俺たちの冒険の書No.001〜ロトの血を引きし者〜 (アドライデ)
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ぼうけんのしょ
Lv.1:竜王討伐を言い渡された。
「勇者ロトの血を引く者よ! そなたの来るのを待っておったぞ」
開口一番に告げられたのはこの言葉だった。
王族は話が長い。
要約すると『竜王が現れたので倒してこい』ってことだろう。
旅のヒントもいくつか教えてもらえたので旅立つことにする。
(俺で何人目だ?)
そう出そうになった言葉を慌てて飲み込み、跪き定例文を言う。
「無事に倒し、この世界を平和に導くことを誓いましょう」
「では行け! 勇者アレフよ」
一礼をして、黍を返し、旅の役に立てるものを少しばかり頂き、後方の扉を開ける。
この国の近衛兵に見送られて勇者アレフは旅立つ。
「…………」
城を出て城下町までは実は少し遠い。
出て来るのは一番弱いと言われている雫型のモンスター【スライム】だが、油断はできない。
一匹なら何とか倒せるが、こっちは丸腰だ。
もう一匹出て来たら…上位の雫型で赤い【スライムベス】なんかが出て来たら軽く死ねる。
見送られた場所を振り返り、溜め息をついた。
「ロトって何だよ」
この世界の平和を取り戻した英雄。
うん百年前だかうん千年前の伝説の勇者であることは己でも知っている。
己がその血の子孫だなんて、なぜ分かる。
現在は、御伽噺とか言い伝えとかのレベルである。
それを証明するものはない。
だが、我こそはロトの子孫だと言うものが現れ、こぞって討伐に向かいその道中で命を落とした。
(血で竜王を倒せるわけがないだろう)
ロトの血を引きし者と言う注目を浴び、町の住人からも訝しげに見られる。
「お前がロトの血を引く者? 証拠でもあるのか?」
魔物の脅威が増すばかり、勇者は未だに平和へと導いてくれない。今度こそは大丈夫なのかと期待と不安が入り混じる視線だ。
そんな視線をかいくぐり買い物、竜の鱗と竹槍を買う。
目先の目標は180Gの銅の剣。
竹槍をグッと握りしめて、気合いを入れる。
自分は強くない、血だけで選ばれただけの存在なのだから。
町の外へ出ようとした時、一人の兵が戻って来た。息も絶え絶えに紡ぐ言葉。
「誰か伝えてくれ、ローラ姫の捜索隊は全滅した」
崩れ落ちる兵士に駆け寄る町民。それを右目に見て、すれ違う。
(俺にできることは何もない)
ローラ姫が拐われて半年と言われている。
生死不明。凶暴化しつつあるモンスターに如何程の犠牲者が出たことか。
滅ぼされた町もあると言う。
なぜその町は滅ぼされたのだろう。
一歩外へ出たら油断は禁物。
目まぐるしく、考えが彷徨うがそれを振り切り魔物への警戒を強める。
アレフLv.1の旅の始まりである。
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Lv.2:初めて死んだ。
「今日もボロボロだねー。一泊6Gだよ」
顔なじみになりつつある宿屋の女将に苦笑いされつつ、貰ったものと魔物と戦うことで得たお金で払う。
連日ラダトームの町周辺で修行の日々だ。
この宿はサービスが良好だが格安で泊まれる。言うなれば、城から援助金を貰い経営している宿だ。
格安の条件は竜王を討伐するために利用すると言えばいい。
先日、その宣言をして、その証を貰い受けたのだ。
それを利用する馬鹿な奴が出てこないわけではないが、逐一王への報告があるこの宿を不正に使うのは本当の馬鹿だろう。
「これは時間がかかりそうだ」
何泊目か忘れた数を過ごしつつ溜め息をつく。一日に倒せる敵の数が増えてきて、手応えがないわけではない。
「少し遠出するか…」
ベッドにごろりと横になり目を瞑る。
ラダトームの町から離れると、相手する敵は強いモンスターが多くなる。
しかし、近場の【スライム】ばかりでは強くなれないのも事実。
徐々に赤字だった宿代が黒字になってきたのだ。チャンスは今かもしれない。
脳裏に地図を思い描く、ラダトーム城の北北西にはロトの洞窟がある。
そこにロトの血を引きし者が向かえば何かあるらしい。そこへ行くのも一つの手だろう。
そして、もう一つ。
ガライと言う独立した町がラダトーム城から北西、海側に沿って山を越えたところにある。
そこまでの長い道のりを行く自信はまだない。
この二択なら、ロトの洞窟へ向かおう。そう心に決め眠りにつく。
次の朝、街の周辺から少し離れ、山を迂回した裏手に回りまだ行っていない場所へと足を運ぶ。
実のところに少し油断していた。
会う敵はスライムが多く、強くても【ドラキー】(顔のでかい蝙蝠のようなモンスター)であった。
「ゴースト!?」
振り返ると奴はいた。黄色いお化けのモンスター【ゴースト】である。ただの攻撃が地味に痛い。
多くの【スライム】との戦いで傷ついていた己にとって致命的であった。
逃げようとするが、回り込まれてしまう。避けることも攻撃することももはや叶わない。
命の灯火が消える瞬間、視界が赤に染まる。
「………俺は」
死を覚悟した。
町の人に『死なせたくないものだ』と言われていたのに、こんな城の近くで命を落とすなんて、浅はかだったのだろう。
「全く何事だ」
悔いている時に聞こえた第三者の声。
思考を停止し辺りを見渡す。どうやら見慣れたお城の一角。
この地はあの世ではなかったようだ。
「ここは…」
「城内の休息室だ。お前は王の命により、今一度、機会を与えられた。心して挑めよ」
第三者の近衛兵はそう言い休息室を後にした。
重い空気から脱し、溜息をつき再び横になる。目を閉じ、自己の身体を確かめる。
疲労はあるものの致命的な傷は癒えており、明日にでも旅立つことができる状態であった。
助けられた。偶然にも気を失うだけで生きていられたが、これがなければ死んでいた。
王から貰った竜王討伐を目的としている証明書、『帰還の御守り』。転移魔法の応用で、生命の危機に陥ると自動的に城に戻るシステムになっている。
「まさか所持金の半分を取られるとは…」
出発時に謁見の間に向かうと、叱咤とともに治療費を取られたのだ。
銅の剣を買うと言う目標の金額がまた遠のく。
無茶をせず、もう二度と失態はするまいと誓う。
アレフLv.2は勇気と無謀の差を知った。
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Lv.3:ホイミを覚えた。
「ここか」
ホイミを覚えた。魔力的に一回分しか唱えられないが、窮地に追い込まれても避けられる。
力強い回復魔法である。
『おおカミよ! 古き言い伝えの勇者に光あれ!!』
そう言い、老人が杖を掲げるとを暖かい光に包まれる。
ラダトームのお城に無償で魔力を回復してくれる老人がおり、魔力の枯渇で宿に戻り、一日を無駄にすると言う手間が省けているのはありがたい。
これもホイミを覚えたことによりできた可能性。
更に行動範囲が広がり、こうしてロトの洞窟へと足を運ぶことができた。
洞窟内は暗く、松明が無いと辺りの様子がわからない。
最初にラルス王から戴いた松明を使い歩く。
ここは聖なる力があるのか魔物の気配がなく初のダンジョンというより、洞窟探検という印象である。
階数も少なく、これと言った収穫なく、直ぐに最深部に到着した。
「これは…」
石版を発見する。勇者ロトが残したメッセージが書かれていた。
長いので要約すると『竜王の城へ向かうには三種の神器が必要だから、どこにいるかわからない三賢者の子孫達から貰ってね』という感じだ。
「凄い人なのか、そうでないのか、わからない人だな」
この時代の悪しき者、竜王の復活を予期して、仲間にそれを託したってのは、わかるが…。
どこにいるかくらい限定するか…いざって時に集まるように仕向けていて欲しいものだ。
これでは手がかりがあるようで何も揃っていないのと変わらないのではないか。
「戻るか…」
ここは既に最深部、これ以上特に用事がないため、来た道を引き返す。
勇者ロト。
どんな人物であったかはあまり語られていない。
どこの誰かも不明、その後の人生もしかり。突然、空から現れ世界を救い、そして忽然と姿を消した英雄。
平和にした方法は記述に残されている。
『光の玉』と言う魔封じがある神器。
それを掲げ、魔物に侵されていた世界を救ったという。
現在、竜王に奪われたのは、まさにそれである。
勇者が勇者たる所以。
慢心は死を呼ぶ。諦めは停滞となり滅びとなる。
勇者とは、世界を平和に導く存在。
精霊ルビスの加護に守られし者。
多くの口伝が脳裏を巡る。
「俺は本当に勇者か?」
『預言者により導かれた』
右も左も分からないまま、突然現れた使者にそう言われた。
信用に足りる存在かすら、わからない。
流されてここにいる、そう言われても過言ではないだろう。
己ですら出生も何も知らないと言うのに、いきなり祭り上げられた現状。
今この時を生きるためだけに、旅立ちを選択し、剣を振るいここに立っている。
アレフLv.3は自身の謎が深まっただけである。
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Lv.4:ギラを覚えた。
「これは強い!」
ギラ、敵を攻撃できる呪文。魔力消費が回復魔法のホイミの半分で、尚且つ、竹槍より強い。魔力もここへ来て一気に上がったため、今まで以上に遠出ができる。
資金難のため未だに銅の剣すら買えない自分には強力な呪文である。
これで気になっていた、ガライの町に行ける。
あの【ゴースト】だって一発で倒せる。深追いは厳禁だが、【スライム】をうまくいけば一撃で倒せる力もついた。
いざ行かん。
北西にある森は避けて、ずんずんと進む。
強くなって来た気がする。
初めて目にする、灰色のローブを纏った人型のモンスター【まほうつかい】にも遅れは取らない。さすがにギラ二発分必要であるから強いが、その分資金を多く持っていて美味しい。
しかも、物理攻撃はたいしたことがなく、こちらの魔力の枯渇さえなければ、良い敵かもしれない。ただし、向こうのギラ攻撃を除く。
こちらにも魔法攻撃手段ができると、相手もそれができるモンスターが現れるとは、世の中そんなに甘くない。甘くはないが、ガライの町を拠点に変えるのも悪くないかもしれない。
手応えを感じ嬉々として、問題なく町に到着する。
「ここは昔語りの町ガライよ」
優しげな女性が説明してくれた。
話を聞くとこの町は偉大な吟遊詩人のガライが作ったとされている。いつぐらい前の人だったのか、現在は既に時の人らしい。
どう言う偉大な人であったかは謎だが、慕われていたのかもしれない。
(町の名前がガライって言う程だしな)
小さいながら華やかな町を巡る。
「私は聞いた。姫をさらった魔物は東の方へ飛び去ったと」
「噂では、どこかの洞窟に姫が閉じ込められていると言う」
又聞きのような曖昧な情報が歌に乗り飛び交う。
姫の捜索隊が壊滅したことを思い出す。
竜王を倒すと言う目的が分かっているにもかかわらず、その正体は闇に包まれている。
不気味すぎて、倒せるかすら分からない。
次の行き先を思案しながら宿へ向かう。
姫が拐われたとされる東か、近場の南か。
「いらっさい。一泊25Gだよ」
「………」
待て、高すぎるだろ。思わず硬直してしまう。
「どうしたんだい?」
「や、やめておきます」
すごすごと退散する。
いやいやいや、ラダトームの町の宿屋が6Gで、こっちが25Gって何倍だよ。4倍以上だ!
値上がりしすぎだろ。ラダトームの町の宿が、如何に城の恩恵を受けているのかが分かり、痛感する。
ダメだ。ここを拠点とか甘い考えだった。このままだと赤字まっしぐらだ。
ラダトームの町とガライの町の往復修行ランが決定された瞬間であった。
アレフLv.4は資金繰りの厳しさを知った。
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Lv.5:銅の剣を買った。
「毎度あり、竹槍は5Gで引き取るぜ」
漸く手に入れた銅の剣。嬉しさのあまりつい掲げてしまう。
これで千人力だと息が荒くなってしまった。
防具も欲しいところだが、所持金が無いので(あの時、半分取られなければ盾ぐらい買えたのに)布の服で妥協する。
南と東、どちらに行くか悩んだが、さらった奴がいる場所は強そうなイメージがあるので後回し、と言うわけでガライの町から南へと進路を取る。
下ると橋が見えて来た。
各種族の縄張りがあり、橋を越えるごとに強いモンスターが生息しているらしい。
城の兵士からの情報を思い出しながら、歩く。
橋を渡った瞬間、案の定初のお目にかかるピンク色の蝙蝠【メイジドラキー】が襲って来た。しかもギラを連発される。
ギラは先日獲得した攻撃魔法の呪文。
その呪文は魔力の練り方が難しく安定した火力を出せないのが欠点である。
しかし、今回【メイジドラキー】のギラがかなり痛い。めちゃくちゃ痛い。一匹は倒すことができたが、次出られたら分からない。
一先ず退避。まだ、こちらに行くには修行が足りない。
そう結論づけて、取り敢えず東へ行くことにした。ローラ姫をさらった奴がいると言われている場所だ。
強い敵がいるのなら即引き返す。
そう心に決めて新天地へと橋を渡る。
一つ目の橋を渡ったが、まだ陸続きだからか、あまり大差を感じない。
銅の剣のお陰で苦労は少ない。
意気揚々と次の橋に向かって進む。
「まじかよ」
二つ目の橋を渡った瞬間、黄金色の蠍【おおさそり】が出迎えた。尻尾回転と体当たりという物理攻撃しかしてこないので【メイジドラキー】に比べるとマシである。
ギラを駆使しつつ倒せた。
これならまだ行ける。そう判断して引き返し時を探りつつ、進む。
「ここはマイラの村です」
最後は【メイジドラキー】に追い掛けられつつ見つけたのは村であった。
村があることにホッと一息いれて、散策する。
露天風呂があり『りゅうまち』に効くそうだ。竜王への対策になるのかなと片隅で考える。
ローラ姫の行方は掴めなかったが、ここから南下した所にリムルダールという町があり、魔法の鍵を売っているらしい。
しかし、更に魔物が強くなるので、用心するように言われた。
所持金が丁度90Gだったため、防具屋に寄り守備強化目的で、皮の盾を購入しつつ、その横でドムドーラの町の東に素晴らしい武器が売っているという情報を入手。
ドムドーラってどこだよ。
他には【ゴーレム】が妖精の笛で眠るなど、今後どう役に立つかは不明だが忘れずにいよう。
後、今の剣では竜王が倒せないとか。そりゃそうだろう、今持っているのは銅の剣だ。
宿屋へ向かい一先ず体を休めようとした。
「いらっしゃいませ。一泊20Gです」
「あ…」
本日の所持金、先程盾を購入したため0G。
魔力の残りはギラすら撃てない状態、ラダトームの町まで帰る体力が持つか。
買えるっと思って何も考えずに盾を購入してしまった自分が憎い。思わず、天を仰ぐ。
アレフLv.5よ。ご利用は計画的に。
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Lv.6:賢者を見つけた。
「銀の竪琴?」
「そうじゃ、それを持ってきたら、雨雲の杖を授けよう」
マイラの村の一度南に迂回した西側に祠がある。雨の祠と言われており、そこに一人の賢者がいた。
その人の話も長く、要約すると『勇者の力試しに銀の竪琴を持ってこい』と言う話だった。
(どこにあるんだよそれ…)
音楽といえば、吟遊詩人が作ったって言うガライの町だが、そんな話している奴はいなかった。まだ訪れていない町にあるのかもしれない。
残念ながら、探すのも実力のうちというように祠の爺さん……三賢者の一人は教えてくれなかった。
進んでいるようで全く進んでいないとも言える。取り敢えずは、恐らく三種の神器の一つが貰える場所がわかった。
「……な!?」
考え事をしていたのがまずかった。
少し、マイラの村周囲での討伐に余裕が出てきたからと、海の向こうに見えた祠なんて場所に調子乗って足を伸ばした無理が祟ったか。
魔力が枯渇してる今、目の前にいるのはこの地域ではレアに現われる強敵【がいこつ】
殴ってくるだけなのだが、骨しかない体のどこにそんな力がと思う程に、痛い。
認知が遅れた所為で、咄嗟に逃げることも叶わない。ギリギリなのに強くなったと、少しの慢心が仇となった。
過去の同じ失敗を繰り返しているだけに辛い。
「何度目だ?」
「三度目…です」
視線が痛い。全身に残る疲労感。
城に治療されると言うドジを三度踏むことになるとは、情けないを通り過ぎて死にたい。
王に謁見したくない。
半分取られると言う資金難もだが、何より王の小言が辛い。せめてオブラートに包んでくれと思うが容赦がない。
「うわぁぁぁぁーー!」
ベッドに俯せに潜り込み布団をかぶる。
まさに穴があったら入りたいとはこの事だ。
「死んでしまうとは何事だ!」
耳が痛い言葉、トボトボとマイラの村を目指して歩く。
二度とすまいと誓ったのに三度目だ。
瀕死後は徹底的に治療されるが、心が朽ちていくそんな気がする。もう無理だと思うのに、気がつくと助けられている状況。
『一時の油断』この言葉が一番当てはまる。この感覚に慣れてはいけない。
常に助けがあるのなら、今まで旅出た者が帰らぬ者になっているはずがない。
いっそう寂しくなった懐。もう無理はしない。560Gの鉄の斧を買うまでマイラの村周辺で修行する。
銀の竪琴が何だ。魔法の鍵が何だ。
凄い剣が何だ。ローラ姫救助が何だ。
全て後回しだー!!
