ナザリックinスレイヤーズ (史上最弱の弟子)
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挑戦の始まり

あらすじ確認お願いします。

遠隔視の鏡を見る所までは原作とほぼ同じ流れなため省略してあります。


「ふっ、はっ、ほっ、おっ、映った」

 

 MMORPG、ユグドラシルの終焉と同時にギルド基地ごと異世界に飛ばされたモモンガは遠隔視の鏡<ミラー・オブ・リモート・ビューイング>を使って、この世界の様子を探ろうとしていた。

 そして適当に操作し映ったのは二人の剣士が対決する様子であった。

 一人は金髪で青い鎧を装備をした男、もう一人は黒い貫頭衣を着た男。この世界のレベルを知るのに丁度いいとそのまま観戦状態に入る。

 そしてしばらくたって彼の心に浮かんだのは”感嘆”だった。

 

(……これって相当レベルが高いんじゃないか? たっちさんのPVPを思い出すな)

 

 モモンガは魔法詠唱者(マジックキャスター)であり、剣に関しては現実でもゲームでも全くの素人だ。そんな彼の目から見てもわかる程、明らかに優れた技量。それを鏡に映し出されていた二人の剣士、両者共が持ちあわせていた。

 そして、見始めてから数分後、決着の時が訪れる。黒髪の男が剣を振り下ろし、金髪の男の左肩を切り裂こうとするが、それまでの戦いで男の剣が折れていたため浅くなり、反撃の一撃を脇腹に受けて倒れたのだ。

 

「ふむ……」

 

 勝敗が決して、男達は何やら会話しているようだったが声は聞こえない。またモモンガ自身がたいして興味をしめさなかった。今の彼の脳裏の大部分を占めるのは剣士達の実力に対してである。そして彼はそれをもう少し正確に見極めるために側に付き添った従者、セバス・チャンに対し尋ねることにした。

 

「セバス、この二人の実力、お前はどう考える?」

 

「……映像越しでは正確な判断は難しいですが、それでもよろしければ」

 

「構わぬ。忌憚無き意見を述べよ。少なくとも格闘に関しては我よりもお前の方が正確な判断が可能であろう」

 

 セバス・チャンを創造したプレイヤーであるたっち・みーはユグドラシルのワールドチャンピオンである戦士職、現実でも警察官である猛者だ。その影響を受け、セバスもまた高い格闘能力とそれに関する知識を有している。

 故に彼の判断は参考になると考え、意見を求めたのである。

 

「モモンガ様以上とは恐れおおい。私等、あなた様に比べれば卑小な身です。ですが求められた以上精一杯の私見を語らせていただきす。まず身体能力ですがユグドラシルのレベルに換算し、60~75程度と推測されます」

 

「ふむ」

 

 示されたレベルの範囲は少々広いが、前置きされたように映像越しでそこまで判断できれば十分であると満足そうに頷く。主の好感触の反応を確かめたセバスは予測を続ける。

 

「戦いを見る限り、スキルに該当するものは持っていないようです。しかしながら基本の技量のみを見るのならば私よりも上、たっち・みー様の領域かと。無論、戦えば間違いなくたっち・みー様が勝つでしょうが」

 

「なるほど(レベルは低いがPS<プレイヤー・スキル>の高いプレイヤーって感じか。厄介だな)」

 

 ゲームの世界においてレベルの差は大きなアドバンテージであるが、多少それ等が劣っていてもPSの高いプレイヤーと言うのは手強い存在である。レベルが10違えば劣る方に勝ち目は無いと言うのがユグドラシルでの定説だが、極稀にそう言ったものを覆す化け物のようなプレイヤーも存在した。

 レベル60~75程度の基礎能力があるのならばナザリックでもレベル90に満たない存在にとっては危険だし、同レベルの存在が複数居るのならモモンガ達、レベル100の存在にとっても十分に手強い相手に成り得る。

 

「反面、装備は粗末なものなようです。防具は分かりませんが武器は遺産級ですら無いでしょう」

 

「そうか、お前が認める程の技量の剣士がそのような装備をしている辺り、この世界には強力な装備は存在しない。もしくは極めて稀少と言う可能性が高いな」

 

 外面的には威厳を保ちながらかなりほっとするモモンガ。安心できる答えにたどり着かせてくれた従者に感謝の言葉を述べる。

 

「お前の判断、随分と参考になった。感謝しよう」

 

「勿体無きお言葉」

 

 これぞ執事と言わんばかりの綺麗な姿で礼をするセバス・チャン。

 それを満足そうに見た後、得たばかりの情報に対し動くため、モモンガは命令を下した。

 

「どうやらこの世界の住人は我等が適わぬ程の脅威では無いようだ。だが、侮れる存在でも無いだろう。配下達を集めよ。この世界の情報を集めさせる!!」

 

「はっ!!」

 

 主の命に応じ速やかに動く従者。

 そして十数分後にはナザリックの幹部級全てが同じ場所に集まるのだった。

 

 

 

 

 

 

「よく集まってくれた」

 

 従者であるNPC達を前に支配者プレイをするモモンガ。NPC達はそれに敬礼を持って答える。

 

「我等は突如異世界に飛ばされるという異常事態に見舞われた。そして私の調査の結果、この世界にはプレイヤーに匹敵するかもしれない力の持ち主が居ることがわかったのだ」

 

 その言葉に気を引き締める従者達。ゲーム時代、1500人のプレイヤーがナザリックを進行した時のことを思い出したのであろう。

 

「我等がこの世界でどのように過ごすかそのスタンスを決める上で情報は絶対に不可欠だ。この世界の住人達の実力、性格、その他できる限り多くの情報を一刻も早く把握しなければならない。そこで、お前達に偵察を命じる。セバス、お前は人間に最も姿が近く、人間達の中に紛れ込める倫理感を持ち合わせている。人間の社会に混じり、この世界の人間達について調査せよ。またプレアデスのメンバーに対し指示を任せる。手駒として活用せよ」

 

「はっ!!」

 

 

 まずはセバスとメイド達に指示を出し、別の配下へと視線を移す。

 

「デミウルゴスよ。お前は人間に近い姿と人外の姿を使い分けられる。その特性を活かし、人外の知能を持った生物が居ないかどうかを調査せよ。人間と敵対する種族、人間と共存する種族。どちらであってもお前ならば上手く対応できるであろう。だが、危険も多い任務だ。生還を第一に考え、決して無茶をするな。勿論、これはセバスにもこれから指示を出す他の者達にも言えることだがな」

 

「了解しました。偉大なるモモンガ様のためであれば私の命等惜しくはありませんが、情報を目的とするなら死んでしまえば役目を果たせない。必ずや帰還します」

 

 他の配下達が意図を汲めていない可能性を考え、あえて理解を口にするデミウルゴス。その言葉にモモンガは満足そうに頷きながら付け加えた。

 

「その通りだ。だが、それだけではない。お前達は私にとって何よりも愛しい存在だ。そんなお前達が無為に命を散らすことなど私は望まない」

 

「オ、オオー」

 

 主の愛ある言葉に歓喜の表情を浮かべる配下達。MAX状態の忠誠心が更に振り切れる。デミウルゴスも感動のあまり、目に浮かぶ涙を浮かべ、それを主に見せるべき姿では無いと隠し、震える声で言葉を紡ぐ。

 

「お、おこころありがたく頂戴します」

 

「う、うむ」

 

 本心から言った言葉であるが、予想以上の反応にたじろぐモモンガ。何とか対応すると、話を戻すことにした。

 

「シャルティア、お前の役割はデミウルゴスのサポートだ。お前もデミウルゴス同様に姿を変えられる。人外の存在に対し調査せよ。二人一緒に行動するか、別々に動くかはお前達の判断に任せる。状況に応じて効率のよいと思う方で動くがいい。それからお前達には私の代理としてナザリックの配下を動員する許可も与える」

 

「了解でありんす。モモンガ様の期待に反しないよう、しっかりと成果をみせるでありんすよ」

 

「うむ、期待している」

 

 調査隊として命じた3名。

 

「アウラ、マーレ、お前達は引き続き、ナザリックの隠蔽工作を続けよ」

 

「はい!!」

 

「わかりました」

 

 元気よく答える姉弟。

 

「コキュートス、お前にはナザリックの守護を任せる。外部に調査するメンバーに代わり空いた層の守護を務めよ」

 

「了解イタシマシタ」

 

 そしてモモンガはアルベドの方を見た。

 

「アルベドよ、お前にはナザリックの統括を命ずる。これはお前かデミウルゴスにしか任せられない重要な役目だ」

 

「統括……ですか? 勿論、モモンガ様の命令とあればお受けしますが、それではモモンガ様は?」

 

 モモンガの発言に対し、躊躇いがちに疑問を返すアルベド。

 そしてモモンガの口から従者達にとって衝撃的な言葉が飛び出す。

 

「うむ、私自身も調査を行う。セバスともデミウルゴス達とも別口でな」

 

「な、そんな危険すぎです!!」

 

「そうです。我等にお任せください!!」

 

 未知の世界の探索、危険なその行為に彼の身を第一に考える従者達が反対をする。しかしモモンガはその意見に応じる気はなかった。

 

「お前達の能力を疑う訳では無い。しかし伝聞と直接目にしたものは違うものだ。この異常事態に対し、私自身の目で現状を見定め、正確に把握する必要があると判断した」

 

「それならば、せめて我等の同行を」

 

「ふむ、ならばプレアデスのメンバーから誰か一人、同行するものを選出することにしよう。階層守護者であるお前達にはそれぞれ外せぬ役目を与えているからな」

 

 食い下がる従者達に対し、妥協案を出すモモンガ。偉大なる主が妥協させておきながら、尚も反論するのは不敬と不承ながらも頷く従者達。

 

(ふう、よかった)

 

 その反応にほっとするモモンガ。先程言った自分の目で確かめる、これは嘘では無いが、他に本心があった。その本心とは「忠誠心が重過ぎる従者達から離れて息抜きしたい」と言うものと「冒険者の血が騒ぐ」と言ったものであった。未知の世界に来たのだ。ゲームとは違うとは分かっていながらも好奇心が抑えられないのだ。仮にこの世界が自分の力が全く通じない程の魔境であれば好奇心よりも安全を重視し引きこもっていたかもしれないがそこまで脅威では無いと判断している。ならば、自らの足で世界を周りたいと考えたのだ。

 

「ここで私の意図を伝えよう。情報の収集は過程、手段に過ぎない。私の目的はこの地に我等の名を知らしめることにある。ユグドラシルでそうだったようにアインズ・ウール・ゴウンの名を誰もが知る存在としてこの世界に轟かせてやるのだ」

 

「「「「「「「おおおおおー!!!!!!」」」」」」」

 

 そしてモモンガは最後に締めとして雄雄しい宣言をする。その強気言葉に興奮し、歓声を上げる従者達。

 

「その第一歩として私はアインズ・ウール・ゴウンを私自身を示す名とする」

 

「アインズ様!!」

 

「アインズ様!!」

 

 こうして、アインズ・ウール・ゴウンはこの世界の歴史となる第一歩を踏み出したのであった。



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アインズ様キレる

 街道を歩く二人。

 一人は全身に黒い鎧を身に纏った男。もう一人は冒険者風の格好をした美しい少女。

 その正体は変装したアインズとナザリックのメイド部隊プレアデスの一人ナーベラル・ガンマであった。二人は今、ある街を目指し旅をしているのであった。

 

「アインズ様、本当にあなた様が足を運ぶ程の価値があるのですか?」

 

「それを確かめるために行くのだ。この世界の者の実力を見定めるためにな」

 

 アインズに問いかけるナーベラル。彼女は街を目指す目的に納得していなかった。アインズは街に居るある人物に会ってみたいと考えている。しかし彼女にはその人物が至高のお方と崇拝するアインズがわざわざ足を運ぶ価値のある人物とはどうしても思えなかったである。

 

「ですが……」

 

 更に反論の言葉を紡ごうとするナーベラル。しかしそこで言葉は中断された。何者かが二人の方へ近づいてくる音、木々を揺らしたり、葉を踏み潰したりする音が聞こえてきたからだ。

 そしてその音に二人が注意を払うと道の脇の茂みの中から武器を持った十数名の男達が現れ、二人を取り囲んだ。

 

「へへっ、いい身なりしてるじゃねえか。悪いが身包み置いて言ってもらうぜ」

 

(……盗賊みたいだな)

 

 見た目、言動、どちらをとってもこれでもかという位オーソドックス、個性の無い姿にその正体を看過するアインズ。状況的には襲われていることになるがはっきり言って緊張感は無い。どう見ても雑魚と言う雰囲気に満ち溢れているし、一応この世界の人間の強さの水準に関して、最低限の情報だけは自ら出立する前に先行して配下に調べさせていたからである。

 

(盗賊に落ちるような奴は大概レベル15以下って言ってたっけ。はっきり言って楽勝だけど、いや最初の戦闘だ。一応ここは気をひきしめて)

 

 正直余裕、気の抜けそうになるのを引き締めようと意識している状態。

 しかし、その直後、盗賊の一人が発した言葉を聞いてその態度が大きく変化させられることになる。

 

「大人しく言うこと聞けば怪我しないですむぜ。何せこっちは10人以上、しかも魔道士まで居るんだ。俺達はここらじゃ最強の盗賊団、アイス・ウール・ガウン様だ!!」

 

「何?」

 

 ぶるぶると震えだすアインズ。その姿を見て調子に乗り、彼に対し嘲りの言葉をぶつけた。

 

「へへっ、こいつびびってやがるぜ」

 

「立派な鎧着てる癖にだせえ奴だぜ」

 

「……この……」

 

 そこでアインズが何か呟く。

 

「んっ、何か言ったか?」

 

 小さな声に対し、挑発するように耳を近づける。

 この時その呟きに凄まじい怒りが篭っていることに盗賊は気づいていなかったが、仮に気づいたとしても、それは既に手遅れだった。

 

「どこのパチモンだあああああああ!!!」

 

 自身のギルド名をもじったような名前に大切な宝物を汚されたように感じたアインズは、種族特性である感情抑制が働く間もなく、その怒りのままに剣を振るった。

 完全に油断していた男の身体が左右真二つに切り裂かれる。

 状況についていけず呆然とする盗賊達。そしてそこでようやく感情抑制の効果が発動する。

 

「いかんな。最初の戦闘は慎重に対応するつもりだったのだが。しかし結果的にはよかったか。雑魚相手に無駄な警戒をせずにすんだ」

 

 少し落ち着きを取り戻したアインズは大剣を構える。その姿を見て正気を取り戻した盗賊達は彼に向かって一斉に襲い掛かった。

 

「うおおおおお!!!」

 

「至高のお方に集る下等生物。塵になりなさい」

 

 そこでナーベラルがアインズを庇うように前に立ち、魔法を盗賊の一人を焼き尽くす。宣言通り、塵にされた仲間を見て盗賊の一人が怒声を上げた。

 

「こ、こっちも魔法を!!」

 

「ファイアー・ボール!!」

 

「フレア・アロー!!」

 

 仲間の声に答え魔法を放つ盗賊達。メンバーに魔道士が居ること、これが彼らの切り札であり、自信の源であった。魔法が使える二人はその時丁度アインズの背後に居り、放たれた炎の球と矢がアインズに直撃しその身体を包む。

 

「や、やった!!」

 

 歓声をあげ、残りは一人とナーベに集中しようとする。しかしその瞬間、炎が掻き消え中から無傷のアインズが姿をあらわす。

 

「嬉しい誤算だった。この世界の魔法が見れるとは思わなかったよ。更に嬉しいことに私の無効化スキルがこの世界でも有効であることが確認できた。異世界の魔法には流石に効果が無いと思っていたのだがな」

 

 アインズの言葉の意味は彼らには当然わからない。ただ、彼らは自分達の攻撃が通じない化け物の存在に恐怖していた。

 そんな彼らに対し、アインズは死の宣告をする。

 

「お礼に私の世界の魔法を見せてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アインズ様、やはりお戻りになられた方がいいのでは。伝説の魔道士とはいえ所詮は人間。こやつ等と同じ下等生物にすぎません」

 

 盗賊達の死体を見下して言うナーベラルの発言。それに対し、アインズは内心で溜息をつく。

 

「その気持ちも分からなくも無い。だが、例外は間違いなく居るのだ」

 

 雑魚を相手にしたことで人間蔑視の感情が強まってしまったらしいナーベラルをたしなめる。今の油断しきった彼女の前にまともな武器を持ってあの金髪の剣士が現れ、そして戦えば彼女の方が敗れる可能性が高い。そんな未来を避けるためにも忠告をする。

 

(困ったものだな。まあ、人間を嫌うのは”構わない”けど、侮るのは困るし、調査のためにもそれを隠してくれないと……んっ?)

 

 そこでふとアインズは自分の思考に疑問を持つ。人間を嫌うのは構わない、それは調査の邪魔になることを除いても自分にとって本来まずい筈の思考ではないかと気づいたのだ。

 

(あれ、俺、人間だったことを忘れかけてる?)

 

 気づいた事実に驚愕するアインズ。

 そして更に彼は気づく。

 

(そう言えばさっきは気にならなかったけど、俺、初めて人を殺した筈なのに全然気にならなかった)

 

 今までの自分と言うアイデンティティを喪失しかけていることに気づき、その事実に動揺するが、精神抑制の効果が発動し沈静する。

 

(考えても仕方が無い。今は頭を切り替えよう)

 

「私が見た剣士は人間でありながら装備さえ整えばお前を打倒しかねない程の力を持っていた。これは私に加え、セバスも同意した意見だ。お前はそれを疑うと言うのか?」

 

「い、いえ、至高のお方の判断を疑うなど」

 

 主から発せられた自身の忠誠心を疑うような言葉に慌てて弁明をするナーベラル。

 

「確かに先程の者達は雑魚だった。だが、間違いなく強者は存在するのだ。決して人間を侮るな」

 

「っつ!! 申し訳ありませんでした」

 

 これ以上言わせるなと言わんばかりの圧力、それを感じ取ったナーベラルは心から悔いたという表情で頭を下げる。その反応を見て、アインズは寛大な支配者としてそれを許すことにした。

 

「わかればよい。それからそろそろ街へと近づく頃だ。ここからは私達は冒険者であるモモンとナーベ、そのように装うようにしろ」

 

 偽名を指示し、それに答えるナーベ。

 

「はっ、はい、わかりましたアインズ様、いえモモンガさ……モモンさん」

 

「うむ」

 

 そして両者は目的の町、サイラーグへと辿り着くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「道をお聞きしたいのですが。この場所へ行くにはどう行けばいいでしょうか?」

 

 

 サイラーグへと辿り着いたモモンは町の住人に紙を差し出し、そこに書かれた場所への行き方を訪ねた。差し出した紙は手配書。しかし、そこに書かれた手配犯になどモモンは欠片も興味を持っていない。彼が関心を持っているのはその手配をかけた人物だった。

 

「これは手配書。……手配犯を見付けたんですか?」

 

「いえ、残念ながら。この手配をかけた人物が赤法師レゾ殿とお聞きしました。ミーハーで恥ずかしいのですが、高名な人物のお姿を一度、この目で見たいと思いまして」

 

 赤法師レゾ、それがモモン達の目的の人物であった。最初に訪れた町で冒険者として仕事を探したモモンはそこで手配書を目にし、そしてその手配をかけた人物が現代の五大賢者の一人であることを街の住人より聞いたのである。彼とあえばこの世界の人間のレベルがわかる、そう判断した彼はこの町まで足を運んだのであった。

 

「そうですか。レゾ様はこの街道を真っ直ぐに行った先にある神殿長のお屋敷におられます。ただ、気をつけてください」

 

「気をつけろとは?」

 

 深刻そうな表情を浮かべ、声まで潜めてきたその住人の態度に何やら只ならぬ気配を感じるモモン。

 

「実はレゾ様がこの町に訪れてからしばらくして神殿長の様子が目に見えておかしくなったんです。頬がげっそりと痩せこけ、訳の分からないことを呟くように。聖人と呼ばれるレゾ様を疑うのは心苦しいですが、あの方が何かしたのではないかとか一部では噂になっているんです」

 

「なるほど、そういうことですか」

 

「ええ、ですから行くのを止めたりはしませんが気をつけてくださいね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 礼を言って住人と別れ、その姿が見えなくなったところで神官長の屋敷とは反対方向へ歩き出すモモン。

 

「モ、モモンさん!? 行き先はあちらでは!?」

 

 その行為に驚き、慌てて彼の後をついていくナーベ。モモンは歩きながら答えた。

 

「状況が変わったのだ。流浪の聖人と呼ばれる男、仮にその姿が偽善であったとしても、表向きそう振舞っている以上は少なくとも訪問客に行き成り危害を加えてくる可能性は低いと考えていた。しかしその化けの皮を自ら脱ぎつつある以上、準備を整えぬ状態での直接接触は危うい。別の手段を取る」

 

「別の手段ですか?」

 

「ああ、先程の盗賊達には感謝せねばな。一応回収しておいたのが早速役に立つ」

 

 そのまま二人は街の外にまで移動し、そこである策を実行するのであった。



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油断

「う、うわああああ!!」

 

「た、助けてくれええ!!!」

 

 叫び、逃げ惑うサイラーグの住人達。彼等が逃げてきた方向、そこには12体の怪物の姿があった。その正体はデスナイト。モモンが盗賊の死体を媒介に召喚した中級アンデッドである。

 彼らの目的地は神殿長の屋敷、そこに滞在するレゾであった。

 

「さて、お手並み拝見だな。デスナイト12体。実力の見極めにはちょうどいい戦力であろう」

 

 デスナイトは中級アンデッド。ユグドラシルではレベル35に相当するモンスターである。12体を同時に相手どって倒せるのならばそれはナザリックにとっても警戒レベルの強さを持っていることになる。

 そして、その策を実行したモモンとナーベラルは戦いの様子を見るため、神官長の家の近くの路地裏に身を隠しデスナイトの到着を待っていた。

 

「直接相対せず召喚したモンスターを仕掛ける、お見事な策です。ですが、レゾとやらが大したことが無く、敗れてしまう可能性もあります。情報収集が終わるまでは人間達に対して積極的な敵対行動は取らないと言うのがアインズ様の方針だったのでは?」

 

 アインズの策に対し、疑問を持つナーベラル。実際、彼女の言う通りのことを彼は部下に厳命している。その意図は人間達の強さがわからない現状で彼等と敵対することを警戒したからである。矛盾のあるように思える言動に対し、アインズは自らの考えを話して聞かせる。

 

「レゾが勝利しそうであれば、我等はすぐさまこの街を立ち去る。そうすれば我等に辿りつく証拠は何も残らないであろう。逆にレゾが敗れそうであればその時は我等が介入するつもりだ。そうなれば我等はこの街の救世主となり、人間達の間で動くのに役立つ名声を手に入れられるであろう。良過ぎるタイミングに我等を怪しむ感の鋭い輩も居るかもしれんが、そう言った聡いものの声も愚昧な大衆の声にかき消され届くことはあるまい」

 

「なるほど、流石は至高の御方。見事な深謀です。疑問を挟むなど失礼なことをしました」

 

 説明を聞いたナーベは感嘆し、謝罪するナーベ。モモンはそれを鷹揚な態度で許した。

 

「よい。寧ろ私は感心している。私の言うことだからと言って意味もわからないまま従うのでは無く、正しく理解して行動するのは大切なことだ。さて、そろそろだ」

 

 デスナイトが到着するタイミングと路地裏から抜け出す二人。そしてそこには狙い通りにデスナイト達と相対するレゾと逃げ遅れた住人達の姿があった。更にデスナイトを追ってきた衛兵等も加わる。

 

「まさか、街中にモンスターが侵入してくるとは。安心してください。私が退治しましょう」

 

「おお、レゾ様!!」

 

「頑張ってください!!」

 

 レゾの悪評については知らないのか、あるいは藁にもすがる気持ちなのか彼に対する声援が飛び交う。

 そしてアインズは自分の計画通りに進行していることに内心でガッツポーズをしながら事態の推移を見守った。

 

「ウオオオオオオゥゥゥ!」

 

 デスナイト2体がレゾに襲い掛かる。これはアインズの命令だ。デスナイトは簡易的な指示であれば対応できる知能がある。いきなり12体でかかって、そこでレゾが死亡してしまったら正しい実力が把握しきれない可能性を危惧し、最初の攻撃は2体だけが仕掛けるよう指示したのだ。

 しかし結果から言うならばそれは無用な気遣いだった。

 

「暴爆呪(ブラスト・ボム)」

 

 デスナイトの刃が届くよりも早く、レゾの周りに十数個のこぶし大の光の球がうまれ、それが全てのデスナイトに向かって飛んで行ったのだ。一体に対し、1~2発ずつ光球を受けたデスナイトは接触の瞬間に大爆発、爆発の衝撃がその体を粉砕し、更に炎が焼き尽くす。

 炎が消えた時には跡形も無くなっていた。

 

(先程盗賊が使ったのと同じ魔法か!? いや、使用者の違いを考慮しても比較にならな過ぎる)

 

 その光景に驚愕するアインズ。

 光球はファイアー・ボールに似ていた。ファイアー・ボールはユグドラシルの第3位階魔法であるファイヤーボールと威力も見た目にも似ているため比較の基準にしやすい。

 そして第3位階程度の魔法でしかないファイヤーボールでデスナイトに対し、その特殊能力を考慮の外においても一撃で倒せる程の威力は無い。それを一撃で殲滅した辺りからレゾの放った光球の威力の高さが伺えた。それを同時に十数発、しかも一発一発を自在にコントロールしてみせたことを考えれば第9、いや第10位階魔法に匹敵する魔法だとアインズは感じた。

 

「予想以上だな。流石は大賢者と言ったところか」

 

「はい。申し訳ありませんアインズ様。確かにこの世界の人間は侮れないようです。無論、至高の御方や階層守護者の方々には遠く及ばないにしても我々に危害を与えるだけの力を持った害虫であることは理解致しました」

 

 強大な魔法を使いこなしたレゾに対し、アインズは彼をそしてこの世界の人間に対しての警戒レベルを引き上げる。それは人間に対し侮蔑的な感情を持っていたナーベも同じだったようで考えを少し改めたようだった。

 

「わかればよい。それでは予定通り引くぞ」

 

「はい」

 

 脅威が取り除かれたことで飛び出してきた野次馬達。騒ぎが起きる中、今なら立ち去るのは簡単と人混みに紛れ、その場を遠ざかっていくアインズ達。しかし彼等は気づいていなかった歓声の中心に居るレゾの閉じられたその視線の先に自分達が捕らえられていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それではナザリックに戻るとしよう」

 

 サイラーグから離れ、街を取り囲む瘴気の森と呼ばれる森の中へ身を隠した二人。そこでアインズは帰還用のアイテムを取り出し使用しようとする。

 

「ゴオオゥ」

 

 しかしアイテムが効果を発動するよりも早く重なり合う獣のような雄たけびと共に数百本の炎の矢が外周120度の範囲よりモモンとナーベ目掛けて放たれたのだ。

 

「なっ!」

 

 突然の奇襲に対処できず、炎に飲み込まれる二人。

 そして薄暗い森の奥から一人の人間が現れる。

 いや、それは人間ではなかった。確かにその顔半分は端正な顔つきをした人間の男であったが、残り半分は生白い肉のかたまりがあるのみ、つまりはのっぺらぼうなのである。

 

「おや、終わってしまいましたかね? 呆気ない」

 

 異形の男が呟く。だが、男の予想とは異なり、モモンとナーベは無事であった。ただしスキルによって完全無効化したモモンと違い、ナーベはダメージを受けている。

 

「申し訳ありませんモモンさーん」

 

「気にするな。隙があったのは私も同じだ。さて、お前達は何者だ?」

 

 兜に隠され、見えない表情。しかしその声からも十分に怒りが伝わってくる。しかしその怒りに対し、異形の男は怯むどころか寧ろ快楽を得た表情をしていた。

 

「あなたの負の感情。大変に心地がよい。しかしどうやらあなた方は人間ではないようで。っと、自己紹介が忘れていたようですね。私はヴィゼア、魔族です」

 

「魔族……。なるほど、この世界にはそのような種族がいたか。それで、お前達は私の敵ということでいいのか?」

 

「ええ、今は主の命で貴方方を襲いましたが例えそうでなくとも敵でしょうね。我等魔族は全ての生あるものの敵。それは貴方方のような不死者(アンデッド)であっても例外では無い」

 

「こちらの正体を見抜いたか。しかし魔族とは随分と特殊な存在であるようだな」

 

「ふむ、魔族のことを何も知らないようで。それでは簡潔に教えて差し上げましょう。魔族とは世界の滅びを望むものです」

 

「そうか。ならば遠慮はいらんな。”ナーベラル・ガンマ”奴を倒せ!」

 

 この世界でどのような立場となるか。その方針は定まっていないが、少なくとも世界の滅びなどという目的とは相容れないことは確かである。

 会話はこれまでと戦闘の意志を示すアインズ。

 

「はっ!!」

 

 主の命に答え連鎖する竜雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)を放つナーベラル。両腕から生じた龍のような形をした稲妻がヴィゼアを直撃する。

 

「もう一つ教えて差し上げましょう」

 

「なっ!?」

 

「我等魔族に物理攻撃は通じません!!」

 

 第7位階の魔法を受けたにも関わらずヴィゼアは一切の痛痒を受けた様子を見せず、そして顔面の半分より白い触手が伸び、それがナーベラルの体を貫く。

 

「がっ」

 

「ナーベ!!」

 

 突き刺さった触手を剣で切り裂くアインズ。解放されたナーベはしかしダメージの大きさからその場に膝をついてしまう。ゲームであったユグドラシルとこの世界の大きな違い、それはダメージの概念だ。

 HPと言う数値で体力が表され、HPが1でも残っていれば動き回れるゲームの世界と違い、この世界ではダメージを受ければ動きは鈍るし、急所を貫かれればHPが十分残っている状況からでも即死はありえる。それはNPCも例外ではなく戦闘力を大きく低下させるナーベラル。

 

「も、申し訳ありません。不覚を」

 

「次より活かせばよい。このゴミは私が片付けよう」

 

 ナーベラルを庇うようにヴィゼアの前に立つアインズ。しかし敵は一人ではなかった。ヴィゼアの後方より二足歩行で獣のような姿をした怪物。最下級の魔族レッサー・デーモンが現れる。それも一体や二体では無い。その数12、くしくも先程アインズが召喚したデスナイトと同じ数であった。

 

「さあ、死んでいただきましょう」

 

 力を制限されたアインズと負傷したナーベラルに対する魔族達。2対13という戦いが始まった。




アインズ様ピンチ!!

