DDG-191ふぶきの物語 (シン・アルビレオ)
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01話 災難に

最近の世界状況は緊迫しているといってもいいだろう。まだ半年過ぎたばかりなのに歴史に残るような出来事が沢山おきている。ISのテロの拡大、イギリスのEU離脱、パナマ文書問題などなど激動の日々が起きている。 

そして日本周辺もまるで火薬庫のように一触即発の雰囲気が続いている。北朝鮮水爆実験及びミサイル発射、中国海軍の領海侵入などと自衛隊の仕事は年々多くなってきている。

9月某日、また奇妙なことがおこった。それは中国海軍10隻がアラスカ州のアリューシャン列島の沖合でアメリカの領海内を航海した出来事があったのだ。その10隻は日本海でロシア海軍と合同訓練を行った後宗谷海峡を東航しオホーツク海に入った後、アリューシャン列島周辺をうろついて北太平洋に入る前に米領海内に通航したとされている。これは去年にも起きたことだがこうも続けて事が起きたのは異常と言わざるをえなかった。

そのため海自は初めてアラスカで毎年実施される米軍主催のレッドフラッグ演習に参加することとなったのだ。なんと初の海空合同演習なのだ。

今回の演習は9月下旬から10月下旬まで一か月近く演習を行うことになっている。場所はアラスカ州のアイルソン空軍基地およびエレメンドルフ・リチャードソン統合基地や、初めてであるアリューシャン列島で行われることになった。

(勿論空自もこの演習に参加しておりF-15JやF-2、E-767早期空中警戒機等々合わせて15機が派遣されていた。)

 

 

9月下旬 大湊基地

他の基地とは違い普段は比較的静かだがこの日は違った。なにせ海自初となるレッドフラッグ演習に参加する艦艇が大湊に集まって最終確認しているのだ。今回演習に参加する艦艇は四隻ー少ないと思われるが最近は東シナ海や北朝鮮の動きがきな臭いから仕方ない。それでもあの演習に参加できることは大変貴重なことだろう。

ドックには最新鋭であるふぶき型護衛艦一番艦ふぶき、あきづき型護衛艦二番艦てるづき、むらさめ型護衛艦三番艦ゆうだち、たかなみ型護衛艦四番艦さざなみがドック内で出港の準備をしていた。

艦内で慌ただしく隊員が行き来してるのを艦橋から微笑ましく眺めている少女たちがいた。本来ならばそこに少女がいるようならば大騒ぎとなっているがそのような様子はなかった。なぜなら彼女は船魂とも、艦魂ともよばれていた存在であリ、乗組員には全く見えていない。

 

「ふわぁ…」ウイングでうーんと背伸びしながら欠伸をし、セーラー服とスカートが風になびかせているのはふぶき型護衛艦ふぶきの艦魂。この護衛艦は最新鋭のイージス艦であるが、あたご型を少し改良したものとなってる。主砲はMk45 5インチ砲ではなくオートメラーラ127mm 64口径砲(127/64ライト・ウェイト) を採用している。また新兵器も色々と搭載しており16式対艦ミサイルや07式垂直発射魚雷投射ロケット、12式短魚雷、前方にCIWSを、後方にRIM-116Cなどを搭載している。またSM-3にも対応しているが排水量やら全長やらあたご型と比べるとずいぶんと大きくなってしまったが。

 

「ふぶきちゃん眠いっぽい?」犬っぽく76mm主砲の上に座っているのはゆうだちの艦魂であった。彼女はこうみえても2000年以来3度のテロ対策特別措置法(3回目は新テロ特措法)によるインド洋派遣、そして13年1月30日に発生した中国海軍によるレーザー照射事件の自衛隊側の当事者となるなど、先々代ほどではないが波瀾万丈の艦生を送っている。下手すれば東シナ海の悪夢になっていたがなんとか避けられたのは救いだろう。

 

「まーふぶきは舞鶴から移動したんだからそりゃ疲れるでしょ。といっても私も呉からだから疲れたわ…」艦首付近でツインテールのピンク髪をくるくるといじりながらため息ついた彼女はさざなみの艦魂。彼女もリムパック(環太平洋合同演習)に参加したりソマリア沖、アデン湾に展開したりと海自の中では経験豊富な艦である。

 

「お互いさまですね」明るいセミロングの茶髪を2本の三つ編みおさげにして艦首で立っているのはてるつきの艦魂である。2011年に進水したばかりでまだ目立った活躍はないが国産の高性能レーダー、FCS-3Aを搭載しておりイージス艦に準じる対空能力を備えている。

 

「ほんとよ。まぁあの演習に参加させてもらえるなんて願ってもないことよね」タイ○○ックのように艦首で両手を広げながら潮風を肌で感じてた。船魂といえども感覚くらいはある。

「うーはやく演習にいきたいっぽいー!演習演習ー!!」ジタバタと駄々をこねるようにゆうだちは言い放った。

「さすがねゆうだちは…」

「そりゃあの件のこともありましたし不満を吐き出したいんでしょうね…あぁまたあらたな都市伝説がつくられるのかな…」てるづきとさざなみ、ふぶきは苦笑した。

海自の都市伝説は色々とあるが有名なのはリムパックで米海軍と海自の潜水艦で模擬戦し、潜水艦はエンジン切って海流だけで米駆逐艦の真下にきたり撃沈したり、悠々と離脱したりと君たちは沈黙の艦隊でも読んだのかだし、93年のリムパックでゆうぎりが米海軍A-6攻撃機を高性能20mm機関砲で撃墜したり等々とぶっとんでる話がいくつもでてくるのだそうだ。

「さて、そろそろ出港ですかね」ふぶきが辺りを見回すとすでにラッタルが外されたり、艦橋内には制服で着た自衛官で溢れていて色々な準備を行っていた。

「ふぅ…いよいよですねぇ」

「そうですなぁ」

「やっとっぽい」世界最強の軍隊と演習ができそれをいかに吸収できるのか。そして演習後某国と万が一のことが起こったらと思うと彼女らの顔には不安の表情もでた。

しかし国民、仲間を守るために訓練を積み重ねていくことは自衛隊の義務でもあり使命でもある。そう思うと気が引き締まった。

「お互い頑張りましょう!」

「はい!」「うん!」「ぽい!」それぞれの艦魂は艦橋内に入っていった。

 

そして汽笛、サイレン、警報の試しで艦内にけたたましい音が響きわたり、試運転を行ってから出港準備作業の艦内放送が流れたのち様々なチェックを終えると航海当番が配置についた。海士がラッパを用意していると先任である海曹から『吹け』と命令された。すると軽快な音色とともに『出港よーい!』と抑揚の効いた大声で言ったのち、甲板では整列した隊員が帽フレを行い別れを告げていた。四隻の艦艇は大湊基地を無事に出港した。

 

 

出港から数週間が経ったある日の午後、四隻の護衛艦は大湊基地から約2000キロほど離れた海域に差し掛かったところで異変は起こった

「てるつきちゃん、さざなみちゃん、ゆうだちちゃん」護衛艦らはそれぞれ通信しあってたがふぶきの艦魂たちも同様にそれぞれの艦魂と連絡しあってた。

「はい」「およ?どうしましたか?」「ぽい?」

「出港する前に日本海で発達するであろう低気圧があったでしょ?」

「あぁありましたね。」「おかげで鉢合わせしないように早く抜けたっけ」

「その低気圧がどうしたっぽい?」

「えーとなぜか威力は衰えるどころかむしろ増してきて、しかも私たちを追ってるみたいな動きをしてるらしいの」

「ほんとだ…せっかく抜けたと思ったらこれですか…」

「なんか不気味っぽい~…」

「ですよね…それともうひとつ。14:29にアリューシャン列島でMw8.5の地震、もう一つ16:42にカムチャツカ半島でMw.8.8の地震が発生した模様。そのため太平洋地帯に津波警報が発令されたみたい」

「うーん連動型地震っぽい?」

「さぁ?分からないけど…ここで言えることは台風による暴風雨及び高波と津波には厳重に注意せよ!」

「了解!」「ほいっさ!」「っぽい!」

 

 

号令からわずか数時間後、海は荒れ模様になってきて雨風や雷も次第に強まってきた。

まるで冬の低気圧かのような荒れ模様に物が落ちないように支える者や踏ん張る者もいた。また転覆しないように操舵員が細かい操艦を必死にしていた。もはや立ってるのがやっとであり何かに掴まってないとあちこち体がぶつかって痣ができてしまうような荒れ具合だった。ここで外にでようなら自殺行為でありあっという間に海の藻屑となるからかウイングにはだれもおらず、ヘリの格納庫扉も閉ざされている。

「こんな低気圧だなんて聞いてないよぉ!」

「まったくっぽい!!」さざなみとゆうだちは半ば半ベソをかいていた。そりゃそうだ。ここまで低気圧が発達するのは季節外れである。

「嘆く暇があるなら転覆しないように集中しちぇ…イタッ舌噛んだ」激しく上下に揺さぶられる波に舌を噛んでしまったふぶきだがさざなみのいうことは最もだと思った。荒れる冬の日本海でも耐えられるように設計してあるがそれ以上の天候のようで波がぶつかるごとにキールが悲鳴を上げているように聞こえた。

 

 

「ん…なんだこれ…?水上レーダーに感?」ふぶきが何かに気づいたがこの荒れ模様ではレーダー電波は減衰するため判別するのに多少時間がかかった。

「おいおいまじか…」やっと判別したがまさかの物だったので慌てて後ろについてきている護衛艦に通信をいれた。

「本艦より方位2-8-0距離10マイル及び方位0-5-5距離8マイルに津波を観測!恐らく先ほどの地震の影響のよう。そのため各自の判断で津波にものまれないように操艦して!また衝突を避けるため十分に距離を開けるように。」

「アハハ…ここで津波がきますか。泣きっ面に蜂とはこのことですか」自衛官、てるづきは毒づきながらも高波にも注意しつつふぶきと距離を開けていった。さざなみもゆうだちも同様に距離をとっていき進んでいく。

高波に翻弄されながらも徐々に津波との距離が縮まってきていた。水平線を見つめると黒く線が歪んでいた。こんなに荒れていてもはっきりと分かるのは津波が大きい証拠であり、レーダーにもはっきりと白い線が捉えられている。こんな沖合まで津波が観測できるのは異常である。艦橋にいる自衛官は信じられないという目で水平線を見ていた

『第一波まで2マイル!各自の安全を確保し何かに掴まれ。』それぞれのとこで艦内放送で呼びかけてるがずっとこの天候なので身の安全をとっている自衛官も多いが念のためだ。

「…そろそろか。これはやばいですね…」まるで巨大な壁が迫るかのようにこちらに近づいてくる。

実際の東日本大震災時、巡視船まつしまが福島県相馬市の沖合で津波に遭遇し見事それを乗り越えた動画があった。がその動画よりも大きく感じられた。

「ありえないです…こんな外洋でここまでの津波は…」

「ぽいぃ…」

「北海道や東北は危ないかも…」三人の艦魂は絶句していた。無理もないことだ。

「…くるぞ!衝撃に備えて!!」ついに先頭にいた護衛艦ふぶきに津波が到達した。

艦首に勢いよく津波が当たったかと思うと瞬く間に前部の1/4が浮いた。どんどんと津波が進んでいくと重力によって落ちていき一瞬マイナスGのようなフワリとした状態になり、その直後勢いよく艦首が海に叩きつけられた。

津波は次々と残りの護衛艦を襲っていき激しく上下に揺さぶっていった。津波に加え大しけも絶えなく襲い掛かってきているため艦内は大混乱していた。

「いてて…みんな大丈夫?!」ふぶきは安否を問うため通信を入れたが雑音しか聞こえず、どういうわけか繋がらなくなった。津波か台風による影響なのか分からないが、理由を探ってもしかたないので発光信号で意思をとることにした。これなら無線が使えない状態でも使えるが、訓練しているとはいえこういう天候で使うのは初めてだ。

(コチラゴエイカンフブキ。ムセンガツカエナイ。ソチラハダイジョウブカ)

すると数十秒後あきづきから発光信号がわずかだが見えた。強力な探照灯も暴風雨でギリギリ見える状態だ。

(コチラゴエイカンテルヅキ。オナジクムセンガツカエナイガブジデアル。)

その直後さざなみ、ゆうだちからも発光信号が届けられた。ふぶきは一安心したがまだ予断は許されない。津波はまだきているのだ。

 

(津波がまだくるから厳重に…)と探照灯で再度伝えようとしたところ突然下から突き上げられるような波に襲われた。船体が大きく軋んだ音が聞こえた。

“三角波”とよばれる恐ろしい現象が起きてしまったのだ。あまりにも不意打ちだったのでふぶきの艦内ではけが人が出てしまった。ウイングに出ていた自衛官はなんとか海に落とされずに済んだが這う這うの体で艦橋に逃げ込んだ。

「まずいなこr…ってなにあれ?!」次来る津波に備えようとしたがそこで信じられないものをふぶきの艦魂と艦橋にいた自衛官らは見てしまった。

まるでクラーケンが出没するかのような強大な渦潮。いつの間にか辺りには霧までもが出て視界も0に近い状況であった。

「なんてこと…渦潮を回避しつつ後続の護衛艦にも知らせないと…」

舵を切りつつ探照灯で再度通信を試みた。がどういうわけか一向に反応が返ってこない。

レーダーにも映っていない…ということは離れすぎた可能性がある。これはありえないことだ。なにせ最新鋭のイージス艦であり僚艦をレーダー上からロストすることは考えにくいからだ。唯一の可能性はこの悪天候で一時的にレーダーが使えてない、と信じることにした。いや信じたかった。

「くっ、舵がいくこと効かない!!」

渦潮の流れに飲まれないように必死の操艦をするが、無常にもどんどんと近づいていく。

「ダメだ…まさかこんなので…」

瞬く間に渦潮に飲まれキールは耐え切れずに折れバラバラになり、ある者は大きな鉄に押しつぶされたり、ある者は浸水のエネルギーで勢いよく叩きつけられた。いずれにしてもほとんどの乗員は即死しただろう。

 

「ごめんなさい、こんな形で沈むなんて」薄れゆく意識の中で言葉が漏れ、彼女の船体と共にアリューシャン列島沖で消えていった。

 

 

 

嵐が止み渦潮が消えた後、突然旗艦を見失った三隻は必死に無線で呼びかけたり、レーダーで捜索していった。がどういうわけか破片一つも見当たらない。この嵐なので破片類は海中に沈んでしまったのかもしれないが、諦めずに捜索していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、三隻ともどういうわけか人知れず消えた。

 

この事件はすぐさま世界各国を巡る大ニュースになり、海自と米軍が中心になって血眼で捜索するも遺体や破片すら見つかることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2019/07/22
ふぶきの兵装をCIWSとRAMに変更しました。


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02話 目覚め

遅くなりましたが第二話できました!秋イベあったからね仕方ない。少し苦戦したけど最後の海域はダブル吹雪で出撃し見事突破しました。おかげで無事にサラトガを手に入れることができました(ただ母港枠がギリギリなのは内緒)。

さて二話はというとどこかの島で目が覚めたが、なんとふぶきは女の子になっていた!?そしてあることをしようとふぶきは少し冒険する


渦潮に巻き込まれてから一体どれほどの時間が経過したのだろうか。

 

夢をみているようでみていないような、そんな感覚がある。

 

ーやれやれ、まさか初任務がこうなるとは…とんだ厄日です。まるで第四艦隊事件かな…いやそれよりもひどいですね。

 

もう船体はボロボロになっているだろう。戦うどころか浮くことすら出来ないかもしれない。私は争いが好きではないが、日本を護れずに沈んだのは心残りがあった。

 

ーせめて防衛の最中だったらなぁ…申しわけないです。

 

すると遠くで波が打ち上げる音が聞こえてきた。けど辺りは真っ暗だから確かめようがない。

 

いや、目をつむっているからではないか?そう思ったが辺りがどんな世界なのか、確かめるのが怖い。もしかすると深海の底の可能性もあるし、天国でハワイのような場所にいるかもしれない。

 

けど、どんどん明るくなっていく。まるで引き上げられるみたいに。

 

だから私は勇気を出して、徐々に目を開いてみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ目のピントが合ってなく景色が朧げだが、目に入ってきたのは茶色っぽい草と砂の海岸のようなものと…あとは肌色っぽいのが見えたような気がした。。

 

「ん…?」そこにあったのはどう見ても、人の手、いや私の手だ。

試しに指を動かしてみる…うん動くね。

 

驚きのあまり声もでたようだ。いつも仲間と交信し合っているんだけど、なんか違和感がありまくる。

試しにもう一度…「--あ」 うんどういうわけか声が出るね。

 

すると今度は、よっこいしょとうつ伏せ状態から起き上がってみた。

座った状態で自分の両手や腕を見つめ、色々と体とか触ってみる。柔らかい感触が指先に伝わる。

そして肌を突き刺すような寒い北風も感じられた。

 

まだ頭の中がぼーっとして多少混乱しているが、懸命にこの状況を理解しようとした。

艦魂とは圧倒的に違うなにか…頭にデータなどが送られてくるのではなく、はっきりと肉眼で確認していて、しかも五感もある。それらから導だされた答えは…。

 

「-もしかして…“人間”になってる?!」ようやく頭がすっきりしてきた。いや目が覚めたというべきか。

 

「いや落ち着け…私は渦潮に巻き込まれて沈んだはず…。なのにこれはどういうこと?!」

 

思わず立ち上がるが、いきなりだったので立ちくらみがしてきた。

しゃがみ込むが、落ち着いてゆっくりと立ち上がっていった。

 

すると限定的であるが、彼女のスタイルや服装が分かってきた。

 

「なんじゃこりゃ…」おもわずまじまじと見つめた。服はセーラ服のようだがリボンは赤と白が交互になった色になっている。下は海自の制服である白いズボンではなくスカートになっているのは驚いた。

また結構良いスタイルのようで、やや大きめの胸にくびれたお腹、安産型っぽいお尻…これはモデルさんですと言われても違和感はないだろうなと思った。いやグラビアかな。

 

そんなことはどうでもいいと自分でツッコミつつ、辺りを見回してみた。茶色く枯れたような草はあるが木は見当たらない。また山々も見えるが頂上は霧がかかっているようでみえない。

 

すると砂浜に何かしらの機械があったので近寄ってみると、船体に191とペイントされたのがあった。どうやら船体や武器類のようだ。ただそれほどボロボロになっていないのは不幸中の幸いか。

ーあんな渦潮に巻き込まれたのに奇跡だよ…。試しに色々と触ってみたがどうやら無線などは使えることはできなかった。はぁっとため息ついた。

またスクリューがついた灰色の靴もあったので履いてみることにした。 うんぴったり合う…ということはやはりこれらは私のものだ。

 

が、肝心なことがまだわかっていない。ここは一体どこなのか…仲間は無事なのか。

ただ殺風景とした風景に周囲は霧となっているので、恐らく巻き込まれたあと運よく海流にのり、アリューシャン列島の島々にたどり着いたのではないかと推測した。

けどどの島かは分からないので、島内を歩き回ることにした。もちろん船体部なども忘れずに優しく持ち上げ、探索を開始していった。

 

 

しばらく海岸沿いを歩いていくと、ちらほらと建物っぽいのが見えてきた。

さすがに船体部類を持って歩くのは骨が折れるのであそこで一休みすることにした。もちろん通信機もあったらいいなと思いそこに向かった。

 

その建物に向かう途中に砲台のようなものを見つけた。近づいてみると機銃砲台のようだが、どういうわけかあまり錆びれていない。

「うーむ…やっぱりアリューシャン列島辺りで間違いないと思うけど…なんで錆びてないんだろう?」おそらく、定期的に米軍とかがメンテナスとかしているのかな…と思ったが、外来者の立ち入りは制限されているし、そもそもメンテなど聞いたこともない。

 

「不思議だけど…まずあの建物に向かいましょうか」 

数十分後、やっと建物がある地点に到達した。船体等を持ったまま丘を歩いたので流石に息が切れた。

「あぁ、辛かった。さてここで少し休憩しつつ通信機を探しますかね…」

よく見てみると建物というより小屋に近いものだった。ここも同じく小屋はそれほど損傷していない。

「とりあえず中に入りましょう。誰かいますか?」ドアをノックしながら返答を待ったが一向にかえってこない。

 

何回もノックしたがらちが明かないので、なぜか腰にあった9ミリ拳銃を手にとり、構えつつドアに手をかけて静かに開けた。鍵がかかっていないのは幸いだった。

銃口を向けたまま中に入ると、結構荒れており黴臭かった。どうやら何年も開けていない証拠でもある。

机や棚などを捜索していくがなにも残っていなかった。

 

ならばと奥のドアを開けてみると、おぉなんということか。通信機が残されているではないか!どうやらここは通信室だったようだ。

「やった!!これでなんとか…ってこれモールス信号機?!」私は愕然とした。

ーまさか時代遅れの通信機だったとは…でも背に腹は代えられない。なんとかするしかない。

 

幸い電源は船体部にある発電機から引っ張ることで、通信機を稼働することができた。ただ古いためか、それとも発電機の出力が大きいのか、針がかなり荒ぶっているが。

 

「…よし、やるか。」 

有線のヘッドホンを着け大きく息を吐き、決意して私はモールス符号である“・・・---・・・”(SOS)を打った。本当はこの後にメーデーを無線で言うべきだが、残念ながら無線機はどちらも壊れていたので使えなかった。

そして外には簡易の棒を立てて、遭難信号N旗とC旗を掲げていた。

「誰でもいいから、届いてくれ…」私は祈った。

 

しかし彼女は見落としていた。そのモールス信号機の裏にある薄い刻印には“キスカ島”とは書かれておらず、“キス島第五警備隊”と書かれていたが…気づくのはそう時間かからないだろう。

 

 

そして信号は幸か不幸か、二つの艦隊が信号を受信した。

 

 

 

 

 

 

 

キス島から南150海里

「ん…こりゃSOS信号か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

キス島から南東45海里

「…ギギッ?」

 

 




遅い更新になりましたが今後も宜しくお願いいます。

さて次回は時間との戦い、そしてふぶきはどう動くか…になりそうです。ではまた。あ、感想もお待ちしてますよ。(≧▽≦)


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03話 脱出と出会い

お待たせしました第三話ができました!

更新が少し遅いけどなんとか頑張るぬい。あ、そろそろふぶきのスペックも考えておかないとなぁ…それより三回目の劇場版艦これ見に行きたいな


~キス島から南150海里付近~

「ん…?こりゃSOS信号か?」旗艦である眼帯をした彼女ー天龍は後ろの5人に促し、減速した。遠征から帰投中であるが、いきなり耳っぽいアンテナがピクリと反応したためだ。

 

「間違いなくSOS信号だわ。しかし場所が…」銀髪で緑のリボンでサイドテールに結った勝ち目がある彼女ー霞も無線を受信した。いや全員が受信したようだ。

「あぁ、これはキス島からだ。一体なんでだ…?」天龍はキス島がある方向を鋭い目で見つめた。

「まさか深海棲艦の罠か?」セーラ服を着て黒でショートボブの彼女ー深雪は疑った。

 

「確かにメーデー呼び出しがないから罠の可能性もある…が無線が使えない状況だったらありえるな。下手に座標までいうとあっという間に奴らが来るだろうしな」

するとまたあのモースル符号がきた。

「ということはこれは…」長髪、鮮やかな赤紅色の髪で少しエルフっぽい彼女ー江風は確信したようだ。

 

「間違いなく本物だろうな。よしこっちも返すぜ!内容は…」すると彼女の艤装から妖精のようなものがでてきて、モールス信号で返答した。

「頼むぜ…吉とでてくれ」

 

 

~キス島小屋内~

わずか数分後、ヘッドホンからモースル信号が届いた。あまりの嬉しさに飛び跳ねそうになったがすぐに我に返り、モールス信号を解読していった。

 

「なになに…そちらの船舶名や緊急事態の種類、必要とされる救助などを教えてくれ…日本海軍幌筵泊地所属の軽巡天龍…?!んえっ?!」思わず変な声がでた。

 

ー天龍って、海上自衛隊の訓練支援艦のてんりゅうしか思い浮かばない。がはっきりと“日本海軍”といっていた。なんかの暗号でも使っているかなと考えたが、とりあえず自分も返答していった。

 

 

 

~キス島から南150海里付近~

「おっきたか。どれどれ…“こちらは海上自衛隊ふぶき型護衛艦一番艦ふぶきである。本艦は遭難し島内にたどり着いた。乗員は一名。すぐに救助を求む”…えーと妖精さん。これ間違ってないよな?」すると妖精さんは間違ってないと伝えてきた。

「まじかよ…なんだ海上自衛隊って?そんな組織聞いたことねぇぞ。おいお前たち。海上自衛隊っていうの聞いたことあるか?」当然だが5人らは頭に?マークが浮かんでいた。

 

「新しい秘密組織かしら?」 深雪のセーラー服とは少し色違いで、腰まである紺色のロングストレート(帽子付き)の彼女ー暁はきょとんとした。

「確かに私たちが知らないところでそういう組織ができたのはありえますね」茶髪のセミロングを後ろに2つ括りした深雪と同じセーラー服の彼女ー白雪は一つの可能性としてそう言った。

 

「けど護衛艦ともいったぜ?罠なのか本当に遭難しているのか…」

天龍は考えたが、もし遭難ならその信号はすでに深海の奴らに聞かれている恐れもありえる。つまりその護衛艦とやらを狙って拿捕する可能性もあるし、艦砲射撃で痛めつける可能性もある。

そのリスクを冒してまでモールス信号をするのは限りなくハイリスクだが、それほど緊急度は高いということになる。

 

が、仮に本当の遭難だとしても俺らは遠征部隊である。装備は主砲にドラム缶×2がほとんどだ。あのキス島撤退作戦のように逆探できる電探もないし速力が上がるタービンもない。

 

また泊地からここまでは100時間近くかかるから、救出部隊を待っている間にやられる可能性もある。

つまりそれらの問題のクリアするには…大ばくちになるが天龍は決意し、5人の駆逐艦に作戦内容を伝えた。

皆驚愕したが、今キス島に“深く”突っ込んでもあの海域は戦艦などがうようよしているため、瞬く間に海の底になるだろうと…。5人は同意した。

 

「責任は俺がすべて持つ!だから信じよう。諦めず最後まで見捨てずにやろう」まさかこれほど重大なことになるとは思いもしなかった。

ーこりゃ帰ったら説教コースかもな…いやそれで済めばいいな。苦笑したが天龍は五分五分の賭けならのる方である。

 

「よし只今から護衛艦ふぶきを救出を目的とした作戦、Wキ作戦を開始する!ドラム缶は切り離せ!」

一斉にドラム缶は切り離され、天龍の妖精はモールス信号を二つのところに打っていった。

 

 

 

 

キス島小屋内

数十分が経過したが、やっと信号がきた。落ち着いて解読していくととんでもない内容だった。

「“島の周りには敵がいる。もうすぐすれば砲撃がくるだろう。深くそこには行けないため、自力で脱出して、Y地点で会おう。天候は霧でありしばらく晴れない模様。健闘を祈る”…か。」

 

ー敵ってなんのことだろう?もしかしてあの物騒な海軍がここまでいるのか…だとしたらもう急がなくては!

けどY地点がどこか分からない。机の引き出しを引いてみるとなにもなかったが、二重構造になっているのを見つけたのでちょいといじると…なんということか。地図があった。

 

はやる気持ちを抑えて開いてみると、島の地図やあの撤退作戦のルートがかかれたものだった。

「おいおい…こりゃ貴重なものが残っているとは!奇跡過ぎるでしょ私って」

するとZ地点やY地点を見つけることができた。思わずガッツポーズした。

「よし返答しよう。早く脱出しなきゃ…」私は震える手で慎重に打っていった。

 

 

 

 

 

キス島から南145海里付近

「よしきたか。“了解した。これより無線封鎖しなんとかして行く。そちらも健闘祈る。”だとよ。」

「しかし無茶な作戦だわ。下手すれば私たちも海の藻屑となるわ。」

「けどやるしかないぜ。天龍さん頼みましたよ」霞と江風は天龍にプレッシャーをかけた。

「おいおいそんなにプレッシャーかけるなよ。…よし行くぜ!ここから無線封鎖だ!第五船速!!」機関の出力があがり黒煙がより濃くなり、6人たちは警戒しながらY地点へと向かった。

 

 

 

 

 

キス島小屋内

「急げ急げ…」電源を抜き地図を持ったのを確認してから通信室を出た。

電源コードを巻き戻し、NC旗はマストに掲げてからあの靴を履き、艤装は慎重に背負った。

「これ浮くのか動くかどうかわからないけど、やるっきゃない!」丘を下り砂浜を渡り、近くにあった簡易の橋を渡ってからゆっくりと海に入った。

「浮いてくれよ…」祈りながらそっと両足を海に付けて立った。

「うおおっ!」波でバランスが崩れかけたがなんとか耐えた。コントのようなことはならず安心したが、まだ課題はある。主機は動くかである。

 

「いい子だから動いてくれ…主機起動!ブレーキ脱!」すると甲高い機関音をあげながら主機は動き、スクリューはゆっくりと動いた。そしてわずかながら様々なシステムも動いた

「おおっ…やった動いた!!両舷前進微速!」バランスをとりながら行くがこれが結構難しい。まるで生まれたての小鹿のようにプルプルしているがこけないように必死に進んだ。

 

数分後、やっと微速に慣れたので徐々に速度をあげてみた。ただ最大船速は主機に負担がかかるだろうと思い使わないことにした。

「はぁ…疲れた(汗)。とりあえずこのまま南に進んでっと…しかし濃い霧だなぁ。」警戒しながら湾内を抜けようとした直後、レーダーに反応があった。

 

「うん?ノイズだらけでさっぱりだけど…なんか12隻いてしかもUnknown?距離は…北北西30海里と北東42海里か…。」

どうやらこっちに向かっている動きのようだ。まさかあの信号でばれたか!?

「まずいな。兵装はすべて使えないし…仕方ないこのステルス性と霧を信じて抜けよう」針路変更を行い座礁に気を付けながら島沿いを進むことにした。

 

 

 

キス湾から南東30海里付近

キス島包囲艦隊の旗艦である軽巡ホ級flagshipはホ級eliteと駆逐イ級elite×2、輸送ワ級×2とともに信号が発信された所へと向かっていた。

「ギギッ…ギッ?」ホ級flagshipは霧が予想以上に深いため、目視は出来ないのでもう一つの部隊である水上打撃部隊に無線で電探による探知をお願いした。

すると戦艦ル級eliteから電探による探知を開始したと報告がはいり、ホ級flagshipも水中探信儀による捜索を開始し た。 

 

どうやらベガ湾を封鎖しながらキス湾に向かう戦法をとるようだ。

ーゼッタイニトラエテヤル…憎悪のような念を抱きながら12隻は電探類を使いつつキス湾に向かった。

 

 

 

 

 

ベガ湾内

「うわぁ…いるね。しかも無線といい電探といい色々な電波が来てるよ。」艦種まではまだ分からないが確かに12隻はいることはレーダーでおぼろげながら分かっている。

ー見つかりませんように…。ゆっくりと速度を落としながら進んだ。が途中で悪寒がいきなり走り思わず停止した。

「なんだこれ…まるで殺気…いや憎悪の念…。こんなの感じたことない」冷や汗をかき艦隊がいるだろうと思われる方向をじっと見つめた。

 

深い霧で見えないが黄色くも赤くも、どす黒いオーラ-がビンビンに伝わってくる。

そして靴の先についてあるバウソナーからわずかであるが、タービンの音が聞こえた。

しかしそれは今まで聞いたことのない音だった。

 

「いったいあれは…なんなんだ?」このまま見つかったらお終いだろう。逃げ切れる自信がない。

私はじっと息をひそめて謎の艦隊が通り過ぎるのをただただ待った。

 

 

 

ベガ湾内 ふぶきから東6海里付近

敵水上打撃部隊を率いる旗艦であるル級eliteは、イライラしながら索敵していた。

霧で電探の探知力は落ちているとはいえ、信号を打ったと思われる奴は一向に見つからないのだ

「クソ、マダミツカラナイナ…。オイソッチハドウダ?」別部隊のホ級flagshipに無線で呼んだが、そっちも全くの無反応だそうだ。

ーモシカシテ、ハンタイカラニゲタノカ…?イヤ、ソウダッタノナラ、クウボキドウブタイカラハッケンノ、ホウコクガアルハズダ…シカタナイ、サクセンヘンコウダナ。

すると旗艦は後方の仲間と無線で作戦変更を伝えようとした。

 

 

 

 

「ふむ…無線でやり取りしてるね。このままだと封鎖されるかもね…仕方ないあれを使いましょう。ってこれどう使うんだ?(汗)」

あれこれ考えたが、艦魂の頃にやった方法で試すことにした。

「ふぅ……」落ち着くために目を瞑り大きく深呼吸し、精神を統一させた。

「電子戦用意!NOLQー2C始動!ジャミング開始!!」そしてすぐさま主機を再起動させて移動していく。

ジャミング電波が一瞬ににて放出された。

 

…ガガッ

「…ナンダ?ムセンガツナガラナクナッタ…クソッ、レーダーモ、ホボマッシロダト?!」

イキナリコショウシテシマウトハ…。続く運の悪さにイラついたル級は探照灯で指示を出し、予定にないことだが島に砲撃を開始した。

そしてその砲撃はホ級Flagshipが率いる艦隊に動揺を与え、奴がついに見つかったと思いこみ、主砲斉射した。

 

「…ギーッ!?」突然水上部隊の駆逐艦一隻が轟音と水柱とともに、断末魔をあげて轟沈した。

「クソッ?!イツノマニマワリコンダンダ!?」旗艦は砲撃があっただろうと思われる方向に斉射した。

 

それもそのはず、深い霧とふぶきによるジャミングのため統率は取れず、電探による射撃ももはや期待できず、同士討ちが発生したのだった。

 

 

 

 

 

「わっ?!」ベガ湾をぬけだそうとしたら、突然腹に響くような砲撃音が聞こえた。

 

でもそれは私たちが装備している主砲の音でもなく、対艦ミサイルのものでもなかった。

 

気になったが、まずはここを抜けることが第一と考え、両舷を第四船速にあげた。

 

 

 

 

Y地点

「んーおっかしいなぁ。いきなりレーダーが使えなくなってしまったぜ。故障か寿命かこりゃ?」天龍は頭に浮いてるアレを手に取ってトントンと叩いてみたが、治らず雑音もひどいままだ。

「私達のも使えなくなってしまいました…けどほんとうに来るんでしょうか」白雪が不安そうに水平線を見つめた。

ここも珍しく濃霧であり、なかなか見えにくい状況である。

「祈るしかねぇ…ここが敵の哨戒圏ギリギリの地点だから、いくら濃霧だろうがこれ以上はな…。」

くそっ、と唇を噛みしめながら霧の彼方を見つめると、遠くから発砲音らしきものが聞こえた。

 

「っつ?!この音は…?」今まで聞いたことのない発砲音だった。

「レーダーには依然反応ないわ…」霞が言い終わらない内に今度は彼方から霧中信号の連続音響の信号が聞こえてきた。

ーおいおい、まさかほんとにあそこを抜けるとは。唖然としている内に先ほどよりも大きな発砲音が聞こえ、徐々に近づいてきているようだ。

「この霧だ。早くここだと知らせないと」天龍は音がしたと思われる方向に探照灯を照らしパシャパシャと切り替えをした

 

内容は“こちら旗艦の天龍。間もなくY地点。減速セヨ”だった。

すると向こうからも探照灯による返事がきた。“こちらふぶき。了解した。”

その直後、急に動かなくなった電探が回復し、雑音も直った。ただレーダー上の反応はないままだが。

 

「どういうことだ…」天龍らが困惑しているとき、無線が入った。

“当艦は海上自衛隊ふぶき型護衛艦ふぶきです。Y地点まであと三浬。”

ーもう三浬かよ?!この霧の中で正確に距離を…?!なんてやつだ! 感心しつつ天龍は無線で返した。

 

“こちら日本海軍天龍型一番艦天龍だ。ここまでよく頑張った。後は俺たちがそこまで行くから停止せよ。”

“了解。当艦の位置は北緯49度50分、東経176度77分。マストにNC旗を掲げています。”

“了解した。直ちに向かう”通信を終えるとジェスチャーで仲間に伝えた。

 

それは武装解除しその地点へ向かうということだった。万が一のことを考えてだが、できれば使いたくはない。

 

六人は主機を起動し、霧中信号を出し警戒しながら第三船速で向かった。

 

 

 

天龍達の艦隊から北に三浬

「レーダーに感。うん近づいてきてるね…信号もはっきりと聞こえるし」ふぶきは不安だった。レーダー上には6隻映っているが、故障のようで敵味方の判別がつかないのだ。それが一番怖い。あの無線の相手が本当に“天龍”か“てんりゅう”なのか…それとも先ほど遭遇した得体のしれないものか…

 

ー武器はリンクできない…使えるには腰にある9ミリ拳銃のみか。いくら最新鋭の私でもこれでは分が悪すぎる。

「こりゃ下手に抗わない方がいいかなぁ…」9ミリ拳銃を手に取りながらため息交じりに呟いた。

 

すると異変が起こった。あんなに濃かった霧がどんどん晴れてきてきたのではないか。

「うえっいきなり?!海は天候が変わりやすいとはいえ…」もうあの艦隊は二浬以下まで迫ってきている。

 

「三キロ以下か…もう目視はできるかも」拳銃は腰に隠したまま、NC旗をマストいっぱいに高く上げ、左右に伸ばした腕をゆっくりと上下させてみた。

 

霧が晴れると、私は慎重に接近してくる艦隊を見つけることができた。ただ…それは船ではなく、私と同じく海に浮かんで進んでいる人だった。

 

 

「私は「俺は」夢でも見ているのか…?」

どうやら天龍といった人達も驚いているようだが、何に対して驚いているのかは私は分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は遭難してから初めて人(っぽいもの)に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの世界の歯車は、これを機に大きく、複雑に動き始めた。




いかがでしたか?感想や質問とかもおまちしておりますよー。

さて次回は私が所属している鎮守府にふぶきは天龍らによって曳航されます。そこでふぶきが見たものとは。そして待ち受ける衝撃の事実…


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04話 鎮守府へ

2017年初投稿。今年もよろしくです。

しばらく亀更新になりますすみません(定期試験や就活があるため)


私はキスカ島から大分離れた所-Y地点で艦隊と合流することができた。

 

だが、そこで待っていたのは船ではなく私と同じような艤装を付けた人だった。

 

ーまだ夢でもみているのかな…?と若干ため息ついたがどうやら向こうもなにやらきょとんとしている。

 

「えーと…お前が“かいじょうじえいたい”というやつの“ふぶき”…で間違いないのか?」

 

 

眼帯をしていてなんだか怖そうな方から質問された。どうやら警戒しているようで、腰にある二つの14cm単装砲の主砲がこちらに向けており、柄にも手をかけている。それだけではなく、後ろの子たちも主砲を向けている。

 

 

いくら最新鋭でもこの至近距離で避けられる可能性は極めて低いし、仮に抵抗したとしても兵装のデーターリンクはできないため、腰にある9ミリ拳銃か徒手での反撃になるが…はっきり言って分が悪すぎる。そもそも装甲は薄いから一隻からでも主砲撃たれたら間違いなく行動不能、運が悪ければ轟沈だってありえる。

最悪眼帯をしている方を人質に取って交渉…なんて考えたが、腰にある刀っぽいので斬られやられる可能性もある。

 

(つまり…チェックメイトされている状態ってことね。)

「えぇ、私が先ほど無線で救難信号を出した…日本国海上自衛隊舞鶴基地所属、ふぶき型護衛艦一番艦のふぶきです。まず救援していただき感謝します。」ピシッとお辞儀してお礼を言った。

 

それをみた天龍達は驚いた。少なくともある疑惑は晴れた…この艦娘は深海棲艦ではないと。

そして何よりも、第一艦隊旗艦であり提督代理も務めるあの彼女に瓜二つであるからだ。

しかし油断を誘っておいて攻撃…もありえるので武装解除はせず天龍がこう返した。

 

「俺は幌筵泊地所属、天龍型一番艦天龍だ。とりあえずお前がふぶきだということは分かった。だが少なくともまだ確証したわけではない。」

 

(…デスヨネー)

私はため息ついた。こうして敵意がないことを示しているが、仕方がないことだろう。幌筵泊地と聞いて疑問に思ったが話を穏便に進めるために後回しにした。

 

「貴女は私の味方ですよね?」

「…あぁ。今は訳ありでこんな状態だが、味方だ。」違和感を感じたため少し戸惑ったが、はっきりと味方だと天龍は伝えた。

「…ならその主砲を下ろしてもらえませんか?」

「そうしたいのは山々なんだがな、こっちは命がかかっているんでね」柄を握る力が強くなった。

 

さっきよりも一段と警戒が強まった気がした。

ここでの説得は無理か…と思い話を変えた。

「なるほど…けど私はあなた方の司令官と話がしたいだけです」

「そのために救援信号を出したのか?」天龍が聞くと

「はい」ふぶきは即答した。

 

ほぅ、と天龍は感心した。なにせあのキス島の包囲部隊を、霧を利用していたとはいえ無傷で抜けたのだ。しかも単艦である。また、救難信号をだしたとしてもたまたま俺らの遠征部隊がキャッチしただけで、下手すりゃ深海棲艦に拿捕された可能性も十分に高かった。

「了解した。とりあえずお前は俺たちの鎮守府、幌筵泊地まで曳航する。詳しい話は向こうでだ。」

 

こうして私は曳航用のロープで繋がれながら幌筵泊地へと向かっていこうとしたが…

「お、重っ…」あまりにも天龍の速度が出なかったので曳航はあきらめ、水雷戦隊に囲まれながら泊地へ向かうことになった。

ただ、最大船速は出せないことを伝えた。

(重いとは失礼な!)と思ったけど私の基準排水量が8300トンもあるからね仕方ないと割り切った。

 

 

 

駆逐艦が先導するなか、私の真後ろには天龍がまだ主砲を向けたまま距離を保って後についていく。

それだけでなく左右にも他の駆逐艦らが一定の距離を保ちつつ、変な動きがないか私を見張っている。

9ミリ拳銃などはその駆逐艦たちに預けた。私が攻撃の意思を持っていないことを示すためだ。

(ほぼ丸腰状態だけど、我慢するしかないよね…)ため息をついたが後ろから話し声が聞こえてきた。

 

「高雄型に似た艦橋だけど、あの白いのはなんなんだ?」

「こんな拳銃、見たこともないぜ」

「砲が一門に対空装備が二基、それに飛行甲板と筒のなにか…戦えるのかそれで?」 

 

後続の彼女たちは口々に感想を漏らした。珍しいみたいだがどうも胸にわだかまりがある。

まさかと思うが、おそらく彼女たちは私を知っているようで知らないのではないか。

なぜなら、初めて私を見た時の反応は誰かを知っているような顔をしてた。

しかし、所属と艦名を言ってからは?マークが沢山浮かんでいるような感じだった。

それに、私の装備を見てもその有効性が分からないのは、私がいた時代では少なくとも有り得ないことだ。

つまりここは…現代ではない別の時代ということになる。が、そんなことはありえないと脳内で必死に解釈した。

だってタイムトラベルなんてないのだから。あったとしてもまだドラ○もんの世界だ。

けど、この人型になったこととかはどう説明すればいいのか。

そして私は頭が爆発しそうになったので、考えるのをやめた。

 

「なんか色々と考えているような顔してますねぇ」右舷には青いセーラ服で黒の外ハネしたショートボブの子が言った。

「泊地に着いてから暴れようだなんて無駄だぜ。」左舷に赤紅色の髪でへそチラしている子も話してきた。

(いやそれどころじゃないし、私武装解除されているに等しいから無理なんですけどー)心のなかで軽くツッコんだ。

「でもありえそう…天龍さん本当に大丈夫かしら?」天龍の後ろにいる、右舷の駆逐艦とはまた違ったセーラ服で紺色ロングストレートの駆逐艦が不安そうに言ってきた。

「大丈夫だ暁。言っただろ俺がすべて責任を持つって。いざとなったらこの愛刀で叩き切ってやるぜ」

「えっそれ斬れるんですか?!」私は驚き天龍の方へ顔を向けた。てっきり見かけの刀だと思っていた。

「お、おぅ。これで敵の砲弾を弾くこともあるぜ」

「砲弾も弾くんですか!?」なんなんですかこの彼女。弾を弾くなんてル○ンの○ェ門でしか見たことないですよ。

ということはかなりの手練れだろう。敵には回したくないと思った。

「くっちゃべってないでしっかり警戒しなさいったら!」先導している銀髪のサイドーテル駆逐艦からお怒りを受けた。

「えーだって移動してから数時間経ってるし、敵も見えないから暇なんだよー」右舷の駆逐艦が不満をもらした。

確かに、私のレーダー上でも周辺の水雷戦隊が映るのみで他は全くといっていいほど反応がない。ただ、レーダー出力を抑えているので探知距離は狭くなっているが。

「でも霞さんの言う通りだと思うわ。いきなり襲ってきたら私達やられているわ。」

どうやらしっかりした子だな…確か暁というんだっけ。

 