ヤケクソ気味に進行の邪魔するモノを切り刻む。
アレフLv.6は世界の厳しさを知る。
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Lv.7:ラリホーを覚えた。
「…何だ。この呪文は…」
対敵に使う補助魔法であるらしい。
掛けた相手を眠りに誘う。耐性を持った者には効かないらしいが、現時点では攻撃が痛いモンスター、つまり【がいこつ】に試してみる価値はある。
「……マジか」
早速、出てきた【がいこつ】に掛けると見事に効いた。
起きる時間が呪文を唱えた直後になったり、最後まで永眠していてくれたり、効果がマチマチなのは痛い。己の魔力の練り方が弱いのかもしれない。しかし、これは良い、戦略の幅が広がる。
回復魔法の節約にもなり、一日で倒す量も増える。
ここのところ少し、ホイミでは回復量が足りなくなってきて、戦闘中に回復していたら、ジリ貧になってしまう。睡眠魔法は本当にありがたい。
「よし、順調だ」
目標の鉄の斧を買うことができて、攻撃力も飛躍的に上がった。
【がいこつ】はまだしんどいが【メイジドラキー】はずいぶん楽になった。
マイラの村から南下するのはまだ危険かもしれないが、あの【メイジドラキー】で足止め食らった場所なら捜索可能ではないか。修行も兼ねていこう。
マイラの村周囲の修行は終了とし、ラダトームの城経由で、未知の大地へと足を運ぶことにする。
ラダトーム城周囲は出会い頭に逃げるモンスターも増え、相手をしてもほぼほぼ一撃で倒せるようになっていた。
【ゴースト】相手に手間取っていた頃が既に懐かしく思える。そんな前の話ではなかったと思ったが、強くなったものだ。
修行の成果がでてきたのが嬉しい。
「…………………」
嬉々として大陸を渡ったのだが、いざ着いてみると何もなかった。
町も村も何もなく、荒野が広がっているだけだ。マイラの村みたいなのがあるのかと思ったので、少し残念に思う。
収穫なしと、諦めて帰る途中に、右手にぽっかり空いた洞窟を見つけた。
魔力と松明が枯渇しているため、入るのは諦めたが、万全の準備をして次はそこへ行ってみるかと見当をつける。
人の噂にはなっていないが、もしかしたら、銀の竪琴があるかもしれない。
何時迄も布の服だと心許ないし、今回の探索でほんの少しお金に余裕ができた。
途中、ガライの町に寄り、300Gの楔帷子を買う。
さっき出会った【まほうつかい】も斧攻撃で簡単に倒せたな。
しかし、次にある町はリムルダールか、またモンスターが強くなるのだろう。ラダトーム周辺が簡単になったと、機嫌を良くしている余裕は、ないと言うことだ。
既に三回死んでいるのだ。慢心せず一筋縄で行かないのが冒険だと己に言い聞かせる。
だから、あの洞窟に修行を兼ねて入るのも悪くない。
……。
うん。逃げているわけではからな。
アレフLv.7は目的を忘れそうになる。
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Lv.8:戦士の指輪を見つけた。
洞窟の少し入り組んだ奥に二つの宝箱があった。
その中に少しゴツめのしっかりとしたリングが入っていた。名前の通り、攻撃力を少し上げてくれそうな気がする指輪だ。
もう一つは松明であった。
己が今いる場所は『岩山の洞窟』と言うらしい。
その名の通り、洞窟の周りにゴツゴツとした岩が多くあり、大きな岩をくりぬいたような形をしていた。
そこから地下へと続く階段がこの洞窟の入り口となっている。
初めて入ったロトの洞窟とは違い、中にもモンスターがうじゃうじゃいた。
順調かと思いきやの最初の二つの宝箱以降は、道が入り組んでいて、他の場所へ行こうにも思うように進めない。松明の明かりだけが頼りの暗い通路。幅も狭く、不安を呼び寄せる。
これといって収穫も無く、洞窟内をうろうろと往復する日々。地下一階はまだ見知った敵も多く、倒すのもすんなりいき問題ない。
ぐるぐると彷徨うと何箇所か降りる階段を発見でき、地下二階との関連性の把握が必須となる。
地下二階は更に複雑となり、やや敵も強くなっている。洞窟内だけに出てくる特異な、一つ目の【メーダ】や巨大な蝸牛の【ドロル】は何か特殊なことをしてくるわけではないが、体当たりの攻撃が地味に体力を削られる。そのおかげで、地下二階辺りは長居ができない。
その上、一度帰り道を間違えて、魔力配分が狂ったその時、赤い衣を着た人型のモンスター【まどうし】によるラリホーの呪文攻撃。急速な眠気に襲われ、抗おうとするも熱い炎の感触と不気味に笑う声だけが頭に響いた。
「………」
もはや何も言うまい。ラダトーム城からトボトボと出るのがすっかり馴染みになった気がする。
一度振り返り、城を見る。何度も助かるのは不思議な気持ちだ。
(所持金はきっちり半分取られているけどな)
自分でもわかる。
己はモテ囃されていても実力が伴っていないと言うことを認めよう。
自分は帰還のお守りのおかげで、何とか死なないでいる。そのため、無理しても進めるのではと勘違いしている気がする。これは只の死に急ぎで何の解決にもならない。
勿論、己が全く強くなってないわけではない。それは確かだ。だからこそ、無駄な急ぎは禁物である。
荒野を歩きつつ、計画を立てる。
打開策は防具強化、鉄の盾を購入し、物理攻撃の軽減を計る。
ラリホーとギラを撃つ問題の【まどうし】は戦う前の回復を怠らず、ヤバイ時は潔く逃げる。逃げるのは恥じゃない。生き抜く知恵だ。
何度か窮地に追い込まれたがブラックアウトすることなく、逃げ帰ること数回。
「これで全部…か?」
脳内マッピングでこの洞窟には何もないと言う結論だ。収穫は戦士の指輪のみか。
既に3つほど所持しているが、一つ持っていれば十分だろう。
「売っても二束三文にしかならなかったけどな」
アレフLv.8、苦労した割に拍子抜けるダンジョンである。
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Lv.9:レミーラを覚えた。
「レミーラ!!」
しかし、何も起こらなかった。
何だろうと思い唱えてみたが何も起こらない。
色々試した結果、どうやら洞窟を明るく照らすものらしい。外ではその光が見えずに何が起こっているのかわからなかったというわけた。
丁度、マイラの村の南に降りるつもりだった。
岩山の洞窟方面はあれ以上南に下がると、よりモンスターが強くなるので、潔く諦めた。
リムルダールの町に魔法の鍵があるという。
気になる扉は、今までいた町や村にあった。
魔法の鍵があれば、無断で開けられると言う。
それはそれでどうなんだとも思うが、閉鎖された空間に入れると言うことだろう。その空間に入れると言うことは、まだ己の知らない情報が聞けると言うことだ。
いけない場所に無茶していくより、今までの町の行動範囲を広げようと考えた。
その為にはリムルダールの町に行く必要がある。
リムルダールの町に行くには、毒沼の先にある洞窟を超えなければいけない。
その町の周辺いるモンスターが穏やかであることを祈るしかない。
洞窟に降りて、レミーラの呪文を唱える。一瞬で広がる視野。
「これは便利だ」
松明は風に弱く片手が塞がる。これなら両手が空くし、よほど魔力の節約が必要じゃない限り、利用しよう。
ん…洞窟に風?
「………?」
洞窟には南へ下るのと東へ向かう道がある。風は東から吹いており、そこに視線を移すとなぜか背筋が凍った。
魔法の光が届かないその奥で、渦巻くドス黒い気配。
まだ早い。
ここに足を向けてはならない。
「おあ!?」
どれだけ歩みを止めていたのか、逃げるように後方へ一歩踏み出したとき、直ぐ後ろに【メーダ】がいた。
大きな目をギョロつかせながら複数の触覚のような足で襲い来る。すぐさま斧を振るい対応できたが危なかった。
(あそこは一体)
もう一度、振り返るも異様な空気はなりを潜めている。
『私は聞いた。姫をさらった魔物は東の方へ飛び去ったと』
『噂では、どこかの洞窟に姫が閉じ込められていると言う』
ガライの町で聞いた言葉を急に思い出した。
まさか…。姫はまだ生きている?
あの異様な空気、今行っても無駄死にするだけだ。
(俺はまだ弱い)
首を横に振り、歩き出す。
「………本当弱いな!」
【リカント】青い毛に覆われた狼男のようないでたちのモンスター。一撃一撃の爪攻撃に体力が削られる。
あの後、一本道の洞窟を抜けたら、即これだよ。強い。
「喰らえ、ラリホー!」
攻撃系がキツイ相手にはこの呪文に限る。
名付けて『ラリホー戦法』敵の隙を作るのに十分で、眠っている間にタコ殴りというわけだ。
卑怯とか言ってられない、殺るか殺られるかの世界だ。
ただし、【まどうし】を除く。こいつは魔法が得意な分、効きにくい。逃げるに限る。
最初の余裕はどこへやら、一気にボロボロにされた。
そんな中、湖に囲まれた町を見つけた時、歓喜に震えたのは言うまでもない。
それから、リムルダールの町を拠点に修行の日々。
宿代が55Gと嘘みたいに高いが、モンスターが落とす金額も増えたので黒字である。
武器や防具も強いのが売っているが何せ高い。
宿と外を往復する日々が繰り返される。
「よー。元気にやってるか?」
お陰で、宿屋にいる戦士とも仲良くなり、気安く声をかけられるようにまでなった。
聞けば、同じような目的らしい。
リムルダールの町にはいろんな情報を持っている人が多かった。
指輪についていちゃもんつけるような奴もいたが、強くなるためには妥協しない。
女性は厳しく、部屋に入り話しかけただけで怒られた。
それとは逆にぱふぱふというものがあるらしい。残念ながら50Gは高いので、先送りになっている。
あと、兵士からの情報で、太陽の石と言うものがラダトーム城にあるらしい。
(あるなら最初に言えよ)
なんて思ったことは内緒である。
雨雲の杖と同じで、三種の神器かもしれない。
情報はそんなところだ。
アレフLv.9は身の丈を知る。
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Lv.10:マホトーンを覚えた。
「これは使える」
魔法封印呪文マホトーン。【まどうし】の脅威からおさらばだ。
睡眠魔法(ラリホー)が使えない上に、ついでに火炎魔法(ギラ)も抑えてくれる。奴はもう敵ではない。討伐効率も跳ね上がり、意気揚々となる。
ある程度、余裕が出て来たので、休息がてらこの町を散策したら、老人がここから南にある祠について教えてくれた。しかし、すぐ横の男が首を横に振り、さらに強い魔物がいると悲痛な表情で言うので、現在保留中である。
「ところで鍵屋はどこだ?」
ほぼ見回ったにもかかわらず見つからない。
同じように鍵を探している人物が『あの建物が怪しいが入り口がない』とのこと。
彼と同じように眺めていたが、川を挟んだ向こう側に橋がちらりと見えたので、川淵に沿って遠回りをすると商人の男がにっこり声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ、奥へどうぞ」
促されるまま、奥へ行くと見事に魔法の鍵が売っていた。
六つまで買うことができるが微妙に高い。一個53Gとは、ほぼ宿代である。
鋼の剣(1500G)も武器屋で買うつもりだし、まだ暫くここにいるかもしれないと、遠くを見つめた。
行く日が過ぎて、目標金額に達したため、帰りの寄り道でマイラの村にいる。
リムルダールの町で魔法の鍵で扉を開けると一人の老人よしりーんがいた。その老人から、マイラの村のお風呂から南に四つ歩いたところを調べてみよと言われたからである。
歩数を確認後、早速調べる。
「妖精の笛?」
また用途不明なものを手に入れてしまった。
「妖精の笛を手に入れたか、メルキドの町へ行くがよい!」
丁度、老人がその用途について説明してくれたが全くもって、なんの解決にもならなかった。
そもそもメルキドとはどこだよ。
ラダトーム城へ戻ってきた。
生きて戻ってきたのが久しぶりとか、自分でも意味不明なことを考えながら、魔法の鍵で漁る。
宝物庫は碌なものが入ってなかったから、兵士に睨まれ損だった。
さらに奥へ進むと、体力に自信があるものは進めと言う。
目の前の鮮やかな床に一歩踏み出すと、身体中が痺れた。
「ガライの墓は町の中、町へ入り暗闇の壁を押すがよい」
「はぁ」
苦労した割にあんまり良い情報ではなかっ…あ。
銀の竪琴はガライが所持していた可能性があるってことか。ピンと来て、兵士に礼を言い、痺れる床を再び歩く。
回復しながらじゃないとやってられない痛さ。
「ではなくて、太陽の石どこだよ」
誰も教えてくれないので、ウロウロと探し回る。
「雨と太陽が合わさるとき、虹の橋ができる」
「え?」
裏庭に居た女性がにこやかに話しかけてくれた。
「古い言い伝えですわ」
雨とは『雨雲の杖』、太陽とは『太陽の石』そして虹の橋とは恐らく竜王の城へ行く術。
最後、三種の神器で必要になるのは…何だろう。
裏庭には鍵屋も見つけたが巫山戯るなと言うほど高かった。53Gで買えるのに85Gは詐欺だと思う。
「ここは、行けるのか」
城壁の間にある隙間、その隙間を歩いて行くと池を挟んだ奥に地下への階段があることに気づいた。
その階段を降りて行くと一人の老人がいた。
相変わらず長いので要約すると『太陽の石があるからあげる』らしい。
てことはこの老人が賢者だったのか。
なんと言うか、こんなところで独りで守っていて御愁傷様です。お陰でめちゃくちゃ探し回ったよ。
と思い、再び声を掛けると『用がないはず。行くがよい』と追い出された。
アレフLv.10は理不尽さを知る。
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Lv.11:ガライの墓を目指した。
王に挨拶をしてから、ラダトームの町へと戻る。
何気に寄った町でまさか『銀の竪琴がガライの墓にある』と言う情報が聞けるとは、憶測が確信へと変わる。
これで全て繋がった。
竜王の城に行くには三種の神器が必要。
最後の一つはまだ分からないが、一つはおそらく先日手に入れた太陽の石。
もう一つが、雨雲の杖だ。
この雨雲に杖を手に入れるためには、銀の竪琴が必要。
銀の竪琴はガライの墓にあり、そのガライの墓はガライの町の黒い壁の奥にあると。
最後はよく分からないが、目的地は決まった。
鍵を使い過ぎたので一旦リムルダールの町に戻り、ついでに鉄の鎧(1000G)も買う。
装備も最強とは言い難いが随分硬くなった気がする。
ガライの町の建物の中に碌な情報はなかった。
鍵部屋のさらに奥でひしめき合うようにいた兵士二人は忙しいらしい。早々に追い出され、話し相手にすらならなかった。
(と言うかあんな狭いところで何をしていたんだ?)
