東方妄想譚 ~ドタバタ☆私立幻想学園~ (さとゴン)
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プロローグ

初めまして、さとゴンです。
二次創作というか小説を書くのはこれが初めてになります。
ハチャメチャなところもあると思いますが生温かい目で見守ってください。


 

 

 

 埃まみれの蔵の中で変なものを見つけた。

 

 

 「なんだこれ?」

 

 

 倉庫の床に転がっていたのは人の拳くらいの大きさの真っ黒い珠だった。

 

 

 なんとなく気になったので手に取ってみる。

 

 

 へー、ずいぶんと綺麗な珠だな。

 

 

 そんな風に思いながら黒い珠を眺めていると、突然『パキンッ』という音とともに粉々に砕けてしまった。

 

 

 …あれ?いま僕触ってただけだよね?

 

 

 「なんか今変な音がしなかったかしら。」

 

 

 ま、まずい。あんな高そうなものを壊したと知れたら、彼女はかなり怒るだろう。

 

 

 何せ彼女はお金にとてもうるさい。その上容赦がないから、これがばれたら僕は決して無事ではいられないだろう。

 

 

 「っぶべら!」

 

 

 「あんた今失礼なこと考えてなかった?」

 

 

 「確認する前に殴らないでよ!」

 

 

 まあ確かに考えてたけどね。

 

 

 この無駄に勘のいい女の子はここ、博霊神社の巫女さんで僕の幼馴染の博霊霊夢。

 

 

 「で、今なにか音がしなかったかしら?」

 

 

 「べ、べつに何も聞こえなかったけどなー。」

 

 

 とりあえず誤魔化すことにした。大事なものだったと判明してしまったらそのとき謝ろう。

 

 

 「…それなら別にいいわ。なんか危ないものが出てきたとしても何とかできるだろうし。」

 

 

 今僕たちがいるのは博霊神社の蔵の中。この神社ができた頃からあるというこの蔵には、代々の巫女が色々なものをため込んできたらしい。もしかしたらやばい妖怪が封印されているものとかがあるかもしれない。

 

 

 …できればそんな危険地帯に僕を引きずり込まないでほしかったよ。

 

 

 「あんたが賭けに負けたんだから、うじうじ言うんじゃないわよ。」

 

 

 「僕の心の中を読まないで!」

 

 

 「私にそんな力はないわ。ただの勘よ。」

 

 

 もはや勘の範疇に収まるとは思えないんだが。

 

 

 でも実際霊夢の言うことも正しい。

 

 

 安い挑発と勝った時の景品につられたのは僕だ。

 

 

 やっぱり幻想郷最強―だと僕は思う―の霊夢に弾幕ごっこで勝とうとしたのが間違いだったか。

 

 

 僕も一応そこそこ強いんだけどね。一捻りにされちゃったよ。

 

 

 ちなみに景品は霊夢曰く「もしも万が一偶然にもあんたが勝てたら、あんたの言うことなんでも聞いてあげるわよ。」だ。

 

 

 …だってね、霊夢みたいな美少女が何でも言うこと聞いてくれるっていたら、健全な男の子ならだれでも挑まずにはいられないと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで時間は過ぎて行った。蔵の掃除もようやく終わり僕が神社の縁側でぐったりしていると神社に来訪者が現れた。

 

  

「よっと、魔理沙様のお出ましだぜ。」

 

 

 跨っていた箒から降りて、彼女は名乗りを上げた。

 

 

 まさに魔法使いといった格好をしている彼女の名前は霧雨魔理沙。こちらも僕の幼馴染だ。

 

 

 「何でぐったりしてるんだ?」

 

 

 「さっきまで蔵の掃除を手伝わされてたんだよ。」

 

 

 「あー。そういえば昨日そんな賭けしてたな。」

 

 

 それから霊夢がお茶と茶菓子を持ってきてくれたので他愛もない雑談を始めた。

 

 

 「そういえば最近、香霖んとこで本を読み耽ってるって聞いてるぜ。いったい何を読んでたんだ。」

 

 

 相変わらず魔理沙は男らしい口調だな。男の僕よりよっぽど男らしい。

 

 

 「最近は外の世界の学校が舞台の本を読んでるよ。」

 

 

 「学校って確か寺子屋みたいなものよね?」

 

 

 「そうなんだけど、外の世界の学校はただ勉学を学ぶだけじゃないんだよ。勉強以外にも運動会とか文化祭とか修学旅行とかいろいろなイベントがあるんだ!部活動とか委員会とか他にもたくさん…」

 

 

 「わかったわかった。まったくホントにお前は外の世界の話になると熱くなるな。」

 

 

 むぅ、魔理沙に途中で止められてしまった。興奮したせいか少し汗をかいてしまった。

 

 

 「いや、悪かったね。でもこればっかりはどうしようもなくてね。」

 

 

 「そんなに憧れるところかしらね。」

 

 

 「僕にとってはね。きっと幻想郷のみんなと学校に行けたら楽しいんだろうな~。一度でいいから学生生活を送ってみたいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

            僕がそう願った瞬間、異変は起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴと音を立て地面が揺れる。大気まで震わせるその振動に僕たちは直ぐには動くことができなかった。

 

 

 「な、なんだこれ!」

 

 

 「じ、地面が揺れてるんだぜ!」

 

 

 「いったい何が…っ!」

 

 

 霊夢が何故か僕を凝視する。隣を見ると魔理沙も僕を見て驚いている。

 

 

 「いったいどうし…って、ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 

 

 何が起きてるのかと自分の体を見てみると、ものすごいくらい眩く輝いていた。どうして今まで気づけなかったのだろう。

 

 

 「なっななな、なにが、どどどうなって。」

 

 

 「慌てないで!とにかく落ち着いて…」

 

 

 霊夢が言葉を言い切る前に輝きはその勢いを増していき、そして僕たちを包み込んだ。

 

 

 何故か分からないけどその光は、幻想郷中を包み込んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが幻想郷始まって以来もっとも珍妙な異変のはじまりだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご意見、ご指摘、ご感想お待ちしております。


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第1話  夢の学園生活

今回オリキャラが登場します。苦手な方はご注意ください。


前回は全く学園要素がなくタイトル詐欺になってしまいましたが、今回から学園ストーリーを

展開していきますよ!


 

 

 

「むー、いったい何が起きたんだ…ってここどこ?」

 

 

 光が消えたと思ったら知らない部屋にいた。

 

 

 おかしいな、さっきまで博霊神社に居たはずなのに。それに霊夢と魔理沙も見当たらない。

 

 

 というかあんなにピカピカ光ってた僕は大丈夫なのだろうか。し、心配だ。

 

 

 パッと見たかんじ見た目に変化はないな。僕が着ている黒い中華服も壊れていないみたいだ

 

し。

 

 

 もしかして見えないところに変化があるかも。記憶が消えたりしてないだろうか?

 

 

 えーと、僕の名前は八雲叶也で小さい時に幻想入りした。それから紫さんに拾われて面倒見

 

てもらって、霊夢に出会って、魔理沙に出会って、色々なところに連れられてって…。うん、

 

大丈夫みたいだ。

 

 

 とりあえず部屋から出てみようかな。そう思って扉を開けようとしたとき、

 

 

 「ごばっ!」

 

 

 いきなり扉が開いて僕にぶつかった。

 

 

 「あら、あんたがこんなに早く起きてるなんて珍しいわね。ところでその恰好は何?コスプ

 

レ?」

 

 「いたた、いきなり扉を開けるなんて危ないじゃ、な…って霊夢?霊夢こそ、その恰好はど

 

うしたのさ。」 

 

 

 そこに立っていたのはよく見知った僕の幼馴染である少女。

 

 

 しかし着ている服は幻想郷ではあまり見慣れない服だった。 

 

 

 独特の形をした襟が特徴的な長袖の服にスカート、そして胸元にはリボン。

 

 

 …そう、セーラー服を着た霊夢が目の前には立っていた。

 

 

 「はあ?もしかしてまだ寝ぼけてんの。それともドアの当たり所が悪くて頭がおかしくなっ

 

たのかしら。とにかく早く着替えないと学校に遅れるわよ。」

 

 

 「…今なんと?」

 

 

 「だから、学校に遅れるって言ってんのよ。まさか新学期早々遅刻するわけにもいかないで

 

しょ。」

 

 

 ああ、これは夢か。あまりにも僕が外の世界に行きたがってたから夢に出てきたんだな。だ

 

ったら楽しまなきゃ損だよね!

 

 

 「よし!すぐ行こ!早くいこ!超特急で行こう!」

 

 

 ドキドキが止まらないぜ!さあ駈け出そう!今の僕を止められるものなど何もない!

 

 

 「待ちなさいよ。」

 

 

 「ごふっ!」

 

 

 部屋から飛び出そうとした僕に霊夢のボディーブローがめり込んだ。

 

 

 「何をするのさ!早くしないと夢が覚めちゃうよ!」

 

 

 「あんたが何を言ってるのかはさっぱりわからないけど、そんな恰好でどこ行くつもりよ。

 

とりあえず学ランに着替えなさい。」

 

 

 そういえば、外の世界では学校の生徒はみんなおんなじ服を着て登校するんだっけ。さすが

 

僕の夢だな、細かいところまで作りこまれてるぜ!

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 あの後僕は学ランに着替えて、霊夢と一緒に登校した。

 

 

 本当は見たことのない物に今すぐにでも飛びつきたかったが、僕が暴走しそうになるたびに

 

霊夢が止めに入り、結局何事もなく学校にたどり着いてしまった。

 

 

 「おおう、これが学校かぁ。思ってたよりも大きいな。」

 

 

 「…本当に今日のあんたはおかしいわね。いつも普通におかしいけど、今日は異常におかし

 

いわ。」

 

 

 さらりと普段の僕が貶された気がする。

 

 

 それにしても夢とは思えない精巧さだな。まるで本物みたいだ。

 

 

 あれ?そういえば霊夢に叩かれたとき普通に痛かったぞ。夢なのになんで?

 

 

 僕が少しばかり現状に疑問を抱いていると霊夢が声をかけてきた。

 

 

 「ほら、クラス発表の張り紙が出てるわ。」

 

 

 ほうほう、あれがクラス分けってやつか。

 

 

 どうでもいいことで悩んでいる場合じゃないな!これも学校のイベントの一つだし!

 

 

 「えーと、僕は一組だね。」

 

 

 「ふーん、また同じクラスね。」

 

 

 ん?何となく霊夢が嬉しそうだ。まあ僕も同じクラスで嬉しいからおかしくはないか。

 

 

 「じゃあ私は用があるから先に行くわね。」

 

 

 タッタッタ、と音を立てながら霊夢は走り去っていく。

 

 

 …あれ?僕はこれからどうすればいいのだろう?

 

 

 いや、勿論始業式の会場に向かうのだが、どこが会場なのか全く見当がつかない。

 

 

 このままでは折角の学校イベントが体験できなくなってしまうじゃないか!

 

 

 僕の夢なんだったら何とかしろよ!いや、して下さい!

 

 

 そんな風に頭を悩ませていると、不意に肩を叩かれた。

 

 

 「よっ、叶也!今年も同じクラスだな!」

 

 

 そこには良く知る三人組、僕の数少ない男友達がいた。

 

 

 「なんだ、お前らか。」

 

 

 「お前らか、とは何だよ!まあ今年も楽しくやろうぜ!」

 

 

 この騒がしいのは鞍馬流(くらま りゅう)。烏天狗だ。

 

 

 「代わり映えのしないクラスになりそうですね。」

 

 

 丁寧な言葉遣いのこいつは狐妖怪の稲荷啓(いなに けい)。

 

 

 「…よろしく。」

 

 

 そしていつも口数がすくな寡黙な河童。久沼淵(ひさぬま えん)。

 

 

 この三人とはよく一緒に遊んでいる。

 

 

 それにしてもこいつらまで夢に出てくるとわ。ホントに何でもアリだな、僕の夢。

 

 

 「…そろそろ始業式が始まる。」

 

 

 「よっし!じゃあ体育館に行くか!」

 

 

 おっ、どうやらみんなについていけばこの難局を打破できそうだな。

 

 

 しかし、霊夢やこの三人がいるのならば幻想郷のみんながもっといるかもしれない。

 

 

 少しあたりを見回してみる。

 

 

 …結構いるね。さすがに見るからに妖怪って感じのやつはいないけど、人型に変化してるの

 

がちらほら混じってるよ。

 

 

あまりに浮かれてて気づけなかった。

 

 

 「おい、叶也!なにぼっと突っ立ってんだよ!」 

 

 

 おっと、気づかないうちにみんなが先に進んでる。

 

 

 「今行くよ!」

 

 

 いざ、始業式へ!

 

 

 しかし僕が追いつこうと駆け出そうとした瞬間、

 

 

 僕の足元に‘スキマ’が現れた。

 

 

 「え?」

 

 

 僕は素っ頓狂な声を上げ、重力に負けて落下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、スキマのおばさ…お姉さんが登場!!


御意見、御指摘、御感想お待ちしております。


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第2話  明かされる能力


コメディーのはずなのにタイトルがバトル系みたいになっちゃった…。

今回は文字数が少ないです。


 

 

 

 「ぐへっ!!」

 

 

 いたたたた、まったく今度はなんだってんだよ。目まぐるしほどに状況が変わりすぎて頭が追い付かないよ。

 

 

 「やっと見つけたわ、叶也。」

 

 

 いまだに状況が呑み込めない僕にいきなり声がかかる。

 

 

 とは言ってもあんな風に連れ出されれば、考えなくても誰の仕業かは分かるんだけどね。

 

 

 「やっぱり紫さんでしたか。毎回言ってますがせめて声をかけてからスキマ使ってくださいよ。」

 

 

 そこには僕の育ての親とも言える人…じゃなかった、妖怪の八雲紫さんが椅子に座ったまま僕を見ていた。

 

 

 「はいはい。次はちゃんと声をかけるわ。」

 

 

 このやり取りも何度目だろうか。少なくとも百を超えている自信がある。

 

 

 最近は綺麗に着地できるようになったのだが、どうも浮かれていて気が緩んでしまったようだ。

 

 

 「ところで紫さん。僕を探していたようですが、何か用ですか?」

 

 

 「ええ。勿論今回の異変についてよ。」

 

 

 異変?もしかしてこの世界は僕の夢ではなく誰か妖怪が異変を起こした結果生まれた世界だということだろうか?

 

 

 世の中には素晴らしい妖怪がいるんだね!もう少しこの異変は放っておいてもいいんじゃないかな!!

 

 

 …さすがに不味いか。これほどの世界を生み出すほどの妖怪だ。放っておいたら何をするかわからないしね。

 

 

 「で、今回はどういった異変なんですか。」

 

 

 「それを確認するためにあなたを呼んだのよ。」

 

 

 「呼んだというか、攫われたというか…って僕に確認?」

 

 

 いったい何を聞くというのだ?いくら外に憧れててもこんな異変は起こさないけどな。というか起こせない。

 

 

 「あなた、異変が起きる前に何をしていたの?」

 

 

 「えっと、博霊神社で霊夢と魔理沙と雑談してました。」

 

 

 僕が何かやっちゃったのだろうか?とはいえ変わったことは何もしてないしな。

 

 

 「その前は?」

 

 

 「博霊神社の蔵の掃除をしてましたけど…あ゛っ。」

 

 

 ま、まさかあれか。蔵の中で見つけた真っ黒い珠、触っていたら壊れちゃったあの珠か!結局何も言われなかったから忘れてたけど、もしかしたらヤバい妖怪でも封印されてたのかも…。

 

 

 「あのー、実は蔵の掃除中に真っ黒い綺麗な珠を壊しちゃったんですが…。」

 

 

 「黒い珠?」

 

 

 「は、はい。なぜか知らないけど手の上に乗せたら、突然粉々に壊れちゃって。」

 

 

 「…そういうことね。」

 

 

 どうやら紫さんの中で結論が出たらしい。いったい何者がどういう意図でこの異変を起こしたのだろう?できれば僕にお咎めがありませんように…。

 

 

 そんな風に僕が祈っていると紫さんは神妙な顔をして言葉を発した。

 

 

 「今回の異変を起こしたのは…叶也、あなたよ。」

 

 

 「ふむふむ、なるほど。」

 

 

 今回の異変は僕が起こしたのか。まさか僕が異変を起こすとは夢にも思わなかったよ。さすがにこれは他のみんなも気づけないだろう。

 

 

 「って、僕!?え?え!?なんで僕!?確かに僕はそこそこ強いほうだけど、こんな異変は起こせないし!起こせないから、起こせないはずなんだよ!」

 

 

 「落ち着きなさい。今回の異変があなたの能力によって起こされたものであることは間違いないわ。」

 

 

 「僕の…能力?えと、僕は確かに‘力’はあるけど、幻想郷のみんなが持つような能力は持っていなかったはずでしょ?ましてや異変なんて起こせるはずがないです。」

 

 

 そう、僕にはよくわからない力がある。魔力でもなく妖力でもなく霊力でもない何か。ちなみに僕はこの力を‘エネルギー’と呼んでいる。

 

 

 この力は不思議なもので魔力や妖力などに近い性質も持っているため、僕は魔法や妖術を使うことができる。しかし、近いだけで決して同じではない。とにかく不思議な力なのである。

 

 

 「…そうね。そのことを話すにはあなたの生い立ちから話さなければいけないわ。あなたも大きくなったし、この機会に全て話すことにしましょう。」

 

 

 何やらシリアスな香りがするな。ならばその前に一つ聞きたいことがある!

 

 

 「あのー、紫さん。」

 

 

 「何かしら?」

 

 

 「僕の能力の名前ってなんていうんですか?」

 

 

 やっぱり気になるよね!僕の知り合いは大体能力持ちだったし。霊夢や魔理沙はともかく、流たちが持ってるのに僕が持ってないことは悔しかったからね。

 

 

 「分かったわ、教えてあげる。」

 

 

 ドキドキワクワク、できればかっこいいのがいいな!

 

 

 「あなたの能力は…

 

 

 

 

 

           ‘自分の願望を叶える程度の能力’

 

                           

                           

                           

                                 よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………は?」

 

 

 想像を絶するその能力を聞いた僕は、驚きのあまりしばらく呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

  





次回はシリアスっぽくなるかも…。
というかこの作品はちゃんとコメディーできているのだろうか。



御意見、御指摘、御要望お待ちしております。



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第3話  校長先生のおはなし

今回は完全なる説明回です

いつも二千文字に満たない程度なのに今回は四千文字…

無駄に長くなってすみません<(_ _)>






 

 

 

 「…自分の願望を叶える程度の能力、ですか。」

 

 「そうよ、それがあなたの能力なの。」

 

 マジか。あまりに凄すぎて何も言えない。というかなんでそんな凄まじい能力を僕が持ってるんだよ。

 

 「まあ、いきなりそんなこと言われても信じられないでしょうね。」

 

 「信じられないってことはないですが…。そういえば、どうして今まで能力が発動したことが無かったんですか?」

 

 「それも含めて、全て話すわ。」

 

 

 

 

 

 ~Said 紫~

 

 あれは10年以上前の話。私は外の世界から異質な力を感じてとある村に行ったの。

 

 その村は山の奥のほうにある隠れ里みたいな所だったわ。今の外の世界、その村があった国では考えられないほど閉鎖的な村だったの。

 

 そこで見たのは私も知らない力をその身に秘めた一人の赤ん坊。それが叶也、あなたよ。

 

 あなたはどういうわけか生まれた時からその‘力’、あなたの言葉を借りるならエネルギー、を有していた。そしておそらく能力も。

 

 しかし、当時の私にはあなたの持つ能力には気づけなかったの。すごい力を持った存在が外界に現れた、どうせ外の世界では力の存在になど気づけない、少し様子を見て問題が無いようなら放っておこう、そんな風に考えていたわ。

 

 けれども事態は私の考えた通りには進まなかった。ここから先の話は実際に私が見たわけじゃないの。あなたが幻想郷に着いてから調べたことよ。

 

 私はもう既に、あなたへ対する不安はあまりなかったから…。

 

 ある日ついにあなたはその能力を発動させてしまった。

 

 あなたがしたのはそんなに大したことではなかったそうよ。ただ欲しいものを生み出しただけ。

 

 でもあなたの村はそんな力の存在を許さなかった。

 

 あなたは村の蔵の中に監禁されたわ。それだけで済んだのはあなたのお父様が村の長に掛け合ってくれたおかげらしいわ。

 

 あなたも能力のおかげで退屈することは無かったし、毎日お父様が会いに来てくれた。だから蔵の中にいることに文句も言わず、その生活を続けていたわ。

 

 でもある日、あなたのお父様が亡くなったの。突然の病死だったそうよ。

 

 その時からあなたに対する扱いが変わったわ。

 

 もともと迷信深く排他的な村だったせいか、あなたが能力を使った時からあなたを悪霊憑きとして恐れていたの。

 

 さらに、あなたのところに毎日通っていた父親が突然死んだことから、あなたは呪いをばら撒いているという噂まで飛び交うようになったわ。

 

 そして村人はあなたに暴力を働くようになった。

 

 ある者はあなたが悪霊憑きだからという理由で。

 

 ある者は自分の家族が死んだのはお前のせいだと言いながら。

 

 ある者はむしゃくしゃしたからというだけで。

 

 これは推測になるのだけど、おそらくあなたはこの時願ったのだと思う。

 

 ここから逃げ出したいと。こんな扱いを受けることがない場所に行きたいと。

 

 そしてあなたは自分の能力に導かれて幻想郷に辿り着いたわ。

 

 その時に私は先代の博霊の巫女と一緒にあなたの力と能力を封じたの。

 

 そのあとはあなたも知っての通り。私があなたを保護して、時は流れて今に至るというわけよ。

 

 ~Said Out~

 

 

 

 

 

 …なんかすごい話だったな。まあ僕の話なんですけど。それにしてもいくつか気になることがある。

 

 「紫さん、いくつか質問してもいいですか。」

 

 「ええ、勿論いいわよ。」

 

 「じゃあまず最初なんですが。どうして幻想郷に着くまでの間、僕は能力を使わなかったんでしょう?この能力があれば暴力から身を守ることもできたでしょうし。」

 

 「それは、あなたの能力を使うための条件が満たされていなかったからだと思うわ。」

 

 条件か。やっぱりこれだけ大きな力を行使するにはある程度の制限があるということだろう。

 

 「ちょうどいいからあなたの能力の条件も説明するわ。まず一つ目はエネルギーの消費。願いの大きさにもよるけど今回みたいな世界を改変するレベルの力の行使となると、あなたの持つエネルギーのほとんどが消費されるわ。」

 

 ふむふむ、まあこれは当然だろう。魔法には魔力が、妖術には妖力が必要になるように僕の能力も当然何かしらの動力源が必要になる。

 

 「二つ目は強い願望。心の底からの願い、というほど強くなくても構わないけど、あなたが本当に望む願望にしかこの能力は発動しないわ。」

 

 なるほど、なるほど。確かに僕は本を読むたびに外への憧れを強くしていった。最近読んでいた本から、学校に通ってみたいという願望も生まれていたしね。

 

 「そして最後の三つ目は、願いを言葉にして表すことよ。あなたの発する言葉が引き金になるわ。」

 

 なんか最後だけ普通だな。でもこれで一つ分かった。この異変は僕が博霊神社で呟いた言葉が原因で引き起こされたわけか。

 

 

 「おそらくだけど、あなたは三つ目の条件のことに気付いていなかったと思うの。それに暴力の最中や後は痛みで願いを口にできなかったのかもしれないわ。もう一つの可能性はエネルギー不足ね。結界に覆われている幻想郷に辿り着くにはそれなりのエネルギーを用するわ。何らかの理由でエネルギーが充填されて幻想郷に辿り着いたのかもしれない。真相はわからないわ。」

 

 そうか。紫さんが分からないなら仕方がないか。それにしても、結局僕の能力には制限らしい制限がなかったな…。まあ気にしても仕方がないし、次いってみよー。

 

 「じゃあ次なんですが、どうして今回僕の能力が発動したんでしょうか?」

 

 「これも推測だけどあなたが手に取った黒い珠のせいよ。確か何代か前の博霊の巫女が強力な結界を使う妖怪を退治するために使った珠で、結界や封印の破壊、その他にも解呪等に使えるものがあったはず。多分その珠が、あなたに掛かっていた封印を解いたのよ。」

 

 そんなにすごい珠だったのか。マジで値打ものじゃないか。…この異変が終わったら霊夢に謝ろう、土下座で。

 

 「あと、どうして僕は幻想郷に来る前の記憶がないんですかね?」

 

 「…ごめんなさい。それは私にもわからないの。」

 

 「あっ、いや、いいんです。なんとなく気になっただけなんで。」

 

 紫さんにとても申し訳なさそうな顔をさせてしまった。実際そこまで興味のあることではないからなぁ。なんだかこっちも申し訳ない気分になってきた…。

 

 「そ、それじゃあ最後の質問ですけど、どうやったら異変は終わるんですか。」

 

 流石にこのままにはできないだろう。僕的にはもう少しこの世界を堪能したいところだが、そういうわけにもいかないしね。

 

 「それなんだけど…。」

 

 おや?歯切れの悪い言葉が返って来た。そんなに難しい条件でもあるのかな?

 

 「異変を終わらせる方法はおそらく二つ。一つはあなたの能力で世界を元に戻すこと。」

 

 なるほど。目には目を、歯には歯を、能力には能力をってことか。確かにこれならてっとり早く元の幻想郷に戻せる。

 

 「でもこの方法は使えないわ。理由は二つ。あなたがエネルギーを使い切っていること。そしてあなたの性格から考えるに元の世界に戻りたいという強い願望は湧かないだろう、ということよ。」

 

 確かに、僕はかなりこの世界を楽しみたいと思っている。まさか僕の願望が異変解決を妨げるとは。

 

 「もう一つの方法は、あなたが学園生活を楽しむことよ。」

 

 「へ?」

 

 「この世界はあなたの‘学生生活を送りたい’という願望から生まれているわ。だからあなたはただ楽しめばいい。学生として生活していればいずれは卒業を迎えるわ。そうすればあなたの学生としての生活は終わり、元の世界に戻れる…はず。」

 

 これは、つまり、…僕得な展開ktkr!!って感じかな?あまりに話が大きすぎて理解が追い付かないけど、ようは僕は夢の学園生活を送れるということなのだ!

 

 「あれ?でも紫さんの‘境界を操る程度の能力’で何とかできちゃったりしないんですか?」

 

 「それは無理なのよ…。あなたの能力はこの世界を作るとき全ての人間や妖怪、さらには神などあらゆる存在に影響を及ぼしたわ。だから今この世界にいる者たちは皆、異変に気づいていないの。私はあなたの能力に対するお守りを常に持っていたからこうして記憶は無事だけど、この学園の校長の役割を押し付けられたわ。そして私の能力は危険とみなされたのか、今じゃスキマを開くことくらいしかできないの。」

 

 うげっ、僕の能力ってそんなことまでできちゃうのか。でもこれで確実に僕はこの世界を楽しめるということだ。

 

 「というわけで明日からは学生としてこの学園に通うことね。まあ妖怪にとっては一年や二年くらい大した時間じゃないし、折角だから私も楽しませてもらうわ。」

 

 なんだかんだで紫さんもノリノリだ。まあ紫さんにとってはこれも珍しいイベント程度のものなのかもしれない。

 

 「じゃあ、僕はこの後どうすればいいんですかね?始業式ももう終わるだろうし。」

 

 「そうね…。今日はこの後クラスごとにホームルームをして下校だから、今から行けば上手くホームルームに合流できるんじゃないかしら。」

 

 「詳しいですね。」

 

 「だって私は校長先生ですもの。」

 

 紫さんはウインクしながら僕にそう答えた。

 

 「あと、これを持っていきなさい。」

 

 そういって手渡されたのは綺麗な白色の数珠だった。

 

 「それは先代の博霊の巫女が異変の後に置いて行ったものよ。なんでもあなたの能力の発動を抑えるものらしいわ。今はエネルギーが切れてるから能力も使えないけど、そのうち回復してしまうんだから絶対に身に着けておきなさい。」

 

 紫さん曰く、寝る時も風呂に入るときも外してはいけないらしい。少し不便だけど仕方ないか。

 

 「それにしても‘あの人’も能力の影響を受けてないんですか。」

 

 「ええ、何事もなかったようにここに現れて、そのまま何処かに行ってしまったわ。」

 

 先代博霊の巫女にして、霊夢の育ての親。

 

 例え世界が滅んでもあの人だけは生き残るだろうと思わせるような人物。

 

 前に僕は幻想郷で一番強いのは霊夢だと思うといったが、あの人は世界中のどんな生物よりも強いだろう。そんな超越者。

 

 「とにかく。これで言うべきことはすべて言ったわ。早く行かないとホームルームに遅れるわよ。」

 

 「おっとそうでした。じゃあ紫さん、行ってきます!」

 

 

 

 

 

 何はともあれ、こうして僕の学園生活が始まった。

 

 

 

 

 




やっぱりどこの世界も校長先生のお話は長くなるものですね(笑)

今回の話を読んで疑問や質問が生まれた人はどうぞ感想で質問してください

もしたくさん質問が集まったら質問に答えるためのコーナーを後書きに作りますのでどしどし送ってください

あと活動報告のほうにもいろいろ書いているので時間がありましたら是非ご覧ください


御意見、御指摘、御要望、お待ちしております。



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第4話  これが2年1組だ!


なんとか1組のクラス編成を考えました

1組にいないキャラもきちんと話に出すのでご安心ください

それではどうぞお楽しみください


 

 

 

 教室どこだ?

 

 まいったな。勢いに任せて飛び出してきたけど自分の教室がどこにあるのか分からないや。

 

 ……ど、どうしよう。

 

 「おや、叶也君じゃないか。早く教室に行かないとホームルームが始まってしまうよ。」

 

 悩んでいると声をかけられた。声のした方に振り向くとそこには僕がよく知る男性が立っている。

 

 魔法の森にある道具屋の店主、森近霖之助さんだった。

 

 もしかしたら霖之助さんもこの学園の関係者かもしれない。ならば彼に聞けば2年1組の教室がどこにあるか教えてくれるんじゃないか?

 

 「あのー、実は教室の場所が分からなくなってしまって。2年1組なんですけど…。」

 

 「君も1組か。じゃあ一年間よろしく頼むよ。僕が君のクラスの担任だからね。」

 

 なんですと!まさか霖之助さんがこの世界で教師をやっているとは…。

 

 多少驚きながらも、よろしくお願いしますと返しておく。

 

 もしかしたら、他にも教師になってる知り合いがいるかもしれないなぁ。なんだか不思議な気分だ。

 

 少し言葉を交わしながら歩いていると、僕たちは1組の教室にたどり着いた。

 

 いやー、なんだか緊張するね。これから一年を共にするクラスメイトとご対面というわけか。

 

 そんな風に考えながら僕は教室の扉を開けた。

 

 突然入ったせいか、一気に視線が集まる。

 

 知ってるやつもいるとはいえこんなに注目されると恥ずかしくなってくるな。さっさと座ってしまおう。

 

 えーと、空いてる席は…、あそこか。

 

 見つけたのは窓際最後尾の席。うん、なかなかいい場所だと思う。

 

 「このクラスの担任の森近霖之助です。一年間よろしく。」

 

 気づけば霖之助さんが教壇に立っていた。おお、教師っぽく見える。着ている服はいつもと同じなのに雰囲気が全然違う。よし、今度からは霖之助先生と呼ぼう。

 

 話は進んでいき、明日からの予定とか注意事項とかが説明されていく。

 

 「じゃあ最後に自己紹介をしようか。廊下側の前の席から順番にどうぞ。」

 

 自己紹介か。その順番でいくと僕は一番最後だな。

 

 そして一番先頭の人が話し始めた。

 

 「稲荷啓です。…」

 

 ああ、そういえばあいつらも同じクラスだって言ってたな。

 

 「…1年間よろしくお願いします。」

 

 ちょっと長い自己紹介が終わった。相変わらず堅苦しいな。

 

 そして次々と自己紹介は進んでいく。

 

 啓の後は知らない人が何人か続き、今は僕の幼馴染の一人に回っている。

 

 「私の名前は霧雨魔理沙だぜ!よろしくな!」

 

 魔理沙も同じクラスか。だいぶ賑やかなクラスになりそうだ。 

 

 「鞍馬流だ!楽しいクラスにしていこうぜ!」

 

 訂正、非常に賑やかなクラスになるだろう。相変わらず騒がしい流を見て、僕は少し前の自分の考えを修正する。

 

 「魂魄妖夢です。好きなことは剣術で、得意なことは切ることです。よろしくお願いします。」

 

 この物騒な自己紹介。間違いなく妖夢だ。…まじか。

 

 別に妖夢のことは嫌いではない。むしろかなり仲が良い方だろう。だが少しばかり苦手なのも事実。

 

 彼女の主である幽々子さんと紫さんは親友で、僕もよく白玉楼に連れて行かれた。その時に僕の相手をしてくれたのが妖夢だ。しかし、いくらなんでも子供に刀の扱い方を教えたり、真剣を持たせたりする彼女の行動は非常識的だと言わざるを得ないだろう。その他にも物騒なエピソードには事欠かない。

 

 できればこの世界では、危ないイベントが起こらないように願いたい。

 

 おっと、考え事をしてたらだいぶ進んでいる。ちょうど霊夢の自己紹介が終わったところか。

 

 「稗田阿求です。少し体が弱いので皆さんに迷惑をかけるかもしれませんが、1年間よろしくお願いします。」

 

 阿求さんもうちのクラスか。それにしても『ひえだのあきゅう』じゃなくて『ひえだあきゅう』って名乗ってるのか。この世界はそんな細かいところにも影響しているんだな…。

 

 「私は比那名居天子よ。一年間仲良くしてあげるわ。」

 

 げっ、わがままお嬢様もこのクラスか。あいつはあいつでトラブルメーカーだからな…。とりあえず学園生活の間くらい大人しくしていてくれることを祈ろう。

 

 「…久沼淵、よろしく。」

 

 短い自己紹介だな。啓と足して二で割ったらちょうど良くなるんじゃないかな。

 

 そして自己紹介はさらに進んでいき、僕の前の席まで来た。

 

 「アリス・マーガトロイドよ。趣味は人形作り。よろしく。」

 

 前の席はアリスだね。仲がいい人が近くの席にいるとちょっと安心する。

 

 アリスとも大分仲がいい。よく家に遊びに行くし、人形の素材集めを手伝ったこともあった。

 

 魔法の実験の時は毎回大変だったけど…。

 

 どうも僕のエネルギーはいろいろな魔法の触媒に使えたりするらしい。

 

 だけど毎回空っぽになるくらい使われるのは正直つらい。

 

 まあ、それはさておき。とうとう僕の番がやってきた!

 

 やっぱりここでびっしと決めてみんなに名前を覚えてもらわないとね!

 

 「どうも、八雲叶也です。一年間よろしくお願いしましゅっ!」

 

 か、噛んだあああああああああああああああああああああああ!好調な滑り出しどころか、いきなりスリップ決めちゃったよ!

 

 「よ、よろしくお願いします。」

 

 恥ずかしぃ。まさかの失敗。あとくすくす笑ってる啓はともかく爆笑してる流と魔理沙は後で殴る。

 

 「はい、以上で今日は終わりです。では、霊夢さん挨拶をお願いします。」

 

 「起立、ありがとうございました。」

 

 霊夢に合わせて全員が挨拶をする。なんだか学校って感じがするね!…とりあえずさっきの失敗は忘れよう。

 

 総勢40人、このクラスで一年間を過ごすわけか。天子あたりがバカやらなきゃ楽しい毎日が送れそうだ!

 

 そんなことを考えていると霖之助先生が教室を出ていく。僕もやることないし帰るかな。

 

 「叶也、帰ろうぜ。」

 

 おっと、魔理沙が声をかけてきた。折角だし下校は誰かと一緒のほうが楽しいよね。

 

 「うん、いいよ!一緒に帰ろう!」

 

 「な、なんかテンション高いな。霊夢も、もちろん一緒に帰るよな。」

 

 「ええ、そのつもりよ。」

 

 幼馴染と仲良く下校。僕が読んだ本の中にもそんな話があったな。

 

 …今まさに、僕は学園生活を満喫している!

