Devil may cry ~Fleet Collection~ (縁(みどり))
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Mission0 ~序章~
Prologue


時刻は20:00を回ったところであった。

静寂が街を支配する時間に、一人の男が車を走らせる。少し古いデザインのクラシックカーだが、それなりにスピードは出るようで、今は道路を早めの速度で走っている。道路脇の街灯が流れていくのを感じながら、男はその表情を笑顔に変えた。

 

「…久しぶりに、デカい仕事が入ったもんだ。」

 

そう言いながら、運転中であるにもかかわらず、右手でハットを直す。その車が向かっていたのは、ある事務所であった。

この街で有名な、ある『何でも屋』の事務所へと。

 

 

__________________________

 

 

 

「…ああ、いつもの生ハム&ガーリックポテトミックススペシャルだ。オリーブ抜きでな。」

 

とある事務所の中、赤いコートを着た男が机に両足を組みながら、黒電話の向こうに注文を付けている。この男の名はダンテ。かつて、人間界を救ったスパーダという魔剣士の息子であり、数々の伝説を残してきた半人半魔である。先日も城塞都市フォルトナにて、自分とよく似た銀髪の青年と共に世界を救ってきたのだ。

その彼は今、非常に不機嫌な顔をしている。それは、ダンテにとっては死活問題のことであった。

 

「…ツケはこの間しっかりと払っただろ。届けられないってのはどういうことだ?」

 

ダンテはそう言いながら、わざと音を大きく立てながら足を組み替えた。ピザ屋が、ピザを届けるのを拒んでいるのだ。ダンテは少しばかり本気で文句を言おうかと思っていた。

しかし、電話の向こうから告げられた言葉に、顔をしかめる。少し面倒くさそうな顔を浮かべながら、電話を持っていないほうの手で頭を掻き、軽くため息をついた。

 

「…そうかよ。んじゃあな。」

 

そう言って、ダンテは黒電話の受話器を本体に投げる。綺麗な軌道を描き、その受話器はしっかりと本体に吸い込まれるかのようにして着地した。ガシャンと、電話が切れる音と同時に、扉が開く。そこには、ハットをかぶった男が立っていた。

 

「…モリソン。」

 

ダンテの言葉に、そう呼ばれた男が少し笑う。ハットを外して顔を見せながら、懐かしむような表情を浮かべていた。

 

「久しぶりだな、ダンテ。フォルトナでの活躍は聞いてるぞ。」

「…hah、俺はピザが食べられなくて少し苛立ってんだぜ?早く仕事の話をしてくれよ。」

 

モリソンの言葉にダンテがそう答える。モリソンは少し帽子をかぶりなおしながら肩をすくめて、苦笑する。

 

「…悪かったよ。ピザ屋のアンディには先に言っておいたんだ。お前さんにこの仕事の話をしたら、間違いなくピザが無駄になっちまうからな。」

 

モリソンの言葉に軽くダンテは鼻をならす。それを見たモリソンが、机の方に歩み寄ってくる。

 

「本当にそう思うかは分からねえ。ピザぐらい食わせてくれたっていいだろう?」

「そういうと思って、ほれ。」

 

モリソンがそう言いながら、後ろにあったカバンの中から香ばしいにおいのする箱を取り出した。それを見たダンテが、少し上機嫌につぶやく。

 

「…気が利いてるじゃねえか。」

「一応、貸しにしようか迷ったが、まあ今回は俺からの奢りだ。」

 

モリソンがそう言いながら、机の上にピザの箱を置く。ダンテは椅子から足を下して前かがみになり、ピザの箱を開ける。中には先ほど注文予定であった、生ハム&ガーリックポテトミックススペシャルのオリーブ抜きが入っていた。ダンテは少し嬉しそうな表情でピザを一枚とる。

 

「…OK、どんな仕事か教えてくれ。」

 

その言葉に、モリソンはニヤリとした表情でダンテを見る。モリソンは、ダンテからその言葉が出てくるのをわかっていたようだ。

 

「…今回の仕事は、日本だ。」

 

ダンテはモリソンの言葉に怪訝な表情を浮かべる。モリソンはビリヤード台の方へ歩いていく。

 

「日本?悪魔に狙われるようなものでもあるのか?」

 

ダンテがそういうと、モリソンがビリヤードのキューと呼ばれる棒を持ち、構える。その隙に、ダンテはピザを口に運ぶ。

 

「最近、海からやってきた謎の生物ってやつを知ってるか?」

「…さあ、知らねえな。」

 

ダンテはそのモリソンの言葉によくわからないといった表情を浮かべる。それと同時に、モリソンはキューを使って白い球を打ち出す。球は1番のボールに当たり、他のボールと共にテーブル状を駆け回る。カンッカンッと、少し高い音を奏でながら、ボールは次々と穴に落ちていく。

 

「そいつは、日本の陸地に向けて侵攻を続けているらしい。それの対応に追われている日本政府が、その謎の生物に悪魔が関わっているんじゃないかと推察してるようだ。」

 

モリソンが話を終えると同時に、ボールはすべて穴の中に入ってしまった。白球も含めて。それを見たモリソンはむっ、とつぶやき、しばらくしてため息をつく。ダンテはその話を聞きながらピザを完食してしまっていた。

 

「どうにか、その海の悪魔をせん滅できないかと、そういうわけで…」

 

と言いながら、モリソンはダンテの方を見る。ダンテはその言葉を聞いて、心底うれしそうな表情であった。

 

「俺にご指名があったというわけだ。」

「ま、端的に言えばそうなるな。って、もう食い終わったのか。」

 

モリソンがそういうと同時に、ダンテは椅子から立ち上がり、後ろにかかっているリベリオンをギターケースの中にしまい、エボニー&アイボリーを腰のホルスターに入れる。

 

「2分で食い切ったのは人生初だ。モリソン、車を出してくれ。」

「…おいおい、俺はお前の足じゃないんだぞ?」

 

ダンテはそう言って、もう準備を終えたのか外へ出ていった。それを見たモリソンがやれやれ、といった感じで後に続く。

不気味なほどの月明かりが、その二人を包んでいた。それは、これから起こる出来事の予兆なのか、それとも…

 

 

 

 

 




久々にDMCを1~4まで一気にやって、書きたくなった。後悔はしていない。


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Mission1 ~Devil hunter~
来訪


ダンテ緊急来日ってとこですかね。

すみません、地名のミスがあったため、修正しました。


「はぁ…わかりました。この鎮守府に来るんですね。」

 

日付は変わり、日差しも高くなっている。外はアスファルト照り返しによって、ゆらゆらと陽炎が立ち上っているが、室内はクーラーが暑さを和らげている。

ここは、横須賀鎮守府。一人の白い軍服を着た男が、執務机の電話の応答をしている。それを見ながら、来客用のソファとテーブルに書類の整理を行っている少女が一人。名を電という。電は慣れた手つきで書類をまとめ上げ、それを執務机に持っていく。それを見た男が右手を軽く上げ、感謝の意を示す。それに微笑みで返すと、電はシンクの方に歩いていく。そして、丁寧な動作で茶葉を急須に入れ、ヤカンで沸騰していたお湯を注ぐ。

 

「…時刻は…わかりました。では、準備しておきます。」

 

そう言って、男は電話を切る。それを見た電は、すぐに二つの湯呑にお茶を淹れ、お盆でゆっくりと運ぶ。

 

「司令官さん、何かあったのですか?」

 

電は湯呑を一つ置きながら、司令官と呼ばれる男にそう尋ねてみる。男はありがとう、と一言告げて、少し息をつくためにお茶をすする。そして、ほっとついたところで、電の質問に答えることにする。

 

「今日から、ある男の人が来るらしい。深海棲艦に対抗できる可能性があると説明された。」

「お、男の方ですか!?それって、でも!艦娘適性が出るのは女性だけじゃ…」

 

電は驚いたような表情で男の言葉に反論する。しかし、男は少しも動じなかった。むしろ、少し笑っていた。

 

「その人は、艦娘ではないみたいなんだ。詳しい情報は全く入ってないけど、外国の人ら

しいよ。」

「なのです!?」

 

電は、男の言葉にさらに驚いていた。今や、深海棲艦に太刀打ちすることができるのは艦娘だけである。普通の人間が深海棲艦と戦うのは、至難の業であることは明白である。しかも、その人物は艦娘ではないという。そんな実力を持った人間など、外国にいるのだろうか。

 

「…いったい、何者なのですか?」

「さあ。でも、今まで俺たちが苦戦してきた相手を、ぽっと出の人間に何とかできるとも思えない気もするが…」

 

男はそう言いながら、苦笑いをする。この男は、この鎮守府を任されている提督である。大将と呼ばれる階級であり、名前は特に認知されていない。提督はこの鎮守府にこの一人しかいないのため、名前で識別する必要がないからである。

そんな彼らは、今まで深海棲艦を相手に多大なる戦果を挙げてきた。それも、艦娘たちの安全を第一にして、強硬策には決して出ないにも関わらずだ。そうやって来た経験もあり、これからやってくる男がどんな人間であろうと、簡単に認めるわけにはいかない。それは、この道のプロである故であり、ある種のプライドというものがあるからである。

 

「…今日の夕方、16:00頃の着任らしい。まあ、厳密にいえば仕事に就くというより、補佐という意味合いが強いみたいだけどね。」

 

提督はそう言いながら、肩をすくめた。電は、純粋にその男のことが気になっていた。鎮守府には、提督しか男がいない。もちろん、街に出れば男の人はたくさんいるのだが、街に出るのは大体非番の時の買い出しの時だけである。すなわち、初めて密接にかかわることになるかもしれない男の人である。

 

「…できれば、仲良くしたいのです。」

 

そう言いながら、少しワクワクしている自分がいたのを感じ取った。しかし、その感情を振り払いながら、提督に相対する。

 

「よし、それじゃあ、準備しようか。その人の部屋も用意しなくちゃいけないしね。」

 

提督がそう言いながら、パンっと両手を合わせた。その音に電は、少し驚きつつも笑顔で提督の提案に賛成した。

 

 

_____________________

 

 

 

「…へぇ、ここが日本ねえ。」

 

飛行機から降りて、まずダンテが思ったことは一つであった。

 

(…確かに、血の匂いが強いな。)

 

日本の空港に着いた途端、鼻につく強い悪魔の血の匂いが入ってきたのだ。数は多くはないものの、こんなに人が多い中で溶け込んでいるのだ。それは、日本という国が悪魔の侵入に気が付いていないという証明であった。

 

「さて、確か迎えの車が来ている手筈だったな。」

 

ダンテはそう言いながら、空港の外を目指しながら歩き出す。その度に、赤いコートがひらひらと風を受けて揺れる。多くの視線がダンテに集まり、不思議そうな顔を浮かべるもの、どうでもいいかのように振舞うもの、興味深そうに見つめるもの。反応は様々だが、どうしても悪魔の視線は感じなかった。

 

「…匂いはするんだがな。」

 

ダンテはそう言いながら、大きな自動ドアを抜けて、外へ出た。目の前は道路になっており、そこに一台の車が止まっていた。

 

「お待ちしていました。ダンテさん。」

「?…」

 

ダンテは声のする方に静かに振り向く。そこにはスーツを着た男が三人ほど立っていた。ダンテは、日本語で話しかけられたにも関わらず、その言葉を理解していた。ダンテは不思議に思ったが、おそらく悪魔の血によって、言語の感覚が研ぎ澄まされているのだろうと勝手に納得した。ダンテは少し考えた後に、ハッと鼻を鳴らしてその男たちに近づく。

 

「あんたらがお迎えの?」

「はい。今から、横須賀にお送りいたします。」

 

男の一人がその言葉と同時に、後部座席のドアを開けた。軽く流してみてみるが、特に車に異常はなかった。ダンテはそのまま乗り込もうとする。

 

「お荷物は?」

 

男の一人が、ダンテにそう声をかけ、ギターケースを受け取ろうとするが、ダンテは右手を上げることでそれを止める。男は不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「ああ、いい。自分で持ってる。」

 

ダンテはその座席にドカッと座り込み、自分の足元にギターケースを置く。男は納得したかのような表情を浮かべ、ドアは閉める。そして、男たちは運転席と助手席、そしてダンテの隣にそれぞれが座った。

 

「少し時間はかかりますが、楽にしていてください。」

 

助手席の男がそう言って、ミラー越しのダンテに微笑みかけた。それを見たダンテは、軽くにやけ面で返す。ダンテはモリソンが去り際に言っていた言葉を思い出していた。

『今回の仕事、いつものようにはいかないかもな。』

ダンテは軽くにやけながら窓の外を眺めた。いつもより面倒で、刺激的な仕事になりそうだという確信に満ちた表情で…

そして、車は発進した。その横須賀という場所に向けて。

 

「ダンテさんは、デビルハンターとお聞きしました。今回のお話受けていただいて、本当にありがとうございます。」

 

隣の男が、無機質な声でそう話す。ダンテはその言葉に鼻を鳴らしながら、軽く右手をあげる。

 

「仕事だしな。気にしないでくれ。」

 

ダンテはそう言いながら、流れていく窓の外の景色を眺めていた。特に何か気になったものがあるわけでもなく、ただひたすらぼんやりと外を眺めていた。やはり、日本も先進国に名を連ねている国、かなりビルが多かった。結構な高さのビルが乱立しているのが見える。もちろん、アメリカのニューヨークほどの高さではなかったが。

助手席の男がチラと窓の外を見ると、車が多く行き来しているのが見えた。

 

「なあ、窓開けてもいいか?」

 

ダンテは突然そう言いだす。助手席の男が運転席の男の方を見る。運転席の男が、軽く右手をあげてそれに応える。助手席の男がダンテの方に首を向ける。

 

「いいですよ。今、冷房を一時的に切りますね。」

 

そう言って、助手席の男が冷房を切ろうと手を伸ばした。

そして、その瞬間、車内に銃声が響いた。

 

「…えっ?」

 

男はその音がしたほうを見る。ダンテが開けた窓のところに、何か異形のものがへばりついているのが見えた。

 

「…さっきからつけてきてると思えば、窓を開けた瞬間飛び込んで来るとはな。」

 

ダンテはそう言って、エボニーをくるくると回しながら腰のホルスターにしまう。その流れるような動作は、一つの武術のような華麗さを醸し出していた。そして、窓にへばりついていた異形は、力なく地面に落ちていった。

 

「…い、今のは!?」

「悪魔だ。かなり下級だがな。」

 

ダンテはそう言って、窓を閉める。男たちは言葉を失っていた。まさか、こんなに早くも悪魔が襲ってくるとは思ってもいなかったのである。しかも、ダンテを追いかけてきていたという。

となれば、当然…

 

「…安全運転を気にしている場合じゃねえってことだな。気をつけろよ。」

 

ダンテはそう言って、目を閉じて眠りにつこうとした。それを聞いた運転席の男が少しおびえた表情で車のスピードをわずかに上げていた。

 

「…は、はは…マジかよ…全く…」

 

助手席の男は冷や汗をぬぐいながら、そうつぶやいたのであった。

 

 

 




アニメのように、人間に化けた悪魔もいれば、ゲームのように種族ごとの悪魔もいる、というスタンスで書いていきます。
個人的には1のダンテが一番好きです。

ダンテが日本語を喋れる理由は、悪魔の血で説明づけました。感覚で言語を理解して、使役できるという感じです。


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出会

艦娘の方の主な登場人物も特に決めてないです。ただ、今回登場した艦娘は、今後も主軸で出てくると思います。


「本当に、男の人が?」

 

時刻は変わって、15:15。鎮守府の食堂にて、テーブルをはさんで電の目の前の少女、雷がそう電に尋ねる。電はカレーを口に含んでいたので、少し口の中で咀嚼してからすぐに飲み込んだ。秘書艦としての仕事をしていると、他の艦娘よりも食事が遅れてしまうことがある。今日は、これから来ると言われている男の人のために準備をしており、その関係で遅い昼食を今取っているのだ。

 

「らしいのです。なんでも、深海棲艦に対抗できるみたいなのです。」

 

電の言葉に、隣に座っていた暁が目を輝かせていた。アイスクリームを食べていた暁は、口の周りにクリームをつけていた。

 

「それって、この鎮守府に提督以外の男の人が来るってこと!?」

「暁、口にものを入れたまま喋るのは行儀が悪いよ。」

 

響はそう言いながら、テーブルごしに暁の口元を自分の持っていたティッシュで拭く。その響も少し楽しみにしているようで、表情が生き生きとしている。今までで、男の人が鎮守府に来たことがあるのは、提督の着任時だけであった。なので、それ以外の男の人が来るのは珍しいことなのだ。

 

「へぇ!男の人が?どんな人なの?」

 

そう言いながら、鈴谷と熊野が電たちに近づいていく。電達は、みんな鈴谷と熊野に挨拶する。

 

「お疲れ様なのです。それが、どんな人が来るかは全く聞かされていないのです。」

 

電は少し残念そうにつぶやいていた。どうやら、電は鈴谷の質問に答えられないことに罪悪感を抱いてしまっているらしい。鈴谷はその電を見て、大丈夫大丈夫、と肩を軽くたたく。

 

「ただちょっとだけ気になってただけだから!そんなに気にしなくても大丈夫だよ!」

 

鈴谷はニコっと笑って電を元気づけていた。そんな表情を見たからか、電は少しほっとしたような表情を浮かべていた。

そこに、チャイムが鳴り響く。

 

『こちら執務室より連絡です。電さん、至急、執務室まで来てください。』

「はわわわっ!?」

 

電は少し焦った様子で立ち上がっていた。提督からは少しゆっくりしてきていいと言われたので、ついうっかり長居してしまっていた。今頃提督も、怒っているかもしれない。

 

「あ、あのっ!ごめんなのです!!すぐ行かなきゃ…」

 

電がそう言って食器を片付けようとしているのを見て、雷は少し呆れたような笑顔で止めた。

 

「ああ~いいのいいの!食器とかは片付けておくから、行ってきなさい!すぐ行くんでしょ?」

「でも…」

 

雷の言葉に電は少し申し訳なさそうにしているのを見て、暁がため息をつく。

 

「ほらっ!さっさと行かないと!提督を待たせたら、レディ失格なんだから。」

「そうだね。ここは私たちに任せて、電は早く行った方がいいよ。」

 

暁の言葉に続けるように、響がそう続ける。少し迷っていた電であったが、意を決したようで、頷いて走り出した。

 

「今度、埋め合わせするのです~!!」

「はぁ…そんなのいいのに。」

 

電の言葉に雷がそうつぶやく。それは、純粋に姉妹に対しての優しさがあふれ出ていた。それを見た熊野は、少し微笑んでいた。

 

「?…どうしたんだい?」」

 

響が熊野の方を見ながら不思議そうに首をかしげる。その言葉に、熊野に視線が一気に集まる。

 

「いえ、皆さまが本当に姉妹を大切にしているんだなぁと思っただけですわ。」

熊野はそう言いながら、微笑みを崩さずにそうつぶやく。それを聞いた雷は恥ずかしそうに顔を赤くして、暁はえっへんと胸を張る。響はその言葉に微笑みで返す。

 

「ずるーい!私だって熊野のこと大切に思ってるのにー!」

 

鈴谷がそう言って熊野に抱き着く。すると、熊野はあわあわと声をあげながら、顔を少しずつ赤くしていった。

 

「な、何の話ですの!ちょ、離れなさいな!!鈴谷!!」

 

その光景を、雷たちは笑いながら見ていた。

 

 

________________________

 

 

 

「それで、ここまでの旅はどうでしたか?」

 

提督は、執務机に座りながら、ダンテにそう告げる。ダンテは来客用のソファに腰かけながら、かったるそうにテーブルの上に足を乗せる。それを見た大淀が、少し怪訝な顔を浮かべている。その理由としては、この赤いコートを着た白髪の人間が何者なのか、はっきりとわからないこともあげられる。

 

「…まあ、それなりに楽しかったさ。」

 

ダンテはそう言いながら、軽く面倒くさそうな顔をしていた。今の時刻は15:20である。スーツの男たちが、かなりスピードを上げてくれたので、予定よりも40分ほど早く到着したのであった。

大淀はシンクでお茶を淹れ、湯呑をダンテの足が載っているテーブルに置く。

 

「よう、大和撫子ってのはアンタのことを言うのか?」

 

ダンテは大淀のことを見ながらそうつぶやく。それと同時に、大淀の顔が少し赤くなっていくのが見えた。

 

「なっ…!」

 

いつもこういういじりに慣れていない大淀は、そのままテンパってしまったようで、少し焦りつつ咳払いをした。ダンテはその様子をニヤニヤと見ていた。ふと、自分の目の前の液体に興味がいったのか、ダンテは湯呑を持ち上げた。

 

「…こいつは何だ?」

 

ダンテはそう言いながら湯呑をじっくりと見る。大淀は、少し失念していたようで、ダンテが外国人だということを忘れていた。

 

「それは、緑茶です。お口に合えばいいんですが…」

「…hmm。」

 

ダンテは少し興味を持ったようで、そのまま口に含む。すると、口の中に、苦みとも甘味とも取れないような不気味な味が広がっていった。ダンテは少し黙ってそれを味わっていたが、飲み込んでから軽くため息をつく。

 

「…こいつは、なかなか。」

 

ダンテはそう言いながら、静かに湯呑を置いた。提督はそれを見ながら、少し苦笑いをする。

 

「やはり、海外の方には口に合わないか?」

「俺じゃなければ、気に入る奴もいるかもしれねえな。」

 

ダンテはそう言いながら、テーブルから立ち上がり、軽く息をつく。

 

「で、俺の仕事はいつ始まる?」

 

軽く両手で、コートのしわを伸ばすようにはたきながら、ダンテは提督にそう告げる。提督は少し呆れたように笑う。今しがた、秘書艦の電を呼んだことも関係しているのだが、この男は結構せっかちなのだと。

 

「まあ、待っていてくれ。今から、私の秘書艦がやってくる。その子にここの案内をしてもらうといい。」

 

提督はそう言って、ダンテの方を見る。彼は先ほどまでの面倒くさそうな顔から、少しだけ楽しそうな顔に変わっていた。

と、そんな風に話していると、廊下の方からパタパタと走る音が聞こえてきた。そのまま勢いよく扉を開けながら入ってきたのは、電であった。

 

 

 

電Side

 

 

「すみません!遅れてしまったのです!!」

 

そう言いながら、私はドアを勢い良く開けた。提督は怒っているのだろうか。もしかすると、しばらく秘書艦を解任されてしまうかもしれない。そんな風に考えながら慌てて入ってしまったので、私は気が付いていなかった。

 

「ん?」

 

そう言いながら、目の前にいた大きな背丈の赤いコートを着た銀髪の男の人が、私の方に視線を向けた。私は思わず、びっくりしてしまい、大声で叫んでしまった。

 

「はにゃああっ!?」

 

私の声に、目の前の男の人は、そんな私を見て意地悪そうに微笑んでいた。その顔は、私をいじろうとしているのか、何か私に気に入らないことがあったのか、なんて勘ぐったりもしたが、結局はよくわからなかった。大淀さんはこちらを見ながら、ぐっと親指を立てた。何かこの男の人にされたのだろうか。

 

「電、この人が今日からしばらく補佐をお願いした、ダンテさんだ。」

 

提督がそう言いながら、ダンテさんと並ぶ。そして、その隣に立った提督さんよりも一回りほど大きいダンテさんは、右手で人差し指と中指を立て、軽い敬礼のようなポーズをとった。

 

「この子がお前の秘書ってわけか。あと10年したらきっとスマートな女性になるぜ。」

 

ダンテさんという人はそんなことを言いながら、笑みを浮かべる。さっきまでとは違って、随分と楽しそうな笑顔であった。私は、少しばかりその大きさに見とれてしまった。街の人以外でこうしてお話しする男の人は、提督以外では初めてだし、さらに言えば、海外の人なんて出会ったことも少ない。

 

「あ、あのっ、よろしく…なのです!」

 

私は精一杯、ダンテさんに失礼のないようにそう挨拶をする。ただ、当の本人は楽しそうな笑みを浮かべ、私のことをじっと見ているだけであった。その目は、どこか掴みどころがなくて、でも少し子供のような純粋な目であった。

 

「よろしくな、『お嬢ちゃん(Lady)』。」

 

ダンテさんはそう言いながら、軽く手を振るのであった。

 

 

 

 

 




今日はここまで。

次回の投稿は、翌週になるかと思います。


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案内

来週と言っていたのに、割と書き終えたのが早かったのであげます。


「…案内…ですか?」

 

提督に事情を説明された電は、首をかしげながらその言葉に答えていた。ダンテはソファに再び座り、テーブルに足を組んでいた。大淀は先ほどから自分の仕事に戻っていた。ヘッドセットをつけて、大本営から何か打電がないかを確認しているのだ。

 

「頼まれてくれないか?ダンテさんにも、ここにある程度慣れてもらわなければならないからね。」

 

提督はそう言って、電に微笑みかける。電はそれに笑顔で、了解なのです!と答える。ダンテはその間に、執務室内を散策しており、ジュークボックスの前で何かつぶやいていた。

電はそんなダンテの方を向いて、笑顔を向ける。

 

「ダンテさん、それでは鎮守府を案内するのです。」

 

それを聞いたダンテは、すぐさまソファの脇に置いてあったギターケースを拾い上げ、背中に背負う。

 

「…OK、行こうぜ。」

「なのです!」

 

そう言いながら、二人は執務室から出ていこうとする。電はしっかりと提督に向けて敬礼をするのを怠らなかった。そして、先に外へ出る。ダンテは少しニヤニヤとした表情で大淀の方を見た。大淀は真面目に仕事をしていたためその視線に気が付くことはなかった。

 

「…アディオス、レディ。」

「っ…!?」

 

ダンテの言葉に、思わずヘッドセットを落としながら振り返る大淀。その顔は少し赤くなっており、少し狼狽したような表情であった。ダンテはそれを満足そうに見てから、電の後を追った。

 

「…彼が本当に、深海棲艦に対抗できる戦力なのだろうか?」

 

提督はそう呟きながら、執務机にならべられた書類を見ていた。大淀はムッとした表情で提督の方を見る。

 

「…少なくとも私はそんな風に見えませんでした。」

 

若干ふてくされているのか、そんな風に大淀はつぶやく。提督が少し苦笑いをしながらまあまあ、と大淀を落ち着かせる。

しかし、提督とて疑問に思っているのは事実である。今は、深海棲艦と人類、ともに戦力的に拮抗している。だからこそ、大本営は今回のように助力を頼んだのだ。

だが、その助力が機能しなければ意味がない。少なくとも、敵が来ていない以上判断はできないが、今の段階では、ダンテという男は変わった服装こそしている者の、普通の人間とは見た目も性格もあまり変わりがないように思える。大本営が、あの男について何か隠しているのは明白である。

 

「…まあ、情報がないのにこんなことを考えても仕方がない。」

 

提督はそう言って、ふぅ、と息をつく。それを見た大淀が、シンクの方へと歩き出した。

 

「お茶を淹れますね。」

「ありがとう。大淀。」

 

提督は大淀に、そう笑顔で答えた。チラッと時計を見ると、時刻は15:45を回ったところであった。

太陽はいまだ、地上を照らしている。

 

 

__________________

 

 

 

「まずは、こちらのお部屋からなのです。」

 

そう言いながら、執務室の隣の部屋のドアを開けた電は、ダンテに優しそうな笑顔を浮かべつつ、中へ入っていった。ダンテはその部屋が何の部屋なのかわかっておらず、頭の中に疑問符を浮かべながら後に続いていく。

 

「…こちらが、ダンテさんのお部屋なのです!」

「…なかなかいい部屋だな。」

 

電の言葉を聞いて納得したダンテは、その中を見渡してそうつぶやく。床はフローリングで、奥に提督が使っている執務机のようなものが置いてあり、壁際にベッドが置いてある。脇にはシャワールームへ続く扉があり、この中だけでもある程度は生活できそうな作りになって居る。

 

「…Hah、ちょっとベッドの寝心地を確かめてもいいか。」

 

そう言いながら、ダンテは部屋の中に入ろうとした…靴のまま。それを見た電が、待つのです!と大きな声でダンテを引き留めた。

 

「ん?どうした?」

 

ダンテが少し不思議そうな表情でそう尋ねると、電は少し困った顔でこう言った。

 

「あの…靴は脱いでからじゃないとダメなのです…」

 

その言葉に、ダンテはさらに不思議そうな顔をしていた。部屋に入るときに靴を脱ぐ。それは、彼にとって馴染みのない文化だったからである。ダンテは考え込むように腕を組む。

 

「…日本ではそういうルールなのか。」

「…ま、まあ…そういうことなのです。」

 

電は少し苦笑いしながら、ダンテの言葉に返す。ダンテは少し考えてから、納得したような表情を浮かべた。そして、両手を広げながら、電に向き直る。

 

「…部屋は後でいつでも来れるわけだしな。先に案内を頼む。」

 

そう言って、部屋の外へ出ていく。電は少しほっとしたような表情を浮かべていた。

 

 

 

________________

 

 

 

 

次に二人が向かったのは、艦娘たちの寮である。艦種に合わせて寮が空母寮、駆逐寮、重巡寮、軽巡寮、戦艦寮、潜水艦寮(練習艦は軽巡寮、潜水空母は潜水艦寮に部屋がある。)と分かれており、電はとりあえず寮の位置だけでも、とダンテを連れてきたのだ。

しかし、電は連れてくるべきではなかったかもしれないと、頭を抱えた。

 

「すげえな、日本は美人が多いらしい。」

「…おい、電。この男は何者だ?」

 

今現在、ダンテは艤装をつけている武蔵と大和を見つけて、超ハイテンションだからである。

先ほどから、ダンテは手当たり次第に出会った艦娘に声をかけていく。例えば、北上と大井の二人組にはイチャイチャしているのをわかっていて話しかけて、主砲を向けられたり、長門と陸奥にはセクハラまがいの発言をして、二人から本気のトーンで窘められたり、挙句の果てに、訓練をしている赤城と加賀の目の前で「C’mon!!」と叫びながら自分を的にして弓を放つように挑発したり(加賀は無表情でスルーし、それを赤城が苦笑いで返した。)、と暴れまくっていた。電は武蔵の問いに少しため息交じりで答える。

 

「…今日から、一時的に協力してくださる、ダンテさんなのです。」

「今度一緒に、デートでもどうだい。一杯おごるぜ?」

 

ダンテは電の話している最中でも、大和と武蔵を口説いている。大和は苦笑いをしながら、武蔵の方をちらりと見ていた。武蔵はそれに対して、かなり苛立った表情でダンテを睨む。しかし、当の本人ダンテはまったく気にしていない様子で、武蔵の方をニヤニヤとした表情で見ていた。

 

「…馬鹿にしているのか?」

 

武蔵は、少しいら立ちを含めた声をあげながら、ダンテの方を見る。その表情は戦闘時のような、鋭い目線であった。その表情を見たダンテは、少し気のいい感じの笑顔を見せる。

 

「Hah、そんなクールな顔もできるんだな。」

「…そうか。馬鹿にしているんだな。」

 

ダンテの軽口に、武蔵は本気でパンチを繰り出そうと、右手を振りかぶっていた。それを見たダンテが、ニヤついた笑顔を浮かべながら、両手を横に広げた。

 

「…ふんっ!!」

 

その掛け声とともに、武蔵はパンチを繰り出す。艤装をつけているため、速度はボクサー並みで、それに比例して威力も申し分ないほどである。

だが、ダンテはその右手を凝視しながら、それを軽く体を翻すことで回避した。

 

「!…」

 

武蔵はそのダンテを見て、かなり驚いた表情を浮かべた。並の人間では、今のパンチを避けることはできないはずだ。せいぜい、ガードで受けるのが精いっぱいだろう。だが、それを繰り出された瞬間に見切り、回避することができるこの男は何者なのだろうか、と。

 

「…Ha-ha!手が早い女ってのも嫌いじゃないぜ?」

 

ダンテはそう言いながら、武蔵の方に楽しそうな笑顔を向けていた。武蔵はその表情を見て、しばらく呆気にとられていた。ダンテのいかにも余裕綽々といった表情を見て、その底知れぬ強さを感じ取っていたのだ。

 

「ダ、ダンテさん!!」

 

電が怒ったような口調で、ダンテをとがめる。ダンテはその電の言葉に軽い笑顔で答えた。武蔵は、未だダンテを警戒しており、気を張っていた。ダンテの性格が掴みづらいため、先ほどのパンチへの報復が来てもおかしくないと思ったからである。と、そこに大和の声が入る。

 

「武蔵!何を考えているのですか!」

 

大和の声に、ハッとなってそちらを見る。そこには少し怒った表情の大和が立っていた。武蔵は軽くため息をついて、ダンテの方に向き直る。対するダンテは、未だに楽しそうな笑顔のままであった。

 

「艦娘ってのは、みんなこんな感じに強いのか?」

 

ダンテはそう言いながら、電の方を見る。電はかなり怒っており、ダンテの質問に答えるか答えないかを迷っていたのだが、仕方ないという表情を浮かべながら、小さくため息をついた。

 

「…武蔵さんと、大和さんは別格なのです。でも、皆さんも艤装をつけたら、見た目以上には強くなるのです。」

「…ヤマト…か。」

 

ダンテは、その言葉を誰にも聞こえないほどの大きさでつぶやいた。かつて何度も剣を交えた兄弟と、フォルトナで出会った悪魔の右腕を持つ青年の顔が浮かんでいた。

その間に、電は武蔵と大和に謝罪の意を込めて、礼をした。

 

「すみません、ダンテさんには私からも言っておくのです。」

「こちらこそ、すみません。武蔵には強く言っておきますので…!」

 

大和はそう言いながら、そばに立っていた武蔵の頭をつかんで無理やり頭を下げさせた。武蔵は、ぬぐっ…!?と声をあげながら、大和の手を離そうとするが、大和の力の強さに観念したようで、そのまま抵抗をやめた。

 

「…はぁ…ダンテさん、次のところに行くのです。」

「…わかった(Allright)。」

 

ダンテは電と共に歩いてその場を離れていた。それを、大和は顔をあげて見送る。大和の手の力がなくなったのを察知して、武蔵も顔をあげてダンテの後姿を見る。

赤いコートに、ギターケースを背負った銀髪の男。武蔵はあの赤が頭から離れなくなっていたのであった。

と、思っていたら、隣の大和から本気のげんこつが降ってきた。ダンテに気を取られていたのか、痛みが頭に降り注いでから気づくことになった。

 

「…痛いじゃないか、大和。」

「当たり前です!生身の人間に、艤装をつけてパンチなどと!!」

 

大和に対しての武蔵の疑問は、完全に一蹴されてしまった。大和はしばらくガミガミと吠えていたが、その言葉は何一つ武蔵には届いていなかった。

あの男を打倒して、本当の意味で最強になる。それだけが武蔵の頭の中を駆け巡っていたのである。

 

 

 

 



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疑問


続き行きます。





「ここが、工廠なのです。主に、艦娘の建造や、装備の生産をしているところなのです。」

 

電はダンテに事細かに説明をしていく。途中で、色々な艦娘に出会ったのだが、確実に話題はダンテのことになった。やれ、その後ろのイケメンは誰だ、だの。やれ、なぜ男がこんなところをうろついているだの。その度に電はため息をつき、ダンテは軽くそれをいなしていた。

 

「へぇ…ここで装備やらなにやら作るのか。それに、艦娘の建造…か。」

 

ダンテはそう言いながら、興味深そうに艦娘の建造装置を見ている。右の方に数値を入力するボタン、その下に開始と書かれたボタンがあった。その姿は、好奇心旺盛な典型的な男子、といった感じであった。電は少し微笑んでいた。

 

「勝手に触っちゃダメなのですよ?」

 

電が釘を刺すようにつぶやくと、ダンテはやれやれと両手を軽く上げた。それを見た電は、クスクスと笑いながらダンテに歩み寄っていた。

 

「…ほう、なるほど。」

 

ダンテは一通り見終えたのか、その装置を軽くノックしていた。そして、電の方に振り返ると、こんなことを尋ねた。

 

「なあ、この中には何がいるんだ?」

「えっ…?」

 

ダンテの質問に、思わず戸惑う電。そんな電を尻目に、ダンテはそのまま続けた。

 

「中から、何かの気配がするもんでな。」

 

ダンテはそう言いながら、電に微笑みかける。電は、初めてこの装置を見た人間にそこまでわかるとは到底思っておらず、純粋に呆気に取られていた。しかし、こんな風に質問をされている以上、答えないわけにはいかない。

 

「…中には妖精さんがいるのです。装備も、艦娘も、妖精さんが作ってくれるのです。」

「…妖精、ね。」

 

ダンテはそう言って、装置の中をどうにかして覗けないか、試し始めていた。それは、電の言葉を信じられないといった様子であった。電は苦笑いを浮かべながら、ダンテを見守る。

ふと、電はそのダンテから装置に目を移す。そして、今までのことを思い出す。

気が付いたら、研究所の中で白衣を着た人に囲まれていた。その人たちは、口々に成功と呟いていたのを今でも覚えている。しばらくは艦娘として戦うことを教え込まれ、訓練に明け暮れていた。

ある日、私は司令官のもとに連れてこられた。今でも優しい言葉をかけてもらったことを覚えている。司令官のために、秘書艦という大変な仕事と並行して、近辺の海域への出撃をこなした。そして、戦果を挙げれば建造をして、新しい艦娘が増え、司令官の階級は上がっていく。そして、またその新しい戦力で、新たなる海域に向けて進軍する。今までも、これからも、ただ戦いに駆り出されるために生きていく。激化する、深海棲艦との熾烈な戦い。その戦いに終止符が打たれるまで、私たちはこれからも戦い続けるのだ。

そこまで考えて、急に不安になった。こうやって、司令官のために戦闘を繰り返す艦娘は、深海棲艦と何が違うのだろうか。普通の人間から見て、私たちはいったいどんなものに見えるのだろうか。

電は唇をかみしめていた。

 

「…おい、どうした?」

「!…は、はいっ!」

 

突然、ダンテは電を呼ぶ。それに対して、電はビクッと体を震わせながら、返事をする。

ダンテは少し微笑みながら、電の方を見る。

 

「なぁ、腹減らねえか?」

 

電はその言葉に、小さくあっ、とつぶやいてパタパタと歩いていく。

 

「すみません、食堂の方に行きましょうか!」

 

電はそう言いながら、笑顔でまた先を歩き始める。ダンテは小さく、hmm…と呟く。

 

(…今はまだ、俺が何を言っても意味はなさそうだな。)

 

ダンテは少し困ったような笑みを浮かべながら、電の後をついていくのであった。

 

 

 

________________

 

 

 

 

「…ダ、ダンテさん…?」

「あぁ?」

 

電の言葉に、少し気だるそうにそう返すダンテは、不機嫌そうな表情であった。それもそのはず、ダンテは食堂に着いた途端、今日の食事担当のうちの一人である曙に、いつもの生ハム&ガーリックポテトミックススペシャルLサイズのオリーブ抜きをリクエストしたのだが、「はぁ?」と言われ、完全に断られてしまったのである。

 

「今日は金曜日なので、メニューはカレーライスだけなのです。」

「…あぁ、さっきも聞いた。毎週カレーなんだってな。」

 

ダンテはそう呟きながら、少し面倒臭そうな顔をしていた。

 

(これから毎週金曜は、憂鬱になりそうだな。)

 

と、頭の中で呟いた。ダンテにとっては、ピザがないというのはかなり厳しい状況であった。誰だって、自分の好物を取り上げられたら不満を持つだろう。それはダンテも同じである。とにかく、ピザは調達する方法を考えなければならない。

と、そういえばもう一つ大事な存在を忘れていた。

 

「…待てよ。俺はさっき、甘味処もあるって聞いたぞ。」

「はい、間宮さんと伊良湖さんがいつも作ってくれてるのです。」

 

電はダンテの質問にキョトンとした顔で答える。ダンテが相当真剣な眼差しでこちらに質問してきたからである。その表情に、電は何か自分の心の中に不安な気持ちが募っていくのが分かった。息を飲み、次のダンテの言葉を待つ。

そして、ダンテの重い口が開く。

 

「…ここにはストロベリーサンデーはあるのか?」

「…ス、ストロベリーサンデー?」

 

電はダンテの質問に思わず素っ頓狂な声を上げてしまっていた。あまりにも重苦しい空気の後に、あまりにも軽い内容で、電はどっと疲れが押し寄せてくるのを感じていた。

 

「…その様子だと、無いみたいだな。」

 

ダンテはさらに残念そうな表情でつぶやく。先ほど、大淀や電をいじっていた時の笑顔は完全に消え、今や哀愁さえ漂わせている。電は、苦笑いをするしかなかった。

 

「電~!」

 

と、そんな風に突然声が聞こえる。ダンテはその声が目の前の電に似ていたので、思わずそちらの方をみる。そこには、電と顔も名前もそっくりな、雷がいた。

 

「雷ちゃん!さっきはありがとうなのです!」

「ふふん!もっと頼って良いのよ~!…それで、こっちの人がさっき言ってた?」

「はい、ダンテさんなのです。」

 

雷はそう言いながら、ダンテの方を見る。ダンテは少し笑顔になり、テーブルに両足を組みながら乗っけた。

 

「へぇ、日本人はなかなかお嬢ちゃんが多いな。」

 

ダンテのその顔はすでに先ほどまでの不機嫌な様子はなく、ニヤニヤとした余裕のある表情であった。雷はダンテの言葉にため息をつく。

 

「…それはどうも。なんか軽い感じの人ね。」

「わ、悪い人では無いのですよ?」

 

雷の言葉に、電が少し慌てたようにフォローを入れる。ダンテはそんなことを気にもせず、ただ辺りをぐるりと見回す。

ここには多くの艦娘がいる。先ほどダンテが出会った艦娘もいるのだが、それでもまだ全員では無いと、電は言った。この場にいるのはすべての艦娘の中のほんの一部らしい。

ダンテは建造というシステムを思い出して、少し考え込む。

目の前のこの少女たちは、先ほどの装置から作られた人間だという。モリソンから事前に聞いていた情報では、艦娘とはかつての日本海軍の艦の魂をもつ人間とのことだ。おそらく、顔や制服が似ている者同士は、その軍艦の同型艦の魂を持つ可能性が高いということなのだろう。日本は、バイオテクノロジーどころか、精神さえも自由にいじれるサイコセラピーまでも自由に扱えるようになったということか。

そして、一番気になったことが一つ。それは、先ほど武蔵と大和と出会った時のことであった。

なぜ、艤装と呼ばれるものをつけた少女たちから、悪魔の匂いがするのだろうか。

そこまで考えて、今はそんなことを考えても仕方がないとダンテは頭を掻く。結局、今は目先の問題を解決するほかないのだ。まずは、ピザとストロベリーサンデーの調達をやらなければならない。

 

「?…ダンテさん?」

 

ダンテは無言で席を立っていた。それを見た電は不思議そうな表情を浮かべた。

 

「…とりあえず、近くにピザ屋がないか探してくる。俺にとっちゃ少なくとも死活問題だ。」

 

それを聞いた電が少し驚いたような表情を浮かべ、すぐにクスクスと笑いだした。そして、そのまま座っていた席を立つ。

 

「では、電もお付き合いするのです。」

「ん?…頼む。」

 

ダンテは断ろうとしたが、よく考えてみれば土地勘も全くない上に、ここは異国の地である。ついてきてもらった方が良いだろうと思ったのであった。

 

「気をつけていきなさいよ~。」

 

雷はそう言って、電を送り出す言葉を投げかけた。それに、電は笑顔で答え、食堂から出ていく。ダンテは少し肩をすくめて、そのまま食堂のドアを開く。

 

「ねぇ、ダンテ。」

 

と、後ろから雷がダンテを引き止める。ダンテは顔だけをそちらに向けて、雷の次の言葉を待っていた。

 

「…電、何か言ってた?」

 

そう、心配そうな表情でダンテに問いかける。ダンテは、少しニヤリと笑ってこう答えた。

 

「何も?だが、焦らなくてもいつかわかるさ。」

 

バタンと閉じたドアが、雷を取り残した。雷はその言葉を聞いて、怪訝な表情を浮かべていた。

そのいつかは、いったいいつ来るのだろうか、と。

 

 

 

 




いくつか伏線を出して、今回は終わりです。

今後も、艤装や艦娘については独自設定を盛り込んでいく形になると思います。


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悪魔

日にち結構空きましたが、続きです。

第一章ラスト兼初戦闘(深海棲艦ではない)回
何回見直しても、不備がないか不安になるという恐怖。

次の章でダンテは海に出ます。






「…う~ん、チョッチ眠い…」

 

鈴谷はそう言いながら欠伸をする。熊野がそれを嗜めるようにため息をつく。

鎮守府の入り口側を警備している二人は、実際のところ暇であった。あたりは段々と暗くなってきており、この鎮守府前には人がほとんどいない。(普段から人は少ないのだが。)なので、警備と言ってもただ立っているだけなのだ。それならば、多少危険でも海上の哨戒の方がまだ面白いのだ。

 

「ここの連中はピザを食べないのか?」

「基本的に、食堂のご飯が美味しいのです。だから、外食やデリバリーはしないのです。」

 

と、そんな暇そうな二人に近づく二人の影。鈴谷はそちらの方をチラと見る。そこには銀髪で赤いコートを着て、ギターケースを背負った男が、秘書艦の電とともに歩いてくるのが見えた。

 

「あれが、今日来るって言ってた?」

「…みたいですわね。」

 

鈴谷の言葉に、熊野はそう呟く。鈴谷がダンテの方に少しずつ近づいていく。熊野はそれを見て、ちょっと!?と制止するも、鈴谷は止まらなかった。そして、ダンテの目の前に立ちふさがる。

 

「ねぇ、あんたがダンテっていう人?私は鈴谷。よろしく~。」

「ん?こんなところにもお嬢さんがいるな。ほう、ここの連中はみんな将来が楽しみだ。」

 

そう悪戯っぽく微笑むダンテは、鈴谷を下から順に見ていく。それを鈴谷はジト目で見る。

 

「…ダンテってそういう趣味?」

 

その言葉に、ダンテは軽く笑いながら熊野の方を見る。鈴谷は熊野がダンテにジロジロ見られていると思い、ダンテの目線の正面に入る。

 

「…熊野をそんな風に見るのはダメだかんねー。」

「…Hah、仕方ないな。」

 

ダンテはそう言って、目線を鈴谷へ戻す。電はその様子を見て、少しダンテの方にあきれたような目線を送り、鈴谷に尋ねる。

 

「…今から、ダンテさんと街へ出るので、外出の許可をお願いしたいのです。」

「んー、まあ、今日は電の秘書艦としての仕事はこの人の案内って聞いてたし、いいんじゃないかな?」

 

鈴谷は電の問いにそう答え、とりあえず熊野にそのことを報告しにいった。ダンテと電はその鈴谷のあとについていく。

 

「ねえ、熊野―、この二人が外出たいんだって。」

「あら、でしたら、後で帰ってきたときに書類だけ記入お願いしますわ。」

 

熊野は鈴谷の言葉にそう返し、ダンテと電の二人を見た。電は二人の方を見ながら、笑顔になっていた。

 

「ありがとう、なのです。」

「いいっていいって、じゃあ気を付けてねー。」

 

電に鈴谷はそう声をかけると、ダンテの方に歩み寄る。その鈴谷の表情はいたって真剣な顔であった。

 

「…どうした?」

 

ダンテがそう問いかけると、鈴谷は鋭い目つきでこう言った。

 

「…電に手を出したら、許さないかんね。」

 

ダンテは、思わず肩をすくめた。右手を軽く上げて、そのようなことは誓ってしない。と、さすがにそこは弁えていることを示す。鈴谷はそれにジト目で返していた。

 

「ダンテさん?どうしたのですか?」

 

と、先を歩いている電がそう尋ねてくる。ダンテは、何でもねえ、と言いながら、電の方に歩いて行った。鈴谷はその後姿をずっと睨んでいた。熊野がその様子を怪訝な面持ちで見ていた。

 

「…ちょっと、一体どうなさったんですの?」

「…いやー、ダンテって…イケメンだからこそ、軽いっていうか余裕っていうか…だから電が心配っていうか…?」

 

熊野の問いに、そう言いながらうーん、とうなる鈴谷。それを聞いた熊野は、少し驚いた表情を浮かべたのち、突然笑い出した。

 

「な、何さ?」

「だって、今日出会ったばかりの人のことをそんなに気にするなんて…!!」

 

鈴谷は、その言葉を聞いて、どういう意味かを考えて少し赤面した。その瞬間、いやいやいやいや!と言いながら両手を勢いよく振る。

 

「ありえないっしょ!!ただ電が心配だなって!!」

「うふふ…そういうことにしておきますわ…!」

「ちょっと~~~!!」

 

鈴谷は、熊野の誤解を解くために必死になりつつ、心の中で一目惚れなんて絶対にないと叫ぶのであった。

 

 

 

______________

 

 

 

 

「結構かかりそうだな。」

「軍施設の近くに商業施設はおけないのです。なので、結構離れているのです。」

 

電とダンテは並んで歩きながら、そんな会話をしていた。軍施設は、敵の襲撃を受ける可能性があり、なおかつ兵器が暴発する可能性も高いため、近隣に一般住居や商業施設を設置することは禁じられているのだ。そのため、鎮守府からそういった施設へ行くには、結構な距離を歩く必要がある。

 

「…これなら、車を出した方がよかったか。」

 

ダンテはそう言いながら、軽く頭を掻く。それを見た電は、苦笑いを浮かべる。ダンテの提案には一理あるのだが、車を出す理由が少し問題になりそうであったので、あえてそれをしなかったのだ。

 

「…それにしても、ここら辺は人通りが少ないな。」

 

ダンテはあたりを見回しながら、そうつぶやく。先ほども述べたように、この近辺には鎮守府以外は建物などほとんどない。鎮守府からの一直線で、建物らしきものは一つも見ていない。海岸線沿いに広がる道路は、ただ街灯が続いているだけである。だが、それでもいくら何でも少なすぎるのだ。

 

「…軍事施設の周りは、ほとんど人通りがないのです。それに、普通の人は艦娘のことを快く思っていないのです…」

 

電はそう言いながら、その顔を俯かせる。電にとってあまり良いとは言えない出来事があったらしい。

 

「んだ?オイ見てみろよ。」

 

と、前方からそんな声が突然聞こえてきた。ダンテはその声がする方を怪訝な表情で見つめた。そこには、ガラの悪い男たちが三人立っていた。その表情はいやに気味が悪い笑顔で、その三人ともが電の方を凝視していた。

 

「こんなところに、艦娘様がいらっしゃるよ。本当なら、せっせと海の治安を守ってなきゃいけないのにな。」

 

男の一人がそんなことをいうと、電はおびえたような表情で俯く。ダンテはそんな電をチラと見る。そしてあからさまにため息をつき、男たちの方に体を向ける。

 

「今もまだまだ深海棲艦の脅威は減ってねえのに、こんなところでのんきに何やってるんだろうな?ええ?」

 

男は下衆な笑みを浮かべて電をにらみつける。電はもう、何も言うことができないようで、俯いたままである。

そんな中、ダンテは不敵に笑った。

 

「ヘイ、それを言うなら、お前らも人が誰もいないこんなところで何やってるんだろうな?」

「…ああ?」

 

突然響いたその言葉に、男たちはその視線を集中させる。電は驚いたような表情でダンテの方を見る。そんな男たちを馬鹿にしたような笑顔を浮かべたまま、ダンテは言葉を続ける。

 

「こんなところまで来て、お嬢さんをひっかけるのは良くないぜ?」

「い、いいのです!その人たちのいうことは間違っては…」

 

あたふたする電を尻目に、ダンテはその表情を崩さなかった。その瞳には、男たちの中身まで見透かしたという確信が満ち溢れていた。

 

「てめぇ…調子に乗るなよ…!」

 

男の一人がそう言いながら、ダンテに襲い掛かろうと近づく。電はそれを見て、さらに焦ったような表情を浮かべていた。艦娘と民間人との衝突など、軍法会議だけでは済まされないような案件であり、さらに本来部外者であるダンテがその被害を被ったとなれば、その問題は一鎮守府の問題では済まされなくなってしまうからだ。

しかし、ダンテはそんな電のことなどつゆ知らず、驚くべき行動に出ていた。

 

「…まあ、お前らの場合はそういうことじゃねえんだろうがな。」

 

そう言いながら、ダンテはエボニーとアイボリーをホルスターから取り出し、三人の男に向けて発砲した。その弾丸はきれいに男たちの脳天を撃ち抜いていた。

 

「ぐぇ!?」

「ごぁぁ!?」

「うぉぁ!?」

 

男たちの悲痛な叫びがあたりに響く。それを見た電は、気を失いそうなほどの強烈なめまいに襲われた。自分の目の前で、ダンテが民間人を殺してしまったのだ。自分が止めるべきなのに、止めることはおろか、ダンテのそのスピードの速さに動くことすらできなかったのだ。

 

「ダ、ダンテさん!!なぜ!?この人たちは何も悪いことなんて…!?」

 

電はそう言って、ダンテをとがめる。というより、これから自分に降りかかる出来事を予想して、おびえていたのだ。明らかな違法行為を、目の前で傍観してしまったという事実が、電の思考を全て支配していた。しかし、その電の言葉には耳も貸さず、ダンテはその倒れた三人をしっかりと見据えていた。

 

「…今度から人に化けるならもっとうまくやれよ。匂いが強すぎる。」

 

ダンテはそう言いながら、ギターケースを地面に置き、そしてゆっくりとそれを開く。

と、その瞬間に男たちが同時に立ち上がる。

 

『ダァァァァンテェェェェェェイイイイ!!!』

 

男たちがそう叫んだと同時に、男たちの身体が豹変した。背中からは羽が生え、額には二本のツノ。服は完全に破れ、その姿があらわになる。

ゴートリングと呼ばれる、山羊の姿をした悪魔である。

 

「!?…こ、これは…!?」

 

電はそう言いながら、その異形の者たちを見る。その恐ろしい形相の彼らを見ていると、とても怖いはずなのに、惹かれるような感覚に陥る。魔に魅せられそうになっているのだ。ダンテが軽く笑いながら、そんな電の方を見る。

 

「離れてな、『お嬢ちゃん(Lady)』。」

 

ダンテはそう言って、ギターケースから勢いよくリベリオンを取り出し、それを背中に装備する。その動作を見たゴートリングたちは一斉にダンテに襲いかかった。

 

派手にいくぜ(Let's Rock)!!Ha!!」

 

ダンテはそう言いながらジャンプして、三体のゴートリングに兜割を食らわせて吹き飛ばす。三体は跳ね飛ばされた衝撃で、すぐに立ち上がることができない。そこにダンテは『突き(スティンガー)』を繰り出す。一体のゴートリングに突き刺さるも、そのまま進み続ける。

 

来な(C'mon)!!」

 

ダンテはそう叫び、リベリオンを下から振り上げてゴートリングを打ち上げながら、自分もそのゴートリングの真上に飛び上がる。そして、そのまま自分の身体を回転させながら、エボニーとアイボリーを乱射して『銃弾の雨(レインストーム)』を降らせる。

ダンテが地面に降り立つと同時に、何発もの銃弾を浴びたゴートリングは、そのまま灰になって消えた。残りの二体の方に目をやると、ダンテの方に突っ込んでくる一方で、電の方に近づこうとしているのが見えた。ダンテはリベリオンを握りしめ、魔力を送る。

 

「Ha!!」

 

そのまま魔力を帯びたリベリオンを、電に近づこうとしているゴートリングに投げつける。すると、リベリオンは自由にそのゴートリングを切り刻んで行く。そのゴートリングがあまりの痛みに言葉にならない声を叫ぶ。その隙に、ダンテはエボニーとアイボリーで、目の前に突っ込んでくるゴートリングに何発も銃弾を浴びせる。弾丸によって足止めされたゴートリングは、怯みつつも咆哮をあげる。

 

最高だ(Crazy)!!」

 

リベリオンが切り刻んでいたゴートリングが灰へと変わると同時にダンテはそう叫ぶと、リベリオンがダンテの方へと戻ってくる。

そして、ダンテはそのリベリオンを手に取り、目の前のゴートリングに相対する。ダンテはニヤリと笑みを浮かべ、右から左、左から右、そして、上下へとまるで自由に舞い踊っているかのように剣を振り続ける。身体中を切り付けられていくゴートリングは、断末魔のような悲鳴をあげる。

 

「…ぶっ飛べ(Blast)!!」

 

そう言いながら、ダンテはリベリオンでゴートリングを打ち上げ、背中にリベリオンをしまう。そして、エボニーをホルスターから取り出し、真正面に向けた。

 

「Bingo!」

 

その引き金を引くと同時に、落ちてきたゴートリングの脳天に弾丸が突き刺さる。その頭は破裂し、まがまがしい声が一瞬にして消えた。

 

「…hmm…もっと手応えがあると思ったんだがな。」

 

ダンテはそう言って、ゆっくりと電の方を見る。その顔には、ゴートリングの返り血のようなものが付いており、電は一瞬、ヒッ…と小さく声をあげる。ダンテはそれをぬぐい、静かにギターケースにリベリオンをしまい、それを背負う。

電は、軽い放心状態に陥っていた。目の前で何が起きているのか、あの異形のものが一体何なのかを理解する前に、すべてが終わってしまっていたからである。

 

「…あ、あのっ!?ダ、ダンテさん…!?」

 

辛うじて声が出た電は、ダンテにそう声をかける。その声に反応したダンテは軽く笑いながら、電のほうへと歩いて行く。

 

「…ピザはなしだ。帰ろうぜ。」

 

ダンテはそう言いながら、電の肩をポンポンとたたく。しかし、その電の表情が晴れることはない。

 

「い、今のは…何なのです…あの…化け物は…!?」

 

電は震えた声でそうつぶやく。恐怖に支配されたその感情は、いまやあの異形の存在を本能的に知覚することを求めていたのだ。

ダンテはそんな電の方を見て、hah、と鼻で笑う。

 

「知りたきゃ、今度教えてやるよ。」

 

ダンテはそう言いながら、今まで歩いてきた道を引き返していく。電は振り返ってその様子を黙って見守ることしかできなかったのだ。

 

「…ダンテさん…あなたは…いったい…?」

 

電は、少しずつ遠くなっていくその背中に、そう問いかけることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




一章はこれにて閉幕。
第二章は土日であげ…られたらいいなという感じで。

追記:誤字指摘ありがとうございます!今回誤字多すぎ…


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Mission2 〜Sea dancer〜
不安



続きかけたので、どんどん行きます。

第二章開幕です。


 

 

時刻は深夜1時。電は自室に戻ってベッドにこもり、力強く目をつぶっていた。だが、決して眠ることができなかった。目を閉じると、先ほどの出来事が頭の中で何度もフラッシュバックするのだ。二段ベッドの上では、同室の雷がすでに寝息を立てていた。

 

「…ダンテさん…」

 

電は静かにそう呟きながら、ベッドから這い出て、自分の机の前に向かう。あの時のダンテさんの表情、そして声。全てが鮮明に頭に残っている。

そして、あの得体のしれない『何か』も。

『何か』の気味の悪い声が頭の中で何度も響く。あの気味の悪いような叫び声が響く。

 

『ダァァァァンテェェェェェェイイイイ!!』

『Let's rock!!Ha!!』

 

辺りに広がっていた血しぶき、そして何かの命がなくなったと同時に灰になって消える瞬間。暗がりの中に鮮明に映る、風になびく赤いコート。

 

『Ha!!』

 

何度も響く銃声、そしてダンテさんの声。血しぶきが上がるたびに、私の体は震えていた。私は、何もできなかった。動くことができなかった。全てが終わった瞬間、喉がヒリヒリする中で、必死にダンテさんに声をかけた。

 

『…今日はピザはなしだ。また今度頼むぜ。』

 

その時の表情や声は、その前まで普通に話していた時の落ち着いた様子だった。しかしあの時、ほんの僅かに、ダンテさんは楽しんでいた。その異形の何かと戦うことを、楽しんでいたのだ。

彼は…一体何者なのだろうか…

電はその答えを未だ出せずにいた。

 

「…どうしたの?電。」

「!?…」

 

そんな声がベッドの方から聞こえて、電は慌ててそちらの方を見る。雷が二段ベッドの二階からこちらをのぞき込んできていたのだ。電は少し、自分の行いを責めた。こんな時間まで起きていた上に、雷の睡眠時間まで邪魔してしまうのことが、申し訳なくなっていた。

 

「…な、何でもないのです…ちょっと、怖い夢を見ただけなのです…!」

 

電はそう言いながら、少しひきつった笑顔を見せる。それを見た雷は、少しの間何も言わなかったが、その後大きなため息をついた。

 

「そんな見え見えのウソついてちゃだめね。」

 

雷はそう言いながら、二段ベッドの二階から梯子を使って降りてくる。そして、少し楽しそうな笑顔を浮かべながら、電に寄り添う形で座る。

 

「はわっ…雷ちゃん…?」

 

電が少し驚いたような声でそう告げると、雷は満足そうな顔でえへへ…とつぶやく。

 

「だって、電ったら全然頼ってくれないんだから。秘書艦は大変なんだから、もっと私たちを頼りなさいよ。」

 

そう言いながら、雷は電に寄り添う形で目をつぶる。その表情は、まるで全てを包み込むような笑顔であった。電はそれを見て、少し暖かい気持ちになっていた。電は少し微笑みながら、雷に自分の体重を預けて目をつぶった。

 

「…暖かいのです。」

「そうね。」

 

そういうと、二人で寄り添いながら眠ってしまった。夜は更け、太陽が昇り、また新しい朝が来る。

だが、それは人間界の理。魔界に棲む悪魔たちにとっては、そんなことは一切関係がない。

 

 

 

____________________________

 

 

 

「…Hah…」

 

月明かりが照らしている中、湾頭に一人でたたずむダンテは、悪魔の匂いに誘われてここにやってきた。まるで悪魔が『踊ろう(Let' dance)』と自分に告げているようでもあった。ダンテは少し不機嫌そうな表情であたりを見回した。

 

(…招待してきたくせに、誰もいねぇな。)

 

ダンテは背中に背負っていたギターケースを地面にそっと置き、湾頭の段差に腰を下ろした。海の匂いが、ダンテの嗅覚を刺激する。潮風に交じって、かすかに悪魔の匂いが届いた。やはり、海からの使者は、悪魔の力を有しているのかもしれない。ダンテはまだ見ぬ『海からの侵略者』に心を躍らせる。

と、その時後ろから足音が聞こえた。

 

「…こんな時間に出歩くのは、感心しねえな。」

「…それはお互い様ってやつだよ。」

 

ダンテの声にそう返答するのは、銀の綺麗な髪をなびかせている、響であった。響は何も言わずにダンテの隣に座る。ダンテは鼻で少し笑って、その場に寝転がる。

 

「…で、お嬢ちゃんは俺を口説きに来たのか?悪いが、俺はそんなに安い男じゃないぜ。」

 

ダンテは軽口をたたきながら、不敵な笑顔を見せる。それを聞いた響は少しだけ面倒くさそうな顔を浮かべた。本人にはその気はないらしい。

 

「すまない、私は君に対して好意的な感情を持ち合わせていないんだ。なにせ、ちゃんと面と向かって会うのは今が初めてだしね。」

「ハッハー、そいつは随分と寂しい振られ方だ。」

 

響は、海の方をじっと見つめる。ただ広がっている蒼。いつも見ているはずの海が、いつもと違うように見えて不気味に感じる。果てしなく続く水平線が、いつ自分たちを引き込んで来るかわからない。

ダンテはその横顔をちらと見る。だが、それ以上のことはしなかった。さすがのダンテにも、いつもの軽口でこの空気を壊す無粋なことはしなかった。

 

「…聞きたいことが一つだけある。」

「なんだ?」

 

響の言葉に、軽くダンテは返答する。ダンテはそう言いながら、寝っ転がったままギターケースを開けようとしていた。

 

「…君と鎮守府の外へ出てから、電の元気がないんだ。何か心当たりはないかい?」

 

そう言いながら、響は少しダンテに真剣なまなざしを向けた。ダンテはそれを聞いて、hmm…とつぶやく。ギターケースを開いたが、その中身は取り出さなかった。少し決まりが悪そうな表情を浮かべたダンテを見て、響はため息をついた。

 

「…やっぱり君が原因か。」

 

響はそう言いながら、その場を立ち去ろうとした。原因が分かってすっきりしたようだ。

 

「…何があったのか聞かないのか?」

「そうだね…強いて言うなら、電をあまりいじめないでくれ…ということぐらいかな?」

 

ダンテの言葉に、響は釘を刺すような言い方をした。それに対してダンテは、やれやれといった感じで立ち上がった。

 

「…俺はダンテ。今度は太陽が昇っている時にデートに誘ってくれ。」

「…響だよ。これからよろしく。」

 

ダンテの言葉に、響はそう答えて、静かにその場を去ろうとする。

 

「Ah、ヒビキ。」

「?…」

 

響はダンテの呼びかけに振り向く。ダンテはその響を見て、ニヤリと笑う。

 

「いや、なんでもねぇ。」

 

ダンテはそう言って、軽く右手を上げる。響はそれを見て、怪訝な表情を浮かべるが、特に問い詰めることでもなかったので、そのまま自室へと戻っていった。

 

「…hah。」

 

ダンテはその後ろ姿を見送ると同時に、ギターケースからリベリオンを取り出し、それを後ろへ振る。そこには、骸骨の仮面をかぶった悪魔、『ヘル=プライド』がいた。リベリオンは、そのヘル=プライドの腹部を切りつけていた。この世のものとは思えないほど邪悪な断末魔と共に、その悪魔が灰となり消える。

 

「…俺とのデートをご所望なら、もっと品よくねえとダメだな。」

 

ダンテはその悪魔の残りカスに向かってそう告げる。ダンテは若干の物足りなさを感じつつも、他に悪魔の匂いがないことを確認し、自室へ向かおうと足を踏み出す。少し歩いたところで、ふとダンテは雲ひとつない空を見上げる。そこには、なんてことはない月と、輝いている星があるのみだった。

 

「…退屈はしなくて済みそうだな。」

 

ダンテはそう呟きながら、また歩みを進める。

月明かりが不気味にダンテを照らす。ダンテはそんなことなど気にも留めずに、ただ楽しそうな笑みを浮かべているのであった。

 

 






ダンテに新しい武器を使わせたくて仕方がないです。


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夜明


ダンテにピザを届ける目途が、何とか立ちそうです。


「…全く、二人とも風邪ひいちゃうわよ。」

 

未だ薄暗い夜遅くに、暁はそう呟きながら毛布を机の前で寄り添いながら眠りこける二人の妹にかけた。暁は優しさで全てを包むような表情を浮かべていた。毛布がかかると同時に、雷が少し身体をゆする。

 

 

「…暁…」

「!…ふふ、雷ったら。」

 

雷のつぶやきに驚いたものの、それが寝言だとわかると、途端に微笑みながら雷の頭を撫でる。いつもはあまり見ることのできない可愛らしい妹たちの姿に、暁は満足そうな顔を浮かべた。

 

「…暁。」

 

と、後ろからそんな声が聞こえたので、暁は振り返る。そこには銀髪の妹、響が立っていた。それを見た暁は安心したような笑みを浮かべた。

 

「…部屋にいないから、どこに行ったかと思ったよ。」

「響こそ、どこ行ってたのよ?響が部屋にいないおかげでこんな光景目にしちゃったんだから。」

 

暁はそう言いながら、雷と電のことを指差す。それと同時に、二人はもぞもぞと動き、先ほどよりもさらに体を寄せ合う。響はそれを見て、温かい気持ちになった。

 

「…それじゃあ、戻ろうか。」

「…そうね。」

 

そう言いながら、二人は外へと出る。響はドアを閉める時、少しだけ微笑んで雷と電の方を見る。机の前にちょこんと並んで寄り添う二人は、とても可愛らしく見えた。

 

「?…どうしたの?」

 

暁が急に動きを止めた響に対して、そうた尋ねる。その声に、響はドアを閉めながら、なんでもないよ。と呟いた。しばらく、暗い廊下を二人は並んで歩く。

そして、ちょうどトイレの前を通りかかったときのことである。暁が、何かを思い出したかのように、コホンと咳ばらいをしたのであった。響は不思議そうな顔でそちらを見る。

 

「さて、響。トイレに行きたいでしょ?一緒に行ってあげるわよ。」

「?…あぁ、そういうことか。」

 

響は暁の言葉に納得したような声をあげた。疑問に思っていたのだ。自分がいないと、なぜ暁は電たちの部屋に行かなければならないのか。

すなわちそれは…

 

「…トイレに行きたかったなら、最初からそう言ってくれればいいのに。」

「な、何よ!レディだから別に私は行きたくないわよ!で、でも、響がどうしても行きたいっていうなら付いてってあげるわよ!」

 

暁は手をパタパタとさせながら、必死に否定する。それがかえって、その事実を浮き彫りにしていた。響は軽く、呆れたようなため息をつく。

 

「分かったよ、暁。一緒に行こう。」

 

響はそう言って、暁に微笑を向ける。暁は満足したような表情で、それに応じる。

響は、こういった時に何というべきなのかを、知っていた。

『Bingo』と。

 

 

 

________________

 

 

 

 

朝、電はカーテンから漏れる陽の光で目を覚ます。まだ眠気まなこの目をこすりながら、時計を確認する。時刻は4:30を指しており、電は立ち上がろうと身体を動かす。

 

「?…あっ…」

 

と、身体に重さを感じたのでそちらに目をやると、そこには自分と同じ毛布にくるまった雷がいた。

昨日、雷と二人で寄り添いながら眠ってしまったようだ。それを見た誰かが、毛布を掛けてくれたらしい。

まだ秘書官以外の艦娘が起きる時刻ではないため、とりあえず起こさないようにゆっくりと毛布から抜けだす。雷は特に変わった様子もなく、そのまま眠りこけていた。

とりあえず、電はそのまま自分の準備を始めた。音をあまり立てないように、できるだけ静かに顔を洗い、制服に着替え、髪をくしで整えた後にヘアゴムでくくった。

そこまでしっかりとこなし、扉を開ける。ふと、雷の方を見る。未だ雷は起きる気配がなく、静かな寝息だけが聞こえている。

昨日のことを思い出した電は、少しだけ温かい気持ちになり、そっと微笑んだ。

 

「…ありがとう、なのです。」

 

聞こえるはずのない、雷に向けてそう告げると、電はそのまま走って執務室へと向かった。

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

「…さて、今日は本格的にダンテさんの実力を見ないといけないな。」

 

早めの時間に執務を始める提督は、そう呟きながら今日こなす予定の書類を読み始めた。書類には、サインをするだけでいいものと、しっかりと返答をしなければならない書類があり、それをまず分別する。

と、そんな風に仕事をしていると、ノックの音が転がりこむ。提督はそれに対して、入ってくれ。と一言告げる。

 

「すみません、少し遅れてしまったのです。」

「構わないよ。」

 

電の言葉に、提督は笑顔で答える。電はそのまま提督のところまで歩いていく。書類をいくつか受け取るためである。

しかし、提督はそんな電に笑顔で答える。

 

「書類仕事の方は大丈夫だ。その代わり、ダンテさんと艦娘の演習をやろうと思うんだ。」

「!…ダンテ…さんと?」

 

電は、その言葉を聞いて昨日のことを思い出していた。あの化け物と戦うダンテの強さを。

電の表情に、若干曇りがかかる。

 

「?…電?」

 

提督が心配そうに電の顔を覗き込む。ハッとなって、電は慌てて取り繕うとするが、心のどこがで引っかかっており、うまく言葉が発せない。

 

「…何か、あったのかい?」

 

提督がそう言いながら、少し真面目な表情になっていた。昨日のことを全てさらけ出せたら楽なのに、どうしても言葉が詰まる。

しかし、まだこのことは言うべきではないかもしれない。

 

「…いえ、何でもないのです。怖い夢を見たのです。」

 

電は昨日とは違い、本当になんでもないかのような笑顔でそう告げる。提督はそれを見て、少し考え込むような表情を浮かべたが、とりあえず電の言葉に納得したようで、少し笑顔になっていた。

 

「…そうか。もし、辛かったら休んでも大丈夫だからな?」

「いえ!電は平気なのです!」

 

提督の言葉に、慌てた様子でそう告げる。それを見た提督はその笑顔をひと際大きくする。それを見た電は、少しだけ顔を紅潮させる。提督の優しさに、心が温かくなるのを感じたのだ。と、そんな執務室のドアがいきなり開く。

 

「よう、早いな二人とも。」

 

やってきたのはダンテであった。電はそれを見て、その表情を硬くした。提督はそれを見て、柔らかい表情を浮かべて席を立つ。

 

「ダンテさん。あなたこそお早いですね。」

「どうもベッドに入っても眠れなくてな。」

 

ダンテはそう言いながら、ソファにドカッと座る。電はそんなダンテを見て、少しため息をつく。昨日のことがあったというのに、特に何もなかったような態度で、呆れてしまったのである。

ダンテはそんな電を気にもせず、テーブルの上に足を乗っける。

 

「電、お茶を淹れてくれ。」

 

提督はそういいながら、電に笑顔を向ける。電はその言葉に、はい、と短く答え、シンクの方に歩み寄る。ダンテはそれを聞いて、hmm…、と少し面倒くさそうにつぶやく。提督はそれを見て、昨日ダンテがお茶を飲んだものの、あまり気に入っていなかったのを思い出した。

 

「ダンテさんはどうします?」

「…あぁ、俺はそうだな。」

 

提督の言葉にダンテは軽く、考え込むような仕草を見せて、最後にニヤリと笑った。

 

「…ピザを頼む。生ハム&ガーリックポテトミックススペシャルのLサイズだ。」

「あ、朝からピザですか。」

 

ダンテの言葉に、少し困惑したような表情を向ける。しかし、ダンテの変わらない表情を見て、本気でそう言っているのだと理解した。

 

「…早朝はピザの配達はやってないんです。なので…」

「…そうか。」

 

ダンテはあからさまに残念そうな顔をして、目をつぶった。それを見た、提督は軽く苦笑いをした。

あとで、ピザの宅配を取ってあげようと思った提督であった。

 

 






次回から少しずつ独自設定を盛り込んでいきます。


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演習

書き上げる時間が足りない…時間を…もっと時間を…!!



時刻は11:00を回ったところである。もうすぐ昼時のこの時間に、ダンテは遅すぎる朝食をとりながら、今日の予定を提督から聞いていた。

 

「演習?」

 

ダンテは注文したピザを食べながら、ソファにもたれかかる。少し怪訝な面持ちでその話を聞いていたが、次の提督の言葉でその表情が一変する。

 

「あなたの実力を見たいと思いまして。艦娘達と手合わせしていただきたいのです。」

「…hah、そりゃまた楽しそうだな。」

 

ダンテはにやけた表情を浮かべながら、ピザをさらに口に頬張る。電はそれを見て軽くため息をつく。一日ダンテと付き合って分かったことの中に、この表情をするときは決まってあまりいいことが起こらない、というものがあったからである。

 

「だが、俺にメリットはあるか?艦娘じゃなくて、深海棲艦と戦いたいんだがな。」

 

ダンテはそんな風につぶやきながら、ピザを一気に口に含む。提督は、少し苦笑いをしてその様子を見る。確かに、この演習ではダンテが何か得をするとは言えない。軽く考え込むような表情を浮かべた提督は、次のように述べた。

 

「…そうですね。では、この演習後には可能な限り要望にお応えしますよ。」

 

提督の言葉を聞いた電は、それは…と言いながらおろおろとしだす。ダンテは満足そうな笑みを浮かべて、ソファから立ち上がる。

 

「…そりゃ、うまい話だな。乗るぜ。」

 

ダンテはそう言いながら、両手を広げて見せた。電はそれを見て、はぁ…とため息をつきながら、どうなっても知らないと言わんばかりの視線を提督に向けていた。

 

「では、行きましょうか。」

 

提督はダンテにそう言いながら、外へ向かった。

 

 

 

________________

 

 

 

 

「実戦形式の演習を考えています。よろしいですか?」

「そっちの方が面白いだろ?」

 

提督の言葉に、ダンテは軽口で答える。その目は、少し離れた海上にて警備をする艦娘達を見据えていた。

 

「hah、海の上に立てるってのは本当なんだな。」

 

書類を見ながら確認作業をしている電と提督を尻目に、ダンテはそうつぶやく。

やはり、艦娘達の方から嗅ぎなれた匂いがする。しかし、今隣にいる電からはそんな匂いはしない。それは、艤装に関しての一つの事実を指し示していた。

今現状の戦闘スタイルとしては、海上で魔力による足場を維持して動き続けるのも悪くはない。だが、それだと純粋に戦闘を楽しめない。いつも地上の戦いではやらないことを、突然いつもと違う環境でやれば、失敗するリスクも上がる。

何とかこの事実を利用できないか、ダンテはにやけながら考え込む。

 

「…ダンテよ。」

 

と、そんな状態のダンテに、声をかかる。ダンテが軽くそちらを見ると、艤装をつけた艦娘たちが6人ほど立っていた。その中に、仁王立ちをした武蔵を見つけ、表情を柔らかくする。

 

「…hah、ムサシじゃねえか。」

 

ダンテはそう言いながら。それに対して、武蔵はじっとダンテを見据えるだけで、動かなかった。

それは、昨日の軽い衝突で見せつけられた強さの片鱗、そのことが彼女を離さなかったからである。

不意に、武蔵の口が開く。

 

「…私から演習に志願させてもらった。何分、最近は戦えてなかったものでな。」

「そいつはいいな。俺はストレス発散のいい的ってわけだ。」

 

武蔵の言葉に、軽いジョークを飛ばしつつも、余裕の態度を崩さなかった。武蔵はそれを見て、目を閉じ、この格の違いを理解するためにこの演習に臨もうと、覚悟を決めた。

 

「…この武蔵、演習といえど手は抜かないぞ。いいな?」

「Ha-ha!そう来なくちゃな。」

 

ダンテは武蔵の言葉に満足そうな笑みを浮かべる。周りにいる艦娘達が、その様子を黙って見ている。

 

「…ねぇ、本当にあの人攻撃するのかな?」

「さぁ…ご主人様はそう言ってたみたいだけど。」

 

駆逐艦の朧と、漣がそう言いながら、軽く武蔵の方を見る。武蔵の表情が、いつも戦闘の時に見せるような戦いを楽しみにしている笑顔だったため、少し身震いしていた。

 

「…まあ、なんだっていいけどさー。撃てって言われちゃ撃つしかないしねー。」

 

北上は気楽な表情を浮かべながら、そんな風に呟く。大井はダンテの方を睨みつけながらひたすらブツブツと、昨日の邪魔をしたことを後悔させてやる…と呟いていた。

 

「…で、なんで鈴谷な訳?」

 

鈴谷はそう言いながら、ため息をついていた。本来ならば、この時間は非番で熊野と一緒にどこかへ出かける予定だったのだ。オシャレな服も選び、街で遊ぶ準備もしていた。そして、いざ往かんとしているときに、急な招集命令であった。

 

「…昨日の今日で、ちょっちやりづらい…」

 

鈴谷は結局、あの後もしばらく熊野にダンテのことでいじられ続けたのだ。別にそんな気は全くない、と否定していた鈴谷も、なんだか今のダンテを見るとまた複雑な気持ちになる。実際、ダンテは外国人で顔立ちが整っており、綺麗な銀髪をなびかせる姿は様になっているのだ。

と、そこまで考えて鈴谷は頭をぶんぶんと横に振る。こんなこと考えていては、戦闘に支障がでると思ったからである。

ダンテはそんなことは露知らず、自分の仮説を立証するために、行動を起こす。

 

「イナヅマ、艦娘たちが履いてる、ブーツを持ってきてくれないか?」

 

ダンテは真面目な顔でそう電に告げる。電は頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいた。今までダンテに温和な表情を向けていた提督も、それを聞いてさすがに怪訝な面持ちでダンテの方を見る。

 

「…ダンテさん、艤装は女性にしかつけることができないのです。それでも持ってくるんですか?」

 

ダンテの言葉を聞いて、そう説明する提督の表情には、純粋にダンテのことを心配する感情も含まれていた。だが、ダンテはその真面目な表情を変えることはなかった。

しばらく、お互いをじっと見合い、静寂が支配する。その沈黙を破ったのは、提督のため息であった。

 

「…分かりました。電、お願いしてもいいかい?」

「りょ、了解なのです。」

 

電はとりあえず急いで工廠の方へと駆け出していた。提督はダンテの方をチラと見る。ダンテは先ほどと変わらぬ真面目な表情を浮かべてはいたものの、どこか楽しそうな雰囲気を漂わせていた。

 

「…武蔵たちは所定の位置へ。」

「了解だ。」

 

提督がそう告げると同時に、武蔵たちは艤装を展開して海上へと降り立つ。ダンテはただ、じっとその艤装を眺めて何も話さなかった。提督はその様子を訝しげにただ見ているのであった。

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

「…お待たせしたのです。こちらが、艦娘用の艤装なのです。」

 

電はそう言いながら、ダンテの目の前にブーツと艦橋を模した、背中に背負うタイプである駆逐艦の艤装を置いた。ダンテはしばらく黙ってそれを見ていた。その様子に、提督と電は軽く息をのむ。

 

「…Hah。」

 

ダンテはそう軽く笑みを浮かべて、そのブーツを両手に持つ。その様子を、電と提督は黙って見守る。

ダンテの表情が不意に真面目になる。そして、そのブーツをじっと見つめる。決して長い時間ではなかったが、まるで何分間もそうしてかのように錯覚させるほどに、ダンテは集中していた。

しばらくした後、そのブーツを軽くカツンと合わせる。そしてその表情を笑顔に変えた。

 

「…このまま履けばいいか?」

 

ダンテはそう言って、ブーツを地面に置いた。それを見た電と提督が、困惑したような表情を浮かべる。

 

「ダ、ダメなのです!普通の人間が艤装をつけると、激痛が走り、最悪の場合死に至ると言われているのです!」

 

電はそう言ってダンテを止めるが、そんなことを気にも留めないでダンテはそのブーツを履いた。提督はその様子を不安げな面持ちで見つめる。もし、目の前でダンテが倒れてしまったら、どうすればいいのかを考えていたのだ。

しかし、当の本人は全く何も動じてはいなかった。

 

「…やっぱり、そういうことかよ。」

 

ダンテは納得したような表情を浮かべ、そのまま軽く目を閉じた。電と提督はそのダンテの言葉の真意が分かってはいなかった。

 

 

 

 

 




次回、ダンテに新しい力が…



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舞踏





DMC側のキャラ、決め終わりました!
艦娘側もどの子を出すかは決まっていたので、あとは突っ走ります!




このブーツを履いた瞬間に、随分と久しぶりな感覚がダンテを襲った。

 

『選ばれしものは我が魂が力となるだろう。力なきものには我が魂が永遠の眠りをもたらすだろう。』

 

そんな声が突然頭の中に入り込んできたのだ。

ダンテが自身で立てた仮設の通りに、やはりこの艤装と呼ばれる代物は魔具の一種らしい。ブーツが海上を動き回るためのパーツで、背中に背負うものはそれに魔力を送り込むためのポンプのようなものらしい。魔力がない者にも使用できるようにするための代物である。その他の主砲や機銃とやらも、その魔力を原動力にして、自在に操作できるようになっているようだ。

先ほど、電が言っていた女性にしか適性がないという話は、おそらく出鱈目であろう。原理上、その気になれば、男性にも使えるはずだ。それを隠している理由はわからないが、これらの魔具は深海棲艦に対抗する手段としてはかなり有効なのだろう。魔具をこれだけ用意できていることに疑問と怪しさを感じるが、ダンテは今は深く考えないことにした。

 

「!…」

 

やはりというべきか、しばらくした後にその身体に激痛が走った。かつてマレット島にて、アラストルに心臓をささげたとき、そして、イフリートの業火に身体を包まれたときのように、身体中を痛みが駆け回っていた。

 

「…hmm。」

 

だが、ダンテはこの痛みに慣れてしまっているのか、全くと言っていいほど苦しんではいなかった。しかし、その魔力は確実に自身に流れ込んできているということを感じていた。この魔具によって自身は新しい力を手にできることも。

しばらくして、痛みは完全に収まり、ダンテは軽くため息をついた。

 

「ダ、ダンテさん?大丈夫なのですか?」

 

電は大変な事になるのではないかと、少し焦ったような表情を浮かべていた。それに反してダンテは軽く笑みを浮かべて、体に何か異常がないかを確かめていた。

 

「…艤装は、単純に女性だけが適応するわけではないのか?」

 

静かに提督は呟き、少し考え込むしぐさをする。電はそんな提督の方を不安げな面持ちで眺める。

 

と、そんな二人をよそに、ダンテが急に体を海に向ける。

その表情は、気分が最高に昂っているようで、まるで新しいおもちゃを与えられた子供の様に無邪気な笑顔であった。

 

「…Fooo!!」

 

ダンテは突然そう叫びながら海へと高く跳躍し、重力に身を任せる。普段ならばそのまま海に沈むが、今はこの艤装のおかげで海面に立つことができるため、うまく着地する。ダンテはそのまま強く海面を蹴る。だが、海面を走るのではなく、そのブーツがエンジンの役割を果たして、海面をスケートのように滑っていく。ダンテの送り込む魔力によって、艦娘たちのそれよりもさらに凶悪なスピードが出ていた。

 

踊るぜ(Let's dance)!!」

 

ダンテはそう言って、海面を蹴って空へとジャンプする。まるでバレエのダンサーのように華麗に飛翔する。海面に足がつくと同時にまた海面を蹴り、そしてまた海面に足がつく。

 

「Ha-ha!!」

 

ダンテは最後にとびきり高く飛翔する。そして、その足の角度を変えて海面につき、そのままエンジンをふかして、フィギュアスケートのように激しいスピンをする。

 

「hoooooooo!!」

 

スピンのスピードが徐々に上がり、海面のうねりが大きくなる。飛沫があがり、その中心のダンテを彩る。そして、ダンテの周りを霧が覆い、その姿を隠す。

そして最後は綺麗に動きを止め、ホルスターからエボニーを取り出して、空へと撃ち上げる。その瞬間に、あたりの霧は完全に消え、ただの水となって海に落ちる。

 

「…イカすぜ(Too easy)。」

 

ダンテは小さく呟き、その感覚に酔いしれる。今までは潜ることしかできなかった海の上を、自由に駆け回ることができるその感覚に。

しばらくした後、満足そうな笑みを浮かべながら、ホルスターへとエボニーをしまう。

ダンテは海上を自由に駆け回り、敵を追い詰める新しいスタイル、『Sea Dancer』を会得した。

その様子を、固唾をのんで見守っていた武蔵たちは、驚愕していた。初めて艤装を装備した艦娘は、皆例外なくその艤装のスピードに耐えきれなかった。海に浮くというその感覚に慣れていないため、バランスを崩すことも多々あり、艤装本来のスピードを出せるようになるには、それなりの経験と時間が必要になる。

しかし、今のダンテはどうだろうか。初めて艤装を扱ったにもかかわらず、あのスピードで航行し、まるで踊り子のように海上を駆け回り、どの艦娘たちよりもはるかに艤装を使いこなして見せた。

武蔵は、少しばかり体感したその片鱗から、ダンテの強さを推し量れたつもりであった。だが、今の光景を見て確信した。ダンテは、自分の予測をはるかに上回る強さを秘めているということを。

 

「…今日は最高だ。もっと楽しませてくれるんだろう?」

 

ダンテはそう言って、武蔵たちの方を見る。その視線に、武蔵は身震いをする。それを、ダンテへの恐れではなく、ダンテと戦えることへの武者震いだと、頭の中で言い聞かせる。そして、ダンテに不敵な笑みを向けた。他のメンバーたちも、それぞれ戦闘時の真面目な表情に変わっていた。

 

「さぁ、始めようぜ?」

 

ダンテはそう言いながら、その両手を横に広げた。それを見た武蔵たちは、戦闘時と同じように身構え、戦闘の準備を行った。

潮風が、ダンテと武蔵たちの間に吹き込んだ。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「ダンテさん…彼は、一体?」

 

提督は、そう呟きながら、何か考え込んでいる。電は、その様子をみて少したじろいだが、キュッと唇を噛み締めた。昨日の出来事を思い出していたからである。ダンテの人間とは思えないほどの身のこなしを見た提督に、それを言うべきかどうかを迷っていたのだ。

だが、ここで言わなければ、おそらく永遠に心の中にしまうことになるだろう。電は、その重い口を開いた。

 

「…昨日、ダンテさんと一緒に鎮守府の外に出た時なのです。目の前にいた人たちが、突然、化け物に変わったのです。」

「!…」

 

電はあまり明るいとは言えない表情で、自分が体験したことを赤裸々に話し始めていた。それを聞いた提督は、訝しげな表情を浮かべたが、電の表情を見て、何も言わずにその話を聞いていた。

 

「…その化け物たちを、ダンテさんは楽しそうな表情を浮かべて、どんどんと倒していったのです。まるで舞を踊っているのかと錯覚するほど華麗に…なのです。」

 

電の顔に、いやな汗が流れていた。提督は、息をのんでその話を聞く。

電の言っていることは、おそらくほとんどの一般的な人間が聞けば全く信用ならないであろう。まるで悪い夢でも見ていたんだと、笑うだろう。だが、これを聞いているのが提督だからこそ、共に幾多の死線をくぐり抜けてきたからこそ、電の言葉が真実であると確信できるのだ。

 

「…彼が、化け物を…?」

 

視線をダンテの方に移して、そう呟く。ダンテは武蔵たちの方に軽く手招きをしていた。おそらく、挑発をかましているのであろう。その様子を見た提督は、冷や汗交じりに笑顔を浮かべた。

 

「…その強さ、とくと見せてくれ。」

 

提督はそう呟き、じっと目を凝らしていた。これから始まるのは、ダンテに対して数で勝る艦娘たちの一方的な猛攻撃か、それともダンテが艦娘たちに対して恐るべき強さを証明し、完膚なきまでに叩きのめすのか。

その展開は、もはや誰も予測することができないであった。

 

 




ダンテは新スタイルを会得した!!

