世紀末魔闘伝 毘櫃怒(ヴィヴィッド) 野郎の野郎による野郎のためのリリカルViVid (鱧ノ丈)
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世紀末魔闘伝 毘櫃怒(ヴィヴィッド)

 ふと思いついたんです。ViVidのインターミドル、女子ばっかりだけど男子の方ってどうなっているのかなと。そして考えたんです。結果、キチガイどもの祭典になりました。つまりいつもの鱧ノ丈です。


 スポーツマンシップなど求めてはいない。

 敗者に敢闘賞は無く、勝者のみが栄光を得る世界――

 君たちの使命はただ一つだ。勝て――

 

 

 

 

 

「クッ、ハッ――カ、カッカッカ!!」

 

 嵐の如き暴風と破壊の衝撃、天災の類かとも思える中に喜悦を剥き出しにした哄笑が混じる。そもそも天災という言い方が間違っている。何しろこの場は最新の建築技術で築かれた大型ドーム、その中なのだ。暴風の類など吹き込むはずも無い。

 では何がそれを巻き起こしているのか。一切の嘘偽りなく事実のみを述べよう。それはたった二人の人間の激突によるものだ。ドームの中央、防御の結界魔法により仕切られたリングの内でたった二人の魔法格闘家が鎬を削り合っている。ただそれだけで、決して広大とは言えないリングの中は災害の爆心地となっているのだ。

 

「カーカッカッカ!!」

 

 哄笑を上げる人影は生半可な者の目では到底追いきれない速さで縦横無尽にリングを駆け巡り四方八方からの猛攻を加える。その苛烈な攻めを前に受ける側はただ防戦一方に――と見るようではまだ未熟の謗りを受けても反論することができない。

 叩き落ちる瀑布のごとき拳打を前にその者はどこまでも泰然としていた。陰鬱とした目はその暗さに反して鋭く無数の拳打の全てを見取り躱し、捌く。認めざるを得ない事実として手数という点では相手の方が上。先手は譲らざるを得ないことが多いが何するものぞ、相手同様に超絶技巧の体術で以ってその全てを無力化する。

 だがそれだけに留まらない。そも両者は拳士として特徴が異なる。相手が超人的敏捷性と圧倒的な手数による猛攻を誇るならば相対するこの者は――

 

 轟ッ!!

 

 刹那の中に見出した光芒、そこに目がけて拳を振り抜く。阻む大気を引き裂き、砕きながら突き進む拳は相手に突き刺さろうとしたところで咄嗟の判断でされた回避により宙を切り、そのままリングの床に叩きつけられる。

 瞬間、会場の誰もがその場で地震のような揺れを感じた。その原因はリングを見れば明らかだ。敵に当たること無くリングに叩きつけられた拳は着弾点を中心に大きく陥没、更に放射状にひび割れ建材の塊が岩山のように突きあがる。

 

「カッ」

 

 宙を舞いながらその様に歓喜の笑いを漏らす。そうして突き出た岩山の一つ、鋭く尖った頂点に音も無く軽やかに降り立った。

 試合開始を告げるゴングが鳴って数分、両者が向かい合うのはゴングが鳴る以前以来だ。向かい合う二人はどちらも年若い少年だ。だが少年と呼ぶには些か成熟し、青年と呼ぶにはまだ幼さが残る。少年と青年の中間、10代盛りの特徴とも言える。

 そもこの場に立つという時点で二人の年齢は絞られる。何故ならこの場に立てるのは全管理世界にあって10代の少年のみだからだ。

 

「カッカッカ、やはりそうでなくちゃあのぅ。張り合いっちゅうもんがないけぇ」

 

 岩山の上で訛り混じりに語るのは僅かに白髪の混じる金髪と、血のように赤い真紅の瞳が特徴的な少年だ。バリアジャケット――魔力により編まれた装甲とも言える服をこの場に立つ身として当然のように纏っているが、その意匠は凝っているとは言い難くどこぞの民族衣装、あるいは単なる道着にも見える。

 

「……」

 

 リングを一撃で半壊させた拳の持ち主、それは相手とは対象的に寡黙という気質を全身で発する黒衣の少年だ。漆黒のコートを象るバリアジャケット、漆黒の髪にどこか陰鬱さを宿す漆黒の瞳、そして両腕を覆う漆黒のガントレット、どこまでも黒に染まった彼はその佇まいも相俟ってさながら黒鉄の塊にも見える。

 

「だんまりかい。つまらんのぅ。まぁえぇわい、存分に果たし合えりゃあワシはそれで満足じゃけぇの。おぉ、それはお前も同じじゃろうて」

 

 ピクリと眉根が動いた。言葉にするまでも無い、そう言わんばかりに彼は己の黒腕を構える。その姿に赤い瞳の奥に更なる喜悦が湧き上がる。

 

「あぁ、それじゃそれじゃ。それが愉しみで、楽しくてたまらん。存分に、堪能させてもらうけぇの……!」

 