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます

今回は僕的にはあまりいい出来ではありませんでした

できれば皆さんの率直な意見を聞かせてください

御意見、御指摘、御要望お待ちしてます


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第5話  私立幻想学園

遅くなってしまい申し訳ありません(>_<)

今回もなんだか説明回っぽいです

なかなかコメディっぽい話が書けなくてもやもやする今日この頃。


図書館の蔵書量を改訂しました。


 

 

 

 私立幻想学園

 

 男女共学の中高一貫校

 

 全寮制

 

 施設も充実しており、特に千万冊以上の蔵書量を誇る大図書館は全国的にも有名である

 

 我が校では生徒の自主性を重んじており、行事においては生徒会や実行委員会が中心となって行われている

 

 また当学園ではスペルカ…

 

 「何読んでるんだ、叶也?」

 

 「ん?うちの学校のパンフレット。」

 

 今は学校の帰り道。

 

 記念すべき登校初日を終え、今は幼馴染二人と帰宅中だ。

 

 ちなみに男子寮と女子寮は隣同士なので帰り道は同じ。

 

 「なんで今更そんなもの読んでるんだよ。」

 

 「あー、それは…。」

 

 どうしたものかな。とっさに言い訳が思いつかない。

 

 別に事のあらましを全て話してもいいんだけど、そしたらこの二人は異変を解決するために何をするか分からないし。

 

 紫さんが諦めたものをどうこうできるとは思わないけど、そのせいで学園生活が破綻したら困る。主に僕が。

 

 「そ、そんなことよりちょっと霊夢に聞きたいことがあるんだけど。」

 

 「なによ。」

 

 「あのさ、うちの学園って全寮制でしょ。」

 

 「そうね。」

 

 「しかも男女別々の寮だよね?」

 

 「そうね。」

 

 「じゃあなんで今日の朝、僕の部屋に入ってこられたの?」

 

 これはパンフレットを読んでからずっと気になっていた。

 

 基本的に男子は女子寮に入れないし、女子は男子寮には入れない。

 

 「きちんと寮の管理人に許可を取ってあるからに決まってるじゃない。」

 

 「でも普通は簡単に許可が下りたりしないでしょ。」

 

 僕がそんな風に聞くと、霊夢は少し微笑みながら答えを返してくれた。

 

 「そんなの簡単よ。管理人の人とじっくりオハナシしただけ。」

 

 …たぶんそのおはなしには肉体言語が使われている気がする。なんでか分からないけどそんな気がした。

 

 「まあ、霊夢がむちゃくちゃなのは昔からだぜ。今更、何を言ったって変わらないと思うぜ。」

 

 魔理沙の言うとおり、気にしたら負けだな。僕も朝は弱いから助かるし。

 

 なんでそこまでして起こしに来てくれるかは少し気になるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分ほど歩くと学生寮に辿り着いた。

 

 霊夢たちとは先ほど別れ、今僕は自分の部屋の前にいる。

 

 「どうしよう、鍵忘れちゃったよ…。」

 

 寮の扉は全てオートロック。今朝慌てて部屋を飛び出してきた僕は、部屋の中に鍵を置きっぱなしにしていた。

 

 「はあ、しょうがない。管理人さんに開けてもらうか。」

 

 確か管理人室は一階にあったはず。入り口付近にあったのを見かけた。

 

 「それじゃ、管理人室に行くか。」

 

 「その必要はないよ。」

 

 突然僕の部屋のドアが開いて、中から誰かが出てきた。

 

 背丈は小学生くらいで、二本の角が特徴的。

 

 屈強な鬼の中でも四天王の一人に数えらえる幻想郷屈指の武闘派。

 

 伊吹萃香さんがそこにいた。

 

 「って、なんで萃香さんが僕の部屋から出てくるんですか!」

 

 「なんでって、あんた部屋の中に鍵を忘れてただろう?はい、次からは気を付けなよ。」

 

 そう言いながら萃香さんは僕に鍵を手渡してきた。

 

 「あっどうもありがとうございます、…じゃなくて!なんで鍵忘れたこと知ってるんですか!それにどうやって部屋に入ったんですか!」

 

 「細かいことはいいじゃないか。これで問題は解決、叶也も助かったんだから文句は

ないだろう。」

 

 瓢箪に入ったお酒を飲みながらそんなことを言ってくる。

 

 僕のプライバシー的には大問題なんだけど、今回は助けられたし文句もいいづらい。

 

 「でもなんで萃香さんが男子寮なんかにいるんですか?」

 

 「何言ってるんだよ。私はこの寮の管理人なんだからここにいるのは当然じゃないか。」

 

 ………えええええええええ!萃香さんが管理人!ここ最近は博霊神社でゴロゴロしてる姿しか見せていなかった萃香さんが管理人!!

 

 この人にそんなことができるのか?

 

 「ホントに大丈夫かい?疲れてるんだったら、とっとと部屋に入って休んだほうがいいよ。それじゃあね。」

 

 心配そうな声を残して、萃香さんはその場から忽然と姿を消した。…ああ、もしかして能力で部屋に入ったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…ふう。」

 

 部屋に入って一息つく。

 

 何となく設備の確認をしてみる。

 

 テレビやエアコン、洗濯機などの家電も充実している。

 

 風呂とトイレは別々で、キッチンも立派なものだ。

 

 寮には食堂もあるが厨房に声をかければ食材を分けてくれるらしく、自分で作ってもいいらしい。

 

 この世界にはあまり詳しくないがこれはかなり素晴らしい寮なんじゃないかな。

 

 …それにしても、明日からいよいよ授業かぁ。

 

 というか、僕は今二年生なんだよね。

 

 今まで勉強してなかったのに大丈夫なのかな?

 

 それに、この世界での人間関係も分からない。

 

 霊夢や魔理沙とはこっちでも同じような関係だろう、…たぶん。

 

 流たちとも幻想郷にいた時と変わらず友達だった。

 

 でも他のみんなはどうなんだろう?

 

 僕はこの世界で上手くやっていけるだろうか?

 

 「その悩みは私が解決してあげるわ!」

 

 「うわああっ!」

 

 「あら、女性の顔を見て悲鳴を上げるなんて失礼ね。」

 

 「ゆ、紫さん。これも毎回言ってますがスキマを使って突然目の前に現れるのはやめてください。」

 

 ほぼゼロ距離の場所に突然現れたのは、今は校長先生をやっている紫さんだった。

 

 「あなたにこの世界のことを教えてあげるためにわざわざ来てあげたんだから許してちょうだい。」

 

 ウインクしながらそんなことを言ってくる。

 

 「この世界のことなら朝に聞きましたよ。」

 

 「追加情報よ。あの後また調べてたの。」

 

 さすが紫さん、いつもは胡散臭い雰囲気をまき散らしていてもいざという時には頼もしいな。

 

 「何か失礼なこと考えてないかしら。」

 

 「いえ、ちっとも。」

 

 「まあいいわ。分かったことは一つだけ。この世界での人間関係についてよ。」

 

 ちょうど僕が考えていたことの一つだ。

 

 「全員について調べたわけじゃないから断言はできないけど、おそらく幻想郷にいた時の知り合いとはそのままの関係だと思うわ。」

 

 「と言いますと?」

 

 「つまり、もともと姉妹だった者はもちろん姉妹のままだし、もともと仲の悪かった者はこちらでも中が悪いまま。幻想郷にいた時とほとんど変わらなかったわ。」

 

 「なるほど。じゃあ霊夢や魔理沙とは幼馴染のままなんですかね?」

 

 「そうみたいね。調べてみたけど幼稚園の時から一緒にいたみたいよ。」

 

 それを聞いて一安心だ。これで知り合いには臆せず話しかけることができる。

 

 「それとあなたの学力の件だけれども。」

 

 「はい。」

 

 「あなた、あれが何だか分かるかしら。」

 

 そういって紫さんはあるものを指差した。

 

 「何ってテレビですよね。」

 

 「ええ、そうね。じゃあちょっとそれの電源を入れてくれないかしら。」

 

 「いいですけど…。」

 

 僕はテレビに近づき、スイッチを入れる。

 

 紫さんはいったい何をさせたいんだろうか?

 

 「やはりね。たぶんあなたは授業にもついていけると思うわ。」

 

 「えっ?どういうことですか?」

                         ・・・・・・・・・・・・・・・・

 「あなたは今テレビを問題なく使うことができたわ。今まで一度も使ったことが無いのに。つまりそういうことよ。」

 

 「あっ、そういうことですか。」

 

 僕の中でも納得がいった。つまり…

                      

 「そう、つまりあなたの中には既にこの世界で暮らすための知識があるの。おそらくあなたの能力のおかげね。だから中学一年までの学習もすべてあなたの頭の中に入っているはずよ。」

 

 さすがはチート能力。アフターケアまで万全か。

 

 「というわけであなたの悩みは解決ね。」

 

 …なんで心の中で呟いていた悩みが分かったのだろうか。

 

 「じゃあ、本題に入るわね。」

 

 「本題?追加情報を教えに来てくれたんじゃないんですか。」

 

 「それはあくまでついでよ。実はあなたに忠告しに来たのよ。」

 

 何事だろうか。まだ何もやらかしていないはずだけど。

 

 「この世界について、誰にも言わないでほしいの。」

 

 「はあ。元から言いふらす気はありませんでしたけど、理由を聞かせてもらっても?」

 

 「まあ、一つは混乱を防ぐためね。で、もう一つはあなたが狙われるかもしれないからよ。」

 

 「僕が?」

 

 「ええ、これほどの力を持っているんですもの。何かに利用しようとするものが現れてもおかしくないわ。」

 

 なるほど、そういう可能性もあるのか。

 

 「わかりました。絶対にだれにも話しません。」

 

 「よろしい、じゃあ私は帰るわね。」

 

 そう言うと紫さんはスキマを通って帰って行った。

 

 僕はなんとなくベッドに飛び込む。

 

 それにしてもなんだか疲れたな。やっぱり初めての学校だったから自分で思うよりも緊張していたのかもしれない。

 

 明日も学校かぁ。楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 僕は意識を手放し、そのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 




今回の話をまとめると、
 
  『フラグはこれから立てるんじゃない、既に立っているんだ!』

ということですね。





ご意見ご指摘ご要望お待ちしております。



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第6話  朝の一幕と委員会


今回も遅い投稿になってしまい申し訳ありません。

僕の話はきちんとコメディできているだろうか?

そんな不安を抱えながらの更新です(^_^;)


 

 

 

 「………。」

 

 むう、なんか声が聞こえるなぁ。

 

 「………い。」

 

 何か言ってるみたいだけど今は置いといていいよね。

 

 「…き…さい!」

 

 どんどん声が大きくなってきたな。もう少しだけほっといてよぉ。

 

 「起きなさいって言ってるでしょ!!!」

 

 「ぎゃふん!!」

 

 いきなり世界がひっくり返った。

 

 「い、痛い。何が起きたんだ?」

 

 床に打ち付けた頭をさすりながら、僕は状況を確認する。

 

 どうやらベッドから転げ落ちたらしい。

 

 「はあ、やっと起きたわね。」

 

 声のしたほうに振り向く。そこには布団を抱えた霊夢が立っていた。

 

 どうやら僕を叩き起こしたのは霊夢のようだ。そういえば毎朝起こしに来てくれてるんだっけ。

 

 しかし、もう少し穏便に起してくれてもいいんじゃないかなぁ。

 

 「何言ってんのよ。いくら声をかけても起きなかったじゃない。」

 

 「…だから心を読まないでよ。」

 

 「読んでないわよ、どこぞの悟り妖怪じゃあるまいし。もちろん勘に決まってるじゃない。そんなことより朝御飯できてるからさっさと食べちゃって。」

 

 「え?」

 

 部屋にあるテーブルを見ると、ご飯に味噌汁、さらには焼き魚などのおかずが並べられていた。

 

 「昨日、紫が私の部屋に来て頼んでいったのよ。」

 

 朝食を食べながらこの状況の説明を受けた。

 

 霊夢の話によると、紫さんは僕が疲労困憊であることを見抜いていたらしく、朝もしっかりとしたものを食べてほしかったらしい。しかし自分は色々と忙しい、ならば誰かに頼もう、ということで霊夢に白羽の矢が立ったのだ。

 

 「本当にあの妖怪は過保護ね。」

 

 「ははは、最近はそうでもなかったんだけどね。」

 

 昔から紫さんは少し過保護すぎるところがあったんだよね。僕が大きくなってからは自重してたみたいだけど、異変のせいで再発しちゃったかな。

 

 「それにしても霊夢の料理はやっぱりおいしいね。」

 

 「…。」

 

 「昔から思ってたけど霊夢って料理に関しても天才的だよね。」

 

 「そんなにすごくないわよ。私より料理の上手い人なんてたくさんいるわ。」

 

 「そうかもしれないけどさぁ。でもやっぱりすごくおいしいよ。こんなにおいしい料理なら毎日食べたいくらいさ。」

 

 「っ!!」

 

 あれ、霊夢の顔が真っ赤になっている。なんか気に障ることでも言っちゃったかな?

 

 「そ、そこまで言うなら毎朝作ってあげる。」

 

 「えっ、いいの?」

 

 「別にいいわよ。どうせ毎朝起こしに来るんだし、大した手間じゃないわ。」

 

 「ありがとう!」

 

 こっちの世界での楽しみがまた一つ増えた。元の世界じゃ宴会の時くらいしか霊夢の料理は食べれねかったしね。

 

 そんな朝の一幕を終えて僕たちは学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「委員会?」

 

 「ああ!なんかやんのか!」

 

 先生の挨拶や連絡が終わり流たちが僕の席までやってきた。

 

 そういえば今日の一時間目はホームルームだったっけ。その時にクラスの係りや委員会とかを決めるって言ってたな。

 

 実は入りたい委員会があるんだよね。

 

 「僕は図書委員に立候補しようと思ってるよ。」

 

 そう、図書委員。理由はもちろんある。

 

 この学園にはものすごく大きな図書館がある。そしてこの世界は外の世界を模して造られている。ということは、図書館にあるのはもちろん外の本!外の世界の本が読み放題ということだ!!

 

 でもさすがに一日中図書館に籠っているわけにはいかない。それにこっちの世界ではやりたいことがたくさんあるからそればっかりに時間は割けない。でも図書委員になれば仕事の傍らに本も読めると考えたわけさ。

 

 「今年も図書委員ですか。」

 

 「今年も?」

 

 啓の言葉に思わず聞き返してしまった。

 

 「叶也は去年も図書委員だったじゃないですか。」

 

 どうやら僕は去年も図書委員だったらしい。記憶にないとこういう時に困る。

 

 「そ、そういえばそうだったね。そういうみんなは何かやるの?」

 

 「俺はやらねえよ!めんどくせぇからな!」

 

 「私も今のところは特に考えてませんね。」

 

 「…同じく。」

 

 積極性の足りない奴らだなぁ。もっと学園に関わっていこうよ!

 

 「あっ、先生が来ましたね。」

 

 いろいろ話しているうちにもう一時間目が始まる時間だ。霖之助先生が教室に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業開始のあいさつを終え、先生が話し始める。

 

 「それではまず学級委員を決めたいと思います。誰かやりたい人はいるかい?」

 

 学級委員か。ここで名乗り出る人ってあんまりいないよね。

 

 そんなことを考えながら教室を見回す。

 

 やっぱり誰もいない。

 

 このまま推薦とかになるのかなと思っていたら、一本の手が挙がった。

 

 あれは、妖夢?

 

 「先生、誰もやらないなら私がやりましょう。」

 

 「そうか、それは助かるよ。」

 

 ふむ、妖夢か。真面目でしっかり者だしぴったりかもしれない。…少々非常識であることを除けば。

 

 「あとは副学級委員を決めようか。学級委員が女子だから副委員は男子に頼もうか。」

 

 これまた手は上がらない。そのまま膠着状態が続くかと思ったその時。

 

 「あの、私から指名してもいいでしょうか?」

 

 妖夢が意外な提案を切り出した。確かに学級委員である妖夢にも選ぶ権利はあるよな。

 

 「ああ、いいよ。」

 

 先生からの許可も下りた。いったい妖夢は誰を選ぶのだろう?…少し嫌な予感がする。

 

 「私の補佐は、八雲叶也に頼みたいです。」

 

 やっぱりきたあああああああ。うすうす感づいてたよ!そもそもこのクラスで僕以外に妖夢の知り合いの男子なんていないしね!!

 

 「ということなんだけど叶也君、頼めるかな?」

 

 何とか避けたい。僕だって副学級委員なんてめんどくさそうな仕事はごめんだ。

 

 「あのー、僕、図書委員をやりたいんですけど。」

 

 「そうだったのか。じゃあ仕方がない。」

 

 おお、案外簡単に諦めてくれるものだな。

 

 「特別に両方やってもいいよ。」

 

 「どうしてそうなるんですか!?」

 

 おかしいでしょ!というか学校のシステム上それはアリなのか?

 

 「まあ、副学級委員は学級委員の補佐が仕事だから実際そんなに仕事はないんだよ。だから兼任でも大丈夫さ、…たぶん。」

 

 今最後にぼそっとたぶんって言ったよね?

 

 「そうだ。もしこの話を飲んでくれたら、どれだけ図書委員になりたい人が出てきても君を図書委員にしてあげようじゃないか。」

 

 教師がそんな取引を持ちかけていいのだろうか。

 

 「無言は肯定ということで。」

 

 「ちょっ!」

 

 「それじゃあ君は今日から副学級委員兼図書委員だ!!」

 

 こうして理不尽に僕の運命は決定した。

 

 

 

 






活動報告もよろしくね(*^_^*)



ご意見ご指摘ご感想、お待ちしております。


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第7話  顔合わせで修羅場

 

 6月16日に第五話の図書館の蔵書量を改訂しました。


 

 「ふはぁ、今日の授業はこれで終わりか。」

 

 僕の記念すべき初授業は特に問題もなく終了した。

 

 いやぁ、外の世界はホントに進んでるなぁ。授業中に何度も驚きの声を上げちゃったよ。

 

 「き、叶也。」

 

 そんなことを考えていると妖夢が声をかけてきた。

 

 「妖夢?なんかあったの?」

 

 なんだか少し顔が怖い。僕、何かしたかな?

 

 「あの、えっと、…が、学級委員同士、親睦を深めるためにも、い、い、一緒に帰りませんか!」

 

 何だそんなことか。いきなりものすごい形相で来るから何事かと思ったよ。

 

 「ああ…お誘いは嬉しいんだけど、今日は図書委員の集まりがあるから。」

 

 「そう…ですか。呼び止めてしまって、すいませんでした。」

 

 「こっちこそごめんね。」

 

 「じゃあ私は帰りますので、また明日。」

 

 とぼとぼと帰路に着く妖夢に僕はバイバイと言った。

 

 予定があるとはいえ、なんだか悪いことしちゃったかな。

 

 「さてと、じゃあそろそろ行こうかな。」

 

 「あっ、待ってください叶也さん!」

 

 突然誰かに呼び止められた。

 

 「はいはい、だれですか…って阿求さん?」

 

 「図書委員の集会に行くのなら一緒に行きましょう。」

 

 「えっ?じゃあ阿求さんも図書委員?」

 

 「はい、そうですよ。というかなんで知っていないんですか。」

 

 「あはは、すいません。ちょっと寝てました。」

 

 勝手に副学級委員にされたから、ホームルームの間ずっと不貞腐れてて聞いてなかったとは言えない。主に僕が恥ずかしいから。

 

 「しょうがないですね。昨日は遅くまで起きてたんですか?夜更かしは身体によくないですよ。」

 

 どうやら僕の嘘を信じてくれたらしい。…少し心が痛む。

 

 そのまま僕たちは雑談をしながら図書館へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふう、着いた。なかなか遠いね。」

 

 「そうですね。私も少し疲れました。」

 

 身体が弱い阿求さんには少しきついだろうか。少し息切れしている。この学園はとにかく広いからなぁ。

 

 それにしても…ホントに大きな図書館だな。この学園内でも一際でかい。見た目は古いがぼろい感じではなく、年代を感じさせる厳かな雰囲気を醸し出している。

 

 流石に千万冊以上の蔵書量を誇るだけのことはある。

 

 阿求さんの呼吸が落ち着いたのを確認して図書館の中に進んでいく。

 

 図書館の中は特にすごい。本、本、本、そして本。言うなれば本の森だ。どこを向いても本棚だ。いくらジャンルごとに分かれていても、ここから目当ての本を探すのは難しそうだな。

 

 キョロキョロとあたりを見ながら歩いているといつの間にか集会がある部屋の前に来ていた。

 

 「じゃあ、入りましょうか…ってあれ?阿求さん?どこですか?阿求さあああああああん!!」

 

 し、しまった。いつの間にかはぐれてしまった。うわぁ、やっちゃったよ。これは後で阿求さんには土下座で謝りまくるしかないな。

 

 とりあえず、部屋の中で待つか。場所は分かってるんだし、そのうち来るはず。

 

 ガチャリという音を立てながら扉を開ける。

 

 それなりに早く来たつもりだけどちらほら人がいるね、ってあれは

 

 「あら、今年も図書委員になったのね。」

 

 「やあ、パチェ。君も来てたのか。」

 

 そこにいたのは僕の友達の一人、動かない大図書館、七曜の魔法使いなどたくさんの二つ名を持つ少女、パチュリー・ノーレッジだ。

 

 「当然よ。まだまだ読んでない本がたくさんあるもの。」

 

 「はは、パチェらしいね。」

 

 パチェとは愛称を許してもらえるほどに仲が良い。というか僕は紅魔館の人とは基本的に仲が良いんだけどね。霊夢や魔理沙と違って異変が起きる前から知り合いだったし。まあ、そこら辺の話は別にいいか。

 

 「それにしても、パチェは一人?同じクラスの人はいないの?」

 

 「ええ、私一人よ。図書委員は各クラス一人以上だから問題はないわ。」

 

 「え?一人以上?」

 

 「そうよ。あなたも去年一人だったじゃない。」

 

 「そ、そうだったね。うっかり忘れてたよ。」

 

 ということは霖之助先生が持ちかけた取引はもともと必要ないじゃんか。…なんか二重に損した気分だ。

 

 「そういうあなたは他にいないの?」

 

 「えーと、実は途中ではぐれちゃって…。たぶん後で来るよ。」

 

 そんな話をしていたら、部屋の扉があいた。阿求さんが来たかな?

 

 視線を扉に向ける。そこにいたのは緑の髪に背中の羽が特徴的な女の子。

 

 「えっ?大ちゃん!?」

 

 「あっ、叶也さん!!」

 

 まさかこんなところで大ちゃんと会おうとは。

 

 「私、叶也さんと同じ学校に入れたんです!これからよろしくお願いします!」

 

 「それは凄いね。よく頑張ったよ。」

 

 少し興奮気味の大ちゃんの頭を撫でながら褒めてあげる。実際どれくらい凄いのかはわからないが、まあそれは気にしない方向で。

 

 「えへへへへ。」

 

 幸せそうな顔で笑う大ちゃんはとても可愛かった。…一応言っておくけど僕はロリコンじゃないよ。

 

 「ちょっと、叶也。少し女の子にべたべた触りすぎじゃないかしら。」

 

 おっと、それもそうか。僕は大ちゃんから手を放した。

 

 「あっ…。」

 

 僕が頭から手を放すと大ちゃんは残念そうな顔をした気がする。

 

 「ところでそこの妖精とあなたはどんな関係なのかしら。」

 

 「うんまあ、遊び仲間って奴かな。」

 

 「そうなんです、よくチルノちゃんやルーミアちゃんたちと一緒に遊んでもらったんです。」

 

 たぶん、この世界では近所の優しいお兄さんポジションだったんだろう。幻想郷でもそんな感じだったし。

 

 「そういうあなたこそ、叶也さんとどういう関係なんですか!」

 

 パチェを見る大ちゃんの目が少し怖い。なんというか敵意みたいなものを感じる。ちょっと違うか?

 

 「そうね、簡単に言えば親友かしら。」

 

 えっ!まさかパチェがそんな風に思ってたなんて!最近は、もしかして動くサンドバックかなんかと勘違いしてるんじゃないかって思うくらいきつい魔法の実験に付き合わされたりしてたけど、あれも信頼の表れだったんだね!!

 

 「………友情と知的好奇心は別物なのよ。」

 

 「えっ、なんか言った?」

 

 「別に何でもないわ。…それより今の答えで満足かしら。」

 

 今度はパチェが大ちゃんを睨み返す。

 

 …なんか怖いな。誰か助けてください。

 

 「はあ、やっと着きました…ってなんですかこの状況!?」

 

 混沌としてきた空気を吹き飛ばすように阿求さんが戻ってきた。

 

 これで少しは状況が好転するだろうか…。

 

 

 

 

 





 どんどんハーレムタグに恥じない状況にしていきますよ!!

 次回もお楽しみに!

 

 ご意見、ご指摘、ご感想、お待ちしております<(_ _)>


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第8話  班決めで修羅場


タグにキャラ崩壊を追加しました。

もっと早くに入れるべきでしたかね(^_^;)


 

 前回のあらすじ、図書委員の顔合わせで図書館に向かった僕と阿求さん。委員会の集まりがある部屋に辿り着いた僕はパチェと大ちゃんに出会った。

 

 うん、ここまでは問題ない。だけど…

 

 「むきゅう~~~~!」

 

 「ぐぬぬぬぬぬ!」

 

 「あわわわわわ!?」

 

 …どうしてこうなった。

 

 睨み合うパチェと大ちゃん、そして慌てる阿求さん。うん、カオスだ。

 

 「きょ、叶也さんあの二人に何があったんですか?」

 

 「え、えっと、僕にもわからないです。」

 

 どうやら阿求さんは少し落ち着きを取り戻したようだ。問題は残りの二人か。

 

 僕は二人のほうへ視線を向ける。

 

 パチェは物静かで落ち着いた性格だし、大ちゃんは少し人見知りでおとなしい子だし、普段だったらこんなことは考えられないんだけどな。

 

 仕方ない、とりあえず止めに入るか。

 

 「まあまあ、二人とも落ち着いて。そろそろ集会も始まるし。」

 

 「…まあ、叶也がそう言うなら。」

 

 「…わかりました。」

 

 しぶしぶといった感じを前面に出しながらも一応従ってくれる二人。

 

 やれやれ、この先同じ委員会でやっていけるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「遅れてしまい申し訳ありませんでした。私はこの図書館の司書を務めている小悪魔です。気軽にこあさんと呼んでくれていいですよ。」

 

 今度はこあさんか。彼女は紅魔館でもパチェの手伝いとして図書館の管理をしていたし、まさに適任と言えるだろう。

 

 だけど、この学園には本当にに知り合いが多いな。まだ会っていない人たちがどんなポジションについているのか、少し楽しみになってきた。

 

 「…というわけでして、仕事は四人一組でやってもらいます。とりあえず皆さん適当に四人組作ってくださーい。」

 

 おっと、話が進んでる。四人組かぁ。とりあえず阿求さんとは一緒がいいな。知り合いだし、同じクラスだし。

 

 隣に座っている阿求さんに声をかけると快くオーケーがもらえた。あと二人か。

 

 「叶也、私と組みましょう!」

 

 「叶也さん、私と組んでください!」

 

 物凄い勢いでパチェと大ちゃんが駆け寄ってきた。

 

 「う、うん、いいよ。阿求さんもいいかな?」

 

 「え、ええ。問題ないですよ。」

 

 二人の勢いに若干引き気味になってしまったが、これはしょうがないことだと思う。

 

 これで四人そろったね、と言おうとしたが、ことはそう簡単には終わらなかった。

 

 「なんでわざわざこっちに来るのよ。あんたは一年同士で組めばいいじゃない。」

 

 「私は叶也さんと一緒がいいんです。あなたこそ、別の人と組めばいいじゃないですか。」

 

 あの、これでちょうど四人なんですけど…。

 

 「もしかしてあんた嫌われてんの?入学そうそうはぶられてんの?」

 

 「そういうあなたこそさっきから叶也さんとしか話してませんけど、他に友達いないんですか?」

 

 …ナニコレ怖い。

 

 助けを求めて阿求さんのほうに目をやる。

 

 「はわわわわわ!?」

 

 ああ、ダメだ。完璧にテンパってる。

 

 どうやらこの状況は僕がなんとかしなきゃいけないみたいだ。

 

 「班ができたら私に報告してください!」

 

 こあさんが大きな声でそういった。

 

 「あー、阿求さん。そろそろ落ち着ついた?」

 

 「は、はい。ななな何とか。」

 

 まだダメっぽいな。

 

 「とりあえずこあさんに班が出きたって報告してきて。」

 

 「あの、えっと、大丈夫でしょうか…。」

 

 阿求さんは言いづらそうに、二人を見た。

 

 「うん、言いたいことは大体分かったよ。大丈夫、とは断言できないけど何とかしておくから。」

 

 「わかりました、………私が戻ってくるまで無事でいてくださいね。」

 

 そういうと阿求さんはこあさんのところに向かっていった。

 

 しかし何故最後に死亡フラグを立てのか…。死ぬの?これに関わるとフラグ回収しちゃうの?

 

 …はあ、行くしかないか。

 

 「まあまあ、二人とも落ち着…」

 

 「叶也(さん)は黙っててください!!!」

 

 「……ゴメンナサイ。」

 

 ヤバい。ついに抑えきれないところまで来てしまっている。

 

 このままだと弾幕まで放ちそうな勢いだよ。早く何とかしないと、ってほんとに弾幕作ろうとしてる!?

 

 ええい、もうどうとでもなれ!こうなれば力技でこの場をしのいでやる!!

 

 僕は覚悟を決めて、その場で作った即興のスペルカードを発動させた。

 

 ―――――水符「クールダウン」

 

 瞬間、彼女たちの頭上に冷たい水が生成されその頭に降り注いだ。

 

 ちなみに今のは僕のエネルギーを使った魔法だ。本職の魔法使い並みに強力な魔法は使えないが、この程度なら僕でも余裕でできる。

 

 「さあ、二人ともこれで少しは落ち着いた?これに懲りたら喧嘩はほどほどにだよ。」

 

 「…わかったわよ。でももう少しマシな方法はなかったのかしら。」

 

 「服までびちょびちょです…。」

 

 少しやりすぎちゃったかな、ってコレは!?

 

 「ごめん!!」

 

 僕は物凄い勢いで二人から視線を外した。

 

 二人はそんな僕を不思議に思ったのか、お互いに顔を見合わせた。

 

 そしてその理由に気づいてしまった。

 

 そう、水を被ったせいでびしょ濡れになったセーラー服が、その、透けちゃったわけで…、直視できない状況になってしまったわけです、はい。

 

 あっ、ヤバい。正面の二人から怒りのオーラが漂ってきてる。

 

 「叶也のあほおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 パチェの放った弾幕の一つが顔面に直撃し、僕はおもいっきり吹っ飛ばされた。

 

 …阿求さん、無事ではいられなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後びしょ濡れになった床の掃除をこあさんに言いつけられたことは、言うまでもないだろう。

 

 

 





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第9話  ヴァンパイアシスターズ


2014.1.12
レミリア様の口調を改訂


 

 「起きなさい!!」

 

 「ぐへっ!」

 

 いたた、今日も容赦のない起こし方だ。

 

 打ち付けた頭をさすりながら、僕は立ち上がった。

 

 「悪いけど今日は用事があるから先に行くわ。」

 

 「えっ、そうなの?」

 

 「朝御飯は用意しておいたから、それじゃ。」

 

 霊夢は言いたいことだけ言うとすぐに僕の部屋から出て行った。

 

 そんなに忙しいならわざわざ起こしに来なくてもいいのに。

 

 流石の僕だって遅刻しちゃうほど遅くまでは寝てないよ……たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は曇りか、別に嫌いじゃないけどやっぱり晴れてるほうがいいかな、なんてどうでもいいことを考えながら学校に向かう僕。

 

 はあ、やっぱり話し相手がいないと少し退屈だな。誰か知り合いが通ったりしないかなー。

 

 「お兄様!!」

 

 いきなり背中に衝撃が走る。後ろを見ると僕の背中に抱き着いている女の子がいた。

 

 「フランちゃんじゃないか。こんなところでどうしたの?」

 

 彼女の名前はフランドール・スカーレット。吸血鬼の女の子で、なぜか僕をお兄様と呼ぶ。

 

 「えへへ、見て見て!」

 

 そういうと僕の目の前に来てくるっと一回転する。着ている服はいつもの赤い服ではなく、僕の学園のセーラー服。ということは…

 

 「フランも今年からお兄様と同じ学校だよ!」

 

 そういって今度はお腹に抱き着いてくる。それにしてもフランちゃんはスキンシップが激しすぎると思う。紅魔館ではいったいどんな教育をしているのか、甚だ疑問でしょうがないよ。

 

 とりあえず頭を撫でながらよろしくね、と返しておく。

 

 僕が頭を撫でるとフランちゃんは嬉しそうにえへへ、と笑った。

 

 くっ、なんて可愛いんだ。自然と手が頭を撫で続けてしまう!

 

 もっとなでなでしたい衝動を堪えつつ、頭から手を放す。いつまでもここで立ち止まってるわけにはいかないしね。

 

 「じゃあ、学校まで一緒に行こうか。」

 

 「うん!」

 

 元気に返事が返ってきたと思ったら、フランちゃんが僕の右腕に抱き着いてくる。

 

 「あの、フランちゃん?なんで腕を組むのかな?」

 

 「なんとなくだよ。」

 

 「そっか、でもこれだと歩きにくいかな。」

 

 「フランは平気だよ!」

 

 うん、まあ正直僕もそんなに歩きにくくはない。

 

 だけどこの状況は結構恥ずかしいし、何とかしたいとは思ってます。ほら、道行く人の視線が突き刺さるよ。

 

 「もしかして迷惑だったかな……」

 

 「そ、そんなことないよ!さあ、学校に行こうか!」

 

 フランちゃんが見るからに悲しそうな顔になってしまったので、慌てて弁解をする。

 

 僕の羞恥心のせいでフランちゃんを悲しませるわけにはいくまい。

 

 むう、それにしてもこれは恥ずかしいな。

 

 また道行く人がこっちを見てにやにやしてるよ。中には憎悪のまなざしを向けてくる人やカメラを構えている人も…、ってカメラ?

 

 パシャリ

 

 シャッター音が響く。音の発生源に目を向ける。

 

 「あややややや、これはスクープです!見出しは『紅魔館の主の妹と八雲家の秘蔵っ子の禁断の恋』にしましょう!」

 

 し、しまった!?一番見られたくない人に見られてしまった、しかも写真つきで!!

 

 いきなり物凄いことを口走り始めたのは烏天狗の射命丸文さん。彼女は自作の新聞を作っているのだが、捏造、というほどではないが脚色過多な記事が多いことで有名だ。

 

 とりあえずあの写真を何とかしないと大変なことになる。あることないこと書かれて僕は社会的に死んでしまうかもしれない。

 

 とにかくあの写真をなんとかしないと!

 

 「文さん、そのカメラを渡してください。」

 

 「あややや、私がこんな面白いネタを手放すと思いますか?」

 

 いや、思わないです。一応聞いてみたけど答えは概ね予想通り。ならば…

 

 「力ずくで奪わせてもらいますよ!」

 

 文さんのカメラに向かって手を伸ばす。

 

 「そんな遅い動きでは、私を捉えることなんてできませんよ。」

 

 「なっ、後ろ!?」

 

 さっきまで目の前にいたのにいつの間にか僕の後ろに回り込んでいた。

 

 やっぱりスピードじゃ文さんには勝てないか…。

 

 「それでは叶也さん、御機嫌よう。」

 

 そのまま飛び立とうとする文さん。このままでは逃げられてしまう。

 

 慌てて追いかけようとしたが、その時不測の出来事が起こった。

 

 バキンッ、という音を立てて、文さんの持っていたカメラがいきなり壊れた。

 

 「「え?」」

 

 唖然とする僕と文さん。いったい何が起こったんだ?

