幽霊な彼と素直になれない私の奇妙な物語 (あるく天然記念物)
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ある日の奇妙な出会い
俺、ラブライブ一話たりとも観てなければ、一曲たりとも真面目に聴いたこと無いやん、って。
そうして始まったラブライブマラソン。
そしてついでに遊んで泣いたD.C.Ⅱ。
と言うわけで、ラブライブ全話一気観マラソンと最近涙を流したゲーム、D.C.Ⅱのとあるルートを記念して書きました。
二番煎じ感が半端ではないですけど、まあ退屈しのぎにでもしてくれたら幸いです。
というわけで、本編をどうぞ!
それは、高校に入学して数日がたった、ある日出来事でした。
桜が咲き誇り、街には新たな雰囲気を纏った風が流れる4月。
中学生という、国から義務として通わされた学校から、自ら学ぶことを決めた学校、高校へと進学をした私。
家業を次ぐことを考えたら、別段進学したことは珍しくない。むしろ当たり前だ。
私の両親は地元で有名な病院経営していて、一人娘の私は跡継ぎとして大学の医学部を卒業しなくてはいけない。別段そのことに不満はない。むしろ両親と同じ仕事をしたい気持ちの方が大きい。
だからこそ、将来へのスタートライン手前の高校で躓くわけにはいかないし、そもそも高校進学するにあたって不安が生まれるような生半可な勉強なんてしていないから、高校生になれたのはある種の必然だと言える。
決まった未来、定められた将来の前提があるからだろうか。私にとって高校は、まるで大学に行くまでの前座のような感じがしてならなかった。
通学路を楽しそうに、今日の授業は宿題あったっけ? とか、今日も頑張っていこう! などと言って歩いていく同級生や先輩たちと同じ様に学校を純粋に楽しめなかった。
どうせ三年生になれば嫌でも現実を見るのだ。高校生活で思い出を作ろうとも大学入試には何の役にも立たない。
そう自分に言い聞かせた。いや、そうしようとした。
本当は自分の気持ちなどとうの昔に理解してた。
私は……怖かったのだ。
ここで楽しんでも、所詮は三年間だけ。卒業してしまえば手放さなければならない。手放すときに悲しむくらいなら、いっそのこと求めなければいい。
何度も言うが、私の未来は決まっている。高校生活で好きなことに打ち込もうとも、最終的にはそれを捨てなくてはいけない。
そんな風に考え、生活を送る私に親しい友達はできなかった。まあ作ろうとも思わないから別に問題はない。
朝から晩まで勉強。両親の仕事を継ぐその時まで、私の生活は変わらないだろう。
そんな私ではあるが、人並みに趣味は持っていた。……なによ? なにか言いたげな雰囲気醸し出して。勉強ばかりな私にも趣味くらいあるわよ。ホント、イミワカンナイ……話がそれたわね。
私の趣味はピアノ。昔はバレエもしていた時期もあったけど、将来のことを考えてピアノだけに絞った。なぜなら医者になってもピアノは弾くことができるからだ。
しかし、やるからには徹底した事もあって、コンクールで何かしらの賞を貰えたり、多少作曲できるレベルに得意になった。
けれど、その趣味があんな奇妙な出会いを生み出すとは、今でも信じられない。
「はい、ありがとうございました。失礼しました」
高校に入学して数日。
私は勉強の息抜きに先生に頼んで音楽室を借り、ピアノを弾こうとしていた。
別に学校でなくても、家に帰れば学校のピアノよりも上等なピアノがあるが、どうしても家に帰ると勉強しなくてはというイメージが着いて純粋に楽しめないから学校で何曲か弾くことにした。やっぱりなんのしがらみもなく弾いてこそのピアノだ。
はやる気持ちを抑えながら廊下を歩く私。その音楽室までの道のりの途中、ふと耳に何かが流れ込んできた。
あめ………さ……いま───♬
ピアノの旋律と誰かの歌声。
それは音楽室に近づいていくほどにはっきりと、確かなものに変わっていった。
間違いない。音楽室で誰かがピアノを弾いて歌っている。ついでにピアノに関しては妥協しない私の耳に心地よく入ってくることから、弾いている誰かさんはかなりの腕を持っている。
だが、それは妙であった。別にピアノの腕に関して言っているわけではない。ピアノを弾いていること自体にだ。
なぜなら音楽室の鍵は誰でもない、今し方借りた私しか持っていない。つまり、私以外に音楽室に入ることは叶わないのだ。例外として理事長や校長先生なら予備としてのマスターキーを持っているかも知れないが、わざわざ音楽室でピアノを弾くとは考えにくい。そもそも入学式から日の浅いこの季節にそんな暇なんてないはずだ。