 腰を落とし猛獣が獲物に狙いを定めるかのごとき構えを取る。

 睨み合ったのも数瞬のこと、超速で駆けた両者は一瞬にして互いに間合いを詰め再度激突を始める。

 観客も、アナウンス席の解説者も、試合のレフェリーも、その光景を目にする誰もが言葉を失っていた。そんな周りの一切を置き去りにした中で二人の試合を超えた死闘は続く。

 

 DSAAインターミドル・チャンピオンシップ 男子の部 全世界大会決勝戦。この大会が同大会女子の部と比して修羅の宴と称されることになる切っ掛けの一つ、そして後年も語り草となり続ける戦いの一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

「え? インターミドル男子の部?」

 

 その日、ノーヴェ・ナカジマは教え子の少女からの質問に珍しく返答に戸惑った。

 

「うん。わたしたちもインターミドルで今度こそ勝ち進めるように目指して毎日練習してるけど、よく考えたら知らないことも多いなって思って。それでコロナ達とも話したんだけど、男子の部の話ってあまり聞いたことがないなって思ったから」

 

 さてどうしたものかとノーヴェは頭を軽く掻く。質問の主、高町ヴィヴィオは純粋に好奇心から聞いているのだろう。それはヴィヴィオの少し後ろに立ってノーヴェの話を待っている彼女の友人二人、コロナとリオの様子からもよく分かる。

 

「う~ん、まぁ確かになぁ。テレビとかで流れるのも大体が女子の部の試合だし」

 

 そこはやはりマスメディアだ。どうせ映すなら年若い少女達の躍動する姿の方が画になるし受けも良いに決まっている。そちらに傾注するのもむべなるかな。

 

「確かに男子の部の試合はあまり流れないし、メディアも話題には中々しないからなぁ。だから、興味を持つのは分かるんだけど……どうするかなぁ」

 

 別に渋っているわけではない。ノーヴェとしてはできれば目にかけている教え子たちの疑問に答えてやりたいと思っている。だが多少なりともあちら側を知っている身としては躊躇してしまう節もあるのだ。特にこの純粋な少女たちのような相手には。

 

「おはようございます」

「おはようございまーす!」

「失礼いたしますわ」

 

 不意に入り口の方から聞こえてきた声に四人の目が向く。聞こえてきた声は三人分、いずれも聞き覚えのある声だがそのうちの一つには首を傾げた。

 

「ごきげんよう、ナカジマコーチ。突然申し訳ありませんわ。休日に少々外出をしていたらたまたまアインハルトさんにミウラさんとお会いしまして。折角だからということで同行させて頂いたのですが、ご迷惑でしたか?」

「ヴィクター。いや、いいよ。いらっしゃい、歓迎するよ」

 

 アインハルト、ミウラのいつもの二人に加えてヴィクトーリアという珍しい組み合わせ。だが珍しさもなんのその、ノーヴェは笑顔で三人を迎える。

 

「ところで、なんのお話をしていらしたのですか? ナカジマコーチも何やら答えに詰まっていたようですが……」

「あぁ、いやそのね」

 

 先ほどの様子はあっさりとバレたらしい。これまたどうしたものかと言いよどむノーヴェだが、それより早く動いたのがヴィヴィオだった。

 

「あの! ヴィクターさん! ヴィクターさんはインターミドルの男子の部について知ってることってありますか?」

「え?」

 

 ノーヴェのみならずヴィクトーリアにも投げ掛けられた質問。だがその内容に彼女もまた一瞬返事に詰まった。そしてノーヴェの方を見れば「そういうこと」と言いたげな少し困った顔をした彼女がいた。

 なるほどとヴィクトーリアは納得するように頷いた。確かに知ってはいる。だが知っているからこそ、特にこのような純粋な子供たちに伝えるのは僅かながら抵抗を感じるのだ。

 

(どうした、ものかしら……)

 

 チラリと見れば答えを期待する眼差しを向ける三人の顔が目に映る。更に言えば一緒に来たアインハルトとミウラからも興味を持つような視線を感じている。これだけのものを受けて何も答えないというのも、ヴィクトーリアにとっては心に痛むものがある。

 

「そうですわね。インターミドル男子の部、知らないわけではありませんわ。ほんの少しばかりの縁もありますから。けれど、それはわたくしが多く語るべきことでもありません。なので伝えられるのはこれだけです。あそこは、別世界ですわよ」

「別、世界……」

 

 はぐらかすつもりなど一切無い、真剣な表情で語られた言葉をヴィヴィオたちは不思議そうに聞いていた。そしてその背後ではノーヴェもまた真剣な面持ちでヴィクトーリアの言葉に頷き、その言葉が意味するところに納得を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インターミドル・チャンピオンシップ男子の部。かつては出場選手に男女の違いがあるだけで大会の在り様は何ら違いが無かった。強いて挙げるとすれば、やはり出場選手が血気盛んな十代の少年たちだからだろう、勝負にかける熱気が女子の部のソレより強くなりやすい傾向にあったことくらいか。そしてそれが常態化し、誰の目にも当たり前と映っていたこともそうだ。

