MH:E’s (taktstock)
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1

衝動的に書きました。
下手くそですが、よろしくお願いします。


「あと、少し」

 

血に染まり、刃の欠けた双剣、ツインダガー改を研ぎ直しながら、黒髪の青年は呟いた。

 

 

彼の防具や双剣に付着している血は、彼の血ではない。モンスターの血だ。

 

彼の周りには決して少なくない数のジャギィの骸が横たわり、遺跡平原の地面を赤く染めている。

 

 

彼が先ほど戦っていたのは、地面に横たわるジャギィと、ドスジャギィだ。あと一歩のところで逃げられたのだ。

 

研ぎ直した武器を仕舞い、次のエリアに向けて走り出す。

 

 

次こそ仕留めると、心に誓いながら。

 

 

☆☆☆

 

 

「はい、報酬の900zです!」

 

そう言って報酬金を渡してくる受付嬢。

ドスジャギィを無事討伐した俺は、様々なキャラバンが集まる移動する都市、バレバレへ帰還し、報酬金を受け取っていた。

 

「ありがとうございます」

 

「どうですかリオンさん?必要な素材は集まりました?」

 

彼女が言っているのは、防具の素材の事だ。

俺はここ1週間、ジャギィ装備一式を揃えるために、何度もドスジャギィ狩猟クエストを受けていた。

もちろん受ける場合、受付嬢に通さないといけないので、知っていたのだろう。

 

「はい、お陰様で素材全て揃いました」

 

「それは良かったです!」

 

受付嬢が元気に返してくる。相変わらず明るい人だ。

 

「そう言えば、最近ちょっと変なモンスターが確認されいるそうです。ハンターさんも気を付けて下さいね」

 

 

☆☆☆

 

リオンは鍛冶屋に防具生産の依頼を頼んだあと、宿に速攻で帰り、ベットへ飛び込んだ。

 

ふおおぉぉぉ……!

ベースキャンプのベットとは違い、優しい反発で受け止めてくれるベットに感動する。

 

防具の素材を集めていた時は、クエストから帰るとそのまま狩猟に必要なアイテム揃えてクエストを即受注。

ガーグァタクシーで寝るのが殆どだった。

 

そのままベットの上で伸びをして、仰向けに転がる。

 

「……あいつ、今頃何やってんだろ」

 

リオンは一緒バレバレに来た同世代のハンターの事を思い出していた。

ここに来る時、撃龍船に乗って来ていたのだが、その撃龍船がとあるモンスターに襲われたのだ。

 

そのモンスターは、超大型古龍、ダレンモーラン。

 

その時リオンは丁度寝ていて、起きて来たのは他のハンター達がダレンモーランに大砲やバリスタを撃って撃退した時だった。

 

リオンの同期のハンターは、ダレンモーランに襲われた時、ただ1人、インナー姿で戦闘準備が整うまで持ちこたえていたらしい。

 

バレバレでは《パンツ一丁で持ちこたえたハンター》と噂にもなった。

 

しかも、とある猟団に見込まれ、この前、次の目的地、鉱石の町、ナグリ村へ出発したのだ。

 

 

つまり俺はぼっち。ソロハンターである。

 

……なんかさみしくなってきた。

 

「……飲むか」

 

虚しい空気が室内を満たした。

 

 



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2

「最近よく話すわね」

 

 

バレバレの集会場にて。

 

上位受付嬢が、興味深そうにリオンの背中を見つめて訪ねた。

ドスジャギィを討伐したらしい。

レザーシリーズで身を固め、双剣を担いでいる。

 

「……別にそういうのじゃないですよ?」

 

下位受付嬢はあらぬ事を考えている上位受付嬢の事をジト目で睨む。

 

「あら、そうかしら?あんなにハンターさんと楽しそうに話してたの、始めてよ?」

 

下位受付嬢はうっと唸る。

図星なのか変な汗も出てきている。

 

そして上位受付嬢はさらなる追い討ちをかける。

 