これから、艦これサイドにかなりDevil may cry寄りの独自設定を盛り込んでいきます。
次回、いよいよ演習です。


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開戦

自分「なんか太ももあたりが痛いな…なんだこれ?」

医者「帯状疱疹ですね、あともう少し遅れてたら手遅れでしたよ。」

自分「マジかよ…orz」

医者「お薬出しますけど、基本的に自然治癒で治すしかないのでしっかりと睡眠、休養を取ってくださいね。」

というわけで更新遅れて申し訳ありません、お待たせしました演習です。


「…行くぞダンテ!」

 

武蔵はそう言って、いきなり艤装の主砲をダンテに向けて発砲した。あたりに轟音が響き、一つの炎の矢がダンテに迫る。しかし、音速を超えるその弾丸を、ダンテは軽く身体を翻すことで回避する。

 

「…Ha-ha!どうした(What's up)!」

 

ダンテは楽しそうな表情を崩さずに、まるで犬を呼んでいるかのように腰を落として両手を叩きながら挑発を続ける。それを見た朧と漣が目を合わせ、アイコンタクトを送り合う。

二人は同時に武蔵の方を見る。

 

「…武蔵さん!」

「…分かった。」

 

朧の呼びかけに、武蔵はダンテを見据えながらそう返す。それと同時に、駆逐艦の速度を生かし、朧と漣がダンテへと急速に接近していく。ダンテはそんな2人を見ながら、軽くいたずらっぽい笑顔を見せる。

 

「漣!」

「そこなのねっ!」

 

朧の呼びかけと同時に、漣がダンテに向けて主砲を放つ。ダンテはそれを見て、軽く笑いながら足に力を入れる。海上を滑るように動きつつその弾丸を回避すると、朧達に迫る。そのスピードは、速力が高い島風のそれよりも速く見えた。

 

「!…来た!」

「速っ!?」

 

朧と漣はそう言いながら、気を引き締めて主砲を構える。いつ攻撃されても対応できるように、身体を落ち着かせる。しかし、ダンテの次の行動によって、その二人の集中は完全に切れることになる。

目の前のダンテが、突如として消えたのだ。一瞬、思考回路がフリーズする。

 

「中々やるな、俺も少し本気を出さなきゃな。」

 

それと同時に、ダンテの声が二人の耳に響く。それも、頭上からである。

 

「えっ?」

 

思考が戻ってきた漣がそう呟いたと同時に、ダンテが水しぶきをあげて二人の間に降り立っていた。まるで天使が降臨してきたかのように、その瞬間だけ時が止まった。

 

「!?…」

 

ほんの一瞬反応に遅れた朧がそれに気がつき、そちらに主砲を向けた。瞬間、ダンテは朧の足を引っかける。見事にバランスを崩した朧は、重力に身を任せることしかできなかった。

 

「わぷっ!?」

 

朧はそのまま顔面から着水し、身体中を濡らす。漣はそれを見て驚愕の表情を浮かべる。そして、頭の中をさまざまな思考が駆け巡った。

いつの間にこの距離を詰めて来た?瞬間的な加速か?なら、この後どうなる?

ダンテはそんな漣を見て軽く笑みを浮かべる。

 

「こんなところで惚けられても困るぜ。」

 

ダンテはそんな軽いジョークを口にすると、漣の頭をポンポンと叩いて武蔵たちへと向かっていた。

 

「…なんもいえねぇ〜…」

 

漣はそう呟いて、その場でへたり込んでしまった。これはあくまで演習だから良かったものの、実戦であれば…

そう考えると、身体中に悪寒が走った。

 

 

 

 

「い、今の何!?」

 

そう慌てる鈴谷は、かろうじて主砲をダンテに向けてはいるものの、発砲することはできなかった。あまりに急な出来事に、焦りが出たのであろう。

そんな鈴谷を見て、大井は少し歯嚙みをした。今の力の差を見せつけられて、どうやって勝てば良いのか思いつかなかったのだ。

だが、それでも逃げることは許されない。これが実戦であれば、勝てないと思ったところで何もしなければ、それすなわち死を表す。

 

「北上さん!魚雷で足を止めましょう!」

「それと対空砲。頭上にいきなり現れるんじゃ、魚雷だけじゃ対処のしようがないからね。」

 

北上は大井の意見を聞き入れつつ、そう言って策を練る。冷静さを装っている北上も、内心はかなり混乱していた。だが、演習とはいえ今は戦闘中なのだ。少し考え込むような表情を浮かべたのち、武蔵のそばへと近づく。

 

「大井っち、二人で武蔵さんを挟むよ。それで全弾発射でどう?」

 

北上の言葉に、大井は尊敬の眼差しを向けながらその言葉にはい!と頷く。武蔵もその策に異論は無いようで、ただダンテを見据えるのみであった。鈴谷はそれを見て軽くため息をつきながら、先行する。

 

「じゃあ、鈴谷はダンテに突撃して時間稼ぎってことで!」

「頼む。」

 

武蔵の言葉を聞いた鈴谷はその表情を固くしてスピードを上げ、ダンテを見据える。ダンテは依然、そのスピードを緩めることはしなかった。そして、ダンテとの距離がある程度近くなった時、鈴谷は笑顔でダンテに声をかける。

 

「チーッス、ダンテ。悪いけど、ここで倒すからね!」

「そいつは光栄だ。来な(C'mon)お嬢ちゃん(Lady)。」

 

鈴谷の言葉に、ダンテは不敵な笑みを浮かべてそう返す。鈴谷はそれを聞いて、ニヤリと笑いながら、魚雷と主砲をダンテに向けた。

 

「先手必勝!」

 

鈴谷は主砲と魚雷を一斉に発射し、ダンテに集中砲火を浴びせた。一つ一つの弾道は、ダンテを追い詰めるために計算されているにもかかわらず、ダンテはHa-ha!!と笑いながら、その弾道を見極めひょいひょいと躱していく。

 

「ちょっち規格外すぎない…!?」

 

鈴谷は軽く舌打ちしながら、さらに弾丸を装填して撃ち続ける。ダンテはその軌道をもはや見ずに突っ込んでくる。それはまるで弾丸がダンテを避けていくかのように見えた。

 

「キッモー!なんなのよマジ!!」

 

鈴谷はそう言いながら、かなり焦っていた。まず、ダンテとの演習と聞いて、どうやって手加減したらダンテを怪我させないだろうか、いかにダンテを傷つけずに勝とうか、などと考えてていた。

だが、現実はどうだろうか?

今となっては、手加減などしていたら、あっという間に全滅である。先行した朧と漣は完全に戦意を失ったようで、後ろの三人はダンテの様子をうかがっているため動けない。自由に動けるのは自分だけである。もはや、ダンテに手加減を所望するレベルである。(これでもダンテの方はかなり手加減しているが。)

しかし、ここで負けてはいられない。鈴谷は覚悟を決めたように、その表情を強張らせた。

 

「おりゃああ!!」

 

鈴谷は掛け声とともに高角砲と主砲を弧を描くようにダンテへと放つ。それを見たダンテは、その弾丸を撃ち落とすためにホルスターからエボニーとアイボリーを取り出そうと手を伸ばす。

その瞬間、鈴谷は魚雷を発射する。ダンテの視線が上に向いたと同時に魚雷をばらまくことで、ダンテを釘付けにするのだ。そして、ダンテから決して目を離さず、主砲をいつでも撃てる状態にして警戒していた。

仮にダンテがその場に留まろうと、魚雷を避けて空へ飛ぼうと鈴谷はこれで倒せる、と確信を持った表情でダンテを見る。

しかしダンテは不敵な笑みを崩さない。

 

「…悪いな、お見通しだぜ。」

 

ダンテは小さい声でそうつぶやくと、海面を蹴って空中に跳ぶ。魚雷はダンテがいた地点を通り過ぎて、そのまま爆発した。しかし、飛び上がった先に鈴谷が放った砲弾が降り注ぐ。次々とダンテに着弾し、爆煙が辺りを包む。

 

「ふひひひ!どうだ!」

 

鈴谷は純粋にダンテを仕留めたことが嬉しくて、笑顔を浮かべる。だが、その笑顔は完全に凍りつくことになる。

 

「Ha-ha!!惜しかったな!!」

 

ダンテがそんな声とともに、爆煙から姿を現した。その身体には、傷一つさえなかった。ダンテは空中にて、弾丸を全てガードしたのであった。

 

「や、やるじゃーん…」

 

鈴谷は引きつった笑みでそう告げる。ダンテはその言葉に、両手を広げて礼をすることで答える。

 

「鈴谷!下がれ!後はこちらでやる!!」

 

武蔵がそう叫ぶと、大井と北上もその砲門をダンテに向けていた。

 

「!…了解!」

 

鈴谷はそう言って、ダンテから背を向けてスピードを上げる。それを確認した武蔵は、右手を高く振り上げ、合図を出す。

 

「撃てぇ!!」

 

武蔵の言葉を皮切りに、大井と北上が主砲と魚雷を発射し、武蔵が艤装の全弾をダンテに向けて放つ。武蔵の46cm三連装砲がダンテを確実に仕留めようと火を噴き、北上と大井の12.7cm連装高角砲と酸素魚雷が、そのアシストをする。

 

来な(C'mon)!!」

 

ダンテはそう叫び、リベリオンを背中から取り出し、そのままスピードを上げる。次々と降り注いでくる弾頭を、ダンテはリベリオンで斬り落としていき、魚雷が迫ってくれば、それをダッシュでかわし、当たる寸前まで弾を引き付けたかと思えば、すぐに体を翻して弾丸を踏み台にして高く飛び、また海上に立つ。

そうして迫ってくる脅威を淡々といなしつつ、その距離を縮めていく。

 

「くっ…なんて奴だ。」

 

武蔵はそう呟き、主砲に力をこめる。しかし、主砲はうんともすんとも言わなくなっていた。どうやら、弾切れのようだ。武蔵はそれを確認したと同時に、舌打ちをする。

 

「くっ…北上さん!」

「大井っち…こっちも…そろそろ…」

 

と、二人も残弾が残り少ないようで、弾幕が薄くなってきている。ダンテがそれを確認したと同時に、スピードを軽く落とし、弾丸一つ一つを丁寧に捌いていく。

全員、弾薬も燃料も満タンに補給していた。武蔵たち3人の装弾数を合わせれば、200発以上の弾丸はあったはずだ。

それを、ダンテは全てかわし切ったのだ。その内の1発も当たることなくである。弾幕を張ったのも、しっかりと本命の弾丸を当てるためである。それらすべての計算を、ダンテは上回ったのだ。

そこまで頭の中で考えて、武蔵はその結論にたどり着いた。

 

(遠いな…)

 

武蔵は、両手に力を込める。改めて自分とダンテとの差を認識し、己の非力を嘆くように。

だが、そう思ったのもつかの間、ダンテがすぐ近くまで迫ってきていた。気がつくと、もはや大井と北上の弾幕は完全に途絶えていた。

 

「Hey、もう終わりか?」

 

未だ楽しそうな表情を浮かべているダンテは、そう言ってファイティングポーズをとる。

武蔵は、そのダンテを見てハッとなった。何を感傷に浸っているのだ。これが実戦であれば、自らの死を認めたことになってしまうではないか。

どうやら、演習だと思って手を抜いていたのは、自分の方であったようだ。

そう考えた武蔵は不敵に笑う。そして、心の中で覚悟を決めた。最後の最後まで、戦い抜くと。

 

「…フッ、まだ終わらんさ!!」

 

武蔵はそう叫んで、ダンテに向けて肉迫する。それに続いて、他の艦娘たちもダンテへと迫る。それを見たダンテは高らかに笑いながら、両手を広げた。

戦いは、完全な泥試合へと姿を変えた。

 

 

 

 

___________________________

 

 

 

 

「で、完封負けと。」

 

提督はそう言いながら、ため息をついた。

結論から言えば、ダンテは最後に一発パンチを食らった以外にダメージはなく、艦娘たちの弾薬と燃料が切れるという形で勝敗がついた。弾薬が空になった後も武蔵たちは燃料が尽きるまでダンテにパンチを打ち続けたが、結局最後にパンチを打ち込んだときは、すでにヘロヘロの状態であり、もはやただ弱々しいハイタッチになっていたのはここだけの話である。

 

「Ha-ha!まあ、艦娘ってのがどんな感じなのか分かって楽しかったぜ?」

 

ダンテはそう言いながら、海の上で水上スキーを楽しんでいた。先ほどまでのぶっ飛んだ様子はなく、今はただ海の上をただ動き続けていると言ったほうがいいだろう。

陸では武蔵が疲れ切ってで地べたに座り込んでいるのを、びしょびしょになった朧がタオルを差し出し、鈴谷と漣はもはや何も語らずにただ大の字になって寝っころがるだけであった。大井は涙ながらに北上に抱きつき、北上はそれを鬱陶しそうにしながら、引き離そうともせずにただ受け入れている。

それを見た提督と電は、さらに大きなため息をついたのであった。

 

「…すまない、提督。こんなことになるとは思ってもみなかったよ。」

 

武蔵はそう言いながら、やりきったというような顔をしていた。少し納得のいっていない表情で、提督は少し呆れたような表情を浮かべる。

本来、この演習のルールは、演習用の戦闘方式で、それぞれが一定数交互に攻撃を行い、大破、中破、小破判定をつけて、それに応じて勝利と敗北の度合いをつけるというものであった。

結果として、そんなルールなど御構い無しに戦闘を行ってしまったわけだが、提督としてはダンテの強さを見れたことで満足していた。少し納得がいっていないのだが。

 

「すぐに、補給と入渠の準備をするのです。」

「ああ、頼むよ。」

 

提督の返事を聞くと、電はすぐに本棟へと戻っていった。そして、提督はよし、と一言つぶやいて、その両手を合わせてパンと叩く。それを聞いた艦娘たちの視線が集中した。

 

「みんなお疲れさま。入渠して、補給を済ませたら、間宮に連れて行くよ。」

「キタコレ!!」

 

その言葉を聞いた漣は勢いよく立ち上がり、そのまま入渠施設へと走り去っていった。それに続いて、朧、北上と大井の3人もそちらへと向かっていった。

 

「…鈴谷はパース…眠たいし…疲れた…入渠して寝る…」

 

鈴谷は未だ大の字で倒れた状態から起き上がる気配すら見せず、ただ寝転がるだけであった。それを見た提督は、少し笑った。

 

「武蔵はどうだい?」

「…遠慮しよう。少し風に当たってから入渠する。」

 

武蔵はそう言って、ゆっくりと立ち上がりフラフラと歩いて行った。それを見た提督は、少しダンテに期待の眼差しを向けた。もしかすると、彼は膠着状態の戦局だけでなく、この鎮守府の艦娘たちをも変えうる力があるのではないか、そう考えていたのだ。ダンテは、一通り海上を見て満足したのか、陸に上がってきていた。

 

「…お疲れ様です、ダンテさん。」

「気にするなよ。俺は楽しかったんだぜ?」

 

ダンテは右手を軽く振り上げ、そんな風に軽い言葉をかけながら自室へと歩き始めていた。提督は、その人間離れしたダンテに対して抱いたのは、恐怖ではなく信頼であった。と、そんなことなどつゆ知らず、ダンテは突然振り返ってこう言った。

 

「そうだ、俺の要望に可能な限り答えるって言ってたよな?」

「ええ、そう言いましたね。何かご要望はありますか?」

 

提督の言葉に、ダンテは少し楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「甘味処に、ストロベリーサンデーを置いてくれ。食堂にピザも置けたら頼むぜ。」

「ははは、ダンテさんはそういうのが好きなんですね。わかりました。手配しておきますよ。」

 

ダンテはそれを聞いたやいなや、満足そうな表情を浮かべて自室へとふたたび歩みを進めた。こうしてダンテは、死活問題の解消に成功したのであった。

 

 

 

 






やっと…本腰をいれられる…

時間かかりそうですが、皆さまよろしければお付き合いください。

あと、いつの間にかUA10000越えと、お気に入り数が200を超えてました!
マジでありがとうございます!気力が湧きました!!


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休息

お待たせしました、第二章最後の話となります。





時刻は16:00を超えたところである。入渠を終えた漣と朧が、提督と一緒に間宮の外にあるベンチに並んで腰かけながら、アイスクリームを食べていた。入渠施設でお湯につかって体を温めた後のアイスに、漣と朧は満足そうな笑みを浮かべる。それを見ながら提督は、微笑みながらお茶をすする。

 

「あの、提督。」

 

と、最後の一口を飲み込んだ朧が提督に呼びかける。提督は穏やかな表情を浮かべながら朧の方を見る。漣はその隣で、夢中でアイスを頬張る。

 

「どうしたんだい?」

「…どうしてダンテさんと艦娘の演習をやろうと思ったんですか?」

 

朧は少し不思議そうな表情でそう尋ねる。それを聞いた漣も、少し食い気味にはいはい!と右手をあげる。

 

「漣も気になります!ダンテさんの実力を知るなら、わざわざ艦娘と戦闘させなくてもよかったのでは?」

 

漣の疑問は至極当然のもので、演習用の弾薬も燃料もともに重要な資材であるため、ただ単にダンテの実力を見るだけならば、他の方法もあったはずである。それをしなかったということは、何か裏に理由があるということだろう。

提督は、まるで悪戯がばれたときの子供のような笑顔を浮かべていた。

 

「…やっぱり気になるかい?」

 

そう呟きながら、軽く頭を掻く。そんな提督の軽い言葉に、二人はうんうんと頷く。提督はふう、と軽く息を吐き、お茶をすすった。

 

「…ダンテさんがここに配属されるという電話が来たとき、元帥に言われたんだ。彼を試すなら、艦娘を使った方が良いってね。」

 

提督は、困ったような表情でそうつぶやく。それを聞いた朧と漣は、察したような表情をした。

提督のいうところの元帥は、かなり豪快な気質な初老の男性である。大本営の言うことなどほとんど聞かず、自由奔放な人物である。大規模作戦などには全く興味を持たず、常に自分が立てた作戦の通りにしか行動しない。作戦の指揮をするときも、突拍子もないことを指示することもあるが、どんな指示も今までで外れたことはない。

だからこそ、提督もそんな元帥の指示は断れないのだ。

 

「…まあ、結局元帥の言いたかったことはわかった。」

 

提督はそう言いながら、またお茶をすする。それを見た二人は、顔を見合わせて首をかしげる。提督は1人微笑みながら空を見上げる。

提督はあの演習の中で、ダンテをずっと凝視していた。そこで提督は、彼には艦娘にも人間にもない何か特別な力があるのを感じ取ったのだ。電が言っていたことも含めれば、何かしらその異形のものと関係がある力なのだろう。

 

「…これはいよいよ、本格的にこの戦いが終わるかもな。」

 

提督は誰にも聞こえないほどの小さな声でつぶやいて、そっと目を閉じた。それは、この終わらない戦いの中で見えた、一筋の光。最後の希望なのだ。

 

「あのぉ…提督。」

 

と、そんな風に思っていた提督に、給糧艦の間宮が店の中から顔を出した。提督はそれを見て、自分が一つ頼みごとをしていたのを思い出した。

 

「そうだった、すまない。試作品はどうだい?」

「ええ、ちょっと提督に味見していただきたいんです。」

 

そう言って、間宮はお盆に三つほどそれを持ってきた。細い容器に入ったアイスクリームの上に、ストロベリーのムースとシロップがかけられ、その上部にイチゴをトッピングしてあるその見た目は、主に子供や女性が好むものであるということがありありと伝わってくる。

 

「おいしそう…これが…ストロベリーサンデー…!」

「すごいですね、ご主人様!」

 

漣はその表情を笑顔に変え、朧はそのデザートをじっと見つめながら唾を飲み込んだ。それに対し、提督はただその甘そうな見た目に苦笑いをするだけであった。

 

「…まあ、味見してみるか。」

 

間宮から器とスプーンを受け取りながら、提督はそうつぶやく。朧と漣もそれを確認して、その器とスプーンを受け取る。

 

「ご主人様~、どうせならみんなで同時に食べてみましょうよ!」

 

漣はそう言いながら、スプーンをくるくると回しだした。それを見た朧がため息をつきながら行儀が悪いと思うよ。とその行動を窘める。提督はそれを軽い笑顔で見守る。

 

「じゃあ、そうしようか。」

 

提督はそう言って、スプーンを持つ。それを見た朧と漣は、すぐに目の前のストロベリーサンデーに向き直る。早く食べなければ、せっかくの冷たいアイスが溶け始めてしまう。

 

「じゃあ、いただきます。」

「いっただっきま~す!」

「味見っていうことは忘れないようにな。では、いただきます。」

 

そういうと、3人はスプーンでアイスクリームとイチゴをすくい、そのまま口に運ぶ。

そして、3人の口の中には甘さと冷たさのハーモニーが広がるのであった。

 

「な、なんですかこれは!?」

「お、おいしい…!!」

 

そう言った朧と漣の周りの空気に、きらきらとした輝きが広がっていた。提督自身もストロベリーサンデーを見ながらうなっていた。

 

「…これは…間宮のアイスクリームとイチゴの風味が絶妙にマッチしている…これは新

しいメニューとして置くのもいいかもしれない…」

 

提督はそう呟きながら、軽く考え込むような表情を浮かべた。間宮はそれを聞いて、少し嬉しそうに微笑んだ。

 

「それは何よりです。伊良湖ちゃんと一緒に頑張って作った甲斐がありました。食べ終わったら、器は置きっぱなしで大丈夫ですので。」

 

間宮はそう言って、中に入ってしまった。朧と漣は夢中で食べ進め、ん~…と満足そうな笑みを浮かべていた。それを見て、提督も満足げな表情を浮かべていた。

 

「これならダンテさんも喜んでくれそうだ。」

 

提督はそう言いながら、もう一口食べ進め、そのおいしさに舌鼓をうつ。

日が段々と沈み始め、夜に近づいていく…

 

 

 

___________________

 

 

 

 

執務室の中、電は1人で書類を整理していた。外が少しずつ暗くなってきているのを感じ、電灯をつけながら、作業をしていた。今日の書類仕事は提督がすべて片付けてしまったので、明日の分の仕事を確認することにしたのだ。

 

「…はぁ…」

 

作業を始めてから30分ほど経っただろうか。電はさすがに疲れたので一休みしようと、軽くため息をつきながら背もたれに体重を預ける。そして、今日の出来事を振り返っていた。

ダンテが、艤装を使いこなして、武蔵たちを圧倒していたことを。

 

(…演習をしていた皆さんならわかっているはずなのです…あんな凄まじい早さで艤装を使いこなせるようになるのは、現実的には不可能なのです。もっと訓練や練習が必要なのです。)

 

ダンテはものの数分で完璧に使いこなせるようになってしまった。その事実は、ダンテの人間離れしたポテンシャルの高さを示していた。

と、そんな風に考えこむ電をよそに、執務室のドアが開く。完全に脱力していた電は少し焦りつつ椅子から立ち上がった。

 

「おっと、イナヅマだけか?」

「ダンテさん…」

 

少し安心したような表情を浮かべながら、電はまた椅子に座った。それを見たダンテは、軽く笑みを浮かべながらソファの方へと歩み寄る。

 

「…随分と疲れてるみたいだな。」

 

ダンテは軽く指をさしながらそう言って、ソファにドカッと座る。その言葉を聞いて、電は少しため息をついた。

 

「…ダンテさんは疲れていないのですか?」

 

その言葉に、ダンテは軽く笑い声をあげる。まるで意外とでもいうような表情であった。

 

「そんな心配されるのは、初めてだな。」

「…疲れてないのですね。」

 

ダンテの言葉に、もはやため息をつくことも忘れて電はただそう返す。あれだけのことをして、疲れの一つもないとは、まさに人間離れしているといったところだろう。

 

「…ダンテさん。」

 

電はそう言って、ダンテの方を見据える。対するダンテはどこから持ってきたのか、漫画雑誌のようなものを読み始めていた。

電は、覚悟を決めたような表情をする。気になることを、すべて洗いざらいぶつける。電はそれしか考えていなかった。

 

「…この間のあの化け物のこと、教えてほしいのです。」

「ああ、いいぜ。」

 

電の重苦しい雰囲気から打って変わって、ダンテは軽い口調でそう返す。あまりに軽いので、電は少し拍子抜けしていた。真面目な話をするとは思えないほどフランクな空気で、ダンテはその口を開く。

 

「悪魔って知ってるか?」

「?…天使と悪魔の、悪魔ですか?」

 

ダンテの問いに、電はキョトンとした表情でそう返す。ダンテはそんな電の方を見もせずに続ける。

 

「それがこの間の奴さ。」

「………はわっ!?」

 

ダンテのあまりに軽い口調に少しの間思考が停止していた電は、少し遅れてそう叫ぶ。

電の頭の中は完全に混乱していた。

この間のあの異形のものは、悪魔だとダンテは言った。そして、ダンテはその悪魔をほんの一瞬で倒した。つまり、ダンテは悪魔よりも強いという等式が成り立つのである。

 

「ダ、ダンテさん…あなたは何者なのですか…!?」

 

電は鳥肌が立ったのを感じつつ、そう恐る恐る尋ねる。ダンテの本当の強さの片鱗に触れてしまったという感覚に陥りながら、それでも電はその答えを知ろうと言葉を絞り出したのだ。

そんな電をちらと見て軽く笑みを浮かべたダンテは、雑誌をパタンと閉じて、ソファから勢いよく立ち上がり、電に向き直る。

 

「…俺はただのDevil hunterさ。」

 

ダンテはそう言いながら、ただ不敵な笑みを浮かべるのであった。

電は、今の状況に現実感が持てずにいた。

日は沈み、夜が再びやってくる。

 

 

 




次回予告(アニメ風)

静かな夜ほど、不気味なものはない。経験上、そう言う時は決まって良くないことが起こる。初対面の女に剣で貫かれたりするのがいい例だ。
危険なことばかり起きるが、それでも俺は平穏よりはこっちの方がいい。人生は刺激があるからこそ楽しい、そうだろ?



Mission3
Silent Night


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Mission3 〜 Silent Night 〜
対峙


あけましておめでとうございます!

新年1発目の更新行きます!


艦娘との演習から2日、ダンテはまたも暇を持て余しており、自室のデスクに足を乗せながら椅子に座り、ピザを頬張っていた。

というのも、この近辺に深海棲艦の目立った動きはなく、戦闘らしい任務は全く入ってこなかったのだ。艦娘たちは訓練や演習、そして遠征の任務のみである。

 

「…huh。」

 

つまるところ、ダンテはこの2日間、鎮守府の中では全くやることがなかったのだ。訓練に参加しようとすると、全力で艦娘たちに止められ、遠征について行こうとすれば、流石にそれは申し訳ないと提督に止められ、他の鎮守府との演習に遊びに行こうとすれば、秘書艦の電に睨まれるという、三重苦であった。

しかし、それではダンテも暇なため、鎮守府を少し抜け出して街を散策してみた。すると、悪魔の気配を多く感じたのだ。それも海の向こうからではなく、地上で。攻撃してくることはなかったものの、かなりの視線を感じたのもまた事実である。

 

「…これだけ暇なら、ここにDevil May cryを開くってのもアリだな。」

 

ダンテはそう呟きながら、デスクの上の足を組み替える。提督の好意で、使わなくなったジュークボックスを部屋に置いており、そこからアップテンポのハードロックが流れている。

また一口、ダンテはピザを食べ進める。

 

「…それで、扉の向こうにはそのお客様第一号が来てるってことだな。」

 

そう呟いて、ドアを見る。正確には、ドアの向こう側の人物。

しばらく静寂が辺りを支配する。

 

「…ヘェ…気ガツイテタンダ。」

 

そんな、まるで無機質な声が聞こえたかと思えば、ドアが勢いよく吹き飛ばされた。飛ばされたドアはデスクにぶつかって止まる。

 

「Huh、随分と激しいノックだ。まだ店を開くかどうかも決まってないのによく来たな。」

 

ダンテはニヤケながら、そのドアを破壊した客人を見る。

全身は白い肌であり、黒い装束を身に纏っている。フードを深く被り、ちらりと見える口元はダンテを嘲笑うかのように歪んでいた。

 

「…新シイ敵影ヲ確認シタッテ聞イタカラ、ドンナ奴カト思エバ…」

 

声をあげながら顔を上げる来客を、ダンテはしっかりと見据えていた。何処と無く電たちと似ているようにも見えるその幼さが残る少女は、狂気を孕んだ笑顔を浮かべていた。

 

「…マサカ、外国ノ人間トハ思ワナカッタヨ…」

「そういうお前は、海から来たんだろう?」

 

ダンテは余裕の表情を崩さずに、その少女へと問いかける。少女はそんなダンテの言葉に、ニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「…サアネ!!」

 

そんな力強い声が部屋に木霊したと同時に、その少女の背後から化け物の顔をした尻尾が現れる。

ダンテはその表情を少しだけ硬ばらせる。

 

「モウアンタハ死ヌンダカラ関係ナイッテコトサ!」

 

少女の尻尾は、ダンテの顔面に食らいつくために、その口を広げる。勢いよく、ダンテの目の前のデスクを破壊し、ダンテへと迫った。

それを見た瞬間、そばにあったリベリオンを手に取り、その化け物の口の中へとつっかえ棒のようにぶちこむ。

 

「!…」

「Ha-ha!こいつはすげぇな!尻尾の上や横だけじゃなくて、口の中にも大砲が入ってるのか?」

 

少女が突然の出来事に表情を固くしている中、ダンテはその化け物の口の中をまじまじと見ながら、ピザを頬張る。

少女は、しばらくして、またニヤリとした笑みを浮かべた。

 

「…ナルホド…タダノ人間ジャナイッテ訳ダ。」

「そいつは、お褒めに預かり光栄だな。」

 

ダンテはそう言いながら、その余裕な表情で少女に向き直る。それを見た少女は、少したじろいだ。ダンテの瞳から底知れない自身への殺気が出ているのを感じたからである。

 

「…で、どうするんだ?今からでもお誘いは受けるぜ?」

 

ダンテはそう言って、尻尾の口に入っていたリベリオンを取り出した。少女は、何も動かさずにダンテをじっと見る。

それは、ダンテから少女に向けての宣戦布告。

 

「…フフ…フフフ…」

 

数秒遅れて、少女はやっと元通りに口を歪ませる。そして、尻尾を引っ込めながら、軽く息を吐く。

 

「…ヤメテオクヨ。ココジャナクテ、海上ノ方ガ良イカラネ。」

「…huh、そうかよ。退屈しのぎになるかと思ったんだがな。」

 

少女がそう言うと、ダンテは残念そうにリベリオンを元あった場所に立てかける。そして、少女の方に顔だけ向ける。

 

「じゃあ、今度は海の上でパーティーってことだな。」

 

その表情は、その時を楽しみにしている、と言いたいかのように、やけに軽い笑顔であった。少女は心の中で恐怖に似た感情を持ったが、それでも表情を一切崩すことなくダンテを見る。

 

「…ソウダネ。コッチモ楽シミダヨ。」

 

少女はそう言って、身体を翻して部屋を出ていく。ダンテはそれをただ黙って見送るのであった。

やがて、その少女の足音が完全に聞こえなくなった。

 

「…さて、どうするかな。」

 

ダンテは両手を腰に当てながら、軽くため息をつく。破壊されたドア、そしてデスクの件を、提督達にどう説明しようか困っていたのであった。

 

「…huh、直してから行ってもらえば良かったな。」

 

ダンテはそう呟いて、落ちていたピザの箱を拾いあげて、また中身を口に運ぶのであった。

 

 

 

_______________________________

 

 

 

 

「な、なんですって!?」

「く、黒いフードを被った…って!?」

 

夜が明けて、ダンテが部屋の件を提督と電に報告すると、2人に驚愕の表情を向けられていた。

ダンテはソファにドカッと座りながら、2人に顔だけを向けていた。

 

「どうした?そんなにまずいのか?」

「そ、それは深海棲艦の中でもトップクラスの強さを誇る、戦艦レ級と呼ばれる深海棲艦なのです!」

 

ダンテの言葉に、電は少し強い口調でそう返す。提督は、デスクから参考資料を引っ張り出して、それをダンテのテーブルに広げた。

 

「これが、戦艦レ級の資料です。」

 

ダンテは、目の前に広げられたその資料を手に取り、中を確認する。そこには、数回の戦闘から取られた様々なデータが事細かに記載されており、その桁違いの強さと凄まじい性能を示していた。

 

「何度か、作戦海域にて確認されており、多くの艦娘達がその餌食になりました。うちの艦娘達も、その海域に赴いた何人かが酷い傷を負って戻ってきました。」

 

提督は少し悔しそうな表情を浮かべながら、ただ俯いていた。ダンテは、昨日の少女、戦艦レ級のことを思い出していた。

彼女から溢れ出ていた闘志は、かなりの実力を持っているだろうとは思っていたが、やはり本当に強いらしい。

そして、あの目。前に、悪魔に取り憑かれた人間を見たことがある。その目にとても似ている。感情と理性を失い、悪魔に支配された時の…

 

「…面白いじゃねえか。」

 

ダンテはそう呟いて、不敵な笑みを浮かべた。それを聞いた電は、あまりにも楽観的なダンテの言葉に少し顔をしかめた。

 

「面白くないのです!ダンテさんがいくら強いとはいえ、戦艦レ級と戦うなんて無茶なのです!」

 

電がそう言うと、ダンテは両手を軽くあげて、軽く笑い声をあげる。

 

「最近暇なんだ、これぐらいの楽しみがないとな。」

「楽しみって…はぁ…もういいのです。」

 

ダンテの言葉に押されてしまった電は、呆れた表情でそう呟いた。ダンテは軽く資料に目を通して、そのまま立ち上がる。

しかし、それほどの強敵に、いつものリベリオンとエボニー&アイボリーで挑むのはあまりにも面白みがない。

どうせなら、()()らしい戦い方でやり合うのがいい。

 

「イナズマ。あのいつも手に持ってた大砲はどこにある?」

 

ダンテは電の方を向きながらそう告げる。電は少し戸惑った表情を浮かべていた。提督はそれを聞いて、微笑みを浮かべた。

 

「もしかして、使いたいんですか?」

「huh、まあそういうことだ。」

 

ダンテは軽く楽しそうな笑みを浮かべてそう告げる。提督はそれに答えるように電に向き直る。

 

「電、単装砲を貸してあげてくれ。二つほどね。」

「はぁ…了解なのです。」

 

電も軽く諦めたような表情でそう告げて、執務室を出て行く。ダンテは満足そうな笑みを浮かべながら、電の後を追う。提督はそんな2人を、ただ見送る。

普通ならば、戦艦レ級と戦うことなど危険だと止めるだろう。仮に艦種が駆逐艦であろうと、戦艦であろうとである。しかし、ダンテには何も言わない。

彼には、そんな言葉は必要ないように思えたからである。

 

「…彼なら、戦艦レ級ですら軽々と倒せてしまえるんだろう。」

 

提督はそう呟いて、ただ窓の外を見るのであった。

朝日が外から執務室を照らしていた。

 

 






というわけで、戦艦レ級との対峙です。

数々の提督の心を折ってきた敵も、ダンテにかかれば多分楽勝なんだろうなぁ…




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侵攻

お待たせしました、13日の金曜日に更新です。

ダンテに単装砲を2つ持たせて、エホアボみたいに使わせたら、レインストームの威力が倍増しそう。


「これがその単装砲ってやつか。」

 

鎮守府の正面海域、海の上に立つダンテは両手に1本ずつ14cm単装砲を持ち、軽く振って見る。それを見た電は、少しため息をつきながら使い方を説明する。

 

「これは本来、巡洋艦の主砲に使われるのです。手にはめれば、自在に弾丸を打ち出すことができるのです。普通は弾薬を使用するのですが…」

「Ha-ha!こいつは良いな!」

 

ダンテはそう叫び、はるか遠くに見える水平線に向けて片側10発ずつ弾丸を打つ。音速を超える弾丸が直線を描き、やがて重力に引かれて海面へと着水する。

 

「結構飛んだな。」

「…やっぱり、ダンテさんには関係なさそうなのです。」

 

電は、どういうメカニズムで弾丸を装填しているのかはわからないものの、ダンテの力で弾薬が無限になっていることを理解してそう呟く。

ダンテは単装砲を渡された際に、早速文字通りに『魔改造』を施し、ものの数分で自分好みに改修し終えていた。

 

「…Ha!」

 

ダンテは一気に足へと力を入れ、そのまま加速していく。電はそれを見て少し戸惑い、ダンテを止めることができなかった。

 

「Foooooo!!!」

 

ダンテはスピードが最高潮に達したと同時に、その場から高くジャンプする。そして、体を捻るように動かし、身体の上下を逆転させる。

そして頭が水面に向いた瞬間、ダンテは回転しながら真下へとその両手の砲塔を向け、何度も引き金を引く。

その砲弾は、まるで雨のように降り注ぐ。

 

「なんて規格外の技なのですか…」

 

電は少し呆れながらそう呟く。ダンテはそのまま重力に身を任せると、すぐに体制を立て直して海面へと着水する。そして、楽しそうな笑みを浮かべて、電の方へと戻っていく。

 

「…huh、こいつは使いやすいな。」

「艦娘でなければ使えないのが普通なのです。」

 

もはや使えるのが当たり前のように振る舞うダンテに、電はため息をつきながらそう返す。もっとも、艦娘よりも使いこなしていると言われてしまえば、何も反論できないのだが。

 

「…とりあえず、使い方は分かった。」

「では、索敵が終わるまで待機なのです。深海棲艦が来るかどうかわからないのですから。」

 

電はそういうと、身体を翻し鎮守府の方へと向かう。ダンテは少し楽しそうな笑顔を浮かべながら、その後ろについていく。

 

 

 

それを遠くから見ている影が2つ。

 

「…アレガソウナノ?」

 

白い髪のツインテールの少女が、少し馬鹿にしたように笑いながらそう告げる。その隣にいるのは、戦艦レ級と呼ばれた深海棲艦である。

戦艦レ級はため息をついてその少女の方を見る。

 

「…舐メテカカルト痛イ目ヲ見ルゾ。」

「ソウハ言ッテモ、艦娘デモ無イ奴ニ負ケル訳無イデショウ?ヒ弱ソウダシ。」

 

レ級の言葉をそんな軽い言葉で聞き流すこの少女は、大本営からは南方棲鬼と呼ばれている。深海棲艦の中でも危険度が高く、多くの艦娘達を沈めてきた。

しかし、それほどの実力者である彼女の自信満々な顔を見て、レ級は呆れたような表情を浮かべる。

 

「…ヒ弱…ネェ…」

「マア、ソコソコ戦エソウダシ、鎮守府ニ攻メテミテモ面白イ…ワネ。」

 

南方棲鬼は、不敵に笑いながらそう呟く。レ級はただ、ダンテの方を見るだけであった。

 

「…スグニ戻ッテ、攻撃ノ準備ヲシナイトネ。」

「…ソウカ。」

 

南方棲鬼はそう言って、身体を翻してそのまま海の方へと戻っていく。レ級はそれを見送って、またダンテへと視線を移す。

赤いコートをなびかせて海を行くその姿は、まるで自分たち深海棲艦の纏うようなオーラを出しているように見える。

と、ダンテが突然立ち止まる。レ級は少し怪訝そうな表情を浮かべる。ダンテはくるりと身を翻し、レ級の方を見る。

 

「!…」

 

レ級は全身に悪寒が走るのを感じた。これだけ離れた距離にも関わらず、ダンテはこちらの存在を知覚しているのだ。

ダンテはただ小さく笑みを浮かべながら、まるで執事がするような丁寧な礼をした。レ級は息を飲んでただそれを見ていた。

しばらくして、身体を起こしたダンテは、再び電の後についていく。

レ級の強張った体が、少しずつほぐれて言った。

 

「…アレガ艦娘ヨリモ弱イ訳ガナイダロウ。」

 

レ級はため息をついてそう呟き、身体を翻した。

 

 

____________________________

 

 

 

通信室の中、大淀がヘッドセットをつけて通信機の前でじっと構えている。

そこへ武蔵が入っていく。

 

「どうなんだ?」

「未だ動きなし、とのことです。」

 

索敵班からの報告を受けた大淀は、武蔵にそう告げる。今現在、索敵を行なっているのは、艦上偵察機『彩雲』を装備している赤城と加賀、零式水上偵察機を装備した利根、筑摩が担当している。

 

「鎮守府に攻め込んでくるなど、あり得るものだろうか。」

「深海棲艦の行動原理は、未だ解明されていない部分が多いですからね。」

 

武蔵の疑問に、大淀は少し困り顔でそう答える。今までの深海棲艦の行動パターンから見て、鎮守府に攻め込んでくる場合は、少数ではなく大規模な艦隊を編成して攻撃してくる場合が多い。ダンテの元へ戦艦レ級が単独で来たことですら異常事態なのである。

 

「とにかく、戦艦レ級が来る可能性は多いにあります。索敵はこのままお願いします。」

『…その必要はなさそうだけれど。』

 

と、大淀の言葉に反応するかのように、加賀の声が通信機に木霊する。

それを聞いた大淀は、ヘッドセットの声に集中した。

 

「敵ですか?」

『ええ…それも、かなりの数。軽く40隻を超えてるわね。』

「!…そんなにですか!?」

 

加賀の報告を聞き、戦慄を覚える。鎮守府近くの海域にて確認される深海棲艦の数の総量を、軽く超えているのだ。それほどの深海棲艦が、鎮守府を1つ潰そうと近づいて来ている。

そこへ、緊急の通信が入る。

 

『こちら利根じゃ!敵影の中に、南方棲鬼を確認したぞ!!』

「!?…なんですって!?」

 

大淀は、新たな事実に思わず声を張り上げてしまった。武蔵が少し緊張した面持ちでその声を聞き届ける。南方棲鬼が艦隊を率いて、今から鎮守府を破壊するためにやってくる。その事実は、かなり危険な事態であることを示していた。

 

『このままでは、こちらも危険ですね。1度退いて、提督の指示を仰ぎたいです。』

 

赤城のそんな声が、通信機から響く。大淀は少し言葉につまりつつ、偵察隊をこのまま留まらせるのは危険と判断し、大淀は息をのむ。

 

「…分かりました。すぐに戻って来てください。」

『はい。』

 

赤城がそう返事をすると、すぐに通信が切れた。大淀は不安げな面持ちを浮かべながら、頭をかかえる。

武蔵はしばらく黙ってその様子を見ていた。

 

「…あまり、状況は良くないようだな。」

「…ええ。提督に報告して来ます。」

 

大淀はそう言って、執務室へと向かう。武蔵はそれを黙って見送る。

恐らく、厳しい戦いになるだろう。鎮守府を守るために、全戦力を投入することになることは明らかである。

自分と、大和も。

 

「…これは私も覚悟を決めなければならないようだな。」

 

武蔵は、右手に力を込めて、強く握った。

 

 

____________________________

 

 

 

「…そうか…敵はそれほど…」

 

大淀から現状を聞いた提督は、少し歯噛みをした。今までにこれほどの量の敵と戦闘したことは、ほとんどない。大規模作戦の場合は、他の鎮守府も参加しており、それぞれが倒さなければならない敵のノルマがあるため、相対する敵は少なかった。

だが、今は単独で奴らと戦わなければならない。

 

「…第1から第3艦隊まで、全員配置に付かせてくれ。あと、ダンテさんにもお願いしなければ。」

「…了解しました。」

 

大淀は、不安げな自身の心境を悟られないように、いつもと変わらない面持ちでそう返し、そのまま通信室へと戻っていく。

 

「…これはかなり大きな戦闘になりそうだな。」

 

提督はそう呟き、ただ椅子に座りなおすのであった。

日は高く登り、真上から地上を照らし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





と、いうわけでダンテに無双してもらう下準備は整いました。

スタイリッシュポイントを貯めるだけの簡単なお仕事です。


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作戦


ダンテにかかれば、深海棲艦など一瞬…なので、ここで一旦作戦会議です。

あと、独自設定また出ます。


「索敵の範囲で確認が取れた敵の艦種は、駆逐イ級、ロ級、ハ級が8隻ずつ。軽巡洋艦ホ級が8隻。重巡洋艦リ級が5隻と戦艦ル級が3隻。軽空母ヌ級が4隻。そして、南方棲鬼が1隻です。」

 

作戦司令室に、この鎮守府の艦娘全員が集められていた。今回の深海棲艦の侵攻に対して、それぞれがどの艦隊に配置されるかを確認するためである。

大淀が指し示す画像データは、鎮守府周りの地図を示していた。

 

「今現在、敵艦隊は真っ直ぐこの鎮守府を目指して航行中です。恐らく、あと1時間で射程圏内に入ります。そこで、敵を3方向から囲む形で迎撃します。」

 

大淀はそう言いながら、今現在敵がいるポイントを指し示し、第1から第3の艦隊の磁石をその地点を包み込むように配置する。それを見た艦娘達は、思い思いの感想を述べる。

 

「…大規模戦闘か…」

「…これはかなり危険な作戦になるかもしれないな…」

「…ハラショー。」

 

ざわついた声が上がる中、大淀が静かに目の前の書類に目を落とす。そこには、提督が指示した今日の艦隊編成について書かれていた。

皆を嗜めるように、大淀は少し大きめな咳払いをする。

 

「第1艦隊には大和さんを旗艦とし、武蔵さん、赤城さん、加賀さん、電さん、雷さん。第2艦隊は旗艦に鈴谷さん。熊野さん、大井さん、北上さん、朧さん、漣さんが配属になります。第3艦隊の旗艦を長門さんにお願いし、陸奥さん、翔鶴さん、瑞鶴さん、暁さん、響さん。以上です。」

 

呼ばれた艦娘達が、それを聞いて敬礼をする。それを見た大淀は、一度だけ首をコクリと頷かせ、また書類の方へと目を向ける。

 

「…なお、他の艦娘は戦闘配備で待機をお願いします。」

「はい!1つ質問です!」

 

と、大淀の言葉の後に漣が元気よくそんな声を上げる。それを聞いた全員が、そちらの方を見る。そこには、手を挙げた漣が立っていた。

 

「どうされました?」

「第4艦隊はどうするんですか?いつもは後方支援とかの担当ですよね?」

 

この鎮守府は普段の大規模作戦では、後方支援艦隊として援護攻撃を行う艦隊として、第4艦隊を利用している。

しかし、今回は提督から指示が来ているのだ。その指示にイマイチ納得がいかないので、大淀はため息をつく。

 

「…第4艦隊は…ダンテさんが任につきます。」

「えぇ~!?」

 

大淀の言葉に、全員のそんな声がこだまする。ダンテの起用に対しての驚きや不満、自分が抜擢されなかったことへの焦燥の声が上がる。分かりきっていた反応だとでも言うかのように、大淀は少しため息をつく。

 

「ってことは、ダンテが単艦で後方支援ってこと!?」

 

鈴谷がそう言いながら、不安そうな表情を浮かべていた。どうやら、ダンテの心配をしているらしい。それを聞いた大淀は、納得がいかないような表情を浮かべていた。

 

「そうなります。提督はそれで構わないと。」

「ありえないっしょ!いくらダンテが強くてもそれは…」

「これは命令です。」

 

大淀のその『命令』と言う単語に、鈴谷は言葉を詰まらせる。どんなに艦娘に優しい提督でも、命令という単語を一度使えば、自分達は逆らうことができない。それは、良くも悪くも軍人としての自覚があるからである。

 

「ダンテさんには、承認を得ました。なぜ前線ではないのか聞いているぐらいです。」

「やる気満々ってことなのですか…」

 

電はそう呟きながら、軽く頭を抱える。ダンテの強さの真実を唯一知っている電は、ダンテが後方支援に徹してくれるとは思っていなかった。何かしら一悶着が起きるということを予測していたのだ。

鈴谷は、何か言いたげであったが、何も言わずに俯く。

 

「…とにかく、作戦開始まで各々で準備をお願いします。」

 

その大淀の言葉と同時に、全員返事をして解散する。かつて、この鎮守府では経験したことのないほどに大きな戦闘が始まろうとしている。

ピリピリとした緊張感が流れた。

 

 

____________________________

 

 

 

「…」

 

艦娘達が作戦会議を行なっている間、やることがなかったダンテは異様なほどに静かな工廠に1人で佇んでいた。何かの存在を、待っているかのように。

 

「…Hey、俺と遊ぼうぜ?」

 

ダンテはそう言うと、その場にあった適当な資材用のドラム缶の上に座る。

工廠には誰の姿もなく、ただ声が反響するだけで何も起こらない…はずであった。

 

「…まさか、スパーダの息子(Son of the Sparda)がこんなところに来るなんて、思わなかったよ。」

 

そんな声がしたと同時に、機械の中から1人の手のひらサイズの生物が出てくる。それは、電と共に鎮守府内を巡った時、名前だけ登場した生物、妖精であった。ダンテはそれを楽しそうな微笑みを浮かべて手招きをする。

 

「やっぱり、お前ら妖精ってのは悪魔だったってことか。」

「流石、と言うべきかな。もっとも、いつかはバレるとは思っていたけどね。」

 

妖精はそう言いながら、ダンテの元へ瞬間的に移動する。それを見たダンテはHa-ha!と笑いながら、その妖精を手のひらへと乗せる。

 

「それで、何故話しかけてきたんだい?スパーダの息子(Son of the Sparda)。」

「ダンテでいい。今聞きたいのは1つだけだ。何故悪魔が人間に協力している?」

 

ダンテは、そう言いながらその表情を真面目なものに変えた。妖精は、ダンテが本気でそう尋ねていることを悟り、しっかりとその心に応えなければいけないことを理解していた。

 

「…僕たち、妖精と呼ばれている悪魔は、魔界ではかなりの低級悪魔だ。当然、力も大したものじゃない。」

「だろうな、あまりにも力が弱すぎて、手を出す気になれなかったぐらいだ。」

 

ダンテはそう言って、軽く笑う。戦うための力はそんなに強く感じられないのだ。妖精は、そのまま話を続ける。

 

「スパーダがかつて魔帝ムンドゥスを裏切り、人間界を護った時、穴はほとんど塞がれて、僕たちはみんな人間界に取り残された。まあ、悪く言えば故郷に帰れなくなったということだった。」

「よくいえば、もう誰にも虐げられる必要はない、という訳だな。」

 

妖精の言葉に続けて、ダンテはそう続ける。魔界では力が全てと考えられており、目が合えば戦い始め、どちらかが勝つまで戦い続けることも多い。だからこそ、低級で力がない悪魔は魔界のヒエラルキーの最下層に位置する。

そんな悪魔は、他の悪魔から見下され続けるのだ。

 

「とはいえ、人間界では悪魔の姿でいることは危険だった。そうなれば、結局人間界にいるスパーダに討伐されることは明白だったからだ。」

 

妖精はそう言って、過去のことを思い出しているかのような表情を浮かべていた。

ダンテは軽く笑いながら、妖精の方を見る。

 

「それで、そんなに小さくなったってわけか?」

「…この姿で、人間達に近づき、影で協力を続けてきた。そうすれば、人間は僕たちを敵だと思うことはない。人間を愛したスパーダをも欺けると思ったんだ。」

 

妖精はそう言いながら、軽く天井を見上げる。それは、今までの行いを懐かしむような表情であった。ダンテは軽くhuh、と笑うのであった。

 

「それが続いて、今はこうして艤装や装備を製造したり、それに乗り込んだりして、あの深海棲艦と戦っているんだ。みんなと一緒に。」

 

妖精はそう言って、ダンテの方を見る。それを聞いたダンテは満足そうな笑みを浮かべていた。

 

「…そうかい。そりゃ、また力がないのに大変なことだな。」

 

ダンテはそう言って、妖精を手のひらから降ろすために、ドラム缶の上部につける。妖精は少し驚いたような表情を浮かべて、ダンテを見る。

 

「…僕たちを殺さないのかい?」

「Ha-ha、手を出す気になれなかったって言ったろ?結局、お前らも人間が好きらしいしな。」

 

ダンテの言葉に、妖精はハッとした表情を浮かべていた。よくよく考えれば、ただ生き抜くためであれば、そのまま静かに平穏に暮らしていればよかったのだ。人間と出会わないほどの僻地で、ただ静かに生きていれば。

それをできずに人間に協力し続けたのは、それはスパーダと同様に人間を愛してしまっていた、ということだったのかもしれない。

妖精はダンテの手から降り、ドラム缶に乗り移る。

 

「…そうか。そういうことなのかもしれないね。」

「今日はよろしく頼むぜ。お前らはお前らの仕事をこなしてくれるだけで良い。あとは俺がなんとかするさ。」

 

ダンテはそう言って、工廠を離れていく。妖精はその後ろ姿を見送る。と、ダンテの足がピタリと止まる。

 

「そうだ、あの艤装とかいうやつのことなんだが。」

 

ダンテは突然そう言いながら、妖精の方へと振り返った。妖精はそのままダンテを見続ける。ダンテが次に何をいうのか、考えながら。

 

「…あれから流れてる魔力、人間に影響が無いはずはないな?」

 

ダンテの顔から笑顔が消え、再び真面目な表情を浮かべていた。妖精は無表情のまま、ダンテの問いに応えようと口を開く。

 

「…あぁ、そうだね。」

「そうかい。今度、詳しく聞くからな。」

 

ダンテは、それだけ告げると、海の方へと歩いて行ってしまった。妖精は、その言葉の意味を吟味しながら目を閉じた。

人間が魔力を浴びれば、確実に影響が出る。それは、艦娘においてもそうだとダンテは言いたいのだ。それが現れない彼女達艦娘は、何者なのかと言いたいのだ。

 

「…たった数日でそこまで辿り着くのか、ダンテ。」

 

妖精はただそう呟き、姿を消すのであった。

 





艤装は魔具(独自設定)
妖精さんは悪魔(独自設定)

まだもう少し独自設定出てきます。お付き合い下さい!



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迎撃


ついに開戦です。




「…南方棲鬼様。敵ハマダ来マセンガ、如何致シマスカ?」

 

戦艦ル級の内の1人がそう言いながら、真っ直ぐ鎮守府の方を見つめる。南方棲鬼は少しため息をつきながら、不機嫌そうな顔をした。

 

「…チョット連レテ来過ギチャッタカシラ。戦意喪失デモサレタラ、コッチモツマラナイ。」

「…ソッチノ方ガ、被害ハ少ナクスミマスケド。」

 

と、別の戦艦ル級がそうツッコミを入れると、南方棲鬼はギロリとした目線をそちらに向けた。その戦艦ル級は少し咳払いをしてあらぬ方向へと顔を背ける。

南方棲鬼自身も、これだけの大艦隊を率いたことはあまり無い。つまり、いきなりこんな大艦隊が基地へ来たとしたら、艦娘達はどんな反応をするか分からないのだ。

 

「…マア、奴ラノコトダシ、迎エウチニクルデショウネ。ソレニ、本命ガ動イテクレナキャネ。」

 

そう言って、南方棲鬼は昂ったような笑みを浮かべる。その様子は、仲間である戦艦ル級達をも凍りつかせるほど、恐怖感を煽るものであった。

そして、その時は訪れる。

 

「来マシタ!艦娘デス!」

 

と、前方に位置する重巡リ級の1人が、そう叫ぶ。その瞬間、その場の全員に張り詰めた緊張感が走る。

それを聞いた南方棲鬼は、ニヤけた表情を浮かべる。

 

「…各員、攻撃開始。敵ヲ沈メナサイ。」

「了解。」

 

戦艦ル級達はその航行速度を上げて、前方の艦隊と合流する。南方棲鬼は後方でただじっと鎮守府を見つめていた。

 

「…早ク来ナイカナ…。」

 

南方棲鬼はそう呟き、じっと目を凝らすのであった。

 

 

____________________________

 

 

 

大和は、その敵艦隊を見て軽い眩暈を覚えた。肉眼で見えるほどの距離に、40を超える艦艇が接近しているのだ。

既に射程圏内に敵がいる。その事実が、大和を奮い立たせる。

 

「皆さん!絶対に鎮守府まで到達させないように、ここで食い止めます!」

 

大和がそう叫び、主砲を敵艦隊の中心部へと向ける。それを見た武蔵も主砲を構える。赤城と加賀は、艦載機射出用の弓矢を強く引き、電と雷は魚雷発射管を水平にする。

 

「…斉射!!」

 

その声と同時に、第1艦隊全員の攻撃が開始される。大和と武蔵の主砲が放物線を描くように飛び敵艦隊を襲い、赤城と加賀の艦爆が敵艦隊をつけ狙い、電と雷の魚雷が敵艦隊の逃げ場を無くす。何箇所かで、爆炎と轟音が上がる。

しかし、それでもなお深海棲艦達はその進軍を止めることはない。

 

「4隻は沈めたか。」

「でも、止まりませんね…」

 

武蔵の言葉に、大和は少し苦い顔をしてそう返す。このまま、防ぎきれずにただやられるかもしれない。一瞬、そんな考えが頭を寄ったが、すぐに考えるのをやめる。

 

「でも、やるしかないのです!」

「そうよ!私たちがいるじゃない!」

 

そう叫んだ電と雷を見て、大和は微笑む。そうだ、こんなところで諦めるわけにはいかない。この先には鎮守府があり、提督がいるのだ。

そこへ、第2艦隊の通信が入る。

 

『鈴谷にお任せ!敵艦隊を囲むよ!』

「!…頼みます!」

 

 

 

「行くよ大井っち!」

「はい!北上さん!」

 

ハイパーズと呼ばれた2人が、先陣を切って雷撃を行う。敵の駆逐艦2隻に攻撃が当たり、爆音とともに沈んで行く。

それを見た敵の重巡は、大井と北上へその視線を移し、そちらへの主砲を向ける。

しかし、その重巡を別の砲弾が襲う。

 

「!?…」

 

重巡は驚いた表情を浮かべたまま、その砲弾にさらされて沈んで行く。他の艦艇も、その重巡を沈めた砲弾が飛んできた方向を見る。

そこには、鈴谷と熊野の2人が主砲を構えたまま立っていた。

 

「全く、鈴谷達を無視されちゃあ困るっつーのー。」

「そうですわね。ダンテさんに迷惑かけたくないですものね。」

「ちょっ…それは関係ないし!!」

 

鈴谷と熊野はそう言いながら、魚雷を発射する。漣と朧もそれに続いて攻撃を開始する。敵の軽巡がその魚雷をくらい、斜めに傾きながら沈んでいく。

その傍、敵の軽空母が、その上部のカタパルトから大量の艦上機を次々と出撃させる。爆撃機、攻撃機としての装備もあり、その危険性は無視できない。

 

「ヤバッ…対空防御!」

『アウトレンジで決めるわよ!』

 

と、焦る鈴谷の通信機からそんな声が響く。それを聞いた鈴谷は、第3艦隊の方へとその顔を向ける。

そちらからは、『烈風』や『零式艦戦52型』などの艦上戦闘機が飛んできていた。

 

 

 

「敵の戦闘機は任せて!」

「頼んだぞ、翔鶴、瑞鶴!」

 

瑞鶴の言葉にそう返す長門は、敵艦に向けて主砲を放つ。敵の軽巡がその弾丸を喰らい、轟音とともに爆炎をあげる。

その隣の重巡が、長門へと主砲を向け、発砲しようとする。

が、その動作は真横からの砲弾によって阻止された。

重巡は砲弾を受けた瞬間に、大きな爆発とともに轟沈する。

 

「あら、あらあら。」

 

そう言いながら笑う陸奥の主砲の砲口からは、煙がユラユラと上がっていた。それを見た暁は、少し怯えたような表情を浮かべた。

 

「む、陸奥さんの砲塔が爆発するわ!?」

「し、しないわよ!!ただの煙よ!!」

 

暁の言葉に慌てて反論する陸奥を横目に、敵の駆逐艦が隙を見てその口内の砲塔を向ける。が、それが発射されることはなかった。

響が魚雷によって、その駆逐艦を仕留めたからである。駆逐艦は炎を上げ、そのまま沈み始めていく。

 

「ハラショー。」

 

響はそう呟き、ただ静かに敵艦隊を見据える。まだまだ壊滅には至らないが、少しずつ数を減らしている。このままいけば、鎮守府を守り抜ける。

 

 

 

___________________________

 

 

 

 

後方に陣取っている南方棲鬼のところへ、戦艦ル級が1人近づいていく。

 

「駆逐艦3隻、重巡2隻、軽巡2隻轟沈!コチラノ被害ハ拡大中デス!如何シマスカ!?」

 

戦艦ル級はそう言いつつ、南方棲鬼を庇うように敵の方へと主砲を向ける。

南方棲鬼は、未だ鎮守府を見据えるだけで、ただじっと動かない。

戦艦ル級はそれを見て、少し苛立ちを覚えた。あまりにも何も指示をしないので、このまま指示を待っていては全滅の危機もありうる、と考えたからである。

が、その考えはあっさりと覆される。

 

「…私ガ出ルシカナイカ。」

「!…」

 

戦艦ル級は、南方棲鬼の言葉を疑うかのような表情を浮かべる。このまま、静かにその『本命』が出てくるまで待ち続けるかと思っていたからである。

 

「何?不服?」

 

南方棲鬼はそう言って、戦艦ル級を見る。戦艦ル級は、少したじろいだ。そう言った南方棲鬼の顔が、明らかに味方に向けるような表情ではなかったからである。

 

「イ、イエ…ソンナコトハ…」

「ダッタラサッサト行ク。」

「ハ、ハイ!」

 

戦艦ル級は慌てた様子で前方へと向かう。

それを見ながら、南方棲鬼は少しため息交じりの笑みを浮かべる。

 

「…本当ナラ、ココデ待ッテルツモリダッタンダケド…仕方ナイワネ。」

 

南方棲鬼はそう言いながら、速度を一気に上げて鎮守府へと迫っていった。

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

所変わって、戦闘区域の遥か後方。艦娘達が敵艦隊に攻撃を続ける中、ダンテは1人佇んでいた。

 

「…暇だな。」

 

ダンテはそう呟き、軽く欠伸をする。というのも、ダンテの仕事は艦娘達の様子を見ながら、時折敵艦に砲撃を当てる程度なのだ。ダンテにとっては、退屈きわまりないのは明白である。

 

「…おまけに、パーティーに誘ってきたあいつはこの場にはいないらしい。」

 

ダンテは少し苦笑いをしながら、その敵艦隊の全体を見る。今の所見えるのは、大きな魚見たいな奴、化け物みたいな奴、人型の奴ぐらいである。

 

「…にしても、イナヅマ達もやるじゃねえか。流石はプロだな。」

 

ダンテはそう言いながら、電達に視線を向ける。どんなに多い敵にも諦めず、全力で食い止めようとしているその姿を見て、感嘆の声を漏らす。

だが、なんとかして自分もその最前線に交わりたいのは否めない。

と、目を凝らした時に、何やら敵の動きに違和感を覚える。

 

「…俺の出番が来たか。」

 

ダンテは楽しそうにそう呟き、その地点へとスピードを上げて向かっていく。

日は少しずつ傾き始めた。

 

 

 

 





ダンテの活躍は次回に持ち越し…

お待ちください…


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脅威

提督業と兼業で、戦国武将で天下統一目指してたら書くのが遅れました…
申し訳ありません!

ダンテに戦わせるの、楽しいけど難しい…


「キリがない…っての!!」

 

鈴谷は少し苛立ちながら、敵艦に主砲を向ける。

主砲を敵に向けて放つ。その砲弾は真っ直ぐ敵艦へと向かい、爆煙があがる。しかし、その穴を埋めるように敵の艦艇がまた接近してくる。

この繰り返しを延々と続けられ、第2艦隊のメンバーの気力は消耗していた。

 

「鈴谷!大丈夫ですの!?」

 

そう言いながら、熊野が鈴谷の元へと寄りつつ敵艦へと砲撃をする。熊野の表情にも、焦りが見え始めていた。

そんな熊野に不安を感じさせないように、鈴谷は不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「とにかく、包囲網を崩さないようにしないと!」

「ソレヲ気ニシナガラ、コッチノ対応ハ出来ルノカシラ?」

 

と、そんな風に遠方から声が響く。まるで感情が死んでいるかのような声。しかし、その無機質の中に、ほんの少しの哀しみが含まれたような声。

鈴谷と熊野はその声がする方を見る。そこには、海上に佇む、南方棲鬼の姿があった。

鈴谷は南方棲鬼へと急いで主砲を向ける。

 

「下がって!熊野!!」

 

鈴谷はそう叫びながら、その主砲を放つ。砲弾は南方棲鬼の元へと一直線に向かって行く。

しかし、その弾丸は南方棲鬼の右頬を軽くかすめるだけであった。頰から一筋の赤い血液が流れ出る。

 

「惜シカッタワネェ…今度ハコッチカラ行クワヨ。」

 

そう言った南方棲鬼の両腕の砲塔は、鈴谷へと向けられていた。他の敵艦も鈴谷にその砲塔を向ける。

それを見た熊野は落ち着いた表情で鈴谷と並び、主砲を南方棲鬼に向けた。

 

「…もう鈴谷と離れ離れになるのは嫌ですわ。ここで逃げるくらいなら、最期まで隣で戦い通します。」

「!…あっちゃー、そりゃ殺し文句だ。」

 

それは、かつての艦の記憶。その記憶が、彼女達艦娘の強さの源になっている。鈴谷は少しニヤリとした笑みを浮かべ、南方棲鬼と相対する。

 

「撃テ!!」

 

南方棲鬼のそんな声が辺りに木霊し、敵艦隊はその砲撃を開始する。鈴谷と熊野は、それと同時に主砲を放った。

その弾道は、直線で両者を結ぶかのように飛んでいく。

そして、その弾丸達が交わった瞬間。

鈴谷の目の前に、赤が広がった。

 

ドライブ(Drive)!!」

 

そんな声と共に衝撃波が飛び、双方の弾丸を全て爆散させた。

 

「!?…」

『!!…』

 

鈴谷と熊野はおろか、南方棲鬼も驚きの表情を浮かべていた。今目の前で、何が起きたのかを理解できなかったからである。

だが、鈴谷はそんな中確信していた。理解できないことを平気でやってのける人物が1人だけ思い当たるからである。

 

「Hey、パーティーはまだ終わってねえよな?」

 

そう言いながら、鈴谷の方へとゆっくりと振り返る赤いコート。それを見た南方棲鬼はニヤリとした笑顔を浮かべる。

鈴谷はその表情を安心したような笑顔に変えた。

 

「ダンテ!!」

「来タワネ…!」

 

ダンテは軽く笑いながらリベリオンをしまい、南方棲鬼の方を見る。その目には、曲がらない闘志と信念があった。

 

「ちょ、ちょっと!後方支援はどうされたのです!?」

「交代だ。俺はこっちの方が良い。」

 

ダンテは熊野にそう返し、その両手に単装砲を構える。熊野はその言葉に、呆れたような笑みを浮かべる。

 

「代わりに…それじゃあ、ここの包囲網の方は任せてよろしいんですわね?」

「そのつもりで来たのさ。」

 

ダンテはそう言って、右手の単装砲を真横に向けて放つ。その先には、包囲網を抜けようと鎮守府へ加速する駆逐艦の姿があった。

真横から砲撃を受けた駆逐艦は轟音をあげて、沈んでいく。

 

「…後ろは頼むぜ。」

 

ダンテはそう言いながら両手の単装砲をホルスターへとぶら下げ、鋭い視線を南方棲鬼に向けた。それを聞いた鈴谷と熊野は、少し考え込む。

 

「…分かった、ここはダンテに任せたよ!!」

 

と、鈴谷が叫び、ダンテから離れるように第2艦隊への指示を出し、後方へと向かう。

南方棲鬼は、ダンテのその目を見据える。余裕そうな表情を浮かべて自分に相対するその姿に、素直に魅入っていた。

 

「…イラッシャイ…歓迎スルワネ。」

 

南方棲鬼はそう言いながら、笑みを浮かべる。それに対して、ダンテはその表情を申し訳なさそうな笑顔に変える。

 

「そりゃ、ありがたいな。俺がひ弱なのが残念だろ?」

 

それを聞いた南方棲鬼は、少しその表情を硬くする。あの時、自分たちの言葉が聞こえるほど接近したつもりはない。

その言葉を知っているということは、自分達の存在も知覚していた、ということになる。

危険な相手だ、と脳内で一瞬の不安がよぎる。それをすぐに頭から消し、ダンテに相対する。

 

「…盗ミ聞キナンテ悪趣味ネ。」

「あんなに大声で話してたらな。で…」

 

ダンテは南方棲鬼の言葉を聞いて、huh、と笑いながらその両手を広げる。

 

「…いつ始まるんだ?」

 

ダンテの言葉に、南方棲鬼はその表情をニヤリとした笑顔に変える。

 

「…今カラヨ!!」

 

南方棲鬼はそう叫び、主砲をダンテへと向けて放つ。それを皮切りに他の艦艇もダンテへと集中砲火を浴びせる。

それを見たと同時に、ダンテは海面を蹴って一気に加速し、敵の艦隊目掛けて単装砲を構える。

 

「Ha-ha!!Foooo!!!」

 

ダンテは高らかな笑い声を上げつつ、その大量の砲弾目掛けて、自身の単装砲を乱射する。ダンテの砲弾と南方棲鬼達の砲弾がぶつかり合い、空には大きな爆煙が起きる。

 

「!…」

 

南方棲鬼は、その事態を目の当たりにして、自身の目を疑った。ダンテは、自分の頭上に迫る砲弾を、全て撃ち落としたのだ。

それは、音速を超える砲弾を、全て認識していなければ出来ない芸当である。

 

「Hey、盛り上がってきたな。」

 

と、そんな声が頭上から響く。南方棲鬼はそれが聞こえた瞬間、身体中に鳥肌が立つのを感じていた。

その場を離れるために、バックステップのようにして後方へ下がる。

そして、ほんの1秒前まで南方棲鬼がいた場所に、ダンテが降り立った。

 

「…アリエナイ…!」

 

戦慄したような表情を浮かべ、南方棲鬼は小さい声でそう呟く。どうやったのかは分からないが、あの距離を一瞬で詰めてきたのだ。只者ではないということが分かった。

ダンテは軽くhuh、と笑い楽しそうな笑顔を浮かべる。

そこへ、戦艦ル級はスピードを上げて接近して行く。

 

「ゴ無事デスカ!?」

「…無事ヨ。今ハネ…」

 

南方棲鬼はそう言いながら、ダンテの方を睨みつける。余裕綽々な雰囲気を醸し出すダンテは、南方棲鬼のそんな表情にもニヤリとした不敵な笑みを返す。

 

「食事もワインも無いパーティーなんだ、踊ろうぜ。」

 

そんなダンテの言葉を聞いて、南方棲鬼は自身の顔が引きつっているのを感じとった。

それは即ち、ダンテから自身へ向けた明確な攻撃意思。

 

「…全艦隊、撤退準備。ココハ私ガ食イ止メル。」

「ハッ!?シカシ、ソレデハ艦娘達ニ追撃サレ____」

 

そう言った戦艦ル級は、その続きの言葉を紡ごうとした瞬間、腹部に強烈な痛みが走るのを感じ取った。

 

「!?…」

 

南方棲鬼は、それを見た。

戦艦ル級の腹部に、砲弾が着弾した跡を。

戦艦ル級は、痛みに悶えるような声にならない声を上げ、片膝をつく。

 

「…ベイビー、ぼうっと立ってるだけじゃ俺は満足しないぜ?」

 

そう言ったダンテの右手の単装砲から、硝煙が上がっているのを見た南方棲鬼は、心の中にフツフツと湧き上がる何かを感じていた。

 

「…下ガリナサイ。」

「!…ッ…シ…シカシ…!?」

 

戦艦ル級はそう返そうとしたものの、南方棲鬼の表情を見てその言葉を紡ぐのをやめた。

それは、明らかに覚悟を決めた目であった。

 

「…分カリ…マシタ…」

 

戦艦ル級はそう呟き、後方へと下がって行く。南方棲鬼はただダンテを見据える。その目には、敵意ではなく、闘志が宿っていた。

 

「huh、てっきり囲まれると思ったが、なかなかガッツあるじゃねえか。」

「…正直、舐メテイタワ。デモ…」

 

南方棲鬼はそう言って両手の主砲を構える。

それを見たダンテは、軽く笑う。

 

「…意地デモ戦ッテミタクナッタワ。」

「…そうかい(All right)、行こうぜ。」

 

そう呟くと、ダンテは早速南方棲鬼に向けて単装砲を連射する。1秒につき、6発程度の速度で射出された砲弾は、真っ直ぐ南方棲鬼に向かって行く。

しかし、南方棲鬼もただ突っ立っている訳ではない。

 

「フッ…!!」

 

その音速に引けを取らないスピードで、南方棲鬼は動き始める。

ダンテの射撃が正確であるからこそ、一定のスピードを出し続けて逃げ回れば避けきることができる。

しかし、それではジリ貧になるのは見えている。

 

「オチナサイ…!!」

 

そう低い声で呟きながら、南方棲鬼はその主砲をダンテへと向けて放つ。ダンテはHa!と声を上げて、その砲弾に向けて自分の単装砲を放つ。

再び、黒煙が辺りを覆う。

 

(一気ニ近ヅク…!)

 

だが、南方棲鬼は先程と同じ轍は踏まないように、その黒煙の中にあえて突っ込む。そうすることで、しばらく身を隠すことができると考えたからである。

しかし、それはダンテには当てはまらないということまでは読みきれなかった。

 

「Ha-ha!」

 

そんな叫び声が聞こえたかと思えば、頭上から大量の砲弾が降り注ぐ。

南方棲鬼は突然の出来事に咄嗟に回避行動を取るが、上手くいかない。

 

「チッ…!?」

 

その砲弾のいくつかを喰らってしまい、体勢が崩れる。

しかしそれでも負けじとその黒煙から抜け出し、ダンテの姿を探す。

 

「ドコダ…!!」

「ここだぜ?」

 

と、南方棲鬼の後ろからダンテは呼びかける。南方棲鬼はそちらに鋭い眼光を向けつつ、その主砲を声がした方へ向ける。

しかし、そちらへ振り向いた瞬間、今度は後ろからHa!と声が聞こえ、背中に衝撃が走る。

ダンテは連続で瞬間移動をし、南方棲鬼に砲弾を撃ち込んだのであった。

 

「ァグッ…!?」

 

南方棲鬼は何とか意識を保っていたものの、あまりの激痛に片膝をつく。

 

「…Hey、もう終わりか?」

「!…黙レ…!!」

 

ダンテに強く言い放ちながら、南方棲鬼はそう言いながら立ち上がる。

ダンテは軽く呆れたような笑みを浮かべ、単装砲をホルスターへとしまう。

 

「…もっと手応えあると思ったんだがな。」

「…フフ…ソウ言ッテイラレルノモ…今ノウチヨ!!」

 

と、南方棲鬼は魚雷を発射する。ダンテはそれを確認したと同時に、軽く身体を翻して回避する。

しかし、そのダンテの動きを読んでいたかのように、南方棲鬼は主砲を3発ほど放った。

 

「…huh。」

 

ダンテはそれを確認して、何かのヒーローが取るようなポーズを決めてフィンガースナップをし、ただ佇むだけであった。

 

「!…」

 

南方棲鬼は驚きつつも、その砲弾を避ける様子がないのを見て、勝利という言葉が脳裏をよぎった。

ダンテに砲弾が降り注ぎ、爆煙が覆う。

 

 

 





ダンテの命運は如何に…なんて言っても、誰も心配しなさそう…


次回で、2章ラストになりそうです。


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撤退


少しペースが遅れた分、早めの投稿です。


それと通算UAが30000を超えました!
本当にありがとうございます!!


「!…ダンテ!!」

 

武蔵はダンテに向かってそう叫ぶ。交戦中に、ダンテが南方棲鬼の砲撃を受けたのを見てしまったのだ。

それを確認した敵の駆逐艦が、武蔵の方に主砲を向け放とうとする。

しかし、その動作は大和の砲撃によって阻止された。

 

「武蔵!敵の前で何をしているのです!」

 

大和がそう叫びながら武蔵の方を見る。

武蔵は悔しそうに歯嚙みをする。ダンテが危険な状況に陥っているというのに、何も手助けすることが出来ないことを。

 

「!…見てください!敵が!!」

「!?…」

 

と、赤城が声を張り上げたのを聞いた大和達は、敵艦隊の方を見る。

そこには、撤退を開始し始めた敵艦隊の姿が見えた。それを見て、その場の全員が驚愕していた。

 

「な、なぜ…いえ、そんなことは重要では!」

 

大和はそう呟き、敵艦隊の追撃戦をしようと試みる。

だが、予想以上に敵艦隊の動きが早いため、追撃をすることはできなかった。あまりにも敵の引きが早いという事実に、大和は戸惑う。

 

「ならば、ダンテの救援に行くぞ!!」

 

武蔵はそう言って、スピードを上げようとする。

 

「待ってください!ダンテさんはそんな簡単にやられないのです!」

 

と、電が武蔵を止めるように叫ぶ。それを聞いた武蔵は、電の方に訝しげな表情を向ける。

 

「どういう意味だ?確かに、奴は規格外に強いが…」

「その…規格外とか…そういう程度じゃないのです…」

 

ダンテのことをよく知る電は、ダンテが深海棲艦に遅れを取るなど、微塵も思っていなかった。

常に余裕綽々な態度で相手を挑発し、その相手に合わせて様々な戦い方で対応するのだ。並みの深海棲艦程度では、ダンテに太刀打ちできないだろう、と。

その予測は、間違ってなどいなかった。

煙から出てきたのは、無傷のダンテであったからである。

 

 

 

 

「Ha-ha!!今のは悪くなかったぜ?」

 

その姿を見て、南方棲鬼は絶望の表情を浮かべていた。

あの不意打ちを喰らわせたのにも関わらず、ダンテは全くの無傷であったのだ。

 

「…何故…ナノ…!?」

 

その疑問は至極当然のものであった。弾着の寸前まで、ダンテはただ立ち止まっているだけであった。

しかし、弾着の瞬間、ダンテはその腕を前で組み、防御の姿勢を作り上げた。それによって、攻撃を完全に防ぐことができたのだ。

スタイル名をRoyal Guard。ダンテが使いこなすスタイルの1つである。

 

「…さて、仕上げか?」

 

ダンテはそう言いながら、単装砲を南方棲鬼に向ける。太陽の光がその砲口に反射し、南方棲鬼を今まさに撃ち抜くと思われた。

しかし、南方棲鬼は命の危険を感じてなどいなかった。ダンテの表情が、南方棲鬼に微笑みかけているようであったからである。

 

「…トドメヲ刺ス気ハナイッテ表情ネ。」

「…どうやら、お前らはただの悪魔とは違うらしい。」

 

ダンテの言葉を、南方棲鬼は理解できなかった。なぜ、悪魔という単語が出てくるのだろうか、それも____

 

____自身の提督以外から。

 

「…何ノ話?」

「…そのうち分かるさ。」

 

ダンテはそう呟いて、単装砲をクルクルと回しながらホルスターへとしまう。

だからこそ、南方棲鬼は少し警戒心を高める。

 

「…本当ニ逃ガスツモリ?」

「もしあの世まで行きたいなら、今すぐご案内しても良いぜ?」

 

そう言って、ダンテは不敵な笑みを浮かべる。南方棲鬼は、歯嚙みをした。

このままこの男に殺されるか、一度体制を立て直すか。

考えるまでもなく、決まっている。

 

「…名前ハ?」

 

南方棲鬼はそう静かに尋ねる。ダンテはやれやれと言わんばかりの表情で、こう返す。

 

「…ダンテだ。今度会った時には、容赦はしないぜ。」

「…逃シタコトヲ後悔サセテヤルワ。」

 

南方棲鬼は、全身に悪寒が走るのを感じつつも、そのダンテの言葉を胸に刻み、その場から撤退する。

ダンテは、ただその後ろ姿を見つめるのであった。

 

 

____________________________

 

 

 

「…敵は撤退、そして艦娘に中破以上の被害は無しか。」

 

提督は静かにそう呟きながら、報告書に目を通す。

時刻は夜の8時を回ったところである。先ほどまで戦闘があったとは思えないほどに、海は静寂に包まれている。

出撃に当たった艦娘達は入渠中であり、秘書艦の電ですら今この場にはいない。

 

「…で、何故南方棲鬼を逃したのか、説明だけでもお願いできませんか?」

 

と、提督は椅子から立ち上がり、ソファに腰掛けているダンテを見る。その表情は、純粋に何故そうしたのかが気になっている、といったものであった。

ダンテは気だるそうにただ、huh、と笑うのであった。

 

「…聞きたいか?あんまりオススメしないがな。」

「…電が言ってた、異形のものと関わりがあるんですか?」

 

提督は興味があるような笑みを浮かべて、ダンテにそう告げる。

それを聞いたダンテは、少し楽しそうな笑みを浮かべながら、提督のデスクまで歩み寄る。

 

「へぇ、聞いたのか?なら、話は早いな。そうさ、奴らはどうやら、ただの悪魔ではないらしい。」

「…悪魔ですか。」

 

と、ダンテの言葉を聞いた提督は眉をひそめる。

悪魔という非日常な単語が出てきたため、どういうことか考えていたのだ。

ダンテはそれを見て、提督は電から悪魔の話を聞いてないことを悟った。

 

「…もしかして、あなたは…その、悪魔を狩るのが専門なんですか?」

 

提督は少し考え込んだ後に、ダンテにそう返す。ダンテは軽く肩をすくめて、肯定の意として両手をあげる。

 

「…まあ、その専門の俺から言わせれば、あれは悪魔は悪魔でも異質だってことさ。」

 

ダンテはそう言って、執務机の上に軽く腰をかける。提督はそれを聞いて、少しだけ疑問が晴れたと言わんばかりに満足そうな笑みを浮かべる。

彼が何故ここに呼ばれたのか、そして、深海棲艦とは何なのか、その答えが全て悪魔という単語に収束していることは、明白であった。

そして、ダンテが口にした、悪魔の中でも異質という言葉。

提督は、それを尋ねずにはいられなかった。

 

「…それで、深海棲艦は何だと言うんですか?」

「まあ、深海棲艦とやらの全部に当てはまるとは思っちゃいないが。」

 

ダンテはそう前置きをした上で、提督にこう告げた。

 

「…少なくとも南方棲鬼とかいう奴は、純粋な悪魔じゃない。人間らしさがあるのさ。」

 

静かな夜は、始まったばかりだ。

 

 

 

____________________________

 

 

 

入渠施設とは、ほとんど大浴場と似たような施設である。真ん中に大きな湯船があり、中は入浴剤で満たされている。洗い場には6つほどのシャワーが付いており、シャンプーとリンス、そしてボディーソープが常備されている。

第六駆逐隊は湯船に浸かりながら、今日の疲れを癒していた。

 

「…ねぇ、電。」

 

不意に、雷の声が響く。

 

「?…どうしたのです?」

 

電は少しキョトンとした顔で雷の方を見る。雷は少し言いづらそうな表情をしつつ、ため息をつく。

 

「ダンテは、何で南方棲鬼を逃したのかって、みんな大騒ぎよ?」

 

それを聞いた暁と響も、それに便乗するかのように電に顔を向ける。

 

「そうよ!あんなに強かったのに!」

「そうだね。あのままなら、確実に倒してたはず。」

「えっと…」

 

響と暁の言葉に、電は少し苦笑いをする。

実際、ダンテの行動に疑問を持っていたのは電も同じである。

南方棲鬼の強さとダンテの強さ。どちらが優っていたのかは一目瞭然であった。あそこでダンテが南方棲鬼を倒していたのならば、敵の戦力をかなり削ぐことができただろう。

しかし、ダンテは南方棲鬼を逃した。それが何を意味しているのか…

 

「…今度司令官さんとダンテさんに聞いてみるのです。」

「…まあ、電にもわかんないわよね。ダンテのことだし。」

 

雷は電の言葉を聞いて、ため息をつきながら肩までお湯に浸かる。暁と響もそれを聞いて軽く息をつく。

電は、少しだけダンテの考えが分かってしまった。

彼は、デビルハンターとして、南方棲鬼に何かを感じ取ったのかもしれない。

 

「…はぁ…何だか疲れるのです…」

 

そう呟くと、電は口元までお湯に浸かったのであった。

 

 




次回予告

フォルトナで、あるやつにこう言ったことがある。「人間には、悪魔にはない力がある。」そんな力はないと思うか?そいつは、あんたが気づいてないだけさ。俺は人間の可能性を信じてる。悪魔なんかには劣らないほどの可能性をな。

Mission 4
Trust you


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Mission4 〜Trust you〜
微睡




第4章は、鈴谷をメインにしたいです。

まあ、ダンテには暴れてもらうんですけどね。


 

 

深い深い海の中、鈴谷はただもがき続ける。両手を必死に動かし、なんとか海面へと手を伸ばす。

しかし、もがけばもがくほど、まるで何か見えない手が引っ張るかのように、海へと沈み続ける。

 

「誰か…!!」

 

それは、心の底からの叫びだった。しかし、海の中へと木霊するだけで、その言葉は誰にも届かない。

鈴谷の心を、もはや助けを求めることができないほどに絶望させる。

 

(…はは…もう…死んじゃうんだ…)

 

鈴谷の目から光が失われ、ゆっくりとその目が閉じて行く。視界は消え去り、ただ暗闇だけが支配する。

鈴谷には、もう生にすがる力さえなかった。

だが、そんな彼女を希望の光が照らす。

 

「Hey、こんなところで寝てると風邪引くぜ?」

 

そんな陽気な声とともに、目の前の視界が赤で支配される。

鈴谷は、心の高鳴りを感じた。

 

 

____________________________

 

 

 

「!!…」

 

鈴谷はハッと目を見開く。その目の前には、天井が広がっていた。

ゆっくりと身体を起こしながら辺りを見回す。そこは、いつもの見慣れた自室であった。

 

「…夢…かぁ…ふわぁ…」

 

大きな欠伸をしながらそう呟くと、布団から這い出る。まだ寝ぼけ眼なので、気をつけるようにハシゴを使って二段ベッドから降りる。その途中、熊野が眠りについているのを見て、今は朝の早い時刻だということを理解した。

時計をみると、4:00丁度を指している。

 

「…ん〜…ちょっち散歩でもしようかな〜…」

 

鈴谷はそう言いながら、制服に着替え始める。

その途中、先ほどまでの夢のことを思い出していた。あまり心地がいい夢ではないことは覚えていたものの、内容を思い出すことができないのだ。

 

「…どんな夢だったかな…」

 

鈴谷は上着の袖を通しながら呟く。しかし、思い出せないということは、大した夢ではなかったのだろうという考えに至った。

 

「さてと…行ってこよっと。」

 

自室のドアを開けて、廊下へ出る。軽く伸びをして、身体を完璧に起こす。外はまだ暗く、陽の光はまだほとんどない。

 

「…日の出が見れたら良いなあ。」

 

鈴谷はそう呟きながら、外へと向かった。

 

 

____________________________

 

 

「…huh、終わりか?」

 

ダンテはそう呟きながら、リベリオンをギターケースへとしまう。

その目の前には、低級の悪魔が2体ほど倒れ伏していた。

ゆっくりと、その死体が消えて行く。

 

「あれ?ダンテじゃん。」

 

と、後ろからダンテにそう声をかける人物が1人。

ダンテは軽く振り返り、その姿を確認する。

 

「スズヤか。随分と早起きだな。」

「それはこっちのセリフだし。ダンテも起きちゃったわけ?」

 

鈴谷はそう言いながら、軽く欠伸をする。

ダンテは両手を軽く上にあげて、huh、と笑う。

 

「俺は眠れなかったのさ。」

「…へっ?」

 

鈴谷はそれを聞いて、夕べのことを思い出していた。

確か、消灯時間のすぐ前まで、ダンテは執務室のソファに腰掛けていたはずだ。

 

「…もしかして、昨日の朝に起きてからずっと寝てないの?」

「?…そうだな。」

 

ダンテは軽く首を傾げながらそう告げる。それを聞いて鈴谷は驚愕していた。

ダンテは、そんなことはどうでも良いかのように笑みを浮かべる。

 

「…良くそれで動けるよね〜…」

「huh、気にしたこともなかったな。」

 

ダンテはそう言いながら、軽く鈴谷に笑いかける。

ダンテ自身、仕事で1日中駆け回るなんてこともある。これぐらいの徹夜など、あまり気にならないのだ。もちろん、彼が半人半魔であることも理由の一つだが。

 

「それで、お嬢様は何故こんな時間に?」

 

ダンテは少し茶化すような態度をとる。それに対して、鈴谷は少し考え込むような表情を浮かべる。

 

「ん〜…何か、変な夢を見て目が覚めちゃったんだけど、その夢の内容が思い出せなくてさ〜。」

 

鈴谷はそう言って唸る。

ダンテはその様子を見て、軽く笑みを浮かべる。

 

「それで散歩って訳か?」

「ああ〜、そうそう。まあ、思い出さなくても良いんだけどね。」

 

と、そこまで言ってから、鈴谷は今の状況を思い出した。

まだ時刻は4:15を回ったところであるため、他のメンバーはまだ起きてこない。

つまり、今は…

 

(…これって…ダンテと2人きりってやつじゃん!?)

 

そう考えると、途端に自分の心臓が高鳴っているのを感じた。

正直、ダンテに一目惚れなんてものはしていないと、そう思っているのに、それのせいで変にダンテのことを意識してしまうのだ。

 

「Hey、スズヤ。」

「!…ぁ、えーっと…な、何?」

 

突然のダンテの声がけに、鈴谷は変な声が出てしまった。

ダンテは鈴谷の声を少し不思議に思ったが、気にせず話を続けた。

 

「今日の昼間に、街へ行こうと思ってな。その案内を頼めるか?」

「えっ…電とかは…あぁ、そっか。秘書艦だから忙しいんだよね…」

 

鈴谷は、秘書艦の業務で忙しい電のイメージを思い浮かべる。

普段からかなり忙しそうにしているが、特に大規模作戦の時は常に書類と出撃の両方に追われていて、とてもじゃないが自分にはこなせないと思ったものだ。

 

「…それで、何で鈴谷な訳?」

「Ha-ha、他のはどうやら昨日のあれが気に入らないらしくてな。」

 

ダンテの言葉を聞いて、昨日のことを思い出す。

圧倒的な力の差であるにもかかわらず、トドメを刺さなかったダンテ。勿論、それだけでダンテが敵の人間だと思うわけではないが、皆が皆、納得がいっているわけではない。

まあ、鈴谷も気にはなっているが、それほどではないのだ。

 

「…じゃあ、私が案内しちゃうよ。鈴谷にお任せ〜ってことで!」

「huh、頼むぜ。」

 

ダンテはそう告げて、その場を後にする。鈴谷は少しその後ろ姿を見て笑顔を浮かべていた。ダンテにこんな風に声をかけてもらえるとは思っていなかったのだ。

街の案内を頼まれるなんて…街の案内…

 

「…これって、もしかして…デート?」

 

鈴谷は、そこまで考えて、身体中の体温が上がっていくのを感じる。

陽が昇り始め、残された鈴谷を照らしていた。

 

 

____________________________

 

 

 

朝食を取り終えた熊野は、今日が非番であるため、自室でゆっくりと過ごそうかと思っていた。

しかし、とある理由でそれができないのである。

 

「…いつも通りで良いのでは?」

 

熊野はベッドに寝転びながら、若干呆れたような表情でそう告げる。その目の前には、鏡の前であたふたする鈴谷の姿があった。

 

「で、でも!普通だとなんか嫌なの!!」

 

鈴谷は少し涙目になりつつ、色々な服を合わせている。だが、合わせてはすぐにこれも違う!!と叫びまた別の服を手に取る。

熊野は、クローゼットから出された鈴谷の服の山をチラと見る。

 

「…はぁ…これのどこが一目惚れではないと。」

 

熊野は少し呆れたものの、微笑ましいものを見るような目で鈴谷を見ていた。鈴谷のこういう姿を見るのは、熊野にとって初めてである。

艦娘に人間の感情は必要ないと、どこかの鎮守府の提督は言ったらしい。それは、艦娘をあくまで兵器と捉えての発言であった。

軍人としては正しい判断なのかもしれない。しかし、それは人間としての判断であれば…

幸い、この鎮守府の提督はそのようなことは考えていないらしい。艦娘は、兵器の前に人間であるという考え方をしている。

だからこそ、今の鈴谷を見れば、提督は喜ぶだろう。

 

「あぁもう!!どうしよう〜〜!!」

 

まだ服が決まらないらしく、鈴谷はそんな風に叫ぶ。それを熊野はただただ笑顔で見守るだけである。

いつか、自分にもそう思える人との出逢いがあるかもしれない。と思いながら。

 

「熊野!!見てないで手伝ってよ〜!!」

「はいはい、お待ちなさいな。」

 

鈴谷のそんな泣き言のようなセリフに、熊野は笑いながらそんな風に呟きながらベッドから這い出る。

時刻は、11:30を回ったところであった。

 

 

 

 

 





鈴谷の一目惚れ。

鈴谷の恋心はどうなるのか?
というか、ダンテの周りの女性陣に勝てるのか?