「まぁこうもなにもないとはねぇ…そろそろ敵の哨戒圏を抜けるとはいえ追っかけられてないのが不思議だぜ」

「そういや私が島抜けるとき、なんか同士討ちがあったような気が…」

ふぶきがそういうと皆驚いた。

「ほ、ほんとか?!」天龍が食い気味に言った。

「は、はい。霧でよく分からなかったけど…れーd、いや電探上では同士討ちで敵の数が減っていました」

「すごい運持ってるね。幸運の女神でもついているんじゃ?」左舷の駆逐艦が絶賛してた。

(幸運ねぇ…濃霧という天候を味方につけたけど、それよりもこのステルス性が大きかったのかもしれませんね)

私はステルスという技術に感謝した。雑談しながらも泊地へと順調に進んでいった。

 

 

 

数十時間後 幌筵島から東200キロ付近

ここでトラブルが発生した。ふぶきの主機の調子が悪くなり速度が低下した。それだけでなく、ふぶきの足取りがフラフラしてきた。

(吐き気もするしめまいが…)

流石に危ないので両舷の駆逐艦に支えられて曳航される形となった。

 

天龍の見方によると初めて建造されたりドロップしたばかりの艦娘は、練度や精神的に未熟なので兵装などのリンクがうまくいかないこともあるようだ。また、船酔いの症状も稀に見られるそうだ。

さらにドロップの例では艦娘としての責務、自覚を知りながら出現する場合と、自分が艦娘になったのを知らずに出現するパターンもある。

今回のは後者で長距離航海の疲労や精神的な処理が追いつかなくなり体調不良ー船酔いとなったのだろうと推測した。

また彼女は深海棲艦を知らない可能性があった。それに話がかみ合ない部分も多少見受けられた。

 

天龍は無線で医療班と医務室の手配も泊地へと要請した。

するとすぐに受理され、空母による艦載機での警戒や明石による泊地につくまでの簡易の治療も出ることになった。

 

そして数時間後、ふぶきを曳航した水雷戦隊は護衛隊と接触したが肝心のふぶきは精神に過負荷がかかったのか、気を失ったように眠っていた。

これは重症の可能性もあったので、曳航されながら明石が応急手当していくことになった。

 

「しかしこんな装備見たこともありませんね…」

明石も見たこともないとなると、ますます訳が分からなってきた。

「えぇ、私が知る限りね。それに、吹雪さんとほんとにそっくりね」

「だろ。ただ、“海上自衛隊”という組織は知らない」

「新しい艦娘なのか…私たちがその組織を知らないだけか。それとも未来から来たのか。…でもタイムスリップだなんて今まで報告されてません」空母機動部隊の赤城が護衛しつつ意見を申し出た。

「私もよ。タイムスリップだなんてありえないことだし、そのような組織も聞いたことないわ。」空母の中でも一番の高練度である加賀も赤城の言っていることに賛同した。

「加賀さんまで知らないとは…もしかしたら経歴を偽っている可能性も…」秋月も不安そうに言った。

「ありえるわね」加賀は色々な記憶を脳内で思い出していたが、やはり該当する項目がない。

第一経歴詐欺までして接触する知能の高い深海棲艦なんていないはずだ。

だが鬼級や姫級は片言であるが話せるし、より艦娘に近いのもいるが。

 

「未来…かぁ」天龍は誰にもわかなないようにボソッと呟いた。ありえない話だけどもし本当に未来からきた艦娘だったら、あの違和感も納得できるが所詮そういうのは空想の世界だろう。

(とんでもないものを持ち込んでしまったかもな…)これほど不安になるのは久々だった。

 

 

(泊地に着いたら詳しい検査が必要ですが…“D事案”となると厄介ですね)明石は護衛されながらふぶきの肩部分を見てみた。幸いまだなにも出ていなかったので一安心した。

敵影は全く確認されず、妨害もなく順調に鎮守府へと曳航され医務室へと運ばれていった。

 

 

 

 

翌日、ふぶきはベッドの上で目覚めた。

痛みなどはないが意識を失った時からの記憶が曖昧で途切れ途切れしか思い出せなかった。ゆっくりと起き上がり辺りを見回してみると、個室タイプの医務室のようで私以外誰もいなかった。

するとタイミングよくドアが開き誰かが入ってきた。

「おっと、起きてたのね。気分はどう?ふぶきさん?」ピンク髪で横紙をおさげっぽくまとめているんですが、スカートがすごい。腰回りが露出しているんですよ。

「気分は悪くないですし痛みもないです…けど貴女は?」

「あぁ自己紹介が遅れたわね。私は工作艦明石です。貴女が気を失ってからずっと看病してたのよ」

「あ、ありがとうございます」ペコリとお辞儀した。

「いえいえ。っとちょっと失礼。異常がないか診察するね」明石はふぶきのセーラー服の袖口をまくったり、襟から肩を出してみて観察していった。

 

てっきり聴診器とかで診察するのかと思ったが違ったのでびっくりしました。

 

「…うん、今のところ異常なし。よかった」明石はほっと息をつきながら慣れた手つきで診断書みたいなのを書いていき、内線でどこかと電話していった。

一体何をチェックしたんでしょうか…色々と聞きたいことはあるがそれは明石も同じようだった。

「んーと聞きたいことはいっぱいあるけど…とりあえず起きたから提督のところに連れていきます。お話したいことがあるそうですし、貴女もですよね」

「…はい。」 工作艦明石、幌筵泊地、軽巡天龍…様々な疑問点が湧き出てくる。第一、ここは日本なのかすらまだわからない。

だが、ここで一番偉い方と話すことで真実が分かるのだが結果が怖い。

でも、その覚悟はできているし受け入れるしかない。

 

「さて行きますか。立てます?」

わたしはベッドから出て靴を履いたところまではよかったが、やはり少しふらついた。

とっさに明石さんが支えてくれて助かった。

「ありがとうございます明石さん」

「まぁあれだけ寝込んでいたからね。体力が落ちているのは仕方がないことよ」

(それにしてもこのふぶきさん…ほんとそっくりだけどよく見ると違うわね。わたしよりも若干背が高いし、グレーがかかった瞳だから珍しい。それに胸部装甲もかなり持っているみたいですねぇ)

「なんか私の顔についています?」まじまじと明石さんが見つめていたためだ。

 

「…えっ?あっいやなにもついていないよ。さ、行きましょう」

 

 




二月から就活などで忙しくなるためあまり更新しないかもしれませんが頑張ってちょくちょく書いていきたいです。

今さらだけどふぶきの服のコンセプトが決まりそうです。後日解説するかも。

あ、感想等ももお待ちしています(^O^)/



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05話 ところがどっこい…これが現実ッッ…

大変遅くなり申し訳ありませんでした。やっと5話ができました。これからもちょくちょく更新していきますね


ふぶきは明石に提督が在室している執務室へと案内されていた。

廊下は寒いからと明石さんが暖房着を羽織ってくれたのはありがたかった。実際廊下はすこし冷気が漂っていたからだ。

 

誰にも出会うことなく執務室の階にたどり着いた。

ここで一番偉い方がいると思うと緊張する。

私は入る前に服や髪が乱れてないかチェックしました。勿論明石さんにもチェックをお願いしました。

 

「大丈夫ですよそんなに固くならなくても。ここの提督は優しいですし。」明石は私の不安を払拭するかのようにニッコリと笑って背中をさすってくれた。

「いやぁ、だってここで一番偉い方ですよ?緊張がMAXですし心臓もバックバクですよ」

けど明石さんのおかげで緊張が大分和らぎました。

「あ、入室する前に一つ言っておくね。提督の他にもう一人いるんだけど、あの時天龍達が不思議がっていた理由が分かると思う。」

「まさか…」私はゴクッと唾を飲み込んだ。

「そうよ。その子は吹雪…奇しくも貴女と同じ名前に同じような風貌。これも何かの運命かしらね…。」

「でもなぜ事前に教えくれたんですか」

「だって万が一倒れたりしたら大変ですしね。それにできるだけ不安がないほうがいいでしょ。さ、入りましょう」

 

明石が執務室のドアをノックすると、中からどうぞ、と若い男性の声が聞こえた。

また緊張が襲ってきて足が少し震えながらも明石さんの後について執務室へと入室した。

 

「工作艦明石です。連絡通りふぶきさんを連れてきました。」ぴしりと敬礼しながら報告していった。

「ご苦労様。そして明石の横にいるのが…例の“ふぶき”かな?」

 

見た目は若かったので階級をちらりと確認した。少し離れていたためよく分からなかったが、恐らく海将補以上ー海外基準で言えば少将以上だろうと推測した。それが分かった瞬間思わず二度見してしまったが、気を取り直し自衛隊式の敬礼をした。

 

「はい。日本国 海上自衛隊 舞鶴基地 第三護衛隊群所属、旗艦のふぶきです。救護していただき感謝いたします。」

動作、作法、視線や姿勢どれをとっても非常に素晴らしく、凛々しいものであった。

 

その姿に少し圧倒された提督達だった。

(ここまで艦娘としての完成度が高いのは珍しい。レベルの高い教育が行き届いている証拠でもあるな。)

 

「当然のことをしただけですよ。自己紹介が遅れたが私が幌筵島泊地司令長官、鵠(くぐい)中将だ。そして…」

「初めまして吹雪です。宜しくお願いします。秘書官や提督代理も務めています。」

 

(あの子が吹雪…明石さんが言った通り私とそっくりだ。小さくてかわいらしいけど、幾つもの戦を経たようなオーラーが…数々の海外軍人の実戦経験者とは比べ物にならない…)

可愛らしさとは裏腹に力強くも静かな敬礼と、威厳を感じられ少し冷や汗搔いたが、落ち着いたところで吹雪たちが言ったことを頭の中で自問自答した。

 

(幌筵泊地、吹雪、そして明石、天龍、暁…ここまできたらもう偶然とは言えないのでは?壮大なドッキリとかだったらありがたいけど、その可能性は0だよね…やはりここは、私が生きていた日本ではないっぽい)

そうこうしている内に提督から話を切り出してきた。

 

「お互い自己紹介も済んだし、本題に入っていきたいのだが…すこし混乱しているみたいだが大丈夫かい?」

「えっ?あっはい大丈夫です」えぇ少しどころではないですね。滅茶苦茶に混乱してます。

「ならいいが、病み上がりだからそこのソファーに座って話そうか。立ちっぱなしは体に悪い。」

 

ここまで気を配っているとは意外だった。ありがたくソファーに座らせていただき、提督もソファーに座り向かい合う形となった。ふぶきの隣には明石さんも座った。

 

「さてと、どこから話せば…。まぁ私も君と同じように疑問が沢山あるはずだ。」

「えぇ…」ふぶきは一体どこから話せばいいか迷っていた。未来からやってきましたイージス艦です♪なんて言ったら頭大丈夫なのかとか色々と言われそうである。

 

「まぁここは単刀直入に聞こう。あ、答えたくないものがあったら無理して答えなくてもいいからね?」

「大丈夫です」その眼ははっきりとまっすぐ提督を見つめていた。

「そうか…では貴方は何者なのか、だね。まず君は海上自衛隊と名乗った。そのような組織は過去や現在も確認されていない。それに、身につけていた装備類は見たこともないものだ。書物をあさったりしたが該当はなかった。あの北方海域を一人で抜けたな…。」

 

「私はアメリカとの合同演習に向かう途中に災害に巻き込まれて目が覚めたら女の子になって島内に流れ着いて…そこで運よく救難信号出したらそちらの艦隊がキャッチして、なんか敵がうようよいるからできたら自力で脱出せよと言われ…なんとか合流できたんですよ。しかも艦船ではなく人ですよ…本当にここは日本国なんですか?」

 

吐き出すように一気に言ったので息を整えた。

するといいタイミングで給湯室から戻ってきた吹雪が温かい緑茶を三人に差しだしてきた。

私はありがたく飲んでいった。

 

「なるほどね…まずはここの世界の現状から話したほうがよさそうだな」

 

 

 

ーここは紛れもなく日本であるし太平洋戦争も起こった。しかし予想以上に泥沼化し、お互いに多大な被害を出しながらも講和条約は結ばれていったが生き残った艦は賠償艦として、日本に落とすはずだった原子爆弾の実験艦としてとある海域に集められたりとしたがほとんどであった。

その数年後、忽然と商船などが次々と行方不明となっていった。

暫くは原因不明だったが、生き残った船員からの証言などで恐ろしいものが浮かび上がってきた。

真っ黒い船、いやあれは船というべきなのか。それに襲われたと。

事態を重く見た各国は護衛つきでシーレーンを警備することになった。

しかし戦争はすでに終わり艦隊は少なくなったので、様々な国が集まって船団を組んでいくことになった。

 

が、被害はますます大きくなるばかりか護衛した船団も襲われ、中には壊滅されたのも出てきた。

勿論反撃はしたがまるで効果はなく打つ手はなかった。

生き残った艦によると、あの目撃証言と一致し、戦闘の様子の映像からも漆黒の船団だけではなく、人のようなものもいたそうだ。

その後も何回か謎の艦隊と戦闘を行っていったがどれも敗北であった。

いつかこの謎の艦隊は「深海棲艦」と呼ばれていった。深海魚のような不気味さや出現位置、どこからか姿を現す特徴から来たそうだ。

じわじわと真綿で首を絞められるかのようにシーレーンが破壊されて深海棲艦の勢力も広がっていき、それにともない沿岸部では対地攻撃もされた。人類はただただ滅亡のカウントダウンを見守るしかなった。

あのアメリカですら屈した奴らに勝てるわけがない…そんな絶望感が日本を覆っていた。

 

しかし神は見捨てなかった。

2013年4月下旬に相模湾に現れた深海棲艦がたった5人の人間ーいや艤装を身につけた人が襲ってきた深海棲艦を壊滅においこんだ。

後に彼女たちは“艦娘”と呼ばれ、人類の反撃は始まった。

 

 

 

私は唖然とした。私が今まで見ていた日本の歴史とここでは似ているようでほぼ違っていると。

「つまり艦娘とは元々艦船だったのが轟沈や解体などをした後に、艦魂が人の形となり我々の目の前に現れたとなっている」

「そうなるとわたしも艦娘…ということですか?」

「可能性としてはそうだろう。実際艦娘としての機能は似ているしね。あと今日の年月はわかるかな?」

予想外の質問でずっこけそうになったが記憶を頼りに答えていく

 

「2016年9月22…いや23日です」沈んだのが21日でそこから色々とあってここに曳航されたときは意識を失っていて丸一日寝込んでいたそうだ。

「あぁ、ここも2016年9月23日だよ。」

「…えっ」私はそれを理解するのに数秒のタイムラグを起こした。

「ちなみにカレンダーもみるといい」

私は慌てて壁にかかってあるカレンダーを目に通した。確か2016年9月と示されていた。

何度確認しても2016年だ。

 

しかしあの時の彼女たちの装備はどう見てもあの戦時中のだ。同じ2016年とは思えない。

これまで得た情報を冷静に処理していくと、ある一つのものに行きついた。

 

「並行世界ーパラレルワールド…自分の世界に似た別の世界ですかね」私は深いため息をついた。

「おそらくその仮説が一番正しいと思う…がそのような事例はどの鎮守府でも確認されてないはず…」

「そもそも並行世界は小説とかでの話だけだと思いましたが…」吹雪がやっと口を開いた。こんな事例は初めてなのか熱心に聞いていた。

「いや、物理学や量子学から見てもいくつもの並行世界は実在するという理論はあります。それに該当した可能性は捨てきれませんね…」

「なんかすごい難しいことになりましたね…」明石もぽかんとしている。

「私もよ。運よく私の世界に帰ってこのことを論文書いたらノーベル賞か、はたまたは変人扱いされるか…」

 

皆疲れたような顔をしている。そりゃそうだろうSFじみたことが起こってしまったのだから。

吹雪はまた給湯室へと向かいだした。お茶を入れてくるのかなと思ったがなにやらお菓子がいっぱい入った籠を持ってきたのだ。

「こういう時は甘いものでも食べてリラックスしましょう」

「流石。よく気が利くね」提督はチョコを、吹雪と明石はクッキーを手に取った。

「あの、私もいいんですか?」

「うん。それになにも食べてないでしょ?」確かにあの時からまったく口にしていない。私はありがたくお菓子を頂戴した。

 

「そうだな。ここで作ってもいいんだが」 モグモグ

「あっその前に私の艤装どうなっているか確認したいです。」 ボリッ

「そうね。あなたにも見てもらいたいし私だけじゃさっぱり」  パキッ

「それが終わったらお風呂にも案内したいです。さっぱりしたいでしょうし」 パリパリ

皆お菓子を食べながら今後どう段取りをとっていくか話合っていた。

 

「ところで、貴女の仲間はここにいるんですか?あの時は一人でしたが」吹雪がお菓子を頬張りながら問いかけた。

「はい、私が沈む前は三隻の護衛艦と一緒に演習へと向かっていたのですが最初に巻き込まれてしまったので分からないです。ただ、ここにも飛ばされた可能性はあります。けど、あの時無線で呼びかけてみましたが反応はなかったですね…」

「もしかしたらその無線が届かない場所か後になって飛ばされたか…まだ分からないけどあの海域付近は捜索する必要がありますね」明石が考え込むように唸った

 

「そうだな。突然本題に入ってすまないが…ふぶき、私達と一緒に戦ってくれないかね?」先ほど和気あいあいとお菓子を食べて話し合っていた人とは思えないほど強い意志が感じられた。

 

「…え”っ?なぜ私と…?」いきなりあのように真剣な声をかけられ動揺するのは当たり前だ。ふぶきは食べていたお菓子が喉につっかえそうになったほどだ。

 

 

「先ほど言ったように艦娘の台頭によって人類は持ち直した。不安定だったシーレーンも少しは安定してきた。しかしながら深海棲艦も学習という知能はあった。高性能になっていく装備、新しい戦術、見たことのない深海棲艦が次々と現れてきた。勿論こちらも傍観せず対抗しているが徐々に押され気味になってきている。」

「制海権等は確保しているけど、いつ崩壊するか分からない状況です。決壊寸前のダムのようにね…」吹雪はため息ついた。

 

それほどまでここの日本は追い詰められているのか。ふぶきは助けたいと思っているが、様々な壁が沢山あるのだ。仲間のこと、そして仮に私が戦ったとしても効くのか…色々と頭の中で回る。

 

「勿論、衣食住はしっかりと提供するし安全も第一に保障する。なにせここは日本で一番北にあるからそうそう本土とは気軽に往来は難しい。」

「まぁそれが逆にネックだったりするけど、ここには温泉も湧いているし結構いいとこだよ」

なるほど。確かにここは幌筵島といっていた。地図を思い浮かべると千島列島の北東部にあって、択捉島についで第二の広さを持っている。

 

好条件だが本当は母港である舞鶴に戻りたい。しかしここは別の世界。補給もどうなるかわからないこの世界でここから横須賀や舞鶴に戻るのは自殺行為に近い。仮に戻れたとしてもこの世界にはいない艦娘だ。こき使われるか研究対象となるか、はたまたは他国に引き渡されるか…最悪のケースも想定される。

そう考えた場合、ここで匿ってもらえるのはとてもありがたいし、なにせ私を助けてくれた。

日本を護るために、そして助けてくれたここの人達に恩返しをしたいのは山々であるが、戦場というのは理解できなかった。なにせ私がいた日本は70年間も戦争してないという点ではとても素晴らしいが、実戦はどうなんだとなると不安が残る。某国のミサイルや連日のスクランブル等、優位とはいえない状況になっているが言い訳はできない。今ある戦力で最大限に発揮できるよう技術を結晶させ、厳しい訓練をしている。

 

「まぁすぐに決めろとはいっていない。最終的な決定権は君にある、つまり君の意見を最も尊重するということだ。急かすようで悪いが2日間の間…つまり25日の日曜日までしっかりと考えてくれるかい?部屋も食事もすでに手配しているからそこの心配はしなくてもいいよ。」

 

これはありがたかった。話がわかりいい提督のようでふぶきはホッとした。

「分かりました。期限まで必ず結論は出します。暫くご迷惑をおかけしますが、それまではよろしくお願いいたします。」

ふぶきはソファーからゆっくりと立ち上がり最敬礼をした。

「うむ、まずはしっかり休養とってくれ」提督もソファーから立ち上がり敬礼で返した。

 

「さて、話もまとまったことだし工廠に移動して貴方の艤装の説明をしてもらいたいわ。」

「えっ明石さん。あれ繊細ですし精密機器が沢山あるから下手にいじらないで欲しかったんですが…」

精密機器だけでなく一部の方しか入れない場所もあるから不安になった。

「そこは大丈夫です。今回は本人の許可なしに艤装に手を加えないことになりました。今は警備が厳重な場所に保管してありますよ」それを聞いて私は安心した。

「あの艤装は私たちの世界では見たことがないもの。だから今回の件は秘匿性が高いと判断しその場所に保管することになったの」吹雪が補足してくれた。

ここまで手が回っていることに感心した。私の艤装はこの世界のパワーバランスを変えてしまうかもしれないだろう。味方にしてみれば非常に頼もしいものだが、敵に渡ってしまったらと思うと恐ろしい。

 

時刻は午後5時を過ぎた所でもう太陽は西に落ちかけている。

ふぶきは明石さんと一緒に工廠に向かうことになった。提督と吹雪はそのまま執務室に残って会議するそうだ。

二人が退室し扉が閉まると提督と吹雪はお互い顔を見合わせた。

「…うん。やはり瓜二つにしかみえなかった。」

「私がいうのもあれですけど鏡を見ているようで混乱しましたね」

(けど、彼女の方がよっぽど大人に見えました。表情といい姿勢といい立派でした。それに胸部装甲もなかなか…)

吹雪も他の駆逐艦よりはなかなかある(というか成長した)ほうだが、彼女の胸部装甲は重巡クラスはありそうだった。

 

 

 

「さて、どう上に報告しましょう?司令官…いえ鵠中将」秘書としての佇まいなのか、吹雪の雰囲気がピシッと変わった。

「このまま隠していてもいずればれるからな。勿論上には報告する」

「いつ頃に?」

「そうだね…まぁ彼女の動向次第になるが性能とかを計ってからになるかな」

「でも彼女が未来から来たのなら、それは危ない気がします。もしあの兵装が恐るべし力を秘めていたのなら、上層部は喉から手がでるほどほしい存在となるかもしれません。奪ってくる可能性も否定できません。」その点があるので吹雪は危惧していた。

「確かに上は欲しがるだろうね。勿論ここの警備は増強しておく。あきつ丸にも声をかけたし僕も見回りをする。それに上に報告するときはうまく交渉しておくさ」

「なるほど…」あきつ丸さんは元々陸軍から来たのでそういうのは得意そうだ。実際徒手などのレベルは高い。

「ただ司令官は交渉が苦手ですからそこだけ心配なんですよ」

図星だったようで提督はウグッ、と言葉に詰まった。

「まぁ念には念をいれて資料や質疑応答を想定しておきますから。恐らく艦娘は会議室には入れないレベルになるでしょうし。」

「さすが吹雪さん。とても助かるわ」提督は吹雪ちゃんの頭を優しく撫でていくと吹雪は嬉しそうに頬を緩めた。

 

「えへへ…♪あ、あとは青葉さんの対応ですね」

「それなんだよね。取材熱心なことは結構なんだが、あまりにも行き過ぎると情報漏れする可能性もあるからな。」

実際に吹雪との夜間演習(意味深)で暴露されかけたことが過去にあったためだ。なんとか交渉し鎮守府内には広まらなかったが、一歩遅かったらと思うと冷や汗ものだ。

「それで前日青葉さんをここに呼んだんですね」吹雪は昨日の出来事を思い出した。

「あぁ、彼女の取材はうちが許可してからとかの制限付きになったが、そのかわりスパイ等は躊躇なく報告してくれとね。勿論謝礼(間宮券)付きにしたら乗っかってくれた」

(なるほど。それにしても手が回るのが早いです。やはり司令官も警戒しているようですね)

「さてここから忙しくなるなぁ」提督はソファーから立ち上がり執務机の椅子へと座り、書類に目を向けてややげんなりした。

「そうですね。演習や上官との対応等色々入り込んできますからね…手伝いますね」吹雪もお仕事モードになり、青色のメガネをかけて司令官と仕事に取り掛かっていった。

 




あぁ、もうすぐ春休みが終わる…就活もある大学もあるうわあああああああぁぁ吹雪ちゃんにくぎゅうされて癒されたいいいいいぃぃ

そういうことなのでなかなか進まないですね(笑)
早く演習シーンとかやりたい…ジパングのアレを流しながら書くのだ。


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06話 艤装と妖精さん

5ケ月ぶりの投稿になりました大変お待たせしました。

ちょくちょく書いていたもののまだ本格的に更新するのは難しい状況ですが今後ともよろしくお願いいたします。

近況ですが富士総合火力演習に見事当選しました!まぁ夏コミは断念なんだけどね仕方ない。冬コミは必ず行きたい。
吹雪ちゃんの本現場で手に入れたかった(´・ω・`)


提督と吹雪が執務室で書類仕事に追われている中、明石とふぶきは艤装の確認のために工廠へと移動していた。

雑談しながら歩いていると、薄暗い夕焼けから存在感のある大きめの体育館のような建物を発見した。どうやら目的の場所に着いたようだ。

「ここが工廠よ。ここで私と夕張が働いているの。」

「夕張さんって…軽巡夕張ですか?」

「えぇそうよ。機械マニアで中々面白い子よ」

重厚そうな鉄の扉を明石さんが開けていくと、より一層の機械音と油の匂い、大小の機械が五感を通じて入ってきた。

「おぉ…」その様子に圧巻されていてふぶきは足元にいる小さい人に暫く気づかず、視界に入った途端驚いてしまった。

「うわっびっくりした!?えっ?なにこの…小人??」

「あぁ、それは妖精さん。ここにいるのは工廠妖精さんや艤装妖精さんだったり色々といるわ。彼らたちは様々なものをサポートしてくれる、いわば縁の下の力持ちな存在なの」

「なるほど…」(今度はファンタジー要素ですか…。)色々とツッコみたかったけどいちいちやっていたら物事が円滑に進まなくなるのでぐっとこらえた。

すると妖精さんは安全第一と描かれたーヘルメットを差しだした。

「ココ、アブナイカラ、ヘルメット、ツケテネ」

(しゃべったああああああぁぁ?!?!)思わず叫びそうになったけど心の中で抑え、ヘルメットを着用した。

明石さんもヘルメットを被っているけどここで働いているからかとても似合っている。

「あ、ありがとね」妖精さんにお礼言うと嬉しそうな顔しつつもビシッと敬礼し、作業へ戻っていった。

可愛いししっかりしてるから持ち帰りたいなと思ってしまったけど。

 

「よし、ヘルメット着けたし夕張さんの所に行って一緒に貴女の艤装を見に行きますよ」

機械音が鳴り響いているためかなり近くまで話を聞かないと分からないほどだが口の動きで分かったので頷き、明石さんの後についていった。

道中色々な妖精さんや機械をみていくと、奥に銀色がかかった緑色の髪でオレンジのツナギを着ている方を見つけた。もしかしてあれが夕張さんなのだろうか。

明石さんが呼ぶもなにやら作業に没頭しているようで私たちには全く気付いていないようだ。

なるほど確かに明石さんの言った通りかなりのオタクの様だ。

仕方なく近くまで行き明石が夕張の頬を叩くとやっと気づいて顔をあげたが、所々に顔や色んなに機械油の黒い跡がついていた。

「あの、顔に汚れがついてますが…」

「えっ?…あっごめんね!つい集中しちゃって…」アハハと苦笑しながらタオルで顔を拭き汚れをとっていった。

「お、お待たせ。兵装実験軽巡夕張よ、よろしくね」

「初めましてふぶき型護衛艦ふぶきです。以後よろしくお願いします」互いにお辞儀して挨拶するとやはりというかまじまじと夕張は彼女の顔を見つめていた。

「うわぁ、まるで吹雪さんと瓜二つね。ただ…なんというか大人びている?」そしてチラリと彼女の胸部装甲に目を移したがなかなかの持ち主だと判明し、少し敗北感を感じた。

「一瞬吹雪さんが、あっ第一艦隊旗艦及び秘書艦もやっているほうよ。そっちが来たのかと思って一瞬混乱しちゃった」

今さらっとすごい経歴が夕張の口から出て耳を疑ってしまった。

「えっすごい経歴をお持ちなんですね彼女…」

「まー提督が着任してからほぼ隣で支えてきたからねぇ。それに着任してから一年後にはお二人はケッコンしたというね。」

「け、ケッコンまで?!」そういやあの時、提督と彼女の指にキラリと光るものがあったのを思い出した。最初はファッションの類かと気にしなかったが、まさか指輪だったとは。妖精さんといいケッコン(もしかしてロリコnゲフンゲフン)といいとんでもない所にきてしまったようだ。

 

「貴女の艤装は地下室で厳重な警戒保管しているけど、その確認をしたいのよね?」地下室にいくエレベータに乗りながら夕張が書類をみて確認していく。

「あっ、はいそうです。結構機密なものがあったりするので」 ステルス技術やレーダー、CICなどは機密が満載であるためだ。そのようなのが勝手に分解されて使い物にならなかったら大変どころでは済まされない。存亡にも関わる問題だ。

「まぁ艤装は本人の許可なしには勝手にいじれませんし、そもそもあのようなのは私たちは見たことも聞いたこともないわ。提督の判断もあって今は地下室に保管してあるの。」

「ただ少し損傷があるみたいなの。それを直したいのだけど手がつけられないし、初めて見る妖精さんの反対にもあってね」二人とも困った様子が見てとれた。

「あの、初めて見る妖精さんって言ってましたよね?どんな妖精さんだったんですか?」艤装には何も手をつけておらずバラバラにもなっていないことには安心したが、そこだけがひっかかった。

夕張は記憶を頼りに思い出していた

「えーとそうね…色んな妖精さんがいたけど多くは青っぽい迷彩服だったりセーラー服、あとは灰色の救命胴衣を着ていた妖精さんなどなどですね…ふぶきさん?」

深刻な顔をしている様子だったのだ心配になったが、ふぶきの口から驚きの真実が語られた。

「それ…海上自衛隊の制服です…つまり乗員が妖精になったということ…?!」

「断定はできませんが、『妖精は元々艦娘になる前、艦船の乗員や艦載機乗員なのではないか』と推測されてます。それに該当した可能性もありますが…詳しいことはまだ分かっていないのが現状です」しかし、妖精の実態が明らかになりえる出来事なので明石は若干興奮した。

するとエレベータが地下に到着したので三人は降り、艤装が保管されている場所へと移動していく。

 

明石曰くこの地下室は結構頑丈にできており、重要な装備の保管だったり空襲時などでは防空壕にもなるそうだ。今までそのような事態はないが万が一のためだという。

なるほど言われてみれば地下室がアーチ状になっている。広さは上にある工廠と同じためか地下特有の圧迫感はそれほど感じられない。

奥へと進んでいくとなにやら重厚そうな扉が見えた。入り口にあった扉よりも頑丈そうでまるで金庫扉だ。

「この扉の奥に貴方の艤装を保管してあるわ。」そういわれなんだか緊張してきた。

明石はダイヤルを回して解除していき、その後二人は形の異なる鍵を鍵穴に差し込み同時にガチャっと回してく。

更に二人が協力して力いっぱいハンドルを回していくと、ギギギギ…と重そうな音が響き渡っていく。

 

完全に開けられると、見えた。私のー護衛艦ふぶきの艤装が。

オートメラーラの新主砲である127/64LW、VLSや大小の様々なレーダー機器。

灰色の船体に191と描かれた識別番号の白いペイント。

 

やはり聞いた通りバラシてはないものの、所々損傷があった。キスカ島で確認した時はそんなになかったと思ったが記憶があいまいだ。なにせ曳航中に気絶してしまうという恥ずかしい経緯があったからだ。

 

明石達はゼェゼェと大きく肩で息をしながら室内に入った。見た目通りあの扉は相当重かったのだろう。

「すみませんお見苦しい所を…えっとですねこれが貴方の艤装ですが間違いないですか?」夕張が確認を求めたのふぶきは力強く頷いた。

「ならオッケーです。それでですね…見た通り損傷があるんですよね。理由は先ほど言った通り未知の艤装、貴方の妖精さんからの反対があったーの2つです。」

(やっぱりそうか、妖精さんはこれを護ろうとしたんだね)

それもそのはず、私たちがいた現代とは全く異なる世界だ。そんな訳の分からない世界にいきなりここの妖精さんが修理したいとお願いしても警戒や護ろうとするのは当然だろう。私はこの妖精(というか乗組員)に感謝をしたかったが、その肝心の妖精は見当たらないのだ。

聞くところによると大半の妖精は工廠の近くのどこかで借りぐらししているそうだが、詳細は誰も分からないそうだ。

しかし、どういうわけか出撃時の準備などをするときに呼ぶとどこからもなく現れてくるそうだ。

 

ふぶきは借りぐらしと聞いて某ジブリアニメを思い出したのは内緒である。

 

「なるほど…その妖精さんを呼ぶってどうやったらできるんですか?」

「妖精さん専用の内線を使って呼ぶんですよ。その内線も妖精さんが作ったそうですがほんと不思議ですよねぇ」

「本来は私たちが呼ぶけれど、貴女の方から呼びかけたら来るでしょう。そのほうが効果あるでしょうし」

確かに、私が寝込んでいる間にひと悶着があったらしいからここは私から言わないとダメだろう。

壁にかけられたスピーカーマイク(刑事ドラマでよく見るやつ)を使って呼ぶそうだ。

早速ふぶきは使ってみることにした。んんっ、とのどを慣らし一呼吸置いたから放送していく。

「DDG-191、ふぶきの総員に次ぐ。只今より艤装の確認を行うため、至急工廠の地下室へと集まれ。なお明石さんと夕張さんも同席している。繰り返す。至急地下工廠へと集まれ。」

放送を終えマイクを壁に掛けると、何やら視線を感じた。振り返ると二人が感心した眼差しで見ていた。

「あのなにか…?」普通に呼びかけただけなのに不思議に思った。

「あっ、いやなんか放送したとたん人が変わったようになってて…」

「えぇ、まるで別人のようでちょっとびっくりしたわ」

自覚はなかったが二人からはそう見えたのだろう。ほぼ艦橋で艦長達の振る舞いをみていたからなのか知らず間に影響を受けたようだ。

 

すると放送からわずか数分も満たない間に入口からぞろそろと妖精さんが入ってきた。

妖精さんが着ている服から全員海自の乗員だと分かる。

およそ340名の海自妖精さんが地下室に集まりちょっと窮屈になったので一部はふぶきの艤装にきびきびと入っていく。済んだところで妖精さんを説得することにした。

数十分後ー。艤装を修理することに合意したため互いに敬礼して海自妖精さんは次々と艤装に中に入っていく。色々とチェックをしていくのだそうだ。

ふぶきが約束したのは、ここの妖精さんと仲良くし情報はできるだけ伝えることだった。

現代とは異なる世界でいざこざが起きてしまっては、特に艤装のトラブルが起きてしまっては生き残るのは難しくなるためだ。

ふぶきの兵器は超アウトレンジから攻撃しなんでもこなす、まさにイージス(神の盾)艦なのだからだ。

その優位性が失われたら、機動性を得るために犠牲になった紙装甲では戦艦や重巡の砲撃はもってのほか、駆逐艦の砲ですら危うい。

 

「さて、妖精さんを説得できましたのでこれで修理ができるかと」

「ふぶきさん助かりました!私たちが言っても首を縦には振らなかったのでほんとどうしようかと…」

「そうね。あとふぶきちゃんは妖精さんに説得するときも先ほどの放送のように顔つきとかが変わるわね。」ギャップの違いにちょっとドキッとした明石であった。

「けど、大丈夫なんですかね。なにせ技術が違いますからしっかり直るかどうか…」

「そうよね。まぁそこはしっかりと分析しないと分かりませんが、久々に腕がなる仕事が来てワクワクしてます♪」やはり機械マニアというべきか夕張の目はキラキラと輝いていた。

聞くところによると、ふぶきの艤装はこのまま地下室で行うそうだ。ここでも直せることに驚きだが、秘匿性が高い兵装ばかりだから仕方ない。

後は夕張と妖精さんたちに任せて、二人はエレベーターで地上へと戻っていった。

時刻はとうに6時半を過ぎていて外に出るとだいぶ暗くなっている。

「ここまでつき合わせてもらってごめんね。だいぶ疲れたでしょう」明石は心配していた。それもそのはず、失神から目を覚ましたのは数時間前だからだ。

「いえ大丈夫です。それよりも艤装が直りそうということに安心しました」

「そうね…でもまた倒れては大変だから今日はここまでにしましょう。あっまだ貴方のお部屋とお風呂案内してなかったわね。提督に報告してからにしましょう」

「分かりました」潮の香りやフクロウの鳴き声を堪能しながら戻っていき提督に報告した。

 

 

「修理ができそうなのか。それはよかったな」提督は書類仕事を一旦休めてホッと息をついた。

「いえ、彼女の説得なしではできなかったことですよ。それにあの艤装は分からないことだらけなので協力して直していく予定です。」

そうか、と提督は頷き1枚の書類をふぶきに渡した。

それを受け取ると食堂やお風呂場、居酒屋等の場所、空いている時間が書かれたものだった。

暫くの間お世話になるであろうからこういうのは非常にありがたいものだ。

「へぇ居酒屋なんてあるんですね。鳳翔ってことはあの軽空母鳳翔が経営していたり?」

「その通り。鳳翔さんが作る料理は絶品だよ。特に海産物系は最強だね」

それもそのはず、幌筵島はオホーツク海に面し東カムチャッカ海流の通り道だ。寒流で栄養に富みプランクトンも豊富なため、それを目当てに魚、エビ、カニ等も沢山来て様々な食物連鎖が形成されている。

また昆布類も大きく成長するため良好な出汁がとれるのだとか。

食事は士気にも影響するためすごい大事なものだ。海という閉鎖された空間で唯一の楽しみである食事がまずいものだったらたまったものではないので、艦艇には食事を作る専任の隊員がいる。

「なるほど…でもよく獲れますね」ふぶきが疑問に思ったのは、深海棲艦がうろうろしているはずなのにこれほど質が高いものが獲れるのか。

「ここは沿岸漁業がメインだけどたまに沖合、遠洋に出たりする。しかし深海棲艦が現れてから遠洋漁業等は困難になった経緯がある。理由は単純、奴ら(深海棲艦)の縄張りに入った、もしくは近づいただけで問答無用に攻撃されたからだ。特にベーリング海辺りは悲惨だったらしい。過酷な環境に加え深海棲艦の襲来であそこの漁業はできなくなった。しかし今は制海権がほぼ奪還できて漁業は再開できたが万が一のために護衛は出しているのが現状だね」

提督はイスから立ち上がり書斎本棚から一つの分厚い資料を手にとった。

「これは北方海域で艦娘達が現れる前に起きた船舶の行方不明事件などを簡潔にまとめたものだ。これより詳しい資料は図書館に置いてあるが、簡潔にまとめてもこんなになるもんだ」もはや辞書か百科事典かと思うくらい分厚かった。

ふぶきにその資料を手渡すと思わず重っ、と声が出るほどだった。適当なページを開いてみると様々なメディアから切り取ったスクラップ資料のようなものであった。当時なにがあったのかを知るため、これからどうしていくべきか決めるため暫くの間借りることにした。

執務室をあとにし、まずこの資料を持ったまま歩き回るのは結構きついため先に部屋を案内することになった。

途中で何人かの艦娘とすれ違ったが、ほとんどが驚いた様子だったり二度見したり、慌てて敬礼した子もいた。

勿論ふぶきは敬礼で返したが、やはり秘書艦の方と似ているのだろう。明石さんが言うには駆逐艦サイズがいきなり重巡サイズになっていつの間に成長したんだしかも身長を除けば瓜二つだとのこと。

事前に新しい艦娘が発見されたことは伝えているそうだが明日頃には大きな騒ぎとなっている可能性もある。

「質問が殺到しそうだなぁ…」艦娘に囲まれて質問攻めされる未来が容易に想像できて苦笑した。

「まぁ新しい艦娘が来る、特に海外艦が来たときは好奇心などからで質疑する方が多いですね」明石も同情するように苦笑したが

「ですが、こういったコミュニケーションを取ることはすごい大事なことですよ。初めての印象も大事ですが、ここは戦場なんですよ。連携や指示がとれなければ生き残る確率はグッと低くなる。(一部には一人でやっちゃう子もいるけど内緒にしておこう)そういった意味でもコミュニケーションは重要していますし、あともしかしたら、明日帰れなくなる子もいるかもしれない。よくあるじゃないですか喧嘩して家を出たらその後事故にあって脳死状態になってあの時こうすればよかったとか。先ほどあったように漁業にでて深海棲艦に襲われて帰らぬ人となったとか。その資料にも書いてあるけど取り残された被害者家族の無念が切実に訴えられている。それは4年が経った今でも続いている。そういったのをなるべく艦娘達には経験してほしくはないの」

明石の熱がこもった訴えに私はただただ耳を傾けた。そしてその眼は初めて見る、真剣な眼差しそのものだった。

「おっと話が暗くなってごめんね。着いたわここが貴方の部屋よ」いつの間にか目的の部屋に着いたようなのでドアを開けるとやはりというかよく見かける寮の部屋という感じだが、思ったよりも広く感じられる。またきっきりと片付けられているため規律も高いことがうかがえた。

「使っていない部屋があったから急いで片付けたのよ。ちょっと色落ちとかしてるけどごめんね。もうすこししたら妖精さんたちが綺麗に改装する予定…あっその妖精さんで家具などの模様替えもできるけどなにか変えてほしい所はある?」

私は一通り部屋を見まわしたが、やはり目につくのがあの三段ベッドだろう。複数の人ーいや艦娘と暮らすなら効率がいいが今は一人。ここはお布団のほうがいいかな。

「すみませんあの三段ベッドを布団に変えてほしいかな…後できれば布団引く部分に畳が引ければ」ちょっと無理かなと思ったがそれくらいなら造作もないそうだ。

早速明石は妖精さん用の内線で呼ぶとあの時と同じようにどこからか妖精さんが現れてきたが。工廠で見た子とは少し異なるようで、家具を専門に扱う通称ー家具職人とよばれているそうだ。

手際よく模様替えをしていき、あっという間に要望通りのものが出来上がった。

(流石妖精さんッ。私たちにやれないことを平然とやっていける痺れる憧れry)と思ったのは内緒です。

「早い…ありがとうございます」作業を終えた妖精さんにお礼いうとまんざらでもない様子でお帰りになった。

「さて、私はそろそろ工廠に戻るから分からないことがあったらその内線で聞くか執務室に行けばいいですよ。あと、扉には貴方が今どこにいるか分かるマグネットシートと磁石を使った所在表を作っておいたわ」

「明石さんここまで色々としてくれて本当に感謝しています」深いお辞儀でお礼を伝えるとお礼なら提督にもね、と言ったが嬉しそうな顔でふぶきの部屋をあとにし工廠に軽い足取りで向かった。

 

一人になった部屋は静かでとても広くなった気がしたがそれは置いといて今後のことを考えなくてはならない。

ひいてくれたお布団に飛び込むように寝ころぶと悶々と考えてしまう。

仲間のこともとても気になり今すぐでも捜索したいが、肝心の艤装が修理中だから動けないためとても歯がゆい。

考え込んでも仕方ないので、先ほど借りた分厚い資料を読むことにした。寝転がったままでは体に悪いので近くにあった椅子と机を使って読むことにした。

1ページから順番に見ていくと最初の頃は単なる海難事故なのではないかと報道されていた。

しかし漁船だけだはなく貨物船や客船等が何らかの原因で消え、しかも月々とペースが上がっていくグラフもある。

そして運よく生き残った人の証言をまとめると皆口揃えて“見たこともない漆黒のような怪物がいた” “人のようだが人じゃない”と。写真ではなくイラストで描かれていたがどれも未知の物しか見えない。宇宙人だの秘匿兵器だのと的外れなものばかりだが仕方ないだろう。

中には先ほど提督が言った通り、海に投げ出された人を容赦なく機銃などで攻撃されたり喰われたりもして、一部には精神がおかしくなったのもいたそうだ。ここには単なる精神崩壊と描かれていたということはまだ精神医学は発達していないのではないか?と判断した。

実際ASD(急性ストレス障害)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)が軍事で広く研究されるようになったのは80年代のベトナム戦争からだ。アメリカ軍の帰投兵が社会復帰後に深刻な心理的障害を示し医学会で研究されるようになった経緯がある。

そんなことを思いつつじっくりと見ていくと事態を重く見た各国が軍を派遣し護衛もしくは殲滅する動きがある記事を見つけた。

しかし別の記事をよく読むと私は資料をそっと閉じた。

 

「この時代にもいるのか…」 はぁっと小さくため息ついて椅子から立ち上がった。。

 

 

なぜならその記事にはこう書かれていた。

 

 

“話し合いで敵意がないことを示して平和協定結ぶべき”

“軍の派遣反対。生物を殺すなまずは交渉のテーブルに”

“アジアの平和が乱れる。襲撃を名目とした日本の軍備再建が目的では”

“静観か捕獲をするべきではないか”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさに“戦後は続くよどこまでも”」誰もいないのにぼそりと呟き、窓辺に行き遠くの海を見つめ、ため息が窓ガラスを白く曇らせた。

 




やっと投稿できてホッとしました。

最後のふぶきのセリフですがシン・ゴジラでの主人公矢口蘭堂が赤坂秀樹内閣官房長官代理に対し「戦後は続くよどこまでも」と発言したシーンです。
本来のシーンとはかけ離れてますが、それぞれの歴史が違えどやはりここにもいるようです。

今後も所々に色々なオマージュを入れる予定です。タグ増やそうかな


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07話 士気向上の源

今さらですがあけましておめでとうございます。2018年もよろしくなのです。

さて私事ですが無事に内定も頂き、卒業研究も無事に終え先ほど発表会も終わったところです。みなさん応援ありがとうございました!

