戦姫絶唱シンフォギア ~snow songs~ (本田直之)
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EPISODE1 雪音アリス

私達は、地獄にいた。

 

たくさんの建物が壊れていた。

いろんな物が燃えていた。

辺りに響く乾いた音がしていた。

人の悲鳴が聞こえた。

 

そんな地獄に、私達はいた。

 

「パパ!!起きてよパパ!!!!」

 

お姉ちゃんの声が聞こえる。

お姉ちゃんは泣いていた。

泣きながら倒れたパパを揺すってた。

でもパパは動かなかった。

パパの服は真っ赤になっていた。

 

「ママ…ママ…?」

 

私はママのそばにいた。

ママは瓦礫に埋まっていた。

手だけしか見えなかった。

私はママの手をずっと握ってた。

ママの手は冷たくなっていた。

 

怖かった。痛かった。悲しかった。苦しかった。

これは嘘だと、夢なんだと、そうであってほしいと願った。

でも、現実はどうしようもなく残酷で…

私達は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞼を開いてから目に映ったのは自分の部屋だった。

窓から差し込む光が室内を眩く照らしている。

朝の気配を感じながら、雪音アリスはぼんやりと目を覚ます。

 

「う~ん………」

 

体温で温かくなった毛布にくるまっていたい気持ちを抑えて、枕元の目覚まし時計に手を伸ばす。

時刻は六時五十分。

目覚ましで設定したのが七時ちょうど。

どうやら目覚ましが鳴る前に目が覚めたらしい。

 

(まあ、たまにはいいか…)

 

ベットから体を起こした私は朝の仕度を始める。

朝食や着替え、学校の教材の準備。

寮での暮らしにもだいぶ慣れてきた。

今では大方の家事をこなせるようになったし、不自由もない。

登校の準備を終え、カバンを持って玄関を開く。

すると、ほぼ同時に隣の部屋の扉が開いた。

そして、カバンを持った二人の少女が現れる。

 

「あ、アリスちゃん、おっはよー!!」

 

「おはよう。」

 

「おはよう二人とも!」

 

発せられた挨拶に元気に返事をする。

立花響と小日向未来_

私立リディアン音楽院の高等科での友人である。

寮でのお隣ということもあり、入学してから親しくさせてもらっている。

なんでも二人は小学生の頃からの幼馴染みらしく、非常に仲が良い。

私と二人の仲はまだまだそれに及ばない。

でも、それに近いレベルで付き合ってくれているのは私としても嬉しく思う。

 

「きいてよアリス。響ったら昨日の夜遅くまで帰って来なかったんだよ!?」

 

そうぐちりながら頬を膨らませる未来。

彼女は何かと響の世話を焼いている。

帰ってこないのを相当心配していたのだろう。

そして、響が遅くまで戻らなかった訳…

そちらに関しては、何があったかは粗方検討がつく。

 

「いつものやつ?」

 

「そ、いつものお節介。」

 

「人助けと言ってよ~」

 

響が言うには…

外出した際に重い荷物を持ったお年寄りに付き添った結果、色々お世話になってしまい帰るのが遅れたとのこと。

響は趣味が人助けだと公言しており、困った人がいたら放っておけない性格だ。

それに関しては私自身も感服するものがある。

 

「まあ、それが響の魅力でもあると思うよ。」

 

「さっすがアリスちゃん!話が分かる!」

 

「そう?私は度が過ぎていると思うけど。」

 

などと言いつつも、笑顔で会話する二人。

本当に仲が良いんだなと思う。

 

 

 

 

こんな風景が私の日常になりつつある。

友達を作れること。

他愛のない会話を交わせること。

何事もない平和な時間を過ごせること。

そんな、少し前まで奪われていた当たり前。

それを得られることは素直にうれしい。

 

でも、それを脅かす存在がいる。

 

『認定特異災害』ノイズ

人類共通の驚異とされる謎の存在である。

突然現れて人間のみを襲うノイズは、触れた者を炭素の固まりにしてしまう恐ろしい性質を持つ。

 

事実、二年前の『ツヴァイウイング』のライブ襲撃を筆頭に、現在にいたるまでにたくさんの人が殺されている。

ノイズに掛かれば、私達の日常は瞬く間に壊されてしまうだろう。

私にはそれが許せない。

何気ない日常を剥奪されることの悲しさ。

それをよく知っているから。

だからこそ、たくさんの人の日常を守りたい。

その為に私は戦う。

人類守護の砦_『特異災害対策機動部二課』所属のシンフォギア装者として。

 

 

 

 

 

私は二課が用意したヘリコプターに乗り込んでいた。

眼下では激しい戦闘が繰り広げられている。

特異災害対策機動部一課の人達がノイズに対して攻撃しているのだ。

重火器を装備した多数の兵士に戦車やミサイル…

そんな強力な兵器をもってしても、ノイズには殆どダメージを与えることができていない。

 

その主な原因は、ノイズが持つ位相差障壁である。

簡単に言えば、存在を別の世界にまたがらせることでこの世界に存在する確率を弄るというものだ。

ノイズはこれをコントロールし物理的な干渉を無効にしてしまうので、通常兵器では微々たる効果しか及ぼせない。

実に厄介な能力である。

しかし、シンフォギアはその障壁を調律し無効化できるので、対ノイズの有力な手段となっている。

 

「雪音、行くぞ。」

 

私への合図を送るのは、そんなシンフォギアを纏える数少ない適合者の一人_風鳴翼先輩。

第一号聖遺物『天羽々斬』の装者にして、人気歌手。

私立リディアン音楽院での上級生でもある。

 

私が頷くと、翼先輩は颯爽と飛び降りていった。

遅れない様に私も後に続く。

 

落下しながら口ずさむのは聖詠。

シンフォギアを起動させる為のコマンドワード。

 

redeemer Aigis tron(その運命を埋め合わせよう)ーーー」

 

そう紡いだ私の体は光に包まれる。

 

『アイギス』

それが、私が適合した第五号聖遺物だ。

第二次世界大戦の折にイタリアからもたらされたこの聖遺物は、欠片しか残っていなかったものの、シンフォギアとして再構成され、力が発揮できるようになった。

アームドギアは一㍍程の円形の盾で、凄まじい耐久力を誇る代物である。

 