「遥か南にドムドーラの町がありました。今もあるのでしょうか」
不安そうな声。男の向く方を見る。
建物に阻まれて見ることができないが、この男の故郷なのかもしれない。城の兵士が滅びた町もあると言っていた。
ドムドーラの町は無事だといいなと思う。
あとはロトの鎧ってのがどこかにあるらしい。強い剣もドムドーラの町の東に売っているとか言っていたな。
ドムドーラの町はさっきここの南って言ってたな。
スタスタと歩き、黒い壁の前に立つ。そして、ぐるりと辺りを見渡す。
順番にコンコンと叩いて行くと…!?
一箇所だけすり抜けることができた。
薄暗いこの建物の奥が黒一色だと、材質が違うのに気づかなかったということか。
その先に道が続いており、魔物を引き寄せる銀の竪琴がこの地下奥深くに眠っていると言う情報が聞けた。
成る程、引き寄せるから、厳重なのか。
墓守に見送られて、ひたすら降りて行く。
階段を降りる度に強くなるモンスター。岩山の洞窟と比べ物にならないぐらいだ。
地下3階では、今の装備では直ぐにやられてしまう。
そこでラリホー戦法がうまく行く。少しづつだが、あまり体力を消費せずに戦う方法を獲得できた気がする。
魔法使う相手にはマホトーンをする。相手の特性を魔力の余裕があるうちに見積もる。
しかし、骸骨剣士【しりょうのきし】はそうは行かない。ラリホーが効かず、攻撃が相当痛い。油断すると直ぐに城送りになる。この場合は逃げる。戦わないと言うのも戦術の一つだ。
目的は銀の竪琴であって、ここのモンスターの根絶じゃない。自己の魔力と相談しつつ潜っては戻りを繰り返す。
最下層に来た時、上に登る階段があった。
脳裏のマッピングではどこにも該当しない。ゆっくりと登ると大事に保管されている宝箱そこに銀の竪琴は奉納されていた。
「お借りします」
短く言い、手に取る。
ずっしりとくるそれは音楽をかじったことのない己にも長き旅の思い出が蘇る気がした。
今は一人だが、もし誰かがこの姿を見たら、似合わなさに笑みを蓄えただろう。それ程、すたぼろで血まみれの状態で竪琴を大事に抱えていたのだから…。
アレフLv.11、少し自信が付く。
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Lv.12:リレミトを覚えた。
「リレミトォォォー!!」
覚えた瞬間に唱えた。
ガライの墓はかなり最深部にあったため、魔力が尽きかけていた。偶然にも脱出する手段ができたことにホッとする。
竪琴は後で届けるとして先にドムドーラの町に行こうと歩く。
ガライの町の南、ラダトーム城から見て西南にあるとばかり思っていた。しかし、ドムドーラの町が見つからない。
砂漠が遠くに見えるが、これ以上奥地に行くと急激に強いモンスターが出てくる。必死に逃げて何とか無事だったが、これ以上は探索は無理と判断する。
ドムドーラの町はどこだ。
ラダトーム城の町で準備を整えてから、竪琴を届けに行く。
途中、何とは無しに弾いたらモンスターが現れたので直ぐにやめた。魔物達を呼び寄せると言われていたことを思い出した。
雨の祠にて、渡すと『待っていた』と言われ、銀の竪琴の代わりに雨雲の杖を貰う。
あの怖いんで、消えないでいただけないだろうか。
夢見が悪くなると、確かめるために再び入ると、宝箱が閉まっており、賢者が何食わぬ顔でその場にいた。
「ここにはもう用がないはず。行くがよい」
慈しみの笑みで追い返された。
もしかしたら、己以外にも任務をこなせた人に杖を渡しているのではないか。あのガライの墓守もグルだったのでは…と色々勘ぐってしまう。
肝試しならぬ、度胸試しと言うべきか。
リムルダールの町に戻り、魔法の鍵の補充と鋼の鎧(3000G)を購入する。
前に仲良くなった戦士がまだ宿屋にいた。
「いよぉ、アレフ! アレフじゃないか。久しぶりだなー!」
まだいたのかと少し思ったが、丁度いいかと、いくつか情報交換した。
やはり、情報は行為的に流されているのは分かった。とは言え、己もいきなり竜王はこちらにいますって言われたら逃げ帰る。
その力を蓄えさすと言う目的だろう。
操られていると思うと複雑な思いが過るが、実力を持って、証明するしかないだろう。
少なくとも、雨雲に杖と太陽の石は手に入れた。恐らく、これ以上の試験はないだろう。
いや、ドムドーラの町かメルキドの町に何かあるかも知れない。
次の日、取り敢えずは気になった南にある祠を探しに行く。
「うわ!?」
南に行く場所のモンスターの強さは、ガライの最深部と変わらずであったが…。
『其方が ロトの血を引く、真の勇者なら印しがあるはず。愚か者よ! 立ち去れい!』
一瞬で外へ飛ばされた。脱出の呪文の応用かも知れない。やるな、流石賢者と言うべきか。
(だけど、もう少し丁寧に追い出してくれ)
したたか打ち付けた腰をさすりながら、立ち上がる。
さて、どうするかな。
アレフLv.12、佳境を迎える。
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Lv.13:ルーラを覚えた。
「しまった。ここはラダトーム城の入り口か」
覚えたての呪文は取り敢えず使う。まさか、そこまで凄いことが起こるとは思ってなかった。
少し前まで、リムルダールの町から南下した場所で、金策と修行をかねてしていた。
そこには【ゴールドマン】がいて通常よりお金を所持しているのだ。魔法の鎧(7700G)を購入する資金を稼いでいるところである。これ以上強い武器は現時点でなく、防御を上げることで対策を取ろうと考えたのだ。
今は目の前に城壁を守る兵士が怪訝な顔をしている。取り敢えず笑いラダトームの町に逃げる。
ルーラは瞬間移動の呪文らしい。なぜかラダトーム城限定だが…色々飛べたら楽だがそこまで甘くないらしい。
これはリレミトと同じで消費が多い、それさえ確保できれば、帰りの魔力を気にせずギリギリまで進めると言うことだ。
前回見つけることが出来なかった、ドムドーラの町に行けるか?
あの周辺はリムルダールの町より、やや強いモンスター。
一つは【しりょうのきし】
見た目こそ【しりょう】と似ているが剣を持っており、その剣の扱いが上手い。お陰で体力が削られる。戦闘中の回復はもうできない状態なので、攻撃力が強い相手は色々ときつい。
もう一つは【よろいのきし】
圧倒的硬さと強さを誇っている。しかもマホトーンの魔法を唱えてくるのでラリホー戦法を封じてくる。
その強敵オンパレードだが、一度でもその町たどり着けたら、そこを拠点にでき、先ほどいたリムルダールの町から南下した場所より効率よく修行ができる。
ルーラの呪文でラダトームの城に戻ってしまったので、予定を変更して砂漠地帯を目指す。
運が良く、あまり強敵に出会わずにドムドーラの町に着いた。
予想通り、砂漠を超えた場所にその町はあった。
いや、正確には嘗て町だったと思われる場所だ。
「ここがそうだったのか」
竜王に滅ぼされた町。人は既にいなく、壊れた建物の残骸が毒沼に侵食されている。商店街の名残かいくつか店のカウンターが残っていた。
更に外とは比べ物にならないぐらい強いモンスターが闊歩している。あまりの恐々にしばし唖然としてしまっていたのだろう。
結論から言うとルーラは必要なかった。気付いたら、ラダトーム城に戻っていたのだから…一瞬だった。
まだまだ強い相手がいる。
竜王はその頂点にいる。そこいらのモンスターに手こずっているようじゃダメだ。
(俺は…勝てるのか?)
期待を背負って、それに答えられるのだろうか。剣技が未熟でただただ我武者羅に強くなって行くモンスターと日々戦っているだけだ。
まだ誰も救っていない。
まだ何もできていない。
「畜生!」
アレフLv.13、スランプに陥る。
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Lv.14:何もなかった。
「ダメだー」
ラダトームの町の宿屋。ごろりとベッド横になる。
何度挑戦しても先に行くことができない。
元ドムドーラの町の近くまではスムーズに行けるようになったが、その先にあるだろうと思われるメルキドの町に行くことができない。
装備も武器も売っている中で一番高いものになっている。
まさか、魔法の鎧(7700G)まで買えるようになるとは思わなかった。
しかし、進展がない。
「俺は本当に強くなっているのだろうか」
ゴロリとまた寝返りをうつ。
リムルダールの町にいる戦士を思い出す。彼もその場にずっといる。
あそこから出ることができないのだ。
このままではいけないのは分かっているが、強い魔物が闊歩している場所へ足を運べない。
魔物を楽に倒せる場所でズルズルと居座ってしまう。
誰だって死ぬのは怖い。だから、動けない。
己も今の現状それと変わらない。停滞だ。
未だに活躍しない妖精の笛を取り出し弄る。
綺麗な音色のそれは、意識を過去へと誘ってくれる。
己の出身は町とも村とも呼べぬ場所であった。発展途中だったと言えば良いか。物心ついた時から、一人だった。
親のことは何も知らない。特別な何かがあったわけでもなかった。
剣の腕が一番に強いわけでもなく、頭が物凄く良かったわけでもない、ごくごく普通の少年。
同年代の子ども、皆と同じ師匠から剣術を習っていた。その人はラダトーム城に勤務していた元衛兵。育成で生計を立てていた厳しくも優しい男であった。
今はもういない。魔物が町を襲った時に犠牲になった。
その後、知らせを聞いたのか、被害状況を知るためか、様子を見にきた兵士に城へ連れていかれたのだ。
頼るものがなくなり、打ち拉がれる己を御構い無しに…。
ラダトームの王とて、何もしてこなかったわけではないだろう。雨雲の杖を手に入れるためのガライの墓の修行システム。
太陽の石が城にあるにもかかわらずその情報を流す兵士をリムルダールの町に常駐させ、その石の一切の噂を城内では遮断した。
自由に歩けることを許された者の力と知恵を試すために…。
だが、そこまでしても竜王は未だ倒されていない。
追い詰められた時、偉大なる予言者ムツヘタよる導き。
『やがて、この地のどこかに、伝説の勇者ロトの血を引く者が現れる。その者が、竜王を滅ぼすであろう』
王はその言葉を信じ、探しているのだ。竜王を討伐してくれる伝説の勇者の血を引く者を…。
だから、一滴でも混じっている可能性のある若者をかたっぱしから集め導こうとしているのだ。
藁にもすがる思いとはこのことだろう。
「今日もやるしかない」
己にはもうこの道しか残されていない。弱音はここまでだ。今自分ができることは、ただ一つ。
前に進むだけだ。
アレフLv.14、初心に返る。
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Lv.15:トヘロスを覚えた。
「へー。これは便利だ」
呪文を唱えるとあたりから魔物の気配が消えた。ラダトーム城周囲では、モンスターが逃げることも多くなったが、出会い頭に戦うことが多くあり、流石に数をこなすと鬱陶しいと言う気分になる。
気合いが削がれると、いざ強い魔物が出てきたときに対応が遅れてしまう。
何度も挑戦して退却しているあの魔のライン。今日こそは越えてやると意気込む。
トヘロスと言う呪文は案の定自分より強い敵には効かなかったが、ここまで来る体力温存には役に立った。
何せ、ドムドーラの町で休憩と言うのが出来ないので、今まで以上の長旅を強いられる。それを完遂できずに、往復する羽目になっていた。帰りはルーラで帰っているのである意味片道だが…。
「って、あれ?」
自分が思い描いていた場所にメルキドの町が見つからない。橋を渡って広がるはただの平原。遠くの方に毒沼も見える。
流石に焦る。デッドラインをようやく超えたのに目的地がありませんでしたって言うのは困る。
いやいやいや。ドムドーラの町の東だよな。
南下し過ぎたか?
ドムドーラの町を目印に東へ西へ、北へ南へ彷徨う。高い山に挟まれた狭い谷間を縫うように歩き回るが、出会うは行き止まりか、毒沼平原のみ。
途中で魔力が付き、何度かラダトームの町へ帰る日々。
「………そう言うことか」
思い描いていた場所より一つ奥。ヘロヘロになりながら、漸く見えた城壁に囲まれた要塞都市メルキド。
ご丁寧に出迎えてくれるのは、巨大な【ゴーレム】
だが、怖くない。
なぜなら、マイラの村で聞いた情報で予測できたからだ。
手には妖精の笛。ちゃんと練習してきた。
奏でる音色は癒しの音楽。
ゴーレムを心地良い眠りへと誘う。
名付けて『ラリホー戦法、妖精の笛バージョン』
卑怯とは言わせない。
【ゴーレム】覚醒、笛を吹く、【ゴーレム】眠る、起きるまで叩く、【ゴーレム】覚醒、笛を吹く……の繰り返し、覚醒時の攻撃がかなり痛いが、なんとか凌げた。
満身創痍ながら、崩れゆく【ゴーレム】を見ることができた。妖精の笛が無ければ突破は不可能だろう。
中に入ると活気溢れる声に驚いた。
ゴーレムを倒したのだが大丈夫だろうか。少し不安になったが、要塞としてきちんと機能しているらしい。
このゴーレム討伐は言わば、この町に入るための条件だったようだ。つまり、倒せなくはないが信仰の証と言うべきか、一見さんお断りということらしい。
この笛を所持しているかがこの厳重な要塞の鍵となる。一度入れば警戒は無くなるというわけだ。
ウロウロと目的のものを探し回る。
求めるは強い剣。どう言う剣かは知らないが噂を信じればあるはずだ。
しかし、表のお店には売っていない。鍵の扉の奥、さらに死角の場所にそれを見つけた。
「炎の剣だね。9800Gだよ」
思わず小さく握りこぶしを作ってしまった。
伊達に苦労していない。所持金も難なく溜まっていたので問題なく買えた。
ふと同じ店で見たこともない盾を見つける。
「そいつかい? 水鏡の盾って言って14800Gだよ」
「………」
高い。わずかに所持金が足りない。
まだまだと言うことだろう。
買ってやる買ってやるとも、待ってろよ水鏡の盾!