 

 「お兄様を困らせるなんて、悪いカラスね。」

 

 そこには凄惨な笑顔を浮かべたフランちゃんが立っていた。

 

 右手を目の前に突き出して握りしめている。なるほど、能力を使ってカメラを壊したのか。

 

 確かに、彼女の『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』ならカメラを破壊するなんて造作もないことだろう。

 

 それにしてもヤバいな…。あの様子だと少しばかり狂気に呑まれてるかな。

 

 「次はその羽をもぎ取っちゃおうカナ?」

 

 無邪気な口調で恐ろしいことを言うフランちゃん。こ、これは本格的に不味いぞ。

 

 「ふ、フランちゃん!僕はそんなに困ってないから大丈夫だよ!」

 

 「退いてお兄様、そいつ壊せナイ。」

 

 「いや、壊さなくていいから!!と、とにかく落ち着こうよ。」

 

 「むう、お兄様がそこまで言うなら。」

 

 ふう、とりあえず収まったかな?もっと強く狂気に呑まれていたらどうなっていたことやら。

 

 「僕のために怒ってくれるなんて、フランちゃんは優しいね。」

 

 「えへへへ。」

 

 うん、大丈夫みたいだね。頭を撫でながら安全を確認する。あっ、そうだ忘れてた。

 

 「文さんもすいませでした……っていないし。」

 

 あの人いつの間に逃げてたんだ?流石幻想郷最速だ、逃げ足も半端ないなぁ。

 

 それにしても朝から疲れたな、主に精神的に

 

 朝からこんな騒動があるなんて、今日は厄日かなんかか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの騒動のあと、僕らはまた学校に向かっていた。フランちゃんは僕の右腕に抱きつきながら楽しそうに鼻歌を歌っている。

 

 なんだかさっきの騒動が嘘みたいに感じるな。

 

 「よう、叶也!」

 

 そんな掛け声と一緒に背中を思いっきり叩かれた。

 

 …言い訳させてもらうと僕は先ほどの出来事で少し疲れていて、更に右腕をフランちゃんに腕を組まれているからいつもより重心が安定していなかった。さらに、あの阿呆(流)は加減も考えずに思いっきり僕の背中を叩いた。

 

 つまり何が言いたいのかというと、僕がフランちゃんの上に倒れこんじゃったのは不可抗力なんだ、ということです。

 

 「ご、ごめんフランちゃん、大丈夫。」

 

 「う、うん。大丈夫だよ。」

 

 よかった。少し顔は赤いけど怪我はないみたいだ、って吸血鬼がこの程度で傷つくわけないか。

 

 「貴方達、何をしているの…。」

 

 強い怒りを含んだ言葉がその場に響いた。

 

 僕は恐る恐る声の主を確認する。

 

 そこにいたのはフランちゃんの実の姉で紅魔館の主、レミリア・スカーレットさんだった。

 

 「こんな朝早くから私の妹に手を出すとはいい度胸ね、八雲叶也。」

 

 手をだす?そこで僕は自分の今の状況を思い出す。

 

 「いや、違うんです!これは「言い訳は聞かん!!」

 

 ヤバい、かなり怒ってるよ。レミリアさんは妹をすごく大事にしているから、フランちゃんのこととなると見境がなくなっちゃうんだよなぁ。

 

 「とはいえ、私は貴方のことを高く買っている。この場で散らすには惜しい命だとも思っている。」

 

 もしかして怒られないの?というか、普通の人だったら命が散らされてたのか…。

 

 「だから、この一撃で帳消しにしてあげるわ。」

 

 レミリアさんって、本気で怒ってる時が一番カリスマに満ち溢れてるなあ。…思わず現実逃避してしまった。はあ、結局お仕置きされるんですね。

 

 「いくわよ」

 

 ―――――神槍「スピア・ザ・グングニル」

 

 「ちょっ、レミリアさん!お仕置きでそれはオーバーキル過ぎじゃ――」

 

 ピチューン

 

 

 

 

 

 

 やっぱり今日は厄日だな…。

 

 僕は薄れゆく意識の中でそんなことを考えていた。

  

 

 

 




次回は保健室でのお話

目が覚めた叶也君を待っていたのは…



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第10話  保健室のウサギ


なんと今回は4000文字オーバーです(-_-;)

無駄に長くなってしまいすいません<(_ _)>


 

 

 

 …う、うーん。なんだか体中が痛いな。

 

 目が覚めたとき何故か僕はベッドの上に横になっていた。

 

 えっと、……ダメだ思い出せない。レミリアさんにお仕置きれた後どうなったんだ?

 

 「おっ、やっと起きたのか。なかなか起きないから心配したんだぜ」

 

 「魔理沙?」

 

 ベッドの横の椅子に腰かけていたのは僕の幼馴染の霧雨魔理沙。…どんどん状況が読めなくないくな。

 

 「ああ、魔理沙ちゃんだぜ。頭強く打ちすぎて記憶喪失にでもなったのか?」

 

 「いや、そんなことはないけど。なんだか状況が呑み込めなくてね」

 

 「叶也はずっと気絶してたからな。ここは私が説明してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔理沙が言うことには僕は通学路のど真ん中で黒焦げになっていたらしい。ちなみにフランちゃんとレミリアさんはその近くで姉妹喧嘩をしていたそうな。…喧嘩する前に僕の介抱をしてほしかったです。

 

 それを見かけた魔理沙は僕を担いで学校の保健室まで連れてきてくれたとのことだ。

 

 「いやー、ありがとね。あのままだと学校に遅刻して授業にも出れないところだったよ。」

 

 「気にするのはそこかよ…。てか、授業ならもう始まってるぞ。」

 

 「えっ!?」

 

 僕は保健室にある掛け時計を見た。

 

 ぎ、ぎゃあああああああああああ、もう一時間目が半分ほど終わってるうううううううううううう。

 

 「ぼ、僕の貴重な授業時間がぁ…」

 

 「叶也ってホント変な奴だな。普通だったら授業がサボれて嬉しい!って泣いて喜ぶもんだろ?」

 

 それは大袈裟すぎでしょ。まあ言いたいことは分かるけどね。僕も最初からこっちの人間だったらそんな風になってたのかもしれないし―――泣いて喜びはしないと思うけど。

 

 「とにかく一時間目の間だけでも休んどいたほうがいいぜ。なんだか今日のお前は回復が遅いみたいだし」

 

 そういえば、まだ体中が痛い。妖怪一屈強である鬼、その中でもトップクラスの実力者である萃香さんにも「お前の頑丈さと回復力は幻想郷でも五指に入るほどなんじゃないか?」と言われたほどなのにだ。というかそれはもう人間ではないような気が…、いや考えるのはやめておこう。

 

 「今、保健委員の兎が薬取りに行ってるから、おとなしく待ってるんだな」

 

 「わかったよ。ところで魔理沙は授業でなくていいの?」

 

 「叶也が心配で授業になんて集中できないぜ」

 

 うわぁ、満面の笑顔だよこの人。さては僕をダシにして授業をさぼったな。まったく僕は出たくても出られないってのに。

 

 「ごめんなさい、少し遅くなったわ」

 

 あっ、保健委員の人が薬を持ってきてくれたのかな?

 

 保健室に入ってきたのは頭の上の兎耳が特徴的な、鈴仙・優曇華院・イナバさんだった。

 

 「あっ、目が覚めたのね!」

 

 僕の顔を見て心底安心したように鈴仙さんは言った。

 

 「すいません、心配かけてしまって」

 

 「べ、別にあんたを心配なんかしてないわよ!保健室で死人が出なくてよかったと思っただけなんだからね!」

 

 怒鳴られてしまった。幻想郷にいた時から鈴仙さんには会うたびに怒られてばっかりだな。なんか嫌われるようなことでもしちゃったかな?

 

 「ところで薬はもらえたのか?」

 

 「ええ、これを飲めばたとえ四肢が全部もげた状態でも、元通りの健康体に戻れるそうよ」

 

 …効き目が強すぎて逆に怖いよ。なんだか色も毒々しい。匂いもきつい。

 

 「ねえ、ほかの薬はないの?」

 

 「あったらわざわざ先生のところまで薬取りに行ったりしないわよ。ほら飲みなさい。」

 

 仕方がないか。これを飲まなきゃ授業にも行かせてもらえないみたいだし。

 

 鈴仙さんが突き出してくる薬に手を伸ばした

 

 「ありが…っいて!」

 

 いったあ!み、右手を動かしただけなのに体中が痛い!

 

 「ちょ、ちょっとあんたそんなにひどいの!?」

 

 正直かなりきつい。なんたってちょっと動かしただけでこの様だもんな。

 

 どうやって薬を飲めばいいんだよ。

 

 ふと鈴仙さんのほうを見るとなんだか深刻な顔をしている。どうしたんだろ?

 

 「…じゃあ、私が飲ませてあげるわ」

 

 「え?」

 

 「か、勘違いしないでよ!これは保健委員としての仕事なんだからね!私は嫌だけど仕方がなくやってあげるんだから感謝しなさいよ!」

 

 顔を赤くしながら一気に捲し立てる鈴仙さん。僕の体は今動かないわけだしそれが最善策かな?

 

 「じゃあ、おねが「ちょっと待った」…へ?」

 

 僕のセリフを途中で遮ったのは魔理沙だった。いったいなんで?

 

 「叶也もいやいや飲まされるのは辛いだろ?ここは私が飲ませてやるよ」

 

 そんなことを言い出す魔理沙。僕は飲ませてくれるならどっちでもいいんだけど確かに無理して飲ませてもらうのも心苦しいかな。

 

 「じゃあ、まり「待ちなさい!」…さ?」

 

 今度は鈴仙さんに止められた。

 

 「これは保健委員の仕事よ!部外者は引っ込んでなさい!」

 

 「おいおい、部外者とは失礼だな。私が叶也をここまで運んできたんだ。やっぱり拾ったものの面倒は最後まで自分で見ないといけないだろ?」

 

 まるで捨て犬のような扱いだな、僕。

 

 「そんなの関係ないわ!ここは保健室で私は保健委員、そして保健室にけが人がいるなら、その手当をするのが保健委員の仕事よ!」

 

 「そんなこと言って、ホントは叶也に手ずから薬を飲ませてあげたいだけなんじゃないか?叶也がここに運んできたとき、お前顔面蒼白になって慌ててたもんな。」

 

 あっ、やっぱり心配してくれてたんだ。さっきのは僕に気を使わせないための気遣いだったのかな。

 

 「そ、そんなことないわよ!そういうあなただって、叶也を運んできたときすごく泣きそうな顔してたじゃない!」

 

 「なっ、そんなわけないだろ!!」

 

 えっ、魔理沙が泣きそうになってたって!?……正直想像できないな。少なくともここ数年は魔理沙のそんな顔は見てなかったし。

 

 というか僕ってそんなにひどい状況だったの?

 

 「と、とにかくその薬を寄越せ!」

 

 顔を赤くしながら魔理沙は鈴仙さんの手から薬を掠め取った。

 

 「ちょっ、何すんのよ返しなさい!」

 

 今度は鈴仙さんが魔理沙から薬を取り返す。

 

 そこからは薬争奪戦が始まった。もはや当事者の僕のことすら忘れてるんじゃないか?

 

 「ちょっと二人ともそんなに暴れたら薬が…」

 

 僕が声をかけた瞬間二人の動きが一瞬ずれた。そしてそのずれは大きな誤差につながった。

 

 「「「あっ」」」

 

 二人が取り合っていた薬が宙を舞った。それは弧を描きながら動けない僕のほうに向かってきて、そして…

 

 がしゃーーーん!

 

 「きょ、叶也?大丈夫か?」

 

 「…まあ、大丈夫だよ。というか今のでなんか体も治っちゃったし」

 

 そう、なんとあの薬、体にかけただけでも効果があったらしい。そんな強力なもの服用したらいったいどうなってたんだか。

 

 「ごめんなさい、私も少し熱くなり過ぎたわ」

 

 「そ、そんないいんですよ。すっかり体も良くなったし、僕は気にしてませ…ん……」

 

 そのとき、僕は落ち込んでいる鈴仙さんを慰めようと彼女の顔を覗き込んだ。そして今日初めて彼女の紅い目を直視した。

 

 そして、世界が変わった。

 

 変わったといっても、景色に変化はない。

 

 ただ僕の周りにおぞましいアイツがたくさん現れた。

 

 体の震えが止まらない、嫌な汗が噴き出してくる、呼吸が整えられない。

 

 「……い」

 

 「ん?どうした叶也、なんか様子がおかしいぞ?」

 

 「うわっ、あんた汗がひどいわよ。それに顔も真っ青になってるし」

 

 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 なんでここに奴らがいるんだ!む、無理だ、僕にはこの空間にいるのがもう耐えがたい!

 

 「ちょっ、どうした叶也!」

 

 「…似てるわ」

 

 「はあ?何に似てるんだ?」

 

 「私の狂気の魔眼に捕われた人間たちの反応と似てるのよ」

 

 「でも叶也には…」

 

 「ええ、私の魔眼は効かないはずなのよ。とりあえず私が元に戻せるかやってみるわ」

 

 周りで何か話しているが今はそれどころじゃない!は、早くこの状況を何とかしないと僕の精神が持たないよ!

 

 「と、とにかく全部消せばいいんだ!」

 

 こうなったら僕の最強のスペルカードを―――

 

 「叶也!こっちを見なさい!!」

 

 僕を呼ぶ声に反射的に振り返る。

 

 僕の目はまるで吸い込まれるように鈴仙さんの目を見た。

 

 その瞬間僕の周りから奴らは消えさった。

 

 「あ、れ?」

 

 「やっぱり狂気の魔眼のせいだったのね」

 

 「えっ?でも僕には狂気の魔眼は効かないよ?」

 

 「そんなの私だって知ってるわよ。つまり今のあんたは異常だってことよ」

 

 一体なんでだろ?この世界が関係してるのか、それともさっきの薬のせいか…。とりあえず後で紫さんに聞いてみよう。それが一番手っ取り早いだろう。

 

 「こ、このまま、ずっと元に戻らないなんてことは、無いわよね?」

 

 少し怯えながら、鈴仙さんが聞いてきた。

 

 もしかして薬のせいだと思ってるのかな。それで責任を感じてるのかも。

 

 「大丈夫だよ鈴仙さん。きっと元に戻るから」

 

 「あっ」

 

 僕は思わず鈴仙さんの頭を撫でていた。なんだか弱弱しい鈴仙さんを慰めたくて、気づいたら頭の上に手が伸びていた。

 

 そのまま少しの間沈黙が続いた。なんだか恥ずかしいな。鈴仙さんも顔が赤くなってるし

 

 「あー、おほん、私を無視するのもいい加減にしてほしいんだけど」

 

 「あっ、えっと、き、気安く頭を撫でないでよ!」

 

 「ご、ごめん!」

 

 僕は慌てて手をどかした。

 

 しまったな、この前パチェにも注意されたばっかりなのに。

 

 手を退けたとき鈴仙さんが一瞬残念そうな顔をしたように見えたのは気のせいだと思う。

 

 「とりあえず、そろそろ教室に行こうぜ。ちょうど一時間目も終わったみたいだし」

 

 学校に授業終了のチャイムが響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保健室で鈴仙さんと別れ、魔理沙と教室に向かいながらふと思った。

 

 今日はまだ半分も終わってないというのにこんなにひどい目にあうなんて、ほんとに厄日なんじゃないかな?

 

 僕のこの想像は当たっていたのだが、この時の僕は偶然だと思い気にも留めていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~SIDE ???~

 

 私が保健室の前を通りかかったのは偶然だった。

 

 つまらない授業を抜け出して当てもなく学校を歩き回っていたら突然悲鳴が聞こえてきた。

 

 何が起きたのか気になって悲鳴の発生源まで行ってみるとそこにはお兄ちゃんたちがいた。

 

 やった!こんなところでお兄ちゃんに会えるなんて!

 

 私はすぐにお兄ちゃんに飛びつこうとしたけど、驚かせようと思って能力を使ってこっそり近づいた。

 

 それにしてもお兄ちゃんの様子がおかしいけど大丈夫かな?

 

 あっ、治った。

 

 

 

 

 

 「あ、れ?」

 

 「やっぱり狂気の魔眼のせいだったのね」

 

 「えっ?でも僕には狂気の魔眼は効かないよ?」

 

 「そんなの私だって知ってるわよ。つまり今のあんたは異常だってことよ」

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんに能力が効く?それってもしかして…

 

 「今ならお姉ちゃんの能力も効くんじゃないかな?」

 

 これは面白いことができそうだ。

 

 そんなことを考えていると授業終了のチャイムが校舎に鳴り響いた。

 

 善は急げっていうしさっそくお姉ちゃんのクラスに行こうかな。

 

 ~SIDE OUT~

 

 

 





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第11話  昼休みの心理戦

 



 

 

 きーんこーんかーんこーん

 

 

 

 「むっ、もう終わりか。では今日はここまでだ。きちんと復習するのだぞ」

 

 「起立、礼」

 

 いつもの挨拶で授業が締めくくられる。

 

 保健室を出てから今まで、何事もなく昼休みを迎えることができた。

 

 朝は厄日だなんだって言ってたけど、結局あの後は何も起きなかったな。

 

 流石にあんなひどい目にあったんだし、今日はもう何もないだろ。

 

 ……なんでだろう、今のセリフはフラグになった気がする。

 

 ま、まあそんなことよりお昼の時間だよね!今日は誰と食べようかな!!

 

 今日も流たちと食べようか、それとも偶には別の人と食べようか…。

 

 「き、叶也」

 

 「はーい、…って妖夢、なんかあったの?」

 

 なんだかものすごい形相だ。少しデジャブを感じるな。

 

 「あ、あの今日の昼食なんですが」

 

 お昼がどうかしたのかな?

 

 「えっと、その、い、一緒にた「きょうやー、学食行こうぜー。どうせ弁当なんてないだろ?」

 

 妖夢がすべてを言い切る前に魔理沙のセリフが割り込んできた。

 

 「うん、別にかまわないよ。…で妖夢、今何を言おうとしてたの?」

 

 「い、いえ、別に何でもありません。すいませんが私は少し用を思い出したので」

 

 そういうと妖夢はとぼとぼと教室から出て行った。

 

 なんだかわからないけど悪いことをしてしまった気がするな。なんとなく心の中で妖夢に謝る。

 

 そして魔理沙のところに行こうとしたのだが今度は淵に呼び止められた。

 

 「………叶也、呼ばれてる」

 

 「えっ、誰に?」

 

 淵はスッと教室の扉の方を指差す。

 

 「あの人は…」

 

 見覚えがある、というか知り合いだ。

 

 僕は淵にお礼を言って、魔理沙に少し待っててと告げた後に廊下で待つ彼女の下に向かった。

 

 ピンクのショートヘアーにぷかぷか浮かぶ第三の目。こんな特徴を持っている人は幻想郷で一人しかいないだろう。

 

 「何の用ですか、さとりさん?」

 

 そこで待っていたのは地霊殿の主、古明地さとりさんだった。

 

 セーラー服を着ているところを見るにさとりさんもこの学校の生徒か。

 

 「…どうやら、こいしの言っていたことは本当のようね」

 

 「えっ?」

 

 「いえ、何でもありません。少しお話がしたくてお昼を一緒に食べようと思ったんですが、先約があるのでしたら…」

 

 「あー、魔理沙がいても構わないんだったら、いっしょにどうですか?」

 

 「…いつ能力が効かなくなるかもわからないし、早い方がいいかしら」

 

 今日のさとりさんはなんかおかしい。よく聞こえないけどブツブツと独り言を呟いてるし。悩み事でもあるのかな?

 

 「そうですね、じゃあご一緒させてもらえますか」

 

 「はい。魔理沙なら文句は言わないでしょうし」

 

 「叶也、まだか?」

 

 ちょうど魔理沙がこっちにやってきた。隣にはアリスも立っている。

 

 「アリスも一緒でいいよな?」

 

 「僕は構わないよ。僕の方もさとりさんを誘ったところだし」

 

 「私は誰が一緒でも構わないぜ。アリスもいいよな?」

 

 「ええ、どっちでもいいわよ。そもそも私は無理矢理あんたに付き合わされてるわけだし。あんたが叶也と二人きりは恥ずか「わあわあわあ!それを言うな!」…はいはい、分かったわよ」

 

 一体アリスは何を言おうとしたんだろう?非常に気になるけど、魔理沙も聞かれたくないみたいだしいっか。

 

 「と、とにかく学食に行こうぜ!」

 

こうして少しドタバタしながらも僕らは食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立幻想学園は食堂もすごい。味、値段、品ぞろえ。どれをとっても文句のつけようがない。値段に限って言えばものによっては高いのもあるけど、安いのでもかなりおいしい。

 

 それに広い。学校の生徒が全員入れるんじゃないかってくらいには広い。この学園の建物ってやたらとでかいんだよな。図書館しかり、食堂しかり。

 

 ホントにどうやってこんなとんでもない学校を運営しているんだ?…まあ、紫さんならなんでもできちゃいそうだからそこまで不思議ではないか。

 

 「じゃあ、それぞれ自分が食べたいものを取ってきてからこのテーブルに集合で!」

 

 と魔理沙が言って、みんなバラバラになってから少し時間が経過している。

 

 僕は日替わりランチセットAを買ってテーブルに戻ってきていた。

 

 ちなみに、テーブルはお弁当を持ってきていたアリスに取っておいてもらった。

 

 「アリス、ほかの二人は?」

 

 「まだよ。お昼時は混むから、…って来たみたいね」

 

 アリスの視線を追うとお盆を持って歩いてくる二人が見えた。

 

 魔理沙はかつ丼で、さとりさんはパスタか。

 

 そのあとは雑談しながらお昼御飯を食べた。

 

 穏やかなお昼時。

 

 このまま和やかにそんな時間が過ぎていくと思っていた。

 

 だけどそんな空気はさとりさんが投じた一言によって消し飛んだ。

 

 「ところで前々から気になっていたんですが、叶也さんには好きな女の子はいるんですか?」

 

 「「ぶふぅ!!!」」

 

 僕と魔理沙は思いっきり吹き出した。アリスも若干驚いている。

 

 こ、これってあれだよね、いわゆる恋愛的な好きのことだよね。それとも友達としてだれが一番好きか聞かれてるのか?

 

 「きゅ、急にどうしたんですか?」

 

 「そ、そうだぜ!こんな真昼間からなんて話をするんだ!」

 

 魔理沙は真っ赤な顔になって僕を援護する。でも時間帯の問題ではないと思うんだ、僕は。

 

 そんな思いを視線に乗せて魔理沙に送る。じっと見ていると魔理沙はさらに赤くなって俯いてしまった。なんで?

 

 「いえ、大したことではないので気軽に答えてください」

 

 いや、僕にとっては大事ですよ?今まで考えたこともないし…、幻想郷の女の子ってみんな可愛いし、綺麗だし面白い人たちばっかりだけど、恋愛感情を持ったことはない、と思う。

 

 「えっと、みんな大好きですよ、友達として」

 

 「そうですか」

 

 なんだか、こういうこと聞かれるの初めてだからどうしたらいいか分からないよ。顔とか真っ赤になってるんじゃないかな。

 

 「…深層意識までのぞいてみたけど特別な感情を抱いている女の子はいないようね。でも、幼馴染のあの二人は少し注意が必要かもしれないわ」

 

 また独り言だ。やっぱり今日のさとりさんはなんかおかしいぞ。

 

 「では次ですが…」

 

 「次!?」

 

 「はい、次は好きな女の子のタイプを教えてくれませんか?」

 

 何なんだ?いったい何が起きてるんだ?誰か助けておくれよ!!

 

 助けを求めて魔理沙とアリスの方を見る。

 

 アリスは面白い物を見るような目で僕とさとりさんのやり取りを見ている。

 

 魔理沙はさっきまで真っ赤になって湯気を出してたのに、今は食い入るように僕を見ている。

 

 だめだ、味方がいない。

 

 と、とにかくこの場を何とかやり過ごさないと。

 

 「ええっと、と、とくにそういうことは考えたことないかな。でもやっぱり話してて楽しい人がいい、かも」

 

 こ、これでどうだ!おいアリス、つまらない答えね、とか言うな!

 

 「…くっ、こっちもあまり情報が得られないわね。でも髪型は長いほうが好きみたい。少し伸ばしてみようかしら」

 

 また独り言を…ってあれ魔理沙が怖い顔してる。

 

 「さとり、もしかしてお前…叶也の心を読んでるのか?」

 

 えっ、僕の心を?

 

 「ちょっと魔理沙、そんなはずないよ。魔理沙も知ってるだろ。僕にはさとりさんの能力は効かないんだよ」

 

 「でも、今朝は鈴仙の狂気の魔眼も効いてたじゃないか」

 

 あっ、そういえばそうだ。昼休みはそのことを紫さんに相談しに行こうと思ってたのにすっかり忘れてた。

 

 「どうなんだ、さとり!」

 

 「そう、ですよ…。私は能力で叶也さんの心を読んでいました。………こっそりこんなことをする私を軽蔑しましたか?」

 

 そういって、僕に視線を向けてくるさとりさん。

 

 正直、そんなに迷惑ってわけでもない。僕の心の中なんてしょっちゅう霊夢や紫さんにばれてるし。それにさとりさんになら見られても迷惑ではないかな。

 

 「確かに心の中を見られていたのはびっくりしたけど、そんな軽蔑するほどのことでもないですよ。」

 

 そういうと、さとりさんは目を見開いて少しの間固まってしまった。

 

 「えっと、大丈夫ですか?」

 

 「大丈夫、ですよ。やっぱり叶也さんは不思議な方ですね」

 

 褒められたのか、貶されたのかよくわからない返答をもらってしまった。でもとりあえず一件落着かな?

 

 あっ、そうだ。

 

 「というわけで魔理沙、僕は何とも思ってないからそんなに怒んないでね?」

 

 いまだに怖い顔をしている魔理沙にそう告げた。怖いというか鬼気迫る感じだ。

 

 「叶也がどう思っているかなんて関係ないぜ!」

 

 あれ?僕の代わりに怒ってくれてたんじゃないの?

 

 「さとり、ちょっと耳かしてくれ」

 

 「はい、どうぞ」

 

 さとりさんはもう話の内容が分かっているのか、にやりと笑って魔理沙によっていく。

 

 「…お前、叶也はだれが好きかとか、叶也の好みとか見たんだろ?お願いだから教えてくれよ」

 

 「…それはおしえられないですね。私だけの秘密です」

 

 「…そんなこと言うなよ。言わなきゃこのこと紫にばらすぞ?」

 

 「…それは、色々と面倒なことになりそうですね」

 

 今度は二人でひそひそ話が始まってしまった。

 

 こっそりお話しされると話の中身が気になるよね?

 

 こういう時は直接聞くのが一番だ!

 

 「ねえねえ、二人で何話してるの?」

 

 「っ!?い、今は聞かないで!!」

 

 「ごべら!!!」

 

 魔理沙が瞬時に作った魔力の弾が僕にぶち当たる。

 

 弾き飛ばされた僕はアリスの隣に綺麗に落っこちた。

 

 「いててて。ねえ、アリスはあの二人がなに話してるか分かる?」

 

 起き上がりながらアリスに聞いてみる。アリスは意外と人の機微に敏感だから何かわかるかも。

 

 「大体は予想がつくけど、あんたには教えないわよ」

 

 「なんで!?」

 

 「あんたも少しは自分で考えなさい。あんたが気づかないと周りが苦労するのよ」

 

 「え??」

 

 「はあ、先が思いやられるわ」

 

 

 

 

 

 そのあと、今度は魔理沙とさとりさんが一緒になって僕を質問攻めにしてきた。

 

 「初恋の人は?」とか、「どんな服が好きか?」とか、挙句の果てには「胸が大きい女の子と小さい女の子どっちが好きですか?」とか聞かれた。

 

 さすがに恥ずかしくて逃げ出そうとしたけど、アリスに捕まえられたし。

 

 なんだか精神的に疲れる昼休みだったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~SIDE ???~

 

 やっぱり、お兄ちゃんは見ていて退屈しない。

 

 魔理沙に飛ばされたときのお兄ちゃんの顔はすっごいおもしろかった!

 

 ホントにお兄ちゃんは面白いなあ。

 

 そうだ、次はあの人に教えてあげよう。

 

 今なら薬とかも効くかもしれないし、案外面白いことが起きるかも!

 

 そうと決まれば保健室に、って今は化学室かな?

 

 まあ、どっちでもいいか。放課後まで時間はまだまだあるし、とにかく探しに行ってみよー!

 

 ~SIDE OUT~

 

 

 





 少女暗躍中…


 謝罪
 テスト期間につき今月の更新はこれ以上できないと思います
 毎週楽しみにしてくれている皆様、誠に申し訳ございません
 来月からはまた週一更新で頑張ります


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第12話  自習時間

テスト勉強の合間に気晴らしで書いてしまいました




 「………というわけで授業の代わりに自習が入っているのだから、くれぐれも遊んだりおしゃべりしてはいけないからな。百歩譲って読書なら許そう。私は隣のB組で授業しているから何かあったら来るのだぞ」

 

 そういうと慧音先生は僕らの教室から出て行った。なんでも国語の教師が今日はお休みらしい。

 

 というわけで僕は初めての自習時間を経験しているのだが…

 

 「叶也!トランプしようぜ!」

 

 「いいですね、何をしましょうか?」

 

 「………大富豪」

 

 …何故か僕の机は男三人に囲まれていた。

 

 「はあ、先生の話聞いてなかったの?勉強してろって言ってたじゃないか」

 

 「馬鹿だな叶也!そんなの守る奴なんているわけないだろ!」

 

 さすがにそれはどうだろうか。

 

 でも確かにまじめに勉強してるのは妖夢とか阿求さんとか一部の人たちだけか。

 

 魔理沙は机に突っ伏して眠っているし、アリスは人形の手入れ、霊夢に至ってはどこから持ってきたのかせんべいとお茶で一服している。まさか湯呑を持参していたとは。

 

 「自習と言えば自由時間というのは学生の共通項でしょう」

 

 啓って丁寧な口調の割に真面目じゃないっていうかなんというか。別に不真面目ってわけではないけどね。

 

 「………やろう」

 

 淵が人数分の椅子を持ってきた。僕まだやるって言ってないんだけど…

 

 「あんたたち、面白そうなことやってるじゃない!」

 

 あ、もうダメだ。なんでか分かんないけどトランプをやることになるだろうという確信が浮かんだ。

 

 現れたのはトラブルメーカー比那名居天子。まさに面倒事を生み出すために存在しているような存在だ。

 

 「比那名居さんもトランプやりますか?」

 

 「………大富豪」

 

 「いいわね、でもただ大富豪をやってもつまらないわ」

 

 「じゃあ、どうすんだよ!」

 

 「ビリには罰ゲームを与えるわ!」

 

 「罰ゲームと言いますと?」

 

 「そうね…一位の人がビリに何でも命令できるとかでいいんじゃないかしら」

 

 「………面白そう」

 

 話がどんどん進んでいく。ひしひしと嫌な予感がする。今日一日を考えるとどうにも碌なことが起きない気がする。

 

 逃げようか?でもこの狭い教室じゃ逃げ場なんてないか。

 

 「それじゃあ野郎ども、始めるわよ!」

 

 「「「おう!」」」

 

 こうして僕の望まない大富豪大会が始まった。しかも罰ゲーム付。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「敗けた…」

 

 「また私が大富豪ね!」

 

 勝てない、全然勝てない。もともと天子はゲームとか遊びに関してはめちゃくちゃ強いから、アイツが一位を取り続けるだろうことは予想してたさ。

 

 でも、でも―――

 

 「なんでずっとビリなんだよ…」

 

 「叶也、よえーな!」

 

 「大富豪は苦手でしたっけ?」

 

 「………弱すぎ」

 

 おかしい、ここまで四回やって四回ともビリってどういうことだよ。

 

 やっぱり厄日のせいか、それとも単純に僕が弱いのか…

 

 「今度は何をしてもらおうかしら」

 

 「さっきは肩のマッサージだったたな!」

 

 「その前は三分以内にあんパンを買ってくるでしたね」

 

 「………一発芸もやった」

 

 みんなが僕の罰ゲームを振り返る。あんパンダッシュはきつかったな。

 

 一位になりたいとは言わないからせめてビリから脱出したいよ…。

 

 「で、天子。次は何をすればいいの?」

 

 「そうね、じゃあ次は膝枕でもしてもらおうかしら」

 

 「は、はあ!?」

 

 思わず驚きの声を上げてしまった。い、いったいどうして膝枕?

 

 「ちょっと聞きたいんだけど、なんで膝枕?」

 

 「この前読んでた小説に出てきたのよ。何でもすごく気持ちいいらしいわ」

 

 「そ、そういうのは衣玖さんに頼んだ方がいいんじゃないかな」

 

 「あんたじゃないと意味ないのよ。ほら、さっさと膝貸しなさい」

 

 「でも、ここ教室だよ?ここで横になるのはさすがにきついんじゃない?」

 

 「むっ、それもそうね。じゃあ今度私に膝枕しなさい。それが今回の罰ゲームで」

 

 どうあっても僕に膝枕させたいらしい。何が天子にそうさせるのか…

 

 「さーて、そろそろ五回戦と行きますか!」

 

 「「「いえーい!!」」」

 

 「ねえ、さっきから思ってたんだけどさ。そんなに大きな声出したら隣のクラスまで聞こえちゃうんじゃない?」

 

 「それの何が問題なのよ」

 

 「いや、だって慧音先生にばれたらお仕置きくらっちゃうじゃん」

 

 「あんたそんなこと気にしてたの?肝っ玉の小さい男ね。もしお仕置きされそうになっても逆にあたしが蹴散らしてやるわ!」

 

 流石にそれはまずいでしょ。明らかにこちらに非があるんだし。

 

 胸を張りながらそんなことを言う天子に僕は呆れた眼差しを向けた。

 

 「だいたい、あのワーハクタクも授業中なんだから、わざわざ他のクラスに…「さっきから騒がしいが何かあったのか?」

 

 ガラガラと扉の開く音を立てながら件の慧音先生が現れた。

 

 瞬間、ほかの四人の行動は早かった。

 

 流、淵、啓は各々の“能力”を使って戻り、隠れ、誤魔化していた。

 

 天子はその無駄に高い身体能力をフルに使って自分の席に戻っていた。まさに音速、目にも止まらぬ速さってやつだ。

 

 クラスのみんなもいつの間にか本や教科書を手に持ってる。

 

 そして僕の机の上に残されるトランプ。

 

 「……八雲叶也。お前は私の話を聞いていたのか?」

 

  慧音先生の後ろに阿修羅が見える。

 

 「ち、ちゃんと聞いてました!」

 

 「ほう、そのうえでこのような行動をとっているのだ。どうなるか分かっているな?」

 

 僕は縋り付くような目で四人を見た。

 

 ………あっ、ダメだ。四人とも目を合わせてくれないや。

 

 「歯を食いしばれ」

 

 「いや、これには事情が―――」

 

 「問答無用!」

 

 次の瞬間、僕の頭に慧音先生の頭突きが直撃した。

 

 

 

 

 

 結局残りの自由時間は意識のない状態で過ごすことになりました。

 

 

 




活動報告もよろしく(^_^)


ご意見ご指摘ご感想お持ちしてます


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第13話  保健室の恐怖

テスト終わりました

更新再開します


 

 

 「起立、さようなら」

 

 日直の挨拶に合わせてみんなで帰りの挨拶をする。

 

 いろいろあったけど、今日はあと帰るだけか。

 

 ちなみにこの学校は清掃員を雇っているため生徒は掃除をする必要がない。

 

 さてと、何か起こる前に帰るかな。流石に今日はもう疲れたよ。

 

 このまま何事もなく帰宅できますように、と願いながら寮に帰ろうとした。

 

 「あっ、いたいた。ちょっと来てほしいんだけど」

 

 しかしそんな僕の願いはあっけなく打ち破られた。

 

 またか、また何か起こるのか。今度はいったいどんな方法で気絶するんだ。

 

 「ちょっと、無視しないでよ。あんたを呼んでるんだよ、叶也」

 

 「はいはい、なんの用ですかー」

 

 僕を呼んでいたのは兎耳の少女、と言っても鈴仙さんではない。

 

 永遠亭のもう一人の兎妖怪、因幡てゐだ。

 

 「投げやりな返事だね、まあいいけど。先生が呼んでるから早く来て」

 

 「先生?」

 

 はて、呼び出されるようなことしたっけ?

