白雪姫と竜騎士 (シュイダー)
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白雪姫と竜騎士(上)

実は両想いなのにお互い言い出せない、友だち以上恋人未満の幼馴染み。
「私はいいと思う」



 そうちゃんに会いたい。

 目が覚め、不思議な喪失感を覚えたあと、姫河小雪(ひめかわこゆき)の頭になぜかそんなことが浮かんだ。

 少し前に小雪は、魔法少女となった。妄想とか、創作の話だとかそういったものではなく、現実に魔法少女となったのだ。魔法少女としての名前は、スノーホワイト。自分でつけた名前だ。

 (ちまた)で大人気のソーシャルゲーム、『魔法少女育成計画』。完全無課金でありながら、課金を前提としたそれらと比べてもクオリティが高く、人気になるのも当然と言えるものだった。そしてこの『魔法少女育成計画』には、ある都市伝説があった。何万人にひとりの割合で、本物の魔法少女になれるというものだ。

 小雪は、昔から『魔法少女』が大好きだった。

 可愛らしい魔法少女たちに心惹かれた。悪と戦う魔法少女たちの雄姿にも魅了された。

 自分と同じ、魔法少女好きの幼馴染みが親戚から借りてきた、昔の魔法少女ものも見たことがあった。画質は、確かに現代のものと比べると見劣りするが、魔法で人々を幸せにし、どんな危機にも立ち上がるその姿は、現代のものとまったく変わらないものだった。

 自分もいつか、彼女たちと同じように魔法少女になるのだ。男のため、なれたとしても魔法使いにしかなれないだろう幼馴染みにそう宣言して、悔しがらせたこともあった。

 年を重ねるごとに、同世代の者たちが『魔法少女』を幼稚なものだと切り捨てていくなかでも、小雪は『魔法少女』を愛し続けた。小雪にとって『魔法少女』は、自分の中の確固たる核、芯と言えるものになっていたのだ。

 魔法少女になって、みんなを助けたい。その思いは消えることなく、常に小雪の中にあった。他人に言えば馬鹿にされることはわかっていたため、それを言葉にすることはなくなったが、その思いを捨てることだけはしなかった。

 それだけ魔法少女になりたいと願い続けていた小雪が、『魔法少女育成計画』に手を出さないわけがなかった。

 とはいえ、本気で魔法少女になれるなどと信じていたわけではない。ゲームをしているだけでそんな存在になれるなどと本気で思うほど、小雪は子供ではないのだ。

 魔法少女になれるなんて嘘だろうなー、噂は噂でしかないだろうしなー、でも魔法少女のゲームって興味あるし、無料なんだからやってみるのも悪くないよね、ひょっとしたらほんとうになれるかもしれないし。そんな程度の気持ちだった。そこはかとない期待感がにじみ出ているように思えるのは気のせいだ。

 そしてゲームをはじめて約一ヶ月後、噂はほんとうだったと知った。

 鏡に映した自分の姿は、幼いころに思い描き、画用紙に実際に絵として書いたこともある、理想の魔法少女の姿だった。

 服装は、当時流行(はや)っていた漫画の主人公が通う学校の制服をモデルにした物で、色合いは『スノーホワイト』の名の通り白を基調とし、全体に花を散らしてある。

 姿も、変わっていた。小雪は、愛嬌があると言われたことはあるが、美人だと言われたことはない。小雪自身も、自分の容姿に対して、そんな感じだろうと思っていた。

 鏡の中の小雪は、美しいと形容するしかないほどのものになっていた。

 透き通るような白い肌に、長い(まつ)毛。しかし、小雪とはまるで違うというのに、それが自分だということに不思議と違和感がなかった。

 夢だとは思わなかった。夢のようではあったが、これは現実だという強い確信があった。

 そして、魔法少女育成計画のマスコットキャラクター、ファヴから説明を受けた。

 ファヴは、右半身が黒で、左半身が白の球体に、一枚だけ羽が生えた姿だ。スマイルマークを彷彿とさせる記号的な顔が描かれているが、表情は固定されているらしく、子供のような甲高い声をしていた。

 『魔法の端末』も含めてファヴからいくつか説明を受けると、その魔法の端末に記載されていた『スノーホワイト』のパーソナルデータをチェックし、使える魔法のことなどを調べた。

 正義感が強いだとか、うっかり者といったもののほかに、妄想癖があるなどの記述があったのはさておき、自分の使える魔法は、困っている人の心の声が聞こえるという、いかにも魔法少女らしいもので、小雪はとても嬉しくなった。

 それから二日間ほど、小雪は夜に自室を抜け出し、人助けを行った。新しく魔法少女になった者は、先輩魔法少女のレクチャーを受けるものらしいのだが、念願の魔法少女になれたことが嬉しかった小雪は、すぐにでも『スノーホワイト』として動きたかったのだ。

 『困っている人の心の声が聞こえる』というのがスノーホワイトの魔法ではあるが、そのほかに使える魔法はなかった。魔法少女が使える魔法は、ひとりにつきひとつしかないらしく、その魔法も千差万別ということだった。もっとも、身体能力は普通の人に比べて遥かに高く、トップアスリートでも魔法少女には敵わないぐらいなのだが。

 そのため、自分ではどうしようもなさそうな悩みはそのままにするしかなかったが、スノーホワイトの身体能力や知力でどうにかできそうなことは、時間が許す限り助けて回った。二日間で、人助けをすると溜まるというマジカルキャンディーは、魔法の端末内のキャンディー倉庫にいっぱいになった。

 はじめての魔法少女チャットでは、ほかの魔法少女たちに快く迎えられた。

 すべての魔法少女がいたわけではなかったが、来ていない者たちはあとで紹介して貰うとして、いろいろなことを話した。

 チャットの終了直前、ひとりの魔法少女から話しかけられた。名前は、ラ・ピュセル。担当地域が隣ということもあり、新人であるスノーホワイトの教育係を引き受けたということだった。

 どこかで会うことはできないだろうかという言葉に、翌日の深夜零時、ある海水浴場近くの一番大きな鉄塔で会うことを約束した。その日は、憧れの『魔法少女』と、同じ『魔法少女』として会うことができるという喜びによって、一日中落ち着かなかったものだ。

 絶対に遅刻してはならない、と待ち合わせの十五分前に約束の鉄塔に着き、てっぺんに駆け上がった。

 待ち人は、すでにそこにいた。

 ひと言で言い表すなら、『竜騎士』。()手、(すね)当て、胸当てなどの防具を要所に身に着け、巨大な剣を背負っていた。剣の長さは一メートルぐらいはあり、幅も四十センチメートルはある。大剣という言葉がぴったりだった。

 それだけならば『騎士』とだけ呼べばいいだろうが、鞘には竜を思わせる意匠が(ほどこ)されており、頭には竜の角のような髪飾りを着け、腰からは尻尾のようなものが伸びていた。それらが、竜を連想させたのだ。

 太腿や胸元といった、本来は隠す部分が見えていたが、それらは非常に女性的な魅力を感じさせるものだった。髪は、肩にかかるかかからないか程度でまとめられ、左右から垂らされていた。

 そこでスノーホワイトの方を見た彼女の顔からかすかな困惑が見え、自分が遅れてしまったせいかもしれないと慌てたものだった。

 そのあとに彼女の口から出た、小雪、という呼びかけに、今度はスノーホワイトの方が困惑した。

 なんでわたしの名前を知ってるんですか、というスノーホワイトの言葉に返ってきたのは、彼女が小雪の幼馴染みの少年、岸辺颯太(きしべそうた)だという答えだった。

 

 ベッドから身を起こす。

「そうちゃん」

 名前を呟き、彼の持つ二つの姿を思い浮かべると、ほんのりと胸が暖かくなったような気がした。

 颯太こと、ラ・ピュセルからまず説明されたのは、彼女もまた、ずっと魔法少女を好きでいたということだった。

 ただ、女子と違って、男子中学生の身で魔法少女が好きだなどと言った日には、変態認定待ったなしで、村八分(ムラハチ)にされてしまうということだった。魔法少女もののアニメをレンタルする時は顔見知りが少ない隣町まで行ったり、魔法少女関連の漫画や小説は誰にもわからないところに隠したりと、さまざまな苦労があるのだという。隠れキリシタンの気持ちがよくわかったよ、と遠くを見ながら語られ、大変だったんだなあ、と思うしかなかった。

 しかし颯太には悪いのだが、それを聞いた時、彼の苦労に同情するとともに小雪は嬉しくなった。

 颯太は、魔法少女のことを忘れていなかった。表に出すことはなかったが、そんな大変な思いをしながらも、同じ魔法少女好きの同志でいてくれたのだ、と思ったのだ。

 たまに見かけてもサッカーの練習をしているところばかりで、それに夢中なんだとばかり思っていた。そう言った時、サッカーも楽しいけど、サッカーと魔法少女は別腹、と返され、どちらも颯太にとって大事なものなのだということもわかった。

 颯太が魔法少女になったのは、小雪がなる一ヶ月前だったという。男の身で魔法少女になるのは非常に珍しく、この界隈(かいわい)では颯太だけらしい。

 ほんとうに女の子になってるの、というスノーホワイトの問いに、変身すれば完全に女だ、と返された。どこか恥ずかしそうだったのが気になったがそれはともかく、魔法少女としてコンビを組むことを約束し、二人きりの時も魔法少女としてふるまうようにすること、などのルールをいくつか(もう)け、それから魔法少女として一緒に活動してきた。

 充実している。

 それは間違いがないことで、こんな時間がずっと続けばいい、と思ってしまうほどだ。

 なにより、颯太とまた一緒にいれることが、たまらなく嬉しかった。

 ラ・ピュセルの魔法は、自身が持てる範囲で剣の大きさを変えられるというもので、スノーホワイトのものと違って荒事むきと言えた。なにかあったら自分が守ると言われ、スノーホワイトは嬉しくなったが、魔法少女を(おびや)かすようなことがそうそうあるわけもなく、いまのところ彼女に守ってもらうような状況には陥っていない。

 だがスノーホワイトの身体能力は、魔法少女の中では低めのようで、ラ・ピュセルに比べるとだいぶ見劣りする。単純な身体能力が必要とされる場面では、彼女がいなかったら助けられなかった人もいた。

 そう言うと、スノーホワイトの力があるから、助けを必要としている人のところへ助けに行けるんだよ、と言って貰えた。

 お互いに、補い、助け合える。

 独りではないということが、とても嬉しかった。

 颯太がそばにいてくれることが、とても嬉しかった。

「――――」

 ただ、いまは、よくわからない不安のようなものが胸にあった。

 なにか、嫌な夢を見ていたような気がするのだ。

 思い出すのは、颯太が小雪のそばから離れていってしまった時のことだ。

 颯太は、幼稚園の時はずっと小雪と一緒に遊んでいたが、小学生になってから男子の友だちと遊ぶ頻度が増えていき、中学生に上がってからは疎遠になってしまった。

 颯太が離れてから、小雪は独りで魔法少女アニメを観ることになった。

 いまではそれもだいぶ慣れたし、一緒に観ることこそないものの、ラ・ピュセルとはそれぞれが観た魔法少女アニメの話で盛り上がる時もある。

 それでも、あの言いようのない寂しさは、もう味わいたくなかった。

 小雪にも、仲のいい、同性の友だちが二人いる。しかし、どこか壁のようなものも小雪は感じていた。

 二人が壁を作っているわけではない。壁を作っているのは、小雪の方だ。魔法少女について、心の底から語れない。そのせいなのだと思う。

 不思議と、語ろうという気になれないのだ。いや、魔法少女について話はするし、それなりに熱くはなる。だが、ほんとうに心の奥底から湧きあがる思いを、口にしていない気がした。そんなふうに自然と語れるのは、颯太に対してだけだった。

 もしも颯太が女の子だったら、小雪から離れることなく、ずっと一緒にいれたのだろうか。

 そんなふうに考えたこともあったが、すぐに、それは嫌だと思うのが常だった。

 小雪は女で、颯太は男であって欲しい。ラ・ピュセルになった時のことはともかく、颯太は男であって欲しい、と思うのだ。

 自分は、颯太のことが好きなのだろうか。魔法少女好きの友だちとしてだけではなく、異性として。恋かどうかはっきりとはわからないが、彼とずっと一緒にいれたら、と思うぐらいには颯太を意識しているのも間違いなかった。

 だからこそ、颯太がもし魔法少女への興味を失い、また小雪のそばから離れていったらと思うと、どうしようもなく怖くなってしまう。

 ちょっと前に、ラ・ピュセルがなにか悩みを抱えていた時があったのだが、その時も小雪は気が気でなかった。なにに悩んでいるのかはっきりとはわからなかったが、何人かの魔法少女に相談し、久しぶりに颯太の家へ行って、話しをした。みんなからのアドバイスによって彼の悩みは解決したらしく、事なきを得たようだった。しかし、それから時折遠い眼をするようになったのはなぜなのだろうか。

 それはともあれ、颯太が自分から魔法少女をやめる気はないようで、小雪は安心したものだ。だというのに、どうして颯太が離れていった時のことを思い出してしまうのだろうか。

 颯太の意志ではなく、なにか別の要因で、彼がいなくなってしまうこともあるのではないか。そんなことが、ふと頭に浮かんだ。

 

 







原作は一巻と、短編集である『十六人の日常』しか読んでいないため、ある程度作者の独自解釈の部分があります。そのため違和感のある部分もあるかもしれませんが、ご了承ください。

付けるタグに悩みます。
カップル表記は変身前と後のどっちがいいのか。どっちも付けたけど。
女の子と、TSしたもと男のカップリングはガールズラブを付けるべきなのか。
R-15は付けるかどうか。



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白雪姫と竜騎士(下)

勇気を出して関係を進めようとする、友だち以上恋人未満の幼馴染み。
「私はいいと思う」



 スノーホワイトとの待ち合わせに使っている鉄塔にむかって、駆けて行く。

 眼に映る景色はどんどん移り変わっていき、我ながらとんでもない脚力だ、とラ・ピュセルは思う。いまではすっかり慣れたものではあるが、最初のころはただただ驚いたものだ。

 もう辺りは暗くなっているが、魔法少女は夜目が利く。月明かりがない夜でも、昼間と大して変わりなく見えるほどだ。

 待ち合わせの時間より多少早いが、それはいつものことだ。いまは女になっているとはいえ、男が女を待たせるわけにはいかない。ましてや、ラ・ピュセルはスノーホワイトの騎士なのだ。自分でそう決めたことでしかないが、だからこそ、そう()りたい。

 それに、ラ・ピュセルは、颯太は小雪のことが好きだ。魔法少女好きの同志や、友だちとしてだけでなく、異性として意識している。男子として、女子と仲良くするのがなんとなく気恥ずかしかったため、成長するごとに彼女との接触は減っていったが、たまに小雪を見ると、その可愛らしさにハッとすることもあった。これが恋だと思ったのは、結構最近ではあるが。

 また小雪と話がしたい。一緒に遊びたい。そんなことが頭に浮かぶ時はあったが、女子と一緒にいて、からかわれるのは抵抗があった。結局、再び彼女と話ができるようになったのは、お互いが魔法少女になってからだった。

 小雪に負けないぐらい、颯太も魔法少女を愛していた。それでも、颯太は男だ。どれだけ愛しても、なりたいと思っても、魔法少女にはなれない。そう思っていた。いつだったか、わたしもいつか魔法少女になるんだ、と言っていた小雪を羨ましく思ったことを憶えている。

 『魔法少女育成計画』に手を出したのは、魔法少女が好きだという理由ももちろんあるが、やはり期待があったからだ。噂を本気で信じていたわけではないが、男でも魔法少女になれるのではないか、という期待があった。

 奇跡は、起こった。それも、二回もだ。

 魔法少女になれたこともそうだが、小雪も魔法少女になって、一緒に過ごせるのだ。どちらも颯太にとっては、奇跡以外のなにものでもない。

 彼女を守る騎士となろう。ラ・ピュセルはそう思い定めていた。

 しかし、スノーホワイトと組むということは、かなり大変なことでもあった。

 彼女は、困っている人の心の声が聞こえる。困っている人というのは、当然ながらどこにでもいる。自分たちの力でどうしようもないことは、そのままにしておくしかないが、そうでなければ可能な限り人々を助けて回る。これはかなり忙しい。

 だが、それが嫌なわけではない。ラ・ピュセルも魔法少女なのだ。困っている人を助けるのが魔法少女のやるべきことだと思っているし、そもそも小雪の力になるのが、嫌なわけがない。闘う魔法少女が好きな身としては、(いささ)か物足りないという思いがあることも否定できないが、些細なことではあっても人を助ける行為が、闘って人を守ることに劣るなどとも思わない。どちらも人のために行うことだからだ。

 問題は、ラ・ピュセル自身のことだった。

 ラ・ピュセルの正体は、岸辺颯太という男子中学生なのだ。性のこととかに興味津々な年頃なのだ。

 他人には言えないが、はじめて『魔法少女』になった時、ひと通り自分の(からだ)を確かめた。自分の躰がどうなったのか、確認しなければならないのは当然だ、仕方がないだろう、といろいろなものに言い訳するような心持ちになりながら、確かめた。はっきりと知っているわけではないので多分ではあるが、完全に女になっていると思った。

 ほかにも、なかなかアクティブに動くにも関わらず、非常に短いスノーホワイトのミニスカートだとか、彼女のスカートとブーツの間から覗く絶対領域だとか、ほかの魔法少女たちの無防備なところだとか、そういったことに、罪悪感とともにいろいろと(やま)しい思いを抱いてしまうこともあった。

 そういったことが、スノーホワイトに知られたら困る。もしそれが知られ、スノーホワイトに軽蔑されてしまったら。そんな悩みを抱いていた時があった。

 スノーホワイト、というか、久しぶりに颯太の家にやって来た小雪からのアドバイスで、そのあたりの悩みは一応どうにかなった。ほかの魔法少女から言われたという、揉まれれば柔らかくなるだとか、胸を貸してくれるだとか、悪魔の囁きだとかいう言葉にいろいろよろしくない妄想をしてしまったこともあったが、心に悪が芽生えそうになった時には、母の顔を思い浮かべるといいというアドバイスによってだ。

 効果は抜群で、それによって即座に平常心を取り戻すことができるようになり、それまで以上に魔法少女として精力的に活動している。いろいろと複雑な思いはあるが。というか、疚しいことを考えてる時に母親の顔を思い浮かべるというのは、いろいろとキツいものがある。

 それはともかく、そろそろ鉄塔が見えてくるころだった。駆ける速度を上げる。

 ほどなくして、鉄塔が見えた。近づいたところでちょっとだけ勢いを落とし、跳躍する。鉄塔に足を着けると、そのまま駆け上がった。

 わずかな時間で鉄塔を駆け上がると、すでに相棒がいた。

「っ?」

 早いな、と軽く驚きながらも声をかけようとしたところでラ・ピュセルは、口を開いたかたちのまま、止めた。

 なんとなくだが、いつもとは雰囲気がちょっと違って見えた。スノーホワイトという名前が示すように、まるで雪のようにそのまま溶けて消えてしまいそうな儚さがあった気がした。

