イナズマイレブン!北のサッカープレイヤー (リンク切り)
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Prologue

 

 

 

 

俺の名前は、清川(きよかわ) 耀姫(ようき)

どこにでもいるゲーム好きの、ただの高校生だ。

 

 

 

 

ーイナズマイレブンー

 

 

 

 

それは、俺が一番好きなゲームだ。

アニメにもなっている、サッカーRPGで、何作かシリーズにもなっている。

だが、ウイイレのような普通のサッカーゲームだと思っているなら大間違いである。

 

超次元サッカーと呼ばれる、炎を纏ったりオーラを出したり、物理法則や重力を完全に無視したりと現実では考えられない必殺技という名の超能力を駆使して競い合うサッカー。いや、サツカー(さっかーではないなにか)

それが、このイナズマイレブンだ。

 

そんなイナズマイレブンだが、長い間ストーリーも続きゲームも6シリーズ発売された。

そこで一旦完結したものの、イナズマイレブンの次回作があると発表された。

それが一年前。

本日が、その最新作の発売日だった。

 

「発売日に買えるとは思ってなかったな。まあでも、それはそれでラッキーか。」

 

学校帰り、俺は発売していたそのゲームを買いにゲームショップへと寄り道した。

本当は休日にでも買うつもりだったが、結局待ちきれずに衝動買いしてしまった。

 

「よし!じゃあ、今日は徹夜で進められるところまで進めちまおうかな!」

 

先ほど買った、ゲームの入っているレジ袋を振り回しつつ、家路につく。

だが、俺はこの時、浮かれていて周りが見えていなかたらしい。

 

カランカラン、と、大きな音が突然響いた。

どうしたんだ?と音のした方、つまり、上空を見上げた。

すると上空に、落下してきていた鉄骨が視界いっぱいに広がっていた。

その数瞬後。頭、体、腕。すべての部位に死ぬ程の激痛が走った。

俺が覚えていたのは、そこまでだった。

 

 

 

 

「俺は、死んだのか?・・・でも、生きてるし・・・・」

 

ポンポンと手を叩いてみても、ちゃんと音もなっているし手も痛い。

少なくとも、夢じゃない、と思うんだけど・・・・・

 

 

「おお、鋭いの。ここは夢ではない。死後の世界だの。」

 

「誰だッ!?」

 

背後から聞こえる声に、ビクッと肩を跳ねさせ、叫ぶ。

 

「ふふふ。そう警戒すしないでほしいの。」

 

そこにいたは、白髪の長い髪と髭をした老人だった。

ってか、いつの間に俺の後ろに現れたんだ。

俺が驚いている間に、その老人は話し出した。

 

「そう、お前は先程地球での一生を終えたばかりだの。」

 

「なっ!?・・・・じゃあやっぱり、俺は死んだのか。」

 

「そうだの。」

 

うむうむと頷く老人。

くそ・・・・。何でこんなタイミングで・・・・

せめて、ゲームをやった後でなら悔いはなかったかもしれない。

だが、これからプレイしようと言うところで死んだとなるととても遣る瀬無い。

 

「やはり、この一生には納得はいっていないのかの?」

 

「当然だ!!」

 

振り返ってみれば碌な人生じゃなかった。

早死も過ぎるしさ。

 

「・・・・・ならばその悔い、次の生で晴らしてみるのはどうかの?」

 

ニヤニヤと、こちらを見ながら老人が呟いた。

なんだって?

 

「どういう事だよ・・・・?」

 

「わしが転生させてやろう、と言っておるの。」

 

「転生!?」

 

それはつまり、生まれ変わらせてくれるということか?

この老人、まさか、神様のような存在だとでも言うのか・・・・・?

 

「何も無理にとは言わんの。だが、前世では出来なかったような楽しい体験が出来るはずだの。」

 

「楽しい体験?どういう事、ですか・・・・?」

 

「円堂守達と、サッカー。してみたくはないかの・・・・?」

 

まさか、そんなことが!?

イナズマイレブンのキャラとサッカーをしてみたい。

余りにも馬鹿らしくて誰にも言えなかった、俺の夢だった。

 

「!?そんなことが出来るのか!?」

 

「おんしが望めば、の。」

 

「や、やらせてくれ!」

 

俺は、咄嗟に老人にすがりついた。

それを、老人は鬱陶しそうに振り払った。

 

「ええい、やめんか邪魔くさいの。儂はそんな事しなくとも出来ると言うておるの。」

 

「じゃあ・・・・!!」

 

「うむ、おんしをイナズマイレブンの世界に転生させてやろうかの。」

 

「やったーーーー!!!!」

 

思わず、心の声が漏れてしまった。

だが、本当に心の底から嬉しいんだ。

だって、アレだぜ。

好きなキャラクターに会えるんだぜ!!

・・・・あ、でも、一番大事なこと忘れてた。

 

「俺、そういえばサッカーできないわ・・・・」

 

出来たとしても、パスがせいぜい。

ディフェンスやオフェンスなんかやったことないし、ボール蹴ったのも壁に当てるだけの練習でだけだ。

まず、コントロールができるのかすらも危ういくらいだ。

っていうか、あんな奴らの中に混ざってサッカーなんてしたら、ワンチャン死ぬぜ・・・・?

ファイアトルネードでも、キャッチした瞬間に焼死するぜ??

 

「何だ、そんな事かの。それならば任せておくといいの。おんしが稀代のサッカーの大天才という事にして、イナズマイレブンの世界において、サッカーに関する全ての才能をさずけてやるからの。」

 

「至れり尽くせり!」

 

なんかよくわからん才能を貰えるということなので、細かいことは気にすることはないようだ。

テンションが上がりすぎて、発狂しそうだ。

 

「だが、ストーリーの記憶は消させてもらうからの。未来がわかれば、色々都合が悪いしの。」

 

「えっ!?ま、まあ、それはしょうがないか・・・・」

 

「安心していいの。消すのはストーリーの記憶だけで、キャラクターの名前や情報も、ストーリーがわからない程度には覚えているからの。ストーリーが進めば、記憶も少しずつ元に戻るから安心すればいいの。」

 

「そうなのか・・・・」

 

まあ、名前とかわかるならいいか。

でも確かに、未来のことを知ってるのはまずいか・・・・

 

「では、そろそろいいかの?いざ、イナズマイレブンの世界へ、だの。」

 

 

その声が聞こえた途端、俺の視界は、段々と真っ白へ塗りつぶされた。

何も見えなくなったと思ったら、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「耀姫。耀姫、起きてください。耀姫・・・・」

 

「ん、ん・・・・あと、5分・・・・」

 

声が、聞こえる。

これは誰だ?

いや、今はそんなことは関係ない。

なんだかとっても眠いんだ・・・・

もぞもぞ、と、布団に顔を埋める。

 

耀姫(ようき)。もう朝ですよ。」

 

その声は、しつこく俺に声をかける。

終いには、俺の体を揺さぶってきた。

 

「はあ。仕方ないですね。」

 

体の揺れが収まる。

やっと諦めてくれたか、これでやっと眠れる・・・・

そう思った、直後だった。

耳のすぐ側で、静かな声が聞こえた。

 

「焼きますよ。」

 

「────ッッッ!?!?!???」

 

鋭い殺気を感じ、ベッドから飛び起きる。

すると、こちらをにっこりと美しい笑顔で見つめる青い長髪の女性がいた。

頭の上には、左右に角のように大きなヘアピンが1つずつついている。

 

「母さん・・・・」

 

うちの母、清川(きよかわ) (ひめ)だ。

俺を産んだはずなのに、何年経っても全く老けを知らない美魔女だ。

そんな母の笑顔を見ると、いつも見ているはずなのに見とれてしまう。

それも母親なのに、だ。

まるで魔法で魅了にかけられたかのようだ。

 

耀姫(ようき)。ちゃんと起きられて、偉いわ。さ、もうそろそろ準備し始めないと飛行機に乗れなくなってしまうかも知れませんよ。」

 

「え、ああ、そうだったっけ・・・・」

 

殺気を放ってきながらなんと白々しい、と思いながらも思い出す。

そうだ、忘れてた。

今日、響さんから直々に雷門中へ呼ばれてたんだった。

 

「朝ご飯、もう出来上がっていますよ。お母さんは、先に降りてますからね。」

 

そう言うと、音もたてずに俺の部屋から出ていく母さん。

音を立てない移動方法、そしてこの身のこなしといい、もしかすると母さんは暗殺者とかなんじゃないのかと疑っている。

・・・・なんて。

くだらない事を考えてないで、準備しようか。

 

 

俺が前世の記憶を取り戻したのしたのは割と最近の2日前だった。

急に高熱が出て、雷門中へは行けないかとも思っていたがそんなこともなく1日で熱は引いた。

その副作用か何なのか、やっと前世の記憶を思い出すことが出来た。

 

それまでに俺は、北海道での最強のチームである白恋中で吹雪とツートップを組んでいた。

影山により、フットボールフロンティアには出場出来なかったものの、俺たちはそこそこ強いチームだったんじゃないかと思う。

まあ、俺と吹雪以外の他のメンバーがボロクソなわけだが。

 

 

パジャマからお気に入りの赤ジャージに着替え俺は、母さんに言われた通り二回の自室からリビングへと降りた。

ふぁあ、と欠伸を噛み殺しながら1階へ降りると、テーブルにはお味噌汁やら白米やらが並べてある。

そして、椅子には母と父が座っていた。

 

「はい、冷めないうちに早く食べちゃってくださいね。旦那様も。」

 

笑顔で言う母さんを眺めながら、食事をとる。

 

「──────エイリア学園の事件から、3ヶ月。すべての学校が復興するには、まだ時間がかかりそうです───────」

 

付いていたテレビから流れてきた声が耳に入る。

やっぱり、まだ直ってないところもあるんだな。

うちの白恋中はそもそも壊されていないわけだが。

 

「それにしても。耀姫(ようき)が居なくなると、寂しくなってしまいますね。」

 

「そうだな・・・・」

 

両親が呟く。

俺の父も母も、少し過保護なきらいがある。

なんというか、子離れ出来ていない、というのか。

母さんが席を立ち、俺の頬に手を当ててさすり出す。

 

「耀姫。怪我、しないように、気をつけてくださいね・・・・?」

 

「わかってるよ。母さん。食べにくいから、手どけて。」

 

白く、細長い指を頬から引き剥がす。

触るとすべすべした感触が肌に伝わる。

いつまでも触っていたいような感覚に陥るが、さっと手を離す。

すると、母さんは金色の目を悲しそうに歪める。

そんな顔しても、ダメです。

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ。行ってくるね、母さん。父さん。」

 

ご飯の後、準備を整えた俺は玄関まで出ていた。

俺がもし世界に行けるなら、また会えるのは1ヶ月後くらいかもしれない。

ここで、きっちりと挨拶は済ませておこう。

・・・・なんて言って、予選落ちしてすぐに帰ってくることになったら恥ずかしいな。

 

「ええ。・・・・耀姫(ようき)がいませんと、私、禁断症状が出て旦那様を襲ってしまうかもしれません・・・・。」

 

「ははは・・・・」

 

ふるふると腕を震わせて力なく父さんによりかかる母さん。

もう勝手に二人でよろしくやってろや。

 

「また、帰って来るから。待っててくれ。」

 

「ああ。行ってこい、耀姫!」

 

ぐっと親指だけを立てる父さんに、俺は笑顔で応えた。

 

 

 

 

 

「おーい!ヨーキくーん!」

 

空港につくと、遠くでブンブンと大きく腕を振る人影が見えた。

 

「よ!士郎!待ったか?」

 

「ううん。ボクも今来たところだよ。」

 

「ん、そっか。じゃあ行くか。」

 

彼女かよ!なんてツッコミを一々していたら吹雪とは付き合っていられない。

吹雪も、響さんに雷門中へと呼ばれているらしい。

なら学校も同じだし友達だし、一緒に行こうということにしたわけだ。

 

「「吹雪くん!耀姫(ようき)くん!!」」

 

「ん?」

 

俺たちが声のした方向を見ると、そこには見知った奴らがいた。

 

「皆、どうしたの?」

 

吹雪が驚いて声を上げる。

そこにいたのは、白恋中のサッカー部員達だった。

 

「吹雪たちが雷門中に呼ばれたって聞いたから、お見送りに来たんだべさ!」

 

「んだんだ〜。なんだか、凄いことになりそうな気がするべ!」

 

ぴょんぴょこと跳ねて喜ぶ部員達。

元気な奴らだな。

 

「お見送り、ありがとう。じゃあ、そろそろ俺達行くな。」

 

「うん。ありがとう。皆。」

 

「あ、待って!」

 

2人の女の子が集団の中から抜けてくる。

 

「珠香に紺子。どうしたんだ?」

 

「はい、これ。耀姫(ようき)くん達に差し入れだよ。」

 

そう言われながら渡されたのは、何か布で四角くくるまれた風呂敷だった。

中になにか入ってるのか?

 

「これは?」

 

「お弁当!私達で作ったべや!」

 

「あ、ありがとう!本当に嬉しいよ。」

 

「ああ、そうだな。ありがとう、二人共。」

 

よしよしと珠香の頭を撫でると、嬉しそうにエヘヘとはにかむ。

いやいや、俺が別に調子に乗ってるわけじゃないぞ。

白恋中(ここ)の女子は、普通に抱きついてきたりスキンシップするのもされるのも激しいんだって。

少しの間撫でた後、手を離して距離をとる。

本当に、もうそろそろ行かないと遅れかねない。

 

「ありがとう。皆、またな!」

 

「「またね〜!」」

 

部員達と別れた俺と吹雪は、急いで手続きを済ませて飛行機へと乗り込む。

なんとか間に合った俺達は、席に座ってほっと一息ついた。

 

「ねえ、耀姫(ようき)くん。響監督に、今日何で集合かけられたか聞いてる?」

 

「いや、全然。」

 

元々覚えていたはずなのだが、何なのかは忘れてしまっている。

あの老人が言っていた、ストーリーに関する記憶が消えるというのはこういう事らしい。

 

「ボクも、なんにも聞かされてないんだ。でも、ただ事じゃないことはわかるよ。」

 

「そうだな。なにせ、()()が呼ばれたんだからな。」

 

1人は、宇宙人を(まあ、正確には人間だったわけだが。)倒した英雄のひとり。

1人は、世界を越えてやってきた、「自称」世界一のサッカープレイヤーだ。

大抵の事じゃ呼び出したりしないだろう。

でも、なんとなく予想付いてんだよな。

 

 

 

 



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第一章 旅立て世界へ!日本代表は誰だ!
集まれ!トッププレイヤー達! #01


 

 

 

 

 

あの、エイリア学園との事件から、3ヶ月。

俺達は元の学校へと戻り、サッカーを楽しんでいる。

だが、今俺は、稲妻町の坂を猛ダッシュしていた。

 

「急げ!急げ!!」

 

俺、円堂守!

好きなこと、サッカー!趣味、サッカー!特技、サッカー!

以上、終わり!

 

「ああ、風丸たち、怒ってないかなあ・・・・」

 

商店街までの道を、一直線に突っ切る。

 

「あっ、円堂のお兄ちゃん!おはよー!」

 

「まこ!おはよう!」

 

声をかけてくれたのは、俺たちがまだ日本一になる前にお世話になったまこだ。

学校にサッカーグラウンドができる前は、河川敷のサッカーコートで一緒に練習をしていた。

 

「今日も、練習頑張ってねー!」

 

「おう!ありがとう!」

 

まこに手を振り、また走り始める。

目指すは、スポーツショップだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スポーツショップのお店の前には、俺達のチームメンバーがいた。

左の青いのから風丸、髪を立ててるのは豪炎寺。で、一番右のでっかいのが壁山だ。

 

「遅いぞ、円堂。」

 

風丸が俺を咎めるように声をかけた。

 

「はあ、はあ、はあ。遅れてゴメン!風丸、皆。」

 

風丸も豪炎寺も、呆れた顔をして仕方ないなと許してくれた。

壁山は、「よくオレも遅れることあるッス・・・・」と最初から怒っていなかった。

優しいヤツだな、壁山は!

 

「でも、残念だったな、円堂。」

 

「え?何でだ?」

 

「お前の狙ってた限定モデルのシューズ、もうとっくに売れきれちまったぞ。」

 

「えーっ!?」

 

がっくり・・・・ま、そりゃそうか・・・・

前はこんなこともなかったのにな。

昔は売れ残りとかがちゃんとあったのに、雷門中が日本一になってから稲妻町でもサッカーが人気を取り戻した。

シューズが発売日に完売しちゃうのもおかしな話じゃないんだ。

 

「・・・・なーんてな。そんなことだろうと思って、買っておいてるぜ。」

 

風丸が後ろ手で隠しているものを見せた。

 

「あ!それ!」

 

それは見紛うこともない、俺の狙っていたホワイトスパイク!

 

「ほら、1万五千円だぞ。」

 

「おーっ!ありがとう、風丸!うわー、やっぱカッコイイなあ・・・・。」

 

風丸から、シューズを貰い受ける。

代わりに財布を出して代金を支払った。

おこずかいほとんど無くなったけど、母ちゃん買うの許してくれて良かった・・・・。

この白いボディライン、俺の愛用の会社が出しているシューズの色違いだ。

こういうのって、発売されると揃えたくなるよな。

 

「キャプテン!そんなことより、このままじゃ遅れちゃうッス!早く行かなきゃ、響監督に怒られるッスよ・・・・。」

 

「ああ、そうだった。円堂、急ぐぞ!」

 

「あ、ああ!」

 

俺はスパイクをカバンに入れ、風丸達に続いてまた走り出した・・・・

 

「風丸!また早さに磨きがかかったんじゃないか?一緒に走ってるとよくわかるぜ。」

 

「円堂も、あんなに走った後なのにまだスタミナが残ってるのか。」

 

「み、皆早いッス・・・・」

 

「どうした壁山!そんな事じゃ、ホントに遅刻だぞ!」

 

「そ、それは嫌ッス!」

 

うおおおお!と気合を入れてダッシュする壁山。

凄いぞ壁山!

その時、どこからか何か視線を感じた。

 

「・・・・ん?」

 

「どうした、円堂?」

 

「いや、何か、誰かに見られてるような気がして・・・・」

 

「そんな事はいいから、急ぐぞ!」

 

「お、おう・・・・」

 

足を止めて振り返ったものの、誰もいない。

おっかしいな・・・・

俺達はまた走り出したが、やはりどこかから視線を感じる。

 

「うーん・・・・」

 

「どうしたんだよ、円堂。」

 

「何かなあ。こう、モヤモヤするっていうか・・・・」

 

「・・・・わかったよ。お前達は先に行っててくれ!俺は円堂とこの辺りに何かないか探してくる。」

 

「はいッス!」

 

「わかった。遅れるなよ!」

 

風丸が、先に走っていた壁山と豪炎寺に叫んだ

2人は、一瞬躊躇ったものの返事をした後そのまま走って行った。

 

「で、その視線はどこから来てるんだ?」

 

「あっちの方から、だと思う・・・・」

 

俺が自信なく突き指したのは、電柱の方だ。

その瞬間、何か音のようなものが聞こえた。

 

「・・・・!!」

 

「誰かいるのか!?」

 

風丸が声を上げた。

すると、電柱の影から、短い髪を逆立てた男の子が出てきた。

 

「あの、すみません。オレ、そういうつもりじゃなくて・・・・」

 

「風丸、知ってる人?」

 

「いいや・・・・」

 

「誰なんだ、お前は。なんで俺たちを見てたんだ。」

 

「あ、えっと、宇都宮虎丸です。」

 

少年、宇都宮虎丸は、俺たちを見ていた理由について話し始めた。

 

「オレ、雷門中まで呼ばれてて・・・・途中道わかんなくなっちゃって。それで、円堂さんいたから、付いていけばわかるかなって・・・・へへ。」

 

虎丸は、バツが悪そうに細々と呟いた。

なんだ、そういう事だったのか。

 

「じゃあ、君も響監督から呼ばれたのか?」

 

「あっ!はい!そうなんです!」

 

「じゃあ、一緒に行こう!えっと、虎丸、でいいんだっけ?」

 

「はい!虎丸です!いやあ、円堂さんに名前呼んでもらえるなんて!オレ、嬉しいです!」

 

虎丸が、嬉しそうに声を上げる。

あれ?俺、名前言ったっけ?

 

「えっ?俺の名前は知ってるのか?」

 

「勿論!サッカーやってる奴なら、みんな知ってますよ!風丸さんも!」

 

「へえ、そうなんだ!」

 

「まあ、宇宙人を倒した男だからな、お前は。」

 

「そうだったそうだった!」

 

風丸は、顔を背けて呟いた。

風丸は最後の敵、ダークエンペラーズとして俺たちの前に立ちふさがった。

気にしなくてもいいって言ってるのに。

そういえば俺達、テレビにも写ったことあるし、インタビューも受けたことがある。

確かに、イナズマイレブンのこと、知ってる人が多くても驚くことは無かったんだ!

 

「俺もサッカーやってるんです!よろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしくな、虎丸!」

 

「よろしくな。」

 

「は、はい!」

 

俺と風丸に手を差し出され、感極まったように腕を握ってブンブンと振る虎丸。

俺と風丸は、あははと笑いあった。

 

ピピピッ!

 

「あれ、電話だ。」

 

「誰からだ?」

 

「うーん、音無(おとなし)だ。」

 

携帯を操作して、電話に応答する。

すると、携帯から大きな声が響いた。

 

「もしもし?」

 

『もう!皆さん、何をしているんですか!集合時間、もうとっくに過ぎちゃってますよ!』

 

「あ、やば!こんな話してる場合じゃなかった!」

 

『早く学校へ来てくださいよ?とーっても驚くことが待ってますからね。』

 

「とっても驚くこと?」

 

『ふふ、まだ内緒です。それじゃ!』

 

ブツンと通話が切れる

それよりも、とっても驚くことって何だ?

でもその前に、早く学校に行かなきゃ!

 

「よし、学校まで急ぐぞ!」

 

「おう!」「はいっ!」

 

俺が二人に呼びかけると、二つの返事がそれぞれ帰ってくる。

俺達は走りながら、話を続ける。

 

「それで、音無は何だって?」

 

「何か、とーっても驚くことが待ってますからね、なんて言ってたぞ。」

 

「とっても驚くことって・・・・?」

 

「さあ、俺も詳しくは聞いてないんだ。」

 

「もしかしたら、本当の宇宙人が侵略してきて、地球最強メンバー再集結!みたいな感じだったりして。」

 

「あはは・・・・そうだったら、笑えないな・・・・」

 

話しながら走っていても、風丸は息切れをしていない。

驚いたのは、虎丸も話しながら俺たちのスピードについてきている事だ。

サッカーもやってるって言ってたし、凄い奴何だなってことが凄い伝わってくる!

それに、驚くことって・・・・くーっ、ワクワクするぜ!

 

 

「もう、遅いですよ!」

 

雷門の後者には、マネージャーが3人並んで待っていた。

雷門中の理事長の娘、雷門夏未。

その隣の、サッカー部創設時からサッカー部に付き合ってくれている、木野秋。

元新聞部で情報通の、音無春奈。

全員が全員、雷門イレブンにとって大切な存在だ。

 

「でも、良かった。まだ、響監督は来ていないわ。」

 

「良かった。これで遅刻じゃないよな。」

 

「大遅刻よ!もう皆揃ってるんだから。」

 

「皆・・・・?」

 

周りをよく見てみると、何やらグラウンドに人が集まっていた。

1人、俺たちに気づいたのかこっちに近づいてきた。

あそこにいるのは・・・・

 

「あ、円堂さん!お久しぶりです!」

 

「立向居!お前も呼ばれたのか!?」

 

「はい!」

 

俺たちとエイリア学園と戦ってくれた立向居だった!

途中から俺の代わりにゴールを任せていた頼もしい奴だ。

 

「間に合ったな、円堂。いつ監督が来るかヒヤヒヤしたぜ。」

 

「豪炎寺!ゴメンな、先に行かせちゃってさ。」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

「キャプテン!間に合ってよかったッス!」

 

「ああ!ありがとな!」

 

ほっと安堵する壁山に、俺は親指を立てて返す。

 

「それより、俺たち以外にも集まってる奴がいるぜ。」

 

豪炎寺が指さした先は、雷門中グラウンドの簡易観客席。

そこには、吹雪や綱海、木暮など、これまで一緒に戦った仲間が勢ぞろいしていた。

 

「うおーっ!皆!久しぶりだな!お前達も呼ばれたんだ!?」

 

「そうなんだ。元気そうだね、キャプテン。それと、豪炎寺くん達も。」

 

互いを認めて、楽しそうに笑う吹雪と豪炎寺。

こいつらはストライカー同士、仲がいいからな!

 

「ああ!勿論元気だぜ!来るなら連絡してくれてもよかったのに。」

 

「へへっ、悪ぃ、なんせ急な話だったんだからよ〜。」

 

「俺は驚かせたかっただけだけどね、うししし・・・・」

 

綱海も木暮も調子がいいみたいだ。

でも、こんなすっげえメンバーが揃って、一体何が始まるんだ?

まさか、風丸の言う通り本当に宇宙人が攻めてきてたり・・・・?

そんな不安な事を思っていると、アキが近寄ってきた。

 

「円堂くん。まだ、響監督が来るのにも時間がかかりそうだし久しぶりに皆とお話してみたら?」

 

「そうだな。俺たちが知らないような奴らも、何人かいるみたいだしな。」

 

「へえ。って事はまさか、まだ知らないプレイヤーがいたのか?楽しくなりそうだな。」

 

「そうなのか!?じゃあ、そいつらもサッカーできるのかな!?」

 

「それは聞いてみた方が早いかもな。」

 

そうだな、サッカー出来るなら話してみたいし。

豪炎寺が言うように、話しかけてみよう!

 

「えーっと、あそこにいるのは・・・・」

 

最初に目に付いたのは、こっちに背を向けてリフティングをしていた、赤い髪の少年だった。

サッカーボールを蹴っていたため、一番に目がいったんだ。

俺はそいつがいるところまで走っていって、話を聞いてみることにした。

後ろからは、豪炎寺達も一緒についてくる。

 

「リフティング上手いな!お前も、サッカー出来るのか!?」

 

俺が話しかけると、長らく続いていたリフティングをやめてこちらを振り向いた。

 

「やあ。また会えたね。」

 

「え・・・・!?」

 

「円堂くん。」

 

「まさか、お前ヒロトか!?」

 

「うん、そうだよ。これからは君と、エイリア学園のグランではなく1人のサッカープレイヤー、ヒロトとして関係を築いていきたいんだ。」

 

そう言うとヒロトは、俺に握手を求めるように手を差し出した。

俺はもちろんその手を握り、ヒロトの事を歓迎した。

 

「勿論だよヒロト!これからは楽しくサッカーやろうぜ!よろしくな!」

 

「うん。よろしく。」

 

俺と握手した後、ヒロトは豪炎寺へと向き直る。

 

「改めて、基山(きやま) ヒロトだ。」

 

「豪炎寺修也だ。久しぶりだな。」

 

「そうだね。今度は、ストライカー同士互いに競い合いたいな。」

 

「フフ、それは楽しそうだな。」

 

敵同士、ライバルだったからな。

これからは皆で仲良くサッカー出来るなんて夢みたいだ!

 

「俺とははじめまして、だな。風丸だ。よろしく。」

 

「よろしく、風丸くん。」

 

って事は、ヒロトも響監督に呼ばれてたのか。

これはいよいよ大変なことになるぞ!

 

「ヒロト。私の事も、紹介してくれないか?」

 

ヒロトの後ろから、声がかかる。

そこにいたのはなんと・・・・

 

「ウルビダ!?」

 

「その名前はもう捨てた。私の事は、八神(やがみ) 玲名(れいな)と呼んでくれ。」

 

「八神、玲名?」

 

「俺の名前、グランと同じように、エイリア学園の他のメンバーにも本当の名前がある。ウルビダやグランは、コードネームみたいなものなんだ。」

 

「あの時は、すまなかったな。反省してる。」

 

「いやいや!思い直してくれたならいいんだ!」

 

もしかして、ヒロトと同じようにエイリア学園の奴らとも、またサッカー出来るのかな!?

アイツらすっげー強かったし、やっぱりまたサッカーしたいな!!

 

「ねえ、円堂くん。彼にも、話しかけてあげてよ。」

 

「えっ?」

 

ヒロトが指さしたのは、緑の髪の少年だった。

俺はヒロトに言われた通り、その少年にも話しかける。

 

「キミも、響監督に呼ばれたのか?見たことない顔だけど・・・・」

 

「ふふん、君はもう俺と会ったことがあるはずだよ、円堂君?」

 

「えっ!?」

 

「いや、でも、一応はじめまして、って言っとくか。俺の名前は緑川リュウジ!エイリア学園のレーゼ、って言ったらわかるかな?」

 

「えーっ!?レーゼ!?あの、ジェミニストームの!?」

 

確かに、よく見ると面影があるようなないような・・・・

でも、レーゼってこんな奴だったっけ?

 

「そうそう!でも、もうレーゼとは呼ばないでね。ヒロトの言った通り、レーゼってのは宇宙人ネームだから。これからは緑川でよろしく!」

 

俺が呆気にとられていると、横にいた風丸がレーゼ・・・・じゃなかった、緑川へと詰め寄った。

 

「な、何が緑川だ!俺たちの学校壊しといて!!」

 

「いやいや、色々諸々申し訳ない・・・・反省もしてるから。ここだけの話、これでも結構宇宙人のキャラ作ってたんだよね〜。」

 

「ま、まるで別人だな・・・・」

 

風丸がぼそりと呟く。

確かに・・・・

俺がレーゼだって気づけなかったのも仕方ないってくらいだ。

 

「って事で、終わりよければすべてよし。これからよろしく!」

 

「またことわざか。そこだけは素だったんだな・・・・」

 

「エイリアからはあと2人、バーンとガゼルのチームから1人ずつ。」

 

倉掛(くらかけ)クララ・・・・です。」

 

熱波(ねつは) 夏彦(なつひこ)だ!」

 

二人共、ザ・カオスにいたメンバーだ。

 

「よろしくな!バーンとガゼル達は来てないのか?」

 

「二人共、少し前からどっか行ってんだよなー。クララ、知ってるか?」

 

「・・・・聞いてない。」

 

「ふーん。」

 

仲が良いのか悪いのか、最低限の話をした後二人は押し黙った。

 

「あはは・・・・じゃあ、俺は他にも知らない奴がいるか見てくるぜ!」

 

えっと、次は誰にしようかな・・・・

他の奴も、ヒロトのように知っている奴がいるかもしれないぞ!

早速話しかけてみよう。

 

「なあ、円堂。1人、ノリの悪い奴がいるんだが・・・・お前、知ってる奴か?」

 

「え?」

 

綱海が、他のメンバーを連れてやって来た。

目線の先には、紫の髪の、なんだっけ、リーゼント?な男がいた。

 

「いや、俺も知らない・・・・」

 

俺はそいつの近くに寄って、話しかけることにした。

綱海や他のメンバーも気になるのか、俺に着いてくる。

 

「なあ、君も響監督に呼ばれたのか?」

 

「・・・・さあな。」

 

少年の無愛想な態度だ。

 

「俺、円堂守!君の名前は?」

 

「・・・・飛鷹(とびたか) 征矢(せいや)。」

 

「そうか!よろしくな、飛鷹!」

 

「・・・・ああ、よろしくな。」

 

それだけ言うと、櫛を取り出して自分の髪を整えながら飛鷹はどこかへ行ってしまった。

飛鷹か・・・・

アイツもサッカー上手いのかな!?

ヒロト達と違って、見たこともなかったけど・・・・

まだまだ、俺の知らないサッカー選手がいるのかな。

 

「あれ?鬼道、誰と話してるんだ?」

 

「いいや、俺もわからん。さっきのやつと同じく新入りか?」

 

「声かけてみようぜ!」

 

俺はすぐに鬼道へと駆け寄った。

隣には佐久間がいて、その隣には、帽子を被った奴がいた。

目深に被っていて、その上マスクをつけているため顔は見えない。

 

「鬼道!それに佐久間じゃないか!」

 

「ああ、円堂か。」

 

「見る限り、かなりの強者が揃ってるみたいだな。」

 

「そうなんだよ!・・・・あれ、そっちの奴は?」

 

「ああ、清川(きよかわ) 耀姫(ようき)というらしい。」

 

「へぇー!よろしくな、耀姫(ようき)!」

 

マスクと帽子で顔が見えないのだが、そいつはフッと笑った気がした。

 

「ああ、よろしくな。円堂守君?」

 

 

 

 

 



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22人の代表候補! #02

 

 

 

 

 

耀姫(ようき)くん。その帽子とマスクは・・・・?」

 

「ん?ああ、これか。」

 

俺は、頭の上に被さっている帽子を触る。

俺がなぜこんな不審者のような格好をしているのかというと、まあそんなに大した理由は無かった。

 

「お前の言う、円堂って奴に最初から顔を見せるなんて癪だろ?」

 

「あはは・・・・耀姫(ようき)くんって、天邪鬼(あまのじゃく)っていうか、ひねくれてるよね。」

 

「うるさいな。」

 

俺は、2での豪炎寺みたいにフード取って「豪炎寺!!」ってなる感じがかっこいいからやってみたいんだよ。

まあ、俺のことは吹雪しか知らないだろうから外しても誰?ってなるだろうけどな。

 

「お前も、しばらくの間は聞かれても俺の事は知らないって言ってくれ。あるいは、『わからないけど、何か強そうなオーラだ!』とかでもいいぞ。」

 

「うん、知らないフリするよ。」

 

笑顔で即答する吹雪。

ノッてくれてもいいだろ、少しくらい。

まあいいや。

 

「見て、耀姫(ようき)くん。あれが、雷門中だよ。」

 

「おお!」

 

タクシーの中から窓越しに吹雪が指したのは、雷門中!

あのイナズママークのシンボル、アニメの中の通りだ!

俺達は、代金を払ってタクシーから降りる。

ちなみに、ここまで来る交通費は響さん持ちだという事なので、領収書を貰うことも忘れない。

 

「へー、ここがキャプテン達の学校なんだ・・・・」

 

「あれ?吹雪は雷門中に来た事なかったのか?」

 

「ううん、確か1回だけあるよ。でも、こうやって周りを見るどころじゃなかったから。」

 

「ふーん・・・・」

 

生返事の俺に、吹雪はあんまり興味無いんだね、と苦笑しながら俺に続いて雷門中の校門をくぐった。

俺は雷門中に来るのは初めてだが、アニメやらゲームやらで場所の把握はバッチリだ。

 

「あ、吹雪君!と、えーっと・・・・」

 

清川(きよかわ) 耀姫(ようき)。響さんから伝わってないか?」

 

「あ、はい!聞いてます!」

 

雷門中に到着してまず初めに声をかけてきたのは、雷門イレブンマネージャーが1人、音無春奈だった。

俺たちに一言よこした後、音無は何やら手帳とにらめっこを始めた。

 

音無春奈。

一番最初の、帝国戦の後からマネージャーとして加入してくる1年生だ。

鬼道の妹で、施設に入っていたところを別々に引き取られた。

新聞部なだけあって情報を仕入れるのが得意。

 

と、覚えてる大まかな情報はこのくらいか。

 

「んじゃあ、一緒に行動してると知り合いってバレるからまた後でな、吹雪。」

 

「うん。ボクはその遊びが早く飽きるように願ってることにするよ。」

 

うっせ。

 

で、どこに行くかな。

このグラウンド内にいれば、多分どこにいてもいいはずだ。

でも、あまり目立つ行動はしないようにしよう。

まあ、格好で浮いてる気がしなくもないが。

俺は、軽く周りを見渡す。

不動に、緑川、綱海、ウルビダ、立向居とかももういるな。

おっとおっと!?

あそこにいる、眼帯つけた奴は・・・・・佐久間だーーーー!!

いやー、実は俺、佐久間さんのこと結構好きなんだよね。

好きなキャラで、一番はアフロディで決まってるんだけど、そこに次ぐくらい佐久間が大好きなんだ。

出会えて良かったー!!!!

どどどどどど、どうしよう!?

流石に、「よっ、佐久間!」なんて言ったら気安過ぎるかな!?

俺は一方的に知ってるけど、佐久間の方は俺のことなんて全く知らないだろうし。

いやいや、まず佐久間って呼び捨てにしていいのか?

っていうか、先輩なのか後輩なのか同学年なのかさえもわからん。

俺としては、佐久間先輩!って呼ぶのも、先輩って呼ぶのも、タメ口で話すのでもどれも嬉しいんだけどな!!!

 

「ちょっといいか。」

 

「え・・・ッ!?」

 

俺に話しかけてきたのは、なんと鬼道有人だった。

あれ、鬼道さん、さっきまで佐久間くんの隣にいませんでしたっけ・・・・?

 

「さっきから俺たちを見ているみたいだが、何か用があるのか?」

 

いつの間にか、鬼道と共に佐久間もこっちへと歩いて来ていた。

心臓の動悸が早まる。

やべえ、見つめすぎてたのか!?

 

「え、ああ、いや・・・・・帝国の鬼道有人さんと佐久間次郎さんって、有名なので、ついついまじまじと見てしまって・・・・・」

 

俺は、咄嗟に考えた嘘をペラペラと並べた。

すると鬼道と佐久間は一瞬見つめ合いフッと笑った。

元の世界では二人よりも完全に年上なはずが、ついつい敬語になってしまう。

だって鬼道さん、オーラが絶対中学生じゃないんだって!!!!

どこかの会社の社長とかの出す空気でしょ、これ絶対。

次は敬語をとって話そう、うん。

 

「そうだったのか。だが、俺はもう雷門の一員だ。」

 

「そ、そうだよな、ごめん・・・・・」

 

怒ったかな、と思って様子を伺うも、鬼道に別にそんな様子はなかった。

というか、目につけているゴーグルのせいで表情ほとんどわからんなこれ。

 

「いや、わかってくれればそれでいい。それにしても随分と面白い格好をしているな。名前を聞いてもいいか?」

 

面白い格好してるのはお前らの方だ、と思いながらも俺は自己紹介を始めた。

 

「始めまして、だな、多分。俺は清川 耀姫(ようき)だ。」

 

「ほう。聞いたことがあるぞ。確か、白恋中で昔吹雪とツートップを組んでいたフォワード、だったはずだ。」

 

「そうなのか?あの吹雪とか・・・・・」

 

佐久間が、あごに手を当てて少し思案する。

すげえな、鬼道さん。

俺みたいなマイナー選手を知ってるとは・・・・

 

「確か、俺たちが吹雪ヘ会いに白恋中へ行ってた時には、海外へ出張する親の都合で数ヶ月海外にいたとか・・・」

 

ああ、宇宙編の時の事か・・・・

あの時は、宇宙人が日本に侵略して来たとかで、母さんが滅茶苦茶焦ってた時だな。

学校を壊しまくってるって聞いて、俺は安全な海外へと強制連行されたんだっけ。

過保護すぎるとも思ったのだが、母さんの目がマジだったから何も言えなかったんだよね。

怒ると絶対宇宙人よりも怖いから。

ちなみに、怒る時でも嘘をついた時が一番怖い。

 

「ここに呼ばれたのは見た所、かなりの強者揃いだ。清川も、その一人なのか?」

 

「ああ、俺も響さんに呼ばれた。あと、耀姫(ようき)で良いぞ。」

 

ひゃーーー!!!!

佐久間と初めて喋れた!!!!

俺、ちゃんと喋れてるかな?棒読みとかになってないか!?

 

「わかった、耀姫(ようき)。よろしくな。俺は佐久間次郎だ。」

 

そう言って、佐久間は手を差し出した。

うおー!!

佐久間と握手!!

出された佐久間の手をガシッと握って固い握手を交わす。

 

「知っているだろうが、俺は鬼道有人だ。俺も、耀姫(ようき)と呼んで良いか?」

 

「ん、勿論だ。」

 

佐久間と同じく、手を出す鬼道さんにも握手をする。

 

耀姫(ようき)は、今も変わらずフォワードなのか?」

 

「ああ。多分どんなポジションにでも入れるけど、一番得意なのはフォワードかな。」

 

一応ディフェンスもオフェンスもできるから、多分ミッドフィールダーが一番向いてるんじゃないかと思うんだがどうなんだろう。

 

「それは凄いな。リベロ、って感じか?」

 

「まあ、簡単に言えば。でも、キーパーもできるから正確に言えばちょっと違うかな。」

 

「ほう、キーパーもか。」

 

「そうそう。強くなった吹雪のシュートも止められるぜ!」

 

「そ、それは相当だな・・・・」

 

元々、吹雪のエターナルブリザードの特訓に付き合っていた俺が、的があったほうが何かとやりやすいんじゃないかと思い、キーパーの真似事を始めたのが始まりだった。

吹雪のシュートを受けているうちに、俺はエターナルブリザードくらいなら易々と止められるほどになっていた。

今になって思うと、元の世界では運動能力なんて無かったわけだから多分あの神様が何かしたのだろう。

ちなみに、帰って来た吹雪のウルフレジェンドも本気で必殺技とか出しまくればギリギリ止められる。

キーパーに転向しても悪くないとも思うんだが、どうせならかっこよくシュートを打ってみたい。

 

「そう言えば、こんなに強力なメンバーが揃ってるのに一ノ瀬や土門がいないな。」

 

「そうだな、俺も不思議に思っていたが・・・・・耀姫(ようき)は何か知っているか?」

 

「さあ。まあどっか行ってるんじゃないのか?俺は知らないな。」

 

「そうか・・・・」

 

鬼道が再び考え始めた時、俺たちに声がかかった。

それはとても聞き覚えのあるもので、俺はそちらを見ずとも誰かがわかる。

 

「鬼道!それに佐久間じゃないか!」

 

「ああ、円堂か。」

 

「見る限り、かなりの強者が揃ってるみたいだな。」

 

「そうなんだよ!・・・・あれ、そっちの奴は?」

 

「ああ、清川(きよかわ) 耀姫(ようき)というらしい。」

 

「へぇー!よろしくな、耀姫(ようき)!」

 

こちらが眩しくなるような、そんな笑顔を向けて来たのは、我らが主人公「円堂守」だった。

うん、やっとイナズマイレブンらしくなって来たな。

 

「ああ、よろしくな。円堂守君?」

 

「あれ、俺、名前言ったっけ?」

 

「知らないわけないだろ?日本一のチームのキャプテンを。大活躍だったって聞いてるぜ。」

 

「あはは、ありがとう!」

 

そんな平和な会話をしていると、突然後ろの方からサッカーボールが飛んできた。

そのボールは、間違いなく鬼道の方へと迫っていた。

 

「なッ!?」

 

そのボールを、鬼道はギリギリのタイミングで弾き返した。

さすが鬼道だな、ほぼ死角からのボールを一瞬で気付いて蹴り返すなんて・・・・

アニメとかでは安易にすげーって思ってただけだったのだが、サッカーをやっている身になればその凄さも実感できる。

 

「不動!?」

 

佐久間が叫んだ通り、サッカーボールを蹴っていたのは不動だった。

不動は、鬼道から帰ってきたボールをニヤニヤしながら易々と足で受け止める。

 

「不動!どうしてお前がここにいるんだ!?」

 

「ククク、そうカッカするなよ、鬼道クン?勿論、俺も呼ばれたからに決まってるだろ?」

 

「何だと・・・・!?」

 

挑発的に鬼道に答える不動。

相変わらず横髪禿げてんなあ。

って言うかお前、真・帝国学園だった頃のあの刺青どうしたんだよ。

落とせるボディペインティングだったのか?