私は重力に従い勢いよく着地する。

その隣には、既に臨戦態勢の翼先輩。

 

『翼、アリス君。まずは一課と連携しつつ、相手の出方を見る。』

 

マイクから聞こえるのは、二課の風鳴司令の声。

私もそれに従うつもりだったのだが…

 

「いえ、私と雪音で問題ありません。」

 

翼先輩はそう言い残してノイズに突っ込む。

私の実力を買ってくれているのは嬉しいけど、司令の指示を無視して大丈夫なのだろうか。

そんな事を考えつつ、急いで後を追う。

この程度の相手なら翼先輩一人で殲滅可能だ。

なら私はその援護をすればいい。

私は翼先輩の背後や側面から迫るノイズを盾で凪ぎ払う。

『アイギス』は盾だが、この様に使う事で近接戦闘もこなすことができる。

『天羽々斬』程の攻撃力はないが、それでもノイズを倒すには充分な威力だ。

地上のノイズの殆どを斬った翼先輩は、ビル程の大きさのノイズに向かって跳躍して斬りかかる。

そんな翼先輩に下から攻撃しようとする小型のノイズ。

こういう時は…ノイズに向かって盾をぶん投げる!

盾は高速で回転しながら残ったノイズを切り裂き、ブーメランの如く手元に戻ってくる。

一方の翼先輩は、青いエネルギーの刃で巨大ノイズを真っ二つにしていた。

周辺を見回してもノイズの姿はない。

その日の戦闘はそこで終わったのだった。

 

 

 

 

 

ノイズを仕留めた後、私と翼先輩は二課の施設へと帰投していた。

今回の戦闘の報告も兼ねている。

 

「翼、アリス君、ご苦労だった。」

 

私達二人に労いの言葉を掛ける筋骨隆々の男性。

頼れる大人 風鳴司令である。

 

ここ最近はノイズの出現頻度が増え、ほぼ毎週出撃している。

でも、翼先輩と二人でやっているからかそこまで負担はない。

問題があるとすれば…

 

「…でだ、翼、アリス君を撫でるのはその辺にしておいたらどうだ。」

 

「頼む雪音…もう少し…」

 

これである。

翼先輩は私を何かとナデナデしたがるのだ。

私が彼女と初めて会ったのは約二年前。

当時の翼先輩は相棒の天羽奏さんを失い傷心の日々を送っていた。

そんな中現れた私は翼先輩にとって極度の癒しだったらしい。

翼先輩、真っ赤になった私の顔を見てニヤニヤしていたっけ。

本人曰く、「無性に可愛がりたくなる。」とのこと。

風鳴司令はそれが奏さんの死から立ち直る手助けになったとか言っていた。

人の助けになれたのなら嬉しいが、ちょっと撫ですぎだと思う。

でも、不思議と嫌な気持ちはしない。

その手はどうしようもないほど優しくて、とても似ていた。

私のお姉ちゃんの手に。




文才が欲しい…


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EPISODE2 覚醒の鼓動

数日後_

私と翼先輩はノイズ出現の報告を聞き、『二課』の司令室に駆け込んでいた。

そこで聞いたのは、驚くべき内容だった。

ノイズが市街地に出現した。

そこまではいつもと変わらない。

問題はその真っ只中に別の高エネルギーが感知されたことだ。

検出された『アウフヴァッヘン波形』。

司令室の画面に表示される『code:GUNGNIR』の文字。

それは、第三号聖遺物『ガングニール』の起動…すなわち、新たなる適合者の出現を示していた。

映し出された画像には、その適合者と思われる少女の姿があった。

ただ、時刻が夜であるせいか、その素顔を伺い知ることはできない。

 

「ガングニールだとッ!??」

 

思わず身を乗り出す風鳴司令。

全くの予想外。

『二課』の誰もが困惑の声をあげる中、私はハッとして隣に立つ翼先輩を見る。

翼先輩は傍目でも分かるほどに動揺していた。

目を見開き口は開けたまま、動かなかった。

そんな反応をするのも無理もないと思う。

何故なら、『ガングニール』は奏さんが使用していたギアだったのだから。

 

「すぐに出撃します……!」

 

「おい、翼!?」

 

そう言い残して、緊急用のエレベーターに駆け寄る翼先輩。 

今日の彼女は焦っている様にも見え、何だか危なっかしい。

やはり先程のショックのせいなのだろうか。

 

「司令、私も出ます。」

 

「分かった、翼の事はアリス君に任せる。」

 

心配なのでついていくことにする。

どのみち私も現場に急行しなきゃならないのだから。

司令も翼先輩の様子には気づいている様で、私に任せると言ってくれた。

緊急用のエレベータを使い、地上に出る。

地上では既にヘリコプターが待機していて、いつでも離陸できる様になっていた。

私はそこで機内に翼先輩の姿がない事に気づいた。

周囲を見渡すと、視界の端にバイクにまたがる翼先輩の姿があった。

どうやらヘリに乗る気がなかったらしい。

そのまま無言で飛び出していくのを確認し、私はヘリに乗り込む。

高速で移動できるヘリならば、翼先輩のバイクに追いつくだろう。

私一人を乗せて、ヘリはリディアンを飛び立った。

 

 

 

 

 

数分後、私を乗せたヘリは目的の工業地帯に到達していた。

窓からは地上の道を走る先輩のバイクが見える。

翼先輩の運転なのだが、少し荒々しい。

映画の如く自動車の間を縫うように走り抜けるのだ。

それを中々のスピードでこなすので正直ハラハラする。

それでいて、今まで事故を起こした事がないというのだから驚きだ。

 

暫く施設内を進むと、一か所に群がるノイズの集団が私の視界に入った。

その中心に人らしき影が見える。

 

私は操縦士の人に合図を送り、ヘリからから飛び降りる。

勿論ギアを纏うのも忘れない。

側には例の適合者と思われる少女。

私はその素顔を確認しようとして、一瞬硬直した。

何故なら…

 

