボン等流行りや個人的なファッションに合わせて着たり等常に清潔な服を着ており、子供は魔導学院等の学校で魔法や社会等様々な事を学び、自分と同年代の者達は社会で働き、中には16歳で家庭を築いた者も居る。
だが少年の姿は自分が知る今まで見て来た彼等、彼女達とは違っていた。
外見からして…小さく幼い印象はあるが、それでも少女と同じくらいの背はあり、白くボサボサした髪に薄汚れた薄緑色の上着、黒色の長ズボン…その姿は正しく絵に描いたような住居を持たず路上生活、野宿生活をする「ホームレス」のようだった。
少女も幼い時や今も聞いた事があり、ホームレスの殆どは失業、破産、借金等不景気による事情でそうなる者達が多い事も知っている。
( …そっとしておきましょう)
人にはそれぞれ事情があり、向こうから助けを求めない限り自分が介入する事は只のお節介であり邪魔でしかない、そう判断した少女は公園に捨てられた袋等といったゴミを拾い続ける少年に背を向け再び日課であるランニングを再開し、公園を後にした。
* * *
翌日、少女は再び日課であるトレーニングのために昨日と同じく公園に再び訪れた。
今日も昨日と同様公園へと足を運ぶが、そこには昨日と同じく少年の姿があった。
(…まだ、居ますわね)
昨日とは違い、今日は空き缶を拾っていた。とはいえ既に事を終えており、それを少年の持つ所々開いた穴から見える空き缶の入った薄汚れた大きな布袋がそれを物語っている。
その大きく薄汚れた布袋を細い手で担ぎ上げると、少女とは真反対の方向へと少年は歩き出す。少女は何処かへと向かって歩き出した少年の後ろ姿を追う。
「おはようシャルル君、朝から頑張ってるね」
少年の後ろ姿を追う少女の視界に写ったのは一人の男性と何かを話し合う少年の姿だった。少年と何かについて話す男性はおよそ40代くらいの中年男性で 薄い青一色に統一された作業服と思われる服装をしており、青の帽子を被っていた。
(…誰なのでしょうか?何故、あの子と…)
少女が少年と男性との関係に疑問を持つ中、男性は少年から空き缶の入った布袋を受け取ると、男性は自分の後ろに停めてあるゴミ収集車の後部へと向き、布袋に入っている空き缶を入り口へと注ぐ形で入れて行く。
ゴミ収集車からして恐らく男性はゴミ収集と何か関連する仕事を持つ者だろう。
そしてあのゴミ収集車はこの街中で良く見かける空き缶等といった再利用可能な資源ゴミ収集車である事を少女は知っていた。
「今日もご苦労様、缶が108gだから…はい」
男性は少年に空となった布袋と共に何かを渡し、収集車に乗り、去って行く。
男性の乗る収集車を見送った少年はまた何処かを目指し、歩き始める。
少年が向かう先にあったのは一台の自販機。自販機の前で立ち止まると、男性が渡し、先程まで握っていた何かを硬賃投入口へと入れ、下部の列にある一本の模標品のボタンを押す。ガタンッという音の合図と共に少年は自販機の取り出し口から缶ジュースを取り出しては自販機とは真反対の方向にあったベンチへとゆっくり腰掛ける。
缶の蓋を開けると少しずつ、角度を変えて行ながらも中身を口に運ぶ。
(…?)
少年の表情は何処となく幸福感に満たされたかのように笑顔で、たった一本の缶ジュースを少し、また少しと味わいつつも飲んでいる、その行為に少女は全く分からなかった。少年が飲んでいるのはたった一本の缶ジュース、何処にでもあり、自分が買おうとすれば何本でも、何百本でも買える一般的な一本の缶ジュース。
それを少年は幸せそうに、自分の親友が美味しそうに食べるかのように、たった一本の缶ジュースを飲んでいる…誰にとっても普通で常識である事を少年は本当に幸せを噛みしめているかのような表情をしている事に少女は全く理解出来なかった。
更に翌日、少女は昨日と同じくランニングコースの一環として通る公園へと再び訪れた。昨日と同じく少年の姿はあったが昨日や一昨日とは違い、その体には合わない程の大きさの新聞紙を布団代わりにし、公園のベンチに少年は横だわっており、その様子からして少年は眠っているように見える。
少年が眠っている事を確認出来た少女には今の状況が理解出来なかった。
こんなに冷える時期に自分と同い年くらいの少年が何故、このような寒さも凌げない場所で眠っているのか
(家出なのでしょうか…?それなら、何故…)
そこで少女は深く考える事を止めた。
少女にはある同性の知り合いが居た。
自分の目の前でベンチを寝床として眠る少年のようにその者には家が無かった。
今では時に自分の家で寝泊りや食事をしに来るが、少女と出会う前までは衣食住は全て現地調達で過酷な環境の中で幼い頃から自給自足の生活をしていた。
だが従来自分くらいの年齢になれば家庭における問題で家出する事があってもおかしくはない。それが家庭問題であれば尚更、他者の問題に赤の他人である自分が干渉するべきではない。
(ーー行きましょう…)
赤の他人である自分が他者の問題に関与してはならない、未だに納得のいかない自分にそう言い聞かせつつも、ベンチで眠る少年を背に、少女は公園を後にした。
それから少女は行く先で幾度に少年を見かけるようになった。ランニングコースの一つであった公園だけに限らず、少年は少女の行く先で様々な場所に姿を現した。
少女は彼の様々な姿を見たが、絵に描いたような一文無しみたいな薄汚い格好で常に廃品回収や清掃活動に従事する所はどの"姿"においても変わらない共通点だった。
「シャルル君。いつも、清掃活動ご苦労様。こんなもので悪いけど、おやつ代わりに食べてちょうだい」
