人外教師兵藤一誠 (隆斗)
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第0章
プロローグ


最近ハイスクールD×Dにハマりまして、これは衝動的に書いたものです。
バカテスやISの方のネタが思いつかないのでこちらを書きました。SAOの方も今度の土日には投稿できると思います。
感想板でボロクソにされたのと、自分でも駄文だと感じたので書き直しました。


プロローグ

 

 

 

ここはハイスクールD×Dの世界・・・・・・の本来の運命の筋書きからは外れた世界。

 

 

この世界はまだ出来たばっかりで、宇宙すらもまだ出来ていない。

なのにもう既に、この後に宇宙が出来る場所であるここに存在しているものがいた。

その者はの名は兵藤一誠。ハイスクールD×Dの本来の歴史の主人公だ。

しかしこの世界の一誠は宇宙が出来る前に、この世に存在してしまった所為で本来の歴史からは外れてしまった存在。

彼の本質は正史より変わっているのか。それとも正史の彼と同じなのかそれは誰にも分らない。

 

 

 

何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。

見渡す限りの闇、闇、闇。

気が付くと俺はそんな闇の中に居た。

気が付いたのはついさっきの筈なのに、俺は此処が何処だか知っている。それに俺の名前が兵藤一誠なのも知ってるし、その他の色々な事を知っている。

 

魔女扱いされた聖女

 

愛されたい堕天使

 

個人にみられたい令嬢

 

復讐に溺れる騎士(ナイト)

 

血に悩む巫女

 

気持ちがすれ違う姉妹

 

大好きな人の力になりたい兵(ポーン)

 

故郷に帰りたい龍神

 

流れ込んできた情報の中にはそんな正史では救われる人達の情報も入って来た。だがその救う側の主人公は居ない。自分の代わりの主人公は居るかもしれないが、正史で彼女達を救った主人公はこの世界には居ない。

それにこの世界の主人公はどんな人物かは分からない。もしかしたら何事にも無関心な奴で彼女達を救おうとしないかもしれない。

そんなのは嫌だった。彼女達には否生きとし生きるものの全てが幸せになる権利がある筈だ。

だから俺は先程気が付いた時に俺の頭に流れ込んできた”情報”を元に行動を開始する。

まず初めに俺がしたことは体作りだ。いくら俺が色々な力を持っていたとしたも体が出来ていなければ意味がない。肝心な時に何もできませんでした、は嫌だ。

そしてそれと同時進行で体が出来ていなくても出来るような、魔術や気やその他の異能の力等の使い方も練習しだした。

全ては彼女達を厄災から守るために。

 

 

 

 

 

 

一誠が修行を始めて四、五年程が経った。

あれから一誠は就寝も飲食もせずにずっと修行をしていた。幸いにも一誠の体は就寝も飲食もしなくても平気だったので気兼ねなく修行をした。……というより寝るのは兎も角、飲食は飲食するものが無いのでしようがなかった(まあ能力で創ることはできるが)。

そして並行してやっていた異能の修行も八割方が終わった。やはり体作りの様に簡単にはいかず、手こずったものもあれば簡単に習得したものもある。

やはり一誠は正史の世界じゃなくても一誠だったようで、いつも修行の原動力は『彼女達の為』だった。

しかし彼にも悩みがあった。その悩みは—————————

 

「……暇だ」

 

そう暇なのだ。此処は”知った”知識によると後に宇宙が出来る所らしい。そして今ここには一誠しかいない。つまり必然的に一誠は一人になる訳で、やることも修行と睡眠ぐらいしかない。

修行は苦ではないが、四、五年も連続してやって来たので流石に飽きた。

 

「! そうだ、能力で異世界を見ればいいじゃん」

 

その世界に行くことはできなくはないがメンドイ、しかし見ることは簡単にできる。

この力は”知った”時には使えていたのだが、こういう事以外に使いようがなかったので特に修行もしておらず、放っておいたのだ。

 

「んじゃ、久々の休憩という事でちょっと異世界を拝見しますか」

 

そう言って指を鳴らすと、一誠の前の空間に幾つもの丸い窓の様な物が現れそこに次々と色々な世界が映しだされる。

 

人を知らない男と心をなくした女が刀を求めて旅する世界

 

不幸と引き換えに神も殺せる右手を持つ少年が奮闘する世界

 

女性にしか使えないパワードスーツを使えてしまった白い騎士がいる世界

 

科学とオカルトの偶然によりできた召喚獣がいる世界

 

魔術師とその従者が何でも願いを叶える杯を巡り争う世界

 

一誠は他にも正史や正史以外の世界と数多くの世界を見た。

 

「おっ、あいつは……」

 

ある世界を見ていた一誠は気になる存在を見つけた。

 

「……呼んでみるか」

 

そう呟くと目の前に魔方陣を展開させる。

魔方陣が一瞬強く光ると魔方陣の中心には一匹の強大な狐がいた。

 

「……小僧、お前が儂を呼んだのか?」

 

「ああそうだ。俺の名前は兵頭一誠。よろしくな九喇嘛(クラマ)」

 

「小僧! 何故儂の名を知っている!」

 

「見たからだよ」

 

「見た?」

 

「ああ、ここはお前がいた世界とは違う世界だ。と言ってもまだ宇宙すらできていないがな」

 

「その事はお前が儂をここに口寄せする際に流し込んできた知識で知っている。儂が聞きたいのはどうやって見たのかという事だ」

 

「ああそれは、こうやって」

 

そう言って一誠は九喇嘛にも見える様に大きめの窓を出し異世界を見せる。

 

「ほう、中々面白い術だな。だがどうやっている。チャクラではないのだろう」

 

「ああ、気お前の言う所のチャクラでは無く魔力の方でやっている。知識はあるだろう」

 

「ああ。それで小僧、お前は儂に何をしてほしくて呼んだ?」

 

いつでも戦闘が出来る様にしながら九喇嘛は一誠に問いかける。

しかし一誠の答えは九喇嘛の予想外のものだった。

 

「特にこれと言ってしてほしい事は無い。しいて言うなら俺と一緒にこの世界で暮らしてほしい」

 

「クックク、中々面白い事を言うじゃないか小僧。よかろうお前と居ると退屈しなさそうだ。飽きるまでは一緒に居てやろう」

 

「じゃあこれからよろしくな九喇嘛。それと俺のことは小僧じゃなく一誠もしくはイッセーと呼べ」

 

「フン、貴様なんか小僧で十分だ」

 

「……まあいいや」

 

そう言って一誠は九喇嘛に言い直させるのを諦めた。

 

「なあ九喇嘛、ちょっと手合せしないか?」

 

「何故だ、儂がお前と手合せをする理由は無いぞ」

 

「いや、今まで一人で修行してきたからさ、対人経験等が皆無なんだよ。だからちょっと付き合ってくれないか」

 

「……まあいいだろう。だが死んでもしらんぞ」

 

「……お手柔らかに頼むよ」

 

一誠は九喇嘛のマジな宣告に冷や汗を流しながらも返答した。

 

 




九喇嘛を出してみました。口調がおかしかったら教えて下さい。


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種族と龍と新しい仲間

種族と龍と新しい仲間

 

 

 

一誠が目覚めて一兆年ほど過ぎた。あれから一誠と九喇嘛は模擬戦と言う名の殺し合いを、何度も繰り返した結果九喇嘛は一誠の事を認めるようになり、「一誠」と名前で呼ぶようになった。

そして一誠の方も九喇嘛の人型や尾獣型との模擬戦(殺し合い)により、対人、対獣戦も慣れてきたようだった。因みに九喇嘛の人型は、目元の少し下程まである少し長めの金髪に、身長は一八〇前後の長身で、赤眼で目つきは悪いもののクールな雰囲気を持ったイケメンだ。そしてそれに狐耳+九本の尻尾+瞳孔縦長のバージョンもある。ただし今は一誠と九喇嘛の二人しかいないので尻尾とか耳付き。

そして彼はまた悩み事を抱えていた。

 

「う~ん、どうすっかな~」

 

「何を悩んでいるんだ?」

 

目の前に異世界を映す窓の様な物を、多数出現させながら何やら唸っている一誠に暇だから、と言って散歩に出ていて先程帰ってきた九喇嘛が声を掛けた。

 

「あ、九喇嘛おかえり」

 

「ただいま。ところで先程から何を唸っていた」

 

「いや、俺の種族をどうするかな~って思ってさ」

 

「………は?」

 

一誠のセリフに九喇嘛は間抜けな声を出した。

それは当然と言えるだろう。今の一誠から感じる気配は、多少違う所はあるものの人間のそれだ。それに自分で自在に種族を替えるなんてことを九喇嘛は聞いたことが無かった。

 

「……ちなみに今の一誠の種族は何なんだ?」

 

「正直言うと分からん」

 

一誠のこの発言により九喇嘛は頭を抱えた。

それはそうだろう、自分の種族も知らずに別な種族に替えるだなんてバカにも程がある。

そしてこれは約一兆年という長い時間を一緒に過ごしてきた九喇嘛だからこそ分かることだが、恐らく今回の種族替えの理由は恐らく暇だからだろう。

 

「……参考までにどうして種族を替えたいか聞いてもいいか」

 

「まあ一つ目は九喇嘛が想像している通り暇だから。二つ目は……」

 

一誠の返答に呆れる九喇嘛。しかし当の本人の一誠はそんな事はいざ知らず、話を続ける。

 

「二つ目はこれからの為、かな」

 

「これからも為、だと?」

 

「ああ、これからこの世界では天使、堕天使、悪魔による三大勢力の三つ巴の戦争が始まったり、その後にも駒王町等で色々と事件が起きるだろう」

 

「ああ、確かにそうだな」

 

「だからフェニックスや吸血鬼等の強力な種族の恩恵を受けておこうと思ってな。それにそれぞれの種族のデメリット程度なら俺の一京分の一のスキル、『問題ない(ノーリスク)』でキャンセルできるしな」

 

「だったら今のままでもいいんじゃないか? 一兆年も生きているのだから今更寿命は関係無いだろう?」

 

「そうだな」

 

「筋力も人間は軽く超えているし、悪魔等の種族にも負けはしないだろう?」

 

「確かに」

 

「速度も強化無しでもかなり速いだろう?」

 

「ああ」

 

「じゃあ種族替えする必要はないな」

 

「そうだな。何か言い包められた感があるがまあいい。種族替えはしないでおこう」

 

実際に言い包められているような気もするが、そこは言わぬが花だろう。

 

「さてお前の要件も終わったことだし、今度は儂の要件を聞け」

 

「命令口調かよ……まあ別にいいぞ。で、何だ」

 

「お前の言うこの世界の正史の世界での主要人物と言っていいか分からんが、とにかくそいつ等を先程散歩している時に見つけた」

 

「はぁ?」

 

一誠が驚くのも無理はない。どこぞの失敗することを望んだ人外でなければこのような宇宙が出来る前の状態の世界に居るわけはないのだから。

 

「お前の言いたいことは良く分かるが本当の事だ。先程其処らへんを散歩していたら何やら物音が聞こえてな、ここには儂と一誠しかいない筈だから不思議に思って音のする方に見に行ったら、全長百メートル位ある赤い西洋龍と黒い蛇のような形をした龍が争っていたぞ。魔力や気配を感じなかったのか?」

 

「ここに居るのは俺とお前だけだと油断していたから周りを気にしていなかった」

 

申し訳なさそうに言う一誠対し九喇嘛は、仕方のない奴だと呆れていた。

出会った当初は一誠に対して辛辣な評価ばかりしてきた九喇嘛が、このように思うなんて此処に呼び出された頃の彼? では見当もつかなかっただろう。

 

 

 

〰〰〰〰〰〰〰一誠、九喇嘛移動中〰〰〰〰〰〰〰

 

 

九喇嘛に連れられて移動していると、何処からともなく魔力の波動を感じた。九喇嘛以外の魔力を感じるのは初めてだな~、って呑気な事を考えながら移動していると爆音が聞こえチカチカと閃光が瞬き巨大で濃密な魔力の波動がぶつかり合っているのが感じられた。

 

「着いたぞ」

 

外部からの刺激に感慨耽っていた俺は九喇嘛のセリフによって現実に引き戻された。

 

『グレートレッド、邪魔。此処我の領域』

 

『調子に乗るなよオーフィス。此処は我の領域だ!』

 

九喇嘛の声によって現実に引き戻された俺が見たのは、片言で話しながら強大な魔力を使い力技で攻撃をしている大きな黒い蛇の様なドラゴン、全長一〇〇メートルはありそうな赤い巨体を持つ西洋風のドラゴンだった。

恐らく黒い方がオーフィスで赤い方がグレートレッドだろう。

 

「して、このまま放っておけばいつまでも暴れ続けるだろう。一誠、お前はどうしたい?」

 

真龍と龍神の戦いを見ながら九喇嘛は俺に聞いて来た。

それに対する俺の答えはもう決まっている。

 

「この争いを止めてあいつらに仲良くなってほしい。そして出来ればあいつらと家族になりたい」

 

前半は知識として正史の世界を知った時に思った事。後半は家族の温もりを知りたいという俺の我儘。

 

「……儂は家族に入っていないのか?」

 

そんな言葉が九喇嘛から聞けたのがとても意外だった。一兆年過ごしていくうちに俺に対する態度は少しずつだが軟化したものの、いまだに刺々しい態度を取ったり発言をしたりする。

でも今聞こえたセリフは何処か不満げな声音だった。

その事に苦笑しながらももちろん入ってるよ、と言ってやるとそうか、と短く返してきた。

その時に盗み見た九喇嘛の横顔は嬉しそうに笑っていた。

 

「それで、どうする? 何か策があるのか」

 

「ああ、こいつを使おうと思う」

 

そう言って俺が『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から取り出したのは、一振りのハリセンだった。

俺の取り出したハリセンを見た九喇嘛は、若干顔を青くして冷や汗を流していた。

およそ戦闘では役に立ちそうにないハリセン。これが普通のハリセンだったらそうだったかもしれない。このハリセンも戦闘には役には立たないが、争いを止めるのには役に立つ。

 

「儂は力を貸した方がいいか?」

 

「いや、いらない。俺一人であいつらに手古摺る様じゃあこの先やってはいけないだろうしな」

 

「お前の気持ちは分かった。だが無理だと思ったらすぐに言え。儂らは家族なんだからな」

 

最後に付け足された一言は優しい声音だった。

九喇嘛に行って来る、と言い俺は龍達の争いに身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、俺の話を聞いてくれ!」

 

九喇嘛の元を離れた一誠は最初に争っている龍達二人に呼びかけた。

彼の目的はあくまでこの争いを止める事であり、彼らと戦う事ではない。

 

『…………』

 

なので呼びかけて話し合いに持ち込み、話し合いで解決しようとしたのだが一誠は龍達に無視された。いやもしかすると一誠(と九喇嘛)が此処に居ることも二匹は気付いていないかもしれない。

 

「おーい、俺の声聞こえてるかー?」

 

一応一誠はダメ元でもう一度声を掛けてみるが、やはり一誠には反応せず戦い続けている。

 

「……はぁ、仕方ない出来れば力ずくで止めるのはしたくなかったんだがな……」

 

一誠はハリセンを肩に担ぐと二匹に高速で近づきその脳天にハリセンを思いっ切り振り下ろした。

 

『ッ!?』

 

『……ムゥ』

 

完全に一誠の事を把握していなかった二匹はスパァーンといういい音と共にハリセンをもろ受け、グレートレッドは痛みにより手(前足)で打たれたところを抑える様にして蹲り(ちなみに前足は届いていない)、オーフィスも項垂れて余りの痛みに不満げに声を漏らした。

因みにハリセンの能力は、ギャグ補正と異能の無効化ついでに気絶無効と効果音がある。前者二つは説明するまでもないだろう。『気絶無効』は殴られた奴が気絶できないという効果だ。効果音はただスパァーンと音が鳴るだけである。

 

『我らの戦いの邪魔をするのは何者だ!』

 

「俺だ」

 

オーフィスより先に痛みが引いたグレートレッドは周囲に向けて怒鳴り散らす。そしてそいつの問いに馬鹿正直に答える一誠。

そんな事をすればグレートレッドの怒りの矛先が彼に向くことは分かっていた。

 

『貴様か。本来ならすぐに塵にするところだがその度胸に免じて話ぐらいは聞こう。オーフィスもいいな』

 

『ん、我も興味ある』

 

いつの間にか復活したオーフィスに4も確認を取ったグレートレッドは、オーフィスと共に一誠の話を聞く体制になった。

 

「…………あ、ああ。取りあえず聞きたいんだが、お前ら俺が呼んでるの気付いてた?」

 

『ああ、気づいていたが』

 

『我も』

 

「じゃあなんで返事しないんだよ!」

 

『特に必要性を感じなかったから』

 

「…………」

 

龍二匹に実はしかとされていた事知った一誠はいじけた。

その後九喇嘛が数分掛けて一誠を宥めた。その時龍二匹は一誠の落ち込みっぷりに申し訳なさそうにしていた。

その後、一誠の提案によりオーフィスとグレートレッドは人の姿になっている。

グレートレッドはメリハリのある体の緋髪(あかがみ)を高い位置でポニーテールにした美女になった。

オーフィスは初めは黒のゴスロリを来たロリッ子の姿になったが、グレートレッドの姿を見ると対抗意識を燃やしたのか、彼女と同じくらいの年齢の黒髪の大人しそうな美女になった。

 

「それで、お前達は何で戦ってたんだ」

 

「特に、理由は無い」

 

「……は?」

 

「うむ、我も同じだ」

 

「……なんだよそりゃ」

 

戦う理由が無いなのに戦っていた彼女達に思わず一誠は呆れた。

 

「戦う理由が無いんだったら戦わなくてよくないか?」

 

「確かにその通りだが、我はそれではなんか胸がモヤモヤするからな。戦ってないと落ち着かないんだ」

 

「我は、のんびり過ごしたい。でも、グレートレッドが攻撃してくる。我痛いのイヤ。だから我戦う」

 

「なっ!? それでは我が悪いみたいではないか!」

 

「「いや、その通りだろ」」

 

「……クッ」

 

一誠と九喇嘛のツッコミに分の悪いグレートレッドは顔を顰める。

 

グゥ〰〰〰〰〰

 

突然その場の雰囲気に合わない音が聞こえてきた。

一誠と九喇嘛とグレートレッドはその音源であるオーフィスを見る。

 

「……お腹減った」

 

『プ、アハハハハハ』

 

少し恥ずかしそうにしながらお腹を押さえるオーフィスと、それを見て声を上げて笑う一誠と九喇嘛とグレートレッド。

そこには先程の激しい戦闘が嘘のように、ほのぼのとした雰囲気になっていた。

 

「これでも食うか?」

 

一誠が笑いながら差し出した能力で創ったグミを、オーフィスはなにかも確認せずに口に放り込んだ。

見た目は一誠と同じ位なのに何処か微笑ましかった。

食べ終えた彼女はすぐに次を一誠に求める。彼はまたグミを作り渡していく。

 

「……それで、もうあ奴と争う気は無くなったか?」

 

「ああ、我もあんな微笑ましい姿を見せられては争う気も萎える」

 

「じゃあ儂らと一緒に来るか? 一誠は元々そのつもりで話し合いを提案したようだしな」

 

「うむ、それもいいかもしれない」

 

「じゃあ決まりだな。おい、オーフィス!」

 

一誠とオーフィスの戯れ? を見ながらグレートレッドと話をしていた九喇嘛がオーフィスを呼ぶ。

 

「何?」

 

「お前も儂らと一緒に来るか?」

 

「………」

 

九喇嘛の提案に考えるそぶりを見せるオーフィス。

 

「あれ。九喇嘛俺の目的分かってたんだ」

 

「当り前だ。何年一緒に居ると思っている」

 

「それもそうだ」

 

「分かった。我イッセー達と一緒に行く。それに、我イッセー好き」

 

九喇嘛と一誠の絆の確認みたいなものが終わった時、オーフィスがそう言った。

その事に喜ぶ一誠。しかしオーフィスが後半のセリフと共に抱き着いて来たので顔が真っ赤になった。

 

「えっ、ちょっ、オーフィス離れてくれ!」

 

「そうだぞ! さっさと離れろ!」

 

「イヤ、ここ我の居場所」

 

「ふむ、あの短時間に一度に二人も落とすとは。一誠は天然ジゴロの才能があるかもな」

 

戦闘以外で他人と接したことが無い上に、接したとしても九喇嘛だけだったのもあって女性と接するのは初めてな一誠。

その為、そこそこ大きいオーフィスの胸の感触や髪から香るオーフィスの匂い等の刺激に、顔をタコ並に真っ赤にさせて処理落ちしかかりながらもオーフィスを引きはがそうとする一誠。

そんな一誠に顔を少し染めながらも満足げに抱き着くオーフィス。

二人のじゃれ合いを見て胸がモヤモヤする為に、二人を引きはがそうとするグレートレッド。

三人のやり取りを見ながら何処からか取り出したお猪口で酒を飲み、変な所を感心している九喇嘛。

 

宇宙さえできていないその空間は、四人しか居ないながらもすでにカオスだった。



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悪魔と堕天使と神

遅くなりました。未だに原作には入らない上に駄文かと思いますがよろしくお願いします。

2014年11月18日改稿しました


悪魔と堕天使と神

 

 

 

 

イーリス(一誠が付けたグレートレッドの名前)とオーフィスが九喇嘛と一誠と一緒に過ごすようになってからかなりの年月が流れた。

その間に宇宙が出来、(一誠達にとって)そのすぐ後に地球をはじめとする太陽系が出来た。そして一誠達四人は地球に降り立ち、いつも通り修行やじゃれ合い等をしながら暮らしていた。

 

「イッセー、ちょっと」

 

「ん? どうした? 九喇嘛との模擬戦は終わったのか」

 

「ちょっと、変なものがある」

 

「変なもの?」

 

「とにかく来て」

 

訝しみながらもオーフィスの後に付いて行く一誠。

するとそこにはオーフィスと模擬戦をしていたイーリスに九喇嘛までいた。

 

「おお一誠やっと来たか」

 

「どうした? 何かあったか?」

 

「取り敢えずこれを見てくれ」

 

イーリスに言われるままに彼女が指差したところを一誠が見てみると、何もない筈の空間に三〇㎝位の亀裂が出来ていてそこから万華鏡をのぞいたような景色が見えた。

 

「オーフィスとの模擬戦の時に我が手刀をしたらこうなったんだ。最初は我らでも通れるほど大きかった」

 

一誠達が話をしている間にも亀裂は閉じてしまった。

 

「……さっきの亀裂の先に見えたのは恐らく次元の狭間だな」

 

「ああ、あそこか」

 

「知ってるの?」

 

「ああ、確か様々な世界の隙間に存在する無の世界で、そこには何も存在せず、完全なる静寂があるだったか」

 

「ああそれで正解だ」

 

九喇嘛が大昔(三兆年以上前)に一誠に聞いた次元の狭間についての情報を、次元の狭間について何も知らないイーリスとオーフィスに話すと一誠がその情報を肯定した。

 

「取り敢えず入るか? これから悪魔とか天使とかが生まれた時に俺らのこと説明するの面倒だし」

 

一誠の案に

他の三人(匹?)は納得した。

 

「そんじゃ行くぞ」

 

そう言った一誠の前に人一人は余裕で入れるほどの亀裂が出来た。彼はそこに何の躊躇いもなく入っていく。それに続く形で九喇嘛とイーリスとオーフィスも入って行った。

 

 

 

 

 

俺と九喇嘛とイーリスとオーフィスが次元の狭間で暮らし始めてしばらく経った。

最近外では複数の巨大な力を感じるようになった。その内のいくつかは大体固まって動いている。

その正体が気になった一誠は九喇嘛と一緒に探しに行くことにした。

 

「ここら辺か?」

 

「いやもう少し向こうだ」

 

九喇嘛と一緒に紫色の空の場所に着いたが、近くに人影が見えないので九喇嘛に聞いてみるとここからそう遠くない場所を指さしたので其方の方向に歩いて行く。

 

「……着かないぞ」

 

「ふむ、先程から同じところを回らされてるようだな」

 

「てことは結界か」

 

「十中八九そうだろうな」

 

面倒くさいことになった。今後の事を考えるとあまりお互いの関係に溝が出来る事はしたくない。となると残りは——————

 

「話し合いしかないだろうな」

 

「そうだな。だがこちらからの声は届くのか」

 

「届くだろ。そして恐らく今も俺らを監視しているはずだ」

 

「だが結界はいつ掛けられたのだ?」

 

「恐らく俺らが空間を通って来る時に、向こうが俺かお前の力を感知して俺らが出て来る所に結界を張ったってところだろう」

 

「なるほど」

 

九喇嘛も納得してくれたので早速行動に移す。

 

「おーいっ!?」

 

大声を上げてこの結界を張った奴を呼ぼうとしたら、俺達の近くの地面がズパンと音を立てて斬られた。俺達に当てなかったのは威嚇なのだろう。

俺も九喇嘛も見えていたが俺は行き成りきたのと気を抜いていたので情けない声を上げてしまった。

 

「いきなり切りつけて来るとは穏やかじゃないな。どうするんだ一誠」

 

「仕方ない。取りあえずこの結界を壊すか」

 

俺はそう言うと右手を軽く横へ振るう。たったそれだけの動作でガラスが割れる音と共に結界が壊れ、俺と九喇嘛の前に六人のイーリスやオーフィスの人型の時と同じ位の年齢の女性が現れた。

 

『…………』

 

彼女らは俺があれだけの動作で結界を破壊したことに驚きつつも警戒心むき出しの目で俺と九喇嘛を見ている。

 

「……あなた今どうやって私の結界を破壊したの?」

 

ラベンダー色の髪を持つ女性がそう聞いて来たので、そのまま右手を振るって、と言ったらため息を吐きながら詳しく教えてほしいのと言われた。

 

「さっき俺の右手には『幻想殺し(イマジンブレイカー)』っていう異能の力なら何でも破壊してしまう力が宿ってたんだ。それで破壊した」

 

「宿っていたという事は今は無いのかしら」

 

「今はな。いつでも使えるが、あれがあると俺自身も魔力や気を使えなくなるので普段は使っていない」

 

『幻想殺し』の説明をすると驚かれたが、俺はそんなの関係無しに話しかける。

 

「俺の名前は兵頭一誠、そしてこっちは九喇嘛。始めに言っておくが俺達は争いに来たんじゃなくて話し合いに来たんだ」

 

「話し合い? でもおかしいですね、今人間界にはまだ人間はいないと思ったんですけど」

 

「んー、彼の話し聞くだけじゃいいんじゃないかなー?」

 

金髪の女性と六人の中では一番背が低く子供っぽい口調の水色の髪の女性が口を開いた。

 

「レヴィアタンのいう事も一理いある。ところで兵藤と言ったなお前は私達と何を話すつもりだ?」

 

緑色の髪の女性が水色の髪の女性(おそらくレヴィアタンと思われる)の発言に賛成し俺にそう聞いて来た。

しかし俺は彼女達と話す内容を考えてきていない。それに俺がこの世界の正史を見た時は四大魔王と神の五人だけだった筈だ。なのにこいつ等の他にも強い力の波動を感じる。其れだけで俺の脳はパンクしそうだった。

 

「…………ない」

 

「は?」

 

「だから話す内容を考えてなかったんだよ」

 

『………』

 

目の前の女性達はポカンと口を開け、九喇嘛は額に手を当ててため息を吐きながら呆れていた。

 

『アハハハハハッ』

 

女性達の笑い声が冥界の空に響いた。………うぅ、笑わなくてもいいのに……。

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介をしましょう。私は悪魔のルシファー」

 

綺麗な朱色(あかいろ)の髪を持つ物腰の柔らかそうな印象の女性ルシファーを始めとして自己紹介が始まった。

 

「私もルシファーと同じく悪魔のレヴィアタン! よろしくね!」

 

水色の髪のノリの軽そうな印象の女性レヴィアタン。

 

「ルシファーやレヴィアタンと同じ悪魔のベルゼブブだ。先程はろくに話も聞かず無礼を働いてすまない」

 

緑色の髪の腰に刃渡り一m以上の長い刀を持った礼儀正しい印象の女性ベルゼブブ。

 

「私はアスモデウスよ。よろしくね兵藤君」

 

紫色の髪の親しそうな印象の女性アスモデウス。

 

「神のライヴィスです、よろしくお願いします」

 

綺麗な金色の髪の優しそうな印象の女性ライヴィス。

此処までは正史を見た一誠には予想道理だった。しかしこの後に自己紹介をする彼女は一誠にも予想できなかった。つまり彼女は正史に居ない事になる。いや、本当はいたかもしれないがそれ程の重要人物ではなかったのだ。やはりこれも正史とこの世界のズレなのだろう。

 

「俺は堕天使のルシフェル。ルシファーと間違いやすいから注意してくれ」

 

黒よりのグレーの髪を持つ男口調の女性ルシフェル。

 

「俺は人外の兵藤一誠。こっちは俺の家族で九尾の九喇嘛だ」

 

ルシファー達が挨拶した後一誠も自分と九喇嘛を紹介した。

 

「人外? あなたの気配は人間の様な気がするけど?」

 

「うーん? じゃあ」

 

論より証拠ということで証拠を見せる為に一誠は一京分の一のスキル『千変万化(トランスフォーム)』を使い、身体を三分割ずつ天使、堕天使、悪魔に変えてそれぞれの翼を一対ずつ背中から出す。

 

『ッ!?』

 

「これは俺の能力の一つでなったものだ。天使と堕天使と悪魔の気配が俺からするだろう」

 

『……』

 

未だに目の前で起きている事に驚きつつも頷くルシファー達。

 

「……それであなたはこれからどうするの? そして私たちにどうしてほしいの?」

 

何とかショックから立ち直ったルシファーが一誠に問うた。

 

「ただ俺達と敵対しなければそれでいい。何ならこれから出来るであろうお前らの各勢力内のイザコザを俺が解決するのを手伝ってもいい。それに俺個人としてはお前達とは仲良くしたい」

 

最後の方を微笑みながら言う一誠の提案(と要望)にルシファー達は円を囲み何やら話し始めた。

 

「どうしようかしら?」

 

「うーん? どうしよっか☆」

 

「私は別に構わないと思うが」

 

「私もベルゼブブに賛成よ」

 

「ええ、私もです」

 

「あいつ中々の強さみたいだから、俺は一度戦ってみたいのだが」

 

「こらそこ、まじめに考えなさい」

 

ルシファーとライヴィスが真面目に考え、レヴィアタンとベルゼブブとアスモデウスが考えることを丸投げし、ルシフェルが全く別の事を考えているという実質二人しか考えていない作戦会議の様な物が始まった。

 

「結論が出たわ」

 

暫くすると代表してルシファーが一誠と九喇嘛に向かって言った。

 

「私達はあなた達と友好な関係を築きたいと思う」

 

ルシファーの言葉にホッとする一誠だったが続けられた言葉は彼にとっても少々予想外だった。

 

「ただし、私達の内の誰かと模擬戦をしてくれないかしら? 一度あなたの実力を見てみたいのよ」

 

「まあ、別に問題ないが誰がやるんだ?」

 

「私が相手だ」

 

名乗り出たのはベルゼブブだった。

 

「ベルゼブブが一番強いのか?」

 

「そういう訳では無い。私達の実力はドングリの背比べだよ」

 

「そうか。それじゃあ早速やろうか」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

そう言って一誠とベルゼブブはルシファー達と九喇嘛から離れた場所に移動する。

 

「合図は俺がとろう。では」

 

片方の手で鞘を持ちもう片方の手を柄に添えて居合の構えをするベルゼブブ。対し一誠は————

 

「左腕(シニストラー)解放固定(エーミッサ・スタグネット)『千の雷(キーリブル・アストラペー)」

 

「右腕(デクストラー)解放固定(エーミッサ・スタグネット)『千の雷(キーリブル・アストラペー)」

 

左右に付きだした両手の先に雷で出来た球体が発生する。

 

「双腕(ドゥプレクス)掌握(コンプレクシオー)」

 

一誠がそれを握りつぶすと彼の体に変化が起こった。

体中が光りながら帯電し髪の毛も後ろに長く伸びていた。

 

「始め!」

 

一誠の準備が整った瞬間ルシフェルが勢いよく手を振り下ろし模擬戦が始まった。

 

「ハアァァ!」

 

先制はベルゼブブだった。

開始と同時に彼女は素早く抜刀、最初は様子見なのか斬撃は一度だけだった。

二人の距離は例え彼女の刀でも届くわけはないのだが、彼女は斬撃を飛ばすことが出来る為距離は意味がない。

並の者だったらその一撃で勝負が決まってしまうような斬撃だったが、彼女の相手は”人外”兵藤一誠だその程度の斬撃は聞く筈も無かった。

ザンッと一誠の体が左肩から斜めに切り捨てられるが、今の彼は『闇の魔法(マギア・エレベア)』の術式兵装(プロ・アルマティオーネ)の一つ『雷天双壮(タストラパー・ヒューペル・ウーラヌー・メガ・デュナメナー)』の付加能力により雷となっている為物理攻撃は効かない。

 

「雷化か……随分と魔力の扱いがうまいのだな」

 

「まあ、死ぬほど努力したからな。それよりお前の斬撃もすごいな」

 

「お前に褒められると何故嬉しいな」

 

「そうか。……今度はこっちから行くぞ!」

 

その言葉と共に文字通り雷速で接近し容赦なく顔面を狙う。しかしそれは見えない何かによって阻まれた。

 

「……風の障壁か?」

 

「そんな立派なものじゃないさ、私はお前やルシファー達程魔力の扱いがうまくないのでね。これは私の魔力を外に放出しているだけだよ」

 

「お前たちは魔力そのものに属性があるのか?」

 

少し驚いたように言う一誠。

 

「勿論あるさ。ま、簡単には教えないがね」

 

「すまん、分からなかったところがあるから質問いいか」

 

戦闘中なのに呑気にそんなこと言い出す一誠。

 

「今はこの戦いを楽しみたい。これが終わってからにしよう」

 

—————があっさりと却下された。

 

「では今度は本気で行くぞ」

 

その瞬間ベルゼブブの雰囲気が変わった。

 

「ハッ」

 

短い気合の入った声と共に先程とは比べ物にならない程の斬撃が襲ってきた。

一誠は斬撃の雨を掻い潜り先程と同じように殴りかかる。しかしそれではさっきの二の舞になってしまうのは、明白のはずだったしかし現実は違った。

一誠の拳はベルゼブブの風の魔力の障壁を通過した。

 

「グハッ」

 

予想外の事に対応が遅れたベルゼブブは強烈な一撃を貰う。

 

「どうだっ!」

 

「さすが、と言いたいところだが気を抜くのはいただけないな」

 

「ガアァ」

 

背中からいきなり襲った斬撃を一誠は躱すことが出来なかった。否躱す必要が無かったので躱さなかったのだ。

彼は自分の能力を過信している訳では無い。だがベルゼブブ相手に少しの慢心はあったのだろう。雷(おれ)を傷つけられるわけがないという慢心が。

 

 

 

 

そこからの攻防は凄まじかった。上下前後左右あらゆる方向から迫りくる斬撃。それらを潜り抜けても今度は刀事態で迎撃される始末で普通なら回避に専念するだろう。しかし一誠はそれでもなお突っ込んだ。直撃や致命傷になる攻撃は避けているものの、身体には無数の切り傷ができていく。そして攻撃を避けないのはベルゼブブも同じだった。一誠の拳を威力を逃がすなどはするもののそれ自体を避けようとはしなかった。正にガチンコの対決だ。

 

「ハアァァァ」

 

「ウオォォォ」

 

雷の拳と風を纏った刀がぶつかり合い衝撃波が発生する。

二人の戦いを見ていた者たちは思わず顔を背ける。そして改めて二人の方を見てみると—————

 

「……中々いい勝負だったよ。私の負けだ」

 

「こちらこそ、いい経験になった」

 

ベルゼブブの顔の前で拳を寸止めしている一誠がいた。

その後一誠は自分とベルゼブブの傷を『大噓吐き(オールフィクション)』でなかったことにした。

落ち着いたところで、一誠h自分や九喇嘛やオーフィスそれにイーリスの事をルシファー達に話した。それに応える様にルシファー達も自分たちの事を話した。何でも彼女達にはまだ数人の仲間がいるらしい。

それでその後なんやかんや合ったあり、一誠達はその残りの三人の所に行きそいつ等とも仲良くなった。



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一誠の家族(もどき)

遅くなりました。
待っている人は少ないかもしれませんが投稿します。


 

俺と九喇嘛がルシファー達九人に会ってから随分と時間が流れた。

その間に天使、堕天使、悪魔ともに人数を増やしていき、それぞれ三大勢力と呼ばれるほどに人数が増えた。

そして俺は天界陣営に幻の五人目の熾天使(セラフ)として幹部的立場に、堕天使陣営に神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部の立場に、悪魔陣営に第零柱兵藤家当主という立場にそれぞれ就いている。これはルシファー達からそれぞれの陣営を組織化させるときに、『幹部的立ち位置に居た方が色々と都合がいいでしょ』と言われ『他勢力との争いの時は手出しをしない』という条件で引き打受けた為である。ついでに言うと、兵藤家の魔界での領地は後の日本と同じか少し大きい位で、魔界にあるドラゴンアップルは全部俺の領地内にあった。それに緑豊かでキャンプとかも楽しめそうだった。

そして俺達の家族も増えた、と言うより俺達の家に入り浸ってほぼ家族同然となっている奴らがいる。

 

「一誠、お風呂の掃除終わったわよ」

 

「おう、サンキュー」

 

今俺に話しかけて来たのが、元天使で現堕天使のレイナーレ。彼女は天使を生む『神のシステム』の不備なのか、同時期に生まれた他の天使より能力が高かった(因みに『神のシステム』はライヴィスに頼まれて俺と彼女で創った)。その為、イジメ程ひどくは無いにしろその手のものをずっと受けていた。そして精神的に結構きていた時に、偶々天界に来ていた俺が見つけて相談に乗ったりしている内に仲良くなった、という訳だ。その後ちょっとして彼女が堕天したが、変わらずに接し俺の事も少し話すと前以上に懐かれて俺の家(次元の狭間の方)にまで良く来るようになったという訳だ。まあ、来た時には掃除や料理などといった家事を手伝ってくれるのでこちらとしても助かっている(もちろん家の場所は秘密にしてもらっている)。

流石に一人で豪邸ともいえる家の家事をするのは疲れるからな。イーリスとオーフィスと九喇嘛は全然手伝わないし。

 

「こちらも各部屋以外の掃除が終わりました」

 

次に現れたのは、番外の悪魔(エキストラ・デーモン)という七十二柱に含まれない上級悪魔の家の一つである、ルキフグス家の長女のグレイフィアだ。

彼女とは以前、彼女がガラの悪い悪魔にナンパされていて困っている所を俺が助けたのが最初の出会いだった。それからは、俺が偶に気まぐれで行く社交界の場でも何度か会うようになり、話をしていくうちに仲が良くなった。そして彼女もそれ以来は良く家に来るようになった。

最初の頃はレイナーレと衝突していた時期もあったが、ある日を境に今では料理を教え合うほどに仲良くなっている。そのある日に何があったかは俺が聞いても教えてくれなかったが……。

 

「二人ともお疲れ。早速で悪いんだがこれからお昼を作るから二人とも手伝ってくれないか? 家には大食いが多いから、一人で全部しようとすると大変なんだ」

 

「いいわよ。最近また料理の腕が上がったし」

 

「私も大丈夫です」

 

「そんじゃあ頼むわ」

 

そして俺は二人を伴ってキッチンへと行く。

 

「……お前は何をやっているんだ」

 

俺達がキッチンに入るとそこには先客がいた。

 

「? 私はご主人様の為にお昼を作ってるだけですけど?」

 

「私はそれの手伝いをしているだけです」

 

返事をしたのは何やら調理をしていた二人の九尾の女性。まず、露出多めの和装の様な衣服を着た女性は、名を玉藻の前を言い天照大神の一側面らしい。彼女とは後に日本になる所を散歩していた時に出会った。その時玉藻が困っていたので助けたら懐かれ、今は俺の家族になっている。

次に古代道教の法師が着ているような服で、ゆったりとした長袖ロングスカートの服に青い前掛けのような服を被せている女性は藍。彼女はこの世界の住人じゃない。次元の狭間で意識を失って彷徨っているとこを見つけた俺が保護し、行く当てもないとのことで家族になった。因みに藍という名前は俺が付けた、というより彼女が元居たであろう世界での彼女の名前を俺が改めて付けただけだ。話を聞く限り彼女は、元の世界では八雲紫という”本来の”主人に会う前にこっちに来たらしく、特にこれといった名前は無かった。最初は「八雲」という苗字も付けようか迷ったが、何となくやめた。

 

「いや、お前らに言ってない。寧ろお前らには(家事をしてくれて)感謝している、ありがとう」

 

そう言いつつ二人の頭を撫でてやると、目を細めて嬉しそうに微笑んだ。そして俺はその表情に不覚にもドギマギしてしまった。そして後ろから感じるジト目の視線が痛いし。だが俺はそれらを悟られないように(実際は悟られてるかもしれないが)何時もの表情で、冷蔵庫を開けて中を漁っている不届き者に声を掛ける。

 

「お前らもうすぐ昼飯が出来んだからそれまで待て」

 

俺がそう言うと冷蔵庫の中を漁っていた男性一人に女性三人の計四人は漁るのをやめて此方を向いた。

 

「ちょっと位いいじゃねぇか、ケチケチすんなよなぁ」

 

真っ先に俺に食って掛かったのは全身青タイツの男———ランサーだ。彼の本名はクー・フーリン、言わずと知れたケルトの大英雄だ。

彼の藍と同じ経緯でここに来た。彼がいた本来の世界(Fate/stay night)と違う事があるとすれば、彼がちゃんと自分の肉体を持っている事と、誓約(ゲッシュ)に縛られていないという事だろう。前者は此処に来た時からすでにそうなっていたので原因は分からない。後者は、ただ単に誓約(ゲッシュ)で縛られてるのが可哀想だからなかったこと(・・・・・・)にしただけだ。

 

「全く、これ位の事は見逃してくれても良くないですか」

 

「い、いや、私は皆を止めようとしただけだからな。決して摘み食いをしようとした訳じゃないからな。信じてくれ一誠」

 

クーの次に口を開いたのは腰に蒼い帯を巻き、蒼髪を六つの巻き髪にしている女性はラハム。

慌てて弁解しだしたのはオーフィスより短い黒髪セミロングの女性———クエレブレ。

彼女らは人間ではない。彼女らの本当の姿は『赤龍帝』ドライグや『白龍皇』アルビオンと同じ大きさの西洋龍だ。

ラハムは蒼い龍で『蒼龍帝』、クエレブレは黒い龍で『黒龍皇』と呼ばれている。この二つ名の由来は彼女達がそれぞれドライグやアルビオンと一緒に居る事が多かったからだ。そしてラハム、クエレブレ、ドライグ、アルビオンを総称して『四天龍』と呼ばれている。これには俺も驚いた。多少本来の世界と変わっているとは思っていたが、まさか『二天龍』が『四天龍』になているとは流石の俺も予想外だった。

 

「レブレ(クエレブレの事)信じてほしいならまずその口の周りに付いたものを何とかしろ。そしてラハ(ラハムの事)、以前見逃しまくったら食糧難に陥っただろ。だからもう見逃さん」

 

そう、以前こいつ等やオーフィスの摘み食いを見逃していたら食糧難に陥ったことがあるのだ。だからそれ以来摘み食いは見逃さないようにしている。こいつらはそれを掻い潜って摘み食いをしに来るが……。

 

「……それでお前はいつまで食っている」

 

あの後すぐに冷蔵庫の中を漁り始めたもう一人の女性に声を掛ける。

 

「別にこれと言って特に理由は無いぞ。ただこれ(摘み食い)をすると一誠が構ってくれると言われたからやっただけだ」

 

白銀の髪を惜しげもなく晒し、堂々とした態度で答えたのは六大龍王の一匹、「天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)」ティアマット通称ティア。

彼女だけは摘み食いをしているのは珍しかった。まあ、先の理由で納得はしたが。

彼女は普段は俺と一緒に居ることが多い。主な理由は俺に構ってほしいかららしい。そんな彼女なら先程の事を聞いたら確かに摘み食いをするだろう。

 

「別に構ってるわけじゃないからな。これを使ってお仕置きをしているだけだ」

 

そう言って『王の財宝』から例のハリセン取り出しティアに見せつける。すると、彼女だけでなくそれを見た他のメンバーもかすかに震えだした。まあ、当然と言えば当然だ。このハリセンは俺が俺と親しい奴らが暴走した時や人の話を聞かなくなった時に良く止める為に使っていた。なので俺と親しい奴はこのハリセンの威力を知っている(ついでに怖さも)。

 

「これいつまで戯れておる。妾はいい加減腹が減ったぞ」

 

とここで台所に新たな人物が顔を出した。

彼女の名を”羽衣狐”といい、藍やクーと同じ経緯でここに来た人物で我が家の四人目(四匹目?)の九尾だ。しかし藍や玉藻と違い家事は出来ない上に普段は読書などをして暇をつぶしている暇人だ。だが、九尾というだけあって戦闘力は高い。

 

「ああ悪い悪い。今から行くから他の奴らも呼んできてくれないか」

 

「他の者はもう揃っておる。後はお主らだけじゃぞ、早く来るがよい」

 

羽衣に急かされて俺達は慌てて台所を出た。そして先程俺がいたリビングとは別の場所に向かう。

この家には食事をするところが洋式のリビングと和式の居間の二つある。が、リビングの方は駄弁ったりする空間になってきているので、所釘を取る時はもっぱら今の方でとる。

そして居間の襖の前に付いて襖を開けた俺はその場で少々固まって唖然としてしまった。その理由は今に居た人物にある。

居間のテレビ(MADEIN一誠)を使ってテレビゲームで対戦をしている、赤髪で怖そうな雰囲気の中に僅かに優しそうな雰囲気が混じっている男と白髪で紳士な雰囲気の男————赤龍帝ドライグと白龍皇アルビオンの人間バージョン—————の事ではない。寧ろこの二人のこれは平常運転なので気にしない。

俺が唖然としたのは朱(あか)、水色、緑、紫、金、黒よりのグレーの髪を持った六人の女性達———ルシファー、レヴィアタン、ベルゼブブ、アスモデウス、ライヴィス、ルシフェル————が原因だった。別に以前なら彼女達が此処に居ても騒ぎはしなかった。だが今はその時とは状況が違う。家によく来るグレイフィアとレイナーレが仲がいいので偶に忘れかけるが、天界陣営と堕天使陣営と悪魔陣営は元々仲が悪い。そして最近は小規模ながら各勢力同士でよく小競り合いが起こっている。近いうちに三大勢力で戦争が起きるのでは?とまで言われている。そしてそれぞれの勢力のトップである彼女達も勿論それに対する事で手が離せない筈だ。なのに何故かここに居たので唖然としてしまったわけだ。

 

「お前らはなんでここに居る? それぞれの陣営は大丈夫なのか?」

 

「ええもちろん大丈夫よ。いくら一触即発の状態でも流石に昼食を食べる位の時間はあるわ」

 

アスモデウスにそう言われるが、組織のトップに立ったことが無い俺としては良く分からなかったが、彼女達と一緒に昼食を取るのは嬉しかったので、曖昧に返しておく。

 

「へえ今日は素麺なんだ。僕としてはざる面の方が好きだけど、素麺もおいしくて良いよね」

 

今喋った黄色い肩位までの髪にバランスのとれたプロポーションのボクっ子は、九十九(つくも)。彼女もこの世界の住人ではなく、別な世界から来た人物だ。彼女は”精霊”といった種族で、その中でも彼女は光を司る精霊だ。

……最近思うが、次元の狭間には別な世界の奴らが迷う込み過ぎだと思う。そして家に来る奴等は髪の色がカラフルすぎると思う。黄色、緑、朱、紫、黒よりのグレー、水色、金、銀、青っていくらなんでもカラフルすぎると思う。え、俺? 俺は正史とは違うけど黒っていうオーソドックスなものだよ。

 

「そう言えばあいつらは?」

 

「あの三人なら暫く来ないそうです。それと一誠によろしくとも言ってました」

 

実は俺の家族(もどき)は後二人いる。だがライヴィス曰くその三人は暫く来ないらしい。

 

「まあいいか。あいつ等なら滅多な事じゃ死なないしな」

 

「それよりも一誠、妾は腹が減ったぞ」

 

俺の独り言を無視して羽衣が言ってきた。

 

「それもそうだな」

 

俺はみんなが席についている事を確認するといただきますの音頭を取った。

 

「せーの」

 

『いただきます』

 

全員で声をそろえてそう言い昼食を食べ始めた。

皆で愚痴や冗談を言い合いながら食べる飯は大変おいしかった。

そしてその中で俺は、もうすぐ始まるであろう三大勢力間での三つ巴の戦争について考えを巡らせていた。




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戦争

最近、最新話のアイディアより新しい作品のアイディアばっか浮かぶ隆斗です。具体的に言うと、D×DのイッセーTSだったり、Fateの奴だったりです。
今回は三勢力間での戦争の話になります。ちょっと短い気もしますが暑さに負けず頑張りました。


 

全員(一部欠員あり)で昼食を食べた日から二週間後、ついに三大勢力間での戦争が始まった。そして今はそれから幾年か経ち、戦争も激しさを増してきたところだった。

そしてそれを一誠は次元の狭間にある家で見ていた。

 

「随分長くやってるんだな」

 

一誠がソファで寛ぎながら戦争の様子を見ていると、彼の後ろにはいつの間にか紫色の髪をした細身だが筋肉質のやや大柄な男が立っていた。

 

「ああ。だが戦いが長続きしたせいでどの勢力も疲弊しているのが目に見えて分かるようになってきた。そろそろ潮時だろうが後は………」

 

一誠はそこで顎に手を当ててなにやら考え始めた。

 

「後は……なんだ?」

 

「いや、この戦争をやめる”理由”もしくは”きっかけ”が必要だろうな、と思ってな」

 

「確かに、それは必要だろうな」

 

男———六大龍王の一角”魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)”タイニーンの人間の姿———自体一誠が考えるまでもなくそう思っていた。

何も彼らは根拠も無しにこんな事を言っているのではない。彼らは今まで第三者の立場から見て来た各勢力の事を分析した結果そう言ったのだ。

 

「ところでお前以外の龍王はどうした? ガルズ(”終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)”ミドガルズオルムの事)は部屋で寝てるとして他の奴らは何処に行ったんだ」

 

「ファーブニルはいつも通り秘宝集めをしている。玉龍(ウーロン)は部屋でのんびりとしていて、ヴリトラは他の奴らと一緒に外(次元の狭間の事)で模擬戦をしている。俺もさっきまではしてたんだが疲れたから戻って来たんだ」

 

「ああ~」

 

一誠は容易にその光景が想像できたので特に疑うことなく納得した。

 

「それでこの戦争をどうやって止めるんだ? このまま行くとお前の領地にあるドラゴンアップルが無くなるんじゃなか?」

 

「俺の領土自体の心配をしないのはお前らしいと言っちゃらしいが、少しは俺の住む場所を心配してくれてもいいんじゃないか?」

 

「気が向いたらな」

 

そう言ってタイニーンは部屋を出ていった。

一誠はまた一人でボーっとしながら戦争の状況をだらけた格好で見ている。

 

 

 

 

 

それから数日後の事、一誠はリビングに九喇嘛、羽衣狐、玉藻、藍、イーリス、オーフィス、六大龍王、四天龍を集めた。因みにここに居ないメンバーはそれぞれの用事やらなにやらでいない。

 

「ついさっき、三勢力それぞれのトップたちから連絡があった」

 

ため息を吐きながら疲れたように言う一誠に、ここに集まったメンバー全員がこれから起こるのは面倒事だと悟った。

 

「連絡内容はどれも同じで、『この戦争を終わらせてほしい』だった」

 

『………』

 

その場に居た者たちは開いた口が塞がらなかった。

 

仮にも一勢力のトップが下の者を制御できないとは云々かんぬん、とか。

だったら最初っから戦争なんか起こすなよ、とか。

 

それぞれ言いたいことが山ほどありそうな顔だった。

一応弁明をさせてもらうならば、彼女達トップにも色々と奮闘はした。したが結局こうなってしまったという事だ。

 

「お前たちの言いたいことは良く分かる。正直俺も面倒くさいが、十年来どころじゃない程の友人からの頼みだ、無下に断るわけにもいかんし、非公式ながら依頼(・・)としてきている。俺はこの依頼を受けるつもりだが、お前らはどうする? 言っておくがこれは強制じゃない。家でのんびりとして居たいならそれでいい」

 

「俺達も協力するのは吝かじゃあないが、具体的にはどうするんだ? まさかお前が各勢力を回って説得をする、とかいうんじゃないだろうな」

 

集まったメンバーの中で初めに口を開いたのは、やはりというか九喇嘛だった。こういう時付き合いの長い者同士は遠慮が無い。

 

「いや、至極簡単な事だ。三勢力共通の敵を作ればいい」

 

ああ、なるほど、と全員が頷く。そしてさらに一誠の説明は続く。

 

「俺の作戦としては、ドライグとアルビオンの二人が、今丁度各勢力がひと固まりとなってぶつかり合っている所に乱入する。ただし乱入はあくまでお前ら二人が周りを顧みずに喧嘩しているって感じだ。そして俺が予めルシファー達にこの作戦を言っておく。そして彼女達があたかも『非常事態だから手を組まざるを得なくなった』って感じでで手を組んで三勢力総出でお前達二人と衝突する。これで終わりだ」

 

一誠のいう作戦はそれ程悪くは無い。確かに衝突している敵Aとの共通の敵Bを作れば、敵Aとの衝突は無くなる。ただそれはあくまで敵Bを倒すまでの話で、倒した後は元通り敵Aとの衝突が始まる。これじゃあ問題の先延ばしにしかならない。

それを九喇嘛達も気が付いたのか、一誠に「その後はどうするのか?」と問いかけた。

 

「普通ならそうだが、もし仮に(・・・・)その戦いで各勢力のトップが死んだら下の奴らは戦争をやる気も失せるだろ。ちょうど今はどの勢力も種族の絶対数が減って来てるしな」

 

一誠の言葉に一同は絶句した。何せ彼は今、三勢力の各トップを殺すといったのだ。一誠と親しいルシファー達を殺すと。彼らが絶句している理由に気が付いた一誠は落ち着いた雰囲気でこう言った。

 

「いや、殺すって言っても世間的にだから。あいつらを実際に殺すわけないだろ」

 

彼は今度はドライグとアルビオンの方を向いた。

 

「詳しい事は後で話すが、お前達には神器(セクリット・ギア)に封印されてもらう」

 

「何だとっ!? そこまでとは聞いてないぞ。だったら俺は下りさせてもらう」

 

「ドライグに私も賛成だ。やられ役ぐらいならば今までの借りを返すという意味で引き受けても良かったが、神器に封印されるというならば話は別だ」

 

ドライグとアルビオンは言い放った。まあ、当然といえば当然だろう。誰も好き好んで自ら神器に封印されたいモノなどいない。

 

「封印されるって言っても一時期だけだ。恐らく百年もないだろう。短い神器ライフだと思って、な?」

 

「……本当に一時期だけか」

 

確認するようにアルビオンが言う。

 

「ああ、本当だ。俺はこう言った事では嘘はつかない」

 

『………』

 

即答した一誠を見て、二人は肩を組んでヒソヒソ声で相談し始めた。その行為を誰も止めはしない。それほど重要な事だ、これは。

やがて考えがまとまったのか二人は肩を組むのをやめた。

 

「分かった。お前に力を貸そう」

 

「おう、ありが」

 

「ただし、封印が解けた暁にはお前の手料理をたらふく食わせてもらうぞ」

 

一誠の感謝の言葉を遮って出された条件に一誠は、

 

「おう、任せとけ」

 

笑顔で頷いた。

 

 

その後、一誠は二人には合図を出すまで待機しててくれと言い、その他の者には作戦の邪魔をしない程度に自由行動と言い含めて、ルシファー達に連絡をする為に部屋を出た。

 

 

〰〰〰戦場〰〰〰

 

 

冥界の何処かにある荒野に各勢力の全戦力が等間隔に正三角形を作りながら睨み合っていた。正に一触即発の状態だ。

遠くでゴロゴロと雷が鳴っている。そして再度雷がなった時、全軍が一斉に雄叫びを上げながら進軍を開始した。

 

『オオォォォォ!』

 

轟く雄叫びが空気を震わせる。そしてそれぞれが衝突しようとしたその時、上空から二つの咆哮が聞こえた。

 

 

 

 

 

『今だ、作戦開始』

 

一誠からの通信を受けた俺とアルビオンは同時に吼えた。そして久しぶりの、生身での奴との戦いに心躍りながら俺とアルビオンは戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

突然の咆哮に程全ての天使、堕天使、悪魔が上空を見上げる。するとそこには、突如現れた四天龍の内の二匹である”赤龍帝”ドライグと”白龍皇”アルビオンが壮絶な喧嘩をしていた。

しかし、彼らはそれが自分たちに影響がないと分かるとすぐさま戦闘を開始しようとした。だが上空から狙ったように(実際狙っているのだが)飛来する天龍のブレスに、それどころではなくなってしまった。

仕方ないので各勢力は、一旦停戦しあの二匹をどうするかで天界からは神のライヴィスと天使長のミカエルが、堕天使からは総督のルシフェルと副総督のアザゼルが、悪魔からは魔王四人が集まり会議を開いた。

 

「え~、それではあの天龍(バカ)達に対する対策会議を始める。何か意見のある奴はどんどん言ってくれ」

 

ルシフェルの司会で会議はスタートした。

最初に口を開いたのはライヴィスだった。

 

「神器に封印すればいいんじゃないでしょうか」

 

「でも封印するにしてもある程度は弱らせなきゃいけないんでしょう? あの天龍(バカ)達は弱らせるまでが大変じゃない」

 

「だよね~、彼ら無茶苦茶強いし~」

 

「それに封印の陣を書くまでにも時間が掛かるぞ」

 

ルシファー、レヴァイアタン、ベルゼブブと次々に意見が出て来る。

 

「だったら私達魔王四人と、ライヴィスとルシフェルの六人であの二匹を抑えている間に、他の者たちで封印の陣を作ればいいのよ」

 

アスモデウスの意見にトップたちはああなるほど、といった感じで納得していたが、ミカエルがこれに反対した。

 

「そんなのダメです! いくらライヴィス様が神であなた達が魔王や堕天使総督でも六人じゃ無茶です」

 

「ミカエルの意見には俺も賛成だ。それだと最悪の場合、陣も完成せずにお前ら全員がやられてまう上に、あいつらも全然弱ってないって状況が出来る可能性がある」

 

「じゃあ、どうするんだ? 他にいい方法があるのか?」

 

ベルゼブブの問いかけに、アザゼルは何当たり前の事言ってんだ、って顔で答えた。

 

「一誠が居るだろう。あいつは噂では真龍と龍神並だって話だ。陣を作る間あの二匹を抑えること位は出来るだろう」

 

ミカエルも今一誠の存在を思い出したのか、アザゼルの意見に賛成した。

 

「それはできません」

 

「何でですかライヴィス様!」

 

「私も最初にそれを思いついたのでこの会議の前に一誠に閃絡したのですが、彼は今その真龍と龍神の喧嘩の仲裁をしている最中なので手が離せないそうです」

 

何とも間の悪すぎる事に、ミカエルとアザゼルは絶句した。しかしこれは嘘だ。これは一誠がこういう状況になるのを見越して、こういう風に言っとけ、とライヴィスに言っておいたのを彼女がそのまま言ったのである。現在一誠は、家(次元の狭間にある奴)でこの状況を噂の真龍と龍神と一緒に見ている。

 

「じゃあ俺達六人と天使、堕天使、悪魔からそれぞれ腕利きの奴らを何人か集めてあいつらを足止めする。そして封印の陣を書いた者たちは書き終わったらすぐさま巻き込まれない様にここを離脱するってことでいいな」

 

ルシフェルが具体的根作戦を言うとミカエルとアザゼルも渋々ながらそれに賛成した。こうして会議はお開きになった。

 

そしてその三十分後、三勢力対天龍の戦闘が始まった。

 

 

 

結果だけ言うと、作戦は成功した。いや、成功しなければおかしい出来レースなのだが、とにかく成功した。だが天龍の二匹が陣の中に入っても抵抗した。そしてそれを抑える為にトップの六人が、他の者たちを逃がしてそこに残り天龍達と対峙して封印した。しかし、各勢力の者たちが戻ってみると、そこにはトップたちの死体すらなかったので行方不明、実質死亡という事に世間ではなった。勿論トップが居なくなったので戦争は停戦だ。

 

大量の死者を天使、堕天使、悪魔問わずに出し、各勢力のトップも死亡してこの戦争は幕を閉じた事になった。




最後の方は疲れたので手抜きです。
次話からの予定は、五、六話挟んだ後に原作に入ります。


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旧魔王派VS新魔王派

最近、バカテスよりこっちのアイディアの方が思いつく隆斗です。
今回は原作では描写されていない旧魔王派と新魔王派の政権争いの内戦です。ちょっと所々表現が変な所があると思います。そういったところは遠慮なくご指摘ください。


 

 

 

 

 

あの戦争から少しすると、どの勢力も内部事情に追われて忙しくなった。その一つに新しいトップの事があるが、天界と堕天使の所はミカエルとアザゼルをそれぞれトップにすることでそれほど問題なく終わっており、今その二つの勢力は新たに出来たリーダーを中心にして組織の立て直しをしているらしい(堕天使の方は幹部以上の者(例外は除く)が、全力で趣味に走った為難航しているようだが)。

そして悪魔たちはと言うと、

 

「一誠殿、どうか我々のグループについては下さらぬか」

 

今俺の目の前のソファーに座っているのは、カテレア・レヴィアタンとシャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスの三人だ。

さっき突然来たと思ったら、行き成り旧魔王派に就いてくれないかと言われて、勧誘を受けている。まあ、カテレアは乗り気じゃないのかずっと黙ってるけどな。

 

「……とりあえず理由を聞こうか」

 

「理由などいらないはずです。あなたは今は亡き魔王様方と懇意にしていたのですから」

 

(今も仲は良いけどな)

 

こいつらもやはりルシファー達が生きているのを知らない。いや、知られたら色々面倒な事になるんだけど。

 

「それは理由じゃないだろ。俺が懇意にしていたのはあくまでルシファー達個人であって、お前達じゃない。それにお前達は別にあいつらと血が繋がっている訳じゃ無いだろ」

 

そう、こいつらは実はルシファー達と血が繋がっていない。今世間でルシファーやレヴァイアタンの名を名乗っている悪魔たちは、彼女達と血が繋がっている訳じゃ無く、彼女達と義姉妹(きょうだい)の儀を交わして名乗っているだけだ。誰かと結婚して子供を産んだ方が面倒も無くてラクな筈なんだが、なぜか彼女達はそうした。ちなみに彼女達にこの事を聞いたところ、無言で抓られた。……俺何かしたか?