 

「・・・・よくものうのうと俺たちの前に顔を出せたものだな。」

 

「落ち着け、鬼道!コイツはお前の反応を見て楽しんでるだけだ。」

 

「フン、お前も俺と同じだったろ。また仲良しゴッコ始めちゃってさ?」

 

「黙れ!」

 

落ち着かせようとしていた佐久間も、不動の言葉で取り乱す。

うわー、不動地雷の埋めてある場所しか歩けないのかよ。

でも俺、割と不動好きなんだよね。

この不敵な態度とか、実はトリッキーなだけで普通にサッカー上手いとことか。

 

「二人とも、相手をしない方がいい。行こうぜ・・・・」

 

円堂と一緒に来ていた風丸が、身を乗り出していた佐久間と鬼道の肩をつかむ。

やっぱり二人とも、影山の事をまだ吹っ切れてないんだな。

 

「オイオイ、逃げるのかよ?」

 

「くっ・・・・!」

 

最後まで嫌味をいう不動に鬼道は反応するが、風丸の言う通りに無視することにしたようだ。

まあ、佐久間もどっか行くなら俺もついて行くか。

不動と一緒に残るってのも何か気まずいし。

 

「あ!えっと、みんなに紹介するよ。虎丸!」

 

「は、はいっ!」

 

暗い空気を振り払うかのように円堂が虎丸を紹介し始める。

呼ばれた虎丸は、緊張しながらも円堂の近くに寄る。

 

「宇都宮虎丸。コイツもサッカーやってて、響監督に呼ばれたんだってさ。」

 

虎丸は、俺も今まで知らなかった選手だな。

さっき虎丸を見た時に、ストーリー進行がわからない程度に記憶が蘇った。

えっと・・・・小学生だが圧倒的に運動神経が良い。

ポジションはフォワードで、強力なシュート技も持っている。

くらいが俺が思い出した事だ。

 

「は、はい!俺、宇都宮虎丸です!!虎丸と呼んでください!」

 

「ああ、よろしくな、宇都宮!」

 

「あ、はい、えっと、まあどっちでもいいですけど・・・・」

 

俺が言うと、虎丸は微妙な顔をして答える。

早速虎丸逆に虎丸って呼ばない感じ。

こんな事してるから、吹雪も俺の事を天邪鬼って宣うんだろうな。

そういえば今どうしてるんだろうと思い出して吹雪の方を見ると、俺の方を見つめて苦笑していた。

言いたいことあるなら言っていいんだぞ。

 

「冗談冗談。よろしくな、虎丸。」

 

「はいっ!」

 

元気だな、虎丸。

 

「ポジションはどこッスか?」

 

「キーパー以外ならどこでも大丈夫です!!こんな凄い皆さんとサッカーできるなら、どこでも!!」

 

という事は俺と同じく、リベロっぽい事も出来そうだな。

まあでも、風丸もダークエンペラーズに入ってフォワードやってたしな。

風丸もそんな感じか。

 

「あ、あの、円堂さん。オレ達、サッカー部室まで行ってみてもいいですか?」

 

「え?何でだ?」

 

「円堂さんたちが、どんな所でサッカーやってるのか見てみたいんです!」

 

「良いけど、響監督が来たら戻って来いよ?」

 

「はい!」

 

「おっ!俺も付いてくぜ、立向居。実は俺もいっぺん見て見たかったんだよなー!」

 

立向居に続き、綱海までもがサッカー部の部室に走って行った。

っていうか、サッカー部室俺も行きたいんだが。

そう思った奴らもまだいたようで、俺や吹雪達も立向居の後に続いた。

 

やっぱり、ゲームなんかで見ていた部室とそっくりだな。

本物を見るのとアニメで見るのとは全く別だが。

っていうか、思ってたよりもボロッボロだ。

 

「はーあ、漫遊寺中じゃ修行ばっかでさ。やっと休めるようになったんだよねー。うししし。」

 

「木暮くん。休めるからって、悪戯しちゃダメよ。」

 

「ちぇっ。まだ何にもやってないっての。」

 

「はは、木暮と音無は相変わらずだな・・・・」

 

やかましコンビは、世界編でもまだまだ続くらしい。

お目付け役だもんな。

 

「お前もサッカー部室見るの初めてだけ?吹雪。」

 

「あ、キャプテン。そうだよ、前回は見る暇もなかったからね。」

 

それを聞いた風丸が顔を伏せた。

あーあ、地雷踏んじゃった。

自分の失言に気づいた吹雪は、慌てて話題を変える。

 

「そういえば、昨日久しぶりにアツヤが夢に出てきたんだ。」

 

「へえ、そうなんだ。」

 

「物凄く驚くことが待ってるって言ってたけど・・・・もしかして、響さんがボク達を集めた事に、なにか関係があるのかな?」

 

そういえば、俺が買ったイナイレの最新作、アツヤが生きてる世界の話だったよな。

パラレルワールドみたいな感じだっけ。

やりたかったなあ・・・・

こっちの世界での俺の記憶では、アツヤは死んだ事になっている。

 

「そうだよな、集められて理由は、まだ誰も知らないみたいなんだ。あ、音無は何か聞いてないのか?」

 

まだ木暮と言い合いをしていた音無に話題が振られた。

音無は、フフっと笑って答える。

 

「まだ内緒ですよ。響監督が来るまでちゃんと待っててください。」

 

「知ってるのに教えないんてケチだな。」

 

「木暮くん、何か言った?」

 

「うげ、何でもないよーだ。」

 

お前ら、相変わらず仲良いよな。

喧嘩するほどなんとやらって言うしな。

俺が話を聞きながら部室を眺めていると、綱海が話しかけて来た。

 

「よっ!お前、知らねえ奴だな。俺は綱海!」

 

耀姫(ようき)だ。よろしく。」

 

「おう、よろしくな!お前もサッカー出来るんだろ?」

 

「ん、まあな。また今度見せてやるよ、俺の実力ってヤツをな。」

 

「へえ、言うじゃねえか。気に入ったぜ!」

 

がしっと首に腕を回されて肩を組む綱海。

何だよ、コミュ力半端ないな。ノリ良すぎじゃね?

 

「実はうちの監督が俺に呼ばれてること伝え忘れててよ。もう船が出ちまってたから、泳いで海渡るハメになっちまったんだよ!ったく、しょうがねえよなー。ハハハ!」

 

「笑い事じゃないだろ、凄いな綱海。」

 

「おうよ!俺に乗れねえ波はねえ!!」

 

頭でグリグリされていたところで、木野から集合がかかった。

よかった、解放された・・・・

 

「皆ー!そろそろ、集まって!」

 

「ん?木野の声だ。行くぞ、皆!」

 

「「はい!」」「「おう!」」

 

円堂の掛け声で、俺達はまたグラウンドへ戻った。

しかし集合したものの、まだ響さんは来ていなかった。

まだかよ。

 

「今、監督の準備が整ったみたいだから、ここで待ってて。」

 

「一体なんの準備ッスか?」

 

「もうすぐだから、まだ教えられないわ。」

 

まだ伸ばすのかよ。

見た感じ、マネージャーは集められた理由を全員知ってるみたいだな。

その時、雷門中の校舎の扉が開いた。

中から出てきたのは勿論・・・・

 

「あっ、響監督!」

 

アニメかのような登場の仕方をしたのは、響木正剛。

雷門イレブンを日本一に導いた監督だ。

元はイナズマイレブンのメンバーで、キーパーだったらしい。

 

「響監督!これ、一体どういう事なんですか?」

 

円堂が響さんに詰め寄る。

が、それを無視して話し始める響さん。

 

「よし、全員揃っているようだな。」

 

これから何が始まるのか、やっと聞けるのか。

随分と長いこと待たされたな。

待ちかねたぜ。

 

「これより、お前達を世界と戦う日本代表候補の強化選手に任命する!!」

 

「「「ええぇえ〜〜〜!?!?」」」

 

「に、日本代表って!?一体、何の!?」

 

「今年から、フットボールフロンティアの世界大会が開催されることになった。」

 

サッカー以外に無いだろ、とおもいつつも響さんの話に耳を傾ける。

なんとなく予想してたけど、やっぱりそうか!

こんな仲間と一緒に、世界と戦うことが出来るんだな!

まあ、代表に選ばれなかったらそれまでだが・・・・

 

「フットボールフロンティアインターナショナル。通称FFIと言って、少年サッカーの世界1を決める大会だ。」

 

フットボールフロンティア、インターナショナル・・・・

FFIか。なるほど、楽しそうな事が始まるな。

 

「全世界から1カ国一チーム、15歳以下の子供たちが参加できる。お前達は、日本の代表候補なのだ。」

 

「日本代表・・・・」

 

「俺たちが・・・・!?」

 

「やった!!皆、次はついに世界だぞ!!」

 

「ついに俺達、ここまで来たんだな・・・・」

 

騒ぎ出す選手を前に、響さんは話を続ける。

 

「飽くまでもこの22人は候補だ。世界に行けるのは、11人に控えの選手5人を含めた16人だけだ。」

 

「つまり、6人は落とされる、って事か・・・・」

 

「このメンバー、全員がライバルだな。腕が鳴るぜ!」

 

全員で行けないってことは、お別れもあるって事か。

皆好きだからなんか悲しいなあ。

俺としては、一番佐久間と一緒に行きたいなあ。

 

「まず初めに、11人ずつ二チームに分けます。その後、その2チームで試合をしてもらいます。」

 

「つまり、紅白戦ってワケか。」

 

「面白そうじゃないか!」

 

うん、めっちゃ面白そうだ。

楽しみだな!!

 

「この試合で、それぞれの能力を見極める。持てる力を存分に発揮してくれ。」

 

「「「はいっ!」」」

 

「それでは、チームメンバーを発表します。」

 

よし、いよいよだ。

誰と同じチームになるんだろう。

 

集まったメンバーは、

ゴールキーパーが円堂と立向居の2人。

 

ディフェンダーが壁山、風丸、木暮、綱海、クララ、栗松、飛鷹、塔子の8人。

 

ミッドフィールダーが鬼道、不動、ウルビダ、緑川、ネッパーの5人。

 

フォワードが豪炎寺、吹雪、佐久間、ヒロト、虎丸、マックスの5人。

 

そこに俺を入れての合計22人だった。

 

 

「Aチーム。

飛鷹征矢(とびたかせいや)壁山塀吾郎(かべやまへいごろう)綱海条介(つなみじょうすけ)財前塔子(ざいぜんとうこ)松野空介(まつのくうすけ)緑川リュウジ(みどりかわりゅうじ)熱波夏彦(ねつはなつひこ)基山ヒロト(きやまひろと)吹雪士郎(ふぶきしろう)佐久間次郎(さくまじろう)円堂守(えんどうまもる)。」

 

「Bチーム。

風丸一郎太(かぜまるいちろうた)木暮夕弥(こぐれゆうや)倉掛クララ(くらかけくらら)栗松鉄平(くりまつてっぺい)鬼道有人(きどうゆうと)不動明王(ふどうあきお)八神玲名(やがみれいな)豪炎寺修也(ごうえんじしゅうや)宇都宮虎丸(うつのみやとらまる)清川耀姫(きよかわ ようき)立向居勇気(たちむかいゆうき)。」

 

わー、佐久間とも吹雪ともチーム分かれちゃったか。

それにしてもこっち側のチーム、何かと厄介事多いな。

 

「二つのチームのキャプテンは、円堂、鬼道。お前達だ。」

 

「「はい!」」

 

「試合は二日後だ。それと、今回は個人の実力を測るため、連携必殺技は禁止とする。いいな?」

 

「「はいっ!!」」

 

連携技が禁止か・・・・

俺はどうせ吹雪とは別チームだから出すことも出来ないし関係ないか。

 

「紅白戦までの間、お前達には宿舎で生活してもらう。」

 

「宿舎?」

 

「あそこだ。」

 

響さんが指したのは、雷門中の正門から見て右側にある、1年生の校舎だった。

 

「え?1年生の校舎?」

 

「あそこをまるごと宿舎に改造してある。」

 

「すげー!」

 

「ここが日本代表の合宿所だ。日本代表に選ばれた者は、地区予選が終わるまではここで生活してもらうことになる。」

 

大胆というか、なんというか。

じゃあ一年生はどこで授業受けるんだよ・・・・

 

「部屋割りはもうちゃんとできているので、後でちゃんと確認してくださいね。」

 

「練習は各チームに任せる。2日後、楽しみにしている。」

 

それだけ言うと、響さんはどこかへ行ってしまった。

 

「それと、はい。皆の新しいユニフォームよ。」

 

「うおー!待ってたぜ!」

 

「着替えてきたら、早速練習だ!」

 

日本代表のユニフォームか・・・・

よし、気合い入ってきた!!

 

 

 

 

 



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紅白戦前の練習試合! #03

 

 

 

 

 

「豪炎寺!」

 

俺が蹴ったサッカーボールが地面を這い、豪炎寺にパスが飛ぶ。

そのボールを、豪炎寺は綺麗にトラップした。

 

「行くぞ、立向居!ファイアトルネード・改!!」

 

豪炎寺は、ボールを高く上空に飛ばしてファイアトルネードを打ち込む。

その先には、立向居の守っているサッカーゴールがあった。

 

「止める!ゴッドハンド!」

 

立向居特有の、青いゴッドハンドが出現する。

その大きな手は、しかしファイアトルネードを封じ込めることはできなかった。

 

「く・・・うわあああっ!?」

 

ゴッドハンドをそのままゴールに押し込んだファイアトルネードがゴールへ突き刺さる。

 

「大丈夫か、立向居!?」

 

「はい!」

 

俺は立向居の無事を確認した後、今度は豪炎寺へと話しかける。

 

「ナイスシュート、豪炎寺。」

 

「フ、お前のセンタリングもな。」

 

この数時間で、俺と豪炎寺のプレイは完璧に噛み合った。

声を掛け合って確認すれば、なんとなくの連携くらいなら取れるようになっていた。

 

「流石です豪炎寺さん!それに、耀姫(ようき)さんも!」

 

「おう、ありがとな、虎丸!」

 

俺たちは今、帝国学園のグラウンドで練習をしていた。

チームメンバーで、一緒にサッカーをしたことのない奴がいるため、まず連携の練習をしていた。

特に俺はこの中の誰ともやったことがない。

ちょっと不安だったが、中々良い感じに仕上がって来てるんじゃないかと思う。

というか、帽子とマスク運動してる時に邪魔すぎて即外したわ。

もう別につけないでいいや。

 

「不動!パスを回せと言ったはずだぞ!勝手なマネをするな!」

 

「フン、俺は俺のしたいようにサッカーをするだけだ。」

 

「不動・・・!!」

 

あーあ。

あっちはまだあんな調子か。

ま、そんな簡単にうまく仲良くなれるとは思ってなかったしな。

 

「チッ。こんなくだんねー事やってられっかよ。」

 

「おい、不動!グラウンドにもどれ!」

 

うお、我儘。

結局、不動はそのままピッチを出て行ってしまった。

 

「くっ、こんな事で、俺はキャプテンが務まるのか?」

 

「鬼道、あまり深く考えない方がいい。不動が練習したくないなら、それはそれでいいんじゃないか?多分、あいつがいても空気が悪くなるだけだろ。」

 

「・・・そうかもしれんな。」

 

やはり、納得の言ってない様子な鬼道。

まあ、どうせ練習しても個人技しか使えないんじゃあんまり意味はないと俺も思うけどな。

 

「よし、再開だ。今度は、緑川から虎丸、豪炎寺との連携だ。耀姫(ようき)、休んでてもいいぞ。」

 

「ああ、了解。」

 

鬼道の言葉を聞き、俺は邪魔になるためゴールの前から離れた。

今回は、虎丸と豪炎寺のツートップのフォーメンションで行くことになった。

なので、俺はミッドフィルダーに入っている。

 

「お疲れ。良い動きだな、流石代表候補に選ばれただけあるな。」

 

俺を労ってか、風丸が水を一本渡してくれる。

 

「ん、ありがとう。お前もな、風丸。」

 

「・・・ありがとう。」

 

風丸は、何かつっかかりがあるのか、あまり表情が優れていない。

どうしたんだろう、やっぱり、実力が伸びないとかなのか?

別に、俺にはそんな感じには見えないけどな。

俺のイメージだが、風丸は世界メンバーと比べて劣っているという感じは全く受けない。

それよりも、自分を卑下して攻めているような気がしてならない。

俺は、使われていなかったサッカーボールを一個取りに行って、風丸の足元に蹴って転がした。

 

「風丸。サッカーやろうぜ。」

 

「え・・・・?」

 

「お前の力は、俺たちが必要としてる。そう、気に悩むことないぜ。」

 

「あ、ああ・・・・」

 

「と、知らねえ奴にそんなこと言われても、そんな反応しかできないよな。風丸。ボールを蹴ってくれ。それで心は通じるはずだ。ちょっと付き合ってくれよ。」

 

「まあ、良いけど・・・・」

 

困った顔でパスを出す風丸。

まあ、最初はこんなもんか。

俺は、返って来たボールをトラップして上手く足に吸い寄せる。

 

「次は強めで行くぞ!」

 

そのままキープしていたボールを空中に上げて蹴りを叩きこむ。

俺が蹴った、風を纏ったシュートが風丸に迫る。

 

「くっ!?」

 

風丸は足を出して勢いを削った。

 

「うん。じゃあ次はお前だ、風丸。」

 

その後、何回かシュートの打ち合いをする。

やっぱり、陸上をやっていたためなのか風丸のシュートも威力が高い。

ディフェンスをやるのがもったいないようにすら思えてくる。

風丸の蹴ったボールを、腹で受け止める。

最初に放った俺のシュートよりも威力の高いそのシュートは、俺を十数センチほど押し出してやっと止まった。

 

「楽しいか?」

 

「ああ。」

 

「うん、そうだ。サッカーは、辛い顔してやるスポーツじゃない。」

 

何度も打ち合っているうちに風丸は自然と頬が緩んでいた。

やっぱり、ただ無心でボール蹴ってると楽しいよな。

 

「ちょっと良いか。」

 

「ん?どうした、鬼道。」

 

「5人ずつに分かれて試合してみようと思う。」

 

「お、楽しそうだな!乗ったぜ!」

 

「ああ。じゃあ、これを。」

 

「え?」

 

俺が鬼道に渡されたのは、キーパーのグローブだった。

まあ、そうですよね〜〜〜・・・・・・

 

 

 

 

「旋風陣!」

 

「何!?」

 

豪炎寺の持ち込んだボールが、木暮の旋風陣に巻き上げられる。

あーあ、打たせてあげれば俺が暇することもなかったんだが・・・・

 

「鬼道!」

 

「ああ!虎丸!」

 

木暮から鬼道へとボールが繋がり、鬼道はドリブルでゴールへと走る。

しかし、シュートを打つと見せかけた鬼道は囮で、そのままゴール前にいた虎丸にボールが渡る。

栗松と立向居は鬼道に引きつけられており、虎丸は完全にドフリーだった。

 

「行け、虎丸!」

 

ここでシュートを打てば、立向居を引き寄せていた鬼道のおかげでほぼ確実にシュートが決まる。

そんな瞬間だった。

虎丸はなかなかシュートを打とうとせず、ドリブルでキーパーの真ん前まで進む。

その後、何を考えたのか虎丸は鬼道にバックパスを出した。

 

「くっ!?」

 

パスをされた鬼道は、慌てて引きつけていた栗松を振り切って無理な体勢からシュートを打つ。

しかし、そんなシュートを立向居が止められないはずもなく、あっさりと止められてしまった。

 

「豪炎寺さん!!」

 

立向居から豪炎寺へ、超ロングパスが繋がる。

俺のチームメンバーは全員上がっており、今度は豪炎寺がフリーな状態だった。

 

「ファイアトルネード・改!」

 

「無限槍!」

 

炎を撒き散らしなが唸るサッカーボールを、赤い槍が貫く。

その数は段々と増えていき、最後には6本くらいの槍がボールへ突き刺さった。

その時には、もうボールの勢いは無くなっていた。

俺は、飛んでくるボールを軽く受け止めた。

これが、俺の必殺技の一つだ。

俺はボールを受け止めた後、鬼道に一つ提案をすることにした。

 

「そろそろ、休憩しないか?」

 

「・・・・、そうだな。よし、休憩だ!」

 

他の奴らははあはあと肩で息をしていたが、俺は走ってもないから全然疲れてないんだよな。

何回かしかシュート飛んでこなかったし、つまらんかったな。

 

「その必殺技、強いな。」

 

「ん?ああ。これは吹雪のウルフレジェンドも止めたことがあるからな。」

 

「ウルフレジェンドを?」

 

そう、俺がウルフレジェンドを止めたことがあるのは、この無限槍を使った時だ。

最近じゃ、俺の方が押し負けるけどな。

 

「あの、すみません!俺、用事あるんで!お先に失礼します!」

 

突然大声をあげた虎丸は、素早く荷物をまとめて先に帰っていった。

っていうか、ここ帝国学園だけど地理とか大丈夫なのか?アイツ。

あーあ、もう、何なんだよこいつら・・・・・

その後俺たちはもう数時間帝国で練習をした。

俺たちは、着々とメンバーとの連携が上手くなっていた。

 

 

 

 

 

⚽️

 

 

 

 

 

「練習試合?」

 

「ああ。帝国のメンバーに声をかけて、予定を空けてもらっている。やはり、練習は実践が一番だからな。」

 

代表候補ということが伝えられて、次の日。

俺たちはまた帝国学園へと集まっていた。

集まったのは10人で、不動がメンバーから抜けていた。

代表選まであと1日。

鬼道から、思っても見ない提案が出た。

なんと、現帝国学園と練習試合ができるらしい。

 

「それは凄いな!是非やって見たい!」

 

「でも、こっちは10人だぞ。あと1人、どうするんだ?」

 

「俺も少し考えたんだが、このまま10人でやってみるつもりだ。変な癖がついてしまっては困るからな。それに、そのくらいのハンデがなくては、日本代表は務まらないだろ?」

 

帝国学園って、昨年まで何十年間かずっとフットボールフロンティアで優勝してたんだろ?

まあ、主要キャラ2人が日本代表候補に引き抜かれているが。

楽しそうだからいいんだけどな。

かくして、俺たち代表候補Bチームは、帝国学園と練習試合をすることになった。

 

フォーメーションは、

GK 立向居

DF 風丸、木暮、クララ、栗松

MF ウルビダ、鬼道、清川(オレ)

FW 豪炎寺、虎丸

 

と、こんな感じだ。

豪炎寺と虎丸のツートップは変わらず、鬼道が中心に来ている。

明日の紅白戦は鬼道の隣に不動が入って完成となる。

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

両チームが頭を下げ、握手をしてから試合が始まる。

こっちボールから試合が始まった。

豪炎寺が隣にいる虎丸にボールを渡し、虎丸はそのまま前へと上がる。

 

「まずは、それぞれ好きにやって見てくれ。」

 

鬼道の最初の指示はそれだった。

鬼道自身、まだ全員のプレイが把握できていないのだろう。

 

虎丸は止めに来たていた洞面(どうめん)を軽く躱してそのまま攻め上がる。

虎丸って、やっぱり凄い選手なんだな。

 

「キラースライド!!」

 

「わっ!?」

 

しかし、虎丸の猛進もそこまでで五条さんのキラースライドに止められてしまった。

出たな、五条さん。

五条さんのキラースライドつよい。

流石はネット投票でとてつもない人気を誇るだけあるな五条さん。

しかしまだ俺がいるぜ五条さん!!

虎丸の後ろのポジションだった俺は、ボールを奪ったばかりの五条さんに詰め寄る。

俺はスライディングで五条さんのキープしていたボールを弾いた。

しかし、運悪くボールはコートの外へと出ていってしまった。

あちゃー。

運動神経は良くなってるはずなんだけど、頭は元の世界の時のままだからなー。

たまーに周りが見えなくなると、方向とか気にせずにスライディングする事があるんだよな。

普通に取ればいいんだけど、スライディングってこっかいいからついやっちゃうんだわ。

 

「いいぞ、耀姫(ようき)、その調子だ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

鬼道が褒めてくれるが、今度はチームメンバーに渡すスライディングが出来るように頑張ろう。

止まっていた試合は、帝国学園のスローイングで開始した。

 

「洞面!」

 

五条さんが投げたボールは、俺のマークを抜け出した洞面が受け取った。

しかし、追いついた俺がすぐにボールを奪い返す。

今度は、さっきの二の舞を踏まないようにスライディングはやめておいた。

 

「何!?」

 

「よし!いけ、虎丸!」

 

俺はある程度上がり、ディフェンダーを引きつけてから虎丸にパスを出す。

そう、昨日鬼道がやっていた戦術とほとんど同じだ。

今回はスローイングのため五条さんがディフェンスについていなかったのが大きかった。

しかし、前回と違って虎丸はシュートができる位置にいない。

虎丸は、そのままゴール前にいた豪炎寺へとパスを上げた。

 

「豪炎寺さん!」

 

「ああ!爆熱!ストーム!!」

 

「止める!フルパワーシールド!!」

 

さすが豪炎寺、俺が止めたファイアトルネードよりも威力が断然上だ。

いつかまた、この爆熱ストームも正面から受けて見たい。

 

「ぐっ・・・・!!」

 

ゴールキーパーの源田渾身のフルパワーシールドは、爆熱ストームに打ち砕かれた。

いいぞいいぞ、先制点を取れるのは相当大きいぞ。

試合の流れをこっちに向けることができるからな。

 

「次は入れさせないぞ!」

 

「ああ、止めて見な。」

 

豪炎寺と源田の、この言い合いもかっこいい!!

さあ次もガンガン攻めてくぜ!

 

 

 

 

 

帝国ボールからの試合再開。

フォワードの寺門(じもん)は、ミッドフィルダーの咲山(さきやま)へとロングパス。

俺のいる左サイドとは真逆の右側へとボールが回った。

まあ、左には天才プレイヤーの虎丸と、何せ俺がいるからな。

 

ちなみに、右側にいるオフェンスは豪炎寺とウルビダだ。

咲山は、豪炎寺にボールが渡らないようにうまくメンバーとパスを回しながら上っていく。

そのめまぐるしい動きに、豪炎寺は出し抜かれた。

やっぱり上手いな、帝国は。

しかし、ウルビダはパスカットでうまくボールを奪取した。

 

「行くぞ!!」

 

ウルビダは、そのまま前線へと突っ走って行った。

そのまま、フォワード、ミッドフィルダー、ディフェンダーと、連続で合計4人をもごぼう抜きだった。

それはまさに、ウルビダの独壇場だった。

 

「決めろ!」

 

ウルビダがセンタリングを上げる。

なんと、そのパスを受け取ったのは豪炎寺だった。

豪炎寺は自分が抜かれた後、一直線にゴールへと突っ走っていた。

そのおかげで、まるで狙いすましたかのような完璧なパスをつなぐことができたのだ。

 

「爆熱!ストーム!!!」

 

「そう簡単に何点も入れられると思うなよ!!」

 

そう叫び、源田は手を獣の口のような形にして突き出した。

わかりやすく言えばかめ◯め波の、『波』でする時のポーズだ。

この技はまさか・・・・

 

「サーペント・ファング!!」

 

そう叫ぶと源田の背中に、巨大な白い蛇が現れる。

その大蛇は、豪炎寺の爆熱ストームを喰い殺すかのように噛み付いた。

そして、ボールは源田の手の中へきっちりと収まった。

 

「ゴールネットはもう揺らさせない!」

 

「やるな。」

 

なんだ、ビーストファングかと思った・・・・

源田は腕を大きく振りかぶり、豪炎寺の頭上を越えてパスを出した。

そのボールは、大きな弧を描きながらミッドフィルダーの辺見(へんみ)に渡った。

 

成神(なるかみ)!」

 

「洞面!」

 

「咲山!」

 

ボールは目まぐるしく移動して、こちらのチームを寄せ付けない。

鬼道を一番意識してか、鬼道をパスをつなぎ大回りで避けて攻め込んでくる。

帝国の完全なパスサッカーだった。

俺たちは、あっという間に攻め入られてしまう。

しかし、こっちはこっちで日本最強が揃っている。

簡単にはシュートを打たせなかった。

 

「食らえ、旋風陣!」

 

「うわっ!?」

 

木暮が、得意の必殺技でボールを奪い去る。

 

「へへ、どんなもんだい!鬼道!」

 

木暮のナイスプレーにより、鬼道にボールが渡った。

鬼道はボールをハーフラインまでドリブルで持ち込み、辺見を必殺技を使って躱す。

 

「よし!イリュージョンボール!」

 

ボールが三つになって相手を撹乱する、帝国の必殺技だ。

一息つく間もなく辺見を抜いた先にいた洞面のスライディング。

鬼道はそれが届く前に、俺にパスを出す。

 

耀姫(ようき)!」

 

「ああ!」

 

俺は鬼道に貰ったボールをドリブルでキープしつつ左サイドを駆け上がる。

そこで立ちふさがったのは、みんな大好き五条さんだった。

別に相手をしてやる必要もないだろう。

 

「虎丸!行け!」

 

俺は五条さんの右側から虎丸へカーブさせたパスを出す。

だが、そのタイミングでディフェンダーの万丈(ばんじょう)が虎丸の前に躍り出た。

そして、必殺技を出して虎丸を止める。

 

「サイクロン!」

 

片足を後ろに振り上げ、勢いをつけて振り下ろす。

すると物凄い風が吹いて、虎丸はボールと一緒に吹き飛ばされてしまう。

うん、どうなってるんだ。

 

耀姫(ようき)さん!」

 

虎丸は、吹き飛ばされながらもボールをこちらへとバックパスしてきた。

あんな技食らいながらもボールキープ出来るって凄いな。

虎丸が繋いでくれたこのボール、絶対に無駄にしない!

虎丸のパスを、五条さんをおさえて、ボールをトラップする。

豪炎寺は警戒されているのかマークが付いているし、虎丸はまだパスできそうにない。

ここは、俺がゴール前まで持ち込むか。

 

「通さないぞ!」

 

「それはどうかなっ!」

 

万丈をフェイントで避けてペナルティエリア付近まで近づくと、逆サイドにいたもう1人のディフェンダー、大野(おおの)が走ってくる。

まだ少し距離があるし、無視してシュートを決めるか。

よし、追加点だ!

 

「はあっ・・・・!!」

 

俺は、上空へとボールを蹴り上げた。

そして俺も、地面を踏みしめた後に空高くジャンプをする。

豪炎寺のような必殺技だが、ファイアトルネードのように回ったりはしない。

ボールに追いついた俺は、左右の足でボールを挟み込み捻りを加える。

もう一度蹴りをボールへと叩き込めば、それは槍のように帝国のゴールへと襲いかかった。

そのシュートの名前は・・・・・

 

「デススピアー!!」

 

赤黒く変色したそのサッカーボールは、暴風を巻き起こした。

 

「く、サーペントファング・・・ッ!!!」

 

源田が放った渾身のその技は、果敢にもその槍に食いついた。

しかし白い大蛇は、その槍に撃ち貫かれてしまった。

 

「サーペントファングが破れただと!?そんな馬鹿な!?」

 

そして、そのまま死の槍はゴールへ突き刺さった。

よし、俺も得点することができたぜ!

これだけでもう俺は大満足だ。

 

「何だ、あのシュートは・・・・・」

 

「あんなすごいシュート、見たことも聞いたこともありません!」

 

「まさか、これほどの選手だったとは・・・・いい意味で、予想を裏切られたな。」

 

デススピアーは、味方からもなかなか好評のようだ。

やったね、ここ何日か練習して身につけた甲斐があったな。

 

この技は、劇場版のジ・オーガで出てくる王牙学園の必殺シュートだ。

あれも一応3のはずなのだが、世界編ではないためなのか俺の記憶に残っていた。

なので、記憶を取り戻してからの数日間このシュートを練習し続けた。

結果は見ての通り、無事習得することができている。

 

 

 

 

 

今度もこちら側が決めたため、帝国からの試合開始だ。

フォワードの寺門から、ミッドフィルダーの成神へとボールが渡る。

そして大野、辺見、五条さんと再びパスサッカーが始まった。

連続で得点されたためか、かなり慎重なプレイになっているようだ。

虎丸が、五条さんへとボールを奪いにかかる。

 

「分身フェイント!」

 

しかし五条さんも取られまいと、必殺技を使用。

五条さんが3人になって虎丸を撹乱する。

これはあれだ、風丸がダークエンペラーズで使っていた技だ。

流石の虎丸も、1人で3人の相手をするのは厳しいのか五条さんに抜かれてしまう。

まあ、元は1人なんだけどな。

 

「こっちだ!」

 

俺を警戒してか、五条さんにパスの催促が来る。

そう、虎丸の後には俺がいるのだ。

俺は五条さんにスライディングを入れるが、その前にパスが出されて空振りに終わった。

ちょっと遅かったか。

ボールは辺見に渡り、その後高いパスを出されディフェンスが抜かれた。

そしてボールは、フォワードの寺門へとたどり着いた。

これは絶好のシュートチャンスだな。

 

「いくぜ!」

 

しかし、そこで前半終了のホイッスルが鳴った。

帝国側は決定的なシュートチャンスを逃してしまった。

もし俺がこんな感じで時間が終わったら割とショックでかいな。

 

「時間に救われたな。」

 

寺門はそう言い残すと帝国側のベンチへ歩いて行った。

前半までのスコアは、俺達:2、帝国:0だ。

こっちが押してるし、勝つか負けるかではなく何点差で勝てるか、だと思う。

帝国がなかなか攻めきれないのは、佐久間が抜けてることも大きいんだろうな。

佐久間は鬼道が抜けたあとの帝国の主戦力だし。

 

耀姫(ようき)。お前があんな技を持っていたとはな。」

 

「俺、驚きました!耀姫(ようき)さんって、凄いストライカーだったんですね!!」

 

「ハハハ、それほどでも、あるかな、ハハハ!!」

 

ちなみにだが、俺は褒められると調子に乗るタイプだった。

 

「だが、サーペントファングを打ち破った耀姫(ようき)は、後半から意識されるだろう。」

 

「まあ、そうなるか。」

 

マークがついちゃうと、あまり激しくは動けなくなるな。

面倒だからそれだけはやめてくれ。

そして大きな変化もなく、少し休んでからの試合再開。

ボールは帝国側が持っていた。

 

「行くぞ!」

 

辺見がボールをキープして、俺たちへ攻め入る。

俺にはやはり、洞面がぴったりとマークについていた。

 

「五条!」

 

そしてボールは五条さんに渡り、五条さんはフィールドを駆け回る。

虎丸と栗松が五条さんにやられた。

五条さん強い、なんか強化補正とか入ってない?

うーん、俺も五条さんと一騎討ちしたかったなあ・・・・

 

「フローズン、スティール!」

 

この試合で初めてクララが活躍した。

まあ、攻めるばっかりであまり守らなかったもんな。

風丸もまだ何もできてないし。

 

「こっちだ!」

 

五条さんから奪ったボールは、鬼道の元へパスされた。

しかし、そのボールが届く前に恵那(えな)にパスカットされてしまった。

思わぬフォワードの動きに、俺達は意表を突かれる形になった。

 

「行くぞ寺門!」

 

「おう!」

 

「「ツインブースト!」」

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

帝国の懐かしい必殺技に、しかし立向居がG4まで進化させたムゲン・ザ・ハンドには敵わなかった。

簡単にキャッチした立向居は、風丸にパスを出す。

良かったな風丸、初活躍だ。

 

「うおおおお!!疾風ダッシュ!!」

 

速さを増した疾風ダッシュが敵を置いて行く。

 

「キラースライド!」

 

「疾風ダッシュ!」

 

キラースライドを速さにモノを言わせて躱す。

風丸は、まるで風のように帝国のブロックをかいくぐりウルビダにパスを出した。

絶好調のようだな、風丸。

 

「上がれ!」

 

鬼道の指示で、ディフェンダー以外が敵陣内へと攻め込む。

ここに来て攻撃的な戦術だ。

そして、ボールは鬼道がキープしていた。

 

「豪炎寺!」

 

鬼道が豪炎寺へとパスを出す。

豪炎寺は周りにいた選手を引き離し、ボールと共に高くジャンプした。

 

「行くぞ!爆熱!!ストーム!!!」

 

「その技は通用しない!サーペントファング!!」

 

一度交えた技の組み合わせだが、なぜか今回は爆熱ストームの方が威力が上だった。

まさか、必殺技が進化したのか!!

豪炎寺の放った爆熱ストームG(グレード)2は、噛み付く大蛇を弾き飛ばした。

 

「何!?」

 

しかし、そのシュートはゴールへと入ることはなく、ゴールポストへ衝突した。

技を交えた時に止められないと見た源田が、シュートのコースをずらしたようだ。

敵ながらナイスプレーだったな。

そして、ポストに当たったボールをうまく拾ったのは、帝国のディフェンダーだった。

 

「今度は帝国のターンだ!」

 

ボールは万丈から五条さんへ、五条さんから辺見、辺見から成神へと渡る。

攻め入られた俺たちのチームは、カウンターを許す形になっていた。

ウルビダがイリュージョンボールで抜かれ、風丸がジャッジスルーで抜かれた。

 

「簡単には打たせないよ!旋風陣!」

 

「ジャッジスルー!」

 

「うわっ!?」

 

木暮の旋風陣は失敗し、ジャッジスルーによって吹っ飛ばされた。

しかし、その後クララが再びフローズンスティールで奪い取った。

ディフェンスが出来ると安心するな。

壁山がいればもっと安心感があっただろうけど。

しかし、やっとボールを取れた。

 

「はいっ」

 

クララから鬼道へとパスが回る。

今度は、こっちが攻める番だ!

 

 

 

 

 

それから十数分、俺が洞面のマークを抜け出して虎丸のアシストからデススピアーをもう一度打つことができた。

しかし、その後俺にマークが常時2人ついたことにより、俺はついに全く動けなくなった。

俺たちが攻めても、豪炎寺も虎丸もサーペントファングを破ることはもうできなかった。

だが、こちらも点を入れられることもなかった。

 

「爆熱ストーム!」

 

「サーペントファング!」

 

豪炎寺が打ち、源田がガッチリとキャッチする。

もう数回見た光景だ。

そして、そこで長いホイッスルが鳴る。

試合終了だ。

 

最終的に、スコアは3対0で俺たちの勝ちだ。

完勝はしたのだがやはりまだ連携がうまくいってなかったな。

何度も帝国のペースに飲まれてたし。

まあでも、楽しかったかな。やっぱり。

 

 

 



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誕生!イナズマジャパン! #04

 

 

 

 

 

紅白戦当日。

俺たちはグラウンドに出て驚愕した。

雷門中に、大勢の人が詰めかけていたのだ。

 

「凄いな、こんな雷門中初めてだ!」

 

「本当ッス。皆応援に来てるッス。」

 

「当たり前だろう。日本代表がかかってるんだからな。」

 

こう言い合うのは、円堂、壁山、風丸の無印判メンバー達だ。

しかし、雷門中に来たこともない俺からしても人の多さにびっくりした。

それくらいの人が集まっていた。

 

「「「よーきくーん!」」」

 

「ん?」

 

声のした方を振り向くと、そこには白恋中のメンバー達がいた。

その中から1人飛び出し、俺の腹にドスッと体当たりをかまして来た。

 

「ぐぼぉ!?」

 

耀姫(ようき)くん!頑張ってね!」

 

「おお、珠香、ありがとうな・・・・・あと、弁当美味かったよ。」

 

「えへへ、ありがとっ」

 

痛む腹を押さえながら言うと、珠香は花が咲いたかのような笑顔で答えた。

うん、そんなスマイル浮かべてもお前俺に攻撃して来てるからな?

 

「あはは、耀姫(ようき)くん、おはよう・・・・」

 

「あー。おはよう、吹雪。」

 

吹雪も笑いながらお腹を押えて撫でてることから、俺と同じことをやられたんだろう。

ドンマイ吹雪、俺も痛かったぜ!