「ありがとう、オバさん。お腹空いてたから、凄く嬉しいです。美味しくいただきます」
清掃の謝礼として小銭の他に、パン屋の女店主は、商品としては販売できないパンの耳を袋に詰めて少年に渡す。
どこか申し訳なさそうにしている女店主とは対象に、少年は本当に嬉しそうに笑っていた。少年の屈託のない笑みに、女店主もつられて笑う。
このように、時にはあるパン屋のおばさんからパンの耳を貰う所等といった数銭程のお金の他に物や食べ物等を貰う姿を何度か見かけたが、少年と接する人達は嫌な顔一つせず、誰もが笑顔を浮かべていた。
一度は自分の目を疑ったが、少年に対して嫌な顔をする者は一人たりとも居らず、子供から大人に至るまで多くの人々が快く少年と接していた。
(何故、あの子と…)
従来、路上生活者や野宿生活の者は大体一般的に嫌悪される事が多い。
だが、あの少年に限っては違う。女店主は、嫌な顔など欠片も見せず、笑顔を浮かべていた。
パン屋だけではない
商店街で営む人、すれ違う近所の人々
少年と接する人達は嫌な顔一つせず、誰もが笑顔を浮かべていた。
意識すればする程に少女の記憶に少年の姿が焼き写されたかのよう鮮明に思い浮かび上がり、気付けば少女の日課であるランニングに少年探しが加わり、少女は日課であるランニングをすると同時に少年を探すようになっていた。
強さを維持し、常に己を鍛えるためトレーニングには真剣に取り組んでいるものの、何故か少年の事が一度たりとも頭から離れる事は無かった。
* * *
ある日、少女はいつも通り公園へと訪れた。少女にとってトレーニングの一環としてでもあるが、公園に訪れる理由の大半は今や自分の行く先で幾度に見かける少年探しとなっていた。
(あら?居ませんわね…)
だがいつもは見える筈の少年の姿が見えない。
「こんな日もあるでしょう…」
常に少年がいつも公園に居るとは限らない、こんな日もあると自分を納得させ、トレーニングを終え帰路へと着こうとしたその時、後方から抑えられ、何かで口を塞がれる。
「ン~!ン~!」
少女はすぐさま身体を左右前後に激しく動かし抵抗するが、突如に襲って来た激しい痛みが身体を駆け、意識が段々と朦朧とし始める。
朦朧とする意識の中、最後に少女の瞳に写ったのは何人もの不適な笑みを浮かべる男性達だった。
そこで少女の記憶は途切れてしまった。
* * *
突如途切れた意識が、ゆっくり戻ってきた。体全体に伝わるひんやりした固い感触。自分が、冷たい床の上に寝かされているのが分かった。顔を左右に振って、霞んでいた視界をハッキリさせた少女は、自分の置かれている状況を分析した
(私は、いつものようにランニングを、していて。エドガーがむかえに来る場所に戻ろうとしたら、突然目の前が真っ暗になって。直前に、強い電気を浴びた痛みが。おそらく、スタンガン)
自分を客観的に見ることで、混乱する精神を落ち着けていく。色あせた壁にかけられた時計を見ると、自分が攫われてから1時間が経過していることがわかった
(念話はおろか、魔法が全く使えない。これは、少々まずいですわね)
後ろ手に縛られ、両足も縛られた少女は、立ち上がることも困難な状況。魔法で拘束具の破壊を試みたが、肝心の魔法が発動しなかった。ご丁寧に、AMFの効果付き拘束具。自分の置かれた状況がかなり悪いことに、さすがの少女の額にも、冷や汗が流れてきた
「リーダー。コイツ、目が覚めたようです」
部屋に入ってきた小柄な男が、目を覚ました少女を見るや、誰かを呼んだ
「そんなに大声を出さないで。目を覚ましたからどうということはありませんよ」
入ってきたのは、一見穏やかな好青年と
「めんどくせ。もう2、3発入れとくか?」
屈強な肉体の大男。その手には、自分を気絶させるのに使ったと思われるスタンガンが、青白い電気を放電している
「まあまあ。どうせ後1時間で終わること。このままにしても問題ないでしょう」
リーダー格の穏やかな青年が言うと、大男は舌打ちをしつつもスタンガンを収める。
「貴方達は何者ですか?このヴィクトーリアを、雷帝の末裔と知っての狼kがはっ!?」
「人のアジトでキーキー騒ぐな、このアマ!」
大男の大木のような足が、少女を蹴り飛ばした。インターミドルの世界都市本戦に出場し、上位入賞を果たした格闘家といえど、鋼鉄の体を持っているわけではない。バリアジャケットすら纏えない状況の今、少女は只の女の子でしかなく、大男の蹴りを腹にくらった彼女は、激痛と鈍い吐き気でのた打ち回った
「もうその辺りで。死なれては、計画が台無しですから」
「けいかく…」
リーダー格の青年の言葉で、少女は彼等の正体を悟った。彼等は誘拐グループ…財力、権力、代々受け継がれるレアスキル。闇の組織にとって、少女のような存在は金の卵。彼女のように、ベルカの王族の末裔を狙うものは、後を絶たない
(リーダーの男は、後1時間で終わると言った。ということは、身代金の要求は終わっているということ?私が誘拐されてから1時間程度でもうそこまで。この者達、誘拐ビジネスに慣れていますわね)
「なぁリーダー。折角だから、コイツでヤらせてくれよ」
「もうすぐ、大金が転がってくるんですよ。そのお金で、いくらでも女を飼えばいいじゃないですか」
「だってよぉ。こんな極上の女、滅多にいないんだぜ。このまま金を受け取って返すなんてもったいないじゃん」
「仕方ないですね。ただし、『本番』はダメですよ。あまり汚されると、商品価値が著しく低下しますので」
少女の顔から血の気が引いた
違う。こいつ等は誘拐犯でも、身代金を奪うタイプではない。闇組織に売り飛ばすグループ。初めから、自分を家に帰すつもりなどない