「それにあなた、この前受付嬢の皆で打ち上げ会した時「わぁぁ⁉うわぁー‼」

 

上位受付嬢が何かしようとする前に口を塞ぐ下位受付嬢。

必死なのか、耳まで真っ赤っかだ。

 

周りのハンターがその叫び声に驚く。

 

自分に注目が向いた事に気付いた下位受付嬢は慌てて何でもない事を伝える。

 

「……もうっ‼なんて事をしてくれるんですかっ⁉」

 

「今のはどう見ても自業自得でしょ?……あ、クエスト受注ですか?はい……」

 

プンプンと頬を膨らませる下位受付嬢に上位受付嬢は取り合わず、仕事に戻ってしまった。

 

 

 

「別にそう言うのじゃ無いもん……」

 

下位受付嬢は独りそうぼやいていた。

 

☆☆☆

 

リオンは今日、集会場にいた。

集会場は相変わらずたくさんのハンターで賑わっている。

 

最後にドスジャギィを倒してから2日経っている。

防具はドスジャギィの素材を大胆に使用した、真新しいジャギィ一式に変わっていた。

双剣もツインダガー改から、鮮やかな色彩のジャギットショテルに変わっている。

 

今日は手頃な依頼が無いので、武具の性能の確認も兼ねて遺跡平原の採取ツアーを依頼する予定だ。

え?もちろん1人ですが何か?

 

 

「隣いいですか?」

 

脳内で自虐ネタを展開させながら、パンとミルクを注文して待っていると唐突に後ろから声を掛けられた。いいですよ、と答えようと振り向いて___

 

カチンと固まる。

声を掛けて来たのは女性ハンターだった。

 

髪は白というよりは白銀のセミロング。

肌はハンターとは思えないほど美しく、白雪のようだ。

薄紅色の瞳がこちらを真っ直ぐ見ている。

10人に問えば10人が美少女と言うだろう。

 

美少女への耐性がなかったので固まってていると、その女性ハンターは困った様に笑い、ダメですか…?と訪ねてくる。

 

「あ、いいえ、大丈夫です」

 

そう言って席を若干譲る。

良かった。俺はコミュ症じゃなかった。

 

女性ハンターは席に座ると肉とパンを注文し、こちらを向く。待つ間話しでもするのだろう。

 

「……今からクエストですか?」

 

「えーと、さっきゲリョス狩猟から帰ったばかりなんです」

 

「へぇ…」

 

彼女の防具はガンナー用カブラ一式。両生種のモンスター、テツカブラから作られる装備。

リオンはまだ戦った事はないが、新人ハンターにとっては手強いらしい。

と、そこへリオンの注文したメニューが届いた。

 

「貴方は今から何に行くんですか?」

 

「採取ツアーで、野良モンスターにこの武器を試そうと思って……」

 

「へぇ…双剣ですか」

 

そう言って、リオンの背中にある双剣を興味深そうに見る。

 

別段珍しくもないのだが。

 

その後、武器の話を花咲かせていたのだが、彼女の料理が届いた頃にはリオンはもう食事を終えていた。

 

「じゃあ、俺はそろそろ行きますね」

そう言って席を立つ。

 

「あれ、もしかしてソロですか?」

 

「え、えぇ。まあ」

 

何だろう。別におかしくないのに恥ずかしく感じるこの感じは。(ぼっちだからじゃない?)

 

女性ハンターは考えるようにこちらを見つめながら、問いかけてくる。

 

「名前、聞いても良いですか?」

 

 

何故名前を聞くのか と思ったが、気になる程じゃ無いので、「リオンです」と伝え、そのままクエスト受付カウンターに向かった。

 

 



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3

先程の女性ハンターから離れたリオンは、そのままカウンターへ向かう。

 

「あっ、リオンさん。こんにちは!装備、新調されたんですね!」

 

「あ、はい。あの、このクエスト受注しに来たんですけど……」

 

そういって採取ツアーの依頼書を下位受付嬢に渡すと、手慣れた手つきで判子を押し、依頼書を差し出してくる。

 

「ありがとうござ……ん?」

 

リオンが依頼書を受け取ろうとするが、下位受付嬢の手から離れない。下位受付嬢をみると顔を俯かせている。

 

え、もしかしてこの依頼はダメなのか?

