オッス、俺ゴールド 〜ヤンデレ娘クリスとポケモンの世界で旅をする〜 (友親 太一)
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第一話 幼馴染は犯罪者予備軍

 オッス、俺ゴールド。

 元アラサーサラリーマンで現十歳の転生少年だ。

 

 いやー参ったね。

 いつも通りサービス残業終わらして、ギリギリ終電に乗り込んで疲れてたから、うたた寝して起きたら自分が赤ん坊になってたんだから。

 

 後輩に

 

「過労で倒れる前にマジで休んで下さい先輩。もう半年も休み取ってないじゃないですか!?」

 

 て言われたのがフラグだったか?

 

 まあいいや、昔のことは。

 で、俺は前世の記憶を持ったままポケットモンスターの世界に生まれ変わった。

 以上で説明終わり。

 

 ★☆★☆

 

「ゴールド、お隣のウツギ博士が探してたわよ。なんでもゴールドに頼みたいことがあるんだって」

 

 昼飯を食ってたらオフクロがいきなりそんなことを言い出す。

 ……つかそれ、いつ博士に言われた?

 絶対さっきまで忘れてだろ。

 

「……わかった、飯食い終わったらウツギ博士のとこ行くわ」

 

 味噌汁すすりながら俺は答える。

 ……美味い、やっぱ味噌汁は赤味噌だよな。

 

「そうだ、忘れてる所だったわ。修理に出してたポケモンギアが戻ってきたわよ、はい」

 

 相変わらずうちのオフクロは天然だ。

 そもそもポケギアが壊れたのもオフクロに貸して、オフクロが服のポケットに入れたまま洗濯したからだし。

 

 俺はオフクロからポケギアを受け取ると、残ってる飯を腹に流し込む。

 

 ★☆★☆

 

【ワカバタウン〜始まりを告げる風が吹く町〜】

 

「ハァイ、ゴールド」

 

「……クリス、なんで俺の家の前に居るんだ?」

 

 俺が家を出ると目の前に現れた少女。

 コイツはクリス。

 独特な跳ね方したツインテールが特徴の俺の幼馴染だ。

 

「偶然よ、ぐ・う・ぜ・ん♪」

 

「昨日も一昨日もその前も俺の家の前に居るは偶然なのか?」

 

 ちなみに俺に惚れてるのだ。

 

「ギグッ!? そ、それよりウツギ博士の所にいくのよね、アタシもついていっていいかな?」

 

 漫画のハーレム主人公じゃあるまいし、こんな分かりやすい反応を毎日されたら丸分かりだからな。

 クリス本人は隠してるつもりらしいが。

 

 俺? 俺はクリスに惚れてないぞ。

 別に嫌ってないけど俺は前世込みで精神年齢がアラフォーのオッサンだからクリスが娘にしか思えなし。

 ……俺は断じてロリコンじゃないからな。

 

「……なんでお前が知ってるんだよ。つか嫌だと言ってもついてくるんだろ?」

 

「そんなことは…………ある、かな?」

 

 俺はクリスの将来が心配だ。

 コイツいつか警察の世話になりそうだし。

 ……それだけは絶対に防がないと。

 

「はぁ、いいよ。一緒に行こう」

 

「ヤッター! ありがとうゴールド♡」

 

 嫌いではないが疲れるんだよな、クリスと一緒に居ると。

 

 あの時、俺がクリスを助けてから毎日こんな感じだからな。

 助けてた俺にも責任はあるし、仕方ないか。

 

 ★☆★☆

 

【ウツギポケモン研究所前】

 

「『ピカチュウは既に進化したポケモンである!』 あのウツギ博士の発表にはアタシもビックリしちゃった」

 

「あー確かにな」

 

 俺達は雑談しながら研究所を目指して歩く、つっても隣だから直ぐに着くがな。

 

「もう、ちゃんと聞いて…………ねぇゴールドあれ見て」

 

「ん?」

 

 クリスが指差した方を見るとそこには赤いロン毛の目つきの悪い少年が研究所の窓を覗いていた。

 

「ねぇねぇゴールド、あの男の子なんか怪しくない?」

 

「……俺からしたら、毎日俺ん家の前で待ち伏せしてるクリスの方が怪しいけどな」

 

「あ、ひどーい」

 

 事実だから酷くはない。

 だが確かにあの少年は怪しい。

 しゃあない、ここは俺が注意するか。

 

「…………ここが有名なウツギポケモン研究所……」

 

 うわぁ、人んち覗いてブツブツと独り言いってるのよコイツ。

 あんまり関わりたくないタイプだな。

 だが仕方ない、俺は嫌な気持ちを抑えて少年に声を掛けた。

 

「そこの少年、そんな所で覗きなんかしてると将来ロクな大人になれないぞ?」

 

「……なんだよ、お前には関係ないだろ」

 

 そう言うと少年は俺の肩を強く押し俺を押し退けた。

 ……尻もちついた、別に痛くないが少し乱暴過ぎね?

 

「な、アンタ! アタシのゴールドに何するのよ!」

 

「いや俺はお前のものじゃ無いし。はぁ、行くぞクリス。じゃな少年、一応注意はしたぞ」

 

 なんかクリスが茶々入れたから怒る気が失せたわ。

 俺達は少年をほっといて研究所の中に入ることにした。

 

 ★☆★☆

 

【ウツギポケモン研究所】

 

「やぁゴールド君、待ってたよ。クリスちゃんも、こんにちは。二人は相変わらず仲良しだね」

 

「はい、アタシ達は相思相愛ですからウツギ博士!」

 

「……こんにちは博士。一応言っときますがクリスが勝手に俺に付き纏ってるだけですからね」

 

「ハハハ、照れない照れないゴールド君。そうそう、今日君を呼んだのはお願いがあるからなんだ」

 

「お願い、ですか?」

 

 ウツギ博士の話を聞くと、博士の知り合いのポケモン爺さんが、なんか変なものを見つけたからそれを博士達の代わりに受け取りに行ってほしい、とのこと。

 

「勿論、お礼代わりにポケモンをあげるよ」

 

「本当ですか!?」

 

「いやクリスがお使いに行くんじゃないからな?」

 

 行くのは俺だし。

 

「クリスちゃんも一緒に行ってくれるのかい? ならクリスちゃんにもポケモンをあげよう」

 

 ……さいですか。

 流石ウツギ博士は太っ腹ですね、博士はかなり痩せてますが。

 ちゃんと飯食べてます?

 

「んとねぇ、アタシはこの子に決めたわ!」

 

 なんかクリスはさっさとポケモンを決めてる。

 ……もういいや、ツッコミ入れるのも疲れるし。

 

 てかここがゲームのスタート地点だったんだな。

 前世でポケモンをやったのがかなり昔だったから覚えて無いんだよね。

 

 さて俺はどいつにするかな?

 確か草が強かったんだっけ? 水が強かったんだっけ?

 覚えてねぇ。

 

(……!!!……)

 

 何となく右のモンスターボールが揺れた気がした。

 ……悩んでも仕方ないしコイツにするか。

 

「決まったんだね。ポケモン爺さんは隣町のヨシノシティの先に住んでるよ。それじゃゴールド君、クリスちゃん、よろしくね!」

 

 こうして俺の物語は始まった。

 ま、何とかなるでしょ。

 



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第二話 お・は・な・し

 オッス、俺ゴールド。

 今からウツギ博士のお使いでポケモン爺さんの家に行……

 

「ねぇねぇゴールド」

 

 ……今からお使いに

 

「ねぇねぇねぇねぇゴールド」

 

 …………今から

 

「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ……」

 

「だぁぁ五月蠅え! 何だよクリス、トイレか!?」

 

「ひっどーい、レディに向かってそれは無いんじゃない!? て、そうじゃなくて。ねぇ、せっかくウツギ博士からポケモンを貰ったんだし、見せ合いっこしようよ」

 

 まぁ確かにポケモンを貰ったんだから確認はいるわな。

 クリスの言いたい事は分かったが『ねぇ』をいい過ぎ。

 

「……分かったよ」

 

「ヤッター、じゃあ私からね♡  出ておいでチコリータ!」

 

「チコ、チコー!」

 

 ほぉ、クリスは草タイプのチコリータを貰ったんか。

 頭の葉っぱが可愛らしいな、この子って雌か?

 

「キャーかわいい! よろしくねチコリータ♪」

 

 そう言うとクリスはチコリータを抱きしめて頬ずりする。

 ……チコリータが若干嫌がってるように見えるのは気のせいと言うことにしとこ。

 

「じゃあ次は俺だな。出番だ、ヒノアラシ!」

 

「ひの〜!」

 

 俺の選んだのはヒノアラシだ。

 ヒノアラシはモンスターボールから出ると、辺りを二、三回キョロキョロと見てから俺をジーッと見つめ始めた。

 

「……おいで、ヒノアラシ」

 

 俺の声に反応したヒノアラシはゆっくり俺に近づいてくる。

 俺は優しくヒノアラシを抱き上げる。

 ……ヒノアラシは炎タイプだけあって温かいな。

 

「俺はゴールド、これからよろしくなヒノアラシ」

 

「ひのひの」

 

 こうして俺はヒノアラシとのファーストコンタクトを終えた。

 ……若干背中に冷たい視線を感じたがそれは気にしないとこ。

 

 ★☆★☆

 

【二十九番道路】

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 今、愛しのゴールドとデート中なの。

 二人っきりで別の町に行くんだからデートなの。

 

 はぁ、やっぱりゴールドはカッコイイなぁ。

 ゴールドはいつもクールで、でも本当はとっても優しくて、すっごく大人っぽくて素敵なんだからね。

 

 ゴールドと比べたら他の同世代の男の子なんかゴミ、カス、クズよ。

 あとアタシ以外のゴールドに寄ってくる女は害虫、汚物、毒ね。

 

 幼稚園の頃ゴールドに寄ってきた害虫(同級生の女の子)にはアタシがターップリお・は・な・し・して諦めて貰ったわ。

 まぁその害虫はお・は・な・し・した次の日に遠い町に引っ越ししちゃったけどね。

 

 もぉゴールドったら、こんなにアタシが愛してるのにちっとも気付いてくれないんだもん。

 でもアタシから告白はしないもん。

 やっぱり告白は男性からされたいしね。

 

 ……話が逸れたわね。

 

 アタシ達は今ヨシノシティに向かって二十九番道路を二人寄り添……えずに歩いてる。

 ……ゴールドの提案でポケモン達をボールから出して歩いてるから、ゴールドの横にヒノアラシが並んで、その後ろにアタシとチコリータが並んで歩いてるのよ。

 

 もぅ、またヒノアラシなの!?

 さっきもあのヒノアラシはゴールドに抱きしめられてたし。

 あの時は思わず『にらみつける』しちゃったわ、アタシは人間だけど。

 あのヒノアラシはポケモンだからまだ許せるけど、もし人間だったら今頃お・は・な・し・してるわね。

 

「チ、チコ!?」

 

 チコリータ、アナタは怯えなくて大丈夫よ。

 アナタはアタシの大事な家族だもん。

 

 アタシがチコリータを選んだ理由は、見かけがかわいいからだけじゃない。

 チコリータを選んだ理由、それはこの子はレベルが上がると自力で『どくのこな』を覚えるからよ。

 

 毒って便利よね、特に害虫駆除にとーっても便利。

 でもアタシはまだ十才だからお店では買えないの。

 だからチコリータが『どくのこな』を覚えてくれたら何時でも毒が手に入るの。

 うふふ、楽しみだわ。

 

 そんなことを考えてたら、野生のコラッタやオタチがアタシ達を襲ってきた。

 でもみーんなゴールドが倒しちゃった。

 さすがアタシのゴールド、もう惚れ直しちゃったわ。

 ゴールド、だーいすきよ♡

 



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第三話 ツンデレ少年と病んでる娘

 オッス、俺ゴールド。

 俺達はウツギ博士に頼まれたお使いの途中だ。

 

「ヒノアラシ、『たいあたり』だ!」

 

「ひの〜!」

 

 よっしゃ、ヒノアラシの『たいあたり』でコラッタを倒した。

 

「よしよし、良くやったな」

 

「ひの〜♡」

 

 俺はヒノアラシの頭を撫でてあげる。

 ヒノアラシは気持ち良さそう鳴いてる。

 可愛い奴め。

 

「さっすがアタシのゴールド、ステキだったわ♡」

 

「チコチコー♪」

 

「……俺、お前のじゃないし」

 

 いつも通りクリスにツッコミを入れながら俺達はウツギ研究所を目指す。

 もう夕暮れだし急がないと日が暮れて危険だからな……俺の貞操が。

 十歳の少女に逆レイプされて初体験なんぞ絶対嫌だ!

 

 ここまでくるのに変な爺さんに無理やり町の案内をされてタウンマップ貰ったり、ポケモン爺さんにポケモンの卵を預かったり、オーキドの爺さんに何故か気に入られてポケモン図鑑を貰ったりした。

 今日は爺さんと何かと縁がある日だったな。

 

 まぁオーキドの爺さんは前世でゲームでもアニメでも知ってた人だから会えて少し感動したがな。

 

 そいやポケモン爺さんの家を出たときにウツギ博士から電話があったな。

 なんか慌ててたが何があったんだ?

 まぁ帰ったら分かるか。

 

 ん、アイツは……

 

 

 

 そこには道の真ん中で腕を組んでる少年がいた。

 通行人の邪魔になるから脇にそれたら?

 

「……お前、研究所でポケモン貰ってたな」

 

「あぁ君は覗き少年じゃないか。もう覗きは終わったのかい?」

 

「くっ、 ムカつく奴だ。お前、俺とポケモンバトルしろ! お前のポケモンより俺のポケモンの方が強いと教えてやる」

 

 いきなり何なんだよ。

 俺は早く家に帰りたいんだけどな。

 

「がんばれーゴールド! そんな奴ボコボコにしちゃえ!」

 

「チコ!」

 

 ……クリスめ、既にバトルを観戦する体制になってるし。

 つかいつの間にそのピクニックシートを敷いた?

 チコリータはクリスの横で大人しくしてるな。

 ……クリスも少しはチコリータを見習ってくれないかな、無理か。

 

 ん? 少年がクリスをチラッと見て顔を少し赤くしたな。

 

 ははぁん、なるほどねぇ。

 この少年、さてはクリスに一目惚れしたな。

 確かにクリスは見かけだけは美少女だからな……中身はギャラドスも尻尾巻いて逃げ出すほど凶悪だが……。

 んでクリスに付きまとわれてる俺が気に入らないから喧嘩を吹っかけたと。

 青春やねー。

 

「……何ニタニタ笑ってやがる」

 

「いやいや、若いって良いなぁと思っただけだよ。よし少年、その勝負を受けようじゃないか!」

 

 青少年の初恋は微笑ましいのぉ。

 だが勝負に手を抜くのは俺の趣味じゃない。

 よって大人げないが全力でやらせてもらうぞ!

 

「舐めやがって、今に見てろよ」

 

 それ負けフラグだぞ?

 

「いけワニノコ!」

 

「ワニワニー!」

 

「出番だヒノアラシ!」

 

「ひの〜!」

 

 少年のポケモンはワニノコか。

 水タイプとは相性が悪いな。

 まぁ何とかなるでしょ。

 

「ワニノコ、『ひっかく』だ!」

 

「ワニィ!」

 

「ヒノアラシ、『えんまく』!」

 

「ひのひの!」

 

 ワニノコがヒノアラシに攻撃してきたがヒノアラシが吐き出した『えんまく』に突っ込んで『ひっかく』を外す。

 

「くそ! もう一度『ひっかく』だ!」

 

「青いな少年、ヒノアラシ『えんまく』!」

 

 我武者羅に突き進めるは若者の特権、だが勝負に置いては悪手だぞ。

 再び『えんまく』に包まれたワニノコの攻撃はやはりヒノアラシには届かなかった。

 

「ヒノアラシ、連続で『たいあたり』だ!」

 

「まずい!? 避けろワニノコ!」

 

「無駄だよ少年、あれだけ濃い煙の中にワニノコはいるんだぞ」

 

 おそらくワニノコの今の視界はほぼゼロ。

 そんな状態ではヒノアラシの攻撃は避けれないよ。

 

 ドス、ドス、とヒノアラシの『たいあたり』が当たる音だけがする。

 さて、そろそろ良いかな?

 

「もういいぞヒノアラシ」

 

 ヒノアラシが俺の目の前に戻ってきた。

 煙が晴れるとそこには仰向けに倒れて目を回してるワニノコがいた。

 ワニノコは戦闘不能だな。

 

「俺の勝ちだな」

 

「……フン! 勝って嬉しいかよ?」

 

 そりゃね、嬉しいに決まってるだろ。

 むしろ全力で戦って勝利して嬉しくない奴がいるのか?

 つか顔が歪むほど悔しそうにしてたら負け惜しみにしか聞こえんぞ?

 よく見たら涙目になってるし。

 

「……俺の名前はシルバー。世界で一番強いポケモントレーナーになる男だ。 よく覚えておくんだな」

 

 そう言い捨てると少年……いや、シルバー君は一瞬クリスを見てからワニノコを抱えて走り去っていった。

 それにしても世界一とは大きく出たな。

 うんうん、夢はでっかくないと面白くないよな。

 その気持ち分かるぞ。

 頑張れよシルバー君。

 

「キャー、ステキよゴールド!」

 

 ……そしてシルバー君、クリスに惚れたなら出来るならクリスを引き取って欲しかったかな。

 もしクリスを貰ってくれるなら、クリスをラッピングしてご祝儀と嫁入り道具まで付けてプレゼントするけど………いや、あの年頃の子にこの病んでる娘の相手は過酷過ぎるな。

 

「最高だったよー♡」

 

 そう言いながら俺の背中に抱きつき、クンカクンカと俺の匂いを嗅ぐ病んでる娘、ちょっとは自重しなさい。

 ……どうしてこうなった?

 昔はもっと普通……いや、昔からだったわ。

 

 幼稚園の時に俺と仲良かった女の子をイジメ(クリスはお話しただけと言い張ってたらしいが)て、その子を精神崩壊寸前まで追い込んだことがあったな。

 その時は俺がその女の子の親御さんに事情を説明して、腕の良い精神科医を紹介して遠くに引っ越して貰ったな(その親御さんの会社で転勤の話が偶々あってそれに親御さんが立候補してくれて助かった)。

 

 その子は今では無事に回復したと去年手紙で知ったよ。

 本当に良かったわ。

 ただクリスのことはトラウマになっていて今でも夢に出てるらしいが。

 ……ご愁傷様。

 

「ゴールド〜♡」

 

 クリス本人は俺にバレてないと思ってるのがまた質悪いんだよな。

 はぁ、仕方ないからもうしばらくは俺が面倒見るか。

 早く俺離れしてくれないかな。

 



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第四話 出発の準備

 ハァイ、アタシはクリス。

 アタシね、明日から愛しのゴールドと旅に出るの。

 で、今はその準備をしてるの。

 

 ウツギ博士がね、アタシ達にはポケモントレーナーの才能があるから各地のジムリーダーと戦う為に旅をしてみたらどうだ? って勧めてくれたの。

 ゴールドは少し悩んでたけどいくことに決めたわ。

 モチロン、アタシはゴールドについていくつもりだった。

 そしたらゴールドの方から

 

「クリスも俺と一緒に旅しないか?」

 

 って誘ってくれた。

 もう嬉しくて嬉しくて自然に鼻歌が出ちゃうわ。

 

 「〜♪〜♪」

 

 あのシルバーとか言うゴミとゴールドがポケモンバトルした後、ウツギ研究所に戻ってきたら警察の人がウツギ博士と助手さんとお話してた。

 アタシは思わず尻込みしたわ。

 だってアタシが前にやったアレとかアレとかアレとかが警察にバレたのかと思ったんだもん。

 アタシは警察が嫌い、だってジャマな虫けらを潰しただけで怒るんだもん。

 

 でもアタシの事じゃなかった。

 詳しく話を聞くと、シルバーとかいうゴミが研究所に残ってたポケモンを盗んで逃げたんだって。

 全く下手くそね、ゴミめ。

 

 アタシなら証拠も残さず誰にも見られずに完璧に盗める自信があるわ。

 現にこの家にはゴールドから(勝手に)貰ったものがいっぱい、いっぱいあるのよ。

 

 特にお気に入りなのが、ゴールドの下着(使用済み、洗濯前)コレクション。

 ちゃんと一枚一枚真空パックして、ゴールドの香りを逃さないようにしてるよ。

 

 ……本当はコレクションを全部持っていきたいけど、全部持っていくには車でも無いと無理。

 仕方ないから特にお気に入りのだけで我慢しましょう。

 

 そ・れ・に・一緒に旅をしてたら下着ぐらいはいくらでも貰えるチャンスがあるわ。

 ううん、男女一緒に旅をするんだもん、絶対に一線越えて見せるわ!

 キャー、アタシって大胆♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふとアタシは自分の部屋を見渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……アタシしか居なかった部屋、アタシしか住んでなかった家。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この家にはいい思い出はあまり無い。

 でもいざ離れるとなるとやっぱり寂しいかな。

 

「チコチコ?」

 

「……大丈夫だよ、チコリータ」

 

 だって明日から大好きなゴールドと、それにチコリータとずっと一緒にいられるんだもん。

 ……もうアタシはひとりじゃない。

 

「……ゴールド、あなたに出会えて本当によかった。これかもずっと大好きです……」

 

 アタシは壁の向こうの、ゴールドの家の方に向かってそっと呟いた。

 ゴールドには聞こえてないのは分かってるんだけどね。

 

「チコリータ、今日は一緒に寝ようね」

 

「チコ、チコ♪」

 

 おやすみチコリータ。

 おやすみゴールド……

 

 ★☆★☆

 

【ゴールドの家】

 

 えーっと歯ブラシ入れた、ハンカチも入れた、下着は……多めに持っていこう。

 ……間違いなくクリスに盗まれるからな。

 

 たく、俺の下着なんぞ盗むなよな。

 と、言いたい所だがアイツは俺の物を手に入れたら一週間は機嫌が良くなって周りに迷惑かけないからから見逃してる。

 ……それがクリスを更に増長させてるのは分かってるが不機嫌なアイツは手に負えん。

 不機嫌なアイツの相手するぐらいなら下着ぐらいやるわ!

 

 尚クリスを置いて一人で旅に出るのは論外。

 俺の目の届かない所にアイツを放置するのは、核ミサイルを安全装置無しで放置するようなものだからな。

 それなら俺の貞操が危険に晒されてもクリスを連れてくわ!

 

 それにしてもウツギ博士の所に警察が居たのにはビビったなぁ。

 ついにクリスが捕まるのかと思わず早とちりしてしまった。

 

 よくよく聞くとシルバー君が研究所のポケモンを盗んだと。

 あの年の男の子は悪ぶりたくなる気持ちは分かるけどね、前世の俺にも昔はそんな時期があったしな。

 盗んだ単車で暴走するのが青春ってもんだし 十代の子が非行に走るのはある程度は仕方ないさ。

 でもシルバー君の場合は盗んだポケモンと走り出すが正解か?

 まぁ泥棒は犯罪だから次に会ったらお仕置きするか……クリスみたいに盗みが癖になったら彼の将来が危ぶまれるし。

 

 

 コンコン

 

 

 ん? 俺の部屋の扉をノックされた。

 

「ゴールド、入って良い?」

 

「いいよオフクロ」

 

 俺が答えるとオフクロがゆっくり部屋に入ってきた。

 ……正直オフクロには悪いと思ってる。

 ウチのオヤジは単身赴任で、今は海外に居るから俺が旅に出るとオフクロを独りにしてしまう。

 

 でも俺は旅に出たいと思ってしまった。

 前世の子供の頃に憧れたポケモンの世界を自分の目で見て旅をしたいと思ってしまった。

 俺の……遥か昔に無くしたと思ってた好奇心に火がついたんだ。

 

 本当は寂しいだろうにオフクロは笑って旅に出る許可をくれた。

 

「……オフクロ、本当にすまない」

 

 俺は部屋に入ってきたオフクロに謝る。

 

「いいのよゴールド。貴方はあの人の子、お父さんも一箇所に留まるのが苦手な人だもん。息子であるゴールドが似ちゃったのは仕方ないわ」

 

「……ありがとうオフクロ」

 

 オフクロには感謝しかない。

 少しでも親孝行する為にポケモンバトルで稼いだ金は一部オフクロに送ることにしよう。

 それだけで恩を返せるとは思わんがせめてもの気持ちだ。

 

「でもたまには家に顔を出してね。お母さん心配だから」

 

「……分かってるよ」

 

 実年齢は俺より年下のオフクロだけどこの世界ではたった一人の俺の母親だ。

 ……普段は天然だけどやっぱりこの人は母親なんだな。 俺のことをちゃんと心配してくれる。

 俺はオフクロの子供で本当に良かったよ。

 

「あとクリスちゃんの事をお願いね。あの子あんな感じだけど本当は良い子だから……」

 

「それも分かってるよ」

 

 アイツは本当は臆病で寂しがり屋で……優しい子だ。

 昔、あんな事が有ったからアイツは狂ってしまった。

 だから俺がアイツを守ってやらないと。

 俺がクリスの保護者だからな。

 

「そう、それを聞いて安心したわ。そうそうお小遣いをあげないとね♪」

 

「 旅費なら夕食ときにオフクロがくれたじゃないか?」

 

「違うわよ、これは旅費じゃないの」

 

「はぁ? 旅費じゃないならなんなんだよ?」

 

 意味がわからんぞ。

 

「ほら、ゴールドもクリスちゃんもまだ若いじゃない?

 もし旅の途中で間違いがあったら大変だからこのお金でコンドームを買いなさい。大丈夫よ、いっぱい買えるように沢山あげるからね♪」

 

 この人は……

 

「…………この」

 

 せっかく見直したのに……

 

「どうしたの?」

 

「このドアホーーー!!! 十歳のガキに何言っとるんだタワケーーー!!!」

 

 こうして俺の出発の前日は俺の怒声で終わった。

 ……この人を一人で置いてくの心配だわ。

 



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第五話 旅立ちと目標

 ……オッス……俺ゴールド。

 

「木の実は美味いか、ヒノアラシ?」

 

「モグモグ……ひのひ〜の♪」

 

 ……今日……俺は旅に出る。

 

「……これからは沢山木の実が食べれるぞ。色んな場所で色んな木の実をやるからな」

 

「ひ〜の♪」

 

 ……このヒノアラシと一緒に。

 

「……ヒノアラシの朝飯も終わったら行くよ……オフクロ」

 

「ゴールド……いってらっしゃい。無理……しないでね……」

 

 ……今日から俺はポケモントレーナー。

 

「……いってきます」

 

 ……目指すはポケモンマ………

 

「無理しないでムラムラしたらクリスちゃんに処理してもらいなさい! あとゴムはちゃんと使うのよ!」

 

「色々台無しだボケーーー!!!」

 

 こうして俺の旅は俺の怒声で始まった。

 ……締まらねぇなぁ。

 

 ★☆★☆

 

「ハァイ、ゴールド♪」

 

「オッス、相変わらず俺んちの前で待ち伏せしてるな」

 

 まぁ今日に限っては迎えに行く手間が省けて楽でいいが。

 

「うふふ、でもそれも今日までよ。だって今日から朝も昼も夜もずーーっとゴールドと一緒に居られるんだもん♡」

 

 ……そうなんだよな、今日からずっとこの問題児と一緒なんだよな……気が重い。

 

「おはようクリスちゃん。今日からゴールドの事をよろしくね」

 

「おば様おはようございます! はい、ゴールドの事はアタシに任せてください!」

 

「……その会話は絶対おかしい」

 

 どう考えても俺がクリスの面倒を見る立場だからな。

 

「ありがとう。そうだ♪ これをゴールドの代わりに受け取って。このお金でコン「さぁ行くぞクリス!! 今すぐ出発するぞ!! じゃあなオフクロ!!」「あっ、待ってよ! では、おば様いってきまーーす!!」ドーム…………って、もう行っちゃった。せっかちな子ねぇ」

 

 ……あっぶねぇオフクロめ、クリスの前で何言おうとしてんだ。

 ただでさえ俺の貞操が危ないのに更に危険になること言うなよな!

 

 ★☆★☆

 

【二十九番道路】

 

「ねぇゴールド、よかったの? おば様が何かいいかけてたけど……」

 

「……良いんだよ」

 

「でも……」

 

「何時までもグダグダ別れを惜しむのは趣味じゃねぇ。それに今生の別れでも無いんだ、帰ってきたらまた話せばいいさ」

 

「そっか、そうだよね。帰ったらまた話せばいいんだもんね♪」

 

 良し誤魔化し完了。

 ふ、チョロい奴だ。

 

「そういえばドコを目指して歩いてるの?」

 

「そうだな。まずはキキョウシティのジムに挑みたいから途中のヨシノシティを目指す。んでキキョウシティまでの道中でポケモンを捕獲と育成してジム戦に備える」

 

「それから?」

 

「……そして最終目標はポケモンリーグ制覇、つまりポケモンマスターになる事だ!」

 

 ただ世界を旅するのは面白くない。

 ポケモントレーナーになったんだからその頂点、ポケモンマスターを目指して旅する方が絶対面白い。

 

 シルバー君じゃないがどうせ目指すならデッカイ目標を目指さないと男じゃない。

 せっかく転生して若返ったんだ、我武者羅に人生を突っ走るのも悪くないだろ?

 

「……さすがアタシのゴールド。うん……ゴールドなら絶対ポケモンマスターになれるよ!」

 

「俺はお前のじゃないがな。でも、ありがとう」

 

「うん♪ アタシがゴールドをポケモンマスターになるのを全力でサポートしてあげるからね!」

 

「おいおい、せっかく旅するんだからクリスも何か目指せよな」

 

「ううん、これがアタシの目標。ゴールドがポケモンマスターになるのを全力でサポートするのがアタシの目標よ!」

 

 何だよそれ。

 でも悪い気はしないかな。

 

「…………となると毒はやっぱり必須だわ。あと対戦相手の闇討ち用にゴーストタイプかエスパータイプのポケモンも。手っ取り早いのはやっぱり賄賂だけどそれは警察にバレると……………」

 

 ……たった今、俺の目標が増えた。

 世のため人のため、何より俺自身の為にコイツを更生させて真人間に生まれ変わらせるぞ!

 むしろポケモンマスターになるより重要な目標だわ。

 

「…………あ、バレる前に誰かに罪を擦り付ければいいわ。それならアタシは警察に捕まることないし♪」

 

 ……何でだろう、ポケモンマスターになるよりコイツを更生させる方が難しい気がしてきた。

 とりあえずヨシノシティで胃薬は買わないとな……胃が凄く痛いぜ。

 



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第六話 オタチを求めて

【ヨシノシティ 〜可愛い花の香る街〜】

 

 オッス、俺ゴールド。

 ポケモンマスターを目指す為に旅に出た俺達はここヨシノシティのフレンドリィショップで買い物中だ。

 

「モンスターボールが五つ、傷薬が二つ、毒消しが五つ、以上でよろしいですか?」

 

「はい」

 

 ちなみに毒消しは少し多目に買った。

 理由は……言わなくても分かるだろ?

 あと胃薬も欲しかったけどここでは売ってなかった。

 胃薬は当分我慢するしかないな。

 

「おーいクリス、お前は買わなくて良いのか?」

 

「うん。だってアタシの欲しいもの売ってないもん」

 

「……ちなみに何が欲しいんだ?」

 

「睡眠薬、あと下剤」

 

 ……あー聞かない聞かない、俺は何も聞いてないぞー。

 

 俺はお金を払って店員さんから商品を受け取ってさっさと店を後にした。

 

 ……俺は胃薬ないのにこれ以上胃痛の元を増やしたくない。

 よって満面の笑みで絶対本来と違う用途に使う為の薬を探してたクリスをスルーした俺は悪くない。

 うん、俺は間違ってないな。

 

「待ってよーゴールド、おいてかないでよー!」

 

 ……割りとマジで放置していきたいな。

 だが放置するとそれはそれで面倒なんだよな、はぁ。

 

 ★☆★☆

 

【二十九番道路】

 

「ねぇねぇゴールド、二十九番道路にもどってきて何するの?」

 

「なにね、ここで一匹捕まえたいポケモンがいるんだよ」

 

「どのポケモンをゲットするの?」

 

「オタチ」

 

「へ?」

 

 クリスがキョトンとした表情をした。

 まぁ気持ちは分かるけど。

 この世界ではオタチはあまり強いポケモンと認識されてなくオタチはペット用ポケモンってのが常識だし。

 

 だが俺はオタチが欲しい。

 理由は秘伝技の為だ。

 確かゲームのポケモンだとオタチとその進化系のオオタチは冒険に必須の秘伝技を何種類か覚えたはずだ。

 

 これを俺が覚えてたのは前世のガキの頃に一匹のポケモンに秘伝技を集中させる発想が無く、レギュラーポケモンに秘伝技を覚えさしてたのを当時の友達に馬鹿にされたからだ。

 

「お前レギュラーポケモンに『フラッシュ』覚えさせてるのかよ。ダッセぇ」

 

 ……その友達の一言でブチ切れた俺は友達とリアルバトルして前世の親父にしこたま怒られたなぁ。

 まぁそんな事があったからオタチの事は辛うじて覚えてたんだよ。

 ただし何を覚えるかまでは記憶にないが。

 

「……オタチはな、俺に必要なポケモンなんだよ」

 

「 よく分からないけどゴールドが欲しいならいいんじゃないかな?」

 

 クリスには前世の話はしてないから説明はしないけどな。

 

 さて、オタチを探すか。

 

「出番だ、ヒノアラシ!」

 

「ひのの〜!」

 

 モンスターボールから元気よく飛び出したヒノアラシ。

 

「ヒノアラシ、オタチを探してくれ。見つけたら俺を呼んでくれればいいからな」

 

「ひ〜の〜!」

 

 この世界はゲームみたいにただ道を歩いて探しても中々狙ったポケモンには出会えない。

 その為に欲しいポケモンを探すときは自分の手持ちポケモンに探させるのが一般的だ。

 

 ヒノアラシはヨチヨチと草むらの中に入っていった。

 

「ねぇねぇアタシも手伝おうか?」

 

「良いのか? なら頼むよ」

 

「うん♡ 出ておいでチコリータ!」

 

「チコチコ!」

 

「チコリータ、オタチを探して。見つけたら教えてね」

 

「チコ!」

 

 チコリータはクリスの言葉を聞くと颯爽と茂みの中に入っていった。

 ……チコリータはキビキビと動くのに俺のヒノアラシはなんかノンビリしてるんだよな。

 まぁポケモンにも個性があるのは仕方ないか。

 そいやゲームのポケモンに個性ってあったけな? 覚えてねぇ。

 

「……ねぇゴールド、これで今はアタシ達二人っきりよね」

 

 迂闊!!!

 二人だけになったらクリスが暴走するなんて予想出来てたのに!

 あぁ俺の馬鹿。

 

「チコリータ達もいない……ねぇゴールド♡」

 

 まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい……

 どないしよどないしよどないしよどないしよどないしよどないしよどないしよ……

 

「ひの〜〜!!」

 

 ヒノアラシ、ナイス!!!

 

「ど、どうやらヒノアラシがオタチを見つけたみたいだな。行くぞクリス!」

 

「……ちっ! チコリータ、聞こえてたら戻ってらっしゃい!!」

 

 あっぶねぇぇぇ。

 ヒノアラシには本当感謝だわ。

 お礼にヒノアラシの今日の晩御飯はすこし奮発しよう。

 そんな事を考えながら俺はヒノアラシの声がした方に走る。

 

 ★☆★☆

 

 ヒノアラシは割りと近くに居た。

 そしてその向こうにはオタチが気持ち良さそうに昼寝してる。

 

「ひのひの」

 

「良くやったヒノアラシ、本当に良くやったマジありがとう!」

 

 お前のおかげで俺の貞操が守られたよ。

 

「ゴールド〜」

 

「チコチコ」

 

 少し遅れてクリスとチコリータも合流した。

 

「あら、あのオタチ寝てるの?」

 

「みたいだな、アレなら簡単に捕獲出来る」

 

 と、その前に……。

 俺はポケットからポケモン図鑑を出してオタチに向ける。

 ポケモン図鑑にはポケモンをスキャンする事でそのポケモンの大まかなレベル、体力、あと性別を調べる機能がある。

 更にポケモンを捕まえると体長や体重なんかも分かるようになる、非常に便利だよね。

 

 さて今重要なのは体力でもレベルでも無い、重要なのは性別だ。

 ……クリスは俺に近づく女にあり得んほど敵対心を燃やす、それが例えポケモンでも。

 

 ……そしてそれが非常に怖い。

 どれくらい怖いかと言うと……いや、これ以上は言わないとこう。

 その為に俺のポケモンは雄のみにしなければならいのだ、俺の精神衛生の為にな。

 尚唯一の例外は俺のオフクロな。

 ウチのオフクロだけは寧ろクリス自身が懐いてるし。

 

 …………よし、あのオタチは雄だな。

 俺は確認が終わると素早くポケモン図鑑を仕舞い代わりにモンスターボールを取り出す。

 

 ……この距離ならボールを投げても届くな。

 俺はゆっくりとモンスターボールを構えて……

 

「いけっ、モンスターボール!」

 

 全力でボールを投げた!

 投げたボールは見事オタチに命中しオタチはボールに吸い込まれた。

 

 ……ボールがゆっくり揺れる、やがてボールはその揺れを止めた。

 捕獲成功だ!

 

「よっしゃぁ!」

 

「おめでとうゴールド♪」

 

「ひのの〜♪」

 

「チコチコ♪」

 

 祝・ポケモン初ゲットってね。

 いやー緊張したわ。

 でもちゃんと捕まえられて良かったぁ。

 

「んじゃポケモンセンターに行くか」

 

「へ? 何で?」

 

「日が暮れる前に戻って寝る準備したいから」

 

 ポケギアで時間を確認すると今は午後五時を少し過ぎたくらい、今から戻れば日が沈む前にポケモンセンターに着けるな。

 

「えー、まだ早いよ」

 

「いや無理をするのは良くない、俺達もポケモン達もな。俺達はまだまだ初心者だし慎重な位で丁度いいんだ」

 

 そう、慎重に行動しないとな、俺の貞操の為に。

 因みにポケモンセンターの簡易宿泊施設は男女部屋が別れていて時々警備員さんが見回りに来てくれるからクリスに夜這いされる心配はない。

 

 ぶーぶー文句言ってるクリスを宥めながら俺達はポケモンセンターへの帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ポケモンセンターなら安全だと思ってたんだよな、この時は…………

 



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第七話 真夜中の攻防戦

【キキョウシティ 〜懐かしい香りのする町〜】

 

 オッス、俺ゴールド。

 俺は今、キキョウジムに挑む為に三十番道路で野生のポケモンとトレーナー相手にトレーニング中だ。

 

 ちなみに修行中にキャタピーの雄を捕獲し手持ちに加えた。

 ……本当はキャタピーを手持ちに加える予定は無かったんだ。

 が、キャタピーと遭遇した時にクリスが物凄い笑顔になったから嫌な予感がしたのでクリスが捕まえるより先に俺が捕獲した。

 ……後でネットで調べたらキャタピーはバタフリーに進化すると『どくのこな』、『しびれごな』、『ねむりごな』、『ちょうおんぱ』を自力で覚えることを知った。

 

 …………あっぶねぇぇぇ。

 

 こんな危険なポケモン絶対にクリスには渡せねぇぇ。

 自分の嫌な予感を信じて良かったわ。

 まぁ便利そうなポケモンなんで取り敢えずレギュラーに入れてみた。

 

 尚コラッタとポッポも捕まえたが二匹とも雌だったので泣く泣くマサキのパソコンに転送した。

 見つけた時にポケモン図鑑で確認すれば良いんだが、いきなりバトルに入ると図鑑を出す暇が無いんだよね。

 オタチの時みたいに不意を付けないと確認は無理だわ。

 

 トレーニングの方はかなり順調でヒノアラシは『ひのこ』を、オタチは『でんこうせっか』を覚えた。

 そしてキャタピーは早々にトランセルに進化して『かたくなる』を覚えた。

 トランセルがバタフリーに進化したらジム戦に挑むつもりでいる。

 ちなみにクリスのチコリータは『はっぱカッター』と『リフレクター』を習得した。

 

 そうそう、俺とクリスはキキョウシティのポケモン塾にも通ってる。

 キキョウシティに着いたときに塾長のジョバンニ先生にたまたま出会って先生の塾に(強制的に)入ることになった。

 内容は非常に有意義で初心者の俺達にはとても有難かった。

 なので午前中は塾で座学、午後は三十番道路で実践練習ってスケジュールを一週間ぐらいこなしてる。

 ……尚、塾での状態異常の講義のときのクリスはとても真剣だったとだけ報告しとこう。

 

「うっし。日も傾いてきたし、そろそろポケモンセンターに帰るぞ」

 

「うん、帰ろうゴールド♪」

 

 クリスは初日こそ文句言ってたクリスだがそれ以降は日の入りまでに戻る事に文句を言わない。

 良い傾向だ、このまま順調に性格矯正出来ればいいんだがな。

 

「そいやクリスはポケモンを捕獲しないのか?」

 

 ふと思ったのでクリスに聞いてみた。

 コイツの手持ちは今のところチコリータだけ。

 正直厳しいと思うんだよな。

 

「う〜ん、キャタピーならちょっと欲しいけど、それよりゴーストタイプかエスパータイプのポケモンが欲しいから今はいいや。あ、悪タイプでもイイかも♪」

 

 ……聞かなきゃ良かった。

 話の内容自体はごく普通だがクリスが言うと非常に危険に聞こえるのが不思議だ。

 

 俺は何とも言えない気持ちになりながら、ポケモンセンターに向かおうとした。

 

「それにチコリータがもう少しで『どくのこな』を覚えるからそっちを優先したいし♪」

 

 本当に聞かなきゃ良かったよコンチクショーー!!!

 

 ★☆★☆

 

【午前三時、ポケモンセンター男子宿泊施設】

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 え、こんな真夜中に何やってるかって?

 やぁね、この時間にやると事と言ったら夜ばいに決まってるじゃない、よ・る・ば・い。【注意・クリスは夜這いと間違えてます】

 ゴールドったら一週間も一緒にいるのに手も握ってくれないのよ、もう信じれない!

 そりゃゴールドが奥手なのは知ってるわよ。

 でも全くアプローチ無いのはありえないと思わない?

 

 だ・か・ら、アタシからアタックしようと思ったのよ。

 その為に二、三日前から色々調べたんだからね。

 

 調べた結果この時間ゴールドは熟睡してるし、夜勤のジョーイさんとハピナス達は夜食を買う為に出かける、その間警備員さんはジョーイさんの代わりに受付にずっといるわ。

 それに今日、宿泊施設を使ってるのはアタシとゴールドだけ。

 まさに夜ばい日和だわ!

 

 ……ゴールドの泊まってる部屋に着いたわ。

 

 ガチャガチャ

 

 やっぱり鍵は閉まってるわね。

 で・も、このハリガネで♡

 

 ………………カチッ!

 

 ふっ、恋する乙女の前にはこんな鍵は無いも同じよ。

 アタシはゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そして、そのままゆっくり扉を閉めた。

 

 もう、何でヒノアラシが居るのよ!!

 キーーー!!!

 

 ……でも絶対に諦めないんだからね。

 

 ★☆★☆

 

【男子宿泊施設の窓】

 

 ……扉がダメなら窓があるわ。

 三階の窓まで素手で壁を登るのは辛かったけどこれもアタシとゴールドの幸せな未来のためよ!

 

 アタシは宙ぶらりんになりながら窓を開ける、……幸いにも窓には鍵が掛かってないわ。

 

 そして腕に力を入れて一気に体を持ち上げた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オタ〜チ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そしてアタシはそのまま手を離した。

 地面に落ちながらアタシが考えてたのは

 

「何でオタチがいるのよ〜!!」

 

 だった。

 でも諦めないんだからね。

 アタシは宙返りしながら見事な着地を決めて次の行動に移った。

 

 ★☆★☆

 

【男子宿泊施設、屋根裏】

 

 ……こうなったらヤケよ、女の意地よ!

 アタシはほふく前進で屋根裏を突き進む。

 ……ホコリまみれになるから本当は嫌なんだけど、このままでは引き下がれないわ。

 ぜ〜〜ったい、【放送出ません】するんだからねぇ!

 

 ……と、そろそろゴールドの部屋の上よね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハ、ハァイ、トランセル」

 

 何でトランセルがいるのよーーー!!!

 で、でもトランセルなら鳴かないからこのままスルーしてゴールドのも…………

 

「……!」

 

 ちょっと、アナタはサナギでしょ!?

 何で『いとをはく』のよーー!!!

 トランセルの糸がアタシの体に巻きついて身動き取れなくなる!

 もうイヤーーー!!!

 

 ★☆★☆

 

【次の日の朝】

 

 ふぁ〜あ〜あ〜、良く寝たぜ。

 

「おはようヒノアラシ、オタチ」

 

「ひの〜」

 

「オ〜タチ!」

 

「夜の見張りご苦労様、何かあったか?」

 

 俺の言葉でヒノアラシとオタチは同時に上を見た。

 ……なるほど、どうやらトランセルの所で大きなネズミが捕れたか。

 

 俺は二階建てベッドの上に立ち天井の板を外し屋根裏に上半身を入れる。

 

「おはようトランセル、昨晩はお手柄だったみたいだな」

 

「…………」

 

 数回トランセルの頭を撫でると、トランセルは嬉しそうに揺れた。

 その横には大きな繭に包まれた大ネズミ(クリス)がモゾモゾと動いてる。

 

 ……俺はコイツの行動力だけは本当に凄いと思ってる。

 コイツは二、三日前から何かコソコソしてたから絶対何かすると予想してた。

 俺は初日こそポケモンセンターなら安全だと思ってた。

 が、よくよく考えると警備員さんの巡回にも穴があるし、俺は政府の要人でも無いから常にSPがついてるわけじゃないからな、絶対クリスが何か仕掛けてると思ったんだよ。

 

 だからクリスが侵入しそうな場所でポケモン達を見張らせてたんだ。

 そしたら案の定コイツは来やがった。

 ちなみに夜起きてたからポケモン達が寝不足になる、何て心配は無い。

 ポケモン塾での講義中はモンスターボールの中でタップリ寝れるからね。

 

 ……これで少しはクリスが反省してくれたら良いんだが。

 

「…………うぅ、絶対、絶対諦めないんだからぁ…………」

 

 ……無理そうだな、はぁ。

 



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第八話 マダツボミの塔で再会

 オッス、俺ゴールド。

 ついにトランセルがバタフリーに進化した。

 ついでに『ねんりき』も覚えていよいよ俺の戦力は整った。

 

「おめでとうゴールド♡」

 

「クリスありがとう」

 

 クリスはあの後やはりと言うか、当然と言うか非常に不機嫌になった。

 ……仕方ないからクリスの見える位置に洗濯前の俺のパンツを放置した。

 予想通り俺のパンツを手に入れたクリスはご機嫌になり事なきを得た。

 ……補足すると俺の下着の数は減ってない。

 クリスが全く同じ下着を用意して交換していったからな。

 しょうもない悪知恵をつけやがって、まったく。

 

 ★☆★☆

 

【マダツボミの塔】

 

 ……分かってるよ、キキョウジム行くんじゃなかったのか? と言いたいんだろ。

 あぁそうだよ、ジムに行ったよ。

 そしたらジムの受付の男に、

 

「え、君みたいな子がジムに挑戦するの? 止めといたほうが良いよジムリーダーのハヤトは強いからね。

 マダツボミの塔の修行に耐えれるぐらいじゃないとジムに挑戦するなんてまだまだ早いだろうな、はっはっは!」

 

 だとよ、腹立つー!

 俺の方がアイツより実年齢上だっつうの!

 だが俺以上に苛立ったのは言うまでもなく、このミサイル娘(クリス)だ。

 今にも襲いかかりそうなクリスを羽交い締めにして塔の前まで引きずるのは中々キツかったぜ。

 ……ただ途中からクリスの表情が怒りから恍惚に変わってるのを俺は見逃してない。

 

「ハァ、ハァ♡」

 

 ……頼むから自重してくれクリス、こんな表情で息が荒いクリスを引きずってると俺まで変な目で見られるんだよ。

 

「クリス、いい加減に自分で歩け!」

 

「えー、もう少しだけいいじゃん」

 

「ダメ! 言う事聞かないと置いてくぞ」

 

「ぶ〜!」

 

 不貞腐れながらも自分で歩きだしたクリスを連れて、俺はマダツボミの塔に入った。

 

 ……俺、マダツボミの塔に来たくなかったんだよな。

 町の人の話だとマダツボミの塔は夜になるとゴースが出る。

 ゴースは言わずと知れたゴーストタイプの代表選手。

 ……そうだよ、クリスが欲しがってるゴーストタイプのポケモンがここに居るから来たくなかったんだよ!

 もしクリスがゴースを手に入れたら更に厄介な事になるから嫌だったんだよ。

 

 ……幸いなことにゴースは夜にならないと出てこない。

 速攻でマダツボミの塔を攻略して日が沈む前に出るぞ!

 

 ★☆★☆

 

【塔の最上階】

 

 ……本当に速攻で最上階に着いたよ。

 修行僧の皆さんはマダツボミばかり使うからヒノアラシの『ひのこ』で無双してしまったわ。

 いくらマダツボミの塔だからってマダツボミしか使わないのはねぇ。

 一人だけホーホー使った人がいたがそれもオタチの『でんこうせっか』で秒殺だった。

 ……この人達は本当に修行してるの?

 ひょっとして自分達の体と精神ばかり鍛えてポケモンは鍛えてないのか?

 ……有り得そう。

 

 尚ヒノアラシはここに辿り着くまでにマグマラシに進化した。

 さて後は長老さんを倒せば…………ん? あの少年は……

 

「いけワニノコ、『みずでっぽう』だ!」

 

「ワッニーー!!」

 

 ……シルバー君だ!

 

 シルバー君のワニノコの放った『みずでっぽう』は長老さんのマダツボミに見事に命中しその勢いのまま塔の壁にマダツボミを叩きつけた。

 そしてマダツボミはそのまま戦闘不能になった。

 ……マダツボミと相性の悪い水タイプであそこまでやるとは、相当鍛えたみたいだねシルバー君。

 

「ふむ、ワシの負けだな、見事なり。だが少々荒いな。そなたの戦い方は厳しすぎる。ポケモンは戦いの道具では無いぞ?」

 

「……フン!」

 

 シルバー君がこっちに気づいて、一瞬クリスを見てから俺を睨みつけてくる。

 

「……長老っていう割には全然手応えがなかった……当然だな。ポケモンに優しくとか甘いこと言ってるやつにオレは負けない。

 俺が大事にするのは強くて勝てるポケモンだけ。それ以外はどうでも良いのさ」

 

「言い切るねぇシルバー君、でもポケモンも感情があるからあんまり厳しくすると嫌われちゃうよ?」

 

「……本当ムカつく奴だな……お前は……」

 

 そう言うとまたクリスの方をチラッと見てから俺達の横を走り抜けた。

 

 ……ヤンチャだねぇシルバー君は。

 でもね、ポケモンと仲良くしないといざという時にソッポ向かれちゃうよ。

 

 ……あ、そいやワニノコ盗んだ件でお仕置きするの忘れてた。

 仕方ない、次に会ったときにすれはいいか。

 

「……次はそなた達か。ここはポケモンと人が明るい未来を築けるかを確かめるマダツボミの塔。その最後の試練はワシ、ポケモンとの絆を確かめさせてもらう……」

 

「望むところです、全りょ「ねぇねぇゴールド」……って何だよクリス!」

 

 せっかく人が盛り上がってるのに変な茶々入れるなよな。

 

「うんとね、長老さんとのポケモンバトルをアタシにやらせて欲しいの」

 

「へ?」

 

 クリスはここまで一度もトレーナーとのバトルをしてない。

 なのにどうして?

 

「お願いゴールド!」 

 

 手を合わせてお願いをするクリス。

 ……子供が何かにチャレンジしようとしてるときに無理に止めるのは良くない。

 こう言う時に背中を押して成長を促すのが保護者の役目だよな。

 

「……分かったよ、思いっきりやってこい!」

 

「ゴールドありがとう♡」

 

 クリスはまるで満開のヒマワリみたいな笑顔でそういった。

 こんな笑顔なら毎日見ていたいものだ。

 ……だが普段クリスはまるで口を開けた食虫植物みないな笑顔をよくする。

 毎日見てると胃が痛くなるんだよな。

 

「……て、事で勝手に決めちゃったけど良かったですか長老さん?」

 

「……構わぬ、少年の実力とポケモンとの絆は弟子達との戦いで充分に見せてもらった。寧ろワシはその少女の方に興味がある」

 

 良かった、長老さんに許可を貰えた。

 

「んじゃ頑張れよクリス!」

 

「うん、アタシの活躍見ていてね♪」

 

 こうしてクリスの初トレーナーバトルが始まった。

 



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第九話 クリス対長老 その一

 ……アタシはクリス。

 ……アタシは人間が嫌い。

 特にゴールドに寄ってくる女とアタシと同世代の男が大嫌い。

 ウツギ博士みたいな優しい大人ならまだ平気だけどね。

 

 アタシが好きな人間はゴールドとおば様だけ。

 そんなアタシが一番嫌いな人間はクリス……つまり自分自身。

 アタシは……クリスが憎い、殺したいほどに。

 

 でもアタシがクリスを殺すとゴールドと一緒にいられなくなる、それは死ぬより嫌……アタシは死んでもゴールドと同じ天国にはいけないから。

 ……アタシは確実に地獄に落ちるだろうから。

 ゴールドは……ゴールドだけは手放したくない。

 ゴールドだけいればあとは何もいらない

 ……だからアタシはクリスを殺すのを我慢してる。

 

 ……前に手首をカッターで切ったこともあった。

 けどそれはゴールドに止められて、それ以降はしてない。

 その時のゴールドがとても辛そうな顔をしたから。

 ……あんなゴールドは二度と見たくないから。

 

 ……アタシは人間が嫌いだけどポケモンは好き。

 ポケモンは人間みたいに汚れてなくてキレイだから。

 ゴールドに近づくメスのポケモンは少し嫉妬しちゃうけど……嫌いにはなれない。

 ポケモンには悪意が無いから……

 

 なのにあのシルバーとか言うゴミは、ポケモンをまるで道具みたいに扱う……ムカつくわ。

 アイツの顔を思い出すだけでイライラする。

 アイツがゴールドを突き飛ばした瞬間を思い出すと腸が煮えくり返る。

 なにより一番アイツが嫌いな所は……アタシが一番嫌いなアタシ(クリス)に似てることよ。

 

 ……アイツとアタシは似てる、だから分かる……アイツは始末しないとゴールドにとって良くないことが起こる。

 ……シルバー……お前の顔と名前は覚えたわ……絶対にゴールドには手を出させないからね……絶対にアタシの手で始末してやるから……

 

 ★☆★☆

 

「ふむ、こちらの準備は終わったぞ」

 

 長老さんのポケモン達の回復が終わったわ。

 今からアタシの初めてのトレーナーバトルが始まる。

 ゴールドに無理言って代わって貰ったバトル、絶対に負けないんだからね。

 

 ……このバトルでシルバーとアタシの力の差を測ってやるわ。

 アイツが簡単に倒した長老さんにアタシが苦戦するならアタシがシルバーを始末するのは難しいと言う事になる……それを確かめる為にもこのバトル、本気でいく。

 

 ゴールドの提案で今回のポケモンバトルは少し変則なルールでやる事になった。

 長老さんの手持ちポケモンは三人、対してアタシの手持ちはチコリータだけ。

 これではアタシがあまりにも不利だからゴールドのポケモンを一人だけアタシの手持ちとして使わしてもらえることになった。

 ありがとう、ゴールド。

 

「では、そなたとポケモンの絆、確かめさせて貰うぞ」

 

「はい、お願いします!」

 

 お互いにモンスターボールを構える。

 

「出番よ、チコリータ!」

 

「チコッ!」

 

「構えよ、マダツボミ!」

 

「マーダーツボミ!」

 

 長老さんの出したポケモンはマダツボミね。

 予想はしてたから驚きはないわ。

 

「マダツボミよ、『つるのムチ』じゃ!」

 

「マダッ!」

 

「チコリータ、『リフレクター』で耐えて!」

 

「チコッ!」

 

 チコリータに打ち付けられたマダツボミのツタ、でもリフレクターで半減されたから大したダメージじゃないわ。

 

「反撃よ、『はっぱカッター』!」

 

「防げ、『つるのムチ』!」

 

 チコリータから放たれた無数の葉をマダツボミはツタではたき落としてく。

 ……でもすべての葉を落としきれず残った葉がマダツボミを襲う。

 

「……やりおる。マダツボミよ、『せいちょう』じゃ!」

 

 あの技は確かポケモン塾で習ったわ……えっと確か……攻撃力を上げる技!

 あの技で『リフレクター』の効果で半減した攻撃力を補うつもりね。

 

「チコリータ、追い打ちをかけなさい。『はっぱカッター』!」

 

 『せいちょう』が終わる前に仕留めてみせる。

 

「……こちらの狙いを読んだか」

 

 そう言うなら少しは悔しそうな顔をしなさいよ。

 無表情で言われても馬鹿にされてるようにしか聞こえないわ。

 て、そんなことより今は追撃よ。

 

「チコリータ、『たいあたり』!」

 

「……マダツボミ、『つるのムチ』!」

 

 『せいちょう』が終わったの!?

 なら……

 

「チコリータ、『つるのムチ』を避けながら『たいあたり』を続行!」

 

「何?」

 

 だから無表情で驚かないで!

 そんなアタシの気持ちは関係なく、チコリータは指示通りツタの間を走り抜けてマダツボミに『たいあたり』を当てた。

 マダツボミはそのまま気を失ったわ……つまりアタシの勝ちよ!

 

 「……『せいちょう』で生じた僅かな行動の遅れをついてきたか、見事なり」

 

 だから無表情で……て、もういいわよ!