少し前のスランプが嘘のように目的が多くでき、気合いが入る。
アレフLv.15、頑張りが報われる。
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Lv.16:案外あっけなかった。
「意味がわからん」
軽い電流が流れているのか歩いている床は一歩毎に体力が奪われる。自分の体力に気をつけながら向かうは、長老の住む神殿。勇者ロトの血を引いてると言うのが証明できる印がある場所を知っている唯一の人物。
教えられたのは細かい数値での位置情報だった。しかし、比べる場所が遠過ぎて、ここだと言う位置が分からない。
考えながら痺れる床を歩いたせいか気付いたら、ラダトーム城に戻っていた。
爺さんのヒントを聞いた後に死んだわけじゃないからな。
断じて、違うからな……畜生。
「行くか」
耳がタコになるほど聞いた小言は右から左。
水鏡の盾も無事に手に入れていたので準備万端だ。
向かうは、ドムドーラの町の東側にあるお店の裏手の木。
実は金額を間違えて800Gほど足りなくて、一度無駄足を踏んだときだ。所持金不足の時にわざわざ来たのに無収穫だとカッコ悪いので、メルキドの町でいろいろ情報を聞いているときに手に入れた情報の一つ。
勇者ロトが残した伝説の防具があるらしい。
それは、ゆきのふという男の手に渡ったと言う。ゆきのふはドムドーラの町で防具屋をしていたらしい。その裏手の木に何かを埋めたらしい。
最後にそのゆきのふが店を出していた場所が、このドムドーラの町の東側と言うわけだ。
今、ドムドーラの町が滅ぼされて、メルキドへ逃げて来た世代のお孫さんからの話だから、信憑性は微妙だが行くに越したことはない。
何せ、このメルキド周囲のモンスターが強いのなんのって、一戦一戦が死闘で油断すると死ぬ。
常に自分の体力を温存して攻撃に回さないと後手に回るともうダメだ。ホイミの回復力だと完全に間に合わない。
さらにラリホーやマホトーンの呪文が効かないモノがさらに増えたことでより、出たとこ勝負になってしまう。
ドムドーラの町を闊歩しているのはほぼそれらと同等の魔物達だ。ちょっと取りに行くだけでも死闘である。
極力、崩れた家々の隙間をかいくぐり、敵と合わないように走り去る。
「…て、まさか」
おそらくと思われる場所に灰色の鎧を纏ったモンスター【あくまのきし】が鎮座している。
まるで、その鎧を守るかのように…。
鎧を持ち去らずに上位のモンスターがここで守っているそれだけで信憑性が上がる。
「負けるか!」
影から不意打ちのように飛び出し、【あくまのきし】に斬りかかる。
相手の攻撃力がやはり回復魔法量を上回っている。己の体力が持つか、相手を倒すのが先か一心不乱で斧を躱し鎧の隙間を攻撃する。
「………」
あっけない幕切れだった。ガシャンと言う音とともに崩れ落ちる【あくまのきし】
思わず、茫然としてしまったが他のモンスターに気づかれたのなら、うかうかしていられない。
土を掘り返すと出て来たのは、宝箱。
その中に鳥の紋様を胸に象られた青い鎧を見つけた。聖なる加護が宿っているのか手に取ると一瞬だけ輝いた。
(だから、滅ぼされたのか?)
たったこれだけのために、このロトの鎧が存在したために滅ぼされた町。
竜王にとって最も脅威な防具だった可能性を感じた。
「強くなったな」
未だに倒すのには苦労するが、しかし先ほどより恐怖を感じない。ロトの鎧が死期を遠ざけてくれる。
アレフLv.16、最強防具と言う意味を実感する。
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Lv.17:ベホイミを覚えた。
「これか」
毒沼の中央に無下に捨てられていたそれ。
鎧と同じく鳥の紋様が象られたメダルのようなもの。
己が求めに求めていたものは、なんとも言えない場所に放置されていた。
『勇者様、お役に立てましたか?』
「…あ、はい」
『嬉しゅうございます。…ぽっ』
王女の愛から漏れる声はとても嬉しそうだった。
王女を助けたのは、ちょいと前。
予想通り沼地の洞窟内で、東南の奥まったところに捕まっていた。
【ドラゴン】が行く手を阻んでいたのだが、メルキドの町周辺のモンスターよりちょっと強い程度だったため、ロトの鎧が手に入った現時点では回復もいらなくあっさりカタがついた。
(待たせてごめんなさい)
第一声に上記の言葉が思わず出かかったがなんとか押しとどめた。ビビって後回しにしていたのがバレたら、面目が…。
『ラルス16世の娘ローラと言います』
丁寧に自己紹介された後、ルーラで帰るのは怖いし、ドロドロで見窄らしいので面目が立たないとか、一度行ってみたかったお風呂のある村によってくれと、いろいろ言われた。
その願いを叶えているうちに夜になったのでその宿に泊まることになったのだが…。
……まあ、悪く無かった。
「勇者様。勇者様をお慕いしておりますわ」
「……はい」
毒沼に浸りながら遠くを見ているうちに通信が切れる。
手に持っているのはロトの印。
ローラ姫の己の現在地探索機能と傷を負いながら手に入れた位置情報で探し当てた。
「愛とは凄いものだな」
実際はルーラの応用で王女の愛という通信機からラダトーム城へ送られる魔力電波の速度で距離と飛んできた方角で位置情報を把握しているのだが、己の知る由もない。
しばらく佇んでいたが、ロトの鎧は毒沼に浸っていても聖なる保護で毒が体内に侵食することもない。常に軽度の治癒魔法がかかっている特殊な装備。
そう言えば、途中でベホイミ覚えたな。
ホイミの上位魔法でとっても使える呪文なのに他のことが起こり過ぎて、意識できなかった。
魔力消費がホイミの二倍と半だが、恩恵は約六倍、ホイミの回復量に不満があったので実質有り難い。
「行くか」
太陽の石と雨雲に杖が合わさるとき、虹の雫ができる。
ロトの印がないとそれを導いてくれない聖なる祠にいる賢者。だが、誰にでも手に入りそうな場所にあるこの印で本当に証明になるのか?
「これぞまさしくロトの印! さぁ、雨雲の杖と太陽の石をよこしなさい」
なったわ。
「俺を疑わないのか?」
「これらを入手するのに片手間ではなかったじゃろう。その実力が証明となる」
短く答えられ、改まった儀式が始まる。
雨雲の杖と太陽の石が光り輝き、見る見るうちに光が収束し行く。あっという間にでき上がった七色に輝く雫形の宝石を手渡された。
案の定すぐに追い出されたが、お前はもう大丈夫と言われたような気がした。
アレフLv.17、勇者ロトとは『実力を持った人』という意味かも知れない。
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Lv.18:虹の橋を架けた。
リムルダールの町から北西にある岬が竜王の島に一番近い場所。流れが速く、波も高く、船では無理と言われている。
断崖絶壁の上にあるこの岬。
昔、ロトがこの場所で橋をかけたとのこと。
「頼むぞ」
取り出し高々と掲げると虹の雫と言う宝石が光輝く。辺りが七色に輝き、向こう岸へと続く橋が現れた。
この効果は一時的らしく、半透明に輝く虹の橋は何とも頼りないが、踏みしめるとシッカリしている。
しばし躊躇うも覚悟を決めて走る。
そして、くるりと南に迂回した後、目の前に聳え立つのが竜王の城。
長い道のりであったが、敵がもう目の前。
慎重に且つ大胆に乗り込む。
入り口に入ってすぐに左右に分かれており、魔法の鍵が必要な箇所がチラホラある。
虱潰しに探すも、いるのは魔物だけ、竜王の気配を感じない。
「……?」
収穫なく何往復か後に見つけた主人のいない玉座。そのサイズは人間が座るには大き過ぎる。この城の最奥にポッカリと不気味に鎮座している。
ぐるりと回ると玉座の後ろに回った際に不自然な切れ目とそこから流れ出る風に気付く。
調べると地下への階段が現れた。
先は暗く、ここからが本番だと気合いを入れ直す。
ダミーの階段が多くあり一階と二階が真っ直ぐ繋がっておらず、脳内マップが混乱する。
上へ下へと振り回される。
モンスターも一段と強くなり、戦略も立て直しとなる。ラリホーが効かない敵が多くなり、回復のベホイミを使うピンクの羽を持つ【スターキメラ】や、人を眠りに誘い永眠フラグを作るラリホー使いの【あくまのきし】は、魔法封印のマホトーンが有効となる。
最深部まで魔力を温存しておきたいが何せ、戦略を駆使しないと、こちらが直ぐにやられてしまう。
剣についても少し不安がある。強い剣と言われる炎の剣を手に入れたときに寄り道で、マイラの村の老人に見てもらったのだが、ダメだという。
「まだ強いのがいるのか!」
見つけた道筋だけ覚え、階数は数えなくなった頃、また一段と強くなった。
一撃一撃が痛い。ラリホーもマホトーンも効かず、逃走すら叶わない一瞬で窮地に追い込まれた。
死ぬこと数回。【しにがみのきし】と【ダースドラゴン】は無理だ。出会ったら最後死ぬしかない。
王様の叱咤はもう聞き飽きた。
お金もある程度必要なものが揃ったから、特に使うことないし、とか言ってたら命の尊さについて説教された。
姫の捜索隊の生き残りの彼を思い出した。
ローラ姫と会いに行った時はもう視力や聴力すら失われている状態だった。
「………」
なぜか、何度も窮地に陥っても生きていられる理由は分からない。
帰還の御守りだけの効果ではあるまい。
「ここは…?」
何度目の挑戦かもはや分からない。階段を降りたと思ったら、登らされた謎の空間。
そこにあったのは………
ロトの剣。
初めて手にしたと言うのになぜか手に馴染む。昔から使い込んでいたような感覚に襲われる。
これが剣に選ばれたと言うことだろうか。
王者のみが手にすること許された剣。王者、即ち、勇者ロト。
何度か、振り抜き鞘に収める。
竜殺しの剣。マイラの村の老人にも太鼓判を押された最強の剣である。
アレフLv.18、皆を救いたまえ。
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Lv.19:ベギラマを覚えた。
「致し方ない! ベギラマ!」
ベホイミを使われる程、厄介なものはない。少し剣で削り、トドメにこの攻撃魔法を使う。ギラに比べ遥かに性能は良いが、不安定なのは変わらない。消費も約二倍半だ。多用すると直ぐに魔力が底に着く。
上記のような【しにがみのきし】に対しての戦略ができてきた頃、竜王城の地下も深いところまで行けるようになった。
【ストーンマン】にはラリホー戦法。状態異常耐性のある【しにがみのきし】には先手必勝。
【ダースドラゴン】にはガチンコ勝負。
ロトの剣を手に入れてから、それらの強い敵とも戦えるようになってきた。
しかし、これだけ探すも竜王が見つからない。大分奥深くまで歩いていると言うのに。
真っ直ぐ階段を降りる場所があったのだが、特殊な魔力に覆われておりループしていたらしい。
何度か力尽きてからの再挑戦を経験した後に漸く気付く。もしやと引き返し階段を上ったら、最初に降り始めた階段の入口へと直に戻ったときは、少し相手の術中にハマった気がして悔しかった。
なんと無意味なことをしていたのかと…。
既に数え切れない数を挑戦した後、最下層にも関わらず、明るい部屋に出た。
キョロキョロと見渡しながら歩く。
途中宝箱を見つけたが良いものは入ってなかった。呪いのベルト(売ると180G)とかいかにもと言うのを見つけた。
呪われたら来いと言ってくれていた人がいたが、いやこれはあからさま過ぎて使う気も起きない。
「………っ!」
開けた場所に出た。断崖絶壁を横からくり抜いたように、日が差し込み毒沼と合わせて緑の芝生が生い茂っている。
庭のように橋がかけられており、そこから遠くにラダトーム城が見えた。
「監視されているようだな」
思わずそんな言葉が漏れた。
ラダトーム城からは上部の城は見えていたがここは死角となり、見えていなかった。
中庭の終着点、少し離れたところにある入り口。
その奥に禍々しいオーラを感じた。いる、最終目標がそこにいる。
今の魔力消費量では、勝てない。最短で来れるように、ここまでくる道のりを覚えよう。
己の考えが正しければ相手は悠長に待ってくれている。
「リレミト」
敵前ではあるが脱出呪文を唱える。
「良くぞ戻った」
どこかホッとしたように出迎える姿に、そう言えば、帰還の御守りを使わず戻るのは久しぶりだったことを思い出す。
現状報告と現時点ではまだ不可能だが、あと少しで行けると予想を告げる。ワンランクアップが必要、やるだけのことはやるしかない。
「勇者様…」
現状が良好へ向かいつつあるのに、なぜか不安そうに声をかけられた。
首を傾げつつ、側に近寄る。
「ローラはあなたのことをお慕いしております。なのに凄く不安なのです」
そりゃそうか、あれだけ傷付き帰還を繰り返していれば不安にもなる。己でもよく無事だと思う。
初めの頃は不安だった。なぜ己がと言う懸念が拭えなかった。確かに、伝説やら言い伝えやら予言やらで雁字搦めで、ひたすら竜王討伐に向けて走って来た。
自由というものがないかもしれない。
勇者とは何か?