そしてカテレア達はちょうどその儀を交わした悪魔たちの次の世代———つまり息子娘達に当たる。

 

「ですが、私達の親(母親の方)はルシファー様たちを儀を交わし、正式な義姉妹となりました。それはあなたも知っていましょう。ですから例え血が繋がっていなくとも私達には名乗る資格があるのです」

 

……まあ、言ってる事は間違っていない。だが俺はこいつらに協力する気は無かった。カテレアはボーっとしてるから良く分からないが、シャルバとクルゼレイからは我欲しか感じられないし、こいつ等は上級悪魔じゃないからと言って見下すことが多い。そんな奴らが人の上に立つのにふさわしいとは俺は思わない。

それに今上層部の辺りで、チェスの駒を使って他種族を悪魔に転生させて悪魔の数を増やそう、って話がちらほら上がっている。この二人はそいつ等も見下すか、その案自体を却下するだろう。そうすれば悪魔に未来はない……とは言いすぎにしてもこの先厳しくはなるだろう。

まあ、つまりだ何が言いたいのかと言うと、こいつらには本来の歴史と同じように引いてもらった方がいいってことだ。

 

「つーか、さっきから疑問に思ってたんだが……何のグループだ?」

 

「そ、そこからですか……」

 

今更な質問をしたせいで呆れられた。しかもさっきまでボーっとしてたカテレアにも。

 

シャルバの話によると、先日この三人(カテレアは渋々)は上層部の悪魔たちを、首都ルシフォードにある国会議事堂みたいなところに呼び出し、「今後の魔王は誰がするのか」って聞きに行ったらしい。そしてその時の上層部の悪魔たちの返答が「他の悪魔たちからも人望厚く、魔王としても遜色無い戦闘力を持っている、サーゼクス・グレモリー、セラフォルー・シトリー、アジュカ・アスタロト、ファルビウム・グラシャラボラスの四人を魔王にする」といったものだった。

自分たちが次の魔王になるものだと疑っていなかったクルゼレイとシャルバは、当然これにもう抗議した。だが上層部たちも自分たちの意見を変えたりはせず、話し合いは平行線へ。結果、旧魔王派と新魔王派に分かれて対決をすることになった、という訳らしい。

取り敢えず俺は思った事を言う。

 

「……なあ、面倒くさそうだからどっちにも入らなくていい?」

 

「良い訳無いでしょう!」

 

……怒鳴られた。

いや、旧魔王派(お前ら)の中に居る穏健派(シャルバ達は過激派)も今回の内戦には参加しないっぽいんだけど……。

 

「あなたはルシファー様たちと懇意にしておられたお方でしょう。だったら此方側に就くのが」

 

「分かった。分かったよ」

 

諄くなりそうだったので、シャルバの発言を遮って声を上げた。

 

「その内戦は明後日なんだろ。だったらそん時までに俺がどうするか決めとくから、今日はもう帰れ」

 

俺がそう言うと渋々といった感じでシャルバ達は腰を上げた。

 

「あ、カテレアは残れ。個人的に話したいことがある」

 

俺がそう言うと、シャルバとクルゼレイは特に怪しむ様子もなくさっさと部屋を後にし、カテレアはその場にまた座り直した。

 

「何でしょうか? まさか私の体が目当て何ですか?」

 

「お前が俺の事をどう思ってるか小一時間問いただしたいが、今はそれは後だ。そして俺の要件はそれじゃねぇ」

 

いや、確かにカテレアは美人だよ。でも恋仲とかそういった関係ににまでとなると……って話が逸れたな。

 

「じゃあ何でしょうか? 私も早く帰りたいのですけど」

 

「すぐ終わる」

 

俺はそう前置きして本題に入る。

 

「お前、穏健派だろ」

 

「……」

 

「沈黙は是なりだぞ」

 

「ええ、確かに私はシャルバやクルゼレイと違って穏健派ですけど……それが何か?」

 

「お前は自分が魔王になって政治をする気が無い」

 

「はい」

 

「今回の内戦もお前は乗り気じゃなく、出来る事なら参加したくない」

 

「はい」

 

「過激派には、出来れば非協力的でいたい」

 

「ええ、そうですけど……あの、本当に何が目的なんですか?」

 

俺の質問に困惑した表情ながらもちゃんと答えるカテレア。

 

「お前こっち側のスパイにならないか?」

 

「……報酬は?」

 

「お前の今後の生活についてよほどの問題が無い限り、政府は口を出さない。

 魔王とまではいかないが、お前に程々の政治的立場をやる。この二つの事を上層部とサーゼクス達に掛け合ってやる」

 

「………」

 

俺の出した条件にカテレアは思案顔で黙り込んだ。

 

「……もう一つ条件があります」

 

「叶えられる奴だったら叶えよう」

 

「何故私にこの話をしたのか、正直に答えて下さい」

 

その言葉は俺にとってとても意外だった。

悪魔は我欲が強い。だから彼女も何かしら自分のメリットになる様な事を頼んで来ると思っていた……ってこれは、悪魔に対する偏見か。

まあ、何にせよ俺にとってはこれを聞かれても何も失うものはないし正直に答える。

 

「一つ目は、お前が穏健派であった事。流石に過激派にこの話はできないからな。

 二つ目は、お前がある程度の地位を築いている事。地位を持ってない奴にこの話をしてもあまりいい情報は集まんないからな。以上の二つだ。納得してもらえたか?」

 

「ええ、納得しました。一応ですが」

 

「そうか。じゃあこの話は終わりだ。帰っていいぞ」

 

「では、失礼します」

 

そう言ってカテレアは立ち上がり出口の方へと歩いて行く。

俺はその背中に言い忘れていたことを言う。

 

「さっきの話は上層部とサーゼクス達にも言っといて、お前の安全は確保しておくから、お前は思う存分にやれ」

 

俺の言葉にカテレアは振り返ることなく、片手をあげて手を振って返事をした。

 

 

 

 

 

〰〰〰〰内戦当日〰〰〰〰

 

 

 

 

 

内戦当日、俺は新魔王派達の本拠地に向かっていた。

内戦と言ってはいるが、ただだだっ広い荒野を挟んで左右に本拠地を陣取っているだけである。正直この状況だと戦略的なものが絡んでくる戦争よりも、単純な決闘の方が意味合いが強う気がする。

因みに、そんな事を呑気に考えている俺は今絶賛遅刻中である。起きた時間が開戦時刻とか……遅刻しか道は残ってないような気がする。ついでに言うと俺は一人で来ていた。あいつら連れて行くと色々と面倒だからな。

 

「すまん、遅れた」

 

遅刻の謝罪をしながら本拠地に入ると、中に居た上層部の悪魔たちとサーゼクスが一斉に此方を向いた。

 

「おお、来てくれたか兵藤殿」

 

「ああ、まあな。それよりお前らシャルバ達になんて言ったんだよ。あいつメッチャイラついてたぞ」

 

声を掛けて来た上層部の悪魔にから返事をしながらも気になっていたことを聞く。

 

「い、いや我々はただ「新しい血を魔王にして心機一転しましょう」的な意味で言っただけですぞ」

 

「へぇ~。で、言った言葉は?」

 

「……ふ、古臭い魔王の血より新たな血を魔王にした方が今後の為になる、と言いました」

 

俯いていて小さな声だったが、発音はハッキリしていたのでちゃんと聞こえた。

それにしても………

 

「言い方ってもんがあるだろうが」

 

『うっ』

 

俺がそう言うと上層部の奴らは気まずそうに顔を背けた。え? サーゼクス? 俺と上層部たちとのやり取り見て苦笑してるよ。

 

「一誠さん、虐めるのはそれ位にして前線に行きませんか?」

 

「そうだな、そうするか」

 

サーゼクスが止めに来たので俺はそれに大人しく従う。

 

「それより一応聞くが、首謀者は誰なんだ?」

 

クルゼレイかシャルバだと思っていた俺は、本当に確認としてそう聞いた。しかしサーゼクスから来た答えは予想外のものだった。

 

「それが分からないんです」

 

「分からない? クルゼレイかシャルバのどちらかじゃないのか?」

 

「ええ、私達もそう思ったんですがその二人は向こうの本拠地にも、そして戦場にも姿を現していないんです」

 

「じゃあ首謀者もしくはリーダー格を見つけながら蹴散らしてくってわけか」

 

「ええ、そうなります」

 

俺とサーゼクスはそれを確認すると、戦場へ向かう為に扉の方に向かって歩き出した。だが、俺達が扉の方を向いた瞬間に、扉が勢いよく開け放たれて一人の悪魔が部屋に駆け込んできた。

 

「どうかしたのか?」

 

「報告します」

 

上層部の悪魔の一人が聞くと、その悪魔はそう前置きして喋りだした。

 

「敵の首謀者もしくはリーダー格と思わしき者達を捕らえました」

 

「おお、そうか! してその者達は誰だ」

 

「ルキフグス家の長女と次女です」

 

それに上層部の奴らはおお! とワンパターンなはしゃぎ方をするが、俺はその報告を聞いて訝しんだ。だってさっきの報告は、ルキフグス家の長女———つまりグレイフィアが捕まったという事である。あいつがこんなくだらない事に参加するとは思えないし、グレイフィアが家に来た時にちょくちょく彼女を(九喇嘛達と一緒に)鍛えていたので、余程のことが無い限り彼女が負けるとも思えなかった………まあ、妹も一緒に捕まったらしいからその妹を人質にでも取られたのだろうけど。

 

「なあ、俺に捕虜に関する全権利をくれないか?」

 

「む。い、いやしかしですな……いくら一誠殿の頼みでも……」

 

「じゃあ、俺あっちの陣営の方に行こうっかなー」

 

「分かった! 分かったから、それだけはどうかやめて下さい‼」

 

上層部の悪魔たち全員が一斉に、一糸乱れぬ動きで土下座をしていた————いや、させたの俺なんだけどね。

 

「それじゃあ話もまとまったことだしサーゼクス、捕虜を見に行くぞ」

 

「え……あ、はい」

 

俺はサーゼクスを連れて捕虜の元に向かった。

 

 

 

 

 

一誠は牢屋の見張りをしていた悪魔を、何処かに行かせて人払いを済ませると顔を正面の二つの檻に向けた。

 

「ミレイフィアが人質となった為、お前は何もできずにされるがままに捕まったってとこか」

 

「ええ、それであっています。ですがミレイが悪い訳ではありません。しいて言うならば周りへの警戒を怠っていた私達二人の責任です」

 

一誠の言葉にグレイフィアが妹のミレイフィアを庇うように返す。彼女のそんな姿を見て、一誠は場違いにもやっぱりこいつも姉なんだな、と思っていた。

 

「分かった。取りあえず今後の事について俺はグレイフィアと、サーゼクスお前はミレイフィアと話せ」

 

一誠はそう言うと指を鳴らす。するとそれぞれの檻に不可思議な結界が張られた。話は檻の中でするという意味だろう。

 

「……サーゼクス?」

 

話しかけたのに返事が返ってこない事に気づいた一誠は、後ろに居るサーゼクスを振り返った。

彼は瞬きもせずに固まったまま、グレイフィアの妹のミレイフィアが居る檻を見ていた。一誠がその視線を追ってみると、檻の中に居るミレイフィアが目に入った。どうやら彼と彼女は時が止まったかのようにじっと見つめ合っているようだ。一誠はそれを見てとても微笑ましくなった。チラッとグレイフィアの方を見ていると、彼女から彼女の妹は見えないものの、状況は理解できているらしく彼女も一誠と同じように優しく微笑んでいた。

 

「コホン」

 

『ッ⁉』

 

それを邪魔するのは無粋だと分かってはいたが、このままだと話が進まないので一誠はわざとらしく咳払いをして彼らを現実に引き戻した。その際サーゼクスとミレイフィアは先程までの状況を理解すると、二人とも顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「俺はグレイフィア、お前はミレイフィアと今後の事について話をする。あと、その結界は中の音が外には聞こえない効果と外からは何をしているか分からない効果がある。だから気にせず話せ」

 

「わ、分かりました」

 

「あと、そっちの方の全権はお前に任せる」

 

そう言って一誠はグレイフィアのいる檻の中に入って行った。

 

「さて、早速本題に入ろうと思うがいいか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

そして檻に入った彼は、グレイフィアが座っている簡易ベットの正面の床に胡坐をかいて座った。

 

「単刀直入にお前の今後を言うと、誰かの下僕ないし奴隷にされる。それは分かってるよな」

 

一誠の確認に彼女は黙って頷く。

 

「それで…だ。お前は誰の元に行きたい?」

 

「……随分、意地悪な事を聞くのですね」

 

「一応の確認だ」

 

彼女の非難気な眼差しを彼はあっさりと受け流す。そして、ついでに長年彼女との間で保留にしていた問題を、ここぞとばかりに切り出す。

 

「じゃあついでに、あの問題も今解決しちまうか」

 

「本当ならもっと雰囲気がある場所が良かったんですが……まあ、いいでしょう」

 

”ついで”で片付けるにはあまりに重大な事をあっさりと言う一誠に、グレイフィアはついでにされたことによるせめてもの抵抗で冗談ぽく———されど自分の偽りざる本音を非難気に言う。

彼女の本音に意外とロマンチストだな、と思いながら一誠はグレイフィアの前に跪き彼女の手を取る。

 

「グレイフィア・ルキフグス、俺はもうすでに何人もの女性と関係を持っているし、俺は惚れっぽいからこれからも相手を増やすかもしれない。それに俺の立場は色々と危ういし、それに伴って危険もたくさんある」

 

一誠は三勢力のそれぞれの幹部的位置に席を置いているが、それを快く思わない者たちも当然いる。そして三勢力以外の勢力からもその強さを危険視されていて、常時命を狙われているとまでは言わなくても常に警戒されている状態ではある。だから彼は今まで、自分の家族等になりたいと言ってきた者たちにこういった確認を例外無くしてきた。……彼らを自分の所為で不幸な目に遭わせたくないから。

 

「お前も危険な目にあるかもしれない。それでも俺はお前にずっと一緒に居てほしいと思っている。だから……」

 

そこで一誠は一旦言葉を切った。

いつになく真剣な一誠にグレイフィアも黙って聞き入っていた。

 

「だからずっと俺の傍に居てくれないか?」

 

檻の中という最悪と言ってもいいシチュエーションにありふれた言葉の告白。彼にOKすることによるデメリット。これらを考えると、普通の人ならばほぼ間違いなく断る状況だが彼女は違った。

普通の人間が片思いしている時期よりも、圧倒的に長い時間一誠の事を想っていたグレイフィア。そんな彼女にとってそれらの事等どうでもよかった。ただただ一誠の口からその言葉を自分に言われたことが、彼女にとっては嬉しかった。だから、普段ならクールな彼女が嬉しさのあまり一誠に勢いよく抱き着き、そのまま押し倒してしまっても仕方がない事なのだろう。

 

「ちょっ⁉ グレイフィア⁉」

 

「………ぃ」

 

突然の出来事に流石の一誠も驚いたが、彼女が何か呟いているのを感じて大人しく耳を傾けることにした。

 

「……うれしい。ずっと…待っていた言葉だったから」

 

幸せそうな彼女の声に一誠までもが幸せな気持ちになって来たのを彼は自覚した。

 

「これからは、何があってもお前を離さないと神……は変だから兵藤一誠の名に誓う」

 

「…はい」

 

自身の腕の中で嬉し涙を流しながら頷いた彼女を、彼は優しく———しかし自分の存在を彼女に感じさせるように強く抱き締めた。

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

あの後、数分と言う抱擁にしては少しばかり長い時間抱き合っていた二人は、現在が内戦中だという事を思い出し冷静になったので離れた。しかしその出来事を冷静になってよく考たグレイフィアと一誠は、現在互いに顔を背けて赤面していた。そしてお互い無言なので居心地の悪い沈黙が場を包む。しかし、グレイフィアよりいくらかは耐性のあった一誠が、彼女より先に回復し沈黙を破った。

 

「グレイフィア、これからは公の場以外は俺達にですます調はやめろよ」

 

「え、ええわかっていま…いるわ」

 

まだ先程のダメージからは回復していないが、一応頭は冷静なので一誠の言っている事をちゃんと理解して返事をしたグレイフィア。

 

「じゃあちょっとこの内戦を終わらせてくる。終わるまでは此処居てもらうがいいか?」

 

「……大丈夫よ」

 

ぶっきらぼうに返されても一誠は気分を害されなかった。むしろまだ彼女が照れている事が分かって胸が温かい気持ちになった。そしてこのことは彼女にとっては顔の熱を冷ますのにいい機会だった。

 

「じゃあ、行って来る」

 

「……いってらっしゃい」

 

 

ポツリと呟かれた挨拶に、一誠はまた胸が温かくなるのを感じながら檻を出た。するとちょうどサーゼクスも檻から出て来る所だった。

 

「お疲れ。そっちはどうなった?」

 

「はい、一応家でメイドとして働いてもらう事になりました」

 

「ん、了解した」

 

一誠はそれ上はその事について聞かなかった。もちろん、檻から出て来た彼の顔に嬉しそうな表情が浮かんでいたことも。

 

 

その後内戦は、妙に張り切っていたサーゼクスによって旧魔王派の大半が(死なない程度に)ボッコボコにされ、旧魔王派を指揮していたルキフグス卿が一誠との一対一に敗れたのをきっかけに、新魔王派の勝利に終わった。

なお一誠とルキフグス卿の一対一の際に、娘が欲しければ私を倒していけ的な展開があったのだが、それを知っているのは当の本人たちとそれに立ち会ったサーゼクスしか知らない。

そして捕虜だったルキフグス姉妹は、姉のグレイフィアは兵藤家に妹のミレイフィアはグレモリー家にそれぞれ(表向きは)住み込みのメイドとして働くことになった。

 

こうして悪魔たちは、新しい魔王たちと共に新たな道を歩み始めた。




閲覧いただきありがとうございました。
私としては一誠の告白のシーンが納得できていませんが、ポキャブラリーが少ないばっかりにああいう風になってしまいました。ですので、こういった言葉の方がいいんじゃないか? っていうのがあったら遠慮なくどうぞ。
他にも誤字脱字や感想や評価をよろしくお願いします。


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復活

最新話を投稿します。
最近はバカテスよりこっちの方がアイデアが浮かんでくるのでこっちはサクサク進みます。……それでも更新に時間が掛かりますけど。


 

突然だが、あの三大勢力間での三つ巴の戦争の最後の方で、ルシファー達に何があったか説明しよう。

彼女達はドライグとアルビオンを封印した時に、魔力などを限界以上まで使ってしまっていた。そしてその反動で倒れた所を俺が三勢力の奴らに気づかれない様に家まで運んだってわけだ。

そして今はあの戦争から五年、悪魔勢で起こった内戦から四年と半年くらい経った頃だが、彼女達は未だ目覚めていない。一応治療はしたのだが……。

 

「一誠ちょっといいか」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

ドア越しにタンニーンに呼ばれた俺は、ルシファー達がベットに横たわっている部屋を後にする。そしてその足でみんなが居るであろうリビングへと向かった。

その際俺は一度も後ろを振り向かなかった。その所為で、彼女達の変化に気づくことが出来なかった。

 

 

 

俺がリビングに入ると寝てばっかいるガルズと、今は神器に封印されているドライグとアルビオン以外の六大龍王と四天龍、イーリスとオーフィスがいた。

そしてタンニーンが彼らを代表して口を開いた。

 

「今領土内を見張っている奴らから連絡があった」

 

領土内を見張っているのは、ドラゴンアップルを主食とするドラゴンたちだ。彼らは地上のドラゴンアップルが無くなると、俺の領土内に移り住んできた。そこで俺は彼らに、食べ物と住む場所を与える代わりに領地内の警備をしてもらっているってことだ。つまりギブアンドテイクって訳だな。

 

「領土内にある荒野で、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の所有者と白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の所有者が戦闘をしているらしい」

 

「分かった。あいつ等との約束だからな、あいつらを神器から出してくる」

 

「くれぐれも気をつけていけよな」

 

「全く、私達に心配だけはさせるようなことはしないで下さいよ」

 

「ついでにルシファー達に対してやり過ぎた事についてのお仕置きでもして来い」

 

レブレ、ラハ、ティアの心配の様な注文の様なものを受けた俺は、問題の場所まで転移した。

 

 

 

 

 

見渡す限り何もなく、草木も生えていない荒野で二つの力の塊が衝突していた。その二つとは勿論現赤龍帝と現白龍皇だ。俺はその二人の壮絶なぶつかり合いを、彼らの戦いの余波を受けない場所から見ていた。

今すぐに出て行って止めてもいいが、それだとあいつら————所有者の方は戦いを邪魔されたってことで起こるだろう。そうなると面倒だ。面倒事は出来るだけ避けたい。

 

「が、早く終わらせたいのも確かなんだよな~」

 

一人そう愚痴るが、それを聞こえている者は居ない。……いや、もしかしたら家の奴らは聞いてるかも。

いつまでもこうしていても埒が明かないので、取り敢えずあいつらの戦いを止めることにした。

両者が距離を取ったタイミングで、それぞれのちょうど真ん中に位置する場所に行き両手を広げて掌を向けてちょっと待てというジェスチャーをする。

 

『ッ⁉』

 

白と赤の鎧をまとった二人は、行き成り割って入った俺に驚きその場に硬直するが、すぐに勝負の邪魔をされたことを悟ると二人して俺に殺気を向ける。

 

「時間切れ(タイムオーバー)だ。お前らにとっては遺憾だろうが、この勝負はここで強制終了だ」

 

『やっと来たか、約束は忘れていないだろうな』

 

『全く、待ちくたびれたぞ』

 

赤龍帝の鎧と白龍皇の鎧についている宝石がそれぞれ点滅し、そこからドライグとアルビオンの声が聞こえた。

 

「ああ、今から開放する」

 

「ふざけんなッ‼ いきなり出てきて邪魔してんじゃねぇ!」

 

「俺も同感だ。部外者は出て行ってもらおうか」

 

赤龍帝の籠手の所有者は怒りを隠そうともせずに怒鳴り散らし、白龍皇の光翼の所有者は口調こそ落ち着いているもののその声音には決して少なくない怒気が含まれていた。

っていうか、此処俺の領土だから部外者はお前らじゃね? って思ったけどさらに面倒くさそうなことになりそうだから言わない。

 

「俺が用があるのはドライグとアルビオンだけだ。お前らの様なザコは引っ込んでろ」

 

「! て、テメェーーーッ!」

 

「……殺す」

 

俺のとっては本当の事だったが、どうやらあいつらにとっては良い挑発になったようで、何も策も無しに高速でこちらに迫って来た。

 

『バ、バカ! やめろっ!』

 

『落ち着け! 一旦冷静になれ!』

 

ドライグとアルビオンは俺の強さを良く知っているから、それが無謀な事だと分かってそれぞれの所有者を止めようとしていたが、所有者たちは完全に頭に血が上っているので聞こえていない。

そして左右から高速で俺に迫って来た二人は、その勢いのまま俺を殴ろうと腕を振りかぶった。しかし次の瞬間には二人は俺の目の前に俯せで地面に倒れていた。

 

『⁉』

 

突然地面に倒れている事に驚き目を見開く二人だが、俺は早く終わらせたかったので素早く手刀を繰り出す。俺の手刀は彼らの着ていた鎧だけ(・・)をすり抜けてそれぞれの首に当たり意識を刈り取った。彼らの意識が無くなると同時に鎧も解除された。

 

「さてと、じゃあドライグから始めるから籠手を出せ」

 

『ああ、それは分かったが、赤龍帝の籠手(これ)はどうなるんだ?』

 

『ああ、それは俺も気になっていた』

 

籠手と翼がそれぞれ出現し、二匹が俺に聞いて来た。

 

「お前らを抜き出す代わりに、お前らの代わりとなる核の様なものを入れるから無くならないし、能力もそのまんまだ。そこの所は後で説明する」

 

そう言うと二匹は納得した。そして俺は作業に取り掛かる。取り出した二匹の魂は封印された時に抜け殻となった身体を取っておいたのでそれに入れた。そこまでやっても二つ合わせて作業は十分程で終わった。そして今二匹は人型になって感覚を馴らしている。

 

「そう言えばお前ら、あれはやり過ぎだ」

 

『? 何のことだ』

 

「ルシファー達の事だよ。あいつ等魔力や光の力の使い過ぎてまだ昏睡状態なんだぞ」

 

「それは俺達の所為じゃないだろ」

 

「ああ、俺達は言われた通りにしただけだ」

 

「いや、俺見てたけど明らかにお前らテンション上がって必要以上に暴れてただろう」

 

『うっ……』

 

俺の指摘に二匹は気まずそうに顔を背ける。

 

「まあいい、取り敢えず帰るぞ」

 

「いや、その前にこいつらを向こうに返さなくていいのか?」

 

「ああ、そうだったな」

 

ヤベェ、ドライグに言われるまで忘れてた……。

俺が一度指を鳴らすと二人の体は消えた。

 

「じゃあ、帰るぞ」

 

そう言って俺は三人ほどは入れる大きめの魔方陣を展開して家に跳んだ。

 

 

 

 

 

「お帰りなさい」

 

俺達三人がリビングに現れると、そこにはグレイフィアが居た。

 

「ただいま。何か変わったことはあるか?」

 

「さっき大公からS級はぐれ悪魔の討伐の依頼が来たけど、クーが子供の様にはしゃぎながらゲイ・ボルグを振り回して討伐に向かった事くらいかしら」

 

「ああ………そう」

 

首を傾げる姿はものすごく可愛くて愛(め)でたいけど、言ってる事は中々に危ない事だった。まあ、最近はそう言ってことが無かったから鬱憤が溜まってるのは分かるけどね。でもあれ投げたら対軍宝具だからね。それ振り回すって結構危ないから(主に家とかが)‼

 

「ああ、後グレモリー家から手紙が来てるわよ」

 

「いや、それは後ででもいいからそこらへんにでも置いててくれ」

 

俺はグレイフィアにそう言い放つと、一人ルシファー達が眠る部屋に向かう。

 

コンコン

 

「入るぞ~」

 

起きていないだろうなと予想はしつつも、一応の礼儀としてノックをするが……、

 

「おう、開いてるぞ」

 

思いもよらない返事にその場に硬直してしまう。しかし直ぐに硬直から回復し慎重にドアを開ける。

 

「よお、久しぶり、か?」

 

「久しぶり、一誠」

 

「久しぶり! 一誠!」

 

「久しぶりだな」

 

「久しぶりね、一誠」

 

「お久しぶりです。一誠」

 

そこにはベットから体を起こして此方を見ているルシファー達の姿があった。

五年も寝たきりなのに行き成り起き上れるの? とか、疑問に思うかも知れないがそこは魔術・魔法・超能力・スキル・ギフト等を使えばどうとでもなるので問題ない。

 

「久しぶり、身体の調子は大丈夫そうか?」

 

「ああ、問題ない。だが戦闘での勘は確実に鈍ってるだろうがな」

 

「そっか、じゃあ居間まで来てくれ。ドライグとアルビオンをさっき神器から解放したからアルマとフォンとブリュンヒルデ以外のメンバーは揃っているはずだ」

 

「いいけど、私達の世間での現状ってもしかして死んだことになってる?」

 

「………」

 

「そう……分かったわ」

 

俺がルシファーの問いに無言でいると、彼女はすべてを察したようで話を切り上げた。そして俺は、必要ないとは思ったが現在の三勢力のそれぞれの現状を簡潔に彼女達に教えた。

 

「そう……みんな大変だったのね」

 

慈しむような声わねでアスモデウスが呟いた。

 

「細かい事は後で話す。だから今は先に居間に行っていてくれないか? これからそろそろ昼飯の時間だしな」

 

「えっ、一誠の料理! 食べたい食べたい!」

 

「分かってる。ちゃんとお前らの分も作るよ」

 

「わーい! 一誠の料理~!」

 

嬉しそうにはしゃぐレヴィアタンを先頭にして彼女達は部屋を出て行った。

 

「一誠、大戦の結果の事はあまい気にするな。お前はあの戦争を止めたんだ。そんなお前が負い目を負っている気持になっていると、大戦を止められなかった俺達の立つ瀬がない」

 

最後にルシフェルが俺にそう言って部屋を出て行った。

 

その後久々に(三人欠けているが)みんな揃った昼食ではグレイフィアやレイナーレがルシファーやルシフェル達が生きていたことに感動して涙を流したり、ドラゴンと九尾達の壮絶な料理の奪い合いがあったりと随分といつも以上に賑やかなものになった。

 

 

 

 

 

日付が変わるか変わらないかの時間帯に俺は、次元の狭間内に新たに作った真っ白な部屋に居た。部屋の中には床にある畳と中央に正方形の形をした机とそれぞれの辺に四つの座布団があるだけだ。因みにこの内装は俺の趣味なので別に深い意味はない。

 

「……来たか」

 

そんな事を考えていると、俺の机を挟んで向かいにある畳と左右にある畳に魔方陣が現れて、そこから三人の男が姿を現した。

 

「……おいおいこれはどういう事だ? 流石のお前でも納得のいく理由がなけりゃあ俺は帰らせてもらうぞ」

 

「そうですね。いくらあなたでも流石にこれは説明してほしいですね」

 

「………」

 

俺から見て右側に現れたアザゼルと正面に現れたミカエルがそう言って来る。アザゼルの正面に現れたサーゼクスは無言で見守っている。

 

「取り敢えずお前ら座れ。話はそれからだ」

 

俺がそう言うとそれもそうかと彼らはそれぞれ座りやすい格好で座った。

 

「……お前らはまだ他勢力と戦争をする気はあるか?」

 

「全ての堕天使たちに聞いたわけじゃねえから分からねえが、少なくとも幹部以上の堕天使たちは戦争をする気は無い。勿論あの戦争狂とまで言われたコカビエルもだ。それに俺はそんな事より神器の研究がしたい」

 

『!?』

 

アザゼルの発言にコカビエルが変わったことを知らなかったサーゼクスとミカエルは驚く。

 

「言っておくがやったのは俺じゃなくて一誠だからな」

 

アザゼルの言い訳? を聞いたサーゼクスとミカエルはなるほどなるほどといった感じで頷いて納得していた。……いや、それで納得するってお前らの中の俺はどんな印象になってんの? そこの所小一時間ほど問いただしたいんだけど。

 

「それでお前らはどうなんだ?」

 

「悪魔側は、私を含めた魔王全員が平和を望んでいる」

 

「っていうより戦争に興味が無いだけだろ」

 

「その通りだ。だが、未だに上級悪魔の大半の者たちが天使と堕天使を毛嫌いしている。だからもしこの場で和平を結ぶというなら悪いけど断わらせてもらうよ」

 

「……ミカエルお前の方は?」

 

「……そうですね、我々天界の面々も今も大半の者が堕天使と悪魔を目の敵にしているのは確かです。ですが、あの大戦の後我々はライヴィス様が死んだことを嘆き悲しんでいて、組織の復興を全くと言っていいほどしてませんでした。そして最近やっと復興してきたので、そう言った事は今はまだ決められません」

 

「そうか……」

 

自分の意見で和平を選んだアザゼル。

 

自分の考えを後回しにし種族全体の意見を選んだサーゼクス。

 

そして即答しなかったミカエル。

 

三人がどんな気持ちでその判断を下したのかは分からない。スキル等を使えばわかるかもしれないが、こんなとこで使うものではないってことは俺にも分っているので使わない。しかし、この展開はハッキリ言えば予想道理だった。なので俺は予定道理に進める。

 

「じゃあ質問を替えよう。お前ら個人は、和平するのに賛成か?」

 

俺がそう問うと彼ら三人はすぐに頷いた。

 

「じゃあ三人で和平を結ばないか?」

 

『?』

 

まあ、三人の反応も当然だろう。俺と彼らの関係は良いし、彼ら三人同士でも比較的仲が言い。それに”和平”と言ったが、これから提案することはそんな感じじゃないしな。

 

「簡単に言うと、今後も定期的にここに集まって自分たちの勢力の現状や今後三大勢力が和平する為にはどうしたらいいのかといった真面目な話をしたり、身の回りの事や愚痴などを駄弁ったりするんだ」

 

「はーい、一誠先生質問でーす」

 

「はい、アザゼル君」

 

何か行き成りアザゼルがふざけて先生呼びしてきたのでのってみた。

 

「神器の話はしますかー?」

 

「それは真面目な話の方でも駄弁る方でもする」

 

「じゃあ、俺はその案に賛成だ」

 

直ぐに元に戻ったアザゼルがさらっと賛成した。そしてそれを見て驚くサーゼクスとミカエル。

 

「一誠さん、どうやったら女性を口説けるかについては……」

 

「やる」

 

「! じゃあ私も賛成です」

 

サーゼクスの質問に即答したら、顔を輝かせて賛成した。そしてそれを聞いたミカエルはビックリするも、慌てて真面目に考えだした。それもさっきの三勢力全体での和平より考えている。……それで良いのかミカエルよ!

 

「一誠さん、ストレスや疲れを取る方法は……」

 

「………」

 

「……一誠さん?」

 

「っ! ああ、大丈夫だ。それも勿論話す」

 

「そうですか。では私も賛成で」

 

よし、これで全員賛成した。それにしても……全員が駄弁る方の質問ってどういうことだよっ! 特にミカエルなんてあんなに真面目に考えていたのに、結局下らない事だったし。アザゼルのが真面目な方にも入っているけど……あいつは絶対趣味の方で聴いて来たしな。

 

「よし、それじゃあ全員これに署名してくれ」

 

そう言って俺はギアスロールを机の上に出す。

 

「えーと何々、『一、今日を含めて、今後ここで話すことは此処にいる兵藤一誠、サーゼクス・ルシファー、アザゼル、ミカエルの四人だけの秘密として他言無用とする』。『二、この会場の場所などの情報も一と同じように他言無用とする』……か。随分情報を規制するんだな」

 

「当然だ。此処で話すのは何気ない日常の事もあるが、三勢力の和平の事とかも話したりするんだぞ。寧ろこれくらいがちょうどいい」

 

「まあ、それもそうか」

 

そして俺、サーゼクス、アザゼル、ミカエルの順にギアスロールに署名した。

 

「ほら」

 

そして俺はギアスロールを王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に仕舞い、入れ替える様にして一本のワインと人数分のグラスを出した。

 

「おっ、いいな」

 

アザゼルはノリノリでグラスを受け取った。

 

「申し訳ない」

 

表面上は申し訳なさそうにしながら、しかしおそらく内心ではアザゼルと同じくらいノリノリでサーゼクスも受け取った。

 

「ありがとうございます。ところでこれは何処のなんですか?」

 

ミカエルはお礼を言いながらワインの生産元を聴いて来た。

 

「自家製のやつだよ。それは約一万年前の物だ」

 

『!?』

 

俺がそう言うと、三人はギョッとしてそれぞれの手に持っているグラスの中に入っているワインを見つめた。

 

「ほぉ、道理で美味いものだ」

 

「い、一誠さん実はこれものすごく希少なものなんじゃ……」

 

「そうでもない。俺は時間操作紛いの事が出来るからそういったものはいつでも作れる」

 

「そ、そうですか……」

 

サーゼクスの質問に答えると、彼に引かれた……。

俺が異常なのは分かるけど引くなよ! 引かれると俺も人並みには傷つくんだからなっ!

 

「それで、今から何を話すのでしょうか? 酒が入った以上真面目な話ではないですよね」

 

「じゃあ、俺から一つ重大な事を発表しよう」

 

「お、何だ……実はホモでしたってか? 確かにそれは重大発表だなばぁらっ」

 

……取り敢えずアザゼル(バカ)は何時ものハリセンで殴っといた。

 

「……実はルシファー達六人は生きてる」

 

『………』

 

俺ぞそれを言った途端、沈黙が場を満たした。そして先程までとは違って刺すような視線が三人から向けられる。

 

「……それは、笑えない冗談だな」

 

「そうだね。いくら一誠さんでもそれは言ってはいけないね」

 

「そうですね。今一誠さんが言った事は死者を弄んだことによる死者への冒涜です。例え一誠さんであろうとライヴィス様の冒涜は許しません」

 

居なくなっても自分を想ってくれる者たちが居てあいつらは幸せだな、と思いながら俺はその証拠を見せる為に指を鳴らす。

 

『……ッ!』

 

何を勘違いしたのか知らないが、三人は慌ただしく立ち上がりいつでも戦闘できるように臨戦態勢をとった。

 

「久しぶりね、あなた達」

 

「ヤッホー!」

 

「お前ら、精進してたか」

 

「あら、やっぱり皆全然変わっていないわね」

 

「よっ、お前ら」

 

「久しぶりですね、元気にしていましたか?」

 

『…………』

 

ルシファー達が現れてそれぞれ思い思いの事をサーゼクス達に言う。そしてそれを、幽霊でも見ているかのような顔で見ているサーゼクス達。

 

「…………ラ、ライヴィス様」

 

「ええ、正真正銘私ですよ。ミカエル」

 

「ヒッグ……生きて……エッグ…居られて……良かった、本当に良かった」

 

ミカエルとライヴィスの所は(主にミカエルの所為で)感動的な再会シーンになっていた。

そしてとうとうミカエルは、嗚咽を漏らしながらその場に俯いてしゃがみ込む。恐らく泣き顔を見られたくないのだろう。……声で鳴いているのは丸分かりだが。

 

「よお、しぶとく生きてやがグボッ」

 

あ、アザゼルがルシフェルのボディーで膝着いた。

 

「お前も変わってないな。特にその生意気な言動とかな」

 

「お、お前は…威力が増してないか?」

 

「増してない。俺達は大戦の時から今日の昼前までずっと昏睡状態だったんだからな。もし威力が増してると感じるなら、それはお前が久しぶりに喰らうからだろ」

 

アザゼルとルシフェルの再会は、死んだと思っていた奴と会うっていうより久しぶりに再会した旧友に会うって方が正しいような………あ、訂正。鬼がいない間に財宝を持っていこうとした桃太郎が、持ち出す最中に鬼に見つかってシバかれてるって方が正しいわ。今もまたド突かれてるし。

 

「お久しぶりです。まさかあなた様方が生きておられるとは思いませんでした」

 

「フフッ、私たちはまだまだ死なないわよ」

 

「当ったり前だよ! まだまだ大好きな一誠と一緒に居たいからね!」

 

「うむ、レヴィ(レヴィアタンの事)の言う通りだな。しかしサーゼクス、私達はもう魔王では無くただの一誠の女だ。そう畏まらなくていいぞ」

 

「いえ、あなた様方は例え魔王でなくても尊敬する方々です。だから例え一誠さんの女になっても……え? 一誠さんの女?」

 

「ウフフ、なったのは最近だけどね。でもライヴィスとルシフェルも入れた私達は全員会った時に一目惚れしてたのよ……一誠は随分後になってから私達が彼を好きな事に気づいたようだけどね」

 

『は?』

 

アスモデウスが言った事に俺とサーゼクスとアザゼルとミカエルはすっとんきょんな声を上げた。俺はるしふぇーたちが俺に一目ぼれしてるってことにだけど、サーゼクス達はそれとルシファー達が俺の女って事に対してだろうな。

あ、ちなみにいつ女にしたってのかというと、昼飯食い終わってから二、三時間後くらいだ。

 

そしてその後、サーゼクスとアザゼルとミカエルにどういう事か(面白半分で問いただされたり、その他色々な事を話したり決めたりして第一回コッソリトップ会談は終わった。因みにルシファー達の事はタイミングが来たら世間に発表する、で決まった。




次回は今回名前が出た一誠の残りの家族の事です。もしかしたら一人一話になるかも……。取り敢えず、その二人の話が終わったら、時間はぐっと進んで原作キャラに関わる———というか原作ブレイクの回が始まるというのが今のところの予定です。
そして今回あるフラグを入れてっ見ました。私は意識的にフラグを入れるのが苦手なので、うまくいったかは分かりませんが……。
活動報告にアンケートを載せておきましたので、良かったらご協力ください。
感想・評価・誤字脱字の指摘を待っています。


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吸血姫と幽閉所の支配者

遅くなりました最新話です。この回は私がこの小説を書いててやりたかった事の二つ目が載っています。因みに一つ目はネギま! の闇の魔法です。今回はちょっと急展開過ぎるような気もしますが、気にしないで下さい。
バカテス・IS・SAOの方も書いてはいますが、中々アイディアが浮かんでこないのでかなり難航しています。ですのでその間にこっちを出来るだけ進めたいと思います。それと活動報告でやっているアンケートはまだやっていますのでそっちの方も出来ればよろしくお願いします。


 

なんやかんやと忙しかったあの日から数日後の今日、早くも第二回コッソリトップ会談が開催され、一回目と同じ位置に座って俺達は話し合いをしていた。前回と違う所を上げるとすれば、今回は最初っから酒を机の上に置き各々でそれを注ぎ、始まった直後から一杯やっている点だろう。

 

「そう言えば一誠、お前の家族ってルシフェル達合せて何人ぐらいいるんだ?」

 

「あ、それは私も気になります」

 

「同じく私もだ」

 

アザゼルの質問によって俺以外の三人の視線がすべて俺に集中した。

 

「俺の家族はえ~と……」

 

質問に答えようとして俺は気付いた。俺、家族の人数を数えたことが無い、と。

 

「ルシファー達と俺、今は色々は事情で家に帰って来てない奴らを入れてざっと数えて三十人前後だな」

 

「大所帯ですね」

 

唖然とした声で言うミカエル。だがアザゼルとサーゼクスはそんな事は気にせずに質問を続けて来る。

 

「結構な人数がいるが、具体的には誰がいるんだ?」

 

「お前らが知っている奴だと、六大龍王以上の邪龍以外の龍は全員俺の家族だ」

 

「はぁっ⁉ お、お前それ言ったら龍神と真龍もかっ!」

 

「勿論」

 

俺が肯定すると三人は信じられないものを見るような目で俺を見た。

 

「全く、驚くのも分かるがそんな目で俺を見るな。……結構傷つくぞ」

 

「い、いあやだって……なぁ?」

 

「……え、ええ」

 

「あ、アハハハハ」

 

「まあいい。それよりもだな——————」

 

その後俺達は、サーゼクスの恋愛相談にアザゼルが珍しくまともに対応したりして第二回コッソリトップ会談は終わった。

 

 

 

 

 

 

駄弁り会談が終わり、原作から約二千年位前までの時間帯まで進んだ。

 

「はー。………暇だ」

 

現在俺は、古代ギリシャと後に呼ばれる場所にあるとある町に居た。

 

「一誠さん、暇じゃないでしょ。僕の眷属探しの最中じゃないですか」

 

—————ファルビウムと一緒に。

いや、こうなった経緯は分かってんだよ、分かっていても納得できないんだよチクショウ!

 

「それで、眷属候補ってどいつなんですか?」

 

「”老獪な魔女”だ」

 

「……誰それ?」

 

「魔女メディアの事だ」

 

「え? それって裏切りの魔女じゃんっ! 何でそんな危険な奴眷属にしようとするの!」

 

……まあ、ファルビウムの心配も分かる。

 

「っていうか、彼女生きてたんだ。最近は名前を聞かないからてっきり死んだのかと思ってた」

 

「俺が保護してたからな」

 

「……は?」

 

俺の発言に唖然としているファルビウムは放って置いて、俺は目的の場所まで道なりに歩く。

 

俺とメディアが出会ったのは、ユーラシア大陸の南———後の中国とインドの国境あたりだった。その時彼女は全身傷だらけで、既に虫の息だった。だが目の前で死なれては目覚めが悪いので、そこら辺に当たり障りのない家を建ててそこで看病した。そしてついでに彼女に呪いが掛かっていたのでそれも解呪した。ついでに言うとこの時俺は彼女の容姿に覚えはあったものの、名前が出てこなかったので彼女がメディアだとは知らなかった。

その後彼女が目を覚ました時に色々と情報交換をした。そしてその時に彼女がメディアだという事を知った。呪いを解いた彼女は呪いを解く前ほどの残虐さは無く、普通に泣いたり笑ったりする普通の女性になった……いや、戻ったと言った方があっているだろう。

 

そんな経緯があり俺とメディアは知り合いになった。

 

「着いたぞ、ここにメディアが居る」

 

「え………ここ?」

 

ファルビウムが間抜けな声を出すのも無理はない。目の前にある家は、この町にある他の家に比べたらまだマシだが何処かみすぼらしい外装だったからだ。

 

「そうだ。俺だ一誠だ」

 

「はーい、今開けるわね」

 

ノックしながら家の中に居るであろうメディアに声を掛けると返答があった。どうやら家にいるようだ。

 

「いらっしゃい。あら? そっちの男は誰かしら?」

 

「俺の友人のファルビウムだ。実は今日は結構真面目な話があるんだが……いいか?

 

「いいわよ。でも立ち話もなんだから早く入ってちょうだい」

 

そう言ってメディアは俺とファルビウムを家に招き入れた。家に入った俺達は俺、ファルビウムとメディアが向かい合うように椅子に座り、ここに来た目的と悪魔になった時の損得をファルビウムが説明した。俺? 俺は目開けて意識半覚醒状態で寝てたよ。

 

 

 

〰〰〰数十分後〰〰〰

 

 

 

「一誠さん、起きて下さい」

 

ファルビウムが身体をゆさゆさ揺すって来るので、仕方なく起きることにする。

 

「おう、どうだった? 眷属にはできたか?」

 

「なったわよ。眷属になった方がデメリットよりもメリットの方が多かったから」

 

俺の質問に答えたのはファルビウムではなくメディア本人だった。

確かに、彼女から悪魔の気配がする。

 

「駒はなんだ? 僧侶(ビショップ)か」

 

「ええ、変異の駒(ミューテーション・ピース)一個と……今後の散財で何とかなりました」

 

最後のをゲッソリした顔で言いながら、ファルビウムは”散財”の事を詳しく教えて下さい。曰く、定期的に秘薬や霊薬を作る時に使う材料(希少な物含む)の費用などを全部ファルビウムが負担することになったらしい。

 

「それじゃあ、僕はさっさと帰って寝たいから帰る」

 

「それじゃあ、私も色々と手続きやらなんやらがあるらしいから失礼するわ」

 

そう言ってファルビウムとメディアは転移して消えた。因みに今居る場所は、草木が鬱葱と生い茂った森の中だ。勿論人影はない。

 

「さて……そこに居る奴出てこい」

 

「へえ……気配を消してたのに分かるとは」

 

上から目線がムカツクが、そこは今は良い。それよりもこの金の長髪で片目を隠している男から、最近は全くあっていない家族の匂いがしたことが問題だ。

 

「……お前女の吸血鬼に会ったか?」

 

「吸血鬼? ……ああ、会った会った。それで何か無防備だったから片腕もぎ取ったわ。いや~、あの顔は見物だっグヘッ」

 

聞くに堪えなかった俺はそいつの首を掴み、思いっ切り(それでも死なないように手加減しながら)背中から地面に叩きつけた。

 

「グゥゥ……な、なにを———」

 

「……彼女の腕は何処だ」

 

「へっ、やっぱりテメェもあいつのなか」

 

「御託はいい、さっさと答えろ」

 

「ヒィィィ。こ、ここだここにある」

 

そう言って男はどうやって入れていたのか分からないが、ポケットから女性の腕と思われる白くて細い腕一本取りだした。

 

「じゃあ、もうお前に用はない。……死ね」

 

グチャベキボキ

 

俺がそいつの首を握る手に力を込めると、肉が潰れる音と骨が砕ける音が聞こえてそいつは絶命した。

 

「さて、今日はちょっと……マジでやるか」

 

俺はそう言って普段は無意識に抑えている自分の力を、空間に穴が空くなどの世界に影響がでない程度に開放した。そして俺は忍の気配を探すために目をつぶり意識を集中した。

 

「…………見つけたが、なんでお前までいるんだよ」

 

暫くすると忍の気配は見つけた。だが彼女の隣に俺のよく知る面倒くさがりの天使も一緒に居るのが気になった。

 

「ま、行ってみればわかるか」

 

そう呟いた後俺はその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

俺がその場所に行くと、少し先には両腕と左足が根元からない黒髪の男にも女にも見える中性的な女性と後ろの束ねた長い白髪に赤い瞳の女性が、今まさに四、五人の男性に囲まれている場面だった。

取り敢えず俺は男たちを制圧するために、死なない程度の電圧の雷を脳天から思いっ切り落とした。しかし—————、

 

「……む?」

 

『ッ!?』

 

男たちは行き成り攻撃が来たことに対して驚愕したが、一誠は眉をひそめるだけだった。そして一誠は男たちが驚愕している間に女性達の隣に移動する。また行き成り現れた一誠に男たちは驚いたが一誠はそれを無視。

 

 

 

 

 

「何があった」

 

「オレが昼寝してたら行き成り襲われて左足以外の四肢を取られた。あと、取られた四肢のいずれかを持った奴が一人どっかいった」

 

俺の質問にまず答えたのは黒髪の女性——この世界の吸血鬼の始祖であるアルクード・A・マクダウェル。俺達の大半は長いからアルマって読んでる。

 

「で、フォンは何でここに居るんだ? お前確かやることがあっただろ」

 

「それが終わってブラブラしてたらアルマが寝てんのを見つけたから、隣で一緒に寝てたら巻き込まれたの。……はぁ、メンドイ」

 

この面倒くさがっている白髪赤眼の女性は、フォンことサンダルフォン。彼女は罪を犯した天使、堕天使たちを閉じ込めておく幽閉所の支配者なのだが、自身はかなりの面倒くさがり屋なので仕事はかなり適当にこなす。

以前から俺の家(次元の狭間の方)に住みたいと言っていたが、彼女は結構展開では重要なポジションに居るのでミカエルがなかなか許可を出さなかった。それで彼女はミカエルを説得するために家を出ていたのだが、見ての通りの面倒臭がり屋なので説得するのにここまで時間が掛かったという訳だろう。

 

「フォン、お前は帰ってていいぞ。お前の好きなフカフカのベットも用意してある……」

 

「フカフカのベットっ!」

 

俺が言い終わる前にフォンは転移で家に直行していた。……どんだけ休みたいんだよ。

 

「それとほらっ、お前の右腕」

 

「お、サンキュー。いやー良かった良かった。探しに行くのメンドかったんだよな」

 

持ってきた腕を彼女に渡すと、彼女はそれを受け取り右肩の千切れたところに押し付けくっ付けた。

 

「ふむ………、正面のアイツと後ろに居るアイツがお前の残りの部分を持っているようだが、お前その状態で戦うか」

 

問いかけでなく確認。俺は彼女がその状態でも戦えるのを知っているが、彼女もフォン程でないにしろ面倒くさがりなところがある。それが甘えてきてるのか、俺に面倒事を押し付けてるのかはその時その時によるがな。

 

「う~ん………オレはいいや。どうせお前は殺さないんだろうし」

 

「ああ、殺さない。あいつらの神器を持って帰りたいからな。……その後なら殺すが」

 

「だったらオレはいいや。虫の息の奴殺してもつまらないし」

 

アルマはそう言うと片足と片手を器用に使ってその場に腰を下ろした。

 

「一応結界は張っとくからなっと」

 

『!?』

 

そう言い終わると同時に地面を強く蹴り、正面の男の目の前に一瞬で移動する。行き成り消えた(様に見えた)俺に男たちが驚くが、気にせずに男の腹に向かって掌底で攻撃する。男は鎧をまとっていたが、俺は鎧通しが使えるので問題はない。

 

「ガハッ」

 

吐血しながら気を失った男を放置し、他の奴らに襲い掛かる。どうやらあの魔力・妖力・気の無効化能力を持つ神器は、最初に倒した男が持っていたようで逃げられない様に張った結界が壊される事は無かった。

 

「ふぅ、終わった」

 

十分後、そこら辺に転がる男たちを一瞥しながら俺は、取り返したアルマの左腕と右足を彼女に返した。

 

「あーあ、やっと戻った。まあ、戻らなかったら一誠にオレの世話をしてもらう予定だったけどな」

 

仮にも四肢の内三つが無くなっていたのに、その反応はどうなのだろう? と疑問に思ったが俺も似たような反応をするかもと思い、何も言わなかった。

 

「そう言えばお前の用事は終わったのか?」

 

「ああ、終わったことは終わったが結果が微妙になった。一応吸血鬼の中での社会は作ったけど、あいつらがそれに従うかは微妙な所ってわけだ。……もうオレの知ったこっちゃないけどな」

 

「まったく………お前もフォンに負けず劣らず面倒臭がりだよな」

 

「そうか? オレはあいつほど面倒臭がりじゃないと思うけどな」

 

身体の所々に傷を負い、地面に倒れて喚いている男たちの中心で談笑しる男女……うん、かなりシュールな絵だ。

そんな事を思っていると、俺の目の前に実況通神(チャット)の表示枠(サンフレーム)が開いた。

 

~実況通神・自由空間(フリールーム)~

・エロ神:一誠、お主今暇かの?