 

 「戻れマダツボミ……御苦労であったな」

 

 「ありがとうチコリータ、少し休んでね」

 

 お互いにポケモンをモンスターボールに戻して仕切り直しね。

 ……とにかく一勝、このまま押し切ってみせるわ!

 

 見ててね……ゴールド。

 



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第十話 クリス対長老 その二

 まずは一勝、次もこの勢いで勝ってみせるわ!

 

「お願い力を貸して、バタフリー!」

 

「フリィィ!」

 

「修練の成果を見せよ、ホーホー!」

 

「ホー!」

 

 長老さんが繰り出したポケモンはホーホー。

 対するアタシはゴールドに借りたバタフリーよ。

 ……本当は長老さんはマダツボミを使う可能性が高いからマグマラシを借りたほうが絶対に有利なのは分かってる。

 でもアタシはあえてバタフリーを借りた。

 この子は虫タイプのポケモンだけど虫タイプの技を覚えてないしゴールドの手持ちポケモンの中では一番レベルが低い。

 

 ……シルバーはマダツボミと相性が悪いワニノコで長老さんを倒した。

 なのにアタシがゴールドのエースポケモンのマグマラシで戦ってもシルバーとアタシの力の差は分からない。

 ゴールドは不思議そうな顔をしてたけど何も言わずにバタフリーを貸してくれたわ。

 

 予想とは少し違う形になったけど飛行タイプのホーホーと虫タイプのバタフリーとの対戦、相性的にはこちらが不利。

 これならシルバーの戦いと近い状態で戦えるわ。

 

「バタフリー、『ねんりき』よ!」

 

「ホーホー、『つつく』じゃ!」

 

 いきなり飛行タイプの技を!?

 

「『ねんりき』中断、『かたくなる』で受けて!」

 

 ギリギリで『かたくなる』が間に合ってダメージを減らせたわ。

 ……あぶなかった、弱点の飛行タイプの技をあのまま受けてたら防御力の低いバタフリーだとそのまま一撃戦闘不能もあり得た。

 

「受け切ったか、なら連続で『つつく』」

 

 くっ、冗談じゃないわ!

 いくら『かたくなる』で防御力が上がっても連続で受けたら持たない!

 

「バタフリー、ジグザグに避けてかく乱して!」

 

 これなら……

 

「……甘い。ホーホーよ、『みきり』じゃ」

 

「ウソ!?」

 

 あれじゃ避けれない!

 

「……そして『つつく』」

 

「バタフリー!?」

 

 バタフリーは『つつく』を受けて床に叩きつけられた。

 

「バタフリー、大丈夫!?」

 

「……バタ、フ、リィ……」

 

 よかった、まだバタフリーは倒れてない。

 ……でもバタフリーの体力の残りは少ない。

 

「……バタフリーいける?」

 

「バタフリィィ!!」

 

 大きく頷いてバタフリーはアタシにまだ戦えることをアピールする。

 ……負けず嫌いなのはゴールドに似たのかしら、ゴールドも結構負けず嫌いだしね。

 

「……ありがとう。いくわよバタフリー、やられっぱなしで終われないんだからね!」

 

「フリィィ!!」

 

「……その心意気やよし。だが心意気だけでは勝てぬぞ? ホーホーよ、もう一度『つつく』」

 

「ホー!」

 

「バタフリー、『いとをはく』をしながらホーホーの周りを旋回!」

 

「何?」

 

 バタフリーはホーホーの攻撃より早く『いとをはく』を当ててそのままホーホーを中心に円を書くように飛ぶ。

 

「いっけー! そのままホーホーを糸でグルグル巻にしちゃえ!」

 

「フリィィ!!」

 

 あの子の『いとをはく』の凄さはアタシ自身が食らってよーく分かってる。

 ましてやアタシが食らったときはトランセル、今はバタフリー、威力はあの時より上よ!

 

 みるみるうちにホーホーはまるで毛糸玉みたいに真ん丸になったわ。

 

「さっきのお返しよ、『ねんりき』で連続で床に叩きつけなさい!」

 

「フゥリィィ!」

 

「いかん……」

 

 ドスン、ドスン、と何度も『ねんりき』で叩きつけるバタフリー、だがその衝撃で糸が緩みホーホーが開放された。

 

「トドメよ、『たいあたり』!」

 

「避けよホーホー」

 

 だがホーホーの動きは遅い、ホーホーの翼にはまだ糸が絡みついてるから上手く飛べないのね。

 

 避けようとしたホーホーの背中に『たいあたり』が決まり、そしてそのままホーホーは戦闘不能。

 

「やったわ!」

 

「フリィィ!」

 

 アタシとバタフリーは、ほぼ同時に声を上げた。

 

「……まさか、あそこからあの様な手段で逆転するとは……少し気が緩んでたか、ワシもまだまだ未熟よ」

 

 そう言いながらホーホーをボールに戻す長老さん。

 ……今回はかなりギリギリの戦いだった。

 ……一歩間違えてたらアタシ達が負けてた。

 この人、ゴールドが戦ってたお弟子さん達よりずっと強いわ。

 

「……次で最後、覚悟は決まったか?」

 

「覚悟なんて、はじめから決めてるわ!」

 

 アタシはバタフリーを回収しながら言い放つ。

 ……バタフリーはダメージを受け過ぎてもう戦えそうにないわ。

 ありがとうバタフリー、無理させてゴメンね。

 

「出ておいで、チコリータ!」

 

「チコ!」

 

「構えよ、マダツボミ!」

 

「……つぅぼぉ……」

 

 な、なによ、あのマダツボミは!?

 見た目は普通のマダツボミなのに纏ってる空気がなんか違う。

 最初に戦ったマダツボミともゴールドがここまで倒してきたマダツボミとも違う。

 ……気を引き締めないと、あの子は強いわ。

 

「ほう、一目でコヤツの強さを理解したか」

 

 このバトルが始まって初めて長老さんの表情が変わった。

 ……だが、その表情は獲物を見つけた獣の様な鋭い笑顔……あなたの本性はそっちなの?

 

「こちらから行くぞ! 『つるのムチ』!」

 

 またそれ? ならこちらも……

 ……一瞬ゾワッと背中が冷えた気がした……

 

「チコリータ避けて!」

 

「チコ!」

 

 チコリータの避けた後に遅れて『つるのムチ』が床を叩き………え、床にヒビをいれた!?

 なんて威力、もし当たってたら仮に『リフレクター』を使っても受けきれなかったかも。

 

「……勘のよい子じゃ」

 

「く、チコリータ、攻めて攻めて攻めまくるのよ! 『はっぱカッター』!」

 

「チッコー!」

 

 あのマダツボミに攻撃させてはダメ、こちらが攻め続けて攻撃させてるスキを与えないようにしないと。

 

「……ふむ、ならチコリータに近づくのじゃ」

 

「……つぅ、ぼぉ、みぃ……」

 

 ……ウソ!?

 マダツボミはゆったりとした動きで『はっぱカッター』の嵐の中を進んでくる。

 幾つかは当たってるけどそれはかする程度。

 ……あのマダツボミ、最小限のダメージで『はっぱカッター』を避けて間合いを詰めてくる。

 

「……マダツボミ、『まきつく』!」

 

「……つぅぼぉぉ」

 

「チコ!?」

 

 マダツボミのツタがチコリータに複雑に絡みついた。

 

「振りほどいてチコリータ!」

 

「……無駄じゃよ、それはただの『まきつく』ではない。蔦の一つ一つが関節を完全に固める特別な『まきつく』、長年の修練の賜物よ」

 

 それって『まきつく』で関節技してるって事!?

 そんなの聞いたことないわよ!

 

「……チ、コ……」

 

 まずいわ、チコリータは初戦で受けたダメージが残ってる。

 それなのにこの『まきつく』を受け続けるのは危険だわ!

 ……仕方ない、もう少し取っておくつもりだったけど。

 

「チコリータ、『どくのこな』よ!」

 

「何じゃと!?」

 

 超至近距離で受けたマダツボミは毒状態になる。

 

「……つぅぼ!?」

 

 そして毒の苦しさで『まきつく』を緩めた。

 

「今よ、抜け出しなさいチコリータ!」

 

「チコー!!」

 

 脱出成功、やったわ!

 

「……いつ、『どくのこな』を覚えた?」

 

「ついさっきよ! 最初のマダツボミとのバトルが終わった時に覚えたのよ」

 

 運が良かったわ。

 もし『どくのこな』を覚えてなかったら負けてた。

 

「チコリータ、『はっぱカッター』!」

 

「避けよマダツボミ!」

 

 それは読んでたわ!

 

「そのまま『たいあたり』!」

 

『はっぱカッター』は囮よ、ホントはこっちが本命!

『はっぱカッター』に気を取られてたマダツボミは、『たいあたり』を避けれずモロに当たり態勢を崩す。

 

「いっけー! もう一度 『はっぱカッター』!」

 

「チィコー!!」

 

 今度こそ避け……

 

「マダツボミ、『こらえる』」

 

 ……えっ?

 

 『はっぱカッター』が終わるとそこにはマダツボミが傷つきながらも立っていた。

 ……この二人、本当に強いわ。

 

「……少々焦ったぞ……」

 

 ……でもね、

 

「忘れてない?  マダツボミは毒状態なのよ」

 

「……しまった!?」

 

「……つ……ぼ……」

 

 辛うじて立っていたマダツボミは毒のダメージを受けて床に倒れた。

 ……勝った!

 

「やったわ、チコリータ!」

 

「チコチコ♪」

 

 チコリータと抱き合って喜び合う。

 ……本当に強敵だった、長老さんは本当に強かったわ。

 

「……ふむ、見事であった。こちらの一瞬の隙を見逃さない洞察力、他人のポケモンとも築ける信頼関係、なによりどれだけ追い詰められても諦めない心……本当に見事であった。

 お主たちにマダツボミの塔の修行を終えた証としてこの秘伝マシンを与える」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「よくやったなクリス」

 

 アタシが秘伝マシンを受け取るとゴールドがアタシの頭を撫でてくれた。

 ……ゴールドの手はすごく暖かくて、すごく気持ちいい、幸せ♡

 

「さぁ次はキキョウジムだ、行くぞ!」

 

「え、ちょっと置いてかないでよ!」

 

 もう少し撫でて欲しかったのにぃ。

 

「……すいません、アタシ達はいきますね」

 

「ふむ、精進するのじゃよ」

 

 アタシは軽くお辞儀をしてチコリータを抱えてゴールドを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

「……変わった子達であった……」

 

 今日会った子達は三人が三人とも興味深い子達じゃった。

 

 最初の長髪の少年の瞳は孤独の色で染まってた。

 それは自分のポケモンですら信じておらん悲しい色をしてた。

 だが、それとは別に強さに対する執念も感じた。

 ……いつか、あの少年が孤独から開放される日が来るのだろうか。

 

 帽子の少年の瞳は長髪の少年とは逆に愛情の優しい色に染まっておった。

 だが奇妙なのは同じくらいの歳であろう少女にまるで親が我が子に向けるような視線で見ておった。

 あの歳であれ程の父性を持つとは、あの子はまるで成熟した大人の様な、本当に奇天烈な少年だった。

 

 そして……最後の少女の瞳は……強い……強すぎる憎悪の色で染まってた。

 この世のすべてを憎むような、そんな危険な色であった。

 だが、少女はポケモンと帽子の少年と接する時に暗い色は薄まり明るい愛の色に変わる。

 ……あの少女を救えるのは帽子の少年とポケモン達しか居らんじゃろ、願わくばあの少女の憎しみが晴れんことを。

 

 ……三人が三人とも歳相応とは言い難い感情を持っていた、それと同時にトレーナーとしての才能も。

 彼らがいずれポケモントレーナーの未来を担ぐ日が来るやもしれんな。

 

 彼らの旅が実り多い物であるようにワシはここで祈るとするか。

 



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第十一話 キキョウジム ゴールド対ハヤト その一

 オッス、俺ゴールド。

 前回クリスがマダツボミの塔の長老さんを見事倒し、俺達はポケモンセンターでポケモンを回復してこれからキキョウジムに挑むつもりだ。

 

 クリスは頑張ったんだよ。

 あの長老さんはかなりの使い手で強かったのにちゃんと勝ったんだよ。

 クリスが成長してくれて俺は本当嬉しく思う……チコリータが『どくのこな』を覚えたのが少し心配だが……

 念の為に毒消し追加で買うかな、あと胃薬も。

 

 尚、今の時間は午後四時を少し回ったぐらい、よってマダツボミの塔でゴースとは遭遇しなかった、やったね。

 

 ★☆★☆

 

【キキョウジム】

 

「えぇ!? 君達がマダツボミの塔の修行を終わらせた!? 嘘でしょ、こんな短時……

 ってこれは秘伝マシン№5!!……ほ、本当に……よし、なら未来のチャンピオンにアドバイスしよう。いいかい、鳥ポケモンは……って無視するな!

 コラ、勝手に進むな!」

 

 無論容赦無くガン無視、俺達は秘伝マシン見せたら一言も喋らずジムの中を進む。

 ……この受付が気に入らないってのもあるがそれ以上にクリスがコイツを射殺さんばかりに睨んだ。

 なので、これ以上ここに居るのは不味いと俺が判断した。

 

「ふへへへ♡」

 

 ……尚、クリスが受付の男に襲いかからないように肩を抱いて歩いてるのでクリスは非常にご満悦だ。

 今日クリスは頑張ったからご褒美も兼ねてるしな。

 

「ふへへ……ゴールドの香りだぁ、クンクン♡」

 

 ……本当、今日だけだからな!!

 

 ★☆★☆

 

「……こんなお子様カップルに負けるとは無念!」

 

「彼女連れに負けるなんて……チクショー! リア充爆発しろーーー!!!」

 

 えージムトレーナー戦は特に見所なく終わったので省略。

 強いて言うなら……カップル言うな! クリスは俺の彼女じゃねぇよ!

 俺達の関係は保護者と被保護者だ! リア充違うわボケ! 寧ろ代わりたければ代わってやるぞ!

 以上。

 

 ★☆★☆

 

「……俺がキキョウジム、リーダーのハヤト。大空を華麗に舞う鳥ポケモンの凄さ見せてやろう」

 

「はい、こちらも全力でやらせてもらいます!」

 

「良い心構えだ、いざ………と、その前に、彼女ちゃんは危ないから後ろに下がっててね♪」

 

「はーい♪」

 

「だから彼女じゃねぇーーー!! クリスも否定しろや!」

 

 たく、どいつもこいつも間違えやがって。

 

 ……うし、頭切り替えて勝負に集中するぞ!

 尚、ジム戦はチャレンジャーの持ってるバッチの数によってジムリーダーは使うポケモンのレベルを調整するシステムになっている。

 ……今回俺の持ってるバッチはゼロ個、よってハヤトさんは一番弱いポケモン達を使う筈だ。

 

「……では改めて行くぞ!」

 

「はい、お願いします!」

 

 初めてのジムリーダー戦、絶対勝つぞ!

 

 ★☆★☆

 

「……がんばってゴールド」

 

 今からゴールドはハヤトとか言うジムリーダーとバトルする。

 ……アタシにも何か手伝える事無いのかな。

 

 本当はジムリーダーを闇討ちするとかすれば不戦勝になるかも知れない。

 けど、それをやってもゴールドは喜ばない。

 ゴールドの望みはお互い全力で戦って勝つ事だから……今アタシにできる事はない、歯がゆいな。

 

 ………………いや、一個だけあるわ!

 そうよ! 何で気付かなかったのかしら。

 待っててねゴールド、アタシもガンバるからね!

 

 ★☆★☆

 

 ………なんか、すっげぇ今嫌な予感したが気のせいだろうか……って今はバトルに集中しないと。

 

「出番だ、オタチ!」

 

「オターチ!」

 

「ゆけ、ポッポ!」

 

「ポッポー!」

 

 対戦ポケモンはポッポか。

 

「オタチ、『でんこうせっか』!」

 

「オータチ!」

 

 先手必勝、オタチは素速くポッポの懐に入り込み『でんこうせっか』を当てた。

 

「……やるね、ポッポ『すなかけ』!」

 

「ポーッッ!」

 

 ポッポはさっきの仕返しと言わんばかりに翼でフィールドの砂を大量に巻き上げた。

 

「オタ!?」

 

 不味い、オタチの目に砂が入ったみたいだ。

 オタチは痛そうにしながら自分の目をこすってる。

 

「ポッポ、『たいあたり』だ!」

 

「オタチ、『ひっかく』だ!」

 

 だがオタチの攻撃は当たらずポッポの『たいあたり』によってオタチはダウンする。

 目がやられてたら反撃しようがないか。

 

「いいぞポッポ! もう一度『たいあたり』だ!」

 

「オタチ、『まるくなる』で耐えろ!」

 

 オタチは身を縮めてポッポの『たいあたり』を耐える。

 

「いつまで持つかな? 『たいあたり』続行、オタチが戦闘不能になるまで続けろ!」

 

 本当いつまでも持つわけないよな。

 だが目がやられたオタチは『まるくなる』で耐えるしか…………

 

「オターーーッチ!!」

 

 オタチが勝手に立ち上がった!?

 

 あーーッアイツ、泣いてる。

 ……つまり涙で目に入った砂が流て視力が復活したんだ。

 オタチめ、泣いて復活とか格好悪いぞ。

 

「……たく、いくぞオタチ、『でんこうせっか』!」

 

「オタチッッ!!」

 

 オタチの『でんこうせっか』がポッポの『たいあたり』を物ともせずにブチかました!

 ……アイツって泣くと強くなるタイプなんだな、明らかに一回目のときより威力上がってるし。

 

「ポッポ、大丈夫か!?」

 

「……ポッ……ポゥ」

 

「これで最後だ、『ひっかく』!」

 

「オタッッチ!!!」

 

 オタチの気合の入った『ひっかく』はポッポの顔面に思いっきり当たった。

 

「……ポッ、ポゥ………ゥ」

 

 そのままポッポはうつ伏せに倒れて動かなくなった。

 戦闘不能だ!

 

「……お疲れ、ポッポ」

 

「良くやったオタチ!」

 

 それぞれボールにポケモンを戻して労いの言葉を掛けた。

 ……危なかっけど、とりあえず一勝。

 

「中々やるね君。君の名前教えてくれないか?」

 

「ゴールド、俺の名前はゴールドです」

 

「……いい名前だ。ではゴールド君、次は負けないぞ!」

 

「こっちこそ負けません!」

 

 ……まだ一勝、勝負はこれからだ。

 気を引き締めながら俺は次のモンスターボールを取り出した。

 

 ……すっげぇ興奮する、全身がマグマみたいに熱い気がする。

 これがポケモンバトル、これがジム戦、これが真剣勝負。

 メチャクチャ楽しいな、ポケモンバトル!

 



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第十二話 キキョウジム ゴールド対ハヤト その二

「出番だ、マグマラシ!」

 

「まっぐ~!」

 

「羽ばたけ、ピジョン!」

 

「ピージョン!」

 

 俺の二匹目のポケモンはマグマラシ、そしてハヤトさんはピジョン。

 これに勝てたらバッチが手に入ると思うと否応無しに気合が入るな。

 

「ゴールド君、さっきのお返しだよ、『でんこうせっか』!」

 

「しまった!?」

 

 余計な事考えてるスキに先手を取られた。

 マグマラシは『でんこうせっか』が当たってその衝撃で二転三転と転がり壁際まで押し込まれた。

 ……すまないマグマラシ、俺のせいだ。

 

「次いくよ、『どろかけ』!」

 

「避けろマグマラシ!」

 

 だが壁際故に逃げ道は無くピジョンが上空から急降下し、地面の泥を巻き上げマグマラシにぶつけた。

 

「まぐ~!?」

 

 マグマラシは泥だらけになり非常に嫌そうにしてる。

 

「ふふふ、どうだい 攻撃しながら相手の命中率を下げる『どろかけ』の威力は。しかも『どろかけ』は地面タイプの技、炎タイプのマグマラシには効果抜群だよ」

 

 一石二鳥ってか、鳥ポケモンだけに。

 

 ……て、冗談言ってる場合じゃねぇ。

 さてどうする…………無理矢理でも突破する以外ないんだから悩むだけ無駄か。

 

「マグマラシ、『ひのこ』だ!」

 

「まっぐ~!!」

 

「ピジョン、『かぜおこし』!」

 

「ピジョーン!」

 

 『ひのこ』と『かぜおこし』がぶつかりお互いを相殺する。

 

「まだまだぁ! マグマラシ、『たいあたり』!」

 

「まぐまっぐ~~!」

 

「ならこちらも『たいあたり』だ!」

 

 マグマラシとピジョンは物凄い勢いで距離を詰め……

 

「……ふっ」

 

 ハヤトさんが……笑った!?

 

 あーっ!

 マグマラシがよろけた!!

 ピジョンはその一瞬を見逃さずマグマラシの上から『たいあたり』を決めた。

 ……『どろかけ』の泥がマグマラシの足を滑らしたのか。

 

「トドメだよ、『かぜおこし』!」

 

「マグマラシーッ!!」

 

 ……ちくしょう……負けたか……だが次はバタフリーを出して………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まっぐ~!!!」

 

「えっ!?」

 

「ピッ!?」

 

 ……マグマラシが!? ……って驚いてる場合じゃねぇ!

 

「マグマラシ、『たいあたり』だ!」

 

 マグマラシの『たいあたり』は呆然としてたピジョンの腹部にドスンと当たりピジョンをぶっ飛ばした。

 

「ピジョンが!?」

 

「ピージョ!?」

 

 ……でもどうして、マグマラシの体力は確かに尽きた筈なのに……

 

 ……ポリポリ

 

 ん、 何の音?

 

「モグモグ……ぅまっぐ~♪」

 

 ……ポリポリ

 

 ……まさかマグマラシの奴、昼飯にあげた木の実をヘソクリにして持ち歩いていたんか!?

 

「……なるほど。やられたフリして持たせてた木の実で回復してたのか、完全に騙されたよゴールド君」

 

 いえ違います、マグマラシが食い意地張ってただけです。

 ……アイツは木の実好きだからな、大方おやつに食べるつもりだったんだろな。

 だが今回はその食い意地に感謝しないと。

 

「……おやつの時間は終わり、次は反撃の時間だ! マグマラシ、全力で『えんまく』だ!」

 

「まっぐぅ!!」

 

 フィールド全体を煙が覆い隠す。

 煙がピジョンを、そしてマグマラシも見えなくした。

 

「ちっ! だがこれではゴールド君もピジョンの場所が分からないぞ?」

 

「……別に俺が分かる必要は無いんですよ。マグマラシ、木の実の匂いがする方に『ひのこ』だ!」

 

「なんだと!?」

 

 一瞬だが俺は見た、ピジョンの腹には『たいあたり』の時にマグマラシの口から飛び出した木の実の欠片が絡み着いてるのを。

 ……そして木の実大好きっ子のマグマラシはその匂いを確実に嗅ぎ分ける!

 

「まっぐ~〜っ!」

 

 俺からは何も見えない……でも、俺は信じてる……アイツは……マグマラシは……十キロ先の木の実の匂いが分かるほどの食欲魔獣だから!

 

 ……煙が晴れてきた。

 

「ピジョン、大丈夫か!?」

 

「ピジョーン!?」

 

 ピジョンの翼に『ひのこ』の火が燃え移ってる……ピジョンは火傷状態だ。

 

「決めろマグマラシ、『ひのこ』だ!」

 

「まっぐ~〜まっ!!」

 

「かわせピジョン!」

 

「ピッジョン!!」

 

 だが遅い!

 

 『ひのこ』を避けきれず、ピジョンはそのまま戦闘不能になる。

 

「やったぞ! マグマラシ!」

 

「まぐ~♪」

 

 俺達の勝ちだ!

 

「……やられたよゴールド君、おめでとう」

 

 そう言うとハヤトさんは近づいて来てそっと右手を出してきた。

 俺も右手を出し握手する。

 

 ふと横を見るとマグマラシも倒れてるピジョンに近づき……

 

 パクッ!

 

 ……ピジョンに付いてた木の実の欠片を口に入れた。

 

「ポリポリ……ぅまっぐ~♪」

 

 ……それを見ていた俺とハヤトさんは何とも言えない気持ちになった……あぁ、穴があったら入りたい。

 

「……」

 

「……」

 

 俺達は黙ってモンスターボールにポケモンを戻す。

 

「……ウォッフォン! とにかく、おめでとうゴールド君。これはウイングバッチだ受け取ってくれ。あとこの技マシンもあげよう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ……良くこの空気を無理矢理変えたなハヤトさんは。

 

「おめでとう〜ゴールド♡」

 

「うわっと! 抱きつくなクリス!」

 

 いきなり背中に抱き着いたら危ないだろが!

 

「おやおや、お熱いねお二人さん♪」

 

「だから違うって!」

 

 俺達は……

 

「いやーナイスファイト、おめでとう」

 

 げっ! 受付のメガネ、何しに来やがった。

 

「僕には一目見たときから分かってたよ、君ならやってくれるって」

 

 よく言うな、人を小馬鹿にしたくせに!

 

「やっぱり僕のアドバイスが良かったからかな? いや、お礼はいいんだよ。僕はとうぜ………イッ゛!!」

 

 ん? どうしたんだ? 男がいきなり腹を抑えだして……

 

「イッ゛、イ゛デデデデデデ!! は、腹がぁ………」

 

「大丈夫か!?」

 

 ……ま・さ・か……俺はそっと背中のクリスの顔を見た。

 ……クリスの顔は……ゲンガーみたいなドス黒い笑顔だった。

 

「……ハヤトさんコレ使ってください、胃薬と毒消しです」

 

「あ、ありがとう」

 

「では俺達は先を急ぎますので」

 

 そう言い終わると俺はクリスをおんぶしたまま走ってジムを抜け出そうとした。

 

 ……この馬鹿娘、ついにやりやがったな!

 絶対この後説教してやるからな!

 

「イ゛デーーーッッ!! し、死ぬーーー!!!」

 

「誰か救急車を呼んでくれー!!」

 

 だが今はジムを離れるのが優先。

 チクショー、何で勝ったのに逃げなかんのだ!?

 クリス、今日という今日は徹底的にお仕置きだからな!!!

 

 こうして俺の初のジム戦は勝ったのに何故か逃げ帰る形で幕を閉じた。

 

「イ゛デッッッーーー!!!」

 

 ……幕を閉じたって言ったから幕を閉じたんだよ、コンチクショー!

 



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第十三話 説教、お仕置き、卵

 うぇ〜ん、アタシはクリス、グスン。

 アタシは今、ゴールドにお説教されてるの。

 理由は受付のクズに毒を盛ったから。

 

 なんで? どうして? アタシはゴールドをバカにしたクズにちょっと『どくのこな』を飲ましただけなのに!

 ちゃんとバレないようにクズが居眠りしてるのを確認して、アイツの持ってたペットボトルに『どくのこな』を入れたのに。

 なんで三十分も正座させられてお説教されないといけないの?

 

「余所見するな!」

 

 ゴンッ!!

 

「いった〜ぃ!!」

 

 ふぇ〜ん、また殴ったぁ。

 アタシはゴールドの為にしたのに三回もグーで頭を殴ったぁ!

 

「いいか、世の中にはやっていい事と悪い事がある。お前がした事は悪い事だ。そもそも……」

 

 だからなんで? どうして? ゴールドをバカにするクズを始末するのは悪いことじゃないよ?

 ちゃんとバレないように工夫したよ?

 なのにどうしてゴールドが怒るの?

 なんでアタシは外で正座してお説教されなきゃいけないの?

 ねぇどうして?

 

 なお共犯の罰としてチコリータは『どくのこな』を忘れされられて秘伝マシンで『フラッシュ』を覚えました、せっかく『どくのこな』を覚えたのにぃ、シクシク。

 ……でもチコリータはむしろホッとしてたわ。

 

 もぉゴールドのイジワル〜!!

 

 ブルル……

 

「ん? 電話だ。クリス、電話に出るからそのままの態勢で待ってろ」

 

 ふぇ〜ん、砂利の上で正座はもうイヤだよ〜。

 

「もしもしゴールドです。ウツギ博士どうしたんですか? ……はい……はい……分かりました……では今から行きますね……はい」

 

 ピッ!

 

 電話が終わったみたいね。

 相手はウツギ博士からだったみたいだけど何だったのかな?

 

「とりあえず今日のお説教はここまで。ポケモンセンターに博士の助手さんが来ているみたいだから行くぞ」

 

 よかったー、これ以上のお説教は本当に耐えれそうになかったのよ。

 ウツギ博士、助手さん、ありがとう!

 

 アタシは立ち上がろうとして……

 

「イ゛ッ゛!!?」

 

 あ、足が……しび……れ……

 

「どうしたクリス? グズグズしてると置いてくぞ」

 

「ま、まっ、て……足が、痺れた……の」

 

「何だそんな事か」

 

 そんな……こ、と……って、コレ、結構、辛い……のよ。

 

「仕方ないな、俺がマッサージしてやるよ」

 

「えっ゛!?」

 

 ゴー、ルド、に触れ、られる、のは嬉しい、けど……い、いまは、今、だけは勘弁し、てくだ……

 

「遠慮するな、ホレ!」

 

「ギァ!?」

 

「もういっちょ!」

 

「グェ!?」

 

「ホイ、オマケ!」

 

「ggぁ!?」

 

 ゴールド絶対分かってやってるでしょ!?

 もぅ本当ゴールドのイジワル〜〜!!!

 

 ★☆★☆

 

 あー、スッとしたぁ。

 久し振りにクリスに全力で説教したわぁ。

 こんだけ説教とお仕置きすればいくらクリスでも当分は大人しくするでしょう。

 チコリータも『どくのこな』を忘れたから再犯もしようがないし。

 『フラッシュ』なら悪用しようがないからな、アレは光で周りを明るくする技だし。

 

 あの受付はどうやら助かったみたいだ。

 おそらく俺が渡した毒消しか胃薬が効いたみたいだな。

 無事救急車で運ばれて病院で今は安静してるみたいだ。

 クリスにお説教しながらこっそりイヤホンでラジオを聞いて確認したか間違いないだろう。

 凄いね地方ラジオは、三十分前の事をもうニュースに流してるんだからな。

 

 ……尚、俺達の事は一言も言ってなかった。

 ニュースでは壊滅した筈のロケット団による犯行の可能性も? と言ってたがな……ロケット団には悪いが俺達の代わりに疑われてくれ、俺は警察の世話になりたくないからな。

 

 尚クリスは不貞腐れながら俺の後ろをついて来てる。

 ……後でまた俺の下着でもやるか、不貞腐れたままだと色々面倒だし。

 

 ★☆★☆

 

【ポケモンセンター】

 

「やぁゴールド君、クリスちゃん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです」

 

「……お久しぶりです」

 

 ポケモンセンターに着くと助手さんは既にいて待っていた。

 

「話は博士から聞いてますよね? 実はですね、ポケモンの卵を持っていってほしいのです」

 

「それって俺達がポケモン爺さんから受け取ってウツギ博士に渡した卵ですよね?」

 

 たがアレはウツギ博士が自分で研究してた筈、今頃なんで俺達に渡すんだ?

 

「はい、博士が調べたところ卵の中である程度育たないと生まれてこないそうです。

 しかもいつも元気なポケモンの側にいないといけないらしいんですよ」

 

 よく分からんがウツギ博士が言うならその通りなんだろう。

 

「なので是非ともゴールド君とクリスちゃんにお願いします」

 

 ああそっか、今は研究所にはポケモンが居なかったな。

 研究所に居た三匹のポケモンは俺、クリス、シルバー君がそれぞれ持ってる訳だし。

 

「……そういう事でしたらお預かりします」

 

「本当ですか? ゴールド君ありがとうございます!」

 

 俺は助手さんから卵を預かった。

 

「生まれたら博士に電話をお願いします、では私はこれで失礼しますね」

 

 そう言うと助手さんは急いでポケモンセンターを後にした。

 ……博士の助手はあの人一人だから忙しいんだろな。

 

 ふと横を見るとクリスはさっきまでと違って興味津々と言った目で卵のを見つめてた。

 ……ポケモンの卵は珍しいからな、クリスでも興味を持つか…………そうだ!

 

「……クリス、お前がこの卵を孵してみないか?」

 

「えっ! いいの?」

 

「その代わりちゃんと世話すんだぞ?」

 

「うん、ありがとうゴールド♡」

 

 クリスは俺から卵を受け取ると大切そうに抱き抱える。

 その表情はとても嬉しそうだ。

 

 ……俺がクリスに卵を渡した理由は二つ。

 一つはクリスのご機嫌取り。

 俺が説教したからクリスはさっきまで非常に不機嫌だった。

 このままだとストレスで暴走しかねないからな……まぁ卵でなくても俺の下着でも代用はきくが。

 

 もう一つはクリスの教育の為。

 正直こっちが本命だ。

 確か何かのテレビで命の誕生する瞬間を立ち会う事で命の大切さを学べるって言ってた。

 卵を自分で面倒見ることでクリスが命の尊さを学べば人に毒をもるような事をしなくなるのでは? と、俺は考えたんだよ。

 

 ……クリスは命を、特に人の命を軽視する傾向がある。

 だからそれが少しでも改善されたら良いんだけどな。

 

「ふへへへ、よろしくね卵ちゃん♡」

 

 大事そうに卵に頬ずりするクリス。

 ……大丈夫、お前ならいつか必ず……な?

 俺は信じてるぞ。

 

 こうして俺達の怒涛のような一日はクリスの笑顔で終わった。

 



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第十四話 お姫様抱っこで走り抜けて

 オッス、俺ゴールド。

 昨日は色々(マダツボミの塔の修行、ジム戦、卵の受け取り)あってバタバタしたが今日は次の町目指してキキョウタウンを後にした。

 

 ポケモン塾のジョバンニ先生に旅立つ事を伝えると、

 

「オー、非常に残念でーす。あなた達は非常に優秀な生徒でしたから。特にクリスさーん、アナタほど状態異常の講義を真剣に受けた生徒は他にはいないアル」

 

 と、言ってくれた。

 ……非常に嬉しいがクリスの状態異常への情熱はバトルの為では無いんですよ、ジョバンニ先生には言ってないけど。

 

 本当はキキョウジムにも挨拶したいがそれは諦めた。

 理由は……言わなくてもわかるだろ?

 

 あとせっかく『フラッシュ』を手に入れたので、暗闇の洞穴に寄ってイシツブテとズバットを捕獲した。

 ズバットは雌だった為にボックスに送ったがイシツブテは雄だからレギュラーに入れた。

 当分の間はイシツブテのレベル上げがメインになるな。

 

 ★☆★☆

 

【アルフの遺跡】

 

 俺達は遺跡の見学をしている。

 

「……素晴らしい」

 

 自然と俺の口からその言葉が漏れた。

 俺は遺跡とか秘宝とか大好きだ。

 遺跡には歴史とロマンがある。

 前世でも博物館で開催されるエジプト展とかをよく行ったものだ。

 

 遺跡の壁には独特の模様があり何か意味があるらしいがその意味はまだ解明されてないそうだ。

 ……本当に素晴らしい。

 古代人はこの模様で何を残したかったのか、何を俺達に伝えたかったのか、それを考えるだけで胸が熱くなる。

 

「ねぇねぇゴールドぉ」

 

 尚、動く石版にもチャレンジしたが速攻で諦めた。

 俺はRPGやアクションゲームは好きだけどパズルゲームは苦手なんだよね。

 前世でスマホのパズルゲームが流行った時も友達に誘われたが断固として拒否したくらいだし。

 

「ねぇねぇねぇねぇゴールドぉ」

 

 いやぁやっぱ遺跡は良いわぁ。

 この独特な雰囲気堪らんわぁ。

 

「無視しちゃいや~〜〜!!!」

 

「うぎゃあ!!?」

 

 耳元で叫ぶなクリス! 耳いてぇ。

 

「「「しー!」」」

 

 ……はい、すいません。

 他のお客さん達に注意され俺は頭を下げて詫た。

 

「……何だよクリス」

 

「……つまんない」

 

 頬を膨らまして言うクリス。

 ……お子様なクリスに遺跡の良さは分からんか。

 仕方ない、これ以上騒がれても困るし名残惜しいが遺跡の外に出るか。

 

 ★☆★☆

 

【三十二番道路】

 

 俺達は今三十二番道路に居る。

 本当は三十六番道路を抜けてコガネシティに行くつもりだったが途中に変な木が邪魔で通れない。

 仕方ないから先にヒワダタウンに行くことにした。

 ……あの木は本当に何なんだったんだ?

 風もないのに揺れて不気味な木だったな。

 

 この三十二番道路でメリープとハネッコを捕獲したが、どちらも雌だったんでボックスに送ることに決めた。

 ……何だろう、俺のこの雌ポケモンとの遭遇率の高さは。

 

「そこのあなた、私とバトルしなさい!」

 

 おっと、考え事してたら勝負を挑まれたか。

 

「よし、その勝負受けた……!?」

 

 俺に勝負を挑んできたのはピクニック衣装の㊛女の子…………やべぇ!

 

 俺は恐る恐る横を見ると…………そこには(クリス)が居た。

 その腕に抱えた卵をミシミシと鳴らしてる(クリス)が居た。

 卵が割れそうだからやめてやれよ。

 

「……ご〜るどぉ〜、ア〜タ〜シが、たたか「出番だ、イシツブテ!」……ちっ!」

 

 ……こんな状態のクリスにバトルさせる訳にはいかない。

 かと言って長引かせても不味い。

 よって速攻で俺が倒す!

 イシツブテ、根性入れていくぞ!

 

 ★☆★☆

 

「イシツブテ、『たいあたり』!」

 

「イッシャイ!」

 

 イシツブテの攻撃で相手は戦闘不能になった。

 

「あーあ、私の負けだね」

 

 うっし、あんまり時間掛けずに勝てた。

 

「はい、賞金ね」

 

「……ありがとう」

 

 俺は女の子から賞金を受け取った。

 

「君って強いね。良かったら電話番号をこ「んじゃ俺急いでるんで!」うかん……って、もう居ないし……」

 

 俺はクリスを俗に言うお姫様抱っこして走ってその場を離れた。

 ……せっかく勝負を速攻で終わらせたのに番号交換なんぞしたらクリスが何をしでかすか分からん!

 

「ふへへへ〜、ゴールドがお姫様だっこ〜」

 

 ……頼むからそのまま機嫌良くしていてくれ。

 俺と卵の為に。

 

 こうして俺は三十二番道路をクリスを抱えたまま走り続けた。

 ……明日は絶対筋肉痛だな、俺の腕。

 



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第十五話 釣り上げたポケモンが襲ってきた

 オッス、俺ゴールド。

 俺達はヒワダタウンを目指して今は三十二番道路に居る。

 

 ここは釣りの名所だから途中で釣りしてたオッサンとポケモンバトルしたぜ。

 ……だが『はねる』だけのコイキングで勝負挑むなよオッサン。

 ひょっとしてコイキングしか釣れなくて八つ当たりの為に俺に挑んだのか?

 ……ありえそう、そして八つ当たりに巻き込まれたコイキング達はご愁傷様。

 

 尚ここまでの道程でイシツブテは『いわおとし』をオタチは『みだれひっかき』を覚えた。

 

「うふふ、卵〜♪ 卵〜♪ きみは何の〜卵〜♪」

 

 クリスは俺がお姫様抱っこしたから非常にご機嫌だ。

 さっきから卵相手に鼻歌交じりに話しかけてる。

 ……本当、このままご機嫌でいてくれないかな……俺と卵の為に。

 

 お、ポケモンセンターが見えてきたぞ。

 

 ★☆★☆

 

 ポケモンセンターに近づくと怪しい男に声を掛けられた。

 

「ようよう、そこの坊っちゃん、お嬢ちゃん。旨くて栄養満点な美味しいシッポ、今ならたったの百万円! お買い得だよ」

 

 ………何だ、こいつは。

 いかにも怪しい太ったオッサンが、いかにも怪しい物を、いかにも怪しい値段で売ってるよ。

 

「オッサン馬鹿でしょ? そんな怪しい物をアホみたいな高値で買う奴居ないって」

 

「いやいや安いよ、これは貴重なシッポでね……」

 

 ……しつこいオッサンだ。

 

「……それ以上絡んでくるなら警察に電話するぞ?」

 

 そう言いながら俺はポケギアの電話機能のスイッチを入れるフリをする。

 

「げ! そ、それは困る……」

 

 そう言いながら逃げていったオッサン。

 ……この程度の脅しで逃げるとは、ありゃ本物の馬鹿だな。

 まったく、無駄な時間だったな。

 

「……ねぇゴールド、あのシッポって何のシッポだったのかな?」

 

「さぁ? 案外本物の尻尾じゃなくてゴボウを煮たのを尻尾ぽく加工しただけかもな」

 

「……そうだよね、ポケモンのシッポとかじゃないよね」

 

 心配そうにしてるクリス。

 ……コイツはポケモンには優しいからな。

 

「心配するなって。もし本当にポケモンの尻尾だったら、俺がさっきのオッサンをぶっ飛ばしてやるから!」

 

「うん♪ でもその時はアタシも混ぜてね。アタシが【放送出来ません】して【放送出来ません】するからね♡」

 

 ……なお人間には非常に厳しい……少しは人間にも優しくしてくれませんかねクリスさん?

 

 ★☆★☆

 

【ポケモンセンター】

 

 うっし、ポケモン達の回復終了。

 さて今の時間は……午後三時過ぎか。

 日暮れまではまだ時間あるな。

 ならまた外でトレーニングでもするか?

 

「やあ少年。こんな所で何をしてるんだい?」

 

 そんな事を考えてたら見知らぬオッサンに声を掛けられた……今日は何かとオッサンと縁がある日だな。

 

「……俺は相棒とヒワダタウンに行く途中です」

 

「そっかそっか。それはそうと君はみんなが釣りをしてるのを見て釣りをしてみたくならなかったかい?」

 

「……まぁ少しは興味あります」

 

「そうだろそうだろ。そこでだ、君に私の釣り竿を分けてあげよう!」

 

「えっ、良いんですか?」

 

 マジですか?

 このオッサン良い人じゃん。

 

「勿論! さあこれで君も釣り人の仲間入りだ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺はオッサンからボロの釣り竿を受け取った。

 釣り竿はかなり年季が入ってるみたいで所々修理した跡があるがまだまだ使えそうだ。

 

「釣りはいいよぉ。水がある所なら川でも海でも何処でも釣りを楽しんでくれ! では私は行くよ、また新しい釣り人を探す為にね、さらば!」

 

 言い終わるとオッサンはポケモンセンターから出て行った……良い人だが忙しない人だな。

 

 何にしても釣り竿が手に入ったんだし、早速釣りに行くぞ!

 

 ★☆★☆

 

「さぁ釣るぞ! 目指せ大物ゲットだ!」

 

「がんばれ〜ゴールド♪」

 

 俺達は釣りをする為に三十二番道路の橋の上に来た。

 さて針に餌をつけて、っと!

 

「うりゃぁ!」

 

 勢い良く竿を降った!

 ポチャっと浮きが水に着地した。

 

 

 

 

 

 …………………………きた!

 

 俺は思いっきり糸を巻き上げる!

 すると……

 

「こ、こい〜!?」

 

 コイキングを釣り上げた……。

 ま、まぁ最初だしな。

 次こそは大物を釣り上げて見せる!

 

 ★☆★☆

 

「うがぁ~!!! またコイキングだぁ!!!」

 

 釣れども釣れども全部コイキング。

 あんまりにもムカついたから途中から釣ったコイキングをマグマラシの『ひのこ』で片っ端から焼き魚にしたったわ!

 

「ねぇゴールド〜、そろそろポケモンセンターに戻ろうよ〜」

 

「やだ! 絶対コイキング以外のポケモンを釣るまでは帰らん!」

 

 このまま引き下がれるかよ。

 何が何でもコイキング以外を釣ってやる!

 

「ぷ~! ならさぁアタシにもやらしてよ。ずっと見てるだけでヒマなの」

 

 それはクリスに悪いことしたな。

 仕方ない、クリスにもやってもらうか。

 

「んじゃ、はい。やり方は分かるか?」

 

「大丈夫だよ、ゴールドがやってるの見て覚えたから」

 

 俺はクリスから卵を預かり代わりにクリスに釣り竿を渡した。

 クリスは竿を受け取るとテキパキと餌をつけた。

 本当に俺を見てただけで覚えたんだな。

 

「えい!」

 

 可愛らしい声と共に竿を降ったクリス。

 ……普通に上手いな。

 

 

 

 

 

 

「……………………………きたわ!」

 

 クリスはメノクラゲを釣り上げた………………なんですと!?

 お、俺が、何十回やってもコイキングしか釣れなかったのにクリスは一発でメノクラゲ!?

 

「いっけー、モンスターボール!」

 

 俺が呆然としてる間にクリスはメノクラゲを捕獲した。

 

「やったわぁ! ねぇねぇゴールド、見てくれた? アタシ、メノクラゲをゲットしたのよ♪」

 

「あ、あぁ……」

 

 それしか俺には言えなかった。

 ……理不尽じゃね? 俺は何か悪いことしました?

 

 それからも俺は意地で釣りを続けたが結局コイキング以外は釣れなかった。

 日が暮れかけた頃に項垂れながらポケモンセンターに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……俺はこの時はショックで完全に忘れてたんだよな、メノクラゲが水、()タイプだって事を。

 



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第十六話 恋する汎用人型決戦兵器クリス

 オッス、俺ゴールド。

 えー前回クリスがメノクラゲを釣り上げで捕獲した、以上。

 ……これ以上この事に触れんでくれ、頼む。

 

 そのあとポケモンセンターで一晩過ごした。

 で、朝になったら……

 

「ゴ、ゴールドーー!! 卵が、卵が孵ったのーーー!!!」

 

 と、クリスが俺の部屋に大声で叫びながら突撃してきた。

 ……尚、部屋の鍵は締めて寝た筈なのに何故か普通に入ってきた。

 クリスめ、またピッキングしやがったな、たく。

 

 まぁいいや。

 クリス曰く、卵を抱えて寝て朝になったら孵ってたんだと。

 

 クリスに頼まれて俺達はクリスの部屋に様子を見にいくと産まれたポケモン、トゲピーは布団でスヤスヤと寝てた。

 二人でしばらく様子を見てるとトゲピーが体を揺らしだした。

 ……そろそろ目が覚めるんだな。

 

「クリス、トゲピーを抱いてあげな」

 

「えっ?」

 

「お前がトゲピーの親なんだから最初に『おはよう』って言ってあげなよ」

 

「…………うん」

 

 クリスは恐る恐るといった感じで、ゆっくりトゲピーを抱き上げた。

 その時、トゲピーはパチっと目を開けた。

 

「……おはようトゲピー、アタシはクリスよ」

 

「トゲッ、ピー?」

 

「うん、アタシはアナタの…………ママだよ」

 

「トゲピー♪」

 

 トゲピーは嬉しそうにクリスに抱きつき、クリスはトゲピーを優しく包み込んだ。

 クリスは少し涙目になっていた。

 その光景を俺はただ黙って見守っていた。

 ……良かったなクリス、無事に生まれて。

 

 ★☆★☆

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 アタシね家族が増えたの、それも二人も増えたのよ。

 ゴールドから借りた釣り竿で釣り上げたメノクラゲと、アタシが卵を暖めて孵したトゲピー。

 ……本物に嬉しい。

 

 ゴールドがね、アタシがトゲピーの親だって言ってくれたのよ。

 こんなアタシがトゲピーのママで良いかと不安になるけど、でもトゲピーはアタシが抱いたときに笑ってくれた。

 アタシはこの子のママなっても……いいんだよね?

 アタシ、ガンバるからね。

 だからママをヨロシクね、トゲピー。

 

 …………あれ、アタシがママならパパは誰?

 

 ………………………………………………………………………ゴールド!!! そうよ、パパはゴールドしかありえならいわ!

 

 じゃ、じゃあ、あのゴールドの「お前がトゲピーの親なんだから」って言葉は、プッ、プロポーズ!?

 そうよ! 恥ずかしがりやでシャイなゴールドが遠回しで言ってくれたプロポーズよ!

 

 …………やぁだぁゴールドったら♡

 もう告白より先にプロポーズなんて、だ・い・た・ん♡

 

 でもこれって今、流行りのデキちゃった結婚よね?【注意・違います】

 あ、もしかしてゴールドはこの旅の間にプロポーズするつもりだったのかな?

 それでトゲピーが産まれたら覚悟を決めてプロポーズしてくれたのよね。

 じゃあこの旅って新婚旅行ってこと!?

 

 や~ん、もうゴールドったら♡

 全部計画済みだったのね。

 アタシに冷たくしてたのはプロポーズするタイミングを見極めるためだったのね。

 アタシすっかり騙されちゃったわ、もぉゴールドのツンデレさん♡

 

 あっ! じゃあアタシの夜ばいを拒絶したのも婚前交渉しない為?

 も〜ゴールドったらマジメなんだから♡

 今時婚前交渉なんて普通なのに。

 でもそんな所も好き♡

 

「……はい……はい…………分かりました、はい失礼します」

 

 あれ? ゴールドってばいつの間に電話してたのかな?

 

「クリス、予定変更だ。今からワカバタウンに戻ってトゲピーが産まれたのを報告するぞ」

 

 えっ、報告って? 誰に?

 っておば様に決まってるじゃない!!

 そっか、おば様にちゃんと結婚報告するのねゴールド♪

 ううん、もう結婚するだからお義母様って呼ばなきゃ。

 お義母様、不出来な娘をよろしくお願いします♡

 

 ……あっ! アタシってまだゴールドに返事して無いじゃん!!

 アタシのバカバカバカバカ!

 ゴールドが返事を待ってるのに焦らすなんてアタシのバカ!

 

 さぁ言うわよクリス、深呼吸して。

 

 スゥ、ハァ。

 

「……ゴールド、ありがとう。アタシたち幸せになろうね♡」

 

 キャッ、言っちゃった♡

 

「うん? どういたしまして?」

 

 ゴールド……ううん、旦那様、大大大好きよ♡

 

 ★☆★☆

 

 ……なんかクリスがニヤニヤしてる。

 そんなにトゲピーが産まれたのが嬉しいんかな?

 まぁ本人が喜んでるなら良いや。

 さっきもトゲピーに幸せになろうねって言ってたくらいだしな。

 

 さぁサッサと朝飯食って出発するぞ!

 さっきウツギ博士に卵が孵った事を報告したら研究所まで見せに来てくれって頼まれたし。

 今から出発したら急げば日暮れまでにはワカバタウンに帰れるでしょ。

 

「よし、行くぞクリス!」

 

「うん♡」

 

 クリスがご機嫌なら平和でありがたいよな。

 うんうん、平和が一番だ。

 



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第十七話 二人の汎用人型決戦兵器

 オッス、俺ゴールド。

 前回卵が孵ってトゲピーが生まれ、それをウツギ博士に報告する為に俺達はワカバタウンに帰ってきた。

 

 尚道中のバトルはクリスのメノクラゲとトゲピーのレベル上げの為に全て譲った。

 だから俺のポケモンには全く変化は無い。

 

 クリスはワカバタウンに戻るまで終始上機嫌だった。

 ……非常に有り難いんだがちょっと不気味。

 女性トレーナーとのバトルでさえニコニコしてるのはクリスにしては珍しすぎる。

 偶に何かを思い出したかのようにニヤニヤ笑い出すし。

 まぁ不機嫌よりは良いかと思い指摘はしてないがな。

 

 かなり急いだからギリギリ日が沈む前にワカバタウンに到着した。

 

 早速ウツギ博士にトゲピーを見せたら、

 

「やはりポケモンは卵から生まれるのか!

 いやいや、全てのポケモンがそうと決まったわけじゃないぞ。ならアレとアレを調べて……あとでオーキド博士にも助言を貰おう。

 ……ありがとうゴールド君、クリスちゃん! 君たちのお陰でポケモンの謎が一つ分かりそうだよ」

 

 との事。

 俺にはチンプンカンプンだがウツギ博士にとっては重要な事なんだろう。

 

 尚、博士に変わらずの石をお礼に貰った。

 ポケモンに持たすと進化しなくなるアイテムだそうだが。

 クリスにいるかどうか聞くと、

 

「使い道がわかんないからゴールドが使って」

 

 だと。

 確かにポケモンは進化した方が強いし、ピチューとか、ピィとかのペット用のポケモンを進化させないぐらいしか使い道が思いつかんな。

 ……後でパソコンで使い道を調べるか。

 

 因みに助手さんは非常に忙しいそうにしてたので声は掛けなかった。

 ……あの人見てると前世の自分を思い出す。

 主にいつ過労で倒れてもおかしくない所が

 今度来るときには栄養ドリンクを差し入れするかな。

 

 時間も遅かったので今夜は家に帰って一晩過ごすつもりだ。

 旅に出て一ヶ月もせずに帰るのも、どうかと思ったが背に腹は変えられぬ。

 

 ★☆★☆

 

 ピーンポーン♪

 

 ……自分の家の呼び鈴鳴らすのって変な感じがするな。

 オフクロ、元気かな。

 

「はーい、どちらさ……ゴールド!?」

 

 扉を開けながら驚くオフクロ。

 

「……ただいま。用事があったから帰ってきた。あと、扉開ける前に来客を確認しろっていつも言ってるだろ」

 

 まったく、オフクロは。

 

「おかえりゴールド。もう帰ってくるなら連絡しなさいよ」

 

「悪い、急に帰ってくることになったんでな」

 

 でも元気そうで良かったよ。

 

「お、おか……おば様、こんばんは!」

 

「クリスちゃん、こんばんは~。あら、その腕に抱えてる子は……」

 

 オフクロはクリスが抱っこしてるトゲピーを見て……

 

「ゴールド、ちゃんと避妊しなさいって言ったわよね?」

 

「人間からポケモンが生まれるかボケーーー!!!」

 

 ……相変わらずオフクロは天然だった。

 

 ★☆★☆

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 アタシは今日はゴールドの家に泊めてもらう事になったの。

 おば様がね、泊まっていきなさいって言ってくれたのよ。

 ……ホントはおば様をお義母様って呼びたいけど本人の前だと恥ずかしくって呼べない。

 

 ゴールドは夕食が終わったらさっさと自分の部屋にいった。

 疲れたら今日は早く寝るって。

 

 おば様の作ってくれたご飯はホントにおいしかった。

 小さい頃から何度もおば様に食べさせてもらったけど本当においしいの。

 でもね、おば様が夕食の支度をしてる時にアタシも手伝おうとしたけど、

 

「クリスちゃんは疲れてるでしょ?」

 

 って、やんわり断られた。

 ちょっと残念だった。

 

 ちなみにゴールドは食事の準備の途中で様子を見にいったときに、

 

「ゆで卵を電子レンジで作るなアホーーー!!!」

 

 って声を荒げてからそのままおば様の手伝いをしてた。

 ゴールドって母親思いよね、そんな優しいゴールドが好き。

 ……でも、なんかアタシだけカヤの外で寂しかったな。

 でも仕方ないよね、おば様とゴールドは本当の親子だし……

 

 ★☆★☆

 

「はい、クリスちゃん。温かいココアよ」

 

「……ありがとうごさいます」

 

 おば様はアタシにココアを渡すと自分も椅子に座り自分の分のココアを飲み始めた。

 アタシもゆっくり飲む……あったかいなぁ、まるでゴールドとおば様みたいにあったかい。

 

 ポケモン達は既にモンスターボールの中で寝ちゃった。

 だから今ここに居るのはアタシとおば様だけ。

 

「……ねぇクリスちゃん、ゴールドと何かあったの?」

 

「えっ、えぇっ!?」

 

 な、なんでわかるんですか!?

 

「うふふ、分かるわよ。私も女ですもの。クリスちゃんが幸せいっぱいですって顔をしてればね♪」

 

 アタシそんなに顔に出てたの!?

 は、はずかしいよ〜!!

 

「で、何があったのかなぁ〜?」

 

「あ、あの……ゴールドに……プ、プロポーズ……されました」

 

 いっ、言っちゃった!

 

「キャー! やっぱり? そうじゃないかと思ったのよ♪ うんうん、あの子もやっと覚悟を決めたのね。

 いきなりプロポーズってのもゴールドらしいわ。ほらゴールドって昔っから大人っぽいというか、真面目すぎるっていうか、堅苦しいところあるのよね。

 ねぇクリスちゃん、返事はどうしたの?」

 

「もちろんオーケーしました! アタシ、ゴールドが大好きですから」

 

「ありがとうクリスちゃん。私の息子をよろしくね♪」

 

「はい! でもどうしてゴールドがプロポーズしたってわかったんですか?」

 

 アタシの顔に書いてあったのかな?

 

「だってぇ、あの子もクリスちゃんが大好きだもん♪ ゴールドったら昔っからクリスちゃんの事ばかり話すのよ。

『今日クリスが〜』、『クリスがまた〜』、『クリスの奴が〜』ってほぼ毎日ね」

 

 そ、そんなにも!?

 ゴールドもアタシが大好きだったんだ。

 ……嬉しい♡

 

「そっかぁ、これでクリスちゃんは名実ともに私の娘になったのね。ねぇクリスちゃん、これからは私を『お母さん』って呼んでね」

 

「はい……お、お義母様!」

 

「だめだめ、硬すぎるわ。もっと柔らかくね♪」

 

「は、はい……お、お母さん……」

 

「はい、よく言えました♪」

 

 ありがとう……お母さん。

 アタシ、アナタの娘になれてすごく嬉しいです。

 

「うふふ、主人にも報告しなくちゃ♪ あ、でもクリスちゃん、あまり周りに言いふらしちゃダメよ?」

 

「なんでですか?」

 

 せっかくプロポーズされたんだからみんなに言いたいのに。

 

「ほらゴールドって恥ずかしがり屋でしょ? あんまり周りにアピールするとあの子拗ねちゃうわよ。

 だから、ちゃんと結婚できる年まで隠していたほうがゴールドは喜ぶと思うの」

 

 そうよね、ゴールドってシャイだもんね。

 夫を気遣うのも妻のつとめよね♪

 

「はい、正式に結婚するまで誰にも言いません!」

 

「うんうん、クリスちゃんは素直で良い子ね。お母さん嬉しいわ♪」

 

 さすがお母さん、ゴールドの事をよくわかってらっしゃる。

 アタシも見習わないと、アタシがゴールドの妻なんだから!