「アリスちゃん……?」

 

シンフォギアを纏った響の姿があったからだ。

手には幼稚園児くらいの小柄な女の子を抱いている。

響はたしか今日発売される翼先輩のCD を買いにいくと言っていた。

その際にノイズに襲われる女の子を見つけて助けたといった所だろう。

ただ、響が何故『ガングニール』を持っているのかは分からなかった。

私の知る限り、響はこちら側とは全くの接点がない一般人だった筈である。

そこらへんについては後で聞くとしよう。

 

それからすぐ翼先輩が遅れて到着する。

速度を上げ、バイクのままノイズに突っ込む翼先輩。

バイクに跳ね飛ばされる小型のノイズ。

私達の前を通り過ぎた翼先輩はバイクからジャンプ。

搭乗者のいなくなったバイクはそのまま巨大なノイズに衝突して爆発四散。

先輩に使われるバイクの寿命は短い。

一方の翼先輩は聖詠を唱えながらくるくる回転し、私達の側に着地する。

ギアなしで滞空中に聖詠を唱えられる程の跳躍をしたことはこの際置いておこう。

立ち上がった翼先輩は、私達の方に向き直った。

 

「その子は雪音に任せる。」

 

「了解、任されました。」

 

私の返事を聞くと、翼先輩はノイズに向かって走り出した。

 

「あの…これは一体……」

 

響は現状に思考が追いついていない上に、女の子を抱えている。

力に目覚めた直後ではギアの扱いも儘ならないだろう。

この場においては戦力に数えることはできない。

その分は私がフォローしよう。

 

「今はその子を守る事だけ考えてて!」

 

「へ?……うん!」

 

そう言って、響と少女を庇うように立つ。

幸いノイズは先輩の方に集中している。

こちらにいるノイズは私でも楽に殲滅できる数だ。

いつもより比較的余裕がある。

これならば、新しい技を試せそうだ。

 

『アイギス』の力が十全に発揮できるのは防御の時だ。

アームドギアを使うことで、私は任意の大きさの障壁を出すことができる。

任意の座標に障壁を張ることもできるので、離れている味方を障壁で守ることも可能だ。

障壁にも種類がある。

例えば、物理的な攻撃を遮断する対物障壁。

ビーム等の特殊な攻撃を遮断する対特殊障壁。

触れたものの運動ベクトルを反転させる反射障壁。

接触可能で足場にもなる非透過障壁。

etc…

遮断できるものとしては、気体・液体・固体などの一般的な物質から、赤外線・電波などの電磁波、α線・X線などの粒子線と多岐にわたる。

こうした数多の効果を持つ障壁の多重展開_

これが『アイギス』の真骨頂である。

 

とは言っても、『アイギス』にも問題点はある。

障壁は高威力の攻撃を受ければ破れてしまう。

そして、守備力特化の為に攻撃力はかなり低め。

ノイズが圧倒的な物量で攻めてきた場合、対処がしにくいという問題があった。

 

私はこの障壁を攻撃に利用できないかと考えた。

一週間悩んだ結果、最近思いついたアイデアがある。

非透過障壁を叩きつけて対象を潰すという攻撃方法だ。

これはまだ実戦に使用したことはない。

試す必要がある。

そんな私にとって、それほど強い敵がいないこの状況は絶好の機会だった。

悪いがノイズ諸君には付き合ってもらおう。

 

周囲のノイズの頭上に非透過障壁を重ねて展開する。

タイミングを見計らって落としてみる。

急加速した障壁がノイズを跡形もなく押し潰した。

地面が陥没しヒビが入った所を見ると、結構な威力らしい。

隙も少ないし、結構つかえる技かもしれない。

味をしめた私は、響に近い方からノイズをとんどん潰していった。

残るは巨大なノイズが一体のみ。

今度はノイズを囲う様に非透過障壁を展開し、巨大な直方体の檻を作り出す。

後はこれを圧縮していけば良い。

中のノイズは全方位から潰され、あっさりと消滅した。

 

「そちらは終わった様だな。」

 

「はい。」

 

周りのノイズを一掃して一息ついていると、翼先輩がこちらに駆け寄ってきた。

すでにギアを解き、変身前の服装に戻っている。

私達は無事に響と女の子を守りきると同時に、ノイズを倒すことに成功したのだった。

 

 

 

 

ノイズ殲滅から数分後、『特異災害対策機動部』の人員が到着し、戦闘の後始末が始まった。

 

その間、私は響に色々と質問攻めにされたが、『シンフォギア』というノイズに対抗できる力だとだけ説明しておいた。

 

響が助けた女の子は無事に母親と再会。

情報封鎖の説明を受けてから帰っていった。

 

「それじゃあ、私もそろそろ…」

 

それを見届けた後、すぐに帰ろうとする響。

ルームメイトの未来を心配させない為にも早く戻りたいのだろうが、そうは問屋がおろさない。

あっという間にスーツ姿の職員に囲まれてしまった。

 

「ごめん響、このまま帰す訳にはいかないんだ。」

 

「なんで!?」

 

「ほんとごめん!」

 

響に向かって手を合わせる。

シンフォギアを纏ってしまったのだ。

こればかりはどうしようもない。

 

「『特異災害対策機動部二課』まで同行して頂きます。」

 

翼先輩の言葉と同時に、響に手錠がかけられる。

警察が使う物より遥かに頑丈なやつだ。

 

「え……えっ?」

 

手錠をかけられて動揺している響。

至極当然な反応だ。

急にこんな事になったら誰だって困惑するだろう。

そこへ緒川さんが声を掛けた。

 

「すみませんね。貴女の身柄を拘束させて頂きます。」

 

「だから、なんでぇーー!!!」

 

響の絶叫が工業地帯にこだました。

 

 

 

 

 

響は『二課』の施設があるリディアンまで連行された。

現在は地下へ向かうエレベーターに搭乗中である。

 

「アリスちゃん…」

 

「大丈夫、後でちゃんと説明してもらえるから。」

 