ところで原作の疑問なんですが、何でナザリックのメンバーは人間を見下してるんでしょうね?
確かに現地の人間は弱かったですがユグドラシルのレベル100の人間種プレーヤーとかプレアデスとかよりは強かったと思うんですが。


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守護者達の報告

「くくっ、この私に対し”死ね”とは随分と面白いことを言うではないか」

 

 魔族の言葉に対し、とてもおかしいことを聞いたと言うように、笑い声を漏らす。一切の焦りを感じさせない威厳のある声を紡ぐ。その貫禄ある姿は正に魔王と呼ぶに相応しく、その得体の知れない威圧感はヴィゼアさえも怯ませ、その動きを制止させた。

 そしてアインズはゆったりとした動作で懐に手をやる。

 

「ならば見せてやろうではないか。不死者の王、死の支配者たる私の力を」

 

(何て、かっこつけてみたけど、これが通じなかったら後はもう逃げるしか手がないんだよな)

 

 アイテムを取り出すアインズ。それを見て慌ててレッサーデーモンに攻撃の指示をやるヴィゼア。しかしその指示は既に遅かった。彼が取り出したアイテム、それは魔封じの水晶と呼ばれるものであった。

 

「最高位天使よ、我に従え!!」

 

 その宣言と共に水晶よりモンスターが召喚される。召喚されたのは正真正銘の最高位天使。三対六枚の翼を持った熾天使(セラフィム)ラファエルであった。これはユグドラシルでも最上級に近く、第10位階の聖属性の魔法を使うことができるモンスターである。

 

「ば、馬鹿な、結界に囲まれたこの地で神族を召喚だと!?」

 

(おっ、動揺してる。これはいけるか!? それにしても、結界に囲まれた地? ちょっと気になるな)

 

 魔族の動揺に調子付き、同時に貴重な情報を聞き逃さない、そして表情上は、冷徹にして強大な支配者として演じてみせるアインズ。

 

「熾天使よ。我が敵を殲滅せよ」

 

「オオオオオゥゥゥゥゥ!!!」

 

 甲高い響きと共に天より光の柱が降り注ぐ。それは二人を取り囲んでいたレッサー・デーモン達に降り注ぎ、瞬く間に殲滅していく。

 

「くっ!!」

 

 突如強敵が出現し、自分の手駒が消されてしまったことに対し、天使を狙わず召喚者であるアインズをしとめようとするヴィゼア。触手を伸ばし攻撃をしかける。しかしそれは障壁によって阻まれた。ナーベラルが展開した魔法の盾である。

 

「防御魔法は有効なようだな。よくやったぞナーベラル」

 

 自身を守ったことと有効な情報を得たこと、二重の功績に対し賞賛するアインズ。

 そして彼はこの戦いに決着をつけるため、天使に向かい再度の命令を下した。

 

「ラファエル、止めを刺せ!!」

 

「オオオオオゥゥゥゥゥ!!!」

 

 レッサー・デーモンを倒した光の柱、それを集約したように巨大な光がヴィゼアを貫く。その光はこの世界の高位の魔族の力を借りた魔法にも匹敵する威力を持ち、魔族の存在を跡形も無く焼き尽くしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 敵を倒し、危機を脱したことに文字通り一息つくアインズ。

 

「アインズ様、不死者でありながら、その天敵たる神の僕すら魅了してしまうとは。流石は至高の四十一人の中でも頂点に立たれる御方です」

 

 そんな彼に何時も通り、いや何時も以上の賞賛を贈るナーベラル。アインズからして見ればラファエルは有料ガチャで本当に欲しいものが出ずに狙いを外してゲットしたものでしかなかったので、それを賞賛されるのはどうにも恥ずかしかった。そこで誤魔化すように言う。

 

「大したことではない。天使など私にとっては道具に過ぎぬのだからな。私が真に頼りする本当の宝はお前達NPCなのだ」

 

「あ、アインズ様、勿体無いお言葉です」

 

 アインズに自分達が宝だと言われて、MAX状態だった忠誠心が天元突破する。話題の変え方を間違えたことに気づき、再度話題を逸らす。

 

「それよりも急ぎ、ナザリックに戻るぞ。人間も警戒が必要だが、魔族はそれ以上に厄介である可能性が高い。一刻も早い対策が必要だ」

 

 魔族に対する対抗策を探すと宣言するアインズ。それ以外にも彼の頭には考えがあるな。

 

(この世界はやはりゲームとは違う。検証の必要があるな)

 

 ナーベラルの負傷した時の様子でこの世界はゲームとは差異があることを確信したアインズ。レゾにやられたデスナイトにしてもゲームであればどんな攻撃でもHP1は残り生き残る筈なので光球一発では倒されない筈なのである。まあ、能力が全く発動しなかったのか、あるいは爆発で体を吹っ飛ばされた後、炎の熱でとどめがさされると言う形で攻撃が2回以上とカウントされたのかは現状では判別できなかったが。

 その一方で、レベル60以下の攻撃を無効化という能力がレベルと言う概念の存在しないこの世界で機能するなど、有利な形に変化している部分もある。

 

「よし、それではアイテムを使用するぞ」

 

「はっ!!」

 

 帰還アイテムを使用し、ナザリックへと戻る二人。

 そして戻ると直ぐにアインズはすぐさま階層守護者達を集め、調査のために出ているものには通信をつなぐことで会議に参加できるようにした。

 

「皆、よく集まってくれた。まずは私が得た情報をお前達に共有してもらおう」

 

 そう言って、まずは最初に自らが調査で得た情報を伝えるアインズ。話を聞き終えた守護者達は彼が襲われたことを知って憤慨を露にした。

 

「アインズ様を襲うなんて。私がその場に居れば」

 

『しかし流石はアインズ様。異世界の魔族も至高の御方には適わないと言うことでありんすね』

 

「シカモアインズ様ハ……御力ヲ制限サレタ状態デ危機ヲノリコエラレタ」

 

「流石は至高の御方ですね!!」

 

「凄いです!!」

 

 憤慨は途中から賞賛に変わる。それに対し、慢心を勇めようとするアインズ。

 

「まて、確かに勝ちはしたが、奴が魔族の中でどの程度の位置なのかはわからん。より強い魔族が居るかもしれん。何より奴等に対し通じる攻撃が限定されていて、しかも条件がわからんのがまずい。天使の攻撃は通じたがそれが聖属性だからなのか、第10位階の魔法だからなのか、あるいは他の理由なのか。奴等の弱点を早急に調べる必要がある」

 

「流石ハアインズ様、武人建御雷様が仰ッテイタ、勝ッテ兜ノ尾ヲ締メヨ」

 

「えっ、どういう意味ですか?」

 

『勝ったとしても油断せず、更に用心するようにという意味だね。つまりアインズ様は強大な力を持ちながら、それに慢心せず更なる高みへと立とうとしておられる』

 

「正に至高の中至高ですわ」

 

『本当に素晴らしいでありんす』

 

「う、うむ」

 

 直ぐに賞賛の方向に向かってしまう守護者達にじと汗になりながら、話の方向を戻そうとする。

 

「それで、セバスにデミウルゴスよ。お前達の調査によって判明したことこと、小さなことでもよい。報告せよ」

 

『はっ、それでは報告させていただきます』

 

 アインズの命令に対し、セバスが通信で答える。彼は今、セイルーンと言う名の国でナーベラル以外のプレアデスのメンバーと共に人間達に対し、調査を行っていた。

 

『私共が滞在しておりますセイルーンと言う国は国家の規模としてはこの世界の中で大国に当たり、その首都は白魔術都市として知られておるようです』

 

「白魔術都市……この世界の魔法か。どのようなものだ?」

 

 この世界の魔法体系かユグドラシルのものと異なること位はアインズも理解していた。しかし具体的な情報については無知と言っていい。それ故に従者の言葉には強く興味をひかれた。

 

『はい。この世界の魔法は大別して3つ、精霊魔術、白魔術、黒魔術の3種です。精霊魔術はその名の通り精霊と呼ばれる存在の力を借りたもので、風・火・水・土の属性を扱い、加えて雷が風属性に含まれます。白魔術は防御や癒し、神聖属性の魔術です』

 

「ほう、いい情報だ。魔道士で無いお前には困難な類であっただろう。よく調べてくれた」

 

 魔法やアイテムに関する知識は特に重要性が高い。どのような属性があるかだけでも値千金な情報だ。価値ある成果を得た従者に対し、アインズを賞賛の言葉を投げかける。

 

『いえ、この程度であれば情報の入手は一般人でも可能な範囲でしたので』

 

「なるほど。この世界では魔術はかなりポピュラーなものだと言うことか。それで最後の黒魔術はどんなものだ?私の使うものと似た系統か?」

 

 アインズの魔法は闇属性だったり、死霊を操るものが多い。黒魔術と言う名前からイメージするとそれに似たものかと考える。しかし返ってきた答えは異なった。

 

『はい。それが黒魔術は魔族と呼ばれる存在の力を借りたもののようです』

 

「!!」

 

 返ってきた答えにアインズに緊張が走る。魔族、それは今、アインズが最も情報を得たいと思っている事柄である。

 

「魔族についての情報はあるか?」

 

『申し訳ありません。未だほとんど調べられていない状態です。ただ条件を満たした魔法か魔力の宿った武器でしか傷つかないと言うことは掴んでおります』

 

「条件を満たした魔法か。その点については今後も詳しく調査を頼む。それと魔力を得た武器ならば攻撃が通じるとなれば、伝説級や神話級の武器ならば通じるやもしれん。よくやったぞ」

 

 魔族に対する対抗手段のヒントを得たことに対し、大きな賞賛を送るアインズ。その言葉にセバスは僅かに嬉しそうな表情を浮かべた。

 

『ありがとうございます。それと調査対象である人間の実力についてですが、戦士、魔道士共に完全にピンきりなようです。一般の兵士ならばレベル10~20、まれに30が混じる程度ですが、冒険者や上位の騎士などにはレベル60以上の実力者も存在するようです。ですが実力者の数や上限については未だ調査中の段階になります』

 

「そうか、そちらも引き続き調査してくれ。ただし、魔法に関することが最優先だ。現状では魔族が最も敵対する確率が高い相手だからな。おまけにこちらの攻撃が効き辛いとなれば、一刻も早く対抗策の構築を優先する必要がある」

 

『かしこまりました』

 

 再度敬礼をするセバス。彼が得た情報に他に特に重要なものはなかったため、報告を終了させ、ついでデミウルゴスに尋ねることにした。

 

「デミウルゴスよ。お前の方の調査状況はどうだ?」

 

『はい。知能を持った生命体ですが、かなりの数が存在することが判明しました。全てを説明しますと時間がかかります故、特に力のある種族に重点を絞って説明したいと思うのですが、よろしいでしょうか?』

 

「うむ、許す」

 

『ありがとうございます。それでは資料も送らせていただきます。』

 

 主の承諾を得て、言葉だけでなく映像を送ってくるデミウルゴス。その送られてきた映像には三つの種族について書かれていた。

 そしてデミウルゴスはその3種族について語る前に、それ以外、雑多と見なした存在について簡単な説明をする。

 

『まずこの世界には吸血鬼やリッチと言った不死者が存在しますが、ほとんどが知能も持たぬ低級、高位のものも我々から見れば取るに足らないレベルでしかありません。他の多くの種族も同じです』

 

「なるほど。それらについては敵対するとしても脅威ではなく、友好的な関係を結ぶ益も少ないと言う事だな」

 

 デミウルゴスの話を聞き見解を述べるアインズ。それに頷くデミウルゴス。主と意見が一致したことで軽い笑みを浮かべる。しかしこれからの話については楽観視できない部分であるとばかりに表情を引き締めて、口調を少し硬くして説明を再開した。

 

『その通りです。しかしエルフ、ドラゴン、そしてアインズ様が交戦なされた魔族。この3種族に関しては警戒が必要かと思われます』

 

「ふむ、魔族について私やセバスが入手した以外の情報はあるか?」

 

 魔族が警戒対象なのは既に分かっている事実。具体的な情報を求めるが、それに対し、デミウルゴスは申し訳なさそうに首を横に振って答えた。

 

『残念ながら。ですが魔族は精神生命体、極めて密度の濃いゴーストのような存在であると言う噂だけは耳にしました。信憑性の確認は取れていないのですが』

 

「ふむ、そうか。セバス同様、今後の最重要課題として調べてくれ。それでエルフとドラゴン、この2種族も要警戒なのだったな」

 

『はい。この世界のエルフは肉体的には弱いものの、魔法の扱いに長けているそうです。また人間には作れない高度な魔法具を作れるという話も耳にしました』

 

「ほう。確か魔族には魔法の武器が有効なのだったな。我々の元居た世界の武器が通じない場合は彼等と有効関係を結ぶことも考えた方がいいか」

 

 対魔族対策としてエルフと同盟を組むことを考えるアインズ。マーレとアウラというエルフが守護者に含まれていることもあって、守護者達にも不満は無いようだった。

 最も同じエルフとて、至高の41人によって生み出された二人の方が格上と言うのが彼等の認識ではあるが。

 

「それでドラゴンはどうなのだ?」

 

『はい。魔族を除けばこの世界で最強の種族の候補です。強靭な肉体と高い知能、そして強い魔力を持っているものが多く、またドラゴンの中でも種族が複数存在し、中位レベルのドラゴンである青竜(ブルードラゴン)でユグドラシルのレベルで55程度、トップ3である魔王竜(ディモスドラゴン)、黄金竜(ゴールデン・ドラゴン)、黒竜(ブラックドラゴン)がそれぞれレベル80、レベル70、おなじく70と言ったところかと。ただ、黄金竜と黒竜は個体差が大きく、特に嘗てこの世界であった大きな戦争を乗り切った古参の竜は若手とは隔絶した実力を有しているとの情報もありますので、更なる調査が必要かと思われます』

 

「なるほど、そちらも引き続き調査を頼む。くれぐれも敵対はさけてくれ」

 

 敵対は避けられ無そうな魔族だけでも厄介そうなのにレベル70~80の強さの奴がごろごろいそうな竜族を同時に敵にまわすとなると正直ぞっとする、そう考えたアインズは念入りに釘をさす。

 その意図が本当に通じたのかどうかは分からないが、デミウルゴスは丁寧な礼を取り了解を意を示した。

 

『かしこまりました。他にお伝えすることはありませんので報告は以上になります』

 

「そうか。それでは調査担当のものは引き続き調査を、警護担当のものは今までよりもより一層に気を引き締めナザリックを警護せよ。それではこれで解散とする!!」

 

「「「「はっ」」」」

 

 守護者達が号令を開始、会議が終了する。

 そしてそれから2週間の時が流れ、アインズは再び戦場へと赴くことになるのであった。




ちなみにアインズ様が欲しかったのは厨二病患者が好きな神話存在で恐らくは上位にくる堕天使様(ユグドラシルに居るのかどうか知らないが)


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大激戦 レベル100級の戦い

ようやくリナが登場、でも戦うのはアインズ様です。


「あなた方を倒し、私はオリジナルを超えます」

 

 サイラーグのレゾ、その正体はオリジナルのレゾのコピーだった。自我に目覚めたレゾはオリジナルを超えることを渇望していたが、その前に死んでしまったため、代わりにオリジナルを破ったリナ・インバース、ガウリイ・ガブリエフ、ゼルガディス・グレイワーズの3名を倒すことで目標を達成しようとしたのである。

 しかし、今、正に決着をつけようとした時だった。

 

「悪いが、その願いは適わんな。何故ならば、貴様はその前に私の手にかかって死ぬのだから」

 

「なっ!?」

 

 空間を転移して現れた2名、アインズ・ウール・ゴウンとアルベド。彼等がレゾとリナ達の間に割って入ったのである。

 

「魔族……じゃないわね。この気配はアンデッド、けど、空間を渡るなんてあんた何者?」

 

「至高の御方に対しその口の効き方、慎みなさい!!」

 

 突然現れたアインズを警戒するリナとその言葉遣いに怒りを露にするアルベド。

 そこでアインズが間に入り仲裁をした。

 

「落ち着くのだアルベド。人間の魔道士よ。お前の疑問は最も。そして突然現れ場を乱したことも詫びよう」

 

「へえ、随分と丁寧じゃない。こっちも敬語とか使った方がいいかしら?」

 

 礼儀正しいアンデッド程度、リナにすれば驚く程のことでは無い。軽口を飛ばす。しかし言葉は軽くても一分の油断さえもなく何時でも戦闘態勢に移れるようにしていた。

 

「別にそのままでかまわんさ。こちらもそうさせてもらうだけの話、さて本題だがあの男の相手を譲ってもらいたい。少し前のあの男の所為で私の配下が傷ついたのでね。このまま引き下がれないのだよ」

 

「これはまた随分と逆恨みですね。先に仕掛けたのはあなたの方では? 」

 

 アインズの言葉にレゾが不平を漏らす。その言葉に対しアインズは反論せず頷き、しかし意見を翻すことはなかった。

 

「逆恨みと言われれば反論はできないであろうな。だが、私はとても我儘なのだよ」

 

 アインズの答えを聞いてレゾは溜息をつく。

 

「こんなことなら放っておくのでしたね。リナさん達との戦いの障害にならないようにと思って始末するつもりだったのですが」

 

「ほう、なるほど。仕返しでは無かったという訳か。だが、そう言った理由なら多少は大義名分も立つな。どうだろう、先鋒を譲ってもらえないだろうか?」

 

「そうね。いいわ、あっちの方はあたし達と戦いたいみたいだけど、あたし達の方に戦う理由はないもの。あんた達が倒してくれるって言うならこっちとしては面倒が省けて願ったり適ったりよ。あんた達も良いわね、ガウリイ! ゼル!」

 

「まあ、お前がそう判断したのならな」

 

「ああ、俺も構わん。オリジナルのレゾならばともかく、奴とは因縁がある訳でもないしな。それに、その二人とレゾ、同時に相手どるのは流石にやばそうだ」

 

 アインズの願いに対し、承諾するリナ。状況をどこまで見抜いているのかよくわからないガウリイは軽い感じでリナに従い、ゼルガディスはアインズ達の実力を見抜いたらしく警戒を露にしていた。

 

「そうか。感謝しよう」

 

「っと、そうだ。その前にあんたの名前教えてくれない。ちなみにあたしはリナ・インバース。あっちの二人の名はさっき呼んだから省略するわね」

 

 礼をするアインズ。

 そしてリナより自己紹介を受ける。

 

「リナだな。覚えておこう。私の名はアインズ・ウール・ゴウン、そして彼女は配下のアルベドだ」

 

「OK、覚えたわ」

 

(初対面なのに妙に気安く話せる人だな。最近は守護者としか話してなかったからか、こういう会話、昔を思い出して楽しいかも)

 

 からからと笑うリナ。アインズは自分に対し気負いなく接するものとの久しぶりの会話に少し楽しい気持ちを覚えていた。同時に関心する。恐らくは自分達の力を見抜いている。その上でこんな風に会話できる彼女のことを凄いと思ったのだ。

 

「それじゃあ、頑張ってねアインズさん」

 

「ああ、リナさん。君は離れていたまえ」

 

 会話を打ち切るのを惜しいと思いつつ、彼女から離れレゾに向き合う。それと入れ違いにガウリイがリナに近づき、彼女の耳元で囁いた。

 

「相変わらず危ないことするなお前は」

 

「大丈夫よ。あたしの経験と勘から言えばああいうタイプは、いきなり攻撃を仕掛けてくることは無いわ」

 

「いや、あっちの骸骨さんの方じゃなくて、鎧の方。顔が見えなくてもわかる位に凄い殺気でお前の方睨んでたぞ」

 

 ガウリイが警戒していたのはアインズではなく、アルベドの方であった。その指摘にリナは少し冷や汗をたらす。

 

「あは、確かにあっちの方はあたしもちょっとびびったわ。配下ってことだったし、主に対する態度が気に食わなかったかもしれないけど……。どっちかって言うと……」

 

「女の情念……って奴か?」

 

「多分ね。片思いなのか、両思いなのかはしんないけど」

 

 時々妙にするどいガウリイの答えに正解と返すリナ。二人はアルベドのアインズに対する想いを見抜いたようである。一方、レゾとアインズ達は戦闘を開始しようとしていた。 

 

「さて、私の目的はあくまでリナさん達に勝つことですので、あなた方にはこう言った手を使わせていただきます。」

 

 そう言って呪文を詠唱するレゾ。

 そして2体の魔物が召喚される。

 

「魔王竜、そしてレッサー・デーモンの上位種であるブラス・デーモンを更に強化した魔族です。ヴィゼアを破ったあなた方も苦労するかと思いますよ」

 

「デミウルゴスが言っていたこの世界最強のドラゴンに加えて強化された魔族か。なるほど油断できんな。アルベド全力で行け」

 

「はい!!」

 

 主の命に憎しみのぶつけどころができたと言わんばかりの喜悦の表情を浮かべ答えるアルベド。役割どおり前衛として飛び出す。先に狙ったのは強化ブラス・デーモン。強化前の状態で既に並の剣士や魔道士では歯が立たない程に強力な存在である筈のその存在をアルベドはハルバートを振るい、一撃で切り裂いて見せた。

 だが、そこに魔王竜の爪が迫る。

 

「はっ!!」

 

 爪の一撃を武器で受け止め弾く。両者の間に僅かに距離が生まれ、そのタイミングを逃さずアインズが魔法を放った。

 

「エクスプロード!!」

 

 第8位階の魔法で魔王竜の胴体を爆発させる。しかし魔王竜はドラグスレイブにすら1~2発は耐える程の耐久力を持つドラゴンである、補助魔法により第10位階魔法相当に強化されているとは言え一発で倒せる程甘くはない。

 口から黒い霧のようなブレスを放ち、反撃を仕掛けてきた。

 

「ぐっ」

 

 ヴォイドブレス、小さな町位なら一撃で消し去る闇属性のブレス。放たれた方向次第ではサイラーグにかなりの被害がでていたであろう。少し離れた所で観戦していたリナ達は何とか回避に成功するが、間近で戦っていたアインズとアルベドはブレスに飲み込まれてしまう。

 

「なるほど、これがダメージの感覚か」

 

 しかし二人の受けた傷は軽微だった。アインズはアンデッド故、闇属性に耐性があり、アルベドはナザリックの守護者の中でも防御特化、何より二人とも神器級アイテムを装備しており、その防御力は人間とはかけ離れている。

 

「コール・グレーター・サンダー!!」

 

 巨大な豪雷が魔王竜を貫く。更に追撃をしかけようとするアインズ。しかしそこでアルベドが彼の前に飛び出した。

 

「アインズ様!!ぐっ……」

 

 それまで静観していたレゾの攻撃。ブラスト・ボムを受け3重装甲に作られた鎧の1層が破壊される。更に、そこに迫った魔王竜の爪により跳ね飛ばされるアルベド。

 

「貴様!!!」

 

 アルベドが続けざまに攻撃を受けたことに対し、切れたアインズは第十位階魔法、リアリティ・スラッシュを使用する。空間ごと切断するその魔法は魔王竜の首を切り裂く。完全に切断するには至らなかったが垂れ下がる首。脅威的なことにその状態で尚、魔王竜には未だ息があった。とは言え死にかけで戦闘を継続できるようにも見えない状態に追い込む。しかしそう思ったことが油断に繋がってしまう。