 

しかし、予想していた言葉とは違う言葉がとんできた。

 

「あの、先程の人は……えと、彼女さん、ですか?」

 

「先程の人?」

 

下位受付嬢は気まずそうに上目遣いでリオンに訪ねる。

 

先程の人って、あの女性ハンターの事だろうか。

 

「……いえ、さっきの人とはたまたま話しただけで、初対面です」

 

すると下位受付嬢が何故か安心した様に息を漏らす。

というか、依頼書……。

 

「あの、依頼書が……」

 

「へ?……あっ⁉す、すみません‼」

 

そう言って、依頼書から手を離す。

あぁ、破れてる……。

 

「でっでは!依頼、頑張って下さい‼」

 

「え、あ、はい」

 

何故か顔を真っ赤にしながら言ってくるので、追求はしなかった。

 

出口に歩く中、少し破れた依頼書を眺め、呟く。

 

 

「……この依頼書、使えるかなぁ……」

 

☆☆☆

 

金色の草が風で靡く。心地よい風が頬を撫でる。

リオンは遺跡平原に到着した。

 

「ありがとう。ガーグァタクシーさん」

 

「はいニャ!依頼、頑張って下さいニャ‼」

 

ここまで連れて来てくれたガーグァタクシーのアイルーにお礼を済ませ、気を引き締める。

今日の目的は採取、そしてあわよくば野良大型モンスターの討伐。

 

「……いるな」

 

リオンは昔から何故か察知能力が異常に高く、幼少時は100m程までなら親の位置がすぐにわかったくらいだ。

 

取り敢えず、モンスターの細かい位置はまだわからないが、この遺跡平原に大型モンスターがいる事は分かった。

 

 

ガーグァタクシーで縮こまっていた身体を伸ばし、ほぐす。

 

程よく筋肉を伸ばした後、アイテムBOXから取り出す。

 

「さてと……じゃあ、行くか」

 

 

☆☆☆

 

 

「……いた」

 

リオンが慎重にエリアを進み、エリア2に来たとき、そいつは姿を表した。

 

エリア4から前脚の飛膜を広げて滑空し、エリア2のツタへ着地した。枝渡りに適した特徴的な構造の手足を使い、勢いを殺す。

 

ケチャワチャ。『奇猿狐』とも呼ばれる牙獣種のモンスター。

 

図鑑では見た事があるが、生で見るのは始めてだ。

 

 

幸い、まだこちらに気付いてはいない。

 

気配を殺し、一歩一歩慎重に歩を進める。

 

 

だが、ケチャワチャはツタの上にいる。

 

ケチャワチャを警戒するには、当然上を見るから、下の警戒が疎かな訳で____

 

 

パキン

 

「あ」

 

リオンの脚が、落ちていた木の枝を踏み抜いた。

 

ケチャワチャがリオンを見る。

 

視線がぶつかり、動きが止まる。

 

見つかったことに気付くのに、一瞬反応が遅れた。

 

急いで耳を塞ごうとしたが時既に遅し。

 

空気を震わすケチャワチャの咆哮が開戦の合図となった。

 

 

☆☆☆

 

「ぐえっ」

 

リオンはネコタクから勢いよく地面へ落とされ、うめき声が漏れる。

 

人生初のネコタク。

これは辛い。痛い。もっとソフトに降ろして欲しい。

 

あのあと、なんとか体制を立て直し、良いところまで言ったのだ。

だが攻め急ぎ過ぎ、体力の事をあまり考えていなかった。

 

ケチャワチャが滑空している時に、どこから来たのかメラルーがリオンに攻撃したのだ。

 

一瞬だけ動きが止まる。

 

 

たかが一瞬。されど一瞬。

 