・人 外:暇だが? 何か用か?

・エロ神:以前言っていたウィサをお主のヴァルキリーにするという話があったじゃろ? ようやくウィサのそちらに行く準備が整ったのでの、お主今から儂の宮殿まで来てくれぬか?

・堕総督:なんだなんだ、また一誠のハーレムメンバー追加かぁ?

・人 外:アザゼル、少し黙れ。それよりオーディン、ウィサとは誰だ? 前会ったヴァルキリーの事か?

・エロ神:そうじゃ、一番最初のヴァルキリーにして最強のヴァルキリー———別名最強の乙女(ブリュンヒルデ)……それがウィサじゃよ

 

あいつそんな名前だったのか……と俺が思っていると、また新たな人物が実況通神に入って来た。

 

・フィア:全く、いつの間に堕としたのですか。———以上

・人 外:いや、堕とした覚えないし。そしてお前はネタにはしるな!

・フィア:失礼、何故だかメイドの私がこれをやらなければいけないような気がして……

・人 外:もう勝手にしろ……

 

それの元ネタを知っている俺としては狙っている様にしか思えない。

 

・エロ神:これこれ、ここで夫婦漫才をするでない。……してどうなのじゃ?

・人 外:分かった今から行く。フィア、昼は遅れるからみんなで先に食っててくれ

・フィア:分かったわ。じゃあ、あなたの分だけ作らないでおくわね

・人 外:やめてくれ、流石にそれは俺でも傷つく

・フィア:フフ、冗談ですよ。ちゃんと作っておきます

・紅魔王:く、私もミア(ミレイフィアの事)とイチャイチャしたい

・ミ ア:サーゼクス様が仕事をちゃんとしてくだされば出来る……かもしれません

・紅魔王:よし、じゃあ仕事でやる気を出すためにイチャイチャを……

・ミ ア:しません。仕事が先です

・紅魔王:そ、そんな……

・堕総督:チクショウ、どいつもこいつもイチャイチャしやがって! 俺も嫁が欲しーっ!

 

アザゼルのそんな心からの叫び(書き込み?)を一瞥した後、俺は表示枠を消してオーディンのいる神殿に向かった。しかしこの時俺は思ってもいなかった。まさか、歴史が動くあの時までにあんなことが起きようとは……。

 

 

 

 

 

 

俺がオーディンの神殿の前に着くと、俺を呼びだした本人であるオーディンと北欧では珍しい黒髪にオオカミの様な鋭い目をした女性が神殿の前で待っていた。

 

「相変わらずお主は老けんのぅ」

 

「どうだ羨ましいだろう!」

 

俺が正史で見たオーディンより幾分か髭が短い若干若いと思われる(髭以外は区別がつかないから)オーディンが出合い頭にそう言ってきたので、無駄に胸を張ってみた。

 

「全く、お前は全然変わらないな」

 

「そういうお前は中々強くなったようじゃないか。ところでお前って家事出来るか?」

 

実力は上級悪魔の中で上の上くらいのオーラを纏っているウィサに問いかけると、彼女はフイッと顔を逸らした。

 

「?」

 

「ホッホッホ、実はウィサはのう家事が」

 

「言うなクソジジイ!」

 

オーディンが何か言おうとしたら、ウィサが思いっ切り頭を殴って無理矢理黙らせた。おいおい、仮にも主神に向かってクソジジイとか……ま、オーディンだし別にいっか。

 

「あー……ウィサ、別に気にするな。家は家事を出来る奴で分担してるから、もしできたらその担当を変えなきゃなあって思っての質問だから、できないならできないでいいんだ」

 

「そ、そうか……」

 

俺がそう言うと、彼女は恥ずかしそうに頬を少し朱に染めながらそう俯きつつ呟いた。

 

「でわ一誠、お主なら心配いらんと思うがウィサの事を任せたぞ」

 

「おう、じゃあ行くか」

 

「ああ、今まで世話になったなジジイ」

 

俺とウィサはオーディンに手を振り別れの挨拶をした後、家まで転移した。




はい、やりたかった事は境ホラの実況通神でした~。
因みにそれぞれの通神での名前は
一誠:人 外
グレイフィア:フィア
オーディン:エロ神←エロ爺とどっちにするかで迷った
サーゼクス:紅魔王(くれないまおう)
アザゼル:堕総督(だそうとく)
の以上が今回出て来た名前です。四文字以内だったらもっと色々あったのですが、原作では最高で三文字の様なのでこうなりました。他のキャラの名前は登場するその時までお楽しみにしていてください。なお、自由空間云々はオリジナル設定です。詳しく説明しますと、
自由空間;実況通神に登録しているものならだれでも入れる所
といった感じです。その他の場所も後々出てきますので、説明はその時にします。
では、次回はいよいよ原作のあのキャラとの接触する予定です。もしかしたらその前に一度設定集を入れるかもしれませんが…………
どっちにしろバカテス・IS・SAOを含めて出来るだけ早く仕上げたいと思います。
それと前書きでも言いましたが、活動報告でやっているアンケートはまだやっていますのでそっちの方も出来ればよろしくお願いします。
感想や評価や誤字脱字の報告を待っています。


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色々ある一日

実はパソコンは随分前に直っていたのですが、途中まで書いていたデータが全部とび最初から書いていたのと、定期考査があった事によりかなり遅れてしまいました。いや、ホントはもっと早く更新する予定だったんですよ。ホントですよ。
それと私最近バイト始めたので更新はさらに遅くなります事をご了承ください。
今回から原作キャラも出てきます。


色々ある一日

 

 

 

 

 

 

あれから更に数十年たち今は、正史で俺が殺される年まで二十年と数年といったところだ。あの後俺は最後までファルビウムの眷属を集めを手伝い、無事に全員揃わせて終わった。それ以外で変わった事といえば”神の子を見張る者(グリゴリ)”の幹部たちがアザゼルを含めて次々と結婚して言った事だろう。そのせいで現在”神の子を見張る者”での幹部で結婚して無いのはほんの数人だけになっている。後は………ああ、そういえば何年か前からオーフィスが人間界の美味い物を見つける、とか言い出して世界ぶらり旅に何故か正史で見た幼女の姿で出て行ったな。まあ、偶に帰って来るけど(家に居る時は大人の姿)。……正直あの見た目だと変態(ロリコン)に会わないか心配だ。

 

「ご主人様~、調味料などが足りなくなってきたのでちょっと買ってきてくれませんか?」

 

「おういいぞ。それで何を買ってくればいいんだ?」

 

「買ってきてほしいものは全部この紙に書いておきました」

 

そう言って俺にその紙を渡してくる玉藻。俺はそれを受け取って開き買ってきてほしいものを見る。

 

「え~と何々……醤油、油、みりん、砂糖、柿○種、スルメ、ビーフジャーキーと。なぜつまみがあるのかはツッコまないでおこう」

 

「あ、アハハハハ」

 

彼女も乾いた笑い声をあげた。

……まあ大体誰がこれを書いたのかは分かるけどな。

 

「じゃあ、行って来る」

 

「あっ、一誠ちょっと頼みがあるんだがいいか?」

 

スキマを開け人間界に買い物をしに行こうとした時、横合いからアルビオンに話しかけられた。

 

「どうした? お前もなんか食いたいものがあるのか?」

 

「いや、実は白龍皇の光翼の所有者を連れて来てほしい」

 

「? 今回の所有者は何か問題でもあるのか?」

 

まあ、大体誰かは予想はつくが……。

 

「ああ、実はそいつは悪魔との混血児でな。しかもその悪魔の血がルシファー(と義姉妹の契りを交わした悪魔)の血統なんだ」

 

「? 別にそれだったら大した問題にはならないと思うが?」

 

「ところが、だ。そいつ以外の周りの奴らが強すぎる力と才能を持ったそいつを恐れた。そしてそいつは二週間前に僅か三歳で両親に捨てられた」

 

「なるほど。強すぎる力は恐れられ迫害されるって訳か。それでお前は俺にそいつを連れて来てどうしてほしいんだ?」

 

「できればここに住まわせたいんだが……」

 

彼はそう言いながらこちらを窺ってきた。

 

「分かった、誰かに拾われていない限り連れて帰ることを約束する」

 

「すまない、恩に着る」

 

アルビオンがこんなにも一人の所有者に入れ込むのは珍しい、と思いながら俺は隙間を潜った。

 

 

 

 

 

突然だがここで、俺の人間世界での領地の事を話そう。

俺の人間界での領地は京都だ。俺の領地が此処になったのは、俺が古くから日本神話の奴らと仲が良かったというのが理由だろう。俺の家族を知っているサーゼクスあたりは九尾達がいるからという理由もありそうだが……。そしてもちろん京都に居る妖怪たちとも仲が良い。具体的には人間界の京都を散歩していても警戒されるどころか、会ったら漬物とかもらえるくらい仲が良い。

まあそういった理由俺達家族が人間界に行くときは基本的に京都になっている。だが今回は京都では無く駒王の方に来ていた。理由としては何となくだ。

 

「それにしても……偶にはこういうのも良いもんだな」

 

路地をブラブラ歩きながら一人愚痴る。もうすでに買い物は終わっていて、荷物は一足先に家に届けたので手ぶらだ。そして俺はアルビオンとの約束を果たすために、所有者の元に街をブラブラしながら向かっているのだが、一人でのんびりと過ごすことがあまりなかった俺はこの時間を新鮮に感じていた。

 

「お、いたいた」

 

表の通りから外れた入り組んだ路地裏を、何回も右に左にと曲がっていくとその先にお目当ての人物はいた。

 

「……誰だ」

 

「兵藤一誠。巷では”半端者”や”常識外の者(バランスブレイカ—)”なんて呼ばれている」

 

”半端者”と”常識外の者”はどちらも俺の巷での字名(アーバンネーム)だ。”半端者”は天使・堕天使・悪魔の三つに所属している事から、自身の種族至上主義の奴らが俺の事を『色々な事に所属している中途半端な者』というのが省略し、更に侮蔑などの罵倒の意味を込めて”半端者”となったわけだ。

”常識外の者”は以前レーティングゲームに出た時にはっちゃけて無双しまくったらそう呼ばれるようになった。

 

「ああ、あんたが……。それでそんな有名人が俺に何か用」

 

「ああ、実は————」

 

「ん? 何でお前がこんなとこにいやがんだ?」

 

突然第三者の声が聞こえたのでそちらを向いてみると、何故かアザゼルが居た。

何となく此処に居る理由は分かったが一応聞いてみる。

 

「? なんでお前はこんなとこに居るんだ?」

 

「はぁー、やっぱり実況通神(チャット)は見て無かったか。一応お前にメッセージ送っといたんだがなぁ」

 

……え? マジで? そう思いつつ非表示にしていた実況通神を開いてみてみると、確かにアザゼルから白龍皇の光翼の所有者を勧誘しにいかないかという旨のメッセージが来ていた。

 

「すまん、最近はあんまり使ってなかったから非表示にしてた」

 

俺が正直にそう言うとアザゼルは呆れてため息を吐いたが何も言ってこなかった。

 

「んで、こいつが白龍皇の光翼の所有者か」

 

「ああ。彼は悪魔と人間の混血児(ハーフ)で名はヴァーリ・ルシファー」

 

「‼ へぇ~、そいつはすげぇ奇跡だな。んで、どっちで世話するんだ」

 

「表向きはお前の所に所属していることにする。だがそっちでの仕事が終わったら帰ってくるのは俺ん家だ」

 

「完全に此方に引き込めないのは残念だが、まあ働き手が増えるし良いか」

 

「……俺が住んでもいいのか?」

 

アザゼルとの話がまとまったところでヴァーリがそう言ってきた。恐らく両親とかに酷い事を言われて家を追い出されたのだろう。正史の時の彼からは想像もできないようなセリフだ。いや、もしかしたら正史でもアザゼルに拾われた時に似たようなことを言っていたのかもしれない。

 

「ああ勿論だ。それに俺ん家にはお前以上の問題を抱えている奴らが沢山いるから今更お前一人程度が増えた所で問題ない」

 

俺がそういうと、ヴァーリは本当に僅かだが安堵したような表情になった。その表情の裏で彼が何を思っているのかは知らないが、先程までの表情よりはちょっとだけいい表情なのには違いなかった。

 

「話はまとまったな。だったらヴァーリだかには悪いが一誠、お前は俺と一緒に来てくれ」

 

「何かあったのか?」

 

「ああ。お前はここ最近バラキエルが行方不明だったのは知ってるか?」

 

「勿論知ってるが……それが何か?」

 

「実はここに来る前にバラキエルが『神の子を見張る者(グリゴリ)』の本部に帰って来たんだが、あの野郎行方不明だった間は巫女さんとイチャイチャしていたらしい」

 

「いや、あのバラキエルの事だから何か理由があるんだろう」

 

「ああ、実は任務中に大怪我を負ったらしく、その怪我が治るまで看病してくれたのがその巫女さんなんだとよ」

 

おい、イチャイチャ要素は何処にもないぞ。それどころかバラキエルは死に掛けてるじゃないか。

 

「お前それの何処にイチャイチャ要素があるんだよ」

 

俺がそう言うと、アザゼルは呆れたようにため息を吐きながら首を左右に振った。

 

「はぁ、お前は何もわかってないな。いいか? 巫女さんだぞ巫女さん。巫女さんっていたっら、ナース・メイドに続く三大エロ職業だぞ!」

 

「違う、それは絶対違うっ!」

 

アザゼルのアホ発言に俺は全力でツッコんだ。それにしても流石は人間の女の胸揉んで堕天したアザゼルといったところか、全くブレない。まあ、そこに痺れも憧れもしないが。

 

「お前そんなことばっか言ってると嫁さんに愛想付かされるぞ」

 

「何言ってやがる、あいつは別格だ。あいつがそんな格好してくれたら……もう一度堕天してもいい」

 

「いや、できねぇし。結局それお前は何も対価出してないから」

 

これ以上やっていても無駄だと判断した俺は、家に居る奴らに連絡するために表示枠(サインフレーム)を開いた。

 

 

~実況通神・家族空間(ファミリールーム)~

・人 外:アルビオン頼まれていた事は今終わったぞ

・白龍皇:おおそうか。ありがとう、感謝する

・人 外:それとルシファー、ヴァーリはお前(と義姉妹関係を結んだ悪魔)の子孫だから必然的にお前が母親な

・傲 慢:それはいいけど……そのお、夫は誰になるのかしら?

・人 外:もちろん俺だろ。それ以外に誰がいる

・傲 慢:! そ、そう。それならいいのよ。フフフ……

 

ああ、今家で超幸せそうに笑っているルシファーが容易に想像できる。

 

・一部を除いた女性陣:ちょっと待て!?

・人 外:どうした行き成り

・嫉 妬:どうしたもこうしたもないよ‼ 何で母親役がルシファーなの!?

・人 外:いやヴァーリの血にルシファー(と儀を交わした悪魔)の血が入ってるからだろう

・色 欲:確かにそうだけれど別にそれだけの理由で母親役に選ばなくてもいいのではなくて?

・暴 食:うむ、アスモデウスの言う通りだ

・人 外:じゃあどうしろってんだよ

・黒龍皇:こ、公平にジャンケンとかそういうもので決めればいいだろ

・蒼龍帝:全く、レブレの言う通りです。いくら一誠といえどもこういった大事な事は全員で話し合って決めていただけないと困ります

・夕 麻:まあまあ、みんなそれ位にしなさい。一誠が困っているでしょう

・フィア:レイナーレの言う通りです

・支配者:それに今一誠が決めたんだから、わざわざそんなメンドウなことしなくてもいいでしょう

・女 神:それぞれの場所で第一夫人を正式に名乗っていて余裕のある三人は黙っていて下さい

・蒼龍帝:全く、ライヴィスの言う通りです

 

まあ、確かにフィアは悪魔陣営で、レイナーレは堕天使陣営で、フォンは天界陣営でそれぞれ第一夫人になっている。いや、本当は彼女達に順番なんてつけたくないんだよ。でもそうしないと政治的にとか、社交的(これは主に悪魔陣営での話)に面倒な事になるので渋々こうなっている。あ、もちろん家ではみんな平等に愛してるよ。

え? 社交性なんてあるのかって? いや全然全くないけどね。でもサーゼクスや上層部たちがしつこくって煩いから必要最低限だけは社交界に出てるよ。嫌々だけどね。

 

・人 外:お前らなぁ……。はぁ~、じゃあ今からヴァーリをそっちに送るから、ヴァーリ本人も交えて尚且つお前ら全員が納得できる決め方で決めろ

・タマモ:あれ? ご主人様も一緒に帰ってこないんですか?

・人 外:ああ。俺にアザゼルがなんだか用事があるらしいからそれを終わらせてから帰る。それと母親になった奴はヴァーリに知識と戦闘と家の事等必要最低限の事を教えておいてくれ

・タマモ:分かりました。じゃあ早めに帰って来て下さいね。今夜は私の番なんですからっ!

・人 外:ああ、分かってるさ。それに可愛いキツネちゃんを待たせておくのは忍びないしな

・タマモ:イィヤッフゥゥゥ! やったやったやりましたーーーー! ご主人様に可愛いって言われましたっ‼ これで後はもうご主人様を私のモノにするだけですね!

・人 外:? お前は俺の嫁なんだからお前はすでに俺のモノになってないか?

・約全員:待て、ツッコむところはそこじゃない!

 

約全員からのツッコミを受けた俺は、その後にドンドン表示されていってるのが、玉藻と女性陣の言い争いだと確認した俺は表示枠(サインフレーム)閉じた。

 

「さてじゃあヴァーリはこのスキマを通ってくれ」

 

そう言いながら俺は彼の前にスキマを開く。

 

「………」

 

「大丈夫だ。繋がっているのは俺の家だからな」

 

「……分かった」

 

ヴァーろは渋々といった風でスキマに入って行った。

 

「んじゃ行くか」

 

「おう」

 

そして俺とアザゼルは『神の子を見張る者』の本部へと転移した。

 

 

 

 

 

「んじゃあ、二人を呼んで来るから応接室で待っててくれ」

 

「はいよ」

 

本部に着いた俺とアザゼルは、それぞれの場所に向かう為に別れた。

そして俺はアザゼルに言われた通り応接室に向かった。その道中でコカビエルが奥さんに追い回されてたけど、何をやらかしたんだアイツは……。

 

「失礼しま~す」

 

応接室に着いた俺は、一応中に既にバラキエルと姫島朱璃(これは俺の予想)がいるかもしれないと思ったのでノックをしてから入る。

 

「すまないな一誠、急に呼び出して」

 

「いやいや問題ない。どうせ暇だったしな」

 

中に入ると来賓側の椅子に居たバラキエルが立ち上がって俺に謝って来た。その横には長い黒髪の大和撫子な雰囲気を纏った女性がいた。恐らく、というか確実にこの女性がバラキエルの結婚相手なのだろう。そして俺にはその姿を見た瞬間に彼女の名前の当たりも付いた。

 

「それでそっちが———」

 

「ああ、こっちが今度私と結婚する————」

 

「姫島朱璃です。あなたのことは夫(になる予定)のバラキエルから聞いています。いつも夫(になる予定)のバラキエルがお世話になっております」

 

「しゅ、朱璃!?」

 

丁寧なお辞儀をする朱璃の横で夫と言われて赤面しているバラキエル。微妙にイチャつれている気もするが、まあそこは放っておくか。

 

「それで、バラキエルは話したのか」

 

「い、いやそのだな……」

 

彼らとは反対側の椅子に座りながら彼に問いかけると、彼にしては珍しく歯切れが悪く明確な事を言わなかった。

 

「あの事とは?」

 

朱璃がバラキエルに問う様に横目で見ながら俺に質問してきた。

 

「姫島朱璃、お前の今後についてだ」

 

「?」

 

和華が分からない、といった風に首を傾げる彼女の事など無視して俺は話を進める。

 

「取り敢えず質問するが、お前はバラキエルと結婚した後お前の生活はどう変わると思う?」

 

「え~と……そちらの世界と関わることが増え、実家から敬遠される位でしょうか」

 

「その答えでは30点だ。実際は、バラキエルを疎ましく思う思う者たちの対象にお前も入り襲われたり、種族として敵対している天使や悪魔に理由もなく襲われる。後は……もしお前ら二人に子供が出来たらその子供はお前の実家関係で殺される」

 

「そんなっ⁉」

 

今の生活にちょっと裏の世界の事が入って来るだろう、と思っていた朱璃は俺の例えに悲鳴を上げる。

 

「おい一誠、流石にそれは言いすぎじゃあ———」

 

「黙れバラキエル。お前が事前に説明しなかったから俺が今説明してんだ。説明しなかったお前に口を挿む権利はない」

 

全く、アザゼルやコカビエルでさえ事前に説明したって言うのに、何で普段が真面目なお前は肝心な時にヘタレなんだよ。

 

「第一お前は自覚があるのか?」

 

「……何の事だ」

 

意気消沈といった風のバラキエルが俺に弱々しく問いかける。その隣に居る朱璃は……恐らく本当に自分はバラキエルと結婚したいのか、先程の事も考えて自問自答しているのだろう。それでもちゃんと俺達の話を聞いているのだから何気にハイスペックだ。

 

「お前が過去にしてきたことだ。時にお前は堕天使としてその力を存分に使い、襲い掛かって来る妖怪や魔物を殺し。時に敵対する天使や悪魔を殺し。時には人間も殺した。そんなお前の全身は血で汚れている」

 

俺の言葉でその事を思い出したバラキエルは、俯いて微かに震える両掌をジッと見ている。恐らく今の彼は、今見えている自分の体全体に血が万遍なくこびり付いているだろう。

そしてその横では驚愕の表情で彼を見ている朱璃の姿がある。彼女も彼が堕天使だからそれなりに悪い事をしてきたとは予想はしていたのだろうが、これほどとは予想していなかったのだろう。だが、彼女の瞳には強い決意の炎が揺らめいていた。

ふむ、こっちは大丈夫だとすると残りはこっちだけだな。

 

「それでどうなんだ? お前は、例え今同僚であるアザゼルやシュムハザ達から追われることになって、そいつらを殺してでも彼女と一緒に居たいのか」

 

「………」

 

俺の質問に俯いたままのバラキエル。彼の隣の朱璃は彼を不安な表情で見ている。恐らくその不安は、『自分を選んでくれるのか?』といったものだろう。だが恐らくその心配は杞憂に終わる。なぜなら俺の知るバラキエルは、ドМでヘタレで変態だがちゃんと自分で一度決めたことは決して曲げない”強さ”を持っている。もしここのそれが無い状態で来ていたら、彼女の不安は的中してしまうが、俺がこの部屋に入った時彼の瞳にはちゃんとそれがあった。だから彼は彼女と一緒に居る事を選ぶだろう。

 

「私は……朱璃と一緒に居たい。例え夢幻と無限と敵対することになったとしても」

 

静かだが強い意志の乗った言葉でバラキエルはハッキリとそう言った。隣に居る朱璃はその言葉を聞いて感極まって泣きそうだ。

だがな、いくらなんでもその例えは飛躍し過ぎると思う。まあ場の雰囲気を読んで言わないが。

 

「分かった。お前達の覚悟はよく理解できた。じゃあやっと本題だ」

 

「今までのが本題ではなかったのですか?」

 

「今までのはバラキエルが事前にお前に言っておくことだ。本来ならそれらを事前に結婚相手に言っておいてから俺の所に来るんだが……バラキエルがサボったから長くなったんだよ」

 

言いながら睨みつけると、件のドМは居心地悪そうに俺から視線を逸らした。彼の横では朱璃が仕方のない人ね、と子供を叱る母親の様な感じで、頬に手を当ててあらあらと言いながらバラキエルを見ていた。

 

「さて姫島朱璃、お前に三つの選択肢を与える。一つ目は、このまま種族も寿命も変えないまま普通の人間としてバラキエルと違う種族、違う寿命で一緒に居る」

 

「それ以外の方法があるんですか?」

 

「取り敢えず黙って最後まで聞いてくれ。二つ目は、種族は変えずに寿命だけバラキエルと同じにして、バラキエルと同じ寿命、違う種族で一緒に居る。三つ目、種族を人間から堕天使にしてバラキエルと同じ種族、同じ寿命で一緒に居る。このどれかを選んでくれ」

 

「………」

 

俺の言葉に彼女は思案する。その横のバラキエルもこの問題だけは見守るしかない。彼としては三つ目、でなければ二つ目を選んでほしい所だろう。

 

「私は、この人と同じ種族で同じ時間を生きていきたいです」

 

それは三つ目を選ぶという事だ。

 

「今一度確認する。本当にその選択で後悔しないな」

 

「はい。私はこれからこの人をずっと支えていきたい。この人が今まで犯してきた罪を一緒に背負って、一緒に歳を取って、一緒に死にたいです。だから私を堕天使にしてください」

 

それは静かだがしっかりとした彼女の自分の気持ちの吐露だった。それを聞いて隣のバラキエルは感極まって泣きそうだ。

 

「分かった。準備はいいか?」

 

「……はい」

 

彼女が頷いたのを確認した俺は、指を一度鳴らした。

 

「⁉」

 

すると彼女の体が光輝いた。

一際輝いた後、徐々に光が弱まっていった。

光り輝くのが収まるとそこには先程までと見た目は(・・・・)なんら変わらない彼女がいた。

 

「成功……したんだよな?」

 

「今の彼女の気配を感じていても失敗したとでも?」

 

心配そうに聞いて来るバラキエルに向かって不敵に問いかけると、彼は静かに首を横に振った。

 

「違和感はないか?」

 

「背中の辺りに変な感覚が……」

 

「それは堕天使の翼が新たに生えたからだ。それ以外は?」

 

「特にはありません」

 

「それじゃあこれでお前も今日から堕天使だ」

 

「朱璃〰〰〰〰‼」

 

バラキエルがついに感極まって朱璃に抱き付いた。彼女も口では恥ずかしいとか言いながらも満更でもなさそうだ。

 

「そんじゃあバラキエル、お前はこれから朱璃が必要最低限の事を覚えるまで最低でも半年は自宅で書類仕事な」

 

「ああ」

 

「それと子供が生まれたら、その子供が15になるまで自宅で書類仕事ってのも分かってるな」

 

「勿論だ」

 

「あの……そんな事をして大丈夫なのでしょうか?」

 

まだこの組織を理解していない朱璃はそんな事を聞いてくるが、そこは無問題(モーマンタイ)。

『神の子を見張る者』に所属する者の大半が趣味に生きる自由人。

そもそもトップである総督があれなのだから、ちょっとくらいサボっても全く問題はない。だってあれはサボりまくってるし。

 

「ちゃんと朱璃ともしかしたら生まれてくるかもしれない子供に、最上級悪魔も倒せる護身術を教えておけよ」

 

「いや、最上級悪魔は俺でも厳しいからな⁉」

 

「それとこれをやる」

 

「無視かっ⁉」

 

バラキエルの叫びは無視して王の財宝(ゲート・オブ・バビロ)から台の上に横向きに撃勘んだフラスコを取り出し机の上に置く。

 

「これは?」

 

「『魔法球』だよ」

 

『『魔法球』?』

 

「その中は外と時間が隔離されていてな、こっちの一時間が中では三日になる」

 

『⁉』

 

俺の説明に二人は目を見開いた。

 

「ただし、これは一日に一回しか入れないのと、一回入ったら中で三日過ごすまで出られない」

 

「中に入っている最中にこれが壊れたら?」

 

「絶対に壊れない。それにこれには迎撃機能も付けているからな」

 

そう言いながら俺は『魔法球』に雷速でチョップした。だが俺のチョップは当たる数センチ前で、不可視のバリアに阻まれて『魔法球』まで届かなかった。それどころかそれから空気で出来た見えない刃、所謂鎌鼬が俺に向かって飛んできた。だが俺はそれを易々と手で弾く。

 

「とまあこんな感じだ。そんじゃ式の時は呼べよ」

 

「何から何まですまない。感謝する」

 

「色々とお世話になりました」

 

仲良く笑いながらこちらにお礼を言って来る二人を視界に収めた後、俺は今日一日色々とあったな~、と物思いに老けながら本家へ転移した。

 




実況通神での名前解説
アルビオン:白龍皇
ルシファー:傲 慢
レヴィアタン:嫉 妬
アスモデウス:色 欲
ベルゼブブ:暴 食
クエレブレ:黒龍皇
ラハム:蒼龍帝
レイナーレ:夕 麻
サンダルフォン:支配者
ライヴィス:女 神
玉藻:タマモ
その空間内に居るほぼ全員:約全員
といったところです。
次回は猫魈姉妹と木場にしようかと思っています。
感想・誤字脱字・評価をお待ちしています。


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転生者

ちょっと遅いですが明けましておめでとうございます。今年も私の作品をよろしくお願いします。
今年の第一話目はD×Dの方になりました。(いるか分からんけど)SAOを楽しみに待っている皆様は最新話はもう少しお待ちください。
今回で色々と私のやりたいことを入れました。
いつも通りの無駄に長い分ですが、どうぞお楽しみください。


 

 

 

 

 ヴァーリが俺の家族になってから数年、最近の彼は“神の子を見張る者(グリゴリ)”の仕事で忙しい様でほとんど家にいない。それでも一日に一度以上は連絡を寄越したり、家に帰ってきたりするのであいつも正史とはまた違った方向に成長しているみたいだ。

 そんな事を考えていた俺にミカエルから、

 

 ~実況通神(チャット)個人空間(プライベートルーム)

 天使長:今暇でしょうか?

 人 外:暇だが…どうした、熾天使(セラフ)絡みの事か?

 天使長:ええ、そのようなものです

 人 外:いいぞ。どうせやる事もないからやってやるよ

 天使長:では、今からいう教会にこっそり行って、そこで子供たちを救ってきてほしいのです

 人 外:……その教会ではなにをやってる

 天使長:『聖剣計画』という聖剣使いを人工的に作り出す研究です。それだけならよかったのですが、その計画の総責任者である“バルパー・ガリレイ”という司教が実験に参加させられた子供たちを全員殺そうとしている、と言うのが分かったのです

 人 外:それを止めたいが、天使長でもあるお前はうかつには動けない。そこで俺の出番って訳か……。オーケー、その頼み引き受けるぜ

 天使長:ありがとうございます

 人 外:ところでその情報はどうやって知ったんだ?

 天使長:私宛に狼・熊・狐と名乗る者たちからの情報です

 人 外:…………

 天使長:……一誠さん?

 人 外:いや何でもない。取り敢えず行って来るわ

 天使長:はい、お願いします

 

 そこでミカエルとの実況通神(チャット)は切れた。

 それにしても狼と熊と狐か………。

 暫く音沙汰ないと思ったらあいつら教会の事なんて探ってたのか。

 まあいい。それより今はミカエルからの“頼み事”の方が優先だ。

 そして俺はミカエルから教えられた教会の近くへとスキマを使って移動した。

 

 

 

 

 

 ハロー、皆さん。私の名前はジャンヌ・ダルク、かの有名な聖処女の魂を受け継ぐ者よ。といっても私は二次創作とかでよくある転生者なんだけどね。

 前世での私は所謂オタク系女子だった。といっても容姿は普通かちょっと上だったし、会話にネタを入れて話したり自分の好みに合うマンガや小説やアニメを人より(かなり)読んだり見ていたりしていただけなので、私が思うほどオタクではないのかもしれない。そんな私は高校生の時に普通に寿命で死んだ。その後はテンプレ通りでこの世界に来た。……ただ私をこの世界に転生させてくれた者が『かなりのイレギュラーがあるから気を付けろ』という言葉、それだけが私の心にしこりを残した。

 でも今の状況には若干感謝している。

 ジャンヌ・ダルクに憑依転生したと聞いた時は驚いたが、あの木場佑斗と私が幼馴染なのはその驚きすら凌駕する驚きを私に与えた。まあ、私が転生特典で頼んだんだけどね。

 私はD×Dの世界では一番木場佑斗が好きだ。紳士だし魔剣持って戦う姿は凛々しいしテクニシャン(意味深)だし。

 でも私は失念していた事がある……“聖剣計画”だ。

 そんなの特典でどうになすればいいじゃんと思うが、私の特典は“木場佑斗の幼馴染になる”、これだけなのだ。というよりこれ以外はいらないと言ってしまった、自分で。

 一応元のジャンヌ・ダルク自身が持っていた神器(セクリッド・ギア)聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)」は持っているし発動できるが、使えるかどうか試している矢先にこの計画に(強制的に)参加させられたので、ぶっちゃけないのと同じだ。

 そしてそんな私達(実験動物)は今、全員で錆びれた部屋に閉じ込められている。おそらくこれから対ガス装備をした大人たちがやってきて私達を毒殺するのだろう。

 

「ぼ、僕達どうなるのかな~……」

 

「大丈夫よ佑斗。……それに男の子でしょ? しっかりしなさい」

 

「ジャンヌちゃん……」

 

 私の袖を掴みながら不安そうになるのは少年の佑斗。

 ああ、私の佑斗超可愛い! 今すぐお持ち帰りしてペロペロしたい!

 ゴホンゴホン。

 まあ、冗談はここまでにして……本当にこのままじゃあ此処にいるみんながヤバイ。でも頼みの神器は未知数だし、何より使ったら数秒でバテる。

 

 ドパァン!

 

「全員その場を動くなっ‼」

 

 私がそんな事を考えていた時、部屋の扉が勢いよく開き数人の大人達が入って来た。

 そして私達に向けて銃を構えその引き金を引いた。

 

 シュー シュー

 

 蛇の威嚇に似た音が鳴り私達に向かってガスが噴出された。

 

「キャァァァァァッ!」

 

「うわぁぁぁぁ」

 

「ううぅ……ジャンヌちゃんっ‼」

 

 それを見て逃げ惑う子供たち。佑斗は私の袖を強く握って訴えるような瞳で私を見て来た。

 確かに私は今まで佑斗達が困っていたら手伝ってあげたり彼らが出来ない事でも悠々と(とは言いずらい時もあったけど)やって来た。更に以前私は佑斗に、

 

「できない事や無理だと思った事があったら私を頼りなさい。それらは全て私がやってあげるわ」

 

 とい言った事がある。いや、決して小っちゃい佑斗に対して何かしらの下心があった訳では無い。下心があった訳では無い。大事な事なので二回言いました。

 ————でもごめんね、佑斗。私約束守れそうにないや。

 そしてガスは一番大人達に近かった私と佑斗の所まであと少しの距離まで来ていた。

 私は目を瞑り神様…はこの世界にもういないから一番強い真龍にでも祈ろう。

 ————どうか、佑斗が生きてこの場を脱出で来て、その後の人生を復讐に囚われることなく幸せに生きていけますように。そして、ちょっとだけ我儘を言うなら……その佑斗がいつまでも私の事を覚えていますように。

 祈り終わった私は迫りくる“死”を待つ。

 ——————初代ジャンヌ・ダルクも火あぶりの時こんな気持ちだったのかな?

 …………………………?

 おかしい、いつまで経ってもガスが来る気配がない。

 

『?』

 

 他の逃げ惑っていた子供たちも疑問に思ったようで騒ぐのをやめている。

 そして私は恐る恐る眼を開けてみると——————

 

「ふうぅ、何とか間に合ったな……」

 

 —————原作主人公でおっぱい魔神の兵藤一誠がいた。

 いや、でもよく見てみると所々違う所がある。

 まず髪の色だが、原作の兵藤一誠は茶色だったのに対して今私の目の前にいる兵藤一誠(仮)は常闇の様に真っ黒だ。次に服装だが、この兵藤一誠(仮)は原作の一誠が着ない(かもしれない)某黒の剣士様が着ている様な黒のロングコートを着ている。そして一番の違いは今私達と大人達を遮るようにして展開されている障壁だ。

 原作の兵藤一誠は魔力も子供以下ならば魔術の才能も無い。これは公式である。なのに目の前の兵藤一誠は明らかに高等そうな魔術を使っている。

 う~ん、謎だらけね……。もしかしてこれがあいつの言ってたイレギュラーってやつなのかしら?

 

「よーし、お前らもう大丈夫だぞ。俺は熾天使のガブリエルの頼みで来た者だ」

 

 大人達側がガスでいっぱいになると彼らはそのまま帰っていった。恐らく兵藤一誠(仮)が幻術でもかけたのだろう。

 そして彼は私達に向き直り私達に微笑みながらそう言った。

 

「お前達には別の教会に住んでもらう事になる。此処を通れば次の教会に行けるから順番に通ってくれ」

 

 そう言った彼の隣の空間がパックリ割れてそこから教会らしきものが見えた。ってあれゆかりんの能力じゃないっ‼ 何で彼が使えるのよっ‼

 そして私と佑斗以外の子供たちは不安そうにしながらスキマを通っていった。

 

「あの、あのお兄さん……」

 

「ん? どうした少年」

 

「実は—————」

 

 ? なにやら佑斗と兵藤一誠(仮)が話している。二人は意図的に小声で話している為話の内容は分からない。それにしても二人で時折こちらをチラチラ見て来るのはどうなのだろうか? 私が話の話題になっているなら、私も話に混ぜてくれてもいいのに……。

 

「————じゃあお前はこっちだ」

 

「—————はい」

 

 そういって兵藤一誠(仮)は先程子供たちが入っていったスキマとは別のスキマを開き其処に佑斗を入れた。

 

「佑斗を何処にやったの……?」

 

「彼の望んだところだ。転生者(・・・)

 

「……⁉」

 

 ザッ

 

 彼にそう言われた瞬間反射的に私は彼から距離を取った。

 しかしそれは仕方のない事だ。何せ転生者を知らない筈の兵藤一誠が私に向かって転生者と言ってきたのだから。

 

「……貴方も転生者なの?」

 

「いや、全く違う」

 

 そこから私と彼は色々な話をした。

 彼の生い立ちやこれからの予定、そしてなぜか私を転生させてくれた奴からの伝言。代わりに私は私を転生させてくれた奴から聞いたことや転生者の事等を教えた。

 

「それで何で佑斗は罰の場所に向かったの?」

 

「今回の事を体験して色々思う事があったらしくてな、俺に強くなりたいって言ってきたんだ。だから俺は人間から外れることになってもいいのか、て問いかけたらあいつが頷いたから原作とは経緯が違うがグレモリーの所に送ったんだよ」

 

「じゃあ、私も其処に送ってくれる?」

 

 私がそう言うと彼はニヤリと笑った。

 それにしても全く関係ないがこの兵藤一誠は結構好感が持てる。変態じゃないしおっぱい魔神じゃないしヘンタイじゃないし。まあ、その笑みはムカつくけど。

 

「そう言うと思って向こうと他の子供たちには言っておいた。だが佑斗には言ってないからそこは自分で説明しろよ」

 

「……分かったわ」

 

 ちょっと説明するのが面倒臭いけど…まあ、しょうがないだろう。

 そして私は迫りくる運命(原作)で私の大切な(佑斗)を守る力を得る為にスキマを潜った。

 

 でも潜ってから気づいたんだけどさ、彼に教えを乞うた方が強くなれるんじゃね?

 

 

 

 

 

「んじゃ、俺も帰るか」

 

 二つのスキマも閉じ殺風景な部屋に一人となった俺は変える為のスキマを開く。

 そしてそこに入っていこうとした瞬間アスモデウスから実況通神(チャット)がきた。

 

 ~実況通神(チャット)家族空間(ファミリールーム)

 色 欲:一誠、二本のとある山にある猫魈の村が壊滅したわ

 人 外:いきなりで驚いたが、それは本当なのか?

 暴 食:本当だ。私とレヴィアタンの使い魔が確認した

 人 外:それで俺は何をすればいい? 俺に連絡をしてきたってことは俺にしてほしい事があるんだろう?

 嫉 妬:うんあのね、一誠君には生き残った猫趙の姉妹を保護して欲しいんだ!

 人 外:分かった。後念の為にクー、お前も来い

 槍 兵:はぁ⁉ 何でおれがいるんだよ! お前一人で十分だろうがっ!

 人 外:うるさい。偶にははぐれ狩り以外の仕事をしろ

 

 そして俺は事前に探っておいたクーの足元にスキマを開き猫魈の村に送る。そして俺自身も先程開いていたスキマを消し、猫趙の村に繋がるスキマを開きそこを通る。

 

「ったく、何でおれも—————」

 

「我慢しろ。それに……もしかしたら戦闘になるかもしれないぞ」

 

「……殺しは?」

 

「それは分からん」

 

 戦闘が出来ると聞いて若干だが機嫌を良くするクラウンの猛犬。

 

「こっちだ行くぞ」

 

「へいへい」

 

 そして俺達二人は、家屋は壊れ所々に死体が転がっている惨劇と化した村から森の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 よう、お前ら。理不尽な理由で神様に殺されて、チート特典を貰って転生した転生者のマルクス・アンドレアルフスだ。

 殺された時はものすごいイラついたが、安心院さんの一京のスキルを貰った上に美女美少女が沢山いるハイスクールD×Dの世界に転生させてもらったからまあ…良しとしよう。

 そして現在の俺は両親はすでに死去していて、俺がアンドレアルフス家の当主という最高の立場っ! キタこれで勝つる!

 まあ、いくらかイレギュラーがあるようだが今は原作の約十年前なので大丈夫だ。

 そして俺は今猫趙の里が壊滅してと聞いたので、あの黒歌と白音こと小猫を眷属にしている為にそこに向かった。

 村に居なかったので周囲をスキルで探ってみると、近くの森の中に反応を見つけたのでそちらに向かうと案の定二人がいた。

 二人とも体の所々に傷が出来ている上に服もボロボロで痛々しい。だが俺にとっては好都合。

 今なら二人の心も弱っているので、そこに付け込んで取り込めばあら不思議数年後には美人姉妹が俺のハーレム要員だ。

 クックク、数年後が楽しみだぜ。

 

「大丈夫かいお嬢ちゃんたち?」

 

『………』

 

 優しく話しかけたのだが、警戒されているようだ。だが俺はあきらめない。未来のハーレム要員を手に入れる為に!

 

「君たちはあっちにあった猫魈の村の生き残りだよね? 住むところが無いみたいだけどよかったら家に来ないかな?」

 

『…………』

 

 俺が二人の正体を言って瞬間余計に警戒されてしまった。

 そして警戒を解くためにもう一度口を開いた時、何処からか叫び声と共に青い光が飛んできた。

 

「———————ッ!」

 

「—————おわあぁぁぁぁぁっ! 何だそりゃ—————ッ‼」

 

「グべッ⁉」

 

 そして横から飛んできたそれは思いっ切り俺に激突した。

 

 

 

 

 

 クーと森の中を進んでしばらくすると、黒髪の少女と白髪の幼女がいた。間違いなく黒い方が黒歌で白い方が白音だろう。

 そしてその二人の前にイケメンの悪魔がいて二人になにやら話しかけていた。あれはただの悪魔では無く転生者だろう。理由? 勘だ。

 しかしこれは不味い。俺というイレギュラーがいる上に転生者も何人もいるので最早原作通りにはいかないだろうが、何処か知らない所で不幸になられるとやるせない感があるのでできれば俺が保護したい。

 世界が甘くない事は身を持って知っているし、俺のこの『原作で俺と関わりのあった者たちは全員救いたい』という思いはきっと傲慢なのだろう。だがそれでも彼女達に俺達の場所———殺し殺される世界に来るほどの強い意志があるのならば俺達で救う。まあ、あの二人は主要キャラなので何処に行ってもそういう事にはなると思うが。

 

「という訳でクー……行くぞ」

 

「は? いや、行くぞって…ちょ、おまっ、行き成り何しやがるっ!」

 

回転して突撃する蒼い槍兵(ブーメランサー)っ‼」

 

「おわあぁぁぁぁぁっ! 待て待て待てっ! 何だそりゃ—————ッ‼」

 

「グべッ⁉」

 

 抵抗するクーの無視して彼の足を掴み、イケメン悪魔に向かって思いっ切りブン投げた。そしてそれはものの見事にイケメン悪魔に当たった。

 そして一応言っておこう。

 

「ランサーが死んだっ⁉」

 

『この人でなしっ⁉』

 

 そして突然の事にも拘らずツッコんでくれたに猫魈姉妹とイケメン悪魔の眷属たち。

 だが俺はそれにあえて触れずに猫趙姉妹の元に向かう。

 

「大丈夫か二人とも」

 

「⁉ 誰にゃ!」

 

 え~、さっきツッコんでくれたじゃないですかぁ~。

 

「兵藤一誠だ。一応お前達の両親とは面識があったんだが……両親から何か聞いてないか?」

 

「……姉様、母様が死ぬ直前に私に困ったことがあったら兵藤一誠という男に厄介になりなさいって言ってました」

 

「白音、それ本当?」

 

「…はい、本当です」

 

 どうやら俺の事は(妹の白音が)事前に聞いていたようだ。そのお蔭で俺への警戒は若干解けたものの、未だに俺の元に近寄ってはこない。

 

「お前ら一つ聞く。お前らは自分と同じ人の形をした者たちを…殺すことは出来るか」

 

「……どういう意味にゃ」

 

「そのまんまだ。自分たちの目的の為には手段を選ばないか? ってことだ」

 

『…………』

 

 俺の質問に悩む二人。ちょっと内容が酷なものだったか、と省みたものの口から一度出た言葉は撤回できないし、俺達の所に来るなら実際にそれをする機会だってあるのでこの質問で良かったのかもしれない。

 

「……出来るにゃ。白音を守る為ならなんだって………」

 

「……私も出来ます」

 

「よし、じゃあ俺の所に来い。三食昼寝あと自由付だ」

 

 そう言って差し出した俺の手を黒歌がとろうとした時、横合いから文字否“スキル”が飛んできた。

 しかしそれは俺の身体には当たらず逆に俺の身体を通り抜けた。

 

「おいおいおい、後からきてそれはちょっとないんじゃねぇか? 主人公(ヒーロー)さんよ」

 

「クーはどうした」

 

「間抜けな事に、当たり所が悪かったらしく気絶してるぜ」

 

 流石幸運E。期待を裏切らないな。

 そして先程のセリフからこいつが転生者という事は確定。

 ………しくったな、クー以外にも誰か連れてくれば良かった。いや、決して勝て無い訳じゃ無い。寧ろ手を抜いていても赤子の手を捻るように勝てるだろう。だが面倒くさい。

 そんな事を思っている内に周りを囲まれた。

 それによって俺の後ろで怯える仔猫二匹。

 はぁ~、仕方ない。

 

 パチン

 

 と、指を一度鳴らすと黒歌と白音の周りに不可思議な色の結界が張られた。

 それと同時進行で目の前にスキマを作る。始めに言っておくがそこから出て来るのは俺の家族の誰かだ。誰かは知らん、ランダムにしたし。

 

「よっと。何じゃ一誠妾に何か用か?」

 

 出て来たのは羽衣だった。

 

「なっ⁉ そいつは————」

 

「羽衣、面倒な事になったから鬼纏(まとい)をするぞ」

 

「何じゃ随分強引じゃのう。まあ吝かではないがな……」

 

 そして俺は羽衣から溢れ出た妖力を着物の様に着込む。

 すると徐々に俺の姿が変わっていった。

 まず髪がドンドン伸びて肩甲骨の下くらいまでの長さとなった。次に俺の尾骶骨のあたりから羽衣と同じ尻尾が十本生えてくる。最後に俺の着ていたものが洋服から黒い着物と紺の羽織になった。

 

「鬼纏 黄金黒狐装(おうごんこっこそう))」

 

 この鬼纏は本家本元とは違い人の部分が無くてもできる。その分効果も変わったのだが。因みに尻尾の数の理由は羽衣の生(九回)+俺の生(一回)である。

 

「一応提案するが、レーティングゲームにしないか?」

 

「そんなのするかっ⁉ チート特典を貰った俺は無敵だっ! 原作よりは強くなっているようだが、俺のてきじゃない! 今ここで忌々しいお前を殺してやる‼」

 

 イケメンの心からの叫びを合図に彼の眷属たちが一斉に襲い掛かって来た。その数…十人。

 

『(どうするのじゃ……妾の武具で()るか?)』

 

『(いや、それをやると後々が面倒になる。取りあえず全員気絶させるぞ)』

 

『(殺るのは?)』

 

『(なしだ)』

 

『(何じゃつまらん……)』

 

 あいつの眷属たちに対してそれぞれ尻尾が一本ずつ動き、槍のように飛んで行きそれぞれの鳩尾に当たって気絶した。途中で迎撃してくる奴等もいたけど、それを避けて攻撃するなど羽衣の力もプラスされた俺には容易い事だった。

 そして眷属たちへの対処が終わって一息つこうとした時、

 

『(⁉ 一誠、避けろっ⁉)』

 

『(分かってる)』

 

 真横からスキル弾幕が飛んできた。がそれを垂直にジャンプし避ける。

 

「甘いわッ! ボケェッ‼」

 

 未だに空中に居る俺に再び放たれる。

 

『(仕方ないか……)』

 

『(む、出すのか?)』

 

『(ああ、流石にこれは尻尾で防げるもんじゃないからな)』

 

 チラッと見た限り即死級のスキルとかあったし。

 

「二尾の鉄扇」

 

 まあ、ただの鉄扇じゃ防げないから妖力と仙術で強化してるけど。

 

「なっ⁉」

 

 防がれたことが意外だったのか驚愕している悪魔君。その隙に俺は予め彼の背後に伸ばしておいた尻尾で首を討ち気絶させる。

 スキルでどうにかで来たんじゃないか? と思うだろうが、異能の力は例外を除いて意識的に発動させるものだ。そして今の彼は驚愕したことにより思考に“空白”が出来てしまった。だから発動できず、対処も出来なかったという訳だ。

 

「じゃあ俺はこいつ等の記憶を忘却したり改変したり色々してから変えるから、羽衣は二人を連れて先に帰っててくれ」

 

「うむ、了解した。ではお主ら行くぞ」

 

「にゃ、にゃあ」

 

「……はい」

 

 黒歌は戸惑いながらだが、二人は羽衣に手を引かれてスキマへと入っていった。

 

「さてと……やりますか」

 

 三人がスキマへと消えた後、俺は目の前に転がっていく計十一人の悪魔の記憶を弄ったり色々したのだった。

 

 なんか忘れているような気もするが、これで概ね原作(zero)までに出来る事はやった。後は運命の日(Fate/stayday)を待つばかり。

 そして原作から外れた世界は誰も分からない運命と辿る。そう、転生者とイレギュラーが交差する時、運命のみぞ知る物語が始まる。

 




————解説————
個人空間:個人対個人でするチャットの場所。
ジャンヌ・ダルク:憑依転生した転生者。佑斗限定で偶に? 思考が変態になる。
槍 兵:クー・フーリンのチャットでの名前。
マルクス・アンドレアルフス:転生者。だが一誠によって大体のスキルと前世での記憶を失くしている。今後出て来るかは不明。
鬼纏:原作のやつと人の部分が無くても出来るやつがある。原作の効果は変わらずだが、一誠が使ったオリジナルのやつは、原作の鬼纏より難易度が高くて危険。
オリジナル鬼纏:自分の妖力などに他人の妖力などを合わせる為危険で難しい。使っている間は、ベースとなっている者は神器などの異能の力(魔力弾、魔方陣での転移などを除く)が使えない。重ねる奴とベースの奴の力を掛け合わせるのは一緒。一誠が、自分が強すぎる為に弱くなる為に開発した鬼纏なので基本は魔力などの出力アップ(通常一誠にとってはッ出力ダウン)にしかならない。合っても無意味。ただ単に作者がやりたかっただけ。
鬼纏 黄金黒狐装:一誠をベースにした羽衣狐との鬼纏。姿は作中の通り。
『()』:テレパシー等の会話。

他にも疑問に思った事があったら言って下さい。
感想や評価を待っています。


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第十話までの設定集

タイトル通りです。別に見なくても問題ありません。
ネタバレは無いと思いますが、あったらすいません。



~人物設定~

 

兵藤一誠

・原作より数センチ高く、黒髪黒目

・最早オリキャラ

・生まれた場所が何もない真っ黒な所だったせいか黒い服を良く着る

・第十話までに彼が使った技等…問題ない(ノーリスク)王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)幻想殺し(イマジンブレイカ—)・千の雷・闇の魔法・大噓吐き(オールフィクション)・境界を操る程度の能力・選択・鬼纏・仙術・回転して突撃する蒼い槍兵(ブーメランサー)千変万化(トランスフォーム)

・一誠自身の本来の能力は後々

・種族は人外

 

九喇嘛

・少し長めの金髪に百八十センチ前後の身長で赤眼

・イーリスとオーフィス並みに強いが、世間ではその事は知られていない

・五大狐(後述)の一匹

 

イーリス

・グレートレッドの名前だが、世間ではあまり知られていない

・緋髪(あかがみ)をポニーテールにしたのグラマー系美女

・真龍

 

オーフィス

・ロリッ子の時は原作と変わらないが、大人の姿になると物静かグラマー系美女

・兵藤家のエンゲル係数を上げている一人

・龍神

 

ルシファー

・朱色セミロングの髪の物腰が柔らかい系スレンダー美女

・初代魔王

・傲慢の悪魔

 

レヴィアタン

・水色ツインテールの元気いっぱい系美少女(胸は普通)

・初代魔王

・嫉妬の悪魔

 

ベルゼブブ

・緑色ポニーテールの胸がそこそこある系サムライ美女

・初代魔王

・暴食の悪魔

 

アスモデウス

・紫色ロングの親しい系グラマー美女

・初代魔王

・色欲の悪魔

 

ライヴィス

・優しい系金髪巨乳美女

・聖書の神

 

ルシフェル

・グレーショートの男勝り系美女

・初代堕天使総督

・オリキャラ

 

レイナーレ

・上級堕天使

・メイド

 

グレイフィア

番外悪魔(エキストラデーモン)

・とある瀟洒なメイド

 

玉藻の前

・通称タマモ

・家事係

・九尾の狐

・五大狐の一匹

 

・家事係

・九尾の狐

・五大狐の一匹

 

クー・フーリン

誓約(ゲッシュ)はなし

・真面目な戦闘シーンは多分ない

 

ラハム

・六つの巻き髪の蒼髪でグラマー美女

・口癖は「全く」

・四天龍(後述)の一匹

・蒼龍帝

・兵藤家のエンゲル係数を上げている一人

・オリキャラ

 

クエレブレ

・黒髪セミロングの胸は普通の美少女

・一言目はつっかえる

・四天龍の一匹

・黒龍皇

・兵藤家のエンゲル係数を上げている一人

・オリキャラ

 