 

魔竜烈火咆(ガーヴ・フレア)

 

 確かに魔王竜は瀕死だった。しかし垂れ下がったその首をブラインドにしてレゾが接近していたのだ。アインズがそれに気づくのとほぼ同時にレゾが放った魔法が魔王竜の首を貫き、そのまま彼へと迫ったのである。

 

「!!」

 

 魔竜烈火咆(ガーヴ・フレア)は魔王の腹心の力を借りた強力な術である。その上アインズの苦手とする炎属性が含まれていて。

 アインズはマジック・キャスターであり耐久力が低い。神器級装備で身を硬めているとは言え、これを受ければ相当のダメージを受けることを覚悟しなければならない。

 

「グレーター・マジックシールド!!」

 

 しかしアインズも伊達に最強クラスのギルドでギルドマスターを務めていた訳では無い。ロールプレイ重視のスキル振りをしながらゲーム内でも強者の立場にあった彼のゲーム時代のプレイヤースキルはかなり高く、この世界においてもその技量は引き継がれていた。事前に呪文詠唱を短縮などの数種類のバフをかけていたこともあり、ギリギリで防御魔法を発動。魔竜烈火咆(ガーヴ・フレア)を防いでみせる。

 そしてそのタイミングで先程跳ね飛ばされたアルベドが戻ってくる。

 

「よおくもアインズ様をおおおおお!!!」

 

 愛しい相手が殺されかけたことに対し、凄まじい憎悪を身に纏っており、その表情は狂騒に歪んでいた。その憎しみが込められた渾身の一撃。それをレゾは錫杖で受けるが、アルベドの持つハルバードは世界級のアイテムを変形させたもの。その特殊能力を発揮していない状態でも伝説級の装備並の攻撃力と神器級を超える耐久力を持ち合わせている。その切れ味に耐え切れず切断される杖。

 

「ぐっ」

 

 体を捻り直撃は避けるものの、脇腹を切り裂かれるレゾ。そこで風の弾丸を連続で放つ術、ボム・ディ・ウィンの強化版の呪文を放つ。それは殺傷力は然程でも無いが衝撃が大きいため足止めに向いた術の筈であった。

 

「なっ!?」

 

 だがアルベドはそれを力づくで破りレゾに接近、振るわれたハルバードに対し一撃は何とか回避するものの、次の一撃でレゾの左腕が切り落とされる。

 そして今度は首が落とされるようとし、しかしその前にレゾの呪文が完成した。

 

「ダイナスト・ブレス!!」

 

「くっ」

 

 魔王の腹心の力を借りた氷の呪文。かなり高位の魔族にすら有効なこの呪文を力押しで破ることは流石にできず、今度こそ足止めされ、距離を置かれてしまうのだった。

 



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決着

前話についてアインズ様の攻撃はバフ付きで攻撃力を挙げていたと言う内容に訂正しました。


「な、何と言う戦いなんだ」

 

「いや、すげえな」

 

「そうね。強いとは思ったけど予想以上だったわ。大人しく引いといてよかったわね」

 

 アインズ達の戦いに対し、そのレベルの高さに驚きながら見守るリナ達。今の彼女達では3人がかりでも、レゾ、アインズ、アルベド、誰か一人に勝つのが精一杯であろうと判断する。

 

「とにかく、今は下手に巻き込まれないよう静観しましょう」

 

 そう言って静観を続けるリナ達。だが、そこで更に驚くことが起こった。レゾが切られた左腕を拾い、傷口に押し当て何やら呪文を唱えたかと思うと腕がくっついたのだ。おまけに錫杖までも再生する。恐ろしく速い再生と、連続した術の行使、明らかに人間の術の枠を超えた所業である。魔術を良く知るが故に信じられない気持ちでそれを見るリナ達。

 そしてその場に殺気のこもった低い声が響き渡る。

 

「貴方方は予想以上の力の持ち主だったようですね。リナさん達との戦いのために力を温存しておきたかったのですがどうやらそんな余裕は無さそうです」

 

 言葉と共にレゾの雰囲気が変わる。こうまで苦戦することを想定していなかったのだろう。しかしアインズ達の実力が彼を本気にさせたようである。一方、現状優勢なアインズの方も内心ではかなり焦っていた。

 

(やばい、まさか、ここまで強いとは)

 

 レゾに戦いを挑んだ理由、それはナーベラルが傷つけられたことに対する意趣返しと彼は語った。勿論、それは嘘では無い。しかしそれ以外に力試しをしたいと言う意図も含まれていた。

 最初の報告会から更に調査を進めた結果、この世界の人間の強さの上限をある程度予測できる段階にまで調査を進めていた。その予測された強さはユグドラシルのレベルにして70~80程度。これはかなり的を得た予測であり、一部の例外的な存在と技量など単純にユグドラシルのレベルに換算できない部分を除けば、ほぼ正しい考察と言えた。

 そしてアインズはブラスト・ボムの威力や現代の五賢者とまで呼ばれる存在であることから予測の上限を超える可能性もあると判断し、更にプラス10の猶予を持った。つまりレゾの実力を最大でもレベル90程度と予測したのである。この予測通りであればアルベドと2対1で挑み負ける可能性は殆どなく、実戦に慣れる意味で丁度いい相手だと考えたのである。

 しかし実際の強さはレゾの技量の高さもあって自分達と同じレベル100クラスであったため、見積もった余裕は完全に無い状態になってしまっていたのだった。

 

「アルベド一旦距離を取れ!!」

 

 アインズとしては決して油断をしていたつもりはなかった。腕試しも決して愉悦目的では無く、この先、魔族等の強敵との戦いのため、自分や守護者達の力を最大限に引き上げておく意図があってのことである。しかし中途半端に情報を得たがために安堵が気の緩みに、そして侮りに繋がっていたことは否定できない。それに気づいたアインズは反省のみをし、後悔は切り捨てて見せる。

 そして切り札である超位魔法の使用に踏み切ることにした。

 

(とはいえ、街を巻き込むのはまずいだろうからな。ちょっと勿体無いけど、失敗に対する授業料だと思ってこれを使うか)

 

 人間と全面的に敵対するつもりは無いアインズとしては今の段階で街を一つ滅ぼすようなことは避けなければならない。やるのならば目撃者を一人も残さない状況を作らなければいけないが、たった今、レゾの力を見誤ったばかりの彼としてはレゾとの関係から実力者と見られるリナ達と敵対するのは避けたいという気持ちが強かった。

 

「ウィッシュ・アポン・ア・スターよ魔法の効果範囲を限定せよ!!」

 

「むっ?」

 

 アインズが激レアアイテムシューティングスター(流れ星の指輪)を使うとレゾの周りにガラスのような透明な壁が現れる。これにより魔法の効果はその壁に阻まれ魔法の拡散を防ぐ効果がつけられていた。

 

「アルベドよ、超位魔法を使う。時間を稼げ!!」

 

「はい!!アインズ様!!」

 

 超位魔法の詠唱を開始するアインズ。その間に接近し攻撃をしかけるアルベド。ハルバートを振るい、それに対しレゾが錫杖で受ける。レゾの魔力が付与されたことにより先程とは違い切断されない錫杖。

 

「くっ、いえ、構わないわ!!」

 

 攻撃が受け止められたことに歯噛みするアルベド。しかし彼女が主が命ぜられたのは時間稼ぎ。何も問題は無いと意識を切り替える。

 そして技量で上回るレゾと身体能力と武器性能で勝るアルベド。接近戦での実力は拮抗し、しばし打ち合いが続く。

 そしてアインズの詠唱が完了した。

 

「準備ができた。退け、アルベド!!」

 

「はい!!」

 

「超位魔法、フォールンダウン!!」

 

 アルベドが大きく跳び引き、アインズの横に並ぶ。

 それを確認したアインズは超高熱源体を発生させ全てを焼き尽くす超位魔法をシューティングスターによって形勢された結界内で発動させる。極大の魔法は凄まじい発光を放つが、結界のおかげで他を巻き込むことはなく、レゾだけを焼き尽くそうとする。

 

「さて、これで倒せたかどうか」

 

 凝縮された白い光は結界内の全てを隠してしまい、その濃すぎる魔力は魔法による探査すら阻み、中の様子を伺うことはできなかった。

 そして数秒後、光が収まる。

 

「なっ!?」

 

「今のは流石にヒヤリとしましたよ。あなたの術がドラグスレイブを上回っていたらやられていた所でした」

 

 光が収まった後に現れたのは赤い霧に包まれ無傷のレゾの姿であったのだ。この世界の魔王シャブラニグドゥの力を借りた防御呪文、アルベドと交戦しながら呪文を唱えていたレゾはアインズが超位魔法を展開するのと同時にそれを展開することで攻撃を凌いだのである。

 

「しかしこの結界、何の意味があるのかと思いましたが……。なるほど被害を拡散させないためでしたか。あなた方がそのような行動を取るのは意外でしたが。ふむ、これではリナさん達も同じ行動を取りかねませんね。なら……こうしましょう」

 

 レゾは何やら困った顔をし、そして何やら思いついたと言う風な表情をした。そしてその場に居た全員の周りを透明なガラスのような障壁が取り囲む。

 

「ご心配なく、これは先程あなたが被害を拡散させないために張ったものと同じですよ。用途は逆みたいなものですがね」

 

「逆? まさか!!」

 

 レゾの発言、エルフ並に耳の良いリナはそれが聞こえ、その言葉からある可能性に気づいた彼女は叫びをあげる。

 そして、彼女が対処に動こうとするよりも早くレゾが宣言した。

 

「この障壁の外で魔法を発動させます」

 

 そしてその次の瞬間、サイラーグは消滅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「超位魔法……いや、いっそワールドアイテムクラスと言った方がいいかもしれんな」

 

「ま、まさか、こんな。人間がこれ程の力を……」

 

 そのシンボルたる巨大な木『神聖樹(フラグーン)』を残して全てが消し飛んだ周囲を見てアインズが呟き、その隣でアルベドはその表情に驚愕を浮かべていた。

 NPCは基本的に超位魔法は使えない。その意味で超位魔法級の術を使える存在はそれだけで守護者以上の存在とも言える。その事実にあるいは恐怖しているのかもしれない。勿論彼女はアインズのためであれば自身が死ぬこと等、怖くもなんともないと思っている。しかし己の力不足で、アインズの名誉を汚してしまうこと、アインズが傷つくことは彼女にとって耐え難い程恐ろしかった。

 

「さて、決着をつけましょうか。それとも尻尾を巻いて逃げますか?」

 

「お前が強大な力を持っていることは認めよう。だが、私がこの名を背負っている限り簡単に背を向けることは無い」

 

 レゾの挑発的な言葉に対し、退く意志を無いと宣言する。

 攻撃を仕掛けてきたのが相手の方ならば戦略的撤退と言い張ることもできるであろう。しかし、自分達から仕掛けて置きながら逃げる行為はアインズ・ウール・ゴウンの誇りを傷つけることになる。それはアインズにとって決して譲れぬことであった。

 

「行くぞアルベド、我等が偉大さを見せ付けてやるのだ!!」

 

「はいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 自身が恐怖を感じてしまった相手に対してもまるで怯まない。その雄雄しき姿に思わず股の間が濡れてしまう程興奮するアルベド。

 そして戦闘が再開される。突撃するアルベド、彼女に対しアインズが魔法を行使する。

 

「グレーターフルポテンシャル!!」

 

 アインズが使用した上位全能力強化の魔法によって全ての能力が向上するアルベド。強化された速度はまさに神速。それに対し、レゾは目を見開いた。

 

「!!」

 

「!?」

 

「!!」

 

 そう、レゾは文字通り開いたのだ。閉じていた目を。

 そして開かれた瞼の内側には”舌”があった。棘の付いた舌が。その舌がアルベドの手の甲に突き刺さる。それにより僅かに腕の力が緩んだ所で錫杖の一撃。武器が弾き飛ばされる。

 更にそこに迫るブラスト・ボム。

 

「インフィニティウォール!プロテクションエナジー・ファイヤー!」

 

 しかしそれよりも早くアインズによって魔法障壁、アルベドに炎耐性が追加される。

 

「ぺネトレート・アップ!」

 

 抵抗突破力強化、魔法効果と装備で耐えていたアルベドは最後に追加された魔法の効果によって炎の嵐を強引に突っ切り、レゾへと迫った。

 

「!!」

 

 驚愕するレゾの胸をアルベドの手刀が貫く。更に腕を引き抜き、拳を握り締め何度も殴りつける。

 

「がはっ」

 

 魔族と融合されたレゾであるが、純粋な魔族とは違い物理的な攻撃の全てを無効化できる訳では無い。アルベドの腕力で殴られ、ダメージを受けるレゾ。

 

「トリプルマジック、ブーステッドマジック」

 

 その間に魔法の威力を高めるアインズ。

 そしてレゾを葬るための魔法を発動させた。

 

「グラヴィティメイルシュトローム」

 

「ぐぅおおおおおおおおお!!」

 

 高重力の攻撃がレゾを襲う。魔族の魔力抵抗により即死こそしなかったが、全身を砕かれるレゾ。

 

「マキシマムマジック、トゥルーダーク!!」

 

 そして最大限に高められた状態での無属性の闇の魔法が彼を襲い、その体を崩壊させたのであった。




予定より1話伸びましたが次でエピローグとおまけ話を書いて一旦完結です。


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アインズ・ウール・ゴウン

「私は敗れたのですね」

 

「ああ、その通り。私の勝ちだ」

 

 首以外ほとんどが消滅したレゾ。そんな状態にも関わらず、辛うじてではあったが彼は生きていた。そんな彼に対しアルベドがとどめを刺そうとするが、アインズがそれを制止する。

 

「待て、この男には聞きたいことがある。レゾよ、お前は一体何者だ。赤法師レゾとやらは人間だったのだろう。ならば、クロ……いや、コピーであるお前は人間の筈ではないのか? にも関わらずその異形は一体?」

 

「ああ、私があの男のコピーであることは聞いていたのですね。私はレゾに魔族と合成させられたのですよ。その結果私は自我に目覚めました。これが合成によって目覚めた私の自我なのか、あるいは融合させられた魔族の自我なのかは私自身にもわかりませんがね」

 

 レゾの独白、それを聞いてアインズは納得する。

 

「なるほどな。異形は基よりその強さにも理解出来た」

 

「ええ、魔族の魔力と人間の魔道技術を併せ持つ、それが私の力です。あなた方には敵いませんでしたがね。ところで、リナさん、意味の無い問いかけではありますが、私とレゾ、あなたの目から見てどちらが強かったですか?」

 

 そこでレゾは近づいてきたリナに視線を移し問いかける。リナが何と答えたところでそれは真実である保証は無く、自己満足以上のものにはならない。それでも聞かずにはおられなかったのかもしれない。自分がレゾを超えられたのかどうかを。

 そしてその問いかけに対しリナは正直に答えた。

 

「わからないわ。あたし自身、レゾの本気を見たことは無いもの」

 

「?……レゾはあなた方が倒したのでは?」

 

「倒したわ。けど、あたし達が戦ったのは人としてのレゾじゃなかった。レゾの内側には魔王の魂が封印されてたの。封印が解け、魔王に意志を飲まれたレゾをあたし達が倒したわ」

 

(えっ、この人達、魔王倒したの!?)

 

 リナの答えを聞いて内心で驚愕するアインズ。魔王と言えばファンタジーのボス格代表である。当然、とてつもなく強い存在であると連想する。

 

(この世界のレベルの高さからしたら、魔王なんてワールドエネミークラス、下手すりゃそれ以上なんじゃあ……)

 

 ユグドラシルでワールドエネミーを3人で倒したなんて聞けばどんな化け物プレイヤーだと恐れられるレベルである。レゾが人と魔族の融合体と聞いて、彼はあくまで例外的存在と思い、人間の強さを評価を戦闘前と同じ水準に下げていたアインズは再びその評価を上昇させる。まあ、この評価は勘違いとも正しいとも言えるのだが。

 

「まさか、レゾに魔王の魂が。ふふっ、しかしそれでは最初から私は無意味なことをしていたようですね。こんな愚か者では負けるのも当……然……」

 

 そこで力尽きたかのように言葉が途切れる。レゾの最期であった。

 

「それではナザリックに戻るぞアルベド」

 

「はい」

 

 レゾの躯に背を向けたアインズは最後にリナに声をかけた。

 

「それではリナさん、機会があればまた会おうではないか」

 

「ええ、アインズさん。その時は敵じゃないことを祈るわ」

 

「ふふっ、そうだな」

 

 軽く言葉をかわす二人。

 不思議と通じるものを感じ、そして別れるのであった。

 

 

 

 

 

 レゾとの戦いから数日後、アインズはNPC達を集め、玉座に腰掛けていた。

 

「皆、よく集まってくれた。この世界に来て以来、私はお前達に命じ、この世界の情報を集めさせてきた。そしてその情報を元に私はこの世界での進むべき方向性を定めることができた。それを今から告げよう」

 

 アインズの宣言にNPC達はどのような言葉が告げられるのか期待に胸を躍らせる。

 一方のアインズは自分の発言でどんな反応が返ってくるか不安で一杯だった。

 

(言うしかない。大丈夫、何日も考えを練り上げたんだ)

 

 そして軽く息を吸い、覚悟を決めると自らの意志を告げる。

 

「私は魔族を敵として定めた。奴等は決して相容れぬ存在だ。何としてでも滅ぼす」

 

「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」

 

 歓声が起こる。その命令は彼等にとってまさに誉れを得られる物だったからだ。しかし続く言葉に彼等は僅かに戸惑いを覚えた。

 

「そしてそのために他の勢力とは協力体勢を取る」

 

「「「!?」」」

 

 その戸惑いはアインズにとって予想通りのものであった。

 そして、アインズに対し絶対の忠誠を誓う彼等が内心でどのような不満を持とうとも決してそれを明かさないことも分かっていた。

 しかしここで内に溜め込ませるのは先のことを考えればマイナス要素であると判断したアインズは彼等が内心を吐き出せるように誘導を仕掛けた。

 

「私の言葉に対し、こう思っている者も居るだろう。他の生物と協力等する必要等あるのか?自分達だけで十分ではないかと」

 

「い、いえ、そんなことは。至高の御方の判断に異論を持つ等ありえません」

 

 アウラがアインズの言葉を否定する。しかし彼等の態度から内心では疑問を持っていることが明らかである。

 

「いや、いいのだ。確かに、魔族への対抗手段さえ確立できれば、後は我等だけで勝利できるかもしれん」

 

(勝利できないかもしれないから、どの道他の勢力と組んで置きたいんだけどね)

 

 本音と建前で違う言葉を紡ぐアインズ。

 そしてNPC達の疑問を解消させるために言葉を続ける。

 

「だが、魔族の強大さは直接戦った私自身が誰よりも理解している。無論、我等の方が劣るとまでは思っていない。しかし全力を傾けなければ恐らくは勝てぬであろう。そして奴等に全力を向けている最中、他の勢力が我等に攻撃を仕掛けてきたらどうなる?」

 

「!!」

 

「ソ、ソレハ……」

 

 アインズの言葉でNPC達は理解する。伏兵の奇襲と言うのは恐ろしいものである。

 それこそ多少の力の差など簡単にひっくり返す程に。ゲーム時代とは言え、彼等も戦いを知る身。アインズの言いたいことは直ぐに理解ができた。

 

「この世界の魔族以外の強者、ドラゴン、エルフ、そして一部の人間は我等には劣れども油断はできない力を持っている。特に人間は欲深い。我等が消耗したタイミングを狙って、漁夫の利を得ようとしてくるかもしれん」

 

 他者を説得する時の手法として、相手が納得しやすい事象を混ぜ、思考を逸らすと言うものがある。ゲーム時代に1500人のプレイヤーが襲撃をかけてきたことを連想しやすく、又人間蔑視の傾向が強いNPC達に対し、”人間は強い”ではなく、”人間は欲深い”と言う点を協調することで彼等が自然と納得するようにという策であった。

 

「かといって、先に人間達を支配しようとしても今度は逆に魔族の方が横槍を入れてくる可能性がある。我等の強大さを恐れてな」

 

 そして今度は”ナザリックは強大”と言うことを強調し、思考誘導を仕掛けた。その策はかなり嵌り大部分のメンバーは騙されているようだった。策に気づいているのはアルベドとデミウルゴスの二人だけである。しかしアルベドはレゾとの戦いもあって、他のメンバーよりも慢心が少なく、それ故に味方を増やすことの意義が理解でき、デミウルゴスの方は流石は至高の御方、見事な権謀術数とか考えているので問題はなかった。

 NPC達の反応を見て上手く行っていると判断したアインズはもう一つ大きな宣言をすることを決意した。

 

「どうやら皆、納得してくれたようだな。それではこの計画を実行するに当たって一つ大事なことを告げる。私は王になろうと思う」

 

「王……でありんすか? アインズ様はもとより私達にとっての王、いえ神のような存在でありんす!!」

 

「はい、アインズ様は僕達の絶対的な主です!!」

 

 自分達の忠誠を示すNPC達。アインズはその反応に頷き。その意図を告げる。

 

「皆が私のことをそのように思っていてくれているのは理解している。だが、これは対外的なものなのだ。肩書きと言うのは外部の人間と接する時に大きな効果を発揮する。実質的な立場は何も変わらずとも王を名乗るだけで、他国の王との交渉はスムーズに行くようになるであろう。勿論、他に幾つもの下準備は必要であるがな」

 

「なるほど。それではアインズ様、今後の方針としては他国との連携の構築、ナザリックの戦力の増強、これまで通り情報収集。こういった形でよろしいでしょうか?」

 

(えっ、戦力の増強?)

 

 他国との連携と情報収集は考えていたが、戦力の増強は想定に入れていなかったのでデミウルゴスの発言に戸惑うアインズ。どういう意味か聞きたいが、立場上聞く訳には行かない。困っているところで、上手い具合に彼に代わってセバスが問いかけをしてくれる。

 

「戦力の増強とはどういうことですか? アインズ様はそのような発言はされていなかったと思うのですが。勿論、魔族を強敵とアインズ様が判断された以上、戦力を増やせるのならばそれにこしたことは無いと言うのは私にもわかりますが」

 

「ええ、私もアインズ様の言葉の裏に隠された意図に気づいた時は改めて感服させられましたよ。アインズ様は対外との関係のために王を名乗るとおっしゃられた。それは何も外交のためだけに言葉を飾る訳では無い。アインズ様は忠誠を誓うものであればこの地に住むものを国民として受け入れようと考えておられるのだよ。そしてナザリックをこの地で最も偉大な王国にするつもりなのだ」

 

 とんでもないことを言い出すデミウルゴス。アインズは慌てて否定をしようとするが、残念ながら既に手遅れだった。

 

「オ、オオオ」

 

「す、凄いです」

 

「流石はアインズ様、単に力で服従させるのではなく、威光によってその偉大さを示そうとしていらっしゃるのでありんすね」

 

 デミウルゴスの超解釈によって想定外の方向に進み、興奮するNPC達。ナザリックが最も偉大な国となり、その支配者であるアインズがその国の王になる。それは彼を至高とするNPC達にとって変えようの無い興奮であり、理想であった。

 そんな風に盛り上がってしまった配下達に対し、偉大な支配者を演じるアインズとしては今更それは違うとは言えないのであった。

 

「そ、その通りだ。よくぞ私の考えを理解したデミウルゴスよ」

 

「ありがとうございます」

 

 仕方無く自分の考えどおりであったことにするアインズと礼をするデミウルゴス。ちなみに横では、『それでは私は王妃』と発情するアルベドとそれに文句をつけるシャルティアの姿がある。

 

(まあ、しょうがない。大筋は思い通りにいったんだし、こうなったら多少のことは目を瞑るしかない)

 

「私はここに改めて宣言する。ナザリック、いやアインズ・ウール・ゴウンを最も強大かつ最も偉大な国にすることを。これよりアインズ・ウール・ゴウンは個人の名ではなく国の名、そして王の称号とする。私はこれよりアインズ・ウール・ゴウン王だ」

 

「アインズ・ウール・ゴウン王ばんざーい!!」

 

「アインズ様ばんざーい」

 

 諦めて流れをそのまますすめることにしたアインズと喝采をあげるNPC達。

 こうしてこの日、後に異形種の王、不死王等と呼ばれるアインズ・ウール・ゴウン王が誕生した。彼の名はデモン・スレイヤーズの名で知られるリナ・インバース、ガウリイ・ガブリエフ両名と並び、この時代を代表する偉人として歴史に知られることとなる。




これにて完結です。
この後はアインズ様建国記が始まるのかと思いきや、大部分をNPCに丸投げしてアインズ様は冒険者になります。
そして趣味(未知への冒険)と実益(有力な人材のスカウトと情報収集、アイテム収集)と願望(友達欲しい、仲間欲しい)を兼ねて諸国漫遊をする『ナザリックinスレイヤーズすぺしゃる』が始まります。
その辺はまた何時か書きたいです。
それではここまで読んでいただきありがとうございました。

PS.近日中におまけと設定集のみ追加します。


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おまけ(ショートストーリーと強さ設定)

半分ギャグだと思って広い心で見てください


<謎のカリスマ>

 

 

「しかしデミウルゴスよ。お前の優秀さは知っていたつもりだったが、よくこの短期間でこれだけの情報を得ることができたな。特にドラゴンの強さ等大変だったのではないか?」

 

 デミウルゴスの調査結果に対し、感嘆を超え少し不思議だと言うように言うアインズ。それに対し、デミウルゴスは何か失敗した時のような顔をした。

 

「これは申し訳ありません。伝え忘れておりました。実はこの地の住人より協力者をみつけまして」

 

「ほう、協力者か。どのような人物なのだ?」

 

「はい、実は人間の魔道士なのですが。これがまた人間にしてはかなり見所のある女性でして」

 

「ほう」

 

 返ってきた答えに対しアインズは驚いた声を漏らした。

 この世界の住人の中からに協力者をつくることには問題無い。寧ろアインズ自身が推奨したことである。しかしナザリックのメンバーは基本的に排他的な性質を持っている。仲間内で結束が強く、アインズ等ギルドプレイヤー達を至高の存在と呼ぶ一方、外部の存在、特に人間を蔑視する傾向にある。デミウルゴスはその知性の高さ故、人間であっても有用な人物であれば表面的に友好を装って接することはできるかもしれないが、どうもそう言った感じではなく心から評価しているようだった。

 

「お前がそれほどに評価する人物とは興味があるな。どのような人物なのだ?」

 

「ええ、私も気になりますわ」

 

「まさかデミウルゴスが人間に篭絡されたとも思えないでありんすが、それ程に評価する人間が居るとはいささか信じ難い話でありんす」

 

 純粋に興味を持つアインズ。それに対し、女性陣二人が懐疑的な言葉を放つ。他の守護者達も言葉にこそ出さないが疑わしげな表情だった。

 

「ふふ、あなた方も彼女を知れば考えを変えますよ。アインズ様、ここに映像データがあります。この世界の魔法のデータを得るために件の魔道士に協力いただき撮影したものですが、よろしければ」

 

「ああ、見せてもらおう」

 

 アインズが頷き、デミウルゴスが準備、皆が画面に注視する。

 そして上映が始まった。

 

「ほーっほっほっほっ!!!!」

 

 それと同時にナザリックに響き渡ったのは甲高い笑い声。

 そしてその声の発生源は映像の中、やたらと露出度が高く、髑髏のアクセサリーと棘だらけのショルダーアーマーをつけたビギニアーマー風の黒いコスチュームを身につけた、200年以上前のTV番組にでてきそうな悪の魔道士的な姿をした女性だった。

 

「えっ、あれ?これが見所のある人間?」

 

 混乱の余り、素の鈴木悟がでてしまうアインズ。しかし守護者達がそれに気づくことはなかった。何故ならば、全員映像の中の女性に目を捕らわれていたからである。

 

「くっ、凄い美人ね」

 

「あの服装素晴らしいセンスでありんす。しかも着ている人物がそれにおいていかれず見事に調和している。死体以外をこれ程美しいと思ったことは初めてかもしれやせん」

 

「美しいだけではありませんな。この高貴な笑い声、全身からにじみ出る自信とカリスマ。名家の出なのでありましょうか?」

 

「うわーかっこいい」

 

「アインズ様の言うように人間にも見るべき存在が居るのね」

 

「全身隙ダラケ二見エルノニ何故カ倒セル気ガシナイ不思議ダ」

 

「ふふっ、そうでしょう。それに彼女は魔道士としてもかなり優秀でしてね。位階魔法にして10位レベルのものに相当する術を扱えるのですよ」

 

 そして全員がびっくりする位、高評価だった。多分、至高の四十一人と仲間である階層守護者達の次にくる位には高く評価してる。

 

(えっ、嘘!?)