 気を取り直し、ゴホンと咳払いをすると、スノーホワイトがハッとした様子でこちらをむいた。なにか考え事をしていたのかもしれない。

「そうちゃん」

 挨拶しようとしたところで、スノーホワイトが呟いた。どこか、ホッとしたような響きがあったように思えた。

 気になったものの、二人で作ったルールについて先に指摘しよう、とラ・ピュセルは思った。

「この姿の時は、っ!?」

 言葉の途中で、いきなり立ち上がったスノーホワイトに抱き着かれ、ラ・ピュセルの躰が固まった。

 スノーホワイトは、小雪は颯太にとって、好きな女の子なのだ。突然こんなことをされたら、硬直するに決まっている。

 我に返り、慌てて声をかける。

「スノー、――――小雪?」

 普段ならスノーホワイトと呼びかけるところだが、なんとなくさっきの様子を思い出し、本名で呼びかける。スノーホワイトはなにも答えず、ラ・ピュセルを抱き締める腕に力をこめてきた。

 ラ・ピュセルに比べればそこまでの力はないのだが、スノーホワイトも魔法少女である以上、それなりに力は強い。少し息苦しくはあった。

 息苦しくはあったが、スノーホワイトの様子はまるで、やっと会えた家族にしがみつく迷子のような切実さを感じさせ、ふりほどくのも抵抗があった。

 恥ずかしくはあったが、落ち着かせるために、彼女の頭をなでる。

「小雪。なんか、あったのか?」

 ちょっと声が上擦ってはいたが、それぐらいは仕方がないだろうと思う。むしろその程度で済んでいる自分を褒めたい。

 それでも彼女は、なにも言わず抱き着いたままだった。彼女の躰の柔らかさなどを意識しないよう気をつけつつ、頭をなで続ける。

 そろそろ母の顔を思い浮かべるべきかもしれない。だんだんスノーホワイトの感触や体温が無視できなくなり、そんなことを考えたところで、スノーホワイトの腕から力が抜け、彼女が身を離した。

 ホッ、と息をつく。安堵のものではあるのだが、残念な気持ちもあった。

 スノーホワイトが、恥ずかしそうにモジモジしながら口を開いた。

「ご、ごめんね、そうちゃん」

「あ、いや、別に謝ることないけど」

 嫌ではなかったのだ。戸惑いはしたが、決して嫌ではなかったのだ。

 彼女の躰の感触だとか、体温だとか、香りだとか。

 そこまで考えたところで母の顔を思い浮かべ、心を鎮める。

「そ、そう?」

「う、うん。それで、なんかあったのか、小雪?」

 ラ・ピュセルが訊くと、スノーホワイトがうつむいた。

「その、ね。なんか、そうちゃんの姿を見たら、いても立ってもいられなくなっちゃって」

「どういうこと?」

「わかんないけど、そうちゃんがどっかに行っちゃいそうな気がして」

「――――?」

 ラ・ピュセルの顔を見ながら紡がれたスノーホワイトの言葉に、首を傾げる。なんだか、いまにも泣き出しそうに見えた。

「嫌な夢でも、見た?」

「多分。よく憶えてないけど、そうちゃんがいなくなっちゃう夢だった気がする」

 再びスノーホワイトがうつむいた。

 彼女のその様子にラ・ピュセルは、胸が引き裂かれるような痛みを感じた。

 安心させるため、微笑みながら優しく話しかける。

「心配いらないよ。僕はどこにも行かない」

「う、ん。ありがとう、そうちゃん」

 スノーホワイトも、微笑みを返してきた。ただ、どこか無理をしているようにも思えた。ラ・ピュセルに気を遣っているのかもしれない。

 どうしたものか、と考えたあと、ひとつ思いついた。気恥ずかしくはあるが、彼女を安心させるためだ、と意を決する。

 長剣ぐらいのサイズにした剣を鞘から抜くと、その剣の(つか)をスノーホワイトの方にむけ、片膝をついた。

 キョトンとした様子のスノーホワイトにむけ、誓いの言葉を紡ぐ。

「たとえこの身が滅びることになろうとも、あなたの剣となることを誓いましょう。我が盟友、スノーホワイト」

 仕草や口調は芝居がかったふうではあるが、ラ・ピュセル自身は大真面目だ。言葉に、嘘はない。

 スノーホワイトの眼から、涙がこぼれ落ちた。

 再びスノーホワイトが抱き着いてくる。躰が熱くなった。

「やだ」

「えっ?」

 耳元で聞こえたスノーホワイトの切なそうな声に、ラ・ピュセルは戸惑った。

 彼女を慰めたかったのに、ふざけていると思われてしまったのだろうか。

 熱くなっていた躰が冷めるような、血の気が引くような感覚を覚えながらそう思ったところで、スノーホワイトが否定するように首を振った。

「違うよっ。そうちゃんがそう言ってくれるのは、すごく嬉しいよっ。でも、そうちゃんが死んじゃったらやだよっ」

「小雪」

「もう、そうちゃんに置いてかれるの、やだよ」

「もう?」

 涙ながらの彼女の言葉に、どういう意味だろうか、とラ・ピュセルは困惑した。自分が、彼女を置いていったことがあっただろうか。

 ラ・ピュセルの呟きに、スノーホワイトが身を離した。瞳を潤ませながらラ・ピュセルと見つめ合う。

 (つか)()ためらう様子を見せたスノーホワイトが、意を決したように口を開いた。

「そうちゃんが一緒に魔法少女のアニメ見なくなった時、すごく寂しかったっ。なんだか、わたしだけ置いてかれちゃった気がしてっ」

 嗚咽が混じったスノーホワイトの言葉に、ラ・ピュセルは頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えた。

 恥ずかしいから。周りから変態扱いされるのが嫌だから。だから、魔法少女に興味をなくしたふりをして、小雪と遊ばなくなった。彼女から離れた。

 だが自分は、そのことで小雪がどんな思いを抱くか、一度でもしっかりと考えたことがあっただろうか。自分のことしか考えていなかったのではないか。誰になにを言われても、気にすることなどなかったのではないか。魔法少女の趣味は隠しても、彼女のそばを離れることはなかったのではないか。

 よくそれで、小雪を守るなど、彼女の騎士になるなどと言えたものだ。

 自分への怒りが、自嘲するような声が、後悔が、頭の中を埋め尽くしていく。

「でもね、嬉しかった」

「っ?」

「そうちゃんは、魔法少女が好きなままだったんだって」

「小雪。でも僕は」

 なにも言わないで、とばかりにスノーホワイトの腕の力が増した。

 締めつけるようではなく、スノーホワイトの気持ちが伝わってくるような優しい抱擁からは、ラ・ピュセルを包んでくるような温かさを感じた。

 自然と、ラ・ピュセルも抱き返していた。

 ありがとう。その気持ちだけが、心の内にあった。

 

 しばらく経ってから、どちらともなく抱擁を解いた。

 身は離さず、互いに見つめ合う。

「さっきの誓い、やり直させてもらってもいいかな?」

「うん」

 再び片膝をつき、剣の柄を差し出す。

「君を、いつまでも守り続けよう。互いに年老い、別れるその時まで、僕は、君を守り続ける」

 騎士としてだけではない。魔法少女の仲間としてだけではない。

 岸辺颯太として、姫河小雪を守り続ける。

 岸辺颯太として、姫河小雪を幸せにする。その誓いだ。

 スノーホワイトの眼に涙が溜まっていく。ラ・ピュセルは慌てなかった。

 感極まったように息を詰まらせたあと、スノーホワイトが微笑みを浮かべた。

「はいっ」

 彼女のまばゆいばかりの笑顔に、ラ・ピュセルも笑顔を返した。

 

 いや、しかし。

 誓いの言葉のあと、少し経ったところで、ラ・ピュセルは自分の言葉を思い返した。

 いまのはもう、プロポーズと変わらないのではないか。そう思うと、この場で身悶えしたくなるような、とんでもない恥ずかしさが湧き上がってきた。

 スノーホワイトも同じなのか、顔が真っ赤になっていた。

「あっ、えっと、その」

「あ、あのね、そうちゃんっ」

「う、うん。なに?」

「わ、わたし、なりたいものがあってねっ?」

「え?」

 スノーホワイトの唐突な言葉に少し困惑する。彼女のなりたいものといえば魔法少女だろうが、もうすでになっているのだ。わざわざいま言うことだろうか。

 そう思ったところで、スノーホワイトが恥ずかしそうに呟いた。

「お、およめ、さん」

「えっ」

「そうちゃんの、お嫁さん」

 全身が、燃えるように熱くなった。スノーホワイトの顔も、さっき以上に赤くなっている気がした。

 スノーホワイトがうつむき、モジモジとしはじめる。

 その可愛らしさにさっきとは別種の衝撃を受けたが、恥をかかせてはならない、とラ・ピュセルは思考を切り替えた。

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、スノーホワイトに歩み寄る。

 落ち着かせたつもりだが、躰はガチガチだった。スノーホワイトも同じなようで、躰の動きがぎこちない。

 勇気を出せ、岸辺颯太。男だろう、男を見せろ、ラ・ピュセル。いや、ラ・ピュセルの時は女だがそれはともかく、どんな相手でも臆さず、立ちむかうのが魔法少女だろう。いや少女では駄目だ。男として、魔法少女魂を見せろ、と己を奮起させる。

 手をなんとか動かし、スノーホワイトの手を取る。

 逃げ出したい、という思いがどこかにあった。恐怖ではない。恥ずかしさのためだ。

 しかし、スノーホワイトが、小雪が勇気を出して伝えてくれたのだ。

 ここで逃げたら、騎士ではない。彼女を幸せにすることなど、できはしない。

 唾を飲みこむ。

 スノーホワイトと見つめ合いながら、ラ・ピュセルは意を決して言葉を紡いだ。

 

 







二人が幸せに生きていく。『魔法少女育成計画』らしくはないかもしれないが、そんな世界があってもいいと思う。

小雪への愛とか、ほかの魔法少女たちとの友情とか、慈悲の心とかで火事場のクソ力を発揮したラ・ピュセルが魔法少女強度7000万パワーで勝ち残って、スノーホワイトの衣装に散らしてある花に魔法少女フラッシュを浴びせたことで、命を落とした魔法少女たちが花から復活するとかそんな世界があってもいい。多分。



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竜乙女育成計画

 キャラ崩壊があります。ご注意ください。

 普段は男の方が攻めだが、男がTSすると攻守逆転。
「私はいいと思う」



 いつものように鉄塔の上で待ち合わせ、ちょっとだけ語り合う。

 困っている人を助けに行くために集まるわけだが、行く前にお互いの今日の出来事を話したり、ちょっとした世間話をしたりするのだ。

 この魔法少女アニメが面白かっただとか、この魔法少女の活躍が恰好よかっただとか、どこぞに行って魔法少女関連のグッズを買ってきただとか、やはりそういう話題が多かった。

「あ、そうだ」

「ん?」

 話しはじめて少し経ったところで、スノーホワイトが思い出したように声を上げた。

 なんだろう、とラ・ピュセルは首を傾げた。

「そうちゃん。お願いがあるんだけど」

「そうちゃんはやめなさい、スノーホワイト?」

「あっ。ごめんね、そうちゃん?」

 スノーホワイトの言葉に、二人で笑い合う。穏やかな時間が流れていた。

 笑みを含んだまま、ラ・ピュセルはスノーホワイトに改めて問いかけた。

「それで、頼みってなんだい、スノーホワイト?」

「うん。ラ・ピュセルのおっぱい揉ませて」

「ああ、いいよ」

 自然な調子で言われた言葉に反射的に返したあと、スノーホワイトの言葉を反芻(はんすう)する。

 聞き間違いだろうか。おっぱい揉ませて、と言われた気がした。

「え?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「待て待て待て待てぇ!?」

 聞き間違いではないとでも言うように突き出された両手を、ラ・ピュセルは咄嗟に掴んだ。スノーホワイトは手を掴まれながらも押しこんでくる。

「っ!?」

 彼女の力は、ラ・ピュセルに比べれば大したことがなかったはずだ。だというのに、ラ・ピュセルの躰がどんどんうしろに押しこまれていく。彼女の手を握り潰さないように気を遣っているのは確かだが、それでもこんなふうに押しこまれるわけがない。

 わけがわからない状況に戸惑いながら、ラ・ピュセルは声を上げた。

「いや、意味わからないぞ!?」

「だから、そうちゃんのおっぱい揉ませて?」

「あ、うっ、そ、そうちゃんはやめろ!?」

 なにやら可愛らしく小首を傾げながら言われ、思わず頷きそうになったが、気の迷いを振り払うように大声を上げた。

「じゃなくて、ほんとにわけがわからないぞ!? なんでいきなりおっぱい!? 君そんなキャラだっけ!?」

「そうちゃんが、そんなおっぱいつけてるから悪いんだよ?」

「え?」

「男なのにそんなおっぱいつけて、わたしへの当てつけなの?」

「え、いや、だったら君もつければ」

「魔法少女になってからは、アバターの途中変更ってできないんだよ?」

「あ、ああ。そうだったね」

 なにやら寒気すら感じる彼女の声に、ラ・ピュセルはそんな言葉を返すことしかできなかった。魔法少女になった時の姿は、『魔法少女育成計画』で設定していたアバターのものなのだが、魔法少女になってから変更することはできないらしい。

 じりじりと押しこまれながらも、彼女の手を握り潰さないよう気をつけつつ、ラ・ピュセルも少しずつ力を強める。力が拮抗し、やがてお互いの動きが止まった。

「いや、そもそも君、そんなこと気にする娘だったっけ?」

「だって、そうちゃんが」

「僕?」

 スノーホワイトの言葉に少し考えこむが、なにか言った憶えはない。

 自分、というかラ・ピュセルの胸に比べると確かに小さいが、かといって小雪もスノーホワイトも、大きな胸はあまり似合わないのではないだろうか、と戸惑いながらも思った。

 スノーホワイトが、半眼になった。

「それ、わたしの躰が幼児体型ってこと?」

「えっ」

 スノーホワイトの言葉に不意を突かれ、心を読まれたことにすぐ思い当たった。

 慌てて声を上げる。

「いや、ちが」

「そうだよねー。ラ・ピュセルは、そんな女らしい躰してるもんねー」

「聞いてくれ、スノーホワイト!」

 なにがどうしたというのか。どこか拗ねているようにも見えるスノーホワイトに、混乱する頭を必死で回転させる。

 おっぱい。ラ・ピュセル。幼児体型。女らしい躰つき。どこか拗ねたようなスノーホワイトの様子。

「っ?」

 なんとなく思い浮かんだことがあった。自意識過剰かもしれないが、とりあえず訊いてみることにする。

「もしかして、嫉妬してる?」

 ピタッ、とスノーホワイトの動きが止まった。

 その状態のまま、しばし見つめ合う。

 スノーホワイトが手を離し、バツが悪そうに口を開いた。

「その、ね。そうちゃんって、おっぱいが大きい娘が好きなのかなって。『ラ・ピュセル』の姿がそんなだし」

「ま、まあ、ね」

 趣味全開で作ったものであるため、否定しようがなかった。

「それで、なんだかそのおっぱいが妬ましくなってきたっていうか」

「そ、そう」

 いきなり飛び出したなにやらドロドロした言葉に、相槌を打つことしかできない。

 ただ、スノーホワイトはひとつ思い違いをしている。

「だけどね、スノーホワイト」

 呼びかけながら、彼女の頬に手を添える。とても恥ずかしいが、誤解は解いておかなければならない。

「僕は、スノーホワイトの姿も、小雪の姿も好きだよ。それこそ、ラ・ピュセルの姿よりも」

「――――ほんとに?」

「うん」

 彼女の瞳を見つめ、はっきりと頷く。『ラ・ピュセル』の姿は確かに颯太の趣味だが、好きな女の子には敵わない。

 言ったあと、躰が熱くなった。スノーホワイトの顔も真っ赤になっていた。

「だ、だからさ、あまり気にしないで欲しいんだ」

「うん。ありがとう、そうちゃん」

 スノーホワイトの言葉にホッと息をつく。ラ・ピュセルが微笑むと、スノーホワイトも微笑んだ。

 これでひと安心。人助けにむかおう、とラ・ピュセルは思った。

「じゃあそろそろ」

「うん。おっぱい揉ませて」

「――――」

 空を見上げる。雲ひとつない、満面に光が散らばる、美しい星空が見えた。

 できればこのまま星空を見ていたかったが、そういうわけにもいかないだろう、とスノーホワイトに顔をむける。

 いろいろと言いたいことはあったが、とりあえず訊いてみようと思った。

「なんで?」

「揉みたいから」

 端的な言葉におそろしく端的に返され、呆然とするしかなかった。

「いいでしょ?」

「ええっと、解決、したよね?」

「うん。でも、それはそれとして、そのおっぱいすごく柔らかそうだし、触ってみたいなって」

「え、えええぇ」

 どう答えたらいいのかわからず、意味のない呻き声を洩らすしかなかった。

 どうすればいいんだ、と思いながら、この場を切り抜ける理由を探す。

「いや、でもおかしいでしょ。いまは一応女同士だし」

「そんなことないよ。むしろ女の子同士だったら、これぐらい普通だよ?」

「―――― Really(マジで)?」

Yes(うん)

 自分でもよくわからないが、なんとなく英語で返すと、スノーホワイトもなぜか英語で返してきた。発音はかなり綺麗だった。どうでもいいが。

 ほんとうだろうか、と彼女の言葉に対して思わなくもなかったが、スノーホワイトはとてもきれいな眼をしていて、嘘をついているようには見えなかった

 だからといって、胸を揉ませるのは抵抗があった。自分で揉んだことがあるのだが、その時はなにか妙な気分になったのだ。というか、気持ちよさがだいぶやばかった。

「だ、だけど、僕はほんとは男だし」

「でもそうちゃんは、その躰をじっくり楽しんだんでしょ?」

「っ!?」

 なんで、知ってるんだ。

「あ、やっぱり」

「っ、しまっ」

 鎌をかけられたことに気づき、ラ・ピュセルは歯噛みする。

 軽蔑されてしまう。そう思ったところでスノーホワイトが、すべてを包みこむような慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。