 

「つーか、お前ら来るんなら先に言えよ。」

 

「んー、驚かせたかったんだよぉ〜〜〜」

 

「そ、そうか。」

 

グリグリと胸に頭を擦り付けて来る珠香を引き剥がす。

追撃なんてされたら流石に試合に支障が出るかもしれんだろうに。

 

「吹雪くんも耀姫(ようき)くんも頑張るべ!」

 

「日本代表は、士郎と耀姫(ようき)のツートップで決まりだべな!」

 

「ねえねえ、耀姫(ようき)、士郎。さっき、珠香がおだっててっころんだの。したっけね、隣のチームにちょされてね!」

 

「そ、そんな事言わなくていいでしょ!?」

 

「あーはいはい。話は後で聞くから、お前らどっか行ってろ。他のメンバーに迷惑だから。」

 

近くには円堂達がいる。

あまり長話も良くないだろう。

俺は珠香の背中を押してメンバーの元に戻す。

 

耀姫(ようき)くんの言う通り、こんな所でくっちゃべってねえではよ戻るべさ。」

 

「うん!じゃあ私達、あっちの席にいるから!!また後でね〜!」

 

「したっけね。」

 

珠香が指差したのは、雷門中のグラウンドにある、簡易観客席の一つだった。

そこには、『白恋中様』と書かれた張り紙がしてあった。

本当にちゃんと最初から準備してあったのかよ。

空港で普通にお別れしちゃっただろ、恥ずかしい。

 

「皆のためにも、代表落ちはできないね。」

 

「ああ。元々、するつもりもないしな。」

 

俺は、吹雪に不敵に笑って見せた。

そして、俺たちはどちらともなく手を掴み合う。

 

「負けないぜ、吹雪。」

 

「勿論、ボクもさ!」

 

そう宣誓しあった後、俺と吹雪はそれぞれのベンチへ歩いていった。

そこからは少しアップをして、時間を潰した。

心臓が大きくドクドクと鳴っているのがわかる。

緊張というよりは、楽しみで胸が張り裂けそうだった。

 

『さあ、お待たせいたしました!中学サッカー日本代表を決める紅白戦が今、始まろうとしています!!』

 

そして、いよいよ紅白戦が始まる。

 

 

 

 

 

『円堂守率いるAチーム!鬼道有人率いるBチーム!名誉ある日本代表に選ばれるのは、一体どの選手なのか!?』

 

今回は、雷門中名物の将棋部の実況がいるな。

やっぱり、実況があると盛り上がるのだろうか。

 

「世界と戦う。そのためにも、俺はこの試合に全力をぶつける!」

 

「新しい自分、新しい仲間。耀姫(ようき)くん、ボクも必ず、世界に行くよ!」

 

「世界中の強い奴と戦える。俺はそんなチャンスを逃すわけにはいかない。」

 

周りのメンバーは、皆気合十分のようだ。

やっぱり、皆かっこいいな。

全員の気迫が、ピリピリと伝わって来るようだった。

でも、ここから6人落ちるんだよな・・・・

 

「俺たちは、仲間であるとともにライバルでもある。自分の力を出し切って行くぞ!」

 

「おう!」

 

まずボールはAチーム、円堂側からのスタートだった。

 

フォーメーションは、

 

 

Aチーム

 

GK 円堂守(えんどうまもる)

DF 綱海条介(つなみじょうすけ)財前塔子(ざいぜんとうこ)壁山塀吾郎(かべやまへいごろう)飛鷹征矢(とびたかせいや)

MF 佐久間次郎(さくまじろう)熱波夏彦(ねつはなつひこ)松野空介(まつのくうすけ)緑川(みどりかわ)リュウジ

FW 基山(きやま)ヒロト、吹雪士郎(ふぶきしろう)

 

 

Bチーム

 

FW 清川耀姫(きよかわ ようき)宇都宮虎丸(うつのみやとらまる)豪炎寺修也(ごうえんじしゅうや)

MF 風丸一郎太(かぜまるいちろうた)鬼道有人(きどうゆうと)不動明王(ふどうあきお)八神玲名(やがみれいな)

DF 倉掛(くらかけ)クララ、木暮夕弥(こぐれゆうや)栗松鉄平(くりまつてっぺい)

GK 立向居勇気(たちむかいゆうき)

 

 

帝国との練習試合後、俺は鬼道に攻撃に参加するミッドフィルダーよりも、攻撃中心なフォワードにいてくれと頼まれていた。

そして、運動能力の高い虎丸をミッドフィルダー寄りのフォワードに下げてバランスをとった。

元の俺のポジションには風丸が入り、ウルビダとで鬼道と不動を挟む形に落ち着いた。

その分ディフェンダーが減ったため、ディフェンスを頑張ってもらいたい。

 

 

『ボールが中心に置かれ、いよいよキックオフです!』

 

ピーッ!!

長いホイッスルが響き、試合が開始された。

ヒロトが蹴り始めたボールは吹雪へと回り、2人でパスを出し続けながら息を合わせてそのまま持ち込む。

この2人、敵同士だったはずなのにこの2日間で完璧に連携がとれているな。

なんか、いつも吹雪の隣は俺だったから新鮮だな。

ヒロトと吹雪は、大胆にも中央から切り込んでいった。

しかし、中央には我らが鬼道有人がいる。

 

「虎丸!プレスで抑えるぞ!」

 

「はい!」

 

鬼道からの指示が飛ぶ。

そう、帝国戦の練習試合で、鬼道はもう俺たちの動きを把握できていた。

鬼道式サッカーの始まりだ。

 

「佐久間君!」

 

ヒロトは、一旦佐久間にボールを預けて鬼道たちを追い抜いた。

俺は佐久間よりも前に上がっていたため、そこはスルーした。

 

「よし、行くぞ!」

 

ボールを受け取った佐久間は、左側から吹雪たちを追うようにして攻め上がる。

それを許さない風丸がスライディングで防ぐ。

 

「そこだっ!」

 

しかし、佐久間はフェイントで風丸を出し抜いた。

 

「何だと!?」

 

うまく風丸を躱した佐久間だったが、そこにはクララが待ち構えている。

 

「いただき・・・!」

 

「くっ!?」

 

風丸を躱した直後で反応しきれなかった佐久間は、そのままボールを奪われてしまう。

その後クララは鬼道へとボールを回した。

 

「豪炎寺!」

 

鬼道から相手ミッドフィルダーよりも先に上がっていた豪炎寺にパスが回る。

豪炎寺は付いてきていたマックスと緑川を引き離してシュートの体勢に入った。

 

「通さないッス!」

 

目の前に出てきたのは壁山だったが、豪炎寺はその巨体をものともせずにボールを高く上げて自らも飛び上がる。

 

「行くぞ、円堂!」

 

「ああ!」

 

豪炎寺と円堂は、互いに一言交わした後に必殺技を出し合う。

 

「ファイアトルネード・改!」

 

「真・ゴッドハンド!!」

 

それぞれが、無印で一番初めに出した必殺技だ。

これはイナイレファンにとってはアツい展開だな。

円堂は、進化したゴッドハンドでファイアトルネードをキッチリと止めた。

 

『いきなりの豪炎寺と円堂の対決!まずは挨拶代りかーっ!?』

 

「行け!マックス!」

 

円堂からマックスへパスが通り、そしてマックスは吹雪へとダイレクトパス。

そこで木暮と栗松が吹雪の道を塞ぐ。

しかし、そこでヒロトがゴール前へと駆けた。

そしてボールはヒロトへと回ってしまう。

 

「行くよ!流星ブレード!!」

 

ヒロトは高く上げたボールを叩きつけるように蹴りつける。

すると、一拍おいて輝いたサッカーボールは光の奔流のようなシュートに変わった。

 

「旋風陣!」

 

「止めます!!ムゲン・ザ・ハンド・・・!!!」

 

旋風陣で威力が下がったはずが、流星ブレードは輝きを失わない。

激しい光に押し込まれそうになるが、立向居はそれを物ともせずに腕を突き出した。

数秒後、ボールはしっかりと立向居の腕に抱え込まれていた。

 

『立向居も負けじとシュートをガッシリキャッチです!互いにゴールを許しません!!』

 

「流石ヒロトさんだ・・・・シュートを止めた腕が、まだビリビリしてる・・・・」

 

「やるね、立向居君!でも、次は絶対に決めるよ!」

 

立向居は木暮へとパスを出し、そのまま風丸へ、そしてボールは鬼道に渡った。

が、そこでマックスと当たり、鬼道は必殺技を使った。

 

「イリュージョンボール!」

 

マックスを抜いた鬼道は、ゴール前にいた豪炎寺へとパスを出した。

 

「行け、豪炎寺!」

 

ボールを受け取った豪炎寺は鬼道の言う通り、シュートを放つ。

 

「爆熱・ストーム!!」

 

その名の通り、炎を纏ったそのシュートは、熱風を巻き起こした。

高所から放たれた爆熱ストームは、地面スレスレを這って円堂へと迫る。

 

「はぁぁああ!!正義の鉄拳!!!」

 

大きく振りかぶって突き出された拳は、豪炎寺の爆熱ストームを受け止めた。

しかし、やはり豪炎寺のシュートは強力で円堂の拳が押さえ込まれる。

 

「ぐ・・・ッ!!負けるもんかぁぁああ!!!」

 

『円堂、豪炎寺の必殺シュートを正義の鉄拳と気合いで防いだーっ!!』

 

一旦は押し返されたものの、円堂の正義の鉄拳は爆熱ストームをしっかりと弾き飛ばした。

円堂が弾いたボールは綱海がトラップし、その後ネッパー、ヒロトと繋がった。

 

「吹雪くん、頼んだよ!」

 

「任せて!」

 

そして、次はヒロトから吹雪へとボールが回る。

吹雪はそのままクララのスライディングを避けてシュートへと持ち込んだ。

 

「ウルフレジェンド!!ぉぉおおっ!!」

 

吹雪の蹴りつけたボールはまるで獣のようにゴールへと襲い掛かかる。

その後共に出現した牙狼が、ボールとともに駆けた。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!!!」

 

幾つもの腕がウルフレジェンドを食い止めようと掴みかかる。

しかし、吹雪の猛攻は止められなかったようだ。

無限の手を貫いて、ボールが立向居諸共ゴールへと突き刺さった。

 

「うわぁあああっ!!」

 

『ゴォォオオル!!先制点はAチームの吹雪だっっっ!!!!』

 

どちらのチームもシュートに繋ぐまでが早い。

3回もシュートがあったのになかなか点が入らなかったが、やっと点が入ったな。

まあ、俺のチームの失点だから喜べはしないんだけどな。

だが、これで試合の流れは変わったはずだ。

というか、先制点は吹雪か。

何というか、悔しいな。

一言何か言ってやろう。

 

「吹雪、ナイスシュート!」

 

「あはは、ありがとう。でも、ボクの事褒めてていいの?」

 

「良いんだよ。だって、()()()()()()()から。」

 

「へえ。じゃあ、楽しみにしてるよ、耀姫(ようき)くん。」

 

吹雪は、楽しそうに笑った。

試合再開は俺たちからだ。

センターマークにボールが置かれて、俺がボールを蹴って試合が再開する。

 

「虎丸!」

 

「はい!」

 

虎丸は、回ってきたボールをキープして、俺たちと一緒にそのまま上がる。

俺と豪炎寺が左右に分かれ、虎丸はその後ろから走る。

俺達はフォワード3人でV字を描きながら攻めていく。

 

「虎丸、豪炎寺へパスだ!」

 

「はい!」

 

ボールを狙いにきていた、吹雪に取られる前に豪炎寺にパスを送る。

その間に、俺はもっと前へ上がっておきましょうかね。

吹雪にあれだけ啖呵切った以上、俺が決めたい。

 

「オレも活躍するッス!ザ・ウォール!!」

 

そう目論んでいたのだが、豪炎寺は壁山のディフェンスに止められてしまう。

うん、今は敵側だが、やっぱりディフェンダーにはどっしりした奴がいなくちゃな。

 

「マックスさん!」

 

「熱波!」

 

ダイレクトパスが熱波へ届き、そのまま上がろうとするが、それを風丸が許さなかった。

 

「今度こそ止める!」

 

先程は奪えなかった風丸だが、今回はスライディングに成功した。

そして風丸が蹴ったボールは、鬼道の方へと飛んで行く。

 

耀姫(ようき)!」

 

よし、やっと回ってきたか!

鬼道は俺の意を汲んだかのようなタイミングで俺にパスを出す。

ずっと前線でフォーメーションの穴を探っていた甲斐があった。

 

「行くぜ、止めてみせろ!」

 

俺は高くボールを蹴り上げる。

そして、しゃがんで全身のバネを使い自らも飛び上がった。

ボールを両足で強く捻り、回転を加える。

ギュルギュルと歪み、回り始めるボールへとどめの一撃と言わんばかりに蹴りを叩き込む。

ドリルのような高速回転をするその槍は、円堂のゴールへと投擲された。

 

「デススピアー!!!!」

 

その必殺技の名前を、声の限り叫んだ。

覚えとけ、これが俺の必殺シュートだ!

うん、これだ!

やっぱり、サッカーは楽しい。

 

『見たこともない強力な必殺シュートです!!円堂、止めることはできるのかーっ!?』

 

「行くぞ、耀姫(ようき)!正義の鉄拳!!」

 

正義の鉄拳が、デススピアーとぶつかり合う。

が、拮抗したのは一瞬で、デススピアーが円堂の鉄拳を粉々に打ち砕いた。

 

「ぐわっ!?」

 

『ゴォォオオル!!清川の必殺シュートがゴールネットを揺らしました!一体あの選手は何者だーっ!?』

 

よし!!

俺のシュートを止めたいなら、オメガザハンドでも習得して来な!

次も連続で点を入れてやるぜ。

むしろハットトリックだって決めてみせる。

 

「流石だね、耀姫(ようき)くん。」

 

「だろ?」

 

ポジションにつくまでの間に、吹雪と短い会話を交わす。

こっちがゴールを決めたため、ボールは円堂側からスタートする。

吹雪は緑川へボールを送って、自分はそのまま上がる。

 

「行くぞ、ワープドライブ!」

 

緑川は豪炎寺を必殺技を使うことでかわす。

ワームホールを作り出して異次元に行って相手を抜く、まさに超次元な技だ。

 

「よこせ!」

 

「何!?」

 

緑川は必殺技を使った後に不動にボールを奪われた。

不動は、そのまま自分で敵陣までボールを持ち込む。

そしてマックスをフェイントでやり過ごし、ゴール前まで一気に駆け抜けた。

後に残ったのは飛鷹だった。

 

「通すな、飛鷹!!」

 

「!?う、うす!」

 

飛鷹は、ぎこちなく不動の前に立ちふさがる。

その姿は、とてもじゃないがサッカーをやっているようには思えなかった。

 

「フン、お前なんかに止められるかよ!」

 

飛鷹を無視して、不動がシュートを打った。

飛鷹はそれに反応することもできず、棒立ちでいることしかできていなかった。

 

「はぁっ!」

 

円堂は不動のシュートをパンチングで弾き飛ばす。

ゴールを逸れたそのボールは、サッカーコートの外へと飛んで行った。

 

「ドンマイだ、飛鷹!」

 

「・・・・うす。」

 

「なんだ、アイツ。まるでシロートじゃねえか。」

 

口は悪いが、今回は不動の言う通りだった。

なんでこんな奴が、代表候補に呼ばれたんだ・・・・?

 

スローイングで、またしても不動がボールを手に入れる。

 

「はぁあああっ!」

 

そこで不動を止めたのは、スライディングをした佐久間だった。

佐久間は不動とは反対側にいたはずだが、ここまで来ていたのか。

佐久間がパスをしたボールは、そのままマックスに渡った。

 

「どうだ!?」

 

「フン、この程度で力むなよ。」

 

不動は相変わらず絵に描いたかのような嫌な奴だな。

 

「フローズンスティールっ!」

 

マックスのボールをクララが必殺技で奪い去る。

そしてボールは風丸、鬼道を介して俺へ回って来た。

よし、もう一度決めてやるぜ。

 

「追加点だ!デススピアー!」

 

俺はもう一度デススピアーを撃ち放った。

 

「正義の鉄拳!!・・・ぐわっ!?」

 

やはり、正義の鉄拳ではデススピアーを防ぐことはできないようだ。

 

「よし!」

 

追加点を確信したところで、飛鷹が動いた。

 

「くそ、今度こそ・・・ッ!!」

 

飛鷹ががむしゃらに足を振る。

すると、空間に歪みが入りシュートを引き寄せた。

 

「何っ!?」

 

「な、なんだ今の!」

 

俺と、ついでに円堂が驚愕する。

今のは・・・・・?

シュートを止めた飛鷹自身も、何が起きたのかわかっていないようだ。

 

「シュートが、急に失速した・・・・?」

 

・・・・そうか、そういうことか、なるほどな。

こいつは下手に見えて才能を持ってるって感じの選手なのか。

だけどサッカー初心者、と。

段々と強くなって行く、っていう感じのメンバーなのか!

自分の口がニヤニヤと釣り上がっているのがわかる。

こういう展開も面白くて楽しいな!!

 

ピッピー

 

短いホイッスルが鳴る。

ここで前半終了か。

 

ここまでのスコアは、一対一で、シュートを決めたのは俺と吹雪の白恋組みだ。

なかなか拮抗してるな、流石は日本代表候補だ。

 

 

 

そして、試合再開。

後半戦の始まりだ!

 

 

ボールは俺が持っていた。

ミッドフィールダーをかわしてウルビダへとボールを蹴る。

 

「ウルビダ!」

 

「私の名前は八神 玲名だっ!!」

 

文句を言いつつも、俺のパスを受け取って走る。

そしてそのまま吹雪を抜き、ネッパーを抜き、マックスをも抜いた。

必殺技を使わずここまで出来るのは凄いと素直に思う。

そしてウルビダは豪炎寺へとパスを出す。

 

「貰った!」

 

しかし、緑川が戻ってきていて豪炎寺の手前で体を入れこみパスカットを成功させた。

ここで豪炎寺にパスが通らなかったのは痛いかもな。

 

「熱波!」

 

「佐久間!」

 

ダイレクトパスを繋げ、あっという間に攻め入られた。

上がる佐久間を、風丸が止めにかかる。

 

「烈風ダッシュ!」

 

「何!?」

 

佐久間は、風丸をまるで疾風ダッシュの進化かというような技で抜いた。

そして、栗松のスライディングもフェイントで上手く躱した。

 

「旋風陣!」

 

しかし佐久間の快進撃もここまでで、木暮がボールを奪い返した。

 

「虎丸!」

 

木暮は、奪ったボールを虎丸へと託す。

そのボールを狙って、緑川がスライディングを仕掛ける。

虎丸はそのスライディングを受けながらも無理な体勢で鬼道にパスを出した。

凄いな、あんな姿勢でパスできる奴はそういないぞ。

パスを受けた鬼道は、自身で敵陣へとボールを持ち込む。

しかし、鬼道はすぐさま吹雪と緑川のプレスで動きを封じられた。

 

「こっちだ!」

 

不動がパスしやすい位置へと移動した。

鬼道は一瞬ためらった後、意を決したかのように不動へとパスを出す。

 

前半はシュートの嵐だったのと比べ、後半は慎重になっているのかまだ誰もシュートを打てていない。

こんな状態が後半15分まで続いた。

その硬直状態を破ったのはヒロトだった。

 

「流星ブレード!!」

 

「ムゲン・ザ・ハンド!!」

 

吹雪にアシストされて、ディフェンダーを抜いたヒロトは流星ブレードを打つことが出来た。

立向居も流星ブレードに応戦するが、やはり威力が高かったようだ。

ムゲン・ザ・ハンドは破れ、ゴールにシュートが突き刺さった。

これで2:1、俺達の方が負けている。

だが、後半もあと15分残っている。

まだ逆転の可能性はある。

 

俺は鬼道にボールを預けて、敵の陣地を上がる。

この試合で正義の鉄拳を敗れたのは、俺のデススピアーだけだ。

という事は、俺が一番決める可能性があるはずだ。

だから、とりあえず上がりまくってパスを待つ!

 

「虎丸!頼んだ!」

 

鬼道は同じく上がっていた虎丸にパスを出す。

 

「ここは通さないぜ!」

 

綱海が虎丸の前へ立ちふさがる。

しかし、虎丸は何故か見当違いの方向へボールを蹴った。

疑問に思ったのもつかの間、回転のかかったボールは綱海の周りを回る。

その間に虎丸は綱海を抜き去り、ボールも虎丸の足へと再び戻った。

虎丸の必殺技、ひとりワンツーだ。

 

「通さないッス!」

 

次は壁山が来るが、それはボールを蹴りあげて抜き去った。

後に残ったのは、ゴールキーパーの円堂だけだ。

またとない、シュートチャンスだった。

 

「来い!」

 

しかし、虎丸はチラッと俺の方へ視線を送る。

俺は塔子とマックス2人にマークされていた。

虎丸と俺が上がった時点で2人が着いたんだよ。

多分、正義の鉄拳を破ったことでかなり警戒されたんだろうな。

だから、ここは虎丸がシュートを打つのがベストだった。

 

「行け!打て、虎丸!!」

 

「・・・・豪炎寺さん!」

 

虎丸はそんなチャンスを、豪炎寺へとバックパスをする事で自分から潰した。

 

「くっ、爆熱ストーム!」

 

予想外のところからパスが来たためか、豪炎寺の反応が遅れた。

しかし、そこはエースストライカー。

しっかりとシュートを叩き込んだ。

 

「正義の鉄拳!」

 

だが、やはり円堂に止められてしまった。

反応が遅れたためか、豪炎寺のシュートの威力はいつもより落ちていた。

そして、そのこぼれ球を拾ったのは不動だった。

 

「へっ、行くぜ!」

 

ボールを奪いにかかったネッパーに、不動の必殺技がぶつかった。

ボールをお腹に蹴られた後、連続で蹴りを叩き込まれる。

これがジャッジスルー2。

ボールにしか触れてないとはいえ、性格の悪すぎる技だ。

だが、食らいたくはないが、その発送は面白いと思う。

 

「そろそろ、役に立たないとね!クイックドロウ!」

 

「チッ!」

 

マックスが不動から必殺技でボールを奪う。

そしてすぐに緑川へ、そして緑川からヒロトへとダイレクトでパスが繋がる。

ヒロトがシュートの体勢に入る前に、クララがボールを奪う。

 

「フローズンスティール!」

 

そしてクララからウルビダへ、ウルビダから豪炎寺へとパスが出て、最終的に俺の所までパスが回る。

よし、ここで俺がゴール前でボールを受けるのは大きい。

 

「次こそねじ込んで見せる!デススピアー!!」

 

残り時間はあと僅かだ。

ここで決めれなければチャンスはもうないかもしれない。

3度目のデススピアーだ!

これが決まれば同点に持ち込むことが出来る。

円堂だけでは止められないため、壁山が必殺技でシュートブロックを試みる。

 

「ザ・ウォール!」

 

しかし、やはりザ・ウォールだけではデススピアーを止めることは出来なかった。

 

「キャプテン!頼むッス!!」

 

「ああ!正義の鉄拳!!・・・・はぁぁぁああああっっっ!!!」

 

再び、拮抗し合うデススピアーと正義の鉄拳。

最初は押されていたが、再び円堂の気合いでボールを弾いた。

ボールはゴールポストに当たり、惜しくもゴールならず。

しかし円堂の真正面には、いつの間にか豪炎寺がいた。

 

「爆熱ストーム!!」

 

もう一度ゴールへ押し込むように蹴りこまれたそのシュートは、寸分狂わずゴールを狙う。

円堂も、慌てて正義の鉄拳で対抗する。

しかし、やはり出すのが遅れたためか今回は爆熱ストームの方が正義の鉄拳を貫き、ゴールネットを揺らした。

 

「ナイスシュート、豪炎寺!」

 

「ああ。お前のシュートも良かったんだがな。」

 

俺達は2人で互いを褒めあった。

これでスコアは2対2だ。

残り時間ももう殆ど残っていないはずだ。

ゴールを入れることができればそのチームが勝つだろう。

 

吹雪がボール蹴り、試合が再開した。

俺はボールを奪うべく、吹雪に肉薄した。

 

「吹雪!!」

 

耀姫(ようき)くん!!」

 

 

ピッピッピー!

 

いざ勝負、というところで、ホイッスルが鳴り響いた。

試合終了の合図だ。

結局、同点で終わったか・・・・

 

「いい試合だったな、吹雪。」

 

「うん!」

 

試合終了時、奇しくもすぐそばにいた俺達2人は腕を絡ませて握手をしあった。

結局同点だったが、最後まで楽しい試合だった。

後は、落選していないのを祈るだけか・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員良くやったな。お前たちのサッカーへの想い、見させてもらったぞ。」

 

「監督・・・」

 

「いよいよ、運命の選択をしなければならん。」

 

「はい。」

 

「今から日本代表の選手を決める。お前たちはここで待っていてくれ。」

 

響さんは、俺達選手を置いてどこかへ行ってしまう。

その時、近くには見たことない男がいた。

 

「あの人、この前も練習を見ていたんです。一旦誰なんでしょう?」

 

「さあな・・・・」

 

その男は、なんというか、鋭い眼光の持ち主だった。

全体的に何やら厳しそうな印象を受ける。

俺の記憶にも、あんな奴はいなかったが・・・・

もしかすると、世界編で初出の新しい監督とかか?

響さんは雷門を日本一にはしたが、言っちゃえば今はもうただのラーメン屋のおっちゃんだからな。

2では、吉良瞳子が監督やってたし。

 

「ドキドキするな、選ばれるのは誰なんだろう?」

 

「強い奴が生き残る。自然界の掟さ。」

 

「まだ、あんたが生き残るかはわかんないけどね。うしし・・・・」

 

「木暮くん!!」

 

それぞれは、思い思いに会話を始める。

俺も、吹雪と適当に雑談でも始めるか。

そう思って吹雪へ近づこうとしたが、気になることが耳に入った。

 

「虎丸。この試合の最後、明確なシュートチャンスがあった。なぜシュートを打たなかった?」

 

「・・・・!!」

 

「あの時、お前の決定的なシュートチャンスだったはずだ。」

 

「・・・あの時は、先輩達がいるのに、前に出るべきではないと判断しました。」

 

そう言って、逃げるように豪炎寺から離れる虎丸。

んー、空気悪くなるな。

初めて見た時は豪炎寺を慕う元気な後輩だと思っていたのだが、何か歪んでいるのか?

はあ、厄介ごとが増えたな。

 

「あいつは、まだ本気を出していないようだな。」

 

「・・・・誰もが代表になろうとアピールしているのに、あいつ・・・・・」

 

豪炎寺は、なにか考えるように黙り込んだ。

俺も、虎丸のことは気になるな。

俺の記憶では、すごいシュートを持っている奴なんだが・・・・

 

「さて。それではそろそろ、日本代表最終選考の通過者を発表する。」

 

「「「はいっ!!」」」

 

響さんが帰ってきた。

さて、ドキドキするな!

 

「・・・・だが、その前に。日本代表の監督を紹介する。」

 

「えっ?」

 

そこで出て来たのは、先ほどの厳つい男だった。

っていうか、予想当たっちゃった。

 

「私が監督の、久遠道也だ。よろしく頼む。」

 

「待ってください!どうして響監督が代表監督じゃないんですか!?」

 

「久遠は、俺以上にお前達の力を引き出してくれる。そう判断したからだ。」

 

「はい、わかりました。俺、響監督を信じます。」

 

円堂は、思った以上に潔く引いた。

他のメンバーは、まだあまり納得がいってないようだが。

 

「早速だが、これより日本代表イレブンを発表する。」

 

久遠は、何かのファイルを開きつつ代表メンバーを発表し始めた。

 

「まず、フォワード。豪炎寺修也、清川耀姫、吹雪士郎、基山ヒロト、宇都宮虎丸。

ミッドフィールダー。緑川リュウジ、鬼道有人、不動明王、八神玲奈。

ディフェンダー。木暮夕弥、壁山塀吾郎、倉掛クララ、飛鷹征矢、風丸一郎太。

ゴールキーパー、円堂守、立向居勇気。

そして、チームキャプテンは円堂守。

以上だ。」

 

よし!やっぱり入れたか、まあな、あんだけ強力なシュート見せたんだし、落ちるわけはないか。

でも、佐久間は予選落ちかー、残念だな。

・・・・それにしても、アフロディが呼ばれてすらいないのはどうしてなんだろうか・・・・

宇宙人との戦いでも仲間になってくれたのに。

怪我、まだ治ってないのか?

そんなことは無いはずなんだが・・・・

 

「今日から、お前達は日本代表イナズマジャパンだ。いいか。世界への道は厳しいぞ。覚悟はいいか?」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 

これから俺たちは、世界への第一歩を踏み出すことになった。

さあ、サッカー始めようぜ!

 

 

 

 

 




入れ替えキャラクター

・代表候補メンバー
闇野カゲト、武方勝、目金一斗、染岡竜吾、土方雷電
↑↓
清川耀姫、八神玲名、倉掛クララ、熱波夏彦、財前塔子


・選抜メンバー
綱海条介、栗松鉄平、土方雷電
↑↓
清川耀姫、八神玲奈、倉掛クララ


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第二章 アジア予選開始!呪われた監督久遠の謎!
メンバー達に広がる不安! #05


 

 

 

 

 

「うん、選ばれたよ。日本代表。」

「うん。ちゃんと起きてるし、歯も磨くし顔も洗うよ。」

「はいはい、わかってるって。怪我にも気をつける。」

「うん。わかった。ありがとう、母さん。」

 

俺は、早朝にかかってきた電話を切る。

時計を見ると、まだ5時前だった。

 

「ふぁあ。心配してくれるのはありがたいんだが、過保護も過ぎると気疲れはするよな。」

 

ベッドに入ったままの体を起き上がらせる。

そして机の上に置いてある、タイマーがセットされた目覚ましを止めた。

鳴る前に母さんが電話をかけて来たもんだから、タイマーが鳴る前に起きてしまった。

さて、着替えて朝食でももらいに行こうかな。

・・・・いや、こんな早くにまだやってないか。

そう考え、俺はグラウンドでシュートの練習でもすることにした。

 

物置からボールを探し出して、一つ持ち出すと宿舎を出た。

グラウンドに出てみると、日が出たばかりだった。

空はまだ完全には明るくなっていない。

俺は誰もいないゴールに向かって、1人ボールを蹴り上げた。

 

「デス・スピアー!」

 

足首で思いきり捻ったボールは、グルングルン回転しながら細長いドリルのように変形する。

赤黒く染まったサッカーボールをもう一度蹴りつけて加速させる。

すると、槍となったサッカーボールはゴールへと一直線に向かって行った。

 

「・・・・こんなもんか。」

 

その後も何回か必殺技を打つが、結局これまで以上の手応えを感じることはできなかった。

デススピアーも、何かが決定的に足りない気がする。

いや、このままでも充分な威力があるのだが、なんだか上手く扱えきれていないような気がするのだ。

言葉では上手く言い表せないが、なんか、こう、本物のデススピアーではないような・・・・・

 

昨日も、俺のデススピアーはザウォールと正義の鉄拳で弾かれたが、本来はあんな技に止められる威力ではないはずだ。

飛鷹のあの謎現象は別として。

パワーインフレ、御都合主義、俺のキック力が足りない、だとか理由は並べれば並べるほど出て来る。

一体、何がダメなんだろうか。

それとも、俺はただ映画で見たときのような迫力がないからそう思っているだけなのか。

考えれば考えるほど、わからなくなるな。

 

耀姫(ようき)くん!」

 

「ん?ああ、吹雪か。どうした、こんな早朝に。」

 

耀姫(ようき)くんが練習してたのが部屋から見えたから、つい。」

 

俺が考え事をしていると、不意に声がかかった。

俺に声をかけたのは吹雪で、さっき合宿所から出てきたようだ。

寝巻きなのか着替えたのかは知らないが、吹雪は新しく支給されたイナズマジャパンのジャージを着ていた。

勿論、俺もジャージを着ている。

動きやすいからな。

 

「その技、完成してたんだね。」

 

「デススピアーのことか?まあな。」

 

「驚いたよ。高熱が出た、なんて聞いたから心配してたのに、その次の日からもう新必殺技の練習を始めてるんだから。」

 

「ああ、新しい技のヒントが浮かんだんだ。いても立ってもいられなかった。」

 

「あはは、耀姫(ようき)くんらしいね。」

 

俺が記憶を取り戻したのは約1週間ほど前だ。

その時に、記憶が戻る副作用なのか風邪をひいてうなされていた。

幸い熱はすぐに下がったので、次の日からデススピアーの練習を始めたのだ。

吹雪は、そのときのことを言っているのだろう。

 

「ねえ、シュート対決とか、やって見ない?」

 

「・・・・いや、それだとキーパーが居ないと面白くないだろ。吹雪が俺に蹴って見てくれ。」

 

「ボクはそれで良いけど・・・耀姫(ようき)くんはいいの?」

 

「ああ。今丁度、シュートを受けたかったんだ。」

 

時にはキャッチする側に回ってみるのも良い。

それに、なにかデススピアーのこともわかるかもしれないしな。

フォワードの、単なる気分転換だ。

受ける側になって見ると、見えてくることがある事もある。

そんな思いで、俺はゴール前に立った。

 

「最初はエタブリで来てくれ。」

 

「わかった。行くよ、耀姫(ようき)くん!」

 

「ああ、来い!」

 

吹雪は、ぐるぐると体を回転させながらボールの周りの空気を凍らせる。

吹雪の周りに吹雪が吹き荒れ(とてもややこしい)、ボールが凍てつく。

そして回転させている体を最大限利用して、ボールへ回し蹴りをする。

 

「エターナル・ブリザード!!」

 

俺は、凍りついたサッカーボールを受け止める。

腕の中で暴れ出すエターナルブリザードを押さえつける。

しかし、強化されたエターナルブリザードを必殺技無しで受け止めるのは流石に無理だった。

俺はボールに吹き飛ばされて、シュートはゴールへ突き刺さる。

 

「だ、大丈夫!?耀姫(ようき)くん。」

 

「ああ、大丈夫大丈夫。」

 

素手でやって居たら流石に痛かっただろうが、キーパーグローブをしているので問題はない。

吹雪は、俺が無限槍を使うと思ったのか少し困惑気味な顔だ。

 

「何か、掴めないもんかなあ。」

 

耀姫(ようき)くんが何に悩んでいるかわからないけど、ボクは今のままでも充分だと思うよ。」

 

吹雪は、悩む俺に優しく声をかける。

ずっと前から変わってないな、お前は。

でも、それは吹雪の見解だ。

俺は何か物足りなさを感じてるんだ。

 

「・・・・・そろそろ、宿舎に戻るか。良い時間つぶしになった。ありがとう吹雪。」

 

耀姫(ようき)くん・・・・」

 

俺は吹雪を置いてサッカーボールを持つ。

そしてボールを戻すために宿舎の物置に向かった。

心配してくれるのはありがたいんだが、吹雪が心配するほど重要なことじゃないんだ。

大方、こっちの世界の体になったばかりだからまだ脳が戸惑っている、とかそんな事だろう。

体格や背格好などは全く変わって居ないのだが。

 

ボールを返して部屋へ戻ろうとすると、廊下にマネージャーの2人が立っていた。

どうやら、選手の部屋1つずつ部屋を回っているようだ。

何か連絡することがあるのか?

俺は話しかけるため、2人へと近づいた。

 

「あ、耀姫(ようき)君。ご飯の時間よ、食堂はもう空いてるからね。」

 

「ああ。ありがとう、木野さん、音無さん。」

 

「ふふ、私たちはもうチームメイトです。それに、私の方が後輩なんです。さんなんて、つけなくても良いんですよ。」

 

「ああ、わかった。音無、な。」

 

「はい!」

 

「あ、私も呼び捨てでいいわ。」

 

「ん。わかった、木野。」

 

俺が答えると、音無と木野の2人は顔を見合わせてにっこりと笑顔になった。

それを見て気の緩んだ俺は、無意識に2人の頭へ手を伸ばす。

 

「これからよろしくな、2人とも。」

 

「え、あっ、はい・・・・」

 

「えっと、よ、耀姫(ようき)君・・・・?」

 

「ん?えっ!?あ!?あ、ああ、ご、ごめん、2人とも、頭にゴミが付いてたから払ってたんだ・・・」

 

俺は苦しすぎる言い訳を叫びながら、バッと撫でていた2人の頭から手を離す。

や、やべー!ついやっちまった!!

ついうっかりいつもの癖で手が出てしまった!

なにこれ、痴漢の言い訳かよ!!

大丈夫かな、こんな事して訴えられないかな!?

これ、今の時代だとセクハラとか成立するんじゃねえの!?

 

「そ、そうなんだ、ありがとう・・・・」

 

木野もこうは言っているが、2人とも顔が真っ赤なので嘘なのは確実にバレているだろう。

多分、俺も顔が熱いので赤くなっているはずだ。

優しくよしよしと頭の上を数往復して、ゴミを払っていたはないだろう。

よし、早く退散しよう、気まずすぎる。

 

「じゃ、じゃあ、俺は食堂行くわ!教えてくれてありがとな!」

 

「は、はい!行ってらっしゃい・・・・」

 

俺は脱兎の如くその場から逃げ出した。

うわー、完全に白連中の奴(あいつ)らのせいだ!

俺はいつの間にか女の子が笑顔になると撫でてしまうマシーンに調教されていたというのか!?

おそるべし。

俺はとりあえず、赤くなった顔を元に戻すためにトイレへ向かった。

幸い、中には誰もいなかったため手洗い場で水を流しながら顔を洗う。

火照っていた顔がすぐに冷える。

はあ、これからはマネージャー陣と会う度に気まずくなったら嫌だなあ。

よし。とりあえずは、飯食いに行くか。

 

食堂に着き(食堂とかあるんだ、校舎だったのに・・・・)、まん中にあるテーブルの椅子に座っている吹雪を発見する。

あわよくば、吹雪の隣に座ろうと思っていたが左右両方に人が座っていた。

俺は仕方なく、その隣のテーブルに着く事にする。

つか、不動は端の机でボッチ飯か。

 

「ここ、空いてるか?」

 

「ああ。」

 

風丸に断りを入れて、椅子へ座った。

すると、バタバタと忙しなく動いていた目金が、俺の席へと朝飯を運んできた。

俺は一言礼を言って、食べ始めることにした。

 

「いただきます。」

 

机の上に置いてあった割り箸を一膳とって、左右に割る。

うん、さっき運動したし、お腹空いてるんだよな。

この机には、壁山と緑川とヒロトが、そしてその対面に、円堂、風丸というメンバーが座っていた。

空いた椅子は1つしかなかったので、俺は必然的にヒロトと向かい合う形になる。

俺が食べ始めると、ヒロトが話しかけてきた。

 

「初めて見たけど凄いね、君のシュート。」

 

「そうか?」

 

「うん。吹雪君が褒めていただけはあるね。」

 

「ハハハ、そうなのか。お前もなかなかだったと思うぞ。」

 

俺たちはフォワード同士だ。

自然と話が噛み合うのかもしれない。

それに、ヒロトは昨日の紅白戦のイベントで吹雪とも仲良くなっていたようだし、俺も気になっていた。

しかし、それを抜きにしても会話が弾む。

途中からは話に風丸や円堂達まで入ってきた。

それにしても、世界編の記憶が無くなっていたからヒロトが仲間になるなんて思っても見ていなかった。

だから、ヒロトが呼ばれていたのを見てすげえ嬉しかったんだよな。

俺が知っているヒロトは敵役だったし、こんなヒロトは新鮮だ。

 

「おかわりッス!」

 

「俺もだ!」

 

「じゃ、俺も!」

 

「俺もで。」

 

「おいおい、もう三杯目だぞ?朝からよく食うなあ。」

 

壁山、円堂、緑川、そして俺の順にご飯のおかわりを頼む。

俺も朝飯はめっちゃ食うタイプだ。

朝から三杯くらいは基本的に普通に食べるしな。

でも、あまり食べすぎると朝の練習に支障が出るし、あまり食いすぎるのはやめておくか・・・・。

 

「今日から練習が始まるんだ。スタミナ付けないとな!」

 

白米をかきこんで、飯を食いながら大声を上げる円堂。

そんな急いで食ってたら体に悪いんじゃないか?

これには、長らく円堂に付き添ってきていた風丸も呆れ顔だった。

 

「はーい、皆さん。食べながらでいいので聞いてください。」

 

「ん?」

 

俺たちが、おかわりできたご飯を食べていたところに、木野が声を上げた。

何事だ?

俺たちは全員、木野の方向を向いた。

木野は俺と目が合うと、うっすらと頬を赤く染めて目をそらされた。

うーん、謝ったほうがいいのかな?

でも、ゴミがついてるとか言っちゃったし、謝りに行くのもおかしな話だよな・・・・・

 

「あ、えっと、新しいマネージャーを紹介します。はい、久遠冬花さん。」

 

木野の後ろから、1人の女の子が出てきた。

紫の長い髪を後ろで結っていて、横髪を垂らしている俗に言う触覚女子だ。

その女の子は、どこのかわからない制服を着ていた。

少なくとも、雷門中のものではない。

 

「久遠冬花です。みなさん、よろしくお願いします。」

 

その女の子、久遠さんは、ぺこりとお辞儀をして挨拶をした。

すると、俺たちと同じ机にいた円堂が、突然席を立って久遠さんの前に走っていった。

 

「ねえ、フユッペ。お前、フユッペだろ!」

 

「え?」

 

「俺だよ、俺!覚えてないか!?」

 

急に円堂が、ナンパとオレオレ詐欺を始める。

というか、ストーリーが進んだのか、俺に新たな記憶が増えた。

それは、久遠冬花についての記憶だ。

円堂とは、小学一年生の頃に一緒に遊んでいた友達だったみたいだ。

そしてなにより、cv。

色々とトラブったり、とあるゲームでレイピア使いをやっていたりするあの人だ。

 

「ほら、俺のこと守くんって呼んでたじゃない。サッカーの守くん、って。」

 

「あの、ごめんなさい、人違いじゃないでしょうか?」

 

「え、えっ!?そ、そんなあ・・・・」

 

あれ?