 

 今日は色々あったけど怒られるようなことは……もしかして自習の時のことか?慧音先生だいぶ怒ってたし。

 

 先導するてゐについていきながら僕は必死に言い訳の言葉を考えていた。

 

 「ほら着いたよ」

 

 よし、とりあえずもう一発頭突きもらう覚悟はできた。

 

 「ありがとう………ってここ保健室じゃん!なんでこんなところに連れて来たの?」

 

 「だから、先生があんたを呼んでるって言ったじゃないか。とにかく早く入りな」

 

 「ちょっ!?」

 

 てゐに無理矢理保健室へ押し込められた。

 

 てっきり職員室に向かってるものだと思ってたんだけど。

 

 「あら、遅かったわね」

 

 「そ、その声は…」

 

 そこにいたのは綺麗な銀髪を三つ編みにした女性。永遠亭の薬師、八意永琳さんだ。

 

 「あっ、すいません。自分、用事思い出したっす」

 

 「悪いけど、はいそうですかと逃がすわけにはいかないんだよね」

 

 くっ、てゐに逃げ道をふさがれた。

 

 「酷いわねぇ、いきなり逃げ出すなんて」

 

 「いや、別に逃げようとしたわけでは…」

 

 嘘です、思いっきり逃げようとしました。

 

 だって、あの人はかなりヤバい。何がヤバいって、未知に対する探究心がヤバい。

 

 自分が知りたいことのためなら何でもするんじゃなかろうか。

 

 僕は変なエネルギーを持ってるし、体も人間とは思えないほど頑丈だし、効かない能力もある。まさに未知の塊だ。そんな僕に永琳さんが興味を持たないはずがなかった。

 

 解剖されそうになった回数なんてもう数えきれない。

 

 「そんなに怯えなくても大丈夫よ。今日は解剖するつもりはないから」

 

 今日は、ってことはいつかはやる気なんだ…。

 

 「聞いた話によると、今のあなたには今まで効かなかった能力が効くようになってるらしいじゃない」

 

 「誰から聞いたんですか」

 

 「匿名希望ちゃんからよ」

 

 誰だか分からないけどなんてことを…。

 

 「で、私は考えたのよ」

 

 だめだ、嫌な予感が迸っている。

 

 「今なら私が作った薬も効くんじゃないかって」

 

 「すいません、お腹痛くなってきたんで帰ります」

 

 僕は全力で逃げ出した。

 

 ガシッ!!

 

 「ここは保健室よ?腹痛なら診てあげるからゆっくりしていきなさい」

 

 僕の逃走は永琳さんの腕一本で簡単に止められてしまった。

 

 「なんで僕に薬を飲ませる必要があるんですか!?試飲ならいつもみたいに鈴仙さんで試せばいいじゃないですか!!」

 

 「きちんと人間にも効果があるのか確認したいのよ」

 

 肩に置かれた永琳さんの手にさらに力が籠められる。

 

 「べ、別に僕じゃなくてもいいじゃないですか!!永琳さんみたいな綺麗な人に頼まれたら誰だって手伝ってくれますよ!!」

 

 「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。でも、普通の人間じゃ危ないかもしれないから」

 

 「僕だって少し変わってるだけで、普通の人間ですよ!!」

 

 「あなたなら頑丈だからちょっと爆発しても大丈夫そうだし」

 

 「爆発するんですか!?」

 

 それって薬は薬でも爆薬なんじゃ…。

 

 「うどんげの時の反省を踏まえてちゃんと改良したから大丈夫よ」

 

 もう既に鈴仙さんが餌食になっているのか。

 

 保健室のベッドを見ると、そこには少し煤けた鈴仙さんが横になっていた。

 

 「男なんだからぐびっといきなさい」

 

 「もげっ!?」

 

 いきなり口の中に薬の瓶を突っ込まれた。

 

 味の方は……まあ良薬は口に苦しってことで。良薬なのかはわからないけど。

 

 「どう?体に変化は起きた?」

 

 「ゲホッ、ゲホッ、変化って、……いったい何の薬を飲ませたんですか」

 

 「胸が大きくなる薬よ」

 

 「男の僕になんてもの飲ませるんですか!?」

 

 「大丈夫よ。男性が服用した場合はボディービルダーみたいに胸筋がムキムキになるはずだから」

 

 それはそれでなんかいやだ…。

 

 「変化は特に……ってあれ?なんか頭が…」

 

 僕はセリフを最後まで言い切る前に意識を失ってしまった。

 

 はあ、これで本日三回目だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~SIDE 因幡てゐ~

 

 ヤッホー、てゐちゃんだよ。

 

 本編ではあまり出番が無くてがっかりだね。

 

 台詞も少なくてなんだか暗いキャラになってたかな?

 

 それだけあたしも切羽詰ってたんだよね。

 

 もし叶也を連れていけなかったら、次の実験台はたぶんあたしだったし…。

 

 まあこうしてメインのシーンももらえたし、良しとしますか。

 

 それにしても…

 

 「お師匠様、これどういうことですか?」

 

 「やっぱり、妖怪用の薬は人間にあわないみたいね。それにしてもこんな効果が出るなんて………面白いわ」

 

 おいおい。にやりと笑うお師匠様を見てあたしはため息をついてしまう。

 

 「すぐに気を取り戻すとは思うけど、一応ベッドに寝かせておいてね」

 

 「はーい」

 

 叶也を運びながら思う。

 

 これ、元に戻るのかね?

 

 ~SIDE OUT~

 

 

 




 いったい叶也君はどうなってしまったのか?

 次回は放課後も学校に残ってた女性陣も巻き込んで一波乱!

 活動報告の方もよろしくお願いします。

 
 ご意見ご指摘ご感想お待ちしております。

 


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第14話  大人の世界

先週更新できなかったので今週はもう一本


2014.1.12
レミリア様の口調を改訂


 

 「う、うーん…」

 

 思考が定まらない。

 

 確か僕は永琳先生の薬を飲んで、それから気を失ったんだったか。

 

 「ようやく目が覚めたみたいだね」

 

 「てゐ、か。まだ頭がはっきりとしないんだけど、僕ってどうなったの?」

 

 「まあ百聞は一見にしかずって言うし、とりあえずこれ見てみ」

 

 そういうと、てゐは大きな姿見を持ってきた。

 

 そこには一人の男が映っていた。

 

 身長は180㎝を超えているだろう。足が長く、引き締まった体をしている。

 

 顔はきりっとしたイケメンで、髪は腰のあたりまで伸びている。

 

 服は何故か執事服。似合っているけど保健室じゃ場違いだ。

 

 というか、僕の目の前にあるのは鏡で、僕は今その鏡の目の前に立っているんだから…

 

 「えええええええええええええええええ!?これ僕!?」

 

 「あら、起きたのね。調子はどうかしら?」

 

 「調子って、そんなこと言ってる場合じゃないです!僕が別人になってますよ!」

 

 「ふふ、おかしなことを言うのね。あなたは間違いなく八雲叶也よ。ただ少しだけ成長してしまっただけで」

 

 「せ、成長…?」

 

 「ええ、あなたの姿はだいたい十年後くらいのものね。原因は薬の発育作用が効きすぎたせいだと思うわ。それにしてもずいぶん男前になったわね。」

 

 「そうですね、普段はどちらかと言うと可愛い系の顔だったし」

 

 「なんで二人ともそんなに落ち着いてるんですか!僕、大人になっちゃったんですよ!?」

 

 「まあまあ、叶也。五体満足なだけまだましじゃないか。鈴仙なんてまだ目が覚めないんだし」

 

 未だベッドには時折うめき声をあげる鈴仙さんが横になっていた。

 

 「れ、鈴仙さんの話はとりあえず置いといて、これって元に戻れるんですか?」

 

 「戻せるわよ」

 

 「ほ、ほんとですか!じゃあすぐに…「ただし」はい?」

 

 「少しだけ時間が欲しいわね。ほんの一時間くらいかしら。その間校内をぶらついてきてくれる?」

 

 「なんでわざわざこんな時に校内散歩しないといけないんですか…」

 

 「宣伝のためよ」

 

 「宣伝って、何を宣伝するって言うんですか?」

 

 「あなたがこの薬の存在を広めてくれたら、もしかしたらこの薬に興味をもつ人が来るかもしれないもの」

 

 なるほど、モルモットを増やす気か…。普通の人ならそんなヤバそうなことに首を突っ込んだりしないけど、妖怪は人生が長いせいか、面白そうなことには進んで首を突っ込むからなぁ。

 

 本当なら断るところだけど、ここでごねたら元に戻れる薬も作ってくれそうにないし…。

 

 「…わかりました。適当に校内をぶらついてくればいいんですね」

 

 「ええ、物分かりが良くて助かるわ」

 

 「はあ、じゃあ行ってくるんで早く薬を作ってくださいね」

 

 僕はため息をつきながら保健室を後に…

 

 「あっ、そうだ。なんで僕、執事服なんか着てるんですか?」

 

 「私の趣味よ」

 

 「………」

 

 「クス、冗談よ」

 

 正直、冗談に聞こえなかった。

 

 「あなたの服は見るも絶えない姿になってたから、代わりの服を着せただけよ」

 

 「それが何で執事服に?」

 

 「代わりの服を探していてら、奇妙なものを集めるのが趣味の教師が借してくれたのよ。他にはないって言うから仕方がなくそれを着せたの」

 

 学校に執事服を持ってくる教師っていったい…

 

 僕は頭を抱えながら、今度こそ保健室を出た。

 

 

 

 「…なんで宣伝なんて嘘ついて、叶也を追いだしたんですか?」

 

 「あらばれちゃった?まあせっかく面白いことを教えてもらったんだし、お礼としてもっと面白くなりそうな展開にしてみただけよ」

 

 

 

 あの後僕はあてどなく校内を歩きまわっていた。

 

 「適当にぶらつけって言われても、放課後の学校じゃみんな部活とか委員会でいないでしょ…」

 

 「お兄様!」

 

 「ぐっ!?」

 

 いきなり何かが僕の背中に突撃してきた。

 

 「お兄様、朝は大丈夫だった?」

 

 突撃してきたのは、どうやらフランちゃんのようだ。

 

 「まあ、大丈夫だったよ。一応は」

 

 「ホント!よかったぁ」

 

 「だから言ったでしょう。叶也はあの程度でくたばりはしないと」

 

 フランちゃんの後ろから歩いてきたのはレミリアさんだった。どうやら朝の怒りは鎮まっているらしい。

 

 「って、二人とも僕の格好見て何とも思わないの?」

 

 「ん?ああなるほど。その恰好を見るに、ついに紅魔館で執事として働く気になったのね」

 

 「ホントに!お兄様もうちに住むの!!」

 

 「いやそうじゃなくて!!」

 

 「スカーレット家で働くなら見た目にも気を配らなくてはいけないわ。そんな風に髪を無造作にしておくのはよくないわね。今回は特別に私が髪を結ってあげる」

 

 は、話が勝手に進んでいる。

 

 僕が呆然としているうちに、レミリアさんは手際よく髪を結んでくれた。

 

 「簡単にポニーテールにしただけでも少しはまともになったわね。でもいつの間に髪を伸ばしたの?」

 

 「ポニテのお兄様もかっこいいよ!」

 

 「だからそうじゃなくて…僕、いま大人になってるんですけど!」

 

 「ふっ、貴方くらいの年ごろの男は背伸びをしたがるものだけど、自分で言うのは少々格好悪いわよ?」

 

 「そうじゃなくて!!実は…」

 

 ☯成年説明中☯

 

 「…と言うわけなんですよ」

 

 「………本当なの」

 

 「え?」

 

 「その話は本当なのかと聞いているの!!」

 

 「は、はい!」

 

 「こうしてはいられない、私は薬師に少し用ができたわ。………豊胸剤、是が非でも手に入れなきゃ」

 

 そういうとレミリアさんは物凄い勢いで走り去っていった。

 

 また怒らせてしまったのかな?最後になんかぼそっと言ってたみたいだけど。

 

 「お兄様、フランも散歩について行っていい?」

 

 「いいけど…フランちゃんは僕の変化に何も思わないの?」

 

 「うーん、お兄様はお兄様だから」

 

 うっ、なんだか照れるな。僕は照れ隠しにフランちゃんの頭を撫でた。いやぁ、フランちゃんの頭を撫でると癒されるなぁ。

 

 「えへへへ、あ」

 

 ドカン!!

 

 「ふ、フランちゃん?」

 

 その時、さっきまでにこにこしていたフランちゃんが誰もいない廊下にいきなり弾幕を放った。目には少し狂気が宿っている。

 

 「あれ、おかしいな?確かに殺気を感じたんだけど…、ごめんなさいお兄様、驚かせちゃって」

 

 「う、うん。驚いたけど別に大丈夫だよ。じゃあ、散歩を続けようか」

 

 こうして放課後の散歩はフランちゃんを加えて再開された。

 

 

 

 

 

 ~SIDE ???~

 永琳先生のおかげでさらにおもしろいことになってきたね。

 

 でも大人になったお兄ちゃんにはちょっとドキッとしちゃったかも。

 

 そんな風にお兄ちゃんを観察していると吸血鬼の姉妹が現れた。

 

 お兄ちゃんが状況の説明を終えたら、姉の方はどこかに向かって走り出した。

 

 何故かはわからないけど、すごい真剣な顔つきだったなぁ。

 

 それにしてもあの妹の方が気に食わない!お兄ちゃんに抱き着いたり、お兄ちゃんのことお兄様って呼んだり!

 

 そのポジションは私のものなのに!

 

 「えへへへ」

 

 あっ!お兄ちゃんに頭まで撫でてもらうなんて…私だってあんまり撫でてもらったことないのに!!

 

 あふれ出る怒りを視線に乗せて送っていたら、いきなり弾幕が襲ってきた。

 

 「あれ、おかしいな?確かに殺気を感じたんだけど…」

 

 さ、さすが吸血鬼。もう少しで直撃するところだった。

 

 今に見てなさいよ。このお返しはキチンとしてあげるんだから!

 

 そして私の追走劇は再開された。

 

 

 

 




次回予告(偽)
舞台はさらなる佳境へ
剣士、魔法使い、巫女を交えたバトルロワイヤルに!
はたして叶也の未来は…

ご意見ご指摘ご感想お待ちしております
活動報告もよろしくお願いします


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第15話  少女たちと大人な少年

 大人バージョンの叶也君の魅力は3割増しだぜ!(個人差あり)


 2014.1.12
 レミリア様の口調を改訂


 

 

 

 ~SIDE 魔理沙~

 学校の図書館からの帰り道、放課後の廊下をパチュリーと二人で歩いていた。

 

 「いやー、読んだ読んだ。やっぱりここの図書館はいい本がたくさんあるな」

 

 「そうね、あれだけでもこの学園に来た価値があったというものよ」

 

 そうそう、この学校の一番いいところかもしれないぜ。…ってあれ?

 

 「パチュリーは本だけが目当てだと思ってたけど、他にもこの学園に来た理由があるのか?」

 

 「むきゅ!?」

 

 パチュリーが素っ頓狂な声を出した。よく使うけどあのむきゅってのは口癖なのか?

 

 「そ、そういうあなたこそ、この学校を選んだ理由はあるのかしら?」

 

 「うーん、特にないけど…叶也も霊夢もこの学校にするって言ってたしな。だから私もここにしたんだよ」

 

 「…そういえばあなたと叶也は幼馴染だったわね」

 

 「ああ、そうだぜ。あと霊夢もな…ってパチュリー、なんでそんな怖い顔してんだ?」

 

 何故かすごい剣幕で睨まれてた。私なんかしたか?

 

 「別に何でもないわ」

 

 「そ、そうか」

 

 そのまま雑談を交わし、曲がり角に差し掛かった時だった。

 

 「「あっ」」

 

 

 

 

 

 ~SIDE 霊夢~

 放課後の教室で私と妖夢は向かい合っていた

 

 「これで終わりですか?」

 

 「そうみたい。悪かったわね、私の仕事を手伝ってもらって」

 

 「いいえ、今日はちょうど時間も開いていたので」

 

 「そうはいっても、あんたの主人が待ってるんじゃないの?」

 

 「それが、今日は用事があるらしく晩御飯はいらないと」

 

 あの食欲の塊みたいな生き物(正確には死んでるけど)が晩御飯までに帰らないなんて。明日は槍でも降るのかしら。

 

 そんなことを考えていると妖夢が私に近づいてきた。

 

 「それで、あの、約束の…」

 

 「ああ、はいはい、何でも答えてあげるわよ。何が聞きたいの?」

 

 そういえば、妖夢が私の手伝いをするときに「で、できれば手伝いが終わったら聞きたいことがあるんですが…無理にとは言いませんが!」とか言ってた気がする。

 

 一体なにかしら?

 

 「きょ、叶也の好きな食べ物とか、知ってますか?」

 

 「………はあ?」

 

 なんとも小さい声でそんなことを聞いてきた。

 

 「あ、いえ、これはですね…なんとなく、そう何なんとなく気になっただけで!特に深い意味などはなくてですね!」

 

 「アイツはとくに好き嫌いなくなんでも食べるから…というか、あんたもそれなりに叶也とは長い付き合いでしょ。私に聞かなくても分かるんじゃないの?」

 

 「私はあまりそういう趣味嗜好の話はしてこなかったので…。いつも剣のことばかりで」

 

 ああ、そういえば叶也もそんなこと言ってたわね。小さい時から剣を握らせられたとか。冗談かと思ってたけどこの感じじゃ本当みたいね。

 

 「まあ、アイツのことを聞きたいなら私じゃなくて本人に聞くのが一番ね。たぶん、何でも正直に答えてくれるわよ」

 

 「…それができないから聞いてるのに」

 

 また小さな声で何か言った様だけど、今度は聞こえなかった。

 

 帰り支度も終え、そろそろ帰ろうとした時だった。教室のドア開き誰かが入ってきた。 

 

 「「え?」」

 

 

 

 

 

 ~SIDE 叶也~

 

 レミリアさんと別れたあと、僕たちは目的もなく校内をぶらついていた。

 

 「それにしても人に会わないな。フランちゃんは退屈じゃない?」

 

 「お兄様と一緒なら何してても楽しいよ!」

 

 なんていい子なんだフランちゃん。僕の日常をひっちゃかめっちゃかにしてる人たちにも見習ってほしいね。

 

 「でも、どうして放課後に残ってたの?特に用事はなかったんでしょ?」

 

 「今日は日傘を忘れちゃって…」

 

 なるほど、確かに外を見ると朝とは打って変わって雲一つない空になっている。

 

 吸血鬼にはきつい天気だ。

 

 午前中は曇りだったから寮に置いてきてしまったのか。

 

 「お姉さまを一人残していくのも可哀そうだったから」

 

 って、忘れたのはレミリアさんだけなんだ。あの人は普段はあんなに厳かな言動をしてるのに、どこか抜けてるんだよね。

 

 「だから暗くなるまでお兄様と遊んでる!」

 

 「そうだね、保健室に戻るころには日も沈んでるだろうし」

 

 それにしても今度はどこに行こうか。あと十分くらいだからあんまり遠くに行っても戻るのが遅くなるし。

 

 そんなことを考えながら曲がり角に差し掛かった時だった。

 

 「「あっ」」

 

 二つの声が重なって響いた。

 

 そこには二人の魔法使い、魔理沙とパチェがいた。

 

 さてと、二人は僕のこの姿を見てどう反応するのかな?

 

 「フランがこんな遅くまで残ってるなんて珍しいな。ところでそこのカッコいいお兄さんは誰なんだ?」

 

 魔理沙に睨みつけられた。

 

 あれ、もしかして僕疑われてる?いたいけな少女をかどかわす変態さんだと思われてる?

 

 パチェの方に視線を移すとこちらも少し冷たい目をしている。

 

 「いや違うんだよ!僕は不審者とかではないくて…」

 

 「不審者はみんなそういうんだぜ」

 

 「第一、校内を執事服でうろつく人間がまともだとは思えないわ」

 

 おっしゃる通りだ!?この服のせいでこんな誤解を招くとは…。

 

 どうやって誤解を解こうか。こうなっては僕が叶也だってことを言っても信じてもらえそうにないし…。このままじゃ、弾幕まで飛んできそうだ。

 

 その時、僕の苦悩を察してくれたのかフランちゃんが助け舟を出してくれた。

 

 「ちょっと待ってよ二人とも!」

 

 「ちょっと退いててくれるか、フラン。なあに、すぐに済む」

 

 「そこのあなたも大人しくしててくれるかしら。少し眠ってもらうだけだから」

 

 なんか傷つくなぁ、これ。

 

 そしてフランちゃんは誤解を解くためにもう一声かけた。

 

 「この人は、お兄様なんだよ!!」

 

 「「………はあ!?」」

 

 一瞬の静寂のあと、二人の驚きの声が上がった。

 

 

 

 

 

 「ごめん、まさかそんなことになってるとは思わなくて」

 

 「私もすまなかっわ。てっきり紅魔館の執事を装ってフランに近づく不届き者だと思って」

 

 「はは、もういいよ。最初から何とも思ってないから」

 

 ホントはちょっとばかり精神的ダメージを負ったけど、まあそれだけだ。二人の申し訳なさそうな顔を見てたらそんなことも気にならなくなってくる。

 

 「それにしても、これが十年後の叶也か…」

 

 「むきゅぅ…」

 

 視線が突き刺さる。そんなにまじまじと見られると恥ずかしいんだけど。

 

 二人の方を見ると慌てながら目を逸らす。さっきからこの繰り返しだ。

 

 「…大人になると更にかっこよくなるんだな」

 

 「…とっとと、魔法使いにして不老にさせようと思ってたけど考えを改めるべきかしら」

 

 「あのぅ、二人とも?」

 

 またも視線が気になって声をかける。

 

 「な、何でもないんだぜ」

 

 「き、気にしないでちょうだい」

 

 なんとも挙動不審だな。

 

 気晴らしにフランちゃんの方を見ると、えへへ、と微笑みで返してくれた。癒される。

 

 「それにしても、二人はどこに向かってるの?」

 

 「魔理沙が教室に忘れ物をしたらしくてね。それを取りに行くところだったのよ」

 

 「そうだったんだ。って、僕も荷物置きっぱなしだったよ」

 

 「じゃあ、ちょうどいいし一緒に取りに行こうぜ」

 

 「そうだね」

 

 そのまま、四人で教室まで歩いた。と言っても、すでに結構近くだったので一分もかからず着いたんだけど。

 

 「じゃあ、ちょっと取ってくるから」

 

 「二人はここで待っててくれよ。すぐに戻ってくるぜ」

 

 そして教室に入った。

 

 中にはまだ残っていた二人の生徒がいた。

 

 「「えっ?」」

 

 突然現れた執事服の男に驚いたのか、二人そろって声を漏らした。

 

 なんかデジャブだな。

 

 

 

 

 

 「あんたはまた厄介なことに巻き込まれてるのね」

 

 「………」

 

 教室にいた霊夢と妖夢にも事情を説明した。この説明も三回目、もはや慣れてきた。

 

 因みに今は全員で保健室に向かっている。なんでも僕がちゃんと元に戻るか心配らしい。

 

 それにしても…

 

 「………」

 

 さっきから妖夢が無言なんだけど何かあったのかな。顔も赤いし。

 

 「妖夢どうかした?」

 

 「あ、いえ、な、なんでもないです!大丈夫です!」

 

 がばっと顔をあげて勢いよく返事を返してくる。

 

 だけど僕の顔を見たあと更に顔を赤くして俯いてしまった。何か呟いてる気もするけどよく聞こえない。いったいなんなんだ?

 

 「お兄様、保健室に着いたよ!」

 

 フランちゃんに声をかけられて前を見ると確かに既に保健室についていた。

 

 「じゃあ元に戻してもらうか」

 

 そう口に出して扉を開けた。

 

 「先生、薬できましたか?」

 

 「あら、ずいぶん人を連れてきてくれたのね。全員薬に興味があるのかしら?」

 

 僕の質問をスルーして、逆に質問で返された。まさかまだできてないのか?

 

 「そんなわけないでしょ。冗談はいいから早く叶也に薬を渡しなさい」

 

 霊夢が強い語調でで永琳さんに言い寄る。なんだか少し機嫌が悪そうに見えるな。

 

 「あら怖い、そんなに怒らなくてもいいじゃないの。それとも、叶也に変な薬を飲ませたのがそれほど気に食わなかったかしら?」

 

 「……そんなこと関係ないわよ。いいからとっとと薬を出しなさい」

 

 「はいはい、これよ」

 

 そういうと永琳さんはポケットから茶色い液体が入った小瓶を取り出した。

 

 霊夢はそれを受け取り僕に手渡してくれた。

 

 「さっさと元に戻りなさい。あんたがそんなんだと、こっちも調子が狂うわ」

 

 「うん、わかった。…あと、心配してくれてありがと」

 

 さっきの永琳さんの言葉が本当なら霊夢は僕のために怒ってくれていたようだ。

 

 だったらちゃんとお礼は言っておかないとね。

 

 「い、いいからさっさと飲みなさい。みんな待ってるんだから」

 

 そういうと霊夢はそっぽを向いてしまった。少し顔が赤い。もたもたしてるから怒っちゃったかな?

 

 「じゃあ、ええっと、いただきます?」

 

  少し緊張しながら薬を飲んだ。

 

  味は…まあ、大人になる薬と同じだったとだけ。

 

 「………戻った?」

 

 周りの反応を見るがまだ変化は起きていないようだ。

 

 「失敗なのか?……って熱い!身体が…!!」

 

 何だこれ!熱湯に頭から突っ込んだみたいに全身があつい!

 

 そして僕の体が脈動するかのように震えだした。

 

 なんだこれ!?なんか気持ち悪いぞ!?

 

 全身の熱が収まるころにようやく体の震えも止まった。

 

 「こ、今度こそ戻った?」

 

 そう聞くとてゐが姿見を持ってきてくれた。

 

 そこにはちょっと背の小さい少年、つまり僕が映っていた。

 

 「やったあああああ!!」

 

 よ、よかったぁ、実は少し不安だったんだよ。表には出さないようにしてたけど。

 

 周りのみんなも安堵した様子で僕を見ている。

 

 …本当だったらこのままハッピーエンドだったんだけど、このとき僕は失敗を犯してしまった。

 

 このとき、体が縮まったせいで服がぶかぶかになっていた。そんな状態で飛び上がって喜んだらどうなるか。

 

 まあ簡単に言えば、つまずいた。

 

 ぶかぶかになったズボンの裾をふんずけて盛大にこけた。

 

 そしてさらに僕のまわりにはたくさんの人が居たわけで、そのうちの一人、フランちゃんに倒れこんでしまったわけだ。

 

 「うわああああ!?」

 

 「きゃああああ!?」

 

 いててて、またやってしまった。

 

 「お、お兄様、大丈夫?」

 

 「うん、フランちゃんこそ怪我はない?」

 

 フランちゃんは笑いながらうなずいた。

 

 いや、よかった。今日は二度目だからね。かなり申し訳なく思う。

 

 …ん?二度目?

 

 「八雲、叶也」

 

 こ、この声は…

 

 「貴方はまったく懲りていなかったようね…」

 

 何故か保健室のベッドからレミリアさんが這い出てきた。いやそんなことよりこの状況は…

 

 「どうやらもう一度仕置きをしなければならないようだわ…」

 

 「いや、これは事故と言うかなんというか…「言い訳は不要!!!」

 

 あ、終わった。もう無理な流れだ。

 

 「さすがに二度目は手加減してやれないかもしれないなわ」

 

 「いやほんと許して下さい!と言うか、なんでみんなもスペルカードを構えるの!?みんなは見てたよね!ね!!」

 

 

 

 次の瞬間、僕の目の前で色とりどりの光がはじけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~叶也たちが来る少し前~

 ヤッホー、てゐちゃんだよ!

 

 しかし、あたしの出番が全然ないなんて作者は何を考えてるんだろうね。

 

 みんなだってあたしの活躍劇を楽しみにしてただろうに。

 

 これだから小説初心者の作者はダメダメだね。読者のニーズってものが分かってないんだよ!

 

 まあ、作者に対する愚痴はこれくらいにしておこうかね。

 

 「で、お師匠様。なんでこの吸血鬼は焦げ付いて気を失ってるんですか?」

 

 「うどんげと同じ薬を飲んだからよ」

 

 「ちょっ、なんであんな爆薬飲ませたんですか!」

 

 「私が無理矢理飲ませたわけじゃないのよ?でも彼女が私の話も聞かないで一気に飲んでしまったの。止める暇もなかったわ」

 

 あ、今うっすらと笑った。絶対確信犯だ。

 

 はあ、こんな大妖怪に喧嘩を売らないでほしいよ。

 

 売るにしてもあたしとは関わりのないところでやってほしいもんだね。

 

 「吸血鬼だからどうせすぐ目覚めると思うけど、一応ベッドに寝かせといてちょうだい」

 

 「はい、全力でやります」

 

 まあここできちんと看病しとけばあたしの株は上がるかもしれないし。

 

 強い者にはきっちりごまをすらないとね!

 

 ~SIDE OUT~

 

 

 




次回予告(仮)
寮に戻った叶也を待っていたのは本日最後の厄介ごとだった。
第16話、厄日の最後
次回は妖夢のご主人様に、ピックアップ!


ご意見ご指摘ご感想、お待ちしております

活動報告もよろしくお願いします


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第16話  厄日の最後


 ようやく叶也君の長い一日も終わりです



 

 

 

 ふー、ようやく寮までたどり着いた。

 

 それにしても運が良かったなぁ。みんなのスペカがぶつかり合って威力が軽減されてなかったら、あのまま保健室で夜を過ごしてたかもしれない。

 

 …まあ、軽減されたといってもかなりのダメージを喰らったんですがね。

 

 でもこれで今日も終わりだな。なんか疲れすぎて食欲もないし、とてつもなく眠い。部屋に入ったらすぐに布団にダイブしよう。

 

 ベッドに体を沈める幸福感を思い浮かべながら部屋に向かって歩いていく。

 

 「ただいま」

 

 って、誰もいないのに言ってしまった。まだ慣れな…

 

 「おかえりぃ」

 

 「おかえりなさーい」

 

 …おかしいな、幻聴が聞こえたぞ?そんなに疲れてるのか、僕は。そうだよ疲れてるんだよ。じゃなきゃ僕の部屋に誰かがいるわけがない。鍵は僕と霊夢と管理人の萃香さんしか持ってないんだから。そうだそうだいるわけ―――

 

 「もうー、無視しないでよー」

 

 「そうだぞぉ、早くこっち来て酌をしろぉ!」

 

 現実から目を逸らすのも限界だった。いる、いるんだよ。何故か僕の部屋に、酔っ払いが二人。

 

 「なんで萃香さんと幽々子さんがここにいるんですか…」

 

 そこにいたのはこの寮の管理人を務める萃香さんと白玉楼の主で妖夢のご主人様である西行寺幽々子さんだった。

 

 百歩譲って萃香さんは分かる。いやなんでいるのかは分からないけど、ここは彼女の職場だしふらっと立ち寄ってもおかしくはない。なんたって萃香さんだし。

 

 でもどうして幽々子さんがいるんだ?まったく繋がりが見えないぞ?

 

 「今日はね、叶ちゃんに会いに来たのよー」

 

 「僕に?何か用ですか?」

 

 「用は特にないわー」

 

 じゃあ何で来たんだろう。お酒を飲む場所が無かったのか?

 

 「だって叶ちゃんったら、最近全然会いに来てくれないからー。私さびしくてー」

 

 そういうと両手を目元にやって泣いているジェスチャーをする幽々子さん。

 

 思ってたよりどうでもいい理由だった。第一、今の僕は幽々子さんがどこに住んでるかなんて分からないし、会いに行きようがない。

 

 「まあ会いに行く理由もありませんでしたし」

 

 「ひどいわー。こんなに近くに住んでるんだし、たまには会いに来てよー」

 

 「近く?」

 

 「そうよー。私はお隣の女子寮で管理人やってるんだから、学校帰りにちょっと寄ってくれたっていいじゃないのー」

 

 うぇ!?幽々子さんが管理人!?あの日がな一日食べてばっかりで、家事炊事は全部妖夢に押し付けてる幽々子さんが管理人!?………まったく想像できないな。

 

 「まあまあいいから座れよぉ。お前の分の酒もあるぞぉ!」

 

 萃香さんが僕の袖をぐいぐい引っ張るのでとりあえず座った。幻想郷ならともかくこっちで未成年に酒を飲ませようとするのはどうなんだろうか?

 

 「昔みたいに私の膝の上に座るー?」

 

 「いえ、結構です」

 

 いい加減子供みたいに扱うのは勘弁してもらいたいな。叶ちゃんって呼ばれるのも結構恥ずかしい。

 

 まあ子供の時はだいぶ世話になったし、あんまり強く言えないんだけど。

 

 「それで、僕に会いに来たのは分かりましたけど、なんでこんな状態になってるんですか」

 

 僕は周りに転がっている酒瓶を見ながら尋ねた。

 

 「話せば長くなるんだけどー」

 

 幽々子さんの話をまとめるとこうだった。

 

 僕を訪ねてここに来た。萃香さんに止められた。萃香さんに持ってきた酒瓶を見せた。そのまま僕の部屋に直行。僕が来るまで飲んで待った、と。…萃香さん、賄賂に負けないで下さいよ。

 

 しかし、この状況どうしようか…。目的を達成させてさっさと帰ってもらうつもりだったけど、僕に会いに来ること自体が目的だとどうにもできないな。

 

 どれくらいここにいれば満足するかもわからないし、まさか追い出すわけにもいかないし。

 

 眠気が結構きつくなってきたな。

 

 「ほんと、どうしよう…」

 

 「なにか、悩み事?私でよかったら相談に乗るわよ」

 

 「はあ、実は………って紫さん!?」

 

 気が付くと僕の隣に紫さんが座っていた。いや、マジでビビった。ホントに心臓に悪いぞ。

 

 「き、来てたなら声かけてくださいよ…」

 

 「てっきり気づいてると思ってたわ。そんなことより悩みごとなら相談に乗るわよ?」

 

 んー、紫さんに言っても結局追い出すみたいでなんかやだな。…あっ、そうだ。

 

 「今まで効かなかった能力が普通に効くようになっちゃったんですけど、なんでだかわかります?」

 

 「ああ、それはエネルギーが空っぽになっているからね」

 

 「えーと、つまりどういうことですか?」

 

 「今まであなたに能力が効かなかったのは、あなたの中にあった膨大なエネルギーが他の能力の干渉を弾いていたからよ。それが今は全くないのだから、能力が効くようになるのも当然ね」

 

 知らなかった。僕のエネルギーにはそんな力もあったのか。

 

 「じゃあもしかして回復力が低下してるのもそれが原因ですか?」

 

 「おそらくそうね。まあエネルギーが戻るにつれてそれも元に戻るでしょうし、心配することはないわ」

 

 ふむふむ、なるほど。結局は時間が解決してくれるのを待つほかないってことか

 

 それにしてもホントにどうしようか。もう眠気が限界だ。

 

 「叶也、眠いなら寝てもいいのよ?」

 

 「そう、ですか。じゃあ失礼させて…」

 

 言い切る前に僕は意識を手放した。もう、ほんとに限界。

 

 

 

 

 

 ~SIDE 紫~

 叶也は全てを言い切る前に眠ってしまった。

 

 私は叶也が床にぶつかる前に受け止めて、頭を膝の上に乗せた。

 

 こんなに無防備な叶也を見るのはいつ振りだろうか?この子も年を取るにつれて親離れしていった。私も幻想郷の維持のための仕事があり、彼につっききりというわけにもいかなくなった。藍や幽々子にもだいぶ世話になったものだ。

 

 「あー、紫ずるいー。私も叶ちゃんに膝枕したいー」

 

 「私の膝も貸してやるぞぉ!」

 

 「はいはい、酔っ払いどもは酒でも飲んでなさい」

 

 この二人には叶也が小さい時から面倒を見てもらっていた。私と同じくらい叶也に気をかけてくれている。叶也に対する愛情も

 

 「はあー、叶ちゃんが妖夢と結婚してくれれば毎日会えるのにー」

 

 !?

 

 「そうだなぁ、霊夢のとこに嫁いで来れば毎日酌に付き合ってもらえるなぁ」

 

 !!??

 

 「そ、そんなのダメよ!叶也に結婚なんてまだ早いわ!!」

 

 「また紫の過保護が出たなぁ」

 

 「そうよー、どうするか決めるのは本人たちの意思じゃないのー」

 

 「そ、それでもまだ早いわ!まだ学生の身空で結婚なんて、私は認めないわよ!!」

 

 「ホントに子離れできないのねー」

 

 「そうだそうだぁ!」

 

 「とにかく反対なんだから!!!」

 

 私は勢いよく立ちあがって強く主張した。…でもそれは間違いだった。

 

 ガツン!