羽衣狐

・九尾の狐

・暇人

・家事はできない

・五大狐の一匹

 

八坂

・この世界本来の九尾の狐

・容姿は原作通り

・家事万能

・今まで描写が無いが一誠の家族

・九重は後程本編で

 

九十九

・肩位までの金髪のボクっ子系バランスのいいグラマー美少女

・光を司る精霊

・オリキャラ

 

アルクード・A・マクダウェル

・通称アルマ

・見た目と口調は『両儀式』

・吸血鬼の始祖

・若干のめんどくさがり屋

・霧を操ったり蝙蝠に変身できない代わりに、吸血鬼の弱点が払拭されている

・オリキャラ

 

サンダルフォン

・アルビノ系スレンダー美女

・めんどくさがり屋

・天使

・オリキャラ

 

ウィサ

・一番最初のヴァルキリーにして最強のヴァルキリー

・名前の由来…千冬→サウザンド・ウィンター→ウィンター・サウザンド→ウィサ

・見た目と口調は「織斑千冬」

・オリキャラ

 

ドライグ

・赤髪でこわもて系青年

・一誠の作る料理が好き

 

アルビオン

・白髪紳士系青年

・ヴァーリに若干過保護

 

ティアマット

・白銀髪の構ってちゃん系美女(胸はレイナーレと同じ位)

・六大龍王の一匹

 

タンニーン

・紫色の細マッチョ系青年

・皆のオトン

・六大龍王の一匹

 

ミドガルズオルム

・グレーの髪の居眠り系少年

・ある意味では一番手が掛からない子

・六大龍王の一匹

 

ファーブニル

・金髪の宝石コレクター系少年

・殆ど家にいない

・六大龍王の一匹

 

玉龍

・緑髪ののんびり系少年

・六大龍王の一匹

 

ヴリトラ

・黒髪の厨二系少年

・実際にできるから余計にたちが悪い厨二

・六大龍王の一匹

 

ヴァーリ・ルシファー

・ルシファー(と義姉妹の契りを交わした悪魔)の血統で悪魔と人間のハーフ

・やっぱり戦闘狂

 

ジャンヌ・ダルク

・憑依転生者

・佑斗love

・隠れ巨乳系世話好きお姉さん

 

木場佑斗

・聖剣への恨みが少し薄い

 

黒歌

・猫趙

・容姿・性格は原作とは変わらず

・色気を学ぶためアスモデウスに師事してもらっているらしい

 

白音

・猫趙

・兵藤家のマスコット

・『魔法球』の中で修行したりしているので原作開始時から、容姿は常時「白音モード」

 

マルクス・アンドレアルフス

・転生者

・現在は一誠に転生前の記憶と大半のスキルを消された

・今後の出番があるかは不明

・オリキャラ

 

[newpage]

[chapter:その他の設定]

 

五大狐

・妖狐の中で最も強い五匹を指す言葉

・九喇嘛、羽衣狐、藍、玉藻の前、八坂の事を指す

・五大狐の力関係:九喇嘛>玉藻の前(宝具有)>>>羽衣狐>>藍≧八坂>玉藻の前(宝具無し)

 

四天龍

・ドライグ、アルビオン、ラハム、クエレブレの事を指す

・イーリスとオーフィスを除けば最強

・四天龍の力関係:ラハム=クエレブレ>ドライグ=アルビオン

 

吸血鬼の始祖

・大罪の悪魔、聖書の神、初代堕天使総督、人外、龍神、真龍と同じように何もない所から生まれた存在

・吸血衝動はあるもののコントロール可能

・不老不死で魂を直接攻撃するか「死」という概念で攻撃しなければ例外を除いて死なない

 

他原作のキャラ

・Fateの世界…クー・フーリン、玉藻の前、メディア

・ぬら孫の世界…羽衣狐

・東方の世界…藍

・NARUTOの世界…九喇嘛

・デート・ア・ライブの世界…(オリキャラだが)九十九

 

これからも他原作のキャラは(多分)増えます。

 




取り敢えずはこんなところです。
疑問に思った事等があったらどんどん質問してください。ですが大体がご都合主義の世界ですのでそこら辺は了承ください。


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第一章
始まり


遅くなりましたが、原作突入です。


 始まり

 

 

 

 

 

「あ~、おっぱい揉みてぇ~」

 

兵庫一翔(ひょうごいっしょう)君に同意~」

 

「言うな、虚しくなる」

 

 駒王学園の校庭が見える斜面で、メガネ・茶髪・坊主の男子生徒三人組がアホな事を言っていた。

 メガネが元浜で茶髪が兵庫一翔、そして最後の坊主が松田である。

 この三人駒王学園校内だけでは無く、ここら辺の地域一帯に有名である。勿論悪名の方で。

 メガネの元浜は眼鏡を通してみた女子の体型を数値化できる。それ故に〝エロメガネ”〝スリーサイズスカウター”等の異名を持つ変態だ。

 坊主の松田は身体能力が高く、過去にその身体能力で数々の大会の記録を塗り替えた男だ。当時の松田の活躍を知っている者は口を揃えて、

 

「あれは人間じゃねぇ、悪魔か何かの人外だ」

 

 と言った。

 しかしそんな彼も今は写真部に所属していて〝エロ坊主”〝セクハラパパラッチ”の異名を持つ変態だ。

 最後に茶髪の兵庫一翔は、超重度のおっぱいフェチで特にこれといった異名は無いものの変態だ。

 そんな彼らは三人そろって〝変態三人組”と呼ばれている。これならどこぞの〝クラスの三バカ(デルタフォース)”の方がまだマシだ。

 そしてそんな変態三人組が寝ている斜面の上の道を一組の金髪の男子生徒と女子生徒が歩いて行く。

 

「佑斗、最近体調はどう?」

 

「? どうって……別に普通だけど」

 

「そう……。……もっと入れる量増やそっかな」

 

「オーケー、最後の一言について小一時間ほど話合おっか」

 

「あっ、聞こえてた?」

 

「残念ながらね」

 

「それよりも佑斗、〝狐火BL(きつねびびーえる)”って作家知ってる?」

 

「勿論。昔から有名な作家でしょ。ライトノベル・恋愛・ミステリーその他様々な分野を書いている作家だよね。確か近いうちに彼の作品の一つが映画化するとか」

 

「そうそう、その人」

 

「でも確かあの人って—————」

 

「そこはどうでもいいの。それよりもその映画今度二人で見に行かない?」

 

「えっ? でもその映画って超人気で、前売り券は発売当日に僅か二時間で完売したんでしょ」

 

「大丈夫、本人に貰ったから」

 

「納得。じゃあ今度身にいこっか」

 

「ええ!」

 

 二人は楽しそうにしながら三人組の上を歩いて行った。

 

「木場佑斗……〝駒王の王子様”の一人で〝一途系王子様”と呼ばれている。容姿端麗、成績優秀の完璧(パーフェクト)王子様。そして隣の女子はジャンヌ・ダルク。上から九十・五十六・七十九の隠れ巨乳で、二年生ながらにして〝駒王のお姉さま”の一人で、〝愛が激しいお姉さま”の名を関している。さらに————」

 

『さらに?』

 

「木場佑斗とジャンヌ・ダルクは……付き合っている!」

 

 元浜がメガネを指で押し上げながら告げた真実に、一翔と松田の身体には雷に打たれたかのような衝撃が走った。

 

「なん…だと…⁉」

 

「クソォォォォ‼ やっぱり顔かっ? 顔なのかっ⁉」

 

「言うな、虚しくなる」

 

 松田は斜面に手を着き項垂れ、一翔は頭を抱えながだ絶叫した。

 元浜もメガネを指で押し上げてクールに見えるものの、彼の周りには何処か哀愁が漂っていた。

 

「おっと、もうこんな時間か」

 

「? どこに行くんだ松田」

 

「フフフフフ……」

 

 一翔の問いかけに松田は気味のお悪い笑いを返すだけだった。

 気になった元浜と一翔は彼の後を付いて行く。

 

「? 此処って女子剣道部の部室の外だよな。どうしてこんなところに来たんだ?」

 

「フッフッフ、これを見ろお前ら!」

 

 一翔の疑問に松田は、小声で叫ぶという器用な真似をしながら壁の木目のある場所を示す。

 そこには、目玉一個分より二、三周りほど大きい位の穴が開いていた。

 

「お前……これはまさか————」

 

「そう。これが思春期男子(俺達)にとって伝説と言っても過言では無い穴、〝覗き穴”だ!」

 

「こ、これが伝説の……」

 

「伝説は、こんなに近くにあったのか」

 

 感極まって今にも泣きだしそうな一翔と元浜を前に、松田は実にさわやかな笑みを浮かべて彼らに言った。

 

「本来ならばこの覗き場所(ベストプレイス)は俺が独占するんだが、お前達とは同志ゆえにこの場所を共有しようと思う。さあ行くぞ、理想郷(アヴァロン)へ!」

 

「ハハァ~、有難きしあわ———」

 

「サンキュー、松田。じゃあ早速見ようぜ」

 

「おう!」

 

「あっ、ちょっと待てお前らっ!」

 

 一翔がふざけて時代劇めいた感謝を松田にしている内に、元浜と松田は早速、と言わんばかりに穴を覗き込んでいた。

 

「グヘへ、いい眺めだぜ」

 

「グフフ……ああ、全くだ」

 

「おい、お前ら! 俺にも見せろよっ!」

 

 自分だけのけ者にされた一翔は叫びながら二人を穴の前から退かそうとする。だがそんな事をすれば当然中にも聞こえるわけで————

 

『ねぇ、今なんか声が聞こえなかった?』

 

『あっ! そこに穴が開いてるわよっ!』

 

「しまった」

 

「見つかった!」

 

 中からの声が聞こえた元浜と松田はすぐさまその場を去る。

 しかし、剣道部の女子更衣室を覗くことしか頭にない一翔は、今まさにその覗く対象が自分の元に制裁をしに迫ってきているのを知らない。

 

「グヘへ、さ~てどんな感じなのかな~……ってあれ?」

 

 一翔が穴を覗いた時にはすでに中はもぬけの殻だった。

 そして彼にとってタイミングが悪い事に、その覗いている時に剣道部の女子部員たちが彼の元に来た。

 

「いたわ! 変態三人組の兵庫よっ!」

 

「皆、ボコボコニしましょう!」

 

「え? 何で? え?」

 

「かかれーッ‼」

 

「ギャァァァァァァッ‼」

 

 晴れ渡る青空の中少年の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

「ギャァァァァァァッ‼」

 

 よう皆、兵藤一誠だ。

 俺がこの学校にある悪魔の巣窟に向かっている途中、何処からともなく少年の悲鳴が聞こえてきたが恐らく、この学園の問題児の一人である〝兵庫一翔”のものだと思うので取り敢えず無視した。

 

「邪魔するぞ」

 

先生(・・)、部屋に入る時はノックをしてくださいといつも言っているじゃないですか」

 

「すまんすまん。だがお前はいつもノックをしても気づかないじゃないか」

 

「………」

 

 俺がそういうと彼———ディオドラ(・・・・・)アスタロト(・・・・・)は黙ってしまった。

 そしてさっきディオドラが言ったように、俺はこの駒王学園で教師をしている。

 最初は学生という選択肢があったのだが、この年になって授業を受けるのもメンドイし、色々と仕事があるのに一日の大半を此処に拘束されるのはあれだったので、生徒よりは自由の利く教師になった。あ、ちゃんと教員免許は持ってるぞ。

 そんな事を言うならそもそも駒王学園(ここ)に来なければいいじゃないか、と思う人たちもいるだろう。だがここに通う人外たちの保護者的立ち位置の人達に、土下座までされたので流石に断れなかった。後、ここ原作で渦中の中心だし。

 現状で原作との違いを上げるとすれば、兵藤一誠()ではなく兵庫一翔(あいつ)がいて、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持っている事。黒歌が三年生で通っている事。駒王学園にある悪魔の巣窟が、オカルト研究部(グレモリー眷属)・生徒会(シトリー眷属)・風紀委員会(アスタロト眷属)になている事。原作では英雄派だったジャンヌ・ダルクが二年生で通って事。原作主人公()が教師としている事。原作とは違う眷属がいる、もしくは登場していない眷属がいる事。他にも色々あるが、まあ……これくらいだろう。

 

「それで何しに来たんですか、先生」

 

「理由が無いと顧問は風紀委員室に来ちゃだめなのか?」

 

「いえ、そいう訳ではありませんが………」

 

「だったらいいじゃん」

 

 俺がそういうとディオドラは呆れたようにため息を吐いた。

 因みに今ここには俺とディオドラの二人しかいない。普段なら彼の女王(クイーン)が、部屋に装備されているソファで寝ているのだが今はいないらしい。

 

「なあ、お前んとこの女王はどこ行った?」

 

「さあ? 多分屋上で寝ていると思いますよ」

 

「そうか。……じゃあ何かあったら呼べよ」

 

「分かっています」

 

 歪みないなぁ~、と思いながら俺は部屋を後にする。

 この日の放課後、兵庫一翔は生まれて初めての告白を堕天使ミッテルトにされた。

 

 

 

 

 

 数日後、俺の予想通り兵庫一翔はリアス・グレモリーの眷属悪魔になっていた。

 彼を一度殺したのはゴスロリ服のミッテルトだ。

 恐らく、とゆうか確実に彼女が原作でのレイナーレの役をするのだろう。

 別に助けることもできるが、彼女達三人は規則の緩い〝神の子を見張る者(グリゴリ)”の中でも絶対に守らなければならない掟を犯した。したがって助ける気は微塵もない。

 俺が介入したせいで〝神の子を見張る者(グリゴリ)”は原作よりも緩い組織になった。いや、最早単なる堕天使の集まりと言っても過言ではないかもしれない。

 ルシフェルがトップだった時は、彼女のカリスマ性もあって組織として立派に機能していた。

 アザゼルも勿論カリスマはあるが、彼女ほどではない。

 このまま彼を組織にしたら原作の様にむやみやたらに人間を殺したりする堕天使が出るかもしれない。そう危惧した俺はアザゼルにある提案をした。

 

 もういっそのこと〝神の子を見張る者”を潰さないか、と。

 

 最初の内は渋っていたアザゼルだったが、詳しい話をしていくうちにだんだん俺の話に乗り気になっていた。

 そして〝神の子を見張る者”は潰れた。

 形式上はある事になっているが、あれは表面上だけで緊急時以外は最早組織では無い。

 そんな〝神の子を見張る者”(笑)だが、一応まだ規律は存在する。

 その内の一つが、『人間と無闇に関係を持たない事』というものだ。

 これは神器(セクリッド・ギア)狩りを防ぐ意味もあるし、裏の世界の事が人間世界にバレたり影響を与えない為でもある。後者の方は他の勢力もあるので出来ているとは言いずらいが。

 勿論この規則にも例外はある。

 それは、人間界のルールで人間として(・・・・・)なら関係を持つことも構わない、といったもの。

 実際に幹部の一人が人間界のルールで人間として活躍してるしな。

 そしてこの規則に反対した堕天使は勿論いた。

 だが他の事を緩める事でそれも無くなり、今ではルシフェルが〝神の子を見張る者”に居た時と同じかそれ以上の結束力を持っている。まあ、普段は(総督も含めて)それぞれの趣味に走ってるけど。

 そんな訳で俺はあの三人を助ける必要はない。

 そして俺は今ある問題を抱えている。それは、いつどのタイミングで俺の事をグレモリー眷属とシトリー眷属に伝えるかという事だ。まあ、二巻の時には確実にバラすと思うけど……。

 

「————であるからして、——————」

 

 そしてそんな考察を続けている俺は、今現在授業の真っ最中だったりする。因みに教科は三年の数学。

 

「—————である。……グレモリー、ここの答えは?」

 

「……6x+5でしょうか?」

 

「違う。次、姫島」

 

「7xですわ」

 

「それも違う。黒歌、〆ろ」

 

「4x+6だにゃ」

 

「正解だ。グレモリーと姫島には課題一つ追加だ」

 

 俺の授業では、どの教科でも授業中に出された問題を間違えると課題が一つ出る。

 任された以上仕事はきちんとするさ。

 

「では次の問題を読むぞ。—————」

 

 あっ、そう言えば今日は主人公が悪魔になってから初めて襲われる日だったな。

 ふむ……助けるか否か、どうするかな……。

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ」

 

 辺りも暗くなった頃、兵庫一翔はただ我武者羅に後ろから追いかけてくる黒いカラスのような翼をもった男から逃げていた。

 というのも、彼の親友の元浜と松田と(エロビデオ)鑑賞会をした帰りに道を普通に歩いていたら、この男が一翔にとって意味不明な事を言いながら手に光で出来た槍を出現させて襲ってきたのだ。

 そして現在に至る。

 

「ハァ……ハァ……ここは……」

 

 そして彼が辿り着いた場所は、偶然にも彼が殺された(一翔本人は夢だと思っている)公園だった。

 その時の事が甦り一翔の身体は恐怖で竦む。

 

「ふむ……仲間を呼ぶそぶりもないし、主の気配もない。貴様〝はぐれ”か。ならば殺しても問題なかろう」

 

 一翔には訳の分からない事をブツブツと呟いた後、男———堕天使ドーナシークは手元に光の槍を出現させ、それを一翔目掛けてブン投げた。

 

(ああ……俺はここで死ねのか)

 

 〝死”が近づいている所為か周りの物がすべてゆったりと見えるようになった世界で、一翔は一人そんな事を考えていた。

 そして光の槍が一翔の腹に突き刺さろうとした時、突然真横に弾き飛ばされた。

 

『……ッ⁉』

 

 突然の事に、投げた本人であるドーナシークも投げられた一翔も驚愕に目を見開いた。

 だが、一翔の驚きの理由はそれだけではなかった。

 それは彼の前に立つ一人の人物が原因だった。

 

「ひょ、兵藤先生……?」

 

 彼の通う駒王学園の中で一、二を争う人気教師、兵藤一誠その人がいた。

 

 

 

 

 

 案の定兵庫一翔を見張っていたらドーナシークと接触した。

 後でリアス・グレモリーへの説明が面倒だと感じながらも助けた俺は、下級中の下級堕天使と対峙する。

 後ろで驚愕に目を見開いている俺の教え子を見ながらふと、思う。

 結局俺も生徒を大事にする一教師だったのか、と。

 ガラにないという事は自覚しているが、そう思わずにはいられなかった。だって、教え子助けちゃったし。

 取り敢えず、アザゼルに連絡しとくか。

 

 ~実況通神(チャット)個人空間(プライベートルーム)

 人 外:アザゼル、下級の堕天使が赤龍帝の籠手所有者と接触したぞ

 堕総督:だからなんだよ。そいつも裏の関係者だろう。それに赤龍帝の籠手を持ってるなら下級堕天使くらい———

 人 外:そいつ、現在進行形で裏とは無縁だ。だがついこの間悪魔に転生した

 堕総督:だったらもう関係者だろう

 人 外:因みに主はリアス・グレモリーだ

 堕総督:あー、あのメンドくせぇ小娘か。分かったそいつら三人は好きにしていい。他の堕天使どもにはこっちで言っとくから

 人 外:了解。ついでにグレモリーには何か言っとくか?

 堕総督:いや、別にいい。実力がプライドに追いついていない奴は面倒だからな

 人 外:はいよ

 

 実況通神(チャット)を切りドーナシークと対峙する。

 実況通神(チャット)中は『時を操る程度の能力』を使って俺以外のここいら一帯の時間を止めていたから、ドーナシークとついでに俺の後ろに居る兵庫も先程の耐性からずっと止まったままだ。

 

「……貴様、何者だ」

 

 能力を解くと、先程兵庫一翔に対してしていた余裕な態度とは違い明らかな戦闘態勢に入っていた。

 まあ、いくら今の俺が人間だからっていってもこの程度の奴に負ける気はしないけどな。

 

「兵藤一誠。俺の後ろにいるこいつが通っている高校の教師だよ」

 

「ふん、冗談はよせ。ただの教師ごときが私の槍を弾けるものか。……貴様、神器(セクリッド・ギア)所有者だろう」

 

「さあ……どうだろうな」

 

 一応俺は堕天使幹部でもある訳なので、こいつに顔を見られたらバレると思ったんだが全く心配なかったな。

 コイツは自分の所の幹部も覚えていないなんて、アホなのか?

 それにしてもどうするか……。

 さっきも言った通り俺は今は人間だ。故に闇の魔法等の人外が使うことを前提としているものは、ものすっごく疲れるから使いたくない。

 まあ、いくらでも手はあるから別に気にすることでもないか。

 

「貴様も我らが計画の邪魔になるゆえ、消えてもらう」

 

 先程とは違い殺気全開で放たれた光の槍は、真っ直ぐに俺目掛けて飛んでくる。

 それに対して俺がしたのはただその槍の移動上に右手をもってきただけ。

 そして俺の右手に光の槍が当たり、ガラスの割れるような音と共に粉々になった。

 

幻想殺し(イマジンブレイカ—)』。異能の力なら神様の奇跡だって殺す事が出来る、ただの世界の基準点だ。

 

「ふむ、それが貴様の神器か。だがどうやら効果は右手から先だけらしいな。ならばっ!」

 

 ドーナシークは手に光の剣を作ると、人間には到底出せない速度で接近戦を仕掛けてきた。

 

「兵庫、お前はどっかに隠れてろっ‼」

 

「でも先生っ‼」

 

「邪魔だっつってんだよ。死にたくなかったら隠れてろ」

 

 少しごねたが、兵庫は俺の指示通りに近くの茂みに隠れた。

 そのタイミングで俺に光の剣が当たる。がしかし、それはドーナシークの真後ろに弾き飛ばされた。

 

一方通行(アクセラレータ)』。すべてのベクトルの向きを操る、ただの超能力だ。

 

「ッ⁉ ……反射、か?」

 

「さあ~てね。もう一度自分でやって確かめてみたら?」

 

 やっぱりこいつは強いな。伊達にあの大戦を生き延びていない。

 じゃあ、なんで原作ではあんなに雑魚臭がしたんだろうな。謎だ。

 俺は体中を帯電させると、今度は俺の方から接近する。そして種も仕掛けもない右ストレートを繰り出す。

 

「すごいパーンチッ!」

 

「なっ⁉」

 

 ドーナシークはそれを避けた。

 そしてそれだけで、そこら辺に爆発が起きる。

 

超電磁砲(レールガン)』。最強クラスの電撃使いで、これも同じくただの超能力だ。

 

『ナンバーセブン』。繊細ながらも多彩な技や機能を持つ、ただの原石だ。

 

「なめ、るなっ⁉」

 

 反撃とばかりに光の剣が俺目掛けて振るわれる。

 しかしそれは途中で止まる。

 理由は簡単。ドーナシークの身体に砂鉄が絡みついているから。

 

「な、何のこれしき……」

 

 それでも人外の力をフルに使って、彼は動こうとする。

 

「じゃあ、これは保険だ」

 

 何処からともなく取り出したリモコンのボタンを、彼に向けてポチッと押す。

 

「……ッ⁉」

 

 それだけで彼の体の自由はがすべて奪われる。

 

心理掌握(メンタルアウト)』。タスの能力を一手に引き受けて使いこなす最強クラスの精神系能力で、ただの超能力。

 

「……くっ」

 

「それじゃあ……さよなら」

 

 彼の頭上に大きな光の球が浮かんでいて、そこから勢いよくビームが発射される。

 そしてそれに触れたドーナシークは塵も残さずに消えた。

 

原子崩し(メルトダウナー)』。圧倒的な破壊力を誇る、ただの超能力だ。

 

 さて、別に苦労せずに倒した訳だが、まだ面倒事が残っている。

 

「そこにいる奴、出てこい」

 

 適当に声を掛けると、兵庫の奴が隠れた茂みの当たりから真っ赤な髪の女が出て来た。

 

「リアス・グレモリー、未成年がこんなところで何をしている」

 

「それはこっちのセリフよ。どうしてあなたは堕天使を圧倒する事が出来るの? あなたの力はなに? 答えなさい、さもなくば……」

 

 質問が多い奴だ。それに学校では敬語で話しかけて来たくせに、今では命令口調になってやがる。しかも手のひらに滅びの魔力が集まってやがるし。

 はぁー、何で俺関わったんだろう。

 

「そんなことより、兵庫の奴はどうした」

 

「眠らせたわ。さあ、早く私の質問に答えなさい」

 

 自分よりも何兆年も年下の奴、しかも大して強くもなく、〝世界”をまるで知らない奴に命令されるのは意外とイライラが溜まるもののようだ。

 なのでちょっと〝警告”をする。

 丁度使っていなかったものもあったしな。

 

「お前、ちょっと黙れ」

 

「……ッ⁉」

 

 背中から六枚の発光する翼をだし、そのすべてをグレモリーの首元に当てる。

 

未元物質(ダークマター)』。無限に近い創造力と、この世に存在しない物質(素粒子)を作り出すことができる、ただの超能力だ。

 

「天使っ……」

 

「バーカ、光の力がないだろうが。これはただ翼があるだけだ。それよりも、兵庫の奴にお前はまだこっち世界の事を説明して無いんだろ?」

 

 俺がそう問いかけるとグレモリーは、黙って頷いた。

 

「だったら説明する時に俺を呼べ。その時に話してやる。ただし、それまでに俺に必要最低限以外の接触はするな。以上だ」

 

 そう言うと俺は翼を消し、家へと転移した。

 はあ~、これからメンドそうだな。




結構切実に感想は欲しいです(笑)。
感想・評価・誤字脱字の報告を待っています。


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説明回…の様なもの

遅くなりました。その割に少ないですが、そこの所はご勘弁。
前回から原作に入っていますが、書くのはあくまで原作とは違う部分です。ですので、同じ所は端折ったりします。


 説明回

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「あら、お帰りなさい」

 

 俺が家に帰ると丁度玄関にグレイフィアがいた。

 

「ご飯も出来てるしお風呂も沸いてるけど……ご飯にする? お風呂にする?」

 

「………」

 

「あら、急に黙ってどうしたの?」

 

 え、選択肢は今ので終わりですか? そのセリフは恐らくすべての男(もちろん俺も)が憧れているものの一つなんですが。

 

「いや、選択肢はそれで終わりなのかなー……と思ってな」

 

 俺がそう言うと彼女は、俺の言いたいことが理解できたのかクスリと笑った。

 

「そうね、選択肢はこれで終わりよ。残念ながら今日は私の日じゃないから」

 

「あー、了解。理解した」

 

 以前俺と女性陣全員が寝た時に、俺の隣を取り合ってガチの戦闘になった。なのでそれ以降俺と寝るのは彼女達の間で当番制になっている。先程グレイフィアの選択肢に最後の一つが無かったのもそれが原因だろう。

 その後俺は今日会った事を今家にいる家族全員に話した後、飯食って風呂入って今日が該当日だったアルマと白音と寝た。いや、別にアッチの展開は無かったよ。ホントダヨ、イッセイウソツカナイ。

 

 

 

 一翔を拾って彼の家に届けた後リアスは、自身の根城であるオカルト研究日に戻って来た。

 

「皆、ちょっと集まってもらえるかしら」

 

「あらあら、どうしたんですのリアス。あなたの新しい眷属に何かあったのかしら」

 

 彼女の近くに集まったのは男女合わせて五人。

 

「あら? 白音はどうしたの黒歌」

 

「白音なら先に帰ったにゃ。今日は白音が当番の日だからにゃ」

 

 黒歌の言っている事が良く分からないリアスだったが、家事の当番か何かと自身の中で適当に検討を付けてそれ以上は聞かなかった。

 

「実はさっきあの子に堕天使が接触したわ」

 

 堕天使、と言う言葉が出て皆朱乃の方を向く。

 しかし彼女は心当たりが無いといった風に首を横に振った。

 

「そう。取りあえずそれは置いておくわ。問題はその後よ。堕天使が彼を〝はぐれ”と間違えて殺そうとした時、そこに兵藤先生が乱入して堕天使を殺したわ」

 

「何? てことは兵藤先生は神器(セイクリッド・ギア)持ちって事か?」

 

 リアスの言葉に反応したのは、彼女の女王(クイーン)である柔汪雷花(じゅうおうらいか)だ。オレンジ色の髪をした彼女の問いかけるような視線に、リアス・グレモリーはただ首を横に振る。

 それ以外は表面上は驚いているものの、内心では別に何とも思っていない。寧ろ殺せて当然だと思っている。

 

「それが分からないのよ。幾つもの色々な力を使っていたかっら他の所有者から奪っている後天的な所有者かもしれないし、なにかの神器(セイクリッド・ギア)の亜種禁手(バランス・ブレイカ—)かもしれないわ。……でも今の所は、とりあえず皆も一応警戒はしておいてね」

 

『………』

 

 リアスの言葉にその場にいた皆が頷いた。

 

 

 

「し…兵藤先生、この後少しよろしいでしょうか?」

 

「木場か。別に構わん。それに俺だけじゃなくて兵庫の奴も呼んだ方がいいんだろ?」

 

「ええ、お願いします」

 

 次の日の放課後、木場が俺が担任をしているクラスまで来た。確実に昨日の事だろう。

 

「おい、兵庫。今から少し話がある。俺と木場について来い」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 丁度帰りの準備をしていた兵庫にも声を掛け、木場と兵庫と三人でオカルト研究部を目指す。その際に女子生徒達が腐海にどんどん落ちていったが、俺は気にしない。と言うより気にしたくない。

 

「ここに兵庫君のここ数日疑問に思っている事の答えがあるよ」

 

「疑問に思っている事って……」

 

 移動中は木場に敵意剥き出しだった兵庫も、オカルト研究部の扉の前で木場に言われた言葉には素直に疑問に思ったようだ。

 

「部長、二人を連れてきました」

 

「ええ、入って頂戴」

 

「失礼します」

 

 木場が先に入り次に兵庫、最後に俺が入った。

 入ってまず目についたのは部屋いっぱいの魔方陣。

 正直、こいつ等の趣味を疑う。いくらオカルト研究部を名乗ってるからって、部屋いっぱいに魔方陣は無いと思う。

 そして次に目に入ったのはソファーに座っている白髪と黒髪の少女。

 ぶっちゃけ白音と黒歌だった。

 そして兵庫の野郎が二人にいやらしい視線を向けていたので殴っておく。

 

「イテッ、行き成り何するんですか先生」

 

「黙れ。人の家族をそんな目で見るからだ」

 

 言葉と共に睨むと、兵庫はヒィッと悲鳴を上げて縮こまった。

 そして壁に背中を預けている金髪の少女は、言わずもがな木場の彼女で転生者のジャンヌ・ダルクだ。

 あ、ジャンヌをいやらしい目で見てた兵庫の首に、木場が魔剣を突き付けてる。それを見てジャンヌはなんか満足そうだし。……腐女子じゃないよな?

 立派に彼氏やってるんだな、てのが俺の木場に対する感想だ。

 そして黒歌と白音とは別のソファーで寝ているのは、オレンジ色の髪を持つ美少女柔汪雷花。こいつの説明は……まあ、後でしよう。

 そして奥から聞こえてくるシャワーの音。

 ———あいつ、人を呼んどいて呑気にシャワー浴びてるのかよ。いいご身分だな。

 

「リアス、バスタオルよ。それと、もう二人が来たから急ぎなさい」

 

「朱乃……。ええ、分かったわ」

 

 少しすると、髪などが少し濡れたリアス・グレモリーとその少し後ろに姫島朱乃が現れた。

 

「ごめんなさい。日中にちょっと汗をかいてしまったから、少しシャワーを浴びていたの」

 

「この際、部室にシャワー室があるのは置いておく。だがお前は仮にも呼んだ側だろう、だったら俺達が来る前にシャワーを済ませておくべきではないのか?」

 

「……っ⁉ それよりも兵庫一翔君——いえイッショーと呼ばせてもらうわね」

 

 逃げやがった。これだから我儘姫は……。

 

「は、はい……」

 

「私達オカルト研究部はあなたを歓迎するわ」

 

「え? ああ、はい」

 

「悪魔としてね」

 

 リアス・グレモリーがそういった瞬間、彼女と雷花とジャンヌと佑斗の背中から蝙蝠のような翼が飛び出した。

 

 

 

「どうぞ、粗茶ですが」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 現在俺と兵庫はリアス・グレモリーをテーブルを挟んで対面に座っている。そして彼女の隣には雷花が、彼女の右と左後ろにジャンヌと佑斗がいて、その他の朱乃と黒歌と白音は第三者的位置にいる。

 

「単刀直入に言うわ。私達は悪魔なの。私達———と言っても私と雷花と佑斗とジャンヌだけだけどね」

 

「は、はぁ」

 

「そしてあなたも悪魔よ、イッショー」

 

「え? ……ええっ⁉」

 

 まあ、そら驚くわな。いきなり自分が悪魔だ、て言われたら。

 

「……あ、ああ。もしかしてオカルト研究部内での役割ですか? 随分凝ってますね」

 

 今グレモリーは兵庫と話しているが、それが終わったら俺に焦点を合わせて来るだろう。あー、メンドクセ。取りあえず今のところは正体を隠すってことでいいか。

 俺が色々と考えている横でグレモリーと兵庫は原作でのやり取りをしていく。違うとこと言えば、俺じゃ無く兵庫って事と兵庫を殺したのがレイナーレじゃなくミッテルトだということぐらいだろう。

 そして兵庫の神器(セイクリッド・ギア)が原作通りに出現した後、グレモリーが俺の方を向いてきた。

 

「それでは先生、もちろん話をしてくれますよね?」

 

 疑問系で聞いてきてはいるが、その声音には明らかな威圧を感じた。

 ……まあ、高々十八そこらの小娘の威圧で俺がビビる訳もないけど。

 

「勿論話すさ。只これだけは覚えておけ。俺は余程のことが無い限りお前らの敵になる事は無い」

 

「……信じていいんですよね」

 

 疑い五割確認五割といった感じで問いかけてくる。

 別に勿体ぶる必要もないので、俺は少し大げさに頷いてやった。

 それを見たグレモリーは一応は納得した様子を見せた。

 

「さてそれじゃあ、俺の力についてだが———」

 

 コンコン

 

 俺が自分の能力について話そうとした時、オカルト研究部の扉がノックされた。そう、まるで狙ったかのようなタイミングで。

 

「リアス、すまないが兵藤先生を知らないか? あと少しで先生にも参加していただく必要がある風紀委員全体での会議があるんだが、全く見当たらないんだ」

 

「兵藤先生ならここにいるわ。でもちょっと待っててくれる? 今私達は先生に訊きたいことがあるのよ」

 

 グレモリーがそう言うと、ガチャとオカルト研究部の扉が開きディオドラが入って来た。

 

「それは全体会議を遅らせてまでする事なのかな? もし君と先生の間での個人的な事なら後にしてほしいんだけど」

 

 いつも通りのニコニコした笑みを浮かべたディオドラだが、その声音には問いかけるというより先程のグレモリーと同じような威圧感があった。

 

「これは私と先生の個人的な事ではないわ。もしかしたら悪魔全体にかかわる事かもしれないの」

 

 コイツ……。さっき頷いておいてすぐに手のひらを返しやがった。味方が出て来たとたん手のひらを返すとかなんちゅーあからさまな奴だ。

 

「……それはどういう事だい? もしかして君は兵藤先生が僕たち悪魔の脅威になると思っているのかい?」

 

「ええその通りよ。実は昨晩、この子が堕天使に襲われたのだけれどその時兵藤先生が助けてくれたのよ」

 

「ふむ、話を聞く限りは寧ろ君は先生に感謝するべきだと思うんだけど……」

 

 あ、そう言えばグレモリーにお礼言われてなかった……。別に今更とってつけたように言われても嬉しくないけどな。

 

「ええ、そうね。確かにその点に関しては先生に感謝しているわ。でも問題はこの後よ。先生は私の見たこともないような方法で堕天使を撃退したの。相手は恐らく下級だろうけど、私の目算では先生の力量は上級いえ最上級を超えているわ」

 

「ふむ……」

 

 グレモリーがそう言うとディオドラは手を口に当てて考える仕草をした。恐らくフリだろうけどな。

 

「だが例え、その話が本当だったとしても先生一人では悪魔の脅威にはならないよ。もし仮に先生が悪魔に攻撃を仕掛けて来たとする。それによる被害はたくさん出るだろ。だが、君がこのことを予め魔王様——君のお兄様あたりに言っておけば、魔王様の眷属や魔王様本人が出てきて被害はゼロにすることができる。……そうだろ?」

 

「でも———」

 

 ディオドラの真っ当な理論になおも食い下がるグレモリー。しかし彼はそれを遮って言葉をつづけた。

 

「それに、先生の事を僕が知らない筈がないだろぅ。これでも先生とは僕が子供の事からの知り合いでね。先生は十分に信用に値する人物だよ。それはこの僕が、アスタロト家の名に誓って証明する」

 

「………」

 

 流石にそこまで言われてはグレモリーは何も言い返すことがでいなかった。

 

「はぁー……分かったわ。それじゃあ先生の事はあなたに任せるわ」

 

 今更になって気付いたんだが、コイツ俺の事を下に見てないか? 俺の実力は一応冷静に分析できていたようだが、所詮たかが人間と思って侮っているのか? まあいい。今はそう思わせてやるか。

 

「じゃあ僕はこれで失礼するよ。先生、行きましょう。皆が待っています」

 

「おお、そうだったな。じゃあ行くか」

 

 そうして俺とディオドラはオカルト研究部から出て行った。

 

 オカルト研究部を後にしてしばらく来たところで俺は、隣を歩くディオドラに向かって顔も見ずに言った。

 

演技(・・)ご苦労様」

 

 それに対してディオドラは、呆れたようにため息を吐いて言い返してきた。

 

「全く、急に念話(テレパシー)をしてきて何かと思えば……こんなくだらない事だったんですね。……それに僕がリアスに言ったのは大部分が真実なので、あながち嘘ではありませんし演技でもありませんよ」

 

 ふむ、そいつは意外だ。てっきり全部演技だと思っていたからな。

 

「それよりも、何故先生はリアスに本当の事を教えなかったのですか? 教えていればこんな面倒な事にはならな方ですよね、兵藤卿」

 

「止せ、学校だぞ。それにそう言われるのは色々と面倒な事が多い裏の社交的な場だけでいい。こんなところまでそう言われるのは好きじゃない」

 

 変質しても大本は変わらないという事なのか、俺は『兵藤卿』の様な堅苦しい言い方が好きじゃない。だから俺と親しい奴らには、ですます調は認めても堅苦しい言い方はさせないようにしている。

 

「そしてお前の疑問に答えるならまだその時期じゃない、としか言いようがないな」

 

「ハハ……なんですか、それ」

 

 俺の言葉にディオドラは笑って流した。いや、もしかしたら俺のことなど考えても無駄だといった諦めの笑いなのかもしれない。

 

「それより、早く行きましょう。みんな待っています」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

「……アーシア?」

 

「……イッショーさん?」

 

 俺がオカルト研究部に呼ばれてから数日後、学校を休んだ兵庫がアルジェントと三度接触した。それを俺はスキルを使って見ていた。因みに今は授業中。

 その間に色々とあったもののそこは原作とさして変わらないので、その事に関しては特にいう事は無い。

 

「アスタロト、昼休みに風紀委員室に来い。話がある」

 

「分かりました。先生」

 

 ディオドラにそう言って俺は彼のいる教室を出た。

 

「それで、話ってなんですか先生」

 

 時と場所が代わりお昼休みの風紀委員室。そこで俺とディオドラは対峙していた。

 

「この町にお前の命の恩人であるアーシア・アルジェントが来ている」

 

「ッ⁉」

 

 俺の言葉にディオドラは当然のごとく驚いた。

 原作でのアルジェントがディオドラを助けた出来事はこの世界では結構変わっている。というより、アルジェントが境界を追放されたのは間接的に俺が原因となっている。

 まず、俺は当時のディオドラに修行させるために胸に傷を負わせた後適当にどこかの教会の前に放り出した。そしてディオドラは悪魔祓い(エクソシスト)に見つかり逃亡。だが逃亡した先も教会で万事休すの時、アルジェントが彼を見つけて傷を癒した。そしてそのお蔭でディオドラは悪魔領にある実家に帰って来ることが出来た。

 だが、その瞬間を表の教会の者達に見られたアルジェントは教会を追放された、という訳だ。

 後々にこの事を知った俺だが、別に原作通りになっただけだしいいか、と放置した。あ、でもアフターケアはしておいたぞ。

 そしてそれ以降ディオドラはアルジェントに恩を感じている。しかし悪魔と教会関係者故に出会う事すらままならない。だがいつか必ずこの気持ちを伝えるのだ、と心に決めて彼は今まで生きて来たのだった。

 

「それで、どうする? このままいけば彼女は今夜中に体から神器(セイクリッド・ギア)を抜き出されて死ぬぞ」

 

 俺がそう問いかけると、ディオドラはいつも通りの笑みを浮かべて堂々と言った。

 

「勿論決まってるじゃないですか。彼女を助けに行きます。それは命を救ってもらった僕がするべき義務です」

 

「そうか……。じゃあお前の女王(クイーン)も連れて、教会にカチコミに行くか」

 

「はい!」

 

 ここからは原作とは大きく違った流れになる。その事を俺は心に刻みながら、午後の授業の準備を始めたのだった。

 




各キャラに対する一誠の呼び方でっすが、親しいほどに名前呼びや渾名呼びになっていきます。それ以外は基本的に苗字かフルネームです。
次はホワイトデーにSAOの方を更新します。余裕が得ればその前にも更新するかもしれませんが……。

感想・評価・誤字脱字の指摘を待っています。


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決着

どうも、感想貰うとやる気の出る作者です。
適当に書いたのでちょっと文が変かもしれません。その時はご指摘ください。
今回で原作一巻の内容は終わります。ですが二巻の内容に入る前に一回閑話を挟む予定です。


 決着

 

 

 

 

 

 ——その日の放課後。

 

 俺は一京分の一のスキルでアルジェントと兵庫の様子をずっと見ていた。そしてアルジェントがミッテルトに攫われたのを見計らってディオドラとディオドラの女王(クイーン)に声を掛ける。

 

「お前ら、アルジェントがまた攫われた。行先は教会だ。恐らく堕天使はアルジェントの持つ『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』が狙いだ」

 

 俺がそう言うと二人は座っていた椅子から立ち上がる。

 因みに今日の委員会はディオドラが副委員長(・・・・)権限で休みにした。

 そして俺は俺達三人の下に転移魔法の陣を書く。

 

「んじゃ、行くか。ディオドラに恭弥(・・)

 

「群れるのは嫌いだけど仕方ないね。今回は君に従ってあげるよ雑食動物」

 

「絶対に助けるよアーシア」

 

 恭弥の雑食動物呼びが気になったが今は聞かないでおこう。

 そして俺とディオドラとディオドラの女王の雲雀恭弥との三人で教会の前に転移した。

 

 

 

 教会の前に転移した俺は取り敢えずこの教会を囲むように結界を張る。この結界はそれ自体が隠密性に優れているのでグレモリー眷属とシトリー眷属は気付きはしないだろう。

 

「最初中に入るとはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)が一人に下級と中級の間の強さの堕天使が一人だ」

 

「ふうん……。ねえ、もっと強いのはいないの?」

 

「地下に中級堕天使が一人いるくらいだな。心配するな、これが終わったらお前の気が済むまで相手してやるさ」

 

 俺がそう言うと恭弥はスタスタと教会の入り口に向かっていく。

 

「その言葉…覚えておいてね」

 

 ドゴン!

 

 そう言って恭弥は入り口を彼の神器(セクリッド・ギア)の一部であるトンファーでぶん殴った。そして当然の様に思いっ切り飛んで行く扉。

 普通ならあり得ないその光景を俺とディオドラはただ黙って見ていた。

 

「な、何なのよアンタ!」

 

「これはこれは、あ~くまくんではあ~りませんか。なになに俺様にされに来たの? いいよいいよ、俺様大歓迎ですよっ!」

 

 中には動揺している女堕天使と特攻を仕掛けて来たイカレたはぐれ悪魔祓いフリード・セルゼン。

 

「はっ……フリード援護するわ、思いっ切りやりなさい」

 

「はいは~い、了解でござんす~」

 

「ふうん……君は少しは楽しめそうだね」

 

 恭弥がフリードと女堕天使の二人と戦っている間に恭弥の事について話しておこう。

 彼は本来の世界のから世界を移動してきた訳では無く、元々この世界にいた並行世界の雲雀恭弥だ。それでも戦闘能力とかがあの世界と同じだというのだから、彼はバケモノと言うしかないだろう。そして原作の雲雀恭弥とこの世界の雲雀恭弥には大きく違う事がある。それは、性別だ。意外な事にこの世界の雲雀恭弥は女なのだ。まあ、なぜか外見は原作の雲雀恭弥を少し成長させた程度でしかないけど。

 余談だが恭弥が持っている神器(セクリッド・ギア)は俺オリジナルだ。

 そんな彼は両手のトンファーを使って、フリードの持つ光の剣と時折彼目掛けて飛来する光の矢を迎撃する。

 二対一と明らかに不利な筈なのに、一歩も引いていないどころか彼が優勢だ。

 フリードは光の剣を二刀流にして手数を増やし、女堕天使も光の矢の数を先程よりも増やしているのにその全てを躱し、トンファーで受け止め、あまつさえ相手にカウンターを与える余裕まである。

 

「なんで……何で当たらないのよっ!」

 

「チクショウチクショウチクショウ! 何でだよっ⁉ 何で当たらねえんだよっ⁉ 悪魔は俺に滅せられるのが常識だろうがっ⁉」

 

 自身の攻撃が通らず、それどころか相手から反撃を喰らう。絶対的優位に居るはずの二人は、その現実を受け止める事が出来ずに喚く。

 

「君たちの実力はもうわかったよ。だからもう……終わりにしよう」

 

 その言葉と共に、先程まで避けたり防御をするばかりでカウンター以外はろくな攻撃をしなかった恭弥が攻めに回った。

 フリードが右手に持つ光の剣を上段から振り下ろすとそれを左手の方のトンファーで受け止め、絶妙な時間差で繰り出されるもう片方の光の剣も同じくもう片方のトンファーで受け止める。

 そしてガラ空きになった彼の胴へと下から救い上げる様な蹴りを放ち、彼の身体を地面から三十センチ以上は浮かせる。

 

「悪魔風情がっ! 調子に乗るな!」

 

 フリードを攻撃した後の一息ついた瞬間を狙って放たれる二桁に上る光の矢。それを彼は冷静に見極め自分に当たる順番に両手のトンファーで撃ち落としていく。そして最後の光の矢を撃ち落とし終わった後、未だ宙に浮いているままのフリードに回し蹴りを放ち教会の壁に激突させる。

 それだけで気を失ったのかフリードはぐったりとして動かなかった。

 

「そんな馬鹿なっ⁉ 彼は私達の手駒のはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)の中で一番の手練れなのよっ!」

 

「あっそ……だから?」

 

「なっ⁉ ガハッ」

 

 地上から二、三メートル離れた上空にいた堕天使の下に一瞬で潜り込んだ恭弥は、床を蹴ってジャンプしその勢いを利用したアッパーを堕天使に喰らわせる。フリードが倒されたことに驚いていた堕天使は勿論躱せずに直撃を喰らう。

 そして顎への直撃を受けた堕天使が意識を飛ばした一瞬の間に、悪魔の翼を使って空中に滞空した恭弥は堕天使目掛けてラッシュを決める。〆の蹴りを喰らった堕天使は教会の外へと吹き飛んで行った。

 

「そんじゃ行くぞ。付いて来い」

 

 恭弥が戦闘している間に隠し階段がある場所まで行っていた俺は、二人を伴い地下へと降りていく。

 

「恭弥、地下にいる堕天使は僕がやる。お前は残りのはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)たちを片付けてくれ」

 

 足止めしてくれ、ではなく片付けてくれとディオドラは恭弥に言った。それはつまり恭弥の腕を信用し信頼しているという事だ。

 そしてそんな彼の言葉にはある種の決意が込められていた。

 

「……ふうん、まあいいよ」

 

「ああ、ありが——」

 

「でも、これが終わったら僕の気が済むまで相手してもらうからね」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 主と眷属というより友人同士のやり取りが俺の後ろで行われていた。

 この恭弥は並行世界の人物だが原作の恭弥と性格は勿論変わっていない。なのにディオドラの眷属でいるという事は、彼に沢田綱吉以上の『王の器』を感じたのだろう。あるいはただ彼の元に言うと強い者たちと戦えるからいるだけなのか……どちらかは彼のみぞ知る。

 そしてディオドラが恭弥の相手を務まるか、と思う人もいるだろうがそこは問題ない。

 彼は魔法使い(ウィザード)よりだが、だからと言って近接戦闘が出来ないわけではないし身体強化の魔法もかなりの種類使えるのでそれなりの戦闘力はある。だから恭弥の相手は問題ない。まあ、勝率は圧倒的に恭弥の方が上だけど。

 

「お前ら、ここから先に奴らとアルジェントがいる。俺はちょっとやる事があるからここから先はお前らだけで行け」

 

「はい、行ってきます。先生」

 

「もとよりそのつもりだよ。此処から先の小動物たちは、一匹を覗いて全部僕の獲物だからね」

 

 そう言って二人は扉を潜っていった。

 俺はその場に留まって、一京分の一のスキルで透明と透過の状態になるとウィンドウを開く。

 

 ~実況通神(チャット)限界空間(リミットルーム)

 人 外:おいアザゼル

 堕総督:おう、どうした? 何か問題でもでたか?

 天使長:寧ろ、アザゼルが何か問題を起こしたのではないですか

 紅魔王:ああ、そっちの方が可能性が高そうだ

 堕総督:んなわけあるか! 俺は今嫁とイチャイチャしている最中だわっ!

 約全員:うわぁ……

 天使長:自分でイチャイチャとあいいましたよこの人……

 紅魔王:流石にそれは……

 人 外:ないな……

 堕総督;うるさいっ! 幸せをかみしめて何が悪い! それより一誠、早く用件を言え。これ以上のからかいはもう御免だ

 人 外:ああ、そうだったな。用件と言うのはこの間言っていた違反を犯した堕天使三人の事だ。一人はこの間俺が殺して、残りの二人は今粛清中だ。だが後で殺す

 堕総督:了解した。こっちの奴らには言っておく

 人 外:ああ、よろしく頼む。それとサーゼクス。今粛清しているのはディオドラとディオドラの女王(クイーン)で、後で堕天使二人を殺すのはグレモリー眷属とその王のお前の妹だ。後でこの二人から報告が行くと思う

 紅魔王:それはいいけど……。一誠さん、どうしてディオドラ君に殺させないんですか?

 人 外:色々あるんだよ。それとお前の妹に俺が裏の世界の関係者だという事がバレた。だが俺の正体はまだ隠しておくつもりだからお前も何も言うな

 紅魔王:まあ、一誠さんがそう言うなら……

 堕総督:それにしても二年とちょっとか?

 天使長:ええ、その位ですね。てことは賭けはアザゼルの一人負けですね

 堕総督:クッソーッ! 絶対卒業までバレないと思ったんだがなー

 人 外:ゴチになるぞアザゼル

 天使長:確か負けたら奢るのは焼肉でしたよね

 紅魔王:では今度皆の休みがあった時に人間界に食べに行こう。私がお勧めの店を紹介するよ。以前ミレイと尋ねたことがあるんだ

 堕総督:あーもう分かったよ! 今度な今度

 約全員:ゴチになります!

 

 そこで実況通神(チャット)は切れた。

 こらそこ、下らないことやってるとか言わないの。大体いつもこんな感じなんだから。

 そして実況通神(チャット)が終わった俺はスキルを解いて扉の中を窺う。

 

「アーシア……。覚えているかい? 以前君に命を助けてもらった悪魔だよ」

 

「あっ、あの時の!」

 

 そこには死屍累々の中で感動の再開を果たしたシスターと悪魔がいた。

 空気を読んだのかつまらなくなったのか、孤高の戦闘狂はどうやら帰ったようだ。

 

「あの……何で私の事を助けに来てくれたんですか……?」

 

「以前君に助けられた恩を返すためだよ。あの時は言えなかったけど……僕の命を救ってくれてありがとう」

 

 磔にされているシスターに深々と頭を下げている悪魔。

 この光景だけ見たら恐ろしくシュールだが、あいつらは紛れもなく本気でやっているので、茶々は入れない。入れたいけど、いれない。

 そして頭を下げ終わったディオドラは、彼女の身体から神器(セイクリッド・ギア)を抜き出すために使われる予定だった魔方陣を解除する。

 

「あ、あのさアーシア」

 

「あ、あの悪魔さん」

 

『………』

 

 な、何というベタな展開だろうか。お互いが言いたいことがあって相手の名前を読んだら、見事には持ってしまうという、ある意味テンプレな状況が目の前で発生した。

 

「あ、アーシアからどうぞ」

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

 

 どうやら、ディオドラが譲ったようだ。

 

「あ、その前に悪魔さん。お名前を聞かせてもらってもいいですか?」

 

「ああ、そう言えばまだ名乗っていなかったね。僕の名前はディオドラ・アスタロトだよ。君の好きに呼んでくれ」

 

「じゃあ、ディオドラさん」

 

「何だい……?」

 

 なんか見ているとディオドラが一方的に片思いしているように見えるな。いや、実際そうなんだろうけどさ。

 

「数回しかあったことない人にこんな事言うのは変だと思いますが聞いて下さい。私初めて好きな人が出来たんです」

 

「——へえ、良かったね……」

 

 アーシアの告白にディオドラは一瞬目の前が真っ暗になった事だろう。

 しかし……優しく道案内されて、フリードから身を挺して助けられて、一般常識を教えられながら楽しく遊んだりしただけで彼女は兵庫の事を好きになったのか……。いくら世間に疎くたっていくらなんでもそれは無いと思う。どんだけチョロインなんだよ。

 そえにしても……ディオドラは意外と堪えてないな。こうなる事をある程度予想していたのか?

 

「その人は私が困っていた時にそっと優しく手を差し伸べてくれたり、危険から身を挺して私を守ってくれた方なんです!」

 

「———ふ、ふ~ん。随分カッコいいんだね」

 

「はい! それだけじゃなくて———」

 

 そしてまだまだ続くアルジェントの惚気。

 

 ——もうやめて! ディオドラのライフはゼロよ!