俺の記憶では、確かにこの2人は幼い頃に友達だったと思うんだが・・・・

どう言うことなんだ?

本当は知ってるのに、守くん知らないみたいなこと言ってんのかな?

でも、久遠さんの方も、別に嘘をついてるって言う感じはしないんだよなー。

本当にそのまま人違いだったら、円堂が恥ずかしいだけだろうが。

 

「あれ?もしかして、久遠って・・・・・」

 

「はい、監督の、久遠道也は私のお父さんです。」

 

「うーん、フユッペのお父さんって、あんな顔だったか・・・・?」

 

円堂は、また新しい謎が増えたとウンウン唸りだした。

円堂、早く食わないと冷めて不味くなるぞ。

 

「はいはい。朝ごはんの後は朝の練習よ。食べ終わった人はグラウンドに集合ね。」

 

「「はーい」」

 

ん、じゃあまあ、食べ終わったことだしグラウンド行こうかな。

俺はお盆を下げてから玄関へと向かう。

 

「うまかったぜー、じゃあなー。」

 

「はいはーい。」

 

グラウンドには、まだ俺と数人しか集まっていなかった。

久遠監督もまだ来てないし、適当に時間潰しとくか。

 

 

 

 

 

⚽️

 

 

 

 

 

「全員揃っているな?」

 

「「「はいっ!」」」

 

「まずは、FFIアジア予選が始まる前に一つ、言っておくことがある。」

 

グラウンドに出て、数分後。

虎丸がギリギリ走って来て、イナズマジャパンのメンバーが全員揃い、久遠監督が来た。

そして、これから久遠監督の初めての練習が始まろうとしている。

 

「いいか。お前たちの実力では、世界などには通用しない。」

 

「えっ!?」

 

「何だ、その顔は。まさか、自分たちが世界レベルなどと自惚れていた訳ではあるまいな。お前たちの力など、世界の前では吹けば飛ぶ紙切れのようなものだ。」

 

「か、紙切れ・・・・・」

 

そ、そんなに直球で言ってくるか。

やっぱりこの監督厳しいな。

逆に笑えてくるくらいの貶し様だったぞ、今の。

まあでも、若干自惚れていたところは俺にもあるしな。

 

「そして、円堂。鬼道。吹雪。豪炎寺。私は、お前たちのことをレギュラーだとは全く考えていない」

 

「えぇっ!?」

 

「私にとっては、過去の実績などなんの意味もない。試合に出たければ、死ぬ気でレギュラーの座を勝ち取ってみせろ。中には、私の言うことに納得いっていない者もいるかもしれない。だが、一切口答えは許さん。お前たちは、私の言う通りに実行することを考えていればそれで良い。」

 

うん、まあ確かに、円堂や鬼道なんかはキャプテンやって来てたしな。

多少の余裕があったりするのかもしれない。

それを見抜いて、厳しくしてるんだろうな。

そう考えると、良い監督ではあるな。

 

「清川、お前もだ!」

 

「は、はいっ!」

 

な、何で俺だけ名指しなんだ!?

 

「私からは以上だ。これから練習を始める。」

 

やっとか・・・・・

いよいよ、練習が始まる。

さっきので、久遠監督のことが少しわかった。

これなら、良い練習ができそうな気がする。

 

練習は、昨日の紅白戦のように2チームに分かれて模擬戦をするというものだった。

結局、やる事は変わらねえのかよ。

 

「ヒロト!」

 

ヒロトは、回って来たボールをトラップして敵陣内へと向かう。

 

「止める!」

 

「行かせない!」

 

ヒロトの前に2人のディフェンスがボールを奪いに来る。

しかしそんなディフェンスを持ち前の素早さで同時に2人抜き、ヒロトはゴール前へと躍り出た。

ウルビダや風丸もそうだが、ヒロトのスピードも眼を見張るものがあるな。

 

「流星ブレード!」

 

「正義の鉄拳!」

 

ヒロトと円堂の必殺技の打ち合いだ。

円堂はシュートに弾かれて尻餅をつくが、ボールはゴールに入らず試合続行。

ボールが回ったのは壁山だ。

そして壁山から鬼道、風丸とパスが繋がる。

 

「入れっ!」

 

シュートコースをディフェンダーにふさがれる前に、風丸がシュートを打ち込む。

必殺技じゃなくても、普通に守りにくい場所をめがけてシュートを打つのも大切だ。

勿論、相手の必殺技があるなら、打てたことに越したことはないが。

っていうか、風丸がシュート打ったからフォワードである俺の出番がなかったんだが。

ゴールの左端を狙ってカーブがかかったボールは、立向居のナイスセーブによって弾かれる。

そしてこぼれたボールを拾ったのはクララだ。

クララから緑川、ウルビダ、虎丸、そしてヒロトへとボールがつながり、ヒロトが豪炎寺へセンタリングを上げる。

豪炎寺がシュートをする前に、良い動きをしたのが壁山だ。

 

「そうはさせないッス!ザ・ウォール!」

 

「ナイスだ、壁山!」

 

壁山が取ったボールは飛鷹へと回される。

しかし初心者の飛鷹はまだパスを受けることが難しかったのか、ボールを取りこぼしてしまう。

そのボールをディフェンスに戻って来ていた仲間の風丸がフォローする。

 

「ドンマイ、飛鷹!ボールの動きをよく見るんだ。」

 

「うす・・・・」

 

こんな調子で、ちゃんと上手くなるのかな、飛鷹。

ボールをキープしていた風丸がディフェンスに囲まれる。

 

「風丸、耀姫(ようき)にパスだ!」

 

「ああ!耀姫(ようき)!」

 

よし、出番だな。

鬼道に言われたように、逆サイドにいた俺は風丸がパスを出しやすい位置に移動し、風丸は俺にパスを出す。

ディフェンスを避けるように回転がかけられ、曲がったパスが俺の元へと飛んで来る。

さっきから、曲がるキックを打つのが上手いな、風丸。

しかし、俺が遠すぎたのが原因か、あるいは虎丸がナイスプレーだったのか、ボールは俺に届く前に虎丸にパスカットされてしまう。

 

「よし、取ったぞ!」

 

ハーフラインから、上手なボールさばきでゴール前まで上がる虎丸。

豪炎寺とヒロトが左右に分かれて、ディフェンダーを牽制する。

すると、虎丸からゴールに向かって一直線に守備に穴が空いた。

フォワードならば絶対にシュートを打ちたくなるような、そんな最高のシュートチャンスだった。

 

「ヒロトさん、お願いします!」

 

そんなタイミングで、やはり虎丸はパスを出した。

おい虎丸!シュート打てただろ、今!

でも俺は敵側だからゴールが決まらなかったのは嬉しいんだが。

・・・・虎丸には、なにかシュートを打ちたくない理由があるのか?

 

「しまった!止めろ、壁山!」

 

「はいッス!ザ・ウォール!」

 

壁山のそばで注意を引きつけていたヒロトは、壁山にとっては格好の獲物だっただろう。

またしても必殺技でボールを奪った。

 

「ストップだ!」

 

虎丸も色々と問題のあるメンバーだ、と思いながらパスを待っていると、久遠監督からストップがかかった。

 

「壁山!何なんだ、お前のプレーは。」

 

「お、オレッスか?オレ、な、何かしたッスか?」

 

「どうしてもっと前へ出ない。突っ立っているだけがディフェンスの役目か!私のチームには、守ることしか考えてないディフェンスなど必要ない。」

 

「えっ!?」

 

「それから、風丸!」

 

「はい!」

 

「あの時、どうして清川にパスを出した?鬼道が言ったからか?お前は鬼道の指示がなければまともにプレーができないのか!」

 

「そ、そんな事・・・・」

 

うわー、この監督、一言足りないってレベルじゃないだろ。

もっと選手に納得のいくように説明してやれば良いのに。

まあでも、俺はこんな空気も好きだけどな。

不動が、口の端を釣り上げてニヤニヤしているのが見える。

お前も俺と同じで、他人が怒られてるとこ見ると笑っちまうタイプか。

後で、お前先生に怒られてやんの〜とかいう中学生ノリだ。

 

「どうした、練習再開だ!」

 

「は、はいっ!」

 

壁山が風丸にパスを出し、風丸はそのまま上がる。

流石に気まずかったのか、鬼道は今回は何も指示を出さない。

 

耀姫(ようき)!」

 

風丸が今度こそ自分の意思で俺にパスを出した。

今度はしっかりと俺につながり、シュートを決めようとした。

しかし、後ろから不動のスライディンが迫っていた。

突然死角から来た不動に、俺は咄嗟に反応ができずにボールを奪われ、ついでにすっ転がってしまう。

肘が地面にぶつかって痛え。

 

「おい不動!!今のはわざと死角から・・・・」

 

「良いぞ!不動。ナイスチャージだ。」

 

鬼道が声を荒げるが、久遠監督が不動を褒めた事で思わず閉口してしまう。

こんなラフプレイを褒めるなんて、あの監督は一体何を考えているんだ、って顔だな。

ゴーグルで表情あんまりわかんないが。

俺も、不動に何か一言言ってやろう。

 

「不動。」

 

「何だよ。」

 

「ナイスプレー!」

 

グッとサムズアップして笑って見せれば、ニヤニヤしていた不動はたちまち不機嫌になる。

その後不動は俺を鼻で笑って、相手側へドリブルでボールを持ち込む。

それを合図に、固まっていた他のメンバーはまた動き始めた。

俺は、ああいう荒くれたプレーや態度と性格の悪さを含めて、不動が好きだ。

何だろ、俺もそんなところがあるし、親近感が湧いてんのかな?

 

「あんな独りよがりのプレーを、何故久遠監督は褒めるんだ?くそ、あんな奴に、レギュラーの座は渡さないぞ!」

 

「なんだか、嫌な雰囲気だ・・・・。この監督で、本当に大丈夫なのかな?」

 

他のメンバーに不安が広がる。

うん、あんなきつい言われ方したら不安にもなるか。

 

 

 

 

 

「では、これで失礼します!」

 

「おう!また明日な!」

 

「はいっ!」

 

練習が終わり、虎丸はいの一番に荷物をまとめて帰って言った。

あいつだけ、宿舎に泊まらずに実家通いなんだよな。

何か、事情があるのか?

 

「は、はあ、やっと終わった・・・・初日からこんなにハードとはね・・・・」

 

練習が終わって、メンバーたちは全員クタクタだった。

特に、グラウンドを走り回っているミッドフィルダーが酷い。

久遠監督は適度に走るフォワードやディフェンダーも走らせまくっていたからそのメンバーもいつもより疲れていた。

 

「ねえ。円堂君はどう思う?あの監督のこと。」

 

「え?どうって、確かにちょっと変わってるな、とは思ったけど・・・・」

 

「ちょっとじゃなかったッス!」

 

「まあまあ。」

 

「でも、俺は良い監督だと思うぜ!だって、思った事をはっきりと言ってくれるんだしさ。きっと、俺たちにはまだまだ足りないところがあるんだよ。世界を目指すためには。」

 

「なら、良いんだけど・・・・」

 

凄いな、あの監督を見て良い監督って言うとは思わなかったな。

ポジティブで前向きだな、本当に。

 

「よーし!皆でこの後一緒に雷雷軒行こうぜ!」

 

「賛成ッス!」

 

全員がラーメン屋に行くことが決まって行く。

そして円堂は、飛鷹へと声をかける。

 

「飛鷹、一緒に行こうぜ!」

 

「すみません、キャプテン。ありがたいお誘いですが、俺は失礼します。」

 

「ごめんな、円堂。また後で。」

 

「私は食堂で済ませる。」

 

と、飛鷹を皮切りにして何人かが断りを入れる。

俺は遠慮しとこうかな、宿舎で食べればタダなところを、別にお金払ってまでラーメン食べたいわけじゃないし。

ノリ悪いって言うなよ、別に何人か行かないって言ってるわけだから良いだろ。

そりゃあ俺だって、全員行くならついてくけどさ。

 

耀姫(ようき)くん、行かないの?」

 

「まあ、疲れたし歩くのはちょっとな。俺のことはいいから、吹雪は行ってこいよ。」

 

そして残ったメンバーが、飛鷹、不動、クララ、ウルビダ、俺、緑川だった。

不動は自分勝手だし、虎丸は毎晩どっか行っちゃうし、緑川はまた練習始めちゃうし、飛鷹は付き合い悪いし、監督はどこか不穏だし。

まだ世界への挑戦は始まったばっかだって言うのに、こんなことで大丈夫なのか・・・・?

 

 

 

 

 



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呪われた監督!まさかのサッカー禁止令!? #06

 

 

 

 

 

俺達食堂組は、円堂達が雷雷軒に行った後に食堂へと晩飯を食いに行った。

その時に食堂へいたのは、不動とクララとウルビダだった。

飛鷹は雷門中を出てどこかへ行ったし、緑川はまだグラウンドで練習をしている。

緑川の方は後で覗いてみて、まだやってるようなら一緒に練習してやろうかな。

 

「ここ、隣いいか?」

 

「・・・・ああ。」

 

不動とボッチ飯はちょっと一考したかったため、俺はウルビダとクララの座っていた机へと腰掛けた。

俺はどっちかと言うとご飯は人と食べたいし、何にせよ2人とも可愛いしな。

不動も含めて3人とも、一言も喋らずに黙々と食事を口に運んでいる。

この空気、息苦しすぎない?

 

「なあ。それ、美味しい?」

 

「ああ。」

 

「そ、そうか・・・・」

 

話続ける気ねえのかよ!?

俺はさすがにいたたまれなくなって引き下がる。

っていうか、いつも食事を運んでくる目金遅いな。

 

「なあ、飯来ないんだけど。お前らのいつ来たの?」

 

「今日は自分で頼んだ。なかなか来なかったからな。」

 

「・・・・自分で頼んで来たら?人の行動を待ってたら置いていかれる。」

 

「あ、ああ、そうする・・・・」

 

ウルビダは兎も角、クララは微笑んでなんてことを言うんだ。

とりあえず、皆自分で貰いに行ったなら俺もそうするか。

つか、何で目金来ないんだよ。

俺はカウンターまで行って木野を呼び出す。

 

「木野ー?木野さーん?木野ちゃーん!?きーーのーーこーーちゃーーんーー????」

 

「はーい!」

 

奥の厨房から、木野がパタパタっとスリッパ?をならして走ってくる。

 

「あれ?今、私のこときのこって言った?」

 

「言ってない。」

 

俺が真顔で嘘をつくと、もう、次からはやめてよ?とはにかむ。

優しい。

木野って優しい子だよな。

何しても怒んないで笑って許してくれそう。

俺も将来木枯らし荘に住みたいわ。

 

「それで、私に何か用?」

 

「ああ。飯来ないんだけど、目金は?」

 

「あ、ごめんね。目金君は今、みんなと一緒に雷雷軒に行ってるからいないんだ。かわりに、私が運ぶね。」

 

「ん、サンキュー。」

 

ふざけんなよ。何やってんだよ目金、次会った時はブラッドフェスティバルだぞ。

俺は目金に呆れと怒りの念を送った。

その時、ラーメンを頬張っていた目金が寒気を感じたらしいが、その事に俺が関係あるのかないのかは定かではない。

木野がまた奥の厨房に戻ろうとしたので、慌てて呼び止める。

 

「あ、ちょっと待って。」

 

「何?」

 

「今日の朝、ごめんな。勝手に頭触っちゃって。」

 

「えっ!?う、うん・・・・」

 

結局俺は謝っとく事にした。

まあ別に怒りはしないだろう、優しいし。

木野はそれを思い出したのか、また頰を薄く染めた。

 

「白恋中の奴らが結構ねだってくるんだよ。だからつい、いつもの癖で。」

 

「そうだったんだ・・・・」

 

「そうそう。じゃあ、晩飯頼むわ。」

 

「あ、わかった。取ってくるね。」

 

俺は厨房の方へ行く木野の背中を見送って、元の椅子に戻る。

はー。おなかすいたなー。

早く来ねーかなー。

 

「はい、お待たせ。」

数分後、木野が食事を持って来て、机の上にお盆を乗せた。

あれ?木野は左右の手に一つずつ持っている。

どういう事だ?

 

「私も、一緒に食べていいかな?」

 

なるほど、そう言う事か。

俺に二つ食えって言ってんのかと思ったわ。

食べられない、ってことはないだろうけどさ。

 

「ああ、俺はいいけど・・・・」

 

他の2人はどうだろう、と思って、ウルビダとクララに視線を送る。

 

「私も構いはしない。」

 

「好きに、すれば?」

 

クララは、やっぱり言い方がおかしいんだよな。

微笑を浮かべているためにきっと悪意はないんだろうと思うのだが。

ウルビダは純粋に無愛想だ。

 

「ありがとう。じゃあ、いただきます。」

 

「いただきます。」

 

俺と木野は、2人で一緒に合掌して料理に手をつける。

うげ、今日のメニュー野菜が多い・・・・

 

「3人は仲がいいの?」

 

「んや、別に?2人はどうなのか知らないが、俺は大して。ヒロトに、ウルビダとも仲良くしてやってくれと言われた程度かな。」

 

「私の名前は、八神玲奈だ。いい加減覚えろ。・・・・ヒロト、余計な事を。」

 

ウルビダは、小さな声で悪態をつく。

ウルビダの名前って覚えにくいんだよなあ。

俺の中では、ウルビダにはウルビダという名前がしっくりくる。

今更知らない名前が出て来てもな。

まあ、それに関してはレーゼも一緒なんだが。

 

「そうだな、こんな事でプレイに影響が出たら目も当てられない。じゃあ。よろしくな、玲奈。」

 

「ああ。」

 

一つ頷いて、黙々と食事を続けるウルビダはどことなく嬉しそうだった。

ああ、ウルビダじゃない、玲奈だ。

 

「ふーん。私と音無さんは苗字だったのに、八神さんは名前なんだ?」

 

「え?あ、いや、ごめん、別にそういうつもりは・・・・」

 

「ふふふっ、冗談。好きなように呼んでくれていいわ。」

 

木野ってばこんな事も言うのか。

なんだろう、ラブコメの波動を感じる。

 

「オイ、そこの黒一点。鼻の下伸びてるぞ。」

 

食べ終わった不動が、食器を下げに来たついでに嫌味を言って行く。

お前、悪ぶってる割にはちゃんと食器下げるんだな。

いい奴だな不動。

 

「お前も、1人端で食ってて寂しくなかったかー?」

 

「フン。俺はお前らなんかとは違って仲良しゴッコするつもりはないんだよ。」

 

「寂しい奴だな。」

 

「うるせえよ。」

 

俺達は数回やりとりをかわす。

ある程度不動が離れてから、木野が声をあげた。

 

耀姫(ようき)くん、口喧嘩はやめようよ・・・・」

 

「喧嘩?まさか。別に俺たちは喧嘩してたわけじゃないぞ。」

 

「え?」

 

「仲も、多分悪いわけじゃないしな。」

 

俺の言葉に、不思議そうにする木野達。

不動と俺は、気があうんだと思う。

不動の方も、そう思ってくれていると嬉しいんだけど。

俺は俺と不動が不仲じゃない説を証明するために食堂から出て行く不動に声をかける。

 

「 おい不動!」

 

「何だよ。」

 

「俺の事、嫌いか?」

 

「別に。」

 

不動は、俺に目もくれずに自分の部屋へと戻って言った。

 

「ほらな?嫌いじゃないってさ。」

 

「そ、そうなのかな・・・・?」

 

「とんでもないポジティブだな。」

 

木野達は微妙そうな顔をしていたが、俺はそんな事ないと思うんだけどな。

俺の捻くれレベルがアップしたら、多分あんな感じだろう。

吹雪にも、天邪鬼クソ野郎と言われたからな。

・・・・いや、ちょっと盛った。

クソ野郎とは言ってなかった。

ごめん吹雪。

 

不動が出て行った後も何気ない会話を続けて、俺達は少し仲良くなったような気がした。

趣味の話だったり、好きなものの話だったり、サッカーをやり始めたきっかけだったり。

玲奈もクララも、無愛想だと思っていたが意外に友好的なのがわかった。

あと、クララの方は何となくわかっていたがやっぱり言葉の選び方が下手だった。

 

「おーい、円堂ー!」

 

「ん?」

 

そして翌日。

久遠監督の練習も二日目だ。

今日も今日とて結構なハードメニューで、やっと昼の休憩がやって来たとき。

その休憩を狙いすましたかのようにやって来た奴らがいた。

 

「塔子じゃないか!それに、佐久間に綱海、マックス!」

 

「うちも応援に来たったで!」

 

「リカ!久しぶりだな!」

 

円堂の言う通り、やって来たのは選抜を落選したメンバー達。

塔子に熱波、佐久間、綱海、マックス、栗松。

ついでに塔子には浦部リカが付いて来ていた。

 

「キャプテン!オレもでやんす!」

 

「陣中見舞いだ。ちゃんと練習やってるか?」

 

「勿論さ!」

 

そりゃあやってますとも。

さっきまで、皆でヒイヒイ言ってたところだ。

 

「あれ?ダーリン、うちのダーリンは!?」

 

「え?一ノ瀬は、代表候補に呼ばれてなかったな。」

 

「それ、ど、どういう事なん!?」

 

「い、痛い痛い、離して、リカ・・・・」

 

あっちは無視しておく事にするか。

俺は、鬼道と話している佐久間の方へ行った。

 

「傷だらけだな・・・そんなに、練習を頑張っているのか?」

 

「ああ。FFIには、選手起用の特別ルールがあるからな。」

 

「特別ルール?」

 

俺が2人の間に入って話を遮ると、2人は律儀に俺の問いに答えてくれた。

 

「ああ。FFIでは、試合ごとに代表選手を入れ替える事が出来る。」

 

「へー、じゃあ、佐久間達にもチャンスはまだまだあるって事か。」

 

「そうだ。だから、ずっと特訓してこんななりなんだ。」

 

「あまり無茶をするなよ。選ばれる前に怪我をしたら、目も当てられないぞ。」

 

「ああ、わかってる。」

 

いいなあ、2人とも。

信頼しあってるパートナーみたいで。

俺も佐久間と背中を預け合うパートナーになりたい。

 

「そっかー。でも、紅白戦のルールは若干佐久間に不利なところあったもんな。連携必殺技は使っちゃいけなかったし。」

 

「でも、俺はそんな理由をつけて代表を諦めたくないんだ。」

 

「だよな!お前がチームに入る事、期待してる。」

 

「ああ。」

 

俺と佐久間は互いに握手する。

うん。佐久間、メンバーに入ってくれたら嬉しいな。

佐久間は、今度は鬼道と握手して言葉を交わす。

 

「鬼道。俺はきっと選ばれてみせる。」

 

「ああ。俺たちは、一足先に世界を見てくる。待ってるぞ、佐久間。」

 

やっぱり、俺はお邪魔だったかな?

 

 

 

 

 

⚽️

 

 

 

 

 

今日の練習は模擬戦だけではなく、基礎体力作りや必殺技の訓練など色々なことをした。

特に体力を使う特訓が酷いもので、走り込みをした後は全員グラウンドに大の字で倒れるくらいだった。

 

それ以外に特に大きなことはなかったが、あったことといえば・・・・・

久遠監督は試合ではあまり動かないはずのディフェンダーにもミッドフィールダー並の厳しい走り込みをやらせていた。

その時に壁山が脱落しそうになったが、円堂の声かけと持ち前のガッツで練習を耐え抜いた。

そのくらいかな。

そんな日の夕暮れ、俺たちが激しい練習を終えて宿舎に帰ったきた時の事だった。

 

「みなさん、聞いてください!」

 

食堂で晩飯をガッツリ食ってやろうかと思っていると、珍しく真剣な顔で音無が言った。

音無は、目金と木野を連れて俺たちを待って待機していたようだ。

俺達は顔を見合わせた後、代表して円堂が聞いた。

 

「どうしたんだ?音無。」

 

「私、少しおかしいと思って、久遠監督がどういう監督なのかサッカー協会で少し調べてみたんです。」

 

「サッカー協会?行ってきたの?」

 

「え、ええ、色々ありまして・・・・」

 

マネージャー陣は、マネージャーなりに俺達イナズマジャパンの心配をしてくれているようだ。

俺は正直、良い監督だと思ってるんだけどな、あの監督。

 

「それで、久遠監督の経歴なんですが・・・・」

 

「うんうん。」

 

全員、音無の話には興味津々なようだ。

まあ確かに、色々と謎の多い人物ではあるのだが・・・・

 

「10年前に、桜木中学校というところでサッカー部の監督をしていたようです。」

 

「10年前?」

 

怪訝に思ったのか、豪炎寺が声を上げる。

まあ確かに、10年も前のことを言われてもな、とは俺も思った。

 

「はい。その代の桜木中は、フットボールフロンティアを大量得点差で勝ち抜くというかなりの強豪だったみたいなんです。」

 

「本当か!?やっぱり、凄い監督だったんじゃないか!」

 

「いいえ。この話には、まだ続きがあるんです。」

 

喜ぶ円堂を尻目に、音無は険しい顔を変えずに話を続けた。

 

「そんな優勝も夢じゃないと期待される桜木中だったんですが、決勝戦の前日になって久遠監督が事件を起こした事で、チームは決勝を棄権になってしまったんです。」

 

「な、なんだって・・・・!?」

 

「これ以上の詳しいことは、記述がなくてわからなかったんですけど・・・・」

 

皆は音無の話を聞いて、一様に口を閉ざした。

久遠監督、そんな事やってたのかよ。

でも、俺はあんなに選手を想った指示ができる監督がそんなことをするとは思えないんだよな。

それに10年前ってことは影山零治が関わっていても全く不思議はない。

というか、影山が何かしたと考えたほうが自然だ。

影山が指揮する帝国学園のフットボールフロンティア無敗記録は40年間で、状況証拠になる。

決勝を戦う前に相手チームに棄権させるなんて影山の策にしてはぬるい方だ。

俺は頭の中でそう結論付け、音無の話を聞いた。

 

「あと、桜木中の資料を見ていたら、気になる噂が出てきたんです。」

 

「その噂って?」

 

「久遠道也は、呪われた監督だって。」

 

「呪われた、監督・・・・・」

 

呪われた監督、ねえ。

装備が脱げなくなったりするのだろうか。

本当に呪われてるなら、怨念とかで死にそうだな、監督。

まあそんな冗談はさておき。

これ以上ないほど胡散臭い噂だな。

実際どうせ根も葉もないような嫌味だろう。

俺は流石に馬鹿らしくなって、話を聞くのをやめた。

 

 

 

 

 

コンコン

 

「誰だー?。」

 

耀姫(ようき)くん、ボクだよ。入っていい?」

 

「ああ。どーぞ。」

 

食事を終えた後、それぞれのメンバーは自由行動だ。

俺はそのまま宿舎の部屋に戻って小説を読んでいたのだが、そこに吹雪が訪ねてきた。

まあ、なんの要件なのかは分からなくもないが。

 

耀姫(ようき)くん。あの監督のこと、どう思う?」

 

吹雪は、俺の部屋に入った直後に本題へと入った。

どうせ、そんなことだろうと思った。

 

「俺は別に?あんな噂、信じちゃいねーよ。」

 

俺は小説から目を逸らさずに、吹雪の質問に答える。

しかし、吹雪は思った以上に不安なようで、食い下がってくる。

 

「でも、試合をする前に棄権なんてなったら・・・・」

 

「大丈夫だって。」

 

「どうして、そんな事が言えるの?」

 

「俺はあの監督のこと信用してっから。」

 

暫くの間、ペラっと俺が本のページをめくる音だけが残る。

吹雪は言葉を無くしていた。

 

「な、何で?あの監督には会ったばかりだし、ボクたちを世界大会に行かせないためにおかしな練習をさせてるのかも・・・・」

 

「そんな事ないって。」

 

「なら、桜木中の時はどうして事件なんて起こしたの?」

 

「何か事情があったんだろ。」

 

しつこい奴だな。

俺は本に栞を挿して机の上に置く。

初めて吹雪と目を合わせたが、吹雪は信じられないというような顔をした。

 

「事情があったからって、事件を起こしていい訳ない!」

 

「・・・・、どうしたんだよ、お前らしくないぞ、吹雪。」

 

「だって、監督が・・・・」

 

俺は、吹雪の肩をがしりと掴んでゆっくりグラグラと揺らす。

ぼけーっとしている相手にするアレだ。

 

「大丈夫だって。俺たちは絶対に世界に行く。そして、世界一になるんだ。」

 

「でも・・・・」

 

まだ吹雪は納得がいっていないようだ。

流石にうざったい。

中学生じゃねえんだから、そんなことでくよくよ悩むなよ!!

そう、声を荒げ用としたところで俺は気づいた。

こいつら、中学生だったーーー!!!!

 

やたら大人な雰囲気がある奴もいて忘れてたが、こいつらは中学生だ。

元の俺の、高校生の考え方を押し付けるのはやめよう。

これは俺の経験だが、中学生の後半から高校までで気持ちは遥かに成長する。

少なくとも俺はそうだった。

まあ、正直クソガキから超クソガキになったくらいの成長だが。

俺は、吹雪をどうやって安心させてやろうか考えた。

 

「吹雪。俺のこと、信用してるよな?」

 

「え?うん、してるよ。」

 

話を急にそらした俺に、吹雪は不満そうだ。

まあ、こんな事じゃ安心はできないかもしれないが、言うだけ言っておいて損はないはずだ。

俺は、昔元の世界で見ていたアニメのセリフをリスペクトして吹雪に伝える。

 

「じゃあ、俺が信じてる久遠監督を信じろ。」

 

「えっ?」

 

「お前の信じている俺が信じろって言ってるんだ。」

 

ハハ、こんなの、普段の俺なら絶対に言わないぜ。

 

「保証する。久遠監督は俺たちを世界へ連れて行ってくれる。」

 

俺は吹雪の目を見て、想いを伝えた。

なんとか、納得してくれればいいが。

 

「・・・・うん、わかった。ボクも、信じてみることにするよ。」

 

吹雪は少し迷った後、強く頷いた。

晴れやかな顔とまではいかないが、とりあえずは納得してくれたみたいだ。

なんとか少し信じてみようかな、くらいには思わせられたんじゃないかと思う。

ただの受け売りなんだけどな、このセリフ。

まあでも、これで良かったかな。

 

「んじゃあ、俺は続き読むから。」

 

俺はもう大丈夫だろうと思い、吹雪に手をヒラヒラと振って本を手に取る。

そして、栞を取って読書を再開した。

 

「はは・・・・ありがとう、耀姫(ようき)くん。」

 

「んー?」

 

「いや、何でもないんだ。おやすみ、耀姫(ようき)くん。」

 

「おう。」

 

吹雪の言葉を半分聞き流しながら、本の内容を読み進める俺。

吹雪は、そのまま部屋を出て行ったようだ。

この程度で状況が好転するとも思えないが、まあ悪いようにはならないだろう。

俺はそんな考えで本を読み続けた。

 

 

 

 

 

そして練習は続き、いよいよこの日がやって来た。

FFIのトーナメントの発表だ。

この日から、やっと待ちに待ったFFIが本格的に始まるのだ。

まあ、まずは予選大会な訳だが。

 

『今、第一回、フットボールフロンティアインターナショナル。FFIの、アジア予選、組み合わせ抽選会が始まろうとしています!』

 

俺たちイナズマジャパンのメンバーは、食堂に備え付けられているテレビの前に集合していた。

アジア予選での、チームのトーナメント表が決まる。

こんな大切な場面を見逃すわけにはいかないのだ。

 

FFIは、まず予選の地区大会を勝ち抜くことができて初めて世界大会へ行ける。

無印でのフットボールフロンティアと同じようなシステムだな。

全部でアジア地区を始めとした10の地区が出場している。

ただ、一つの地区からは一つのチームしか出場できない。

そして、予選では一度負ければ世界大会に出られないまま予選敗退になってしまうのだ。

日本は勿論、アジア地区での予選大会に組み込まれている。

 

『おっと!予選トーナメントのくじ引きが始まったようです!』

 

テレビから聞こえたその言葉に、俺たちは思わず身を乗り出して画面を見つめる。

 

『まずは韓国代表のチーム、ファイアードラゴンの抽選からです!』

 

「ファイアードラゴン、か。」

 

「こ、怖そうな監督ッス・・・・」

 

「だっせえチーム名だな。」

 

『圧倒的な攻撃力を有し、アジア最強との呼び声も高いファイアードラゴンですが、果たして抽選の結果は!?』

 

画面の中の、久遠監督よりも厳つそうなファイアードラゴンの監督が抽選のくじを引く。

それにしても、アジア最強か。

初戦で当たる、なんて事がなければ良いんだが・・・・

欲を言えば、決勝くらいまでは当たりたくないな。

 

『ファイアードラゴン、3−Aです。』

 

ファイアードラゴンは、3ブロック目のAに入った。

このFFIのアジア地区予選トーナメントは、見る限り4つのブロックに分かれた合計8カ国が競う形らしい。

まずは同じブロックのAチームとBチームが戦う。

その後1と2、3と4のブロック同士で第一試合に勝ったチームが戦う。

最後は双方の勝ったチームが決勝を行うという、なんだかわかりずらいトーナメントだ。

とりあえず、予選で優勝するためには敵チームに3回連続で勝てば良いと言うことだ。

先ほども言った通り、予選で一回でも負ければ勿論世界大会へ行くことすらできない。

 

そして、ファイアードラゴン他、八チームが全て抽選を終えた。

そして、完成したトーナメント表がこちら。

 

 

ブロック1

A、日本(イナズマジャパン)

B、オーストラリア(ビッグウェイブズ)

 

ブロック2

A、タイ(サザンクロス)

B、カタール(デザートライオン)

 

ブロック3

A、韓国(ファイアードラゴン)

B、ウズベキスタン(レッドバイパー)

 

ブロック4

A、中国(ラストエンペラー)

B、サウジアラビア(ザ・バラクーラ)

 

 

俺たちのチーム、イナズマジャパンは、初戦ではオーストラリアと戦うことになった。

オーストラリアか、どんなチームなんだ?

そしてアジア最強とか言っていた韓国とは、俺が願った通り決勝まで会えないようだ。

と言うことは、俺たちが無事勝ち上がる事ができれば最後の予選決勝で韓国との因縁の対決って感じになりそうだな。

いや、でも、そんなこと言って無印の時のように新しい強豪が急に出て来るかもしれない。

・・・・、さすがにそんな事はないか。

そして、2ブロックのタイとカタール。

これはどっちが強いんだろうな。

このブロックで勝ったチームが、俺たちの二戦目の相手になる。

 

「ビッグウェイブズ。たしか、韓国までとは言わないものの、優勝候補でしたよ?」

 

「い、いきなり優勝候補かよ・・・・・」

 

優勝候補何個あるんだよ。

ファイアードラゴンだけを警戒するわけにもいかないって事か。

 

「だが、相手にとって不足はないぜ!」

 

「噂では、奴らには相手の攻撃を完全に封じ込めるフォーメーションがあるらしい。」

 

「そ、そんなチームに、俺達が勝てるッスかね・・・・?」

 

優勝候補と聞いて、まず最初に壁山がビビる。

俺が。俺たちが。予選落ちするなんて有り得ないだろ。

 

「くーっ!面白いな!そんな凄い奴とサッカーできるなんて、最高じゃないか!」

 

「お、面白いって・・・・さすがキャプテンッス!」

 

「よーし、みんな!早速グラウンドに出て特訓しよう!打倒、オーストラリアだ!」

 

「「「おー!!」」」

 

俺たちは、やる気のある奴から順にグラウンドへと飛び出していった。

もうこんなに暗いのに、また練習するつもりなのか?

元気があるのはいい事だけどな・・・・

残っていた俺と吹雪は互いに苦笑しあった。

俺達以外の他のメンバーやマネージャーも呆れていた。

 

 

 

 

 

「集合!」

 

次の日。

朝早く、いつもの練習の時間に久遠監督に呼ばれて集合する俺たち。

またいつものように厳しい練習が始まるのか。

俺も、他のメンバーも、そう思っていたのだが・・・・・

 

「これから、お前たちに練習方針を伝える。」

 

「「「はいっ!!」」」

 

全員が全員、元気な返事をする。

対戦相手が決まり明確な目標ができた俺達は、どんな練習でもこなしてみせる!と、そんな心意気だった。

しかし、久遠監督の言った言葉に、俺達は驚かされる事になった。

 

「これより、オーストラリア戦が終わるまでの二日間、練習禁止とする。」

 

えぇ?

 

「えぇぇええーーーーっっっっ!?!?!?」

 

皆が一斉に大声をあげた。

そりゃあ皆驚いてたし、俺も驚いた。

この監督、どんな凄い指示をするのかと思ったら、まさか、練習禁止と来たか・・・・

 

「これは命令だ。オーストラリア戦が始まるまで、合宿所から出ることも許さん。」

 

ど、どうしよう、吹雪、俺もなんか、この監督で大丈夫なのか自信なくなってきた・・・・

でも、うん、多分監督には何かちゃんとした考えがあるんだよな、きっと。

そういう作戦があるんだよな、ちゃんと意味があるんだよな。

本当にこんな指示に意味があるのなら、どう言う意味があるのか知りたい。

楽しみがまた増えたな。

 

「ちょっと待ってください!どう言う意味ですか!?」

 

「言葉通りだ。」

 

「俺たちは日本代表になったばかりで、チームの連携ができていません!この二日間は、ポジショニングの練習を・・・・」

 

「監督は私だ。納得がいかないなら、チームを抜けてもらっても結構だ。」

 

「なっ!?」

 

うーわ、嫌な奴!

凄い嫌な奴だな。

会話する事が下手だ下手だとは思っていたが、こんなにもチームと馴れ合おうとしないなんて。

 

「試合当日までは、宿舎のそれぞれの部屋で過ごしてもらう。互いの行き来は自由だが、合宿所から出ることは許さない。いいな?」

 

ここには、嫌だと言えるようなやつはいなかった。

さて。

二日間、何をして過ごそうかな・・・・?

 

 

 

 



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目指せ、世界一! #07

 

 

 

 

 

「皆さん。お父さんの言う通り、この二日間この宿舎からは出られません。何か欲しいものがあれば、私たちに声をかけてくださいね。」

 

マネージャーの冬花が笑顔でとんでもないことを言う。

ああ、本当に二日間、合宿所に軟禁されるのか。

一体何を考えているんだろうか、あの監督は。

どんな理由があっても、練習しない方がいいなんてあるわけないと思うんだが。

 

耀姫(ようき)くん・・・・」

 

「大丈夫だって。監督にも理由があるんだよ、きっと。」

 

吹雪が再び不安そうにしていたからついつい前向きな言葉が口からこぼれる。

別に根拠は無いが。

俺だって監督の真意はさっぱりだ。

 

「基本自分の部屋にいてもらいます。ですが、部屋から出て食堂に行ったり、他の人の部屋に入ったりする事は大丈夫です。」

 

「と、言われてもな。」

 

「とりあえず、部屋に戻るか。」

 

俺たちは監督の指示に困惑したまま、自分の部屋に戻った。

 

「部屋に二日間こもってろって。何をすればいいんだ?」

 

まさか、二日間部屋の中で瞑想をしろとかじゃない、よな流石に。

あるいは、逆にサッカーから引き離す事で得られる者があるとか。

うーん、考えれば考えるほどわからん!

 

「二日間部屋にこもって、何にもする事ないって。もう()()しか思い浮かばないな。」

 

どうせ暇だし、俺は吹雪の部屋に突撃することにした。

俺以外も、それぞれの選手は好きなように過ごすみたいだ。

漫画を読むやつ、ゲームを持ち込んでするやつ、イメージトレーニングをするやつ。

全員が全員納得していないが、指示にはしっかり従うようだ。

だが、この宿舎から抜け出そうと模索する者が数人いた。

 

 

 

 

 

「だーっ!!練習したーい!!」

 

最初に根をあげたのは、当然の如く円堂守だった。

まだ部屋に入って数分しか経っていないが、サッカー馬鹿にはそれも耐えられなかったようだ。

元々が学校の教室だったためか、この部屋は大声を出すとすぐ声が漏れる。

円堂の声が廊下にも響いた。

 

っていうか、ほんの数分で我慢できなくなるのはもう中毒だぞ。

でも俺も昔ずっとゲームばっかりしていたら親に取り上げられた時、こんな調子だったっけ。

やりたくてやりたくて仕方ない、イライラが止まらないって、それもう薬物だろ。

バタップスリードが、未来からサッカーを止めに来たのも分からなくはない。

サッカーをしたすぎて禁断症状が出始めたら末期だ。

俺?