 

「あと避妊はちゃんとしてね。私この年でおばあちゃんって呼ばれたくないの、まだ二人目も欲しいし。そう言えば初体験はしたの?」

 

「いえ、まだです。ゴールドに拒否されちゃって……」

 

「あらそうなの? まぁゴールドって頭が硬いから婚前交渉はするものじゃないって思ってるのかしら?」

 

「アタシもそうだと思います。ゴールドは優しいけどシャイですから」

 

「そうよね〜。硬いって言えば昔ゴールドがね………」

 

 アタシとお母さんはそれからずっと主にゴールドの話題で話し続けた。

 気がついたら日付が変わってて慌ててベットに入ったの。

 お母さんに頼まれてその日はお母さんと一緒に寝たのよ。

 娘と一緒に寝るのがお母さんの長年の夢だったんですって。

 

 ……おやすみゴールド、おやすみお母さん。

 アタシ、今すごく幸せです♡

 

 ★☆★☆

 

 ……まだオフクロとクリスは喋りこんでるのか。

 女は本当おしゃべり好きだねぇ。

 

 俺は変わらずの石の事が気になったから寝る前にネットで調べてる。

 

 なになに……ポケモンには進化すると技を覚えるのが遅くなったり特定の技を覚えない場合がある。

 なるほど、変わらずの石で欲しい技を覚えるまで進化させないって使い方もあるのね。

 

 えっと、俺の手持ちだと……げっ! マグマラシはバクフーンに進化するとレベル60まで『かえんほうしゃ』覚えないんかよ!?

 なら変わらずの石はマグマラシに持たせるか。

 

 さてパソコンのスイッチ切って寝るか。

 最近は毎日平和良いな。

 

 このままずっと平和であれば良いんだかな。

 



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第十八話 何があったんだ?

 オッス、俺ゴールド。

 昨日は久し振りに実家に帰ってきた。

 ポケモンセンターの宿泊施設も悪くは無いんだが自分のベットの方がやっぱ落ち着くんだよな。

 

 ジュージュー。

 

 んで、オフクロとクリスが寝坊したので俺が朝飯を作ってる。

 ……あの二人夜遅くまで話し込んでたからな。

 

 まぁ良いけど、俺は料理得意だし。

 だが前日の仕込み無しで手間掛かるのは作らんけど。

 だからメニューはハム入りオムレツ、サラダ、コーンスープ、トーストだ。

 

 さて出来た、二人を起こしに行くか。

 

 ★☆★★

 

 ……どうゆうこと?

 二人を起こしに来たらオフクロとクリスが抱き合って寝てた。

 

 二人は確かに昔から仲良かったけど……

 オフクロはクリスが娘ならいいのにとか俺の嫁にしたいとかよく言ってるが(冗談じゃねぇ!)。

 クリスはクリスでオフクロによく懐いてたが。

 だからって抱き合って寝るか?

 

 ……俺はそっと部屋の扉を閉めてその場を後にした。

 朝食が冷めるが仕方ない、後でレンジで温め直せばいいや。

 ……これは決して現実逃避では無い、気持ち良さそうに寝てる二人を気遣っただけだ。

 うん、自己完結。

 

 さて、ポケモン達に朝御飯あげるか。

 

 ★☆★☆

 

 オフクロ達は結局昼前まで寝てたので俺達は昼過ぎに家を出ることにした。

 

「んじゃオフクロ、いってきます」

 

「ゴールドいってらっしゃい。気を付けてね」

 

 ……いつもならここでオフクロがボケる筈。

 俺はツッコミを入れる準備をして……

 

「クリスちゃんもいってらっしゃい」

 

「ハイ! いってきます」

 

 ……あれ? オフクロがボケない。

 

 俺は肩透かしを喰らった。

 なんか調子狂うな。

 まぁボケないなら楽で良いけど。

 

 家を出て少し歩くとクリスは振り返り……

 

「いってきます、お母さん!!」

 

 ドテッ!!

 

 俺は思いっきりコケた。

 

「ちょっと待てや!」

 

「なぁにゴールド?」

 

 何じゃねぇよ!

 

「何でクリスがオフクロを『お母さん』って呼んでるんだよ!」

 

 昨日まで『おば様』って呼んでただろ。

 

「教えてあげないよ〜♪」

 

 そう言うとクリスは走り出した。

 てめぇ、絶対理由聞いてやる。

 俺は少し遅れてクリスを追い掛けた。

 

 ★☆★☆

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 

「待てやぁクリス!」

 

「ベー、捕まらないよー♪」

 

 ゴールドが必死に追いかけてくる。

 うふふ、でも絶対に教えてあげないんだから。

 昨日の事はアタシとお母さんだけの秘密。

 アタシにとって大切な思い出だから。

 

 でもずっと教えないのもゴールドが可愛そうね?

 そうだ! 結婚式の時に教えてあげよう♪

 花嫁が読む手紙に昨日の事書くの。

 うふふ、楽しみにしててねゴールド♡

 

「待てコラ!」

 

「待たないよ~だ♪」

 

 だから今はアタシとお母さんだけの秘密なの。

 

 ★☆★☆

 

 結局クリスは教えてくれなかった。

 たく、昨日本当に何があったんだ?

 力づくで聞く事も考えたが女相手には流石に引けるし。

 仕方無いから次に実家に帰ったときにオフクロに聞くか。

 

 出発が遅れた俺達はその日はヨシノシティに泊まることにして日が暮れるまでクリスはトゲピーとメノクラゲのレベル上げ、俺は釣りをすることにした。

 

 クリスの方は順調でクリス曰く、

 

「二人ともとっても強くなったよ~」

 

 と。

 

 俺の方は……ふっ、釣りなんか大嫌いだーーー!!!

 何で何回やっても何回やってもコイキングしか釣れないんだ!!!

 コイキングは嫌いだ!

 あのマヌケ顔は二度と見たくねぇ!

 コイキングを育てないのかって?

 誰があんな『はねる』しか出来ない奴いるか!!

 あんなのに使うモンスターボールが勿体無いわ!

 

 ハァハァ、……まぁそういう事だ。

 つまり俺の方は全く成果が無い。

 

 さて寝る準備は終わったしボールからポケモン達を出してっと。

 ……前回のクリス襲撃から大分経ったから今日ぐらいにクリスが襲ってくる筈。

 なのでポケモン達に夜の警戒を頼んだんだよ。

 

 さてこれで安心して寝れる。

 ではおやすみ〜。

 

 ★☆★☆

 

 ……嘘だろ!?

 昨晩クリスが襲ってこなかった。

 絶対来ると思ってたのに。

 今日は雪か槍か核ミサイルが降るんじゃないか?

 俺は慌てて窓から外を覗いた。

 ……朝日がサンサンと輝いてた。

 良い天気だなぁ……じゃなくて!

 

 コンコン!

 

 誰だ? 俺は鍵をあけて扉を押す。

 

「おはようゴールド! 今日もいい天気だよ!」

 

「……あぁ、おはようクリス」

 

 クリスが普通にノックして扉の前で待ってだと!?

 ピッキングして勝手に入ってこないだと!?

 

 俺は思わずクリスのオデコに自分の掌を当てた。

 

「どうしたのゴールド?」

 

「いやクリスが風邪でもひいたのかと……」

 

「アタシは健康だよ? ねぇねぇそれより朝御飯食べにいこうよ」

 

「……あぁ」

 

 おかしい、俺が触れたのにクリスが興奮状態にならない。

 これは夢か?

 いやさっきから自分の太ももを抓ってる……ちゃんと痛みも感じる。

 つまりこれは現実。

 

「あ、ゴールド。今日もよろしくね♡」

 

 ……本当クリスに何があったんだ?

 



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第十九話 黒い悪魔

【つながりの洞窟】

 

 オッス、俺ゴールド。

 最近クリスが可笑しい。

 いや違う、クリスが普通なんだ。

 なんて言うか今までがいつ爆発するか分からん時限爆弾みたいな、あるいはブレーキの壊れたレーシングカーみたいな奴だったのに今は普通の女の子みたいなんだよ。

 

 今日も、

 

「ねぇゴールド、手つないでいい?」

 

 って俺に聞いてきた。

 ありえねぇよ!

 アイツは今までだと俺に許可なく、いきなり抱きついて匂い嗅ぎまくるってたのに。

 なのに今日は俺に聞いてしかも手を繋ぐだけ!?

 俺は自分の耳を疑ったわ!

 

 ……だが上目遣いで少し顔を赤くして言われたから思わず許可してしまった。

 少し可愛いと思ってしまった自分が憎い。

 だってよ、あんなクリスは初めてだったんだよ。

 いや確かに俺はアイツを普通の女の子にしたかったがこんなにも突然変わると戸惑うわ!

 いったいクリスの心境にどんな変化が……

 

「ねぇゴールドどうしたの? 難しい顔して?」

 

「いや少し考え事してただけだ」

 

「そうなの? ひょっとしてさっきのオジサンが言ってたこと?」

 

 あぁ、それもあったな。

 先程山男のオッサンとポケモンバトルした後にそのオッサンが、

 

「そう言えばこの前変な男に無理やりヤドンの尻尾を買わされてしまったよ。なーんかヤドンが可愛そうだね」

 

 て言ってたな。

 

「ねぇそのシッポ売ってたのって……」

 

「……ほぼ間違いなくポケモンセンターの前に居た男だな」

 

 あのシッポがヤドンのシッポだったんだ。

 

「ねぇゴールド、無理やりシッポ切られたヤドンって……痛かったよね?」

 

 悲しそうに言うクリス。

 俺も同じ気持ちだ。

 

「……次アイツを見付けたら必ず捕まえて警察に渡そう」

 

「うん、それが一番だよね……」

 

 シリアスな雰囲気なったが俺はヤドンの事より……いやヤドンの事も気になるし気の毒だと思うが、それより【放送出来ません】を言わないクリスが気になる。

 

 クリスはポケモンを大切にしない人間に容赦ない。

 それこそ【放送出来ません】や【放送出来ません】や、酷い時は【放送出来ません】なんてザラ。

 なのに今は全く暴言も吐かない。

 不気味だ。

 

 クリスが普通の女の子になったのに、俺の胃はストレスでキリキリと痛む。

 ……マジでクリスどうしたんだ!?

 誰が知ってたら教えてくれ! 

 

 ★☆★☆

 

【ヒワダタウン 〜人とポケモンが仲良く暮らす町〜】

 

 昨日は夜遅くにヒワダタウンに着いたから町を見る事なくそのままポケモンセンターに直行した。

 だから今日クリスと町を見て回ったんだ。

 そしたらアッチコッチに黒い服着た怪しい連中がウジャウジャいやがる。

 ……こんだけ怪しいんだから誰か通報しろや。

 

「ゴールドこの怪しい人達は……」

 

「とりあえず町の人達に話を聞こう。まだコイツ等がヤドンのシッポを切った犯人とは限らないし」

 

 ……十中八九コイツ等が犯人だろうけどな。

 

 色々聞いて回ったが何でも最近町にいたヤドンが一匹残らず居なくなったそうだ。

 ……やはりあのヤドンのシッポはこの町のヤドンのか。

 酷い事しやがる。

 

 だがヤドンを助けるのには情報が足りない。

 明らかに黒い服の連中が怪しくても証拠が無けりゃ警察は逮捕できない。

 何とかして証拠を見付けないと。

 

「……次はあの家か」

 

「そうね、えーっとココは……ガンテツさんの家ね。何でもモンスターボール作りの名人だそうよ」

 

 モンスターボールって手作り出来たんだ、あれって機械じゃないのかな。

 

 俺達はガンテツさんに家に入れてもらった。

 ガンテツさん曰く、三年前に解散したロケット団が今回の事件の犯人。

 で、そいつらがヤドンの井戸でヤドンのシッポを切って売り捌いてるらしい。

 ……ロケット団か、キキョウタウンで罪擦り付けてスンマセン、と心の中で謝罪しとく。

 だが今回の事を許す気は無いからな!

 

 話が終わるとガンテツさんは、いきなり立ち上がり、

 

「うぉーっ待ってろヤドン達! 漢ガンテツが助けたるぞ!」

 

 そしてすごい勢いで家を出てった………

 

「……ガンテツさんがいっちゃった、ゴールドどうする?」

 

「いやどうするっつても……」

 

「うぇ~ん、おじいちゃんどこいったの……? あたしさみしいよ……うぇ~ん!」

 

 ガンテツさんのお孫さんが泣いちゃった。

 ……仕方ない、やるしかないか。

 

「……お嬢ちゃん大丈夫だよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんがお爺ちゃんを連れて帰ってくるからね」

 

「グスグス……本当?」

 

「本当だよ。つう事で勝手に決めたがクリスはどうする?」

 

「モチロンいくわ! ヤドン達を助けないとね!」

 

「うっし、んじゃ行くぞ!」

 

「お〜ッ!」

 

 ヤドン達、今助けるぞ!

 あとガンテツさんは俺達がいくまで無茶せんで下さいね。

 

 ★☆★☆

 

【ヤドンの井戸】

 

「イテテ……年はとりたくないのぉ。上で見張りしてた奴は大声で叱りとばしたから逃げよった。

 じゃが儂、井戸から落ちてしもうて腰打って動けんのじゃ」

 

 ガンテツさんは既に無茶した後でした。

 幸い腰を痛めただけみたいだが一人では家には戻れそうもない。

 さて、どうするかな?

 

「……ねぇゴールド。ゴールドがガンテツさんを家まで運んであげて」

 

「それはいいがクリスはどうするんだ?」

 

「アタシはヤドン達を助けにいくわ!」

 

「一人でか!? いくら何でも危険過ぎる!!」

 

 いくらクリスが規格外といえど女の子を一人で残せるかよ!

 

「大丈夫だよ、ポケモン達もいるから一人じゃないしね♪ それよりガンテツを早く連れてって。

 アタシとアタシのポケモン達だと力が弱くてガンテツさんを運べないの。だからゴールドよろしくね」

 

「……絶対無理するなよ。ガンテツさんを送り届けたら直ぐに戻るかな!」

 

 俺はイシツブテとマグマラシをボールから出した。

 マグマラシにガンテツさんを乗せ俺とイシツブテがガンテツさんの横から支える形で運ぶ。

 ……早く戻って来ないと。

 俺は内心焦りながらも丁寧にガンテツさんを家まで運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★★

 

 ……ゴールドはいったわ。

 もう感情をおさえる必要はない。

 アタシの怒りでゆがんだ顔をゴールドに見られる心配はない。

 多分、今アタシはヒドい顔してるだろう。

 コレをゴールドに見られるのはイヤ。

 

 だがゴールドは今はいない。

 待ってなさいゴキブリ(ロケット団)ども。

 罪の無いヤドンのシッポを切り落としたお前たちを一匹残らず始末してやる。

 地獄よりも恐ろしい生き地獄を味わいなさい。

 

 害虫駆除開始よ!!

 



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第二十話 害虫駆除

 うふふ、アタシはクリス。

 今からね、害虫駆除するのよ。

 

「出ておいで、チコリータ! メノクラゲ! トゲピー!」

 

「チコーッ!」

 

「メノ〜!」

 

「トゲッピー!」

 

「みんな協力してね。今からヤドンたちを助けにいくの。それでね……助けるのにジャマになるゴキブリ(ロケット団)を1匹残らず駆除するのをみんなに手伝って欲しいの♪」

 

「チ、チコ!」

 

「メノ〜♪」

 

「ピー?」

 

 チコリータは少し怯えながら、メノクラゲは嬉しそうに、トゲピーは不思議そうにしながら同意してくれた。

 ……みんなありがとう。

 これが終わったら美味しいごはんを、いっぱい食べさせてあげるからね。

 

 ★☆★☆

 

「あ゛ん? なんだガキ。オレはな、変なジジイに大声で怒鳴られて驚いて井戸に落ちて機嫌が悪いんだ。

 ……そうだ、憂さ晴らしにお前を痛めつけてやるよ」

 

「……弱いゴキブリほどよく吠えるわね」

 

 ガンテツさんに怒鳴られてだけで腰抜かすクズの分際で。

 あーヤダヤダ、こんな害虫の相手するのは気が滅入るわ。

 

「てめぇ、後悔しろよ! いけや、コラッ「メノクラゲ『どくばり』!」……グハッ!!」

 

 メノクラゲの『どくばり』はゴキブリの腹に当たりゴキブリはモンスターボールを手から落とした。

 

「て、てめぇ卑怯だぞ! ポケモンバトルでトレーナ「なに勘違いしてるの?」……なに!?」

 

 所詮はゴキブリね、アタマが空っぽだわ。

 

「アタシはポケモンバトルをやりにきたんじゃないの。アタシはね……害虫駆除にきたのよ! ゴキブリを退治するのにいちいちポケモンバトルするわけ無いじゃない」

 

 アタシはあくまでゴキブリ駆除が目的。

 ……だからゴキブリの持ってるポケモンには危害を加えたくない。

 ポケモンには罪が無いもの。

 だから罪のあるゴキブリには地獄を見てもらうわ!

 

「メノクラゲもう一回『どくばり』!」

 

「グハッ!?」

 

「もう一度!」

 

「ガハッ!?」

 

「もう一回!」

 

「ダ、バッ……………!」

 

 さすがゴキブリは頑丈ね。

 やっと倒れたわ。

 まったく余計な時間を使わされたわ。

 

「……随分いい性格してるわね、アンタ」

 

 あら、次は雌ゴキブリが相手ね。

 

「おい、さっさと片付けるぞ。早くアイツを病院に連れてかないと死んじまう!」

 

「……ガキ相手に情けねぇ奴だ、あんな奴はほっとけ。それより、あの嬢ちゃんを始末するのが先だ」

 

 今度は雄ゴキブリが二匹。

 害虫はこれだからイヤなのよ、潰しても潰してもドンドン出てくるわ。

 

「三対一だけど卑怯だと言わないわよね?」

 

「待ってろよ、今助けるからな!」

 

「お! よく見ると可愛らしい嬢ちゃんじゃん。なら使い道があるな……」

 

「……チコリータ、『フラッシュ』よ!」 

 

「チコッ!」

 

「目、目がぁ!?」

 

「ぐぁぁぁ!」

 

「クソ、前が見えねぇ!」

 

 チコリータの放った光で目がやられたゴキブリ三匹。

 ……意外と使えるのね、『フラッシュ』。

 毒はメノクラゲの『どくばり』があるし、チコリータは『どくのこな』よりコッチのほうがいいかも。

 

 それにしてもゴキブリは頭も悪わね。

 さっきのゴキブリの様子は見てなかったのかな?

 見てたらアタシが不意打ちするのも分かると思うんだけど。

 まぁ、ゴキブリに脳みそが入ってるわけないか。

 

「チコリータは雌ゴキブリに『たいあたり』!  メノクラゲは『ちょうおんぱ』を、トゲピーは『てんしのキッス』をそれぞれ雄ゴキブリに!」

 

「チコッ!」

 

「メノ〜♪」

 

「トゲ、ピー♡」

 

 チコリータが雌ゴキブリをぶっ飛ばして壁に叩きつけ、雄ゴキブリ二匹は混乱してお互いを殴りだした。

 

「「テメェ死ねや!」」

 

 バキッ! ボキッ!

 

 お互いを敵にでも見えるのかな?

 二匹はすごい勢いで殴り合う。

 

「見苦しいなぁゴキブリ同士の争いって。メノクラゲとトゲピーは混乱が解けたら、また『ちょうおんぱ』と『てんしのキッス』をよろしくね♪」

 

「メノ!」

 

「ピー!」

 

 うふふ、お願いね二人とも♪

 

 さて、アタシはチコリータと一緒に雌ゴキブリを始末しましょう。

 アタシとチコリータはゆっくり雌ゴキブリに近づく。

 

「……ぐっ、な、何なんだってんだい。アタシらはアンタには何もしてないだろ!」

 

「……何を寝ぼけてるの? ヤドンのシッポを切り落として売ってたくせに」

 

「はぁ!? ヤドンの尻尾なんてすぐに生えてくるじゃない。それを売って何が悪いのよ!」

 

「へぇ……」

 

 ……ゴキブリは魂まで腐ってるのね。

 オーケー、なら徹底的に除菌しないとね。

 

「チコリータ、『はっぱカッター』!」

 

「チコ!」

 

「キャーッ!!」

 

 チコリータの『はっぱカッター』が雌ゴキブリの肌をそして髪を切り裂く。

 

「痛っ! か、髪が……オイ、アンタも女だろ!? ならなんで女の命の髪を狙う!!」

 

「あら、ゴキブリの髪なんてすぐに生えてくるじゃない? それを切って何が悪いのかしら?」

 

「なっ!?」

 

 ふふふ、いい気味ね。

 少しはヤドンの気持ち分かったかしら。

 でもまだ終わりじゃないわ。

 

「そうね、中途半端な髪型は確かに見苦しいわね。……ならいっそ丸坊主にしちゃいましょ♪」

 

「ま、待て、待ってくれ!」

 

「アタシって優しい♪」

 

 ふふふ、キレイさっぱり毛根ごと切り裂いてあげるわ。

 

「頼む許して! アタシが悪かったから!」

 

「イ・ヤ・よ♪ チコリータ、『はっぱカッター』!」

 

「チ、チコ、チコ!」

 

 チコリータの『はっぱカッター』が雌ゴキブリの髪をドンドン切り裂く。

 当然髪を外した葉は皮膚を切り裂き雌ゴキブリは赤ゴキブリになってくわ。

 うふふふふふふふふふ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

「……ゴメンナサイヤドン……ゴメンナサイヤドン……ゴメンナサイヤドン……」

 

 フフン♪  随分さっぱりしたわね赤ゴキブリ。

 赤ゴキブリの頭には一切髪はなく頭皮はズタズタに傷ついてるわ。

 モチロン体も傷だらけ。

 でも心も壊れちゃったからもう興味ないや。

 

 あっ! チコリータが光りだした!

 ……チコリータはベイリーフに進化した。

 

 へぇ、ポケモンって人間を倒しても進化するんだ、新発見。

 ウツギ博士に教えたら喜びそうね

 

 さてメノクラゲとトゲピーの方はどうなってるかな?

 アタシはベイリーフと一緒にメノクラゲ達のところに移動する。

 

 ★☆★☆

 

「メノ〜♪」

 

 メキッ! メキメキッ!

 

「がああああ!! やめてくれーーー!!」

 

「ピッピッ、トゲピー?」

 

 ツンツン。

 

「…………」

 

 あらあらコッチも楽しいことになってる♪

 トゲピーは気絶した雄ゴキブリを突いて遊んでるわ。

 その顔は元の顔が分からないほど腫れてる……元の顔なんてアタシは覚えてないけどね。

 

 メノクラゲはもう一匹の雄ゴキブリを『からみつく』で締め上げてる。

 顔色が悪いから『どくばり』の毒も受けてるわね。

 

 悪い子ねメノクラゲ。

 アタシが指示してない事して。

 もぉ、アタシの目の前でやって欲しかったのに。

 うふふ、でも仕方ないか♪

 この子は相手を痛めつけるのが大好きなサディストだもん。

 ポケモン相手だと可哀想だからアタシが普段は止めるけどね。

 でも今回はゴキブリ相手だから止めないよ♪

 

「ハァイ、ゴキブリさん♪  少し聞きたいことがあるんだけど?」

 

「……オレ達は口がかた「メノ〜♪」……イデデデッ!! 言います! 言いますから止めてッ!!」

 

 ……所詮は口先だけのゴキブリね。

 

「メノクラゲ少し緩めて……いい子だからお願い」

 

「メ〜……」

 

 メノクラゲは残念そうに『からみつく』を緩めた。

 

「さて、まずアナタ達は誰? 誰がリーダーなの?」

 

「……オレ達はロケット団、今回の作戦の指揮官はオレだ」

 

「ふーん。アナタ達は解散したんじゃないの?」

 

「……確かに我らロケット団は三年前に解散した。だが我々は地下に潜り活動を続けてたのだ!

 これから何が起こるか楽し「メノクラゲやっていいわよ♪」「メノ〜♪」……イデデデッ! イデデッーーー!!」

 

 さすがゴキブリね、地下に巣を作って生きのびてたとは驚きよ。

 

「アンタ達みたいな害虫の被害にあったヤドン達が本当に可哀想ね。メノクラゲ、思いっ切り「ククク、ポケモンには優しいなぁ、お嬢ちゃん?」……何よ?」

 

 イキナリ笑い出すゴキブリ、不気味だわ。

 

「ククク、なぁにな。ポケモンに優しいお嬢ちゃんに一ついい事を教えてやろうと思ってな。

 ……この奥に連れてきたヤドン達が居る。その内の一匹がなぁ、他のヤドンと違って反抗的でね。少し痛めつけてやったんだよ。早く行ってやらないと死ぬかもな、何せここ数日餌もやらずに傷だらけのまま放置してるからな」

 

「なんですって!?」

 

 早く行って助けないと!

 アタシはすぐに走り出した。

 

「メノクラゲ、そのゴキブリにトドメを刺しといて!」

 

「メノ〜♪」

 

「がああああああっっっ!!!」

 

 アタシはゴキブリの悲鳴を無視して全力で走る!

 ……ヤドン、お願い生きていてね!

 



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第二十一話 走れゴールド!

 俺は全力で走る、クリスの元に行くために!

 ガンテツさんを送り届けた後に俺は急いでヤドンの井戸に戻ってきた。

 かなり急いだが大人を子供とポケモンだけで運ぶのは時間が掛かってしまった。

 ……クソ、こんな時は子供の体は不便だ!

 

 早く、早く、早くクリスの側へ!

 不安だ、心配だ、大丈夫かクリスは、アイツが……殺人してないかマジで心配だ!!!

 

 ★☆★☆

 

 ここに来る途中で俺はロケット団らしき四人とすれ違った。

 だがロケット団は全員酷い状態だった。

 

 一人は全身傷だらけで自分の血で真っ赤に服を染めてた。

 特に頭の傷が酷くズタズタに切り裂かれてた。

 傷のせいでコイツが男か女かも俺は分からなかった。

 

 一人は顔が真っ青に染まり殆ど息をしてなかった。

 良く見ると微かに肩は動いてるから死んではないのだろう。

 そいつは一番軽症な男(とは言っても顔面パンパンに腫れて風船みたいになってたが)に運ばれてた。

 

 最後の一人は右腕と左足が曲がっちゃいけない方に曲がり、顔色もさっきの男程ではないが悪い。

 おそらくリーダーなのだろう、左足を引きずりながらも必死に部下に指示をしてた。

 

 ……多分クリスの奴がやったんだろう。

 いや、そうとしか考えられない。

 ああ俺が馬鹿だったんだ、アイツか最近大人しくなったからって、最近暴走しないからって、あのクリスが普通の女の子になった訳では無かったんだ!

 それなのに俺はアイツを放置してしまった。

 

 すまないロケット団、俺のせいで…………よく考えたら別に良くね?

 アイツら悪党だし、ヤドンのシッポ切って売ってたし。

 そもそもアイツらが悪いことしたからこうなっただけじゃね?

 なら自業自得じゃん。

 クリスの暴走の被害にあったのは運が悪かったと思うけどな。

 

 むしろ俺からしたら運が良かったとも言えるな。

 相手が悪党ならフォローする必要も、謝る必要も、警察にバレんように細工する必要ないし。

 

 さっきは俺がテンパって頭から抜けてたがクリスは殺人だけは絶対にしないしな。(理由はかなり酷いが)

 ……まぁ殺すより酷いことはするけど。

 

 なんだぁ、焦って損した♪

 だが説教はするぞ、クリス覚悟しとけよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……酷い、なんて事だ。

 

「ヤド〜ン……」

 

「ヤ〜ドン……」

 

 沢山のシッポの無いヤドン達。

 

「ねぇヤドン、目を開けてよ!」

 

 そのヤドンたちに囲まれて泣き叫ぶクリス。

 

「…………」

 

 クリスに揺すられる傷だらけの他のヤドンのより一回り大きいヤドン。

 そのヤドンは見るからに重症だ。

 

「クリス!」

 

「グスグス……ゴールド?」

 

 クリスはやっと俺に気付いた。

 

「ゴ〜ルド〜! ヤドンがヤドンが〜!」

 

「何となくだが状況は読めてるよ。このヤドンが危険なんだろ?」

 

「グスグス……うん」

 

 俺はヤドンに近づき様子を見る。

 ……傷がかなり深い。

 しかも大分放置されてたな、傷口が膿んでやがる。

 俺はありったけの傷薬をカバンから取り出しヤドンに塗る。

 ……クソッタレ、 こんな事なら、いい傷薬やすごい傷薬を持ってくれば良かった。

 

「グスグス、ヤドン大丈夫だよね? 助かるよね?」

 

 泣きながら俺に尋ねるクリス。

 ……だが、

 

「……応急処置はしたが正直分からない。早くポケモンセンターに連れていきたいがここまで衰弱してると下手に運ぶのは危険だ」

 

 ……ここは地下だから電話は圏外。

 今から俺が走ってジョーイさんを連れてきても間に合うかどうか。

 かと言ってガンテツさんみたいに俺とポケモンで運ぶのはヤドンの負担がデカすぎる。

 

 俺は必死にヤドンを助ける方法を考える

 。

 ……何か、そう救急車みたいに安全に確実にヤドンを運べるものがあれば。

 だがそんな便利なものここには……

 

「あったーーっっ!!!」

 

「……ゴールド?」

 

「あるぞ、ヤドンを安全にしかも早く運べるものが!」

 

「本当!?」

 

「あぁ本当だ」

 

 俺はポケットから未使用のモンスターボールを出した。

 

「……モンスター、ボール?」

 

「そうだ、ボールの中に入ってしまえば揺らしても衝撃は中に伝わらない、ボールは小さいから持って走れる」

 

 ポケモン塾でモンスターボールの講義受けて良かった。

 ジョバンニ先生ありがとう。

 

「……ヤドン、後で絶対に逃してやるからな。だから今だけはモンスターボールに入ってくれ」

 

 俺は一言ヤドンに断りを入れてゆっくりモンスターボールでヤドンに触れた。

 ……ヤドンは特に抵抗も無くモンスターボールに吸い込まれた。

 

「よし、クリス走るぞ!」

 

「うん!」

 

 俺達は全力で走る、ポケモンセンターを目指して。

 ……ヤドン、絶対に助けてやるからな。

 



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第二十二話 ヤドンのその後

 オッス、俺ゴールド。

 あれから走って俺達はポケモンセンターに駆け込んだ。

 そしてヤドンは緊急手術する事になった。

 

「……ねぇゴールド、ヤドンは大丈夫だよね?」

 

 俺達は手術室の前でヤドンの手術が終わるのを待っている。

 

「大丈夫さ、ジョーイさん達を信じよう」

 

 クリスはさっきから何度も同じ事を聞いてくる。

 よほど心配なのかずっとソワソワとして落ち着きがない。

 俺はクリスの頭にそっと手を乗せて自分の方に寄せる。

 ……これで少しはクリスの不安を取り除けたら良いんだがな。

 

 ★☆★☆

 

 どれくらいそうしていたか分からない。

 クリスは最初よりは落ち着いたがやはりソワソワしてる。

 

 『手術中』のランプが消えた!

 手術室の扉が開きジョーイさんと助手のハピナス達が出てきた。

 

「ジョーイさんヤドンは!?」

 

 ジョーイさんに駆け寄るクリス。

 

「もう大丈夫よ、一命は取り留めたわ。しばらく入院が必要だけどすぐに元気になるから安心して」

 

「ありがとうございます、ジョーイさん!」

 

 満面の笑みでお礼を言うクリス……本当に良かったな。

 

「ふふふ。そうだ、もし良かったらヤドンの側にいる? まだ麻酔が効いてるから目は覚めないけど側にいるだけなら出来るわ」

 

「いいんですか!?」

 

「勿論よ。ハピナス、ヤドンとクリスさんを病室までお願いね」

 

「ハピー!」

 

「ハピー!」

 

 クリスはハピナス達と一緒に病室に向かった。

 これで俺はジョーイさんと二人っきりだな。

 

「……で、俺に何か話があるんですか?」

 

 わざわざクリスを外したんだ、それなりの理由がある筈。

 

「察しが良くて助かるわ。実はね……」

 

 ジョーイさんは一呼吸置いて話し始めた。

 

「あのヤドンは確かに命は助かったわ。でもね……尻尾は二度と生えてこないの」

 

「……そうですか」

 

「あら、驚かないのね?」

 

「予想はしてましたから」

 

 切られた尻尾の断面を俺は見てる。

 何かで焼かれたんだろう、酷く焼け爛れてた。

 

「説明を続けるわね。今回保護された他のヤドン達は全員無事よ。切られた尻尾もすぐに生えてくるわ。

 でもあの子だけは……あのヤドンだけは今後尻尾が生えてくることは無いわ。

 ……あのヤドンは群れのリーダーなの。クリスさんの話だとあの子はロケット団に歯向かったのよ……おそらく群れの仲間を守る為に」

 

 それであそこまで痛めつけられてたのか。

 何でアイツだけがと疑問だったが納得した。

 アイツは群れを守る為にロケット団と戦ったんだな。

 

「ヤドンは尻尾なくても歩けるし泳げるわ。でもね……ヤドンは尻尾を囮にして餌を捕まえるポケモン、だから今後あの子は自力で餌を手に入れる事は難しいわ」

 

「つまり野生ではアイツは生きていけない、と?」

 

「……そうよ」

 

 なら俺がやるべき事は一つだな。

 

「アイツは俺達が責任持って面倒見ます。最もアイツが俺達を認めてくれたらですけどね」

 

 俺はアイツを気に入った、仲間の為に戦える男気に惚れた。

 だが、俺はアイツを逃がすと約束してる。

 だからアイツの目が覚めたら聞いてみるんだ。

 

「俺達と一緒に旅をしないか?」

 

 ってな。

 

「ごめんなさいゴールド君、あのヤドンの事お願いするわね」

 

「こちらこそ、ヤドンの治療お願いします」

 

 クリスには落ち着いたらゆっくり話すか。

 ……今話すとロケット団を探す為に飛び出しそうだし。

 

 ★☆★☆

 

 あれから一週間たった。

 クリスはずっとヤドンに付きっきりで看病してる。

 その効果かは分からないがヤドンはドンドン回復して、来週は退院出来るだろうってジョーイさんが言ってた。

 

 本当、ポケモンの生命力には驚かされるな。

 人間だったら治るのに数ヶ月は掛かる怪我が僅か二週間足らずで治るんだから。

 

 尚クリスにヤドンの尻尾の事を話したら案の定アイツはロケット団を追うと言い出した。

 ……無論全力で俺が止めた

 代償として俺の下着が数枚犠牲になったが仕方ないな。

 

【ヤドンの病室】

 

「オッス、見舞いに来たぞ」

 

「あ、ゴールド♡」

 

「やど〜ん♪」

 

 ヤドンはクリスに抱きついてた遊んでた。

 この一週間でヤドンは俺とクリスにすっかり懐いたんだ。

 ……そろそろ聞いても良い頃だろう。

 

「……なぁヤドン」

 

「やどん?」

 

 ヤドンはキョトンとした顔で俺を見つめる。

 

「なぁヤドン、お前の尻尾は二度と生えてこないんだ。だからお前が野生で生きていくのは難しいんだよ。

 だからな……お前を逃がすって約束しといて、なんだがな……俺達と一緒に旅をしないか?」

 

「や〜どん?」

 

 見つめ合うヤドンと俺。

 ……コイツ俺が言ったこと分かってるよな?

 

「やど〜ん!」

 

 ヤドンは俺に抱きついてきた!

 ……これって!

 

「俺達と旅をするって事で良いんだよな?」

 

「や〜どん!」

 

 こうしてヤドンが俺達の仲間になった。

 尚クリスは俺達の横で号泣してる。

 嬉しいのは分かるが、そんなに泣くなよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……ロケット団、アタシは絶対に忘れない。

 アンタ達がヤドンにした事を。

 ……ロケット団、次に会ったら徹底的に潰してやるわ。

 首を洗って待ってるがいい。

 ……必ず地獄を見せてやる。

 



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第二十三話 ヒワダジム ゴールド対ツクシ その一

 オッス、俺ゴールド。

 前回ヤドンの治療が無事に終わりあと数日で退院する事になった。

 

 クリスにヤドンを手持ちに入れないのかと聞いたら、

 

「ヤドンを助けたのはゴールドだよ。アタシはこの子を助けれなかった。ゴールドが適切に対処したからヤドンは助かったんだよ。だからヤドンはゴールドの仲間に入れるべきだよ」

 

 だと。

 まぁクリスがそう言うならとヤドンは俺の手持ちに入る事になった、ヤドンは雄だし問題無いな。

 

 ヤドンはこの数日でかなり元気になった。

 が、検査の為に後数日はポケモンセンターに居る。

 なのでその間は暇だから俺はヒワダジムに挑む事にした。

 尚クリスはヤドンと一緒に居ると言い今回はジムにはついて来てない。

 非常にありがたいがクリスが暴走しないかだけは心配だ。

 まぁ一応マグマラシを監視に置いてきたし大丈夫だろ。

 

 さて二つ目のジム、気合入れて戦うぞ!

 

 ★☆★☆

 

【ヒワダジム】

 

「やぁ未来のチャンピオン、いらっしゃい」

 

 ここの受付の人はキキョウジムの受付と違って丁寧だな。

 ……キキョウジムの受付は大丈夫だよな、と心の中では心配しとく。

 主に俺とクリスの履歴の為に。

 

「ここは虫タイプのジム。多種多様な虫達が君を襲うぞ!

 そこでアドバイス、虫ポケモンは炎が嫌いだ。あと飛行タイプの技も効果抜群だよ。さぁ頑張れ少年よ、君ならチャンピオンになれる!」

 

 炎タイプが弱点か。

 ……しまったなぁ、マグマラシ置いてきたんだよな俺。

 今から取りに戻るのも面倒だし、このまま行くか。

 

 うし、やるぞ!

 

 ★☆★☆

 

「オタチ、スピアーにトドメの『でんこうせっか』!」

 

「オターッ!」

 

「スピ!?」

 

 スピアーを倒した。

 

「くそ、ボクの負けだ。先に進んいいよ。だがツクシさんは強い、なんたって虫博士だからな」

 

 虫博士ねぇ、そいや前世の小学校時代に同じあだ名のクラスメイトが居たな。

 子供ってそういうニックネーム付けるの好きだよね。

 

 ん? オタチの様子が……

 

 オタチはオオタチに進化した。

 

「オオタッチ!」

 

 おぉ進化したら前より可愛くなってるぞ!

 

 俺はオオタチを抱きしめる。

 毛並みがモフモフで尻尾もモフモフで触り心地良いわぁ。

 体も大きくなって上質の抱き枕みたいだ、今晩はオオタチと一緒に寝ようかな?

 俺が夢中でモフモフしてるとジムの他のトレーナー達が集まってきて羨ましいそうにこっちを見てた。

 ……どうでも良いがこのジムのトレーナーって何で子供しか居ないんだろ?

 ジムにいる大人は受付だけだし。

 

「……良かったら君達も触る?」

 

「いいの!?」

 

「あぁ良いよ、ただし乱暴はしないでね。つう訳でオオタチ、スマンが少し遊んでやってくれ」

 

「オオ〜タチ!」

 

「「「わ~い♪」」」

 

 オオタチに群がる子供達、オオタチも楽しそうにしてる。

 コイツ、バトルより子供の相手する方が向いてるかもな。

 

 さて次はジムリーダー戦だ。

 オオタチはここ迄のバトルで大分疲れてたのでリーダー戦に使う気が無かった。

 だからこのまま子供達と遊ばせとくか、本人も嬉しそうだし。

 

 ……マグマラシ、オオタチ抜きでリーダー戦か。

 まぁ負けてもまた明日挑むだけだし。

 何とかなるでしょう!

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★★

 

「僕はツクシ!」

 

 チラッ

 

「虫ポケモンの事なら誰にも負けないよ!」

 

 チラッ、チラッ

 

「なんたって将来は虫ポケモンの研究で偉い博士になるんだから。

 と言う訳で僕の研究の成果を見せてあげるよ!」

 

 チラチラチラチラ……

 

「……ツクシ君もオオタチと遊びたいなら遊ぶ?」

 

「えっ、いいの!?」

 

 ツクシ君はさっきから何度もオオタチ達の方を見てる。

 

「ただし勝負が終わってからね」

 

「うん! 僕、虫ポケモンも好きだけどオオタチも大好きなんだ!」

 

 モフモフ人気スゲー。

 ジムリーダーさえ誘惑するとは。

 

「だけど手加減はしないよ」

 

「当然!」

 

 お互いモンスターボールを構える。

 

「頼んだよ、トランセル!」

 

「……」

 

「出番だ、イシツブテ!」

 

「イッシ!」

 

 相手はトランセルか。

 なら次に来る手も読める!

 

「トランセル、『かたくなる』だよ!」

 

「イシツブテ、『いわおとし』だ!」

 

 予想通り『かたくなる』で防御を固めてきた。

 だが岩タイプの技は虫タイプ弱点、トランセルはかなりのダメージを受けた。

 ……毎回思うがその岩どこから出してるんだイシツブテ?

 まさか自分の体を削ってるんじゃないよな?

 

「イシツブテ、もう一度『いわおとし』だ!」

 

「イッシイッシ!」

 

 ……それはともかく防御を上げても相性の良い『いわおとし』でその防御を超えるまでだ。

 

「トランセル耐えろ!」

 

「……」

 

 だがトランセルは耐えきれず倒れた。

 

「戻れトランセル!

 なかなかやるね。幾ら相性の悪いとはいえトランセルをこうもアッサリ倒されるとは思わなかったよ」

 

 寧ろ俺は一撃で仕留めるつもりだったんだけどね。

 だが『いわおとし』より先に『かたくなる』を使われてそれは不可能だった。

 流石ジムリーダーのポケモン、一筋縄ではいかないか。

 

 イシツブテはノーダメージ、交代は必要無いな。

 

「連戦いけるよな、イシツブテ!」

 

「イッシ!」

 

 このまま押し切るぞイシツブテ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ゴールドはジム戦、がんばってるかな。

 ゴールドなら大丈夫だよね、ゴールドなら勝てるよね?

 

 「まぐ~」

 

 「やあん」

 

 「……そうだね、あなた達のご主人様は強いもんね。うん、ゴールドは絶対に勝つよね!」

 

 ゴールド、アタシはゴールドが勝つと信じてるからね。



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第二十四話 ヒワダジム ゴールド対ツクシ その二

「頼んだよスピアー!」

 

「スピア!」

 

 ツクシ君の次のポケモンはスピアーか。

 スピアーの素早さと攻撃力は侮れないな。

 ならばここは防御を強化だ!

 

「イシツブテ、『まるくなる』だ!」

 

「スピアー、『きあいだめ』!」

 

 しまった! 今、攻めれば大ダメージ与えられたかも!?

 『きあいだめ』は技が急所に当たりやすくなる効果だったな、厄介な。

 だが守りは固められた。

 なら次は攻める!

 

「イシツブテ、『いわおとし』!」

 

「イッシャイ!」

 

「スピアー、『かげぶんしん』で回避だよ!」

 

「スピ!」

 

 スピアーは複数の残像を出した。

 イシツブテの投げた岩はその残像の一つをすり抜けた。

 イシツブテの攻撃は外れたか。

 

「よぉし、今度はこっちが攻める番だ。スピアー、『ダブルニードル』!」

 

「スピッ!!」

 

「イシツブテ、『まるくなる』で耐えろ!」

 

「イッシャ!」

 

 空中から猛スピードで突いてくるスピアー。

 イシツブテは一撃目は防いだが二撃目は急所に当たりよろけた。

 『まるくなる』で防御上げてもこれだけダメージがあるのは流石ジムリーダーだと言えるな。

 

 イシツブテの顔色(顔も石だから分かりにくいが)が悪い。

 今の『ダブルニードル』で毒を貰ったか。

 ……まずいな。

 

「まだまだいくよ! 『みだれつき』」

 

 連続で何度も突いてくるスピアー。

 イシツブテはこれまでのトレーニングで鍛えた防御力で耐えてはいる。

 が、それでも何発かは急所に当たりかなりキツそうだ。

 

「どうするの? もう諦めたのかな?」

 

「は、まさか!」

 

 強がって見せたがマジでキツイ。

 毒と連続攻撃でイシツブテの体力がガリガリと削られてる。

 だからと言って『いわおとし』は『かげぶんしん』で避けられるし、この前覚えたばかりの『マグニチュード』は空を飛んでるスピアーに当たる訳無いし。

 ……『マグニチュード』が地面を揺らす技だから仕方ないんだけど。

 

「でも強がってるだけでは勝てないよ。スピアー、『ダブルニードル』だ!」

 

「イシツブテ、スピアーの針を掴め!」

 

「えっ!?」

 

 イシツブテは『ダブルニードル』を食らいながらスピアーの腕の針を掴む。

 

「イシツブテ、そのままぶん投げろ!」

 

「イッシィ!!」

 

 イシツブテは一本背負みたいにスピアーを投げ飛ばした。

 だがスピアーは地面に叩きつけられる前に体制を立て直す。

 

「ふー、少し危なかったよ」

 

「イッシ、ハァハァ……、イッシ、ハァハァ……」

 

「イシツブテ、大丈夫か!?」

 

 イシツブテの息が荒い。

 毒がかなり回ったんだ。

 いっそバタフリーと交代するか……だが今交代すると相手に大きなスキを見せることになる。

 

「ハァハァ…………イッ、シャャャャッッッ!!!」

 

 俺が悩んでるとイシツブテいきなり吠えだした。

 なんなんだ!?

 

「イシツブテ、どうした!?」

 

 イシツブテは俺の指示も聞かずスピアーに向かって突っ込んでいく。

 

「な、なんだ!? スピアー、『ダブルニードル』でイシツブテを近づけるな!」

 

「スピッ!」

 

 ツクシ君もイシツブテの異常さに気付いたんだろ、スピアーに反撃の指示を出す。

 だがイシツブテは『ダブルニードル』を無視しスピアーに掴みかかった。

 そして……

 

「イッシャャャャ!!!」

 

 ドーンッッッ!!!

 

 イシツブテは勝手に『じばく』した。

 ……アイツ、爆発する瞬間メッチャ良い笑顔してたな。

 

 爆発で舞い上がった土煙が収まると地面には気を失ったスピアーとイシツブテが倒れてた。

 イシツブテはやはり満面の笑みだった。

 

 ……お前ひょっとして『じばく』が好きなのか?

 その前にいつアイツは『じばく』を覚えた?

 俺は『じばく』をイシツブテに覚えさせる気が無かったから『じばく』覚えるレベルになったら忘れされるつもりだったのによ。

 まさかイシツブテは勝手に覚えたのか?

 なら代わりにどの技を忘れた!?

 

「……イシツブテの『じばく』で引き分けみたいだね」

 

「……ツクシ君、ウチのイシツブテが勝手に『じばく』してすまない」

 

 俺はツクシ君に頭を下げる。

 

「えっ!? 今の『じばく』は君の指示じゃないの!?」

 

「……はい、俺の指示無しで勝手に爆発しました」

 

 ……イシツブテ、後で説明してもらうぞ。

 俺達はお互いのポケモンを回収した。

 

「……ま、まぁポケモンも言う事聞かない時もあるからね。

 さぁ気を取り直してバトル再開だよ」

 

「……本当にすんません」

 

 暴走する問題児はクリスだけで充分だよ。

 だから後で絶対に『じばく』は忘れさせてやる。

 だが今は勝負に集中しないと。

 俺は次のモンスターボールに手を掛け構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

【只今クリス達はお昼寝中です】

 

「うへへ、ゴールドったらやっと受け入れてくれるのね……ムニャムニャzZ」

 

「まぁぐ〜……zZ」

 

「や〜どん……zZ」

 



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第二十五話 ヒワダジム ゴールド対ツクシ その三

「出番だ、バタフリー!」

 

「フリイィ!」

 

「任せたよ、ストライク!」

 

「ストラィク!」

 

 こちらはバタフリー、ツクシ君はストライク。

 ……また攻撃力の高いのポケモンが相手か。

 

「最後は虫ポケモン同士の対決だね。なら虫博士の僕が負けるわけにはいかないよ!」

 

「こっちこそ、 ここまできたんだ。絶対に勝ってみせる!」

 

 バタフリーもイシツブテと一緒に鍛えて使える技も増えた。

 不利にはならない筈だ。

 

「ストライク、『いあいぎり』だよ!」

 

「ストッ!」

 

「バタフリー、『しびれごな』で応戦だ!」

 

「フリィ!」

 

 ストライクの『いあいぎり』がバタフリーに当たりバタフリーは少なくないダメージを負った。

 だが代わりにストライクは麻痺状態になった。

 

「麻痺になったの!? くぅぅストライク、麻痺は気にするな。『れんぞくぎり』で攻め続けろ!」

 

「ストライック!」

 

「バタフリー、『ねんりき』だ!」

 

「フリィィ!」

 

 ストライクは『ねんりき』を受けながらも『れんぞくぎり』を当てる。

 そして余波で飛ばされるバタフリー。

 

「フリィィィ!!?」

 

「バタフリー!」

 

「まだまだいくよ! 『れんぞくぎり』は相手に当たる度に威力が増す技、次は今より強くなるよ!」

 

 なんですと!?

 次も食らうのは不味いぞ、今のバタフリーでは次で確実に戦闘不能になる。

 

「ストライク、『れんぞくぎり』だよ!」

 

「…………」

 

 ストライクが突然動きを止める。

 これは……

 

「ストライクどうしたの?」

 

「ス、ト………」

 

 麻痺だ、麻痺の効果でストライクは動けないんだ。

 ……まだ俺達の運は尽きてない!

 

「バタフリー、ストライクが麻痺してる間に『ねんりき』を連続で使え」

 

「バタ、フリィ!!」

 

 バタフリーの『ねんりき』が何度もストライクを襲う。

 頼む、これで決まってくれ!

 だが俺の願いは届かず……

 

「……ストッ!?」

 

「麻痺が解けたんだねストライク。 よーし、お返しの『いあいぎり』だよ、いけーっ!」

 

「ストぉぉぉぉ!!」

 

 あと少しだったのに、ちくしょう。

 

「根性見せろバタフリー、『ねんりき』だ!」

 

「フリぃぃぃぃ!!」

 

 最後はコイツの負けん気の強さに賭けるしかない、いけバタフリー。

 

「……」

 

「……」

 

 ストライクとバタフリーはお互いの技を受けて動かない。

 まさか、また引き分けなのか?

 

「……ス、ト」

 

 ス、ストライクが倒れた!?

 と言う事は……

 

「やったぞバタフリー、俺達の勝ちだ!!」

 

「フリィィィ!!」

 

 俺とバタフリーは抱き合って勝利を喜び合う。

 コイツ本当にやりやがったよ。

 バタフリー、お前ってすげぇよ!

 

「……お疲れ様ストライク、ご苦労様」

 

 ツクシ君はストライクをボールに戻しながら労いの言葉をかけてる。

 

「バタフリー、ゆっくり休んでくれ」

 

 俺もバタフリーをボールに戻す。

 

「僕もまだまだだね。

 うん、君の実力は分かったよ。このインセクトバッチを持っていってよ!」

 

 ツクシ君は俺に近づきバッチを渡してくれた。

 

「それとこの技マシンもあげるね」

 

「ありがとうツクシ君」

 

 これで二つ目のジムを制覇した。

 まだまだ先は長いが確実に前に進んでいる。

 

「……虫ポケモンは奥が深い、僕はこれからも虫ポケモンの研究を続けるよ」

 

 チラッ、チラッ

 

「……そろそろオオタチのところに行く?」

 

「うん! ワァーイ、モフモフだーい!」

 

 さっきまでの凛々しさは何処へやら、ツクシ君は嬉しそうにオオタチと遊んでる子供達の輪に走っていった。

 ……ジムリーダーと言えど所詮子供か。

 

 結局オオタチが子供達から解放されたのは日が暮れた後だった。

 ひょっとして今日一番頑張ったのって、イシツブテでもバタフリーでもなくオオタチじゃね?

 なんかそんな気がするぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★★ 

 

 ふぁぁい、アタシはクリス……ムニャムニャ。

 さっきまでお昼寝してたからまだ眠いの。

 気が付いたらもう日が暮れちゃったの。

 

「……待てイシツブテ! コラ待てや!!」

 

「イャッシ!」

 

 あ、ゴールドが帰ってきた♡

 でもなんだか騒がしい、どうしたのかな?

 そういってるとイシツブテとゴールドが病室に飛び込んできた。

 イシツブテはアタシの背中に回り込みゴールドはアタシを挟んでイシツブテを睨んでる。

 

「ゼェゼェ……イシツブテェ、ゼェゼェ……もう逃げられないぞ……ゼェゼェ……」

 

「おかえりゴールド、どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもあるか!

 ゼェ……イシツブテの奴が勝手に『じばく』を覚えて、ゼェゼェ……勝手にバトルで『じばく』するから……すぅ、はぁ……『どろかけ』の技マシンで『じばく』を上書きしようとしたら、ハァ……逃げたんだよ!」

 

 ゴールドの息が荒いの、まるでアタシに襲おうとしてるみたいに…………それっていいわね、グフフ♪

 と、思考が脱線しちゃった。

 

 アタシは背中にいるイシツブテを自分の膝に乗せて話しかける。

 

「ねぇイシツブテ、『じばく』を忘れたくないの?」

 

「イャッシ、イャッシ」

 

「そうなの? それはなんで?」

 

「イッシイッシイッーシ、イッシ!」

 

「へえー、そんなに好きなんだ」

 

「……クリス、お前はイシツブテの言ってる事が分かるのか?」

 

「うん、何となくだけど」

 

「……マジかよ!?」

 

 表情とか声の強弱で言いたいことは分かるよ。

 ゴールドは分からないのかな?

 

「クリスにこんな特技があったとは……。

 ならクリス、イシツブテは何て言ってるんだ?」

 

「うんとね、『『じばく』は絶対に忘れたくない、爆発は男のロマンだ。爆発最高! バトルは爆発だ!』だって」

 

 イシツブテは『じばく』が大好きなのね。

 分かるわ、アタシも『どくばり』とか『ちょうおんぱ』とか状態異常技が大好きだもん!

 

「お前は爆発マニアかよ!? ……たく、仕方ないな。今後は絶対に俺の指示無しで『じばく』しないって約束するなら忘れなくて良いよ」

 

「イッシ!」

 

「『了解です』って言ってるよ」

 

「……それは俺でも分かる」

 

 良かったねイシツブテ♪

 アタシはイシツブテの頭を撫でてあげる。

 ……ゴツゴツしてるけど少しヒンヤリして気持ちいい。

 

「イッシイッシ♪」

 

「そうよね〜イシツブテ♪」

 

「……やっぱ俺には分からんな」

 

 うふふ、困ってるゴールドってカワイイ♡

 こんな感じでアタシ達は夕食までお喋りして過ごしました。

 



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第二十六話 寄生虫退治

 ハァイ、アタシはクリス。

 今ポケモンセンターの宿泊施設にいるの。

 でね、夕食が終わってゴールドと一緒にポケモン達の体を拭いてキレイにあげてるの。

 でもアタシの手持ちは三人でみんな小柄だからすぐ終わっちゃった。

 

「コラ、オオタチ! 動くな!」

 

「オオ〜タチ!」

 

 オオタチは拭かれるのが嫌だから暴れてるわ。

 この子は進化して少し性格変わったよね?

 オタチの頃よりワンパクになってるわ。

 

「ねぇゴールド、少し散歩してくるね」

 

「今からか? もう遅いからやめとけよ」

 

「ちょっと用事があるの」

 

「だからってこんな夜遅くになぁ。俺はこれからヤドンの病室に行くから同行できんし……」

 

 心配症ねゴールド。

 でもアタシを心配してくれるのは嬉しい♡

 

「大丈夫よ、ちょっとだけだからね♪」

 

「……しゃあないな。俺の代わりにマグマラシを連れてけよ。コイツなら明かり代わりにもなるしな。

 すまんマグマラシ、クリスの散歩に付きやってくれ」

 

「まぐ〜♪」

 

 あらマグマラシも一緒に来るの?

 

「じゃあ行こっかマグマラシ♪ ベイリーフ、メノクラゲ、トゲピー、あなた達は一緒に来る?」

 

「ベイ!」

 

「メノメノ〜♪」

 

「ト〜ゲトゲピ〜♪」

 

「うふふ、そうね。みんなで行ったほうが楽しいよね♪」

 

「……やっぱ俺には何言ってるか分からんわ。クリス、あんま遅くなるなよ。マグマラシ、クリスの事よろしくな」

 

 さぁ行くよ♪

 

 ★☆★☆

 

【繋がりの洞窟】

 

「まぐまぐ〜?《洞窟に何か用があるのぉ?》」

 

「うん、ちょっと忘れ物を取りに来たのよ、マグマラシ」

 

「まぐまぐまぐ?《でもあんまり遠くに行くとゴールド君が心配するよ?》」

 

 マグマラシはゴールドのポケモン。

 だからアタシの指示を強制出来ないのよね、少し面倒だわ。

 でもね、

 

「ねぇマグマラシ、これからアタシがやる事を手伝ってくれたらコレをあげるよ?」

 

 アタシはリュックからビニール袋いっぱいに入った木の実を出す。

 

「まぐ! まぐまぐ!《木の実! 分かった手伝うよ!》」

 

 チョロいわね♪

 

「ありがとう、でもゴールドには内緒にしてね?」

 

「まぐ〜?《なんで?》」

 

「だって勝手に間食したのがゴールドにバレたらマグマラシは明日の朝ごはん抜きにされるよ?

