百足女郎奮闘記 (nenenene)
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復活のムカデ女。

 

 

 ……あたたかい。

 

 柔らかな光に包まれた彼女は、うっすらと目を開ける。するとそこは謎の空間だった。幾千もの光が乱舞する幻想的ともいえる光景。

 

「ここは……一体?」

 

 彼女は考える。なぜこんなところに? しばし考えたのち、

 

「そうか! あの時の!」

 

答えが出た。彼女は以前、四魂の玉がほしくて、桔梗という巫女のいる村を襲撃したことがあった。だが、あのとき、彼女は返り討ちにあって殺されたのだ。

 

 とすると、ここは死後の世界か?

 

 彼女はそう考察する。だが、直後にそれを否定する。

 

 否! これが死後の世界の筈がない。キチンと自分の身体が感じられる。何年も体を動かしていなかったのだろう。全身のだるみがある。それに、のどの渇きも。何年も何も食していなかったのような、飢餓感。これが死後の世界の筈がない。これは現実だ。

 

 だが……。

 

 彼女は疑問に思う。確かに死んだはず。何百という矢を全身に浴びたのだ。あのときの苦痛、絶望、後悔、無念。それをはっきりと覚えている。そのはずなのに……それがなぜまだ生きているのか?

 

 答えを探し求めて、彼女は周囲をきょろきょろと見回す。

 そこで、彼女は気付く。

 

「四魂の玉だ! 四魂の玉がある!」

 

 彼女の右斜め後ろ。そこには、一人の少女。奇妙な服を着ているその女の体内には、四魂の玉の気配があった。

 

「うれしやー。うれしやー」

 

 おそらくは、四魂の玉から漏れ出る妖力によって、復活することが出来たのだろう。何という僥倖か!

これほどの幸運を見逃す妖怪がいるだろうか? いや、いない。彼女は、さらなる四魂の玉に力を求めて、少女へと向かう。

 

 幸いなことに、少女は気絶しているらしい。彼女が近づいても、何の反応も示さない。これならば、簡単に四魂の玉が手に入りそうだ。自身の余りの幸運に、彼女はほくそ笑む。少女の体内にある四魂の玉を取り出すべく、彼女は腕を伸ばす。

 

「ん?」

 

 そして、気付く。この少女……ただの人間ではない。かなりの霊力が感じられる。四魂の玉を預かっているだけあって、恐らくは名のある巫女なのだろう。

 

「ぐふふふふふふふふふ」

 

 彼女は奇怪な笑い声を上げる。何と言う幸運か! 四魂の玉に加えて、有力な巫女の肉まで手に入るとは!

 

「丁度いい! 腹が減っておるのだ。復活したばかりでな!」

 

 彼女は大口を開け、少女の頭部へと齧りつく。

 

 ブチッ!

 

 子気味の良い音。少女の頭部は胴体から永遠に分離し、彼女の口の中に納まる。残された胴体からは、鮮血が噴出。彼女の身体を赤く濡らす。

 

バリバリ。

 

 彼女は自分の身体が血で汚れるのを異に返さない。人間の体の中で最も頑丈な場所、頭蓋骨を豪快にかみ砕く。

 

 ごっくん。

 

 嚥下する音。

 

「おおおお! 何と美味な巫女か! 力がみなぎって来る!」

 

 幾年もの間、何も喰っていなかった彼女。空腹からか、少女の肉が非常に旨く感じられていた。彼女は、少女の遺体へと豪快に食らいつく。

 

 ばり!

 

 少女の左腕か噛み千切られ、一瞬後には嚥下される。

 

 ボリボリボキ!!

 

 少女の胴体が妖怪の腹の中に納まり、消えてなくなる。

 

 バクバク!

 

 残された右腕と両足が、まとめて彼女の口の中に放り込まれる。

 

「おおおおおおお! 力が! 力が溢れるウウウウ!!!」

 

 彼女は絶叫を上げる。少女の身体の中にあった四魂の玉。それが今では彼女の体内に存在していて、彼女へと大量の妖力を供給しているのだ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 彼女は咆哮を上げる。凄まじい力だった。

 

 ごくごく何処にでもいる、百足女郎。それが彼女だったはずが、四魂の玉を吸収することにより、今では別の存在へと進化していた。

 

 溢れ出る、力! 力! 力! 凄まじい妖力の塊。このとき、彼女は大妖怪を超える大妖怪、超級妖怪へと変貌していた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 凄まじい!!! 何という力!! これが妾の力なのか!!!」

 

 彼女は、自身の身体を見下ろす。まず目に入るのは、胸。ムカデ妖怪といっても彼女もまた女。自分の胸が気になるのは当然だった。以前から、かなり大きく一族の中でも羨望の的だった彼女の胸。それがサイズアップ。彼女の胸部には、丸々としたメロンが実っていた。

 次に目が行くのは腕。細かった四本の腕は、筋肉質なものに変化。丸太のように太く、巌のように固い。

 最後に、身体。彼女が百足女郎である以上、ムカデだ。細長い胴体に、何十本という足がついている。彼女はその内の一本に意識を集中。軽く振るってみる。

 

 ヒュン!