 

 NPC達の反応が信じられない。しかし彼等は冗談を言っているようにはまるで見えなかった。

 

「ねえ、アインズ様、かっこいいですよね」

 

「う、うむ、そうだな」

 

 きらきらした瞳で言うマーレの言葉を否定することはアインズにはできなかった。

 その後、この世界の魔法と言う貴重な映像も頭に入らず、解散した後も笑い声が頭から離れなかった。そのため数日の間、眠りもしないのに悪夢にうなされる気分を味わうことになるのであった。

 

 

 

 

 

 

<300年前に起こった出来事>

 

 

 ナザリックがこの世界に転移する300年前、8人のユグドラシルプレーヤーがこの世界へと転移した。当時、人間達の間では魔道が今ほど発達しておらずゲーム内の力をそのまま引き継いだ彼等はこの世界において強者として君臨することができた。

 しかし一部の能力が使用不能になっていたり、弱体化しており、またこの時代には既にドラグスレイブと言う超位魔法に匹敵する魔法が存在し、それを扱える魔道士がいるなど他の強者も存在したため、完全に好き勝手できる訳ではなかった。強欲な彼等はその状態に不満を持ったのである。

 そして彼等は考えた。この世界を自分達の都合のよいように変えようと。

 

「運営よ。この世界をユグドラシルでの力が完全に再現できるものしろ!!」

 

 彼等が使用したのはワールドアイテム、その中でも特に強い力を持った二十と呼ばれる使い捨てアイテムの一つ「永遠の蛇の腕輪(ウロボロス)」運営に頼み、ゲームの仕様そのものを変化させてしまう凶悪なアイテムである。

 彼等はそのアイテムを使うことでこの世界を歪めようとしたのだ。

 アイテムが発動、腕輪が発光し膨れ上がるようにおおきくなる。

 そして腕輪は人間とサイズの変わらない金髪の女性の姿へと変わった

 

「あっ、あんたが運営なのか!? よ、よし、さっきいった願いを……」

 

 八人の一人がその女性に対し、命令をしようとする。それに対し、女性はにっこりと笑って”釘の刺さったバット”をフルスイングした。

 

「へっ?」

 

 そしてその釘バットによって神器級の兜によって守られていた筈の男の頭は潰れたトマトのようになる。呆気に取られる残りの7人。

 そして女性は漆黒の虚無のオーラを撒き散らし言った。

 

「人ん家(せかい)を汚すんじゃないわよ!!」

 

 その後、彼等がどうなったかは謎である。しかし少なくとも歴史の中に彼等の存在は記載されていない。

 

 

※オーバーロードの世界は八欲王が使用したワールドアイテムにより世界の法則を歪められたのではないかと言う説があり、この話はその説をベースに何故、スレイヤーズ世界では原作と違い、一部の能力が上手く作用しない理由を説明するための物です。

 ところで八欲王の扱いについて、このクロスにおいてオーバーロード側とスレイヤーズ側、どちらかが踏み台にならないようバランスには気をつけていますが、流石にL様は別格と言うことにしても大丈夫ですよね?(ちなみにこの話のL様はワールドアイテムを媒体にしてるため、リナの体を依代にした時の10倍以上強いです)

 

 

 

 

 

<強さ設定>

 

 

 スレイヤーズ世界の住人の強さについてですが、レッサー・デーモンやブラス・デーモンとデス・ナイトが同じ位の強さと考えると個人的にかなりしっくり来たので、レッサー・デーモンがレベル30程度、ブラス・デーモンがレベル35程度と設定し、これを基準に強さを定めました。

 レッサー・デーモンについてはよく、リナ達にとっては雑魚では並の剣士や魔道士にとっては命がけと言った説明がよくでてきます。これは言い換えると並の剣士や魔道士でも命をかければレッサー・デーモンを倒せてもおかしくないと考えられますので、レベル25~レベル40で並(そこらの兵士とかよりは強い)レベル40~レベル60で一流、レベル60~レベル80で超一流って感じに決めました。

 この作品の時間軸の頃のリナやガウリイは70前後、二部だと終盤で75位な感じです。作中でも触れているように技量はレベル化できないのであくまでざっくりとした目安ですが。

 ちなみに姉ちゃんは100オーバーとだけ言っておきます。



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ナザリックinスレイヤーズすぺしゃる
セイルーンに現れた悪魔(前編)


本編とはちょっと雰囲気が変わるかもしれません。
半分ギャグ、半分シリアスだと思って読んでください。


「なるほど、これはかなり厄介ですね。シャルティア、あなたはどうですか?」

 

「嫌な感じでありんす。力が上手く振るえやせん」

 

 デミウルゴスの問いに対し、不快そうな表情で答えるシャルティア。

 デミウルゴスとシャルティア、二人は今、セイルーン王国の首都を訪れていた。二人がこの街を訪れたのにはある目的がある。それはセバスチャンから、この街の有る特色を聞いたからだ。

 その特色とは街全体に巨大な結界が張られて居ることである。そしてその結界は白魔法など聖に属する力を増幅し、反対に闇や魔の力を抑圧する効力を持っていた。その性質はナザリックにとっては相性最悪で、鬼門の地と呼べる。実際、プレアデスの何人かはその影響を受けているとのことだった。

 

「あなたが影響を受けるということは同じ不死者(アンデッド)であるアインズ様も影響を受ける可能性が高いですね。具体的にどの程度力が落ちているかわかりますか?」

 

「そうでありんすね。レベルにして80といったところでしょうか?」

 

「なるほど。私と同じ位ですね。私の場合は恐らく使う魔法も影響を受けるでしょうが・・・・・・」

 

 セイルーンの結界は人間の魔道士にも影響する。黒魔法の威力が低下し、一部については発動自体が出来なくなるのだ。

 つまり、種族が”魔”に属し、かつ闇属性や死属性と言った魔法を使うものは二重のデメリットを受けることになるのだ。ナザリックでこの条件に該当する存在としては、アインズとデミウルゴスがあげられる。

 デミウルゴスがシャルティアは連れてきたのは、元々一緒に行動していたことも理由であるが、不死者が影響を受けるのかを確認することが一番の目的であった。主であるアインズにとってこの街がどれほど危険であるか確かめる必要があると考えたのだ。

 

「これほど弱体化するとは、まずいですね」

 

 正確な判断は色々と検証してからでないと解らないが、今の自分の総合的戦闘力はレベル70程度にまで落ちているとデミウルゴスは推測する。

 それはこの世界の人間の強者と同程度。大国になればまず間違い無く、一人は存在するレベルの強さである。

 

(この国と国交を持つことになったとしても、アインズ様がこの街を訪れる事態はお止めした方がよさそうですね)

 

 人間側が暗殺をしかけて来た場合、1対1の状況に持ち込まれればアインズが確実に勝てる保証は無い。勿論、自分達が彼を守るつもりではあるが、分断のリスクも考慮しなくてはならないとデミウルゴスは考える。

 

(あの偉大なるお方であれば、例え弱体化しようと簡単に討ち取られるなどあり得ない・・・・・・。そう思いはしますが、万が一がある。相手側に対象を転移させる技術でもあれば、それだけでまずいことになる。リスクを下げるためにも情報を集める必要がありますね)

 

 結界の詳細な効果、結界内で使用不能になる魔法、結界の効果を防ぐ方法は無いか、結界の影響を受けにくい種族は何か、この世界にどんな技術があるのか、早急に知るべきことはいくらでもあった。

 どれほどの知恵者であっても情報が無い状態ではその力を発揮することは難しい。なんせ可能性だけならば無限の選択肢があるのだ。あり得る可能性とそうで無いものを選別せず、無限に近い選択肢の中から、正解を選ぶこと等、どれほどの知恵があっても不可能である。

 考えれば考える程デミウルゴスはこの世界における自分の無知に恐怖する。

 

(思えばあの方はこの世界に来た直後より、情報を集めようとしていた)

 

 デミウルゴスは天才的な頭脳の持ち主だ。しかしそれはそう設定されたからである。自我を持った直後の彼は、ユグドラシルという閉ざされた世界での知識しか持っていない、いわば世間知らずの頭でっかちのような状態であった。それ故に情報の重要性を真の意味で理解できてはいなかったのだ。

 一方のアインズは一人の人間として30年近くを生きてきていたのでその重要性を肌で知っていた。それ故に情報を集めることを第一優先とした。それだけの違いなのだが、彼はその差を拡大解釈する。

 

(やはり私などあのお方の足下にも及ばないですね)

 

 こうして、勘違いを深めるデミウルゴス。

 しかし反省ばかりはしていられない。今、やるべきことは調査で有ると、方針の決まったデミウルゴスは自身の目的をシャルティアに伝え、一度別行動を取ることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

「そういう訳ですので、私はこれから色々と調査をします。あなたはセバスやプレアデスの構えた拠点で待っていてもらっても構いませんし、街を見てもらっても大丈夫です。ただし、アインズ様の指示通り、自衛以外で人間に危害を加えることは禁止するよう注意してください」

 

「わかったでありんす。デミウルゴスもアインズ様の身を守るために、頑張ってきて欲しいでありんす」

 

 デミウルゴスから一通りの説明を聞いたシャルティア。彼の話にはよく理解できない部分もあったが、アインズの身を守るために必要なことだと言うことは彼女にも理解できた。彼の身の安全はナザリックの全員にとって共通した最重要事項である。異論など当然ある筈もなく、また自分が役立てる場面もなさそうなので、快くデミウルゴスを送り出す。

 そうして一人残された彼女はこれから自分がどうすべきかを考え始めた。

 

「セバスの所へ行ってもいいでありんすが・・・・・・」

 

 選択肢の一つとして示されたようにセバスチャン達の構えた拠点に行っても良いが、そこでやることがない。ただ待っているのも暇で有る。

 アインズの役に立つため、自分でも独自に情報を集めようかとも考えるが、彼女は自分があまり頭が良くないと言う自覚があった。自分一人では重要な情報とそうでない情報を正しく見極められると言う自信が無い。どうしようかと悩む彼女はしかしそこで一つのひらめきを思いつく。

 

「そういえば、この街は珍しいアイテムが売られていると言う話でありんしたね」

 

 セイルーンは魔法が盛んな都市だ。当然、それに関わるアイテムも多く流通している。

 彼女達からすればこの世界のアイテムは異世界のアイテム、現状ではどれ一つとっても貴重品であるし、中には役に立つものもあるかもしれない。そう言ったものを見つけてお土産として持ち帰れば喜ばれるだろうと彼女は考えたのだ。そして幸いなことに金はある。活動用の資金としてこの世界でデミウルゴスが入手したものの一部を受け取っていたのだ。

 

「そうと決まれば行くでありんす」

 

 目的の決まったシャルティアはマジックアイテムを売っている店を探し始める。しかしここで問題が起きた。彼女の目にとまるのは生活雑貨や食料品などを売る一般的な店ばかりで、マジックアイテムを売る店が見つからないのだ。

 実はそう言った専門的な品物はちょっと裏街道と言うか、目立たない場所にある店で売られていることがが多かった。勿論、違法の店では無いので、そこまで複雑な場所にある訳ではないのだが、土地勘もなく、店を探す際のポイントも知らない彼女はなかなかその場所を見つけられなかったのだ。

 

「仕方ない、誰かに聞くでありんす」

 

 数十分程、店を探し、自力での捜索を諦めた彼女はちょうどその時、人気の無い少し裏道の方に入り込んでいた。そしてそこで冒険者ぽい格好をした男を見つける。その男はがっしりとした体格だが、マジックアイテムぽいものも持っており、魔法と剣の両方を使うタイプの戦士のようであった。

 その風貌から如何にも知っていそうだと目星はつけ、タイミングが良いと男に問いかける。

 

「そこの男、マジックアイテムを売ってる店を教えるでありんす」

 

「あーん、いきなりなんだよ。おい、嬢ちゃん、人に物を訪ねる時はもっと、礼儀を払うもんだぜ。まっ、そんな変な服着てる奴に常識を求める方が間違っているかもしんねえがな」

 

(なっ、変な服!!?)

 

 横柄なシャルティアの言葉に対し、不快感を感じた男は嫌みな言葉を返す。

 それはシャルティアの逆鱗に触れる言葉だった。彼女の服はその創造主であるペロロンチーノによって与えられたものである。そのデザインを馬鹿にするなど彼女にとって最大限に近い侮辱であった。通常であれば、この時点で男は彼女に惨殺されていただろう。

 しかし、主の命により人間に危害を加えることを禁止されていた彼女は必死にその怒りを抑え、常識的な行動を取ることにした。

 

「ふん!!」

 

 愛用の武器で有るスポイトランスを振るうシャルティア。強烈なスイングが叩きつけられ、男はピンボールのような勢いで弾き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられた。

 

「うげっ」

 

 この世界では挨拶代わりに殺さない程度の攻撃魔法を叩きこんだり、死なない程度の攻撃を加えるような種類の人間が存在する。この世界に来てから、シャルティアは偶然にもそういう人間と連続して遭遇していた。その結果、失礼な言動を取るような相手に対し、武器をスイングして吹っ飛ばす程度なら、十分常識的な行動であると少々間違った常識を得ていた。

 

「て、てめえ、なにしやがる」

 

 こう言ったすれ違いによって弾き飛ばされた男。しかしなかなかに頑丈であったらしく、文句を言いながらも立ち上がってきた。それを見て、シャルティアは再度槍を構えて睨み付ける。

 

「ちょっと手加減しすぎたみたいでありんすね」

 

 それを見て男はびくっと震えた。

 どうやら実力の差が理解できたようである。立場的にはどちらかと言えば男が被害者であるが、この状況でそんなものを主張してもどうにもならない。

 争っても痛い目を見るだけとあると、彼は態度を平伏に変えた。

 

「まっ、待った。マジックアイテムの手に入る店だったな。教えるから勘弁してくれ。なんなら、良い情報もつける」

 

「良い情報? 内容次第でありんすね」

 

 服従の意思を示した男に少し溜飲をさげ、そしてその言葉に興味を覚えたシャルティアは一旦、攻撃を止める。それを見てほっとした様子の男は彼女の気が変わる前にと情報について話し始めた。

 

「あ、ああ。あんた位に腕の立つ奴なら、いい儲け話になるはずだ。実はな、最近、冒険者や兵士、とにかく戦う職業の奴らばかりを狙った辻斬りが街の外れに出没してるらしい。辻斬りと言っても命までは取られねえ。代わりに武器を奪われる。その男が奪った中には魔力剣なんかも含まれてるって話だ」

 

「ふむ、つまりその男を返り討ちにすれば、溜め込んだ武器が手に入ると言う訳でありんすね」

 

「ああそうだ。中にはかなりの業物も含まれているって話だぜ」

 

 こうして語られた男の話は、シャルティアにとって興味をかなりひくものだった。この世界の魔力剣であれば、魔族にも通じると言う話を聞いている。それは今、アインズが最も求める品で有り、持ち帰れば喜ばれることになるのは間違いない。

 

「いいでしょう。それについて詳しく教えれば、先ほどの言葉は水に流してやるでありんす」

 

 男の話にアインズに褒められる未来を夢想したシャルティアは、彼女にしては寛大に男を許すことにした。

 そして更に詳しい話を聞く。

 その日の夜、彼女はスポイトランスのみを装備し、教えられた場所で街中を歩き回り、謎の辻斬りが食らいつくのを待つのだった。




現在連載中の作品の方がスランプなので、気分転換にこちらの続きを書いてみました。
後編は今週中に投稿したいと思っています。


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セイルーンに現れた悪魔(後編)

「なかなか現れないでありんすねえ」

 

 教えられた辺りを1時間程歩き回っているが、件の辻斬りは一行にその姿を見せない。それどころか、誰の姿も見えない。

 

「いい加減でてきて欲しいでありんす」

 

 無人の街を歩きながら、もしかしたらデマを掴まされたのではないか、そう思い始めるシャルティア。もしそうだとしたら、嘘情報を語った男に対し、どう制裁を与えるべきか、頭の中で色々とその手段を考え始める。そうやって暇つぶしをしながら、更に1時間程が経過、そこでようやく状況に変化が訪れる。彼女の耳は自分に近づいて来る足音を捕らえた。それは普通の足音では無かった。足音に混じって金属がぶつかる音が混じっている。全身金属鎧を身にまとったものが歩くと聞こえる、そんな音だ。

 

「随分、待たせてくれたでありんすね。この礼はたっぷりしないと」

 

 待ち人が現れたことを予測し、舌舐めずりをする。

 その期待通り、闇夜の中から全身漆黒の鎧に身をまとい、腰に2本の剣を下げた男が現れた。

 そして、その内の一本を抜き放ち、シャルティアに向かって突きつけて来たのだ。

 

「見た目は可憐な少女だが、大仰な武器を持っているな。立ち会ってもらおう。俺を打ち負かしたなら伝説の魔力剣をくれてやる。代わりに俺が勝ったときは戦利品として貴様の武器をもらう」

 

 シャルティアに向かって一方的な宣告をしてくる漆黒の鎧を身にまとった男。それに対し、シャルティアはスポイトランスを構え、臨戦態勢に移行する。

 

「武器を持った相手を狙ってくる。情報通り、あの男は嘘をついて居なかったようでありんすね」

 

 そして彼女は自分の狙い通りに進んだ展開であるにも関わらず、その表情に怒気を浮かべた。

 

「この武器はペロロンチーノ様より頂いた大切な物。お前ごときにくれてやるわきゃねえだろうが!!!」

 

 怒声をあげ、それと共に先手を取ったシャルティア。高速の突撃を仕掛ける。

 そして愉悦と鬼気が浮かんだ表情で鋭い突きを繰り出した。

 

「はっ!!」

 

 それに対し男は対応する。剣をぶつけ、彼女の一撃を弾いたのだ。

 

「!!」

 

 一応殺さないよう手加減された一撃ではあったが、それでも相応の力が込められていたものである。それが弾かれたことに驚きながらもう一撃を放つシャルティア。今度は相手の力を見定めると言う意図を込めて。そしてその一撃はまたもや、弾かれる。

 そこで彼女は一旦距離を置くことにした。

 

(どうやら、人間にしてはかなりの相手みたいね)

 

 自分の攻撃を二度防いで見せた相手に対し、シャルティアは男の身体能力をレベル70程度と推測する。結界によって弱体化している今の彼女にとってはなかなか厄介な相手だ。とはいえ、決して敵わない相手では無い。だが慎重に戦う必要はあるだろうと考え、彼女は頭の中で自分の手札を整理することにした。

 

(時間逆行や加速はもう使えない。それに眷属を召喚するものや目立ち過ぎるスキルを街中で使うのは多分、まずいでありんすね)

 

 彼女に限らず、時間操作系のスキルはこの世界に来てから一切が使えなくなっていた。それはこの世界の法則では時間の流れと言ったものが強固に固定されたものだからである。強大な力を持つ魔族ですら、これを乱すことは原則不可能。これを可能にしようとするなら、超位魔法でも力不足で最低でもワールドアイテムクラスの力が必要となる。

 

(後は、鎧も今からでは使えないでありんすね)

 

 今の彼女は鎧を装備していない。相手をおびき寄せるのにはその方がいいかと思ったからだ。

 ゲームの世界では鎧はデータであったが、この世界では物体だ。瞬時に装備の変更と言った便利なことはできない。しかし所謂アイテムボックス的なものがまでも使えない訳では無い。この世界の法則に反しない限りでゲームでの能力は再現されているらしく、亜空間の穴からアイテムを取り出すと言ったことに関してはアインズやNPCは実行できるようになっていた。

 これは魔族も似たようなことができるため、世界の法則には反していなかったのだ。ちなみにこれが可能なのはゲーム中でアイテムを大量に所持できるように設定されていたものに限るようで、召還したモンスターなどはこの能力は使えなかった。

 

(多少不利ではありんすが・・・・・・)

 

 どの程度の質かはわからないが、全身に鎧を着ている相手に対してこちらは無防備。不利ではあるが、その程度で負ける訳も無いと言う自信をシャルティアは持ち合わせていた。

 

(何も問題ないでありんす!!)

 

 考えをまとめ終え、再び高速の突撃を仕掛ける。先ほどと違うのはそこで繰り出すのが手加減抜きの全力の突きであること。それに対して、漆黒の鎧をまとった男は剣を縦にし、その腹を正面に向けることで盾として機能させ防ごうとする。

 

「そんなもの貫いてみせるでありんす!!」

 

 シャルティアのスポイトランスは神器級、並の武器ならば破壊してそのまま相手を貫ける。仮に男の武器がそれなりのもので一撃に耐え得たとしても男の身体能力はレベル70程度、自分の全力の突きならば使い手の男の方が耐えきれず武器を弾いてしまうだろう。そう計算しての一撃であった。

 しかし互いの武器が実際に接触した瞬間、彼女は予想していたよりも遙かに軽い手応えを感じる。

 

「!?」

 

 それは男がシャルティアの一撃を真っ向から受けず、受け流したことによって発生した事象だった。接触の瞬間、僅かに角度を傾ける。それだけで武器への負担も、自身への負担も軽減したのである。それは身体能力だけでなく技量もまた卓越したものを男は持っているということだった。

 突きの軌道が横に反らされたことにより、体勢を崩すシャルティア。そこで男は剣を防具から武器へと役割を変え、斬りかかる。

 

「ぐっ!!」

 

 だが、シャルティアも負けては居ない。超反応で体勢を立て直し、男の放った横凪の一撃をスポイントランスで受けとめてみせた。

 

「!!」

 

 今度は男の方が驚愕。完全に捕らえたと思った一撃を防がれたことで、一旦距離を取る。同時にシャルティアも間合いを空けた。

 

「凄まじい使い手だな。これならば俺の願いがかないそうだ。貴様を倒し、俺は取り戻す!!」

 

 シャルティアの実力に感嘆したらしき男は、何やら意味深な発言をする。シャルティアはそんな男の発言をガン無視しながら、人間相手に苦戦する事態に苛立っていた。

 

(くっ、ゴミ虫の分際で粘るでありんすね。私はさっさと魔力剣を手に入れてアインズ様に褒めていただきたいのに!!)

 

 そこであまり我慢強く無いシャルティアは出し惜しみをせず切り札の一つを切ることを決めた。死せる勇者の魂(エインヘリヤル)、自身の分身を産み出すスキルを使用する。

 

「むっ、まさか魔道まで使うとはな」

 

 目の前で相手が二人に増えたことで男は驚く。魔法に詳しく無いのだろう。男は本来この世界に存在しないシャルティアの技に対し、その特殊性に気づかなかった。

 そして焦っても居なかった。分身を産み出すとは言え、それは幻影か精々が劣化したコピーに過ぎないと踏んだのである。だが、これはそんな甘いスキルではなかった。

 

「切り刻んでやるでありんす」

 

 本体と分身が同時に襲撃。そのスピードは全くの同等。そう恐ろしいことに、このスキルは本体と同じ能力の分身を産み出すのだ。一部のスキルや魔法こそ使用できないが、分身のパワーやスピード、技量は完全にコピーをする。

 先ほどまでの攻防が証明するように、シャルティアと漆黒の鎧を着た男の実力は1対1の白兵戦に限ってはほぼ互角。それが2対1になれば、当然圧倒的な優劣が生まれる。次々と攻撃を仕掛けるシャルティアに対し、男は直ぐに防戦一方に追い込まれた。その状態でしばらく凌ぐものの、直ぐに限界が訪れる。

 

「てやっ!!」

 

 本体のシャルティアが剣を弾き飛ばし、そこで分身のシャルティアが腹部に一撃を放つ。その一撃は鎧を貫き、男の腹部を突き刺した。

 

「ぐっ」

 

「思ったより頑丈な鎧でありんすね」

 

 鎧のおかげで威力が減衰され深くは突き刺さらなかった。そこで男は腕を振り、シャルティアを殴りつけようとする。それに対し、ランスを引き抜いてかわす分身。本体はにやりと笑う。

 与えたダメージはそれほど大きくない。しかし相手の鎧には大穴が空き、武器を一本失った。形勢は明らかに彼女に有利な方に傾いている。

 しかし男の方も未だ全ての手が尽きた訳ではなかった。腰に差していた剣の内、残っていたもう一本の剣を抜き戦闘態勢を整える。

 

「予備の武器でありんすか。無駄なあがきをするものね」

 

「諦める訳にはいかん。俺は取り戻すのだ!!」

 

 吠える男。それに対し、シャルティアは一瞬だけ考える。

 今、男が構えている剣が単なる予備でなく、先ほど弾き飛ばした剣よりもより強力な切り札である、そういう可能性位は彼女とて警戒する。しかし彼女の武器は神器級、世界級の武器を用いたとしても簡単に破壊することはできない業物だ。男の武器が多少、切れ味や硬度の優れたものに変わったとしても特に影響は無い。そう考え、警戒は必要無いと判断を下す。

 

「そろそろ終わりにするでありんす」

 

 とどめをさそうとするシャルティア。しかし彼女が動くよりも早く、男の方が行動する。男は分身めがけ一直線に向かって見せた。更にその意識は本体を無視し、分身だけに集中しているように見える。

 

(なるほど、各個撃破を狙うつもりでありんすね)

 

 意図を見抜くシャルティア。

 それは悪い判断では無い、っと言うよりもそれしか無いと言うべきだろう。このまま2対1では男に逆転の目は無く、逃げることも不可能である。捨て身で向かって片方を瞬殺、再度1対1に持ち込む、それを実行する以外に男に勝ち目は無い。

 

(とは言え、上手く行く訳はありんせん)

 

 分身も本体と互角なのだ。油断でもしない限り、一瞬でやられると言うことは無い。

 そしてこの時点でシャルティアは冷静だった。男の斬撃に対し、分身はスポイトランスを使って正確に相手の攻撃を妨害する軌道を描く。そうなれば当然の結果として、両者の武器がぶつかり・・・・・・あわなかった。

 

「はっ?」

 

 互いの武器がすり抜けたのだ。あまりに予想外な事態に思わず間抜けな表情を浮かべてしまうシャルティア。

 そして本体、分身共に反応が遅れた。それに対し、男はこの状況を最初から予測していたようで、スムーズな対応を見せた。スポイトランスの一撃をかわすと共に、分身に対し、斬撃を見舞う。その攻撃は直撃し、分身がその場に崩れ落ちる。更にその隙を逃さず男は追撃を放ち、分身が消滅。その勢いのまま、男はシャルティアに向かって突撃しかけた。

 

(まずい!!)