『マグマラシ、食べ過ぎは良くないぞ!』って、きっと怒るわよ」

 

「まぐー! まぐまぐ《それはイヤー! 分かった黙ってるよ》」

 

 本当にチョロい、マグマラシは食いしん坊だから扱いやすいわ♪

 

「トゲピ〜《いいなぁマグマラシ》」

 

「メノメノー《マグマラシだけズルイですわ》」

 

「大丈夫、あなた達にもあげるからね♪」

 

「トゲピー、トゲピィー♪《やったぁ、ママ大好き♪》」

 

「メノーメノー♪《ご主人様は分かってらっしゃる♪》」

 

 うふふ、みんなで食べましょうね♪

 

「……ベイ、ベイベイ?《……マスター、私達に何をさせるつもりですか?》」

 

 ベイリーフは本当に賢いわね、アタシのしたい事を察してくれたのね。

 

「ちょっと始末し忘れた害虫駆除をするだけよ♪」

 

「……ベイ。ベイ、ベイベイ《……了解しました。ですが、くれぐれもやり過ぎないようにお願いします》」

 

 もう、ベイリーフは真面目過ぎるわ。

 ちょっとお仕置きするだけなんだから大丈夫よ。 

 

 ★☆★★

 

 そんな事を話しながら歩いていたら探してた害虫を見つけた。

 

「ハァイ、寄生虫さん。元気?」

 

「ん、いつぞやのお嬢ちゃんかい? 人を寄生虫扱いするのは感心しないな」

 

 コイツは以前、ポケモンセンターの前でヤドンのシッポを売ってた寄生虫。

 懲りもせずまだ繋がりの洞窟周辺でうろちょろしてた。

 ……ポケモンセンターに来るトレーナーさん達の言う通りだったわ。

 そのトレーナーさん達はこの寄生虫は夜は洞窟内で見かけると言っていた。

 おそらく洞窟の中に巣があるのだろう……忌々しい。

 

「あら、だってゴキブリ共(ロケット団)に寄生してヤドンのシッポを売ってお金儲けしたんでしょ?

 なら寄生虫じゃない、何もおかしくないわ」

 

「……オイオイ、あまり大人を悪く言うもんじゃないよ。お仕置きするぞ?」

 

「なに勘違いしてるのかしら? ……アンタがお仕置きされる側よ! メノクラゲ、寄生虫に『からみつく』!」

 

「メノー♪《待ってました♪》」

 

 メノクラゲはその長い触手で寄生虫に巻き付き締め上げる。

 

「イダァァァァ!!」

 

「メノーメノーメ、メノ〜♪ 《あぁいい悲鳴だわ、感じちゃう♪》」

 

「メノクラゲ、やりすぎないてね♪」

 

「メ〜ノ♪ 《は~い♪》」

 

 いい子ねメノクラゲ♪

 

「次はベイリーフの番よ! 『はっぱカッター』で寄生虫の足を切り落としなさい!」

 

「ベイベイ《私を恨まないでくださいね》」

 

 『はっぱカッター』が寄生虫の足を切り落とし、切り口から大量の血液が吹き出す。

 ……汚い、服が汚れるじゃないの。

 

「ギァァァァァ!! し、死ぬぅぅぅ!!」

 

「あら、それは困るわ」

 

 だって死んだら死体の処理が面倒だし警察も動く。

 ……寄生虫ごとき死んでも誰にも迷惑掛からないのに、本当に法律って不便で邪魔ね。

 

「マグマラシ、傷口を『ひのこ』で焼いて!」

 

「まぐ〜、まぐまぐ《え~、それは可哀想だよ》」

 

「ご褒美の木の実を増やしてあげるからお願い」

 

「まぐ!《やる!》」

 

 ……本当に食欲に忠実ね。

 マグマラシの『ひのこ』で切り口が焼けて出血が止まったわ。

 

「ガァァァァァ!!!」

 

「メノーメノーメノー、メノー♪《あぁ本当にいい悲鳴、もう最高♪》」

 

「……ベイ《……流石に気の毒ね》」

 

「ま~ぐ、まぐま〜ぐ♪《わぁい、木の実だ木の実だ♪》」

 

 もぉ、もがき苦しむ寄生虫は醜いなぁ。

 

「どうかしら、少しはヤドン達の痛みが分かったかな?」

 

「わ、わかった! わかったから! お、俺が悪かった! だから許してくれ!」

 

「いいよ~、ただしアタシの言う事を聞いてくれたらね」

 

「聞きます! 何でも聞きますから助けて下さい!」

 

「その言葉忘れないでね。

 一つ、今日の事は絶対に誰にも言わない。

 一つ、ヤドンのシッポを売って稼いだお金はヤドン達の治療の為に寄付しなさい、もちろん匿名でね。

 一つ、今後もロケット団と連絡を取り続けてロケット団の情報をアタシに教える。

 分かった?」

 

「わ、わかりました! わかったから助けて!」

 

「ならアンタの携帯出しなさい」

 

「は、はい!」

 

 アタシは寄生虫から携帯を受け取りお互いの携帯に電話番号を登録する。

 ……本当は寄生虫の番号なんか入れたくないけどアタシはゴキブリ共の情報のために我慢するわ。

 

「いいこと、もしアタシを裏切ったら……」

 

 アタシは出来る限りの笑顔をして右手の親指を首に当てて線を書いた。

 

「ひぃぃぃぃぃ!! ぜっ、絶対に裏切りません!」

 

 やだなぁ寄生虫のスボンが濡れてる。

 本当に汚いな、大の男がお漏らしとか。

 

 寄生虫は這いつくばりながら巣に戻っていった。

 切り落とした足を抱えながら必死にほふく前進する様はなかなか笑えたわ。

 

「さて、みんなご褒美の時間よ♪」

 

「まぐ♪ まぐまぐ!《待ってました、お腹空いたよ!》」

 

「メノメノ〜♪《あぁ楽しかったわ》♪」

 

「……ベイベイ、ベイベイ《……私は悪くない、私は悪くない》」

 

「……zzz」

 

 あらあらトゲピーったら。

 大人しいと思ったらいつの間にか寝てたのね。

 ……仕方ないからトゲピーの分の木の実は取っておいてあげるからね。

 明日の朝に食べてね、トゲピー。

 

 アタシはトゲピーを抱えながら、みんなに木の実をあげる。

 みんな美味しそうに食べてくれて嬉しい♪

 

 さぁてそろそろ帰らないとね。

 ゴールドが心配するものね♡

 



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第二十七話 約束

【????】

 

 ……ここは、どこだ?

 

「……ちゃん、放課後どうする?」

 

 ここは、教室、なのか?

 

「ごめぇん、彼氏とデート行く約束しちゃった」

 

 俺は、辺りを見回す。

 学生服を着た、若い子達が、それぞれのグループで喋ってる。

 ……ここは、確か、俺が通ってた高校の教室。

 俺は、教室の隅に、いる、のか?

 

 ふと俺は自分の右手を見る。

 ……手の甲に大きなホクロ……これはゴールドには無い……前世の俺の手にあったホクロ。

 ……視点も高い。

 なら、この身体は前世の……なのか?

 

 これは、夢、前世の、夢なのか?

 

 ……学校か、懐かしいな。

 傷だらけの机、汚れが染み付いた壁、クーラーなんてハイテクな物は無く暑苦しい教室、クラスメイトがガヤガヤと雑談する空間。

 ……本当に懐かしい。

 

 確か俺が卒業して数年後に過疎化の影響で廃校になったんだったな。

 俺がいた頃も空き教室ばかりだった、よく友達と使ってない教室に入って授業をサボってたっけ。

 ……この学校に通ってたのは二十年ぐらい前なのにちゃんと覚えてるもんなんだな。

 

「コラ、※※君! 私を無視するな!」

 

 ……あぁ懐かしい、前世の俺の名だ。

 ごく普通の有り触れた、それでも親父から貰った大切な、俺の名前。

 

「私を無視するなといってるだろ!」

 

 コイツも懐かしい、高校の時に付き合ってた、俺の彼女だ。

 サラサラとしたショートの髪、少しキツめの瞳、俺と余り変わらない高めの身長、スカートから伸びる長い足、あぁ俺の記憶と何も違いがない。

 ……って、夢なんだから当たり前か。

 

「……※※君どうしたのよ、ぼーっとして熱でもあるの?」

 

 そう言いながら俺の額に自分の額を当てる彼女。

 ……そいや彼女は身長あるからキスする時は楽だったな。

 思えば前世で付き合った女性の中で、この彼女が一番思い出に残ってるのかもな、だからコイツが夢に出てきたのかも。

 

 この頃の俺は彼女に夢中だった。

 彼女と過ごす毎日がとても楽しかった。

 俺は彼女が大好きだったなぁ……まぁくだらないケンカが原因で卒業して直ぐに別れたがな。

 

「もぉ私を見なさい、ゴールド!」

 

 そうそう、少しでも返事をしないとすぐに俺を怒鳴っ…………ゴール、ド、だと?

 

 俺は彼女の顔をよく見る。

 

「アタシだけを見て、ゴールド」

 

 彼女の顔が……クリ、スに?

 

「アタシだけを」

 

「アタシだけを」

 

「アタシだけを」

 

「アタシだけを」

 

「アタシだけを」

 

 ……教室にいた他のクラスメイト達の顔もいつの間にかクリスになってる。

 クリス達の顔は暗く狂気の色に染まり、その口は耳まで裂け血のような真紅の色をしていた。

 

 クリスになったクラスメイト達は俺にゆっくり近づく。

 ……顔だけクリスで体が高校生ってのも変だな。

 

 近づいて来たクリス達は俺にしがみついていく。

 夢だからか、重さは感じない。

 気がつくと俺の周りには無数のクリスしかいない……教室は消え、暗い、何もない空間に、沢山のクリスと、俺だけ。

 

「ねぇゴールド、アタシだけを見て! 他の女を見ちゃイヤ! アタシだけが、アタシだけがゴールドの女よ! アタシだけを、アタシだけを、アタシだけを…………」

 

 正面にいた元カノの身体のクリスが俺の首に手を回して……俺に顔を近づける……まるでキスをするように。

 それを見た俺は……

 

「クスッ」

 

 思わず俺は小さく笑った。

 

「……ゴールド?」

 

 なんで笑ったの? って感じなんだなクリス。

 だってよ、

 

「……クリス、お前は馬鹿だろ。ゴールドは……俺は……ずっとクリスだけを見てるよ……あの日からずっとな」

 

 夢だから言える、俺の、嘘偽りの無い、本当の、真実の、気持ち。

 

「でも、ゴールドはアタシを受け入れてくれないじゃない! アタシはゴールドをこんなにも愛してるのに!」

 

 ……知ってるよ、ずっと前から。

 

「俺も愛してるよ」

 

 現実では絶対に言えない、短い言葉。

 

「だがそれは恋愛の『愛してる』ではなく、親子愛の方の『愛してる』だがな」

 

 ……周りが明るくなる。

 クリスは普段の姿のクリス一人になり、俺は……転生する直前の……二十九歳の俺の姿になる。

 

「……俺はなクリス、大人なんだよ。体が子供でも、本当の俺は大人なんだよ」

 

 せっかくの夢だ、言いたかった事を全部言ってしまえ。

 

「俺はお前を実の娘のように思ってる。お前の為なら死んでもいい。お前が幸せになれるならどんな事でもやってみせる。俺はお前が何よりも大切なんだ」

 

 ずっと大切だった、クリスが狂ってしまったあの時から、あれからずっとクリスを守ると決めてた。

 

「だったら、アタシを受け入れてよ!」

 

「……受け入れるさ」

 

 本当に恥ずかしいな、でも夢だし……言ってもいいよな。

 

「今のクリスは俺にとって娘だ。だが、いつか、クリスが心も体も大人になって、それでも俺を愛してるなら……俺と結婚しよう」

 

 まぁ、その頃には俺以外の男を好きになってるだろな、シルバー君とか。

 ……子供はいつか親から離れるものだから、少し寂しいけど仕方ない。

 

「……本当に?」

 

「あぁ本当だ!」

 

 いつの間にか俺の姿はゴールドに戻っていた。

 

「約束だよ、ゴールド」

 

「わかった、約束だ」

 

 俺は右手の小指を出す、クリスも右手の小指を出す。

 二人の指が絡まり強く結ばれる。

 ……不思議だがこの時のクリスの小指の感触はハッキリわかる、夢の筈なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 アタシが宿泊施設に帰ってきた時には深夜になってた。

 私達を待ちくたびれたゴールドはベットで無防備で寝てたの。

 だからアタシはゴールドのベットに潜り込んだの。

 もちろん、そのまま【放送できません】しようとした。

 そしたらゴールドが寝言で……

 

「クリスが…………大人になって……愛してる……俺と結婚しよう……zzz」

 

 ですって!

 ゴールドはアタシをちゃんと愛してたんだ♡

 ふへへへ♡♡

 

 そうよ、アタシが間違っていたのよ!

 愛する者同士は肉体の繋がりがなくても心が繋がってればそれでいいのよ!

 ゴールドはアタシが大人になるのを待ってる、それなのにアタシが焦ってはダメよ!

 

 ゴールド、アタシ大人になる。

 大人になってゴールドに相応しい女になるの!

 だから大人になったら体でも繋がってね♡

 

 アタシは指切りするためにゴールドと小指を絡める。

 そしたらゴールドから小指を強く結んでくれた!

 

 ゴールド、約束ね。

 アタシが大人になったら絶対に結婚してね。

 アタシは幸せに包まれたままゴールドに抱きついて眠る。

 

 おやすみゴールド、貴方を世界の誰よりも愛してます♡♡♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 …………体が重い、なんでだ?

 確か俺は昨日クリス達が帰ってくるのが遅くて……そうだ、ベットで寝っ転がってるうちに寝てしまったんだ。

 俺の頭が急速に覚醒してくる。

 

 ……なんか、夢を見た気がするが思い出せない。

 懐かしいような、変な、恥ずかしい夢だった気がする……でも内容は思い出せないな。

 

 ん? 目の前に誰かの頭が……

 

「……ゴールドぉ……zzz」

 

 クリス!? 何でクリスが俺に抱きついて寝てるんだ!?

 

 俺は急いで自分のズボンを確認する。

 ……良かった、脱がされてない。

 何度も自分のズボンと下半身を触り確認する。

 どうやら俺の貞操は大丈夫だったみたいだ。

 ……だがクリスはなんでこんなチャンスを見逃したんだ?

 俺は明らかにスキだらけだったのに。

 

「……スゥ、スゥ」

 

 ……クリスは幸せそうに寝てるな。

 ……クリスも寝てる時は可愛いんだな。

 俺はクリスを起こさないように静かにベットから抜け出した。

 さぁて、少し朝の散歩でもするな!

 

 

 

 コラそこ! 現実逃避いうなや!



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第二十八話 ヒワダタウン クリス対シルバー その一

 オッス、俺ゴールド。

 俺達は今からウバメの森へ行くつもりだ。

 何故ウバメの森に行くかというと、それは今朝俺が散歩をしてる時にガンテツさんに偶々会って、

 

 ★☆★☆

 

「おうゴールド、お前んとこのヤドンは元気になったか?」

 

「はい、もうすぐ退院する予定です。ガンテツさんのヤドンはどうですか?」

 

「うちのは元気一杯に毎日孫と遊んどるぞ、ガハハ! そいやゴールド、炭職人のところの若いのを見とらんか?」

 

「見習いさんですか? 見てないですが何かあったんですか?」

 

「昨日から炭職人の奴が探しとるんだ、何でもウバメの森に行く言うて、それから帰ってきてないらしいんじゃよ」

 

「そうですか、それは心配ですね……では俺達が今日探しに行きますよ、今日は予定も無いので暇ですし」

 

「本当か? そいつは炭職人の奴が喜ぶぞ! アイツは何だかんだ言って心配しとるからのぉ」

 

 ★☆★☆

 

 ……て訳だ。

 尚クリスはヤドンの側に居ると言ったが俺が連れ出した。

 コイツは最近ヤドンに付きっきりだったからな、気晴らしも必要だと思ったんだよ。

 

 ヤドンは退院を待つだけの状態だし今日ぐらいはクリスが付いてなくても大丈夫だろ。

 

「……うふふ♡」

 

 ……ただクリスが非常にご機嫌なのが気になる、今日の朝俺に抱きついてた事も気になるし。

 ……悪いよりマシと思っておくか。

 

 俺達がウバメの森の入り口までくるとそこにシルバー君が居た。

 

「……フン、お前たちか」

 

「オッス! 久し振りだねシルバー君」

 

「……馴れ馴れしくするな」

 

 相変わらずシルバー君は突っ張ってるね。

 まぁ元気そうで何よりだ。

 

「……おい、お前たちに聞きたいことがある。ロケット団が復活してるって本当か?」

 

「ロケット団? ロケット団ならこの前追っ払ったが、それがどうしたのかな?」

 

 まぁ追っ払ったのはクリスなんだけどね……詳しい事は黙っておくか、色々言えんことも多いし。

 

「お前が倒したのか!? ……ならその実力俺に見せてみろ!」

 

 そう言いながらモンスターボールを構えるシルバー君。

 相変わらず熱血してるねぇ、よーし、いっちょ相手してやるか!

 

「……おいシルバー、何アタシのゴールドに突っかかってるのかしら?」

 

 ……アカン、これ完全にアカンパターンや。

 クリスが暴走形態に入ってるわ……

 

 俺はすぐにクリスを宥めようと正面から抱きついたが……

 

「どいてくれる? コイツとはアタシがバトルするわ!」

 

 ……俺はクリスを止めるのを諦めた。

 俺が抱きついても止められない時は何をやっても無理だからな。

 幸いポケモンバトルならシルバー君が怪我をする事は無いだろう……無いと信じたい。

 

「……オレは君とバトルする理由は無い」

 

「あら、あるわよ? だってゴキブリ共(ロケット団)を潰したのはアタシなんだから」

 

「……なに、君が!? ……なら君の実力見せて貰おう、バトルだ!」

 

 煽るなぁシルバー君! マジで今のクリスを煽るな!

 

「アンタも潰してやるわ、来なさい!」

 

 ……俺はそそくさと二人から離れて観戦する体制に入った。

 今の俺に出来るのはシルバー君の無事を祈るだけだから。

 あぁ神様、シルバー君をお守り下さい……と思ったが俺は無神論者で無宗教家だったわ。

 

「いけ、ゴース!」

 

「ゴースゥ!」

 

「出てきて、トゲピー!」

 

「トゲピゥイ!」

 

 ゴース対トゲピーか……って、確かゴーストタイプとノーマルタイプの組み合わせは……

 

「「チッ!」」

 

 あの二人も気付いたか、ゴーストタイプはノーマルタイプの攻撃技が効かない。

 反対にノーマルタイプはゴーストタイプの攻撃技が効かない。

 さて、二人はどうするかな?

 

「ゴース、『さいみんじゅつ』だ!」

 

「ゴ〜ス!」

 

「トゲピー、『てんしのキッス』よ!」

 

「トゲ、ピッ♡」

 

 ゴースが放った怪光線がトゲピーに当たり、トゲピーの投げキッスがゴースに当たる。

 ……お互いに状態異常か。

 

「戻れゴース! ゆけ、ズバット!」

 

「ズバッ!」

 

 シルバー君はポケモンを交代したか。

 クリスは交代しない、大丈夫か?

 そう思ってたらトゲピーがすぐに目覚めた。

 

「……ハッカの実か、確か眠りを覚ます木の実だったな」

 

 トゲピーは木の実を食べてたのか。

 だがクリスよ、いつハッカの実を手に入れた?

 確か今までの道中にハッカの木は無かった筈だが。

 

「トゲピー、ズバットに『ゆびをふる』!」

 

「トゲッ!」

 

 トゲピーは指を振りやがてその動きは止まる。

 

「トゲッピーーッッ!」

 

 あれは『かいりき』か。

 トゲピーが近くにあった石をぶん投げてズバットに当てた。

 

「……チッ! ズバット、『ちょうおんぱ』だ!」

 

「ズバッット!」

 

「トゲピー、避けて『あまえる』!」

 

「ピー、トゲピッ♡」

 

 トゲピーは『ちょうおんぱ』を避けながらウインクしてズバットの攻撃力を下げた。

 ……あれでなんで攻撃力が下がるんだ?

 ズバットがトゲピーに惚れたとか……トゲピーもズバットも雄だけど。

 

「クソ、『かみつく』だ!」

 

「ズバッット!」

 

 だが『あまえる』の効果で威力が低くなってるからトゲピーのダメージは少ない。

 

「トゲピー、もう一度『ゆびをふる』!」

 

「トゲピー、ピー、ピー、ピーッ!」

 

 今度は『だいもんじ』だと!

 ちょい待てクリス、なんで『ゆびをふる』で連続で攻撃技が出るとか出来るんだよ!?

 

 俺が驚いてる間にトゲピーは『だいもんじ』を決め、ズバットは戦闘不能になった。

 

「……クズが、戻れズバット」

 

「トゲピー戻りなさい……お疲れ様」

 

 二人はポケモンをモンスターボールに戻した。

 まずはクリスの一勝か、だがシルバーも良くやったと思うよ。

 今回はクリスの運が良すぎた、普通は『ゆびをふる』で連続で攻撃技が出る可能性は低いからな。

 

 さて、次はどうなるかな?

 まぁどちらが勝つにせよ二人共頑張れよ!

 ……俺は二人が戦ってる間にクリスを宥める方法を考えるから。

 



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第二十九話 ヒワダタウン クリス対シルバー その二

 まずはアタシが一勝、このままアタシがシルバーを潰してやる!

 

「……ゆけ、ゴース!」

 

「ゴ〜ス!《イエ〜イ!》」

 

「お願い、ベイリーフ!」

 

「ベイリーッフ!《お任せくださいっ!》」

 

 シルバーが出したのは、またゴースね。

 となるとベイリーフの『たいあたり』は効かないのか。

 ……いいなぁ、アタシもゴース欲しい。

 さっきも思ったけどゴースってどこでゲットできるのかしら?

 

「ゴース、『さいみんじゅつ』だ!」

 

「ゴースッ!《眠りなベイビーッ!》」

 

「ベイリーフ『フラッシュ』よ!」

 

「ベイベイ!《誰がベイビーですか!》」

 

『フラッシュ』の光に目が眩んだゴースは『さいみんじゅつ』を外したわ。

 それにしてもベイリーフは真面目だからゴースみたいな軽い性格は苦手そうね。

 アタシはあのゴースはおもしろいから割りと好きだけどね。

 

「ゴース、『したでなめる』だ!」

 

「ゴゴ〜ス!《痺れちゃな!》」

 

「ベイリーフ、『はっぱカッター』よ!」

 

「ベイ、ベイリーッ!《近寄るな、このチャラ男めっ!》」

 

 お互いの攻撃が当たったわ。

 ……それにしても本当にベイリーフはゴースがキライね。

 

「ベ、ベイ!?《く、体が!?》」

 

 今の攻撃でベイリーフは麻痺したの!?

 ベイリーフは体がしびれて辛そうにしてるわ。

 

「ゴースゴーース、ゴース! 《オレっちの技は最高にイカしてるぜ、センキュー!》」

 

 ゴースはアタシ達を挑発してる……のよね?

 ベイリーフは色んな意味でイヤそうにしてるわ。

 ここはメノクラゲかトゲピーに交代させた方がいいのかな?

 

「……ゴース、遊ぶな。『くろいまなざし』を使え」

 

「ゴース、ゴースゴーッス!《イエーイ、オレっちからは逃げられないぜベイビーッ!》」

 

「しまった!?」

 

 アタシの行動を読まれたの!?

 これでベイリーフは交代出来ない。

 クソ、シルバーの分際で!

 でもどうしよう、このままではベイリーフが……

 

「ベィ、イリーフ。ベイ《ま、まだやれますマスター。 ご命令を》」

 

「……ベイリーフ」

 

 ……ベイリーフはまだ戦おうとしてるわ。

 なのにアタシがシルバーに気を取られてどうするのよ。

 クリス、しっかりしなさい!

 

「……ありがとうベイリーフ。いくわよ! 『はっぱカッター』!」

 

「ベイッ、ベーイ!《はいっ、マスター!》」

 

「……ゴース、『ナイトヘッド』!」

 

「ゴ〜ス!《イエ〜イ!》」

 

 麻痺のせいでベイリーフの攻撃が少し遅れた!?

 でもベイリーフはゴースの技を耐えてるわ。

 

「ベイベーイッ!《負けるもんですかーッ!》」

 

 そしてベイリーフの反撃。

 そうよ、まだアタシ達は負けてないわ!

 『はっぱカッター』がゴースを襲い、そのガス状の体を切り裂いた。

 

「ゴ、ゴースゴ、ゴ、ース…………《き、効いたぜ、ベイ、ビー…………》」

 

「……チッ、急所に入ったか。戻れゴースト!」

 

 ゴースは倒したわ、でもベイリーフの体力もあまり残ってない。

 しかも麻痺……こっちも余裕はないわね。

 

「戻ってベイリーフ! ……ありがとう」

 

 こちらが二勝で若干有利。

 でも次に出てくるのは多分あの子……あのワニノコが出てくるはず。

 

「……敵を倒せ、アリゲイツ!」

 

「アリゲィ!《よっしゃぁ!》」

 

「お願い、メノクラゲ!」

 

「メノ〜♪《いきますわ〜♪》」

 

 ……やっぱり出てきたわね、しかもアリゲイツに進化して。

 この子はワニノコの時でも相性の悪かった草タイプのマダツボミを倒した子、気をつけないと。

 

「アリゲイツ、『にらみつける』だ!」

 

「アリーッ!《ウラァーッ!》」

 

「メノクラゲ、『ちょうおんぱ』よ!」

 

「メノ〜♪《狂いなさ〜い♪》」

 

 『にらみつける』は確か……防御を下げる技だったはず!

 ……結構まずいかも、メノクラゲの『ちょうおんぱ』も外れちゃったし。

 

「メノクラゲ、『ようかいえき』よ!」

 

「メ〜ノ!《いきますわよ〜!》」

 

 さっきのお返しよ、この技でアリゲイツの防御力をさげてやるわ!

 

「アリゲイツ、『みずでっぽう』で弾け!」

 

「アリゲイッツ!《了解したっ!》」

 

 ウッソォ!?

 アリゲイツが吐き出した水流が『ようかいえき』を吹き飛ばしちゃった!?

 ……やっぱりあのアリゲイツは強いわ、でも諦めないんだからね。

 

「メノクラゲ、まだいけるよね?」

 

「メノ、メノメノ!《勿論ですわ、アリゲイツの悲鳴を聞くまでやりますわよ!》」

 

 ありがとうメノクラゲ、でもアリゲイツはあんまりイジメないでね?

 代わりにシルバーはどれだけ拷問してもいいからね。

 

「よーし! メノクラゲ、『ようかいえき』よ!」

 

「メノメノメッノ!《お姉さんに悲鳴を聞かせなさいっ!》」

 

「アリゲイツ、今度は『かみつく』だ!」

 

「アリゲイツ!《オメーの何処がお姉さんだ!》」

 

 お互いの攻撃が当たったわ。

 でも『にらめつける』の効果でメノクラゲのほうがダメージが大きい。

 

「メ、メノ……《き、効きましたわ……》」

 

「メノクラゲ大丈夫!?」

 

 メノクラゲは怯んだの!?

 

「追い打ちをかけろ、『かみつく』!」

 

「アリアリッ!《ウオリァァッ!》」

 

 また怯み、もうメノクラゲが持たない。

 メノクラゲ、しっかりして!

 でもアタシの願いは届かず、

 

「……トドメだ、『みずでっぽう』!」

 

「アリゲイッツ!《吹っ飛んじまいな!》」

 

 アリゲイツの渾身の『みずでっぽう』はメノクラゲを直撃しメノクラゲは倒れた。

 

「メノクラゲ、大丈夫!?」

 

 アタシは思わずメノクラゲに駆け寄りメノクラゲを抱き上げる。

 

「メ、メノメ〜ノ、メノメノ《す、すいませ〜んご主人様、負けちゃいましたわ》」

 

 よかった、メノクラゲの傷は大した事無いみたいで。

 

「いいのよメノクラゲ、ゆっくり休んでね」

 

 アタシはメノクラゲをボールに戻す。

 ……本当にお疲れ様、ありがとうメノクラゲ。

 

「……さっさと次のポケモンを出したらどうだ……それとも降参するか?」

 

「誰が降参なんかするもんですか!」

 

 アタシはアンタに絶対に負けないんだから!

 まだアタシにはベイリーフとトゲピーがいる。

 二人と力を合わせて絶対、ぜーったいシルバーを倒すんだからね!

 



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第三十話 ヒワダタウン クリス対シルバー その三

「たのんだわトゲピー!」

 

「トゲピー!《まかせてよママ!》」

 

 お願いよ、トゲピー。

 本当はベイリーフのほうが相性がいいのは分かってる。

 でもベイリーフはゴースとの戦いでかなりのダメージを受けてオマケに麻痺状態。

 ここはトゲピーに頼るしかないの。

 

「……アリゲイツ、『かみつく』だ!」

 

「アリアリッ!《覚悟しろチビ助っ》」

 

 トゲピーはアリゲイツの攻撃を受けてしまった。

 でも怯んでない、これなら……

 

「トゲピー、『あまえる』のよ!」

 

「トゲッピーピっ《ボクってかわいいでしょっ♡》」

 

「アリッ!!《グハッ!!》」

 

 これでアリゲイツはトゲピーのラブリーウインクでノックアウトよ!

 

「……またそれか、鬱陶しい」

 

 シルバーは顔をしかめながら言い捨てる。

 ……しょせんシルバーごときにはトゲピーの可愛さは分からないのね、お気の毒。

 でもこれでアリゲイツの攻撃力は下がったわ。

 

「トゲピー、『ゆびをふる』で攻撃よ!」

 

 お願い、いい技きて。

 

「トゲ、トゲ、トゲピー♪《でてこい、でてこい、でてきたよ♪》」

 

 トゲピーは冷気を拳にためて殴りかかる、この技は確か『れいとうパンチ』ね。

 ……ってダメよ! 水タイプのアリゲイツに氷タイプの技は!!

 

「アリゲイッ!《全然効かねぇぜっ!》」

 

 水タイプは氷タイプの攻撃では半分のダメージしか与えられない……アリゲイツはほとんどダメージがないわ。

 

「……今回はオレの方に運があったな。アリゲイツ、『みずでっぽう』!」

 

「アリゲイィ!《お返しだぁ!》」

 

「トゲピッー!《キャァーッ!》」

 

 アリゲイツの『みずでっぽう』で体力が尽きるトゲピー。

 

「もどって、トゲピー。……よく、がんばったね」

 

 アタシはすぐにトゲピーをボールに戻す……トゲピー、本当にお疲れ様。

 

 ……もう後がない、でも負けたくない!

 

「あと少しだけがんばってね。ベイリーフ、いきなさい!」

 

「ベイリーッフ、ベイ!《ご期待に応えてみせます、マスター!》」

 

 ……ごめんなさいベイリーフ、無理させて。

 

「ベイリーフ、『はっぱカッター』よ!」

 

「ベイッ!《はいっ!》」

 

「……アリゲイツ、『みずでっぽう』だ!」

 

「アリッ!『おうよっ!』」

 

 お互いの技が当たりそれぞれダメージを受ける。

 ……今度はこっちがタイプ的に有利。

 でもベイリーフが麻痺で動けなくなったらマズイ。

 

「……チッ、これなら攻撃力が下がっても『かみつく』の方が良かったな。なら『かみつく』だ!」

 

「アリアリアリ!《ガブガブいくぜ!》」

 

「ベイリーフ、『リフレクター』で受けて!」

 

「……べ、ィリ……《……う、ごけ……》」

 

 ベイリーフが麻痺で動けない!

 ベイリーフは『かみつく』をモロに受けてしまった。

 

「……『あまえる』のせいで仕留めきれなかったか、本当に厄介だな。アリゲイツ、『かみつく』続行。倒れるまで噛み続けろ!」

 

「アリゲィッツ!《とっとと倒れろや!》」

 

 ベイリーフはアリゲイツの強いアゴで何度も噛みつかれてる

 ……ごめんね、ベイリーフ。

 アタシが情けないばかりに。

 

「……べ、ベイ、ベイ、ベ、イリ、ィフ……《……わ、私は、マスターに、勝利を、捧げて……み、せる……》」

 

「アリ、アリゲイイィツ!《敵ながらアッパレ、だがオレもシルバーの為に負けられねぇんだよ!》」

 

 ……えっ? 今、アリゲイツは、なん、て……

 シルバー、の、為にっ、て……

 

「……ベイリーッッフ!《私だって負けられないのよーッッ!》」

 

 ベイリーフが首を振り回してアリゲイツの『かみつく』を無理やり振りほどいた!?

 そしてアリゲイツから離れるベイリーフ。

 ……今はシルバーのことを考えるのは後回しよ、ベイリーフがあんなにもガンバってくれてるんだから!

 クリス、今はこのバトルに勝つことだけ考えさい!

 

「ベイリーフ、『はっぱカッター』よ!」

 

「ベイ、リーフ!《了解です、マスター!》」

 

「……距離をとられたか。アリゲイツ、『みずでっぽう』だ!」

 

「アリッ、アリ!《おうっ、シルバー!》」

 

 また、お互いにダメージを受けた……もうお互いの体力は限界のはず。

 なのにベイリーフもアリゲイツもまだ倒れない……二人とももう気力だけで立ってるのね。

 二人の攻撃はまだ続いてる、もうこれが最後の攻撃になるのね。

 

「ベィィィィッ!《うぉぉぉぉっ!》」

 

「アリィィィィッ!《ガァァァァッ!》」

 

 葉っぱと水流の嵐がいきなり止まる。

 ……おわった、の? 勝ったのは、どっち?

 

「ベィ、ベィ……ベッ!《ハァ、ハァ……くっ!》」

 

 ベイリーフがよろけた!?

 なら、まけ、たの?

 

「アッ、アリゲイ……アリッ!!《へっ、やるじゃねぇか……グハッ!!》」

 

 ……アリゲイツが倒れた。

 つまり、

 

「アタシ達の勝ちよーーっっ!!」

 

「ベィーーーッ!」

 

 アタシはベイリーフに抱きつき二人で喜ぶ!

 

「……ありがとう、ベイリーフ。本当にありがとう」

 

「ベイ、ベイリー♪《はい、マスター♪》」

 

 ……本当にありがとう、ベイリーフ、トゲピー、メノクラゲ。

 あなた達はアタシの自慢の家族よ。

 

「……戻れアリゲイツ! ……フンッ 使えないやつだ……」

 

 シルバーはアリゲイツをボールに戻しながら言い捨てた。

 ……やっぱり、シルバーは根っからのクズね……でも、アリゲイツはシルバーを慕ってた……なんで?

 

「……今日のところはオレの負けを認めよう……だが次に会うときには必ず君を倒す……楽しみにしてろ」

 

 そしてシルバーはそのまま走り去った。

 ……シルバーは倒さなくちゃいけない敵……それは間違いない。

 でも……アリゲイツは……ううん、アリゲイツだけじゃない。

 ゴースもズバットもシルバーを慕ってた。

 ……なんで? どうして? シルバーはポケモンをまるで道具みたいに使って愛情なんか全くないのに。

 アイツはクズ……じゃないの?

 アタシは……わからない……

 アタシが……まち、がっ、てたの、かな……

 



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第三十一話 シルバーの憂鬱

 ……フン、オレはシルバー……

 オレは今、非常に機嫌が悪い。

 理由は彼女……名前はクリス……とにかくあの女に負けたからだ。

 

 ★☆★☆

 

 クリスに初めて会ったのはワカバタウンだった。

 あの時オレはウツギポケモン研究所の偵察をしてた……ポケモンを盗むためにな。

 

 ……だが偵察してるとあのムカつく野郎……名前はゴールド……とにかく奴がオレを上から目線で注意してきやがった。

 ゴールドの野郎、オレとそう年は変わらない筈なのにオレを「少年」呼ばわりしやがったからな。

 

 ムカついたオレは奴を思いっきり突き飛ばしてやった。

 ……アレは気持ちよかったぜ……奴が無様に尻もちついてオレを見上げてるんだからな……オレをバカにする奴を逆に見下すのはいい気分だったぜ。

 

 そしてその後だった、クリスと初めて目を合わしたのは。

 ……オレは直感した、「コイツはオレと同じだ」ってな。

 初めてクソオヤジ以外でオレの同類を見つけたことにオレは感動すら覚えたよ。

 クソオヤジがオレを捨てて消えてから初めてオレは他人に興味を持ったんだ。

 

 ……だがクリスは次の瞬間、彼女はあり得ないことにこう言い放ったんだ、「アタシのゴールドに何をするの!」ってな。

 なんでだ、奴はオレ達とは違う! キミならわかるだろ、オレ達は自分以外を信用しない、してはいけないんだ!

 アイツはオレ達とは違う生き物、いつか必ずキミを裏切るんだ!

 

 オレがショックで呆然としてる間に二人は研究所に入っていった。

 ……クソ、なぜなんだ……なぜあの女はあんな奴を!

 オレはこの時、ひどく混乱してた。

 

 なぜあの女はあんな奴の隣にいるんだ、なんでオレの隣にいないんだ、

 キミの隣にいるべきはオレなんだ……そんな考えが何度も何度もオレの頭を駆け巡った。

 ……そして結論を出した、「あの女を奴から奪ってやる」ってな。

 

 ★☆★☆

 

 次にあの二人と会ったのはオレが研究所からワニノコを奪った直後だ。

 アイツ等は楽しそうに喋りながら並んで歩いて来やがった。

 ……本当にムカつく、彼女の横にはオレこそが相応しいのに。

 だからオレはゴールドにバトルを挑んだ……オレの方が強いことをゴールドに思い知らせる為に。

 オレがキミの隣にいるべきだと、この野郎は必要ないことをクリスに教えるために。

 

 ……だが、オレは負けた。

 クソッタレ、何でだ!

 何であんなヘラヘラした奴にオレは負けたんだ!

 悔しかった、悔しくって悔しくって悔しかったんだ。

 ……だからオレはゴールドに教えてやった、オレの名前とオレがいつか最強になることを。

 ……いつか必ずオレが最強のトレーナーになる、そうしたらクリスは絶対にオレのモノになる、そうに決まってる。

 

 ……この世は弱肉強食、強いオレにクリスが惚れないわけがない。

 仮にオレに惚れなくても力づくでオレのモノにしてやる。

 ……その為にはもっと力がいる、もっと強いポケモンがいる。

 ……なら探してやる、もっと強いポケモンを。

 そしてオレはキキョウタウンに向った、強いポケモンを求めて。

 

 ★☆★★

 

 ……そしてマダツボミの塔でまたあの二人と再会した。

 その時のオレは今とは逆に非常に機嫌が良かった。

 ゴースをゲットし、オレに偉そうに説教しやがった長老を倒したからな。

 ……ワニノコはやはり当たりポケモンだったな……コイツは強くなる、オレはマダツボミを倒した時にそう確信した。

 

 オレが長老と戦ってる様子を二人は見てた。

 ……だからオレはゴールドに言ってやった。

 

「ポケモンに優しくとか甘いこと言ってるやつに、オレは負けない。

 俺が大事にするのは強くて勝てるポケモンだけ。それ以外はどうでも良いのさ」

 

 ってな。

 ……これでゴールドもそしてクリスも思い知っただろう、この世は力が全て、人もポケモンも力無き者はただ駆逐されるだけ。

 愛情や優しさなんかは弱者の戯れ言、圧倒的な強者には不要なものだとな。

 

 ……だがゴールドは、「でもポケモンも感情があるから、あんまり厳しくすると嫌われちゃうよ?」と言いやがった。

 本当にムカつく奴だ、オレが目の前で力の重要さを見せてやったのにまだ甘い事言いやがる。

 腹が立ったオレはゴールドの横を抜けてその場を去ろうとした。

 

 ……その前に少しだけクリスの方を見たんだ、彼女ならオレの強さを分かってくれてると思ってな。

 ……だがクリスの瞳には俺に対する怒り、それしか写ってなかった。

 ……オレはクリスの視線に耐えきれず逃げるようにその場を走り去ったんだ。

 

 なんでなんだ!? どうしてなんだ!? キミはオレと同類だろ!? キミだって力で他者を潰したいだろ!? キミは……オレと同じだろ……

 ……クリスはオレと違うのか……いや、そんな事はない!

 クリスはオレと同じだ! オレと同じで他人を信用しない、他人を憎んでる筈だ。

 オレには分かる、クリスはきっとゴールドに騙されてるんだ、そうだ、そうに違いない。

 

 ……絶対にゴールドを倒す、そしてクリスを必ず手に入れる。

 ゴールド、今はせいぜい笑ってるがいい、必ずオレの目の前にひざまずかせてやるからな。

 新たに決意を固めたオレはキキョウタウンを後にした。

 ……新たな力を、ゴールドを倒す力を探すために。

 

 ★☆★☆

 

 その後オレはズバットをゲットしオレは手持ちのポケモン達を鍛える毎日を過ごしてた。

 ……ワニノコはアリゲイツに進化し、他の二匹も順調に強くなっていった……これならゴールドを倒す日は近い。

 

 そんなある日、オレはある噂を耳にした。

「ロケット団が復活した」とな。

 

 オレは驚いた。

 だってロケット団は三年前にリーダーだったオレのオヤジ……サカキが失踪して解散した筈だった。

 ……まさかオヤジが戻ってきた?

 オレは急いでロケット団がいる筈のヒワダタウンを目指した。

 ……クソオヤジ、てめぇには聞きたいことが山ほどある。

 だがその前に一発ぶん殴ってやる、覚悟しろよ。

 

 ★☆★☆

 

 だがヒワダタウンにはロケット団も……そして、オヤジもいなかった。

 代わりにゴールドとクリスがいた。

 ……またこいつらか……だが今は少しでもロケット団の情報が欲しい。

 オレは嫌な気持ちを抑え込んでゴールドの奴にロケット団のことを聞いた。

 

 ……驚いた事にロケット団はこいつが追い払ったと言いやがった。

 ……だがそれと同時に納得もした。

 ゴールドは最悪最低にムカつく奴だがバトルは強い……あの時の『えんまく』の使い方はなかなか厄介だったな。

 ……ちょうどいい、ここでコイツの今の実力を見てやるか。

 

 オレはゴールドにバトルを挑もうとした。

 ……だがそこにクリスが割り込んできて自分がバトルすると言い出した。

 クリスが言うにはロケット団はクリスが倒したらしい……もし本当なら好都合だ。

 クリスが本当にロケット団を倒せるほどの実力があるならオレの女これ以上相応しい女はいないだろう。

 

 オレはクリスの挑戦を受ける事にした。

 ……クリスの実力を知るために……クリスにオレの力を示すために……クリスを俺のモノにするために。

 だが結果はオレの負け……オレが負けたんだ。

 オレはまた逃げるようにウバメの森に走り込んだ。

 

 ★☆★☆

 

 ……クソッ、なんでだ!

 ……オレは弱いのか……いや違う! 弱いのはポケモンであってオレじゃない!

 ……ならもっとポケモン達を強くしてやる、それと同時にもっと強いポケモンもゲットしてやる。

 

「アリィ……」

 

「ズバァ……」

 

「ゴォス……」

 

 ……いつの間にか自主トレさせてたポケモン達がオレの側にいる。

 ……あぁそうか、そろそろメシの時間か。

 腹が減って寄ってきたんだな。

 なら町に戻って……ヒワダタウンにはゴールドとクリスがいるか……ならウバメの森を抜けてコガネシティに行くか。

 

「……いくぞ、お前ら」

 

 ……さて今日の晩御飯はどうするか?

 強いポケモンの育成には栄誉バランスのいい食事は必要不可欠。

 ならタンパク質とカルシウムは多めに……そういえばアリゲイツはワニポケモンのくせに魚が好きだったな。

 アイツは最後のベイリーフには僅差で負けたがメノクラゲ、トゲピーと二匹も倒したんだ、今日は褒美としてアイツの好物してやるか。

 ……だがズバットは魚が苦手だし……仕方ない、ズバットにはハムをやるか。

 

 ……オレは弱い奴が大ッキライだ。

 ポケモンだろうがトレーナーだろうが。

 だからそんな弱い奴を潰すためにオレは強くなる。

 ……オレが強くなる為にこいつ等を鍛える。

 その為には三食栄養バランスのとれた食事、適度な運動、上質な睡眠は必須。

 ……面倒ではあるがこれもオレが最強になる為に必要なこと、努力を惜しむつもりはない。

 

「……コラ、ゴース。木の実をつまみ食いするな……太ったらどうする」

 

 ……まったく、ゴースは最強のトレーナーの手持ちとしての自覚が足りん。

 少しはアリゲイツとズバットを見習え、アイツ等はなかなか真面目で使い勝手がいい。

 

 ……最強への道はなかなか長いな。

 だがオレは諦めん。

 ゴールド、クリス、待ってろよ。

 必ずお前達を倒してやる!

 



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第三十二話 クリスの悩み

【ウバメの森】

 

 オッス、俺ゴールド。

 

「待てーっ、カモネギ!」

 

「ひのーっ!」

 

「カーモ、カモカモカモ!」

 

 俺達は今、ウバメの森でカモネギを追いかけてる。

 

「そっちだ、イシツブテ! オオタチ!」

 

「イッシッ!」

 

「オオタッチ!」

 

 手持ちポケモンを総動員してな、だってこのカモネギが素早過ぎて俺とクリスだけだと全く歯が立たないんだよ!

 

「バタフリー、上から回り込んで挟み撃ちにしろ!」

 

「フリィィィッ!」

 

 だが全く捕まらないんだ。

 ……ほらまたイシツブテとオオタチの間を抜けてったし。

 

 ちなみに何でカモネギと追いかけっこしてるかと言うと、俺達は森に入ってすぐに炭焼き職人の見習いさんを見つけたんだ。

 ……だが見習いさん曰く、

 

「炭の材料の木を切るカモネギが行方不明になっちゃった! 暗くて広い森を一人じゃ怖くて探せないよ。

 どうしよう、親方に叱られる……」

 

 だそうだ。

 

 正直、「いい歳した男が何を言ってんだ!」って思うが、ガンテツさんに見習いさんを探してくるって約束したから見捨てるわけにもいかない。

 ……非常に面倒だがな。

 

 カモネギは探し始めてすぐに見つかった……が、俺達が近づくと物凄いスピードで逃げ出したんだ。

 無論追いかけて捕まえようとした。

 ……が、カモネギは俺達が近づくと逃げ、また俺達が追いかける、カモネギが逃げる…………ってな感じで今に至る。

 

 何でカモネギが逃げるかは分からんがカモネギが、俺達をおちょくってるのだけは分かる。

 腹が立ってきた俺はポケモン達を出し今は全員でカモネギを追いかけ回してる。

 ……だがこのカモネギの逃げ足の早いこと早いこと。

 

 俺の手持ちで一番素早いマグマラシでも追い付けず、空を飛べるバタフリーでも振り切られ、オオタチの『でんこうせっか』ですらカスリもしない。

 ……カモネギってこんなにも素早いポケモンだっけ?

 

「クリス、そっちにいったぞ!」

 

「……ふへ? えっ、えっ、えぇ?」

 

 棒立ちしててクリスはカモネギに反応できなかった。

 ……カモネギはクリスの横を何事も無く走り抜けてった。

 

「何やってるんだクリスッ!」

 

「ご、ごめんなさいゴールド!」

 

 シルバー君との勝負の後からクリスの様子がおかしい。

 ボーッとしてて心ここに有らずって感じなんだ。

 

「たく。クリス、調子が悪いのか?」

 

「えっ!? そ、そんなことないよ!」

 

 ……やっぱりおかしい、ここは無理はさせない方が良いか。

 

「少し休んでろよ。カモネギは俺とポケモン達で捕まえるから」

 

「だ、大丈…………そうだね、少し休むわ……ありがとう」

 

 クリスはそう言うと近くの木の側に座り込んだ。

 ……クリスが心配だが今はカモネギを捕まえる事に集中しよう。

 

「みんないくぞ!」

 

「ひのっ!」

 

「フッリィィィ!」

 

「オ〜オタチッ!」

 

「イッシッ!」

 

「ベイッ!」

 

「メ〜ノ♪」

 

「トゲッピー!」

 

 尚カモネギを捕まえるのにそれから三時間程掛かった。

 ……すっげぇ疲れたよ。

 

 ★☆★★

 

 あの後、炭焼き職人の親方にお礼として『いあいぎり』の技マシンを貰った俺達はポケモンセンターに帰るために歩いてる。

 既に日は暮れかけてる。

 クリスはアレからずっと何かを考えてるのか俺が話し掛けても生返事しか返してこない。

 

「クリス、クリス……スゥ、クッ! リッ! スッ!」

 

「えっ!? あっ! な、なぁにゴールド?」

 

 やっとちゃんとした返事をしたな。

 

「何、じゃねぇよ。さっきから呼んでたんだよ」

 

「ご、ごめん……本当にごめんなさい」

 

「……クリス、何か悩みがあるのか?」

 

 こんなにも大人しいクリスは始めてだ。

 恐らくだがシルバー君とのバトルで何か感じたんだろう。

 でなけりゃ暴走モード入ったクリスが暴れなかった理由が付かない。

 ……あの時はバトルが終わったと同時に俺は自分のポケモン達と一緒にクリスを取り押さえるつもりだったが肩透かし食らったな。

 

「……ねぇゴールド……シルバーの事、どう思う?」

 

 やっぱりシルバー君の事を考えてたんだ。

 

「ん、シルバー君の事? そうだなぁ…………ちょっとヤンチャでワンバク過ぎるところがあるけど元気があって良い子だと思うな」

 

 少しグレた所もあるが自分の目標をしっかり持ってるし、あの向上心の高さは俺も見習いたいものだ。

 

「……いい子……? でもでも……シルバーはポケモンを道具みたいに扱うのよ?」

 

「んー……確かに言動はそんな感じだな」

 

「言動……は?」

 

 クリスは首を傾げる。

 まぁクリスには少し難しい話になるかな。

 

「ほら、もしも本当にシルバー君がポケモン達を手荒に扱ったらポケモン達はどうすると思う?」

 

「どうする……って、それはシルバーの言う事聞かなかったり逆らったりするんじゃないの?」

 

 なんだ、クリスも分かってるじゃないか。

 

「ならもう一つ聞こう。クリス、今日の勝負でシルバー君のポケモン達はシルバー君に逆らったり、言う事聞かなかったりした事はあったかな?」

 

「……なかったわ」

 

 正解だ、クリス良く出来ました満点花丸。

 

「……シルバー君はね、口こそ悪いけど本当は良い子なんだ。ただ不器用だからキツイこと言ったり、時には悪い事もしちゃうけど本当は優しい子なんだよ。

 それをシルバー君のポケモン達は分かってるからシルバー君の事を慕ってるんだよ」

 

 あの年頃の子は反抗期だからね、言葉が悪くなったり時には人に酷いことをする時もある。

 ……でもそれは誰だって一度は通る道なんだ。

 

 それはクリスも同じだ。

 こいつの場合は色々特殊だが、本当のコイツは優しくて甘えん坊な極普通の十歳の女の子だ。

 ……まぁやる事は色々ぶっ飛んでるけど。

 

「なぁクリス……人にはな、色んな『自分』があるんだ」

 

「色んな……『自分』?」

 

「例えば俺なら、怒ってる『俺』、楽しんでる『俺』、悲しんでる『俺』……こんな感じに色んな『俺』が居るんだ。

 だからな、人を知る為には色んな面を見ないといけないんだ」

 

「色んな……面?」

 

「そう、色んな面。……シルバー君は言葉では酷いこと言うしポケモンを道具みたいに扱ってるように見える。

 でもそれは表面だけなんだよ。本当の彼は多分優しい子、だから彼のポケモン達はあんなにもシルバー君の事を信頼してるんだよ」

 

 まぁ根っからの悪党も偶に居るけどな……それは今クリスに言うことではないか。

 

「……そうな、のかな……シルバーは……本当はいい奴……なのかな?」

 

「……少なくとも俺はシルバー君が良い子だと思ってるよ」

 

 クリスは下を向き必死に俺が言った事を考えてる。

 ……悩めよクリス、考えろよクリス。

 その経験がお前を成長させるんだ。

 ……また答えが分からなくなったら俺がヒントをあげる、だから答えは自分で出せ。

 俺はお前の側に居る、必ず見守ってるから。

 だから迷ったって良い、間違えても良い……必ずお前自身の答えを見つけるんだぞ?

 

 ……ありがとうシルバー君、君のおかげでクリスはまた一歩大人に近づけそうだよ。

 

「……色んな『アタシ』? ……色んな『シルバー』? …………」

 

 ……頑張れよクリス、俺はいつでもお前の味方だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……アタシは間違っていたの?

 ゴールドが言ったようにシルバーは本当は悪いやつじゃないの?

 ……ならアタシが今まで潰してきた害虫は?

 

 ……わからない、わからないよゴールド。

 だって害虫は駆除しないといけないものだもん!

 でもアタシが潰してきた害虫は本当は害虫じゃなかったの?

 ……ねぇゴールド、ゴールドのいうとおりならアタシは本当は悪い子になるの?

 

 ……わからないよ、わからないよ、わからないよ、わからないよ………………わからないよ……ゴールド……

 



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第三十三話 ゴールドのヒント

 オッス、俺ゴールド。

 今日はいよいよヤドンが退院する日だ。

 そして俺達がヒワダタウンから次の町へ目指す為に旅立つ日でもある。

 ヒワダタウンでは本当に色々あったな、ロケット団の事件、ヤドンの入院、そしてシルバー君との再会、カモネギとの追いかけっこ。

 

 ……あとクリスがシルバー君との戦いで何かを感じ悩んだりもした。

 まだ悩んでるみたいだが一応は食事もちゃんと取り、寝れてるみたいだら健康状態は大丈夫そうだけどな。

 

 さっきジョーイさんには挨拶は済ませ昨日のうちに炭焼き職人の親方、見習いさん、ジムリーダーのツクシ君、ジムの子供達には挨拶を済ましてる。

 尚、その時に見習いさんには『木炭』を貰った。

 勿論ガンテツさんとお孫さんにも挨拶しにいった。

 ただガンテツさんは町を出る直前にもう一度家によって欲しいと言われてる。

 ……何か用でもあるのかな?

 

 うっし、着替えも終わったしそろそろクリスに声を掛けて宿泊施設をでるか。

 

 ★☆★☆

 

【ガンテツの家】

 

「おおゴールド、クリス、来たか。お前さん達にはヤドンの井戸では本当に世話になったな。本当にありがとう。

 お礼と言ってはなんだが、こいつを受け取ってくれ」

 

 俺とクリスはガンテツさんからルアーボールをそれぞれ受け取った。

 ……ルアーボールか、もしコイキング以外を釣り上げたら使うかな、だがコイキングには絶対に使わないぞ。

 

「ガンテツさん、ありがとうございます」

 

「ガハハ! さっきも言ったが礼を言うのはワシの方じゃ。二人共本当にありがとうな。

 またこの町に来るときはワシんとこに寄ってくれ。ぼんぐりの実があればボールを作ってやるぞ!」

 

「バイバイ! またきてね、おにいちゃん、おねぇちゃん♪」

 

「ヤードン♪」

 

 俺達はガンテツさんとお孫さんに別れを告げてヒワダタウンを後にした。

 クリスが終始大人しくしてたのが気にはなるが、まぁクリス自身が話したくなるまで待つさ。

 

 ★☆★☆

 

【ウバメの森】

 

 ふぅ、疲れた。

 俺達はコガネシティを目指しウバメの森に居る。

 だがこの森は広いから半日歩いてもまだ出られない。

 尚、途中で道を塞いでた木はオオタチに覚えさせた『いあいぎり』で切り倒してきた。

 

 後、道中に古めかしい祠があったりもした。

 ……あれって何を祀ってるんだ?

 

 そうそうパラスが襲ってきたのでついでに捕獲しといた……性別は安定の雌。

 俺の雌ポケモンとの遭遇率の高さは何とかならんかな、雌ポケモンは手持ちに入れないから結構困る。

 パラスはクリスの好きそうなポケモンだがクリスは相変わらず上の空で全く反応しなかった。

 

 まだ俺が言ったことを考えてるのか?

 大人しいのは正直助かるが上の空なのは色々危険なんだよな。

 ここまでの道中でも何度か木の根っこで転びそうになったりしてたし。

 

 そんなことを考えながら歩いてたら小さな池に出た。

 俺達はここで少し休憩することにした。

 

「……ふぅ、疲れたなクリス」

 

「…………」

 

 まだクリスは悩んでるのか、俺の言葉が届いてないみたいだ。

 仕方ない、俺は少し仮眠でも取るか。

 

「……ねぇゴールド、少し聞いていい?」

 

「……良いよ」

 

 と思ったがクリスの方から話しかけてきた。

 さて何を聞いてくるかな?

 

「……アタシね、あれからゴールドが言ったことをずっと考えてたんだ…………でもね、答えが全然わからないの」

 

 クリスは下を向きゆっくりと話してる。

 

「……ゴールドが言ったことが間違ってるとは思わないわ……でも今までアタシが信じてた事も間違ってるとは思えないの」

 

 俺は黙ってクリスの話を聞いている。

 

「……ねぇゴールド、何が正解のかな?」

 

「それはクリス自身が答えを出さないといけない事だ、俺に頼らずにな」

 

「……そっか……答え、教えてくれないのね……ゴールドって意外とキビシイのね」

 

「アホか、俺は昔からこんな感じだろ……一つヒントを言うなら色んな人と話してみな」

 

「……話すの?」

 

「そうだ。クリスはまだ知識も経験も全然足りない、だから沢山の人と話して、色々な話を聞いて、色んな考え方を学ぶんだ。

 そうして自分の知識と経験を増やせば今分からない事も分かるようになる」

 

 まぁコレって結構難しいんだけどね。

 偉そうに言ってるが俺だってまだまだ知識と経験を積まないとな、じゃないと俺自身が成長出来ん。

 俺が未熟ではクリスの保護者は名乗れないからな。

 

「……うん、わかった。アタシ、これから出会う人たちといっぱい話してみる!」

 

「頑張れよクリス」

 

 俺はいつでもお前を応援してるからな。

 

「……ねぇゴールド、一つお願いしていい?」

 

「お願い?」

 

 何のお願いだ?