困ったような表情を浮かべる響。

疑問で一杯のようだが、着くまで我慢してもらおう。

それよりも気になるのは翼先輩である。

響をどう思っているのかが目下の心配だ。

響を連行している間、先輩は終始険しい表情でいる。

愛想笑いをする響に対しては…

 

「愛想は無用よ。」

 

なんか先輩が響に冷たい気がする。

やはり奏さんの事が頭をよぎっているのだろうか。

そんな事を考えていると、エレベーターは目的の階層に到着した。

 

「ようこそ!人類守護の砦、『特異災害対策機動部二課』へ!」

 

エレベーターを降りた私達を待っていたのは、シルクハットを被った司令とクラッカーを持った職員の皆さんだった。

部屋は飾りつけられ食事まで用意されている。

いつの間に用意したのだろうか。

熱烈な歓迎ぶりだ。

響はあんぐりと口を開け、先輩は呆れ交じりにため息、緒川さんも苦笑している。

さっきまでの重い雰囲気はどこへやら。

どさくさに紛れて、『シンフォギア』開発者の櫻井了子さんが響と写真を撮ろうとしていた。

本当にフリーダムな人だと思う。

 

手錠を外して貰った響は、司令や了子さんと言葉を交わしていた。

自己紹介を終え、司令が本題に入る。

 

「君をここに呼んだのは他でもない、協力を要請したい事があるのだ!」

 

それを聞いた響は、ずっと聞きたかったであろう疑問をぶつける。

 

「教えてください!『シンフォギア』って一体何なんですか!?」

 

「貴女の質問に答える為にも、二つばかりお願いがあるの。最初の一つは今日の事は誰にも内緒。そして、もう一つは…」

 

了子さんが響の背中に手を回す。

何だか手つきがいやらしいのは気のせいだろうか。

 

「とりあえず脱いでもらいましょうか♪」

 

「だからぁ……なんでぇーー!!!」

 

涙目で叫ぶ響を見ながら思う。

これから賑やかになりそうだ。

 

 

 




ちなみにアリスちゃんのシンフォギアのメインカラーはグレーです。


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EPISODE3 シンフォギア

遅くなって申し訳ありません。色んな意味で躓いてました。


『シンフォギア』を纏い、『二課』に連行された響。

その後のメディカルチェックもあって、解放されたのは午後八時過ぎ。

私は響に付き添って寮への帰路についた。

時間が時間だからか、学院には人の姿は無く、街灯が暗くなった敷地をぼわやりと照らしている。

 

「ねえ、アリスちゃん……」

 

響はふと立ち止まり、私に問いかけた。

 

「あの力の事…やっぱり誰かに話しちゃいけないのかな…」

 

了子さんから誰にも話さないようにと釘を刺されたものの、心の奥では完全に納得できていないようだった。

その迷いの元は恐らく未来だ。

幼い頃からの親友で、彼女にとっての日だまり。

家族同然の存在だ。

そんな人物に隠し事をするのは心苦しいのだろう。

しかし、だからこそ隠さねばならない。

 

「響は見たよね、私達が戦う所。」

 

「うん」

 

「なら分かると思うけど、あれはノイズと戦えるだけじゃないんだよ。」

 

そう、あれは兵器としても使えてしまうものだ。

ノイズが倒せるだけでも十分な戦力と言えるのだが、その性能や能力は既存の兵器に匹敵する。

おまけに『聖遺物』の起動が既存の化石燃料に変わる新たなエネルギーとしての可能性までも秘めているらしい。

どちらにせよ、世界に多大な影響を与える代物だ。

どこも喉から手が出るほど欲しがるだろう。

 

一方、それを用いる手段は限られている。

『聖遺物』は異端技術の結晶であり、新規に生産することは不可能。

中でも本来の力を持っている『完全聖遺物』は稀少で、その大半が破損した破片のみである。

その破片から『シンフォギア』を作る技術を持つのは、今のところ了子さんのみ。

政府はその技術を完全に秘匿している。

事実上、日本がほぼ独占している状態だ。

仮に入手したとしても、『聖遺物』は適合者の『歌』によってしか起動できないという欠点がある。

『聖遺物』は、その存在事態が機密であり募集する訳にもいかない。

適合者を探し出すのは至難の技である。

 

そんな物を使える少女がいると知ればどうなるか。

テロリストや武装組織、果ては国家さえもそれを探す筈だ。

どんな手段を使っても手に入れようとするだろう。

それがもたらす結果は単純明快。

響の家族や未来、学校の皆にまで危害が及びかねない。

 

「最悪、命に関わる可能性すらある。」

 

「そんな……」

 

「ごめん、響の力がどれだけ大きなものなのか、それだけは理解して欲しかったんだ…」

 

私の話を聞いて驚愕し、俯いてしまう響。

その表情を見て胸の奥が痛む。

本当は語りたくもない内容だ。

でも、響の日常を守る為には話しておく必要があった。

戦う覚悟とかは二の次だ。

そこらへんは翼先輩が厳しく言いそうだが…

 

学院から寮まで、私達二人は終始無言だった。

寮の部屋の前まで来ると、響は私にお礼を言って部屋へ入っていった。

その時の響の顔はどこか元気がないように見えた。

やはり先程の会話が堪えているのだろう。

 

響はこれから戦いに身を投じる事になる。

この世の闇に触れる事もあるだろう。

彼女にとって辛く苦しい道である。

_平和な日常を過ごして欲しかった人が、こちら側へと入ってきてしまった。

その事実が、私に重くのしかかっていた。

 

「本当に、ままならないなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後__

 

「それでは~先日のメディカルチェックの結果発表~♪」

 

了子さんのテンション高めな声を聞きながら、私は部屋の壁に寄りかかっていた。

響は再び『二課』を訪れ、私の目の前に座っている。

目的は、響の身体検査の報告及び響の持つ力についての詳しい説明である。

響や私の他に、風鳴司令や翼先輩、オペレーターの藤尭さんや友里さんの姿もある。

それは、今回の報告が重要である事を示していた。

 

 

「初体験の負荷は残っているものの、身体に異常はほぼ見られませんでした!」

 

「ほぼ……ですか………」

 