 

 ここで冷静に対処すればとれる手は幾らでもあったであろう。しかし予想外な事態に焦ったシャルティアは安易な手段を選択してしまう。それは自身の体を霧へと変化させることだった。非実態のアストラルになることで物理攻撃は通用しなくなる。とっさの回避手段として、それは悪い手段ではなかった。ただしそれはここがユグドラシルであればの話である。この世界において強力な魔力剣と言うものはほぼ全てがアストラルへの干渉できる力になり得るのだ。特に今、彼女が相対している武器は相性という点で最悪だった。

 

「うおおおお!!!!」

 

「ぎぃやあああああああああああ!!!!!!」

 

 エルメキア・ブレード、精神のみを断ち切る伝説の魔力剣。それが男の所有する武器の正体であった。光の剣やブラスト・ソード等とすら並べられる伝説の魔力剣。その一撃をまともに受けたシャルティアは、激痛のあまり悲鳴をあげ、霧化を解除してしまう。

 

「とどめだ!!」

 

 実体化したシャルティアに向かって男が剣を振り下ろす。この一撃を受ければシャルティアは精神を衰弱し、戦闘不能になるであろう、

 しかしそれを回避するため、シャルティアは奥の手を切る。不浄衝撃盾、1日2回しか使えない自身の周囲に赤黒い衝撃波を産み出すスキルを使用し、男を弾き飛ばしたのだ。

 

「ぐわっ」

 

 十数メートルはじき飛び、地面を転がる男。それによりそれなりに大きなダメージを与えたものの戦闘不能にまでは追い込めなかったようで、男は立ち上がってくる。

 先ほどの攻防、シャルティアは精神に男は肉体にダメージは負ったが、分身を消された分、全体的な被害としては彼女の方が大きい。そして新たに分身を産み出す力は彼女に残っていなかった。形勢的には五分に戻ったと言って良い状況である。

 

「こんな切り札まで持っていたとはな。お前は俺が出会ってきた中でも3本の指に入る程に強い。これ程までに強い貴様に勝てれば、間違いなく俺は取り戻せる!!」

 

「さっきからうるさいでありんすね。一体何を取り戻すと?」

 

 精神を衰弱させながら、苛立ち気味にシャルティアが言葉をぶつける。

 最初は無視していた言葉であったが、何度も同じ事を聞かされる内に、流石に気になってきたのだ。

 そしてその問いかけに対し口を開いた男の答えは彼女にとって意外なものだったのである。

 

「自信だ。己が強いと言うな」

 

「自信?」

 

 シャルティアは今、苦戦している。それは彼女にとって受け入れがたい事象であったが、それでも自覚せざる得ない話だ。そしてそう言った自覚があるが故に、彼女にとって男の言葉は不可解でしか無い。ハンデがあるとは言え自分を追い詰める位に強い男、人間では間違いなく最強クラスであろう男が自分の強さに自信が持てないと言うのだ。

 その奇妙さは人間を見下し嫌う彼女にとっても十分に興味を引く事象であった。

 

「どうして自信がもてないのでありんすか?」

 

 問いかけたシャルティアに対し、男は鎧の中で苦悶の表情を浮かべたのであろう。額に手を当て、答える。

 

「過去の経験故だ。苦い記憶が、俺から自信を奪ったのだ」

 

「経験・・・・・・記憶、一体何があったんでありんすか?」

 

 関心を強めるワード。そこで男は口ごもり、やがて意を決したように口を開いた。

 

「・・・・・・妻にぼこられたのだ。毎日のようにな」

 

「はっ?」

 

 男の答えに呆気に取られた表情を浮かべるシャルティア。そんな彼女を無視して男は語り続ける。

 

「俺の妻は昔はおしとやかな女性だったのだが、いつの頃からどんどん過激化して行ってな。自分が気にくわないことがあると直ぐに私のことをどつくのだ。そんな風にやられ続けていると段々と自分に自信が持てなくなってきてな。自分は駄目な人間なのではと思うようになってきたのだ。遂には仕事にも集中できなくなってしまい、騎士団に長期休暇を出し、俺は旅に出た。そして俺は失った自分の自信を取り戻すために、この街に来て、武芸者相手に・・・・・・」

 

 自分語りを延々続ける男。要は妻に勝てないから他の相手に勝って優越感を味わいたいらしかった。あまりにも情けない理由に呆れるシャルティア。

 

「しかし俺は自信を取り戻しつつある。俺は強いのだ。ただ、妻が化け物過ぎるだけで・・・・・・」

 

「誰が化け物ザマスか?」

 

 語り続ける漆黒の鎧を着た男。しかし、そこで第3者の声がそれを止めた。突然の乱入者によって、一瞬その場に静寂が流れ、そして男ががくがくと震え始める。

 シャルティアは思わずそこで声が聞こえた方である背後を向いた。するとそこには小太りで派手な服装と化粧をした中年の女と言う一見、場違いな人物の姿があったのである。

 

「な、何故、お前がここに。ま、待て、ジョセフィーヌ、今のは・・・・・・」

 

 どうやら中年の女は漆黒の鎧をまとった男の知り合いらしかった。

 男の方を再度向いたシャルティアの前で、男は何やら必死に弁明じみたことを言おうとしている。

 

「問答無用ザマス」

 

 そこで起こった出来事にシャルティアは目を見開いた。先ほどまで彼女の後ろに居た筈の中年の女が彼女にすら捕らえきれない速度で彼女を抜き去り、男の目の前に立っていたのだ。

 そしていつの間にか手に持っていたメイスを漆黒の鎧をまとった男に対し、思いっきり振り下ろした。

 

「何、勝手に休職なんかしてるざますか、この穀潰しか」

 

「ま、まって・・・せっかく取り戻した自信が」

 

「うるさいざます。口答えなんて100年早いザマス」

 

「やめ、いた・・・」

 

「ザマス」

 

「うげっ・・・・・・」

 

 辛辣な言葉と共に何度もメイスを振るい男をどついていく中年の女。その凶悪な姿と先ほどの動きはシャルティアすら戦慄させた。

 そして湧き出る恐怖は本物を知っている彼女が口にする筈の無い、ある言葉を呟かさせるのであった。

 

「まるで悪魔でありんす・・・・・・」

 

 この後、男は中年の女性によって引きずられ、共にどこかへと消え去っていき、こうして辻斬り事件は幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 

「結界さえなければ私が人間如きに・・・・・・剣を回収していればアインズ様に・・・・・・」

 

 事件から数日後、セバスチャンの用意した屋敷の隅でぶつぶつと呟くシャルティアの姿があった。その陰鬱さを見て、セバスチャンが耳打ちで尋ねる。

 

「デミウルゴス、シャルティア様に何かあったのですか?」

 

「いえ、私にもさっぱりで」

 

 自分にも理由がわからないと首を振るデミウルゴス。

 まあ、解る筈も無い。

 色々な意味で規格外過ぎる人間に遭遇し、それに脅威を感じてしまった自分自身を否定しようとしていること。

 更には、漆黒の鎧の男達が消えた後で、魔力剣のことを思いだし(最初に弾き飛ばした剣も何故かみつからなかった)、結局、目的を果たせなかったことで悔しい思いをしていること。

 何れも本人から聞かなければ解る訳も無いことである。

 そしてそんな恥をシャルティアの側からわざわざ説明する筈も無く、かといって問いかけるのは虎の尾を踏みに行く行為であることは誰の目にも明らかだ。

 こうしてしばらくの間、不気味な状態のシャルティアとその状態に困惑する他の仲間達と言う状態が続いてしまうのであった。




タイトルの悪魔はデミウルゴスやシャルティアのことではなく、ジョセフィーヌさんのことだったと言うオチでした。
あんまりすぺしゃる風になってないすぺしゃる回でしたが、どうだったでしたでしょうか?
一旦、また完結しますが、評判とアイディアが思い浮かべば短編で続きを書くかもしれません。


ちなみに下記はジョセフィーヌさんを知らない方のための補足説明です


ジョセフィーヌ:自称良家の奥様。初登場時は性格が非常識なだけのおばさんだったが、再登場で妖怪化。リナの姉ちゃんすら恐れる人種

漆黒の鎧の男:ジョセフィーヌの夫。すぺしゃるでは恐らく唯一の超一流の剣士。多分、ガウリイとかと同じ領域のレベルの戦士。強い筈なのに嫁が非常識人過ぎて酷い目にあっている可哀想な人。ただし本人も割と屑人間。エルメキア・ブレード持ってるとかは完全にオリジナル設定です。

作中で登場したエルメキア・ブレードについて:オリジナルをもとに性能を再現した模造品と言う設定です。伝承に残るエルメキア・ブレードの逸話自体にオリジナルと模造品の情報が入り混じってるから伝説の魔力剣と言うのも嘘じゃ無いよと言うこじつけ設定です。
ちなみに性能自体はかなり高く、魔族や魔法を斬ろうとする場合には人間が使った時の光の剣を僅かに上回る威力になります(魔法の増幅、収束はできない)
エルメキア・ブレードは原作で唯一詳細不明な設定の無い魔力剣だと思っていたので使わせてもらいましたが、リナの姉ちゃんが所有者らしいことが読者様の指摘で発覚したので、上記のカバーストーリーに設定変更しました。


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モモンの冒険・起

他作品の方のネタが思いつかないのにこっちばかりアイディアが思い浮かんでしまったため、また書いてしまいました。前中後編の3話の予定です。


「はあっ!!!」

 

 アインズ、いや、冒険者モモンは大剣を目の前のバンパイアに向かって振り下ろす。

 それに対し、バンパイアは自らの体をコウモリに変化させそれを回避した。しかしそこで敵を逃がすまいとナーベが電撃の魔法を放つ。

 

「雷撃波(ディグ・ボルト)!!」

 

 それは彼女の十八番である連鎖する龍雷(チェィン・ドラゴン・ライトニング)ではなく、この世界の魔法であった。そう、彼女はこの世界の魔法を習得したのだ。

 

「いいぞ、ナーベ!!」

 

 そしてそれは彼女だけでは無い。他のナザリックのメンバーもこの世界の魔法を習得していた。

 きっかけはセバス・チャンとデミウルゴスである。この世界において人間が魔術を使うために必要な呪文、混沌の言語(カオス・ワーズ)に関する知識といくつかの魔法の呪文をセバスが入手し、デミウルゴスが実験としてそれを詠唱してみた結果、あっさりと魔法は発動したのであった。

 そして、その報告を聞いたアインズは直ぐ様自身も魔法を覚えると共に、その情報をナザリックのメンバーに展開した。

 この世界の魔法は威力こそ見劣りしないが、使い勝手に関してはユグドラシルの魔法に比べて劣る。呪文詠唱や集中など隙が多いからだ。しかし元々の能力に無い魔法を習得すれば、戦術の幅は間違いなく広がる。それにこの世界の人間の前で使っても怪しまれないと言うメリットもある。何より、魔族に対し有効な対抗手段になる。そのため、アインズの指示の下、皆必死に習得に務めたのだ。

 その結果、習得できた魔法の種類や数には個々に差があるものの、一定以上の知力を持つナザリックのメンバーのほぼ全員がこの世界の魔法を使えるようになったのである。

 特にデミウルゴスは呪文のわかった魔法のほぼ全てを習得でき、戦闘力では階層守護者最下位の汚名を返上できるかも知れない程の成長をみせたのであった。

 

「ぐっ」

 

「氷の槍(アイシクル・ランス)!!」

 

 そして数だけであればデミウルゴスの次に多くの魔法を習得できたのがナーベラル・ガンマである。元々魔法特化のためか既に30を超える魔法を習得できていた。雷で打ち落としたバンパイアに対し、今度は名前の通りの氷の槍を放つ。

 

「炎の槍(フレア・ランス)!!」

 

 炎の槍で氷の槍を迎撃するバンパイア。両者の魔法はぶつかり合い相殺、互いに消滅する。そこで、今度はモモンが魔法を放った。

 

「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)」

 

 静かな口調と共に放たれた黒いもやのようなものがバンパイアを包み込む。アインズがこの世界で習得した中で最強の威力を誇るその魔法を受けてバンパイアはあっさりと、跡形も無く消滅するのであった。

 

 

 

 

 

 

「多少は手こずったが大したことはなかったな」

 

「やはり、この世界のアンデッドはアイ・・・・・・モモンさんは元より我らに遠く及ばないようですね」

 

「ああ、だが人間の中にもレゾやリナのような存在が居るように何事も例外は存在するものだ。くれぐれも気を抜くなよ」

 

 仕事を終え、宿で一息つきながら事後ミーティングをする二人。

 そこで部下を窘めながらも実はモモンも内心では物足りなさを感じていた。先ほど倒したバンパイアは、依頼として受けた討伐相手だった。

 この世界で習得した魔法の実践訓練も兼ねてと思い受けたのだが、実入りはそこそこ程度、戦闘などは瞬殺ではなかったものの楽しめる程ではなく、冒険者として、あるいは元ゲーマーとして物足りなさを感じていたのだ。

 

(まったく、こっちは縛りプレイ状態だって言うのに)

 

 内心でぼやくモモン。デミウルゴスの調査結果通り、この世界のアンデッドはあまり強くない。何故ならばアンデッドの大半は元人間で、その強さは元の人間の強さや資質に大きく影響を受けるからだ。つまり元が雑魚ならば、ちょっと強い雑魚にしかならない、アンデッドの種類によっては人間だった頃よりも弱くなる。この理屈ならば、元々強い人間がレイスやバンパイア等のある程度上級のアンデッドに変化すればかなり強いアンデッドになるのだが、それを選ぶものは極めて少ないと言うのが強いアンデッドが居ない理由だった。何故少ないか、それははっきり言って割りに合わないからである。

 確かに上級のアンデッドに変われば、人間だった頃よりも強くなるし、高い不死性も得られる。しかしその代わり太陽光など色々な弱点を抱えてしまうし、飲食なども楽しめなくなる。何より、人間の社会で暮らしにくくなると言うのが大きい。

 この世界には、魔族と言う共通の天敵が居るためか、他種族への迫害等はさほど強くない。それでも完全に無い訳でないし、特にアンデッドは一般的には邪悪な種族として見られる。それにそうでなくとも、単純に人材として使い辛いのだ。人間以上の寿命も持つ種族に下手に相応の立場を与えてしまうと妙に強固な派閥ができてしまったりする。子供の頃に怖かった大人や新人の頃に世話になった先輩社員にはなんとなく頭が上がらなくなってしまうあれである。つまり権力構造が歪になってしまう恐れがあるのだ。それでは一般の市政のなかではどうかと言うともっと悪い。文明が十分に発達していないこの世界において、夜は寝るものである。昼間に働けない存在に与えられる仕事などほとんど無く、はっきり言って使えない人材なのだ。

 それでも世界で最高の力が手に入るとかであれば、アンデッドになることを選ぶものも居るかもしれない。しかし純粋な人間として最高クラスの力を持つものがアンデッド化しても人間の限界は超えられるかもしれないが、トップクラスのドラゴンには適わないし、魔族と比べれば良くて中級下位程度と言う中途半端なものにしかならない。

 いやいや大切なのは強さだけじゃない、不老不死は人間の永遠の夢だろう。そんなことを言う人も居るかもしれない。しかしこの点においても残念ながら割に合わないのである。この世界の魔道は極めれば寿命を引き延ばすことができる。赤法師レゾのように曾孫、あるいはもう一世代離れた子孫が居る年齢でありながら外見20代前半の若さを保っていた事例もある。流石に永遠の命などは無理だろうが、あまり長く生き過ぎると生きるのに飽きてしまい、痴呆などのリスクが出てくる。実際、長寿種族のエルフでは若ボケが社会問題になっている位だ。

 そんな訳で、この世界のアンデッドと言うのは楽をして力が欲しいと言う根性無しや損得計算の出来ないアホ、後は低級アンデッドがほとんどであり、強いアンデッドと言うのは滅多にいないのであった。

 

(うーん。もっと歯ごたえのある相手か、面白いダンジョンとかないかな。かといって魔族やドラゴンと敵対したくは無いけど)

 

 命の危険性の高い相手とは戦いたくないが、歯ごたえは欲しい。なんとも我が儘な考えを抱くモモン。とは言え、アインズならばともかくモモンとして見るのならそれは不可能と言う訳でも無い。

 上位道具作成で作った鎧を纏った状態での強さはこの世界の平均的なレベルの剣士と同等の接近戦能力とレベル100の魔法職相当の防御・耐久力、ユグドラシルの魔法5つ、そしてこの世界で覚えた魔法を使える状態である。総合的な強さはユグドラシルのレベルにすれば60~70の間位、この世界でみれば人間の冒険者の一流と超一流の境位の強さだ。ちょうどいい相手と言うのも探せば居なくは無いだろう。

 

(けど、この世界冒険者ギルドみたいのは無いしなあ)

 

 しかしそう言った存在が多いとは言えない。魔族やドラゴン、エルフは遊びで手をだせる相手では無いし、人間の実力者は権力者と結びついている場合も多い。アンデッドは先ほど言った通り、知能の低い怪物は目立って直ぐに狩られる。

 そういう訳で仲介業が貧弱なこの世界で手頃な強敵を選んで戦うと言うのはなかなかに難しいのである。

 

「やっぱり諦めるしかないか」

 

 近くに居るナーベにも聞こえない位の小さな声でぼそっと呟く。するとそこで、ナーベが珍しい言葉を口にした。

 

「ところでモモンさん。先ほど少々気になる話を耳にしたのですが」

 

「むっ、先ほどと言うと私とお前が別行動を取った時か?」

 

 基本的にモモンとナーベは一緒に行動を取っているが、一時離れた時があった。それはバンパイア退治の報酬を受け取りに行った時だ。

 報酬を受け渡す方と言うのは自分達の方が上の立場と勘違いして、横柄な態度を取ることが往々にして見られる。その態度の酷さによってはナーベが何かしでかすかもしれないと思い、彼女を少しの間だけ酒場で一人待たせたのだ。

 自分の知らない情報を彼女が知るタイミングがあったとすればその時しかないと予測し問いかけ、返ってきた反応は肯定だった。

 

「はい。酒場で一人座っていた所、横の席に座った糞虫達が話していました。糞虫達の話によるとこの近くにエルフが開発した侵攻用の自動兵器が封印された遺跡があるとのことです。糞虫の冒険者達が一攫千金を狙って、何人もその遺跡に侵入を試みたものの、中にはゴーレムやガーゴイルと言った番人がおり最深部にまで辿り着いたものはいないのだとか」

 

「ほう、それはなかなか興味深い話だな」

 

 渡りに船と言うか、今、まさに望んでいた歯応えのある冒険である。それも未踏破の遺跡となれば、より一層興味をそそる話であった。

 

「エルフの開発した兵器となれば、それなりに強力でしょう。魔族と戦いになった場合、鉄砲玉程度には使えるのでは無いかと思い、お耳に入れておいた方がよいと判断しました」

 

「うむ、そうだな」

 

 ナーベの言葉に感心して頷くモモン。ゲームの世界において強敵と戦う際に重要なのは死に戻りを覚悟してもまずは一度ぶつかり相手の手札を把握することだった。しかしこの世界で死亡した場合、ゲームの世界のように復活ができる保証は無い。少なくとも盗賊などを対象にした人体実験では蘇生魔法もアイテムも作用しなかった。ここで都合良く、自分やNPC達だけ蘇生が可能である保証はない。それ故に威力偵察に使い捨てられる戦力と言うのはかなり欲しい所であった。

 ここまでであれば是非とも遺跡を探索したいところであったが、その前に一つ確かめて置かなければならないことがある。

 

「遺跡内部の情報がある程度知られていると言うことは、最深部にまで辿り着いたものは居なくても帰還したものは居ると言うことだな?」

 

「はい。無様にも逃げ帰ってきたとの話でした」

 

「なるほど」

 

 仮にその遺跡に想定を超える驚異があったとしても、いざとなれば魔法を使って脱出すればいい。魔法を封印するようなエリアが存在、そういう可能性もあるが、普通に帰還したものが居るのだから、そう言ったエリアを見つけた段階で引き返し、戦力を整え直して挑むようにすれば危険は許容範囲内に抑えられる。そうリスクとメリットを天秤にかけ、判断するモモン。

 

「よくやった。自力でそれだけの情報を集めるとはな」

 

 待ち望んでいた楽しそうな冒険に心を躍らせると共に、ナザリックメンバー以外とのコミュ力最低だったナーベが単独でそれだけの情報を集めたこと、その成長に感動するモモン。彼女に対し、心からの賞賛をした。

 しかし、そこで予想外の答えが返ってくる

 

「はい。糞虫の一人が愚かにも私を口説いて来たので軽くしばいてやりました所、素直に話してくれました」

 

「そ、そうか。殺したりはしていないのだな」

 

「はい。勿論です」

 

(ま、まあ、よく考えたらナーベのような美しい女を一人、酒場に残しておいた俺にも失態があるし殺してないなら許容範囲内かな)

 

 先程の感動がワンランクダウンする感覚を味わいながらも総合的に見て十分に賞賛できる範囲だと判断し、この件に関しては叱責はしないことにした。

 しかしそれとは別に一つ見過ごせない言葉があったため、そちらに関しては警告を発する。

 

「お前は素晴らしい情報を得た。その点について私は非常に喜んでいる。しかし先ほど、退却した冒険者達を無様と言ったな。その考えは捨てよ。私達、ギルメン達も初めて挑むダンジョン等では幾度も撤退を選択した。冒険者にとって生還は何よりも優先すべきことだ。寧ろ、その冒険者達は英断をしたと褒めるべきだろう」

 

「も、申し訳ありません」

 

 モモンの言葉に顔をこれ以上無い位に青くし、平伏するナーベ。無理も無い。自分の放った言葉が彼女が、そしてナザリックの全員が最も崇拝する至高の四十一人を侮蔑する言葉だと突きつけられてしまったのだから。あまりの不敬に今すぐにでも自害しそうにな程に落ち込むナーベ。それに対し、モモンは優しい言葉をかけた。

 

「気にすることは無い。私達とて初期の頃はそれこそが冒険者らしい姿だと勘違いし、蛮勇に走ったこともある。そして失敗の末にそれが愚かな行動だと学んだのだからな。誰もが一度は犯す過ちと言えよう。お前も同じ間違いを繰り返さねばよいのだ」

 

 ナーベに対し、優しく語りかけながらモモン、いやモモンガは昔を思い出す。

 ピンチを自覚しながらも、後少し先に進もうと撤退のチャンスを逃した結果、予想外の敵や罠に遭遇し、全滅。デスペナを食らい、レベルを喪失したり、レアアイテムをロストする。そんな過ちを何度も繰り返し、慎重に進むことを覚えた苦い過去。思い出しただけで涙したくなる過去であった。

 そしてそんな彼の気持ちなど知るよしもないナーベは許されたことに号泣し、再度頭を下げた。

 

「はっ、寛大なるお言葉ありがとうございます。二度とあのような言葉を吐きません!!」

 

「う、うむ」

 

 大仰なリアクションに多少引きながら頷くモモン。こうして二人はエルフの兵器が封印された遺跡を攻略することを決めるのだった。




エルフの遺跡に眠っている兵器は候補として2体考えています。
それぞれ原作にでてきたものと、劇場版にでてきたものです。

後、強いアンデッドが居ない理由は独自解釈です。スレイヤーズの世界感や設定を踏まえて、それっぽく考えてみました。


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モモンの冒険・承

(前書き)
今回はファンタジー世界なのに割と科学的な解釈の多いスレイヤーズ世界と科学の世界から来たアインズ様という共通点(?)を生かしたそれっぽいバトルを書いてみました。その関係で若干のオリジナル設定があります。




「まずはゴーレムか。情報通りだな」

 

 エルフの兵器が眠る遺跡。そこに立ち入ったモモンとナーベに対し、最初の障害として立ちふさがったのは全長3メートル程の黒光りするゴーレム5体であった。

 その姿は人型ではあるが非常に大雑把な造りで目や鼻と言ったものもない。よく言えば無骨と言えないことも無いが、モモンは雑だと感じた。

 

「見た目からするとアイアンゴーレムかスチールゴーレムか?」

 

 ユグドラシルにもゴーレムは存在した。素材やサイズによってかなりの種類が存在し、レベルもさまざま。全体的な傾向として、物理攻撃力と物理防御力が高く、魔法防御力が低いと言う共通点が見られる。

 

「まずは、小手調べと行こう。ナーベ、お前はまずは控えていろ」

 

「はっ!!」

 

 1体に対し狙いを定め突撃、大剣を振り下ろす。予想通りに材質は鉄、正確には鋼鉄でスチールゴーレムであったようだった。上位道具作成によって作られた鋼鉄の強度を大きく上回る大剣はゴーレムを切り裂く。しかし十センチ程食い込んだところで刃が止まる。

 

「むっ」

 

 強度が勝る物質であれば傷をつけることは簡単だ。しかし切断となるとそう単純にはいかない。木のまな板を包丁で切断できないように、厚みや幅のある塊を切断するには、武器の性能に加え、相当なパワーとスピード、それを生かす技量が必要になってくるのだ。

 

「ぐわっ」

 

「アインズ様!!」

 

 動きが止まった所をゴーレムに殴り飛ばされるモモン。それを見て、ナーベは思わずモモンでは無くアインズと彼を呼び、駆け寄ろうとする。しかし、モモンはそれを手で制した。