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散策

艦これで1番好きなのは利根です。
1番最初の建造で利根狙いして1発で引くぐらい好きです。
でも艦娘に嫌いな奴は1人もいません。みんな好きです。


ダンテはもっと好きですけど。


ダンテが街の案内を頼んだ理由は一つ。

以前、ダンテがあまりにも暇していた時に、街を歩いて見ると、どこもかしこも細々としていて、何も面白くなかったのだ。悪魔の視線を常に感じるというおまけも付いていたせいで、ロクにスイーツも見ることが出来なかった。

 

「ご、ごめん!お待たせ!!」

 

そう言って鈴谷がダンテの元へと駆け寄ってくる。結局、服を決めかねた鈴谷は、熊野の説得もあり、いつもの制服で来ることになった。

ダンテはそんな鈴谷にニヤリとした笑みを向ける。

 

「無理やり誘ったのは俺の方さ、気にするな。」

 

ダンテはそう言いながら、鈴谷の肩をポンポンと叩く。

鈴谷は顔を赤らめてダンテから顔を背ける。

 

「い、いや…でも、結構待たせちゃったし…」

 

鈴谷はそう言いながらチラと時計を見る。ダンテとの約束は12:00の予定であったが、時刻は既に昼の12:30を指していた。

それを聞くと、ダンテは軽く笑いながら先を歩く。

 

「Ha-ha、気にするなって。」

「…分かった…って、ちょっと待って!」

 

鈴谷は意外とダンテの歩みが早いのを見て、慌てて後を追う。その姿は、まるで親子のようにも見えた。

 

と、それを後ろから見つめる3人の影。

 

「…行ったかな?」

「そのようですわね…」

「…鈴谷さん…楽しそう…」

 

そこには、サングラスとマスクを付けた漣と朧、そして熊野がいた。熊野と漣と朧の3人は、今日は非番であるため、鈴谷とダンテの後を付けることに決めた。

熊野は2人の方に向き直る。

 

「それでは、行きましょうか。」

「はい!」

「ほいさっさ〜!」

 

3人は、ノリノリで鈴谷達の後を追うのであった。

 

 

____________________________

 

 

 

「それで、ダンテはどこに行きたい?」

 

鈴谷はそう言いながら、ダンテの方を見る。ダンテはただ楽しそうに辺りを見回していた。

 

「ここのことは全く知らないんだ、任せるさ。」

 

ダンテの言葉に、鈴谷の心臓は高鳴る。少しでも頼られたのが、嬉しいのかもしれない。

しかし、ダンテに任せられるとはいえ、鈴谷も街に出るのは週に1回程度であるため、そこまで知り尽くしているわけでは無い。

そして、今はお昼時だということを思い出す。

 

「…じゃあ、お昼ご飯、何か食べに行く?」

「huh、悪くないな。」

 

鈴谷の言葉に、ダンテは同意する。

鈴谷はそれを聞いて、よし来た!と言いながら頭の中で何を食べるかを考えてみる。

この近辺の飲食店なら、和食に中華料理にフランス料理にドイツ料理にエトセトラ、なんでもござれである。

とりあえず、ダンテに何を食べたいかを聞こうと口を開こうとする。

が、その直後、ダンテの好物を思い出して、おし黙る。

 

「…今ピザ食べたいと思ってる?」

「いつでもそう思ってるさ。」

 

ダンテはそう言いながら、軽く笑みを浮かべる。

鈴谷は呆れたような笑みを浮かべつつ、ため息をつく。あまりにも、直球なセリフをダンテが言ったためである。

 

「…じゃあ、ピザ食べに行こっか。」

「そう来なくちゃな。」

 

鈴谷の言葉に、ダンテは少し嬉しそうにそう呟くのであった。

 

 

____________________________

 

 

 

ダンテは、目の前のピザを一切れ持つ。一口一口、チーズが伸びないように噛み切り、そのまま何度も味わうように口を動かす。

口の中に広がるチーズの風味を一通り楽しんだダンテは、満足そうな笑みを浮かべていた。

 

「やっぱりうまいな。日本に移住してもいいくらいだ。」

「ピザでそこまで?」

 

鈴谷はダンテの言葉に苦笑いを浮かべる。

ダンテがピザを食べるのを見ていると、何だか服について悩んでいたのがバカらしくなってくる。

鈴谷も自分の目の前のマルゲリータを一切れ取る。最近は、あんまり太りたく無いから避けていたが、この場では仕方ないと割り切り、一口食べる。

口の中に広がるのは、バジルの香りとチーズの風味。

 

「ん〜!美味しい!」

「やっぱりピザはこれに尽きるな。」

 

ダンテはそう言いながら、生ハム&ガーリックポテトミックススペシャルをもう一切れ口に運ぶ。鈴谷も負けじとマルゲリータに手をつける。

 

「何でダンテってピザ好きなの?」

 

気になったようで、鈴谷はそう言いながらピザを頬張る。

それを聞いたダンテは少し考えるような仕草をとる。やがて、その口を開く。

 

「美味いからじゃダメか?」

 

鈴谷は少しキョトンとしたが、ダンテがそれほどまでにピザが好きだということを理解し、それ以上は何も言わなかった。

 

 

____________________________

 

 

 

「何故ピザなのです…」

 

熊野はそう呟きながら、ため息をつく。

それを見た朧が、ピザを頬張りながら、一言。

 

「美味しいですから、多分。」

 

もちろん、ピザが不味いと言っているわけではないし、デートでピザが悪いと言っているわけでもない。

ただ、何故折角普段出てこない街に出てきたのにも関わらず、ダンテはいつも通りの食事を摂るのか、理解ができなかったのだ。

もっとも、それは日本人特有の考え方で、海外では関係なく普段と同じ食事を摂るのかもしれないが。

 

「ピザウマー。」

 

そんなことを言いながら、ご満悦な笑顔を浮かべる漣は、本来の目的を忘れてしまっているかのようにピザを頬張る。

 

「…本当、鈴谷もなかなか大変な人を好きになってしまいましたのね。」

 

熊野はそう言いながら、カップに入っている紅茶を一口飲んだ。

 

 

____________________________

 

 

 

「はー美味しかった!たまにはピザも良いね!」

 

鈴谷はそんな風に言いながら、少し陽気に歩いている。最初はあまり乗り気ではなかったものの、いざ食べてみるとやはり美味しいものだった。

 

「次はどこへ…」

「スズヤ。」

 

と、ダンテが鈴谷の言葉に割り込む。

それを聞いた鈴谷は、キョトンとした表情を浮かべる。

 

「?…なんかあった?」

「…Ha-ha、いや、どうやらファンが見てるらしいぜ?」

 

ダンテはそう呟きながら、チラと後ろを見る。鈴谷はそれに吊られてダンテが見る方に目を凝らす。

そこには、何だか変装とも呼べないような、サングラスとマスクを付けた3人組がいた。

 

「げっ…付いて来てるし…」

「huh、どうする?撒くか?」

 

ダンテは楽しそうな笑みを浮かべて、鈴谷にそう告げる。

それを聞いた鈴谷は、それに吊られてイタズラっぽく微笑む。

 

「…ありかも?」

 

鈴谷とダンテは、顔を見合わせてニヤリと笑う。

ダンテは、軽くフィンガースナップをすると、まるで時間が止まったかのようにスローになる。

 

「じっとしてな。」

 

 

____________________________

 

 

 

「?…あの2人、何を話していますの?」

 

熊野は怪訝な面持ちで2人をじっと見る。何やら、怪しげな雰囲気を漂わせているのが目に見えたからである。

 

「…もしかして、気づかれましたか!」

 

朧が少し焦ったような声でそう呟く。

しかし、熊野はそれを聞いて、大丈夫ですわ。と言いながら微笑む。

 

「そもそも、この完璧な変装に、鈴谷とダンテさんは気がつくはずもありませんわ。」

「…もういなくなってますけど。」

 

と、漣が指を指しながら熊野に報告する。

それを聞いた熊野は、慌ててダンテ達の方を見る。2人はすでにその場から逃げ去っていた。

 

「!?…どこへ!?」

「お、追いましょう!まだ遠くまでは行っていないはずです!多分!」

 

朧がそう言いながら慌てた様子で走り出す。それを見た熊野は慌てて朧を追いかける。

 

「ちょ、ちょっと!お待ちなさいな!!」

「あら〜、撒かれてしまいましたが…」

 

漣はそれを見て、ため息をつきながら後から歩いて追いかける。

3人は、完全にダンテ達に踊らされていた。

 





というわけで、ダンテにクイックシルバー使わせました。

ただ、今でもほぼほぼ無双なのに、戦闘中に使っちゃうと話が終わってしまうので、こういうところでしか使わせません!


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合流




ダンテと鈴谷のデートはあともうちょっと続きます。



 

「今のどうやったの?」

 

鈴谷はそう言いながら、ダンテのことをじっと見る。

ダンテは、ニヤけた表情で軽く笑う。

 

「悪いな、企業秘密だ。」

「瞬間移動みたいだったけど、何だか前の演習とは違う感じ?」

 

そう言いながら、鈴谷は悩んでいるような表情を浮かべる。

ダンテが使ったのは、Quick silverと呼ばれるスタイルで、時間の流れを操ることができる。

3人を撒くために、時間の流れを遅くし、そのまま鈴谷を連れてその場を離れたのだ。

ダンテはそのことをあえて鈴谷に言うことはせず、軽く笑みを浮かべる。

 

「Hey、それじゃあデートの続きをするか。」

「ふぇ!?あ、えっと…そ、そうだね!!」

 

完全に意識を外していた単語をダンテが口にしたため、鈴谷は少しテンパっていた。

ダンテは楽しそうに、Ha-ha、と笑う。

 

「さあ、どこへ行く?」

「!…じゃあ、さ!服見ようよ!服!!」

 

と、鈴谷は思いついたような口調でそう告げる。

ダンテは軽く笑みを浮かべる。

 

「huh、服か。」

「ほら、ダンテってその赤いコートしか着ないじゃん?」

 

鈴谷はそう言いながら、不敵な笑みを浮かべる。

ダンテは両手を軽くあげて、苦笑いをうかべる。

ダンテは自身の一張羅である赤いコートに何かを言われるのは、自身としても初めてのことであった。

 

「ダンテの他の服見てみたいな〜って思ってさ!じゃあ、行こっか!」

「huh…」

 

ダンテは軽く諦めたような笑みを浮かべて、鈴谷の言葉にただ従うのみであった。

 

 

____________________________

 

 

ここは、この近辺で1番大きなデパートである。中には食料品売り場やレストランだけでなく、ファッション誌に名を連ねるほどのブランド店が軒を連ねている。

と、その一角のある有名なブランドのショップに、2人は来ていた。

 

「これとかどう?」

 

と、鈴谷が手にしていたのは、青いコート。ダンテは少し面倒臭そうなため息をつく。

 

「Hey、俺をどうするつもりだ?」

「えっとね〜、これとこれと…」

 

鈴谷はそう呟きながらどんどんと服を選んでいく。

ダンテは珍しく着せ替え人形の気分を味わうことになっていた。鈴谷はそんなダンテのことなど露知らず、黙々と服を見ていく。

ダンテに合いそうな服がどんなものかを考えつつなので、少し静かになるのだ。

 

「あっ…これなんかどう?」

 

と、鈴谷が1つのジャケットを持つ。

それは、緑色のジャケットであった。ダンテはそれを見て、少しhuh、と笑う。

 

「悪くはないな。」

「でしょう!?あとね、このジーンズと、黒のベルトと。このグリーンのスカーフで…」

 

そう言いながら、次々と服を取っていく鈴谷は、楽しそうな表情を浮かべている。

ダンテはそれを見て、何だか懐かしい感覚を覚えた。

はるか昔、兄と袂を別つ前に、かつてこんな体験をしたような…

 

「…huh、柄じゃねえな。」

 

ダンテはそう呟き、天を仰ぐ。鈴谷には気づかれないほどの小さな声で…

 

 

____________________________

 

 

「着れた?」

 

鈴谷はワクワクしたような表情を浮かべて、試着室の前でそう呟く。

鈴谷にとって、自分がコーディネートした服装を、人に着てもらうのも初めての体験であった。

 

「ああ、今着た。」

 

と、試着室の中からそんな声が響く。

鈴谷は少しだけ、緊張した。もしこれが、ダンテに似合わないとなったらどうしようと。

 

「開けるぜ。」

 

ダンテはそう言いながら、カーテンを勢いよく開けて外へ出る。

そして、鈴谷はそれを見て、言葉を失う。

 

「Ha-ha、どうした?」

 

グリーンのジャケットの下からチラと見える黒いインナー、少し着崩したジーンズに、ブラックのベルト。首に巻かれたグリーンのスカーフがいい味を出しており、ダンテの銀髪と顔立ちをさらに引き立てる。

鈴谷は、その姿に完全に見惚れてしまい、ダンテの言葉に何も返答できなかった。

 

(…あー、これやばい。)

 

鈴谷は、顔の温度が少しずつ上昇していくのを感じ取っていた。

ダンテはそんな鈴谷を見て、Ha-ha、と笑う。

 

「…俺に見惚れちまったか?」

 

ダンテはそう言いながら、腰に手を当て、軽くポーズを決める。それを見た鈴谷が、ハッとなってアワアワとしだした。

 

「いいいいや!!なんて言うか、様になってて!!」

「そいつは幸運だ、早速買うぜ。」

 

ダンテはそう言って、再び試着室の中へと入る。鈴谷は少しボケーっとしていた。

鈴谷は完全に気がついてしまったのだ。

自分の内なる感情に。

 

(…こんなことってあるんだね〜。)

 

深いため息をつき、目を閉じる。

心臓の鼓動が早くなり、胸が苦しくなる。

でも、それを不快には感じない。むしろ心地よいのだ。それを未だかつて体感したことなどない。

ただ、直感でわかるのだ。この気持ちの名を。

 

「人、それを恋と呼ぶのですわ。」

「ひゃあああああああああああああああ!?!?!?」

 

鈴谷は後ろからのそんな声に驚きすぎて、フロア中に響き渡るほどの大声をあげてしまった。

 

「す、鈴谷!落ち着きますの!!私ですわ!!」

「知ってるし!!何でここにいるわけ!?」

 

熊野は鈴谷を落ち着かせるような声を出すが、鈴谷はそれを聞く耳など持たなかった。

2人が言い合いをしている横で、朧と漣はため息をつきながら呆れたような表情を浮かべる。

と、そんな最中に試着室からダンテが顔を出す。

 

「Hey、何の騒ぎだ?」

 

そのダンテの一声で、2人はその声を止める。

ダンテは、苦笑いをしながらその2人をただ見るだけであった。

 

 

____________________________

 

 

「よく追いつけたな。」

「私たちをナメないでくださいな。」

 

ダンテたち一行は、近くのカフェにて軽い食事をとっている。

BGMにはジャズが流れており、店内の雰囲気を彩っている。コーヒーや紅茶、様々なドリンクが選べる中、ダンテはストロベリーサンデーにしか目がいかず、今はそれを口に運びながら会話をしている。

熊野は紅茶を飲み、朧と漣はそれぞれココア。そして、鈴谷はコーヒーを頼み、ただ顔面から机に突っ伏していた。

 

「…鈴谷さん、大丈夫ですか?」

 

朧が心配そうな表情を浮かべながら、そう鈴谷に問いかける。しばらく何の反応も見せなかった鈴谷であったが、その後机に突っ伏したまま、ゆっくりと右腕をあげて、自身は大丈夫であることを伝える。

 

「ねえねえ、ダンテ。何買ったの?」

「huh、洋服さ。スズヤが選んでくれてな。」

 

漣が楽しそうな笑みを浮かべてダンテに問いかけると、ダンテは余裕たっぷりな表情でそう返す。

その言葉を聞いて、鈴谷は机に突っ伏したまま顔を赤くする。もちろん、それが他のメンバーにバレることはなかった。

 

「それは良いですわね。私も選んで欲しいですわ。」

 

と、熊野は鈴谷に対してニヤニヤとした視線を向ける。鈴谷はいまだに突っ伏しているため、その視線に気づくことはなかった。

熊野はそのままダンテに向き直る。

 

「それにしても、いきなり目の前から消えた時は驚きましたの。」

 

それに対して、ダンテは軽く両手をあげて、悪いな、と謝罪の言葉を述べるだけであった。

 

「…あの、ダンテさん。」

 

朧は突然、そう言いながらダンテに少し不安げな視線を向ける。

ダンテはそちらを軽く見る。

 

「huh、どうした?」

 

ダンテは笑みを浮かべてそう尋ねる。

しばらく、朧は黙り込んだが、意を決したような表情を浮かべて、こう尋ねた。

 

「教えてください。何故、敵を逃したんですか?」

 

ダンテはそれを聞いて、苦笑いを浮かべる。

 

「何度も言ったろ?なんとなくだ。」

「もちろん、それを信じてない訳ではないんです。ただ、なんだか他にも理由がありそうな気がして…」

 

朧の語気が段々と弱まっていくのを聞いて、熊野は援護をする。

 

「…もちろん、私も気にはなっていますし、お話いただけるなら幸いですわ。」

 

熊野の言葉を聞いたダンテは、軽く笑う。

それほど、自分のしたことが異例であるということが、その言葉から伺えたのだ。

 

「…分かったよ、そんなに聞きたいなら…話してやるさ。」

 

ダンテは軽い笑みでこう告げる。

 

「悪魔って知ってるか?」

 

 

 

 

 

 

 






ダンテの格好は、DMC2のDIESELのコスチュームをイメージしていただければ幸いです!
まあ、この服多分今回限りなので覚えておく必要はないと思います笑

ダンテも小さい頃は、母親に服とか選ばれてたりしたんですかねぇ…
…まさかお父様…?


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真偽


ここから、色々伏線張るけどまだ気にしないでください!

そのうち回収するので!


「悪魔…?」

 

朧がそう呟きながら、怪訝な表情を浮かべる。全員、その単語自体には聞き覚えはあった。所謂空想上の存在だという認識である。

 

「…それが、どうしたのですか?」

 

熊野はただそうダンテに問いかける。漣もその質問の意図がわからず首を傾げる。

気がつけば、鈴谷もダンテの方へと顔を向けていた。

 

「俺はその悪魔を狩る、Devil hunterさ。」

「!?…あ、あく…!?」

 

鈴谷は、そう言いながら言葉を失う。

悪魔を狩る。その言葉だけが、とてつもなく重くのしかかるのだ。

 

「…悪魔だなんて…非現実的ですわ!」

 

熊野は少し語気を強めてそうダンテに言い放つ。

ダンテの言うことを、全く信じていないといった表情であった。

ダンテはそれに対して、ニヤついた笑みを浮かべるだけであった。

 

「huh、じゃあ、見れば信じるか?」

「!…それは…」

 

熊野は言葉に詰まる。

もちろん、見たことのないものを信じることは難しい。そして、自分の目にしたことは信じられるものである。

しかし、それを目にすることとは、とても危険なことのようにも思えるのだ。

漣は納得したような表情で頷く。

 

「…つまり、その悪魔が…深海棲艦と関係ある…って!信じられるか!!」

 

と、いきなり大声で叫んだため、隣の朧がビクリと身体を震わせる。

ダンテは漣に不敵な笑みを向ける。

 

「まあ、そういうことさ。信じられなくても仕方ない。」

 

ダンテはそう言って、スプーンをまた口に運ぶ。

鈴谷は黙ってその様子を見ていた。

思えば、鈴谷にとってダンテが自身のことを語るのは、これが初めてのことであった。

つまり、ダンテのことを全く知らなかった自分は、やっと一つの情報を得られたのだ。

 

「…私は…信じる…かな。」

 

鈴谷は小さくそう呟く。

それを聞いた熊野は、へっ?と素っ頓狂な声を上げる。

ダンテは少し驚いた表情を見せるが、すぐに不敵な笑みに変える。

朧が、少し慌てた様子で鈴谷を見る。

 

「鈴谷さん…でも…!」

「だって、ダンテの強さは確かに私達よりも人間離れしてるし、それに深海棲艦だって、解明されてない部分も多いし、あり得なくはないじゃん?」

 

鈴谷はそう言いながら、笑顔を浮かべる。

それを聞いた3人は、何も返せなくなってしまう。

確かに、ダンテの強さは明らかに人間離れしている。それも、艦娘とは違うベクトルである。

となれば、先ほどの話もあながち嘘ではない、ということもあり得る。

 

「…本当に、それだけが根拠ですの?」

「…そうだよ。」

 

鈴谷はただ小さく頷く。

熊野は少し戸惑っていた。ダンテに好意を寄せている鈴谷だからこそ、ダンテのことを盲信してしまっているのではないか、と。

ダンテが、huh、と軽く笑う。

 

「…さてと。」

 

ダンテはそう言って、席から立ち上がる。

全員の視線が、ダンテに集まる。

 

「今日は楽しかったぜ。」

 

ダンテは全員にそう言って、軽く笑みを浮かべながら店を出ていく。

鈴谷はそれを引き留めようとするも、うまく言葉が出なかった。

 

「…戻りますか?」

 

と、少し悪くなっていた空気を誤魔化すように、朧がそう提案する。

漣もそれに同意見らしく、そのまま席を立つ。

 

「…鈴谷、戻りましょう?」

「…ん。」

 

鈴谷は心ここにあらずな表情で返事をし、席を立って出口へと歩き出す。

熊野達は、少し不安に思いながらも、その後についていくのであった。

 

 

____________________________

 

 

「…鈴谷。」

 

帰り道、熊野は鈴谷をそう呼び止める。

鈴谷はそれに対して、ん〜?と言いながら振り返る。

 

「…ダンテさんのことが、その…好きだというのはわかりますの。でも、それで本質を見失っては…」

「…分かってる。」

 

鈴谷は熊野の言葉に、笑顔でそう答える。

朧と漣が、少し戸惑っている表情で2人を見る。

 

「…冷静に考えなさいな。ダンテさんの言葉が事実であるかどうかなんて、私たちには分かりませんのよ?」

 

熊野は少し厳しめな口調でそう言い放つ。しかし、鈴谷はその言葉を聞いても、その笑みを崩すことはなかった。

そして、その重い口を開く。

 

「…そりゃ、そうだよ。深海棲艦が悪魔と関係しているとか、ダンテが悪魔狩人(Devil hunter)だとか、私だって本当は信じられないもん。」

「!…なら、どうしてあんなことを?」

 

鈴谷の言葉に、熊野は驚いていた。

それは、自身が考えていたより、鈴谷が冷静であったからである。

 

「ダンテって軽いところあるし、何だかいつも余裕綽々な感じで、掴みどころが無いっていうか。」

 

鈴谷はそう言いながら少し不貞腐れたような表情を浮かべる。

しかし、すぐにその表情を微笑みに変える。

 

「でも、嘘はあんまりつかない気がするんだよねぇ〜。」

「だから…信じると?」

 

熊野はそう言いながら、少し訝しげな表情を浮かべる。

 

「まあ、ダンテのことが少しでも知れたから良いかなって!」

 

鈴谷はそう言って、振り返らずにどんどん先へと歩き始める。

それを聞いた3人は、よく分かってはいないものの、鈴谷がただダンテの言うことを鵜呑みにしたというわけではないことがわかった。

朧と漣は、顔を見合わせて、熊野の方へと向き直る。

 

「…はぁ…どうやら、恋とは人を変えるのですわね。」

 

熊野は呆れたような、それでいて優しい笑みを浮かべていた。

朧が少し俯きながら微笑む。

 

「…私も、いつか巡り会えるかな…」

「ご主人様じゃなくて?」

 

漣はそう言いながらニヤニヤとした笑みを浮かべる。朧はそれを聞いて、顔を真っ赤にする。

 

「ふふ、提督とはなかなか…頑張らないとですわね。」

「は、はい!頑張ります!多分…」

 

朧はそう力強く言い放ちながら、鈴谷の後を追う。漣もそれに合わせるように走り出す。

 

「…鈴谷を泣かせるような人で無ければ良いですわね。」

 

熊野は小さくそう呟いて、空を見上げる。

日は傾き始め、少しずつ暗くなっていく。

 

 

____________________________

 

 

裏路地の中、ダンテが1人で歩いている。

あたりの暗闇は、まるでダンテに襲いかかろうとしているように見えた。

そして、ダンテは突然立ち止まる。

 

「…Hey、デートの邪魔して楽しかったか?」

 

と、辺りには誰もいないのにもかかわらず、ダンテが大きめな声でそう尋ねる。

すると、ダンテの目の前に、電流が走る。その電流は少しずつ大きくなり、雷になる。そしてその地面を焼いたと同時に、その場所から女性が現れる。

長い金髪は妖艶に輝き、黒いピッチリとした服がその魅力的なボディラインを際立たせている。

その女性は、ゆっくりと口を開く。

 

「…あれがデート?親子みたいだったわ。」

「Ha-ha!そいつは酷いなトリッシュ!」

 

ダンテはそう言いながら、両手を軽く広げる。それを見たトリッシュと呼ばれた女性は、そちらに歩み寄る。

 

「それで、聞きたい?」

「huh、頼むぜ。」

 

トリッシュの言葉にそう返すダンテ。その顔には今までのようなふざけた様子はなく、いつもの不敵な笑みを浮かべていた。

 

「…まだ潜入したばかりだしわからないけど…裏はありそうね。」

 

トリッシュはそう言いながら、ダンテにある書類を渡す。ダンテはそれを見ると、huh、と笑う。

 

「こいつは、怪しいな。」

 

ダンテが持っていた書類は、鎮守府を運営している大本営の資金の帳簿であった。

そこに書かれていたのは、全体の資金のうち7割が艤装開発に充てられているという事実であった。

それが指し示すのは、魔具をそれだけ量産する技術が、日本にはあるという事実。

 

「…また何か分かったら教えてくれ。」

「…了解。」

 

トリッシュはそう返すと、再び電流を身に纏い、そのまま雷となって消えた。

ダンテは不敵な笑みを浮かべて、天を仰ぐ。

 

「…どうやら、相当面倒くさそうな仕事を押し付けられたみたいだな。」

 

ダンテの呟きは、ただ辺りに木霊するだけであった。

 

 

____________________________

 

 

鈴谷はベッドに寝転んで、天井を眺める。

今日は、ダンテが初めて自分のことを語った日。自分が知らないダンテを知れた日。

なのに、このモヤモヤ感はなんだろうか。

 

(…ダンテのことを1つ知れたはずなのに、なんだか全く進歩してない気がする。)

 

寝返りをうち仰向けになり、少しだけ目を閉じる。

 

(でも…ダンテも自分のこと話してくれたし…良いよね。)

 

鈴谷は、そのまま意識を落としていく。

暗い夜は、全てを包み込む。赤ん坊であろうと、老人であろうと、誰にでも平等に…

 

 

 






とか言ったけど、あんまり伏線になってないきがする…


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予感



久々の本編更新。

あと1.2話ぐらいで4章が終わりそうなので、よろしくお願いします!

あと、通算UA40000越えと、お気に入り登録数が500を超えました!
こんな駄文ですが、お付き合いいただきありがとうございます!
もうしばらくお付き合いください!!


時刻は朝の6時。

執務室のソファに腰掛けながら、ダンテは雑誌を読み更けていた。

ダンテの部屋と同型のジュークボックスが置いてあり、それで音楽をかけていた。流れているのはオシャレなジャズである。

普段のダンテならばハードロックをかけるところだが、今は朝早いので、あまりアップテンポな曲はやめたほうが良いと判断し、そのジュークボックスに入っていたレコードをそのまま流しているのだ。

サックスのソロが終わり、今度はウッドベースのソロが始まる。

 

「へえ、ダンテさんもジャズを聴くんですね。」

 

と、ドアを開けながら提督がそう言葉を投げかける。仲間を見つけたかのように嬉しそうな表情を浮かべていた。どうやら、ジャズは提督の趣味らしい。

ダンテは軽く、huh、と笑う。

 

「たまたまさ。」

「他のみんなは聞いてもくれませんからね。ほら、ここのドラムソロなんか、どうです?」

 

ドラムが小気味いいリズムを刻みながら、まるで楽器が歌っているかのように音を連ねる。

提督は、楽しそうな笑みを浮かべてそれを聞いていた。

しかし、提督とは対照的にダンテは少し困ったような表情を浮かべる。ダンテはハードロックを好んでいるため、ジャズの方はかなり疎いのだ。

提督が、そうだ、と突然思いだしたかのようにつぶやく。

 

「ダンテさん、今日はあまり外へ出ないようにしてほしいんです。」

「どうしてだ?」

 

ダンテはそう言いながら、雑誌をテーブルに投げるように置く。提督は軽く苦笑いを浮かべる。

 

「実は、今日はあなたに依頼をした、大本営の方が来るんです。」

「…huh、なるほどな。俺と話がしたいって訳か?」

 

ダンテはそんな風に言いながら、面倒くさそうに苦笑いを浮かべる。当然ながら、自身への依頼をしてきた人物と会うことに異論はない。

ただ、今のダンテには気がかりが二つほどある。それは、昨夜トリッシュが持ってきた書類のこと。

そしてもう一つは…

 

(…悪魔の匂いが強すぎる。何か起きるかもしれないな。)

 

ダンテは心の中でそう呟き、ただその目を閉じるのであった。

 

 

________________________

 

 

 

作戦指令室の中、鈴谷、熊野、朧、漣、そして赤城、加賀の6人は大淀と電に呼び出されていた。

大淀は近海の図面をホワイトボードに貼り付ける。

 

「…皆さんには念のため、しばらくの間警備の任をお願いしたいのです。」

「…警備ですか?」

 

赤城は電の言葉にそう返し、少し考え込むような仕草をする。

電は赤城に微笑みかけながら、一枚の書類を取り出す。

 

「えっと…今日は大本営から、元帥さんがいらっしゃるのです。」

「げっ…あの人か…」

 

鈴谷はそう言いながら、顔をしかめる。

元帥と言われる人物は、大本営の中でもとりわけ自分勝手な行動が目立つ人物であり、大本営が指揮する作戦ですら参加せず、独自で作戦を立ててしまうのである。

しかし、その手腕はかなりのもので、大本営の作戦よりも戦果をあげ、さらにその地位を強固なものにした。

それゆえ、慕われているものの、かなり癖の強い人間なのだ。

 

「そのため、しばらくは最優先で安全を確保しなければなりません。」

 

大淀はそう言って、その場の全員を見る。その言葉に、6人は少しだけ気を引き締める。

その要人に何かが起きれば、提督の身が危ぶまれる。そうなれば、自分たち艦娘も離れ離れになるか、それとも最悪は…

 

「…でもさ、そんな重要な任務、漣たちだけで何とかなるかな?」

 

漣は少し、緊張した面持ちでそう進言する。

それほどの大役を、自分が引き受けることに、不安があったのだ。

漣の言葉を聞いて、大淀が少し苦笑いをしながら口を開く。

 

「あくまで警備ですから、敵を発見した場合はすぐに連絡を。無理に自分たちだけで倒す必要はありません。」

 

それは、あくまで警備が『念のため』であり、前に南方棲鬼が率いてきたほどの大艦隊を索敵するものではないからである。前回のように、確実に敵が来る保証はないためだ。

しかし、仮に敵が襲撃してきたとなれば、取り返しのつかないことになる。

いわば、この任務は保険なのだ。

 

「では、お願いするのです。」

 

電の言葉に、6人はそれぞれ「了解!」と返事をし、各々の準備を開始するのであった。

時計は、10:00ちょうどを指していた。

 

 

________________________

 

 

 

「…わかりました。では、お待ちしております。」

 

提督はそう電話越しの声にそう返事をし、電話を切る。それを見たダンテは、軽く笑みを浮かべて提督に声をかける。

 

「…その元帥からか?」

「はい、あと1時間後には到着するみたいです。」

 

ダンテの言葉に提督は苦笑いで答える。ダンテが元帥に会うことを快く思っていないのは何となくわかっていたからである。

ダンテとしては、軍隊のような面倒くさいものは好ましくないのだろう。

 

「…まあ、依頼主には会わなきゃな。」

 

ダンテはそう言いながら、テーブルの上の雑誌を手に取って読み始める。

それを提督は、少し笑いながらジュークボックスの前まで歩み寄る。中のレコードを取り出して、楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「ダンテさん、何かリクエストはありますか?ジャズ以外でもいいですよ?」

 

提督はそう言いながら、レコードを大事そうにケースへとしまう。

それを聞いたダンテはその表情を笑顔に変える。

 

「へぇ、何かロックで知ってる曲はあるか?」

「ロックですか…」

 

ダンテの問いに、提督は少し考え込むような表情を浮かべる。そして、しばらくして思い出したかのようにレコードの棚をあさり始める。

 

「確かこの辺りに…」

 

そう言いながら次から次へとレコードを取り出しながら、そのジャケットを見比べていく。ダンテはその様子を見るためにソファから立ち上がり、そのまま提督のもとへと歩み寄る。

そして、提督はその動きを止める。

 

「ありました…これです。」

「!…Ha-ha!こいつは、いいな。」

 

ジャケットにはブロンドの女性の写真が使われ、レコードには人魚のイラストが描かれている。

歌手名をエレナ・ヒューストン。曲のタイトルは『Mermaid ROCK』『It's my Rock'n'Roll』。

ダンテはこのレコードをよく知っていた。自身に歌を理解する心があったことを気づかせてくれた、名盤だからである。

 

「…聞きますか?」

「いいな。かけてくれないか?」

 

ダンテがそう楽しそうに言うと、提督はジュークボックスへとレコードをいれ、再生する。

アップテンポなギターのソロから始まり、軽快なドラムと重厚なベースが後に続く。

前奏が終わり、女性ボーカルが入る。

 

『Standing where I should be

Believing as I'm told to believe

Being who I should be

Doing what I should do』

 

Rock Queenと呼ばれた、エレナ・ヒューストンの歌声が、執務室内に響く。かつて、多くの人を惹きつけ、虜にしたその歌声が。

そして、多くの人を狂わせた歌声が。

 

「…ジャズが好きな僕も、この曲だけは心の底からいい歌だと感じました。」

「huh、そいつは同感だな。」

 

提督とダンテは、静かにそのジュークボックスから流れる曲を聴いていた。

ダンテは、その歌手とかつて相対したことを思い出す。悪魔に取り憑かれながらも、歌を愛した人間。

その彼女を、彼女の歌を本気で愛した1人の男。

ダンテはその表情を満足そうな笑みに変える。

曲はサビへと突入し、その激しさを加速させる。

 

「まさに、彼女がRock Queenですよ。」

「…huh、そうさ。」

 

ダンテと提督は満足そうな笑みを浮かべる。

時刻は、11時を回ったところであった。

 

 

 






今回はちょっとアニメの話も絡めてみました!
アニメの回で1.2を争うぐらい好きな話、Rock Queen。

どこかに絡めたいと思っていたけど、ようやく絡められた…


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警戒

今月最後の投稿です。

とか言うと、意外と3日後に投稿しちゃいそう…


「こちら鈴谷!異常な〜し!」

 

鈴谷は元気よくそうヘッドセット型の通信機に告げる。

あたりは静まり返っており、波の音しか聞こえない。この穏やかな風景は、まるで今が戦時中ではないかのように平和な雰囲気を漂わせている。

 

『了解しました。引き続きお願いします。』

 

大淀が、通信機の向こうからそう返事をする。いつもの戦闘時と違い、穏やかな口調である。

鈴谷はほっと一息つきながら、あたりを見渡す。

 

「…にしても、本当こうしてみると平和なんだけどね。」

 

鈴谷はそう呟いてぐっと背伸びをし、水平線をぼんやり眺めてみる。

この戦いの果てに、一体何があるのだろうか。

敵を沈めて、仲間を沈められて。鎮守府を守って、敵の拠点を攻撃して。

この際限なく続くループを抜け出した先には、一体何があるのだろうか。

 

「…分かんないよね、そんなの。」

 

鈴谷はため息をつきながらそう呟く。そんなことなんて、気にしている場合じゃない。今は目の前のことをこなして行くんだ、と。

その瞬間、その違和感に気がつく。

自分の腹部を、何かが通過していることに。

 

「!?…何こいつ!?」

 

鈴谷がそう叫ぶと同時に、それはすぐにその身体をすり抜け、鈴谷の目の前に全身を晒す。

鈴谷は視線を自身の腹部に向けるが、そこには傷一つなかった。

 

「…敵…?」

 

水上ではなく、空中に漂うその生物は、全身を黒いガスで覆っている。いや、生物と呼ぶのは間違いである。正しくは、悪魔。

その名をメフィスト。フォルトナの地獄門が開いたときに大量に現れた、下級悪魔である。

 

 

 

「ふぅ…さてと、こちらも異常なしですわね。」

 

熊野はそう呟きながら、通信機に手をかける。鎮守府への定時連絡を行うためである。

 

『こちら鈴谷!なんか不気味な生物を発見!!』

 

そんな声が通信機から聞こえてくるとは、少しも思わず。

 

「!…どうされましたの?」

『なんかよく分かんない!黒い霧を纏ってて、私の体を貫通してったけど、全然痛くない!』

 

鈴谷の言葉を理解できずに、熊野の頭の中は疑問符で埋め尽くされる。

ただそれが、かなり危険な状態だということはよくわかった。

 

「どういうことですの!?一体何が…」

 

そこまで熊野が言いかけた瞬間、通信機からの音声がプツリと途切れる。

 

「!?…鈴谷!?」

 

熊野の心の中を、焦燥感が満たしていく。

鈴谷のもとへと急がなければ。

ただそれだけが、今の彼女を動かす原動力となっていた。

 

 

________________________

 

 

「!…どういうことですか!?」

 

執務室の大淀は、通信機から聞こえてくるその報告に驚きの声をあげる。

しかし、鈴谷からの返答が来ることはない。

 

「何かあったのか?」

「…どうやら、鈴谷さんが会敵したそうです。」

 

提督の言葉に、大淀は緊張の面持ちで呟く。

ダンテはそんなことなど興味も持たず、ただテーブルの上のピザを食べながら雑誌を読む。

 

「敵の数は?」

 

提督は冷静にそうたずね、資料に目を通す。現在待機中の艦娘を確認するためである。

しかし、大淀はその言葉を詰まらせる。

 

「それが…よくわからないんです。」

「わからない?」

 

その視線を大淀に戻し、提督はそう怪訝な面持ちで告げる。

 

「…何か、黒い霧を纏った生物…とか…身体を貫通したとか…」

「?…何だそれは?」

 

大淀の言葉を聞いて、ますます不安そうな表情を浮かべる提督。

その後ろのダンテが少しニヤけて、ピザを一口で飲み込んだことに気がつかなかった。

 

「その後、通信も途絶えたので、危険な状態かもしれません…」

 

大淀は心配そうな表情を浮かべてそう呟く。

提督も少し、考え込む仕草をする。元帥が来る前になんとかこの状態から脱したいと考えたからである。

 

「よし、待機中の何人かを…」

「その必要はあるまい。」

 

と、提督がそう呟いた瞬間、執務室のドアが開く。

驚いた様子で、提督はそちらを見る。

そこには、白い髪で初老の男性が立っていた。その格好は提督と同じ白い軍服。ただ、その身に纏うのは熟練者の覇気。

提督はかしこまったようにその男に敬礼をする。

 

「!…元帥!もういらしていたんですか?」

「がはは!出迎えがなくて寂しかったがな。」

 

元帥と呼ばれる人物は、そう皮肉るように言いながら、ソファへとドカッと座る。

そこには、ダンテが食べ散らかしたピザがあった。

提督が慌ててそれを片付けようとテーブルに歩み寄る。

 

「!…そ、それはあの!」

「わかっとる。あの男が置いていったんだろ。さっき廊下ですれ違った時、食べないでくれと言われたわ。」

 

元帥は笑いながらピザを手に取る。ここにこのまま置いておけ、と言わんばかりの目線であった。

提督は、あたりを見渡しダンテがいないことを確認する。

 

「ダンテさん…まさか、行ったんですか?」

「ああ、そうらしいな。」

 

と、元帥は笑顔でピザを頬張る。

提督は、あれだけ出ないでくれと言っていたのに、外へと出て行ってしまったダンテに少し呆れつつ、深く考えることはしなかった。

ダンテが出ていくということ。それはつまり…

 

「…その何かが、ダンテさんに関係あるということですか?」

「そうなるな。」

 

元帥は、そう言って笑みを浮かべる。

どうやら、元帥はダンテの秘密を知っているらしく、何の疑問もなく提督の言葉に返事をする。

 

「…待つだけだ。あれは、わしらよりもあれの扱い方を熟知している。」

 

元帥はそう言って、一切れのピザを食べきり、もう一切れに手を出すのであった。

 

 

________________________

 

 

「…っ…通信機を壊されるなんて…!」

 

鈴谷が呑気に通信をしていたら、メフィストがその爪を伸ばして攻撃をしてきた。

辛うじて、鈴谷はメフィストの爪攻撃を避けたものの、通信機に攻撃があたってしまい、通信機は壊れてしまった。あのまま避けそこなえば、頭を完全に撃ち抜かれていただろう。

メフィストはただ空中を漂いながら、鈴谷の隙を伺う。

 

「…っ!!」

 

鈴谷はメフィストへ目掛けて主砲を放つ。

しかし、メフィストも止まらずに動き続けているため、主砲を避けてしまう。

 

「!…何なのこいつ!」

 

鈴谷は苛立ちながら、メフィストに向けて対空砲を放つ。

連発して放ち、確実に命中させようと考えたのだ。

その弾丸は、1発だけ命中する。

しかし、それは全くひるむことなく宙に浮き続ける。

 

「…どうやって勝てばいいってわけ?」

 

鈴谷は少し呆れたような表情を浮かべつつ、ただ浮き続けるメフィストに視線を向ける。

油断などするつもりはないが、ここまで規格外の相手に攻撃を続けても意味がない。

と、メフィストが急にグルグルと鈴谷の周りを回り始める。

 

「!…またあの攻撃…!?」

 

先ほどはただまっすぐ爪を伸ばすだけであったが、こうグルグル回られては、どこから攻撃が飛んでくるかわからない。

メフィストの爪が光り始め、鈴谷目掛けて攻撃が飛ぶ。鈴谷はその爪を躱そうと身体を翻す。

しかし、今度は主砲に掠り、砲塔が故障する。

 

「このままじゃ…ジリ貧だし…!」

 

鈴谷は焦りの表情を浮かべながら、対空砲を撃ちまくる。弾道は真っ直ぐメフィストへと向かう。

すると、そのメフィストの黒いガスが少しずつ剥がれていく。

 

「!…」

 

鈴谷はそれに気がつき、ひたすら対空砲を撃ち続ける。メフィストも砲弾を避けようと動き回るが、鈴谷の精密な射撃に対応できず、攻撃を受けてしまう。

ガスが完全に剥がれ、メフィストは自由落下を開始する。

 

「よし!!」

 

鈴谷はガッツポーズをする。

メフィストはそのまま海へと墜落し、沈んでいく。

 

「こちら鈴谷!敵を…って、通信機無いんだった。」

 

鈴谷はそう言ってあたりを見渡し、仲間が居ないかどうかを確認する。鈴谷は、その時完全に油断していた。

背後に、3体の黒い霧が現れたのに気づかずに…

 

 

 

 

 




メフィストの対処法がわからなかった初期は大変苦戦しました…(小声)

今ではスタイリッシュポイントの良いカモです。


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魔人



1週間空いてしまいました…
私用が色々ありまして…

続きをどうぞ!


 

鈴谷は、かなり焦っていた。

倒したと思ったそれが、まだたくさんいたとは思っておらず、油断した瞬間に右肩と左足に爪を突き刺されてしまったからである。

 

「ぐっ…ぁ…」

 

とめどなく血液が流れ、痛みが脳を駆け巡る。ただ立っているだけで体力を消耗させるほど、身体は限界が近かった。

メフィストは鈴谷の様子を見ながら、ただ辺りを飛び回る。それが、鈴谷に逃げるという選択肢を与えなかった。

背中を向ければ、確実に刺される。

 

「鈴谷!」

「!…」

 

鈴谷は声がした方を見る。そこには、熊野がスピードを上げてこちらに向かって来るのが見えた。

熊野は速やかに主砲を構え、そのまま放つ。メフィスト目掛けて砲弾が飛んでいく。

しかし、浮遊しているメフィスト達にその砲弾が当たることはなかった。

 

「!…何なんですの!?」

 

熊野は回避されたことへ軽く苛立ちを覚える。

鈴谷は、言葉を詰まらせながら、何とか声を出す。

 

「…どうして…来たの…?」

 

その言葉に、熊野は鈴谷をキッと睨みつけてこう言い放つ。

 

「大切な鈴谷が辛い時に、私はじっとしていられませんの!!」

「!…」

 

鈴谷は、心が熱くなるのを感じた。艦の時には感じたことのない、感情。

先ほど攻撃を喰らってしまった時は、沈むかもしれないという恐怖に支配され、身体は完全に動かなくなっていた。こんな得体の知れないものに、沈められてしまうのか、と。

だが、そんな不安を熊野が吹き飛ばしたのだ。

 

「…へへ…ありがとう…熊野。」

「…それをいうのは、これを切り抜けてからですわ。」

 

鈴谷の言葉に呆れながら熊野は辺りを見渡す。

メフィスト3体が、熊野と鈴谷を取り囲むように浮遊している。

熊野は、正直なところでいえば、焦っていた。

ざっと見て大破に近い状態の鈴谷を守りながら、この状況を切り抜けるのはかなり困難だと感じたからである。

だが、そこに一筋の光明が差し込む。

 

「Hey!大丈夫か?」

 

と、そんな声が響いたと思えば、2人の目の前に赤いコートが降り立つ。

熊野は、一瞬思考が停止したが、すぐにそれを見て微笑む。

鈴谷は笑みを浮かべて、その名を口にする。

 

「ダンテ…!」

「さっさと戻りな。その怪我じゃ、パーティーは無理だぜ。」

 

ダンテはそう言って、その両手にエボニーとアイボリーを構える。

熊野はその登場の仕方に呆れつつ、道理で鈴谷が惚れるわけだと納得していた。

 

「では、鈴谷を曳航しますわ。ダンテさん、殿はお任せしますの。」

「Ha-ha!そう来なくちゃな!」

 

ダンテはその瞬間に、引き金を何度もひく。その精密な射撃に、メフィスト達は次々と黒いガスを剥がされていく。

 

「鈴谷、たてますの?」

「何とかね。」

 

そのダンテの後ろで、熊野は鈴谷に肩を貸すように支える。

熊野は、一瞬ダンテの方を見る。高くジャンプして、その落ちてくるメフィストを切り刻む。

その芸術とも呼べる規格外の戦闘を、目に焼き付ける。

 

「こちら熊野!鈴谷が大破!これから曳航しますわ!」

 

通信機に向けてそう叫び、熊野はそのまま鎮守府へと視線を戻す。

今はとにかく、鈴谷を鎮守府へと返すのが先決だ。

そう思いながら、熊野はスピードを上げて鎮守府へと向かうのであった。

 

 

________________________

 

 

「サンキュー熊野。さすがに危なかったわ〜。」

 

鈴谷は笑顔でそんな軽口を叩く。

傷の血は止まっておらず、本当はそんな余裕もないはずだが、熊野に心配をかけまいとまるで傷など気にしていないかのように振舞っているのだ。

熊野はそれを察していたものの、その鈴谷の思いを無駄にしないために、ため息をつきながら呆れた顔をする。

 

「…ヘッドセット型の通信機も、考えものですわね。」

 

今回の通信機は、警備任務用に用意されたものであり、通常の作戦では使用されない。本来は、1人が通信機を持ち、それによって鎮守府と交信を行うのだ。

 

「…まあ、こういう時には使いづらいかな…って思うけどね。」

「今日は警備ですし、仕方ありませんわ。分散しての警備では、個々に通信機が無ければ危険ですの。」

 

熊野はそう呟きながら、あたりを見渡す。

敵影はなく、穏やかな風だけが流れる。それが不気味に感じた熊野は、視線を鈴谷に向ける。

少し辛そうな表情を浮かべてはいるが、それでもしっかりと意識を保っている。

 

「…後もう少しですわ。」

「そっか…頑張らなきゃね。」

 

鈴谷は、その表情を不敵な笑みに変える。まるで、ダンテのように。

それを見た熊野は、微笑みを浮かべながら、心の中は少しだけ切なくなった。

今までの鈴谷から、少しずつ変わっている。それが、嬉しいことでもあるのに、少し寂しいことでもあるように思えたのだ。

 

「…鈴谷…」

 

と、熊野がそこまで言いかけたとき、その音が聞こえる。水中をかき分けて自身らに近づいてくる、その音が。

 

「!?…魚雷!?」

 

熊野はそう叫び舵を切る。魚雷の射線上から辛うじて退避するものの、魚雷は水中で爆発する。

磁気信管により、艦に魚雷が直撃せずとも、艦の金属を探知して爆発するためである。

 

「!!…」

 

熊野は自身の被害をも恐れず、その爆発に鈴谷が巻き込まれないように庇う。

熊野の艤装が、小破に追い込まれる。熊野はすかさず通信機に向かって声を張り上げる。

 

「こちら熊野!!敵の攻撃を受けておりますわ!!敵影はなし!!恐らく潜水艦だと思われますの!!」

『!…漣さんと朧さんはすぐに熊野さんのもとへと向かってください!赤城さんと加賀さんは空中から支援を!!すぐにこちらも増援を出します!!』

 

大淀が通信機の向こうで的確な指示を出す。

潜水艦。それが、重巡洋艦にとってどれだけ脅威になるか。

駆逐艦と軽巡洋艦は爆雷を持っており、潜水艦に対しての攻撃が出来る。重巡洋艦にはそれがない。

となれば、ただ潜水艦の攻撃を受け続け、そのまま沈むのがオチである。

 

『了解しました!!漣とともにすぐに向かいます!』

 

と、朧の声が通信機に帰ってくる。熊野はただ不安げな表情を浮かべる。

漣と朧の2人が来るまでに、果たして潜水艦は何度攻撃を仕掛けて来るだろうか。赤城と加賀の2人の艦上機は潜水艦には対応しておらず、空中支援はあまり期待はできないだろう。そして、ダンテは先ほどの化け物との戦闘の真っ最中である。

この状況を、どうやって切り抜けるか、それだけに意識を集中させていた。

だから、追加の攻撃に気がつかなかったのだ。

 

「熊野!!」

 

鈴谷がそう叫び、熊野を突き飛ばす。バランスを崩して、海面に倒れこむ。

 

「!?…」

 

その場で熊野はハッとなってすぐに振り返る。

そこには、少し寂しそうな笑顔を浮かべた鈴谷が立っていた。

 

「___」

 

鈴谷はその口をゆっくりと動かす。その声は聞き取れなかったものの、その口だけで何を言っているのかを感じ取る。

熊野は、目を見開いて鈴谷に手を伸ばす。

 

「!!…鈴…」

 

そこまで言いかけた瞬間、鈴谷のいた場所に大きな水柱が上がる。本当は熊野に直撃するはずだった魚雷。

それを鈴谷が1人で受けたのだ。それも、大破の状態で。

水柱が少しずつ収まり、視界が戻る。

しかし、そこに鈴谷の姿はなかった。あたりには、鈴谷のものであった艤装が、バラバラの部品となって海に浮いているだけである。

 

「…鈴…谷…?」

 

熊野は、静かに呟く。

その事実を受け入れられない熊野は、ただ名前を呼ぶことしかできない。

だが、その返事が返ってくることはなかった。

 

 

________________________

 

 

朧と漣は、2人で並走しながら熊野達のもとへと向かう。

鈴谷のことを聞いているため、焦燥感と不安な気持ちが入り乱れる。

 

「いた!」

 

漣がそう言いながら指をさす。そこには、海面にへたり込んで座る熊野の姿があった。

 

「熊野さん!!」

 

朧はそう叫びながら、熊野のもとへと駆け寄る。

そして、その光景に言葉を失う。

海に浮かぶ艤装の破片。その1つを神に祈るように抱きしめながら涙を流す熊野。

漣と朧は言葉を失う。その状況が、1つの事実を示していたからである。

熊野は唇を強く噛む。

 

「…私が…護らなければならないのに…」

 

血が滲み、熊野の顎まで伝っていく。

 

「…っ…私が…!!」

 

熊野はその表情を悔しそうに歪める。

この状況を切り抜けなければならなかったはずなのに、自分のミスであろうことが鈴谷に助けてもらってしまった。その結果がこれだ。

熊野は、己の無力さを恨む。

 

「…Hey、どうした?」

 

そう言いながら、ダンテは熊野へ近づく。メフィスト達を一掃したダンテは、そのまま熊野と鈴谷に会いに来たのだ。

熊野はその顔を無言でうつむかせたまま、何も答えない。

朧と漣も、今はダンテの軽いそのノリに応えることはできなかった。

 

「…そうかよ。」

 

ダンテはそう呟いてあたりを見渡し、そのまま1つの破片を拾い上げる。

そしてマジマジと見つめたあと、ダンテはそれをコートのポケットの中へとしまう。

 

「…で、どうするんだ?」

 

ダンテはそう言って、熊野を見る。

熊野はその言葉に、身体の動きをピクリと止める。朧と漣もそれを感じ取り、少し不安げな表情を浮かべる。

 

「…どういう…意味ですの…」

「…huh、そんなところで神に祈って、スズヤが帰ってくるのか?」

 

ダンテはそう言って、熊野に背を向ける。

そんなことはわかりきっている。神に祈っても、鈴谷は帰ってこない。ダンテの言っていることは、事実。

熊野は言葉を返すことが出来なかった。絶望感に支配され、心が死にかける。

ダンテは軽く、ため息まじりに笑みを浮かべる。

 

「…そんなに祈るなら、相手を変えるのはどうだ?」

 

熊野は、えっ?と呟きながら、それを見た。ダンテの身体に、赤い電流のようなものが走り、みるみると姿が変わっていくのを。それはまるで、赤い魔人。

ダンテの声に、ノイズのような音が混じる。

 

『例えば、悪魔とかな。』

 

 

________________________

 

 

(…あぁ…寒い…)

 

身体が沈んでいく。暗く深い海の底へと。

かつて、第二次世界大戦の時に感じた感覚を思い出す。ただ、もがくこともできずに沈む感覚。ただ海水の冷たさだけが自身を刺激する感覚。

やがてその感覚も、時間とともに失われていくのだろう。

 

(…怖い…)

 

目を開けると、まだ明るい陽の光がまっすぐ差しているのが見えた。海面に反射し、ゆらゆらと揺れるその光には、手を伸ばしても届かない。

 

(…あっけないなぁ…)

 

戦いの最中は、意地でも沈むものかと思っていたのに、いざこうなって見ると、あれだけ足掻いていたのがバカらしくなってくる。

 

(…でも…熊野を護れたし…良いかな…)

 

鈴谷は、無意識にその表情を微笑みに変える。

自分がしたことは無駄ではないと、心の奥底で確信できたからである。

目を閉じ、その最期のときを待つ。

海面についたら、どうなるのだろうか。海の中に溶けて、永遠に彷徨い続けるのだろうか。それとも、永遠に海面から動くこともできなくなるのだろうか。

 

(…あぁ…もう少し…生きたいな…)

 

そこまで考えて、鈴谷は涙を流す。それは海水に紛れて消えていく。その思いは、海が攫っていく。

鈴谷は、全てを諦めたのだ。

 

『Hey、こんなところで寝てると風邪引くぜ?』

 

その声が響くまでは。

 

「!…」

 

鈴谷は、ゆっくりと瞼を開ける。目の前に広がるのは、もう随分と見慣れた赤。

ただ1つ違うとすれば、その姿だけ。

 

「…ダン…テ…?」

 

鈴谷は、そう呟きながらその赤へと手を伸ばす。

決して人間には見えないその姿を見て、本当は驚くべきはずなのに。

それがダンテと確信できるほどに、鈴谷の心に不思議な安心感が広がっていた。

 

『Ha-ha!ほら、上がるぜ。』

 

その赤は、鈴谷を抱きとめて、すぐに海面へと上がっていく。

鈴谷はその腕の中で、ゆっくりと目を閉じる。

 

(ありがとう…ダンテ…)

 

そのまま、鈴谷は気を失う。

だが、その心の中は穏やかであった。

 

 

 

 

 






というわけで、ダンテ魔人化!

書いてる途中で、ダンテならまず轟沈させないのでは?とか思ったけど、変更せずにそのまま書きました笑


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対話


いよいよ4章のラストです…

自分が立てていた予定よりも大幅に遅れております…笑



「…っ…ぅ…?」

 

ゆっくりと鈴谷は目を開ける。光に慣れていない目が、少し痛む。

目の前に広がるのは、白い天井。この場所に、鈴谷は見覚えがあった。鎮守府の医務室である。かつて、大規模作戦で大破に陥った時にここへ来た。

 

「…気がつきましたか?」

 

と、鈴谷に問いかける声が部屋に響く。

鈴谷は身体を起こそうとするが、あまりの痛みに軽く息を吐く。

 

「動かないでくださいね。本当なら鈴谷さんは…」

 

そう言って、鈴谷の近くへと寄ってくる影が1つ。

 

「…大淀…さん…」

 

鈴谷は弱々しく呟く。大淀はそれを見て、少し呆れた様子でため息をつく。

 

「…1週間は安静にしてください。全く…ダンテさんは規格外すぎてこちらが疲れます…」

 

大淀はそう言いながら通信機を取り出し、どこかへ報告をし始めた。

鈴谷は、その瞬間に全てを思いだす。

 

(…そうだ…私…)

 

あの暗い海へと、沈んだのだ。あの冷たさ、そしてあの恐怖が身体を震わせる。

そして、それを助けてくれた、あの魔人のことも思い出す。

 

「…まさか、ダンテさんが鈴谷さんをお姫様抱っこで連れてくるなんて。」

「!?…なななっ…!?」

 

鈴谷は大淀の言葉に、顔を真っ赤にして慌てたように身体を起こす。

そして、あぎゃ!?という謎の言葉を叫んで身体を硬直させる。

あまりの激痛に、気を失いそうになったのであった。

 

「…急に動いたら、そうなります。」

 

大淀は少し咎めるようにそう言い放つ。鈴谷は、ゆっくりと身体をベッドへと降ろす。

 

「…あの…ダンテは…?」

 

鈴谷は少し落ち着いてから、そう大淀に尋ねる。

大淀は、微笑みながら鈴谷へ視線を向ける。

 

「今頃執務室で、元帥と話しているところです。」

「…そっか。」

 

鈴谷はそれを聞いて、天井を見上げる。

あの魔人が、ダンテ。そんな証拠は何もないのに、確信を持てる。

半信半疑だったダンテのこと。悪魔のこと。それら全てを、ダンテが証明してくれたのだ。

 

「…悪魔、か。」

 

鈴谷は満足そうにそう呟く。

そして、ドアが勢いよく開く。

 

「鈴谷!!」

 

そう叫んだ熊野が、鈴谷の元へ駆け寄ってくる。

鈴谷は少し笑いながら、熊野に視線を向ける。

 

「熊野…大丈夫だった?」

「本当に…本当にバカですわ!!あんな無茶なことを…!!」

 

熊野は目に涙を浮かべながら、鈴谷の肩に顔を埋める。

少し痛みが走ったが、鈴谷は仕方なくそれを受け入れる。

 

「まあ、助かったんだしさ。」

「そういう問題ではありませんの!」

 

熊野はそう力強く叫び、鈴谷を睨みつける。鈴谷は、少し苦笑いを浮かべる。

 

「…あのまま、別れの言葉にしていたら…私は本気で鈴谷を許しませんの。」

 

熊野はそう呟いて、切なそうな表情を浮かべる。鈴谷は、少し唸りながらため息をつく。

あの時熊野に向けて放った言葉。

 

『…ごめんね。』

 

今まで迷惑をかけてしまったことへの謝罪。助けてもらったことへの感謝。そして、熊野を残してしまうことへの後悔。

助かったことで、その言葉に意味はなくなってしまったのだが。

 

「…ごめんなさい。」

 

熊野は突然そう呟いて、俯く。鈴谷は、少し驚いた様子でそれを見る。

 

「…本当は、私が護らなければならなかったのに…」

 

熊野は、粒のような涙を鈴谷のベッドに落とす。

あの瞬間に後悔を抱いたのは、鈴谷だけではなかった。助けられなかった後悔。自身のミスで鈴谷を失うという恐怖。

それらは、しっかりと熊野の脳裏に焼き付いていた。

鈴谷は困ったような表情を浮かべながら、ため息をつく。

そして、熊野の頭を撫でる。

 

「!…鈴谷…?」

 

熊野は少し不安げな表情で鈴谷を見る。

それに対して、鈴谷は少し嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「…あの時、熊野が助けに来てくれて、ちょっち嬉しかったんだ。だから、私は十分護られたよ。」

 

その言葉で熊野は、その頰を染める。顔をクシャクシャに歪めて、涙を浮かべる。

 

「ちょ、何で泣くし!?」

 

鈴谷は慌てふためきながら熊野をなだめようとする。だが、熊野は泣き止まない。

熊野は、純粋に嬉しかった。鈴谷が少しずつ変わっていくのを感じて、いつか鈴谷は自分の手の届かないところに行ってしまうのではないかと、不安になっていた。

だから、鈴谷の口からそれを聞いて安心したのだ。

鈴谷は、鈴谷のままだと。

 

「…全くもう。」

 

呆れながら微笑みを浮かべる鈴谷は、どことなく嬉しそうに見えた。

日は沈み始め、空は暗くなり始めるところであった。

 

 

________________________

 

 

 

ダンテは、ソファでピザを片手に元帥と相対する。

先ほどまで、いろんな艦娘から感謝の言葉や質問が来ていたため、かなりダンテは疲れ切っていた。

 

「…がはは!なかなかに規格外とは聞いていたが、どうやら本当のようだな!」

 

元帥はダンテを見ながら、楽しそうに大声で叫ぶ。

ダンテはそんな元帥を見て、少し呆れながらため息をつく。

 

「それで、どんな話だって?」

 

ダンテはそう言って、一口ピザを口に含む。

元帥はその表情を真面目に変え、ピザを1つ取る。

 

「…奴らはどうだった。」

 

ダンテはその問いかけに、その動きを止める。

奴らとは、深海棲艦のことを指しているのだろう。それに対して、どうだったと尋ねるということ。

 

「…そうだな、確かにあれは悪魔だが…それだけじゃない。」

 

ダンテはピザをもう一口食べる。

ダンテの言葉に、元帥と提督はしばらく無言のままそれを見ていた。

 

「…あれは悪魔と人間のハーフだ。」

「!?…」

「…鋭いな。」

 

驚きの表情を浮かべる提督に対し、元帥はダンテの言葉に満足そうな笑みを浮かべる。

ため息をつきながら、ダンテは元帥に鋭い視線を向ける。

 

「もちろん、ハーフとは言えど、しっかりと子を成したわけじゃない。」

「…人工的に作られた…ということですか!?」

 

提督はそのあまりに突拍子も無い話に、そんな風についていくのが精一杯であった。

元帥は身を乗り出し、ダンテへとその顔を近づける。

 

「…それで、貴様はどんな結論を出す?」

 

元帥はその表情を悪どいものへと変える。まるで、悪役である人間のように、憎悪と悪意に満ちた笑みを。

ダンテはその元帥を睨みつけるように表情を変える。

2人の男が、その視線を交わらせる。その殺気のぶつかり合いにも似た雰囲気に、提督はただ鳥肌を立てるだけであった。

 

「…がはは!なかなかやるではないか!」

「…huh、あんたもな。」

 

と、2人は突然お互いの健闘を讃え合うように笑顔を浮かべるのであった。

提督は、全く理解できないまま放置されていた。

 

「…あんたはこう言いたい。それを作っている組織がある。」

「そうだ。その組織を探し出し、このくだらない戦争を終わらせる。」

 

元帥とダンテはそう言いながら、ピザを一口で食べきる。

提督は、それを黙って見守る。2人の間で、何かが決まったということだけ理解し、それ以上のことは何も聞かないことにしたのだ。

 

「…だが、深海棲艦が人工的に作られた悪魔だ…と確定したわけだ。」

 

元帥は考え込むように腕を組む。その表情は、少し困ったようにも見える。

 

「…深海棲艦は、艦娘と何らかの関係があるという見方もある。その点については、どうだ?」

 

元帥はそう言葉を続ける。ダンテはそれを聞いて、軽く笑みを浮かべる。

 

「さあな。」

 

ダンテはそう言って、もう無くなってしまったピザの箱を閉じて、ゴミ箱へと投げる。綺麗な放物線を描き、吸い込まれるようにゴミ箱へと入る。

 

「そうか。まあ、仕方ない。」

 

元帥はそう言って、席を立つ。

 

「もうお帰りになるのですか?」

 

提督は元帥にそう尋ねる。少し楽しそうな表情を浮かべていた元帥は、提督の肩をポンポンと叩く。

 

「これからもよろしく頼む。」

 

元帥はそのまま、執務室のドアへと歩いていく。

ダンテはそれを目で追うようにして見送る。

 

「おっと、忘れておったわ。」

 

と、元帥は突然立ち止まり、ダンテの方へと振り返る。ダンテは少し怪訝な面持ちを浮かべる。

 

「…もう1人、デビルハンターを雇いたいと言ったら、誰か心当たりはいるか?勿論、君の報酬には一切変更はない。」

 

元帥は楽しそうに笑みを浮かべてそう告げる。それを聞いたダンテは、ニヤリとした笑顔に変える。

 

「…いるさ。」

 

ダンテはそう言いながら、ある人物を心の中に浮かべる。

それが、吉となるか凶となるかなど、誰にも分からなかった。

 

 

 




次回予告

艦娘と深海棲艦。その戦いがどんなものだったか。そんな話は実際興味ない。俺は悪魔を狩るのが仕事だ。悪魔か人間か、それだけが1つの指標さ。あんたはどっちだ?…huh、冗談だ。

Mission5
Devil or Human


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Mission5 〜Human or Devil〜
出撃


少し時間が空いてしまいました…
プロットにまさかまさかの致命的なミスが見つかり、それを直すのに時間がかかってしまいました!

しかし、それを投稿する前に気がついてよかった…
というわけで、Mission5開幕です!


時刻は昼の3時を回ったところである。提督と電が執務机に向かい、黙々と書類の束を処理している。

そんな中、ダンテと響は来客用のテーブルを挟んで心理戦を繰り広げていた。

手元には5枚ずつトランプを持ち、それを見ながらニヤニヤとした表情を浮かべるダンテ。

 

「…悪いが、俺の勝ちだ。」

 

ダンテはそう言って、テーブルにカードを広げる。5と6が2枚ずつとジョーカーで出来たフルハウス。

ダンテは響に勝ち誇ったような笑みを向ける。

それに対する響は、ため息をついてカードを広げる。

 

「…残念だけど、私の勝ちだよ。」

 

ハートの5から9までが綺麗に並び、見事なストレートフラッシュが出来上がっていた。

それを見たダンテは、決まりが悪そうな表情を浮かべる。

響の後ろから暁と雷が顔を出し、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「はい、これで響の5戦5勝。」

「…どうやっても勝てないな。」

 

ダンテはそう呟いて、少し機嫌が悪そうな表情に変える。

雷がそれに続いて、ニヤニヤとした表情でダンテに詰め寄る。

 

「さあ、約束通り、間宮さんのアイスを奢ってもらうわよ!」

「そんなに食ったらお腹壊すぜ?」

 

ダンテは雷の言葉に、軽くそう返してそのままソファへと寝転ぶ。

それを見た暁は、少し怒った様に頰を膨らませながらダンテに詰め寄る。

 

「良いのよ!みんなと一緒に食べるんだから!」

「そうかい。」

 

ダンテはそう呟きながら目を閉じる。それを見て、唸り声を上げる暁。雷も少し怒り気味な表情を浮かべる。

響はそれを見て、軽くため息をつく。

 

「…司令官、そろそろ休憩にしないかい?ダンテがアイスを奢ってくれるみたいだよ。」

「!…」

 

ダンテは身体を起こして、響の方を見る。そこには、イタズラっぽくニヤリと微笑む響がいた。

 

「そうしようか。」

「では、みんなの分のお茶を持ってくるのです。」

 

電と提督はそこまで言って、ニヤリとダンテの方を見る。ダンテは静かにため息をつき、立ち上がる。

 

「…仕方ない。買えばいいんだろ?」

 

ダンテは根負けしたかのように、静かにそう呟いて両手を上げるのであった。

 

 

________________________

 

 

「いただきまーす!」

 

暁と雷の声が同時に響き渡り、それと同時にスプーンをアイスに差し込む。

ダンテはソファに座って、自身が買ってきたストロベリーサンデーを食べ進める。

 

「…すまない。勝手に決めてしまったね。」

「構わないさ。俺が約束したんだからな。」

 

響のそんな謝罪に対し、ダンテは楽しそうに呟く。

結果として、ダンテは手持ちの金を持っておらず、提督からお金を借りて自身の報酬から差し引いてもらうことになった。

提督は苦笑いを浮かべて、ダンテの方を見る。

 

「すみません、僕まで頂いてしまって。」

「気にするなよ。報酬から差し引きなんだ。ほとんどあんたが出したも同然さ。」

 

ダンテはストロベリーサンデーを口に運びながら、ただ静かに呟く。

そんな全員の元に、ノックの音が転がる。

 

「失礼します。」

 

ガチャリとドアが開くと、そこには大淀が立っていた。ダンテは軽く笑みを浮かべて大淀に手を振る。

 

「悪いな。休憩させてもらってるぜ。」

「構いませんよ。ただ、提督に報告が。」

 

大淀はそう言って提督へと歩み寄る。提督は真面目な表情を浮かべて、アイスを机へ置く。

 

「…何かあったか?」

「はい。ある鎮守府との連絡が取れなくなり、そこへの調査へ向かって欲しいとのことです。」

 

大淀は、そう言いながら書類を何枚か取り出す。

そこに記載されていたのは、明らかに異常な事態。連絡がつかなくなったのは、1週間前。それ以来、そこから艦娘の出撃も無かったらしい。

そして昨日、その鎮守府所属の艦娘が数人、別の鎮守府へ流れ着いたという。

 

「…危険な予感がするな。」

「…そうですね。」

 

と、そのまま2人はダンテに目線を向ける。

ダンテは、その話が始まった直後にストロベリーサンデーを一気喰いをしていた。

 

「俺の出番だな。」

 

ダンテはその表情をニヤリとしたものに変えて立ち上がるのであった。

 

 

________________________

 

 

電達第六駆逐隊と、漣と朧で構成された第1艦隊は、ダンテを加えてその鎮守府へと舵を切る。旗艦は電だが、ダンテが楽しそうにスケートをしながら電より先行している。

 

「それで、その鎮守府はどこにあるんだ?」

 

ダンテは海の上を気持ちよく滑りながら、後をついてくる電達に声をかける。そこそこ離れた距離なので、声を大きくする。

 

「ここから南西に2kmほどよ!」

 

波の音でかき消されないように、雷は少し大きめな声でダンテに告げる。

ダンテはそれを聞いて満足そうな笑みを浮かべる。

 

「なら、早く着きそうだな。」

「…そうもいかないかもです。」

 

と、ダンテの言葉に対して朧が少し申し訳なさそうに言う。それと同時に、艦隊の全員が押し黙ってしまう。

それを聞いて、ダンテは動きを止めて後ろの6人を待つ。

 

「どういうことだ?」

 

ダンテがそう呟くと、電が少し申し訳なさそうな声でダンテに告げる。

 

「艦隊の進路は、羅針盤の妖精さんにお任せするのです。」

「早くたどり着けるかどうかは分からないんだ。」

 

響が電に続いてそう呟いた瞬間、電の肩に乗る妖精が叫ぶ。

 

「羅針盤まわすよー!」

 

妖精は、手に持った羅針盤をまるでルーレットのようにグルグルと回し始めた。

ダンテはそれを妙に思いながら、しばらく見つめる。

やがて、その羅針盤は動きを止める。それが指し示していたのは…

 

「南東か〜、少し遠回りですぞ?」

 

漣は少し面倒くさそうにそう呟く。それに対してダンテは納得がいかないように腕を組む。

 

「これは何のために回すんだ?」

 

ダンテは電に尋ねる。電は、少し困ったような表情を浮かべる。

 

「艦娘の安全を確保するためと聞いたのです。かつて、この羅針盤を無視して行動した艦隊があり、その艦隊は…その…」

 

その暗い表情は、その艦隊に何かしらの不幸が訪れたということを示していた。

 

「…なるほどな。」

 

ダンテはそう呟いて、あたりを見回す。

確かに、何も感じないほど平穏なのが南東である。それ以外の方角は、何やら不安な空気が漂っている感じがする。

しかし、それを避けて通る必要がダンテにはあるだろうか。

 

「…なら、俺が見てくる。南西に何があるのかをな。」

 

そう言って、ダンテは猛スピードで南西方向へと向かっていく。

あまりのスピードに電達は呆気にとられ、すぐに反応することができなかった。

暁がなんとかダンテに叫ぶ。

 

「どこ行っちゃうのよ!?まだ作戦中!!」

「そこで待ってな。何かあったら通信するさ。」

 

ダンテの声が遠くなっていく中、第1艦隊の面々はただ突っ立っていることしかできなかった。

 

 

________________________

 

 

「…それで、こういうことか?」

 

ダンテがしばらく進んでいると、突然見たことがあるような赤い結界が張られる。そして、目の前に何体かの悪魔が現れた。

仮面を依代として実体化しているこの悪魔。大きな鎌を持ち、不気味な笑い声を高らかにあげる、シン・サイズと呼ばれる悪魔である。その黒いマントのように見えるのは霊体であるため、物理的な攻撃は一切効果がない。

ダンテには関係のない話だが。

 

「…こりゃ、そう簡単には行かないか。」

 

ダンテはそのシン・サイズ達に楽しそうな笑みを向ける。

ダンテを囲むように浮遊しながら隙を伺っているその様は、ダンテを嘲笑うかのように見えた。

不意に、シン・サイズの1体がグルグルと鎌を振り回し、そのままダンテへと振り下ろす。

ダンテはそれをリベリオンで弾き、高く飛び上がる。

 

「お返しだ。」

 

ダンテは単装砲をその仮面をめがけて放つ。その仮面を粉々に砕き、そのシン・サイズが持っていた鎌は海の中へと落ちていく。

それに驚いたかのように、他のシン・サイズは警戒を強めるためダンテから距離を置く。

 

「おいおい、誘ったのはそっちだぜ?楽しくやろうぜ。」

 

ダンテはそう言いながら、両手の単装砲を残りのシン・サイズへと向けるのであった。

 

 

 




ダンテは仕事以外では賭け事に勝てない…

ポーカーの役の順番は結構間違えやすいですね。
未だにフラッシュとストレートのどちらが強いか迷う時があります。



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遭遇

花粉が飛んできて、鼻がつまり、目は荒れ、熱まで上がる始末。
誰か花粉を止めてくれ…

あぁ…頭がいたい…


「…ダンテったら、無事かしら…」

 

雷は不安そうな表情で呟く。ダンテのことなので、何か最悪の事態は起きないだろうと思ってはいるのだが。

暁と響はそれぞれが辺りをぼんやりと眺めつつ、警戒をする。何と言っても、海上にてダンテを待っていることで、敵の攻撃を受ける可能性もあるのだ。

と、そこに通信が入る。

 

『とりあえず、大丈夫そうだぜ。』

「!…本当に?」

 

ダンテの言葉に、少しだけ訝しげな表情を浮かべて暁はそう通信機に返す。

今まで羅針盤に従わない艦隊は全て行方不明になっている経緯を考えれば、南西に向かうのは御免被りたい。

だが、ダンテの言葉ならばある程度は信頼できると思うのも事実。

 

「…電、どうするの?」

 

雷は電に指示を仰ぐ。電は少し悩むような表情を浮かべるが、ダンテの言うことならば問題はないと判断した。

 

「では、ダンテさんと合流するのです。」

『待ってるぜ。』

 

ダンテのその声を聞いて電は通信を切り、南西の方角へと向かうのであった。

 

 

________________________

 

 

 

「…にしても、ダンテがいなかったらかなり時間かかってたかもね。」

「でも、羅針盤に従わないと艦隊が沈むって話は、なんだったのかしら?」

「そうだね、少し気になるよ。」

 

雷達3人はそんな話をしながらのんびりとしている。その前を、電、漣と朧が進み続けていく。

ダンテはただ水上スキーを楽しみながら、件の鎮守府の方を見る。

 

「…あの、ダンテさん…」

 

と、ダンテのすぐ後ろに朧が近づいてくる。ダンテはチラとそちらを見る。

 

「…もしかして、悪魔が出たとか…?」

「…そういうことさ。まあ、気にするな。」

 

笑顔を浮かべるダンテに対して、朧は自分の推測が当たっていたことに少し恐怖を感じた。もし仮に、ダンテが居ない状態で羅針盤を無視していたら…

 

「…ダンテさんは規格外なので仕方ないのです。」

 

電は少し、ため息交じりでそう呟く。漣はそれを聞いて、少し楽しそうに笑顔を浮かべる。

 

「まあ、ダンテがいたら多分あっという間にこの戦争も終わり!って感じですぞ?」

 

漣の言葉に、他のメンバーも首を縦に振る。

ダンテが来なければ、この膠着した戦局に動きは永遠に訪れなかった。そんな考えは、鎮守府の全員が思っていた。

 

「買い被りすぎだぜ。」

 

ダンテは困ったように呟き、目線を前へと向ける。

その時、異様な感覚がダンテを襲う。

 

「!…」

 

ダンテはその表情を曇らせる。その異変に気が付いたのはダンテのみであり、他のメンバーはただ雑談を続けている。

悪魔の匂いがするのは勿論のこと、その中に何やら見知ったような人物の感覚が混ざりこんでいる。

かつて袂を別ち、自らの手で葬り去ったその人物。

 

「…まさかな。」

 

ダンテは誰にも聞こえない声で呟く。だが、自身に流れる悪魔の血が、確実に騒ぎ始めていた。

 

 

________________________

 

 

ダンテ達が向かっている鎮守府前の海域。

深海棲艦の戦艦レ級と南方棲鬼が佇みながら、鎮守府をじっと見ている。

 

「…動キハ無イナ。」

 

戦艦レ級はただぼんやりと鎮守府を眺めている。

その言葉を聞いた南方棲鬼は少しため息をつく。

 

「ネエ、モウソロソロ帰ッテモイインジャナイ?」

「マダダ。僕達ノ任務ハマダ終ワッテナイ。」

 

南方棲鬼の提案を秒で却下し、レ級はまた鎮守府へと向きなおる。

鎮守府は、何も動きがない。それは、単に出撃が無いという意味ではなく、完全に動きがないのだ。まるで無人のように。

と、その時レ級は何か違和感を覚える。それは、自分がいる地点からそう遠くない近海に、覚えのある人物がいるということ。

 

「…嫌ナタイミングダナ。」

 

レ級は呟き、そちらを見る。

少し大きめな波を立てながら、接近してくる影。赤いコートをなびかせるその姿は、確実にヤツである。

 

「ウ、嘘デショ…!?」

 

南方棲鬼は信じられないと言った表情でそれを見る。それもそのはず、今回の任務では戦闘は指示されておらず、ここで待機するだけだったのだ。

そこに現れた、赤い悪魔。

 

「…気ヲツケロ。任務ガ終ワルマデハ、ナントシテモ凌グ。」

 

レ級のその瞳の中に、ゆらりと闘志の炎が灯った。

 

 

________________________

 

 

「…お前は…本当に何者なんだ…?」

 

鎮守府の入渠ドックの中、球磨型軽巡洋艦の5番艦である木曾が、地面に突っ伏しながらその男へ問いかける。その腹部は何かに貫かれたような穴があり、止めどなく血が溢れ出している。

この入渠ドックの壁や地面にも、夥しい量の血液が飛び散っていた。

男は、軽くため息をつきながら、その場を後にしようとする。

 

「!…おい…待てって…」

 

木曾は最後の力を振り絞って、その男に手を伸ばす。

だが、男は振り返ることはなく、ただ黙って歩き続けていく。

木曾は、そんな彼をなんだか微笑ましく思った。

彼は人間味はないけれど、決して化け物ではない、そんな風に思えたのだ。

 

「…お前の魂は何と叫んでいる?」

 

突然、男は立ち止まってそう呟く。

木曾はその言葉を聞いて、変な笑みがこぼれた。魂が何と叫んでいるか。そんな質問を、こんな死にかけの人間にするのか、と。

だが、自分の魂が今叫ぶとしたら。心の底から思うことは。

 

「…生きて…生きてやりたい…この鎮守府の仲間達のために…」

「…humph。」

 

男は、そのまま歩き始める。

木曾は、少し心がやすらかになる。だが、何だか先ほどまでは頭の中に浮かんでいた死の予感は消え失せた。

 

「…自分で何とか生き延びろってことかよ…!」

 

木曾は不敵な笑みを浮かべながら、立ち上がる。

身体中は痛みや疲労のせいで悲鳴をあげているが、そんなのに構う暇はない。

ゆらりゆらりと歩いて、入渠ドックの湯船に倒れるようにして入る。

その瞬間、傷口から液体が入り込み、自分の身体を治すように循環し始める。

 

「…っ…ぐぁ…!!」

 

だからこそ、かなりの痛みを伴っていたが、ここで死なぬように、意識をしっかりと保つ。

木曾は覚悟を決め、自身の魂の叫びを実行に移すのであった。

 

 

________________________

 

 

「…お前らだけか?」

 

ダンテは、海上に佇む2人の影に向けてそう言い放つ。それは、他に誰かいないかどうかの確認だけでなく、自分が感じたあの気配は何者なのかと尋ねるようであった。

レ級と南方棲鬼は、それを聞いてため息をつく。

 

「…今日ハ戦ウツモリハ無カッタンダケドナ。」

 

レ級は疲れた様子でそう呟くと、ダンテの方へと鋭い目線を向ける。

戦闘時特有の命の危機を感じるほどの緊張感が漂う。

南方棲鬼は、少し楽しそうな笑みを浮かべて、レ級に言い放つ。

 

「…ダンテハ任セルワ。後ロノ駆逐艦デ遊ブカラ。」

 

そのまま、南方棲鬼は電達の方へと進んでいく。それを見た電は、ダンテの方へと視線を向ける。

 

「ダンテさん…南方棲鬼は任せて欲しいのです。」

「その代わり、戦艦レ級は頼んだよ。」

「…ああ、任せた。」

 

電と響の言葉に、ダンテはそう返す。

そのまま第1艦隊はダンテから離れていく。それを見た南方棲鬼も、引きつけられたかのように第1艦隊の方へと舵を切った。

ダンテはそれを流し目で見た後に、戦艦レ級へと向きなおる。

 

「何だか雰囲気変わったか?誰かに何かされたみたいだな。」

「ソレハ君ニハ関係ナイネ。」

 

ダンテの言葉に、そう吐き捨てるようにレ級は返す。

それを聞いたダンテは、少し残念そうに顔をしかめる。

 

「…で、今日は踊ってくれるのか?前はダメだったしな。」

 

ダンテはおちゃらけたように戦艦レ級へと話しかける。両手を挙げて、不敵な笑みを浮かべたその様を見て、戦艦レ級も楽しそうに笑い始める。

 

「生憎、急ナモノダカラ振付ハ覚エテイナクテネ。」

 

レ級は尻尾の砲塔をダンテへと向けて、その表情を凶悪な笑顔に変えた。

 

「…深イキスデモドウダイ?」

 

一言。その一言でダンテは満足そうな表情を浮かべる。

 

「そいつはありがたいな。」

 

ダンテは楽しそうな笑みを浮かべて、単装砲を取り出してクルクルと回す。

 

「…ダンスより、そっちの方が良いな。遊ぼうぜ。」

 

そう言って、戦艦レ級へとその銃口を向ける。

2人の視線が交わり、戦いの火蓋が切って落とされる。

日は少しずつ傾き始めた。

 

 

 

 

 




もう少し時間を取りたいんだよなぁ…
時間を…
もっと時間を(I need more time)

まあ、そこそこ時間は取れてるんですけどね!


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再会



WBCの応援でこちらの更新が遅くなりました…

というわけで、続きをどうぞ!


 

「ハッ!!」

 

南方棲鬼は腰についている主砲を、漣と朧へ向けて放つ。慌てて2人舵を切り、それをなんとか回避する。

それを流し目で見ながら、電はその右手を振り上げる。

 

「複縦陣なのです!」

 

それを聞いた面々は、了解!と声を張り上げて、2列に並ぶ。先頭は、電と雷である。

南方棲鬼はそれを見て、ニヤリとした表情を浮かべる。

 

「ドンナ陣形デ来テモ、力デネジ伏セル!」

 

南方棲鬼は心底楽しそうな笑顔を浮かべていた。それもそのはず、ダンテに敗北した日から提督の特訓を毎日受けていたため、そこそこ強くなったつもりなのだ。本当を言えば、ダンテと戦ってみたいと思うのだが…

 

(マア…レ級ガ指名サレタンジャショウガナイワネ。)

 

南方棲鬼は腕の砲塔を電達へと向ける。

そして、一言呟くのであった。

 

「オチナサイ!」

 

 

 

「あいつも雰囲気変わったな。なんかやったのか?」

 

ダンテは南方棲鬼を見ながら、腰に手をあてる。その表情は余裕綽々といった様子で、まるで傍観者のようだ。

 

「ヨソミハイケナイナ!」

 

しかし、それは決して戦艦レ級の攻撃が緩んだわけではない。

レ級はダンテの背後に回り、尻尾を勢いよく振り下ろす。ダンテはそれを軽く身体を翻すことで回避する。

水しぶきが上がり、強張ったレ級の表情を彩る。

 

「…僕トノデート中ニ、他ノ女ニウツツヲ抜カスナンテネ。」

 

レ級から、殺気のこもったセリフが飛んでくると同時に、ダンテは笑みを浮かべて両手を挙げる。

 

「悪いな。気をつけるよ。」

 

そのまま、ダンテは背中のリベリオンに手をかける。

それを見たレ級は、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。

 

「…ソノ剣ヲ飛バスノカ?ソレトモ、衝撃波?」

「…ハズレだ。」

 

ダンテはそう呟いた瞬間、瞬間的な移動でレ級の目の前に現れる。そして、そのまま剣を振り下ろそうとする。

そのトリッキーな動きに、敵は翻弄され、瞬く間に撃破される。

そのはずだった。

 

「オ見通シダヨ。」

 

レ級はそれを読んでいたかのように、剣を尻尾で防ぐ。それによってリベリオンは弾かれ、ダンテは体勢を崩す。その瞬間に、尻尾をダンテの顔面へと滑り込ませ、主砲を放った。至近距離からの砲撃に、ダンテは成すすべもなく海上を転がる。

 

「クッ…決定打カト思ッタガ…!」

 

しかし、その結果にレ級は満足していなかった。

行動、タイミング、それらは完璧に近いほどの成功であった。

だが、手応えがないのだ。

 

「…驚いたぜ。そんなに強くなってたとはな。」

 

ダンテはそう言いながら、ピョンと身体を起こし、水で濡れたコートを軽くはたいた。

吹き飛ばしたはずの頭が戻っていることは、もはや気になどしなかった。

 

「じゃあ、こっちも『本気』出すか。」

 

そう呟いて、ダンテは右手を前に出してフィンガースナップをし、そのままレ級へと迫る。

レ級はそれを見て、尻尾をくねくねと動かしながらダンテへと砲撃を開始する。

 

「オチナヨ!!」

「それは無理な相談だ。」

 

レ級の叫びを軽く一蹴したダンテは、剣を一度ぐるりと回しただけで、迫ってきた砲弾を斬り落とす。あたりに広がる爆煙。

 

「…ドコカラ来ル?」

 

レ級は目の前に広がる爆煙を凝視する。煙幕のどこから出て来るか。目の前か、それとも頭上か。

 

「答えは、どちらでもない、だ。」

「!…」

 

レ級は、煙が晴れた瞬間に驚いた表情を浮かべた。

ダンテが、結局その場から一歩も動いていなかったからである。

 

「…何ノツモリダ。」

「お前がどうしてこんなところにいたのか、考えてたのさ。」

 

レ級の言葉に、ダンテは一言呟いて黙り込む。

その沈黙は、まるで友人との間に流れるもののようなラフさがあり、まるで歴戦の猛者だけが体得するような隙の無さが伺えた。

 

「…なあ、教えてくれよ。誰を待ってる?」

「ッ…!!」

 

レ級はダンテの『本気』に、顔を歪ませるだけであった。

 

 

 

「動きが止まった?」

 

電はダンテの方を軽く見て呟く。しっかりとそれを確認することが出来ないのは、南方棲鬼の猛攻に苦戦しているからである。

 

「クライナサイ!!」

 

南方棲鬼は、腰の主砲を電に向けて放つ。その砲弾は、電の頬をかすめる。だが、それに負けじと電も主砲を放つ。

しかし、その弾道は、南方棲鬼の遥か後方へ着弾する。

 

「…ドコヲ狙ッテイル?」

 

電が外したのではない。その砲弾のスピードを超える速度で、南方棲鬼がその砲弾を回避したのだ。

電は驚きつつも、すぐに声を張り上げる。

 

「魚雷装填!」

 

その言葉を聞いた漣と朧は、時間を稼ぐように主砲を南方棲鬼に向けて放つ。その間に、暁と響、そして雷は魚雷を装填する。

主砲を次々と回避し、南方棲鬼はそれをじっと見る。

 

「…フゥン…」

 

南方棲鬼は小さく呟く。主砲で釘付けにして、魚雷で仕留める作戦であろう。

船では出来ない戦法であり、確実に仕留めるためには十分な作戦である。

だが、それを黙って喰らうわけにはいかない。

南方棲鬼は瞬時にスピードを上げ、そのまま電の方へ肉薄する。

 

「んなっ…!?」

 

漣と朧は、その速度に恐怖を抱く。

南方棲鬼に、何か危険な雰囲気を感じ、主砲を放つことが出来ない。

 

「フフフ…!!」

 

南方棲鬼は凶悪な笑みを浮かべ、そのまま電の目の前まで迫る。

電は、その南方棲鬼に主砲を向け、迎え撃とうと闘志を宿す。

そして、その2人がぶつかりあうかと思われた瞬間…

 

「もういい。」

 

その低い声が響いたと同時に、南方棲鬼の動きが止まる。それに伴い、主砲を放とうとした電の指先も、力が抜けていく。

それは、ほんの一瞬前まではその場にはいなかったはずの人物。

 

「…提督。」

 

レ級は、その声をあげた人物へ向けてそう呟く。

その青いコートを身に纏い、左手に日本刀を持った男に向けて。

 

「…」

 

ダンテは、しばらく黙り込むだけであった。

その表情は、自身の予感が間違っていなかったこと、そして、その再会に戸惑うような表情であった。

 

「…ダンテ。」

 

青いコートの男は、そう呟いてダンテを見る。

それを聞いた他の面々は、驚きの表情を浮かべる。

 

「ダ、ダンテさん…お知り合いなのですか…?」

「提督…マサカ、コイツヲ?」

 

電とレ級は、それぞれに問いかける。だが、2人は黙し語らず、ただ睨み合うだけである。

 

「…huh。」

 

ダンテはその両手を軽く上げる。

 

「随分と久しぶりだな。感動の再会ってやつだぜ。」

 

ダンテはその男へと鋭い視線を向けつつ、楽しそうに笑みを浮かべ、こう付け加える。

 

「なあ?バージル。」

 

それは、かつて3度も戦い、自らが葬りさった人物の名前。自身の双子の兄の名前。

そう呼ばれた男、バージルはため息をつく。

その表情は、まるで人を見下しているかのような冷たいものであった。

 

「…らしいな。」

 

バージルはそう呟くと、鎮守府の方を軽く見る。その視線の先を追うように、ダンテもそちらを見る。

そこからは何も感じなかった。悪魔も、人の気配すらも。

だが、バージルはそちらを見た。それが何を表しているのか、ダンテにはまだわからない。

 

「…だが、そんなにゆっくりしていくつもりはない。」

「…そうかい。」

 

バージルはそう言って、ダンテに背中を向ける。それを見て、黙ってレ級も後を追う。

ダンテはそれをただじっと見送る。かつて、バージルとダンテは戦った。しかし、今はその必要はないことは分かっていた。あくまで、今はというだけだが。

 

「…フン。」

 

南方棲鬼はそれだけ呟くと、ため息をついて電に背中を向ける。電は、その状況で攻撃する気は無くなっていた。

避けられる争いは避けられるに越したことはない。それに、今回の任務は、あの鎮守府の確認である。

 

「…ダンテさん。」

 

電はそうダンテに言葉を投げかける。それに対して、ダンテは何も返さずに、ため息をつく。

 

「…とにかく、まずは任務なのです。今は何も聞かないのです。」

 

電はただそう呟いて、鎮守府へと向かう。それに続いて、雷達もそちらへ舵を切る。

ダンテは、両手を腰に当てて、ため息をつくだけであった。

 






ここら辺から、しばらく投稿がまた遅れそうです!