 

 「「「あっ」」」

 

 ごめんなさい叶也、あなたを膝枕してたこと忘れてたわ…

 

~SIDE OUT~

 

 

 

 




次回予告(仮)
どうもー、幽々子よー
もうすぐ桜も全部散っちゃうし、その前にお花見がしたいわー
春といえばやっぱり、桜を見ながらお団子を食べるのが一番よねー
そういうわけで第17話は「お花見戦線大騒動」
次回は恋する乙女のお弁当に、ピックアップー
※必ずしも次回予告の通りになるとは限りません。ご了承ください。

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第17話  花見に行こう


予告失敗orz


 

 

 

 「みんなでお花見をしましょー」

 

 朝食を食べている最中に、幽々子さんがそんなことを言い出した。

 

 因みに紫さんと萃香さんも一緒に朝食を食べている。

 

 朝目を覚ましたら霊夢と紫さんたちが何やら言い争いしていたけど、今は和解したようだ。

 

 それにしても花見か…。悪くないかもしれない。明日はちょうど学校が休みだし、今日学校で何人か誘って、明日はみんなで集まり桜の下で宴会。

 

 うんうん、なんだか楽しみになってきた。

 

 「花見なんてどこでやんのよ。ここら辺に桜の見れるとこなんてなかったでしょ」

 

 僕の妄想は霊夢の一言で打ち砕かれた。そういえばそうだったよ…。

 

 「それなら大丈夫よー。ねー、紫ー」

 

 「ええ、私のスキマを使えば一瞬で桜の木の下に到着よ」

 

 おお、なんて準備がいいんだ。昨日の夜に打ち合わせでもしたのかな?

 

 そのあとも幽々子さんは何時に集合だとか、どこの桜を見に行くのかとかの説明を続けた。

 

 「幽々子さん、友達誘ってもいいですか?」

 

 「別にかまわないわー。でも、おいしい物を持ってきてもらってねー」

 

 何とも幽々子さんらしい。今回の花見もお花見団子が食べたいとかが理由なんだろう。

 

 「ん、そろそろ時間だね」

 

 「そうね。あんたたち、後片付けくらいやっときなさいよ」

 

 霊夢は幽々子さんたちにそう言い放つと外に出て行った。

 

 「じゃあ、いってきます」

 

 「「「いってらっしゃい」」」

 

 久しぶりに聞いた挨拶を背に受けながら、僕は霊夢の後を追った。

 

 「遅いわよ」

 

 「ごめんごめん。ところで霊夢はお花見来るよね?」

 

 「…まあ、せっかくだから行くわよ」

 

 なんだかんだ言ってもやっぱり楽しみなんだろう。幻想郷のみんなは基本的に宴会好きだからね。

 

 僕と霊夢は明日の花見について話ながら学校へ向かった。

 

 

 

 

 

 「花見ですか…」

 

 教室に入るとちょうど啓たちに会ったので誘ってみた。

 

 「つっても、今の話だと校長とかも来んだろ?」

 

 「そうなるね」

 

 「私は遠慮させてもらいます」

 

 「俺もパスだ!」

 

 「………同じく」

 

 綺麗に空振り、スリーアウトだ。あれ?スリーストライクだっけ?…まあ、いいや。

 

 たぶん断られるんじゃないかと思ってたし。

 

 「お前もよくあいつらと楽しくやれるよな!」

 

 「………不思議」

 

 このセリフは別に紫さんたちを貶しているわけではない、簡単に言えば恐れているんだろう。

 

 三人とも弱い妖怪と言うわけではないけど、紫さんはかなり強力な妖怪だ。そこら辺の雑魚妖怪なら睨まれただけで気絶してしまうような力を持っている。

 

 それは幽々子さんや萃香さんも同じ。彼女たちはまさに大妖怪、幻想郷でも屈指の力を持つ存在だ。普通の妖怪はそんな猛者が集まる場所に行こうとは思わない。おそらくだけど。

 

 中にはそんなこと全く気にしない奴とかもいるしね。

 

 それに今のところ集まるのは女性ばかり。男三人では肩身が狭いというのが一番の理由かもしれない。

 

 「あんたたち、今度は何の話してんのよ」

 

 現れたのは天子だ。この流れは以前の大富豪の時を思い出すな。今回は目の前の三人組は不参加だけど。

 

 「叶也から花見のお誘いを受けてたんですよ」

 

 「花見?面白そうじゃない。私も行くわ」

 

 即答かよ。後で聞こうと思ってからいいけどね。

 

 「じゃあ明日の正午に寮の前に集合だから。あとおいしいものを思ってきてくれるとうれしいかな」

 

 「おいしいもの?」

 

 「うん、この花見の参加条件みたいなものかな」

 

 「しょうがないわね。あんたがそこまで言うなら私がとびっきりの弁当を作ってやるわよ」

 

 なぜか天子の中ではおいしいもの=自分の弁当になったらしい。まあ持ってきてくれるんならいっか。

 

 「明日を楽しみにしてなさい!」

 

 そういうと天子は自分の席に戻っていった。

 

 そのあと阿求さんにも聞いてみたがどうやら明日は忙しいらしくて断られてしまった。残念。

 

 さてと、あとうちのクラスで誘えそうなのはアリスと魔理沙くらいかな?妖夢は幽々子さんから話を聞いてるだろうし、他の人は啓たちと同じ理由で無理だろうし。

 

 ちょうどその時、件の二人が教室に入ってきた。なんともグッドタイミングだ。

 

 「おはよう二人とも。いきなりなんだけど、明日花見に行かない?」

 

 「ホントにいきなりね」

 

 「急遽決めたから。で、どう?」

 

 すると二人は額を寄せ合ってひそひそ話を始めた。なにゆえ?

 

 一分くらいが経ち、二人は顔をあげた。

 

 「残念だけど私は参加できないわ。でも、魔理沙は明日暇みたいだから連れてってあげて」

 

 「うん、いいけど」

 

 魔理沙の方を見ると何故か顔を赤くしている。はて?どうしたんだろう?

 

 「魔理沙、大丈夫?」

 

 「うぇっ!?だ、大丈夫大丈夫、花見が楽しみでちょっと浮かれてただけだぜ」

 

 「そう、ならいいんだけど。あっ、あとお願いなんだけど何かおいしい物を持って来てくれるかな?」

 

 「………ま、まあ叶也がそういうなら明日は私が弁当を作っていくぜ!」

 

 少し間があったけど了承してもらえた。

 

 しかしなぜか魔理沙の中でもおいしいもの=自分の弁当の方程式ができてるようだ。

 

 魔理沙は幻想郷でも一人暮らしだったし料理にも慣れてるはずだから自信があるのかな?

 

 とりあえず、言うことは言ったのでお互い席に着く。もうすぐ朝のホームルームの時間だ。

 

 今日は図書委員の仕事もあったし、パチェや大ちゃんも誘おうかな。

 

 「はい、ホームルームを始めるよ」

 

 チャイムと同時に霖之助先生が入ってきた。

 

 とりあえず放課後までは授業に集中するか。

 

 

 

 

 

 ~SIDE 魔理沙~

 こーりんの話を聞きながら、私はさっきのことを思い出していた。

 

 叶也から突然花見に誘われた。ここまではよかった。

 

 私としては明日は特に用事もないしすぐに了解の旨を伝えるつもりだった。

 

 でも何故かいきなりアリスに袖を引かれた。

 

 「なんだアリス?」

 

 「よかったじゃない。これはチャンスよ」

 

 「チャンス?」

 

 額を突き合わせながら私は首をひねった。

 

 「ええ。私が花見を断れば叶也と魔理沙の二人きり、つまりデートよ」

 

 「で、で、で、デート!?」

 

 「声が大きいわよ。それにまだ確定じゃないわ。もしかしたら他にも誰か誘ってるかもしれないし。でもどっちみち明日は私用事があるから行けないの。だから精々楽しんできなさい」

 

 そういうとアリスは顔あげて、叶也に自分の言いたいことだけ言うとさっさと自分の席のほうに歩いて行ってしまった。

 

 や、やばい。なんだか恥ずかしいぜ。だってデートって、あれだろ?こ、恋人同士がするあのデートのことだろ?手をつないだり、映画観たり、一つのカップに二つのストローとか…

 

 「魔理沙、大丈夫?」

 

 「うぇっ!?だ、大丈夫大丈夫、花見が楽しみでちょっと浮かれてただけだぜ」

 

 び、びっくりした…。心臓が飛び出すかと思ったぜ。

 

 「そう、ならいいんだけど。あっ、あとお願いなんだけど何かおいしい物を持って来てくれるかな?」

 

 おいしいもの?つまりお弁当を作ってきてほしいってことか?

 

 わざわざ私に頼むってことは…やっぱり私しか誘ってないのか!

 

 「ま、まあ叶也がそういうなら明日は私が弁当を作っていくぜ!」

 

 そのあとは明日の待ち合わせ場所などを聞いて、お互いの席に戻り、今に至るというわけだ。

 

 明日は叶也と花見か…

 

 ま、また顔が熱くなる。あ、アリスのやつが余計なことを言うからだ!

 

 とりあえず後で絶対にアリスに文句を言ってやるとして、今は明日の弁当の中身を考えよう!

 

 ~SIDE OUT~

 




次回予告(?)
やっほー、てゐちゃんだよ!
作者がまだ次回を考えてないから予告はできないってさ
まあそのおかげで出番をゲットできたんだけどね!
一応、次回で花見の前日譚は終わらせる予定で頑張ってるみたい
といっても予告失敗してる作者の言葉だからあてにならないけどねw
第18話「修羅場再び」、次回は再登場のパチュリーと大妖精にピックアップ!

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第18話  修羅場再び


秋田の大曲花火を見てきました

世の中には四時間もぶっ通しで続く花火もあるんですね

間に多少休憩は挟まれましたが、正直最初の一時間で飽きました

もう来年の分まで見た感じがします


 

 

 

 昼休み、偶然レミリアさんや鈴仙さんに会ったので声をかけたところ、快く了承をもらえた。

 

 そういえば、鈴仙さんに魔理沙たちが弁当を作ってきてくれるという話をしたら、「わ、私だって料理くらい作れるのよ!でも、ちょっと、あんまり…」とかなんとか言ってたな。

 

 別に手料理を強制してるわけじゃないから気にしなくてもいいと思うけど。まあ、今はその話はいいか。

 

 少し前に授業も終わり、今は放課後になっている。

 

 委員会の仕事をすべく、図書館へ向かっているところなんだけど…

 

 「なんて誘おうか…」

 

 ただいま脳内会議中。議題はずばり『どうやったらパチェと大ちゃんがケンカしないように花見に誘えるか』だ。かなり望みは薄いけど。

 

 フィーリングが合わないのか、はたまた前世に因縁でもあるのか、理由は分からないけどあの二人は非常に仲が悪い。まさに犬猿の仲というやつだ。

 

 あの二人が同じ宴会の席に来てくれるだろうか?でも少なくとも同じ仕事をこなす仲なんだし、それくらいなら…

 

 はぁ、とにかく聞いてみないとわからないか。どうせいつでも喧嘩してるんだし、いまさら火種を増やしたところで変わらない、かな。

 

 

 

 

 

 「「あんた(あなた)は来なくていいわよ(ですよ)」」

 

 図書館のカウンターでにらみ合う二人。うん、予想通りすぎる。

 

 なぜこうなったのかというと、話はほんの少しさかのぼる。

 

 僕が図書館に来てみれば二人は既に仕事をしていた。

 

 この時点で険悪な雰囲気が漂っていたんだけど、いつものことなのでとりあえずスルー。

 

 適当に声をかけてカウンターに座る。

 

 二人がカウンターを担当して残りの二人が返却された本を元の場所に戻したり、新しい本を出したりとその他の仕事をする。主にカウンターと雑用の二つが僕らの仕事だ。

 

 さて、どう切り出そうか。普通に二人同時に誘うか、一人ずつ誘うか…。

 

 うーん、今日は人も少ないし棚に出さなきゃない本もないみたいだし。これだと雑用の仕事をしている大ちゃんが席を立つことはあんまりないかな。

 

 それにパチェと二人きりになれても、大ちゃんと二人きりになれるタイミングがないか。

 

 ああ、もういいや!悩むだけ無駄ってさっきも結論づけたわけだし、普通に誘おう!

 

 珍しく人も全然いないし、今誘っちゃえ!

 

 「あのさ二人とも、実は明日花見をやるんだけど…」

 

 そしてさっきの二人の発言に戻る。

 

 参加の是非の前にまず相手の不参加を促すあたりに、二人の仲の悪さが筋金入りであることを感じさせられるよ。

 

 「あんたに花の良さなんてわからないでしょ。来るだけ無駄よ」

 

 「あなただってお花なんて本でしか見ないくせに、偉そうなこと言えるんですか?」

 

 いや、花見にそんな目利きは必要ないと思うんだけど。

 

 「私だって花くらい実物を見ることもあるわよ。まったく、大妖精と言っても所詮は妖精ね。適当なことしか言えないのかしら」

 

 「それはすいませんでした。なにせ動かない大図書館(笑)なんて立派な肩書を持ってるくらいだから、てっきり本にしか興味ないと思ってましたよ」

 

 やばい、ヒートアップしてきた。

 

 「別にその肩書は私が名乗ってるわけじゃないし。人の評価に翻弄されるなんて、愚かな話だわ」

 

 「あなたこそ、妖精を甘く見すぎじゃないですか?それだって周りの評価の影響じゃないんですかね」

 

 二人が口論を止めてにらみ合う。静寂が辺りを包みこむ。

 

 次の瞬間、両者が弾幕を打ち出した。

 

 「ちょっ!?」

 

 まじか、これは初めての展開だ。利用者がいないのが幸い……いや、もしかしたら今までは利用客がいたから思いとどまってたのか?ってこんな考察してる場合じゃなかった!

 

 「二人とも!さすがにそれはまずいって!!」

 

 駄目だ、声が届いてない。一応この建物の中にあるものには防護の魔法が掛けられてるらしいから大丈夫だろうけど。このままだと二人が、というか大ちゃんが危ない。

 

 ど、どうしよう。今の僕には二人を止める力はないし。かといって身一つで突っ込んだら一瞬で意識が飛ぶだろうし。

 

 ほんとに手詰まりだ。

 

 「ああ、誰かこの状況を何とかして…」

 

 「わかりました、私が何とかしましょう」

 

 「えっ…?」

 

 僕の呟きに返事がきた。思わず声が返ってきた方に顔を向ける。

 

 「………誰もいない」

 

 おかしいな、確かに声が聞こえたんだけど。空耳?それとも僕の願望が生んだ幻聴?

 

 とりあえず今はそれどころではないかと思い、弾幕ごっこをしている二人に意識を戻す。

 

 「ええっ!?」

 

 目を向けた先で今度は驚きの声をあげてしまった。

 

 そこには先ほどまで元気に飛び回っていた二人が目を回して倒れていた。

 

 「どうすれば…、というか何が起きたんだ?いや、そんなことよりまずは治療を――」

 

 「大丈夫です。二人とも気絶しているだけですので」

 

 今度は僕の隣から声がした。

 

 声の主を確認すべく、隣に視線を向ける。

 

 「メイド長…じゃなくて咲夜さんじゃないですか」

 

 そこにいたのは紅魔館のメイドさん、レミリアさんに仕える完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜さんだ。

 

 「ふふっ、名前で呼ぶのはまだなれませんか?」

 

 「まあ、少し前まではメイド長と呼んでたので」

 

 僕はちょっと前に紅魔館でアルバイトみたいなことをしていた。その時の僕の上司にあたるのが咲夜さん、呼称がメイド長だったわけで。

 

 「ところで今日はどうしたんですか?」

 

 さっきからずっと気になってたんだけど、なぜか咲夜さんはいつものメイド服を着ている。

 

 もしかして咲夜さんは学生じゃないのかな?レミリアさんのメイドに徹しているとか?

 

 「先ほどお嬢様から明日の花見について聞かされたのですが詳しい内容をお話してくれなかかったので、主催者だと思われる叶也に直接聞こうと思いまして」

 

 あー、レミリアさん花見って聞いて楽しそうにしてたからな。その後の話はうかれてて聞いてなかったのかも。

 

 「わかりました。そういうことなら…」

 

 そのあと少しの間、花見について話した。

 

 

 

 

 

 「ありがとうございました。明日の準備もあるので、今日はこれで失礼させていただきます」

 

 「いえいえ、こちらこそ手伝いまでしてくれてありがとうございます」

 

 咲夜さんが図書室から去って行った。

 

 気絶した二人の代わりに手伝いまでしていってくれるなんて、ホントに頭が上がらないよ。

 

 話し合い自体は実に円滑に終了した。その後、一人で委員会の仕事をするのも大変でしょう、と言って手伝いを申し出てくれたのだ。

 

 咲夜さんのおかげで仕事に支障が出ることもなく終えることができた。

 

 途中で来た阿求さんが倒れてる二人を見て混乱してるのを落ち着かせたり、目覚めた二人が暴れだす前に言い含めたりしたことを除けばだが。

 

 そして今は仕事も終わりカウンターの片付け中。

 

 「あっ、そうだ。大ちゃん」

 

 「はい、なんですか?」

 

 「チルノたちも誘っていいよ。というか是非誘ってほしいかな」

 

 面倒見がいい大ちゃんのことだ。チルノたちがいれば彼女はその世話を焼くので忙しくなるはず。そうすればパチェとケンカする暇もないだろう。おお、我ながらナイスアイデアだ。

 

 「わかりました。寮に帰ったら誘ってみます」

 

 パチェの方も明日は親友であるレミリアさんが来るんだし、おかしな行動を起こして恥をさらすようなことはしまい。うん、いける。

 

 「じゃあそろそろ帰ろうかな」

 

 「「私も一緒に帰るわ(ります)」」

 

 「「………」」

 

 声が被ったことが気に食わないのか、またもやにらみ合う二人。

 

 なんだかんだで息がぴったりな二人を見て実は仲がいいんじゃないかな、とか考えながら帰路に就く。もちろん三人で。

 

 さあ、明日は花見だ!!

 

 

 




次回予告
どうも、十六夜咲夜です
いよいよ明日はお花見。お嬢様も非常に楽しみにしています
是非、何事もなく終わってほしいのですが…叶也あたりが災難にあいそうな気もしますね
第19話「胃袋をつかむ戦い」
次回は恋する乙女の戦いに、ピックアップです
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください

ご意見ご指摘ご感想お待ちしてます

活動報告もよろしくです


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第19話  桜の下の思惑


書いてから思ったけど花見なのに全く桜の描写してなかった、これじゃただの宴会やんorz


 

 

 

 今日は土曜日、そして昨日急遽決まったお花見の日。

 

 集合時間までちょっと時間が余ってしまったし、荷物の確認でもしようかな。といっても特に必要なものはないけど、食べ物以外。

 

 買い出しは済ませたから食べ物はオッケー。僕はお菓子しか買ってないけど大丈夫かな?

 

 いやね、僕も何か作っていこうかと思ったんだけど、朝起きれなくてね…。

 

 そういえば今日は結局どれくらいの人数が来るんだろう?一応たくさん買ってきたけど足りるだろうか?

 

 えーと、とりあえず発案者の幽々子さん、紫さん、萃香さんでしょ。あとその場にいた霊夢。それと学校で誘ったのが天子、魔理沙、鈴仙さん、レミリアさんにパチェと大ちゃん。

 

 鈴仙さんにはてゐがくっついてきそうだし、レミリアさんは咲夜さんとかフランちゃんを連れてきそうだし、大ちゃんはチルノたちと一緒に来るし……二十人くらいかな、大体。

 

 結構な大所帯になりそうだけどみんなで花が見れる場所あるかな?この時期はみんな花見の場所取りに必死になるみたいだし。

 

 ………まあ、紫さんならなんとかするか。

 

 っと、そろそろみんな集まってるかな?寮の前集合だから遅れはしないだろうけど。

 

 僕は荷物を持って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 「で、なんで紫さんしか居ないんですか?」

 

 寮を出てみれば、そこにいたのは日傘を差した紫さんただ一人だった。

 

 現在、集合時間の五分前だ。チルノとかならまだしも妖夢とかならこの時間には来てるはずだ。集合場所も確かに寮の前と伝えたし…。

 

 「みんな一足先に宴会会場に着いてるわ」

 

 「え?」

 

 「向こうで藍が準備を終えていたから、来た人から順番に送ったのよ」

 

 「なるほど。それで、もしかして僕が一番最後ですか?」

 

 「そうなるわね。みんな意外と早く集まったわよ。魔理沙なんて一時間も前に来てたわ」

 

 そうなのか。まさかビリになるとは、別に競争してたわけではないけど。

 

 しかし一時間も早く来るなんて、魔理沙もよっぽど花見を楽しみにしてたんだな。

 

 「とにかく、あなたにもさっさと会場に行ってもらうわよ」

 

 言うが早いか紫さんはどこからか取り出した扇子を僕の方に向けて軽く振った。

 

 ま、まさか…

 

 「一名様、ごあんな~い♪」

 

 「や、やっぱりかあああああああぁぁぁぁぁ…!!!」

 

 いつも通り足元に開かれたスキマに落ちて行った。

 

 

 

 

 

 「……ぁぁぁぁああああああああ!!!」

 

 ドスン!!

 

 いててて、なんで紫さんは毎回僕を落っことすんだろうか。

 

 打ち付けたお尻をさすりながらあたりを見回す。

 

 落ちてきた僕をきょとんとした顔で見ている人、気にせず食べ物を頬張っている人、お酒を飲んで既に出来上がっている人。そこではいろんな人が思い思いに宴会を楽しんでいた。

 

 博霊神社で毎回行なわれている宴会を思い出させるね。

 

 さすが幻想郷の住民。世界が変わっても宴会の風景は変わらない。

 

 「ちょっと大丈夫!?」

 

 心配した顔で駆け寄ってきたのは鈴仙さんだった。

 

 「大丈夫だよ、少し打っただけだから」

 

 「そう、よかった。べ、別にあなたのことを心配したわけじゃないのよ!保健委員として反射的に反応しただけなんだから!!」

 

 いつも通り怒られる。相変わらずの鈴仙さんに僕は笑みを返すことしかできない。

 

 「ちょっとれいせーん!」

 

 「あ、今行くわ!」

 

 鈴仙さんはなにやらてゐに呼ばれてそそくさと行ってしまった。

 

 「「叶也!」」

 

 今度はいきなり僕を呼ぶ声がした。さらに両腕に重みが加わる。

 

 「叶也!あたいが来てあげたわよ!」

 

 「わたしも来たのだー」

 

 右腕には大ちゃんの親友で氷の妖精のチルノ、左腕にはチルノたちがよく遊んでいる宵闇の妖怪ルーミアがそれぞれぶら下がっていた。

 

 「チルノちゃん、ルーミアちゃん待ってぇ」

 

 「桜の下で駆け回る~♪子供は風の子元気な子~♪」

 

 後から追いついてきたのは大ちゃんともう一人、歌が大好きな夜雀の妖怪、ミスティア・ローレライ、通称みすちーだ。

 

 「大ちゃん遅いよ!叶也が逃げたらどうするつもり!」

 

 いや逃げないよ。なんでそう思ったし。もしかして両腕を抑えてるのは逃がさないためか?

 

 「そんなことしなくても叶也さんは逃げないよ。そ、それに男の人にあんまりくっついちゃだめだよ!」

 

 そのままチルノと大ちゃんが口論を始めた。といっても喧嘩とかではなくじゃれあいみたいなものだからほっといても問題はないだろう。

 

 「ルーミアとみすちーも大ちゃんに誘われたのかい?」

 

 「そーなのだー。おいしい物がたくさん食べれるって聞いたから」

 

 「私は歌を歌いに来たのよ。やっぱり宴会を盛り上げるのは歌でしょ?」

 

 二人らしい返答だな。それにしても一人足りないな…

 

 「今日はリグルはいないの?」

 

 リグルとはチルノたちの友達の一人で蛍の妖怪の女の子だ。

 

 いつも彼女を含めた五人でいることが多いんだけど、今日は見当たらない。

 

 「リグルは…」

 

 みすちーが言いよどむ。何かあったのかな?

 

 「花妖怪に連れて行かれたのだー」

 

 なん…だと…

 

 ルーミアが言う花妖怪とはおそらくあの人だろう。正直、僕には彼女と関わって碌な目にあった覚えがない。

 

 とにかくデンジャラスな存在。リグルは虫の妖怪で彼女は花の妖怪。自然界でも共生関係にある虫と花だからか、あの人は良くリグルを園芸の手伝いなどのために連れ出している。

 

 「それは、なんというか………ご愁傷様です」

 

 僕にはそう返すことしかできなかった。

 

 ぎゅっ!

 

 ルーミアたちとリグルに哀悼の念を送っていたら、急に誰かが背中に抱き着いてきた。

 

 後ろを見ればそこにいたのは先ほどまでチルノと口論をしていた大ちゃんだ。

 

 「大ちゃん?何してるの?」

 

 「あの、えと、チルノちゃんが、やってみろって…」

 

 顔を真っ赤にしながらそう答える大ちゃん。まったく、チルノに言われたからって何でもやらなくても。

 

 「私も混ぜてよおしくらまんじゅう~♪春なのにおしくらまんじゅう~♪」

 

 そう言って、いや歌ってみすちーも正面から抱き着いてきた。

 

 なんだこの状況…。まあ、割といつも通りなんだけど。

 

 というわけで特に気にせず、チルノたちを体にぶら下げたまま宴会会場を回っていった。

 

 

 

 

 

 とりあえず大体回ったかな。

 

 どれくらいかかっただろうか?たくさん人を呼んだからか、呼んだ面子が濃いからか、想像以上に時間がかかったな。

 

 途中酒に酔ったフランちゃんに襲われそうになったり、食べることに集中しすぎた幽々子さんがチルノを氷菓子と勘違いして食べそうになったり、何故か呼んでないのにやってきた文さんに写真を撮られまくったりしたけど、まあ概ね問題はなかった。

 

 さてとあとは霊夢たちのところで腰を落ち着けようかな。

 

 未だに腕にぶら下がってるルーミアをプラプラさせながら後ろを振り向く。

 

 チルノ、大ちゃん、みすちーの三人もまだ付いてきている。

 

 てっきり適当なところで飽きて四人でどっかに遊びに行くと思ってたんだけどね。

 

 あっ、霊夢だ。一緒にいるのは魔理沙と妖夢、それに天子とパチェか。なんだか珍しい組み合わせだな。あの集団の共通点が見いだせない。まあ宴会だし、普段は見ない組み合わせがあってもおかしくないか。

 

 「やあ、みんな。今日は来―――」

 

 「「「「「お弁当を食べなさい(てください)(てくれ)」」」

 

 ええぇ…。どういう状況なのこれ?

 

 

 

 

 

 ~SIDE パチュリー~

 

 予想はしていたけど本当にライバルが多いわね。

 

 今回、私は叶也から花見に誘われたときある計画を考えたわ。

 

 ズバリ今回の作戦は「花見に美味しいお弁当を持って行って叶也の胃袋をつかもう作戦」よ。………今回は急いで決めたからこんな名前になったのよ。

 

 まあ名前なんてどうでもいいわ。花見と言う状況ならお弁当をたくさん作って持って来ても不自然じゃないわ。ある程度量をたくさん作って来て、周りにいる連中にふるまう。その過程で叶也にも食べてもらえる。これなら自然にいけるわ!

 

 えっ?そんなことしなくても直接叶也に食べてほしいと言えばいいんじゃないかって?

 

 …そんなこと恥ずかしくてできないわよ。

 

 そういうわけで今日は早起きしてお弁当を作りこの花見に臨んだ。

 

 しかし、やはりと言うべきか今回も私の前に立ちはだかる奴らがいる。

 

 それが今目の前にいる四人だ。

 

 おそらくこの四人もなかなかの手練れでしょう。

 

 まず霊夢。彼女は毎回宴会の度にその腕を振るっているから実力は知っている。私では敵わないレベルであることは確かだわ。

 

 次に魔理沙。彼女の手料理は食べたことはないけど、一人で生活しているのだし料理にも慣れているでしょう。

 

 そして一番怖いのは妖夢。なにせ白玉楼の主はよく食べる。そのため彼女の仕事の半分は主のために料理を作ることでしょう。何事にも言えることだが、やはり何回も繰り返していればその技術は磨かれていく。彼女の料理の腕は相当のものになっているはず。

 

 最後に未知数の天子。この女は全てにおいて情報が少ない。はたして如何ほどの料理の腕なのか、そもそも料理ができるのか、というか叶也に好意を持っているのか。すべてが謎だ。今の段階ではいかんとも言い難い。

 

 しかし私も丸腰で挑んだわけではない。そもそも今まで料理なんてしたことが無い私が無策で挑んでも痛い目を見ることは目に見えている。

 

 この戦いは負けるわけにはいかない。対策は万全よ。

 

 いま、この場は静寂に包まれている。何も言わなくともお互いの意図がわかる。

 

 静かに牽制だけが行われている。

 

 叶也がこの場に来たとき。その瞬間が開戦の合図になるでしょう。

 

 時間が過ぎるのを待つ。

 

 どれほど経っただろうか。突然この場に声が響いた。

 

 「やあ、みんな。今日は来―――」

 

 「「「「「私のお弁当を食べなさい(てください)(てくれ)!」」」

 

 いざ、勝負よ!

 

 ~SIDE OUT~

 

 

 




次回予告?
みんな、てゐちゃんだよ☆彡
出番が声だけとかありえないと思わない?
まあ、ほかの出番がない連中よりはましだけどね
そんなことより今回七曜の魔法使い視点の話があったじゃない?
あれ、半分くらい七曜の妄想だから。みんなは割とまったりしてたから
魔理沙だけは消沈してたみたいだけど(笑)
そんなことより次回はいよいよ始まる女の戦い、叶也の胃袋がフルボッコに?
第20話 桜の下の戦場
次回は恋する乙女のお弁当に、ピックアップ!
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください

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第20話  桜の木の下の戦場


 結局今回も桜の描写が一瞬しかなかったorz


 

 

 

 今僕は窮地に立たされている。

 

 といっても悪漢に襲われているとか、雷や竜巻みたいな天災に見舞われているわけではない

 

 じゃあいったい僕はどうして危機に瀕しているのかというと―――

 

 「私自ら作ってきたお弁当よ!さあ、存分に味わいなさい!」

 

 「そんな不良天人が作ったものより私のお弁当の方が美味しいわ。食べてみなさい」

 

 「本の虫のパチュリーに料理なんてできるのか?精々レシピ本を読んだことがあるくらいだろ。それよりも私が作ったお弁当の方が絶対に美味しいはずだぜ」

 

 「あんただって普段人の家のご飯をつまみに来てばっかりで碌に料理なんてしないでしょ。叶也はいつも通り私のご飯を食べるのよ」

 

 「いえ、叶也も幼馴染である霊夢さんの手料理は食べ慣れている筈です。ここは私のお弁当をどうぞ」

 

 目の前の女子5人に詰め寄られているせいなんですよ。

 

 5人とも鬼気迫る形相でこちらに詰め寄っている。

 

 チルノたちが腰を抜かして動けなくなってしまうほどだ。大ちゃんだけはなんだか悔しそうな顔をしているけど。

 

 なんだかわからないけどお弁当を食べればいいの?それだけで僕はこの緊迫感あふれる状態から抜け出せるのか?

 

 ならば!

 

 「お弁当なら食べるからみんな落ち着いてよ!」

 

 ピタリ

 

 まさにそんな擬音が当てはまる様に全員の動きが止まった。

 

 そして彼女たちの視線がすべて僕に集まる。

 

 「あ、えと、順番に食べさせてもらうから、できればじゃんけんとかで順番を…」

 

 「「「「「じゃんけん、ポン!」」」」」

 

 僕が言い終わる前にじゃんけんが始まった。

 

 なんだかみんな微妙におかしいけどどうしたんだろ?

 

 僕が頭を悩ませているうちに、じゃんけんは決着した。

 

 「ふふん、やっぱり私の勝ちね」

 

 一番は天子、やっぱりこういうのは強いな。

 

 「まあ、私は順番なんてどうでもいいんだけど」

 

 二番は霊夢か。

 

 「そんなこと言うなら譲ってくれよ…」

 

 三番は魔理沙、霊夢の言うとおり順番に拘る必要はないと思うんだけどね。

 

 「できるだけ早く食べてもらわないとまた邪魔が入りそうです…」

 

 四番は妖夢、なんだか悲痛な面持ちだ。

 

 「ふふふ、私の秘密兵器を味あわせてあげるわ」

 

 最後はパチェ、何故だろう、今の彼女からは新薬を作っている時の永琳さんと同じ気配がする。

 

 「それじゃあ、天子のから…ん?」

 

 箸に手を伸ばそうとしたとき、僕の袖が引っ張られていることに気が付いた。

 

 「あの、叶也さん私もいただいていいですか?」

 

 そう聞いてきたのは大ちゃんだった。

 

 「僕は構わないけど…」

 

 言いながら天子の方を見る。もともとこれを作ってきたのは天子だし、僕が決めることでもないだろう。

 

 「私は構わないわよ。なんならそこにいる氷精たちも食べなさい」

 

 「たべるのだー」

 

 「しょうがないわね、ぐるめなあたいが食べてあげるわ!」

 

 「天人の料理は~、天にも昇る味~♪」

 

 「……ライバルの実力は知っておかないと」

 

 最後の大ちゃんの呟きはよく聞こえなかったけどみんなも一緒に食べるようだ。

 

 「それじゃあ、いただきます」

 

 「「「「いただきます」」」」

 

 そして天子の弁当を見る。

 

 重箱の中に並んだ料理に僕は違和感を覚えた。

 

 「天子、これは何?」

 

 「これは天界の桃を使った桃まんね」

 

 「じゃあ、これは?」

 

 「それは天界の桃を使ったサラダよ」

 

 「それじゃあ、これは?」

 

 「天界の桃を使ったパスタ」

 

 そう、彼女の料理にはどれもふんだんに桃が使われていた。

 

 「おいしーのだー!」

 

 「なかなかやるわね!」

 

 みんなの反応を見るにおいしいんだろうけど、若干抵抗がある。

 

 とはいえ食べないという選択肢はないので意を決して箸を伸ばす。

 

 「はむ、もぐもぐ…………………おいしい」

 

 「でしょ!!」

 

 最初は桃を使った料理に何とも言えないものを感じていたが、食べてみたら案外おいしい。

 

 桃の自然な甘みが他の食材と見事にマッチしている。

 

 「まさか天子がこんなに料理上手だったなんて…」

 

 「今回は私の故郷の料理を作ったの。だから不味いわけがないわ!」

 

 天子のトンデモ理論はいつものことだが、今回はおいしいことを認めざるを得ない。

 

 ある程度天子のお弁当を堪能したので次に行くか。

 

 

 「じゃあ、次は霊夢のお弁当をいただくよ」

 

 スッと霊夢は無言でお弁当を差し出してきた。

 

 中身は卵焼きや唐揚げなど一般的なお弁当の具である。

 

 どれを食べるか一瞬悩み、卵焼きを口に入れる。

 

 「うん、やっぱり霊夢の料理はおいしいね」

 

 「別に、お世辞はいいわよ」

 

 いつも通りの返答が返ってきた。本当においしいんだけどな。

 

 「くっ、さすが霊夢さん。この煮物も味がしっかりと染み込んでいてとてもおいしい」

 

 大ちゃんも絶賛しているし、何故か全身から敗北感を漂わせているが。

 

 他のおかずも食べてみたけどやっぱりおいしい。

 

 「こんなにおいしい料理が作れるんだし、霊夢はいいお嫁さんになれるね」

 

 その瞬間、霊夢は顔を真っ赤にさせて頭から湯気をシューシュー出し始めた。

 

 「ば、馬鹿なこと言ってないでさっさと次の弁当でも食べに行きなさい」

 

 あれ?おかしなこと言っちゃったかな。前に萃香さんがこのセリフを言ってあげると女の子は喜ぶって言ってたんだけど。

 

 とりあえず次の弁当に向かった。

 

 

 「ほら、私のお弁当」

 

 少し赤くなりながら魔理沙が差し出してきたのは少し大きめのバスケットだった。

 

 「何がいいのかわからなかったから、サンドイッチを作ってきたぜ」

 

 意外だ。魔理沙のことだからきのこ尽くしのお弁当でも作ってくると思ってた。

 

 「だ、黙ってないで早く食べろよ」

 

 「そうだね、いただきます」

 

 もぐもぐ、うん普通においしい。マンガみたいに見た目だけよくて中身が毒物みたいな展開ではないようだ。

 

 「うん、おいしいよ。魔理沙も意外と料理上手だったんだね」

 

 「意外とは余計だぜ。でも……うん、喜んでくれたみたいで何よりだ」

 

 そういってはにかむ魔理沙に少しドキッとさせられたのは秘密だ。

 

 「こんなに料理上手なら、私の屋台でお手伝いしてもらいたいわ」

 

 みすちーがそう呟いた。こっちの世界でも屋台を経営してるのか?