「怖がることなんてないよ、そうちゃん。そんなことで、そうちゃんを嫌いになったりしない。わたしを信じて」

「あ、ああ――」

 その優しい言葉にラ・ピュセルは、不思議な温かさを感じた。なにやら惑わされている気もするが、多分気のせいだろう。

「じゃあ、揉んでいい?」

「う、うん。いいよ」

 スノーホワイトが、ラ・ピュセルの胸に手を伸ばした。今度は抵抗しなかった。

 スノーホワイトは優しい手つきで胸に触れると、そのまま揉みはじめた。

「んっ」

「わっ、柔らかーい」

 不思議な気持ちよさに、ラ・ピュセルの口から上擦った声が洩れるが、スノーホワイトは気にせずに揉み続ける。自分で揉むよりも、気持ちよかった。

 恥ずかしさでいたたまれなくなるが、彼女は離してくれそうになかった。

「あ、んっ、こ、小雪っ」

「どうしたの、そうちゃん?」

「そ、そろそろ、そのくらいでっ」

「ほんとにいいの?」

「えっ?」

「やめられたら困る、って声が聞こえるよ?」

「そっ」

 そんなことない。そう言おうとして、できなかった。

 男なのに、いまは女になって、おっぱいを揉まれている。それも、好きな女の子にだ。胸を揉まれる気持ちよさと、背徳感らしきものに背筋がゾクゾクしていることは、否定できなかった。

「ひぅっ!?」

 答えに窮しているうちにスノーホワイトが再び揉みだし、ラ・ピュセルは思わず声を上げてしまった。

「あっ、そうちゃんの困ってる声が聞こえなくなった」

「え」

「やっぱり嬉しいんだね、そうちゃん」

「ち、ちがっ」

「なにが違うの?」

 僕は男で、騎士なんだ。おっぱいで感じたりなんかしないっ、と心を強く持つよう努める。

 なんだか駄目なフラグを盛大に打ち立てたような気がするが、多分気のせいだ。なぜか、くっ、殺せ、という言葉が浮かび、さらに駄目な方向に行った気もするが、きっと気のせいだ。

 以前、ラ・ピュセルとなった時、自分の胸が揺れただけで気を取られたり、自分のお尻を触った際にその柔らかさに陶然となっていたころがあったが、その時とは違うのだ。いまは、心を鎮める方法を会得してある、と母の顔を思い浮かべる。

「えいっ」

「ひゃっ!?」

 胸を揉む手に力が少し加わり、思わず可愛い声を出してしまう。母の顔はあっけなく頭の中から消え去り、いま現在自分の置かれている状況を思い出すこととなった。

「あっ。こう揉まれると、もっと気持ちよくなって困るって聞こえた」

「っ、~~っ!?」

 言葉のあと、さらに揉まれ続ける。ほんとうに、さっきよりも気持ちよかった。

 だんだんと、躰の奥から、熱いなにかが広がってくるような感覚を覚えた。

「――――」

 ラ・ピュセルの息が、荒くなっていた。

 なにより問題なのは、やめて欲しいはずなのに、やめて欲しくないという思いが、どこかにある。本気でマズい。

「小雪、もう」

「あっ」

「やめ、えっ?」

 言い切る前に、スノーホワイトが胸を揉むのをやめた。ラ・ピュセルが訝しむのを気にせず、彼女はどこか遠くの方を見やる。

「困ってる人の声が聞こえた」

「えっ」

「行こう、そうちゃん!」

「あっ、ああ、うん。そう、だね」

 先ほどまでのスノーホワイトはなんだったのか、と思うぐらいの切り替わりの早さに、ラ・ピュセルは戸惑いながらもなんとか返事をする。

 躰が火照り、脚がガクガクしているが、深呼吸を何度かくり返したことで、どうにか動けるぐらいには落ち着いた。

 スノーホワイトの顔を見る。静かながらも強い意志を感じさせるその瞳の輝きは、ラ・ピュセルが好きな魔法少女のものだった。

 いつものスノーホワイトだ、といろいろな意味でホッとする。

「よし。行こう、スノーホワイト!」

「うん!」

 躰の火照りは完全には収まっていないが、恥ずかしさをごまかすようにラ・ピュセルが呼びかけると、スノーホワイトも力強く頷き返した。すぐさまスノーホワイトが跳躍し、ラ・ピュセルもそれを追って跳ぶ。

 もうちょっとだったんだけど。

「っ!」

 頭に浮かんだ言葉を、ラ・ピュセルは頭をぶんぶんと振って追い払う。

 こんな時になにを考えているんだ。確かに気持ちよかったけど、ってそうじゃない。僕は男なんだ。

 煩悩退散。色即是空。

「あっ、そうちゃん、じゃなくって、ラ・ピュセルッ」

「っ、な、なんだい、スノーホワイト?」

 突然ふりむいて呼びかけてきたスノーホワイトに、一瞬動揺しながらも返事をすると、彼女は笑顔を返してきた。とても綺麗な笑顔だった。

「続きはまた今度ね?」

「えっ」

 ドクンと胸が高鳴ったのは、彼女の笑顔に対するものか、それともその言葉に対するものなのか。

 それは、ラ・ピュセルにもわからなかった。

 

 




 
 
 
普通にイチャラブするのも考えたのに、男子中学生、TS、女騎士、と快楽に負けることがほとんど約束されているような組み合わせ(偏見)ってことなのか、気がついたらこんなことに。
あとスノーホワイトの『困っている人の心の声が聞こえる』って攻め向けだよね(偏見)。どうしてこうなった。
魔法少女足らんとするスノーホワイトがこういうことするのか。好きな人の可愛いところを見たくなったということで、ここはどうかひとつ。

先の二話とはちょっと違う世界の話ということで。
普通にイチャイチャするのはまたいずれ。
これの続きも書くかもしれんけど。



以下、NGパターン。クロスオーバー気味な要素がありますのでご注意。また、あまり深く考えすぎないでください。


「じゃなくて、ほんとにわけがわからないぞ!? なんでいきなりおっぱい!? 君そんなキャラだっけ!?」
「そうちゃんが、そんなおっぱいつけてるから悪いんだよ?」
「え?」
「男なのにそんなおっぱいつけて、わたしへの当てつけなの?」
「え、いや、だったら君もつければ」
「魔法少女になってからは、アバターの途中変更ってできないんだよ?」
「あ、ああ。そうだったね」
 なにやら冷気すら感じる彼女の声に、ラ・ピュセルはそんな言葉を返すことしかできなかった。魔法少女になった時の姿は、『魔法少女育成計画』で設定していたアバターのものなのだが、魔法少女になってから変更することはできないらしい。
 じりじりと押しこまれながらも、彼女の手を握り潰さないよう気をつけつつ、ラ・ピュセルも少しずつ力を強める。力が拮抗し、やがてお互いの動きが止まった。
 スノーホワイトが、朗らかに笑った。なぜか、妙に怖い笑顔に見えた。
「それでね、思ったの」
「な、なにを?」
「ないのなら、ほかからむしろう、おっぱいを」
「怖いよ!?」
 本気でなにがあったというのか。猟奇的なものすら感じさせるスノーホワイトの言葉に、ラ・ピュセルは叫びを上げることしかできなかった。
「はっ!?」
 スノーホワイトの頭、いや背後に、なぜか青いツインテールが見えた気がした。
 もしかしたら彼女は、なにかに憑りつかれてしまったのではないか。
 巨乳に対して強い嫉妬や憎しみを抱いた、なにかに。
 そんな存在がいるかどうかはわからないが、魔法少女というものが実在するのだ。そんななにかがいても不思議ではない。
 このままではスノーホワイトが、生きとし生ける巨乳を滅ぼす破壊神になってしまうかもしれない。どうしてそんなことが思い浮かんだのかわからないが、なぜか確信があった。
 そんなことは、させない。
「っ!?」
 タイミングを見計らってスノーホワイトの力を逸らす。自分の躰を流されたことにだろう、彼女の顔に驚愕が浮かんだ。
 スノーホワイトの脇をすり抜けるように踏み出し、一瞬で背後に回ると剣を抜き放った。
「はあっ!」
 ふりむきざま、彼女の背中にむかって剣を突き出す。スノーホワイトに当てる気はない。愛の心にて、悪しき気だけを断つのだ。なんだかノリがよくわからなくなっているが、とにかくそんな感じだ。
「っ」
 手応えが、あった。
 スノーホワイトの躰がふらっと倒れこみ、ラ・ピュセルは慌てて彼女の躰を抱き留めた。
 スノーホワイトの顔を覗きこむと、パチパチと瞬きしながら、不思議そうに見つめ返してきた。
「え、ええと、そうちゃん?」
「大丈夫、小雪?」
「えっと、なにがあったの?」
「いや、僕にもよくわからないけど。とりあえず、おっぱい揉む?」
「へ!?」
 スノーホワイトの困惑の声が、夜空に響いた。
 


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白雪姫の誘惑

 
とりあえず連載に変えました。
俺ツイと並行に書きつつこちらを先に更新。
『白雪姫と竜騎士』の続きです。

控えめで大人しい女の子が、恥ずかしいのを我慢して一所懸命誘惑する。
「私はいいと思う」
 


 魔法少女としての人助けをいくつとなくこなし、人気のないビルの屋上でラ・ピュセルは、ふうっと息をついた。時間は、そろそろ夕飯時になる。

 疲れを覚えたラ・ピュセルは、肩を回しながら隣にいるスノーホワイトに顔をむけた。彼女も疲れたのだろう、自分の肩を揉んでいた。魔法少女が肩こりを起こすのかは知らないが、とりあえず気分的なものだ。

「おつかれさま、ラ・ピュセル」

「おつかれさま、スノーホワイト」

 互いに微笑みながら、労いの言葉を掛け合う。スノーホワイトの笑顔を見るだけで、疲れはどこかにふっ飛んでいくような気がした。

 今日は休日ということで、昼間から魔法少女として活動していたのだ。昼時には、いったん休憩として、もとの姿に戻って食事などもした。魔法少女に変身していれば、腹が空くことも、喉が渇くことも、眠くなることもないのだが、それはそれとして休憩はしたくなる。いや、どちらかといえば、小雪と一緒に食事をしたい、というのが主な目的だったのかもしれない。

 デートみたいだ、と意識してしまい、お互いぎこちないやり取りをしてしまった時もあったが、楽しいひと時だった。ある意味では、二人で魔法少女として活動しているのもちょっとしたデートと言えるかもしれないが、そう考えるのは不謹慎だろうとも思う。

 それにしても、ついこの間プロポーズのような告白をして、晴れて恋人同士になったというのにこれだものな、などと苦笑混じりに思った。

 スノーホワイトと組むまでラ・ピュセルは、どちらかと言うと余暇(よか)を遣って魔法少女活動を行っていた。平日は学校があるし、放課後はサッカー部としての練習があるため、夜になってから活動していたのだ。休日も、昼間は個人的な用事、趣味に(つい)やす時が多かった。

 スノーホワイトは逆に、学校などの外せない用事以外はすべて魔法少女活動に費やしているのではないか、と思えるほど働いていた。魔法が魔法なので効率的に動けるというのはあるだろうが、それだけ魔法少女としてみんなの助けになれるのが嬉しいということなのだろう。ラ・ピュセルもそれに付き合って活動するようになったが、それでも昼間は彼女ほど動いていなかったと思う。

 小雪と恋人になってからは、部活が早く終わった時や、ない時など、日中から彼女と合流して、前よりも積極的に魔法少女活動を行うようになった。不純かもしれないが、一秒でも長く小雪と一緒にいたかったからだ。こういう時、彼女と違う学校であることが悔やまれる。同じ学校だったら、登下校も一緒にできて、ひょっとしたら彼女が部活を見に来たりしてくれたかもしれないのに、と思ったりもした。

 そう考えるとやはり、魔法少女活動もデートの一環なのかもしれない。

「とりあえず、こんなところ?」

「うん。いま聞こえてくる、わたしたちにどうにかできそうな悩みは、これぐらいかな」

「わかった。それじゃあ、いったん家に帰ろう」

「うん。夜になったらまた集合、ってことでいい?」

「うん」

 もっと一緒にいたい、という思いはあるが、あまり遅くなると家族に心配される。なにしろまだ中学生なのだ。そうなったら、互いに家族が連絡し合うだろうし、場合によっては魔法少女としての活動もしにくくなってしまうかもしれない。それは嫌だった。

「それじゃあ」

「あ、待って、ラ・ピュセル」

「えっ?」

 送っていこう、と声をかけようとしたところで、スノーホワイトが思い出したように声を上げ、ラ・ピュセルは首を傾げた。

「その、ね。お願いがあるんだけど」

「お願い?」

 どこか遠慮がちなスノーホワイトの言葉に、ラ・ピュセルはわずかに身構えた。

 恋人になってから、スノーホワイト、小雪はたまにお願いをしてくるようになった。手を握って欲しいとか、抱き締めて欲しいとか、おっぱいを揉ませて欲しいとかそういったものだ。

 最後のはともかく、ほかのは恋人ならして当然と言えるものばかりだったが、どうにも気恥ずかしさが先行して、どれも颯太の方からは言い出せないでいた。情けない、と自分でも思わなくもないが、欲望で彼女を汚していいのか、という気(おく)れに似た思いも胸にあった。

「ラ・ピュセル?」

「あ、いや、それで、お願いってなんだい?」

「えっとね、尻尾触らせてくれないかな?」

「尻尾?」

 自分の尻のあたりから出ている尻尾をちょっとだけ見ると、再び彼女の顔に視線を戻した。

「うん。どんな感触してるのか気になっちゃって」

「う、うーん」

 胸に比べればまだ抵抗は少ないが、以前自分で尻尾に触った時のことを思い出すと、やはりためらってしまう。普通に触る分には特にどうということはないのだが、優しく触れたりすると、躰がピリピリというか、背筋がゾクゾクしてくるのだ。

「よお。二人とも、なにしてんだ?」

「ん?」

「え?」

 突然かけられた言葉に二人で声を()らすと、声の聞こえた方にふりむく、というか見上げる。箒に乗った、見覚えのある二人が、空にいた。知り合いである魔法少女の二人だ。

「トップスピードと、リップル?」

 首を傾げながら、ラ・ピュセルは二人の名前を呼んだ。

 ひとりは、黄金色の髪を二房の三つ編みにまとめてある、幼さを感じる容姿の少女、トップスピード。黒いワンピースを着て、背の高い黒色のとんがり帽子を被るという、魔法少女というより魔女と言った方が適切だろう恰好をしている。紫地のロングコートをマントのように羽織(はお)り、首から御守り袋を提げているのが特徴と言えば特徴で、コートの背中には『御意見無用』という刺繍(ししゅう)がしてあった。箒は彼女の持ち物で、『ラピッドスワロー』という名前がついているのだが、まるでバイクのようなハンドルや風防に、マフラーやブースターまで付いていた。

 猛スピードで空を飛べる魔法の箒を使うというのが、彼女の魔法だ。それは魔法なのかという疑問はさておき、『最速(トップスピード)』の名前の通り、その魔法の箒による飛行速度は、すさまじいものがあった。

 もうひとりはリップルと言い、魔法少女というよりは忍者やくノ(いち)を思わせる少女だった。黒く長い髪をサイドテールにし、切れ長の眼に、薄い眉。赤い襟巻に、大きな手裏剣型の髪留め、足には一本歯の高下駄を履いており、こちらも色合いは全体的に黒い。露出度はかなり高く、胸元や腹や肩から思いっ切り肌が見えている。彼女の魔法については説明されていない。

 もっとも、恰好が魔法少女らしくないなど、ラ・ピュセルが他人に言えたことではない。女騎士のような外見というのもそうだが、鎧は身を守るための物なのに、下半身が水着とか下着と同レベルというのは自分でもどうなんだろうと思う。思うが、それに関してほかの魔法少女からツッコまれたことは、一回もなかった。というかほかの魔法少女も、恰好に関しては大概な人が何人かいるので、きっとどうでもいいことなのだろう。

 また、魔法少女には、それぞれ担当地区、ホームや縄張りと呼ばれるものがあり、ラ・ピュセルとスノーホワイトのようにコンビを組む間柄(あいだがら)でもなければ、ほかの魔法少女と会う機会はそれほどなかった。場合によっては、パートナーのホームとも違う地区に行くこともあるが、相手によってはかなり面倒なことにもなる。

 とはいえ、そこまで目くじらを立てるのは一部の者だけで、ラ・ピュセルたちも、目の前のトップスピードたちも、縄張りへのこだわりは大してなかった。

 だが、なぜここに、という疑問はあった。

「あ、こんばんは」

「っと、挨拶が遅れたな。こんばんは」

「おう」

「どうも」

 スノーホワイトの挨拶にラ・ピュセルも続けると、トップスピードとリップルが順に挨拶を返してきた。リップルは舌打ちしていたが、彼女はなにかと舌打ちをするので特に気にしない。トップスピードいわく、リップルはツンデレ、らしい。

 箒の高度を下げた二人が、ビルの屋上に降り立った。

 頭を切り替え、ラ・ピュセルから問いかける。

「それにしてもなぜ二人が、こんな時間に、ここへ?」

「ああ。昼過ぎからちょっと時間が空いちまってな。で、リップルの方もたまたま時間が空いてたっつーから、昼間のパトロールでも行こうぜってなったんだ」

「あ、わたしたちと一緒ですね」

「おっ、そうなのか、ラ・ピュセル?」

「ああ。どうせだから今日は昼間からやろうか、ということになったんだ。私たちは昼前からだったけどね」

「おお、いいねえ。やっぱ魔法少女ってのは、世のため人のために役立ってこそだよな!」

「ですよね!」

「チッ」

 楽しそうなトップスピードの言葉に、スノーホワイトが笑顔で同意した。リップルはやはり舌打ちしていたが、なんとなく照れているようにも見えた。

 トップスピードは幼さを感じさせる外見ではあるが、口調は、伝法と言える荒っぽい喋り方だった。もっとも、乱暴さといったものは感じられず、気のいい姉御肌という印象があった。

 そしてラ・ピュセルが口調を変えるのは、魔法少女としての自分を演じているためだ。

 スノーホワイトと話す時は、ある程度砕けた喋り方だったり、岸辺颯太としての素の喋り方をすることもあるが、ほかの魔法少女がいる場合は、いわゆる高潔な女騎士といった感じの口調で通していた。

「まあそれでよ。そろそろ晩飯の時間だし、ちょっと流していったん帰るか、って飛んでたらおまえらの姿を見つけたもんでな、ちょっくら挨拶しておくかってここに来たんだよ。で、さっきも聞いたけど、二人ともどうしたよ。ラ・ピュセルの方はなんか難しそうな顔してたけどよ、喧嘩か?」

「いや、喧嘩ではないよ、トップスピード。スノーホワイトが私の尻尾に触りたいと言うものでね。どうしたものかと悩んでいたところさ」

「ああ、なるほど。確かにその尻尾って気になるよな。なあ、リップル?」

「チッ」

「あ、やっぱりトップスピードも気になるんですね」

「えっ」

 トップスピードの言葉と、残る二人の反応に、ラ・ピュセルは危機感を覚えた。

 トップスピードとスノーホワイトだけでなく、リップルも舌打ちこそしたものの、視線がラ・ピュセルの尻尾にチラチラとむけられている気がした。

 以前、トップスピードにいきなり尻尾を握られた時、驚いて転びそうになり、リップルのお腹に触ってしまったことがあった。柔らかく、(なめ)らかだった彼女のお腹の感触は、いまだに忘れることができない。トップスピードが悪い、ということでリップルに怒られたのは彼女の方だったが、いろいろと申し訳ない気持ちになったものだ。