「っしゃ。ありがとうリーダー」
小柄な男が、両手を厭らしく動かしながら近づいてきた
「いや、来ないで」
恐怖で霞んだ声を出す少女を、小柄な男は嘗め回すように見えた
「全く。名家のお嬢様のくせに、こんなエロい体をして。ヴィクターちゃんは、いけない子だね」
動きやすさを重視したスポーツウェアは、少女の体に張り付いており、その抜群のプロポーションを際立たせていた
「まずはこの、大きいおっぱいを見せてねっと」
「きゃああああああああああああ!!」
ランニングシャツが引き裂かれ、上品な黒いブラに包まれた豊かなバストがさらされた
見知らぬ男に、女性を象徴する部位を暴かれた羞恥と屈辱で、少女の顔が真っ赤に染まり、彼女の叫び声は閉塞された部屋に幾重にも反響した
「よ…よくも…私に、このような辱めを…ゆ、ゆるしませんわ」
「いいね、ヴィクターちゃんのその声。俄然ヤるき出てきた」
せめてもの抵抗として、ヴィクターと呼ばれる少女は鋭い視線で男を睨む。しかし、潤んだ瞳が見せる精一杯の強がりは、男の嗜虐心を高めるスパイスにしかななかった
「さぁて。リーダーのお許しも出たし、厭らしく育ったお胸をたっぷり揉んじゃおっかなぁ~」
「やめて…いやあああああああああああ!!」
目を閉じ、力の限り叫んだ少女は自らの純潔が奪われることを覚悟したが男のガサツいた手が豊かに育ったバストに触れる事は無かった。
「ンァ?なんだァテメェは?」
一声に、少女は恐る恐る閉じた目を開ける。横には三人の男性から守るかのように立ち塞がる一人の小さな少年が立っていた。
(…なんで、ここに)
少女にとって目の前に立つ少年の姿には見覚えがあった。最近日課としてトレーニング中に見かけるようになった小さな少年の姿が重なる…服装は普段と同じく薄汚れた服装にバサバサした白銀の短髪、小柄で何処か幼い印象を持たせるその姿はまさにそのその少年の特徴と一致していた。
少年は少女の肩に触れ
「君の力、借りるよ?」
と少女にそう言い、少女を守る壁となるかのように三人の男性の前で立ち止まる。
少女にとって目の前に立つ少年の姿には見覚えがあった。最近日課としてトレーニング中に見かけるようになった小さな少年の姿が重なる…服装は普段と同じく薄汚れた服装にバサバサした白銀の短髪、小柄で何処か幼い印象を持たせるその姿はまさにそのその少年の特徴と一致していた。
「君の力、借りるよ?」
そう言って少女の肩に触れた少年は、自分より遥かに屈強な大男に向って果敢に挑んだ
少女は、自分が襲われるのとは違った感覚で血の気が引いた。
3対1。しかも相手は誘拐をビジネスとする裏社会のプロ。対するのは、女の自分よりも細い体の少年。無理だ。絶対に殺される。少女は少年が目の前で惨殺されてしまうビジョンのイメージしてしまう。
「やめ…っ!?」
やめて!!
そう叫ぼうとした瞬間、落雷が落ちたかのような爆音と衝撃が少女の意識を刈り取った。
薄れる意識の中、眩い閃光の僅かな隙間から少女は確かに見た…
少年の手の甲の表面に、蒼き紫電が駆けていた事に
Next Episode
少女「ヴィクトーリア・ダールグリュン」は少年に救出されるが少年に問い詰める…
「貴方は…一体何者なんですの?」
「…何者かって聞かれると、見ての通りかな?」
少年は屈託のない、人懐っこい笑顔で答える。
#01「出会い」
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Memory:01「出会い」
試行錯誤の末、ついに一話が完成しました!
でもやはり自分は未熟者だなぁ…結局色々抜けてるし
では始まります
「君の力、借りるよ?」
そう言って少女の肩に触れた少年は、自分より遥かに屈強な大男に向って果敢に挑んだ
少女は、自分が襲われるのとは違った感覚で血の気が引いた。
3対1。しかも相手は誘拐をビジネスとする裏社会のプロ。対するのは、女の自分よりも細い体の少年。無理だ。絶対に殺される。少女は少年が目の前で惨殺されてしまうビジョンのイメージしてしまう。
「やめ…っ!?」
やめて!!
そう叫ぼうとした瞬間、落雷が落ちたかのような爆音と衝撃が少女の意識を刈り取った。
薄れる意識の中、眩い閃光の僅かな隙間から少女は確かに見た…
少年の手の甲の表面に、蒼き紫電が駆けていた事に
* * *
「悪く思うなよ?クソガき…ッ!」
少年は大男の迫り来る拳を紙一重で回避すると後ろへと回り込み、片手で男の頭部を掴み上げる。
「ガッ…!アガガガガッ!!」
大男は頭部を掴まれた事に仰天するがすぐさま抵抗する。だが少年の手が離れる事は無かった。それも束の間、大男の身体に強い激痛が走る。その痛みは見覚えのある痛みでそれはまるで雷に打たれたかのような痛みだった。大男の抵抗が止まったのを合図に少年は力の向く方向へと流しつつも、その場で大男の顔面を地面に叩き付ける。
「ゴガッ…」
鈍い音と共にその細い腕に合わない程の腕力を見せるかのよう、地面に亀裂が入り、大男の顔面がめリ込む。
(あれは…『六十八式・兜砕』…!?)
蒼き紫電を纏う少年は立ち上がり…少女にとってそれは見覚えのある光景だった。少年が大男を倒したその技はーー
見間違える筈がないーー今まで幾度と使ってきた自分だからこそ言える。
「て、テメぇガハッ!?」
小柄な男がデバイスを手に反撃に出ようとしたが、その瞬間小柄な男性はその場で突如に倒れる。小柄な男性が倒れた事で隠れていた少年が姿を現す。
金色の髪、翠色の瞳、迸る蒼き紫電。
(ヤバい!)