 

 そんな風にふざけていた時、俺はこちらに向かって来る気配を感じた。

 

「(ディオドラ)」

 

「(はい、分かりました先生)」

 

 俺はそれを念話(テレパシー)でディオドラに伝える。

 

「……アーシア」

 

「———なんです! はい、何でしょうディオドラさん」

 

「僕はもう用事を果たしたから行くね。それは君の王子様が助けてくれるよ」

 

「そう……ですか………。それではまたどこかで会いましょう」

 

「ああ、きっとまた……どこかで」

 

 アルジェントとの別れを済ませたディオドラは俺がいる入口の方に歩いて来る。

 そして俺達二人は互いに何も言わずに階段を上って地上に出た。

 

「……先生」

 

「ん? どうした」

 

「僕告白する前に振られちゃいました」

 

「ああ、そうだな。悪いとは思ったが見ていた」

 

「アハハ、カッコ悪いところ見せちゃいましたね……」

 

 教会の出口に向かっている途中に後ろから掛けられたディオドラの声は少し震えていた。きっと必死に泣くのを我慢しているのだろう。

 

「——今日はもう帰るか」

 

「はい、そうしま——」

 

「何言ってんの。これから夜の駒王の町を見回りするよ。付いてきなアスタロト副委員長」

 

 入り口付近まで来ていた俺達の会話に急に割って入る恭弥。全くこいつは……相変わらずのマイペースだな。

 

「いやいや、待てよ恭弥。お前少しはディオドラの今の気持ちを察してやれ」

 

「察してるよ。フラれたようだね」

 

「……グゥ」

 

 容赦のない恭弥の物言いにディオドラは呻く。

 

「でもそれとこれは関係ないよ。それに……」

 

 恭弥はそこまで言うと俺達に背を向けた。

 

「それに……彼は僕が見込んだ王だからね。落ち込みはするだろうけど、このくらいの事だったらまた立ち上がる奴だって事を知ってるよ」

 

「——恭弥……」

 

 恭弥のデレ? に心を打たれた表情で彼を見るディオドラ。

 

「フン……さっさと行くよ」

 

「ああ、勿論だ」

 

 照れ臭くなったのかいつもより若干早足で進んでいく恭弥。その後ろを失恋のショックから立ち上がったディオドラが付いて行く。

 そして青春している二人を見送った後、結界を解いた俺はその場を後にした。

 

 

 

 その翌日の朝。俺はオカルト研究部へと向かっていた。というのも昨日の夜にグレモリーから新しい眷属が出来たので紹介したいと連絡が来たのだ。

 全く、折角藍の尻尾にくるまれて夢見心地だったというのに……。

 ともあれ昨日の事の顛末は知っている。

 一言で言うなら原作通りだった。フリードが既にボロボロだったり、グレモリーが殺した堕天使が二人人しか居なかったり、朱乃ではなく雷花が白音ではなくジャンヌが、という風に所々の違いはあったものの大まかな流れは原作通りだった。

 

 コンコン

 

「入るぞー」

 

「ええ、開いてます先生」

 

 中からグレモリーの許可を貰ったので扉を開けて入る。中にはすでに俺以外の全員がいた。無論、アルジェントもだ。

 

「紹介します先生。この子が私の新たな僧侶(ビショップ)のアーシアです」

 

「あ、アーシア・アルジェントです。よろしくお願いします」

 

「兵藤一誠だ。此処で教員をしている」

 

「先生は私達の協力者なの。アーシアも困ったことがあったら先生を頼りなさい」

 

「はい!」

 

 サラッと俺を協力者にしたグレモリー。全く図々しい奴だ。

 

「あの部長、少しいいですか?」

 

「ええ、いいわよ。何かしらイッショー」

 

「以前朱乃さんと黒歌さんと白音さんは部長の眷属じゃないって言ってましたけど、三人も協力者なのですか?」

 

 まあ、この世界に触れたばかりの兵庫の奴にとっては当然の疑問だろう。

 

「そうね……黒歌と白音は協力者だけど、朱乃はちょっと立場が微妙ね」

 

「というと……」

 

「朱乃は彼女の両親が堕天使の幹部で彼女自身も上級堕天使なんだけれど、幼い頃に私と遊んだのよ。そしてその時の縁で普通の高校より悪魔が経営しているこの高校に通っているの。何かあった時の為にね」

 

「な、なるほど……」

 

 グレモリーの説明で納得がいった兵庫はしきりに首を縦に振っている。

 まあ、実際の所はグレモリーが言うほど簡単じゃないがな。

 グレモリーの兄のサーゼクスと朱乃の父親のバラキエルが俺と通じて知り合っていなかったら、きっと今ここに朱乃はいないだろう。それぐらいこれはデリケートな問題なのだ。本人たち——特にグレモリーはそんな事は微塵も思っていないだろうけど。

 

「それじゃあ難しい話はここまでにしましょう。今はアーシアの歓迎会なんだから」

 

「はい! 楽しもうぜアーシア!」

 

「はい、イッショーさん!」

 

 そうして三人は歓迎会を満喫した。

 

 何はともあれこれで原作一巻が終了した。

 次はどんな面倒事が舞い込んで来るのか、それは俺にも分らない。

 




~用語解説~
天使長:チャットでのミカエルのユーザーネーム
限定空間:基本的には一誠+各勢力のトップが使う場所
雲雀恭弥:原作と違い女。だが戦闘能力は変わらず。一誠オリジナルの神器を持っている。
~この作品で登場する他原作キャラについて~
この作品に登場する他原作キャラは何種類かあります。
一つはFate勢や九喇嘛の様に本人が世界を渡ってくるパターン。その場合は例外なく次元の狭間に最初に来ます。
一つは藍や雲雀恭弥や羽衣狐の様に並行世界の人物のパターン。この場合はメンドイので設定はあまり弄っていません。
一つはアルマやウィサの様に設定は他原作キャラだが中身は全く違うパターン。この場合も二つ目と似た様なもの。
そして最後に九十九の様に他原作にいないものの設定は他原作のパターン。この場合は見た根や性格などはオリジナルだが能力はその原作の範囲内で考えられたもの。
という事になります。
なお第十一話で羽衣狐とかを他の世界から来たキャラにしましたが、こちらの設定に変更させていただきます。
皆さんどうでしたか? 前回の話を投稿した後にディオドラとアーシアの純愛を希望された方が多かったですが、残念ながら結果はこうなりました。
それと感想で結構「次の更新はいつ?」的なのが来ますが、私は基本不定期更新です。ですから明確にいつだと言えません。ですので聞かれても困ります。
それでは、次回に……


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はぐれ悪魔

投稿します。
SAOの方を含めて今月中に投稿するのはこれで最後になります。
今回の話は原作一巻と二巻の間に起こった出来事です。
それと以前念話などは『()』で表すと言っていましたが、この話から「()」で表すことにしました。
それと今回の話から独自設定とご都合主義感が増えます。そこの所はご理解ください。


 はぐれ悪魔

 

 

 

 

 

 アルジェントの件から数日たったある日、オカルト研究部に大公からはぐれ悪魔の討伐の依頼がきた。

 そしてその時丁度部室にいた俺も成り行きで同行することになった。

 

「あの、部長。この間もはぐれ悪魔の討伐命令が来ましたけど、そんなに多いんですか?」

 

「いいえ、はぐれ悪魔の数はかなり少ないわ。正直、この短期間に二度も来るなんてかなり珍しい事よ」

 

 兵庫の質問にグレモリーは優しく答えた。

 だが、グレモリーの言う通りこんな短期間で二つもはぐれ悪魔の討伐命令が出るなんてかなり稀だ。原作ならいざ知らずここは俺がサーゼクス達四大魔王に、上級悪魔の眷属管理は厳しく取り締まる様に、と言ってある。

 理由としては天界、堕天使陣営だけに原作より組織内の取締りを強化させるのは不公平だと思ったから。原作での黒歌みたいな人物をこの世界では出来るだけ増やしたくなかったから。大まかな理由は以上の二つだ。一つ目は二つ目のおまけみたいな物なので気にしなくて良い。二つ目の理由としては俺が実際に腐った貴族悪魔どもを見聞してきたからだ。その時に思ったこのままでは将来こいつらが眷属をもった時その眷属は絶対にろくな目には合わない、と。

 そう思った俺はそうならない為に行動した。先ずアジュカと一緒に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を作る時にいくつかの機能を追加した。

 一つ目は自身の眷属内での駒の移動。これはグレモリー眷属で例えるなら、佑斗に騎士(ナイト)の駒を与えたが戦車(ルーク)の方が適性があったので其方と駒を入れ替えた、といった感じだ。

 二つ目は眷属からの脱退。これは脱退したい眷属が四人の魔王か大公か大王の誰かに掛け合って、その頼まれた人が眷属の主の素行を調査して脱退に値するならそのまま脱退、値しなかったらそのまま残留、ということだ。これは主から眷属へのいじめや虐待などを想定した場合の対処法だ。

 悪魔の駒に追加した機能はこの二つだ。その他にも眷属を持つことになる悪魔の事を事前に調べて眷属を持つに値するか調査したりして出来るだけはぐれ悪魔が出ないようにさせた。とグレモリーが新人の兵庫とアルジェントに説明している。

 だがその分サーゼクス達の負担が増えたわけだが……あいつら元々サボり癖あるし、いざとなったら俺も手伝えばいいので問題ない。

 

「へー、そんなに厳しいんですか。あれ? でもだったらなんではぐれ悪魔なんているんですか? そんなに厳しいならはぐれ悪魔が出ること自体が無いんじゃないですか?」

 

「ええ、本当はそうなのだけれど残念ながらそういう訳にはいかないの」

 

 グレモリーの話をまとめるとこうだ。

『はぐれ悪魔』になるものの多くが主では無く眷属自身の方に問題がある者たち(例えば力に溺れたりとか)である。

 ごく稀に主の方に問題があるはぐれ悪魔がいるが、それはほんとに少数である事。

 そしてそういったはぐれ悪魔の殆どは最低でも中級悪魔の中堅位の強さがあるということ。

 

「だから私達がこの間退治したバイザー並に弱い奴は逆に珍しいのよ」

 

「え……じゃあこれから退治する奴は……」

 

「ええ、ランクにしてAランク。上級悪魔の中堅位の強さがあるわ」

 

 それを聞いた兵庫の身体が強張る。

 彼がこの間倒したミッテルトは中級堕天使。それだってまぐれで勝った様なものなのに、今から退治する奴はそれよりも強いという。ついこの間こちらの世界に入った兵庫にとっては当然の反応だろう。

 

「うふふ、大丈夫よイッショー。相手は一人だからこの人数が居れば負ける事は無いわ。それに今回は先生もいることだしいざとなったら先生が守ってくれるわ」

 

 チラッと俺の方を見てそんな事を言って来るグレモリー。兵庫の奴からすれば自分の事を心配してくれるいい主かもしれないが、俺にとったら自分の眷属を自分で守ろうともせずに俺に押し付けたただの我儘小娘だ。

 

「さあそろそろ着くわ。皆気を引き締めていきましょう」

 

『はい!』

 

 雷花、佑斗、ジャンヌ、アルジェントそして兵庫は元気のいい返事をする。

 今この場にいつものオカルト研究部+俺のメンバーでいないのは朱乃だけだ。今回彼女は彼女で用事があるらしくいない。そして黒歌と白音はグレモリー眷属の部活ごっこを静かに見つめている。

 そして俺達は今回の獲物がいる大きな病院の廃墟に踏み込んだ。

 そこからはオオォォン、という不気味な鳴き声が聞こえてくる。

 

 

 

 廃墟の中は予想通りというか何というかゴチャゴチャだった。

 カーテンやシーツなどの布類はボロボロになり破れ、雨風が中まで入って来た影響か壁や床の所々にはコケやカビが生えている。

 此処がどんな理由で廃墟になったのかは知らないが、廃墟になってから少なくとも数年以上経過している事はこの様子を見れば明らかだった。

 

「此処は広いからはぐれ悪魔を探すにあたっていくつかのグループに分けるわ」

 

 入ってすぐの玄関ホールでグレモリーがそう言ってきた。

 俺としては一人か黒かと白音と探したかったので分かれるのは賛成だが、どうやらグループはグレモリーが決めるようだ。はぁ、取り敢えず第一候補は黒歌と白音で祈っとくか。

 

「まず、まだあまり戦闘になれていないイッショーとアーシアは私と雷花と来なさい。そして黒歌と白音のペア。……先生、先生は佑斗とジャンヌと一緒に行っていただけますか?」

 

「ああ、別に構わないぞ」

 

 まあ、知った仲ではあるので了承する。

 

「それじゃあ十分程建物内を探し回って見つからなかったらまたここに戻って来て、見つかったらそれぞれのやり方で他の者に知らせる。……それで良いわね?」

 

 グレモリーの確認に兵庫達は静かに頷いた。

 そして俺は佑斗とジャンヌと共に廃墟の中を探索しだした。

 

「そう言えばお前ら、もう禁手(バランス・ブレイカ—)には至れたのか?」

 

 ただ無言で捜索を続けてもつまらないので一緒に居る二人にそんな事を聞いてみる。

 

「ええ、出来るようになりましたよ。でも最近至ったばっかりなので使いこなすのにまだまだ時間が掛かりそうです」

 

「私も佑斗と同じよ」

 

 ふうん……やっぱり二人ともいたれるんだな。

 でも、以前から俺の所で禁手に至る修行はしてきたのに全然いたれなかったんだよなー。なんでだ?

 

「ふうん……ちなみに亜種か?」

 

「それは……」

 

「自分の目で確かめてみたら?」

 

 息ピッタリにそんな事を言って来る二人。佑斗の方は優しげな——だけどどこかミステリアスな笑顔で、ジャンヌの方は挑発的な笑顔で言ってきやがった。

 

「それで、何処にいるのよ。もう見つけてるんでしょう?」

 

 不機嫌そうに——というより不機嫌全開でジャンヌが俺に向かってそう言ってきた。

 その隣にいる佑斗も、ジャンヌほど不機嫌ではないが早く言え、という雰囲気を醸し出している。

 いやいや、何で二人ともすでに俺がはぐれを見つけたってこと前提なの? いや、まあ確かにもう居場所は見つけてるけどさ。

 

「分かった分かった。だがそいつは殺さずに生け捕りにしてくれ」

 

「え……? でも大公からの依頼は討伐ですよ」

 

「なに……もしかして私達を面倒事に巻き込むつもり……?」

 

 キョトンとした佑斗とは裏腹にジャンヌは俺を若干殺気が混ざった眼で睨んで来る。多分その理由は佑斗を巻き込む可能性があるからだろう。全く、ホントにコイツは佑斗が好きだな。

 

「大丈夫だ。全責任は俺が持つ」

 

「ま、まあそれなら……」

 

 渋々頷いた佑斗とは反対にジャンヌは未だに俺を警戒している。あ、そんな事意味無いけどな。

 

「じゃあ二人とも、付いて来い」

 

 そして俺は二人を伴ってはぐれ悪魔がいる場所へと向かった。

 三人で少し歩いていると別館の二階にある広い空間の近くまで来た。

 

 オオォォォン!

 

 廃墟になる前は待合ホールであっただろう場所から後悔と怨嗟を含んだ咆哮が聞こえてくる。いや、これは咆哮というより嘆き声に近いかもしれない。

 

「お前ら戦闘準備は……ってもうとっくにできていたな」

 

 後ろを振り返ると既に二人の手には魔剣と聖剣がそれぞれあった。

 

「取り敢えず俺の後ろをついて来い。戦闘するタイミングは俺が計る」

 

 言うと二人は無言で頷いた。

 喋る余裕もないのだろう。俺にしたら上級悪魔の中堅クラスといったらきな粉の粉位の強さしか感じられないがこの二人は違う。いくら普段俺の家族と修行していると言ってもそれほど急激に実力が伸びる訳では無い。そんなのは物語の中だけだ。あ……これも物語の中か。

 二人からしたら慎重に——俺からしたらいつも通り歩いて旧待合ホールの入り口付近まで来る。そして相手の姿が視認できたところで俺は声を掛けた。

 

「お前がはぐれ悪魔『バナッシュ』だな……?」

 

 その空間の中心に居たのは、涙を流して泣いているイケメンだった。だが両の手足がおかしい。右足は爬虫類だったり左足は鳥類だったり、右手はカマキリだったり左手は人間のままだったりしている。キメラと言われても疑わなかったかもしれない。

 

「オオォォン……誰だお前達は」

 

「俺は兵藤一誠というものだ」

 

「僕はグレモリー眷属の騎士木場佑斗」

 

「同じくジャンヌ・ダルク」

 

 取り敢えず話はできる様なので安心する。

 そしてバナッシュの姿を見た時から気づいていたことがある。恐らくジャンヌも気づいているだろう。

 

「確かに俺はバナッシュだ。だがお前達は俺を殺しに来たのだろう?」

 

「いうあ俺達はお前の話を聞きに来た。お前と戦う意思はない」

 

 武器は持っていないというアピールをする為に両手を大きく広げる。

 

「嘘を吐くな!」

 

「嘘じゃない。俺達は本当に戦う気が無い」

 

 佑斗とジャンヌは未だに聖剣と魔剣を持っているが、丁度俺の影になっていて奴からは見えない。そして聖剣の気配は俺が隠しているので奴には気付かれていない筈だ。

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ‼ お前らは……お前ら悪魔はそうやってェェェェェエエエ!」

 

 叫びながらこちらに向かって来るバナッシュ。何の駒だったのかは分からないが、上級悪魔の中堅という割にそこまでのスピードではない事から女王と騎士い街の駒という事は分かった。

 

「はあ、仕方ない。……ジャンヌ、佑斗頼んだ」

 

「はい、師匠」

 

「全く、仕方ないわね」

 

 そしてバナッシュを迎え撃つために俺の後ろから飛び出した二人。

 魔剣と聖剣がバナッシュを死なない程度に斬ろうと迫るが、彼はその二つの剣を左手に付けている籠手とカマキリになった右手で受け止める。あの籠手を見るに彼ははぐれになる前は戦車なのだろう。

 そして籠手の方で聖剣を受け止めたので彼にダメージは無い。

 

「クッ、随分硬い……」

 

「佑斗! かく乱させるわよ!」

 

「了解っ!」

 

 騎士の特性をフルに使って二人はバナッシュの周りを高速で移動する。

 

「喰らいなさいっ!」

 

 ジャンヌはその間に何度も聖剣を投擲する。

 それを彼は籠手で受けたり、避けたりするので致命傷にはならない。

 手かあいつ、俺が生け捕りにしろって言ったの忘れてるよな? いや、覚えていると信じよう。

 

「ハアァッ!」

 

 バナッシュが聖剣を避けた時を見計らって、佑斗が斬りかかる。

 既にこの二人の神器が魔剣創造(ソード・バース)聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)聖剣創造であることに気づいているであろうバナッシュは、このまま避け続けてもジリ貧だと思ったのか佑斗の手に持っている剣を鎌で受けて籠手はジャンヌ用に取っておく。その判断は普通ならば間違っていない。しかしこの二人が相手の場合は間違いだった。

 佑斗は目の前にある鎌を手に持っている聖剣(・・)で叩き斬った。

 

「グアァァァ! ……な、何故だ………」

 

 その問いは悪魔である佑斗が聖剣を使えている事に対してだろう。

 何故彼がジャンヌが持っていたそれを持っているかなんて、投げられたものをキャッチしたからに決まってる。

 

「すでに察していると思うけど、私の神器は聖剣創造よ。そして神器とはその人の魂の一部。そして私と佑斗は魂レベルでの繋がりを持っている。そんな佑斗が私の作った聖剣(もの)を使えない筈がないでしょう」

 

 傷口を押さえて蹲っているバナッシュに向かって、ジャンヌは自信満々にそう言った。

 要するに愛のなせる業である。簡単に言うとな。

 そして取り敢えず死なれても困るので俺は指を鳴らした。するとバナッシュの傷口が光り、見る見るうちに塞がっていった。

 

「……なぜこんな事をした?」

 

「言っただろう、『お前と戦う意思はない』って。さっきこの二人が戦ったのはお前が向かってきたからやむおえなくだ」

 

 俺がそう言うと彼は黙ってしまった。

 しかしいつまでもこのままという訳にはいかない。さっきの戦闘を嗅ぎ付けたグレモリーたちが来るかもしれないからな。

 そこで俺はもう一度指を鳴らし、彼の周りにちょっとした結界を張る。

 

「これから俺が良いって言うまでそこから動くな。もの音を立てるな。ジッとして銅像の様にしてろ」

 

「………」

 

 返事をしないので少し心配になるが、あとちょっとでグレモリーたちが来るのでもうこれ以上確認している暇はない。

 

「佑斗とジャンヌもこの事はグレモリーたちにはいうなよ。今起きたことは俺が話す。お前らは出来るだけ自然な感じでそれに合わせろ」

 

「まあ……師匠がそう言うなら………」

 

「……本当に、私達に面倒事はこないんでしょうね?」

 

「保障しよう」

 

「分かったわ。あなたに合わせる」

 

 取り敢えずこの二人が此方側に着いたので面倒な事をしなくて良かった、と胸を撫で下ろす。

 そのタイミングでグレモリーたちが来た。

 

「三人とも大丈夫っ!」

 

 Aランクのはぐれ悪魔が相手だと聞いていたグレモリーはここに来るなり、まず俺達の心配をした。

 他の事よりもまず部員の心配をする。実によくできた部長だと素直に思う。

 

「それで、バナッシュはどうなったの?」

 

 俺達三人の無事を確認したグレモリーはそう問いかけて来た。佑斗とジャンヌには俺に合わせろと言っているのでここは必然的に俺が一番に口を開かなければならない。

 

「木場とダルクの二人が倒した。俺は見ているだけだったぞ」

 

「確かに先生のいう事は本当です」

 

「そうね。先生のくせに何もしなかったわ」

 

 俺の言葉の真偽を目線で佑斗とジャンヌに問いかけたグレモリーだが、二人は予め約束した通りに俺の話に合わせた。

 

「そう……ならいいわ。じゃあ、帰りましょうか」

 

「ああ、お前らは先に帰っててくれ。俺はさっきバナッシュを探している時に教師の仕事関係のヤツを落としちまったみたいだから、それを探してから帰るわ」

 

 かなり苦しい言い訳だが、まあこれで何とかなるだろう。

 この言い訳がかなり苦しいのは分かっている。だから佑斗とジャンヌ、お前ら呆れたような目でこっちを見るな。

 ……心なしかバナッシュからも呆れられてる気がする。

 

「イッセー、私と白音も探すかにゃ?」

 

「お手伝いします、兄様」

 

「いや、生徒に見られると不味いものだからお前らも先に帰っててくれ。(後で説明するからそれで我慢してくれ)」

 

「にゃ~……それなら仕方ないにゃ。(絶対に話すにゃよ)」

 

「分かりました。では先に帰っています。(もし話さなかったら……家族(みんな)に言います)」

 

「ああ、そうしてくれ。(絶対に言うと誓おう)」

 

 いや、家族(みんな)が別に怖い訳じゃ無い。確かに九喇嘛とかイーリスとかオーフィスは強いが俺程じゃないし、他の皆も俺に比べれば大した事は無い。

 だが、約束はできるだけ守る、と普段から言っている俺が一般的に見て破る確率の方が少ない約束を破ると色々と言われるのだ。それが面倒なのだ。まあ、元々破る気はさらさらないけどな。

 

「では先生、さようなら」

 

「おう、気をつけて帰れよ」

 

 旧待合ホールから全員が居なくなったのを確認した俺は、バナッシュを覆っていた結界を解き今度はこの間教会を覆ったのと同じ結界を旧待合ホールに張る。

 

「……それで、お前は俺に何の用だ?」

 

「別に……。しいて言うならお前がはぐれになった理由を聞きたいだけだ。あと、お前が転生者かどうかってこともな」

 

「……ッ⁉」

 

『転生者』という言葉に、バナッシュはピクリと反応した。どうやら俺の予想は正しかったようだ。

 

「当たりのようだな。……じゃあお前の前世から今までの話をしてもらう」

 

 俺のその命令にバナッシュは逆らわなかった。

 そして一人のはぐれ悪魔の長い長い話が始まった。

 

 ある大富豪の家に奉仕する一族の所に生まれた男がいた。その男の家は祖父も父も代々そこの執事長をしており、男もも成人を過ぎて結構な修行をした後にそこの執事長になった。

 男が執事長になった時の家の当主は、男の幼馴染だった。

 当主の事を親友として、使えるものとしてとても大切に思っていたので誠心誠意当主に尽くした。

 そして男が執事長になってから十年の歳月が過ぎた時、それは唐突に起こった。賊が侵入してきて使用人も含めた全員を皆殺しにされたのだった。

 一番初めに賊の侵入に気づいたのは、執事長をしていた男だった。武道の経験もあった男は当然応戦したが数の利には勝てずに賊に捕らえられた。

 そして賊は使用人を含めた全員を男の前で殺していったのだった。

 生きたい、死にたくない、と叫ぶ使用人や当主の親族に男は目を背けたかったが、そうする事も出来ずに只々気がふれるまでその光景を見せられ続けた。そして最後に男も殺されたのだった。

 

「そしていつの間にかこの世界に転生した俺は、行き倒れている所を我が王に拾ってもらったんだ。そして前世の記憶も持っていた俺を、有能と判断した我が王は俺の事を眷属の一人に加え家族の様に温かくもてなしてくれた」

 

 その事を語っている時のバナッシュの顔は、輝かしき思い出を懐かしんでいた。

 だが、その顔に再び影が差す。

 

「でも、そんな平穏は長くは続かなかった。いや、人間にしたら二十数年は長いかもしれないが俺たち悪魔にとったら短い時間だった」

 

 きっとここからが彼がはぐれになった理由なんだろう、と自然と俺はそう思った。

 

「ある日突然得体のしれない悪魔が屋敷を襲撃してきたんだ。その時の俺は前世以上に力をつけていたし、我が王を含め眷属も全員揃っていた上に、我が王の眷属以外にも屋敷の中には実力者はたくさんいた。だからもうあんな悲劇は起こらないと思ったんだ」

 

 だがバナッシュの予想——というより希望を裏切って結果は彼の前世で起きたことの二の舞だった。そしてその事がきっかけでバナッシュははぐれになったらしい。

 

「お前は殺されなかったのか?」

 

「ああ、戦闘で運よく気を失って見逃されたからな……」

 

「しかし、何故それではぐれになったんだ? それならお前がはぐれになる訳無いと思うんだが?」

 

 俺のこの疑問は当然と言えるだろう。

 普通眷属が主を失くした場合は何種類かのパターンがある。

 一つは、その眷属が上級悪魔以上だったらそいつを新たな主にして、そいつに自分の眷属を集めさせるパターン。

 一つは、他の空きがある主の眷属にさせるパターン。

 基本的なのはこの二つだ。

 

「俺もその時は中級悪魔だったんだが、ちょうどその襲撃の数日後にある上級悪魔への昇格試験を受ける予定だったんだ」

 

 それを受けようとしていたらしいバナッシュだったが、試験会場内を気まぐれで見て回っていた時彼の耳に彼にとってはとても許容できない内容の話が聞こえて来たらしい。

 

「そいつらが我が王は死んでよかった、とか我が王は上級悪魔の面汚しだとか言っていたんだ」

 

 後でバナッシュが知ったところによると、そいつ等は悪魔の政治組織『元老院』の下層部のメンバーだったらしい。

 だがそんな事を知らない当時のバナッシュは、つい怒りのままにそいつらに襲い掛かったらしい。

 そして元老院の下層部である彼らは大けがを負い、バナッシュははぐれ悪魔となったのだった。

 

 彼の話を聞いて同情はする。前世では主兼親友を文字通り目の前で殺され、現世では主兼命の恩人を守る事が出来ずに殺された。これを聞いたら誰でも同情するだろう。だが、同情するだけだ。それ以上の感情は沸いてこない。

 

「それで……お前はどうしたい」

 

 一応聞いておく。

 バナッシュは結果的に殺すが、もしその願いが俺にもできる事ならば例え偽善と言われようと叶えてはやろうと思う。

 だったら本人の手で叶えさせてやれと思うだろうが、彼は(裏の)世界から見たら咎人だ。例えそれがどんな願いであろうと叶えるのは難しくなる。それに、グレモリーたちが既にバナッシュを殺したと大公に報告していると思うので、殺さないと色々と厄介な事になるのだ。

 

「俺は………一言親友と我が王に謝りたい。守れなくてすまない、と」

 

「分かった。はぐれであるお前がお前の親友とお前の主と同じ所に行けるかは分からないが、その手助けはしてやる」

 

「……ッ⁉」

 

 俺の言葉にバナッシュは顔を勢いよくあげて俺の方を見た。驚きを顔全体で表している彼に俺は頷く。

 

「ああ……最後に会えたのが、お前で良かった」

 

 すると穏やかな表情に変えた彼はそう言った。そしてその言葉を全部おれが聞いたと同時に、素手で心臓を突き刺しバナッシュの命を絶った。

 彼が死んでいる事を確認した俺は、彼の下にひし形の魔方陣を書く。そしてその頂点に人一人が丁度入れる大きさの円を書き、その中にも色々と(まじな)いを書いていく。

 

「お前ら……出てこい」

 

 全ての作業を終えた俺は、本宅から玉藻、羽衣、藍、八坂を呼び出す。

 

「ふむ、何じゃ一誠。妾に何か用か?」

 

「ああ、実はそいつの魂を天国に行かしてやりたいから呪いを手伝ってほしい」

 

 バナッシュの親友と主が天国にいるとは限らないが、彼の話を聞く限りは天国に行くにたる人たちだったと思うのでバナッシュを天国に送ることにした。

 

「みっこーん! はぐれにもその寛大な優しさ……流石ご主人様です! もうイケメン過ぎてタマモは直視できません!」

 

「ああ、うん。分かったからその丸の中に入ってくれ」

 

 取り敢えずハイテンションな玉藻は置いておく。長くなりそうだしな。

 この四人を呼んだのは、九尾の狐の一面である神獣の部分の力を借りる為でもある。あと、こいつら全体的に呪いの類が得意だし(羽衣だけは標準より少し上レベル)。

 だったら神であるライヴィスを呼んだ方がいいかと思われるが、彼女一人だけでは些か不安定になる。神聖で同じ種族が四人いた方が安定するのでこの四人を読んだのだ。九喇嘛を呼ばなかったのは、あいつは厄災とか妖狐とかの方面の方の存在感が強いからだ。だったら羽衣もでは? と思うかも知れないが、この世界の羽衣は若干だが神聖な方の存在感が強いらしい。

 

「それじゃあ行くぞ、準備はいいな?」

 

 四人が頷いたのを見て魔方陣に力を流し込む。

 すると徐々に魔方陣と玉藻達が神聖な雰囲気を醸し出し始める。

 それから数分ほどで儀式は終了し、バナッシュの魂についていた穢れは浄化された。これで、彼は思い人の元に行けるだろう。

 

「なあ、イッセー。なんで今回に限ってこんな事をしたんだ?」

 

「いやいや、今回に限った事じゃないぞ。今まででも何回かこういう事をしてきた」

 

 俺の言葉を聞いて四人は程度に差はあるものの驚いたようだった。というのも仕方のない事で、今までのやつは俺一人でも解決できることだらけだった。だが、今回のやつはちょっと俺だけだと微妙なので彼女達に頼んだのだ。

 

「まあ、妾はイッセーに頼って貰っただけで満足だがな」

 

「ウフフ、私もですよ」

 

「無論、私もだ」

 

「ちょっ、正妻である私を差し置いて何言ってくれやがりますか! ご主人様ぁ、勿論タマモもご主人様に使われるのはすっっっごく嬉しいですぅ」

 

「ああ、ちゃんとわかってるさ」

 

 そう、そんな事は言われなくても分かっている。だって四人ともここに呼んだ時から尻尾が左右にユラユラ揺れてるんだから。一瞬犬に似てる、と思った俺は悪くない筈だ。

 

 そして俺達は帰路についた。帰りに彼女達へのお礼の意味を込めて大量の油揚げも買って行った事をここに記しておく。

 




皆さんどうでしたか? 閑話なのに少々長くなってしまいましたが、これは原作とこの作品との相違点を示す為なので、仕方ないのです。
次は少し間が空くと思われます。それでは、また次回。


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第二章
まあ、人生なんてそううまくはいかないものだ


お久しぶりです。久しぶりの投稿になるので今回は練習も兼ねています。ですので短いです。
今回から原作二巻が始まります。
そして久しぶり故に平均文字数以上書くというマイルールを破ってしまった……ま、いっか


 まあ、人生なんてそううまくはいかないものだ

 

 

 

 

 

 はぐれ悪魔バナッシュの件から数日たったある日。放課後の駒王学園の校門に金髪の男が来ていた。

 

「さて、来てみたわいいものの……これからどうするかな………」

 

 腕を組んで思案する男の視界に、丁度よく放課後になって帰宅していく女子生徒のが映った。

 それを見て妙案が思いついた男は女子生徒に話しかける。

 

「すまない。ちょっといいだろうか?」

 

 

 

 

「兵藤先生~、これに関係する書類何処にありましたっけ……?」

 

「ああ、それ関係の書類でしたらあちらの方にありましたよ」

 

 バナッシュの件から数日経った日の放課後。俺は職員室で『先生の仕事』をしていた。

 本当なら今の時期に原作二巻が始まるのでこんな事をしていたくはないのだが、自分でこの立ち位置(教師)を選んだので仕方ないっていえば仕方ない。

 

「兵藤先生。ちょっと……」

 

「?」

 

 理由は分からないが初老の先生に呼ばれたので其方に行ってみる。

 

「先生にお客様が来ています」

 

「俺に客……?」

 

 はて……誰だ? 家族の皆には滅多な事では来るなって言ってあるのでその可能性はない。その他の裏の世界の関係者達にも同じように言ってあるので違う。もしあったとしても俺の形態に直接掛かってくる。人間界で生活をし始めたのはここ最近なのでこの可能性も違う。……やばい、本格的に誰が来たのかわからない。

 

「ええ、金髪の男性です。応接室に通してあるので行って下さい」

 

「はあ……分かりました」

 

 気の抜けた返事をしながらも、俺は応接室へと向かう。

 

 この時俺は忘れていた。この世界の流れを。今日が原作でどこら辺に当たるのかを。

 そしてそれを俺は金髪の男性、と言われた時点で気付くべきだった。

 

 

 

「なあ、木場。ここ最近部長の機嫌が良いみたいだが……何があったんだ?」

 

 おっす、俺は兵庫一翔。リアス・グレモリー様の兵士をしている。

 そして今は美質に向かう途中で偶々会った木場とダルクさん(本人にそう呼ぶように言われた)と一緒に部室に向かている最中だ。

 そしてさっきからダルクさんの視線が痛い。おそらく木場との二人っきりの時間を邪魔されたからなんだろうけど……いくらなんでも同じ主を持つものに対する殺気の量じゃないと思う。いや、マジで。

 

「う~ん……。流石の僕でもその原因まだは分からないな……」

 

 肩を竦めて申し訳なさそうにそういう木場。

 

「何言ってんのよ。あなたはちゃんと分かってるでしょう」

 

「アハハ、やっぱりジャンヌには敵わないな」

 

 ってさっきの言葉は嘘だったのかよっ‼

 俺は木場に文句の一つでも言ってやろうとしたが、丁度部室についたので文句を言うのは後でにする。

 

「あら、遅かったわね三人とも。……何かあったの?」

 

 いつもの席に座った部長が、俺らの事を確認するなりそう問いかけて来た。

 

「ただちょっと帰りのHRが遅れただけよ。そんなに心配する事じゃないわ」

 

 ダルクさんがそう言うと部長はそう、大変だったわね、と妙に上機嫌な声でそう言った。

 う~む……本当に何があったんだろう?

 

「! 部長、この人誰ですか?」

 

 そこで俺は気付いた。部長の後ろに銀髪のメイドさんが立っているのを。

 長い銀髪を自然に流していて巨乳なメイドさんは、俺と目があうと一礼してきた。慌てて俺も礼を返す。

 

「ああ、彼女はミレイフィアよ。私の実家でメイド長をしているの」

 

 部長がそう紹介すると、銀髪のメンドさん——ミレイフィアさんはまた一礼した。

 ってか分かっていたけど部長ん家ってやっぱりお金持ちなんだな。

 

「で、その人が何でここにいるんですか?」

 

 俺が部長に向かってそう聞くと、部長はよくぞ聞いてくれたわ、といった顔をして顔を嬉しそうに綻ばせながら反しだした。

 ああ、自分がその原因じゃないのは分かっているけど、部長の笑顔はやっぱり見ていて飽きないな。

 

「彼女は私の実家から私宛の伝言を持ってきてくれたの」

 

「? でも、それだけの事だったら魔方陣での連絡でもいいんじゃないですか?」

 

 悪魔になった時の説明で魔方陣についてもある程度は聞いた。その全てを覚えている訳じゃないけど、魔方陣を電話代わりにできるという事は覚えていた。

 そしてその事は当然部長も知っている。てことは、今回の事は直接言った方がいいほどの事なのか、もしくはミレイフィアさんが人間界に来たついでに伝言も持ってきたのか……。

 

「本当ならばそうなのだけれど、今回の件は私の将来にかかわる事だから重要な事なのよ。だから彼女が直接来たの」

 

 どうやら前者だったようだ。まあ、後者の確率は結構低かったから当然ともいえるかな?

 

「……で、その伝言て何なんですか?」

 

「実は————」

 

 コンコン

 

 部長が伝言の内容を言おうとした時、部室内に乾いたノック音が響いた。

 部室内に居た俺達は全員その音がした出入り口の扉を見つめる。

 

「ライザー・フェニックスというものだが、オカルト研究部はここで合っているだろうか?」

 

 それは俺の聞いたことのない声と名前だった。

 俺の隣にいたアーシアも身に覚えが内容で首を傾げているが、他の皆は知っているようでそれぞれの反応を見せていた。

 その中でも部長の反応に俺は一番目を奪われた。

 部長は普段の優雅な振る舞いなども欠片も感じられない動作で立ち上がると、自身で軽く身だしなみを整えた後傍にいたミレイフィアさんに何処かおかしなところが無いか聞く。

 

「ねえ、何処かおかしなところはないかしら?」

 

「いえ、特に問題ないかと」

 

「そう、ありがとう」

 

 満足そうに頷いた部長は、スキップしそうな足取りで扉へと向かう。

 

「ええ、ここで合ってるわ。ちょっと待ってねライザー、今開けるわ」

 

 そう言って部長が扉を開けると、金髪のチョイ悪風ホストみたいなイケメンが立っていた。ケッ、イケメンなんて滅びろ!

 

「突然すまないなリアス。今日は人間界にちょっと用事があったからそのついでに寄ったんだ」

 

「そんなことないわライザー! あなたが来てくれて私はとっても嬉しいわよ!」

 

 あ、あれ~? 部長がいけ好かないイケメンと話している時の顔が恋愛に疎い俺でもわかるほどに乙女なんですが………も、もしかして部長! そうなんですかそういう事なんですか⁉

 

「? そこの彼は何故に頭を抱えて唸っているんだ?」

 

「気にしなくて良いわ。イッショー元々そういう子なのよ。そんな事よりこっちに一緒に座りましょう」

 

 ぐおぉ〰〰っ! 部長が、俺の部長が〰〰〰っ‼ ってあれ? 俺が悶絶している間に部長とライザーは仲良くソファに並んで座ってる⁉ 

 ……はぁ、やっぱり部長の様な人は俺にとって高嶺の花なんだよな———。

 

「ふわぁ~……佑斗、ちょっと眠くなったから寝かせてくれる?」

 

「うん、いいよ。ジャンヌの出番になったら起こすから、ゆっくりおやすみ」

 

 部長とライザーがいる所とは別のソファでは、騎士コンビがマイペースにイチャイチャしている。はっ! 此処の場所からしゃがめばダルクさんのパンツが見えるのではっ⁉ よし、思い立ったら即行どおわっ⁉ あ、危ねぇ。木場のヤツ俺がしゃがんだ瞬間に短剣型の魔剣を投げてきやがった。

 

「(次は当てる)」

 

「(分かった! もうしないから、その魔剣をしまえ‼)」

 

 アイコンタクトだけで会話した俺と木場。あれぇ~、アイコンタクトでの会話って信頼関係があって初めてできるんじゃなかったっけ? 今の俺と木場の関係は信頼じゃなくて狩られる者と狩る者の関係だったと思うんだけど……。

 

「そう言えばライザー、さっきミレイフィアから聞いたのだけれど私とあなたの結婚の話が本格的に進むそうね。もしかしてあなたが此処に寄った理由もそれ?」

 

 ………え? 結婚? 誰が? もしかして部長とこのイケメンが? ………そ、そんなァァァああああ⁉

 

「ああ、その事についてなんだがリアス……俺はお前とは結婚できない」

 

「………え?」

 

 その瞬間まさしく部室の中の時間が一瞬止まった。

 部長は先程の眩い笑顔が消え、開いた口が塞がらなくなっている。他の皆は……思いのほか普通だった。恐らく皆空気を読んで固まっているだけなのだろう。かくいう俺もこの急展開の連続に頭がオーバーヒートしそうだった。だが俺の頭は次第に青くなっていく部長の顔を見て冷静さを取り戻していった。

 

「ちょちょっと待って! え? 私とあなたが結婚できないってどういう事? だってこの婚約はグレモリー家とフェニックス家が決めたもので——」

 

 親においていかれた子供の様な顔で部長はライザーに問いかける。

 そんな部長を見ている俺の心境はかなり複雑だった。正直に言えば部長がこいつと結婚しないと聞いて俺は超嬉しい。だが俺は決してあんな部長の顔を見たいわけじゃない。あんな何もかもに絶望したような顔を見るくらいなら、やっぱり俺は笑っている部長の顔が見たい。例えその隣にいるのが俺じゃなくても。

 

「ああ、確かにこの婚約は俺達の家同士が決めたものだ。だから俺はあと数日のうちにフェニックス家を出る」

 

 縋りつく部長の言葉を遮ってライザーはそう言った。その顔は明らかに何かを決意した『男』の顔だった。

 

「ちょっと待って。それはいったいどういう—————」

 

 コンコン

 

 またもや鳴ったノック音。正直今はそれどころじゃないので部長は無視を決め込むようだったが、こちらの返事を待たずに扉が開いた。そして扉を開けて入って来たのは、

 

「ん? 取り込み中だったか? まあ、俺に気にせずに続けろ」

 

 ————この学園で恐らく最も有名であろう教師、兵藤一誠先生だった。

 

 

 

 応接室で客——ライザーを迎えた後、彼から少し遅れて俺はオカルト研究部へと向かった。別にわざとタイミングを外した訳じゃなく、まだ残っていた教師の仕事があったからそれをしていただけだ。他意は無い。

 

「……先生、今はちょっと席を外してくれますか。先生には関係のない話をしていますので」

 

 俺に向かっていつもの数倍冷たい声でグレモリーが言い放ってきた。だが俺が何か言うよりも早く口を挿むものがいた。

 

「あら、随分遅かったのね。教師の仕事ってそんなに大変なの?」

 

 俺が入って来た時には壁の花を決め込んでいたミレイフィア——の見た目をしたグレイフィアだ。

 

「ちょ、ちょっとミレイフィア。あなたいきなりどうしたの⁉」

 

「ああ、そう言えばちゃんとした挨拶がまだだったわね。私はグレイフィア・ルキフグス。この人の妻よ」

 

 流れるような動作で俺の隣に来たグレイフィアの挨拶に、事情を知らない者(グレモリー、柔汪、兵庫、アルジェント)が鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になる。

 

「……もしかして、ミレイフィアが言っていた姉ってあなたの事かしら?」

 

「ええ、そうよ」

 

 グレイフィアがそういったタイミングで部室の空いている所に魔方陣が展開されグレイフィアと瓜二つの女性——ミレイフィアが現れる。

 

「すいませんお嬢様。所用により少々遅れました。! お久しぶりですお義兄様、お姉様」

 

 グレモリーに軽く謝ったミレイフィアは、その場にいた俺とグレイフィアにも気づき会釈してきた。それに俺達は手を挙げて軽く返す。

 

「まあ、色々と驚く事があったけど今はいいわ。そんな事よりミレイフィア、私はあなたに確認したことがあるのだけれど……」

 

「お嬢様が仰りたいことは理解しております。なぜお嬢様とライザー様の婚約が破棄なされているのか、ですよね?」

 

 ミレイフィアの確認にグレモリーは深く頷いた。

 

「その事につきましては折角本人がおられるのですし、ライザー様本人に理由を説明してもらった方がよろしいかと」

 

 彼女の言葉でみんなの視線(爆睡している柔汪とジャンヌは除く)がライザーに向けられる。

 

「ああ、いいだろう。では今から俺が婚約を破棄しようと思った最大の理由をここに呼ぼう」

 

 ライザーがそう言うと彼の横に一つの魔方陣が展開される。その魔方陣は聖なる気配が漂っていてそれだけで悪魔関係の人物ではないのが窺える。まあ、俺は誰が来るのかは分かっているんだけどな。前にライザーに紹介されたし。

 

「初めまして、(おおとり)です」

 

 ライザーの金髪の様にギラギラしたものでは無く、優しい感じの金髪に優しい赤色のメッシュが入った妙齢の女性は俺達の前に姿を現すなり頭を下げて挨拶をしてきた。彼女につられて俺達(寝ている者を除く)も頭を下げる。

 そしてライザーはグレモリーに向き直ると、今の状況から誰もが予想できる言葉を、彼女が最も言ってほしくないであろう言葉を、

 

「リアス、俺は迦楼羅が好きだ愛してる。だから俺はお前とは結婚できない」

 

 ———ちゃんと相手の目を見て、ハッキリと言った。

 




新学期が始まったさいにあった慌ただしさもやっとひと段落ついて来たので、最新話を投稿しました。
今の所の予定ではこの作品はアニメがやったところまで、つまり原作四巻までは書きます。その後は追々考えたいと思います。

それでは、また次回


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馴れ初め

皆さんお久しぶりです。
今回はライザーと迦楼羅の馴れ初め的な話です。そして過去最長です。

ここで、ここまで間が開いてしまった言い訳を一つ。
実は定期考査があり、それが終わった直後に球技大会がありました。そこで『うっかり』靭帯損傷してしまって二週間前までギプスだったという訳です。

以上、言い訳終わり‼



 馴れ初め

 

 

 

 俺が迦楼羅と出会ったのは十代の後半の頃だった。

 当時悪魔の学校を卒業した俺は、眷属探しの旅に出かける為に師匠である一誠さんからの最終試験を受けていた。因みに一誠さんが俺の師匠になったのは悪魔の学校に入る一年ほど前だ。当時の俺は家の名前の上に胡坐をかいているだけのクソガキだったのだが、一誠さんの修行(と言うか拷問)を受けた後少しずつ考え方と将来の志(当時はハーレム形成だった)がだんだん変わっていき今の俺になっていった。

 そしてその最終試験と言うのが、一誠さんの領土内にあるある森で一ヵ月のサバイバル生活というものだった。別にこれだけ聞けば、忍耐力があればいけそうな気もするが、あの人の試験はそんなぬるくない。この試験の条件に俺の力を下級悪魔レベルまで落とす、というのと最低でも一匹以上のドラゴンに勝利しろ、というものがある。此処で言うドラゴンとは勿論一誠さんの領土内に居るドラゴンだ。なのでここの力が圧倒的に跳ね上がっているし、あの人からの加護もあるので、ドラゴンの鱗さえも焼き尽くすと謳われているフェニックス家の自慢の炎も彼らの鱗に軽い傷をつける程度の効果しかない。それなのに俺の力を下級まで落とすというのだから、相変わらずの鬼畜っぷりだった。

 

 ~数年前兵藤領にあるとある森~

 

 試験の丁度一週間目。俺は三対のドラゴンに追われるという非常にまずい状況に追い込まれていた。

 

「チッ……これでも喰らえ!」

 

 俺は自信を追って来るドラゴンの一体に向けて炎の槍を放つ。勿論今は下級くらいの力しか出せないので、使う魔力は最少にまで抑えてある。だがそれだとドラゴンにかすり傷の一つも与えられない。だから炎を槍状にして貫通力を上げて少しでもダメージを与えようって算段だ。まあ、実際は本当に少ししか効果は出ていないけど……。

 

「ゴギャァァァァァッ⁉」

 

 俺が放った炎の槍は運よくドラゴンの目の付近に当たったらしく、そのドラゴンが叫び声をあげる。

 だがこの後に、倍返しだ! どころの威力ではない攻撃が来るのはこの一週間で学んでいるので、すぐさまその場を離れて近くの洞窟の中に入る。その直後に、洞窟の外から今度は怒りに満ちたドラゴンの咆哮が聞こえてきた。

 

(無理だ無理だ無理だ! こんなところで一ヵ月も生活なんてできるわけがない!)

 

 この一週間碌に寝てもおらず色々とストレスの為っていた俺の思考は、そんな考えで埋め尽くされていた。そしてこの絶好の機会に逃げてしまおうと考える。そして色々と限界に来ていた俺はそれをすぐに実行に移した。

 取り敢えず転移用の魔方陣を大急ぎで書く。行先は魔方陣が書き終わてからだ。

 だが生憎と、俺の意思に反して作業は思うように進まなかった。完全に、という訳では無いが俺の魔術に関する才能は普通以上に戦闘系統の方に偏っている。なので移動用の魔方陣を書くのは苦手なのだ。だからいつもは俺の後をついて来る妹のレイヴェルにやってもらっている。レイヴェルもいないときは、自力で移動する。俺の行動範囲は殆ど冥界の中に限られるので、それで十分だ。

 

 ゴギャァァァァァッ‼

 

「クソッ! もう来やがったのか⁉」

 

 ドラゴンの咆哮が此方に近づいて来ているのを感じた俺は、作業中の手を休めずに舌打ちする。

 

「よし、出来ッ⁉」

 

 魔方陣が完成し転移しようとした時に、ドラゴンが炎のブレスを放ってきた。

 普段ならフェニックス家自慢の回復力にまかせてそのまま何もせずに喰らう所だが、今はその回復力も下級レベルに落とされてしまっている所為で十全ではない。それにより迫りくる炎に恐怖した俺は、行先も碌に指定せずに緊急転移した。

 

 

 

 

 此処は日本にあるとある霊山。その山の中を一人の少女が歩いていた。彼女の名は鳳迦楼羅。この霊山に住む聖獣フェニックスだ。

 

(う~ん……今日はこれからどうしようか?)

 

 彼女は不死身だ。故に食事をとらなくても死なない。だから彼女は食事を取る為に必要なお金を使う必要があまりないので働いていなかった。偶に食事以外の娯楽(洋服を買う等)の時に必要になった時は、賞金首を狩ったりしてお金を稼いでいる。

 そしてこの霊山には彼女しか動物がいない。より正確に言うのならば言語を使ってコミュニケーションを取る事の出来る動物は彼女しかいない。故に話す相手もいないので彼女はほとんど毎日暇を持て余している。偶に野生の狐や狼と戯れる事はあるがそれも連日繰り返していれば流石に飽きて来る。長年それが続けばなおさらだ。

 と、いう訳で今迦楼羅は暇つぶしを探していた。その肩には小鳥がとまり、彼女の足元にいは小動物たちが屯っている。

 

「意外と……暇はつぶせないか~」

 

 ため息を吐きながら一人そう愚痴る。本来ならば動物たちに囲まれた明るい色の金髪美少女、という構図は物語の中のワンシーンなのだが、彼女が現在進行形で放っている「暇ですよオーラ」の所為で台無しになっている。

 

「あれ? この気配は……」

 

 突然山の中に現れた気配に迦楼羅は、その気配が現れた方向を見る。

 彼女の周りでは動物たちが彼女と同じ方向を向いて、毛を逆立てて威嚇というより警戒している。

 

「ああ……これは悪魔の気配だね……。久しく感じていなかったから忘れてたね」

 

 気配の正体が分かった事で少々気分が良くなる迦楼羅。

 何故彼女が悪魔の事を知っているのかと言うと、少し前までは彼女を眷属にしようとする悪魔がこの山にはたくさん来ていたのだ。迦楼羅のその容姿と『不死鳥』というネームバリューにつられてきた悪魔はたくさんいた。中には実力行使で彼女を眷属にしようとする悪魔もいたが、その事如くを彼女は追い払っていった。そして勧誘しにくる悪魔はどんどん減っていき、ここ数年では一度も来ていない。だから迦楼羅は悪魔の事を忘れていたのだ。

 

「みんな待ってて。ちょっと様子を見て来るからね」

 

 未だに自身の周りで警戒している動物たちにそう告げてから、彼女は気配のする方へと悠然と歩いていった。

 

 

 

「あら? 悪魔がこの山に来たというだけでも珍しいのに、その上訳ありとはね……」

 

 金髪の青年くらいの悪魔が倒れている所に来て迦楼羅は開口一番にそう言った。だがその声音に面倒だ、という感情は含まれておらず、逆にいい暇つぶしを見つけた、と喜んでいるようだった。

 

「まあ、ここで野垂れ死んでもらっても一向に心は痛まないけど……そうすると暇つぶしが無くなるしね。何より対極にいる同族のようだしね」

 

 そう呟くと青年悪魔を肩に背負い迦楼羅は周りに動物たちを従えながら自身の家へと歩みを進めた。

 その際、彼女の周りの動物たちは彼女の事を守る騎士の様に周りを囲んでいる。

 だが一匹の狐が堪えきれなくなって迦楼羅に青年悪魔をどうするのか問いかけた。勿論鳴き声で。

 

「う~ん……とりあえずは起きるまでは様子見か」

 

 無難な答え。だが現状ではそれ位しか思いつかない。このまま殺してしまうという手もあるが、聖獣ではなくても相手はフェニックス。殺すまでに時間が掛かり面倒くさい。

 暇つぶしはしたいが、面倒事は嫌いな迦楼羅なのでその方法は取らなかった。

 こうして後に、永遠の愛を誓い合う事になる聖獣と魔獣のフェニックスは初邂逅したのだった(片方気絶中)。

 

 

 

(ここは……どこだ……?)