1週間ぐらいかかってしまうかも…?


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惨状

キングクリムゾン!!
1週間の時を飛ばし、今日は投稿日!!

…はい、すみません。
8時間前の自分をぶん殴りたい縁(みどり)です。
いや、やるべきことはたくさんあったのに、思いの外全てがうまいこと運んでしまったのが悪いんだ…

すみません、なのでもう少しだけ続きを投稿させてください!




鎮守府のとある建物。ドアは完全に破壊され、ただ無用心に開放されている。

それらの瓦礫を物ともせずに、電達は足を踏み入れていく。

 

「酷い有様だね…」

 

響はあたりを見回しながら、一言呟く。

床や天井は所々穴が空き、階段は完全に崩れ、観葉植物はもはや原型をとどめないほどにボロボロにされていた。

そして、触れたくても触れざるを得ない、その異常なほどの紅。

 

「血まみれなのです…」

 

それは、あたりに広がる血痕。それも、まだ新しいもの。その光景が、鎮守府崩壊という最悪の事態を想像させる。

しかし、まだ希望を捨ててはいけない。中を全て見終わるまでは、まだ諦めてはいけないのだ。

 

「こりゃ、酷いな。」

 

と、遅れてダンテが中へ入りながら呟く。

テメンニグルや魔界ほどの酷さではないものの、ダンテもこれほどな状態の場所へ来るのは久方ぶりである。

 

「…執務室へ行ったほうがいいかもしれないわね。」

 

雷はそう電へと意見を求める。それに対して、電は1度だけコクリとその首を頷かせるだけであった。

その隣でダンテが、少し楽しそうな表情を浮かべる。

 

「なら、そっちは任せた。俺はこっちを見てみる。」

 

ダンテはそう言って、工廠や入渠ドックがある方を指差す。

それを聞いた電は少し怪訝な表情を浮かべる。

 

「そちらに、何か手がかりがあるのですか?」

 

それを聞いたダンテは、一言こう呟く。

 

「ただの勘さ。」

 

 

________________________

 

 

「…本当に大丈夫なのかな…」

 

朧は小さくそう呟きながら、ダンテが向かった方をチラとみる。隣で漣が、ため息をつく。

 

「大丈夫でしょ。本人が俺の勘は当たるって言ってたんだし。」

「そうじゃないと思うのですが…」

 

電は食い気味にそう呟く。

もとより、ダンテのことは心配などしていない。問題は、彼と離れても大丈夫なのかということ。

ダンテがあんな風に言うということは、この事象に多少なりとも悪魔が関わっているということになる。

そして、あの深海棲艦の提督。あの人物とダンテは何かしらの関係があると見ていいだろう。

この状況でもし何かとてつもないことでも起きたら、自分たちに何ができるだろうか。

 

「…ここが執務室みたいね。」

 

雷の目の前に、壊された扉のドアノブが転がっていた。その上部のプレートの文字は、血液で完全に見えなくなっていた。

 

「…ね、ねぇ…こ、怖くないの…?」

「一人前のレディなら大丈夫でしょ?」

 

暁の言葉に、意地悪な笑顔で雷がそう言い放つ。

それを聞いた暁は、少し顔を赤くして執務室の中へと先頭で入っていく。

それに続いて、電達も入室していく。

そして、その光景を見た。

 

「…これ…酷いなんてものじゃないね。」

 

本棚はいくつか倒されており、電灯などは完全に破壊され、光源は窓から入る陽の光だけ。書類は散乱し、いくつかは血痕によって赤く染め上げられている。

極め付けは、何かでえぐられたような大きな穴が、執務机に空いていたこと。

 

「…これは、本格的に生存者は無し…かな…」

 

漣はこの有様に、いつもの口調を取り戻すことができなかった。その表情は、深い無力感に襲われたように見えた。

電は、ふと足元に落ちている書類をみる。そこに書かれていたのは、衝撃の事実。

 

「!!…深海棲艦の鹵獲…!?」

「!?…」

 

その単語に、全員の視線が電へと集まる。電はその書類を拾い上げ、内容を読み上げる。

 

「…本日、鎮守府近海において空母ヲ級と交戦。その末、敵の拿捕に成功…ちょうど1ヶ月前の日付なのです…」

 

電はそのまま黙読で読み進めていく。

そこには、様々な報告が書いてあり、中でも目を引くのは、深海棲艦と艦娘の類似点に関する部分。

それは、深海棲艦の傷も入渠で治るということ。そして、感情を持ち、性格の好みや人を見分けることができるということ。

 

「…ねぇ、どうしたの?電…」

「ダンテさんと合流して、すぐに鎮守府へ戻るのです。もしかすると、これは大変なことかもしれないのです…」

 

雷の言葉に、電はその表情を鬼気迫るものへと変える。

そのあまりに必死な電を見て、他のメンバーは何も言い返すことができなかった。

 

 

________________________

 

 

「…こんなに広いんだな、鎮守府ってのは。」

 

ダンテは、そう呟きながらひたすら建物を歩き回る。

この鎮守府が悪魔に襲われたことは確実である。だが、先ほどから悪魔の気配は全くしない。

 

「…にしても、かなり酷いな。」

 

歩けど歩けど、艦娘や人間には誰1人として出会わない。恐らく、全員…

となると、悪魔は全ての人間を狩り尽くしてしまったことに気がつき、もう既に他の場所へと向かっているのではないか。そんな考えが頭をよぎるが、それはない、と心の中で呟く。

仮にそうだとすれば、1週間もあれば町の1つは確実に壊滅しているだろう。

そうなれば、可能性はもう1つ。

バージルが、全て狩り尽くしたか。

 

「…まあ、まだ何も分からねえな。」

 

ダンテはそう呟き、あるドアの前で立ち止まる。

そのドアプレートには、入渠ドックの文字が書かれていた。

ダンテはそのドアノブに手をかけ、そのままドアを開く。

 

「うおおおおおお!!!」

 

その瞬間、中からそんな大声をあげて、日本刀を突き立てる少女の姿が見えた。

ダンテの心臓部へと、それは深く突き刺さる。

 

「!!…」

 

ダンテはその痛みを身体に感じながら、やれやれと言った表情を浮かべる。

そして、その少女は、ダンテを見て目を見開く。

 

「人…!?」

 

少女は、ただ驚いたまま、呆然と立ち尽くすだけであった。

ダンテはため息をつきながら、少女に一言声をかける。

 

「…悪いが、抜いてくれないか?こっちも痛いんだ。」

「!…あ、あぁ…悪い…」

 

少女はそう返すと、頭の中が混乱しているのか、そのまま勢いよく刀を引き抜いた。

ダンテは少し不機嫌そうな表情に変わったが、その少女の服装をみて納得の表情を浮かべた。

 

「…随分とボロボロだな。何があった?」

 

ダンテは下から順場に上へと流してみていく。

スカートは所々切れており、セーラー服は真ん中だけ異常なほどに大きく穴が空いていた。

その右目はオッドアイのようになっており、古傷が残っていた。

 

「…その…ちょっと…な…」

 

その少女はそう呟くと、安心して気が緩んだのか、そのままゆっくりとダンテの方に倒れこむ。

ダンテはそのまま倒れないように少女を抱きかかえる。その少女は意識を失い、ダラリとしていた。

 

「…なかなかガッツあるな。1人で戦ってたのか。」

 

少女へそう声をかけてその場に寝かせ、ダンテは入渠ドックの中へと入っていく。

その中は、悪魔の残り滓、そして白い軍服を身にまとった男の遺体が残されていた。

中でも、頭部だけ別の部分に置かれているのが、何よりも酷い。

 

「…huh。」

 

ダンテはため息まじりにそう呟き、匂いを嗅ぐ。

血や悪魔の匂いに混ざって、別の匂いがする。

それは、先ほどまで、ここにある人物がいたことの証明であった。

 

「…なんだかんだ、あいつのことが気にかかったってことか?バージル。」

 

ダンテは後ろに寝かせている少女のことを見ながらそう呟く。

何の気配もしなかった鎮守府を、一瞬だけ見たバージル。先ほどまでは全くわからなかったその行動の意味を、ダンテは少しだけ理解した。

それは、バージル自体が少し変わった、ということにもなるかもしれない。

 

「…ん?」

 

ダンテは、そのまま視線をドックの方へと向ける。

そこに溜まっているのは、緑色の液体。それが何なのかは、一目見て分かった。

だが、重要なのはそこではない。

 

「…こいつはどういうことだ?」

 

それがなぜこんなところにあるのか。ダンテはその疑問を、頭の片隅に追いやることはできなかった。

1つずつピースが集まっていき、もうすぐ形となるだろう。

 

 

 






次の投稿は…多分、3日以内にはしちゃいますね笑
自分が1週間待てないという落とし穴…

とにかく、今後は色々気をつけますね!!


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目覚

時間ができるとすぐ書き始めてしまう、僕の悪い癖…

というわけで、続きでございます!


「…っ…ぅん…?」

 

激しい頭の痛みとひどい倦怠感が木曾を襲い、木曾は目を覚ます。

目の前に広がるのは、見知っているようで少し違う白い天井。そして、背中に感じるのは、随分と久方ぶりのベッドの感覚。

 

「あっ、目が覚めた?」

 

と、そんな明るい声が隣から聞こえたため、木曾は首を動かそうとし、そして後悔する。

まるで筋肉痛になったように、首に痛みが走ったのだ。

 

「あちゃ~…あんまり無理させちゃダメだったんだっけ…」

 

隣の声は、少し申し訳なさそうにそうつぶやく。そう言われていたなら、先に言っておいてほしかったと思ったが、口に出すほど重要なことでもないので心の中でかみ砕く。

 

「誰かいないかな…えっと、ナースコールナースコール…」

 

隣から何かを探す音が聞こえるが、自分は何も見ることができない。だが、どうやら人を呼ぼうとしているのはわかったので、止める気はなかった。

 

「これかな?」

 

そう言って、その声の主が何かのスイッチを押す。すると、自分のベッドが少しずつ起き上がっていくのを感じる。

木曾は、完全に当惑していた。少しずつ傾斜が大きくなっていき、自分のつま先が見えてきた。

 

「…待て…何か違うスイッチをおしてないか…?」

「あれ!?これじゃなかったっけ!?」

 

そう言っている間にも、自分のベッドが動き続けているのを感じた木曾は、完全にテンパっていた。

何とかその声の主の方へと手を伸ばしてみる。痛みが強いが、そんなことは言っていられない。

 

「そのスイッチをよこせ…!!」

 

それを聞いたと同時に、その人物はそのスイッチを手渡してくる。木曾はそれをぶっきらぼうに受け取り、それに目をやる。

そのつまみには、ウェークアップと書かれており、それを今とは逆の方向に倒す。

その瞬間、ベッドは自分の身体の角度が90度になったところで何とか動きを止め、木曾はひとまず安心した。

 

「…ふぅ…危なかったね~…このまま真っ二つに折れてたら…おえ…」

「そうなってたらお前のせいだからな…」

 

そう言いながら、痛みのことなど気にもせずにその声の主を見る。そこには、自分と同じようなタイプのベッドに寝転んでいた、鈴谷の姿があった。

 

「!…お前は…無事だったのか!?」

「わっ!?何!?」

 

木曾はその姿に驚いていた。それは、鎮守府ではぐれたはずの鈴谷がこの場にいたからである。

だが、当の鈴谷は困惑している。

 

「!…鈴谷…?」

 

木曾は少し、切ない表情で訴えかける。それが、鈴谷の心をキュウと締め付ける。

おそらく、この木曾が勘違いしていることを確信したからである。

 

「えっと…それって多分、私じゃないかも…」

「!…そう…なのか…?」

 

それを聞いた木曾は、血が上っていた頭を冷静にするように努める。

そもそも、自分はなぜこんなベッドに眠っていたのか。それに、あの血なまぐささは完全になくなっており、まるであの事態が起きる前の鎮守府だ。

そこまで考えて、木曾は言葉を詰まらせる。

そうだ。あの事態が起きたから、鎮守府は…

 

「…ここは、どこだ。」

 

木曾は、小さくつぶやいて鈴谷の方を見る。それに気が付いた鈴谷は、少し迷ったような表情を浮かべながら、その顔つきを真面目なものに変える。

 

「…ここは、横須賀だよ。横須賀鎮守府。」

 

それを聞いた木曾は、何も返すことができなくなっていた。

________________

 

 

 

「ダンテさん、何で急に入渠ドックなんて?」

 

提督は不安げな表情でダンテへと問いかける。ダンテはそんな問いなどないかのように、歩みを進める。提督はそんなダンテを見て、それ以上何かを言うのをやめた。

そうして2人は、ドックへとたどり着く。

 

「…」

 

ダンテはろくすっぽ中を確認しないまま、ドアを開ける。

もちろん、今入渠中の艦娘はいないからこそ提督は止めなかったが、もう少し考えて行動してもらいたいと頭の中でつぶやく。

ダンテはそのまま中へと入り、ドックの前まで歩み寄る。

 

「…なあ、この液体は何なのか知っているのか?」

 

ダンテは提督に対してそう告げる。提督は頭にクエスチョンマークを浮かべる。その質問の意図が全くわからなかったからである。

 

「…修復材です。彼女たちは、それに浸かることで傷を癒すんです。」

 

提督はそれを簡単にそう答える。それを聞いたダンテは、ため息を軽くつく。

それは、提督がこの正体を知らないということを理解し、安心したのだ。

 

「…そうかい。」

 

ダンテはそう言うと右手の人差し指を噛んで軽く出血させ、そのままそれを入渠ドックに突っ込む。

提督はその光景をただ不安げな表情で見守る。

そして、その光景に驚愕する。

 

「これは…傷が…!?」

 

ダンテの指の傷が少しずつふさがり、完全に治ってしまったのだ。

ダンテはため息をつきながら、軽く笑みを浮かべる。

 

「…こいつは、俺もよく知ってるんだ。普段は固まってるんだがな。」

 

ダンテはそう言いながら、指についた液体を軽くコートで拭う。

ダンテが思い浮かべているのは、Green Orbと呼ばれる、悪魔の血液が凝固した魔結晶である。

 

「…なぜ、ダンテさんまで治るんですか?」

「それは言えないが、あんたが同じことをやったら…危ないとだけ言っておくか。」

 

ダンテはそう言って、提督のそばまで歩み寄り、その肩をポンとたたく。

これは人間が触れると、悪魔の血液から流れ込む悪魔たちの遺志が流れ込み、心を壊される。

だからこそ、提督が触れれば、たちまち死に至るだろう。

 

「…では、なぜ艦娘である彼女らはその恩恵を無事に受けられるんですか!?」

 

提督は、少し声を荒げる。その言葉に、ダンテは表情を硬くする。

結局、ダンテの心に引っかかるのもその部分なのだ。なぜ、艦娘はこの液体に触れて何ともないのか。それは、ある事実を指し示しているのだが、確信をもってそれを提督に告げることはできない。

 

「…わかったら教えるさ。」

 

ダンテはそうつぶやいて、その場を離れていく。

提督は、しばらく立ち尽くすことしかできなかった。

自分より彼女らとの付き合いが短いダンテの方が、艦娘のことを、皆のことを自分よりも知り尽くしている。

そんな風に思えてきて、提督は無力感を感じる。艦娘のことも、深海棲艦のことも、ダンテのことも知らない自分に対して。

 

「…何にも俺は…知らないんだな…」

 

提督は一言、誰にも聞こえないほどの小さな声でつぶやくのであった。

________________________

 

「…気分はどうなのです?」

「…よくはないな。」

 

電の問いかけに、木曾はただ小さくそう返す。

鈴谷はなんとか電話を発見し、それで電に通話する。

もともと、目が覚めたら電を呼ぶようにいわれていたので、電はその連絡からほんの数分後にやってきた。そして、そのまま木曾に今の状況を説明し始めたのだ。

事態を説明された木曾は、何とか今の状況を飲み込んだ。

一つ、自分たちのいた鎮守府は完全に機能を停止、そのまま破棄されることになったこと。

一つ、電達がその探索のためにやってきて、自分を救助したこと。

一つ、治療や入渠は完全に済ませたが、しばらくは安静にしていなければならないこと。

一つ、他の鎮守府に、何人かの仲間が流れついてはいるものの、全員が意識を取り戻さないということ。

そして、それ以外の生存者は確認されなかったということ。

 

「…本当に…どうしてこうなっちまったんだろうな…」

 

木曾は軽く天を仰ぎながら、そうつぶやく。

それを見た電が、気の毒そうな表情を浮かべながら、その質問をする覚悟を決める。

 

「…あの鎮守府で…何が起こったのですか…?」

 

電は少し不安げな表情でそう尋ねる。隣の鈴谷は、息をのむようにそれを見守る。それもそのはず、まだ完全に心が癒えているわけではない。まだ深く掘り下げない方がいい話題なのは確かである。それでも、電は聞かなければならない理由があるのだが。

木曾は、しばらく黙り込んで、ただため息をつくだけであった。

 

「…いいぜ。話してやる。」

 

木曾はそう言いながら、電の方へと向き直る。それを聞いた電達は、息をのむ。

その表情は、覚悟を決めたようなものであったからだ。

 

「…1か月前に、俺たちは深海棲艦の空母ヲ級を鹵獲した。」

 

木曾の言葉は重々しく響く。その雰囲気にのまれそうになりながら、電達は耳を傾ける。

日は少しずつ傾き始め、沈み始めるところであった。





この間一気にプロット書き直したから細々とした設定矛盾が出て来そう…(不安)

一回、状況説明の回とかどっかで入れたほうが良いのかな…(自分のためにも)


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真実

結構時間が空いてしまいましたが…
久々の更新です!

全ての独自設定を、ここに…


「…艦娘が…?」

 

電は、静かにそう呟きながら戦慄した。

深海棲艦と艦娘には類似点があることは、様々な部分で言われている。だが、それを信じることはできず、実際、崩壊した鎮守府の書類を見た時も、半信半疑であった。

しかし、木曾がいた鎮守府が壊滅したのは、ある1人の艦娘が、空母ヲ級と何らかの形で接触した時に、深海棲艦のようになってしまったことが原因だという。

 

「…ちょっと待ってよ。」

 

鈴谷が横からそう呟き、話をさえぎる。その言葉に、木曾は視線だけをそちらへ向ける。

鈴谷の表情は、その話に納得ができないといったものであった。

 

「それってさ…おかしくない?ダンテは確かに、悪魔と深海棲艦が何か関係があると言ってたけど、艦娘と深海棲艦にはそんなに関係がないと思うんだよね…」

 

鈴谷は電へとそう言いながら、視線を向ける。

電は、その言葉にハッとなる。

深海棲艦と悪魔に関係がある。その事実は、ダンテが悪魔狩人であることと、艦娘と深海棲艦の関係性に関する情報を持つ電に、ある1つの仮説をもたらした。

 

「…いや…まさか…」

 

電は小さい声で呟く。

自身が考えた、その恐ろしいシナリオを、何とか否定しようとする。しかし、それを否定する材料がない。

むしろ、それを肯定するように全てのピースがはまっていく。

 

「…おい、どうしたんだ?」

 

木曾が、少し青ざめた様子の電に対してそう告げると、電はハッとなり、すぐに謝る。

 

「すみません!用事を思い出したので行ってくるのです!」

 

そのまま、電は駆け足で外へ向かう。

ダンテに尋ねなければ。自分の仮説が、間違っているのかどうか。

不安と恐怖を抱きながら、その仮説を否定してくれるように強く願いながら、電はダンテのもとへと走って行った。

暗闇が外を支配し、暗雲が立ち込め始める。

 

 

________________

「…いるか?」

 

ダンテは、人気が全くない工廠の中で静かに呟く。その言葉を向けられた当人は、すぐに顔を出すのだが。

 

「…とうとう、来てしまったね。」

 

手のひらサイズの妖精が1人、ダンテの足元へと歩み寄る。

ダンテはその小さな身体に手を差し伸べて、乗るように促す。

 

「…聞きたいことはなんだい。まあ、大体理解しているつもりだけど。」

「なら、聞く必要あるか?」

 

そう言いながらダンテの掌へと乗り移った妖精に対して、ダンテは楽しそうな笑みを浮かべる。

そして、こう口を開くのだ。

 

「…艦娘について、教えてもらうぜ。」

 

ダンテはそのまま、近くにあったドラム缶へと座る。

それは、以前にダンテが尋ねた、艤装の魔力が艦娘に影響を及ぼさないのかについての指摘に対する答えを求めるということ。

妖精は目をつぶり、しばらくの間考え込むような仕草をする。

 

「…その話をする前に、僕たちの話を聞いてほしい。」

 

妖精は、一言そう呟いてその目をダンテへ向ける。

しばらくの沈黙。それは、ダンテから妖精へ向けられた、無言の催促であった。

 

「…僕たちは弱い生き物だ。人の隙間に隠れ続け、悪魔の視界から外れようとし続けた。」

 

妖精は重苦しい口調で続ける。

ダンテは妖精をただ見つめ、その続きを促す。

 

「…だからこそ、今までは人間たちに協力してきたし、これからもそうするだろう。だから、これから話すことを聞いて、何を思うかは自由だ。」

「…わかったよ。で?どんな話だ?」

 

ダンテの言葉に妖精は、少し暗い顔をする。

それが、これから話すことがあまり楽しい話でないことをよく表していた。

ダンテもそれを理解した上で、話の続きを促したのだが。

 

「…僕らは、日本のこの地域にずっと住んでいた。ある時は人は僕たちを崇め、ある時は人は僕たちを友人のように慕い、ある時は人は僕たちに自らの力となるように願った。」

 

妖精の言葉には、一切の感情が含まれていないかのように平坦な声であった。

だが、ダンテはその奥底にある感情に気がついていた。それは、悲しみ。人に利用され続けてきた、妖精達の無念。

 

「…ある日、日本の軍人が、僕らに協力を求めた。日本を守る為の力を手に入れたいと願ったんだ。」

 

その言葉に、ダンテは少し表情を硬くする。

人間が悪魔の力を利用しようとすることは良くある話だ。だが、一国家がその技術を持つということは、あってはならないことである。技術を使いこなしたとすれば、大きな戦争が起きるかもしれないし、それを機に魔界の悪魔たちが一斉に流れ込んで来るかもしれない。仮に使いこなせなかったとしても、国の人間が危険にさらされるという意味では無視できない。

この国はそれをやろうとしているということを、ダンテは頭の片隅へと置く。

 

「その軍人は、僕たちに魔力を提供するだけでいいと言った。だから、僕たちは素直にただ魔力を提供していった。」

 

妖精は、その平坦だった声のトーンを少し落とす。

それを聞いたダンテは、その表情に呆れたような笑みを含める。

 

「…そうして、ある日。僕たちの前に、それは現れた。」

「深海棲艦…てわけか?」

 

妖精の言葉に続けるように、ダンテがそう呟く。

その言葉に、妖精は静かに首を縦にふる。

 

「…僕たちは、すぐにそれらから溢れ出る魔力に気がついた。まるで、僕たちの魔力にそっくりだったからね。」

 

妖精は、そう呟いて少し表情を悲しげなものへと変える。

 

「…でも、それを指摘することはできなかった。そうすれば、僕たちの平穏だった世界を壊してしまう…そう思ってしまったからだ…」

 

妖精が少し寂しく呟くその意味を、ダンテは理解していた。

人間と共に暮らしていた彼らにとっては、人間との衝突を避けたかったのだろう。

それが、彼らの良心を蝕んでいったわけだが。

 

「…彼らは、僕たちに協力をせまった。人間を守る為に、なんて都合の良いことばかり言ってね。」

 

妖精は、語気を強める。

 

「さらに僕たちが力を提供すると、すぐに新しい情報が入った。艦娘という存在の発見だった。もちろん、それらからは僕たちと同じような魔力を感じた。」

 

妖精は、少し残念そうに呟く。

それは、明らかな異常。立て続けに自分たちの同じ魔力を持つ存在が現れる。

それは、1つの事実を指し示していた。

 

「…そうさ…艦娘も深海棲艦も、元は同じ。」

 

少し小さい声で呟かれたそれは、ダンテの表情を暗くさせるには十分だった。

 

「あれは、人間によって作られた、半人半魔だ。」

 

妖精は、鋭く言い放つ。

ダンテは、その事実にたどり着いてしまった。だから、さほど驚くことはなかった。

だが、彼には1つの疑念が浮かぶ。

それは、この国の人間は何のためにそんなことをしたのか。

 

「…深海棲艦は…私たちは…半人半魔…?」

 

そんな声が、工廠の中に響く。

ダンテと妖精はそちらを見る。そこには、ただ力なく立ちすくむ、電の姿があった。

 

「電…!!」

 

妖精は、その表情に焦りを浮かべながらそう叫ぶ。

ダンテにのみ話すつもりだったにも関わらず、それを艦娘に、それも秘書艦である電に聞かれてしまったのだ。

電は、その妖精の言葉に何も答えない。

 

「…イナズマ。」

「…私は…」

 

ダンテの言葉に、電はただ俯きながら呟く。

電は、自分達が人間ではないということを何となくわかっていた。

機械の中から生み出され、海の上を駆ける。戦いで傷ついた身体はすぐに治り、新たな戦場へと駆り出される。人間とは異質な存在だということは、頭の中では認識していた。

だが、自分達に悪魔の血が混ざっているなど、考えもしなかった。

そして、今まで戦ってきた深海棲艦。それらもまた、艦娘と同じ。彼女らもまた、悪魔の力を持つ存在。

 

「…私は…!!」

 

電は、自身に恐怖を抱く。

木曾の鎮守府の1人の艦娘は、深海棲艦のような姿へ変貌し、悪魔を操っていたという。深海棲艦にも艦娘にも、それをするだけの力があるということだ。

では、自分がそうならないという保証は?これから先、自身はこの『力』を確実に制御することはできるのか?

深海棲艦と自分は、何が違うのか?

 

「…ッ!!」

 

電は、居ても立ってもいられなくなり、その場から駆け出す。その眼に浮かぶ涙を振り払うように。

 

「!…電!!」

 

妖精は大きな声で叫ぶが、電はただ走り去って行くだけであった。

未だ厚い雲が空を覆い、月は見えない。

 




艦娘と深海棲艦の関係性、いまだそれを証明できる者なし。
なので、勝手に設定を色々考えた結果がこれだよ!

やはり、多少なりともDMCのストーリーに絡めるなら、悪魔の力を有効活用(という名のゴリ押)していかないとね!!


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艦娘

お待たせしました!

これが、この章最後の話になると思います!!




「…電…!」

 

妖精は、悔しそうな表情で呟く。本来ならば、人に話すべき内容ではないこと。それは、自らの罪の懺悔と共に、艦娘たちの存在の根幹へと大きく振れる話題。それを、一番聞いてほしくない人物に聞かれてしまったことへの焦り。

妖精たちは自分たちのうかつさを悔いることしかできなかった。

だが、ダンテはそんな妖精に微笑みを向ける。

 

「気にするなよ。俺が話をさせたのが悪い。」

「…」

 

妖精はただ無言でダンテの方を見る。

かつて、魔界を裏切り、人間界を救ったスパーダ。その息子であるダンテに、そんな言葉をかけてもらえる悪魔など、この世にいるだろうか。

自分たちがそれだけ恵まれた立場であることを、妖精たちは実感していた。

 

「…イナズマのことは俺に任せな。」

 

ダンテはそう言ってドラム缶から立ち上がり、そのまま工廠を出ようと歩き出す。

それを見た妖精は、慌てた様子でダンテを呼び止める。

 

「僕たちのことを咎めないのか?」

 

ダンテはその言葉に歩みを止めて、妖精の方へと軽く目線を向ける。

その表情は、随分と穏やかな笑みであった。

 

「正直、普通なら許せないほどの出来事だ。だが、今のお前らはその罪滅ぼしのために戦っているんだろう?少なくともそれが終わるまでは手を出すわけにいかないのさ。」

「!…はは…ダンテ…君は本当にすごいやつだな…」

 

妖精は、まるで呆れ返ったように、それでいて、ダンテに尊敬の念を抱いたように微笑む。

ダンテはそれを見て、満足そうに笑顔を見せる。

 

「あいつらを護ってやれるのは、お前らだけさ。これからも頼むぜ。」

「…ああ。約束する。全て終わったら君にこの命を預けるよ。」

 

妖精の言葉に、ダンテは何も答えずに歩み始める。

それを言えるほどの覚悟があれば、見逃しても大丈夫だろう。そう自分の心の中で呟きながら。

雲の切れ目に、少しだけ月明かりが差し込んでいた。

________________________

「はぁ…はぁ…!」

 

鎮守府から離れるように、電は息を切らして走る。鎮守府正門から街へと続くこの道は灯りが少なく、人通りはない。

そんな道を、電は涙をこぼしながら走り続ける。

今は、今だけは何も考えずにただ鎮守府から離れたい。その一心が、電を突き動かしていた。

延々と続くように見えるほどに暗い路地は、まるで電を知らない場所へといざなうかのようにも感じられる。

 

「!…」

 

だからこそ、電はそのわずかな段差に気がつかず、勢いよく転ぶ。全身に痛みを感じ、歯を食いしばる。

立ち上がろうとすると、右ひざに痛みが走る。電はすぐに、膝をすりむいたのだと理解した。

それだけでなく、左腕も軽くぶつけたようで、鈍い痛みが広がっていた。

 

「!…ッ!」

 

その痛みを、頭の中で反芻する。入渠してしまえば、すぐに治ってしまうその傷を。

自分の存在を、肯定することができる唯一の感覚。人間ではない、自分の存在を。

 

「…人間じゃない…」

 

電はゆっくりと立ち上がり、ガードレールの向こうへと広がる海原を見る。ただ、無限に広がるその海は、電を引き込もうとする。

電はそのガードレールを乗り越えて、浜辺へと降りる。砂が足をもつれさせるが、そんなことなど気にも留めない。

 

「…艦娘も…」

 

身体の痛みを受け入れながら、ただ海へと歩み続ける。電の足元に、波が押し寄せる。

靴の中に海水が入り込み、急激に冷える。電はそれでも歩みを止めない。

 

「…深海棲艦も…人間ジャ…ナイ…」

 

そう呟く電の目は、少しだけ赤く輝いた。それは、まるで深海棲艦、そして、悪魔のように。

電が、その足をさらに海へと進める。深い海の淵へと。

その右足首まで海水に浸った瞬間。

 

「おいおい、こんなに暗い中で海水浴か?」

「!…」

 

そんな声があたりに響く。

電は急いでその声がした方へと視線を向ける。その眼光は、先ほどまでの赤みを帯びたものではなくなり、いつもの電の瞳であった。

ダンテは、少しずつ電のほうへと歩み寄る。

 

「…何しに…来たのです…」

 

電は静かにそうつぶやく。その表情は、ひどく苛立っているような表情であった。

放っておいてほしかったと、そう思っていたのに。

そんな電のことなど気にも留めず、ダンテは歩み寄るのをやめ、にこやかな表情で電を見る。

 

「…さっさと帰ろうぜ。こんなところで何する気だ?」

 

ダンテは両手を軽く上げて天を仰ぐ。空には、少し雲がかかった月があるのみで、ただ静かに2人を照らす。

 

「…ダンテさんには関係ないのです…」

 

電は小さくつぶやく。それを聞いたダンテはその表情を崩さない。

しばらく、静寂が2人の間に流れる。

 

「…私は…この姿で生まれて…すぐに深海棲艦との戦いに駆り出されたのです…」

 

重い口を開いた電は、悲しい表情をしていた。

ダンテはそれを、黙って聞く。その表情は変えないものの、いつものような軽々しい態度は一切取ることなく。

 

「…ずっと自分の存在に疑問を持ってきたのです…あの得体のしれない機械から生み出されて、ただ深海棲艦を倒すためだけに戦う自分たちの存在を…」

 

そうつぶやく電の両手は強く握られていた。

ずっと戦いに明け暮れてきた苦悩。電を蝕んできた疑念と不安。

それら全てが司令官のためと自分に言い聞かせて、何度も死線をくぐり抜けてきた。

 

「…その結論が…これなのです…!」

 

電はそう力強く言い放つ。それと同時に、頬には一筋の涙が伝う。

 

「電は…何のために戦ってきたのですか!!」

 

その荒げたような叫びは、2人の間に響き渡る。

 

「深海棲艦も…艦娘も…同じ存在…!!」

 

今まで倒してきた深海棲艦が脳裏をよぎる。その怨念とも呼べる何かが、電の肩にのしかかる。

そのイメージを振り払って何とかその言葉を紡いでいく。

波が少しずつ、2人の足元を濡らす。

 

「…ダンテさんが狩らなければならない…悪魔…!!」

 

喉を焼き付くようなひりひりとした感触が、電を襲う。

深海棲艦と化した自分のイメージが、すぐに頭の中に浮かび上がる。無機質な表情で、仲間だったはずの艦娘達に牙を剥く。自分の姉妹艦である暁達にも、いつも優しい言葉をかけてくれる提督にも。

自覚したことのない悪魔の力。それが、今後永遠に自覚がないまま一生を終えるのか。

それとも明日にはその力に目覚めて、自分の意思とは無関係に殺戮と破壊を繰り返すか。

 

「私は…もう耐えられないのです!!」

 

必死に心の内を訴える。苦しみを、叫びを。

心の底からダンテに求める。救いを、助けを。

 

「自分が怖いのです…得体のしれない自分が…自分の力が…!!」

 

その表情をゆがませ、ダンテを見る。そのダンテの表情は、不敵な笑みであった。

だが、その雰囲気はいつもと全く違うように感じられた。

 

「…俺の仕事は、悪魔を狩ることだ。」

 

ダンテはそうつぶやいて、電をしっかりと見据える。その瞳の奥には、絶対的な悪魔への憎悪が含まれていた。

電はその言葉を聞いて息をのみ、その表情を、寂しそうな笑顔に変える。

それは、自分の心の中で、ある覚悟が芽生えたということ。

 

「…なるべく、苦しまないのが良いのです。」

 

何とか笑顔を作り、ダンテに向ける。突然こんな決断をしたことで、少しばかりいろんな人に迷惑をかけてしまうかもしれない。

それでも、これから先自分が望まない形で犠牲を出すことはないと考えると、少しだけ気が楽になった。

電は目をつぶって、全てを受け入れる体制をとり、死を覚悟して、その瞬間を待っていた。

 

「…おいおい、何を言ってるんだ?」

 

その人を馬鹿にしたような笑い声が聞こえるまでは。

 

「ダンテ…さん…?」

「俺の専門は悪魔だけだって言ってるだろ?人間は撃てないさ。」

 

ダンテは電を見ながら、ただそう笑いかける。

電は、その言葉の意味が理解ができなかった。

 

「話を聞いてなかったのですか…?」

 

慌てて電は、ダンテにまくしたてる。

 

「私たち艦娘も、深海棲艦も悪魔なのです!!このままだと…いつか人を襲うかもしれないのです…!!だから…!!」

 

電は語気を強めてそう言い放つ。

だが、それに対してダンテはただ笑顔を浮かべるだけであった。

 

「…お前は人間さ。間違いなくな。」

「そんな…何を根拠に…!」

 

ダンテの言葉に、うろたえながらそう返す電。その表情には、困惑の感情が含まれているのは明白であった。

だから、ダンテの口からこんな言葉が紡がれたとき、電は何も言い返せなかった。

 

悪魔は涙を流さない(Devils never cry)

「!…」

 

ダンテの表情は真剣そのものであり、それがダンテの本心から出た言葉だということを電は認識していた。

決して、冗談でそんなことを言っているわけではないということ。それが、電の心を揺さぶった。

 

「心を持つことができるのは、人間の特権さ。」

 

ダンテはそう呟きながら、今まで出会った悪魔を思い出す。本当に救いようのない悪魔もたくさんいたが、そんな中で人を助けようとした悪魔、人を愛した悪魔にも出会った。

その経験から、今目の前にいる電が、今まで葬り去ってきた悪魔なんかとは比にならないぐらいに、優しいことを理解していた。

電が、人間であることも。

 

「お前にはいくらでもやりようがある。悪魔の力なんかに負けない、人間の力があるんだ。だから、すべてを諦めるにはまだ早い。」

「…ダンテ…さん…」

 

電は、気がつくとその言葉を信じようとしていた。

先ほどまで苦しかった心が、ほんの数秒で暖かくなっていく。不思議なほどに安心感に包まれ、もう先ほどまでの不安な心は消え去っていた。

瞳から、また一筋の涙が溢れる。

 

「!…変なのです…もう悲しくなんかないのに…」

 

電は慌ててそれを拭うが、何度やっても止まることはない。

ダンテはそれを見て、楽しそうに笑いながら両手を軽くあげる。

 

「おいおい、そんな顔じゃ帰れないぜ。」

「!…えへへ…本当なのです…!」

 

電は涙を流しながら、笑顔でそれに答えるのであった。

雲はいつの間にか晴れ、綺麗な月が辺りを照らしていた。

 

 




次回予告

どうやら、きな臭いことになってきたな。人間が悪魔の力を利用するなんて、ロクなことが起きないに決まってる。大本営とやらの連中を少しばかり、調べさせてもらうぜ。化けの皮が剥がれるかもな。いや、悪魔の皮か?

Mission6
Find out


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Mission6 〜Find out〜
暗雲




新章開幕です…!

ここから、事態は急展開を迎える…!?


大本営のある一室の中。

とてつもなく厳かな雰囲気に包まれながら、5人ほどの人物が円卓を囲む。その中には、元帥の姿もあった。

円卓には多くの書類が広げられ、作戦の会議をしているようにも見えるが、今回の議題はあまりにも異質なものであった。

 

「…納得がいかんな。」

 

元帥はその右手の書類を軽く握りつぶす。

それを見た、1人の短い茶髪でメガネをかけた男が、鬼の形相を浮かべて立ち上がり、声を荒げる。

その男は、髪をぴっちりとワックスで固め、オールバックにしている。

 

「なんてことを!!僕が一生懸命作ったレジュメを!!」

「技術局長。少し黙っていてくれ。」

 

元帥はその男、技術局長に対して高圧的な態度を向けつつ、1番奥に座る、白髪で年老いた男性に鋭い視線を向ける。

技術局長は怒りに震えながら、そのまま着席する。

 

「…総帥。今の戦局が動いたのは、彼のおかげです。その彼を何のために軟禁するのです。」

 

総帥と呼ばれた男は、困ったような表情を浮かべて、ふうむ…と呟く。

ヨボヨボの手を円卓につきながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「…しかし…その人物のことをよく知らないのでな…私も流石に無責任に首を縦に降るわけにはいかんのだよ。」

「資料ならば送ったはずです。それでもですか?」

 

元帥は、総帥に対して強気な声でそう返す。

もちろん、総帥の命令が絶対であるこの場において、反論の余地などない。だが、元帥にとって、こればかりはどうしても押し通したい話なのだ。

困ったような、悲しそうな表情を浮かべた総帥は、静かに首を左右に振る。

 

「…残念だが、それでもだ。この場に彼を連れてきて、見極めることができれば1番なのだがな。」

 

総帥の言葉に、元帥は少しばかり苛立った表情を浮かべるも、すぐにそれを消す。

そして、大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。

 

「でしたら、私の今までの功績に免じてもらえませんかな。常に前線に立ち続け、深海棲艦を退けてきた私に…」

「口を慎め。」

 

と、元帥の言葉を遮るように、総帥の隣に座る白髪の男が冷静な声でそう告げる。

全員の視線がそちらに集まる。

 

「総帥がいかんと言っているのだ。どうしようもあるまい。」

「…チッ。」

 

元帥は小さく舌を打ち、そっぽを向く。

それを見た技術局長が、満足気な表情で元帥を睨みつける。

 

「そうだ!大将の言う通り、総帥の命令は絶対!!」

「技術局長。少し黙っていてくれ。」

 

と、大将と呼ばれた男も技術局長に向けて鋭い目線を向けてそう言い放つ。

それを聞いた技術局長が机をバン、と叩き立ち上がる。

 

「お前ら!!僕をバカにするのか!!」

 

その言葉を言った直後、咳払いの音が辺りに響き渡る。

それを聞いた技術局長は、総帥の方へと視線を向ける。少しばかり困惑し、呆れるような表情を浮かべた総帥が、技術局長をじっと見ている。

 

「…ぐぬぬ…!」

 

技術局長はそのまま、やり場のない怒りに包まれながら席へと座り直す。

総帥がふうむ、と呟きつつ席に着き、全員を見る。

 

「…とにかく、その事項については決定だ。それでは、その対応についてだが…」

「そのことなら、私が。」

 

と、今まで一言も喋らなかった金髪の女が、その手をあげる。

その顔立ちは、日本人とはかけ離れており、西洋人のものである。身体は白い軍服に覆われているが、それでもその豊満なボディを隠し切ることはできておらず、制服のボタンを何個か外している。

 

「…頼めるかな?」

「仰せのままに。」

 

その女は、ゆっくりと席を立ち上がり、そのまま円卓から離れていく。

長い金髪をなびかせながら歩く様は、その場の全員を釘付けにすることは容易であった。

 

「…女狐め。」

 

技術局長は小さな声で呟きながら、苛立ったような表情を浮かべる。

そんなことなど全く気にも留めずに女は部屋を後にする。

 

「…あの女は何者だ。」

 

元帥はそう言いながら、大将の方へと視線を向ける。

大将は両手を軽くあげて、困ったように眉をひそめる。

 

「知らん。最近配属された人間だ。この円卓に座ると言うことは、そこそこの実績があるというのは確かだ。」

 

大将は両手を広げて、面倒臭そうにそう返す。

それに対して、総帥が軽く笑みを浮かべる。

 

「彼女には、主に裏方の仕事を頼んでいる。所謂、憲兵のような仕事だ。風紀の乱れを正す役割として動いてもらっているのでな。」

「あんな女狐に風紀の乱れを正せるか!!」

 

技術局長はそう声を荒げて、その表情をひどく歪める。

それを見た元帥も、それに関しては同意のようで少しため息をついていた。

 

「…とにかく、貴君らにはより一層励んでもらいたい。これにて、会議を終了とする。」

 

総帥はそう言って、軽く会釈をしながら席を立つ。

それに倣って、全員が席を立ち礼をする。

その会議は、重苦しい空気のまま終わるのであった。

 

 

________________________

 

 

「提督、どうでしたか?」

 

元帥が部屋から出たと同時に、そんな声が辺りに響く。その声の方を向いて、元帥は軽くため息をつく。

そこにいたのは、セーラー服を着た少女、駆逐艦の吹雪であった。

 

「…さっぱりだな。どうやら、彼は軟禁されることになるらしい。」

「ええっ!?じゃあ、深海棲艦に対抗する手段は…」

 

その残念な報せに吹雪は少し表情を曇らせつつ、元帥の顔色を伺う。元帥は、少しばかり苛立った表情を浮かべつつ、ブツブツと文句を垂れる。

 

「全く。奴らは現場のことなど何1つ聞かずに、ただおのれの意見だけを通しおって…これでは、何百人といる提督がクーデターを起こすぞ。」

「あ、あはは…それは分からないですけど…」

 

吹雪は苦笑いを浮かべてそう返すと、すぐにその表情を真面目なものに変える。

 

「…では、すぐに連絡します。」

「…ああ。ダンテには、謝罪の言葉をかけねばならん。」

 

吹雪が敬礼をしてその場を離れていくのを見守り、元帥はフン、と鼻をならす。

今回の事態はあまりにも急であり、今までとは明らかにおかしい。

大規模作戦において、自分が作戦にない独断行動をしたことについての決定なら、いくらでもあり得る。

だが、独自で呼び込んだ外部の人物を、依頼キャンセルではなく大本営で事実上拘束するなど、普通に考えれば無理があるだろう。

 

「…何か裏がある。そう思っているな?」

「!…」

 

元帥はその声に驚き、そちらを見る。そこには、先ほど円卓に座っていた大将の姿があった。

元帥は明らかに面倒臭そうな表情を浮かべて、大将を睨みつける。

 

「フン、総帥の決定は絶対だ。それに逆らうつもりはない。」

「お前ならそう考えると思っただけだ。」

 

大将は、元帥の表情を伺いつつそう返す。

元帥は軽く頭を掻き、ため息をつく。大将と元帥は、かつて同じ鎮守府で切磋琢磨し合う有名なツートップであった。今でこそ階級は違うが、その当時から仲が良かった間柄なのだ。

 

「…お前のことだ。何か策は立てているんだろう?」

「…まあな。」

 

大将の言葉に、元帥はあまり乗り気ではないが頷く。

このままダンテが軟禁されるようでは、間違いなく終戦が遠のいてしまう。これから、ダンテに紹介された人物とコンタクトを取らなければならない。

 

「…はぁ…わしの貯金は吹っ飛ぶな…」

 

本当に小さい声でそう呟き、肩を落とす。元々、ダンテを雇ったときも、大本営名義でこそあったものの依頼料は自腹である。このまま、もう1人に依頼をすれば、その料金も2倍になることは必至である。

 

「お前の自腹で、戦争が終われば安いものさ。」

「そう思うなら、少しでも出さんかい。」

 

悪態をつき、元帥はその場を後にする。大将はその背中を見つめ、ただ微笑むだけであった。

 

「…戻ってきたな。『神の軍師』が。」

 

一言呟いて、大将は元帥に背中を向けて歩き出す。

空は澄み渡り、綺麗な青を広げていた。

 




ダンテの先行きに、暗雲が立ち込める…

一体、もう1人の人物とは…?


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予兆

続きいきます!

なんとか週一更新ができてますが、そろそろペースが落ちそうです…
いや、でも週一はキープしたい…(じゃなきゃ時間かかって仕方がない)


「…電、何かいいことでもあったのかい?」

 

提督は、いつもより元気な電を見て、不思議そうに尋ねる。

心なしか笑顔が増えており、仕事のスピードも早い。そんな電を見るのが久々だったのか、提督は疑問に思ったのだ。

それに対しても、電は笑顔で答える。

 

「少しだけ、なのです。」

「…そうか。それは良いことだ。」

 

それにつられて、提督も笑顔を浮かべる。提督から見て、最近の電は何か思いつめていた部分があった。

それが解決されたのを良かったと思いつつ、提督は少し寂しい気もしていた。

おそらく、電を変えたのは、ダンテ。

 

(…やはり、みんなの力にはなれないか。)

 

提督は心の中で呟いて、すぐさま目の前の書類へと目を通す。

と、そこへ黒電話のベルがなる。それを軽く見て、提督はすぐに受話器を取る。

 

「はい、こちら横須賀鎮守府。」

『!…あの!元帥の秘書艦の吹雪です!』

 

その声が電話の向こうから響き、提督は怪訝な表情を浮かべる。

 

「何かあったんですか?」

『それが!ダンテさんのことなんですけど!』

 

その内容を聞いた提督は、困惑の表情を浮かべることしかできなかった。

 

 

________________________

 

 

「うん、身体の調子は万全!」

 

鈴谷はベッドから這い出て、軽く伸びをする。

鈴谷は体調が回復し、やっと戦列へ復帰出来るようになったため、これから訓練に向かうことになっている。

 

「…俺はもう少しかかりそうだな。」

 

木曾は軽く鈴谷の方をみて、ため息をつく。

身体は完全に治っているが、この部屋を出ることが許可されないのだ。理由としては、まだ心の傷が癒えていないこともあげられる。

 

「ゆっくり休みなよ。まだ色々大変だろうし。」

 

隣のベッドに寝転ぶ木曾に軽くそう告げて、鈴谷は腰に手を当てて笑いかける。

そんな鈴谷の言葉に、木曾は微笑みを浮かべる。なんだかんだ、2人は一緒の部屋にベッドで寝転んでいたため、そこそこ仲が良くなっていた。お互いに何を考えているかぐらいは察することが出来るほどに。

と、そこへダンテがやってくる。

 

「スズヤ、もう大丈夫なのか?」

「ダンテ!ちーっす!もうバッチリ!」

 

鈴谷はまるで友達のように軽い敬礼でダンテにウィンクをする。

ダンテはチラと木曾の方を見る。目線があった木曾は、少しだけ身震いをする。

それは、ダンテには少し迷惑をかけたという自覚があるから。

 

「…大丈夫なのか?その…」

 

木曾はそう言いながら、口ごもる。

あの時、ダンテの心臓に刀を…

 

「気にするなよ。刀ってのも新鮮だったぜ。いつもは、こいつだからな。」

 

と、ダンテは背中のリベリオンを指差して笑う。

その言葉の真意を、鈴谷と木曾は理解することなどできなかったが、よほどいつもは酷い目にあっているということだけは伝わる。

 

「…それで、ダンテはどうしてここに?」

 

鈴谷が話題を変えるようにそう呟く。それを聞いて、思い出したかのようにダンテが指を鳴らす。

 

「こいつを渡しにきた。」

 

と、ダンテはコートのポケットをあさる。

そこから出てきたのは、紫色で星の形をした何か。

 

「綺麗な紫色だね。これは?」

「気にするな。こいつをいつも肌身離さず持ってな。」

 

鈴谷の言葉に、ダンテはただそう答える。それを聞いて、少し怪訝な表情を浮かべる鈴谷だったが、ダンテから物がもらえることに嬉しさを感じて素直にそれを受け取る。

 

「これに穴を開けてブレスレットにでもしようかな〜、ふひひ!」

「好きに使って構わないさ。」

 

ダンテはそれを聞いて、少しだけ楽しそうな笑みを浮かべる。

しかし、そんなダンテの下にその報せが届く。

 

「ダンテさん!大変なのです!」

 

電が息を切らして医務室へと駆け込んでくる。

それを見て、3人が少しだけ驚いたような表情を見せる。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

木曾が肩で息をする電にそう問いかけると、電がその表情を青ざめさせる。

 

「ダンテさんを、大本営に呼びつけるらしいのです…それも、無期限で…!」

「んなっ!?」

 

その言葉を聞いた木曾と鈴谷は、あまりの事態に言葉を失う。

大本営に無期限で呼びつけられる。その処置が取られるのは、あまりに極悪非道な行いをした鎮守府の提督か、上官の命令に何度も反抗した艦娘のどちらかだけである。

 

「そんなに悪いことなのか?」

 

そんな3人を尻目に、ダンテがよく分からないまま楽しそうに呟く。

それを見た電は、ため息まじりにこう告げる。

 

「軍の中で言うなれば、極刑の次に重い罰なのです…要は、大本営の方でずっと閉じ込められるのです…」

「…何か悪いことした心当たりはあるの?」

 

鈴谷もつられて呆れたような声を上げる。

ダンテは、それを聞いて笑いながら手を叩く。

 

「覚えがあったら、苦労はしないさ。」

「…まあ、それならすぐに戻ってこれるだろ。」

 

木曾も軽く笑いながらそう告げる。

確かに、何もしていないのだから、すぐに帰ってこれるというのはあり得るだろう。

だが、電の心には形容しがたいざわつきが出ていた。

 

「とにかく、1度執務室まで戻って欲しいのです。」

「そうかい。」

 

電の言葉を聞いたダンテは、軽く笑みを浮かべて医務室を退出する。

その心の中では、ニヤリとした笑みを浮かべていたのであった。

 

 

________________________

 

 

「…納得がいきません。」

 

提督が、電話越しにそう呟く。だが、電話の向こうからは無慈悲な返答。

 

『これは命令だ。』

 

大本営の人間は、そう冷酷なほどに落ち着いた声でそう告げて、そのまま電話を切る。

電話を持っていない方の手を強く握りしめて、提督は静かにため息をつく。

 

「…気にするなよ。俺が大本営に行けば済む話だ。」

 

ダンテがいつものソファへと腰掛けながら、足をテーブルに乗せる。

それを見て、提督は少し食い気味に反論する。

 

「それがおかしいんです…何故ダンテさんをわざわざ大本営に…!」

「俺が来る前の鎮守府に戻るだけさ。別に心配はいらないさ。」

 

ダンテはそう呟いて、軽くあくびをする。

提督はそんなダンテを見て、少し歯噛みする。

確かに、ダンテが来る前に戻るだけ。あの時の日常に戻るだけ。

だが、ダンテがこの鎮守府に来たことによって変わったことがたくさんある。

 

「…ダンテさんがいなくなってしまっては…この鎮守府は…」

 

だからこそ、提督は弱気に呟く。

己の非力さを、自分が艦娘のことを何ひとつまともに知らないことをマジマジと見せつけられて、自信がなくなってしまった。

それを見たダンテは、まるで提督がおかしなことを言っているかのように、笑いかける。

 

「おいおい、俺がやったことなんて些細なことさ。ここの提督は俺じゃないだろ?」

 

ダンテはそう言って、軽く手をあげる。

その言葉を聞いた提督は、少しだけ言葉に詰まる。

 

「…僕は…艦娘達を救うことができなかった…」

 

力なく呟いて、提督は静かに拳を握る。

南方棲鬼が鎮守府に侵攻して来た時、ダンテ無くして鎮守府を無傷で守ることはできなかったかもしれない。鈴谷のこともそうだ。ダンテがいなければ、鈴谷はそのまま帰って来ることもなかったかもしれない。

電だって、ずっと前から秘書艦として共に過ごして来たのに、その心の内を解消できたのはダンテ。

提督は、自分の存在が希薄になっていくのを感じる。全て、ダンテがいれば事足りる。

自分は必要のない存在。

 

「…そいつは違うな。」

 

と、ダンテがそう言ったことで、提督の思考を遮る。

 

「…違う…んですか?」

 

提督はそう呟いて、ダンテの方を見る。

いつの間にかソファから立ち上がり、両手を腰に当てて仁王立ちするダンテは、微笑みを浮かべていた。

 

「…俺は、悪魔の視点からあいつらを見ただけさ。人間の視点から見るのは、あんたの仕事だ。」

 

そう言って、ダンテは提督の目を見る。

その瞳の奥に宿った、人間としての感情を読み取る。

 

「…人間の視点…」

 

提督はポツリと呟く。

 

「…俺じゃあいつら全員を助けることなんてできない。それを俺が来るまでの間、誰が助けてやっていたんだ?」

「…はは、そんな言い方をされちゃ、僕も拗ねているわけにはいきませんね。」

 

提督は、大きくため息をついてダンテの言葉に応じる。

今まで、誰が艦娘のことを1番に考えて行動してきたのか。轟沈を出さぬように、そしてこき使ったりしないように細心の注意を払ってきたのは誰か。

 

「…これからも、僕が正しいと思ったようにやります。艦娘を守りたい。これからも、僕はその想いを胸に頑張りますよ。」

 

提督は自信に満ち溢れた表情でそう告げる。

ダンテはそれを見て軽く笑う。

 

「…そいつは良いな。楽しみにしてるぜ。」

 

そう呟いて、ダンテは身体を翻して部屋を出ようとする。

提督はそのダンテに声をかける。

 

「…すぐに戻ってこれるように計らいます。それまで待っていてください。」

 

提督の言葉に、ダンテは軽く右手を挙げることで答え、そのまま執務室を後にする。

太陽は真上に位置し、世界を照らし続ける。

 

 




全然関係ないですけど、敵キャラの中で1番好きなのはアルトアンジェロだったりします。(見た目と登場シーンが好きでした)

まあ、この作品では出ないんですけどね!


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本部


いよいよ、ダンテが大本営本部へとやってきます。




「…本当に行ってしまうんだな。」

 

武蔵は、少し不満げにそう呟いて、ダンテの方を見る。

だが、当の本人は楽しそうにストロベリーサンデーを頬張るのみで、何も気にしていない様子である。

 

「大袈裟だぜ。確かに、ここのストロベリーサンデーとピザが食べられなくなるのはかなり厳しいけどな。」

「…本当にお前は…まあいい。それがお前だから仕方がない。」

 

武蔵は、ダンテの全く動じない性格を改めて実感し、呆れた表情を浮かべる。

 

「…やはり、大本営がそんな理不尽な命令をしてくるなど、おかしい。もしかすると、何かしら裏があるのかもしれないな。」

 

隣の長門がそう呟いて、ダンテと同じようにストロベリーサンデーを頬張る。

それを聞いたダンテは、少しニヤリとした表情を浮かべる。

 

「おいおい、そんなこと言っていいのか?仮にもお前らの上司だろ?」

「知らん。私の上官は常に提督だけだ。」

 

長門はそうドヤ顔で言い放つ。それを聞いた武蔵はため息をつく。長門の言葉は、反逆と捉えられてもおかしくは無い。もちろん、それを上に報告するつもりもないが。

 

「…まあ、気をつけるんだな。お前のことだから、何があっても無事だろうが。」

「お褒めに預かり光栄だ。感謝するぜ、ムサシ。」

 

ダンテは、最後の一口を頬張って、そのまま座席を立ち、間宮を後にする。

後に残された長門と武蔵は、軽くため息をついた。

 

「…間宮。私にも1つくれないか。」

「はい、そう言うと思って、武蔵さんの分も用意しておきました。」

 

武蔵が口を開くと同時に、目の前にストロベリーサンデーが置かれる。

武蔵は、そのストロベリーサンデーにスプーンを突き立て、ただ口の中へと運ぶ。

ダンテだけでなく、艦娘にも愛されたストロベリーサンデーは、本日をもって終了するのであった。

 

 

______________________

 

 

 

「…この部屋ともお別れか。」

 

ダンテは少し感慨深く呟き、扉の前から辺りを見回す。

と言っても、使ったのはジュークボックスとベッドとシャワー室のみで、机は使ったどころか、触った覚えすらない。

 

「…それで、もうお迎えが来たか。」

 

ダンテは後ろへ振り返りながらそうたずねる。

そこには、長い金髪の女性が1人立っていた。白い軍服につけられたバッジは、大本営所属を示すものであり、この場に艦娘がいたら即座に敬礼をするであろう。

だが、ダンテはそれを見て軽くにやける。

 

「…今回は変装しないのか?トリッシュ。」

 

ダンテの言葉に、トリッシュは小さく笑みを浮かべる。

それはまるで妖艶な魔女のようにも見えるが、ただの微笑みのようにも見えた。

 

「…日本人って意外と抜けてるのね。このままでも問題なく潜入できたわ。それとも、前みたいなのが良かったかしら?」

「…どうでも良いだろ?さっさと連れてってくれ。大本営とやらにな。」

 

ダンテはそう言って、外へ向かって歩き始める。トリッシュはその後を、ゆったりとついて行く。

突然、ダンテは立ち止まって振り返る。

 

「で、どうなんだ?奴らは何をしてる?」

「私たちの想像通りだと思うけど?」

 

トリッシュはそう呟いて、ため息をつく。

ダンテはその言葉に、顔を少しだけ曇らせる。

奴らは艤装に金をかけ、艦娘と深海棲艦を作り上げた。

そして、今のこの戦い。それらが何を表しているかは明白である。

 

「…より強い兵器を作り上げて、どこまでやる気なんだろうな。」

「さあ?悪魔の私には分からないわ。」

 

トリッシュは、ただ興味なさそうに呟く。純粋に、悪魔の力が悪用されているという事実に比べれば、理由などどうでも良いのだ。

ダンテは、ニヤリと笑みを浮かべて、ため息をつく。

 

「…人間だけの戦争なら手を出さずに済んだんだが、悪魔の力を利用したのなら見逃せない。」

 

ダンテはまた身体を反転させて、歩き始める。

廊下を歩く足音が響き渡り、まるで死刑執行人のような雰囲気を醸し出す。

 

「…イかれたパーティーの始まりだぜ。」

 

ダンテは、不敵な笑みを浮かべて小さく呟くのであった。

 

 

______________________

 

 

「司令官さん!ダンテさんがどこにもいないのです…!」

 

電は慌てた様子で執務室のドアを開ける。それを見た提督は、少し微笑んだ表情を浮かべる。

 

「さっき挨拶に来た。みんなにお礼を伝えておいてくれと言われたよ。」

「!…もう行ってしまったのですか…」

 

提督の言葉を聞いて、少し残念そうに電は呟く。

最後にお礼を言いたかったのは、むしろ自分だったはずなのに。

心の中で呟いて、少しため息をつく。

 

「…ダンテさん、無事に帰ってこれると良いのです。」

「そうだな。」

 

電の言葉に、提督も頷く。

しかし、2人の表情は明るいものであった。

それは、そんなに時間もかからずにまたダンテと会えるような気がしたから。短い間しか共に過ごしていなかったが、ダンテの行動を見てきた自分たちは確信を持てる。

 

「とってもお世話になったのです。」

「ああ。感謝を伝えきれないな。」

 

2人はそう言い合って、静かに外を見る。

日は傾き始めたが、眩いほどの輝きを放っていた。

 

(ダンテさん…ご無事で。)

 

提督は心の中で、ただ祈るように呟くのであった。

 

 

______________________

 

 

「…それにしても、借りたやつ全部持ってきちまったな。」

 

ダンテはその手に、単装砲と艤装のブーツを持ちながら笑う。

本当ならば、借りていたものなのでそのまま返すのが筋であった。だが、今更戻って返すのもまた面倒な話である。

トリッシュはそれを見て、軽くため息をつく。

 

「…そのまま貰ったら?どうせ質に入れるんでしょ?」

 

ダンテは、トリッシュの皮肉に呆れ笑いを浮かべる。

 

「…まあ、全て終わったら返すさ。」

 

ダンテはそう言ってじっと視線を前に向ける。その視界に、高い建物が見えたからである。

50mほどの高さを誇る、その建造物。陸上から繋がる場所は道路が1つのみであり、それ以外は全て海に囲まれたその施設。

それこそが、全ての鎮守府を総括する大本営本部。

まっすぐに伸びるそのビルのような建物は、まるで魔剣教団本部のような静けさであり、テメンニグルのような不気味さを漂わせている。

ダンテは、それを見て軽く笑みを浮かべる。

 

「…さて、案内してくれ。」

「焦らなくても、ちゃんと案内するわよ。」

 

2人はその1本しかない道をゆっくりと歩きだす。

その表情は、余裕綽々といった感じであった。

 

 

 

その2人の影を、建物の屋上からじっと見る影が1つ。

 

「…来たな…スパーダの息子。」

 

技術局長が、凶悪な笑みを浮かべながら呟く。

その両手をギュッと力強く握りしめ、興奮を抑えようとする。

だが、それは効果なく、そのまま高笑いをしてしまう。

 

「…何としても、実験に有益な情報を得なければな…!」

 

技術局長は、ダンテの方を指差しながらそう呟く。

妖精なんかとは違う、世界で最も強い半人半魔の力を解析できれば、今の艦娘などよりももっと強い兵器が作れる。そう頭の中で考えながら。

 

「戦う必要はない…ただ、解析さえできればいいのだ…艦娘を何人か取り入らせれば…!」

 

技術局長は呟きながら、楽しそうな笑みを浮かべる。まるで、無邪気な子供のようだが、その目論見は、子供のイタズラ程度では済まされないだろう。

 

「…待っていてください、総帥…僕があなたをこの世界の頂点に…!!」

 

技術局長は、両手を広げながら天を仰ぐ。その表情は、まるで神を崇めるかのように晴れ晴れしいものであった。

空は、少しずつ曇り始め、不穏な空気が辺りを包み始めるのであった。

 

 





というわけで、最近話があまり進んでないような気がしますが…
もう少しお付き合いください…今後の展開のために必要なんです…泣

もう少しこちらに時間を割けるといいのに…



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新顔


お待たせしております!

やっと書けたので、続きを投稿します!

そして、お気に入り登録数が気がついたら600を超えてました!!
ありがとうございます!!


「すまんな、ダンテ。本来なら、こちらでなんとかするべきだっだのだが…」

 

広々としたエントランスにて、ダンテを待っていた元帥が申し訳なさそうに頭を下げる。

それを見て、ダンテは軽く笑みを浮かべる。

 

「気にするな。そういうこともあるさ。それで、連絡はしたのか?」

 

その言葉に、元帥は少し表情を固くする。

連絡。それは、ダンテから紹介があったデビルハンターとコンタクトを取ること。

元帥はため息をついて頭をガシガシとかく。

 

「…いや、まだだ。そのことを相談しようかと思ってな。」

 

元帥は、その視線を鋭いものへと変えて、ダンテをじっと睨む。

 

「…そいつは、本当に我々の力になるのか?」

 

元帥のその表情は、疑いを含むものであった。

それは、ダンテ自身の経歴と違い、その人物の経歴が全くと言っていいほどなかったためである。

実際、その人物の経歴が無いのは、当然と言うべきなのだが。

ダンテは笑みを浮かべて、軽く欠伸をする。

 

「…そうだな。断言はしないぜ。だが…」

 

その言葉を発した瞬間、その表情を鋭いものへと変える。

 

「…あいつはやってくれるさ。俺の勘だけどな。」

 

2人の間に、しばらくの沈黙が流れる。

たった10秒が、まるで数分にも感じられるほどの緊張感の中、2人は睨み合う。

 

「…がはははは!」

 

元帥が突然、手を叩きながら大声で笑い始める。

ダンテは軽くため息交じりに笑う。

 

「また付き合わせてしまったな!」

「…huh、人が悪いぜ。腹の中は決まってたんだな?」

 

ダンテは呆れたように両手をあげる。

元帥は、両手を合わせて頭を下げて、笑う。

 

「すまんな。だから、安心してここにいてくれ。まあ、暴れてくれても構わんがな。」

 

元帥は、少し毒を吐きながら舌打ちをする。どうやら、上の判断に対しての苛立ちが現れているらしい。

ダンテは、Ha-ha!と笑い、その表情を笑顔に変える。

 

「…分かった。俺は自由にやるさ。」

「…では、ダンテのことを頼むぞ。」

 

元帥は、後ろにずっと立っていたトリッシュにそう告げて、静かにその場を後にする。

トリッシュはそれを聞いて、静かに礼をする。

 

「…では、早速こちらへ。」

 

トリッシュはわざとらしく、丁寧な口調でダンテを案内する。

それを見て、ダンテはため息をつく。

 

「…面倒なこった、そんな堅苦しくなきゃいけないのか?」

「…それが仕事ですので。」

 

トリッシュは少し営業じみた笑顔でダンテにそう告げ、そのまま歩いて行ってしまった。

ダンテは、ため息まじりに笑って、その後をついていくのであった。

 

 

_______________________

 

 

「ここが、今日からあなたの部屋になるわ。」

 

そう言ってダンテが連れてこられた部屋は、シャワーとベッドのみで、あとは完全に白塗りで何もない立方体の箱のような場所である。

 

「…随分と殺風景だな。」

 

ダンテは一通り部屋を見渡して、そう呟く。

もちろん、ベッドとシャワーがあれば問題はないのだが。

 

「別に、監禁されるわけではないから、そこそこ自由があるわ。食堂なんかは出入り自由だし、そのうち総帥にも呼び出されるでしょうね。」

「そいつは結構なことで。」

 

ダンテは軽く笑いながら呟き、ベットの方へと歩み寄る。

そのまま、腰掛けて大きなあくびをする。

 

「それで?お前は鎮守府の仕事か?」

「ええ。あなたはここでじっとしていて。」

 

ダンテの言葉に、トリッシュはウインクをしながら部屋を出て行く。

その心は、しばらく監視の目を外すから自由にしていろ、といったところか。

 

「…悪いが、まだ動く気にはならないぜ。」

 

だが、ダンテは軽くベッドに寝転びながら目を瞑る。

 

「…どうせ、動くのは奴らの方さ。」

 

ダンテは、軽くニヤリとした表情を浮かべてそう呟くのであった。

 

 

______________________

 

 

「…風紀担当のあの女…一体何者なんだ?」

 

元帥は訝しげな表情を浮かべつつ、車を運転する。流れていく景色を、夕日が照らしていく。それを横目でチラと見て、元帥は少し心を落ち着かせる。

その助手席に、吹雪が楽しそうな笑みを浮かべて座っている。

 

「…何をそんなに楽しそうにしてるんだ?」

「だって!間宮さんのアイス無料券がこんなにですよ!」

 

吹雪は両手一杯に小さな券を持ちながら、ご満悦な表情を浮かべる。

それを呆れたような表情で見つめる元帥。

 

「…それは後で全員に配るからな。」

「えぇ〜!?だって、大本営の人から私にって言われたのに…!」

 

少し泣きそうな顔で吹雪がそう言うため、元帥は軽くため息をつく。

アイスを楽しみにしすぎて、完全に独りよがりの考え方をしてしまっているようだ。

 

「…さて。」

 

元帥はすぐにポケットを探りながら、携帯を取り出す。

それを見て、吹雪が少し慌てる。

 

「だ、ダメです〜!運転中の通話は…!」

「がはは!固いことを言うな!」

 

元帥は笑いながら吹雪の言葉にそう返答し、そのまま慣れた手つきで番号を押す。

ダンテから教えてもらった、その人物へと繋がる番号を。

 

「…まあ、成るように成るもんだからな。」

 

元帥は、そのままコールボタンへと指を動かす。

電話が繋がる音が、小さく響く。

 

「…もう、警察に止められても知りませんよ?」

 

吹雪がそうため息まじりに呟き、そっぽを向く。

そんなことなど気にもとめず、元帥はただ電話から聞こえるそのコール音に耳を傾ける。

そして、その時が訪れた。

 

『Devil may cry。』

 

若い男の声がそう帰ってくる。

それを聞いた元帥は、その顔をニヤリとしたものに変える。

それは、この日本に新しい悪魔狩人(Devil Hunter)がやってくるという事実を告げていた。

 

 

______________________

 

 

「ふぅ〜、今日のお仕事終わり〜!」

 

女性提督が、両腕を高く上げて伸びをする。長い髪はツインテールのようにしており、その上に軍帽を被っている。階級は大佐であり、未だ戦果は少ないものの、出世頭と名高い。

それを見た、1人の艦娘が軽く笑みを浮かべる。

 

「…提督。お茶を用意するよ。」

「ありがとう〜時雨〜!」

 

ひらひらと右手を振りながら、大佐はその表情を柔らかいものへと変える。

そのまま、時雨は部屋を出ようとする。

そこへ、黒電話のベルが鳴る。

 

「?…」

 

大佐は首を傾げながら、その受話器を取り、耳を当てる。

 

「はい、こちら呉鎮守府です。」

『大佐。調子はどうだ?』

 

と、その相手の声を聞いて、大佐はその表情を引き締める。

 

「元帥!お久しぶりです!」

『硬くなるんじゃない。お前に報告することがあってな。』

 

受話器の向こうから呆れた声が聞こえて、大佐は少し息をつく。

まさか、いつも何かと気にかけてくれている元帥から直接電話があるとは思っていなかったのだ。

 

「…それでは、何の用ですか?」

 

改めて、そう質問をすると、元帥からこんな言葉が投げかけられる。

 

『いやなに、お前の鎮守府にある人物を呼び込もうと思ってな。』

「ある人物…ですか。」

 

大佐は、すこし考え込むような仕草を浮かべて、頭の中に?マークを浮かべる。

元帥が呼び込むと言うほどの人物であれば、かなりの有名人の可能性もあり、大本営のお偉方の人間かもしれない。

 

『そいつは、かなり優遇してくれ。おそらく、この戦争において、欠かせない存在になる。だいたい3日後に来るはずだ。』

「えぇ…そんな人が何故私の鎮守府に?」

 

あまりの重要な任務を、自分のような人間に依頼する元帥の考えが、大佐は全く理解できなかった。

だからこそ、そんな言葉を返したのだが、元帥は気にも留めない。

 

『気にするな。お前ならやれる。頼むぞ。』

「えっ、ちょっと…って切れた〜!?」

 

そんな言葉を残されて、大佐は大騒ぎをする。

その一部始終をずっと見ていた時雨は、呆れたようなため息をつく。

 

「…提督、とりあえず、お茶でも飲んで落ち着こうよ。」

「ありがと時雨!って、今はそんな時じゃなくて〜!!」

 

あまりの温度差に、大佐は全てを投げ出したくなったような声で叫んだ。

この時、大佐は知らなかった。

この出来事が大きな渦となり、その中心に巻き込まれていくということを。

 





どう見ても主人公交代フラグです、本当にありがとうございました。
というわけで、ダンテさんはシークレットの方に回っていく感じになりそうです!

1週間に1回更新といったのに、早速それが出来てないという恐怖…


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青年

主人公が交代します!

しばらくネロの物語になりますので、まだまだお付き合いください!



「…飛行機ってのは退屈だな。」

 

空港のメインゲートの外、大きなケースを持った、短い銀髪の青年が小さく呟く。

青みがかった黒のロングコートを揺らしながら歩くその様は、ダンテのそれとよく似ている。

名前をネロ。フォルトナの一件を解決に導いた、功労者の1人である。

その青年は今、かなりの面倒事に巻き込まれている。

 

「…その迎えってのはどこだ?」

 

ネロは辺りを見回しながら面倒臭そうに呟く。

車の往来がそこそこ激しく、人通りも多い。そんな中から、自分から迎えを探すのは困難である。だから、向こうがこちらを見つけてくれるのを待つしかないのだが…

 

「…面倒だな。」

 

ネロがこうして日本にやって来たのは、ある1本の電話のためである。

現在日本が、海からの侵略者から攻撃を受けているという。それらは悪魔の存在に近く、これから世界中の海から地上を攻撃しかねないという。

ネロはフォルトナもそのターゲットになる可能性を考えて、そのままフォルトナに残ろうとしたが、キリエの『困っている人は助けてあげたい』という言葉のおかげで、ネロはその依頼を受けることになったのだ。

 

「…ネロさんですか?」

 

と、そんなネロのもとへと黒いスーツを身にまとった男が現れる。

ネロは少し日本語で話しかけられたことへ違和感を覚えながら、それに対して日本語で返そうと声をあげる。

 

「あんたが迎えか?」

「はい、これから呉鎮守府へお連れします。」

 

ネロの言葉にそう答える男性は、何か不安げな面持ちをしていた。

 

「…何か変か?」

 

ネロが怪訝な面持ちでその男性を見ながら、そう告げる。

それを聞いた男性はハッとした表情を浮かべてすぐさま申し訳なさそうな笑みを浮かべる。

 

「いえ、その…かなり大きな荷物なので、ギリギリ車のトランクに入るかどうか…」

 

そう言って、ネロが持っている大きなケースをじっと見る。

ネロは納得したように軽く頭をかく。

 

「…さっさと案内してくれ。俺は早めに仕事を終わらせなくちゃならないんだ。」

 

ネロは少し面倒臭そうにそう呟く。男は少し気を引き締めるように表情を固くする。

 

「わかりました。では、こちらへ。」

 

男がそう呟いて、歩き出す。その後を静かにネロはついていく。

その間、ネロはフォルトナとキリエのことを考える。

もし、今自分がいない時に悪魔が湧いてしまったら。

魔剣教団が崩壊した今、人々を守る力を持つものは誰もいない。

だが、それを電話の声は気にする必要はないと一蹴した。

 

「…ところで、俺がいない間のフォルトナはどうなるんだ?」

 

ネロは歩きながらそう呟くと、男は少し笑みを浮かべてこう返す。

 

「あなたのお知り合いが、なんとかしてくれたようです。」

「…知り合いだって?」

 

ネロはその言葉に、疑問を覚える。

知り合いとは一体誰を指すのだろうか。自分のことを知っている人物はフォルトナにしかいない。

と、そこまで考えて、フォルトナ以外での知り合いに当てはまる人物が1人思い出される。

 

「…まさかな。」

 

ネロは馬鹿らしいとでも言う風にため息をつく。

そうしているうちに、黒服が車の前で立ち止まり、そのままドアを開く。

 

「では、こちらへ。」

「…」

 

ネロはそのまま無言で車へと乗り込む。

中には2人ほどの人物がいたが、特に気にすることもなく窓から外を眺めていた。

 

「…では、行きます。」

「なるべく早く頼むぜ。」

 

運転手の言葉にネロはそう呟いてそのままヘッドホンを取り出す。

そして、耳につけるとそのまま爆音で音楽を流し始めるのであった。

 

 

______________________

 

 

「…うう〜、どうしよう…」

 

大佐は完全に焦っていた。

1時間後にはこの鎮守府に、元帥が言っていた人物がやってくるのだ。

しかし、後々話を聞いてその人物が海外の人だったり男性だったり軍属ではなかったりと、かなり自分の予想とは違う形でことが進んでいるため、頭の中が混乱しているのだ。

 

「…部屋の準備はできてるし、大丈夫だよ。」

「で、でもさ!相手はこの戦いを終わらせることができるぐらい凄い人なんだよ!?なんか粗相があったらまずいよ!!」

 

休憩中の秘書艦の時雨がそう告げても、大佐はそんな風にテンパりながら大声を張り上げる。

隣でそれを見た、時雨の姉妹艦である夕立がため息をつく。

 

「提督、落ち着くっぽい〜。」

「!…お、落ち着いてるわよ!」

 

夕立の言葉に反論するものの、むしろそれが落ち着いていないことの証明になっている。

時雨と夕立は、2人で苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「…それにしても、男の人ってなかなか会う機会がないから凄い楽しみだね。」

 

時雨がそう言って、一口お茶をすする。それに続いて、夕立は茶菓子を食べる。

そんな2人にジト目で視線を向ける大佐。

 

「…私は胃がキリキリと痛むけどね。」

「頑張ってよ、提督。」

 

大佐の言葉をそんな軽口で一蹴する時雨。

既に、彼女はまだ見ぬ来客に想いを馳せていた。もちろん、どんな人物なのか気になる、と言う意味で。

 

「…はぁ〜、誰か変わって〜…」

 

大佐はそう力なく呟き、机に伏す。

そんな大佐を少し、可哀想な目で見つつ、時雨達はそのまま休憩を取るのであった。

 

 

______________________

 

 

「…ここがそうなのか?」

 

呉鎮守府の正門の前、ネロはただ小さくそう呟いて辺りを見渡す。

軍の施設だと聞いたのに、意外にも警備や門番のような人物は立っておらず、なかなか自由に出入り出来るらしい。

 

「…確か、ここの司令に会えば良いって話だったな。」

 

ネロはそのまま、敷地の中へと足を踏み入れようと歩き始める。

しかし、その時1つの気配を感じた。

 

「!…」

 

ネロはそちらへと視線を向けると、既にその気配は刀を振り上げながら距離を詰めてきていた。

急いで自分が持っていた大きなケースを盾替わりに構える。

金属音が辺りに木霊する。

 

「…へぇ、不意打ちだったのにやるじゃねえか。」

 

そう言って、ニヤリと笑みを浮かべるその人物。左目には眼帯を付けており、刀は近未来のデザインのものを所持していた。

 

「…日本のサムライは正々堂々って聞いたが、嘘だったのかよ。」

 

ネロは面倒くさそうに呟いて、ケースで思いっきり刀を押し返す。

そのまま相手は少し距離を取るように軽く跳ぶ。

 

「…俺の名は天龍。フフフ…怖いか?」

 

その相手、天龍はそう呟いてネロへとその満足そうな笑みを向ける。

対するネロは、少しばかり面倒くさそうな表情を浮かべる。

 

「…ここではいきなり斬りかかるのが挨拶なのか?」

「お前が提督の言ってたやつだろ?だから腕試ししたんだよ。」

 

天龍はネロの質問に対して、なんとも楽しそうな笑顔でそう答える。

その悪戯っ子のような表情を見て、なんだかネロは怒る気にもなれずにただため息をつく。

 

「…そうかよ。さっさとここの司令官に話を付けたいんだ。」

 

ネロはそう言って、天龍の横を通り過ぎて建物の方へと歩き続ける。

しかし、天龍はそんなネロの右手を掴んで引き止める。

 

「まあ、待てよ。話だけでも…って…?」

 

天龍はその時に気がつく。

今掴んだネロの右手が、普通の感触とは違うのだ。

天龍はその視線を少しずつ下ろす。

そして、それを見た。

明らかに異常な形をしており、おおよそ人間の手とは思えないほどの禍々しさを持つ右手。

ネロはしまったと言った表情を浮かべて頭を軽く抱える。

 

「お前…その右手…」

「こんな早々バレる予定じゃなかったんだけどな…」

 

天龍が言葉を失っているのを見て、ネロは鼻の頭をかく。

悪魔の右腕(Devil Bringer)。キリエにしか打ち明けていない、この右腕。この腕のおかげで、フォルトナの一件は解決したと言っても過言では無い。

だが、それと同時に、多くの人間からは恐怖の象徴と見られてもおかしく無い。

だからこそ、極力人前でそれを出すつもりはなかったのだが。

天龍はその右腕を凝視したまま固まっている。

 

「…もう良いだろ?離してくれよ。」

 

ネロはそう言って、その手を振りほどこうとする。

だが、その直後、その動作はキャンセルすることになる。

 

「…ちょ、超カッケェ!!!」

「……何?」

 

ネロはあまりの唐突な展開に、そんな声を上げることしかできなかった。

天龍はその目をキラキラと輝かせており、テンションが一気に上がっているようだ。

 

「これあれか!?特殊能力とかあるのか!?」

「おい…待てよ、何だいきなり?」

 

あまりのテンションの落差にネロはもはやついていけず、何も返答できなくなっていた。

対する天龍は、ネロの右腕を隅々まで凝視しながらただ興奮気味に色々と質問を投げかける。

 

「スゲェ…本当にこんな人間が居たんだな…!この青く輝いてるのは何なんだ!?」

「…日本ってのはこんなやつばっかりなのか?」

 

ネロは呆れ返ったように呟き、軽く天を仰ぐ。

フォルトナから十数時間、既に彼は疲れ切っていた。

 




最近1週間更新が出来てなくて本当に申し訳ないです!
気長に待っていただければ幸いです!

本当に後は書くだけなのに…
なかなか時間が取れなくて…泣


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仕事

いつもお待たせしております!

しばらく戦闘はないので、軽く流してもらえれば!


「…こほん、えっと…色々とすみません。悪い子じゃないんです。」

 

執務室の中、大佐はソファに腰掛けて、そう呟く。その向かいの来客用の椅子には、少し不機嫌そうなネロが座っていた。

結論から言うと、ネロは天龍をいなすことができず、そのまま執務室まで歩いてきた。歩きながらずっと質問を受けていたネロは、他の艦娘達の注目を一気に浴びてしまい、続々と人が集まってきた。はたから見れば、多くの女子を侍らせるイケメンの構図なのだが、本人は心底疲れていた。

そこを、大佐が見つけて、慌ててみんなを制止するという事態になってしまった。

 

「…ここは女しかいねえのか?」

「な、なはは…そうなりますね…」

 

ネロの言葉に、大佐は苦笑いをしながらそう答える。

ネロはその事実を聞いて、さらに表情を曇らせる。

日本の海軍は、女性を戦わせる。そのことが頭に引っかかっていた。

 

「…それで、俺の仕事は?」

「えっと、一応、元帥に聞いたところ、あなたのお仕事は深海棲艦の攻撃を食い止めることです。」

 

大佐の言葉に、ネロは少しため息をつく。

電話の相手が言っていたことと同じ話であり、どうやら一晩では決着はつきそうにない大掛かりな仕事だということが理解できた。

 

「…いいさ、やってやるよ。」

 

ネロは静かにそう呟いて目を閉じる。

 

「では、お仕事のお話はここまでにして、早速お部屋の方にご案内しますね!」

 

そう言って楽しそうな笑みを浮かべた大佐は、ソファから立ち上がってそのままドアの方へと歩く。

 

「…頼むよ。」

 

ネロは表情を特に変えずに、そばにあったレッドクイーンのケースを手にとって、大佐の後へとついて行くのであった。

 

 

______________________

 

 

執務室前、4人の艦娘がドアに耳を当てて、中の様子を伺っている。

秘書艦の時雨を筆頭に、夕立、天龍、そして龍田の4人である。

時雨が、ひそひそ声で天龍に尋ねる。

 

「…それで?どうだったの?」

「どうって、まだ何も聞けてねえよ。提督に途中で止められちまったからな。」

 

天龍は隣の時雨にそう告げる。質問攻めにしていた途中で、大佐にバレてしまったため、すぐに止められてしまったのだ。

その言葉に、龍田が大きなため息をつく。

 

「…天龍ちゃん、怒られたりしないかな〜。」

「ばっ、馬鹿な!俺は別に怒られることなんて何も…」

 

天龍はそこまで呟いて、自分がやったことをよく思い出して見る。

いきなりやってきた来客に攻撃。そして、その来客に質問攻めで困惑させ、そのまま提督に止められるまでそれを続けた。

むしろ、怒られる可能性の方が高いという結論に至るまで、そう時間はかからなかった。

 

「…むしろ、怒られない方がおかしいっぽい。」

 

夕立はそう言いながら天龍に少し呆れたような笑みを浮かべる。

大佐が怒ると、もう誰も彼女を止めることはできないことは、この鎮守府では共通認識である。

天龍は、狼狽しきった表情を浮かべて震えだす。

 

「…ま、まさか…そんな怒られるなんてことは…」

 

その時、執務室のドアが開く。

当然、耳を当てていた時雨たちはそのまま部屋へとなだれ込んでしまう。

 

「「「わぁ!?」」」

 

天龍が下敷きになり、その上に時雨と夕立が覆いかぶさる形になってしまった。

それを見た大佐の表情が、みるみるうちに豹変していく。

 

「…何やってるの?」

「…あ、あははは…」

 

大佐の表情を見て、時雨は青ざめた顔でそう笑う。それは形容できないほどに恐ろしいものであった。

ネロはその様子を後ろで見て、ため息をつく。

 

「…3人とも、覚悟はいいね?」

「…先に出てるぜ。」

 

ネロはそう言って、そのままドアの外へと出ていく。それを確認して、大佐は時雨たちを執務室の中にいれたまま、ドアを閉める。

そして、大佐はゆっくりと3人の目の前まで歩き、仁王立ちする。

 

「…て、提督…その…」

「言いたいことは?」

 

時雨のそんな言葉に対して、無慈悲に響く大佐の声。あまりにも無機質な声。

何かを言おうとするが、喉は完全に乾いてしまい、うまく声が出せない。3人は完全に恐怖していた。

その時、天龍はあることに気がつく。先ほどまで一緒にいた、もう1人の存在のことである。

 

「!…そうだ!龍田は…!?」

 

と、そこまで呟いた天龍は、手の中に一枚のメモを握っていることに気がつく。

そこには可愛い字でこう書かれていた。

 

『ごめんね〜、あとは任せたわ〜』

「…ば、馬鹿な…いつの間に…!?」

 

天龍は、頭の中で龍田に怒りを覚えながらそう呟く。だが、その目の前の恐怖から解放されることはない。

大佐はその表情を、一切変えることなく3人と対峙する。

 

「…じゃあ、そういうことだから…」

「…は、はひ…」

 

3人は、しばらく執務室で固まることしかできなかった。

 

 

______________________

 

 

「お待たせしてすみません!」

 

大佐は笑顔でそう言って、執務室から出てくる。

ネロは数分間外で待っていたのだが、中からは物音一つしなかった。中から漂う気配が異常だったが。

 

「では、早速案内しますね!」

「…ああ、頼む。」

 

大佐の言葉に頷くことしかできないネロは、そのまま後をついていく。

チラと執務室の方を見るが、3人が出てくる気配はない。何があったか非常に気になるが、今は特に気にしないようにするしかない。

 

「ここがそのお部屋です!」

 

と、大佐が意気揚々とした声でそう叫ぶ。

ネロはそれを聞いて、そちらへ視線を戻すと、ドアを開いて楽しそうな視線を向ける大佐がいた。

 

「あっ、靴は脱いでくださいね!」

 

大佐の言葉に軽く右腕を挙げて応じ、そのまま部屋の中を見る。

中はそこそこ広く、ベッドとデスク、シャワールームにジュークボックスである。

 

「日本なのに、タタミってやつはないのか?」

 

ネロは、日本のことについて色々と調べたのだが、その中の一つ、畳は少し興味があった。

もしかすると、という少し期待はあったのだが…

 

「あっ…もしかして、畳が良かったですか…?」

 

大佐はしょんぼりしながらネロにそう告げる。

 

「…いや、こっちの方が慣れてるし、助かるよ。」

 

ネロはブーツを脱いで、部屋の中へと足を踏み入れる。

そして、レッドクイーンのケースを床へと置き、そのまま開く。

 

「少し拝見させてもらっても?」

 

そう言って、大佐も靴を脱いでネロの側へと駆け寄っていく。

ネロはそれを気にせず、レッドクイーンを組み立てる作業に入る。

一つ一つの部品を丁寧に、かつ迅速に組み上げていく。ガチャリ、という金属音があたりに響き渡る。大佐もその手際の良さに見とれていた。

たった数十秒の間で、ネロはその大剣レッドクイーンを組み立てる。

 

「凄い…!」

 

その出来上がったレッドクイーンを見て、大佐はそう呟く。

ネロはそれを背中へと装備して、試すように持ち手の部分のアクセルを捻る。ブルンッ!という激しい音と共に、レッドクイーンが火を噴く。それを確認してから、やっと落ち着いたかのような表情を浮かべる。

 

「…はっ、そうだ!」

 

そこまでの動作をずっと見ていた大佐は、ハッとした表情を浮かべてそう呟く。

 

「2時間後に執務室の方に来てください!長旅でお疲れでしょうし、それまではお部屋でゆっくりしていてください!」

 

大佐はそう告げて、そのまま部屋を出ていく。

ネロは大佐の言葉をそのまま頭の中で反芻する。

 

「…2時間ね。」

 

ネロはそう呟いて、ドアの方へと歩を進める。

その表情は、少し曇っているように見えた。

 

「…その間は散策させてもらうぜ。」

 

ネロはそのまま、ブーツを履いて外へ向かうのであった。

 

 




もうそろ、ダンテの方のシークレットも動かして行く予定です!