 だからだろう。誰もが異変に気付くことは無かった。観客も、解説者たちも、審判団も、当の競技者達もだ。

 

 際限なく熱気が高まっていく試合の数々。時にLP、クラッシュエミュレート、そうしたルールの枠を飛び越えて純粋に限界まで戦い合うことを是とし、それが当たり前となりつつある選手たちの認識。流石に加熱し過ぎたということに周囲が気づき手を打とうとした時、それは既に手遅れの域に到達していた。

 世界大会決勝、女子の部のソレと同じく文字通りの次元世界最強の十代男子を決める戦い。その舞台に立った二人は暴走と言っても良い域に達した大会を体現したかのような存在だった。

 圧倒的な身体能力と体術、魔法能力で死闘に死闘を繰り返して向かい合った両雄の戦いはもはや当人たちが勝敗を決するまで止められないものとなっていた。拳と拳が打ち合う度に震える大気、砕かれ崩れていくリング、ズタズタにされ用を為さなくなる防御用の結界、それらを単なる戦いの余波とする二人の死闘は互いのLPが1ラウンド開始二分で互いの攻撃がクリーンヒットしたことで同時に尽きても終わることなく、制限時間すら超えて文字通り1昼夜続けられた。そうして死闘の果てに最後に立っていたのは――

 

 

 かの死闘より数年、もはや臨界点を振り切った大会を止めることは誰にもできなくなった。

 運営側は大会、会場、選手たちへの被害を可能な限り抑えることに運営能力の大半を割き、そのあまりの苛烈さにマスメディア各種は自然とそれを取り扱うのを避けていった。

 そうなれば後は参加者たちのパラダイスだ。大手のジムに所属する正統派アスリート、流れの風来坊、昔ながらの修練を続ける武門の門弟、純粋な腕試し名上げを狙うアウトロー。様々な若者たちが集った結果、大会はただ二言のみで表される場になった。

 問われるは"強さ"、価値あるは"勝利"のみ。U-15などの別部門のリーグは未だに従来の形を残している。だが最大規模にして最大目標でもあるインターミドル・チャンピオンシップ、男子の部においてそれは若くして強さに惹かれた猛者たちの饗宴の場と化していた。

 

 

 そして今、その本年度大会が幕を開けようとしていた。

 

 

「ヒュッ――」

 

 鏡の前で無心でシャドーを行う少年。

 最大手フロンティアジム所属「ザ・エース」カイル・レッドナー。

 

 

「へぇ、そうかよ。今年もこの時期ってワケかぁ。おいテメェら! 気合い入れ行くぞぉ!」

 

 豪奢なソファに座りながら蒸留酒を飲み干し背後に佇む黒服を従える青年。

 次元世界有数のギャング、ディアボロファミリー後継者「暴拳」アルフレード・アレオッティ。

 

 

(おそらく騎士カリムや騎士シャッハはお止めになるだろう。だが、僕はこの衝動に逆らえない――!)

 

 裂帛の気合いと共に剣を振りおろし巨岩を真っ二つにする美青年。

 聖王教会騎士団所属「聖騎士」アルバート・ペンフォード。

 

 

「コォォ……」

 

 山奥の滝に打たれながら静かに瞑想を続ける理知的な青年。

 ルーフェン武術一門門弟「心撃」ワン・リューシェン

 

 

「ふむふむ……」

 

 少し強めに叩いた木から葉が一斉に落ちる。無数に舞う葉、その全てを一息の抜刀で真っ二つに切る青年。

 星心流抜刀術「輝剣」イゾー・オカモト

 

 

 

 

 各次元世界に散らばる名だたる若き猛者たちが来たるべき日に備えて一斉に牙を研ぎ始める。そして、それは同時に全ての原点にして頂点に立つ両雄、挑む者にとっての災厄が動き出すことの証でもあった。

 

 

 

 

「なぁ、兄ちゃん。本当に今年も出るん?」

 

 長い黒髪をツインテールにした少女が不安げな顔で兄と呼ぶ青年に問う。少女のことをその筋で知らない者は居ない。何故ならば彼女こそがインターミドル・チャンピオンシップ女子の部ワールドチャンピオン、次元世界最強の10代女子の称号を担う者だからだ。

 

「くどいぞ」

 

 徹底して寡黙な青年は、しかし血を分けた妹が相手だからかある程度は言葉に応じる。億千万の言葉を尽くしても兄の心が動かないのは少女も分かっていた。それでも言わずにはいられないのだ。血を分けた兄が、自分以上に血の宿業を強く体現した兄が、幼いころからその背に憧れた大好きな兄が心配だから。

 

「ウチが言っても説得力が無いことは分かってるんよ。けど、あそこは危なすぎる。兄ちゃんがウチよりもずっと強いのは知ってる。けど、怖いんよ。兄ちゃんが、どこか遠くに行っちゃいそうだから……」