 

 「手伝うのは構わないが、私は高くつくぜ?」

 

 「所詮この世は金次第~♪残念無念また今度~♪」

 

 そんなやり取りも織り交ぜつつ、魔理沙のお弁当を食べていった。

 

 

 次は妖夢のお弁当か。

 

 「きょ、叶也。どどどどうぞ」

 

 腕をがくがく振るわせながら妖夢が弁当箱を突き出してきた。

 

 何をそんなに緊張しているのか。

 

 「それじゃあ、いただきます………あれ?」

 

 ふたを開けたその中は、見事に空っぽだった。

 

 「妖夢、これ」

 

 「どうしました?……え!?」

 

 弁当箱の中身を見せると妖夢も驚愕していた。この反応からするに新手のいじめではないようだ。

 

 「な、なんで……」

 

 呆然とする妖夢。まあ、たぶん幽々子さんが食べちゃったんだろ。それくらいしか思いつかない。

 

 真っ白になった妖夢を不憫に思いながらも僕は最後のお弁当に向かった。

 

 

 「よく来たわね、これが私のお弁当よ!」

 

 そういって差し出されたものを見て僕は思わず後ずさった。

 

 箱の中に詰め込まれていたものは今まで僕が見たことのないモノだった。

 

 色は濃い紫、独特の臭いを放ち、常に蠢いている。

 

 ………これは食べ物なのか?

 

 「ねえ、パチェ。これって何?」

 

 「よく聞いてくれたわね。話せば長くなるから少し端折りながら説明するわ」

 

 なぜ料理の説明でそんなに時間を使うんだ…。

 

 「この料理は全ての食を極めたと言われている人物が書き記した『ベルゼブブの書』の一番最後の章に記されていたものよ」

 

 絶対おかしいでしょ。なんで料理の本にそんな物騒なタイトルをつけてるの?

 

 「その本には常人では成し得ない究極にして最強の料理として綴られていたのだけど、まあ私にかかればそれを再現するのも簡単だったわ」

 

 分からない、僕にはこれが完成品なのか失敗作なのか分からないよ。

 

 「ちなみに味見はした?」

 

 「いいえ、叶也に一番に食べてもらいたくて」

 

 くそ、退路をふさがれた!これじゃ、断りにくいじゃないか!!

 

 でも待てよ。億が一の確率でその本が正しくてこの料理(?)が美味しい可能性もあるかもしれないじゃないか。

 

 周りからは既に大ちゃんたちもいなくなっていた。おそらく何かしらの危険を感じ取ったのだろう。

 

 これを食べなきゃ終わらないんだ。…もうやるしかない!

 

 「い…いただきます!!!」

 

 触手を伸ばしてきて抵抗してくる料理を無理矢理力でねじ伏せて口に運ぶ。

 

 「くっちゃ、くっちゃ、ん?ねばねばするけど案外………ぶはっ!?」

 

 強烈な刺激が口の中に襲いかかる。まさに味によるフルバースト。さらに鼻にも痛烈なにおいが行き渡る。もはや呼吸もままならない。足ががくがくと震えだし、立っていることもできなくなりその場に倒れる。その他いろいろな異常が僕の体を襲ったが僕は身動き一つとることはできなかった。

 

 倒れた姿勢のまま空を見上げる。舞い散る桜の花びらを見ながらふと思う。

 

 (そういえば、今日さくらをしっかりと見たのはこれが初めてだな…)

 

 そんなことを思いながら、僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 こうして僕の花見は終わった。

 

 

 

 因みにそのあと花見に来ていた永琳さんのおかげで僕は一命を取り留めた。

 




次回予告(?)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
作中ではそろそろ五月くらいになるかな
五月は特にイベントもないし作者も話が考え付いてないみたい
たぶん来週から少しの間新キャラ登場習慣になるんじゃないかな
感想とかで出して欲しいキャラを書いたら案外登場するかもよ?
てなわけで第二十一話は「進撃の新聞部」
次回は天狗たちの活躍に、ピックアップ!
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください

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第21話 進撃の新聞部

今回は叶也君の視点がありません
最初は文ちゃんの視点からです


 

 

 「第二回新聞部定例会を始めるわ」

 

 どうも、清く正しい射命丸です!…って、私は誰に言ってるんだろ?

 

 今日は月に一度の定例会。月初めに行われるこの会議では主に先月の反省や今後の活動予定の見直しなどが行われる。

 

 「みんな席に着いたわね」

 

 「みんなと言っても部員は三人しかいないけどね」

 

 「うるさい。少ないの気にしてるんだからいちいち言わないでよ」

 

 言葉を返してきたのは姫海棠はたて。私と同じ烏天狗だ。いつも携帯をいじってばかりで、友達も少ない陰険な―――

 

 「あんた今失礼なこと考えてない?」

 

 「別に。事実を確認してただけよ」

 

 「ふーん」

 

 少し不穏な空気が流れる。流してる張本人の私が言うのもなんだけど。

 

 「お二人ともその辺でやめてください。会議の時間を押してしまいます」

 

 仲裁に入ってきたのは白狼天狗の犬走椛。真面目な堅物で暴走しがちな私たちのストッパー役だ。

 

 「わかってるなら自重してくださいよ…」

 

 おっと、声に出てたかしら?まあ直す気はないしいっか。

 

 「そうね、本題に入るわ。今回の議題は決まってるのよ」

 

 「議題が決まってる………何か特ダネになりそうなことでもあったの?」

 

 はたての目の色が変わる。普段だらけていてもネタの話になれば雰囲気が変わる。彼女が一流の記者である証拠だ。でも今回は残念ながら特ダネの話ではない。

 

 「違うわ、その逆よ。先月はあんまり大きなネタが無かったの!このままじゃあ新聞部として立派な記事が書けないわ!」

 

 「お言葉ですが文様、大きな事件や出来事は我々の行動でどうこうできるものではありません。話し合ったところで何か手が打てるわけでは…」

 

 「その考えは甘いわ。普通の場所ならつゆ知らず、ここは天下の幻想学園よ?全国からさまざまな魑魅魍魎が集まっているというのに何も起こらないなんてありえないわ!」

 

 「つまり文はあたしたちがネタを見逃してしまっていると言いたいわけ?」

 

 「まあ簡単に言えばそうなるわね」

 

 「それにしたって私たちの耳に届かないような小さな事件じゃ大した記事はかけないんじゃないの?」

 

 「それはどうかしら?要は小さくても事件自体が起これば記事にすることはできるわ。その事件に出くわせないことが問題なのよ」

 

 「それだと結局私たちにはどうすることもできないのでは?」

 

 「大丈夫よ。私だって先月の間、無為に過ごしていたわけじゃない。ちゃんと対策を用意してきたから!」

 

 「へえ、ずいぶんと自信満々じゃない。いったい何を用意したの?」

 

 「それは………これよ!!」

 

 そう言って私は後ろにあったホワイトボードをくるりと一回転させた。

 

 「……写真?」

 

 そこには大きく引き伸ばされた男子の写真が一枚。これこそが私の秘密兵器。

 

 「彼の名は八雲叶也。学園長をはじめこの学園の中でも特に力の強い妖怪との親交が深く、更にトラブルに巻き込まれる頻度が異常に高い。これほどまでに記事にしやすい存在なんてそうそういないわ」

 

 「ああ、そういえばあんたが書く記事にはよく出てたわね。確かこの前は紫色の触手の化け物との壮絶な戦いを記事にしてたっけ」

 

 「そうなのよ!他にも女性の知り合いが多いからスキャンダルにしやすいし、聞いた話によると八意先生の薬の実験台とかもやってるみたいだから面白い話が聞けるかも!」

 

 「それで、結局私たちは叶也殿を今後どうするのですか?」

 

 「そうね、とりあえずこれから毎日誰か一人は彼に付くことにしましょう」

 

 「え゛っ!?」

 

 「それはストーキングなのでは………」

 

 「記者が記事を書くのに多少のストーキングをするのは当然のことよ!あなたたちも記者の端くれなら腹をくくりなさい!」

 

 そう、これは仕方がないことなんだ。なにせ彼はホントにさまざまな出来事に巻き込まれる。一歩歩けば吹き飛ばされ、二歩進めば女性に抱き着かれ、三歩目には人知の及ばない面白い目にあう。

 

 そんな歩く面白イベント製造機を放っておけるわけがない。少し目を離せばきっとなにかイベントを呼び寄せているはず。これは新聞部総出で当たらなければいけないことなのよ!

 

 そのあと何故か反発する二人を説得するためにおよそ一時間ほど使った。

 

 結局付きっ切りは叶わなかったけど、週に何回か彼の動向を見張ることに決まった。

 

 ~Side 椛~

 

 私は今ある男を追いかけている。その名は八雲叶也。最初は会議で決まったことなので仕方なくやっていたのだが………なるほど、文様がああ言っていただけのことはある。確かに彼のまわりはハプニングだらけだ。

 

 今は昼休み。どうやら友人と屋上で昼食をとるらしい。叶也殿と数人の女子が階段を上っている。

 

 「私も追いかけなければ………ッ!?」

 

 ふいに誰かに肩をつかまれる。思わず声をあげそうになるのを必死に抑えた。

 

 「あんた、新聞部の白狼天狗じゃない。何をこそこそしてるのよ」

 

 そこにいたのは叶也殿のご友人の一人パチュリー・ノーレッジだった。

 

 「あ、いえ、別にこそこそなどはですね」

 

 「………もしかしてあんたも叶也を狙ってるの」

 

 「は?」

 

 「何でもないわ。それよりちょうどいいわ。少し付き合いなさい」

 

 「え、ちょっ………!?」

 

 パチュリー殿に引きずられ、私は誰もいない教室の一つに入れられた。

 

 「あの、いったい何を?」

 

 「まあ座りなさい。あんたにちょっと頼みたいことがあるのよ」

 

 「頼みたいこと、ですか」

 

 いうまでもなく私と彼女はあまり面識がない。そんな彼女がいったい私に何を頼むというのか?

 

 とりあえず促されるままに椅子に座り、彼女の話を聞くことにする。

 

 この時私は楽観的に考えていた。ほぼ係りのない私に無理難題を言うことはあるまい。もしかしたらこれをきっかけに叶也殿の面白い話が聞けるかもしれない、と。

 

 だが私のそんな浅はかな希望はパチュリー殿の一言で砕かれることになった。

 

 「あんたには私の料理の試食を頼みたいのよ」

 

 ………料理の試食?彼女の?

 

 私は文様が先週書いた記事の一つを思い返す。確か見出しは『桜の下に沈む男子生徒!?襲いかかる紫色の恐怖!!』だったはず。

 

 それには一つのお弁当が引き起こした大惨事が長々と書かれていたのだが、いま大事なことはたった一つだ。

 

       彼女の弁当は人を殺せる

 

 「わ、私に頼むよりもご友人の誰かに頼んだほうがよろしいのでは?」

 

 「別に誰でもいいのよ。だからあんたでも構わないわ」

 

 彼女がバッグから弁当箱を取り出した。その弁当箱を見た瞬間、体が震えだした。

 

 何故かはわからないが全力で逃げ出したくなってくる。

 

 「そもそもあんた達がおかしな記事を書いたせいで誰も試食してくれないのよ。だからあんたが責任取りなさい。」

 

 パチュリー殿がこちらに近づいてくる。思わず後ずさりしてしまう。嫌な汗が止まらない。

 

 「わわわ、私はあまり味に詳しくないですよ。そ、それに昼食も済ませたし、用事もありますから時間もありません!それに、えっと…!?」

 

 私は思いつく限りの言い訳を考えた。逃げたほうが確実なのかもしれない。しかしそれでは今後彼女に取材を取り付けようとした際、支障をきたしてしまうかもしれない。

 

 そうならないためにも何とか綺麗に断りたい。

 

 「別に時間も取らせないし、味の評価もいらないわ。ただ…」

 

 「ただ?」

 

 「……死なないかどうかだけ試させて」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は逃げ出していた。

 

 「逃がさないわよ!」

 

 彼女がそう叫けぶと同時に、体に何かがまとわりついた。

 

 「これは……植物!?」

 

 「私の魔法よ。さて、それじゃあ食べてもらおうかしら」

 

 そういうとパチュリー殿は私の目の前に来て弁当箱を開けた。

 

 目に入ったのは緑と赤のツートンカラー。こぽっ、と音を立てながら泡を湧き立たせている。

 

 「前回はいきなり最後のページに挑戦したから失敗したのよ。だから今回は比較的簡単なものに挑戦しみたわ」

 

 何か声が聞こえるが頭には入ってこなかった。私の脳内の警鐘がけたたましく鳴り響く。

 

 「その恰好じゃ食べられないわね。じゃあ、はい。あーん」

 

 「や、やめへふれえええええ!!」

 

 植物に口をこじ開けられ、赤と緑の何かを乗せたスプーンが私の口に突っ込まれた。

 

 「さあ、どうかしら?」

 

 「もぐもぐ、ん?食べられないことは………ゴパッ!?」

 

 何かは分からない。なにかは分からないが、強烈な何かが私の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 ~Side はたて~

 椛が倒れた次の日。私はその原因と思われる男である八雲叶也を見張っていた。

 

 思われる、と曖昧な表現を使っているのは、椛が気を失う前の記憶をなくしているから。

 

 思い出そうとすると震えや汗が止まらなくなるようで、あたしと文はそれ以上追及するのを断念した。

 

 記者としての腕はともかく剣士としてはそれなりに優秀な椛が記憶を失うほどの事件が起きたのだ。あたしも気を引き締めてかからないとね。

 

 というわけで今日一日見ていたのだけど、あまり成果はなかった。

 

 それなりに記事にできそうなことはあったけど少し弱い。椛が遭遇したであろうネタには程遠いと思う。

 

 既に放課後、今は帰り道をつけている。

 

 叶也は紅魔館の主の妹、フランドールと帰宅中。

 

 今日一日見ていて思ったけど、ホントに女子の知り合いが多いのね。

 

 登校の時も、お昼御飯の時も、そして下校の時も必ず女子と一緒にいる。

 

 確かにスキャンダルは書きやすそうだわ。

 

 「やっぱり誰かいるでしょ?出てきなさい」

 

 大きくはないがよく通る、威圧感をにじませた声が響いた。

 

 まさか気づかれた!?くぅ、さすがは吸血鬼。あんな見た目でも力は大妖怪クラスなのね。

 

 私は潔く出て行こうとした。実際悪いことをしているわけでもないし、適当に誤魔化して逃げよう。

 

 そんな目論見は予想外な形で打ち壊されることとなった。

 

 叶也とフランドールの目の前に突然女の子が現れた。

 

 緑の髪と閉じた第三の目。確かあれは地霊殿の主の妹の……古明地こいし、だったかしら。

 

 じゃあフランドールはあたしではなくこいしの方に気がついていたわけね。

 

 ん?何やら言い争いを始めたようだわ。ここからじゃよく聞こえないわね。

 

 気づかれないようにこっそりと近づいて、様子を窺う。

 

 「だからそのポジションはあたしの物なの!さっさとお兄ちゃんから離れてよ!」

 

 「あなたこそフランとお兄様の邪魔をするならどっかに行ってよ!」

 

 「何がお兄様よ!私の方がお兄ちゃんの妹にふさわしいんだから!」

 

 「何言ってるの?お兄様の妹はフラン一人だけだよ!あんまりわがまま言うとあなたを壊しちゃうヨ?」

 

 「そっちがそう来るなら私だって容赦しないわよ!」

 

 「いや二人とも僕の妹では―――」

 

 「「お兄様は(お兄ちゃんは)黙ってて」」

 

 「ハイ」

 

 そして飛び交う弾幕。

 

 おお!これはなかなかに大きなスキャンダルにできそうだ。見出しは『妹たちの禁じられた恋!兄を巡る二人の戦い!』とかいいんじゃ…ってあぶな!?弾幕のこぼれ弾がこっちまでっ!どこかに避難しないとあたしまでピチュっちゃうわ。

 

 ―――禁弾「スターボウブレイク」

 

 ―――本能「イドの解放」

 

 ええっ!?スペルカードまで使うの!?

 

 あたしが慌て始めた時にはすでに手遅れだった。

 

 目の前に迫ってきたのはこぼれ弾では済まない量の弾幕。

 

 一介の天狗であるあたしによける方法なんて………!?

 

     ピチューン

 

 

 

 

 

 ~Side 文~

 どうも、清く正しい射命丸です!

 

 まさか椛に続いてはたてまでやられるとは予想外でした。

 

 ここは部長として私がしっかりと取材を成功させないといけませんね。

 

 えっ?会議の時と口調が違う?ええ、今は取材モードですから。基本的にあのしゃべり方は特に親しい友人といる時だけです。

 

 って誰に言ってるんでしょうか?なんだか前にも似たようなことがあった気が…。

 

 おっと、今は取材に集中しなければなりませんね。

 

 現在私は叶也さんのあとをつけています。いつもより早く目が覚めた今日の朝、偶然外を歩いている叶也さんを目にかけたのは本当に幸運だとしか言いようがないですね。

 

 私の調べによると叶也さんはかなり朝に弱いらしいです。そんな彼がこんなにも朝早くに歩いているのだからきっと何か特別なことがあったに違いない。

 

 それに先ほどから私の記者の勘がバリバリと告げています、何か大きなことが絡んでいると。

 

 慎重に、気づかれないようについていく。どうやら学校に向かっているようですね。

 

 更にあとをつけると叶也さんは学校のとある部屋に入っていった。

 

 「学園長室………なるほど、学園長の八雲紫は叶也さんの育ての親。彼女に呼び出されていたというわけですか」

 

  と分析していても記事は書けない。私はさらなる情報を求めて扉に耳を当てた。

 

 「なんですかー、紫さん。僕が朝弱いの知ってますよねぇ」

 

 「ごめんなさいね、どうしてもあなたに伝えておきたいことがあったのよ」

 

 「僕の部屋じゃ駄目だったんですか?」

 

 「あなたの部屋では萃香とかに聞かれる可能性もあったわ。ここだったらその心配もないでしょう」

 

  学園長の数少ない友人である萃香さんにも聞かれたくない話!?これは事件のにおいがしますね!!

 

 「実は昨日この世界に何者かが干渉したみたいなの」

 

 「干渉…えっと、つまりどういうことですか?」

 

 「私もはっきりとしたことは分からないわ。確かなことはこの世界の何かが書き換えられた、ということだけよ」

 

 「先代さんが何かやったんじゃないですかね。あの人なら何しても不思議じゃないですよ」

 

 「それはないわ。だって私にこのことを教えてくれたのは彼女だもの」

 

 「そうだったんですか。じゃあもう解決しちゃったんですか?あの人が手を出したんだったら一瞬でなんでも終わっちゃいますよね」

 

 「それが、彼女は『面白そうだし、害も無いからほっといたわ』って言ってまたどこかへ行ったのよ」

 

 「ハハハ、あの人らしいですね」

 

 「というわけで、心配は無いと思うけど一応頭の片隅にでも止めておいてちょうだい」

 

 「わかりました。…ふわあああぁ」

  

 「ふふ、大きなあくびね。学校が始まるまでまだ時間があるしそこのソファーで寝てもいいわよ?」

 

 「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 は、話の内容は半分も分かりませんでした。ですが話の端々に出てきた言葉、「世界」や「干渉」などかなりスケールの大きい話なのは確かですね。

 

 これは新聞部始まって以来の大大大スクープです!しかしまだ情報が足りませんね…。もっと情報を集めなければ―――

 

 スッ

 

 「あやや?」

 

 一瞬でした。一瞬で周りの景色は変わりました。

 

 さっきまで廊下に立ち扉の前にいたはずなのに、今いるのはどうやら部屋のようです。

 

 綺麗な調度品や来賓を迎えるためにあるであろうテーブルとソファー………そしてその上で眠る叶也さんと私の前に立つ学園長。

 

 「盗み聞きなんていけない天狗ね」

 

 「き、気づいていたんですか」

 

 「当然よ。さてと、叶也も寝たみたいだし…」

 

 学園長が腕を一振りすると私の周りにたくさんのスキマが開かれた。

 

 「いくら能力を制限されていたって他にもやりようはいくらでもあるのよね」

 

 「あやややや、能力を制限されてるんですか!?」

 

 「あら、口が滑っちゃったかしら?まあこれも忘れてもらうから関係ないわね」

 

 何やら不穏当な発言が学園長の口から飛び出した。何故でしょう、震えが止まりません。

 

 「それじゃあ、お仕置きを始めましょうか」

 

 「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 

 

 気が付くと私は部室で眠っていました。

 

 あれ、何故こんなところで寝ているんでしょうか?

 

 「おや、まだ朝のホームルームまで時間がありますね。暇ですし叶也さんのところでスクープでも探しますか!」

 

 それにしても大スクープ的な何かを忘れている気がするのですが……気のせいですかね?

 

 

 

 「まったく。懲りない天狗ね」

 

 

 




次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
それにしてもいろんなキャラが再登場してるのに、どうしてあたしは出てこないのよ!
どうやら次回も出番はないみたいだし、やんなっちゃうわ
まあ愚痴を言っても仕方がないし、次回予告をこなして作者にごまを擦っておきますか
というわけで次回は………って未定じゃないのよ!?
一応河童を出したいみたい。あの河童は何でも作れるからギャグの幅も広がりそうね
第二十二話「恥ずかしがり屋の発明家」
次回は河童の発明に、ピックアップ!


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第22話  恥ずかしがり屋の河童


山も谷もない、そんなお話


 

 

 

 「はあ、困ったな」

 

 放課後、机の上にぐったりと突っ伏す。

 

 「どうかしたんですか?」

 

 僕の独り言が聞こえたのか、流、啓、淵の三人が僕の周りに集まってきた。

 

 「いや、大したことじゃないんだけどね」

 

 「………気になる」

 

 「別に面白い話じゃなよ。実は僕の部屋のテレビが調子悪くてさ」

 

 「テレビですか?だったら管理人さんに事情を話せば何とかしてくれますよ」

 

 「僕もそうしようとしたんだけどね。萃香さんは昨日の夜から帰ってないんだってさ」

 

 なんでも昨日は幽々子さんと飲みに行ったっきり帰ってこなかったらしい。飲むなとは言わない、仕事をしろとも言わない、でもせめて寮にはいてくほしいんだけどな。

 

 「テレビなら共同スペースで見れるだろ!」

 

 「そうだけどさ、やっぱり早めに直したいよ」

 

 できれば週末までには直したいな。こっちに来てからは大河ドラマを見るのが僕の楽しみの一つだし、あれは一人で静かに見たい。

 

 「………いい考えがある」

 

 「ん?いったい何?」

 

 「………河城にとりに頼めばいい」

 

 「なるほど。河童なら技術関係に強いですし、適役ですね」

 

 にとりか…

 

 「そういう淵には直せないの?確かにとりほどじゃないにしろ得意だったよね」

 

 「……………テレビは専門外」

 

 「そっか、じゃあ仕方ないか。にとりに頼むことにするよ」

 

 「………それがいい。河城は部室等にある技術部の部室にいると思う」

 

 「わかった、ありがと」

 

 僕は三人と別れ、教室を出た。

 

 それにしても、にとりか…。別に嫌いではないし、結構長い付き合いだから僕としてはむしろ好きな方だ。

 

 でも問題はにとりの方なんだよなあ。にとりは人間に対して極度の恥ずかしがり屋で、付き合いの長い僕と話すときでも物陰に隠れるほどだ。

 

 いつも顔を真っ赤に染めながら話をしているのを見てると、こっちの方が申し訳なくなってしまう。

 

 「っと、危ない危ない。通り過ぎるところだったよ」

 

 扉には技術部と書かれたプレート。中からは機械の軌道音のようなものが聞こえてくる。

 

 何かの作業中かな?邪魔するのも悪いけど、ここで突っ立てるの何だしな………とりあえずノックするか。

 

 僕がノックをするために扉へ近づこうとしたとき、突然扉が吹き飛んだ。

 

 「っ!!?」

 

 突然のことに驚きながらも、飛んできた扉をしゃがんで避ける。

 

 「あ、あぶねー!?いったい何があったんだ?」

 

 この異常事態の原因を確かめるべく、僕は部室の中に入っていった。

 

 「こ、これは!」

 

 中に入ってすぐ目に入ったのは、今まで見たことがないものだった。

 

 銀色のメタリックなボディにところどころが黒い装甲で覆われている。形は人に近いが大きさは二メートルを超えるほどだ。

 

 なんだこれ?見たことも、聞いたことも………いや、待てよ。もしかしてあれか?本とか知り合いの風祝から聞いた話に出てきた、ロボットってやつ。

 

 なるほど、聞いてた通り格好良いな。

 

 しかしこの時僕は少し浮かれて失念していた。この部屋には先ほど扉を吹き飛ばした存在がいることを。そして気づけなかった。その存在が僕の目の前にいることに。

 

 「避けて!」

 

 「え…うおっ!?」

 

 いきなり正面から突き出された無機質な拳。間違いなく僕がまじまじと見ていたロボットのものだ。

 

 「こいつ動くのかよ。外の世界でもこういうタイプのロボットは開発されてないって聞いてたんだけどな」

 

 「そいつは今暴走してるの!危ないから逃げて!」

 

 先ほど危険を呼びかけてくれた声が再度僕に危険を知らせる。声の主は河城にとり。ちょうど僕が捜していた河童の女の子だ。

 

 しかし逃げてか…さすがににとりを一人置いて逃げれるほど太い神経はしてないしな。

 

 「ねえ、よっと、これって、ほいっと、どうやったら、おっと、止まるの?」

 

 拳を避けながらにとりに聞く。さっきは不意を突かれたけど、この程度のスピードなら避けるのは簡単だ。

 

 「えっと、電力を供給しているプラグを抜けば止まるけど……ってそんなことより早く逃げないと!?」

 

 プラグプラグっとあれか!丁度ロボットの真後ろにあるコンセントに刺さっているやつ。

 

 うーん、しかし厄介だな。相手はリーチが長いから回り込むのは難しいか………なら!

 

 ステップで相手の攻撃をかわしながらタイミングを見図る。

 

 「よし、いまだ!」

 

 相手が突きだしてきた拳に合わせるように体を前に出した。

 

 「ぶ、ぶつかるよ!」

 

 衝突の瞬間、僕は体を反らして拳を避けそのままロボット目掛けて走る。

 

 「こういう時は自分が小柄でよかったと思うよ!」

 

 少し自嘲気味にそう叫びながら、僕はロボットの股の下を潜り抜け一気にコンセントまで駆け寄った。

 

 ロボットは僕の動きに反応できずいまだに背を向けている。

 

 「これで終わりだ」

 

 プラグを引き抜き、ミッションコンプリート。いやー、久しぶりに体を思いっきり動かしたな。こっち来てからは弾幕ごっこもやらなくなったし、少し鈍ったかも。

 

 「危ない!」

 

 とっさに振り返る。しかし既にそこには眼前まで迫った拳が。

 

 あっ、これは当た………

 

 ―――水符「河童のポロロッカ」

 

 ………らなかった。間一髪、にとりがスペルカードでロボットを弾き飛ばしてくれたみたいだ。

 

 でもプラグは抜いたのに何で動いたんだろ?

 

 「ご、ごめんね。プラグを抜いても少しの間貯めてある電気で動くんだ、こいつは」

 

 にとりが部屋にある機材に隠れながら、僕の疑問に答えてくれた。

 

 「いや、問題ないよ。こっちこそ助けてくれてありがとう」

 

 「でも、もともとは私のせいだし。ほんとにごめん…」

 

 うーん、僕は気にしてないんだけどな。怪我したわけでもないし、何か壊されたわけでもないし………あ、そうだ。

 

 「じゃあ、こういうのはどう?」

 

 

 

 

 

 「このテレビを直せばいいの?」

 

 「うん、よろしくね」

 

 あの後、お詫びのしるしとして僕の部屋のテレビを修理してもらうことを提案したところ、にとりは快く引き受けてくれた。

 

 これで僕は当初の目的を果たせるし、にとりも今回の一件に対する謝罪ができるとまさに一石二鳥。

 

 不安だったのは女の子が男子寮に入れるのかってことだったけど、これはすんなりオーケーがもらえた。今思えば霊夢だってホイホイと入ってきてるんだから、あんまり心配することはなかったかな。

 

 にとりが僕にはわからない器具を使ってテレビを調べ始めた。さてと、こうなると僕もやることがない。どうしよっかなー……そうだ、お菓子でも作ろうか。一応無料でテレビを直してもらってるからお礼もしたいしね。 

 

 「おーい、聞いたぞ叶也ぁ。部屋に女連れ込んでるんだってぇ!」

 

 突然背中に重みがかかる。更にあたりに酒のにおいが広がる。うん、顔を確認するまでもないな。

 

 「もとはと言えば萃香さんのせいでこうなってるんですよ」

 

 「んん?あたしのせい??なんかしたっけなぁ…」

 

 口と同時に身体を動かしながら僕の体をよじ登っていく。

 

 「萃香さんがいないせいでテレビの修理を頼めなかったんですよ」

 

 「なるほどぉ、それで河童か。でもお前の友達には男の河童もいたよなぁ。それなのにわざわざ女を連れ込むなんて………色男め!」

 

 肩車の形に落ち着いた萃香さんが僕の頭をぐりぐりしてくる。

 

 「別にそういうんじゃないですって。たまたま利害が一致したって感じですよ」

 

 「あの河童もなかなか可愛い顔してるし、おっぱいも大きいし。ああいうの巷ではロリ巨乳っていうんだろ?ああいうのが男受けするんだろ?ん?どうなんだこのエロガキ!」

 

 ダメだ、人の話を聞いちゃいない。もうどうあっても僕の浮いた話を聞く気満々だ。はあ、とりあえず無視してお菓子作ろうかな。

 

 「なんだよぉ、もっとあたしに構えよぉ、お前の色恋沙汰を聞かせろよぉ」

 

 「お菓子作るんでそろそろどいてくれませんかね?」

 

 「冷たい!いつになく叶也が冷たい!こうなったら意地でもここをどかないからなぁ!」

 

 「はあ…」

 

 結局萃香さんを肩に乗せたまま僕はお菓子作りを始めた。

 

 

 

 

 

 「「できた!!」」

 

 ちょうどタイミングよく僕とにとりの声が重なった。向こうも片が付いたようなのでキッチンを離れにとりのところへ行く。

 

 「どうだった?」

 

 「うん、もう大丈夫だよ。むしろ今までより、ひゅい!?」

 

 セリフの途中でおかしな悲鳴を上げてにとりが近くにあった椅子の後ろに隠れる。今回は僕を見て隠れたわけじゃないっぽいな。

 

 にとりの視線は僕の頭の上に見ている、ってそういえば萃香さん乗せたままだった。河童は鬼を恐れてるからな。それで驚いたんだろう。

 

 「萃香さん、一旦降りてください」

 

 「しょうがないねぇ」

 

 萃香さんを降ろしにとりに近づく。

 

 「はい、これ」

 

 「えっ、これは?」

 

 「テレビのお礼にクッキー焼いたんだ。ありがとね」

 

 「お、お礼なんて。もとはと言えばお詫びのためにやったんだし」

 

 「遠慮しなくていいよ。僕はにとりに食べてもらいたくて作ったんだから」

 

 「わ、わかった。ならありがたくいただくよ」

 

 これで一段落ついたかな。クッキーの入った袋をにとりに渡しながらテレビの方を見る。

 

 心なしか前よりも立派に見えるな。

 

 「そ、それじゃあね。また何かあったら言ってよ」

 

 「え、いいの?」

 

 「も、もちろんだよ。だって叶也は私の、た、大切な盟友、だから」

 

 「じゃあまた何かあったらよろしく頼むよ」

 

 「う、うん。またね」

 

 そういってにとりは僕の部屋を出て行った。それにしても盟友か。てっきりにとりには苦手に思われてると思ってたけど、案外好かれてるみたいでよかった。さてと、後片付けでもしようかな!

 

 「…河童よぉ、それじゃあ叶也には伝わらないと思うなぁ、たぶん」

 

 萃香さんの呟きは食器を洗う音にまぎれて聞こえなかった

 

 

 

 

 

 ~とある下校風景~

 放課後の帰り道。流、啓、淵の三人はともに帰路についていた。

 

 「ところで淵。どうしてあんな嘘をついたんですか?」

 

 「………何の話」

 

 「とぼけたって無駄だっつーの!お前は嘘が下手だからな!」

 

 「下手ということはないと思いますが、確かに癖がありますからね。叶也は気づいていなかったみたいですが」

 

 「叶也は変なところで鈍いからな!」

 

 「………確かに」

 

 「で、どうしてテレビが直せないなんて嘘を?」

 

 「………頼まれていたから。叶也が困っていたら教えてほしいと」

 

 「一応聞きますが誰にですか?」

 

 「………河城にとり」

 

 「やっぱりか!あいつも叶也にほの字だからな!」

 

 「………ほの字は死語」

 

 「そんなことはいいんだよ!チクショウ、なんで叶也にばっかり女の子が寄ってくんだよ!俺だって女子にモテてみてーぜ!」

 

 「………同感」

 

 「とはいっても叶也の近くにいたら難しいんじゃないですかね。他校の女性なら可能性はあるかもしれませんよ」

 

 「だけどあいつなら他校の女子にもフラグ立ててそうじゃねーか!」

 

 「………否定できない」

 

 「確かにその可能性はありますね。でしたら――――――」

 

 「すいませーん!」

 

 「「「ん?」」」

 

 突然後ろから声を掛けられ三人は同時に振り返った。緑の長髪に見慣れないブレザータイプの制服。そんな女性が駆け寄ってきた。

 

 「あのー、幻想学園の生徒の方ですよね?」

 

 「はい、そうですが。私たちに何か?」

 

 「実は道に迷ってしまいまして。幻想学園までの道を教えてくれませんか?」

 

 「それでしたら、………」

 

 女性へ道のりを説明し始める啓。流と淵はこういうことは彼の方が得意だと知っているので、別のことに集中していた。

 

 「…でかいな」

 

 「………ああ」

 

 「…うちのクラスは慎ましい女子ばっかだからな」

 

 「………ああ」

 

 「…それに学園全体でみてもかなりでかい方だよな」

 

 「………ああ」

 

 もしも当の本人に気づかれたら殴られても文句をいえないであろう会話をしていた。

 

 「………でそこをまっすぐ行けば学園です。これで大丈夫でしょうか?」

 

 「はい、ありがとうございます。おかげで何とかなりそうです」

 

 「それはよかったです。ではお気をつけて」

 

 「あっ、もう一つ聞きたいんですけど」

 

 「なんでしょうか?」

 

 「もしかしてなんですけど………幻想学園に八雲叶也さんって人はいますか?」

 

 「「「………」」」

 

 「あの、どうかしましたか?」

 

 「「「やっぱり他校の女子にもフラグ立ててたのかよ!!!」」」

 

 「え!?ええっ!?」

 

 静かな道路に、三つの叫び声と一つの困惑の声が響いた。

 

 

 

 




次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
今回にとりが「大切な盟友」て言ってたよね
大切って言葉は「かけがえのないもの」という意味から「心から愛する」という意味としても使われてるんだってさ
もしかしてあのセリフはにとりの精一杯の告白だったのかも!
………ふぅ、こんな感じで尺は稼げたかな
さすがに毎回ここに呼ばれると話すことがなくなってくるのよね
因みに作者は次回については何も考えてないってさ
とりあえずまだ出てないキャラを出演させて五月は終わりみたい
誰が出てくるか楽しみウサー(棒)
というわけで次回23話「未定」

ご意見ご指摘ご感想お待ちしてます

活動報告もよろしくです


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第23話  僕と姫とゲーム戦争


ツンデレ成分が薄いな


 

 

 

 「悪いわね。手伝わせちゃって」

 

 「いえいえ、ちょうど暇でしたし」

 

 僕は放課後の廊下を鈴仙さんと歩く。ちょうど帰ろうとしたときに鈴仙さんが腕いっぱいに荷物を抱えているのを見かけたので手伝っているのだ。

 

 「それにしても、こうして二人で話すのは久しぶりね」

 

 「そうですね。花見の時も鈴仙さんは忙しそうでしたし」

 

 「そうなのよ。まったく師匠もてゐも私をこき使ってばっかりで、なんにもやらないんだから」

 

 「ははは、お疲れ様です」

 

 他愛もない話をしながら保健室に向かう。正直、永琳さんには会いたくないけど今更引き返すわけにもいかないし。

 

 「ところでこれは何なんですかね?」

 

 「私も詳しくは聞いてないけど………新しい薬の材料らしいわ」

 

 またなんか作るのか…。願わくば被害が僕の方に来ませんように。

 

 そうこうしているうちに保健室に着いた。中には案の定永琳さんが待っていたんだけど、なんだか様子がおかしいな?