その隙が命取りとなった。

 

 

滑空して来たケチャワチャを避けきれず、直撃。

体力も持たず、ネコタクされたのだ。

 

「……盗られたのは石ころか」

 

不幸中の幸いは、盗られたのが研ぎ石や回復薬ではなく、石ころだったということ。

採取しておいて良かった。

 

「……ん?」

 

リオンはケチャワチャの他に何かの気配を捉えた。

 

それも、ケチャワチャより遥かに強い。

まだ遺跡平原にはいないようだが、確実に近づいて来ている。

 

「……早めに倒さないとな」

 

ジャギットショテルを研ぎ直し、こんがり肉を頬張り、目的地まで一気に駆け出した。

 

 

 

 

 



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4

 

 

 

ケチャワチャはエリア4にいた。身体の所々に傷があり、左手の爪もひび割れている。

そんなケチャワチャは段差の前でこちらに背中を向け、ゆったりと歩いていた。

 

 

 

モンスターを攻撃する手段の一つとして、ジャンプ攻撃というものがある。

 

段差などを使い、落下しながら攻撃を行い、モンスターのダウンを狙う技だ。

 

そして転倒したモンスターに飛び乗り、ナイフで何度も刺すことによって、より長いダウンをとることが出来る。

 

 

そして、こちらに気付いておらず、背中を無防備に晒し出している今は、ジャンプ攻撃に絶好のチャンス。

 

 

 

リオンはケチャワチャに向かって一気に駆ける。

 

段差で地面が途切れる直前で、思い切りジャンプ。

 

空中で双剣を抜刀する。しゃりぃいん!という鮮烈な刃鳴りが響き渡り、双剣の刃が太陽の光を反射し、ギラリと輝く。

 

そして突進と落下の勢いを余すことなく乗せた斬撃が、ケチャワチャの背中を深く切り裂いた。

 

ケチャワチャは思わず前に転倒した。

リオンはケチャワチャが起き上がる前に、その背中に飛び乗った。

 

そして、剥ぎ取りナイフを取り出し、滅多刺しにしようとするがケチャワチャはリオンを引き剥がそうと、暴れ始める。

 

暴れている間は気を抜いていると振り落とされるので、思い切りしがみつく。

 

そして暴れが止まると剥ぎ取りナイフで背中を刺す。抜く。

 

 

刺して抜いて、刺して抜いて刺して抜いてさしてぬいて____

 

 

また暴れ始める、が今度は攻撃を辞めない。

そのまま突き刺し続け____

 

ケチャワチャは堪らず転倒した。

 

 

ケチャワチャの背中と地面に潰される前にケチャワチャから飛び降りたリオンは、立ち上がろうともがくケチャワチャに二段切り、そこから鬼人化、鬼人乱舞を叩き込み、鬼人強化へと繋げる。

 

 

ケチャワチャは起き上がり、リオンに右手を伸ばし、爪で切り裂こうとする。

 

それをリオンは脇へステップしながら躱しつつ斬りつける。

パキンと、ケチャワチャの右の爪が砕け散った。

 

ケチャワチャが一瞬うめき声をあげ、止まる。

すかさず鬼人連撃を叩き込んだ。

 

 

一度ネコタクされたのが良かったのだろうか。リオンの動きに淀みがなくなっていた。

 

鬼人連撃フィニッシュがケチャワチャの背中を深く刻み、ケチャワチャは再度転倒した。

 

そんな無防備な背中を双剣がさらに苛烈に切り刻む。

身体から迸る紅いオーラが、宙に幾つもの弧を描く。

 

 

リオンは完璧に戦いの主導権を奪うことに成功した。

 

ここからは、一方的な展開となった。

 

☆☆☆

 

「っらぁっ‼‼」

 

双剣をニ閃。

ケチャワチャは大きく空を仰ぎ、糸が切れたかのように地面倒れこみ、ピクリとも動かなくなった。

 

ケチャワチャの素材を剥ぎ取り、時間を確認すると、残り30分は残っている。

 