そして半年ぶりの投稿ですねw 皆さま大変お待たせしました<(_ _)>


しばらくお布団でゴロゴロしていたが、どうもあの記事のことが頭に残りすっきりしないので、私は食堂でご飯を食べてから大浴場に行くことにした。

それらと先ほど頂いた案内書を持って部屋を後にし、ドアの前にあった行動確認票でマグネットを在室中から食堂へと貼る。

 

暫く廊下を歩き食堂に入るがかなりのゆとりがある造りになっている。テーブルイスだけでなく様々なスツールもあった。

入り口には1週間分の朝から夜までのメニュー表があった。たまにバイキング形式にもなるようだが今日は違うようだ。

資料を読むのに没頭していたため大分時間が経ってしまったのもあり食堂は閉散としており、数人しかいなかった。

入り口付近のカウンターで声をかけると厨房から人が出てきた。

「あら…?なんか大きくなりました?でも雰囲気が違う…?」

ダルグレーの瞳と、同じ色の長い髪をポニーテールにし、若干癖の付いた前髪は七三分け気味になっており、おっとりした顔立ちが印象的な方だった。服装は割烹着と薄紅色の和服の袖をタスキで縛り、紺色の袴を履いていた。

「私は護衛艦ふぶきです。先日ここの艦隊に助けてもらった…」

「あぁ、貴女が…すみません彼女ととても似ていて」

「いえいえ謝ることは…まだご飯はありますか?」

「えぇありますよ。あっ紹介が遅れました航空母艦、鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願い致します。」

「ほうしょう…まさかあの…?!」信じられなかった。鳳翔といえば最初から空母として設計、建造され世界で初めて竣工し、空母の基礎を築いた艦である。その方が目の前にいてでしかも料理を作っていたのだからビックリするのは当然だろう。

 

少し鳳翔さんと話していくとここの食堂の当番は補給妖精さんや艦娘たちが交代制でやっているそうだ。今日はたまたま鳳翔さんが当番の日であったのだ。また食材はすべて近くの海や畑で獲れたものであり、漁港や市場で買うのだがかなりサービスしてくれるそうだ。なにも深海棲艦から守ってくれているお礼らしい。

トレーを手に取り鳳翔さんから秋鮭の甘辛ガーリックバター丼とわかめと豆腐のみそ汁、漬物にイカと塩昆布サラダをトレーに載せた。量はかなり多めでしかも作り立てで温かい。

席に座りいただきますをしてからまずはみそ汁を飲む。匂いの時点でもう美味しいと直感で分かる。飲むと昆布の出汁がしっかりと感じられた。

次に丼ものをいただく。秋鮭だけでなく醤油漬けいくらや長いも、長ネギも入っていた。これもまた美味であり、夢中で食べていると

「おぉーいい食べっぷりだねぇ吹雪さん」後ろからいきなり声が聞こえたのでびっくりしつつ振り返るとイケメンがそこにいた。

いや、よくみるとへそ出しに黒のさらしを下着代わりにしている発育のいい美乳をお持ちの方だ。言うなればおっぱいのついたイケメンというべきか…ギャップでしばらくそのイケメンを見つめてしまった。

「あれ…?えっと…顔になにかついてる?」

「あっすみませんなにもついてないです。えっとあなたは?」

「あたしは古鷹型巡洋艦二番艦、加古だよ~、よっろしくぅ」

古鷹型といえば当時の巡洋艦(オマハ等)に対抗するために開発され、古鷹は鳳翔と似たように重巡の姉ともいえる。

「えっと君は…吹雪さん…だよね?でも服が…??」どうやら加古は混乱しているようで頭に?マークが沢山浮かんでいる。

「あー、実はかくかくしかじかなんです」

「なるほどそういうことだったかぁ。相席してもいいかい?」

「えぇ構いませんよ。」同意し加古はふぶきの対面に座り、トレーを置いた。

「加古さんでしたっけ?なぜこんな時間に?」

「んーとね、お昼寝していたらこんな時間になっちゃったんだ」アハハと笑い飛ばした。おおらかな性格なんだろうなぁとふぶきは思い、暫く加古と楽しく食事した。

 

「「ごちそうさまでした」」手を合わせ椅子から立ち上がり、トレーや食器を返却口に入れる。

「ふぅ美味しかった」ふぶきは満足そうにお腹をさする。

「それはよかった。んでふぶきはこれからどうするの?」二人とも一緒に食堂を後にして廊下を歩いていく。

「そうですねー…お風呂に入ろうかなと。加古さんは?」

「んー部屋に戻って古鷹たちとなんかするかな…でもお腹いっぱい食べたから眠いや」ふわぁ…と欠伸しうーんと背伸びする。

(えっ先ほど昼寝してて起きたばかりだったのでは??)心の中でツッコミまくったがあえて口には言わなかった。

途中で二人は別れふぶきはお風呂道具を取りに行くために自室へと向かっていく。

 

 

数十分後ー

鎮守府内には案内板もあったので容易に大浴場前にたどり着くことができた。

入り口には温泉のような暖簾がかかっていて雰囲気がある。暖簾をくぐると脱衣所だが結構広くできている。

取り敢えず適当な籠に部屋から持ってきた荷物を入れ海自風白セーラ服を脱ぎ、形のいい上半身が現れた。

丁寧に畳んでから籠に入れていき、腰の方にスカートをするりと下ろして下着姿になると、気になったのか洗面所にあった鏡で見てみた。

「うーむこれは…下着はシンプルですがそれでも中々の体つきですね…///」ふぶきは初めて自分の裸体をしっかりと確認することができた。パッと見Dカップはあるだろうか。お尻も桃のようにすべすべしているような美しい曲線を描いており、くびれとふくらみがはっきりとした豊満な体つきであった。

「っとそんなことしている場合じゃないや。お風呂入らないと」ハッと我に返りブラのホックを外そうとした矢先、大浴場の扉がガラッと空いて大量の湯気と共に二人の艦娘が体にバスタオルを巻いてお風呂から上がってきた。

「ふぅいいお湯だったにゃしい♪」

「そうね睦月ちゃ…えっ?」如月が驚きの声を上げたので、その視線先を振り向くとまるで重巡か戦艦かのような大人びた体つきで、ブラを外し若くて先の優しい尖りを持った豊かな胸の吹雪ちゃんが二人の目にはいってきた。

「「「………」」」三人とも固まってしまったが、とあるアクシデントで沈黙は破れた。

「ふ、吹雪ちゃんが…はわわっ///」大人びた体つきと湯上り直後のコンボで睦月は鼻血が出てしまった。

「す、すみませんっ!///大丈夫ですか?!」幸い洗面所にティッシュ箱があったので鼻血を出した子に渡そうとするが、ブラという拘束着が無いため小走りするたびに結構揺れてしまっている。

「これは…///」流石に如月もコンボを食らい鼻血が出てしまった。二人ともバスタオルで止血を試みるが風呂上りで体温が上がっている状態ではやすやすと鼻血は止まってくれない。それに吹雪がいきなり大人の体つきになっているという予想外のこともあり、何枚ものティッシュを消費してしまったのは内緒だ。

 

「なるほどそういうことだったのね」

「つまり、全く別のふぶきさんということだったのね…納得。(それにしても体つきから重巡クラスはいっているにゃじい)」鼻に詰められているティッシュのせいでやや鼻呼吸がしずらくなっているのは仕方ない。

ふぶきはというとこれ以上二人の被害拡大を防ぐためにバスタオルを体に巻いているが…より強調されているのは気のせいだろうか。

「まさかお二人が鼻血を出してしまうのは想定外でした。申し訳ありません。」ペコリと頭を下げるが、それによって谷間も見えてしまい、二人はまた鼻血を出してしまうところだったが何とか耐えた。

「いや吹雪さんは悪くないよ。たまたま偶然が重なったからにゃしい」

「睦月ちゃんの言う通りよ。それよりも冷えると悪いから早くお風呂に入った方がいいわよ」

「そ、そうですね。お二人ともすみませんでした。」ふぶきは再度謝り、大浴場の扉を開けてお風呂に入っていった。

「如月ちゃん…」

「えぇ…すごかったわね。見た目は駆逐艦だけど体つきは重巡ね…」

「まるでコ○ンにゃしい…」二人は暫く扉の向こうを見つめていたが、寝間着に着替えていないことを思い出し慌てて着替えたり髪を乾かしていった。

「青葉さんがここにいなくてよかったかも…いたら撮影会が始まっていたかもにゃしい」

「分かるわ…しかし青葉さんだけでなくてもあれは誰もが写真撮ってしまうわ」

「確かに」洗面台でドライヤーを使いながらお互い髪を乾かしてふぶきについて熱く議論していた。

 

カポーン

「はぁー、あとで二人にお詫びの品を送らないと…なにがいいんだろう。ひとまず提督に報告かなぁ…」考えを巡らせながらかけ湯をして、洗い場に移動し風呂用のイスに座って髪や体をササッと洗っていく。洗っていくうちに気づいたのだがなかなかお高いシャンプー、トリートメント、ボディソープのようだ。泡立ちもしっかりしており香りもよい。おそらくだが潮風で髪が痛みバサバサになってしまうからではないかと推測した。

「艦魂とはいえ女の子…身だしなみは大切ですもんね」一通り洗い終え泡をシャワーで流していき、蛇口を締めて浴場へと歩を進め入浴していく。湯加減は少し熱いが入ってしまえば慣れる。多数の艦娘が入ることもあってかかなり広くできているが、今は一人なので余計広く感じられる。それに温泉特有の匂いもある。

そういや提督が温泉が豊富に湧き出ているとも言っていたのを思い出した。

なぜなら環太平洋造山帯に位置しており実際に幌筵島は火山がかなりあるため、温泉が湧きだしやすい環境が揃っている。火山は利点もあるが欠点もあり、時折大噴火し多大な被害を引き起こすこともあるが…頭にタオルを乗せてそんなことを考えながら独り占めの浴場を堪能していった。

ー温泉といえば露天風呂も欠かせないけどここにはないのかな…?浴場の奥に目線を映しドアを探すがどうやらここはないようだ。よく考えればここは日本で一番北にあるし、冬には発達した低気圧がバンバン襲い掛かる。

辺りを見回して気づいたが、もう一つの小浴場も見つけた。頭のタオルが落ちないよう結び、大浴場を上がって確認するとどうやら半分だけジャグジー風呂のようだ。マッサージ効果もあるからこういうのは嬉しい。早速ジャグジー風呂を堪能することにした。

「うわあぁぁ…これはい゛い゛わぁ…」泡と湯の噴流が腰に当たり気持ちいい。そこだけではなく横や足の裏にも当たっておりとてもリラックスすることができた。

「もうここだけで温泉施設として一般開放できるよね…」至れり尽くせりなレベルで軍施設とは全く思えない。士気向上の源のレベルが高いことは分かった。

サウナもあるみたいでもう少し堪能したかったが、かなりの長風呂となってしまいのぼせるのを避けるため浴場から上がり、タオルで体に着いた水滴を拭いてから脱衣所へ向かった。

新しい下着を穿き洗面台でドライヤーを使いながら髪を乾かしていく。旅館でたまに風圧が弱弱しいのがあるがその点では心配なかった。髪が乾き寝間着へと着替えて大浴場を後にした。

 

自室に戻る途中でお風呂に入る何人かの艦娘とすれ違い挨拶したが、やはり数名の方があの方と間違えてしまったようだ。

部屋に戻り冷蔵庫を開けると天然水やお茶が入った500mlペットボトルを見つけたのでありがたくお茶を頂戴した。

手に取った瞬間ひやっとした冷たさが手を覆った。

「うおぉ…キンキンに冷えているっっ…!!」キャップを開け十分に冷えたお茶を飲み、その冷たさが口、喉を伝わってきた。

「お風呂上がりのこれはありがたい…!」布団に座り半分近くお茶を飲んだ。けっこう長風呂したからね仕方ない。

しばらくぼーっとしていたがふぶきはある疑問点が湧いた。

それは出会った艦娘の中にお辞儀や敬礼をしてくるのもいたからだ。皆口揃えて「旗艦である吹雪さんかと思った。」と言っていた。

 

 

 

 

吹雪はDD…駆逐艦の艦種である。普通水雷戦隊や艦隊を率いるのは巡洋艦や戦艦である。しかし彼女らの仕草、提督とのやりとりなどをから判断すると吹雪は皆から慕われているのと同時にどれほどの努力を積んであそこまでたどり着いたのか…

 

 

 

 

 

私は少し畏怖を感じた。

 




読んでいただきありがとうございました。

これからは卒業式や引っ越し等とまた忙しくなるので暫くは亀更新になってしまいます申し訳ありません。温かい目で見守ってくれると嬉しいです。



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08話 鎮守府で迎えた初めての朝

前の投稿からほぼ二ヶ月ぶりですねお久しぶりです。
背後は新入社員研修を終え、一週間前にバリバリと働いております。覚えることが多くて大変ですが頑張ってます(*^ー゚)b クッ゙
あ、あと冬イベお疲れ様でした!私はなんとか全海域クリアしました!中々着任できなかったから資源が結構やばくなったけど、過去最高のドロップでしたので良しとします(笑)

まぁ近況はその辺にして、やっと投稿できたことが嬉しい…ではどぉぞっヽ(*'-^*)。


ふぶきの私室

0600前にふぶきは目が覚めた。外はまだ薄暗く、食堂が開くまでまだ一時間以上もあるからそれまで布団の中でゴロゴロしてようかと思ったが、このままでは永遠の二度寝してしまう可能性があり得るのでここは起きることにした。

眠気が覚めないが布団はしっかりぴっしりと畳んでいく。

畳み終わると、寝間着から海自風の白い制服へと着替えていき、寝癖を直し後ろ髪を一本結びにしてから、脱いだ寝間着は洗濯回収用の籠に入れる。ここはかなりの人数の艦娘がいるので洗濯するのも大変らしい。そのため艦種ごとに洗濯機が分かれている。そしてあの籠に洗濯物を入れ各階にある共同大型洗濯機にいれれば後は妖精さんに任せて、洗濯機は全自動でやってくれる。どうやら乾燥機能もついているようで、洗濯が終わった頃はホッカホカになる

ふぶきは一通り身の回りのことを終えたが、食堂が開くまでまだ時間があるので、今日の予定を考えていく。

(まだ時間あるとはいえそろそろどうしようか決めないとだよね…。とりあえず午前中は図書館で調べものしたいかな…深海悽艦や艦娘についてやここの地理情報とかも詳しく調べたいな。そして、この世界の戦史も)

ぶつぶつと独り言のように疑問点を探し出したが、ふと時計を見ると0700になるところだった。ちょうどよいので洗濯回収用の籠を持って行く。洗濯物を入れて籠は共同洗濯室に置いてから、朝ご飯を食べに食堂へと向かっていった。

 

昨日の夜と同じくまだ食堂はガランとしていたが見回すと一人の艦娘が座って朝食を食べていた。よく見ると…秘書艦の吹雪であった。ちょうどいいタイミングに彼女がいたので一緒に食べながら相談しようかなと思った。

今日の朝食はバイキング形式であった。ご飯やパン、スープ、その他おかずが並んでいた。とりあえず私はパン(ジャムとマーガリンが入った袋付き)とコンソメスープ、ウインナーとスクランブルエッグ、牛乳パックにした。

 

「吹雪さん、お隣いいですか?」

「えぇ、構いませんが…ってふぶきさんでしたか!朝はやいんですね」吹雪はびっくりした様子で彼女を見つめた。

「0600前に目が覚めてね。あの時の慣習があるからなのかなー…。」

「慣習…ですか?」

「うん。海上自衛隊は月によって違うけど大体は0600に起きることになっているの。」

「へぇ~しっかりとした組織なんですね。ここは規律はあるもまぁなんというか自由って感じですね。でもやるときはやる、そんなところです。」

「なるほど…そういえば提督は?」秘書艦ならば提督と一緒に食べているのかと思ったのだが食堂には見当たらない。

「あー司令官は朝弱いからまだ寝てるよ。毎朝起こさなきゃならないけどそれもいいんだよね…司令官の寝顔…ふへへ(*˙﹃ ˙* )」

なんか顔が紅くなってるし涎も出ている気がするが、深く掘り下げるのはよそう…そう思ったふぶきであった。

「あの…涎垂れてますけど」

「えっ…?あっすみません!」近くにあったティッシュで涎をふいていく。

提督のことが好きなんだなー、なんてふぶきは思いつつ朝ご飯も美味しいので箸が進む。

「そういや吹雪さん。少し調べものをしたいのですが図書館ってどの辺にあるんですか?」

「図書館なら東側にある山のわき付近に独立した2棟の建物あって、海に近いほうが図書館だよ。何を調べに?」

「主に深海悽艦についてやその他色々と…どんな艦種がいるのか分からないので。」

「そっか。それなら図書館の担当艦娘がいるからそこに聞けば、どこに資料があるか教えてくれるよ。今日の担当は確か…伊8さんだね」

(伊号…確か潜水艦か。どんな子なのかなぁ)

「もし本を借りるなら貸出カードが各艦娘に発行されるけど、貴方はまだ正式な手続きをしてないから一般枠になっちゃうな…そもそもあまり一般の方は来ないし珍しいケースだけど…まぁ私から話しておくから心配しないで借りてね」

秘書らしく物事を進めていく姿にふぶきはただただ感嘆とするしかなかった。こうやって初めて来た艦娘に対して、不安事を取り除いておくのも秘書艦の仕事なのかもしれない。

 

食堂に入ってから15分くらい経過したがちらほらと艦娘が朝食を取りに入ってきている。

あれが誰なのか吹雪さんが教えてくれるのでとても助かっている。

今の所長門さん、陸奥さん、摩耶さん、大淀さん、天龍さん、龍田さん、第十一駆逐艦の子(初雪を除く)がいるが、皆挨拶をしっかりとして素晴らしいと思った。

やはりというか殆どがお互い面識がなかったので簡単な挨拶をかわしていきつつ、吹雪達の周りに座り朝食をとる。

 

「こう並ぶとそっくり過ぎて顔だけじゃ見分けつかないぜ。そうだ!改二もちょっとここに並んで…うわぁ混乱してきた(笑)」深雪が吹雪改二に彼女らの隣に行くようにして並べみた。その結果、そっくり過ぎる吹雪三姉妹が出来上がった。

「もし同じ服だったら難易度は高くなりますね」

「見分けるとしたら背丈と胸部装甲かしら?」

「確かに。お姉ちゃんも結構あるけど、そちらのふぶきさんも駆逐艦とは思えないほど立派なものを…」と吹雪改二がちらりと二人の胸部装甲を見つめる。

背丈と胸部装甲の見た目はふぶき>吹雪>吹雪改二だが、白雪、叢雲、吹雪改二らですら混乱しそうになるほどそっくりなのだ。

「しかしここまで似ていると呼び名をどうするかだな」長門が懸念した様子で吹雪達を見つめる。

「金剛さんなら確かブッキーと呼んでたわ」陸奥が金剛の言動を思い出していた。

「けどあれは金剛さんだから出来る呼び名だし、あたしらが使うのは恐れ多いというかなんというか…」

「どういうことですか?」彼女が秘書艦で偉い立場なのは理解できるがなぜ摩耶がそこまで謙虚になるのかふぶきはわからなかった。

「あっそのことまだ説明してなかったですね…すみません。吹雪さんはレベル139,吹雪改二はレベル99と艦隊の中でも最高練度を誇っているのですよ」大淀が補足した内容はいまいち理解できなかった。

「えっそれって凄いことなんですか…?」皆ズッコケかけたが、ふぶきは来たばかりだし右も左も分からないからそのような反応になるのも仕方ない。

「そりゃもう。駆逐艦は他の艦種と比べ練度が上がりにくい部類に入ります」

「まぁ、艦娘の資料も置いてあるからついでに調べてもいいかも。0900から図書館は開いてるよ」と吹雪も補足してくれた。

「なるほど…皆さんありがとうございました。そろそろ部屋に戻るのでこれで失礼します」

「また何かあったらいつでも相談してね」ニコリと天使のように微笑む秘書艦にハートを撃ち抜かれそうになりかけたふぶきは、ペコリとお辞儀しトレーを片付け、食堂を後にした。

 

「いやぁ、見るまで半信半疑だったけどこうもそっくりとは…記念に写真撮っておけばよかったー」深雪は悔しそうに呟く。

「そういやあれって駆逐艦でいいのか?おっぱいとかかなり大きかったぞ」

そうだけどなんてことを言うんだ天龍、と心の中で皆ツッコんだけど、秘書艦なら何か知っているはずなのではないかーそんな期待を含めた質問をした。

「うーん…報告書によると彼女はイージス艦とも呼ばれるみたいですよ」

「「イージス艦…?」」吹雪と大淀以外は頭にはてなマークが浮かんでいるように見える。無理もない、ここには存在しない艦種なのだから。

「うーん…あの子は強いのかしら…?」龍田もどうやら気になる様子だった。

大淀は吹雪にアイコンタクトをとった。

ー報告書の件をそのまま伝えますか?

ーここですべて言っても信じないと思うからなぁ…

「そうですね…報告書を見た感じは強いと思いましたが、あくまでもスペック上。演習のデータも取らないと総合的な判断は難しいかなと」

「なるほど…でも吹雪がそこまで言うとは」

「そうか強いのか。そりゃ演習が楽しみだな」

「全くだ。一度手合わせしてみたいものだ」

武闘派である天龍と摩耶と長門の闘志に火が着いたようだ。

(確かにスペック上通りなら強いことは間違いない…しかしなにか違和感がある…。彼女と話していると何かが欠如しているように感じる…)吹雪だけでなく、その違和感に気づいたのはほんの一部だけだった。

 

 

私室に戻ったふぶきは、歯磨きしながら図書館に行く準備をしていく。

(うーん図書館で得た情報をメモしてPCでまとめたいなぁ…確か艦内にPCは沢山あったけど、どうやったら出せるんだろう…まだ時間もあるしあそこに寄るか。)

歯磨きを終え荷物もまとめたふぶきは一旦工廠に行くことにした。

 

すでに時刻は0800近くになるところで、太陽も顔を出しているはずだが空模様はうっすらと曇っていた。

工廠棟は事務棟からやや離れた西側にある為、移動にちょっと時間がかかるのが難点である。

艦娘寮の1階と工廠棟を繋ぐ少し長めの渡り廊下を渡って行くと、体育館にあるような扉を見つけ、開けていくと、また奥に同じような扉がある。どうやら二重扉のようだ。その扉も開けると、片廊下型の管理室廊下に繋がっている。

「へぇー…こうなっていたんだ。っとそれより明石さんと夕張さんを見つけなきゃ」

管理室にたどり着き在室表を見ると、まだ管理室にいるらしい。早速カメラ付きインターホンを鳴らして待つと、インターホンから明石さんの声が聞こえた。

「はーい、どなたですか?あれっふぶきさん?!どうしたんですか?」

「おはようございます。少しお聞きしたいことがありまして…」

「りょかーい。ちょっと待っててね。夕張ー!ちょっとそこらへんきれいにしてー!」インターホン越しに片付けるような音が聞こえたが、自動的に切れた。

数分後、ドアが開けられたが少し息が上がった明石の姿が目の前に現れた。

「ごめんねー待たせて。立ち話もあれだから中に入って」管理室にお邪魔すると、鍵やら図面やら部品やら色んなものがあった。

「いやー汚くてごめんね。それで聞きたいことって?」明石は苦笑しつつ椅子に座る。

ふぶきも椅子に座ったが診察室のような感じになっているから珍しそうにキョロキョロと見回す。

「えぇと、私の艦内にあるものを使いたいのですが可能ですか?」

「あー、艦内にいる妖精たちが使っている何かしらのものを貴方が使いたいのね。うんできるよ」

当然のように言って驚いた。一体どうやって取り出すのだろうか?

「ちょっと難しい話になるけど、艤装を装着すると薄い結界みたいなものが出るのね。その結界内で艦内にいる妖精さんと通信したり色々とできるし、妖精さんが使ってる物も取り出すことも出来る。例えば銃を取り出すとかね。まぁ固定してあるものは難しいけど。イメージ的には式神の召喚みたいなもとの思えばいいかな?」

「また、ある程度の攻撃は結界が吸収してくれるけど、一定のダメージを超えると結界が耐えきれなくなって艤装の損傷や服のダメージが出ることもわかったの。」明石と夕張が説明していく。艦娘というのはなんと摩訶不思議な存在だなぁと感じたふぶきであった。

「つまり、私の艤装を付ければ艦内にある物を取り出せるけど、全部取り出せるわけではないということですか」

「そういうことよ。じゃあ、早速地下の兵装実験室で試してみましょう。」

三人は管理室を後にし、階段で降りてふぶきの艤装を保管室から台車で運んでから地下実験室へとエレベーターで向かう。

 

たどり着いた実験室は保管室の上にあった。地上に工廠棟があり、B1には兵装実験室、B2に先程の保管室になっているそうだ。

「ここの実験室は内側からも外側からも大和型戦艦46cm主砲の砲撃に耐えられるように設計してあるの。万が一の時には防空壕にもなるし、重要な地下室も守れる優れものよ。」

「明石ー、今回はそんな大掛かりのことやらないから小さめの第3実験室でいいかしら」

「そうね、そこにしましょう。」

第3実験室と書かれたプレートの扉前にたどり着き、明石が鍵を開けるとひんやりと冷たい空気が感じられた。

蛍光灯が付けられ、中に入ると様々なデータを取るような機械が並んでいて、その奥には強化ガラスで実験室の様子が見えるようになっていた。奥の実験室は白を基本とした壁になっていて、5×5×5mの立方体の様な感じだった。

「早速やっていきましょうかふぶきさん」

「えぇ、お願いします」 奥の実験室に入り夕張さんの手伝いと共に艤装を付けていく。

ずっしりと艤装の重みが肩や腰に感じられるが、むしろ落ち着く。

「よし、これでOKよ。あっちょっと待ってね…脳波とかのデータも取るけどいいかしら?」

「えぇ、構いませんよ」脳波用皿電極を付けられ、隣の部屋にいる明石も何やら色々と機械をいじっているのがガラス越しでも分かる。

「あとこれつけて。無線ヘッドフォンだけど向こうの指示が聞こえるはずだから。明石さんこっちは終わりましたよ」

「了解ー…あとはここをこうして…よし完了っと」

『ふぶきさん、聞こえますか?』

『えぇ、バッチリ聞こえますよ。』

『なら大丈夫ね。じゃあやり方説明するよ。艦内にあるものを取り出したい物は、その物を頭の中で強くイメージしていけば取り出せるわ。重い物なら両手で受け止めたほうがいいかもね。出来そうかしら?』

『まぁ、やれるだけやってみます明石さん。』

『よし、じゃあやっていきましょう』

夕張も退室し、重厚そうな扉が閉まり隣の部屋へと移る。

「各システムの接続確認よし、イージスシステムや主機の接続は無し…よし」ふぶきは目を閉じ、頭の中で強くイメージしていく。

 

「…うん、ふぶきさんが意識を失ったあの時と比べて脳波は安定していますね明石さん。」

「そうね、この脳波なら平均のと変わらないし大丈夫そうね。おっ、強くなってきましたね。もう少しかな」

 

ふぶきは意識の奥で、ゆっくりと艦内を歩いていた。艦内は勿論護衛艦ふぶきのであったが、艦魂の頃から何回も歩き回っていたからどこにどの部屋が、どんな物があるのかすぐ分かる。しかし、艦内には全くの無人でとても静かであったためか、歩く足音がコツコツと響いていく。懐かしく寄り道しそうになるのを何度も抑え、目的の部屋へとたどり着いた。

資料室と書かれたプレートを確認し、艦内扉を開けていく。すると机にお目当てのパソコンが見つかった。それを持ち、資料室を出たところで明るい光が包みこみ、空を飛ぶような感覚に陥った。

 

「各システムシャットダウン…ふぅ」パチっと目を開けると、パソコンを腕に抱えていた。少し体温が上がっているようで、額から出た汗を拭う。

『ふぶきさんお疲れ様。初めてにしては上出来ね。』と明石が無線で伝える。

『結構長く感じましたね…何か周りがスローモーションのようで』

『とはいっても5分しか経ってないわ。まぁ皆そんな感じになるし、慣れれば数秒に短縮出来た子もいるわ』夕張の説明で5分しか経っていないことにも驚いたが、あれを慣れる艦娘も凄いとふぶきは思った。

得た物を床に置いてから艤装を外し、夕張も実験室に入って脳波用皿電極やら無線ヘッドフォンを外していく。

「で、これが今回持ってきたものかしら?」夕張は床に置かれた物を見つけた。

「えぇ、今回はパソコンだけを」

「ほほぉ~これが…なかなかコンパクトね」

感心した夕張だが見たい衝動を抑え、艤装を保管室に戻し、三人とも管理室に戻っていく。

 

「ふぶきさん、なにか飲みます?」明石は冷蔵庫を開け中を物色する。

「えっと、お茶でお願いします」と答えると明石は2リットルペットボトルを冷蔵庫から取り出し、三人分のコップに注ぎ配っていった。

「しかし、艦娘になったばかりなのにあれが問題なくできるってなかなか凄いことよ。普通時間かかったり、処理に負荷がかかりすぎて途中で止めちゃうけど、才能あるかも」グビッとお茶を飲み夕張はふぶきを褒めた。

「もしかしたら処理能力がとても優れているかもしれないわね。それもしっかりデータ取るべきだったなぁ~…」

「…?あっ明石さん、私そろそろ図書館に向かわないと。」

「もうそんな時間なのね。OK、もし具合悪くなったりとかしたらすぐ呼んでね。」

「ありがとうございます明石さん夕張さん。ではお邪魔しました」パソコンを脇に抱え管理室を後にした。

「…中々面白い子ね」

「推定値でも戦艦レベルの演算処理能力ですよ…こりゃ逸材かも」二人は目を輝せながら、乾杯した。新たな艦娘に出会えたかもしれないことに。

 




いかがでしたか?ちょくちょくと書き溜めているので、投稿は少しの間短めになるかもです。
また、感想などをいただけるとモチベーションがキラキラになるのでどしどしお待ちしております。

ではマタネー(*´∀`)


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09話 情報供与

艦これ五周年(。>ω<ノノ゙オメデトーッ♪

( ゚∀゚)o彡° マツリジャア!!

∩(´∀`∩)ワショーイ(∩´∀`∩)ワショーイ(∩´∀`)∩ワショーイ

ドンドコ₍₍ (ง ˙ω˙)ว ⁾⁾ドコドコ

ズイ (ง˘ω˘)วズイ

はい茶番はここまでにして、新しい話が出来上がりました。タグに時々BGM推奨とつけてありますがやっと活かせるときがキタ──ヽ('∀')ノ──!!

そのBGMとは…「EM20_Jerry_GZM/情報供与」と共にお話をお楽しみくださいどうぞ。



工廠を離れたふぶきは軽い足取りで図書館へと向かうが、なにせ山側にあるため工廠から少し離れているのが難点である。

それでも、各建物の二階に接続してあるオーバーブリッジ式の廊下を渡っていけば、雨だけでなく冬の暴風雪に困ることなく行けるのは嬉しい。

五分ほど歩くと図書館棟が窓から見えた。ぱっと見て三階建てのようだかかなり大きい。一体中はどれほどなのかワクワクしてきた。

 

図書館の二階ゲートをくぐると、広々とした室内なのに都会のような本棚に圧倒された。そこには狭しと本が沢山詰められていた。

「すごっ…一体どれだけあるんだろう。その前に司書にあいさつしなきゃだね」階段で一階に降りるとカウンターの他にも本だけでなく、ビデオなどの映像資料もあった。それだけでなく、地下に繋がる階段もあったからますます期待が膨らんでくる。

「すみませんー!誰かいませんか?」カウンター越しに呼びかけると、奥から返事が聞こえてきた。

「はーいただいま…あら貴方がふぶきさんね。提督から話は聞いてます。私は潜水艦の伊8,皆からははっちゃんと呼ばれてます」

眼鏡とエプロンを着た姿はいかにもだが、金髪碧眼という点で見れば外国人司書にも見える。

「はじめまして私がふぶきです。鵠海将からということは…」

「えぇ、深海悽艦などの資料は2階の机にまとめてありますよ。他にも見たい資料がありましたら声をお掛けくださいね」机とソファーが一緒になった机の上には大小の様々な資料がタワーのように積まれていた。

「おおぉ…ありがとうございますっ」はっちゃんにお辞儀し、本が積まれた机ねと歩を進めソファーに腰をかけた。

改めて近くで見ると辞典だけでなく新聞や戦史、報告書等がこれでもかと積まれていた。

「どこから読もうかな。とりあえず…この“深海悽艦の艦種について”から読み進めようかな。うわっ結構重い!」手に持つとずっしりと重さが感じられるほどだった。ページをめくってみるとイロハ級に分けられていた。どうやら深海悽艦にはいろはにほへと順になっており、後になるほど艦種がグレードアップされるようだ。

(なるほど…駆逐艦、軽巡洋艦、雷巡、重巡洋艦、戦艦、正規空母、軽空母、潜水艦、補給艦と大まかに分かれているんですね。潜水艦は音紋データがほしいですね。そしてこれは…“期間特殊海域における深海悽艦について”か。)

 

【“期間特殊海域とは、定期的なおかつ一定期間において深海悽艦が大規模攻撃を仕掛けることがある。範囲はバラバラであるが、前兆として海が紅く染まる、先の大戦に関わった艦娘の幻覚や幻聴などが見られ、それらを総合的に判断し海域を特定し防衛若しくは撃破する。なお、期間特殊海域に出撃する深海悽艦は通常のとは異なり、エリートやフラッグシップは勿論、新たな深海悽艦の出現が見られることもある。その深海悽艦を以下のページから示す】

(ふむ…こんなにもいるんですね。最古の記録は2013年春からで、初めて鬼、姫級の深海悽艦が確認されたのか。他にも鉄底海峡、AL/MI作戦、トラック泊地作戦、SN作戦、礼号作戦…確かに先の大戦とそっくりだけどこんなに作戦をやっているのか?!四年以上も彼女たちは戦っているのか………)資料を読み進めつつ要点をパソコンでカタカタとまとめていく。

(…そもそも深海悽艦ってなんなんだろうか?)すると、とある資料を見つけた。

 

【数年前から、海上で正体不明のなにかによる襲撃が相次いでいた。文字通りどこからもなく深海から船が現れることから、どこからもなく深海棲艦と呼ばれ始めた。】

 

【その姿はまるで第二次世界大戦の頃の艦船と似ていることから様々な考察が見られた。ある著名人は旧日本海軍の亡霊、ある研究者は過去の連合軍のモチーフ、ある人は何かしらの人体実験でそうなった、もしくは複合体なのではないか。】

 

【しかしどれも決定に欠けていたため私は調査を進めていくが、深海悽艦によるシーレーンの破壊、沿岸部の砲撃や空爆などで研究は難しくなってきていた。必要な研究機器も壊され、食料不足など日本が、いや世界が窮地に陥った。】

 

【いよいよ首都の東京まで深海悽艦が進行されそうになった時、誰もが絶望した。しかし一筋の光の希望が突然訪れた。旧日本海軍の艤装を身につけた五人の少女が瞬く間に深海悽艦を倒していく。】

 

【彼女の姿を見て調べ、私は一つの結論に達した。神が作ったのだと私は言いたい。研究者らしくないが、日本には八百万の神という言葉がある。神道における森羅万象に宿るとされているが船も例外ではない。日本は神棚を船の中に置き祀った歴史がある。また、英語圏では船の名称は女の名称を使っている所もある。】

 

【それらからみると、第二次世界大戦で轟沈した艦、ひっそりと解体された艦、賠償艦として各国に譲与された艦には魂があった。そして長い年月が経ち暮らしは良くなり、人々の記憶から忘れられた頃、ある艦は怨念となり恨むように暴れていったが、あの五つの艦は怨念ではなく人々の前に立ち、守ったのだ。まるで日本の守護霊のようだった。-中略-今日4月23日を艦娘の日、と私は密かに名付けた。

ー深海悽艦と艦娘とはー 2013年5月第一版発行】

 

(はぇー…これってこの前提督が話してくれた内容ですね。研究していた方もいたんだなぁ。っと次はどれにしようかな)ふぶきは時間を忘れ資料を読むのに没頭していた。

 

 

「ふ…さん…ふぶきさん?大丈夫ですか?」お昼になっても中々終わらない事にはっちゃんは様子を見に行ったが、そこには集中して資料を読み漁るふぶきの姿を見たので声をかけたのだ。

「………えっ?あっ、はっちゃんさん?!」

「もうお昼過ぎてますが…」

「なん…だと…」ふぶきは機械仕掛けのようにギギギ…と首を動かし時計をみるともう1300を過ぎていた。

「私どれだけ集中してたんだよ…」ガクッと首を落とした。そしてお腹が空いたのもやっと自覚した。

「お昼ご飯どうしよ…」

「お昼の食堂はもう閉まってますしね…うーん…あっそうだあれがあったはず。ふぶきさん少しこちらへ。」言われるがままにはっちゃんの後についていきカウンターへと向かう。

はっちゃんは奥の方で何かを探しているようだ。

「確かにこの辺に…あった!」取り出したのはカップ麺だった。

「えっなぜそんなところに?!」

「地下にもあるけど、ここにも災害用の食料として保存してあったんです。賞味期限切れが近いものから消費してたんですけど中々減らなくて(笑)なのでこれをふぶきさんに差し上げます」

「はっちゃんさんありがとうございます!」お湯をも借りてふぶきはカップ麺を頂いた。文明の利器とはありがたいものだとしみじみと感じた。

「そういえば地下があるみたいですが、あの他にどのようなものが?」

「そうですね…例えば貴重な資料だったりしますね。空爆対策や紫外線などによる劣化を防ぐために地下に保存してあるんです。まぁ後は防犯対策ということもあります。こんなところまで盗む輩はいないと思いますが、念の為ということです」

(なるほど…工廠の地下と同じ感じですね。)

「ところで、どこまでまとめられましたか?」

「うーん、今回は深海悽艦の艦種を調べたかったんですが、悪い癖が出てついつい他のことまで調べちゃって、結構量が多くなってしまいましたね(笑)」

「すごく分かります!私も本が好きなのでついつい他のも調べちゃうんですよ」

シンパシーを感じた二人は互いに固い握手を交わした。

 

カップ麺を食べ終え、ふぶきは少し図書館の中を回ることにした。

一階は映像資料や今日の新聞が置いてあるようだ。映像資料といっても報道映像だけでなく映画やアニメ等と様々な物が棚に置いてある。

新聞コーナーには鎮守府が発行している幌鎮日報や千島新聞だけでなく、全国紙も置いてある。ただ名前が少し違うのと、離島なので日付は遅れているところがあるが仕方ない。

二階は主に深海悽艦や艦娘、数学や理化学、語学についてが殆どであり、三階は幌筵島の地理や鎮守府の歴史等と階ごとに分けられていた。

(また来た時に読もうっと。とりあえずあれを終わらせないとね)

 

その作業が終わったのは夕日も徐々に傾きはじめた1530になるところだった。

「ふーやっと終わったー…!」うーんと背伸びし肩をコキコキ回してストレッチした。ずっと座りっぱなしだったためか体のあちこちにポキポキと関節が鳴るほどだった。

「ふぶきさんお疲れ様ね。よかったらこれどうぞ」はっちゃんはシュトレンとアイスティーを差し出してくれたので、ふぶきはありがたくいただいた。

「いただきまーす。うん!美味しい!!アイスティーは結構甘いけど、疲れた時に糖分は嬉しいですね」

ふぶきは疲れからかあっという間に完食した。

「ご馳走様でした!」

「いい食べっぷりでしたね。ところでまとめたのを見たいのですがいいでしょうか?」

「機密じゃないし構いませんよ」とパソコンでまとめたものをはっちゃんに見せた。

「なるほど…わかりやすくて見やすいですね。んっ?潜水艦の音紋データが欲しいのですか?」

「うん。潜水艦も攻撃するとき、どの艦なのか音紋を聴いて調べるでしょ?それと同じように私はどの潜水艦なのか音紋で判断するの。」

「なにそれすごい」

「ちなみに魚雷が来たかどうかも分かる」

「…」はっちゃんは絶句した。一体この子は何者なんだろうか。しかし、そんなありえないことができるのだろうか?これは実際にやってみなければ分からない。

(潜水艦魂の名にかけて負けられませんね…!)ここにも対抗心を燃した艦娘が新たに生まれた。

「っと、話変わりますがここにある本の殆どは借りれますよ。良かったら何か借りますか?」

「えっ、ほんとですか?!ちなみにどれ位の期間ですか?」

「えーと確か…映像資料が一週間ですが後は二週間〜三週間位ですね。勿論延長も可能ですがその場合は+三日間までですね。さすがに機密資料等は貸出禁止ですが…。どれを借りますか?」

「そうですね~…読みきれなかったもの借りたいから、合計7冊かな」

「かしこまいりました。ではカウンターで貸出手続きいたしますね。」と手際よく手続きしてくれた。

「貸出期限は10月上旬までですね。先程も言ったように延長も可能ですけど、返却を忘れずにお願いね。」

「ありがとうございました!んーまだ時間あるなぁ…どうしようかな」ちらりと時計をみると1545を回っていた。

「でしたら、映像資料もご覧になりますか?」

「えっ是非とも見たいです!」

「ではこちらへどうぞ」

 

はっちゃんが1階に案内すると、棚にはやはり色々な映像資料もある。どれを見ようかと吟味すると、気になったのを見つけた。

「なんだこれ…??」ふぶきが手に取ったのはアイドルっぽいパッケージで飾ったプロモーションビデオのようなものだ。

「あ、それは那珂さんの〖恋の2-4-11〗ですね」

「……幻聴かな。もう一度いい?」目頭をマッサージし頬をパチッと叩いた。

「艦隊のアイドル那珂さんの〖恋の2-4-11〗です」

「ちょっと何言ってるのか分からないです」サン○ウィッ○マ○風のボケで返したがどうやら本当にアイドルプロモーションビデオらしい。

「まぁ、百聞は一見に如かず。見てましょう。似たようなものとしては〖加賀岬〗とか色々ありますよ」

ふぶきは考えるのをやめた。心頭を無にして見よう、そう思いヘッドフォンをつけて再生した。

が、その内容は衝撃を頭の後ろからガツン!と殴られたかのような錯覚に陥った。

陸自の駐屯地祭でアイドルを呼ぶとオタクのように隊員達ははっちゃけることあるが、それ以上にはっちゃけぶりがすごかった。全身全霊で歌い踊る那珂ちゃんとバックダンサー、ファンら…一体感が何よりも素晴らしかった。深海棲艦と戦争しているとは思えなかった。

 

「すごい…まるでアイドルだ」ふぶきはしばらくの間夢中で視聴した。




いかがでしたか?