では、一体全体誰なのか。
さらに言うと、聞こえてくる歌声も奇妙であった。
最初聞こえて来たときは微かに聞こえる程度であったため判断できなかったが、音楽室目前になってきてその歌声をはっきり聞いてわかった。
男性の声だ。
高音質ではあるが、聞こえてくる歌声は間違いなく男性の物だったのだ。
私の通う高校、音乃木阪高校は音楽をモットーとした女子高。そう、女子高である。一部例外として男性の先生や非常勤の先生は少数ではあるもののいるが、音楽の先生は女性だ。つまり、音楽室で男性の歌声、そしてピアノの旋律を聞くことはほぼ不可能なのだ。
この時点で音楽室にいるのが不審者である可能性もあるため、職員室などに行くべきであったが、私は逆に音楽室への足を早めていた。
私の足を突き動かしたのは、純粋な興味であった。
聞こえてくるその歌声はどこか、自分が持っていない何かを運んできてくれるような感じがしたのだ。
より具体的には、ただ趣味で歌っているのではなく、今の私には持っていない、楽しむと言う感情。それを思い切り目の前に突きつけられたような錯覚さえ感じてしまった。
急ぎ足──もはや駆け出すに等しい勢いで音楽室へと向かう私。
そんな私が音楽室へとたどり着いてもなお、演奏は終わっていなかった。
自分の感情を抑えられないほどに揺さぶられた綺麗な音色が終わっていないことに嬉しさを感じつつも、その正体を探るべく、私は急いで音楽室の鍵を開けようとした。
感情が先走って鍵穴に鍵を入れるのにもたつき、必要以上の時間をかけながら鍵を開け、正体が何なのか、興味五割、恐怖五割でうるさく鳴り響く心臓の音を感じながら、扉を大きく開けた。
視線を迷わず音が鳴り響いているピアノに向ける。
そこにいたのは────。
『雨上がりの──♬ 坂道を──♬』
私とは大きく違う。
ピアノを心から楽しそうに弾き、歌っている男性であった。
真っ白なワイシャツとズボン。
身長は175はあるだろうか、スラリと延びた手足はピアノを弾いているのが凄く様になっていた。
髪は眩しいくらいに艶のいい黒のロングで、邪魔にならないためかポニーテールにしてあった。
けれどもどうしてだろうか。その姿全体が────霞がかかったように透けていた。
まるでピントがズレた写真のように、世界に対して不安定な姿。
一瞬、目が疲れたのかなと思い軽く瞼を閉じ、再度見てみても、目に映る姿は変わっていなかった。
明らかに普通じゃない。あり得るとしたそれは──この世ならざる存在。
しかし、この事が逆に私に答えをくれた。
なるほど、確かに“そういう存在”であれば、先生でもない男性が女子校にいて、なおかつ鍵のかかった音楽室で演奏することも可能だ。
謎が一つ解けたおかげで少しは落ち着きを取り戻した私は音が漏れないように扉を静かに閉め、彼の演奏が終わるまで、扉の前で聴くことにした。
今すぐにでも問いただしたかったが、それよりも最後まで演奏を聴きたい気持ちと、演奏の邪魔をしたくない気持ちが圧倒的に勝っていたからだ。惜しむのは最初から聴けなかったことだろうか。
『────♬ ……っふぅ』
優しく音が消えていき、彼の手が鍵盤から離れた。
それと同時に、私は拍手を彼に贈る。
「お疲れ様、凄く良かったわ。悔しいけど、もの凄く心に響いたわ」
『えっ?! だっ、誰?!』
今まで気づいていなかったのだろうか。
ピアノを弾き終えた彼は、とても驚いた声を出してこちらを見てきた。
私も演奏に夢中になれば周りが見えなくなってしまうが、目の前のそういう存在の彼も同じだということに少しおかしく感じ、ついつい笑みがこぼれてしまう。
そんな彼の側まで近づき、その瞳をしっかり見つめながら話しかける。
「誰って、それはむしろ私のセリフよ。ねぇ──“幽霊さん”?」
『──っ!』
彼の目が大きく見開く。
不確かな姿。
女子校で騒ぎにならずいる男性。
鍵のかかった音楽室で演奏する。
これらを満たす存在は──幽霊しかない。
これが、私の遭遇した奇妙な出会い。
私、西木野真姫は、人生で初めて、ピアノと歌が上手な幽霊と遭遇しました。
次の更新は未定だよ。
それとラブライブに関して作者はにわかです。
でも凛ちゃんやにこちゃん、真姫ちゃんがかわいいと思っています。
それと話は変わりますが、不思議な体験をしました。実は全話マラソンの後なのですが、気がついたらお財布の中身を気にしないでCD借りていたんです。一体俺の身に何があったのでしょうか!?
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