 

 俯く妹の姿を青年は黙って見据える。そして言う。

 

「俺には、俺の望みがある」

「兄ちゃんの、望み?」

 

 踵を返し背を向けながらも、兄は妹に向けて偽りのない真摯な本心を告げた。

 

「この身を、この心を、この魂を、全てを燃やし尽くす至高の戦い。その最果て。それが俺の唯一の望みだ」

 

 500年を超える技と経験の蓄積、その全てを受け継いだ「黒のエレミア」正当後継者「鉄腕」ジークリンデ・エレミア。その兄にしてエレミア500年の歴史における唯一にして最大の異端、そして最強にしてエレミアの完全体現者。

 漆黒の籠手より打ち出されるあらゆるを粉砕する必滅の拳の使い手、「滅腕」ミハエル・エレミア。

 己の渇望を満たすため、彼は宿命の怨敵の打破をその胸中に誓った。

 

 

 

 

 

「あぁ、そういえばもうそんな時期だったかいのぅ」

 

 某密林世界、その奥深く。古くからの弱肉強食の生存競争に打ち勝ち種を存続させてきた猛獣たちが闊歩する危険地帯に彼は居た。

 腕利きの魔導師すら気を引き締めて掛からねばならない一帯に、デバイスを持っているとは言えほぼ身一つで居ることはおよそ正気の沙汰とは思えない。いや、事実彼は正気でないのだろう。

 

「ふぅむ、それなりに楽しめはしたがのぅ。そろそろ打ち止めかの」

 

 そうごちる彼の周囲、そこには見る者の目を疑う光景が広がっていた。力尽き倒れる無数の猛獣。迷い込んだ哀れな獲物(エモノ)を食らわんと青年に襲い掛かった猛獣たちはその悉くが返り討ちにあい、彼の武術的狂気を一時的に満たす(エサ)となった。

 

「うむ、時期も頃合いじゃけぇ。そろそろ帰るかの。となれば――こいつでシメというわけかい」

 

 ギョロリと殺意のこもった視線を向けた先、そこにはこれまで彼が屠った猛獣たちよりも更に巨大な虎に似た猛獣が居た。

 

「カッカッカ、無聊を癒す馳走のトリには頃合い、といったところじゃのう。存分に、味わうとするわいなぁ――!」

 

 吠えながら飛び掛かる猛獣と、微塵も臆することなく立ち向かう青年。野性と、野性をも上回る狂気の激突はやがて終焉を迎える。その果てに勝ったのは……

 

「うむ、うむ。中々に歯応えがあって楽しめたぞ? 礼を言わねばならんのぅ」

 

 狂気であった。

 特別な家に生まれたわけではない。古代ベルカの諸王の血、そのようなものとは何の縁も無い。優れた魔導師を両親に持つわけでもない。その出自はどこまでも平凡だった。

 だが、彼には才能があった。その才能を伸ばす術を本能が知っていた。そしてそれを爆発的に加速させる狂気を持っていた。

 聖王、覇王、雷帝、冥王、魔女、歴史に名だたる英傑すら彼にとっては微塵も恐れるに足らず。全ては彼の武術的狂気を満たすための糧に過ぎない。故に彼は喰らい尽くす。相対する全ての戦士を。その果てに神域へと至るために。

 インターミドル・チャンピオンシップ男子の部 世界代表優勝者 「拳魔」ティンヌラジャ・ベルジーブル。

 

 

 

 かくして役者は出揃う。ここにインターミドル・チャンピオンシップ男子の部、次元世界における最も若き修羅の宴が幕を開けた。

 

 

 

 




 なんとなく思いついて書いただけのネタなので続く保証は欠片もありません。ただ、こんな感じで大会男子の部はなんかもう修羅ったキチガイどもがひたすら暴れまくる別世界だったら面白いなーと思っただけです。
 ちなみに一応出てきた野郎どもそれぞれにキャラのモデルはあります。分かる人は分かってくれると勝手に思っています。鱧ノ丈がどんな物書きかを分かっている方ならきっと。

 次はちゃんとISを書きたいです。


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第二幕:剣士二人

新年おめでとうございます。およそ半年少々ぶりとなりますが、こちらの方にて投稿をしました。ちょっとしたリハビリのような感覚で書いたものですが、久しぶりに書きたいように書けたなというところです。

まずは一話の方からお読み頂ければ、今回の話も何となく分かるのではないかと思います。


 第一管理世界『ミッドチルダ』――

 数多の次元世界において治安維持を担う時空管理局のお膝元と呼んで良いこの世界は判明している各次元世界全域を見渡しても文明の発展度合い、治安の高さ等々多くの点で他の世界と抜きん出ていると言っても良い。

 しかし光があれば影がある、灯台下暗しなどと言うように"キレイ"ばかりがミッドチルダの全てでは無い。都市開発の最中で生活に不要と断じられ捨てられた廃墟区画、未だ開発の手が行き届き切っていない旧市街区など、中心部から離れた場所には華やかさ、先進的文明とは縁遠い景色が広がっている。