いやーそれよりも艦これというコンテンツが五年も続いたってすごいですよね。昔話ですが、私は2013年冬イベ前に幌筵に着任しました。勿論初期艦は吹雪ちゃんですよ。今や140になるところですな。
そういや初めてのイベントがアルペジオイベントだったなぁ…懐かしい。E1すら突破できなかったけど今や最終海域まで突破できるからなぁ。のんびりとプレイしてるけど成長してるんだな(  ̄ω ̄)

あ、タグにシン・ゴジラっぽいともありますが、所々にシン・ゴジラのBGM推奨やセリフっぽいのも出てくるからつけました(笑)

長くなりましたが、五周年とともにこれからも私、吹雪一同よろしくお願いいたします。
みなさんも良き艦これライフを(๑•̀ㅂ•́)و✧


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10話 決意

皆様お待たせしました!ちょっと政治的な話も出てきます( ̄ω ̄;) スマヌ

GWはゆっくり休めた(運転の練習は死ぬかとと思った)艦これはあまりできてないけど。そろそろ五周年任務やらなければ… 

用語説明 
・AP(アルペジオ)モード…霧の艦隊のようにメンタルモデル式になれること。(クラインフィールドっぽいのはでるけどやはり薄め)
利点は観艦式の時に見栄えが良い、災害派遣や人員輸送に役に立つ。欠点は通常の艦娘式よりも燃料を喰ってしまうことや、演算処理能力に負荷がかかることからあまり使うことはない。





工廠

ふぶきが工廠から去った後も、いつもと変わりなく様々な機械音が響き渡る中、明石と夕張は妖精さんたちの協力でふぶきのカタログスペックを夕方遅くにやっと完成させたが、あまりにも異次元過ぎて提督にどう報告すればいいのか悩んでいた。

 

「APモードの全長や排水量とかは分かったけど、この数値はどうみても駆逐艦じゃない。重巡洋艦レベルよ。それに加え武装も電探も機関も私達のものとは全く違う。しかもどれをとっても高スペック。なんだこれ…」明石はお手上げのようでイスに座ったままクルクル回した

「そうよねー…例えばこれとかね」夕張は一見単装砲のような主砲を手に取った。

「単装砲なのに射程は大和型の主砲以上で最大100km以上。発射速度は一分間に最大で35発。さらに対艦だけでなく対空と対地もこなすらしいわ。ありえない…主砲とは?」とまじまじと二人は単装砲を見つめる。角ばった形になってるのは海自妖精さんによると、ステルス性を意識しているらしい。

 

ステルスといえばここでは迷彩がほとんどになる。例えば榛名改二の主砲のダズル迷彩や、多摩改二の北方迷彩が有名だろう。これらは感覚器官や環境による発見を防ぐための手段や距離を誤認させて砲撃の精度低下を引き起こす役割がある。

しかし、ふぶきの世界のステルス性というのはレーダー等のセンサー類からいかに探知され難くするかの軍事技術であり、各国は血眼になって研究しているそうだ。ここ最近は軍艦だけでなく、戦闘機等にもステルス性を意識して設計されている。この時点で技術の進歩は、はるか遠くに進んでいる。

 

「この主砲はイタリア製のオートメラーラ社127/64ライト・ウェイトと呼ばれているそうね。イタリアは砲に関してはいい仕事するけど技術の進歩半端ないなぁ」夕張はOTO152mm副砲を思い出していた。中々使い勝手がよく夕張もよくお世話になった副砲であったがここまで高性能になっていたのは予想外だった。

 

「あと…ミサイルだっけ?確かドイツが無線誘導ミサイルの開発してたけど、ふぶきに搭載されているミサイルはそれらを軽くどころじゃないほど凌駕している…まさに進化版ね。」明石らはミサイルを解体して詳しく調べようとしたがあまりにも複雑としてて解析はできなかった。出来たとしても非常に時間がかかっただろう。

「まさに戦争が変わるわね。」明石はぐびっ、とコップに入ったお茶を飲み干す

「えぇ、間違いなく。でも、このデータだけじゃ彼女のことが全て分かったとは言えない。ここは一つ、演習データを取るしかないわね!私はまだ調べるたいから明石、報告書の提出と演習許可書お願いねっ」

「うん、演習データーを取るのは同意ね。本当かどうか眉唾ものだし」

よっこいしょ、と重い腰を上げ明石は集めたデータ報告書を手に取り、工廠の私室後にし、執務室へと向かって行った。

 

 

執務室

「なんじゃこれ…ガチなの?」

「明石…妖精さんに賄賂とかデーターいじってませんよね?」提督と大淀は工廠組がまとめた報告書を目に通すが、どれも現実離れしている数字ばかりで信じられなかった。

「してませんよ!まぁ疑心暗鬼になる気持ちはわかりますが、ふぶきさんの妖精さんにも協力を得ましたから、それらのスペックはガチでしょうね…」

「…だって排水量が重巡級なのに駆逐艦とか、速力が30knot以上とか、主砲の射程が100キロ以上とか、対空対地対潜なんでも可能とか…意味がわからんぞ」提督はメガネをスチャッと外して目をマッサージした。もうわけがわからないよ状態になりかけていた。

「だから演習データを取る許可を頂きに来たんです。」

「まぁ…確かに新しく入ってきた艦娘には演習データを取るのがここの慣習だしn……あっ」

「「演習…あっ」」

提督と吹雪、大淀はとあることに気づいてしまった。

「しまった…ふぶき急いで呼ばなければな。館内放送で呼ぶか」

提督は至急館内の放送でふぶきを呼び、その10分後、ノック音と共に彼女が息を少し荒げていたが入室した。

「ハァ…ハァ…遅くなり申し訳ありません。失礼します鵠将官。」それでもぴしっと敬礼して入室してくるのは素晴らしかった。

「だ、大丈夫かい?」

「えぇ、大丈夫です」まさか図書館で恋の2-4-11や加賀岬など色々なプロモーション映像を見てたから…なんて口が裂けても言えない。

「そうか…早速だが、君の兵装の大まかなデーターが工廠組の明石と夕張によって判明した。より精密なデーターを得るために基礎演習及び仮想敵演習を行いたいと思ってる…が一つ問題があってね…」

「問題…ですか?」一体なんのことだろうか。ふぶきは不安そうに見つめる

「君はまだどの鎮守府にも所属してない…現時点ではここで“保護状態”になっているんだ。正式にここの鎮守府に所属になりました、という手続きを得なければ、演習や出撃等はできない仕組みになっているんだ。」

「えっ、じゃあこのままじゃなにもできないということですか?」

「うん…これ今更伝える事になって非常に申し訳ないが、君は今後どうしていきたいのか、今の気持ちを聞かせてくれないか?」

 

ふぶきは長考した。まだ時間あるし所属とかは今日の夜ゆっくり決めよう、と思っていたが、まさかいきなり今、人生を左右する局面が来るとは予想外であった。なのに、頭の中でスラスラと気持ちがまとまっていく。

 

「そうですね…私は先程図書館で様々な資料を拝見しました。その中で心が動かされたのは2つありました。」

2つとは、一体どのようなことなのか。三人は固唾をのんでふぶきの言葉に傾ける

「まず、本来ならば我が自衛隊は憲法9条及び専守防衛の立場から、軍や戦争を放棄しつつも最低限の自衛能力を持たせ、攻撃されてからやっと反撃できる…という形でした。しかし、これは私達がいた世界での日本の決まりごとでした。

しかし、この世界では四年以上も深海棲艦と戦争をしており、シーレーンの破壊等と組織的な行動で国民の安全や生活を脅かしています。この時点で、深海棲艦には指揮能力があり、“国または国に準ずる組織”として“外部からの武力攻撃”の事態に陥っていると判断しました。

この終わりなき戦争に私の力…神の盾で終止符を打ちたいと思いました。そしてもう一つ…」

 

「那珂さんのアイドルプロモーション、観艦式やイベントなどの映像資料も拝見しましたが、艦娘だけでなく市民たちも心からの笑顔で楽しんでいる…そのような笑顔を絶やせずに、皆を護る盾として貢献できたらな…」と、一通り想いを伝えた。

(なるほど…ちょっと引っかかるところあったけどそれは後にして…三人はどう?)と提督がアイコンタクトとると同意の意味で頷いた。

「うむ、素晴らしい思いを伝えてくれてありがとう。ではふぶきさん、もう一歩前に来てくれないかい?」言われるがままにふぶきは一歩前にでて改めて提督と向かい合う。

 

「えー…日本国海上自衛隊、第3護衛隊舞鶴基地所属、ふぶき型護衛艦一番艦のふぶき、本日をもって第一艦隊天羽々斬、以下我が艦隊に所属することをここに決定いたします!平成28年9月24日、幌筵泊地 鵠大将」

「…ハイッ!」ふぶきは敬礼を行った後前進し、正式な手続き書類を受けとる際、右手で受け左手を添えて一覧し、終わって左手に移すとともに後退して元の位置に復し、再び敬礼を行った。その一連の動作はとてもきびきびとしていつつも優雅であった。

「お互いに頑張っていこう」

「こちらこそご指導ご鞭撻よろしくお願いいたします。」提督とふぶきはガシッと固い握手をかわした。

 

「いや~素晴らしい意気込みでしたねぇ。」ガチャリと執務室のドアが開けられ、ぱちぱちと後ろから声と拍手が聞こえてきた。

(えっ?!一体いつから?!)振り向くとカメラとボイスレコーダーを持っている艦娘がいた。

「まーた貴方ですか、青葉さん…」吹雪が呆れた顔をみせる。

「だってぇ、あの放送を聞いてこれはなにかしら起こるんだろうなぁと思って、こっそりふぶきさんの後をつけてたら、ビンゴでした(*^ー゚)b」

「忍者か君は」提督がすかさずツッコミ入れる。

「いやーそれほどでも」と青葉の顔がにやける。

「褒めてないからな?」とまるでコントのような光景が繰り広がっていた。

「あの…そちらの方は青葉さんですか?」

「あぁ、紹介がまだだったね。彼女は青葉型重巡洋艦一番艦、青葉だ。図書館で見たと思うが幌鎮日報を書いたのもほぼ彼女だよ」

「ども、恐縮です、青葉ですぅ!一言お願いします!」

(えっ一言?!一体何を言えばいいんだろう)ちょっと考え込んだがそれでもなんとか単語を頭の中でまとめていく。

「えーっと…ここの鎮守府に助けてもらった以上、何かしら恩返しが出来たらなと思うので頑張っていきたいです」

「なるほどなるほど、いい答えですねぇ」スラスラとメモ帳で書いていく姿はまるで記者みたいだが、先程提督がおっしゃったように新聞を書いた方だ。となると、当然痛いところも突かれる。

「一つ質問いいですか?先程の決意は素晴らしいものでしたが、ちょっと引っかかるところがありましてねぇ…憲法9条と専守防衛について詳しく教えてもらいたいのですが…なんか矛盾してません?」

「それ、俺も聴いてうん?と思ったわ」

「私もです。」

「同じく」提督も吹雪も大淀も疑問を感じたのうだった

(デスヨネー)やっぱりそうくるよねと思いつつ、一つ一つ丁寧に吹雪は説明していく

 

10分後

「なるほど…あの大戦の反省から作られ、それが70年以上全く変わることなく続いているのか…理想としてはとても素晴らしいが…」提督はうーんと難しい顔をした。

「これ、相手国には全く関係ないですね…世界の法律ではなく日本でしか適用されない法律ですよ」吹雪はそう指摘すると、ほんとその通りです、と彼女は首を少し頷いた。

「細かくどこまでやるのかやらないのか法律的で決めてあって、事があるたびにはその法律を照らしあわして会議し新しい法律を作る…非効率的ですね」と大淀も指摘する

(えぇ、確かに効率は悪いけど、それが文書主義なんですよ。民主主義の根幹です)と心の中で吹雪はそっと呟く。

「まぁうちも似たような文書主義だが、ここまで徹底されてるとはな…」ふぶきの心の反論にフォローしたが、流石に提督も脱帽の様子だ。

「この矛盾どうかにしようとしてるらしいけど、反対勢力もいるらしいってやべぇな闇深っ。変えたほうがいいと思うけどなー」

「まぁ敵からしてみれば、こんな甘々な天国のような法律そのままにしてほしいでしょうねぇ」明石と青葉も次々と痛いところを突かれ、心中は吐血しまくってるふぶきであった。

 

「あと、自衛隊の不要論とか話し合いすれば何事も解決するって、何かあの頃と似てるね」提督はなにかを思い出すように背もたれに寄り掛かった。

「それって、あの新聞記事ですか?」ふぶきも、この前執務室で提督から頂いた資料の内容も思い出した。あれには艦娘反対運動が各地でデモ抗議しているとか、確かそんな内容が書かれていた。

「今現在はそのような活動は下火になっているが、2013年辺りは国会とか各鎮守府で反対派が囲んでいたり、デモやシュプレヒコールしてたこともあったね。マスコミも結構酷かったなぁ…」

(ほんとそっくり…)ふぶきもいた世界で派遣反対や安保デモ、国会前でのシュプレヒコール、、倒閣運動のニュースを連日やっていたのを思い出した。あまりいい思い出ではないが。

(一番恐れているのは、ふぶきというイージス艦の存在が公になったときと、情報漏れだな。ある者にとっては女神となり、ある者にとっては憎たらしい存在にもなり得る…。幸いここは幌筵島という地理の理を活かせば、すぐ本土には情報入ってこないし、デモ隊もこない。杞憂ならいいが念の為対策を見直しておくか…)

「司令官?」となにやら難しい顔をしていたので思わず吹雪は声をかけてしまった。

「えっ?あ、あぁ大丈夫だ。さて、難しい話はここまでにして、明日の演習の話するか。大淀頼む」と大淀にバトンタッチした。

 

「はい。まず基礎演習とは文字通り艦娘としての基礎がどの位あるかを調べる演習です。主に機動性、砲雷撃、対空等を調べます。例えば、砲撃演習では各距離に置かれた的を停止時と走行時にはどの位の命中率なのか色々と調べます。そして、それらのデーターと共に艦娘教導隊と、より実践に近い演習するのが仮想敵演習ですね。ここで全て言っても混乱するので詳しいことは後で、演習オリエンテーションで説明します。」

「艦娘教導隊…?それって空自のような飛行教導隊のことですか?」

「ほぅ、そちらの世界も教導隊があるのかい?」

「えぇ、例えば先程言ったように航空自衛隊には飛行教導隊ー通称アグレッサー部隊ーがいます。アグレッサー部隊は戦闘機パイロットの技量向上を目的として、戦闘訓練において敵役を務める専門の部隊のことですね。全国の戦闘機パイロットの中でも突出した技量を持つ人員が所属していて、各基地の部隊に対して指導巡回を行ってたりします。」

「なるほど…やはりそちらの世界にも似たような部隊があるのか。」

「確か飛行教導隊なら、鳳翔さんらの飛行部隊がそれらに近いことをしてましたね」提督と大淀は平行世界であることを確信しつつあった。

そして、ふぶきは提督からペンを渡されると、同意欄に自分の名前を書いた。これで演習の手続きは終わりだ。

「よし、これで書類上の手続きは終わりだ。えーと演習オリエンテーションの時間は…2000の予定だ。場所はこの棟の2階、講義室1で行われる。担当は大淀、鹿島、青葉か。大体一時間くらいで終わるかな…ここまで質問はあるかい?」

「いえ、特にありません。」

「ならよし。明日もよい一日を」

「ありがとうございました。では、失礼します。」とペコリとお辞儀し、ふぶきは執務室を後にした。

 

 

「さてと…改めてこの報告書を見ても信じられないな…大淀」提督は背もたれにギシッ、とかけため息をついた。

「同意します。あくまでも参考値とはいえこの数値は私達の艤装では考えられないことですよ…もし、彼女の兵装が最大限に発揮できたら間違いなく最強でしょうね。」

「だよなぁ…これから彼女に関しての報告書は極秘資料として扱おう。」

万が一これらの情報が深海側に漏れ、量産したらと思うと間違いなくこちら側は負ける。そう危惧したからだ。

「そうならないためにも、彼女の兵装や艦船がこちらで量産できればいいですけど、難しいですが…いい研究になりそうだわ」明石はメラメラと職人魂を燃やした。

 

例えば戦艦は殴り合いで被弾前提の設計をしているから装甲は強固なものになっている。しかし報告書には

“近距離の砲撃戦はあまり想定しておらず、超遠距離からの攻撃ー超アウトレンジーに特化している。また被弾を避けるため機動力や、主砲、ミサイル等を使用した砲弾類の撃墜に力を入れている。万が一被弾した場合は練度の高い妖精によるダメコンで復旧可能だが、その装甲は駆逐艦の主砲ですら危うい”

 

例えるなら、駆逐艦の初期装備である12cm単装砲で戦艦の砲弾や航空機を撃ち落とすようなものだ。技術が異なるのは承知だが、そんなことができるとは到底思えなかった。

 

「砲弾の回避なら余裕ですが…?」

「まぁ…うん。吹雪は強いからな。」ワシャワシャと吹雪の頭を撫でると簡単にキラキラ状態になり、提督にぎゅーど抱きしめていく。どうやら甘えたいモードに入ったようだ。

(イージス…確かギリシャ神話で神の盾の意味してるそうですね。)吹雪は甘えつつも彼女のことを警戒していた。

「見せてもらおうか。神の盾の実力とやらを」

そして明日の演習で彼らたちは、目の辺りにした。

 

神の盾は、伊達ではなかったと。




次話から演習編に突入します!
楽しみにしていてな|・ω・)ではまた!


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演習編
11話 基礎演習開始です


.     //
    / /
    /   /  パカ
    / ∩ハ,,ハ
   / |( ゚ω゚)_ よぉ!待たせたな
  // |   ヽ/
  " ̄ ̄ ̄"∪


やっと演習編に突入だッ!

用語説明
・コンタクトディスプレイ…色々な情報がコンタクトにディスプレイとして映し出す。従来はメガネ型だったらしいが被弾時にレンズ破損等の被害が出ることが想定されたため、研究しコンタクト型になった。戦闘時のみに装着する。なぜなら日常で使うには不必要な情報が多すぎるため。

骨伝道導ヘッドセット…従来のヘッドセットとは違い耳を塞ぐ必要がなくなったため、外部からの音が聞き取りやすくなった利点がある。ただそれが欠点でもあり無線の声などが外部からの音に混ざって聞き取り難いこともある。まぁ一長一短だよね。

次回あたりに艦娘の紹介もここにしようかな( ˘꒳˘)。o○



昨日の夜にオリエンテーションを終え、いよいよ演習の日がやってきた。今日の幌筵島は珍しく晴れ晴れとしていた。

プログラムとしては1000~1100に基礎演習を行い、休憩をとって1300~から仮想敵演習となっている。

基礎演習の内容としては砲撃で的を撃ち抜いたり、一定の間隔で立てられているポールとポールの間を蛇行したり、模擬機を使用しての対空戦闘等が、鎮守府から東に1kmも離れていない演習海域で行われる。

工廠では、艤装最終チェックが行われており、主砲の動きやシステムの起動等をふぶきと明石、夕張が細かくチェックしていく。

 

「大淀から聞いたよ。まさか6人相手になるなんてね(笑)あんなの初めてだってさ」

「ちょっと勢いのってしまいました」テヘッと申し訳無さそうに舌を出したふぶきであったが淡々とチェックを進めていく。

「…うん。艤装は問題ありませんね」チェックを終えたふぶきは満足そうに頷く。艤装を身につけたふぶきの姿はというと、左腕にはヘリコプターの飛行甲板と格納庫が盾のように装着されている。腰にはステルスマストや煙突、17式SSM 4連装発射筒、後方VLS32セルとSeaRAMがある。さらに夕張のように、背部艤装ユニットを起点にジョイントで右のユニットを接続して、前から主砲と前方VLS64セル、ciws、艦橋が載っている。主砲はコントロールステイックと発射トリガーがセットになっているもので、より精密な射撃が可能になっている。また、両足には68式三連装短魚雷発射管が各1基ずつ装着されている。 因みに、イージス艦の目でもあるSPY-1レーダーは龍田のように、四つのSPY-1レーダーが頭を囲むようにふよんふよんと浮いてる。どうやらこのレーダーは艤装展開時にしか出ないようだ。

 

そしてコンタクトディスプレイを戦闘時に着けることによって、電探→CICから情報が届けられ、どの距離、方角にどんな敵がいるのか、航空機は何機いるのか、ミサイルはどこから来るのか等の情報がコンタクトディスプレイに表示される。また、骨伝導ヘッドセットはコンタクトと連動しており、妖精や艦娘と通信したり情報共有ができる。

 

「改めて見るとかっこいいねぇ。まるで近未来みたい。」夕張はうっとりをふぶきの艤装を見つめている。

「平行世界とはいえ軍事技術は向こうのほうがはるか上だしねぇ。っとよし、これでいつでも行けるわ。演習時間までまだあるから、少し練習してもいいんじゃない?」まだ演習まで30分以上もあるので明石はそう提案した。

「えっいいんですか?!ありがとうございます♪っと、その前にあの準備はどうなりましたか?」

「えぇ、バッチリよ」ぐっと親指を立ててドヤ顔で明石は出来上がった物を見せた。

「ジャミング対策した記録用のカメラ類がこれね。あとは演習を上空から撮影する二式艦上偵察機にもジャミング対策したわ。といってもバッチリではないけど、しないよりはマシ程度だけどね」

実は昨日のオリエンテーションで、記録用としてカメラを使うと言われたのでジャミングで使えなくなる可能性が高かった。そのため青葉と共に工廠に行き、事情を話して各機械にジャミング対策をしてもらったのだ。

「本当に何から何までありがとうございます…では早速行ってきます!」

「頑張って!修理は任せてね(*^ー゚)b クッ゙」

「ご武運をふぶきちゃん!」夕張と明石はまだ工廠でやることがあるので午前の演習は見れないことが悔しく急ピッチで作業を進めていった。

ふぶきは工廠組と別れたあと、出撃用の簡易橋から行くことにした。

事前に工廠で機関の試運転を実施したが問題はなく、そのまま海に浮かび骨伝導ヘッドセットで妖精らに「主機起動」と命令すると、妖精さんの復昌が聞こえてきた。その直後LM2500ガスダービンエンジンが本格的に起動され辺りにエンジンの爆音が響き渡る。

COGLAG方式(ガスタービンエレクトリック・ガスタービン複合推進方式 ) なので、低速時では電気推進にしてゆっくりと陸地を離れていく。暫く進み、演習場にはすでにオリエンテーションの講師であった大淀と鹿島、香取が準備をしていた。早速3人に挨拶をするも、昨日のことがあったのですこしぎこちなくなってしまった。

しかし、気持ちを入れ替えふぶきは少し移動の練習がしたいということで練習を始めていく。

 

指導艦曰く要領としてはスキーやスケートに似ており、前に進め!と体重移動すれば前に進むし、進みたい方向に体を傾けるとその方向に進む感じだ。が、体重移動だけでなく重心移動やエッジング等も適切にやらないと思ったとおりに曲がらないこともある。これは慣れが必要だとふぶきは実感し、時間まで練習を行った。

 

そして青葉(撮影係)も合流したところで移動練習を終え、いよいよ基礎演習へとはいっていく。

(ううっ…緊張してきた。けど精一杯頑張るしかないっ)演習は何回もやってきたが、艦娘になってからは当然初めてなのでふぶきの心臓はバクバクしており、呼落ち着かせるように大きく呼吸も繰り返している。

「まず最初は停止状態から一気に最大戦速にし、香取さんがあそこに立っているところにあるポールをできるだけ膨らまないようにUターンして、10本あるトレーニングポールの間をジグザグ走行してください。」鹿島が説明する視線の先に10本のトレーニングポールがある。まるでサッカーのトレーニングであるが回避においてジグザグ走行は大切なものである。因みにトレーニングポールの間隔は、やや広めの重巡クラスであった。

「では、始めましょう!」と大淀が開始の号令をかける。

「よし!機関科!軸ブレーキ脱、主機最大出力!…艦橋、最大戦速!」流れるような動作で妖精さんに命令を出す。蒸気エンジンとは異なる甲高いエンジン音が演習場に響き渡り、スクリューが勢い良く回転し後方に泡を作りながらわずか数十秒程度で最大戦速となる30knotに達した。

「やはり蒸気タービンとは違う音ですね」

「資料によればガスタービンと呼ばれているそうですが…」

「「速っ?!」」

鹿島も大淀も驚いたが、撮影のために並行している青葉が最も驚いた。

「え、えっちょっ?!」すぐさま機関を最大にしようとするが、蒸気タービンなのでそれに達するまで少し時間がかかる。あれよあれよというまに離されていったため、並行するのは諦めて中間地でカメラをズームしていくやり方にした。

 

『コンナキカイハメッタニナイゾー!』

『ヒャッハー!タービンブンマワセー!!』

『イイオトデショウ。ヨユウノオトダ、バリキガチガイマスヨ 。』ヘッドセットから機関室の妖精さんがウキウキとしている会話が聞こえてきた。確かに機関一杯にするのは試運転のときか、よほどの緊急事態のみだったな…そんなことを考えていたうちにあっという間にUターンのポールが近づいてきた。

ポールは今進んでいるところの左側にあるので、少し右に進路を進めるためにクッ、と膝を曲げ重心移動すると思ったとおりに右に行った。

そして頃合いになり、体重を海面から抜く屈伸抜重を行い、エッジを切り替えググっと左に旋回していく。旋回のため水しぶきが大きく右に出現したかと思うと、ターンの後半には再び海面に体重を預けることで、駆逐艦ように見事なUターンを出したあとは、スピードスケートの要領で両腕と足をグッ!と連動したことで、船ではできない、艦娘ならではの加速を生み出した。

(20分程度教えただけなのに、すぐさまできるとは…それに満載排水量が10070トンという重巡級なのに機動性が駆逐艦並に高いって一体…)Uターンのポール近くにいた香取は呆然とふぶきの後ろ姿を眺めてしまったほど、ほぼ完璧なUターンであった。

「うっは!あのスピードできれいにUターンしましたか!?まるで駆逐艦のようです!」青葉は興奮を抑えきれず夢中でカメラに映像を収めつつ実況してしまった。

(やべっ自重しないと。さて、今度はトレーニングポールをどういくのか…おっ少し減速して…うおっ、おぉ…流れるようにスイスイと間を縫っていくような動きです!重巡ってなんだっけ?)

ふぶきは10本のトレーニングポールを抜けゆっくりとエンジンとプロペラの回転数を落としていく。可変プロペラピッチで逆回転にして後方に行くことも可能だが、全力でエンジンを回したあとなので止めておいた。

「っとと…ふいー上手くできてよかったぁ」額から流れる汗を腕で拭き取りスタート場所へと戻る。

「お、お疲れ様ね。」

「初めてなのになぜあんなきれいにUターンできるんでしょうか…流石としか」あまりにも異次元な走りを見せられ若干引き気味の鹿島と香取はふぶきをねぎらう。

「さ、さて、どんどん行きましょうか」大淀も若干だが声が震えてしまった。一体この基礎演習はどうなってしまうんだろう、と。

 

「次は砲撃演習です。まずは停まった状態から各距離の500mまで置かれた5つ様々な大きさの的を当ててください。その後は移動しながら砲撃し、ポールの間を避けたあとはその前進んでもいいし、止まってもいいので、再度1kmごとに設置してある4つの的を砲撃してください。因みに最大で4.5km先にありますが判定は水上観測機がその付近にいます」

「はい!(とは言ったものの、自動モードにするとほぼ百発百中だからなぁ…仮想敵演習まで隠しておきたいし、ここからは半自動モードと手動モードに使い分けようかな)」

ふぶきは最初は手動モードに設定した。

(まずは距離100mか…)

ふぶきは初めに、全員に無線で注意を呼びかけてから安全な射線方向に対し、1発だけ砲弾を発射する。整合射撃だ。これにより、砲撃に必要な[風、温度、湿度等]がコンタクトディスプレイに表示される。それらの情報をもとにコントロールステイックで主砲を目標に向けて調整していく。弾は演習弾に設定したあとは発射トリガーを引けばいいだけだ。

しかし、全部真ん中付近に命中すると変態すぎてドン引きされ、仮想敵演習で警戒されることもあり得たので、わざと外す作戦をとった。

「主砲揚弾、演習弾よし!教練対水上戦闘~、CIC指示の目標!主砲、撃ちー方始めッ!発砲ッッ!!」

カチッとトリガーを押し、砲身の下から空薬莢がカラン、と排出されると発砲音と煙と共に砲弾が勢い良く的に向かう。初弾はわずか左上に外れる。

(弾が勿体無いけどこの調子で)発射速度も一分間で16発くらいにわざと抑えながら的に砲撃を繰り返す。500mまでの命中率は85%近くとなった。

次は移動しながら1kmごとに置かれた的を砲撃するため、基本戦闘戦速である第三戦速で再度砲撃を再開する。流石に移動しながらでは命中率は低下するものの半分を切ることはなかった。

最後に一つ残っていた4.5km先にある的を見据え、ポールの間を縫いながら砲撃してみたが流石に外れてしまったので、抜けたあとは可変プロペラピッチを逆回転にしガクッと前に転びそうになるもふんばって、急停止してから数発砲撃した。しかし手動モードでは的は水平線ギリギリにあるので電探+目視のみで当てるのは難しく、至近弾ばかりだった。

ここからは半自動モードに切り替え、主砲が自動的に調整されていく。CICからの情報がより詳しく出て来てそのまま発射トリガーを引き、

最後の一発は吸い込まれるように見事命中した。観測機の妖精が無線で的に命中したことを各自に伝えてきた。

「教練対水上戦闘用具収めっ…ふぅ~」とても集中していたので終わると共に、どっと疲労が押し寄せてくるほどだった。

「ふぶきさん砲撃演習お疲れ様。さすがの命中率ね」香取は飲み物を手渡するとふぶきはお礼を言いごくごくと飲んでいった。

「75%…この命中率は歴代二位ですよ」大淀がやや呆然しながらも過去のデーターと比べた。

「えっ一位はどなたが?」

「秘書艦の吹雪さんですよ。命中率は90%以上でしたね」

ふぶきは飲んでいたのを危うく吹き出すところだった。駆逐艦で尚且つコンピュータもまだ発展していないのにこの数字は驚異であった。

「しかし工廠からの報告書には毎分35発と書かれていますが…のは約16発/分でしたね。これは10cm連装高角砲とほぼ同じ速度ですね」

鹿島がそう指摘してきた。やはり聞かれると思ったのか怪しまれないようにふぶきは答えていく。

「あぁ、毎分35発というのはよほどの事態のときしか使いません。使えるには使えますが砲身の寿命が短くなるため、ほとんどは毎分16発程度に抑えているんです」

「なるほど…」大淀も青葉もメモしていく。なぜ青葉もちゃっかり盗み聞きしているのか気になったけど…。

 

小休憩を挟んで次は対空演習であったが、これも驚異の回避力で艦載機からの攻撃を避けていくわ主砲で撃ち落とすわ色々とやって指導艦らを唖然とさせた。

それでもミサイルを使わず二、三発当てた程度にしたのも仮想敵演習まで実力を隠していたほうがよいと判断したからだ。

 

なぜそこまで隠すのか。

 

実は演習オリエンテーションで仮想敵演習の話になったときに遡る。

「…というわけで、事前の基礎演習の情報を元に、こちらと提督が艦娘教導隊から選抜し、仮想敵演習を行うのが大まかな流れです」

「因みに一人で仮想敵演習を行うのは相手が単艦のみで、一対複数はあまりないです。ましてや一対六は…まぁよほど腕に自信があればやってもいいですがやる人はまずいないので、良くても2ないし3人が相手になるかもしれませんね」

 

1vs6はやる人はいないー鹿島と大淀の説明を聞いたふぶきは迷いなく答えた。

「じゃあ6人相手でお願いしたいです」

講義室が一瞬シーンと静かになった。微妙な空気が流れる中、口を開いたのは意外にも青葉であった。

「あ、あのふぶきさん…空耳ならいいんですが冗談ですよね?」青葉はアハハと乾いた笑いしか出ない。なぜなら指導艦の方はお前は何を言ってるんだ状態のオーラが漂っていたためとても怖くて顔を向けない。

頼むジョークであってくれ…そんな青葉の願いをふぶきは悪そびれることなく言う。

「冗談ではありませんよ青葉さん。大淀さんは腕っぷしに自信があればと仰ってました。私は自信がある…いや絶対に勝てるから」ふぶきははっきりと言ってしまった。

「なんと!六人相手に勝てると…ふふっ、面白いこといいますね~大淀さん」

「えぇ、こんなの言われたの初めてです。気にいりました」鹿島も大淀は表面ではニコニコしているが、目は笑っておらず声には怒りがこもったような言い方だった。

「本気でかかってきてもいいんですよ?そうしなければ、お互いに本当の実力がわからないじゃないですか」ふぶきが更に煽ったために青葉は必死に取り消そうとした。

「ちょっとふぶきさん!流石にその発言はヤバいですよ?!まだ戻れますから先程の発言取り消しましょうよ!」

「…取り消す?イージス艦に二言はありません」

オロオロとする青葉をよそにふぶきは貴方たちはどうするの?と目で語りかけてきた。

「ふーむ…ふぶきさんがそこまでいうならば、よろしい。仮想敵演習は1vs6としますが…本当にいいのですか?」

「もちろん」大淀とふぶきの間でバチバチと火花が光合うような殺気が講義室内に満ちていく。

(やばたにえん…)冷汗をかいた青葉はそう呟くしかなかった。

 

 

というような経緯があったのだが、実はもう一つあった。それは基礎演習中に誰かに見張られている気配がしたのだ。しかし辺りを見回しても指導艦とふぶきしかいなかった。

(一体なんだったんでしょうあの気配は…まぁ次は仮想敵演習ですね。どんな相手が来てもいいようには備えなければ)基礎演習を終えいったん陸に戻りふぶきは休憩をとる。仮想敵演習は予定通りに1300(ヒトサンマルマル)に行われることになった。

 

 

執務室

「提督、こちらがふぶきの基礎演習の成績です」

「ありがとう大淀…ふーむ…」提督は椅子にぎしっとおっかかりながら資料をペラペラとめくる。

「やはり工廠組が解析したスペック通りに近い…か。しかし本当に本気の6人でいいのか?」いくら良い成績だったとはいえ心配になるのも当然だった。

「えぇ、昨日話した通り構いません。本人も同意しましたから」

「そっかぁ…なら仕方ないか。入れ」提督が呼ぶとガチャリと執務室のドアが開けられ、ぞろぞろと6人の艦娘が並んだ。

「…これは!」大淀はその面子に驚きを隠せなかった。

「どうかね?これならバランスもよく、なおかつ私が厳選した精鋭無比の艦隊だ。」

「なるほど。提督も結構意地悪ですね」

「売られた喧嘩はきっちり買わないとね。なぁ?吹雪。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もちろんです司令官。さて皆さん、徹底的に教育致しましょうか」ニコリと微笑むも、いくつもの激戦をくぐり抜けた戦場の顔つきと獲物を狩る目をしていた。

 

(いつもはほんわかにこにこしてして誰とでも仲良くなれるのが吹雪さんですが、戦闘となるとまるで人が変わったかのように虎視眈々と指示を出し敵をあっという間に殲滅する…そして戦闘狂となることもある。戦闘狂になったら止められるのはごく一部の艦娘しか…いや無理なのでは)大淀は吹雪から放たれる殺気にぞくり、ぞくりと背中を震わせた。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ激戦の火蓋が落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして勝つのは矛か、盾か。

 

 




いかがでしたか?感想などどしどしお待ちしております。

艦娘教導隊の一人は我が秘書艦の吹雪ちゃんと判明しましたね。因みにレベルは140です…強いね彼女は。
残り五人は一体誰なんでしょうかね。
予想が全て当たった方は青葉から頂いた吹雪ちゃんのプレミアムプライベート写真をプレゼント致します(*^ー゚)b クッ゙

吹雪「( 'ω')ファッ!!? また青葉かぁぁ!!」
いや吹雪ちゃんも青葉が隠し撮りした俺のプライベート写真何故か持ってるし…うんお互い様よ
吹雪「グハッ!!( ゚∀゚)・∵.バレてるー?!///」



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12話 全艦娘入場ッッ!!

色んなネタを詰めた結果がこれだよ!

後悔はしていない(`-ω-´)キリッ


1230(ヒトフターサンマル)

本来ならばお昼休憩であり、皆食堂で昼ご飯を食べているのだが今日に限っては食堂には誰もいなかった。否、皆急いで食べたのだ。

 

なぜか?

 

それは1300(ヒトサンサンマル)から始まる仮想敵演習のせいだろう。妖精さんらが急いで作った屋外パブリックビューイングでは、全艦娘が熱気を抑えきれず今か今かと待っていた。

演習場はここからかなり離れた場所で行う。従来は無線で戦果などを伝えていたが、リアルタイムでの映像はまだなかった。そのため、カメラ付の偵察機や定点カメラ等を使う中継式を最近やり始めたが、ここまで大掛かりにパブリックビューイングをするのは初めてらしい。

ここまで注目を集めたのは、掲示板に貼られてある今朝の幌鎮日報を見れば納得がいく。

 

その見出しにはデカデカと「前代未聞!1vs6の仮想敵演習か!?」と書かれていたを

この見出しだけで寝ぼけ眼だった艦娘達は大層驚いた。更に記事の本文には、前日のオリエンテーションでふぶきが喧嘩を売っただの殴り合い寸前までなりかけただの、一部誇張表現があるものの、彼女(ふぶき)は一体どれだけ強いんだ?!と当然の疑問が湧く。

中には大淀らの演習指導艦にあの記事は本当なのかと直撃する子もいたが、ほぼ間違い無いと聞かされ否応なしに期待が高まっていた。

しかしながら、いくら別世界からの最新鋭艦娘とはいえ噂では全く戦闘したことがないらしい。経験値ではこちらのほうが完全に上だと思っているのも少なくはなかった。

艦娘達の反応はほぼ半々に分かれた。

 

 

さて、この決戦を見逃せまいと午後の遠征などがあった艦娘らまで延期にして、すべての艦娘がパブリックビューイング会場に来ている。

そのうちの一人である天龍も、こうしゃいられないと遠征隊の駆逐艦を連れて会場に来た。

「ちくしょー俺も戦いたかったなぁ」うずうずしながら羨ましそうに海を見つめる。

「天龍さんが選ばれると思ったけど違うのかぁ」朝霜は少し納得が行かなかった。天龍の艤装の一つである刀さばきは艦隊でも屈指の指折りに数えられるからだ。

「記事には精鋭の6人が相手になると書いてありましたよね。一体どんな編成になるのでしょうか」浜風は考えるポーズで考える。

「あー、それならうちの姉が出るのは確定だよ」後ろから鬼怒改二を旗艦とする第四艦隊遠征隊のうちの一人、深雪がひょっこりと話しかけてきた。

「はぁっ?!まじかよそれ!?姉さんって、吹雪改のほうか…こりゃご愁訴様だな」

天龍は吹雪改の強さは身にしめている。以前も何回か武器ありで演習したことあるが畏怖するような殺気をしたかと思えば、フッと殺気を消せたり、桁外れの反射神経、戦艦かと錯覚するほどのパワーなのに繊細な技術も使う…思い出しただけでも冷汗をかきぶるり、と背中を震わせた。

「天龍ちゃん?」龍田は天龍の変化に気づき声をかけた。

「…あいつ普段はほのぼのとしていてすっげぇ可愛いのに、いざ戦闘となれば二重人格だったのか?と思うほど豹変するしな…龍田だって吹雪の強さ分かってるんだろ?」

「……えぇ。ほんと味方でよかったわ。もし敵だったらと思うと…考えたくもないわね~」

龍田も天龍とタッグを組んで武器ありで吹雪改に挑んだことは数えきれないほどあるが、ほとんどは完敗している。

「…同感だ。おっそろそろか」

壇上に青葉が上がって来るとともに会場のボルテージは一気に高まっていった。

 

 

「さぁ皆さんお待たせいたしました!司会を務める青葉です!!」すぅ、と大きく息を吸い込むと

「本気の!演習を!!みたいかぁぁ!!」

おおおおおぉぉ!!とパブリックビューイング会場が歓声で大きく揺れるように感じるほどだった。

私もッ…私もです皆…!!と青葉は心の中で嬉しそうに観客を見つめた。

「それでは、全艦娘入場ッッ!!」

 

 

 

「海の中からこんにちは!! 更なる研鑚を積みスナイパーが甦った!!!

海の暗殺者!! 伊58だァ――――!!! 」

 

 

 

「真のアウトレンジ戦法を知らしめたい!! 装甲空母 瑞鶴改二甲だァ!! 」

 

 

 

「対空なら絶対に敗けん!!

防空巡洋艦の対空カットイン見せたる 対空番長 摩耶改二だ!!! 」

 

 

 

「戦艦だったらこの人を外せない!! 超A級戦艦 霧島改二だ!!! 」

 

 

 

「雷撃はこの艦娘が完成させた!!!

イベント(特別海域)の切り札!!! 北上改二だ!!! 」

 

 

 

「若き王者が帰ってきたッ 

どこへ行っていたンだッ チャンピオンッッ 

私達は貴方を待っていたッッッ 吹雪改の登場だ――――――――ッ!! 」

 

 

\うおおおおおぉぉぉ!!!/

吹雪が意気揚々と登場し、また一段と、どわっと大きな歓声が上がった。

それぞれ艦娘のコールが鳴り響く中、青葉は一旦皆を落ち着かせた。

 

「そして、そのガチンコ6人に相手するのはたった一人ッッ!!