了子さんの言葉に響は不安げな表情を浮かべている。

今の返答は、逆に言えば僅かだか異常が見つかったという事も意味しているのだ。

その異常が響が『シンフォギア』を纏えた事に関連しているとみて間違いないだろう。

 

「そうね…貴女が聞きたいのはこんなことじゃないわよね?」

 

言わんとしている事を分かっているかの様に、了子さんが声を掛ける。

そう、響にとってそれは一番の疑問ではないはずだ。

彼女が知りたいのはひとえに…

 

「教えてください!あの力のことを…」

 

彼女が無意識に発揮したであろう『シンフォギア』の力。

それその物に他ならない。

最初の歓迎会の時も、帰り道の時も、『シンフォギア』や『聖遺物』そのものについての具体的な知識は話していなかった。

 

響の問いを聞いた『二課』のメンバーは私達の方へと目を向けてくる。

その視線の意味する所は私にも理解できる。

聖遺物が入ったペンダントを出せという無言の促しだ。

なるほど、これは『シンフォギア』を説明するには必要なアイテムである。

私達はそれに従い、服の内側から赤色のペンダントを抜き出してみせた。

それを確認してから、司令が話を進める。

 

「天羽々斬、そしてアイギス。翼とアリス君の持つ第一・第五号聖遺物だ。」

 

聖遺物_

神話や伝承に登場する特別な力を持った武具。

遺跡から発掘された異端技術の結晶。

現代の技術をもってしても製造不可能な代物である。

 

大半の聖遺物は破片しか残っておらず、本来の力を残した物はかなり稀少だ。

ただ、破片は使えない訳ではない。

特定振幅の波動_すなわち『歌』を歌うことにより、残った力を増幅させ、その力を解き放つことができる。

それにより活性化した『聖遺物』を鎧の形として纏う。

それこそが『シンフォギア』。

ノイズに有効的なダメージを与えられるアンチノイズプロテクター。

FG式回天特機装束。

現状、人類が持つ唯一の対抗策。

 

「そうだ……あの時も胸の奥から歌が浮かんできたんです。」

 

歌というワードから思い出したのか、響はそう証言した。

それは、『シンフォギア』を扱う人間からすれば特別な意味を持つ。

 

「だからとて、どんな歌…誰の歌にも『聖遺物』を起動させる力が備わっているわけではない!!」

 

それまで静観していた翼先輩が苛立ちぎみの声で言う。

少しきつめの言い方だったことはこの際置いておこう。

私達が言いたいことはこの一言に集約される。

先輩の言った通り、『聖遺物』を起動させ、『シンフォギア』を纏って歌えるのはほんの一握りの『適合者』のみ。

先程の証言は、響が私や先輩のような『適合者』であることの証明でもあったのだ。

 

「どう?貴女に目覚めた力について少しは理解してもらえたかしら?質問ならどしどし受け付けるわよ♪」

 

大まかな説明を一通り聞いた響に感想などを聞く了子さん。

物凄い良い笑顔だ。

むしろ質問してくれと顔に書いてあるように見えた。

本当に『聖遺物』が好きなんだなと思う。

ちなみに、対する響の解答は…

 

「全然分かりません……」

 

である。

まあ、そんな気はしていた。

端に控えていたオペレーターの二人もこれは予期していたようで、「だろうね」などと呟いている。

いきなり難しい話をペラペラと喋られても、そうそう理解できるものではない。

私だって、同じ状況に置かれれば似たような反応をするだろう。

響の返答からそれに気づいた了子さん。

少し残念そうな顔をしたが、すぐにいつものテンションに戻る。

その際、さりげなく自身が『シンフォギア』を作る理論を提唱したことをアピールしているあたり、抜け目がない。

 

「でも、私はその『聖遺物』というものを持っていません。」

 

少し間をおいて、響が疑問を口にした。

それが目下最大の謎である。

『聖遺物』を持っていない響が、とのようにして『シンフォギア』を纏ったのか。

私の知る範囲では、響は『聖遺物』やそれに類する物品を持っていなかった筈だ。

何も思いつかなかった私は思わず了子さんを見る。

恐らく、了子さんならすでにその答えを提示できると思ったからである。

彼女程に『聖遺物』に精通している人間はそういない。

事実、タイミングを待っていたかのようにスクリーンに新たな画像が表示された。

それはレントゲンの写真。

恐らくは響のもの。

よく見ると、心臓付近に何かが食い込んでいるのが分かる。

 

「これが何なのか、君には分かる筈だ。」

 

風鳴司令の言及に対し、響はすぐに話し出した。

曰く、二年前のツヴァイウイングのライブを見に行って胸に大怪我を負ったのだと。

もしかすると、それに関係することなのでは?

そう私がいぶかしんでいると、了子さんが核心に迫る言葉を口にした。

 

「調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが身に纏っていた第三号聖遺物……『ガングニール』の砕けた破片であることが判明しました。」

 

やはり、推測は当たっていたようだ。

響はノイズ襲撃時に聖遺物の欠片を胸に受けて負傷。

体内に聖遺物の欠片が入り込んだと断定して良いだろう。

 

「奏ちゃんの置き土産ね……」

 

了子さんの一言とほぼ同時に、翼先輩の方から物音がした。

何かを叩いたような音だ。

ハッとして顔を向ける。

案の定、彼女は目を見開いたまま近くのベットに寄りかかり、手で顔を覆っていた。

翼先輩はそのまま無言で部屋を出ていく。

口から漏れる息づかいからは驚愕と憔悴が見てとれた。

衝撃の事実を受け止めることはできなかった様である。

普段は凛として確固たる意志を見せている翼先輩。

その心の弱さが露呈した瞬間であった。

やはり今のままではいけない。

あの様子では最悪戦闘に影響が出る可能性もある。

だが、すぐに何かしようとは思えなかった。

今の状態で私がフォローしても、事態を悪化させてしまうしまうかもしれない。

先輩には心を整理する時間が必要だ。

今は一人にさせておこう。

それがベストであると私は判断した。

二課の皆さんも同じ考えのようで、退出する翼先輩を無言で見送る。

先輩の姿が見えなくなると、風鳴司令は再び口を開いた。

 

