無意識幻想絵巻 (水陸両用饅頭)
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無意識の目には何が映る
ガバ、と少女は起きる。眼が覚めると飛び込んで来たのは木々の葉、どうやらいつの間にか木の根元で眠ってしまったようだ。
風邪を引いていないか心配だが、幸い身体に異常は無い。愛用の帽子を手探りで探すと、その中に相棒の鴉がトグロを巻いてクゥクゥ寝ているのを確認した。
「お空、起きなさい。」自身のお気に入りが羽まみれになってしまっては堪らない、少女は急かすように鴉の身体を揺さぶる。それに気付いたのか黒々とした目をユックリと開けると
「おはようございます、こいし様。今何時です?」
自分が起きた時間を把握していないのだろうか。少女は少し呆れた様子でため息を付く。自身の姉の相棒はもう少ししっかりしている筈なのだが、と一瞬思うも、直ぐにその考えは打ち消す事にした。
世事にも残り多いとは言い難い紙のような干物を齧り、少女は呟いた。
「さて、今日は何処に行きましょうか。」ポス、と帽子を被る音がした。
「とは言いましたが、その前にもうご飯が少ないんじゃあ無いですか?」お空が肩に乗り、心配そうな顔で覗き込む。
「うん、確かに多いとは言えないんだ。前に人里で貰った干物ももうすぐ切れちゃうしね。また何処かで買うしか無いかなぁ……でもお金はないし」少し前は入っていた筈の袋を哀れみに似た顔で見、再び溜息をつく。
「ならまた獣でも狩って売ればいいじゃ無いですか」
「簡単に言ってくれるね…私だって妖怪だけど特別強いわけじゃあ無いんだし。獣に気付かれないだけだから反射的に攻撃されたら堪んないよ」
「ならそのサードアイでグサッとやっちゃって下さいよー!こいし様なら出来ますって!」
「また簡単に言うなぁ……私はこれはあんまり使いたく無いの、疲れるんだもんコレ。」自分の胸元にある閉じた第3の目を見る。
本来彼女は覚り妖怪であるため、これを使用して人の心を読むことが出来るのだが…彼女は色々あって瞳が閉じてしまったのだ。なので今では固有の能力であるコードを伸ばして攻撃する、しか用途は無くなってしまっている。まぁそのお陰で誰にも気付かれないステルス性を手に入れたのだが。
「…まぁ今はそんな事はどうでもいいの。それより……ほら、館が見えて来た」
「うにゅ?」
かれこれ20分は移動したのか、こいし達は紅い色の館が見える湖のほとりに到着していた。
「わぁ、おっきい。あぁ、この館に忍び込んで食料を取ってくるって寸法ですね!?」
「あんたこんな時だけ悪知恵が働くのね…違うわ、普通にお願いしてみるの。私達はここに来てそんなに長く無いんだし、こんなに大きなお屋敷だもの。当主の人も心は広い筈…多分」
「…確証は?」
「……私のカンってヤツよ」
「なら問題ないですね」
2人(?)はスタスタと門へと歩んで行った
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紅い館の吸血鬼
「何者だ。」その人が最初に言い放った言葉はそれだった。無愛想で、何者も通す気がないようなその様な言葉。其れだけで充分に伝わった。だが彼女は臆する事なく
「私達は旅人です。一泊だけ、この館に泊まらせて貰えませんか?」はっきりと言い切った
「…宿泊?フン、此処は宿屋じゃあ無いんだぞ。宿屋なら人里に有るだろう、そこに行った方が得策じゃあないのか?」
「お金がないんですよ、お金が。お金があったら態々こんな所来ていません。」
少しむっとした様な顔をしたが、その門番は困った様な顔をし「それにしても私が決める事じゃあないからな……お嬢様か、魔女に聞かなければならん。少し待っていろ」と門を越えて館に入って行ってしまった。
「案外優しいんじゃないですか、あの人」
「素直じゃあないんだよ、きっと。」
暫くして門番さんが帰って来た。そして「お嬢様が少し興味を持たれた。一応入ることを許可しよう」こいしとお空は顔と顔を見合わせ、ニッコリと笑った
「やぁ。私がこの館の主人、レミリア・スカーレットだ」
風貌はこいしと同じ位幼いが、その言葉には威厳と畏怖が感じられる身体とややアンバランスな声をしていた。それが許されるのは、その背中に生えている蝙蝠の翼か、それともその堂々とした態度か。頬杖を付き、その紅い瞳で2人をジィッと見つめる。
「それで、私の館に泊まりたい、と。それはどうしてなのか、聞かせてもらおうか。」ニコニコ、と新しい玩具を買って貰った子供の様に楽しみな笑みで彼女に語りかける。
「お金がないのです。人里の宿屋に行きたいのは山々なんですが、いかんせんお金が足りなくて。なので一泊だけ雨風をしのげるこのお屋敷に失礼をしようかと。」というと、レミリアは途端に詰まらなそうな顔をし
「ふぅん、金か……つまらん、態々この館を出選んだからには何かしら面白い理由があるのかと思ったのだが、杞憂だったか。おい美鈴、此奴らを摘みd……」
フッと言いかけた時、少しレミリアの頭に妙案が刺した気がした。
「……そうだ、一泊だけならば幾らでもとめてやろう。だが、二つ条件がある」
「条件?」キョトンとした目で首を傾げるこいし。
「一つはこの館の家事の手伝い、もう一つは……
私の妹の世話だ。嫌とは言わせんぞ?」
「……分かりました、やってみます。レミリア嬢の寛大なる御心に感謝しますね」その言葉を聞いたとたん、笑顔が苦笑いになったのをレミリアは見逃す筈は無かった。
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