神の盾の技が今ベールを脱ぐ!! 海上自衛隊から イージス艦ふぶきだ!!!」

 

ふぶきが壇上に上がると、歓声は上がったものの本当に一人で挑むのかと驚きや戸惑いの声がやはり多かった。

 

「オイオイオイ」

「死ぬわこれ…」日向と伊勢は既に結果が見えてしまったようなリアクションをとったのも無理はない。初めてイージス艦の艤装を見た艦娘はなんて貧弱な装備をしているのかと思っただろう。が、一人の艦娘を除いて反応は全く違った。

「Oh…大したものデスね。CIWSにSSMのキャニスター…あぁ懐かしい装備ネ」アイオワが懐かしそうにふぶきの艤装を見つめる。

ここの世界でのアイオワは、1990年代前半に近代化改修を行う計画が上がったものの、既に各国は大規模な軍縮を行っていたために割に合わないと判断され、近代化改修を受けることなく1995年除籍した。

その流れで近代化改修で載せる予定だったCIWSやハープーン等の資料は後の研究資料としてアメリカの某所で厳重に保管されてあったものの、2001年にバージニア地震帯で発生した巨大地震で、バージニア州周辺は壊滅的な被害を受けてしまいそれらの資料はすべて失ってしまった。

アイオワの記憶としては残っているものの、肝心の設計図面等の資料がすべて失っているため妖精さんの力を持っていても開発はまだできていない。

「アイオワ…知っているのかあれを?」長門は未知の装備がまさかアイオワが知っていたのに驚いた。

「Ah, just a little。けど詳しくは話さないワ。Japanには百聞は一見にしかず、というfamous proverdがあるじゃない」

「なんでもいいけど…」

「相手はあのブッキーが率いる教導隊デスよ?」比叡と金剛はあの人数相手にたった一人で勝てるとはとても思えなかった。

「でも、good matchをすると思うヨ♪」

「ほぅ…アイオワがここまで言うとは面白い。どれ見せてもらうか。イージス艦の実力とやらを」武蔵を初めとした戦艦らは期待の眼差しで見つめる。

 

 

「はい皆さん静かに」我が提督が壇上に上がった途端、ぴたっと歓声が止んだ。流石というべきか。

「さて、今回の仮想敵演習のルールを説明する。ここから21km南東に離れた所の20km×20kmの演習場で行う。なお、電探類での索敵は演習が始まるまで行ってはいけない。勝敗の決め方はシンプルに、制限時間内…そうだな1時間以内にイージス艦ふぶきは六隻を全て大破にすること。なお戦艦のみは中破以上にすること。教導隊は彼女を見つけ大破にすることだ。ただし、どちらも逃げ回って演習場外に出てしまった場合は強制失格とする。

今回はより実戦に近い形の演習弾を用いない普通の砲弾でやってもらう。けど心配ご無用。演習場は鎮守府神社で演習妖精さんが亜空間を設定してくれてるから、例え被弾して服が脱げても亜空間の演習場から出れば損害はなかったことになる」

それらを応用して艦載機の妖精さんも海の藻屑になることはなく各空母の部隊に戻れたり、補給もすべての艦で一定になるのも、演習妖精さんの力のおかげらしい。

「なるほど~…ってちょっと待ってください!服が脱げるんですか?!一体どんな羞恥プレイなんですかこれ!?」

顔を少しだけ赤めたふぶきはテンプレのような反応を見せたので観客からはどっ、と笑いが起こる。

「まぁいつの間にか慣れたよね~」

「うんそのうち慣れるでちよ」

北上とゴーヤはうんうんと頷く。

(ええぇ…そういうもの??感覚が麻痺しちゃってるのかな…まぁ皆さん私が服が脱げることを期待しているかもしれませんがッ!私は被弾しませんよ!)イージス艦だから、というのもあるがなによりもカメラ等の前にして服が脱げるのはなんとしても避けたかった。

絶対被弾しまい!と心に決めたふぶきは気持ちを入れ替えた。

「それでは、これより仮想敵演習編を始める!両者互いに礼っ!」と提督が促すと

「「宜しくお願いします!!」」と向かい合ってお互いに一糸乱れぬお辞儀と握手をし、観客からは自然と拍手が漏れた。そして壇上を降り頑張れだの負けるななど色々な応援があちこちから上がり、ふぶきと教導隊らはゆっくりと海へと歩を進める。

 

「ではまずイージス艦ふぶきから!演習場まで、いってらっしゃい!」青葉もノリノリでダー○の旅風にアナウンスすると

「ふぅ…よぉし!本艦只今から演習場海域に向けて急行する…艦橋、第四戦速!」とふぶきは流れるような動作で妖精さんに命令を出し、キィィィィンと甲高いエンジン音が辺りに響き渡り白煙が出たかと思うと、あれよあれよという間にぐんぐんと白波をかき分けていく。

それを見た観客達は大きくどよめいた。

ーなにあの号令?!

ーなんという加速力…しかも煙も少ないッッ

ーこんなエンジン音初めて聞いた…などなどと皆顔を見合わせザワザワした。

黒煙は少なく、エンジン音も全く異なる彼女を見て教導隊達も驚くと同時に、彼女は強いと直感的に感じた。

 

しかし一人だけ異なっていた。

そう、吹雪は久々に楽しくなる、と予感した。

 

 

イージス艦ふぶきの姿が水平線から消えると同時に、教導隊達も主機を起動させ演習場へと向かう。その間に作戦の再確認を吹雪を中心にまとめていった。

「しかし、よくこんなのを思いつきますね…警戒陣を応用するとは流石ね吹雪さん」霧島は感心した。

「未知数な相手だからね…これなら索敵もしやすいだろうと判断しました。そろそろ着きますからあれを詠唱しましょうか。」

「おぉ、吹雪いいこと言うね!燃えるぜ!!」摩耶は意気昂然とし、吹雪を筆頭に詠唱を始める。

「「ダーティプレイに徹しろ!!」」

そして瑞鶴にバトンタッチすると、少し照れながらも空母達が唱えている詠唱をする。

「「敵より早く見つけ、敵より早く殺れ!!」」

ファーストルックファーストキル…

戦闘機乗りだけでなく艦娘にも言えることなのでみんな結構大事にしている心掛けだそうだ。

 

 

30分後

互いに演習場に着くと、無線から提督の声が聞こえてきた。

『護衛艦ふぶき、感度は大丈夫か?』

「えぇ、こちらは問題ありません」

『了解。教導隊旗艦吹雪以下五名のはどうだ?』

吹雪は五人の無線状況を確認し、問題ないことを「感度良好です司令官」と伝えた。

『よし、では仮想敵演習、始めッッ!!』

 

演習場とパブリックビューイング会場では演習が開始されたサイレン(ピストル音)が鳴り響く。

 

演習場では互いの作戦開始の号令と演習を撮影する二式偵察機のプロペラ音が混ざり合う。

が、パブリックビューイング会場は先程の歓声とは打って変わって固唾を見守るかのようにとても静かにスクリーンを見つめていた。

 

 

 

いよいよ、戦いの火蓋が落とされたのだ。

 

 




次話からいよいよ戦闘シーンになります!
演習相手は駆逐艦、戦艦、正規空母、重巡、雷巡、潜水艦となりました。予想は当たったかな?

BGMなにしようかな。個人的には…おっとここまでにしておこう。


ここで教導隊艦娘の簡単な紹介を。()内の数字はレベルです

吹雪改(140)…秘書艦だけでなく第一艦隊旗艦や教導隊も務める。着任当時から第一線で戦っているため経験は豊富だから強さも半端ない。得意なのは潜水艦狩りと戦場格闘技。因みに提督ラブ勢、夜戦(意味深)もお手のもの。

北上改二(99)…いつの間にか99になっていた。けど先制雷撃は大井改二と並ぶトップレベルの威力、精度を誇る。
格闘技の使い手は空手と中国拳法。

摩耶改二(98)…秋月型にも引けを取らない対空カットインのエース。因みにプロレス技を近接格闘技として使う。得意技はマヤ式ジャーマンスープレックス。ケッコン間近なのでそわそわしているとかないとか可愛い。

伊58(96)…最初に来た潜水艦。そのためレベルは潜水艦の中でもトップクラス。経験も高めで様々な戦術を使い相手に見つからず雷撃をお見舞いする。まさに暗殺者。

霧島改二(93)…砲撃よりも拳!握力×スピード×体重=破壊力を体現する戦艦。まさにインテリヤ○ザ。
吹雪とは数少ない互角の戦いをする。

瑞鶴改二甲(90)…正規空母芸人。ヒダリデウテヤ。
それは置いといて、たった一人の装甲空母。えっ大鳳…知らない子ですね(꒪ཀ꒪*)グフッ
翔鶴改二甲?…カタパルトぇ……(  ˆᴘˆ )オッフ



2018年9/28
本文を少しだけ変えました。そして次話はもうすぐ投稿します!お楽しみに!


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13話 1vs40 対空戦闘

お久しぶりです。

大変お待たせいたしました。

まず、期間が空いてしまったことをお詫び申し上げますm(*_ _)m

色々とあって意欲がなかなか回復しなかったのですがちょくちょく書いていき、やっと投稿することができました。

この三ヶ月なにがあったのかというと…
・鎮守府氷祭り…パンパなかった。もう一回見たい。
・夏休みと先週の関東旅行×2…横須賀軍港巡り素晴らしき。どぶ坂通りの有名店混みすぎぃ!
・10年以上飼っていたペットのウサギが天国へ。人間でいうともう高齢だったらしい…可愛いやつだったよ
・絶賛初秋イベ中。E4丙の戦力ゲージまでまったり進んでいます。

うーんこの 

許してくださいお願いしますなんでもしますから(するとは言ってない)



「仮想敵演習、始めッッ!」

各々の無線から提督による開始合図が発せられると、まずは教導隊が先に動いた。

「よし、やるわよ!艦首風上、攻撃隊、発艦始め!!」

乱れのない動作で瑞鶴改二甲は弓をスッと構え、バシュという音とともに弓矢が海上を進んだかと思うと、光に包まれ艦載機へと変わりエンジン音を轟かせ高度を上げていく。

今回の各スロットの内訳は天山村田隊32機、彗星江草隊24機、零式艦戦62型(爆戦)12機、烈風改6機となっている。

第一次攻撃は各機体を半分ほど発艦させた。つまり艦攻16機、爆撃機18機、戦闘機のみ6機…計40機がたった一人の相手にへと向かっていく。隊長機の指示の元、扇状に別れて散り索敵を開始した。

そして艦載機だけでなく、教導隊の艦娘もすぐに動く。

「プランαに移行」

吹雪が無線で指示をだすとそれは単縦陣でも斜めの陣形でもなく、警戒陣へと変えていく。

真ん中に旗艦である吹雪を置き、右サイドに霧島改二が、左サイドに北上改二が配置されていく。その後ろには瑞鶴改二甲を守るように摩耶改二が前方にいる。上から見るとまるでT字のようにも見える。

ちなみに伊58はというと、静かにひっそりと海中へと潜航していた。

 

 

一切の乱れなく整えていく教導隊艦娘らに、映像越しで見ていた艦娘らは感嘆していた。

勿論それは、仮設テントで机に置いてある生中継テレビを見ている提督も例外ではなかった。

「流石だな」

「ですね~」

隣にいる青葉も演習場の定点カメラをテレビの編集者のように何台も置いてあるカメラをにらめっこしながら最適な映像をパブリックビューイングに映るようにしている。ちなみに左側には教導隊が、右側には護衛艦ふぶきが映るように2つの大型映像装置が会場に設置されていた。

(映像機知の保護装置大丈夫かなぁ)

同じく仮設テントで観戦している夕張は上手くいってくれと祈るように見つめていた。演習の様子を各所に届けるべく撮影係を乗せ飛行している観測機には味方識別がなされている。

観測機だけでなく定点カメラにも妨害電波の周波数情報も施してあるとはいえ、万が一にそなえて保護装置をつけてある。

「ふーむ…?これは…」

ここまでふぶきは動くことなく、何かを準備しているようだ

「えぇ、おそらく電子対抗手段という妨害を仕掛けるのではないかと」と明石が説明していく。

 

提督は遠征隊の天龍らの報告で、ふぶきと合う前に一時的に電探が使えなくなったということを思い出したのだ。最初は故障かと思ったのだが、工廠で見てもなにも異常は見つからず原因不明ということになりかけた。

が、後日工廠組がまとめた報告書で電波妨害というのをふぶきが仕掛けたことが分かった。

提督はあえてこの情報を教導隊らには伝えなかったのは、電子対抗手段という予想外の妨害で何も対策しなかった場合どれぐらい対処できるのか、またどれほどの妨害の強さなのかを知りたかったのだ。

艦載機が演習場に目一杯扇状に広がった時、偶然なのか、ついに彼女ーイージス艦が動いた。

一体どんな戦いをするのか。

提督だけでなく、会場内全てがふぶきの動向に注目していた。

 

 

 

「…よし、合戦準備ッ!」

艦内ではカーンカーンと警報音が鳴り響き妖精さん達は足下から救命胴衣を取り出して羽織り、ヘッドセットやマイクを頭に被った。

皆次々と配置につき、合戦準備の発動からわずか3分未満で『艦橋、CIC。艦内各部、合戦準備、用意よし』と艦長妖精から無線で報告が上がった。

そしてレーダー類を起動させると、次々と航空目標や海上を滑る艦娘がコンタクトディスプレイ上に現れ、計40機が飛び立ち、扇状になってこちらに向かってくるのがはっきりとわかる。短時間でこれだけの航空機を上げるだけでなく、教導隊も乱れなく陣形を変更していく様子を見ると、練度が高く尚且つ手練だということがレーダー越しでも分かる。

『SPYレーダー目標探知。目標群α、数20、30度。距離、11.5マイル。目標群β、数20、335度。同じく11.5マイル。目標、まっすぐ近づく。』

「了解。対空戦闘用意」

 

(11.5マイルということは約18.5kmか。さて…まずは定石通りに電子対抗手段→SM-2や主砲で航空機の数を減らす→空母と重巡、戦艦にSSMですね。潜水艦は…航空機の脅威がなくなってからヘリを発艦させよう。幸い無誘導魚雷に静音性も高くもなく、速度も遅い。対処はできる…!)

「対空、対潜警戒を厳となせ。艦橋、第三戦速。取り舵70度宜候。」

テキパキと指示を出し、ガスタービンエンジンは独特の唸りを上げ瞬く間に第三戦速へと達したかと思うと、まるで駆逐艦ような機動性で左方向へと曲がり、艦載機らに対してほぼ真横になった。

「ではいきます。対空戦闘、CIC指示の目標、EA攻撃始め!」

従来のものより小型化し改良したNOLQ-2Bから妨害電波が発せられた。

キス島脱出の時では出力を抑えていたが、今は最大出力で妨害電波を航空機や艦隊にむけて浴びせている。

先程まで使えていた通信機や電探は使い物にならなくなっているはずで、大慌てになっているだろう。

 

さて、目を潰したあとは対空攻撃を開始すべく目標の選別を始めた。CICから脅威度が割り振られる。

やはり妨害が効いているのか、攻撃隊は徐々に密集してきた。これは非常にありがたい。なぜなら、SM-2ブロックⅢBは新型の指向性爆風・破片弾頭MK125を採用しており、任意の方向に爆風と破片をプレゼントする素敵なものだ。

『近づく目標、SM-2攻撃始め』とミサイル発射警報が甲高く艦内に響き渡る。

「発射用意…撃てっ。Birds away」

パカッと前後のVLSの蓋が開き、強烈な発射炎が逃がされると共に光る白い矢が4つ上がり、瞬く間に空へと消えていった。

その矢は瑞鶴が率いる航空部隊へと牙を向けた。

 

一方、パブリックビューイング会場では、イージス艦ふぶきの行動に皆がざわざわと驚きの声が上がっていた。

ー初めて聞く号令だ…

ー合戦準備ってかっこいい!

ーそれよりも艦載機をすぐに探知するってヤバくね?!

ーしかもあの白い矢は一体…?

「開始したばかりなのに有利はイージス艦に傾きかけた。しかも見たことのない兵器…この演習はいったいどうなるんだ」

提督は戦闘の歴史が変わる瞬間を画面越しにじっと見つめていた。

「こりゃ明日は特集組まなくちゃですねぇ♪」

青葉はウキウキとインタビュー内容を考えているようで、すでにメモ帳に書いていた。

(ちょっと映像装置とか乱れたけど支障はないようね…よかった)夕張と明石はホッと息をついた。あとは演習を見守るだけだ。

 

 

 

 

「くっ…ノイズが酷い!」

霧島改二が電探や無線を復旧しようと試みるも、ますます酷くなるばかりだった。

これでは吹雪も北上も同じような状況になっているはずだ。

無線が使えないのならもうすぐ旗艦からアナログ式の交信が来るはずと分析していた。

すると分析通りに、左方にいた旗艦の吹雪から探照灯によるモールス信号が送られてきた。

「…流石ね!えぇと…ふむふむ。了解…っと」

その内容は『我も無線及び電探使えず。よってこれより各艦の距離を2kmから500m以内とする。なお陣形の変更は無し。同内容を随伴艦にも伝えよ。』というものだった。

 

「なんで使えてた無線がいきなり使えなくなるのよ?!これじゃ…」

瑞鶴改二甲も小型無線機を何度も再起動したが、虚しくノイズ音が流れるのみだった。これでは連携がものをいう航空部隊に直接指示が出せなくなる。焦るのも当然だろう。

「それだけじゃねぇ…電探も突然オシャカになった。真っ白になって映らない…これ最新鋭の電探だぞ?」

対空艦として瑞鶴の盾になるように警戒していた摩耶改二はドイツ製のFuMO25レーダを装備していた。それだけでなく90mm単装高角砲を2基、零式観測機、25mm三連装集中配備というまさに対空番長にふさわしいものだった。

しかし対空番長とはいえ、レーダという目を潰されてしまってはレーダと連動する対空能力はできなくなった。こうなったら従来の目視による対空攻撃しかなくなる。

「全くしっかり整備してくれよな…うん?あれは…吹雪からのモールス信号か?!瑞鶴も見えるか?」

「えぇ!…なるほどね。とりあえずこっちは速度を上げて早く合流しましょう!」

航空部隊と連絡が取れないことも心配だが、練度が高い妖精さんや艦載機を揃えきた。きっと大丈夫だと、信じた。

「だな!あまり遠いと手旗信号も使えないしな。よーし、第五戦速!!」

二人はスロットを全開にし唸りをあげた主機と黒煙とともに前にいる索敵部隊に合流していった。

 

 

 

 

「隊長!どうやっても復旧できません!」

「ちっ…わかったありがとう」

雷撃隊や爆撃隊は順調に高度を上げていたが、突然無線が使用不可になりノイズばかりが鳴り響くだけのガラクタになった。どの隊も復旧を試みたが直せず、自然と索敵陣形から攻撃陣形の密集形態へと変更していった。空中衝突することなく陣形変更していけたのは日頃の訓練の賜物だろう。

「しかし…どうします?」

後ろで後方銃座に座っていた補佐妖精さんが隊長に話しかける。発艦してからまだ4kmくらいしか進んでおらず、アタックポジションに入るには高度のエネルギー不足から十分とはいえない。

「本当はもう少し高度を稼いでおきたかったが…仕方ない雷撃隊と一部の艦爆隊は徐々に高度を下げていこう。」

「艦爆隊もですか…!?本当にあれをやるつもりなんですね?」

「本気でやるには十分だろう?そうしないと彼女の本当の実力がわからんからな…よし行くぞ!!」村田隊隊長機は手振りやバンクを使用して、雷撃隊と一部の爆撃隊と共に高度を下げていった。

 

「おっ早いな…まぁ無線が使えない状況なら妥当かね。万が一に備えて戦闘機隊を編入したが…しっかりと統率がとれてるし尚且つ敵は一隻。俺らの出番無しにあっという間に終わるだろうな」

烈風改隊長機らは艦爆隊よりもさらに上空で警戒飛行していた。

戦闘機は高度の高さ…つまりエネルギー保持が高いほど有利である。

速度は高度に、高度は速度に相互変換できる。

また、航空機はエンジンで加速してるため高度を上げる事で空戦エネルギーを貯めることが出来る。

しかし、航空機は旋回などの機動を行う事で空戦エネルギーを喪失する。つまり、速度や高度が下がってしまうのだ。

そのため空戦エネルギーを失った航空機は機動力を失い、敵を振り切れなくなってしまう。

つまり、敵に会うまでに空戦エネルギーを貯めておき、速度が急激に落ちる急旋回は避ける。

この2つを心掛けることで空戦を有利に持っていけ、機体のパフォーマンスも上がり生存性も高くなるのだ。

「しかし、妙に静かだな…嵐の前の静けさというか…」

烈風改の二番機妖精はより一層警戒を強めた…その予感はすぐにやってきた。

突如下の方で何かが爆発四散し、雷撃隊や艦爆隊があっという間にバラバラに分解され海へと墜落したのだ。

「ふぁっ?!」

「隊長!雷撃隊が!!」

「なん…だありゃ?!新手の三式弾でも積んでるのか?しかも…なんて精度だ?!」

このまま密集しては的になると判断した烈風改隊長機はすぐさま全機に無線で呼びかけようとしたが、ジャミングでガラクタと化したことを思い出し、無線機を叩きつけた。

「くそっ!!なにもできねぇなんて…仕方ない。ついてこい!」

隊長は手振りで四機は俺の後に着いて高度を落とし攻撃隊の前について護衛しろと伝え、残りの二機はこのまま飛び航空隊の被害を確認した後至急空母へと戻れ、と命令した。

 

 

「あべしっ?!」

「ひでぶっ!?」

「ああっエンジンが!!くそっ…」

「翼も吹っ飛びやがった…ちくしょうめぇぇ…」

「あんな三式弾なんて聞いてねぇ…よ…」

艦対空ミサイルの餌食になった雷撃隊は密集陣形がアダとなり機体がバラバラになったり、きりもみ回転して墜落するものや、逆にミサイルを避けようと回避起動するが、味方と空中衝突するものも出てきて阿鼻叫喚と化した。

雷撃隊だけでなく後ろにいた艦爆隊も同様だった。

「そんな…あの村田隊と江草隊がいとも簡単に蹂躙されてしまうなんて…」

村田隊隊長の補佐妖精はその光景に唖然としていた。無理もない、この鎮守府の中で最強の攻撃隊なのだから。

「やべぇなあれは…。避けるには…もっと高度を落とすしかないか」冷汗をかきながらも、隊長は僚機に指示を出し、海面ギリギリに高度を落としていく姿をみて僅かに生き残った攻撃隊はエンジンの唸りを上げてその後についていった。

 

 

『マーク、インターセプト』

『目標、残り20、距離7マイル。高度を落としそのまままっすぐ突っ込んでくる』

レーダには航空機を表す光点が少なくなったものの、その闘志は失われておらず仇を打つようにこちらに近づいてくる。

しかも、しっかりと高度を落としてきていることから艦対空ミサイルを避ける目的だろう。

(うーん…やりますね。さて、整理しよう。距離は約11kmに数は20…半数を失ったとはいえ攻撃は続行。やはり一筋縄ではいかないか…よろしい、ならば次は主砲射程内まで引きつけて対空戦闘を始めましょう)

「艦橋、第四戦速。面舵80度、取舵10度宜候」

『えっ、わざわざ攻撃隊に突っ込むんですか?!』妖精さんが驚いたように無線越しでも聞こえた。無理もない、イージス艦の強みはアウトレンジ戦法なのだから。

それなのにわざわざ近距離に持ち込むなんて一体どうしたんだ?そんな空気が妖精の中で流れた。

するとふぶきは口パクで艦橋にいる妖精に作戦を伝えた。なぜならば、無線は会場にも伝わるからだ。作戦が伝わらないようにあえて口パクで伝えようと試みたのだ。

『……そういうことか。腹黒いですなぁ。よろしい、ならば付き合いますよ。第四戦速、面舵80度、取舵10宜候』

『ええぇ…まじでやるのか…』

『やべぇよやべぇよ…』

『けど、面白くなりそうだな!』様々な感情が妖精の間に混ざりつつもその士気は高まった。

数分後、目的のポイントに着いたふぶきは再度レーダを確認する攻撃隊との距離はおよそ5kmを切っているところだ。目をこらすと黒い点々がポツポツと見えてきた。

「来たか…主砲、攻撃始め」

『主砲、攻撃始め!』

「CIC指示の目標、トラックナンバー4921、主砲、撃ちーかた始め、…発砲!」

カラン、と薬莢が落ち、ドン!と乾いた音と発砲炎と共に砲弾が攻撃隊に向かって撃ちだされた。

 

 

 

 

待ちに待った艦影。視野外から一方的に攻撃され海水浴コースへと連れ込んだ元凶がようやく手の届く所まで来た。隊長らは自ずと操縦桿を握る手に力が入った。

「目標を確認」

「やっと捉えた… 目標、ふぶきまで約5km! 残存機数は……20。半分ほど減ってしまいましたが叩くには十分です」

「よし、このまま低高度を維持してアタックする…おやっ戦闘機隊も来たのか?」

上空から四機の烈風改が颯爽と現れ、前方を警戒するように攻撃隊の前に出る

「どうやら前に出て壁になるようです」

「…そうか。なら無駄にはできんな!」

後続の雷撃隊や一部の艦爆隊は隊長機に続くように最適なポジションに入っていく。

 

「ふん!たかが一門の砲でなにができる?!」

ただの単装砲だと高をくくっていた烈風改の三番機はこの言葉を最後に、目の前が爆ぜたかと思うといつの間にか機体ごと海面に叩きつけられてしまった。

そして、ありえない連射速度でまるで磁石のように砲弾が次々と航空隊に吸い込まれ、炸裂していく。

「…はあっ?!」

「な…んじゃありゃぁぁ?!」

驚くのも無理はない。艦載砲が初弾で動きまくる航空機に当てたのだから。

例えるならば、打ったライナー性のボールを百発百中で空中を高速で動くトンボに当てるようなものだろう。

「くそぉ!魚雷捨て…たわらばっ?!」

回避行動に邪魔な重い魚雷を捨てようとするが遅かった。炸裂した砲弾で機体はズダズダとなり、当然バランスを失い炎を吹きながら海に落下した。

「隊長…」

補佐妖精が泣きそうな声で、また1機と部下たちが日頃の訓練成果を出すことなく果てていくのを眼下で見つめていた。そして、もうすぐでこちらの番になるということも。まるで死神の足音がすぐそこまで聞こえてくるかのようだった。

「この…ハリネズミめっ……」

隊長が見た最後の光景は、スローモーションのようにこちらに向かってくる砲弾だった。

無情にも、いつの間にか片方の攻撃隊は艦載砲によって全滅された。

 

なんとかせねばと、残る10機の攻撃隊も散開し仕掛ける。

「このままじゃ終われねぇ!なんとしても奥の手のあれを…ッッ?!」

爆戦隊隊長らは高度10m程の超低空に舞い降り、雷撃よりも高い速度で水平飛行しながら目標の300m程手前で反復する爆弾を投下し、通り過ぎる際に機銃掃射を叩き込もうと試みた…が、300mに届くはるか前に、先程まで明後日の方向を向いていた主砲が即座に旋回しこちらを狂いなく、ジッと見つめていた。

まるで"ハハッ↑こんにちは、死ね"と言っているかのようだった。

「くそっ…こんなのってありかよ…」

ギリッと唇を強く噛み、恨めしそうに艦爆隊長は彼女を見つめる。あと一歩なのに、その一歩がとてもとても遠くに感じられた。

非情にも、砲弾は全く外れることなく、最後の艦爆隊に砲弾を爆発四散させた。

 

 

 

ふぶきは最後の手である近接防御システムを使うことなく、ミサイルと主砲のみで攻撃隊を全滅させた。

周辺には黒煙と油と、バラバラになった機体があちこち浮かんでいた。

「対空戦闘用具収め」

(脅威はなくなったとはいえ…残り二機のあれは戦闘機隊かな?どうやら空母に戻る素振りはあるけど…フェイクという可能性もありえる…迂闊にヘリは上げられないか)

SH-60Kは対潜ヘリとしての役割もあるが、敵艦船を探知・識別し、データ・リンクによって搭載艦へ情報を伝達すると共に、艦対艦ミサイル攻撃の支援を行うことも可能だ。

また、防御システムも搭載しており敵のミサイル攻撃からの生残性を高める為、ミサイル警報装置(MWS)とチャフ/フレア・ディスペンサーを組み合わせた自機防御システム(CMD)を装備しているが…レシプロ戦闘機はヘリよりも当然速く、機銃がメインの攻撃なのであまり意味がない。ジャミングしているとはいえ万が一戦闘機に見つかってしまったら、格好の的となってしまう。この点からみてふぶきはヘリを今あげることをためらったのだ。

(仕方ない…精度はほんの少しだけ落ちるけど予定通りSSMを撃ち放そう。)

 

 

 

ビューイング会場は先程の盛り上がりが嘘のようにしーんと静まり返っていた。

リアルタイムで情報が届くとはいえ、その一報を信じられなかった。

 

制空権喪失…と。

 

それは摩耶でも、秋月型でも、一隻だけで攻撃隊をすべて撃墜することは不可能である。

 

しかし、ふぶきはこれが当たり前かのように、外れることのない光る矢にありえないほどの発射レートと精度を誇る単装砲だけでやってのけたのだ。

 

演習報告書をまとめる大淀は手が止まってしまっているし、映像編集している青葉も、観戦している艦娘達も提督も信じられないというような顔をしている。

その中でも大きくショックを与えたのは空母勢だろう。

育て上げた最高練度の機体が何もできず、一方的に叩きのめされたことに。

 

(夢だったら良かった…しかし夢じゃない…現実…これが現実っっ…)

瑞鶴を慕ってる葛城だけでなく他の空母を同じような思いだった。

(まだ…終わってないわよ瑞鶴。私達の厳しい指導にもよくついてきてくれた貴方がここで終わるわけ…)

加賀も祈るように映像越しの瑞鶴を見つめるが、そんなことはどこ吹く風かのように、ふぶきは攻撃対象を艦隊に向けた。

 

 




どうでしたか?感想や私が気づかなかった所の誤字脱字報告お待ちしてます~。あ、少しWTやWOWS成分が入ることがあります。これもタグでつけたほうがいいのかね。


さてこれからのことを。来月には友達がサークルとして出る沖縄の砲雷撃戦に行くんだが…台風発生しないでほしい。
行けない&帰れなくなるは最悪のパターン…神様仏様オナシャス!
結局遊びしかしてねぇ?!もちろん仕事はしっかりとしてますよ。大変だけどね_(:3」∠)_


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14話 対艦攻撃 始め

3か月ぶりの投稿となってしまいました

スローペース過ぎて申し訳ないのじゃ

けどエタらないように頑張っていきます!


「対水上戦闘用意」

『戦闘用意。目標はどうなされますか?』

「まずは空母、重巡、戦艦を叩きます。戦艦には二発放ちます。」

『了解。CIC指示の目標…050度、9.32マイル』

「だいぶ近いけど、攻撃開始しましょう」

『了解。SSM1番から4番まで発射用意』

「攻撃始め…発射っ」

キャニスターの蓋が外れると、強烈な発射炎と共に最新鋭の対艦ミサイルが白い弧を描いて発射された。

『着弾まで48秒です』

17式対艦ミサイルの速度は従来の90式対艦ミサイルである時速1150km/hを超える。

発射されたあとはシースキミングといわれる低空飛行に入り、すぐに海面スレスレの低高度を飛びながら曇天の彼方へ消えていった。

電探類が使えず人間の身長とほぼ大差ない艦娘の目視距離である4キロでは、対処できる時間はあまりにも短すぎるものだった。

 

 

 

「…おかしい…すでに艦載機は帰投している時間帯なのに…」

合流した瑞鶴は水平線をじっと見つめるが、一機も見当たらない。未だに無線が通じないので、どのような状態になっているかさっぱり不明なのだ。

「まさか全機撃墜されたとか?ハァ…もうこのノイズ鬱陶しいわね…」霧島改二もメガネ型スカウターで索敵するが、復旧はできずノイズが酷く流れるだけのものと化した

「おいおい、そんなの無理だぜ。たかが一隻だけで40機近い艦載機をすべて撃ち落とすなんてさ」防空巡洋艦として名が高い摩耶改二が言うと説得力はあるが…

「いや…その線はあり得ます。彼女のスペックを少しだけ見たのですが、精度のよい砲で数を減らした可能性も…」

「おいおい吹雪、一門の砲で艦載機をすべて落としたというのか?!いくら何でもそれはありえねぇだろ!」

「えぇ、弾薬にも限りはあるでしょうし…一体どんな手段を…んっ?」吹雪は何か気配と音を感じ、水平線に目を細めた

「あれは…?」一瞬艦載機と思ったが何か変だ。なぜあんなにも低く、速く飛んでいるんだろうと。

「なーんかいやな予感しますねぇ」

「同感です北上さん。総員対空戦闘用意!!」

旗艦である吹雪の号令のもと、対空砲が、機銃が、一斉に動きだした。

すでに機銃妖精さんたちは配置についているので、艦内をわちゃわちゃ移動する手間は省けた。後は引き金を引き弾幕を張るだけだ。

そこまでは良かった…その相手がマッハを超える対艦ミサイルでなければ、完璧な初動だった。

「待っ…何あの速さ?!摩耶さんっ!高角砲を早く!!」

「えっ、なっ…!計算途中だっていうのに…撃ちまくれ!!」

摩耶改二の90mm高角砲が火を吹いたのを皮切りに、吹雪の10cm高角砲が、北上改二の155mm副砲が、霧島改二の三式弾と12.7cm連装高角砲が、様々な対空機銃が戦闘機など比較にならないほど物凄い速さで猛進してくる4発の「白い矢」に対し、これ以上ないほど濃厚な弾幕を張っていく。

だが、もちろん全くというか1発も当たらない。速度も厄介なのだが、海面スレスレという高度がさらに迎撃を困難にしていた。虚しく通り過ぎ、海面に突っこみ、水柱を立てる弾が後をたたない。

 

「速すぎだろ?!なんだありゃ!!」

摩耶は吐き捨てるように毒づくが

「愚痴垂れるよりも一発でも多く撃ちまくって!砲身、銃身が焼けても構わないから!!」

吹雪は叱責するが、内心はとても焦っていた。

(もし私が敵なら…狙うべき最優先目標は戦艦か空母となる。そしてあのコースは間違いなく…霧島と瑞鶴を狙っている!もう一個は…摩耶か!くっ…煙幕を出すか?しかし着弾による爆風で煙幕が晴れたら意味がない)

「全艦回避運動!!」

吹雪が指示を出し、全艦が最大船速に出力を上げ右、左へと蛇行しつつ濃密な弾幕を張り続けるが、無情にも弾は一発も当たることなく、レーザービームのよう吸い込まれるように摩耶、瑞鶴、霧島に弾着した。

三人は戦艦の砲撃を喰らったと錯覚したほどの爆発に包まれ、爆音が鼓膜をつんざき、衝撃が五臓六腑にしみわたった。

音速を超える速度エネルギーと500kgを超える重量エネルギーを組み合わせた破壊力としては十分すぎるものだ。

三人を包んでいた黒煙が晴れると制服はボロボロ、艤装は黒煙は火花をあげ、体は煤まみれいて所々出血していた。

 

「クソが…いってぇ……」

「私の戦況分析を超える破壊力ね…ぐふっ」

「ッッ…各自損傷確認。それと煙幕張ります」

吹雪は艦隊を包み込むように煙幕を張り、攻撃された三人の被害状況をまとめるようにした。

報告によれば摩耶は大破、霧島と瑞鶴は大破ギリギリの中破であった

しかし瑞鶴は着弾する前、とっさの判断で弓を左に持ち替え飛行甲板も守る形で右側に着弾するように体勢を変えた。

「ぐぅっ…私が被弾するなんて…誘爆を防いで!甲板は大丈夫ね…右腕はもうダメだけど…まだまだ戦えるわ」

右腕は力が入らないほどダランと垂れ、血まみれになってしまったが、弓と甲板が無事なら発艦は可能だ。

(さぁて…ここからどーする)

吹雪は逆転勝ちするためのプランを脳内でフル回転していった。

 

 

一方、パブリックビューイング会場では百発百中の「白い矢」に声を失っていた。

「なんですかあの兵器…」

「まるでサジタリウスの矢ね…」瑞鶴の独り言にサラトガはふと反応した。

「サジタリウスの矢…ですか?」

「えぇ、決して外れることのない神の矢という意味よ」

その白い矢…いやサジタリウスの矢は対空砲火を難なく掻い潜り、瞬く間に3隻が大破と大破ギリギリの中破に追い込まれたのだから、唖然とするのも無理はない。

「あれが…対艦ミサイルというものか」提督はふぶきのスペック資料を再度見た。するとその資料をまとめた夕張が

「えぇ、彼女のいた世界ではこれがスタンダードな攻撃だそうです」と付け加えてくれた。

「はぁ~…まさに一撃必殺というわけか」

次は一体どんな行動を取るのか。会場は教導艦を応援しつつも護衛艦のほうにジッと注目した。

 

 

『マークインターセプト(命中)。重巡大破、戦艦、空母中破の損害を確認』

「了解…うーん…戦艦はともかく空母も中破は意外ね。当たりどころが悪かったのかな?」

しかし、空母が中破ならば誘爆を防ぐためのダメコン作業等で暫くは発艦できないだろうと思い、潜水艦対策の為ヘリを発艦させるように指示した。幸い上空にいた残りの艦載機は空母付近にいるようで、よほどのことがない限り見つかることはないだろう。

ヘリは格納庫から甲板へ移動され、折りたたまれたロータが最後まで展開されると、パタパタと回りだす。ロータから吹き付ける強風にどこ吹く風かのように航空妖精さんはヘッドフォンと手振りを使い指示を出す。

そして一定の回転数に達し、着艦拘束装置を解除されたヘリはゆっくりと上に上昇していき潜水艦がいると思われる場所へ転回し向かっていく。まるで獲物を探す肉食動物のように。

「ご武運を。さてと…あちらは煙幕を使っているっぽいね」

視界を隠すのと電探による弾着観測を防ぐ目的で使ったと推測するが、SPY-1はSバンドと呼ばれるマイクロ波を使っている。マイクロ波は雲や霧などに吸収されたり、減衰したりすることが少ないため、残念ながらレーダ上でははっきりと見えている。

「残りは駆逐艦、雷巡、潜水艦、戦艦か。空母は後にして…次は砲撃するか」

煙幕で隠しているのにいきなり砲撃で当てられたら相当慌てるだろうし、ショックだろう。

「砲撃用意。目標は雷巡、北上」

雷巡は酸素魚雷を抱えているため、長距離から雷撃できる利点があるが、魚雷が砲撃によって誘爆する確率は高い。そのため北上が優先順位として高くなったのだ。

『了解。CIC指示の目標、035度、8.7マイルの目標、雷巡北上。主砲、撃ち~方始め』

オートメラーラ127/64の砲身がわずか上を向き、目標に向けて砲を素早く旋回していく。旋回し終えるとスナイパーのように虎視眈眈と見つめる。

「撃ち~方始め…発砲!」砲雷妖精がトリガーをカチリと引くと、カランと薬莢が落ちたあとにドン!乾いた発砲音が響いた。しかし一発だけでなく何発ものの砲弾が発射され、煙幕内にいる北上に向けられた。

発砲音だけ聞くと大したことはないだろうが、その主砲は先程瑞鶴の攻撃隊を全滅させた化け物じみたものだ。

パブリックビューイング会場は北上避けろだの逃げろと騒いだが、当然ながら彼女らに聞こえることはない。そんなことは分かっているが、叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

ふぶきによる砲撃が行われる数分前、煙幕内で移動しながら新たな作戦が吹雪によって立てられた。

「まず、陣形は単縦陣、私と北上さんで突撃し、それに気を取られている隙に霧島さんが砲撃を行いつつゴーヤさんによる雷撃も行います。しかし、未知なる相手なので作戦が失敗する可能性もあり得えます。もし私達がすべて撃破されれば相手は安堵するでしょう…そこを突きます。鍵は…瑞鶴さんです」

「えっ?!私?!確かにまだ中破だから発艦はできないことはないけど…上げられる艦載機は少ないしそもそも…」

「えぇ、言いたいことは分かります。化け物じみた対空兵器ですべて落とされると…。それを行わないために私達が突撃するんです」

「え゛っ…なんでそんな囮のようなことをするのさ?」 北上は納得がいかなかった。せっかく魚雷をたんまりと積んだのに囮とはなんたることかと。

「先程三名の方が食らった攻撃は主砲によるものではないからです。一瞬だけでしたのでよく分からなかったのですが、魚雷のような見た目してました…おそらくあれが最大の攻撃かと。そしてその攻撃は薄い装甲をもつ艦にはコスパが悪いのではないか…となると次は主砲による攻撃が考えられます」

「なるほどね…向こうはたかが一隻、補給艦もいない。相手の弾薬をたっぷりと消費してくれれば、攻撃隊が入れるということね」瑞鶴はその作戦を理解し、同意した。

「えぇ、そろそろ煙幕が晴れますし行きましょうか」

「「「了解!!」」」

 

吹雪を先頭に霧島、北上、瑞鶴、摩耶の並び順で単縦陣に移行しようとした矢先、吹雪が叫んだ。

「えっ…て、敵砲弾、来ます!」

「っ?!」砲弾の気配を感じた北上は咄嗟に主砲で頭をガードすると、ガァン!!と主砲の装甲が弾く金属音が鳴り響き、キーンと耳鳴りを感じた。

「おおっ…初弾で命中弾っすか」北上が驚くのも突然、初弾で命中させるのは通常起こりえない。

様々な計算を行い最適な数字を出し、目標を照準して発射、第一弾、二弾と重ねるごとに弾着修正を行うのがここでは普通だからだ。

弾いたところをチラリみると、ベッコリと凹んでいた。

「気を抜かないで!まだまだ来ます!!各自回避行動!」

予想外だったのは、視野外から短い間隔で何発のも砲弾が降り注いだことだ。

発煙管タイプの白煙幕は再始動まで3~4分ほど時間がかかるために、吹雪は妖精さんらに指示を出し、機関室で重油を不完全燃焼させ煙突から黒煙を出して艦隊を覆い隠そうと試みた。

しかし、煙幕や回避行動なんて意味がないよと言わんばかりに至近弾がたくさん降り注ぎ、ついに北上の左足魚雷発射管付近に着弾した。

「痛った…あっやばい!」北上は魚雷の誘爆を防ぐために、両足に装着してあった魚雷発射管から魚雷を放棄した。

 

あぁ、なんという理不尽!

戦艦の砲撃ならまだしも、未だ目視できずたった一門の単砲塔しか持たない相手にここまで追い込まれるなんて誰が想像できよう。

 

「くっ…霧島さん!北上さんを守るようにガードして!発射レートは高いけど、砲弾から見る限り口径は大きくない。貫通力は低いっぽいから戦艦の装甲じゃ貫けないはず!」と吹雪は度なる水柱でびしょ濡れになりながらも指示をだす。

「了解ッ!北上さん私の動きに合わせて回避行動を!」

「ぐぅっ…」北上は小破で左足を負傷し、痛みでやや速度が落ちたもののしっかりと霧島の動きに合わせるように動いた。

すると敵の砲弾は戦艦に当たるようになったが、すべて弾いている。

「フフフ…これが戦艦の装甲よ。何十発何百発当たろうが貫くことはありません…!」と霧島は不敵な笑みを浮かべて北上を守護りつつも、皆反撃の機会を伺っていた。

 

 

 

『マークインターセプト。北上に命中2。目標は小破』

「了解。やっぱ回避行動取ってると命中率は落ちるなぁ…んっ?霧島が北上の前に出てきた!?」ならばと霧島に目標を変えて次々と着弾させるが…

『砲弾、全弾命中!しかし、損傷は確認できず!!』と妖精はあり得ないと言いたげそうな口調で報告した。

「中破なのに?!くーっ…なんて硬いんだ…これが戦艦…やっぱ127mmじゃ厳しいか」

対艦ミサイルで手負いのはずの戦艦に対して10発撃ちすべて全弾命中したものの、大破にはならないとは…と、ため息まじりに吐きすてた。

「うーむ…ならば赤外線誘導弾に変更。狙うのは煙突部分を」

煙突はボイラーからの煙や熱を外に逃すためのものだ。熱を逃がすということは当然赤外線も発生する。

なので、ふぶきらのステルス性を持った艦は、煙突の赤外線対策として周囲の冷気と混ぜて温度を下げたり、熱放射を抑制するなどと、様々な工夫を行っているのが普通である。

が、WW2の艦船はそのような対策を施してないため煙突からの赤外線はただ漏れであり、赤外線誘導としては美味しい獲物だ。

 

通常弾から赤外線誘導弾に変更し、砲身をあげていく。

そこからどのようにして煙突を狙うのかというと、某有名バスケ漫画であるキセキの時代の内の一人である超長距離3Pシュートで高く長いループを使い、超高精度で煙突を狙うようなもの、といえば分かりやすいだろうか。

 

『砲弾変更完了。CIC指示の目標、030度、6.84マイル。目標、霧島と北上の煙突。主砲、撃ち~方始め』

「撃ち~方始め、発砲!」

ドン!ドン!とテンポ良く上空に向けて赤外線誘導弾を4発放した。

(煙突内部ならたとえ戦艦でも大した装甲はないはず…運が良ければ主機を破壊できて走行不能に追い込むことができる!)

 

 

 

「砲撃が止んだ…?」盾となっていた霧島はそれほど被害は見られなかった…ただ機銃や高角砲がオシャカになってしまったが、肝心の装甲は抜かれておらず、ほんの少し凹んだ程度だ。

「あれだけの弾幕です。砲身が焼けたか、弾薬が尽きたか…それとも罠か…。どちらにせよ距離を詰めるチャンスですが…北上さん大丈夫ですか?」吹雪はちらりと後ろを向いた。悪化してないか確認するためだ。

「結構痛いけど…大丈夫よ~」先程砲撃を足に食らった北上は歯を食いしばりながらなんとかついていってる状況だ。主機やスクリューは無事なのが幸いだろう。

「なら良し。全艦、最大船速!!」

タービンの回転数を上げると、グングンと速度が上がるとともに、煙や様々な機が勢い良く靡いていく。

 

順調に進んでいくが、その時は突然やってきた。

 

霧島、北上の煙突と主機がどういう訳か突然爆ぜた。強烈な衝撃が腰に襲い、みるみる速度が落ちていく。

 

「なっっ…どうして?!」

「くっ…大破しちゃったか。修理したいけどこれじゃ無理ねぇ…」

霧島と北上は大破判定を受けてしまった。

 

(一体どこから…?!砲弾は見えなかった…つまり前からじゃない…まさか上から?!しかし、それはピンポイントで煙突を狙ったことになる。あり得ない…なんてやつだ…けど久々に楽しめそうだ♪)

吹雪は我が精鋭達をここまで叩きのめした驚きと、精度の高い攻撃に対する畏怖と、久々に強敵が出た喜びが混じり合った感情をぞくりと、感じた。

 

 

さぁ、どうやって屠ろう。

 

 

吹雪の集中力は深い呼吸とともに高まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     

 

                                                                                                  

私は  

 

 

敗北を 

 

 

知りたい




迫り来る未知なる航空機!強烈なソナー音と魚雷!