俺は別に円堂やそのメンバー達と違って、サッカー一筋じゃないから。

前の世界で好きだったゲームや読書やその他趣味も続けていたりする。

元の世界での物語の続きが気になってもどかしかったりするが、それは仕方ないと割り切っている。

ああ、でもやっぱり未練が・・・・・

 

ガラガラガラ

 

部屋の扉を開く音が小さく鳴った。

ついに、円堂が宿舎を抜け出そうと動き出したのだ。

 

「よし、誰もいない。」

 

今のうちに廊下に出て、誰にも見つからないようにパパッと階段を降りてしまおう。

円堂はそう考え、周りを注意深く何回も見渡す。

誰もいないことを確認した後、抜き足差し足で廊下を進んだ。

 

ガラガラガラ

 

「わっ!?」

 

円堂が歩いていたすぐ隣の部屋の扉が開いた。

声を上げた自分の口を慌てて抑えるが、もう遅いわな。

部屋から出てきたのは風丸だった。

 

「円堂?」

 

「なんだ、風丸かあ。びっくりした・・・・」

 

「お前も、部屋でじっとしていられなくなったのか。」

 

ガラガラガラ

 

「どうやら、考える事は皆同じのようだな。」

 

風丸に続いて鬼道の部屋の扉も開いた。

そして緑川やヒロト、豪炎寺達もが釣られて部屋から出てくる。

 

「み、皆!」

 

「「「しーっ!」」」

 

「あ、ごめんごめん・・・・」

 

あはは、とバツが悪そうに笑いながら頭をかいて謝る円堂。

円堂がいたら、隠密行動もろくにできないな。

そして部屋から抜け出したメンバーは、小さく頷きあった。

全員で静かに廊下を歩いて、とうとう階段まで辿り着いた。

 

「よし、行くぞ。」

 

円堂が壁に隠れながら階段を覗き、人がいないのを確認して合図を出す。

それを見たメンバー達は全員頷き、円堂に続く。

抜き足差し足で一歩ずつ降りて行く円堂達に、不意に声がかかった。

 

「どこへ行くつもりだ。」

 

「!?」

 

丁度階段から死角になる位置に、久遠監督が待ち構えていた。

久遠監督は、円堂達が宿舎から抜け出そうとすることを予測していたのだろう。

ご丁寧に本まで用意して見張っていた。

 

「か、監督・・・・」

 

「宿舎を出る許可は出していない。」

 

「ですが監督!俺たちはまだ、日本代表になったばかりでチームとして完成していません!オーストラリア戦は、このチームでの初めての試合なんですよ!?」

 

久遠監督には、どんな言葉をぶつけようとも無駄だ。

反応を見せただけかと思えば、本のページをめくるだけだった。

 

「アジア予選では、負けたらその時点で敗退決定なんですよ!?」

 

「・・・・」

 

そんな事は、言われなくとも久遠監督もわかっているだろう。

わかった上で、きっと何か策略とか作戦があるんだろう。

 

「・・・・久遠監督。あなたの噂を聞きました。」

 

「お、おい、鬼道・・・・!」

 

ついに、鬼道が本人の目の前で言った。

それを、円堂が止める。

誰が最初に言うんだろう、と思ってたんだが、まさか鬼道とはな。

鬼道はもっと我慢できると思ってたが、予想が外れたな。

 

「あなたには、桜木中学校のサッカー部を事件に巻き込んで廃部にした過去がある。俺たちイナズマジャパンも、潰すつもりなんですか!?」

 

「私の指示に背く事は許さない。宿舎を出たいなら、このチームを抜ける事だな。」

 

「くっ・・・・」

 

鬼道が言いくるめられる相手は珍しい。

久遠監督は本当に二日間、メンバー達を宿舎の外に出すつもりはないのだろうか。

円堂達は、ズコズコと部屋のある二階へ逆戻りになった。

 

「おかえり、お前ら。」

 

階段の上で一部始終を見ていた俺と吹雪が、円堂達を出迎える。

 

「見ていたのか。」

 

「ああ。どうせ出れないと思ってたしさ。」

 

「ごめん、立ち聞きするつもりはなかったんだけど・・・・」

 

開き直る俺とは正反対に、吹雪は律儀に謝った。

俺は吹雪の部屋に行った後、廊下で何やらグラウンドへ行く算段をしている円堂達に気がついた。

そして、階段を降りる円堂達を追って吹雪と俺たちの2人は盗み聞きをしていたと言うわけだ。

抜け出す事に成功したら、あわよくば便乗して一緒に外へ出ようと思っていたんだけどな。

 

「やっぱり、呪われた監督なんだよ。久遠監督は。」

 

「呪われてる、ってどう言う事なんだろうな。悪魔に取り憑かれてるとか?」

 

「こ、怖いッス・・・・」

 

「桜木中がフットボールフロンティアに出場停止になったのは、久遠監督が事件を起こしたからなんだよね?その事件があった時に、何かに呪われたのかな?」

 

「何にせよ、おかしな監督ではある。こんな大事な時に、練習禁止だなんて。」

 

「うるせえなぁ!」

 

俺たちが全員、うーんと首を傾げて悩んでいると、部屋から出てきた不動が声を荒げた。

 

「たった二日。練習できねえくらいで自信をなくしちまうような奴は、今のうちに代表を辞退するんだな。」

 

「不動・・・・」

 

かっこいい事言うじゃんよ。

でもさ、これ全員で監督の目を引いて、もう1人誰かが違う場所、例えば窓から抜け出したりしたら割と宿舎の外に出れるんじゃないか?

晩飯とか食事の時間とかに帰って来れば、割とバレない気がするんだけどな。

まあ、俺は代表から落とされるのが怖いからやりたくはないが。

 

「監督!帰らせてください!」

 

「ん?あの声、虎丸か?」

 

俺達は、階段の上から顔を覗かせた。

すると、ボストンバックを持って久遠監督に頭を下げている虎丸が見えた。

 

「あんなこと言っても、認めてもらえるわけないッス。」

 

俺も、壁山と同じようなことを思っていたのだが。

 

「わかった。今日はもういい。」

 

「ありがとうございます。」

 

なんと、虎丸はすんなりと久遠監督の許可を得て宿舎を出て行ってしまった。

 

「ど、どうなってるんスか!?」

 

「もしかして、今なら素直にお願いすれば聞いてくれるかも!」

 

円堂が元気よく飛び出して、久遠監督のもとに走って行った。

 

「監督!練習させてください!」

 

「お前は部屋に戻れ、円堂。」

 

勿論そんな事はなく、またもや撃沈した円堂が帰ってくる。

 

「ダメだった・・・・」

 

「お疲れ、円堂。」

 

「でも、何で虎丸だけ宿舎から出られたんだ?」

 

「何か、事情があるのかも・・・・」

 

「あ、フユッペ!」

 

新たな謎を増やした俺たちが悩んでいると、俺たちのいた階段のさらに上の階段から声がかかった。

新しくマネージャーに入った、久遠冬花だ。

 

「事情って、どう言う事だ?」

 

「さあ・・・・私もよくわからないんですけど、何となくそう思っただけで。」

 

「うーん、事情ねえ・・・・」

 

虎丸の事情か。

それに関しては、何故かシュートを自分から打とうとしないことも気になるな。

 

「お前達。用がないなら部屋に戻れ。」

 

いつの間にか、階段を上がってきていた久遠監督に怒られる。

まあ、こんな人数で廊下にいたら確かに通行の迷惑だよな。

俺たちは部屋に戻る事になった。

その前に、俺はどこかへ行こうとする冬花を呼び止めた。

 

「あ、えっと、冬花さん。」

 

「はい?」

 

背中を向けていた彼女がくるっと振り返る。

すると、長い髪が一拍遅れてなびいた。

わお、見返り美人。

じゃなくてだな。

 

「玲奈の部屋って、どこか知ってる?」

 

「玲奈さん・・・・八神玲奈さんの事ですか?」

 

「ああ。」

 

「それなら、この階段を上がって、右の廊下の突き当たりの左の部屋ですよ。」

 

「ありがとう。」

 

二階には俺たちイナズマジャパンの部屋があるが、マネージャーと女子メンバーの部屋の階は三階にある。

この階にも他の部屋は残りもいくつかあるが、まあやっぱり男女の区別は重要なのだろう。

俺は、階段を上がって玲奈の部屋へ向かった。

どうせ暇してるだろうから、顔覗きに行ってやろう。

何もやる事ないなら、吹雪とヒロトでも誘ってなんか遊ぼうかな。

そんな思いだ。

 

三階の廊下の突き当たりまで行くと、二階や一階には無い張り紙がしてあった。

 

「何だこれ?」

 

ろうか

はしるな

 

校舎を改装する前に、もともと貼ってあったものだろうか。

古いボロボロな紙に書いてあるその張り紙は、読みにくい事この上ない。

まあいいや。

俺はそれを無視して玲奈の部屋へ入る。

えっと、この突き当たりの左側だっけ。

 

「おーい、暇だから遊びに来てやったぞ。」

 

「なっ!?誰だ!?」

 

ガラガラと引き戸を上げると、そこには・・・・

何やら、肌色の多い玲奈が立っていた。

 

「うびゃあああ!?」

 

「ば、馬鹿!人が来たらどうする!?」

 

「ん!?んんんんん!?」

 

悲鳴を上げようとしていた口を、電光石火の早業で手で塞いだ。

確かに悲鳴なんか上げてこんな所で人が来たら大変だ。

そして、その後に重ねて低い声で念を押した。

 

「静かにしていろ。いいな?」

 

()()、玲奈の迫力にこくこくとただ頷くしかなかった。

不機嫌オーラを隠そうとしない玲奈は、俺の口から手を離す。

 

「今から服を着る。後ろを向いていろ。」

 

俺は玲奈に言われるがまま、後ろを向いて目を瞑る。

後ろから、きぬ擦れの音が聞こえる。

何だ、何が起こっている!?

よし、ここまでの状況をまとめよう。

 

俺が部屋に入る

下着姿の玲奈を視認

()()悲鳴をあげかける

()()()悲鳴をあげようとしていた俺の口を塞ぐ

後ろを向いて着替えるのを待つ

 

うん、何かがおかしい。

こう・・・・思っていた事と違う!!

 

「も、もういいぞ。」

 

「あ、ああ。」

 

最後に、チャックを閉める音が聞こえた後。

玲奈は、俺に声をかけた。

後ろを向いていた俺は、玲奈へと向き直る。

するとそこには、ちゃんとイナズマジャパンのジャージを着た玲奈がいた。

 

「それで、何の用だ?つまらない用事だったら許さないからな。」

 

「え?あ〜、えっと・・・・」

 

俺は玲奈から目を逸らし、視線を彷徨わせた。

き、気まずい・・・・

マネージャー2人の頭よしよし大事件よりも気まずい・・・・

これは、やっぱり謝り倒した方がいいのか。

 

「ん?」

 

キョドった俺が意図せずにキョロキョロと部屋の中を見回していると、あるものを見つけた。

それは、簡易ベッドの上に置いてあった。

 

「ペンギンの、ぬいぐるみ・・・・?」

 

「ば、馬鹿!見るなっ!」

 

玲奈は俺がそのぬいぐるみを認めた事に気付き、光の速さで手の中に収めた。

そして周りをすごい勢いで見回していることから、隠す場所か何かを探しているんだろう。

結局見つからなかったのか、ぎゅっと抱きしめて隠そうとし始める始末。

かなり大きなぬいぐるみで、玲奈1人じゃとてもじゃないが隠しきるなんてできない。

どっちにせよ、どうしようがもう今更だが。

 

「み、見たか!?」

 

「あー。意外と可愛い趣味してんな。」

 

「くっ・・・・!!」

 

俺が答えると、俺を仇かのように睨みつける玲奈。

殺せ、とかは言わないのかな。

というか、まるでそっちの方が下着姿見られるよりも恥ずかしいって反応だが。

もしそうなら、このことはすぐに忘れるからもう一度下着姿になってもらってもらいたいんだが?だが??

 

 

【挿絵表示】

 

 

「まあでも、可愛いんじゃないか?」

 

「え?」

 

「そのペンギンだよ。」

 

「・・・・本当にそう思ってるか?」

 

「え?まあ。ペンギン好きだし。」

 

完全に完璧なおまかわだけどな。

ぺたんと座ってぬいぐるみを抱きかかえる姿はとても愛くるしい。

でも、ペンギンが好きなのは嘘じゃない。

 

「そ、そうか?フフ・・・・」

 

嬉しいのか恥ずかしいのか微妙な顔をして、ぬいぐるみに顔を埋めて不気味な笑い声を上げる玲奈。

可愛いと怖いの合間をふわふわしてる感じだが・・・・

 

「あの、玲奈さん・・・・?」

 

「少し待っていてくれ。」

 

玲奈は、俺の問いかけを無視してゴソゴソとボストンバックを漁る。

ペンギンのぬいぐるみはもういいのか、隠そうとするのはもうやめたらしい。

というか、本当にどうやって持って来たんだ、そのぬいぐるみ。

ボストンバックにはさすがに入らないだろう。

 

「あ。あった!」

 

玲奈がバッグの中から出したのは、丁度いい大きさの箱だった。

何だよ、玉手箱か?

私の秘密を知ったお前には老人になってもらう!みたいな。

その箱を、玲奈は俺へと渡した。

 

「開けてみろ。」

 

「ああ。」

 

何だ何だ、何をさせようって言うんだ。

俺は言われるがままに箱を開けた。

そこに入っていたのは、大量のキーホルダーや小さなぬいぐるみ、人形の数々だった。

それらは全てペンギンで、正直ペンギンは好きな俺でもちょっとどうかと思った。

 

「どうだ?可愛いだろう?」

 

「ああ、そうだな。」

 

俺はうまい感想が言えなくて適当な返しをしてしまう。

それを聞いた玲奈は、少し訝し気な顔をした。

ま、まずいまずい。

ペンギンは好きと言えども、好きか嫌いかと言われれば程度のものだ。

このレベルのペンギン好きと比べられると、どうしても情熱の差が出てしまうのは仕方がない。

だが、話を合わせないと、許してもらえるか怪しいかもしれない。

どうせいい方向に話が進んでいるんだ。

玲奈をいい気分にさせて有耶無耶にしよう。

 

「あ、ほら、これなんか可愛いな。」

 

「あっ・・・・」

 

俺が調子付けようと箱に手を突っ込み、一つの皇帝ペンギンらしきストラップを摘み上げる。

すると、俺が掴んだ瞬間に玲奈が小さく悲鳴とも取れる声をあげた。

 

「わ、悪い、触っちゃ駄目だったか?」

 

「・・・・、いや。ペンギン好きの同志ならば許そう。存分に触ってくれていい。」

 

何やら許可が出た。

まあ、大丈夫ならば遠慮はしつつ触らせてもらうが。

 

「これ、皇帝ペンギンか?」

 

「ふふ。よく間違えられるのだが、この子は皇帝ペンギンではない。」

 

俺が触っていたキーホルダーを、玲奈が優しく奪い取る。

 

「これは王様ペンギンと言ってだな。皇帝ペンギンとよく似ているが、しっかり見てみれば違いに気づく。」

 

そして、ガサゴソ箱の中から同じようなペンギンのキーホルダーを探し出してもう一つと同じように手のひらに乗せた。

 

「ほら、よく見てみろ。これが皇帝ペンギンだ。」

 

「ほう。」

 

まあ、確かに、よく見てみると模様が少しだけ違ったりしていた。

ほとんど色も形も同じで、言われなければわからないくらいだ。

 

「こっちの皇帝ペンギンはテレビなんかのドキュメンタリーなどで一番よくみる種類だな。

ペンギンの中でも一番大きくて130cmにもなる。

そしてこっちの王様ペンギンの方は、皇帝ペンギンに続いてペンギン界で二番目に大きいんだ。

ちなみに三番目はキガシラペンギンで、一番小さいのがコガタちゃんだ。

おっと、すまない。話が逸れたな。

皇帝と王様の二匹のペンギンは見ての通りよく似ていて、見分けるのは最初は難しいと思うかもしれない。

でも安心してくれ。ちゃんとわかりやすいところに目印があってだな・・・・。

ほら、ここを見ろ。

皇帝ペンギンの方はオレンジの色が強いが、王様ペンギンの方はどちらかと言うと薄い黄色だろう。

そして皇帝ペンギンの方は首の模様が楕円型なのに対して、王様ペンギンの方は少し歪な雫のような形になっている。

ここを見るのが一番わかりやすい方法だ。」

 

「は、はい・・・・」

 

色々と情報が一気にきて、もう頭の中がパニックだ。

玲奈、こんな喋るやつだったのか?

 

「こっちの子はどうだ?私の一押しだ。」

 

「あ、確かに。可愛いな。」

 

先程の皇帝ペンギンやら王様ペンギンやらと比べると、半分以上小さな奴だ。

 

「そうだろう?」

 

得意げに言って、また説明を始める玲奈。

この会話がまた10回、20回と続くとは思っても見なかった。

 

 

 

 

 

⚽️

 

 

 

 

 

「ありがとう。付き合ってくれて。」

 

「んやんや、俺も楽しかったから。」

 

その割にはかなり疲れたけどな・・・・

笑顔で俺は答えたつもりだったが、顔に疲れが出てしまっていたのか、あるいは元から気づいていたのか。

玲奈は俺がペンギンのことをさして好きじゃないことを察したらしい。

 

「無理、しなくてもいいぞ。私に話を合わせてくれていたんだろう?」

 

「そ、そんな事は・・・・」

 

まあ、若干その通りな所はあるのだが。

俺が言い淀んでいると、寂しそうな笑顔を浮かべた玲奈が俺の言葉にかぶせるように呟く。

 

「久しぶりに、楽しかった。だから、ありがとう。」

 

「・・・・確かに、俺は別にペンギンのことについて詳しくないし、玲奈ほど好きなわけじゃない。」

 

「そうか・・・・。」

 

やはり、少し落胆したようだ。

 

俺は、ジャージのポケットを弄る。

中には小さな携帯のスマートフォンが入っている。

それを取り出してイヤホンを繋ぎ、画面を操作する。

 

「ほら。」

 

「・・・・これは?」

 

俺は、玲奈にイヤホンを差し出す。

玲奈は、恐る恐るといったようにイヤホンに手を伸ばした。

 

「PENGUIN RECITALっていうバンドグループだ。」

 

「ペンギン・・・・リサイタル?」

 

玲奈は、耳にイヤホンを押し込む。

それを確認した俺は、音量を確認した後に再生ボタンを押した。

 

「その中のヒット曲、The Last Day。」

 

 

 

 

 

〜♪

 

忘れ去っていた幼い頃に好きだった人や事

なくなってしまったとても大切だったはずの夢と希望

どこに放り出して、いつの間にこんな場所へ来ていたんだろう

成長しているはずなのに子供の頃の方が良かったなんてさ

そんなことを思うと子供の頃の僕に失礼かな

 

進路僕たちのあの幾つもの流れ星に願いを

瓦礫と化したこの町の中でただ一つ願いを込めて祈ろう

僕ら世界の最後の日が終わる前にあなたと笑って過ごせますように

 

〜♪

 

 

 

 

 

イヤホンからは、こんな歌詞がロック調で流れて来ているはずだ。

俺の一番好きなロックバンドの歌う曲だ。

 

「何だか、いいな。この曲。」

 

「だろ?」

 

「でも、歌詞はペンギンと全く関係がないな。」

 

「そりゃあな。」

 

俺がペンギンが好きなのは、このバンドのボーカルが大のペンギン好きっていう事が大きい。

好きな人が好きな物には興味が出る。

俺がゲームであるイナズマイレブンをしていてサッカーが好きになったと同じような感じだ。

まあ、前の俺はサッカーをプレイする側にはなれなかったんだが。

 

ゴン

 

「ん?玲奈、何か鳴らしたか?」

 

「いや、私は何も・・・・」

 

ゴンゴン

 

「どうやら足元で聞こえるみたいだな。」

 

「二階からか?見に行ってみよう。」

 

玲奈は丁寧にペンギン達を箱に収める。

その音は、二階にある円堂の部屋から聞こえて来ていた。

俺たち以外にも音に気づいたのか、円堂の部屋の前には数人のメンバー達が集まっていた。

 

「とうとう、我慢できなくなって部屋でサッカーを始めたか。」

 

その部屋では、豪炎寺の言う通り部屋の中で円堂がサッカーボールを蹴っていた。

蹴ったサッカーボールは壁へと当たり、跳ね返って来たボールを受け止める。

それを何度も繰り返していた。

 

「こうやってボールを壁にぶつけて、落下地点に移動する!咄嗟の判断力を付ける特訓だ!」

 

なんと安易な練習方法。

でも、こんな特訓は俺も小学生の時くらいに何度もやっていた。

壁にボールを当てて、自分で受け止める。

サッカーの練習には、ボールがあればどんなことでもなるからな。

 

「どうしたんだ、皆!そんなところで見てないで、こっちに来いよ。」

 

「ああ。」

 

豪炎寺は、円堂が壁へ蹴ったボールを物の多い円堂の部屋の中で素早く受け止める。

 

「鬼道!」

 

一度ボールを跳ね上げた後、豪炎寺はボールを鬼道パスした。

急に飛んで来たボールに、部屋の入り口にいた鬼道は反応して見せた。

ボールを受け取り、何度か足の上でリフティングした後にその後ろにいた俺にボールを渡した。

 

「打て、耀姫(ようき)!」

 

そう言いながら、鬼道は部屋の入り口から避けてシュートコースを作る。

そして部屋の真ん中にいた円堂は、シュートを受ける構えをとった。

 

「来い!」

 

「受け止めろよ!」

 

俺は渾身の力を込めて、部屋の外から回転をかけてシュートを打つ。

廊下からなので回転をかけないと直線では物が邪魔して円堂まで届かないのだ。

っていうか円堂の部屋、物がごちゃごちゃしていて汚ねえな!

どうやったらこの数日でこんなに出来るんだ。

 

「くーっ!やっぱりいいシュート打つな!」

 

俺のシュートをガッシリと受け止めた円堂は、心の底から嬉しそうに笑う。

 

「なあ、皆。世界一って、考えたことあるか?」

 

「?いつも思ってるだろ?世界一になりたい、ってさ。そのために作られたチームだ。」

 

「そうなんだけど!そうじゃなくってさ!ほら、FFIには、世界から色々な強い選手が参加してくる。そんなすっげえ奴らがいっぱいいて、俺達はそいつらとプレーできるんだ。じっとなんかしてられない!」

 

俺達は、円堂の言葉に顔を見合わせる。

そして誰からともなく、俺たちは笑いだした。

 

「そうだな。我慢出来ない。そして、負ければそんな奴らとのサッカーが出来なくなる。」

 

「それは何としてでも勝ち上がらないとな。」

 

「俺は見てみたい!世界一のサッカーを。勝ち残ったチームだけが味わえる、最高の試合を!!」

 

「ああ!」

 

「だから、挑戦しよう!俺たちが目指すのは、優勝だけだ!」

 

「世界一に。」

 

豪炎寺が、人差し指を天に向かって突き上げる。

 

「世界一に!」

 

「「世界一に!」」

 

続いて鬼道が。俺とウルビダが。

そして、最後には部屋の外にいたメンバー達が混ざって来る。

 

「「「世界一に!」」」

 

「お前ら!聞いてたのか!?」

 

「そりゃあ、あれだけ騒いでればな。」

 

そこにいたメンバーは、虎丸や飛鷹、不動を除いた全員だ。

ヒロトも吹雪も、風丸やクララや立向居まで。

全員が世界一を目指している。

俺たちが目指すのは、同じ場所だ。

このメンバーなら、きっと、いや、必ずなれる。

世界一に!

 

「円堂さん!俺も、部屋での練習頑張ります!!」

 

「オレもッス!絶対に優勝するッス!」

 

「このスペースぼ狭さ。ボールをキープする練習にぴったりだね。」

 

「・・・・監督の指示に、納得がいかないからと言って立ち止まっていては駄目だ。どんな状況でも、今出来ることを精一杯やるだけだ。」

 

「よし、皆!優勝するぞ!特訓だ!!」

 

「「「おう!」」」

 

そして、俺達の部屋での特訓は始まった。

まさか、部屋でサッカーボールを蹴ることになるとは・・・・

 

 

 

 



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新必殺技炸裂!日本vsオーストラリア! #08

 

 

 

 

 

二日後。

 

待ちに待ったフットボールフロンティアインターナショナル、FFIの開会式が始まった。

アジア予選は、日本の東京にあるフロンティアスタジアムで行われる。

他8カ国がここに集まってくるのだが、俺に言わせるなら外国に行きたかったな。

日本でサッカーなんて、世界大会って感じしないじゃないか。

 

開会式には、アジア地区予選出場国の8カ国のチームが揃っていた。

この開会式が終わった後、1ブロック目、つまり、俺達とビッグウェイブズの試合が始まる。

俺達イナズマジャパンのメンバーは、スタジアムに通じる道で待機していた。

ここで、俺たちが呼ばれるのを待つ。

ここららスタジアムの中が見えるのだが、こんな大きな会場に観客が超満員だった。

 

「お、大きな会場ッス!」

 

「それに、テレビの中継もいっぱい来てるな!」

 

「浮かれている場合じゃないぞ。この開会式が終わったすぐ後に、俺たちの試合が始まるんだ。」

 

風丸が、はしゃぐメンバーをなだめる。

まあ、壁山とはしゃいでいたもう1人は俺なんだが。

すんません風丸さん。

 

「この二日間、個人練習はできたが合同練習は結局全くできなかったな。チームの全体の動きが確認できなかったのには、不安が残るが・・・・」

 

「鬼道!そんな難しい顔してないで、楽しもうぜ!」

 

「・・・ああ、そうだな。」

 

えっ、あれって難しい顔してるのか?

ゴーグルがあって俺には全く表情が読めないんだが。

 

『いよいよ選手の入場です!!』

 

「「「ワァァアアアアッ!!!!」」」

 

実況の言葉に、会場に来ていた観客が一斉に沸く。

 

『オーストラリア、中国、カタール、サウジアラビア、ウズベキスタン、タイ、韓国、そして我らが日本の計8カ国によるアジア予選!さあ果たして、この予選大会を征して決勝大会までの切符を手に入れるのはいずれの国になるのか!?』

 

「日本代表、イナズマジャパン様。お願いします。」

 

「よし。お前達、準備はできているな?」

 

「「「はい!」」」

 

「では、行って来い。」

 

「よしみんな!いくぞ!」

 

俺達は、皆で気合を入れあってグラウンドに出て行く。

整列を組んで、こう歩いて行くのは運動会や体育大会を思い出すな。

この会場のグラウンドは、学校のグラウンドよりも遥かに大きい。

 

『おおっと!イナズマジャパンのメンバーが入場して来ました!!』

 

「俺達、本当に日本代表なんだな・・・・」

 

「何言ってんだよ、自覚なかったのか?」

 

「そんなことはない、けど、こんなに観客がいたんじゃ、さすがに意識しちゃうよな。」

 

『アジア地区予選は全てこのスタジアムで行われます。そして、本大会の決勝戦に進めるのは、この中から一チームだけ。アジア代表の栄誉を手に入れるのはどのチームになるのでしょうか。』

 

グラウンドをぐるりと一周回って、俺達イナズマジャパンは右から二番目の列へと並んだ。

 

『では改めて、FFI世界大会全試合を通してのルールをお伝えしたいと思います!!』

 

俺達全8チームのプレイヤーが全員グラウンドに揃った後、実況が大声をあげた。

 

『まず、参加可能な条件ですが、15歳以下の少年または少女という規定になっています!

代表選手は控え選手5人、スタンディングメンバー11人の計16人まで。

所属チームのメンバーは他の国籍のプレイヤーでも参加可能です。

試合時間は前半30分後半30分の三十分ハーフ。

ワンプレイ毎の交代人数に制限はありません。

そして、一試合ごとに控えを含めたチームメンバーの交代の人数も制限ありません。』

 

そして、開会式はあっという間に終わり、一回戦が始まる。

 

「キャプテン・エンドウ。そして、イナズマジャパン。今日は、お互いのベストを尽くそう。

 

「ああ!よろしくな。最高のプレーにしようぜ!」

 

円堂と、ビッグウェイブズキャプテン、ニース・ドルフィンが挨拶を交わす。

ドルフィンって、名前かよ。

イケメンのサーファーで、海外にもファンがたくさんいるらしい。

イケメンは俺たちのために全員死すべしだと思うんだ。

スカしたイケメン野郎なんかに負けるかよ。

 

「こういう怒りは、ピッチ上のプレイでぶつけてやるか。」

 

俺は静かに闘志を燃やしていた。

理由はともかく、アツくなるのは問題ない。

さあ、この試合、絶対に勝つぞ!

 

 

 

 

 

「では、スタンディングメンバーを発表する。」

 

よし、来たか。

さすがに俺は入ってるだろ。

 

「フォワード。豪炎寺、清川、基山。ミッドフィルダー。鬼道、吹雪、八神。ディフェンダー。木暮、倉掛、風丸、壁山。そしてゴールキーパー兼ゲームキャプテンは、円堂。」

 

「「「はいっ!」」」

 

「なっ!?俺が控えだと!?チッ、わかってねえなあ。」

 

「・・・・ベンチ、か・・・・」

 

不動や緑川はメンバーにご不満のようだ。

俺にとっては大満足でしかないが。

 

「お前達も、重要な戦力だ。いつ交代してもいいように準備しておけよ。」

 

「「はい!」」

 

円堂の呼びかけに応えたのは虎丸と立向居だけだった。

久遠監督はフォーメーションの指示を出さなかったため、鬼道が指示を出してポジションにつく。

ちなみに、今回の俺達とビッグウェイブズのフォーメーションだ。

 

 

 

 

 

ビッグウェイブズ

 

GK ジンベエ

DF クラーケン、タートル、ビーチ、ウォーター

MF サーフィン、ドルフィン、アングラー、シュリンプ

FW ジョーズ、リーフ

 

 

 

イナズマジャパン

 

FW 豪炎寺、俺、ヒロト

MF 吹雪、鬼道、玲奈

DF クララ、木暮、壁山、風丸

GK 円堂

 

ベンチ

緑川、不動、立向居、虎丸、飛鷹

 

 

 

とりあえず、ビッグウェイブズのチームにいるメンバーの名前おかしくね?

全員海に関する名前かと思ったらリーフ、何だお前は。

そして同じくフォワードのジョーズって奴怖すぎだろ。

サメじゃねえか。

とりあえず、チームキャプテンのドルフィンに気をつけてればいいかな。

その他のメンバーがどう動くのか俺達は知らないし。

 

そして俺達イナズマジャパンだが、フォワードが俺を含めて3人とも全員火属性なんだがそれは大丈夫なのか?

相手は海の男達って言ってたし、相性は最悪な気がするんだが・・・・

 

『さあ、間も無くアジア予選の開幕試合、開始です!』

 

ピーッ

 

ホイッスルが鳴り、ボールはイナズマジャパンからだ。

俺は試合が開始してすぐにヒロトにボールを渡す。

そしてヒロトは、バックパスで鬼道へとボールを回した。

俺達フォワードの3人は前線へと上がる。

 

「よし、上がるぞ!」

 

鬼道の掛け声で、ミッドフィルダーもビッグウェイブズへ攻め入る。

 

「よし、始めるぞ。オレ達のサッカーを。」

 

「?」

 

ドルフィンが何か呟いた気がしたのだが、そんなことを気にする暇はない。

もう試合は始まっているのだ。

 

「行くぞ!ボックスロックディフェンス!」

 

「何っ!?」

 

ボールを持っていた鬼道に、ニースを含めたビッグウェイブズの4人の選手が集まった。

その4人は、鬼道の左右前後に適度な間隔をあけてマークをつける。

鬼道はボールをキープしながらどうにか抜け出そうと模索するが、ビッグウェイブズの陣形は崩れない。

鬼道の体勢が一瞬揺らいだ時、4人の選手は鬼道からボールを掠め取った。

 

『出たぁー!!これがビッグウェイブズの必殺タクティクス、ボックスロック・ディフェンス!一度囲まれたら出ることのできない、鉄壁の戦術です!!』

 

相手が蹴ったボールは、右サイドのディフェンスへ溢れる。

しかし、そこにいた木暮と風丸は互いに衝突してしまった。

2人のミスで、ボールはそのまま転がっていってしまう。

それを拾ったのは、ビッグウェイブズのフォワード、ジョーズだった。

 

「食らえ!メガロドン!!」

 

ジョーズの背後に大海とサメが現れてイナズマジャパンゴールへと迫る。

うん、俺も何言ってるかわからん。

でも現れたんだよ、サメが。

普通にこれは怖いだろ、円堂も。

と思ったのだが、あいつは冷静に必殺技を繰り出した。

 

「はぁぁああっ!!正義の鉄拳!!!」

 

僅かに拮抗したかに見えたが、そんな事は全くなくメガロドンがゴールへと突き刺さった。

やっぱり、正義の鉄拳じゃ世界には通用しないのだろう。

どうせならムゲンザハンドの立向居にゴールを任せたほうがいいと思うのだが・・・・

 

「ぐわっ!?」

 

『ゴール!先制したのは、ビッグウェイブズです!!』

 

前半数分で、俺達はもう失点してしまった。

この調子でいくと、負けるのは必至だ。

まずは、何とかしてあの必殺タクティクスを打ち破る事が重要なのだが・・・・・

あの鬼道が取られたのだ、打ち破るのは簡単じゃないだろう。

 

「この失点。ポジショニングの練習をしておけば、防げたかもしれない。久遠監督は一体何を考えている?」

 

「凄いな!」

 

「えっ?」

 

「やっぱり、こんな凄いシュートや技を持っている奴がいるんだ!燃えてきたぜ!」

 

「強いほど燃えるなんて、キャプテンらしいッス。」

 

「まだまだ一点!皆!取り返していくぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

ボールは再び、俺たちからだ。

今度は、俺がそのままボールをドリブルしながら持ち込む。

 

「ボックスロック・ディフェンス!」

 

鬼道の時と同じように、俺の周りに4人のマークがついた。

中に入ってみると、割と圧迫感がある。

よし、どうにかこのタクティクスの突破口を切り開けるといいんだが・・・・

一応、鬼道と同じように左右に動いてみるが、やはりディフェンスがしっかりしていて抜け出す事ができない。

ならばとパスを狙ってみるが、ヒロトや吹雪へのパスコースに4人のうち1人が立つ事で簡単に塞がれる。

どうする、前後左右が囲まれて抜け出すこともパスも通じない。

ならば、上か!

俺は、デススピアーを打ち出す時の要領で空中へと飛び上がる。

だが、予備動作を見ていたのか一瞬先に上に上がっていたドルフィンに上からボールを奪われる。

 

『おおっと!清川もボックスロック・ディフェンスを破る事はできません!』

 

うるせえよ実況!!

今回はジョーズを警戒してか、風丸と木暮がジョーズのマークついていた。

 

「リーフ!」

 

それを見たドルフィンは、逆サイドのリーフへとボールを回した。

しかし、そこに走り込んできたのはクララだった。

ボールを受け取った直後のリーフに、クララが必殺技で迫る。

 

「フローズンスティール!」

 

『イナズマジャパン、倉掛の必殺技で難を逃れました!』

 

「上がるぞ!」

 

ボールを奪取したのを見た鬼道が、俺たちに指示を回す。

ボールはクララから吹雪、吹雪から豪炎寺へと送られる。

 

「ボックスロック・ディフェンス!」

 

しかし、またもや必殺タクティクス。

豪炎寺は、今度は完全に囲まれる前にパスを出す。

そうすることで、ボールを取られてはいない。

でも豪炎寺はボックスロック・ディフェンスを突破したかもしれないが、ボールをもらった俺はどうすればいいんだ。

 

「ボックスロック・ディフェンス!」

 

今度は、逆側にいたメンバーがボックスロック・ディフェンスを仕掛けてくる。

結局、豪炎寺のようにボックスロック・ディフェンスを失敗させる事はできても攻略したとは言えない。

ボールをもって敵陣地へと辿り着かなければ、試合には勝てない。

俺はまたもや、ボックスロック・ディフェンスの術中にはまってしまった。

 

前後左右、そして上空も塞がれているのなら、逃げ道はもはや下にしかない。

勿論、下に逃げ道なんてないのだが。

箱の中に閉じ込められた虫の気持ちがわかった気分だ。

くそ、何かいい手は無いか・・・・?

 

俺は、ビッグウェイブズにボールを取られないようにしてうまく立ち回る。

どうしたらこの箱の中から抜け出せる?

ボールをキープしているだけじゃ、何も始まらない。

かと言って、ボールを取られればまた円堂がゴールを許してしまうかもしれない。

時間が過ぎれば、有利になるのは先制点を取っているビッグウェイブズの方だ。

何か、何か無いか!?

何か攻略の糸口は・・・・

 

俺はボックスロック・ディフェンスの猛攻を避けながら、選手の隙を探す。

だが、やはり代表のメンバーはそれぞれが上手く、とても隙なんてできそうに無い。

くそ、このままじゃただの平行線だ、俺はどうすれば・・・・・

 

「くそ、なぜ取れない!?」

 

「ん?」

 

そこまで考えて、俺は違和感に気付いた。

僅か()()、ボールが取れないだけでビッグウェイブズのメンバーが焦り始めたのだ。

 

『これは凄い!ボックスロック・ディフェンスを受けたはずの清川は、なんとその狭いスペースの中で軽やかにボールをキープしている!!』

 

そうだ、このままボールをキープし続ければ、いつしか陣形を崩す事ができるかもしれない。

だが、時間をそんなに使ってしまうのは流石に勿体無い。

俺は、慎重に相手を刺激する言葉を選んで挑発した。

 

「おいおい、どうしたよ?代表選手が4人で寄ってたかって、1人からボールを奪えないのか?」

 

「くっ・・・・お前ら!もっと激しく行け!」

 

ニヤニヤと言い放つ俺に、ディフェンスに参加していないドルフィンはやはり焦って指示を出す。

まあまあ、そんなカッカするなよな。

 

「オーストラリアのトップはこの程度かよ。期待して損した気分だぜ。おい聞いてんのか、イソギンチャク野郎がよ。」

 

「何を手こずっている!?ボールはまだか!?」

 

ドルフィンが叫ぶが、4人は俺からボールを奪う事はできない。

そして、ついにボックスロック・ディフェンスに綻びが生じる。

激しくボールを奪いに来たからか、焦ったからかは知らないがこのチャンスを逃すわけにはいかない。

俺は、その隙間に体を入れ込んで今度は俺がビッグウェイブズをマークをするかのように動く。

 

「何っ!?」

 

そして、ボールをキープしながらボックスロック・ディフェンスを抜け出した。

 

『なんと!清川が2回目にして鉄壁の必殺タクティクス、ボックスロック・ディフェンスを打ち崩しましたっっ!!』

 

「くそ!行かせるな!」

 

俺はそのまま敵陣内へと上がる。

 

「いいぞ!耀姫(ようき)ー!」

 

ボックスロック・ディフェンスは、強力な分1人に4人がマークについて人数を多く使ってしまう。

ディフェンダー数人を残して全員が上がってしまっているのだ。

つまり、ゴール前までがガラ空きだって事だ。

 

「行け、豪炎寺!」

 

俺は、完璧な位置に移動してボールを待つ豪炎寺にパスを出した。

このままシュートが入れば、流れを変える事ができる。

パスは無事豪炎寺まで渡り、最高のシュートチャンスが訪れた。

 

「爆熱!ストーム!!」

 

豪炎寺が蹴り飛ばした炎を纏うシュートは、狙い通りにゴールへと吸い込まれていく。

ゴールキーパーのジンベイは、右手を突き出して必殺技を出した。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

叫ぶと突然ゴールの正面に大きな海の断片が出現した。

その海水に飲み込まれたしまったボールは、勢いを殺しながらジンベイの右手におさまった。

 

『なんと!ビッグウェイブズゴールキーパー、ジーンベイカー、豪炎寺の渾身の必殺技をあっさりと止めてしまいました!』

 

「おい馬鹿!決めろよ豪炎寺!」

 

「・・・・すまない。」

 

豪炎寺も、ここで点を入れる事ができなかった事で大きなチャンスを逃してしまったのはわかっているのだろう。

悔しそうな顔をして素直に謝る豪炎寺。

いや、そんなこと言われたら、なんか俺が悪いみたいじゃん?

 

「ウォーター!」

 

ゴールキーパーがディフェンダーへとパスを回す。

しかし、そのボールは俺たちと上がって来ていたヒロトが奪った。

 

「流星ブレード!」

 

「グレートバリアリーフ!」

 

ボックスロック・ディフェンスを完全に攻略したとは言えない今、ボールがゴール前にあるうちにシュートを決めておきたい。

ヒロトのナイスシュートをだったが、これもまたグレートバリアリーフに防がれてしまった。

 

『ウォーターマンへのパスをカットした基山でしたが、これもゴールならず!』

 

「ごめん、耀姫(ようき)くん・・・・入れられなかった・・・・・」

 

「気にすんなって。でも、次は決めろよ。」

 

なんでお前まで謝ってくるんだよ。

止められたボールは、ディフェンダー、ミッドフィルダー、フォワードと繋がって、俺たちはカウンターを受ける。

 

「まずい、止めろ!」

 

ボールをキープしているジョーズの前を塞いだのは玲奈だ。

 

「抜かせない!」

 

玲奈のブロックでボールはビッグウェイブズの手から奪還した。

その瞬間、俺に2人のマークが付いた。

くそ、ボックスロック・ディフェンスを破った俺に、ボールを渡さないつもりか・・・・!!

そしてボールは玲奈から鬼道の元へと回される。

 

「一回破ったくらいで、いい気になるなよ!ボックスロック・ディフェンス!」

 

再び必殺の、ボックスロック・ディフェンスだ。

その瞬間、俺をマークしていた2人の選手が急に俺を置いて前線に上がり始めた。

俺以外には打ち破る事ができないと考え、ボールが来るのを敵陣地で待つつもりなのか。

そしてその読みは多分当たりだ。

鬼道に破る事ができるのか・・・・?

俺が抜け出した方法は、部屋の中での特訓でボールをキープする能力を上げて来た俺だからこそできた芸当だ。

だが、俺と同じ特訓をしていない鬼道には、ボックスロック・ディフェンスの中でボールをキープするのは不可能かもしれない。

と、そこまで考えて、俺は自分の考えが間違っていたことに気づく。

あれ・・・・?

鬼道、俺と同じ特訓してんじゃん!