どうあらねばならないのか。
答えは簡単だ。
そんなものは初めから無い。
歴史からは方法を学べども、実行するのは現代の己自身の意思。
昔とは違うのだ。同じものを求められても無理だろう。
「姫、私は結構、好き勝手しておりますよ」
姫を助けると言う選択をしたのも…ビビって逃げてたことも、そして前に進むと決めたのも全部自分の意思。
一礼をして立ち去る。
アレフLv.19、使命完了までもう一踏ん張り。
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Lv.20:竜王と対峙した。
「よくぞ来た。わしが王の中の王、竜王である」
歓迎ムードにて確信を得る。こいつは最初から見ていたのだ。
「わしは待っておった。そなたのような若者があらわれることを」
竜王は探していたのだ。実力のある人間を。
「もしわしの味方になれば世界の半分をお前にやろう」
仲間に引き入れるために。それはとても魅力的な提案だろう。これまでの努力が認められたのだから。
「どうじゃ? わしの味方になるか?」
一度目を閉じ、真っ直ぐに竜王を見た。
「確かに、思い描いたことはある。俺は操り人形かもしれないってな」
勇者ロトの血を引きし者と漠然と言われ、ドムドーラの町などを滅ぼした凶悪な竜王を、120Gと松明だけで討伐して来いと言われたのだから。
「ほう。わしならそんなことはせぬぞ」
「そうだろう。お前ならそんな事はしない。事実、待っているだけだったな」
姫を攫い【ドラゴン】に守らせ、ドムドーラの町を滅ぼし【あくまのきし】にロトの鎧を守らせた。
「全てはお前の企みか?」
「何をだ?」
今までの相手とは違うと思ったのか、竜王は訝しげに見る。
「何人もお前を討伐しに行って帰ってこなかった。全員魔物にしたんだろう?」
甘い言葉で心を奪い狂わせた。だから瀕死のときにラダトームに帰るはずの帰還の御守りが作用しなかった。魔物には効力がないからな。
「成る程、それがお前の答えか」
竜王は喉の奥で笑い、抑え切れないのか終いには声に出して笑いだす。
「あぁ、答えは『いいえ』だ」
苦しくても思考が奪われるなんて、ごめんだからな。
俺は俺の意志を貫く。
「愚か者め! 思い知るがよいっ!」
主に杖での打撃攻撃か、激しい攻撃魔法ベギラマが繰り出される。隙あらば攻撃一進一退の攻防。時折、動きを封じるためか魔法封印呪文マホトーンを放たれる。その魔法がこちらに効いていたら回復魔法が使えず死んでいただろう。
だが、伝説の鎧のお陰か呪文は効かず逆に相手の隙となり、一気に懐へ近付き剣を振り上げた。
「やったか?」
崩れ落ちるその姿に少しで呆気なさを感じつつ見つめる。
霞み掛る竜王の体。
バチリと火花が飛ぶ。
何度もなんども折り重なる雷撃が竜王の周りを覆う。
崩れる城の上部。
落下物を避けるために建物の外へ飛び出す。
目の前に自分の身長の三倍程の巨大な竜がいた。
これが本来の姿、つまりこれからが本番ということだ。
激しい炎が全体を覆い体力をそぎ落とされる。
回復を渋っている余裕はない。魔力が枯渇したら負ける。
しかし、硬い鱗で覆われている竜王の体だが、ロトの剣のおかげかこちらの攻撃が効かないわけではない。
絶望ではないが、一瞬の気の緩みが死に繋がる。
そんな一進一退の攻防。
「ベホイミ」
何度目かの激しい炎。業火に包まれ最後の回復を行う。もう回復手段はない。
しかし、相手も無傷ではないはず。
己が死ぬか、それまでに倒れてくれるか、もう己には剣で切り裂くしか手段はない。
「うおおぉぉぉー!」
竜王の攻撃を避けずに剣で食らいつく。赤く染まる視界。
己のか、相手のかすら分からない。
何かが弾ける音がした。
眩しい光に包まれて、それが回復したとき、目の前に竜王の姿は無く、キラキラと輝く球を見つけた。
光の玉をゆっくりと手に取り、空へと掲げる。
アレフLv.20、世界の平和を取り戻す。
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Lv.xx:そんなひどい。
「死んでしまうとは何事だ!」
「好きで死んだ訳ではないです!」
見慣れた光景。何度繰り返されたか分からない。
「嘆かわしい。命をなんだと思っているのだ! 何人も帰ってこぬのじゃぞ!」
「分かっております! これ所持金の半分ですから!」
「これ、話はまだ終わっとらん!」
互いに互いの反応が投げやりになってきている。
「全く、この御守りも万全ではないというに」
ハラハラと父である王と勇者様のやりとりを見ていて不安に思う。
助け出されたときは余裕そうで、まさにこの世に舞い降りた救世主、そう思った。
暗い洞窟の奥、己がなぜ生かされているのかも分からず【ドラゴン】に見張られる日々。
心が押し潰されそうな年月を耐えたときに放たれた一筋の光。その希望の光が勇者様であった。この胸の高鳴りは本物だが、勇者様は今も尚、傷付き戦っている。
それを祈りながら待つしかできないもどかしさ。
「勇者様…」
「はい」
次で竜王と対峙することを告げた。もし我が帰らなければ、次を探せとも。
その言葉の端々に、己の運命を受け入れ、それでも尚、命に従ってくれる強い眼差し。
「ローラはあなたのことをお慕いしております。なのに凄く不安なのです」
数多くの勇者の一人、されど己には唯一の希望の光、失うのがとても怖い。誰一人、あの闇の牢獄から連れ去ってくれなかった。救ってくれたのは勇者様あなた一人です。
「姫、私は結構、好き勝手しておりますよ」
クシャっと笑いかけてくれた。彼の心は死んでいない。そして、既に決意していることが垣間見えた。なぜそこまでお心を強くあれるのか。
束縛されぬ意思の自由。自分は選んでここにいるそう言ってくれたように感じた。
使命でもなんでもない、己を助けたのは彼の意思。
「ならば、私も私の意思で全てを賭けましょう」
ついに世界に光が戻った。あの禍々しいオーラを発していた竜王城から、天高く登る一筋の光、暗くどんより覆っていた雲を突き破り、辺り一面に青い空を覗かせた。
ついに、勇者様が竜王を討伐したのだ。
なぜかそれを知った己の目から涙が溢れ落ちた。
「ありがとうございます」
誰にも聞かれることのない感謝の言葉が漏れた。
少ししてから、戻ってきた勇者様に激励の言葉をかける王。もはやこの国の英雄。在位を譲ることに文句を言うものはいない。
「いいえ。もし私の治める国があるならそれは私自身で探したいのです」
しかし、父の王への誘いを断り、旅立つと宣言した勇者様。わかっていた、理解していた。彼が断るだろうということは。
ならば、勇者様は己が支えたいという意志を貫きたい。
「待ってくださいませ! そのあなたの旅に ローラもお供しとうございます」
階段を降り、勇者様に駆け寄る。
「このローラも連れてって下さいますわね?」
はい or いいえ
THE END
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だいじなもの
No.01:王女の愛。
ここより先、ED後の独自解釈、独自設定のオリジナル展開となります。
勇者とは何か。勇者とはどうあるべきか。
人々は口々に言う。
『世界を救う者』
『他の人が成し得なかった偉業を成し遂げる人物』
『最後の希望』
…。どれも正解だろう。しかし、役目を果たしたその人はその後どうなったのだろうか?
「アレフ様? どうなさったのですか?」
ここはラダトームのお城。この城の一角にある書庫で調べ物をしていたら声が掛かる。書物から顔を上げると、この国の姫君が首を傾げて覗き込んでいた。
「船ができる間は暇なので、改めて調べようかと…」
狭義のアレフガルド(ラルス王が住まうラダトーム城の影響下にある領域)は全て巡った。
昔語りの町ガライ、温泉の村マイラ、湖の町リムルダールに、滅びた町ドムドーラ、そして、要塞都市メルキド。
その中で、喉の奥に小骨が刺さったような僅かな引っ掛かりを感じていた。妙にスッキリとしないそれを解きほぐすために、最初はラダトームのお城のからと思ったのだ。
「何をですか?」
王の許可を得て見せてもらっている本を閉じ、タイトルが分かるように姫に見せた。
「伝説の勇者ロト。この人物のことを私はあまりにも知らな過ぎると思ったのです」
ロトの血を引きし者として祭られ、宿敵である竜王を意思のままに倒した。
死活の問題だったため、何も考えずに倒したが一体、この世の悪とは、そして光の玉はどう言う存在なのか、何も知らずに戦っていたのだと気付いた。
「『世界を救いし空から舞い降りた伝説の勇者。光を玉を用いて世界を平和へともたらした』と言われていますね」
子どもでも諳んずることができる有名な一節。
「そうどこの誰がなんのために、その後はどうなったのか。誰も知らないのです」
己が伝説の勇者として、打ち果たした竜王はなぜ光の玉を盗んだのか。なぜ伝説の勇者は再び蘇ることを知っていたのか。
だからこそ、知りたいと願うようになった。
「私は私である、それは確かです。ですが歴史はいずれ、私を消すでしょう」
「…消させません。あなたがいかに勇敢であったか、全て記録しましょう。私、ローラをドラゴンから救い、試練を乗り越え、竜王を倒し光の玉を取り戻した勇者は、ローラにとってただ一人。アレフ様、あなただけです」
身を乗り出し、己の手を掴み、必死の訴える。予想外の姫の強い言葉にタジタジになるも、どこかこそばゆさを感じる。
「分かりました。アレフ様が納得できる方法を探しましょう。ローラは何時もあなたの側におります」
一人納得し、握った手を強く握りしめ、決意を表明する。
「あのローラ姫?」
「少しお時間を頂けますでしょうか? 身支度を整えたく思いますわ」
ゆっくりと可愛らしい笑みなのに、この有無と言わせぬ迫力があるのは、なぜだろう。
あのときも、拒否権は無かった。
「………はい」
短く答えると満足したように手を離し、頬に手を当ててから。
「嬉しゅうございます。…ぽっ」
と、恥ずかしそうに身体をくねらす。そして、毎度お馴染みっと言ったら失礼かもしれないが、愛の言葉をもらう。
(この様子だと、この旅にも付いて来る気だろうな)
手にしていた本を見つめて思案する。
始まりはここの王になることを断り、旅立つと宣言したあの日、代わりに褒美として欲しいものを聞かれたので、ラダトーム領外に出るための船をお願いしたのだ。
その船はお古ではなく新しく作るため暫くかかる。もしかしたら、その船にローラ姫が同行するので、その時期を先延ばしにしようとする魂胆もあったのかもしれない。
その間、自分は何もできないので、引っ掛かりを覚えたことを解決しようと、動き出したその時である。
「参ったな」
いくら平和と言えども、完全にモンスターが消滅したわけではないので、道中は危険だ。
この説得で折れる姫ではないことは、十二分に実践済みである。こちらが『はい』というまで諦めない強引さは見習いたいものである。
言うなれば、己の運命は贈り物(王女の愛)を受け取ったときに決まっていたのだ。いや、助けることを選択した時点かもしれない。
「アレフ様。太陽の石を管理なさっていた賢者様にお話を聞いてみてはいかがでしょう?」
いいことを思いついたと手を合わせた彼女に、声を出さずに頷くだけに留める。
No.01、勇者の残滓。
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No.02:太陽の石。
ラダトーム城の死角にある城壁に、囲まれた隙間を歩き、池の縁に地下へ降りる階段がある。
以前来たときと変わらず薄暗い地下に賢者がいた。
「なぜ太陽の石を守っておったかか?」
「はい。あのときすぐに追い出されたので、詳しく聞きたいと思ったのです」
詳しく聞くな、そう言われたような気がしたのだ。だが、今は大丈夫ではないかと。
「無事、勇者になったな。ならば知っても良いか」
「やはり勇者とは選ばれた存在というより、成し遂げた存在なのですね」
確かめるように聞くと、目を閉じ、深く頷く。
「アレフよ…。そなたがこの地に、再び光をもたらすことをわしは信じておったぞ」
選ばれた多くの中の一人だったのだが、その中でも己のことを信じていたというのか。
「それはどういう……」
「わしに太陽の石を預けに来た勇者ロトの姿は、今でもはっきり覚えておる」
言葉を遮られたが、そんな事より発せられたその意味が分からず戸惑う。
「そなたには確かに勇者ロトの面影が…」
「待ってくれ、勇者ロトを知っているのか!」
この老人はロトが神器を託した賢者子孫じゃなくて、その人だというのか。
自己の混乱をよそに淡々と語る古の賢者。
「万里の理に背いた人の末路と言うべきかのう。皆、言葉を託し、朽ちて逝く」
謎かけのような答えのない問いのように、質問の答えがするりと逃げる。言葉に窮すると話は終わりと老人は立ち上がる。
「さて…。長い間、太陽の石を見守りつづけて わしも少しばかり疲れたわい。そろそろ 休ませてもらうことにしようかのう…」
ゆっくりと地下の寝床へと歩む。その後ろ姿に、何も言えなかった。何かを知っている。だけどそれは口に出したくないものだと、そう言っているようだ。
ゆっくりと地上へと戻る。
「逆に謎が深まっただけだな」
一度振り返るも、この地下室の謎と同じく暗闇が見えるだけであった。
(しかし、あの賢者は幾つなんだ?)