 

 死ぬかもしれないというショックと極度の疲労から、丸一日眠っていたライザーは見知らぬベットの上で目覚めた。体を起こしてまだ半分くらいしか覚醒していない頭で周囲を確認し、ここが何処かを考える。だが当然ここに来たことが無い彼にはここが何処か分かる訳無い。

 

「あ、起きたんだね」

 

 そんな事を言いながら迦楼羅が部屋に入って来た。

 勿論ライザーは彼女が誰だか知らない。だが部屋に入って来た迦楼羅を見た瞬間彼の身体に雷が落ちたような衝撃が走った。

 部屋に入って来た迦楼羅は、日の光がその柔らかな金髪に照らされキラキラと光り、その姿はとても神々しく(彼女は聖獣なので神々しいのは元からかも知れないが)名画のような光景だった。

 そしてその美しさは、今まで勉学や修行三昧であまり女性に興味のなかったライザーが、あまりの美しさに茫然自失してしまうほどだ。

 

「………………君が、俺を此処まで運んでくれたのか?」

 

 その為このように少々長い間が開き、内容的にちょっとアホな事を聞いてしまっても仕方がないだろう。

 

「現状だとそれ以外の選択肢がないと思うんだけどね……」

 

「なに、一応の確認だ」

 

 照れ隠しで少しぶっきら棒な口調になってしまったライザー。

 だが初対面であるのにすでに軽口を叩きあっている時点で、この二人の相性は中々良いのかもしれない。

 一誠に矯せ……調きょ……しごかれたライザーは、普段はかなり飄々とした態度だが言いたい事はハッキリ言うタイプになっている。

 

「此処まで運んでくれたことに感謝する。そうでなかった今頃俺は野垂れ死んでいた所だ」

 

 ベットの上で佇まいを正したライザーが迦楼羅に深く頭を下げる。

 

「別に礼はいらないわ、ただいい暇つぶしになると思ってやったことだからね」

 

 あっけらかんと言う迦楼羅に、ライザーはポカンと呆けた後腹を抱えて笑い出した。

 

「クックック……まさか他人の生死に関わる事を暇つぶしとはな……」

 

「フフ……本当の事だから隠しても仕方ないし、私は思った事はそのまま言うタイプだからね」

 

 それからしばらくの間二人は笑い合った。

 

 

 

 ライザーが迦楼羅に助けられてから約一週間が経過した。その間にライザーは怪我を完治させ、今では迦楼羅の生活を手助けしている。彼曰く、

 

「助けてもらった恩は返さないとな」

 

 だそうだ。

 だが別に迦楼羅は恩を売ったつもりはないので、彼女的にはそんな事をしてもらう必要は全くない。全くないが、彼女は彼女でライザーと居ると退屈しなさそうという理由からされるがままになっている。

 

「迦楼羅、この食器は何処に置けばいいんだ?」

 

「ああ、それならそこの棚だね」

 

 言われてライザーは食器をその場所に置く。

 現在二人は昼食後の後片付けをしている。といっても殆どの作業をライザーがやっていて、迦楼羅は先程の様に何処にどれを置いたらいいかなどを指示するだけだ。

 

「ねえライザー……」

 

「んー?」

 

 カチャカチャと音を鳴らしながら洗い物をするライザーの背中に向かって、迦楼羅は退屈そうに言葉を投げかける。

 

「この後ってさー、また組み手をする事になるのか?」

 

 三日前にライザーが怪我を完治させてから、二人は昼食後に組み手をするようになっていた。始めはライザーのリハビリが目的だったのだが、その時迦楼羅に手も足も出ない事がものすごく悔しかったライザーはその日以降何度も昼食後に迦楼羅に組み手を挑んでいる。そして今日もすれば四日目になる。

 始めの二、三日は食後の運動程度に思っていた迦楼羅だったが流石に四日連続は飽きたらしく、先程の声には彼女のやりたくないっといった感情が込められていた。

 

「んー……まあ、それでもいいが今日はちょっと趣向を変えて別な事をしないか?」

 

 彼女のそれを分かったライザーはそう提案する。

 

「へー……何するね? もしつまらない事だったら右手の一本くらいは覚悟してね」

 

 首を可愛く傾げながらライザーに向かってウインクする迦楼羅。その仕草は本当に絵になっているが、ウインクをされたライザーは寒気に体を震わせた。まだ短い付き合いだが、彼女がこういう事を冗談で言っている訳では無い、ということは分かっているのだ。

 

「んー………あ、じゃあたまには町の方に下りて買い物でもしないか?」

 

 今まで勉学と修行しかしてこなかったライザーは、迦楼羅——というよりも女性が『退屈しない事』の案でイマイチいいのが思い浮かばなかったので、悩んだ結果かなり無難なものを提案した。

 

「ふむ……新しい発見はなさそうだけど気分転換と言う意味では悪くはないか……」

 

 無難な提案だったにもかかわらず迦楼羅の反応はちょっとよかった。その事に安堵しつつ迦楼羅とのショッピングをしたい、という下心のあるライザーはもう一押しする。

 

「それにお前がいつもする買い物は食材を買ったり、足りない日用品を補充するだけだろう。だったらたまには服を買ったり、ただブラブラと店を見て回ってみるのもいいんじゃないか?」

 

「う——ん………」

 

 ライザーの言葉に行くか行かないかの瀬戸際で更にグラついていく迦楼羅。ライザーはもうそれ以上は彼女に何も言わず、彼女の葛藤を黙って食後のお茶を啜りながら見守っている。

 

「うん、確かにライザーの言う通りたまにはそう言う買い物もありね」

 

 迦楼羅がそういった瞬間ライザーは心の中でガッツポーズした。

 

「ちょっと待ってて、今準備して来るからね」

 

「ああ、じゃあ俺は先に山の入り口の所で待ってるぞ」

 

 外出の準備をしに自室に向かう迦楼羅の背中に向かってライザーはそう声を掛けた。そして山の入り口の所まで歩いていく。その顔はニヤニヤしていてちょっと気持ち悪かった。

 

 

 

「待たせたね」

 

「なに、こういう時女性は遅れて来るものだ。気にするな」

 

 外行き用の清楚系の服に着替えた迦楼羅が入り口に着いたのは、ライザーがそこについてから三十分経ってからだった。

 いくら俗世から離れて暮らしているとはいえ迦楼羅も一人の女性(年齢的には女の子)。外出の準備に時間が掛かるのも仕方がないと言えば仕方がなかった。

 

「ねえ、ぶらりと買い物するのはいいけど具体的には何処に行く気なのね?」

 

「此処に来て一週間程度の俺にそれを聞くのか? 自分で提案しておいてなんだが、俺はこの町の何処に何があるのかはサッパリわからない。だから何か行きたい所があればお前について行くさ」

 

 自信満々にそう言ってのけたライザーに迦楼羅は呆れ半分おかしさ半分の顔になる。だが次第に堪えきれなくなり小さく笑いだした。

 

「何に対して笑っているのかは知らないが、早く移動しよう。なんか俺達目立ってるぞ」

 

 周囲にサッと目配せしたライザーが、ソワソワしながらそう提案する。

 

「フフ……フフフフフ………うん、そうだね。此処にいると時間がもったいないしね」

 

 未だに笑顔で笑ったままの迦楼羅は、自然な動作でライザーの手を取ると気に向くままに歩き出した。

 いきなり手を握られたことに驚いたライザーだったが、握っている手から伝わってくる迦楼羅の体温が心地よく自身も軽く握り返した。

 

「⁉ フフ……昨日雨降った後でなんかジメジメするから、冷たいものでも食べに行かね?」

 

 ライザーが握り返してきた事に迦楼羅は目を見開いて動揺したが、すぐに彼のそう提案して自身の心の変化を悟られないようにする。

 

「そうだな、じゃあカフェかアイス屋を探そう」

 

 こうして二人は仲良く手を繋ぎながら、町の人ごみに消えていった。

 

 

 

 ライザーが迦楼羅に助けられてから早一年半が経った。

 それだけの間息子が家を無断で出ていたら親は心配しそうなものだが、元々ライザーは一誠のあの試験をクリアした後家に帰らずにそのまま眷属探しの旅に出るつもりだった。なのでライザーから数か月連絡が無かったとしても彼の両親は不審に思わなかった。

 ………まあ、流石に半年を過ぎた頃に彼は家に一度連絡した。自分は元気にやっている等の簡単な内容だったが。

 そしてそんな彼の最近の日課と言えば……

 

「おい、もう七時半だぞ。いい加減に起きたらどうだ」

 

「えぇ~…………後三十分ね~」

 

 日常生活がキチッとしているライザーがいる故に、すっかり堕落してしまった迦楼羅を朝起こすことだ。

 迦楼羅は元々朝に強くない。というか弱い。だがライザーが来るまでは一人暮らしという事もあって朝眠いのを我慢して起きていた。だがライザーが来たことにより朝にやるべきことはほぼ全て彼がやるようになってしまった。なのでやることが無くなった迦楼羅は、朝こうしてライザーが起こしに来るまで惰眠を貪るようになったのだ。

 

「はぁ———……お前はそう言っていつも起きないだろう。いいから起きろ!」

 

「キャッ⁉」

 

 これまでの経験から迦楼羅がなかなか起きない事を知っているライザーは、多少強引だが力任せに彼女の掛布団を剥ぎ取った。

 

「うぅ〰〰ライ君からのイジメね〰〰ッ‼」

 

「イジメてない。これはれっきとした躾だ」

 

 キッパリと迦楼羅に言い放った後、後ちょっとで朝食が出来るから早く降りてこいよと言い残してライザーは部屋を出て行く。

 迦楼羅がライザーの事をライ君と言うようになったのは二人が会ってから一年ほど経った頃で、初めのうちはその呼ばれ方に抵抗していたライザーだったが、現在ではすっかりなじんだ様だ。というより、ライ君と迦楼羅に呼ばれると彼は無意識のうちに頬が緩む。デレデレデある。

 

「あ~……顔洗ったのにまだ眠いね〰〰〰…………」

 

 テーブルに着いた迦楼羅はねぼけ眼でそう呟く。

 その姿に苦笑しながらライザーは朝食をテーブルに並べていく。今日のメニューはごはんやみそ汁などの和食のようだ。

 全て並べ終わった後ライザーは迦楼羅の向かいに腰を下ろした。

 

『いただきます』

 

 食べ始めると二人は無言だった。これは別に作者が書く気が無い訳では無い。ホントダヨ、サクシャハウソツカナイ。

 ライザーが喋らないのは彼が今まで教えられてきた『貴族の常識』によるものだ。別に貴族も食事中には喋るが、積極的に喋る訳では無い。だからいくら迦楼羅が相手でもライザーは食事中に積極的に喋らない。勿論話を振られたらちゃんと話はする。

 迦楼羅が喋らないのは低血圧の所為でまだ頭が起きていないのと、ご飯がおいしいから食べることに集中しているだけだ。一応弁明しておくが彼女は腹ペコキャラではない。

 

『ごちそうさまでした』

 

 同時に食べ終わった二人は、それぞれの食器を流しへ持っていきそれぞれ自分の使った食器を洗う。

 

「今日はこの後どうするのか~?」

 

「う~ん……そうだな~…………」

 

 食器を洗いながらその日にやる事を二人で相談する事がしばらく前からの二人の日常だ。

 

「あ、確か日用品のいくつかが切れそうになってッ⁉」

 

 言いかけている途中ライザーはとても強い聖なる気配を感じてものすごい悪寒に襲われた。そして反射的に気配がした方向を勢いよく振り向く。

 その隣では先程までのねぼけ眼とは違い、真剣な目をした迦楼羅がライザーと同じ方向を睨んでいた。

 

「この強い聖なる気配は………もしや聖遺物か……?」

 

「かもしれないね。もしかすると、神滅具のどれかかも……」

 

 二人は顔を見合わせた後、素早く食器を洗い終わるとそれぞれの部屋に戻り動きやすい格好(ジャージ)に着替えた後家を飛び出した。

 

「ライ君は待ってた方がいいんじゃないか? いくらライ君がフェニックスだといっても、下級レベルしかない今のライ君だとむざむざ死ににいくようなもんだよね?」

 

 迦楼羅のいう事は正しい。だがそれでも、ライザーは家に戻りはせずに迦楼羅の隣で並走する。

 それは危険な場所に女性一人では行かせない、という男の矜持からなのか。それとももっと別の理由からなのか……それはライザー自身にも分かっていない。

 暫く二人が走っていると、前方に獣の集団が見えてきた。

 獣たちは一様にグルルルと喉を鳴らして何者かに威嚇している。

 現在でこそ獣たちと仲良くなったライザーだが、初めの頃は山の中を歩く度に獣たちに威嚇されていた。その事を懐かしく思いつつも、これから起こることをいくつか想定し気を引き締める。

 

「! へぇ~……ここは聖獣フェニックスが住む山だと思っていたんだが、まさか悪魔側のフェニックスまでいるとはな」

 

 ライザーと迦楼羅が獣たちをかき分けて行くと、中心に居た中学生かそれよりももっと幼いくらいの漢服を着た黒髪の少年が二人を見るなりそう言ってきた。その隣には長い黒髪の日本人らしき少女もいる。

 

「ありふれた問いだが聞かせてもらおう。お前達は誰で何をしにここに来た」

 

 迦楼羅の一歩前に立ちながらライザーは少年少女に問いかける。

 

「おっとこれは失礼。俺の名は曹操。三国志の英雄である曹操の魂を継ぐものだ」

 

(わたくし)は卑弥呼。曹操と同じく邪馬台国の卑弥呼の魂を継ぐ者です」

 

 少年と少女は丁寧に名乗りを上げた。

 

「一応の確認だが、それはちゃんと証明されているんだろうな?」

 

 この世界には原作と違い、英雄や偉人や勇者の魂を継ぐ者あるいは英雄や偉人や勇者の子孫と名乗る者たちが『本物』であるかどうかを審査する機関がある。そこは特に名前は決められていなく、一般的には『審査証明機関』と何のひねりもない名前で呼ばれている。

 

「勿論だ。……ほら」

 

 曹操は特に気を悪くする訳でもなく、何気なしに左手の甲をライザーと迦楼羅に見せる。その隣では卑弥呼も曹操と同じ格好をしている。すると曹操と卑弥呼の前に『審査証明機関』の紋章が現れる。

 この紋章は彼らが本当に魂を継ぐ者あるいは子孫であるという証明証の様なものだ。

 

「そして俺達の目的だが、彼女を勧誘しに来たんだよ」

 

 掲げていた手を下した曹操は迦楼羅を見ながらそう言った。

 だがライザーと迦楼羅の二人は当然首を傾げた。悪魔なら勧誘に来るというのもあり得るが目の前の二人は何処からどう見ても人間だ。そうすると魔法使いの組織が残るが、卑弥呼は兎も角見た所曹操は魔法使いではない。明らかに戦士タイプだ。

 

「お前は悪魔じゃないのだろう? だったら何処に勧誘するというんだ?」

 

「悪いがそれを悪魔である君に答えることは出来ない。出来れば穏便のこの場から退場してもらいたいのだが………」

 

 曹操はそう言ってライザーの顔を窺うが、彼は自身の中でどうするかなど答えは決まっている。それを顔を見た曹操も感じ取ったのか短く嘆息した。

 

「仕方ない…………力ずくで『退場』願おうか」

 

 そう言って彼は手元に一本の槍を出現させた。

 その槍を見た瞬間ライザーが感じる悪寒が段違いに強まった。

 

「……黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 

 その槍を見て迦楼羅が呟いた。その名前を改めて聞いたライザーの頬には冷や汗が浮かぶ。

 

「そういう訳だ。なのでここは大人しく引いて貰えないかな悪魔君?」

 

 曹操は油断なのかそれとも自信の表れか全身の力を抜いて自然体で問いかけて来た。

 

「彼女は命の恩人だ。故に彼女を見捨てて俺だけがこの場を去ることなどできない」

 

 キッパリと言い切ったライザー。それを聞いてまた嘆息する曹操。……どうでもいいけど、この曹操溜め息多いな。

 

「それじゃあ仕方がない。……死ね」

 

 曹操が冷たく言い放つと同時に彼の姿が消える。その瞬間ライザーは迦楼羅と一緒に思いっ切り左側に跳んだ。その直後に聞こえてくる轟音。見てみるとそこには聖槍を突き出した状態の曹操がいた。そして槍の延長線上にいた獣たちは、槍を突き出した時の風圧により一匹残らず引き飛ばされてしまっていた。

 

「皆‼ 私達の事はいいから早く逃げてね‼」

 

 その光景を見た迦楼羅がすぐさま獣たちに叫んだ。獣たちも素直にそれに従い、背中を曹操に見せないようにしながら後ずさりしここから離れていった。

 

「賢明な判断だ。あのまま動物たちが此処に残っていたら彼らは皆死んでいただろう」

 

 体勢を楽にした曹操が迦楼羅の判断を称賛する。

 だがライザーも迦楼羅もそれを素直に受け取っていられる状態ではなかった。

 ライザーは今の状態でどうやったら曹操に勝てるのかを模索し、逆に迦楼羅はどうやったらライザーをこの場から退かせるか、についてそれぞれ考えていた。

 

(守ってくれるのは素直にうれしいんだよね。でもだからと言って私の為に命までかけてほしくないのもまた事実なんだよね。…………う~ん、どうしよう?)

 

(あいつらは迦楼羅が聖獣フェニックスだと知ってここに来た。てことはあいつらが迦楼羅をどんな事に利用しようとしているのかは分からないが、絶対迦楼羅にとっては良くない事に決まっている。……しかし封印されているこの状態でどうやって彼らを退けられるんだ?)

 

 二人が思考している時間を曹操がくれるわけもなく、二人が考えている間も曹操の攻撃は続いている。だが幸いにもライザーと迦楼羅にとってその攻撃は決して避けられないものではないので、考え事をしている片手までも避けられているのが現状だ。

 

(見た所奴の獲物は神滅具(ロンギヌス)のみ。他に何か武器を隠している可能性は否めないが、今はまだ出してくる様子はない。ならばっ!)

 

「はぁあっ!」

 

 曹操が刺突して来るタイミングに合わせてライザーは彼の懐へもぐりこんだ。

 力が下級まで制限されていても培ってきた経験と基本的身体能力は変わらない。故に今の状態のライザーでも簡単に懐に潜り込むことが出来た。そして左手一閃。

 

「ッ⁉」

 

「なるほど……ただの下級悪魔ではないという事か」

 

 完璧に決まったと思われたライザーの拳を、曹操は首を動かすだけで避けていた。驚くライザーを他所に曹操は何かを納得するように呟く。

 

「おいおい、今のを避けるとか……バケモノじみた反射神経だな」

 

 自身の後ろで呆然としていた迦楼羅を横抱き(所謂お姫様抱っこ)した後、その場をバックステップして曹操から距離を取りながらライザーが呻いた。

 

「気が変わった。君の名前と、何故君の力がそんなに低いのか理由を聞こうか、悪魔君」

 

 自身の優位を実感している曹操は余裕だった。

 

「俺はライザー・フェニックス、フェニックス家の三男だ」

 

 それだけ言ってライザーは口を閉じた。本当ならば乱れた息を整える為にももっと喋った方がいいのだが、力を押さえられている理由は……あまりに情けなさすぎて語る事ができない。故にライザーにはもう話すことが無くなってしまったのだ。

 

「ライザー・フェニックスか。覚えておこう」

 

 曹操は確認するようにライザーのフルネームを復唱すると再び聖槍を構えた。

 

「あなたのような人物とは死力を尽くした勝負をしたかったが……。非常に残念だよ、ライザー・フェニックス」

 

 言い終わると同時に曹操は先程よりも早い速度で攻撃を繰り出してきた。それを先程までとは違いすれすれで躱していくライザー。

 彼は今度は迦楼羅を横抱きにはせずにその場に放置した。そして彼女から離れる様に曹操の攻撃を躱していく。しかし当の迦楼羅は先程の曹操がライザーに名前を聞いた辺りからなにやら考え事をしていて、その他の事はアウトオブ眼中となってしまっている。

 

(取り敢えずこいつらが今は迦楼羅に手を出してこない事が救いか……)

 

 一撃でも直撃を喰らえば致命傷になる攻撃を避けながらも、なおライザーは迦楼羅の事を考えている。

 

 

 

 ライザーが曹操の攻撃を必死で避けている中、迦楼羅はある意味では現在の状況に関係ありある意味では現在の状況に関係ない事を考えていた。

 

(いきなりライ君にキスして嫌われたりしないかな……?)

 

 家族同然のライザーが死ぬかもしれない時に何考えてんだこの女、と誰もが思うだろう。だが彼女は超真面目だった。そして今彼女が考えているこれはライザーの封印に関する事でもある。

 と、いうのも以前ライザーがいないタイミングで一誠が迦楼羅の元を訪れていたことがあった。

 一誠の目的はライザーの様子見と封印の解除についてだった。

 

「ねえ、どうやったらライ君の封印って解けるね?」

 

 ライザーを戒めている枷を外してあげたい。故に迦楼羅は真っ先に一誠に封印の解き方を聞いた。

 

「そんなの簡単だ。悪魔側でも聖獣側でもいいからフェニックスの血を口移しで(・・・・)飲ませればいい」

 

 一誠にそう言われた迦楼羅は複雑な顔をした。

 

(キ、キス⁉ ライ君とキス⁉ い、いやでもちょっとしてみたいかも……ああぁ、でもそれでライ君に嫌われたらどうしよう⁉)

 

 一誠が見ているのも気にせずに、頭を抱えて悶える迦楼羅。女心は複雑だ。

 そういう訳で迦楼羅は今悩んであるのだった。だがそれでも卑弥呼の状況をきちんと観察していて、いつでも動けるようにしているのは流石と言える。

 

(ええいっ‼ 女は度胸‼)

 

 決心を決めた迦楼羅は立ち上がり現状を確認する。

 今はちょうどライザーと曹操との間には距離が開いている上に、ライザーとの距離は迦楼羅の方が近い。

 それを確認した迦楼羅は迷わずライザーに向かって走り出した。そして走りながら指先を噛み千切り自身の血を口の中に含む。

 そんな迦楼羅に反応して卑弥呼もいつでも動けるように術式の準備をしだした。

 

「ライ君ッ‼」

 

 そしてライザーとの距離があと数歩までになった時、彼女は最愛の人の名を叫んだ。

 

 

 

「ライ君ッ‼」

 

 俺と曹操が距離を取ったタイミングで、俺は最愛の迦楼羅から名前を呼ばれた。

 その際に曹操が突貫してきたのを視界の端でとらえていたが、俺は迷わず迦楼羅の方を向いた。普段なら戦闘中に敵から目を離す事は無いが、迦楼羅の声が切羽詰まったものだったからだ。

 

「どうしむぐっ⁉」

 

 どうした? と聞こうとしたが俺の口は何か柔かいもので塞がれてしまう。そして俺の口の中に入ってくるドロリとした液体。目の前で超ドアップになっている迦楼羅の顔。

 

 あれ、これってもしかして俺今迦楼羅にキスされてる? え……ちょっと、マジで⁉

 

 突然の出来事に混乱する心を落ち着ける余裕もなく、次の瞬間には体の中に在る鎖が音を立てて崩壊していったような感覚がした。

 

 

 

(何故このタイミングでキスかは分からないが、容赦はしない)

 

 ライザーと迦楼羅が目の前でキスしているという突然の事に、曹操は焦らずにライザーに向かって聖槍を突き出した。

 そして聖槍があと数センチでライザーに突き刺さるという時に、

 

 ライザーを中心に火柱が出現した。

 

「……チッ」

 

 聖槍を持っていても曹操自体は人間だ。故に火柱から発せられる膨大な熱量に、仕方なく卑弥呼の隣まで後退する。

 だが、曹操は必殺の機会を逃したというのに笑みを浮かべていた。

 

「実に面白い。これだから強者との戦いはやめられないんだ」

 

「ふん。その余裕がいつまで持つのか見ものだな」

 

 火柱を手で横に薙いでライザーと迦楼羅が姿を現した。

 どうやら火柱に包まれる直前の曹操の一撃が決まっていたらしく、ライザーの脇腹には浅く刺された痕がある。だがそれ以外は二人には変化はない。ライザーの魔力が上級悪魔の中でも上位クラスまで高まっているという事を除けば。

 

『…………』

 

 睨み合ったままライザーと曹操は動かない。だが次の瞬間、二人の姿が同時に消え中間地点で激突した。

 

『ッ⁉』

 

 二人の頭に『後退』という言葉は浮かんでおらず、衝突した直後は騎士(ナイト)も涙目の速さで近接格闘戦(インファイト)を始めた。

 ライザーは不死鳥の炎を四肢に纏わせ、曹操は聖槍のオーラを全身から発している。

 はたから見ると二人は互角に戦っているように見えるが、状況はライザーの劣勢だった。

 彼は攻撃と回復に三対七の割合で魔力を割り振っている。そうして自身の再生力を普段以上に上げていなければ、一発一発が致死級である聖槍相手に近接格闘戦(インファイト)なんかやってられないからだ。だったら近接格闘戦(インファイト)なんかやるな、と思うだろう。私もそう思う。

 だが色々な要因が重なった上での近距離格闘戦なのだ。この開けた場所は、お互いが端まで寄っても中距離線くらいの距離しかない。なので遠距離戦をするだけのスペースがない。そしてライザーの中~遠距離攻撃は高威力の炎(数種類のバリエーション有)を撃つだけという脳筋攻撃しかない。なので多少の危険を冒してでも近接戦の方が勝率が高いのだ。

 だがこのままいけばジリ貧なのでライザーは焦っていた。

 

(再生に大幅に魔力を割いている所為で攻撃力がガタ落ちしている上に、聖槍のオーラの所為であまりダメージらしいダメージが入らない……。クソッ‼ どうすればいいんだ!)

 

 そしてその焦りが決定的なスキを生んでしまう。

 少しでも威力をあげようとしたライザーは、大振りに腕を振りかぶってしまう。そこからの右ストレートは明確なスキを見せていない曹操にはもちろん当たる筈も無く、易々と躱されて懐に潜り込まれてしまった。

 

「さらばだ、ライザー・フェニックス」

 

 聖槍がライザーの胴目掛けて吸い込まれるようにして繰り出される。

 

「ハァアアッ‼」

 

『ッ⁉』

 

 突然聞こえた咆哮に男二人はギョッとして、その声の方を見やる。

 そこには全身を聖なる炎に包まれた迦楼羅が、曹操の腹目掛けて蹴りを放っている緒中だった。

 

 完全なる不意打ち。

 

 更には迦楼羅の咆哮により一瞬体を硬直させてしまった為、最早曹操には避けられる筈も無かった。

 そしてドラゴンの鱗をも溶かす灼熱の一撃が曹操の腹に直撃する。かに思われたのだが、彼の腹と迦楼羅の蹴りの間に突如として魔法障壁が現れたことにより、曹操は吹き飛ばされるだけで済んだ。

 

「か、迦楼羅………」

 

「全く……いくら力が戻ったからって無理はいけないね、ライ君」

 

 呆れた顔でライザーに言って来る迦楼羅だが、視線は曹操と卑弥呼から逸らしていない。

 

「それにしても、よく私が乱入するってわかったね」

 

「まあ、女の勘ってとこかしら」

 

「またまた~。本当はずっと私の事警戒していたくせにね」

 

「あら、嘘じゃないわよ。それにあなたも女なら自身の勘は信じるでしょう?」

 

 先程のライザーと曹操の本音同士の会話とは違い、この二人の会話は腹の探り合いと心理戦も兼ねている。故にそういうのが苦手な男二人は辟易する。

 

「ま、それはいいね。そんな事よりも君達二人にはさっさとここから出て行ってほしいんだけど?」

 

 だが迦楼羅自身はあまりこういった事が得意ではない。どちらかと言えば彼女はライザーと同じく脳筋タイプよりだ。

 

「そうね……このままやってもこっちも必要以上にダメージを負いそうだし……。いいわ、今日はこの辺で引かせてもらうわ」

 

 卑弥呼は迦楼羅の意見をあっさりとのみ、転移するための魔方陣を準備する。

 

「おいちょっと待て迦楼羅。あいつ等には捕まえて聞きださない事が—————」

 

「ストップだ卑弥呼。俺はまだ十分に戦える。それにライザー・フェニックスはここで排除しておいた方が—————」

 

『いいから黙って従う!』

 

『はい………』

 

 戦い足りなかった男二人は苦言を申したが、女性二人にバッサリと却下される。二組とも恋人同士ですらないのに既に男性側は尻に敷かれていた。

 

「それじゃあ今日の所はこれで引かせてもらうけど、次もこうなるとは思わない事ね」

 

「そうね。それじゃあもし次があったら、その時は今度っこそボコボコニするね」

 

『…………』

 

 女性二人は最後までギスギスした雰囲気を保ったままだった。

 

 

 

 曹操と卑弥呼の襲撃から数年後。

 

「迦楼羅、俺と結婚してくれ」

 

 ライザーは津井に迦楼羅に告白していた。

 だがこの二人恋人でもなんでもないただの同居人の関係だ。

 

「え………そ、それって———」

 

「ああ、俺はお前の事が好きだ愛してる。だから今後も俺の隣でずっと一緒に居てほしい」

 

 迦楼羅は心の中で小躍りするくらい喜んだ。だがライザーのいつもとは違った雰囲気に冷静を取り戻していく。

 

「……何か、あったの?」

 

 迦楼羅の問いに、ライザーは彼女に言うかどうか迷ったが決心していう事にした。

 

「実は近々リアスと結婚させられることになった」

 

「リアスってあの(・・)リアス・グレモリー?」

 

 リアス・グレモリーの噂は迦楼羅も聞いたことがある。なのでその容姿もある程度聞いている。

 

「いいんじゃないのか、彼女美人なんでしょう? それにその結婚は政略的な意味も持ってるんでしょう?」

 

 ライザーは無言で俯いた。

 言ってて迦楼羅は泣きそうになった。本当ならば彼女だってライザーとこの先もずっと彼の隣で一緒に居たい。だがライザーにはフェニックス家の三男としても責務もある。そして迦楼羅は野良。二人の身分の違いは明らかだ。

 だから迦楼羅はライザーの幸せを願って身を引く。

 

「政略的な意味もあるんだったら尚更そっちを優先しないと。私は、大…丈夫。ここには……皆も…いる…から…ね」

 

 彼女の言葉は嗚咽の所為で途切れ途切れになっていく。

 

「ご、ごめんね。ずっと…一緒に居た……ライ君が……いなくなる…せいで、な、涙が止まらなくて————」

 

「もういい!」

 

 嗚咽を漏らしながらも、なお話そうとする迦楼羅をライザーは自身の胸に抱き寄せる。

 

「ごめん、悲しませるつもりはなかった。こんな事になるなら俺の考えを先に話しておくべきだったな」

 

「……?」

 

「なあ、迦楼羅は俺の事好きか?」

 

 問われて迦楼羅は悩んだ。本当の事を言うべきか言わざるべきか。

 

「………好き…だね。一緒に居ると安心するし、こうして触れ合ってると胸の奥がポカポカしてきて幸せな気持ちになるもんね」

 

 結局彼女は嘘偽りのない自身の本音を言う。

 もし嘘を言ってしまったら、自分の気持ちを偽ることになるなるから。

 

「そっか………」

 

 迦楼羅の本音を聞けてライザーは安堵する。自身の決めたことは無駄じゃなかった、と。

 

「迦楼羅聞いてくれ。……俺はフェニックス家を出る」

 

「⁉ ダメだよそんなのっ‼ そんなことしたらライ君が———」

 

 ライザーの胸にうずめていた顔を勢いよくあげて迦楼羅は抗議した。

 

「いや、これでいいんだ。それに、俺はお前の隣に入れる事が一番幸せを感じるんだからな」

 

「………バカ」

 

 後半はおちゃらけた雰囲気で言うライザーに、迦楼羅は赤くなった顔を見られないようにするために彼の胸に顔を押し付けながら罵倒する。

 

 そしてこの後二人はフェニックス家に行き、殆どライザーが勘当されるという形で二人の結婚は認められた。しかしその際に、グレモリー側には自分で説明して来いと条件を出されたので二人で説明しに行くことになった。

 

「そうか……。残念だが、君が生涯を通して愛せる女性をも付けられたのは素直に喜ばしい事だ。おめでとう」

 

「ありがとうございます、グレモリー卿」

 

 グレモリー卿とその奥さんや現魔王でリアスの兄でもあるサーゼクスは、破談になった事は残念がったもののライザーと迦楼羅の結婚自体は祝福してくれた。

 

「だが、妹が君との結婚を非常に楽しみにしていてね……。悪いが当人であるリアスが納得しなければ正式に破断はできない。だがらリアスの説得には君自身でやってもらうよ」

 

 と、サーゼクスに言われたのでライザーはリアスがいる駒王学園へと行くことになった。

 

「じゃあ俺が先に行く。その後こちらのタイミングで呼ぶから」

 

「うん。でもさ、説得が平行線をたどっちゃったらどうするのね?」

 

 首を傾げる迦楼羅を見て、内心で鼻血をふきながら表面上は真面目に対応するライザー。

 

「(俺の嫁マジ可愛ぇぇえええ‼)そうだな……、多分だがお家同士の問題という事もあってレーティングゲームで決めるんじゃないか?」

 

「へー……。じゃあ皆にも頑張ってもらわなきゃね」

 

「ああ、そうだな」

 

 迦楼羅の言う『皆』とは、勿論ライザーの眷属たちの事である。

 曹操の襲撃から今までの間に、ライザーは何だかんだで眷属を全員集めたのだった。

 そしてちょっといい雰囲気の二人に割り込むイケメン一人。

 

「お任せください主(あるじ)よ。その際には必ずや敵の大将首を打ち取って見せましょう」

 

「ああ、うん。張り切るのはいいがレーティングゲームはあくまでもゲームだから。例えるなら『これは戦いであっても殺し合いではない』だから。ちゃんとその辺は理解しとけよ」

 

「はい!」

 

 張り切ってるイケメンの所為で多少の頭痛を覚えながら、ライザーは駒王町に転移しようとする。

 

「じゃあ、いってくる」

 

『いってらっしゃい』

 

「いってらっしゃい、ライ君」

 

 大切な眷属と最愛の嫁(確定)に見送られながら、ライザーは転移していった。




今年は受験なので次の更新までまた間が空きます。

ですが出来るだけ早く投稿したいと思っています。


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話し合いの結果+軽いイチャイチャ

夏休み中なので早く投稿できました。
出来れば休み中にもう一話投稿したいと思ってます。


 話し合いの結果+軽いイチャイチャ

 

 

 

「それで、これはどういう事なのかしら? ライザー」

 

「どうもこうも、俺は迦楼羅と結婚する。だからお前とは結婚しない。ただそれだけだ」

 

 グレモリーの言葉にライザーは淡々と返すが、その言葉は何処か投げやりに言っているようにも感じた。

 

「だから私が聞いてるのは、何で婚約者の私を差し置いてその人と結婚するのかって事よっ‼」

 

 テーブルを強く叩きながらグレモリーは問いかける。いや『問いかける』というよりは『問いただす』と言った方が正しいかもしれない。

 

「俺はリアスより迦楼羅を愛しているし、迦楼羅も俺を愛している。だから迦楼羅と結婚するんだ。そこに何も問題はないだろう?」

 

 確かに愛する者同士が結婚するのには何も問題はない。その結婚する者に厄介な事情が無ければ、の話だがな。

 そしてどうやらこの世界のグレモリーは、原作と違いライザーの事をちゃんと愛しているらしい。惚れた理由なんかは知らないが、それだけは見ていれば分かる。故に今回の結婚を楽しみにしていたのだろう。今まさに破談になろうとしているが。

 

「お二人とも落ち着いて下さい」

 

 いつまでも平行線をたどるライザーとグレモリーの話し合いにミレイフィアが待ったをかけた。

 それにより、一旦口を閉じる二人。

 

「一先ず皆様の意思を確認させていただきます。リアスお嬢様はライザー様と結婚したい」

 

 ミレイフィアは確認するように言う。そしてそれにグレモリーも頷く。

 

「ライザー様はそこにおられる迦楼羅様と結婚したい」

 

 ライザーも頷く。

 

「そして最後に、一誠様もリアスお嬢様と結婚する気は無い、という事でよろしいでしょうか?」

 

 最後に俺を見ながらそう言ってきたので俺も頷く。……って、え……?

 気づけば部室内に居るほとんどの者が俺を驚きの表情で見ていた。まあ、かくいう俺も驚いてるんだけど。多分こんなに驚いたのはヴァーリを拾った日にあったあの出来事以来だろう。

 取り敢えず俺は俺の後ろで静かに佇んでいるグレイフィアにどういう事なのか聞いてみることにした。

 

「なあ、お前なにか知ってるか?」

 

「とゆうかあなたも知っているはずよ。昔グレモリー卿からお手紙が来てるって言ったでしょう。あれの中身が『いつか生まれてくるかもしれない私の娘と結婚しないか?』って内容だったのよ」

 

 そう言われてみれば、確かにグレモリー卿から手紙を貰ったかもしれない。

 

「だが、俺は返事を返していない筈だぞ」

 

 何せ存在自体を今の今まで忘れていたからな、とはカッコ悪いので口には出さない。

 

「返事を寄越さないのをグレモリー卿が肯定と受け取ったんでしょう」

 

 何でだよっ‼ そこは保留しとくところだろう‼ と、声を大にして言いたかった。まあ、空気読んで言わなかったがな。

 

「それで一誠様、あなたはリアスお嬢様と結婚する気はありませんね?」

 

「ああ、勿論ない」

 

 俺の両手はすでに埋まってるからな。これ以上愛する人が増える事は無い。

 

「それでは現在問題があるのは、リアスお嬢様とライザー様という事でよろしいですね」

 

『問題』という言い方にグレモリーは不満そうだったが、彼女は素直に頷いた。

 

「両家の方々はお二人の話し合いが、どちらも譲らずに平行線をたどることは分かっておられました。ですので最終的にレーティングゲームで決着をつけてはどうか、とグレモリー・フェニックス両当主から言伝を預かっております」

 

「まあ……このまま決着がつかないよりはいいわね」

 

「俺も賛成だが………。俺とリアスの眷属じゃあ地力が違いすぎるんじゃないか?」

 

 それは慢心からではなく自信から来る発言。実際ライザーの眷属は上級悪魔の中でも上位、下手すると最上級悪魔レベルの実力者まで存在する。

 対してグレモリーの眷属は、はぐれ悪魔狩りで実戦を経験しているとはいえレーティングゲーム自体は初めてだ。その上グレモリーを含め七人と数も少ない。

 比べるまでもなく両眷属の差は明らかだった。

 

「それは私も分かってるわ。だからライザー、私に二週間くれないかしら?」

 

「準備期間という訳だな。勿論オーケーだ」

 

「それでは二週間後の深夜0時からレーティングゲームを始めます」

 

 ミレイフィアがそう締めくくってこの話は終わった。

 

 

 

 ミレイフィアが帰った後もライザーは部室に残っていた。

 

「なあリアス、ここにいるのがお前の眷属でいいのか?」

 

「ええ。一応自己紹介しておくわね。そこのソファーで爆睡してるのが柔汪雷花。そしてあそこで膝枕をされているのがジャンヌ・ダルクで、膝枕をしているのが木場佑斗。最後にそこにいるのが兵庫一翔とアーシア・アルジェントよ」

 

 兵庫たちは名前を呼ばれるたびに会釈していく。

 

「それじゃあ今度は俺の眷属を紹介しよう」

 

 ライザーがそう言うと彼の後ろに魔方陣が展開され、数人の男女が現れる。

 

「お前ら順番に挨拶しろ」

 

 ライザーがそう言うとイケメンが一歩前に出て自己紹介し始めた。

 

「主(あるじ)の眷属のディルムッド・オディナだ。よろしく頼む」

 

 一礼して下がるイケメン——ディルムッド。勿論彼もクー達と同じ世界出身だ。

 

「ユーベルーナです」

 

 次は魔女の格好をした女性が名乗った。

 原作では『女王』の立場だった彼女だが、この世界では殆ど『僧侶』の駒らしい。

 

「レイヴェル・フェニックス。お兄様の妹です」

 

 金髪ツイン縦ロールの美少女が一礼する。

 この子は原作とたいして違いがみられない。

 レイヴェルの後もライザーの眷属たちがそれぞれ自己紹介をしていったのだが、詳しい事はレーティングゲームの時に紹介しよう。

 

「そして最後に鳳迦楼羅だ」

 

「よろしくお願いね」

 

 〆に迦楼羅がもう一度挨拶した後、ライザーたちは帰って行った。

 

「じゃあ、俺達も帰るわ。俺とグレイフィアはちょっとぶらついてから帰るから、黒歌と白音は先に帰っててくれ」

 

 そう言って俺はグレイフィアを伴ってオカルト研究部を出ようとしたが、グレモリーに呼び止められた。

 

「兵藤先生、ちょっと私の頼みを聞いてくれないかしら」

 

 問いかけている割に、拒否は許さないくらいの強い口調だった。

 お前、そんなにライザー好きなのかよ。

 原作でライザーを毛嫌いしていたグレモリーを知っている俺からすれば、爆笑ものだが表面には出さない。代わりに心の中で爆笑するけどな‼

 

「何だ? ものにもよるぞ」

 

 一応こいつ等の先生ではあるので聞くだけは聞く。

 

「二週間後のレーティングゲームまでに私達に修行を付けてくれませんか」

 

「…………」

 

 正直に言ってメンドクサイ。いくらこいつ等の先生だとは言ってもこんな個人的な事は手伝いたくない。が、断ったら断ったで後々面倒な事になりそうだ。つまり受けても断っても面倒くさい。

 そして自身の思い人が誰かも結婚するかもしれないのに、兵庫の奴はさっきから黙り込んでなにやら考え事してるし。ジャンヌは明らかに面倒くさそうな顔してるし。

 う~む……どうしたものか。

 

「『困った事や分からない事があったら遠慮なく先生を頼れ』と、以前仰っていたんですから当然受けてくれますよね?」

 

「確かに言ったが、それはあくまで学校関係とかだ。結婚騒動なんて個人事情(プライベート)すぎるものは範囲外だ」

 

「へえ、そういう事言うんですか……」

 

 明らかに不機嫌そうになるグレモリー。

 つーかコイツ、俺がこの頼みごとを受けると当然のように思ってたのかよ。流石箱入り娘。世界は自分を中心に回ってると思ってやがるだけはある。

 

「だがまあ、このままではライザー眷属とお前達じゃレーティングゲームが蹂躙戦にしかならないからな。……いいだろう。今から二週間俺が稽古つけてやる」

 

「ありがとうございます」

 

 ちっともありがとうと思っていない声でお礼を言われても嬉しくない。

 

「ただし、この二週間の間は俺の指示には絶対に従ってもらう。これを守れないようなら俺は下りるぞ」

 

「……ちょっと待って下さい。いくらなんでもそれは横暴では? 先生は私達の戦闘スタイルも知らないのに————」

 

 グレモリーがそう言って来るがそれを遮って俺は口を開く。

 

「じゃあ俺は下りる。師事を仰ぎたいんなら他を当たるんだな」

 

 一方的にそう言って部室から出て行こうとする。

 

「待って!……下さい。……分かりました、その条件でいいので私達に、修行を付けてください」

 

 振り返ると頭を下げているグレモリーがいた。だがそれは頼み込むためのものでは無く、悔しそうに歯噛みしている顔を俺に見せないためのものだとは一目見て分かった。

 全く……。いくら俺の『正体』を教えていないからといって、コイツは俺の事を下に見過ぎだろう。

 確実に魔王並の実力があるグレイフィアとか、彼女に数段劣るものの最上級悪魔でも上位にはいる実力をもつ黒歌と白音が俺に従ってる時点で、ある程度は気付いてもいいと思うんだがな。

 

「分かった。じゃあ明日の朝四時ごろにここの校門前に集合しろ。合宿所に連れて行く。勿論宿泊の準備とその他必要な物も持ってこいよ」

 

 そう言い捨てて俺は部室から出た。

 

 

 

 一誠とグレイフィアが部室から出た後、それまでなにやら考え込んでいた一翔がリアスに声を掛けた。

 

「いいんですか、部長。兵藤先生のあんな条件呑んでしまって……」

 

「今は他に師事してもらえる人がいないから仕方ないわ。はあ……すでにいくつか練習メニュー考えていたのに無駄になったわ」

 

(部長、そこまでしてもあいつと結婚したいんですか……。部長の為に最強の兵士になるって誓った。その為にはどんな奴でもブッ飛ばさなきゃいけない。いけない、けど勝ったら部長があいつと結婚。あぁ———ッ! 俺はどうしたらいいんだ——ッ!)

 

 ため息を吐くリアスを兵庫は複雑な顔で見ていた。

 

「何でもいいわ。取りあえず明日の朝四時に校門集合って事でしょ。だったら私と佑斗は帰るわ」

 

 いつの間にか起きていたジャンヌは、それだけ言うとさっさと部室から出て行ってしまった。

 

「全く……。部長、明日の準備もありますので僕とジャンヌはこれで失礼します」

 

 佑斗もそう言い残して部室を出た。

 

「ぶ、部長! 二人ともあんな態度ですけどいいんですか……?」

 

 ジャンヌはいつも通りだったのだが、佑斗までリアスにぞんざいな態度になったのを見た一翔が動揺する。が、肝心のリアスはどこ吹く風だ。

 

「別にいいわよ。あの二人は何だかんだで負けず嫌いだから本番は全力でやってくれるだろうからね。それに佑斗は私とジャンヌだとジャンヌを優先する子だから、普段は私にある程度の敬意をはらっていてもああいう場面では私にもぞんざいな態度になるのよ」

 

 リアスの説明を聞いても納得のできない様子の一翔だったが、アーシアと共に「明日の準備をする」と言う名目で無理矢理リアスから部室を追い出されてしまう。

 

「それで朱乃と黒歌と白音はどうするの?」

 

「勿論私達は日中は学校にいますわ。私はまあ……気が向いたら夜はいきますわ」

 

「私は多分ほとんど行かないにゃ」

 

「私も姉様が行かないので行かないと思います」

 

「そう、分かったわ」

 

 リアスが頷いたのを見て三人も部室を出て行った。

 

 

 

 一方その頃一誠達はと言うと、メイド服からゆったりとした白のロングスカートと紺色のカーディガンに着替えたグレイフィアと共に町の中を散策していた。

 

「清楚な格好も新鮮味があっていいな」

 

「いつもはメイド服ばかりだものね」

 

 腕を組みながらそんな会話をする二人は、熟年夫婦のような雰囲気が出ていた。いや、実際に熟年夫婦なのだが。

 現在二人があるのは、駒王町の中でも駒王学園とは反対方向にある駒王町が誇る二大ショッピングモールの一つに来ている。ここは学園と反対方向という事もあって生徒はほとんど見かけない。

 

「なんか食べるか? 久々に来たから目新しいものばっかりだろう」

 

「そうね、じゃああそこにあるクレープでも食べましょう」

 

 そう言って二人は近くのクレープ屋に入っていく。

 一誠は無難なチョコを、グレイフィアはイチゴとブドウのミックスベリー味をテイクアウトした。

 

「久しぶりに食べたけど、やっぱり甘くておいしいわね」

 

 そう言って優しく笑うグレイフィアを見て、一誠は連れて来てよかったと思った。

 

「それじゃあ、今度はいつも頑張ってくれてるレイナーレとか、意外に甘い物好きなアルマとか誘ってまた来るか」

 

「あら、『おいしい』の理由の中には『あなたと二人っきりだから』と言うのも入っているんだけど……」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて一誠に言うグレイフィア。彼女の気持ちを察せられなかったことに気まずさを感じて彼は顔を逸らす。

 

「あ~………じゃあ、また二人で来るか」

 

 しかし伊達に長く生きている訳では無い一誠は決める時はしっかり決める。

 

「ええ、楽しみに待ってるわ」

 

 望んでいた言葉を言われて、花が咲いたような笑顔でグレイフィアは頷いた。

 その後も二人はタイ焼きやたこ焼き等のジャンクフードを食べ歩きして、久しぶりのデートを楽しんだ。

 




ちょっと息抜きに考えてみた第四次聖杯戦争。サーヴァントが全員他原作の主人公だったら、という内容です。ですが私の趣味でこの作品の兵藤一誠(弱体化版)だったりをいれています。
読みたいと思った方だけ↓にスクロールしてください。















これは本来の運命からは外れた物語。もしかしたら全員が幸せになれるかもしれない物語。
何故なら召喚されるサーヴァントは過去に偉業を成し遂げた英雄では無く、いつも誰かを救おうともがいた或いは皆が幸せになれる様に戦った少年たちだから。



「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
 祖には我が大師シュバインオーグ。
 降り立つ風には壁を。
 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

遠坂邸にある地下の工房で、遠坂時臣は英霊召喚の儀式を行っていた。そしてそれを見守るのは彼の友人である言峰璃正と元弟子の言峰綺礼だ。

「へぇ~、俺が呼ばれた時もこんな感じだったのかい」

三人しか居ない工房に第三者の声が響く。
綺礼が振り向くとそこには着物を着て腰に長ドスをさした鋭い目付きと棚引く長髪の男がいた。

「アサシン、表の警戒はどうした」

「カラスたちに見張らせてる」

綺礼の非難するような声にも、アサシンは物おじせずに簡潔に答えた。
そして綺礼はアサシンが来る前から魔力の消費量が増えたことの答えが分かったので、そうかといってまた時臣の方を向く。
そんな時臣が私用している触媒は世界で一番最初に脱皮した蛇の化石である。
だが彼らはまだ気づいていない。時臣がしてしまったとんでもない「うっかり」に。



時臣が英霊召喚の儀式をしている同時刻。ウェイバー・ベルベットも冬木市深山町にあるとある雑木林の奥の空き地で英霊召喚を行っていた。

「 閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
 繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる刻を破却する」



アインツベルンの礼拝堂で衛宮切嗣もまた英霊を召喚するための呪文を紡ぐ。

「―――――Anfang(セット)。
 ――――――――――――
 ――――――――――――
 ――――――――――――
 ――――――――告げる
 ――――告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」



そして遠く離れたアーチボルト家でも、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが婚約者のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリに見守られながら詠唱を紡いでいた。

「誓いを此処に。
 我は常世総ての善と成る者、
 我は常世総ての悪を敷く者」



間桐邸にある光の届かない蟲蔵では、召喚したサーヴァントに『狂化』の属性を付与するために間桐雁夜はもう二節詠唱挟み込む。

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
 汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」



そして冬木市内のあるマンションの一室では、連続殺人鬼である雨生龍之介も何の偶然か儀式を執り行っていた。

「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――! っと。これでいいのかな?」

そして召喚する現場に居合わせた全員の視界が、魔方陣から放たれる光によってホワイトアウトする。



衛宮切嗣が視界を取り戻してから最初に見たのは、真っ黒なズボンと彼自身が来ているようなロングコートだった。それが召喚されたものの下半身であると分かった切嗣は徐々に視界を上げてゆく。

「サーヴァント・セイバー召喚に従い参上した。
 なあ、あんたがオレのマスターか?」

目線を上げた先には黒のインナーを着た、黒髪黒目の少年がいた。
その少年を見た時切嗣は絶望と歓喜に震えた。
絶望はその少年が何処からどう見ても日本人———つまり、彼が呼びだそうとしていた彼の騎士王ではなかったという事。
歓喜は目の前の少年が、武術に疎い切嗣でも分かるほどの武術家だという事だった。

———————————————————

【クラス】セイバー

【登場作品】ソードアート・オンライン~桐ヶ谷和人の幼馴染~(作者の駄作)

【真名】桐ヶ谷和人】

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目の前に召喚された男を見て時臣は愕然としていた。
目の前に召喚された男は、白髪に色黒の肌といった、どう見ても時臣が呼び出そうとした英霊ギルガメッシュではなかったからだ。
そんな時臣を他所に、男は触媒のある所まで行きそれを手に取り何度か角度を変えてみる。

「言いずらいが先に言っておこう。これは贋作(フェイク)———偽物だ」

「なっ⁉」

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【クラス】アーチャー

【登場作品】Fate

【真名】エミヤシロウ

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目の前に現れた青年を見てケイネスは満足気に頷く。
あの忌々しいウェイバーに触媒を盗まれる、というアクシデントはあったもののこうして無事に英霊を召喚する事が出来たのだから。
だから彼は失念していた。触媒として使った五㎝程度の木の棒の正体を。彼はこれがディルムッドが使っていた剣の持ち手だと思っているようだが実は違う。これは杖の一部分だ。
そして呼び出された赤髪(・・)の青年が口を開く。

「初めまして、サーヴァント・ランサーです。召喚に従い参上しました」

妙に子供っぽいあどけなさの残る笑みだったものの、ケイネスは気にしない事にした。

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【クラス】ランサー

【登場作品】魔法先生ネギま!

【真名】ネギ・スプリングフィールド

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「ぼぼぼボクが、いやワタシが、オマエのマスターのウ、ウェイバー・ベルベットです。いや、なのだっ! マスターなんだってばッ!」

明らかに挙動不審なウェイバーをよそに、見た目東洋人——日本人の二枚目の少年は口を開く。

「いやー、面白そうなマスターで良かった。俺はライダー。よろしくな、マスター」

「あ、うん。よろしく」

思ったより友好的で、ウェイバーは緊張がほぐれた。
そして二人は握手を交わす。その時に見えた白い機械的なブレスレットが、ウェイバーの印象に強く残っていた。

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【クラス】ライダー

【登場作品】IS

【真名】織斑一夏

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「ほう……これはこれは」

臓硯が感嘆の声でそう呟くのを、床に這いつくばりながら雁夜は聞いていた。
元々急造の魔術師である彼は、英霊召喚で魔力を殆ど使い果たしてしまったのだ。

「のうお主、さぞや名のある英霊とみたが、どうじゃ儂のサーヴァントとならぬか?」

「な——ッ⁉」

臓硯の言葉に雁夜は驚愕する。だが現在の自分に止める力が無い事は彼が一番分かっていた。最早令呪に頼る気力もない彼は、ぼやけた視界に見える黒いズボンと黒いロングコートの主が臓硯に靡かない事を祈るしかなかった。

「どうじゃ? こんな若造よりもうまくお主を使えウギャッ⁉」

突然臓硯の悲鳴が聞こえた。続けてコツコツと召喚いた者が雁夜の元へと歩いて来る。
そしてその者が雁夜に手をかざすと彼を襲っていた痛みが和らいだ。

「これは……」

ちゃんと見えるようになった視界にそいつを捉えてみると、彼は雁夜と同じ日本人の男だった。

「大丈夫だ。俺はお前と桜を必ず幸せにする」

その言葉を聞いて雁夜は安心したのか気を失った。

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【クラス】バーサーカー

【登場作品】ハイスクールD×D~彼が変えていく世界~(作者の駄作)

【真名】兵藤一誠

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「うっひょー。スッゲー、マジで召喚出来ちゃったよ」

龍之介は目の前に現れた無表情な青年を見て、子供の様にはしゃいだ。

「ねね、君の力でさこの子をCOOLに殺して見せてよ!」

「ヒッ⁉」

室内に居た男の子を指さして青年に頼んでみる龍之介。
青年は拳銃の様なものを取出しゆっくりとそれを向けた。

龍之介に向かって。

「え……?」

何が起こったか分からないまま、雨生龍之介はこの世を去った。
そして青年は今度は男の元に近づいてゆく。

「い、いやだ‼ 死にたくない‼」

腰が抜けて動けない男の子は叫ぶことしかできない。
そして青年はゆっくりと手を挙げて、男の子の頭の上に置いた。

「もう大丈夫だ。後は警察に行って保護してもらいなさい」

「………」

先程までの無表情とは違い、比較的柔かい笑みで青年は男の子に告げた。
数秒間は訳が分からずに混乱していた男の子だが、言葉の意味が分かると一目散に部屋を出て行った。

「さて、新しいマスターでも探すか」

青年以外誰も居なくなった部屋に、彼の呟きだけが響いた。

———————————————————

【クラス】キャスター

【登場作品】魔法科高校の劣等生

【真名】司波達也

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「さて、どんな奴らと戦えるんだろうな」

言峰教会の上で着物姿のアサシンが呟いた。

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【クラス】アサシン

【登場作品】ぬらりひょんの孫

【真名】奴良リクオ

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と、いった様な感じです。

キリトと一誠が私の駄作からなのは、完全に私の趣味です。一応一誠は弱体化させます。それと一夏も原作基準だと他のキャラに比べて弱すぎるので(私の妄想を入れて)魔改造させます。
ちなみに一誠召喚に使われた触媒は黒い金属の欠片です。ですがこれは元々は赤い色をしていました。つまりそういう事です。じゃあなんで原作一誠が呼ばれなかったのかと言うと、原作一誠よりドライグとの付き合いが長いからです。
次に達也ですが、彼は龍之介自身が触媒となっています。龍之介の感性とかの異常性が達也の異常性と結びついた感じです。

最後に言っておきますが、この作品は八割以上の確率で全員がハッピーエンドもしくはトゥルーエンドになります。だって主人公が七人もいますから(笑)。








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修行

お久しぶりです。
やっと受験に合格したので、投稿します。といっても短いですが(笑)。
またすぐに学校の最後の定期テストがあるので、次の投稿はいつになるか分かりません。出来れば年内にあと二回くらいは投稿したいと思ってます。


 

 翌日の朝四時。駒王学園の前に集まったグレモリー眷属を見回して俺は頷いた。

 

「よし、全員動きやすく汚れてもいい格好で来たな」

 

 指示しなかったものの、全員がジャージを着てきたことに俺はほっとした。表には出さないけど。

 かくいう俺も今は黒いジャージを着ている。

 

「それじゃあ、今から合宿所の近くまで転移する。そこからは修行がてら山の中を歩くからな」

 

 そう言って俺は全員の足元を覆うほどの魔方陣を展開して、箱根の山の近くまで転移した。

 

 

 

 山の歩き出して一時間とちょっと。

 

「兵藤ゼェ……先生、まだゼェ……着かないん、ですか?」

 

 転移した直後に付けさせた重り(両足に一キロずつ)の所為か、息も途切れ途切れの兵庫がしんどそうな表情で聴いて来た。

 

「後ちょっとだ」

 

 それに俺は短く返す。

 因みに重りは兵庫とアルジェント以外は片足二キロ以上、佑斗とジャンヌは片足四キロずつ付けている。俺? 俺は勿論付けて無い。この特訓は初歩中の初歩だから俺がしても意味がないからな。

 

「お前ら、見えて来たぞ」

 

 俺らの目の前に現れたのは、一軒の古い旅館だった。

 

「おーい! 巴ぇー!」

 

 俺はその旅館の前に居た、着物を着た中学生くらいの身長の子に声を掛けた。

 

「ん……? おおぉ一誠! 久しぶりじゃな」

 

 巴はこちらに気づくと、箒を掃いていた手を止めて大きく手を振って来た。

 彼女は久しぶりと言っているが、大体月一もしくは二ヵ月に一回は此処に来ているのでそう久しぶりでもない。ましてや今回は前回来てから二週間しかたっていない。

 

「こんな朝早くにどうした? それにお主確か平日は教師の仕事で忙しいとか言っていなかったか?」

 

「ああ、だから用事が終わったらすぐに帰るさ。実はこいつらが修行するから場所の提供と師匠役をやってほしいんだ」

 

「ふむ………」

 

 用件を伝えながらグレモリーたちを指さすと、巴は彼らを値踏みするように観察しだした。恐らくあいつらの現状での実力を測っているのだろう。

 

「まぁ、どちらも引き受けるのは吝かではないが………期間はどのくらいなのじゃ?」

 

「昨日から数えて二週間。練習メニューはすでに俺が考えてあるからその通りにやってくれればいい」

 

 そう言って昨日適当に考えた練習メニューの書かれた紙の束を巴に渡す。

 それから周囲に転移魔方陣を二つ展開させる。そこから青髪でアロハシャツを着た男と赤髪で赤いパーカーを着た男が出て来た。

 

「アロハシャツの男がランサー、パーカーの方がドルイグだ。巴と一緒にお前達の修行の手伝いをする」

 

「ふむ……まあ、この二人なら問題ないじゃろうな」

 

 機嫌が良さそうにフムフム頷く巴とは対照的に、呼び出された二人は不機嫌だった。

 

「おいおい、何で俺がこんな雑魚どもの相手をしなきゃいけねぇんだ。これだったらいつもやってるはぐれの方がまだ手応えがあるぜ」

 

「同感だ。俺が何故こんなやつらの相手をしなければならないんだ……」

 

 ドルイグ——ドライグはグレモリーたち——特に一翔を睨みながら不機嫌そうに呟いた。彼の呟きとそこに含まれていた僅かばかりの殺気にグレモリーたち——特に一翔は怯む。

 まあ、ドライグが不機嫌なのも分かる。なんて言ったって自身の半身ともいうべき『赤龍帝の籠手』を宿しているのが、四六時中おっぱいおっぱい叫んでいる兵庫(変態)なのだ。そりゃあ不機嫌になって殺気もぶつけてしまうだろう。いや、ドライグはまだマシな方だ。これがアルマとかウィサとかだったら相手を痛めつけた後、殺してしまうかもしれない。

 

「その紙に書いてある事以上の事はしなくて良いし、口答えだりなんだりしたら半殺し位までなら許す。それに後でストレス発散の機会を設けてやるから、今は大人しく我慢しろ」

 

「ちょっ⁉ 先生それはいったいどういう————」

 

「おいおい、そんな事言って前回はただいつも通りはぐれ狩りをやらされただけじゃねえか!」

 

 俺の発言に不穏なものを感じ取ったグレモリーが抗議の声をあげたが、クーの苛立ちを全く隠せていない叫びにさえぎられた。

 

「分かった分かった。じゃあ今回はお前が指名したやつと戦わせてやる」

 

「おっ、それは誰でもいいのか?