 

「……うん、ゴールドにギュってハグして欲しいの。ゴールドがハグしてくれたらアタシは元気になれるから」

 

 ハグか……ちょっと恥ずかしがこんな森の中で誰かに見られる心配は……多分ないか。

 クリスはここ数日ずっと頭を悩ませてたし少しはご褒美あげないとな。

 

「……良いよ、おいでクリス」

 

 俺は両手を広げてクリスがくるのを待つ。

 

「……ありがとうゴールド」

 

 クリスは俺の胸に抱きついてくる。

 俺はクリスを優しく抱きしめクリスの頭を撫でる。

 ……クリスの温もりが俺に伝わり俺の温もりが伝わる。

 

 俺達は二人しか居ない森で静かに抱き合い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……ありがとうゴールド。

 アタシ絶対に自分の答えを見つけるね。

 だから今だけは……ね♡

 



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第三十四話 親馬鹿と変態紳士

【三十四番道路】

 

 オッス、俺ゴールド。

 俺達は散々迷いながらもやっとウバメの森をやっとの思いで抜けた。

 あの森は広いは、暗いは、で本当に抜けるのに苦労したぞ。

 ちなみにトレーナーやら野生のポケモンとも勝負して俺達のポケモンの強化も出来たのは助かったがな。

 

 お陰でバタフリーが『ちょうおんぱ』を覚えそうになった。

 が、悩んだ末に覚えさせない事にした。

 混乱させるなら確率は低いけど『ねんりき』があるし、バタフリーなら麻痺、毒、眠りと状態異常技が豊富だからいらないと判断したんだ。

 

 ……尚クリスと抱き合った件は二人だけの秘密にするってクリスと約束した。

 理由は俺が恥ずかしいからだ。

 正直抱き合ってる所を他のトレーナーに見られてないか心配で仕方ない。

 

「うふふ♪」

 

 ……まぁクリスが非常にご機嫌だから良いけどな。

 

 ついでのついでに言うなら俺達は今は手を繋いで歩いてる。

 これも恥ずかしいんだがクリスにおねだりされて、ね?

 ……あぁ分かってるよ、こうやってクリスを甘やかすからアカンのだろ、って言いたいんだろ?

 だが素直に「お願い、ゴールド」って言われると弱いんだよ、俺は。

 ……大概な親馬鹿だなと自分で思うわ。

 

「スリ〜スリ〜♪」

 

 そんな事を考えながら歩いたら野生のスリープが襲ってきた……のだが何か様子がおかしいぞ?

 一向に攻撃してくる気配は無いし、俺では無くクリスの方を見てニヤニヤ笑ってる。

 かと思ったら俺の方も見て笑ってるし。

 ……気色悪いから逃げようかな?

 

「スリスリ〜プ♪」

 

「えっ、本当?  ありがとうスリープ♪」

 

「スリスリーップ、スリ〜♪  スリープ?」

 

「いや~ん、そんなにホメないでよ♪ スリープったらお世辞がうまいんだから♪ アタシの名前はクリス、こっちはゴールドよ」

 

「スリスリ♪  スリ、スリープ?」

 

 何やらクリスとスリープが意気投合してるんだが。

 嫌な予感がするから、そろそろ逃げたい……

 

「うん、いいよ♪」

 

 そう言いながらモンスターボールを取り出すクリス……って、まさか!?

 

「えい!」

 

 案の定クリスはモンスターボールをスリープに投げてスリープを捕獲した。

 

「やったー! スリープをゲットよ♪」

 

「おいクリス、説明してくれ」

 

 思わず俺はクリスに聞いた。

 

「いいよ♪ うんとね、スリープが「お嬢ちゃん可愛いね」って言ってくれて、それでね、アタシがお礼いうと「本当に可愛いよグフフ♪ 食べちゃいたいくらいにね♪ 君の名前は」って。

 で、その後スリープが「お世辞じゃないよ、ねぇ、もし良かったら僕を仲間してよ?」って言ってくれたからゲットしたのよ♪」

 

 …………今の会話が色々危険な気がする。

 話だけ聞くとスリープがクリスを気に入って自分から捕獲されたって事だが……

 

「クリス、一回スリープをボールから出してくれるか?」

 

「いいよ? 出てきてスリープ!」

 

「スリ〜♪」

 

 モンスターボールから出てくるスリープ。

 やはりニヤニヤと気色悪く笑ってるな。

 

「クリス、スリープの言葉を通訳してくれ」

 

「わかった」

 

 非常に嫌だが俺はスリープに質問する……本当に嫌な予感しかしないぞ。

 

「まずスリープ、お前はクリスを気に入って捕獲されたんだよな?」

 

「スリ、スリープ。スリ〜プスリスリ♪」

 

「「うん、そうだよ。クリスちゃんマジ美少女ハスハス♪」……だって。

 いや~ん、美少女だなんて♪」

 

 ……この時点で既にアウトな気がする。

 そして更にクリスは上機嫌になる。

 俺は嫌な気持ちを抑えながら質問を続ける。

 

「……スリープ、人間の女とポケモンの女、どっちが好きだ?」

 

「スリプ♪」

 

「「人間の女♪」……だって」

 

「……………なら大人と子供なら?」

 

「スリプ♪」

 

「「子供♪」……って言ってるよ」

 

「………………なら男の子と女の子なら?」

 

「スリープスリ♪」

 

「「両方いけるぜ♪」……だって」

 

 アウトーッ! アウトアウトアウトッ!! スリーアウトッ、チェーンジッ!!!

 ゼェ、ゼェ……しかも全部即答かよ!

 このスリープ、マジもんの変態じゃねぇか!

 

「スッ、スリープスリ、スリスリ♪」

 

「「あっ、ゴールド君も好みだよ、ハァ、ハァ♪」……だって。

 ダメよスリープ、ゴールドはアタシの旦那さんなんだから、ゴールドはアタシだけのものよ♪」

 

 ……今、俺の背中に悪寒が走った。

 このスリープはロリコンでショタコンかよ!

 何気にクリスも気になる事を言ったがそれは今は無視だ!

 

「……クリス、スリープのモンスターボールを寄越せ」

 

「えっ、なんで?」

 

「コイツは危険過ぎる、だからボールを破壊してスリープを逃がすんだよ!」

 

 俺達の貞操を守る為にな。

 つかポケモンの癖に変態とかありえんだろ!

 

「いやーっ! スリープはアタシのポケモン、アタシの家族なの! 逃がすなんて絶対にダメーッ!」

 

 そう叫んでクリスはスリープに抱き着く。

 だが俺は諦めんぞ!

 

「その変態ポケモンから離れろクリス! スリープ、てめぇクリスに抱きつかれてニヤニヤするな!」

 

「スリスリ、スリススリープ!」

 

 俺が力尽くで引き離そうとするとスリープは自分からクリスの腕をすり抜けて必死に何か言い出した。

 

「クリス、何て言ってるんだ?」

 

「うんと、「大丈夫大丈夫大丈夫、僕は紳士だから絶対に手は出さないよ!」……って」

 

「信用できるか!」

 

「ス、スリープ! スリープスリープ、スリープスリープスリスリープ!」

 

「「ほ、本当だよ! ロリとショタは愛でるもの、手を出すは僕の主義に反するよ!」……って」

 

「……なら俺に誓うか? 絶対にクリスには手を出さないとこの俺に誓え!」

 

「スリープスリープ! スリプスリープ! スリリープ!」

 

「「誓います誓います! YESロリータ、NOタッチ!」……だって。

 ねぇゴールド、いいでしょ?」

 

 クリスが上目遣いで俺に言う。

 ……俺ってクリスの上目遣いに弱いんだよね。

 

「……ハァ、仕方ない………良いよ」

 

「ありがとうゴールド♡」

 

 俺に礼を言いながらクリスは今度は俺に抱き着きスリスリと頬ずりする。

 ……本当、俺ってクリスに甘いな。

 

「スマンがクリス、先に行ってくれないか? 俺はスリープと少し話がある」

 

「いいけど、スリープをイジメない?」

 

「虐めないよ、少し男同士の話をするだけだから心配するな」

 

「わかった、でも絶対にスリープをイジメちゃダメだよ!」

 

 そう俺に念を押してクリスは先に進む。

 

 …………さて、これだけ離れたらクリスには声は届かないだろう。

 

「……オイ、スリープ」

 

「ス、スリ!?」

 

 ……俺は思いっ切りドスを効かせた低い声でスリープに話し掛ける。

 

「……てめぇ……もし誓い破って俺の(クリス)に手ぇ出したら……コンクを腹に詰めて海に沈めっからな?」

 

 ……俺は例えポケモンでもクリスに危害を加える奴は手加減しない。

 ……スリープは本気で怯えてる。

 

「ス、リープッ! スリプスリプスリプッッ!!!」

 

 ……スリープは冷や汗ダラダラ流しながら何度も土下座する。

 

「……わかりゃいいんだよ。ま、仲良ぅしようや、スリープ」

 

 ……俺は土下座を続けるスリープの肩をゆっくりと叩く、とびっきりの悪い笑顔でな。

 

「スリッ!!」

 

 スリープは涙を流しながら必死に頷く。

 ……これだけ脅せば大丈夫だろ。

 

「んじゃクリスの所に行くぞ。後、さっき言った事はクリスには絶対に言うなよ?」

 

「スリッ!」

 

 スリープは俺に敬礼しながら答える。

 これだけ恐怖を植え付けりゃクリスには手を出さんだろ。

 俺達はクリスに追いつく為に少し急いで歩きだした。

 

 ……これはクリスの知らない俺の一面。

 ……こんな『俺』はクリスの教育に良くない、だから絶対にクリスの前では見せない『俺』。

 さてクリスに追いつくまでに何時もの『俺』に戻らんとな。

 ……何時もの、クリスが好きな『俺』じゃないとクリスが心配するからな。

 ……たく、俺も筋金入りの親馬鹿だな、我ながら呆れるよ。

 



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第三十五話 ミルタンクの悪夢

【コガネシティ 〜豪華絢爛、金ピカ賑やか、華やかな街〜】

 

 オッス、俺ゴールド。

 俺達はコガネシティに着いた。

 

「ねぇゴールド、すっごい大きな街だね〜♪」

 

 そしてコガネシティの大都会っぷりに圧倒されている。

 

「……あぁ、ワカバタウンとは大違いだな」

 

 見上げても天辺が見えない程高いビル、ホテルかと思う程の大きなポケモンセンター、何よりも目を引くのはどの建物よりも高いラジオ塔、本当すごい街だな。

 

 昔オヤジに連れられて一度来たことがあったがその時はラジオ塔はまだ無く今程はビルも無かったな。

 ……そいや最後にオヤジに会ったのは何時だ? 確か去年の正月だっけ?

 まあ良いか。

 

 尚ここに来る道中にポケモン育て屋さんがあったが俺もクリスもポケモンは自分の手で育てたいから寄ってない。

 ……少し興味はあったがな。

 

 さてポケモンセンターに行ってそれからジムに挑むか!

 

 ★☆★☆

 

「……なぁクリス、ここってポケモンセンターだよな?」

 

「ほへぇ〜、キレイなポケモンセンターだね」

 

 俺達はこの街のポケモンセンター……ここのはポケモンコミュニケーションセンターと言うらしいが……とにかくセンターに着いた。

 そして中に入ってまた圧倒されている。

 

 ここは今までのポケモンセンターよりデカイは、広いは、綺麗だわ……まるで空港みたいだ。

 奥の方には巨大な機械がありここが大都会だと再度思い知らされたよ。

 ……それと同時にワカバタウンが田舎だとも再度認識したよ。

 

「……とにかくポケモン達の回復と、後は宿泊施設の使用許可を貰おう」

 

「うん! あっ、アレなんだろ♪」

 

 クリスはさっきから楽しそうに施設をキョロキョロ見てる。

 物珍しいのは分かるが少し落ち着け、俺達が田舎者みたいじゃないか。

 ……実際田舎者だけど。

 

 補足すると俺は宿泊施設に入った時に本日三回目の驚きを感じたよ。

 ……シャンデリアがある部屋って初めてみたぞ、俺。

 

 ★☆★☆

 

 ……さてポケモン達の回復も終わったし俺達はコガネジムに移動し、いよいよ三回目のジム戦に俺は挑む。

 その前にお決まりの受付のアドバイザーに話を聞くのを忘れない、コレって意外と役に立つからな。

 

「おーす、未来のチャンピオン! このジムはノーマルタイプの使い手が集まってる。

 そしてリーダーのアカネはダイナマイトプリティギャルだ! だが見た目に騙されるなよ。彼女はスタイルもバトルの腕も一流だぞ、ガンバれよ!」

 

 ……俺は帰りたくなった、いや帰らんけど。

 何だよ、その死亡フラグ!?

 え、何? ここのジムリーダーは女の子なの!? しかもダイナマイトプリティギャルって言い方古過ぎね!?

 アレか、ボンキュンボンでだっちゅうのなボディコンか!?

 ……いかん、思考が脱線した。

 

 俺は恐る恐る横に居るクリスを見た。

 ……案の定クリスはドス黒いオーラを漂わせてた。

 

「ク、クリス?」

 

「あぁ゛? 何かしらゴールド?」

 

 ……本当に帰りてぇ。

 だがここで頑張らねば、このジムは血の海に沈みかねない。

 

「クリス、手を繋いでくれないか?」

 

「えっ!?」

 

「ここジムリーダーは強敵っぽいからな、クリスが手を握ってくれたら勝てる気がするんだ。嫌か?」

 

 ……嘘だけどね、本当はクリスのご機嫌取りだけど。

 

「イヤなワケないよ! うん、手をつなご♡」

 

 ……作戦成功、やったね。

 俺達は手をしっかり繋ぎジムの中を進む。

 

「絶対手を離すなよ?」

 

「うん♡」

 

 ……俺とジムのみんなの為にな。

 

 

 

 

 ★☆★★

 

 

「お姉さんを負かすなんてすごーい! やっぱり彼女の応援のおかげでがんばれたのかなー?」

 

「強いねキミ。強い男の子は好みだけどキミには彼女がいるのよね、残念」

 

「いいなぁラブラブな恋人がいて、ねぇ付き合ってどれ位なの?」

 

「うーん、こんなお子様にも恋人がいるのよね、なんか落ち込んじゃう……」

 

 以上ジムトレーナーの皆さんの敗北後のコメントでした。

 ……全員が俺達を恋人だと思っとるな。

 そしてクリスは上機嫌、まぁ恋人同士に見えるのが嬉しいんだろ。

 ……本当はツッコミたいがクリスの機嫌が悪くなると困るから俺は我慢してる。

 

 にしてもここのジムは女性しか居ないな。

 ……クリスが居なけりゃ是非ともゆっくり滞在したかった、仕方ないけどな。

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

「はーい、ウチがアカネちゃんやでー!

 なんやアンタら? イチャつくんなら他いってぇな、彼氏のいないウチにはキツイでかんわ!」

 

 プルン! プルン!

 

 ……アカネちゃんの第一印象は……デカい。

 いや身長がデカいんじゃ無くて胸がね。

 アレは男ならどうしても目がいってしまう。

 アカネちゃんて多分まだ十代だろ? 何食べたらあんなにデカくなるんだ?

 

「ぷぅ!」

 

 ……そしてクリスはプリンみたいに頬を膨らませて俺の腕に強く抱き着く。

 んな対抗しなくてクリスも十歳にしては発育は良いぞ?

 ただアカネちゃんが規格外なだけだからな。

 ……だから胸を腕に押し付けんでくれるかな?

 

「ホンマ仲えぇな自分ら。なぁなぁ名前教えてんか?」

 

「俺はゴールド、んで俺に抱き着いてるコイツはクリスだ。

 自己紹介もしたし、そろそろ勝負を始めない?」

 

「せやな、だが言うとくけどウチめっちゃ強いで? 覚悟しぃや」

 

 お互いにボールを構えて勝負の体制に入る。

 ……俺はクリスに腕を抱き着かれたままだがな。

 

「気張っていくでミルちゃん!」

 

「ミィルゥ!」

 

「出番だ、イシツブテ!」

 

「イッシャイ!」

 

 アカネちゃんのポケモンはミルタンクか。

 ……アカネちゃんにピッタリのポケモンだな、色んな意味で。

 おっと勝負に集中集中。

 

「イシツブテ、『まるくなる』だ!」

 

「イッシ!」

 

 イシツブテは岩タイプだからノーマルタイプの技の威力は半減出来る。

 その上で防御力を上げればカナリ有利になる筈だ!

 

「ほならコッチは『メロメロ』いくで!」

 

「ミッルゥ!」

 

 なんですと!?

 あーっ! イシツブテの目がハートに……これでイシツブテはメロメロ状態になってしまった。

 

「続けていくで! 『ころがる』んやミルちゃん!」

 

「ミッルー!」

 

「イシツブテ、『マグニチュード』で応戦しろ!」

 

「イ〜シ〜♡」

 

 ダメだ、イシツブテはミルタンクにメロメロで技が出せない!

 そしてイシツブテにミルタンクの攻撃が当たる……

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……その後の展開は一方的だった。

 アカネちゃんの『メロメロ』から『ころがる』と『ふみつけ』を使う戦術にイシツブテ、バタフリー、オオタチ、ヤドンと立て続けに俺のポケモン達はやられていった。

 

「……残ってるのはお前だけだ。頼むぞ、マグマラシ!」

 

「まっぐぅ!」

 

 ……大丈夫、マグマラシは俺のチームのエースだ。

 それにミルタンクもイシツブテ達に受けたダメージが溜まってる筈……

 

「ミルちゃん、『ミルクのみ』で回復やで!」

 

「ミッルゥ♪」

 

 ……嘘でしょ、ここで回復するかよ。

 

「……クソ! マグマラシ、『ひのこ』だ!」

 

「まっぐー!」

 

「炎タイプのマグマラシに『メロメロ』は必要無いわな。ミルちゃん、『ころがる』で一気に倒しぃな!」

 

「ミルミル!」

 

 ミルタンクは『ひのこ』を受けながらもマグマラシに突っ込んでくる。

 ……そしてマグマラシは『ころがる』に轢かれる。

 

「まっぐー!?」

 

 マグマラシは何度も轢かれ……体力が尽きて気絶する……戦闘不能だ。

 ……これで俺の手元に戦えるポケモンは居ない。

 俺はジムリーダーのアカネとの勝負に負けた……

 …… …… …… ……俺は目の前が真っ暗になった。

 

 

 その後俺は疲れて動けないポケモン達を庇いながら急いでポケモンセンターに戻るのであった。

 ……こうして俺の三回目のジム戦は俺の敗北で幕を閉じた。

 



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第三十六話 気持ちの切り替えとデートの約束

 ……あの牛女は許さない。

 ……あの牛女はアタシのゴールドをその下品な胸で誘惑した。

 ……アタシのゴールドを叩きのめし、落ち込ませた。

 ……アタシのゴールドをアタシのゴールドをアタシのゴールドを…………

 ……あの牛女はアタシが始末してやる。

 ……あの無駄にデカい乳を切り取ってポッポ達の餌にしてやる。

 ……あの無駄に長い足をへし折ってアタシの前でひれ伏してもらうわ。

 ……あの耳障りなコガネ弁を二度と出せないようにノドに焼けた蝋を流し込んでやる。

 ……アカネ、アンタをアタシは絶対に許さない。

 

 ……だが今はゴールドが心配。

 ゴールドはポケモン達を回復させた後、宿泊施設の部屋に籠もってしまった。

 勿論アタシも一緒にいこうとしたけどゴールドは「……暫く一人にしてくれ」とアタシを部屋に入れてくれなかった。

 

 ……それが約二時間ほど前、アタシはその間ゴールドが気になってセンター内をウロウロしてる。

 ゴールドは落ち込んでるの? ゴールドは大丈夫?

 そんな事を二時間ずっと考えていた。

 ……ゴールドが気になってセンターの外に出る気にはアタシはなれなかった。

 ……もういいよね? ゴールドに会ってもいいよね?

 

 アタシはゴールドがいる部屋の扉をゆっくりと開ける、ゴールドを励ますために。

 

「……う~ん、あの時は『まるくなる』じゃなくて最初から『マグニチュード』を……いや、どのみち『メロメロ』食らったら一緒か。なら……」

 

 ……あれ? ゴールドは落ち込んでない?

 なんだか一人でブツブツと言ってるけどアタシが思ってたより元気そう。

 

「……そもそも最初にイシツ……て、なんだ、クリス居たのか?」

 

 て、アタシに気づいてなかったのゴールド!?

 

「ひっどーい、アタシはゴールドをすっごくすっごく心配してたのよ! でもゴールドが元気になってよかった」

 

「……心配掛けてすまんかったな」

 

 そう言うとゴールドは微笑みながらアタシの頭をヨシヨシしてくれた。

 ……はぁ、シアワセ♡

 

「でもゴールド、あんなに落ち込んでたのにもう立ち直ったの?」

 

 アタシはゴールドに聞く、だってセンターについた時すごく暗い顔してたんだもん。

 未来の妻として心配だったんだもん。

 

「あぁ確かにアカネちゃんに負けたのはショックだったよ、俺って今までポケモンバトルで無敗だったから余計にね」

 

 そういえばゴールドが負けたのは初めてだったわ。

 ……あのデカ乳女め、アタシのゴールドに黒星をつけた事を後悔させてやる。

 

「……だがそれと同時にアカネちゃんにも感謝もしてるよ」

 

 ……え、今なんて?

 

「俺は多分勝ちすぎて天狗になってたんだ。それが心に油断を作り、その油断が原因で負けた………だがアカネちゃんに負けた事で俺は気を引き締め直すことが出来た、本当にありがたい事だよ。

 ……確かに負けたのは悔しいよ、だからと言って何時までも落ち込んでて良いことにはならない。

 それよりアカネちゃんに勝つ為の対策を考える方が有意義だ!」

 

 ……ゴールドはやっぱりスゴイ、そして大人だ。

 ……アタシはアカネを潰す事しか考えてなかったのにゴールドはクヨクヨせずに次の事を考えてる。

 ……アタシと違ってすごく前向きだ

 

 ……今のアタシってゴールドと釣り合って無いよね。

 アタシはゴールドにちっとも追いついてない、ゴールドの為に大人になるって誓ったのに……

 

「ん? どうしたクリス?」

 

「なっ、何でもないよ! ただゴールドが元気になってよかったって思ってるだけだよ!」

 

 ……アタシはゴールドを励ましにきたのにアタシが落ち込んじゃダメよ。

 アタシは落ち込みかけた気持ちをこらえて笑顔を作る、ゴールドにこの暗い気持ちを悟られないために。

 

「……そっか。なぁクリス、明日少し付き合ってくれないか?」

 

「えっ!?」

 

「確かに気持ちは切り替えたんだが、それでも明日はなんか思いっきり遊んでリフレッシュしたい気分なんだよ。まぁクリスが嫌なら仕方ないけど」

 

「イヤなわけないよ! いくいく!! いくわよ!!!」

 

 これってデートのお誘いだよね?

 ……ふへへ♡ やったぁ明日はゴールドとデートだぁ♡

 どこ行こうかな? コガネ百貨店には一度行ってみたかったのよね。

 あとは自然公園も!

 それからぁ……

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……やれやれ、クリスはやっと何時もの調子に戻ったな。

 クリスは嬉しそうに体をクネクネさせてる。

 おそらく明日の事を考えてるんだろう。

 ……たく、俺を心配して俺のところに来たのにクリス自身が暗い顔したら俺が心配するってぇの。

 

 クリスに言ったことは半分本当で半分嘘だ。

 確かに負けたことに関してはアカネちゃんに感謝してるし次の戦いの事を考えてるのも本当だ。

 ……だが気持ちは完全には切り替えられては無い。

 正直まだ悔しいし胸の奥がムカムカする。

 

 ……だが俺の話を聞いたクリスは暗い表情をした。

 それで俺は咄嗟にクリスに遊びに行かないかと誘ったんだ。

 まぁ直ぐに再戦する気にもなれなかったし丁度良かったかな。

 

「ふへへ、デートぉ〜♡」

 

 ……本当に幸せそうな顔しやがって。

 何かクリスを見てたらさっきまであった悔しい気持ちは小さくなった気がする。

 ……ありがとうよ、クリス。

 明日はいっぱい遊ぼうな。

 



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第三十七話 コガネシティでデート その一

 オッス、俺ゴールド。

 昨日約束したとおり今日はクリスと思いっきり遊ぶつもりだ。

 その為に俺はセンターのロビーでクリスを待ってる。

 現在の時刻は朝の八時五分か……おっかしいな、八時にクリスと待ち合わせる約束なのに。

 何時ものクリスなら時間より遥かに前に俺の部屋の前で出待ちしてるのにな?

 

「ごめ〜んゴールド! 待ったぁ?」

 

 とか言ってたらクリスが来た。

 俺はクリスに挨拶しようとした。

 

「オッス、おは……ょぅ」

 

 俺は思わず言葉を失った。

 ……クリスが何時もと違う?

 

「どうしたのゴールド?」

 

 ……クリスの服装が何時も着てる服じゃない。

 白いワンピース、赤い靴、髪も何時ものツインテールでは無く下ろしてロングにしてる、そして頭には可愛らしい小さな花の髪留めを、少し化粧もして色気もある、そして手には少し大きめのバスケットを持ってる。

 

「……いや、そんな服持ってたんだなって思って」

 

「えへへ♪ ゴールドの為にがんばってオシャレしたんだよ。かわいい?」

 

 クリスは上目遣いで俺に聞いてくる。

 

「……あ、あぁ。か、可愛い……よ」

 

 ……いやマジで可愛いんだよね。

 普段の活発な印象は鳴りを潜め、代わりに清楚な女らしさが全面に出てる。

 女の子はお洒落すると変わると言うが本当だったな。

 

「ふへへ♡ ありがとうゴールド♡♡」

 

 そう言いながらクリスは俺の腕に抱き着く。

 ……クリスに抱き着かれるのには慣れてる筈なのに衣装が違うだけで俺の胸はドキドキする。

 

「と、とりあえず朝飯を食いに行こう」

 

「うん♡」

 

 ……俺が動揺してるのクリスには気付かれて無いよね?

 気付かれてたら恥ずかし過ぎて死ねる。

 

 ★☆★☆

 

【とあるカフェ】

 

 俺達はセンター近くのオシャレなカフェで朝食を食べてる。

 因みにポケモン達の食事はセンターで済ましたので食べてるのは俺とクリスだけなんだけどな。

 

「ここのパンケーキおいしいね♪」

 

「……あぁ」

 

 ……正直俺はクリスが美味しいと勧めてくれたパンケーキの味を楽しむ余裕はない。

 

「どうしたのゴールド? パンケーキはキライだった?」

 

「いやそんな事無いぞ! うん、このパンケーキは美味いな!」

 

 ……などと言って誤魔化してるが俺の内心は気が気でない。

 理由は周りの視線。

 今日は日曜日だからこのカフェもお客さんが多い。

 そしてその沢山の人の視線は俺達……いやクリスに集中してる。

 

 クリスは元々顔立ちが綺麗だ。

 そして今日はお洒落してるから更に可愛らしくなってる。

 ……身内の贔屓無しで言ってもその辺のアイドルより可愛い。

 

 そんな美少女がよりによって店の真ん中の席に俺みたいな冴えない男と一緒に居るからすっげー注目を集める。

 ……心臓に悪いから早く店を出たいぞ。

 

「……クスッ。ねぇゴールド、あ~ん♡」

 

「ク、クリス!?」

 

 クリスがホークに刺した一口大のパンケーキを俺の口に運ぼうとする。

 待て、この状況で「あ~ん」は止めてくれ!

 これ以上注目を集めるのはマジでキツイぞ!

 

「ゴールド、あ~んしてよ!」

 

「……いや、だってな……」

 

「あ~ん!」

 

「……」

 

「あ~ん!」

 

「……」

 

「あ~ん!」

 

「……あ、あ~ん……」

 

 ……無念、俺の根負けだ。

 

「はい、あ~ん♡ おいしい?」

 

「……モグモグ……あ、あぁ。美味いぞ」

 

 よく頑張った俺! 偉いぞ俺!

 俺はこの死線を超えたんだ!

 

「うふふ♡ じゃあ、今度はアタシに食べさせて♡」

 

 え゛!?

 

「お願いゴ〜ルド♡」

 

 ……今この瞬間、俺は己の限界を超える為に羞恥心を捨てる事にした。

 チクショー、こうなりゃヤケだ!

 俺は意を決してホークにパンケーキを刺しクリスの口へと運ぶ。

 

「……ク、クリス……あ、あーん」

 

「あ~ん♡」

 

 こんな感じで食べさせ合いはそれから十分程続けた。

 その間周囲の視線が微笑ましい物を見る目だっだのが幸いだと思う事にする。

 そして俺は心のHPをゼロにしながら店を出るのであった。

 ……なんか昨日のジム戦より疲れたぞ。

 

 ★☆★☆

 

【コガネ百貨店】

 

 非常に疲れるモーニングを終えた俺達はコガネ百貨店に来た。

 ……ここも広くてデケェぜ、この街はありとあらゆる物がデカイな。

 俺達は一階から順に各フロアを見て回ってる。

 

「みてみてゴールド♪」

 

「……なんだそれ?」

 

「ベトベトンのヌイグルミだって♪」

 

 そう言うながら楽しそうにクリスの顔程あるヌイグルミを抱えてる。

 

「かわいいでしょ♪」

 

 可愛い、か?

 これがピカチュウやピッピなら分かるがベトベトンはどう見てもゲテモノだぞ?

 偶にクリスの感性が分からんくなるな。

 

 ★☆★☆

 

 さて、お次は『技マシン』売り場に俺達は来た。

 

「『ほのおのパンチ』か、それとも……」

 

 で、俺はどれを買うかで悩んでる。

 正直全部欲しいが予算の都合で一つしか買えないんだよね。

 三色パンチはどれも追加効果が優秀で威力もそこそこあるから本当に迷う。

 ……使う予定は今のところ無いけど。

 

 因みにクリスは俺の腕に引っ付いて隣の棚を見てる。

 う~ん………………よし、決めた。

 

「クリス、会計に行くぞ」

 

「きまったの?」

 

「あぁ、コレにすることにしたよ」

 

 俺達はレジに行き会計を済ました。

 するとレジの女の人が……

 

「お買上げありがとうございます♪

 えー、只今キャンペーンをしてまして、毎週日曜日に技マシンをご購入されたお客様のポケモンを私に見せて頂き、もしポケモンが最高に懐いていたらこちらの技マシンをプレゼントします」

 

 マジか、それはお得だな。

 俺は腰のモンスターボールに手をかけて……ふと、もう片方の腕に引っ付いてるクリスを見た。

 ……クリスはプレゼントの技マシンを物欲しそうに見てる。

 

「……クリス、お前が貰えよ」

 

「……いいの?」

 

「俺は今買った技マシンがあるからな、コレはお前に譲るよ」

 

 まぁ俺が貰ってそのままクリスにあげても良いんだけどね。

 でもせっかくならクリスもポケモンのなつき度も知りたいだろうし。

 

「ありがとう♡ 出てきてトゲピー♪」

 

「トゲピ〜♪」

 

 クリスのボールから元気良くトゲピーが飛び出した。

 

「優しい彼氏君ですね♪ ではトゲピーちゃんを拝見しますね」

 

 ……彼氏じゃないです、と言いたいがクリスの機嫌を損ねない為に俺は喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 女性はトゲピーの目をじっと見つめてる、あれで分かるのか?

 

「はい、このトゲピーちゃんはアナタの事を最高に信頼してますね。

 おめでとうございます、お約束通り、こちらの『おんがえし』の技マシンをプレゼントします♪」

 

「ありがとうございます♪」

 

 クリスは満面の笑みで技マシンを受け取る。

 

「良かったなクリス」

 

「トゲトゲピー♪」

 

「本当にありがとうゴールド、トゲピー♡」

 

 クリスが喜んでくれて何よりだ。

 さて買い物を続けるか。

 俺達は技マシンコーナーを後にした、次は何処に行くかな?

 

 ★☆★★

 

 ……ふぅ疲れた。

 俺は屋上の休憩コーナーに来てベンチに座ってる。

 ポケモン達のご飯やら傷薬やらいっぱい買い込んだから荷物が多くなってしまった。

 当然持ってるのは俺、こういう時は昔から男が荷物持ちと決まってるから仕方ないな。

 

「ゴールド、ジュース買ってきたよ」

 

 お、来たな。

 クリスには直ぐ下の階に飲み物を買いに行って貰ってた。

 

「はい、ミックスオレでよかったよね?」

 

「クリスありがとう」

 

 クリスは俺にミックスオレを渡すと俺の横に座る。

 相変わらず肩が触れそうなぐらい近く座るのはクリスらしいな。

 

「いい天気だねゴールド」

 

「あぁ本当に。晴れてよかったな」

 

 二人で飲み物を飲みながら屋上からの景色を楽しむ。

 ……あっちがワカバタウンの方だな、望遠鏡で見たら俺の家も見えるかな?

 

「ねぇゴールド、お腹空いてない?」

 

「……そいや少し空いたかもな」

 

 今は正午を少し回ったくらいか、なら次は昼飯を食いに行くかな。

 

「でしょでしょ♪ だ・か・ら……ジャーン!」

 

 クリスは手に持ってたバスケットを開けて俺に見せた。

 ……中にはサンドイッチがぎっしり詰まってた。

 パンの切り口が不揃いだから多分手作りだろう。

 

「……ひょっとしてクリスが作ったのか?」

 

「うん! センターのキッチンを借りてがんばって早起きして作ったんだよ」

 

「なるほど、だから今朝は待ち合わせに少し遅れたんか」

 

「それはごめんね、夢中になって作ってたら時間を忘れちゃったの。

 それより早く食べてよゴールド♪」

 

 俺はサンドイッチに手を伸ばす。

 中はカツサンド、ハムサンド、タマゴサンド、野菜サンド……俺の好きな物ばかりだな。

 その中から俺はハムサンドを掴みそのまま自分の口に入れる。

 

「……モグモグ……美味いな」

 

「本当に?」

 

「あぁ、本当美味いぞ」

 

 お世辞じゃなくてマジで美味い。

 カラシが少し効いて俺好みの味付けだ。

 

「ふへへ、ねぇねぇゴールド、もっと食べてよ♡」

 

「分かった、これならいくらでも食べれるよ」

 

 こうして俺達の昼食はゆっくり穏やかに進んでいった。

 ……補足するとバスケットの中身の大半を俺が食べた為に俺の腹は張り裂けそうな位にパンパンになってしまった、ゲップ!

 



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第三十八話 コガネシティでデート その二

 ハァイ、アタシはクリス♡

 今ね、うふふ……ゴールドとデート中なの♡

 

 ねぇねぇ聞いて、ゴールドたら可愛いのよ。

 アタシが待ち合わせにわざと遅れて行くとゴールドったら顔をポカーンってしてアタシを見てたのよ。

 アタシが聞くとね、ゴールドったら顔を真っ赤にしてアタシを褒めてくれたのよ。

 アタシが抱き着くとビクってしてね心臓をドキドキさせてるのよ♡

 本当にゴールドったらウブで可愛いんだもん、アタシその場で襲いそうになっちゃった♡

 

 ジョーイさん達のアドバイス通り少し遅刻してよかったわ。

 ジョーイさんがね、「デートの時は男を少し待たした方が絶対にいいのよ!」って言ってくれたの。

 本当にその通りだった、ありがとうジョーイさん。

 

 あと朝食でいったカフェでね、アタシ達が周りの注目を集めるからってすっごい緊張してたのよ♪

 だ・か・ら・アタシは少しゴールドにイジワルしたの。

 アタシがおねだりすると、ゴールドったらガチガチになって「あ~ん」するんだもん、本当に可愛いかったわ♡

 うふふ、あのパンケーキは今まで食べた中で一番おいしかった、だってゴールドが食べさせてくれたんだもん♡

 

 それからコガネ百貨店にいったの。

 ポケモン達のご飯を買ったり、ヌイグルミで遊んだり、あと『おんがえし』の技マシンを貰ったわ。

 ……その時にトゲピーがアタシのことを慕ってくれてるってわかって嬉しかったな。

 

 お昼は百貨店の屋上で二人でベンチに並んで食べたの。

 アタシが作ったサンドイッチをゴールドが「美味い、美味い」って、いっぱい食べてくれたの。

 へへへ、アタシはゴールドの好みは完全に把握してるからゴールドの好きな物をいっぱいいっぱい作ったんだもん♪

 早起きして作ってよかった、だってゴールドがすっごく喜んでくれたんだもん♡

 

 ★☆★☆

 

 その後アタシたちは買った物を置くために一度ポケモンセンターもどってきたの。

 今ゴールドは宿泊施設の部屋に荷物を置きにいってる。

 で、アタシはジョーイさん達に午前あったことを報告してるの。

 

「「「キャーッ、羨ましい♡」」」

 

 ジョーイさん達は楽しそうにアタシの話を聞いてくれてる。

 

「いやぁ初々しいわね♪ うんうん」

 

 この身長の高いジョーイさんにはサンドイッチを作るのを手伝ってもらった。

 アタシが昨日、キッチンを使わせてもらえるか頼みにいったら「彼氏にお弁当を作るから使わして欲しいの!? え、明日デートするですって!?

 よっしゃぁお姉さんに任せて! アタシが徹底的にサポートしてあげるわ!」って、言ってくれた少し強引だけど優しい人。

 この人に教えてもらいながらお弁当を作ったのよ。

 

「なにそれ〜、アンタおばさん臭いわよ。あっ、それよりクリスちゃん、お化粧直して上げるね♪」

 

 こっちの少し小柄なジョーイさんはアタシのオシャレを手伝ってもらった。

 アタシがデートするのをさっきのジョーイさんから聞いて「それならワタシがコーディネートしてあげるわ♪

 クリスちゃんは元が良いからアイラインとリップだけでも大分変わるわよ!」って、アタシにメイクしてくれて服もコーディネートしてくれた。

 アタシは今までメイクした事なかったけど、ナチュラルメイクでもこんなにも変わるなんて知らなかったわ。

 

「いいなぁクリスちゃん。あたしなんか最後にデートしたの学生の時ですよ。この職場って出会いなさすぎですよね先輩」

 

 このグチをいってる少し若いジョーイさんには今朝いったカフェを教えてもらった。

 それ以外にもコガネシティのオススメの店をいっぱい教えてもらったの。

「コガネシティの店であたしが知らない店はないよ。……だって休日は女友達と食べ歩きかショッピングしてるからね……シクシク……彼氏欲しぃ……」って少し可愛そうな人。

 

 ……ゴールドのいったとおりだった。

 人と話すと今まで知らなかった事をいっぱい教えてもらえるのね。

 

「こらー!! あんた達サボってるんじゃないよ!!!」

 

「ゲッ゛、主任に見つかった。二人とも仕事に戻るよ。じゃあクリスちゃん、午後も頑張ってね♪」

 

「ふへぇ〜もう少し話しを聞きたかったのに……クリスちゃん、また今度続き聞かせてね♡」

 

「あぁ先輩達、置いて行かないで下さい! クリスちゃん、またね♪」

 

「は、はい。ジョーイさん達もお仕事がんばってください」

 

 ジョーイさん達は慌ただしく去っていった。

 ……ありがとうございます、アタシがんばります!

 

「悪いクリス、荷物の整理に手間取った……て、クリスどうしたんだ?」

 

 あ、ゴールドがもどってきた♡

 

「なんでもないよ〜♪ さぁゴールド、デートの続きしましょ♡」

 

 うふふ、午後もいっぱい、いーっぱいゴールドと楽しむんだからね♡

 

 ★☆★☆

 

【地下通路】

 

 俺達は今、地下通路に来てる。

 クリスに「腕のいいポケモン美容室があるからいってみたい♡」って強請れたんでな。

 ……尚クリスは相変わらず俺の腕に引っ付いて歩いてる。

 

「待ちなよ君たち」

 

 歩いてると眼鏡を掛けたひょろひょろの男に呼び止められた。

 

「ふっ、ここは子供の来る場所じゃないぜ」

 

 その後ろからはマントを羽織った変な男が。

 

「イチャイチャと見せびらかしちゃって、この糞ガキ共め!」

 

「……少しお仕置きしようぜ。お子様に世間の厳しさを教えてやるんだよ」

 

 更に二人、俺達は四人の男に囲まれた。

 何なんだよ、こいつら?

 

「……なぁ、こっちの女の子メッチャ可愛くね? 糞ガキ懲らしめたらこの子で楽しもうぜ」

 

 ……ブチッ!!

 

「……あんた等、俺のクリスに何しようってんだ?」

 

 ……俺の堪忍袋の緒が切れた。

 ……こいつ等が何もんかなんか関係ぇねぇ、クリスに手ぇ出すなら容赦しねぇぞ。

 ……徹底的に潰してやる。

 

「……ゴールド、半分はアタシに任せて。こいつ等にデートのジャマした事を後悔させなきゃアタシの気が済まないわ!」

 

 ……クリスも怒ってるな、当たり前か。

 

「……良いぞクリス。ただしポケモンバトルで後悔させるんだからな、直接手は出すなよ?」

 

「……わかってる、アタシもアイツ等の汚い血でお気に入りのワンピースを汚したくないもん」

 

 ……なら大丈夫か。

 

「……いくぜクリス!」

 

「うん!」

 

 ……さぁバトルだ!

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

「ひぃぃぃ!!」

 

 ……弱い。

 

「つ、つぇぇ! このガキ強すぎるよ!」

 

 ……こいつ等弱すぎる、アカネちゃんに比べたら弱すぎて話にもならん。

 

「……クリス、そっちは終わったか?」

 

「……終わったよ。弱すぎて全然歯ごたえなかったわ」

 

「トゲッピー!」

 

 ……クリスの言う通りだ、こいつ等この程度で俺達に絡んできたのか? 身度ほど知らずめ。

 

「……おい、今日のところは見逃してやる。だが次に俺達の前に姿見せてみな」

 

 ……俺はゆっくりと首を切るように親指を動かす。

 

「「「「ひぃぃぃ、すいませんでした!!!」」」」

 

 ……男共は一目散に逃げ出した。

 たく、無駄な時間を使わせやがって。

 

「あ、トゲピーが!」

 

 クリスの声で俺はトゲピーを見る。

 ……トゲピーが光に包まれてく……トゲピーはトゲチックに進化した!

 

「トゲ、チック♡」

 

「進化したのね、おめでとうトゲチック♪」

 

「トゲトゲ♡」

 

 クリスはとても嬉しそうにしてる。

 ……良かったなクリス、おめでとうトゲチック。

 

 先程までの嫌な雰囲気はトゲチックのお陰でなくなったな。

 ありがとうトゲチック。

 

 さぁデートの続きをしような、クリス。

 



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第三十九話 コガネシティでデート その三

【地下通路】

 

「……ひっひっひっひ、ありがとうよ坊や達」

 

 俺達は変な四人組を追い払った。

 そして今度は不気味なお婆さんに声を掛けられた……この地下通路には変な人しか居ないのか?

 

「……どうも」

 

「おばあちゃん誰?」

 

「ひっひっひっひ、そう畏まらんでえぇ。儂はここで漢方屋をしとるもんじゃ。

 あの悪ガキ共はなぁ、ここ最近この地下通路を通る人に集団でバトルを挑んでおってのぉ、お陰でアイツ等を怖がって客か減ってきて迷惑しとったんじゃ。

 何度注意しても聞く耳持たん連中でのぉ、坊や達が追い払ってくれて本当に助かったんじゃ、ありがとう」

 

 傍迷惑な連中だったんだな。

 それだったらもう少しキツめにお仕置しても良かったかな?

 

「これはお礼じゃ、持っていなさい」

 

 俺はお婆さんからコインケースを二つ貰った。

 

「……良いんですか?」

 

「ひっひっひっひ、構わん、構わん。それは少し前にゲームコーナーで大負けした男達がここに置いてったもんじゃからのぉ」

 

「それなら遠慮なく貰います、ありがとうございました」

 

「ひっひっひっひ、こちらこそ本当にありがとう。今度来るときはウチの自慢の漢方を買いに来てくれ、安くしとくよ、ひっひっひ……」

 

 俺達はもう一度お礼を言い漢方屋を後にした。

 

「ねぇゴールド、あのおばあちゃん少し変だけどイイ人だったね」

 

「……だな」

 

 俺はクリスに同意する。

 ……あの不気味な笑い方には慣れそうにはないけどな。

 

 

 ★☆★☆

 

「いらっしゃい、ようこそポケモン美容室へ!」

 

 俺達は目的地であるポケモン美容室に辿り着いた。

 

「僕は美容師兄弟の兄!」

 

「ボクは弟!」

 

「「あなたのポケモンを綺麗に、格好良くしてあげますよ!」」

 

 ……随分仲の良い兄弟だな、息がピッタリだし。

 

「更に今日は特別サービスだ。本来僕は日曜は休みなんだけど今日は弟と一緒に仕事をさせてもらうよ」

 

「更に更に特別サービス、いつもは一匹づつしかポケモンは預かりませんが、今日だけは君達のポケモンを全員格好良くしてあげますよ!」

 

「本当ですか!?」

 

 マジか、超お得じゃん!

 

「はい、ボクたちもあの四人組には迷惑してましたからね。追い払ってくれたお礼ですよ」

 

「どうする? ポケモンを綺麗にするかい?」

 

「「お願いします!」」

 

 俺とクリスは同時に声をあげる。

 こんなにお得ならやらない理由は無いよな。

 

「よーし、美しくするからね!」

 

「少しお時間掛かりますが、その間どうしますか?」

 

 俺達のポケモンは合計九匹。

 全員終わるまで、ここで待つのも時間が勿体無いので俺達はポケモン達を預けてコガネゲームコーナーに行くことにした。

 せっかくコインケースを手に入れたしな。

 さぁ思いっきりゲームで遊ぶぞ!

 

 ★☆★☆

 

【コガネゲームコーナー】

 

 ……あれから俺達は一時間ほどスロットで遊んでる……

 

「楽しいねゴールド♪」

 

 ……クリスは本当に楽しそうに言う。

 そのクリスの横にはコインが山積みされたコインケースが……

 

「……ソウデスネ」

 

 ……俺は棒読みで答える。

 俺の横のコインケースはほぼ空……なんでだーーっっ、何で俺だけ!!

 

 クリスのスロットからはまるで滝の様にコインが出てくるのに、俺のスロットは壊れてるんじゃないかってくらいに当たりが来ない。

 ……一度クリスと台を交代して貰ったが、その時は普通に【777】が出たから壊れてはいないんだけどな。

 

 試しにカードめくりにも挑戦したが、そっちも俺は惨敗、クリスは大当たりを連続で引き当てた。

 ……クリスの運の良さが恨めしい。

 

「あっ、また7が揃ったよゴールド♪」

 

 ……クリス、俺にその運を分けてくれ……

 

 ★☆★★

 

【地下通路】

 

 うふふ、アタシはクリス♪♪

 ゲームコーナーで遊んだアタシたちは地下通路に戻ってきたの。

 アタシは初めてスロットやカードめくりで遊んだけど結構簡単で楽しかった。

 

 でもゴールドは落ち込んでるの。

 ゴールドは楽しくなかったのかな?

 ちなみにコインは景品と交換してないの、だって欲しいものが無いもん。

 

 ケーシィは少し欲しいかなって思ったけど今のアタシにはスリープがいるからエスパータイプは必要は無いの。

 うふふ、スリープってカワイイからアタシは大好きなのよ♪

 

 技マシンは『どくどく』なら欲しいけど無いんだもん。

 ……『どくどく』の技マシンってどこかで売ってないかな、百貨店にも売ってのよね。

 あれば絶対に買うに。

 

 だからゴールドにコインをあげようとしたんだけど、ゴールドが「……止めてくれ、これ以上俺を追い詰めんでくれ」って言うのよ、どういう意味かしら?

 

 そんな事を考えてたら美容室に着いたわ。

 

「やぁ、丁度今終わったところだよ!」

 

「お待たせしました、ポケモン達の確認をお願いします!」

 

 アタシたちはポケモンを受け取る。

 

「「おぉー!」」

 

 アタシとゴールドは同時に驚いた。

 だってみんなすっごいキレイになってるんだもん♪

 

「みんなステキになったね♪」

 

「ベイベイ♪《マスターありがとうございます♪》」

 

「メノッ、メノメノ〜♪《うふっ、とても気持ち良かったですわ〜♪》」

 

「トゲトゲ、トゲチック♪《みてみてママ、ボク前よりも可愛くなったでしょ♪》」

 

「スリープスリスリープ♪《欲を言えば美容師が子供だったらもっと良かったんだけどね♪》」

 

 みんな満足したみたいでよかった♪

 ゴールドのポケモン達も満足してるみたいね、でも……

 

「全員イシツブテを止めろ!」

 

 ゴールドが叫んでる。

 

「イッシ! イッシイッシ、イッシツブテ!《止めんでくだせぇ! せっかく綺麗になったんすよ、お祝いに『じばく』の花火を咲かせやす!》」

 

 イシツブテはゴールドから逃げようとしてるわ。

 

「まぐ~!《ダメだよ~!》」

 

「オオタチタッチ!《こんな所で『じばく』は危ないって!》」

 

「フリ、フリバタフッリィィ!《テメェ、祝いに『じばく』って意味がわからんぞゴラァ!》」

 

「や~どん、やどんやどんどん?《やめるんじゃ、ほらゴールドさんも困ってるじゃろ?》」

 

 それをゴールドとマグマラシ達が取り押さえようとしてる、大変そうねゴールド。

 あ、バタフリーが『ねむりごな』でイシツブテを寝かせたわ。

 ……イシツブテって本当に『じばく』が好きなんだなぁ、でもバトルじゃないのに『じばく』して楽しいのかな?

 多分イシツブテは楽しいのよね?

 

「……ハァ、ハァ。ありがとう、みんな」

 

 ゴールドはポケモン達をモンスターボールに戻したわ。

 あ、アタシもボールに戻さないと!

 アタシも慌ててポケモン達を戻した。

 

「済まなかったなクリス、さぁデートの続きをしよう」

 

 そう言いながらゴールドはアタシに手を伸ばす。

 

「うん♡」

 

 アタシはその手を握る。

 まだ今日は終わらない、まだまだ幸せな時間は続く。

 

「クリス、次は何処に行きたい?」

 

「うんとね〜……」

 

 アタシ達、今とっても幸せです♡

 ね、ゴールド♡♡

 



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第四十話 コガネシティでデート その四

【コガネ ラジオ塔】

 

 オッス、俺ゴールド。

 俺はクリスの要望でラジオ塔に来た。

 だが塔の三階に上がる階段でスタッフに通せんぼされている。

 

「えー、最上階にいけないんですか?」

 

 クリスはスタッフに抗議してる。

 

「すまないねお嬢さん。ここから上は関係者以外は立ち入り禁止なんだよ」

 

 本当に申し訳無さそうに謝るスタッフさん。

 

「……クリス仕方ないよ、諦めよう」

 

 俺はクリスを宥める。

 

「だってジョーイさんにこのラジオの最上階から見る夕日が最高だって教えてもらったんだもん!

 アタシ、ここの夕日をゴールドと見たいのっ!」

 

 あ〜あ、クリスが駄々をこねだしたよ。

 つか夕日なんかそんなに見たいものか?

 どこで見ても変わらんと思うがな。

 

「本当にすまないね。昔はそんな事は無かったんだけど今の局長代わってから急に禁止になったんだよ。

 ……お詫びにラジオカードをあげるから許して、お嬢さん」

 

「ほらクリス、あまりワガママ言うな、スタッフさんが困ってるだろ?」

 

「ぷぅ……」

 

 俺はラジオカードを受け取り、ホッペを膨らませてるクリスを連れてラジオ塔を後にした。

 ……だがラジオ塔の前に居た黒服は何だ?

 まさかまたロケット団か?

 事件に巻き込まれるのは勘弁してほいしいよ。

 

 ★☆★☆

 

【三十五番道路】

 

「なぁクリス、機嫌直せよ」

 

 ぷぅ! アタシたちはラジオ塔を出て自然公園を目指して歩いてるの。

 でもアタシはまだ怒ってる。

 だってジョーイさんに「ラジオ塔の最上階から夕日を一緒に見たカップルはずっと一緒にいられるって噂なんだからね!」って、教えてもらったから絶対に見るつもりだったんだもん、プンプン!

 

「クリス、スタッフさんだって仕事なんがたら仕方ないんだよ?」

 

「だってぇ〜……」

 

「そこの二人、ちょっとポケモンバトルしない?」

 

 ゴールドと喋りながら歩いてるとピクニックガールとキャンプボーイにバトルを挑まれたわ。

 

「イ、イクエちゃん、本当にやるの?」

 

「アキヒロ君、情け無い声を出さない! たまには私の前でカッコイイとこ見せてよ!」

 

 男はかなりオドオドしてる。

 ……情け無い男ね、それに比べてゴールドは堂々として素敵♡

 

「……良いぞ、その勝負を受けよう」

 

 はぁカッコイイ、闘争心を燃やしてるゴールドも素敵だわ♡

 

「ありがとう♪ で、相談なんだけどお互い二人づつ居るからダブルバトルしない?」

 

「……ダブルバトル?」

 

 ダブルバトルって何?

 初めて聞いたわ。

 

「あら知らない? ルールは通常のバトルと一緒なんだけどお互いに出せるポケモンが二匹になるバトルよ。

 私達の故郷で流行ってるのよ」

 

「だ、だから四人が一匹づつポケモンを出して、二対二でバトルしてくれませんか?」

 

 へー、そんなバトルもあるのね。

 

「面白そうだな、俺はやってみたいがクリスはどうだ?」

 

 ゴールドは乗り気ね。

 アタシは…………コレってゴールドとの共同作業よね?

 アタシ達が力を合わせるのがダブルバトルよね?

 ……それって素敵じゃない!

 

「やるわ! うん、ゴールドとのラヴラヴパワーを見せてあげるんだからね!」

 

「あら、あなた達もカップルなのね? でも私達も絆の強さなら負けないよ!」

 

「で、できたら手加減してくれたら嬉しいんですが……」

 

「展開が早過ぎでツッコミ入れるタイミングを逃したぞ」

 

 全員がモンスターボールを構える。

 ……あっちもカップルなら負けられないわ、ゴールドとの愛の強さを見せてやる!

 

「「「「バトル!」」」」

 

「出番だ、マグマラシ!」

 

「まぐ〜!《いくよ〜!》」

 

「任せたわ、ベイリーフ!」

 

「ベイ、ベイー!《はい、マスター!》」

 

 ゴールドはマグマラシ、アタシはベイリーフを繰り出す。

 二人とも絶対に勝とうね!

 

「いくわよ! ピカチュウ!」

 

「ピカチュー!《どうもー!》」

 

「が、がんばって、マリル!」

 

「マリ、ルリル! 《イッツ、ショータイム!》」

 

 相手はピカチュウとマリルね。

 ならベイリーフと相性が良いマリルはアタシ達が相手を……

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』をベイリーフに!」

 

「ピカ、ピカチュー!《ほな、いきまっせ!》」

 

「ベイッ!《くっ!》」

 

 いきなりピカチュウはベイリーフに突っ込んできた!

 ピカチュウの『でんこうせっか』でベイリーフはマグマラシとマリルから引き離されたわ。

 

「ちっ、仕方ない! クリス、そのままピカチュウを相手してくれ。マグマラシ、マリルに『にらみつける』だ!」

 

「まぐっま!《わかったよ!》」

 

「マ、マリル、『まるくなる』だよ!」

 

「マリー、マリル!《うーん、ナンセンス!》」

 

「ご、ごめんねゴールド」

 

 アタシはゴールドに謝る。

 

「……いいからピカチュウの相手しなって。それに俺もマグマラシも弱くは無い、苦手な水タイプのマリル相手でもそう簡単にはやられないさ」

 

 ゴールドはそう言いながらアタシに笑いかけてくれる。

 ……カッコイイなぁ……て、見惚れてる場合じゃないわ!

 ベイリーフに指示を!

 

「ベイリーフ、反撃の『はっぱカッター』よ!」

 

「ベイッリーフ!《さっきのお返です!》」

 

「ピカ! ピカチュ〜!《くぁ! こら強烈でんがな〜!》」

 

 やったわ、『はっぱカッター』が急所に当たった!

 

「やってくれたわね、『でんきショック』よ!」

 

「ピカッチュッ!《儲かりまっかっ!》」

 

「ベイリフ!《そんなもの!》」

 

 草タイプに電気タイプの技は威力が半減する、ベイリーフのダメージは少ないわ。

 これならいける!

 アタシは次の指示を言うとする。

 

「マグマラシ、『えんまく』しながら距離を取れ!」

 

「まぐまぐ〜!《まにあえ〜!》」

 

 マグマラシが『えんまく』を吐きながらベイリーフの側に来た、どうしたのマグマラシ?

 

「ベイ、ベイベイ!?《マグマラシ、大丈夫ですか!?》」

 

「まぐ、まぐ……まぐ、まぐぐ……まぐまぐま《はぁ、はぁ……あんまり、大丈夫……じゃないかも》」

 

 ベイリーフが心配そうにマグマラシに寄り添う。

 マグマラシはかなり息が上がってるわ。

 

「すまないクリス、格好つけたが結構ピンチになっちまった。あのマリルかなり強いよ」

 

 ゴールドの顔にも余裕がない。

 ……そんなに強いの?

 

「ご、ごめんね、イクエちゃん。マリルの『ころがる』を外しちゃって、それで合流されて……」

 

 『ころがる』ってアカネも使ってた技! だからゴールドとマグマラシも苦戦してるのね。

 あの技は外さない限りは威力が上がっていく、おまけに岩タイプの技でマグマラシには効果が抜群だもの。

 

「こらぁアキヒロ君、いつも言ってるでしょ、失敗したからってクヨクヨしない!」

 

「……う、うん」

 

 あっちのカップルは女が男を尻に敷いてるのね……少し羨ましいかも。

 

「クリス、ここから巻き返すぞ!」

 

「うん、いくよゴールド!」

 

 でも男はやっぱり頼りがいがあるゴールドが一番よ!