「君に宿ったシンフォギアの力を、対ノイズ戦に役立ててはくれないないだろうか。」

 

少しの間沈黙した後、響は確認する。

 

「私の力で誰かを助けられるんですよね?」

 

しっかりと頷く風鳴司令と了子さん。

 

「分かりました!」

 

勢いよく返事した響。

その言葉が示すのは肯定。

彼女は自分の意思でその道を進むと決めたのだ。

それは非日常の始まり。

響にとって大きな転換点となるであろう選択である。

響の性格からしてこうなることはわかってはいたが、私個人としては素直に喜べなかった。

 

そんな響を複雑な気持ちで眺めていた直後。

突如として施設内に警報音が響き渡った。

それはノイズの出現を示すもの。

なんと間の悪い登場だ。

しかし、出てきてしまったからには、被害を抑えるために迎撃しなければならない。

慌ただしくなった指令室を見ながら、私は気を引き締めた。

不安要素はあるものの、それは頭の隅に置いておく。

今は、私に出来ることをやろう。

人々の日常を守る__そう誓ったのだから。

 

 

 

 




アリスちゃんの容姿はクリスの髪型をボブにした感じ。
身長はクリスと同じ。
胸の大きさは響と同じくらい。


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EPISODE4 覚悟

投稿の間隔が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
今後も書き貯め0の不定期更新になるかもしれませんがどうかよろしくおねがいします。



エレベーターを使い、地上に出る。

外は既に暗くなり、ポツポツと星が見え始める時刻。

飛び出した私達は現場に走って向かう。

勿論シンフォギアを纏うのも忘れない。

その効果で限界まで加速する。

 

「私は南西部を引き受ける。雪音は南東部を頼む。」

 

「了解!」

 

学院の正門をでは私達は二手に別れた。

今回のノイズは広範囲に分散している。

固まって倒していくと時間がかかってしまう。

個々の戦闘力を含め、対応可能との判断だろう。

 

市街地はしんと静まりかえっていた。

走っているとすぐにノイズの集団が見つかる。

ノイズは私を見つけると体をドリル状に変形させ突進してくる。

即座に正面に3枚の障壁を重ねて展開。

数十回の直撃で1枚が割れたが、3枚全てを貫くことはなかった。

ここから私のターンだ。

ノイズの懐に飛び込み、盾をフルスイング。

当たる直前に盾を巨大化させる。

すると盾は巨大化前のスピードのまま、十数体のノイズを空中まで弾き飛ばした。

 

「まだまだァ!!」

 

自分自身に喝をいれるように。

兜の緒を締め直すように。

より大きな声で歌唱する。

討伐はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

周辺を全滅させ、残りを探しに道路の上を駆け抜ける。

今回は珍しく学院の近くに出現したこともあり、早々に撃退を始めることができた。

しかし、被害がゼロに押さえられた訳ではない。

進行方向には横転した自動車や建物の窓に使われていたガラスの破片が散乱している。

ノイズがここを襲い、暴れまわっていたのだろう。

所々に点在する黒い炭のようなモノは恐らく…

 

「………ッ」

 

手を痛いぐらい強く握りしめる。

この光景は何時まで経っても慣れることはない。

私達が守れなかった物をまざまざと見せつけられているようで…

回っていた陰鬱な思考は風鳴司令の声で停止した。

 

「アリスくん!響くんが君達の後を追った!支援出来るか?」

 

「………すぐに向かいます。」

 

響はいてもたってもいられなくなったのか。

彼女にとってはこれも人助けの延長か。

だが、いささか戦闘経験が少なすぎる。

さっきまでの思考を切り替え、響の元へ向かう。

失ったものに捕らわれている場合ではない。

今はただ、被害を抑えることだけを……

 

 

 

 

 

二課から指定されたポイントは、市街地から少し離れた所にあった。

住宅はなく、田畑だけが広がる場所だ。

その中を真っ直ぐ突っ切る舗装された道路。

そこで最後の戦闘が始まっていた。

道路数車線を占拠する程の大きさのノイズ。

そして、その目の前に立つ翼先輩が見えた。

その後ろには走って接近する響の姿もある。

何をしようとしているのかはすぐに分かった。

翼先輩が動くよりも早く、追いついた響は足でノイズを蹴り飛ばしたのだ。

それによってノイズの体勢が崩れ、隙が生じた。

翼先輩がそれを逃す訳もない。

青い斬撃がノイズを道路もろとも切断する。

 

『戦闘終了だ。ご苦労だった。』

 

通信越しの労いの声。

それに混じってかすかに安堵の声が聞こえる。

これで今回出現したノイズは全て倒しきったようだ。

これから戦闘の後処理が始まるだろう。

追いついた足を止めて、二人に目を向ける。

 

「今は足手まといかもしれないけれど、一生懸命頑張ります!だから、私と一緒に戦ってください!」

 

斬撃による爆発の煙が立ち上る中、響は背後から翼先輩にそう話しかけた。

形はどうあれ先の撃破に貢献したからか、どこか嬉しそうに見える。

 

「そうね…」

 

響の言葉に対し、少し間をおいてから先輩はそう返答した。

肯定的な反応を示した翼先輩に、響の表情は明るくなる。

だが、私は知っている。

彼女の在り方からして、この会話が響に対する肯定のみで終わることはありえない。

奏さんよりは劣るが、決して短くない期間を共に戦い抜いたからこその確信。

そして__翼先輩は響を見据え、続く言葉を口にした。

 

「…だけど、その前に貴女に問わなければならないことがあるわ。」

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

響の初戦闘から数日。

私はとある場所を訪れていた。

学院にある近未来的な区画。

その一角にある部屋。

何を隠そう、ここが翼先輩の私室なのである。

 

「翼先輩、アリスです。」

 

「雪音!!?ち、ちょっと待っ…」

 

「………入りますよ。」

 

扉の向こうから酷く慌てた声が聞こえる。

何を察した私は先輩が言い終わる前に扉を開け放った。

その先にあったのは……

 

「………………」

 