 

「家族内ならな。それならお前も満足できるだろう」

 

「あー……まあ、その条件なら悪かぁねぇな。……よし! ちゃんと約束は守れよ‼」

 

「はいはい」

 

 取り敢えずこれでクーの説得は完了。

 今の居れとクーの会話を聞いて、グレモリーが眉間にしわを寄せてなにやら考え込んでいるが……まあ放っておいても大丈夫だろう。

 

「ドルイグ。ちょっとこっち来い」

 

「……?」

 

 そして俺はドライグを説得するために、皆から少し離れた所に呼び出した。

 

「お前、本当にやらないのか?」

 

「当然だ。誰があんな性欲の塊の相手なんかやるかっ」

 

 吐き捨てるように言うドライグ。その顔には一翔に対する嫌悪感がありありとうかんでいた。

 だが、俺もあいつらに頼まれた身だ。だからその頼みを断る事は絶対にしない。兵藤一誠の名に懸けて。

 

「だが、考えてみろ。この修行でもしかしたらあいつの変態性を少しは直せるかもしれないぞ」

 

「むぅ……。確かにあの変態性は一刻も早く直したいが、今回の修行で『確実に』直る訳では無いだろう」

 

 ドライグのいう事は尤もだ。

 

「それはお前の頑張り次第だろう。そこは自分で頑張れよ」

 

「それはまあ……確かに」

 

「じゃあ頑張ってくれ」

 

 一方的に言い残して俺は駒王町に帰った。

 

 

 

 駒王に帰ってきた後は、普通に授業をしていた。グレモリーたちが一斉に休んだので、生徒たちの間ではいろんな憶測が飛び交って少し騒がしかった。だが、それ以外はいたって普通だった。

 

「気をつけて帰れよ」

 

「起立、礼!」

 

『さようなら』

 

 今帰りのHRも終わり、部活のない生徒たちは速やかに帰宅していく。俺はまだ仕事が残っているので帰ることは出来ない。はあ、帰ってルシファー達と遊びたい……。

 

「兵藤先生!」

 

「? どうした姫島」

 

「実はここの所がちょっと分からなくて……(今日ヴァーリは一誠さんの家にいますか?)」

 

 そう言って朱乃は数学の教科書のある部分を指さしていた。それと同時に念話で全く関係のない事を聞いて来る。朱乃に限らず黒歌と白音も学校ではこのやり方でコミュニケーションを取っている(裏の事限定)。

 

「ああ、ここはこうしてこうやって……(いや、ここしばらくは夕食にならないと帰ってこない。だから今日もまだ家には帰っていないだろう)」

 

「そうですか、ありがとうございました」

 

 若干しょんぼりしながら朱乃は帰っていった。

 

「……先生」

 

 後ろから呼ばれると同時に、スーツの上着の裾を軽く引っ張られた。

 

「塔城妹か。どうした分からない所でもあったのか?」

 

「……違います。姉様を知りませんか?」

 

「塔城姉? いや、見てないぞ」

 

「……そうですか」

 

 今彼女に猫耳と尻尾が出ていたら、シュンと垂れ下がっている事だろう。

 全くこんな可愛い妹に心配させるなんて、黒歌はダメな姉だな!

 

「見つけたら連絡するから、そんなに落ち込むな」

 

 微笑みながら頭を撫でてやると、白音に少し元気が戻った。

 普通の教師が学校で生徒にこんな事をやったら噂になりそうだが、俺は落ち込んでいる生徒には全員同じようにやるので問題ない。いや、ある意味問題かもしれないが。

 その後、俺は職員室の自分の机で暗くなるまで小テストの採点等をしていた。

 

 

 

「ただいまー」

 

 俺が家に帰ると、キッチンの方からカレーのおいしそうな匂いがした。誰が作っているのか気になってリビングを覗いてみると、淡い黄色のカーディガンの上に肌色のエプロンを着たライヴィスがいた。

 

「お帰りなさい。今日はどうでしたか?」

 

「いつもよりは採点するテストとか少なかったからいくらかは楽だったな。まあ、もうすぐで定期テストが始まるからまた忙しくなるんだろうけど……」

 

「あらあら、それは大変ですね」

 

 元神らしくその笑顔には慈愛に満ちていた。だが料理をしているその手つきは、完全に主婦のそれだ。

 

「何か手伝う事はあるか?」

 

「では、何人かが既にお腹を空かせていたので軽くつまみでも作っていただけますか?」

 

「はいよ」

 

 そして俺は、ライヴィスと並んで調理を始めた。家のキッチンは、家事担当の奴らの意見によりちょっとした大きさのレストランの厨房くらい広さがある。だから三人までなら並んで調理が可能なのだ。

 

「そういえば、今日はクーとドライグは帰ってくるのでしょうか? それによってつくる量が変わるのですが……」

 

 既に八割方作り終わってて何を言うか、とはツッコまない。こんなのは日常だ。うん。

 

「ちゃんと帰って来るぞ。てか、帰ってこさせないとストレス溜まりそうだからな」

 

 俺の言葉に彼女は笑いながら肯定してくれた。

 

「おし出来た。ちょっと味見してみてくれ」

 

「では私のもお願いしますね」

 

 俺達はお互いの作ったモノを小皿に取り分けると、それを相手に渡した。

 うん。今回もライヴィスのは美味しくできてる。

 

「いつも通り美味しかった。ただ美味しいがゆえにこの量では足りるかが心配だな」

 

「では、私はもう少し追加で作っておきますね。その間にあなたはそれを前菜として出しておいてください」

 

 彼女は食器棚から取り皿を取って俺に渡してくる。

 俺はそれを受け取り、作った奴を盛っていく。

 

「そう言えば一誠」

 

「ん?」

 

 皿を持って出て行こうとした時、ライヴィスに呼び止められた。

 

「“あの”アザゼルが結婚したそうですね。あの厨二と結婚した物好きはどこの誰なのですか?」

 

 なにやら話題が古いしアザゼルに対して嘲笑ってる気がしたが、彼女は家からほとんど出れないのだからそれも仕方がないのだろう。あいつがライヴィスにどう評価されようとも俺には関係ないしな。

 

「一般的な評価から見ても美人の分類に入る女性だよ。ドSな部分があるが戦闘力も申し分ないしな」

 

「なるほど。それは是非とも一度お会いしてみたいですね」

 

 ……残念だが彼女のささやかな願いを俺は叶えてあげる事が出来ない。アザゼルは彼女を含めた旧三大勢力トップが生きている事は知ってる。だからその嫁くらいなら、と思わなくもないが情報はいつどこで漏れるか分からない。特にこの事は神話間の関係に大きな衝撃を与えるだろう。だからできない。

 だったらなぜアザゼル達には教えたのかと言う話だが、あの頃は俺も若かったんだ。だから世間の事は考えずに行動できた。と言ったところだろう。

 

「……別にあなたが気に止むことはありませんよ」

 

 ライヴィスに俺の思考を見透かされたようにそんな事を言われた。俯いていた顔をあげると、彼女はこちらに背を向けて調理に勤しんでいる。

 

「そんなに気に止むことはありません。私達は貴方がしたことを責めませんし、あの時の行動に後悔もしていません。だって私達は、あなたが今まで頑張ってきたことを知っていますから」

 

 肩越しに振り返った彼女は、まさしく女神の微笑みで語りかけてくる。

 その笑顔を見た瞬間、その言葉を聞いた瞬間俺の胸がすっと軽くなった気がした。

 

「……ありがとう」

 

 ありったけの感謝の気持ちを込めて彼女とここには居ない皆に向かっていた。

 

 

 

 

 

 夕食を食べ終わった後、俺はあいつらがどれくらい真面目に修行をしているのかを見に巴の旅館を訪れた。

 

「お前ら~、ちゃんとやってかぁ~」

 

 アイツらの気配がした道場の扉をあけながら声を掛ける。

 道場の中心では佑斗とジャンヌが木刀で模擬戦をしていた。そこから少し距離を置いたところでは、兵庫が柔汪にボコボコニされていた。いや、元々は二人で模擬戦をしていたのだろうが、兵庫が弱すぎて一方的な展開になってしまったのだろう。更に道場の端の方では、グレモリーとアルジェントが魔力を操る練習をしていた。

 皆集中している所為か俺の言葉に返事してくれる者がいない。

 

「なんじゃお主、来ておったのか」

 

「ああ。今さっき来たんだ」

 

 後ろにいた巴は、それ以上聞かずにどこかへ消えていった。おそらく夕食の準備でもしに行ったのだろう。

 

 カランカラン

 

「私の勝ち」

 

「うん、僕の負けだ」

 

 佑斗とジャンヌの試合が終わり、二人は他の奴らの邪魔にならない様に壁に寄りかかって座る。現状特にやるのことのない俺は、二人に修行の進行状況を聞いてみることにした。

 

「よう。どうだ修行の具合は?」

 

「え、え~と……」

 

 俺に気づいた二人の内、佑斗は露骨に目を逸らした。それだけで聞かなくても分かってしまったのだが、ジャンヌが呆れた半分怒り半分の声で進行状況を説明してくれた。

 

「どうだもそうだも、私達以外は殆どダメ。お手上げ状態ね」

 

 そんなにひどいのかよ。巴の事だからあんまりキツイ修行内容にはしてないと思うんだがな。

 

「具体的に言うと?」

 

「まず兵庫のヤツ。あいつは今日一日ずっとドルイグにつきっきりで指導を受けていたくせに、上達したのは回避能力だけ。その他は全く進歩無し。柔汪とグレモリーは修行については来れたけどそれだけ。逆にアルジェントは彼女達の中では一番成長したわ。魔力の扱いも一般レベルまでなったからね。でも実戦で使えるレベルじゃないわ」

 

「まあまあジャンヌ、それ位にしておこう、ね?」

 

 彼女の遠慮のない言葉が、他の奴らに聞こえるのを危惧した佑斗が彼女を宥める。

 

「……だって、本当の事じゃない」

 

 有象無象には強気だが佑斗に対しては弱い彼女は、彼が宥めただけですぐに大人しくなった。大人しくはなったが、今度は不貞腐れた。きっと佑斗が他の奴らに気を使ったのが気に食わなかったのだろう。体育座りした足に顔を押し付けて、時折非難する目で佑斗の事を見ている。おい、お姉さん気質どこいった。

 

「ま、まあこれからが悪魔(僕ら)の時間ですから。そうすれば日中よりは皆も良くなりますよ」

 

 ジャンヌの頭を撫でながら言っても、全くそんな気になれないんだが。それにお前結局ジャンヌが言った事否定して無いし。

 

「分かった。取りあえずは夜に期待だな。教えるのは巴だけになるが、しっかりやれよ」

 

「へぇ。自分が頼まれたのに、他人に押し付けるの?」

 

 拗ねた状態から少し回復したジャンヌが、俺に意地の悪い笑みを浮かべながら言ってきた。

 

「それに関しては、巴にもお前達に対しても申し訳なく思ってる。だからこうして空いた時間に見に来ているだろう。それにほらっ」

 

 俺は懐から取り出した大量のノートを彼女と彼の目の前に置く。

 

「なにこれ?」

 

「お前達が受けるはずだった授業を板書したやつだよ。これで授業にはおいていかれないだろう」

 

「ふーん……」

 

 ジャンヌは俺の書いたノートを品定めするように見ている。

 佑斗はそんな俺とジャンヌのやり取りにピリピリした雰囲気を感じ取ったのか、止めるべきかどうか迷ってオロオロしている。

 

「ところでお前達の勝敗はどうなってんだ?」

 

「今の所、僕がジャンヌに全敗しています」

 

 あ、今度は佑斗が落ち込みだした。おおかた好きな相手に負け続けている所為だろう。

 

「大丈夫よ。あなたも十分強いわ。だから自信を持って」

 

 そして佑斗に対しては、聖女度100%で励ましに掛かるジャンヌさん。お前他人と佑斗に対する態度が違いすぎるだろ。

 それに佑斗が落ち込む必要のないのは本当だ。だって半分呪われてるしな。

 

「じゃあ、他の奴らにも励むよう言っといてくれ」

 

 俺は慰めからイチャイチャに発展したバカップルに一方的に言ってその場を後にした。

 




如何でしたでしょうか?
何か使ってほしいネタがあったら感想の方で言って下さい。ただし私が知ってるネタに限りる上に、必ず使うとは保証できませんので。あしからず。
おかしな所があった場合も遠慮なく。
勿論純粋な感想もお持ちしております。
では、また次回。


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決戦

超遅くなりましたが今年初投稿です。
前回の投稿から間が空いた代わりに今回は超長い(約三万字)です。
空いた時間にちょくちょく書いていたので誤字脱字が多いかもしれません(笑)。もしあったら遠慮なく感想で言ってください。


決戦開始

 

 

 

 修行を始めてから早くも二週間たち、今夜はいよいよライザーとグレモリーのレーティングゲームだ。この二週間はあっという間だった。『正史』以上の特訓をしたおかげでこいつ等はかなり強くなった。まあ、俺はいろんなところでいろんな奴らを鍛えてきたから、全体でみるとこいつ等は『本来』とあまり変わってないと思う。

 なお今回のゲームでは、グレモリー側の戦力がライザー側に対してあまりにも低いとの事なので白音が戦車代理として参加することになった。

 俺はオカルト研究部の部室に来る前に白音の頭を撫でて応援した。他の奴らには贔屓だと言われたが、彼女はこれから戦うのだからこれ位はいいだろう。

 それをしていたせいで俺と白音が一番最後に部室についた。

 

「お前、確か僧侶がもう一人いただろう。そいつはどうした?」

 

『正史』通りならコイツの技量が足らなくて序盤は出てこなかったが、この世界は俺が色々とやらかした為いろんなところで『本来』とは変わっている可能性がある。だからヴラディも変わっているかもしれないと思って一応確認したのだ。

 

「……残念ながら、私の技量不足で協力してくれないわ」

 

 ……ふむ、理由は一緒か。これだけでは判断しずらいが、これ以上踏み込んで聞くのも怪しまれるな。

 

「分かった、それ以上深くは聞かない。ところで作戦とかは考えているのか?」

 

「ええもちろんよ」

 

 ならよかった。ゲームの一時間前で作戦が一つもなかったら張り倒している所だった。

 

「俺はあいつの師匠でもあるからお前達の方ばっかりは贔屓できないが、悔いのないように頑張って来い」

 

『はい!』

 

 気合十分の返事をしたグレモリー、柔汪、白音、佑斗、兵庫、アルジェントの顔を順に見た後、俺は観客席の方に転移した。

 

 

 

 

 

 ゲーム開始十分前にリアスたちが集まるオカルト研究部にミレイフィアが現れた。

 

「皆様ゲーム十分前です。準備はよろしいですか?」

 

 彼女の問いかけに、リアスとその眷属たち+αは黙って頷く。

 

「では皆さまを本陣へお連れします」

 

 彼女のその言葉と共に、彼らは光に包まれた。

 

「ここは……部室?」

 

 光が収まって一翔が見たものは見慣れた部室だった。目が眩む前に見たものとの違いと言えば、ミレイフィアが居なくなっている事くらいだろう。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

『皆様、本日はリアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲームにお越しいただいありがとうございます。審判は私グレモリー家使用人のミレイフィアが務めさせていただきます。今回のゲーム盤は、リアス様が通っていられる人間界の学校『駒王学園』になります。ライザー様の本陣は生徒会室。リアス様の本陣はオカルト研究部となっております。今回は特に細かいルールなどございませんが、タイムリミットは今から六時間後の朝六時とさせていただきます。それでは両チームとも全力を尽くして戦って下さいませ』

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 ミレイフィアの放送が切れると同時に、開始を告げるチャイムが鳴り響いた。

 

「なんか、チャイムの音を聞くとやる気なくなりますね」

 

 一翔のそんな言葉により、部室内の緊迫した空気は霧散した。

 

「あっ! す、すいません! 俺場違いな事言いました!」

 

「いいのよ。緊張しすぎでは本来の力を出せない時もあるから、寧ろよく和ませてくれたわ」

 

 頭を下げて謝る一翔をリアスは苦笑しながらフォローした。その他の面々も苦笑しながら一翔を見ている。

 実際、一翔以外の全員が彼と同じことを考えていたので、責める気は毛頭なかったのだ。

 

「さて緊張もほぐれた所で、手短に作戦を説明するわ」

 

 リアスの張りのある声に、部員たちの顔はまた引き締まったモノに戻る。

 

「いい、私達の作戦は—————」

 

 

 

 

 

「——————短期決戦だろうな」

 

 一方のこちらはライザーたちの本拠地生徒会室だ。

 彼らも会議用の机を囲んで作戦会議の真っ最中だった。

 

「リアス達の作戦は奇襲と一対多による殲滅戦だろう。奇襲は赤龍帝の籠手でリアスか女王の魔力ないし気を増幅させての遠距離攻撃が一番可能性が高い。一対多の場合はこちらが一に対して向こうは二人から三人でくる。組み合わせの可能性としては騎士の金髪コンビと兵士と戦車のコンビ。そしてこのどちらかに女王が加わる可能性もある。今言った事は全部頭の中に入れておけよ」

 

 ライザーの言葉に、彼の眷属たちは頷いた。

 

「それと最後にもう一つ」

 

 わざとらしく咳ばらいをした後、急に改まった口調になったライザーは眷属の一人一人を見回した後静かに口を開いた。

 

「今回は、俺の個人的な事情に巻き込んですまない。俺がもっとちゃんと家に連絡していればこんな事にはならなかっただろう、と何回も後悔している」

 

 彼の言葉を眷属たちは黙って聞いていた。彼らにも言いたい事はあったものの、それはライザーがすべて行った後でもいいと思ったからだ。

 

「後悔してはいるが俺はこの戦いに絶対に勝ちたい。勝って迦楼羅と胸を張って結婚したい。だから、だからお前達の力を貸してくれ」

 

 ライザーは言い切ながら勢いよく頭を下げた。彼の考えでは、ここで彼に失望してリタイアしていく者が数に出でるのも覚悟していた。だが現実は彼を裏切る。

 

「頭をあげて下さい、ライザー様」

 

 いい意味で。

 

「別に私達は巻き込まれたなんて思っていません。寧ろ頼ってくれて嬉しいくらいです」

 

「ユーベルーナ……」

 

「そうです我が主。主は私に三度目の機会を与えて下さいました。その恩に報いるためなら、このディルムッド命に代えても敵将の首を取って見せましょう」

 

「ディル……」

 

「お兄様は少し頼るという事をしてくださいまし。私たちはその為の眷属なのですから」

 

「レイヴェル……」

 

「それに、ご主人様は私達の問題にも真剣に取り組んでくれるじゃないですか。だったら私達にもご主人様の問題に真剣に取り組まさせて下さいよ」

 

「美鈴……」

 

「そういうことだ。だから迷惑だなんて思わない事だな」

 

「真名……」

 

 それぞれがライザーに想いを伝えるたびに、彼の中にあった重荷は軽くなっていく。

 そして〆を飾る為に迦楼羅がライザーの隣まで歩いていく。

 

「ライザー。西洋の結婚式の誓いの言葉に『健やかなる時も病める時も』ってるよね。私たちは世間ではまだ結婚していない。でも私はもうあなたと結婚しているつもりだね。だから———」

 

 迦楼羅はライザーの両手を自身の両手で優しく包み込むようにして握る。

 

「君が背負ってるもの、抱えているものの半分を私にも背負わせてほしいね」

 

「迦楼羅……」

 

「大丈夫。例えあなたの翼が半分になったとしても、その翼の代わりは私がするからね」

 

 そう言って迦楼羅は妃が王に向ける様に、聖女が英雄に向ける様に、ヒロインがヒーローに向ける様に微笑みかけた。

 ライザーは、自分の目頭が熱くなるのを感じた。目からあふれて来るものを必死で抑えようとするがそれは彼の目からあふれてくる。

 

「みんな……ありがとう」

 

 ライザーがありったけの感謝をこめてそう言った瞬間、巨大で高密度の消滅の魔力で出来た矢が生徒会室に直撃した。

 

 

 

 

 

 ライザーと眷属たちの素敵なやり取りをしている間、リアスは自身の魔力で矢を作っていた。矢は直径三十センチ長さ二メートルの巨大なものだ。リアスはその矢に更に魔力を送り込み密度をあげる。

 それを黙って見ているのは、彼女の眷属である雷花、一翔、アーシアそして戦車代理の白音の四人。佑斗とジャンヌは旧校舎の周りの森に罠を張りに行った。

 リアスを見守っている者たちの中で、一翔だけは一人複雑そうな顔でリアスを見ていた。

 彼は自分の主であるリアスが好きだ。眷属になる前からなりたての頃は彼女に対して憧れしか抱いていなかったが、今はハッキリと彼女の事が好きだと言える。

 きっかけは修行最終日の夜に、リアスと少しお互いの話をしたことだった。それにより、それまでは憧れの域を出なかった感情が恋愛の域にまで上り詰めたのだ。

 だから今の彼の心情は複雑だ。複雑で無い訳がない。だが彼には恋愛感情以外にリアスに求めているものがある。それは彼女の幸せだ。自分の命を救ってくれた彼女には絶対に幸せになって欲しかった。

 そういう訳で今の一翔の心情は結構複雑なものだった。

 

「……できたわ」

 

 そういった彼女の手には先程と見た目は変わらないものの、魔力に関して素人の一翔にも分かるほど明らかに密度が濃くなった矢があった。

 

「雷花、サポートをお願い」

 

「はいよ」

 

 リアスの指示に従い雷花が手元にいくつかの魔方陣を展開させる。同時にリアスの目のすぐ前にも魔方陣が展開した。

 

「透視と倍率変化だけだけどいいかい?」

 

「ええ十分よ。ありがとう」

 

 リアスはお礼を言った後、生徒会室———ライザー本陣の方を向いて弓に矢をかけた。

 

「皆は念のため私の後ろにいて頂戴。余波でダメージを負ったら元も子もないわ」

 

 皆がリアスの指示に従って彼らが彼女の後ろに移ったのを見た彼女は、改めて生徒会室の方を見て弓を引き絞る。

 

「『回転し貫通する消滅(ルイン・ザ・スパイラル)』!」

 

 厨二っぽい(というより完全に厨二な)技の名前を叫びながらリアスは矢を放った。

 放たれた矢は、部室の壁を易々と貫通——消滅させて一直線に生徒会室まで飛んで行く。

 その魔力密度は魔王サーゼクスに及ばないにしても、物質を簡単に消滅させられるくらいには高い。故に矢は何物にも遮られることなく生徒会室の窓に直撃した。

 瞬間矢は跡形もなく消えた。

 

「なんですってっ⁉」

 

 それを見たリアスは、当然驚いた。あれはそんなに簡単に消せるものではないという考えが彼女の中に在ったからだ。

 確かに魔力密度は彼女の兄に及ばない。だが仮にも『消滅』の力を宿した矢である。防いだり躱したりするなら分かるが、大技も使わずにいとも簡単にあれを消す方法など彼女は知らなかった。

 彼女の眷属たちも同じ反応だった。ただ白音だけは別段驚くことはなかった。

 

「……では私は予定通り体育館へ向かいますね」

 

 事前に決めた作戦を遂行するために白音は部室から出て行く。入れ替わりで佑斗とジャンヌが部室に入って来た。

 

「その様子じゃ矢は効かなかったみたいね」

 

「僕とジャンヌも持ち場へ行きます」

 

「ええ、よろしくお願いね」

 

 風穴があいた生徒会室を見ながらリアスは返事をした。

 彼女が見ている先には赤い槍を持ったイケメンがいた。自己紹介の時にディルムッドと名乗っていた男だ。彼があの槍でさっきの矢を相殺したのだろうとリアスは推測する。

 ディルムッドが中に向かって一言二言話した後、穴から飛び降りるのを見た。行先はおそらく校庭だろう。

 それを見たリアスは、視線を自身の女王に向ける。

 

「じゃあ、雷花も作戦通りお願いね」

 

「ああ、了解したよ」

 

 そう言って雷花も部室を出て行った。

 よって部室に残っているのは、リアスとアーシアと一翔のみ。

 

「イッショー倍化はどのくらいまでいった?」

 

 リアスが彼に聞いたタイミングで丁度良く彼の左手についている籠手から『Boost!』

 

「今の倍化で丁度五回目です」

 

「そう……。じゃあ十回倍化したら私に譲渡してちょうだい。その後で私達も動くわ」

 

 リアスの指示に一翔とアーシアは頷く。

 作戦自体は順調に言っているようにみえるリアスと彼女の眷属たちだが、彼女は二週間の修行で大事な事をしていなかった。それは相手の力の解析。敵の『王』であるライザーの事は勿論解析していたが、それ以外の彼の眷属の力の事をリアスは一切気にも留めていなかった。故にその準備不足が命取りになるのを彼女はまだ知らない。

 

 

 

 リアスの『回転し貫通する消滅』の強襲を受けたライザー眷属は、それをディルムッドの『破魔の紅薔薇』で打ち消したので被害はゼロだった。

 

「主、お怪我はありませんか!」

 

「ああ、問題ない」

 

 こんな事でくたばるとは思ってもいないが、ディルムッドは一応確認をする。しなければ気が済まなかった。

 

「では、私は校庭にて敵を撃って参ります」

 

「ああ、頼んだぞ」

 

 軽く礼をしたディルムッドは、先程の攻撃で風穴があいたところから飛び降りて校庭へと向かった。

 それに続いて美鈴とユーベルーナと真名も生徒会室を出て行く。残ったのはライザーと迦楼羅とレイヴェルだけ。

 

「宜しかったのですかお兄様。こんなことせずとも———」

 

 レイヴェルが言っているのは今回の『極力一対一で戦う』という作戦の事だった。

 彼女はライザーと迦楼羅の結婚を応援していた。だからこんな戦いはさっさと終わらせて二人に幸せになって欲しかった。そしてこの戦いを早く終わらせるためにはディルムッド以外の遠距離最大攻撃で開始と同時に一機に決めてしまえばいい。だが今回のライザーが考えた作戦はその正反対———時間が掛かる作戦だった。

 ライザーと迦楼羅の仲を応援しているレイヴェルからすれば、何故ライザーがこんな作戦にしたのか疑問だった。

 

「確かにこの試合を終わらせるならお前が考えている方法が一番手っ取り早いだろう。でもな、俺はちょっと考えたんだ」

 

『……?』

 

 彼女達は疑問に思いながらも静かに聞く。

 

「『それで、彼らは成長できるのだろうか?』ってな」

 

「それは———」

 

「分かってる。これは単なるおせっかいだ。上から目線の傲慢な考えだ。でもさ、俺もちょっとだけ誰かを鍛えてみたくなったんだよ。一誠さんみたいに」

 

 ライザーは照れ臭そうに頬を指でかいた。それを見た二人は優しく微笑んだ。

 

「しょうがないねぇ~。……しょうがないから、私も付き合ってあげるね。彼女だもん」

 

「全く持って理解できませんわ。……ですが、私も付き合ってあげます。妹ですから」

 

「……ありがとう」

 

 ボロボロになった生徒会室で三匹の不死鳥は笑い合う。

 全くもって場違いな状況だったが。

 

 

 

 

 

 白音が体育館に入ったのと同じタイミングで、校舎に繋がる扉から緑のスリットがはいったチャイナ服を着た女性が入って来た。彼女はスリットの下に白いズボンをはいている。

 

「……リアス・グレモリー戦車代理の塔城白音です」

 

「ライザー眷属戦車、紅美鈴です」

 

 お互いに名乗った後、二人は自然に拳を構え体中に気を巡らせ高ぶらせていく。

 それから少しの間両社は微動だにしない。

 

「ハアァァァアアッ!」

 

 最初に動いたのは美鈴だった。

 彼女はお互いの距離が二十メートル以上も離れているのにも関わらず、咆哮しながら右正拳突きを放った。

 普通ならなんら意味のない行為だ。それどころか明確なスキを相手に晒してしまう。

 だが白音はその場から横に回避する。とても慣れた動作で。

 彼女が回避した直後、彼女が元々いた場所を不可視の衝撃が襲う。

 

「流石、兵藤一誠の家族ですね」

 

 一方の美鈴も避けられたことに対する驚きはない。理由としては目の前の女性が『兵藤一誠の家族』という事があげられる。ライザーの眷属になる前にも、何度か彼と彼の家族の噂は聞いたことがあった美鈴。更にライザー本人からこのゲームの前に白音についても注意するようにと言われていた。だから先の一撃も本気ではない所謂『あいさつ代わりだ』というやつだ。

 

「……当然です。これくらいできなければあそこでは生き残れませんから」

 

 言いながら白音は改めて拳を構える。構えた瞬間彼女の目の前に美鈴が一瞬で移動してきて拳を振りかぶっていた。

 

「———ッ⁉」

 

「———シッ!」

 

 短く吐かれた息と共に左拳が白音の腹目掛けて鋭く飛んできた。

 白音はそれを右手で自身の左側に押し出していなす。だが美鈴も負けておらず、いなされた力を利用して白音の脇腹に向かって廻し蹴りを放つ。白音はそれを一歩下がる事で躱した。

 

「………」

 

「ハアァァァアアアア‼」

 

 無言で猛攻を躱していく白音と気合の入った咆哮と共に足拳を巧みに使い攻めていく美鈴。

 状況だけ見れば防戦一方の白音が劣勢に見えた。

 場所をめまぐるしく変えての攻防に、体育館はボロボロになっていく。

 何度目かの打ち合いの後二人は大きく距離を置いた。

 距離を取った二人の様子は対照的だった。防戦一方だった白音は息一つ乱れていないのに対して、美鈴は肩で息をするほど疲労していた。

 美鈴は激しく攻めていたのだから当然だろう、と言ってしまえばそれでおしまいだが、彼女の消耗はそれ以上に見える。

 

「なる……ほど…。これが……あなたの…能力…ですか……」

 

「……その通りです。ま、あれだけ私と接触すれば流石に分かりますよね」

 

 

『障り猫』

 

 

 触れた相手の体力・気力・魔力を吸い取る能力。《物語》では生気を吸い取る能力だったがこの世界だと少し変化していて、魔力等のエネルギーも吸い取る事が出来る。

 白音はこの能力を使って美鈴から体力と気と魔力を奪っていた。

 

「……ですが、今の所この力は全開じゃありませんので。あしからず」

 

「これで全開じゃないとか……もう笑うしかないですね。アハハハ……」

 

 白音の言っている事は事実だった。この能力は使用者のストレスによって力が上下する。ゲーム前に白音は一誠に頭を撫でられた事によりストレスが減少していた。だから今の彼女は『障り猫』の能力を十割使えなかった。

 

「……私にはまだやる事があるので素早く終わらさせていただきます」

 

 そう言って彼女は左手に魔力右手に気を纏わせる。そして何かに祈る様に両手を合わせた。

 

「……感卦法」

 

 二つのエネルギーが混ざり合い彼女の身体を保護するように覆う。

 その巨大な力を見て美鈴は笑みを浮かべた。当然だ。彼女はライザーの眷属である前に武術家なのだから。強い奴——それも同じく拳を武器に使う奴と戦えることは彼女にとってかなり興奮する事だ。

 だから彼女も全身から気を立ち上らせる。

 白音に吸い取られてもなお膨大なそれは、彼女よりも少し少ないくらいの量だ。もし白音に吸い取られていなかったらアック実に美鈴の方が気の量は多かっただろう。

 しかし美鈴の変化はそれだけにとどまらない。彼女の身体から気とは違う力が沸きあがっていく。

 

「……龍気———」

 

 驚愕した白音がそのエネルギーの名称をポツリと呟いた。だが彼女が驚いたのは龍気を見たからではない。確かに《龍気》はドラゴンしか使えない特殊な気だ。しかもドラゴンだったら誰でも使えるという訳では無く、本人と龍気の相性がいい者か一定以上の力を持ったドラゴンでなければ使うことは出来ない。しかし白音は龍王以上のドラゴンと暮らしているので、目にするどころか実際に戦った事もある。だから彼女にとって龍気はそれほど珍しいものではない。

 白音が驚いたのは、先程まで悪魔の気配しかしなかった美鈴からいきなり龍気が発せられたことだ。

 

「簡単な事ですよ。私は悪魔である以前に龍気を使える龍ってことです。どんな龍かは教えませんけどね」

 

 悪戯っぽく笑う美鈴だが体から発せられる気と龍気は密度が濃くなっている。

 そして白音も最初こそ驚いたものの、すぐに臨戦態勢になり一撃で相手を仕留められるように集中する。

 

「いつまでも楽しんでいたいものですが、ご主人様に万が一の事があっては困るのでこの一撃で決めさせてもらいます」

 

「……それはこちらも一緒です。グレモリーには別に思う所はありませんが、兄様が見ている前で負けるわけにはいきません」

 

 二人は同時に相手へと突撃した。余波で床は抉れ、窓ガラスは粉々に吹き飛び、体育館内は原形をとどめないほどに破壊された。

 そして脱落者を知らせるチャイムが鳴る。

 

 

 

 

 

 白音と美鈴が戦いだした頃、校庭でも騎士同士の戦いが行われていた。

 リアス・グレモリーの騎士である木場佑斗とジャンヌ・ダルクがライザー・フェニックスの騎士であるディルムッド・オディナに対して、息の合ったコンビネーションで果敢に攻めていた。

 それでも優位なのはディルムッドである。

 理由としては、まず第一に技量の差。これは実際の英雄と十年前後しか鍛錬をしていない少年少女なのだから当り前である。

 次に武器の違い。槍と剣ではリーチの長さが違い、長い方が有利なのは当たり前である。だがこれはあまり関係ない。なぜなら、佑斗とジャンヌは魔剣創造と聖剣創造を持っているからだ。槍くらいの長さの剣を作るなど朝飯前である。実際は作ったところで使えないが。

 そして最後に能力の差。ディルムッドの持つ破魔の紅薔薇は接触している物の魔力を打ち消す能力だ。対して佑斗とジャンヌの持つ神器は本人の魔力を元にして魔剣と聖剣を作る。故にディルムッドの槍とは相性が悪かった。

 故に二人は、二人がかりであるにも拘らず苦戦していた。

 パキィーンという剣が破壊された音と共に、一人と二人は大きく距離を取った。

 佑斗とジャンヌは肩で息をしていて所々に浅い傷を負い血が滲んでいる。対するディルムッドは呼吸も乱れていなければ傷も負っていなかった。戦闘の余波で多少服が汚れている位だ。

 それでも彼は目の前の少年少女の技量に、回避能力に、戦闘センスに、そしてコンビネーションに感嘆していた。

 確かに今は拙く未熟だ。だがきっとこれからたくさんの経験を積めばこの二人は英雄並の実力者になるだろ、と彼は考えていた。

 

「その齢にしてこの技量まことに感服する」

 

「知ってる? それって言ってる奴が言われている奴より実力者だとただの嫌味にしか聞こえないのよ」

 

「嫌味などではない。素直な称賛だ」

 

 軽口を叩いてはいるが、ジャンヌもディルムッドも身体の力は抜かずにいつでも動けるようにしている。

 

「……ジャンヌ」

 

 二人の会話が途切れたタイミングで、佑斗がジャンヌにだけ聞こえる様な声で話しかけた。といっても距離的には彼らとディルムッドの距離は十メートルかそこらしか空いていないので、何か話している事は丸分かりなのだが。

 

「僕が彼を押さえておくから、君は部長たちの応援に向かってくれ。君の聖剣ならフェニックスの不死性も関係ない筈だ」

 

「ダメよ。私の方が強いんだから残るなら私が残るわ」

 

 佑斗の提案をジャンヌは一蹴した。だが佑斗も譲らない。

 

「だからだよ。ジャンヌの方が僕より強いし、聖剣の方が魔剣より役に立つ。故に君が部長たちの方に行ったほうがいいんだ」

 

 祐斗の声はもう普通の大きさになっている。故にディルムッドにもバッチリ聞こえていた。

 

「悪いが、貴公らはここで討たせてもらう。特にそちらの聖剣使いは、な」

 

 そしてディルムッドの方から一気に距離を詰めて来た。

 佑斗はジャンヌの一歩前に出て、腰に刺さっていた唯一本物の剣を抜いて迎え撃とうとする。しかしディルムッドは佑斗をあっさりと躱しジャンヌに迫る。

 

「魔剣創造っ‼」

 

 しかしジャンヌと彼の間に佑斗の魔剣が地面から行く手を塞ぐように咲き誇った。

 ディルムッドは破魔の紅薔薇で破壊しようとするが、左右と後ろからも彼目掛けて魔剣が咲いて来たので、槍を前に突き出したままその場で一回転して周囲の魔剣を粉砕する。しかし明らかなスキができた。それを見逃す二人ではない。

 

「ジャンヌ行ってくれ‼」

 

「……分かったわ。でも、くれぐれも無茶しない事。私との約束ね」

 

 ジャンヌはそう言うと、佑斗に背を向けて校舎の方へと走って行った。その時丁度リタイアを告げるチャイムが鳴った。

 

「……追わなくてよかったのかい?」

 

「個人的に思う事はあるが…まあ問題ない。一応主の考え通りだからな」

 

「へぇ……ちょっとどんなものか聞いてみてもいいかい?」

 

 返答は槍を構える事で示された。つまり答える気は無いという事。

 

「改めて名乗ろう。リアス・グレモリーの騎士木場佑斗」

 

「ライザー・フェニックスの騎士ディルムッド・オディナ」

 

『いざ尋常に…勝負‼』

 

 彼らは足に力を入れて地を蹴り剣と槍を交えた。その衝撃は二人の周囲にあるものを吹き飛ばす。

 鍔迫り合いはせずにすぐに離れた二人は、自慢のスピードを使って校庭を縦横無尽に動き回りながら刃を交える。だが先程までと違う所は、佑斗が地面や空中などにも魔剣を出現させて攻撃している事だ。そのトリッキーな攻撃のお蔭で、実力差があるにも拘らず佑斗はディルムッドに食らいつくことが出来ている。

 

「面白い攻撃だが、まだまだスキが多いぞ!」

 

 気合いと共にディルムッドは周囲の魔剣を破壊し、渾身の突きを佑斗に向かって繰り出した。

 

「ぐぅっ⁉」

 

 佑斗は何とか剣で受け止めるものの、その威力に吹き飛ばされて木に背中をぶつけて崩れ落ちる。

 痛みで呻きながらも佑斗はすぐに起き上がる。その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「……やっぱり、格上相手に出し惜しみ押している場合じゃないね」

 

「ハッタリならやめておいた方がいいぞ、木場」

 

 口ではそう言いつつもディルムッドは槍を佑斗に向けて油断なく構えている。

 

「ハッタリなんかじゃないさ。禁手‼」

 

 佑斗が叫ぶと彼の両手に一本ずつ魔剣が出現する。それは先程まで彼が魔剣よりオーラの質が違った。

 

「その剣は……」

 

 ディルムッドは、佑斗が左手に持っている刀身までびっしりと奇妙なルーンが刻まれた大剣を見て呟いた。

 

「この剣を知っているのかい? これは君よりも後の時代の剣なんだけどね」

 

「私が書かれている神話のその後が気になってな。一時期熱中して読んでいたことがある。……細部は違うがその剣の実物を見ることになるとは思いもよらなかった」

 

 

『ストームブリンガー』

 

 

 佑斗が左手に持っている剣の名前だ。

 この剣は殆どのものを着る事が出来、自我を持っていて殺した相手の魂を喰らう。

 しかし佑斗のは勿論偽物だ。自我は無いし、殺した相手の魂を喰らうことは出来ないし、斬れるものもオリジナルより限られる。だが、オリジナルとは違う点がある。それは刻まれているルーンだ。佑斗はこの魔剣を作る時に彼の師より教わった強化のルーンを刻んだ。

 そして彼が右手に持っている魔剣はかの有名なアロンダイトだ。この剣は使い手を強化する能力がある。が、偽物なので勿論劣化している。それでもストームブリンガーと合わせればそこそこ強化する事が出来る。

 佑斗はこの二つの剣で自信を強化し、ディルムッドに対抗するつもりだった。

 

「なるほど……強化のルーンで身体能力を強化し少しでも技量差を埋めようという考えか。そちらの剣は分からないが、似たような能力なのだろう」

 

 ストームブリンガーと同じ神話であるディルムッドは、その魔剣に刻まれているルーンを意味を当然知っている。だから佑斗の考えも手に取る様に分かった。

 

「どんなに身体能力を強化しようと、技量差は埋まらない事を教えてやる」

 

 言葉と共にディルムッドは佑斗に向かって駆け出した。その速度は、かつてあの戦争に参加した中で最速を誇るにふさわしい速度だ。

 佑斗はそれを横に跳んで躱す。その時に先程まで寄りかかっていた木から魔剣を数本出現させて、ディルムッドの串刺しを狙う。勿論彼もそれだけで倒せるとは思っていない。

 

「ぬるいっ‼」

 

 彼の予想通り、英雄はその槍で魔剣を一掃した。しかし佑斗は手を緩めない。地面と空中のあらゆる場所から魔剣を出現させ英雄を狙う。

 しかしそこは英雄。襲い掛かる魔剣を躱し、破壊し、同士討ちさせながら佑斗に迫る。

 

「シッ‼」

 

 短く吐きだされた息と共に神速の連続突きが佑斗を襲う。彼はそれを、強化した体に物言わせて躱していく。

 結局ディルムッドの言った通り、佑斗がいくら身体を強化しても技量差は埋まらない。確かに先程よりはマシになった。さっきまでは躱すたびに傷が出来ていたが、今はきちんと躱せているので傷は無い。それでも佑斗からは攻められない。

 

「まだ…まだっ!」

 

 先程の繰り返しで、魔剣をディルムッド目掛けて射出する。彼はその隙に距離をとり、二本の魔剣を一度左手で一気に持つと新たに魔剣を作り、それを地面に突き立てた。

 

「凍れ!」

 

 叫び声と共に彼の周囲の地面が氷に覆われていく。

 魔剣を捌き終わったディルムッドは足元まで氷が迫って来ていたので跳躍して大きく距離を取る。

 

「なるほど……。この氷で俺のスピードを奪うという訳か。だが条件は同じだ」

 

 ディルムッドは佑斗に向かって駆け出す。彼は氷のエリアに入っても少しスピードが落ちるくらいだった。

 一方の佑斗も同じように駆け出した。違う所は先程と全く変わらないスピードだという事だけ。

 

「ッ⁉」

 

 そん事に驚くディルムッド。だが彼も英雄に名を連ねるもの。直ぐに頭を切り替え、槍を持つ手に力を込めた。相手を一撃で屠れるように。

 

『————ッ⁉』

 

 一瞬の擦れ違いの後、二人は剣と槍を振りぬいた姿勢を保っていた。

 

「————やっぱり、敵わないか……」

 

 肩口から斜めに血を吹き出して佑斗がその場に倒れる。彼が張った氷も徐々に解けだしていった。

 

「いや……貴公の刃は、確かに届いた」

 

 口から血を吹き出し、腹に大きな横一文字の傷を負ったディルムッドも力なくその場に倒れこんだ。

 そして二人の身体を光が包む。

 同時に脱落者を告げるチャイムが鳴る。

 

 

 

 

 

 佑斗とディルムッドが相打ったのを雷花は視界の端で確認した。

 彼女は旧校舎がある森の上空で現在二人の敵を相手にしていた。

 一人は中距離にいるユーベルーナ。もう一人はここからは遠距離に当たる校舎の屋上にいる真名。

 ユーベルーナ一人ならば雷花は楽勝とは言わずとも普通に勝てた。現に今も爆破魔法を使った後でスキが出来たユーベルーナ向かって、文字通りの雷速で移動して拳を叩き込もうとしている。しかし急に方向転換してその場を離れた。一拍後に先程まで雷花がいた場所を弾丸が通り過ぎる。

 

「ああもうっ! さっきからうっとおしい!」

 

 いら立ちを隠そうともせずに雷花は怒鳴る。

 一応雷を飛ばして攻撃することもできるが、それだと彼女の障壁に阻まれる。物理攻撃なら障壁を粉砕したうえでダメージを与えることが出来るが真名に妨害される。八方塞だった。それ故にイライラしている。

 

「正々堂々勝負しろ! この卑怯者っ!」

 

「卑怯で結構。ライザー様の幸せの為なら、私は喜んで汚名を被りましょう」

 

 実力では劣るユーベルーナが雷花に優勢な理由、それはこの戦いに対する思いの違いだった。もちろん二対一ということもある。

 ユーベルーナはこの戦いに全力全開で挑んでいる。いくらライザー眷属が全体的な質で勝っているとはいえ、負ければライザーは望まぬ結婚をさせられ、彼女の親友は妾と言う立場に落される。親友はそれでも彼の隣にいられるならいい、と言いそうだがユーベルーナは耐えられない。親友がそんな立場にいるのが耐えられない。だから彼女は今必死に戦っているのだ。親友と主の幸せの為に。

 対する雷花は、ユーベルーナ程このゲームに乗り気ではない。勿論全力でやっている。やってはいるがそれだけだ。彼女ほど死ぬ気ではない。雷花からすればこの騒動は所詮他人事だ。いくら自分の主のでも自分のではない結婚問題にはモチベーションが上がらないのが彼女の本音だった。

 つまるところ、ユーベルーナと雷花の差はモチベーションの問題だった。それが二人の実力差を失くし、ユーベルーナが優勢になっている理由だった。

 

 ズザァッ!

 

 ―——だが勿論雷花にも仲間はいる。

 

『ッ⁉』

 

 突如校舎と二人の間に巨大な幅広の剣が空高く聳え立った。その剣は聖なるオーラが漂っている。

 それを見た二人の反応は早かった。

 ユーベルーナは大量の水属性の魔法を雷花に向かって発射。

 雷花は全身を帯電させながらユーベルーナに向かって突っ込んだ。

 

「このっ‼」

 

「アアアァァァァァァ‼」

 

 結果など言うまでもない。ユーベルーナの魔法は雷花に当たった瞬間にすべて水蒸気になり、咄嗟に張った障壁も雷花に易々と破られて、腹部に雷付きの拳を貰った。

 跳ぶことが出来なくなった彼女は体を光に包まれながら落ちていく。それを雷花は空中に佇んで見下ろしている。

 だから気づいた。ユーベルーナが笑っている事に。

 

「————置き土産です」

 

 そう言いながら彼女が指を鳴らすと、雷花の周囲の水蒸気が水に戻り巨大な立方体を作ってその中心に雷花を閉じ込めた。

 だが雷花は焦らない。今の彼女は帯電している事によって水を電気分解させ、電熱で蒸発させることができるからだ。

 事実、彼女の周囲の水は気体になっていき———

 

 ドゴォォン‼

 

 ―———爆発した。

 

 

 

 

 

 爆発があった時、リアスはアーシアと一翔、それから途中で合流した白音とジャンヌらと一緒に生徒会室を目指していた。

 

「今の爆発は……」

 

「ユーベルーナとか言う奴の攻撃ね。音の大きさからいって、爆発の規模も大きいわ」

 

 不安そうに呟くリアスに対して、ジャンヌは冷静に状況を判断している。

 

「もうすぐ生徒会室の前を通るわ。伏兵がいないとも限らないから気を引き締めなさい」

 

「分かってるわよ」

 

 ジャンヌに注意されたリアスは、不貞腐れながらも彼女の言葉に従う。

 

「安心してください。伏兵なんていませんわ」

 

 突然前方から聞こえてきた声にリアス達は臨戦態勢になる。

 彼女達の目の前五メートルほどの距離の所に縦ロールでフリルの付いたドレスを着たお嬢様がいた。

 

「レイヴェル・フェニックスね」

 

「ええ。お久しぶりですリアス様」

 

 リアスの確認に、レイヴェルは素直に頷いて優雅にお辞儀する。その動作はとても洗練されている。殺気立っているこの場には不釣り合いだが。

 

「屋上にライザーがいるんでしょう。私達は彼に用があるの。だから其処を退いてくれないかしら」

 

 リアスは平和的に話し合いでレイヴェルに引いて貰うつもりだった。それはこれから義妹(仮)になる少女との間に余計な確執を生みたくなっかたというのもある。だが最大の理由は————

 

「お断りいたしますわ。どうしても通りたいのでしたら超越者(わたくし)を倒してお通り下さい」

 

 ―————彼女が世界に五十人といない超越者の一人だからだ。

 彼女から放たれるプレッシャーは、制限を受けているとはいえ超越者の名に恥じないもの。

 この世界には一誠の影響か、原作よりも超越者の数が多くなっている上に、修行したことで超越者と同じレベルまで到達した『覚醒者』というものまでいる。原作以上のインフレだ。

 だがレイヴェルの場合はちょっと違う。彼女は憑依転生した者だ。分類で言うならジャンヌに憑依転生した彼女と同じになる。

 そんな彼女はこの原作を知らない。ただ危険な世界だという事は自分を転生させたものから聞いたので、転生特典を(彼女が考える中で)強力なものにした。結果超越者レイヴェル・フェニックスが誕生、という訳だ。

 

「———と、言いたいところですが」

 

 そんな言葉と共に、レイヴェルから放たれていたプレッシャーが消える。

 

「リアス様とアーシア様そして一翔様はどうぞお通り下さい。この先にある階段を屋上まで上ると、そこにお兄様が言ますわ」

 

 突然身体の半分を引いて道を譲るレイヴェルにリアス達は困惑する。

 

「……どういうつもり?」

 

「別に。ただそれがお兄様からの指示、というだけですわ」

 

 リアスは警戒しながらも一翔とアーシアを伴ってレイヴェルの横を通る。

 彼女達がレイヴェルからある程度離れた所まで行くと、レイヴェルの後ろの床から氷が生えてきて廊下を塞いだ。

 

「あら、私達も通してはくれないのかしら?」

 

「残念ですけど、お兄様に言われたのはあの三人だけですので」

 

「随分兄の命令に忠実なのね」

 

 ジャンヌが刺々しく言うと、レイヴェルは屈託のない笑顔で言った。

 

「勿論です。お兄様であり王であられるお方ですから。それに私は、お兄様を尊敬しており、敬愛しており、憧れています。そんな人の命令ならなんだって従いますわ」

 

 その言葉には一種の狂気が含まれていた。

 

「……ブラコン」

 

「ええブラコンですが何か? そう言うあなたも兄のような存在である一誠様にベッタリだと聞いてますが。ブラコンの白音さん?」

 

 瞬間レイヴェルと白音の間で火花が飛び散った(比喩抜きで)。

 それを傍から見ていたジャンヌは原作でなくてもこの二人は仲が悪いのね、と他人事で考えていた。

 

「ではこの勝負で勝った方が、真のお兄様愛を持っている者ということで。負ける気がしませんわ」

 

「……それはこちらのセリフです」

 

 冷気を纏い構えるレイヴェルと気を体内に満たしながら腰を落とす白音。ジャンヌを蚊帳の外に追い出して、二人はそれぞれの力を使い相手を攻撃する。

 

「貫きなさいっ!」

 

 先制攻撃はレイヴェルだった。彼女が白音に手を向けて叫んだとたん、彼女の周囲の床から剣山の様に鋭い氷がはえて来て串刺しにした————様に見えた。

 

「……ぶっ飛べ」

 

 刺されたのは残像で、本体の白音はレイヴェルの後ろに回り込み気を集中させた掌底を彼女の背中に打ち込んだ。更に接触部分からはバチバチと火花が散る。

 

「ガハッ⁉」

 

 その衝撃でレイヴェルは肺の中の空気を強制的に吐き出され、白音に対して大きな隙を見せる。しかし白音は追撃をしないでレイヴェルから距離を取る。そして彼女が、先程レイヴェルを殴った手を見てみると表面が薄く凍っていた。

 

「……触れたら問答無用で凍結ですか。面倒な能力ですね」

 

「正確に言うのなら、『触れる』ではなく『私に近づく』ですわ」

 

 白音は手の氷を、火車の炎で溶かしながら呟いた。

 遠ければ永遠と氷が襲ってきて、近づけば近づくほど体が凍っていく。確かに面倒な能力だ。

 

「……ですが、魔力は奪えました。……感卦法」

 

 レイヴェルから奪った魔力を使い白音は再び感卦法を使う。更にその両腕が白い炎に包まれていく。

 

「……浄化能力を持つ火車の炎です」

 

「流石に、それをくらえば私でも危ないですわね」

 

 その炎を見た後のレイヴェルの判断は素早かった。白音との距離を一定以上に保ち、ひたすら氷による中遠距離攻撃を繰り返す。

 対する白音は、迫りくる氷を両腕の炎で溶かしながらレイヴェルに迫る。

 だがここは廊下だ。しかも屋上へと続く道はレイヴェル自身の氷で覆われているので其方には行けない。

 

「……この距離なら外しません」

 

 遂に懐に潜り込んだ白音が、白く燃えるその拳を彼女の腹にぶち込んだ。

 

「———————ッ⁉」

 

 それをまともにくらったレイヴェルは、まず衝撃で肺の中の空気を強制的に吐き出され、次に白音の腕が貫通し炎の熱でその周囲も溶けて腹に大きな穴が開いた。

 白音は素早く手を引くと、両腕を交互に使い連打を浴びせていく。相手が不死鳥故の手加減のなさだった。

 

「……これだけ打ち込めば———」

 

 少し距離を取った白音は、感卦法を解除し肩の力を抜いてそう呟く。確かに浄化の力を持つ炎を悪魔であり氷そのものでもあるレイヴェルにかなりの数浴びせれば、いくら不死鳥と言えどもひとたまりもない。そう……普通の不死鳥ならば―——。

 

「………ッ!」

 

「全く、いくら不死身が相手とはいえ容赦がありませんわね」

 

 砕けて粉々になっていた氷が、一つに集まりレイヴェルの形になる。そして透明な氷に色がつくとそこには無傷のレイヴェルが平然と立っていた。

 

「今の連打は、私以外のフェニックスでしたら死ぬかリタイアしていましたわよ」

 

「……そのまま砕けていればよかったのに」

 

「残念ながらそれは無理ですわね。私はフェニックスの突然変異ゆえに氷があればそれだけで復活できますし、超越者でもあります。超越者のタイプで言うと、サーゼクス王と同じタイプですわ」

 

「……つまり、あなたは氷そのもの、と」

 

「ええ。私は氷を司るフェニックス。その力は私が超越者であるゆえに物理法則でさえ凌駕しますわ。ですから氷を支配下に置く、という意味ではセラフォルー王よりも断然上ですわ。まあ、まだまだ未熟ゆえ至らぬところが多々ありますけど」

 

 レイヴェルの説明を聞いた白音は、素直に面倒くさそうだと思った。もっと仙術を使いこなせればやり方はいくらかあったのだが、生憎彼女は彼女の姉と違って術系統が得意ではない。出来る事は物理で殴る、それくらいだ。

 だが、白音はそれを嘆かない。一時期はその才能のなさを恨んだりもしたが、今は心の整理をつけているのでもうそう思う事は無い。なぜなら———

 

「……分かりました。復活できなくなるまで、殴り続けます」

 

 ―———彼女は、彼女のできる事をやればいいのだから。

 

 それから二人の戦いは、同じことを繰り返すだけの単調なものになっていった。白音が接近し浄化作用のある炎を纏った拳で殴る。ひたすら殴る。それをさせまいと、レイヴェルは氷を操って白音を攻撃する。ただそれの繰り返しだった。だが消耗しているのは白根ただ一人。まあ、当然と言えば当然だ。二人ともゲームに出る為に制限を受けている。その制限は彼女達が持つその種族固有能力以外を制限している。簡単に言うと、レイヴェルはフェニックスの能力以外、白音は火車の能力以外だ。故に持久戦になればレイヴェルに分があるのは明白。

 

「……ハァ……ハァ……」

 

「どうしましたの? もう息が上がっていますわよ」

 

 二人の攻防が続いて数分。たった数分にも拘らず白音は肩で息をするほどに疲労していた。

 

「……何で……リタイアしないんですか?」

 

 対してレイヴェルは、呼吸を乱すどころか平然としていた。戦闘が始まる前と同じように。

 浄化の力を持つ炎で殴打を受けても平然と復活するレイヴェルに対して、白音は心底疑問に思い小さく呟いた。

 

「簡単ですわ。私が超越者であるが故の副作用ですわ」

 

「……副作用…?」

 

「ええ。普通の枠には当てはまらない、という超越者の特性がフェニックスの固有能力にまで影響したという訳ですわね」

 

 そうレイヴェル・フェニックスは完全に不死身だった。勿論ゲームに参加するために二つの条件が課せられている。

 

 一つ目…力を制限する

 

 二つ目…二十秒以上気絶もしくは十秒以上心肺停止していた場合問答無用でリタイア

 

 この二つだ。

 別にライザーは出なくていいといったのだが、レイヴェル本人が彼の眷属になってでる事を熱望したためこのようになった。

 

「……完全な不死身とか、チートすぎます」

 

 白音のボヤキも尤もだ。

 

「……ですが、私にも負けられない理由があるんです。故に勝たせてもらいます」

 

「悪いですけど、それはもう無理ですわ」

 

「……え?」

 

 パチン

 

 レイヴェルが指を一度鳴らした瞬間、白音の身体の至る所から真っ赤な氷の棘が生えてきた。

 

「〰〰〰〰〰〰ッ⁉⁉」

 

 そのあまりの痛みに、彼女は声にならない絶叫を上げた。

 白音の身体から生えてきた氷の棘の正体は、彼女自身の血液。レイヴェルはそれを自らの力で氷の棘に変えて白音の体内から生やしたのだった。

 

「………このくらいで……リタイアする…訳には———」

 

「残念ですが、その状態になった段階で既に勝負はついていますわ。それに次にあなたがしようとしている事も分かっていますしね」

 

 パチン

 

 そう言ってもう一度レイヴェルが指を鳴らした途端、白音の身体が氷の棺に閉じ込められた。閉じ込められる直前、白音の身体全体から例の白い炎が噴出しそうになっていたが、それごと凍らされている。

 

「さて……お待たせしましたわ」

 

「別にいいわよ。一対一の戦いに手出すほど野暮じゃないつもりだしね」

 

 ジャンヌは寄りかかっていた壁から離れ廊下の真ん中へ移動しレイヴェルと対面する。

 そして彼女の後ろでは氷漬けになった白音が淡い光に包まれていった。

 

『リアス・グレモリー様の戦車代理。一名リタイアです』

 

 白音が退場したことにより、廊下にはジャンヌとレイヴェルの金髪二人だけが残った。

 

「さっきの戦いを見て改めて思ったわ。……手加減はいらない、てね」

 

 ジャンヌの手に一本の聖剣が握られる。

 

「その剣は……」

 

 その聖剣を見たレイヴェルの瞳が見開かれる。

 

「あら意外ね。このエクスカリバーを知っているなんて」

 

 ジャンヌの手に現れたのはかの有名な聖剣エクスカリバー。もっと細かく言うならば並行世界のエクスカリバーだ。

 

「ええ。昔一誠様が家に来た時に見せてくれましたの」

 

 二人はのんびり話している最中に建物が大きく揺れる。レイヴェルと白音の戦いのときも揺れてはいたが、それよりも大きな揺れだ。

 

「どうやら、お兄様たちの戦いも佳境を迎えたようですわね」

 

「そのようね。それじゃあ……こっちも始めましょうか!」

 

 そう言うと同時にジャンヌはレイヴェルに向かって駆け出す。

 それに対してレイヴェルは、白音に対してやっていたように氷の棘で攻撃する。

 ジャンヌはそれを聖剣で迎撃することなく、軽業師の様にひょいひょいと躱してレイヴェルに接近する。

 

「⁉ 早いっ!」

 

「当然でしょ。騎士だもの」

 

 一瞬で目の前にまで来たジャンヌにレイヴェルは僅かに怯んで後ずさりするが、背中が自ら塞いだ氷の壁にさえぎられてしまう。そのスキを突きジャンヌはレイヴェルが掲げていた腕を肩の所から斬り飛ばす。

 

「〰〰〰〰〰〰ッ⁉ ああぁぁぁあああああ‼」

 

「叫んでるところ悪いけど、さっさと決めさせてもらうわ」

 

 肩を押さえながら絶叫するレイヴェルに向かって、ジャンヌは聖剣を上段から振り下ろした。

 

「ッ⁉ チッ!」

 

 しかしそれはレイヴェルを両断することなく空を切った。

 急いでジャンヌは上下前後左右の全方位を確認するが、レイヴェルの姿は全く見当たらない。

 

(今の一瞬で移動した……? 魔方陣も使わずに?)