 

「心配無い。ダメージは皆無だ」

 

 ゴーレムの攻撃はアインズのパッシブスキルである上位物理無効化Ⅲを上回る程のものではなく、衝撃はあれどダメージは一切なかった。そのため叩きつけられても身体に異常はなく、すんなりと立ち上がる。

 

「さて、どうするかな」

 

 ゴーレムの防御力を実感したモモンはどうやって攻略するかを考える。

 シャルティアやセバスと言ったレベル100の前衛タイプなら1撃で倒せるだろうが、彼の装備と力では倒すのには何度も攻撃を加えなければならなそうである。ダメージは受けないのだから何時かは勝てるだろうが、攻撃をする度に殴り飛ばされるのはあまりに不格好であるし、相手の反撃を回避できるよう威力を弱めて攻撃していては、どれだけ時間がかかるか分かったものでは無い。

 

(幾ら何でも効率悪いよなあ)

 

 やりがいを求めてきたモモンであったが、倒すのに時間がかかるだけの敵と言うのは倒しても爽快感がなく、ただめんどくさいだけである。まだ先もあるため、ここは素直に効率のよさそうな手段で倒すことを決める。

 

「ナーベ、適当に魔法を試してみよ。まずはこの世界の魔法からだ」

 

「わかりました」

 

 しかしただ倒すだけでは芸が無い。折角ならば実験を兼ねようと方針を決めたモモンは、魔法が使いやすいように、ナーベと共にゴーレム達から距離を取る。ゴーレムはパワーと耐久力は高いが、金属の塊故、身体が重くスピードは遅いことが多い。間合いを取って上手く立ち回れば反撃を受けず一方的に攻撃を加えることができるのだ。そのセオリーに従い十分に間合いを取り、準備が出来た所で魔法詠唱を行い、魔法を放つナーベ。

 

「雷撃破(ディグ・ヴォルト) !!」

 

 雷撃が放たれ、スチールゴーレムに直撃する。しかし攻撃に当たったにも関わらず、ゴーレムはまるでダメージを受けたように見えなかった。

 

「効かないようですね。魔法抵抗も高いのでしょうか?」

 

 物理防御と魔法抵抗、両方が強いとなれば非常に厄介だ。しかし、アインズは少し思案し、彼女の考えを否定する。

 

「いや、恐らくは違うだろう。今度は炎系の魔法を試してみよ」

 

「はい!……火炎球(ファイアー・ボール)!!」

 

 モモンの指示に答え別の魔法を使うナーベ。放たれた火球が直撃、鉄の融点を超える炎はスチールゴーレムを溶かし、その身体を半壊させた。その光景を見てモモンは自らの予想が当たったことに満足げに頷いた。

 

「やはりな。どうやら魔法抵抗が強いのではなく、電撃に強いようだ」

 

「えっ、しかし金属製のゴーレムは電撃が弱点なのでは!?」

 

 アインズの言葉に驚くナーベ。金属と言うのは電気をよく通す。そのため、金属製のモンスターは雷属性が弱点に設定されていることが多く、ユグドラシルでもそう言ったパターンが多かった。ナーベの発言はその知識に沿ったものであり、的外れの予測ではなかったが、今回の場合は当てはまらない。

 

「精密なゴーレムであればな。ロボットのように内部に回路のようなものがあったり、細かいパーツが組み合わさっているようなものであれば、確かに電撃は弱点となる。しかし目の前のようにシンプルな造りであれば、電撃はただ透過してしまうのだ」

 

 細い金属に過剰な電気が流れれば熱によって変形させ、回路などの重要パーツを破壊する。そう言った理屈から、機械は電気に弱いというイメージがある訳であるが、対象が純粋の金属の塊であれば寧ろ電気に対しては強いのだ。電気をよく通すと言うのは抵抗が低いと言うこと、つまり電気を素通りさせてしまい、破壊を引き起こさないのだ。勿論、その電気が桁外れに強ければ別であるが。

 変な所が凝り過ぎているユグドラシルでは、こう言った理屈が数値として反映されていたようで、金属性のモンスターに対し、弱点だと思って電撃系の魔法を仕掛けたが効果が薄いと言うケースにアインズは遭遇したことがある。そう言った時、インテリなギルメンから色々と教えてもらい、その教えられた理屈をそのまま語って見せるモモン。

 

「なるほど、そのような……。至高の知恵をお教えいただきありがとうございます」

 

「うむ、それでは残りのゴーレムを手分けして片づけるとしよう。お前は他属性の魔法やユグドラシルの魔法、出来る限り多く試し、後で結果を報告せよ」

 

「はっ!!」

 

 そう指示をだし、二手に別れる。

 そしてモモンは一体のゴーレムに狙いを定めた。使うのはユグドラシルの魔法。使用可能な魔法として選んだ5つの魔法の一つである。

 

「破裂(エクスプロード)!!」

 

 第8位階の爆裂の魔法。シンプル故に使い勝手のいい魔法として選択したその魔法は一撃でゴーレムを文字通り粉砕する。

 

「ふむ、このレベルの魔法ならば、一撃で倒せるか」

 

 2体はナーベが倒すだろうからモモンのノルマは後、1体となる。

 

(他に選んだのは緊急時の脱出用の魔法と、広範囲攻撃魔法、召喚魔法、後は切り札のつもりで選んだ現断(リアリティ・スラッシュ)か。使える魔法が無いなあ……)

 

 脱出魔法を今、使っても仕方が無いし、広範囲攻撃や召喚魔法を使うには場所が狭い。切り札は一応温存しておきたい。

 同じ魔法を何度も使うのも芸が無いので、この世界で覚えた魔法で攻撃してみることにするモモン。

 

「氷の矢(フリーズ・アロー)!!」

 

 十数本の氷の矢が放たれる。それをうけ、凍結するゴーレム。そこで更に呪文を唱えるモモン。

 

「烈閃槍(エルメキア・ランス)」

 

 精神を攻撃する光の槍が直撃。しかし生命体では無いゴーレムには何の痛痒も与えなかった。

 

「ふむ、駄目元で使ってみたがやはり効かないか」

 

 次は何を試すか、そう考えた時、ふと昔、ギルメンに教えられたことを再び思い出す。

 

(そう言えば……ちょっと試してみるか)

 

「炎の矢(フレア・アロー)」

 

 炎の矢を放ち、凍結したゴーレムを自らの手で一度自由にする。

 そしてそこで再度炎の矢を放った。

 

「炎の矢(フレア・アロー)」

 

 全身が熱せられるスチールゴーレム。しかし火炎球(ファイアー・ボール)よりも弱い炎である炎の矢(フレア・アロー)を溶かすまでには至らない。

 そして炎が消えたタイミングで再び氷の矢を放つ。

 

「氷の矢(フリーズ・アロー)!!」

 

 氷の矢を受けるゴーレムしかし熱せられ熱くなった肉体は凍らない。変わりに熱膨張と冷却による急激な体積変化により、ひび割れる。

 

「なるほど、これが死獣天朱雀 さんの言っていたことか」

 

 ゲームでは流石に再現されていなかったが、リアルならばこういったことが起こると大学教授であったギルメンより教えられていた現象を目にするモモン。

 理科の実験でしか見ないようなその現象に面白いものを見たと満足する。

 

「それではそろそろとどめをささせてもらおう」

 

 満足したモモンは最後に破裂(エクスプロード)を使い、ゴーレムを消し飛ばす。そのタイミングでナーベも決着をつけたようで、二人は更に奥へと歩をすすめるのであった。

 

 

 

 

 

 

「分かれ道か。さてどちらが正しい道かな」

 

 進んだ先にあったのは分かれ道。Yの字を逆にしたような分岐で、モモン達は文字の上部分の二股に別れた片方から進んできた状態である。

 そしてどちらに進むか迷うモモンの耳に足音が聞こえてきた。音は二股のもう片方から、そしてこちらに近づいてくる音である。

 

「こちらの道からか。ナーベ、警戒せよ。だが無暗に攻撃はするな。相手が人間や他の知能を持つ生物であった場合、まずは話をする。よいな?」

 

「了解しました。モモンさん」

 

 ナーベに警告すると、緊張し音の聞こえてくる方をじっと注視するモモン。

 暗闇の中から近づいてくる存在。どうやら相手はこちら同様に二人らしかった。

 そして近づいて来たことでその姿が見えてくる。驚いたことにその内の片方は見覚えのある相手であった。

 金髪で青いプレートメイルを纏った男。レゾとの戦いの時にリナの仲間の一人として遭遇した男、ガウリイである。

 

(まさかこんなところで遭遇するとはな。だが、今は正体を隠しているし、知らないふりをするか)

 

 初対面を装うことを決めるモモン。しかしそのプランはいきなり崩壊した。

 

「あれ、あんた骸骨さんだろ。こんなとこであうなんて奇遇だな」

 

「ぶっ」

 

「が、骸骨さん。何と言う無礼な呼び方を……」

 

 いきなり正体ばれして思わず吹き出すモモン。主に対する馴れ馴れしい呼び方に怒りながらも直前に忠告されたばかりと言うことで何とか堪えるナーベ。

 

「骸骨さん?ガウリイさん、知り合いですか?」

 

 一方、ガウリイの言葉に対し、彼の隣に居た紫色で長い髪をまとめた少女が疑問の表情で尋ねる。こちらはモモンにもナーベにも見覚えの無い相手だった。自分の正体をなるべく知られたくないモモンはガウリイに口止めをしようと彼の耳元に顔を近づけ、小声でささやく。

 

「すまないが、私の正体は知り合いの冒険者だとでも言ってくれないか。アンデッドであることは隠したい。名前もモモンと名乗っている」

 

「んっ、あっ、そうなのか? んー、わかった。えっと、モ、モモンガ?」

 

「!? モモンだ」

 

 予想外なタイミングで飛び出した本名に、まさか自分の正体がユグドラシルのことまでバレてるのか、それとも偶然かと動揺しつつ、精神鎮静の助けもあり、何とか冷静さを保つモモン。再度名前を告げ、その名で呼ぶよう示唆する。

 

「えーとだな、こいつは昔ちょっと知り合った仲間でモモンって言うんだ。骸骨さんてのは、えーと、あだ名みたいなものだな」

 

 奇跡的なことに彼にしては上出来な誤魔化しがガウリイの口から飛び出す。

 

「そうなんですか。でも、骸骨さんってちょっと変わったあだ名ですね」 

 

「その時、たまたま骸骨の形をしたアイテムを持っていましてね。特徴的なアイテムでしたので、それが印象に残っていたのでしょう。ところで、あなたは?」

 

 そこで少し疑問を解消できない彼女に対し、モモンがフォローすることで、何とか言いくるめることに成功する。

 そして話を変えるために名前を尋ねたモモンに対し、少女は自分の自己紹介を始めた。

 

「あっ、すいません。初対面の方に失礼しました。私レミーって言います。ガウリイさんとはこの洞窟で偶然であったばかりです。ところで、モモンさんもこの洞窟の宝が目当てなんですか?」

 

「ええっ、エルフの残した自律兵器見てみたいと思いましてね。しかしそうするとあなたも?」

 

 お互い宝目当ての冒険者となればお互い競争相手となる。場合によっては交戦も覚悟しなければならないと考える。しかし、レミーの興味は自律兵器ではなかった。

 

「いえ、私が欲しいのは魔力剣です。あらゆるものを切り裂くと言う最強の実体剣。あー、まさに私の理想。早くみたい、そして切りたい、切り刻みたい。うふふふふ」

 

 逝っちゃった目で物騒な言葉を紡ぐ少女。その姿にモモンは少しひくが、それ以上に彼女の言葉に興味を引き付けられる。

 

「魔力剣。私の聞いた話と違うようですが、この遺跡にはそのようなものもあるのですか?」

 

「ええ。この遺跡にはエルフの残した遺産が複数、保管されています。モモンさんの言う自律兵器もその一つなのでしょう。お互いの欲しいものが被らなくて良かったですね」

 

「……そうですね」

 

 正直に言えば魔力剣もかなり欲しい。しかし魔王を倒したと言われるリナの仲間であるガウリイと敵対することはできる限り回避したい。少し迷うものの、ここは引くべきかと考えたことであることに気づく。それはレミーの目的は聞いたがガウリイの目的は聞いていないと言うことである。

 

「そう言えばガウリイさんはレミーさんとはここで出会ったと言うことですが、あなたは何故この遺跡に?」

 

「ああ、実はリナの奴とはぐれちまってな。んであちこち探し回っている時に偶然、この遺跡を見つけてな。こういう宝がありそうな場所はあいつが興味を示すんじゃないかと思って、ちょっと入ってみたんだ」

 

「なるほど。っと、言う事はあなた自身はあくまでリナさんで宝には特に興味無いと」

 

「ああ。まあ、貰えるならせっかくだし貰うけどな」

 

 ガウリイの回答に嘘があるようには見えなかった。これならば、宝の分け前で彼と揉めることはなそうである。最低限の分け前さえ、それで角は立たないであろうと安心する。

 するとそこでガウリイの方がモモンに対し、提案をしてきた。

 

「ところで、知らない仲でもないしさ。折角なら一緒に行かないか。競争する理由もないんだろう?」

 

「……そうですね。折角ですので、そうしましょうか」

 

 少し迷った後、提案に乗るモモン。同行することで、レミーにユグドラシルの魔法を見られるリスクはあるが、ガウリイの実力の一部だけでも見られるチャンスであると判断したためであった。こうして2人のパーティーは4人のパーティーへと変わり、彼等は更に奥へと進んだ。




前中後編の3話構成と予告していましたが、起承転結で4話構成に変更します。

実はガウリイとレニーは今回は出すつもりが無く、別のエピソードで出すつもりだったのですが、その展開が今回と結構被る部分が多いことに気づいたので、一つにまとめ、その関係で話が長くなったため、4話構成に変更しました。


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モモンの冒険・転

「これは、ガーゴイルだろうな」

 

 進んだ先、そこに待ち受けていたのは青銅色の怪物の像だった。通路の左右に合計数十体が飾られているのが見える。

 それを見てモモンはナーベにだけ聞こえるように小声で呟いた。

 

「情報通りですし、間違いないかと。問題は全てがガーゴイルなのか、あるいは本物の像とガーゴイルが混じっているかと思われます。いっそ、離れた場所から魔法で全て破壊しましょうか?」

 

 モモンの推測にナーベが肯定し、同じく小声で返す。

 ガーゴイルは像の振りをして相手が油断した所に襲いかかってくる魔物だ。その策の有効性を高めるために、本物の像とガーゴイルを混ぜてくるのが定石だ。しかし物量を優先し、全てがガーゴイルという可能性も存在する。

 

「いや、あの二人の実力を見たい。ここは罠を覚悟して進むぞ」

 

「わかりました」

 

 気づかない振りをして進むモモンとナーベ。それにつられたのか、あるいは余裕なのか、平然とした様子で二人についてくるガウリイとレミー。

 そしてガーゴイルが並ぶ通路を10メートル程進んだ所で、全てのガーゴイルが四人に一斉に襲いかかってきた。

 

「はっ!!」

 

 それに対し、ガウリイは即座に反応。剣を抜き、1体を一刀両断。返す刃で更にもう一体を切り裂き倒す。

 

「うふふっ、魔物なら思う存分きれますね!!」

 

 一方、レミーも逝っちゃってる目でガーゴイルと戦う。こちらは一刀両断とまではいかないが、数撃でガーゴイルを破壊する。

 

(なるほど、凄いな)

 

 ガウリイの剣技に驚くモモン。彼が驚いた理由はガウリイの剣が普通の剣であったことだ。柄だけは変わった形はしてるが、刀身は鋼鉄製に見えるし特に魔法がかかっているようにも見えない。そんな剣で少し硬度が低いだけの青銅のゴーレムを両断することがどれだけ凄いのかは先程、モモン自身で経験したばかりである。

 

(でも・・・・・・)

 

 同時に魔王を倒したメンバーの一人としてはガウリイの強さは物足りないものに思えた。強いことは強いが、それでも階層守護者と彼が1対1で戦えば9分9里勝てるだろうと予想する。それに対し、モモンが魔王の強さとして想定においたワールド・エネミーは階層守護者が全員で挑んだとしても確実に負けるレベルである。

 

(考えられる可能性は幾つかあるな)

 

 自身もガーゴイルと戦いながら推測を巡らせるモモン。

 彼の思いついた仮説は3つだった。

 一つは魔王が実はそれほど強くないと言う可能性。しかし嘗ての戦争では一体の魔族に対し、数百体のドラゴンが敗れたと言う伝承も残っている程だ。同じ事ができる存在はナザリックの中でもワールドアイテムを併用した8階層のあやつら位である。話が大袈裟に伝わっている可能性も勿論あるが、戦争時魔族とドラゴンの力が拮抗していたならこのような伝承自体、産まれなかっただろう。

少なくとも魔族の強さはドラゴンを大きく上回ると考えるのが自然であり、そのトップである魔王が弱いとは考え辛い。

 これについてはデミウルゴスやアルベドも同見解を示し、デミウルゴスに至っては非常に言い辛そうな表情で次のような見解を述べた。

 

『不敬な言葉であることは重々承知です。しかし、ここまで得られた情報を精査した結果、魔王の実力はたっち・みー様ウルベルト様に匹敵するレベルと想定すべきかと思われます』

 

 アインズ・ウル・ゴウンのメンバーを至高の存在と捕らえ、過大評価しまくっていく、デミウルゴスが

ギルメンの中でも最強と呼べる者達に並ぶと推測したのだ。それ程に油断出来ない、過小評価するのが危険な相手と言うことである。

 

「はっ」

 

 飛びかかってきたガーゴイルを剣で叩き落とし、魔法を使って破壊する。ガーゴイルは数は多いが、一体一体は弱い。味方が4人おり、全員が強いことでかなり余裕があった。そのため、考え事を続けるモモン。

 

(次に考えられるのは実力を隠している可能性だけど・・・・・・)

 

 今、ガウリイの見せている実力は本気では無く、手を抜いていると言う推測。これが一番納得いく説であるが、モモンではなく、アインズとしてでもなく、鈴木悟としての直感がこれを否定した。

 長年、営業を務めてきた経験から彼は人間観察にはそれなりに自身があった。その彼の感覚がガウリイは嘘や隠し事の上手いタイプでは無いと捕らえているのだ。っと、言うかはっきり言って彼が賢いようには見えない。

 

(自分の直感を信じ過ぎるのもあれだし、デミウルゴス達が予想したからと言ってそれが正しい保証はない。けど、魔王が弱いわけでも、ガウリイが実力を隠している訳でも無い、その予想が正しいとすると・・・・・・何か切り札があるのか?)

 

 最後に考えられるのは反則レベルの切り札があると言う可能性。

 例えばワールド・アイテムのようなもの、ユグドラシルではワールド・アイテムは基本的にワールド・エネミーに対しては効かないように設定されていたが、仮に通用していたとしたら組み合わせ次第で3人での攻略も不可能ではなかったであろう。リナ達のパーティーがワールド・アイテムに匹敵するアイテムを持っているのだとすれば、魔王を倒したのも頷ける。

 それから制限や代償のあるスキルのようなものが使える可能性も考えられる。ユグドラシルにもそう言ったものは多数存在した。一つを例にあげれば課金拳。これは課金をすればするほど能力をアップさせられる特殊なスキルとそれを使える職業と言う狂った運営を象徴するようなスキルである。しかし、それ故に効果は絶大。それを使って少人数でワールド・エネミーを撃破したプレイヤーも存在する。ちなみにその時に使われた課金額は廃課金と呼ばれるプレーヤー達ですら目眩を覚える程のものであり、多用はできないものであった。

 

(少なくとも当分は警戒は解けないな)

 

 最低でも謎が解けるまでは、絶対にリナやガウリイと敵対することは避けようと改めて誓う。

 そして考えがまとまったことで目の前に戦闘に意識を集中しようとするが、戦いの最中に考え事をしていた代償はそのタイミングで支払われた。

 

「むっ」

 

 ガーゴイルの爪によって、モモンの着ている鎧に傷がつけられたのだ。幸い内部にまでは届かなかったものの、傷をつけられた部分は装甲が半分位えぐられている。慌てて距離を取り、牽制に刃をふるう。その攻撃はかわされてしまうが、少し間をおくことには成功する。

 

「モモンさ・・・・・・ん!!」

 

「心配無い。体にまでは届いていない」

 

 叫ぶナーベを制止し、改めてガーゴイルを観察すると他のゴーレムと少し色が違う。更に、爪の色ははっきりと異なっていた。

 

「なるほど、特別製が混ざっていると言う訳か」

 

 単純に数で押すと見せかけて、実は罠も混じっていたらしい。他の低レベルのガーゴイルで相手を油断させておいて、本命を混ぜておき、それで相手を仕留めようとするとはなかなかに嫌らしい策略である。

 

「この鎧に傷をつけるとなると油断は出来んな」

 

 仮に鎧を突破し、攻撃を受けたとしても一撃、二撃で即死するようなダメージを受けることは無いと思うが、上位物理無効無効化Ⅲを突破され、軽傷位は負わされる位の可能性は十分あり得る。そう考え、気を引き締めるモモン。

 そして、そこで再び飛びかかってくる特別製ガーゴイル。それに対し、モモンは大剣を振るうのではなく、それを盾にして更に身体から離した状態にして、相手の胴体に叩きつける。

 

「こういったやり方はバントとか言ったかな?」

 

 先程相手に攻撃をかわされたことから、斬撃や単発魔法ですばしっこい特別ガーゴイルを捕らえるのは難しいと判断したモモンはコースに障害物を置くこと相手の動きを阻害したのだ。

 そして呪文を放つ。

 

「振動弾(ダム・ブラス)」

 

 放たれた小さい赤い光の球が停止したガーゴイルに直撃。振動により粉砕する。

 

「スピードと攻撃力は中々だったが、耐久はたいしたことがなかったようだな」

 

 剣と魔法を組み合わせたコンボ攻撃。瞬時に作戦を練り、成功させることで、敵を難なく撃破。その辺りは流石の熟練プレーヤーであった。

 そしてその頃には大半のガーゴイルが倒されており、それから程なくして4人の手によってガーゴイルは全滅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、ここがゴールか」

 

 ガーゴイルを倒した後、更に奥へと進んだ一行は宝物庫と思われる場所に辿り着く。色々なマジック・アイテムが置かれている。

 

「魔力剣、魔力剣はどこ!?」

 

「お、おい、待てよ」

 

 お目当ての魔力剣を探し、走って行ってしまうレミーとそれを追いかけるガウリイ。それを見送り、モモンも初志貫徹とまずは、自動兵器とやらを探すことにする。

 そしてそれと関連すると思われるものは直ぐに見つかった。それはとげの生えた数十メートルサイズの巨大な卵とその前に建てられた石碑で、関連するとわかったのはその石碑に書かれた内容である。

 

「自動兵器、ルーンガストか」

 

 モモンはこの世界の文字が読めないが、彼の指には自動翻訳の効果のつけられた指輪がはめられている。そのため、その石碑に書かれた文字を読むのに支障はなかった。内容を読むすすめると、ルーンガストは耐魔族用にあらゆる呪文の効かない兵器としてエルフ達によって作り上げたらしい。しかしあらゆる魔法を効かなくした結果、制御も受け付けなくなった。

 その間抜けな失敗に計画は放棄されたが、そこで別のエルフが改良案を思いつく。それは一点だけ魔力を受け付ける部分をつくることである。更にそこに受信装置を取り付け、送信用の腕輪をはめることによって命令出来るようにしたのだと書かれている。

 

「なるほど、これがその腕輪か」

 

 腕輪については挿絵が書かれており、それとそっくりな形状の腕輪が近くに置かれていた。念のため鑑定の魔法をかけてみると、間違い無く制御装置であることがわかる。

 

「これをつければ良いのだな」

 

 その腕輪をはめ、封印解除の呪文を唱えることで、ルーンガストは制御下に置かれると書かれている。そこでその指示に従い、呪文を唱えるモモン。すると卵が割れていく。

 

「お、おおー!!」

 

 その光景に興奮する。

 そしてエルフの作った魔道兵器。魔獣、ルーンガストが復活した。

 その容姿は亀の甲羅のように見えた。本物の亀のようにそこから手足がはえてくる。ただし、実際の亀とはちがい、その足は蜘蛛のような形状で計8本あった。

 

「ぎゃう」

 

 そして手足に続き、頭部が出てくるかと思ったが、なかなかでてこない。代わりに何かがひっかかっているような摩擦音に近い音が聞こえてくる。

 

「んっ、何だこの音は?」

 

 そしてその音が数秒続いた後、バキッっと言う大きな音が響き渡った。

 

「バキッ?」

 

 聞こえたのは何かが折れる時のような嫌な音。

 そして同時にルーンガストの頭が現れる。その顔面は少々間抜けな感じに見え、頭部には折れた角のような物が見えた。

 同時にその折れた先が甲羅の中から転げ落ちてくる。状況から考えて、頭部を出すときに角がつっかえて折れたのだろう。状況としては長らく動かしておらず摺動部が堅くなっていた機械とかを無理矢理動かした時に起きたりする事故によく似ている。

 

「何かいやな予感が・・・・・・」

 

「ぎゃう」

 

 そしてルーンガストはモモンに向かって突進してきた。

 

「うぉい!?」

 

 慌てて腕輪で制御しようとするモモン。しかし、ルーンガストはその命令を全く受け付けなかった。

 

「くそっ!! やっぱり、さっきの角が受信装置かよ!!!」

 

 叫ぶモモン。ルーンガストを制御するための唯一の手段。それがたった今、失われたのであった。

暴走するルーンガスト。周りのマジックアイテムを踏みつぶし、壁や床を破壊しながら、モモンに向かって突っ込んでくる。

 

「至高の御方に牙を向けるとは!! 散りなさい糞虫!! いや、屑鉄!!」

 

 その状況を理解したナーベが、モモンをかばうようにたち、彼女が使える中で最高位の魔法である第8位階の魔法を放つ。

 

「なっ!?」

 

「むっ!?」

 

 しかしその一撃はルーンガストの装甲によって無効化された。石碑に書かれた呪文無効の装甲。それはユグドラシルの魔法にも有効であったのだ。

 そしてお返しと言わんばかりにレーザーのような攻撃がナーベに向かって発射する。

 

「がっ・・・・・・」

 

 直撃を受けてしまうナーベ。曲がりなりにも耐魔族用兵器である。その威力はかなりのもののようで、魔法特化でレベルに比べても防御力の低い彼女は大ダメージを受け、意識を刈り取られてしまう。

 

「ナーベ!!」

 

 それを見たモモンは大剣を投げ捨てると、彼女を抱きかかえ、左肩に乗せると、即座に逃走を選択。

 しかし完全な撤退では無く、逃げながら反撃を試みる。

 

「現断(リアリティ・スラッシュ)!!」

 

 今の状態で使える最強の魔法を試す。しかし無常にもその一撃すら、ルーンガストは無効化してみせた。

 

「ぐっ」

 

 モモンでは勝てない。そう結論づけた彼は完全撤退を選択、走って距離をとりながらナザリックに帰還をするための魔法を使おうとする。しかしその時、彼の目の前に先程分かれたレミーの姿が目に入った。

 

(くそっ、タイミングが悪い!!)