 

「ピカチュウ、マグマラシに『でんきショック』よ!」

 

「ピカピカッチュ!《ほんま注文多すぎでっせ!》」

 

「マ、マリル、『はらだいこ』してからマグマラシに『ころがる』だよ!」

 

「マリー、マリル!《うーん、クライマックス!》」

 

 まずい、マグマラシに集中攻撃する気だわ!

 

「ベイリーフ、『リフレクター』でマグマラシを守って!」

 

「ベイリーフ、ベイ!《私の後ろに下がりなさい、くっ!》」

 

 ベイリーフがマグマラシをかばって『でんきショック』を自ら受けて、さらに『リフレクター』で『ころがる』からマグマラシを守った。

 ……ごめんねベイリーフ、ありがとう。

 

「まぐまぐま《ありがとうベイリーフ》」

 

「マグマラシ、今度はお前がベイリーフを守るんだ! 『えんまく』!」

 

「まぐまぐま!《わかったよゴールド君!》」

 

 マグマラシの『えんまく』がピカチュウとマリルを包み込む。

 

「ピカチュウ、煙なんか無視して『でんきショック』よ!」

 

「ピカカピカチュウ!《前見えへんのに無理でんがなぁ!》」

 

 ピカチュウの言うとおりに闇雲にはなった電撃は外れたわ。

 

「いくぞクリス! マグマラシ、ピカチュウに『ひのこ』だ!」

 

「ええゴールド! ベイリーフ、『はっぱカッター』をマリルに!」

 

「まぐま〜!《燃えちゃえ〜!》」

 

「ベイリ!《いきます!》」

 

 二人の攻撃が煙の中に吸い込まれる様に放たれた。

 ……そして『えんまく』の煙が拡散してくわ。

 

「ピ、ピカチュウ……《か、敵わんわ……》」

 

「マ、マリー……マ、マリマリル……《う、うーん……ゲ、ゲームオーバァ……》」

 

 ピカチュウとマリルは目を回して倒れてるわ。

 

「やったなクリス、俺達の勝ちだ!」

 

「うん、アタシ達の愛の力で勝ったのよ♡」

 

「……いやそれは……まぁいいや」

 

 ゴールドは何か言いたそうね?

 でも言うのやめたわ、何が言いたかったのかな?

 

 全員がポケモンをモンスターボールに戻したわ。

 

「あ~あ、負けちゃった。君たち強いね、はい賞金ね」

 

「……彼女にかっこわるところ見られちゃったな、ハァ……」

 

 アタシ達は賞金を受け取る。

 

「じゃあまた会ったらバトルしてね。今度は負けないんだから!」

 

「た、対戦ありがとう……できたら次する時は手加減してくれると嬉しいな……」

 

「も~本当に情けないなぁアキヒロ君! じゃあバイバイ、お二人さん♪」

 

 二人は手を繋いで去っていったわ。

 ……何だかんだいって、あの二人はお似合いかもね。

 

「さぁゴールド、アタシ達もいきましょう♪」

 

「うぁっと! クリスいきなり抱きつくな、危ないだろ!」

 

 でもアタシ達のほうがもっとお似合いのカップルだもん♡

 ねぇ〜ゴールド♡♡♡

 



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第四十一話  コガネシティでデート その五

【憩いの広場 自然公園】

 

 俺達は初めてのダブルバトルの後この自然公園に来た。

 ……あのバトルからは色々学ぶ事があった。

 特にマリルの『ころがる』からはアカネちゃんのミルタンク対策のヒントを得た気がする。

 次にアカネちゃんと戦う時は前回みたいにはいかないからな。

 

「ねぇゴールド、アタシとデートしてるんだから他の女の事を考えちゃダメ!」

 

 何故に分かった? クリスはテレパシーでも使えるのか?

 ……本当に有り得そうで怖いわ。

 

「……すまん、すまん」

 

「も~、こんなに可愛い子が隣にいるのに他の子の事なんが考えないでよ!」

 

 たく、自分で自分を可愛いって言うかよ……実際今日のクリスはメチャクチャ可愛いんだけどな。

 

「あ、ゴールド、あのベンチに座ろうよ♪」

 

「そうだな、少し休むか」

 

 俺達は花壇の近くのベンチに二人並んで座る。

 相変わらずクリスは俺と触れるほど近くに座るな。

 

「……お花、きれいだね」

 

「そうだな」

 

 確かに花壇の花は満開で綺麗だ。

 そこに夕陽が当たり花びらが赤く染まって幻想的だな。

 

「も~、こういうときは『クリスの方が綺麗だよ』って、いってよね!」

 

「……おいおい」

 

 そんなの俺のキャラじゃないぞ?

 クリスは頬を膨らませて俺に抗議する。

 しゃあない、少しクリスのご機嫌取りするかな。

 

「少しここで待っててくれ。何か飲み物買ってくるよ、何が良い?」

 

「ありがとうゴールド♪ うんとねぇ、アタシはココアがいいなぁ」

 

「了解、すぐに買ってくるよ」

 

 俺はベンチから立ち上がり飲み物を買いに行く。

 確か公園の入り口に自販機があったな?

 

 

 ★☆★☆

 

 俺は自販機でココアとカフェオレを買って戻ってきた。

 ……そして花壇の前で立ち止まる。

 

「〜♪〜♪」

 

 俺は鼻歌を歌いながら俺を待ってるクリスの姿に見惚れて動けない。

 満開の花達の向こうで白いワンピースを夕陽の色に染め上げて微笑んでるクリスはとても絵になる。

 ……まるで、童話に出てくるお姫様みたいだ。

 

「〜♪〜♪ ……あ、ゴールド。どうしたの、そんたところでぼーっとして?」

 

 クリスに声を掛けられて慌ててクリスに駆け寄る。

 

「……いや、何でもないぞ。ほらココアだ」

 

「変なゴールド?」

 

 俺はクリスにココアを渡しながら今が夕方な事に感謝する。

 ……多分今の俺の顔は照れで赤いだろう、それを夕陽が誤魔化してくれてるからクリスには俺が照れてる事が分からない筈だ……頼むから分からんでくれ。

 俺は照れ隠しの為に買ってきたカフェオレを口に流し込む。

 

 ……今日の俺はどうかしてるな、娘に見惚れて照れるなんて。

 クリスは俺の娘、今までもこれからもそれは変わらない。

 …………本当にそうか?

 クリスと俺は肉体年齢は同じで本当の親子じゃない。

 クリスだっていつかは大人になる、その時俺は…………って何考えてるんだ俺!

 

「……ゴールド?」

 

「ぶぉっ! ごほっ! ごほっ!」

 

 ク、クリスに声をかけられてカフェオレが気管支に入った!

 

「大丈夫ゴールド!?」

 

「だ、大丈夫。少し、カフェオレが、変なところに入った、だけだから」

 

 あー苦し、だがお陰で正気に戻った。

 クリスは俺の娘、それ以上でもそれ以下でも無い。

 俺はクリスの心の病を治しクリスが幸せになる手助けをする。

 俺がクリスに手を出すとか絶対にあってはならん。

 これで間違いないな、よし!

 

 ……いつの間にか日は完全に沈み辺りは暗くなっていた。

 

「……暗くなったしそろそろセンターに帰るぞ」

 

「……そうだね」

 

 俺達はゆっくりとベンチから立ち上がりセンターに向かって歩き出す。

 

「……ねぇゴールド」

 

 そうしたらクリスが声を掛けてきた。

 

「どうしたクリス?」

 

「今日はデートに誘ってくれてありがとう♪ アタシはゴールドが世界で一番大好きだよ♡」

 

 ……俺の顔がまた熱くなるのが分かる。

 つか正気に戻ったんじゃ無いんかい俺!

 その後、俺は一度もクリスの顔を見れないままセンターまで帰った。

 

 

 

 ★☆★★

 

 ……本当ありがとうゴールド。

 アタシ、ゴールドを好きなれて本当によかった。

 

 今日の事は絶対に忘れない。

 一緒に食べたパンケーキやサンドイッチの味も、一緒に歩いた道の感触も、一緒に戦ったバトルの興奮も、一緒に座って飲んだココアと公園の花の香りも。

 

 アタシは今とっても幸せです。

 この幸せはゴールドがくれた物、だからこれから少しづつゴールドに幸せを返していくよ。

 ……貰ってばかりだとゴールドに悪いもの。

 

 ねぇゴールド、アタシにココアを渡してくれた時にゴールドの顔が真っ赤だったよ?

 アタシが気付いてないと思った?

 ウフフざーんねん、ちゃんとわかったよ。

 あれってアタシを女として見てくれたんだよね?

 嬉しいなぁ。

 

 でもアタシが魅力的に見えたんなら最後にキスをしてほしかったわ。

 ゴールドって本当シャイよね。

 少し強引なくらいでも大丈夫なのに。

 アタシはいつでもゴールドを受け入れるよ?

 絶対に拒否しないよ?

 だからいつかゴールドの覚悟が決まったらゴールドからファーストキスしてね♡

 待ってるよ。

 

 ……ねぇゴールド、アタシのパパとママが死んだときのこと覚えてる?

 あの時のアタシは……生きることに絶望してた。

 毎日が地獄で、毎日死ぬ事ばかり考えてた。

 でもその地獄からアタシを救ってくれたのは……ゴールド、貴方だよ。

 

 今のアタシが生きていけるのは貴方のおかげ。

 今のアタシが居るのは貴方のおかげ。

 今のアタシが幸せなのは貴方のおかげ。

 

 アタシの人生はゴールドのおかげで変わった。

 アタシの人生はゴールドがいるから幸せ。

 アタシの人生はゴールド無しでは考えられない。

 

 だからゴールド、今度はアタシがゴールドを幸せにするからね。

 アタシが大人になってゴールドを支えるからね。

 アタシがゴールドを守るからね。

 

 ゴールド、アタシは貴方に感謝してるの。

 もし神様が本当にいるなら神様にも感謝する、ゴールドに出会わせてくれたことに。

 

 ありがとう、アタシを見つけてくれて。

 ありがとう、アタシを救ってくれて。

 ありがとう、アタシの側にいてくれて。

 

 だからゴールド、もう一度言うね。

 アタシはゴールドが世界で一番大好きだよ♡♡♡

 



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第四十二話 衝撃

 オッス、俺ゴールド。

 この前はクリスとデートをしてアカネちゃんに負けたストレスを発散してきた。

 ……その代わりに違うストレスは溜まったが。

 で、今は自然公園でポケモン達と特訓中だ。

 

 ここ数日はここに来るトレーナーや野生ポケモンを相手にレベル上げをしながら対ミルタンク用の特訓をしてる。

 俺もポケモン達もリベンジの為に闘志を燃やし積極的に特訓に励んでるぞ。

 

 尚クリスは初日だけ一緒に居てそれ以降は特訓に同行してない。

 ……少々気になるが正直有り難い。

 あのデートの後、俺はクリスとどう接して良いか悩んでる。

 

 俺にとってクリスは娘だ、それは今も変わらない。

 ……でもそれと同時にクリスを異性として意識してるのも確か。

 俺はロリコンではない、でも俺の肉体年齢はクリスと変わらない。

 ……俺はクリスをどうしたい? 俺はクリスとどうなりたい?

 

 …… …… …… ……ふぅ、分かんねぇや、自分の事なのに。

 とにかく今は特訓しよう。

 特訓しながらもう一度自分の気持ちを整理しよう。

 それが今のところは無難か。

 

 ★☆★☆

 

【コミュニケーションセンター】

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 この前のゴールドとのデートは……ウフフ、言葉では言い表せれないぐらい素敵だったわ♡

 

 その後のアタシは最初はゴールドの特訓に付き合ってたけどそれ以降はセンターでジョーイさん達に料理やメイクの仕方を習ってるの。

 ジョーイさん達は仕事の休憩時間や休みの日にアタシに花嫁修業をしてくれるのよ。

 

 ……本当はゴールドと一緒にいたい。

 でもアタシはゴールドの為に大人になるって誓ったの。

 アタシはゴールドに相応しい女になるの。

 アタシはゴールドの横に並んで生きていきたいの。

 だからアタシはここで花嫁修業するの!

 

「あ、クリスちゃん、午後もし時間あるなら行って欲しい所があるんだけど」

 

 身長の高いジョーイさんにオムライスの作り方を習ってるとジョーイさんにそんな事をいわれた。

 

「はい、大丈夫ですけど」

 

 アタシは必死にご飯を炒めながら答える。

 ……ご飯を均一にケチャップと混ぜるのが難しい、オマケにモタモタしてるとご飯が焦げちゃうし、オムライスって意外と難しいのね。

 

「よかったぁ。で、行ってほしいのは最近新しく出来た自転車屋なの。

 そこの店長が…………まぁアタシの婚約者でね……」

 

「え、ジョーイさん結婚するんですか!?」

 

「シーッシーッ! クリスちゃん声落として!

 騒がれたくないから、まだみんなには内緒にしてるのよ」

 

 ジョーイさんは照れ臭そうにしてる。

 

「そうなんですか? でもおめでとうございます♪ いつプロポーズされたんですか?」

 

 アタシはフライパンの火を止めてジョーイさんに聞く。

 だって気になるんだもん、女の子ならこの手の話に興味あるのに決まってるでしょ?

 

「実は先週されたの……ずっと遠距離恋愛だったんだけどアイツったらいきなりこっちに店を作って、いきなり「やっとお前と一緒になれる準備が出来た」って言い出しやがったのよ。

 もぅアタシの都合考えろってんだ!」

 

 そう言いながらもジョーイさんは嬉しそうにしてる。

 わかる、わかるわ!

 大好きな人がやっと自分の側に来てくれてしかもプロポーズされたら嬉しいもんね!

 

「ジョーイさん、しあせそうですね♪」

 

「ま、まぁね。式はまだまだ先だけどね。

 で、彼の自転車屋があんまり流行ってないのよ。そこでクリスちゃんの出番ってわけ」

 

「アタシの出番ですか?」

 

 なんだろう、アタシが自転車屋さんを流行らすことに何の役に立つのかな?

 

「詳しい事は彼に直接聞いてね。さぁオムライスの続きを作るわよ!」

 

 ……ちなみにその時のオムライスは少し焦げたけど割りとうまくできたよ。

 もう少し上手に作れるようになったらゴールドに食べさせてあげるからね♡

 

 ★☆★☆

 

【どんな所でもスイスイ! 自転車の事ならここミラクルサイクルへ!】

 

 や、やっと着いたわ。

 ここの店って裏道入って更に裏に入らないと着けないのね……流行ってない理由って場所が分かりにくいからじゃないかな?

 アタシもジョーイさんに地図を貰わなかったら辿り着ける自信ないわ。

 

「すいませーん!」

 

 アタシはガラスの扉をゆっくり開けて店に入る。

 ……店の中には様々な自転車がいっぱい置いてあるわ。

 

「はーい、いらっしゃませ!」

 

 奥の部屋から少し細身のお兄さんが出てきた。

 ……この人がジョーイさんの婚約者かぁ、優しそうな人だなぁ。

 

「はじめまして、あのアタシはお客さんでは無くてセンターのジョーイさんにここに来るようにたのまれたのですが」

 

「あー、はいはい。アイツが言ってた子だね。

 ありがとう、僕の頼みを聞いてくれて」

 

「いえいえ。あのー頼みってなんですか?」

 

「それはね、実は君にウチの自転車を乗りまくって貰って宣伝をして欲しいんだよ」

 

 アタシが宣伝?

 

「……いいですがアタシが自転車に乗るだけで宣伝になるんですか?」

 

 自転車に乗るだけなら別にアタシじゃなくてもいいと思うけど?

 

「それは大丈夫だよ。そもそもね、これは彼女のアイディアなんだ。

 彼女が僕の事を心配して「ウチのセンターに凄く可愛い子が宿泊してるから、その子が宣伝してくれたらすぐに自転車が売れるようになるわよ!」って提案してくれたんだよ」

 

 お兄さんは照れ臭そうに、それでも嬉しそうに話してくれた。

 ……アタシも可愛いって言われて少し恥ずかしいかな。

 

「……わかりました、アタシ宣伝します!」

 

 ジョーイさんにはとってもお世話になってるもん、そのジョーイさんの婚約者さんの為ならがんばるよ!

 

「ありがとう、本当に助かるよ。君に乗って欲しい自転車はそれだよ」

 

 お兄さんが指を指した先には折りたたみ式の赤い自転車が飾ってあった。

 ……かっこいいなぁ、でもこの自転車ってアレが無いのかな?

 

「この自転車って荷台はないんですか?」

 

「おや、荷台が必要かい?…………あ、そうか! 例の彼氏君と二人乗りしたいんだね」

 

 ジョーイさんはゴールドの事も話してたのね。

 ゴールドとラヴラヴなのを知られるのは嬉しいわ。

 ……お兄さんの言う通り、アタシは恋人同士が二人乗りでデートするのに憧れてたのよね。

 

「…………なるぼどね、カップル向けに荷台をセットで販売するのも有りだな。

 よし、いいアイディアを貰ったお礼に荷台をつけるよ」

 

 そう言うとお兄さんは短時間で自転車に荷台を取り付けてくれた。

 

「OK、取り付け完了。

 この荷台は頑丈で取り外し可能だから折りたたむ時は外せばいいよ。また取り付ける時はココをココの部分にカチッというまで差し込んでね。

 あと危ないから、くれぐれも中途半端に取り付けた状態で乗らないでね」

 

「ありがとうございます!」

 

 やったぁ、これでゴールドと二人乗りデート出来るわ♡

 

「この自転車はどんな道でもスイスイ走るから色んな場所で乗り回して宣伝してね、頼んだよ」

 

 アタシはお兄さんから自転車を借りた。

 さぁ早速乗り回すわよ!

 

 ★☆★☆

 

【自然公園】

 

「マグマラシ、『ひのこ』だ!」

 

「まぐまぐ!」

 

「ヒマーッ!?」

 

 よっしゃ、マグマラシの攻撃でヒマナッツを倒したぞ。

 俺達の特訓はかなり順調だ。

 ここは大きな公園なだけあって訪れるトレーナーの数も多く、野生ポケモンも沢山いる、特訓には最高の場所だ。

 

 ……だが特訓は順調でも俺の悩みは全く結論を出せてない。

 このままではクリスと顔を合わせるのもキツイんだよな。

 

「……ゴールド〜」

 

 アカン、幻聴までしだした。

 居ないはずのクリスの声を聞くとか俺も末期だな。

 今日は特訓を切り上げて病院にでも行くか?

 

「ゴールド〜!」

 

 幻聴が強くなった、本当に不味いかもな。

 病院に行くのは良いか精神科ってコガネシティにあったかな? ないと困るぞ。

 

「ゴールド、無視しちゃいやぁ!!」

 

 ゴンッ!!!

 

 俺は何かに勢い良く撥ねられて吹っ飛ばされた。

 

「いってぇぇぇ!!!」

 

「ご、ごめんなさいゴールド、大丈夫!?」

 

 吹っ飛ばされた俺は地面に倒れ頭を少し打った。

 倒れたまま頭を擦りながら声のする方を見るとクリスが赤い自転車から降りて俺に駆け寄ろうとしてた。

 ……あの自転車にぶつかったのか? つかクリスは自転車なんか持ってなかった筈だが?

 

「クリスいきなりなんなんだよ!?」

 

「ごめんなさい、勢い余って突っ込んじゃったの!」

 

「たく、俺だったから良かったものの普通の人だったら大惨事だぞ」

 

「本当にゴメンね!」

 

 クリスは謝りながら俺の頭を持ち上げ自分の膝の上に乗せ俺の怪我の状態を確実する……コレって所謂、膝枕だよな?

 …… …… …… ……!!!

 

 俺は慌てて立ち上がりクリスから少し距離を取る。

 

「ゴールド、ケガしてるからじっとしてなきゃダメだよ!」

 

「だ、大丈夫だ! この程度の怪我なんともないぞ!」

 

 怪我よりもクリスに膝枕されて胸の鼓動が早くなってる方がヤバイ……これをクリスに知られる方が色々危険なんだよ。

 

 本当、俺はどうしたんだよ!?

 まさか俺は本当にクリスに惚れ…………ない! ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないない、惚れてなんかない!

 よし、自己暗示完了。

 

 だが本当にどうしたんだ俺!?

 誰か知ってたら教えてくれーーーっっっ!!!

 



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第四十三話 クリスとアカネ

 オッス、俺ゴールド。

 俺はひたすら自然公園でポケモン達の特訓に励んでる。

 クリスとは……その…………少し距離を置いてる。

 俺は……多分……クリスに…………いや違う!

 違うったら違うんだ!!

 ハァ…………ハァ……ハァ。

 

 クソッ、こんな感じで俺は平常ではない。

 ちゃんと俺の中で結論を出さない俺は……クリスと……向き合えそうにない。

 

 俺はクリスと……どうなりたいんだ?

 

 ★☆★☆

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 今ね、夜のサイクリングを楽しんでるのよ。

 ミラクルサイクリングの店長さんに頼まれて自転車の宣伝の為にコガネシティを思いっきり走ってるのよ。

 この街は夜でも人が一杯でとっても賑やかなのよ。

 

 ……本当はゴールドと一緒に二人乗りしてサイクリングしたい。

 でもゴールドは昼の特訓で疲れて、もう寝ちゃったの。

 なんか最近ゴールドと一緒にいる時間が減って寂しいな。

 

「まぐまぐ?《どうしたのクリスちゃん?》」

 

 でもゴールドが護衛としてマグマラシを貸してくれたの。

 マグマラシは自転車の荷台に器用に乗ってるわ。

 ……もぉゴールドったら、本当に心配性なんだから。

 

「何でもないよマグマラシ」

 

 この街にいて危険なことなんてあるはず無いのに。

 第一もし何かあってもアタシにもベイリーフ達がいるのに。

 でもそれだけアタシを大切にしてくれるのは嬉しいかな♡

 

 ふぅ、夜風が気持ちいい。

 たまには夜更かしするのも悪く無いわ。

 でも普段はゴールドが絶対許してくれないのよね、「子供が夜更かしするもんじゃない!」って本当にきびしいのよ。

 本当ゴールドって過保護なんだもん。

 

 ……そういえば此処どこだろう?

 こんな道コガネシティにあったかな?

 …………あれ、アタシ考え事しながら走ってて迷子になった?

 

「……ねぇマグマラシ、此処がどこかわかる?」

 

「まぐまぐ、まぐまらし《わかんないよ、だって僕は普段はモンスターボールの中にいるもん」

 

 ですよね~。

 ……まずいなぁ、センターに帰れないって事はないと思うけど、あんまり帰りが遅くなるとゴールドやジョーイさん達が心配するかも。

 

「……まぐまぐまぐあらし?《……ひょっとして迷子になったの?》」

 

「あはは…………はい……迷子になりました。ゴメンねマグマラシ」

 

 アタシは素直にマグマラシに謝る。

 ……本当ゴメンね、アタシの迷子に巻き込んじゃって。

 

「まぐまぐまぐま!《だったらトゲチック君に頼んで空から道を確認してもらえばいいよ!》」

 

「それよっ! ありがとうマグマラシ!」

 

 空が飛べるトゲチックに誘導してもらえばすぐにセンターに帰れるわ!

 アタシは急いでモンスターボールを取り出し空に向かって投げる。

 

「出てきて、トゲチック!」

 

「トゲチク〜?《呼んだママ〜?》」

 

「お願いトゲチック、空からセンターに帰る道を教えて!」

 

「トゲトゲ♪《任せてよママ♪》」

 

 トゲチックは大きく飛び上がり数回周りを見渡すと戻ってきた。

 

「トゲチックトゲ、トゲ♪《道がわかったよ、ママついてきて♪》」

 

 よかった〜、これで迷子脱出よ!

 

「まぐまっぐ♪《よかったねクリスちゃん♪》」

 

「うん、ありがとうトゲチック、マグマラシ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 あれからトゲチックの道案内ですぐに大きな通りに出たわ。

 アタシったら知らないうちに裏道に入って町外れまで走ってたのね。

 

 ……そして今、アタシの目の前にはコガネジムがある。

 …………ゴールドはアカネ……さん……に感謝してるからアタシが恨むのは筋違い、それは分かってる。

 それでも……アタシの……心は…………

 

「トゲチク、トゲチックトゲ?《ねぇねぇママぁ、ジムに明かりが点いてるよ?》」

 

「まぐまぐ、まぐまぐまぐ?《本当だ、こんな夜遅くまで何やってるんだろう?》」

 

 ……確かに変だわ、とっくにジムの営業時間は終わってるはず。

 アタシ達は好奇心に負けてジムの窓から中を覗く。

 すると中には……

 

「ミルちゃん、『ころがる』でフィールドを十往復するんや!」

 

「ミルッ!《ほいなっ!》」

 

 アカネ……さん……とミルタンクがこんな遅くまでトレーニングしてる。

 二人とも汗だくでとても真剣そうだわ。

 

「トゲトゲ、トゲチク〜《ねぇねぇ、僕にも見せてよ〜!》」

 

「まぐま、まぐまぐ!《トゲチック君、押したら危ないよ!》」

 

「二人とも、あんまり大きな声出さないで!」

 

 あまり大きな音を出すと気づかれ……

 

「ん!  誰やコソコソ覗いてんのはっ!?」

 

 ……ちゃった、どうしよう…… 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

「すまんなぁ大声出したりして。ウチはてっきりスケベな男が覗いとるんかと思ったわ」

 

 アタシは今アカネ……さんに招かれてジムの中にいる。

 マグマラシとトゲチックは少し離れた位置でミルちゃんと話してるわ。

 

「ほら、うちのジムって女のトレーナーしか居らへんやろ?

 それやから偶にスケベな男が覗くんや、全く腹立つわ!」

 

 ……でもこの人すっごいおしゃべりね。

 さっきからずっと喋り続けてるわ。

 

「ほんで……えーっと……クリス……やったか?」

 

「……アタシの名前覚えてるの?」

 

 アタシは一度ゴールドの付き添いで来ただけなのによく覚えてるわね。

 

「そらな、あんなけ目の前でイチャイチャされたら覚えるわ。

 ほんでクリスは何で覗いてたん?」

 

「あ、あの……こんな夜遅くまで何やってるんだろうって思って……」

 

「あー、それな」

 

 そう言うとアカネ……さんは納得した様子でウンウンうなずいてる。

 

「……あんま言いふらさんといてぇな。

 ウチな、実はジムリーダーになってまだ日が浅いねん、他のジムリーダー達に比べたらまだまだ未熟なんよ。

 せやからジムリーダーの仕事終わってからジムに残って毎日自主トレしとったんや。

 それぐらいせえへんとチャレンジャー達に申し訳ないやんか。

 ウチは新米でもジムリーダー、チャレンジャー達の壁にならんとイカンからな!」

 

 ……カッコいい。

 …………この人は実はすごい努力家なんだ、それにすごく真面目。

 ゴールドが前に言った様にこの人にも色んな面があって……本当は素敵な人。

 それなのにアタシはこの人を……アカネさんを勝手な思い込みで……嫌ってた。

 ……アタシってカッコ悪いな。

 

「……アカネさん、ごめんなさい」

 

「ええねん、ええねん。ウチが遅くまで居るのがアカンねん。クリスは何も悪いことあらへんよ!」

 

 いや覗いた事じゃなくて……それも悪いと思ってるけど……それより勝手に貴方を嫌って、恨んで、潰そうとか思ってすいません!

 アタシは臆病だから理由を口にする勇気は無い。

 だから心の中で何度も謝ります。

 アカネさん、本当にごめんなさい。

 

「それよりクリスの彼氏に伝えといてんか? この前のバトルはスマンかったって」

 

「ゴールドにですか?」

 

 何でだろう、アカネさんはこの前のバトルは正々堂々と戦った。

 それなのに何で謝るの?

 

「せや。ウチこの前のバトルにミルちゃんを出したやろ?

 ミルちゃんはな、ウチがジムリーダーになる前からのパートナーなんよ。

 せやからレベルも結構高くてな……本当はバッチを七個持ってるチャレンジャーにしか使ってはダメなんよ」

 

 ほえ?

 

「……二人があんまりにも仲良うしとるからウチちょっとイジワルしてやろうと思ってミルちゃん出したんや。

 ホンマごめんな、カンニンしてぇな!」

 

 アカネさんが両手を合わせて思いっきり頭を下げてる。

 ……それを見たアタシは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……プッ……アハハハ!」

 

 アタシは我慢できずに吹き出した。

 

「わ、笑わんといてぇな! 自分でも子供っぽいことしたなって思っとるんやで!」

 

 アカネさんは顔を真っ赤にしてアタシに抗議する。

 その様子が本当に可笑しくて可笑しくて。

 

「しゃあないやん、ウチ生まれてからずっと彼氏なんか出来た事ないんや! せやからイチャイチャしとるクリス達がメッチャ羨ましかったんや!」

 

 本当に人には色んな面があるのね。

 さっきはとってもカッコ良よく見えたアカネさんが今はとっても可愛く見える。

 アタシ、アカネさんの事を好きになれそうだわ。

 

「……うふふ、大丈夫ですよ。アカネさんは素敵な女性ですから必ず素敵な彼氏が出来ますよ♪」

 

「……それ、嫌味にしか聞こえへんで。

 ま、せやから次に挑んできた時にはちゃんとバッチ二つのチャレンジャー用のポケモン使うからって彼氏に伝えてぇな」

 

 あーあ、アカネさん今度はいじけちゃった。

 この人本当に可愛いなぁ♪

 

「はい、伝えておきます。

 でも次にバトルする時も出来たらミルちゃんを出してあげて下さい」

 

「なんでや?」

 

「それはゴールドが今必死にミルちゃん対策の猛特訓してるからです。

 ゴールド、絶対にミルちゃんを倒すんだって張り切ってますからミルちゃんと再戦させてあげたいんです」

 

 ゴールドは負けず嫌いだもん、だからゴールドの性格だとミルちゃんを倒さずにバッチを貰っても嬉しくないと思う。

 ゴールドって意地っ張りだしね。

 

「……そうかぁ、そんなら次もミルちゃん出したるな。

 それよりクリスはちゃんと彼氏の事を理解しとるのは愛の力やからか?」

 

 アカネさんは今度はイヤらしい顔で聞いてくる。

 

「はい、アタシはゴールドの婚約者ですから!」

 

 でもアタシはハッキリとアカネさんに返事する。

 

「かー、婚約まで済ましとんか。

 こらぁ敵わんわ。

 なぁなぁ、いつ婚約したんや?」

 

 その後アタシはアカネさんと遅くまでおしゃべりしちゃった。

 ……帰ったらゴールドに怒られそうだけどアカネさんとのおしゃべり楽しかったんだもん。

 

 

 ★☆★☆

 

「なぁクリス、ウチと電話番号を交換せぇへん?」

 

 ジムを出るときアカネさんにそう言われた。

 

「……いいんですか?」

 

「ええも何もウチが聞いてるんやで?

 ウチな、クリスの事を気に入ったんや。せやから電話番号を交換して友達になりたいんや」

 

 ……友達に? アタシが?

 アタシみたいなのがアカネさんの友達になっていいの?

 

 アタシは……

 

「アタシも……アカネさんとお友達になりたいです」

 

「よっしゃ決まりやな。今日からウチ等は友達や!」

 

 ……友達……アタシの友達がアカネさん。

 

「後な、友達になったんやからクリスはウチのこと呼び捨てにしてな。ウチ、さん付けで呼ばれるの苦手やねん。それと敬語も禁止な!」

 

 い、いきなり言われても………

 

「え……えっと……ア、アカネ?」

 

「ほいな! そんな感じでええで!」

 

 その後アタシ達は番号を交換してアカネ……は自分の家に、アタシはセンターに帰った。

 

 ……ねぇゴールド、ゴールドの言う通りだったよ。

 ゴールド言う通り、人と話して人の色んな面を見たら素敵な事が起こりました。

 アタシに素敵な友達が出来たのよ。

 ありがとうゴールド、ありがとうアカネ。

 

 アタシはちょっとは変われたかな?

 アタシはちょっとは大人になれたかな?

 アタシはちょっとはゴールドに追いつけたかな?

 

 ……ねぇゴールド……ねぇアカネ……これからもよろしくね♡

 



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第四十四話 コガネジム ゴールド対アカネ その一

 ハァイ、アタシはクリス。

 昨日ね、うふふ♡

 アタシはアカネとお友達になったんだよ。

 アカネってアタシより年上だけど気さくで元気でおしゃべりで、でもとても真面目で努力家なんだよ♪

 

 でね、アカネとのおしゃべりに夢中になってたら、いつの間にか深夜になっててね、センターに帰ったらゴールドに怒られちゃった。

 

 ……でもゴールドのお説教はいつもより短かったの、いつもなら一時間は正座させられてガミガミ言われるに今回は少し注意されただけなのよ。

 アタシは助かったけどゴールドは調子悪いのかな?

 最近特訓漬けだったから疲れが溜まってるのかな? ちょっと心配だわ。

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……うっす、俺ゴールド。

 結局クリスとの関係をどうするか結論を出せてないまま俺は今からアカネちゃんに再戦を挑む。

 ……俺は本当に……いや止めとこう、今は勝負の事だけを考えるんだ。

 アカネちゃんは強敵、集中しなきゃ勝てんからな。

 

「お〜、よう来たなぁクリス♪」

 

 俺達がコガネジムに入るとアカネちゃんが気さくに挨拶してきた。

 

「ハァイ、アカネ♪」

 

 クリスはそれに楽しそうに返事をする。

 ……クリスからアカネちゃんと友達になったのは聞いたが本当に仲良さそうだな。

 ……良かったなぁクリス、同性の友達が出来て。

 

 クリスは昔から心が病んでて仲良がよかったのは同世代では俺しか居なかった。

 ……その俺も中身はオッサンだけど。

 そのクリスが初めて同性の年が割りと近い友達が出来て本当に良かったよ。

 

「……せやゴールド、この前はミルちゃんを使うてスマンかったわ」

 

「それについては俺は感謝してるよ。ありがとうアカネちゃん、俺の慢心を打ち砕いてくれて」

 

 俺はクリスから前回の勝負の事は聞いていたのでアカネちゃんに感謝の気持ちを伝える。

 ……本当に感謝してるよ……だが負けた悔しさは別だけどな。

 

「なんや感謝されると余計に罪悪感が……

 まぁええわ、せやけど本当に今回もミルちゃん出してええんか?」

 

「無論、その為に特訓してきたんだ!」

 

 俺もマグマラシ達も絶対に倒すと決めてここに来たんだ。

 出してもらわないとコッチが困るぞ。

 

「……わかったで。だがウチもやるからは手加減せぇへんで、覚悟しぃや!」

 

「望むところだ!」

 

 俺とアカネちゃんはフィールドの端に移動する。

 そしてクリスは俺から少し離れた位置に立つ。

 

「「バトルッ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

 ……いよいよゴールドとアカネの二回目のバトルが始まるのね。

 ……アタシはどっちを応援すればいいんだろう?

 

「出番だ、バタフリー!」

 

「バタフリィ!《掛かってこいやぁ!》」

 

 ゴールドの先発はバタフリーね。

 バタフリーは気合い十分にボールから飛び出したわ。

 ……ゴールドはもちろん愛おしい人。

 それに沢山特訓したのを知ってるから絶対に勝ってほしい。

 

「いくでぇ、ピッピ!」

 

「ピッピッピッ♪《月に代わってお仕置きよ♪》」

 

 対するアカネの先発はピッピ。

 ピッピは手をクロスさせてポーズを決めてるわ。

 ……アカネは昨日お友達になったばかりだけど大切な人。

 それに毎日トレーニングしてるのを知ってるからやっぱり勝ってほしい。

 

「ミルタンクじゃないのか!?  ……だが構うもんか。

 バタフリー、作戦通りにいくぞ、『ねむりごな』だ!」

 

「フリッ、バタフリ《チッ、女相手は気が引けるぜ》」

 

 バタフリーはピッピの上から粉を撒き散らす。

 ピッピは寝てしまったわ。

 

「しもた!? ピッピ起きるんや!」

 

「zzz」

 

 アカネが叫んでピッピを起こそうとしてるけど、ピッピは床に大の字で寝て起きる気配はないわ。

 ……どうでもいいけどピッピ、アナタは女の子なんだからその寝相はやめた方がいいよ?

 

「よし、成功だ! バタフリー、『ねんりき』だ!」

 

「フリフリ、フリ!《寝込み襲ってわりぃな、っと!》」

 

 バタフリーの『ねんりき』でピッピは壁に叩きつけられた。

 でもそのショックでピッピは目を覚ましたわ。

 

「ピッピ〜ッ!?《いった〜いっ!?》」

 

「うげっ、もう起きたのか。 バタフリー、今度は『どくのこな』だ!」

 

「フリィィ!《オラァァ!》」

 

「ピッピ、『メロメロ』で反撃や!」

 

「ピッピピッピ♡《愛の奇跡を見せてあげる♡》」

 

 今度はお互いに状態異常になった。

 ピッピは毒で少し苦しそうにしてる。

 そしてバタフリーは……

 

「フリ〜、バタフリ♡ フリ〜♡《やべ〜あのピッピ、マジいいわぁ♡ マジやべ〜♡》」

 

「うが~、また『メロメロ』かよ!? バタフリーしっかりしてくれ!」

 

 バタフリーはピッピに見惚れて動けないわ。

 それを見ているゴールドは頭を抱えてるわ。

 ……いいなぁ『メロメロ』って、アタシのポケモンにも覚えさせたいなぁ。

 

「今や、『おうふくビンタ』で攻めまくるんやで!」

 

「ピピ!《折檻よ!》」

 

 ピッピはバタフリーに飛び掛かりバタフリーの顔に何度も平手打ちにする。

 

「フ、フリフ〜リ♡ バタフリィ♡《た、たまんね〜ぜ♡ もう我慢出来ねぇ!》」

 

「ピッ!?《えっ!?》」

 

 バタフリーが反撃!?

 いや、これは……

 

「フリィィ、バタフリ♡《うぉぉ、オレと交尾しようぜ♡》」

 

「ピッピィィ、ピピッピ! ピピ〜、ピッピピッピッピ!《イヤァァ、寄るな変態! ダメ〜、そんなとこ触らないで!》」

 

 バ、バタフリーが興奮しすぎてピッピに襲いかかっちゃた……

 バタフリーに掴まれたピッピは嫌そうにしてバタフリーを引き離そうとしてる……これってレイプ……になるのかな?

 

「……バタフリーが正気に戻ったのか? よし、そのままピッピを離すな、毒で倒れるまで粘るんだ!」

 

「くそ~、『メロメロ』が行動不能にさせる確率は五割やからしゃないんやが。

 負けるんやないピッピ、『おうふくビンタ』を続けるんや!」

 

 ゴールドとアカネはポケモンの言葉が分からないから勘違いしてるよね? バタフリーは興奮しすぎて暴走してるだけよ。

 ……これってもうポケモンバトルじゃなくてレイプ現場よね? バタフリーを止めないとマズイ気がするわ。

 

「フリフリィ〜♡ 《オラオラオラオラオラァ〜♡》」

 

「ピピピピピピー!!!《イヤイヤイヤイヤイヤイヤー!!!》」

 

 ピッピの『おうふくビンタ』を何度も受けたバタフリーはやっと手を離したわ。

 バタフリーの顔面はパンパンに腫れて凄いことになってる。

 

「トドメやピッピ、『れいとうビーム』!」

 

「ピッピーピッ!《頭を冷やして反省しなさーいっ!》」

 

 バタフリーは戦闘不能、アカネが一勝ね。

 これでアカネが一歩有利になったわ。

 ……複雑な気分だわ、ゴールドが負けて悔しいはずなのにアカネが勝ったことが嬉しい。

 

 アタシはどっちに勝ってほしいの?

 アタシはどっちを応援すればいいの?

 アタシはどっちの味方なの?

 



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第四十五話 コガネジム ゴールド対アカネ その二

「戻れバタフリー……お疲れ、ゆっくり休んでくれ。

 さぁ今度はお前の出番だ、ヤドン!」

 

「やどんどん《任せるんじゃ》」

 

 ゴールドはバタフリーをボールに戻しヤドンを出したわ。

 

「ピッピ、続けていけるやろ?」

 

「ピッ!《はいっ!》」

 

 アカネは交代させないのね、でもピッピは毒状態、あまり長くは戦えないけど大丈夫なの?

 

「やどやど、やどん。やどやどん

 《うちのバタフリーが迷惑掛けたのう。済まんかったお嬢さん。

 あのバカタレは儂からキッチリ説教しておくから許しておくれ》」

 

「ピ、ピッピ……ピピッピ《あ、いえ……そもそも私の技が原因ですのであまり気にしないで下さい》」

 

 ヤドンとピッピはお互いに頭を下げてるわ。

 そしてバタフリーはヤドンに説教されるのが決まったのね。

 ……バタフリーは『メロメロ』で暴走しただけだから少し可哀想、たぶん今頃は正気に戻ってるからボールの中で落ち込んでるんじゃないかな?

 

「なんでヤドンは頭を下げてるんだ? ……まあいいや。

 ヤドン、『のろい』だ!」

 

「やどんどん!《了解したんじゃ!》」

 

「ピッピいくで、『おうふくビンタ』や!」

 

「ピッピピ!《ヤキいれますよ!》」

 

 ピッピは手を大きく振りかぶってヤドンに襲いかかる。

 でも『のろい』で防御が強化されたヤドンにはあまり効いてないわ。

 

「ヤドン、『たいあたり』!」

 

「やどどん!《悪く思わんでくれ!》」

 

「ピ〜ッ!《キャ〜ッ!》」

 

 これでピッピは戦闘不能。

 ピッピは毒のダメージも溜まってたし『たいあたり』も『のろい』で強化されてたから耐えきれなかったのね。

 

「戻りぃピッピ……おおきに、ご苦労やったな」

 

 アカネはピッピをボールに戻した。

 アカネは次に何のポケモンを出すのかな?

 間違いなくノーマルタイプだと思うけど……えーっとノーマルタイプのポケモンだと……ニャース、プリン、ラッキー……それから……

 

「やりおるなぁゴールド、特訓してきたいうのは本当らしぃな。だが次の子はそう簡単に倒せへんで!

 気張っていくで、ガルーラ!」

 

「ガルーーラッ!《シバイたるでぇ!》」

 

「がるらっ♪《しばいたりゅで♪》」

 

 か、可愛い♡

 いや~ん、ガルーラのお腹の袋の子供がお母さんのマネをして超可愛い♡

 その子供が無邪気にキャッキャッと騒いでいて超ラブリ〜♡

 

「……今度はガルーラか。

 ヤドン、先手必勝だ。『ねんりき』!」

 

「やぁぁ、どーん!《ぬぅぅ、ハァー!》」

 

「ガルーラ、『れんぞくパンチ』やで!」

 

「ガル、ガルラ!《坊や、いくで!》」

 

「がる、がるら♪《ママ、いくよ♪》」

 

 ヤドンの『ねんりき』を受けながらもガルーラは地面をドシドシ鳴らしながらヤドンに突っ込んでくる。

 そしてお母さんに相づち打つ子供がまた可愛い♡

 あとで抱っこさせてもらえるかアカネに頼んでみようかな♪

 

「ガルガルガルッ《ウラウラウラッ!》」

 

「がるがるがるっ♪《うりぁうりぁうりぁっ♪》」

 

「やっ、どんどん!《ぐっ、これはキツイのぅ!》」

 

 ガルーラが親子で一緒に攻撃してる。

 これは親子ポケモンならではの戦い方ね。

 子供の力はお母さんよりは弱いけどそれでもヤドンは辛そうにしてるわ。

 

「ガルーラ、『メガトンパンチ』で決めるんや!」

 

「ガルーッラ!《ど根性ーっ!》」

 

「がるーっら♪《どこんじょーっ♪》」

 

 ガルーラの豪腕に殴られたヤドンは壁に叩きつけられた。

 これでヤドンは戦闘不能、だんだんゴールドが追い込まれてきたわね。

 

「戻れヤドン……ありがとう。

 オオタチ、今度はお前だ!」

 

「オオタッチ!《がんばりまっす!》」

 

 今度はオオタチが出てきた。

 でもゴールド、オオタチで大丈夫なの?

 この子はあまり戦うのが好きじゃない少し臆病な子。

 あの好戦的なガルーラの相手は厳しいと思うけど……

 

「何が出てきても一緒やで!

 ガルーラ、『にらみつける』んや!」

 

「ガガガルーラ!《舐めんじゃないよ!》」

 

「がががるーら♪《なめりゅんじゃないよ♪》」

 

「オオッ!?《ひぃっ!?》」

 

 オオタチがお母さんガルーラの鋭い眼光を怖がってる。

 ちょっと、本当に大丈夫なのオオタチ!?

 

「オオタチ、特訓を思い出せ! 『でんこうせっか』で撹乱するんだ!」

 

「オ、オタチ!《や、やってやる!》」

 

 うまい、オオタチは連続で『でんこうせっか』を使いながらガルーラの周りをグルグル走ってるわ。

 これならガルーラは狙いを定められない!

 

「そんなん無駄やで、ガルーラ『じしん』を使うんや!」

 

「ガルガルーラッ!《揺らすでーっ!》」

 

「がるがるーらっ♪《ゆりぁすでー♪》」

 

 ガルーラはその太い足を踏み鳴らしフィールド全体を揺らす。

 

「オタッ!?《ひぃぃっ!?》」

 

 その揺れでオオタチは立ってたれなくなったわ。

 

「……くそ、そんな技まで憶えてるんかよ。

 オオタチ、『まるくなる』で耐えるんだ!」

 

「オータチ、オオタチー!《えーん、お家に帰りたいよー!》」

 

 あらら、オオタチが半泣きになっちゃった。

 それでもがんばって『まるくなる』しながら『じしん』に耐えてる。

 ……でも限界よね、あれではオオタチは反撃できないわ。

 

「ガルーラ、いてもうたれ!」

 

「ガルガルーラッ!《メガトンパーンチッ!》」

 

「がるがるーらっ♪《めりゃとんぱーんちっ♪》」

 

「オオターチッ!《うあーんっ!》」

 

 オオタチはこれで戦闘不能……お疲れ様オオタチ。

 あとで慰めてあげるからあんまり泣いちゃダメよ?

 オオタチの好きなブラッシングもするし添い寝もしてあげるからね?

 

 これでガルーラは二連勝、ゴールドの手持ちの残りはマグマラシとイシツブテね。

 しかもアカネにはあのミルちゃんが無傷で残ってる。

 ……ゴールドは本当にピンチね。

 ……でも逆にアカネは絶好調ね。

 

「……ちくしょう、ミルタンクの為に温存するつもりだったけど仕方ない。

 頼んだぞゴローン!」

 

「ゴッローン!《らっしゃい!》」

 

 あれ? イシツブテがゴローンに進化してるわ。

 確か昨日の朝に見た時にはイシツブテだった筈だから昨日の特訓中に進化したのね。

 

「ほぉ、この前のイシツブテがゴローンに進化したんやな。だが進化してもウチのガルーラは止められへんで!

 ガルーラ、『じしん』や!」

 

「ガルーッ!《ウリャーッ!》」

 

「がるーっ♪《うりぁーっ♪》」

 

 アカネは余裕ね、でもあまりゴローンを舐めないほうがいいよ。

 あの子は前回は本領を発揮できないまま終わったからね?

 油断してると足下すくわれるよ?

 

「いくぞゴローン、『マグニチュード』だ!」

 

「ゴロッ! ゴロ、ゴローンッ!!!《うっす! それ、たまやーーっ!!!》」

 

 ドッカーンッッ!!!

 

 ……ゴローンは何のためらいもなく『じばく』したわ。

 それを見たゴールドとアカネは呆然としてる。

 …………さすがねゴローン、この状況でも全くブレないアナタの信念は素直にスゴイと思うわ。

 

「……こ、このアホーーっっ!! 『じばく』はミルタンクまで取っておけって言ってあっただろうがーーっっ!!」

 

 ゴールドは大声で叫んでるわ。

 でもゴールド、その叫びはゴローンに届いてないと思うよ?

 

「……ゴ、ゴローン♪《……か、快感♪》」

 

 ほらゴローンは気絶しながらも満面の笑みを浮かべてるわよ。

 たぶん注意してもまた勝手に爆発するんじゃないかな?

 

「戻りぃやガルーラ……ようやった、おおきにな」

 

「戻れゴローン……あとで徹底的に説教するからな、覚悟しとけよ」

 

 あ、それでもお説教は止めないのね。

 

 これで二人の残りポケモンはお互いに一人づつ。

 ゴールドはマグマラシ、アカネはミルちゃんね。

 ……でもマグマラシは前のバトルではミルちゃんに手も足も出なかった、このままだとゴールドはまたアカネに負けちゃうかも。

 

 ……ゴールドはモンスターボールを胸の前で握りしめて目を閉じてる。

 

「……俺達は負けない、そうだろ?

 ………よし、派手に暴れてこいマグマラシ!」

 

「まぐま、まぐまぐま!《ミルちゃん、この前の借りは返すよ!》」

 

 ゴールドとマグマラシはこの状況でも怖気づくことなく闘志を燃やしながら最後のバトルに挑む。

 

「ウチらの底力舐めたからアカンで!

 ミルちゃん、かっ飛ばすでぇーーっっ!!」

 

「ミルミ、ミルミ!《マグマラシ、今回も負けへんで!》」

 

 対するアカネとミルちゃんも気合い十分にゴールド達を迎える。

 

 ……このバトルはどっちが勝つの?

 ……アタシはどっちを応援すればいいの?

 ……アタシは……どっちに……勝ってほしいの?

 



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第四十六話 コガネジム ゴールド対アカネ その三

 俺の最後のポケモンはマグマラシ、アカネちゃんはミルタンクのミルちゃん……狙った訳じゃないが前回と近い状況になった。

 だが勝負の結果までは前回と同じにはしない。

 

「……マグマラシ、絶対リベンジするぞ!」

 

「まぐっ!」

 

 俺はクリスみたいにマクマラシと話す事は出来ない。

 ……だが話せなくても心は通じ合ってる、そうだろマグマラシ。

 俺は……俺達は絶対に勝つんだ!

 

「マグマラシ、『でんこうせっか』で先手を取るんだ!」

 

「まぐまっ!」

 

 マクマラシは素早くミルタンクの懐に入りその顎に向かって体当たりした。

 『でんこうせっか』は特訓中に新たに覚えた技、今回の勝負ではガッツリ使うことになるだろう。

 

「ミルちゃん!? くそ〜先手取られてもうたか。だが迂闊にミルちゃんに近づいたんわアカンで!

 ミルちゃん、『のしかかり』や!」

 

「ミッルー!」

 

「まぐ!?」

 

 マグマラシはミルタンクの巨体に潰された。

 『のしかかり』だと……馬鹿な、前回戦った時にはそんな技は覚えてなかった筈だ。

 

「ま、まぐ……ま」

 

 マグマラシの動きがおかしい、今のミルタンクの攻撃で麻痺したのか!?

 

「いつ……『のしかかり』を習得したんだ?」

 

「一昨日やで! なんやゴールド、特訓しとんのは自分達だけやと思っとったんか、 甘いで!

 ウチ等かて毎日鍛錬を積んどんや、アンタ等が強なってもウチ等はその先をいくんやで!」

 

「ミルミル!」

 

 ……くそ、俺は慢心してた訳でない、アカネちゃんを舐めてた訳でもない、だが……アカネちゃん達は俺達の更に上にいくと言うのかよ。

 

「ま、まぐ!」

 

 ……マグマラシ!

 ……そうだな……アカネちゃん達が強い事なんか初めから分かってた。

 強いからこそ俺達はアカネちゃんとミルタンクに挑むって決めたんだ。

 こんな事で怖気づく訳にはいかねぇよな!

 

「……ありがとう、マグマラシ。いくぞ、『でんこうせっか』だ!」

 

「まっぐーっ!」

 

「ブチかますんや! ミルちゃん、『ころがる』!」

 

 ……きた!

 

「『でんこうせっか』中断、『えんまく』だ!」

 

「まぐまぐーっ!」

 

「なんやて!?」

 

 これが今回用意した『ころがる』対策だ。

 そもそも『ころがる』は己の体そのものを回転させて攻撃するから狙いがつけにくい。

 なら『えんまく』で視界を遮れば更に命中させるのは困難になる。

 この前クリスと一緒にダブルバトルした時に咄嗟に使ったのを思い出して徹底的に練習したんだよ。

 

 俺達の思惑通りにミルタンクは攻撃を外した。

 これならイケる!

 

「マグマラシ、追い込むぞ! 『かえんぐるま』だ!」

 

「まっぐぅまーっ!」

 

 『でんこうせっか』に続く今回用意した新技その二、今のマグマラシ最強の技だ。

 マグマラシは火炎を纏ってミルタンクに向かって突っ込む!

 

「ミッルー!?」

 

「ミルちゃん!?」

 

 ミルタンクに命中、更にミルタンクの体毛に炎が燃え移った……火傷状態だ。

 

「くっそぅ、ミルちゃん一度立て直すで。『メロメロ』や!」

 

「ミル、ミルミル♡」

 

「まぐ~♡」

 

 でたな『メロメロ』、これでマグマラシがメロメロ状態になった。

 ……これの対策も死ぬ気でしたんだ、その成果を見せてやる。

 ……本当はゴローンで『メロメロ』食らう前に『じばく』が一番確実だったんだがな、クソっ。

 

 だがマグマラシでも対処は出来る。

 この俺のマグマラシならではの方法でな。

 俺は大きく息を吸い込む。

 

「スゥ……木の実っ!」

 

「〜♡〜♡ ……まぐっ!」

 

「な、なんや?」

 

「ミ、ミル?」

 

「そうか、その手があったのね!」

 

 アカネちゃんとミルタンクは困惑してるな、当たり前か。

 そして俺の行動の理由を一発で見抜けたクリスは流石だ。

 だが俺はまだまだ続けるぞ。

 

「にがい木の実、ハッカの実、焼けた木の実に凍った木の実、そして奇跡の実だ!」

 

 さぁ正気に戻れ、マグマラシ!

 

「まっまっぐーーーーっっ!」

 

「なんやて! なんでマグマラシに『メロメロ』が効かへんねん!」

 

「どうだ驚いたか! うちのマグマラシは色気より食い気優先な食欲魔獣。例えメロメロ状態でも大好物の木の実の名を聞けば一発で正気になるんだよ!」

 

 ま、こんな方法はマグマラシ以外には使えないけどな。

 

「んなアホな! そんなマヌケな方法で『メロメロ』を破られたん初めてやわ!」

 

 だろうね、俺も最初気付いた時はビックリしたよ。

 先日マグマラシが対戦中に眠り状態になった時、アイツはいきなり起きて遠くの木に走っていったんだからな。

 どうやらその木に実が実ってて偶々風で匂いが流されたのを嗅いで起きたらしい。

 

 その後バタフリーに協力してもらって確かめたらコイツは木の実って言うだけでも反応し、しかも眠り、混乱なら俺が木の実の名前を叫ぶだけで回復出来る事が分かったよ。

 『メロメロ』は確かめようが無かったから今回ぶっつけ本番だったが無事成功して良かった。

 

「マグマラシ、『でんこうせっか』だ!」

 

「まっぐーっ!」

 

 だがこの方法には欠点がある。

 それはこの方法で状態異常が回復するのは一時的なもので食欲が薄れるとまた状態異常がぶり返すんだ。

 つまり『メロメロ』の効果を無効化出来るのは短時間だけなんだよ。

 だからぶり返す前に速攻で攻める!

 

「ちっ、今ので大分ダメージ受けてまったな。ミルちゃん、『ミルクのみ』で回復するんや!」

 

「ミルッ!」

 

 それも対策は出来てる!

 

「『でんこうせっか』でそのミルクを奪え!」

 

「まっぐぅ!」

 

 マグマラシはミルタンクがどこからか出したミルクの瓶を奪い、そして自分で飲む。

 

「ゴクゴク……ぅまっぐぅ♪」

 

「……ウソやろ」

 

 アカネちゃんは驚くのを通り越して呆れてるな。

 まぁこの方法もマグマラシならではのやり方だけど。

 コイツ、飯が足りないと他のポケモンの分まで食べようとするんだよ。

 そこから発想を得て考えた対『ミルクのみ』用の疑似『どろぼう』だ。

 効果は見ての通り、これでミルタンクは回復出来ないぞ。

 

「どうだ、俺のマグマラシの食い意地は半端ないだろ!」

 

「そんなん自慢になってへんで!」

 

 良いんだよ、今回はマグマラシの食欲が大活躍してるんだからな。

 だがこのタイミングで『えんまく』の煙が晴れてしまった。

 

「しめた! ミルちゃん、こうなったら守りは捨てるで。『ころがる』や!」

 

「ミルミル、ミッルミルミル!」

 

「まぐ~っ!?」

 

 ミルタンクの『ころがる』がマグマラシに急所に当たった。

 マズイ、『えんまく』をもう一度やる時間はない、モタモタしてるとまたメロメロ状態に戻ってしまう。

 それに麻痺状態だから下手したら行動出来きなくなる可能性も。

 

「……こっちも守りを捨てるぞ! 最大火力の『かえんぐるま』で突っ込め!」

 

「まっぐっ!」

 

 ならこの攻撃で仕留める!

 

 マグマラシとミルタンクは正面からぶつかり、そのまま押し合いになった。

 

「ミッルー!」

 

「まぐ!?」

 

 ミルタンクの方が押してる!?

 マグマラシは少しづつ後退してるぞ。

 ……『ころがる』が二回目だから威力が上がってるのか。

 このままだと……負ける。

 

「がんばれゴールド!!」

 

 その時クリスが俺の後ろから声を上げた。

 クリス……そうだな……クリスの前で二度も負ける訳にはいない。

 俺は……俺はクリスの保護者なんだ!!!