 

 「はぁ………あら?叶也も手伝ってくれたのね、ありがとう」

 

 「ため息なんて珍しいですね。悩み事ですか?」

 

 「まあそんなところかしらね」

 

 永琳さんほどの人を悩ませる自体が存在するなんて。きっとよほどのことに違いない。

 

 うん、ここは僕に飛び火する前に逃げるべきだな。

 

 「叶也、ちょっと待って」

 

 「は、はい!」

 

 何も言わずに保健室から出ようとしたところ、永琳さんに呼び止められた。

 

 「ちょっと聞いてもらいたいことがあるのよ」

 

 「なんでしょうか…」

 

 「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。とりあえずここに座りなさい。はい、お茶」

 

 そう言って自分の前の椅子を指差した。静かに放たれるプレッシャーに耐えきれずとりあえず座ることにする。ん、このお茶美味しい。

 

 「あなたに頼みたいことがあるのよ」

 

 「は、はあ。それはさっきの悩み事と関係があるんですかね」

 

 「ええ、そうよ」

 

 やっぱりか。永琳さんでさえ悩ませるほどの事態を僕が解決できるとは思えないんだけどなぁ…。

 

 「実は悩みの種はうちの姫様なのよ」

 

 「姫様?というと輝夜さんのことですか?」

 

 蓬莱山輝夜。幻想郷にある永遠亭という場所の主で、あの有名な『なよ竹のかぐや姫』だ。

 

 輝夜さんが元の悩み事か……男に言い寄られすぎて困ってるとか、悪質なストーカーに付け回られてるとかかな?

 

 「恥ずかしい話なんだけど、輝夜ったらまた学校に来ないでゲームばっかりやってるのよ」

 

 「えっ?」

 

 想像の斜め上、どころではない悩み事だった。ここで言うゲームってあれだよな、外の世界ではポピュラーな玩具のあれだよな。

 

 「私は何度も学校に行くように言ってるんだけどなかなか聞いてくれなくて…」

 

 「な、なるほど。それで、頼みたいことって?」

 

 「あら、意外と察しが悪いわね。あなたには輝夜を学校に登校させてほしいのよ。優曇華を付けるから早速輝夜のところに行ってくれないかしら?」

 

 「わ、私もですか!?」

 

 鈴仙さんが驚きの声を上げる。因みに僕は急展開過ぎて驚くことすらできなかったです。

 

 「あの、僕がどうこうできる問題だとは思えないんですが…」

 

 「あら、私はあなたなら何とかできると思うわ。それにもし断ると、うどんげの予定が叶也の同行から新薬の実験に変わることになっちゃうけど?」

 

 「きょ、叶也!お願いだから師匠のお願いを聞いてあげて!!」

 

 うわぁ、なんてえげつない方法を使うんだこの人。流石にこんな必死に鈴仙さんに頼まれたら断れないよ…。

 

 「わかりましたよ。とりあえずやるだけやってみます」

 

 「ふふ、頼んだわよ」

 

 やれやれ、どうなることやら。

 

 

 

 

 

 「ここが女子寮か…」

 

 やってきました、女子寮前。今まで目の前を通ったことはあるけど、まじまじと見るのはこれが初めてだな。

 

 しかし、永琳さんの推薦状だけで簡単に入れるのかな?

 

 「ここで待ってて。管理人さんに「あら、叶ちゃんじゃないのー」……会いに行く必要はないみたい」

 

  タイミングいいなぁ。もしかしてわざわざ出てきてくれたのかな?

 

 「今日はどうしたのー?お茶でも飲みに来たのかしらー?」

 

 「あ、いえ、今日は輝夜さんに用がありまして。それで、幽々子さんに許可をもらいたくてですね…」

 

 「いいわよー」

 

 「えっ、そんなにあっさり?」

 

 まだ推薦状すら見せてないのに。後ろで鈴仙さんもぽかんとしている

 

 「叶ちゃんならいつでもオッケーよ。その代わりに帰りにお菓子作ってくれたらうれしいわー」

 

 「はあ、そんなことでいいなら」

 

 ………それでいいのか、管理人さん。

 

 

 

 

 

 「というか、まず中に入れてもらえるんですかね?」

 

 「えっ、どういうこと?」

 

 輝夜さんの部屋までの道すがら、僕と鈴仙さんは作戦会議のようなものをしていた。

 

 「いや、もし永琳さんの使いだとばれたら部屋に入れてくれないと思うんですよ」

 

 「うーん、そこまで徹底してるかしら?姫様のことだからすんなり入れてくれると思うわよ」

 

 「ふむふむ……あっ、ここですか」

 

 永琳さんから聞いた部屋番号と一致する。

 

 因みに各部屋にはインターホンがついている。こういう細かいところでもうちの学園の便利さを実感させられる。

 

 そんなどうでもいいことを考えていると鈴仙さんが前振りもなくインターホンを鳴らした。うう、まだ心の準備ができてないんだけどなあ。

 

 『だれ?』

 

 インターホンから気怠そうな声が聞こえてきた。間違いない、輝夜さんの声だ。

 

 「鈴仙・優曇華院・イナバです。今日は少しお話があって来たんですけど」

 

 『鍵開いてるから入りなさい』

 

 開けっ放しとは不用心だ。学校のパンフを見た限りだと、この寮は防犯面も一級品みたいだし気にしてないのかもしれない。

 

 「お、お邪魔しまーす」

 

 少し緊張しながら部屋に入る。部屋の中は最低限綺麗にされているが、ところどころにゲーム機やゲームのソフトが散らばっている。

 

 「ん?なんで叶也までいんのよ」

 

 「あっ、えっとこれはですね…」

 

 何て言おうか。素直に永琳さんに頼まれたと言うか、それとも隠しておくべきか。

 

 「まあ、いいわ。で、いったい何のようなの?」

 

 「今日は師匠の使いで来ました」

 

 「ああ、またその話?永琳にも言ったけど私はハンターランクがカンストするまで学校に行く気はないのよ」

 

 はんたーらんく?かんすと?…ダメだ、僕にはさっぱり分からない。

 

 「またそんなこと言ってるんですか!学校が終わってからでもゲームはできますよ!」

 

 「学校に行ってる間も他のプレイヤーはレベル上げに勤しんでるのよ。私だけ置いてけぼりなんて真っ平だわ」

 

 なんの話なのかはいまだに分からないけど、輝夜さんがろくでもないことを言ってる気がする。

 

 その後も鈴仙さんと輝夜さんの言い争いは続いた。いや、これ僕が来る意味あったのかな?今のところお邪魔しますくらいしか言えてないんだけど。

 

 「ぜえ、ぜえ…」

 

 「はあ、はあ…」

 

 たっぷり十分くらいだろうか。二人とも疲れたのか唐突に言い争いが止んだ。

 

 「あんたもなかなか頑固ね。こうなったら仕方がないわ、私もちょっとは譲ってあげる」

 

 「学校に来てくれるんですか?」

 

 「ええ、ただし………私にゲームで勝てたらね!」

 

 「その言葉に、二言はないですね?」

 

 「ええ、私もゲーマーとしてこの言葉を違えることはできないわ」

 

 ………なんなんだろうこの展開は。完璧に僕は蚊帳の外だよね?絶対に忘れられてるよね?

 

 「それで、何で勝負しますか?」

 

 「そうね、近々新作も出るみたいだしス○ブラで勝負よ!」

 

 「あのぉ、僕はどうすれば…?」

 

 「「あっ」」

 

 この反応、ホントに僕のこと忘れてたのか。いいんだけどね、僕も気づいてたし。

 

 「そ、そうね。イナバ一人じゃ私には逆立ちしたって勝てないし、叶也とのタッグで挑戦してもいいわ」

 

 「い、一緒にがんばりましょう!」

 

 そんな気を使わなくてもいいですよ、別に気にしてないですから。それより…

 

 「僕、そのす○ぶらっていうのやったことないんですけど」

 

 「「えっ!?」」

 

 うわっ、すっごい驚いてる。そんなに有名なゲームなのかな?

 

 「じゃあ、はいこれ」

 

 「これは?」

 

 「説明書よ、とりあえずこれ読めば操作の方法も分かるでしょ。あっ、コントローラはクラシックPROでいいかしら?」

 

 「あ、はい。大丈夫です」

 

 クラシックなるものがどんなものなのかは分からないけど、どうせどれも初めてだし変わりはない。

 

 「イナバ、ただ待ってるのも暇だし二人で対戦しましょう」

 

 「いいですよ。もし勝ったら学校に来てくれるんですよね?」

 

 「強気じゃないの。まっ、勝てればね。ルールはストックで、アイテムは無しよ」

 

 「わかりました」

 

 二人は既に盛り上がってるなぁ。早く僕もこれを読まないと。

 

 「じゃあ私はプ○ンで」

 

 「私はス○ークで行きます」

 

 ふむふむ、相手を場外に吹き飛ばすと勝ち。それとダメージが蓄積すると吹き飛びやすくなるのか。

 

 『3,2,1 GO!』

 

 「そういえば、あんたの罰ゲームを決めてなかったわね」

 

 「え゛っ、私にもあるんですか」

 

 「私だけリスクを背負うなんて割に合わないじゃない。流石に初心者の叶也にそんなこと言えないし、その分あんたががんばりなさいよ」

 

 「そんな!?姫様めちゃくちゃ強いんだから勘弁してくださいよ!」

 

 「い・や。もう決めちゃったし。そうね、敗けたら今日1日私に勝つまでメイド服を来てもらおうかしら?」

 

 「いやですよ!?というかメイド服なんて簡単に手に入りませんよ!」

 

 「大丈夫、こんなこともあろうかとこの前通販で買っておいたから」

 

 「どんな事態を想定してたんですか!?」

 

 なるほど、このボタンで攻撃か。回避はこのボタン。やってみないと分からないけど、意外と簡単そうでよかった。

 

 「ほら、動揺がプレイに出てるわよ」

 

 「ちょっ、ずるいですよ!」

 

 「こんなことで動揺するあんたが悪いのよ」

 

 『GAME SET!』

 

 「ああぁ……」

 

 「じゃあ、さっそく着てもらいましょうか」

 

 「えっ、今すぐですか!?」

 

 「もちろんよほら脱ぎなさい」

 

 「待ってください!ここには叶也もいるんですよ!?」

 

 「大丈夫よ、あいつは説明書読むのに夢中だし」

 

 「ちょっ、やめ、誰か助けて~~~~!!!」

 

 へぇ、結構いろんなキャラがいるんだな。どれが使いやすいんだろう?………鈴仙さんには悪いけどここは聞こえないふりで。今振り向いたらそれはそれで大変なことになりそうだし。

 

 

 

 

 

 ふぅ、やっと読み終わった。あとはやってみないと分からない。ゲーム経験皆無の僕では手も足も出ないだろうけど、やるだけやってみよう。それに純粋にゲーム自体も楽しみだし!

 

 「叶也、そろそろ準備できた?」

 

 「はい、準備できッ!?」

 

 「…何よ、似合わないならそう言えばいいじゃない」

 

 輝夜さんの隣にへたり込む鈴仙さんを見て僕は思わず息を詰まらせた。ロングスカートで白と黒を基調にしたシンプルなメイド服。それが鈴仙さんの長い髪とマッチして清楚な雰囲気を醸し出している。いや、これは…

 

 「すごく似合ってますよ。思わず見惚れてしまうくらい」

 

 「ッ!!!?」

 

 おわっ!れ、鈴仙さんが一瞬で真っ赤に!しかも頭から煙まで出てる!

 

 「べ、別にあんたに褒められたって嬉しくなんてないんだからね!」

 

 「…あんたも素直じゃないわね」

 

 ぬう、また怒られた。やっぱり無理矢理着せられたものを褒められてもうれしくなかったのかな?

 

 「と、とにかく!あんたも準備できたんならさっさとやるわよ!」

 

 「は、はいっ!」

 

 僕は慌ててテレビの正面に座った。おおっ、なんだか新鮮だな。テレビを観るのとはまた違った感じがする。

 

 「私はゼ○ダでも使おうかしら、姫つながりで」

 

 「じゃあ、私はル○リオで。波動と波長って似てると思うんで」

 

 「ええっ!?僕だけ繋がりがあるキャラいないんですけど!?」

 

 というか、このキャラたちがどういう人物なのかも全く分からない。

 

 「とりあえず適当に…この緑の髭にしようかな」

 

 「じゃあ、準備はいいわね。ストック3つが先に尽きた方が負けよ。まあそっちには初心者もいるし、手加減してあげるわ」

 

 おお、すごい自信だ。僕も勝てるとは思っちゃいないけど、せめて鈴仙さんの足を引っ張らないようにしよう。

 

 『3,2,1 GO!』

 

 ………………………

 

 ………………

 

 ………

 

 『GAME SET!』

 

 「………」

 

 「あの…輝夜さん?」

 

 「…なんで」

 

 「えっ?」

 

 「なんで一回も勝てないのよ!!」

 

 ゲームを始めてからかれこれ一時間ほどが経っていた。今の輝夜さんの叫び声を聞けば分かると思うけど………何故か僕は無双の強さを発揮していた。

 

 「さてはあんた嘘ついてたわね!!」

 

 「ちょ、落ち着いて!胸ぐらをつかまないで!?」

 

 取り乱した輝夜さんが掴みかかってきた。いや、本当に初心者なんですけど…。

 

 「姫様落ち着いて下さい!」

 

 「これが落ち着いていられるか!!この私が!素人に!ボコボコにされたのよ!!………あ、自分で言ってて泣けてきた」

 

 もう、輝夜さんのパニック具合がヤバいな。いつもはもっとどんと構えてて、全身からふてぶてしいオーラを振りまいているような感じだったのに。

 

 「こうなったら別のゲームで勝負よ!今日は勝つまで帰さないんだから!!」

 

 

 結局、この後僕は連戦連勝。無類の強さを見せつけ輝夜さんに登校の約束を取り付けさせた。

 

 まさか僕にこんな特技があるとは…。

 

 

 

 

 

 ~ある日の保健室~

 「師匠は知ってたんですか?」

 

 「あら、何の話かしら」

 

 「とぼけないでください。この前の姫様の話ですよ。師匠は叶也がゲームに強いことを知ってて送り出したんですよね?」

 

 「そんなはずないでしょう。でも、ゲーム勝負になるとは思ってたわよ」

 

 「えっ!?じゃあ、なんで叶也に頼んだんですか?」

 

 「あの薬、人間にしか効果が無かったのよ」

 

 「薬?」

 

 「ええ。叶也が飲んだお茶に混ぜておいた、ゲームに強くなる薬」

 

 「そんな薬まで作れるんですか!?」

 

 「一応ね。正確にはゲームに対する集中力の増加とか指先の器用さの強化だけどね」

 

 「…それ、人体に害はないんですよね?」

 

 「当然よ………たぶん」

 

 「………最後の呟きは聞こえなかったことにします」

 

 

 

 




次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
やっぱり鈴仙が出てもあたしは出れないんだね…
まっ、最近はこのコーナーを独り占めしてるしいいかな
というわけで仕事しますか!
次回から物語の中は六月
なんと叶也が大っ嫌いな○○○が大量発生!
第24話「蛇に睨まれた蛙」
次回は叶也のトラウマに、ピックアップ
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください

ご意見ご指摘ご感想お待ちしてます

活動報告もよろしくです



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第24話 蛇に睨まれた蛙


何故か課題とか宿題とかある時の方が筆が進む………


 

 

 

 梅雨。それは春の終わりから夏の初めにかけて訪れる雨季の一種。そして―――

 

 『……が大量発生中。何故この地域でだけこのような事態が起きているのか。今日は専門家の先生に………』

 

 「どうしたのよ。テレビ見たまま固まっちゃって」

 

 「………霊夢、ボクキョウガッコウヤスム」

 

 「はあ?」

 

 ―――あいつらが元気に跳ね回る季節だ。

 

 

 

 

 

 「ほらさっさと行くわよ」

 

 「お願い!今日だけは見逃して!いや、出来れば一か月くらい見逃して!!!」

 

 「なに馬鹿言ってんのよ。あんまりおかしなこと言ってると学校まで引きずっていくわよ」

 

 「現在進行形で引きずられてるよ!?」

 

 僕の意向を全く意に反さず、通学路を行く霊夢。抵抗はしてみたけど何故か男の僕よりも強い腕力に逆らえず、今も駄々をこねる僕を引きずっている。

 

 くっ、こうなったら霊夢は後回しだ。今僕は外にいる、ということはいつあいつらが現れてもおかしくないということだだ!

 

 周辺チェックは怠れない。右よーし、左よーし、正面よー、ん?

 

 「おっ、通学中に会うのは久しぶりだな」

 

 「おはようございます………ところで、なぜ叶也は引きずられているんですか?」

 

 現れたのは魔理沙と妖夢。なんだか珍しい組み合わせな気がする。

 

 「なんでかわからないけど急に学校に行きたくないって言いだしだのよ、こいつ」

 

 「へえ、珍しいこともあるもんだ。もしかして異変の前触れか?」

 

 「いや僕は学校に行きたくないわけではなくて、外に出たくないだけであってですね」

 

 「同じじゃない」

 

 「同じだな」

 

 「同じですね」

 

 「くそっ、味方がいない!」

 

 こうなったら一秒でも早く学校に辿り着くしかない。室内に入ればこっちのものだ!

 

 僕は三人を置いて早足で進み始めた。

 

 「引きずられたり、急に急いだりわけがわからないわね」

 

 引きずった本人には言われたくないよ。

 

 「全くだな。…ん?おい叶也踏んづけるぞ」

 

 「何『ブニッ』…を?」

 

 魔理沙に確認する前に踏んづけてしまったようだ。なんだこの感触?気色が悪いな。

 

 心の中で軽く悪態を吐きながら、僕は足をどかして謎の感触の正体を確かめる。

 

 瞬間、頭の中が真っ白になった。

 

 三角形の頭。そこから飛び出している目玉。丸々とした緑色のボディ。こ、こいつは…もももももしかして………

 

 「何って―――カエルだよ」

 

 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

 

 「と、飛んだ!?」

 

 「しかも空中で三回転半捻りをしています!?」

 

 「…そして私たちの後ろに着地したわね」

 

 や、やばい。マジやばい。もう無理。もう動きたくない。

 

 「大丈夫か、叶也?なんかひどく怯えてるみたいなんだが…」

 

 「こいつがこんなに恐怖を露わにするなんて珍しいわね」

 

 「何が原因でしょう?」

 

 「まあ、状況から考えてあのカエルが原因でしょうね」

 

 「なんだ?もしかしてカエルが苦手なのか?」

 

 はやっ!?考え始めて十秒もしないうちに答えに到達しちゃったよ。

 

 「じ、実は…」

 

 「「「実は?」」」

 

 「僕、カエルが大の苦手なんだ…」

 

 

 

 

 

 あれはまだ幻想郷に来たばかりの頃。紫さんと妖怪の山に訪れていた時の話だ。

 

 どういう流れでそうなったのか覚えていないけど、僕は紫さんのそばを離れ一人で山を散策していた。

 

 目につくものが全部珍しくて触ったり、匂いを嗅いだり、口に含んだりしていた。………今思えば目につく木の実を迷わず食べてたのは危なかったな。

 

 そんな風に歩き回ってたら………なんて言ったらいいのかな、白くて大きな物が僕の目に入ったんだ。

 

 触ってみたら柔らかくてさ、面白がってペタペタ触ったり思いっきり体当たりしてみたり、色々といじくりまわしてたんだよ。

 

 そしたらなんとそれがカエルの妖怪のお腹でさ。眠ってたところを叩き起こされて気分を悪くさせちゃったみたいでさ、その妖怪さんに丸呑みにされちゃったんだよ。

 

 幸い僕がいないことに気が付いた紫さんが助けてくれたんだけど、それでも5分くらいはカエルの胃袋の中にいることになってね。………あの暗くて粘々した空間はいまだに夢に出てくるくらいに強烈だったよ。

 

 「それ以来僕はカエルが苦手になったんだよ」

 

 「へぇ、初めって知ったぜ」

 

 「そりゃ、今まで隠してたから」

 

 「なんでわざわざ隠してたんですか?」

 

 「いや、まあ、なんとなく?」

 

 「なんで疑問形なのよ」

 

 本当は格好悪いからなんだけどね。男の僕がチルノですら凍らせて遊んでるようなカエルにビビってるなんて恥ずかしいじゃん。なんかそんな理由で黙ってたっていうのも恥ずかしいから言わないけど。

 

 「それで朝から様子がおかしかったのね。確かにテレビでカエルが大量発生中って言ってたわ」

 

 「なるほど。叶也にとっちゃ最悪の事態だな」

 

 全くだ。さっきから聞こえてくるカエルの鳴き声を聞いてるだけでも嫌な汗が止まらないって言うのに。

 

 「と、と言うわけで僕は一刻も早く学校に行きたいんだ!」

 

 「だったらまず私の背中から離れなさいよ」

 

 情けないことに、現在は霊夢を盾にするようにして後ろに隠れながら学校を目指している。いや、ほんとに勘弁してくださいよ。いきなり飛び出してきたりしたら心臓止まっちゃうかもしれないよ。

 

 「仕方がないですよ。さっきみたいにスペルカードを発動しようとされても困りますから」

 

 「うっ、面目ない…」

 

 だって、昔話している最中にいきなり飛び出してくるもんだからさ。仕方がないよね?

 

 「まあいいじゃないか。叶也の意外な一面も知れたことだし。と、ところで霊夢。叶也が鬱陶しいんだったら、私が変わってやってもいいぜ?」

 

 「別にいいわよ。校門まですぐそこだし」

 

 「そ、そうか…」

 

 おっ、ついに学校が見えたか!もうこんな状況には耐えられない!

 

 僕は霊夢の背中から飛び出して校門まで一気に走った。余計なものが見えないように目はほとんど閉じている。

 

 「おい、叶也!危ないぞ!」

 

 大丈夫だ、ちゃんと走る前に周りは見た。校門までは一本道、目の前には偶然にも登校中の生徒はいない。

 

 疾走。きっと今の僕は誰よりも速いだろう。風を切る、という言葉を体現しているような気分だ。

 

 「おはよう、叶也。今日も元気がいいな」

 

 校門の前に立って挨拶している慧音先生の声がゴールテープの代わりだった。やった、遂に辿り着いたんだ。

 

 僕は湧き上がる歓喜を感じながら目を開けた。

 

 「そういえば、今校内に大量のカエルが入り込んでるから気をつけろよ」

 

 目を開けた瞬間、僕の目の前にいたのは―――――カエルだった。

 

 「ぬわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!????」

 

 咄嗟だった。僕は無意識にスペルカードを取り出していた。僕の手持ちの中で一番強力な札を。

 

 ―――四符「精霊達の「やめなさい」ろ、ぶあっ!?」

 

 「全く、少しは平和的な解決を図りなさいよ」

 

 「いきなりぶん殴ってきた霊夢には言われたくないよ!?」

 

 せめて平手で勘弁して欲しかった。

 

 「これはだいぶ重症ですね。あっ、頬がじゃなくて叶也のカエル嫌いがですよ?」

 

 「わかってるよ。でもこればっかりはどうにもならなくてさ」

 

 本当に困ったものだ。いったいどうすれば………。

 

 「だったら、どうにかできそうなやつに頼めばいいんじゃないか?」

 

 「へ?」

 

 

 

 

 

 「いいわよ。この町からカエルを根絶やしにしてあげるわ」

 

 「いや、そこまでしなくてもいいです」

 

 現在校長室にて紫さんに直談判中。いやお願い自体は通りそうなんだけど、このままでは僕の我儘で罪のないカエルたちが被害を被ることになってしまう。確かに嫌いだけど、恨みがあるわけではないし。

 

 「まあ冗談は置いといて。もともと蛙の大量発生はどうにかするつもりだったのよ」

 

 「あっ、そうなんですか?」

 

 「ええ。流石にこんなに多いと、鳴き声が鬱陶しくて眠れないのよ」

 

 そんな理由なのか。町のためとか、人々のためとか、そういう理由が出てくるとは思ってなかったけどさ。

 

 「その上、あなたにまで不快な思いを与えているんだから………滅ぼしましょうか」

 

 「できれば穏便に解決してください…」

 

 結局、紫さんの隙間を使って適当な山や川にカエルを放逐することで事態は解決した。

 

 

 

 

 このとき僕は心底安堵していた。これで明日からまたいつもの学園生活に戻れると。

 

 しかし、人生はそう優しくはないようだ。既に次の脅威がすぐそこまで迫っていたことを、この時の僕はまだ知らない。

 

 僕にとって、カエル以上に厄介な存在が迫っていることを………

 

 

 

 「待っていてください。今会いに行きますよ、叶也さん!」

 

 

 




次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
叶也ったら蛙に弱いなんて情けないよね
因みに私の苦手なものは海なんだ
ちょっと昔にいろいろあって、若干トラウマがあるの
気になる人は因幡の白兎で検索してみてね
さーて気になる次回は!
突如現れた転校生、その常識に囚われない振る舞いは二年一組を翻弄する
第25話「緑色の新風」
次回は謎の美少女転校生に、ピックアップ!
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください

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第25話  緑色の新風

三週間ぶりの更新

遅くなってしまって申し訳ないです


 

 

 

「おい、聞いたか叶也!」

 

カエル騒動の翌日。意気揚々と登校してきたらいきなり流たちに話しかけれた。

 

「いや、何も聞いてないけど………なんかあったの?」

 

「どうやらうちのクラスに転校生が来るらしいんですよ」

 

「………しかも美少女という噂」

 

転校生か。学校のイベントとしてはレア度が高い方だけど、要はクラスメイトが増えるだけなんだよね。いや、それはそれで嬉しいんだけどさ。

 

「なんだよ!反応が薄いな!」

 

「んー、というかそんなに騒ぐほどのことでもないかなと」

 

現に他のクラスメイトは特に浮足立った様子もなく、いつも通りに朝を過ごしている。

 

「バッカ野郎!お前、美少女だぞ!可愛い女の子が来るんだぞ!」

 

「えぇー」

 

そんな理由でテンションあげてたのか。

「無駄ですよ流。叶也にはことの重大さが理解できないんです」

 

「………リアルハーレム野郎には分からない」

 

  えっ、二人ともそっち側なの?そりゃ、僕だって可愛い女の子がうちのクラスに来るのは嬉しいけどさ、霊夢とか魔理沙とかその他にも可愛い女の子ならたくさん居るじゃない………まあ、若干性格が残念かもしれないけど。

 

 「その顔を見るに、やっぱり分かってねーみたいだな!しょうがねぇ、俺たちが一肌脱いでやるよ!」

 

 その後、流たちに転校生と言うものが如何に夢と希望に満ち溢れた存在なのかをみっちり語られた。

 

 

 

 

 

 「おはよう。みんなの中には知っている人もいるかもしれないけど、今日は転校生を紹介したいと思います」

 

 霖之助先生の言葉を受けて周りが少しざわめく。ついでに言えば僕も謎の緊張感に襲われた。なるほど、これが転校生イベントか。流たちがはしゃいでいたのも頷ける。

 

 「あんまり廊下で待たせておくのも悪いので、さっそく入ってもらいましょうか。東風谷さん、どうぞ」

 

 こち、や………だと……!?

 

 入ってきたのはこの学園のもではない制服を身に纏った少女。あれはおそらくブレザーという奴だろう。腰まで届く緑の長髪で髪の左側を一房髪留めでまとめている。

 

 僕がまじまじと観察しているうちに彼女は黒板に自分の名前を書き終えた。

 

 「初めまして、東風谷早苗です。どうぞよろしく―――」

 

 あっ、ヤバい目があった。お互いしばらく膠着してしまう。

 

 「きょ、きょうやさああああああああああああああああああああああああああああん!!!」

 

 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 たっぷり十秒ほどの沈黙の後、静寂を破り早苗さんが僕の下に駆け寄って、いや飛び込んできた。

 

 彼女のタックルを躱し、机を挟んで対峙する。

 

 「酷いです叶也さん!なんで逃げるんですか!」

 

 「だ、だから毎回言ってるじゃん!そのカエルの髪飾りを外してよ!」

 

 そう、彼女は僕の苦手なカエルの形をした髪飾りをつけているんだ。僕はカエルはもちろんのこと、それを模したものですら鳥肌が立つほど苦手だというのに。

 

 因みに彼女と彼女が仕えている神様は僕がカエル嫌いなのを知っている。いや、まさか世の中にあんなにカエル好きな人が居るとは思わなかったよ。

 

 じりじりとこちら側に回り込もうとする動きに合わせて反対側へ逃げる。傍から見れば机のまわりを永遠とグルグル回っているように見えるだろう。

 

 「大丈夫です!愛の力があればこの程度へっちゃらですよ!」

 

 「無理だって!そもそも愛の力なんてないってば!」

 

 「そんな!?私はこんなに好きなのに、叶也さんは私のことが嫌いだと言うんですか!」

 

 「いや好きだけどあくまでともd「やっぱり相思相愛だったんですね!」――違うよ!?」

 

 この掛け合いで分かるように何故か僕は彼女に好かれている。物凄い勢いで好かれている。僕としても美少女に好意を寄せられて嬉しくないはずはないんだけど、如何せん彼女のうちの事情がきつかった。

 

 早苗さんは神様に仕える巫女(確か風祝だったかな?)で二柱の神様と一緒に暮らしているんだけど。片方は極度のカエル好きでどう考えても相性が悪いし、もう片方には何故か早苗さんを狙う悪漢として認識されていて毎回御柱をぶつけられている。

 

 もしこのまま早苗さんとお付き合いなんてしたら三日で死ねる。

 

 くっ、それにしてもこれだけ狭い教室だ。このまま逃げ切ることなんて不可能、というかこれから一緒のクラスで生活する以上絶対逃げきれない。とはいえ………

 

 「久しぶりの再会ですし、とりあえずハグをしましょう!もし叶也さんが望むならそれ以上も―――」

 

 あんな状態の早苗さんに捕まったら何をされるか分かったもんじゃない。何とか手を打たねば。

 

 危ないことを口走り始めた早苗さんを余所に対策を考え始める僕。しかし、どうやら向こうは我慢の限界だったらしい。

 

 「このままでは埒があきません。一気に決めさせてもらいますよ!」

 

 そう言うと彼女はどこからか取り出した御幣を振りかざした。

 

 「奇跡よ起これ!」

 

 「えっ………うわっ!?」

 

 早苗さんの掛け声とともに僕は何もないところでつまずいた。しまった、彼女の能力は「奇跡を起こす程度の能力」。天変地異を起こすことも可能なこの力は基本的に詠唱が必要になる。しかし僕を転ばせる程度の簡単な事象なら一言で足りるらしい………って冷静に分析してる場合じゃない!?

 

 「さあ、叶也さん!再会を喜び合いましょう!!!」

 

 その言葉と同時に跳躍する早苗さん。あ、ああ…か、カエルが、ちちち近づいて………!?

 

 ―――夢符「二重結界」

 

 思わず目を閉じて覚悟を決めたとき、僕のよく知る声が教室に響いた。

 

 「さっきから黙って見てれば、転校そうそう何やってくれてんのよ」

 

 「れ、霊夢!」

 

 目を開けたその先には、僕と早苗さんを遮るように鎮座する結界と、その内側で僕の傍に立つ幼馴染の姿がそこにあった。

 

 「またあなたですか。いい加減私と叶也さんの邪魔をするのはやめてください!」

 

 「………おかしなことを言うわね。私とあんたは初対面なはずだと思うけど」

 

 「うっ、やっぱり覚えてないんですか。今回の異変にはさしもの霊夢さんも抗えなかったってわけですね」

 

 えっ?早苗さんは異変と言ったのか?もしかして、今回の一連の異常事態に気付いている!?

 

 これは今すぐ確かめないと。けどここでその確認をしたら敏い霊夢にはばれてしまうかもしれない………。

 

 しょうがない、ここは奥の手だ!

 

 僕は大きく息を吸い、お腹に力を入れ、そして―――叫んだ。

 

 「助けて、ゆかりさああああああああああああああああああん!!!」

 

 教室中に響き渡る僕の声。当然いきなりそんな大きな声を出せばみんなの視線は僕に集まるんだけど………

 

 「あれ?叶也のやつ、どこ行きやがった」

 

 「東風谷さんもいなくなってますね」

 

 その時には既に僕の姿は消え失せていた。

 

 

 

 

 

 「うおっ、と」

 

 「きゃっ!?」

 

 紫さんが作ってくれたスキマを潜り抜け地面に着地する。どうやら学園長室に連れてきてくれたようだ。

 

 「ありがとうございます、紫さん」

 

 「いいのよ、可愛い叶也の頼みですもの。それよりも見てたわよ。厄介なことになってるみたいね」

 

 どうやら見物していたらしい。紫さんは扇子を広げながら視線を僕の後ろ―――僕と一緒にスキマで連れて来た早苗さんに向けている。

 

 「いたたた、いったい何が………あっ、お義母様じゃないですか!お久しぶりです」

 

 「だれがお義母様よ!あなたにそんな風に呼ばれる筋合いはないわ!」

 

 「でも紫さんは叶也さんの育ての親なんですよね?だったら私の母親も同然ですよ!将来私と叶也さんは結婚するわけですし」

 

 「あなたなんかにはあげないわよ!そもそも叶也だってそんなこと了承してないじゃない!」

 

 「あっ、でも次代の風祝は残さないといけないので、叶也さんには婿入りしてもらう形になりますがよろしいでしょうか?」

 

 「私の話を聞いてたの!?あなたと結婚させる気はないのよ!!」

 

 僕の目の前で凄まじい舌戦が繰り広げられている。それにしても紫さんが押され気味とは珍しい。

 

 「新婚旅行は結界の外に行きたいと思ってるんですが、問題ないですかね?」

 

 「大有りよ!あなたには常識ってものが無いの!」

 

 ………そろそろ止めに入らないと紫さんが爆発しそうだ。

 

 「紫さん、とりあえず落ち着いて下さい。早苗さんには聞かないといけないことがあるんですし」

 

 「何でも聞いて下さい!叶也さんにならスリーサイズだって教えちゃいますよ!」

 

 「いや、別に興味ないから」

 

 「………そうね。少し冷静さを欠いてしまっていたわ。とりあえず座って頂戴」

 

 こうしてようやく会談の席が設けられた。因みに席は僕と早苗さんが隣り合わせ、正面に紫さんだ。僕も紫さんの隣に行くべきなんだろうけど早苗さんが腕を組んで離してくれないので断念。

 

 えっ?カエルの髪飾り?………ボクニハナニモミエマセンヨ?

 

 「で、さっきの話なんだけどさ。異変がどうのこうのって言ってたよね?そのことについて詳しく聞きたいんだけど」

 

 「はい、任せてください!と言っても私も詳しいことは分からないんですよ」

 

 「あなたが知っていることだけでいいわ。どうしてあなたはこの異常事態に気付けたのか教えてくれないかしら?」

 

 「話せば長くなるんですが―――

 

 

 

 

 

~Side 早苗~

 

 あれは五月の半ばでした。叶也さんの居場所を特定するために私の奇跡の力を使おうとしていた時の話です。

えっ?どうして叶也さんを探していたのか、ですか?えっと、記憶を取り戻す前の私も叶也さんのことが大好きでした。確か車に轢かれそうになったところを助けられて、その時に一目惚れしちゃったとか。ふふふ、私たちが初めて出会った時と似てますね。あ、すいません話を戻します。

 

 それでなんとか見つけようとしたんですが、その時の私は叶也君の名前も知らなくて。それで、奇跡の力に頼ろうとしたんです。

 

 でも何の手がかりもない状態で会いたい人に会うとなると結構長い詠唱が必要になるんですよ。少なくとも一時間はかかりました。

 

 とはいえ私と叶也さんの愛の力の前では詠唱時間なんて大した壁ではなかったです!私は見事に詠唱を終え、奇跡が起こるはずでした。

 

 ………はい、そうなんです。実は最後の最後で失敗しちゃって。気が抜けちゃったせいか舌を噛んじゃったんですよ。

 

 いつもなら最初からやり直しになるはずだったんです。私自身やっちゃったなと思って詠唱をもう一度唱え直そうとしたんですよ。でも次の詠唱を始まる前に私は気を失いました。

 

 後から聞いた話によると空から翠の閃光が落ちてきて私に直撃したそうです。

 

 そんなこんなで今の私があるんです!