少々お待ちを!

追記:
大変お待たせしております!!
今現在、続きを執筆中ですので、もう1週間ほどお待ちください!!


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右腕


大変お待たせいたしました!!

やっと続きに着手できたので、心機一転ここからまた頑張ります!!


「元帥、無事にネロさんは到着しました。」

 

大佐は、電話の受話器にそう告げる。その電話の相手は、大本営本部にいる元帥である。

電話の向こうの元帥は、ふうむ、と満足そうな声を上げる。

 

『ご苦労。しばらくの間、彼の世話を頼むぞ。』

「はい、了解しました!」

 

元帥の言葉に、大佐は受話器越しに敬礼をして、その電話が切れるのを待つ。その敬礼は、元帥には絶対に見えることはないので、意味がないのだが。

しばらくして、ガチャリ、と電話が切れたのを伝える音がなる。それを聞いて、大佐は両目を閉じて息を吐く。

 

「…はぁ…疲れた…」

 

大佐はそのままぐったりとした表情を浮かべ、執務机にへたり込む。

その目の前に、先ほどの一件のおかげで、天龍と時雨と夕立が正座をさせられている。

 

「…ねえ、提督。僕たちはいつまでこうしていれば良いのかな?」

 

時雨が、少し苦笑いでそう問いかける。ネロを部屋に案内して、その後元帥へと電話をかけている間、ずっと正座していたのだ。もうそろそろ、両足の限界が来ていた。

しかし、その言葉にジト目で反応する大佐。

 

「…反省するまでそうしてなさい。」

「もう十分反省したっぽい〜…」

 

大佐の無慈悲な言葉に、夕立はぐったりと首を項垂れる。全てを諦めたようなそんな雰囲気が漂っていた。

天龍はそんな中、静かにただ黙りこくる。

 

「…なあ、あいつ、ネロっていうのか?」

 

天龍は少し陰る面持ちで呟く。

それを見た大佐は、少し不思議そうな表情を浮かべる。

 

「…そうだよ。ネロさん。」

 

大佐の言葉に、天龍は考え込むような表情を浮かべ、そのままこう呟く。

 

「…なんてこった…カッコ良すぎかよ…」

「…何の話?」

 

大佐は軽く頭を抱えて、そう天龍に返答する。正直、何を言っているのか分からないという事実。

 

「…でも、なんだかネロはかっこいいよね。」

 

時雨はそう呟いて、軽くぽうっとした表情を浮かべる。

それを見た夕立は、ニヤニヤとした笑みで時雨の肩をつつく。

 

「もしかして、好きになっちゃったっぽい〜?」

「!…そんなことはないよ!」

 

夕立の言葉に、時雨は顔を赤くして反論する。それを見て、またまた〜、と夕立が楽しそうに微笑む。

そんな光景を、大佐はただぼんやりと眺めていた。

 

(なんだか、みんなが楽しそうだなぁ。)

 

大佐はそんなことをしみじみ思いながら、微笑みを浮かべるのであった。

 

 

______________________

 

 

外を散策し始めていたネロ。通りかかった艦娘達にひたすら声をかけられ、その都度軽く話をしていた。そして、しっかりとこの鎮守府の女性の割合が異常だという現実を突きつけられていた。

そんなネロが工廠の前を通りかかると、またも強烈な個性を持った艦娘に相対する。

 

「ぱんぱかぱーん♪ようこそ呉鎮守府へ!」

 

そう言いながら、両手を広げるその艦娘。高雄型重巡洋艦2番艦の愛宕という。髪型はセミロングの金髪であり、服装は青いキャビンアテンダントのような制服を着用、頭には同じく青色の丸帽子を被っている。

彼女のそのテンションの高さに、ネロはただ戸惑うだけであった。

 

「…なんなんだよここは…」

 

まるで異界にやってきてしまったかのような感覚を覚えて、ネロは呟く。神の胎内に比べれば、まだここは平和な分マシだ、と言われるかもしれないが。

愛宕はそんなネロを、キョトンとした表情で見つめる。

 

「…あんまりお気に召さなかった?」

「…だったらなんだよ?」

 

愛宕の質問を、そんな面倒くさそうな表情で返すネロ。

明らかに好意的ではない反応を示すその姿を見た愛宕は、困ったような表情を浮かべて、考え込む。

 

「歓迎したつもりだったんだけど、失敗しちゃったかな?残念。」

「…」

 

愛宕のそんな微笑みの表情に、ネロはただ呆れるように沈黙する。

そこへ少しずつ近寄ってくる影。高雄型重巡の1番艦の高雄である。

 

「…全く、困らせているじゃない。」

「あら、高雄。演習は終わったの?」

 

高雄の言葉に、笑顔で答える愛宕。

高雄も愛宕と同じように、青い制服に身を包み、丸帽子を被っている。髪型は愛宕とは全く違い、黒髪のボブヘアーである。

高雄はネロと愛宕の両方を見て、軽くため息をつく。

 

「…妹がごめんなさい。でも、悪気があるわけじゃないの。」

「…だろうな。」

 

ネロもその点については納得したらしく、そう返答する。正直、ネロが愛宕に対して抱いたのは、戸惑いだけなので、謝られるほどのことではないと思っていたが、素直にその言葉を受け取っておく。

 

「それにしても、男の人がここに配属なんて、初めてだわ。」

 

高雄がそう珍しそうに呟くと、ネロはため息をつく。

それは今まで話して来た艦娘達全員に言われたことであった。今までこの鎮守府に、男性が着任したことはないということ。

 

「ここはマジで女しかいないみたいだな。」

「うふふ、この鎮守府は提督も女の子だし、本当に男の人はいないわね♪もちろん、他の鎮守府でなら、男の人に会ったことはあるわよ?」

 

愛宕は楽しそうに笑みを浮かべて、ネロに視線を向ける。そして、右腕をじっくりと見る。

その視線に気がついたネロは、その右腕を隠すことなく、堂々とそれを見せるだけであった。

 

「…この右腕、どうなってるの?」

「さあな、それは俺にも分からねえよ。」

 

フォルトナにいた頃、任務中に右腕を負傷した。

それが原因で、右腕はこの異様な形へと変貌して行ったのだ。

故に、この右腕がどんなものなのかを正確に説明することはできない。だが、この右腕は彼を何度も窮地から救ったのも事実である。

 

「…まあ、俺の相棒みたいなやつさ。」

「相棒…?」

 

ネロの言葉を聞いた2人は、少し考え込むような表情を浮かべる。右腕が相棒という感覚に違和感を覚えたのだが、それは自分たちの艤装と同じようなことなのかもしれない、と無理やり頭の中で納得させる。

 

その瞬間、あたりにけたたましい警報音が響く。

 

「!?…」

 

高雄はそれを聞いた瞬間、愛宕へと視線を向ける。愛宕もその音を聞いたことで、一瞬で思考を巡らせる。警報がなったということは…

 

「近場で戦闘か、偵察が敵艦隊を発見したか…」

「とにかく、戦闘準備を!!」

 

高雄と愛宕はそう呟きながら、艤装を取りにいくために走る。

取り残されたネロは、その様子を黙って見守る。

 

「…そうかよ。」

 

ネロはそう呟いて、遠くの水平線を見る。何かが見えるわけではない。だが、その向こうから感じる気配。

 

「…さっさと終わらせて、フォルトナに戻らなきゃいけないしな。」

 

ネロはそう呟いて、右手を強く握りしめた。

 

 

 

______________________

 

 

「…急いでこちらから援軍を送ります。持ちこたえてください!」

 

大佐は電話に向かってそう叫び、そのまま電話を切る。そして、すぐに時雨達に指示を出す。

 

「第1艦隊の編成を、愛宕、高雄、時雨、夕立、隼鷹、飛鷹!第2艦隊は、天龍、白露、村雨!第3艦隊は、龍田、睦月、如月、弥生で編成!確実に味方の救援を成功させて!!」

「了解!」

 

先ほどまでの和やかな雰囲気から打って変わって、その場の全員が真剣な表情を浮かべていた。

戦闘前という緊張感に包まれ、それぞれの目の色が変わる。

 

「では、健闘を祈ります!」

 

大佐のその言葉を皮切りに、時雨達は部屋を急いで出ていく。

大佐は、ただ1人執務室に残されたまま、じんわりと滲む汗を拭う。

 

「…大丈夫…みんなを信じるんだから…」

 

大佐は自分に言い聞かせるように呟いて、椅子に座り込むのであった。

太陽は傾き始め、新たな戦いを呼び寄せる。

 

 

 





さて、次回からネロ編の初戦闘になると思います!
スタイリッシュに決めたい…!!


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敵襲



何か今回の章が非常に長くなってしまっている気がしますが…

とにかく!続きでございます!


 

 

 

「くっ…!!」

 

朝潮型駆逐艦1番艦の朝潮は、確実に今の状況を絶望的と見ていた。

自分の後ろには、姉妹艦である大潮と満潮が大破の状態で苦しんでいる。そして、朝潮自身も中破状態である。

そして、目の前には、大本営からも危険な敵と言われる、戦艦レ級が佇んでいた。

 

「…ツマラナイナ。」

 

戦艦レ級は欠伸をしながら、飽きてしまったような表情を浮かべている。

このままでは、3人とも生きて帰ることが出来ないかもしれない。朝潮の頭の中に、そんな最悪な未来がよぎる。

朝潮は歯を食いしばり、戦艦レ級に鋭い目線を向ける。

 

「…オヤ…?」

 

そんなことなど露知らず、レ級は遠くから近づいてくるその影を見た。

その瞬間、レ級を爆煙が包む。

 

「!?…」

 

朝潮はそれに驚愕し、それを凝視する。

その朝潮と爆煙の間に割って入るように、艦娘が1人やってくる。

第1艦隊旗艦、高雄である。

 

「こちら高雄!救援に間に合いました!」

 

高雄が通信機に向かってそう叫ぶと同時に、第1艦隊の面々が朝潮達を保護するように囲む。

 

「…あの…あなた方は…?」

 

朝潮は、恐る恐る尋ねる。それに対して、時雨は微笑みながら返答する。

 

「呉鎮守府所属の時雨だよ。とにかく、一回君達を保護するね。」

「あ、あの…大潮と満潮が…!!」

 

朝潮は、時雨に縋るように叫ぶ。

何としても、妹達を救ってほしいと願うその姿に、隣にいた夕立もその表情を柔らかくする。

 

「大丈夫!私たちが助けるっぽい!!」

「夕立、時雨!そこの3人を頼むよ〜!!」

 

と、隼鷹がそう叫ぶと同時に、爆煙が晴れていく。

そこには、全く傷を負っていない戦艦レ級が立っていた。

 

「…ヘェ、重巡モ中々ヤルジャナイカ。」

 

戦艦レ級は、そう言いながら凶悪な笑みを浮かべる。

高雄と愛宕は、すぐに主砲を戦艦レ級へと向ける。隼鷹と飛鷹も艦載機をいつでも放てるように構える。

戦艦レ級はその目で、愛宕達を順番に見ていく。

 

「…マァ、イイ…軽ク相手シテアゲルヨ。」

 

戦艦レ級は尻尾についている砲塔を愛宕へと向ける。

高雄はそれを見て、表情を硬くする。

ただでさえ、大本営から危険視されている戦艦レ級との対峙にも関わらず、負傷状態の駆逐艦3隻を援護しながら戦わなければならない。

しかし、戦艦レ級はため息をついてその砲塔を降ろす。

 

「…ト、言イタイトコロダケド、今日ハ見逃シテヤル。」

「!?…」

 

その言葉に、高雄達は驚愕の表情を浮かべる。

それは、高雄達にとって前代未聞の出来事であったからだ。

 

「…どういう風の吹きまわし?」

 

愛宕が怪訝な表情でそう尋ねる。

それに対して、戦艦レ級は面倒くさそうな表情を浮かべる。

 

「…君達ガココニ来タ時点デ、必要ガナクナッタンダヨ。モウ、僕ノ仲間ガ色々頑張ッテイルトコロダロウシネ。」

「!…まさか!?」

 

高雄は通信機へと叫ぶ。

 

「皆さん!!急いで鎮守府へ帰還してください!!」

 

 

______________________

 

 

「…嘘…!?」

 

湾頭に立つ大佐は、恐怖に足を震わせていた。

近海に、空母棲鬼が率いる小規模の艦隊が近づいてきているのを視認したからである。

 

「…何とかしなきゃ…!!」

 

大佐はすぐに工廠へと走る。

今は動ける艦娘が1人もいない。ならば、自分で何とかするしかない。

このまま、みんなが帰る場所を失うわけにはいかない。

 

「…すぐに建造して、艦隊を編成しなきゃ…!!」

「なあ、あれが深海棲艦なのか?」

 

そんな大佐の目の前に、ネロが腕を組んで立っていた。

その様子は、面倒くさそうな反面、やっと出番が来たか、と言わんばかりの表情であった。

 

「本当に海の上を動き回ってんだな。」

「ネロさん…」

 

大佐は、そのネロの表情を見て確信していた。

間違いなく、彼は戦う気だと。

 

「…ネロさん。時間稼ぎをお願いできますか?」

「それは無理だろうな。」

 

ネロはそう言って、左手に、『回転式拳銃』ブルーローズを海に向ける。その瞬間、海面から駆逐イ級が飛び出し、ネロへと飛びかかる。

イ級はその口内の主砲を放とうと口を大きく開く。

 

「その前に全滅しちまうからな。」

 

ネロはそう呟くと、その引き金を3回引く。

一度の射撃につき2発の弾丸が射出されるため、イ級の身体に合計6発の弾丸が突き刺さる。

弾丸の勢いに、イ級は後ろに飛ばされ、海面に力強く叩きつけられる。

 

「!…」

 

大佐はその光景を見て、言葉を失っていた。

駆逐イ級をあれだけの動作で倒してしまうことへの驚き。深海棲艦と遭遇しても全く動じないその立ち姿への憧憬。

何よりも、自分と同じぐらいの青年が出すものではないほどの余裕が見えることへの切なさ。それほどの死線をくぐり抜けてきたということの証明。

 

「…なあ、俺も海の上に浮けないのか?」

 

ネロはそう呟きながら、海を見る。大佐はそれを聞いて思いついたのは、艦娘か履いているブーツである。

ただ、それは人体にはかなり危険なものだと言うことを大佐は聞いていた。

しかし、その問題すらもネロならば超えられるというなぜか確信があった。

 

「…艦娘用のブーツを持ってきます!それならば海に受けると思います!!」

「そうかよ。なら、俺は先にあいつらをぶっ飛ばしてくるぜ。」

 

と、ネロは大佐の言葉を聞くと同時に、海面に浮く駆逐イ級へと飛び移る。それと同時に、レッドクイーンをイ級の身体へと突き刺す。

 

「!…ネロさん!?」

「そのうち戻るぜ。」

 

ネロはそのまま、レッドクイーンの柄の部分を捻る。

推進剤が火を噴き、剣を包みこむ。それと同時に、イ級の身体が海面を走る。

そのスピードは、艦娘たちにも引けを取らないほどであった。

 

「!!…凄い…!?」

 

あっという間に離れていくネロを、大佐はただ見守ることしかできない。

しかし、すぐにネロのために何をすべきかを思い出し、ハッとなる。

 

「急いで取りに行かなきゃ…!!」

 

大佐は工廠へと急いで走った。

このままネロだけに任せるわけには行かない。そう心の中で思っていた。

 

 

_____________________

 

 

「…オカシイ。」

 

空母棲鬼は、ただ小さく呟く。艦娘達が全く出てこないため、戦闘もなく鎮守府に近づいてこれたことに、何とも言えない不安がある。

こちらは駆逐イ級3隻、重巡リ級2隻と、そんなに大規模な艦隊ではない。

だからこそ、ここまで無傷で来れることがおかしいのだが。

 

「…ドウヤラ、戦艦レ級ガ時間稼ギヲシテイタヨウデス。」

「?…関係ナイ我々ニ何故協力スル?」

 

重巡リ級の言葉に、純粋な疑問を浮かべる空母棲鬼。

別に敵同士であるわけではないが、わざわざ援護をしてもらう理由もない。

しかし、それでこのまま止まる理由もない。

 

「…マアイイ、攻撃ヲ…」

「!…アレハ…何ダ…!?」

 

もう1人の重巡リ級がそう呟くのを聞いた空母棲鬼は、そちらを見る。

そこには、大きな波を立てて進む何かの影が見えた。

 

「?…艦娘カ…イヤ…違ウナ…!?」

 

空母棲鬼は自分の艦載機の艦爆を5機発艦させる。

その影へと向けて、攻撃を開始するように念じる。

しかし、その影はその艦爆を全部撃ち落とす。

 

「!…バカナ…!?」

 

空母棲鬼は焦りの表情を浮かべる。

まるで艦娘なんかを相手にすることよりも、何か危険な感じがするのを身体が感じていた。

 

「何トシテモ止メナケレバ!!」

「了解!!」

 

その影へと、全艦が砲撃を開始する。しかし、その砲撃は当たらない。

次々と飛来する砲弾を、その影はするりとかわしていく。

 

「何故当タラナイ…!?」

 

重巡リ級はそう歯を食いしばりながら呟く。

その瞬間、重巡リ級は身体を撃ち抜かれ、勢いよく後ろへと仰け反る。

 

「!?…」

 

それを横目で見た空母棲鬼は、恐怖を感じる。

何が起きたのか理解できないという感触だけが頭に残る。

その敵が少しずつ近づいてくる。

 

 

_____________________

 

 

「…何だよ、あんまり手応えがないな。」

 

ネロがそう呟くのを、空母棲鬼は明らかに恐ろしいものに出会ったかなような目で見る。

しかし、ここで引くわけには行かない。それだけが空母棲鬼の頭の中をよぎる。

 

「…フフフ…楽シミハ取ッテオクベキヨ。」

 

空母棲鬼はただ落ち着いた様子でそう返す。それに対して、ネロはため息をつきながら、軽く手をあげる。

 

「そうかよ…」

 

ネロはブルーローズを素早く抜いて、その銃口を空母棲鬼へと向ける。

 

「!?…」

「Bye Bye!…Ha-ha!」

 

空母棲鬼が驚くのを尻目に、そう笑みを浮かべて呟きながら、クルクルとブルーローズを回してホルスターへとしまう。

それは明らかな挑発。空母棲鬼がワナワナと震えだす。

 

「…沈メル…!!!」

 

空母棲鬼はそう力強く呟いて、目を光らせる。

それを見たネロは、少し驚く。それがデビルトリガーに似ているということに気がついたのだ。

 

「…やっぱり悪魔か。」

 

ネロは少し面倒くさそうに呟くと、ブルーローズの銃口を空母棲鬼へと向ける。

両者の間に静寂が流れ、戦いの時を告げようとしていた。

 

 

 

 

 






何とか週一投稿をしようと思ったのですが…1日ズレました…すみません…!!

ただ、これからもゆっくりとやりたいと思いますので、今後もよろしくお願いします!!


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強者


久々にMGS:PWをやったら、思いの外楽しくてデータ消してまたやり直してたら朝になってました…

というわけで、今回の章最終話でございます!


 

 

「クッソ…!!」

 

天龍が率いる第2艦隊は全速力で鎮守府へと向かう。

まさか、戦艦レ級を囮にして鎮守府へ侵攻を行うとは。想像もしていなかった展開であった。

第2、第3艦隊は第1艦隊の援護に回るという指示があったため、全速力で進んでも5分はかかってしまう。

そして、5分もあれば、艦娘が出払っていてほとんどいない鎮守府は…

 

「もう…早く戻らなきゃいけないのに…!!」

 

白露型駆逐艦、白露がそう呟きながら焦りの表情を浮かべる。その隣の村雨も、青ざめたような表情を浮かべる。

これ以上スピードを出せないことへの苛立ち。そして、鎮守府が無事であってくれという祈り。

その2つが混ざり合って、心の中をぐちゃぐちゃにしていく。

 

「とにかく、急ぐしかねえだろ!」

 

天龍は振り返らずに、そう言い放つ。もちろん、そんなことなどみんな分かっている。それでも、そう呟くしかないのだ。

それ以外に手はないのだから。

 

「…無事でいろよ…提督…!」

 

天龍は顔つきを険しくして呟く。

何とか持ちこたえてくれと、頭の中で叫びながら。

 

 

_____________________

 

 

「サッサト沈メナサイ!!」

 

空母棲鬼が叫ぶと同時に、駆逐イ級と重巡リ級の主砲が爆音をあげる。その弾道は、一直線にネロを捉えていた。

だが、ネロもそれをただ食らうわけがない。レッドクイーンのエンジンをふかし、下の駆逐イ級を加速させ、一気に艦隊へと近づく。

 

「Foooo!!」

 

そのまま駆逐イ級からレッドクイーンを引き抜いて、高くジャンプする。

そのまま直線に移動した駆逐イ級の身体は、重巡リ級の方へと飛んでいく。

 

「!?…」

 

重巡リ級はあまりの事態に戸惑い、そのまま立ち尽くすことしかできなかった。

そのままイ級の身体がリ級にぶつかり、轟音を上げる。炎に包まれ、苦しみの咆哮をあげながらリ級は沈んでいく。

その間に、ネロは別の駆逐イ級へとレッドクイーンを突き立て、勢いよく刺す。

そのまま右手を出し、もう1体のイ級を掴んで遠くへと投げる。

投げられたイ級は大きな声をあげて海面にぶつかり、そのまま沈んでいく。

 

「!!…何ナンダアイツハ…!?」

 

空母棲鬼はその光景に恐怖を覚える。

今まで敵を散々沈めてきた。艦娘だけでなく、人間の輸送船や、護衛艦なんかも。

それらと対峙する時、自分が絶対的に優位に立つことが多かった。そうやって、確実な勝利をジワジワと楽しんで、狡猾な狩人のように追い詰めていくことで自分の心を満たしてきた。

だが、今はどうだろうか。明らかな実力差。そして、今までの敵とは全く違う戦闘スタイル。

むしろ狩られているのは自分の方ではないか。

 

喰らえ(Catch this)!」

 

ネロはそのまま、さらにもう一体のイ級へとブルーローズを放つ。

弾丸はスピンしながら、イ級の主砲へと突き刺さる。大きな爆煙が起きた瞬間に、イ級はそのまま深い海へと沈んでいく。

ネロはそれを確認すると、少し離れたところにいる空母棲鬼へ視線を向ける。

 

「…後はお前だけだな。」

 

ネロはそう言いながら、面倒くさそうに右手を握りしめてまた開く動作を何回か繰り返す。その右腕を見てしまった空母棲鬼は息がつまる。

先ほどまでは全く意識していなかったが、その右手があまりにも異質なものであった。

人間ではないその右腕。

 

「…オマエ…何者ダ…ソノ右腕ハ一体…?」

 

空母棲鬼は少し後ずさりしながらそう呟く。それを聞いたネロは、軽く頭をかきながら息を吐く。

 

「…さあな。こっちも迷惑してんだ。」

 

ネロのその言葉を聞いた空母棲鬼は、絶対的な敗北を感じていた。

未知なる力を持つその敵に、どう足掻けば勝てるというのか。

だが、戦いを諦めたつもりはなかった。

 

「…ソウカ…」

 

空母棲鬼はそう呟きながら、艦載機を発艦させる。

その数は、25機以上。白くて丸い歪な形をした機体が、あたりをかなりの速度で飛び回っている。

 

「…ナラ…全力デ戦ウ。例エ、死ヌコトニナッテモ。」

 

空母棲鬼がそう呟くと同時に、その両目は紅く光った。ネロはそれを見て、ハッ、と軽く笑う。

 

「そうかよ。なら、こっちも本気だぜ。」

 

そう呟いたネロの身体を、少しずつ青白い光が包んでいく。その光が少しずつ集まっていき、ネロの背後に魔人を作り上げる。

 

「!…」

 

空母棲鬼はその巨大な姿に、息を呑む。だが、それで立ち止まるわけにはいかない。

空母棲鬼が右手をあげると同時に、艦載機達がネロへと突撃をかける。

爆撃機がネロの直上へと爆弾を投下し、攻撃機がネロが足場にしているその駆逐イ級を沈めようと雷撃を行う。

 

大きな水柱と爆煙があがり、あたりを包む。

 

空母棲鬼はその爆風に臆することなくただその場に立ち、じっと爆煙が晴れるのを待つ。

しばらく静寂があたりを支配し、数秒の時間が流れた。

その刹那、煙が晴れると同時に、自身の目の前に長く伸びた右腕が迫っているのが見えた。

空母棲鬼は一瞬で理解した。その腕が、先ほどまで立っていたあの青年のものであることを。

 

「!?…ガァァ!?」

 

その腕に身体を掴まれるや否や、空母棲鬼はネロの方へと引き寄せられる。

空母棲鬼は時間がスローモーションになったように感じていた。その先でネロが力を溜めるように、腰を落として刀を構えているのが見えたのだ。

 

いくぜ(It's beginning)!」

 

ネロは空母棲鬼が目の前に近づいてくると同時に、閻魔刀を振り抜いて、その腹部を勢い良く斬りつける。

 

「カハッ…!?」

 

痛みのせいで、空母棲鬼は後ろへと吹き飛ばされ、そのまま海面を2mほど転がっていく。

ネロが閻魔刀を鞘に収めると、右腕に吸い込まれていく。それと同時に、背後にいた魔人も消えていく。

 

「…アァ…最悪ナ気分ダ…」

 

空母棲鬼は立ち上がろうとするも、痛みによって身体は言うことを聞かず、なんとか片膝をつくことしかできなかった。

 

「…ダガ…何故カ心ハ安ライデイル…」

 

空母棲鬼は顔を少しだけ動かす。

立ち上がれはしないが、なんとかネロの方を向く。

その顔を見たネロは、少しだけ違和感を覚える。

 

「…悪魔じゃないのか?」

「悪魔…?マア…散々人間ヲ殺シテキタンダ…ソウ思ワレテモ仕方ナイカ…」

 

ネロが少し眉をひそめてそう呟くのに対し、空母棲鬼は朦朧としかける意識の中でなんとか返答する。

 

「…純粋ニ闘イヲ突キ詰メタ結果ガコレナラ…マア構ワナイ…」

 

空母棲鬼はそう呟いて、笑みを浮かべる。

それは、寂しさと悲しさを含んだ笑みであり、ネロは目を逸らす。

まるでその姿が、人間に見えたのだ。

 

「…アァ…海…冷タい…」

 

そう言って、空母棲鬼は前に倒れこむ。ネロはそれを見て、何故かキリエのことを思い出す。

ネロはすぐに駆け寄って空母棲鬼を抱きとめる。

 

「…何だってんだ…」

 

ネロは小さく苛立ちながらそう呟く。何故自分がそうしたのかはわからない。

ただ、このまま放っておけば、何故かキリエが悲しむような気がした。

 

「おい!!ネロ!!大丈夫なのか!?」

 

遠くから、そんな大声が聞こえる。

ネロはそちらに目をやると、天龍達の第2艦隊が近くまで来ていた。

その天龍達の表情は非常に切迫したものであり、鎮守府が本当に心配なのだろう。

 

「…そろそろ俺も戻らなきゃな。」

 

自分の足元を見ると、魔力で形成した足場がもう崩れ始めてしまっている。

普段は一瞬だけ作り出す足場を、これだけ長く保っているのだ。慣れないことをすれば、そんなことにもなる。

ネロは少しため息をつく。

 

「…さっさと戻るか。」

 

ネロはそう呟くと、背中に空母棲鬼を背負いながら、鎮守府の方へと向かって右手を伸ばす。

日は傾き始め、闇がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

坊や(kid)に任せるのはどうかと思ったが、これも1つの楽しみさ。フォルトナはあいつに任せてるしな。にしても、退屈だ。もっと楽しいことが起きなきゃ、俺は満足しないぜ。

Mission 7
How boring


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Mission7 〜 How boring 〜
保護





すみません、気がついたらすごい時間が空いてしまいました…汗
1週間があっという間に立ってしまうので、困惑してます…

というわけで、新章でござんす!
ダンテだけでなく、皆様にも退屈な時間が流れるかもしれませんが、しばらく戦闘はなしです…!



「…嘘…?」

 

湾頭まで戻って来た大佐は、あたりの海が静寂に包まれていることに気がつく。

どうやら、戦闘が既に終わってしまったらしい。そこかしこで黒煙が上がっているのが見える。

大佐はその瞬間に気がつく。ネロの姿が、海上には見えないのだ。

考えられる最悪の事態。

 

「…まさか…ネロさん!!」

「何だよ?」

 

と、大佐のすぐ横からそんな声が聞こえる。

大佐は、ひゃあ!?と声をあげながらそちらを見る。

無傷のネロがそこには立っていた。

頭を軽くかきながら、面倒くさそうな表情を浮かべている。

大佐は一応安心したのか、ホッとため息をつく。

 

「…ぶ、無事だったんですね…」

「…一応な。」

 

ネロはそう呟きながら、後ろに背負っていたそれを下ろす。それを見て、大佐は声にならない悲鳴をあげる。

その少女は、多くの資料で見たことがある姿。そして、先ほど湾頭で確認したものであったからだ。

 

「く、く、空母棲鬼!?」

 

大佐はそう叫んで、尻餅をつく。まるで、悪魔と相対した時の人間のように。

ネロはそのまま、チラと空母棲鬼の方を見る。

戦っている時とは違い、白い髪が黒く染まっており、表情も何だか優しそうなものに見えた。

だからこそ、その言葉が出てきたのだ。

 

「…こいつを治療してやってくれ。」

「ち、治療ですか…?」

 

大佐はネロの言葉を聞き返す。

敵を助けるとなると、軍法会議にかけられる可能性も高く、最悪の場合なら処分を受けることになるかもしれない。

だが、ネロの言葉は、それをさせるだけの権限がある。

「…わかりました。では、すぐに彼女を治療します!」

「頼むぜ。」

 

ネロはそう呟きながら、そのまま大佐の手に持っているブーツを軽く見る。

それが、海に浮くことができる道具であると、頭で理解した。

大佐はその視線に気がつき、慌てて説明をする。

 

「…さっき言っていた、その艦娘用のブーツです!これ、ネロさんなら使えますかね?」

「後で試してみるよ。とりあえず、こいつはどこに運べば良い?」

 

ネロはそう告げて、そのまま空母棲鬼に手をかけようとする。

が、その瞬間、背後からの殺気を感じ、そちらの方を少しだけ見る。

 

「…なあ、色々と聞きてえことはあるんだけどな。」

 

そこには、軍刀をネロの首筋に当てながら、まるで鬼神のような表情を浮かべている天龍が立っていた。

まるで、相手を視線だけで殺せるほどの殺気。

 

「…まず、何でこいつを助けた。敵なんだぞ?」

 

天龍はそう力強く言い放つ。

刀を持つ手が軽く震えている。それは、ネロに対しての怒りか、それとも。

大佐はそれを見て、慌てたような表情を浮かべて声を上げる。

 

「ま、待って!ネロさんは訳あって…!」

「構わねえよ。俺が説明した方がいいだろうしな。」

 

ネロはそう呟いて立ち上がり、天龍の方へと向きなおる。

その表情は、いつものような面倒臭そうなものであった。

 

「…こいつをなぜ助けたかは、勘だ。」

「勘…?」

 

天龍がそう呟いた瞬間、その刀の刃の部分をネロが右手で掴む。

 

「!…」

 

天龍はそれを見て、少し驚きながら刀を引こうとする。

だが、刀はビクともせず、引くことはおろか動かすことすらできない。

ネロは軽くため息をつきながら、その刀を離して両手を上げる。

 

「…こいつは何だか、ただの敵には思えない。お前らと近い存在に見える。だから助けた。俺の勘はまあまあ信頼できるぜ。」

「…っ…何だと?」

 

天龍はその一瞬の出来事に焦ったが、ネロが敵対する気は全くないことを理解し、それ以上は何もできなかった。

それに、ネロの言葉。空母棲鬼が自分たちに近い存在。それは、空母棲鬼に限った話なのか、それとも…

ネロはそのまま踵を返し、その場を去ろうとする。

天龍は深く息を吐いて、刀を鞘に収めながら呟いた。

 

「…分かった。じゃあ、もう1つ質問だ。」

「…何だよ、まだあるのか?」

ネロはそれを聞くと、天龍の方へと振り返って力強く言い放つ。しかし、その瞬間にネロは後悔していた。

天龍が目を輝かせていたのに気が付いてしまったからである。

 

「その腕めちゃくちゃ伸びてたな!!まさか鎮守府のクレーンまで伸びてくとは思わなかったぜ!!」

 

天龍の言葉に、大佐とネロは思わず呆れた表情を浮かべていた。

ネロが鎮守府へ戻る時、右腕で鎮守府のクレーンを掴み、そのまま身体を引き寄せる形をとったのだ。

その時天龍が、興味津々な目で見ていたのに、ネロは気がつかなかった。

 

「…そのことかよ。どうでもいいだろ。」

「そんなわけあるかよ!!あんなにカッコいいの見せつけられて気にならない方がおかしいだろ!!お前のその秘密、全部暴いてやるからな!!」

 

天龍の言葉を心底面倒くさそうな表情で適当にあしらうネロ。それに対して、ひたすら最高潮のテンションでネロに質問攻めをする天龍。

それをただ見守る大佐は、ため息をつきながら微笑む。

 

(何だかんだ、2人は真逆の性格なのにいいコンビになりそうね。)

 

心の中でそう呟いて、大佐はただ遠くの水平線を見る。

そこには、戻ってきた他の艦隊が見えていた。

 

 

_____________

 

 

「…それで本当になんとかなるのか?暴れられたらさすがに俺たちじゃ対応できないぜ?」

 

そうつぶやく天竜の視線の先には、ベッドの上で横たわる空母棲姫がいた。

ベッドの横には、生命維持に必要な機材が所狭しと並んでいる。その機材の調整をしている艦娘が1人。

 

「…まあ、このまましっかりと機材が動いてくれたら問題ないんだけどね。」

 

夕張型軽巡洋艦1番艦『夕張』は、そうつぶやいて汗をぬぐう。

ここにある機材は空母棲姫の生命維持をしていると同時に、その力を抑制する働きも持っている。

この機材が無ければ、空母棲姫が目覚めたときにどうなることか。

 

「…にしても、大本営のデータとは全然違うわね。何というか、艦娘と近い雰囲気。どういうことかしら?」

 

夕張はそう呟いて、手に持っていた深海棲艦の資料をじっと見る。

その資料と、機材に表示されている空母棲鬼のデータを見比べている。

確かに、深海棲艦の空母棲鬼の型ではあるが、所々相違点があり、その相違点の中に艦娘との共通点が見られるのだ。

天龍は、少し思い出したかのようにあっ、と声を上げる。

 

「…ネロもそんなことを言ってたな。」

「…じゃあ、艦娘と深海棲艦の関係が何か分かるかもしれないわね…!」

 

天龍が少し俯きながら呟くのに対して、夕張はそう呟きながら笑みを浮かべていた。全くもって、邪気がない笑み。

それを見て、なんだか天龍は気味悪く感じてしまう。

 

「…なんで嬉しそうなんだよ。」

「だって!もしかしたら、この戦いを終わらせられるかもしれないんだから!」

 

夕張は天龍にそう告げてまた資料へと目を通す。

はっきり言えば、天龍にとって深海棲艦とは敵でしかなかった。

だから今までは散々打ち倒してきたし、これからもそうだと思っていた。

だが、仮に深海棲艦は艦娘と関係があるのだとしたら…

今まで倒してきた『深海棲艦』は一体何だったのだろうか。

 

「…んなこと考えたくもねえな。」

 

天龍は小さな声で呟いて、そのまま静かに目を閉じた。

仮にそれが事実だったとしても、今の自分にはどうすることもできないのだから。

 

「?…何か言った?」

「気にすんな。ただの独り言だよ。」

 

天龍は夕張の問いにそう返して、そのまま部屋を出て行く。

夕張はそれを不思議そうに見るが、しばらくするとまた資料へと目を向けるのであった。

天龍の心中は、決して穏やかではなかった。

 






そう言えば気がついたら、話数をそこそこ重ねてましたね笑

50話突破したら何かやりたいけど、でもだからと言ってネタも思いつかないので何もやらない気がする…笑


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平穏


続きを行かせていただきます!
ダンテの話もそろそろ書かなきゃ(使命感)

あと、質問にもあったので載せておきます!
バージルが持っているのは、閻魔刀とは違う日本刀であり、ネロは普通に閻魔刀を持ってます!

(UndertaleがPS4とVitaで移植と聞いて、なかなか楽しみにしてます。
だが、日本語訳をなぜ非公式パッチのままにしてくれなかったんだ…)


 

日が沈み、あたりを暗闇が支配する夜の時間。月明かりが照らす中、ネロは先ほど渡されたブーツを見る。

一目見るだけでは分からないが、触れてみてわかったことがいくつかある。

 

「…悪魔とはね。」

 

ネロはそう呟いて、ブーツを履いてみる。

すると、何かしらの悪魔の感覚が流れ込んでくる。

ネロはそれをただ面倒臭そうな表情で感じ取り、そのままため息をつく。

 

「とりあえず、やってみるか。」

 

そう呟くと、ネロはそのまま海に向かって高く飛び上がる。

重力に従って海面へと落ちていき、そのまま…

水面に立つことに成功する。

 

「便利なもんだな。」

 

ネロは安心したような表情でそう呟く。

魔力形成で海の上に足場を作れるのはほんの短い間のみであり、それ以外の移動はレッドクイーンを使って敵を踏み台にするしかない。

それが必要なくなるというのは、実質海上でもいつも通りの戦闘を行えるということである。

いつものスタイルであれば、ネロは敵をレッドクイーンとデビルブリンガー、そしてブルーローズを用いた戦闘術で敵を翻弄できる。

 

「…海からくる()()と、この道具の魔力がキーワードってところか?」

 

ネロはそう呟いて陸に上がる。そのまま部屋へと向かおうと思い、歩き始める。

と、そこへ通りがかる影が1つ。

 

「おっ?ネロじゃねえか。」

「…天龍か。」

 

ネロは少し面倒臭そうな表情を浮かべながらそう返し、歩みを止める。

対する天龍は、笑顔でネロへと寄っていく。

 

「もしかして、さっき貰ってたブーツを試してたのか?」

「ああ、そうだよ。何とか使えそうだ。」

 

天龍がそう尋ねると、ネロは軽く不敵な笑みを浮かべて、そう返す。

それを聞いた天龍は、少し嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

「本当かよ?そしたらさ、明日の昼に俺とネロで対決しないか?海の上でさ!」

「…なんだって?」

 

ネロは天龍の言葉にそう返す。

対決、というのは、おそらく実戦形式の演習ということであろう。それも、普段は海に慣れている天龍と、ほぼ初めて海上戦闘をするネロとの2人で。

 

「練習としても悪くないだろ?ほら、艤装の慣らし運転みたいな感じでさ。」

 

天龍はなんとかその約束を取り付けたいようで、必死に説得している。

確かに、練習を行うためにはそういう訓練はかなり効果的である。だが、そうなると特をするのは天龍ではなく、ネロだけである。それでもやりたいと言うことは、何かしら思惑があるのだろうか。

ネロは軽くため息をついて、両手を挙げた。

 

「…わかったよ。やってやるさ。慣らしは大事だしな。」

「よっしゃあ!楽しみにしてるからな!」

 

天龍はそれを聞いたと同時に、自室の方へと歩き始めていた。心なしか、上機嫌のようにも見える。

ネロは、その対決をただ海上戦闘のノウハウを覚えるための時間と認識することにした。

天龍が離れていくのをみて、ネロは軽く上を見上げる。

 

「…?」

 

そこで、ネロは執務室を見る。

電気がついているのを確認し、不審な表情を浮かべる。

 

「…まだ仕事してるのか。」

 

ネロはそう言いながら、執務室へと歩き出す。本来は部屋に戻る気でいたのだが、せっかく用意してくれたのだから、それのお礼も伝えておくべきだと思ったのだ。

まだ夜は始まったばかり。あたりは静寂に包まれている。

 

 

_____________________

 

 

執務室では、大佐が1人執務机に向かってただ書類の整理をしている。先ほどまで戦闘があったなど、信じられないほどの静けさに、大佐はただ孤独を感じるのであった。

大佐の表情は少し険しく、ペンが走る音もかなり遅い。

大佐は、小さくため息をついた。

 

「…はぁ…疲れた。」

 

パタンとペンを置き、そのまま軽く伸びをする。時刻は深夜0時。外は完全に暗闇に包まれており、本来大佐のそばにいるべき秘書艦すらいない。外では、施設のクレーンの赤いランプが点滅しており、まるで生き物のようにも見える。

しばらくすると、書類が積み上げられている執務机に倒れこむ。

 

「はぁ…何で先に時雨寝かしちゃったかなぁ…」

 

大佐は自分の判断を悔いながら、そう呟く。

夜になれば、あたりがこんなに静かになって不気味になることは容易に想像ができたし、さらに言えばこの書類を1人で捌けるとも思っていなかった。

何故そうしたかと言えば、時雨が疲れた表情をしていたのを見て、放っておけなくなった、というべきか。

そこまで考えて、大佐はまたため息をつく。

 

「…私には、みんなと違ってこれぐらいのことしかできないんだから、頑張らなきゃ。」

 

そう呟きながら身体を起こしながら書類を見る。戦えない自分は、こうするしか艦娘の皆に貢献できる方法はないのだ。

と同時に、執務室のドアが開く。

 

「まだ起きてるのか?」

 

その声を聞いて大佐は顔を上げると、そこには先ほど渡したブーツを持ったネロが立っていた。

ネロはそのまま、ソファの方へと歩み寄っていく。

 

「あっ…ネロさん。まだ書類があって。」

「…そうかよ。これはしばらく借りるぜ。使えそうだからな。」

 

ネロはそのままドカッとソファに座り、そのまま身体を楽な体勢にする。

大佐はもはや誰も起きてないと思っていたので、ネロがわざわざ来てくれたことに驚いた。

ネロは天井を見上げながら、目を瞑っている。

大佐は少し息を呑みながら、先ほどのネロの言葉に答えようと口を動かす。

 

「…構いませんよ。むしろ、使ってもらいたいです。せっかくですしね。」

「わかった。遠慮なく使わせてもらうぜ。」

 

大佐の言葉に、ネロはそのままの体勢で返答する。

大佐はそのまま、ホッとした様子で書類へと手を伸ばす。

書類にサインをして、また新しい書類を取る。それを何度も繰り返していく。

 

「…結構残ってるな。終わるのか?」

 

ネロは顔を起こして大佐の方を向きながらそう呟く。

そのまま大佐はペンを持ち、書類を整理しながら返答する。

 

「大丈夫です。何とかなりますよ。」

「…そうかよ。」

 

ネロはただそう返答だけして、再び天井へと顔を向ける。

書類をまた1枚なんとか処理した大佐は、そのまま次の書類へと手を伸ばす。

その書類は通知のようで、どうやら技術局長が近日中に視察に来るらしい。

承認のハンコを押して、書類を処理していく。

 

「…なあ、そういえば気になってたんだが。」

 

そう前置きして、ネロは大佐の方を見る。

大佐は少し不思議そうな顔をして、ネロの方を見る。

 

「?…なんですか?」

「…ですとか、ますとか、その面倒臭い喋り方はなんとかならねえか?日本の独特なのか?」

 

ネロはそう言いながら、少し不機嫌そうな表情を浮かべる。

大佐は少し困惑した様子で、戸惑う。

 

「…えっと、その…一応、ネロさんは来客ですし…敬語を使う方が良いかなぁ、と思ったんですけど…」

「…その来客からの頼みだぜ。」

 

そんな大佐を尻目に、ネロは不敵な笑みでそう告げる。

大佐はそれを聞いて、ん〜…と唸りながら考え込む。

ネロと大佐の年齢はほとんど同じであり、敬語を使うほどの年の差はない。だからこそ、ネロが違和感を覚えるのだろう

そう考えれば、ネロの言うことにも一理あると、大佐は納得する。

意を決した大佐は、よし!と少し大きな声で呟く。

 

「…分かりました。それでしたら、敬語は無しでいきます!」

「…なんだよ、まだ直ってないぜ?」

 

ネロは呆れながらそう言って、ただ笑うだけであった。大佐も少し照れたような笑みを浮かべて頭をかく。

 

「…えっと、じゃあ、よろしく。ネロくん。今日は本当にありがとう。」

「…気にするなよ。あれが俺の仕事だからな。」

 

大佐の感謝の言葉に、ネロはただそう返す。

和やかな空気の中、時間は過ぎていく。

 

 

 





なにやら、大佐ちゃんとネロの雰囲気が急速に良くなるかも?(適当)

とりあえず、この章は状況説明とかがメインになるかもしれません。


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圧倒



気がついたら、日曜に…

ともあれ、続きでございます!!


 

「…勝手に決めるのはちょっと困るよ。」

 

時刻は朝の10時を回ったところである。朝日は少し高く登り始め、頂点を目指している。

執務室の中、大佐はネロと天龍が交わした約束を聞いて、少し困惑したような表情を浮かべていた。

2人は勝手に演習を組んでしまったため、許可を取っていないのである。

天龍はそんな大佐を尻目に、笑顔で返答する。

 

「良いだろ?ネロも俺も、それぞれ練度上げに持ってこいじゃねえか!」

「そうかもしれないけど…だからといって、それをなぜ相談しないのよ…」

 

大佐は天龍にそう告げて、ため息を深く付いていた。

そんな2人が話している執務室に、ネロが眠そうな表情を浮かべながら入ってくる。

それを見て、天龍はおっ、と声を上げる。

 

「おっ、ネロ!よく眠れたか?」

「…まあな。朝から何を話してるんだ?」

 

天龍の言葉に、ネロはそう返しながらソファまで歩み寄り、そのままドカッと座る。

まだ完全な覚醒状態ではないのか、あまりハキハキとしていない。

 

「天龍と演習の約束をしたの?」

「!?…」

 

天龍は、大佐のフランクな言葉に驚く。

昨日まではあれだけ他人行儀だったのに、突然のこの距離の縮まり方。それをなんだか、腹立たしいと感じてしまうのは何故だろうか。

そんな天龍をよそに、ネロは右手を軽くあげて大佐の言葉に答える。

 

「…あぁ、そうだな。昨日の夜にしたぜ。」

「…もう、勝手にそういうことは約束しちゃダメだよ?」

 

大佐は少し怒ったような表情でそう呟く。

だが、大佐はすぐにその近くにあった用紙を手にとって、サインをする。

 

「はい。じゃあ、鎮守府前海域を使っての演習を許可します!」

「!…良いのか?」

 

ネロは大佐の言葉に疑問を持ちながらそう返す。

それに対して、ただ笑顔で大佐はVサインを作る。

 

「良いよ。だって、その方がネロくんにとっても良さそうだし!」

「…じゃあ、決まりだな!」

 

大佐の言葉に、天龍はただそう呟いて両手を合わせて、パキパキと指を鳴らす。先ほどの感情は、とりあえずよくわからないので放っておくことにした。

ネロもそれを見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「…やってやるさ。」

 

ネロはそう呟きながら、窓の外を見る。

太陽の光が反射して、海が輝いているように見えた。

 

 

_____________________

 

 

波は穏やかで、静かな海。そんな海上に立つ、2つの影。

ネロと天龍は、互いに向き合いながら落ち着いた表情を浮かべている。

 

「…ルールは説明した通り、お互いに1回でも倒れたら負け。武器の使用は自由でいくぜ。」

「…なあ、本当にそんな感じでいいのか?」

 

天龍の説明に、ネロは少し呆れた表情を浮かべてそう呟く。

その言葉に、天龍はニヤリとした表情を浮かべている。

 

「…大丈夫だって。演習弾だから、ちょっと痛いだけだって。」

 

天龍はそう言いながら、自分の艤装に付いた砲塔を軽く見る。

実弾の使用は禁止されているので、演習弾に換装したのだ。もちろん、威力は健在しているので、素直に当たればただ痛みは走る。

 

「…そうじゃねえよ。1回倒れたら終わりなんだろ?」

 

ネロはそう言いながら、頭の後ろで手を組んだ。

 

「あっという間に終わっちまわねえか?」

 

その言葉に、天龍は余裕綽々な笑みを浮かべる。

 

「…そこらへんは考えてある。ネロの火力は強いけど、対策してあるからな。」

「…そうかよ。」

 

ネロはそう呟いて、楽しそうな表情を浮かべる。

それに応じるように、天龍も右手を軽く上げる。

 

「…んじゃあ、とっとと始めようぜ…なぁ!?」

 

天龍はそう言いながら、ネロに主砲を向ける。

ネロは頭を掻きながら、大きく息を吐く。

 

「…随分とおてんばなお嬢さんだ。痛い目見ても知らねえぞ。」

 

ネロはそう言いながら、レッドクイーンのエンジンをふかす。

天龍とネロの間に、張り詰めた緊張感が走った。

 

 

_____________________

 

 

「…?」

 

ベッドの上、空母棲鬼が目を覚ます。

電灯はついていないが、周りにある機材からの明かりで部屋は明るくなっている。

空母棲鬼は身体を起こそうとする。が、その動作は止められる。

 

「あっ、目が覚めた?ごめんね。検査の時に暴れられると困るから、ベルトで身体は拘束させてもらってるんだ。」

 

空母棲鬼は、そんな風に語りかけるポニーテールの少女、夕張の方を見る。

その言葉を聞いて視界を自分の身体に下ろして見ると、確かに固そうなベルトが自分の身体を縛っているのが見えた。

 

「…きついとは思うけど、我慢してね。もう少しで解析が終わるから。」

 

夕張の言葉を聞いた空母棲鬼は、自分に何が起きたかを冷静に思い出して見る。

確か、あの時、あの男に斬りつけられたのだ。

白い髪、大きな大剣と日本刀。まるで作り物のような、それでいて自分たちに似ているような右手。

 

「…あの男は…」

 

と、空母棲鬼は呻くように呟く。

それを聞いた夕張は、驚きつつ、その言葉に返答する。

 

「?…あ、ネロのこと?」

「…ネロ…」

 

空母棲鬼は、その男がネロという名前だということを初めて認識した。

頭の中で、ネロという存在が頭の中でこだまする。それは、興味が湧いたということなのか。

 

「ネロなら確か…今は演習中だったはず。」

 

夕張はそう言いながら、携帯型端末のデータを見ている。

あと何分で解析が終わる、という表示が消える。

 

「よし、完了。」

「…そのネロのところに連れて行ってくれない?」

 

空母棲鬼はそう言って、ただぼんやりと天井を眺める。

今のこの状況を作り出したその男に、会って直接話を聞きたい。こう思うのは、悪いことだろうか。

夕張は、少し考え込むような仕草をする。

 

「…そうね。解析であなたが絶対に武装をしていないことも証明されたし、別にいいよ?」

「…意外ね。仮にも敵の言うことを聞くつもり?」

 

空母棲鬼は、断られると思っていたのだが、あまりにも簡単に許可が出るので驚いた。

夕張はそれに対して、屈託のない笑みを浮かべる。

 

「…まあ、非武装の深海棲艦に負けるほど、私たちヤワじゃないしね。」

「…そう。」

 

空母棲鬼は、少しため息交じりでそう呟く。何はともあれ、今は動けるようにしてもらえるならそれが1番である。

夕張はそのまま、空母棲鬼の方へと歩み寄って行く。

 

「じゃあベルト外すから、ちょっと待っててね。」

 

夕張はそのまま、ベルトを1つずつ外して行く。

空母棲鬼は、ただぼんやりと天井を眺めるだけであった。

 

 

_____________________

 

 

「…オラオラ!行くぜ!!」

 

天龍はそう叫びながら、主砲を3発ほど放つ。弾道は完璧にネロを捉えていた。

もちろん、ネロが黙ってそれを喰らうわけがないのだが。

 

「C'mon!」

 

ネロはコートの内側からブルーローズを取り出し、引鉄を2回引く。4発の弾丸が、3発の砲弾を貫き、爆煙をあげる。

 

「!…クソ…!」

 

天龍はすぐにその場から離れ、煙が発生した地点から距離を取る。

眼帯が光り、暗視モードに切り替わる。煙を透過して、向こう側が見える。

向こうでじっと立っている姿が見える。

 

「…尋常じゃねえな。飛んでくる砲弾に銃弾ぶつけてくるなんてよ。」

 

天龍はそう呟いて、冷や汗をかく。仮に、敵がそんな技を使って来たらと思うと、ただ恐怖心しか湧かない。

 

「…Hoo!」

 

それを聞いた瞬間、天龍は身体が硬直した。ネロは叫びながら、自分へとその右腕を伸ばしていたのだ。

それを視認したと同時に、両手で顔を覆う。

しかし、全身が掴まれるほどの衝撃がすぐに襲ってくる。

 

「グッ…!?」

 

天龍の身体はネロの方に引きつけられ、そのままゴロゴロと海面を転がって行く。

途中で海水が口の中に入るが、それを止められない。

ネロの足元で、天龍の勢いが止まる。

 

「ゲホッゲホッ…!?」

 

立ち上がりながら咳をする天龍。

あまりに唐突な攻撃で、受け身も何も取れなかったため、全身が痛む。

 

「…対策はどうした?」

 

ネロがそう言いながら、両手を頭の後ろで組む。

まるで、退屈だとでも言いたいのだろうか。

天龍は、ハッ、と笑いながら、軍刀を抜く。

 

「…こりゃ、仕切り直しだな!」

「…そう来なくちゃな。これで終わりなんて、困るぜ。」

 

ネロも不敵な笑みを浮かべて、ただ天龍を見据えるのであった。

陽が傾き始める。

 

 






見てくれる人が意外と多くて嬉しいです…

とか思ってたら、1話投稿から8ヶ月経ってた。(恐怖)



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相打


夏風邪を引きました。
しばらく家で養生して、ふと気がつきました。

更新が空いているじゃないか…

というわけで申し訳ないです…
続きどうぞ!


 

「おお、やってるやってる!」

 

夕張は額に手をかざしながら、ネロと天龍の演習を見る。2人は拮抗した状態から動かない。

隣でぼんやりとした表情を浮かべた空母棲鬼は、ただ遠くに見えるネロを見つめていた。

 

「…あれがネロ。」

 

空母棲鬼は呟いて、遠くの方を見据える。

銀色の髪、黒いロングコート。背中の大剣に、歪な形の右腕。

 

「…どっちが勝つかしら。」

 

夕張は少し悩んでいるような表情を浮かべる。

その横で、真っ直ぐネロをみる空母棲鬼は、少し笑っていた。

 

「…ネロが勝つ。」

「ネロが…でも、海上の戦闘にはまだ慣れてないみたいだし、分からないわよ?」

 

夕張はそう呟いて、天龍のほうを見る。実際、天龍の方が場慣れはしているはずである。

しかし、空母棲鬼は確信を得ていた。

 

(むしろ、ここで勝てないなら私にも勝っていないわよ。)

 

頭の中でそう考えて、静かに見つめるのであった。

 

 

_____________________________

 

 

「行くぜ!」

 

天龍はそう叫びながら、腰の鞘から刀を抜き、そのままネロに突進する。

ネロはそれを見て、軽くため息をつく。

 

「…来い!」

 

ネロはそう呟いて、軽くジャンプをする。

だが、いつもの地面とは違い、明らかにジャンプの高さが低くなっている。

水だから力が入れられないのか、それともこのブーツのせいか。

 

「フフ…どうやら、まだ慣れてねえみたいだな!」

「そりゃそうだろうよ…」

 

天龍はニヤリとしながらネロに突きを放つ。

その先端が、ネロに到達しそうになると同時に、ネロは右腕で身体を庇う。

右腕に刀がぶつかった瞬間、甲高い音が辺りに響き、天龍にはかなりの衝撃が伝わった。

 

「ぐっ…!?」

 

天龍はそのまま身体を支えきれず、後方へと吹き飛ばされる。

軽く数メートルは吹き飛ぶが、なんとか体勢を維持して、倒れることはなかった。

少し体が痛むのを感じながら、軽く深呼吸をして心を落ち着ける。

 

「…どういう仕掛けになってるんだそれ?」

 

天龍はそう呟いて、ネロの右腕を強く睨みつける。

ネロは、それを聞いて、右腕に目を移す。いつも見慣れたこの右腕だが、やはりこの右腕がどうしてこうなったのかはわからない。

 

「…悪いが、種明かしはしてやれないな。」

 

ネロはただそう言って、左手でレッドクイーンを持つ。

先ほど蒸したエンジンによって、レッドクイーンは刃に炎を纏っている。

 

「…なんつうか、随分と反則野郎だな。」

 

天龍はそう呟いて、主砲を1発ネロの方へと放つ。

しかし、それをネロはただ軽く避けるだけで特に撃ち落とすことはしなかった。

 

「…砲弾も避けちまうし、右腕はほとんどの攻撃を防いじまう。」

 

天龍はそう呟いて、ニヤリと笑う。

その燃えたぎるレッドクイーンを、ただぼんやりと眺めながら。

 

「…んじゃあ…さっき言ってた、対策ってやつをやるか…!」

 

天龍はそう呟いて、海面に向けて主砲を向け、そのまま砲弾を打つ。

 

「?…」

 

ネロはその動作に疑問を覚え、天龍へと鋭い視線を向ける。

その瞬間、海中から大きな爆発音が聞こえ、あたりには煙が立ち込める。

 

「!…なるほどな。そういうことかよ。」

 

煙のせいで、あたりが全く見えなくなってしまった。

それはつまり、煙幕を張って視界の見通しを悪くし、行動を制限しようということ。

ネロは全く焦ってはいなかったものの、なかなかいい戦法にニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「…悪いけど、俺の電探はこういう時には役に立つんだぜ。」

 

天龍はただ、静かにただあたりに意識を集中させる。

ネロがいる位置は、ここからたったの20メートル。

 

「…フフフ…!行くぜ!!オラオラァ!!」

 

天龍はそう叫んで、主砲を全門斉射する。

大きな音が響き渡り、煙の中心へと砲弾が突っ込んで行く。

それを見届けたと同時に、天龍はすぐにその場から離れ、煙の中を動き回る。

 

(せっかくの煙幕なのに、こっちが同じ場所に留まっちまったら意味ねえよな。)

 

天龍はそう頭の中で考えながら、また主砲を放つために神経を集中させる。

どこにネロがいるかを、しっかりと感覚として認識しようとする。

しかし、先ほどの地点にはネロの気配がなかった。

ネロはどこへ?

 

「…まさか…!」

 

その瞬間、背後から明確な敵意を感じる。

天龍はすぐに刀を抜いて、後ろへと振り抜く。

その瞬間、ネロのレッドクイーンとぶつかり、つばぜり合いになる。

 

「…煙幕すら効かねえのかよ…」

「…生憎、戦いには慣れてるんでな。」

 

その状態のまま2人は睨み合う。

どちらも退かない、拮抗した状態。

 

「…チッ!」

 

天龍はこのままでは埒があかないと考え、そのまま強く刀でネロを押し返す。

ネロはそれを受けてもなお余裕があり、倒れることなくそのまま少し天龍から距離を取るだけにとどまっていた。

 

「…なら、正々堂々勝負といくか。」

 

天龍は、煙幕などの小細工に頼らず、真っ向勝負を仕掛けようと、刀を正面に構える。

ネロはそれをみて、一度背中にレッドクイーンをしまい、そのままエンジンを蒸す。

先ほどよりも強い火力で、レッドクイーンが燃えたぎっている。

 

「…なるほどな。」

 

ネロは、かつてダンテと戦った時のことを思い出していた。

あの時、自分は全力で戦ったにも関わらず、ダンテは手心を加えたままで自身を圧倒した。

その時のダンテの心境を、たった今理解したのだ。

 

(…こりゃ、退屈だな。あの時、ダンテから閻魔刀を奪わずに行かせた理由もなんとなく分かった気がするぜ。)

 

フォルトナの一件を、あれだけ引っ掻き回したのも、自分が楽しむためと考えればなかなか納得できる。

あくまで、彼は遊んでいたのだ。

 

「ぼうっとしてると、やっちまうぜ!」

 

天龍はそのまま、切っ先をネロへと向けて、勢いよく突進する。

天龍の後ろには、スピードを上げたことで生じた水飛沫がまるで壁のようになっていた。

ネロはそれを見て、軽く笑みを浮かべる。

 

「そんな単調じゃ負けてやれないぜ?」

 

そう呟いて、ネロは思いっきりレッドクイーンを海面に叩きつけるように振り下ろす。

その水飛沫で天龍は視界を遮られる。

 

(!?…まずった…!?)

 

その瞬間、天龍は足元に衝撃を感じる。そのまま勢いよく前へと体勢を崩し、顔面から海にダイブする。

ズザァ!と水面の音が辺りに響く。

 

「…結局、ロクな演習にならねえじゃねえか。」

 

ネロはそう呟いて、ただ大きくため息をつく。

そのまま、天龍のもとへ歩み寄る。

 

「…畜生…」

 

天龍は悔しそうに呟いて、歯をくいしばる。

そんな天龍に、ネロは呆れたような目線を向ける。ある意味、天龍1人で楽しむだけ楽しんだようなものである。

ネロはそんな天龍に向かって手を差し伸べる。

 

「…お前…」

 

天龍はそれをチラと見て、そう呟く。

ネロは黙って、その左手を天龍に向けたままである。

天龍は戸惑ったような表情を浮かべていたが、しばらくするとネロの左手を掴む。

そして、その口元をニィ、と吊り上げた。

 

「…隙あり!」

 

天龍はその左手を勢いよく引き、ネロを引き倒す。

ネロは不測の事態に、体勢をそのまま崩してしまう。

ネロは海面に思いっきり叩きつけられるように倒れこむ。ネロは急いで体を翻して仰向けになるが、天龍はそのネロに覆い被さる。

 

「へへっ!これでおあいこだぜ!」

 

天龍は嬉々とした表情でネロにそう告げる。

ネロはしばらく呆気にとられていたが、しばらくすると大きなため息をつく。

 

「あいこって…お前が2回倒れたんだからお前の負けだろ…」

「最初の1回はノーカンだよ!だから、おあいこだぜ!」

 

天龍は満面の笑みでそう言うのに対して、ネロは明らかに面倒臭そうな表情を浮かべていた。

びしょびしょになったロングコートを、どうするか頭の中で考えるのみであった。

 






皆さま、夏は暑いですので、エアコンなどの使用はお気をつけください。

僕は長引いた夏風邪をさっさと治さないと…


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名前



最初の立てた個人的な目標は、1年以内に完結させる、でした。

ただ、今こうして書いていると、そんなことよりもしっかりと読んでいただいてる皆さんに楽しんでも貰わなきゃいけないな、と思います。




なので、投稿が遅れたことは許してください!




 

 

「…完全に引き分けだ!異論は認めないぜ!」

「だからあれは明らかに…いや、もういい…」

 

天龍とネロはそんなことを言い合いながら鎮守府へと向かう。

ネロは半ば呆れていたが、天龍が楽しそうなのを見て特に何も言わないことにした。阿呆らしいというのが主な理由である。

結局、大体1時間の演習で終わってしまったが、ネロにとっては収穫もそこそこあったので深く気にはしていなかった。

 

「お疲れ!2人とも!」

 

湾頭で2人を待つ夕張が、手を振りながらそう叫んでいる。その横で、少し仏頂面な空母棲鬼がいた。

天龍はそれを見て、頭の疑問符を浮かべた。

 

「?…そいつ連れてきたのか?」

 

天龍がそう呟いて、空母棲鬼に対して指をさす。

それを見た空母棲鬼は、少し腹を立てたように天龍から目をそらす。

夕張が、あぁ、と呟いて、頭をかく。よく考えれば、いきなり敵だった存在を連れ回していたら、困惑するのは当然だろう。

 

「安心して、もう戦闘能力は一切無いの。」

 

夕張はそう言って、満面の笑みを浮かべていた。

天龍は少し不安になったが、一応しっかりとした設備で検査をしていたのは知っていたので、特には何も言わなかった。

ネロはその間に陸上へと上がる。びしょびしょのコートを絞りながら、ため息をついていた。

そんなネロを見た空母棲鬼は、少し戸惑っていた。

しばらくして、表情をしっかりとしたものに変える。

 

「…ネロ。あなたが、私を助けたの?」

 

空母棲鬼はそう言いながら、ネロへと歩み寄っていく。

それに気がついたネロは、軽く不貞腐れたように呟く。

 

「…その前にお前をぶっ飛ばしたけどな。」

 

ネロはそう言いながら、ため息をついて鼻の頭を掻く。

実際、彼女に対してかなり攻撃を加えたのは事実。

しかし、そんなことなどは気にしていないかの様子で、空母棲鬼は笑う。

 

「大事なのは過程じゃなくて結果よ。少なくとも今の自分にとっては、命の恩人。」

 

ネロはそれを聞いて、軽くため息をつく。

相手がどう解釈しようとも、もはや気にしないことにする。もちろん、それを空母棲鬼も感じとっていた。

そんな中、空母棲鬼は呆れたような視線を天龍へと向ける。

 

「…それで、あの眼帯女はなんであんなズル賢い手を使ったのかしら?明らかに勝負はついていたじゃない。」

「!…」

 

それを聞いた天龍は、あからさまに敵意を剥き出しにした。

ピクリと一瞬動いた頭のユニットが、それを際立たせている。

 

「…俺がズル賢いだと?」

 

小さく、それでいて鋭く呟いた天龍。

それに対して、空母棲鬼は余裕綽々な様子で笑顔を浮かべていた。

 

「あら、確実に一度倒れたのに、負けを認めず、ネロを引きずり倒したじゃない。」

 

まさしく、正論。

この場にいた天龍以外の面々が確実に思っていたことを空母棲鬼はぶちまけてしまった。

天龍は、歯をくいしばって苛立った表情を浮かべる。

 

「!…お前には関係ないだろ!」

 

そう言って空母棲鬼に詰め寄っていく天龍を、夕張は羽交い締めにすることで止める。

それを振り払おうとするが、夕張は全力で腕を拘束しているため、なかなか外れない。

 

「おい!離せよ!!」

「やめなさいって!だって本当にそうじゃない!」

 

夕張の言葉にさらに天龍があぁ!?と返して何故か頰のつねりあいに発展する中、空母棲鬼はネロの手を掴む。

 

「?…おい、一体…」

「行くよ。」

 

空母棲鬼はそのままネロを引っ張っていく。

ネロはどこに連れて行かれるのかもよく分からず、ただ空母棲鬼に連れていかれるだけであった。

 

 

_____________________

 

 

 

ネロがこの場所に来た直後に思ったことは、昼間なのに太陽光があまり入らず暗い場所であった。

鎮守府の建物の陰になっており、あまり人が好んで来たがるところではない。

そんなところに呼び出された時点で、空母棲鬼が人の目を気にしていることがよくわかる。

 

「…わざわざ、こんなところで何の用だ?」

 

ネロはそう言って、軽く呆れたように息を吐く。

何か面倒なことになるかもしれないという直感が、頭をよぎっていた。

空母棲鬼は、真剣な眼差しでネロを見る。

 

「…さっき、あのポニテの女が言ってた話、信じる?」

「…お前の戦闘能力がないって話か。」

 

ネロはあからさまに目を鋭くした。

その話をわざわざ出すということは、空母棲鬼は…

 

「…隠してるのか?」

「…厳密に言えば、隠れてる、かな。」

 

空母棲鬼は少し俯きながらそう返す。

 

「…そこに装備があるのに、取り出せない感覚。」

 

空母棲鬼のその目には、形容しがたい悲しみがあった。

自分の意思で艤装を展開することは出来ず、自分の意思ではどうにも出来ない。

 

「…つまり、艤装の感覚は残っているが、確かに戦闘能力はないってことか。」

 

ネロはそう言って、空母棲鬼に軽く手を振る。

 

「なら良いじゃねえか。」

「えっ…」

 

ネロの言葉に困惑する空母棲鬼。

その言葉が一体何を意味しているのかが分からなかった。

 

「…お前を斬ったあの刀は、人と魔を分かつって話だぜ。お前は今、ただの人間になったのかもな。」

 

ネロはそう言って、その場を離れようとする。

それをただぼんやりと眺めていた空母棲鬼は、ハッとなって言葉を紡ぐ。

 

「で、でも…どうすれば良いの?」

 

空母棲鬼の切ないような声が響く。

これからは、深海棲艦であった時に出来たことが出来なくなる。ただ、それだけが頭を支配していた。

だが、ネロはそれに対して大きなため息をついて返す。

 

「…そんなの、これから探せば良いだろ。」

 

ネロはその一言を告げて、そのまま自室の方へと歩いていった。

もはや、何も問題はないと言った風に。

空母棲鬼は、言葉を失っていた。

 

「…そうだね、ネロの言う通りだよ。」

 

そして、そう1人で呟くと、その表情を笑顔に変えるのであった。

 

 

_____________________

 

 

 

「…じゃあ、空母棲鬼には戦闘能力はないし、一室適当にどっか割り当てちゃうか。」

 

大佐はそう言って、空母棲鬼に部屋の鍵を渡す。

空母棲鬼は戸惑いつつもそれを受け取り、大佐をじっと見る。

 

「…良いの?元々敵同士だったのに…」

「だって、夕張が大丈夫って言うんだから大丈夫だよ。」

 

そう言って大佐は指をさす。

そこには、なんだか赤く腫れている頰をさすりながら、なはは、と笑う夕張がいた。

どうやら、天龍とのつねりあいで出来た勝利の証らしい。

 

「じゃあ、次は名前!空母棲鬼ちゃんって、呼びづらいから、名前を考えたよ!」

「名前…?」

 

大佐の言葉に、空母棲鬼はさらに戸惑う。

大佐はご満悦な笑みで、その名前を高らかに宣言する。

 

「今日から、君の名前は(そら)ちゃん!」

「…提督、少し安直すぎません?」

 

夕張がそんな風に言ってため息をつく。

空母棲鬼だから、空ちゃんという名前が浮かんだ、という説が誰の目にも明らかだったからである。

 

「え〜、そうかなぁ…」

「…私は、良いよ。」

 

空母棲鬼が、そんな風に言い合う2人をよそにそう呟く。

それを聞いた2人は、空母棲鬼の方へと視線を向け、そして、驚いていた。

 

「…じゃあ、私、早速部屋に行くから。」

 

空母棲鬼はそう言って、急いで執務室を出ていく。

それを見て、2人は微笑みながら顔を見合わせる。

 

「…嬉しそうにしてましたね。」

「あんな顔が出来るんだね〜。」

 

空母棲鬼の表情を2人で思い出しながら、ただ笑っていた。

 

 

_____________________

 

 

 

「…(そら)、か。」

 

自分の名前を再度思い出して、ニヤニヤとしてしまう空母棲鬼。

それは、初めて手に入れた、自分が人間であるという証。

 

「…まだまだ、もっと楽しいことが見つかるかもしれない。」

 

空母棲鬼、もとい空はそう呟いて、部屋のベッドにゴロリと寝転び、そのまま枕に顔を埋めるのであった。

 

 

 






お盆で実家に帰ると思うことが1つ。

間違いなく、実家で過ごす楽しい時間より、高速で渋滞にハマる時間の方が長く感じる。


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悪寒

Undertaleにハマってて更新が遅れました…

すみません!許してください!





「…」

 

朝潮は、ベッドに横たわる2人の姿を見ていた。

自分の姉妹艦である、満潮と大潮が静かに目を閉じて眠っていたからである。

2人は大破状態であったため、回復に時間がかかっているのだ。それも、完治するかどうか分からないほどの損傷。

 

「…朝潮ちゃん。」

 

そう言って、朝潮に近づいていく影が1つ。この鎮守府の責任者、大佐である。

朝潮は、なんとか敬礼を作って大佐に向き直る。

 

「あぁ〜、そんなのしなくて良いのに…」

「…しかし、これをしないと私たちの司令官が…」

 

朝潮は少し元気がなさそうな声でそう呟く。

それに対して、少し悲しい表情を浮かべて、大佐は朝潮をじっと見る。

それは、これから話そうとしていた事柄に関係していた。

 

「…あのね、朝潮ちゃん。これからちょっと辛い話をしなきゃいけないかもしれないんだけど、良いかな?」

 

大佐がそういうと、朝潮は不安げな表情を浮かべていた。

少し言葉を詰まらせるが、大佐はそのまま言葉を連ねる。

 

「…朝潮ちゃん達は、十分な補給と入渠を受けられてなかったんじゃないかな?」

「!…」

 

大佐の言葉を聞いた朝潮は、言葉を失う。

それは、大佐が資料を見て感じたことであった。

戦艦レ級との戦闘でついた傷の他に、それ以前までの損傷がたくさんあったのだ。

明らかに万全のコンディションとは言えない状態での出撃。

これらが起こる可能性は2つ。

1つは、その鎮守府の資材の枯渇。艦娘を治すことができないほどの資源不足に陥ってしまったということ。

しかし、この3人の所属していた鎮守府は、かなりの戦果をあげていた。つまり、資材の枯渇はありえない。

となると、もう1つの可能性は…

 

「…もしかしてだけど…あの鎮守府は朝潮ちゃん達をいじめてたの?」

 

大佐はオブラートに包んでそう告げる。だが、全くオブラートとしての機能はしていないということは誰の目に見ても明らかであった。

捨て艦、大破進軍、艦娘の非人道的運用。

ここ最近、それらの行為を行う鎮守府が多くなっていた。

それは、功を焦っている人間が行う時もあれば、ただ自分の私腹を肥やしたいが為の人間が行うこともある。

それらの行為によって戦果をあげた鎮守府を、一時的に取り締まる動きも見えたが、残念ながら今もなお横行している。

 

「…」

 

朝潮は何も答えない。

それこそが、答えであるということを大佐は理解していた。

だから、大佐は微笑みを作って、朝潮を抱きしめる。

 

「…絶対に、そんな鎮守府に返さないから。他の娘達もこっちに連れてこれるようになんとか取り計らうから。」

 

大佐はそう言って、涙を流していた。

それを見た朝潮も、一筋の涙を流していた。

自分のために泣いてくれる人物に、初めて出会ったからである。

朝潮も大佐を抱きかえし、声をあげて泣いた。

今まで耐えて来たことが、無駄にはならなかった。

それだけを、心に深く刻み込んだ。

 

 

_____________________

 

 

 

「…なあ、ネロ。」

 

天龍は、目の前でずっと退屈そうに音楽を聴いているネロにそう告げる。

ヘッドホンをつけているネロは、そんな天龍の言葉など聞こえもしなかったため、そのまま音楽を聴いているのであった。

 

「…おい、ネロ!」

「…ん?」

 

天龍が声を荒げると、やっと気が付いたのか、ネロがヘッドホンを取りながらそう聞き返す。

天龍は軽くフン、と苛立ちながら腕を組む。

 

「なんだよ、目の前に俺がいるのに音楽ばっか聞きやがって。」

「…別に良いだろ。」

 

ネロは天龍が何故苛立っているのかよく分からず、そのまま目を閉じる。

それに対したまた天龍はおい!と声を荒げる。

 

「なんだよ?」

「…だから、俺は暇なんだよ。」

 

ネロはだからどうした、と頭の中で考えていた。

別に、仮に天龍が暇であろうと自分が構う必要がないということに気がついていたからである。

 

「…暇なら、俺に負けないように訓練でもしたら良いだろ。」

「!…確かに、そうだな…よし!じゃあ早速行ってくるぜ!」

 

天龍はそう言って、勢いよく外へと出て行く。

恐らく、艤装を持ってそのまま海へと出るのだろう。

ネロは天龍が何をしようと特に興味ないが、少なくとも自分の演習の相手になってほしいぐらいのことは考えていた。退屈だから。

 

「…まあ、そのうち様子でも見に行くか。」

 

ネロはそう呟くと、再びヘッドホンをしてそのまま目を閉じるのであった。

 

 

_____________________

 

 

艤装を取り、湾頭へとやって来た天龍は、頭の中で考えごとをしていた。

 

「…ネロのやつを倒すには、どうしたら良いんだろうな。」

 

天龍はそう呟いて、軽くため息をつく。

ほとんどの攻撃が見破られてしまい、挙句かなり手加減をされて遊ばれていた。

となると、確実にネロに攻撃を当てるには…

 

「…やっぱ、見破らせない攻撃ってことだな。」

 

そう呟いてから、また少し考えて見る。

そう考えると、大抵の攻撃は見破られてしまう可能性が高い。予備動作や、自分が動くことによって生じる音ですら、ネロは見逃さないだろう。

 

「…どうすりゃ良いんだ?」

 

天龍は頭を抱えながらそんなふうに呟く。

察知されない攻撃なんて、逆にあるのだろうか。

必ず、どんな攻撃でも予備動作がある。主砲を撃つにしても、その砲塔を向けなければならないし、刀で斬りかかるとしても、腕の筋肉を動かさなければならない。

 

「…なら、予備動作無しで攻撃するしかないのか?」

 

天龍はそう呟いて、ため息をつく。

そんな練習に付き合う仲間などいない。不可能に近いことに時間を割くのは無意味だと言われてしまうだろう。

だからこそ、そんな天龍は、自分の背後に立っている人物に気がついていなかった。

 

「…貴様はこの鎮守府の艦娘か?」

 

そんな声がしたため、天龍は、ん?と呟きながら振り返る。

そこに立っていたのは、青いコートの人物。まるで、心が無いかのように冷淡な表情をしていた。

 

「…俺は天龍。お前は誰だ?」

 

天龍は少し身構えた。

まさに今、予備動作がなくこの人物がいきなり現れたように感じたからである。

天龍は、そこまで考えて閃いた。

 

「!…そうか、ネロが考え事をしている時に攻撃すれば、間違いなくビビるぜ!」

 

天龍は指を鳴らしてその青コートの方を見る。

青コートは、それに対して何の反応も示さない。

 

「誰かは知らないけど、ネロ攻略のヒントを貰ったぜ!サンキュー!」

 

天龍はそう言って、その人物に手を差し伸べようとした。

しかし、その動作は途中で止めなければならなくなる。

 

「…え?」

 

天龍は静かに自分の腹部を見る。そこには、鋭い日本刀が自分を貫いているのが見えたからである。

視線を向けたと同時に、痛みがじんわりと広がっていく。

 

「…humph。」

 

その青コートは、そう息を吐くと、勢いよく日本刀を引き抜いた。

天龍は、その瞬間、力なく倒れる。まるで、自分の力全てが抜き取られてしまったかのような感覚。

 

「…嘘…だろ…」

 

全く身体が動かない。

しかし、意識だけははっきりしている。ただ、自分の意思で身体が動く気がしないのだ。

 

「_____」

 

青コートはそう言って、天龍に鋭い視線を向ける。

天龍は、ただそれに対して鋭い視線を返すだけであった。

赤い血だまりが出来ていく。

 

 

 

_____________________

 

 

 

「!…」

 

ネロに悪寒が走った。

悪魔の右腕がうずいていた。それは、初めてダンテと出会ったあの時と同じ。

 

「…何だってんだ。」

 

ネロは苛立ちながら、ソファから立ち上がり外へ向かう。

何か自分が被害を受けたわけでも無いのに、頭の中から怒りが消えない。

 

「…クソ!」

 

ネロはその原因を未だ理解することはできなかった。

 

 




とりあえず、バージルとネロ衝突のフラグは立てられました…(小声)

そろそろシークレットも書かなきゃ…
ダンテ成分が足りない…


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邂逅



お疲れ様です!

眠い時、僕は目をつぶって、手を力強く握るとめちゃ眠気が覚めます。

だから、なんだって話ですけどね…




 

「クソが…!」

 

天龍は目の前に仁王立ちで立っている男を見る。なんとも冷たい目線で、天龍を見下している。

なんとも最悪な気分を天龍は味わった。目の前に、自分をこんな風にしてしまった犯人がいるのに、身体は動かない。

 

「…退屈だな(How boring)

「!…野郎…!!」

 

天龍は男の言葉に、身体に力を込める。

身体が動くようになったら、すぐにでも斬りかかってやりたい気分である。動けばの話だが。

その時、天龍はそれに気がつき、焦っていた。

龍田が、その手に持っている得物を高く振り上げて、目の前の男の首をはねようとしていたからである。

 

「!…龍田…!?」

 

思わず口に出してしまっていた。

完全な不意打ちであり、間違いなく首を刈り取れるはずのその攻撃。

それが目の前の男に通用するとは、どうしても思えなかったのだ。

 

「…遅いな(Too late)。」

 

やはりというべきか、それを青コートの男は察知していたか、龍田の方へと振り返ると同時にその身体を斬りつける。

龍田は思い切り振り下ろそうとしていたそれを咄嗟に引き戻してガードしようとするが、それをすり抜けて下腹部に刀が激突する。

 

「かはっ…!?」

 

龍田はその衝撃で息を全て身体から吐き出し、そのまま後方へと勢いよく吹き飛ばされる。

ゴロゴロと地面を転がる。しばらくするとそれが止まり、なんとか体勢を起こしてそのまま片膝立ちになる。

腹部には、深い傷が出来ていた。

 

「…あらぁ〜、まさかあれだけの不意打ちでここまでやられるとはね〜…」

 

龍田は、微笑みながらそう呟く。その口元からは、一筋の血が流れていた。

言葉が持つ柔らかい雰囲気ほどの余裕は、無いようだ。

 

「龍田!…クソがぁ…!」

 

天龍は怒りに震えながらそう叫び、少しずつ身体を起こす。

龍田を傷つけられたことへの怒り、何よりも、ここまでコケにされて何も仕返し出来ないことへの不甲斐なさ。

それらの感情が、天龍を突き動かす。

 

「…humph。」

 

男はそんな天龍をじっと見ている。

まるで、立ち上がることを待っているかのようなその余裕。

天龍は、全力で男へと飛びかかる。

 

「うらぁぁあ!!」

 

そう叫ぶと同時に、天龍は男に向けて刀を振り抜いた。

しかし、刀は空を切る。

そこにはすでに、男はいなかった。

 

「!…どこへ…」

 

その瞬間、天龍の頭に鈍い衝撃が走る。男が、天龍の頭にかかと落としを喰らわせたのだ。

その勢いは凄まじく、軽く天龍は仰け反る。

 

「があぁぁぁあ…!!?」

 

なんとか体勢を整えるが、頭から生暖かい感触がする。そのことについて深く考え無いようにして、天龍は相手を睨みつける。

天龍は冷静になって考える。

自分が斬りかかっている最中には、男の姿は見えていた。

まるで、刀を振り抜いた瞬間、消えたように感じた。

 

「…瞬間移動か…?」

 

天龍はそこまで呟いて、ネロのことを思い出す。

人智を超えた動き、吸い込まれるような銀髪。

そして、あからさまな余裕を醸し出す雰囲気。

共通点は非常に多い。

 

「…」

 

男はゆっくりと、天龍の元へと歩み寄る。しかし、あまりの痛みに、天龍は動くことができない。

腹部を貫かれ、さらに頭にも攻撃をくらったのだ。普通なら立っていることすら難しい。

 

「…この俺がここまでやられるとはな…」

 

天龍は精一杯、不敵な笑みを浮かべて男を見る。

それは、最低限の強がり。

 

「…」

 

男は、そのまま刀を抜き、天龍の首筋に当てる。

 

「!…天龍ちゃん!」

 

龍田の悲痛の叫びが辺りにこだまする。

天龍はそれに何も答えずに、ただ目をつぶってその瞬間を受け入れる。

 

(…こんなところで終わりかよ…)

 

天龍は覚悟を決めて、歯をくいしばった。

 

 

 

 

くらえ(Catch this)!」

 

と、そんな声が辺りに響き渡り、その男に向かって銃弾が4発ほど飛んでいく。

男はそれを見て、天龍から離れるようにバックステップをして、その飛んできた弾道の方を見る。

天龍もつられてそちらを見ると、ネロの姿があった。

 

「…何だよこいつは。」

 

そして、天龍と男の間に入り込むように、ネロは歩み寄る。その銃口を、男に向けながら。

 

「ネロ!」

「…テンリュウ、タツタを連れて逃げろ。」

 

ネロは男から一切目を離さずにそう呟く。

目の前の男からは、ダンテよりも強い力を感じていた。

迂闊に目を離せば、危険なことになるのは否めない。

天龍はしばらく黙っていたが、状況を見て歯をくいしばる。

 

「…クソ…ネロ…任せたぜ…」

 

天龍は、なんとか身体を動かして、龍田の方へと歩み寄っていく。2人とも満身創痍のため、すぐに入渠しなければならない。

天龍は龍田に肩を貸して、鎮守府の建物へと歩いて行く。

 

「…任されても困るけどな。」

 

ネロはそう言って、ため息をつく。

この人物を見ると、右腕の疼きが止まらないのだ。それは相手が強敵であるという証明でもある。

そう簡単にはいかないだろう。

 

「…」

 

その人物は無言でネロをじっと見る。

それは、まるで品定めしているようにも見える。

ネロは、その視線に苛立ちながらその人物を睨みつける。

 

「…あんたの目的は何だよ。」

 

その言葉に、男はまたhumph、と呟く。

そして、男はその口を開く。

 

「…閻魔刀を返してもらう。」

「何?」

 

ネロはあまりの急な単語に、文字通り困惑していた。

なぜ、閻魔刀の存在を知っているのか、そして、なぜ『返せ』という言葉が出てくるのか。ネロは少し考え込む。

その時、ダンテにかつて閻魔刀を返せと迫られた時に言われた言葉を思い出す。

 

『そいつは俺の兄貴のものでね…』

『俺が持つのが筋なのさ、家族の形見でもあるしな。』

 

ネロは、その相手へ向けていた銃口を静かに下げる。

 

「…あんたはダンテから死んだって聞いてるぜ。」

 

その言葉に、男は静かに笑みを浮かべる。

それは、ダンテの名前が出たからなのか、それとも…

 

「…お前はそれなりに楽しめそうだな。」

 

男はそう言って、鋭い視線を向ける。

まさしく、強者の目。

ネロはそれを見て感じたのは、まるでいつもとは違う悪寒であった。

魔教皇サンクトゥス、そしてダンテにすら抱かなかった、心の焦り。

 

「…そうかよ。」

 

ネロはそう言って、少し苛立ちながら自分のレッドクイーンに手をかけ、エンジンを蒸す。

さっさとこの男を倒すことで払拭する。

頭の中にはそれだけしかなかった。

 

 

 

 

「…龍田、こっから先は1人で行ってくれ。」

 

天龍はそう言って、龍田をそばにあった階段に腰掛けさせる。

龍田の腹部にはしっかりと刀の傷跡が残っている。かなりの重症である。

 

「…天龍ちゃんはどうするの〜…?」

 

龍田は力なく、それでいて天龍のことを心配するような表情を浮かべる。

天龍は口を結んで、ただ龍田から目をそらす。

 

「…行く気なの?」

 

龍田は苦しそうに呟く。

天龍は、あの戦いの場に戻ろうとしている。

天龍のことを考えて、とにかく止めなければと思案する。天龍の傷もまた、かなり酷いものであり、腹部を刀で貫かれた傷の部分が血液で赤黒くなっており、頭からは血液が一筋に流れている。

正直、とても常人には耐えられるほどの怪我ではない。

 

「…正直、戦いに割り込むなんてことはできねぇ。今の俺にはネロの手伝いなんて無理だ。」

 

天龍はそう呟いて、ただ笑う。

 

「…だから、ネロの戦いを見届けるぐらいしなきゃな。」

「天龍!龍田!その傷はどうしたの!?」

 

時雨と夕立が、2人のもとへ駆け寄ってくる。

それを見て、天龍は龍田の頭を軽く撫でる。

 

「あいつらに連れてってもらえ。後でな。」

 

天龍はそのまま、走ってネロたちの方へと向かって行く。

それを見て、龍田は手を伸ばしていた。

 

「天龍ちゃん!」

 

龍田の言葉には耳も貸さず、天龍はただ走ってネロたちのところへと向かうのであった。

 

 

 

 






そういえば、気がつくとお気に入りの数が増えてて、意外と見てくれてる人がいるんだなぁ、としみじみ思っています。

それでいてさっさと投稿しない投稿者の屑


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激突


ついに出会ってしまった2人!

バトル開幕です…!