穏やかなスーツ紳士を気取っている青年だが、その実は裏社会で人身売買のブローカーとして暗躍し、時には管理局の魔導師、時には敵対組織との抗争で修羅場をくぐってきた身。そんな彼だからこそ、僅かな攻防で悟ってしまった
目の前の少年に潜む、得体のしれない何かを
(こうなったら…)
青年は、幻影魔法で大量の分身を作り出した。戦うためではなく、逃亡するために。高度な幻影魔法で生み出された分身は、巧みな動きで少年を翻弄する
今のうちに逃走を図ろう。そう画策したときだった
「何ッ!?」
強力な雷撃が辺り一帯に放電され、大量の分身は一瞬で殲滅されてしまった。雷撃の余波で、建物内の電気系統が異常をきたし、強すぎる負荷でブレーカーがショートを越した
「百式・神雷……だと…」
本体の青年は、無様に尻餅をついて、少年が使った魔法名を口にした
「ば、バカな!?雷帝の血筋に、こ、こんな奴はいないはず!?」
青年は焦り始める。突如に現れた少年が、紛れもない雷帝の魔法を使っているからだ
「な、なんなんだ!何者なんだお前はっ!」
「見ての通り。通りすがりのホームレスです」
薄汚れた服、ボサボサの髪。どこからどう見ても、社会ヒエラルキーの底辺、ホームレスの少年にしか見えなかった。
少年は青年へとゆっくりと迫り、青年との距離を縮めて行く。
「ぶざk!?」
混乱が頂点に達し、逆上した青年が懐から小刀を取り出した瞬間、少年の全身から、これまでの比ではない激しい雷が迸った
(そうですわ…雷帝の血縁者で彼の顔に見覚えはない。でも、彼の使っている魔法は…雷帝の……かれは…いったい)
雷帝の血縁者ではない少年が、雷帝の魔法を使っている。それは、矛盾した不可思議な光景。激しい雷鳴が建物全体に轟き、少女は少年に対する疑問を抱きながら意識を失った。
* * *
「これで良し。あとは、この人を安全な所に運ばなきゃ」
黒焦げになった誘拐犯達を縛り上げた少年は、意識を失った少女をお姫様抱っこで持ち上げた
女性とはいえ、意識を失った人間は相当な重量を持つ。線の細い少年はふらつきながらも少女を抱え、人目に付きやすい場所まで運んだ
その後、少女が無事の保護されたのを草葉の陰から確認した少年は、安心して姿を消した
「お…さま……おじょうさま……お嬢様!」
「!?」
目を覚ました少女が最初に見た光景は、幼い頃から自分を世話してきた執事の必死な顔だった。いつもクールな笑顔を絶やさない彼が、これだけ焦った顔を見せるのは、少女にとって初めてのことだった
「エドガー」
「良かった。意識がお戻りになって」
少女に「エドガー」と呼ばれた青年の執事はホッと胸をなでおろした
「どこか痛い所はありますか?」
エドガーと一緒にいた女性局員が、穏やかな口調で訪ねてきた。
「お腹と、腕周りに鈍い痛みが」
「分かりました。これは、応急処置レベルの回復魔法ですが、もうすぐ医療班が到着します。それと、アナタを誘拐したグループは、全員逮捕されましたのでご安心ください」
「そうですか。それを聞いて安心しました」
絶望的な状況の中、助けに現れたホームレスの少年
朦朧とする意識の中、自分が見た物は紛れもない「雷帝式」の技と不自然もなくそれを使いこなす少年の姿
あの子は一体何者だったのか?
雷帝の血縁者に彼は居ない…それなのに何故?
回復魔法を受けながら、少女は少年のことを考えていた。
これが少女「ヴィクトーリア·ダールグリュン」とホームレス少年の初めての出会いだった。
Next Episode
「今日も、居ないのですね……」
少年を探し続けるヴィクター……それでも、どれほど探そうと彼は姿を現さない――
だが、自身が考えてもいなかった思わぬ形で再会する事となる。
# 02「ホームレス少年」
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Memory:02「ホームレス少年」
今回も色々詰んだりとしましたが試行錯誤して、ようやくどうにか投稿出来ました。
では始まります。
あの出会いから数日後、私はずっとあの子を探し続けました。
御礼を言う為に……そして何より、雷帝式を自在に操るあの子の正体を知りたかった――
あの誘拐犯の言う通り、あの子は私の知る限り雷帝の血縁者にはない顔をしていました。
念のため……手を打てる限りするべく、もう一度調べましたわ……ですがあの子の顔を知る者は血縁者や親戚にも誰一人として居なかった――
それに……調べによるとあの子は私と同年代だったのです。
初めてこの事実を知った時は驚きましたわ……
あんな小さな子が私と同い年だったなんて――もう少し年下なのかと思っていました。
ですが、それよりも先に思った事がありました
――それは何故あのような道端の生活をしているのか?というあの子の生活環境に対する疑問でした。
あの子は私と同じ18歳……ミッドチルダにおいては15歳以上は大人という事になりますわ。
血縁者でもないのにデバイスの補助もなく、雷帝式を使いこなす程の高い技量。
単独で闇ブローカーでありながら、3人の上級魔導師を圧倒する程の戦闘力。
そして……戦闘時に感じた私と同等、いえそれ以上とも言える魔力量。
万年人手不足の管理局があの子を見て見ぬ振りをするわけでも――ましてやそのままほって置く筈ありませんわ。
寧ろ雷帝式を使いこなすあの子なら――管理局や他の企業が高待遇でスカウトしていてもおかしくないでしょう。
あれ程の魔導師が、管理局に属するわけでもなく職にも就かず何故、あのような生活を送っているのでしょう……?