汚部屋だった。

私の目の前には衣服や日用品が散乱し、一瞬入るのを躊躇われるような地獄と化している。

頬をひくつかせながら振り向くと、翼先輩は瞬時に目を逸らした。

 

「先輩。この前掃除したのはいつでしたっけ。」

 

「……………2カ月前です。」

 

「その時に片付けた方を教えましたよね?」

 

「…………………はい。」

 

なるほどなるほど。

たったそれだけの期間で元通りに。

そうなのかー。

 

「みっちり指導しなおす必要がありそうですね。」

 

「アッハイ。」

 

それから数時間かけて部屋を片付けた。

勿論、その指導も忘れない。

翼先輩は涙目になっていたが気にしないでおこう。

そもそも、異性の緒川さんに頼っている現状では駄目だと思う。

年頃の女の子なんだから、自分の部屋ぐらい綺麗にできるようになって貰わなければ。

 

 

 

 

 

「それで、聞きたいことがあるんですけど。」

 

「なんだ?」

 

片付けが一段落した後、先輩に話しかけた。

想定外の事態で時間を取られたが、ここからが本題。

 

「どうですか?響は。」

 

翼先輩の元を訪れた理由。

そう、響のことである。

 

あれから数日。

ノイズとの戦闘自体は特に支障もなく進んでいる。

問題があるとすれば翼先輩と響の関係だろう。

 

あの後、翼先輩は響に一つの問いを投げ掛けた。

分かりにくい言い回しだったが、言いたいことは単純だ。

曰く__戦う覚悟はあるのか。

 

響はその問いに答えを出すことが出来なかった。

そして、翼先輩はそれを責めることもなく、かといって道を示すこともなく。

二人の距離感は殆ど変わっていない。

 

では、今の所はどうなのか。

響の友人としても、翼先輩の戦友としても。

それだけは聞きたかった。

 

「まだ計りかねている…って所だ。」

 

私の問いに対し、先輩は神妙な面持ちで答えた。

 

「雪音も分かるだろう?ノイズとの戦いは遊びではない。」

 

「はい。痛い程に。」

 

「だからこそ、こちら側に来るには相応の覚悟がいる。」

 

翼先輩にとって、それは特別な意味を持っていた。

古くからこの国を支える家系に生まれ、幼少の頃から自身もそうあれと育てられてきた。

パートナーの奏さんと関わってからは自身の使命を見いだし、例のライブ以降は、数多の犠牲を出した後悔と自責から、その使命感はより強くなったという。

恋愛や遊びもせず、自分を殺し。

ただ『剣』として、『防人』として。

覚悟を決め、がむしゃらに戦い続けた。

 

そして立花響。

突如として現れた『ガングニール』の担い手。

 

その内面を会ってすぐに把握するのは不可能だ。

ましてや奏さんに救われ、偶然にも奏さんの『シンフォギア』を受け継いだ者。

だからこそ、翼先輩は問わなければならなかったのだろう。

 

「何者をも貫き通す無双の一振り…『ガングニール』のシンフォギアを纏うのなら………私と力を合わせ、共に戦いたいと言うのなら………その胸にある覚悟を構えてみせなさい!………それが出来ないのであれば、貴女を戦士としても…仲間としても認める訳にはいかないわ。」

 

響に対し、翼先輩は最後にそう締めくくった。

立花響の意志を見極める。 

かつて、私に対してもそうであった様に。

同じ道を進む者として、それがなすべきことである。

恐らくはそれが彼女の結論。

であれば…

 

「大丈夫。暫くすれば、翼先輩も響を認めると思います。」

 

「…えらく自信があるようね。」

 

「ええ、彼女の根底には私と同じような願いがある……そんな気がするんです。」

 

その時、私にはこれ以上ない確信があった。

少なくない期間を共に過ごした経験か。

はたまた同類を見分ける直感か。

どちらにせよ、私は響を信頼する。

彼女の思いは本物だ。

だからこそ、それが折れることがないように。

彼女の日だまりが無くならないように。

未来には及ばないが、精一杯の努力をしよう。

彼女達の先にある障害を。

他の人と同じように。

_____私が道になって埋め合わせよう。

 

 



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追憶 風鳴翼の場合

更新が遅れてしまい、すいませんでした。
しかもクソ短いです。
執筆速度を上げられたらいいなぁ…


「では、お茶でもいれてこよう。」

 

 小柄な少女を残し、席を立つ。彼女から離れて見えなくなってから、ようやくため息をつくことが出来た。彼女の扱きで、部屋は以前の清潔さを取り戻している。お茶の葉を棚から取り出しながら、彼女が発した言葉を思い出していた。

 

(私と同じ…か……)

 

 雪音は立花を同類と推測している。それが何を意味しているのか。それは、立花が雪音と同じような歪みを抱えていると感じたからにほかならない。立花の方については今だ読み切れていないが、雪音の方は少なくない時間を共に過ごした為にある程度把握している。その歪みは、見方を変えれば『前向きな自殺衝動』ともいえるモノだ。

 

 

 

 

 

 彼女が叔父様に連れられて来たのは、奏が命を落としたあのライブとほぼ同時期だった。その頃は私が荒れていたことも相まって、最初の出会いは記憶が鮮明に残っている。

 

「翼。紹介しておきたい子がいる。」

 

 そう切り出した叔父様の背後。そこから隠れながらこちらを覗く幼い少女。それが最初の出会い。第一印象は、あまり良くなかった。こちらから話し掛けても、無言で逃げていく。性格の暗そうな感じだった。

 

 そのイメージが変わったのは、叔父様から彼女を引き取った経緯を聞かされてから。世界的ヴァイオリニストの父と声楽家の母の次女として生まれた彼女は、両親に連れられて南米のバルベルデ共和国へ渡ったそうだ。その目的は紛争地帯におけるNGO活動。なぜ危険な場所に幼い娘を連れていったのかは分からない。その途上、物資に紛れた爆弾が爆発。両親は死亡し、姉共々その後の混乱で行方不明に。その後、国連軍の武力介入の際に発見された。その間実に五年。彼女がどのように生き延びたかは想像するしかなかったが、紛争地帯での女性の扱いを見れば、ろくな目にあっていない事は明らかだった。