 当然ながら光の下では生きにくい、真っ当な稼業で無い者にとって、そんな空間は住処として絶好のエリアだ。本来であれば取り締まりに動くべき時空管理局も、その手を伸ばし過ぎた弊害とも言える各世界での膨大な治安維持業務、それに伴う慢性的な人手不足などによりただ日陰者が住み着くだけの区域への介入を後回しへせざるを得なくなっていた。

 そんな状況が続けばどうなるかは言うまでも無い。種々の軽犯罪は当たり前、世界の数だけ無数に存在するギャングが隠れ家を置いたり、違法な品々の売買を始めとする裏ビジネスの数々、そんな闇の世界の温床と化し更なる混迷へと陥ったことにより、かつての古き街は管理局側も余計に手出しをしにくい裏社会の中心街へと変貌を遂げていた。

 だがそんな場所であっても管理局の手が入り込むことは皆無では無い。これはそんな、この町にとっては逆に珍しい管理局が入り込んだある日の一幕だ。

 

 

 仮にこの裏社会の中心街を"闇街"と呼称するとしよう。

 暮らすのが人である以上、昼日中でも動く人影は少なくない。だが闇街の本質を考えればもっとも人の動きが活発になるのは日が落ちてからだ。だがこの日は珍しく、日没を過ぎてもいつもの喧騒が沸き立たない。控えめなほどに静かと言えた。

 理由は至極単純、管理局が来るかもしれない――この情報が街中を駆けたからだ。些細な諍いがすぐ流血沙汰になるようなエリアだが、こと公権力に対しては一致団結、とまでは行かないもののある程度の互助を見せる。別に隣人を気遣うわけではない。ただ誰かがヘマをして捕まった際に、取り調べの自供やらで自分たちにまで類が及ばないようにするため。自己の安全を確保するためなら自分も周囲も公僕の手に掛からないのが一番、それだけの話だ。

 そんな中で豪気にも取引そのものが禁じられている品と、これまた真っ当ではない方法で稼ぎあげた金銭によるまさしく違法な闇取引を行おうとしている者達がいた。どちらもそこそに名は知られている裏組織において、そこそこには名の通っている者同士だ。無論、管理局の手の可能性は聞き及んでいる。だがこの取引も双方の組織にとっては極めて重要なビジネスでもある。故に敢えての危険を冒してでも遂行をする必要が彼らにはあった。

 互いに相手の確認から始まる取引の一連の流れ、どちらもプロ故に慣れたソレを粛々と素早くこなした。そして取引が終わりいざ解散と及んだ段階で管理局は彼らを捕捉した。

 

「チィッ! あのままいけると思ったが最後の最後で出張って来やがったか管理局!」

「アニキ! あれはヤバイですぜ! あの金色の魔力光に黒いバリアジャケット、間違いねぇ! 例の本局執務官だ!」

「J・S事件の英雄、オーバーSの怪物か! とにかく逃げ切るぞ! 三下どもが時間稼いでるうちにな!」

 

 大量の現金が詰まったケースを抱えながら二人組の男が夜の廃墟街を駆ける。取引相手のことはもはや眼中にない。品と金のやり取りが済んだ時点でノータッチ、無関係の間柄だ。

 今は一刻も早くこの場を逃げ切ること。どちらも管理局が定める魔導師ランクにしてAは下らない腕利きだが、流石にSランクを超える本局執務官相手には分が悪い。連れてきた部下と相手側の下っ端が足止めをしている内に逃げ切るのが二人の使命だ。そして逃げの一手に徹したことが功を奏したのか、安全圏内としているポイントまで近づきつつあった。このまま行けば振り切れる――そう確信した二人の耳朶を若い声が打った。

 

「――お初にお目にかかります」

 

 反射的に足を止めていた。視線の先、二人の真正面数メートルほど先にいつの間にか人影が一つ、佇んでいる。

 

「ヴァイヨン・グループのミスター・アンドリュー殿――お隣はご同輩さん――とお見受けしますが、如何に?」

「……誰だ、テメェ」

 

 イエスとは答えない。相手は明らかに自分を知った上で問うてきた。ならこちらも聞き返すだけだ。

 

「いえいえ名乗るほどの者じゃあございやせん。ただチィッとばかしご挨拶をば」

 

 アンドリューと呼ばれた男は素早く目の前の人影を検める。背格好は十分だが、何より声が若い。それこそ、自分たちのグループが下部組織と銘打って便利扱いしているチンピラ集団のメンバーとそう変わらないくらいではないか。そんな若造が急ぐ自分の足を止めている。そのことに不快感を覚えながらも退くように言おうとして――

 

「改めて、お初にお目にかかります。そして――おさらばでございやす」

 