 

最初に仕掛けたのは、ネロであった。

炎を纏ったレッドクイーンを持って男へと突進(EXハイローラー)する。

まるで地面を滑っているかのような速度で男へと近づいていく。

 

失せろ(Be gone)!」

 

そのままネロは身体を回転させて、男を勢いよく斬りつける。その際に、大きな爆発音が辺りに響き渡り、辺りを焼こうと炎が伸びる。

しかし、男はそれをしっかりと予測して、その刀を強く振り抜く。

ネロのレッドクイーンと男の日本刀がぶつかり、大きな金属音がこだまする。

エンジンによって勢いが強くなっていたはずのレッドクイーンが、一瞬で静かになる。

 

「!…」

 

力を相殺されたことへ驚きつつも、ネロは何か危険を察知して、そのまま背後へのパックステップで男との距離を取る。

そして、自分がたった数秒前までいた地点に、数個の青い幻影剣が降り注いだ。

 

「…そこまでできるなら、閻魔刀も要らねえだろ。」

 

ネロは悪態をつくようにそう言って、ブルーローズを何発が放つ。

弾丸はまっすぐ男へ向かうが、男は日本刀をくるくると回す動作でそれらを全て切り落としてしまう。

ネロはそれを驚きもせず、真上にマグナムのカートリッジを投げ、そのまま最後の弾丸を撃ち尽くして、弾丸を排莢しながら銃口を僅かに下げる。

少しずつ落ちてくるカートリッジが、ネロの目の前を通り過ぎ、そのままブルーローズの弾倉へと装弾された。

再びネロは男へと銃口を向け、鋭い目線で睨みつける。

 

「あの刀は、俺がダンテから預かったものだ。誰にも渡す気はないぜ。」

 

その言葉に、男は何も語らない。

代わりに、円を描きながら男の周りをぐるぐると回転する、大量の幻影剣が現れる。

それを見て、ネロは舌打ちをする。

 

「…どういう仕掛けだよ。」

「…種明かしなどするつもりもない。」

 

ネロの言葉に似たようなセリフを男は呟いて、幻影剣を一斉にネロへと飛ばす。

ネロはその幻影剣を避けることを考える。しかし、その瞬間には男が刀に手をかけて、足に力を込めていたのが見えた。

ネロは次に起こる事態を予測する。

 

「!…バカにしやがって…」

 

ネロはそのまま、レッドクイーンを抜いて、自分に向かって飛んできた幻影剣をいくつか切り落とす。何個か通り過ぎていったのち、男が瞬間移動で頭上へと現れる。

 

「焦るなよ…!」

 

ネロは素早く体勢を整え、その刀が通るであろう線へレッドクイーンを構える。

男の日本刀、ネロのレッドクイーンが再びぶつかり、大きな金属音を響かせる。

その鍔迫り合い越しに、ネロは男の顔を見る。

明らかにこの戦いを楽しんでいるような表情。

 

「…余裕たっぷりって表情だな。」

 

ネロはそのまま、力強く男の刀を弾くように押し返す。

男は後ろへ軽くジャンプする程度で、その衝撃を和らげた。

そのまま、再びネロはブルーローズに手をかけようとしたが、背後から轟音がするのに気がつき、振り返る。

男の幻影剣が刺さった鎮守府のクレーンが、音を立てて崩れ始めていたのだ。

ネロは身体を前転のようにぐるりと回し、なんとかそのクレーンを回避する。

少しの間、あたりは砂けむりに包まれる。

しかし、その瞬間も、ネロは決して警戒を緩めなかった。

そして、目の前に男の顔が迫っていた。

刀が鞘から抜かれるまで、もう時間がない。

 

「!…」

 

ネロはなんとか右腕でその刀を防ぐ。

まるでバチバチと電流が流れたかのように、刀と右腕が大きな音を立てる。

煙が少しずつ晴れて、2人の姿があらわになる。

男は、ただ静かにhumph、と呟いて、目を細める。

 

「…マジで、なんなんだよ。」

 

ネロはそう言って、右腕で男の刀を掴んだままレッドクイーンを勢いよく振り下ろす。

男はそれを瞬間移動で回避してしまう。

ネロは大きくため息をついて、目を細める。

 

「ちょこまかと面倒くさいやつだぜ。」

 

ネロは右腕に少しかかるコートを捲り上げて、軽く右腕を振る。

少し、刀から魔力を感じて、痺れるような感触を覚えたが、問題なく動くようだ。

 

「…さっさとケリをつけようぜ。」

 

ネロはそう言って、右腕を力強く握る。

その瞬間、背後に青い魔人が現れる。

ネロの体を余裕で超える大きさの魔人。それを見た男は、純粋に笑みをこぼす。

それは、まさしく悪魔の微笑みというべきものであった。

 

「…来い(Come on)!」

 

その瞬間、男の周りにもオーラが漂い始める。

あたりの地面は揺れ始め、ビリビリとした感触がネロを襲う。

魔人化したこの状態で、そこまでの感覚にさせるほどの強者。

 

「…厄介だな。」

 

ネロはそう呟いて、しっかりと男を見据えていた。

今は、先ほどの姿とは全く違う、青の魔人と化したその男を。

 

 

_____________________

 

 

 

「な、なんだよ…これ…」

 

天龍は、あまりの光景に呆然とした。

戦いの途中、何度もネロと男のお互いが危機的な状況に陥っているのをみた。しかし、それを全て2人は回避していく。さも、大したことのないものだと言わんばかりに。

まるで、この世の終わりを見ていると錯覚させる戦いである。

艦娘と深海棲艦のそれとは、明らかに比べ物にならない。

 

「…悪魔だ…」

 

天龍は無意識にそう呟いていた。

それが、まさしく今の2人を見て頭をよぎる言葉。

魔人が2人、お互いを見あって構える。

 

不意に、その甲高い音が響いたと思った瞬間、天龍は後ろへと仰け反る。

建物のガラスが割れて、あたりに破片が散乱する。

 

「!?…な、なんだ!?」

 

天龍はそう叫んで2人の方を見る。

ネロと男は、どうやら鍔迫り合いをしただけのようだ。

その衝撃だけで、これほどの力が起きるのか。

 

 

「…クッソ…」

 

あまりの緊迫感に、身体を支えることができない。

片膝をついて、辛うじて2人を見てはいるものの、もはや視界がぼやけて、何も見えない。

 

「…チクショウ…」

 

天龍はそう呟いて、意識を手放す。

2人の強さを目の当たりにして、何もできない自分を恨みながら。

 

 

_____________________

 

 

 

「いつつ…!!」

 

大佐は執務室の中で、尻餅をついていた。

先ほど、窓の外でクレーンが倒れたかと思ったら、その数秒後にいきなりガラスが割れて、あたりに轟音が響き渡ったのだ。

執務室のドアが開き、慌てた様子の愛宕と高雄が入ってくる。

 

「!…提督!ご無事ですか!?」

 

高雄が大佐へと駆け寄って、肩を貸す。

大佐はなんとか立ち上がることができたが、未だ外から聞こえる轟音に怯えていた。

しかし、なんとか指示を出さなければいけない。

大佐は、息を飲んでから、愛宕に声をかける。

 

「…愛宕!艤装の使用許可を出します!外の脅威を排除して下さい!!編成は任せます!!」

「!…了解!」

 

愛宕はそう言って、部屋を出ていく。

それを確認したと同時に、高雄に目線を合わせる。

 

「高雄もお願いします!」

「!…ですが、提督が…!」

 

高雄は少し困惑したような表情を浮かべていた。

提督を1人にしては、危険だということがすぐに理解できたからである。

しかし、提督は笑顔を見せて、高雄を安心させるように努める。

 

「大丈夫!みんなでいけば楽勝だから!!」

「!…分かりました…!!」

 

高雄は、なんとも言えない不安を覚えながら、なんとかそう呟き、大佐を椅子へと座らせて部屋から走り去っていく。

大佐は、誰もいなくなった部屋で、自分の震える手を握りしめる。

どう考えても、何かがあったに違いない。

ネロがこの場に居ないということが、それを証明しているようにも感じて、余計に恐怖を煽る。

 

「…大丈夫だから…!」

 

言い聞かせるように呟くが、その心の動揺は拭えなかった。

外は少しずつ曇り空へと変わっていき、嵐の予感であった。

 

 

 

 

 

 

 

 





更新に10月まで掛かってしまったことに、お詫び申し上げます!



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難敵



引き続き戦闘回…
死ぬほど書くのきつかったです…笑

バージルの次元斬・絶ってどういう表現すれば良いのかわからない…



 

「Haaaaaa!!」

 

ネロは叫びながら男へと力強く踏み出して、レッドクイーンを振り続ける。右へ、左へ、縦に、横に、何度も振り続ける。

しかし、その全てが男の日本刀によって防がれてしまう。

何度も甲高い金属音がこだまする中、男は表情を全く変えることもしない。

無論、魔人の顔に表情があるとは思えないのだが。

 

勝ち目があるとでも(You think you stand a chance)?…huh。』

 

男はノイズがかった声でそう呟いて、ネロの攻撃をかわしながら身体を大きく翻して、大量の幻影剣を出現させる。

その幻影剣全てが、ネロの方を向いていた。

しかし、ネロはそれを見て怯えることなどしない。

 

やってやる(Light's out)!」

 

ネロはすぐにブルーローズに持ち替えて、そのまま幻影剣を撃ち落とす体制に入る。

背後の魔人も、幻影剣を出現させて、まるで芸術作品のように幻想的な光景を作り出す。

その時は、すぐに訪れた。

 

「Haaa!!」

 

ネロは弾丸を何発も射出する。それと同時に、双方の幻影剣が動き出す。

お互いの幻影剣がぶつかり合い、溶け合っていく。

まるでガラスの破片のようにあたりに青い塵が散乱する。

そして、幻影剣の雨が降り注ぐ中、ネロはその右腕を男へと伸ばす。

 

くらえ(Catch this)!」

 

ネロのその言葉が響くと同時に、男の足がネロの腕によって掴まれる。

男はもがくこともできずに、ただネロに引っぱられる。

しかし、その際に刀を抜いて、思い切りネロの顔面を斬り付けようとしていた。

引っ張られた勢いで、ネロへと男が迫っていく。

 

「!!…」

 

ネロはそれを見て、レッドクイーンをすぐさま抜く。

そして、その刀を受け止めて、力強く弾き返す。

そのまま、男は少し体勢を崩すが、その隙を見逃さずに、ネロは右腕で男をしっかりと掴み、地面へと何度も叩きつける。

 

「Hoo!!」

 

コンクリートで固められた地面が、音を立ててひび割れる。常人にはたえきれない程の力が、そこに掛かっているのが見て取れる。

男の日本刀が、ネロの足元へと落ちる。しかし、ネロはそのまま地面への叩きつけを止めることはしない。

 

失せろ(Be gone)!」

 

ネロはその勢いのまま、男を工廠の建物へと投げ飛ばした。そのまま、足元に落ちていた日本刀を、音速を超える勢いで飛んでいく男へ投げつける。

たった数秒で、男は100m離れた工廠の壁に激突する。その衝撃で、工廠の壁に大きなヒビが入る。

そこへと飛んできた日本刀が、まさに男の身体を貫こうとした瞬間。

 

「humph。」

 

男は、その日本刀の刃の部分をキャッチした。

そのまま工廠の壁を蹴ってネロへと肉薄する。崩れた壁がさらなる衝撃を受けて崩れ去っていき、重力に引かれて落ちていく。

 

「!…化け物かよ。」

 

ネロは呆れながらそう呟いて、右腕を強く握って男を迎え撃つ準備をする。

しかし、その動作をしたことに、後悔をする。

たくさんの幻影剣が、頭上に迫っていたのだ。

 

「!!…」

 

ネロはなんとか、それを回避するために身体を前に回転させる。

ネロがいた場所へと、次々に幻影剣が落ちていく。

 

「…危ねえな。」

 

ネロはそう言いながら、男の方へと視線を向ける。

すると、男は少し離れたところで何もせずにただじっとしていた。

敵を目の前にしているのにも関わらずである。

 

「…どういうつもりだ?」

 

ネロはそう言って、軽くレッドクイーンに触れる。

それと同時に、男は魔人化すると同時に、刀を構えながらこう呟く。

 

死ぬがいい(You shall die)。』

 

その瞬間、分身のように何人かの男が現れ、それが一斉に動き出した。

 

「!!…」

 

ネロはその男達が何をするのかを予想して、すぐに動く。

真後ろにいた男の斬撃をレッドクイーンで防ぎ、真上から斬りかかってきた男に右腕を使って反撃する。そのまま、左側から近づいてくる影をブルーローズで対処していく。

しかし、それだけでは防ぎきれないほど、瞬間的で、かつ集中的な攻撃。

全ての男の影が同時にネロを襲う。

 

「くっ…!」

 

日本刀の切っ先が、ネロの右腕と左足を切りつける。

痛みに片膝をつくが、なんとか攻撃を回避しようとレッドクイーンを振り回す。

そのネロへと、とどめを刺すように、男が最後の攻撃を仕掛ける。

 

「マジかよ…!!」

 

ネロはそれを見て、軽い絶望を覚えた。

そのとどめを回避するすべがなかったからである。

男の刀がまっすぐに向けられ、そのままネロの身体を斬りつける。

 

「!!…」

 

ネロを激痛が襲う。痛みからか身体が動かない。

男がそのまま、刀を納刀する動作に入る。

まるで流れるような動きに、ネロはしばらく呆然としていた。

そして、納刀した瞬間。ネロは激しく吹っ飛ばされた。

 

ちくしょう(Damn it)…!!」

 

ギリギリ海へと落ちないところで踏みとどまり、ネロはなんとか足をつく。

しかし、そこへとバージルの刀が再び迫る。

 

「!!…」

 

ネロはそれに対して、レッドクイーンを突き立てることで応戦する。

男の刀がネロへと突き刺さり、ネロのレッドクイーンが男へと突き刺さった。

ネロは苦痛に顔を歪める。

 

「…」

 

しかし、男はその表情を変えることなく、ただその痛みを享受する。

双方の得物が、お互いの身体を貫いたまま、膠着状態になる。

2人の間に、独特の緊張感が流れる。

 

「…さっさと抜けよ。じゃなきゃ、このままお互いに動けないままだぜ。」

 

ネロは男にそう軽口を叩く。しかし、男の方は何も反応しない。

ネロは呆れたように、乾いた笑いを浮かべる。

 

「…本当にあれの兄弟かよ…静かすぎて調子が狂うな…」

 

そう言って、ネロはレッドクイーンを男から引き抜く。それと同時に、男もネロの身体に刺さっていた日本刀を抜く。

そのまま、ネロは少しずつ後ずさりをして、男から離れながら、片膝をつく。

 

「…まあ、ダンテより親近感は湧くけどな。」

 

ネロはそう言って、右腕でしっかりと閻魔刀を握りしめて構える。

地は再び震え始め、大きな唸り声を上げる。

男もそれを視認した瞬間、自身の力を高めるように、日本刀を構える。

そして、その2人が動こうとした瞬間。

 

「動かないでね〜!」

 

そんなおっとりとしたような声が、2人の動作を止める。

そちらを見ると、第1艦隊の愛宕達が、皆男へ向けて主砲や艦載機の用意をしていた。

 

「…邪魔が入ったな。」

 

男はそう言って、血を払う動作をしながら日本刀を鞘に収める。

その瞬間、海面が腫れ上がり、大きな波音が響く。

海面から出てきたのは、戦艦レ級であった。

 

「!!…」

 

愛宕たちはそちらに気を取られてしまい、視線を男から外した。

その隙に、男は海の方へと高く飛び上がる。

 

「!!…待て!!」

 

ネロはその男に向けてそう叫ぶが、その前に男は海面へと飲まれて消えてしまった。

代わりに、戦艦レ級がネロの方を向いてその目を赤く輝かせていた。

戦艦レ級は、妖しく嗤う。

 

「…提督ガ苦戦シテイタトコロヲ見ルト、ソコソコ強イミタイダネ。ダンテヨリモ強イカナ?」

「提督ねぇ、お前らの指揮官ってことか…待て、ダンテだと?」

 

ネロはレ級の言葉のその部分に引っかかりを覚えて、そう問いかける。

まさか、深海棲艦と呼ばれる奴らにまで、ダンテの名が知られているのだろうか。

その後ろの第1艦隊は、慌てて主砲をレ級へと向ける。

 

「ネロくん!下がってて!」

 

愛宕がそう言って、その主砲をレ級へ放つ。

しかし、レ級はその砲弾を手でキャッチして、そのまま投げ返す。

その砲弾は、愛宕の頬をかすめて、遥か後方で爆発する。

愛宕の頬からは、一筋の血の雫が流れていた。

突然のトリッキーな戦法に、第1艦隊は混乱する。

 

「…マア、今ハ君ヲドウコウスルツモリモナイケド。」

 

第1艦隊のことなど目もくれず、ただネロを見る。

その目は、まるで何かを探っているようにも見える。

 

「…思ッタ通リ、君ハ面白イネ。」

 

レ級はそう言って、そのまま海の方へと歩いていく。

その目の赤は既に消え失せ、今はまるで年頃の少女のような笑みを浮かべている。

 

「…ジャアネ。今日ハ仕事モ終ワッタシ、マタドコカデ。」

 

レ級はそう言って、海へと飛び込んでいった。

 

「!…おい!」

 

ネロはそれを引き止めようとするが、もはやレ級は海の奥底へと消えて行った。

ネロは歯嚙みをして、小さく呟く。

 

「…なんなんだよ、一体。」

 

 

 

 






とりあえず、バージルとネロの戦闘は他者の介入によって終了です!


あぁ、良かった…笑


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疑惑



大変遅くなりました!!

続きでございます!!
今章最後の話です!


 

 

「…酷いね。」

 

時雨はあまりの惨状に少し青ざめた表情でそう呟く。

あたりのコンクリートはバキバキに砕かれ、その下の地面が見えている。

工廠の壁は、鉄筋が剥き出しになっており、壁には大きな亀裂が入り、今にも崩れ落ちそうである。

切り倒されてしまったクレーンは、かなりの大きさであるため、人間の力で戻すのは難しい。

さらには、鎮守府中の建物の窓ガラスはほとんど割れてしまった。当分は、建物の中の掃除になるだろう。

 

「…まあ、出来るところからやるっぽい!」

「…そうだね。3日後には技術局長の視察もあるし。」

 

夕立のなんとか明るく振舞っているその様子に、時雨は大きなため息をついて返すのであった。

 

 

_____________________

 

 

 

「…随分パーっと派手にやったもんだねー。」

 

執務室の中、隼鷹が呆れた様子で呟く。

それを聞いた大佐とネロは、少し気まずそうな表情を浮かべていた。

大佐は泳ぐ目で、明るい声を上げて、愛宕の方を見る。

 

「…なんていうか…まあ、全員生きてたしオッケーかなって…?」

「別にはっきり言っていい。」

 

そんな大佐の空元気に、ネロはそうぶっきらぼうに言い放つ。

それは、もちろんこの大惨事のことである。

正直、いつものノリで敵と戦闘をしてしまったため、周囲の被害については何も考えていなかった。

だからこそ、今の現状に対して罪悪感を感じていたのだ。

大佐は、ネロの言葉に大きくため息をついた。

 

「…ごめん…正直、何があったのかは聞いたんだけど…なんというか、実感湧かないし…」

 

大佐は、少ししょんぼりとした表情で呟く。

ネロの言葉と第1艦隊の話を聞く限り、深海棲艦側の提督が単身で乗り込んで来たということだ。

しかも、それはネロの知り合いの親族ということらしい。

天龍と龍田がその人物に深傷を負わされ、それをネロが撃退したようだ。

 

「…その…なんかその相手さんが強かったから、しょうがないんだよね?」

 

大佐はそこまで呟くが、自身の鎮守府の被害はやはり無視できないのか、机に突っ伏す。

それを見て、ネロは言葉に詰まる。

少し、申し訳ないという感情が心にあったからである。

ネロはソファへと近づいていく。

 

「…奴は、何が目的なんだ?」

 

ネロは小さく呟いて、そのままソファにもたれかかる。

ギィ、と軋む音が響くと、隼鷹と愛宕が顔を見合わせる。

ネロの考えてることも少し理解していたので、それしかできなかったのだ。

愛宕は少し咳払いする。

 

「…まあ、いずれにしても、この状態はなんとかしないとね〜。」

 

そばにいた愛宕がそう言って苦笑いする。

それに関してはネロは何も返さなかった。

 

「…妖精さんに頼みましょう!なんとか、技術局長の視察には間に合わせなければ!」

 

大佐がそう言って勢いよく立ち上がると、皆が笑顔で頷いた。

ただ1人、ネロを除いて。

 

「…その妖精ってのは?」

 

当然の疑問をネロは投げかける。

大佐は少し笑いながら、軽く咳払いをした。

 

「艦娘たちの艤装のメンテナンスや、資材を使用した建造なんかを担当している、可愛い妖精さんがいるの!その子達に頼めば、大抵の問題は解決するわ!」

「…へぇ、じゃあ、何とかなるのか?」

 

ネロの質問に、笑顔でVサインを作る大佐。

それを見て、愛宕が少し苦笑いをして、ネロへと耳打ちする。

 

「本当は、妖精さんが気に入った司令官や提督のために色々手伝ってくれるってことなのよ?うちの提督は、しっかり好かれちゃってるみたい。」

「…気に入らない奴には協力しないのか。」

 

ネロはそう呟いて、静かに目を瞑る。

その妖精に、自分が好かれるかどうか思案するのであった。

 

 

_____________________

 

 

 

「…わざわざ、もう1人のスパーダの息子が攻め入ってくるとはね。」

 

妖精は1人、そう呟く。

そのまま目を閉じて、まるで遠くの誰かと話しているかのように頷く。

 

「…ダンテの兄のバージルということか。そしてうちにいるネロは…」

 

そこまで呟いて、妖精はその足音に気がついた。

大佐でも、艦娘の誰かのものでもない。

聞き覚えのない靴音。

 

「…妖精ってのは、お前か?」

 

その声の主は、先ほど話題にも出ていた、ネロという青年であった。

妖精は、少し息を飲んで口を開く。

 

「…君がネロだね。」

「…流石に、名前ぐらいは聞いてるか。」

 

ネロはそう言って、そばにあったちょうどいい木箱に腰掛ける。

妖精は少しばかりため息をついて、静かに語り出す。

 

「…全く、ここ最近は本当に多くの悪魔狩人が現れる。」

「…多くのってことは、俺の他にもいるんだな?」

 

ネロは妖精の言葉に、すぐにそう反応する。

その他の悪魔狩人の中に、自分の見知った顔がいるかどうか、確認するように。

妖精は、その言葉に少し微笑んだ。

 

「…君は、ダンテの知り合いなのかな?どうやら、ダンテが元帥に君を紹介したみたいだけど。」

「…やっぱりかよ。道理で俺なんかにわざわざ話が回ってきたわけだ。」

 

ネロはそう言って、軽くため息をつく。

冷静に考えれば、フォルトナの小さな事務所に、世界有数の大国である日本からのオファーがそう簡単に来るはずがない。

そこに、知り合いの存在があると考えるのは自然だった。

 

「そして、君が戦った相手は、ダンテの双子の兄、バージルだ。」

「双子の兄だって?それにしてはあまり似てないな。顔は、少し似てるかもしれないけどな。」

 

ネロはそう言って、軽く悪態をつく。

妖精は、それを聞いて少しばかり笑みを浮かべた。

確かに、ダンテと会話をした妖精が言うには、ダンテの性格はとても気障ったらしくて、かつ正義感や人の優しさを併せ持つ、とんでもなく人間らしい男だった、ということらしい。

しかし、あのバージルの性格は、冷静沈着で残忍と言うべきか。

まさしく、ダンテとは正反対、悪魔の性格をしていた。

現に、バージルはネロに対してここまでの攻撃をしたのだから。

 

「…で、そのバージルってやつが、深海棲艦の司令官だって言ってたな。」

 

ネロは、あの後からやって来たあの戦艦レ級と呼ばれた深海棲艦を思い出した。

確かにあの時、あのバージルとかいう男を指して、提督という言葉を口にしていた。

 

「…そこに関しては、よくわからない。何か、考えがあるのかもしれないし、良からぬ企みがあるのかもしれない。」

 

妖精は、断片的ではあったが、テメンニグルの事件を耳にしていた。あの時、魔界の封印を解こうとしたのは、バージルであると。

だからこそ、バージルの行いが、必ずしもこちらのためになるとは思えなかったのだ。

 

「…どっちにせよ、ダンテはどこだ?あいつと話がしたい。」

 

ネロはそう呟いて、妖精に軽く歩み寄る。

妖精は、少し困った表情をする。

 

「…それを教えたら、君はすぐにでもここを離れてしまうのかい?」

「?…」

 

妖精の言葉に、ネロは少しばかり戸惑う。

それは、どういう意味合いなのか、ネロにはさっぱりだったからである。

妖精は、その重い口を開く。

 

「…これから視察に来る、技術局長は危険だ。提督を1人にしてはいけない。」

「…どういう意味だよそれは。」

 

ネロは妖精を軽く睨む。

確か、大本営とかいう軍の本部から派遣される人間だったはず。

その本部の人間がなぜ危険なのか、ネロには理解できなかった。

 

「…今は言えない。それでも、彼女を守って欲しい。」

 

妖精のその台詞に、ネロは言葉に詰まる。

その大本営やらと、かつての魔剣教団が頭の中でリンクする。

ネロは軽く右手を振り上げて、その言葉に軽く答える。

 

「…分かった。それが解決したら、俺にダンテの居場所を教えろ。」

「…もちろんだ。」

 

妖精は、ネロの申し出を受ける。その表情は、拭えぬ不安をまとっていた。

外はだんだんと暗雲が立ち込めて、差し込む光が段々と消えていった。

 

 

 

 




次回予告

あの技術局長ってやつが、動き出したな。どうやら、坊や(Kid)の方に何かあるらしい。あいつは何か怪しいからな。坊や(Kid)がなんとかしてられることを祈るぜ。俺はこっちで、動いてみるさ。

Mission 8
Suspicious man



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Mission8 〜Suspicious man〜
視察



お待たせしました〜!!

新章突入でございます!


大佐の鎮守府のそばの道路を、一台のリムジンが走る。

主に、要人の鎮守府間の移動に使われる車であるため、多くの軍人が見れば、そこに乗っているのは大本営の人間であるとすぐにわかる。

その中に乗っているのは、技術局長と呼ばれる、この軍の兵器を開発している人間である。

 

「…技術局長。もうすぐ、大佐殿の鎮守府です。」

 

運転手のそんな言葉を聞きながら、技術局長は窓の外を見る。目的地である、大佐の鎮守府がそこには見え始めていた。

今回の視察の建前は、この鎮守府にて保護された艦娘たちの被害状況の確認である。

本当のところは、こうして自分が大本営から離れれば、ダンテが動き出すかもしれないと踏んだからである。

どんなデータを取るにも、まずは反応を促さなければ意味がない。ダンテが動かなければ、どうやってもダンテを解析するのは不可能なのだ。

そんな思惑を表に出さないように、技術局長は荘厳な雰囲気を醸し出していた。

 

「…ここら辺でいい。降ろしてくれたまえ。」

「わかりました。」

 

運転手にそう告げる技術局長の顔は、凶悪な笑みを浮かべていた。

ダンテのデータを確実に解析してやるという意思で、技術局長は動いていた。

 

 

 

_____________________

 

 

 

「…ね、ねぇ…時雨…」

 

鎮守府の正門前にて、大佐は力なく呟く。側からみれば誰もが大佐に対して苦笑いを浮かべるであろうほどにガチガチになっていた。

それに対して、隣に立つ時雨は呆れたような目線を向ける。

 

「…言いたいことは分かってるよ。でも、そんなに緊張することでもないはずだよ?」

「…どうしよう…何か技術局長に粗相でもしちゃったら…私クビになるのかな…?」

 

大佐は涙目になりながらそう呟く。

今回の視察は、鎮守府で保護した艦娘の被害状況の確認であるため、大佐の素行などをチェックされることはないのだ。

大佐があまりにも怖気付いた表情だったので、時雨の隣の夕立も呆れたように苦笑いを浮かべる。

 

「そんな感じだと、本当に技術局長に怒られてクビになっちゃうっぽい。」

「そ、そうだよね…」

 

大佐は少し、不安になりながら空を見上げる。

 

(はぁ…空はこんなに青いのに、心の中は雨模様…)

 

大佐は心の中で小さく呟いた。

本来、この鎮守府は視察などが来る場所ではないのだ。

前線からは離れていて、まるで上官の興味を引くものなどないはずの場所。

全ての原因は、あの娘たちに対して、あれだけ酷い扱いをする提督の下に、3人を帰したくないという自分の意思である。

だからこそ無意識にハンコを押したというのに、今になって胃が痛む。

大佐は天を仰ぎながら、軽く目に涙を浮かべていた。

 

「…視察なんて嫌よ…」

 

大佐は小さく、それでいて嫌々な気持ちを前面に押し出して呟いた。

結局、技術局長がやって来るまで、その不安げな面持ちが崩れることはなかった。

 

 

 

_____________________

 

 

 

ここは、艦娘寮の天龍と龍田の部屋である。

2人は青いコートの男と戦った時に負った傷を癒すために、しばらくドックへ入っていた。

龍田はまだ入渠が終わらないものの、天龍は早々と高速修復材を使って入渠を済ませ、今は自室にて療養中である。

天龍は、自分のベッドに寝転びながら、あの時の青いコートの男の言葉を思い出していた。

 

「…俺の魂が何を言ってるかだと…?」

 

そう呟く天龍の表情は、少し不満げな面持ちであった。

軽く天井を見上げるが、そこには何もない白が広がるのみ。手を高く伸ばしてみるが、決して届かない。

しばらく沈黙して、頭の中で考える。

自分の魂が何を叫んでいるか。

自分の魂が何を求めているか。

天龍は、伸ばした拳を力強く握りしめる。

 

「…そんなの…決まってんだろ。」

 

天龍はそう言って、勢いよく身体を起こす。

そして、ベッドから這い出て、立ち上がる。

パジャマは上下ともに可愛らしいピンクの花柄である。

いつもの服装へと着替えるために、タンスの前に立って両手に力を込める。

 

「…もっと力を。」

 

天龍はそう呟いて、両目を力強く閉じるのであった。

陽は少しずつ、頂点を目指し始め、天龍を照らしていた。

 

 

 

____________________

 

 

 

大佐は、目の前のその男に戸惑うばかりであった。

鎮守府に着くなり、軽く挨拶を済ませて、執務室への案内を申し出てきた。さらに、執務室に入るなり、すぐに書類を漁って、この鎮守府で保護した艦娘のデータを参照しているのだ。

こうも仕事熱心な人だと、今までやきもきしていたのがバカらしくなってしまい、大佐は少し気を緩めていた。

と、技術局長は不意にその視線を書類から大佐へと移す。

 

「その保護している艦娘達はどこにいる?」

「はひ!えっと、3人とも入渠ドックの集中治療室にいます!」

 

そんな大佐へ技術局長は突然声をかけるので、大佐は驚きのあまり変な声を出してしまった。

そして、自分がなんと恥ずかしいことをしているのか冷静に考え、大佐は少し俯いてしまった。

しかし、そんな大佐のことなど気にもせず、技術局長は話を続ける。

 

「…早速案内してくれたまえ。」

「…あの…すみません…わかりました…」

 

大佐は耳たぶまで顔を真っ赤にしながら、技術局長の言葉に応える。

大佐の受難は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

_____________________

 

 

 

大佐が技術局長とそんな会話をしている間、自室に篭っていたネロは、ソファに腰掛けていたにも関わらず、少し疲れたような表情を浮かべていた。

原因は、至ってシンプルである。

 

「…俺の肩に乗るなよ。」

「良いじゃないか。技術局長を見張るのにはうってつけのメンバーだ。それに、僕たちはそんなに重くないだろう?」

 

それは、数匹の妖精がネロの肩に乗っていたからである。

ここ最近、技術局長を見張るためにネロの肩は常に満員状態であり、入れ替わり立ち替わりで様々な妖精がネロに乗っかっていた。妖精同士のコミュニケーションは念話によってできるため、誰かが対象物を発見すれば、それをネロの元にいる妖精に伝えるのだ。

ネロは純粋に肩に乗られるのは迷惑だし、非常に疲れるとは思ったが、これも仕事のうちだと考えて、今は享受している。

流石に、肩でカップ麺を食べ始めた妖精と、いきなり眠りこけ始めた妖精は振り落としたのだが。

 

「その数でいられると邪魔なんだよ。」

「まあ、そのうち気にならなくなるさ。」

 

ネロの言葉に、妖精はただ笑いながらそう返す。

妖精達の重さは、はっきりいえば全く無いと言っても過言では無い。今のネロには4人の妖精が乗っているが、重さほとんどは感じない。肉体的には、そこまでの疲れはないのだ。

だが、そこに妖精達がいる、という存在感がネロを精神的に疲れさせている。

不意に、妖精の1人がパッと顔を上げて、ネロへと視線を向ける。

 

「…ネロ、奴が動いたよ。ドックに向かうらしい。」

「…そうかよ。なら、そろそろ俺たちも動かなきゃな。」

 

ネロはそう言いながら、ソファから立ち上がり、部屋のドアへと歩み寄って行く。その表情は複雑なものであった。

ネロは、事前に鎮守府の人間から技術局長の話を聞いていた。自分や妖精達とは別の視点の意見を取り入れたかったからである。

結果としては、誰もが口を揃えて、技術局長は大本営ではかなりの実力者であり、黒い噂など聞いたことがない、と答えた。

だが、それに対して妖精達は誰ひとりとして、その話を信じようとするものはいなかった。

それが意味することが一体何なのか、今のネロにはまだわからない。

 

「…何か裏がありそうだな。」

 

ネロはそう一言呟いて、部屋を出る。

そして、入渠ドックの方へと歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 





というわけで、約3週間ぶりの投稿でした…!

ヤバイヤバイ、あともう少しで1年経ってしまう…!


そして、100000UA!!
少しずつじわじわと上がってきて、メチャメチャ励みになります!!
ありがとうございます!!

もうしばらくお付き合いください…!!


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策略

はい、この作品もとうとう1周年を迎えました…
だが、その1周年の日に投稿できなかったのは痛い…

特に、1周年だからといって記念をやるつもりはないですけど、ダンテ達をもう1年も拘束してるんだなぁ、と考えるとなんか申し訳ない気持ちが…

なので、さっさと続き行きましょう!



「…部屋から出ちゃいけないって言われてもなぁ。」

 

空は、ベッドに寝転びながら静かに呟く。

大本営のお偉いさんが来るため、見つかってしまえばここにいられなくなってしまうかもしれないから、ということであった。

 

「でも、暇だしなぁ。」

 

空はその時、少しばかり悪いことを思いついていた。

それは、ネロに会いに行ってしまおうということ。

他の艦娘達は、大佐が空に対して出した命令を聞いているはずだろう。しかし、ネロにはそのことをおそらく伝えていないはずだ。

つまり、ネロは自身を追い返したりしないだろう、という算段であった。

 

「…隠密行動でいこうか。」

 

空は、少しわざとらしく悪どい笑みを浮かべると、ベッドから立ち上がり、そのまま部屋を出るのであった。

 

 

 

____________________

 

 

 

「…なるほど。」

 

技術局長は、ガラス越しに医療用ベッドに寝たきりの満潮と大潮を見守りながらそう呟く。

外傷は完全に治癒しているが、2人は目を覚まさない。

それだけ、疲労と精神的な苦痛があるのだろう。

技術局長は、静かにふむ、と呟き、大佐の方を向く。

 

「…それで、君はどうしたいのだ?」

 

その問いに、大佐はひどく困惑した。

今の自分が考えていることが、それだけ多くの人間を巻き込むことになるかもしれない。

それだけのことをこの技術局長に伝えることは、迷惑ではないか。

そこまで考えた大佐だったが、どちらにせよ上官命令で技術局長には事実を返さねばならない。

ならばと、大佐は一息置いてこう告げる。

 

「…この子達の鎮守府の提督は、補給も修理もろくにせずに艦娘に出撃を強いている可能性が高いです。なので、その鎮守府の艦娘たちを、この鎮守府に引き入れたいと考えています。」

「…つまり、鎮守府を丸々潰してでも、艦娘を助けたいと?」

 

技術局長はそう呟いて、大佐の方を向く。

その表情は、まるで何かを試しているようにも見える。

大佐は、しばらく黙り込んでいたが、やがて首を縦にふる。

 

「…自分は、艦娘を兵器だとは思いません。彼女たちは、人間です。だから、そんな扱いする人達を見過ごせないんです。」

「…良かろう。そこまで言うのなら、示してみせろ。大本営にも具申しよう。君のような人間にならば、艦娘は心を開くだろう。」

 

技術局長はそう言って、笑みを浮かべる。まるで、大佐のことを認めたかのようにも見える。

大佐はその言葉に、少し目を潤ませながら敬礼をする。

大本営の人に認められた。それだけで、大佐は嬉しくなったのであった。

 

 

 

____________________

 

 

 

「…大佐を誑かすつもりか?」

 

ネロの肩に乗っている妖精の1人が、そう呟く。

妖精の中での技術局長とはあまりにもかけ離れたイメージであるため、今の妖精に思いつくのはこの考えだけであった。

それだけ、技術局長への不信感が強いのだ。

 

「…」

 

ネロは、ただ黙り込んでその光景に目を凝らす。

いたって普通の、むしろ軍人としてはかなり好感がもてるタイプ。

だが、それでもネロの表情は晴れない。

 

「…面倒だな。」

 

ネロはそう呟いて、ただ軽くため息をつく。

妖精は、ネロのその言葉の真意が分からなかった。

 

 

 

____________________

 

 

 

「…艦娘は人間、か。」

 

技術局長は鎮守府の中庭を歩きながらそう呟いて、大きなため息をつく。

その言葉を聞いた時、技術局長は肝を冷やした。

艦娘は人間。それは、確かに間違っていない。半分正解と言ったところか。

まさか、この田舎鎮守府の人間が、艦娘の根幹にある秘密を知りうる機会があったのかとも思ったが、どうやらそこまでのことは考えていないらしいが…

 

「…これから先、どんなことになるか分からん。消しておくのがベストか。」

 

その真実に辿り着かれる可能性があるならば、多少のリスクを負ってでも、その大きなリスクを回避するのが鉄則になるだろう。

もし、放置して自身が危険に晒されるのであれば、それよりかはずっとマシである。

 

「…そうかよ。やっぱり、あんたは危険だな。」

 

と、技術局長に、背後から声をかける影がひとつ。

 

「!?…」

 

咄嗟のことで、技術局長は振り返ってそちらを見る。

そこにいたのは、銀髪の青年。

しかし、背中には大剣を背負っており、その面持ちは非常に険しいものであった。

 

「…君は何者かな?初めて見る顔だ。」

「そりゃそうだろうな。」

 

目の前の青年は、あからさまに敵意をむき出してきている。それが、何故かダンテに重なる。

技術局長は静かに拳を力強く握った。この人間は、自身の計画に仇なす存在、そして、とても有益な情報をもたらす存在だと。

 

「…だが、随分と気になる顔だ。」

「…俺にその気はねえけどな。」

 

技術局長は、静かにニヤリと笑った。

 

 

 

____________________

 

 

 

「ネロ、気をつけるんだ。」

「…気をつける、ね。」

 

妖精の言葉に、ネロは怪訝な面持ちを浮かべる。

気をつけるも何も、相手の出方がわからない以上、どうしようもないのだが。

とにかく、今は相手が実力を行使しないことを祈る。

と、そんなネロをじっと見ていた技術局長が、その重い口を開く。

 

「…ほんの一瞬。」

「?…」

 

技術局長の雰囲気が少し変わり、ネロは身構える。

 

「…ほんの一瞬、君を仲間にしたいと思ったよ。中々面白い魔力をしている。」

「…やっぱりそういうことかよ、お前は悪魔か?」

 

ネロは右腕を捲る。

技術局長はその瞬間、やはり、と呟いてニヤリと笑みを浮かべる。

 

「…少し違うな。僕は、悪魔の力を研究している人間。」

 

技術局長は、軽く右腕を掲げる。

その瞬間、地面には魔法陣がいくつか現れていた。

 

「!…」

「だから、こういうこともできるのだよ。」

 

地面の魔法陣が歪み、そこから魔帝ムンドゥスの尖兵である、ブレイドが5体飛び出してくる。

ネロはあからさまに面倒くさそうな表情を浮かべた。

妖精たちの言葉を嫌という程思い知らされていた。

 

「…こいつらは、ここ最近捕らえたんだ。今は、僕に忠実に従っている。」

「…やるしかねえか。」

 

技術局長の言葉には耳も傾けず、ネロは覚悟を決めてブレイドを睨みつける。

陽は少しずつ傾き始めていた。

 

 

 

____________________

 

 

 

「…ほ、本当ですか!?」

 

朝潮は、大佐の言葉に驚きの声を上げる。

それは、自分の姉妹艦たちにとっても嬉しい報せであった。

大佐は朝潮のは手を取って、はしゃぐように話す。

 

「うん!さっき、大本営の技術局長がいらしてね!話を聞いたら、大本営に具申してくれるって!!」

「私たちが…ここの鎮守府に…!」

 

朝潮は少し、微笑みを浮かべる。

あの、怖い提督がいる鎮守府に戻らなくて済む。

もう、苦しい思いを背負って出撃しなくて済む。

みんなが、笑っていられるようになる。

 

「…朝潮ちゃんの友達も、仲間もみんなこっちに迎えられる。だから、もうちょっとだけ待っててね!」

「…はい!」

 

朝潮は目に涙を浮かべながら、大佐の言葉に返事をする。

その表情を見て、大佐も満足げな様子であった。

その時、中庭の方から音が聞こえた。

 

「?…何の音だろう?」

 

大佐は、その音がする方へと目を向ける。

朝潮も、それにつられてそちらを見る。

そこで何が起きているのか、大佐達はまだ知らない。

 

 

 

____________________

 

 

 

吹っ飛べ(Blast)!」

 

ネロはレッドクイーンで思いっきり前方をなぎ払うように前進(ハイローラー)する。

2体のブレイドが斬られた衝撃で、メートル単位で飛ばされ、その先でその血液を吹き出しながら消えていく。

 

「gyaaaaaaa!!」

 

1体のブレイドが声をあげながら高く跳躍して、ネロへとその鋭い爪を振り下ろそうとする。

それをネロは軽い動作(テーブルホッパー)で躱し、そのままお返しと言わんばかりにブレイドの脳天へとレッドクイーンを振り下ろす。

ブレイドはそのまま地面へと叩きつけられ、そのまま息絶えた。

残った2体は、その爪を飛ばそうと構える。

が、ネロはブルーローズをその2体へと放つ。魔力を込めた弾丸(チャージショット)であるため、ブレイド達は身体の中心から熱を持ち、そして爆発した。

 

「まだやるか?」

 

ネロはそう言いながら、技術局長へとブルーローズを向ける。

それに対して、技術局長は何も言わずにただネロを見続けるだけであった。

 

「…実に興味深い!あの男とはまた違った研究結果になりそうだ!」

 

ネロはその言葉に疑念を持つ。

あの男。その単語を聞いて思いつく知り合いが1人。

まさか、ダンテはこの男の近くに?

 

「…まあ、とにかく上手く事は運びそうだ。」

「?…」

 

ネロは不思議に思って、そのまま技術局長を見る。

上手く事が運ぶ、それは一体どういう意味なのか。

 

「…ネロ、くん?」

 

と、その時背後から聞こえる声に、ネロは一気に身体を強張らせた。

それは、今この瞬間、最悪の事態が起きたということ。

 

「逃げろ!」

 

ネロは振り返りながらそう叫ぶ。

だが、時すでに遅く、大佐の目の前に魔法陣が出現していた。

そこから飛び出すブレイドが、大佐に向かってその鋭い爪を振り下ろしていく。

大佐はその突然の事態に恐怖し、動けない。

 

太陽が地平線へと沈んでいく。

 

 




というわけで、1年間応援コメントや評価の方、ありがとうございます!

もう少し、完走までお付き合いください!

大佐の命運はいかに!?


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葛藤



自分「めちゃ時間かかったけどやっと続きかけた…!さあ、投稿しよう!」

投稿話リスト確認

自分「…前話と前々話のサブタイトル同じになってるやんけ!!」

すみません、編集しました…

というわけで、遅くなってすみません!
行きましょう!!



 

 

「げほっ…!」

 

大佐は、目を見開いた。

化物が、自分に飛びかかってきて、自身の身体を貫こうとその爪を振り下ろした。

その瞬間、横から割って入ってきたその影が、自分の身代わりになった。

 

「!…空ちゃん…!!」

「…大丈夫…提督さん…?」

 

その爪は、空の腹部を鋭く貫いていた。今にも気を失いそうな空は、それでもなおブレイドに鋭い目線を向ける。

空の口元から、一筋の血液が流れる。

 

「マジかよ…!」

 

ネロはその光景を目の前にして、小さく呟いた。

ブレイドがその爪を引き抜いて、空を蹴り上げる。

 

「ぐぁ…!?」

 

空はなすすべなく吹き飛ばされ、そのまま地面を転がる。

大佐は空の方へと駆け寄る。

空は少しずつ目を閉じていく。まるで、力が無くなっていくかのように。

大佐は空を抱えて、空に何度も呼びかける。

 

「空ちゃん…空ちゃん!!」

 

ブレイドはその大佐の方へとその爪を飛ばそうと構える。

だが、ネロが右腕を伸ばしてそのブレイドを引き寄せる事で、その動作はキャンセルされる。

そのまま、足元まで転がってきたブレイドの身体にレッドクイーンを突き立ててトドメを刺す。そのままネロは技術局長の方へと振り返りざまにブルーローズを向けた。

しかし、技術局長は既にその場からいなくなっていた。ネロは大きく舌打ちをする。

 

「クソ…!!」

「空ちゃん…お願い…目を開けて…!!」

 

大佐は、空の顔を優しく撫でながらそう叫ぶ。

しかし、空は応えない。

その場に残るのは、大佐の声と静寂だけであった。

 

 

____________________

 

 

 

「くっ…危なかった…あの男…何者だ?」

 

鎮守府から少し離れた道路上、技術局長は自分が乗ってきた車の前で憔悴していた。

運転手が、それをただ無表情で見つめている。

 

「…ご気分がすぐれませんか?」

「ああ、最悪な気分だ!あんな男がいるなどと!!」

 

技術局長は運転手の言葉にそう吐き捨てるように返す。

本来、この視察ではあの鎮守府の人間がどの程度まで艦娘のことを知っているのかを探るつもりでもあった。

しかし、まさかここにもダンテのような男がいるとは思ってもみなかったのである。

と、そこまで考え込んで、技術局長は気がつく。

 

「ダンテはどうした!奴は動いたのか!?」

 

その言葉に、運転手はその右手にあるスマートフォンの画面を技術局長ヘ見せる。

その画面には、全てのシステムがダウンした、という通知がでかでかと表示されていた。

 

「なるほど…僕の計画通りになったか…!」

 

技術局長はニヤリと笑って空を仰ぐ。

これでいい。今回の視察ではイレギュラーが発生したが、それも些細な問題だ。

とにかく、今は大本営へとすぐに戻る事が先決。

 

「すぐに戻るぞ。」

「…かしこまりました。」

 

技術局長の言葉に、運転手は静かにお辞儀をしながら車のドアを開く。

技術局長は、遠くの空を見つめながら、また口元を歪ませるのであった。

 

 

__________

 

 

 

「…」

 

日が沈み、暗くなった室内を電灯が照らす中、大佐は集中治療室の前のソファで塞ぎ込んでいた。

集中治療室の中では、大潮達と並んで、空も治療を受けている。

なぜ、どうして。自分が傷つけられるはずだったのに。

空が傷つく理由なんてないのに。

全ては、自分のせいなのに。

そんな言葉が自身の脳内を埋め尽くす。

そんな大佐のもとに、靴音が響き渡る。

カツン、カツン、と響く足音は、大佐の近くまで来ると同時に消える。

 

「…隣いいか。」

 

そう言って、ネロは大佐の右隣にドカッとソファに座る。

ネロは、少し俯きながら、先ほどの出来事を思い出していた。

ブレイドが、大佐を切り裂こうとしていた。その瞬間、ネロは技術局長に集中していたため、動く事ができなかった。

 

「俺が油断してなければ、あいつは怪我なんてしなかった。」

 

ネロはそう呟いて、ため息をつく。

フォルトナにいた時の自分であれば、あんなミスはしなかった。あの状況で、大佐も空も救えたはずだ。

ブレイドが出現した瞬間に、ブルーローズを放つこともできたはずだ。右腕で悪魔を引き寄せることも出来たはずだ。

だが、それが出来なかった。

ネロは、フォルトナの時の感覚を思い出していた。

誰も救えなかった時のことを。

 

「…ネロくんのせいなんかじゃない…」

 

大佐はふさぎ込んだまま呟く。

ネロはそちらに目を向けず、ただぼんやりと前を見る。

 

「…だって…私があの場に行かなかったら…ネロくんが1人で全部倒してた…私が…あそこに行かなかったら…!」

 

ネロは、それを聞いて何かを言おうとするが、やめた。

フォルトナでは、キリエを救えなかった自分を憎んだ。力を持たない自分を憎んだ。

故に、大佐が自分を責める理由もよく分かる。

自分が非力だと、嘆いているのだ。

 

「…私が傷つけばよかったんだ…」

 

大佐はそう言ってソファから立ち上がり、そのまま逃げるように駆け出していく。

 

「…」

 

ネロはそれを引き止めることもしないで、ただ後ろ姿を見送っていた。

大佐にかける言葉が見つからなかったというのもあるが、1番の理由はその大佐が周りを拒絶をしていた事だ。

 

「…キリエが見たらなんて言うだろうな。」

 

ネロはそう呟いて、軽く天井を見上げた。

 

 

 

__________

 

 

 

「…提督、大丈夫かな?」

 

時雨が、執務室で書類を整理しながらそう呟く。

大佐が今はここにいないので、秘書艦である自分がなんとか仕事をこなさなければならない、という考えからであった。

その隣で、夕立も少しため息をついていた。

 

「…う〜ん、わからないっぽい。いつも提督は自分のことを責めちゃうから…」

「…そうだね。僕たちが、しっかりと支えないと。」

 

夕立の言葉に、時雨はそう返答してまた書類へと目を通す。

せめて、今は提督が仕事に気を取られてしまわないように、自分たちが出来ることをやるんだ、と。

 

 

 

__________

 

 

 

「…空ちゃんに顔向けできないな〜…」

 

工廠の中、地べたに座る大佐は静かにそう呟いて、ドラム缶に背中を預ける。

その表情は笑顔であったが、少し悲しげに見えた。

本当に苦しいのは空のはずなのに、自分がこんな調子では怒られてしまうだろう。

だが、それでもいつものように明るく振舞う事ができない。

 

「…はぁ〜、空ちゃんは生きてるのよ?なのに、そんな通夜みたいな雰囲気出して…空ちゃん起きたら怒るんじゃない?」

 

と、作業着姿の夕張が大佐に向かってそう告げる。

夕張に対して、大佐は少し困り顔で反論する。

 

「だ、だって…空ちゃん一歩間違ってたら…」

「…そりゃ、一歩間違えたら、私たちも沈むよ。」

 

と、大佐は夕張の言葉に何も言い返せなくなる。

大佐はそのまま、塞ぎこむように膝を抱える。

その様子を見た夕張は、あちゃ〜、とつぶやきながら頭を抱える。

 

「ごめんごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど。」

 

そう謝る夕張に、大佐は塞ぎこんだ顔を少しだけあげる。

そうだ、自分の命令にはみんなの命がかかっている。それなのに、自分はみんなのために命をかけられない…

大佐は小さく呟く。

 

「…私って、みんなに命令するだけ…いつだって自分は安全なところから指示を出すだけ…最悪だよね…」

「…だから、そうじゃないんだって。」

 

夕張はそう言いながら、大佐の目の前にしゃがむ。そして、大佐の手を取ってギュッと握りしめる。

大佐はその手を見る。作業をしていたせいでとても黒かったが、不快ではなかった。

 

「提督の指示に従ってるのは、それが正しいと思うから。確かに、上官の命令には背けないんけど、それだけじゃないし、何よりも大佐のためだから命をかけられるんだよ?」

 

夕張は大佐の目を見ながらそう呟く。

大佐はその夕張から目を背けるように塞ぎこむ。

 

「…でも、私怖がりなの…みんなが出撃してる時に、ずっと震えてる…」

「愛宕から聞いたよ。それって、自分が出した指示でみんなが怪我しないか不安なんでしょ?」

 

夕張はそう言って、大佐の顔を両手で挟み込む。

大佐はそのまま夕張の方を見るように大佐が目を動かす。

 

「…提督は、それだけ優しいんだよ。だから、みんなも提督のことが大好きなんだよ。だから、自分が傷つけばとか、そんなことは考えないでよ。そんなこと言うと、みんな提督のこと怒っちゃうよ!」

 

夕張はそのまま大佐に笑顔を見せる。

その笑顔を見た大佐は、少しだけ心が軽くなった。

2人はそのまま、なんだか可笑しくなって、笑い始めた。

 

「あはは、悩むなんて私らしくないよね。」

「そうそう、提督は明るすぎる方が似合うって。」

 

夕張と提督は、しばらくそのまま笑いあっていた。

月明かりが、鎮守府を照らし始めていた。

 

 

 






さて、続きなのですが、年明け前にもう1話投稿しようと思ってます!!

色々な予定が絡んで忙しかったので、かなり投稿スピード落ちてますが、年明けからかなり時間が取れると思うので、そこからは結構投稿スピードあがると思います!!
もうしばらく、お付き合いくださいませ…


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覚醒



さて、続きでございます!
覚醒といっても、別に能力に目覚めるわけではないです!


 

 

___暗い。

何も感じない。

冷たい海の中、身体が震える。

海の中…?

どうして海の中にいるの?

私は…

 

私は、深海棲艦。

艦娘達を、沈めて…鎮めて…しずメて…シズめテ…

 

ソウダ。

私ハ空母棲鬼。

今ノ私ガ異常ナンダ。

コウヤッテ、人間トシテ生キテイル今ノ私ガ。

 

なのに、何故だろう。

今まで戦いに身を置いて、多くの艦娘と戦ってきたはずなのに、今はそれを心の底から拒んでいる。

それは、ネロと出会ったこと。

それは、大佐に名前を貰ったこと。

 

ジャア、今ノ私ハ偽物?

 

 

__________

 

 

 

「!…ハァ…ハァ…」

 

空は身体を勢いよく起こして、そのまま肩で息をする。

治療用ベッドの軋む音が響く。

空はその音を聞きながら、少しずつ脳が覚醒していくのを感じていた。

時計を見ると、未だ時刻は深夜の2時。

空はどっと体が疲れるのを感じた。

 

「…うう…頭痛い…」

 

空は、頭を抑えながら色々と思い出す。

なんだか、嫌な夢を見ていた気がする。それも、あまり思い出したくないようなタイプの。

そもそも、何があって自分はここに寝ているのだろうか。

確か、鎮守府に視察が来るということで、部屋から出てはいけないと言われて、それを無視して外へ出て、大佐を見つけて…

そこまで考えて、空は自分がどうなったのかを思い出した。

 

「…そうだ、あの化け物。」

 

空は1人でそう呟いて、自分の身体を見る。

確か、腹部を貫かれていたはずだ。そのあと、確か投げ飛ばされたりしたはず。

身体中に包帯が巻かれている。

 

「…痛くない…」

 

まず、頭で考えられたのは、そのことだけであった。巻かれている包帯にはかなりの出血の跡があるのに、痛みどころか違和感すら感じない。

右手で軽くさすって見ても何も変わらない。

それは、傷口が既にふさがっているということになる。

 

「…どうなってるんだろう、私の体…」

 

空はそう呟いて、ただぼんやりと目を閉じた。

もうあんな怖い夢は見たくないと考えながら。

 

 

__________

 

 

 

「…お前らの言う通りだったな。」

 

ネロはそう肩に乗る妖精に向かって呟く。

妖精は、その言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて返答する。

 

「…ネロがいなかったら、この鎮守府は無くなってしまっていたかもしれない。被害は最小限に抑えられた。」

「…そうは思えねえよ。」

 

ネロはそう言って、悲しそうな表情を浮かべた。

空があれだけ傷ついたのだ。鎮守府の被害で換算すれば全く問題はないのだろう。

いや、大佐の心に深い傷をつけたのだから、かなりの被害と考えられる。

それに、ネロ自身にも罪悪感が残る。

 

「…そうだ。約束はしたからね、ダンテの居場所を教えようか?」

 

妖精はそう言ってネロにその目を向ける。

ネロは、何も言わずにただぼんやりと前を見る。

今このまま、この鎮守府を離れて、ダンテを探しにいくことが、この仕事を終わらせることになるだろうか。

恐らくだが、ダンテは『もうギブアップか?』なんて言うのかもしれない。

 

「…いや、まだいい。」

 

今は、とにかくこの鎮守府のために動く。ダンテに会うのはそれからでも遅くはないだろう。

それに、ダンテの兄であるバージルの動向も気になる。

 

「…面倒なことになるかもな。」

 

ネロはそう呟いて、軽く空を見上げた。

月明かりは、なぜか異様なほど明るかった。

 

 

__________

 

 

 

「…ぁ…」

 

集中治療室で眠っていた大潮は、静かに目を開けた。

目の前に広がるのは、白い天井。

それが、何を意味するのか。

 

「…負け…ちゃったのかな…」

 

大潮の記憶は、あの戦艦レ級に殺されかけたところで途切れている。

つまり、ここは鎮守府の入渠施設や集中治療室なのだろう。

そして、敗北したら…

 

「ヤダ…司令官…怒らないで…」

 

大潮は涙ぐみながら布団に顔を埋める。

また、司令官に怒られる。

また、思い切り身体を痛めつけられる。

また、自分だけでなくみんなが傷つく。

そう思うと、もうこの布団から出るのは嫌だった。

 

「あっ、もしかして起きた?」

 

と、隣からそんな声がしたのを聞いて、大潮は布団から少しだけ顔を出す。

声の方を見ると、黒髪の長い髪の女の人が1人。

なんだか、どこかで見たような気もするが、知り合いではないと思う。

 

「2人ともずっと起きないからみんな心配してたよ~。でも、まさか私がここに来てから目を覚ますなんて。」

 

目の前の女の人はそんな風に言って、笑顔を浮かべる。

2人とも…ということは、もう1人ここに?

大潮は反対側の隣を見る。そこには、同じ艦隊の満潮が眠っていた。

 

「満潮…!」

 

大潮は心配そうにそう呟く。

だが、満潮はまだ目を覚まさない。

 

「…どうやら、貴方だけみたいだね。」

 

隣の人はそう言って、少し寂しそうな表情を浮かべていた。

大潮は、気になっていたことを聞こうと覚悟を決める。

 

「…あ、あの…お姉さんは誰ですか?」

 

大潮の言葉に、その女の人はただ困ったように笑う。

それが何を意味するのか、大潮には分からなかったのだが。

 

「私は、この鎮守府のみんなからは空って呼ばれてる。」

「空…さんですか。」

 

大潮は、その人物が艦娘ではないということだけ理解した。

そうなれば、残る疑問は1つ。

 

「あの…ここってどこの鎮守府なんですか?」

 

その質問に丁寧に答えた空は、そのまま自分のベッドについていたナースコールのボタンを押すのであった。

 

 

 

__________

 

 

 

「大潮!!」

 

早朝、朝潮はその報せを聞いて真っ先に駆けつけた。

ずっと目を覚まさなかった大潮が意識を取り戻したことは、もしかするともう二度と起きないのではないか、という不安を拭い去ってくれた。

 

「朝潮姉さん!」

 

大潮も久々に会った気がする朝潮と抱き合いながら再会を喜ぶ。

そんな2人を見て、空はなんだか嬉しい気持ちがこみ上げて来た。

 

「それにしても、空ちゃん凄いね。もう復活したの?」

 

と、夕張が言って身体の調子を見てくれている。

どうやら、腹部の傷は完全にふさがっているだけでなく、もはや傷跡すら残っていないらしい。

空はそれを聞いて、首をかしげる。

 

「…分からないけど、なんかおかしいのかもね。」

「それで済めばいいけどね…」

 

夕張は少し困惑しながら空の言葉に返答する。

何かおかしいのは理解しているのだが、問題はどこがどうおかしいのかが全く不明という点である。

その違和感が、何が重大な事件を引き起こす可能性だってある。

だが、怪我がない以上、集中治療室にいる理由もない。

夕張は、とにかく、と前置きして両手を後ろへと回しながら呟く。

 

「大潮ちゃんと空ちゃんは完全に退院ってことになるわね。」

 

夕張がそう言ったと同時に、朝潮は目を輝かせて大潮の両手を握りしめる。

 

「大潮!ここの提督に挨拶しにいこう!凄くいい人たちばっかりなのよ!」

 

朝潮は大潮の手を引いてそのまま執務室へと走って行ってしまった。

それを、空はぼんやり眺めていた。

自分に姉や妹がいたら、あんな感じなのか、と。

もちろん、そんな存在がいないということは理解しているのだが。

 

「…さ、空ちゃんはどうする?」

 

夕張はそう言って、軽く笑みを浮かべる。

それは、せっかくの退院なので自由に動いたらどうか、という提案。

空は少し悩んだ様子を見せて、こう告げる。

 

「んー、じゃあ、提督のところへ行ったあと、ネロのところにいこうかな。」

 

そう呟いて、空は大きく伸びをする。

それを見て、夕張は安心したように微笑む。

 

「…提督、すっごく心配してたから喜ぶよ。それに、ネロもね。」

「そうなんだ…ちょっと嬉しいかも。」

 

空はそう言って、軽く笑う。

夕張もそれを見て、笑いかえすのであった。

 

 

 





満潮はもう少しかかるのです…!
空ちゃんの身体に一体何が…!?

忘年会シーズン、皆さま飲み過ぎ食べ過ぎにはご注意を!
僕はもうやらかしました(胃もたれ)


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幕開



1ヶ月以上あいてしまった…
本当にすみません…
というか、忘れられてないかな…?


いや、そんなことは関係ない!
続き行きます〜!

いよいよ、空に…



 

 

「大潮ちゃん…!」

 

大潮は、初対面である大佐に対して、困惑しきっていた。

部屋に入るや否や、大佐はすぐに大潮へと駆け寄り、そのまま抱きしめたのである。

 

「あ、あの…どうしたんですか…?」

 

大潮は、その相手が鎮守府の提督であることを認識していたため、恐る恐るそう尋ねてみる。

大佐はそれを聞いて、自分の行動を反省する。

 

「ご、ごめんごめん!ついうっかり…!」

 

大佐はそう言って笑みを浮かべながら、大潮を解放した。

大潮は、その表情を見て心がざわつくのを感じた。

もしかしたら、自分の言動が相手の気に障ったかもしれない。

上官の命令は、絶対だというのに。

 

「い、いえ…ごめんなさい…」

 

そう考えた大潮は、すぐにそう零して下を向く。

平手が飛んでくるかもしれない。いや、もしかすると親潮にも飛び火して、2人で捨て艦に使われるのかもしれない。

そう考えると、身体が震えた。

しかし、それは間違っていたことがすぐにわかる。

 

「大潮ちゃん、もう大丈夫だからね。」

 

自身の手を握り締めながら大佐の言葉に、大潮は静かに問い返す。

その言葉の意図を知るために。

 

「そ、それって…?」

「私の鎮守府に、みんな連れてくる。だから、もう前の提督のところには戻らなくて良いの。」

 

大潮はその言葉に、知らずのうちに涙を流していた。

あの、辛いだけの場所に戻らなくてすむ。

もう、誰も傷つかなくてすむ。

もう、痛い思いをしなくてすむ。

もう、怖い提督に怯えなくてすむ。

 

「あ…有難う…ございます…!!」

 

大潮は、涙交じりの声でそう呟いた。

初めて受けた、優しい言葉。それが、こんなにも暖かいものだとは思わなかった。

大潮は、ただ泣きながら大佐の言葉をかみしめる。

その光景を、親潮がただ嬉しそうに見つめていた。

 

 

____________________

 

 

 

空は、その様子を扉の隙間から見ていた。

大佐に、自分は大丈夫であることを伝えようと思ってやってきたところ、先に来ていた大潮たちがまだ話していたため、こうして待機していたのだ。

しかし、だいたい10分ほど待っていても、なかなか出てくる気配はない。

このまま待っていても、もしかすると出てこないかもしれない。

 

「…ん~、あとでまた来ようかな…」

 

空はそう呟いて、静かに扉を閉める。

そして、大佐に会う前にネロのところへと向かうことにした。

少し楽しそうに口笛を吹きつつ、歩いていく。

自分の靴音と一緒に、口笛が廊下にこだまする。その音を体で感じながら、少しずつ外にいるであろうネロの方へと歩み寄っていく。

 

「…」

 

だが、ふとした拍子に、自分の身体のことが気になった。

自分でも感じていた。

あれは、そんなにすぐ完治する傷ではなかった。

それが治ってしまったこと。それ即ち、明らかな異常。

 

「…ネロに、聞いてみよう。」

 

空は1人でそう呟いて、悲しそうな表情を浮かべる。

それは、自分の身体に何かが起きているということを、認識していたからである。

厚い雲が太陽を隠す。昼間のはずなのに、辺りは少しずつ暗くなっていった。

 

 

____________________

 

 

 

「…」

 

湾頭を歩いていたネロは、突然立ち止まってから、しばらく水平線を睨みつけていた。

その向こうから、明らかな視線を感じたからである。

その視線は動くことなく、ただこちらを見ているだけのようだ。

その相手が何者なのか。ネロは、右腕の感覚で大体気がついていた。

 

「あいつは、俺の何なんだ?」

 

今は相手の姿が遠く見えないのに、かつてダンテと出会った時より強く反応する右腕。

それは、ダンテよりもあの青いコートの男が自分に関係しているということなのだろう。

だが、その疼きの答えはまだネロには分からない。

 

「あっ、いたいた。ネロー。」

 

と、自身を呼ぶそんな声で、ネロはその疼きから気をそらす。

そこには、すっかり怪我が治った空が立っていた。

ネロはそれを、不安げな面持ちで見つめる。

 

「…もう怪我はいいのか?」

「…うん、大丈夫みたい。ピンピンしてるよ。」

 

空はネロの言葉に、おちゃらけたような笑顔を浮かべていた。

ネロはそれを聞いて、警戒心を高めていた。

閻魔刀に斬られて、人間に戻った空が最初に言っていたこと。

艤装がそこにあるのに、取り出せない感覚。

その言葉が、何故か今になって妙に気にかかる。

 

「…ねえ、ネロ。」

空は突然、真面目な表情に変えてネロに問いかける。

ネロは空の変化に、少し顔を引き締めていた。

 

「私の身体、どうなってるんだと思う?」

 

空はそんなネロの心境を見透かしたかのようにそう問いかける。

ネロは、ただ静かに空のことを見つめる。

悪魔によって負わされた怪我は、1日で消えた。まるで、半人半魔のように。

それは、人間には決してありえない現象。

しかし、元深海棲艦であった空はどうだろうか。

 

「…私はね。私が、深海棲艦としての私に戻ってるんだと思う。」

 

空は静かに、そう呟く。

その瞬間、辺りの空気が一変する。

冷たい海の風が、強く吹き抜ける。

 

「…人間とは違う存在。艦娘とも違う存在。」

 

空は、そう呟きながら、軽く俯く。

その顔は、悲しそうな表情であった。

 

「私は…深海棲艦。」

 

そう言った空の目からは、赤い光が漏れ出していた。

突然、空が呻き出す。

 

「!…おい!」

 

ネロが呼びかける言葉に、空は答えない。

空の背中から、赤い光が吹き出し始めた。

 

 

____________________

 

 

 

「…提督、ソンナニアイツガ気ニナルノ?」

 

ネロと空。その2人の様子を遠く離れた海域からじっと見つめるバージルに、戦艦レ級が問いかける。

ただ腕を組みながら、微動だにしないその姿に、戦艦レ級は戸惑っていた。

その横で、南方棲鬼がニヤつきながら戦艦レ級に耳打ちする。

 

「…提督ガアレダケ楽シソウニシテタノッテ初メテジャナイ?」

 

その呟きが苛立ったのか、バージルはhumph…と小さく返す。

聞こえると思っていなかった南方棲鬼は、慌てては咳払いをする。

戦艦レ級がバージルを刺激してしまう南方棲鬼に呆れながら、ジト目になる。

 

「ニシテモ、アイツハ何者ナンダイ?僕ニハ、ダンテトモ違ウ人間ニ見エルシ…」

 

戦艦レ級が、話をそらしてバージルの様子を伺う。

その言葉に、バージルは何も答えない。

だが、その答えをすでにバージルは知っていた。

ダンテとも違う、スパーダの血族。それは、まさしく…

 

「…提督ガ手コズッタ相手ッテ聞イテタケド、ヒ弱ソウネ。」

「…ソウ言ッテ、ダンテニボコボコニサレテタノハ誰ダッタッケ?」

 

南方棲鬼に、戦艦レ級が呆れたように返事する。

そんな2人の会話など気にも止めずに、ただバージルはネロ達の方を見続ける。

突然、その光が現れる。

 

「!…アレハ…」

 

戦艦レ級がそう呟いて、目を細める。

あの人間に戻った空母棲鬼が、また深海棲艦に戻っていく。その光景に純粋に驚いていた。

 

「…何ヨ…初メテ見タワヨアンナノ。」

「…提督、アレヲ僕達ニ見セルツモリダッタッテコトカイ?」

 

まるで困惑したような表情を浮かべる南方棲鬼に対して、戦艦レ級はバージルの意図を理解して、そう小さく呟く。

その言葉にも答えず、バージルはただその様子を見ているだけであった。

 

 

____________________

 

 

 

「マジかよ…」

 

ネロは、空が豹変していくのをただ呆然と見ていた。

背中には、あの怪物のような艤装が現れ、空には白い球体が飛び回る。

空の身体を包んでいた衣服は、少しずつ消えていき、一糸纏わぬと言っても過言ではない。

その姿の彼女を、世の提督達は空母棲姫と呼ぶだろう。

 

「…ネロ…」

 

空の声は、ノイズがかかったような不気味に響く。

ネロはその空の姿を見て、軽くため息をつく。

しっかりと、身体のラインが出ているその姿に、少しばかり戸惑っていた。

 

「…やりづらいな。」

 

だが、そうも言っていられないのは重々承知していた。

ネロは、軽くニヤリとしながらコートの右腕をまくる。

 

「…とりあえず、さっさと元に戻れよ。」

 

ネロはその右腕を自分の顔の前まで持ち上げ、軽く握りながら呟いた。

そのネロの言葉を聞いて、空はその表情を柔らかくする。

暗雲が、少しずつ晴れていく。

 

 

 

 

 






次回、完全バトルでございます!


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救済

お待たせしました!

というかお待たせしてすみません!


「提督!大変だよ!!」

 

慌てた様子の時雨と夕立が、執務室へと飛び込みながらそう騒ぐ。

それを聞いて、中にいた大佐と朝潮達は気を引き締める。

 

「ど、どうしたの?」

「どうもこうもないっぽい!今、外でネロと空が戦ってるっぽい!」

 

夕立がそう言ったと同時に、大佐は執務室の窓から外を見る。

そこでは、ネロが空母棲姫と戦っている姿が見えた。

だが、大佐には一目で分かる。

あの空母棲姫は、間違いなく空であること。

 

「…嘘…そんな…空ちゃんが…!」

「提督!」

 

時雨と夕立が、大佐を見ながらそう叫ぶ。

どうするべきかと、指示を促す。

大佐は、息を飲む。

どうすれば良いのか。

空を助けるにしても、艦娘であるみんなに負担をかけてしまうのではないか。

力のない自分に、価値はあるのか。

 

「提督、僕たちは沈まないよ。」

「だから、提督の思うようにやるっぽい!」

「!…」

 

時雨と夕立の言葉に、大佐は言葉を飲む。

自分のことを信頼してくれる艦娘たちを、自分が信頼しなければならない。

大佐は、自分に気合いを入れるかのように、両頬を両手でパチンと叩く。

 

「…よし!みんな、私に力を貸して!!」

「…了解!」

 

大佐がそう叫ぶと、時雨たちがそう返答する。

空とネロ、2人を助けるために。

 

 

____________________

 

 

 

ネロは純粋に苦戦していた。

相手は海に降りることなく、ただその場に立ち尽くすだけなのだが、周りを飛ぶ球形の艦載機たちが、ネロに対して延々と攻撃を続けてくるのだ。

数は、目視で数えられるだけで200を超える。

 

「…キリがねえな。」

 

その艦載機たちに阻まれるせいで、だった30mの距離が縮められないため、1つ1つ、ブルーローズで丁寧にそれらを撃ち落としていく。

だが、それだけの数をチマチマ攻撃していても、そう簡単に減るわけがない。

ここが軍事施設であることから、空を止めるための時間はそう長くはない。仮に施設に攻撃が始まれば、どうしようもない。事態は急を要する。

 

「なら、思いっきり派手にいくぜ。」

 

ネロは右腕を伸ばして艦爆の1つを掴み取り、それを艦爆たちが群れをなしている所へ投げつける。

艦爆同士がぶつかり、それらの爆弾に引火し、大きな爆煙が空を覆う。

まるで、大きな花火のような爆発であった。

それを見たネロは、軽く笑みを浮かべる。

 

「…割とショボイな。」

 

そう呟いたネロは空の方を見る。

空は、ただ虚ろな目でネロをじっと見るだけてあった。

艦載機を新しく飛ばす様子もなく、ネロは軽く油断していために、空の方へと駆け寄ろうと地面を蹴る。

だが、それを見計らったのように、海に波紋が数個ほど現れる。

 

「!…」

 

ネロはとっさにそれに反応し、すぐに避けるように飛びのけた。

波紋の中から3体のブレイドが現れ、空を守るかのように立ちふさがる。

空の暴走した魔力に惹かれてやってきたのだろう。

 

「チッ…」

 

ネロはすぐにブルーローズを取り出し、そのまま引き金を3回引く。

ブレイドのうち1体がその弾丸を胴体にくらい、そのまま断末魔をあげて倒れ臥す。

と、いきなりネロの方へと1体のブレイドが突撃する。

 

「失せろ!」

 

ネロはそのブレイドをその右腕で引き寄せて、レッドクイーンのエンジンを最大までふかす。

そして、ブレイドがこちらへぶつかるかと思われるその瞬間、EXストリークをかます。

 

「One!Two!Crazy!!」

 

3回の大きな突進を伴った斬撃に、ブレイドは身体を四散させながら吹っ飛ばされる。

最後の1体は、周りがやられていくのに全く動じず、その爪を放とうと構える。

しかし、それをネロは感知していた。

 

「来いよ!」

 

ネロがそう呟いた瞬間、ブレイドは爪をネロへと飛ばす。

しかし、その直線的な弾道を、ネロは軽く身体を逸らすだけの動き(テーブルホッパー)で回避して、そのままブレイドへと近づく。

ある程度近づいた瞬間、ネロは右腕でブレイドを掴む。

 

「くらえ!」

 

ネロはブレイドを、何度も地面に叩きつけ、そのまま最後に1発地面へと強く叩きつける。

その動作で、ブレイドはもがき苦しみながら、最後には動かなくなった。

 

「…増えてやがるな。」

 

ふと、気がついて上を見上げると、また空の周りには白い球体がフワフワと浮いていた。

ネロは少しかったるそうに静かにため息をつく。

 

「ネロくん!」

 

と、後ろからそんな切羽詰まったような声が聞こえた瞬間、ネロはさらに面倒臭そうにため息をつく。

 

「部屋に戻ってろよ。」

「大丈夫!」

 

大佐はそう告げて、総員戦闘準備!と叫ぶ。

すると、時雨と夕立が対空砲を、隼鷹と飛鷹が艦戦を装備しながら現れる。

 

「空を飛んでる奴らは任せるっぽい!」

「今のうちに空さんを!」

 

時雨と夕立がそう叫びながら、対空砲を空中へとばら撒く。白い球体達が、それを受けて時雨と夕立に突貫をかける。

が、その横から現れた艦戦に次々と撃ち落とされる。

 

「パーっと行こうぜ!パーっとな!」

「数が尋常じゃないんだからふざけないで!」

 

隼鷹と飛鷹の式神タイプの鑑戦が、次々と戦果を上げていく。

大佐は、ネロを真っ直ぐ見据える。

 

「もう足手まといにならないから…」

 

そこには、普段の怯えたような目はすでに消え失せていた。

たた、仲間を助けたいという思いだけが垣間見えた。

 

「…空ちゃんを…助けて上げて…!」

 

その表情は、ネロの心を突き動かした。

軽く笑みを浮かべながら、ネロは左手を軽く上げる。

 

「…了解。」

 

ネロはそのまま、空の方へと駆け寄る。

空は、本心では抵抗するつもりはないのだろうが、次々に艦載機を発艦させていく。

 

「…暴れるなよ。」

 

ネロはそう呟いて、ただ空の方を見据える。

空から爆音が聞こえるが、それらは全て時雨たちが撃ち落とした艦載機のものだと確信していた。

 

「助ケテ…」

 

突然、空がそう呟きながら、ネロに向けて何発か主砲を放つ。

正確な弾道で、ネロへと砲弾が接近していく。

 

「Ha!」

 

だが、それらはネロの隙のない動きでかわされていく。

空が、虚ろな目でネロを見据える。

ネロはそれを見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「悪いが、キスで起こしてやるほど俺は優しくないぜ。」

 

ネロはそのまま高く飛び上がり、閻魔刀を構える。

空は、まるで悲しげな顔をしていると同時に、ホッとしたような表情を浮かべていた。

ネロは気力を高めるかのように静かに呟く。

 

「『灰は灰に(Ash to ash)』」

 

ネロはそのまま高く閻魔刀を振り下ろし、空の右腕についている甲板だけを切り落とす。

ついでと言わんばかりに、ネロはそのまま空と艤装をつなぐ部分を斬り壊した。

 

「『塵は塵に(Dust to dust)』」

 

空はまるで、糸が切れたようにプツリと意識を失い、そのまま前に倒れこむ。

しかし、ネロはそのまま倒れ込む空の体をしっかりと両手で支える。

 

「…人間は、人間に戻さなきゃな。」

 

ネロはそう呟いて、空の顔を見る。

先程の悲しそうな表情から、穏やかなものに変わっていた。

少しずつ白かった髪も黒に戻っていき、身体を覆っていたボロボロの布も少しずつ剥がれていく。

まるで生気の感じられない冷たい肌は、徐々に人間らしく血が通ったかのように色が戻ってくる。

 

「…っ。」

 

と、そこまで空を見ていたネロは思わず目をそらす。

決して豊満とまでは言わないが、その女性的なボディラインが露わになっていたからである。

と、後ろからたくさんの足音が響く。

 

「ネロ!大丈夫なのかい!?」

 

時雨と夕立が駆け寄ってくるのを見て、ネロは空のことを丸投げしようと考えていた。

とにかく、今は空が無事に目を覚ますことを祈るしかないのだから。

ふと気がつくと、遠くから見ていたはずのあの気配が動いたのを感じた。

 

「…これで満足かよ。」

 

ネロはそう悪態をつきながら、空を抱えて時雨たちの方へと歩み出す。

太陽が、鎮守府を照らし続けていた。

 

 

 




いや、本当にすみませんでした…

インフルB型にかかってしまい、全然かけなかった…

なかなか週一投稿が出来ないですが、頑張らなければ…


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天龍

…いや、気がついたら3ヶ月たってました…

ほんと、申し訳ないです…!!




失踪しかけた…(恐怖)


 

「…終ワッタネ。」

 

戦艦レ級は、そう小さく呟いて欠伸をする。

ネロとあの空母棲姫の戦いは、かなり興味深いものであったが、やはり自分が加われないのが面白くないのだ。

 

「…humph。」

 

バージルはそう呟いて、軽く目を閉じる。

その心の中で何を思っているか、それは本人以外の誰にもわからない。

南方棲鬼はただ、納得がいかないような表情を浮かべていた。

 

「アンナノ、ズルインジャナイノ?アレヲ倒スノ、無理デショ。」

「アノ刀ハ強スギル。提督ニ今スグ返シテ貰ワナイト、コレカラ苦労スルダロウネ。」

 

戦艦レ級は南方棲鬼の言葉にそう返答する。

その言葉には、出来るものなら、という言葉が隠れていた。

 

「…デ、提督。コレカラドウスル?」

 

南方棲鬼はそう静かにバージルへと尋ねる。それに対して、バージルは無言で歩きだす。別段、何もする気は無いと言っているような気さえする。

 

「…無視サレルノハ癪ナンダケド。」

「…マア、仕方ナイサ。」

 

南方棲鬼の嘆きをスルーしながら、戦艦レ級もバージルの後をついていく。

南方棲鬼は、諦めたようにため息をついて、未練がましく鎮守府を見つめながら戦艦レ級を追う。

暗雲は少しずつ晴れていった。

 

 

 

____________

 

 

 

「…君のおかげで、技術局長の思惑はしっかりと打ち崩せた。感謝する。」

 

工廠の中、妖精たちがネロを囲みながらそう呟く。

ネロはその真ん中の椅子に乱暴に座ったまま、黙りこくっている。

まるで、尋問をされているかのような雰囲気に、妖精たちは身体を強張らせていた。

 

「…あいつは、どうなる?」

 

静寂を切り裂くように、ネロが呟く。それを聞いた妖精たちは、すぐにネロが差しているあいつが、空のことであると理解した。

しばらく、妖精たちも黙りこくって居たが、静かに語りだす。

 

「…完全に、彼女の中の悪魔は消え去った。だが、目が覚めるかどうかは全くもって未知数だ。もしかすると、このまま二度と目が覚めないかもしれない。」

 

妖精はそのまま、少しため息をつきながら続ける。

それを見て、ネロは少し怪訝な表情を浮かべる。

 

「彼女はもともと、深海から来た側の者だ。目が覚めなければ、そのまま軍にいいように扱われるかもしれないし、最悪の場合は…」

「…もういい。奴らが半人半魔ってことは分かった。」

 

ネロは話を遮るようにそう返答し、腕を組んで考え込む。

ネロは純粋に、1つの疑問を持っていた。

深海棲艦が半人半魔という事実。それをダンテが見抜いていないはずがない。

ダンテはそれを見逃して、何をしているのか。

そこまで考えて、ネロは大きくため息をつく。そんなことを考えるだけ無駄なのだ。

今必要なのは、情報の整理である。

 

「…ダンテは、どこにいる?」

「…そうだね。約束通り、教えよう。」

 

ネロの小さなつぶやきに、妖精はそう答える。技術局長の一件が過ぎるまで、ネロには無理を言ったのだ。約束すら破れば、もはや自分たちの立場も危うくなるだろう。

妖精たちはそう頭の中で考えながら、その重い口を開く。

 

「…彼は、大本営の内部にいる。それも、特別なVIP扱いでね。」

 

そう言った妖精の表情は、とても悲しげであった。

ネロはその瞬間に、その表情を硬くしていた。

 

 

 

____________________

 

 

 

「…大本営にいるだと?」

 

ネロは苛立ちながらそう呟く。

ダンテが大本営にいる。その事実は、あまりにも信じられなかった。

大本営から派遣されてきた技術局長という男は、わざわざこの鎮守府に視察に来て、最終的に大佐を排除する考えに至った。そんな彼の下に、ダンテがいるということを、技術局長本人が仄めかしていた。

だとすれば、あれほど魔力を自分のために使用する男を、果たして放っておくほどダンテは正義感がない男であったか。ならば、奴らにダンテが加担しているというのだろうか。

 

「…それはないな。」

 

そこまで考えて、ネロは静かに首を横にふる。

おそらく、大本営にいる事実は覆らないが、ダンテが自由に行動できないのは理由があるのだろう。

何かの問題が発生した、などが理由に挙げられるだろうか。双子の兄が現れたことも、関係があるかもしれない。

 

「…チッ…どうしろってんだ。」

 

ネロは、ただ悩むことしかできなかった。

このまま、ダンテのところに向かうことはできる。その場でダンテを問い詰めることも。

だが、今は大佐や空のことが気にかかる。もし、ネロ自身がいない時に敵が攻めて来たとしたら…

 

「…随分な面倒に巻き込まれたな。」

 

ネロはそう呟いて、自室に戻るのであった。

 

 

 

____________

 

 

 

「…空ちゃん、起きてくれるかな…」

 

集中治療室の前、大佐はそう呟いて、ベッドに横たわる空を見つめながら呟く。

外傷は全くないのに、目覚めない。問題は、おそらく心の方だろう。

 

「…彼女が起きるかどうかは、わからない。もしかするとこのまま…」

 

夕張はそこまで呟いて、言葉を濁すように俯く。そんなことは、大佐にもわかっているのだろう。

それでも、彼女が戻ってくるのを待っている。もう空は、仲間になってしまったのだから。

 

「…大丈夫よ。なんたって、私が医療器具も担当してるんだから!それに、ネロのことだしちゃんと手加減してるって!!」

 

夕張は元気づけるようにテンションを上げてそう大佐の背中を叩く。

少し痛がりながら、大佐は自分の背中をさする。しかし、その表情には笑顔が戻っていた。

 

「…そうだよね。」

 

大佐は静かにそう呟いて、軽く伸びをする。

今の大佐には、仕事がたくさん残っているのだ。そう簡単に、倒れるわけにはいかないのだ。

 

「よしっ!じゃあ、またネロくんと空ちゃんの戦闘の後始末だよ!!それに、まだ朝潮ちゃんたちの鎮守府の艦娘を助ける話も終わってないしね!!」

「その意気よ、提督!」

 

大佐の言葉に、夕張も同調するように声を張り上げた。

2人はすぐに執務室へと向かうのであった。

 

 

 

____________

 

 

 

ネロは静かな夜の中、鎮守府の外を歩く。静寂が暗闇を支配するなか、波の音だけはネロの耳に届いてくる。

まるで、ここが現世ではないとでもいうように、青く、そして暗い水平線が広がっていく。 闇がネロを誘っているように見える。

ネロは疲れたようにその湾頭に腰掛けて、そのまま寝転がる。

空はずっと暗闇が続き、月明かり1つさえない。

ネロはそれをぼんやりと眺める。

 

「…隣いいか。」

 

と、そんな声がネロに呼びかける、チラとそちらへ目をやると、そこにはいつもより暗い表情の天龍が佇んでいた。

ネロはそれを不思議に思いながら、無言で返答する。

天龍は、そのままネロの隣に黙って座り込む。

しばらく、2人の間に静寂の時が流れる。波の音が、あたりに響き渡る。

 

「…何を迷ってるんだよ。」

 

天龍はそう言って、軽く俯く。

ネロはぼんやりと、その問いに答えようと口を動かす。

 

「…関係ねえよ。」

「…大本営、行けばいいだろ?」

 

と、ネロの言葉に食い気味で天龍が呟く。

ネロは身体を起こして、少し怪訝な表情を浮かべていたが、やがて呆れたようにため息をつく。

 

「…聞いてたのかよ。」

「…お前の知り合い、問い詰めにいくんだろ?」

 

天龍は軽くそう言って、静かに立ち上がる。

ネロはそれを聞いて、頭を抑えながら立ち上がる。

 

「…そんな単純な話じゃねえ。」

 

ネロはそう言って、その場を立ち去ろうと歩き出す。バツが悪いのか、不機嫌そうであった。

そんなネロを引き止めるように、天龍はネロの腕を掴む。

 

「…俺たちが心配で行けねえってのか。」

「…」

 

ネロは天龍の言葉に、沈黙で答える、

天龍は、深くため息をつく。

 

「…そんな程度なら、今すぐ行けよ。俺たちは大丈夫だ。」

 

天龍のその言葉に、ネロは苛立ちながら手を振り払う。

 

「…そんなわけねえだろ。またあの男が攻めてきたらどうするんだ。」

 

ネロはあまり声を荒げずに呟く。

しかし、その心の中は荒れていた。

今この場を離れてしまえば、この鎮守府は確実に危険だと理解していた。それなのに、この目の前の天龍はそれを理解していないかのようにモノを言う。

それが、少し許せなかったのだ。

 

「俺たちが信じられねえってことかよ。」

「!…ああ、そうだよ。お前もあいつにボロボロにされてたじゃねえか。」

 

天龍の言葉に、ネロはすかさず辛辣な言葉をぶつける。だが、ネロはその選択が間違いだということに気がついていた。

そんなことを言ってしまえば、天龍を傷つけることは理解していたのだから。

 

「…そうかよ。」

 

天龍はそう言って、ネロから目をそらす。

ネロは先ほどよりも居心地が悪くなり、少し反省するような表情を浮かべてその場を離れようとする。

 

「…なら、ネロ。俺と勝負しろよ。」

「…何?」

 

だから、ネロはその言葉に困惑していた。

話の流れ的に、明らかにおかしいものであった。

 

「…まてよ、第1お前はもうすでに俺に…」

「良いから!勝負しろよ。前のようにはいかないぜ。」

 

そう言って、天龍は不敵な笑み浮かべる。

それは、今までのそれとは明らかに違う笑み。

ネロは、少しだけ、天龍に恐怖を覚えた。

 

「…どうしたんだ?」

「…いや、なんでもねえ…」

 

ネロは少し、笑ってしまった。

仮にも天龍たちは、この国の軍事に携わる人間。そんな彼女たちが、短期間で成長しないはずはない。

 

「…良いぜ。どうせ、お前もただじゃ諦めてくれそうにないしな。」

「へっ、後悔するなよ!ネロをぶっ飛ばして、鎮守府最強の称号は貰うからな!」

 

ネロは、静かにため息をついてレッドクイーンに手をかける。

天龍も、自分の艤装用の刀に触れて、臨戦態勢を整える。

 

2人の本気のぶつかり合いが始まる。

 

 

 

 

 




もう絶対書ききります!!

なんか吹っ切れました!!


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本気




はい、お久しぶりです
いかがお過ごしでしょう?