 慌てて尻尾を背後に回し、反射的に手を尻に被せる。

「おいおい。そんな警戒しなくてもいいだろ?」

「そうだよ、ラ・ピュセル。嫌だったらわたしも無理になんて言わないし」

「あ、いや、嫌というかなんというか」

 嫌というか、もしも変な反応をしてしまったら。また、マズいことをしてしまったら。リップルのお腹の感触を思い出しながらそんなふうに考えると、さすがに抵抗があった。

「――――?」

 ピタッ、とスノーホワイトが(つか)()硬直し、眼がわずかに細まった気がした。

 それにラ・ピュセルが反応する前に、チッとリップルが舌打ちし、スノーホワイトにむき直った。

「ところで、こうやって面とむかって話すのははじめてかな、スノーホワイト?」

「あっ、そうですね。挨拶が遅れちゃってすいません」

 暗い、というより大きな声を出したくないということなのか、静かに話すリップルに、スノーホワイトが慌てて応じた。

 トップスピードが首を傾げた。

「あれ、おまえら会ったことなかったっけ?」

「ラ・ピュセルから話を聞いたり、魔法少女チャットで見たことはありますけど、直接話をしたことはなかったと思います」

「あ、そうか。いや、リップルのやつが」

「チッ」

「っと、ああ、わかった、わかった。言わねーって」

『――――?』

「あー、別に悪口とかそういったことじゃねえから、あんま気にしないでくれ」

『はあ』

 リップルの舌打ちのあと、トップスピードが彼女の方を見て言った言葉に、スノーホワイトと一緒にラ・ピュセルも首を傾げるが、なにを言おうとしたのかは、二人とも説明してくれそうになかった。

 それにしても、トップスピードとリップルは舌打ちで会話ができる、という話を聞いたことがあったが、いまのを見る限りほんとうなのかもしれない。

「スノーホワイトです。よろしくお願いします」

「私は、リップル。よろしく」

 スノーホワイトがお辞儀をし、リップルが会釈をした。

 ドーモ、リップル=サン、ドーモ、スノーホワイト=サン、とお互いに合掌してお辞儀し合う二人の姿が脳裏をよぎったのはなぜだろうか、と思いつつリップルの顔を見る。

 あのタイミングで会話に割って入ってくれたのは、ラ・ピュセルへの助け舟を出してくれたということなのだろうか、と思ったのだ。

 リップルが、ラ・ピュセルの視線に気づいた。

「リップル」

「チッ」

 ラ・ピュセルが声をかけようとしたところで、リップルが舌打ちするとともにそっぽをむいた。気にするな、ということなのか、別にそういうわけじゃないとでも言いたいのかはわからなかったが、とりあえず感謝の意を示すため、小さく頭を下げておく。

 リップルはまた舌打ちをすると、トップスピードに顔をむけた。

「要件は済んだだろ、トップスピード。さっさと帰ろう」

「っと、そうだな。晩飯も作んなきゃいけねえし。の前に」

 トップスピードがラ・ピュセルに近づき、顔を覗きこんできた。スノーホワイトが、むっと顔をしかめた気がした。

 いろんな意味で一瞬ドキッとするが、反射的に母の顔を思い浮かべて心を鎮め、ラ・ピュセルは口を開いた。

「トップスピード。私の顔になにか?」

「いや、前に会った時と、なんか顔つきが違うように見えてよ」

「顔つき?」

「凛々しくなった、っつーのかね。なんか別なやつに見えた気がしたんだよ」

 なんと言っていいのかわからず、なんとなくスノーホワイトの顔を見る。なんだか、嬉しそうな、しかしどこか()ねたような、複雑そうな表情をしていた。

 チッ、とリップルが舌打ちした。

「トップスピード」

「あー、わかったって。そう()かすなよ、相棒」

「誰が相棒だ」

「リップル」

「チッ」

 じゃれ合いながらトップスピードはラ・ピュセルから離れ、箒に(またが)った。続いてリップルが、舌打ちしながらも自然な調子で彼女のうしろに跨る。

「じゃーな、二人とも」

「それじゃ」

「あ、はい。それじゃ、また」

「また、いずれ」

「おうっ」

 別れの挨拶をし合い、トップスピードたちが飛んで行く。みるみるうちに、彼女たちの姿は小さくなっていった。

「ねえ、そうちゃん」

「そうちゃんは、やめ」

 やめてくれ、とスノーホワイトの言葉に返そうとむき直ったところで、ラ・ピュセルは思わず言葉を止めた。スノーホワイトの眼は、笑っていなかった。

「ど、どうしたんだ、スノーホワイト?」

「リップルのお腹を触ったって、どういうこと?」

「っ!?」

 驚愕したあと、ラ・ピュセルはハッとした。さっきのトップスピードたちとの会話の際、あの時のことを思い出してしまったせいか、と思った。

「ち、違うんだ、小雪、聞いてくれ!」

「なにを?」

「じ、事故だったんだ。トップスピードに尻尾を握られてびっくりしちゃって、転びかけたところにたまたまリップルのお腹があって。決して(やま)しいことはしていないっ。信じてくれ!」

「うん。それは信じる。でも、柔らかくて滑らかなあの感触は忘れられない、って感想はなに?」

「――――ア、ウ、オ」

 言え(イエ)ない。というか深く静かに怒っておられる、と気圧(けお)される。なんだか彼女の魔法の精度が上がっている気がするのは、気のせいだろうか。

 スノーホワイトが、ラ・ピュセルに近づいて来た。

 ビンタの一発や二発、甘んじて受け入れよう、とラ・ピュセルは観念した。それ以上のものが来るかもしれないが、それも仕方ないかもしれない。ただ、別れることだけは嫌だった。

 抱き締められそうなぐらい近くに、スノーホワイトが来た。彼女の手が持ち上がる。

 顔をはたかれることを予想して、思わずラ・ピュセルは眼を(つぶ)った。

「っ?」

 手を掴まれた、と感じた直後、(てのひら)がなにかに押しつけられた。温かく、柔らかで、滑らかだった。

 ハッと眼を開くと、顔を真っ赤にしたスノーホワイトの顔があった。

 状況がわからず、視線を下に落とすと、スノーホワイトがラ・ピュセルの手を自分のお腹に触れさせていた。服は(まく)り上げられており、素肌が見えている。

「え、えっ?」

「わ、わたしのお腹、どうかな、そうちゃん?」

 とても恥ずかしそうに訊いてくるスノーホワイトの言葉に、ようやく自分がなにをして貰っているか把握した。

 スノーホワイトのお腹に、触らせて貰っている。

 把握はしたものの、なぜこんなことになっているのか理解ができないうえ、思ってもみなかった事態に頭の中が真っ白になっていた。

「や、やっぱりリップルのお腹の方がいいの?」

「っ!?」

 泣きそうなスノーホワイトの様子に、ブンブンブンと慌てて首を横に振って答える。

 なぜスノーホワイトにこんなことをされているのかわからないが、リップルの方がいいということはない。というかスノーホワイトが、小雪がいい。

「ほ、ほんと?」

 彼女の言葉に間をおかず、勢いよく何度も首を縦に振る。

「そ、それじゃ、どうかな、そうちゃん?」

「そ、その、すごくスベスベで、柔らかくて」

 なで回したい、と思ったが、そんなことを言って、気持ち悪いと思われたりしないだろうか、と理性がラ・ピュセルを制止した。

「い、いいよ、そうちゃん」

「え?」

「も、もっと触っていいよっ。遠慮とかしないでっ」

「っ!?」

 さらに顔を赤くしながら、恥ずかしさをごまかすように大きめの声で紡がれたスノーホワイトの言葉に、ラ・ピュセルの頭はますます混乱した。

 落ち着け、ラ・ピュセル。冷静になるんだ、岸辺颯太。

 理性と欲望がせめぎ合うさまが、頭に浮かんだ。理性はラ・ピュセルの姿をしていて、欲望は颯太の姿をしていた。両者ともに剣を持ち、斬り結んでいた。

 彼女の騎士になると誓ったんだろう。そんな彼女を自分の欲望で汚していいのか。彼女を大切にするのではなかったのか。

 なに言ってるんだ。彼女がそれを望んでるんだぞ。その思いを無碍(むげ)にする方が、よっぽど彼女を傷つける行為じゃないか。

 剣と、言葉をぶつけ合う。欲望の『颯太』の方が優勢で、理性の『ラ・ピュセル』の動きは精彩を欠いていた。

 それでも、僕は騎士なんだっ。欲望なんかに負けたりしないっ。

 そんな思いが湧き上がり、『ラ・ピュセル』の動きが鋭くなった。その勢いのまま『颯太』を押しはじめる。

「っ、え、えいっ!」

「っ!?」

 理性が打ち勝とうとしたその時、スノーホワイトが意を決した様子でラ・ピュセルの空いていた方の手を取り、自分の胸に押しつけた。大きくはないが、しっかと感じられるその柔らかな感触に、ラ・ピュセルの理性がふっ飛びかける。

 欲望の『颯太』が、理性の『ラ・ピュセル』に語りかけた。

 なあ、ラ・ピュセル。君は僕だよな。

 ああ。

 じゃあ、わかるだろ。小雪を汚したくない、傷つけたくない。だけど同時に、自分の色に染め上げたい、メチャクチャにしてしまいたい、とも思ってしまう僕の気持ちがっ。

 わかる。ああ、充分にわかるとも。だが、いいか、怖がらせるんじゃないぞ。

 うん。

 ふっ飛ぶというか、理性は欲望と手を結んだようだった。

 結局負けてんじゃねーか、とか言わないで欲しい。好きな女の子にここまでされて理性を(たも)てという方が無理だ。

 心臓が、爆発するのではないかと思うほど、バクバク鳴っていた。

「小雪、ちょっと手を離してもらっていいかな」

「っ」

「その、このままじゃ落ち着かないからさ。頼むよ」

「――――うん」

 不安そうに瞳を揺らすスノーホワイトに優しく語りかけると、彼女は残念そうに手を離した。

 手が離れてすぐ、ラ・ピュセルはスノーホワイトの両の頬に手を添えた。

「そうちゃん?」

 不思議そうに問いかけるスノーホワイトの言葉になにも答えず、ラ・ピュセルは彼女の唇に自分の唇をそっと触れ合わせた。鼓動はやはり、スノーホワイトに聞こえてしまうのではないか、と思うほど激しく鳴っていた。

「――――」

 最初、なにが起こったのかわからない様子だったスノーホワイトが、ゆっくり眼を閉じた。ラ・ピュセルも眼を閉じ、そのまま唇を触れ合わせ続ける。

「んっ」

 数秒ほどして、ラ・ピュセルは唇を離した。瞳を開いたスノーホワイトの顔は真っ赤で、ラ・ピュセルの顔も、火が出そうなほど熱くなっていた。

 スノーホワイトが、眼の端に光るものを見せながらはにかんだ。

「えへへ」

「小雪?」

「そうちゃんから、キスしてもらっちゃった」

 嬉しそうに言ったあと、スノーホワイトがラ・ピュセルに抱き着いてきた。

 ボッ、と躰がさらに熱くなった気がしたが、なんとか腕を動かし、彼女の躰を抱き返した。

「そのね、不安だったの。恋人になったのに、そうちゃんなにもしてくれないし」

「うっ、ご、ごめん」

「ううん、わたしの方こそごめんね。わたしのこと、大切にしてくれてたんだよね」

「ほんとは、勇気がなかっただけかも」

「え?」

「キスとかしようとして、嫌がられたらどうしよう、ってこわがってたのかも」

 言葉の途中で、スノーホワイトに口を遮られた。今度は、彼女の方からキスをされていた。

 再び数秒ほどキスをしたところで、スノーホワイトが唇を離した。上目遣いにこちらを見上げる彼女の顔はやはり真っ赤で、しかしとても可愛らしかった。

「そうちゃんって、変なとこで意気地なしだよね」

「ぐっ」

 さらっと言われた言葉が、グサッと胸に突き刺さった。

「結構かっこつけなところあるし」

「がはっ」

「思いこみとか強いし」

「グ、グム~ッ、って思いこみに関しては、小雪にだけは言われたくない」

「え、なんで?」

「妄想癖がある、ってスノーホワイトのプロフィールにあるだろ」

「うっ」

 スノーホワイトが、ごまかすように咳ばらいをした。

 ラ・ピュセルの眼を見つめ、顔を赤くしながら再び微笑む。

「でもね、そうちゃんは優しくて、いつもわたしのこと気にかけてくれて、いざという時はすっごく頼りになって。そんなそうちゃんのことがわたし、大好き」

「――――僕も小雪のこと、大好きだよ」

 敵わないな、とラ・ピュセルは思った。きっと小雪は、自分よりずっと心が強いのだろう。控えめで大人しいけれど、芯が強い。

 けれどそれは、ひとりでも大丈夫という意味ではないのだと思う。

 恰好つけたがりというのは、その通りなのだろう。ちょっと前までは、恰好つけることばかり考えていた。ただ、いまはそこまでではない気もした。

 いや、それとも少し違う気がした。恰好つけた言葉を言ったりするのではなく、ほんとうにかっこいいやつに、自分が理想と思い描く魔法少女『ラ・ピュセル』のように、騎士になりたいのだ、と思う。

 あの日、颯太がそばからいなくなって寂しかった、と泣きながら語った彼女を見た時から、そんな思いが胸に生まれた。彼女を悲しませない。彼女の笑顔を守りたい。そのために強く、恰好よくなりたい。そんなふうに思ったのだ。

 いま、こうやっている間も、その思いはどんどん強くなってきている。彼女への愛しさがますます大きくなっている。

 もっと、勇気を持たなければ。

 スノーホワイトの躰をそっと離すと、その肩に優しく手を置いた。彼女は不思議そうにラ・ピュセルの顔を見上げてくる。

 もう一度、キスしたい。さっきより深いキスを、君としたい。

 視線で、熱く、そう訴える。

「――――」

 それが伝わったのだろう。スノーホワイトはモジモジとしたあと小さく頷き、そっと瞳を閉じた。

 ドキドキしながら、ゆっくりと顔を近づけていく。

 お互いの鼓動が、聞こえそうな気がした。

 

 唇が触れ合おうとした瞬間、スノーホワイトが眼を開き、顔を横にむけた。

「っ」

 嫌だったのか。

 一瞬そんなことを考え落ちこみかけるが、すぐにそう考えた自分を恥じる。

 彼女は、颯太を好きと言ってくれ、いまも受け入れる仕草を見せてくれたのだ。その彼女を疑うことは、してはいけないことだ。

 おそらく、困った人の心の声が聞こえたのだろう。

 そう考えると、固まったままのスノーホワイトの視線の先に顔をむけた。

「――――」

 困っている人たちが、いた。

 帰ったとばかり思っていたトップスピードとリップルが、空から困ったようにラ・ピュセルたちを見ていた。

『――――』

 誰ひとり、なにも言えず、気まずい空気のまま時間だけが過ぎていく。

 どうにかしなければ、とラ・ピュセルは意を決した。

「や、やあ、トップスピード、リップル。ぼくた、いや私たちにまだ用事でも?」

 平静を装ったつもりだったが、危うく普段の喋り方になりかけた。トップスピードがなにかに気づいたように、眉をピクリと動かしたように見えた。

 トップスピードが、困ったように頭を掻きながら口を開いた。

「んー、いや、そのな。ちょっとこの四人でチームでも組んでみねえか、って思ってさ。そんで、思い立ったが吉日っていうし、Uターンしてきたんだけど」

「え」

「いや、忘れてくれ。馬に蹴られたくねえし。まあ、なんだ、とりあえず時と場所は考えるようにしろよ、二人とも」

 最後は楽しそうに笑いながら言われ、ラ・ピュセルは思わずスノーホワイトの方に顔をむけた。同じタイミングでこちらをむいたスノーホワイトの瞳と見つめ合うかたちになり、顔が熱くなった。

「チッ」

「ハハハッ」

 リップルが舌打ちし、トップスピードが楽しそうに笑い声を上げた。

「まっ、誰にも言わねえから、心配すんな」

 その言葉を受け、ラ・ピュセルたちが彼女たちの方に顔をむけると、トップスピードはウインクをしてから箒のむきを変え、さっきも行った方向にむかって、再び飛んで行った。

 トップスピードたちの姿が見えなくなり、改めてスノーホワイトと見つめ合う。

「えーっと、か、帰ろうか、スノーホワイト?」

「う、うん。そうだね、ラ・ピュセル」

 さっき自分たちがやろうとしたことを思い出してしまい、ラ・ピュセルがぎこちなく声をかけると、スノーホワイトもギクシャクしながら答えてきた。

 帰る途中、動揺していたスノーホワイトが屋根から足を踏み外し、ラ・ピュセルが咄嗟(とっさ)にお姫様抱っこで彼女をキャッチしたのを道行く人に見られたりもしたが、それは特に気にすることではない。

 

 

*******

 

 

 ラ・ピュセルとスノーホワイトの衝撃的シーンを見てしまった帰り道、うしろにいるリップルから、妙に不機嫌そうな空気をトップスピードは感じた。

 正面をむいたまま、トップスピードは問いかけた。

「どうしたよ、リップル。不機嫌そうだな?」

「別に」

「あれか。二人がキスしようとしたのを見たせいか?」

「チッ」

 答える気はない、ということなのだろう。舌打ちからは、拒絶の響きがあったように思えた。

 リップルは、魔法少女たちの目撃情報をまとめた『魔法少女まとめサイト』で、スノーホワイトのページを見ていることが多かった。いろいろと思うところがあるのだろう、とトップスピードは思った。

 ため息をついたり、(かぶり)を振ったりしていたリップルが、口を開く気配があった。

「あの二人が」

「ん?」

「あの二人が、レズだったとは」

 幻滅、というか、見たものが信じられない、とでも言いたげなように思えた。

 その言葉に、ラ・ピュセルとスノーホワイトの様子を思い出す。

「レズ、ねえ」

「なんだ?」

「いんや、レズってどういう意味だっけ?」

「は?」

「いいからさ、どういう意味だっけ?」

 なに言ってんだこいつ、とでも言わんばかりの空気がうしろから漂ってくるが、気にせず答えを促すと、(いぶか)()なリップルの声が聞こえた。

「女の、同性愛者のことだろ」

「だな」

「うん?」

 なにが言いたいんだ、とでも言いたそうな雰囲気が伝わってくるが、トップスピードはそれに対してなにも言わなかった。

 最近、『竜騎士』と『白い魔法少女』、つまりラ・ピュセルとスノーホワイトが一緒に目撃されることが増えていた。そしてその目撃情報の中で目につくのが、なんだか妙に仲良く見えるという二人の話だった。もともと仲はよかったが、なんだか距離が近くなっている感じがあった。