 

 結果は劇的だった。彼女の振るった足からは、妖力の暴風が吹き荒れる。周囲を滅茶苦茶に破壊。さらには、空間に亀裂が生じる。

 

「なんだ?」

 

 空間の亀裂。その向こうから人間の匂いがしてくる。美味そうな匂い。

 

 グウウ!

 

 腹が鳴る。何十年も何も喰っていないのだ。腹が減った。人間が一人では足りない。もっと。もっと、沢山の肉を。人間の匂いに引かれ、彼女はふらふらと亀裂へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 日暮かごめ。本来の物語においてヒロインとなるはずだった少女は、こうしていとも容易く喰われて死んだ。幸運にも、かごめは気絶したままだったので、自らの死を自覚することも無かった。

 

 



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犬夜叉との遭遇

 

 

 百足女郎が亀裂から出た先、そこは井戸の底のようだった。ただし、底に水はない。枯れ井戸のようだ。百足女郎はそう考察し、井戸から這い出る。

 

 井戸から出ると、どうやら森の中のようだった。井戸の周囲は広場のようになっていて、木が存在しない。いや、広場には一本だけ木が立っている。その一本は周囲の木々よりひときわ大きくて、目立つ。

 

 何の気なしにその巨木の根元付近を見た百足女郎は、その根元付近に一人の少年がいることに気付く。少年の心臓付近には矢が突き立てられている。その矢に宿る妖力から考えて、どうやら封印されている模様。

 少年は白髪、赤い袴を着ている。頭には犬ミミ。妖怪か? 一瞬そう思うが、すぐに間違いに気づく。少年からは妖怪の匂いに加えて、人間の匂いもしているからだ。

 

「半妖か……」

 

 半妖。それは出来そこないの代名詞だ。百足女郎は軽蔑の視線を少年へと向ける。人間でも、妖怪でもない。中途半端な存在。

 

 グウウ!

 

 またも腹が鳴る。

 

「まあ……半妖でも腹の足しにはなるか」

 

百足女郎はそう呟くと、空腹に促されるまま、半妖の元へと向かおうとする。

 

だが、途中で足を止める。

 

「何だ?」

 

 無数の糸。森の奥から、何千本という量の糸が飛来。少年の周囲に、無数の糸が張り巡らされる。否。少年の周囲だけではない。糸は、縦横に移動。井戸と大木の周りにある、広場のような空間。その広場全体に張り巡らされた。

 勿論、百足女郎の周りにもだ。

 

「これは……髪か?」

 

 百足女郎がいぶかしげな呟きを漏らす。なぜこんなところに髪が? いや、この髪。妖力を感じる。となると、どこかにこの髪を操る妖怪がいるな。百足女郎はそう推測する。

 

 それは的中した。

 

「あら、あんた見えるんだ? あたしの髪」

 

 頭上から、少女の声が降ってきたのだ。その声を聞いた百足女郎は、声の方へと視線を向ける。

 

 視線の先。そこにいたのは女の子。空中に張られた髪の一本。その上に、器用に立っている。

 見かけは人間だが、少女からは妖力を感じる。どうやら、妖怪のようだ。この妖気には覚えがある。確か……鬼か? 随分と可愛らしい鬼もいたものだ。黒髪、紅眼。おかっぱ頭に、赤い布を巻いていて、髪飾りにしているようだ。

 

 少女が着ているのは、黒い着物。その着物は、おへそが見えるほどに大きく胸元が開かれ、着物から零れ落ちそうなほど大きな二つの果実を見せつけてくる。また、その着物には袖がなく脇下も大きくえぐれているため、正面の谷間だけでなく横乳もその存在感を主張している。

 

 その上、女の子の着物は、あまりに丈が短く太ももがほとんど露出。下から見上げているせいで、百足女郎からは少女の穿いている朱色の大胆な下着が丸見えだった。

 