そう思いながら――今日も私は、あの子を初めて見た親しみのあるあの公園へ訪れる事にしました。
もう一度、あの子に会う為に――
* * *
「今日も、居ないのですね……」
日が昇り空が透き通った蒼へと染まり始めた頃、
金髪と緑の瞳、美女とも言える美貌を持つ少女「ヴィクトーリアダールグリュン」こと「ヴィクター」は自分が慣れ親しんでいた公園へと訪れていた。
何かを探すかのような素振りを見せるが、上手く行かず苦戦しているかのような表情を浮かべている。
(やはり、もう……会えないのでしょうか?)
あの誘拐事件以降、ヴィクターは自身が"あの子"と呼ぶホームレス少年の姿を見る事はなくなってしまっていた。
それでも暇を見つければこの公園に来ては、少年の姿を探し続けた。
それは最初は只トレーニングの序であったが――いつの間にか次第に、少年を探し来るだけのために来るようになっていた。
いつからか、何故なのかも分からなかった――
只、あの少年が自分のような雷帝の血筋ではないのに雷帝式を使いこなせるのか?という疑問、自分を助けてくれた御礼をするためというこの二つの理由だけで二度や三度であれは別だがもう何日も見つからない少年(あの子) を探し続けるのは、ヴィクターにとって無駄な時間の浪費ーーデメリットでしかない。
それなのに、自分はあの子の何に惹かれたのだろうか……?と思える程にヴィクターは少年を探す事を辞める事は無かった。
だがどれだけ探しても、少年が再び姿を現す事は無かった。
そして今回も、公園にホームレス少年が姿を見る事は無かった――
捜索を諦め、ヴィクターは帰路に着こうとしたその時
「――あの」
「っ!?」
突如、ヴィクターの後ろから聞き覚えのない高い声が聞こえて来る。
突然自分の後ろから誰かに話し掛けられたヴィクターは突発的な出来事のあまり、身体を一瞬だけビクッと震わせ驚いてしまい、構えを取る。
「うわぁっ!?す、すみません!!その、昨日から何か探していたみたいですけど――その、何か落とし物でもしましたか?」
服装と後ろに様々な壊れたテレビや電話といった電子機器を載せているトラックからして――廃品回収業者……およそ~30代から40代程の中年男性が立っていた。
恐らく、自分は考え過ぎていたのであろう――
あのホームレス少年の事で深く考えていたあまり、通常なら容易く気付く筈の人が自分に近いて来ていた事にすら気付けなかったのだろう――そうであると納得する。
(……怪しい者では、ないようですね)
男性の仕草、姿、顔……男性の特徴を観察し、ヴィクターは判断した。
前の闇ブローカーの件もあり、ヴィクターは前よりも強く警戒するようになっていた。
ヴィクターも決して無敵というわけではない――不意打ちとはいえ、どのような場合においても魔法発動や技を使う前に気絶まで追い込む程の一撃を受ければ、例え上級魔導師やヴィクターのようなインターミドル上位者といえど敵わない。
それはヴィクター自身自覚していたが、AMF機能付きの拘束器具まであったあの絶望的な状況を身を持って体験した事で独り行動の際は前回よりも警戒を怠らないようにしていた。
「――?どうかしましたか?」
「あ、いえ、その――落とし物ではなく……ある人を、探しているのですが……」
「ある人?」
「はい……私より小柄で白色の髪が特徴で――」
小柄で何処か幼い印象のある男の子と言い掛けたその時、業者の男性の口から予想外の答えが返って来る。
「――もしかして、シャルル君の事かな……?」
「シャルル君……?もしかして、ホームレスの白髪が特徴の男の子ですか?」
"シャルル君"という単語にヴィクターは首を傾げながらも、自分を助けてくれたホームレス少年の唯一知っている特徴を話しながらホームレスなのかを問う。
ゴミ袋を慣れた手つきで複数持ち、業者は何かを思い浮かべながらヴィクターの問いに答える。
「――うん、君の言った特徴に当てはまる人といえばこの辺りだとシャルル君しか居ないからね……」
業者の言う「シャルル君」が自分を助けてくれたあのホームレス少年本人とは限らない。
だが、それでも今のヴィクターにとっては貴重な情報源だった。
話からして、彼が嘘をっているようには見えない――逆に”彼”の事を良く知っているように話していた事から恐らく、自分を助けてくれたホームレス少年と予想される「シャルル君」と呼ぶ人物と何かしらの関係を持つ人物であろう。
そう推測したヴィクターは好機と考え、彼の居場所について尋ねる事にした。
「その、シャルル君の居場所についてはご存知でしょうか……?」
「シャルル君の居場所?」
返答を期待するヴィクターに尋ねられた清掃業者の男性は、ゴミを収集車にほうり込むと少し考える仕草を見せるが、男性の口から出たのはヴィクターの望んでいた返答ではなかった。
「僕にも分からないな……この公園に居るからよく見かけるけど、いつもいるわけじゃないし……ここを寝床にしてるわけでもなさそうだからね」
「そう、ですか……」
期待していた答えが得られず、ヴィクターは肩を落とす。
「でも、どうしてそんなこと聞くのかな?君は――シャルル君とは、どういう関係?」
「先日彼に、危ないところを助けられたものですーーそのお礼がしたいのですが、当の本人がどこにいるのか分からなくて……以前からこの公園で見かけていたので、ここに来ればなにか分かるかと思いまして」
「そっか、シャルル君らしいなーー彼自身とても苦労している立場なのに、困っている人がいれば手を差し伸べられる優しい子なんだ……私も、あの子にはいつも、元気をもらってばかりだよ」
タオルで汗を拭いつつ、清掃業者はとても嬉しそうな顔で語った。
その後、清掃業者は知っている限りのシャルルの行動範囲を教えてくれた。この公園にいないときは、商店街にいることが多いらしい。