果たしてゴーヤはどうなってしまうのか!?

次回対潜戦闘!!狩人 SH60k vs 海の忍者 伊58

そしてついに神の盾と最強の矛が激突してしまう



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15話 ロクマルの対潜戦闘

半年以上も更新せず大変申し訳ありませんでした<(_ _*)>

色んなイベントに行って精神的にも創作意欲が湧いてきたのでやっと書き終えて投稿することができました

冬コミ、艦これジャズコンサート、ズイパラ、舞鶴砲雷撃戦…うん色々と行きすぎやな。
そういえば艦これサーカスもありますね。当選したのは嬉しいんだけど艦これでサーカスって…ズイパラといいスケートといいジャズコンサートといい艦これってなんだっけ??

そうそう、期間限定作戦もお疲れ様でした!今回も無事に突破できたけどフレッチャー堀が一番きつかった…なんとかお迎えできましたよ…30周以上は行ったと思う。
あと雲龍も来ました!実装から五年以上もかかったよ…(笑)


会場では二人が瞬く間に大破したアナウンスが流れると、あちこちから悲鳴が上がった。

「うっそだろ……一体なにが?!」提督は状況が読み込めない様子だった。先程まで護衛艦の砲撃を弾いていた戦艦が大破したから当然の反応だろう。

「突然煙突部分が爆ぜたように見えますが、よく見えると…ほらここです!」

青葉はすぐさま倍速を遅くした映像を提督らに見せた。

「これは…!」よく見ると上から砲弾が降ってきて二人の煙突に入り込み爆ぜた様子が映っていた。

「うっわぁ~まさかあんなこともできるなんて」

「けど実際にああやって見せられちゃねぇ」

明石と夕張は難なくとやってのけた彼女にショックと称賛の感情を心の中で渦巻いていた。

妖精さんとともにふぶきの兵装を調べていたときに、異なる砲弾がいくつかあったのを発見した。

海自妖精さんによれば通常砲弾のほか、対水上射撃を主眼とした赤外線誘導弾、沿岸射撃を主眼としたINS/GPS誘導弾等がある。

ちなみに今回の演習では通常砲弾、赤外線誘導弾、VT信管付調整破片弾(対空用)をふぶきは選択したそうだ。

「すごい技術の塊だなイージス艦というものは」提督も心の中で拍手をした。

 

 

 

一方でロクマルは北東へ飛び立って10km圏内を索敵していた。

酸素魚雷は戦後にロング・ランス(長槍)とつけられその名の通り長い射程を誇っていたものの、当然無誘導であり艦も移動しているため、偏差を取っても距離が遠くなるほど命中するのは難しい。

それらを考慮して潜水艦は10km圏内から魚雷を撃つだろうと読んだ。

潜水艦は水中での速度は低下するため護衛艦より前方にいるのは確実だが、どの方角にいるのかはまだわからず、北東に行ったのは賭けに近かった。

「見つからんなぁ……」妖精さんは海面とにらめっこしながらぼやく。

「だな……そろそろ磁気探査装置(MAD)かソノブイ落とす、もしくはディッピングソーナーを降ろすか?」

「潜水艦ならMADとかは有効だが、潜水艦娘にはどうなんだ?あれぶっちゃけ人だよね」

うーん、と機内にいる妖精たちは唸った。

というのも潜水艦は大量の強磁性材料の塊であり少なからぬ磁場の乱れを生み出す。それを探知するのが磁気探査装置(MAD)の役割なのだが、伊58はスクール水着の上からセーラー服を重ね着するという独特のファッションをしている。ましてや艦娘という人型だ。

「磁気を帯びてるのは考えにくいから、まずはソノブイを使おう。発見したらディッピングソーナーで追い詰めるぞ」 

「了解」

機内で準備を終えるとヘリは高度を下げホバリングし、ソノブイを一定の間隔でポンポンと海面に投下する。投下したあとは反撃を考慮してその場を離れていく。

着水したソノブイはパッシブモードを使って索敵を試みた。

 

 

SH60Kが来る数分前ー

伊58は6.5ノットで水中を優雅に潜行していた。

「そろそろ浮上するでち。潜望鏡上げるでち」

ゆっくりと浮上し、艤装から潜望鏡を展開して周りの様子をクルクルと確認していく。

「うーん聞きなれない推進音が僅かにしてるから、この方角で間違いはないけど……まだ敵影なしでちね……んっ?」

北東方向の上空になにかが飛んでる物体を捉えた。あれを見た瞬間、本能的に"逃げろ"と危険信号がジャンジャンと頭の中で響いた。

「あの方向からということは敵の艦載機…しかもカ号観測機の様な見た目…対潜哨戒機でちか?!まずいでち!潜望鏡下げ!!急速潜行!!!」

幸いあの哨戒機まだ遠くにいた。カ号観測機なら目視による索敵だから見つかる可能性は低いと考えたが、万が一のこともある。

焦らずに潜行し、ある深度まで来たところで機関を止めた。ゴーヤは無音走行でしばらくやり過ごそうと考えたのだ。

しかしそのプランは早くも崩れることになった。

遠くからなにかが海面に着水する音が聞こえてきた。しかも一定間隔でこちらに近づいてきている。

(まさか……見つかった?!爆雷でち?!)

このままではまずい。この深度にいると爆雷は起動されるだろう。上昇と下降を繰り返す三次元運動で回避するか、安全深度まで潜りそのまま突っ切るか…どちらにせよ爆雷が起動したらバブルパルス現象が起こるため、損傷は免れないだろう。

(どっちにするでち…いやちょっと待て。瑞鶴は中破しているとはいえ装甲空母になったからまだ艦載機は発艦できたはず…更に吹雪さんはあれを装備してたはず…よしやって見る価値はあるでち)

ゴーヤの新たなプランとは[見つかったから攻撃は難しいので泣く泣く艦隊に合流します、というように見せかせて吹雪の対空砲や瑞鶴の艦載機で追っ払ってもらう]という長ったらしい作戦を考えついた。

ゴーヤは安全深度ギリギリまで潜り、ゆっくりと仲間のいる方向に進路を向け海中を進み始めた。

 

 

 

 

「ムッ…5番ブイが何かを探知したもよう!」

ロクマルでは動きがみられた。ソーナー妖精さんはついに見つけたと言わんばかりに報告する。

「よしっ!」

「恐らくソノブイを爆雷と勘違いして回避運動をとったと思われます」

聴知するブイが次々と変わっているため投下したブイに沿って移動していることが分かった。

「なるほどな。してやつはどこにいる?」

「いやそれが……敵はソノブイ投下したあと、45度回頭して進路を北西に向けて海中を進み始めているんですよ」ソーナー妖精はもう一度確認したが、やはり敵潜水艦は逃げるようだ。

「ふむ……仮にこのまま潜水艦が進路を変えず進んだ場合、どこにたどり着く?」

「えぇとですね、このままだと35分前後で敵艦隊と吹雪の間に合流しますな」計算を終えた妖精さんが機長らに報告する。

35分前後となると残り時間ギリギリで艦隊に合流することになる。

「ふぅむ……よし、合流して連携をとる前に潜水艦を撃破するぞ」

「了解。しかし、攻撃意思がない敵を撃破するのは気が引けますね……」

自衛隊はあの大戦から今日まで専守防衛を貫いてきた。葛藤するのは当然だろう。

「そうだな……けれど六隻すべて大破させなければ演習とはいえ我々は負けてしまう。未来から来た最新鋭の艦がここで負けてしまっては自衛隊にとって一生の汚点となるだろうな」

元の世界に帰れる道筋も見つからないため、暫くはこの鎮守府でお世話になることに決まったばかりだ。

弱いし役に立たねぇなこいつ(笑)と判断が下されしまえば、調査どころか海に出られず内地勤務になる可能性もありえる。それだけはなんとしても避けたかった。

「魚雷を目標の手前20mで自爆するようにセットせよ。この距離なら直撃しなくても十分損傷は与えられる」

「まさか敵潜水艦も魚雷攻撃されるとは思ってもないでしょうしね」

操縦妖精さんはにやりと笑みを浮かびながら魚雷を撃つのに最適な位置を微調整していく。

「その通り。おったまげるだろうな。さてソーナーはどうだ?」

「アクティブを使用するまでもなく、バッチリと聞こえますよ。距離1000、方位345、深度75m」

「頃合いだな。撃てるか?」

「えぇ、いつでも」魚雷にデーターを入力し終え、あとは発射号令を待つだけだ。

直後、発射号令が機長妖精から発せられると、97式魚雷が機体から切り離された。

着水すると同時にポンプジェットが作動し一直線に潜水艦へと向かっていく。

魚雷は暫く進むと潜水艦にとっては死の音色であるアクティブを強烈に発した。

また、クロードサイクルエンジンとポンプジェットを採用したことで高速化とキャビテーションの低減を実現可能させ最高で58ノット、時速にすれば約107km/hにもなる。

決して逃げられない死神の足音が刻々と潜水艦に迫っていく。

 

 

 

哨戒ヘリから魚雷が発射される少し前に遡ると、58は上にいたカ号のようなものが遠のいたことに疑問を持ちつつもまずは合流が先だと言い聞かせ海中をゆっくりと進んでいた。本当は全速力と行きたいところだが、焦ってはいけないと抑えていた。

元凶はプカプカと海面に浮いてるあれだ。

あれが投下されたとき咄嗟に回避行動を取ってしまったが、沈まず爆破することはなかった。

そしてブイみたいにプカプカと浮いている、ということは海洋気象ブイや津波ブイのように、この潜水艦の音紋をカ号のようなものに送信している可能性があると判断した。

このような判断が瞬時にできるのは日頃の訓練だけでなく、実戦も数多くこなしている。そのおかげかゴーヤのレベルは98と潜水艦娘の中ではトップに立つ。

(んっ、ちょっと待って……ブイのように音紋を集めているとしたら……いやダメでち。不自然にブイが消えたらかえって怪しまれるでちね)

ブイを海中に沈めようと思考したが消えればそこに潜水艦がいますよと自ら教えるようなものだ。

「悔しいけどそのままにするしかなさそうでちねぇ……」

恨めしそうにブイを見つめながら海中を進んでいると、僅かだが後方から魚雷の着水音とスクリュー音が聞こえた。

「えっ、なんで……?」

吹雪が敵艦に向けて発射したのかと思ったが、まだ合流しておらず、吹雪の機関音が聞こえないのと、聞いたことのない小さなスクリュー音であったからだ。

ゴーヤは混乱しつつもゆっくりと深度を下げていった。

 

経験からか、それとも直感なのか、胸の奥からざわわ、ざわわと得たしれない何かが満たされいくのをゴーヤは感じていた。

 

 

直後、強烈な探信音がゴーヤの身体隅々を叩いた!

潜水艦にとっては死の宣告音、アクティブだった。

しかも探信音はどんどんとこちらに近づいてきている!

「なっ……魚雷から探信音?!ありえないでち!!ダイブッッ!100まで一気に潜行するでち!」

すぐさま妖精さんに指示を出しベントが最大限に開かれ、注水されるとメインタンク内の空気が勢い良く減っていく。

日頃の訓練の賜物か素早く行え、滞ることなく順調に急速潜行することができた。

が、お構いなしに刻々と近づいてくる魚雷にゴーヤは焦りからかバタ足で速度アップを図りつつ急旋回も行った。

それはふぶきがいた現代戦ならばスパイラルターンと呼ばれる、急激な挙動をすることで気泡や渦を後方に作り迫りくる対潜魚雷を惑わす回避方法なのだが対潜魚雷は惑わされることなく、獲物をロックオンした肉食動物のように向かってくる。

(作戦失敗でち。まさかソナーと魚雷をセットにして対潜兵器にするなんてすごい発想でちぃ…)

賞賛すると同時に追いかけてきた魚雷がなぜか当たらず自爆した。しかしそれでも潜水艦を行動不能にするには十分の衝撃が襲った。

たまらず58は緊急浮上をした。

直撃しなかったとはいえ体のあちこちが痛むし水着もところどころ破れてしまっている。

「機能美溢れる提督指定の水着がっ……」

ため息をつきながら空を見上げると、どこからかロータ音が大きく聞こえてくる。音のする方向に目を向けると白色を基本とした哨戒機がこちらを近づいてきて、上空を旋回してきた。

本来ならば対空機銃で追っ払うところだが先程の衝撃のせいでオシャカになってしまった。

なにもできなかった58は悔しさに歯切りし、遠ざかっていく哨戒機をただただ見つめることしかできなかった。

 

58が哨戒ヘリによって大破したアナウンスが流れると会場内はもう茫然自失と化していた。

理解がもはやキャリーオーバーしていたのだ。

「艦載機まで化物……すげぇな」

提督は脱帽したようでため息つきながら会場内を見渡すと、もはやお通夜状態となってしまってる。

 

けれど皆の眼差しは諦めていない。

 

 

なぜならば彼女がまだ残っているから。

 

 

 

ある艦娘は彼女をこう呼ぶ 

 

"軍神"

 

 

 

 

ある海外艦娘は彼女をこう呼ぶ

 

"ミセス・ウォーズ"

 

 

 

 

 

ある深海棲艦は彼女をこう呼ぶ

 

"戦慄の吹雪"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矛vs盾

 

それは中国戦国時代から今日までの永遠の問題である。

 

その火蓋はもう間もなく切り落とされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらマイヅル、潜水艦の撃破確認。これより砲撃支援に移る』

マイヅルとはロクマルのコールサインである。そのロクマルは潜水艦の撃破を確認すると吹雪がいるであろう航路にむけて進路をとる。

「了解」

ふぶきはそれだけ言うと対水上戦闘に移行すべく主砲の最終チェックを行う。

レーダー上には単艦でこちらに向かってくる彼女の姿がはっきりと捉えている。向こうはECMとステルス性を意識した船体のおかげか未だこちらの存在を見つけていないようだ。

いくら高練度だろうが経験を積んでいようが、最新鋭イタリア産主砲と主砲用のFCSとロクマルの観測を組み合わせた砲撃は決して外れるわけがない。そう信じていた。

「抗うこともできず即死ね……ご愁訴様。対水上戦闘用意、目標吹雪、弾種通常弾、うちーかたはじめっ!てぇっ!!」

薬莢をカランと甲版に排出すると、火を吹いた主砲は硝煙を砲身から吐き出した。

そして1つ、もう1つと短い間隔で砲弾を連射していく。

808m/sの初速で放たれた3つの砲弾は吹雪が進むであろう未来予測航路に向かって寸分狂わず猛進してゆく。

 




そういえば新しいイージス艦が就任しましたね

「まや」と「はぐろ」でしたね。日本を守護る盾として頑張ってほしい。一番は平和が続いて使わないことなんですが世界情勢はきな臭くなってるよなぁ…

ふぶきはまだかぁ〜っっ!?

次話のタイトル「想定外」で送りする予定です!お楽しみに!


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16話 想定外

5ヶ月ぶりに投稿…ッッ(;´д` )モウシワケナイ…

今年は色んな所行き過ぎた…
舞鶴、佐世保、横須賀、呉…あれこれ日本四大鎮守府制覇してるやん


「はぁ……どこにいるんですかね。電探は未だノイズだらけで使えない……全く小賢しい手を使うなぁ」

吹雪や見張り妖精さんは双眼鏡を使いながら地平線をじーっと目を凝らして索敵を続けていた。

三平方の定理(ピタゴラスの定理)によれば地上から地平線までは4.6km前後あたりだろう。

「そっちも見えない?…まじかぁ」吹雪の身長よりも高い所にいる見張り妖精さんでも何も見つけられなかった。

「残り時間は30分……急がなきゃ」

主機の回転数を上げようとした矢先、向こうから矢のような鋭い殺気を直感的に感じた。

(んっ、何か来る)

すると、短い間隔で寸分狂いなく3発もの砲弾が襲いかかってきたことに心の中で感嘆した。

(おおッ♡)

吹雪は必要最小限の動きで3発すべてを舞うように回避した。

(あそこからということは、北北東辺りか)

飛んできた砲弾からおよその方向は分かった。

 

 

 

ーついに獲物を見つけた。

 

 

 

ーここまでけちょんけちょんにした輩は久しぶりだ。

 

 

 

ーあぁ、どう料理しようかなぁ。

 

 

ゾクゾクッと体を震わせ、狂乱の笑みを浮かべながら防風用眼鏡(防砲弾仕様)を装着し、エンジンブーストを使用する。スピードが上がる分向かって来る風は強くなるので必須だからだ。

すると排気口から黒煙がモクモクと上がりスピードが8%もアップし、横髪が後ろに靡いていく。

三回使用できるが180秒しか使えない制限持ちだ。乱用すると主機がイカれるからね仕方ない。

右、左と之字運動を繰り返しながら進んでいくと、また鋭い殺気を感知した。

(また来る 一発目は左足か )

右足を軸にし反時計回りで回転して躱した。

左足があった場所には勢いよく水柱が上がっていく。

回転を止めると、すぐ様次の砲弾が向かってくるのを捉えてた。

(素晴らしいッッ)

二発目、三発目も両足を狙ってきている。

「妖精さんたち、ちょっとごめんねぇ」吹雪は先に謝った。グッと足に力を込める。

『えっ、まさか…総員なにかにつか…』妖精さんが言い終わらないうちに吹雪は砲弾を避けるため前方宙返りをした。無論しっかりと足から着地し何事もなく進むが、艦内は阿鼻叫喚と化してた。

 

『うおおおおおぉぉ?!』

 

『世界が回った…??』

 

『あかん酔ってきた……』

 

『やばい新人が!!酔い止めと袋もってこーい!!』

 

『吹雪さん!もう少し早く言ってくださいよ!!』

 

「ごめんごめん。しかし思ったより厄介ですねあれ」

吹雪はこのようにアクロバティックな回避をすることが多々あるために、艦橋内等の配置は全員着席が基本となっており、それぞれの席には5点式シートベルトと緩衝器が備えられている。

 

ー今度は胴体ね

流石にアクロバティック回避術をするのは妖精さんにも悪い(というかこれもバカスカ乱用できない)ので右足を後ろに引き半身にして砲弾を回避していく。

「ふぅ…しっかし恐ろしい精度ね」

一つでも対応を誤ってしまえばいくら鍛えていても所詮駆逐艦の装甲では中破は確実。

まさに綱渡りの状態なので冷や汗をかきながらも集中力は途切れず、むしろ落ち着いており呼吸や周りの景色もモノクロでコマ送りのようにゆっくりとなっている。

吹雪はゾーンに突入した。眼からは白い電撃のような残像がバチバチッと走った。

 

「もっと楽しませてくれよ♡」

 

 

 

 

 

一方で護衛艦ふぶきの方はというと混乱と化していた。

「あたっ…てない?!ナンデ?!」ふぶきは思わずカタコトになってしまった。それほど衝撃は大きいものだった。それも当然、百発百中を誇る最新鋭のイタリア産主砲が本射でも当たらなかったのだから。

『座標は間違ってないだろ?!』

『間違ってない!なのに全弾外れるなんてありえねぇ……』

『試射で当たらないのはなんとか理解できるが本射すらとはどういうことだってばよ……』

『…機関室、主砲付近の異常は?』妖精さんは機関室と通信を試みた。計算が合っている前提だとすれば、疑われるのは砲がご機嫌斜めなのか。

『艦内状況表示盤にはなにも異常はありませんよ』

あっさりと否定され、CICでは不穏な空気が流れ始めた。

ならば、もう一度しっかり計算しなおせ、と発破をかけようとした矢先ヘリから通信が入った。

 

「こちら、ふぶき。なにかありましたか?」

『こちらマイヅル。信じられないかもしれんが……やつは砲撃を避けてるッ!』

何言ってんだオメーと全員が心の中でツッコんだ。しかしヘリから送られてきた映像を見せられるとぶったまげてしまった。

確かに彼女は砲撃をまるで踊るかのように避けまくっていたのだから。

そしてその映像はもちろん、ふぶきのコンタクトディスプレイにもはっきりと映された。

「ええぇ…そんなのありかよ」ありえない回避にドン引きの顔を浮かべた。

映像を見る限り反射神経、運動神経、動体視力はどのトップアスリートよりもはるか凌駕しているレベルだ。

 

 

モンスターと世界から絶賛されている最高傑作の日本人プロボクサー

 

 

神童と呼ばれている最強の若きキックボクサー

 

 

霊長類最強と歴史に名を残すレスリング選手

 

いずれも格闘技界のトップに立つ選手。

してあの動きができるのか?

否、もはやそれは漫画の世界である。

しかし彼女は漫画のようなこと平然とやってのけた。

(すごい……けれどね、身体能力が極めて優れようが所詮WW2の駆逐艦。現代の最新技術を詰め込んだ神の盾の有利は揺るがないのよ。それを今から嫌というほど教えてあげる)

「砲弾を赤外線誘導弾へと変更。戦艦らを狙ったときのように煙突部分を狙いましょう」

妖精さんたちに指示を出す。赤外線誘導なら絶対外れることはない。

『装填完了です。CIC指示の目標、025度、5マイル、目標吹雪型駆逐艦の煙突、撃ち方始め』

「撃ち方始め、発砲ッ!」

砲身が虎視眈々と上空を見上げ、テンポよく赤外線誘導弾を全弾撃ち尽くしていく。これで残りは通常弾と調整破片弾のみとなった。

(これで決める!!)

妖精さんも、ふぶきも強く願った。しかしその願いは無情にも届くことはなかった。

 

 

なぜならば…

赤外線誘導弾すら彼女は難なく避けたのだから

 

『だんちゃーく、いm……なっ、うそだろ?!全弾全て回避した模様!!』

『馬鹿な?!信じられん!!』

『なんなんすかあいつ?!』

赤外線誘導弾が外れた…その事実に艦内は落胆と怒号が響き渡る阿鼻叫喚と化していた。

「皆さん落ち着きなさい!」ふぶきは艦内放送でピシャリと制する。

それまで騒がしかった艦内がピタリと止んだ。

「認めましょう。正直WW2の駆逐艦だろうと私、いえ私たちは舐めていました……。しかし彼女は赤外線誘導弾すら避けて突破してきています。彼女はとてつもなく強いと。これより本艦は敬意を表し、全力で彼女を叩き潰します!!Z旗を上げ!!」

 

それまで意気消沈していた艦内のボルテージが一気に最高潮へと引き上げられた。

信号旗収納箱からZ旗が妖精さんによってシュルシュルと上に上げられていく。頂上までに達したときZ旗は優雅にバタバタと靡いていた。

かの日露戦争の日本海海戦において三笠のマストに【皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ】を意味を込めてZ旗を掲載したことは有名だろう。

 

『ふぶきさん!攻撃手段はどうされますか?』

「そうですね……」

(対艦ミサイルを使うにしてはもう距離が短すぎる……通常弾ではまた避けられる可能性大……ならば)

「調整破片弾と短魚雷を使いましょう」

『ええっ?!調整破片弾は対空用、短魚雷は対潜水艦用ですが……」

「だからこそ、虚をつけるかなと思って」

ヘリからの映像によれば彼女は最低限の動きで避けるそうだ。つまり砲弾と体との距離は短くなるということになる。

煙突部分から破片が入り込んで主機を一時的に使えなくすることや装甲が薄いところを狙って兵装や機動力を奪おうと考えた。

また、短魚雷は技術進歩のおかげで射程は20km近くまで延び、音響ホーミングのため追尾できるし、まさか魚雷が追いかけてくるとは思わないだろう。

体力は無限にあるわけではないのでいつか尽きる。本命は疲れたところに主砲による攻撃でとどめを刺すからだ。

 

私たち現代艦はアウトレンジ戦法が当たり前で近距離戦闘はそれ程重視していない。ただ米イージス艦を狙った自爆事件や某国の不審船事件を契機に重機関銃等を配備しているが、駆逐艦相手には付け焼き刃だろう。そうなると近接防御火器システム(CIWSとSeaRAM)による攻撃がはるかましである。CIWSは射程が短いという欠点はあるが発射レートが高く、20mmという口径とタングステン弾で装甲が薄いところに射撃すれば多少なりともダメージは与えられるだろう、と考えた。

一方、SeaRAMはというと対水上目標にも対応できるらしいが、そのような型はまだ海自には配備されていない。

「魚雷発射管は?」ふぶきは水雷長妖精に確認した。HOS-303短魚雷発射管は船体のステルス性を意識して従来の外部に剥き出しに置いてはおらず、内部に収容されてある。これはあきづき型を例に設計された。

『配置も終え既に旋回してありますが、まさか現代戦で雷撃戦をするなんて夢にも思わなかったですよ』

見ると扉が開いて発射管がコンニチハしている。

水雷長は短魚雷で攻撃をしましょう、とさらりと聞かされぶっ飛んだ発想をするやん、そんなんのできへんよ普通!と心の中でツッコんだ。

「まぁ対艦ミサイルなどの出現で雷撃戦は廃れてしまいましたが、いい経験にはなるでしょう」

『ぶっつけ本番ですが、ご期待には応えますよ』 ニヤリと微笑み、帽子を深くかぶり直した。

「砲雷長、調整破片弾への変更は?」

『こちらも既に変更終えました』

さすがの練度である。無茶な要請にも関わらず数分で態勢を整えた。

「よし、やりますか。左舷魚雷1番管、発射用意、発射っ」

バシュン、と圧縮空気によって打ち出された12式魚雷は水中に潜り36ノットで海中を散歩していった。昔の魚雷と違って航跡はできにくくなっているし、推進音も限りなく抑えられ、任意で魚雷の速度も変えられる。探知するのは限りなく難しいといえるだろう。

 

「頼んだわよ……!」

 

 

 

 

 

 

「ん~っ…??この推進音は聞いたことないし何より静かすぎるね。ソナー員どう?」1回目のエンジンブーストが切れた吹雪は得体の知れない音に気づき速度を落とした。

『推進音が小さく判別しにくいですが同じくこんな音は聞いたことないですね。我が艦隊の魚雷ではありませんね』

「だよね。そうなるとこれは、向こうが放った魚雷か」

吹雪はなぜ探知できたのだろうか。

 

ゾーンと呼ばれる極限の集中力に入ってる、というのもあるが常に鍛え、訓練し、栄養も摂り、近代化改修を行い、最前線で闘い、時には幾度も死の淵に陥るも数多の深海棲艦を屠ってきた彼女は必然的に成長を続けている。身体的な能力はもちろん、五感や経験はこの鎮守府の中でも断然トップを走っている。

そしてケッコンカッコカリと呼ばれる絆を結び司令官と愛を誓いあう儀式も行ったことでより強くなり、守護らなければならぬものができたのも一因である。

昔霧の艦隊のタカオが愛は沈まない!という名言はケッコンカッコカリして初めて分かった。

愛という力はスゴイ。どんな苦境でも肉体を、精神を奮わせてくれる最大級の魔法だ。

 

さて、吹雪は推進音の違和感だけでなく、もう一つの違和感を感じていた。

(なぜ一本だけ?)

基本的魚雷はまっすぐにしか進まない。そのため敵艦に雷撃戦を仕掛けるときは当たる確率を少しでも上げるため扇状に複数本撃つのがセオリーである。

(魚雷は陽動?それか絶対に当たる確信がある?それとも私が回避するのを見越した上で後ろの味方を狙った攻撃?どちらにしても厄介ね。)

特に3つ目の懸念は無線がECM攻撃によりいまだ使えず、これでは味方に警戒を呼びかけられない。

 

魚雷といえばかの大戦で伊19が放った魚雷が米空母ワスプに命中しただけでなく、外れた魚雷が10キロ先まで散歩してしまい別動隊の米戦艦と米駆逐艦に命中した事例があるためだ。

そうなるとやることは一つ、主砲や対空機銃、爆雷を駆使して魚雷を撃破するしかないが弾が当たって命中を阻止した例は限りなく少ないが、やらないよりはましだ。

主砲、対空機銃はすでに臨戦態勢を整えており、見張り員の数も増やしたので急いで爆雷を準備していく。

慌ただしく妖精さんたちが爆雷の信管をセットしていたら突如忌々しい音が強烈に聞こえてきた。

 

「ッッ?!魚雷からアクティブが?!」

まだ予定数の爆雷信管をセットしてないが回避が優先だ。作業している妖精さんに作業中止及び艦内に避難することを命令すると、妖精さんらは電光石火で艦内へと避難を終えた。

(しかも音がどんどん大きくなってるし、なにより雷速が速く航跡もこちらからは殆ど見えないッッ)

「見張り員ッ!雷跡は見える?!」

『こちらからも見えません!!』見張り員も魚雷がいるであろう場所へ必死に目を凝らすが、見つけられなかった。

(雷跡が見えないということは、酸素魚雷よりも優れた燃料を使っているか、深めに潜っているか。後者なら海中に向けて撃っても無駄かッッ……)

ならば残る選択肢は1つ、後ろの味方に当たる危険性があるが回避する他ない。幸いブーストは残り2回なのでしばらくは逃げられるだろう。

吹雪はここまでわずか数秒ほどで分析し、次とるべき行動を選択したがそうしている間にも魚雷は甲高く耳障りな音を放ちながら刻々と接近しているため、体重を右足にかけ面舵で回避していく。

航跡が美しく弧を引いている中魚雷がいるであろう方向を振り向くと、吹雪が元々いた場所を通りすぎていった。

 

(さぁ、どっちに行く?)

すると魚雷は後方の味方に行くことなく進路を自分の方向に向けて追いかけてきた。

「ちっ、そうくるかぁ!上等ッ!!」再度ブーストを駆使して機関を目いっぱいぶん回し、左へ右へと之字運動回避で魚雷を躱そうと試みるがストーカーの如しぴったりとついていてきている。

(ブースト焚いても振り切れないのか)

内心悪態をつきながらも時間を確認すると稼働時間は残り僅かしかない。このままでは追いつかれ被雷してしまうのは確実である。

 

この時点で吹雪が考えた方法はー

アクロバティック回避術、もしくは海面を蹴り走って突撃するか。

しかしどちらも著しく体力を消耗してしまうのが欠点である。

なら爆雷による撃破はどうか。

魚雷に当たれば撃破は可能だろうが確率は非常に低い。

(仕方ない、やれだけやってみよう)

信管をセットできた爆雷は全部で4つ。まず2つは投射機にセットし残り2つは手で持つことにした。

いったい彼女は何をしようとするのだろうか。

 

 

唐突ですがここで問題

人類が動物より優れている点とは?

直立二足歩行、一定のスピードで42km以上走る持久力、脳の発達等々…。

なるほど、どれも正解だろう。

しかし、物を投げるという力では圧倒的に優れているともいえる。

…チンパンジーやゴリラなどは手を使って投げれるだって?

 

確かに彼らは投げる動作ならできる…が、野球選手のように160km/hで正確に投げ、槍を90mも遠くに投げたりすることはできるだろうか?

槍といえば、旧石器時代では石槍を用いた狩猟が発達していき、突くだけでなく投槍することで獲物の攻撃圏内から一方的に狩ることができた。一説によればマンモスは高度に発達していった狩猟の殺りすぎで絶滅してしまった仮説もある。

 

 

話を戻すと、手に取った爆雷2つは投げるようだ。

爆雷を投げるという動作は艦娘という人型ならではのアドバンテージでもある。中にはアンダースローのように投下する子や、挙句にはGKのように爆雷を蹴る子もいたりする。もはやなんでもありの状態であるが、投射機や発射管が使えなくなることも十分に考えられるのでむしろ推奨しているところもある(もちろん我が鎮守府は推奨している)。

 

「よし、そろそろね」 

吹雪はググっと前かがみになり少しでもスピードを上げていく。そしてブーストが切れた瞬間、海面を蹴ったことによって水柱ができたかと思うと腕を前に振りさらに推進力を得ていく。脚を下に踏み込み海面の反発力を利用しながら回転数も上げていく。

世界記録を更新した世界最速男のような高身長ではないため大きくスライドするのは限界があったため、必然的に脚の回転数を上げていく他なかった。

しかし、ブーストで得たスピードの慣性+太ももを大きく上げられる股関節の柔軟性+強靭な脚力から繰り広げられる踏み込み+脚の回転数によってピッタリと付いてくる魚雷を振り切ろうとしていた。

 

そして十分離れたところでゴロンゴロンと後ろから爆雷を二つ落としていく。沈む速度はあまり速くないため離れないと巻き込まれる恐れがあるため、このように走りながら落としていく作戦にした。

設定された深度ー今回は5mと8mまで自沈した爆雷は信管が作動し水中で爆破してゆく。バブルパルス現象により水柱が大きく2つもあがるも、タイミングが悪かったのか魚雷はそのまま一直線に追いかけてきている。

「ちいっ」

舌打ちしつつも海面を左右に駆けていくが、心臓の鼓動は早くなり肺も焼け付くように熱い。足は鉛のように重くなっていく。

体力も限界に近づいてきているがさらに悪い知らせが妖精さんによって届けられた。

 

『前方から新たな音が2つッ!!』

「やっぱりそうだろうと思ったッッ」悪態をつきながらもどこか楽しそうに笑みを浮かべる。

(このままでは私の体力が先に尽きてしまう。恐らく向こうはそれが狙いでしょう。動けなくなったところを主砲でズドン、とかね)

その考察は当たっていた。実際ふぶきの主砲は寸分狂いもなくずっと見つめていたのだから。

 

「さて、一か八か賭けますかね」

まず前方から向かってくる魚雷に対して爆雷を思いっきり遠くに投げた。

美しい弧を描きながら着水した爆雷はゆっくりと沈んでいき、重ならず左右に水柱を作った。

タイミングがよかったのか、それとも偶然かは定かではないが2つの魚雷はバブルパルスによって航路が乱れた。

が、相手は未来の最新鋭の魚雷。所々へこんでしまっているところもあるが見事に立て直し再度獲物に猛進していく。

「立て直しやがったとは、面白いっ」すでに魚雷との距離は50m…40mまで迫っているが、慌てなかった。

ソナーから魚雷の速度は私たち吹雪型と同じくらいと判明していた。秒速に直せば約18m/sにもなる。つまり残り40mとなると対応時間は2~3秒前後という大変短い時間になるが、吹雪にとっては景色がコマ送りのように感じられた。

 

魚雷を引き付けると、ラグビーのような華麗なステップで前後三本の魚雷を躱す。これも船ではできない艦娘ならでは動きだ。

突如獲物を見失った魚雷はウロウロと迷走しかけるもアクティブによってまたも捉え、今度こそ逃がさないと最大速度である40ノットまで上げる。

(なっ、速度が上がった?!今までのは全力ではなかったのか……)

エンジンブーストのインターバルはあと30秒。2つの事実に愕然とするもゾーンの力を振り絞り、魚雷との逃走を繰り広げようとするも島風並みの速度で追いかけてくるのだからじりじりと距離が縮まってゆくため、逃げ切れないと判断した吹雪は次の一手を繰り出す。

(バク宙で回避しよう。ただ脚は限界が近づいているから一発が限度かな)

両ひざをぐっと曲げ力をこめようとした矢先、右横から殺気を感じた。横目でちらりと見ると、1つの砲弾がこちらに向かってきていた。

(狙いは頭か。ならこのままバク宙すれば問題ないッ)魚雷と砲弾の距離を見極め、トンっと軽く海面を蹴り上に高く飛び、脚を曲げ抱え込んで後ろに回る…まではよかった。

 

そこから吹雪の意識は一瞬ぷっつりと落ちた。

 

 

わずか数秒間で意識を復活できたものの、景色はグニャグニャ溶け、背中や脚あたりは激痛が走っていた。

状況分析しようとするもバク宙で回避した三本の魚雷がいつの間にか目と鼻の先まで近づいており思考する隙すら与えない。

回避のため立ち上がろうとするも力が抜けたようにガクリと崩れ落ちる。が、吹雪はこれを好機ととらえた。

 

 

液体をイメージして脱力し、そのまま重力に身を任せ体がドロリと落ちる。

 

 

落ちた加速を踵で踏みこみ、その反動で最速のダッシュを得た。

 

 

1秒後、吹雪がいた場所は3本の爆音を響かせる水柱が立っていた。

あと0.5秒ほど回避が遅ければ巻き込まれていただろう。

「あっぶな…ってまた来るっ?!」

正面には2発の砲弾が迫ってきている。

(間隔は狭いけど大丈夫、これも十分避けれる)

スピードを維持したまま身を沈め砲弾を下に通り抜けようとしたが、叶わなかった。

 

突如砲弾が頭上で爆破し、金属の高速シャワーが降り注いだのだから。

「がっ…?!」

激痛が襲い思わず顔をしかめる。とっさに主砲を盾にし頭部の致命傷は避けられたものの、3発も食らったため背負っている機関は穴だらけで所々煙を吹いており、背中や腕は血まみれでポタポタと海面に滴っていた。

(1発目のあれもそういうことだったのか…三式弾のようなもので対駆逐艦に使うという発想は素晴らしいね)

いつも通りギリギリまで砲弾を引き付けて最低限の動きで回避することにこだわっていたため、無数の金属シャワーを回避できず結果として中破まで追い込まれてしまった。恐らくあと数回浴びてしまえば大破判定だろう。

そうこうしているうちにまた砲弾が襲い掛かる。

最低限の回避はダメ、かといって最大限の回避をする体力やゾーンは切れてしまい回復までは時間がかかる。

残る選択肢は砲弾を撃ち落とすか、主砲を盾にして耐えて前進するか。

 

吹雪がとった行動はー前者。

もはや計算もクソもない。砲弾には砲弾をぶつけるしかない。

「上手くいってください…撃ち方はじめっ!」無駄のない動きで10cm連装高角砲を構え目視で狙いを定め、迷いなくトリガーを引いた。反動で体が僅かに後ろにそれるのを利用してさらに後ろに下がった。爆風などによる損害を少しでも少なくするためだ。

放たれた砲弾は真っすぐと狂いなく護衛艦ふぶきが放った砲弾へと向かい、直後爆炎を咲かせた。

「やった…!」初っ端からうまくいくとは思わなかったが結果オーライだ。小さくガッツポーズするも、すぐさま気を引き締めて警戒する。

が、数十秒経過しても殺気は感じられず、風の音とパチパチと船体が焼ける音や焦げた匂いが辺りを包み込んだ。

(止んだ理由は分からないけど、今なら距離を詰めるチャンス!)

体力面ではだいぶ回復できたものの、機関はしばらく使えそうにないためマラソンのように海面を駆ける他なかった。

 

 

彼女は倒れても何度も何度も立ち上がる。それはまさしく執念の塊であり、味方も吹雪の背中を追うように士気があがる。まさしく“軍神”、“ミセスウォーズ”。

 

そして、勝てると思っていた深海棲艦や演習相手である艦娘は驚愕、畏怖、恐れ、絶望し、精神を容赦なくへし折り、実力で屈服させる。

 

また、吹雪の武勇伝をほんの一例紹介すると

 

ー演習で単艦だったため、戦艦置いたし大丈夫だろうと突撃させたら撃退された。

 

 

ー吹雪に集中攻撃させたのにやけに静かだと再度探索してみたら、深海棲艦の遺体や艦載機の残骸があちこちに散らばっていた。

 

 

ー来るぞと叫んだ演習艦隊のうちの一人が、次の瞬間後ろに吹雪が現れ、主砲や魚雷を使わず恐ろしく速い手刀によっていつの間にか倒れていた。

 

 

ー「そんな駆逐艦いるわけがない(笑)」といって攻撃しに行った6名の深海棲艦が、半日で全員スクラップになって発見された。

 

 

ー「たかが古臭い特型駆逐艦でなにができる(笑)」と突撃した深海棲艦らがボコボコだらけでしかもありとあらゆる関節がありえない方向に曲がった状態で発見された。

 

 

ーバシー海峡(台湾)付近でうろついている深海棲艦からのあだ名は「絶望」と呼ばれているとかないとか。

 

“戦慄の吹雪”は伊達ではないのだ。

 

 

 

 

「うそでしょ…」

ふぶきの精神はまさに折れようとしていた。護衛艦内はお通夜の雰囲気となり果てたほど静まり返っていた。

頼みの綱であった魚雷と調整破片弾でも決定打とはならず、挙句の果てには砲弾で砲弾を撃ち落されるというびっくり仰天なことをやってのけたのだ。

現代艦ならば不可能なことではないにしても、まさか第二次世界大戦時の駆逐艦が行い、しかもコンピューターで計算された砲弾コースを恐らく目視で2発のみで成功したことにとても強いショックを受けていた。

先ほどの旺盛な士気は一気に飛ばされ、どん底まで突き落とされてしまった。

 

「6人相手でも絶対勝てますよ(意訳)」と演習前にドヤ顔で執務室に放った言葉がこうも恥ずかしく聞こえる。このままではイキっている自称未来の艦娘(笑)と後ろ指刺されてしまう可能性もある。

しかし有効な攻撃手段が思いつかないのが現状だ。なんとか現状を打破しようと頭をフル回転する。

「やばいぞこりゃ…えっとえっと、あと残っているのは…あれを積んだヘリ。2つでも駄目なら3つ同時に仕掛けるしかない。そして装甲が薄いからシャリシャリ出てこないだろうと読んでいるなら、あえてタイミングよく目視距離まで出て混乱させる手もありね…」

(イージス艦のアドバンテージがなくなるなぁ)、と苦笑しつつも無線でヘリにプランの発動を伝えた。

 

無線を受け取ったヘリの妖精達は伝えられた内容に驚いたが、それほど追い込まれているとひしひしと感じた。

『まさかこいつの出番があるとはなぁ』ドアガンを任された妖精さんはよっこいしょとイスに座り、コッキングレバーを引く。

『あれを彼女の目視外ギリギリの4.7㎞から撃った後は、一気に近づいて気をそらすためにそれをばら撒く。対空機銃は一通り潰したそうだがまだ主砲が残っているため、あまり近づくと餌食になるが、かといって遠くても意味ない。操縦士、腕の見せ所だぞ』機長妖精は発破をかけた。

『任せてください。一泡吹かせてやりますよ』

『ついでにスピーカーとワ〇キュー〇の騎行がありゃ完璧なのにな』誰かがぼそりと呟やいた。

確かに、と機内は笑いに包まれた。

『無いなら脳内でワル〇ューレ流すしかないな(笑) 。さぁ気を引き締めて行くぞ』と機長妖精が冗談も言うも直後に活を入れ機内はピリッと空気が引き締まった。

指揮操縦士妖精はサイクリック・スティックを前方に傾けると翼の回転面が前へと傾けられ、ヘリコプターの機首が下がりながら高度も低下し、海面ギリギリへと前進飛行してゆく。

数分間低空飛行をしたヘリは射撃位置に到着した。高すぎず低すぎず絶妙な距離を保つのは神経を使う。操縦士は高度計や外の景色を何度もにらめっこしながら微調整していくホバリング低空飛行へと移行した。ホバリングが安定すると到着したことを無線で伝え、あとは彼女の号令を待つだけだ。

待つ間も気が抜けない。対空砲火が襲ってくるかもしれないし、風がいきなり変わって海に叩きつけられる可能性もありえるため、臨機応変な対応をしなければならない。操縦士はじんわりと熱が体中を籠っているのを感じた。

 

すると護衛艦から再度無線が入った。

「こちらふぶき。マイヅル、ヘルファイアの射撃を許可する。繰り返す、射撃を許可する」

『マイヅル、了解。射撃する。目標正面、駆逐艦吹雪!距離4700、発射用意!…発射ッ!!』

ロケットモーターに点火されオレンジ色の炎を吹きだしながら対艦用・AGM-114N ヘルファイアⅡが放たれ、薄白い尾をなびかせながら超低空で駆けて行くとともにロクマルも吹雪に近づいていく。

 

 

ふぶきのレーダ画面にはスピードを上げるロクマルと駆逐艦吹雪、放たれたヘルファイアⅡの合計3つの光点があった。

ヘルファイアⅡは無事に発射されたようだ。

「よし…さぁて、こちらも行くわよ!機関全速前進ッ」

ガスタービンエンジンはご機嫌よく独特の唸りをあげて海面を駆けてゆく。

 

 

 




冬コミ&艦これコンサート楽しみれす(^q^)



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17話 想定外2

コロナウイルス流行ってますね。

そのせいでサンリオコラボのキリンボクカワウソランド最終日中止になってしまったよ…。
Jリーグも延期になってどうなるんですかねこの先。早く収束してほしいです。

とりあえず一般人ができることは人混みにはなるべく行かずに、手洗いうがいに栄養を取ることですね!