むしろ、全員部屋の中で特訓をしていたはずだ。

そうか!久遠監督はこの必殺タクティクスを見通して、練習禁止なんていうとんでも指示を出したのか!

 

「鬼道!部屋の中の特訓を思い出せ!」

 

「何!?」

 

俺は、箱の中に閉じ込められている鬼道に叫んだ。

視界の端に見えていた久遠監督が少し口元を緩めた気がした。

 

「部屋の中の特訓・・・・そうか!」

 

鬼道は、俺の言葉を聞いて何かに気が付いたようだ。

鬼道は箱の中で、俺と同じようにボールをキープしてボックスロック・ディフェンスを防ぐ。

 

「!?これは!」

 

何か掴めたのか、鬼道はさっきまでの動きと見違えるほどの動きを始める。

まるで踊るようにボールをキープする鬼道は、ボックスロック・ディフェンスを打ち破った。

 

「豪炎寺!」

 

相手の選手と選手の開いた隙間を狙って、鬼道が豪炎寺へとパスを出す。

豪炎寺はパスを受けそのまま上がるが、ビッグウェイブズはまたもやボックスロック・ディフェンスの構えだ。

 

「いくぞ!ボックスロック・ディフェンス!」

 

豪炎寺も、4人のプレイヤーに囲まれ、箱の中に閉じ込められてしまう。

 

「豪炎寺!特訓を思い出せ!ボックスロック・ディフェンスはただの4枚の壁だ!」

 

豪炎寺は小さくうなづいた後、俺たちと同じようにボックスロック・ディフェンスを打ち崩した。

 

「何だと!?」

 

耀姫(ようき)!」

 

俺は豪炎寺が囲まれた直後に、前線へ上がってパスを待っていた。

先ほども言った通り、ボックスロックディフェンスを使うとディフェンスが薄くなる。

ボールは簡単にゴール前にいる俺まで通った。

鬼道と豪炎寺が、ビッグウェイブズの必殺タクティクスを破ってここまで繋いだボール。

ここで決めないわけには行かない!

それに、ここで決まらなければ俺のメンツが丸つぶれだ。

 

「はぁぁぁあああ!!デス!!スピアー!!!」

 

俺の持つ、必殺シュート技の一つ、デススピアー。

赤黒いオーラに染まった俺のシュートがゴールへ向かう。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

またもやゴールの目の前に大きな海水の壁が出来上がる。

デススピアーは、その水と衝突した。

 

「いっけぇぇぇえええ!!」

 

ギュルギュルと高速回転をするデススピアーは、海水の中をまるでドリルかのように穿って突き抜けた。

 

「なんだと!?」

 

『ゴール!!清川が放った一槍のシュートが大波を押しのけゴールへと突き刺さりました!!局面を変えたのはまたしても清川だぁーっ!』

 

よし!

これで同点だ!

俺たちが喜んでいる中、豪炎寺だけが少し考え事をしていた。

 

「あの回転・・・・なるほど。試してみる価値はありそうだな。」

 

「ん?どうした?豪炎寺?」

 

「ああ、いや。ナイスシュート!」

 

「おう。豪炎寺もナイスパス。」

 

ピッピー!

 

前半終了のホイッスルが鳴る。

こうして俺達は、一対一の同点で前半を終えた。

 

 

 

 

 

休んでいた俺達に、監督が声をかける。

 

「基山、交代だ。虎丸。後半、頭から行くぞ。」

 

「はい。」

 

「えっ!?わ、わかりました!皆さんの邪魔にならないようなプレーを心がけます!」

 

緊張したような声を上げるから緊張してガチガチなのかと思ったら、そんなことはないようだ。

どうやら、プレーが出来るのが素直に嬉しいだけのようだ。

 

「後半の指示を伝える。」

 

「「「はい!」」」

 

全員、監督の指示の意図がわかって信じる事ができるようになったのか、普段よりも大きな声が揃う。

 

「清川は基山の位置について、虎丸は清川のいた場所から一歩下がったポジションに付け。前にボールを繋げろ。」

 

「そ、そんな大事な役目、俺でいいんでしょうか・・・・?」

 

「お前がやるんだ。」

 

「はい!」

 

「吹雪、八神。お前達は中盤底に下がって相手の攻撃の芽を摘め。」

 

「「はい。」」

 

それだけ言うと、久遠監督は定位置に戻る。

監督は渋い顔をしてまた黙りこくってしまった。

 

「ボックスロックディフェンスを攻略したのに、監督は嬉しそうじゃないな。」

 

「まさか、まだ何かあるというのか・・・・?」

 

「まあまあ、気にしててもしょうがねえ。後半も気合い入れていくぜ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

 

 

『ビッグウェイブズはリーフとシュリンプ、ビーチを下げて新たにメンバーを入れるようです!ロベルト監督の意図はどこにあるのか!?』

 

ビッグウェイブズもメンバー交代か。

ボックスロック・ディフェンスを諦めたのか、あるいは強化してこようとしているのか。

新たに入ったメンバーがどう動くのか気になるな。

 

『対するイナズマジャパンは、基山に変わって宇都宮が入ったようです。フットボールフロンティアに出場経験のない宇都宮ですが、どんなプレーを見せてくれるのでしょうか。』

 

ピーッ

 

後半開始のホイッスルが鳴り、試合が再開される。

ボールはビッグウェイブズからだ。

 

『後半開始!さて、先にスコアを追い越すのはどちらのチームだ!?』

 

新たに入ったフォワードと、前半で点を入れたジョーズが攻め上がる。

 

「そいつをよこせ!」

 

一番最初に俺と豪炎寺がボールを奪いにかかる。

 

「そう簡単にはボールを渡してたまるか!」

 

しかし俺達はワンツーパスでうまくかわされてしまった。

まあ、こんなにすぐに奪えるとは思っていない。

俺達は攻め上がるビッグウェイブズを無視して敵陣内へと上がる。

シュートしやすい位置に待機して、ボールが来るのを待つ。

それが、俺たちの役目だからな。

 

「もらったっ!」

 

『おおっと!入ったばかりの宇都宮、ナイスプレーでボールを奪取した!』

 

あのワンツーパスを簡単に取っただと!?

流石だな、これまで1、2とストーリーに出てこなかった癖に急に代表候補に上がってきただけはあるな。

無銘メンバー同士、俺も負けちゃいられない。

 

「こっちだ!」

 

俺が叫ぶと、すぐさまビッグウェイブズのメンバー2人が俺をマークした。

くそ、デススピアーでグレートバリアリーフを破った事で警戒されているのか?

さっきっからマークされっぱなしでつまんねえ!

 

『ビッグウェイブズ、清川をぴったりとマーク!これではパスは通りません!』

 

「豪炎寺さん!」

 

虎丸は奪ったボールを豪炎寺へとパスした。

ボールを受け取った豪炎寺は、そのままドリブルで攻め上がる。

 

「グレイブストーン!」

 

「何っ!?」

 

豪炎寺は、入ったばかりのビッグウェイブズメンバーの必殺技で吹き飛ばされた。

ボールを手に入れたそのミッドフィールダーは、イナズマジャパン陣内へと駆け上がる。

 

『ビッグウェイブズはボックスロック・ディフェンスが通用しないと見ると、今度は個人技でのディフェンスに切り替えてきました!』

 

「チッ、往生際が悪い!止めろ吹雪!」

 

「うん・・・・!!」

 

俺が吹雪に指示を出すと、吹雪は一言答えてからディフェンスする。

 

「カンガルー・キック!」

 

しかし、その選手はまた必殺技で対抗する。

実況の言う通り、本当に個人技に移り変わったな。

前半であんなにチームプレイをしていたのに、これが同じチームなのかというほどの変わり様だ。

っていうかカンガルーって。

最早海関係なくなっちゃったよ。

 

『倉掛が抜かれてジョーズがフリーだ!止められるか、円堂!?』

 

クララが抜かれ、ジョーズにパスが回りシュートチャンスに繋がってしまう。

 

「行くぞ!メガロドン!」

 

「・・・・止める!」

 

円堂は何故か目を瞑り、必殺技の体勢に入った。

な、何してるんだ!?

 

「今だ!正義の鉄拳!」

 

ボールが届く寸前、カッと目を見開いてボールに拳をぶつける。

前半の時よりも力の篭った拳が、シュートを押し返す。

 

『止めた!キーパー円堂、1度は負けたものの、今度は完璧にシュートを跳ね返した!』

 

もしかして、やっぱりサメが襲ってくるのは怖かったのかな?

あんなの俺だって怖い。

そして、ボールが向かったのは風丸の方向だ。

ボールをトラップした風丸は、そのまま上がる。

 

「いただく!」

 

風丸に、ビッグウェイブズの選手が迫る。

 

「負けるかっ!」

 

風丸も負けじと走り抜ける。

すると、風丸の周りに豪風が吹き荒れ、ビッグウェイブズの選手を吹き飛ばした。

 

「あれは何だ!?必殺技じゃないみたいだが・・・・」

 

これからは、風丸のあの動きにも要注目だな。

新しい必殺技の予感がする。

風丸はかなり前線に出てから玲名にパスを出す。

右サイドだから俺のシュートチャンスだ!と、いつもならそうなる。

だが、俺にはさっきからマークが付いていてまともに動けない。

 

「ナイスナイス!行けー!玲奈!」

 

だからもう、いっその事俺は応援役に徹しよう。

マークが1人ならともかく、2人じゃ抜け出すのは難しい。

玲奈は俺の指示通り本来は俺がいるべきフォワードの位置まで上がる。

右サイドは、俺にマークが2人ついているからディフェンスも手薄なんだよな。

 

「はぁっ!!」

 

「グレートバリアリーフ!」

 

そのままいつもの素早い動きでディフェンスを抜き去った玲奈はシュートを打つ。

 

『おおっと八神、ここは簡単にキャッチされてしまいました!』

 

しかし、グレートバリアリーフによってあっさりと止められてしまう。

まあそりゃあ普通のシュートだからな。

玲奈って、何か必殺技持ってなかったっけ?

ディフェンスもオフェンスも、シュートの時にすら必殺技を使わないなんて。

 

「ウォーター!」

 

玲奈のシュートを止められたイナズマジャパンはカウンターを受けてしまう。

玲奈が上がりすぎていたことが裏目に出た。

右サイドにスペースが出来てしまっていたようだ。

そこに付け込まれてしまった。

 

「行かせない!」

 

「カンガルーキック!」

 

「ぐわっ!?」

 

真ん中にいた鬼道が進路を塞ぐが、またしてもあの技によって突破されてしまう。

ビッグウェイブズとかいうチーム名なら海の技で統一しろよ!

イミワカンナイ!

 

そしてボールはジョーズに渡る。

またメガロドンか???

でも円堂はもうメガロドンを止められる。

シュートを打たれても大丈夫だ。

 

「旋風陣!」

 

木暮が、旋風陣でジョーズのボールを奪う。

ナイス木暮!

 

『ここで木暮がボールを奪取!イナズマジャパンが攻め上がります!』

 

「鬼道!」

 

「虎丸!」

 

そして俺達の攻撃だ。

ボールはダイレクトパスが繋がり、虎丸の元へ。

虎丸は鮮やかなプレーでビッグウェイブズのディフェンダーを抜き去った。

 

「豪炎寺さん!」

 

ゴール前で、いよいよシュートができそう、という所で虎丸は豪炎寺へとパスを出した。

まあ、わかってたけどな。

今回は豪炎寺もパスを受けやすい位置にいたしボールも繋げやすかったからパスが出てもおかしくはない。

おかしくはないのだが、普通はしない。

 

「はあああああ!!!爆熱!スクリュー!!」

 

豪炎寺も、パスが来るのを薄々予感していたのだろう。

完璧なタイミングでボールを受け、シュートを打ち放った。

豪炎寺の新必殺技の、爆熱ストームの進化系のような技だ。

爆熱ストームに捻りがかかって回転することで突破力が上がっているようだ。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

もう本日何度目かわからないグレートバリアリーフ。

豪炎寺の新必殺技、爆熱スクリューは、その大波をまるでスクリューのように押しのけてゴールへと突き刺さる。

 

『ゴール!!豪炎寺の新必殺技が炸裂!イナズマジャパンが逆転です!!』

 

よし、これで一安心だな。

残り時間もあとはロスタイムくらいだろうし、守りきれるはずだ。

もしもここで点を入れられても同点ですむ。

俺達は嬉々としてポジションに戻った。

 

「清川!」

 

「ん?」

 

俺がポジションにつくと、試合が始まる前に久遠監督が俺のことを呼んだ。

何だろ、交代か?

まあ、あれだけガッチガチにマークされてたら下がるしかないか。

俺はそう思って、ベンチの近くまで向かう。

しかし、久遠監督が言った言葉は、俺の予想していたものと違っていた。

 

「清川、なぜ動かない。」

 

「えっ?それは、マークが固くて満足に動けないので・・・・」

 

「お前はそんな事で諦めるのか。マークくらい自分で外してみせろ。」

 

「でも、一人ならともかく、二人もいるんじゃ・・・・」

 

「ならばベンチへ下がれ。そんな事では、お前を入れていても意味がない。」

 

「はい!スンマセン!!次からはしっかり動きます!!!」

 

俺はびしっと敬礼をして、いそいそとポジションに戻った。

ひぇー、おっかねえ!

ボックスロックディフェンスを破ったのも、ジャパン内で初ゴールを決めたのも俺なのに!

まあでも、全く動こうとしなかった俺も悪いか。

でも、俺一人のマークのために二人減ったら一人いない分有利になるかなって思ったんだよ。

 

ピーッ!

 

『試合再開です!試合時間は残りわずか。このまま逃げきれるか、イナズマジャパン!?』

 

「行くぞ!お前ら!!」

 

「「「おう!!」」」

 

『おおっと!ここでビッグウェイブズは守りを捨てて全員攻撃を始めました!!なんという大胆な戦術だ!!』

 

「くそ、捨て身ってわけかよ!?」

 

俺達も止めにかかるが、もう後が無いビッグウェイブズに押され気味だ。

そのままディフェンスまで追い詰められてしまった。

 

「行かせるかよ!」

 

ここでまたもや木暮がナイスプレー。

ジョーズからスライディングでボールを奪った。

そして、ダメ押しだとばかりに俺達はビッグウェイブズ陣内へ駆け上がる。

全員攻撃の反動で、ビッグウェイブズの守備はガラ空きだ。

あからさまな攻撃のチャンス。

ボールは虎丸に回り、絶好のシュートチャンスだ。

 

「あと、お願いします。」

 

そんなタイミングで、虎丸は俺へとバックパスを出した。

そんな予感はしていたが、このタイミングでもシュートを打たないなんて・・・・

一体、何がお前の心を閉ざしているんだ?

 

ピッピッピーッ!

 

俺がボールを受け取ると、試合終了のホイッスルが鳴った。

いや、終わり方なんだよこれ。

虎丸がシュートしないなら、せめて俺がシュートを打ちたかった。

 

最後の終わり方はちょっとアレだったが、まあ俺たちの勝ちだ。

FFIの初戦、俺達はビッグウェイブズに勝利した。

 

 

 

 

 



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第三章 虎丸の秘密!悲劇のエースストライカー!
二人のストライカーの苦渋! #09


 

 

 

 

 

俺達がフロンティアスタジアムから雷門中の合宿に帰って来ると、中から響さんが出てきた。

響さんは、どうやら俺達の試合をテレビの中継で見ていたようだ。

何でフロンティアスタジアムに来てくれなかったんだ?

監督以外は入場禁止、っていうルールがあるのか?

いや、そんなまさか。

 

「全員、よくやった。これでアジア地区予選の初戦突破だ。」

 

「ありがとうございます!響木監督!」

 

「フ。俺はもうお前達の監督じゃあない。」

 

「あ、そうでした・・・・」

 

たはは、と頭をかいて笑う円堂。

それを見て俺達が少し笑いあった後、そして、今度は本当の監督、久遠監督が俺達メンバーの前に歩いて来た。

 

「監督!」

 

「お前たち。今日の練習は無しだ。各自自由に過ごせ。また明日から練習だ。さらに特訓を厳しくしていく。いいな?」

 

「「「はいっ!」」」

 

久遠監督が理由があって練習禁止にしたと知った今、もう俺達は誰も監督に不信感を抱いてはいなかった。

全員が、監督を信じていた。

 

「待ってください、久遠監督!」

 

それだけ言って久遠監督が宿舎に戻ろうとしたとき、その背中に鬼道が声をかけた。

 

「俺達が、オーストラリアに勝利できたのは、監督の采配のおかげです。あなたは、チームをダメにするような監督じゃない。桜木中で、何があったんですか?」

 

「・・・・お前たちが知る必要はない。」

 

「監督!話してください!俺は信頼のできる人に、チームを任せたいんです!」

 

「・・・・。」

 

鬼道が久遠監督に詰め寄るが、監督は話すつもりはないらしい。

監督は鬼道一瞥すると、宿舎の中に戻って行ってしまった。

相変わらず何も話さない人だな。

こんなんだから、俺たちに余計な心配が広がるんだよ。

 

「待て、鬼道。」

 

監督を追いかけようとする鬼道を、響さんが止めた。

 

「俺が説明しよう。」

 

「響さん。」

 

「・・・・10年前、久遠が桜木中サッカー部の監督をしていた時の事だ。久遠の指導により、桜木中はフットボールフロンティアの決勝まで勝ち残っていた。」

 

俺達が音無から聞いた、久遠監督の過去の話だ。

音無は、久遠監督がこの決勝の前日に事件を起こしたと言っていたが・・・・

 

「だが、最強のチームとの決勝戦の前日。部員達は、対戦相手と喧嘩して大きな怪我を話せてしまった。」

 

「部員が?」

 

「ああ。そしてその最強のチームとは、帝国学園だ。おそらく、影山が何か仕組んでいたのだろう。」

 

「影山が!?」

 

うわ、俺の予想当たっちゃったよ。

悪い事件とか噂とかの裏には、やっぱりいつも影山がいるんだな。

って事は、呪いとかも嘘っぱちだったんだろ、やっぱり。

まあこんな超次元サッカーがあり得る世界だ、本当に呪いがあってもおかしくはないと思ったのだが。

・・・・・流石に有り得ねえか。

 

「その事件が明るみに出れば、桜木中のサッカー部は無期限に活動停止になってしまう。久遠はこれ以上事を大きくしないでくれと頼み込んだが、影山がそんな事を聞き入れるわけがなかった。」

 

「くっ・・・・」

 

響さんの話を聞いて、鬼道が歯噛みする。

まあな。鬼道は影山にずっとサッカーを教えられていたし、思うところがあるんだろう。

 

「そして、久遠はサッカー部を守るため、自分が問題を起こしたと世間に発表する事で決勝を棄権した。」

 

「そんな・・・・」

 

「あれから10年。やっと指導者資格失格の処分が終わった久遠に、俺が代表監督を頼んだと言う訳だ。」

 

なるほど。

だから名前も聞いたことのない監督だったのか。

ネットに久遠監督のデータが載っていなかったのも、影山が絡んでいたとなると頷ける。

 

「そんなことがあったんですか・・・・」

 

「だが、これは決して同情ではない。久遠は、処分中もサッカーの情熱は衰えずに日々サッカーの研究を続けていた。その熱心さに惹かれたのだ。今日の勝利で、俺の判断は間違っていないと確信した。彼の素晴らしい指導力こそ、このチームに必要だ。」

 

「はい。俺達も、今日の試合でわかりました。」

 

だが、チームと打ち解けるつもりの一切ないあの性格はどうにかならんのかな。

久遠監督だけを見ていると、とてもサッカー部を救うために犠牲(ぎせい)になった監督とは思えないんだよな。

俺や不動と同じで捻くれている気がする。

 

「久遠監督なら、世界に連れて行ってくれるかもしれない・・・・」

 

「そうだな!よーし、優勝目指して皆で特訓だー!」

 

「「「おうっ!」」」

 

円堂や鬼道、壁山などの熱血組を見送りながら残ったメンバーは宿舎に入ったりそれぞれ話をしたり始める。

この時にも、虎丸は早上がりで帰ろうとしていた。

 

「では、皆さん。俺はこれで失礼します!」

 

「待ってくれ、虎丸。」

 

「はい?」

 

俺は、帰ろうとする虎丸を呼び止めた。

俺には、虎丸に聞いておきたいことがある。

それは勿論、今日の試合での事だ。

 

「試合終了直前の事だ。お前、なんであの時にシュートを打たなかったんだ?」

 

「・・・・!!」

 

「ディフェンダーもいなかったし、何よりあのタイミングでオフサイド判定にならずゴール付近に近づけたのは運が良かった。そのままシュートすれば、綺麗に終わったと思うんだが。」

 

勿論、運だけでなく虎丸のおかげでもある。

ボールを受け取ったハーフラインからゴール前まで一気に駆け上がったんだからな。

そこまで持って行ったのは虎丸自身だ。

ゴールが決まらなくても、誰も文句は言わない。

 

「・・・・それは、俺よりも試合中に点を入れた清川さんがシュートした方が、確実だと思ったんです。」

 

「でも、そこで試合が終わった。今回は良かったものの、これが一対一だったら延長戦だぞ。」

 

「それでも、決められる確率は少しでも高い方がいいかなって・・・・」

 

「虎丸!」

 

「すみません!お、お疲れさまでしたっ!」

 

「おい、ちょっと待てよ!」

 

待ってくれませんでした。

虎丸は俺の話を打ち切って、うつむきながら校門の方へと走って行った。

チッ、なんなんだよ。

 

耀姫(ようき)。お前も気になるのか?」

 

俺が虎丸に置いていかれて少し苛立っていると、それを見ていた豪炎寺が話しかけてきた。

 

「え?ああ、まあ・・・・」

 

俺はただ、今回のアシストが流石に癇に障っただけだったんだが。

まあ気になるか気にならないかでいうと気になっているし、嘘を言ったわけではない。

 

「俺も、チームメイトとして、虎丸のあの行動は気になる。」

 

「俺はフォワードとして、だが。」

 

俺の記憶では、虎丸はすごいシュートを持つフォワード、という覚えがある。

なのにそのシュートを使わないなんて、フォワード失格だ。

そんな思いを、俺は少しずつ虎丸に抱き始めていた。

まあ勿論、喧嘩したり悪口を言ったり、そんなことはしないんだが。

チームメイトとしてはちゃんと振る舞う。変わるのは、単なる俺の評価だ。

 

「・・・・、わからなくもない。だが、俺は事情を知ってから決めたい。」

 

豪炎寺は、俺の気持ちに気付いたらしい。

少なからず、豪炎寺にもそんな気持ちはあるのだらう。

 

「ふーん。・・・・それで、豪炎寺はこの後どうするんだ?

 

「ああ。妹の夕香を迎えに病院へ行くつもりだ。」

 

あれ?

夕香ちゃんって、世界編でもまだ病院に通ってるっけか?

 

「妹さん、病気なのか?」

 

「いや、1年ほど前、事故にあってな。今は病院でリハビリをしてるんだ。」

 

「へえ。リハビリねえ。じゃあ、早く行ってやった方が良いんじゃないか?」

 

「ああ。そのつもりだ。」

 

なんだ、リハビリか。

俺はてっきりまた事故なりやらかしちゃったのかと思った。

そりゃあ寝たきりだったんだからリハビリも必要か。

 

「じゃ、ついて行こうかと思ったけど、邪魔になっちゃうかな?」

 

「病院だ、付いて来ても面白いことは何もないぞ。」

 

「良いじゃん良いじゃん。豪炎寺の妹も気になるし、お前の髪、染めてるのか地なのか気になるし。」

 

「お前の方こそ染めてるだろ?」

 

「俺は良いんだよ、俺は。」

 

ちなみに、豪炎寺の言う通り完全に赤に染めている。

赤っていうか、赤黒い感じか?

地毛の方は綺麗な薄緑色だ。

 

「で。行ったらダメか?」

 

「・・・・病院だ。大声は出すなよ。」

 

「っしゃあ!」

 

どうやら許可が下りたようだ。

そんなこんなで、俺は豪炎寺と稲妻総合病院へと行くことになった。

 

 

 

 

 

「夕香。迎えに来たよ。」

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

色々な健康器具?のような物が置かれていた大きな部屋に、夕香ちゃんはいた。

他の患者や看護師の邪魔にならないよう、端の椅子に座って足をプラプラと揺らしていた。

 

「お兄ちゃん、この人・・・・」

 

夕香ちゃんは、豪炎寺を見つけてトコトコ走って来た(病院の中では走らないようにしよう)。

隣にいた俺を見て、何か言いたげな夕香ちゃん。

 

「ああ。お兄ちゃんのチームメイトだ。」

 

「すごーい!清川選手だ!」

 

豪炎寺が俺を紹介し終わる前に、夕香ちゃんはぴょんぴょこ跳ねて喜ぶ。

俺のことを知っているのか。

それは嬉しいかな、俺も。

というか、夕香ちゃんとかチームメンバーの知り合いはともかく、世界大会に出場するんだしもしかして日本じゃそこそこ有名なのか?俺達。

 

「こら、夕香。病院の中は静かにしないと。」

 

「あ、はーい。」

 

豪炎寺に怒られたものの、にっこり笑う夕香ちゃん。

 

「ねえねえ、夕香、今日の試合見てたよ。勝ったんだね、おめでとう!」

 

「おー、ありがとう。じゃあ、俺のシュートも見てくれたか?」

 

「うん!くるくる〜ってなってて、とってもすごかった!」

 

デススピアーの事だな。

どうやら、本当に俺のことも知っているようだ。

夕香ちゃんが嘘をついているとも思っていたわけではないが。

 

「あっ、お兄ちゃんのシュートも見てたよ!夕香、テレビの前でずっと応援してたんだから!」

 

すごいな。

中学サッカーの試合は、大体30分ハーフで1試合の時間は一時間以上だ。

幼稚園か小学生かわからないが、その時間ずっと応援してるってのは案外疲れそうなものだが。

 

「ありがとう、夕香。夕香が応援してくれてたから、お兄ちゃん達が勝てたのかもしれないな。」

 

「本当!?」

 

「ああ。」

 

「わーい!じゃあ、夕香、これからもずーっとお兄ちゃんの事応援するね!」

 

ああ。こういう、仲の良い兄妹のやりとりってなんだか和むわ。

俺はお邪魔でしかなかったが、これを見れただけで来てよかった。

こっちの世界に来てから、俺は一人っ子だからな。

隣の芝生は青いとは言うが、本当にその通りだ。

 

「ねえねえ、清川のお兄ちゃん!」

 

「ん?俺か?」

 

「うん!」

 

俺がほのぼのと豪炎寺兄妹の会話を聞いていると、夕香ちゃんが俺に話しかけて来た。

あれ?兄妹の会話はもう終わったのかな?

 

「最後、残念だったね。あとちょっと時間があれば、もう一点入ったのに。」

 

「そうだな。あとちょっとだった。」

 

確かに夕香ちゃんの目から見たら、時間が足りなかったと見えたのかもしれない。

まあ別に、今チームメンバーの悪口を言う意味もないし、俺は夕香ちゃんの話に合わせて時間のせいにした。

 

「でも、お兄ちゃん達、本当にすごかったよ!また、すっごいシュート決めてね!」

 

「ああ。」

 

「任せとけ!」

 

俺達は3人で笑いあった。

小さなファンだが、気合は十分だな。

 

「修也。」

 

俺達が話していると、不意に背後あら声をかけて来た人がいた。

白髪混じりの髪の、白衣を着た色黒の男だ。

 

「今日も来ていたのか。」

 

「・・・・父さん。」

 

えっ、この人が豪炎寺のお父さん!?

うわ、厳つ・・・・

 

「あの、いつも豪炎寺と仲良くしてもらってます、清川です。」

 

「ああ。そうか。」

 

「・・・・・。」

 

えっ、それだけ!?

愛想無っ!?

久遠監督と同じか、それ以上に話そうとしない人だな。

 

「ねえねえ、お父さん!今日のお兄ちゃんの試合、とってもカッコよかったんだよ!」

 

豪炎寺のお父さんからはちょうど俺達の後ろの死角にいた夕香ちゃんがぴょこっと顔を出して話しかけた。

このお父さんが夕香ちゃんの父親だなんて、到底考えられんな。

夕香ちゃんは母親似なのだろう。たぶん。

 

「サッカーだと?修也。まだあんなくだらない遊びに夢中になっているのか。」

 

はっ、えっ?

豪炎寺の父親はサッカー、認めてくれてないのか?

息子が日本一になって、今では日本の代表選手になっているスポーツを?

 

「父さん。夕香を家まで送ってくるよ。」

 

豪炎寺は、父親の話を無視して新しい話題にすり替える。

 

「行こう。夕香。耀姫(ようき)。」

 

豪炎寺は、俺達乗せ中を軽く押して部屋の出口へと向かわせる。

夕香ちゃんも、なんだか元気がなさそうだ。

お父さんが豪炎寺が好きなサッカーが好きじゃないって事、気にしているのか。

 

「修也。約束は覚えているだろうな。」

 

「・・・・はい、父さん・・・・。」

 

豪炎寺のお父さんが、部屋から出て行く豪炎寺に声をかけた。

何だ?約束って。

まさか、医者になれ、とか・・・・?

 

豪炎寺は、夕香ちゃんを家まで送って行くと言うので、俺も一緒について行くことにした。

どうせ豪炎寺も夕香ちゃんを送った後すぐに宿舎に帰ってくるんだ。

別々に帰る必要はないだろう。

豪炎寺の家は、豪邸とは言えないもののかなりの立派な一軒家だった。

 

「たっだいま〜!」

 

「おかえりなさい。」

 

ドタバタとドアを開けて、夕香ちゃんが家へと駆け込んだ。

母親だろうか、家の奥から夕香ちゃんの声に返事が返って来た。

で、俺はどうしよう。

ズカズカと上がって行くのは流石に失礼すぎるか。

 

「俺、外で待ってようか?」

 

「えー?清川お兄ちゃんも上がっていってよ!」

 

それが聞こえたのか、玄関から残念そうな夕香ちゃんの声がした。

どうしよう、上がっていいのかな?

 

「・・・・いいか?」

 

「ああ。好きにすればいい。」

 

豪炎寺に聞くと許可が出たのでいいのだろう。

あ、でも、確かになんか豪炎寺はお父さんと似てるかもしれないな。

そっけないところとか。

 

「あら、今日は修也さんのお友達も一緒ですか?」

 

俺が豪炎寺の家に入って靴を脱いでいると、家の奥から老けたおばさんが出て来た。

 

「あ、え、え?豪炎寺、の、お母さん・・・・?」

 

「いや。家政婦のフクさんだ。」

 

俺が驚いて目を見張っていると、豪炎寺が答えた。

何だ、家政婦さんか・・・・

家政婦を雇うとか、豪炎寺の家はちょっとしたお金持ちなのかもな。

やっぱり医者は儲かるのだろうか。

 

「スパイクとかユニフォームとか、色々準備してくる。フクさんと夕香と、リビングで待っていてくれ。」

 

そう言って豪炎寺は奥の部屋へと入って行った。

おい、やめろよ。

知らない人と一緒の部屋にとり残すなよ、気まずいだろ。

 

「今、お茶を淹れますね。」

 

「あ、ありがとうございます・・・・」

 

俺はぎこちなく頭を下げて礼を言った。

家政婦さんはキッチンへお茶を淹れに行って、夕香ちゃんはそれにトコトコとついて行った。

危なっかしいな、大丈夫か?

しっかし、本当にびっくりしたな。

あんな顔して豪炎寺のお父さんに年寄り趣味があるのかと思った。

 

「ねーねー、フクさん。清川お兄ちゃん、すごいんだよ。今日のサッカーで、お兄ちゃんと清川お兄ちゃんとで2点取ったの!」

 

「まあ。それは凄いですね。」

 

キッチンの方で何やら話している。

俺の話題なのはわかるが、それなら俺の目の前でしてくれればいいのに、と思った。

 

「待たせたな。」

 

豪炎寺が部屋から出てくる。

いや、全く待ってないぞ。

むしろお茶が出てくる前に帰って来たよな、お前。

 

「そう言えば、豪炎寺。お前のところのお母さんは?」

 

「・・・・母さんは、昔・・・・」

 

豪炎寺は部屋の隅にある仏壇の方へと視線を向けた。

 

「あ、悪い。」

 

俺は全く心のこもっていない謝罪をした。

だって薄々そうなんじゃないかな、って思ってたからな。

家政婦を雇っているから、死んだか別れたか共働きか、だし。

まあでも、普通はこんな時一言謝るだろ。

仏壇には、豪炎寺の母親らしき茶髪で美人の女性の写真が立てかけてあった。

やっぱりお前髪染めてんじゃねえか。

 

そしてキッチンから2人が帰って来て、少しの間四方山話をした。

夕香ちゃんの学校での出来事。最近の天気。宿舎での話。サッカーのこと。色々なことを話した。

そして、俺達は夕香ちゃんに別れを告げて宿舎に戻る。

豪炎寺が家にいなくて寂しいのだろう、別れ際にとても寂しそうな顔をしていたのが印象的だった。

父も母も兄も家にいないなか、家政婦と2人で生活するなんてまだ小さいのに可哀想なんだが。

日が沈みそうな赤い空を見ながら、俺は隣にいる豪炎寺へと話しかけた。

 

「なあ、豪炎寺。」

 

「何だ?」

 

「お前の父親が言ってた、約束って何なんだ?」

 

俺は、病院からずっと聞きたかった事を聞いた。

豪炎寺は俺と目線を合わせた後、小さく息を吐いて話し始めた。

 

「・・・・サッカーを、やめろって言われてるんだ。」

 

「へえ。」

 

なるほど。

豪炎寺の父親を見た限り、そんな感じだったもんな。

豪炎寺、木戸川の自己の時といい宇宙編といい離脱多いな。

でも、きっとまた帰ってくるんだろ?

 

「意外だな。もう少し、驚くかと思ったんだが。」

 

「まあ、俺にとってはライバルが減るだけだからな。」

 

「・・・・そうだな。」

 

豪炎寺の小さな呟きの後、それから俺達は一言も喋らなかった。

 

 

 

 

 

⚽️

 

 

 

 

 

「お前達も知っている通り、第二回戦の対戦相手はカタールに決まった。」

 

翌朝。

俺達が朝の練習を始める前に、久遠監督が話し始めた。

へー、次はカタールか、知らなかった・・・・

 

「カタール。デザートライオン、だっけか?」

 

デザートって、砂漠って意味のデザートだよな?

食べる方のデザートじゃないよな?

それだったら可愛すぎるチーム名だけど。

 

「どんなチームなんスかね?」

 

「デザートライオンは、疲れ知らずの体力と、当たり負けしない足腰の強さを備えているチームです。」

 

「カタールは中東にある、砂漠に囲まれた国です。砂の上でサッカーをして来たデザートライオンの体力は並じゃないようです。」

 

砂漠の上でサッカー、か・・・・

それは確かに、足腰は頑丈だろうな。

俺なら砂漠にいたらサッカーなんて絶対にやらないけどな。

砂丘ですら走るだけでも一苦労なのに、そこでボールをコントロールするとなると足に負荷が半端なくかかるだろう。

俺は思わず顔をしかめた。

 

「デザートライオンに勝つためには、基礎体力と身体能力を身につけることが必要だ。カタール戦までには、この2点を徹底的に鍛え上げろ。いいな。」

 

「「「はい!」」」

 

「私からは以上だ。練習内容は自分たちで決めろ。」

 

そう言って、久遠監督は宿舎へと入って行った。

うわ、丸投げかよ!

まあ好きにできるなら、それに越したことはないんだけれども。

久遠監督、俺たちに指示をしたあと、どこ行ってんだろ。

自分の部屋で、また読書でもしてるんだろうか。

 

耀姫(ようき)くん。基礎体力と身体能力って、どうやって鍛えればいいのかな?」

 

「知らん。」

 

吹雪、お前は少しは自分で考えろ。

と、俺はそんなことを思いながら円堂の指示を待つ。

棚上げ?何のことですか?

 

「うーん。やっぱり、ランニングとかかな?」

 

「単純だが、それが一番か。」

 

うわー、体力づくりとか俺が一番嫌いな練習じゃないですか、やだー。

俺はボールが触りたいのに、これじゃあこの二日はずっと運動するだけ、とかになりそうだな・・・・

 

「よーし、それじゃあ早速。皆でランニングだー!付いて来い!!」

 

「おう!」

 

はあ。やっぱりそうだよな、そうなるよな。

せめて、音楽を聴きながら気を紛らわそう。

監督がいなくなったなら、俺は好き勝手やらせてもらおうと思う。

勿論、走り込みもしっかりする。

だが、PENGUIN RECITALの曲を聞かせてくれ・・・・

俺は一度自室へ戻って、イヤホンと音楽プレイヤーを装備して練習を始めた。

ランニング中、イヤホンが耳から外れまくって逆にイライラした。

今度から外れないイヤホンを探すか。

 

 

 

 

 

「よし、一旦休憩!」

 

円堂の合図で、俺達は地面に座ったり壁にもたれかかったりと思い思い休憩した。

これで皆はグラウンドを20周した。

俺は一週遅れで始めたので19周だが。

 

「はあ、はあ、つ、疲れたッス・・・・」

 

どっしーんと大きな体を地面に横たわらせる壁山。

驚くことなかれ、壁山は円堂に付いてしっかりと20周走りきった。

まだ代表が決まったばかりの最初の頃は、壁山も走ることは苦手で途中でバテることが多かった。

その度に久遠監督に走らされ、今ではしっかりと体力もついて来ているようだ。

にしても、なかなかその体型は変わらないな。

 

「お疲れ、玲奈。」

 

「ん?ああ。ありがとう。」

 

俺は、マネージャーが用意して持って来た水を一本多く受け取って玲奈に手渡した。

 

「なあ、玲奈。聴きたいことがあるんだが、いいか?」

 

「何だ?」

 

俺は、玲奈が水を一口飲んだあとを見計らって声をかけた。

 

「昨日の試合、お前がシュートを打った時の・・・・」

 

「あの、皆さん!」

 

俺が話をしていると、虎丸が大きな声をあげて俺の話を遮る。

おい、嘘だろ、まさか・・・・?

 

「どうしたんだ?虎丸。」

 

「すみませんが、俺、今日は早めに失礼します!」

 

「おいおい、特訓は始まったばかりだぞ?」

 

「すみません!また明日、よろしくお願いします!」

 

虎丸は、元気よく頭を下げてグラウンドから走って出て行ってしまった。

今日、まだグラウンド20周しかしてないぞ。

 

「虎丸の奴、また早引きか。」

 

「みたいだな。」

 

「どうしてアイツだけ、いつも早めに帰ってるんだ?」

 

「さあ・・・・・」

 

休憩していた俺達は、グラウンドから出て行った虎丸へと目線を送った。

それを見ていたマネージャー達が、なにやら企て始めた。

 

「皆、虎丸君の特別扱いが気になってるみたい。」

 

「そういうことならキャプテン!私達で調査してみましょう!」

 

「調査?」

 

「ええ。虎丸君が早引きしていつもどこに行っているのかを調べるんです!」

 

「えっ。でも、走りこみの特訓が・・・・」

 

「そんなの、走りながら調査をすればいいんですよ!」

 

音無の、いつものやかましモードだ。

鬼道に言わせれば、こうなった春奈は誰にも止められない、だそうだ。

 

「じゃあ皆さん!急いで虎丸君を追いかけましょう!」

 

そう言って、音無は真っ先に駆け出して行った。

 

「あ、待てよ、音無!」

 

円堂やイナズマジャパンのメンバー達は、それに続いた。

どうやら、思った以上に多くのメンバーが虎丸の事が気になっていたようだ。

残ったメンバーには興味を示さない飛鷹や不動、走りこみの特訓を続ける緑川、疲れ果てた壁山などがいた。

 

「あ、ヒロト!」

 

俺は、円堂達について行こうとしていたヒロトを呼び止めた。

ヒロトは、律儀に俺の方へとやって来た。

 

「何かな?耀姫(ようき)くん。」

 

「ちょっと話に付き合ってくんない?」

 

「話?」

 

「ああ。」

 

俺は、ヒロトから視線を外して玲奈へと向き直った。

 

「さっきの話の続きだ。俺は玲奈が必殺技を使った所見たことないんだが、必殺技とか、持ってないのか?」

 

「ああ、あるにはある。けど・・・・」

 

「スペースペンギン?」

 

「と、スーパーノヴァだね。」

 

俺達の会話に、ヒロトも混ざる。

お前も流星ブレード以外にも何か覚えろよ。

 

「連携技か。それなら使えなくても仕方ない。・・・・で。提案があるんだが。」

 

「まさか・・・・?」

 

玲奈とヒロトは、俺が何をしたいか気づいたようだ。

 

「俺を入れた3人で練習してみないか?連携必殺技を、さ。」

 

玲奈とヒロトの2人は、俺のセリフに呆気にとられた。

さて。楽しくなってきたぜ。

 

 

 

 

 



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対決!カタール!監督の驚きの指示! #10

 

 

 

 

 

『フットボールフロンティアインターナショナル、第一、第二ブロックの試合です!我らがイナズマジャパンにとっては決勝へと進むための第二回戦です!』

 

試合当日。

俺達イナズマジャパンは、デザートライオンとの試合のためにフロンティアスタジアムへと来ていた。

 

「それでは、スタンディングメンバーを発表する。」

 

 

ベンチで、監督がスタメンの発表をはじめた。

 

「フォワード。吹雪、豪炎寺、清川、基山。ミッドフィルダー。鬼道、緑川、八神。ディフェンダー。壁山、倉掛、木暮。ゴールキーパー、円堂守。」

 

今回はフォワードが4人か。

前回のフォーメーションに比べて、攻撃的な陣形になったな。

 

「よし!」

 

「またかよ。」

 

緑川が喜び、不動が苛立つ。

よかったな、緑川。

練習が終わってからも、お前だけはずっと走り込み頑張ってたもんな。

 

「清川!」

 

「は、はいっ!?」

 

俺がそんなことを考えていると、久遠監督に呼ばれた。

 

「今回の試合、お前の好きなようにプレーしろ。」

 

「え!?ど、どういう意味ですか・・・・?」

 

「そのくらい、自分で考えてみろ。今日のチームキャプテンはお前だ。」

 

「待ってください!何故、耀姫(ようき)なんですか?」

 

鬼道が久遠監督に突っかかる。

まさか、俺もイナズマジャパンのキャプテンをすることになるとは思ってなかったが・・・・

 

「指示を変えるつもりはない。・・・・私からの指示は、それだけだ。」

 

それだけ言って、黙りこくる久遠監督。

またこの監督は指示の本質を俺たちに教えることはなかった。

また鬼道が久遠監督に不信感を感じ始めたその時、円堂が鬼道を宥めた。

 

「鬼道!久遠監督には、きっと前みたいに何か考えがあるんだよ!」

 

「ああ・・・・」

 

 

鬼道は小さく呟いたのを聞いて納得した円堂は、今度は俺の方へと向き直る。

 

「キャプテンは任せた!頼んだぜ、耀姫(ようき)!」

 

「・・・・そう、言われてもなー。まあ、俺の好きなようにプレイすることが勝利に繋がるなら、俺の好きなようにやって見るけどさ。」

 

「ああ!」

 

困惑するマネージャー達からキャプテンマークを受け取った俺は、そのまま腕へとまきつける。

日本代表の中の代表を示すこの印。

だが、俺はこの布切れにプレッシャーも重みも全く感じることはなかった。

こんな軽い気持ちで日本代表を務める俺は、俺はそもそもキャプテン向きではないのだろう。

それにしても、好きなようにプレーしろ、か・・・・

俺の好き勝手やってもいいって事か?