全てのゴミを回収した清掃業者は、「シャルル君を見かけたら、キミがこの付近で探していたことを伝えておくよ」と言い残して、次の回収場所に向かった。
「ご親切に、ありがとうございます」
仕事中に話しかけてきた自分に対しても、嫌な顔を一つも見せず、丁寧な対応をしてくれた背を向けて次の回収場所へと向かう清掃業者に深々と頭を下げたヴィクターは、教えてもらった商店街へと足を進めた。
* * *
「あら、シャルル君かい?あの子なら、さっきあっちの方で見かけたわよ?」
「すみませんご親切に、ありがとうございます」
それから、どれだけの時間が過ぎたのであろうか――日が暮れて暗闇の中、街灯の明かりが照らす歩道をヴィクターは歩いていた。
廃品回収業者に「シャルル君」と呼ばれる”あの子”に似た特徴を持つ人物の居場所を教えてもらい、すぐさま商店街へと向かったが、シャルル君と呼ばれる少年の姿は見えない。
(ここにも、居ない……)
廃品回収業者から情報を貰った後、ヴィクターはホームレス少年「シャルル君」を探すために町中を奔走した。
公園の時とは違って、今まで難航していた”あの子”……「シャルル君」の情報を容易に手に出来るようになった。
この商店街では顔見知りの者は、皆ホームレス少年の事を「シャルル君」と呼ぶ。
だが、ホームレス生活者ゆえ定住先がなく、シャルル君と呼ぶは風のようにふらっと現れては消えてしまうため、『確実に会える場所』がない。
聞き込みを続けていくうちに、シャルル君という人となりがわかって来たものの、肝心の本人は見つからない。
それでも諦めずに探し続けたが見つからず、気が付けば日はすっかり暮れてしまい、星が見えるほどに辺りは暗くなっていた。
(結局今日も駄目でしたわ――帰りましょう……エドガーも心配しているでしょうし)
前とは違って進展はあったものの、街中を散々探し回っても結局は見つからず、どれくらい経過したのか分からない程に時間が過ぎていた。
捜索を明日に持ち越そうとしたその時
「――あの、どうかなされましたか?」
「――っ!?」
突如に後方から誰かに話し掛けられ、ヴィクターは少し驚きながらも後方へと振り向く。
だが振り返ったその瞬間、ヴィクターは驚異した表情を見せる。
ヴィクターの視線の先に居たのは一人の少年だった。
それもヴィクターの探していた”ホームレス少年”の特徴であった薄汚れた服装、バサバサした白銀の短髪、小柄で何処か幼い印象を持つ等、ヴィクターの記憶に残るホームレス少年の特徴のそれと全て一致していた。
「あ……君は――」
ヴィクターの事を知っていたのか、少年も驚いた表情を見せる。
偶然で突然の再会を果たした2人。ヴィクターは、最後の最後で巡ってきた幸運に鼓動が高鳴るのを抑えて、表面だけでも淑女らしさを保つ。
「ようやく、会えましたわ」
「アナタはこの間の――その、体の方は大丈夫ですか?」
「おかげさまで。その節は、危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですから……それじゃ僕は、用事があるので失礼します」
「ハイ、ごきげんよう…って!ちょっと!!」
現れては、風の如く消えていきそうになるシャルルの肩を、ヴィクターは声をあげて掴んだ
「実は私、アナタに伺いたいことがあってずっと探していたんです」
「えっと、ごめんなさい――僕、用事を頼まれてて……その後でも良いですか?」
シャルルの、訴えてくるような目に、胸の内がキュンとなったヴィクターは、彼の肩から手を離した。押しかけているのは自分であるため強制することなどできず、シャルルの用事を優先することにした。
同行して辿りついたのは、質素な一軒家。インターホンを鳴らすと、温和な顔つきの老婆がシャルルを迎えた。
「はい、頼まれていた品物と、お釣りと、レシート――ちゃんと確認して」
「ありがとう、シャルル君。わざわざ隣町まで行かせてゴメンよ」
「気にしないで良いよ――新しくできたスーパー、とっても評判が良かったんだ……お婆ちゃんも早く足を治して、またご近所さんと一緒に買い物に行けるようになってね」
どうやらシャルルは、足を怪我した老人に変わって、隣町に新設されたスーパーに買い物に行っていたらしい
「そうだ、シャルル君これ、大したものじゃないけど……受け取っておくれ」
「え?で、でも」
「――お願いだから、お婆ちゃんのせめてもの気持ちだと思って」
「分かった……ありがとうお婆ちゃん、大切に頂くね」
老婆は受け取った袋の中から、お弁当とお茶を小袋に分けてシャルルに渡した。隣町まで買い物に出てもらい、そのお礼がお弁当とお茶だけというのは一般的な価値観からすれば割に合わない。それでもシャルルは、不満など微塵も見せず、心の底から老婆にお礼を言って有難く受け取った。
お弁当は、肉中心の特盛お得サイズ。老婆が食べるには高カロリーな食事。自分が食べられない弁当をわざわざ買ってきてもらったのは、初めからシャルルに渡すのが目的だった可能性が高い。だとしたら随分と回りくどいことをするのですね、とヴィクターは老婆とシャルルのやり取りを見ながら思っていた。
老婆に挨拶を済ませると、シャルルはヴィクターに「お待たせしてごめんなさい」と律儀に頭を下げた。
「いえ、こちらこそ忙しい最中引き止めてしまって申し訳ありません……それでは改めまして、私はヴィクトーリア・ダールグリュンと申します――貴方は一体……何者なんですか?」
ヴィクターの訊いてきた問いに
「――見ての通り、通りすがりのホームレスです」
と屈託のない笑顔で答えた。
Next Episode
遂にホームレスの少年「シャルル」と再会したヴィクター。
ようやく自分の窮地を救ってくれた時に見た光景を訊く事が出来るチャンスを掴めた事に内心嬉しく思い、シャルルへその正体を訊くが……