もしかして、勇者ロトってそんなに前の存在じゃないのか。数百年、いや、数千年前と言われている存在のはず。普通の人間なら生きてはいない。変な方向に想像が行き、ぞくっと身震いして城へと戻る。
城へ戻るとローラ姫が何時もよりラフな格好で、出迎えた。
「アレフ様、お話は聞けましたか?」
「少しだけですが」
頬を染めて、お役に立てて嬉しいですわと喜ぶ。
「お父様の許可を頂きましたの。ローラは何時でもいけます。直ぐに出発しますか?」
あー。やはりついて行くつもりなのですねっという言葉がでかかったが飲み込む。己に拒否権はない。
「そうさせていただこうと思います」
そういうとローラは嬉しそうに微笑んだ。
No.2、賢者の重責。
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No.03:銀の竪琴。
「ガライはなぜあそこに町を作ったのだろう」
当時の記録は残っていないらしい。初歩的な疑問が湧いた。
海沿いの町で他国との交流は取りやすいかもしれないが、山を隔てる為、南東にあるラダトーム城や北東にあるマイラの村とは交流がやや取りにくい場所である。
「音楽の町にしたいと、銀の竪琴に選ばれたときに移動したと言われていますわ」
己の疑問に素早く答えたのはゆっくりと優雅に歩むローラ姫である。歩きにくい引きづるようなロングドレスを避け、踝までの丈のスカートに、踵のあまり高くないブーツ、ティアラは外しており髪を緩く纏めている。
己としては普段のドレスよりマシだが、十分機能的でない服装だと思ってしまう。しかし、過去のように抱きかかえての旅ではなく、共に徒歩であるので十分進歩かもしれない。
いつもの三倍かけて、目的地のガライの町に到着した。
『銀の竪琴に選ばれた少年は、襲い来る魔物の恐怖から逃れるために町を築いた。彼の墓の奥深くに眠るそれは、彼の亡き後も未だに魔物を呼ぶ音色を奏で続けている』
これが竪琴に関する口伝である。
音楽の町だけあって、弾き語りが主な伝達でその内容は脚色もあり、真実が曖昧になっている。
「知っていることは、魔物を呼ぶ竪琴に魅入られたが故に、ドムドーラを追い出され理想を夢見てこの町を作った。今はもう娯楽で破滅へと向かう町よ」
ガライの墓入り口で番をしている老人は寂しそうに語る。人の醜さが露見した出来事。大陸の外れにある理由が悲しいものであった。
なぜか昔語りの町ガライに関わらず、ガライ本人の口伝は乏しく一番詳しいのが墓守の老人という。既に忘れ去られ行く存在。
「ガライの故郷は、嘗て商人の町と言われたドムドーラの町じゃったとか」
ドムドーラの町が襲われ後、魔王に恐怖したメルキドは守りを固め、この大陸の王は勇者を求めた。
「なぜドムドーラが襲われたかは分からぬ。もし寄ることがあれば彼奴にこの琴を返してやってくれぬか? ここにはもう必要がない」
死人に口なしだが、琴は未だに亡き主人を求める。ガライの魂はガライの墓ではなくドムドーラの町にいると言うのだろうか。
「…ガライは勇者ロトにあったことはありますか?」
語りの最後に尋ねる。
「触れてはおらなんだな。しかし生きた時代は同じはずだ」
伝説の勇者に会っていたら残っていそうだが、ないというのは接触がなかったと言えるのではないかと思う。しかし、この老人は明言を避けた。一応ガライの子孫は居るようだが、それを自慢することなくヒッソリと暮らしているらしい。
「そう選ばれし者は共通かもしれんな」
最後に言われた言葉が心に残った。
結局は全てが分かるわけでもなく、真実はとても曖昧なものになっているのだろう。
「夢から誘い、行く末待たずに、空を見る。人から人へと希望は渡り、夢を再び追い求める」
「それは?」
歌う姫に尋ねる。
「ここの人たちが歌っていた歌ですわ」
綺麗な歌だったので思わず口ずさんだと恥ずかしそうに返され、なぜかこちらまで恥ずかしくなった。
No.3、夢の語り部。
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No.04:ロトの鎧。
「ここがドムドーラの町」
姫は無残に廃墟となっている町に呆然と佇む。強い魔物の闊歩は既にもう無いが、荒れ果てた家々は、何も手を加えられずに放置されている。
平和になったから再びこの町を復活させようと言う気力は、もう無いのだろう。
「あれは…」
人…いやまさか。輪郭がハッキリしない人型のそれは既にこの世のものとは思えない。己の目で見えるとは…。なんとも言えない複雑な思いがする。
「おや? あなたには私の姿が見えるようですね。私の名はガライ。嘗てこの地を旅していた吟遊詩人です」
ゆっくりとこちらを向き直り、にっこりと微笑む。その表情は周りに安らぎを与えているように感じた。
預かった銀の竪琴がガライの元へ行きたいと反応する。それにガライが対応しスッと手を差し出す。竪琴を渡すと宙に浮いた竪琴が光り輝きガライと同化する。
ポロンと鳴る音。そして語るように呟く。
「嘗て、ここドムドーラも、それはそれは賑やかな町でした。ほら、こうして目を閉じると、あの頃の情景が浮かび上がってきました」
歌うように語る。彼にはその情景が目に浮かんでいるのだろう。残念ながら実質の世界では見ることは叶わない。しかし、奏でられるメロディがその頃の賑やかであっただろう想像を掻き立てる。
「人はなぜ疑うのでしょう。人はなぜ大切なものを守れないのでしょう。なぜに平穏は奪われるのでしょう」
ここにあったのはロトの鎧だ。
「魔物にとって脅威の防具がそこにあったからではないか?」
「琴に選ばれたばかりに私は魔物の子として追い出された。その気持ちはわからないでもない」
彼は静かに自分の生い立ちを語る。歌が好きだった少年は禁断の竪琴に触れてしまう。その後、呪われたかのように琴に魅了され、幾度と魔物に襲われる。人々の不信の視線に耐えかねて町を飛び出し、新たな町を作ろうとも、琴はガライを惹きつける。死してもなお、御霊は解放されていない。
「偉大な力は恐怖を生む。人々の不安を呼び起こす。あの時はそれが必要だった。しかしその強さは封印せねばなりません」
人が人として生活して行くために…人が人以上の強さなんて、平和な世の中にはいらない。
歌うガライの言葉の裏にある人物が思い浮かんだ。
「ガライお前は勇者ロトを知っているのか?」
優しい笑みを浮かべたガライは、ポロンとのどかな町のメロディを残して空気へと溶け込んだ。
「………」
「アレフ様ここに何があったのですか?」
答えが得られぬままに消えた場所を見つめる。そして、その延長にある建物の隙間から見える木に視線を移す。
「確かなことはないです。俺が知っているのはゆきのふと言う男がこのロトの鎧をドムドーラが襲われるまで、所持していたということだけです」
見つけた場所、当時の武器と防具の店の裏手にある木まで歩む。立派な木は今もなお平然と立っていた。
ガシャンと音がして、振り返ると【あくまのきし】が襲い来る。姫を即座に後ろに囲い、振り下ろされる斧を盾で防ぐ。執念の意思か、他の【あくまのきし】より重い一撃が来る。
来るなら倒すまでと剣を構えた。
「もう大丈夫です。渡るべき人の手に渡っていますわ。ローラの愛する勇者様に…」
背後から有無を言わせない口調でローラがゆっくりとそう告げると光が【あくまのきし】の鎧を貫き、そして動かなくなった。
「今のは…」
「ゆきのふの信念でしょう。恐らく『ロトの鎧を後世まで残す』と言う使命を、全うするために魔物となってしまったのですわ」
想定していた問いの答えでは無かった。直ぐに姫の意図している答えに思考を切り替える。
既に取られていると気付かずにその場を守り続けていたというのだろうか。倒すだけ倒して、持ち主の想いを考えて来なかった己を恥じた。
「せめて安らかな眠りを…」
「もう竜王の残滓はありませんから大丈夫ですわ。それに今の持ち主が勇者アレフ様と分かってくださったようですので、今後はこのようなことは起こらないと思います」
ニッコリと笑い断言する姫に少し背筋に冷たい汗が流れたのは内緒である。竜王は人を魔物化させることができる。もしかしたら、ゆきのふもまた魔物化され、人に鎧が渡らぬように仕組んでいたと言うことか。
結局、姫が何をしたのか分からず仕舞いだ。胸元に彼女が掲げたローラの愛がキラリと光り輝くだけである。
No.4、破魔の呪文。
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No.05:ロトの印。
「そうですか、祖父は今までずっと伝説の鎧を守り続けていたのですね」
要塞都市メルギドの南西の隅にゆきのふの孫にあたる人が住んでいる家がある。
「私の親はやっとの思いでここまで逃れて来たそうです。幸い店は儲かっていて蓄えもあったので、私は楽な生活をしてますけどね」
事後ではあるが報告がてら、ゆきのふの孫に話をすると、既に防具には興味なく、今の生活を満喫していた。無断拝借を追求されずに済んだのは有難い。
「私はよく覚えていないのです。物心付いたときにはここに移り住んでましたので」
いつの時期に襲われたのか素朴な疑問が湧いて質問したが正確な解答は得られなかった。全て後から聞いた話だという。
「竜王はそんな前から動いていたのか」
確かに言われてみれば、己自身も王に呼ばれるまで竜王の存在を認識していなかった。ただ生態系の狂いは無意識のうちに小さな違和感として気にしていた。最も実際に戦っていたわけではないので、大人の話の受け売りでしかなかったが。
「正確なのは分かりませんが、竜王は長年父を苦しめておりましたわ。動かぬ不気味さがあったとか」
ローラが捕捉した言葉に竜王は何を求めていたのか、新たな疑問が浮かんだ。唯の悪の根源と思っていたのだが果たして、その真相は…。
「ロトの印がなんなのか知っておるか?」
答えの出ない疑問は置いておいて、メルキドにはもう一人訪ねたい人がいた。ロトの印の管理者である。
彼曰く、自分は使うことは無理だが、人を見定めて、印を託す役目を負っているとのこと。
「使う? これは何かに使えるのか?」
毒沼に放置するようにおいてあったそれが、虹の雫をくれる老人(おそらく賢者の一人)への証明書という意味だけだと思っていた。
「ロトの装備を主に定着させるものよ。その印を扱える事こそ、お主がロトの血を引きしものの証明。そして…」
老人は咳払いをして、一旦間を置く。
「残りの装備の道標になるじゃろう」
ちょっと待て、軽く衝撃的なことを言われた気がする。逸る気持ちを宥めて細かく聞く。
現在、己が持っているものは印の他に鎧と剣である。更に兜と盾がこの世界のどこかにあるという。
「これだけではなかったのか」
しかし、このアレフガルドは隅々まで探索したはずである。と言うことは外の世界、海を越えた別の大陸にそれは存在しているということか。
手に持った何気ない印を回転させて、想定外の役割を持つ不思議なメダルを眺める。もう脅威がいなくなった今、無理に集める必要はないだろうが、まだ見ぬ残された装備に心が揺らぐ。
「まさかの新事実ですわね」
道すがら、先程攻撃から身を守る際に使用した左手に持つ水鏡の盾を見つめていると、姫はそう答えた。
確かにロトの鎧とその剣は青色で統一されており、金の鳥を象った紋章がその鎧が間違いなくロトの装備であることを物語っていた。
対する水鏡の盾は装飾が綺麗に施されているが、主の色は水色で、装飾は銀縁であり、言われてみると少し統一感がないとも言える。
実際は性能重視であったため、特に気にはしていなかったが。
「勇者ロトはもしかして、見栄っ張りだったのだろうか?」
その考えに行き着いたとき、ローラが再びクスクスと笑う。
「疑問解決のとっかかりが得られましたわね」
「成る程、アレフガルドから姿を消した勇者ロトは外の世界つまり、海を越えたと言うことか」
己の知らない場所がまだあると言うことを知らされた気がする。
『空から舞い降りた』と言われているがもしかしたら、比喩か、それらしく物語調に語り継がれてしまっていたのかもしれない。
「年月に風化は避けられないか」
「それは人の定めかもしれませんわ」
つい考えを整理するために出た独り言が全て拾われたことに今更ハッとなる。
同行者がいることは戦闘になれば直ぐに認識できたが、一人旅が長いあまり、ついその相手と談笑することを忘れてしまう。
「姫、すみません。考えに耽っておりました」
「ローラはそんなアレフ様も素敵だと思いますわ」
「あ、はい」
にこやかに笑顔で返されるとどうにも話が続かなくなってしまう。
真っ直ぐ見つめられては視線を合わすのが気まずく感じる。難しいものだ。
No.5、沈黙の微笑。
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No.06:雨雲の杖。
「そなたが無事に倒したようじゃな」
老人いや賢者は開口一番に目を細めて迎え入れてくれた。
ここは温泉の村マイラの西にある雨の祠。雨雲の杖を管理している賢者が住まう所である。
「もう一本いるか?」
賢者は宝箱から取り出し、ローラ姫に渡す。
「大した力は無いが虹の雫の片棒を担いでおったものじゃ、今後の役に立つじゃろう」
「ありがとうございます」
キョトンとしていた姫は笑顔で受け取る。
「やはり量産できるものだったのだな」
唯一無二の太陽の石とは別に複数生産できる雨雲の杖。賢者は技法を代々継承してきた存在だという。
「そこまで量産はできぬよ。雨の降る日に魔力を貯めることができる杖を用いて、雲をかき集めるとできる。口で言うのは簡単じゃが強いものを作るにはそれだけ年月がかかる」
「どう言うことですの?」
言葉の意味は理解しているが、なぜその会話が今行われているのか把握できずにいる姫が尋ねる。
「勇者として選ばれたのは一人ではないと知るきっかけです。リムルダールの町にいた戦士も雨雲の杖を所持していたのです」
やっとの思いで手に入れた雨雲の杖を既に別の人が手に入れていた。モンスターの強さを鑑みて、王により己の力を試されたと言う結論に至るのに時間はかからなかった。
重圧の解除と落胆、どちらが強かったか今ではもう分からない。
「彼には色々助けて貰いました」
彼がいなければ、落ちぶれていたのは己だったかもしれない。あそこから動けないでいた彼だったが、色んなことを知っていた。それが心の助けとなった。孤独ではないと。
「まぁ、そうだったのですね」
「まだあそこにいるのだろうか」
最後に会ったのは竜王を倒すため、竜王城に乗り込む前のときだ。既に遠い記憶のように感じて苦笑いが漏れる。
「して、まさかその事について聞きに来たわけではあるまい」
あのとき、忽然と消えたのはその瞬間に銀の竪琴を返しに行っていたそうだ。ガライの町にルーラで飛んでいけることが凄く羨ましい。
「竜王か、勇者ロトのことを知っていたら教えてくれないか」
簡潔に用件を述べた。
「ほう。竜王とな。なぜ気になさる?」
「力を手に入れた直後に世界を支配しなかった事について、少し引っかかりを覚えてな」
ローラ姫を攫ったのは己が旅立つ半年前。ロトの鎧を奪うために町を滅ぼしたのは少なくとも十年以上前。ラルス王が決定打に欠き、手をを拱いている間に全ての世界を滅ぼすことは容易だったのではないかと勘繰る。
「お前さんがその疑問を持ったのが、平和な世の中にしてからで助かったのう。多くの者がそこで竜王の口車に乗せられ帰らぬ人となった。彼奴は策士じゃ。ただの魔物ではなかった」
賢者はそれから口を噤み己に背を向けた。
賢者はそれぞれ何かを知っているだがそれを教えることはないだろう。
「………。竜王、勇者ロト」
話を聞けば聞くほど、その実態は不透明となる。謎が謎を呼ぶだけで何の解決にもならない。己が考えているよりも複雑で解きほぐすことが不可能なもののように思えてくる。
溜息と共に空を見上げる。マイラの村の名物、露天風呂。湯気の向こうに煌めく満天の星。己が物心ついた時から空は暗闇だったこの世界。竜王の支配が継続していたら、少なくとも己は、この夜空を見ることが叶わなかっただろう。
己が成し遂げたことに後悔はない。しかし、知らな過ぎる。己の行き先は己で決めると誓った。どんな形であれ、納得いく回答を見つけなければ…。
「アレフ様、まだおられますか?」
湯気の向こうから聞き慣れた女性の声が聞こえる。………え?