 人影がブレた、そう認識した次の瞬間に隣でドサリと重い物が倒れた音がした。それが隣に立っていた部下が地面に倒れた音と気付くより早く銀閃がアンドリューの視界に映り、そこで彼の意識は途絶えた。そして再び目が覚めた時、彼が管理局管轄下にある拘置所にて獄中の身となっていたことは言うまでも無い。

 

 

 

 

 深夜の捕物から数日経った日のこと、ミッドチルダ北部にある聖王教会において教会重鎮の一人であるカリム・グラシアは公私に渡る友人を招き入れていた。

 

「そう言えばフェイトさん、聞きましたよ。また立派な功績を挙げられたとか」

「私も聞いとるよ。なんやフェイトちゃん、最近えらい活躍ぶりやなぁ」

『そんな、私だけの力じゃないから。捜査に関わってくれる局員全員の成果だよ。でも、ありがとうはやて。カリムさんもありがとうございます』

 

 応接室でカリムと向かい合いながら談笑をしているのは管理局特別捜査官の八神はやてだ。そして本人こそ同席はしていないものの、本局執務官のフェイト・T・ハラオウンも空間モニターによる通信越しで会話に参加していた。

 はやてがカリムの下を訪れたのは協力関係にある管理局と聖王教会の連携、交流の一環であるがはやてにとっては友人と直接に会って話せる得難い機会でもある。幸い時間にも余裕はあった。必要な業務上のやり取りを終えた二人はそのまま、時間の許す限りを香り高い紅茶を添えながら話を弾ませていた。

 途中、はやてへの連絡で通信を掛けてきたフェイトもそのまま会話へと加わり、話題は先にフェイトがマフィア幹部を検挙した功績へと移ったところだ。

 

『――ただ、気になるところが一つあって』

 

 はやてとカリムからの賛辞にこそばゆい表情を浮かべていたフェイトだが、何かを思い出したかのような言葉と同時にその表情に僅かに影を差す。

 

『確かに私たちは犯人を検挙したけど、私たちが彼らを抑えたわけじゃないんだ。犯人に追いついた時には、もう……』

「なるほど、例の辻斬りのことやね」

 

 辻斬り、それはここ最近散見されるある事象への呼び名だ。

 ことの始まりはミッドとは別の世界の一角、少々過ぎた暴漢同士の喧嘩に通報を受けた管理局員が現場へ駆けつけたところ、当の暴漢同士はいずれもその場で昏倒していたという。非殺傷設定の魔法攻撃を受けた痕跡があるため検査を行ったところ、どちらも斬撃――殴り合いの喧嘩をしていた当事者以外の何者かの一撃を受けたものによると判明した。当時担当していた局員は通りすがりの腕に覚えがある何者かが鎮めたのだろうと判断し、さしたる問題ともしなかった。だが事はこれに留まらなかった。

 しばし時をおいて別の世界で、更にまた別の世界で、あるいは同じ世界で立て続けに、斬撃を繰り出す何者かによる襲撃が確認されるようになったのだ。本来であれば無差別の連続襲撃事件として捜査の対象となるだろう。だが問題なのは被害にあった者がいずれも犯罪者であることだ。罪状に軽重の差はある。最も軽い例を挙げれば、それこそ荒んで周りに当たり散らしていたチンピラを一発沈めて大人しくさせた程度のもの。だが大きい例を挙げれば、過日のフェイトが検挙したマフィアの幹部、それも相応の鉄火場を潜った経験豊富な猛者すらいる。

 一応は管理局の治安維持活動に助力していると言えないことも無いため表立った問題にはされていない。しかし人の口に戸は立てられず、噂は自然と広がり誰が呼び始めたかは定かではないが、件の襲撃者は『闇夜の辻斬り』として少なくない局員が知る話題となっていた。

 

「犯人、と呼ぶべきかどうかは難しいところですが、やはり噂の辻斬りはベルカ式の使い手なのでしょうか」

「襲われた容疑者を検査した医局員の報告だとその線が濃厚らしいんよ。ちょうど本局に行っていて話を聞いたシグナムも容疑者の状態の確認をしたらしいんやけどな。そらもう綺麗な一撃をお見舞いされてたらしいわ。シグナムも思わず辻斬りを褒めてたくらい」

 

 ついでに、いつものバトルマニア癖も出ていたんやけどなーと朗らかに笑いながら言う。

 

『そっか、そんなに凄いんだ。折角なら、もっと堂々と力を貸してくれてもいいんだけどな……』

 

 犯人検挙に一役買っているという点から、フェイトは辻斬りの事を悪し様に思えないのだろう。だからこそ、このような後ろ暗いやり方を取っていることを少なからず残念に感じているのだ。付き合いが長いだけにそんな彼女の心境を理解できる二人は小さく微笑む。

 不意に室内に戸をノックする音が鳴ったのはそんな時だ。入室を許可するカリムの言葉の後に戸は開かれ、失礼します――さながら春の草原の如き爽やかさを持った青年の声が三人の耳朶を打った。

 