# 03「通りすがりのホームレス」
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Memory:03「通りすがりのホームレス」
今回も色々詰んだりとしましたが試行錯誤して、約数年振りの投稿になりますがどうにか3時間で投稿出来ました。
(ただ昨日、猫ミーム動画を見ながらもアークナイツでは源石集め、崩壊3rdと原神とスターレイルで石集めをしつつも一次小説の方も作業をし、仮面ライダーエグゼイドのOP(曲の名前ってここ、引っ掛かりそうなので取り敢えず省略)を聴きながらも深夜テンションで書いたものなので所々色々とおかしな部分があるとは思いますが…加えて投稿してから結構経っているので恐らく多くあると思います…)
では始まります。
「――見ての通り、通りすがりのホームレスです」
ヴィクターの問いに屈託のない笑顔で答えるシャルル。
「え?ほ、ホームレス……あ、貴方ホームレスだったのですか?」
「え?はい、そうですけど――」
ヴィクターの問いに対して不思議に思ったのか、疑問符を浮かべながら小首を傾げるシャルルに対し、ヴィクターはシャルルの意外な返答に驚きのあまり、裏返った声が漏れてしまい口を開けたまま唖然とした。
少年がヴィクターと同じく、雷帝式を使った際に見た魔法はヴィクター程の実力の持ち主でもない限り、全て使いこなせないような魔法ばかり。
それどころか、かつて自分がインターミドルで使った魔法でもあった。
ヴィクター自身に憧れて雷帝式を真似ては己の物にしようとした輩も時折居たものの、当然使いこなせる筈もなく
仮に使えたとしても所々動きに無駄があって隙も大きく、ヴィクターのように容易に使いこなせてはいない場合が一般的であった。
だが目の前のシャルルと名乗る少年は自分の意識が朦朧としていたとはいえ、明らかに雷帝式を使いこなしていた。
あの3人のアジトを突き止めた事から考えれば――
恐らく管理局の関係者に相当するだろうとヴィクターは予想していた。
しかし返って来たのは現代社会において最も底辺に位置しているホームレスという返答。
ヴィクター自身の身近にも似たような境遇を持つ親友が居る……今はホームレスというより居候であるが、自分と出会う前まではまるで野生児のような暮らしをしていた。
彼女はヴィクターと互角に渡り合える程の実力の持ち主であり、その力はかつてU19にて死闘とも言えるほどの戦いを繰り広げた。
それでも彼らは上級魔導師で加えて次元犯罪者の中でも上位に位置する人物達であり、AMFを所有しながらも上級魔導師としての実力も高い。
AMFなしでの戦闘であればどうにかなるかもしれないが――
――DSAAやU19といった試合のような対等な状態にしてくれる程、この世界は優しく出来ていない。
「あの、どうかされましたか?」
「い、いえ……それより貴方は本当にホームレスなんですよね?」
「はい、僕は通りすがりのホームレスですよ。」
「本当にですか?」
「はい、本当にです。」
この少年はいったい何を言っているのだろうか――しかし嘘を言っている様子は見られない。
返ってきた少年の返答に自分の耳を疑ってしまっていたのか、気が付くといつの間にか自分らしくもなく二度も訊いていた。
魔法が普及しているこの社会において、魔力と高度な魔法を使える事はとてつもなく大きなアドバンテージとなる。
特に魔力容量が大きく、なおかつ高度な魔法が使えるのであれば、それこそもはやこの世界においては「天才的な才能」と「先天的な才能」と言える物へと昇華される。
それは断りを入れるか経歴に前科でもない限り、メリットしかない優遇的なオファーや所持している魔力容量や魔法に対する技術に比例して高待遇なスカウトが来るくらいである。
――ヴィクターとて例外ではない。
古代ベルカの名家の一つとして知られる御令嬢であり並みならぬ努力で手に入れたものではあるものの、実力と高度な魔法、そして魔法に対する博識な知識を持つ時点で既にこの社会において優秀な人材と言っても過言ではない。
その噂を何処かで嗅ぎ付けたのか、15歳になった時には既に、当時では大手企業とも言える所からこちら側にとってメリットしかないようにしか見えないオファーとスカウトが周に数十件近く来るくらいである。
加えて最近ではU15の優勝経歴の上書き、パーソナルデータの更新と共に追加された事で案件は日を追って増えてきている。
それもこれでもかという程の血が滲む程の努力のお陰で成し遂げれた物であり、ヴィクター本人にとっても今までの苦労が報われたとも言える"良い事の一つ"である。
しかし、そんなヴィクターとは違い、目の前に居る少年は自分はホームレスであると答えている。
ヴィクター自身が驚く程雷帝式を同等なレベルで使えるにも関わらずに、である。
出生は今の所不明ではあるものの、今目の前に居るこのシャルルというホームレス少年は真ベルカ式の魔法を使える時点で知的財産と大金を持ち歩いているようなモノだというのに、ヴィクターとは真反対な生活を送っている。
この少年については捜索の最中に調べていたものの、前科といったもの、ましてや経歴すら存在しない。
以前からホームレスであった故か、もしくは何かしらの理由があってなのか――
――だが身分を証明出来るような情報自体が一つも存在していなかった。
では何処で彼は雷帝式を――
「あの、大丈夫ですか?……何処か疲れているように見えるのですが――」
声を掛けられて、ふと気が付くといつの間にか、シャルルが心配そうな表情でこちらを覗き込んでいた。
「いえ…何でもありません――少し考え過ぎたようです」
また深く考え過ぎていたのだろう、前の件の事もあってか、ヴィクターを何処か心配そうな表情で見ている少年であったが、ヴィクターの返答を聞き、安心したのか僅かながら表情が安らいだ。