 トップスピードも、二人の関係はレズとかそういったものなんだろうか、とちょっと思ったりもしていたのだが、今日会ってみて、考えを改めた。

「多分、レズじゃねえと思うぞ」

「キスしようとしていてか?」

「それでも多分、レズ、じゃあないな」

「――――?」

 リップルはやはり意味がわからないようだったが、それも無理はないとは思う。そもそも、こんなことを考える者の方が少ないだろう。

 多分、ラ・ピュセルの正体は男だ。

 発想が飛躍しているかもしれないが、そう考えれば、いままでの彼女の反応にもいろいろと納得がいく。

 さっきラ・ピュセルは、私たち、と言う前に、僕たちと言おうとしたのではないだろうか。自分を僕と言う女がいないわけではないし、トップスピードも一人称は俺だ。しかし、そんなふうに考えて見てみると、ラ・ピュセルの雰囲気は、女性のものではなく、男性のものに近い気がするのだ。

 また、トップスピードはスキンシップとして、肩や背中、時には尻を叩いたりとボディタッチすることが多く、時にはハグもする。ラ・ピュセルにやった時もあったのだが、そういった時、彼女は慌てることが多かった。

 特にハグの時、ラ・ピュセルは顔を真っ赤にして、躰が固まっていたほどだ。

 こういうことに慣れていないのか、とその時は思っていたのだが、いま思えば、女性とのスキンシップが恥ずかしかったのではないだろうか。

 もしそうなら、かたちとしては騙されていたものになるのだろうが、特に怒りのようなものはなかった。

 スケベ根性丸出しで行動していたなら、怒りも覚えただろうし、リップルやほかの魔法少女たちに言うことも考えただろう。しかしラ・ピュセルは、どちらかといえば申し訳なさげというか、罪悪感らしきものを顔に浮かべることが結構あったように思えた。

 それにスノーホワイトから、ラ・ピュセルがなにかに悩んでいるという相談を受けた時、良心の呵責(かしゃく)に耐えているような感じだった、という話も聞いていた。おそらくそれも、そのあたりのことで悩んでいたのではないだろうか。それを考えると、彼女を追い詰めるような行為はさすがに酷というものだろう。

 あと、スノーホワイトがいるのだから特に問題はないだろう、というのもある。ラ・ピュセルはかなり真面目であるようだし、スノーホワイトのことを大切にしていることも見て取れるので、そのスノーホワイトに任せておけば大丈夫だろう。

 思えば、スノーホワイトとそんな仲になったから、顔つきが違って見えたのかもしれない。自分もそうだったが、恋とは得てして人を変えるものだ。男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉もあるのだし、きっとそういうことなのだろう。

 男が魔法少女に成れるのか、という疑問もなくはないが、成れないと言い切ることもできない。トップスピードも、もとの姿とは大きく違っているのだ。

 トップスピードの本名は『室田(むろた)つばめ』といい、年齢は十九歳で、外見も年相応だ。髪は栗色で、ひと房の三つ編みにしてまとめてある。

 最も違うのは、お腹だった。つばめのお腹には、愛する夫との子供が宿っている。もうじき三ヶ月になる。不思議なことに、変身しても、お腹に子供がいるという状態は受け継がれないのだ。しかし変身を解けば、つばめは元通り妊婦である。

 学はないので理屈だったことは言えないが、魔法少女への変身は、躰が変質しているのではなく、ほかの躰と入れ替えられているような感じなのかもしれない。

 そんなふうに躰そのものが変わるのだから、性別が変わっても不思議はないだろう。

「――――」

 リップルは、うしろでまだ煩悶(はんもん)しているようだった。

「リップル」

「なに?」

「まー、なんだ。あの二人は好き合ってるみたいだしよ」

「好き合ってるなら、やっぱりレズじゃないか?」

「そこんところはあんま深く考えんな。とにかく、あまり変な眼で見てやるなよ?」

「わかってる。魔法少女として、ちゃんと活動してる二人だからな」

 妙に素直に受け答えしているように感じるのは、きっとまだ動揺しているせいなのだろう。

 さっきラ・ピュセルたちにチームを組むことを持ちかけようとした時、リップルからは反対されていた。されたのだが、ひとつ思うところがあって、とりあえず話だけでもしてみようとリップルの反対を押し切って引き返したのだ。

 理由は、リップルと、お腹の子供のことだった。

 もともとつばめは、じっとしてるのが苦手な性格だ。魔法少女になったのは八ヶ月近く前だが、それからずっと続けている。妊娠が発覚した時は驚いたが、お腹の子供は問題ないため、安全には気をつけているものの、魔法少女として活動するのをやめることはなかった。

 不謹慎な言い方ではあるが、つばめにとって魔法少女活動は、世のため人のために働き、マジカルキャンディーを集めるという『遊び』だ。

 いつだって遊ぶ。遊ぶとは心に余裕を持つことであり、食べるために働いたり、生きるために生きるのとはまた違った、つばめなりの『生き方』だった。昔もいまも、年を取ってからも、その生き方を変えるつもりはない。一応願掛けとして、トップスピードがぶら下げている御守り袋には、交通安全と安産祈願の御守りを入れてあった。

 魔法少女が許されるのは、小、中学生、ギリギリで高校生ぐらいまでだろう。十九歳の人妻はさすがにアウトだ。

 魔法少女として選ばれた時、最初に頭に浮かんだのはそれだった。もうちょっと若い()に譲ってやってくんない、とファヴにまず言ったのだが、そのあと鏡に映った自分の姿に、 Good job(グッジョブ)、と魔法少女になることを承諾し、魔法少女トップスピードとなったのだ。

 いまは落ち着いたが、つばめは高校時代まで、レディースチーム『燕無礼棲(エンプレス)』の(ヘッド)を張っていた、いわゆる不良少女だった。たった五人の、チームとも言えないほど小さなチームだったが、つばめたちが住み、トップスピードたち魔法少女たちが目撃されるN市において、引退するまで最速を(うた)われていた。

 夫とはじめて出会ったのは、つばめが小学生のころ、彼の一家が隣の家に引っ越してきた時だ。彼にはつばめと同い年の妹がいて、その妹とつばめは仲良くなった。つばめは昔から素行が悪く、彼にとっては、妹を悪の道に引きずりこむ悪ガキにしか見えなかっただろう。つばめも彼のことは、なにかと口うるさい友人の兄、としか思っていなかった。

 それがいつのころからか、好きになっていた。

 そしていまは結婚し、子供もできて、刺激を感じさせる魔法少女生活に、それによって出会った友だちもいる。幸せを謳歌(おうか)していると言っていい。

 ただ、ちょっと心配だったのは、その友だち、リップルのことだった。リップルは、トップスピードのことを友だちとは思ってないかもしれないが、トップスピードは彼女を友だちだと思っている。それで充分だ。

 リップルは、とっつきにくい感じではあるし、喧嘩っ早いところはあるものの、受け答えはなんだかんだでちゃんとするし、なにより魔法少女として人助けを積極的に行う、優しいやつだ。本人は、人助けをするのはマジカルキャンディーを集めるためだ、と(うそぶ)くが、そのために街の問題などを調べたりしてまで、人助けをすることはしないだろう。

 そんないいやつではあるのだが、彼女は人と関わりたがらない。それが、トップスピードには心配だった。

 ふたりというのはいいものだ。楽しい時は二倍楽しめ、苦しい時は半分で済む。遊び仲間がいるからこそ、『遊ぶ』のは楽しくなる。

 いつだって、つばめの隣には誰かがいた。それは友だちであり、仲間であり、家族だ。『燕無礼棲(エンプレス)』のメンバーたち、夫、リップル。そんな誰かがいてくれるから、楽しく過ごしていけるのだ、とつばめは思っている。

 リップルと組んだのは、彼女が危なっかしかったというのが理由だった。付き合っているうちに、優しいいいやつであることもわかり、一緒に魔法少女活動をするのもどんどん楽しくなっていった。

 しかし、もう半年もしたら、魔法少女として活動するのは難しくなるだろう。お腹の子供がいるのだ。そして子供が産まれたら、優先しなければならないのは、その子のことになる。『遊ぶ』のをやめる気はないが、だからといって自分の子供を(ないがし)ろにすることだけは、絶対にしたくない。愛する夫とともに望んだ、愛する我が子なのだ。

 だがトップスピードが魔法少女活動を休止したら、リップルはひとりになってしまうだろう。だから、リップルをひとりにさせないために、ほかにも仲間を、友だちを作るきっかけを作りたかったのだ。

 気が早いと言われればその通りだが、なら、いつ言えばいいんだ、と言えることでもある。なら、思いついた時に言っておく方がいいだろう。そう思ったのだ。

 おせっかいと言われても構わない。友だちを心配することの、なにがいけないというのか。

 リップルはスノーホワイトのことを気にかけていたようだし、スノーホワイトも、彼女の相棒であるラ・ピュセルも、しっかりと魔法少女活動をしている。頼むのなら彼女たちだろう、と思った。

 まあ、二人の関係に関しては誤算だったわけだが。さすがにあそこまで甘ったるい空気を醸し出す二人と、チームを組もうぜとは言いにくい。

 どうしたものか、とちょっとだけ悩み、やめる。考えこむのは趣味じゃない。ふとしたひょうしに、いい考えが浮かぶことだってあるだろう、と思った。

「まあ、いまはいいか」

「なにがだ?」

「いや、こっちのことさ。飛ばすぜ、しっかり掴まってろよ、相棒」

「ああ。って相棒じゃないっ」

「ハハハッ、ほんと、おまえさんはツンデレだねー」

「チッ」

 いつもの調子に戻ってきたリップルに笑い声を上げ、ラピッドスワローの速度を上げる。本気を出せば音速も軽く超え、現代の戦闘機以上のスピードも出せるが、いまはそこまで出すことはない。

 風を受け、移り変わる景色を楽しみ、振り落とされないようトップスピードの腰に回したリップルの腕の温かさを感じながら、トップスピードたちはホームに飛んで行った。

 

 




 
 
 
最初は『竜乙女育成計画』の続きとして書いてたのが気がつくとイチャついて、まあいいかとそのまま続ける。尻尾を触って調きょ、もとい育成は気が向いたら書くかもしれません。

トップスピードはきっかけがあれば多分気づく気がしたり。
「あー、うん。まあ恋愛に性別は関係ないよな。お幸せになー」とか言うイメージもあるけど。
なんかリップルの口調むずい。むずいっていうか書きにくいっていうかイメージしにくい。

再構成っぽい『白雪姫と竜騎士』と、キャラ崩壊ありのギャグっぽい『竜乙女育成計画』の二種類を気ままに書いていこうかと思ってます。どちらともクラムベリーが「誰だおまえ」って言われそうなキャラになりそう。


それはそうと、ラ・ピュセルの魔法って、それだけで勝負が決まるほど強くはないけど、役に立たないほど弱くはないというか、搦め手には不利だけど、使い手が強くなればなるほどいろんな状況に対応できる、『少年漫画の主人公向けの能力』だと思うんですよ。ええ。闘うとこ想像するとなかなか楽しいし、見栄えするし、アクションわかりやすいし。
問題は、原作は少年漫画じゃないし、ラ・ピュセルも主人公じゃないという点か。
 


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森の音楽家、現る

 
お久しぶりです。
今回はラピュスノ少なめです。期待されていた方ごめんなさい。

おねショタ。
「私はいいと思う」

NTR
「私はいいと思う」
「待ってください。正気ですか?」
 


 今日も今日とて鉄塔の上で待ち合わせる。お互いの家はわかっているわけだし、直接迎えに行ってもいいとは思うのだが、こんなふうに落ち合う場所を決めて相手を待つというのも、なかなか捨て(がた)いものがあった。

「ふんっ」

 待っている間ラ・ピュセルは、最近の日課となっている、剣の素振りを行なっていた。長さも幅も、常のものよりずっと長く大きくしたそれを、何度となく振り上げては振り下ろすことをくり返す。

 闘う機会があるかどうかはわからないが、鍛えておくに越したことはない。魔法少女という存在が実在するのだから、ほんとうに異世界からの侵略者がいてもおかしくはないだろう。いや本気でいるなどと思ってはいないが。

 いずれにしても、強くなりたいという思いは大きかった。よく憶えてはいないのだが、妙な夢を見た気がするのだ。

 なにかに追い立てられるような得体のしれない焦燥感が、心のどこかにあった。

「ふうっ」

 いったん素振りをやめ、息をついた。

 素振りには慣れてきたとは思うのだが、効果がどれだけあるのか、ラ・ピュセルにはよくわからなかった。いや、もしかしたら、まったく意味がないのかもしれない。そんなことを思ってしまう。

 そもそもラ・ピュセルは、格闘技や武術の経験などない。やっていたのはサッカーばかりで、格闘技の知識などは、漫画やアニメなどのものしかないのだ。

 それを恥ずかしいとは思わないが、鍛錬の指針になるものがないというのは、やはり効率が悪いと言わざるを得ない。明確なヴィジョンがなければ、迷いが生まれるものだ。現に、いまもそうだった、

 誰か、その手のことで師事してくれる人はいないだろうか。

 まず考えるのは、N市内にいるほかの魔法少女たちのことだった。ラ・ピュセルとスノーホワイトも含め、十五人いる。その中で、荒事にむいており、強くなるための指標を示してくれる者はいるだろうか。

「やっぱり、ウィンタープリズンかなあ」

 パッと思いついたのは、ラ・ピュセルが最も世話になったと言える魔法少女、シスターナナと、そのパートナーであるヴェス・ウィンタープリズンの二人だ。

 シスターナナは、ラ・ピュセルが魔法少女になった時、教育係になってくれた魔法少女で、言ってみればラ・ピュセルの師匠のようなものだ。シスターナナはラ・ピュセル同様に役を作りこむタイプで、そういった意味でも師匠のようなものだった。

 ヴェス・ウィンタープリズンは、魔法少女になった順番から言うとラ・ピュセルの妹弟子になる。彼女も、シスターナナが教育係だったのだ。と言うよりも、シスターナナが彼女を魔法少女にした、と言えるようだ。魔法少女としての彼女たちはパートナー同士だが、プライデートでも彼女たちは付き合っているらしい。女同士のはずなのだが、まあそういう関係もあるのだろう。

 シスターナナの恰好は修道女をモチーフにしている、はずなのだが、ノースリーブでかつスカートには深いスリットが入っており、胸は豊満。さらにはその胸をベルトで強調し、白いストッキングをガーターベルトで吊っている。ラ・ピュセルの恰好も大概ではあるが、彼女の衣装も負けず劣らずのエロさであった。『シスター』とはいったい、といろいろな意味でラ・ピュセルを悩ませる。主に、その強調された胸や躰のラインが。スノーホワイトには秘密だが。

 ヴェス・ウィンタープリズンの方は、一見するとロングコートを着た麗人にしか見えない魔法少女であり、N市の魔法少女の中では数少ない、露出の少ない魔法少女だった。

 見知った魔法少女たちのほとんどは、なぜか妙に露出度が高い。具足はともかく、下半身の衣装が水着か下着にしか見えないラ・ピュセルが言えたことではないが、彼女たちの恰好は、ラ・ピュセルに疚しい気持ちを抱かせそうになるものだった。

 例えばトップスピードは、空を飛ぶにもかかわらず、スカートが短い。その裾がなにかと風に舞い、スカートの中身が見えてしまうのではないかとドキドキヒヤヒヤさせられる。ボディタッチも多く、肩や背や、はては尻まで叩かれることもあったし、それどころかハグされたり、肩を組まれた時もあった。頭の中が真っ白になったものだ。

 リップルも、肩に腿に臍に、と露出度は相当なものだった。事故で彼女のお腹を触ってしまったこともあったが、それもあってあのコンビは、ラ・ピュセルにとって少々危険なコンビと言えた。

 危険な魔法少女と言えば、カラミティ・メアリという魔法少女がいる。恰好もそうだが、そのままの意味でも危険な魔法少女だ。

 外見は十七、八歳ぐらいで、表面積の狭い豹柄のビキニに、風が吹けばめくれあがってしまいそうな薄く短いスカートを身に着け、テンガロンハットを被るという、西部劇に出てくる女ガンマンと言った風情の姿をした彼女は、無法者としか言いようがない行為ばかり行なっており、どこかの暴力団に雇われているという話すらあった。

 それは噂でしかないが、事実無根の話だとも思えなかった。かなり好戦的な人物であることは間違いなく、シスターナナがヴェス・ウィンタープリズンととともに彼女の縄張りに入った時、有無を言わさず闘うことになったらしい。ヴェス・ウィンタープリズンのおかげで特に怪我をすることはなかったらしいが、シスターナナも無茶をする、と思ったものだった。

 リップルもちょっとやり合ったことがあると、トップスピードから聞いたことがあった。新人であるリップルをトップスピードが指導している時に現れ、ちょっと話したところで突然撃たれたのだという。その時リップルは、カラミティ・メアリが撃ってくる拳銃の弾丸を刀で(はじ)くなどという芸当をしたらしいが、もし弾けなかったらどうなっていたことか、想像するのは難しくなかった。

 清く、正しく、美しく。そんな魔法少女を理想とし、目標とするラ・ピュセルからすれば、彼女の在り方は決して許せるものではない。

 ラ・ピュセルも一度、柄の悪い男たちを従え、どこかに行こうとするカラミティ・メアリを見たことがあった。なにか良からぬことをする気ではないか、咎めるべきか、と迷い、その恰好と大きな胸に気をとられ、考えこんでいる内に、彼女たちはいなくなっていた。自分はなにをやっているんだ、と思わなくもなかった。

 ウィンタープリズンは、その中では安心、だと思っていた。実際には、ギャップのもたらす破壊力がすごかった。以前どこぞのビルの屋上で、ラ・ピュセル、シスターナナ、ウィンタープリズンの三人で雑談していた時のこと、にわかに雨が降ってきたことがあった。ウィンタープリズンはためらうそぶりも見せず、即座にコートをシスターナナの頭にかけたのだが、普段コートに覆われているウィンタープリズンの躰は、セーターを通してもわかる均整のとれた肉付きに、かたちのよい胸回りが見て取れ、ラ・ピュセルは慌てて眼を逸らすことになった。

 ほんとうに安心と言えば、ルーラという魔法少女と、彼女が率いている四人の魔法少女たちだ。内ひとりはカラミティ・メアリ並みに危険ではあるが、ほかは見ていて微笑ましい気持ちにさせられる。

 ルーラは、宝石が散りばめられた、裾が床を引きずるほど長く光沢のある立派なマントを纏い、手にはこれまた立派そうな杖、というか王(しゃく)を持ち、パーティーに出るかのような長手袋を嵌め、頭にはティアラという、姫や女帝、貴族然とした恰好をしている魔法少女だ。