因みにこのジャギットショテルの強化に必要な素材の、奇猿狐の長骨を剥ぎ取る事が出来た。ラッキー。

 

 

 

「……っ!しまった!」

 

突然、強大な気配を感じた。

近い。

しかも隣のエリアからこちらに向かってきている。

 

「くそっ‼」

 

急いで岩陰に身を隠すが、その意味は無かった。

 

モンスターは上から飛来してきたのだから。

 

 

燃えるような紅い鱗をまとい、空から悠然と降下してくる。

毒を含む強力な爪を持ち、その優れた飛行能力から『天空の王者』と呼称され、畏れられる飛竜。

 

雄火竜リオレウス。

 

 

子どもでも知っている、最も有名と言ってもいい飛竜。

 

縦の瞳孔の蒼眼は真っ直ぐこちらを睨みつけている。

到底逃がす気は無い様だ。

 

 

「……何処までやれるか、やってみるか」

 

リオンは背中からジャギットショテルを抜き、構える。

引きつった顔で無理やり笑みを作り、リオレウス見返た。

 

それが気に障ったのか。

 

リオレウスは息を大きく吸い、ケチャワチャとは比べものにならない程の咆哮が、遺跡平原に木霊した。

 

 



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5

 

灼熱の火球が空気を焦がしながらリオンに迫る。

それをリオンは最低限の動きでかわそうとするが、火球から放たれる風圧でよろめく。

 

「ぐっ!」

 

 

そこへまた炎のブレスがリオンに迫る。

紙一重は無理だと判断したリオンは、右へ大きく前転回避する。

少し動き出しが遅かったが、からくも回避に成功する。

そしてリオンは視線をリオレウスに戻すと____

 

リオレウスの大きく開かれた顎が目の前にあった。

 

「っ⁉」

 

速いっ‼

 

無理やり身を捻る事で、そのままかぶりつかれる結末は逃れられたが、突進自体は躱す事が出来ず、ろくな防御姿勢もとれぬまま、猛スピードで迫るリオレウスと激突した。

 

ドスジャギィの体当たりやケチャワチャの突進とは比較にならない程の衝撃が、リオンの身体を襲っった。

リオンの身体は蹴り飛ばされた小石のように吹き飛び、力なく墜落する。

地面に身体を強かにぶつけ、それでも突進を受けた勢いは止まらず、ごろごろと数回地面を転がった。

 

 

身体中を襲う激痛を堪えながら、リオンは思考する。

 

なるほど。

強い。

 

さすがは飛竜。

このままでは勝てない。

 

リオンは一度離脱を考え、次の攻撃に備えるため、リオレウスを見ようと痛みを堪え起き上がるが、その姿が見えない。

 

「……あれ? 」

 

リオンは忘れていた。

リオレウスの空の王者たる由縁を。

 

辺りが突然影に包まれ、もしやと思い視線を上に向けると、リオレウスの毒を含む鋭い爪が目前に迫っていた。

 

 

☆☆☆

 

「いてっ」

 

ネコタクから乱暴に落とされる。

どうやらというかやはりというかベースキャンプ。

 

人生二回目のネコタク。

 

 

採取ツアーで人生初と二回目のネコタクを経験するとは思ってもいなかった。

 

 

そして、またベースキャンプからエリア1へ走ろうとして、止まる。

 

 

俺が遺跡平原の採取ツアーに来たのは、武器の性能を試すためだ。

 

本来の目的は十分達成できた。

これ以上行く必要はない。

 

「……どうしようか」

 

 

だけど、なんかこのまま引き下がれない。

でも負けは目に見えている。

ここはぐっと堪え、ネコタクチケットを納入し、そのままバレバレへ帰る方が正解なのだろう。

 

しかし、ここで遥かに強い相手との戦いを経験しておくことも大事だろう。

幸いクエストを失敗してしまっても、これは採取ツアー。

依頼主が困っている訳では無い。

 

というか、そもそも下位の採取ツアーにリオレウスなんかの大物が出現すること自体が異例だ。

 