「騎士カリム、依頼されていた資料をお持ちしました」

 

 入室してきたのは目が覚める程に整った顔立ちの青年だった。スッと背筋の伸びた長身、隆々とまではいかずとも鋭く鍛え上げられていることが分かる体格、そんな均整の整った身に白を基調とした騎士服を纏った青年は、その容姿も相俟ってさながら絵本のお伽話に語られる白馬の王子の如きと言えた。

 

「あぁ、ごめんなさいアルバート。わざわざこんな雑用をお願いしてしまって」

「いえ、僕も手が空いていましたから。――お客様ですか?」

「えぇ。管理局特別捜査官の八神はやて二佐、それと本局執務官のフェイト・T・ハラオウンさん。アルバートは知っていたかしら?」

「えぇ、勿論です。J・S事件を解決に導いた立役者『機動六課』と隊長陣。僕も、大きく尊敬している方々です」

 

 そこで青年――アルバートは改めてはやてとフェイトの方に向き直る。

 

「申し遅れました。アルバート・ペンフォードと申します。若輩ではありますが、この聖王教会において騎士団の末席を汚させて頂いています」

 

 軽い一礼と共に名乗った挨拶はどこまでも優雅だ。だがそれがわずかも嫌味に映らないのは、一重に彼の放つ清廉さ故だろう。

 そしてアルバートがはやてとフェイトを知っているのと同じように、はやても彼の存在を知っておりフェイトもまたその名前は確かに聞き及んでいた。

 

「これはこれは、ご丁寧にすいません。時空管理局の八神はやて言います。こちらは執務官のフェイト・T・ハラオウン。騎士アルバート、私もよぉく知ってます。直接会うのは初めてやけど、会えて光栄やわ」 

「管理局の英雄に覚えて頂けていたとは光栄です。改めて、よろしくお願い致します」

「あ、そうだわ。アルバート、折角だから良ければ貴方も一緒にどうかしら? はやてやフェイトさんに色々と貴方の話を聞かせてあげたら良いと思うの」

 

 パン、と手を叩いてカリムは提案をする。はやてとフェイトにもその提案は渡りに船だった。噂に聞く限りだった教会屈指の騎士が目の前にいるのだ。どのような人物なのか、どんな話が聞けるのか。管理局員としてだけではなく一個人として二人とも大きく興味を持っていた。

 だがそんなカリムの提案に対してアルバートは苦笑をしつつ、しかし心底申し訳なさそうに断りを入れていた。

 

「申し訳ありません、騎士カリム。お誘いは大変に光栄なのですが、実は僕もこの後に所用が入っておりまして……」

「まぁ、そうだったの?」

「えぇ。遠方の友人がミッドに来ているというので、旧交を温めようと」

 

 それならば仕方ないとカリム達は納得をする。彼女らはいずれも友人との縁、絆というものを大切にする人間だ。友人との約束があるというアルバートを引き留める道理は無い。

 いずれまた機会がある時にゆっくりと、そんな挨拶を二言三言交わしてアルバートは部屋を辞した。だが不思議と彼の存在感というものは部屋に残る感覚があった。それを鋭敏に感じ取ったからこそ、はやては感嘆の息を自然と漏らしていた。

 

「なるほどなぁ。あれが『聖騎士』アルバート、実物は噂以上やったわ。あれはとんでもないでぇ」

『はやて、やっぱりはやても感じた?』

「そりゃ勿論やフェイトちゃん。あれは……超が三つは付くイケメンや。正直、私が今よりもっとピチピチで愛らしさ溢れる少女時代やったら一目惚れしてたかもしれん」

 

 予想していたものとは斜め上の方向を行くはやての言葉にフェイトは画面の向こうで思わず脱力していた。そんな二人のやり取りにカリムも口元に手をあて面白そうに微笑んでいる。

 

「もちろん冗談、半分くらいは本気入ってるけどな? フェイトちゃんの感想は分かるよ。私だって感じたわ。あれは只者じゃないって」

 

 冗談めかした口調はそのまま、しかし至って真面目にはやてはフェイトと共通の感想を口にする。スタンスの違いはあれど、二人は共に管理局基準で最上位クラスとされるオーバーSの魔導師ランクを保有する実力者だ。穏やか且つ自然体の身のこなしながらアルバートがその実、内に秘める実力を正確にとまではいかないものの凡そは認識していた。

 はやてが感じ取ったものは目の前で直接に相対しただけフェイト以上のものかもしれない。なおかつ、はやては身近な存在に正統派の古代ベルカ騎士達が居るうえ、その将たるシグナムもまた管理局、教会の双方を包括した上で指折りに数えられる騎士だ。ことベルカ式の使い手、その実力への審美眼についてはやては親友の二人より頭一つ抜けていると言っても良い。

 他方、フェイトは別の点よりアルバートへの評価を発する。

 