色々艦これのアップデートがあったり、デビルメイクライ5の発売が決定したり、激動の2018年ですね。


なので、こっちもさっさと書かないとやばいという事で、めちゃ間が空きましたが続きいきます〜






 

 

 

「…で、決着はどうつける?」

 

ネロはそう呟いて、鎮守府前の海を歩く。まるで、面倒になったとでも言いたい様子だったが、天龍のやる気がたっぷりとあることは理解していたので何も言わなかった。その、やる気の源には心当たりはないのだが。

天龍はそんなネロに対して、自信たっぷりにこう言ってのけた。

 

「ねえぞ。今回はどっちかが、無理だ、って言うまでやる。」

 

天龍はそう言って、軽く艤装を動かしながら笑う。

それは、演習という名の本気の喧嘩。ネロと天龍の実力をぶつけ合う戦い。

 

「…まあ、そこまで言うなら手加減はしないぜ。」

 

ネロはそう言って、面倒臭そうな表情を浮かべていた。それを聞いた天龍は、静かに笑う。

 

「…そりゃ、手加減されちゃ意味ねえっての。」

 

天龍は静かに呟いて、自身の得物に手をかけて、そのままネロへと切っ先を向ける。

ネロもそれを見て、臨戦態勢に入る。

耳障りな風がその間を吹き抜けるが、2人の耳には届いていない。

2人の表情は、子供のそれと大差ないほどに楽しそうであった。

 

「…行くぜ。」

「来いよ。」

 

その言葉を皮切りに、天龍がネロへと肉薄する。相手を一刀両断するために、高い位置から刀を振り下ろす。位置エネルギーと、天龍の純粋な力によって振り下ろされた刀は、綺麗な弧を描いてネロへと突き刺さろうとする。

しかし、ネロはその刀を受け止めるようにレッドクイーンを振り上げる。天龍の方が力のかかり方としては優位に立っているのにも関わらず、ネロのレッドクイーンは負けじと攻撃を跳ね返す。

あたりには火花が散り、2人はその反動で軽く態勢をよろけさせる。

 

「!…そう簡単にはいかねえか。」

「…へへ、俺の攻撃も効果あるみたいだな。」

 

天龍はネロの少し面倒くさそうな表情を見て、その刀が通用することを喜んだ表情を浮かべる。

そのまま、天龍は軽く笑みを浮かべて、ネロへとステップを踏みながら接近する。

対してネロは、天龍から離れるためにブルーローズを撃つ。

 

「おっと!」

 

天龍はそれを見て、なんとかその射線上から退避して、そのままネロから距離を取る。

天龍が自分から取ったというよりは、ネロに取らされたという方が正しいが。

 

「なら、お返しだ!」

 

天龍はその腰についた発射管を水平にして、そのままネロへと魚雷を射出する。その軌道は、しっかりとネロへと向かっていく。

 

「当たってたまるかよ。」

 

ネロはすぐにその魚雷へとブルーローズを放つ。

が、予想に反してその魚雷は真っ直ぐではなくネロを追跡するかのように、かつ銃弾を避けるかのように曲がり始めた。

ネロはそれを見て驚愕の表情を浮かべた。

 

「!…どうなってる?」

 

通常の魚雷は、波の揺れなどで多少の方向のズレは生じるが、そこまでの方向転換は不可能である。

だが、それが現実に起きている以上、対応するしかない。

 

「クソ!」

 

ネロはすぐにその魚雷を避けるように高くジャンプする。

だが、その魚雷は想定外の動きをする。

高く跳躍したネロを追って、その魚雷は水面から飛び出したのだ。

 

「!!…」

 

ネロはなんとか防御しようと右手を差し出す。

その直後に、爆煙が辺りを包んだ。

 

 

 

________________

 

 

 

「…おお、こりゃマジでパワーアップしたな。」

 

あの日、あの男と戦い、大敗を期した時から、自身の中に流れる血が力を渇望した。その時に、自分の中のもう一つの力に気がついた。

それは、人間的には悪趣味でも、悪魔にとっては最強の力。究極の闘争本能。

つまり、戦いを楽しむという新しい感情。

 

「…なるほどな。ネロも、この感覚で戦ってたってわけか。」

 

天龍はそう呟いて、目の前で海面に片膝をついているネロに視線を向ける。天龍の目から見ても、ネロのその表情には、焦りが見えていた。

 

「…どうやら、マジで一筋縄じゃいかねえな。」

「へへ、どうだ?俺も強くなるってことだぜ。」

 

天龍はあからさまに楽しそうな表情を浮かべて、得物の切っ先をネロへと向ける。まるで、勝負を決したかのような振る舞いである。

ネロは、少し笑いながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「…魚雷が空を飛ぶってのはどんな冗談だよ。」

「さあ、どうだろうな。」

 

ネロの問いへの返答は、あまりに適当であった。

それでも、呆れるようなことはせず、ただ真っ直ぐに天龍を見据えるネロは、やはりいくつもの修羅場をくぐってきた人間であると実感させる。

あからさまな挑発には乗らない、ネロのスタイルでもある。

 

「テンリュウ、仮に俺が本気出したら、お前はどうする?」

「…そりゃ、俺も本気出すだけだ。」

 

その返答には、天龍もそう答えるしかなかった。理由はシンプルで、ネロが本気をまだ出していない以上、どれくらい強さに差が出るのか想像もつかないからである。

 

「…本来、こんなことには使わねえし、テンリュウが耐えられるかもわからねえが…特別だぜ。」

 

ネロはそう言って、右手を強く握りしめる。

天龍は心の中で、来た…!と思っていた。あの例の魔人の力を使う気にさせた。ここまでがスタートライン。

ここから天龍は、ネロを納得させるために、完全に倒さなくてはいけない。

 

『…覚悟はいいか?』

 

ネロの背後の魔人は、静かに笑い始める。天龍を、嘲笑うかのように。

その瞬間に天龍の背筋には得体の知れない悪寒が走る。

 

「!…」

 

天龍は慌てて、その目の前に自身の主砲を向ける。

しかし、それよりも早くネロのレッドクイーンが天龍の身体を強く斬りつける。

その剣の通り道は、天龍の腹部をしっかりと捉えていた。

 

「ぐぅ!?」

 

天龍はその衝撃で、5メートルほど吹き飛ばされ、海面を転がる。斬り付けられたと思われる左脇腹が痛み、見た目では全く無傷にもかかわらず血が流れ出ているかのような感覚に陥る。

しばらく、痛みに身体を動かせずにいた。

 

『…終わりか?』

 

ネロの目は赤く光り輝いており、妖艶な魅力を醸し出していた。

天龍はそれをチラと見て、素直に笑う。

そして、ゆっくりと片膝をつきながら立ち上がった。

 

「…じゃあ、俺もとっておきを見せなきゃな。」

『!…なんだって?』

 

自信満々な天龍の言葉に、ネロは思わずそう返していた。

まさか、天龍にそんな奥の手があるとは思っていなかったのである。

 

「行くぜ…天龍様のお通りだ…!!」

 

そう呟いたと同時に、天龍の身体は光に包まれていく。

ここから、天龍の力でネロを苦しめる展開になるとは、誰も思っていなかった。

 

 

______________

 

 

 

「…天龍ちゃん…?」

 

龍田は、自室内の天龍の姿が見えないことに困惑していた。

こんな夜遅くに外を出歩いているとなると、軍規違反は免れず、最悪の場合は同室である龍田にすらとばっちりが来るかもしれないと考えたからである。

しかし、その直感の他にも、疑わしいことがいくつかあった。

 

「…確か、天龍ちゃんは…新しい戦闘の方法を思いついたって言ってたかしら〜?」

 

それも、特別強いあの青いコートの男にすら勝てるかもしれないという戦闘スタイル。

そこまで考えて、龍田はある一つの仮説を立てた。

 

まさか、あの青年と手合わせしているのではないか?

 

「…それは…もはや軍規違反じゃ済まされないかもしれないわね〜。」

 

龍田は落ち着いた表情で、それでいて真剣な眼差しで呟く。

そうとなればやることは一つしかない。それらの戦闘行為を提督の許可なく行っていたとしたら、なんとしても止めなければならない。

 

「…艤装、あんまり使いたくないのよね〜。」

 

あの男に負けてから、龍田も少なからず影響はあった。しばらくは、まるで狂ったように訓練をこなして、力をつけていた。

その症状が天龍にも現れているとしたら、大変なことが起きるかもしれない。

 

「…待っててね〜、天龍ちゃん。」

 

龍田はそう呟いて、そのまま部屋を飛び出した。

龍田の予想は、奇しくもその後見事に的中することになる。

 

 

 

 






天龍ちゃんは可愛いけど、やはりかっこよくあっても欲しいというなんとも言えないこの感情。

かっこかわいい女の子とか、かっこかわいくないですか?


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決着

前回の更新から、2年も経ってしまいました。

この間に
・リアルが多忙になった。
・DMC5の完成度に感動していた。
・モチベーションが低下した。

という3つの事象が重なり、執筆を断念せざるを得ない状態でした。

しかし、やはりやり残したことは常に心の奥底に残ってしまうので、少しずつでもこちらの続きを書くことにしました。

久々にUAの数を見たら、どれだけの人が見てくれていたのかを理解しました。

なので、せめて完成させるのが自分の責任ではないのか?という疑念がモチベーションとなり、また続きを書こうと決断に至りました。

もしまだあの時から見ていただけているなら、ありがたいです。
では、続きをどうぞ!


 

 

『なあ、どうだよ?』

 

天龍はそう呟いて、笑顔を浮かべる。

自身の背中には、高角砲がいくつか装備されており、使っていた得物は斬艦刀へ変貌していた。

それは、世間で言われている天龍改二というものであった。

 

『…こりゃ、参ったな。どうなってる?』

 

ネロはあまりの変貌に驚きながら、その姿を目に釘づける。今までのどの悪魔たちのデビルトリガーよりも複雑で、とても安定している。

しかし、それを見てある一つの考えに至る。それを、天龍が使いこなせるのかどうか。

 

『…尚更、手加減できねえな。』

『それでいいんだよ。やるぜ!』

 

天龍はすぐにその高角砲をネロへと向ける。

しかし、ネロもそれをただ受けるわけにはいかない。すぐにネロはそれを止めるべく、ブルーローズの引き金を2回引く。合計4発の弾丸が、天龍へと向かっていく。

 

『オラオラァ!そんなの当たらねえよ!』

 

天龍はそう言いながら、高角砲をばらまく。それによって、ネロの放った弾丸は見事に撃ち落とされていく。そればかりか、ネロへと相当数の砲撃が飛んでいく。

 

『チッ…』

 

ネロはその場から離れるために、海面をスケートのようにすべる。そして、天龍の周りをぐるぐると回り始める。

天龍はそれをみて、ニヤリとしながら口を開く。

 

『そんなに回ってたら、バターになるんだぜ!』

『何の話だよ。』

 

ネロは軽口を叩きながら天龍へと肉薄する。そのスピードは、まるで瞬間移動かのように素早く、異常なまでの正確さであった。

天龍の首元へとそのレッドクイーンを振り抜き、そのまま力技で天龍を吹き飛ばそうとしたのだ。

だが、それを天龍も読みきっていた。

 

『貰った!』

 

そのまま斬艦刀を自身とレッドクイーンとの間に滑り込ませる。そうすることで、ネロの攻撃を防ぐ。

それらがぶつかり合うと、あたりにまたも大きな火花が散る。

その攻防を制したのは、天龍であった。

 

『グッ!?』

 

ネロは思い切り振りかぶって攻撃していたため、完全に仰け反る形になってしまった。その隙を、天龍は見逃さなかった。

 

『とどめだ!』

 

天龍はそのまま、その無防備な身体に主砲を放つ。その弾道は、ネロの腹部を完璧に捉えた。

 

『!!…』

 

ネロはそのまま、後方へと15mほど吹き飛ばされる。海面をゴロゴロと転がり、そのままなんとか態勢を立て直して立ち上がるネロ。

 

『…一筋縄じゃいかないな。』

『…これでいいだろ?ネロ、大本営にいけよ。』

 

天龍が急に真面目な表情を浮かべて、そのまま背を向ける。ネロを急かすようにそう告げる天龍は、少し寂しそうでもあった。

それは、自身が越えようと考えていた存在に、手が届いてしまったことへの喪失感。そして、仲間であるネロを旅路へと送り出さなければならないことへの寂しさから来るものであった。

 

『…おい、俺はまだ参ったなんて言ってねえぞ。』

『…』

 

ネロのその言葉に、天龍は何も言わずに刀を構える。それは、ネロを必ず屈服させるという意思表示であった。

それを見たネロは、静かにため息をついた。

 

『…ったく、調子が狂うぜ。いつもの雰囲気はどうしたんだ?』

『…へっ、気にするなよ。俺はただ、自分の強さを試したいだけなんだよ。』

 

ネロの困ったような言葉に、天龍は思わずニヤリとしながらそう返答する。それを見て、ネロもニヤリと笑みを浮かべる。

 

『そうかよ。じゃあ…続き行こうぜ。』

『望むところ!』

 

ネロがそう言いながら天龍へと肉迫すると同時に、天龍もまたネロへと勢いよく突っ込んでいく。そして、2人の得物はまたぶつかり合い、火花を散らす。

その瞬間、お互いがお互いの目を見て、笑った。

暗闇の中にその目が赤く光り、まさしく2人は悪魔のようであった。

 

 

_________

 

 

 

戦いの火花が散る中、湾頭で天龍の強さを見ていた龍田は、静かにため息をついた。

その力を、天龍は使いこなしていた。自身が狂ったように訓練をしていた間に、天龍はもっと悪魔の力を使いこなしていた。

 

「…天龍ちゃんも、改二になっちゃったか」

 

そう呟いて、龍田は自分に力を込める。

その瞬間、龍田の艤装は形を変え、その服装すらも変わって行った。

まるで、胎動するかのように動き始めたその艤装が安定した時、その姿は龍田改二の姿に変わっていた。

 

『…まさか、こんなに悪趣味なものが改二実装だったなんてね〜』

 

龍田は静かに、ため息をついた。

自分の身体の変化と、天龍の身体の変化に困惑したような感情を抱きながら、それでいて進化を喜んだような表情を浮かべながら。

しばらくすると、戦いの火花は止まった。

 

 

_________

 

 

 

『…はは、楽しいな。』

 

天龍は、疲れたような表情を浮かべて、海面にへたれこむ。辺りは、先ほどまでの戦いのことなど忘れたかのように静かであった。

ネロはそのまま、静かにため息をつく。

 

『…参ったよ。ここまでやられりゃ、流石に俺も限界だ。』

『!…おい、今なんて言った?参ったって言ったよな?よっしゃあ!』

 

天龍はそう言って、大きく両手でガッツポーズをする。それを見て、ネロは少しだけ微笑んだ。

しばらくして、2人ともデビルトリガーを抑えるように力をコントロールする。

 

「…テンリュウ、あれだけ動いたのになんでそんなに元気なんだ?」

「へへ!俺は強えからな!こんなもん…っと…あれ…?」

 

天龍はそう言いながら、腰が砕けたように倒れる。海面に、大の字になって倒れるその様は、まるで電池切れを起こした人形型の玩具のようであった。

 

「…おいおい、大丈夫か?」

「あ…これ、立てねえ…動かねえぞ…」

 

天龍はそう言いながら、表情を少し不安げに変える。

その光景を見たネロは、少なくともそのまま放置するほど悪人ではなかった。

 

「…ったく、慣れない力を使いすぎだ」

 

ネロが天龍を持ち上げて、肩を貸すように支える。

天龍はそのネロを見て、少し恥ずかしくなったが、それでも自分の身体が動かないことを考えたら、最善の手だと理解していた。

 

「…悪ぃ、サンキュー」

 

そう呟いて、天龍もそのまま少しずつ陸に向かって歩き始めた。ネロも天龍の動きに合わせて、歩き始めていく。

だが、お互いにその足取りはぎこちなかった。

 

「…天龍ちゃんの勝ちってことかな〜?」

 

と、そんな二人の前に、艤装をつけた龍田が現れる。それを見た二人は、ヤバイという感情を抱いた。

この戦いは完全な私闘であり、下手をすれば軍規違反で天龍はクビになってしまうし、ネロであってもただでは済まないかもしれない。

 

「龍田、これには訳が……」

「天龍ちゃんは、静かにしていてね〜」

 

と、龍田はそのまま天龍の首に手刀を落とす。

ネロは、それの天龍の体重を支えようと力を込める。

その瞬間、龍田の斬艦刀が首筋に当たる。

 

「!…」

「…天龍ちゃんと、勝負してどうだった?」

 

龍田は真っ直ぐネロを見ながら、そう呟いていた。

ネロは、首筋に武器を突きつけられているにもかかわらず、何も恐怖心はなかった。

 

「…強くなったよ。テンリュウも、タツタも」

「…お見通しってわけね〜」

 

龍田はそう言って、静かにため息をついた。

もう何もする気はないという意思表示であった。

 

「…次に会う時は、もっと強くなってるからね〜」

「…ああ」

 

ネロはその言葉を聞いて、やはり大本営へ行かなければならないということを理解した。

龍田は刀を下ろし、天龍の身体を慈しむように抱き上げて背負う。

 

「…この鎮守府は、みんな強いから、安心して大本営へ向かってね」

「…そうみたいだな」

 

ネロは、自分の考えを正した。

俺は、無用な心配をしていたのだと。

 




とりあえず、大本営行く手前で止まってたことを思い出したので、とにかくネロを大本営に連れて行きますね


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行先

戦闘描写の軽いリハビリをかねて、続き行きます!


「…そっか。ネロ君はそのまま大本営に向かっちゃったんだね」

 

大佐はそう呟いて、静かに俯く。

寂しそうではあるが、それも自分たちのためなのだと理解していた。

 

「…ネロ君が大本営に向かって、私たちの戦力はダウンしちゃってるわねぇ、高雄」

「…愛宕、私たちの仕事もたくさん増えるわよ」

 

愛宕たちがそう呟きながら、静かにため息をついた。

そんな二人を見て、時雨が寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「…ちょっとだけ、静かになってしまうね。この間までの喧騒が嘘のようだ」

 

時雨の少し寂しい呟きが辺りに広がる。

そんな暗い雰囲気の執務室へ、夕張が駆け込んでくる。

 

「みんな!空ちゃんが目を覚ましたわ!」

 

その夕張の言葉を聞いて、その場にいた全員がその表情を明るくした。

 

「ほんと!?みんな行くよ!!」

 

大佐がそう声を上げた瞬間、その場にいた全員が空がいる集中治療室へと向かったのであった。

 

 

 

___________________

 

 

 

 

「…私、生きてるんだ」

 

空は、ベッドの上でそう呟いた。あの、悪魔に腹部を貫かれて、そして今度は自分の中の深海棲艦としての感覚が少しずつ戻ってきて、この鎮守府を…

 

「…また、ネロが助けてくれたんだ」

 

空はそう呟いて、そのまま静かに項垂れる。

この鎮守府の人たちに、またたくさんの迷惑をかけて、ネロにも迷惑をかけて、どこまでも迷惑をかけて。

それでも、まだ私は生きている。

 

「空ちゃん!」

 

そんな空のもとへ、大佐がそのドアをバンと勢いよく開く。

その後ろから、大佐を落ちつかせるように夕張が駆け込んで来る。

 

「て、提督!!まだ満潮ちゃんが寝てるんですから、落ち着いてください!!」

「あっ…」

 

大佐はその言葉を聞いて、空の隣で寝ている満潮に目線を向ける。

その声を聞いた満潮が、少しだけ目を開き始める。

 

「…ぅ…」

 

その満潮の声が部屋に聞こえたとき、大佐はそのテンションをさらに上げた。

 

「!!…み、満潮ちゃんも目が覚めた!?」

「提督、ちょっと声が大きいよ」

 

その後ろから、時雨が部屋まで入ってきて、大佐の行動を諫める。

大佐は、両手を口元の前までもってきて、口を押える。

 

「…ここ…は…」

「満潮ちゃん、ここは呉鎮守府。安心して、今はもう前の鎮守府から他のみんなを連れてきている最中だから」

 

満潮へ声をかける夕張の姿が、空の目に焼き付く。

自分が眠っている間に、色々と物事が進展していることと、そんな事態になっているのに、自分を信じてくれていたことが、空の心に罪悪感を芽生えさせた。

 

「空ちゃん、良かった無事に目が覚めて…!!」

 

大佐は、空の前までやってきて、その手を包み込むように掴んだ。

その手の温もりを感じて、空はその自分の手に視線を落とす。

今までのような、深海の冷たいものではなく、人間味のあるとても綺麗な手であった。

 

「…ごめんなさい、提督」

 

空はそう呟いて、涙を一粒落とす。

感情があふれ出ていく。自分のことを助けてくれた人たちへ迷惑をかけたという罪悪感が、心の奥底から静かにあふれ出ていた。

そんな空を、大佐は抱きしめる。

 

「…大丈夫だよ。私、空ちゃんと出会えてよかった。だから、空ちゃんは何も気にしなくていいの」

 

空は、その大佐の言葉で、どれだけ救われたのだろうか。心の奥にあった、敵対心やわだかまりが全て溶けて消え失せた。

空は、人の温かさを初めて知ったのだ。

 

「…ありがとう、提督」

 

空はそう呟いて、少し恥ずかしそうに笑顔を浮かべた。

その姿を見た全員が、もう彼女のことを深海棲艦だとは思っていなかった。

ふと、空はその場にいない人物のことを思い出した。

 

「…ネロは?」

 

空がそう呟くと、その場にいた全員が困ったような表情を浮かべていた。

 

「…ネロ君は、大本営に向かったの」

「大本営…?」

 

空には、ネロの考えがまだわからなかった。

この艦娘と深海棲艦の戦いに、終止符を打とうとしているとは、微塵も思っていなかったのだ。

 

 

_____________

 

 

「…それにしたって、なんで歩いていかなきゃいけないんだ」

 

ネロは一人でそう呟いて、その道を歩いていく。

もう随分と歩いたが、決して疲れてはいなかった。それだけでなく、少し離れたところに大本営の大層な建物が見えるところまで来ていた。

 

「…やっぱ、いるんだな。ダンテ」

 

ネロの右腕が少しうずく。その感覚で、あのフォルトナの時に出会った赤い男の姿が鮮明に甦る。

その記憶に残る後姿が、まるで早く来いと急かすようにネロを誘う。

 

「…記憶の中でも俺のことを餓鬼扱いかよ、ダンテ」

 

そう呟いて、ネロはその歩みを早める。一瞬でも早く、その向かうべき場所へとたどり着けるように。

と、そんなネロのそばに、何かの影が迫った。

 

「!!…」

 

ネロはその影を目視した瞬間、軽い動作でそれを避ける。

その影が放った攻撃は、見事に地面へと突き刺さっていた。

 

「…なんだよ、悪魔まみれじゃねえか」

 

ネロはそう呟きながら、静かにため息をつく。

そこには、電気を身にまとった大型の悪魔である、ブリッツの姿があった。

 

「…おいおい、こんなところにこいつがいたら、周りの建物に影響が出るぞ」

 

ネロはそのまま、ブルーローズに魔力を込め始める。

その気配を察知したブリッツは、その動きを電気と同化させて、瞬間移動のように動き始めた。

それを見たネロはすぐさま臨戦態勢を取る。

そのネロの背後に、ブリッツは姿を現し、攻撃を加えようと襲い掛かる。

 

泣き叫べ!(Cry out loud)

 

ネロはそう叫びながら、そのブリッツの攻撃に合わせるかのようにレッドクイーンをふかしてぶつける。

その動作で、ブリッツの突進は完全に防がれており、ブリッツは態勢を崩す。

その隙を、ネロは見逃さない。

 

くらえ!(Catch this)

 

そのブルーローズの弾丸を射出して、ブリッツへと突き刺す。ブリッツは完全にその弾丸をもろに食らい、声にならない叫びをあげる。

そして、その弾丸が刺さった箇所が、爆発した。

 

くたばれ!(Rock you)

 

その瞬間、ネロは感覚でその電気のベールが剥がれたことを感じ取り、そのままその右腕でブリッツを掴み上げ、その両手でブリッツを滅多打ちにする。

右から左、左から右へと何度も何度も殴り続け、最後に思いっきりアッパーカットでブリッツを打ち上げる。

ブリッツはそのまま、回避することができないままに吹っ飛ばされる。

 

「…こんな奴が軍の施設の近くにいてたまるかよ」

 

ネロはそう呟いて、歩き去ろうとする。

その隙を見逃さず、ブリッツはまたも立ち上がりネロへと攻撃をしようと突進する。

ネロはその方を決して振り返りもせず、ただブルーローズを一発だけ打ち込んだ。

その弾丸を食らったブリッツは、そのままのけぞりながら倒れて、赤く発行しながら自爆した。

 

「…だるいな」

 

ネロはそう呟きながら、ただため息をついてまた大本営の方へと歩き始めたのだった。

 

 

 

__________________

 

 

 

大本営の建物の中に、まるで病院の集中治療室のように二階から見下ろすことが出来る部屋がある。

そこは、技術局長の研究室という名目で作られた、実験施設であった。

その二階に、技術局長はまるで楽しそうな表情を浮かべて立ちふさがっていた。

 

「…ダンテ、貴様は俺の研究データのために犠牲になってもらう!」

 

技術局長は、ダンテをその部屋に監禁していた。あたりには見るからに怪しい機材や、試験管などが辺りに散乱しており、挙句の果てには資料などの紙が積み上げられている始末である。

そんな部屋に監禁されているダンテは、全くもって興味がない様子であった。

 

「…俺を犠牲にね。それで、何を生み出すつもりだ?」

 

ダンテは寝転がりながらそう呟いて、大きな欠伸をしていた。

その態度を見ていた技術局長は、あからさまにその表情を怒りのものへと変えた。

 

「その余裕も、いつまで持つかな!!」

 

技術局長がそう叫ぶと、ダンテはその表情を少し楽しそうなものへと変えた。

 

「その野心で、どれだけの人間や悪魔が犠牲になったんだろうな?」

 

そのダンテの言葉には、表情とは裏腹に明らかな怒りが含まれていた。

技術局長はそのダンテの言葉を聞いて、うろたえる。

だが、その態度を決して軟化することはなかった。

 

「…ふ、ふふふはははははは!!」

 

技術局長は、高らかな笑い声をあげながら、ダンテをあざ笑うかのように見る。

その表情を浮かべた技術局長を見ながら、ダンテは馬鹿にしたように小さく「huh」と笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

ようやく俺の出番か。ちょうど暇を持て余していたところだったんだ。そろそろ、本格的に終わらせられる仕事になりそうだ。あいつもここに向かっているみたいだしな。こりゃ、マジで『戦争』になるだろうな。

Mission 9
war fire


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Mission9 〜War fire〜
軟禁



ダンテの話です。

時間軸としては、ネロ編で技術局長が視察中の時にダンテが何をしていたのかの話です。


ダンテはうなっていた。

これからのこの大本営の身の振り方を確定するためにも、この選択を間違えてはいけないと理解していたのだ。

 

「…こっちだ」

 

ダンテはその右手を、金剛へと伸ばしていた。

その金剛も、ニヤリと笑みを浮かべてそれに応える。

ダンテの右手が、そのカードに触れた。

 

「…貰ったぜ」

 

ダンテがそう呟きながらそのカードを裏返す。

そこには、まるでダンテをあざ笑うかのように笑みを浮かべた、ジョーカーがあった。

 

「…マジかよ(Damn it)

「では、私の番デース!」

 

金剛はそう言いながら、ダンテのカードに手を伸ばそうとする。しかし、ダンテはそれを止めるかのように両手を上げる。

 

「待てよ、まだ混ぜてないだろ?」

「混ぜてなくても、多分負けるんじゃないですか?」

 

そのダンテの横で、青葉がそう呆れたように呟く。

ダンテは残ったカード二枚を丁寧にシャッフルしながら、金剛に鋭い視線を向ける。

それを受けた金剛は、一切その表情を崩さない。

ダンテは金剛の顔の目の前に、その二枚のカードを並べる。

 

「…よし、これでどうだ?」

「では、行きマース!」

 

金剛はそう言いながら、その手をカードへと伸ばす。そして、金剛から見て右側のカードを引こうとしたとき、とても強い力がそのカードにかかっていることを金剛は知覚した。

二人の間に静寂の時間が流れた。

 

「おっと、そのカードは固いみたいだな。ということは、隣のカードを引くしかないな?」

「そういうダンテは、子供騙しが通用すると思っているようデース。その希望は簡単にcrashさせてもらうマース!」

 

金剛はそのまま力を込めながら、そのカードを引こうとする。しかし、そのカードは決して動かない。ダンテの力を、上回ることが出来ない。

 

「…往生際が悪いデース」

「…じゃなきゃ、こんな商売やってられないからな」

 

ダンテがそう言うと、金剛は大きなため息をついた。

 

「…なら、隣のカードを貰いマース」

 

金剛がそう言って、そのカードから手を離した瞬間、ダンテは力を緩めた。

その瞬間を、金剛が見逃すはずはなかった。

 

「貰いデース!」

 

金剛はその右側のカードを勢いよく引き抜いて、そのカードを表に向けた。

そこには、ハートのAが描かれていた。

金剛は飛び切りの笑顔を浮かべて、勝利を喜んだ。

 

「私の勝ちデース!」

「おいおい、そんなのずるいだろ?」

 

ダンテはそう言いながら、手元に残ったジョーカーをその机に放った。

それを見て、青葉は苦笑いを浮かべる。

 

「そもそも、ダンテさんが先に卑怯なことをしたのでは?」

「ああいうのは、遊び心っていうんだ」

 

ダンテはそう言いながら、小さくため息をついた。

この勝負は、ダンテがババを引いてしまったので、完全なる負けである。

この戦いはすでに三戦行われており、全てがダンテの負けである。

 

「では、ダンテはしばらく私とデートしてもらいマース!」

「…まあ、いい。コンゴウとならまあまあ楽しめそうだしな」

 

ダンテはそう呟きながら、少しだけその表情を緩くした。

しかし、ダンテは勝負ごとに負けるのは好きではない。

 

「…その代わり、今度は別ので勝負しようぜ。どうにもトランプは性に合わない」

「なるほど、ダンテさんはトランプが苦手と」

 

青葉はそのダンテの発言を聞いて、すぐにメモを取り始める。

そんな青葉が、そのメモを取っている間に、ダンテはその気配を感じ取った。

 

「…臭うな」

「…what?」

 

ダンテの言葉に金剛が反応した瞬間、その部屋の電気が一斉に消える。

昼間だというのに、空は曇天に包まれているため、施設内は真っ暗になった。

 

「な、なんですか!?停電ですか!?」

「…もしかしたら、敵襲の可能性もありマース。でも、警報もならないうちに、接近されたとは考えられないネー」

 

そう呟く金剛を見て、ダンテはまるで楽しそうに椅子から立ち上がった。

 

「どうやら俺の客らしい」

 

ダンテはそう呟くと、そのまま歩き始めてしまった。

金剛と青葉はそのダンテの行動を見て、顔を見合わせる。

そして、その後についていこうと歩き始めたのだった。

 

 

___________________

 

 

 

「…あら、停電みたいね」

 

憲兵に扮したトリッシュは、まるでそこまで驚くほどでもないかのようにそう呟く。

それを聞いた大将は、少し困惑したような表情を浮かべていた。

 

「馬鹿な、この建物が停電などするはずがない。発電所は地下にあって、仮に襲撃されたとしても停電することないはずだ」

 

大将の言葉を聞いてもなお、トリッシュはその表情を変えることなく歩き始める。

それは、絶対的に原因が分かっているから。

 

「…おい、貴様の仕事は」

「私の仕事は、この大本営の規律を守ること。今の状況を正すのも仕事のうちに入るわ」

 

大将の言葉を軽くあしらうトリッシュ。その表情には、いたずら心が見え隠れしていた。

それを見てもなお、大将は怒りなどを覚えることなくただ静かに後姿を見送る。

 

「…あの女はいったい何なのだ」

 

大将のつぶやきは、誰にも聞こえることはなかった。

 

 

__________________

 

 

 

ダンテ達は、既にその地下発電所の近くまでやってきていた。

地下の薄暗い場所で、非常灯だけが付いている、ゾンビ物の作品であればいかにもな雰囲気になっていた。

 

「…ダンテさん、地下発電所の場所を知ってたんですか?」

 

青葉はダンテにそう問いかける。しかし、ダンテは答えない。

金剛もその雰囲気を察してか、何も言うことなくダンテの後ろを歩いていた。

三人は、その発電所の大きな扉の前までやってくると、その扉を躊躇なく開いていた。

その部屋は、発電質だというのに、とても暗かった。ところどころで、バチ、という音と共に閃光が走っている以外は。

 

「…ほら、俺の客だ」

 

ダンテがそう呟くと、その目の前に電気の柱が3つも現れ、ダンテへと襲い掛かる。

ダンテはその柱から出てきたその三体の悪魔を、綺麗にリベリオンではじき返し、そのまま挑発するように声を発する。

 

「…来いよ(C'mon)

 

その光景を後ろで見ていた青葉と金剛の二人は、その光景に息をのんだ。

目の前で、この人智を超えた姿の敵を相手にして、一切怯えることなく戦おうとしているこの男を。

電気を帯びた三体のブリッツは、敵をダンテを見定めている。しかし、ブリッツは視覚が著しく低下しているので、動くものを見境なく攻撃してしまうことがある。

なので、ダンテはその三体をまとめて相手するために、わざとその二丁拳銃を抜く。

 

「離れてな」

 

ダンテがそう言うと、後ろで見ていた二人はダンテから距離を取る。

その瞬間、ダンテの持っていた二丁拳銃からは、弾丸が何発も射出されていた。

その音を聞いたブリッツたちは、ダンテの方へと肉迫してくる。

しかし、その場所からダンテはすでに離れており、一体のブリッツの目の前へと瞬間移動をしていた。

 

「悪いが、お前らにそこまで構ってられないからな」

 

ダンテはそう呟いた瞬間、その身体を変質させる。赤い魔人となり、そのブリッツのうちの一体へと突き(スティンガー)を繰り出す。その攻撃は、ブリッツのその雷のベールをはぎ取るには十分すぎる攻撃であった。ダンテはそのままそのブリッツへと追い打ちをかけるように、銃弾の雨(レインストーム)を降らせる。

そのブリッツが吹っ飛ばされたことで、他のブリッツもダンテの気配を改めて察知したようで、ダンテへと攻撃をするためにまた高速で動き始めた。

 

『…Ha-ha!早く動きすぎて、逆に全部見えちまってるぜ』

 

ダンテはそう言いながら、そのリベリオンを後ろへと大きく振りぬく。その攻撃で、ブリッツの身体が弾き飛ばされ、バランスを崩したように倒れる。電気の道筋が一つ消え、残るは一つ。しかし、ダンテはその動いている奴にはお構いなしに、倒れている二体へと単装砲を向ける。ダンテはすぐに引鉄を引くことなどせず、その単装砲へと魔力を込める。

紅い光が単装砲を包み込んだ瞬間、ダンテはその弾丸を二体へと同時に射出する。

その砲弾を食らった二体は、まるで身体の内側から爆発するかのように破裂してしまった。

 

『残るは、お前だけだぜ?』

 

そうダンテが呟いた瞬間、残っていたブリッツは姿を消す。ダンテはそのまま戦闘態勢を解くことはせず、次にどのポイントへと現れるのかを考えていた。

…しかし、ダンテはそのまま静かにため息をついて、魔人化を解いた。

 

「…逃げちまったな」

 

ダンテはそう呟いて、後ろの二人の方へと目を向ける。

青葉が気を失っているのを、金剛が抱きかかえているのが見えた。

 

「…今の、とってもbeautifulな戦い方デース!」

「huh、褒めても何も出ないぜ」

 

ダンテはそう言いながら、発電所の惨状をただ微笑を浮かべて見つめていた。

この停電によって、ダンテがさらなる窮地へ立たされるとは知らずに。

 

 

 

 




というわけで、ダンテのところから逃げたブリッツがネロの倒したブリッツでした。

まあ、金剛がなぜ悪魔のことを知っているのかは後程!


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敵意

技術局長のキャラ設定が、召喚ができる敵というものなのですが、DMCでは中ボス的雑魚キャラが雑魚キャラを召喚するくらいのイメージしかないので、ボス的な敵が大量の雑魚キャラを召喚したらセルフBloody Palaceになるのではと思って作りました。

なので、この技術局長は結構気に入っています。


「う…ん…」

 

医務室のベッドの上でうなる青葉を見て、ダンテは金剛に困ったような視線を向ける。

現在、停電は予備電源によって解消され、医務室や他の部屋も通常通りに使えるようになった。

 

「…目の前で人間があんな風に変身したら、誰だってこうなりマース。それに、ダンテのことを熱心に調べていたから、余計に混乱しちゃったんだと思いマース」

「時間をかけすぎて、コンゴウ達に被害を与えたらまずいだろ?」

 

ダンテはそう言って、まるで何も悪くないかのように振舞う。

もちろん、ダンテは何も悪くないのだが、それにしても少しは配慮をしてもらいたいものだ。

 

「…まあ、ダンテがそれでいいなら、別に構わないデース。でも、青葉には謝ってあげてくださいネー」

 

金剛がそう言うと、ダンテはまるで何も言い返せなくなって、両手を上げて降参のポーズをとる。

その部屋の中へ、憲兵に扮したトリッシュが入ってくる。

 

「あ、Trish!」

「あら、コンゴウはこんなところにいたのね」

 

金剛はトリッシュにそんな風に声をかけるのを見て、ダンテは少し呆れたような笑みを浮かべていた。

その表情には、敵地にもぐりこんでいるのに、情報をオープンにしているのが、違和感を生んでいたのだ。

 

「…で、停電の原因は悪魔ってことでいいのかしら?」

「ああ、何度説明しても同じ答えしか出ない」

 

ダンテはそう言いながら、まるでふざけたような表情を浮かべる。

しかし、トリッシュはその表情を緩めることはしない。

 

「悪いけど、多分そう思わない人間もいるわ。軟禁していた相手が部屋を出ているという事実がある以上ね」

「そいつは困ったな。で、その人間は俺に何を求めてくる?」

 

ダンテはそう言いながら、まるで楽しそうな表情を浮かべていた。

トリッシュは、まるで言いにくそうな表情で言葉を紡ぐ。

 

「…スパーダの血族の力を欲しているみたい」

「…なるほど、そりゃかなり面倒だ」

 

ダンテは、そろそろ自分の置かれている状況を理解し始めていた。

今の状態では、おそらくこの敵地において行動が起こせないことまではわかっていたが、このままでは自分の力を解析される危険性まで孕んでいることが分かった。

つまり、下手な騒動が原因で、ダンテの力を悪用させる理由になりかねない。

 

「…そうなる前に、暴れるのは思いついた。だが、実際のところ証拠が何一つなくてね。肝心の部屋には入れずじまいだ」

「まあ、当然の話だけれど、敵も馬鹿じゃないみたいね。それだけ大きなこの組織が、どこまで物事を隠しているのか」

 

トリッシュはそう呟くと、金剛にその視線を向ける。

ダンテは、この一件について、トリッシュが金剛に協力を取り付けてあることを理解した。

 

「…コンゴウ、トリッシュに何か吹き込まれていたから、悪魔を見てもビビらなかったのか?」

「That's right!それに、私達の戦いを終わらせることができるなら、それが一番デース!」

 

金剛はそう言いながら、とても清々しい笑みを浮かべていた。

ダンテは呆れたように笑みを浮かべるが、それでも現状は何も変わらないので、ダンテは行動を起こすことにした。

 

「…トリッシュ、悪いがこの施設の案内をしてくれ。誰かに見つかる前にとにかく情報を集めなきゃな」

 

ダンテの言葉を聞いたトリッシュは、不敵な笑みを浮かべてダンテについてくるようにうながす。

そのまま、ダンテとトリッシュは部屋の外へと出ていった。

 

「…DanteとTrishの二人が艦娘と深海棲艦の戦いにperiodを打つなら、私も負けてられないネー」

 

一人部屋に残った金剛はそう呟いて、そのまま静かに微笑んだ。

そして、眠っていたはずの青葉は、そのままメモ帳に言葉を書き込んでいた。

 

「ダンテさんはあの憲兵さんとお知り合いだったのですね…」

 

その小さな呟きは、誰にも聞かれることなかった。

 

 

______________

 

 

 

大本営の建物の正門前、そのリムジンがゆっくりと停車する。そのリムジンは、あのネロがいる呉の鎮守府を視察した帰りであった。

そのリムジンから、技術局長は楽しそうな笑みを浮かべながら降りてくる。

 

「…ご苦労。お前はもう仕事を終えていいぞ」

「…かしこまりました」

 

その運転手は気だるそうな表情を浮かべながら、そのままリムジンを走らせてどこかへと向かてしまった。

それに一瞥をくれることもなく、技術局長は歩き出してしまった。

 

「…さて、ダンテを問いただしに向かうとするか」

 

技術局長はそう呟きながら、大本営の建物の中へと歩いていこうとする。その不気味で荘厳な建物の中へと、足を踏み入れようとしたその時__

__高電圧に紛れてブリッツがその技術局長の前へと現れる。

 

「…全システムがダウンしたのは、こいつのせいか」

 

技術局長はそのブリッツを見ながら、決してその表情を変えることなく歩き出していた。

そして、そのブリッツの横を通り過ぎながら、ブリッツに声をかける。

 

「…お前はよくやった。自由に生きていいぞ」

 

その言葉を聞いたブリッツは、そのまま電流を身にまといながらどこかへと消え去ってしまった。

それを見届けた技術局長は、大本営の中へと足を進める。

ダンテが、おそらく何かをしでかしているだろうという確信を抱きながら。

 

 

________________

 

 

 

「…なるほど、ここが研究施設か」

 

ダンテはそう呟きながら、その半円形の広い部屋を見回す。

一階部分のこの部屋は、得体のしれない何かの血液や体液の残り香が残っており、あたりには何かしらの物質がしまわれていたであろう箱やアンプルが大量に落ちていた。

その一つ一つを手に取って、ダンテはその中身を見る。

 

「…全部悪魔の血と破片か。こりゃ、魔剣教団よりも厄介だな」

 

ダンテのその呟きに、トリッシュは笑顔を浮かべながら何かを投げる。

それをダンテは右手でキャッチし、まじまじと見つめる。

それは、秘法によって作られたと言われる、ゴールドオーブであった。

 

「…こいつがあれば、一度死んだ艦娘たちもまた復活できるだろうな。記憶はさすがに飛んじまうだろうが」

「…艦娘どころか、深海棲艦もね」

 

トリッシュがそう言ったのを聞いて、ダンテはニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「…そりゃ、海の向こうの悪魔も大変なもんだな。何度も生き返らされて、鼬ごっこか?」

「…この組織が敵を倒した事実が積みあがれば、もっとお金が回るんじゃない?」

 

トリッシュのその言葉を聞いて、ダンテはあからさまに嫌そうな顔をした。

 

「…まるでゲームか何かか?何度も死ぬなんて俺はパスだ」

「…何度も悪魔を殺すのは好きそうね」

 

トリッシュがそう言いながら、上の階へと飛び上がる。そして、その上の階での惨状を見る。そこには、艦娘が付けている色々な艤装や深海棲艦の新案などが記された設計図が散乱しており、おおよそ研究施設には似つかわしくない大きな檻が何個も並んでいた。

トリッシュはそのうちの一つを手に取り、その中身を見る。

そこに記されていたのは、深海棲艦への新たな攻撃方法と、艦娘の強化に関する研究結果の報告書であった。

 

「…最終的に、この兵器で戦争でもする気かしら?」

「…さあな。いずれにしても、あの顔で迫られたら、人間は手出しもできないだろうな」

 

ダンテはそう呟きながら、鎮守府にて出会ったあの艦娘たちを思い出す。

彼女らを意のままに操ることが出来るなら、この深海棲艦との戦闘で実戦データを集めていると判断しても何もおかしくない。

となれば、その矛先がどこへ向けられるか。

 

「…この世界を魔界にするつもりかもしれないな」

「…果たして、そうかな?」

 

と、そんな声が二階の入り口から聞こえる。

ダンテとトリッシュはその声が聞こえたほうへと視線を向ける。

そこには、腕を掴まれたまま動かない金剛と、その金剛を掴んでいる技術局長がそこにいた。

 

「…おいおい、離してやりな。コンゴウは関係ないだろう?」

「…彼女には敵対行動が認められている。離すわけにはいかないな」

 

そう呟いて、技術局長はそのままダンテとトリッシュにその視線を向けていた。

トリッシュは、その技術局長の視線に耐えかねず、目をそらす。

 

「…貴様の処分はそれとして、まずはダンテ、貴様には勝手にこの部屋に入室したことへの罰を与えねばな!」

 

技術局長はそう言いながら、金剛をそばにあった檻の中へと放り込む。

その瞬間、技術局長の声に反応したかのように、ダンテがいる一階の扉の鍵が閉まり、二階部分には透明なガラスが伸びあがっていた。

それを見たトリッシュは、そのガラスを砕こうと拳を握りこむ。しかし、それよりも先に技術局長がそのトリッシュの背後に3体の悪魔を召喚した。

 

「!…」

「貴様はそこで見ていろ!」

 

トリッシュの背後に現れたその悪魔たちは、山羊の姿をした悪魔達であった。しかし、トリッシュが動かない限り動くことはないようで、そのまま静かにトリッシュを見守るだけであった。

悪魔を統率出来るほどの力を持つこの技術局長という男は、一体何者なのかと、トリッシュは心の中で疑問を覚えた。

 

「…ダンテ、貴様は俺の研究データのために犠牲になってもらう!」

 

技術局長はそう叫びながら、ダンテを見下ろす。その目には、ダンテのことを研究対象としか見ていないだけのような表情を浮かべていた。

 

「…俺を犠牲にね。それで、何を生み出すつもりだ?」

 

ダンテがそのまま寝転がり、技術局長をじっと見る。欠伸をしながらも、ダンテの表情は決してその手を緩めることはしないという決意が見て取れた。

技術局長の顔が、怒りに震えた。

 

「その余裕も、いつまで持つかな!!」

 

技術局長はそう叫びながら、ダンテのそばに魔法陣を展開し始める。

それに視線を向けることもなく、ダンテは技術局長へと鋭い視線を向け続けていた。

 

「その野心で、どれだけの人間や悪魔が犠牲になったんだろうな?」

「…ふ、ふふふはははははは!!」

 

技術局長がそう高らかに笑い声をあげた瞬間、ダンテの背後には三体のブレイドが出現し、ダンテを殺そうとその爪を鋭く光らせる。

それをダンテも認識していたので、ダンテはすぐにその右手にリベリオンを持ち、そのブレイドたちを一掃するために振るった。

 

「ようこそ!!血の研究所(Bloody Labo)へ!!」

 

技術局長がそう叫ぶと同時に、ダンテの周りへ大量のスケアクロウが現れる。それを見たダンテは、楽しそうな表情を浮かべながら、それらに向けてエボニーとアイボリーを向けるのであった。

 




というわけで、ダンテは二話分くらいお休みです。時間軸を戻していきます。

その間に、ネロの方も進めていきます。




明日で、この話を上げ始めて4年経つらしいので、時間の流れの速さを感じつつ、時間のかかり具合に想像以上に引いてます…


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事情


さて、比叡型の戦艦をここから出していきます。
風呂敷を広げた以上、畳むのが大事。



見てくれる人を失望させないように頑張ります!


ネロは、その大本営の建物前にまでやってきて、その違和感に気が付いた。

ダンテの気配はするが、それと同時に何かしらの悪魔の気配もするのだ。

 

「…この中に悪魔がいるのか?」

 

ネロはそう呟いて、少し嫌な予感がよぎっていた。

もしこの中に、大量の悪魔が現れているのであれば、それこそ技術局長だけではなく、この組織自体が悪魔を研究している可能性は否定できなくなる。

それは、大佐のような人間が利用されているという可能性が拭えなくなる。

 

「…どっちにしろ、ダンテがここにいる時点でそこは覚悟してんだ」

 

ネロはそう自分に言い聞かせるように呟く。

そして、その大本営の正門をくぐったところで、その三人の姿が目に入る。

そこには、巫女服のようなものを着た艦娘の姿があった。

ネロは、少しやりづらそうな表情を浮かべながら、その三人へと近づく。

 

「…動かないでください」

 

そして、その声を聞いたとき、ネロは心の中で厄介なことになった、と呟いた。

その三人が、しっかりとその砲塔をネロへと向けていたのである。

 

「…俺は客人だぜ。通してくれよ」

「…今は、理由があってここには誰も入れないんです」

 

そう呟いたその短髪の女性が、ネロに少し辛そうな表情を浮かべていた。

ネロは、それを見てあからさまに目をそらす。

 

「…私は、金剛型二番艦、比叡です。とにかく、今は事情があってここを通すわけにはいきません」

 

そう自分を名乗ったその女性が、ネロに抵抗という選択肢を失わせる。

しかし、ここを通れないのはネロにとっても困る。

 

「…どうしてもだめか?」

「…貴方が、敵対しているわけではないのなら、このまま引き下がってもらえませんか?」

 

比叡がそう言いながら、ネロへ主砲を向ける。

それを見て、ネロは大きなため息をつく。

 

「…それは無理だ。この中に知り合いがいてな」

「…では、すみません。力づくでいかせてもらいます」

 

比叡がそう呟いて、そのまま後ろの二人へ声をかける。

 

「榛名、霧島、お姉様のために、ここは何としても守らなきゃ!」

「ですが、艦娘が人を撃つのは…」

 

霧島と呼ばれた眼鏡をかけた少女は、そう返答する。しかし、比叡は霧島に向けて、鋭い視線を向ける。

 

「お姉様がこのままだと解体されちゃうんだから、仕方ないじゃない!」

「比叡お姉様…」

 

榛名と呼ばれた、ロングヘアの少女も同じように迷いが見える態度でそう呟く。しかし、比叡は決してうろたえることなくネロにその主砲を向けていた。

 

「…わかった。それなら、俺も力づくでいくぜ」

 

ネロがそう呟いて、静かに歩き始めるのをみて、比叡はその歯を食いしばりながらその主砲を放つ。

ネロはそれを視認した瞬間、それをレッドクイーンによって切り捨てる。

それを見た榛名と霧島は、その表情を緊張させる。

 

「…榛名、霧島、この人はただの人間じゃない。だから、ここで止めないと!」

「て、敵かどうかはまだ…」

 

榛名はそう呟いて、それでも心の中に生まれた疑問は消せなかった。

艦娘の砲撃を、ただの人間が切り捨てることなどできるはずがない、と。

 

「…これは、認識を変更せざるをえないわね」

 

霧島はそう呟いて、ネロへと主砲を向ける。

ネロは、嫌そうな顔を浮かべるが、諦めるつもりはなく、その隙を伺って間を抜けようと走り始める。

しかし、霧島と比叡の同時砲撃により、ネロは流石にそれを回避するしかなかった。

 

「…艦娘と戦うなんて冗談じゃねえぞ」

 

ネロはそう呟きながら、入口へ向かうために走り出す。

しかし、比叡と霧島の砲撃によって、ネロは進行方向を変えざるを得ない。

 

「…すんなり通らしてくれよ」

 

ネロはそう呟きながらその二人を見るが、決して通す気はないのか、二人はその表情を真剣なものにしたまま変えることはなかった。

 

「…榛名、援護して!」

「で、でも…!」

 

比叡の言葉に反論しようとする榛名。その二人の会話の流れを見たネロは、その一人は攻撃してくる様子はないことを確信して、ゆっくりと三人へと歩み寄っていく。

 

「…俺はお前らへ攻撃するつもりはない。少なくとも、艦娘であるお前らを敵と思うことはない」

「…その言葉に、信頼できるほどの根拠はありますか?」

 

比叡はネロの説得も意に介さず、そのまま静かにネロが動くのを待つ。ネロはそれを感じ取って、このままでは埒が明かないことを悟った。

 

「…そうかい。なら、とっておきを見せてやるよ」

 

ネロはそう言った瞬間、コートの右腕を捲り、何とかその右腕で比叡の艤装へワイヤースナッチをする。しかし、戦艦その重さゆえかネロの身体が比叡へと引き寄せられる形になる。結果として、ネロが比叡を飛び越えて、そのまま大本営の建物の入り口まで飛んでいてしまった。

それを見た榛名と霧島は、その光景に言葉が何も出てこなかった。

 

「…通らせてもらうぜ」

 

そうネロが呟いた瞬間、ネロの前に見知った赤い結界が現れた。

ネロはそれを見て、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「…こういうのじゃないと戦いづらいからな」

 

ネロがそう呟くと、そのすぐそばからメガスケアクロウが2体も現れ、そのままネロへと攻撃を加えようとその刃を振るう。

しかし、ネロはそれをそのまま食らうわけもなく、軽い動作(テーブルホッパー)でそれをかわして、レッドクイーンによる突進(ストリーク)でその二体を同時に薙ぎ払う。しかし、メガスケアクロウはそのまま怯むことなく立ち上がり、その場で立て回転を始める。それを見てネロは、すぐに一体の行動を止めるために、ワイヤースナッチで一気に距離を詰め、そのまま兜割を食らわせて敵を吹き飛ばす。

しかし、もう一体の攻撃は実行に移される。

ネロへとその巨体が転がっていき、そのままぶつかるかと思われたその瞬間、ネロはその敵に向かってレッドクイーンを思いっきり振りかぶって叩きつける。

それを受けて、体勢を崩したメガスケアクロウへ、ネロはダメ押しの一撃を加えるために、その右腕を伸ばす。

 

失せろ(Get lost)!」

 

ネロの攻撃はそれだけでは止まらず、そのままメガスケアクロウを思い切り蹴り飛ばした。

そして、そのまま吹っ飛ばされたメガスケアクロウに向かって、ブルーローズを構える。その弾丸には、最大の魔力が込められていた。

 

食らえ(Catch this)!」

 

弾丸が射出され、メガスケアクロウに突き刺さる。

メガスケアクロウはそのまま、何も感じないかのように立ち上がる。

しかし、その変化は起きていた。

メガスケアクロウに刺さったその弾丸は、突如空気を入れすぎた風船のように破裂したのだ。

 

「…ねんねしてな」

 

ネロがそう呟いた瞬間、そのメガスケアクロウはそのまま崩れ去るように消えていった。

そして、ネロはもう一体のメガスケアクロウに眼を向ける。

 

「い、いやぁぁ!!」

 

比叡と名乗った少女が、襲われそうになっているのを見て、ネロは素早くそのメガスケアクロウにとびかかる。

その後ろから思いっきりレッドクイーンを振り下ろし、その身体を一刀両断する。

そのまま、メガスケアクロウは身体の維持が出来なくなったのか、地面に溶け出すように消えていった。

 

「…大丈夫か?」

「…な、何で助けたんですか…?」

 

比叡はそう言いながら、ネロの方をじっと見る。

ネロは眼をそらしてそのまま大本営の入り口まで歩き始める。

 

「…ただ、こっちの事情に巻き込まれただけで、悪い奴じゃねぇと思ったからだよ」

 

ネロがそう言った言葉は、その場にいた全員に聞こえていた。

比叡と榛名と霧島の三人は、それぞれの心に疑念が植え付けられていた。

本当に、この人間を通してはいけなかったのか、という疑念が。

 






モチベーションが高いというより、リアルが充実した分だけやる気が出てくるということが分かったので、しばらくは更新を遅らせずに進められると思います!


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地獄




ネロはとりあえず、女の子に囲ませたいという欲求に抗えません。
何ででしょうね。


ネロがその建物の中に入って、真っ先に感じたことは、これだけ大きな建物なのにも関わらず、人の気配がないことだった。

それは、あの時の魔剣教団の本部のようで、ネロは嫌な予感がしていた。

 

「…ここの人間はみんな食われちまったか?」

 

そう呟きながら、ダンテの気配を探るネロ。間違いなくこの建物のどこかにいることは理解していたが、まだどこにいるかまでは考えが及んでいなかった。

 

「…どうせ、全部見るしかねえんだろ」

 

ネロは、もはや諦めたような表情を浮かべながら、走り出した。見える部屋に片っ端から入っていけば、いつかは目的も達成できるだろうと理解していたのだ。

そんなネロの前に、一人の男が現れる。

 

「貴様もここに辿り着くとはな」

 

そう呟いた影を見て、ネロはあからさまに面倒臭そうな表情を浮かべる。

そこには、空を傷つけて、大佐を殺そうとした技術局長の姿があったからだ。

 

「…上から物を言う奴は嫌いでね。そうでなくても俺はイライラしてんだ。さっさと退かねえと叩き斬るぜ」

「そうか。なら、少なくとも貴様にこの偉大な計画の邪魔をされないように気をつけねばな」

 

そう呟いた技術局長は、ネロを向けてそのまま歩き出す。それを見たネロは、小さく舌打ちをしてブルーローズの銃口を向ける。

 

「あいにく、今俺はお前に借りがあるんだ。恨むなよ」

「恨みなどせん。なにせ…貴様にはもう止められん」

 

技術局長がそう呟いた瞬間、ネロはそのまま思い切りその引鉄を引く。

その弾丸はしっかりとその技術局長の後頭部へと向かっていき、そして技術局長に突き刺さる__

__と思われたが、その瞬間に技術局長の姿は消えていた。

 

「!!…」

 

ネロはそれを視認した瞬間、あたりを見回す。

しかし、どこにもその姿はない。まるで、瞬間移動でもしたかのように、その場から消えてしまったのだ。

 

「…どうなってやがる?」

 

ネロがそう呟いた瞬間、その辺りに声が響き渡った。

 

「最早、ダンテの力を解析し終えた俺に不可能はない!貴様にはもう止められないのだよ!!」

 

その声を聞いたネロは、明らかに苛立ちのような表情を浮かべていた。

 

「また遊んでやがるのか?ダンテの奴…」

 

ネロがそう呟いた瞬間、その周りに赤い結界が貼られ、10体ほどのスケアクロウが出現する。

それを見たネロは、大きなため息をつく。

 

「…いや、こっちが敵に遊ばれてるのか」

 

ネロの呟きは、ただ無機質に響いた。

 

 

_______

 

 

 

「…ここは…」

 

何も見えないデース。まるで、暗闇に閉じ込められたかのようネー。

それでも、自分に何かよからぬことが起きたことは分かる。

 

こんなに、心の底から気持ち悪い感覚が蠢いてるのだから。

 

『金剛、君は元帥のための研究に協力してもらえるかな?』

 

そんな声が頭に流れ込んで来る。その声が、確かに技術局長のものだと理解できていた。

でも、何故か少し恐怖心が頭をよぎる。

それでも、その感情を意識の奥底に落とされたように消し去られてしまった。

 

「…もちろんデース。提督のためなら、meの身体はいくらでも捧げマース」

 

本心からそれを口にしたのか、それとも操られていたのか。

それもわからないほどに、自分の意識は混濁していた。

 

『…ありがとう、これでまたこの戦いは終結へと近づいた』

 

その言葉を聞いて、思い出した。

 

この戦いを終わらせるカギは、ダンテが握っていることを。

 

でも、もう体が動かなかった。自身の変化に、もう飲み込まれてしまっていたのだ。

 

悪魔に…ナル…

 

 

_____________

 

 

 

「…片付いたな」

 

ネロはそう呟きながら、静かにまた歩を進める。あたりには、悪魔の血液が散乱していて、ここでそれなりに大きな戦闘が繰り広げられたことを嫌でも想起させられる。

 

「待ってください!」

 

そう言った声が後ろから聞こえたときに、ネロはそちらに眼をやる。

そこには、先ほど門の前で出会った榛名と呼ばれていた少女が来ていた。

 

「…なんだよ、もういいだろ?」

「…教えてください。あの、異形はいったい?」

 

榛名の言葉を聞いて、ネロは少しため息をつく。関係のない相手に、それを伝えていいものかどうか、決めあぐねていたのだ。

 

「…知らないほうが良いこともあるぜ」

「それでも、お姉様が反逆行動に出た理由もわかるかもしれないんです!」

 

そう言った榛名の言葉に、ネロは引っかかりを覚える。

反逆行動という、やけに物騒な単語。その言葉が、どうしても気になったのだ。

 

「…お前らのお姉様が反逆行動ってのは、誰が言ってた?」

「…この大本営の、技術局長です」

 

そう呟いて、榛名は顔を俯かせる。

それを見たネロは、間違いなく技術局長の独断によって誰かが嵌められたことを理解した。

 

「…おい、案内を頼めるか?あのくそ野郎をブチのめして、お前らのお姉様を助けてやる」

「え、えぇ!?」

 

榛名は状況を理解できないようで、そう叫びながら困惑しているような表情を浮かべていた。

ネロはそんな彼女の様子を見ながら、大きなため息をつく。

 

「…お前らも騙されたままじゃ、何かと面倒だろ。俺が全部教えてやるよ」

 

ネロの言葉を聞いた榛名は、心の中で小さな恐怖心を感じていた。

目の前にいる男は、この大本営という組織が自分たちを騙している可能性を示してきたのだ。

それを単純に信頼できるほどの関係性ではないにも関わらず、自分自身にその疑念が植えつけられてしまったのだ。

 

「…ネロさん、私は…」

「話は聞かせてもらいました!!」

 

と、榛名の後ろからそんな声が聞こえたと同時に、二人の視線はその声の主へと集中する。

そこには、先ほどまでネロに敵対心を向けていた、比叡が立っていた。

 

「比叡お姉様?」

「…霧島、榛名。私は、お姉様を信じています。そのお姉様が反逆行動をしたならば、私達もお姉様のために、反逆すればいいまでのことです!」

 

そう言い切った比叡の背後で、霧島が眼鏡を直しながら、ネロへと笑顔を向ける。

 

「さしあたって、その異形の話とあなたの知っていることを洗いざらい話してもらおうかしら?」

 

霧島のその言葉には、明確な敵意があったものの、殺意ほどの強さが無いことをネロは理解していた。

ネロはそのまま左手で頭を掻きながら、ため息をついた。

おそらく、ダンテのもとへとたどり着く前に大きな障害が出来上がったであろうことを理解していたからである。

 

 

 

______________

 

 

 

 

「…ダンテ…」

 

トリッシュは、その視線の先にあるオブジェと化したダンテの姿を見ていた。

その心臓部分には、彼自身の剣であるリベリオンが深く突き刺さっており、その周りをまるで防壁かのように大きな肉塊が覆っていた。

その姿を見たものは、おそらく全員が中の人間がすでに死んでいるであろうと錯覚を起こすだろう。

 

「…この状態だと、流石に助けるのは無理ね」

 

トリッシュはそう呟きながら、あたりをチラと見渡す。

そこには、トリッシュを取り囲むように配置された、多くの悪魔がいた。そのどれもが、トリッシュが動くことを許さないかのように、トリッシュから視線を動かすことはなかった。

そして、どの悪魔も、まるでに統率されているかのように、綺麗な円形に並んでいた。

 

「…あの男、悪魔を従える力を持っているみたいね」

 

そう呟いて、トリッシュはダンテを包み込む肉塊の頂点部分を見上げる。

そこには、まるでその統率力を示しているかのような、技術局長の銅像が立っていた。

その右手は前に突き出されており、その左手には何かの辞典を模した本が握られていた。

 

「…悪趣味な銅像ね」

 

トリッシュはそう呟いて、そのままじっとその銅像を見ていた。

その銅像に、強大な魔力が流れ込んでいることを感じ取りながら。

 






ダンテはとりあえず、串刺しにして動かなくすればいいというのがお約束になりつつありますね。

お約束というか、そうでもしないとダンテは確実に動き回って事件を完全に解決しちゃいますからね。


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転機



ネロのことをやりながら、バージルのことも動かしていきます。


「…これから始まるのは、大いなる実験だ]

 

まるで大きな教会のような部屋の中。少ない太陽光を取り入れるかのように作られたステンドグラスの前で、技術局長はそう呟いた。技術局長のその目の前には、大きな肉塊が存在していた。

その肉塊は、血液の塊のような物体がいたるところに付着しており、それが人間の作り出したものであるならば悪趣味極まりない様相である。

最も、それを作り出したのは、技術局長自身でああい、その肉塊はただのオブジェではない。

 

「…ダンテの力は解析を終了した。つまり、これからは我々のような人間にも悪魔の力が行使できるようになる。」

 

その肉塊が少しだけうねるように動いたのを感じ取った技術局長は、その笑顔を醜悪なものへと変える。この世の全てを憎んでいるかのように、ありとあらゆるものを見下しているような目であった。

 

「…そうなれば、総帥のように力を持たない人間が、力を持つ連中におびえることはない…この世界を敵に回しても、総帥は負けないのだ!」

 

そう叫んだ技術局長の表情には、絶対的な自信が現れていた。

その目の前の肉塊は、それに対して微かに震えているかのように動いていた。

その部屋には、技術局長の笑い声が反響するのみであった。

 

 

____________

 

 

 

「クソ、どこにいけばいいかわからねえ」

 

ネロはそう呟きながら、あたりを見回す。

至る所に部屋はあるのだが、ダンテがいる部屋の見当がつかない。それは、ダンテの気配を感じ取れなくなっていることも関係しているが、何よりも後ろについてきている三人の少女たちの探し人の捜索も兼ねているので、優先事項が分からなくなっているのだ。

 

「ダンテのことで何か知ってることは無いか?」

「少なくとも、私達艦娘は接触が禁じられていて…何も情報が無いんです」

 

そう呟いた眼鏡娘の霧島の表情は、決して明るいものではなかった。今の状況を考えれば当然のことだが、自分たちの事情に巻き込みながらネロの助けになれないことを悔やんでいたのだ。

 

「…あの、ネロさん、貴方に依頼を行ったのは元帥という話を聞きました。もしかしたら、元帥に助力を求められるかもしれません!」

 

と、後ろについてきていた榛名がそう声をかけると、ネロは少し思案した。

その人物は、確か天龍や空がいた鎮守府でも話題に上がっていた。元帥という男がこの作戦を計画して、ネロを呼び出したというならば、ダンテを呼び出したのもその男の可能性が高い。その人間にコンタクトを取るべきだと理解したのだ。

 

「…電話はどこかにあるか?」

「では、通信室に案内します!」

 

ネロの言葉に、ほぼ即決で比叡が返答する。それは軍の施設を無断で使用するという極めて危険な行為であるが、そんなことはお構いなしに比叡たちはその部屋を目指して走り始めていた。

その後姿を眺めながら、ネロはため息をついて、笑みを浮かべる。

 

「…まあ、助けてもらえるならその方がマシだな」

 

ネロはそう呟いて、そのまま三人の後をついていった。

その後ろに、何体かの悪魔がついていっていたことに、ネロはまだ気が付いていなかった。

 

 

___________

 

 

電は困惑していた。その目の前の敵が、目の前の味方をじっと見ている光景を目の当たりにして。

 

「…鈴谷さんを、解放するのですか?」

 

電は目の前に立ちはだかる、その青いコートの男を睨みつけながらそう呟く。先ほどまで、鈴谷の喉元には日本刀が突き付けられていたのだが、電と武蔵の姿を視認した瞬間に、その武装をしまったのだ。

ただ、臨戦態勢を解いたとはいえ、結局のところはダンテと同じなのだ。仮に今は戦闘態勢に入っていなくとも、やろうと思えばすぐにやれる。

艦娘や軍隊のように、戦いの準備に時間がかからないのだ。

 

「…電、ちょっと話しときたいんだけど、多分この人悪いことは考えてないみたいなんだよね~」

 

鈴谷は、先ほどまで首筋に日本刀を突き付けられていたのにも関わらず、その表情を楽しそうなものへと変質させる。

その緊張感のなさから、電の隣で見ていた武蔵は思わずしかめっ面になる。

 

「…何故そう言い切れる。少なくとも、こちらの被害は中破が三人も出ていて、さらにお前自身が大破していたではないか」

 

武蔵はそう呟いて、その矛盾に気が付いた。

鈴谷も、その武蔵の様子を見て、まるで押せ押せと言わんばかりに理論を展開する。

 

「そう、逆を言えば、それで済んでるんだよね。少なくとも、ダンテが深海棲艦と戦うときのそれとは明らかに違うし、間違いなく手加減されていた」

 

そこまで鈴谷が言うが、電は納得のできない様子で首を振る。

 

「もし敵対する気が無いのであれば、こちらを攻撃する必要はないはずなのです。少なくとも、こちらへの明確な攻撃は見過ごすわけにはいかないのです」

「…humgh」

 

バージルはその電の言葉を聞いて、大きなため息をつく。その表情の意味を正確に読み取った鈴谷は、そのまま重い表情を浮かべたまま、電に向き直る。

そのバージルの態度は、このまま全てを切り伏せることも厭わないと言わんばかりの殺気が含まれていた。

 

「…逆に、もしこの人が電の目の前にいきなり現れたとして、この人の言うことを信用できる?その言葉に真実味を持たせるために、攻撃によって相手を制圧してから話をするのは、常套手段だと思わない?」

「…何故、そこまで鈴谷さんはこの人のことを擁護するのですか?先ほどまで、刀を向けられて動けない状況にさせられていたのです」

 

鈴谷のその言葉を聞いた電は、その表情を怪訝なものへと変える。間違いなく、今鈴谷は艦娘の見方ではなく、その男の味方になって居る。電はそれが面白く感じていなかった。

鈴谷は、悩んだように頭を掻きながら、その言葉を口にすることにした。

 

「…多分、この人は鈴谷のような艦娘を待ってたんだと思うよ。深海棲艦と艦娘の双方を考えられる人物をね。だから、私はその試みが成功するように頑張ることにしたの。ダンテの行動の理由も聞けたしね」

「ダンテさんの…?」

 

鈴谷の言葉を反芻する電は、その艦影に気が付いていなかった。

その背後から迫る、その敵艦の存在に。

 

「…提督、ソロソロ僕達ノ出番カナ?」

 

電は、その声が後ろから響いたのを感じた瞬間に、全身に悪寒が走るのを感じた。

その死んだような声が、電の背後から響いた。その事実は、艦娘以外の誰かが立っていることを示していた。

 

「!?…」

「動カナイ方ガ無難ダト思ウヨ?」

 

電が動こうと背後へ砲塔を向けようとした瞬間、その戦艦レ級の尻尾が電に向いていた。

そのあまりにも早い動きに、武蔵と電は行動を制限されてしまう。まさしく、罠にかけられたのだ、と認識した。

しかし、その予想に反して、バージルはすぐにその左手を挙げる。

 

「…レ級。貴様はこの交渉を壊す気か?」

「…ハイハイ、冗談ダヨ。全ク、提督ハ厄介ダヨ」

 

レ級はバージルのその言葉を聞いて、すぐに尻尾をひっこめた。その事実に、電と武蔵は、少なくとも継戦の意思はないということを理解した。

でなければ、電と武蔵は今すぐに沈んでいただろう。

 

「…貴様らの鎮守府とやらに案内しろ。詳しい話はそこからだ」

 

バージルがその冷たくなった空気を切り裂くようにそう告げると、電と武蔵は何も言い返すことが出来なくなっていた。

これから戦うか、それとも交渉のテーブルにつくか、その二択を迫られていたのだと、理解した。

 

「…大丈夫、この人は少なくとも、提督を傷つけようとしているわけじゃない。寧ろ、その先まで考えてるはず」

 

鈴谷はそう言いながら、電と武蔵を安心させるために笑顔を作る。

しかし、二人のその表情は明らかに安心できないという感情に包まれていた。

戦艦レ級とその男が吉まで到達したとき、鎮守府は大混乱に陥り、提督の声がかかるまでの間に鎮守府の破棄が決定しかけることになるのだが、その面々はまだ知る由もない。

 

 

 





さて、バージルも大本営に来れば、親子兄弟協力ラスボス戦みたいなことが出来ますね!


DMC5のあれ以上ない終わりは、周回数を重ねても感動しました。


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胎動

技術局長のCVは完全にアグナスなんですけど、もっとしっかりとはきはき喋る狂人枠で考えてます。


「…鈴谷、とにかく説明を頼む。それと、今度からは艦娘たちが怯えるから、事前にせめて通信はよこしてくれ」

 

提督の言葉を聞いた鈴谷は、思わずやってしまったという表情を浮かべていた。

実際にこの鎮守府にこの戦艦レ級と深海の提督であるバージルを引き入れた際、かなりの艦娘たちが攻撃行動を取ろうと構えたのだ。

しかし、それに対して一切怯むことなく殺気を放ったバージルによって、多くの艦娘が行動不能に陥り、大淀のような指揮権が高い艦娘が独断で鎮守府放棄の連絡を鎮守府内に流そうとしたところで、提督がそれらを止めたのだ。

 

「…えーっと、こちらがダンテのお兄さんのバージルさん。色々と紆余曲折を経て、深海の提督を今はしているみたいです」

「…にわかには信じがたいが、深海にも提督という存在はいるんだな。それも、ダンテさんの兄ということは、悪魔の話を当然ご存知だということになる」

 

提督はそこまで呟いて、バージルの表情を見る。

ソファに腰かけながらもしっかりと姿勢を維持して居るところを見ると、性格はダンテと真逆であるということが理解できた。

そしてその目は、見ているだけで人を殺せそうなほどに殺気が含まれていた。

 

「…貴様に問いたいのは、一つだけだ」

 

そのバージルが重々しく言葉を口にしたとき、提督の緊張は高まる。

交渉のテーブルについたというよりは、まるで尋問が開始されたかのような感覚であった。

まるでその数秒の沈黙が、永遠にも感じられたとき、バージルはその言葉の続きを口にする。

 

「貴様はどこまでこの件へ関与している?」

 

その言葉を聞いた提督は、まるで心臓が握られているかのような感覚に陥った。バージルが言うこの件とは、いったい何なのかは検討もつかなかったが、無言を貫いては状況は悪化するだろうし、何かを答えなければ殺されるだろう。

 

「…少なくとも、艦娘たちに何かをしたことはありませんし、皆が嫌悪するようなことはしていません。それに、自分自身がどれだけ無能であろうと、彼女たちを傷つけるようなことはしていないと自負があります」

 

提督は勢いよくそうバージルへと告げる。それを聞いた鈴谷が、まるで違う違う、とでも言いたげな表情で、提督に耳打ちをする。

 

「多分、バージルさんは提督が艦娘開発に携わってないかどうか聞いてるんだよ」

「…艦娘の開発?」

 

提督はそれを聞いて、困惑する。

なぜ、艦娘の開発に携わっているかどうかを訊かれなければならないのだろうかと。

その様子を見ていたバージルは、小さくhumgh…と呟いて、そのまま席を立つ。

 

「…やはり、大本営とやらに行くしかないようだな」

「な、なんですって?」

 

提督は、話の流れが一切読めていないため、バージルが下した決断がどんな意味があるのかを知らない。

だが、そのバージルの目は、ダンテのそれに似た目的を宿したようなものであった。

 

「…半人半魔を作り出した責任は取らせなければならない」

「なっ…!?」

 

提督は、それを聞いて全てを理解した。

艦娘と深海棲艦の違いなど、皆無であるということを。

 

____________

 

 

「…ここが通信室か」

 

ネロがそう呟きながら、あたりを見回す。軍の設備であるため、かなりの厳重度であったが、無理矢理ドアをこじ開けて中へと入ってしまった。

それを見た榛名達は、自分たちの情報を使えば何も問題なく通れるはずなのに、などと考えていた。

 

「…さて、元帥閣下に許しを請わなきゃな」

 

ネロはそう呟いて、そのまま思い切り通信設備のボタンを叩く。その動作だけで、その設備が起動音を上げ始めた。それを見て、ネロは満足げに小さく息を吐く。

そして、そのまま榛名が元帥へと取り付けるようにそのまま機械の操作を始めた。

それを見た比叡と霧島は、そのまま静かに様子を見守っている。

ふと、ネロは扉の前に眼をやる。そこには、白い軍服を着た男が立っていた。まるで、こちらの行動を非難するかのように鋭い目線を向けながら。

 

「貴様ら!軍の施設を破壊したのか!」

「!!…」

 

その声を聞いた榛名達は、その声の方へと向き直る。その表情は、軍人として命令に背くことはできないという心情がくみ取れる。

それを見たネロは、静かに笑みを浮かべて、その軍服男へと歩み寄る。

その軍服の男は、ネロから一切視線を逸らすことなどしなかった。

 

「俺の頼みだ。多少は融通を聞かせてくれるんだろ?」

「貴様…!」

 

そう呟いて、その軍服男がネロへとその拳銃を向けようと動く。しかし、ネロがそれを察知するや否や、そのままレッドクイーンを抜き、その軍服の男へと向ける。

それを認識した比叡たちは、かなり狼狽したような表情を浮かべていた。

その瞬間、軍服男はその表情を怒りのものへと変える。ネロはそれを見ても、表情を変えることなく呆れたように呟く。

 

「邪魔するなよ。俺は別に、お前のことを殺す気は…」

「貴様ノヨウナ人間ガ…!」

 

と、その声が聞こえたと同時に、その軍服の男がネロへと襲い掛かる。それを見たネロは、少し驚きながらも、確実にその男が悪魔であると認識していた。

ネロはそのレッドクイーンで、その襲い掛かってきた男を切り捨てる。

 

「グォォォォォォォォォ…!!」

 

ネロが斬り伏せたその悪魔は、うめき声を上げながらその身を灰に変えていく。ネロはその光景を見てもなお、戦闘態勢を解かない。

その部屋の扉の奥に、スケアクロウとブレイドが両手で数えきれないほどの数現れたのだ。それぞれがネロを殺すために集められたようで、すぐにでも襲い掛かりそうな勢いであった。

 

「…この施設の中にどんだけいるんだよ」

 

ネロはそう呟きながら、後ろでうろたえている三人に目線を向ける。

その三人は、それぞれが恐れを抱いたような表情を浮かべていた。軍人に化けた悪魔を見たことと、その後ろにとんでもない数の悪魔がいることへの恐怖心がそうさせたのだ。

 

「…早めに通信の準備頼むぜ」

 

ネロはそう呟くと、その通信室の扉があった部分に思い切り右手をぶつける。その動作によって、部屋の壁が崩れ、部屋の中に入れないようになってしまった。

そして、ネロは笑みを浮かべながら、レッドクイーンのエンジンをふかした。

 

「大ボス前の肩慣らし、させてもらうぜ」

 

ネロはそう呟くと同時に、悪魔たちは一斉に動き始めた。

 

 

__________________

 

 

 

榛名は、少しばかり放心状態になっていた。あの白い軍服の男に声をかけられたとき、思わず身体をこわばらせた。それは、自分たちの命令違反を咎められることを想定していたからである。

しかし、その人物は軍服を身にまとった異形であった。ネロがその男を切り捨てなければ、榛名達は決して無事では済まなかっただろう。

それを改めて頭の中で反芻した時、この軍部はいったい、どんな隠し事を艦娘にしているのだろうと、そんな疑問が形になって現れた。

 

「榛名!急いで通信準備を!ネロさんがすぐに行動できるように手助けするのが私たちの仕事よ!!」

 

比叡がそう言って、榛名の横に駆け寄ってくるのを見て、慌ててコンソールを操作しなおす。

今までの出来事を現実的に理解することはできなかったが、それでも今やるべきことは変わらないのだと認識していた。

 

「にわかには信じがたいけれど、この鎮守府には悪魔と契約した人間がいるようです」

 

霧島がそう呟いて、通信機用のマイクの接続を開始しているのを見た榛名は、手を止めることはなくとも、その言葉を頭の中で反芻していた。

悪魔と契約した人間の存在、それに、心当たりがあったのだ。

その人間は、自分たちの姉が裏切りをしたとして、自分たちをけしかけた人間。

 

「…技術局長は、もしかして…」

 

その榛名の小さな呟きは、二人には聞こえていなかった。

だが、その場にいた三人は、その名前を頭の中に浮かべていた。

 




アグナスの子供がニコって普通にヤバいと思いながら5をプレイしてましたけど、そのおばあちゃんがダンテのエボアボの作者ってのも大分ヤバいなって思いました。(小並感)


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元帥

元帥にとりあえず話のスポットを当ててみます。


太陽が照り付ける佐世保鎮守府にて。元帥は、その日一番の修羅場を迎えていた。

大本営からの連絡が一度完全に途絶えたのが一日前。その後、白紙の本日の任務が送られてきたのが今朝である。

とにかく、何かが起きたことを理解した元帥は、何度か大本営に連絡を試みたが、結果として一度も繋がることはなかった。

そして、任務が白紙であるため、計画の申請もできず、果ては出撃の準備もできないありさまである。

 

「…んで、本当にまだ連絡がつかないのか?」

「みたいですねぇ…通信担当の兵士が寝ているんでしょうか?」

 

元帥の言葉に、吹雪はそう返答して困ったかのように首をかしげる。それを見て、まず心配になったのが、大本営にいる軍人と艦娘の状態であった。少なからず、大本営に直接敵が乗り込んでいくことは今までなかった。しかし、それが今日以降も起きないという保証はない。現在、敵との戦闘によって通信ができない状態だとしたら。

そうでなくとも、大本営に何か重大な危機が迫っている可能性を否定できない。

 

「…吹雪、艦隊の出撃編成を組む。出撃できる艦娘を確認してくれ」

「えぇ!?そこまでするんですか!?」

 

吹雪はそう叫びながら、割と本気で驚いているかのような表情を浮かべていた。それを見て、元帥は大きなため息をついた。

 

「あのなぁ…今の状況で連絡がつかないってことは、今この瞬間に敵が大本営に直接乗り込んでいる可能性があるんだぞ?もし、これで敵が陸路でこの鎮守府や他の鎮守府、果ては市街なんかを攻めてきたらどうする?」

「でも、もし本当にそうなって居たら、他の鎮守府も動き始めるはずでは?そういった連絡は一切来ていませんが…」

 

吹雪はそう呟いて、元帥の考えを否定しようとする。しかし、そう言いながら、吹雪はその心中で察していた。

本当に何もなければ、任務が白紙などという手違いは起こりえないのだから。

 

「…ならいい。自分で調べるから、お前は居残っていろ。その代わり、書類仕事は全部任せるからな」

「…今出撃可能なのは、第一艦隊の加古さん、古鷹さん、睦月ちゃん、如月ちゃん、軽空母の鳳翔さんと祥鳳さん。第二艦隊は利根さん、筑摩さん、綾波ちゃん、敷波ちゃん、戦艦の扶桑さんと山城さん。第三艦隊は、川内さん、神通さん、那珂さん、正規空母の蒼龍さん、飛龍さん、そして雪風ちゃんです」

 

元帥が立ち上がってそのまま動こうとした瞬間、吹雪は観念したかのように艦娘の編成を告げる。それを聞いて元帥は、もう既にわかっていたならさっさと言えばいいものを、と考えていた。

 

「…よし、とにかくそのまま出撃準備に入るように告げてくれ。主力を全部他の鎮守府へと派遣していた分、それだけの戦力があれば何があってもなんとかなるだろう」

 

元帥の言葉を聞いた吹雪は、小さくため息をついていた。

この鎮守府は、割かし最近に設立された鎮守府であり、右も左もわからない人間に任せるよりは、キャリアと指揮能力に優れた人間をここに異動させるのが妥当だと言われ、この元帥がやってきた。しかし、この元帥が艦隊の運営を始めると、瞬く間に主力級の艦娘がこの鎮守府に現れ、この鎮守府が戦力過剰になってしまったのだ。

その結果、元帥のもとを離れて別の鎮守府へと主力艦は転属となり、この鎮守府は最低限の戦力のみ保有することになった。

故に、吹雪はこの鎮守府の戦力をそれほど割くことを、良しとしたくないのだ。

 

「失礼します。提督、大本営から連絡が来ました。」

 

そんな二人のいる執務室へと、落ち着いた雰囲気の艦娘、鳳翔が入ってきた。それを聞いた元帥は、少なくとも連絡が付いたことへの安堵と、なぜもっと早くつながらなかったのかという苛立ちに包まれた。

 

「そうか。では、俺が相手をする。どうやら仕事を怠慢している奴がいるらしいからな」

「ですが…その、少しその通信相手が変なんです」

 

鳳翔は元帥が憤っているのを感じ取りながらも、冷静にその話をし始める。元帥はそれを聞いて、大きなため息をつく。

 

「この期に及んで、まだ問題があるのか?」

「はい。正規の通信兵ではなく、どうやら個人的に話があるとのことでして」

 

その言葉を聞いた元帥は、少しだけその表情を硬くする。

個人的な用事で、大本営の通信設備を使用するなどという暴挙に至った理由は何か。

もしかすると、よりも確信に近い感覚で、元帥はその言葉を口にした。

 

「…相手は何と言っていた?」

「えっと、『Devil may cry』と一言おっしゃっていました」

 

それを聞いた元帥は、ニヤリとしながら通信室へと走るのであった。

 

 

_______________

 

 

 

「…さっきの言葉って、どんな意味なんですか?」

 

榛名は、通信機のマイクの前で腕を組みながら立っているネロを見ながらそう尋ねる。

ネロはそれを聞いて、少し困ったかのような表情を浮かべていた。

 

「…店の名前だ。俺が付けたわけじゃないけどな。ただ看板を送り付けられたってだけで」

「お店ですか…」

 

ネロの言葉を聞いた榛名は、思わず考え込んでいた。それがどんな感情なのか、ネロには知る由もなかったが、榛名は単純に目の前の青年が店を経営しているとは思っていなかっただけのことだった。

 

『がはは!まさかデビルキラーから通信がかかるとはな!』

 

通信室にその声が響いた瞬間、ネロは大きなため息をつく。

 

「…この軍は悪魔を雇いすぎだ」

『…となると、大本営には悪魔が大量にいるということか?』

 

元帥はそう言いながら、まるで考え込むようにうなり始める。ネロはそれを聞いて、面倒くさそうな表情を浮かべる。

 

「…ダンテの姿が見当たらねぇ。俺一人でもいいが、流石にダンテの協力があった方が楽だ」

『なるほど。ダンテの奴が暴れたわけじゃないということは理解した』

 

元帥はそう呟いて、大きなため息を吐きながら言葉を続ける。

 

『少なくとも、ダンテは軟禁されていた。もしかすると、別の場所へと移送された可能性すらある』

「…そうかい。じゃあ、次の質問だ」

 

ネロは元帥の言葉を聞いた瞬間、その雰囲気を硬くする。

 

「…技術局長という男は、悪魔の研究をしているようだが、それは掴んでいたか?」

『…やはり、あの男は黒だったか』

 

ネロの言葉を聞いて、元帥は少し苛立ったような声を上げていた。それを聞いたネロは、静かに舌打ちをする。

つまり、元帥は薄々感づいてはいたのだろう。しかし、確証は持てなかったということ。

 

『…もともと、ダンテに依頼をした理由は、深海棲艦の数が圧倒的に増えたことに起因している。さらに言えば、大本営周りにその存在が全く現れないことも疑惑を大きくする原因になった』

「…それで、ダンテが封じられたからこそ、俺に話が来たってことだろ?」

 

ネロがそう告げると、元帥は静かにああ、と呟いた。

 

『ダンテのことを大本営で軟禁するという話が出てしまい、深海棲艦への対抗戦力は失われてしまうだろうと考えてな。君には失礼な話かもしれないが』

「…別にいいさ。それより、アンタに聞きたいことがあってな』

 

ネロはそうマイクに向かって告げると、ニヤリとした表情を浮かべた。

それを見ていた榛名達三人は、思わず身震いしていたらしい。

 

「…大本営の設備を多少ぶっ壊しても文句は言わねえか?」

『…全く、デビルハンターとは規格外なものらしいな。良いだろう、存分に暴れてくれ』

 

総帥は、呆れ笑いをしながら、ネロにその許可を出した。

ネロはそれを聞いて、すぐに通信機のマイクを引き抜く。

 

「ちょ、マイクはそんなに雑に扱っては…」

 

ネロのその暴挙に、思わず霧島が慌てた様子でそう告げるが、ネロにはその言葉はもう届いていなかった。

 

「さあ、パーティーと行こうぜ」

 

ネロはそう呟きながら、左手で作った拳を開いた右手にパンと叩きつけた。

 

 

 

 




そろそろ、大ボスくらいまでにはたどり着きたいところですね!

年内最後の更新になると思います!


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集結

明けましておめでとうございます!
大変遅くなりました!


色々な視点の話を同時に書きます!
ちょっとごちゃごちゃしたらすみません!