 

「彼女の警戒心を解くのに苦労したものだ。」

 

 そう語る叔父様は、苦笑をもらしていた。私は育った家の問題で、この国における一般的な子供の生活環境は分からない。それでも、彼女がここ数年置かれていた環境は先進国の子供としては最底辺であると断言できる。そして何より、家族を失っているという点。大切なパートナーを無くした直後とあって、私は彼女にシンパシーを感じたのだ。無論重みで言えばあちらの方が数段上だが、気にかけるきっかけとしては十分だった。

 

「隣、良いかしら?」

 

「……………どうぞ。」

 

 初めは話しかけることから。かつて私が奏にしてくれたことをなぞるように、私は雪音に積極的に関わっていった。

 

「何で私に優しくするんですか?」

 

 彼女がそう聞いてきた時、答えに詰まる程度の曖昧で感情的な何かが私を突き動かしていた。剣たる私が何故そんな真似をしていたのか、良く分からない。ただ、放っておくとすぐに消えてしまいそうな…そんな気がしたのだ。これを続けること数カ月。その甲斐があってか、彼女は私への態度を徐々に軟化させていった。向こうから話しかけてくるようになったし、会話も増えた。

 

 そして、雪音が私や二課の皆に心を開いた頃。叔父様は社会復帰の一環として、彼女をリディアン女学院に編入させた。最初こそ他人と関わらないようにしていたようだが、クラスメートと一緒にいる事も多くなったらしい。良い友達を見つけたようだ。その顔には笑顔が戻り、楽しそうにしている時間が増えていった。

 

 そんな様子を眺めていると、不思議と笑みがこぼれてくる。元々年の割に小柄な体格でかわいらしかったのに、更に太陽みたいな笑顔まで浮かべるようになったのだ。何だろう、このかわいい生き物は。私が膝に乗っけてナデナデし始めるのも自明の理であろう。

 

 そんなある日、叔父様はあることを雪音にもちかけた。即ちシンフォギア奏者にならないかという誘いだ。この数年の間に、彼女は私達二課の活動についても把握していたし、その危険性も理解していた筈。その上で彼女は______

 

「やります……やらせて下さい。」

 

 そう返答したのだ。

 

「本当に良いのか?」

 

 私は二人になった時を見計らい、彼女に話し掛けた。先程の返事を変えるつもりは無いのかと問いかけた。こちら側に来るということは、ようやく取り戻した平穏から遠ざかる行為だ。彼女とてそれは理解している筈だ。

 

「翼先輩……」

 

 雪音はこちらへ向き直り、語り始めた。

 

「私はバルベルデで地獄を見ました。」

 

 そこから、彼女は過去のことを語った。内容はあらすじのように短く簡潔なものだったけれど、一般人が聞いたら目を背けそうな生々しい体験談。でも、私はそれを受け止めた。勇気を持って話してくれた彼女の為に。

 

「そして、気づいたんです。今ここにいる事、今笑えている事、ただそれだけの事がどれだけ素晴らしい事なのかを。だから…」

 

 沢山の人達が同じ目に会うのを防ぎたいのだと。その為にシンフォギア奏者になるのだと。そう言い放った。その目は私をしっかりと見据えている。雪音がこういう顔をするのは、覚悟を決めた時だ。最早何を言っても聞くまい。

 

「そこまで言うのなら、私は止めない。だが、生半可な気持ちではついてこれない。分かっているな?」

 

「はい!」

 

 こちら側に来るからには、背中を預けられる戦友になってもらわねばならない。シンフォギアを使いこなす為にビシバシ特訓していこう。当時の私はそう考えて叔父様達に相談しながら彼女をしごきはじめた。等の本人も音を上げることはあったが、諦めることはなかった。

 

 

 

 

 

 それから一年半。雪音は私と肩を並べる程に腕を上げた。己の聖遺物の特性を理解し、それにあった役割をこなす。守備に特化した『アイギス』による戦闘時の支援は今やなくてはならないものだ。ただし、彼女には無視できないレベルの不安要素がある。それこそが、彼女の『前向きな自殺衝動』。すなわち、自身の命の優先度を他者より圧倒的に下に置いていることだ。他者を救うためなら自分を犠牲にすることを躊躇わず、しゃれにならない無茶をする。これは叔父様や私、二課の皆に咎められても変わることはなかった。私が想像するに、それは彼女の根本…あの日語った過去に起因するものだ。それを変えるのは現状不可能に近い。生半可な手では彼女は変わらない。

 

「先輩、お茶の淹れ方上手くなってませんか?」

 

「そうだろう?友里さんに頼んで練習したからな」

 

「それは結構。おいしいですよ、翼先輩!」

 

 でも、私は諦めていない。目の前で笑う雪音。彼女をなんとかして思いきり幸せにするのが今の私の目標だ。そして、立花の方の歪みも、これから推し量っていけばいい。それで問題があるのなら、雪音と同時進行になるが変化を促していきたい。そんな野望を胸に抱き、今日も時が過ぎていく。

 

 

 




ここでアリスちゃんの設定をば

雪音アリス
血液型:A型
身長:150cm
3サイズ:B80・W56・H82
使用ギア:アイギス
第五号聖遺物。メインカラーはグレー。聖詠は「redeemer Aigis tron」。型式番号は「SG-r05 Aigis」。アームドギアは小型の盾の形をとる。その特性は「障壁の大量展開」。多種多様な半透明障壁を一瞬で展開し対象を守る。ギア自体も変形でき、巨大な壁や投擲武器としても機能する。他に類を見ない鉄壁の防御力を誇るが、その反面攻撃力は比較的に低い。
技イメージ:Fate/GrandOrder マシュ・キリエライト
      魔法科高校の劣等生 十文字克人
      結界師 間流結界術
      ウルトラシリーズ ゼットン
      ヱヴァンゲリヲン新劇場版 第10の使徒
      キャプテン・アメリカ スティーブ・ロジャース
      蒼穹のファフナー ファフナー・Mk.XV(マークフュンフ改)
      


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