「うーん……」

 

クエスト失敗はしたくない。

しかし、リオレウスと戦っておきたい。

 

 

 

 

 

 

それに、今この間も俺と一緒にバレバレに来た幼馴染ハンターは、まだ俺が戦ったことのないモンスターを討伐しているかもしれない。

 

 

……そう考えたら、なんか負けたくなくなって来た。

 

 

「……やっぱり、リベンジしよう」

 

あいつが帰ってきたら、何だまだそんな所なのか?とか言って、驚かせたいから。

 

俺はもう一度リオレウスに挑む。

 

 



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6

 

 

リオレウスは変わらずエリア4にいた。

接近するリオンに気付くと、咆哮をしようとするが、リオンが先にあるものを投げた。

 

放物線を描き飛翔するソレは、リオレウスの目の前で、破裂した。

瞬間、視界が白一色に染まる。

支給用閃光玉だ。

 

運良く山菜じいさんから貰ったものだ。

 

リオレウスが飛行中に投げると1番効果的らしいのだが、そんなモノを狙っていたら、あっという間に倒れてしまう。

 

丁度手頃な段差なあったので、そこからジャンプ攻撃。

しかし、リオレウスの甲殻をジャギットショテルの刃が浅く切り裂いただけで、リオレウスは転倒しない。

 

リオレウスが尻尾を振り回す。

リオンはすぐさま足元に移動し、乱舞を繰り出す。

 

だが、強靭な鱗に全て弾かれる。

乱舞が終わるか終わらないかの時、リオレウスが翼を大きく後ろにそらす。

 

リオンは直感的に横転する。

 

瞬間、リオンが先刻までいた場所に火炎玉が着弾していた。

リオレウスは空中へと飛ぶと同時に、火球を放ってきたのだ。

 

火球が着弾して燃える地面を視界の端に捉えながら、リオレウスから視線をそらさない。

リオレウスの些細な動き、筋肉の動き、瞳、全ての挙動を見逃さないよう、凝視する。

 

リオンは自身の父の言葉を思い出していた。

 

 

モンスターには攻撃の前、何かしらの決まった予備動作が必ずある。

それを見極め、モンスターの動きを予測する。

これを完璧にこなせば、全ての攻撃を回避する事が出来る。

どんなに高威力の攻撃も______

 

 

父がよく言っていた。

 

最後の方だけを何故か感情を込めて話していた、しかし何故か妙に聞こえが良いので、今でも覚えている言葉。

 

今は亡き父に、虚妄でもいいのから、少しでも力を貸してもらえるようにと、腹から叫んだ。

 

 

「__当たらなければ、どうという事は無い‼」

 

 

 

 

 

リオレウスか首を少し持ち上げる。口から炎が漏れる。つまり火球ブレス。

 

これを横に移動する事で回避。

 

今度はリオレウスの体全体が、少し浮く。それは勢いを着けるための助走。つまり、低空飛行の突進。

 

今度も横に前転で回避。

 

こうして回避していると、いつ隙が出来るかが分かってくる。

 

リオレウスは突進の勢いを殺すため、脚にすごい力が掛かるため、その瞬間は自由に動けない。

 

「らぁっっ‼」

 

ジャギットショテルがリオレウスの脚を切り裂く。吹き飛ぶ紅鱗、吹き出る鮮血。

 

ここで始めて、攻撃するリオレウスに、目に見える傷を与えた。

 

 

 

しかし、隙は短い。

 

リオレウスは体制を立て直し、尻尾を振り回す。

 

リオンは、数回ジャギットショテルで脚を斬りつけると、すかさず前転をし、リオレウスの尻尾を掻い潜り、距離をとる。

 

リオレウスはリオンに殺気を乗せた視線を向けてくる。まるで、首筋に鋭い刃を当てられている様な感覚に陥り、ゾワリと背筋にむかでが走る。

 

これが、狩人の目。絶対的な強者が見せる、本気の殺気。

 