「…本当に、行くんですか?」

 

湾頭にて仁王立ちをしたまま動かないバージルに、提督はそう尋ねる。しかし、バージルは決して動くことなく海面を見つめていた。その横では、戦艦レ級がまるで楽しそうに笑みを浮かべながらぶつぶつと何かを呟いている。

その光景を見ながら、提督は緊迫した表情を浮かべていたが、すぐにそれをやめる。仮にも敵対関係である相手に、少しでも失礼なことをすれば、間違いなく殺されるだろうと考えたのだ。

 

「…司令官さん、どうするのです?」

「…ここは僕たちにできることはないよ。それに、バージルさんもここまで話をした相手に向かって、突然刃を向けてくるようなことはしないはずだ」

 

提督はまるで、自分に言い聞かせるようにそう呟いていた。しかし、その言葉を聞いて鈴谷も思わず楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「多分ね~、バージルはダンテのことを認めてはいるって感じだと思うんだよね~。でも、多分プライドの問題でそれが素直に言えないってことだと思う」

「…その口を閉じろ」

 

鈴谷の言葉に、バージルは顔を向けずにそう反応した。それを聞いた他の艦娘たちは、その緊張感の走りに思わず言葉を失う。

それでも、鈴谷は言葉を続ける。

 

「でも、事実でしょうが。あんだけ斬りあったのに、今は別に憎んでるわけでもないとか、典型的な…」

「…図に乗るな」

 

バージルのその重苦しい声が辺りに響くと、駆逐艦の何人かは怯えて艦娘の後ろに隠れ始めてしまった。

まるで、地雷原を走り回っているような鈴谷のその発言の一つ一つに、その場の全員が早く鈴谷が黙ることを祈っていた。

 

「…提督、来タヨ」

 

と、戦艦レ級が呟いた瞬間、その水面へと深海棲艦の大艦隊が出現する。それを見たすべての艦娘は、その戦力に驚愕した。

おそらく、周辺海域の全ての深海棲艦がここに集結してきているのだろうかと言わんばかりの数であったからである。

 

「…この数を呼べと言った覚えはない」

「オヤ、ソウダッタカナ。デモ、面白イジャナイカ」

 

戦艦レ級が楽しそうにそう呟くと、南方棲姫が苛立ちながら戦艦レ級へと詰め寄る。

 

「チョット! マタ騙シタノネ! 提督命令デ近海ノ艦ヲ全テ集メル話ジャナカッタノ!?」

「騙シテイナイ。秘書艦ノ命令ハ提督命令ニ近シイ権力ガアッテモオカシイ話ジャナイ」

 

そんな言い合いをしているのを見て、電は心の中でざわめきが走るのを感じていた。

このまま彼らをただ見送るだけでは、一生後悔するのではないかという疑念が。

 

「…司令官さん、お願いがあるのです」

 

電はそのわがままを、生まれて初めて押し通そうとした。

 

「…電も、一緒に向かいたいのです。ダンテさんの言っていたことをすこしでも理解したいのです」

 

それを聞いて、提督は思わず言葉を失った。

艦娘である電が、明確にこれをしたいという要望をぶつけてくれたことへ、提督は驚きと感動を覚えていた。

 

「…僕も、それを命令しようと思っていたところだ。行ってきてくれ」

 

提督はそう返答しながら、微笑みを浮かべる。その二人を流し目で見ていたバージルは、humgh、と小さく鼻を鳴らした。

 

「…マルデ引率ノ先生ダネ」

「…黙れ」

 

戦艦レ級の言葉に、バージルはそう鋭く返答した。

太陽は雲の隙間から、少しずつ顔を覗かせ始めていた。

 

 

___________________

 

 

 

鎮守府の門の前、空は苛立ちながら足を進めていた。

 

「空ちゃん、ダメだって! まだ完全に身体が治ったわけじゃ…」

 

大佐のその言葉を振り切るように、空はそのまま鎮守府の外へと歩き始めていた。

それを止めるように、高雄と愛宕が空の前に立ちはだかる。

 

「流石に、怪我人を外へ出すわけにはいかないの。だから、空ちゃんはまだ休んで?」

「…それに、この間みたいなことがまた起きないとも言い切れない以上、提督の言うように今は身体を休めてください」

 

その二人が真面目な顔でそう告げると、空は苛立ったような表情を浮かべながら、強く言い返す。まるで、子供の癇癪のようでもあり、冷静な大人が怒りを爆発させたように見えた。

 

「ネロが今も戦ってる! じっとなんかしていられないの!」

「!…」

 

その言葉を聞いて、大佐は少し心の奥底で罪悪感を覚えた。

空の怪我の原因は、自分が作ったと。そんな自分が、何かを強制することなんてできるのかと。

 

「でも、今の空ちゃんが行ったら、邪魔になっちゃうっぽい」

 

と、その大佐の後ろから、そんな声が聞こえる。空はそれを聞いて、怒りに震えながらそちらを見る。

そして、思わず言葉を詰まらせた。

彼女の背中には、艤装がつけられていたのだ。

 

「だから、私も行くっぽい」

「夕立、それは…」

 

空は少しためらうかのような言葉を吐く。艦娘が大本営に艤装をつけていくということは、即ち反逆行為をさせるということになる。

と、その隣に並ぶようにその影は現れた。

 

「…僕も行くよ、提督」

「時雨まで…どうして?」

 

空はどうしても、尋ねるしかなかった。

自分勝手な行動をしようとしてるのに、それを咎めるのではなく、行動で示そうとしている。自分の立場を危うくしてもである。

 

「…じゃあ、空ちゃん護衛任務を、時雨と夕立に任せます!」

「提督、ダメよ。そんなことしたら、反逆に…」

 

空はそこまで言いかけて、その大佐の表情を見た。

それは、まるで空を安心させるような笑み。空のことを微塵も敵とは思っていない笑み。

 

「大丈夫!何てったって、空ちゃんをあんな風にしたのが技術局長の仕業なら、一発殴ってきて欲しいもの!裏切り者と言われても、私はみんなのことを信じてる!」

「提督…」

 

空はそれを聞いて、思わず涙をポロリと流した。

それを見たその場の全員が、空のことを人間であると確信していた。

 

 

________________

 

 

 

「さて、手始めに新しい金剛の力を試してやりたいな…!」

 

技術局長はそう呟いて、その肉塊をじっと眺める。

グジュリという音を立てながら、その肉塊は少しずつ胎動しており、ステンドグラスの光がその肉塊を照らすごとに、その周りの視界が歪んで見えるほどの熱量が生み出されていることがわかる。

 

「…試すならやはり、あの男か」

 

技術局長がそう呟いて、このとても大きな部屋の扉へと注視する。

その瞬間に、扉は勢いよくドンという破裂音と共に吹き飛ばされた。

その扉は勢いよく吹きとび、そのまま技術局長に当たるかと思われたが、肉塊がその身体の一部を動かして扉を跳ね返して防いだ。

 

「…思ったより早かったな。時間通りに来るとはなかなか律儀なやつだ」

「…どうせなら、会場の場所くらい教えてくれよ。こんなに広いと迷っちまう」

 

ネロは不敵な笑みを浮かべながらそう返事をすると、技術局長はその右手をまるで楽しそうな笑みを浮かべながら上げた。

 

「…悪いが、パーティーではないんだ。君への一方的な攻撃が開始されるのだからな」

 

技術局長がそう呟くと同時に、あたりに魔法陣がたくさん現れる。それを見て、ネロはあからさまに不機嫌そうな表情へと変える。

ブレイドが3体ほど現れ、ネロへと肉薄する。

 

「…面倒だな」

 

ネロはそう呟きながら、レッドクイーンに手をかける。そして攻撃を仕掛けようと動こうとした瞬間、その後ろから聞こえた声に気を取られた。

 

「お姉様!」

「…何?」

 

榛名がそう声をあげた事への動揺で、ネロの初動は遅れた。しかし、ネロはブレイドの攻撃をいなしながら、技術局長の方を見る。

そして、その後ろにあるとてつもなく大きな肉塊に気がつく。

 

「…そういうことかよ、クソッタレ」

 

ネロはそう呟きながら、榛名の言うお姉様とやらが、その後ろのそれであることを理解した。

ネロはブレイドのことなど構っていら暇もなく、技術局長へと迫る。

 

「ふははははははは!!!」

 

技術局長は、まるで狂ったように笑いながら、ネロをじっと見ていた。

戦いの火蓋は切られた。

 

 




とりあえず、集結というタイトルが使いたかったので、今回は色々な鎮守府の話をごちゃ混ぜにしました。
視点変わりが激しいですね。


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Secret Mission
1 〜 Intermission 〜


とうとう年末になってしまいました

年内最後の更新になります。

前々から考えてた試みをやって見たいと思います。

時間軸はMission2の後です!


武蔵は、自分自身を未だ許せずにいた。

あの演習でダンテを相手にして、柄にもなく恐怖を抱いてしまった。それだけには飽き足らず、相手を目前に敗北を享受してしまったのだ。

 

「…クッ。」

 

武蔵はそう言いながら、その足を速める。少なくとも、今の疲労では艤装を扱うことはできない。だから、今は全力で走り込みをする。既に鎮守府内を2周しており、身体も限界に近い。だがそれでも、足を止めることはできない。

 

「…ハッ…ハッ…ハッ…」

 

息が上がり、鼓動は早くなる。速さを維持しつつ長距離を走るのはとても苦しい。しかし、自分を痛めつけ、さらに能力を向上させることには適している。今の自分には、これが一番だと、そう思ったからこそ武蔵は走り続けている。

しかし、人は自身の身体の限界を超えることはできない。

突然、武蔵の足がもつれて、そのまま前に倒れこむ。

 

「ぐっ…!?」

 

武蔵は身体を庇うように腕を前に出す。辛うじて上半身は守れたものの、右腕の肘に擦り傷ができていた。

 

「…こんなことではダメだな。」

 

軽く吐き捨て、また立ち上がる。少し腕が痛むが、そんなことを気にしている暇はない。そして、再び足を動かそうとする。

 

「大井っち、まだ走りこんでたみたいだね〜。」

「はぁ…本当にまだ走ってるなんて…」

 

そんな声を聞いた武蔵は、その声の方に顔を向ける。そこには、感心したような表情の北上と、呆れ返った表情の大井が立っていた。

武蔵は何も言わず、前へ向き直る。

 

「…そんなに走りこんでも、あの赤コートには勝てないですよ。」

 

大井がそんな風に言いながら、武蔵のそばへと寄ってくる。武蔵は、そんな大井の言葉に、少し歯噛みする。

 

「そうそう。ダンテがちょっと強すぎなんだって。」

 

北上もそれに賛同するような言葉を投げかける。しかし、武蔵はそれを聞いてフツフツと湧き上がる感情を止めることができなかった。

 

「…あれが実戦だったら、どうするんだ。」

 

武蔵はそう言いながら、大井と北上を睨みつける。それは、心の底からの怒りを表していた。

しかし、大井と北上はその表情を崩さなかった。

 

「実戦だったとしても、私たちは全力を尽くすだけです。仮に沈むことになったとしても。」

「結局そうなっちゃうよね。」

「…はっ?」

 

武蔵は、2人の言葉を理解できなかった。それは、艦娘として死ぬことすら厭わない、ということなのだろうか。

 

「…ふざけるな!そんな諦めたような…」

「諦めてなんていませんよ。」

 

武蔵の言葉に、今度は大井が睨みつけるよつな表情を浮かべて答える。

 

「…私たちは、常に死と隣り合わせです。何度も死ぬかもしれないと思ったことがあります。」

 

大井はそう言いながら、武蔵の目の前へと歩いていく。それを武蔵は目で追いながら、話を聞く。

 

「そんな時、訓練でやったことを思い出しながら、冷静に考えて行動します。それでも勝てないと思った時は、全力を出して戦うのみです。」

 

大井はそう言って、武蔵の肩を両手で掴む。武蔵は驚きつつ、その大井の表情に唖然としていた。その目は、明らかに何かを失うことを恐れている表情であった。

 

「…本当は、そんな状況になれば逃げ出したいに決まってます。それでも、私は護りたいものがあるから戦えるんです。」

 

大井は武蔵の目をしっかりと見て、その表情を固くする。

 

「私は死ぬことより、護りたいものが無くなる方が怖い。」

 

あまりに力強い言葉に、武蔵は言葉に詰まる。大井の瞳の中に絶対に揺るがない覚悟を見たことで、反論を返すことができなかったのだ。

 

「まあ、大井っちの意見に概ね賛成かな。私もそう思って戦ってるし。」

 

北上もそう言いながら、歩み寄ってくる。笑顔を浮かべながらも、その表情の奥底にはやはり大井と同じ覚悟を背負っているように見えた。

 

「…だからこそ、今は休むべきです。疲労が溜まっている状態でこんなに走りこんで、挙句に転んでしまっているわけですし。」

 

大井はそう言って、武蔵から手を離し。ジト目で武蔵を見る。武蔵は少したじろぎながら、あ、あぁ…と答えるだけであった。

満足そうな表情を浮かべながら、北上は一回だけ手を叩く。

 

「じゃあ、武蔵さん。早くしないと晩ご飯に間に合わなくなるからね。」

「早く入渠するんですよ?」

 

そう言いながら2人は、そのまま食堂の方に歩いて行ってしまった。武蔵はそんな2人を見送りながら、微笑みを浮かべた。

 

「…まさか、軽巡2人に諭されるとはな。」

 

武蔵はそう呟いて、入渠施設へと歩いていった。その表情は、何か迷いが吹っ切れたような表情であった。

 

 

 

 

「…はぁ…」

 

鈴谷は入渠を終えて、自室へと戻っていた。この部屋は姉妹艦の熊野と同室であり、今現在は鈴谷しかいない。

そんな鈴谷は、ベッドに寝そべりながら、ただため息をつくのみであった。今の彼女の頭の中を駆け巡っているのは、ダンテに関する悩みであった。

 

「…疲れた…」

 

鈴谷は、そんな呟きを発して、ただ眠そうに目を閉じる。今日の演習では、ダンテの人間離れした動きに翻弄され続けていたわけだが、普段の戦闘ならばこんなことにはならなかったはずだ。

全員がしっかりと連携して、陣形を崩さずに冷静に対応すれば、深海棲艦には負けることはない。

すなわち、今回の敗因は、ダンテによる挑発とトリッキーな動きによって、こちらのペースが乱されたことである。

 

「…ダンテ…どうすれば勝てるかな…」

 

鈴谷は、自分1人で作戦を立て始めた。

ダンテは常に相手のペースを崩し、まさに自分の土俵へと引きずり下ろし…いや、むしろ引き上げていく。それを回避するには、こちらはかなり強靭な集中力と屈強な精神力をつけるほかない。ダンテの行動一つ一つに対して、動揺しないように、気を持たなければならない。

そこまで考えて、鈴谷は少し呆れたような表情を浮かべる。

 

「…って…こんなこと考えてても仕方ないか…」

 

またもため息をつきながらそう呟いた鈴谷は、少し面倒くさそうに寝返りをうつ。

 

「鈴谷?いますの?」

 

と、そんな鈴谷のもとへ、ノックとともに熊野の声が転がった。鈴谷は少し疲れた声で軽く、いるよ〜、と答える。

 

「全く、いつまで経っても来ないから、少し心配になりましたのよ?」

「あぁ〜、ごめんごめん。ちょっち疲れちゃってさ。」

 

熊野が少し怒ったような口調で言うので、鈴谷は少し慌てた様子でそう釈明する。熊野は少しため息をついて、鈴谷を見る。

 

「…今日は、急な呼び出しで大変でしたわね。」

「そう!そうなのよ!それで、何の用事かと思ったら、ダンテと演習って言われちゃってさ。」

 

熊野の言葉に、鈴谷はいきなり怒り出したかのような口調でくどくどと話し始めた。熊野は少し驚いたものの、黙って鈴谷の話を聞くことにした。

 

「そんなの最初はめんどくさくて、どうやって手加減してダンテをやっつけようかと思ったんだけど、実際戦ってみたらダンテの圧勝!もう本当に大変だったんだから!瞬間移動するわ、こっちの砲撃をガードするわでやりたい放題!挙げ句の果てに軽く挑発までかましてくる始末なんだから!こっちは本当にいっぱいいっぱいなのに、ダンテは余裕綽々って感じでさ〜!」

 

鈴谷はそんな風にいつまで経っても話し続ける。その表情は、いつもの鈴谷のような軽いノリではなく、なんだか楽しくてしょうがないという気持ちを抑えられないといった表情であった。

熊野は、少し笑った。

 

「?…ちょっと、いまの話に笑うところあった?」

 

鈴谷は突然キョトンとした表情を熊野に向ける。熊野はクスクスと笑いながら、鈴谷の方に向き直る。

 

「ええ、ありましたわよ。鈴谷、ダンテさんに本当に好きになっちゃったんですのね。」

「は、はぁ〜〜〜〜〜〜!?!?」

 

鈴谷は、熊野の言葉を理解できなかった。今の話のどこにそんな要素があったと言うのだろうか。

 

「だって、あまりにも楽しそうに話すんですもの。少し寂しく感じもしますが、鈴谷の成長を喜ぶべきですわね。」

「だ、だから!!あぁもう!!惚れてなんか無いってば!!」

 

鈴谷はそう叫んで、頭から布団を被ってしまった。熊野の笑い声が部屋の中に響く。鈴谷は、少しずつ体温が上がっていくのを感じていた。だが、それは布団を被ったことで熱が篭っただけのことであると、自分に言い聞かせる。

 

(一目惚れなんて…認めないし!)

鈴谷は心の奥底でそう叫んだ。

 

 

 

 

 




というわけで、今回はシークレットミッションという形で、ダンテ、提督、電以外のメンバーにスポットを当てて見ました。

今後もちょくちょく挟みたいと思います。

では、来年もよろしくお願いします!


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2 〜 Deep Ocean 〜



久々のシークレットミッションです!

今回は、深海鎮守府について書こうと思います。

独自設定の塊になりますので、ご注意を!

時間軸はMission3の後です!


海の中、1つの影が蠢いている。

それは、戦いにて傷を負った、南方棲鬼であった。

南方棲鬼は、少し苦しそうな表情を浮かべながら右腕を押さえる。

身体中が傷だらけだが、特に右腕があまりにも疼く。それは、ダンテに撃ち抜かれた砲塔。

 

「…ヤラレタナ。」

 

と、南方棲鬼の進行方向に佇む影が1つ。南方棲鬼はその声の主の方を見て、ギロリとした視線を向ける。

 

「…レ級…」

 

南方棲鬼の呟きに、あからさまに不機嫌そうな戦艦レ級は、南方棲鬼を下半身から上半身までじっくりと見る。

 

「…ハァ…舐メテカカルカラコウナルンダ。」

「チョット!?アンナニ強イナンテ聞イテナカッタンダケド!?」

 

戦艦レ級の言葉に、少し怒り気味でそう返す南方棲鬼。それを聞いて戦艦レ級は鼻で笑うような表情を浮かべる。

 

「言ッテナイカラナ。」

「…」

 

そう言って、戦艦レ級は身体を翻し、鎮守府へと進み始める。

南方棲鬼はあまりの怒りに戦艦レ級を責める気力も失せ、さっさと鎮守府へと帰り入渠を済ませたいと考えていた。

 

「…後デ鎮守府デ徹底的ニ問イ詰メルワヨ…」

「アッ、ソウダ。」

 

と、まるで南方棲鬼の言葉を聞いて思い出したかのように、戦艦レ級は大きく声をあげる。

南方棲鬼はキョトンとした表情を浮かべる。

 

「…提督ガ呼ンデタヨ。何デ部隊ヲ動カシタノカッテ。」

「…ハァ!?」

 

戦艦レ級が言う提督。それは、深海の鎮守府にて自分たちの指揮をする人間…と呼べるのか怪しい人物。

本来であれば、深海棲艦である自分たちにそんな存在は必要ないし、実際今も厳密に言えば役に立っているわけではない。普段はもっぱら、執務室に籠って本を読むだけである。

しかし、こういう場合だけは、彼は黙っていない。勝手に何かことをしでかした場合である。

 

「…ネェ、秘書艦ノレ級カラ言ッテヨ…」

「嫌ダ。」

 

南方棲鬼の提案をレ級はさっさと断り、そのまま面倒臭そうに鎮守府へと戻る。

それを見た南方棲鬼は大声で叫ぶ。

 

「元ハト言エバレ級ガ私ヲ唆シタンデショウガ!!コノ悪魔!!」

 

 

 

____________________________

 

 

 

この深海の鎮守府には空気があり、人間でも普通に生活できる程度の最低限の機能はある。

深海という日の光が届かないこの場所には灯りがほとんどなく、全体的な暗さはテメンニグルに匹敵するほどである。

執務室には執務机と大量の本棚があり、そこそこな広さである。

そのうちの一つの本棚の前で一冊の本を読む男が1人。銀色の髪を、オールバックのように後ろに流しており、青色のコートを身にまとった男。

 

「…失礼…スルワ…」

 

そこへ、申し訳なさそうに部屋へと入る南方棲鬼。それを聞いた男は、本をパタリと閉じる。

そして、ギロリと鋭い視線を南方棲鬼に向ける。

 

「…ッ…ソノ…勝手ニ部隊ヲ動カシテ…悪カッタワ…」

 

そう言いながら、南方棲鬼は俯く。

その南方棲鬼を男はしばらく無言で眺める。南方棲鬼はその視線に気がつき、少し顔を赤らめる。

そして、その男が重い口を開く。

 

「…お前がそこまでやられるとはな。」

「!…」

 

それを聞いた南方棲鬼は、少し驚いた。

普段の冷酷な態度からして、決して言わないような台詞を軽々しく自分に向けて言い放ったからである。

まるで、自分の実力を認めてくれているような…

 

「…ソレッテ、ドウイウ…」

「…humph、もういい。失せろ。」

 

と、男は静かにそう呟いてまた本を開く。それを聞いた南方棲鬼は少し苛立ちを覚えた。

いつもは寡黙な提督が自分を認めてくれていたことに対して、一瞬でも舞い上がってしまった自分が腹立たしかった。

 

「…ジャア、入渠シテクルワヨ。全ク…アノ赤コートメ…次ハタダジャオカナイワ…」

 

その言葉を聞いた瞬間、男は再び本をパタリと閉じる。その音を聞いて、南方棲鬼は驚いたようにヒッ!?と声を上げる。

 

「…何だと。」

 

男はそう呟いて、南方棲鬼に視線を戻す。

いつもの無表情と似てはいるものの明らかに違ったものであり、南方棲鬼にとっては、それが恐ろしかった。

 

「…ナ、何ヨ?」

 

辛うじてそう返す南方棲鬼は、先ほどの戦闘にて感じていた鳥肌を、再びこの場でも感じていた。

自分よりもはるかに強者と相対した時の感覚。

その男は少し考え込むように目を閉じる。

 

「…入渠が終わったら貴様の訓練だ。いいな。」

「エェ!?デ、デモ!!チョット疲レテルシ…ッ…!!」

 

南方棲鬼は、そこまで言ってから自らの行いを後悔する。

男が、明からさまに怒りの表情を浮かべていたからである。

 

「…ワカリマシタ…」

 

南方棲鬼はそう言って、渋々入渠施設へと赴くのであった。

男は読んでいた書物を本棚にしまい、そばにあった日本刀を手にする。

 

「…Dante…」

 

男はそう呟いて、その日本刀を勢いよく前に振り抜く。たったそれだけの動作にも関わらず、まるで空間を切り裂いたような音が辺りに木霊する。

男はそのまま、流れるような動作で刀を鞘に収める。あたりの張り詰めていた空気が、一瞬で元に戻る。

しばらく、辺りを静寂が支配した。

何秒ほどか経ち、男は刀をもう一度抜き、それをじっと見る。

 

「…まだ足りん。」

 

男は静かにそう呟く。

かつて、この男が持っていたのは、人と悪魔を別つ力を持つ、閻魔刀と呼ばれた刀。

今の彼が手にしているのは、名前すらもわからない日本刀。しかし、彼の頭の中では、この刀が異質な力を持ってあることがわかっていた。

今この刀が応えないのは、己の弱さ故だと。

 

「…もっと力を…!」

 

その男の名は、バージル。スパーダの血を引くもう1人の男であり、ダンテの双子の兄である。

 

 

____________________________

 

 

 

「モウヤダ…二度トアンタノ口車ニナンカ乗ラナイカラ…!!」

 

半分涙目になった南方棲鬼は、戦艦レ級にそう言い放ちながら入渠施設へと駆けていく。

戦艦レ級は、呆れた表情でため息をつく。

 

「…何ガ口車ニ乗セラレタ、ダ。攻撃ヲ決メタノハ自分ジャナイカ。」

 

そう言いながら、戦艦レ級は執務室のドアをノックする。

中から何の返事も来ない。それは即ち、入室許可が出たということだ。

ドアを開けると、刀をじっと見つめるバージルの姿があった。戦艦レ級はそのバージルに歩み寄る。

 

「…提督。」

「…その呼び方をやめろ。」

 

バージルは一言そう告げて、その刀を戦艦レ級の首筋に向ける。かなりの殺気を含んだ目であるが、その目を見て戦艦レ級は少し笑みを浮かべる。

 

「良イジャナイカ。秘書艦ノ私ガソウ呼ンデモ。」

「…お前がそう呼ぶ時にはろくなことがない。」

 

バージルはそう告げて、刀を鞘に収める。戦艦レ級は軽く笑みを浮かべてそれに応じる。

 

「コノ後、南方棲鬼ノ訓練ッテ聞コエタカラ、僕モ参加サセテホシイト思ッテネ。」

「…好きにしろ。」

 

バージルはそう告げて、部屋を出て行こうとドアを開く。その後ろ姿をじっと見つめる戦艦レ級は、少し懐かしい感覚を思い出していた。

 

「…最初ノ頃ナンカ、問答無用デ殺サレカケタノニ。」

 

戦艦レ級は小さく呟く。

バージルがこの鎮守府に着任したのは、随分と前の話だ。(最も、提督業なんてものは一切していないが。)

ある日、戦艦レ級がこの鎮守府から外へ出て散歩している時に、近くの海底に倒れ伏していたのを見つけた。

バージルが再起した当初の頃は、お互いに距離感が掴めずに衝突することもあった。(大体はバージルに対して仲間が突っかかることが多かったが。)

今となっては、そんなことはほとんどない。(というか、バージルが怖すぎて誰も突っかからない。)

と、不意にバージルが戦艦レ級の方に顔を向ける。

 

「…訓練は2時間後だ。参加するなら遅れるな。」

 

バージルはそう言って、部屋を出てドアを閉める。それを見たレ級は、満足そうに笑顔を浮かべる。

 

「分カッタ。後デネ。」

 

ただ一言、そう呟く声だけが、執務室の中に木霊した。

 

 

 

 

 

 




というわけで、バージルが深海にいました!

1でマレット島にてダンテに敗北し、死亡したと思われるバージルが何故生きていたのか?
次のシークレットミッション辺りでやります!多分…


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3 〜 Maneuvers 〜


本編進めなきゃいけないのに、シークレットの方ばっかり書いちゃう…

しかもいつもより長いじゃないか…

あとやっぱり独自設定がどんどん出てきてしまう…

時間軸はシークレットの3の後です…


「ハァ!!」

 

南方棲鬼は叫びながら主砲を放つ。

その砲弾は真っ直ぐにバージルの方へと飛んでいく。

それをバージルは避けることもせず、ただ自身の目の前で日本刀を盾のようにくるくると回す。

その動作だけで、砲弾は真っ二つに切り裂かれる。それを見た南方棲鬼は驚いたような顔を浮かべ、そしてすぐに怒りの表情に変える。

 

「ズルイ!」

「…humph、どうした(What's wrong)?」

 

バージルはまるで呆れたような表情で南方棲鬼の方を見る。南方棲鬼はそれを見て、ただただ自分の弱さに苛立っていた。

 

「ウルサイ!!」

 

南方棲鬼はそう叫び、バージルに向けて魚雷を発射しようとする。

しかし、その動作の間に、バージルは距離を詰め…たかと思えば、高速で南方棲鬼の後方へと通り過ぎていく。

南方棲鬼は、たった今何が起こったのかわからなかった。

 

「!?…」

「…クズが(Scum)。」

 

その声と同時に、南方棲鬼は腹部に激痛が走るのを感じた。まるで自身が切り裂かれたような痛みであった。

南方棲鬼はその痛みに耐えきれず、ゆっくりと倒れていく。

バージルは目にも止まらぬ速さで刀を振ったため、南方棲鬼は自身が斬りつけられていたことに気がつかなかったのだ。(もちろん峰打ちではあるが。)

バージルは、刀にかけていた右手をゆっくりとおろし、humph、と呟く。

 

「…容赦ナイネ。」

「これぐらい当然だ。」

 

バージルはそう呟き、南方棲鬼の方を見る。

それを見た戦艦レ級は、静かに立ち上がる。自身の番が、ようやく回ってきたためである。

それを横目で見たバージルは、レ級の方へと向きなおる。

 

「…ジャア、今度ハ僕ノ番ダネ。」

「…来い(Come on)。」

 

バージルはそう呟き、戦艦レ級をじっと見据える。

しばらく2人で見つめ合う形になる。

 

「…懐カシイネ、僕達ノ初対面モコンナ感ジダッタ。」

「…humph。」

 

2人はそう呟くと、すぐに間合いを詰める。

かつて、初めて2人が出会った時のように。

 

____________________________

 

 

戦艦レ級はただ昼も夜もわからない深海の中、暇をつぶすために歩いていた。

こうしていると、たまに湧き上がる海上へ上がりたいという衝動、仲間への不満を抑えられるのだ。

今日もまた、仲間である離島棲鬼と自身の意見が合わずに衝突したため、歩いていた。

 

「…フン、アノ馬鹿トキタラ。」

 

戦艦レ級は悪びれる様子もなく、ただブツブツと文句を言いながら歩く。

時折、深海魚が近づいてくるが、レ級を見るなりすぐに引き返していく。

 

「…マア良イサ、ストレス発散スルカラネ。」

 

戦艦レ級はそう言いながら、少し歩みを速めた。そうすることで、自身の苛立ちも早くおさまるからである。

しかし、その日はそうはいかなかった。

 

「!…アレハ…」

 

戦艦レ級は、その視線の先に何かが映り込んでいるのに気がついた。

そこには、海底に横たわった人間が1人。銀色の髪に、青いコートを身に纏った男である。

 

「…沈メラレタ船ノ乗組員カ?」

 

戦艦レ級は静かに、その遺体と思われる男へ近づく。

男の顔立ちは整っているものの、まるで鬼のような形相であったため、戦艦レ級は少し身震いした。

 

「死ンデモ怖イ人間ナンテイルモンナンダネ。」

 

戦艦レ級はそう言って、その男の身体をじっと見る。

まるで、吸い込まれそうなほどに綺麗な青。それに戦艦レ級は見惚れていた。

しかし、その時間はものの数秒で終わる。

男が、突然悶え苦しみ始めたのだ。

 

「Aaaaggghhh…!!」

「!?…」

 

戦艦レ級は突然の出来事に、何も対応が出来なくなっていた。

男はガクガクと身体を震わせ始める。

 

「ナ、ナンダ…!?」

 

男の口から空気が漏れる。腕が、足が、まるで1度消え去った命の代わりに、新しい力が流れ込んでいるかのように動き出す。

そして突然、男の震えが止まり、悶えていたことが嘘のように静かにその目を開いた。

 

「…オイ、大丈夫カ?」

 

男はその言葉を聞いて、ゆっくりと上半身を起こす。あたりを見渡し、自身の体を見る。

何か驚いたようにも見えたが、すぐにその表情を硬くして、戦艦レ級へと鋭い視線を向ける。

 

「…ここはどこだ?」

「…ドコッテ…深海ダケド?」

 

男の質問に、戦艦レ級は焦りを見せずにいつものトーンでそう答える。

この状況でおびえた態度を見せれば、相手に自分は格上であると認識させてしまう恐れがあるため、慎重に返答したのだ。

男は、静かに立ち上がる。

 

「…humph、魔界に堕ち、今度は深海か。」

 

男は不敵な笑みを浮かべつつ、そう呟く。戦艦レ級にとって、その意味は全くわからなかったが、大して気にもしなかった。

 

「…ソレデ?ドウシテココニ寝テイタ?」

 

戦艦レ級は、1番気になっていたことを質問した。

男は、その表情を先ほど気を失っていた時のように険しくする。

 

「それが分かっているなら、貴様に質問などしない。」

「…ソリャゴモットモ。」

 

男の表情に、少しだけ息を飲んだが、すぐにそう返答する。

こちらはこの男に敵対するつもりはない。故に、攻撃的な態度を見せないようにしている。

しかし、どうやらこの男はそんなことなど思っていなかった。

 

「…水の中の悪魔とはな。」

「!…イキナリナンダイ?」

 

男の発した言葉に、戦艦レ級は語気を強めてそう返す。

自己紹介も何もしていないのが悪いのかもしれないが、いきなり初対面で悪魔と呼ばれるのが癇に障ったのだ。

 

「…僕ハ戦艦レ級ッテイウンダ。悪魔ジャナイ。」

 

レ級は静かにそう呟き、男に対して威圧的な目をしながら主砲を向ける。

だが、男はただ何も表情を変えずにじっとレ級を見る。丸腰の男が、戦艦レ級の主砲を向けられたのにもかかわらずである。

 

「…humph。」

 

男はその表情を不敵な笑みに変える。

その瞬間、戦艦レ級の身体に悪寒が走る。自分の方が圧倒的に有利なはずなのに、その状況の自分ですら、男の実力の足元にも及ばないように感じるのだ。

自身に向けられた明らかな敵意。それは、1つの事実を示していた。

 

「…人間ジャナイナ…」

 

戦艦レ級は、意を決してその主砲を放ったのであった。

 

 

________________________

 

 

「グゥ…!?」

 

戦艦レ級は、バージルの斬撃の嵐に耐えうることができず、ただ地面に伏す。

バージルはその視線をレ級へと向ける。まるで、その力の無さを見下しているかのような表情である。

 

「…たわいも無い(Too easy)。」

「!…ッ!」

 

レ級は、バージルの言葉を聞いて歯を食いしばる。

その言葉は、初めて出会った時にも言われた。武器すら持っていないバージルに、完膚なきまでに叩きのめされたのである。

その時から、自身は何も進歩していないというのか。

戦艦レ級は、拳を握り締める。

 

「…マダダ…僕ハ負ケテナイ…!」

 

戦艦レ級は静かに呟き、ゆっくりと立ち上がる。フラフラとした足取りだが、その目線はしっかりとバージルを捉えていた。

 

「…humph。」

 

その瞬間、バージルが地面を蹴り、戦艦レ級へと一気に距離を詰める。それを見た戦艦レ級は、先ほどの南方棲鬼を思い出していた。

バージルの決して目で捉えることができない神速の斬撃。力なく倒れる南方棲鬼。

あれを喰らってはいけない。ただそれだけが脳内を駆け巡る。

 

「ガァァ!!」

 

戦艦レ級は主砲を乱射する。しかし、それは1つもバージルを捉えることはなかった。

まっすぐ走ってきたバージルは、砲弾に怯むことなく、しっかりと間合いを詰めてきたのだ。

 

「…安らかに眠れ(Rest in peace)。」

 

バージルはそう呟くと、刀に右手をかける。刀を抜こうと、その手に力を込める。

戦艦レ級の目には、その動作がまるで何十秒も掛かっているかのようにスローモーションで見えていた。

 

(…終ワッテ…タマルカ!!)

 

戦艦レ級はその瞬間、自身から溢れ出る何かの力を感じていた。それは、まるで自分の体が自分のものではないような感覚。

バージルはそれを見て、少し驚いたような表情を浮かべて、その戦艦レ級から離れる。

戦艦レ級の目は赤く輝き、黒いオーラのようなものを纏っていた。

それは、Devil trigger。深海棲艦の中では、エリート化と呼ばれる現象であった。

戦艦レ級は、荒々しい表情でバージルを睨みつける。

 

「…お前の中の悪魔も目覚めたようだな。」

 

バージルはそう呟く。その言葉を聞き逃さなかったレ級は、その感覚に酔いしれる。

これが、提督の言っていた、悪魔の力。

これさえあれば、どんな奴にも負けない。

しばらくして、バージルは刀に手をかけ、そのまま戦艦レ級へと突進する。

それを見たレ級は、バージルへと主砲を向けて体勢を整える。

 

「喰ラエ!!」

「斬る!」

 

2人の声が重なり、レ級は主砲を放つ。それに向けてバージルが斬撃を飛ばす。

その2つは混ざりあい、大きな衝撃を起こし、爆煙があがる。

 

「グゥ!?」

 

戦艦レ級は、その身体を支えることができずに体勢を崩す。

そんな中、バージルは煙の中を突っ切り、戦艦レ級の目の前へと出る。

 

「!…」

 

戦艦レ級はその瞬間、バージルを見た。

楽しそうに不敵な笑みを浮かべたバージルを。

 

「…これで終わりだ(This is the end)。」

 

バージルはそう呟いて刀を抜き、戦艦レ級へと振り抜く。その鋒は、戦艦レ級の腹部を捉えていた。

しかし、戦艦レ級はそれをただ食らうわけにはいかなかった。

 

「コノ!!」

 

尻尾を自分の身体の前に出し、そのまま刀を受け止める。自身の尻尾から、刀の冷たい感触を感じる。

と、その瞬間に、バージルは尻尾を振り払い、その刀を鞘へと納める。

 

「!…ドウイウ…?」

 

戦艦レ級は、少し動揺しながらそう呟く。

バージルはそれを見て、humphとため息をつく。

 

「…まだ足りん。奴を倒すにはな。」

 

バージルはそう鋭い声で言い放つ。戦艦レ級は、それを聞いて言葉を詰まらせる。

バージルが言った、奴とは。それを聞いて真っ先に思いついたのが、あの赤いコート…即ちダンテである。

確かに、バージルの演習についていけないようでは、彼を倒すなど愚の骨頂である。

戦艦レ級はその両手を握りしめる。

 

「…次ハ勝ツ。ソウスレバ、アレニモ勝テルハズダ。」

 

レ級はバージルに向けて、不敵な笑みを浮かべながら、そう告げる。

それを聞いたバージルは、同じく不敵な笑みで返す。

 

「…humph。」

 

バージルはそうため息をついて、執務室の方へと歩いていく。

それを見たレ級は少しずつ呼吸を整える。そうすることで、自身の昂ぶっていた感情を抑える。

少しずつ、自分が戻っていく感覚を覚える。

 

「…ッ…!」

 

と、完璧に自分の感覚に戻った瞬間、自分の体重を支えることができず、背中から地面へと倒れこむ。

身体中に残る疲労感が、一体どれだけのことをしたのかを物語っていた。

 

「…使イコナシテ見セル…デナキャ奴ニハ勝テナイ…!」

 

レ級はそう言いながら、ゆっくりと目を閉じる。

まずはこの疲れを癒さなければならない。少し眠った後に、入渠しよう。

そう考えながら、深い闇に意識を落とすのであった。

 

 

 

 

 

 





というわけで、エリート化はデビルトリガーでした…って無理あるかな?
なんか4のDMDの敵のイメージで、何となく赤い目とかオーラとかが似てるかなぁ…という理由で決まりました笑

でも艦これでもエリート艦だと強さがあがるし、意外と共通点は多いかも…?



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4 〜 Encounter 〜

そしてシークレットです!

今回は、ダンテと出会う直前のバージルが何をしていたのか…
そこに焦点を当てていきます!

というわけで時間軸はMission5の最中になります!


ここは、とある鎮守府の近海である。この鎮守府には様々な噂があるものの、かなりの功績を残した鎮守府である。大規模作戦において多くの戦果を上げ、通常の任務も完璧にこなしていた。

そんな鎮守府の近海に、その2人はいた。

 

「…動キハ?」

 

戦艦レ級は、隣にいる南方棲鬼にそう尋ねる。

 

「…特ニナイワネ。」

 

南方棲鬼は、目で望遠鏡を作るようにして、鎮守府を見ている。

戦艦レ級は、それを聞いて少しため息をつく。

 

「…ソレニシテモ…提督ハ何ヲ考エテイルンダ。」

「…サアネ。」

 

2人はそこまで呟いて、同時にため息をつく。

それは、バージルが言い出した突拍子も無いことが原因となっていた。

 

「…提督、大丈夫カシラ?」

「…ソコハ心配イラナイト思ウケド。」

 

南方棲鬼の言葉に、レ級は静かにそう呟くのであった。

 

 

________________________

 

 

バージルは、先ほど2人が監視していた鎮守府の中を歩く。

完全な部外者であるバージルは、ここの艦娘達に攻撃を加えられてもおかしく無い。だが、未だにそういったことはない。

まるで無人のようにも思えるが、バージルはそうでないことを確信していた。

人間がいない、という意味では無人かもしれないが。

 

「…humph。」

 

バージルは呆れたようにそう呟き、ドアが破壊された鎮守府の建物へと入っていく。

そこには、低級悪魔である4体のブレイドが群れをなしていた。魔帝ムンドゥスに作り上げられた尖兵。身体を鎧で多い、腕にはシールドをつけている。爬虫類のような姿をしており、狡猾に獲物を屠る狩人のようにも見える。

4体が同時に、咆哮をあげてバージルへと襲いかかる。

 

「…失せろ(Be gone)。」

 

しかし、その瞬間にブレイドは吹き飛ばされていた。

バージルが、疾走居合によってブレイド達を全て斬り伏せたからである。ブレイド達は自身らが何をされたのか気がつかぬまま、絶命していった。あたりに血液が飛び散り、崩壊した鎮守府を彩っていく。

バージルは辺りを見渡し、執務室へと向かう。そこから、人の気配を感じ取ったためである。

 

 

________________________

 

 

「…ガハッ…」

 

散乱した書類、飛び散った血液によって装飾が施されている執務室の中、1人の傷だらけの艦娘が苦しそうに呻き声を上げる。彼女の名は木曾。球磨型軽巡洋艦の5番艦である。

ボロボロの執務机に背中を預け、肩で息をする。

手には血塗れの刀を持ち、今にも崩れそうな身体をなんとか保つ。

 

「…くっそ…」

 

そう呟き、何とか立ち上がろうとする。が、身体の痛みと疲労がそれを許さない。

木曾の身体の怪我は、深海棲艦によるものではない。全てブレイドの攻撃のためについたものだ。執務室に入ってくる奴らを、1人で食い止めていたためである。

 

「…もう終わりか…?」

 

特に動きはないが、おそらくあの向こうには化け物がまだまだいるのだろう。

そう頭の中で考えながら、木曾は扉を睨む。

 

「…少し…休む…か…」

 

木曾は少し目を閉じる。あまりにも気を張った状態が続いたため、木曾の精神も限界に近づいていた。

仲間は皆、他の鎮守府へ逃げたか、それとも…

そこまで考えて、軽く笑みを浮かべる。今は他人を気にしているほどの余裕はない。皆無事に決まっている。そう考えておこうと。

その時、どこからか音が聞こえた。カツン、カツン、と響き渡る音。

 

「?…」

 

誰かがこの執務室に向かってきている。

仲間のうちの誰かか、もしくはあの化け物だろうか。

木曾はその刀を強く握りしめて、立ち上がる。

その足音が、ドアの目の前で止まる。

木曾は息を呑んだ。

 

「…誰だ。」

 

そう呟くと同時に、そのドアがゆっくりと開く。

入ってきたのは、青いコートを着た男。木曾はとりあえず、それが化け物ではなかったことに安心し、すぐにその男が何者なのか考える。

 

「…よくここまで来られたな。あの化け物はどうした?」

 

木曾は探るように、男へと尋ねる。男は、そんな木曾のことなど気にもせずに本棚へと歩いていき、おもむろに1つの書類を手に取る。

 

「?…なあ、お前は…」

 

木曾がそこまで呟くと、部屋の中にブレイドが3体ほど入ってくる。それに気がついていないのか、男は視線を書類から離さない。

 

「!…おい、逃げ…!」

 

と、木曾が声をかけた瞬間、その3体は男に飛びかかる。

木曾は、もう遅いと心の中で思った。このまま、男は化け物に殺されてしまうのだと。

しかし、木曾が考えた結果と全く正反対の事態が起こる。

 

「…図に乗るな(Don't get so cucky)。」

 

男はそんな声と共に、その刀を振り抜く。その瞬間、ブレイド3体はその身体を真っ二つにされる。

飛びかかった勢いで、切り離された3体の身体は勢いよく地面へとぶつかり、その鮮血を散らす。

 

「!…」

 

木曾は一瞬で起きたその出来事を、理解できなかった。

男はまるで何事もなかったかのように、その書類にまた目を向ける。

 

「…お前は何者だ?」

 

木曾は男に向けて恐る恐る尋ねる。だが、その言葉には恐怖や警戒の他に、ある種の希望がこもっていた。

この人物なら、この事態を解決することができるのではないかと。

男はその書類を確認すると、木曾をチラと見る。

 

「…貴様に関係があるのか?」

「!…」

 

その言葉を聞いて、木曾に悪寒が走る。

まるで人間が発するものではない威圧感が、彼女を襲う。

しばらくの間、静寂が辺りを支配する。

 

「…humph。」

 

突然、男はそう呟きながら歩き始める。木曾はその光景を黙って見届けるしかなかった。

執務室のドアを開き、男は外へ出る。

残された木曾は、ただその男が残した空気を身体に受けることしかできなかった。

 

 

________________________

 

 

最初にその違和感に気がついたのは、1週間ほど前のこと。深海にて書物を読んでいる時に、悪魔のような気配をこの鎮守府から感じ取ったのだ。その事実は告げずに、戦艦レ級と南方棲鬼を連れてきた。

実際に来てみれば、明らかに異常な数の下級悪魔。確実にこの鎮守府は悪魔の巣窟と化していた。

バージルは静かな鎮守府の中を、その足音を響かせながら歩く。あとは悪魔の気配が強い方面に向かえば、ここでやるべきことは終わりである。

いくつか強い気配を持ったポイントがあったが、中でも1番強い気配を放っていたのは、入渠ドック。おそらくそこに、違和感の正体があるのだろう。

 

「…」

 

バージルは、ただ黙々と入渠ドックへと歩き続ける。時折飛んできたブレイドの攻撃は、もう既に止んでいた。おそらく、ほとんどを倒しきってしまったと思われる。

 

「なあ、お前。」

 

と、バージルを呼び止める声が響く。それを聞いたバージルはその歩みを止めた。

先ほどの執務室で出会った少女が、ここまでバージルを追ってきたのだ。

 

「…何の用だ。」

 

バージルは背中を向けたまま、その少女に声をかける。

少女は息を飲み、しばらく黙り込む。だが、何か覚悟を決めたらしく、溜息のような深呼吸のような音を出す。

 

「…お前は、この鎮守府に何をしに来たんだ?」

「…何度も言わせるな。」

 

少女の言葉に、バージルはそう呟いて歩き始める。

少女は黙ってその後ろ姿をじっと見る。

 

「貴様には関係がないことだ。」

「!…ああ、そうかよ。」

 

少女は苛立ったような表情を浮かべて、バージルを睨みつける。

 

「…俺もいく。この鎮守府のことは、この鎮守府の奴がやるべきだろ。」

 

そう呟いて、バージルのもとへと歩いていく少女は、その目に底知れぬ覚悟を抱いていた。

バージルはその少女を待つことなどせず、歩き続ける。

 

「…俺は木曾だ。」

 

少女はそう名乗り、バージルの反応を伺う。

だが、バージルはそんな木曾のことなどどうでも良いのだ。

 

「…知らん。」

 

そう呟いて、ただ入渠ドックへと歩き続けるだけであった。

 

 

________________________

 

 

「…アァ…提督…」

 

入渠ドックの中、1人の女がそう呟く。背中には4方向に伸びる大きな砲塔を背負っている。あたりにはおびただしい量の血液が飛び散っており、大小の肉片が落ちている。

そして、女の腕の中には、この鎮守府の提督であった男の頭部が抱かれていた。

 

「…モウ…離サナイ…」

 

女は、静かにそう呟いて、涙を流す。

腰まで伸びる長い髪は白く染まり、その全身は血の気がなく、まるで深海棲艦のようであった。

 

「これは…!?」

 

と、そこへ入ってくる2人の影。女はゆっくりとそちらへ視線を向ける。

その片方の顔に見覚えがあった女は、その表情を驚愕のものへと変える。

 

「…木曾…?」

「!!…ぅっ…!!」

 

あまりの惨状に、木曾は口元を抑える。その提督であったものは、もはや何も語ることはない。その瞳からは血液が一筋に流れており、まるで涙を流しているようにも見えた。

なんとか喉の奥から込み上げてくるものを抑え、木曾はその女を睨みつける。

 

「…なんでこんなことをした…提督を1番愛してたじゃないか!!」

 

木曾はその溢れ出る怒りをぶつける。

その女は、艦娘としてかつて提督の秘書艦として苦楽を共にし、その指にはケッコン指輪まではめていた。そんなはずの彼女がなぜこんなことをしたのか。それだけが、木曾の心の中を埋め尽くしていた。

女は静かに笑みを浮かべて、口を開く。

 

「…モウ提督ハ私ノモノ。コレデ誰ニモトラレナイ。」

「!…この…悪魔め…!!」

 

木曾はその顔を怒りに歪め、女へと刀を向ける。女はそれを見て、狂気的な笑みを浮かべる。

 

「悪魔…フフフ!!ソウカモネ!!」

 

女はその背中の主砲を1発だけ発射する。

それを見切った木曾は刀を振り、その砲弾を切り落とす。あたりに爆煙が広がるが、木曾はそのまま走り出す。女を斬り伏せる為、自身の責務を果たす為。

 

「残念。」

 

しかし、その女の声が無慈悲に響いたと同時に、木曾の身体に異変が起きる。

突然、激しい痛みが襲った。

 

「がぁぁあああ!?」

 

木曾は自分の腹部を見る。そこには、得体の知れない何かの腕が突き刺さっていた。

その形状を見て、瞬時に理解した。あの化け物に刺されたのだと。

 

「煙デ気ガツカナカッタ?ソノ子達ッタラ本当ニ優秀ナノヨ。」

 

煙が晴れて、木曾は目の前に立つそのブレイドを睨みつける。

だが、命令を忠実に遂行するそのハンターには、そんな脅しは全く効果がなかった。

勢いよくブレイドが腕を引き抜く。それを受けた木曾は、痛みのせいで身体のバランスを保てずに地面へと倒れこむ。

 

「…フフフ!!モウ誰モ止メラレナイ!!私ノ愛ヲネ!!」

 

女は高らかに笑いながら、木曾を見下す。木曾は歯をくいしばる。

どんな手を使っても、この女を倒さなければならない。それが、自分に課せられた最後の任務。

しかし、どんなに立ち上がろうとしても、痛みがそれの邪魔をする。木曾の敗北は、あきらかであった。

 

「…下らん。」

 

突然、入渠ドックに呆れたような声が響き渡る。

女はその目を声の主であるバージルに向ける。ただじっと様子を見ていたバージルが、女へと歩み寄っていく。

 

「…下ラナイ…?」

 

女は静かな怒りに震えながら、そう呟く。

木曾は、痛みを堪えながらなんとかバージルの方へ視線を向ける。

明らかに余裕綽々と言った雰囲気で女を見るその姿は、やはり普通の人間とは卓越した存在なのだろう。

 

「…そんなことのためにその力を手に入れたのか。」

 

バージルは静かに呟き、ため息をつく。その表情は、まるで幻滅したかと言わんばかりであった。

 

「…ソンナ…コト…?」

 

女は、その憎悪と怒りを鎮めることができず、背中の砲塔をバージルに向けて、鋭い目つきで睨みつける。

だが、バージルにとってそんなことはどうでも良い。

 

「…私ノ愛…ソレヲソンナコトダト言ウノカ!?」

 

そう話す女を尻目に、バージルは木曾の方を見る。腹部からは血液がとめどなく流れ出ており、普通の人間であればすぐに死んでしまうであろう。

だからといって、バージルには木曾のことなど関係がないのだが。

 

「…力が無ければ何も守れない。自分自身さえもな。」

「!…フフフ!!ソウヨ!!ダカラ私ハ提督トノ愛ヲ守レタ!!」

 

女はバージルの言葉に同意するかのようにそう叫ぶ。その表情は、清々しいほどに凶悪な笑みであった。

だが、バージルはそんな女を見下したような目を向ける。

 

「貴様は何も守っていないだろう。」

「!…」

 

バージルの言葉に、女は再びその表情を、憎悪が含まれたものへと豹変させる。

 

「…貴様に、その力は必要ない。」

「黙レ!!」

 

女はそう力強く叫び、右手をバージルへと向ける。

その合図とともにブレイドが計5体ほどになり、バージルへと飛びかかる。

鋭い爪でこの男を貫く。女はそう確信していた。

完璧な不意打ちは、確実に成功するのだろう。それが普通の人間であれば。

 

「…斬る(Cut off)!」

 

バージルはそう力強く呟いたと同時に、その日本刀を抜く。たったそれだけの動作。それだけで、5体のブレイドの身体を完全に斬り伏せる。

全てのブレイドが動かなくなったと同時に、バージルは刀を鞘に収める。

 

「!?…何者ダ…!!」

 

女の言葉にバージルは、睨むように視線を返す。その瞳の奥に、テコでも動かないほどの気高き魂を感じ取った女は、その全身に現れた鳥肌を止めることができなかった。

バージルは、その口をゆっくりと動かす。

 

「…悪魔に名乗る名前はない。」

 

バージルは瞬間移動で女の目の前に現れる。

女のとっさの出来事で思考が停止するも、なんとかそれを回避しようと両腕を伸ばす。

バージルは、ほぼ音速で刀を振り抜く。それによって、女が伸ばした両腕が切り落とされる。

 

「!?…グギァアアアアァァァ!?」

 

女の苦痛に悶える声が辺りに響きわたる。女はそのまま、背中についた砲台をバージルへと向けて放つ。

それを見越していたバージルは、女から距離を取りながら刀をぐるぐると回す。

砲弾は斬り落とされ、辺りに爆煙を広がらせる。

 

「!!…何…!?」

 

女はそう叫びながら、その爆煙が晴れるのを待つ。

だが、その行為を後悔した。

少しずつ晴れる爆煙の中、女はそれを見たのだ。

 

「!!…」

 

刀を構えた、青き魔人。女は、それが先ほどまで話していたあの男だということは理解していた。

だからこそ、それを見た瞬間に理解した。

自身と男の力量の差を。

 

我が絶対なる力を(My power shall be absolute)…!!』

 

バージルのノイズがかかったような声が響き渡った瞬間、バージルは足を踏み出す。そのまま女へと肉薄するかと思いきや____

____その姿が消える。

それを認識した女は、身体を動かすことが出来ない。それは、恐怖で動けないなどという理由ではなかった。

一瞬で消えたバージルが、まるで分身したかのように自分を切り刻んでいたからである。

 

「…嘘…ダ…」

 

そして、その分身していたバージルの像が1つになり、先ほどまで立っていた場所に戻る。

痛みは感じないが、身体は動かない。

何をされたのかも、何が起きたのかも理解出来ない。だがしかし、1つだけ理解していたことがある。

それは、自分がこの男によって殺された、ということ。

 

「…嘘ダァァァァァァ!!!!」

 

女が悲痛な叫びをあげると、その身体がボロボロと崩れ始め、やがて灰になっていった。

いつの間にか姿が元に戻ったバージルは、それを横目で見ながら右手で髪をかきあげ、ため息をつくだけであった。

 

「…つまらん(How boring)。」

 

木曾はその一部始終を見て思った。彼は人間ではない。そして、絶大な力を秘めた、最強の男であると。

 

「…お前は…本当に何者なんだ…?」

 

地面に伏したままの木曾の呟きは、切なく響くだけであった。

 

 




シークレットには、どんどん補填や細かい部分を書き続ける所存です!!

次も早めに書き上げますね!
乞うご期待!


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5 〜 Diary 〜



と言うわけで、シークレットです!
時間軸は、Mission5と6の間です!

後で見た人のために、全部のシークレットに時間軸を書きました!




 

「…提督?」

 

戦艦レ級は、執務机の椅子に座るバージルを見てそう問いかける。

いつものごとく、バージルは何かを読んでいるのだが、その読んでいるものが、いつもと違うからである。

本のようにも見えるが、それよりも何の変哲も無いノートに見える。

 

「…コレッテ、日記?」

 

南方棲鬼がバージルの隣に回り込んで、それを覗き込む。

それは、先日崩壊した鎮守府の艦娘が残した日記らしく、中には鎮守府での日常が綴られている。

 

「…」

 

黙々とその日記を読むバージルは、何を思うのか。

レ級と南方棲鬼は想像もつかなかった。

 

 

____________

 

 

 

「…提督。なぜ深海棲艦を鹵獲したのですか?」

 

私は、目の前で書類と向き合っている提督に、改めて尋ねる。

負傷していた敵の深海棲艦を鹵獲、というより保護した。そこまでは良いけれど、大本営にも、上官にも報告はしないと決めたようなのだ。

提督は、その優しい視線を私に向ける。

 

「…今のまま深海棲艦と戦い続けて、この戦局が良くなるとは思えない。だからこそ、彼女を連れて来た。もしかすると、戦わないでこの戦争を終わらせることができるかもしれないからね。」

 

提督はそう呟いて、また書類に目を通していく。

みんなも私も、深海棲艦との戦いが終わることを望んでいる。

だからこそ、その決断を支援した。

戦いが終わるかもしれない。そんな期待を心に抱いた。

でも、提督の側にずっといたいと思うこの気持ちも本物だ。

私は、少しだけ複雑な気分になった。

 

 

____________

 

 

今日は、大本営から技術局長が来た。提督が席を外していたので、私が応対する。

なんだか、いつもあたりを気にしていて、落ち着きがないように見えるが、この人が私たち艦娘の艤装を開発した人だという。

そんな方に、無礼があってはいけない。

 

「君は深海棲艦をどう思うかな?」

 

と、私がお茶を持っていくと、そんなことを聞かれる。

私は少しだけ考えて「自分たちと似ているような存在ですかね。」と呟く。

艦の思いから生まれたのが私たち艦娘ならば、艦の苦しみや恨みから生まれたのが深海棲艦ではないか、と。

 

「似ていると思うんだな。」

 

技術局長はそう呟いて、何か書類にメモをする。

私は少し不思議に思いつつ、今度は御茶請けを取りに行こうとする。

 

「…ところで、この鎮守府には深海棲艦がいるのかね?」

 

その言葉が、私の行動を遮る。

提督は、その事実を大本営どころか、上官にも報告しなかった。

なのに、なぜこの人が知っているのか。

 

「…匂いで気がついてね。ここには、艦娘以外にも何かがいる、とね。」

 

技術局長は笑いながら、私に書類を差し出す。

それを見ると、そこには新しい計画が書かれていた。

しかし、そんなものには全く目が通らない。

気が動転しすぎていて、心がざわめいていた。

 

「…この事実を大本営で公表すれば、ここの提督は確実に処罰されるだろうな。」

「!…そんなっ!?」

 

私は、まるで銃口を突きつけられている気分に陥った。

提督が鎮守府を追われるかもしれない。それどころか、提督は敵方についたとされてそのまま処刑されてしまうかもしれない。

それを止めるには、この人に必死に命乞いをしなければならない。

 

「お願いします…それだけは…!!」

「ならば、協力してくれるね?」

 

私は、その言葉を聞いた直後から記憶がない。

ただ、私の心に焦りだけが残るのであった。

 

 

____________

 

 

…身体が重い。

秘書艦の仕事が手につかない。呼吸をすることすら億劫になっていく。

 

「…大丈夫かい?休んでも良いんだよ?」

 

提督が心配そうな表情でこちらを見る。

私のことを気にしてくれるのはとても嬉しい。でも、それと同時に迷惑をかけてしまっていることへの罪悪感が湧き上がる。

 

「…すみません…少しお休みしますね…」

 

私は何とかそう告げて、部屋を出ようとする。

しかし、そこへ空母ヲ級がやってくる。

 

「!…っ!?」

 

ヲ級を見た瞬間、身体が言うことを聞かなくなる。

意識が飛び、片膝をつく。

 

「!!…おい!大丈夫か!?」

 

提督が慌ててこちらへ駆け寄ってくる。

私の身体…一体どうなって…?

 

 

____________

 

 

暑い…

あの日から、ずっと身体が暑い。

頭がグラグラする。身体が動かない。

そのせいか、提督から秘書艦を解任されてしまった。

私は、どうしたら良いのだろう。

もう、よく分からない。自分のことも、他人のことも。

提督…私は…ドウシタラ…?

 

 

____________

 

 

私は、気がついてしまった。

戦いが終わるなんてことは、もはや望んでいないこと。心が欲しているのは、ただ提督とずっと一緒にいたいという思いだけ。

だから、私は決めた。

 

「お前…何して…?」

 

提督が青ざめた表情でこちらを見る。

それもそのはずだ。私が右手に持っていたのは、あの空母ヲ級の左足。それ以外は完璧に消し飛ばしてしまった。あたりに血が飛び散っているのも見えたが、そんなことはどうでもよくなっていた。

私は、心の底から嗤った。

 

モウ提督以外イラナイ。

 

 

____________

 

 

「…下らん。」

 

バージルはそこまで日記を読んで、パタリと閉じてしまった。一緒に読んでいたレ級と南方棲鬼はまだ読み終えておらず、少し不機嫌そうな表情を浮かべてバージルの方を見る。

 

「…チョット、マダ読ンデル途中ナノニ…」

「humph。」

 

バージルはそのまま椅子から立ち上がり、執務室のドアの方へと歩いていく。日記はそのまま執務机に置いたまま。

戦艦レ級と南方棲鬼は互いに目を見合わせて、またバージルへと視線を戻す。

 

「…読ンジャウヨ?」

 

南方棲鬼がそう呟いて、バージルを呼び止める。

だが、バージルはそれで止まることはない。

 

「好きにしろ。」

 

そのまま、ドアを開けて外へ出てしまった。

2人は頭の中で疑問符を浮かべながら、また日記に目を通すのであった。

 

 

____________

 

 

気がついたら、私は提督をその腕に抱いていた。動かなくなり、頭だけになってしまった提督を。

外では、とてつもない轟音が響き渡り、ガラスが割れる音や、誰かの怒声が響き渡っている。

私の目の前に、何体か化け物がいる。しかし、どうやら私には攻撃を加えないらしく、じっとこちらを見ている。

 

「…アァ…提督…」

 

私は、力一杯提督を抱きしめる。それだけで、幸福感が頭を支配していく。

もはや、何もいらない。鎮守府も、人間も、深海棲艦も、艦娘も。

そして、自分自身も。

 

「…モウ…全テ壊レテシマエ。」

 

そう呟くと同時に、目の前の化け物達が一斉にガラスを突き破り、外へと飛び出す。

大きな砲撃音があたりに響き渡る。

でも、私は動きたくない。動く必要がない。もう、ただ壊れていくだけでいい。

 

「…アハハ…提督…」

 

ただずっと、このまま提督と一緒に…

 

 

____________

 

 

「…悪魔を利用したか。」

 

バージルは廊下を歩きながら、一言そう呟く。

技術局長という男と出会った直後、その艦娘に何かが起きた。その事実は、バージルに対して最上の怒りをもたらした。

 

「…貴様らは思い知るだろう。悪魔を愚弄したことへの代償をな。」

 

バージルはそう呟いて、目を閉じる。

その瞬間、バージルの身体が青い光に包まれ、その姿が魔人に変わる。

溢れ出る気は、まるで怒りを体現するかのように強く揺らめき、辺りに広がっていく。

 

『…我が絶対なる力を(My power shall be absolute)!』

 

そのノイズがかかった声はあたりに響き渡り、訓練中の深海棲艦が何人か倒れたという。

 

 

 






バージルってかっこいいですよね。

もっと本編への出番増やして欲しかった…なんて思ったけど、1.3.4SEって感じで意外と出てるという笑(ストーリーに絡んで欲しかったなぁ〜なんて思ったり。)


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6 〜 New member 〜

気がつけば、前の話から一ヶ月以上たってる…

実は、一回休載にしようか迷ってました…!
周りの環境が変わりまして、なかなか忙しかったので…(言い訳)

久々の更新でシークレットですみませんが、ダンテ編です!





時刻は10時を回ったところである。

大本営にて、ダンテは割与えられた部屋の椅子でピザを頬張りながら、ただくつろいでいた。

半ば軟禁部屋とでもいうべきか。自室にはベッドやシャワールーム、リビングに行けばピザやストロベリーサンデーなどの必要な物は大体揃っているが、艦娘に会いに行くことや、他の施設を見て回るなど、その他の勝手な行動を制限されている。

悪魔の気配を察しても、それを確認しに行くことさえも許されない。

 

「…退屈だな。」

 

ダンテはそう呟いて椅子から立ち上がり、一口でピザを飲み込む。

それ以外に、やることがないのだ。

この部屋を抜け出さない限りは。

 

「…軽く外でも出るか。」

 

ダンテはそう言いながら、部屋のドアから外へ出て行く。

そこから先は外部連絡用の通路が伸びていて、その先に扉が1つ。ダンテはその扉の前までやってくる。

もちろん、そのドアは鍵がかかっているので、開かない。

だとすれば、こうする他ない。

 

「…Haaaa!!」

 

ダンテは思い切りドアに蹴りを入れる。ドアは大きな音を立てて吹き飛んで行く。文字通り、真っ二つになりながら。

そのまま、ダンテは軽く笑みを浮かべる。

 

「…もう少し、しっかりした作りにしないとな。」

 

コンコンとドアが取り付けられていた壁をノックしながら外へと出て行く。

ダンテの悪戯は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

「…はぁ…」

 

ども、青葉です。

今、新聞のネタになりそうなものを探しているのですが、やはりそんなものは都合よくは見つからないもので。

露頭に迷うとはこのことかもしれません。

 

「…最近ここに来た人がいるらしいけど、大事なお客さんだから外はあまり出ないみたいだし…どうしようかなぁ…」

 

青葉はそんな風にため息まじりに呟き、ネタ帳を見ながら歩いていました。

その時です!その真っ赤が視界に広がったのは!

 

「!…わわ、ととっ!?」

 

青葉はボンヤリとしていたので、そのまま突如目の前に現れた赤に突っ込んでしまったのです。

それを向こうはしっかりと抱きとめてくれました。

 

「…huh、女の子が突っ込んで来たぜ。」

 

そんな声を聞いた瞬間、私は急いで体を起こしました。

その声が男の人のものであったということが、自分を動揺させていたのです。どこかの鎮守府の司令官さんかもしれないですしね。

私は慌てて、その男性から離れました。

 

「す、すみません!少し考え事をしてました!」

「気にするなよ。俺も角から急に飛び出したのが悪い。」

 

深々とお辞儀をすると、男の人はそう言って笑みを浮かべていました。

それにしても、髪は白くて、派手な真っ赤なコート、それに、異国の方のようです。こんな人は見たことありません。

これは、なんだか特ダネな気がします!

 

「…それにしても、ここは広すぎて迷うな。」

 

赤コートの人がなんだかそういう風に呟いて、辺りを見回しています。

どうやら、初めてここに来た人みたいですね。確かに、ここは多くの研究施設や建物がありますし、初めてきた人は迷っちゃいますよね。

では、早速私の出番です!

 

「…もしよろしければ、ご案内しましょうか?」

 

出来る限り温和な感じで、かつ親切心を前面に出して…!

そうすると、この男の人は、こちらに視線を向けます。

 

「そりゃ助かるな。」

 

やった!食いついてくれた!

なんだか、この目の前の男の人は楽しそうな表情を浮かべていますよ!

私はハイテンションになりながら、軽く自己紹介をします!

 

「青葉型重巡洋艦の青葉です!ではでは、あなたのお名前は?」

 

テンションが上がって、つい言葉遣いがいつものようになってしまったのを心の中で反省しつつ、その男の人に問いかけます!

すると男の人は、ニヤリと笑ってこう言ったのです!

 

「ダンテだ。案内頼むぜ。」

 

 

 

 

 

「それでは、早速艦娘の寮に向かいましょう!」

 

ダンテの前を歩く青葉は、そのまま歩き始める。

ダンテは、その後をゆっくりとついていく。

実は、外に出てまず最初に出会ったのが艦娘であったため、少し警戒をしていた。

大本営にいる艦娘ならば、黒幕にあたる人物の息がかかっていてもおかしくないからである。

 

「…様子見だな。」

 

ダンテは小さな声でそう呟き、そのまま青葉の後を歩いていく。

2人は、そのままゆっくりと歩いて、この大本営内の散策を開始したのだ。

 

 

それを遠くから見守る人物が1人。

 

「…そろそろかとは思ってたけど。」

 

白い軍服から、いつものピッチリとした身体のラインを強調する服に着替えたトリッシュは、じっとダンテと青葉の姿を見る。

その表情は、少し呆れたような笑みであった。

 

「…やっぱり、あれはデートというより親子連れね。」

 

トリッシュはそう言うと、その場を離れていくのであった。ダンテの部屋からの無断外出について、他所の提督を納得させるための言い訳を考えながら…

 

 

 

 

「Hey!青葉!」

 

2人が艦娘の寮を歩いていると、1番最初にあったのは金剛型戦艦1番艦の金剛であった。

青葉は笑顔で、どもども!と言いながら金剛の写真を撮っていく。

ダンテはというと、いつものごとく楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「なかなかの美人だな。今度、デートでもどうだ?」

「Oh、それはありがたいお言葉デース!But、私のハートは提督のモノデース!」

 

金剛はそう言って、元気一杯の笑顔を浮かべていた。

それを見て、ダンテは今までの艦娘とは違う反応なので、少し楽しくなっていた。

 

「Ha-ha!そいつは残念だ!」

「でも、青葉からすれば、ダンテさんもカッコいいですよ?」

 

なぜか、すかさず青葉にフォローを入れられたダンテは、軽く笑いながら指をさす。

 

「そいつは最高だな。アオバ、一緒にデートでもするか?」

「それなら、是非とも取材をですね…」

 

2人がそんな風に話し込む間に、金剛は少し考えこむ仕草をする。

 

「…Hey!」

 

しばらくして、ダンテに金剛がそう問いかける。

ダンテは少し笑いながら、そちらを向く。金剛はそう言って、悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「…もしかして、あなたが最近話題のお客さん?」

 

私は英語でダンテにそう尋ねてみマース!横にいる青葉は、少しキョトンとしてるネー!

青葉にダンテと呼ばれていたこのNice guyはニヤリと笑って、私にこう告げる。

 

「そりゃ、どうかな。客とは違う気がするぜ。」

 

ダンテの英語は、やはりアメリカの方の発音みたいデース。

とにかく、提督から聞いていた話とは少し違うみたいネー。

 

「客じゃないとしたら、どういうこと?」

 

私がそんな風に尋ねてみると、ダンテは少し真面目な顔になったネー!

少しだけ鳥肌が立ったけど、でもそのあとのダンテの言葉が気になるから、じっと我慢するネー!

 

「まあ、気にするなよ。余計なことは知らない方が良いぜ。」

 

ダンテはそう言って笑ったデース!

なんだか、不思議な人ネー!

 

 

 

 

なんだか、金剛さんとダンテさんが楽しそうに英語で会話していましたが、凄く困りました!

青葉は英語があまりわかりません。なので、完全に蚊帳の外になってしまいました…

 

「あの…何の話をしてるんですか?」

 

青葉は少し困惑したような表情で尋ねてみます。

すると2人は、こちらを見て謝ってきました。

 

「悪いな、英語が喋れる人間なんて、なかなかこっちに来てから出会えなくてな。」

「私も久しぶりの英語で、緊張したデース!」

 

金剛さんとダンテさんはそんな風に言ってました。

あんまり、人に聞かれたくない会話だったのでしょうか?

まあ、でも気にしません!

おそらく、まだまだネタになるような出来事が起きるはずです!

 

「では、どうしますか?他のところも見てみますか?」

「そうだな、案内してくれ。」

 

ダンテさんはそう言って、私に次を促してきました!

そうですねぇ〜、艦娘の寮は案内しましたし、大本営の執務室には、私達艦娘でも限られた人物しか入れませんし…

 

「ではでは、次は…」

 

もしかすると、青葉はダンテさんのその変な魅力に取り憑かれていたのかもしれません。

でも、その時はそうなるとは全く思っていなかったのです。

この出会いによって、大本営の根幹を揺るがす事件に巻き込まれていくことになるなど…

 

 

 

 

 






英語の勉強しとけばよかった感。

そのうち、しっかりと英語で書き直すことにします…

とりあえず、ダンテと金剛と青葉の出会いでござんす!


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7~ After dark ~

久々のシークレットミッションです。

そして、久々にダンテが元居た鎮守府の話を書こうと思います。



この作品の構想当時は、鈴谷の改二が実装されていなかったので、色々と思うところがありますね…


横須賀鎮守府は、今では未曽有の平和を享受していた。

ダンテが残したストロベリーサンデーやピザなどの食べ物は、未だにメニューとして残されていたり、出前として届けられていた。

 

「う~ん、やっぱ間宮さんは何を作っても美味しいねぇ」

 

鈴谷は、そのストロベリーサンデーを口に運びながら、そう呟いた。その様子を見て、間宮も少し嬉しそうな表情を浮かべていた。

あれから、鈴谷は今まで通りの生活に戻っていた。

 

「お口に合ってよかったです」

「…うむ、ダンテがこれを好んで食べている理由もわかる気がするな」

 

その鈴谷の横で、武蔵がいたって真面目な表情でそう呟く。まるで何かの評論家のような言葉に、鈴谷は少し困惑していた。

 

「…武蔵って、そんなに甘いもの好きなキャラじゃないよね?」

「ああ。だが、ダンテの強さの秘密はこういうところにあるのではないかと考えてな。こうして食べてみるとわかる。力があふれてくるな」

 

武蔵はそう呟きながらストロベリーサンデーを口へと運ぶ。その表情は、まるで何かに納得しているかのようなものだが、鈴谷と間宮はあまりにも理解しがたい感覚に陥った。

まさか、ダンテがいなくなって一番ロスになっているのが、武蔵だとは考えられなかったのだ。

 

「…ってか、武蔵はそこまでダンテと深く関わってないっしょ!何で武蔵がそこまでダンテいなくなって寂しくなってるのさ!」

「…あれほど強い男がいなくなれば、また私は本気を出す相手がいなくてな」

 

武蔵はそう呟きながら、少し俯く。その言葉を聞いて、鈴谷も思わず言葉を詰まらせる。

今は深海棲艦も暴れておらず、武蔵も演習ぐらいしか出番がない。それどころか、燃費のせいで警護任務すら与えてもらえないため、暇を持て余しているのは理解していたのだ。

 

「…平和なのはいいことなのだが、やはり艦娘としては張り合いがない。それだけだ」

 

武蔵はそう呟いて、そのストロベリーサンデーを一気に口へと放り込む。

鈴谷はその様子を隣で静かに見守りながら、ため息をつく。

 

「…ダンテが大本営でどうなってるか、想像もつかないや」

 

鈴谷はそう呟きながら、そのストロベリーサンデーをまた口へと運んだのだった。

 

 

__________________

 

 

 

「…電、その書類を取ってくれないか?」

 

提督がそう告げると、電はすぐにその書類を提督のもとへと持っていく。

 

「はい、なのです」

「ありがとう。あとは休憩していてくれ」

 

提督がそう言って書類に目を通し始めると、電は静かにため息をついた。

 

「司令官さん、無理はしちゃダメなのです。電もお手伝いするのです」

「大丈夫だ。いざというときに、僕は何もできない。だからこそ、こういうところで君たちに負担を負わせるわけにはいかないんだ」

 

提督はそう呟いて、そのまま書類に目を通し、また別の書類へと手を伸ばしていく。

電は仕方ないとでも言わんばかりの呆れ笑いを浮かべながら、執務室のソファへと座りこんだ。

電はその時に、少しダンテのことを思い出していた。

あの時、自分を人間だと言ってくれたその目は、未だに覚えている。

 

「…電は、幸せなのです」

 

そう呟いて、電は眼を閉じる。そのまま、意識を手放そうとしたのだが。

 

『鎮守府正面海域に敵影発見!』

 

その館内放送を聞いた瞬間、電は跳び起きた。

これまで何の敵襲もなかったこの状況で、まさか敵襲が起きるなど、考えてもいなかったのだ。

 

「電、至急出撃できる人員を向かわせてくれ!」

「はい、なのです!」

 

電は、そう返答してすぐにその部屋を出ていく。電の心の奥底には、底知れぬ不安があった。

 

 

_______________

 

 

 

「…本当ニ、提督ヲ置イテ行クノ?」

 

南方棲姫は伸びをしながら、静かにため息をついた。

その姿を見た戦艦レ級は、ただじっとバージルの後姿を見ていた。

 

「…死にたくなければ、早く行け」

 

バージルはその二人の方を見ずに力強く言い放つ。表情が見えなかった二人だが、その殺気が自分たちに向けられる可能性があることを理解しているので、二人はそのまま踵を返す。

ふと、戦艦レ級はバージルの方へと振り向く。

そこには、既に提督としてではなく、悪魔としてのバージルが立っていた。

 

「…提督、気ヲツケテ」

「humph」

 

レ級の言葉に、バージルは小さくそう返した。

それだけで、レ級はバージルが無事に帰ってくるであろうことを理解し、そのまま静かに離れていった。

 

 

______________

 

 

 

「…戦艦レ級が撤退していくだと?」

 

武蔵はそう呟きながら、水平線を見る。確かに、先ほどまではその存在が探知できていた。しかし、今はその反応が遠ざかり、戦闘区域になるであろう場所から離れていってしまった。

その後ろで困惑したような表情を浮かべる朧と漣。

 

「ということは、もう任務終了…ってことですか?」

「それは飯ウマだけど、本当にいいのかな?」

 

朧の言葉に漣はそう返す。その光景を見ていた大和も少し不安げな様子を見せる。

 

「目前まで来たのであれば、何かしらの攻撃はあってもおかしくないはず…何故撤退していくのでしょう?」

「…ただの牽制だったのでしょうか?」

 

そばにいた赤城が疑念を口にする。

その言葉を聞いた鈴谷は、その言葉に難色を示す。

 

「それって、怪しくない?牽制しに来たなら、攻撃しない理由はないし…」

 

鈴谷はそう呟いて、思案する。もし、相手がこの鎮守府を襲うつもりなら撤退する必要はなく、確実に攻め落とせるほどの戦力を仕向ければいいだけのことである。

だが、そうしなかった理由はなぜだろうか。

 

「まさか…ダンテ?」

 

そう呟いた鈴谷の言葉に、全員の視線が集まる。

その瞬間、その真後ろにその男の姿があった。

 

「…消えろ(Die)

 

その声を聞いた瞬間、鈴谷達は身の毛のよだつほどの悪寒に包まれた。

鈴谷はそのまま、勢いよく振り返り、その砲身を向ける。

しかし、その動作よりも先に男が刀を鈴谷の身体を斬りつける。

 

「がはっ!?」

 

普段の戦闘ではまずありえない痛みが、鈴谷の脳を直接刺激する。その動作で、その場にいた全員の身体が臨戦体制になる。

 

「鈴谷を守りつつ、艦隊を維持!」

 

そう叫んだ大和の言葉に、その場の全員が呼応するように行動を開始する。

漣と朧はすぐに鈴谷をカバーするように割って入り、赤城の艦載機は男を包囲するかのように飛び立つ。

大和と武蔵はその砲塔をしっかりと男へと向ける。これでいつでもその男を倒せる。

…そう錯覚する。

 

「…って、ダンテのお兄さん!?」

 

漣はその姿に見覚えがあり、思わず声を上げる。

その言葉を聞いたその場の面々は、その表情を強張らせる。

ダンテの兄が敵として立つ。それは即ち、この戦いに勝利する確率がかなり低いということ。

 

「…命は覚悟したほうがいいな」

 

武蔵はそうため息をつきながら呟いて、自分の感情を押し殺した。

恐怖心と怒りを捨てて、戦闘に集中するために。

 

_____________

 

 

「赤城さん!武蔵さん!応答してください!」

 

大淀の叫びが執務室にこだまする。この緊急事態に味方との通信が途絶えれば、おそらく鎮守府内に敵は侵入してくるだろう。

その様子を見て、提督は明らかにその表情を重くした。

 

「…こうなれば、おそらく総力戦になるはずだ。全員の力を結集してもなお、倒せなかった場合は…電、あとは頼む」

 

その言葉を聞いた電は、その言葉の意味を理解した。

提督は、この鎮守府と共に死ぬ気だと。

 

「そ、そんな!司令官さん!?」

「…艦娘を守るのは僕の仕事で、この鎮守府を任されているのも僕だ。この状況を、黙ってみているわけにはいかない」

 

そう呟いた提督の両手は、力が強く籠められ震えていた。

その姿を見た電は、そのまま少し俯く。その提督が決めた覚悟を、無碍にするわけにはいかない。

だが、それと同時に、提督をむざむざ死なせる気も、電にはなかった。

 

「では、絶対に撃退してみせるのです」

 

その言葉を聞いた提督は、思わず驚いた表情を浮かべた。

そして、そのまま俯く。

 

「…僕は、君たちに頼りきりだ」

「そんなことないのです。電達も、何度も怖いと思ったことがあるのです」

 

電はそう言いながら、提督の手を握りしめた。

その表情には、慈しみのような、自分を勇気づけるようなものが含まれていた。

 

「…電は、その度に司令官さんに助けられてきたのです。今度は、電達が司令官さんを助ける番なのです」

「…そんな僕は、何度も君たちに助けられているのにか?」

 

そう言いながら、提督はその目に涙を浮かべる。それを見た電は、思わず目頭が熱くなった。

 

「…はい、なのです」

 

そう口から出た言葉は、嘘偽りないものであった。

 

 

_______________

 

 

 

「鈴谷、しっかりしろ!」

 

武蔵が懸命に声をかける。しかし、静谷はそのまま目を覚まさない。その間にも、バージルは大和と赤城へ攻撃を続けていた。

 

「くっ…これ以上は…」

 

大和も、この現状を理解していた。このまま戦っていれば、確実なる死が待っていることを。

バージルのその動きを、現在も捉えられていないのだから。

 

「…クズが(Scum)

 

その声と共に、バージルが大和の目の前に現れる。その瞬間に、大和は痛みを知覚した。

そして、鈴谷が受けた痛みはそれ以上だということも。

 

「ぐぅぅ!?」

 

大和は痛みを堪えながら、何とか主砲をその男に向けて射出する。しかし、バージルはまたそれを避ける。その隙に、赤城が放った艦載機が、バージルへと攻撃を仕掛ける。

しかし、バージルは決してそれを受けることはなかった。

 

遅い(Too late)

 

その言葉と共に、その周囲へと幻影剣が降り注ぎ、そのまま艦載機もろとも周りの艦娘たちへと攻撃を加える。

漣や朧はその攻撃を回避するように動くが、大型の艦娘はそれを避けきることが出来ず、少しずつダメージを負ってしまう。

 

「クソ…ここまで厄介だとはな…!」

 

武蔵はそう呟きながら、鈴谷を庇うような体勢を取る。しかし、何本かの幻影剣は鈴谷の背中へ刺さっていた。

 

「…奇跡が起きないと、勝てないの?」

 

大和がそう呟いたとき、その出来事は起こった。

 

 

_______________

 

 

 

ああ、また迷惑かけてるな。こんな風にダメージを負って、ダンテが助けてくれて。今は、またみんなに助けてもらって。

 

鈴谷って、結局足手まといなんだよね。

 

もう、このまま沈んじゃおうかな。

 

『こいつを肌身離さず持っときな』

 

…そういや、ダンテからもらったこの星、何のためにあるんだろう。

 

でも、どうせなら…ダンテのこと、信じてみようかな。

 

…すごい、この星…身体に力が流れてくる。

 

…これが、ダンテの感覚。ダンテの世界。

 

こりゃ、悪魔でもなんでも勝てるわけだ。

 

 

_______________

 

 

 

「!?…鈴谷!?」

 

その異変に一番最初に気が付いたのは、武蔵だった。鈴谷が突然立ち上がり、そのまま姿を変質させていったのだ。

鈴谷の主砲の形や背中の艤装が、まるで違うものへと変えられていく。

そして、その形が安定した時、鈴谷のその姿は完全にただの重巡洋艦のそれではなくなっていた。

 

「…humgh。」

 

バージルは、その変貌を止めるでもなくただ見ていた。

その様子は、ようやく楽しそうなことが起きそうだという期待感がそうさせたのだ。

 

「…何これ、鈴谷聞いてないし!」

「航空、巡洋艦?」

 

鈴谷のその変貌した姿を最初に理解したのは、赤城だった。その甲板のような装備と、主砲の大きさから、その言葉しか出なかったのだ。

 

「…鈴谷、ひょっとして結構パワーアップした?」

「鈴谷!前を見ろ!」

 

鈴谷のその目前に、バージルはすでに攻撃態勢で肉薄していた。

武蔵の声を聞いた鈴谷は、すぐにその攻撃をバックステップで回避した。

何も、頭の中で命令を出していないのに。

 

「あ、っぶな…何でよけられたんだろ?」

 

そう呟きながら、鈴谷はその左手に装着した甲板から航空機を発艦させた。まるで、当然そこにあるかのように。

その航空機は、バージルへとすぐに突撃し、そのまま機銃や爆撃や魚雷の投下を開始する。

バージルはそれらの攻撃を刀で切り落とし、また鈴谷へと肉迫する。

その横から、朧がバージルへと攻撃を仕掛ける。

 

「す、鈴谷さんを援護します!」

 

朧はその魚雷をバージルへと素早射出し、その主砲を何度か発射する。その動作に合わせるように、漣も攻撃を開始する。

その動作を見て、バージルはすぐにひらりとかわし、幻影剣を朧の方へと飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

朧はその剣が肩に刺さったことを認識した瞬間、その男が自分の目の前に現れたことに気が付いた。

 

「!?…どうしっ」

 

そこまで口にしたとき、朧の身体は男の刀によって切り付けられていた。朧はその痛みによって、言葉を上げられないほどのダメージを受けていた。

その光景を見た鈴谷は、すぐに朧と男の間に割って入り、攻撃を仕掛ける。

その攻撃は一発たりとも当たることなく、全て避けられてしまった。

 

「!!…みんな、先に逃げてて!ここは鈴谷が頑張るから!!」

 

鈴谷がそう言った瞬間、大和は武蔵とアイコンタクトを取る。現有戦力では、対処不能と考えたのだ。

そして、その戦力を整えるまでに、鈴谷を犠牲にするということも。

武蔵は、傷ついた朧へと駆け寄り、そのまま静かに抱き上げた。

 

「…後で増援を連れてくる。それまで耐えてくれ」

 

武蔵がそう言うと、鈴谷は呆れたような笑みを浮かべる。

 

「…ま、後で間宮で会うってことにしとこ」

 

武蔵は鈴谷の軽口を聞いて、思わずダンテのその光景が浮かんだ。

だが、鈴谷がこのまま押し切ってしまえるとは思ってはいなかった。

武蔵がハンドサインを上げると、他の艦娘たちもすぐに鎮守府の方へと動いた。

 

「…じゃ、やろっか。ダンテのお兄さんだっけ?」

「…貴様はダンテから何か受け取っていたか。道理で悪魔の臭いが強かった訳だ」

 

バージルがそう呟くと、鈴谷はそのまま少し大きなため息をついた。

 

「…あの紫の星が教えてくれたけど、何でダンテがわざわざ海の向こうからここまで来たのか、ようやく理解した。ってか、そもそもダンテが悪魔がらみで仕事請け負わないってことは、そういうことじゃん」

 

鈴谷は、そこまで呟いて、静かにバージルを見つめる。

 

「…要は、悪魔だってことっしょ。艦娘も、深海棲艦も」

 

その表情は、いたって悲観のものはなく、冷静に現実を分析した結果を淡々と述べているだけというものだった。

つまり、今のこの戦いは、完全に仕組まれた戦争。自分の為や主義思想の為でもない、ただの同じ種族の殺し合い。

それは、ダンテやバージルと似て非なる半人半魔という存在同士の実験。

 

「…そこまで理解しておきながら、貴様は戦うのか?」

「…まあ、できることなら戦いたくないんだけどさ」

 

鈴谷は、そういいながら、その主砲を構えた。

その表情は、決意を込めたものであった。

 

「…だって、ダンテと違って、艦娘も深海棲艦も全部殺す気じゃん?守ろうなんてちっとも思ってない」

「…そうだな」

 

バージルはその表情を一切変えることなく、視線を鈴谷に向けていた。

その姿に、油断も隙も無かった。

 

 

___________

 

 

工廠の中、多くの艦娘たちが慌ただしく動いている。

 

「この鎮守府にある資材は全部使っていかないと、まず無理な段階ね!全員の艤装の稼動には確実に耐えられないだろうし!」

 

明石はそう言いながら、その辺にある弾薬や燃料をバンバン妖精たちに運ばせる。

その妖精たちも、不安げな表情を浮かべながら仕事をしている。

 

「横須賀鎮守府の総力を上げて、なんとしても負けられない戦いなのです」

 

電はそう呟いて、周りの艦娘たちを鼓舞する。

それを聞いた面々は、その表情を引き締める。これから、この鎮守府の存続がかかった戦いが始まるのだと、誰もが予感していた。

 

「誰かいるか!?」

 

と、そんなところにその声が響き渡る。

その声を聞いた艦娘たちは、一斉にその方へと視線を向ける。

武蔵が、工廠へと傷ついた朧を抱えながら入ってきたのだ。

 

「む、武蔵さん!?」

「急いで援軍を頼む。傷ついた艦娘の入渠準備もだ。このままでは、鈴谷が危ない」

 

その言葉を聞いた明石は、すぐに声をあげる。

 

「駆逐艦の中で手の空いてる人はこっちを手伝って!」

 

その言葉を聞いた駆逐艦たちは、すぐに明石の方へと走り出す。

その面々を見届けた武蔵は、朧をその場に下ろしながら、踵を返す。

 

「む、武蔵さん、一度入渠をした方が…」

「このまま、あの男を放っておくわけにはいかない。電は主力艦の出撃準備を急がせろ」

 

武蔵がそう言って、走り出すのを見届けた電は、あの男という言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

「…もしかして、ダンテさんの?」

 

電は、深海棲艦に提督と呼ばれていた、あの青い男を思い浮かべたのであった。

 

 

______________

 

 

 

「チッ!!」

 

鈴谷は、その主砲を何度も射出し、その艦載機を全て発艦させた。攻撃目標は、目の前のバージル。だが、それでも相手を捉えることが出来ない。

バージルは、その姿を縦横無尽に駆け巡らせながら、鈴谷へと肉迫する。

しかし、先ほどから攻撃をしてくる様子はない。

 

「…なめられてる?」

 

鈴谷はそう呟きながら、攻撃を何とか続ける。相手は一向に攻撃をしてくる様子はない。しかし、決してそれがいい方向に向かっているとは思えないのだ。

なぜなら、あのダンテの兄ということを理解しているからだ。

 

「…ねぇ、そろそろ真面目に殺しに来たらいいじゃん。それとも、やる気はない?」

 

そう鈴谷が問いかけても、バージルは決してその表情を変えない。どころか、一切言葉も発さない。

鈴谷にはまるで、何かを待っているかのような様子に見えた。

 

「…貴様には関係のないことだ」

 

バージルは鈴谷にそう言い放ち、その日本刀を抜く。

その動作を見ただけで、鈴谷は確実なる死を覚悟した。

 

「!!…」

 

鈴谷は、ありったけの弾丸と艦載機を出し尽くす。しかし、それらの弾丸をバージルは全て切り捨て、日本刀を構える。そのまま、魔力を込め始めて、鈴谷の方へと鋭い視線を向ける。

鈴谷は、バージルがこの後何をしてくるのか、もう既に理解していた。

星と共鳴した時、ダンテの記憶にその技があった。それは、バージルが放つ最強の一撃。

 

「ここで死ぬわけにはいかないっつうの!!」

 

鈴谷は、そう叫びながらその最後の主砲の弾丸を射出する。

その弾丸は、虚空を裂いた。

 

「!?…」

 

バージルは、既に鈴谷の射程にいなかった。

では、どこへ行ったのか。

 

『…そこを動くな(Stay where you are)

 

その声が背後から聞こえた瞬間、鈴谷は死を覚悟した。

その刃が、もう首筋まで迫っていたのだから。

 

_____________

 

 

「…クソ、鈴谷…無事でいてくれ」

 

武蔵はそう呟いて、鈴谷の身を案じる。

その後ろから、電と赤城がついていく。

 

「赤城さん、鈴谷さんが改二になったというのは本当なのですか?」

「…ええ。でも、流石に勝てるかどうか…」

 

赤城は電の言葉にそう返しながら、俯く。

電はその様子を見て、最悪の予感が頭をよぎる。鈴谷がすでに倒され、敵が私たちを全て皆殺しにするというシナリオが。

 

「!…鈴谷…!?」

 

武蔵のその言葉が木霊した時、電と赤城はその目の前の光景を疑った。

鈴谷が、首筋に刀を突き付けられながら、笑顔を浮かべていたのだ。

 

「あ、戻って来た」

「…humgh」

 

その男は、鈴谷の首に突き付けていた刀を鞘に納める。

その瞬間、鈴谷は大きく伸びをする。

 

「…す、鈴谷…いったい何が起きた?」

「…えっと、話すと長くなるんだけど」

 

鈴谷はそう呟いて、苦笑いを浮かべた。

 

 

____________

 

 

 

「!!…」

 

鈴谷は、死を覚悟していた。

だが、その瞬間は訪れなかった。

 

「…何で斬らないの?」

「…そもそも、俺は貴様らを殺すつもりなどない」

 

バージルは、鈴谷の疑問にそう答える。

鈴谷は、その瞬間に色々な感情が湧き上がった。

 

「…じゃあ、この刀をどけて欲しいんだけど?」

「…その前に聞きたいことがある」

 

鈴谷の提案を蹴り、バージルはその質問をした。

 

「_____」

「!!…」

 

鈴谷は、バージルのその言葉に困惑した。

少なくとも、その質問にどんな意図があるのか、今は理解できなかったからである。

 

 

 

 

 





とりあえず、バージルも大本営に向かうかもしれないフラグはできましたね!


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