 

「マグマラシ、『ひのこ』だ!」

 

「『かえんぐるま』しながら『ひのこ』やて!?」

 

「まっぐぅぅぅ!!」

 

 超至近距離で放った『ひのこ』をミルタンクが避けれる筈も無くミルタンクの顔面に直撃した。

 

「ミルッ!?」

 

 そのショックでミルタンクは『ころがる』を解除した。

 

「よし、トドメだ! 『かえんぐるま』!」

 

「まぐまぐまーっ!!」

 

 渾身の『かえんぐるま』はミルタンクを吹っ飛ばしミルタンクは炎に包まれながら地面に叩きつけられた。

 

「ミルちゃん!!」

 

 ミルタンクは気を失い戦闘不能になった。

 

「やっ、やったぞマグマラシ!」

 

「まぐ、まぐまぐ♪」

 

 俺とマグマラシは抱き合って勝利を喜ぶ。

 

「……ありがとうマグマラシ、お前のおかげだ。お前が居なけりゃ勝てなかったよ」

 

「まぐまぐ♪」

 

 今マグマラシが言ったことは俺でも分かるぞ、「どういたしまして」だな。

 

「うう…………うわ〜ん!! ひどいよ、ひどいよ〜!!」

 

 アカネちゃんがいきなり泣き出した!?

 な、なんで……つかどうしよう……

 俺とマグマラシはただ呆然と泣き喚くアカネちゃんを見つめる事しか出来なかった、本当どうしたらいいのよ!?

 



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第四十七話 どうしてこうなった?

 俺とマグマラシはアカネちゃんとミルタンクに勝った……んだが、

 

「うわ〜ん!! うわ〜ん!! グスン……ヒッグ……ひどいよぅ…………うわ〜〜〜ん!!!」

 

 勝負が終わるとアカネちゃんがいきなり大声で泣き出してしまった。

 本当どうしてこうなった、これは俺が悪いのか?

 

「あ〜あ、アカネちゃんを泣かしちゃったね」

 

 俺がオロオロしてると後ろからジムトレーナーのミニスカートの子が声を掛けてきた。

 

「えーっと……コレって俺のせいになるのかな?」

 

「そんなわけないじゃん、アカネちゃんってバトルに負けると毎回泣いちゃうのよ。だから君が気にする必要はないわ」

 

 ……いや、だからってなぁ。

 

「あの子は放っとけば泣き止むから大丈夫。ジムバッチは明日にでも取りに来てよ」

 

 おいおい、アカネちゃんは仮にも君達のジムのジムリーダーだろ。

 ちょっと冷たいんじゃね?

 俺は一言文句でも言ってやろうとしたら横からクリスが先に声を上げた。

 

「そんなのダメ〜ッ!! アカネは、アカネはゴールドとのバトルを本気で戦ったの! 本気だったから悔しくて悔しくて泣いてるの!

 それをほっとくなんて絶対にダメなんだからね!!」

 

 クリスは言いたい事を言い終わるとそのままアカネの元に走り寄る。

 

「……アカネ」

 

「グスグス……グス……クリ……ス?」

 

 クリスは一呼吸おいてアカネちゃんに話しだした。

 クリスはどうするつもりだ?

 

「……アカネ、アタシの頼みをきいてくれてありがとう。アカネがゴールドと全力で戦ってくれて嬉しかったわ。

 あと、ごめんなさい。アカネの応援しなくて……アタシ結構迷ったんだよ? でも最後はゴールドの事を応援しちゃった。本当にごめんね」

 

「グスグス……そんなんえ、えねん……グス……ゴールドはクリス……の彼氏……なんやから……当たり前やで……グス」

 

 ……俺はツッコミを入れたいのを我慢して二人を見守る。

 するとクリスがアカネちゃんに抱きついた。

 

「グス……な、なんや、クリス!?」

 

「……確かにゴールドはアタシの愛おしい人だよ。でもね、アタシはアカネも大好きだよ。

 ……アカネはアタシの大切なお友達だよ。だからアカネが泣いてるのを見たくないな」

 

「……おおきにクリス。ウチもクリスのこと大好きやで……」

 

 ……あのクリスが!?

 

「……私アカネちゃんがあんなに早く泣き止むところ初めて見たわ。君の彼女すごいわね……って、なんで今度は君が泣いてるのよ!?」

 

「え゛がっだな゛〜グリズゥ……グス」

 

 クリスの後ろで見てた俺の目から涙が滝のように溢れてる。

 だってあのクリスが、自分勝手で我儘で思い込みの激しいクリスが友達の事を思い遣ってるんだぞ。

 こんな日が来るのを俺はどれだけ待ち望んだことか。

 

「グスグス……お゛れ゛は……グスン……お゛前の成長が……嬉じいぞ〜……グス……ぐりず〜」

 

「あわわわ、クリスちゃーん今度は君の彼氏君を泣き止ませてよーっ!」

 

 結局アカネちゃんと俺が落ち着くまで十分ほど掛かりました。

 ミニスカートちゃんには迷惑掛けちゃったな、俺反省。

 

 

 

 

 

 ★☆★☆

 

「いや〜泣いたらスッキリしたわ! ほれ、レギュラーバッチやで」

 

「だな、俺も久し振りに泣いて気分いいわ! バッチありがとうな」

 

 俺はアカネちゃんからバッチを貰った。

 これで三つ目のバッチか。

 

「おめでとうゴールド♡」

 

「……あなた達はスッキリしたかもしれないけど私はストレスマックスなんですけど?」

 

「「はははは………」」

 

「二人揃って笑って誤魔化すな!」

 

 ミニスカートちゃんに怒られちゃった。

 

「あ、そういえばミニスカートのお姉さん、どうしてアカネが泣き出した時に放っとけって言ったんですか?」

 

 クリスがミニスカートちゃんに聞く。

 あーそれは俺も思ったわ、この子は別にアカネちゃんを嫌ってるようには見えないから疑問なんだよね。

 

「それね……私達も最初の頃はアカネちゃんを宥めようとしたわよ。でもアカネちゃんったら泣き止まそうとすると蹴るは殴るはで私達の方が危険なのよ。

 だからジムのみんなで相談して泣いたアカネちゃんには近づかないって決めてたのよ」

 

 あ、納得したわ、そら放置するわな。

 

「すまへん、すまへん。反省しとります」

 

「反省してるなら負ける度に泣く癖を直しなさい!」

 

 ……なんかミニスカートちゃんにすっごい親近感を感じるな、気のせいか?

 

「……まったく、今回はクリスちゃんがいてくれて助かったわ。

 そうだ! ねぇクリスちゃん、うちのジムで働いてみない?」

 

「え、えぇ!?」

 

「それええな! それやったらクリスとずっと一緒に居られるやんか」

 

 ……なんかいきなりクリスが勧誘されてるだが。

 

「ね、ね、いいでしょ。クリスちゃんが居てくれたらアカネちゃんが泣いても宥めてくれて助かるのよ。

 知ってた? ジムトレーナーって結構給料良いのよ。あと年一回慰安旅行でアローラ地方にバカンスにも行けるわよ!」

 

「せやせや、一緒にアローラ行こうや、メッチャ楽しいで!」

 

「ゴ、ゴールド助けて〜!?」

 

 だが断る。

 

「じゃ、クリス。俺は先にセンターに戻ってるわ」

 

 俺のポケモン達を回復しないとな。

 

「ちょ、ちょっと、こんな状況でアタシを置いていかないで〜!!」

 

 だが俺はクリスの言葉を無視してジムを後にしようとした。

 

「せやゴールド、アンタもジムで働かへんか?」

 

 え゛っ?

 

「そっか、それなら彼氏君と離れなくて済むわね。ねぇクリスちゃん、彼氏君と一緒なら働いてくれる?」

 

 ちょい待ち、俺まで巻き込まんでくれ!

 

「えっ、えっと……ゴールドと一緒に居られるなら考えても良いかな?」

 

 クリス、お前まで!?

 

「せやろせやろ♪ なぁゴールド、クリスもこう言っとるしどや?」

 

「なんならカップルでコンビを組んで働けるようにするわ♪」

 

「ゴールドと組んで働けるんですか!? …………ねぇねぇゴールド、このジムで働こうよ♡」

 

 クリスが向こう側に!?

 俺は三人に迫られて困惑する。

 つか、どうしてこうなった?

 

 ふと俺はマグマラシの方を見た。

 

「まぐ~♡」

 

「ミルミル♪」

 

 マグマラシはミルタンクの毛づくろいをしてた。

 ……いつの間にアイツ等は仲良くなったんだ?

 と思ったが、よく考えたらメロメロ状態に戻っただけか、あれから大分時間が過ぎたから食欲による状態異常無効の効き目も終わってるしな。

 

 マグマラシはミルタンクにご奉仕、俺は三人の女の子に迫られてる。

 ……トレーナーとポケモンが揃って今日は女難だな。

 

「ええやんなゴールド♪」

 

「今ならペアルックの衣装も作るわよ♪」

 

「ねぇねぇゴールド、ペアルック着ようよ♡」

 

 ……最後にもう一度言おう、どうしてこうなった?

 



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第四十八話 ワイワイガヤガヤ

 オッス、俺ゴールド。

 あの後、俺はアカネちゃんとアスカちゃん(ミニスカートちゃんの名前)に自分がポケモンリーグに挑たい事を必死に伝えて何とか納得して諦めてもらった。

 ……まだ完全には諦めてはいないっぽいがな。

 

 尚クリスは「やっぱりゴールドと一緒じゃなきゃイヤ」と言って断ってた。

 何ともクリスらしい答えだな。

 

 んで俺達はセンターに戻ってポケモン達を回復し、今はセンターの多目的ホールでポケモン達をボールから出してくつろいでる。

 

「クリス〜、なんでウチとジムで働かへんねん? ウチはクリスと一緒に居たいねん」

 

「もう一度考えてくれないかな、ジムトレーナーって待遇良いのよ?

 ボーナスは年二回出るし、有給もタップリ取れて残業もほぼ無し、産休もしっかり取れて、その上育児手当と扶養手当もバッチリでるのよ」

 

「だってぇ、ゴールドは旅を続けたいって言ってるんだもん。そりゃアカネ達と働けるのは魅力だけど、それよりアタシはゴールドとずーっと一緒にいたいんです!」

 

 上からアカネちゃん、アスカちゃん、クリスの三人娘。

 

「ほー、ジムトレーナーってそんなに待遇良いんだ。

 ……アタシ、ジョーイからジムトレーナーに転職しようかな?」

 

「待てコラ、ただでさえセンターは万年人手不足なのにアンタが辞めたら仕事が回らん、わたし達を過労死させる気か。

 ……でも残業無いのはちょっと魅力よね」

 

「そこまで彼氏の為にハッキリ言えるクリスちゃんが本当に羨ましいぃ。

 ……ねぇねぇアカネちゃん、アスカちゃん、ジムに来る人でカッコいい人がいたら紹介してよ」

 

 こちらはクリスと仲が良いジョーイのお姉さん達。

 ……見事に俺しか男がおらんな。

 

 今の状況を説明するとアカネちゃん達は俺とのバトルの後そのまま一緒にセンターに来てポケモンを回復し、そこへ仕事が終ったジョーイさん達に偶々会って、この多目的ホールでポケモン達を遊ばせながらダベってるって感じだ。

 

「それは無理やねん、ウチだって彼氏おらへんやで? むしろウチに男紹介してぇな」

 

「アカネちゃんは幼馴染のマサキ君とひっつきなさいよ。いつになったら付き合うのかしら?」

 

「ちょっとアスカ! なんでウチがあんなオタクと付き合わなかんねん! あんなんただの幼馴染やで!」

 

「へぇアカネちゃんはマサキ君と仲良いんだ。あの子、頭良くて真面目で良いじゃん」

 

「だな、アイツにはセンターのマシンメンテナンスして貰ってるがアレは機械の天才だよ。仕事も出来て結婚相手にはうってつけだろ。アカネちゃんが要らないならアタシが貰うぞ?」

 

「あれ? ジョーイさんには婚約者がいるじゃないですか?」

 

「えーっ! ちょっと先輩、それ初耳ですよ!?」

 

「アンタ〜、そう言う大事なことを、わたし達に黙ってたの〜?」

 

「わーっ! わーっ! コラ、クリスちゃん黙ってて言ったじゃんか!」

 

「ご、ごめんなさーい!」

 

「ほら、マサキ君の評判いいじゃん。付き合っちゃいなよ」

 

「だ、か、ら、アイツとはただの幼馴染や! あんなオタクが彼氏やなんてぜーったいイヤやで!」

 

 ……カオスだな、女が集まると騒がしいと言うがこれだと騒がしいを通り越して騒音だ。

 

 ふぁ〜あ、にしても寝むい。

 そいや昨日はクリスが心配で夜遅くまで起きてて寝不足だったな。

 俺はポケギアのラジオをイヤホンで聞きながら寝ることにした。

 んじゃお休み〜。

 

 ★☆★☆

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 さっきまでアカネとアスカさん、それにジョーイさん達とおしゃべりしてたんだけど、みんな帰っちゃった。

 今このホールにいるのはアタシとゴールド、それにポケモン達だけ。

 

「ぐー、がー、ぐー、がー!」

 

「まぁぐぅ、zzz」

 

 ゴールドとマグマラシはホールの隅で大の字で折り重なって寝てる。

 二人とも今日のバトルで疲れたのね、グッスリ寝てるわ。

 

「……やどん。やどどん、やどどん、やどん!《……まったく嘆かわしい。良いかバタフリー、いくら状態異常だったとは言え女性をいきなり襲うとは恥を知れ、この馬鹿者!》」

 

「……フリ。フリ、バタフリ《……マジ面目ねぇヤドンのおやっさん。漢バタフリー、一生の不覚だぜ》」

 

 ヤドンは宣言どおりバタフリーをお説教してるわ。

 でもヤドン、一時間以上ずーっとお説教してるよね、そろそろバタフリーが可哀想だから許してあげなよ?

 

「ゴロー、ゴローッン! ゴロロン?《ぐおー、そろそろキツイっす! てか何時まで腕立て伏せしてればいいんすか!?》」

 

「トゲートゲ♪《がんばれーゴローン♪》」

 

「スリプ、スリープ《まったく、何で僕がこんな事に付き合わなくちゃいけないんだよ》」

 

 ゴローンは勝手に『じばく』した罰で腕立て伏せをしてるわ。

 重り代わりにトゲチックとスリープが上に乗ってるから辛そうね。

 トゲチックは楽しそうに、スリープは面倒くさそうにしてる。

 でもゴローンの嘆きはゴールドが寝ちゃったから届いてないのよね、ゴローンも可哀想。

 

「ベイ、ベイベイ?《恋人かぁ、私にもいつか出来るのかしら?》」

 

「メノメノ、メノメノ♪《大丈夫ですわベイリーフ、いつか貴方にもドMで素敵な殿方が現れますわよ♪》」

 

「……ベイリフ《……ドMな恋人は嫌です》」

 

 ベイリーフとメノクラゲは女の子らしく恋愛トークに花を咲かせてる。

 相変わらずねメノクラゲ、でもベイリーフが少し引いてるわよ?

 

「うふふ♪ 気持ちいいオオタチ?」

 

「オオタッチ♪《気持ちいいよ♪》」

 

 アタシはオオタチのブラッシングをしてるの。

 オオタチったらセンターに着いたときは大泣きしてたのに今はご機嫌なのよ。

 はぁオオタチの毛並がモフモフで気持ちいい、ずっと触っても飽きないわ♡

 

「オオタチ、今日は一緒に寝ようね♪」

 

「タチ♪《うん♪》」

 

 今日も楽しかったなぁ。

 明日も楽しい日でありますように。

 

「ぐー、がー」

 

 ねぇゴールド、明日も楽しい日になるよね♡

 



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第四十九話 久し振りの

 オッス、俺ゴールド。

 昨日はギリギリでアカネちゃんとの勝負に勝てたぜ。

 いやぁ本当に危なかったわ、特にミルタンクが『のしかかり』をした時は本当に肝が冷えた。

 ジムリーダーの実力はその辺の一般トレーナーと違うって再度認識したよ。

 

 で、俺は今日は久々の休日を満喫してる。

 最近はクリスとデートしたり特訓したりで忙しかったからなぁ。

 尚クリスはアカネちゃんとアスカちゃんに拉致されて今日は朝から一日ジムトレーナー体験してる。

 いやぁクリスがいないと平和で良いわぁ。

 

 さて、ラジオを聞きながらコロコロコミックを読むか。

 

 ★☆★☆

 

「トゲチック、『おんがえし』よ!」

 

「トゲー!《いくよー!》」

 

 トゲチックの『おんがえし』は相手のポケモンを倒し、アタシはバトルに勝ったわ。

 対戦相手は項垂れながらジムを去っていく。

 

「ふー」

 

 やっとチャレンジャーが途切れたわ。

 朝から何回バトルしたか分からないぐらいしたからちょっと疲れちゃった。

 

「トゲトゲ?《ママ疲れたの?》」

 

「少しね、でも大丈夫よ。心配してくれてありがとう。 トゲチックこそ疲れてない?」

 

「トゲチク♪《全然平気だよ♪》」

 

 うふふ、トゲチックは元気ね♪

 

「クリス〜、メシ食いに行こうや〜」

 

「もーアカネちゃん、もう少し女の子らしくできないの?」

 

 あ、アカネとアスカさんだ♪

 

「うん! アタシ、パンケーキが食べたいなぁ♪」

 

 ★☆★☆

 

 アタシはジムの仲間達と前にゴールドとのデートで来たカフェでランチを楽しんだわ。

 今はパンケーキを食べ終わって食後のティータイム、アタシはココアを飲んでるの。

 

「ねぇクリスちゃん、ジムトレーナーをやってみてどうだった?」

 

 アスカさんがレモネードを飲みながらアタシに聞いてきた。

 

「う〜ん、なんかバタバタして忙しいんですが結構楽しいですよ♪」

 

 ただノーマルタイプのポケモンしか使えないのは少しキツイかな。

 アタシの手持ちだとトゲチックしかノーマルタイプはいないんだもん。

 ゴールドに頼んでオオタチを借りれば良かったかしら?

 

「せやろ、せやろ♪ なぁクリス〜、なんならこのままジムに就職せぇへんか?」

 

 ミックスジュースを飲んでたアカネが横から勧誘してくる。

 

「それとこれとは別よ、アタシにはゴールドをポケモンマスターにするって目標があるの。だからゴールドと離れる気はないわ」

 

「う〜、頑固もんやなぁ」

 

 どっちがよ、アカネだってしつこく勧誘してるじゃない。

 

「キャハハ、アカネっちがクリスっちにフラれちゃってるし♪ ウケる〜♪」

 

「アンタはお気楽でいいわね、ウチのジムは人手不足だからクリスちゃんが入ってくれたら助かるけど……でも彼氏君が大事な気持ちはわかるから無理にとは言えないか」

 

「アナタは彼氏いるからそう言えるのよ……リア充爆発しろ」

 

 隣の席に座ってたジムトレーナーのお姉さん達は紅茶を飲みながらお話してるわ。

 それにしてもやっぱりジムトレーナーって彼氏が出来にくいのかな?

 コガネジムもアタシを除くと一人しか彼氏持ちいないし。

 

 こんな感じでアタシは忙しいけど楽しい一日を過ごしたわ。

 ちょっとだけアカネ達の誘いを断ったのを後悔したのはゴールドにはヒ・ミ・ツよ♡

 

 ★☆★☆

 

 ……暇だ、クリスが居ない休日がこんなにも暇だとは思わんかった。

 コロコロコミックも読み終わったしラジオも飽きた。

 

 よくよく考えたら俺はガキの頃からほぼ毎日クリスと一緒に居るんだよな。

 オマケに一緒に居るとなんかかんかトラブルが起きる。

 そりゃ居ないと手持ち無沙汰になるか。

 

 ……正直に言おう、クリスが居なくて寂しい。

 クリス早く帰ってきてくれ、このままだど暇で死にそうだ。

 

 そいやポケギアでゲームが出来たっけ。

 あんま乗り気しないが暇潰しにはなるか。

 俺はゲームをしようとポケギアのスイッチを入れる。

 

 ん? メールが来てる。

 誰からだ…………オヤジ?

 なんでオヤジが? まぁとりあえずメールを読むか。

 

 なになに……

 

【件名・久し振り

 

 久し振りだなゴールド 元気か? お父さんは元気だ

 お母さんから聞いたぞ、ポケモントレーナーになったんだってな

 まったく、そういう事はお父さんに一言相談して欲しかったな

 だがゴールドが決めた事だ、お父さんは応援してるぞ、頑張れゴールド!

 

 と、そろそろ本題に入らんとな

 ゴールドは分かってると思うがもうすぐお母さんの誕生日だ

 本当はお父さんも一緒に祝ってあげたいが帰れそうにない

 すまないが今年もゴールドに頼むことになる

 悪いがお父さんの分までお母さんの誕生日を祝ってくれ、頼んだぞ】

 

 ……いかん、オフクロの誕生日忘れてた。

 とりあえずオヤジに返信するか。

 り・ょ・う・か・い……変換、送信……と。

 

 さぁてどうするかな、幸い今居るコガネシティには百貨店がある。

 誕生日プレゼントは百貨店で買えば良いだろう。

 問題は何を買うかだな、去年は掃除機を贈ったが今年は何にするか?

 ……クリスが帰って来たら一緒に考えるか、去年もそうしたし。

 

 ん、オヤジから返信か。

 

【宜しく、あと一つ言い忘れたが、クリスちゃんと仲が良いのは結構だがちゃんと避妊しろよ?】

 

「テメェもかクソオヤジーーーッッッ!!!」

 

 俺はメールだと言うとこを忘れて全力で吠える、この似たもの夫婦は揃って十歳のガキに何言ってやがる!

 クソオヤジめ、次に会ったらしばき倒したるからな!!

 

 そんなかんじで俺の久し振りの休日は俺の絶叫で終わった。

 



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第五十話 我輩はヒマナッツである、まだ太陽の石は無い

 オッス、俺ゴールド。

 俺達は今、自然公園にいる。

 

 昨日クリスとオフクロの誕生日プレゼントをどうするか相談したんだが、その時にクリスが

 

「たぶんお母さんが今一番ほしいのは一緒にいてくれる家族だと思うわ。だってお父様は仕事で海外にいるし、ゴールドとアタシは旅に出ちゃったでしょ?

 ……お母さんはあの家で一人ぼっちで寂しいと思うよ」

 

 と、言い出した。

 

 確かにそうだな、オフクロは天然だが寂しがり屋だし。

 でも俺もオヤジも今すぐ家に戻るわけには行かない。

 

 そこで俺達の代わりに家族になってくれるポケモンを一匹送ろうと考えたんだ。

 だが俺やクリスの手持ちは渡せない、そんなことしたら今後の旅に支障が出るし、何より俺もクリスも今の仲間には愛着がある。

 ならパソコンに預けてるポケモンを送ろうとも考えたが、それは何か手抜きしたみたいで嫌だ。

 

 なのでオフクロが好きな花がヒマワリだからヒマワリに良く似たーー太陽ポケモンのキマワリを二人でプレゼントにする事に決めた。

 

 で、ネットで調べたらキマワリはヒマナッツが『太陽の石』によって進化する事が分かった。

 ヒマナッツは自然公園に生息してるし、太陽の石も自然公園で開催される虫取り大会の景品になってる為、俺とクリスはこの自然公園に来たって訳だ。

 

 何気に自然公園は何度も世話になってるな、デートの時とか、特訓の時とか。

 

「では今から虫取り大会の説明をします。参加者は公園東ゲートに集まって下さい」

 

 おっと、公園に設置されたスピーカーから集合のアナウンスが流れた。

 

「じゃあなクリス。ヒマナッツの捕獲は任せたぞ」

 

「うん! ゴールドも大会がんばってね♡」

 

 尚、俺が太陽の石を手に入れる事に、クリスがヒマナッツを捕獲する事に決めた。

 この分担の理由? 単純にクリスに虫ポケモンを手に入れるチャンスを与えたくなかったからだよ、虫ポケモンは状態異常技が豊富だし。

 

 

 

【自然公園、東ゲート】

 

「ではこれより虫取り大会のルールを説明します。

 ルールは簡単、手持ちのポケモン一匹で一番強そうな虫ポケモンをゲットした人が優勝です。

 モンスターボールはこちらのパークボールを使って頂きます。

 自分のポケモンが戦闘不能になるか、パークボールを使い切ったらその時点でここに戻って来てください。

 また公園には他のお客さんも居ますので迷惑にならないようお願いします。

 制限時間は二十分、頑張って強そうな虫ポケモンをゲットして下さい!」

 

 使えるポケモンは一匹だけか。

 さて、どのポケモンを使うかな?

 …… …… …… …… よし決めた。

 

「バタフリー、出番だ!」

 

「フッリー!!」

 

 俺はバタフリーをボールから出す。

 バタフリーなら状態異常技も豊富だし空も飛べるから虫ポケモンを探すの楽な筈だ。

 

 係の人からパークボールを貰い、代わりにバタフリー以外のボールを預けた。

 

「では虫取り大会スタートです!」

 

 スタートの合図と共に参加者は一斉にゲートを飛び出す。

 

「バタフリー、絶対に優勝するぞ!」

 

「フリフリ!!」

 

 そして俺達も少し遅れてゲートを出る。

 さぁやるか!

 

 ★☆★☆

 

【自然公園、北部】

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 今ね、お母さんの誕生日プレゼントのヒマナッツを探してるのよ。

 でも中々見つからないの、普段なら直ぐに見つかるのに探してる時に限って見つからないって良くあるよね?

 でもそろそろ虫取り大会も始まる時間だし、大会のジャマはしたく無いから始まる前にはゲットしたかったのに。

 

「トゲチック、そっちはいたぁ?」

 

「トゲー《いないよー》」

 

 トゲチックに空から探してもらってるけど見つからない。

 

「そっかぁ。そっちも見つからない?」

 

「メノノ〜《見つかりませんわ〜》」

 

「ベイベイ《もう少し探す範囲を広げだ方が良いかもしれませんね》」

 

 メノクラゲとベイリーフも草むらを掻き分けて探してたけどそっちも見つからないか。

 

「あれ? ねぇスリープはどこ行ったの?」

 

「トゲトゲ《そういえば、さっき公園の奥の方に歩いて行ったよ》」

 

「メノメノメ?《どうせスリープの事だから自分好みの少女を見つけて、ストーキングでもしてるんじゃないかしら?》」

 

「ベイ! ベイリフ《まったく不真面目な! スリープは徹底的にお説教するべきです》」

 

「まぁまぁ、とりあえずスリープと合流して一度休憩しましょう」

 

 このまま探しても見つかりそうに無いし、大会が終わってからゴールドと一緒に探せば見つかるよね?

 

【自然公園、奥】

 

 アタシ達は公園の奥深く、大きな大木に囲まれた場所でスリープを見つけた。

 

「スリ、スリーープ!!《君は何回言ったら分かるのだ、ロリこそ究極の萌だろうがーー!!》」

 

「ヒマ、ヒマナッッツ!!《貴様こそ何故理解しない、お姉様こそ究極の美だぁぁ!!》」

 

 そして何故かスリープとヒマナッツが物凄い形相で怒鳴りあってる。

 二人ともお互いを至近距離で射殺しそうなぐらいに睨み合い、相手の存在を否定するように罵り合いを繰り返してるわ。

 

「と、とにかくあのケンカを止めないと。みんな手伝って!」

 

 みんなで二人を無理やり引き剥がし、まだ怒りが収まらない二人をなだめる。

 少し落ち着いたのを確認してアタシはケンカした理由を聞いてみた。

 

「で、何で二人はケンカしてたの?」

 

「ヒマッ!《フンッ!》」

 

「スリッ! スリープ!《このっ! クリスちゃんに向かって何て無礼な態度を!》」

 

「落ち着いてスリープ、アタシは気にしてないからね。スリープ、何でヒマナッツとケンカしてたの?」

 

 またヒマナッツに怒鳴りそうになったスリープをなだめる再度理由を聞く。

 本当どうしてケンカしたのかな?

 

「……スリィプ《……元々は僕がここに来たのが始まりだよ》」

 

「トゲ、トゲ? チク?《ねぇねぇ、スリープはこんな外れまで一人で来たの? サボるため?》」

 

「スリ! スリ。スリプ? スリープ

 《馬鹿にしてるのか! 僕はここにヒマナッツの巣があるのを知ってたから探しに来たんだ。

 忘れてるかもしれなかいが僕はコガネシティの近くで暮らしてたんだぞ?

 この公園は週末には大勢の子供で賑わう、僕にとっては天国のような場所だから毎週通ってたんだよ》」

 

「メノ〜、メノノ〜《それは失礼〜、てっきりワタクシは貴方が少女を追い回してサボってるのかと思いましたわ〜》」

 

「ベイベィリフ……《巣を知ってるなら最初から私達に教えてくれれば良かったのに……》」

 

「スリプ。スリスリ、スリ《この公園にクリスちゃん以上の美少女がいるわけ無いだろ。

 お前達に教えなかったのは僕一人でヒマナッツを捕まえて、僕だけがクリスちゃんに褒めて貰おうと思ったんだよ、分かったかドブス共》」

 

「……ベイ、リフ《……やっぱり一度、コイツはしばき倒したほうが良い気がしてきました》」

 

「メノメノ〜《体罰ならワタクシも手伝いますわ〜》」

 

「まぁまぁ」

 

 ベイリーフ達をなだめながらアタシは話の続きを聞く。

 

「スリ? スリプ。スリ……《続きいいか? で、目論見通りここでアイツを見つけたんだ。そして大人しく捕まるように説得したんだが……》」

 

 すると今まで黙ってたヒマナッツが声を荒げた。

 

「ヒマ! ヒマナッツ!《何が説得だ! 貴様はずっとその人間の小娘の自慢してただけではないか!》」

 

「スリ。スリープ!《だからまだ分からんのか、クズめ。この超絶美少女のクリスちゃんの役に立てるのだから大人しく捕まれ!》」

 

「ヒマ!? ヒマナツ! ヒ、マ、ナ!《貴様こそ我輩の話を聞いていなかったのか!? 我輩は三十未満の女に興味ない!

 そんなケツの青い小娘が我輩をゲットしようなどと十年、いや二十年早いわ、馬鹿者!》」

 

「ケンカはやめなさーい!!」

 

 またケンカを始めた二人にワタシは大声を出して止める。

 でも要はヒマナッツは大人の女性が好きなんだよね?

 それなら……

 

「ねぇねぇヒマナッツ、少しアタシの話を聞いてくれるかな?」

 

「ヒマッ!《フンッ!》」

 

 ヒマナッツはそっぽ向いて拒否しようとしてる、それでもアタシは話を進める。

 

「アタシが貴方を欲しい理由はね、貴方をアタシと……アタシの大切な人のお母さんへの贈り物にしたいからなのよ」

 

 ピクッと分かりやすい反応をするヒマナッツ。

 

「アタシ達のお母さんはね、今は一人で暮らしてるの。だからお母さんが寂しくないように、ずっと側に居てくれるポケモンを探してたのよ」

 

 ピクピクッと反応するヒマナッツ、もう少しね。

 

「ヒマナッツお願い、お母さんの三十四歳の誕生日プレゼントになってくれないかな?」

 

「……ヒマ、ヒマ?《……おい小娘、貴様の母君は美人なのか?》」

 

 食いついた。

 

「美人だよ。そうだ、お母さんの写真見せてあげるね」

 

 アタシはリュックから小さなアルバムを出す……これはアタシの宝物の一つ、アタシの思い出が詰まってる大切なもの……

 

 そしてアルバムの中からお母さんが写った写真をヒマナッツに見せる。

 

「ヒマァァァッッ!!!《ぬおぉぉぉぉぉっっっ!!!》」

 

「ひっ!?」

 

 ビックリした、ヒマナッツったらいきなり大声だすんだもん。

 

「ヒマ、ヒマ、ヒマ、マ!!《この適度に丸みを帯びたプロポーション、艷やかな黒髪、何よりも聖母マリアのような優しい眼差し、パーフェクト!!》」

 

「えっと、お母さんを気に入ってくれたんだよね? なら、お母さんの誕生日プレゼントになってくれるかな?」

 

「ヒマ!! ヒマヒマ!《無論!! いや寧ろ我輩から頼む、この麗しのマダムのナイトに是非志願させてくれ!》」

 

 やったわ、ヒマナッツをゲットよ!

 

「ありがとうヒマナッツ。あともう一つお願いなんだけど、実はお母さんはヒマワリの花が好きで……」

 

「ヒ、マ!? ヒマ! ヒマ、ナツ《何たる偶然、いや運命か!? 我輩は進化するとヒマワリの化身キマワリになるぞ!

 おい小娘、直ぐに太陽の石を用意して我輩を進化させろ》」

 

「それなら大丈夫、太陽の石はお母さんの息子でアタシの恋人のゴールドが手に入れるからね♪」

 

 それを聞いて満足したヒマナッツは再びお母さんの写真を食い入るように見始めた。

 

「トゲチクー《なんかこのヒマナッツってスリープに似てるよねー》」

 

「スリ、スリプ!《オイ、この変態と僕を一緒にするな!》」

 

「メノ。メノメノ〜《どっからどう見ても同類ですわよ。それより〜、さっきはよくもワタクシ達をブス呼ばわりしてくれましたわね〜?》」

 

「スリッ。スリープ《チッ、覚えてやがったか。ではクリスちゃん、僕は一足先にゴールド君に報告してくるよ》」

 

 そう言い終わるとスリープはそのタップンタップンな肥満体型に似合わない俊足で走っていった。

 

「メノ、メノ! メノ〜!《あ、逃げる気ですわね! 待ちなさ〜い!》」

 

「スリ、スリ、リープ《失礼な、僕はただ戦略的撤退をするだけだ、逃げる訳ではない》」

 

「メノメノ〜!《その減らず口を二度と吐けぬように『どくばり』で縫って差し上げますわ〜!》」

 

 そしてメノクラゲもスリープを追いかけて行ったわ。

 

「トゲー、トゲゲー《待ってよー、鬼ごっこならボクもやるー》」

 

 それを更に追いかけて飛んでくトゲチック。

 

「えっと……ベイリーフ、それにヒマナッツも、アタシ達も行こうか」

 

 アタシが声を掛けるとヒマナッツはまだ写真を見つめてウットリしてた。

 

 ベイリーフはそんなヒマナッツを見て大きな溜め息をついてるわ。

 

「ヒマ、ヒマ。ナッツ《おー愛しの姫君よ、もう少しお待ち下さい。貴女のナイトたる我輩が直ぐにお側に参りまする》」

 

「ベイ……ベイリフ、ベィ《また変なのが仲間に……そろそろゴールドさんの胃に穴が開きそうで心配ですね、はぁ》」

 

 あれ? ベイリーフは何でゴールドの心配してるのかな?

 

 ★☆★☆

 

「へっくしょん!!」

 

 我ながら随分デカイくしゃみしたな、花粉でも吸ったかな?

 

「フリ?」

 

「大丈夫だバタフリー、それより次の虫ポケモンを探してくれ」

 

「フリ!」

 

 返事をするとバタフリーは空高く飛び上がっていった。

 虫取り大会も残り時間は半分、俺が今までに捕獲したのはキャタピー、ビートル、コンパン。

 

 う~ん、イマイチな成果だ。

 もう少しゴツいポケモンじゃないと優勝は難しいわな。

 

 だが俺にしては珍しく今まで遭遇するポケモンがすべて雄、本当に珍しいと思うわ。

 だから運は向いてきてる筈、そろそろ大物を見つけ……

 

「フリフリー!」

 

 バタフリーからの合図、虫ポケモンを見つけたのか。

 俺はバタフリーの声のする方に走っていく。

 

 バタフリーと合流すると、くわがたポケモンのカイロスが居た、まだバタフリーには気付いてないな。

 

「でかしたバタフリー」

 

「フリ!」

 

 サイズも俺より一回り大きいぐらい、これなら充分優勝を狙えるぞ。

 そんな事を考えてるとカイロスが俺達に気付き攻撃しようと突撃してきた。

 

「バタフリー、『ねんりき』だ!」

 

「フリ! フッ、リー……?」

 

「どうしたバタフリー!?」

 

 バタフリーは『ねんりき』をしようと力を溜めたまま急に動きを止めた。

 まさか麻痺? いやそれは無い、バタフリーは今日は一度も麻痺技を受けてないぞ。

 

「フ、フリ……」

 

 バタフリーはカイロスの頭の角に挟まれて苦しそうにしてる、あの技は確か『しめつける』。

 

「バタフリー、『ねむりごな』を使うんだ!」

 

「フリ!」

 

 今度は無事技を成功させてカイロスは眠った。

 カイロスが眠ると同時にバタフリーは力が抜けた角から脱出する。

 すかさず俺はパークボールを投げつけカイロスを捕獲した。

 

 無事カイロスを捕獲のは良いがさっきのバタフリーの膠着状態は何だったんだ?

 

「お前、調子悪いのか?」

 

「フ……リィ……」

 

 バタフリーは歯切れの悪い返事をする。

 やはり調子が悪いのか? なら無理させる訳にはいかないな。

 

 時間は残ってるが俺達は東ゲートへ戻る事にした。

 大会が終わったらジョーイさんに診てもらおうと考えながら、落ち込んでるバタフリーを抱えて俺は東ゲートへ戻った。

 

 

 

 

【自然公園、東ゲート】

 

 そして時間は過ぎ、いよいよ結果発表。

 

「では結果発表ー!! ジャジャジャーン」

 

 係の人の元気な声で次々と結果が発表されてく。

 次は一位の発表……

 

「そして今回の大会の一番の優勝者は……

 

 カイロスを捕まえた、ポケモントレーナーのゴールドさんです、おめでとうございます!」

 

「よっしゃ!」

 

 ふー、何とか優勝出来たな。

 

「一番の方には太陽の石を、二番の方には変わらずの石を、三番の方には黄金の実をプレゼントです! また今回惜しくも入賞出来なった人には木の実を差し上げます」

 

 俺は太陽の石と預けたモンスターボールを受け取った。

 意気揚々と東ゲートを去ろうとすると後ろの方でスタッフが何やら慌ててた。

 

「あれ、黄金の実がないぞ!?」

 

「木の実も一個も無いです。おかしいな? 確かに預かったモンスターボールと一緒に金庫で保管してたのに……」

 

 ……非常に嫌な予感がして腰のモンスターボールに目をやる。

 

「……ポリッ……ポリッ……」

 

 ……マグマラシのボールから硬いものを砕く音がしたが聞かなかったことにしよう。

 

 さぁて、クリスは無事にヒマナッツを捕獲したかな?

 クリスが心配だから今すぐ合流しよう、うん。

 

 …………あ、カイロス貰うの忘れた。

 



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第五十一話 恋なんかしない、絶対

 オッス、俺ゴールド。

 俺は太陽の石を手に入れ、クリスはヒマナッツを無事に捕獲して合流した。

 だが合流すると何故かクリスのポケモン達は追いかけっこしてた、割りと早く捕獲できたから遊んでたのかな? その割にはスリープは随分必死に走ってたが。

 

 そして俺はせっかく捕獲したカイロスを持ってくるのを忘れたがな。

 だが心配するな、カイロスはあの後スタッフが美味しく……じゃなくて、スタッフがちゃんと公園に逃してくれたからな。

 

 何でお前がそんな事分かるんだって?

 ついさっき見覚えあるカイロスに頭をどつかれたんだよ、すっげー痛かったぞ。

 カイロスは置いてかれた事を相当怒ってたみたいだな。

 

 尚カイロスは俺を一発ぶん殴ると何処かに飛んで行ったわ。

 

「ゴールド大丈夫?」

 

「痛いけど、たぶん大丈夫」

 

 頭にタンコブ出来た事以外はな。

 

「もぉ、あのカイロス何なのよ!」

 

 そしてクリスは絶賛激おこプンプン丸中、救いなのは既にカイロスが居ないために報復ができない事だろう。

 クリスはポケモンには優しいが、こと俺絡みについては例外的にポケモン相手でも怒る。

 最近はアカネちゃんのおかげで少し落ち着いたが、こんなところでクリスが暴走するのはかなりヤバイ。

 と言う訳で、いつもの様に俺はクリスを宥めることに全力を尽くすことになる、はぁ。

 

「まぁまぁ、あれは俺が悪いんだ。だからカイロスの事は許してやれよ」

 

「でも!」

 

「だから……ああもぉ!」

 

 説得が面倒くさくなってきた俺はクリスを正面から抱きしめた。

 

「これで許してくれないか?」

 

「うん♡」

 

 よし、クリスの怒りは鎮火したな。

 ……あれ? そいやぁ俺はクリスに触ってるのにドキドキしない? 何でだ?

 試しに俺はクリスの頭を撫でる。

 

「うへへ〜♡ 気持ちいいよ~♡」

 

 幸せそうなクリスの顔を見るのは和むなぁ、って違うし。

 う~ん、確かにアカネちゃんと再戦する前はクリスを女として意識してた筈なんだがな?

 今はこんなに触れてるのに俺の心は平常心だ。

 ………………ま、いいか、これで一つ悩みの種が減ったんだし、気にしても仕方ないか。

 

 尚ポケモン達は俺達を暖かく見守っていた……スリープとヒマナッツを覗いて。

 スリープはニタニタと笑いながら俺達を見つめて、ヒマナッツは俺達の方を見ずオフクロの写真をずっと見つめてた。

 スリープは何となく分かるがヒマナッツは何でだ?

 

 ★☆★☆

 

【ポケモンセンター】

 

 俺達はセンターでポケモン達を回復させた、だがバタフリーの異常の原因だけが分からなかった。

 ジョーイさんに聞いても体には異常は無いそうだ。

 ……体に異常が無いなら心に異常があるのかも?

 

「つう訳でクリス、協力してくれ」

 

「どういう訳か分からないけどゴールドの頼みなら協力するよ?」

 

「まぁやる事は簡単だから気軽にしてくれ」

 

 俺は虫取り大会時のバタフリーの事を説明した。

 クリスが黙って聞いてくれたから説明はすぐに終わって助かるな。

 

「えっと、つまりバタフリーに調子が悪い理由を聞けばいいんだよね?」

 

「ああ、頼んだよ」

 

 クリスとバタフリーと話し出す、バタフリーは少し嫌そうな顔をしながらもボソボソと話し、クリスは頷きながら聞いてる。

 こういう時は本当に便利な特技だよな、羨ましい。

 クリスは将来ポケモンカウンセラーとかになったら良いかもな。

 

 しばらくすると話しは終わり、バタフリーは少し気が晴れたのかさっきよりは明るい表情になってる。

 

「バタフリーは何だって?」

 

 俺はクリスに聞く。

 

「女の子が苦手になったんだって」

 

「はぁ? なんだそれ、もう少し詳しく説明してくれ」

 

 今の説明では色々端折り過ぎて何がなんだか分からんぞ。

 

「えっとつまり、バタフリーはこの前のジム戦での『メロメロ』でメスのポケモンに苦手意識がついちゃったの。

 それだけならまだ良かったんだけど、さっきのカイロスに求婚されて女の子が怖くなったんだって」

 

 あー確かにアカネちゃんのポケモン達にはズタボロにされたからな。

 バタフリーは初戦はミルタンクに瞬殺され、再戦したらピッピにも負けたし。

 

「ん? でもクリスとは普通にしゃべれるんだろ?」

 

「……フリフリ」

 

 俺の疑問にバタフリーは言いづらそうに答える。

 

「『人間の女は大丈夫なんだよ』って言ってるわ」

 

 つまり雌ポケモンだけが怖いんか。

 

「まぁアカネちゃんのポケモンに苦手意識があるのは分かるが、でもカイロスに好かれて嫌がる理由が分からんぞ? あのカイロスは好みじゃないとか?」

 

 バタフリーはさっきより更に言いづらそうに答える……その表情は非常に固い。

 

「…………バタフリ」

 

「『テメェはゴリマッチョな中年ババァに交尾を迫られて嬉しいか?』ですって」

 

「!!!……すまなかった」

 

 俺はそっとバタフリーの頭に手を置き謝罪した。

 バタフリー、お前ってなんて不幸な奴なんだ。

 俺もクリスに夜這いされそうにはなった事はあるが、それでもクリスは美少女。

 それに対してお前は…………やべぇ、涙で目が霞むぜ。

 

 俺はバタフリーを思いっきり抱きしめる。

 

「バタフリー、お前の気持ちは痛いほど分かる! よく耐えた、お前は偉いぞ、凄いぞ!」

 

「フリー!!」

 

 俺の胸の中で男泣きするバタフリー。

 怖かったよな、辛かったよな、それでも必死で俺の為に戦ってくれて本当にありがとう。

 俺はバタフリーが落ち着くまで涙を流しながら抱きしめ続けた。

 

 ★☆★☆

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 バタフリーが泣き止んだ後、アタシ達はバタフリーのメスポケモンへのトラウマ克服の為の訓練をすることになった。

 

 これはバタフリー自身が言い出したの。

「いつまでも女にビビってられっか!」ってゴールドにハッキリ言った彼は男らしくてカッコイイと思うわ……若干声が震えてたけど。

 

「頼むぞ、クリス」

 

 そう言い終わるとゴールドは少し離れた所に移動して、腕を組んで傍観する姿勢になる。

 

「じぁあいくよ。出てきて! ベイリーフ! メノクラゲ!」

 

「ベイ!《はい!》」

 

「メノ〜?《お呼びですか〜?》」

 

 アタシの呼びかけに答えてボールから飛び出した二人。

 

「お願い二人とも、バタフリーとお話してくれるかな?」

 

「ベイ?《それは構いませんが?》」

 

「メノノ?《一体なんでそんな事を?》」

 

 アタシは簡潔に事情を説明する。

 

「ベイ、ベイリー?《分かりました、要するにバタフリーの女性に対する恐怖心を取り除けば良いのですね?》」

 

 さすがベイリーフ、あんな短い説明でアタシの言いたい事を理解してくれたわ。

 

「メメ、メノノ♪《ふふふ、トラウマを克服するにはトラウマの元なった事に慣れるのが一番ですわぁ♪》」

 

 そしてメノクラゲはとても楽しそうにしてる。

 

「バ、バタ……フリ《よ、よろしく……お願い……します》」

 

 バタフリーは緊張して口調まで変わってる……これは重症ね、ゴールドが心配するのも分かるわ。

 

「ベイリ。ベイ、ベイ?《ではまず私からいきます。バタフリー、大丈夫ですか?》」

 

「バ、バ、フリ《あ、あぁ、大、丈夫です》」

 

 全然大丈夫じゃないよね、バタフリーは冷汗をダラダラと流して動揺してるのがよくわかるわ。

 

「ベイ?《私が嫌いですか?》」

 

「バ、バタ……《いや、そ、そんな事は……》」

 

「ベイリフ?《私はバタフリーのこと好きですよ?》」

 

「フリぃぃぃ!!?《はいぃぃぃ!!?》」

 

 ウッソォ!? え、いきなり!? ベイリーフがバタフリーに告白した!!?

 

「ベィ、ベイリフ《えぇ、私はバタフリーのことを仲間として好きですよ》」

 

 ですよね~、あーびっくりした。

 そうよね、このタイミングで告白はありえないよね。

 もぉベイリーフったら、なにもわざわざ勘違いするような言い方しなくてもいいのに。

 バタフリーも少し残念そうに、でも明らかにホッとした顔をしてるわ。

 

「ベイ、リーフ、リフ。ベイリ

 《バタフリーは口こそ荒っぽいですが努力家で、真面目で、信頼できる素敵な仲間です。そんな貴方に怯えられるのは私の心が痛みます》」

 

「バ、バタ、バタ、リ、イ《あ、ありがとう。お、俺も、ベイリーフ、さん、の事は、信、頼してます》」

 

 バタフリーったら顔が真っ赤で色違いポケモンみたいになってるわ、ちょっと可愛いかも。

 

「ベィ……《バタフリー……》」

 

「バ、バタ?《な、なんですか?》」

 

 ベイリーフはそっとバタフリーのお腹に自分の頬を当てる、そしてゆっくり頬ずりをする。

 

「ベィ、ベイリ……《バタフリー、私を信じて……》」

 

 ベイリーフは上目遣いに彼の瞳を見つめて、そっと静かにささやく。

 

「バ、バ……………フリぃぃぃ!!!《あ、あ………………うギャゃゃゃ!!!》」

 

 バタフリーは奇声を上げながらゴールドの方に飛んでいったわ。

 そしてゴールドの背中に隠れてガタガタと震えてる……つまり失敗ね。

 

「ベイ?、ベイ、リフ《変ですね? この前に見たドラマだと、これで男性は元気になる筈なんですが?》」

 

 なるほど、ベイリーフがなんかお芝居みたいな事を言うと思ったら、先週アタシと一緒に見た恋愛ドラマのワンシーンを参考にしたのね。

 でもあのドラマは今週の放送で男が自殺したじゃない、そもそも参考にする事自体間違ってると思うよ?

 

「メノノ♪ メノノ、メノノォ《次はワタクシの番ですわぁ♪ さぁ覚悟しなさい、ワタクシはベイリーフほど甘くはないですわよぉ》」

 

「……ベイ、ベイ《……やり過ぎないで下さいね、メノクラゲ》」

 

「バ、バタ《お、お願いします》」

 

 次はメノクラゲね、バタフリー震えながらもゴールドの背中から離れたわ。

 あれだけ怖がってるのにそれでも逃げないバタフリーは素直にスゴイと思う。

 

「メノメノ、メェ♪《さぁスパルタでいきますわよぉ、それぇ♪》」

 

 メノクラゲは初っ端から『からみつく』でバタフリーを拘束する。

 って、アタシは話してほしいとは言ったたけどバトルしてとは言ってないよ!?

 

「フリィィィ!!!《ぎぁぁぁぁ!!!》」

 

「メェ♡ メノ、メノノ〜♪《あぁ良い悲鳴♡ ほらほら、早く振りほどかないとドンドン痛くしますわよ〜♪》」

 

「ベイ! ベイベイ!《メノクラゲ! やり過ぎないでって言ったでしょ!》」

 

「メノ、メノノ♪《大丈夫ですわよ、まだ(・・)手加減してますから♪》」

 

「フリ! フリーッ!! フリーーッッ!!!《助けて! マジで助けてーッ!! 触手がヤバイとこに食い込んでるーーッッ!!!》」

 

 叫ぶバタフリー、それを喜んで虐めるメノクラゲ、それに怒るベイリーフ、そして止めて良いか分からなくてただ見守るだけのアタシとゴールド。

 

 結局、『からみつく』はバタフリーのかんにん袋の緒が切れて『ねんりき』でメノクラゲを気絶させるまで続いた。

 おかげでバトルするだけなら問題無く出来るようになったけど、バトル以外では一層メスポケモンが苦手になったわ。

 バタフリーは今後もメスポケモンで苦労しそうね。

 

「バタァフ、リィィィ!!!《漢の戦いの道に女なんかいらねぇんだよ、バッキャロォォォ!!!》」

 

 その日の夕方に夕日に向かって、そう叫んでた彼の瞳に光るものが流れたのはアタシだけの秘密にしておくね。

 



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第五十二話 君を自転車の後ろに乗せて

 オッス、俺ゴールド。

 今日、俺達はワカバタウンに戻るためにコガネシティを旅立つ。

 既にポケモンセンターとコガネジムには挨拶を済ませた。

 ……思えばコガネシティには随分滞在したな、そして色んな事があった。

 アカネちゃんに負け、クリスとデートし、アカネちゃんと再戦して勝ち、虫とり大会にも参加したな。

 

 因みにヒマナッツは昨日のうちにキマワリに進化させた。

 ついでに言っとくなら、キマワリには俺がガンテツさんに貰ったルアーボールに入ってもらった。

 

 特に使う予定は無かったし、せっかくのプレゼントなのに普通のボールだと味気ないからね。

 ほら、ルアーボールは青いし、それにキマワリの黄色が合わさると青空のイメージになって良いかなと思って。

 ……念のために補足するが俺がコイキング以外に釣れないからじゃないぞ、決してコガネシイティで釣りしてもコイキングしか釣れてないとか無いからな。

 

 尚キマワリのボールは俺が預かってる、俺はクリスからオフクロに渡したほうが良いと思うんだが、クリスが、

 

「お母さんの実子はゴールドだよ、だからゴールドから渡すのが一番いいんだよ」

 

 と、言ったからな。

 

 それから三十六番道路を抜ける方法も分かった。

 クリスとワカバタウンに帰る話しながら歩いてたら、偶々それを聞いていた女の子が

 

「植物のことなら、うちのお姉ちゃんに聞くといいよ。お姉ちゃんはジムのとなりのお花屋さんではたらいてるから、くわしいんだよ」

 

 と教えてくれたんだよ。

 

 で、その花屋のお姉さんに話を聞いたら【ゼニガメじょうろ】を貰えたんだ。

 これで道路を塞いでる動く木に水を掛けると、驚いて退くらしい。

 ……正直、木が驚くって何だよ、とは思うんだが植物のプロが言うんだから多分正しいんだろう。

 

 ついでにオフクロの好きな花の種を何種類か買った、これなら大した荷物にならないしオフクロへのプレゼントも増えるからな。

 

【三十五番道路、ゲート】

 

「さぁて、ワカバタウンに帰るぞ!」

 

「おー!」

 

 俺の掛け声に元気よくクリスはへんじをした。

 前回帰ってから大分経ったし、クリスもそろそろ故郷も恋しいよな。

 

「あー君たち?」

 

 と、言ってたらオニスズメを連れた警備員さんに声を掛けられた、何だろう?

 

「君たちはワカバタウンに行くんだろ? もし良かったら、このメールを持たしたオニスズメを三十一番道路に居る友達に届けてくれないかな?」

 

「ぐえ? ぐぇー」

 

「別に良いですよ、お友達に渡すだけで良いんですよね? ならお受けします」

 

 特に手間にはならないし、三十一番道路ならワカバタウンに帰るとき通るしな。

 これ位の人助けな普通にやるさ。

 

「えっ! ちょっと……まっ!」

 

 クリスが何やら慌ててる、何なんだ?

 

「ベイリーーッフ!!」

 

 そう思ってたらベイリーフがいきなりボールから飛び出した、本当に何なんだ?

 

「ベイベイベイ!」

 

「ぐえぐぇー」

 

「ベイ!?」

 

 そしてベイリーフとオニスズメが口論し始めた。

 その光景を唖然として見てる警備員さん、おろおろしてるクリス、もはやこの程度の事はいつもだなと達観してる俺……まぁベイリーフが問題を起こすのは珍しいんだけど。

 だがこのままにはしとけない、なので俺はクリスに尋ねる。

 

「……これ、どういうこと? クリス、二匹の通訳頼む」

 

「えーっとね、あのオニスズメがさっき、『えー、こんなガキんちょといくの? ちょーイヤなんですけどー、つかマジさいやくー』っていって、それをボールの中で聞いていたベイリーフが怒っちゃったのよ、『その態度は何ですかーーっ!!』って。

 その後は『謝って下さい!』、『チョーウザいんですけどー』、『なんですって!?』ってな感じで言い合ってるの」

 

 あのオニスズメはギャルかよ!?

 つか、

 

「ひょっとしなくても、ベイリーフって真面目な優等生なの?」

 

「うん、ベイリーフは真面目な性格だよ」

 

 ギャルVS優等生か、そら喧嘩もするよな、性格の相性最悪だし。

 前々からベイリーフは賢い奴だとは思ってたが、どうやら俺が思ってた以上に真面目な性格らしい。

 

 仕方ないから俺はバタフリーをボールから出して、『ねむりごな』で二匹を眠らせた。

 バタフリーは若干腰が引けてたがちゃんと技を使えた、どうやらバタフリーの雌ポケモン恐怖症は改善されたみたいだな。

 

【三十五番道路】

 

 さて俺達は動く木の元に向かう訳だが、その前に一つ問題がある。

 それは……

 

「で、オニスズメのモンスターボールはどっちが持ち歩く?」

 

「ゴールドお願い」

 

「だよねー」

 

 オニスズメとベイリーフの仲が悪い以上、俺が持ち歩くしかないよな。

 今は二匹共寝てるから良いが、起きてまた問題を起こされたらたまん。

 なら俺がオニスズメを預かって、もし喧嘩しそうになったら直ぐにまたバタフリーに頼んで眠らせればいい。

 だが、

 

「俺の手持ち、六匹居るんだよね」

 

 そう、ここで問題なのは手持ち制限。

 俺達ポケモントレーナーは公式ルールで手持ちポケモンは六匹までと決まってる。

 そして俺の今の手持ちはマグマラシ、オオタチ、バタフリー、ゴローン、ヤドン、そしてプレゼント用のキマワリの六匹。

 

「なあクリス、キマワリを……」

 

「それはダメ! キマワリはゴールドからお母さんに渡すの!」

 

 ……頑固な奴め。

 仕方ない、パソコンに一匹預けるか。

 でもなぁ、この時間にパソコンを使おうと思うと混むんだよな。

 待ち時間が一時間とか掛かったら今日中にワカバタウンに帰れなくなりそうだし…………そうだ!

 

「ならキマワリ以外ならクリスが預かってくれるか?」

 

「それならいいよ、でもレギュラーを減らしてバトルは大丈夫なの?」

 

「まぁ大丈夫だろ、余計な戦闘は極力避けてばな」

 

 つう訳で俺は腰のホルダーにつけてるボールを一つクリスに渡し、代わりにオニスズメの入ったボールを空いたスペースにマウントする。

 まぁコイツはこの前の勝負で俺の命令を無視しやがったからな、ワカバタウンに帰るまでクリスのホルダーで謹慎させとくさ。

 

【おかしな木の前】

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 今ね、ワカバタウンに帰る途中なの。

 でね、これから道を塞いでるジャマな木を退かすのよ。

 でも本当にじょうろで水をかけるだけで退いてくれるのかな?