俺は、いや、俺達は、監督の指示の意味がわからないままグラウンドへと出ることになった。

 

 

 

 

 

『エリザマノン率いる、カタール代表デザートライオン!キャプテンのビヨン・カイル選手を筆頭に、一回戦の相手サザンクロスを、その精錬された体力で勝利をもぎ取りました!』

 

なるほど、俺たちの聞いていた情報と変わらないな。

この二日間で鍛えた俺達の体力がどこまで通用するのかが大きく試合の結果を分けそうだな。

 

『そして対するは、オーストラリアの大波、ビッグウェイブズを打ち崩した、我らがイナズマジャパン!互いのキャプテン同士が握手を交わし、いよいよ試合が開始されます!・・・・んん!?なんと、今回キャプテンマークをつけているのは清川です!!これは、一回戦とは全く違う展開になるかもしれません!』

 

いつもは円堂がキャプテン同士の握手をするところを、今回は俺が出ることになった。

デザートライオンからは、緑色の髪をした褐色の野郎が出て来た。

うわ、こいつクマすごいな。

 

「アッサラームアライクム。お初にお目にかかります、デザートライオンのビヨン・カイルと申します。」

 

ビヨン・カイルか・・・・

なんだか面白い名前だな。

カエルを文字った名前だったりするのか?

物凄い飛び跳ねるやつだったりして。

 

「イナズマジャパン臨時キャプテン、清川耀姫(ようき)だ。今日はいい試合にしよう。」

 

「ええ、どうかお手柔らかに。それでは、マアッ・サラーマ。御機嫌よう。」

 

「お、おお、アマッサラーマ・・・・・」

 

こいつちょくちょくカタール語?なのか?を入れて来んなあ。

でも、かなり礼儀の正しい日本語を使うやつだったな。

 

『さあ、それぞれのチームがポジションへとつきました。そして、試合が始まろうとしています!今回、イナズマジャパンのフォーメーションがビッグウェイブズとの試合から大きく変わっています。久遠道也監督の指示に期待が高まります!』

 

そう。

今回イナズマジャパンのフォーメーションは、鬼道にお願いして俺が指示を出して好き勝手弄らせてもらった。

久遠監督が好きにしろって言ってたからさ、と、俺の指示通りに動いてもらうように頼んだ。

そしてこれが、カタールのデザートライオンと俺達イナズマジャパンのフォーメーションだ。

 

 

 

デザートライオン

 

GK ナセル

DF ムサ、ジャメル、ビヨン、ファル

MF セイド、メッサー、スライ、ユスフ

FW ザック、マジディ

 

 

 

イナズマジャパン

 

FW 俺

FW 吹雪、ヒロト、豪炎寺

MF 緑川、玲奈、鬼道

DF クララ、壁山、飛鷹

GK 円堂

 

ベンチ

木暮、不動、風丸、虎丸、立向居

 

 

 

相当おかしなポジション取りだ。

俺がワントップで最前線へいて、その後ろに吹雪ヒロト豪炎寺のフォワード陣が揃っている。

これは、「おれのかんがえたさいきょーのふぉーめーしょん」だ。

白恋でのツートップに不満があったわけじゃないのだが、どっちかと言えば俺は1人で活躍を上げたいタイプだ。

簡単に言えば、俺は自分の独りよがりなワンマンプレーが好きなのだ。

勿論、チームプレーもちゃんとする。

ただ、俺の好きなようにしていいならワントップが理想だというだけだ。

久遠監督が好きにしていいと言ったことをいいことに、俺は本当に好きなようにサッカーをするつもりだ。

ただ、司令塔が中心にいない事で、どれだけプレーに支障が出るのかが気になるな。

俺が鬼道を中心から追いやってまで玲奈を真ん中に置いたのは、俺とヒロトと玲奈でスペースペンギンへと繋げるためだ。

しかしこの技、実はまだ完成してなかったりする。

試合の中で完成できればいいのだが・・・・

 

そして、相手のデザートライオンのフォーメーションだ。

ビヨンって奴はセンターバックなのか。

ディフェンダーがキャプテンとは、珍しいチームだな。

突出して上手い奴がいるとは思えないんだが、どんなプレイをするチームなのか。

フォーメーションを見る限り、あまり攻撃的なチームじゃないのかな、と思う。

チームキャプテンもディフェンダーだしな。

まあそれは、試合の中で確かめればいいか。

 

ピーッ!

 

『さあ、試合開始です!今回ガラリとフォーメーションを変えて来たイナズマジャパン。さて、どんなプレーを見せてくれるのでしょうか!?』

 

試合開始のホイッスルが鳴った。

ボールは俺達イナズマジャパン側からだ。

 

「よし、行くぞ!」

 

俺は、ボールを蹴り上げて試合を始めた。

 

「フォワードは一緒に上がるぞ!ミッドフィルダー、ディフェンダーはそのポジションに待機!」

 

後ろで聞こえる困惑の声を無視して、俺と吹雪は走り出した。

それに一拍遅れて、ヒロトと豪炎寺が走る。

吹雪や豪炎寺達フォワードが後ろからついて来ているのを確認して、俺は敵陣内を駆け上がった。

鬼道含めフォワード以外は自陣で立ち止まっていることから、この試合は本当に俺の指示通りに動いてくれるようだ。

 

『清川、ハーフラインからそのまま1人で持ち込みます!しかし、フォワード以外の選手はポジションを離れません!一体どんな策があるのでしょうか!?』

 

策なんて大袈裟なものはねえよ。

とりあえず一気に攻めてとりあえずの先制点として、一点とる。

 

「そのボール、もらった!」

 

『デザートライオンフォワード、ザックアウドラが猛然と迫ります!』

 

ザックは、ある程度近づいて来たところで俺にスライディングタックルを仕掛ける。

それを体勢を崩しながらもステップを踏むかのようにリズミカルに躱した。

 

「何!?」

 

「任せろ!」

 

『ザックの次はメッサーが迫ります!息をつく暇を与えない見事なプレーです!』

 

メッサーがタックルで近づいてくる。

それに、俺もタックルで迎えうつ。

 

「抜かせんぞ!!」

 

「くっ・・・・しゃらくせぇ!」

 

思っていた以上に強いタックルだったため一瞬よろけたが、それをそれ以上の力で押し返す。

 

「うおぉっ!?」

 

競り合いには勝ったが、当たった肩がジンジンする。

くそ、見た目で細いから油断したが、かなりの力があるみたいだ。

デザートライオンはやはり身体能力がかなり鍛え上げられているらしい。

だが、ボールは俺が持っている。

結果オーライ、このまま攻め上がろう。

俺は後ろを見ないまま左手で吹雪へと指示を出して、ゴール前へと走った。

 

「これ以上進ませるな!」

 

「「おう!」」

 

ペナルティエリア近くにいたディフェンダー達が動き出す。

ようやくキャプテン、ビヨンのお出ましってわけだ。

 

「はあああっ!」

 

ビヨンはお出まししませんでした。

ボールを取りに来たのは、ビヨンと同じくディフェンダーのジャメルとムサだった。

2人でプレスしにかかるものの、俺もそう簡単にボールを奪われるつもりはない。

俺は、背後を見ないまま勘で吹雪へとパスを出す。

そのまま俺は2人に向かって走る。

 

「ジャメル!ムサ!あっちだ!」

 

「なっ!?いつの間に!?」

 

ビヨンが叫んで、ようやく俺の足元にボールがなくなっていることに気づく2人。

中央突破を意識させて空いたスペースにパスを出すのは、昔からありふれた戦術だ。

 

「吹雪!いけ!」

 

「うん!」

 

そこにきて吹雪の方向を振り返ると、しっかりと吹雪の足元にはボールがあった。

 

『ここで吹雪にパスが回りました!確認を一切取っていない素晴らしい連携です!』

 

やっぱり、白恋で昔使っていた連携はまだ続いているようだ。

俺が吹雪に出したハンドサインは、「出来るだけ左サイドに寄って上がれ」だ。

ボールを受けた吹雪は、俺にプレスしに来ていたためにスペースの空いていた左サイドからシュートを放った。

 

「ウルフ!レジェンドぉぉぉぉおおおおっっ!!」

 

吹雪と共に、餓狼が雄叫びをあげる。

俺の知らない間に完成させていた必殺シュートがゴールへ向かってすっ飛んでいく。

 

「ストームライダー!」

 

クルクルと、まるでエターナルブリザードかのように回転して砂埃を巻き上げるゴールキーパーのナセル。

が、そのままボールはゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!!開始数分でイナズマジャパンの先制点です!吹雪と清川、2人の連携で初ゴールをもぎ取りました!』

 

「よし!ナイスプレー、吹雪。」

 

「うん。久しぶりだったね、ボク達2人でこんな連携するなんて。」

 

「そうだな。」

 

俺なら、いや、俺達なら、互いがどんなプレーを求めているのかよくわかる。

どうせなら俺がシュートを決めたかったが、あれだけあからさまに隙を作られたら突きたくなるってもんだ。

俺もまさかこんなに簡単に吹雪のいる左サイドに隙ができるとは思っていなかったが、何にせよ一点だ。

 

「いいぞー!吹雪!耀姫(ようき)!」

 

反対側のゴールから、円堂の声が飛んでくる。

俺は腕を突き上げることでそれに答えた。

そして、フォワード達は試合開始位置のポジションへと戻る。

 

「ヒロト、玲奈。今回はスペースペンギンの出番は無さそうだ。玲奈は鬼道とポジションを交代してくれるか?」

 

「ああ。」

 

「鬼道!豪炎寺!吹雪!」

 

玲奈が頷くのを確認して、鬼道を呼び寄せて玲奈とポジションを入れ替えさせる。

そして、俺以外のフォワードもポジションを少し入れ替えた。

ポジションを確認した後、全員へと声をかける。

 

「一点取れたから、これからはそれぞれ自分の思うプレーをしてくれ!必要があれば俺か鬼道が指示を出す!」

 

「「おう!」」

 

『イナズマジャパン、早くもポジションチェンジです。鬼道と八神が、豪炎寺と吹雪と基山が、それぞれ持ち場を交換する形になりました。』

 

最初のポジション取りは、俺のただの采配ミスだ。

一番警戒していたのがゴールキーパーがとんでもない実力を持っていることだったが、ウルフレジェンドを止められないとなれば話は別だ。

動かしやすい吹雪を俺の真後ろにおいて、鬼道を中心へと持ってきた。

更にスペースペンギン組を右サイドに固まらせることで一応保険は残してある。

俺が指示した後のポジションはこうなった。

 

 

 

FW 俺

FW 豪炎寺、吹雪、ヒロト

MF 緑川、鬼道、玲奈

DF クララ、壁山、飛鷹

GK 円堂

 

 

 

鬼道を中心に戻したことで、指揮が取りやすくなったはずだ。

一点取ったことで余裕もできた。

デザートライオンは、それぞれの実力が中途半端に高いだけだったのかもな。

 

ピーッ

 

審判の笛で試合が再開される。

ボールはデザートライオンからだ。

 

「うおおおお!」

 

試合再開直後、髪が左右で白と黒に分かれているちびっ子が突進してきた。

 

『マジディ、勢い良く飛び出した!』

 

俺はマジディの前に走り込んで、進行方向を塞ぐ。

しかし、それを見たマジディはむしろそこから速度をあげて走る。

 

「おっらぁあ!」

 

「ぐっ・・・・!?」

 

俺がボールを取ろうとしている所に、マジディはそのまま突っ込んできた。

俺は、そのまま吹き飛ばされて突破されてしまう。

 

耀姫(ようき)くん!!」

 

「来んな馬鹿!お前はヒロトとそのちびっ子をプレスしろ!豪炎寺はバンダナをマークだ!」

 

ズキズキと痛む腹を押さえて3人に指示を出す。

審判は今のプレーをファールにするつもりはないようだ。

さっきから、デザートライオンはラフプレーが多いな。

 

「邪魔する奴は全員吹き飛ばす!!」

 

マジディは、また無謀にもそのままヒロトと吹雪へと立ち向かった。

どういうつもりだ、何を考えている・・・・?

 

『マジディ、吹雪と基山に迫ります!』

 

2対1という不利な状況にも関わらず勝負を挑む。

 

「うおぉぉおお!」

 

「わっ!?」

 

「くっ!?」

 

『マジディ、吹雪と基山に果敢に挑みますが、ボールは基山が弾いた!』

 

マジディは吹雪を突き放してヒロトにチャージを仕掛ける。

吹雪は飛ばされ、ヒロトはチャージを強い受けつつもボールを奪い取った。

 

「鬼道くん!」

 

ヒロトは鬼道にボールを渡して、危機を脱する。

吹雪もヒロトもラフプレーを受けていた。

大丈夫か?アイツら・・・・

 

「よし、上がれ!」

 

鬼道を中心に、イナズマジャパンが攻め上がる。

俺は鬼道にボール要求の催促をした。

 

「鬼道!」

 

「・・・・耀姫(ようき)!」

 

鬼道は一瞬躊躇ったものの、俺にパスを出した。

吹雪がヒロトと共に右サイドへ寄ったのが心配だが、そのまま攻める。

 

「行かせない!」

 

布をカカシ先生っぽく口に巻いたミッドフィールダーが俺を止めにかかる。

俺はそれをフェイントをかけて躱す。

そのまま突破しようとするとラフプレーで押されるから、フェイントかけるのが一番いいな、きっと。

 

「吹雪!」

 

「う、うん!」

 

合図を出して、ポジションから外れている吹雪を後ろから駆け上がらせる。

そして俺達は攻め上がった。

 

「豪炎寺!」

 

俺より上がっていた豪炎寺にボールを渡し、ミッドフィールダー、ディフェンダーと抜いていく。

 

耀姫(ようき)!」

 

「豪炎寺!」

 

『清川、今度は豪炎寺との連携です!ここから一気に追加点か!?』

 

俺と豪炎寺の2人で、ワンツーをしながらゴール近くへと持ち込む。

ディフェンダーも抜いたことで、俺達はゴール前へと躍り出た。

 

「行くぞ!!」

 

「絶対に通すな!」

 

ディフェンダーが俺と豪炎寺をマークしに来る。

それを待っていた。

俺はまたしても、ちゃんと指示通りに上がってきていた吹雪にパスを出す。

言葉も視線も交わさない、この連携。

これこそが、俺が、俺達が、一番得意なサッカーだ。

 

「ウルフレジェンド!!」

 

「ストーム・・・・ぐわぁっ!?」

 

不意を突かれたデザートライオンは、必殺技を出す暇もなく得点されてしまった。

 

『ゴール!!得点をあげたのはまたしてもイナズマジャパンだ!!』

 

これで2対0。

デザートライオンは、ただ体力があるだけで強い必殺技やテクニック、戦術なんかはあまりないのかもな。

これなら、1回戦のビッグウェイブスの方が格段に強かった。

これまで戦ってきた中で、1番戦いやすい相手だ。

 

 

 

 

 

「一年の9月、練習試合!」

 

「・・・!!」

 

俺の指示に、一つ頷いた吹雪が背後で思い切り左側に走る。

吹雪に注意が向かうが、ゴール前へ進もうとしている俺の方にディフェンダーが集まる。

 

「行かせん!」

 

「そこだ!」

 

俺はそいつらを無視して、ゴールへとボールを蹴り込む。

 

「いけえぇ!!」

 

「このくらい、止めてやる!」

 

だが、俺の狙いはそこじゃない。

俺の蹴ったボールはデザートライオンのゴールに向かうことなく、途中でコースが変わった。

そのボールが向かうのは、左サイド。

そしてピッタリの位置に走り込んでいたのが、吹雪だ。

 

「ウルフレジェンド!!」

 

「くっ!?」

 

『ゴール!!吹雪士朗、ハットトリックだぁああ!!!』

 

3対0。

すべてが俺のアシストによる吹雪の得点だ。

やはり、吹雪は動かしやすい。

今の指示は、俺達白恋中時代での練習試合で起きた奇跡プレーだ。

ディフェンダーに囲まれた俺が破れかぶれでシュートを打ったと見せかけ、吹雪にパスを出す。

そんな高度な連携でも、吹雪がシュートするとバレると元も子もない。

だから、デザートライオンにはわからない俺達2人しか知らない言い方で指示を伝えた。

というか、吹雪もこの連携の事よく覚えてたな。

 

「ナイス吹雪!」

 

「はあ、はあ・・・・う、うん、ありがとう、耀姫(ようき)くん・・・・!」

 

「大丈夫か?かなり疲れてるみたいだけど。」

 

「うん、大丈夫・・・・」

 

苦しげな表情から笑顔を見せる吹雪。

ちょっと前半から飛ばしすぎたか?

今の時間は、前半25分ほど。

バテるにはまだ早い時間だ。

 

「よーし!この調子でもっと攻めるぞー!」

 

ゴールから円堂の声が飛ぶ。

しかし、ここから5分は膠着状態だった。

全員が少しずつ疲労がたまり、あまりいいプレイができていない。

ヒロトが飛ばされ、豪炎寺が倒され、緑川が押し負け、鬼道が投げ出され。

そして、吹雪がとにかく疲れまくっていた。

俺が指示を出して動かしてきた反動だろう、後半からは交代だな。

デザートライオンも疲れているはずなのに、最初よりも動きが良くなっている気さえもする。

これが、体力の差なのか・・・・?

 

「吹雪!こっちだ!」

 

「わかった!」

 

吹雪が足をもつれさせながらもこちらへと視線を向ける。

しかし、それを見たビヨンが吹雪から必殺技でボールを奪う。

 

「デザートストーム!」

 

足を地面に擦って砂を巻き上げ、目くらましをした後にボールをかすめ取る。

必殺技の中で考えれば、かなり現実的な技だ。

 

「行け、メッサー!」

 

「おう!!」

 

ビヨンからボールを受けたメッサーが上がる。

そしてそのポジションを守っていたのは玲奈だ。

 

「止めろ!」

 

「くっ・・・・」

 

進路を塞いだ玲奈も、メッサーのチャージを止められずに倒れた。

女にも容赦なしかよ。

 

ピッピー!

 

審判の笛が鳴った。

ファール判定がやっと出たのか、と思ったら違ったようだ。

どうやら前半終了らしい。

 

「助かったか・・・・でも、みんな疲れてきているな。吹雪。お前は後半ベンチに下がれ。」

 

俺が吹雪に近づいて話しかける。

しかし、吹雪は荒く呼吸をするだけで返事は帰ってこなかった。

 

「おい、吹雪?どうしたん・・・・」

 

俺が吹雪の肩に手を乗せると、吹雪はそのままがくりと倒れ込んだ。

 

「吹雪!?おい、吹雪!?」

 

異常に気づいた他のメンバー達もやってきて、俺達は吹雪を囲んで呼びかける。

吹雪は俺たちの声に反応したものの、過呼吸かのように荒い呼吸を繰り返していて辛そうだ。

 

「・・・・ここからが、俺達デザートライオンのサッカーの始まりだ。」

 

「何だと?」

 

デザートライオンのメンバー達が俺達に近づいてきた。

 

「ここまでよく全員の体力が持ったと褒めてやろう。」

 

「俺達は、灼熱の大地と砂漠で育ってきた。この程度の運動は寧ろ軽いもんだ。」

 

「鍛え上げられた体と、無限の体力。それが我々デザートライオンの最大の武器!」

 

「昨日今日と特訓しただけのお前達が、俺達と同じだけ動けるはずがないだろう。」

 

とりあえず、吹雪をベンチに下げよう。

話はそれからだ。

 

「吹雪、立てるか?」

 

「う、ん・・・・」

 

吹雪が一番走り回っていた上にラフプレーも貰っていたからな。

それでも、こんなになるなんて珍しい。

 

「悪かったな、吹雪。久しぶりに、俺もちょっと舞い上がってた。」

 

「ううん、プレーについて行けなくて、ごめん・・・・」

 

「馬鹿、いいから寝てろ。」

 

ベンチに行くと、すぐさまマネージャー達が吹雪の介抱を始めた。

俺達が勝ってるっていうのに、こんな気持ちで前半が終わるとは・・・・

 

「これまでのラフプレーは、イナズマジャパンを消耗させるためのものだったんですね・・・・」

 

「それに、今日はこの気温の高さです。こちらが不利になってきているのは、誰の目から見ても明らかです。」

 

前半の3点を守れるか。

それがこの試合の勝敗を分ける鍵になりそうだな・・・・

 

「このままでは、全員疲れて動けなくなって負けてしまうな。」

 

「久遠監督・・・・」

 

「どうする。清川。」

 

「・・・・」

 

久遠監督は、俺に何かを求めている。

そのために、俺を今日、チームキャプテンにした。

・・・・でも、その、何を求めているのかがわからない。

久遠監督の性格からして、素直に教えてくれるとも思えない。

 

「試合が始まるまでに、考えておくんだな。」

 

「・・・・はい。」

 

クソ、どうしろってんだ。

 

 

 

 

 

ピーッ!

 

試合が再開される。

ボールはデザートライオンだ。

 

『前半で大活躍だった吹雪に代え、風丸を投入してきました。これがどう試合に影響してくるのかが気になります!』

 

吹雪の代わりには風丸が入った。

ベンチのメンバーはまだ元気だからいいものの、フィールドにいるメンバーはバテバテだ。

攻め入られるとまずいな。

 

『対してフォワードを2人から3人に変更してきたデザートライオン。これから攻撃のリズムが変わってきそうです。』

 

「行くぞ!」

 

フォワードが3人、それぞれが向かってくる。

俺は、ボールを持っていたザックに向かって走り出す。

デザートライオンは、ボールを取られそうになってもパスを出す事がない。

ラフプレーをして体力を削るのが目的のようだが、俺にとっては好都合だ。

 

「はぁぁああ!!」

 

案の定、パスを出さずに突っ込んでくるザック。

俺は、ザックのチャージを正面で受けて押し返した。

 

「くっ、お前、まだこんな力を・・・・」

 

俺はボールを奪うことに成功したが、まだフォワードが2人残っている。

それぞれが俺へとボールを奪いに走ってくる。

くそ、どうすればいいんだ、久遠監督・・・・

 

「寄越せ!」

 

「吹っ飛ばす!!」

 

俺は、2人からの強引なプレイを()()()()

 

「くそ、なんなんだコイツ!?」

 

「あれだけプレーして、なんでこんなに力が残っているんだ!?」

 

俺に、力が残っている・・・・?

俺は、ふと周りを見渡す。

俺の目に映るのは、疲れ始めてきている仲間達。

15分、休憩があったものの前半での疲労が回復しきっていないように見える。

それに引き換え、俺はどうだ。

疲れなんて、さっぱり残っていない。

どうせ神様のくれた力だろう、俺は全く疲れていなかった。

 

・・・・好きにプレイしろって・・・・まさか、そういうことなのか・・・・!?

 

 

 

 

 



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繰り出せ必殺技!虎丸の本気! #11

12/28日。
何があったんだろう。


 

 

 

 

 

・・・・好きにプレイしろって・・・・まさか、そういうことなのか・・・・!?

 

「まさか、な・・・・」

 

俺は、自分の考えを否定する。

まさか、そんなわけないだろ・・・・

 

「もらった!」

 

「やべっ!?」

 

考え事をしていると、ボールを奪われてしまった。

そりゃそうだよな、試合中にぼーっとするなんて、俺らしくもない。

 

「ザック!」

 

「おう!」

 

『清川からボールを奪ったデザートライオン、イナズマジャパンへと切り込みます!』

 

そこからは、デザートライオンの猛反撃だった。

イナズマジャパンのスタミナが残ってないことをいい事に、簡単にペナルティエリアに攻め込まれてしまった。

 

『後半から入った、デザートライオン唯一の女子プレイヤー、レオンがシュート体勢に入りました!!』

 

「レオ・ストライク!!」

 

フィールドに、大きなホワイトライオンが現れる。

ウルフレジェンドのように遠吠えをあげたライオンは、レオンのシュートと共に円堂へと駆ける。

 

「正義の鉄拳!」

 

繰り出される正義の鉄拳は、しかしレオストライクには歯が立たない。

大きな拳はライオンに噛み砕かれ、円堂共々ゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!!デザートライオン、後半数分で早くも得点です!』

 

「な、なんだ、あのシュート・・・・」

 

ウルフレジェンドに似ている。

しかも、威力はこちらの方が上だ。

オーストラリアのメガロドンにも、ヒロトの流星ブレードにも負けていない。

こんなプレイヤーが、カタールにいたとは・・・・

 

「くっそー!次は止める!!」

 

円堂は気合を入れるように叫ぶ。

まだまだ追いつかれてはいないのだが、今のイナズマジャパンには、カタールの「レオストライク」を止める手段が無い。

そして後半も始まったばかりで、まだまだ時間は残っている。

すぐに逆転されてしまうだろう。

 

・・・・どうすれば・・・・

 

俺は、今度は久遠監督へと目線を向けた。

監督は表情を変えず、ずっとこちらを見ている。

・・・・監督が何を考えているのかは知らないが、答えらしきものは掴めてはいる。

だが、そんなプレーをするなんて、納得がいかない。

しかし、このままでは負けだ。

 

「はあ・・・・でも、仕方ない、か。」

 

俺は、フィールドからベンチにいる久遠監督に頭を下げた。

これは、監督への今からするプレーについての謝罪だ。

そして次に、観客に向かって頭を下げる。

 

「何してるんだ?耀姫(ようき)。」

 

「・・・・いや、何でもない。」

 

俺の行為を不審がってか、円堂が話しかけてきた。

 

「そうか。じゃあ、ポジションに戻ろうぜ、試合が始まるぞ!」

 

「・・・・ああ。」

 

『イナズマジャパン、疲れが出てきている緑川と八神の交代です!代わりに立向居と木暮が入ります!』

 

監督は、ここでメンバーを入れ替えてきた。

しかも、虎丸を残して。

監督はここから俺が監督の意図に気づいたことに気づいたらしい。

 

ピーッ!

 

『試合再開です!イナズマジャパン、このピンチを防げるか!?』

 

そうだな。

今はピンチだ。

今はこの一点差を守るのが重要だろう。

だが、監督はここから攻めろと言っているのだ。

さあ、サッカーやろうぜ。

 

俺は、足元にあるボールを足の甲の上に乗せて軽く蹴り上げた。

 

『おおっと、清川、突然ボールを足の上でキープをし始めたぞ!』

 

ポンポンと足の腕で数回リフティングをする。

その間に、先程置き去りにしてきたデザートライオンのフォワード2人がボールを奪いにくる。

 

「もらう!」

 

「ふざけてるのか!」

 

俺は、その2人が間合いに入る前にボールをタッチラインの外へと蹴り出した。

審判のホイッスルが鳴り、デザートライオンのスローインの判定が出た。

 

『ボールがラインの外へと出ました!清川、後半開始数分で早くもミスキックか!?』

 

んなわけねえだろ。

 

「ハン。そんなボールコントロールでよくも代表になれたもんだな。」

 

「ほら、ネコ科って動くものを見ると追いかけたくなるって言うだろ?お前らライオンもそうなのかと思ったんだよ。」

 

「何!?」

 

「あらら、熱くなっちゃってさ。気楽にやろうぜ。」

 

「テメェ!!」

 

俺はデザートライオンを煽るだけ煽って無視した後にスローインを待った。

 

「ヒロト、バンダナのマークにつけ。豪炎寺、お前はそっちのチビを。玲奈はパスコースを塞げ。」

 

近くにいた全員に指示を出し、俺はビヨンのマークについた。

背中を向けて腰を落とすだけで、それ以上のことは何もしないボロボロなマークだ。

これならビヨンも抜け出すことは容易いだろう。

 

『さて、デザートライオンからのスローインで試合開始です!』

 

「ビヨン!」

 

ラインの外から、デザートライオンキャプテン、ビヨンにボールが渡される。

ビヨンは、俺がメンバーに指示を出して不自然に間を開けていた空間へと走り込んだ。

それを、わざとマークを甘くしたビヨンの隣にいた俺がボールを奪う。

 

「くっ!?」

 

ビヨンからボールを奪った俺は、そのまま敵陣地内へと走りこむ。

 

「通さない!」

 

デザートライオンのミッドフィルダーが、俺を止めようと走ってくる。

俺はそれを止まって待ち構えた。

 

「どう言うつもりか知らないが、そのボールは渡してもらう!」

 

「欲しいなら取ってみろよ。」

 

俺はボールを足で踏みつけ、グルグルと回してまた遊び始めた。

それを見て焦れたデザートライオンが、スライディングタックルを仕掛けて来た。

それを、俺は簡単に避けてそのままゴールへと進む。

 

「くそ!」

 

ゴール前へとやってきたのだが、そこには勿論ディフェンダーがいる。

ビヨンは後ろにいるので、ゴールを守っているディフェンダーは3人だ。

 

「こっちだ!耀姫(ようき)!」

 

背後から鬼道の声が聞こえる。

鬼道はパスの通りやすい位置に移動しているのだろうと思うが、俺はそれを無視する。

 

「行かせん!」

 

まずは体の大きなムサから仕掛けてきた。

巨体を使ってのチャージを、俺は思い切り肩をぶつけ合って競り合いに勝つ。

 

「何だと!?」

 

そして次は二人のディフェンダーだ。

 

「はああああああ!!!!」

 

「くっ、何だコイツ!?」

 

「ぐはっ!?」

 

今度はこちらがラフプレーする事で突破する。

ファール判定は出ない。

 

⚽️

 

前半を戦って気づいた。

最初、監督は俺の考えた戦術がデザートライオンに通じるからあんな指示を出したと思っていた。

吹雪と俺の、強引なコンビプレーがデザートライオンとの試合で、役に立つのだと。

だが、実際はそうじゃなかったらしい。

 

「お前の好きなようにプレーしろ。」

 

これは、「お前の好きなプレーをして良い」なんて意味じゃない。

「好きなようにプレーしろ」と言った。だから、「お前がどんなプレーをしても文句は言わない」という意味だったんだ。

多分、だけどな。

まあ、あんな回りくどい監督のことだから合っているだろう。

 

⚽️

 

「デザートストーム!」

 

「くっ!?」

 

必殺技で俺がボールを奪われ、ビヨンにボールが渡り攻守が逆転する。

ビヨンを起点として、デザートライオンはイナズマジャパンへと攻め込んだ。

 

「止めろ!」

 

「おうよ!旋風陣!」

 

臨時でミッドフィルダーに入っていた木暮が、ボールを奪った。

前半も出ていたプレイヤーはまともに動けないが、疲れていないプレイヤーはいつも通りみたいだ。

むしろ他のプレイヤーの動きが悪いため、調子がいいようにも見える。

 

『先ほど交代した木暮がボールを奪いました!』

 

「木暮!こっちだ!」

 

「わかった!」

 

相手ペナルティエリアまで上がっていた俺は、ハーフレインまで戻ってきていた。

こんなに動いたのはチームメンバーの動きがぎこちなかった白恋中以来だ。

白恋では、他のメンバーをカバーするようにグラウンドを駆け回っていた。

懐かしいな、あの頃のサッカー。

 

「行かせるな!」

 

俺が攻め入る間に、デザートライオンもディフェンスを固めていた。

ご苦労なこって。

 

「止められるもんなら止めてみろよ!」

 

2人抜き、3人抜き、4人抜き。

テクニックやラフプレー、瞬発力を生かしてゴールへと強引に攻め込む。

そして、シュートを止めさせる。

これが、俺のやるべき事だ。

 

そんなプレーを続けていると、いつの間にか俺へと2人マークが付いていた。

 

「どうして体力がつきないのかは知らないが、お前がいなければこのチームは終わりだ。」

 

「フン、お前はそこで負けるのを見ているといい。」

 

『ボールはデザートライオンフォワード、レオンへと回ってしまいました!』

 

やはり、俺が動けなくなると痛いか。

木暮や立向居も、全員のミスのカバーをするのは流石に無理なようだな。

 

「お前たちは勘違いをしているな。」

 

「なんだと?」

 

「フィールドにいる仲間が動けないなら、俺が10人分の働きをすればいいだけだ!」

 

俺は守備の隙を突き、マークを外す。

そしてそのままボールを持っているレオンへと向かう。

 

「何!?」

 

『なんと清川、マークを外して戻ってきていた!イナズマジャパン、危機を免れました!』

 

白恋でのサッカーで、動き回るのは慣れてんだよ。

 

「っしゃおらあ!!俺を止めてみろよ、雑魚共がよ!!」

 

そして、俺の強引なプレーは後半20分まで続いた。

 

 

 

 

 

『ゴール!レオンのシュートが円堂の正義の鉄拳を破りました!』

 

「はあ、はあ・・・・そろそろ、潮時か・・・・」

 

後半20分。

残り10分とロスタイムを残したところでのゴール。

これでデザートライオンが2点、イナズマジャパンが3点だ。

俺も、流石にここまで走り回っていれば持久力が尽きてくる。

 

『試合再開前に、イナズマジャパンの久遠監督は選手交代をするようです。』

 

出ていた背番号は4番。

勿論俺のことだ。

変わるのは11番の虎丸だ。

俺は肩で息をしながら、グラウンドを出る。

・・・・おっと、その前に。

俺は、キャプテンマークを円堂に返したあと、グラウンドから出た。

 

「俺、足を引っ張らないように頑張ります!」

 

タッチラインから出る瞬間、準備していた虎丸が俺に声をかけてきた。

 

「ああ。」

 

この試合の要になるのは、虎丸だ。

俺は、ポジションに入ろうとする虎丸を呼び止めた。

 

「ちょっと待て。」

 

「なんですか?」

 

「この試合、ここまでは俺が流れを掴んできた。俺がこの試合を作ってきたんだ。」

 

そう。

 

戦術やフォーメーションを組んだのも。

シュートを入れさせたのも。

ボール支配率を上げているのも。

シュートを止められない円堂のカバーをしたのも。

 

全て俺がやった。

 

「この試合、手を抜いて負けたら許さんからな。」

 

「えっ・・・・」

 

まったく、世話の焼ける奴だ。

今回の試合は虎丸のための試合だ。

そのために、久遠監督はここまでお膳立てをしてきた。

虎丸に、シュートを打たせるために。

 

「監督。俺は、うまくプレイ出来ていましたか?」

 

「・・・・」

 

「お疲れ、耀姫(ようき)くん。」

 

ベンチに戻ると、すぐさま吹雪が話しかけてくる。

後半ベンチで休んで、呼吸も落ち着いたらしい。

 

「よう吹雪。ベンチからの景色はどうだった?」

 

「はは、やっぱり辛いね。ボクも、試合終了まで戦いたかった。」

 

「俺もだ。」

 

俺は吹雪の隣の椅子へと腰掛ける。

俺の仕事はここで終わりか・・・・

 

「清川クン、踏み台ご苦労さんよ。」

 

「不動も、また出場すらできなかったようだが?」

 

突っかかってきた不動に、俺は反撃する。

俺たちの口はニヤニヤとつり上がっていた。

 

「踏み台って、どういうこと?」

 

マネージャーや吹雪、玲奈達も、監督の采配や俺のプレーに興味津々といった感じだ。

 

「お前らも、そこ聞くのか?それはな・・・・」

 

ピーッ!

 

「お。試合が始まったみたいだぜ。」

 

 

 

俺が抜けた事で、イナズマジャパンのフォーメーションは普段のものに戻っていた。

ポジションはこうだ。

 

FW 豪炎寺、虎丸、ヒロト

MF 風丸、鬼道、立向居

DF クララ、壁山、飛鷹、木暮

GK 円堂

 

ベンチ

俺、吹雪、緑川、玲奈、不動

 

 

 

『投入されたばかりの宇都宮、デザートライオンのフォワードをかわしてどんどん攻めていきます!』

 

虎丸はそのままゴール前まで上がっていく。

虎丸と反対に、前半からプレーしているメンバーの足取りは重い。

 

「あいつ、あんな力を・・・・」

 

そしてあっという間にデザートライオンのゴール前まで行き着いた。

しかしその後、いつもと同じようにバックパスを出す。

勿論、豪炎寺やヒロトは虎丸に追いついていない。

 

「貰った!」

 

そのバックパスは、デザートライオンに奪われてしまう。

無理もない。

あんな場所からのパスなんて通った方がおかしい。

 

『おおっと、ここでデザートライオンにボールが回ってしまいました!』

 

「またです。どうして虎丸君は、シュートを打たないんでしょう・・・・」

 

デザートライオンは、そのままイナズマジャパンへと攻め入る。

そして、フォワードのレオンへとボールを回す。

 

「ああっ!もうゴール前ですよ!」

 

「ここで点が入れば、致命的だぞ。」

 

「そうですね。今のイナズマジャパンは、全員が疲れきっています。延長戦なんかに持ち込まれたら、それこそ勝ち目はありません。」

 

「そんな・・・・」

 

このタイミングで、守りきるか攻め出すか。

指示を間違えれば、すぐに形勢が変わってしまう。

 

『ゴール!!デザートライオンの追加点です!!イナズマジャパン、同点へと追い込まれてしまいました!』

 

そして、ついに同点。

イナズマジャパンにとっては重い1点だ。

 

「ああっ!」

 

「ついに、追いつかれたね・・・・」

 

「そうだな・・・・」

 

そして、イナズマジャパンから試合再開。

またしても虎丸が飛び出る。

 

「この試合、勝敗は虎丸にかかっている。虎丸が、シュートを決められるかどうかにね。」

 

「虎丸君?」

 

「そう。これまで本調子でプレー出来ていなかった虎丸だ。」

 

虎丸は、これまでずっとシュートだけを避けてきた。

何か、きっと理由があるはずだ。

 

「この試合、勝とうと思えば勝てる試合だった。」

 

「え?」

 

「ただ、勝つだけじゃダメだったんだよ、この試合。」

 

後半のレオンは予想外だったが、カタールは体力が取り柄のチームだ。

相手チームの体力を削り、長期戦に持ち込む事で自分たちの得意なフィールドへ引きずり込む。

それがカタールの、デザートライオンの戦い方だ。

 

「監督は、今回俺を『捨駒』にしたんだよ。これからの試合に、布石を打ったんだ。」

 

体力の残っていた俺が、1人でゴールへと突っ込む。

俺はその強引なプレーで、デザートライオンの体力を削っていた。

勿論、そんな事ではデザートライオンを完全に疲れさせる事は出来ない。

ただ、相手が絶好調なプレーよりは幾分かマシだろう。

 

「それは、虎丸にシュートを打たせるためだ。フォワードの1人があんな調子じゃ、足を引っ張るだけだ。」

 

ミッドフィールダーとしてなら、虎丸はかなり強力な選手だろう。

必殺技を使わなくても、何人も選手を抜き去ることが出来る。

ま、それは俺や玲奈、ヒロトとかにも言えるんだが。

 

「虎丸がシュートを打ちたがらない何かしらの理由を取り除くのが、この試合でするべき事だった。」

 

サッカーやってる奴なら、皆シュートを決めたいはずだ。

フォワードなら尚更そうだろう。

それを、頑なにシュートしようとしないなんて、なにかきっと事情があっての事のはずだ。

 

「どんな理由か知らないが、シュートが決められないような選手は、チームにいらないからな。」

 

早く役に立ってほしいものだ。

ああ、でも、フォワードとして役に立ったらライバルだな。

やっぱり、このままでもいいぜ。

その場合は俺がレギュラーをずっと守ってるから。

 

「監督は、俺達が負けるなんて考えていない。監督が見ているのは、もっと先の試合だ。」

 

俺達が勝ち進んでいるのは、監督の采配のおかげでもある。

本当に、優れた監督だ。

 

「久しぶりだね。」

 

「何がだ?」

 

耀姫(ようき)くんが、そこまで手放しで他人を褒める事。」

 

「・・・・そうかもな。」

 

まあ、当然っちゃ当然だ。

俺の周りには、サッカーが上手い奴があまりいなかったからな。

 

ピーッ!