「いや、待て…あ、いや、直ぐに出ます。そこを動かないでください」
そうだここは混浴なのだから姫も入るに決まっている。考えが煮詰まっていてつい長湯をしてしまったようだ。
「大丈夫ですわ。ご一緒させてくださいませ」
いつもの調子でとんでも無いことを言う。しかし断ろうにも一度決めたことに関して、彼女は己が折れない限り、承諾を要求する。
ここから先の出来事は己の口からは言えない。あえて、言うなれば、翌日宿屋の主人に『昨夜はお楽しみでしたね』と久しぶりにそう告げられたとだけ、言っておこう。
No.06、健全なる精神。
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No.07:妖精の笛。
「そうだ、私が作った」
湖の町リムルダール、古来より湖の島に町を設けることで、外敵から身を守ったと言われている町。
そこの宿屋の特別室に住んでいるのは、よしりーん、妖精の笛のありかを教えてくれた老人。
「あのゴーレムは人が作り出したのか?」
「そう、あの竜王よりはるか前にもこの世界は脅威に晒されておった。勇者によって倒されたが、その時、力持たぬ人間は魔法の力でそれに対抗する手段を模索していた結果があのゴーレム」
この人は要塞都市メルキドの元研究者だったと言う。ゴーレムは完成することなく再び竜王の脅威に晒されてしまい、焦って不完全なまま起動し、制御不能の殺戮兵ができてしまった。
「不完全なもの程、脅威なものはない。この眠りを誘うこの笛は、魔力の供給を一時的に止める作用があった。しかし、ゴーレムを完全に制御するすべではない」
唯一の対抗手段である妖精の笛は、長年入り口で暴走を続ける失敗作(ゴーレム)の対応を麻痺させる。町を襲わないゴーレムは安全と誤認して、心のゆとりを生むのに十分だったのだろう。そして、直そうと躍起になってた人々も研究に興味を失い散りじりになった。
「だから、俺が倒しても町の人は無関心だったのか」
「恐らくは面倒ごとが一つ減った程度の認識だろう」
『勇者』によって倒されたことにより、町の人は対抗心を燃やすのを諦めることにも繋がったと言える。そのことに少し複雑な気持ちになった。
「貴方は勇者ロトをご存知か?」
「知らん。口伝にのみ知る存在。ゴーレムの製作を引き継いだときに『世界が再び恐怖に陥ることを予期していた』とも言われている」
だからこそ、世代を超えて長年ゴーレムの研究に明け暮れた。今目の前にいる老人はその成れの果てとも言えるだろう。
「一人の壮絶な人生を垣間見たような気分だ」
空気に飲み込まれたため、外に出たとき思わず溜息が出た。
「誰も彼もまた、竜王という脅威に振り回されていたのでしょう」
凛と前を向き、その現状を受け止める姿は王女として、相応しいものなのかもしれない。
「そのお孫さんは彼女とすれ違いつつ、デートに勤しんでるみたいですよ」
毎回、待ち合わせ場所を町の角にしている理由は不明だが、今回は以前見た位置と互いに逆だったので、この二人はある意味、気があっているのだろうと思う。
「まぁ!」
少し頬を赤く染めたローラ姫は、自分たちも負けていないというように己の腕に手を回した。勿論、歩きにくかろうが拒否権はない。
「ここに居たのか」
「おぉ! 久し振りだなー!」
リムルダールの宿屋にいなかった戦士は、相変わらず、元気がいい。
「ここで何を?」
なぜか魔法の鍵屋で粘っている。
「お前のお陰で、魔物の数が減っただろ? 宿代が稼げなくなってきたから、ここのじーさんに弟子入りして、鍵の研究しようと思ってな!」
奥で『認めておらん』という声を聞きつつ、やはりこの男はヘタレだが逞しいなと思う。
「ロトか。この鍵はロトが持っていた物の模造品と聞く。元は半永久的に使えたそうだ」
消耗品のおかげで儲けさせてもらっていると薄ら寒くなる笑みを浮かべた。それでもここの値段が一番良心的だったことは記憶に新しい。
「よくは知らん。ロトは我々が用いない技術を持っており、その存在は異質だったそうだ」
「俺はその鍵を復活させることを人生の使命にするつもりだぜ!」
叶うといいなと心の中で思う。声に出すと長くなりそうな予感がしたから。
No.07、研究の成果。
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No.08:虹の雫。
「雨と太陽が合わさるとき虹の橋ができる」
古い言い伝え。これはロトがこの地に降りる前からある言葉らしい。それに従いロトは賢者に杖と石を託したと言う。
「ついでじゃ、これを元あった場所に返しておけ」
投げ渡されたのは太陽の石。扱いが雑だな。国宝級ではないのかと思うが、それを言うと追い出されかねないので、言葉を飲み込み、用件だけを伝える。
「そうか。ロトが初めではなかったのか」
「この地に古来より伝説はある。その伝説の勇者に准える程の強さ。それを称してロトと呼ぶ。一番有名なのがそなたの言うそやつだがな」
不器用な口調で告げる。対応の悪さは相変わらずのようだ。
「神話になる程の大昔の言い伝えに則ったと言えば、分かりやすいかのう」
賢者の話をまとめると勇者ロトの名は古い言い伝えに沿ったものらしい。伝説になるためにここに舞い降りたとでも言うのだろうか。
やはり本当に伝説の人だったとでも言うのだろうか。
「伝説の一人歩きか」
「そなたも何れそうなる。現に国を出るのだろう?」
「まぁ、俺自身に被害が及ばなければどうだっていい」
物語が誇張されて作られても、この国から出て行くつもりだから、これ以上知られることもないだろう。
そこまで考えたとき、ふと『同じ』だったのではないかと思った。思い出すはガライの歌。
悪を滅ぼす力はそのときは希望である。しかし、その後は…。そこまで考えてなぜか、海を越えた理由がとても悲しいものだったのではないかと思う。
「あ、ロトも関わりを絶ったのか」
「そうだと思うのならそうだろうて」
この賢者は一応質問には答えてくれるが全てが投げやりだ。答えてくれるのは恐らく、己がロトの印を持っているからに過ぎないそんな気がする。
ふと、雨の祠にいた賢者の言葉を思い出した。
「なぁ、竜王はどう言った存在なんだ?」
討伐前は多くを語ることを拒否した三賢者。その裏には己への精神的配慮がもしかしてあったのではないか。それが勇者ロトの本質へ繋がる鍵ではないだろうか。
「知ったところでそなたには何もできん。ただ待つだけの身、運命なんぞ大それたことは言わん。たまたま成し遂げたのが、そなただっただけじゃ。それでも知りたいのなら今一度、奴の根城へ行くがいい」
突き放すように言いそして例のごとく祠の外へ弾き出された。いや、その呪文(バシルーラ)は辞めてもらいたい。心臓に悪い。姫と一緒にいても御構い無しとはこれいかに。
「アレフ様、やはり重荷ですか?」
リムルダールの町へ引き返している途中、ローラ姫はキュッと眉を顰めて言葉苦しそうに尋ねた。
「え?」
何のことかわからずに聞き返す。
「アレフ様は竜王を、世界の脅威を倒してくださった英雄です。誰もが成し得なかった偉業をたった一人で成し遂げました。この価値は国を挙げて評価されるべきものです」
それこそ、成果が出ない不甲斐ない王よりも、平和へ導いた勇者が王となる資格を得るに値する。それ程の価値があるものである。
何度力説しようが、どこか実感の薄い反応となっていることにローラはヤキモキする。
「ですが、それが重荷であるのでしたら、私ローラは…」
「待ってください。確かに成し遂げた大きさに驚いてますが…っ!」
途中まで言いかけたが、魔物が動く気配を感じとる。
「下がってください!」
現れた【リカントマムル】にとっさにラリホーの呪文を唱えて眠らす。そのまま永眠してもらったが攻撃手段を持たない人にとって、数が減ったが未だに脅威である。
これを見ると本当に己は竜王を倒したのか気になるものである。
「外は危険です。先にリムルダールに戻りましょう」
話を中断させて、帰りを急ぐ。空は雨が降りそうな嫌な天気であった。
まるで空が虹を求めているように思えた。
No.08、暗雲の空。
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No.09:ロトの剣。
「あぁ、わかったよ。なぜロトの剣がここにあったか、なぜ虹の賢者がここへ来るように言ったのか」
ここは竜王の玉座。竜王が巨大化したことにより、この部屋の一部が崩れ落ちている。
「こんな場所で戦ったのですね」
戦闘の激しさが垣間見えたからか、後方で息を飲むローラ。
一番危険な場所であるここには、流石に連れていけないと一度は言ったが、『大丈夫です』と真っ直ぐな目でそう言われたので、説得を諦めた。
「確かにここで最終決戦がありましたが、そうではありません」
瓦礫を乗り越え玉座へと歩み寄る。そこには何か黒い塊が鎮座していた。
「これは?」
「分かりませんでも良くないものだと思います」
答えながらロトの剣を真っ直ぐに振り下ろす。互いに反発し黒い火花のようなものが飛び散る。
何度か切り込んだが、それは割れることなく黒いベールがそれを守っていた。
「恐らく、ロトはこれを見つけて、悪の今後の復活を予測したのではないか。そしてそれに対抗しうる力をこの最終の場に来れる実力のある人に託したのです」
賢者達は知っていたのだ。この平和が一時的なものであることを、そして竜王も知っていたのだ再び復活できることを…。
「ここに竜王の魂はありません。あるのは闇に包まれた卵ですわ」
ローラは自分が感じた思いとの相違に首を振る。確かに子として竜王は復活するであろう。
「光の玉は世界を闇から救ってくれるもの。竜王は救いを求めて光の玉を探し盗んだ。自らが完全に悪に染まることを恐れて…」
なぜ、姫が生かされていたのか。相手は策士だ、より良いものを手に入れるのに長けている。釣り針は大きい方がいい。
「勇者を待っていたのですわ」
「え?」
ローラは一つの仮説として、今回のことで導き出した思いを言う。
「竜王は救いを求めた。運命を断ち切るその強さを。悪が竜王の心を黒く染めるのを防ぐために。それが意思の無きこの黒いベール」
あくまで推測でしかないが、それでも真剣さが伝わった。これで終わりではないと言うことか。
悪の根源を取り除く術を探し出さなくてはいけない。
「勇者ロトあなた様はとんでもない課題を置いていきましたわ」
ただの卵だったらそれでいい。通り越し苦労なら万々歳だ。だが、姫の言葉に背筋が凍るのを感じた。
「想像以上に外の世界ですることが増えたな」
光の玉はラダトームに既に献上している。事情を説明しなければならない。
この卵が孵るのは何年先か己には想像つかない。しかし、世界が闇に閉ざされるのを防がなければならない。ロトの意思を継ぐために…。
帰り際、物言わぬ玉座を一度振り返る。わずかながら、ロトの剣が共鳴した気がする。
そうか。この剣がこの場所にあるのは強さだけじゃない。ここで勇者ロトが亡くなったのだ。
銀の竪琴がガライを求めるようにロトの剣も勇者ロトを求めてここに眠っていたのだな。
「返してやるよ。俺が剣を振れなくなった時に」
いつになるかは保証できないが確実に。
No.09、巡る悪。
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No.10:光の玉。
「という訳です。使われることはないかもしれないが、また暫く預かって欲しいのです」
導き出した答えを賢者に伝える。
「お主らは揃いも揃って無責任だのう」
複数形で語られる。もう片方は恐らく勇者ロトだろう。未来を手渡す選択肢を与えているようで時の流れに縛り付ける行為。生き証人とはまさにこのことである。手渡した太陽の石を素直に受け取り、賢者は元あった宝箱へと納めた。
「貴方に預けた方が安全です。どこへどうして行くかは自由にしてください」
己に束縛する力はない。それに竜王がいなくなってから荒れていた海は、船で行ける程に穏やかになっている。
「罪なことを言う。逃れる事のできない運命と言うことか。彼奴もわしを置いていった。力の均衡をとか言うてな」
「やはりロトは恐怖の対象になったのでしょうか?」
人の畏怖の対象になった勇者、次に誰を標的にするか分からない恐怖を過去のこの国の人たちは持ってしまったのだろうか。
「勇者は最後まで勇者であるべきと言って、黙って出て行きよった。恐らく完全に世界を救いたかったんじゃろうな」
黒き闇の卵の復活は必ず有るだろう。それはいつ起こるか分からないもの。いつ起こるか分からないのに怯えていても生活はできない。
不安を煽るだけの物事には口を閉ざす。こうしてこの国はいつ来るか分からない恐怖を揉み消し、国として立ち続けてきた。
「一つ聞きたいことがあります。光の玉とは…」
「それに関してはわしより、あいつが適任だろう。城の中で勇者信仰をしておる」
「おおカミよ! 古き言い伝えの勇者アレフに光あれ!!」
ラダトーム城の入り口から右手の奥まったところにいる。冒険の前半で大変お世話になった老人。
「……。何か聞きたそうだな。己にできることは魔力の流れを研究して開発されたのがこの玉。魔力をこの玉に留めることができ、それを少しづつお主に供給しているに過ぎない」
どう質問していいか答えに窮しているとこの目の前にある水晶が嵌め込まれた杖について教えてくれた。
「いえ、そう言うわけではなく。光の玉の作用を…」
神から授かった魔物達を封じ込めることができる玉。竜王が闇に閉じ込めたと言われるもの。
「光の玉か、あれは闇と対になるものだ」
光があるところには闇もまたある。光が強けれ強いほど闇もまた深くなる。
強すぎる光もまた身を滅ぼす。
「竜王は闇を光の玉で中和をしようとしていたのか?」
なぜ、世界を闇にしようとしたのか、竜は元々気高き神族だったのではないかとも言われている。しかし、ドムドーラの町を滅ぼし、光の玉を盗み、姫を誘拐した。
「老師様、闇の卵を見ました。それが光の力を上回ったのではないでしょうか?」
横にいたローラがあの竜王城で見た惨状を元に立てた仮説を説明する。
つまり、竜王は目に見えない何かに侵食されていた。それに囚われることは、プライドが許さなかった。ギリギリまで理性を保ち気高く生きる。それが彼の誇り…。
「竜王の心は誰にも分からんて、考えるのはやめた方がいい」
老人は首を横に振り止める。
分かることは再び脅威が訪れる可能性があること、現時点で卵を破壊する手段がないこと、その手立ての模索、又は破壊できないのなら対抗できる勢力を早期に固めなければ成らない。
「お主は世界を、アレフガルドを一度救ったのだ。再び悩ませることはあるまいて」
ゆっくりと手を掲げいつもと変わらぬ癒しを与えてくれる。
「旅立つのだろう? 未だ見ぬ海の向こうへ」
優しい声色と共にこれ以上、踏み入ることの拒絶。国を出るものがこれ以上国のことを知り過ぎてはいけないと、迷ってはいけないと背中を押された気がする。
「……あなたが預言者ムツヘタ?」
勇者という枠組みで一人の人間の運命を狂わせた。その再来を望んだ人物。竜王の脅威に並みの人間では太刀打ちできない。力は力で対抗するしかない。絶望する人々に希望を与える予言が必要だったのだ。
ずっと見守ってくれていたのだろうか。己を己の行く末を…。預言者と言えども全てが分かる訳ではない。
「私はただの姫の元教育係でここに居座る『光あれじーさん』それだけだ」
己の役目は終えた。人々が勇者を畏怖の対象になる前に突き放す。勇者ロトと同じ運命を辿らないように…英雄であり続けるために。
闇の卵のことは次の勇者を待つと言うのだろうか。次なる運命を狂わせる人物は…。
「光の玉を宜しくお願いします」
ゆっくりと頭を下げその場を後にした。
トランペットが青い空に響き渡る。
花火だろうか白い煙と派手な音がそれに合わせて宙を描く。
ここを救いし勇者の門出。
いや、この国民に愛されし姫君の旅立ち。
姫のために用意された大きな船は多くの人に見送られてゆっくりと故郷の地ラダトームを離れる。
No.10、決別の船。