 トップスピードいわく、ルーラはかなり口が悪いが、面倒見はいいとのことだった。

 ラ・ピュセルも何回か会ったことはあるが、閉口するぐらいには口うるさい相手だった。ラ・ピュセル、颯太は体育会系的な、いわゆる理不尽な先輩からの理不尽な命令などが嫌いだ。積極的にかかわる気はないため別にいいが、彼女とはうまく行く気がしなかった。

 意外と言っては失礼かもしれないが、彼女の魔法少女としての目撃談はそれなりにあるので、魔法少女としてはしっかり活動しているようだった。それもあって、カラミティ・メアリに対するような嫌悪感はない。ないが、口うるささもあって、あまり近づきたい相手でもなかった。寸胴、貧乳体型で露出度も低く、見て微笑ましくはあっても、特に楽しいものでもないし、というのはどうでもよろしい。

 ルーラチームのメンバーである双子の天使、ピーキーエンジェルズは、文字通り天使のような外見をした二人組で、ユナエルとミナエルという名前だ。見た目は十歳前後で、背中から生えている翼はそれぞれ一翼という、比翼の天使とでも言った感じだった。二人とも非常によく似ており、どっちがユナエルでどっちがミナエルかはっきりわからない、というか教えて貰っても結局わからなくなりそうな気がするほどだ。

 片方がなにかしら言うと、お姉ちゃんマジクール、などともう片方が追従することが多く、姉妹仲はかなりいいらしいことが(うかが)えた。ほんとうに姉妹なのか教えて貰ったわけではないが。

 あと微笑ましいのは、たまという魔法少女。名前はどちらかというと猫っぽいが、犬のような魔法少女だ。チャットでの挙動や受け答えが犬を思わせるものが多く、失礼な言い方かもしれないが、女の子と言うよりは、賢くてかわいらしいペットの犬と言う方が近く思える。ルーラチームとは、こんなメンツなのだ。

 しかしルーラチームにはひとり、危険な魔法少女がいる。名は、スイムスイム。白いスクール水着を着て、水泳用ゴーグルを首から下げている。それだけならただの泳者といったところだが、頭にはヘッドホンをつけ、腰のうしろに謎の円盤が数枚取り付けられていた。

 白いスクール水着という、なかなかニッチな恰好をした魔法少女だが、チャットでアバターを見る分には、特別なにかを思うことはなかった。危険なことに気づいたのは、以前、魔法少女として人助けをした時のことだ。道に迷っていたお婆さんの手を引いて案内してあげたのだが、そこはルーラの縄張りだった。運悪くルーラに見つかってしまい、無許可で私たちの縄張りに入るなと叱られたのだ。

 説教はだいぶ長かったが、叱られた言葉は憶えていない。彼女の隣に立つスイムスイムから眼が離せなかったためだ。

 大きかった。すごく、大きかった。それに気を取られ、ルーラの説教は頭に入らなかった。そしてカラミティ・メアリを見た時に考えてしまったのは、スイムスイムとどちらが大きいか、ということだった。互角か、いやメアリが勝つか。そんなことを思った。

 それはともかく、あのチームに教えを乞うのはいろんな意味で無理だろう、と結論づけるしかなかった。

 残る魔法少女は、幼稚園児か小学生かというぐらいの体格で、ロボットのような、というかロボットにしか見えない外見をした魔法少女、マジカロイド44。パジャマ姿で他人の夢に出てくる、基本的に魔法少女チャットでばかり姿を見かける、ねむりん。目撃情報が非常に少なく、ラ・ピュセル自身は魔法少女チャットでしか見たことがない、森の音楽家クラムベリー。これで全員だ。十六人目の魔法少女が生まれるとか生まれたとかの噂もあるが、まだはっきりとした話は聞いていない。

 マジカロイドの魔法は一風変わっていて、未来の道具とやらが出せるというものだ。

 未来の道具というだけあって、現代の技術では到底作り出せそうにない物が多いらしいが、その道具は日替わりで、なおかつ一日しか使えないのだという。たまに、その道具をほかの魔法少女に売りつけに来る時もある。ラ・ピュセルも何度か話を持ちかけられたことがあったが、値段は一万円という、中学生がポンと出せる金額ではないこともあって、買ったことはなかった。一日しか使えないというのもためらう理由だが。

 ねむりんは、一度だけラ・ピュセルの夢に出てきたことがあった。といっても、夢の中だというのに気持ちよさそうに寝ていて、起こすのもどうかなとじっと見ていただけだったが。

 だが、すぐに彼女の危険さに気づいた。チャットのデフォルメキャラではどうということがなかった、上半身がパジャマで下半身に靴下のみという恰好は、リアル等身で見るとかなり破壊力が高かったのだ。パジャマの裾から伸びる素足はやたら(なま)めかしく、さらには時折、ねむりんが寝返りを打つ。そのたびに大変なことになりそうになり、やはり起こした方がいいのだろうか、と慌てているうちに、眼が醒めた。

 クラムベリーは、チャットでしか見たことがないということもあって、よくわからない。チャットで見る限りでは、創作の世界でなにかと使われるエルフのような尖った耳に、薔薇(ばら)を衣装に散らした感じの恰好だ。ねむりんのようによく人と話すわけでもなく、ただ楽器を弾いているだけのため、人となりもよくわからなかった。

「まあ、いいか。ウィンタープリズンに頼んでみよう」

「なにを?」

 聞き慣れた声がした。特に慌てることなくふりむく。近づいてくる気配は感じていたためだ。思った通り、スノーホワイトがいた。

「やあ、スノーホワイト、こんばんは」

「こんばんは、そうちゃん」

「そうちゃんはやめなさいって」

 いつものやり取りをして、笑い合う。

 ラ・ピュセルに変身している時、感覚はかなり鋭敏になっている。ある程度離れたところにいる人の息遣いや、気配のようなものも感じ取れるぐらいだ。動かずにじっとしていれば、なおのことだ。

「それで、ラ・ピュセル。ウィンタープリズンに頼むって、なにを?」

「いや、なんていうか、強くなりたくってね。ウィンタープリズンに組み手でもして貰おうかなって思ってさ」

「強く?」

「うん。なんだか、強くならないとまずいことになりそうな気がしてさ」

 困った声が聞こえるというスノーホワイトに対しては、あまり隠し事はしないようにしようと思っている。どうしても隠さなければならないことに関しては、母のことを思い浮かべてどうにかする。

「――――?」

 意識の端に、なにか引っかかった気がした。誰かがラ・ピュセルたちを見ている。そんな気がした。ラ・ピュセルがここに来た時から、なにか違和感はあったのだが、なんなのだろうか。

 とりあえず意識の端に留めておく程度にして、スノーホワイトに注意を戻す。

「でも、ラ・ピュセルは強いし」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ほら、ほんとうに魔法少女ってものがいるんだから、異世界からの侵略者とかもほんとうにいるかもしれないしさ」

「うーん」

 スノーホワイトが苦笑した。ラ・ピュセルも苦笑する。

「とにかくさ、強くなっておきたいんだ」

「――――そっか」

「うん、だから」

「そっか。コートを脱いだ時のウィンタープリズンの躰付きとか胸回りとか見たくて行って来る、ってわけじゃないんだ?」

「――――」

 ゆっくりと、ラ・ピュセルは空を見た。今日は曇っている。月の光は雲を通してうっすらと見えるが、星はほとんど見えなかった。

 再び、スノーホワイトの顔を見た。ニコニコとしているがなんとなく、漫画で見られるような怒りマークが二、三個ほど見えたような気がした。

「あの、スノーホワイト、さん?」

「強調された躰のラインがとか、トップスピードにハグされたとか、あの二人は危険だとか、カラミティ・メアリとスイムスイムの胸はどっちが大きいかとか?」

「ごめんなさい!」

 間髪入れず、ラ・ピュセルは土下座した。

 

 抱き締めたり、キスしたり、恥ずかしくはあったがいろいろして、なんとかスノーホワイトに機嫌を直して貰い、その後に今夜の魔法少女活動を行い、終えた。

「送ってくれてありがとう、ラ・ピュセル」

「私は、君の騎士だからね」

「大きい方が好きだけど?」

「ごめんなさい」

 クスクス、とスノーホワイトが笑った。

「浮気とか、しないでね?」

「しないって。その、説得力ないかもしれないけど」

「大丈夫。信じてるから」

「うん。ありがとう。おやすみ」

「おやすみ」

 スノーホワイトが帰っていく。やがて、姿が見えなくなった。

「こんばんは」

「ああ」

 背中から声をかけられた。慌てずにふりむく。見覚えがある姿だった。チャットでのデフォルメキャラしか見たことがなかったが、それのリアル等身ならこんな感じになるだろう、と思わせる姿の女性。魔法少女は十代半ばの外見が多いが、彼女は二十歳前後に見えた。

「森の音楽家、クラムベリー?」

「はい。こうしてお目にかかるのははじめてですね、ラ・ピュセル?」

 こくんと頷く。

「それで、私になにか用でもあるのか。鉄塔にいた時から見ていたようだが?」

「気づいていましたか。さすがですね」

 クラムベリーは、どこか楽しそうだった。なにか危険な感じがするのだが、よくはわからなかった。

「気づいていてスノーホワイトを帰したのは、なぜです?」

「私とスノーホワイトのどちらに用があるのかわからなかったからな。スノーホワイトの方を追うようだったら、こちらも追うつもりだった」

「ふむ、なるほど」

「それで、もう一度訊くが、なんの用だ?」

「ひとつ、手合わせしてみませんか、ラ・ピュセル?」

「なに?」

「私はこれでも腕に覚えがありましてね。強い相手と闘いたいのです。それに、強くなりたいんでしょう、ラ・ピュセル?」

 そういえば、N市の魔法少女の中で、最古参はクラムベリーだと聞いたことがあった。目撃情報は少ないが、ひょっとしたら世間に知られないように活動しているのかもしれない。

 いまいちよくわからない相手ではあるが、ここまで自信満々に言うのだから、実力はあるのだろう。

「わかった。私としても願ったりだ。手合わせ願おう」

「ええ」

「場所を変えよう。もう少し闘いやすいところに行こう」

「わかりました」

 第七港湾倉庫。あのあたりなら、夜なら(ひと)()はないだろう。

 建物の屋根から屋根を移って移動する。

 到着した。クラムベリーは、余裕をもって着いて来ていた。

 むき直り、剣を抜き放った。

 クラムベリーは、じっと佇んでいる。

「構えはとらないのか?」

「お気になさらず。本気で来なさい、ラ・ピュセル」

 むう、と唸り、剣を鞘に入れ、構えた。

 おや、とクラムベリーが呟いた。

「手加減のつもりですか?」

「いや、というより、抜き身で相手を攻撃するのに抵抗があるだけだ。どちらかというと、こちらの事情だ」

「なるほど。そういう理由ですか。悪くない判断ですね」

「では、いくぞ!」

「来なさい、ラ・ピュセル」

 吼え、ラ・ピュセルは跳躍した。

 

 負けた。

 アスファルトの冷たさを背中に感じながら、仰向けのまま夜空を見る。今夜の天気のように、ラ・ピュセルの心も曇っていた。

 負けた、どころではない。(ざん)敗、いや、勝負にもならなかったと言っていい。

 こちらの攻撃はことごとく躱され、すさまじい速度の拳や蹴りが時々飛んでくる。ほとんど避けられず、何度か立ち上がりはしたものの、それで終わりだった。

 ラ・ピュセルとしての躰は頑丈で、身体能力もかなりのもののはずなのに、これほどまでに相手にならないとは。

 躰が問題なのではない。ラ・ピュセル自身が、不甲斐なさ過ぎるのだ。

 情けなさ過ぎて、涙も出てこなかった。

「なかなかでしたよ、ラ・ピュセル」

「っ、慰めなんてよしてくれ」

 声が震えた。視界が滲む。涙も出てこないと思ったが、そんなことはなかった。顔を見られないように、うつ伏せになった。

「悔しいですか、ラ・ピュセル?」

 ギリッと歯を食いしばり、うつ伏せになったまま頷いた。

「ならば、私の弟子になってみませんか?」

「っ!?」

 涙を拭い、顔を上げる。クラムベリーは、穏やかに微笑んでいた。

「確かにあなたは、私の相手になったとは言い(がた)い。ですが、まったく見込みがないとは思えませんでした。あなたにその気があるのなら、私が鍛えて差し上げましょう。いかがです?」

「なぜ?」

「なにがですか?」

「なぜ、私にそんな申し出を?」

「言ったでしょう。私は強い相手と闘いたいと。あなたが強くなって私に挑んでくれるのであれば、私は強敵との闘いを愉しめるということです。あなたのためというより、自分のためですよ。いかがですか?」

 スノーホワイトの顔が頭に浮かんだ。強くなりたい。彼女を守るために。彼女を悲しませないために。弱いままでは、彼女を悲しませることになる。そんな気がするのだ。

 躰の痛みを我慢して立ち上がり、礼をした。

「私の方こそ、お願いします。私を鍛えてください、師クラムベリー」

「師、ですか。なかなか悪くありませんね。では、これからよろしくお願いします、ラ・ピュセル」

「はい。よろしくお願いします!」

 クラムベリーが、満足そうに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***おまけというには長い気がするおまけ(暴走してます。あまり深く考えずにご覧ください)***

 

 負けた。

 アスファルトの冷たさを背中に感じながら、仰向けのまま夜空を見る。今夜の天気のように、ラ・ピュセルの心も曇っていた。

 負けた、どころではない。(ざん)敗、いや、勝負にもならなかったと言っていい。

 こちらの攻撃はことごとく躱され、すさまじい速度の拳や蹴りが時々飛んでくる。ほとんど避けられず、何度か立ち上がりはしたものの、それで終わりだった。

 ラ・ピュセルとしての躰は頑丈で、身体能力もかなりのもののはずなのに、これほどまでに相手にならないとは。

 躰が問題なのではない。ラ・ピュセル自身が、不甲斐なさ過ぎるのだ。

 情けなさ過ぎて、涙も出てこなかった。

「私の勝ちですね、ラ・ピュセル。では」

 クラムベリーが、ラ・ピュセルの上体を起こした。顔が近づいてくる、というかすでに間近に迫っていた。思ってもみなかった行動に、思考が遅れる。

 浮気とか、しないでね

 大丈夫。信じてるから。

「っ!?」

 スノーホワイトの声が聞こえた気がした。痛む躰を無視し、反射的にクラムベリーの顔を手で止めた。

 クラムベリーが不満そうな表情を浮かべ、ラ・ピュセルの手首を掴んだ。

「なんですか、ラ・ピュセル?」

「なんですかもなにも、あなたこそなにをするつもりだ、クラムベリー!?」

「キスしようとしたのですが?」

「なんで!?」

「あなたは、私に負けましたよね?」

「あ、ああ」

 それは確かだったので、腕に力をこめたまま頷いた。

「敗者は勝者のものになる。それがルールでしょう?」

「いつどこで誰が決めた!?」

「たったいま、ここで、私が」

「さらっと言うな!!」

「質問は以上ですね。では」

「グ、グム~ッ」

 クラムベリーの力が強くなった。ラ・ピュセル以上の力かもしれない。躰が万全でも押さえこまれそうな気がした。

 手首を掴まれた腕に力をこめる。びくともしない、というわけではないのだが、あちらの方が強いのは間違いなかった。クラムベリーの顔と、ラ・ピュセルの顔の間には、もうなにもなかった。

 クラムベリーの顔が、近づいてくる。

 顔を(そむ)ける。クラムベリーが馬乗りになるようにして、ラ・ピュセルの躰に跨った。手を、地面に押さえつけられた。

「や、やめろ、クラムベリー」

「そうちゃん」

「っ!?」

 スノーホワイトの声が、聞こえた。背筋が凍える。

「そうちゃん。信じてたのに」

「ち、違うんだ、スノーホワイト!」

 顔と眼を動かし、あたりを探ってみるが、スノーホワイトの姿はなかった。気配も感じられない。

 ふと、クラムベリーの名前を思い出した。森の音楽家。

「まさか、いまの声は」

「なかなかいい勘をしてますね。そうです。私の魔法です。私は『音』を操れましてね。スノーホワイトの声で言葉責め。いかがです?」

「最低だ!?」

「まあ、バレてしまってはしょうがありません」

「関係ないけどね」

「本気で最低だ!?」

 途中でスノーホワイトの声になり、心臓がバクバクと鳴った。

「そうちゃん。そんな嫌がらないで」

「やめろーっ!?」

 嫌なはずなのに、妙な気分になってくる。背徳感のようなものが、どこかにあった。その気持ちを、必死でねじ伏せる。

 駄目だ。やめろ。スノーホワイトを、小雪を裏切りたくないんだ。そう思っても、耳をふさぐこともできない。

 ふっと気づく。

「ちょ、ちょっと待て、なんで、そうちゃんって」

「私、耳はいいもので」

「鉄塔で盗み聞きか!?」

「はい」

「とことん最低だな!?」

「まあ、いいじゃありませんか。それより、そろそろ素直になったらどうです。嫌よ嫌よも好きのう」

 クラムベリーが言葉を止め、ラ・ピュセルから跳び退(すさ)った。直後、ラ・ピュセルの頭の方向から、なにかが突き出された。

「――――薙刀(なぎなた)?」

 呟いたが、ちょっと違う気がした。刃の部分は薙刀ほど()りがなく、大きな出刃包丁といった感じだった。

 薙刀らしき物が、視界から外れていく。仰向けのまま、顔を上げるようにして、薙刀が引っこんでいった方を見た。

 スノーホワイトが、いた。

「っ!?」

 慌てて立ち上がろうとして、躰の痛みに膝を突いた。

「そうちゃん。無理しないで」

「スノーホワイト、その、私は」

「大丈夫。疑ったりなんかしない」

「あ、ああ」

 スノーホワイトが、儚げな微笑みを浮かべた。どこか雰囲気が違うような気がした。表情が薄く、無機質な感じを受ける。ただ、無理にそうしているふうにも見えた。

「クラムベリー」

「スノーホワイト、私に挑むつもりですか?」

 スノーホワイトが、薙刀をちょっとだけ持ち上げ、構えた。返事代わりだろうか。

「ちょっと待つぽん!」

 魔法少女育成計画のマスコットキャラであるファヴが、マジカルフォンからいきなり飛び出した。

「ファヴ?」

「魔法少女同士の闘いにもルールがあるぽん。出でよ!」

「っ!?」

 ファヴの言葉とともに、なにかが地面からせり上がってきた。

 白く、四角く、それなりに大きな物。四隅にはコーナーポスト。

「リ、リング?」

 プロレスやボクシングの試合場として使われる、リングだった。

「さあ二人とも、リングに上がるぽん!」

「ちょ、まっ」

「はぁーっ」

「とぉーっ」

「跳んだ!?」

 困惑するラ・ピュセルを気にせず、スノーホワイトとクラムベリーが跳躍し、リングに上がった。

 もう、わけがわからなかった。

「えー、これよりー、スノーホワイトVS森の音楽家クラムベリーの試合をはじめるぽん~~」

「なんのノリだよ!?」

「魔法少女同士の闘いは、魔法少女レスリングで決着をつけるものぽん!」

「レスリング!? 武器持ってるけど!?」

「コスチュームの一部なら合法ぽん。あと、盛り上がれば問題ないぽん」

「雑だなあ!?」

 ファヴが、マイクらしき物を装着した。

「赤ーコーナー、スノーホワイトー、魔法少女強度ー、九十五万パワ~~」

「高っ!? って魔法少女強度ってなんだよ!?」

「あ、ラ・ピュセルは九十六万パワーだぽん」

「さらに高い!? 平均値はいくらなんだ!?」

「青ーコーナー、森の音楽家クラムベリー、魔法少女強度ー、一千万パワ~~」

「高すぎだろ!?」

「大丈夫だよ、ラ・ピュセル。魔法少女強度はあくまでも目安。魔法少女魂を燃やせば(くつがえ)せるっ」

「っていうかノリがわからないんだけど!?」

「魔法少女魂、ですか。フフッ、私も魔法少女なのですよ、スノーホワイト?」

「だけど、あなたはほんとうの魔法少女じゃない」

「ほう?」

「ほんとうの魔法少女っていうのは、清く、正しく、美しいもの。だからあなたは、ほんとうの魔法少女じゃないっ」

「フフ、言ってくれますね。ですがそれでは、あなたもほんとうの魔法少女とは言えませんよね、スノーホワイト。いえ、『魔法少女狩り』?」

「っ」

「いや、あの、誰か説明してくれないか。この状況はなんなんだ?」

 どこか陰のあるスノーホワイトの雰囲気や、彼女が『魔法少女狩り』などというなにやら物騒な呼ばれ方をしたのが気にならないわけではないが、状況がさっぱりわからない以上、先にそれを説明して欲しい。