 

しかし、先程とは違いすぐには動かず、此方を警戒している。

 

取り敢えず、警戒すべき相手として、認められたらしい。

 

大きく息を吐きながら、リオンは周りを確認する。

 

まず、真っ直ぐ前にはリオレウス。

そして、リオンのすぐ右側には壁があり、その壁はリオレウスの少し後ろまで続いており、左側には落ちたら死ぬであろう崖。

 

リオレウスが首をもたげ、口から炎が漏れ始める。

 

瞬間、リオンは思考を高速回転させる。

 

 

 

 

この道幅じゃ火球を避けるには難しい。

 

 

避けたとしても、火球の風圧でよろけて次に備えられない。

 

 

でも後ろへの回避も間に合わない。

 

 

 

_____だったら。

 

 



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7

リオンが弾かれたように動きを出すのとリオレウスのアギトから、暴力的な熱を秘めた必殺の火球が放たれたのは、同時だった。

 

 

 

リオレウスの火球が放たれた瞬間、リオンは“右斜め前”、つまり少しずつ“壁側”へ寄りながら、前へ全力で走りはじめた。

 

火球とリオン。

彼我の距離が、凄まじい速度で減少する。

 

10m、6m、3m、___

 

 

そして途轍もない熱量を放つ火球がリオンに直撃する寸前、リオンは驚くべき行動に出た。

 

リオンは一瞬身を沈めると、壁へと一気に跳躍した。

 

そして壁に足をつき、そのまま前へと走りはじめる。

 

 

 

そう、壁走り。

 

 

火球がリオンの後方に流れ、視界から消える。

 

リオン自身、自分はこんな事が出来るとは思っていなかった。

しかし、迷いはなかった。

 

そしてリオンはそのまま壁を走り続け、リオレウスの少し手前で、壁からリオレウスの背中目掛けて跳ぶ。

 

 

「ウォォォォォォォッ‼‼‼」

 

 

流れるような動作で双剣を抜き放ち。

二筋の流星が閃いた。

 

 

それは前進運動と落下運動の力を余す事なく剣に乗せた一撃。

 

 

双剣の刃は、リオレウスの鱗を砕き、鱗の下の皮を斬り裂き、肉に到達した。

 

 

 

グルゥッ⁉

 

 

リオレウスが始めて呻き声を上げて、転倒する。

 

リオンの体力的にも、クエストの残り時間的にも最後のアタックチャンス。

 

リオンは着地後、リオレウスの背中に飛び移る。

 

 

そして腰から剥ぎ取りナイフを抜き放ち、先程斬り裂いた部分に突き刺す。

 

そこでリオレウスが激しく暴れる。

リオンの身体にケチャワチャとは比べものにならない程の遠心力が襲い、身体の下半身が空中に投げ出される。

 

 

 

「うぁぁぁぁっ‼」

 

 

 

しかし、手は絶対に離さない。

 

ここはリオレウスのスタミナとリオンの根性の勝負だ。

 

 

リオレウスがリオンの身体を大きく振り回す度に、凄まじい重力がリオンの身体を貫く。

 

しかし、リオンを振り回せば振り回すほど、リオレウスのナイフを刺している背中の傷口は大きくなる。

 

 

この勝負に勝ったのは____

 

 

 

____リオンだった。

 

 

リオレウスが呼吸を荒くして、動きを止める。

 

 

「っっったぁぁぁぁっ‼‼」

 

 

これぞ待ちわびた瞬間。

 

リオンは次に振り回されたら、しがみつけるだけのスタミナも根性も残っていなかった。

 

 

リオンは腕の筋肉がねじ切れんばかりの勢いで剥ぎ取りナイフを刺し抜きする。

この刺して抜くという単純作業に、まさしくリオンの全身全霊が込められていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼‼‼‼」

 

 

 

 

しかし、リオレウスは呼吸を整え、身体を揺らし始め_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___リオンが吹っ飛ぶのと、リオレウスが転倒するのは同時だった。

 

 



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