「インターミドルの映像は私も見たことがあるから実力はある程度知っているけど、私が驚いたのは以前の事件資料で見た映像かな。あんな、落ちてくる隕石を壊す(・・・・・・・・・・)なんて真似、なのはくらいしか思いつかなったから……」

 

 その感想にはカリムもはやても苦笑いにも似た乾き気味の笑いしか返せなかった。その件については二人も知っている。アルバートの存在は教会内では無論、管理局内でも知る者ぞ知るというものだが、その管理局における知名度を一気に上げたのが、件の隕石破壊である。

 行ったことは文字通りだ。とある辺境世界において勃発した事件において事の解決に協力したアルバートが、捕縛された犯人が悪足掻きとも言える最後の一手として使って来た隕石の誘導落下を、その一撃で粉砕したというもの。

 聖騎士の二つ名を知らしめると共にアルバートの代名詞ともなった黄金に輝く魔力による超高出力斬撃は、エースオブエースと謳われる高町なのはの最大砲撃とどちらが上なのかと比較をする者までいるくらいだ。

 

「っと、ちょおっと話が脱線してしもうたな。とりあえず、アルバートくんの話はこのくらいにしとこか。カリム、機会があればまた会わせてな。私も、もうちょっと話はしてみたいんよ」

「えぇ、それはもちろんよ」

「ほな、話を戻そか――」

 

 気が付けばアルバートに関する話題で話が逸れていきかけていたことに気付き、はやては当初の目的を思い出す。そうして三人は一度アルバートのことは頭の片隅に置き、再び管理局、聖王教会としての議論へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 教会騎士の制服からシンプルな私服に着替えたアルバートはミッドチルダ都市部の商業施設街を歩いていた。目立つ服装では無いとは言え、そもそもずば抜けた容姿をしている彼が街中を歩けば多少なりとも衆目を浴びるものだがその様子は見受けられない。理屈は至って簡単なもので、自身の気配を希薄として周囲からの認識を避けているに過ぎない。人に話せば驚かれることもあるが、アルバート自身はこれを大した技術とは思ってはいない。少なくとも、彼が競い合っていると認識している者達の間ではこのくらいの芸当は当たり前(・・・・)のものだ。

 歩いていく内に目的の場所を見つけた。路面に面した穏やかな日差しを浴びるオープンカフェ、そこが彼と友人(・・)の待ち合わせ場所だ。そして相手となる人物は既にその場に居た。テラス席の一つに腰掛け、おそらくは飲み物を飲みながらだろう、何かの冊子に目を落としている。希薄な気配はそのままにアルバートは静かに歩み寄って行き――

 

「よう、待っとったぞ」

 

 背中越しに声を掛けられた。感付かれたことに驚きはしない。それこそ当然というのがアルバートの認識であり、ただ自然に挨拶を返す。

 

「待ち合わせの時間よりは早いつもりだけど、そうだね。待たせた」

 

 座るよ、と声を掛けてアルバートは待ちあわせ相手の向かい席に座る。アルバートと同じ年頃の青年だ。しかし黄金を溶かしたようなアルバートの金髪とは対照的に幾らかの癖とともに重さを感じさせる黒髪、同じように希薄ながらも纏う雰囲気の重さはアルバートを光とするなら、さながら影の如しだ。

 

「久しぶりだね、イゾー。元気そうで何よりだ」

「そういうお前も、まぁいつも通りだわな」

 

 イゾー・オカモト、アルバートの待ち合わせ相手である彼曰くの友人。そしてアルバート同様にインターミドルの最上位実力者の一人である剣客だ。

 

「お蔭さまで何とかね。でもねイゾー、ここ最近物騒だろう? 近頃もまたギャングの幹部が闇討ちを受けたらしい。やはり友人としては心配なんだよ」

「らしいのぉ。まぁ、お前に言われんでも気をつけとるし、そもそもお前が心配する必要なんざありゃせんわ」

「そうだね。確かに、僕も君なら(・・・)心配はないと思っているよ」

 

 ニコニコと笑顔で語るアルバートの姿は純粋に友人を信頼しているように見える。だがその笑顔に含むものを感じたイゾーはこの件についてこれ以上は無用と早急に本題へと入ることにした。

 

「ほれ、新しい資料だ。お前も出さんかい」

「あぁ、これだよ」

 

 二人がそれぞれテーブルの上に出したのはごく普通の記録端末だ。しかしその中には二人がそれぞれ一年、あるいはそれ以上前から積み重ねてきた研究の成果が収められている。

 

「んじゃあやるかい。今年の、ミハエルとティンヌラジャの対策をよぉ」

「あぁ」

 

 挙げたのは同じインターミドルで鎬を削る、二人にとって最大の障害と言えるファイターの名。彼らを打倒せんとする意思をイゾーは目にぎらつかせる。そしてアルバートもまた、カリム達の前で見せていた姿をかなぐり捨て強さと勝利を求める純粋戦士の眼差しでイゾーと向かい合っていた。

 

 

 

 

 

 




ISの方もちょっとだけ手を付け始めたので頑張ります。


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