 

 ここで帰還魔法を使っては、ルーンガストを彼女とガウリイに押しつけることになり、MPK(モンスター・プレイヤー・キラー)扱いされてしまう。それは自分やナザリックの評判を大きく落とすことにつながり兼ねない。

 

「レミーさん、逃げてください。実は今・・・・・・」

 

 仕方無しに状況を伝えようとするモモン。しかし慌てていた彼は気づかなかった。彼女の手に紫色の光を放つ抜き身の剣が握られていることを、そして先程までの逝っちゃってる状態と比較しても、彼女の目が正気でないことを。

 次の瞬間、彼は彼女によって、二つに切り裂かれていた。



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モモンの冒険・結

今回の色々と独自解釈や設定が入ってます。
この話でまた一旦完結ですが、アイディアだけはポコポコあるので、参考までにアンケートを募集しますので回答いただけると嬉しいです。


 切り落とされた右腕が落ちる。

 それにより一瞬パニックに陥るが、混乱が一定レベルを超えたことにより、精神鎮静が発動。そのおかげでモモンは冷静さを取り戻す。

 そしてそれにより、相手を冷静に観察する余裕が産まれる。

 

(これは……バーサーカー化してるのか? 原因は恐らく、先程までは持っていなかった剣、呪いの装備か?)

 

 つい先程まで、表面上とは言え仲良く冒険していた相手が、いきなり襲い掛かってきたと言う異常な状況。その目が明らかに正気を失っていること、更に見慣れない不思議な光を放つ、明らかに魔法装備な武器を持っていること。

 そう言った情報から現在の状況を推察するモモン。

 

(恐らくは装備した相手を暴走させるアイテム。しかも先程の動き、不意打ちだったとは言え、太刀筋が全く見えなかった。恐らくは所有者を強化する効果も兼ね揃えているってところか)

 

 モモンの推測はほぼ当たっていた。レミーが持っている剣の銘は斬妖剣(ブラスト・ソード)、嘗て対魔族用に量産され、伝説にまで語られた剣である。現在ではそのほとんどが破壊されてしまったが、僅かに残った内の一本がこの遺跡に保管されていたのだ。

 しかしここで注意すべきことがある。量産と言っても、現在のように機械でほぼ同一ものが自動的に生産される訳ではないと言うことだ。確立された製法をもとに、鍛冶師と技術者が繰り返し製造することで量産する訳だが、クリエイターと言うのは基本的に自己主張が強い人種である。決められたものをそのまま作るのでは無く、自分達の独自性を入れようとした奴等がでてきたのだ。

 その結果、あるものは剣の切れ味を極限まで高めることに注力し、またあるものは無駄な装飾を付けて、剣を飾り立てると言ったカスタムブラスト・ソードとでも呼べるものが数多く生まれることとなった。

 そしてこの遺跡に保管されていた剣には使用者の潜在能力を最大限に解放する効果が付与されていたのである。その説明だけ聞くと、何の問題も無いように感じるかもしれない。しかし、これは欠陥品だった。潜在能力の解放と共に、理性までも解き放ち、使用者の欲望や闘争本能を増大させてしまうと言う副作用があったのだ。

 

(さて、この状況、どうするか……。あれ? もしかして、これ詰んでる?)

 

 冷静に考えるモモン。しかし、そうしたことで今の自分の状況の悪さに気づいてしまう。

 目の前にはガウリイと同等かそれ以上にまでレベルを高め、伝説級、神器級に匹敵する程の切れ味を誇る剣を装備した剣士。

 後方には魔法の効かない巨大生物。

 どちらも、魔法詠唱者であるモモンガには極めて相性の悪い相手である。本来のスペックならまだしも、今のモモンの状態でこれらを一人で打倒することはほぼ不可能だ。しかも、片腕を落とされ、もう片方の手にはナーベを抱えている状態なので抵抗すら難しい。

 戦うのは無謀。では、逃げるのはどうかと言うとそちらも手が無い。前にも後ろにも敵が居るため、物理的に走って逃げると言った手段は取れないし、帰還の魔法を使おうとすれば、そこで生じる隙を突かれて切り殺される可能性が高い。当然、モモンからアインズに戻る余裕も無い。

 

(レミーを短時間で倒すのも無理。追いかけてきてる自動兵器の方を倒すのも無理。逃げるのも無理。やばい、まじで手が無い!?)

 

 絶望的な状況に何とか打開策を考えるが、それを思いつくよりも早く、しばらく鎮静を保っていたレミーが再び動き出す。抵抗するにはナーベを一度、投げ捨てるしか無いが、大切な仲間の残したNPCに対し、そのようなことをするのに躊躇する。

 そして決断できない彼に向かって再び刃が迫った。

 

(あっ、終わった……)

 

 この世界で死んだ場合、果たして自分はどうなるのであろうか。ゲームと同じように復活できるのか、元の世界に戻るのか、あるいは完全に死亡するのか。死に際の集中力でゆっくりと近づく剣を見ながらそんなことを考えるモモン。

 しかし、その刃は彼に届くことはなかった。

 

「!?」

 

 モモンとレミーの間に割って入り、彼を救うものが現れたのだ。

 

「わりい。遅れちまったな。大丈夫だったか?」

 

 それは金髪碧眼の男、ガウリイだった。暴走するレミーを追いかけて来た彼の手には光輝く剣が握られている。その光の刃でレミーのブラスト・ソードを受け止めたのだ。

 

「あ、ああ。助かった。感謝する」

 

 礼を言うとその場にゆっくりとナーベをおろし、代わりに切られた腕を拾う。

 そしてアンデッドにも効果のあるレアな特殊回復アイテムを使用しそれをくっつけた。

 ガウリイの参戦と回復、これで態勢は一気に立て直したと言えるが、まだまだ安心していられる状況では無い。

 ルーン・ガストが追いつき、迫って来ているのだ。

 

「すまないが、そちらの相手は任せてもよいか? 私はあいつの相手をする」

 

 ガウリイにレミーを任せ、自分はルーン・ガストと戦う決意をするモモン。

 言われたガウリイの方は、ルーン・ガストの存在は今、初めて知った筈なのに、慌てることなく、しかし一つだけ聞いておきたいと言った感じで、答えと共に問いを返す。

 

「ああ。ところで、こいつ、さっきからおかしいんだけど、何とか正気に戻す方法知らないか?」

 

「生憎、解呪の魔法もアイテムも今は持っていない。だが、武器を破壊すれば正気に戻せるかもしれない」

 

「わかった」

 

 折角の強力な魔力剣、多少惜しい気もするが、呪われたアイテムなど危なくて使えないと考え、助ける方法として剣の破壊を示唆するモモン。

 それを聞いたガウリイは剣の破壊を目指し、戦いに集中する。

 一方、モモンの方にはもう一つ、状況の変化が起こる。

 

「う、ううっ」

 

「ナーベ、目を覚ましたか?」

 

 意識を失っていたナーベがその意識を取り戻したのだ。それを見て、すぐさま彼女に対し回復アイテムを使うモモン。

 

「アインズ様?……はっ、申し訳ありません。至高の御方の前で意識を失うなど。こうなればこの首を掻っ切って」

 

 意識を取り戻したばかりな為か、思わずアインズの名を呼んでしまうナーベ。そして自分の失態にそのまま自害しようとする。それを慌てて止めるモモン。

 

「よい許そう。それよりも手を貸すのだ。我等に仇をなしたあの害虫を破壊する」

 

「はっ!!」

 

 主の指示に起き上がり、構えるナーベ。正に仇敵と迫りくるルーン・ガストを睨みつける。

 そしてモモンは打倒のための指示を出した。

 

「折れた角の根本に魔法を放て!! なるべく狭い一点を狙う魔法だ!!」

 

 その指示に瞬時に答え、ナーベは炎の槍(フレア・ランス)を放つナーベ。狙い違わず放たれたその一撃は先程とは違い無効化されずに直撃した。

 

「やはりな!!」

 

 それに続き、振動弾(ダム・ブラス)を放つモモン。本来は全身を耐魔法装甲で覆われているルーン・ガストだが、目の前のそれは命令を受け付けるよう一点だけそれを除外されている。

 そしてそのポイントは折れて機能を失ってしまったが、受信用のアンテナのある位置以外に考えられない。

 そう予測しての攻撃だったが、その狙いは見事に的中したようである。

 

(要は特定の部位に攻撃をしないとダメージを受けないギミックモンスターと同じだ!!)

 

「よし、どんどん攻撃をしかけるぞ」

 

「はい!!」

 

 調子づいた二人は次々と魔法を放つ。たまに狙いを外したり、色々な魔法を試す中で、効果範囲の大き過ぎる魔法を使い無効化されてしまうこともあったが、順調に相手に損壊を与えていく。

 しかしある程度それが進んだところで、二人は問題点に気づく。

 

「くっ、奥にダメージが届かないか」

 

 どうやら耐魔法装甲の無い穴とも言える部分は細長い形状になっているらしい。そのため急所となる重要部位に届く前に魔法が無効化されてしまい、表層部分しか破壊できないのだ。

 今は魔法の衝撃で足止めできているが、このままでは届く範囲に破壊できる箇所が無くなり、手詰まりになってしまう。

 

(飛行(フライ)が使えればな)

 

 飛行出来れば、耐魔法装甲の無い部分に近づき、もっと奥まで効果を届かせることができる。そう考えるものの、現在使用できる魔法の中には含められておらず、無い袖は振る事ができない。

 

「ぎゃう」

 

 そして攻めあぐんでいる状況で、ついに反撃を許してしまう。再びレーザーのような魔法を放たれる二人。

 

「くっ」

 

 そこでモモンは召喚魔法を使いケルベロスを呼び出し、自分達を守る盾として使う。

 

「ぎゃうーー!!」

 

 召喚者達の身代わりとなり攻撃を受け、悲鳴をあげるケルベロス。しかし高レベルのモンスターらしく、一撃で消滅まではしない。

 そしてダメージがかさむ前にと反撃でケルベロスをけしかけようとする。ケルベロスの攻撃ならば倒せないまでも相手にダメージを与えられる筈だと。

 しかしそこでモモンはふとあるひらめきを思いつく。それはケルベロスに直接攻撃させるよりも良い案に思えた。

 

「ケルベロスよ。我を乗せ、空に飛び上がれ!!」

 

 召喚者の命に答え、モモンを乗せた状態で跳躍するケルベロス。それに狙いを定め再びレーザーを放つルーン・ガスト。そのタイミングでモモンは彼の背から飛び上がった。ケルベロスの跳躍と自身の跳躍を合わせることによる大ジャンプ。更にケルベロスを囮にすることで、自分が撃ち落される危険を減らしたのだ。

 その策は見事、狙い通りに嵌る。レーザーを食らうケルベロスを背に、角のあった位置にまで近づくことに成功するモモン。

 

「うおおおおお!!!!」

 

 目の前に見えるのは先程までの二人の攻撃によって生じたクレーターその一番奥深い場所、その位置を発動ポイントにして破裂(エクスプロード)を使用する。

 

「ぎゃううううううう」

 

 末期の悲鳴をあげるルーン・ガスト。

 ルーンガストは魔法は無効化出来る。魔法によって引き起こされた物理攻撃も魔力を消失させることで無力化できる。しかし魔法によって間接的に生じた純粋な物理現象までは無効化できない。内部で起きた破砕、破砕され勢いをつけて飛び散った部品によって引き起こされる連鎖崩壊。それによって、頭部が完全に崩壊したルーン・ガストは沈黙する。

 そして全身を土のようなものに変化させ、文字通りその場に崩れ落ちる。

 

「ふう、まずは片方片付いたな」

 

「お見事でした!!」

 

 ほっとするモモン。賞賛を込めて彼にひざまずくナーベ。

 しかしこれで全てが終わった訳では無い。未だ対処すべき相手は残っているとガウリイの方に目をやる。そこではガウリイとレミーが戦い続けていたが、彼女の激しい攻撃を前にガウリイの方が少し押され気味であった。

 それを見てモモンはまず、先に2発のレーザーを受け瀕死状態のケルベロスを消滅させることにする。

 召喚したり創造した魔物、それらは自動で消えたりはしないが、代わりに召喚者の魔力を餌として与えないと存在を維持し続けられない。ゲームの仕様とこの世界の法則が折衷された結果、このような仕組みになっていた。動けない位のダメージ受け、魔力だけを消耗させてくれる邪魔者を片づけると、ガウリイに向かって叫ぶ。

 

「ガウリイ、魔法で援護する。合図したら飛び引け!!」

 

「モモンさーんによる支援、光栄と思いなさい!!」

 

「わかった!!」

 

 そしてタイミングを見計らい、合図をかけた。

 

「引け!!」

 

 その合図に答え、距離を取るガウリイ。そこでレミーの持つブラスト・ソードに向かって破裂(エクスプロード)を放つ。これで剣を破壊しようとしたのだ。

 しかしレミーはその魔法を切り裂いて見せた。

 

「なっ!?」

 

 ゲームには無かった現象に驚愕するモモン。しかし驚いている暇はなかった。攻撃されたことで、彼女は再び攻撃対象をモモンに向けたのだ。迫ってくる彼女に対し、モモンは再び魔法を放つ。

 

「くっ。ならば、現断(リアリティ・スラッシュ)!!」

 

 これならと思い放った10位階魔法。流石にこの魔法を即座に切り裂くことはできず、しかしブラスト・ソードの方が切り裂かれることもなかった。

 二つの刃が拮抗し、ぶつかり合う。

 

「至高の御方の攻撃を防ぐとは不敬な。死んで償いなさい!!」

 

「やめんか!!」

 

 レミーを殺そうとするモモン。今の彼は余程親しくなった相手でもなければ殺人に忌避感などほとんど感じないが、ここでガウリイの心象を悪くしたくないと必死である。

 

「たあああ!!」

 

 そうしてモモンとナーベが漫才を繰り広げている横で、ガウリイが飛び出した。

 そして何を考えたのか彼はモモンの放った現断(リアリティ・スラッシュ)に向かって自らの剣を振り下ろす。その結果、光の刃と魔法の刃が重なり、刃は別のものへと変化した。

 その姿を見てモモンは目を見開いた。

 

「ワ、ワールド・ブレイク!?」

 

 変化した刃はワールド・チャンピオンのみが使える究極スキル、次元断切(ワールド・ブレイク)にそっくりな見た目だったのだ。

 そして、流石のブラスト・ソードもその一撃は受けきれず、その刀身を消失させ、その瞬間にレミーは意識を失うのだった。

 

「おい、あんた、大丈夫か!?」

 

 倒れたレミーに駆け寄るガウリイ。

 そして彼女が正常な呼吸をしていることを確認し、ほっと一息つく。

 

「彼女は無事みたいだ。助かったよ。あんたのおかげだ」

 

「いや、礼はいい。それよりも教えてもらいたいことがある。ガウリイ、先程、彼女の持っていた剣を消滅させた一撃、あれは何をしたのだ。いや、そもそもお前の持っている剣は一体?」

 

「ああ、こいつは光の剣って言ってな。うちの実家に伝わる剣で一応伝説の剣らしいぜ」

 

(光の剣!! そのまんまの名前だけどかっこいい!!)

 

 先程まではそんな余裕がなかったものの、光の刃を持つ剣と言うのはそれだけでアインズの厨二心をくすぐる一品であり、羨ましさを覚える品だった。

 

「んで、さっきやったのは。んー、難しいことは、よくわからんが、こいつには魔法を吸収してパワーアップさせる力があるんだ」

 

「えっ、何それ、反則」

 

 ガウリイの言葉を聞いて思わず素になるアインズ。現断(リアリティ・スラッシュ)と次元断切(ワールド・ブレイク)は上位互換と下位互換とも呼べる関係であるが、だからと言って、現断(リアリティ・スラッシュ)を吸収して、次元断切(ワールド・ブレイク)そっくりになるまで強化してしまう等、ユグドラシルの感覚からすればまさしく反則アイテムである。

 

(これでもし、超位魔法を更に強化できたり、敵の攻撃を吸収して撃ち返したりできたりするとしたら……)

 

 恐ろしい想像をし、この時モモンは光の剣をワールド・アイテムに匹敵する反則アイテムであると認識した。それにより、彼が魔王を倒したパーティーの一人であることに納得すると共に、改めて彼やその仲間を敵にしないようにしようと誓うのだった。

 

「しっかし、酷い状態だな」

 

「ああっ、そうだな」

 

 全てが終わり改めて周囲を見回す一行。遺跡は滅茶苦茶、保管されていたアイテムはルーン・ガストに踏みつぶされた。つまり、収穫は無し。つまり骨折り損のくたびれ儲けである。

 しかしそんな状況で普通は出てこない筈の感想をガウリイは呟いた。

 

「なんか、あんた、楽しそうじゃないか?」

 

「言葉を慎みなさい!!」

 

 ガウリイの感想はモモンを見てのもの。

 それに対し、即座に反応するナーベ。しかしモモン自身は別の感情を抱いていた。

 

(楽しい?そうだな、確かに楽しかったかもな)

 

 さんざんな目にあったが、結果的には被害抜きで切り抜け、困難をクリアーした。そのことに彼は確かに達成感を覚えていたのだ。まあ、酷い目にあったと言う気持ちもあったし、流石に100%の満足とまでは言えないが。

 

(そう言えば、こいつとの敬語も忘れていたな)

 

 ガウリイに対しては最初モモンは敬語で話していた。それは相手に対する敬意では無く、寧ろ他者に対する距離感から来るものである。それが慌てた状況で余裕が無く、ため口で話していたのだが、どうしてか、落ち着いた今となってもそれが少ししっくり来る感覚があったのだ。

 

(仲間と協力し、乗り越える感覚か……。いや、俺にとっての仲間はギルドのみんなだけだ)

 

 モモンの達成感にはただ単に困難をクリアーしただけでなく、誰かと協力して成し遂げた。その事によって、無意識に彼に対し仲間意識を抱いていたのだが、彼に捕らわれた彼には未だ受け入れることは出来ないようである。

 

「さて、それでは、何時までもここに居ても仕方が無い。出るとするか」

 

「ああ、そうだな。リナも見つからなかったしな」

 

 自身の感情を誤魔化すように帰還を提案する。

 ガウリイの方も異論は無いらしく、頷くとレミーを抱きかかえた。

 そして帰路の途中で今更になって感じた疲れにモモンは呟く。

 

「ふう、満足感はあったが、流石に疲れた。少しの間だけ冒険者は休業することにしよう」

 

 こうしてモモンの冒険は一旦、幕を閉じるのであった。




レミー強過ぎじゃないと思う人が居るかもしれませんが、彼女は2巻でガウリイと互角に戦ったロッドの妹だったり、SFCのゲームで鍛えると最強キャラになることから潜在能力でならこの位強くても違和感無いかなあと思ってこんな感じにしました。


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最凶の敵との遭遇(前編)

アンケートで回答いただいたエピソードようやくかけました。
この話の時系列はモモンの冒険から1年後位後になります。
1年の間に原作から外れてかなり色々あって、リナ達とアインズは結構仲良くなったりしました。


(あー、わくわくするなあ)

 

 アインズはあるダンジョンの中を歩いていた。今、アインズが居るダンジョンは古代の秘宝が眠ると言われている遺跡である。建設した者自身を除けば前人未踏と伝えられており、30年前には当時の五賢者と呼ばれたものの一人が仲間を連れて探索を行ったが、誰一人帰って来なかったという逸話すらある場所だった。

 更に最近ではその真偽を確かめるため、デミウルゴスが八肢刀の暗殺者10体を偵察として送り込んだのだが、彼等もまた全滅し、戻って来なかった。八肢刀の暗殺者はユグドラシル金貨を消費して召喚したモンスターでゲームではレベル49、この世界の基準では1流の剣士並みの強さを持っている。しかも不可視化が出来て隠密性、生存性は高い。それが10体全滅ということからも、このダンジョンのレベルの高さを相当なものであることは間違いなかった。当然、NPC達はそんなダンジョンにアインズが潜ることを反対した。安全が確保されてからとしてからと主張した。しかしアインズから言わせればこうである。

 

(そんな、接待プレイみたいなことされてもなあ……)

 

 誰もクリアーしたことの無いダンジョン、そんなものがありながら部下達に先にクリアーさせる。安全を確保した後にのこのこ入るなど、危険を忌避するが、同時に冒険を好むアインズからすれば論外である。

 結局、折衷案として、階層守護者3人を連れてのダンジョンアタックが決定。そこで選ばれたのはシャルティア、アルベド、デミウルゴスであった。高難易度のダンジョンということで前衛2、後衛2のガチパーティーにアイテムも十分に準備してある。そのおかげもあってか、ここまでの探索は順調だった。途中はほどほどに手ごたえのある敵やギミックがあり、性能的には大したものではないが、珍しいアイテムも幾つかゲットしていた。

 冒険らしい冒険、それに最近ではNPCとの関係もほんの少しだけ堅さがとれて、アインズの機嫌はかなりよかった。先に対する期待に包まれる。

 そんなタイミングで、タンクとして先頭を任せていたアルベドが足を止めた。

 

「アインズ様」

 

「ああ、これは、如何にも何かありそうだな」

 

「確かに。如何いたしますか?」

 

 アインズの言葉に頷き、問うデミウルゴス。

 知恵者のデミウルゴスで無くても、分かる位に目の前には怪しい光景が広がっていた。

 そこにあるのは部屋である。4体の彫像が部屋の四隅に1体ずつ設置され、床に魔法陣が描かれた部屋があった。部屋の先には通路が続いており、分岐路は見当たらない。宝か罠か、高確率で何かの仕掛けがありそうに見える。

 

「ふむ、ここは定番の手で行くか」

 

 そう言ってアインズはデスナイトを召喚し、先に進ませる。デスナイトを囮として、罠を確認しようという狙いだった。しかしデスナイトが部屋に入っても、それどころか部屋の中を調べさせても、何も起きないし何もみつからなかった。

 

「ふむ、フェイクか?」

 

「かもしれません」

 

 ダンジョンには如何にも何かあると見せかけて何も無いというパターンも珍しく無い。何時までも足踏みしても意味は無いと歩を進めることにする。順列通り防御力の高いアルベドが入り、次にアインズが部屋に入った。その瞬間に床が光る。

 

「んなっ?」

 

「ア、アインズ様!!」

 

 アインズに向かって、手を伸ばすシャルティア。しかしその手は空を切る。

 この部屋に仕掛けられた罠は狡猾だった。一定以上の魔力を有したものにのみ反応し、更に先頭が前衛であることを想定し、2番目に入ったものを一人だけ別の場所に飛ばすと言う底意地の悪いものだったのである。こうしてアインズはダンジョンの中で一人はぐれてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

「くそー、見事にやられた!!」

 

 周りに人が居なくなったこともあり、素を出して悔しがるアインズ。そして感情抑制のスキルで落ち着く。

 

「はあ、ここは一度脱出して出直すか」

 

 一人で未知のダンジョンを彷徨うのは流石にリスクが大きすぎる。ダンジョン脱出のアイテムを使用する。

 

「あれ?」

 

 しかし発動しなかった。次に空間転移系のスキルを使用する。やはり発動しない。続いて通信系のスキル、アイテム、いずれも反応が無い。

 

「や、やばい!! そのタイプのダンジョンだったのか!!」

 

 転移・通信阻害、ダンジョンには定番のギミックだ。アインズたちの居住地であるナザリック自体、転移阻害は万全である。しかしこの世界では魔族の結界を除いて一度も遭遇していなかったこともあり、その可能性を想定していなかった。いや、正確には一応、想定はしていたのだ。ところが、

罠に嵌る前のエリアでは普通にそれらが使えるようになっていたのである。そのため、安心してしまっていたのだ。そうして油断した相手が罠にかかった状況で、更に転移もできなくなったことに気付くという具合である。このダンジョンを作った奴の性格が悪いのは間違いなかった。

 

「悔やんでも仕方無い。転移系以外のアイテムも揃えてるし、慎重に進むしかないな」

 

 通信が出来なくなった状態でNPCたちがアインズを見捨てて帰るというのはまずあり得ない。アインズを探して探索を続けているだろうNPCたちと合流をするためにも、自分も移動することを選ぶ。

 

「進めそうなのはこっちだけか」

 

 一本道を進むアインズそして再び部屋に辿り着く。そこではアインズが辿り着く前から戦闘が起こっていた。戦っているのは人間とゴーレムである。

 

「ガーヴ・フレア!!」

 

 全身が鋭く尖ったゴーレムを、空中に飛び上がった栗色の髪の少女が放った炎が貫く。その姿には見覚えがあった。

 

「あれ、リナさん!?」

 

「んっ、あっ、アインズじゃないの!!」

 

 この世界に来て直ぐの頃、レゾとの戦いの時に知り合い、その後色々あって今では友人と呼べる関係になった相手、リナ・インバースがゴーレムと戦っていた者の正体だった。地面に着地し、こっちに駆け寄ってくるリナ。

 

「久しぶりねえ。あんたもこの遺跡に潜ってたんだ。一人みたいだけど、もしかしてあんたも仲間とはぐれたり?」

 

「はい、恥ずかしいですけど罠に引っかかってしまいまして。けど、そう言うってことはリナさんも?」

 

「ええ、意地の悪い罠にやられちゃってね」

 

「ははっ、こっちもです。けど、ここで会ったのも何かの縁ですし、折角ですから一緒にいきませんか?」

 

 リナを冒険に誘う。それは戦力的なことよりも一人で冒険をするのは寂しいという理由だった。そしてリナはその申し出に快諾する。

 

「ええ、正直ありがたいわ。ここの敵、結構強くて、一人だとちょっと苦戦してたのよね。アインズさんが一緒なら頼もしいわ」

 

「ははっ、存分に頼ってくださいね」

 

 こうして二人は連れだって移動を再開する。そしてそのまま更に進むと大広間に直面した。大広間の奥には大きな鏡が飾ってあり、その鏡の裏に更に奥があるように見える。そして広間の左右には道が続いていた。

 

「お宝があるとしたらあの鏡の奥、もしくはあの鏡自体が何らかのマジックアイテムってとこかしらね。左右の道はどちらか、あるいは両方が出口に繋がってるか。先に合流をしようとするのなら、どっちかに行くべきだけどどうする?」

 

「うーん、どうしましょうかねえ」

 

 先に興味はあるが、この手のダンジョンにはボスが付き物である。これまでに出て来た敵も、ユグドラシルのレベルで60位の強さはある相手と複数遭遇している。そうなると、ボスの強さは80以上は警戒するべきだろう。しかし同時に魔族を除けばこの世界でレベル100を超える存在は一度も遭遇していない。

 

(魔族を除けば一番強いミルさんでも、セバスと互角位だったしなあ)

 

 ルーンガストとかの魔導兵器でも一対一なら負けることは無い。基本的に怖いのは神と魔族、それと強者の集団と言うのがアインズの認識である。

 

(俺とリナさんの二人ならいけるんじゃないかな?)