 桃のような胸に、雪のように白い肌、そしてくりっとした紅い大きな瞳。そんな美少女が、己の肉体を見せつけるような露出の高い服装をしている。

 

「そなた、何者だ?」

 

 百足女郎は少女へと問いかける。

 

「あたし? あたしは、逆髪の結羅。覚えなくていいよ。あんた、どうせすぐ死ぬんだから」

 

 答えなど期待していなかったが、意外とあっさり、少女は名を名乗った。どうせすぐ死ぬなどというのは余計だが。

 

「あの半妖は、あたしの獲物。あのタップリした銀髪を操って遊ぶんだから、邪魔しないで」

 

 そう言って少女は、半妖の少年をちらりと見る。

 なるほど。百足女郎は一人で納得する。この少女が周囲の髪を操っている犯人と考えて間違いなさそうだ。少女の言うように、少年の髪は銀色。普通、たいていの人間や妖怪は黒髪。銀髪など珍しいから、コレクションにでもする気なのだろう。

 

「それにしても、そなた、かわいいのう。男どもの欲望を具現化したかのようだ」

 

 百足女郎は結羅へと話しかける。その瞳は嗜虐心から歪んでいた。この少女はかなり可愛い。身体を大きく露出した服装をしているのは、背伸びしたい年頃だからなのだろう。そんな少女を蹂躙して、強姦して、喰い殺す。何と楽しそうなことか!

 

「うふふ、勿論よ。あたしは鬼族一の美少女なんだから」

 

 そう言って、自慢げに胸を張る結羅。自慢するだけあって、少女の胸はかなり大きい。桃サイズはある。だが、

 

「胸の大きさでは妾が勝っているようだがな」

 

 百足女郎とて負けてはいない。というか、圧勝だ。四魂の玉の力で強化された結果、百足女郎の胸は西瓜や南瓜のように巨大になっているのだから。少女の持つ桃サイズの胸など、百足女郎からすれば雑魚同然だ。百足女郎も胸を張り、その巨乳を見せつける。

 

「胸は大きいけど、でも、おばさんは醜いわ。顔は不細工だし、第一、何その身体? ムカデみたいで気持ち悪いわね」

 

「おば、さん?」

 

 意味が理解できない。何を言っているのだ? この少女は?

 

「あら、気に障ったの? ごめんなさいね? でも、どう見てもブスだし」

 

 少女が嘲りの表情を浮かべながら、そんなことを言う。

 

「ブス?」

 

 百足女郎は自覚した。頭の中の血管。それがブチブチと破裂しているということを。

 

「くすくすくす。どうしたの? 顔が真っ赤よ、お・ば・さ・ん」

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 余りの屈辱。余りの恥辱。百足女郎は咆哮を上げる。同時に、疾走。ムカデの身体大きく伸ばして、空中に浮かぶ少女へと向かう。

 

 だが、肝心の少女はひらりと身を翻して、さらなる高みへ。空中に張られた別の髪、その上へと華麗に着地した少女は余裕綽々と言ったようだ。

 

「どこ見てるの? あたしはここよ? お・ば・さ・ん!」

 

 そう言って少女は、百足女郎を挑発。同時に少女は、両手に巻き浮いた髪でアヤトリを始める。

 

 なんだ? 百足女郎は一瞬、怪訝に思う。だが、少女が何をするつもりなのかが分からなかったのだ。だが、答えはすぐに明らかになる。周囲の森に張り巡らされていた髪が動き出し、自分へと向かってきたからだ。

 

 百足女郎は、慌てて髪を回避する。だが、何百本という量の髪。そのすべてを回避することは出来ない。たちまちの内に、全身を髪で拘束されることとなる。

 

 しまっった! と、百足女郎は焦る。これでは身動きが……あれ? 違和感がある。この髪はもしかして? 百足女郎は疑問に思う。試しに、足の一本に力を入れてみる。少女に気付かれないよう、ほんの少しだけ。ほんの少しだけ動かす。

 

 ブツリ。

 

 髪の切れる音。予想通りだ。この髪は大した強度がない。それも当然か。一人、百足女郎は納得する。妾は四魂の玉を取り込んでおるのだ。こんな髪程度で、どうこうできるものではない。

 

 だが……このまま簡単に脱出してしまうのでは面白くない。この生意気な小娘にはタップリと恐怖を味合わせてやるのが良い。そう考えた百足女郎は、自分が拘束された振りをする。

 

「くすくすくす。これで身動きできないわね。一応回収しておこうかしら。ムカデ女の髪なんて欲しくもないけど」

 