 演習もいよいよ終盤に差し掛かってきた。

お互いの距離はすでに5㎞をきっており、もう間もなく目視距離に入ろうとしている。

さらに吹雪から見て左4km先にはロクマルが超低空で飛行していた。

「なにあれ?!」と、吹雪が異変に気づいたのは聞きなれない初めての音と殺気を感知したからだ。

そう、ヘルファイアⅡとの距離はすでに1㎞まで迫っていた。

見慣れない2つの物体が超低空でこちらに来ているのを確認すると、すぐさま回避行動をとりながら対空射撃体勢へと整える。

(第一優先は噴出弾のようなもの!次にオートジャイロっぽいのだけれど…なんか遅い?)

先ほどの噴出弾(17式対艦ミサイル・1150㎞/h以上)を見た吹雪にとってヘルファイアⅡは物足りない速度であっただろう。

しかしながら、あの時の噴出弾のように命中率は100%であったため油断はできない。

「くっ、あれより遅いけど海面ギリギリ飛行してるから、狙いにくいったらありゃしない!」

対空機銃は調整破片弾による攻撃で使い物にならなくなってしまったため、10cm高角砲+高射装置による対空射撃をする他なかった。

最大で毎分16発も放てる高角砲の砲弾でも、ただむなしく通り過ぎたり海面に突っ込み、水柱を作るものばかりであった。

「間に合わない…避けなきゃ!」

ギリギリまで粘ったものの噴出弾には一発も当たることはなく、吹雪はスピードをあげ回避に専念していく。

ギリギリまで引き付けられ急に大きく回避したためかヘルファイアⅡは超低空のまま吹雪の後ろを通りすぎていく。

(まぁこいつもどうせ追尾するんだろうなぁ)

あの魚雷のことを思い出しいやそうな顔を浮かべながら右に顔を向けたが、あの噴出弾が視界からいきなり消えていた。

「…はっ?」と、はてなマークがたくさん浮かんだような顔でキョロキョロと左右を見回した。

(えっ、どこ行った?!前、後ろ、左右、いない…そうなると残りは…ッッ?!)

吹雪は殺気を感じばっと空を見上げると、そこには上昇を終え、こちらにめがけて落下する噴出弾が視界に入る。

「畜生めッッ!!」

盛大に舌打ちしつつもありったけの砲弾を噴出弾に向けて打ち出そうと再度主砲を空にへと構えた刹那、殺気と光の筋が空からではなく護衛艦がいる方向から感じ取った。

その光の筋は腕まで延びていた。対空射撃体勢のため両腕は伸び切っており、もしこのまま砲弾が直撃してしまえば腕はあらぬ方向へと曲がり、最悪開放骨折してしまうだろう。

(やばい想像してしまった…しかし間に合うかこれ?!)

タイミングは最悪中の最悪。完全に避けることは難しいと判断した吹雪は少しでも被害を減らそうとわずかにバックステップし、護衛艦からの砲弾は右主砲にへと着弾するように位置調節をしてゆく。

真正面にはヘルファイアⅡが、左には砲弾が向かってきているため両腕を九時のように開かなければならない。

(上手くいく保証はないし、見た目的にもあまりこれは使いたくなかったけど)

ふぅ、とため息つくと、吹雪は左眼だけを動かした。

“外斜視”と呼ばれる片方の眼を別の方向に動かして見る技術である。

武術だと片方だけの“散眼”に近い。古代インドにて僧たちが四方八方から迫りくる矢を避けるために編み出された技だ。

訓練すればできるようになるが吹雪の懸念通り、見た目があまりよろしくないのが欠点だろう。

「お願い!当たって!!」対空射撃を開始しようとした途端、ソナー員の悲痛な叫びが耳に入った。

『またあの音と魚雷です!今度は3本ッッ!!』

(なっ、なんて最悪なタイミング…ッ)吹雪はぶわっと冷や汗が溢れ出た。

 

 数分前

護衛艦ふぶきのほうでは更なる飽和攻撃を仕掛けるべく、準備していた。

協議した結果、3段階に分けられた。

ロクマルによるヘルファイアⅡを用いた対艦攻撃はすでに放たれ、目視外からの主砲射撃による攻撃とロクマルが接近してドアガンからの射撃が第1フェーズ。

直後、残りの魚雷をすべて放つまでが第2フェーズ。

ここまでうまくいかなければ、目視距離まで接近して水平線からちょっと顔を出すように主砲でちまちまと攻撃し、意識がこちらに向いた時に最後のヘルファイアⅡを放つまでが第3フェーズであった。

ヘルファイアと魚雷がうまくいけば第3フェーズは行わなず、中破している瑞鶴に対し最後の攻撃を仕掛ける。

「これでもうまくいかなかったらどうしよう…」

かなりの損害は与えたが、ここまで常識外れの回避をたっぷりと見せつけられたため不安がぐるぐると渦巻いていた。

頭を悩ませているうちにアタックポイントに到着しようとし、流れるように操艦号令を出すと左に回頭していく。主砲と右舷魚雷も展開し吹雪の方へ睨んだ。

この時点で駆逐艦吹雪との距離は4.8㎞。あと数百メートルも進んでしまえばお互いの姿はギリギリ見えるところまできている。

(あー怖い…某怪獣映画で護衛艦がどういうわけか某怪獣王に接近し、当然熱戦でフェードアウトしたのを思い出しちゃった。っとそろそろね)

気持ちを切替え、ふぶきは主砲のモードを手動を選択した。

自動なら機械が勝手に調節し最適解なところへ砲弾が飛んでくれるありがたいものだが、今回の相手の場合分が悪い。

では、発射タイミングなどいくつか応用が効く手動ならば試してみる価値はあるだろうと判断した。

「撃った1秒後に魚雷を全て投下します。そちらはいつでも撃てますか?」

『はい、ばっちりです!』

『水雷員に冥利につくなぁこりゃ』

まさか水上艦相手に全魚雷を投下するとは思いもしなかったが、あと一歩まで追いつめていたということもあり士気は高く保たれたままだ。

「よろしい、では始めましょう」

『了解。CIC指示の目標、050度、2.98マイル、目標駆逐艦吹雪。撃ち方始め」

「撃ち方始め、発砲ッ!」

一発の砲弾が撃ちだされるとすぐさま次の号令をかける。

「右舷魚雷2.4.6番管、発射用意、発射っ」

魚雷はトラブルなく全ての発射管から圧縮空気とともに吐き出され海中を進んでゆく。

「流石です。さぁ、あとはどんどん驚かせましょう」

 

 

 

 吹雪はあまりの情報の多さに脳内がさすがにパンクしそうになった。

前、横、海中だけでなく、後ろからは得体の知れないオートジャイロが迫っているのも大きなストレスとなっている。

飽和攻撃は特別海域で深海棲艦によって何回も仕掛けられたことがあるも、今回の攻撃精度は群を抜いていた。

(一歩でも対応間違えたら死ぬわこれ)

そのような状況でも吹雪は冷静に、そして楽しんでいた。

まず落とすべき最優先は噴出弾、次に砲弾、オートジャイロ、最下位に魚雷となった。

(せめて後ろの対空機銃が使えればオートジャイロにも同時に行けたのに…)

先ほどの調整破片弾による攻撃で機銃等がボロボロになってしまったためだ。

無いものは嘆いても仕方ないと割り切り、まずは目の前の脅威を排除すべく引き金に力をこめた矢先、機関銃の音とともに小さな痛みが体のあちこちに走った。

「はぁっ?!」これはさすがに想定外すぎた。

あのオートジャイロは機関銃も装備していたことに!

そのせいか殺気を感知するのが遅れてしまった。

幸いなことは機関銃が小口径でありダメージはほぼなかったこと、不幸なことは一秒にも満たさない時間であるが、意識がオートジャイロとそこから放たれる機銃に向けてしまったこと。

(しまっ…) 

追尾する噴出弾はもう目と鼻の先にいた。

なにもしなけばこのまま頭に直撃してしまうだろう。

脳内では超高速で選択肢が浮かんでは削除されていった。そこから導き出された回答とは…。

右主砲を投げることだった。

主砲がオシャカになることは確実だが、弾薬たっぷりの誘爆によってダメージを与えたと勘違いする可能性もある。わざと海面に倒れるのも忘れない。それを“餌”として使うことにした。

今までもそのような餌をまくことで深海棲艦を釣り出し、止めを刺そうと近づいた所を逆にボッコボコにしてあげたり、味方が囲んで殲滅させたりしたこともある。

覚悟を決め主砲を投げ大きめにバックステップで下がった瞬間、ヘルファイヤⅡが起爆し火球とともに辺りに衝撃波が生まれた。

その光景はまさしく地獄の業火そのものだった。

 

 ヘルファイアⅡは艦船用に金属サーモバリック弾頭を採用している。

BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)とUVCE(自由空間蒸気雲爆発)の現象を応用した兵器であり、従来の金属片による損傷ではなく爆発衝撃波そのもので損傷させる。

装甲の薄い駆逐艦や護衛艦は上部構造がめちゃくちゃになりえる。とくにイージス艦などは高価な電子類が外部に剥き出しになっている物が多く、目を潰すこともできる。

さて、そのような兵器が人体に対して使用されたならば無論言うまでもない。

鼓膜破裂、眼球破裂、皮膚の裂傷、内臓破裂等々、生命維持に係る器官が軒並み破壊される。

勿論艦娘も例外ではない。

大半のダメージは艤装や服が身代わりとなって壊れたり破れたりするが、とあるキャパを超えると身体に支障がでることもある。

 

 至近距離で食らった吹雪はというとわざと倒れていたわけでもなく、吹き飛ばされノックダウンしてしまっていた。

幸運だったのは鍛えていたこと、バックステップで下がったこと、砲を投げたことで少しばかり衝撃波を食らうのを防いだことだがそれでも容赦ない衝撃波が吹雪を襲った。

何秒気絶したのか分からなかったが、演習中だと思い出し勢いよく立ち上がった。

しかしその1秒後、なぜか目の前に海面が迫っていた。

(~~~っっ!!!???)

勢いよく顔から海面に突っ込んでしまいおぼれかけたものの、なぜ目の前に海面があったのか理解できなかった。

今度はゆっくりとひざ立ちしながら起き上がるも、先ほどのあれとは比べ物にならないほど景色がグニャグニャドロッドロに溶けており、激しい耳鳴りと痛みで聴力は一時的に失われた。

それだけでなく穴という穴から出血しており、呼吸するたびに肺にするどい痛みが走り、気管もまるで超高温の鉄棒を入れられたかのように熱く感じた。

鼓膜は破れ、肋骨は折れて肺に刺さり気管も火傷。

服はボロボロに破け、結んでいた髪はほどけチリチリに焦げている部分もある。

横隔膜もショックでせり上がっているためうまく酸素が取り込めない。

すると鉄の味がすぐそこまできていた。

どこかの内臓が損傷でもしたのだろう。

鼻腔に鉄の匂いもしている。

「ガハッ!!!」耐えきれず思いっきり吐血してしまった。気道が火傷しているため吐血するたびに熱いナイフで刺されたような激痛が走る。

(手足がもげなかっただけでもマシだ…) 肩で大きく息するも酸素が体の隅々まで行き渡らない。

吹雪は過去に連合艦隊第二旗艦でラスダンボスマス前のところで、ツ級からの魚雷攻撃で脚がおさらばしかけたことがある。出血は止まらず骨もコンニチワしていたため応急処置を施したものの、さすがに三途の川を渡りかけた。

「なにか忘れてるような……あっ!?」 まだ頭がクラクラするも慌てて海面を見渡す。

あの時忌々しい音を放す魚雷が3本放たれていたことを。

かすかに残った聴力でなんとかあの音を聞き取れたものの、もはや回避するには遅すぎる距離まで迫っていた。

「クソがッッ!!」

もしアメリカンな艦娘がいたならf〇ckを連呼していたに違いない。

眩暈と格闘し血反吐を吐きながらも足を動かすが時すでに遅く、吹雪はバブルパルス現象によるジェット衝撃によって生まれた水柱に巻き込まれ、勢いよく海面に叩き付けられた。

 

 

 その様子をパブリックで見ていた会場は大きな悲鳴がいくつも上がる。

そうなるのも無理はないだろう。

吹雪たちがここまでコテンパンにされてしまうのは久しいことであった。

 

負けてしまうのか

 

あの軍神が

 

あのミセスウォーズが

 

あの教導隊が

 

不敗神話がいまここで崩れてしまうのか

 

 

彼女はどんなにボロボロになろうが立ち上がってきた。

ほらそこには不敵な笑いを浮かべている吹雪は

 

いなかった。

 

水柱が消え画面に映っていたのは

 

神が神に討たれ地に伏していた。

 

 

 

 

 

 

 

 『主砲弾は命中せず!されどヘルファイア、魚雷とともに命中!』

ふぶきは火球と水柱を目視で確認でき、CICや艦橋では歓喜に沸いていた。

『なお目標は動きがありません!』

『これはkill判定か?!』

ちょこまかと回避していた彼女にやっと大ダメージを与えることができ、しかもようやく動きも止まった。

そのことに少しばかり安堵の表情を浮かべる者、勝利を確信し小さくガッツポーズする者、気を引き締めて第二次攻撃を検討する者様々な反応が見られた。

(流石にあれだけの爆破なら撃破確実かな…。実際レーダー上でも彼女はピクリとも動いていないから第3フェーズは中止。さて、残りは空母瑞鶴のみ。この時間まで艦載機が発艦できていないということはダメージコントロールは間に合わなかった様子ね。対艦ミサイルで止めを刺したいところだけど距離的に短いかな)

こちらから近づいたというものあるが、瑞鶴は先程の対艦ミサイルによる攻撃でどうやら舵取機や電動機まで被害が及んでいるようで操艦が難しい状況の為、ゆっくりとした速度で進んでいる。

そのため、ふぶきと瑞鶴の距離は8kmを切っていたのだ。

(主砲弾の残弾はまだ余裕だけど127mmだからなぁ…。なら07式垂直発射魚雷投射ロケットのほうがいいかな。これも対艦向けじゃないけど実験と割り切ればいいか)

短魚雷といい07式垂直発射魚雷投射ロケットといい全て対艦用になってしまったことに苦笑した。

今回は2セル分積んでおいたが、優秀なヘリのおかげで潜水艦に対して使うのは次回に持ち越しとなったが。

「水雷員の皆さん、もう一仕事しますよ」

『うっひょおおぉ!?』

『まじかぁー!!』

水雷妖精さんらのテンションは最高潮になっていた。それに引き付けられるように艦内を包んでいた暗く重々しい空気は彼方へ吹き飛んでいた。

ふぶきだけでなく艦内にいる皆、あの攻撃なら彼女に勝てるだろうと思っていた。

 

最強の対戦車ミサイルと名高いヘルファイア。

潜水艦絶対殺すマンの12式魚雷。

イタリアが生んだ傑作砲127/64砲。

この現代兵器の三重奏は必ず屠れると。

 

しかし、その認識はお花畑のように甘く、70年間平和という沼にどっぷりとつかった弊害と現代兵器の過信は鎖のように脳内をがんじがらめにしてしまった。

それだけでなくもう1つ致命的な犯しをしていた。

 

ほんのわずかな時間であるが、彼女に対して警戒を緩めたところだ。

例えるならば、猛獣相手に背中を見せたことに等しい。

実際に某動画サイトで子供が強化ガラス越しに肉食動物を見つめており、肉食動物もじっと見つめていた。そして子供が撮影者に振り向いた途端に肉食動物はまるで獲物に食らいかかるように飛びついた。

幸い強化ガラスの覆われた檻であったが、もしそれがサバンナならばあっという間に肉食動物のご馳走になっていただろう。

 

しかも演習とはいえここは戦場。

少しでも隙を見せてしまえば魔物は容赦なく牙をむいてくる。

 

ふぶきは後悔した。

なぜ一瞬だけ彼女に対し意識や視線を外したのか。

ぞわりと心臓が冷たく捕まれているような?

死神が首に鎌をかけているような?

そんな気がした。

力いっぱい機関一杯、と叫ぼうと肺に酸素を入れた同時にCICと見張りから

『敵艦から発砲!!2発…いや4発!!』と悲鳴に近い声が聞こえた。

「はあっ?!砲弾はどこ…つっ?!」

ふぶきはコンタクトに表示された情報を見るとなんと海面スレスレに、次弾は放物線を描くように上から飛翔していた。

慌ててヘリからの映像を確認すると、倒れながらも砲をこちらに向けているのが確認できた。

(意識を失いながらも砲撃…なんという精神力!)

心の中で称賛しつつも号令を速やかに出していく。

「機関一杯ッッ!回避運動!艦をやや真っすぐに立てたらすぐさま後進に切替えて!主砲、CIWSオートッ!!」

少しでも被弾面積を小さくするのが狙いだ。完全に真っ直ぐにしないのはSeaRAMの死角にならないようにするためだ。

機関が甲高い唸りをあげ海面が勢いよく泡立ち、調整破片をセットした砲身と2つの近接防御兵器が恐ろしい速度で旋回しピタリと睨む。

同時に本能的に危機を知らせる警報音がオーケストラのように鳴り響き、Mk.137発射機から自動的にチャフやフレアがまかれてゆく。

「面舵回頭する、動揺に注意!」

艦内に注意を呼びかけ速度を保ったまま面舵一杯の回避運動をしたため、体が右へと引っ張られる。

『うおおぉっ?!』

『耐えろーっ!!』

妖精さん達も艦内を転がり落ちないようにイスに座りながら必死に掴まっている。

『ひゃぁ…海面が近い…』右舷にいた見張り妖精さんも青ざめた顔しながら海にボッシュートされないよう万力の力をこめて耐える。

『わー空だ…』左舷の見張り妖精さんも同じように耐えていた。

まずは脅威度が高い低空で飛翔している砲弾から狙い、主砲で弾幕を張っていく。

まず一発撃ち墜とすことに成功した。

残り3発。

すぐさま高性能20mm機関砲より射程の長いSeaRAMがミサイルを3発発射した。

前後の蓋がポンッと取れ、バックドラフトとともにキャニスターから発射されたミサイルはライフル銃弾のように回転しマッハ2.5で飛翔していくと、近接信管が作動しあっという間に花火を咲かせた。

しかし、最低飛翔高度が1.5mであり、それ以下を飛んでいる物体を落とすのは難しくなるため成功したのは1発のみであった。

残り2発は低空と上空から襲来している。

面舵でやや真っすぐに立てたところで一気に後進に切替え、慣性でガクッと前のめりになりつつも耐え、徐々に後進していった。

砲弾との距離が1.5kmまで迫ると、高性能20mm機関砲も火を噴き濃厚な弾幕を張った。

機関砲の回転が安定するまでは弾がばらけてしまいなかなか当たらない。

「まずい…墜ちて!」

それでも無数のタングステン弾芯高性能徹甲弾が襲い掛かり、なんとか撃墜に成功したのも束の間、距離が500mまで迫っていたため、爆風や破片が高速で降りかかった。

しかも、低空で飛翔していた砲弾の一部破片は水切りのように襲い掛かってくる。

「見張員は艦内に退避!総員対ショック体勢をとれ!!」

見張り員が艦内に退避したと同時に大小様々な破片がふぶきの体に刺さったり切り傷を作った。

「いっつ…!」思わず顔を苦痛にゆがめる。頭部はとっさに守ったものの手足を中心に傷ができ、出血も見られた。

「被害状況報告…えっ?!」

コンタクトにとあるシステムのエラーが表示され、目が点になる。

 

“ECM使用不能”

“前方SPY-1一部損傷”

 

ツぅっと冷や汗が流れた。

 

「まさか…」

NOLQ-2Bがある場所に顔を向けると、悪い予感は的中しズダボロになっていた。

デリケートな高価電子機器が剥き出しになっていることが多い現代艦の弱点が露呈し

、イージス艦のアドバンテージが崩れた瞬間だ。

幸い武装や機関等のハード面は無事であるものの、電子妨害が使えなくなったのは痛い問題だ。

ならチャフやフレアを展開すればいい話であるがそう簡単にはいかない。

Mk.36 SRBOCはレーダー警報受信機などと連携し、自動的に対抗手段を投射するシステムのため脅威がなければ投射はできないからだ。

SPY-1も穴が開いてしまったがアレイ端子がたくさんあるため、システムは失われることはなかった。

一部が損傷してしまってもSPY-1は4面で相互補完しているので、無事なSPY-1がカバーすればいいだけだ。

また、護衛艦のほとんどはステルス化のために傾斜船体をしているが、RCSを低減させる気休めでしかならない。

第2次世界大戦時の電探上ではとても小さく映るだろう。まるで漁船がそこにいるかのように。

しかし、演習中の演習場においては一般人は立ち入り禁止となっているため、そこにいるのはふぶきしかいない。

演習開始から45分

教導隊はようやく彼女の姿を小さながらも捉えることができた。

 

 「電波障害が消えたわ!吹雪がやってくれたのね…無駄にはしないわ!第二次攻撃隊。稼働機全機発艦急げっ」

装甲化と優秀なダメコンのおかげでなんとか発艦できる状態になった瑞鶴は、痛みをこらえながらも残りの弓矢を全て放つ。

時間的にもこれが最後の攻撃になるだろう。

運よく生き残った攻撃機、雷撃機は数少ないながらも一矢向こうと士気は高く、エンジンを轟かせ一機、また一機と大空へ翔けてゆく。

 

 




次回で演習編は終了します。

誤字や脱字などがありましたら報告宜しくお願いいたします。

それでは皆さんコロナにもお気をつけて





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18話 演習終了ス

緊急事態宣言が解除されたとはいえ慢心はダメ、絶対!

コロナ収束したらカレー機関やリアイベ行きたいネ



 数十分前に這う這うの体で情報を伝えに来た2機の烈風改が戻ってきたのを見て、瑞鶴は第一攻撃隊が壊滅したと初めて分かり青ざめた。

「嘘でしょ…」

ショックをうけつつも着艦しやすいように飛行甲板を水平に動かし、烈風改が着艦すると同時にダメコン作業を終えた妖精さん等が次々と集まってきた。

烈風改から降りた妖精さんらは声を震えながら報告する。

 

ーいきなり味方の航空機が爆ぜた。

 

ー百発百中で当たり、回避してもあり得ない速度と機動で追いかけてくる墳進弾。

 

ー運よくあれを切り抜けても、今度は主砲でハエ叩きの如し撃ち落されていく。

 

その証言は瑞鶴にも伝えられ、至急対策を練らなければならなかった。

レシプロ機よりも高機動で速い墳進弾から逃れる術はどう考えても無理難題である。

『ならその墳進弾を消費させていけばいいのでは。ただし特攻するのではなく瑞鶴の高角砲を使ってやつの対空兵器を少しでも消費させよう』

「えっ砲撃するの私が?!」

確かに12.7cm高角砲は対空用だけでなく対水上戦闘でも使える万能砲でもあるが、空母が高角砲で砲撃戦するなんて思ってもおらず瑞鶴は不安そうな顔を浮かべる。

その理由は対水上戦闘の訓練なんてあまりしないためだ。

勿論味方が大破しまくって、艦載機も全滅し空母1人になってしまう場合も想定しなければならないが、そのような訓練は年に数回あるくらいだ。

史実では赤城が多段式空母のころ、万が一のため主砲を積んだ歴史があるが、無用の長物になってしまった経歴がある。

『なるほど、補給艦もいないし魔法でも使わない限り弾を補給することは不可能だな』

『あと密集陣形をとらずに、各自距離を開けて超低空で飛行したほうがいいな』等々と妖精さんらが案を出していく。

出た案を瑞鶴が最終的にまとめると以下のようになった。

 

・被弾時で主機まで損害が及んだフリをしてゆっくり漂流っぽく接近する

 

・おおよそ10kmまで近づいたら発艦開始し、全て発艦したら高角砲による攻撃を始める

 

・なお攻撃隊は海面ギリギリを飛び、密集は厳禁とする

 

『後はないな?よし!まとまったことだし一矢報いてやろうじゃないか』

『そういやアメリカの妖精さんはこういう時なんていうか知ってるかい』

皆ニヤリと笑い、声を揃えて言う。

『撤退クソくらえ!』

士気は最高潮に達しそれぞれの機体へと乗り込んでいった。

 

 

 対艦ミサイルによる攻撃で、二次攻撃のため甲板に並べてあった16機は爆風などにより使い物にならなくなってしまったが、格納庫にあったものはなんとか無事だった。

とっさに右腕でかばったがもし反応できずそのまま飛行甲板に直撃していたら、装甲を施しているとはいえ大破は確実だったに違いない。

瑞鶴は幸運の女神に感謝した。数少ながらも艦載機は無事で彼女を屠れるチャンスがあることに。

右腕は応急手当で随分マシになったが痛みが完全に消えたわけではない。

握力はまだ弱弱しく、弓を引くたびに激痛が走るが千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないと鼓舞し、無事だった攻撃隊20機と爆装を終えた2機の烈風改を全て発艦させた。

「頼んだわよ…しかしほんとに小さく映ってるわね。ステルスって眉唾物だと思ったけどすごいなぁ」

けど、と一呼吸おいて瑞鶴は不敵な笑みを浮かべる。

「いくら小さくしてもそこにいることは分かるし、ゼロにすることは難しそうね」

しばらくゆっくり進んでいると高度をとった烈風改から情報が入り、左舷側の12.7cm連装高角砲4基が砲上下角度を調節し空を見上げる。

「まさか空母がこんなことするとは思ってもないでしょふぶきさん!左舷、砲撃戦用意!」

撃てぇ!とやけくそ気味な号令と共に12.7cm高角砲が1門ずつ間隔を開けて火を噴いた。

 

 

 『隊長、瑞鶴から発砲確認!』

爆戦の後部に座っている妖精さんが確認し隊長妖精さんに伝えた。

『了解。あの陽動が少しでも対空兵器を消費してくれれば、突撃できる確率はあがるぞ!それまで各自海面におさらばしないよう計器を見つつ外にもしっかり目も向けれ!』

僚機に無線で呼びかけると次々と威勢のいい声で返事が返ってくる。

『無線が使えるようになったのはほんとありがたいです』

瑞鶴の姿はもう米粒のようにしか見えなくなっている。

『それだけでなく瑞鶴の電探も復旧した。吹雪に感謝だが、なかなか向こうはエグイ手を使ってくる』

『今思えば銀箔も作ればよかったですね』

史実の第四次、第六次ブーケンビル島沖航空戦で夜間戦闘機が敵艦船に銀箔や電波反射紙を散布し一定の効果が見られたことがある。

『うむ…次回彼女と演習するときまで明石に頼んで持っていけるように上申しよう。さてそろそろ弾着するころだな』

隊長妖精さんは太ももに取り付けた軍用航空時計をチラリと見た。本来手首に巻いて使用するものだが、操縦するときに邪魔になってしまうため太ももに装着している。

カチッ、カチッと無機質に時が刻まれていくにつれ呼吸や心音が上がり無意識に操縦桿を握りしめていた。

 

 

 瑞鶴が発艦させた艦載機は22個の光点となってレーダー上に映っていた。

一矢向こうという殺気がディスプレイコンタクト上でもビシビシと伝わってくる。

「嘘っ…対艦ミサイルを食らい中破判定でも発艦できるとは…!」

エンタープライズもびっくり仰天するダメコン能力に、称賛と後悔が混じった声で攻撃隊が来るであろう方角に目を向ける。

ふぶきは飛行甲板に直撃したと思い込んでいたが、瑞鶴が右腕をとっさに差し出し飛行甲板を守ったことを知らない。いや、知ることはできなかった。

ヘリは1機しかおらず、あの時まだ敵戦闘機が戻る最中であった。勿論撃墜できたはずだが、攻撃意思がない戦闘機を墜とすのは人道的にみても悪手だと判断した。

(第一次攻撃隊を殲滅し戦闘機の戦意を失ったことは戦術的にみれば勝ちだけど、実際戦意は失ってなく戦闘機が情報を持ち帰り対抗策が生み出され、第二次攻撃を許したことは戦略的敗北に近いか…)

それに潜水艦もうろついていたのでそちらを優先するしかなかった。いくつの時代になっても異能な特性を持つ潜水艦は厄介しかない。

(反省会は置いといて、まずヘリをどうにかしないと!)

幸いヘリは2.5km先にいたので大した時間は掛からないが、問題はヘリが前方にいる間対空兵器はどうするかだ。

IFF(敵味方識別装置)があるとはいえ、対空兵器がヘリに誤爆してしまう可能性もゼロではない。

しかし誤爆を恐れなにもしない場合、距離を詰められたら対処は難しくなってしまう。

ならば着艦させないでもっと後ろに下げておく手もあるが、艦載機に見つかってしまえばあっという間に喰われてしまうことは容易に想像できるのでこれは却下だ。

最短距離かそれとも迂回させるか。ふぶきは妖精さんらとも協議し数秒間悩んだ末、インカムのスイッチを無線用に切り替えた。

「こちらふぶき。マイヅル、高度は50mを維持しつつ最短距離で帰投せよ。オーバー」

『こちらマイヅル、了。向かってきている航空機はどうするのか?オーバー』

「それについてはまず両翼を叩いて数を減らす。マイヅルが私の後方に来たら前セルと主砲で殲滅する。その他質問はないかオーバー」

『了。質問はない。通信終わり』

「了。通信終わり」

 

通信が終わるとすぐインカムのスイッチを艦内放送用に切替え、号令をかける。

「第2戦速。対空戦闘及び対水上戦闘用意」

『第2戦速。対空戦闘及び対水上戦闘用意』

徐々に速度が上がっていくなかで航空機の脅威度が自動的に割り切られ、瑞鶴にも攻撃対象として識別された。

『SPYレーダー目標探知。目標群α、数5、290度から315度、距離、5.1マイル。目標群β、数5、320度から345度距離4.9マイル。目標群C、数5、10度から45度、距離4.9マイル、目標群D、数5、距離5.1マイル、47度から70度。目標まっすぐ近づく。』

「ふむ、小隊は組まないで飛んでるね…まとまって行動するのは危険と判断したか。1機ずつ落とさないといけないのは面倒ね。はぁ…でもやるしかないわ。瑞鶴のほうはどう?」

『352度、6.2マイル。そして微速前進してますね』

「了。瑞鶴には5番、6番のSSMキャニスターを使用しましょう。面舵15度」

『おも~かじ15d…』

復唱し面舵を切ろうとした矢先、突如敵弾接近の警報がまたも鳴り響いた。

『んなっ?!て、敵弾は瑞鶴から発砲!8発来ます!!』

「ず、瑞鶴から?!」空母が砲撃戦をするのは全く頭に入っていなかった。

(高角砲を対艦用に…?できないことはないけどまさか空母が仕掛けてくるなんて!)

動揺したがすぐ頭を切替え指示を出す。

「くっ、第4戦速っ!着弾予想は?!」

『第4戦速!18秒後に3発分こちらに着弾しそうです!』

「了!マイヅル、着艦は中止!今はなるべく遠くに離れて!」

『こちらマイヅル、了!』

幸いヘリは500mまで近づいていたので、5秒ほどで護衛艦を横目に猛スピードで通り過ぎていく。

 

「よし、直ちにSAM及びSSM発射ァ!」

『砲弾及び近づく目標、SM-2攻撃始め!』

『SSM5番から6番発射ッ!!』

VLSとキャニスターの蓋が次々と開かれ、まばゆいオレンジの炎とともに大量の白煙を打ち上げ花火のごとく空に吐き出していく。

SM-2にいたっては同時に誘導できるギリギリの量を発射したというのと、前方SPY-1に多少の穴が開いてしまっているためスタンダードミサイルの終末誘導に若干不安がある。

『敵砲弾のマークインターセプトまであと7秒!』

『敵航空隊は11秒でマークインターセプトします』

『瑞鶴への着弾は40秒!』

(上手くいってくれ)

ふぶきはレーダー上に映る様々な光点を祈るように見つつ、瑞鶴から離れるよう面舵のまま回頭していると、砲弾を全て撃墜した報告が入り、わだかまりが一つとれ息を大きく吐いた。

しかしSSMが着弾するまでまだ30秒ほどあり、毎分14/発の速度で撃てる12.7cm高角砲は雨のように降り注ごうとしていた。

「あと28秒…凌いでやる!」

 

 

 一方で瑞鶴航空隊の方では、例の追尾するやつが発射されたことを無線によって知らされた。

『ということはもう間もなく奴がくるんですね…』

視認できず第一次攻撃隊と同じように撃墜されるかもしれない…そのような重い空気がどの操縦室を包み込んでいた。

『撃墜は避けられないだろうな。俺や向こうだって同じだろう。だがな』

隊長は一呼吸置いて水平線に光を放つ物体をにらみつけながら叫ぶ。

『今じゃねぇんだよ!』

思い切り操縦し隊長機は急上昇していく。

密集していないためそれぞれのパイロットたちは思いのまま様々なブレイクを行うが、無情にも撃ち落される機体も続出した。

ここで瑞鶴らは初めて航空隊からの悲痛な叫びを無線機から聞き取ることができた。

 

『こりゃ第一攻撃隊が壊滅するわな!!ブレイクブレイ…くそっ無理だこれ!』

『あれは速すぎる!!振り切れな、うわあぁぁ!!』

『高角砲の攻撃はどうなってんだ!?全然消耗してねぇぞこr』

『機関砲と機銃いくら撃っても当たらん!くそおおぉぉ!』

『被弾した!!コントロールが効かない…サ ヨ ナ ラ!』

『生き残った数は8機…半分以上も墜とされました!』

『安堵するなよ!また来るz…ってなんだあれ?』

『あれは…主砲弾っ?!』

『ブレイクする!…えっなんで海面g』

中には高機動回避の連続で空間識失調症(バーティゴ)を起こしてしまい、上昇していると思ったら実際は降下しており海面に叩きつけられた機体もいた。

 

 瑞鶴だけでなく、後方で大破判定となった4人も無線機から流れる阿鼻叫喚の出来事に青ざめていた。

「ねぇ摩耶、霧島…あんな芸当できる?」

北上が航空機が何もできずバッタバタ墜とされているであろう方角をにらみながら話しかける。

「無理に決まってんだろ。高角砲や機銃だと航空機をビビらせて精度を落としたり攻撃を阻止するのが目的だ。ふぶきのように攻撃される前に撃墜するのが防空の理想だけど…あれは異次元すぎる」

「えぇ、摩耶の言うとおりよ。私たち戦艦には三式弾という対空用の砲弾がありますが、あのような芸当は無理ですね」

摩耶は北上と同じ方角を見つめながら

「私はお役御免になるのかなぁ…」

誰にも気づかれない小声でぼそりとつぶやく。味方にしてみれば頼もし過ぎる戦力であると同時に、摩耶からしてみれば防空巡洋艦というアイデンティティが失われるかもしれないという不安が心中で渦巻いていた。

 

 

「ちっ、あったんない!しかも砲弾も撃ち落しているし半端なさすぎでしょ!?」

高角砲で支援しても、駆逐艦以上の機動性と摩耶以上の対空能力にイライラしてくる。

本当に対空兵器を消耗させてるのか疑問に思ってくる。無限に湧いてくるのではないかと錯覚するほどだ。

しかも航空隊も次々と撃墜されるわ、あの墳進弾はこちらに向かってきているわで焦りもある。

「着弾まであと22秒ほどか…まるで死刑宣告ね」

決して逃れられないことにため息をついた。墳進弾のスピードは桁外れに速く、対空砲で弾幕を張ってもほぼ無意味と化しているので着弾するまでの間彼女を妨害し続けることにした。

鶴が焼けようが翼がもがれようが、諦めるつもりは瑞鶴や航空隊にはない。

 

 

 『目標、残り5機、距離3.5マイル。なお戦闘機2機は左右に分かれ未だ高度にいる模様。距離3.6マイル』

「了。引き続き対空戦闘継続。まだ立ち向かうのか…」

ふぶきは迫る砲弾を難なく回避したり撃ち落しながら灰色の空を見上げた。演習が始まったころは晴れていたのにいつの間にか曇は低く垂れこめてきた。

もはや半数以上失ったはず。組織的な攻撃は不可能なのに引き返すそぶりは一切見られないことが恐ろしく感じた。

「くっ、兵装の残弾数は?」

『SM-2はまだ余裕ですが、調整破片弾は残り僅か。20mm機関砲は半分ほど消費しSeaRAMは残り18発です』

「そうなると戦闘機2機にはSAMを、攻撃隊には調整破片弾をお見舞いするか」

調整破片弾では戦闘機の高機動によって躱される可能性があり得るため、より速く耐Gに優れているSM-2を使用することにしたのだ。

『CIC指示の目標、主砲、うち~かた始め』

『近づく目標、SM-2攻撃始めっ』

撃て、と命令しようとした矢先、見てはいけないものを見てしまい冷や汗がぶわっと噴き出た。

 

「なんでっ…なんで立ち上がれるの?!」

目の前の出来事に理解できなかった。

彼女は亡霊のようにふらふらと立ち上がり、焦点の合わない目で私を探しているようだ。

直後、ホラー映画のようにぐるりとこちらににらみつけて

(見 つ け た ♪)

直接脳内に声を吹き込まれたような錯覚をうけ、眩暈を感じ息が苦しくなる。

酸素を取り入れようと過呼吸気味になってくる。

(どうするどうする??考えろ落ち着け。SSMの着弾はあと15秒。吹雪はどうする?通常弾に戻す手間は1秒も惜しいから調整破片弾でなんとかするしかない。SAMは航空機に全部振って、へリにはまだ一発分のヘルファイアがあったからすぐ要請しないと。着艦させなくてよかった…)

なんとか対抗策を考えたもの、怖れからか声がかすれてうまく命令が出せない。

そうこうしているうちに亡霊のような立ち上がりと打って変わり、彼女は獣のように一気に距離をつめながら折れ曲がってない砲身を使い射撃してきた。

(うそでしょ?!)

今日まで一体いくつほどの想定外を体験したのだろうか。主砲で撃ってくるだけだと思っていたが、まさか彼女が特攻してくるとは。

おまけに瑞鶴の高角砲弾、攻撃隊、戦闘機も襲い掛かってきている。

「第一狂ってる団ですかこれ?!くそっ、CIWS以外半自動モードに移行ッ!マイヅル、駆逐艦に対しヘルファイアの射撃を許可する!」

射撃許可が出されたヘリは素早く体勢を整えると、最後のヘルファイアを放す。

イージス艦も全手動モードとは比べ物にならない速度で次々とSAMや調整破片弾を撃ちだし、脅威の目標に対し一直線に向かっていった。

 

 

 『隊長!吹雪が立ちあがって砲撃しながら突撃しています!』

僚機から無線が入り目を凝らすと、敵艦だけでなく先ほどまでなかった人影を確認できた。

『吹雪も最後の力を振り絞って行ってるんだ!俺たちも後に続くz…くそっまた来やがった!』

『奴の墳進弾は一体どれだけあるんだ?!』

地平線にはうっすらと上る白煙がいくつも見える。忌々しい花火が打ち上げられたことに絶望していた。

『それと吹雪にも別の噴出弾が!』

『止めを刺す気だな…』

吹雪の盾にしようと思ったがその噴出弾もかなり速く、重い爆弾や魚雷を抱えている攻撃隊ではギリギリ間に合わない。

ここまでか、そう誰もが思った矢先風切り音が混ざった無線が聞こえてきた。

『なら俺が行きます!』

それは上空にいた烈風改からの無線であった。

『間に合うのか?!』

『間に合わせる!3番機ついてこいっ!!』

 

 2機の烈風改が雲の切れ目から空中分解しないギリギリの速度と角度で急降下し始める。そのためとんでもないGが体にかかっているため歯にヒビが入るんじゃないかと思うくらい嚙みしめているが、そうでもしないとあっという間に気を失ってしまうからだ。

雲を抜けると薄暗い海面がやっと見え、ブラックアウトになりそうなのを耐えながら吹雪と噴出弾との距離を目視で測る。

(噴出弾が海面ギリギリにいる)このままでは海と幸せなキスをしてしまうだろう。体当たりで止めてやると思った直後、噴出弾が生き物のように上昇してきた。

予想外の動きに驚くがチャンスと捉えトリガに指をかけ、目一杯押していくと30mm機銃が待ってましたといわんばかりに吠える。

しかし速度差があるためなかなか弾が当たらず、墳進弾の速度も先ほどよりも速く感じる。

『くっ、隊長!俺が体当たりします!』

『待て!止めr』隊長が言い終わる前に3番機のパイロットは機体ごと噴出弾に体当たりを試み、爆散していった。

爆風が機体を大きく揺らし海面にキスしないよう必死に操縦しながら無線で毒づく。

『ああっくそっ!3番機も散っていってしまった!』

『攻撃隊も俺だけだ…』

返答が帰ってきたのは攻撃隊隊長機だけで絶句した。わずか数十秒間の間4機が撃墜されたことに。

そして更に悪い無線が飛び込んできた。

 

瑞鶴被弾し大破、と。

『攻撃隊もほぼ全滅、瑞鶴までやられた…。こんなのってありかよ!マリアナの七面鳥落としを再現せんでもっ…』

敗北は決定的になり、ふぶきの姿は捉えているのにまるで千里のように遠く、戦闘機の隊長妖精は自暴自棄になりかける。

『全くだ…うん?』

これ以上は無理と判断し、互いに撤退しようと機体を傾けていた最中、爆戦の隊長は違和感を感じていた。もう撃ち落とされてもいいはずなのに瑞鶴の大破報告からここまでの間、一切の対空砲火が来ていないことに。

(まさかと思うが…向こうは勝った気でいて慢心しているのか?!ここまできてそんなことありえるのか?しかし、最後の千載一遇かもしれん。このチャンスを逃すわけにはいかねぇ!)

『おい!撤退は中止だ!神はまだ俺達を見捨てていない!』

『はぁっ?お前何言ってるんだよ…もう無理だろ』

『考えてみろ。既に俺達は今すぐ撃ち落とされてもいいはずなのにまだ生きている』

戦闘機隊長はハッとした顔になる。

『確かに…!罠という可能性もあり得るが行くしかねぇな!』

ここまで来て瑞鶴には後戻りも出来ない。せめてもの最後の悪あがきをしてやろうと戦闘機だけは灰色の雲に隠れた。

 

 「ふぅ…攻撃隊はほぼ壊滅できたか。残り2機は戻る素振り見せてるし、瑞鶴は大破。ヘルファイアが墜とされたのは予想外だけど、なんとか爆風と調整破片弾でで動けなくしたか」

圧勝まではいかないがなんとか勝ててホッと胸をなでおろした。

対空用具収めの号令とディスプレイコンタクトの機能をシャットダウンしようとしたが、この行動によって最大の隙が出来てしまった。

『んっ…?待てッ!先ほどの目標α、βがUターン!!距離2マイルきっています』

「えっええっ!?シャ、シャットダウン強制中止!!機関、取舵一杯!再起動までは…15秒?!」

海面には綺麗な弧とスクリューの泡が刻まれ、少しでも再起動までの時間を稼ごうと距離をとろうとする。

CICからの情報はディスプレイコンタクトにも映るため、シャットダウンしてしまえばそれらの情報は一切見れなくなる。たかがコンタクトだが戦闘が終わったらその辺に捨てるわけにはいかないのでそのような機能がある。

(最悪だ!なんて私はバカなんだ…いや詰めが甘いと言わざるを得ない。SM-2はもう間に合わない。なら調整破片弾で…あっ)

ここでさらに最悪のことに気が付いてしまった。

 

彼女との戦闘で自分は何をしたのかを。

 

(吹雪はどうする?通常弾に戻す手間は1秒も惜しいから調整破片弾でなんとかするしかない…)

その調整破片弾は吹雪に向かって全て撃ち尽くしていたことに。

「やられた…まさかあの子、あの程度で攻撃隊が引くわけないと信頼し、敢えてまた囮となって調整破片弾を消耗させようとしたのか」

通常弾なら避けられてしまう、対艦ミサイルはオーバーキル。ならば追いつめることができた調整破片弾という判断は間違いではない。実際撃ち尽くしたことで進撃は再度停止した。

しかしここまでくると、序盤でオーバーキルしてまでも予想以上の化物に止めを刺すべきだったと後悔した。

「あんな化物なんて初見殺しでしょ…けどいい教訓にはなったよ畜生っ」

再起動まであと5秒ほどであるが、ここまでの10秒間はとても長く感じた。悪態をつき、必死に之字運動しつつ最後の手札を切ろうとした。

 

 『やっと…やっとここまで来れた!』

『会いたかったぜぇヒャッハー!』

ここまで来るのに多大な犠牲を払い、散々苦汁をなめた相手が目の前にいることに歓喜を隠せなかった。

脳内にアドレナリンが大量に出され心拍数や体温が上昇してゆくのを感じながら、無線で二手に分かれる。

本当は砲のない後ろから突撃したかったが2機だけではすぐ対処されてしまう危惧があるため、戦闘機は雲の切れ目から突撃し主砲を引き付けつつ爆撃、爆戦は装備されたスキップボムを後方より投下していく作戦にした。

『よぉし、瑞鶴航空隊の威信にかけてお前を道連れにしてやるわぁ!!』

1500m上昇したのち、目標に向けて45度で急降下していく。

視界が雲から海面に切り替わると、低空で爆弾を投下しようとする爆戦と必死に回避機動をとる吹雪がいた。

奴の主砲はこちらに向けていないし、対空砲火も来ていない。

(チャンス!)