 

 一瞬、そう考え、その考えに誘惑される。それは準備し過ぎてあっさりクリアーしてしまうと逆にがっかりしてしまうゲーマーあるあるの考えがよぎったからだ。しかし直ぐにその考えを否定する。

 

(いや、駄目だ。この世界では死が重い)

 

 この世界でも一応復活は出来ることは既にわかっていた。しかしその代償はゲームのデスペナよりも遥かに大きいこともわかっていた。無茶は出来ないと判断する。

 

「やはりここは仲間と合流を優先しましょう」

 

「そうね。何か嫌な予感がするわ」

 

 そうして鏡に近づかないようにして右の道を目指す。しかしやはりこのダンジョンを作った奴の意地は悪かった。でかでかと鏡があれば誰でもそれが気になって見てしまう。そしてそこに、自分の一部でも映っているのを見てしまうと罠が発動する仕掛けだったのだ。

 それは奇しくも同時だった。リナとアインズ、その両方が鏡に映る自分の姿を見た瞬間、鏡が輝きだす。

 

「アインズ!!」

 

「ああ!!」

 

 鏡が光った瞬間、二人はしまったと思うが、先程のように転移はさせられなかったことを理解すると警戒態勢をとる。そして何があっても直ぐ動けるように、構えた。するとその場に無機質な声が響き渡った。

 

『シンニュウシャノキオクカラコレマデデアッタナカデモットモキョウイダッタテキヲサイゲンシマス』

 

 そして鏡の中から何かが飛び出してくる。その姿は人だった。ひらひらとしたまるで”ウェイトレス”のような恰好をした女性の姿をした存在、恐らくは遺跡が産み出した防衛機構。それを見て、リナは目を見開き、そしてガタガタと震えだす。

 

「そ、そんなまさか」

 

「リ、リナさん、一体どうしたと言うんだ!?」

 

 リナの見たことの無い姿に慌てるアインズ。これほど怯えるリナをミルのは彼にとって初めてだった。リナはアインズの声が聞こえていないかのように、青い顔をしたまま呟く。

 

「なんで、なんでここに居るのよ……」

 

 そしてリナは、感情が爆発したかのように叫んだ。

 

「何で姉ちゃんがこんなとこにいんのよー!!!!!!」



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最凶の敵との遭遇(中編)

今話にはワールドアイテムなどに対する独自解釈が含まれています。


「リナさん、落ち着いてくれ。さっきのアナウンスからして、あれは君の本当のお姉さんではないだろう?私達、と言うか君の記憶から作った偽物なんじゃないか?」

 

 恐慌状態のリナを落ち着かせるための言葉を吐くアインズ。それを聞いてリナも正気を取り戻す。

 

「はっ、そっ、そうね。けど、問題は強さよ。もし、本物の姉ちゃんと同じ強さならはっきり言って勝ち目は無いわ」

 

 しかしリナが正気は取り戻しても絶望的な状況に変化が訪れた訳ではない。青い表情で語る。

 

「そこまで強いのか?」

 

 それに対し、リナの姉を知らないアインズは疑問の表情を浮かべた。

 

「ええ、あたしも姉ちゃんの全力を見たことは無いんだけど、とてつもない強さなのは間違いないわ。下手すりゃゼロスの奴でも適わないかもしれない」

 

「えー、いったい何者なんですか。リナさんのお姉さん」

 

 ゼロスとはアインズも相対したことがある。リナの口から語られた、想定を遥かに超える強さに驚きと疑念の混じった声を漏らす。

 

「とにかく、こうなった以上全力で当たるしかないわ。姉ちゃんを模倣した奴……めんどくさいから偽姉って言うわけよ。偽姉はどういう訳か向こうから攻撃を仕掛けては来ないみたいだから、最初の一撃で決める気で、全力でいくわよ」

 

 鏡によって産み出されて移行、偽姉は静止状態であった。その彼女に向けて、リナとアインズは最大級の攻撃を仕掛ける準備をする。

 

「四界の闇を統べる王 汝の欠片の縁に従い 汝ら全員の力もて 我にさらなる魔力を与えよ 」

 

「ブレスマジックキャスター、インフィニティウォール、グレーターフルポテンシャル」

 

 互いにバフを使い魔力を最大限に高める。そしてバフをかけ続けるアインズに対し、リナは一足先に攻撃術の詠唱へと移った。

 

「黄昏よりも暗きもの血の流れよりも赤きもの……」

 

「トリプレットマジック、ブーステッドマジック」

 

 そしてお互いの最大攻撃を放つタイミングをあわせ、発動させた。

 

「竜破斬!!」

 

「終焉の大地!!」

 

 増幅版ドラグ・スレイブとバフで最大に強化した超位魔法が同時に放たれる。まともに食らえば中級魔族クラスで1撃で倒せる威力のコンボ攻撃。しかしそれを偽姉は手に持った剣で同時に切り払ってみせた。

 

「あれは、あたしが姉ちゃんにあげた魔力剣!! 武器まで複製できるの!?」

 

「あれを防ぐとか、まじでリナのお姉さん何者なんですか!!」

 

 両者驚きの声をあげる。そして今まで静止していた偽姉が動き出す。剣を振るい、巨大な飛ぶ斬撃を産み出した。向かってくる斬撃を何とか回避する二人。

 

「うおっ」

 

 斬撃が通り過ぎた後には、床に巨大な亀裂が生まれる。狙い撃ちされないよう二人は動きながら次の手を繰り出した。

 

「暴爆呪!!」

 

 単発で駄目なら数と数十の火球を放つ。しかし偽姉は、凄い速度で剣を何回も振り、それら全てを切り裂いた。

 

「朱の新星!!」

 

 そこで間髪入れず、単体相手では超位魔法以外で最高クラスの威力を魔法を放つアインズ。偽姉の注意が暴爆呪 に向いたタイミングを狙うことで、この攻撃はヒット。炎が偽姉を包む。しかしその炎はほとんどダメージを与えることなく消え去った。

 

「ほ、ほんとに人間なんですか!? リナさんのお姉さんは!!」

 

 あまりの非常識さに叫ぶアインズ。リナは姉ならば十分あり得ることだと答えた。

 

「人間よ。ただし、神様の力を宿してるけどね。赤竜、スイフィードの力の欠片を宿してんのよ、うちの姉は!!」

 

「か、神様!? いや、まてよ。赤竜ってことは……」

 

 そこでアインズは切り札を決断する。彼が持つワールドアイテム、モモンガ玉を発動させたのだ。このワールドアイテムはレベル5分の経験値の消耗と引き換えに一時的にレベルを5アップさせ、これによりナザリック最高の切り札、8階層のあやつらを操作可能にする。

 そしてもう一つ大きなおまけ効果があり、攻撃の全てに対竜特化属性を追加するのだ。そしてこの効果が神魔の竜にも適用されるのは既に検証済みであった。

 

「リナさん、こいつと一緒に少しだけ時間を稼いでください!!」

 

 アインズは第10位階死者召喚を使い、70レベルのアンデッドである破滅の王を召喚。超位魔法発動の時間を稼ぐために、偽姉にけしかける。アインズのやろうとしている事を理解したリナは、その背後から魔法を放って援護する。通常であれば、このコンビでも時間を稼ぐには難しい相手であるが、偽姉は動き出した後も鏡から離れないのでそれを利用すれることで十数秒の時間を稼ぐ。

 

「喰らえ!!!失墜する天空!!!」

 

 ワールドアイテムで強化した状態の超位魔法。8階層のあやつらを除けばアインズ最強、最大の攻撃手段が放たれる。その一撃はダンジョンの屋根を消滅させ、偽姉に降り注いだ。

 

「こ、これなら……」

 

 そこでワールドアイテム1回分の効果が切れる。再度使用するなら再び、5レベル分の経験値を使う必要があった。できればこれで倒せていて欲しいと願うアインズ。リナも固唾を飲んで見守る。

しかし現実は非常であった。

 

「う、嘘だろ」

 

 偽姉は健在、それどころか無傷であった。その光景を見て、先程の朱の神星の時には驚かなかったリナも目を見開く。

 

「あり得ないわ。今の攻撃なら幾ら姉ちゃんと言えど、流石にもダメージは受ける筈」

 

 ワールドアイテム強化時にはアインズの魔法はその全てが、アストラルド・サイドにも干渉できる力を持つ。そもそもがルナには肉体があるのでそうでなくても威力さえ十分であれば、ダメージが通る。今のアインズの一撃は未完成版の重破斬を上回る程の威力があった、それを食らって、無傷というのは、如何にルナが赤竜の騎士と言えど不自然なことであった。

 そして困惑する彼等に再度、偽姉が攻撃を放つ。対象はアインズ、攻撃を受けてしまい、絶叫をあげる。

 

「ぐぅおお!!!!!!」

 

 光の柱が天から降り注ぐ魔法。バフにより、防御も強化していたアインズあったが、苦手属性なこともあり、一気に体力を削られる。痛みに対し、感情抑制のスキルが発動。同時に、あることに気付くアインズ。

 

「そんな、姉ちゃんは魔術は使えない筈」

 

「あれは魔術じゃありません。私の世界の魔法です」

 

 驚くリナにアインズは気付いたことを説明する。

 

「えっ!?」

 

「あの時、侵入者の記憶を基に、リナのお姉さんの偽物を作ったと言った。しかしそれではリナさんだけに反応したことになる」

 

「ま、まさか、アインズの記憶も参照した!?」

 

 アインズの言いたいことを察するリナ。アインズは表情のわからぬ骸骨の顔で、しかし絶望を感じながら頷いた。

 

「あれは、私の世界の最強の怪物、ワールド・エネミーの力を付加されている……」

 

 ワールド・エネミーはユグドラシルのゲームのおけるエンドコンテンツ・モンスターだ。そのため、ワールドアイテムがあれば簡単に倒せるということがないように、ワールドアイテムに対する完全耐性を備えている。そして加えられているのは先程使われた魔法からして、アインズにとって最も相性の悪いワールド・エネミーである、セフィラーの十天使の力だろう。

 

(ぜ、絶望的だ)

 

 ルナ・インバースの時点で勝ち目はほぼ0なのに、そこにワールド・エネミーの力まで加えられては勝ち目は完全に0だ、そう考えアインズは絶望しかける。しかし、そこでリナは一つの勝機を見出していた。

 

「とんでもないわね。でも、一つだけ私達が勝てる可能性があるわ」

 

「えっ!! 本当ですか!? リナさん!!」

 

 リナの言葉に驚くアインズ、そしてリナはある方向に視線をやる。

 

「姉ちゃんの偽物、さっきからずっと鏡の前から離れない。そしてあれほどの存在を具現化するエネルギーどこから得ていると思う?」

 

「そうか!!」

 

 リナの言いたいことを察するアインズ。ここはゲームと違い現実だ。数値をいじるだけでエネルギーは湧いてこない。高位魔族に匹敵する程の力を持つ存在を実体化させ続けるには、どこかからエネルギーを供給する必要がある。

 

「多分、あの鏡を使って世界そのものからエネルギーを吸い上げてるのよ。世界の持つエネルギーは神魔さえも超えるわ。だから……」

 

「あの鏡を破壊すれば消えるかもしれない。そういうことですね」

 

「ええ。けど、あたし達二人だけでそれを実行するのは、正直きついわ」

 

 予測が当たっているなら、弱点である鏡を全力で守ってくる筈。今でさえ、距離を置き、攻撃も散発的にしか来ないから何とか戦えているのだ。より激しくなるであろう攻撃をかいくぐって鏡を破壊するのは至難どころでは無い。

 

「アインズ、気を付けて!!」

 

 方策のまとまらないうちに偽姉が再度動く。それは先程と天から降り注ぐ光の柱を出した時の動きと同じだった。

 

(やばい。今の状態で食らったら死ぬ!!)

 

 一撃目のダメージが残っている状態で次に同じ攻撃を受けたら死亡しかねない。それで耐えきれるかどうか分からないが、防御魔法を展開できるよう備える。

 

「来るわ!!!」

 

 リナが警告を発する。その時、横方向から攻撃が放たれた。

 

「ソドムの火と硫黄!!」

 

「清浄投擲槍!!」

 

 2者による攻撃。しかしそれは偽姉を一瞬、停滞させるも完全に動きを止めることはできなかった。

一瞬遅れて偽姉はスキルを放つ。

 

「アインズ様!!」

 

 偽姉が放ったスキルを飛び込んだアルベドが防ぐ。彼女が庇ったのはアインズだけだが、近くに居たリナもついでに庇われる形になる。

 

「ぐうぅぅぅ!!」

 

 防御スキルを展開したアルベドだが、流石はワールド・エネミーのスキル。かなりのダメージを受けるアルベド。

 

「アルベド!!」

 

 即座に回復アイテムを使うアインズ。アルベドはアンデッドであるアインズと違って、アストラルサイドに干渉するタイプの攻撃でなければ、アイテムで瞬時に回復が可能だ。全快するアルベド。

 

「アインズ様、申し訳ありません」

 

 デミウルゴスが駆け寄ってくる。その表情は即座に自害しかねない程に蒼白だ。ダンジョン内で、主とはぐれた上、その対象が危機に晒される所を間近で目撃したのだから、彼の性格からすれば当然の反応だった。

 

「話は後だ。それよりもあいつを倒すぞ。人間の姿だが、あれは私達の記憶から再現された。ワールド・エネミーと同等の存在だ。まともにやっても勝てん」

 

「「「ワールド・エネミー!!」」」

 

 その言葉にNPC達が重なる。彼等の脳内では、「強過ぎだろ!!」とか「これで負けるの何度目だよ!!」とか「クソ運営!!ゲームバランス考えろ!!」と叫ぶ彼等の創造主たちの言葉が蘇る。彼等が至高と呼ぶ存在達ですら、何度も戦略的撤退(普通に全滅した、NPC達の脳内ではこのように変換されている)を強いられる程の敵との遭遇に、強い警戒が走る。

 

「だが、勝機はある。よいか、よく聞くのだ」

 

 そしてアインズは簡単に作戦を告げる。こうして戦いは次の局面へと移行した。




偽姉:リナの姉であるルナ・インバースの戦闘力をスペック的には完全再現している上、ワールド・エネミーの耐性と一部スキルを付与されている。ユグドラシル内のほぼ全ての絡めてにをメタったナザリックに対しては天敵とも呼べる位にやばい存在。


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最凶の敵との遭遇(後編)

「魔将召喚」

 

 デミウルゴスは50時間に一度しか使えないスキルを使用して、レベル80の魔将を召喚する。

 

「最終戦争・悪」

 

 更に召喚の魔法を3回使い、大量の悪魔を召喚。時間稼ぎが目的なので、数を揃えることを重視して、レベル10の悪魔を100体以上用意する。

 

「魔法抵抗難度強化」

 

 シャルティアは分身を産み出し自身にバフをかける。アインズはアルベドにバフをかけ、そして準備は完了した。

 

「準備はよいか?……よし、行け!!」

 

 アインズの合図と共に一斉に偽姉に向かって進行する。その勢力に対し、偽姉がワールドエネミーの光属性魔法を発動、一撃でほぼ全ての悪魔が消失させられる。

 

「うおおおお!!!」

 

 しかしそれは計算の範疇。召喚した中で残った唯一の悪魔、魔将が偽姉に切りかかった。

 

「獣王牙操断!!」

 

 そこでリナが魔術を放った。偽姉はそれに反応、魔将を即座に切り捨て、魔術を迎撃しようとするが、そこで分身と共にシャルティアが飛び掛かる。

 

「御方の邪魔をする不敬。断罪に値するでありんす!!」

 

 シャルティアが攻撃している内に、リナは獣王牙操断の軌道を操作し、偽姉を迂回し、鏡に向かわせた。しかし魔力の弾が鏡にぶつかろうとした瞬間、鏡の周囲に魔力の結界が発生し、弾を消滅させた。

 

「やっぱ、そう簡単には行かないわね!!」

 

 偽姉を産み出す程の高度な技術で作られた遺跡だ。当然、その程度の防壁は予測済み。リナは翔封界を使って、鏡に接近。しかしそこで偽姉がシャルティアの分身を切り捨て、本体を弾き飛ばす。

 

「はあっ!!!!」

 

 そこで入れ替わりにアルベドが突っ込む。今なら刃はシャルティアに向けられ、自分の攻撃は防げない。アルベドはそう確信するが、彼女がふるった一撃を偽姉は素手で掴んで見せた。

 

「んなっ!?」

 

 アルベドはタンクタイプ、防御や耐久力に多くステータスをふっているため、レベル100としてパワーもスピードもかなり低い。それにしても素手で武器を止められるとは予想しておらず、一瞬硬直してしまう。

 

「えっ、きゃあああ」

 

 そしてルナは掴んだ武器ごとアルベドを持ち上げ、ぶん投げた。壁に叩きつけられた所で、ダメージはたいして無いが、予想を超えた事態に思わず悲鳴をあげてしまう。

 

「これはとんでもないですね。まさかこれほどまでの怪物が存在するとは」

 

 その光景に流石に冷や汗をたらすデミウルゴス。しかしそれで臆することは無い。主の為に身を張ることこそ下僕の本懐とばかりに偽姉に挑む。

 

「悪魔の諸相:豪魔の巨腕!!」

 

 腕を巨大化させて殴りかかる。仮にも戦闘タイプのアルベドの攻撃を余裕で防ぐ相手に、自分の攻撃が通じるとは最初から思っていないデミウルゴス。予想通りに、その腕は偽姉によって切り裂かれ、更に叩きのめされるが、そのタイミングでアインズの援護が入る。

 

「万雷の撃滅!!」

 

 タイミングよく放たれた高速の雷撃が偽姉に直撃する。

 そしてそれとほぼ同じタイミングで、リナが翔封界を解除しする。目標物、鏡までの残りの距離を足で駆け寄りながら、呪文を詠唱する。

 

「―悪夢の王の一片よ 世界のいましめ解き放たれし」

 

 それに気付いた偽姉が超高速で距離を詰め、リナに飛び掛かろうとした。

 

「!!」

 

 しかしそこで、シャルティアとアルベドが同時に飛び掛かって、それを阻もうとする。無論、彼女達はリナなど助けたくないが、リナを支援するのが主の命なので仕方が無い。しかし二人同時にかかったにも関わらず、偽姉のふるった剣で弾き飛ばされる。

 

「がああああ!!!」

 

 だが、大きく吹き飛ばされたのはシャルティアだけ。防御力の高いアルベドは鎧を破壊されるだけで堪えて見せた。そして必死なあまり、顔芸とも呼べる程に凶悪な表情を浮かべたアルベドは、その表情のまま再度飛び掛かってみせた。

 

「!!」

 

 それに対し、偽姉はアルベドの心臓めがけて突きを放つ。このままいけば形の上では相打ち。しかし攻撃力の差からアルベドだけが死ぬ状況であった。

 

「心臓掌握」

 

 そこでアインズの魔法が入り、アルベドの命を救う。グラスプ・ハートは心臓を握り潰し即死させる魔法だが、抵抗された場合でも朦朧状態になる追加効果がある魔法だ。心臓自体が存在しない魔族には効果が無いが、偽姉には有効だった。一瞬とはいえ、動きを鈍らせ、そのタイミングでアルベドの攻撃が炸裂。吹っ飛ぶ偽姉。

 そしてそれが勝敗を決定させた。

「神々の魂すらも打ち砕き 神滅斬!!!!」

 

 リナの一撃が結界ごと鏡を切り裂き、そして予想通りに偽姉は光の粒子となって消滅するのだった。

 

 

 

 

 

 

「アインズ様」

 

「ああ、よくやったぞ。アルベド」

 

「あっ、ああああああ」

 

 戦いが終わり、賞賛の言葉をかけるアインズ。その言葉にアルベドは感極まり、同時に気力が尽きたのか気絶した。ちなみにシャルティアとデミウルゴスは戦闘中に既に気を失っている。

 

「ふぅ、なんとか勝てたわね」

 

「ええ、しかし、本当にとんでもない人ですね。リナさんのお姉さんは。絶対に敵に回したくないです」

 

 偽姉の使ったワールド・エネミーのスキルはオリジナルと大体同じ位だった。そこから、偽姉は2つの存在の力をあわせもっていただけで、強さを加算するようなことはされていなかったということが想像できる。つまり、身体能力もろもろはオリジナルと同じということだ。

 

(耐性についてはつけ入る隙ができるかもだけど、それでもまともにやったら絶対勝てる気がしない) 

 

 その強さに身震いを覚えるアインズ。加えて、強さを抜きにしても、リナの姉と本気で敵対するような状況はリナ達とも敵対するということ。折角、友人になったリナ達とも仲たがいするリスクも含め、間違っても敵対しないようにしよう、っと、いうかできれば関わりあいたくないと心の中で誓う。

 一方、リナの興味は遺跡内の宝に移っていた。

 

「さてと、それじゃあ、お待ちかねのお宝タイムね。これだけの守りがあるってことは、さぞ・・・」

 

「おーい、リナァァァ!!!!」

 

 そこでアルベド達がやってきた方とは逆の通路から5人の存在が新たに現れる。それはリナの仲間達だった。

 

「ガウリイ、遅いわよ。もうっちょっと早く来なさいよ」

 

「まったく、行き成り文句か。これでも急いでお前を探していたんだぞ」

 

 最初に声をかけてきたガウリイ。リナの悪態に不満の表情を浮かべたゼルガディス。そして残りの3人にアインズが挨拶をする。

 

「お久しぶりです。アメリアさん、ルークさん、ミリーナさん」

 

「んっ、おう、アインズじゃねえか。こんなとこで会うなんて奇遇だな」

 

 アインズに対し軽口で答える黒髪の男、ルーク。久しぶりの再会に話も弾もうとしたその時だった。

 

「ボウエイキコウノハカイヲカクニン。トウシセツハキミツホジノタメゴフンゴニジバクシマス」

 

「へっ?」

 

「えっ?」

 

 それと同時にシャッターのようなものが奥の道を塞ぐ。特殊な金属で明らかに簡単に破壊できそうには見えない。 神滅斬なら勿論別だが、残りの魔力でもう一度使うのは不可能である。

 そしてカウントダウンが鳴り響く。

 

「ぜ、全員退避!!!!!! あっちで倒れてるシャルティアとデミウルゴスを回収して!!!!」

 

 倒れているNPCを抱きかかえ、残りの全員が協力し全力で脱出をはかる。

 

 

 

 

 

 その後、何とか魔法が使えるエリアまで退避し、そこからアインズの転移魔法で安全圏まで避難した一行だったが、遺跡は跡形もなく吹っ飛び、結局何も得ることができないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 更にその後。

 

「おーほっほっほっ。アインズ様は私を庇ってくださった上に、抱きかかえて運んでくださったのよ」

 

「ぐっ、ぐぅ。気絶していて、記憶に無い癖に」

 

 遺跡から脱出する際、アルベドはアインズが抱きかかえ、他の2人はリナと仲間達が運んだ。その人選は位置関係の都合上で、特に深い意味は無いというか気にしている余裕がなかったのだが、起こった事実に対し優越感をみせるアルベドと悔しがるシャルティア。

 

「記憶になくても、事実に代わりないわ!!あー、アインズ様にお姫様抱っこされる私」

 

「やめないか。それよりも我々は主の手を煩わせてしまったことを反省すべきではないのかね?」

 

 一方、今回の失態の数々を恥じるデミウルゴス。それに対し、アインズが本心からのフォローをする。

 

「いや、その必要は無い。今回は皆、よくやってくれた。強敵相手に見事な活躍、連携を見せてくれた。今日のお前たちはウルベルトさん達にも匹敵する戦いぶりだったぞ。命賭けの戦いではあったが、昔を思い出し楽し……いや、高揚感を感じた位だ」

 

「あ、アインズ様……」

 

 ウルベルトに匹敵、最上級どころではない誉め言葉に感極まる、いや最早言葉では表現できないレベルで喜ぶデミウルゴス。先程まで喧嘩していたアルベドとシャルティアもそれを止めて喜びを露わにした。

 そしてそんな彼らに更なる朗報が訪れた。

 コキュートスがその報せを持って駆け込んでくる。

 

「アインズサマ、ヘロヘロサマガキカンサレマシタ!!!」

 

「なっ、なんだと!?」

 

 特大の吉報に驚愕するアインズ。

 そして更に現れる闖入者。一緒に奇抜なファッションの女性とアウラがその場に現れる。

 

「おーほっほっほっ、この白蛇のナーガが、迷子のへろへろさんをお家にまで案内してあげたわよ」

 

「あーもう、待機していてって言ったじゃないのよ!!」

 

 ナザリックの中で傍若無人に動こうとするも、主の超恩人であるため、強く窘めることもできずにイラつくアウラ。

 そしてその二人の人物を追って、話題の人物が現れた。それは緑色の軟体生物、まぎれもなくヘロヘロであった。

 

「あのー、お久しぶりですモモンガさん」

 

「へろへろさん!!」

 

「実はあの、ユグドラシルの最後の日、最後にモモンガさんが何か言おうとしてましたよね。それが気になってもう一回ログインしようとしたんですけど、ログアウトした後、寝ちゃってたみたいで。インしたのはサービス終了ギリギリで、そしたら何か色々バグが起きちゃったみたいで……。後、その関係で、弱体化しちゃったりもしてるんですけど……また、仲間に入れてもらえますか?」

 

 申し訳なさそうな感じでこれまであった概要を説明し、そして最後に「また、仲良くしたい」というヘロヘロ。そしてその答えは決まっていた。

 

「勿論ですよ!!それからNPCの皆やこっちで出来た友達のこと、へろへろさんに紹介しますね」

 

「はは、私も一杯仲良くなった人いますよ。皆、変な人でしたけど、でも面白くていい人達です」

 

 そして久しぶりに再会した友人は互いに笑いあうのだった。




最後はアインズさん、いやモモンガさんにとって最高のハッピーエンドでした。
今回で書きたいことはほぼ書ききったので、多分、今度こそ完全完結だと思います。
応援いただいた皆様、ありがとうございました。


補足
帰還したへろへろさん:バグによりスキルの大半、特に全てのパッシブスキルが使えなくなっている。スライム自体、パッシブスキルが頼りの生物なので、それにより超弱体化。しかし基本スペックの高さから、スレイヤーズ世界基準ではまあまあの強者。ナーガと出会い、1年以上一緒に旅していた。旅の途中ですぺしゃるにでてくる色々な連中と出会っており、何だかんだでエンジョイしていた。


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