 一方で、結羅の台詞。どうやら少女は、百足女郎を拘束できたと信じ込んでいるようだ。腰の刀を抜いて、無防備に百足女郎へと近づく。

 

「これは紅霞」

 

 そう言って、少女はうっとりと刀をめでる。

 

「髪を切らずに、肉と骨を断つ鬼の宝刀。要するにね、髪で縛ったままオバサンを切り刻めるってわけ」

 

 そう言うや、少女は刀を構えて、百足女郎の首を切り落とそうとする。

 

 だが、

 

「誰がオバサンじゃ!! 小娘!!!」

 

 百足女郎の咆哮。四魂の玉の力によって大幅に強化された彼女は、容易く少女の髪を引き千切ると、少女の心臓に腕を突き立てる!!

 

「っ!?」

 

 少女が驚愕の表情を浮かべる。少女の胸。そこには拘束していた筈の百足女郎の腕が突っ込まれ、反対側にまで貫通している。

 

 ずばっ!

 

 百足女郎は乱暴に右腕を引き抜く。勿論、少女の心臓を抉り出すのも忘れない。

 

「おーほほほほほ。ざまーないの? 小娘よ」

 

 百足女郎は、取り出したばかりの鬼の心臓を一飲み。ろくに咀嚼することも無く、嚥下する。

 

「おお! さすがは鬼の心臓! 中々美味ではないか!」

 

 百足女郎は満足げだ。

 

 だが、そんな百足女郎の脇では、心臓を失い、死んだはずの少女が動く。憤怒の表情を浮かべながら。

 

「死ね! 鬼火櫛!」

 

 少女は櫛を振るい、髪を梳く。すると、不可思議な現象が生じた。結羅が髪を梳いたところから炎が発生。髪を伝って、その炎は百足女郎を直撃。

 

 爆発!

 爆炎が百足女郎の全身を覆い、その姿を覆い隠す。

 

「ムカデ女風情が! 骨の髄まで焼かれて死になさい!」

 

紅霞と同様、鬼火櫛もまた鬼の宝具だ。鬼火櫛で髪を梳くと、そこから鬼火を生み出し、敵を攻撃することが出来る。その威力たるや、宝具だけあって絶大。

特に先程のは、ごく至近距離からの渾身の一撃。これで生きている筈がなかった。

 

 少女は自身の胸を見下ろす。オッパイとオッパイの間。そこには大穴が開き、血が出ていた。

 

「あって間もない女の懐に腕を突っ込むなんて……なんて図々しいオバサン何だか」

 

 結羅の独白。焼け死んだムカデ女になど、少女は興味がなかった。彼女は踵を返す。

 

 少女の向かう先。それは木に封印された半妖だ。元もと結羅は、半妖の銀髪を集めにやって来ていたのだから。

 

 

 



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エピローグ

 

「動かないでね。動くと、その綺麗な銀髪が血で汚れちゃうから」

 

 封印されている半妖――犬夜叉に向け、結羅はそう声を掛ける。勿論、犬夜叉は封印されている。呼びかけになど反応する筈はない。

 

そのはずなのだが……

 

「誰だ? お前?」

 

 反応があった。

 

 犬夜叉が目を覚ましたのだ。

 

「え?」

 

 反応があるとは思ってい中たのか、結羅は目をパチクリさせる。

 

「あたしは結羅、逆髪の結羅。その綺麗な銀髪をいただきに来たのよ」

 

 そう言って少女は、艶やかにほほ笑む。

 

 バシュ! コロコロコロ。

 

 結羅の一閃。鬼族の宝刀である紅霞は、容易く犬夜叉の首を両断。犬夜叉は永遠の眠りにつくこととなった。

 

「くすくすくす。それじゃあ、早速……」

 

 結羅は地面に転がる犬夜叉の頭部を回収しようと、腕を伸ばす。

 

「!!」

 

 瞬間、悪寒が走る!

 本能の命ずるまま、結羅は地面に転がる。

 

 直後。轟音とともに、何かが結羅の脇を通過。少女の左腕が引き千切られる。

 

「な!?」

 

 結羅の顔が、驚愕に歪む。少女の左腕を引き千切ったものの正体。それは百足女郎だった。百足女郎は、右手で結羅の左手を掴み、左手で犬夜叉の頭部を握り、その口には犬夜叉の胴体を咥えていた。

 

 バリボリバリ!