「それで、貴方を探していたのはお伺いしたい事があって……」
「お伺いしたい事…?僕にですか?」
ヴィクターからの答えに首を傾げるシャルル。
自分に訊きたい事が何なのかを考えるものの、記憶に心当たるモノがないといわんがばかりの素振りを見せる。
「お伺いしたいのは二つ。貴方がホームレスである事と雷帝式を使えるようになった経緯について。」
「貴方の戦い方は本来そう簡単に習得できるモノではありません…そう思えてしまう程に貴方は強かった――」
一つ目、まず本題でもあり、このホームレスと名乗る少年を探す要因にもなったヴィクターが最も気にしているモノ…それは雷帝式を何故使えるかについてであった。
意識が朦朧としていたとはいえ、自分が見たのは雷帝式を使いこなし圧倒的な強さを見せつけた少年シャルルの姿は今もヴィクターの記憶に刻まれている。
それが真実なのかは判らない…意識が朦朧としている中で見た幻覚なのか、それとも――
「だから訊きたいのです、何故貴方はそれ程にまで強いのかを――」
それを確かめたいからこそヴィクターは少年に訊く。
数日も諦めずに捜索して、ようやく偶然にも巡ってきた確かめたかった事の答えを知れる機会を得た事で興奮し、少し上がり気味で訊くヴィクター。
しかし直ぐにその事に気付いたのか、ゴホンと咳払いをして気を落ち着かせる。
「意識が朦朧としていたとはいえ…私は見ました、貴方が雷帝式を使っていた所を――」
『六十八式・兜砕』、『百式・神雷』…二つともヴィクターにとって馴染みのある魔法であり、雷帝式の魔法に属する魔法の一つ――
――雷帝式との付き合いが長い自分だからこそ見間違えるはずがない。
自分が落ち着けない程、一度も会った事のない彼の技術と魔法は自分の良く知るモノと瓜二つだったのだから――
無言でシャルルは聞き続ける。
反応からして恐らく間違っていないと思ったヴィクターは話を続ける。
「申し訳ありませんが、貴方を捜す為に色々と調べさせていただきました…そして二つ目は――」
「あっ、着きましたよ?」
ヴィクターが二つ目の質問を口に出そうとしたその時、シャルルが突如に口を開いた。シャルルの方を向くとそこにはいつの間にか自分の見慣れた光景が広がっていた。
(なっ、どうしてここに…)
目を疑うもそこには豪邸と言っても過言ではない自分が住み慣れている自邸があった。
しかしヴィクターの記憶では自分が先程まで居た場所からは遠く離れている筈でエドガーからの迎え、もしくは魔力で強化した足で走りでもしない限りは数時間程は掛かる――
その上何故自分の自邸の場所を…?と思いながらもまた一つ聞く事が増えた事でシャルルに聞こうとするも、いつの間にか自分の視野にはシャルルの姿は消えていた。
「それじゃあまた会いましょう!」
声のした方を振り向くとそこにはヴィクターに向かってさようならと云い、既に自分でも追いつけそうにない程遠くに走り去っていくシャルルの姿があった。
「あっ!ちょっと待って下さい!まだ終わってませんよ!」
走り去っていくシャルルを止めようとするヴィクターであったが、遠くから返ってきたシャルルの返答は
「さっきの伺いたい事については次の時にお願いします!それと寝不足はお肌の敵ですよ!」
自分にとって何時になったら出来るのか分からない事を次に延長するという旨と変な方向に気を使った答えだった。
このチャンスを逃すまいとヴィクターは直ぐさま走ってまで兎に角追い付いてでも止めに向かうが、既にそこにはシャルルの姿は無くそよ風のみが吹いていた。
「はぁ、はぁ…逃してしまいました。」
月の光に照らされながらも折角のチャンスを逃してしまった事に思わず溜息が出てしまう。
もしかしたら単なる息切れによるモノなのかもしれない…否、そこまで自分は貧弱ではない事くらい自分自身が良く知っている。
――だから前者でしかない。
「あれ?ヴィクター?こんな時間までどこで何してたん?」
突然後ろから声を掛けられて振り返る。自分の親友でもあるメイド服姿の「ジークリンデ・エレミア」と自分の執事である「エドガー」が居た。
「皆心配したんよ?結構来るの遅かったんだから」
「お嬢様がこのようなお時間になるまでお戻りになられるのは流石に初めてですね…前回の事もありますので一応他の方々にも御連絡を入れましたが、皆様はご存知では無かったので…皆さん総出で捜索してましたよ?」
前回の誘拐事件の事もあってか少し心配している表情を見せる二人。
ヴィクターは作り笑顔を見せながらも二人には前と同じく自分がシャルルについて調べていた事、今回は見つけたものの知れるチャンスを目前で逃してしまった事等、事情を話しながらも心配していてくれた事を謝罪する。
「ごめんなさい、こんな遅い時間になってるとは思っていなくて…明日皆さんにも謝罪しないと――」
「ううん、でもヴィクターが無事なら良かった――それじゃあ早く行こ?私物凄くお腹空いてるんよ」
さっきとは違い、ヴィクターの手を引っ張って普段とは違って遅い夕食の為に駆けていくジーク。
ですがその時の私は流石にあのホームレス少年を追いかける為にスタミナを消費し切っていたのかそこまで気に留められる程に思考は落ち着いていませんでした。ですが後ろから微かに聞こえてきたのです――
「おかしいですね…お嬢様と一緒に居ただなんて、反応すらもないのですが――」
Next Episode
再会し改めて礼を言いつつも雷帝式を使える事を伺おうとしたが、いつの間にか自邸へと送り届けては去っていったシャルルについて考えるヴィクター。
考えても謎は深まるばかり――
# 04「存在しない記憶」
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