 

『ゴール前の豪炎寺のボールは、大きくゴールを外れて虎丸の方へ!ミスキックでしょうか!?』

 

ボールがタッチラインを超えた。

豪炎寺は、虎丸にゴール前で出されたパスをそのまま虎丸へと蹴り返した。

 

「ミスキック?豪炎寺さんらしく無いですね。」

 

「豪炎寺がキレたか。」

 

豪炎寺は、虎丸になにか叫んでいた。

うーん、ここからじゃ流石に遠すぎて聞こえないな。

まあでも、髪染めの豪炎寺に怒られたら怖いだろう。

軽いヤンキーみたいな感じだし。

これで、虎丸も考えを改めるだろう。

 

 

 

 

 

『ゴール!虎丸の必殺技、タイガードライブがデザートライオン、ナセルのストームライダーを打ち破ったぁああ!!!』

 

やっと吹っ切れたか。

どんなトラウマがあったんだろうな、虎丸には。

・・・・改めて考えると、すごい名前だな。

鬱と病みとトラウマが名前に入ってるぞ。

・・・・トラウマは無理があるか。

 

「監督サン。あんた、虎丸の実力を見抜いていたんだな。そして、このタイミングで投入した。」

 

「な、なるほど!確かに、カタールの体力はすごいです。でも、彼らだって耀姫(ようき)君のプレーについて行っていれば、いつか疲れが出て来ます!」

 

「そうか!だから監督は、耀姫(ようき)さんに存分にプレーしてもらうためにあんな指示を・・・・」

 

「そう。捨駒ってのはそういう意味だ。」

 

捨駒。

勝ちを取るために、わざと相手に取らせる駒のことだ。

監督は、全員で攻めるよりも俺を特攻させた方が勝てると考えていたんだろう。

その読み通り、勝てた訳だが。

 

「・・・・選手には、活躍すべき場面がある。チームには、勝つべき状態がある。」

 

これまでずっと黙っていた監督が喋り始めた。

 

「選手達の能力を結集し、全てをぶつけなければ勝てない。力を出し惜しんで、勝てる世界などない。」

 

「・・・・フン。」

 

そうだな。

全力とかなんとか言いつつ、結局不動はグラウンドに入れなかったからな。

 

ピッピッピー!

 

『試合終了です!イナズマジャパン、決勝進出を決めました!!』

 

「やった!勝ちました!勝ちましたよーっ!」

 

「ええ、次は決勝ね!」

 

こうして俺達は、決勝へと駒を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったー!次は決勝戦だー!」

 

「そうだな。やっとここまで来れた。」

 

「次勝てば、いよいよ世界に行けるッス!なんか、夢みたいッス!」

 

場所が変わって、合宿所。

俺達は、スタジアムから興奮冷めぬままキャラバンで帰ってきていた。

 

「全員が全員、気合十分みたい。」

 

「皆、あれだけ疲れてたのにね・・・・」

 

マネージャー陣も苦笑して、楽しそうに円堂達を見ていた。

俺は、そんな中円堂を呼んだ。

 

「あ、ちょっと、円堂。少し二人だけで話がしたいんだけど、いいか?」

 

「ん?いいけど、どうしたんだ?」

 

「気になる事があるんだ。」

 

トコトコと、メンバーから離れて食堂の方へ行く俺について来る円堂。

背が小さいなー、円堂は。

 

「なあ、どうしたんだ?」

 

「・・・・この辺でいいか。円堂。」

 

食堂に入って、俺はようやく円堂に向き直った。

ここからだと、聞こえないだろう。

 

「おっ、おう!」

 

「俺は、お前を信用していない。最近知り合ったばかりだしな。」

 

「俺は耀姫(ようき)の事、信用してるぜ!」

 

「わかった、それはいい。で、本題だが・・・・」

 

俺は、「気になっていた事」を円堂に伝えた。

 

「円堂。お前の正義の鉄拳、今回のデザートライオンでボロボロにされていたな。」

 

「あ、あはは・・・・耀姫(ようき)が頑張って点入れてくれてたのに、ごめんな。」

 

頭を掻きながら、笑いながら謝る円堂。

 

「・・・・それで、俺の言いたいことだが。」

 

俺は、ひと呼吸おいて円堂に言い放った。

 

「あんなにゴールを入れられるような奴に、ゴールは任せられない。」

 

「えっ?」

 

「新必殺技を編み出せ。正義の鉄拳は、きっと世界には通用しない。」

 

「・・・・でも、新必殺技って言っても、奥義技を超えるような技、そんなにすぐ作れないぞ?」

 

「なら、日本代表を辞退してくれ。今のお前とでは、立向居の方がゴールを守る安心感がある。」

 

はっと息を呑む円堂。

必殺奥義「正義の鉄拳」は、「ムゲン・ザ・ハンド」の前の技だ。

しかも、ムゲン・ザ・ハンドの方はG4まで進化し、2でのジェネシス最強技、スペースペンギンをも止めた。

どう考えても、ムゲン・ザ・ハンドの方が効力な必殺技のように思えるのだ。

俺には、なぜ監督が円堂をゴールキーパーにしているのかがわからない。

 

「俺はフォワードだ。相手のゴールから、点を奪うためにいる。俺は今回の試合、フォワードの勤めを果たしたつもりだ。円堂、お前はどうだった?」

 

「俺は・・・・」

 

「次の決勝戦は、きっと韓国が勝ち上がってくるぞ。ファイアードラゴンは、名前はダサいが強力なチームだ。正義の鉄拳じゃ勝ち目はないぞ。名前はダサいけど。」

 

ファイアードラゴン。

アジア最強と言われている、韓国の代表チームだ。

 

「次の試合までには、新しい必殺技を完成させとけよ。」

 

俺は、円堂を残して食堂を去った。

 

 

 

 

 



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第四章 ついにアジア頂上決戦!世界への切符を手に入れろ!
ネオジャパン襲来!まさかのメンバー達! #12


見てない間に予想以上に増えてる。


 

 

 

 

 

「オーストラリア、カタール。二試合戦って、皆も世界の壁の高さを実感したと思う。」

 

早朝。

朝食の後、朝の練習の前に鬼道が俺たちを集めた。

何やら話があるらしいが・・・・

 

「アジア予選を勝ち抜き、予選大会を勝ち抜くにはより強力な必殺技が必要だ。そこで。新必殺技を考えてみないか?」

 

「新必殺技、か。」

 

鬼道は一つコクリとうなづくと、風丸へと顔を向ける。

 

「風丸。オーストラリアとの試合で、お前が相手選手を抜こうとしたときのことを覚えているか。」

 

「俺がビッグウェイブズ戦で?」

 

「ああ、あの時か!」

 

「必殺技でもないのに、一瞬、風がものすごい勢いで吹き荒れてたよな。」

 

「あの風に、さらなる磨きをかければ・・・・・強力な必殺技になるはずだ。」

 

「わかった。その必殺技を完成させれば良いんだな?」

 

「ああ。」

 

風丸の必殺技は、疾風ダッシュと・・・・ん、アレ!?

他に何かあったっけ?

やばいやばい、早く必殺技覚えてください、風丸くん。

 

「それから、吹雪と耀姫(ようき)。2人には連携必殺技のシュートを習得してもらいたい。」

 

「連携必殺技?」

 

「そうだ。スピードの吹雪、パワーの耀姫(ようき)。この2人が連携すれば、強力な必殺技になるはずだ。」

 

・・・・と、いってもな。

 

「鬼道。お前たちには言ってなかったかもしれないけど、俺たち2人のシュート技ならもうあるぞ。」

 

「・・・・そうなのか?」

 

「うん。白恋の時のだけど、あの技があったら初めからデザーム・・・・砂木沼君のドリルスマッシャーだって、怖くなかったはずだよ。」

 

「そうだな。調整は必要かもだけど、今やっても世界に通用するんじゃないか?」

 

「そんなにか・・・・」

 

「ああ。でも、シュート技は別に良くないか?俺のデススピアー、吹雪のウルフレジェンド。両方強力だし、今のところ困ってない。2人合わせる意味はないと思うが。」

 

「そうかもしれない。だが、攻撃の幅を広げると考えると、必殺技が幾つあっても損はない。」

 

まあ、その言い分はわかるけど。

攻撃の幅を広げたいんなら、俺と吹雪じゃダメだな。

もっと他のメンバーと組ませなくちゃ。

鬼道と俺は、近寄って必殺技の案を出し始めた。

 

「そうなるとメンバーを考え直す必要があるな。吹雪だと、誰を組ませたい?」

 

「・・・・風丸だな。スピードの吹雪にスピードの風丸。どんな事になるのか、興味がある。が・・・・」

 

「風丸は、新必殺技の案があるからなー。とりあえずは保留だな。」

 

「そういう事だ。耀姫(ようき)と相性がいいのは、やっぱり吹雪だと思ってたんだが、他となると・・・・」

 

「ところで。内緒にしてたんだが、俺の方はもう連携技の練習をしてるんだわ。」

 

「ほう?」

 

「ヒロト、玲奈。このメンバーとの三人技なんだが、俺が何をしたいかわかるか?」

 

「・・・・・まさか?」

 

「気がついたか?そそ。どうしても最終奥義スペースペンギンが使いたくてさ。まあ、まだ一回も成功はしていないんだが・・・・」

 

ボソボソと2人で意見を出し合い、結局は俺はスペースペンギンに集中、吹雪は風丸の必殺技が出来上がり次第組んでみるという結論が出た。

それから、円堂の必殺技の強化、あるいは新必殺技の編み出しも提案し、今日の練習は必殺技メインでする事になった。

どうやら久遠監督にも今日は必殺技の特訓に使うことの許可を取っているらしい。

行動の早いやつだな。

 

 

 

 

 

「風丸。新必殺技のイメージは掴めたか?。」

 

「ああ。一応イメージだけならできた。あとは練習あるのみだな。お前たちの方はどうだ?」

 

「さっぱりだ。なっかなか進まねー!」

 

「あはは、そっか。あのエイリア最強の必殺技だったんだろ?難しくて当然さ。」

 

「そうかー?もう全然で、自信なくなってきそうだわ。」

 

練習が終わり、その日の夕食。

俺と風丸は隣の席に座って、それぞれの必殺技の進み具合を話し合っていた。

隣には円堂がいて、円堂もまた、正義の鉄拳の進化について思い悩んでいるようだ。

 

「うーん、正義の鉄拳は究極奥義だから、まだまだ進化するはずなんだけどなぁ。」

 

「円堂も、今日は収穫なしか。」

 

「収穫ならあった!グーとパーはともかく、チョキでボールを止めると指が痛い!」

 

「お前はどんな特訓したんだ?」

 

どうやら円堂は、正義の鉄拳の出し方から考えているみたいだ。

円堂は、昨日俺が言ったことを綺麗さっぱり忘れているかのように振舞っていた。

よくそんな態度でいられるな、あんなにきつめに言ったのに。

円堂は気持ちの切り替えが早いな、本当に。

ちょっと言いすぎたかな、とも思ったんだけど、この調子なら大丈夫そうだ。

円堂は、色々試したがパンチングで垂直に力を加えるのが一番力が入ると言っていた。

まあ、常識で考えるとそうだよな、常識で考えると。

オメガザハンドとか、教えてあげたほうがいんかな?

 

結局、今日必殺技の進歩があったのは風丸だけだった。

 

 

 

 

 

⚽️

 

 

 

 

 

「フローズンスティール!」

 

「はっ!」

 

俺はフローズンスティールを飛び上がる事で避ける。

必殺技と言えども、フローズンスティールは当たらなければ必殺でもなんでもない。

ただ、早く鋭いスライディングタックルというだけだ。

まあ、それだけで必殺と呼んでも良いだけの強さがあるのだが。

 

「豪炎寺!」

 

「ああ!」

 

豪炎寺は、俺からボールを受け取りゴールへと上がる。

今日はなぜか、久遠監督は俺たちに「今日は自主練だ」とだけ言ってそのまま宿舎の中に入って行った。

俺は監督が休みたかっただけじゃないかと疑っているが。

必殺技の練習も大事だが、基礎の訓練もやはり大事だ。

ということで、円堂以外はしっかりとした模擬試合を行なっていた。

 

「爆熱ストーム!」

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

必殺技は拮抗したが、しかし最後には豪炎寺のシュートは立向居の腕の中にしっかりと収められていた。

 

「惜しかったな、豪炎寺ー!」

 

反対側のゴールから声援が飛ぶ。

人を励ます時間があったら、お前はちゃんと必殺技のことを考えろ。

 

「木暮!」

 

立向居が、木暮へパスを出した。

立向居が人を呼び捨てにしているのも、最近じゃ聞き慣れてきた。

最初の頃は耳慣れなかったんだけどさ。

立向居は、どうやら同学年の相手には敬語を使わないみたいだった。

まあ、考えて見れば当然なんだけどさ?

立向居は敬語キャラっていう俺の中でのイメージがついてたから、ちょっと驚いたっていう話。

 

「戻るぞ、耀姫(ようき)。」

 

シュートを止められたのを見て、豪炎寺が戻る。

俺はそれに答え、フィールドを駆けずり回った。

 

数分後、攻守が交代し、今度は俺達が守りに回った。

そして、円堂の守るゴール前。

ボールを持っているのは虎丸だ。

 

「タイガードライブ!」

 

デザートライオンとの試合で封印を解いた、虎丸渾身のシュートだ。

 

「行くぞ!」

 

円堂は、そのシュートを見据えて拳を振るう。

 

「あれ?」

 

しかし、円堂がシュートへパンチングすると、すぐにボールはタッチラインを超えて外へ出た。

これは必殺技のヒントが掴めた、というよりは、シュートの方に問題があったように見えた。

 

「どうしたんだ?虎丸。」

 

円堂も同じことを思ったようで、シュートを止めた後に虎丸に駆け寄った。

ここに監督がいれば、円堂もそんなことはしなかっただろう。

 

「えっ?な、なんでもないです、大丈夫です。」

 

「なんでもないってことはないだろう。さっきのシュート、昨日見た時と全然違うようだったけど。」

 

俺も、それは思った。

タイガードライブは、昨日の試合を見る限りでは体をひねって回し蹴りのような形でボールにキックを叩き込むシュートだったはずだ。

そのひねりがボールに伝わり、ボールは軽い弧を描きながら現れた虎と共にゴールへと駆ける。

しかし今回は、その曲がるシュートがそのまま外向きに回転してゴールを逸れていた。

しっかりと見ていれば、これがシュートミスだってことは俺たちならすぐわかる。

 

「虎丸。」

 

「ご、豪炎寺さん・・・・」

 

「足を見せてくれないか。」

 

「えっと、は、はい・・・・」

 

虎丸は、豪炎寺の無言の威圧に耐えきれず素直に従った。

練習用シューズと靴下を脱ぎ、裸足を見せる。

 

「わ、痛そうッス・・・・」

 

円堂の近くでディフェンスをしていた壁山が、虎丸の足を見てそう呟いた。

豪炎寺の読み通り、虎丸は怪我をしていた。

右足の親指の爪が赤くなり、少し血が滲んでいた。

 

「いつからだ?」

 

「えっと、デザートライオンの時の、タイガードライブの時・・・・」

 

昨日の、あの時か!

捻挫とかじゃなく軽い怪我だったから、気づかなかった。

指の爪なら、走ったりするくらいなら問題はなさそうだしさ。

オイオイ、虎丸ー!

こういう事はちゃんと言わないとダメだぜー!

 

「どうして黙ってたんだ。」

 

「・・・・すみません、少し痛い程度だったので、大丈夫かなって・・・・」

 

そう思って無理して練習してると、意外と怪我がひどくなったりするんだよなー。

突き指とか打撲とか、軽い怪我でも軽んじてちゃダメなんだよ、やっぱり。

今回の怪我は、本当に小さなものだったけど。

 

「誰か、マネージャーに怪我のことを伝えて救急箱か何かを持ってきてやってくれ。」

 

「うん、わかったよ。」

 

豪炎寺は吹雪をパシリに使って、虎丸の足を診る。

なんか、面倒見がいいな豪炎寺。

慕ってくれる後輩だからか知らないが、こういうのも新鮮だ。

 

「ボールを蹴るのはやめておいた方が良さそうだな。今日の練習は休め。」

 

「えっ、でも、こんな大切な時期に・・・・」

 

「もっと酷くなったらどうするんだ。決勝に出られなくなってもいいのか?」

 

「それは、嫌ですけど・・・・・」

 

「幸い、この程度の怪我なら1日2日で治るかもしれない。ボールを蹴らなければな。」

 

「・・・・わかりました。今日は見学します。」

 

虎丸が、渋々と頷いたことで、練習は再開となる。

 

「よーし、俺たちは練習に戻るぞー!」

 

「おう!」

 

吹雪が呼んできた音無に虎丸を預け、俺たちはまた練習を続けた。

 

「デススピアー!」

 

「おおおおお!!」

 

俺の放ったデススピアーを、円堂は正義の鉄拳で迎え撃つ。

しかし、その構えはいつものものではない。

裏拳でボールを止めようとしていた。

しかし・・・・

 

「ぐわっ!?」

 

これは失敗したようで、金の拳は俺のシュートに吹き飛ばされた。

新しい必殺技はまだまだ完成しなさそうだ。

 

「よし、もう一度だ!来い!」

 

円堂は起き上がり、グローブを着けた腕を叩いて音を鳴らした。

ホントタフだよな、お前は。

その瞬間。

轟音とともに、どこからともなく現れたボールが円堂の懐の中に飛んできた。

 

「ぐっ!?」

 

そこは円堂、突然のシュートにも臆さずガッチリとキャッチした。

いつもの如くシュートを止めたキーパーグローブから、摩擦で煙が上がっていた。

少林サッカーでこんなのあったよな。

 

「流石だ、円堂。素晴らしい反応速度だ。」

 

「お前は・・・・デザームか!?」

 

「デザーム・・・・?今の私は砂木沼 治。チーム『ネオジャパン』のキャプテンだ。」

 

「ネオジャパンだぁ?」

 

また胡散臭い奴が現れたな。

デザームは、侵略編2では中盤のボスキャラだったはず。

ゴールキーパーかと思えばフォワードに、フォワードかと思えばゴールキーパーになる訳わからん奴だ。

っていうかそれ俺もじゃないですかー。

誰が訳わからん奴だコラ!!キャラ被ってんじゃねぇよ!!!

砂木沼は、そんなことを思っていた俺をなぜか一瞥した。

 

「久しぶりね、円堂君。」

 

「瞳子監督!?」

 

おっ!おおっと、美人監督さんも出ました!

これはアツい展開になりそうな予感!

 

「あの人、誰ですか?」

 

「私たちの前の監督よ。地上最強のチームを集めて、エイリア学園と戦ったの。」

 

「・・・・・もう、サッカーからは身を引いたって聞いていたんですが・・・・・」

 

ああ、そうなの?

瞳子監督、あの後サッカーに関わってなかったんだ。

 

「どうして2人が?」

 

「2人?2人だけではない。」

 

シュシュシュシュシュ!

 

砂木沼の背後から、十数人のサッカープレイヤー達が姿を現した。

もう訳わかんねぇな。

お前らサッカーやってないで忍者でもやれよ。

 

「エイリアに、帝国に、オカルト中、木戸川・・・・世宇子中までいる・・・・」

 

「円堂。私はお前との決着をつけるために再び戻ってきたのだ。」

 

「私たちは、イナズマジャパンに挑戦します。真の、日本代表の座をかけて。」

 

「えぇ!?」

 

「なんだってー!?」

 

おお!?

来たねえ、単刀直入に!

良いね良いね、良いよ、こういう展開!

このタイミングで、自主練を言い渡していた久遠監督が現れた。

 

「久遠監督ですね?初めまして。吉良瞳子です。」

 

「君のことは、響木さんから聞いている。」

 

「ご存知ならそれなら話は早いですね。私は、ネオジャパンの監督として、正式にイナズマジャパンへ試合を申し込みます。そして、ネオジャパンが勝った時は、日本代表の座をいただきます。」

 

へえ、言うじゃん、監督さん。

この世界で会ったのは初めてだが、イメージ通りの人だな。

この久遠監督に対しても、物怖じなくずかずかと図太いセリフを吐いている。

 

「私たちの挑戦、受けていただきますか。」

 

「・・・・・良いでしょう。」

 

「「えぇっ!?」」

 

イナズマイレブンのストーリー進行上、こうなるとはわかっていたが。

こう、燃える展開だね!

かつてのライバル達と代表の座を争うなんて。

 

「ありがとうございます。では、試合は明日。このグラウンドで。」

 

おおっと、どんどん話が進んでいくぜ!

試合が明日となると、虎丸は欠場だな。

 

「イナズマジャパンよ。お前達にはわかるまい。代表選考にも呼ばれず、世界と戦うチャンスすら与えられなかった悔しさが!」

 

そして、デザーム、じゃなかった、砂木沼は俺、虎丸、飛鷹へと視線を向け。

 

「無名選手にすら負けた、この屈辱。」

 

誰が無名だ、誰が!

飛鷹は兎も角、俺と虎丸はそこそこ知名度はあったぞ!!

砂木沼は、今度はクララ、緑川、ヒロト、玲奈へと視線を向ける。

 

「かつての仲間に置いていかれた耐え難き敗北感。・・・・・決して忘れはしない!」

 

いや、そんなこと言われても。

デザーム様が落ちたのは俺たち関係ないですし。完全に逆恨みですし。おすし。

 

「このままでは終われない!日本代表の座は、我々ネオジャパンが必ず勝ち取る!!」

 

そう決め台詞、って言うか捨て台詞?を残して帰っていった。

急遽入った練習試合に、俺たちはてんやわんやだ。

 

「ネオジャパンなんて・・・・姉さんは何を考えてるんだ・・・・っ!!」

 

あっ、そっか。ヒロトは瞳子監督とは義理の姉弟なんだっけ。

あんな美人な姉がいるとか羨ましいよなー。

って言うかヒロトもイケメソだしよォ!!

まったく、っざけんなよ吉良一家!!!!!

 

「まあでも、面白そうじゃないか。ネオジャパンなんて、瞳子監督は、どんなチームに育てたのか、気にならないか、皆!」

 

「そうだな・・・・お前らしいよ、円堂。」

 

「砂木沼たちも、きっと特訓して強くなってるはずだ!俺たちも特訓して、あいつらに勝とう!」

 

「「おう!」」

 

返事をしたチームメイトたちは、全力で特訓の準備を始めだす。

特訓っつっても、何やんのかねえ。

返事をしなかった俺たちはその場に残っていた。

そのうちの1人だった不動は、早くも離脱を宣言する。

 

「元々今日は自主練だったんだ。俺は好きにやらせてもらう。」

 

「・・・・・」

 

飛鷹も黙ーってグラウンドを出て行った。

彼奴らは練習すらしないのかな??

昨日もこの2人はグラウンドにいなかったし。

2人して自主練の時は毎回どこ行ってるんだか。

 

「それにしても、久遠監督は随分あっさり試合の許可を出しましたね。」

 

「もしかして監督は、ネオジャパンにいい選手がいたら引き抜いて代表メンバーと入れ替えるつもりなんじゃ・・・・」

 

ま、普通に考えればそうだけどさ。

まさに弱肉強食。強い者が生き残り、弱いものは代表から蹴落とされる。

そんなの当たり前の事だ。今更ワーキャー言う事じゃない。

 

「よし。俺たちは明日の試合に向けて、スペースペンギンの完成を目指そう。今日こそは絶対完成させる!」

 

「うん。」

 

「ああ。」

 

今日中に完成しなければ、明日の試合に今日の練習は意味がなくなる。

なんとかしないとな、うん。

 

 

 

 

 

「「「スペースペンギン!」」」

 

俺とヒロト、2人が蹴飛ばしたボールは、ゴールを目指さず明後日の方向へと飛んでいく。

やっぱなんか足りてないんだろうなあ。

 

「ヒロト、玲奈。2人から見て、どこが悪いかわかるか?やっぱ、俺だけの問題?」

 

「・・・・いや。お前にも問題はあるが、私たちにも問題はある。」

 

「そうだね。元々はスーパーノヴァっていう必殺技からの派生なんだけど、その頃のメンバーは耀姫(ようき)くんとは体格が全然違った。一緒だと思ってやるんじゃ、成功するわけないからね。」

 

「つまりは、昔の感覚が抜け切れてない。って事か。」

 

って、アレ?

スーパーノヴァとかスペースペンギンとか、一緒に撃ってた奴今日会ったネオジャパンにいなかったか?

ほら、あの水色の髪の、ゴツイ奴。

 

「あと、耀姫(ようき)君は自分1人で撃とうとしすぎかな。」

 

「スンマセン。でも、それが俺の性分だからなー。」

 

「全員が全員に合わせる必要がある。特に、耀姫(ようき)とヒロトだ。同時に蹴るくらいだからな。」

 

だよなー。

吹雪とならこれ以上ない、ってくらいピッタリと息が合うんだけど。

俺とヒロトも、タイミングのズレはないはずなんだが。

やっぱパワーバランスか。

 

「じゃ、とりあえずさ。前のスペースペンギンの感覚を忘れるためにも、一回タイミングとかパワーとか考えず、全力で思いっきりやって見ないか?」

 

「それだと完成はしないが。」

 

「まあそうだけど、そこから調整していけばいいだけだろ?どのくらいのバランスで、どのタイミングにするかとか。」

 

「物は試しだ。やってみよう。」

 

いいこと言うじゃん、ヒロト。

そうそ。今なら失敗してもいいんだから。

 

「いくぞ!」

 

まずは俺とヒロト、2人が飛び上がる。

そして玲奈が力を溜め、口笛も吹かないままペンギンを呼び出す。

その後ボールを上に蹴り上げ、上空にいる俺たち2人が蹴りを叩き込む。

 

タイミングは合った。ただ、パワーのバランスがちぐはぐだ。

純粋なキック勝負で俺の蹴りの方が勝ったらしく、ゴールを大きく外して左側に飛んで行った。

 

「危ない!」

 

ボールの軌道の先には、走り込みをしていたクララがいた。

 

「!?」

 

もう避けられない、というタイミングでようやくクララは振り返る。

ボールはもう、眼前に迫っていた。

そして、

 

「っ!」

 

次の瞬間、ボールはガッチリとクララの腕の中に収まっていた。

 

「あ、えっ、は・・・・?」

 

もう1度、よーく目を凝らしてみる、が、一向に目の前の状況は変わらなかった。

クララがサッカーボールを腕に抱えている。

ただ、それだけの風景だった。

ボールを受け止めたクララは、トコトコとこちらへやって来てボールを渡す。

 

「はい。」

 

俺は呆然と、クララの差し出したボールを受け取った。

ちょっ、何かおかしくね???

 

「待って、待って!」

 

俺は、平然と走り込みに戻ろうとするクララを呼び止める。

何さらっといてるんだよ、ハンドクリームか。

 

「そんなの取って大丈夫だったのか!?」

 

俺の心配に、頷くだけで答えるクララ。

いやいや、そんなわけないだろう。

手を出させると、そこには少し血が滲んでいる程度の擦り傷しか無かった。

必殺技は成功しなかったとはいえ、俺とヒロト、二人のストライカーの本気シュートだぞ?

言ってしまえば、今朝のデザームのシュートよりも勢いは出ていた。

しかも、キーパーグローブもつけていないのに、だ。

 

「よく我慢出来るな。偉いぞ。」

 

思わず、頭を撫でる。

珠香とか、怪我すると泣いちゃうんだけどな。

 

「擦り傷とはいえ、当たると痛いだろ。マネージャーか誰かにサビオ貰ってこい。」

 

「・・・・」

 

喋るどころか微動だにしないクララ。

えっ、ちょっと、どうしたんですかクララさん。

頭撫でてる俺のが恥ずかしいんですけど・・・・

 

【挿絵表示】

 

 

「あ、えっと、サビオってのは絆創膏の事な。」

 

急に恥ずかしくなり、慌ててぱっと頭から手を離す。

と同時に、サビオは道民しかわかんないことを思い出して言い直す。

俺はクララの肩を押し、マネージャーたちの方へと向かわせた。

クララはちらっ、ちらっとこちらを振り返っていた。どうしたんだよ。

それにしても、クララにキーパーの才能があるかもしれないとか。

わかんないもんだな、色々と。

 

 

 

 



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対決!ネオジャパン! #13

イナズマイレブン、すごい賑わってますね。
その影響か、これも一年以上も前に更新が止まってるのにまだ見てくれてる人がいるみたいです。
新作を書きはじめたので、この作品もついでに更新してみました。
正直続くかどうかはなんとも。
あと、FGOタグなんですけど、関わってくるキャラ出るのもうちょっと先(アジア予選終わった後)の予定なので続かなかった時用のために消しておきます。
タグ詐欺になるので。っていうかなってるので。
大まかなストーリーとかそれぞれの試合で使う小ネタとかは考えてあるのに筆が進まないんです。なんでだろう?




 

 

 

 

 

試合当日。

奴らは宣言通り雷門中へとやってきた。

グラウンドには、デザームもとい砂木沼を始めとしたネオジャパンのメンバーがずらりと並んでいる。

先頭には瞳子監督。

 

「円堂守。私はお前からサッカーとは熱く楽しいものであることを学んだ。・・・・・だが、本当のサッカーは、辛く、険しく。そして厳しいものなのだ!」

 

「そうかもしれない。サッカーをやっていれば、苦しいことなんていっぱいある。でも、そう言うのも全部ひっくるめて、サッカーは楽しいものなんだ!」

 

「フフ、流石は円堂守。いい答えだ。さあ、勝負を始めよう。勝つのは私たちネオジャパンだ!」

 

「俺たちだって負けないぜ!」

 

砂木沼、そして円堂がそれぞれの手を取り握手をして、試合が始まる。

俺たちはフォーメーションにつき、試合開始のホイッスルを待つ。

ちなみにフォーメーションはこうだ。

 

 

 

GK 源田(帝国)

DF 成神(帝国)郷院(新帝国)小鳥遊(新帝国)石平(ジェネシス)寺門(帝国)

MF 霧隠(戦国伊賀島)砂木沼(イプシロン)下鶴(御影専農)

FW 瀬方(イプシロン)伊豆野(ジェネシス)

 

 

FW 基山 清川 豪炎寺

MF 緑川 吹雪 鬼道 八神

DF 風丸 壁山 木暮

GK 円堂

 

ベンチ

不動 飛鷹 倉掛 立向居

 

見学

宇都宮

 

 

 

5–3–2とは。

このフォーメーション、サイドを使う戦法か?

なんだか癖がありそうだな。

DFを固めているように見えて、鋭く切り込めるような、そんなフォーメーションだ。

 

「砂木沼がミッドフィルダー?あいつ、ゴールキーパーかフォワードじゃなかったのか!?」

 

オイオイ、またかよ!やめろよそういうの!!

うわっ、砂木沼と俺、キャラ被りすぎ・・・・?

むしろ、俺の方は最近はずっとフォワードだから被ってないわ!

 

「成神や寺門達まで・・・・」

 

これまでのポジションと違うポジションについているプレイヤーが数人いるようだ。

瞳子監督にどういう意図があるのかはわからないが、これが本人にぴったりなポジションなら相当すごい監督だよな。

あとで俺はどのポジションが一番生きるのか聞いて見たいわ。

俺は攻守が両方出来るMF(ミッド)だと思っているんだが。

ふと、どちらともなく、監督同士が視線を交差させる。

表面下ではもう試合は始まっているんだろうか。

 

「・・・・見せてもらおうか。あなたの作り上げた、新たな最強チームを。」

 

お、珍しい。

久遠監督が無駄なことを喋るなんて。

それだけ期待してるってことなのかな?

今回注意するは、やはり中心になっている砂木沼か。

こちらでいう、鬼道のポジションにいる砂木沼がどれほどの指揮能力があるのかがこの勝負のカギを握りそうだ。

あとは、ストライカーとしては源田があの帝国学園の模擬試合からどれだけ成長したかも気になるな。

 

 

ピーッ!

 

 

おおっと、そんなこと考えてる場合じゃなかった。

足元にあるボールを転がし、試合を始める。

 

相手方が全員、代表の候補にすら呼ばれなかった選手達だ。

その、あぶれたメンバーで組んだ日本代表二軍とも言えるチームだが、俺たちはそんなチーム相手に圧勝しなくてはならない。

敗北はもちろん、苦戦や接戦なんてあっちゃいけない。

国内戦で苦戦するような奴らが世界を相手に戦えるはずがないからな。

もしもこの勝負に俺たちが負けたなら、その時は敬意を持って代表の座を明け渡すべきだ。

勝負を受けた時点で、イナズマジャパンはネオジャパンに力を示さなければいけない。

こいつらこそ日本の代表にふさわしいと、納得してもらえるだけの力を。

 

「吹雪!」

 

前線へ上がる吹雪へとパスを出し、俺も後に続く。

選ばれなかった者へ、それこそ格の違いを見せるために。

 

「行かせるかっ!」

 

吹雪を止めるため飛び出したのは、戦国伊賀島の霧隠だ。

確か、風丸に因縁がある学校だったっけかな?

無印とか昔のことすぎて思い出せないな・・・・

吹雪は、そんな霧隠のチャージを簡単に躱した。

 

「鳴神!郷院!」

 

突き進む吹雪に、砂木沼の指示により2人がかりのプレスがかかる。

なるほど、伊達に日本一に挑戦してきているわけじゃないようだ。

連携もスピードも一流だ。

 

「吹雪!」

 

吹雪とはいえ、流石に2人がかりのディフェンスを突破するのは難しいだろう。

俺は丁度ディフェンスの2人の合間の位置へと移動し、パスを出させる。

吹雪に2人が付いたことで、左サイドの守備に隙ができた。

そこへうまく潜り込めれんばいいんだが。

 

「小鳥遊!郷院!」

 

「またかよ!」

 

同じく砂木沼に指示されプレスで止めに来るディフェンス2人に悪態をつき、ヒロトへとパスを出す。

 

「鳴神!」

 

そのパスを、待機していた鳴神がカットする。

チッ、やはり守備が堅い。

ディフェンダーの人数が多いだけに、ディフェンスに割ける人数も多くなる。

単純に面倒だ、この手の相手は。

ボールは鳴神から霧隠、砂木沼へと渡る。

 

「八神!」

 

ドリブルで上がる砂木沼に、今度は鬼道が2人がかりでプレスをかける。

鬼道と玲奈の同時のディフェンスに、またもや吹雪と同じように砂木沼もパスを出した。

 

「伊豆野!」

 

パスを受けるのは、元ジェネシスのフォワード、伊豆野。

俺が後でスペースペンギン打ってもらおうと思っている、中学生にしてはかなりゴツい奴だ。

 

「へへっ、通さないよ!」

 

それを阻止したのは、小さいながらも頼り甲斐のある悪戯小僧、こぐれん。

 

(あらた)!」

 

それを読んでいたかのような動きで伊豆野は、上がっていた改へとボールを渡した。

 

「そのままいけ、改!見せてやれ、あの地獄のような特訓の成果を!」

 

砂木沼が叫ぶ。

いや、地獄って。監督の前で言うなよそれ。

 

「グングニル!」

 

パスを受けた改は腕を組み、大仰に必殺技の名前を叫び、異空間に消えうせた。

数秒後、ペナルティーエリア内の空間が割れ、異次元から威力の乗ったボールが闇をまとわせながらゴールへと飛んで行った。

お前その技使えんの!?おいコラ、チート技やめろや!!

 

「はぁあ!!正義の鉄拳!!」

 

結局円堂は、新しい必殺技のイメージも必殺技の進化のきっかけも掴めなかったようだ。

あーあ。あれだけ言っておいたのに。

まあでも2の中盤の技だし、止められるはずだ。

 

「ぐっ・・・・のわぁっ!?」

 

 

ピピーッ!

 

 

先制点はネオジャパンだった。

フォワードの伊豆野を囮にして、本命のミッドフィールダー、改をフリーの状態で前線へ上げる。

見事な試合運びだ。

これがあの瞳子監督の戦略だったりするんだろうか。

 

「・・・・な、なんなんだよ、このパワーは・・・・」

 

あのシュート、グングニル。

2の中盤?まさか。あんな強力なシュートが?

 

「今の、エイリア学園だった頃の砂木沼の技じゃ・・・・」

 

「しかも、あの頃とは比べ物にならない威力ッス!」

 

「驚くのはこれからだ。日本代表の座は我らがいただく!」

 

威力が上がった・・・・

なるほど、進化したのか。グングニルv2って感じか?

俺は2の頃いなかったから強化されているのかはわからないが、豪炎寺の爆熱ストームと同等くらいの威力があるように見えたな。

というか、闇をまとった異次元からの予測不可能なシュートとかかっこいいな。

俺も使いたいわ、あんなチート技。

 

サッカーのルールブックには、ボールをワープさせるのも異次元からシュート打つことも規制されてないからね。

やった者勝ちなシュートじゃないかなあって思うんですよー。

っていうか、もしかしたら俺も出来るかな?あのチート技。

別にやろうとは思わないけど・・・・

俺は真正面から突き破るような技が好きなのだ。

まさに、デススピアーのような強引な技が。

 

「次は止めるぜ!」

 

そうは言うが、円堂はあのシュートを止められない。

つまり、実質ゴールがガラ空きの状態ってわけだ。

ディフェンスか、オフェンスの強化が必要だ。

 

「選手交代。風丸。」

 

久遠監督も気づいているのか、選手を交代するようだ。

風丸が抜け、空いた位置にクララが入ってくる。

円堂は、点を入れられてから息巻いているようだが・・・・

やられたらやられただけ燃える派なんだろう、円堂は。

放っておこう、何回か入れられれば進化もして止めてくれるさ。

っていうか。

 

「・・・・何いい勝負してんだよ、イナズマジャパン。」

 

先制点を入れられた。

こんな調子で大丈夫か?

 

 

 

 

 

⚽️

 

 

 

点を入れられたために、イナズマジャパンボールでのキックオフ。

こちらも攻めに行くのだが、しかしネオジャパンのディフェンスは固い。

こちらの癖を知っているかのような動きで翻弄され、なかなか攻めきる事ができなかった。

俺も豪炎寺もヒロトも、ディフェンダーに阻まれて前に出る事ができない。

そして、ネオジャパン陣内で攻防を繰り広げる事数分。

最終的にボールを持って上がったのは、ミッドフィルダーの鬼道だった。

 

「ツインブースト!」

 

鬼道には、1人で使えるシュート系の必殺技がない。

ミッドフィルダーなので仕方がないといえば仕方がないのだが。

と言う事で、後方に回っていた豪炎寺とでの即興連携必殺技になった。

豪炎寺とあともう1人、俺かヒロトでもフリーならば、皇帝ペンギン2号が使えたんだけどな。

というか、源田と鬼道か。このコンビは、図らずも帝国学園対決だ。

 

「ドリルスマッシャー!」

 

源田がそう叫び、腕を上空に向けると同時。

ギュルギュルと高速回転するとんでもない大きさのドリルが現れる。

そしてそのドリルは正面を向き、流星ブレードに真っ向から立ち向かった。

そしてボールは。

 

「あの技は・・・・なぜ、源田が・・・・」

 

しっかりと、源田の腕の中に収まっていた。

 

「まさか・・・・ネオジャパンのメンバーはそれぞれ他の選手の必殺技を習得しているとでも言うのか?」

 

「・・・・オイオイ、マジかよ・・・・」

 

確かに、普通に考えればその方が強くなるに決まっている。

必殺技。

多ければ多いほど、試合を有利に進める事が出来るのは明白だ。

 

「これだけではないぞ。源田!こっちだ!」

 

「おう!」

 

今度は、ネオジャパンの反撃だ。

ゴールキーパーの源田から、守備に戻ってきていた砂木沼にボールが渡る。

 

「まずい!止めろ!」

 

上がりすぎている鬼道からの指示が飛ぶ。

俺もディフェンスの1人にマークされていて動けない。

本当に厄介だな、ネオジャパンのディフェンスは!!!

 

「行かせないよ!」

 

「イリュージョンボール!」

 

吹雪のプレスに、砂木沼は必殺技を使って応戦した。

しかも、帝国学園の使う必殺技で。

 

吹雪を抜いた砂木沼は、そのままぐんぐんとフィールドを駆け上がって行く。

 

「・・・・!」

 

そして、次に相手にしたのは、ディフェンダーのクララだ。

 

「ダッシュストーム!」

 

「フローズンスティール!」

 

フローズンスティールには、短期で攻略するには死角が一つだけしかない。

そう、上空だ。

ダッシュストームを選んだ砂木沼には、避ける術がない。

 

「あれは、確か世宇子中の必殺技か・・・・」

 

世宇子中のメンバーまでいるのか?

すごいな、このメンバー。

 

「!」

 

それからはパスサッカーで、ボールはクララから緑川に。

 

「吹雪!」

 

緑川から吹雪に。

 

「耀姫くん!」

 

吹雪から俺に。

 

「追いつけ、ヒロトォ!!」

 

そして、そこからダイレクトで大きくセンタリングを上げる。

ボールは大きく弧を描いて、ヒロトとは少し離れた位置へと飛んで行く。

俺なりに、ディフェンダーを無視して攻撃できるように考えた結果だ。

 

高く上げたセンタリングに、ヒロトが重力を無視して飛び上がる。

そしてトラップと同時に、必殺シュートの体勢に入った。

 

「流星ブレード!」

 

上空に蹴りあげたボールへ向けて飛び上がり、オーバーヘッドのキックで叩き落とす。

そのシュートは空を切り裂きながら、その名の通り流星のようにゴールへと迫る。

 

その瞬間。

俺の近くでディフェンスに徹していたディフェンダーの1人が、ゴールへと駆け出した。

よく見たら、反対方向にいるディフェンダーも1人、同じようにゴールへと走っていた。

 

「「「・・・・無限の壁!!」」」

 

日本で最強と言われていたキャッチ技が、発動した。

 

 

 

 

 



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