「細かいことは気にするなぽん、ラ・ピュセル。時間魔法少女たちの手によるものだとでも思っておけばいいぽん」

「時間魔法少女ってなんだよ!?」

「ちなみに、ラ・ピュセルは正義魔法少女、クラムベリーは悪魔魔法少女、いまのスノーホワイトは残虐魔法少女にカテゴライズされるぽん」

「ちょっと待て、なんでスノーホワイトが残虐なんだ! 彼女も正義魔法少女だろ!? 意味はよくわからないけど!」

「正義魔法少女は、主に魔法少女としての力を人助けに使う魔法少女たちのことぽん。悪魔魔法少女は魔法少女としての力を自分の心の赴くままに使い、大胆に振る舞う者たち。あと、人助けよりも自分の力を磨くことに腐心する、つまりは完璧(パーフェクト)な強さを目指す求道者的側面の強い魔法少女を完璧(パーフェクト)魔法少女と呼ぶぽん。それで残虐魔法少女と言うのは、正義魔法少女の一派ではあるけど、その正義のためなら苛烈、残忍、惨酷と呼べる行いも辞さないという者たちのことぽん。彼女たちは真冬の太陽と同じで、照らしはしても暖めはしない。そんな魔法少女たちだぽん」

「だから、なんでスノーホワイトが」

「それは、これから行うであろうスノーホワイトのファイトスタイルを見れば、自ずと理解できるぽん。業務用消火器とか」

「消火器!?」

「その通りですよ、ラ・ピュセル。さあ、スノーホワイト。あなたの全知全能をもって私に挑んでくることです。ラ・ピュセルの前だからといって躊躇しては、私に勝つことなどできませんよ」

「そんなこと、言われなくてもわかってる」

「ほう?」

「スノー、ホワイト?」

「わたしの魔法は、昔とは変わってしまった。ラ・ピュセルと一緒に魔法少女として活動してた時と、どこか違うものになってしまった。魔法だけじゃなく、わたし自身も」

 表情を浮かべないスノーホワイトの声は、感情を感じさせない、平坦な声だった。ほがらかに笑うはずの彼女が、そんな顔で、そんな声を出していることに、胸が締めつけられるような痛みを覚えた。無表情のはずのスノーホワイトの瞳から、陰とともに、言いようのない悲しみが感じられた。

「だけど、いまはそんなこと気にしてられない。ラ・ピュセルを助けるチャンスが来たんだから。この胸の苦しみも、悲しみも、後悔も、全部を力に変えて、ラ・ピュセルを助けてみせる」

「スノーホワイト――」

 スノーホワイトの言っていることは、ラ・ピュセルにはよくわからなかった。ただ、彼女が苦しんでいることだけは伝わってくる。

 不意に、スノーホワイトを抱き締めてあげたくなった。事情はわからないが、ラ・ピュセルはスノーホワイトの騎士なのだ。彼女が苦しんでいるなら、少しでもその苦しみを取り除いてあげたい。たとえそれが、気休めであっても。

 痛みを無視して、一歩踏み出した。

「スノー」

「ラ・ピュセルがいなくなったら、いろいろこじらせて鉄面皮になって、悪い魔法少女を狩ることしかやることなくなっちゃうし。なんか修羅雪姫とか言われるし」

why(ホワイ)?」

 スノーホワイトの呟きに、思わず足が止まった。さっきと比べて声に感情がこもっている気がした。

「だいたいそうちゃんも、なんであんなにかっこいいこと言ってくれたのに死んじゃうの。闘ってるところスキップされるとか、さすがに酷いでしょ。『あちら側』の方は闘うところに加えて意地も見せてたし、かっこよかったけど、なんだかわたしが全然いいところないし、アリスのところとか諸々含めてズルい女にしか見えないし。いや確かにそう思われてもしょうがないかもしれないけど、それを後悔したからこその、その後なのに。リップルと組み手で締めとか、なんかフォローも弱いし。フレデリカのところとか、フレイム・フレイミィと闘ってるところとか見せてくれてもよかったじゃない。いやそこまで行かなくても、飛行機に掴まって移動してるところで締めとかでも、インパクトは充分だったはずなのに」

 やさぐれた空気を撒き散らしながら、スノーホワイトがブツブツと呟いている。

「フフフッ、それを言ったら私なんて、求めるのは強敵です、とか格闘ゲームのキャラみたいな強者感溢れる台詞を言っておきながら、やってること実質的に初心者狩りだし、不利な状況で闘おうとしないところとか、行動の端々から小者臭漂ってるよね、とか言われてますよ、スノーホワイト」

「それこそ言われてもしょうがないでしょ」

 クラムベリーの言葉をスノーホワイトがバッサリ切った。クラムベリーがちょっとだけ傷ついた顔になったが、気を取り直したように笑った。

「まあここはひとつ、イメチェンを狙っておねショタはどうかと結論づけましたので、ラ・ピュセルをものにしようかと」

「絶対にやらせない」

「なんでそこでおねショタ!? というかなんで私なんだ!?」

「女だらけの中に男がひとり。その男性を中心にしたドタバタを書くというのは、よく執られる手法ですよ、岸辺颯太さん」

「なんでバレてんの!?」

 白黒饅頭なマスコットが、ラ・ピュセルにむき直った。

「それはファヴだ、ぽん」

「それは私だ、みたいに言うな! ってバラすなよ!?」

「マスター、つまりクラムベリーから、ちょっと恋人とか作ってみたいので手頃な相手はいませんか、とか訊かれて、ラ・ピュセル、スノーホワイト、クラムベリーの三角関係とか、面白そうな見世物になるんじゃないかって思ったから教えたぽん」

「最低な理由だ!? っていまとんでもない秘密が暴露されなかったか!? マスターってなんだよ!?」

「マスターはマスターだぽん。まー、なんていうか、悪いことをすると報いが返ってくるし、シャレで済む方向に舵を切った方がいいんじゃないかなあって思ったんだぽん」

「ある意味僕はシャレで済みそうにないけどな!?」

 三角関係など、漫画とかでしか見たことはないが、いま目の前で繰り広げられるスノーホワイトとクラムベリーの睨み合いを見ては、シャレで済む気がしない。修羅場というのも生ぬるい気がする。

「両手に花だぽん。嬉しくないぽん?」

「僕が好きなのはスノーホワイトだからな!」

「そうちゃんっ」

 勢いに任せて言うと、スノーホワイトが顔を赤らめ、クラムベリーが不敵な笑みを浮かべた。

「なるほど。略奪愛というのも燃えますね」

「そこはあきらめてくれませんかね!?」

「お断りします。恋愛とは、交戦の一種だという言葉を聞いたことがあります。恋(がたき)退(しりぞ)け、目的の人物を()とすものだと」

「ほんとうに闘ってどうするんですか!?」

「あらゆる障害を乗り越え、自らの持つ武器でハートを射止(いと)めるのが恋愛というものでしょう?」

「腕力で射止めるのはなにか間違っていないでしょうか!?」

 そういう人たちもどこかにいるかもしれないが、ラ・ピュセルはそういう人種ではない。

 む、とクラムベリーが眉をひそめた。少し考えるそぶりを見せたあと、ひとつ頷く。

「わかりました。魔法で射止めましょう」

「どちらにせよ物騒な攻撃が来るとしか思えませんが!?」

「むっ」

 クラムベリーが、不機嫌そうに顔をしかめた。

「あれも駄目これも駄目。あなたは私にどうして欲しいんですか、岸辺颯太さん?」

「まず僕を狙うのをやめてくれませんか!?」

「嫌です」

「わがままか!?」

「仕方ないぽん。クラムベリーは九歳の時、魔法少女試験で事故に見舞われて、そこから精神的に成長できてないんだぽん」

「え?」

「面白くなりそうだったから特にその手の教育はしなかったけど、情操教育ぐらいはしっかりやっておくべきだったかもしれないぽん」

「って、おまえのせいか!?」

 直感が閃き、ファヴを捕まえようとするが、手がすり抜けた。実体ではないのだ、ということを思い出す。

「後悔はないが反省はしているぽん。だから許して欲しいぽん」

「まったく反省の色が見えない!」

「いや、人死にが出るようなことはやってないぽん」

「クラムベリーが()った事故って、おまえのせいか?」

「黙秘するぽん」

「おい」

 ファヴが、コホンと咳払いのようなものをした。

「とりあえずラ・ピュセルたちには、ラブコメのようなドタバタを期待してるぽん」

「やっぱり最低だ!?」

「こればっかりはやめられないぽん。さあ、そろそろ試合開始ぽん」

「え」

 リングを見る。スノーホワイトもクラムベリーも、お互いだけを見ていた。

「いや、だから、まっ」

「試合開始ぽん!!」

 ゴングが、高らかに鳴った。

 

 

 刮目(かつもく)せよ! ラ・ピュセルをめぐる頂上戦争! だぽん。

 




 
「NTRだって、あれは、いいものなんです。使い方によっては、そのキャラのまた違った魅力を引き出せる力があるんです。それだけは、わかってほしかった」
「そこだけは、認められない」

NTR展開になると、アロガント・スパークができそうな気持ちになります。おねショタは好きです。某FEのデュー×アイとか好き。古いしマイナー気味なカプだとは思う。


クラムベリー側の思惑はまたの機会に。「おまえー!」ってなる感じの話だけど。リップル&トップスピード、アリスの話やって、クラムベリーの思惑書いて、本編のIFルートって予定。
っていうか、なんかこう、某氏が書いたイラストのマジカル野球拳みたいなやつでもいいんじゃないかって気持ちになる。あとなんていうか、ミニ四駆的な平和なやつとか。あれはツボに入った。

つーか実際のところ無印って、どうにかして魔法の国に通報するぐらいしか手がないんじゃないかなあとか思わなくもない。
でも黒幕がファヴとクラムベリーとか、魔法の国だとかあのメンバーが知りようもないし、最悪の場合ファヴに心臓止められるし、予知能力とか未来の知識とかなければ無理だよなあって気持ちになる。


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黒いアリス

 
「愛のため! 友のため! 世界のため! いつでもどこでもあなたのお悩み解決します! よろず相談魔法少女、スノーホワイト!」
「見参! 抜剣(ばっけん)! 魔法騎士ラ・ピュセル、ここにあり! 血を(すす)り、肉を喰らう悪党ども! 裁きの神剣、受けるがいい!」
「チーム・トップスピード所属! 初代総長トップスピード! 夜露死苦(よろしく)!」
「闇に生き、闇に死すが外道の宿命(さだめ)! 光を求め穴倉の外に出んとした、外道の中の外道を始末するがシノビの宿命(さだめ)! 魔法忍者リップルの秘術、最期にとくと拝ませてやろう。(えん)魔への土産(みやげ)話にするといい!」


ツンデレ。
「私はいいと思う」
 


 床に、女性が仰向けに横たわっていた。マタニティドレスを着ていて、お腹が膨らんでいる。妊婦だ。年齢は、十代後半ぐらいだろうか。髪は、三つ編みにしてまとめてあった。

 そこには、相棒がいるはずだった。『御意見無用』のコートを布団代わりに躰にかけ、横たわった相棒がいるはずだった。

 肩口から胸にかけて、大きな傷があった。斬られていた。血が(にじ)んでいる。すでに、出血は止まっているようだった。穏やかな表情で眼を(つぶ)っており、ほんとうに眠っているかのように見えた。

 床に膝を突き、女性の手を握った。冷たい。脈もない。なんの反応も、なかった。

 最低でも、あと半年は生き延びなきゃいけないんだ。相棒が言っていたその言葉が、頭に浮かんだ。

 なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんで――。

 なにに対するものかわからない、ただ、そんな言葉だけが、頭を埋め尽くしていた。

 ひとつだけ、わかることがあった。

 たったひとりだけの、大切な友だちを失った。

 そこで、眼が()めた。

 

***

 

 細波(さざなみ)華乃(かの)が魔法少女『リップル』になったのは、およそ二ヶ月前のことだった。

 幼稚園から中学生のころまでは、理不尽に対しては暴力で反抗する、というスタンスで大抵の問題を解決してきたのだが、高校生ともなるとそうはいかない。

 母親が連れてきた、五人目の自称義父に尻を撫でられ、その屈辱を拳で返し、荷物をまとめて家を出た。狭いアパートで、ひとり暮らしのはじまりである。生活のため、将来のため、バイトをクビになるわけにはいかないのだ。暴力沙汰などもってのほかである。

 求めたのは、学校なりバイト先なりで嫌な思いをした時の気晴らし、ストレス解消の手段だった。そこで手を出したのが、『魔法少女育成計画』だった。

 趣味に金をかけるのは愚か者のすることだ、というのが華乃の持論だ。ただでさえ高校生のひとり暮らしである華乃の生活は苦しく、あらゆる出費を切り詰める必要があるのだ。完全無課金のソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』は、華乃の求めるものとしてピッタリだった。それまで持っていた二つの趣味、漫画の立ち読みと、図書館で読書に、新たな趣味が加わった瞬間である。スマートフォンは低価格化に成功し、携帯電話業界を席捲しているため、スマフォを対象にしたソーシャルゲームの数は非常に多いが、言葉通りの完全無課金など、これぐらいのものだった。

 ゲーム経験はまったくなく、これがはじめてプレイするゲームとなったわけだが、なかなか面白いものだった。学校でゲームの話をする男子などを内心で小馬鹿にしていた華乃も、認識を改めたぐらいだ。もっとも、これ以外のゲームに手を出したことはないため、ほかのゲームも同じように面白いかどうかは知らないが。

 家にテレビがあった、幼いころを思い出す時もあった。記憶の中の華乃は、テレビの中の魔法少女と一緒に笑っていて、そういえば自分にも、魔法少女が大好きだった時期があったんだなあ、と(がら)にもなく感傷に浸る時もあった。

 他人との対戦や協力プレイは、面倒くさいという思いや鬱陶(うっとう)しさが先に立つため、CPU相手の対戦およびストーリーモードを進めていた。なるべくなら、人と関わり合いになりたくないのだ。華乃は人との会話が、人間が苦手だ。群れたがる者、群れたことで強くなったつもりでいる人間が、華乃は嫌いだった。

 一日三十分という制約を自分につけているため、ゲームの進行自体はかなり遅いが、楽しんでプレイしていた。変化があったのは、はじめてから一週間が経ったころだった。画面内でフワフワ動くだけだったはずのマスコットキャラ『ファヴ』に、話しかけられた。

 なにかのイベントでも起こるのかとボタンを連打していたら、(まばゆ)い光に包まれ、気がつくと魔法少女になっていた。

 『魔法少女育成計画』で設定していたアバターである、忍者っぽい外見だった。和服と水着を足して二で割ったようなコスチュームに、それに似合うように設定した、黒い髪、切れ長の目、薄い眉。こうして実際に魔法少女になってみると、魔法少女としては地味だなと思った。

 忍者としてはお約束の赤い襟巻(えりまき)、大きな手裏剣(しゅりけん)型の髪留めは鉄色で、それ以外は黒系の色でまとめてあった。襟元や袖口には手裏剣やクナイが縫い付けられていて、転んだら怪我しそうだな、などと思った。

 最初に変身した時は、姿見の前でポーズなどもとってみた。ニッコリと笑顔を浮かべたり、チュッと投げキッスをしたり、いろいろとやってみたが、どれもそれなりにさまになっているような気がした。少なくとも、本来の姿である『細波華乃』としての姿では似合いそうにないポーズも、似合っているように思えた。華乃は同年代の女子の中ではかなり体格がよく、それどころか男性の平均よりも身長が三センチほど高い。躰もがっちりしている。『リップル』の姿は、身長、体重、体格、どれもが女性的なものになっていた。

 『リップル』という名前は、苗字である『細波』を英訳してつけたものだった。ゲームでやっている時は特に気にならなかったが、実際にその姿になってみると、和風の姿に洋風の名前で、いささかチグハグな印象を受けた。アバターの変更は可能かとファヴに訊いてみたが、魔法少女になれるようになってからは不可能と言われた。なんとも言えない気持ちになった。

 魔法少女として選ばれた者には、人助けをして欲しいのだと言われた。人助けには特に興味はなかったが、この魔法少女としての美しい外見や、人並み外れた力、行使できるだろう魔法には、強い魅力を感じた。

 すぐに魔法少女としての活動がはじまるかと思ったら、そうではなかった。まずは、先輩魔法少女からレクチャーを受けなければならなかった。人間関係というものが面倒くさく鬱陶しいから、『魔法少女育成計画』に手を出したというのに、その『魔法少女育成計画』でも人間関係に悩まされるのかと、陰鬱(いんうつ)な気分になった。

 ともあれ、その先輩魔法少女が、トップスピードだった。リップルのトップスピードに対する第一印象は、馬鹿っぽい、だった。

 一見すると魔女っぽい外見、はいいとして、『御意見無用』と背中に刺繍されたコートに、バイクのような風防やハンドル、マフラーやブースターが取り付けられた箒を見ては、ああ、馬鹿なんだな、と思うしかなかった。想定していた先輩魔法少女のランクを一段階下げたものだった。一人称が『俺』で、馬鹿笑いを上げるという最初の挨拶で、ランクはさらに下がった。