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Lv.1:船に乗り旅立った。
青き空。揺れる旗。
遠去かる陸地、白い帆が風に乗っている。
ここに使える人は『我こそは』とローラと勇者様を支えてくださる方。
己はもう姫ではない。皆に見送られて本当の旅が始まる。
「ローラ姫」
すぐ隣で同じ方向をずっと見つめていた彼が静かに己の名を呼んだ。そう二人は旅立ったのだ。
「アレフ様、本当に良かったのですか?」
合わさらない視線。
全ての謎が解決しないままこの旅路を始めてしまう。国を出ればアルフガルドの勇者アレフではもうなくなってしまう。いや、その言葉は重荷であったかどうかの質問は、あの時にはぐらかされて結局、聞けないままであった。
己は彼の意思に従うつもりだ。この方と共にいると誓ったあの時から全てを捧げている。だが、今その彼の意思が見えないでいた。
それが怖い。
最大限の力を使って説得するつもりではあるが、それでも彼に拒絶されると胸が痛む。
「私は、これが始まりだと思っています。私はまだ一つの国を救ったに過ぎないと言うことです」
「……まぁ!」
浮かび上がる謎を謎のままにする訳ではなく。内側からのアプローチができないのなら、外からと言うわけか。
「恐らくですが、世界の闇、勇者ロトの真相は世界の外にあると思います。装備も揃ってないですしね」
あぁ、この方はラダトームを救うだけでは満足しない人だったのか、まさに選ばれし勇者。
だからこそ、勇者である実感が薄かったのだ。まだ所詮始まりに過ぎないと言うのだろう。
涙が溢れてくる。そっと指を目尻をぬぐい体ごと視線をアレフへと向ける。
「そんなあなたと共にできて嬉しゅうございます」
改めて、実感する。己はこの方に救われたと。ならば、己の選択する道は決まっている。
最初は迷惑をかけるだろう。碌に戦う術を身に付けていなかった。
「私はもう姫ではありません。力もありません。しかし、仲間として共にいさせて下さいませ」
「えっ…はい」
己の勢いに飲まれたのかあたふたと数歩後ろに下がる。
「敬語もいらないですわ。実は少し苦手なのではありませんか?」
「え、あ、あぁ…」
己はアレフ様を尊敬しているし昔からこの口調だったので何ら問題ないが、無理して欲しくはない。頷くのを確認して、ゆっくりと身だしなみを確認して、真っ直ぐに見つめる。
とある儀式のように再度訪ねた。
「アレフ様、ローラを仲間にしてくださりますか?」
「いいえ」
「…そんな酷い」
「いいえいいえ、ローラはもう既に共に過ごす大切な人だ」
「まぁ、私もアレフ様をお慕いしております。ぽっ」
ローラは仲間になった。
THE END
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その他
人物紹介
筆者が言いたい放題言っております。
ネタバレを平気でしているので、小説を読んだ後に読むことを推奨です。
・アレフ(1主)
本名:アレフ-アンファング
本編の主人公。
アレフガルドのアレフって言わせたいがために名付けられた。
「アレフ」っていう名前が気に入っているが、一般的ではないと思うので小説内ではあまり出て来ないようにした。(番外編を除く)
・ローラ姫
本名:ローラ-ラダトーム
囚われのお姫様。一応ヒロイン。
扱いが微妙なのは、チキンが操作するプレイ日記が混じっているから。
いやそのドラゴン戦はごめんなさい。
「そんなひどい」を言わせたかった。
・ラルス16世
本名:ラルス-サウト-ラダトーム
復活の呪文や蘇生など多岐にわたるメタシステムでお世話になる王様。
そこをどう世界観を壊さずリアリティ風に誤魔化すか悩んだ。
うまく誤魔化せてたらいいのだが…。
・戦士
本名:不明
リムルダールの町の宿にいた戦士。
はじめ気さくなに話しかけられて、誰こいつってなったものの、何度も通ううちに愛着がわいた男。
おかげで、主人公と同じように王に討伐を誓い、旅に出てたが、リムルダールで挫折した男という設定になった。
三賢者?(どれが三賢者なのかいまいち分からなかったので適当です)
・太陽の石を守りし賢者
本名:不明
通称:陽の賢者
長き時を操り、人との関わりを避けている。
賢者というより仙人に近いかもしれない。
過去に勇者ロトに会ったことがあるらしい。
そのことについて多くは語らない。
主人公を勇者と認めている。
竜王の城に一番陸続き(雫あり)で近いリムルダールの町までの行く道のりを修行とし、太陽の石の場所を知る兵士を常駐させた。
・雨雲の杖を守りし賢者
本名:不明
通称:雨の賢者
雨の祠にいる銀の竪琴を渡したら消える老人。
銀の竪琴と雨雲の杖のシステムの提案者。
受け取った直後に竪琴はちゃんと墓に戻す律儀な人。
ガライの墓守とは交流がある。
過去の竜王を知る人物。
・虹の雫を与えし賢者
本名:不明
通称:虹の賢者
偏屈だがロトの印に絶対の信頼を置いている人物。
ロトの印の場所を知る神父と親しい間柄である。
血を引くとはその勇敢なる心の継承者と考えており、神父がその場所を教えることがその証と考えている。
・ガライの墓守の老人
本名:不明
ガライのことを口伝として知る唯一の人物。
昔語りの町ガライ発展と衰退を目にして来た。
ガライの墓、銀の竪琴が喚ぶ魔物を処理してもらうため、賢者考案のシステムに賛同した。
・ロトの印の場所を教えた長老
本名:不明
メルキドでダメージ床の先に居たツッコミどころの多い老人。
ロトの印は持ち主を選ぶ、彼は相応しい人物が来るまでせっせと手元に戻って来たロトの印をいろんな場所に置きに行くのが趣味となっている。
毒沼? ダメージ床? そんなのトラマナ(本作未登場の呪文)があるじゃないか。
そんなノリに違いない。
・預言者ムツヘタ
本名:不明
設定集にしか出てこない人物。
一体お前はどこの誰だ。
なぜそのような予言を残したのだろう。
それが全ての元凶であり、王がそれにすがってしまった結果。
この世界は、凶悪な魔王が出たら勇者のみを頼ることとなる。
・吟遊詩人ガライ
本名:不明
銀の竪琴に選ばれたおそらく男。
昔語りの町ガライの創設者。
謎の多い人物。何者だろう。
元ドムドーラ出身らしい。過去のドムドーラを知る人物。
・防具商人ゆきのふ
本名:不明
ロトの鎧を保管していた人。
しかし、竜王の襲撃を受けて命を落とす。
鎧を守ることに執着して怨念となった悪魔の騎士は、もしかしたらこいつかもしれないと言う思いから出来上がった設定。
・ゴーレム研究者よしりーん
本名:不明
妖精の笛のありかを教えてくれる人、転じてメルキドのゴーレムを作る研究者の一人となった。
鍵屋のしかり、リムルダールには優秀な研究者がゴロゴロいる。
孫はすれ違い系リア充。
名前ない人が多い。
最後に、この世界観を生み出して下さりました本家ゲームに感謝いたします。有難うございました。
そして、ここまで読んでくださった皆様、評価、感想、及び誤字報告をして下さった方にもお礼申し上げます。
この度は当小説をお読みいただき有難うございました。
アドライ
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番外:王の中の王
我が名は竜王。気高き信念を持ち、全ての頂点に君臨する王の中の王。
人々が栄え、愚かにも衰退していく様を日々目にしてきた。高貴なる存在。
人々は我を恐れ、機嫌を伺う。我が人間如きに左右される訳がないと言うに…。人間共に分かりやすく言うなれば、地べたで蠅が這いずり回っていることに意識を向けるか? 我の側でブンブン飛び回る事の方が目障りであると言うものだ。
蠅に機嫌を伺われて、良くなると思うか?
抑々が異なるのだ。そんな事を説明しなければいけない時点でこの討論の無意味さが分かるだろう。時間の無駄だ。
「…ワシに何か用か?」
静かに見つめるは緑の鱗を持つ【ドラゴン】
先日何を考えたのかラダトームのお城の人間の姫君を捕獲し、幽閉した。
「貴方ハ、変ワラレタ。人間ヲ、畏レテイル」
「ワシが人間を? 面白い事を言う」
喉の奥で笑う。手に転がすは数十年前に剥奪した光の玉。闇の衣に包まれてもなお、淡い光を帯びている。侵食を許さぬ力強さを垣間見る。
「アノ時、何ガ、アッタ?」
「あの時…何時の事だ」
肘掛けに肘を置き、見下す。身体の大きな【ドラゴン】はこの人を模したような姿の竜王が小柄に見える。しかし、その背後から見え隠れする負のオーラが禍々しく、震える己の身体に叱咤する。
「何故、人間ト、交渉シ。町ヲ、滅ボシタ!」
この場に町の名称を覚えているモノは居ない。人が付けた呼び名はドムドーラ、大陸で一番発展した都市メルキドと王の居る城を結ぶ物流の要。多くの商人がそこに店を構えていた。
「彼奴はワシと取り引きして、成立した。唯それだけだ」
取り引きといえど、一方的な選択肢の開示をしたに過ぎない。しかし、取り引きの主は町を捨て、家族だけが生きる道を選択した。
「勇者ナノカ? 勇者ヲ、畏レテイルノカ?」
取り引きの主が所持して居た防具。古の勇者が装備して居たと言う精霊ルビスの加護がある鎧。その鎧は、死して肉体が魔物化しても尚、その場に止まり、奪いくるモノを殺害するだけの哀れな躯に護られている。
「勇者か、それはどのような存在だ? 蠅が幾ら集まろうと五月蝿いだけぞ」
実質、光の玉を盗まれた人間は幾度かこの城に取り返すべく乗り込んで来た。その都度、取り引きを楽しませてもらった。誰もが屈強で、そして愚かであった。この城にいる騎士の大半はその成れの果てである。闇に呑まれ、闇に染まりし躯だ。
「王ヨ。主ハ、何ヲ、考エテイル?」
意味もなく町を滅ぼしたのだろうか。あの竜王が? 気高き孤高の精神を持つこの竜が、気紛れを起こしたと言うのだろうか。
「ワシの存在を言え」
静かにしかし反抗を許さぬ声で命ずる。気をされた【ドラゴン】は思わず数歩下がり、見上げて居た視線を外す。
「……王ノ中ノ王」
その返答に笑みを深め玉座から立ち上がり、ゆっくりと近づく。相も変わらず背後から漏れる闇の影が竜王に纏わりつく。
【ドラゴン】は思う。何時からだろう、この影が色濃く見えるようになったのは…。この闇を打開する光の玉の使用方法を熟知している人間が居るのだろうか。
「そうだ。お前が何を企んでおるのか。ワシは敢えて問わぬ。余計な詮索はせぬのが長生きの秘訣。そうだろう?」
数十年前に主の心が変わった。変わったように感じた。しかし、予兆はその前からあったのではないだろうか。それは何時?
答えが見出せぬまま、【ドラゴン】は城を後にする。毒沼が広がるその洞窟へ、光の玉を継承して来た人間の姫が、打開方法を知って居る事を期待して…。
「古くから使えしモノは油断ならんな」
逃げるように飛び去った【ドラゴン】を後目に竜王は笑う。弱肉強食、食うも食われるも自然界の摂理、生態系を壊すまでの破壊には興味はない。興味が無いはずである。
「勇者よ。ワシは待ちくたびれたぞ」
世界が闇に染まり行く年が過ぎたか。
背後の闇は我を襲い食い尽くそうとする。絶望と破壊の申し子。勇者に敗れた怨念とも呼べる悪意の塊。
例え、この体が朽ちようとも、我が心は誰にも渡さん。
我は誇り高き竜族の王。全ての頂点に君臨する王の中の王、竜王なるぞ。
END
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番外:世界を救う勇者を救う者達。
「間に合わなんだか」
預言者ムツヘタ、いや、精霊ルビスに選ばれし賢者は、ルビスの言葉に従い里を駆けていた。ルビスと契約し、己の時を操り無限の生を得た身でも、身体能力は人とそう変わらない。歩む速度がこれ程までに遅く歯がゆいと思ったことはない。
一瞬で色んな場所に行けるルーラがあれど、イメージできる場所は限定される。そこは既に朽ちており、ルーラで戻ることができなくなっていたのだ。
その時から、嫌な予感はあった。
魔物から町を護ろうしたと思われる形跡はある。しかし、邪悪なるモノの前に力及ばず、辺りは毒沼に覆われ朽ちていた。
「赤子の泣き声?」
落胆していた時、微かな音が風に乗って耳を擽る。その音に導かれるように走る。そこには大事そうに何かを握る赤子が一人、元気に泣き叫んでいた。
「私めがですか?」
仕事部屋で荷物を纏めていると入って来た老人が唐突に赤子を騎士に差し出した。
「お前は独り身だろう?」
ほれと言われても、おいそれと受け取るわけにはいかない。赤子は寝入っているが、起きて泣かれても厄介である。
しかし、断ると言うのも難しい。何せこの老人はどう言うわけか、国王から強い信頼を得ている男で、その王に使えている騎士にとって、扱い難い相手なのである。
「いやまあ、そうですが」
「引退後は、どうするつもりだ?」
濁していると、既に情報を入手しているとばかりに、『本日付で騎士を引退する』ところまで聞きつけて来たと言うのか。
「いや、騎士としては引退といえど、王の命令により新たな町を作るつもりです」
なので子育てする余裕などないと、説得を試みる。断固拒否ができないのであれば、難しい理由を並べて、相手に引かせる他ない。
「そうかそうか、この子も一緒に連れてってやれ」
暖簾に腕押しか、目を細めて更に一歩迫られる。
「子どもなんぞ育てたことがないのに、無茶です!」
「お前ならできる」
豪快に笑い無理やり渡される。王に使えてこの方、剣一筋で生きてきた身にとって、目の前の赤子の抱き方すら分からず、あたふたしているというのになんたる仕打ち。
「いずれ分かるだろう。この子がどんな運命を持っているか」
「………わかりました。いつも強引なんですから」
歴戦の戦士は腹を括ったと言うように、一度大きく息を吐き、了承する。その覚悟を見て、賢者も目を細める。
「鍛えてやってくれ」
「ええ」
そして、赤子はひっそりと育てられることとなる。
ラダトーム城の最上階。二つの玉座が置かれている謁見の間。その一つに腰を下ろした王は力無く溜息をつく。
「やはりダメか」
我こそはロトの血を引きし者と豪語する輩と連絡が取れなくなった。手元には主人をなくした帰還の御守りが鎮座している。これで何十人目だろう。これ以上犠牲になるだけの兵を出すことももはや叶わぬ。やはり、本人の進言のみで証拠すら揃わぬ一般人には無理があったのだ。
王は途方にくれたように空を見上げる。竜王がこの地を闇に覆い、どれぐらいの年月がたったであろう。王の唯一の心の支えであった美しきローラ姫。
ああ、愛しき姫や、手を拱いているうちに【ドラゴン】により連れ去られてしまった。
日の光の入らない人工的な洞窟。肩を寄せ合い二人の老人は語らう。
「本当にそうなのか?」
「…わかりません」
ここは城の外れにある密会の場所。地下に聖なる結界が施され、魔物や人々には気付かれにくいのである。
「とうとう、来てしまったのじゃな」
そうでなければ良い、そう思い続けて万が一を考え人目の付かぬ場所に追いやった。当時、赤子だった一人の青年。
「我々のルビスのお告げが正しければですが」
「あれから声が聴こえんのじゃろう?」
「………ええ」
あのドムドーラの町が襲われてからルビスのお告げは途絶えた。何を思い精霊は姿を消したのか、はたまた闇に飲み込まれてしまったというのだろうか。
「今度は選択を誤らないようにせねばな」
辛そうに歪む表情。勇者ロトが姿を消して、あれからどれぐらいの月日が経ったのだろう。遥か昔、果てしない記憶の海の底。それでも尚、忘れられない過去がある。
「大丈夫じゃ、今度は上手くいく」
そう信じなければ、崩れてしまう。勇者が勇者がである限り、逃れられない宿命と言うのなら、その血を受け継いだ彼の者を悪に取られてはいけない。勇者が世界を救うのなら、その未来で勇者の幸せの為に尽くすのが残された我々の使命。
「****」
呟かれた名は、既に廃れて伝えられていない懐かしい名であった。
END
一周年記念、補足と言う名の伏線短編。
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