 

 骨を砕く異様な音と共に、犬夜叉の身体は百足女郎の口の中へと消えていく。胴体を食べ終わると、今度は犬夜叉の頭部。巨大な口で一飲み。最後に結羅の左腕。ムシャムシャと咀嚼していく。

 

「ムカデ女! あんた! 死んだんじゃ!?」

 

 少女には意味が分からなかった。鬼火櫛の直撃を受けて無事!? そんなのあり得ない!? 結羅の頭の中は混乱で一杯だった。

 

 だが、現実は無情。手持ちの肉をすべて食べ終えた百足女郎は、結羅へと向き直る。そんな百足女郎の瞳には、憤怒の炎が燃え盛っていた。

 

「ひっ!」

 

 思わず、結羅は一歩後退する。

 

「小娘。心臓を貫かれても死なないとは、魂移しを使っているな?」

 

 百足女郎の宣告。その声は確信に満ちていた。

 

 ギクリ。

 

 図星だった。結羅が心臓を貫かれても死んでいない理由。それは魂移しによるものだ。少女は、自分の魂を櫛の中へと移し替えることで、どれだけ肉体が傷付いても死なない身体を手に入れていたのだ。だが、その仕掛けは余りにもあっさりと看破された。結羅の背中を冷たい汗が流れる。

 

「恐らく本体は……」

 

 百足女郎の独白。彼女は視線を巡らす。周囲に張り巡らされた無数の髪。その中の何本かが光っていて、それらが結羅の指に巻き付けられているのが百足女郎には見えていた。つまり、光る髪が他の髪を操る本線だ。

 

 であれば、光る線を辿って行けば、そこに本体がある!

 

「こっちだな!」

 

 百足女郎は西へと向きを変え、疾走を開始。途中邪魔になる木々をなぎ倒し、岩々を粉砕しながら、平原を走る肉食獣並みの猛速を出す。

 

「ちっ!」

 

 結羅の舌打ち。百足女郎の向かった先。そこには結羅の巣があり、そこに少女の本体が隠されていたからだ。残った右腕の髪を手繰り寄せた結羅は、器用に髪を操って、百足女郎を追跡する。

 

 だが、

 

「そんな! 追いつけない!?」

 

 百足女郎は速い。余りにも速かった。全く追いつけない。結羅が自分の巣を視認したとき、それは無茶苦茶に破壊されていた。百足女郎が巣の内部に進入したのは明らかだ。

 

「急がないと!!」

 

 結羅は焦る。本体が破壊されれば、それでおしまい。死んでしまう!!

 

「死にたくない!!」

 

 死への恐怖。そんな結羅自身は、命乞いする人間達を何万人と殺して遊んでいたのだが。いざ、自分の生命が危機にさらされると、恐怖しかなかった。

いつしか、結羅の瞳からは涙が溢れ、その頬を濡らす。

 

 だが、現実は無情。そのときはきた。

 

「あっ」

 

 感覚で分かる。結羅の魂を収めた本体。その本体を隠す髑髏が、たった今壊されたのだ!

 

「やめて! たすけて……」

 

 少女は、命乞いを口にする。しかし、そんなものは無駄。百足女郎には聞こえないし、聞こえたところで妖怪である彼女がそんなものを聞く筈もなかった。

 

 次の瞬間、結羅の身体に電流が走る。身体が硬直。全く身動きが取れなくなる。

 

「あああぁ…………」

 

 声にならない悲鳴。口の中から空気が漏れて行く。結羅は悟った。本体が破壊されたのだ。全身の細胞が光の粒子となって空気中に溶け込んでいく。

薄れゆく意識の中。少女は必死に助けを求める。

 

『いや! いや! こんなのイヤ! 死にたく……』

 

 やがて。光の粒子。その最後のひとかけらが消え。少女は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 逆髪の結羅。犬夜叉という半妖、その綺麗な銀髪を集めに来た少女。彼女は誰にも見守れることも無く、哀れに消えてなくなった。

 

 バタバタバタ。

 

 少女の服。木に引っかかった布が跡に残され、風にはためく。死んでいった主人の死を悼むように。

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 その後の百足女郎。

 

 彼女は、殺生丸を丸呑みにしたり、紫織を一刀両断にしたり、奈落を食ったりしてパワーアップを繰り返す。

 最終的に、地球上のすべての生物をその胃の中に収めた百足女郎は宇宙に進出。

 

 フリーザ様をワンパンで倒したり、ヒーロー協会を壊滅させたりしながら宇宙を放浪。

 

 強くなりすぎて不死身になった百足女郎は、永遠のときを生きることとなる。

 

 



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