 

「うっし、んじゃ水をかけるぞ」

 

 そういうとゴールドはゼニガメじょうろで水を木にかける。

 おかしな木は水がイヤなのか凄い勢いで動き出したわ。

 そして、おかしな木は……

 

「ウ〜ソ、ウソッ、キー♡!《いや~ン、水も滴る良いウソッキー、なんてね♡》」

 

 そう言いながら何故かバク転しながら何処かに消え去った。

 …… …… そっかぁ、あの木はウソッキーっていうポケモンだったんだ。

 

「……何だったんだ?」

 

「アレってポケモンだったみたいね」

 

「いや、そうでなくて……」

 

 ゴールドの言いたい事はわかるよ、でもアタシにも説明は出来ないから。

 ポケモンとおしゃべり出来ても分からない事ってあるからね。

 

「お主たちがあのジャマな木を片付けたでごわすか?」

 

 ぼうぜんとしてるアタシ達に体の大きな人、チョンマゲしてるから多分お相撲さんが話しかけてきた。

 

「恐れ入ったでごわす、お礼にこの技マシンをあげるでごわす」

 

「はぁ……ありがとうございます」

 

 ゴールドは技マシンを受け取ったわ。

 

「凄いでごわす、オイドンが毎日張り手しても退かなかった木を退かしたお主達は只者では無いでごわす。また会う機会があれば是非とも、お手合わせお願いするでごわす!」

 

 そしてお相撲さんは笑いながらドシドシと歩いていったわ。

 

「…………なぁクリス、あの人デカかったよな?」

 

「……えぇ、体重ならアタシの四倍ぐらいありそうだったね」

 

「……力もありそうだよな?」

 

「……間違いなく力持ちだよね、お相撲さんだし」

 

「……そんな人の張り手に毎日耐えてた、あの変な木のポケモンって本当に何なの?」

 

「………さぁ?」

 

 ポケモンには、まだまだ不思議なことがいっぱいあるのね。

 

 

【三十一番道路】

 

 青い空、白い雲、照りつける黄色い太陽……そして赤い自転車で風を切って走るアタシ達。

 さっき警備員さんのお友達にオニスズメとメールを渡したアタシ達は、ワカバタウンに向かって颯爽と自転車で走る、もちろん二人乗りよ♡

 

「クリス、振り落とされんなよ!」

 

「うん♡」

 

 ゴールドが運転する自転車、そしてそのゴールドの背中にしっかり抱きつくアタシ、はぁ幸せ♡

 コガネシイティの自転車屋さんには感謝、感謝よ。

 しかもコガネシイティ出る前にお礼を言いにいったら、

 

「クリスちゃんのおかげで自転車がバカ売れしたよ、ありがとう。お礼にその自転車はそのままクリスちゃんにプレゼントするね」

 

 って、自転車をくれたのよ。

 自転車屋さんってすごく優しい人なんだね、なんかジョーイさんが惚れた理由がよく分かったわ。

 

「黙り込んでどうした? スピード出しすぎたか?」

 

「ううん、大丈夫だよ♡」

 

 もう少しでワカバタウンに着く、お母さん元気かな? ウツギ博士と助手さんは相変わらず忙しいのかな?

 

 ふとアタシはゴールドに声をかける。

 

「ねぇゴールド、旅に出てから色々合ったね」

 

「そうだな、本当に色々あったな」

 

「……ねぇゴールド、アタシ……少しは成長したかな?」

 

 少し間を置いてゴールドは笑顔で答える。

 

「クリスはちゃんと成長してるよ、俺が保証する」

 

「ありがとう、ゴールド♡」

 

 アタシはさっきよりも強くゴールドを抱きしめる。

 ゴールドが成長してるって言ってくれたのが、すごく嬉しいの♡

 アタシ、少しはゴールドに近づけたのかな?

 

「お! ワカバタウンが見えたぞ!」

 

 ゴールド、もう少しだけ待っててね。

 アタシ、必ずゴールドに相応しい女性になるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【???】

 

 いやぁ本当、クリスは成長したと思うよ………特に局部装甲が………。

 あれを背中に押し付けられるのはヤバイ、装甲だけどあの攻撃力はヤバイ。

 クリスは気づいてないよね? 俺の下半身の剣の状態…………気づかれてたら恥ずか死ぬ自信があるぞ。

 …………早くワカバタウンに帰りたい。

 



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第五十三話 レッツ・パーティー♪

【ワカバタウン】

 

 オッス、俺ゴールド。

 俺とクリスは昼過ぎにワカバタウンに帰ってきた。

 やっぱ自転車は速いね、コガネシティからワカバタウンまで数時間で着いたよ。

 

 そして着いてから、まずはウツギ博士のとこに寄ってトゲピーがトゲチックに進化したことを報告した、ついでにヨシノシティで二人へのお土産として買ったエナジードリンクを渡しといたぞ。

 

 ウツギ博士は相変わらずニコニコして受け取ってくれたが、助手さんはシルバー君が持っていったワニノコの事をかなり心配してた。

 ……気持ちは痛いほど分かる、俺も仲間達が盗まれたら心配で仕方ないだろう。

 なのでワニノコがシルバー君の元で元気にしてる事、ワニノコがアリゲイツに進化したことを伝えたらホッとしてくれた。

 

「そうですか、あの子は元気にしてますか……よかった、本当によかった」

 

 ど、助手さんが泣きながら笑ってくれた。

 ポケモンの為に泣けるこの人はとても優しい人だと思うよ。

 ……そいや今思い出したがシルバー君にお仕置きするの忘れてたな、まぁその内やるか……また忘れそうだけど。

 

【ゴールドの家】

 

 家に着いた俺達は早速、誕生日パーティーの準備に取り掛かる。

 オフクロには二階に上がってもらって準備が終わるまで降りてこないように言ってある。

 

「んじゃ始めるか。クリス、ポケモン達を出すぞ。みんなに準備を手伝ってもらうんだ」

 

「うん♪ みんな出てきて!」

 

 そして飛び出したマグマラシ、オオタチ、バタフリー、ヤドン、キマワリ。

 クリスのボールからはベイリーフ、メノクラゲ、トゲチック、そして俺が預けたゴロー……ん?

 

「ゴロォニャ!」

 

 ……目の錯覚じゃないな、ゴローンはゴローニャに進化してる、でも何故に?

 

「なぁクリス、いつの間にゴローンはゴローニャに進化したんだ?」

 

「さ、さぁ? アタシもボールを預かってからずっとホルダーに入れっぱなしだったから分からないよ」

 

 ゴローニャへの進化条件って何だっけ? 石? レベル? つかいつ進化したんだ?

 

 ピンポーン♪

 

 二人でゴローニャに進化した理由あれこれ考えてると玄関からチャイムの音がした。

 

「はーい」

 

 俺が玄関の扉を開けるとウツギ博士と奥さん、ウツギ博士の息子さん立っていた。

 

「こんにちはウツギ博士、さっきぶりです。どうしたんですか?」

 

「こんにちはゴールド君、君がお母さんの誕生日祝いをするって言ってただろ? その準備を僕達にも手伝わせてくれないかい?」

 

 マジか、それは助かるが……

 

「それは有り難いです、ですがお仕事は大丈夫ですか?」

 

「あぁ、研究所はさっき休みにしたよ。僕の助手がさっき君の話を聞いて安心したからか、一気に今までの疲れが出てね、貧血で倒れそうになったから今日は帰らしたんだよ。

 彼無しだと今やってる研究は無理だから今日明日は臨時休業さ」

 

「それは……すいません」

 

「いいんだよ謝らなくて。正直最近の助手はワニノコ……今はアリゲイツになった、あの子の事を心配し過ぎてかなり酷かったからね。でも仕事してないと余計心配して何しでかすか分からない状態だったんだよ。

 だから彼自身の要望で無理矢理仕事を増やしてなるべく考えさせないようにしてたんだ」

 

「まぁアナタったら、助手さんの事ばかり言ってますがアナタも相当酷かったわよ?

 夜中にうなされたアナタを私が慰めたの忘れてます?」

 

「いや、その……その節はお世話になりました」

 

 そいや博士って奥さんの尻に敷かれてたっけ、久し振りに会った奥さんは相変わらず笑顔で旦那に容赦ないこと言うよな。

 

「分かればいいのよ、アナタ。ですからゴールド君、私達が準備のお手伝いするのは主人と助手さんの悩みを解決してくれたお礼も兼ねてるんですよ」

 

 そういう事なら有り難く手伝ってもらおう、いやぁ助かるわ。

 掃除や飾り付けはポケモン達にも手伝えるが、料理は俺とクリスだけで作るつもりだったから本当助かる。

 

「ボクもてつだうよ!」

 

「坊やもありがとうな」

 

 さて、準備始めますか!

 

 ★☆★☆

 

「あ、ウツギ博士、少し聞いて良いですか?」

 

「なんだい?」

 

 部屋の飾り付けも終わり、料理も盛り付け以外は終わったから少し休憩してる。

 その為俺は麦茶を飲みながら同じく麦茶を飲んでるウツギ博士に話しかけた。

 尚、クリスと博士の奥さんはオフクロとおしゃべりする為に二階に行って、博士の息子さんとポケモン達は外に遊びに行ってる。

 

「実は俺のゴローニャの事なんですが……」

 

 俺は今日ゴローンがいきなりゴローニャに進化したことを伝える。

 ウツギ博士はポケモンの進化について研究してるから進化した理由が分かると思って聞いてみたんだよ。

 

「あぁ、それは交換進化だね」

 

「交換進化?」

 

 なんだそれ? 初めて聞いたな。

 

「一部のポケモンは他人とポケモン交換する事で進化する事があるんだ。ゴローニャ以外だとフーディン、ゲンガー、カイリキーがこれに該当するよ」

 

 そうか、クリスと一時的に交換したから進化したのね。

 あ、思い出した! これって通信進化のことだ。

 そうかゲームでの通信進化がこの世界だと交換進化って名前になってるのか。

 まぁこの世界だと交換する時に通信ケーブルは必要ないから名前も変わるわな。

 

「他にもハガネールやキングドラなんかも交換進化だと思うんだが……どうもポケモン交換する以外にも条件があるみたいでね、まだ確定では無いんだ」

 

「そうなんですか、でも交換するだけで進化するのは不思議ですね」

 

「本当だね、一説には交換する事でポケモンはストレスを感じて進化するとは言われてるが、残念ながらまだ仮説でしかないんだよ。とある地域だと野生のゴローニャが普通に生息してたりするし、まだまだ分からないことだらけだよ」

 

 ポケモンは奥が深いな、何にしてもゴローニャが進化した理由は分かって良かったよ。

 

 ★☆★☆

 

 ハァイ、アタシはクリス。

 

「「「「ハッピーバースデー!!」」」」

 

「みんなありがとう♪」

 

 無事に準備は終わり、お母さんの誕生日パーティーが始まったわ。

 お母さんはうれしそうに誕生日ケーキのロウソクの火を吹き消す。

 

 そしてアタシ達はプレゼントを渡すわ、お母さん喜んでくれるかな?

 

「お母さん、お誕生日おめでとう♪」

 

「これは俺達からのプレゼントだ」

 

 ゴールドはラッピングされた箱を渡す。

 

「ありがとうゴールド、クリスちゃん。開けていいかな?」

 

「「もちろん!」」

 

 お母さんはラッピングを丁寧に開けてくわ。

 

「まぁお花の種とこれは……モンスターボール?」

 

 お母さんが首を傾げてるとルアーボールからキマワリが飛び出した。

 

「キマ、キマキマワリ。キマ、キマ《はじめまして麗しき姫君よ、我輩は今日より貴女様の忠実なナイトとなるキマワリと申しまする。このキマワリ、誠心誠意お仕えさせていただぎす》」

 

 タキシードを着込んだキマワリは見事な一礼をしながら優雅にあいさつしたわ。

 このタキシードはキマワリ自身の要望で用意したものよ。

 尚お値段は結構しました、ポケモンの服って高いのね。

 

「ねぇゴールド、この子は……?」

 

「そいつはオフクロの新しい家族だよ」

 

「…………ゴールド、ちゃんと避妊しなきゃダメでしょ?」

 

「だから人間からポケモンが産まれるかボケーーーっっっ!!!」

 

 今日もゴールドのツッコミがワカバタウンに響き渡るわね。

 

 ★☆★☆

 

 あの後キマワリの説明をお母さんにして今は用意した料理をみんなで食べながらくつろいでるの。

 ポケモン達もお腹いっぱい食べて幸せそう。

 でもマグマラシだけ食べ過ぎて少し苦しそうにしてるの、あの子は食い意地はってるからなぁ。

 

 お母さんはウツギ博士達に貰った高そうな一人用ソファー(ウツギ博士が論文賞? ってので貰った物だけど誰も使わないからって言ってた)に座ってキマワリを膝に乗せてるわ。

 お母さん、キマワリが気に入ったみたいでよかった。

 

「……ぅぅううぉぉおお!!」

 

「……グォォオオオ!!!《……ど根性ォォォオオオ!!》」

 

 ドッスッッ!!!

 

 な、なんかスゴイ声と衝突した音が家の外からした!?

 何があったの!?

 

「……すっげー嫌な予感が……いやこれはもう嫌な予想か。オフクロ達は待っててくれ、俺が見てくる」

 

 そう言い終わるとゴールドが食べかけのケーキを机に置いて玄関に向かう、アタシはもちろんその後を着いてくわ。

 

 バタッ!!

 

「コラッ、糞オヤジ! テメェいきなり大声出して登場すんじゃねぇよ、近所迷惑だろが!!」

 

 ゴールドは玄関を勢いよく開けて怒鳴ったわ。

 そこには顔やら服やらに木の枝や葉っぱを付けてボロボロなゴールドのお父さんと、何故か疲労困憊の同じくボロボロなリザードンがいたわ。

 

 てかゴールド、久し振りに会ったお父さんに対する第一声がそれって……

 それにゴールドも十分近所メイワクな声出してるし。何より、そのご近所さんのウツギ博士一家とアタシはこの家にいるよ?

 あとあのリザードンは誰?

 

「おーゴールド、クリスちゃん、元気してたか! 相変わらず仲良さそうで安心したぞ」

 

「オヤジこそ相変わらずのノー天気だな、つか仕事で帰ってこれないんじゃ無かったのかよ?」

 

 それね。

 お父さんは世界中を回る豪華客船のクルーをしていて中々家には帰ってこれないの。

 アタシもお父さんと会うのは久し振りだわ。

 なのに何でここに?

 

「いやぁ船長に今日がお母さんの誕生日だって話したら「嫁さんの誕生日ぐらい帰れや!」って叱られて急遽休みくれたんだよ」

 

「……ちょい待ち、休み貰えた理由は分かったがオヤジの船は今は確かアローラに停泊してるとか言ってなかったか?」

 

 え? それ初耳、と言うことはお父さんはアローラからワカバタウンに帰ってきたの!?

 

「そうだぞ、だからアローラからリザードンに乗って帰ってきた。このリザードンはライドポケモンと言ってな、アローラでレンタル出来るんだよ、便利だろ?」

 

「普通にポケモン虐待だろ! アローラからここまで何千キロあると思ってるんだ!!」

 

 本当それ、無茶にもほどがあるよ。

 

「大丈夫?」

 

 アタシがリザードンに声かけるとリザードンは笑って答えた。

 

「グォ、グォ……グオ、グオグオ、グォオ!《ゼェ、ゼェ……問題ねぇぜ、離れ離れの愛する者達の橋渡し役なんて熱い仕事やり遂げたんだ、これくらいどうってことねぇよ!》」

 

 リザードンはゼェゼェしながらも満足げに親指立てて笑ってるわ。

 ……本人が満足してるなら……良いのかな?

 その後すぐにアタシとゴールドは家の中から大量の水とポケモンフード、あと残ってた料理を持ってきてリザードンにあげた。

 そうしたら物凄い勢いで飲んで食べて、そのまま家の前で爆睡しちゃった、リザードン本当にお疲れ様。

 

 ★☆★☆

 

 そんなこんなでお父さんをメンバーに加えて誕生日パーティーを再開、お母さんはお父さんが帰ってきてくれてとても嬉しそう。

 ちなみにウツギ博士一家は「あまり遅くまで居るのは悪いから」って言ってついさっき帰っちゃったわ。

 

「ア・ナ・タ♡」

 

「お・ま「キマ!《成敗!》」ヘブシッ!?」

 

 あぁ、またキマワリがお父さんに『はたく』してる。

 さっきからお父さんとお母さんがいい雰囲気なるとキマワリがジャマしてるのよ。

 

「おいキマワリ! さっきから何しやがるんだ、痛いだろうが!」

 

「キマ、キマワ!《黙れ下郎、我が姫君に近寄るんではない!》」

 

 あー、ついに二人は取っ組み合いのケンカをはじめちゃった。

 

「ねぇゴールド、どうしよう……?」

 

「個人的には子供のいる前でイチャつくオヤジ達にも問題があると思うがな。

 まぁ仕方ない、止めないと埃が舞うし。

 んじゃ、ベイリーフ『フラッシュ』だ」

 

「ベイ!《はいっ!》」

 

 えっ?

 

「目がぁぁぁ!?」「キマァァ!?《眩しいぃぃ!?》」

 

「続けてメノクラゲ、二人纏めて『からみつく』で締め上げろ」

 

「メノノ〜♪《畏まりましたわ〜♪》」

 

「ギャァァァ!!」「キママァァ!!《足が千切れるぅぅ!!》」

 

 えぇっ!?

 

「これで最後だから安心しな、スリープはオヤジに『ねんりき』、トゲチックはキマワリに『おんがえし』、ちっとは反省しやがれバカ共」

 

「……スリ《……了解》」

 

「トゲトゲチク♪《ゴールドパパのお願いならガンバるよ♪》」

 

「イデぇぇぇ!!」「ギマッ!!《グォホッ!!》」

 

 ……そして二人は仲良くボロ雑巾になりました、これ意識失ってるよね?

 てかアタシのポケモン達が普通にゴールドの指示聞いてるし、それ自体は別に嫌じゃないんだけど……なんか複雑な気分よ。

 

「ご、ゴールド……少しは手加減しろよ……」

 

 あ、お父さんは気を失ってなかったわ。

 キマワリは完全に白目になって気絶してるのに、お父さんってポケモンより頑丈なのね。

 

「なぁに言ってやがる、ちゃんと手加減してるだろ?

 レベルも攻撃力も俺のポケモンより低いクリスのポケモンに仕置きさせてるからな。それともマグマラシの『かえんぐるま』で消し炭にされたいか?」

 

 あ、納得。

 今のゴールドのポケモン達ってコガネシティでの特訓でパワーアップしてるもんね。

 あの子達が本気出したらお父さん本当にボロ雑巾を通り越して消し炭になっちゃうもん。

 

「ふふふ、みんな仲良しさんね♪」

 

 お母さんはそんな二人を楽しそうに見つめて笑ってるわ。

 

「クリスちゃんもそう思わない?」

 

「はい、だってアタシ達は仲良し家族ですからね♪」

 

 それをアタシも笑って答えたわ。

 こうしてお母さんの誕生日パーティーは楽しく終わったの、またみんなでパーティーしたいな♪

 

 

 

 ✱オマケ ★妻をたずねて三千里〜オヤジとリザードンの旅〜

 

【昨日のアローラ地方、ライドポケモン貸出所】

 

「すいませーん、ライドポケモン貸してください!」

 

「はーい、どちらまで行かれますか?」

 

「ジョウドのワカバタウンまで」

 

「はぁ?」

 

「だからワカバタウンまでお願いします」

 

「いやいやいやいやいや……! 無理ですから、ここからジョウド地方まで何千キロあると思ってるんですか!」

 

「そこを何とか、明日は妻の誕生日なんでどうしても帰りたいんです!」

 

「明日!? もっと無理ですから! 第一そんな距離を運べるポケモンはウチには……」

 

「グオ、グゥゥ!《ちょいと待ちな、その仕事はオレが引き受けた!》」

 

「お前は、リザードン……」

 

「グゥグオ、グオ!《遥か遠くにいる愛する者に会いたい、その願いはこのオレが叶えてやるぜ!》」

 

「ありがとう、恩に着る!」

 

「グオ、グオグオ!《へ、いいってことよ!》」

 

 ※注意、オヤジはクリスみたいにポケモンの言葉は分かりません、リザードンとはジェスチャーと表情だけで意思疎通してます。

 

「……こいつら、店主の僕をほっといて勝手に話し進めてやがる」

 

「行くぞリザードン! 目的地は愛する妻と子供達が待つワカバタウンだ!」

 

「グオ! グゥ、グオグオ!《おう! オレに任せろ、必ずこの熱い仕事を達成してみせるぜ!》」

 

「……もぅ勝手にしてくれ」

 

【海上にて台風直撃】

 

「ぬぉぉぉおお、飛ばされてなるものか!!!」

 

「グオ、グゥゥグオ!《負けるかよ、この程度の雨と風じゃあオレ達の情熱の炎は消せないぜ!》」

 

【山でヤミカラスの群れに遭遇】

 

「こいつ等、俺達を襲う気か!?」

 

「グゥゥ、グオグオ! グオ、グゥゥオゥゥオォォォ!《テメェ等、邪魔するってぇなら容赦しない! いくぜぇオレの必殺技、オーバーヒィィィトォォォォ!!》」

 

【とある町外れでロケット団発見】

 

「あれ見ろ! あの黒服共が人を襲ってる。強盗か!?」

 

「グゥ!? グオ! グゥゥ!《何!? そんな悪党は絶対許せねぇ! 助けるぞ!》」

 

「よっしゃぁ、行くぞリザードン」

 

「グオ! グゥゥ……グオ!《おう! オレの怒りの姿を見せてやる……変身!》」

 

【ワカバタウンまで残り数キロメートル地点】

 

「見えた! 見えたぞワカバタウンが! リザードンあと少しだ、頑張れ!」

 

「グゥゥ! グオォォォ!!《よっしゃぁ、ラストスパートだ!!》」

 

「いけぇぇぇ、ってストップストップ! 木にぶつかるぅぅぅ……ボゲッダッッ!?」

 

【ゴールドの家、現在】

 

「……と、こんな感じでお父さんとリザードンはワカバタウンに帰ってきたんだよ。凄いだろゴールド!」

 

「……色々ツッコミどころがあり過ぎてどこからツッコめと? 取り敢えず良く無事だったよな、それだけは褒めとくよ」

 



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第五十四話 クリスがクリスになった日

 アタシはクリス……クリスはママがくれた名前、名前の由来は……パパが大事にしてたクリスタルガラスの彫刻から……

 

 ★☆★☆

 

 アタシは五年前にワカバタウンに引越してきた。

 その前はハッキリとは覚えてないけどワカバタウンよりは都会に住んでいたのは覚えてる。

 当時のアタシはワカバタウンが田舎だから嫌いだった、本当は引越しするのも嫌だった。

 

 でもパパとママの仕事が忙しくなってきた時期だった為に、ママの昔からの親友でゴールドのお母さん……コトネさんが居るワカバタウンに引越しすることを決めたと言ってた。

 アタシのパパとママは有名な俳優さんでとても忙しい人達だから。

 引越しする前もパパとママはあまり家には帰ってこなくて、いつもお手伝いさんがアタシの相手をしてくれた。

 そのお手伝いさんが高齢で定年退職するのも引越しの理由だった。

 それでもアタシはパパとママが大好き、パパはとってもカッコよくてママは凄い美人でアタシの自慢だったから。

 

 ワカバタウンに移り住んだ後は当初の嫌悪感は大分無くなり割と楽しい生活をしてた。

 ゴールドのお母さん、コトネおば様は優しくて料理が上手でアタシはすぐに好きになれたし、幼稚園の同級生達はアタシが俳優の娘だと言うとチヤホヤしてくれて気分が良かった。

 ゴールドのお父さん、ヒビキおじ様は中々家には帰って来なかったけど気さくで楽しい人。

 アタシはしょっちゅうゴールドの家に預けられてたけどそれが凄く楽しかったの。

 

 アタシはだんだんとワカバタウンが好きになっていった……唯一ゴールドが気に入らない事を除けば。

 

 当時のアタシはゴールドが嫌いだった、いつも大人ぶってて同い年のアタシを子供扱いするゴールドが嫌いだった、他の同級生みたいにアタシをチヤホヤしないゴールドが嫌いだった。

 いつも「ゴールドなんか居なくなれば良いのに」と考えたのを覚えてる。

 

 ……でも、あの日からアタシとゴールドの関係は変わった。

 

 その日はママの誕生日だった、だからパパとママが久しぶりに家に帰ってきてくれたの。

 でも二人共帰って直ぐに寝ちゃった、仕事が忙しくて疲れてるのは分かってたけどアタシはそれが寂しかった。

 だからアタシはママにサプライズしようと思った、そうすればパパとママが喜んでくれると思って。

 町のケーキ屋さんでお小遣いで小さい誕生日ケーキを買ったのよ、それをリビングに置いてアタシはパパとママの部屋に二人を呼びにいった……リビングのケーキには火のついたローソクを刺しておいた、その方がママが喜んでくれると思って。

 

 でもパパもママも何度声を掛けても起きなくて、その内に疲れたアタシはパパとママの横で寝ちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……次に目覚めた時には目の前は真っ赤な焔に包まれてた

 

 あの日の事は今でも鮮明に覚えてる、あの日からアタシ(クリス)は今のクリス(アタシ)になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あの日、パパとママをアタシ(クリス)が殺した。

 

 

 後日、おば様に聞いた話だとパパとママはアタシを焔から守る為にアタシに覆いかぶさるように死んでたらしい。

 おば様は言わなかったけど消防士さん達の話を盗み聞きたら、アタシが用意したケーキのロウソクが出火元だった。

 

 アタシは……クリスは……アタシ(クリス)の幸せをブチ壊した。

 

 火事の後アタシはゴールドの家で暮らしてた、でも直ぐにアタシは出ていった、少しでもパパとママの近くにいたくて。

 当時のアタシの家は大きなお屋敷だったから母屋は全焼したけど別館は無事だったのでそっちに住むことにしたの、その別館を改築したのが今のアタシの家。

 その手続きはおば様とゴールドがしてくれた。

 

 おば様とゴールドはアタシを気遣って毎日会いに来てくれた、でもアタシはいつも上の空。

 幼稚園に行ってもアタシは無感情、ずっと椅子に座って何も無い壁をただ見てるだけ。

 そんなアタシをちょっと前までチヤホヤしてた同級生達は掌を返すように貶しだした、「クリスは親殺しだ」って。

 

 でもアタシは反論出来なかった、だって事実アタシはパパとママを殺したんだもの。

 ゴールドは必死にアタシを庇ってくれたけど無駄だった、それどころか隣のクラスの子までアタシを罵りだす始末、そしてアタシは幼稚園に行かなくなった。

 

 そんなアタシをおば様とゴールドは根気良く会いに来てくれて励ましてくれた、でもアタシはゴールドが好きになれなかった、それどころかウザったく感じていた。

 アタシはゴールドが……嫌いだった、アタシの事を何も知らない癖にアタシに構ってくるゴールドが嫌いだった。

 

 そんなアタシは町にいる事が苦痛で仕方なかった、みんなアタシを冷たい目で見てくる気がするから、だからアタシは日中はワカバタウンから出て近くの野山で過ごすようになった。

 アタシは毎日町を出て野山のポケモン達と過ごすようになった、ポケモン達だけがアタシの友達だった。

 そんな生活を過ごす内にアタシはポケモンとお話出来るようになった、ポケモン達はみんな優しくてこんなアタシを受け入れてくれる……ポケモン達だけがアタシの理解者だった。

 

 そんなある日おじいちゃんとおばあちゃんから封筒が届いた。

アタシは歓喜した、これでアタシはこの地獄から抜け出せる、これでワカバタウンとはサヨナラ出来ると思って。

 ……でも現実はそんなに甘くはなかった。

 

 封筒の中身は「娘を殺した悪魔の子を孫とは思えない」という内容の手紙と多額の金額が入った小切手……手切れ金だった。

 この日アタシは唯一の肉親すら失った。

 後で知ったことだが、おじいちゃんとおばあちゃんはパパとママの結婚に反対しててパパとママは駆け落ち同然に結婚してアタシを産んだらしい、アタシは……実の祖父母にすら嫌われてたのよ。

 

 その日の夜……土砂降りの雨の中……アタシはワカバタウンからそれ程離れてない森に来た……ここはアタシのお気に入りの場所……いつもポケモン達と遊んでた場所。

 ここにアタシは……包丁だけを持って立たずんでいる……

 そしてアタシは静かに自分の手首を深く切り、近くの川に浸した。

 ……これで……開放される……

 そこでアタシの意識は途切れた。

 

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

「……クリス!」

 

 ……誰?

 

「しっかりしろクリス!」

 

 ……誰が、アタシを呼んでるの?

 アタシが気がつくとそこは天国でも地獄でも無い、見慣れた森と……雨でびしょ濡れになりながらアタシの手首を止血するゴールドだった。

 何故?

 何故ゴールドはアタシを助けようとするの?

 

「……ゴール、ド?」

 

「そうだ俺だ、ゴールドだ!」

 

「……なんで……なんでアタシを助けるの?」

 

 このままずっと眠っていたかったのに。

 

「なんでって、助けるに決まってるだろうが! つかなんでこんなことした!」

 

 そう怒鳴るゴールド。

 

「……もう、いいの……もう生きてたくないの……もうパパとママのとこに行きたいの……」

 

 もう生きることに疲れたんだよ。

 

バカヤローッッ!!

 

「……?」

 

「そんな事してオジサンとオバサンが喜ぶかよ、うちのオフクロだってお前のこと必死で探してるんだぞ。俺だって……俺だって……お前に……生きて欲しいんだよ」

 

 その時のゴールドの顔は怒ってるような、泣いてるような

 よく分からない表情をしてた、その表情が今でも忘られない。

 

 アタシはいらない子、でもこんなアタシを必死に探してくれた人がいる、それだけで救われた気がする。

 アタシはパパとママを殺した悪魔、クリス(アタシ)アタシ(クリス)から幸せを奪った憎い奴、でもゴールドはそんなアタシ(クリス)を必要としてくれる、この人が居ればアタシはこの世界を好きでいられる。

 

 その日からアタシは恋をしました。

 一生変わることの無い、最初で最後の恋。

 アタシはゴールドを生涯愛し続けると誓いました。

 アタシはゴールドと一緒にいる為に生き続けると心に決めました。

 

 ゴールド、アタシ(クリス)はあなたを世界の誰よりも愛してます。

 

 ★☆★☆

 

「…………あれ?」

 

 ここは……アタシの……部屋?

 そっか、さっきのは夢だったの。

 思い出した、アタシはお母さんの誕生日パーティーが終わった後で、ずっと放置してた家の事が少し気になったから帰ってきたんだ。

 でもお母さんにスペアキーを渡してたからお母さんがマメに掃除してくれてて、すること無かったから直ぐに寝たんだっけ。

 

「……久しぶりに昔の夢、見たな」

 

 昔は毎日の様に見てた夢、でもゴールドと旅をするようになってからは見なくなった夢。

 

「そういえば、いつの間に火が怖くなくなったんだろう」

 

 あの火事のトラウマでアタシは一時期、火を見ると発狂するようになった。

 でもゴールドとお母さんがその度に抱きしめてくれていつの間にかトラウマを克服出来てた。

 

 ふとアタシは周りを見回す、ベイリーフがお上品にスヤスヤと眠りその横でトゲチックが仰向けで寝てる。

 さらに少し離れたとこではメノクラゲが寝ぼけてスリープに『からみつく』をしてスリープがうなされてる。

 

「パパ、ママ。産んでくれてありがとう、今アタシは幸せです」

 

 やっと言えた言葉、本当はもっと早く言いたかった一言。

 

『良かったな』

 

「……え?」

 

 今一瞬、パパとママの声が聞こえた気がした……気のせい?

 ううん、多分アタシを心配してパパとママが様子を見に来てくれたんだわ。

 

「パパ、ママ……」

 

 アタシはちゃんと生きてるよ、だから心配しないで。

 

「ゴールド……」

 

 アタシはゴールドの家の方を見て最愛の人の名前をつぶやいた。

 

 ★☆★☆

 

 目が冴えた俺はまだ夜明け前だが家の前で一人で外を見てる。

 

「ゴールド、寝れないのか?」

 

 そしたらオヤジが扉を開けて俺に声をかける。

 

「オヤジこそ」

 

「俺はコレだよ」

 

 オヤジは手に持ったタバコを俺に見せてくる、オフクロがタバコが苦手な為に我が家は室内禁煙、だからオヤジは喫煙する時はわざわざ外に出て吸う。

 そのまま俺の横に立ちオヤジはタバコを吸い始めた。

 

「オヤジ、俺にも一本くれ」

 

「……たく、お母さんにバレるなよ」

 

 オヤジは俺が喫煙者なのを知ってる、それと同時に俺が前世の記憶を持ってることも。

 俺はオヤジからタバコとライターを受け取りゆっくり火をつけてから吸う。

 

「……フゥーッ、久々に吸うと体に染み渡るわぁ」

 

「おい、発言がジジ臭いぞ」

 

「前世込みならオヤジより年上だよ」

 

「……そうだったな」

 

 しばらく二人共黙ってタバコをふかしてるとオヤジが話しかけてきた。

 

「……何考えてた?」

 

「クリスのこと」

 

「そうかい……まだ後悔してるのか?」

 

「……まぁな」

 

 口数少ない会話だがお互いに言いたい事はだいたい分かってる。

 あの火事の日、俺はクリスがケーキを買ってたのを知ってた。

 なのに俺は火事になる可能性に気付けなかった、俺があいつの一番近くに居たはずなのに。

 その後もあいつが自殺未遂をするまで追い込まれてたのに手首を切る前に助けてやれなかった。

 

「……なぁ、そろそろ自分を許してやれよ」

 

「……無理だな、俺は一人の少女の不幸を止められなかった」

 

 俺は罪人だ。

 

「あれは事故だよ、クリスちゃんにもお前にも罪はない。それに前世の記憶があったって人間一人に出来る事には限界がある」

 

「だとしても俺は自分が許せない」

 

 あの日、両親を失った彼女の為に俺が両親の代わりになると誓った。

 それがクリスへの贖罪。

 

「あの時の俺はゴールドの気持ちが理解しきれんかった、だが俺も年食って理解したよ……だからこそ言える。

 もうお前もクリスちゃんも過去に囚われるな、そんな事は誰も望まない」

 

「……クソオヤジが、少しは父親らしいこと言えるようになったか」

 

「茶化すなよ……そらお前は中身は俺より年上かもしれんがそれでも俺の息子だ。俺にとってゴールドがたった一人の大切な息子、それはお母さんも変わらん。それにクリスちゃんのご両親も。

 そしてゴールドお前もだろ、自称クリスちゃんの保護者さん?」

 

「オヤジこそ茶化すな、まぁその通りだな」

 

「別に今すぐじゃなくて良いからな」

 

「……善処する」

 

 俺はタバコの火を消し、身体に付いた煙の匂いを消すために風呂場に向かう。

 俺が喫煙者なのはオヤジしか知らない、その為オフクロやクリスにバレない様にしてる、まぁオヤジが帰ってきた時しか吸わんからそうそうバレようが無いが。

 

「……ゴールド、クリスちゃんと幸せになれよ」

 

 扉を閉める直前に後ろから聞こえたオヤジの呟きが哀愁を感じたのは気のせいでは無いだろう。



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第五十五話 二組の幼馴染

 ハァイ、アタシはクリス。

 アタシ達は誕生日パーティーの翌日にワカバタウンを出発したわ。

 お父さんとリザードンもアタシ達と一緒に町を飛び立ったの、またあの長距離を飛んでアローラに帰るのに二人は爽やかな笑顔で飛んで行ったのよ。

 

 お母さんはキマワリと一緒にアタシ達を見送ってくれたわ、でも出発する前にまたキマワリとお父さんは喧嘩してゴールドがお仕置きしてたの、二人は本当懲りないよね。

 でもキマワリのおかげでお母さんはいつもより明るい表情で見送ってくれたの、キマワリをプレゼントして本当に良かったと思うわ。

 

 そしてアタシ達はあのウソッキーが居た道を抜けてエンジュシティを目指してる。

 エンジュには伝説のポケモンを祀ってる塔があるからアタシは楽しみなの♪

 ゴールドは道中でもエンジュでのジム戦のイメージトレーニングに余念がなかった、でも余りにもトレーニングに集中して転けそうになってるのが心配よ。

 でもアタシはゴールドなら大丈夫だと思うよ、必ず勝てるとアタシは信じてるよ。

 

 ★☆★☆

 

【エンジュシティ〜昔と今が同時に流れる歴史の町〜】

 

 オッス、俺ゴールド。

 俺達はエンジュシティについた、ここはコガネと違って古い建物が建ち並ぶ古風さが印象的だ。

 特に印象的なのが西と東にある二つの塔、だが片方は火事で半分焼け落ちていてるのが個人的に残念だ、本当は二つの塔が凛々しく並ぶ姿を見てみたかったな。

 

 そして俺達は今夜の宿の確保の為に毎度おなじみポケモンセンターにやって来た、だがセンターのドアを開けると……

 

「おんどりゃあ、シバキ倒したるわぁ!」

 

 物凄い聞き覚えがある怒鳴り声がセンターの中に響いた。

 

「あっ、アカネの声だ♪」

 

 だよね、この独特の高い声のコガネ弁はアカネちゃんの声で間違いないだろ。

 でもコガネのジムリーダーのアカネちゃんがなんでエンジュに?

 

「二階にいるみたいだから行こうよ」

 

 そして俺の手を引っ張ってクリスは二階に行こうとする、俺としては嫌な予感がするから全力でスルーしたいんだが……

 

 ★☆★☆

 

 二階に上がると般若みたいな顔で椅子を振り回してるアカネちゃんと、そのアカネちゃんから必死に逃げてるクセ毛の青年がいた。

 

「……なんだ、この修羅場」

 

「と、とにかく止めようよゴールド」

 

「だけどよ……仕方ない、少々手荒になるがアレやるか」

 

「アレ?」

 

「そ、アレ。クリスは下がってろよ、危ないから」

 

 あんま使いたくないが、あれだけ暴れてるアカネちゃんを止める手段は他に思いつかんし仕方ないな。

 青年の頭部目掛けて椅子を振り下ろそうとしたアカネちゃんの前に素早く潜り込み、その椅子を持つ手を掴む。

 

「!?」

 

 そして驚いて一瞬動きを止めたアカネちゃんの片手の手首、肘を捻りながら椅子を叩き落としアカネちゃんをうつ伏せに倒す。

 

「うがっ!!」

 

 最後に手首を本来曲がらない方向に雑巾を絞る様に捻る。

 

「いででででっ!!」

 

 これぞ合気道の技の一つ、変則正面打ちの一教だ。

 

「アカネちゃん、もう暴れないか?」

 

「暴れん、暴れんからはよ止めてくれぇやぁ!」

 

 ちなみにこの技は物凄く痛いがアカネちゃんを傷つける事は無いので安心してくれ。

 

「ゴールドってこんな事も出来たんだね」

 

「まぁ、かじった程度だけど」

 

 そのかじったのは前世だがな。

 

 ★☆★☆

 

 そんなこんなでクリスがアスカちゃんを宥めながら事情を聞くために四人で椅子に座ってる。

 ちなみにアスカちゃんはまだ苛ついてて、青年はそれをチラチラ見ながら少し怯えてる。

 

「んじゃあ、まずは自己紹介からしますか。アスカちゃんはともかくそっちの方とは初対面だし。俺はワカバタウンのゴールド、んでこっちはクリスです」

 

「はじめまして、アカネの友達でゴールドの恋人のクリスです」

 

 俺は最近はクリスの恋人宣言はスルーしてる、どうせ否定しても誰も信じないし。

 

「ゴールドはんにクリスはんな。さっきは助けてくれはってありがとう。ワイはマサキ、このじゃじゃ馬娘の幼馴染や」

 

「誰がじゃじゃ馬やって!?」

 

「お前に決まっとるがな」

 

「アカネ、どうどうどう」

 

 クリスに宥められて振り上げた拳を下ろすアカネちゃん。

 だがクリス、それは馬の宥め方だぞ。

 後マサキさんはあんまアカネちゃんを煽らんでくれ、また暴れられたら面倒だし。

 

「ん? マサキさんってひょっとして『マサキのパソコン』のマサキさんですか?」

 

「せやで。ポケモン及び道具転送預かりシステム、通称『マサキのパソコン』はワイが開発したんや」

 

 マジか、て事はこの人メチャクチャ頭良いんだよな。

 

「スゲー、マサキさんて天才なんですね。あ、『マサキのパソコン』には何時もお世話になってます」

 

「いやぁ、そんな褒めんでくれぇや。照れるやんか」

 

「せやでゴールド、このバカを付け上がらせるとろくな事しいへんから適当にシバキ倒しときゃいいんや!」

 

「ホンマお前はひでぇ奴やな、だから彼氏が出来ないんやで」

 

「なんやて!!」

 

「まぁまぁ、つか本題に入りますが何で二人は喧嘩してたんですか?」

 

 喧嘩っつうかアカネちゃんが一方的にリンチしかけたようなもんだが。

 

「それな。まぁさっきコイツも言ってたが遺憾ながらウチとコイツは幼馴染や。

 んでコイツは今はカントーに住んでいてここ数ヶ月は何も連絡が無かったんや、なのに今日いきなりウチに電話よこしおったんやで」

 

「え、カントーに? 今ってリニアが使えないからカントーからジョウトに来るのは難しくないですか?」

 

 クリスの疑問は最もだ、リニア無しで来るとなると週に数回の定期船かポケモンで飛んでくるしか無いし。

 船は高いしポケモンだと秘伝マシンがいるんだよな。

 

「それはセキエイ高原経由で来たから問題ないで。ワイはポケモンリーグのポケセンのマシンメンテもしてるからフリーパスで通れるんや」

 

 この人は手広く仕事してるなぁ。

 

「話進めるで。んでな、マサキが電話で『むっちゃ大切な話があるんや、エンジュまで来てくれへんか?』って言いよったんや。せやでウチが急いで来たら、用件はポケモンを一匹預かってくれ、それだけやったんやぁっ!!」

 

「ヨシヨシ、落ち着いて」

 

 怒りが再熱したアカネちゃんをすぐさま宥めるクリス、クリスも成長したなぁ。

 

「これが落ち着いてられるかって話や! わざわざアスカにジムリーダー代理を頼んで急いで来たのに用件がポケモン預かってくれだけ? なめとんかぁっ!」

 

「いやいや、ワイは急いで来てくれとは言ってないで」

 

「大切な話があると言われたら勘違いするやろ!」

 

「へぇ〜アカネは勘違いしたんだ〜。アカネはどんな用件と勘違いしたのかなぁ?」

 

 クリスはニタニタと笑いながらアカネちゃんに聞く。

 

「そ、それはやなぁ……」

 

 それをアカネちゃんは顔を赤くしてモジモジしなが答えたくなさそうにしてる。

 分かりやすいなぁ、よく見ると前に会った時よりお洒落してるし。

 アカネちゃんがマサキさんに告白されると勘違いしてたのが丸わかりだよな。

 

「と・に・か・く、全部マサキが悪いんや!」

 

「ホンマひでぇわ」

 

「事のあらましは分かりました。呼び出した、勘違いしたはとりあえず置いといて、その預けたいポケモンって何ですか? マサキさんなら『マサキのパソコン』でアカネちゃんに送る事も出来るのにわざわざ手渡ししなければならない理由があるんですよね?」

 

 大切な話って言ったんだから普通のポケモンじゃないんだろうな。

 

「それやなぁ、まぁ実際に見たほうが話は早いわ。出てきぃや」

 

 マサキさんはモンスターボールから一匹のポケモンを繰り出した。

 

「……ブイ」

 

 出てきたのはイーブイ。

 

「イーブイ?」

 

「綺麗な女の子のイーブイだね」

 

「何やイーブイやんか。またゲットしたんか? マサキは何匹もイーブイを仲間にしてるやろ」

 

「そいつはワイがゲットしたイーブイやないで」

 

 ん、どういう事だ?

 

「今から説明するんやで。アカネは知ってるがワイは今タイムカプセル、まぁ俗に言うタイムマシンを開発してるんや」

 

 タイムマシン!? マサキさんはそんなのまで作れるのかよ!

 

「どうせまだ試作品を作ってる最中やろが、出来んうちから自慢するなアホマサキ」

 

「黙っときじゃじゃ馬、お前の予想は残念ながらハズレや、試作品は先日完成したんやで。んで早速実験したんやが……」

 

「ちょい待ちぃや、アンタまた一人で実験したんか!? 前に転送装置の実験の失敗でポケモンと合体したん忘れたんかいな。あんときは偶々親切な人に助けられたから良かったが今回も失敗したらどないする気やったんや!!」

 

 ポケモンと合体!? それで良く無事だったな。

 

「あれは物質干渉実験やから起きたミスや。今回は時空間干渉、及び時空間測定の実験やから前回みたいな事は起きんわ。だいたい時空間に電波流してその電波の波長を計測するだけやから危険はほぼ無いんやで。一応安全対策もしてあったしな」

 

 駄目だ、マサキさんの話が難しくて全くついていけん。

 クリスにいたっては頭から煙出そうになってるし。

 

「また話が脱線したわ。んで実験自体は成功したんや、言うても僅か一秒程度時空間に干渉しだけやったがな。ただな、一つイレギュラーが起きたんや」

 

「なるほど、そのイレギュラーが……」

 

「お察しの通りそのイーブイやで。実験中にこのイーブイのモンスターボールが転送されてきたんや。ゴールドはんはどこぞのじゃじゃ馬と違って頭切れますなぁ」

 

「なんやて!」

 

「アカネ落ち着いて、ヨシヨシ」

 

「うるさいじゃじゃ馬はほっとくわ。最初は自分で面倒見るかと思うとったんやがワイはこの通り超忙しゅうてな、とてもやないが事情が複雑なこのイーブイを面倒見る余裕は無い。んで、かのポケモン博士ことオーキド博士に頼もうとしたんやがな……」

 

 マサキさんは話ながら服の袖を捲くる、するとマサキさんの腕は無数のひっかき傷と噛みつき跡だらけだった。

 

「この通りイーブイはオーキド博士に渡そうとするとひっかくは噛みつくはで抵抗しまくったんや。んでオーキド博士と二人で相談した結果アカネに任そうと決めたんや」

 

「何で勝手に決めたんや! つうかそれウチである必要ないやんか!」

 

「勝手に決めた事は謝る。せやがこのイーブイは事情が特殊やから信用ならん人間には任せられへん。このイーブイはタイムトラベルの最初の経験者、悪い人間にもし渡ったら解剖されるかも知れへんやん。

 せやから信用出来て、かつノーマルポケモンの扱いのプロのアカネに頼もうって話になったんや

 ついでに言うならパソコン転送しなかった理由はこのイーブイは転送装置を酷く嫌がって暴れたからや」

 

 アカネちゃんはノーマルタイプのジムリーダーだもんな。

 アカネちゃんも信用出来るって言われてちょっと嬉しそうにしてる。

 

「でもなんでオーキド博士は駄目やったんや?」

 

「それはイーブイ本人に聞けや、ワイはこれ以上傷を増やしたくないから手出しせんぞ」

 

「それもそうですね、よしイーブイ本人に話を聞きましょう」

 

「「はぁ?」」

 

 二人揃って驚く、あんた等本当は仲良いでしょ。

 

「つうわけでクリス、イーブイに事情を聞いてくれ」

 

「わかった」

 

 そしてクリスはイーブイと話し出す。

 

「ゴールドはん、イーブイと話すって……」

 

「あぁ、クリスはポケモンの言葉が分かるんですよ、マサキさんはともかくアカネちゃんも知らなかったの?」

 

「マジかて……」

 

「いや、クリスからポケモンとよくお喋りするとは聞いてたが、まさか本当にポケモンの言葉が分かるとは思わんかったわ」

 

 まぁ普通はそう思うよな、俺も旅に出るまで知らんかったし。

 

「ゴールド、終わったよ」

 

「そうか。で、なんて?」

 

「『あんな醜い老人のポケモンになるのは嫌よ』って言ってる」

 

「「「はぁ?」」」

 

 今度は俺も含めて三人で疑問を投げかける。

 

「この子が言うには『美しいワタシの主人になるトレーナーはワタシに相応しいぐらい美しくないと嫌。あの醜い老人のポケモンになるくらいなら、まだそっちの冴えない男のほうがマシよ』だって」

 

 このイーブイはナルシストかよ、つか口悪すぎ。

 

「ま、まぁそれは置いとくとして。クリスはん、次はタイムトラベルしたときの状況とか後はいつの時代から来たかとか、なんで転送を嫌がるのかも聞いてもらえるかいな?」

 

「分かりました」

 

 イーブイに冴えない男扱いされたのにめげずに聞きたいこと聞くマサキさん、結構図太い神経してるよな。 

 

「マサキさん、イーブイが言うには『タイムトラベルとか時代ってのはよく分からない、ただ冴えない男に会う前にいたとことは全然違うのは分かるわ。気がついたら景色もポケモンも後は人間の服装も違うから違和感が凄かった。転送が嫌なのはワタシは転送時の独特の感覚が嫌いなのよ』ですって」

 

「ほー、せやったかメモっとこ」

 

 マサキさんは研究熱心な人だな。

 

「んでアカネちゃんはこのイーブイ預かるの?」

 

「預かりたいのは山々やがウチもジムリーダーの仕事で超忙しいんやで? チャレンジャーとのバトル以外にもにもジムバトル用のポケモンを何十匹も面倒見て、チャレンジャーとのバトルの報告書を書いてポケモンリーグ本部に提出したり、やる事がぎょうさんあるんや」

 

「まぁワイも無理にとは言わんわ。せや、ならクリスはんが面倒見てくれへんか?」

 

「アタシがですか?」

 

「せやで、そのイーブイもクリスはんには懐いとるしクリスはんは悪人には見えへん、アカネの友達なら信用出来るしな」

 

 マサキさん何だかんだアカネちゃんを信頼してるんだな、でなければアカネちゃんと友達だからって会ったばかりのクリスに任せたりしないだろうし。

 

「ちょっと待って下さい、イーブイ本人に聞いてみますね」

 

 そしてまたイーブイと話し出すクリス。

 

「ほんま便利な特技やな。クリスはんはその特技で将来大物になりますなぁ」

 

「せやろ、ウチの親友は凄いんやで」

 

「なんでアカネがドヤってるんや」

 

 また漫才みたいなやり取りを始めてるな、この二人って本当は絶対仲いいだろ。

 喧嘩するほど仲がいいって言うし。

 

「話が終わったよー」

 

「で、どうするんだ?」

 

「うん、この子はアタシが引き取るよ。この子も『貴女ならワタシに相応しい美少女だからいいわ。むしろその冴えない男のとこにずっと居たくなかったから丁度いい、さぁ早くワタシを連れてきなさい』って言ってくれたし」

 

 あー確かにクリスは俳優だった両親によく似て美形だよな。

 そしてマサキさんは本当に酷い言われようだな。

 

「ほなよろしゅう頼むわ。あとコレはワイの名刺、何かあったらこの電話番号に電話してぇや」

 

「クリス、このアホの頼み聞いてくれてありがとな。コレはウチからのお礼や、受け取ってぇな」

 

 俺はマサキさんから名刺を、クリスはアカネちゃんから技マシンを貰った。

 ……って、まさかその技マシンって!?

 

「それは『メロメロ』の技マシンや、クリスの旅に役立てぇな」

 

 やっぱり『メロメロ』か、あの(トラウマ)がクリスの手に……

 心なしかモンスターボールの中の仲間達が震えてる気がするぞ。

 

 とにかくこれでクリスの仲間が一匹増えたんだからそれは喜んでおこう。

 良かったな、クリス。

 

「イーブイ、よろしくね♪」

 

「ブイ」

 

 ✱オマケ ★マサキの実験失敗記〜失敗は成功の母の友達の従姉妹の妹〜

 

【数年前、ハナダの岬にて】

 

「よっしゃぁ、やっとこさ改良型転送機の試作品が完成したで、早速実験や!」

 

「にどにど♪」

 

「そうかニドラン、お前はんも嬉しいやんな。ではポチッとな!」

 

 ガタッ! ドカッ!! ドダダダッッ!!!

 

「な、何か嫌な音が……って暴走やんか!? ニドラン、逃げ……ギァァァッッ!!」

 

【数時間後】

 

「いでででで、酷い目に合ったわ。ニドラン、お前はんは大丈……ニドラン、ニドラン? ニドランがいいへん? それに視界がいつもより低い……ってワイがニドランになっとるやないかーい!? え、まさかニドランと合体してもうた!? いや大丈夫や、同じ現象を今すぐもう一度起こせば理論的には元に……ってこの手でどうやってパソコンを触るんやーい!!」

 

「すいませーん、ここにマサキさ……」

 

「天の助けやーっ!! アンタすまへんがそこのパソコンでワイの指示通りに入力してんか!!」

 

「わっ! ポケモンが喋った!?」

 

「訳は後で話しますがな、何なら船のチケットも上げますわ、せやから協力してんか!?」

 

「わ、分かりました」

 

【それから数年後のハナダの岬】

 

「よっしゃ、タイムカプセルの試作品が完成したで。今回は前のミスを反省して非常時には電源を強制的に切れるようにしたし、ポケモン達は全員実家の妹に預けたから大丈夫やろ。……あんときはワイもニドランも無事に分離出来たが次も助かるとは限らんからなぁ。

 ではでは、ポチッとな」

 

 ウィーン、ウィーン、ウィィィーン!!

 

「お、おおおう!? よっしゃ成功や!! ワイってやっぱ天才やで!!」

 

 コロンっ!

 

「ん、何でタイムカプセルからモンスターボールが?」

 

 ポンッ!

 

「ブイッ」

 

「え、イーブイ? お前はん、まさか別の時代から来たんか!?」

 

【マサラタウン、オーキド研究所】

 

「……てな訳ですわ、オーキド博士。ポリポリ」

 

「なるほどな、つまりこのイーブイは別の時代から来たタイムトラベラーポケモンって訳じゃな。それとマサキ君、なんで君はポケモン用の餌を食べてるんじゃ?」

 

「数年前に実験中の事故でポケモンと合体してからポケモンフードが好物になったんですわ、博士も食べます?」

 

「いらんわっ! それはともかくイーブイの体調には問題ないんじゃな?」

 

「ここ来る前にジョーイはんに念入りに診てもらいましたんで大丈夫ですわ。ただ元の時代に戻すにはタイムカプセルを完成させんと無理でして、タイムカプセルの完成にはワイの計算では十年ほど掛かりそうなんですわ」

 

「たった十年でタイムマシンを完成させると言い切れる君の自信は凄いのぅ。まぁ事情は分かった、この子はワシが預かろう。

 おいでイーブ……イタタタッ!? 何でいきなり噛みつくんじゃ!!」

 

「うわっ、イーブイ離……いでっ!! 今度はワイに噛みついた!?」

 

【数時間後】

 

「あいたたたっ、酷い目にあったんじゃ。どうもワシはこのイーブイに嫌われてるらしい、悪いが他を当たってもらって良いか?」

 

「ホンマすいません、せやったらワイこれから仕事でジョウトに行きますんで幼馴染のアカネに頼んでみます」

 

「アカネってあのコガネのジムリーダーのアカネ君かね? なるほど彼女なら適任じゃな、彼女はノーマルポケモン使いとしては超一流じゃ。それにポケモンジムなら施設もしっかりしてイーブイも快適に過ごせるじゃろう」

 

「ほな今からジョウト向かいますわ、失礼しました」

 

「ああ行ってらっしゃい、後でこの怪我の治療代は君宛に送っておくからな」

 

「……ちゃっかりしてますなぁ」

 

【現在、エンジュシティ】

 

「と、まぁこんな感じやで。ポリポリ」

 

「マサキ、アンタは程々にしいへんとタイムマシンが完成する前に命落とすで」

 

「ほへぇ、発明家って大変な仕事なのね」

 

「つか今も食べてるけどポケモンフードを食べて腹を壊さんマサキさんに俺は驚いた」

 

「いや? しょっちゅう腹は下しとるで」

 

「「「だったら食べ(るんやない)(ないで)(んで下さい)!!!」」」



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クリスの独白

バットエンドが苦手な方は見ないで下さい。


 ゴールド、貴方が私を見つけてくれてありがとう。

 ゴールド、貴方と出会えて私は本当に幸せでした。

 ゴールド、貴方と過ごした日々は絶対に忘れません。

 ゴールド、貴方が幸せになることを心からお祈りします。

 ゴールド、貴方がいたからアタシは成長出来ました。

 ゴールド、貴方がアタシにくれた沢山の思い出は絶対忘れません。

 ゴールド、貴方に何も返してあげられなくてごめんなさい。

 ゴールド、貴方が……アタシ以外の人と幸せになって欲しいと心から思ってます。

 ゴールド、貴方が……アタシ以外の人と一緒になるのは本当は辛い、でもそれ以上にアタシが貴方を不幸にするのはもっと嫌。

 ゴールド、本当は貴方と結婚したかった。

 ゴールド、本当は貴方との子供がほしかった。

 ゴールド、貴方とアタシ、そして二人の子供、それからお父さんお母さん、それからポケモン達とみんな一緒に一つ屋根の下に暮らしたかった。

 実は子供の名前も考えてあったんだよ? 男の子なら白金(プラチナ)、女の子なら瑠璃(ラピス)。

 何年も何年もかけて考えたんだよ? でも無駄になっちゃったな。

 アタシは気づいちゃったから、貴方とポケモン達と旅をして、アカネ達と友達になって成長して、アタシは……心が病んでた事に。

 アタシは病んでた心の命ずるままに人に酷い事をしました。

 アタシは許されない罪を犯しました。

 子供だから、病んでたからだとしても許されたらいけない程の罪を。

 アタシはアタシが怖い、アタシがまた病んで罪を重ねることに……病んだアタシが今度はゴールドやアカネ達やポケモン達をを傷つけよとすることに。

 アタシはみんなが好き、みんながいるこの世界が好き、その好きなもの達がアタシ自身の手で壊させるなんて絶対駄目。

 でもアタシは弱いから、臆病だから自分で自分を止められるとは思いません。

 

 だから、だから、だから……アタシは貴方の前から居なくなります。

 だってアタシと一緒に居たら貴方が幸せになれないから。

 だってアタシは貴方の重しにしかならないから。

 だってアタシは……貴方に世界の誰よりも幸せになって欲しいから。

 だから、だから、だから、だから………………………………サヨウナラ。

 

 アタシは、クリスは……ゴールドを……貴方を心から愛してます。

 ありがとう……ゴールド。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシは、クリスは……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ゴールドが大好きです。




本当にすいませんでしたm(__)m


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