 

 えっ?そんなこんなじゃなくてちゃんと話せって?そうは言われましてもこれで話は終わりなんです。

 

 目が覚めた時には私は幻想郷のことを思いだしていて、なんとか叶也さんを見つけ出してこの学園にやって来た。

 

 これが私の知っていること全部です。

 

~Side Out~

 

 

 

 ふーむ、そういうことだったのか。要は早苗さんの能力が暴走した結果、記憶が戻って異変が起きていることに気付いたと。

 

 「でもさ、どうやって僕を見つけたの?」

 

 「それはもちろん私と叶也さんの運命の赤い糸をたどって………と言いたいところなんですが実は教えてもらったんですよ」

 

 「え?だれに?」

 

 「私も知らない人なんですけど、うちの神社に参拝に来てくれた女の人です。身長は高い方で黒い長髪をポニーテイルにしてました。雑誌のモデルとかやってそうな顔とスタイルでしたね。なんというかクールビューティーって感じです」

 

 流石に容姿を聞いただけじゃ誰だか分からないな。というか僕の知り合いとも限らないし。

 

 「………」

 

 紫さんがさっきから押し黙っている。何か考え事だろうか?

 

 「あのー、叶也さん。私なりにどうして私が記憶を取り戻したか考えてみたんですが…」

 

 「ホント?よかったら聞かせてくれないかな」

 

 「きっとこれは私と叶也さんの愛の力だと思うんです!」

 

 「は?」

 

 「叶也さんもこの異変に気付いているんですよね?あの霊夢さんですら気づけなかった異変の中で私と叶也さんだけが記憶を残している―――これはもう愛の力としか言えないですよね!」

 

 ズズズっと早苗さんが顔を近づけてくる。くっ、鳥肌がヤバい。

 

 「いやー、そうとも言い切れないんじゃない?もしかしたら他に気付いている人もいるかも知れないし」

 

 「これはもう世界が私と叶也さんの仲を認めていると言っても過言ではないです!さあ、もっと愛を深め合いましょう!!!」

 

 人の話を聞いちゃいない!?さらに体を密着させてくる早苗さんに抵抗していると、急に浮遊感に襲われた。

 

 「世界が認めても私が認めないわよ」

 

 どうやら紫さんがスキマを使ったみたいだ。僕は紫さんの隣にボフッと着地した。

 

 「あなたの事情は大体把握したわ。私から言いたいことは一つ。今回の異変のことは誰にも他言しないでちょうだい。要らぬ不安を与えたくはないわ。幻想郷のことも同様にお願い。当然、あなたのところの神様にも黙っておいてね」

 

 紫さんは簡単に要求を告げた。いくらなんで簡潔すぎはしないだろうか。これで早苗さんは納得してくれるのか?

 

 「わかりました!お義母様直々のお願いとあっては断れません!」

 

 紫さんが下唇を噛みながら何かを堪えている。うん、なんとなく分かる。お義母様と呼ばれたことを否定したいんだろうけど、それをすると要求を断られてしまうかもしれないから必死に耐えてるんだろう。

 

 「…とにかく今回の件はこれでお終いね。そろそろ一時間目の授業も始まるし、あなたたちは教室に戻りなさい」

 

 「そうですね。じゃあ僕たちはこれで」

 

 「あっ、待ってください叶也さん!」

 

 そう言って部屋を後にする。後ろから駆け寄ってくる早苗さんを少し待って、再び歩みを進めた。

 

 「あの、歩きにくいんで腕を放してくれないかな」

 

 「再会の喜びのおかげで歩きにくさなんて気になりませんよ!」

 

 僕が気にするんだけどなぁ。うう、意識を向けないようにしても鳥肌は避けられないか。いや、鳥肌程度で済んでいることを喜ぶべきかもしれない。

 

 「それにしても叶也さんと学園生活を送れる日が来るなんて思いませんでした」

 

 「そうだね、僕もこんなことになるとは思わなかったよ」

 

 「これで毎日放課後デートができますね!」

 

 「しないよ…。そういえば、諏訪子様と神奈子様はどうしたの?」

 

 諏訪子様と神奈子様とは早苗さんが仕えている神様の名前だ。早苗さんは寮に住むだろうとして、あの二人はいったいどこで何をやっているのだろうか?

 

 「お二方は神社でお留守番です。私がどうしてもこの学校に行きたいと言ったらしぶしぶ了承してくれました」

 

 あぁ、あの二人も大概過保護だからな。大好きな早苗さんのお願いとあったら断りきれなかったのだろう。

 

 そうこうしているうちに教室に着いた。………なんだろう、嫌な予感がする。なんていうか、カエルみたいに苦しめるものじゃなくて、物理的に僕の生命に危険を与えるような何かがこの先にある気がする。

 

 「どうしたんですか叶也さん。私が先に教室入っちゃいますよ」

 

 「あっ、ちょっとまって―――」

 

 僕の静止を聞く前に早苗さんは扉を開け、教室に踏み込んだ。

 

 「今日からこの学園で教師をすることになった、八坂神奈子だ。残念ながらこのクラスの担任ではないが………おお早苗、やっと戻って来たか!心配したんだぞ、スキマに変なことされなかったか?」

 

 「か、神奈子様!?なんでここにいるんですか!?」

 

 「いやな、やはりお前を一人で送り出すのは不安だったからな。私たちもこっちに越してきたんだ」

 

 「私たちもって………諏訪子様も来てるんですか!?」

 

 「ああ、アイツも教師としてこの学園で働いているぞ」

 

 教室でクラスメイトが完全に置き去りになっているなか、僕は頭を抱えていた。

 

 よりによって神奈子様、いや神奈子先生と呼ぶべきか、が来ているとは…。

 

 ヤバい。下手したら僕の命が一瞬で消え去る。ただでさえいつもの頑丈さがなくなっているこの時に御柱をくらったら………想像するのも恐ろしいな。

 

 今ならまだ逃げれる。とりあえず紫さんのところに戻ろうか。

 

 「おい。いつまで廊下に突っ立ているんだ?八雲叶也」

 

 そんな浅はかな考えは、神奈子先生の一言で砕け散った。ああ、やっぱりばれていらっしゃいましたか。

 

 「ど、どうも」

 

 とりあえずこちらでは初めて会うことになるはず、だよな?まだそこまで心象は悪くないと願いたい。

 

 「はん、やはりお前が八雲叶也か。早苗から聞いていた通りだ」

 

 何故か剣呑な雰囲気を漂わせている神奈子先生。あれ、僕まだ何もしてないよね?

 

 「………お前と出会ってから、早苗はいつもお前の話ばかり…」

 

 何かブツブツ言っているようだ。怖くて聞き返せないです。

 

 「渡さん!お前なんぞに早苗は渡さんぞおおおおお!!」

 

 ブツブツ何かを言っていると思ったら今度は叫びだした。

 

 ああ、これが今日から毎日続くのか…。

 

 混沌と化す教室を見て、僕は平穏だった日常が崩れていく音を聞いた気がした。

 

 ………まあ、元から平穏ではなかったけどね。

 

 

 




次回予告(仮)
どうも!みんなの風祝、早苗ちゃんです!
今回は奇跡の力でここに参上しちゃいました。
来週からは私と叶也さんのいちゃいちゃラブコメディーが始まりますよ!
……と言いたいところなんですが、どうやら作者さんはまだお悩み中みたいです。
というわけで第26話「波乱の幕開け、球技大会」かもしくは「弁当バトルin屋上」のどちらかをやることになるそうです。
まあ、私は叶也さんと一緒ならなんだっていいんですけどね!
次回も格好良くて素敵な叶也さんに、ピックアップ!

私の仕事を取るなウサ!

※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください

ご意見ご指摘ご感想お待ちしてます

活動報告もよろしくです


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閑話  賢者と先代


更新遅くなりすみません。

久しぶりに書いたせいか、なんか違和感が…


 

 

 

 草木も凍る丑三つ時。いつもなら誰もいないはずの学園長室に二つの人影があった。

 

 「真夜中の訪問なんて珍しいわね」

 

 開け放たれた窓から射した月明かりが片方の女性、八雲紫を映し出す。

 

 椅子には座らず、虚空に開いたスキマに腰をかけている。

 

 「私もいろいろ忙しくてね。こんな時間にしかこれないんだよ」

 

 もう片方の人影は暗闇に隠れて姿が見えない。しかし部屋に響くその声から女性であることが窺える。

 

 「あっちこっちで遊びまわってるみたいだけど、そんなにこの世界が気に入ったのかしら?」

 

 「ああ、おもしろい。叶坊もなかなか愉快なことをするじゃないか」

 

 そう笑いながら話す彼女をみて、紫は思わずため息を吐いた。

 

 「はあ、気楽でいいわね。まあこっちもあなたのおかげで懸念事項が一つ消えたからいいのだけど」

 

 「はて、私が何かしたか?」

 

 「とぼけなくてもいいわよ。東風谷早苗にここを教えたのはあなたでしょ」

 

 紫は扇を開きながら断言する。その言葉には強い確信の色が見られた。

 

 「ああそうだが。それがいったい何の役に立つと」

 

 「私に種明かしさせたいわけ?この前言ってた世界に干渉した人間、それも東風谷早苗でしょう」

 

 「やはり気づいていたか。私も守矢の風祝にあれほどの潜在能力が眠っているとは思わなかったよ」

 

 ハッハッハ、と愉快そうに笑いながら彼女はそう答えた。

 

 「笑い事じゃないわよ。あなたも知っていたなら教えてくれればよかったじゃないの。彼女から話を聞くまで全く気付かなかったわ」

 

 「それでは面白くなかろう。人生はハプニングやサプライズがあるからこそ潤うのだから」

 

 「誰もがあなたと同じ考えではないのよ。私は楽に済ませれることは楽に済ませたいわ」

 

 「なんだ、あまり機嫌がよろしくないな………ああそうか」

 

 ニヤニヤとしながら紫を見つめる女性。その視線に居心地の悪い物を感じた紫は扇で少し顔を隠した。

 

 「…なによ。言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃない」

 

 「いやなに、そういえばあの風祝は叶坊に御執心だったことを思いだしてな。それは紫にとっては面白くない話だなと」

 

 「なっ!?」

 

 「おや、図星だったかな。しかし叶坊も、そろそろガールフレンドの一人や二人や十人くらいいたっておかしくないだろ?」

 

 「そんなにいたらおかしいわよ!!」

 

 「はて、そうかな?存外あいつならやりそうな気もするが、確かに今はまだ荷が重いか」

 

 「今も未来もないわよ!……はぁ、それで今日はいったい何の用で来たのかしら?」

 

 「おや。用が無いのに来るのはまずかったかな?」

 

 「冗談はもういいわよ。あなたが何の意味もなくこんなところまで来るわけないもの」

 

 「流石にわかってるね、私のことを。といっても大した用じゃないさ。近々この学校で行われる行事に興味があってね」

 

 「近々って言うと…球技大会のことかしら?」

 

 「ああ。どうやら面白い競技もあるみたいだし、久しぶりに叶坊や霊夢がどれくらい成長したか見てみようと思ってね」

 

 「面白いって、幻想郷では別に珍しくもないでしょうに」

 

 「いやいや、ここ最近は直接あいつらの戦いぶりを見てなかったし。偶には保護者らしく授業参観と行こうかと思ったわけさ」

 

 「まあいいわ、警備員には話を通しておくから当日はどうぞご自由に」

 

 「そうか、それは助かる。それじゃあ用は済んだしそろそろお暇するかな」

 

 「スキマで送ったほうがいいかしら?」

 

 「なに、そんなに遠くに行くわけじゃない。徒歩で十分さ」

 

 闇に隠れていた女性はそういうと窓枠に足をかけて外へ飛び出した。

 

 跳躍する瞬間彼女の長い黒髪がたなびく。

 

 「まったく。ちゃんと出口から出ていって欲しいものだわ」

 

 そんな紫の呟きは、窓から吹き込んだ風にとけて消えた

 

 

 





三人称苦手


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第26話  波乱の幕開け


皆さんの感想の中にレミリア様の喋り方がおかしいというものがいくつかあったので
今回は試験的に口調を変えてみました
もしこちらの方がよいという意見が多ければこちらに直します


 

 

 「では、球技大会のメンバーを決めたいと思います」

 

 教室に学級委員である妖夢の声が響き渡る。

 

 現在はホームルームの最中。近々催される球技大会に向けての話し合いが行われていた。

 

 因みに僕は副委員として板書を担当してます。

 

 「ではまず行われる競技をあげていきます」

 

 それにしても球技大会かぁ。外の世界のスポーツは知識としては知ってるけど、実際にやるのは初めてなんだよね。ふふふ、今から楽しみだ!

 

 「まず男子競技、野球。レギュラー九人に控えは最高で四人までです」

 

 野球。サッカーやバスケと並んで人気があるスポーツだよね。一度はやってみたかったんだよ!

 

 「次に女子競技、バレーボール。レギュラー六人に控えが三人まで」

 

 カツカツと音を鳴らしながら黒板に書いていく。しかし学級委員らしいことするの久しぶりだな。

 

 「次は男女混合の競技、ドッジボール。レギュラー十人、控え四人」

 

 へえ、男女混合の競技とかあるんだ。まあうちの学園の女子は下手な男より強い人ばっかりだしね。ドッジボールもやってみたいなぁ。

 

 「そして最後は男女混合競技………弾幕ごっこ」

 

 バキリッ!

 

 突然飛び出した場違いな単語に驚き思わずチョークをへし折ってしまった。いや、まさか僕の聞き間違いだよね。

 

 「ごめん妖夢、今なんて言った?」

 

 「…?なにって弾幕ごっこですよ」

 

 な、なぜえええええええええええええええ!?なんで、どうして弾幕ごっこ!!?

 

 球は球でも弾じゃん!球技じゃないじゃん!!

 

 「ぽかんとしてどうしたんですか?早く書いてくれないと続きが読めないんですが…」

 

 「う、うん。ごめん…」

 

 フリーズしてしまった僕を妖夢が訝しげな目で見てくる。

 

 これも世界を無理矢理変えた影響か。教室を見回しても特に驚いた様子はない。つまりこれが普通なんだろう。

 

 「こちらは団体戦形式なのでレギュラー五人に控えが一人です」

 

 団体戦?こっちだと弾幕ごっこの形式も微妙に違うのかな。まあ僕は普通の球技がやりたいから関係ないか。

 

 「球技大会は二日にわたり行われます。一日目は野球、バレー、ドッジボール。二日目は弾幕ごっこです。二つ以上の競技に参加しても構いませんが、時間が被らないように気を付けてください」

 

 二日目丸々弾幕ごっこって…それもう球技大会じゃない気がする。

 

 「では、少し考える時間を取りますのでその間に決めてください」

 

 よし。弾幕ごっこの出現に驚かされはしたけど当初の目的が変わったわけじゃない。今は野球にするかドッジボールにするか考えよう。

 

 「妖夢、ちょっといいか?」

 

 突然魔理沙が立ち上がって発言した。

 

 「なんでしょう?希望は後でまとめて聞きますが」

 

 「いやなに、どうせもう決まってるものは埋めちゃってもいいんじゃないかと思ってな」

 

 「もう決まってる?」

 

 思わず言葉が口から洩れた。はて、魔理沙は何を言ってるのか。

 

 「そうね、こればっかりは私も譲る気はないし」

 

 魔理沙に追従するように、天子が立ち上がる。

 

 「面倒くさいけど、今回は私も参加しなきゃいけない理由があるのよね」

 

 ため息を吐きながら霊夢が腰を上げる。まるで打ち合わせでもしていたかのような連携だ。

 

 「皆さんも戦う理由があるようですね。無論私も出場しますよ」

 

 刀をカチンとならせて妖夢もあとにつづく。

 

 「ふっ、時間を待つまでもないみたいだな」

 

 魔理沙がニヒルに笑いながら帽子のつばを触る。なんだろう嫌な予感しかしない。

 

 「弾幕ごっこのメンバーは………私、霊夢、天子、妖夢そして、叶也だ!」

 

 ……………

 

 は?

 

 またもや思考がフリーズする。何故僕の名前が挙がっているのか、その理由がさっぱり分からない。

 

 「ちょっと魔理沙、どうして僕の名前も入ってるんでしょうか?」

 

 「ん?どうしてって、それ以外に適任な奴なんていないだろ?」

 

 「いやいやいや、他に出たい人もいるかもしれないじゃない」

 

 「まさか。他のクラスからは化け物みたいなやつがうじゃうじゃ出てくるんだぜ?好き好んで生贄に立候補する奴なんていないさ」

 

 その理屈でいくと僕はまさに生贄なんですが…。

 

 「そ、それに僕より強い人もいるじゃん!アリスとかさ!」

 

 「アリスがこんな行事に率先して参加するわけないだろ?」

 

 むぐっ、確かに。というかその配慮を僕にも回して欲しいんだけど。くっ、何かほかに回避する方法は…

 

「はい、異議ありです!」

 

 諦めかけたその時救いの手が天高く突き上げられた。

 

 最近うちのクラスに転校してきた東風谷早苗さんだ。多少暴走しがちなところはあるが基本的には明るく打ち解けやすい性格のおかげか既にクラスには大分なじんでいる。

 

 まさか彼女が僕を援護してくれるとは…。目があった早苗さんは力強くうなずき満面の笑みを送ってくる。なんて頼もしいんだ。

 

 「叶也さんが参加するなら私も参加したいです!」

 

 そんなことだろうと思ったよ!

 

 「でしたら控えの枠が空いてるのでそこでよろしいでしょうか?」

 

 「それでオッケーです!」

 

 「いや、そこは僕の代わりにレギュラーとして出てくれればいいじゃない」

 

 「これで決定だな。これだけの面子が揃えば優勝間違いなしだぜ!」

 

 ええぇぇ、僕の意見が総スルーなんですけど。

 

 くそぉ、こうなったら前向きに考えるんだ。二つ以上の競技に参加することも問題ないわけだし、一日目は普通に球技ができる。弾幕ごっこだって幻想郷にいる時はよくやったし、いまさら物怖じする必要もない。うん、こう考えたらとくに悩む必要なんて――――――

 

 バアアアン!!

 

 「クックックッ、話は聞かせてもらったわ」

 

 僕の思考がまとまりかけた時、教室の扉が物凄い勢いで開いた。

 

 扉の向こうにはいつにも増して威厳のある雰囲気を放つレミリアさんが立っている。その隣にはパチェ、後ろには咲夜さんと美鈴さんが控えていた。

 

 フランちゃんとこあさんを除いた紅魔館の主要メンバーがそろい踏みだ。

 

 というかまだ授業中なんですが…。

 

 「何の用だレミリア?話を聞いてたならお前の出番じゃないことは分かるだろ?」

 

 「宣戦布告と言うやつよ。去年は貴女達のチームに負けてしまったけど、今年はそうはいかないわ」

 

 そんなことのために授業を抜けてきたのか。フリーダム過ぎるでしょ。

 

 呆れて言葉も出ない僕を置いて話はどんどん進んでいく。

 

 「いい度胸じゃないの。せいぜい私たちと戦うまで負けないように頑張ることね」

 

 レミリアさんに負けず劣らず堂々とした態度で天子が前に出る。

 

 「ふっ、それなら問題ないわ。私には見えるのよ、貴女達と弾幕を交える姿がね」

 

 そういうと再びクックックッと笑いだした。今日はいつもよりもカリスマな感じがするな。

 

 「まあ、誰と当たろうと関係ないぜ。どっちみち全員蹴散らすことに変わりはないからな」

 

 「そっちこそ大した自身ね。そこまで言うなら一つ賭けでもしない?」

 

 「賭け?」

 

 思わず口から疑問の声が飛び出してしまった。

 

 「ええ。もし貴女たちが私に勝てたならば我がスカーレット家の力でできることならなんでも一つ叶えてあげる」

 

 「へえ、ずいぶん太っ腹じゃないか。それだけのものを対価に出すってことはこっちもそれなりの物を出せってことか?」

 

 「ええ、そうなるわね。と言ってもあなたたちに損がある話ではないわ。私が欲しいのは………叶也、あなたよ」

 

 すらりとした細い指が僕に向けられる。

 

 なんだ僕が欲しいのか。確かにそれなら他のみんなには何のデメリットもないよね。ローリスクハイリターンってわけだ。はっはっはっ………

 

 「僕!?」

 

 こうして八雲叶也を賭けた球技大会が始まる。波乱溢れる球技大会、それが夏休みにまで多大な影響を及ぼすことを、この時の僕は知らなかった。

 

 

 




次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだぴょん☆彡
前回は守矢の風祝に出番を取られて焦ったけどなんとか取り戻せたよ
むこうの方が本編の出番も多いんだから自重してほしいね!
それはさておき次回は叶也がとあるクラスとドッジボールで戦うみたい
曲者ぞろいの幻想学園、いったい誰が叶也とボールを交えることになるのか!
第27話「恐怖のドッジボール」
次回は必殺の魔球に、ピックアップ!!
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください

ご意見ご指摘ご感想お待ちしてます

活動報告もよろしくです


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第27話  たまの取り合い


 業界用語で命のことをタマと言うらしい。とくに深い意味はないけどね

 


 

 

 

 レミリアさんの唐突な提案から数日が経った。

 

 あの時のことは正直思い出したくない。

 

 一言で表すなら………地獄絵図と言ったところだろうか。

 

 弾幕と血が飛び交う風景は僕の脳裏に刻みこまれてしまい、未だに夢に出てくる。

 

 結局あの話は、夏休みの間僕を執事として雇いたいということだったらしい。

 

 しかも夏休み全部ではなく一週間程で良いらしい。

 

 その旨が伝えられ、ようやく争いは収束した。

 

 それくらいだったら別に頼まれればいつでもやるんだけどね。わざわざ賭けなんかしなくてもさ。

 

 「ぼーっとしてんじゃねーよ!そろそろ始まるぞ!」

 

 「あっごめん、今行くよ」

 

 流に呼ばれて駆け出す。今はクラス合同の体育の時間。球技大会が近いこの時期は、全クラス合同での体育の時間が設けられ練習試合を行うことができる。

 

 こんなことができるのもこの学校が規格外な広さを有してるからだよね。

 

 今回の球技大会、僕はドッジボールに出ることにした。僕としては野球の方にも興味があったんだけど、これには理由がある。

 

 弾幕ごっこと同じでこの学園の女子が強すぎるからだ。

 

 男女混合のドッジボールではそんな女子を相手取り戦わなければいけない。確かにレミリアさんとかが全力でボールを投げたりしたら身体が爆散しかねないしな…。

 

 というわけで今回はドッジボールへの参戦が決まった。

 

 それにしても…

 

 「やっと私たちの番ですか」

 

 「へへっ、腕が鳴るぜ!」

 

 「………準備万端」

 

 なんでこいつらはドッジボールに来たんだろ?流も啓も淵も力で言えば中級妖怪の上の方くらい。そこら辺の妖怪だったら敵にならないだろうけど、この学園にはかなりの実力者がごろごろいるわけだしなぁ。普段だったら率先して参加したりしないだろうに。

 

 「どうしたんですか、難しい顔してますよ?」

 

 「んっと、なんで啓たちはドッジボールを選んだのかなって」

 

 僕がそう言うと三人はいい笑顔で答えてくれた。

 

 「男ばっかの野球より、女の子と一緒のドッジの方が良いに決まってんだろ!」

 

 「汗で透けて見えるかもしれませんし。何がとは言いませんが」

 

 「………ポロリに期待」

 

 なんか後にいくにつれて酷くなってる気がする。こいつらの出場を全力で止めるべきだと思うが、残念ながら出場登録の期限は過ぎている。こうなると、誰も彼らを止められない。

 

 というか体操着でポロリは無理があるだろ。

 

 「叶也さーん!」

 

 僕が馬鹿三人の扱いに悩んでいると、別の声が飛んできた。というか直接飛びついてきた。

 

 「ドッジでは私もレギュラーですから一緒に頑張りましょう!」

 

 「わ、分かったから離れて!?」

 

 背中に引っ付いてきたのは早苗さんだ。僕は必死にカエルの髪飾りから意識を逸らしながら逃げようと試みる。

 

 「安心してください。私と叶也さんの愛の力があればどんな相手もけちょんけちょんですよ!」

 

 くっ、意外と力が強い。ていうか周りの嫉妬の視線が痛い!流たちもこっちを睨むくらいなら早苗さんを引っぺがしてよ!

 

 ああもう誰でもいいから助けて!!

 

 「何やってんのよ、あんたたちは」

 

 願いが通じたのか、僕の背中から圧迫感が消えた。

 

 「アリスさん!愛する二人の逢瀬を邪魔しないでください!」

 

 「はいはい、逢瀬なら後でしなさい。対戦相手がお待ちかねよ」

 

 僕を助けてくれたアリスが指さす方には二年D組の面々が並んで待っていた。

 

 そこには見知った顔も混ざっている。

 

 「どうも叶也さん、お久しぶりです」

 

 「さとりさんのクラスが相手ですか。これはだいぶ苦しい戦いになりそうですね」

 

 そう、D組はさとりさんが所属するクラスだ。

 

 それにしてもなんか人が少なくない?さとりさんを入れても七人しかいない。

 

 「今日は欠席者が多くてこれしか揃わなかったんです。うちのクラスで風邪が流行ってしまい、お燐もお空も療養中です」

 

 どうやら僕の心を読み取って疑問に答えてくれたみたいだ。しかしお燐さんやお空さんもD組なのか。これは強力なチームだな。

 

 しかしこの人数ではゲームにならないし何とかしないと。

 

 「みんな集まったかー、ってなんでD組はこんなに少ないんだい?」

 

 そんな風に考えていたら体育の先生がやって来た。頭から伸びる紅い一本角が目立つ、星熊勇儀先生だ。幻想郷にいた時とは違い、赤いジャージを身に纏っている。初めて先生をやっているところを見た時は驚いたけど、今となっては全く違和感を覚えない。なんだかんだで似合ってると思うしね。

 

 僕が少し前のことを思いだしている間にさとりさんが事情を説明し終えた。手際いいな。

 

 「なるほど、そういうことか………よしっ、なら私が代役として出てやろうじゃないか!」

 

 「「「「「はっ?」」」」」

 

 その場にいた全員の声が重なった。特に文句があるわけではない。ただ純粋に疑問だった。何故そういう結論に達したのだろうか?

 

 「いやー、見てるだけってのも飽き飽きしてたからねぇ。ここらで私も体を動かすか」

 

 確かに勇儀先生が入れば戦力は補強されるだろうけど、参戦理由が適当だなぁ………まあ自分の欲求に正直なのは妖怪らしいと言えるが、教師としてはどうなんだろうか?

 

 とりあえず先生の決定に問題があるわけでもないので、その提案を受け入れて試合を始めることになった。

 

 

 

 A組

  八雲叶也

  鞍馬流

  稲荷啓

  遠野淵

  東風谷早苗

  アリス・マーガトロイド etc…

 合計 10人

 

 D組

  古明地さとり etc…

  助っ人 星熊勇儀

  合計 8人

 

 

 

 「試合、開始!」

 

 審判の声が開始を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「ハァ…ハァ…」」」」

 

 試合が始まって既に五分が経過していた。人数的に有利なA組、勇儀先生という強力な助っ人を得て実力的に有利なD組。正直互角の戦いになると思っていたが、その認識はもろくも崩れ去っていた。

 

 僕は隙ができない程度に生き残りを確認する。

 

 今、自陣のコートにいるのは僕を含め四人。意外なことに流、啓、淵の三人が残っていた。しかし三人ともすでに満身創痍。僕だってへとへとだ。

 

 「さあ、いくよ!」

 

 く、来るッ!

 

 勇儀先生が腕を振りかぶった。僕ら四人は一斉に身を固くする。

 

 ど、どこだ。誰を狙っている!?

 

 その時、一瞬僕と勇儀先生の目があった。

 

 考えるよりも早く僕は横に思いっきり飛びのいた。瞬間、先ほどまで僕が立っていた場所を、物凄い勢いでボールが通り抜けて行った。

 

 あれだ!あの球にみんなやられたんだ!

 

 そのまま真っ直ぐ進んだボールは壁にぶち当たり、大きく跳ね返りまた勇儀先生の手に戻った。

 

 今のところあのボールを喰らって無事だったものはいない。みんな仲良く気絶している。というか生徒を容赦なく気絶させる先生って大丈夫なのか?

 

 唯一無事なのはもともと外野としてコートから出ていたアリスだけだ。

 

 「なんだい情けないね。漢ならこのくらいドンと受け止めてみな」

 

 なんて無茶を言うんだこの人は。受け止めたなれの果てをちらりと見れば、それは無理だろうと思わざるを得ない。

 

 まあ、あれだ。鬼が本気を出せば僕らなんて木端微塵だろうし、それが気絶だけで済んでいるってことは一応手加減はしてくれている………はず。

 

 とはいえそれが打開策につながるわけでもなく、僕らは絶望に打ちひしがれていた。

 

 「さてと、そろそろ全員片付けようかねぇ」

 

 「「「「ひぃっ!?」」」」

 

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべながらささやくように言う先生を見て、僕らは思わず悲鳴を上げた。

 

 「まずは鞍馬、お前からだ」

 

 「くそおおっ!こんなところで死ねるかっ!」

 

 流は叫びながら身体に力を、いや妖力を込めはじめた。

 

 「まず一人!」

 

 「やられるかよ!」

 

 勇儀さんの球が流の目前に迫った瞬間、流の姿が消えた。

 

 「へぇ、面白いことするじゃないか」

 

 流の能力は『空間を跳躍する程度の能力』。簡単に言うと瞬間移動が使えるというわけだ。その力でボールが当たる直前に別の場所へ跳んだのだろう。

 

 「これで終わりじゃねえぜ!」

 

 そういうと流は連続で跳躍を行う。なるほど一つの場所に留まらないことで、狙いを定めさせない作戦か。

 

 「なるほどねぇ。だけどその程度で私の球を躱せると思ったら大間違いだよ」

 

 そういうと勇儀先生はボールを投げた。

 

 そのボールは勿論流のいない場所を通り――「ぐふぅっ!?」――な、何だと!?

 

 確かに先生は流がいる場所とは全然違う場所にボールを放ったはずなのに…。

 

 「鞍馬は次に飛ぶ場所へ視線を向けてたからねぇ。よく見てれば次どこに行くかバレバレだったよ」

 

 勇儀先生は豪快に笑いながら種明かしをしてくれた。まさかあの少しの間に流の弱点を見抜いたのか!?

 

 流の能力の条件の一つに、視界に映っている場所にしか跳べない、というのがある。しかしそれを知っている人は多くない。少なくとも勇儀先生が知ってるわけがないのだが。

 

 流石は鬼。戦いの経験が、踏んできた場数が違う。

 

 「さーて、お次は……遠野、お前だ!」

 

 流に当たって跳ね上がっていたボールが勇儀先生の手に戻る。

 

 「………くっ!」

 

 今度は淵が能力を使った。淵の能力は『影に潜む程度の能力』。影の中に潜ることができ、潜っている間は基本的に外からの干渉を受けない。

 

 確かにボールが当たらなくなるという点で言えばこれは完璧な対策と言えるのではないだろうか。

 

 「ふっふっふ、その程度であたしから逃げようってか」

 

 勇儀先生は不敵に笑うと、右足に妖力を集め始めた。いったい何を…?

 

 「そーれ!」

 

 「のわっ!?ゆ、揺れてる!?」

 

 掛け声とともに右足を振り上げ思い切り地面を踏みつけた。それだけで地面を揺らすなんて……これが鬼の力か。

 

 「………なん、ごはっ!?」

 

 どういった原理かは分からないけど淵が影から弾かられように飛び出してきた。その隙を逃す勇儀先生ではなく、即座にボールをぶち当てられる。

 

 遂にコートに残ったのは僕と啓の二人だけ。いったいどうすれば……

 

 「…叶也。私がなんとかします」

 

 僕が打開策を思案していると、いつの間にか隣に来ていた啓が耳打ちをしてきた。

 

 「な、何か手があるのか?」

 

 「確実ではありませんが、私の『幻術を使う程度の能力』の奥義を使えばあるいは…」

 

 恐怖の所為か啓の顔は死人を思わせるほど青くなっている。しかしここで何の手も打たなければ、僕らも今まで散って行った仲間たちと同じ目に遇うだろう。

 

 覚悟を決めた啓が一歩前に出る。

 

 「おや、次はあんたかい?自分から進み出るなんてなかなか男前じゃないか」

 

 「行きますよ!」

 

 声を上げるのと同時に能力を行使する。現れたのは巨大な鎧武者。僕らの身の丈を優に超えるその巨体はおよそ三メートルはあるんじゃなかろうか。

 

 「ほう、大した幻術だ。理屈は分からないがそいつには実体があるようだねぇ」

 

 そう、それが啓の能力の奥義。妖力を著しく消費するが、実体のある幻覚を生成することができる。いろいろと制限もあるようだが、今回は大丈夫のようだ。

 

 「面白いねぇ。私と力勝負をしようってか」

 

 先生が投球フォームに入る。啓の鎧武者は小手に覆われた二本の腕を前に突き出した。どうやら正面から受け止めるつもりらしい。

 

 「せい!」

 

 「がはっ!?」

 

 なん……だと…!?

 

 ボールを受け止めようとした鎧武者だったが、勇儀先生が放ったボールと接触した瞬間に、塵と化した。まさに雲散霧消。

 

 そして突き進んだボールは啓に直撃。今までより少し力が込められていたのか、啓は他の人よりも遠くに吹き飛んでいった。ま、まあ妖怪だし大丈夫だろ。うん、僕の精神衛生のためにもそういうことにしておこう。

 

 「残るはあんた一人だねぇ」

 

 「いや、ははは、で、出来れば優しくしてくれると…」

 

 「萃香から話は聞いてるよ」

 

 今は僕の話を聞いてよ!…って話?いったい何を聞いたんだろ?

 

 「なんでも最近の人間にしては珍しくかなり強いらしいじゃないか。萃香が言うんだから相当なんだろうねぇ」

 

 萃香さん何してくれてるの!?た、確かに人間の中じゃ結構強い方だし、そこいらの妖怪に負けるほど弱くはないつもりだけども!それでも鬼の方々から見たら僕なんて塵芥でしょ!こ、このままの流れでいったら…

 

 「私も、ちょいとばかり本気を出してみようかねぇ」

 

 や、やっぱりいいいいいいいいいい!!??死ぬ死ぬ死ぬ!このままじゃ木端微塵だよ!!

 

 勇儀さんは心底楽しそうな表情をしている。あの雰囲気じゃ何言っても聞いてくれそうにない。こ、こうなったら自力で何とかしなければ。先生は既に投球フォームに入っている。とにかくエネルギーを全部防御に回して…………………………………あっ

 

 「わ、忘れてたあああああああああああああああああ、ぐべらっ!?」

 

 身体に思いっきりボールがぶち当たり、体が吹き飛ぶ。先に吹き飛ばされた流や淵を飛び越え、さらにその先で倒れ伏す啓も優に超え、壁に激突してようやく止まる。

 

 ボールと壁の二連撃。久しぶりに感じる壮絶な痛みに悲鳴すら出なくなる。これほどの衝撃はレミリアさんのグングニルを受けた時以来か?

 

 意識がもうろうとしているがどうやら五体は無事なようだ。

 

 徐々に薄れていく意識のなか、先ほど思い出した衝撃の事実が頭をかすめた。

 

 しかしそれについて考える間もなくどんどん意識は暗闇に落ちていく。

 

 「へえ、あれを喰らっても生きてるなんてずいぶん硬いんだねぇ」

 

 あんた生徒を殺す気だったんかい。

 

 心の中で何とか突っ込みを入れ、僕は意識を手放した。

 

 

 




次回予告(仮)+本編補足
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
この作者は困ったときは気絶オチに持っていくよね
そろそろワンパターンだと思うんだよ、あたしは
まあ、そんなことは置いといて
今回本編でほとんど出番がなかった守矢の風祝
何故途中から全く出てこなかったのか
みんな気になってると思うからてゐちゃんが教えてあげよう
奴は開始早々鬼教師にノックアウトされました、以上!
え?短すぎるって?
いや、ほんとにそれだけなんだよ
あの風祝ときたら試合中もずっと叶也のこと見てたから迫ってくるボールにてんで気づかなかったの
その結果真っ先にブラックアウトしちゃったってわけ
あれだね、このまえ私の出番を奪ったから天罰が下ったんだよ。いい気味だね
さて次回は、驚愕の事実に気づいた叶也君のお話
このままでは弾幕ごっこの試合に出れなくなってしまう
打開策を求める叶也はある選択を強いられることに
第28話「悪魔の契約」
次回はてゐちゃん再登場!あたしの活躍にこうご期待!!
…ついでに叶也の抱える問題にピックアップ!
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください

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