 

 前世で色々なアニメや小説を読んでいた為に、この世界では本来ありえない手段がジャンヌの頭をよぎるが頭を振ってそれらを否定する。

 

(彼女は転生者だから別世界の移動系能力を持っている可能性もある。それに一誠がなんかの能力を貸したって可能性もありそうね。でもだったらなぜ白音との戦いで使わなかったのかしら……?)

 

『全く、いくら私が無限に再生できると言っても痛いものは痛いんですのよ』

 

 突如として聞こえてきたレイヴェルの声に、ジャンヌは周囲をせわしなく見回すが本人の姿は何処にも見えない。

 

『まさかこの手を使わされるとは思いませんでしたわ』

 

 その言葉と同時に、廊下を塞いでいた氷が中心から左右に割れて奥からレイヴェルが現れた。

 

「魔力を使った痕跡はなかったから、その氷をすり抜けたってところかしら。随分あなたの力は応用が利くのね」

 

「自然系の超越者としてはこのくらいは朝飯前ですわ」

 

 ジャンヌの皮肉にレイヴェルは笑って返す。

 

「じゃあ、こういう時はどうするのかしら?」

 

 床・壁・天井かのそれぞれから聖剣がそれぞれの場所と平行に生えてきて辺り一面を埋め尽くした。

 

「どう? これでさっきの移動はできないんじゃないかしら」

 

「確かにそうですけど、私の戦闘力が低下したわけではありませんので問題ないですわ」

 

 また二人は戦闘を始める。

 ジャンヌはエクスカリバーを握っている手とは逆の手にもう一本聖剣を作って二刀流で攻撃する。

 対するレイヴェルは、氷で攻撃するだけでなく本格的に魔方陣を用意て魔法を行使し始めた。

 

「あら、普通の魔法も使えるのね。てっきり氷を使って遠くから攻撃して来るだけだと思ったわ」

 

「あなた程度には必要ないと判断して使わなかっただけですわ」

 

 その口喧嘩? の後は二人の攻撃の威力が上がった。ジャンヌはヒットアンドウェイで攻めていたのに、多少傷を負っても無理矢理攻撃に移る様になった。レイヴェルも防御をある程度捨てて氷や氷魔法でドンドン攻めている。

 次第に二人の服や体には無数の傷が出来ていく。それでも急所にはどちらも傷を負っていない。

 

「ハッ⁉」

 

「ッ!」

 

 上段から思いっ切り振り下ろされた聖剣がレイヴェルが持っていた氷の半ばまで食い込む。

 レイヴェルは腕大きく横に振ってジャンヌを弾き飛ばす。桟敷飛ばされる瞬間に、ジャンヌは自ら後ろに跳んで距離を取る。彼女は着地すると同時にレイヴェルに向かって駆け出して、彼女に休む暇を与えない。更に、ジャンヌが一歩踏み出すたびに床や壁や天井から聖剣が生えてきてレイヴェルの邪魔をする。

 

「ああもうっ! 鬱陶しいですわね!」

 

 レイヴェルは叫ぶと、前後上下左右に向けて氷の棘を生み出す。それらは聖剣を砕きジャンヌに迫る。

 

「……今更な攻撃ね」

 

 しかし彼女はそれを易々とエクスカリバーで切り裂いていき、そのままレイヴェルへと迫る。

 迫りくるジャンヌを見てもレイヴェルは狼狽えることなく不敵に笑う。

 

「それは悪手ですわ‼」

 

 自分の手の内に自ら飛び込んできたジャンヌがおかしくて、レイヴェルは飛び切りの笑顔を浮かべながら氷を操った。

 左右に別れた氷の内側から、アイアンメイデンの内側の様に太い棘が無数に生えてジャンヌを挟み込むために内側に閉じていく。

 

「そんなの……覚悟の上よ‼」

 

 力強く地面を踏み込んだ彼女は、槍投げの要領でエクスカリバーを思いっ切り投擲する。ご丁寧に刃の部分をレイピアの様に鋭く刺さりやすくして。一連の動作に一歳の躊躇いは無い。

 更に、レイヴェルの周りの地面から数多の聖剣が彼女を貫かんと迫って来た。投げられたエクスカリバーと氷の操作に気を取られていた彼女は、それらの聖剣をもろにくらってしまう。

 

「グゥ……。———ですが、ただではやられませんわ!」

 

 レイヴェルは自身の身体が光り輝いているのに気付いたが、最後の悪あがきとばかりにジャンヌの左右から迫っていた氷を思いっ切り閉じた。

 当然ジャンヌにそれを避けられる筈も無く、氷の棘に串刺しにされ彼女の身体は光り輝く。

 

「残念。相打ちですわね」

 

「そうね。でも私としては最低限の義理は果たしたからいいわ」

 

 最後に短く言葉を交わして、彼女達はフィールドから転移した。

 

 

 

 

 

 リアス達が屋上に着くと、そこには『王』のライザーと『女王』の迦楼羅と『兵士』の真名が待ち構えていた。

 

「覚悟しなさいライザー! この勝負に勝って私はあなたを手に入れるわ!」

 

 ライザーを鋭く指さしながら、リアスは意気込んだ。

 

「ふむ……では私はそこの『女王』様と戯れている事にするよ」

 

 体中ボロボロになりながらも雷花が現れた。

 

「あんたは、さっきの狙撃ヤローか。いいよ相手になる」

 

 支給されたフェニックスの涙を使わずにアーシアに傷を治してもらった雷花は、悪魔の翼をはばたかせて校庭の方に向かう。真名はそれに無言で付いて行く。

 

「じゃあ、お前達の相手は俺になるな。遠慮しないでどっからでもかかって来い!」

 

 炎を纏いもせずただ拳を構えるだけのライザーの姿はリアスのプライドを刺激する。プライドが高い彼女は、いくら相手が格上であっても明らかにこちらが舐められていると分かれば、自分が格下であるのもお構いなしに相手に全力で戦う事を要求する。しかし今は、結婚という人生の一大イベントが掛かっている所為か端も外見もかなぐり捨てて相手の好意に甘える。

 

「イッショー、今のうちに溜めておきなさい」

 

「はい、部長」

 

「アーシアは後方で待機。私達が危なくなったら回復のオーラを飛ばしてちょうだい」

 

「はい!」

 

 今では二人しか居なくなった眷属に自身が最善と思った指示を飛ばす。その姿に、ライザーは眷属を持ったばかりの頃の自分を思い出して感慨にふける。

 だがそれとこれとは別だし、これは実践形式のレーティングゲーム。かかって来い、と言ったからといって待っている必要は全くない。故にライザーは倍加を溜めているイッショーに向かって駆け出した。

 

「うおぉっ⁉ そんなのありかよ⁉」

 

 ライザーの蹴りを間一髪のところで避けた一翔は、彼の行いを非難する。

 

「何を言うか。これはゲームであっても遊びではないんだぞ。いくら俺が『かかって来い』と言ったからといって、お前達が向かって来るのをわざわざ待っている訳がないだろう」

 

 正論過ぎて一翔は反撃できない。

 

「イッショー、倍加は溜まった?」

 

「はい! もう十分溜まりませした!」

 

 ライザーの猛攻を紙一重で避けながら、一翔はリアスに譲渡しようとする。しかしそんな事をライザーがさせるはずがない。彼の一翔への攻撃は両手両足をフルに使ってますます激しいものとなる。

 

 ドゴォン!

 

 轟音と共に校舎が大きく揺れる。

 

「っとと」

 

(今だ!)

 

 揺れの所為でライザーの意識が一翔から一瞬逸れた隙に、彼はリアスの元へと駆け出した。対するリアスも一翔の元へ駆け出す。

 

「部長!」

 

「イッショー!」

 

 二人の伸ばした手が触れ合い、一翔が倍加した力がリアスに流れ込む。

 

「喰らいなさい!」

 

 両手をピストルの形にしてライザーへ向けたリアスは、人差し指の先から本物の弾丸と同じ形をした消滅の魔力の魔法弾を発射する。これは彼女が、貫通力向上・魔力消費量減少・連射速度上昇の三つを効率よく行うにはどうしたらいいかと考えた結果生まれたものである。まあ、魔力消費に関しては連射したら相応の魔力が減るのだが。

 最初はモデルガンや本物の拳銃に魔力を装填して打ち出そうとしていたのだが、生憎と彼女の魔力は『消滅の魔力』だ。装填した瞬間に銃本体が持たなかった。じゃあ魔力などで補強すればいいのだが、彼女達の中にそれを出来る者が居なく仕方なく手でピストルの形を作るという子供の遊びのような方法になったのだった。

 だが、見た目はあれでも威力は折り紙つき。いつもはリアスに厳しいジャンヌが感心したほどである。

 リアスが放った魔力の弾丸は、その殆どが外れて彼方へと飛んで行くが、数発はライザーの体を貫通してダメージを与えた。これは別にリアスの腕が悪い訳では無く、ライザーが指を向けられた瞬間に回避行動をとったからである。

 

「おいおい……随分厄介な攻撃だな」

 

 余裕そうに見える彼だが内心冷や汗ものだ。

 人間界に長くいた彼だから銃の恐ろしさは知っている。一度モデルガンを買って試し打ちした時はその威力に驚いたものだった。だから今回の事もリアスの手の形を見た瞬間、頭で考えるよりも体が反射的に反応していた。

 

「……部長、これからは俺が前に出るんで援護してください」

 

 一翔はリアスとライザーの間に割り込み拳を構える。

 

「分かったわ。でも、くれぐれも無茶はしないでね」

 

 リアスの言葉にうなずいた一翔は、ジグザグに動いてライザーをかく乱しながら向かっていく。

 ライザーは笑みを浮かべながらそれを迎え撃つ。

 魔力などの無粋なものは一切使わない拳と拳で殴り合う戦い。技量は圧倒的にライザーの方が上だが、一翔は根性で必死に食らいついている。だが、それも何時までも続くものではない。

 

 トン

 

 そんな軽い音と共にライザーの拳が一翔の腹に当たる。

 

「……?」

 

 その攻撃にもなっていない様な攻撃に一翔は首を傾げた。しかしすぐに現状を思い返して腕を大きく振りかぶってライザーに殴りかかる。一翔は気付いていなかった。ライザーが拳を当てる前に校舎の屋上を思いっ切り踏んづけていたことを。

 

 ドン!

 

「ッ⁉ ガッ………ハ!」

 

 そして一翔が殴りかかるよりも先に彼の腹を衝撃が突き抜ける。その所為で一翔はライザーを殴る事が出来ず吐血して蹲る。

 先程から一方的になぶられている一翔は、アーシアに回復してもらっても所々に傷が目立つ。それでも彼は立ち上がろうと足掻き、目には不屈の闘志を燃やす。

 

「……なんでお前はそこまで頑張るんだ」

 

 ライザーは彼とリアスの関係を知っているからこそそう問いかける。

 自分には直接関係ない主の結婚問題。それも眷属になったのはここ一月以内。そんなほとんど他人同然の主の為に頑張る意味が分からない。そう考えた故にした質問だった。

 

「そんなの…決まってんだろ……」

 

 息も絶え絶えで時折口から血を吐きながらも、彼は彼の心の内を素直に伝える。

 

「俺…が、部長の事を……好きだからに決まってんだろ。眷属としても…後輩としても…部員としても……そして男としてもな!」

 

 足が震えながらも、体がボロボロになりながらも彼は立ち上がった。

 

「—————イッショー……」

 

 そんな彼の姿にリアスは口に手を当てて涙を流す。申し訳なさと嬉しさから。

 リアスは一翔が自分に好意を抱いている事を薄々であるが気づいてた。気づいていた上で、あえて過剰なスキンシップを取り反応を楽しんでいたふしがある。どうせその感情は自分の身体欲しさの下心から来るものだろう、と思っていたから。

 彼女はその見た目で下心のある男を惹きつける。下心のある目で見られたら女性は誰でも嫌悪感を表すだろう。その割合が多いリアスの場合は、男に対して軽い拒否反応まで出るようになったくらいだ。

 だが一翔の場合は違った。彼のリアスの身体を見る目は良くも悪くも純粋なものだった。そして今聞いたリアス自身に対する想い。それの二つを聞いて彼に対する印象が間違っていた事を知る。

 

 主なのに眷属である彼を信じてやれなかった申し訳なさ。

 

 外見だけでなくちゃんと中身も見てくれた嬉しさ。

 

 この二つはリアスの一翔に対する想いと考えをちょっとずつ変えていく。

 そして一翔の想いを聞いたライザーも、彼に対する評価を改める。

 

「————なるほど。お前の覚悟は良く分かった……」

 

 一翔の言葉を聞いたライザーは静かに頷いた。そして真名と雷花が向かった校庭の方に目を向ける。

 

「どうやらあの二人の戦いは終わったようだ」

 

 ライザーが呟くとタイミング良くリタイアを告げるアナウンスがなる。

 

「此処じゃなんだし、どうせならもっとちゃんとしたとこで決着をつけるぞ。ついて来い」

 

 一方的に言い残したライザーは、迦楼羅をお姫様抱っこで抱えると校庭へと向かった。

 

「……イッショー、アーシアを抱えて来なさい。そしいてアーシアは短い間だけどイッショーを回復させてあげて」

 

「はい部長」

 

「わ、分かりました」

 

 リアスの指示通り一翔はアーシアを抱え、彼女は一翔の身体に手をかざして神器を発動させる。

 それを見たリアスは悪魔の翼を出して校舎の屋上から校庭へと移動した。

 

「……ねえライザー。もしかしてレイヴェル以外の全員も能力を制限しているのかしら」

 

「そうだ。全力で相手できなくて悪いと思っているが、このゲームを企画した両家の御当主や魔王様が決めたことだから逆らえなくてな……」

 

 申し訳なさそうに顔を俯かせるライザーに向かってリアスは首を横に振った。

 

「ううん、あなたが謝る事じゃないわ。それに私は別にその事を咎めている訳じゃ無いの。ただの確認よ」

 

「そうか……。全力で相手できないのは心苦しいが、お前達のこの二週間の努力は素晴らしいものだと思う。だからリアスの兵士、俺はお前を今持てる力をすべて使って叩き潰す」

 

 一翔を見て殺気にも似たやる気をぶつけるライザー。

 そのやる気に腰が抜けそうになるのを気力で堪えて、一翔はライザーと正面から対峙する。

 

「上等だ不死鳥野郎! 俺は絶対お前に勝って部長に幸せになって貰う!」

 

 わざと大きな声で言って、一翔は自身の身体の震えを誤魔化し自身を奮い立たせる。奮い立たせなければその場から逃げ出してしまいそうだったから。

 

「よく言った! 故にもう手加減はしないぞ!」

 

 ライザーの身体から朱い炎が噴き出してくる。リアスと一翔とアーシアは、熱気から顔を守るために手で顔を覆った。

 

『……ふむ、これは今のお前ではかなり絶望的な戦力差だな』

 

 低くて威圧感のある声が響いた。発生源は一翔の左手にある赤い籠手。

 

「ドライグ! 力を貸してくれるのか……?」

 

『さっきのお前の覚悟は、十七のガキではなく立派な男のそれだった。故に今回だけは力を貸してやる』

 

「本当か!」

 

『嘘は言わんさ。だから何を倍加するとか何に譲渡するかはこちらでやる。お前はただあいつをぶちのめす事だけを考えろ』

 

 頷いて籠手から視線をライザーに移す。

 

「行くぞ焼き鳥野郎」

 

「こいよ蜥蜴野郎」

 

 二人が動いたのは殆ど同時だった。一翔はライザーに向かって駆け出し、ライザーは一翔に向かって熱線を放つ。

 一翔の移動速度は、今までの間に溜めていた倍加を使って二倍になっているので、屋上の時よりも早い。更にドライグは、一翔の身体の『耐久力』『自然回復力』『筋力』もそれぞれ二倍にしていた。彼の魔力を操る才能を考えて魔力量を二倍にするより、そっちを二倍にした方がいいと考えたからだ。

 だがライザーも伊達ではない。先程リアスがやったように手をピストルの形にしてそこから熱線を打ち出していて、その狙いは正確だ。威力と貫通力はリアスより下だが、弾の速度と連射速度はリアスより早く更に狙いも正確。故に一発一発の威力が低いのを数と精密射撃で補っていた。威力が低いと言っても打ち出されるのはフェニックスの炎を圧縮したもの。生半可なものではない。ただリアスの『消滅の魔力』と比べると威力が低く見えてしまうだけだ。

 一翔だけならばライザーの熱線弾幕を避けられないが、今の彼にはドライグがついている。彼は籠手を扱いながら熱線の来る場所を的確に導き出して、一翔を被弾させないように誘導する。そのお蔭で一翔は、胴体や顔などの大事な部分には一発も被弾して無い。手や足には偶に当たるが、貫通する訳では無く掠る程度だ。

 

「ドライグさん⁉ さっきから手や足に掠ってんだけど⁉」

 

『この多さだ。それ位は我慢しろ』

 

 一翔の非難をドライグはバッサリと切り捨てる。

 そしていよいよ一翔の拳がライザーに届く位置まできた。一瞬の迷いもなく一翔は籠手の付いた左手を渾身の力でライザーに叩きつける。

 

「甘い!」

 

 だが、当然フェイントも何もないただのパンチが当たる筈もなく。逆にカウンターで回し蹴りを喰らった一翔は後ろに吹き飛ばされる。

 何とか体勢を崩す事だけは避けられたものの、ドライグの警告に顔をあげてみるとそこには炎を纏った拳を振りかぶっているライザー。避けるのは不可能と考えた彼は、籠手を着けている左腕が上になる様にして腕をクロスさせて身を守ろうとする。

 しかし結果だけ言えばそれは無意味に終わった。

 ———後ろから飛んできた魔力の弾丸によって。

 

「イッショー、私が後ろから援護するからあなたは気にせず前に進みなさい!」

 

「はい部長!」

 

 リアスの鼓舞に応えて一翔はライザーの方へ突撃する。

 一方のライザーは、弾丸を避けるために後退したもののダメージはゼロだ。よってリアスが一翔の援護をしようとも普通に殴り勝てる。

 しかしそれを良しと思わない人物がいた。

 

 ゴオォ!

 

「⁉」

 

「⁉」

 

 リアスが一翔の援護の為に、彼の後ろからライザーに狙いを定めた瞬間、彼らとリアスを遮る様に神々しい炎の壁が立ちはだかった。

 

「別にゲームだから援護を非難するつもりはないけどね。それでもやっぱり男同士の意地のぶつかり合いには余計な真似はしない方がいいと思うんだよね」

 

「それじゃあ、あなたが私の相手をしてくれるのかしら」

 

「別に構わないよ。私もただ見てるだけじゃあ暇だったしね」

 

 自然体でいる迦楼羅と彼女を睨んでいるリアス。最初に火蓋を切ったのはリアスの方だった。

 三度ピストルの形にした手を迦楼羅の方に向けて、魔力の弾丸を連射する。対する迦楼羅は、全身に魔力を浸透させて身体能力を強化して弾丸を避け始めた。ただ避けるだけで反撃をしてこない彼女を見たリアスは憤りを覚えた。お前なんかいつでも倒せる、と言っている様に見えたからだ。

 

「これならどうっ!」

 

 今度はしっかりと魔方陣を使い、魔力を行使したリアス。二つの魔方陣が彼女の頭の右上と左上に現れる。そこから射出されるのはバスケットボール大の消滅の魔力。

 

「連射性能が落ちるけど、これならどう!」

 

 自身に迫ってくる脅威を前にしかし迦楼羅は慌てない。始まった時と同じように自然体のまま体を動かし、数多の魔力弾を避けていく。

 

「どうしたのかね。これで終わり?」

 

「そんな訳無いでしょう!」

 

 リアスの叫びに呼応するように、迦楼羅の後ろから彼女の胴体目掛けて二発の魔力弾が迫って来た。しかし迦楼羅はそれを見ずにジャンプして避ける。魔力弾は勢いを失ったのか一度交差した後地面に当たった。

 

「これでも喰らいなさい!」

 

 リアスが右手で思いっ切り地面をたたくと、迦楼羅は身動きが出来なくなる。彼女の足元の地面には逆向きに描かれた五芒星が浮かび上がっていた。

 

「なるほど。悪魔的な意味がある逆五芒星での捕縛魔方陣というわけだね」

 

「いくらあなたでも対極に近いもので捕縛させられたら少しの間は抵抗できないでしょう」

 

「三十秒持たないと思うけどね」

 

「十分だわ!」

 

 そう言ってリアスが自身の手元に魔力で作ったのは弓と矢。ただし矢に込められている魔力は先の奇襲のものよりも少なく、急ごしらえで作った感が満載だった。

 

「くらいなさい! 『回転し貫通する消滅』!」

 

 迦楼羅に向かって飛んで行く必殺の矢。だが例え身動きができる状況だとしても彼女はこの矢を避けようとはしなかっただろう。もしこれで一度死んだとしてもリタイアにはならないからだ。

 勿論リアスもこの一撃で倒せるとは思っていない。だからちょっと彼女なりに手を加えた。

 

「弾けなさい‼」

 

 矢が迦楼羅の身体に刺さったタイミングを見計らって、リアスは矢に意識を集中させながら叫んだ。

 そして————、

 

 ボオオォォォン‼

 

「っ⁉」

 

 ―——矢の形をしていた魔力が球体状に急激に膨張した。球体の大きさは直径三、四メートルと小さいものの威力は消滅の魔力の名に違わないものだった。

 

「……やったのかしら?」

 

 肩で息をしているリアスは傍から見ても疲弊している事が丸分かりな状態だった。あの技に使う魔力量は保有魔力が多い彼女からすれば大した量ではないのだが、矢の形を維持するのに結構な集中力を使う。魔力に形を与える行為は使い慣れてくると片手間にできたり無意識に出来たりするが、そうならないうちは結構精神的に疲弊する。ここ二週間以内にこの技を覚えたリアスが当然その域に達している訳もなく、かなり精神的に参ってしまったというわけだ。

 

「……いやぁ~、今のは中々危なかったね。もう少し多く魔力がこもってたらリタイアしちゃうところだったね」

 

「っ⁉」

 

 後ろから聞こえてきた声に驚きながらもソフトボール大の魔力弾をぶつける。しかしそれは迦楼羅に躱され、あっさりと炎の檻に囚われてしまう。

 

「あれを受けてもリタイアしないとは……。少しバケモノすぎないかしら」

 

「いやいや、それはただ単に君の実力が低いだけだね。世界にはあれをくらっても無傷でいられる奴らはごまんといる、井の中の蛙大海を知らずだね。そんなことより、今はあの二人の戦いを見守るべきだね。あの戦いの結果によってこのゲームの結果も決まるんだからね」

 

 迦楼羅の視線の先には炎を纏ったライザーと、体中から紅いオーラが溢れている一翔いる。迦楼羅の言葉に従ってリアスも二人に目を向けた。

 

 

 

 一翔とライザーの基本的なスペックは比べるまでもなくライザーの方が上だ。上級悪魔と元人間の転生悪魔ということでそもそも大きな違いがあるし、今までの戦闘経験値も違う。ライザーは小さいころから魔力制御をはじめとして色々と戦闘に関する訓点をしてきた。対する一翔は、小さいころに近所の子供と喧嘩したり学校の友達と喧嘩したりと、そんな『お遊び』くらいしか経験がない。

 だから、一翔が膝を地についていてライザーがほとんど傷らしい傷がない状態なのも当然といえば当然である。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「………」

 

 膝をついている一翔は肩で息をしているが、ライザーのほうに呼吸の乱れはない。

 

『相手はかなり余力を残しているうえに、こちらはもうほとんど後がない。現状勝てる確率はゼロだな』

 

 一翔だけに聞こえるようにドライグが簡潔に状況を説明する。

 

『なんでだよっ! 何とかあいつに勝つことはできないのかよ!』

 

『現状じゃあどう足掻いても無理だな。お前と奴とじゃあ地力が違いすぎる』

 

 ドライグにキッパリと言い切られた一翔は、絶望に打ちひしがれる。

 

『だがm一矢報いる手段がないわけじゃあない。お前は、例え勝てる可能性がゼロでも、あいつに一矢報いたいか?』

 

『そんなの……当り前だろうが‼ 勝つことができないんだったらせめてあの整った面に一発入れてやる!』

 

 ドライグの問いに間髪入れずに答える一翔。その瞳には再び闘志の炎が燃えていた。

 

『お前の気持ちは分かった。では今から一矢報いるための作戦を教えるから奴の気を引きつけておいてくれ』

 

 その言葉に一翔は面食らった。

 ―——引きつけておいてって言われても、こっちはお前の話を聞きながらしなきゃいけないのに何をしろと言うんですかドライグさん⁉

 軽くパニックになっている一翔を無視してドライグは彼に質問を交えながら作戦を伝えていく。

 

「……兵庫一翔。お前はリアスの事をどう思っている?」

 

 だが、彼にとっては幸いなことにライザーの方から話しかけて来た。

 

「どうって……命の恩人で役に立ちたい人だ」

 

「違う。そういうことを聞いたんじゃない。お前は男としてあいつのことをどう思っているかと聞いたんだ」

 

「え? ええぇぇぇ⁉」

 

 一翔が予想していなかった方向からの質問に、彼は慌てふためいた。しかしすぐに落ち着くと改めに自分はリアスをど0う思っているのかと考え始めた。

 

(憧れの三大お姉さまの一人? 美人で優しい主様? それとも命を救ってくれた恩人……?)

 

 一翔はリアスに対する思いつく限りの肩書を挙げてみたが、彼の中でしっくりくるものは一つもなかった。

 

「熟考しているところ悪いが、こちらで勝手に解釈したことを言わせてもらうぞ。……お前はリアスのことが一人の男として好きなんだろう」

 

「っ⁉」

 

 ―――リアスのことが好き。

 ライザーにそう言われた一翔は、驚きはしたものの否定する気も肯定する気も起きなかった。つまり彼の中でリアス・グレモリーの扱いをまだ決めかねているということだ。

 一翔よりちょっとだけ長生きしているライザーはそのことを目ざとく感じ取った。

 

「まあ今はゲーム中だ、これ以上は聞くまい」

 

 そう言い捨てるとライザーは消していた炎を再び纏う。

 

「来い。そろそろ終わりにするぞ」

 

『―――――というわけだ。分かったな』

 

 ライザーが構えるのとドライグの説明が終わるのはほぼ同時だった。そして一翔はその場に立ち上がる。

 

「俺は、お前に絶対勝つ!」

 

 勢いよく啖呵を切って一翔はライザーに向かって駆け出した。

 対してライザーは、片手を地面につける。

 

「同じことの繰り返しではつまらないだろう?」

 

 ―———瞬間、地面のあちこちに直径一メートル程の魔方陣が出現しそこから火柱が次々と上がる。

 

『Explosion』

 

「よっ、とっ、はっ」

 

 触れれば火傷程度では済まされない熱量を持つ火柱を避けながら一翔はライザーに近づいていく。その身体能力は、先程の会話の間に溜めておいた倍加を使って向上されている。それだけなら上級悪魔にも匹敵するであろう。

 

「じゃあこれも追加だ」

 

 今度はライザーの後ろの空間に野球ボールより二回りほど大きい魔方陣が数多でてくる。そこから射出されるのは野球ボール大の炎の球。

 二倍以上になった攻撃に一翔はたまらず一旦下がる。しかし地面の魔方陣は一翔を追うように展開されて逃げられない。

 一方的な攻防戦が十分以上続いた。流石に籠手の能力で身体能力を上げていたとしても、十分以上全力で逃げるというのは疲れる。その証拠に一翔の動作にも粗がではじめてきた。火柱にはまだ当たっていないが、炎の球の方には何発か被弾した。

 

「っ⁉」

 

「チェック」

 

 被弾した影響で一翔は地面に手を着いてしまった。そのスキを見逃すほどライザーは甘くない。すかさず彼の下に魔方陣を展開し弾もその場所に集中させる。

 

「クソッ……タレガァアアァァァ‼」

 

『Explosion!』

 

 咆哮した一翔は、自身の目の前にピンポン玉くらいの大きさの魔力玉を作り出す。

 それは一翔の突発的な行動だったが、ドライグは貯めていた倍加を使い一翔の魔力量を増加させてしっかりサポートしていた。

 

龍王の砲撃(ドラゴンキャノン)‼」

 

 一翔がその魔力を殴りつけると、それは直径二メートルくらいの真っ赤なビームとなりライザーが放った魔法弾を消し飛ばして真っ直ぐにライザーのもとに向かう。

 下級悪魔の攻撃にしては威力は上々だがスピードはそこまで早くはないし軌道も一直線で躱しやすい攻撃。しかしライザーはそれを避けなかった。それどころか全身にうすくて密度の濃い炎を纏い、両腕をクロスさせて正面から迎え撃つ構えをとった。

 

「っ⁉」

 

『ほう……。中々男らしいな』

 

 その様子に避けられると思っていた一翔は驚き、ドライグは男らしいと感心する。

 そして一瞬の均衡の後ライザーはビームに飲み込まれた。

 

「やった……のか?」

 

『奴は不死身のフェニックスだぞ。そんなわけないだろう。それよりも楽観視する暇があったらいつでも動けるようにしておけ。仕込みは既に終わったし倍加も十分に溜まった』

 

「お、おう」

 

 ドライグの叱咤をうけた一翔は、今は煙が立ち込めていてさっきまでライザーがいた場所を注視する。するとすぐに煙は晴れて中からライザーが姿を現した。

 ライザーは服が多少汚れているものの、目立った怪我らしい怪我はなかった。

 

「今のは中々な一撃だった。魔力に関する才能がないと聞いていたが、意外とあるんじゃないか?」

 

 余裕をもって今の一翔の一撃を評価するライザー。その余裕は一翔よりも強いという自信から来るのか、それとも別の何かか。

 

「ウォオオオォォォォ‼」

 

 ライザーの言葉に返事をせずに一翔は雄叫びをあげながら全速力で突撃していく。

 それを見た瞬間、ライザーは残念なものを見るような目で一翔を見る。一翔が先程の攻防でのことを学習していないと思ったからだ。だが彼は一つ読み違いをした。今の一翔にはドライグがついているという点だ。ちょっと前まで普通の高校生だった一翔はともかく、ずっと昔から生きているドライグがそんなことをわからないはずがない。だからこの突撃には裏があるべきだとライザーは考えるべきだった。いや、考えてはいたのだろう。考えてはいても、それをとるに足らないものだと思って放置したのはいただけなかった。

 

「……残念だよ。兵庫一翔」

 

 高評価から一転して失望したライザーは、事務作業をこなすように淡々と魔方陣を地面に展開させて火柱を立たせようとする。

 それが一翔たちの狙いだとも知らずに。

 

『! 今だ‼』

 

「おう! 装備破壊(ドレスブレイク)‼」

 

 パリンという甲高い音とともにライザーが展開した魔方陣がひとつ残らず砕け散った。

 

「っ⁉ しま―――」

 

「遅ぇ!」

 

 とっさに次の行動をとろうとしたライザーだったが、既に一翔は目の前に迫っていてその左手には先程と同じくピンポン玉大の魔力の塊があった。

 一翔はそれごとライザーに張り手をして、籠手のおかげで向上していた筋力で無理矢理ライザーを弾き飛ばす。

 一翔の攻撃が当たる寸前にライザーは例の炎の鎧をまとっていた。そのため一翔は左手に重度の火傷を負ってしまったが、興奮してアドレナリンが出ているのか本人は気にも留めない。

 

装備破壊(ドレスブレイク)龍王の爆撃(ドラゴンボム)‼」

 

 ライザーがある程度離れたところで、一翔は魔力の塊がどうにかされる前にドライグの作戦を実行する。

 ドライグの作戦はいたってシンプルで、相手に密度の濃い魔力の塊を相手の体に触れつつぶつける。そのとき体に触れられずに防がれたら終わりだが、上手く触れながら魔力の塊を押し付けられたら何でもいいから距離をとる。十分に離れたら魔力の塊を何とかされる前に急激に膨張させて消し飛ばす。今回のライザーみたいに魔力を身にまとって防ごうとしたら、相手の体に障ることで条件が満たされる装備破壊(ドレスブレイク)を使って無防備にした後に消し飛ばす。というものだった。ぶっちゃけ今回のようにいくのはかなり稀だ。今回はライザーの油断とマグレが重なって上手くいったに過ぎない、とドライグは分析した。だが達成感を感じている一翔にこのことを言うのも野暮なので黙る。どうせ一翔は勝負には負けるのだから。

 

「よっしゃああぁぁぁ‼ やったぞドライグ!」

 

『バカっ! 油断するなといっただろう!』

 

「え?」

 

 ドライグの切羽詰まった声に一翔が間抜けな返しをした直後、彼は後頭部に衝撃を食らって地面に倒れこんだ。

 戦闘での疲れがたまっていた体はもうほとんど動かすことができない。更に籠手の能力ももう解けてしまった一翔は、何とか首だけを動かして後ろを見る。

 そこには案の定ライザーがいた。だが服はボロボロで体のあちこちは血が出ていたり炎がくすぶっていたりしている。

 

「今のは…いいコンボだった。そういえばちゃんと名乗っていなかった気がするな。俺はライザー・フェニックスだ。お前は?」

 

「兵庫、一翔」

 

「では一翔。今回は俺が勝ったが次はどうなるか分からない。……だからお前がもっと場数を踏んだらまたやろう」

 

「……そう…ですね。その時はまたお願いします。――――ライザーさん」

 

 ライザーの言葉を聞いた一翔は勝負に負けたせいか、それともリアスの役に立てなかったせいか涙を流していた。既に彼の体は半分近く透けてきている。

 

「部長……役に立てなくて、すいませんでした」

 

 その音場を最後に、一翔はフィールドから消えた。

 

「いいのよ。あなたはとても頑張ってくれたわ。ありがとう、イッショー」

 

 一翔の最後の言葉は蚊の鳴くような音だったけれど、自然とリアスの耳には届いていた。そして彼女は一翔がいた場所を見つめながら精一杯の感謝の気持ちを言葉にした。

 

「ライザー、私のわがままに付き合わせてしまってごめんなさいね」

 

「気にするな。年下のわがままを聞いてやるのも年上の務めだ」

 

 優しく笑うライザーにつられてリアスにも笑みがこぼれた。

 

投了(リザイン)します。私の負けです」

 

『リアス・グレモリー様の投了(リザイン)を確認しました。このゲーム、ライザー・フェニックス様の勝利です』

 

 ミレイフィアのゲームを〆るアナウンスが流れてゲームは終了した。

 




これにて対ライザー戦だか対リアス線は終わります。
この話を一話にしたためこんなにも長くなりました。全編後編くらいに分けていたら一月の後半には投稿できていたかもしれません。

この後は、観客席の人たちの事と試合後の選手たちのことに触れて原作二巻は終了になります。
おそらく(というより確実に)次の更新までにまた間が空くと思いますが、気長に待っていてくれたら幸いです。
でわ、これにてm(_ _)m


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大人 子供

今回で原作二巻に当たる内容が終わります。
といっても今回は試合後の話なので、後日談的な意味合いが強いです。


 

『リアス・グレモリー様の投了(リザイン)を確認しました。このゲーム、ライザー・フェニックス様の勝利です』

 

 ミレイフィアのアナウンスが流れた後、観客席にいた者たちは思い思いの行動に出ていた。ある者たちはゲームの内容についての感想を語り合ったり、ある者たちは選手たちの能力の高さに舌を巻いたり、ある者たちは自分が戦ったらどの様に対策をとるか考えたり、ある者たちは悪魔が聖獣と契りを結ぶことを批判したりしていた。

 

「グレモリー卿。今回はうちのバカ息子のせいでせっかくの話を白紙にしてしまい申し訳ない」

 

「頭を挙げてくれフェニックス卿。私と君の仲じゃないか。それに元々ライザー君はあまり乗り気ではなかった話だ。こちらこそ娘のわがままに付き合ってくれたことを感謝する」

 

 そんな中、グレモリーとフェニックスの両当主は今回の事についてお互いに思うことを話し合っていた。

 

「寛大なお心に感謝する。グレモリー卿」

 

「なに、既にお互いに純血の孫がいるんだ。そんなに気にすることじゃないさ」

 

 結構前から決まっていた婚約を蹴った形になったフェニックス側は、今回の事に関してはグレモリー側より立場が低くなったため下手に出て余計な波風を立てないようにしている。

 

「今は暗い話よりも子供たちの幸多き将来のことを喜ぼうじゃないか。ライザー君はいい嫁さんをもらったようだしね」

 

「それを言うならリアス嬢だって。頼りになる眷属たちに囲まれているうえに兵士の彼のことを少しながら意識しているように見えましたぞ」

 

「うむ。彼は近ごろの人間界では珍しく好青年のようだ。だが、あの強さではまだまだ娘はやれんよ」

 

「ふふ。だがリアス嬢ほどの年になると、貴殿のような《親バカ》とは距離をとるのではないかな?」

 

「うむ。それが最近の悩みでね。私が授業参観に行こうとすると全力で止めてくるんだよ。挙句の果てには授業参観の案内プリントを勝手に捨ててしまう。娘の親離れは嬉しい反面かなり寂しくなってしまうな」

 

「分かる。分かるぞ。うちのレイヴェルも最近私によそよそしい態度をとったりしてくるのだが、それに虚しさや寂しさを感じる。ちょっと強引にスキンシップをとろうとしたら超越者の力を使ってまで拒絶してくるんだよ。あの時は心身共に絶大なダメージを負ったなあ」

 

 その時の事を思い出したフェニックス卿の目は遠くを見つめていた。彼の話を聞いたグレモリー卿は、内心でリアスが超越者じゃなくてよかったとホッとしていた。

 

「父上、フェニックス卿。ほかの方々は既に帰宅されましたが、お二人はどうしますか? まだ談笑されるのでしたらメイドたちに飲み物やお茶菓子を用意させますが」

 

 二人の会話の合間を見計らってサーゼクスが話しかけてきた。

 

「おおそうだ、あなた様にも聞きたいことがあったのです。ルシファー様」

 

「何でしょうか? 私にこたえられる範囲でしたら何でも答えましょう」

 

「実は、超越者の力と向き合う方法を教えていただきたいのです」

 

「超越者の力と向き合う方法? 確認させていただきますが、この質問はレイヴェル嬢のためですよね?」

 

「ええ、そうです」

 

「見たところレイヴェル嬢は超越者の力をちゃんと使いこなしていたようだ。今更力の向き合い方など覚える必要がないのでは……?」

 

 少なくともゲームを見ていたサーゼクスの目には、レイヴェルは超越者の力をきちんと支配下に置き使いこなしているように見えた。

 

「同じ超越者ならルシファー様も経験がおありなのではありませんか? 強大すぎる力が自分の支配を離れ暴走し周りに甚大な被害を出してしまうのではないか、という《恐怖》にかられたことに」

 

「ッ! それ……は」

 

 フェニックス卿の問いを聞いた瞬間、サーゼクスの口の中からは急速に水分が失われていき視界がぐらついていった。彼がフェニックス卿の質問にイエスかノーで答えるならば答えはイエスだ。今は超越者としての力を存分に使い魔王の役職についているサーゼクスだが、なにも生まれた直後から力を使いこなせたわけじゃない。最初のころは魔力を使おうとするだけで暴走していたくらいだ。だが彼は力の使い方と力を使うときの心構えを一誠から教わり、《強大な力》という恐怖に対しては両親やグレモリー家のメイドと執事たちそして愛する人に支えられることによって打ち勝ってきた。

 サーゼクスはちょうど恐怖と一人で戦っていた時のことを思い出して体調が悪化したのだ。

 

「……失礼しました。つらいことを思い出させました」

 

 サーゼクスの変化に気づいたフェニックス卿が謝罪する。

 

「いえ……問題ありません。既に過ぎたことですから」

 

 数回深呼吸して体調を整えると、サーゼクスはフェニックス卿と正面から向き合った。

 

「つまり、レイヴェル嬢は力を使いこなしてはいるがいつ恐怖に押しつぶされて暴走するかわからない状態、ということですね」

 

「ああ、それであっているよ」

 

 レイヴェル・フェニックスの場合、力の使い方や使うときの心構えはサーゼクスと同じで一誠に習ったが、彼女には恐怖心と戦うときに支えてくれる人がいなかったのだ。たった一人を除いて。それは兄のライザー・フェニックスだ。

 彼は生まれてきた自分の妹が悪魔ならざるものだとしても普通の悪魔として接した。上の兄たちや両親は他人行儀だったりよそよそしく接したりするのに、ライザーだけは親以上に親身になって普通の兄妹以上に兄としての愛を注いだ。そしてレイヴェルが力を暴走させたときは身を挺して彼女を止めた。

 そんなライザーが一誠の修行中に行方不明になった時、レイヴェルの精神は恐ろしく不安定になった。ライザーがいなくなって二週間が過ぎるとフェニックス家全体の気温が平均で五度下がり。一ヶ月を過ぎると彼女の部屋は氷で覆われた。その頃すでにライザーの眷属でフェニックス家の門番をしていた美鈴に対してだけは少しだけコミュニケーションをとってはいたが、家のメイドたちやほかの兄たちさらには両親に対しても一切の接触をしようとしなかった。見かねた一誠がライザーがいなくなって一ヶ月半過ぎたころに彼のもとに連れて行かなかったら、今頃フェニックス家本堤は氷山の最深部にあったことだろう。

 その時のことを反省したフェニックス卿とその妻は、レイヴェルと向き合いライザー以外の彼女の心の支えになることを決意した。ついでにサーゼクスから力の向き合い方を聞きそれについてアドバイスするつもりでもあった。

 

「私は、逆にこの力がなかった時のことを考えました」

 

「なかった時のこと……?」

 

「はい。この力がなかったらどんな生活をしていて、どんな友がいて、周りの人たちとどんな風に接しているのだろうと。そう考えました」

 

 そこで一回サーゼクスは言葉を切った。

 

「この力がなかった時の《幸せ》には、確かに惹かれるものがありました。ですが、今まで生きてきた中でこの力がなければ出来ない事や守れない事もたくさんあった。それを思い出したらこの力も案外怖いものじゃないと思ったんです」

 

 そう言って胸の前まで持ち上げた自身の手のひらを見つめるサーゼクス。その顔には安らかな微笑みが浮かんでいた。

 

「この力は私の一部で、親以上に身近なもので、私自身でもあるんだ、と。そう考えたら恐怖心よりも安堵感のほうが大きかったです」

 

 そこで手のひらに落としていた視線をまたフェニックス卿に戻す。

 

「だからレイヴェル嬢に伝えてください。その力は確かに怖いかもしれない。でも今まで生きてきた中でその力がなければ出来なかったこともあったはずだ。それを思い出してほしい、とそうお伝えください」

 

「ありがたきお言葉。必ず娘に伝えましょう」

 

 サーゼクスの言葉を聞いたフェニックス卿は恭しく礼をする。

 

「話は終わったようですな。フェニックス卿、この後いっぱいどうですかな? 庶民的だがいい酒を出すお店を知っているんですが」

 

 ニヤリと笑ったグレモリー卿がお猪口を傾けるしぐさをする。

 

「おおぉ! それはいいですな!」

 

「では、私は選手たちにあった後そのまま冥界に帰還します」

 

 そう言い残したサーゼクスは、既にこれから行く店と子供たちの将来について話し合っているオジサン二人をしり目に部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 ゲームが終了してすぐに、リアスは一翔がいる医務室へと足を運んだ。今回のゲームで一番頑張ってくれたのは彼であると彼女は思っているし、ゲーム中に感じた彼に対する感情の正体も知りたかったからだ。

 

(後でジャンヌあたりがうるさそうだけど、そこは我慢するしかないわね)

 

 後から来る面倒くさそうなことを考えながらも彼女は一翔がいる部屋へと向かっていく。

 

(……ここね)

 

 係りの者に教えてもらった部屋の前で立ち止まると、深呼吸をして身だしなみを整える。彼女は意識していないかもしれないが、その姿は彼氏のお見舞いに来る彼女そのものだった。

 

 コンコン

 

「イッショー、私よ。入るわよ?」

 

「⁉ ぶ、部長⁉ ど、どうぞ!」

 

 リアスが来ることが意外だったのか、彼女の問いに答えた彼の声はうわずっていた。

 一翔に許可をもらったリアスはドキドキ高鳴る胸の音をうるさく思いながらも慎重にドアを開ける。

 リアスが中に入って見たのは、ベッドから上半身を起こしている一翔と今まで彼の世話をしていたナース服を着た美人の女性悪魔だった。

 

「でわ、私はこれで失礼します」

 

「あ、はい。どうもありがとうございました」

 

 女性悪魔が一翔に一礼すると、リアスの横を通り過ぎて廊下に出て行った。

 

「怪我はもう大丈夫?」

 

「はい! もうこの通りピンピンしてまっつぅ……イテテ」

 

「もう! そういう見栄はいいから今はおとなしくしてなさい!」

 

 大丈夫だとアピールするために腕を大げさに振り回した一翔だが、いくら悪魔の技術でもそこまですぐに治るわけもなく、傷に響いてうめいた。

 それを見たリアスは、出来の悪い弟に対する感じで一翔を叱りベッドに寝させる。

 

「あの……すいませんでした、部長」

 

「? どうしたのいきなり」

 

「その……ゲームに勝てなくて――――」

 

「気にしてないわよ」

 

「え?」

 

 目をそらしながら言いずらそうに言う一翔の言葉をリアスは遮った。

 リアスの言葉が意外だった一翔は驚いて彼女を見上げる。彼女の顔は少し寂しそうだったが一翔に優しく笑いかけていた。

 

「完全に立ち直ったわけじゃないけど、あの二人のラブラブっぷりを見てたら色々と諦めがついたわ」

 

 それはリアスが一翔の部屋に来るちょっと前のこと。

 たまたま通った部屋の中には、ライザーと迦楼羅がいて二人で笑顔を浮かべながら談笑していた。話の内容までは廊下にいたリアスには聞こえなかったが、二人が楽しくてとても幸せそうだというのは見ていたリアスでもすぐに分かった。

 天井のほうをボウッと見ながらはかなげに笑うリアス。

 彼女のそんな顔を見て一翔の中で何かが切れた。

 

「部長!」

 

「きゃっ。な、なによいきな―――」

 

 一翔はまだ全快じゃない体を無理矢理起こしてリアスの両手を自身の両手で力強くしかし彼女が痛くないくらいの力で握りしめた。

 

「俺、最強の兵士になります。なって誰にも負けないようにします! ……だからもう、そんな顔しないでください」

 

(今回は俺が不甲斐ないばっかりに負けて部長を悲しませちゃったけど、次こそは部長を悲しませないようにするぞ!)

 

 決意のこもった眼をしながら最後の一言は優しい笑顔で一翔はリアスに告げた。心の中では新たな決意をしながら。

 一方のリアスは、一翔の最後の笑顔を見た瞬間胸の中がポカポカしたようなフワフワしたような気持ちで満たされた。彼女はこの感情の名を知っている。だが……と自分に待ったをかける。

 

(ちょっと前までライザーの事好きだったのに、こんなに簡単に好きな相手が変わっていいのかしら? てゆうか一翔にこのことを言ったら尻軽女だと思われないかしら)

 

 ちょっと別な意味も入っているが全体的に見て彼女は今の状況にドキドキしていた。

 

(うおぉー! よく言った、よく言ったぞ俺!)

 

 一方の一翔は、普段ヘタレな自覚があった分好きな人に対して啖呵を切ったことに軽く興奮していた。

 結論を言うと二人とも別ベクトルだが興奮している、ということになる。

 

 

 

 

 

「う、うぅん。……あれ、ここは――――」

 

 穏やかな振動で白音は目が覚めた。顔を上げて周りを見てみるとどうやら彼女の通学路のようだった。

 

「気が付いたか。流石のお前でも能力を制限させられているときに出血多量になれば復活するのに時間がかかるみたいだな」

 

「‼ と……兵藤先生」

 

 一誠に声をかけたれたことで、彼女は今彼におんぶされていることを理解した。

 

「もういつも通りの呼び方でいいぞ。黒歌のせいで全校生徒に知られたしな」

 

 最近ずっと他人行儀な呼び方しかされてなかったからな、と心の中で悲しみながら白音にそう促した。

 生真面目な彼女は、駒王に入学する前に一誠に言われた『学校内や俺たちの関係を知らないやつの前では他人行儀な呼び方にすること』という約束をちゃんと守っていた。最も黒歌が一誠のことを速攻で名前呼びしたので、彼らの関係は全校生徒の知るところとなった。だから約束などあってないようなものなのだ。

 だが生真面目な彼女は一誠にいいといわれるまで、約束を守ると彼は分かっていた。だから今このタイミングで約束を無効化させる。これからする話は、白音の心にも少なからず影響を与えるであろうデリケートなものだから。デリケートなものだから《教師》よりも身近な《父親》として接したい、という一誠の親心だった。

 

「……父様」

 

「なんか、久しぶりに呼ばれるとむず痒いな」

 

 一誠の家族の中で、一誠の事を父親として扱うのは三人しかいない。黒歌と白音とヴァーリだ。そのほかの面々は対等に接したり、父というよりも兄に対するような感じで接している。そして一誠の事を《父様》と呼ぶのは白音だけだ。その白音も最近は兵藤先生と呼んでいたので、父様呼びは久しぶりだった。

 久しぶりに呼ばれた一誠は優しくて温かみのある笑みを浮かべる。おぶされている白音からは一誠の顔が見えないけれど、一誠の笑顔は何種類も何回も見てきた。だから彼が今どんな顔をしているのかは彼女は大体予想できる。

 

「今日のゲームは残念だったな」

 

「ッ⁉ ……はい」

 

 父様と呼んだあと白音が黙ってしまったので、仕方なく一誠のほうから話を振る。

 話を振られた白音は、びくついた後悲しみを含んだ声音で静かに肯定した。

 

「お互いの能力とコンディションが万全だったら勝てたと思うか?」

 

 あえて誰に、とは言わない。

 

「……分かりません」

 

 当然といえば当然な白音の答え。そりゃあそうだ未来予知などの力でもない限りそのような《もしも》の結末はきっぱりと予想できるものではない。

 

「だろうな。でも五分五分の勝負に持っていくことくらいはできるだろう。そのくらいはできるように育てたつもりだ」

 

「……まあ、それなら―――」

 

 一誠の言葉を控えめながらも肯定する白音。

 

「じゃあ次頑張ればいいさ。そん時は今日みたいに画面越しじゃなくて隣で応援してやるよ。イーリスたちと一緒にな」

 

 その言葉に思わず白音の頬が緩む。そうなったのを一誠に気取られたくなくて、彼女は彼の背中に顔をグリグリと押し付けた。

 

「いきなりどうした。くすぐったいぞ」

 

「……何でもないです」

 

 白音にとっては幸いなことに一誠はそれ以上言及してこなかった。

 それからしばしの間無言の時間が続く。

 

「……私は、父様たちの役に立てていますか?」

 

 白音は今日のゲームに負けたことでそのことが不安になっていた。

 一誠の家族は皆チート級に強い。一誠から譲ってもらった能力を抜いてもその実力は世界で100位以内には確実に入っている。そんな連中と一緒にいるせいで白音は以前から自身の強さに自信が持てなかった。その気持ちに今回レイヴェルに負けたことで拍車がかかった。

 

「戦闘とか荒事でなら目ぼしい活躍はないな。うちはお前以上に腕っ節が強いやつが大半だからな」

 

 一誠はこういう時物事を正確にただ真実だけを言う。そのことをわかっているから白音は一誠の言葉に落ち込む。なぜなら彼の言ったことはすべて事実なのだから。

 

「……やっぱり」

 

 分かっていたことだが、結構白音にはこたえた。

 自分と姉を助けてくれた恩人である一誠の力になりたくて彼女はいっぱいがんぱった。戦闘はもちろん、料理や洗濯などの家事もグレイフィアやレイナーレに厳しくも優しく指導を受けた。

 それでも彼女は一誠の役に立てていない。

 その事実が彼女の心に重くのしかかる。

 

「いや、それは戦闘とか荒事に限った話で別なところならちゃんと役に立ててるぞ」

 

「……え?」

 

 一誠の思いもよらない言葉に白音は目を丸くする。

 

「グレイフィアとレイナーレの手伝いで料理とか洗濯とかをやってくれているだろう。彼女たちもそれぞれの種族の方の仕事もあるから助かってるって言ってたぞ。それに他の奴らの話し相手になったりもしているだろう。家でグーダラしてるか戦ってるかだけの奴らが多い中で、お前は俺たちの力になってくれてるよ」

 

「………ッ!」

 

 その言葉を聞いただけで救われたような気がしたのは白音の気のせいだろう。だが胸の中にあったモヤモヤが少しだけ晴れたのは確かだった。

 

「……ありがとう、ございます」

 

「こちらこそ。いつも頑張ってくれてありがとう」

 

 赤くなった顔を見られたくなくて、一誠の背中にうずめる。お礼の意味を一誠は理解してないと思うけど、何かを察したのか彼もお礼を言った。

 それから二人は無言で夜の街の中を歩く。少しして白音は寝てしまったのが、背中と黒歌よりちょっとだけ小さい胸越しに伝わってくる鼓動で感じた。

 




次は原作三巻の内容に入ります。

感想くれたらうれしいです。


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