戦闘機隊長は高度600mまで降下したところで60kg爆弾2つとも投下しようとする。

爆戦もやや遅れて投下準備に入っている。同時攻撃しないのは万が一最初の攻撃が避けられても

次の攻撃で確実に当てるためだ。

艦娘とはいえどもプロペラと舵で推進や進行方向を得ているので急な動作は難しくなる。

(勝った!)

タイミングは完璧。二人ともそう確信し投下ボタンに指をかけた。

刹那、ふぶきの顔がにやりと笑った気が…いや笑っている?!

突如、二つの白い物体が意思を持った生き物のように高速でこちらに向けてきた。

驚愕よりもぞわり、と背筋が凍りついた。

操縦桿を動かすよりも、爆弾を落とすよりも先に矢と弾が放たれる。

至近距離で噴進弾を放たれた爆戦は回避できるはずもなく、大小の様々なジュラルミン破片と化し海に叩きつけられた。

戦闘機はアッという間に穴だらけになり、燃料タンクからは黒い液体が空に描かれていた。

ふぶきに到達する前に翼を失った戦闘機は、きりもみ状態になり徐々に海面に近づいていく。

『うそ…だろ…』

その間祭、隊長は薄れゆく意識の中で自分を撃ち落したものをはっきりと目に焼き付けた。

上部に白い円筒とガトリング砲がセットになっている対空機関砲。砲身からは硝煙がわずかに上り、射撃は終了しているはずなのに寸分狂わずこちらを睨み続けていることに恐怖を覚えた。

 

彼らを襲ったのはSeaRAMとファランクス。

近距離防空ミサイルと、20mm口径弾を毎分4500発の速度でぶっ放す近接防御火器システムである。

近年では対艦ミサイルの大型化や高速化で20mmでは射程・威力不足や弾切れになるのが早い、という声もありふぶきにはこれを積まずにSeaRAMに統一しようぜ!みたいな案もあった。

しかし、SeaRAMすらすり抜けたらその後どうすんの?

あと小型ボートなどの自爆テロ(米艦コール襲撃事件)で127mm砲やSeaRAMだと過剰過ぎるよねという声もあり、結果として併用する形にした経緯がある。

 

「勝った…の?」

未だ実感がわかなかったが直後に提督からの無線が耳に入ってきた。

『教導隊は全て行動不能、艦載機も全機撃墜。なお、ふぶきは損害無し。よって、判定はふぶきの勝利。これより演習を終了するので全艦は直ちに帰投せよ』

その無線を聞いてドッと疲れが出て、腰が抜けたようにへなへなと海面に座り込んだ。極度の緊張から解放された安堵と疲労が一気に押し寄せた。

「はあぁ~…怖かった。本当に勝ったんだ…。攻撃やめ、対空用具収め」

戦闘終了の宣言に艦内でも安堵の空気が流れる。

潮風とともに硝煙とガソリンの香りがツンと鼻に来る。

「…ってこうしている場合じゃない!パイロット妖精たちを救助しないと…見張り員増やして要救助者がいないか探して!」

後方に待機していたヘリを現場に急行させたり、複合型作業艇を降ろそうとしたがまた提督の無線が入ってきた。

『その点については大丈夫だ。演習の場合、パイロット妖精たちの損失は起こらずここに戻ってくるんだ』

なにその謎技術?!とツッコミたくなったが、そもそも艦が人になって海に浮いている時点で私がいた時代の常識では通用しないなぁ、と考えることをやめた。

救助しなくても問題ないとなると、ヘリを戻し慎重に着艦させていく。海の天気は気まぐれなので、いつ風や波が変わるか分からない。だからこそ神経をかなり使う作業でもあるが、無事に着艦を終え拘束装置も問題なく作動した。

 

 

 鎮守府へ進路を向けていると、大の字になって空を見上げている旗艦に遭遇した。

「はぁー…久しぶりに敗北を知ったよ。でも未来の私はこんなにも強いって誇らしいや」

吹雪の顔は血や煤だらけだが清々しい笑顔でダメージを感じさせない軽やかな動きで立ち上がった。

「えっ…大丈夫なのですか?」

あれだけヘルファイアや調整破片弾、更には対潜魚雷もぶち込んで体や服もボロボロなのに軽やかに動き、更には立派な胸部装甲に下着やら腹筋とか色々と見えていることに頬を赤らめて二度見した。

「いやー流石に爆風を起こす噴進弾はヤバかったけど、戦艦の砲弾とかに比べればマシなほうだよ。一発で身体のどこかが欠けたりえぐられたりするからね」

笑って済ましたことになんでこの子は五体満足なんだろうかとドン引きしてしまう。

「ま、これで私達のお墨付きは得たようなもんです。五大鎮守府や大本営もこの演習結果に驚くことでしょう。改めて、ようこそ幌筵鎮守府へ」

「こちらこそよろしくお願いします」

両者はガッチリと握手を交わし、道中で5人の艦娘と合流して和気あいあいしながら帰路に就いた。

 

 

 




感想や誤字脱字報告宜しくなのです。

次話は歓迎会の予定です。あまり展開が進んでいなくて申し訳ないm(_ _)m


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19話 余韻のさなかで

4ヶ月ぶりとなりましたが皆さまお元気でしょうか。19話が出来上がったことを報告いたします。

この4ヶ月にあった出来事
・梅雨イベお疲れ様!無事に完走もできドロ運も良きでした
・カレー機関旨し。次は鰻なので楽しみ
・藤池アリス王国の国王は神。初めての撮影会だった女優サイボーグ展も神だわ
・呉?!富士スピードウェイ?!リアイベ生きてたのか?!行く人はコロナ対策しっかりしましょう。







 会場内ではいまだ興奮が冷めない様子で、ざわざわとしていた。

それも当然、たった1人の艦娘が幌筵鎮守府の実力者を損害無しで退けたのだから、騒ぎが収まらないのは当然なことだろう。

「いやぁ……なんというかすごい戦いでしたね」

夕張は大淀や鹿島が殴り書きで書いたレポートをペラペラとめくりながら振り返った。

カタログ上でも十分凄いものであったが、実戦に近い演習で見てみるとより凄さがハッキリと分かった。

「ほんとそうですよ。映像で撮っておいて正解でしたね」と撮影係の青葉はパソコン上で蓄積された映像データがしっかりと記録されているか確認している最中だ。

「ほんとそうですよ。このレポートだけで理解してください、と言われても無理ですね。あとで映像見返てしっかりとまとめないと……」

「これは大変な作業になりそう……」

大淀と鹿島は徹夜作業になるだろうと遠い目で空を見上げた。あまりにも展開が追い付かなくて文章が所々飛んでる部分もあるためだ。また、こういうのは記憶が残っているうちにまとめた方が後で楽になる。

「私も1時間分の演習を見やすいように編集しなきゃですよ」

切り取る部分はあるにしても見どころがとても多いため編集に悩みそうだが、同時に楽しみでもある。

(提督の許可がおりれば動画サイトにも載せたいですねぇ)

 

 艦娘とはいえ彼女らは深海棲艦を屠ることができるれっきとした戦力でもあり、軍隊ともいえる。

深海棲艦が出現した頃の艦娘たちはシーレーン防衛のためいっぱいいっぱいであり、一般人と関わることはあまりなかった。

もちろん、国民はいきなり現れた謎の勢力を撃破したことに対して歓迎したが、同時に艦娘とはなんぞや?どんな子がいるの?等々と各地で議論が続いた。

中には艦娘は危険だ!女の子を戦場に行かせるなんて!のような意見も少数であるが見受けられたこともあり、政府や大本営はこのままでは国民に対しての理解が十分に得られないと判断し、状況が落ち着いた頃に行われた観艦式によって艦娘をアピールすることができた。

手ごたえを得たことで観艦式を定期的に行ったり、艦娘が各地方の港に寄って親睦を深めるイベントを開催した。

寄港日が発表されるとすぐにホテルの予約がすぐ埋まるのは勿論、飲食店などもどこも満杯になりかなりの経済活性化を生んだ。

 

 しかしながら、問題点も出てきた。高まる人気を受けて港周辺の道路では渋滞や無断駐車、ゴミ箱から溢れ出るゴミ、スリ、徹夜組等と夏冬に行われる某同人誌即売会のような問題が増えていた。

勿論、警備を増やしたり規制したりしたが追いつかないところもあり、大本営には苦情が寄せられた。

なかなかいい案が出ず何回も会議を重ねるのかと誰もが思った矢先、

「見学ツアーでも限界はあるから、いっそのこと大手の動画サイトで普段の訓練や装備品等を公開したらどうだろうか?」という意見が上がった。

その名案が出て先ほどまで行き詰っていた会議が嘘のようにとんとん拍子に進み、2014年に公式チャンネルが開設された。

登録者数はみるみるうなぎ登りとなり、法整備も重なって悩みの種であった数々の問題も日々に減っていった。

もちろん動画サイトだけでなくSNSの展開にも力をいれている。鎮守府のアカウントだけでなく艦娘たちのアカウントも認められ、広報活動に一役買っており、それぞれの鎮守府にもその地域や気候ならでは特徴が出ている。

例えば呉鎮守府なら某ゆるキャラとコラボダンス動画や牡蠣料理講座、南方の泊地ならばビーチでのビーチバレー大会、潜水艦娘による熱帯魚やサンゴの解説、台風実況など千差万別で見ごたえがある。

ちなみに我が幌筵鎮守府では流氷のライブ動画やオジロワシやアザラシの定点観測、クリオネを飼ってみたなど冬に関するものが多い。

そもそも幌筵島は日本で最北端に位置し、観光しようにも距離や気候の問題で難しいため、気軽に投稿でき誰もが見れることはwin-winであろう。

(ですがここ最近再生回数や登録者数が伸び悩んでいましたし、いい起爆剤となるといいですねぇ。それで提督に褒められたらもう最高)

そんなことを青葉がニヨニヨしながらパソコンに向き合っていると、あちこちから興奮した声が同時に上がった。

(ご帰還しましたか!さっそくインタビューの準備しないとですね!)

「ガサ!時雨!カメラの準備もOK?」

「えぇ、いつでもテープ回せますよ!」

「僕も大丈夫だよ」

衣笠はビデオカメラを、時雨は二眼レフを準備して帰投するのを今かと待っていた。

 

 

 徐々に島影がはっきりと見えてきた。

まれにみる激闘でお疲れの様子にも関わらず、艦娘たちは一切気を抜くことなく目視と電探を使い近づいてくる船がいないか監視していた。艦娘にも海上衝突予防法が適用されるためである。

吹雪を先頭に単縦陣で帰投しており、今のところ船影は全く見られず穏やかな海であった。

一つだけ異常があるとすれば、港にたくさんの人だかりができていることであろう。

その様子に吹雪らは困惑しながら港に到達すると、歓声が一段と上がった。

「It was a great military exercise!」

「Хорошо!」

英語、ロシア語、日本語が混ざり合った歓声と拍手の二重奏が7人の全身を包み込んだ。

「えっと……すみませんこれってよくあることなんですか?」

ふぶきは大歓声の中でも、聞き取りやすいように教導隊旗艦に耳打ちすると返答はNOであった。

曰く、いつもの演習は少人数の親しい艦娘が見学したり出迎えてくることはあるにしてもこれほどのは初めての経験らしい。ただし、今回の特例見学や特異性を考慮すると納得できる、とのこと。

改めて辺りを見回すと英語が聞こえているあたりに海外艦娘がいるのは分かるが、ロシア語は誰なのか全く見当がつかない。

キョロキョロするたびに初めて見る艦娘もいるので、誰が誰なのかわからないが軽く会釈していくと、マイクやカメラ、人数分の上着を持った三人の艦娘がこちらに向かってくるのが目に入った。

マイクを持っているのは司会を務めた青葉と分かったが、残る二人は初めて見る。

一人は青葉と同じセーラー服であるがスカートを履いており、二眼レフを持っている艦娘は紺に白のラインが入ったセーラー服と三つ編みが特徴的で二人よりも身長が低めの子だ。

知識を頭の中でフル回転し、青葉型の同型は衣笠しかいなかったはずと思っていると青葉が話しかけてきた。

「ども!恐縮です!まずは演習お疲れ様でした。早速なんですがインタビュー始めたいと思いますので、制服が破けてる方はこれを羽織って下さい。あ、ふぶきさん申し遅れましたがカメラを務めているのは同型のガs……じゃなくて衣笠と白露型二番艦、時雨ですっ」

「衣笠さんの登場よ。青葉ともども、よろしくねっ」

「僕は白露型駆逐艦、時雨。これからよろしくね。衣笠、この辺でいいかい?」

「そうねぇ、もうちょい下がった方がいいかな」

二人は軽い自己紹介をすると、カメラのベストポジションを探していく。

(時雨さんが持っているカメラってよく見ると一眼じゃなくて二眼レフなんだ。実物見るの初めてだなぁ。あとまさかの僕っこなんだねいいじゃない)

そんなことをふぶきは思っているとインタビューの準備を終えたようだ。

カメラが回るとあれほど騒がしかった歓声がピタリと止み、教導隊たちも渡された大きめの上着を羽織ってカメラに備える。

 

 「こんにちは青葉です!演習を終えた戦士達が今しがた帰投したので早速インタビューしていこうと思います!」

しっかりとカメラに向かってリポートしていくあたり、場数を踏んでいるなとふぶきは感心していた。

「まずは教導隊の方から伺いましょう。霧島さんからお聞きしたいと思います」

「私の計算がこんなにも狂ったのは初めてのことです。小口径の主砲なら装甲は貫けないと分析し、盾になりましたが……まさかあそこを撃たれるとは」

「確か北上さんも同じところを撃たれて両者大破判定になってしまいましたね」

「うん、一発目は吹雪っちのおかげで弾けたけれど、主機までやられたらどうにもなんないよ。二発もピンポイントで当てるなんてさぁ、偶然にしては出来過ぎじゃない?」

「確かにそうですね。イージス艦のふぶきさん、あの主砲は?」

いきなり振られドキリとしたが落ち着いて答えていく。

「えっとですね、主砲はイタリア製のオートメラーラ127/64Light Weight、またはブルカノ砲とも呼ばれています。発射速度は毎分30発前後、最大射程は特殊な砲弾を使った場合で100kmにもなります」

衝撃的なスペックに誰もが驚愕したが、一番驚いたのは秋月型と武蔵であった。

「10cm連装高角砲でも毎分15発なのにその倍って…」

「しかもあの精度は凄すぎます!」

秋月と照月はキラキラした眼差しでオートメラーラの127mm砲を見つめる。防空駆逐艦としてはこれ以上ないほどお手本となるだろうと確信していた。

「全くだ。そして駆逐艦クラスの小口径なのに、46cm三連装砲より長射程とは……恐ろしいな」

世界最大・最強の艦載砲ですら最大射程は42kmである。その倍以上の最大射程となると口径を大きくするか口径長を伸ばす、火薬の量や質を向上するしかない。

武蔵は口径を大きくしたのではなく、残り2つを技術によって46cm三連装砲より進化させたのだろうと考察した。

「あと、先ほど霧島さんがおっしゃった通り通常弾では戦艦の装甲では弾かれるばかりでした。そこで煙突部分なら熱がたっぷりと放射されているはずなので、砲弾を赤外線誘導弾に変更しました」

赤外線誘導弾と聞いて一人の艦娘が反応した。

「なるほど、ケ号爆弾でありますか」

声がした方に顔を向けると陸軍制服のような黒い上着にプリーススカート、軍帽を被っておりなかなかの胸部をお持ちしている艦娘がいた。まるで大正浪漫を彷彿させる。

「吹雪さん、あちらの御方は?」

「陸軍の揚陸艦、あきつ丸ですよ」

カメラに余計な音声が入らぬよう声を抑えて誰なのかを確認した。

「ケ号爆弾って確か……」

「陸と共同研究しているあれですよね……」

夕張と明石は互いに顔を見合わせて例の爆弾を思い出す。

「ご名答。陸海軍が共同で研究しているけれど開発が難儀している赤外線誘導の対艦徹甲爆弾であります。思想は同じで、変化したのは技術ですがまさか主砲弾を赤外線誘導にするとはいやぁ

すごいですな……」

やはりあれはまぐれではなく、必然的にやってのけたのだと皆脱帽していた。

「主砲弾だけでなく墳進弾もすごかったですよね。摩耶さんと瑞鶴さんにお話を聞いてみましょう」

「対空番長と自負しているけれど、あの墳進弾は無理だ。速すぎてなおかつ超低空で飛ぶあれは落とせる気が全くしなかった……なんだんだあれは?」

「摩耶と同じ意見よ。ほんとなすすべがなかったよ……なによあれ」

二人は特にテンションがどんよりとしている。

摩耶は対空番長として艦隊を守護れなかった。

瑞鶴の艦載機はたった一隻に制空権喪失。こんなことは全空母に対して顔向けができない酷さだ。

教導隊と名乗るわりになんとも耐え難い屈辱でもあり、プライドがポッキリとへし折れかけていた。

 

 「……ふぶきさん、あの墳進弾は一体どんなものなのでしょうか?」

瞬く間に艦隊を、艦載機を無力化した2つの墳進弾は誰もが気になっていたものだ。

「はい、まず最初に4発放ったものは17式艦対艦誘導弾と呼ばれている艦対艦ミサイルです。射程は150km以上、飛翔速度は1150km/h以上にもなります。次に艦載機に向けて放ったものは艦対空ミサイルのSM-2ブロックⅢBです。指向性爆風・破片弾頭MK125を採用していまして、任意の方向に破片と爆風を放すことが出来ます。簡単にいうとVT信管を更に応用・発展したものといえば分かりやすいかと」

VT信管と聞いてやっぱりそうかと反応したのは米艦娘と瑞鶴隊の妖精達であった。目の前で爆ぜるなんてどう考えてもそれか、もしくは三式弾しか思い浮かばない。

「聞けば聞くほどすごい兵装ですね……でも、次に生かせるか生かせないかはあなた方次第ですよ」

それでも青葉はなんとか絞り出し労う。

「……そうね。パイロットと話し合ったけど対処法は見つかりそうだし訓練あるのみね」

「その意気ですよ!さて、伊58さんはどうでしたか」

「なんでちかあのカ号よりもチートなオートジャイロ。見つかった瞬間これは死んだな、と悟ったでち」

「1機で潜水艦を追い詰め、対潜だけでなく対艦戦闘までこなすオートジャイロはチート級でしたね……あのオートジャイロは一体?」

「あれはSH60-Kと呼ばれる哨戒ヘリコプターです。青葉さんがおっしゃった対潜や対水上戦だけでなく、輸送や救難にも使われていますから汎用性に長けていますね」

「なるほど……そのオートジャイロの攻撃も受けた吹雪さんはどうでしたか?」

「あのオートジャイロから放たれた墳進弾すごかったね。それだけでなく主砲弾、魚雷……意識を刈り取られたのは久々だし、こんなにボロボロになっちゃったよ」

髪留めはどこかにちぎれただのセミショートになり、所々髪がチリチリになった跡や傷跡が生々しい。

「皆のおかげで接近できたけれどあと一歩、あと一息足りなかったな……。課題あり収穫ありのとてもいい演習ができたかなと」

吹雪が締めくくると、称える拍手があちこち湧きあがった。

「吹雪さんありがとうございました!さて、お次はイージス艦の方であるふぶきさんにお話を伺いたいと思います。初めての演習はどうでしたか?」

いよいよだと皆固唾を呑んで待つ。未来の最新鋭艦がどのような発言をするのか、一句も漏らさず聞き取りたいのだろう。

この静けさは逆に緊張してしまい、ふぶきの心臓がバクバク鳴り始める。

 

 「そうですね……課題がたくさん見つかった演習でした。特に終盤辺りは最悪の出来でした。これが最新鋭艦のイージス艦なんて……ふっ、笑えますね」

出来が悪かった発言に一同は驚愕した。無傷で完全勝利Sなのにいったいどこが悪かったのか誰も見当がつかず、当然青葉も質問する。

「えっと、その……なぜ最悪の出来だと?」

「まず彼女たちの力量を見誤っていたことです。演習前に“6人相手でも絶対勝てるし、第二次世界大戦中の航空機なんて楽勝。経験は劣るけど70年の技術差で覆るでしょ”なんて思っていました。中盤に艦載機をほぼ墜として士気を挫かせ撤退させる希望的観測な試みをした結果、隙が出来てしまい終盤で2機と吹雪さんに接近を許してしまいました」

「なるほど、でも最終的には墳進弾と見たことのない対空砲で撃ち落したじゃないですか」

「あぁ、あれはCIWSと呼ばれる個別防御システムの一つです。日本語なら近接防御火器システムとなっています。前方にあるのは高性能20mm機関砲で、毎分4500発の発射速度を誇ります。もう一つ後ろにあるのはSeaRAMと呼ばれる近接防空ミサイルです」

一番驚いたのは摩耶と瑞鶴であった。

「ま、毎分4500発だと?!バケモンかよ」

オーソドックスな対空機銃である25mm三連装機銃でさえ発射速度は毎分130発、北欧最高傑作と名高いボフォース40mm四連装機関砲でも毎分120発とかにバケモンじみているかお分かりであろう。

「そりゃ艦載機が一瞬でズダボロになったのも納得できるわ……でも、それだけ発射レート高いってことは弾が沢山あったもすぐ尽きそうだね」

瑞鶴に痛いところを突かれ、ふぶきは苦い顔を浮かべる。

「そこが弱点でして……数十秒も全力射撃すれば弾倉は尽きてしまいます。そのため電子攻撃や艦対空ミサイル、主砲で墜とすことや機動性に重きを置いています。いわばCIWSは最後の砦なのであそこまで接近されたら負けにも等しく、砦も突破されたら装甲はほぼないので一巻の終わりです」

「えっ、電子攻撃って……序盤に突然起こった電探類の不調のことでしょうか?」

吹雪がハッとした様子で思い出し、教導隊の皆もそういうことだったのか、と腑に落ちる。

「これですね。NOLQ-2Bと呼ばれていて、従来のものより改良化・小型化したものです」

確かに電探という目を潰せば、人間の身長とさほど変わらない艦娘にとって索敵では大変不利になった。

これは深海棲艦相手にも同じことがいえるだろうし、戦術的、戦略的にも大きなアドバンテージになる。

また、電探に映りにくいステルス性にファーストルック・ファーストショット・ファーストキルをここまで洗練している艦娘はそうそういないので、戦力面でも大幅な向上が見込まれるのは願ってもないことだ。

 

 「すみません。あと一つだけ言いたいことがあるのですが……」

「いいですよ。なんでしょうか?」

一呼吸おいてふぶきは皆に語りかける。

「今回の演習を見て皆さんは“圧倒的ではないかイージス艦は!”という感想を抱かれた方が殆どだと思います。確かにこのばかげた対空、対艦、対潜能力を見れば一隻でも無双できるでしょう。しかしながら、単艦で戦闘することは殆どありえません。艦隊を組んで初めてイージス艦の真価が発揮できるのです。そうですね……例えば摩耶さんらと組み合わせるならガン・ミサイルコンプレックスといえばいいでしょうか」

また聞いたことのない用語が出てきて、全員が頭の上にハテナマークが浮かんでいる。

もちろん補足説明はしていく。

「遠くを狙えるけど至近距離や即応性には弱いミサイル、中間距離を補える高角砲、遠くは狙えないけど至近距離に対する即応性は高い対空機銃を組み合わせることで互いの弱点を補うことです。まぁ、本来は自走式対空砲とかの考え方なんですけどね」

実際に韓国、中国、ロシアの自走式対空砲では機関砲と地対空ミサイルをセットにしたハイブリッド式を採用していたり、ドイツも後付けであるが地対空ミサイルを付けたものの、2010年に退役している。

「ということは、摩耶や秋月型と組み合わせればとんでもないものになりそうじゃん」

「あと五十鈴さんとかの対潜能力が高い子とも組み合わせたら余計に隙がなくなるでち」

北上とゴーヤが何気に呟いたのを聞いた空母と潜水艦達は心の底から味方で良かった、と安堵した。

演習でたっぷりと見せられたあの凶暴な対空ミサイルや百発百中の主砲を運よくぐり抜けたとしても、対空能力が高い摩耶と秋月型が待ち構えていたら死の片道切符であることは間違いない。

 潜水艦に至っては変温層やシャドー・ゾーンに逃れられたとしても、静寂化等がされていないww2の潜水艦ではソナー員やオートジャイロだけでなく、対潜能力が長けている艦娘とも連携したら逃れることはほぼ不可能だろう。

味方からしたらとてつもなく頼もしい存在であると同時に、敵からしてみれば悪夢そのものである。

そのことに気づいた艦娘達は、とんでもないものを迎え入れたのでは?と色めきだしたとき、奥の方から鎮守府の最高責任者である提督がやってきた。

色めき立っていた空気は瞬時に消え、ピンと張り詰めてくる。

 

 「諸君、演習ご苦労様であった。あそこまで手汗を握った演習は久々であり、未だ興奮状態は冷めていないほど素晴らしいものだった。日頃の訓練の成果が発揮できたのは勿論、課題も出てきた。それぞれの課題を克服してさらなる昇華を期待している」

まずは教導隊らに労いの言葉をかける。

「そして、イージス艦ふぶきはスポーツでいえば国内リーグにワールドカップや欧州クラブなどで活躍している超一流選手が移籍してきたレベルだ。

優勝争いに食い込むか、はたまたは降格争いに転げ落ちるかは監督やコーチ、選手次第だ。

つまりここでは、彼女の能力を最大限に生かせるかは私や艦娘、妖精さんの腕にかかっているといっても過言ではない……これからは忙しくなるぞ。皆の力で深海棲艦を倒し、平和を取り戻そう」

若くして大将まで登った提督の熱い決意に自発的に敬礼する艦娘が一人、また一人と増えていき最終的には全員が提督に向けて敬礼をしていた。

提督も教導隊と彼女、艦娘たちをゆっくりと瞥見しながら敬礼を返す。

「ふぅ、堅いのはここまでにして以後の予定を伝えよう。会場の片付けが終わったら2000、食堂にて歓迎会を行う」

敬礼が解かれると待ってました!とばかりに歓声が上がるのが聞こえてくる。

「それまでは各自自由に過ごしてよし。以上をもって演習を終了とするっ、解散」

熱狂が冷めらぬまま、あるものは会場の片付けを手伝いに行ったり、あるものは料理の仕込みに食堂に戻ったり買い出しに出かけたりとそれぞれが歓迎会に向けて動き出した。

 

 演習組はというと、工廠にて艤装チェックとメディカルチェックをしてから解散となる。いくら演習妖精のご加護があるといえども、万が一ということもある。

チェックの結果、特に異常はなかったが流石にたっぷりとかいた汗や潮を含んだ風が髪や体にべたついたのは避けられないので、歓迎会の前に演習を行った皆と一緒に浴場で洗い流していくことにした。

 




新型コロナウイルスは少し下火になったとはいえ、まだ油断はできませんね。天然痘みたいに根絶できればいいのですが長い時間がかかりそう。
もはや人類は新型コロナウイルスと共存していくしかないのだろうか。

次回はお風呂会になります。え、歓迎会?やるといったな。あれはホントだ。

あと、アンケートを新たに入れましたのでどれが見たいか投票お願いします。内容は艦娘が現代日本の南西諸島等にタイムスリップし、自衛隊と協力して某国と戦うものにしようかなと。



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20話 裸の付き合い

11/15が吹雪ちゃんの進水日記念ということで一年ぶり以上となってしまいましたが投稿しました



 

 ふぶきは自室からお風呂道具を持って脱衣室に向かったが、ガランとしていた。

もし検査が長引いているのであれば何かしらの異常があったのだろうか、と心配になる。

それもそのはず、あれだけ未知の兵器でボコボコにしてしまったのだから。

でも、彼女らの執念は恐ろしいものだった。今もまだ歯や足の震えが止まらない。

70年間無戦争、平和国家、イラク派遣でのスーパーウグイス嬢作戦、災害派遣……人徳をいく王道で人を殺したよりも人を救ったほうが多くなった。

代償はたくさんあったが当然、それはとても誇れるものだ。

だが、王道を積んでいた軍隊がいきなり覇道の、それも数年以上未知の勢力と戦争している世界に巻き込まれるなんて想像ができようか。

(技術の差で勝ったとはいえ、経験値や精神の強さでは私がいた世界各国の軍隊だけでなく第二次世界大戦時をベースにした彼女たちにすら圧倒的に劣っている……仮に同じ技術を彼女たちが手に入れたら互角か、もしくは負けるでしょうね)

今後謎の勢力である深海棲艦と戦うことは間違いない。PTSDになったらどうしよう?自分がいた時代に帰れるのか?

様々な思惑がグルグルと脳内をめぐりはぁ、と重いため息つきながら衣服を脱ぎ下着姿になるとガラっと脱衣室の扉が開かれた。

反射的に振り返ると先ほど演習で手合わせた教導艦たちがいたのだが、六人の視線は自然に下に流れた。

「おぉ……」

「これはなかなかの……」

「計算以上の胸部、臀部ですね」

「19ちゃん並みかそれ以上でち」

服はすでに籠の中に入れており下着姿になっていた。まじまじと見つめられ体温が急上昇するのを感じ、とっさにバスタオルで隠すが一人の艦娘が風呂道具を床に落とし、唖然とした様子で見つめていた。

「ごふっ」

「げぇっ?!瑞鶴が精神的大破してしまった!」

「メディックー!」

摩耶と吹雪が支える中で瑞鶴は絞り出すように声を出す。

「大丈夫よ……けどまさか隠れ巨乳だったとは」

まるで芸人のネタを見ているような流れにふぶきはポカーンとなったが、北上がフォローした。

「まぁそうでもなきゃ、やってられないしね。私たちは最前線で命をかけて神経を削って殺りあってんだし、ユーモアも無いとね」とふぶきの隣の籠に道具を置いた。

本当にここは戦場なんだと同時に、そのフォローでふぶきはとある動画を思い出していた。その動画は各国の軍隊の失敗やクスリと笑えるもの等をまとめた動画だ。

例えば手作りのジェットコースター風を作ってそれっぽく人が動いている人を再現したり、ただの掃除をまるで小隊を組んで洗剤を投げてから突入したり、アスロックに入ったり戦闘機のパイロンに吊るされたり、井戸で踊ってマ〇オのごとくそのまま落下したり、羊と戯れてたり等々……極め付きは市街地戦で班が警戒中にどういうわけか音楽が鳴りそのまま踊り、警戒に戻ったこともある。さすがにこれは上司にこっぴどく怒られたそうだが。

そんなことを思い出していると、突如後ろから胸を揉まれ「ひゃん?!」と変な声を上げてしまった。

慌てて後ろを振り向くとニヤニヤしながら揉んでいる北上がいた。

「隙だらけだねぇ。ほぅ、バスタオル越しでもすごいねこりゃ」

「あっ、抜け駆けしてるでち!」

「北上ずりぃぞ!」伊58と摩耶が抗議の声を上げる。

「へっへーん、こういうのは早い者勝ちでしょ」

「も、揉まないでください~!」ふぶきの絶叫が脱衣室に響き渡った。

 

 

 北上に揉まれること数分、やっとお風呂に入ることができた。

後ろから揉まれることを想定していなかったため、ややげっそりとした様子でシャンプーした。

今度は後ろの警戒を怠らないでビクビクしながら泡を落として鏡をみると、いつの間にか後ろに吹雪がいて「ふおっ?!」と驚きの声を上げてしまった。

数秒前までは誰もいなかったし、けっこう警戒もしていたのに……まるで忍者ッ。

「あっ、ごめん驚かして。背中流そうかなと思って」

「あぁ、そういうことね。びっくりしたぁ……」と返事するも心臓はドキドキしてる。

これが一人だったら気絶していただろう。

「気配消すのうまいんだね」

「そう?まぁ、川内さんの教えなんですけどね」

川内といえば確か川内型一番艦であり、第3水雷戦隊の旗艦を務めていたはずだ。吹雪もその第3水雷戦隊に属していたから教えてもらったのは納得したが、なぜ気配を消す方向性にいったのだろうか。

その疑問をぶつけると驚きの内容が返ってきた。

「あぁ、川内さんは夜戦が大好きなので夜に活動してるんですよ。夜は隠密性が高くないと行動ができませんから忍者をベースにしているそうですよ」と吹雪は苦笑しながら背中を洗ってくれる。

(確か史実では殆どが夜戦に参加していたっけ)

戦中の行動が艦娘になっても色濃く反映されているのは面白いなと思った。

「なるほど。それにしても結構慣れた手つきで背中洗うんだね。姉妹のお世話とかで?」

ちょうどいい力加減で気持ちよく洗ってくれるのでうっとりしてしまう。

「それもありますけど、司令官との方が多いですね」

「へぇー司令官とかぁ……えっ、司令官と?」

思わず振り返り改めて彼女の体つきをみると、私より身長は低いはずなのに大人びつつも割れた腹筋が美しい体つきをしているではないか。

女性のボディビル大会なら板チョコだの腹筋グレネードだの、割れた腹筋で大根をすり下ろしたい等個性的な応援が観客から飛びあうだろう。

(それくらい腹筋やくびれは素晴らしいけど、胸もなかなかあるっ!C……いやDカップ?そういやあの時どちらも指輪していたということはあんなことやこんなことする関係になってもおかしくはないっ。けど艦娘は元とはいえ船だよね……とても特殊過ぎるっ!)

心の中でツッコめばツッコむほどなんだか頭がこんがらりそうなので、別のことに切り替えることにした。

 

 

 「そ、そういや結構傷跡があるけど大丈夫なの……?」

胸と腹筋、臀部に目が行きがちだが、大小様々な傷跡や火傷跡が体のあちこちにあることも見逃せなかった。

「あぁ、平気平気。ま、こういうでかい傷とかは高速修復材使っても傷が完治するまで時間かかるけど」

傍から見れば拷問か虐待されたのかと疑われてもおかしくはないが、それよりも気になる言葉が出てきた。

「高速修復材って何?」

「通称バケツ、と呼ばれるものだね。簡単に言えばどんなケガでもあっという間に治してくれる特殊なバケツに入った液状のなにか、としかいえない。詳しいことはまだ分かってないけど、どうやら細胞を超活性化させる作用が含まれているみたい。お湯で希釈し特別入渠に入れて使用したり頭から被ったりして使ってるそうよ」

「す、すごいね。でも希釈して使用するってことは原液のままだと危ないの?」

「ほぅ……君のような勘のいい艦娘は嫌いだよ」

吹雪の顔に少し心臓が縮みあがる。

「ふふっ、冗談だよ。えっとね、治るスピードは希釈したものよりも圧倒的に速くなる。代償としてに全身に地獄すら生ぬるいほどの激痛に襲われるんだ。戦艦でも失神するくらいヤバい」

(自身の大砲から撃たれても耐えきれるくらいの戦艦が失神するってどんな痛みなんですか……)と心の中で絶句した。

「この跡は軽巡ツ級の雷撃で片足が吹き飛ばされて骨がコンニチハしたやつね。いやーあの時は五本指に入るくらいヤバかった。何度か意識失いかけて三途の川も見えたなぁ」

アハハと笑いながら、左脚の太ももにぐるりと一周している傷跡を吹雪は見せた。

それと同時に手入れされたツルツルの丘がハッキリと見えたが、あえて何も見ていないふりをする。

「それってバケツを使って再生したの?」

細胞を超活性化させると言ってたから、ジ○ンプで連載されていた某グルメ漫画みたいにぶっかけて一瞬で再生させたのだろうと思った。

「うーん、再生というよりは手術した。袋の中に氷を沢山入れてから妖精さんの力で小さくし、冷蔵庫を装備してある艦娘に預けたの。某国民的ネコ型ロボに例えるならスモールライトみたいな感じでね。ここの手術室でバケツと共につなぎ合わせたみたい」とあっけらかんと答える。

答えは違っていたがあまりも衝撃的な話で若干引いた顔で見つめたが、ここで別の疑問が出てきた。

「こんな便利なバケツを希釈できるなら持ってい行かないのですか?私がいた世界ではモルヒネを打ってすこしでも痛みが和らぐようにできましたが……」

この疑問に吹雪は驚いた顔で彼女を見つめる。

「いやはや鋭いね……確かに長い航路をかけて戦場を駆け巡る艦娘にとって高速修復材は持ってもいいはずだね。いや、あったほうが大破しても打つなり浴びるなりすれば完治しまた闘える。無い理由としては一つ目、普通の注射器に入れると量が少なすぎて本来の性能が発揮できない。全く理由は分からないけどあのバケツサイズじゃないとだめらしい。仮に注射器にいれてもバカでかい注射器を持っていかなければならないね」と苦笑した。

「なるほど……でも待ってください。先ほど吹雪さんは足が吹き飛ばされたとき妖精さんの謎の力で小さくできた、と言ってましたよね。注射器じゃなくてもあのバケツを小さくして艦内に持ち込んでいけばいいのでは?」

「ふむ、そうくるか。では二つ目、先ほどもいったようになぜ治るのか未だに解明されていない高速修復材。仮にそうやって各艦娘に持ち、被弾したあと取り出して高速修復材をかけたとしよう。海にそのまま流してしまうとプランクトンから上位の生態系に影響を与えてしまう可能性がある……いわば生物濃縮ってやつ」

「確か化学物質が食物連鎖を経て体内に濃縮されていく、ですよね?」

生物濃縮で有名な事例といえば高度経済成長期のおける水俣病やイタイイタイ病だろう。

未処理排水を垂れ流しにしていたためメチル水銀やカドミウムに汚染された魚、米が食べられることによって更に濃縮されていき、多数の健康被害を及ぼした公害病のことを思い出す。

「その通り。人間と私たちでは似てるようで似ていない……高速修復材を取り込んだプランクトンが魚に食べられ、その魚が漁に捉えられて人間の身体に入ってしまったら?」

「生物濃縮でどのような影響を及ぼすか分からない、ということですね」

「そう。で、それらの代わりとして応急修理要員とよりグレードアップした応急修理女神というのがある。まぁ、簡単に言えばダメコンだね。特に女神の方は轟沈は無かったことになるけど、どちらも一度使ったら二度と使えなくなるね」

(あっさりと言ってるけど轟沈が無かったことになるって高速修復材よりもオーバーテクノロジーなんだよなぁ)

轟沈とは攻撃を受けてしまった艦船が短時間で沈没してしまうことだ。海の藻屑へと消えたはずなのに復活ッ!復活ッッ!!するなんて某海王さんもびっくり仰天である。

 

 

 「こういうのは新しく入った艦娘に向けて私たちが講義する内容なんだけどね。まぁいいか」と笑いながらシャワーで泡を洗い流す。

交代し吹雪の背中を洗うことにしていくと、背中も美しい筋肉の付き方をしていた。

「背中もすごいんだね」とゴシゴシと洗いながら思わす呟くと、戦艦のほうがもっとすごいよと教えてくれた。

「あそこに霧島さんがいるけど、彼女は素手喧嘩が得意でね。体重×スピード×握力=破壊力の方程式で数多の深海棲艦を屠ったパンチを持っているんだ。あのパンチ喰らったことあるけど、武が通用しないのかと思ったほどシンプルかつ強烈な攻撃だったなぁ」

確かによく見ると傷が多い拳に打撃で程よく発達したヒッテイングマッスルは凄みがある。

近接戦闘は一応できるが、紙装甲の私が喰らったら一発で大破してしまうだろう。

絶対に喰らわないようにしようと固く胸に誓った。

「いやいや、吹雪さんの方がもっと強いからね?」

霧島さんからツッコみが入る。

「だって打撃を受け流したりカウンターしたりするんですよ……大和型やアイオワさんにも勝ってますし」

「……駆逐艦ってなんだっけ」

ふぶきからすると70年経った今日でも大和とアイオワはどちらが最強なのかとミリオタで議論が続く戦艦に勝てる駆逐艦っておかしい。

「そのままそっくり貴方にお返しするわ」

霧島からみれば駆逐艦に属するのに火力は重巡以上で艦載機まで載せられることがおかしかった。

そんなこと言いながら小さくたたんだタオルを頭に乗せ湯船につかる。

「あぁ、いい湯だ……」熱すぎずぬるすぎぬちょうどいい温度で戦闘の疲れがとれていくようだ。

コミュニケーションもたくさんとれたしやはり温泉は全てを解決する!

 

 

 体が茹蛸寸前になったものだから身体がポカポカどころかホッカホカになった一同は暫くの間脱衣室でクールダウンしたのち、キンキンに冷えた瓶の牛乳で水分補給すると、歓迎会まであと30分をきっていた。

「ぷはぁ……お、ちょうどいいね。会場は食堂だけどもう場所は分かるよね?」

牛乳をアッという間に飲み干しえた吹雪が聞いてきた。

勿論、私は大丈夫だと答える。

「ならよかった。私達は準備もあるから先に行ってるね」と教導艦らは脱衣室を後にした。

 

 

 脱衣所に備え付けられてあるドライヤーで髪を乾かして制服に着替え、お風呂道具を自室に置いた後いよいよ皆が待つ食堂へと向かう。

話し声さえ聞こえず蛍光灯の明かりだけが照らしている廊下を歩くのは、丑三つ時でなくてもすこし不気味だったので早歩きで階段を進むと、目的の階へと着く。

すると提督とばったり鉢合わせしたため、少し息を吞んでしまった。

「あ、すまない。ちょうど準備が終わったので迎えに行くところだったがちょうどよい。心の準備はいいかい?」

「えぇ、いつでも」

私がいた世界でも命名・進水式で沢山の方からお祝いされた。たまたま私の名前と同じ日本酒が中を清めたり、くす玉とともに船体に叩きつけられたのはちょっとびっくりしたけど。

人間の姿でお祝いされるのは初めてなので、どんなふうになるのだろうと期待を膨らませる。

「自己紹介のあと恐らく艦娘たちから質問が沢山来るだろうから、質疑応答頑張ってほしい。特に駆逐艦や青葉からは根掘り葉掘り聞かれるかもしれないが……まぁなるべく情報は共有したほうがお互いのためになるだろう」

思わぬ一言で緊張と焦りの表情が出るが、提督はお構いなく廊下を進み食堂につくと勢いよく扉を開ける。

すると目に飛び込んできたのは『ようこそ幌筵鎮守府へ』と書かれた横断幕に色とりどりの立派な料理、そしてふぶきの全身に突き刺さるような万雷の拍手、クラッカーによる大量の紙吹雪とテープが舞う光景であった。

「すっご……」その光景に思わず見惚れてしまう。

嬉しさ半分、緊張半分の歓迎会が幕を開けた。

 

 

 

 




フブキチャンを称えよドンドコ₍₍ (ง ˙ω˙)ว ⁾⁾ドコドコ


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