 諸々の説明が終わり、トップスピードが箒に跨って夜空に消えたあと、舌打ちをしてからファヴを呼び出した。

 ああいった説明役は誰が決めてるの、と訊くと、親切な魔法少女が自主的に行なっているとの答えが返ってきた。トップスピードの説明はほかの魔法少女の三倍時間がかかるけど、それだけ丁寧に教えてくれるものだという言葉を聞き、押しつけがましい親切だったということと、必要以上に長かったという説明に、リップルは舌打ちをした。トップスピードの評価は、『馬鹿っぽい先輩』から、『先輩っぽい馬鹿』に変更された。

 なぜかその後も、トップスピードはちょくちょくリップルのところに来た。舌打ちをくれたり、もう来なくていいと直接告げても、ツンデレだね、で片付けられた。話が通じない相手だと認識し、ほとんど相手をしないようにしたが、それでもトップスピードは気にせずリップルのもとに来て、話すだけ話して帰っていく。いつのころからか、タッパーに料理を入れてやってくるようになった。意外なことに、料理はかなり美味かった。

 そんなこんなで魔法少女として活動していたら、いつの間にかトップスピードとコンビを組んでいることになっていた。

 

 黒いな。新たに生まれたという十六人目の魔法少女を見た時、最初にリップルが思ったのは、そんなことだった。

 エプロンドレスというのか、そんな感じの衣装を身に纏っており、白い兎のぬいぐるみを抱いている。なんとなく、童話『不思議の国のアリス』の主人公、『アリス』を思い出した。もっとも、配色はほぼ黒一色で、無表情にこちらを見つめるその姿からはどうにも辛気臭さが拭えない。また、魔法少女の例に漏れず美少女ではあるのだが、ほかの魔法少女に比べて肉付きがやや悪く感じ、猫背気味で、眼の下には濃い(くま)があり、どこか淀んだ瞳に、白を通り越して青白い肌と、だいぶ不健康そうに見えた。その雰囲気のためか、ぬいぐるみを抱いている姿も、可愛らしさよりはどこかホラー染みた様相を感じさせた。

 そこまで見てとったあと、露出度に関してはともかく、配色に関しては自分もそう大差ないことに思い至った。なにに対するものかわからない舌打ちを、リップルは心の中でした。

 トップスピードが箒の高度を下げ、地上に降り立った。

 リップルは箒から降りると、十六人目の魔法少女に近づき、むかい合った。トップスピードは、リップルたちからちょっと離れた位置で、こちらを見守るように(たたず)んでいた。

 なんの因果か、リップルが彼女の教育係をすることになってしまったのだ。いや、なんの因果もなにも、リップルの相棒、いや自称相棒が勝手に決めてしまったのだが。

 十六人目の魔法少女とお互いに見つめ合ったまま、少しばかり時間が経った。

「なあ、あんたら、そろそろどっちか喋ろうぜ?」

 トップスピードが、呆れたように言った。誰のせいでこんなことになったと思っている、と横目で彼女を見て、リップルは舌打ちしそうになった。

 心の中でトップスピードにむけて舌打ちすると、目の前の魔法少女に視線を戻した。

「私は、リップル」

「ハードゴア・アリスです」

 十六人目、ハードゴア・アリスが静かに言った。

 それで、お互いに言葉が止まった。そのまま数秒経ったところで、トップスピードが呆れた様子で口を開いた。

「ようやく口を開いたと思ったら、それで終わりかよ、あんたら。ったくもう、ほら、リップル。魔法少女の先輩として、教えなきゃならねえことがあるだろ?」

「わかってる」

 舌打ちこそしないように気をつけてはいるが、声の不機嫌な感じは隠しきれなかった。しかしハードゴア・アリスは、特に気にした様子もなくリップルの顔を見つめている。

 トップスピードにむけて軽く指差すと、ハードゴア・アリスが彼女に視線をむけた。

「とりあえず、あっちの魔女っぽいのは、トップスピード」

「はい」

「魔女っぽいって」

 トップスピードがどこか複雑そうに言ったが、リップルは構わなかった。ハードゴア・アリスも気にせず頷いていた。

 手を下ろしたところで、ハードゴア・アリスがリップルに顔をむけた。再びお互いに顔を見合う。

「魔法少女の仕事は、人助け。人助けをして、マジカルキャンディーを増やす」

「はい」

 ハードゴア・アリスが頷いた。なんとなくだが、さっきより反応が強かった気がした。魔法少女としての人助けに興味があるのだろうか。そんなことを考えるも、必要以上に干渉する気はなかった。

 前にトップスピードから教わったことを思い出す。トップスピードの説明は、ほかの魔法少女の三倍ほど時間がかかったがその分、丁寧に教えるものだったという。

 リップルとしては、ほかの魔法少女と同じぐらいの時間で説明を終えたいところであるが、そんな説明をすると、トップスピードにいろいろ口出しされるような気がしたので、結局彼女と同じような説明をすることにした。

 まずは、魔法の端末(マジカルフォン)の説明。といってもこれは、機能はともかく操作方法はそこらのスマートフォンと変わらないものだ。自分が受けた時は、その程度のものをやたら大仰に言うトップスピードに(いら)立ったものだが、それはどうでもいい。

 ハードゴア・アリスに、パーソナルデータを開いて確認させてみる。なんとなく、画面を見てちょっと落ちこんだように見えたが、リップルは特になにも言わなかった。リップルも、パーソナルデータで確認した自分の性格に、『人間嫌いで暴力的』などと書かれてあって、自覚はあるが腹が立ったものだった。

「魔法は、ゲームとは違って、ひとりにつきひとつだけ。増えたりすることはないらしいけど、額面通りの効果しか発揮されないというわけじゃないらしい」

「はい」

 ハードゴア・アリスが頷いた。多分、相槌を打ったような感じなのだろうと思った。自分が言えたことではないが、口下手なのだろう。複雑ではあるが、心のどこかに親近感のようなものがあった。

 リップルの魔法は、『手裏剣を投げれば百発百中だよ』というもので、それは能力や魔法というより技術の類ではないのか、と思えるものだ。あまり魔法少女っぽくも忍者っぽくもない、とがっかりしたものだった。別に忍者に思い入れがあるわけではないが、地味だなと思った。分身とか()(とん)とかいろいろあるだろうとも思った。

 ただ、『手裏剣を投げれば』と説明に書いてあるものの、効果は手裏剣に限ったものではなかった。リップルが投げれば、なんでも百発百中になるのだ。正確に言うと、リップルが『狙いをつけて』手で投げた物は、それがなんであっても、その目標としたものに飛んで行く。見当違いの方に投げても、軌道を変えて飛んで行くのだ。これなら、確かに魔法と言えるだろう。地味だが。

 もっとも、外的要因で防がれるというのはある。投げた物が(はじ)かれたりすると、そこで魔法の効果が失われるようだ。またリップルの持つ手裏剣は、アバターに備え付けられた装備のようなものであるらしく、いくつも取り出すことが可能だ。手裏剣だけでなく、クナイも同様だ。

 背中には忍者刀も背負っており、これも武器として使用できる。以前、カラミティ・メアリに撃たれたことがあったが、彼女の撃った拳銃弾を弾ける程度には強度もあった。ほかにも、袖口に小刀が仕込んであったりする。

「『どんなケガをしてもすぐに治るよ』」

「ん?」

「私の魔法のようです」

「そう」

「はい」

 ハードゴア・アリスの言葉にリップルが頷くと、彼女もまた頷いた。

「いや、あんたら、なんつーか、こう、明るく話せとは言わねーけど、もうちょっとリアクションとろうぜ――」

 トップスピードが、なにやら頭を抱えていた。気にせずに説明を続ける。

 一般人に正体を知られてはいけない。

 魔法少女のルールや力を一般人に話してはいけない。

 この二つの決まり事を破ったら、魔法少女としての資格を剥奪(はくだつ)されることになる。

 週に一度チャットがあり、強制参加ではないものの、重要な連絡があったりすることもあるため、なるべく参加した方がいい。

 一部の魔法少女は縄張り意識が強いため、ほかの魔法少女の担当地区に行く場合は注意すること。

「カラミティ・メアリの城南地区と、ルーラの西門前町には、行かない方がいい。カラミティ・メアリはだいぶ危険なやつで、いきなり撃たれる可能性もある」

「はい」

「ルーラは、そこまで危険なわけじゃないらしいけど、かなり口うるさいらしい」

「はい」

 こんなところだろうかと、ちょっと考える。トップスピードを横目で見ると、苦笑しながらも親指を立て、サムズアップしてきた。OKということだろう。内心で、ほっと胸をなでおろした。

「っ、チッ」

 思わず舌打ちしていた。ハードゴア・アリスが首を傾げる。

「ごめん、気にしないで」

「はい」

 視線を逸らしながら言うと、ハードゴア・アリスはやはり素直に頷いた。

 舌打ちしてしまったのは、まるでトップスピードに頼るようなことをしてしまった自分に、気づいたからだ。

 トップスピードが、近づいてきた。

「おう、お疲れさん、リップル。ハードゴア・アリスもお疲れさん。魔法少女としてのルールとか、ちゃんとわかったかい?」

「はい」

「よし。ほかに気になることがあったら、なんでも聞いてくれていいぜ?」

「では、ひとつお聞きしたいことがあるのですが」

「ん?」

「『白い魔法少女』を、ご存知ですか?」

 ハードゴア・アリスの言葉に、二人で顔を見合わせた。

 ハードゴア・アリスの方に二人で顔を戻す。トップスピードが、口を開いた。

「『白い魔法少女』ってーと、スノーホワイトのことか?」

「学生服みたいな衣装の」

「ああ、そんな感じだな」

「どこにいますか?」

「担当地区は倶辺ヶ浜だけど。って待った待った」

 それまでのボーっとした挙動が嘘のような食いつきにリップルが呆気にとられていると、ハードゴア・アリスが(きびす)を返した。トップスピードが慌てて止める。

 ハードゴア・アリスが、ふりむいた。

「スノーホワイトの担当地区に行くのは、駄目ですか?」

「いや、んなこたねーけど、なんでスノーホワイトのところに?」

「それは」

 ハードゴア・アリスがちょっとだけ顔をうつむかせ、顔を上げた。

「お礼が、言いたくて」

「お礼?」

「はい」

 声は小さなものだったが、強い光が瞳に(とも)っているように見えた。

 うーん、とトップスピードが声を洩らし、よし、と頷いた。

「んじゃ、ちょっくら行ってみっか」

「え?」

「俺の箒に乗って行けばあっという間だぜ。さー、乗った乗った!」

 トップスピードが箒に(またが)った。はじめて、ハードゴア・アリスが困ったようにリップルを見た。

 ため息をつき、リップルは頷いた。

「こいつは、いつもこんな感じなんだ。デリカシーがなくて、お節介を焼きたがる」

「ヒデェ言いようだなあ」

 リップルの言葉に、トップスピードが苦笑した。まったくツンデレなんだから、などとでも思っているのだろう。なんとなく舌打ちする。

「嫌だったら、断っていいと思う」

「はい。いいえ」

 ハードゴア・アリスが言い、トップスピードに近づいた。箒を見て、トップスピードの顔を見た。乗せて貰うことにしたようだ。

 トップスピードが首を傾げ、得心がいったように頷いた。

「ああ。箒に跨って、俺の躰に掴まってくれ」

「はい」

 言われた通りハードゴア・アリスが箒に跨り、トップスピードの腰に手を回した。

 今日は、ひとりでパトロールするか。

「ほら、リップル」

 そんなことを考えていると、トップスピードが()かすような口調で言った。

「なに?」

「なに、じゃなくってさ。ほら、リップルも乗りな」

「私は、いい」

「そう言うなって。一応、ハードゴア・アリスの教育係はリップルなんだからさ」

 チッ、と舌打ちして、渋々(しぶしぶ)と近づく。いつもリップルが座っている、トップスピードのすぐうしろは、ハードゴア・アリスが座っている。仕方なく、ではない当然ながらハードゴア・アリスのうしろに座り、彼女の腰に手を回した。

「よーし。二人とも、しっかり掴まっとけよ!」

「はい」

「チッ」

 すでに馴染んでしまった浮遊感を覚え、風を感じた。空。ハードゴア・アリスが乗っているためか、普段よりスピードが抑えめのような気がした。

「どうよ、俺の魔法は?」

「すごく、速いです」

「おうよ。だけどよ、もっと速くできるぜ?」

「はい」

「ようし、んじゃ、行くぜ!」

 トップスピードが楽しそうに笑い、いつもリップルとパトロールしている時と同じぐらいのスピードになった。ハードゴア・アリスの表情は変わっていないが、顔をあらゆる方向にむけている。どこか高揚しているようにも見えた。

 しかし、二人ではなく三人で乗っていると、マジカロイド44の魔法の道具『魔法の箒性能強化マシーン』なるもので、トップスピードが暴走した時のことを思い出した。トップスピードいわく、箒のスピードだのパワーだの小回りだのが向上し、かっ飛ばしたくなってしまったらしい。あれほどに死を感じたことはない。マジカロイドもそうだったのか、暴走が終わったあと、安堵から二人で抱き合ったほどだ。

「チッ」

「おいおい、どうしたんだよ、リップル。いきなり不機嫌そうな舌打ちなんかして」

「マジカロイド」

「えっ、あー、いや、マジカロイドの件は悪かったって。現役時代を思い出しっちまったんだよ」

「チッ」

「はい」

 大変だったんですね、とハードゴア・アリスに言われた気がした。舌打ちせず、頷いておく。

「っと、そうだ、リップル。スノーホワイトとラ・ピュセルに、いまからそっちに行くって連絡しといてくれ」

「なんで私が」

「いや俺、運転中だからさ。いいだろ?」

 仕方ない、とマジカルフォンを取り出し、メールする。

 文面はシンプルだ。これから新しい魔法少女を連れて、そちらに行く。

 少しして、返事が来た。

 わかりました。これから鉄塔に戻ります。

 返ってきたのは、そんな文面だった。スノーホワイトからだった。

「いまは、パトロール中だったみたい。これから戻るって、スノーホワイトの方から」

「おう。わかった」

「あの、スノーホワイトは、『竜騎士』とか『黒い魔法騎士』とか呼ばれている魔法少女とよく一緒にいる、という話がありますが」

「うん。そいつが、ラ・ピュセル。あの二人は、コンビを組んでるから」

「俺とリップルみたいにな」

「チッ」

「いや、そこで舌打ちすんなよ」

 トップスピードがまた苦笑した。

 ハードゴア・アリスは、そこで黙りこんだ。スノーホワイトが気になるのだろうことは、さっきの話で見当がつく。しかし、あの二人が一緒にいる時に近くにいるのは、なかなかつらいものがあるのではないだろうか。そんなことを思う。

「まあ、アリスがどうしたいのかはともかく、まずは会ってからだな」

「はい」

 トップスピードが言い、ハードゴア・アリスが頷いた。

 やがて、鉄塔が見えてきた。近づいてみるが、二人の姿はなかった。まだ戻ってきていないようだった。

 鉄塔の上に降り立った。箒から全員降りると、トップスピードがマジカルフォンを取り出した。

「着いたぜ、っと」

 スノーホワイトたちに連絡したようだった。

 そこまで間を置かず、スノーホワイトから返事がきた。もう少しで着くらしい。

 ハードゴア・アリスに視線をむけると、特に表情を変えているわけではないのだが、どこか落ち着かないように見えた。

「大丈夫?」

「――――はい。ありがとうございます」

 ハードゴア・アリスが、不意を()かれたようにリップルを見て、お辞儀をした。気のせいかもしれないが、ちょっとだけ微笑んだような気がした。

 なんとなく照れくさくなり、視線を逸らした。

「別に、お礼を言われるようなことは、してない」

「ハハハッ、ほんと、リップルはツンデレだよな」

「だからツンデレじゃ」

「はい」

「いやそこで、はい、って言わないで欲しいんだけど」

「いいえ」

「えー」

 ハードゴア・アリスの返事に肩を落とすと、トップスピードが背をむけて肩を震わせはじめた。笑いを(こら)えているのだということは、すぐにわかった。

 舌打ちしそうになったところで、近づいてくる気配を感じた。下を覗きこむようにして、あたりを見回す。リップルに変身している時は、感覚がかなり鋭くなっている。ある程度の距離なら気配を感じ取ることもできた。

 鉄塔の方にむかって来る人影を、見つけた。

「え」

「どうした、リップル?」

「お姫様抱っこ、してる」

「は?」

 駆けてくる人影はひとつ。スノーホワイトを横抱きにした、ラ・ピュセルだった。

 こちらに気づいたのか、スノーホワイトがラ・ピュセルに抱かれたまま手を振ってきた。ちょっと恥ずかしそうに見えた。

 どう反応していいのかわからず、トップスピードと顔を見合わせ、再びスノーホワイトたちに眼をやる。

 ラ・ピュセルが、走りながらスノーホワイトを片手で抱き直した。スノーホワイトがラ・ピュセルにしがみつく。

 なにをする気かと見ていると、ラ・ピュセルが片手で剣を抜き、その剣を地面に突き立てた。瞬間、ラ・ピュセルたちの姿が大きくなったように見えたと思ったら、鉄塔より高いところに、ラ・ピュセルたちの姿があった。地面とラ・ピュセルたちの間を、月の光を照り返すなにかが結んでいた。金属的な光沢。ラ・ピュセルの剣だ。

 剣を伸ばした。それに思い至った直後、剣が縮み、空中でラ・ピュセルが片手で器用に剣を鞘に納め、スノーホワイトを改めて横抱きにした。ラ・ピュセルたちの姿が、大きくなっていく。

「っと」

 ラ・ピュセルが、スノーホワイトを横抱きにしたまま、リップルたちのそばに着地した。音は多少響いたが、そこまで大きなものではなかった。

「ごめんなさい、お待たせしました!」

「すまない、待たせたな」

「あー、いや、いきなり押しかけたのはこっちだからな。気にしねーでくれ。それより、なんでお姫様抱っこなんかしてんだ?」

「えっ、いや私の方が足は速いからな。スノーホワイトを抱いても、私の方が速いし」

「いや、別におんぶとかでもよかったんじゃねーか?」

『えっ』

 トップスピードがからかうように言うと、二人がハタと気づいたように声を上げた。恥ずかしそうにしながらも、ラ・ピュセルがスノーホワイトを優しく下ろした。

 ゴホン、とラ・ピュセルが咳払いをした。

「それで、その子が新しい魔法少女かい?」

「はい。ハードゴア・アリスです」

「ラ・ピュセルだ。よろしく」

「スノーホワイトです。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 ハードゴア・アリスが、お辞儀をした。

「それにしても、挨拶回りかい?」

「いや、アリスがスノーホワイトに用があるみたいでよ」

「わたしに?」

「はい」

 視線が、ハードゴア・アリスに集まった。ハードゴア・アリスが進み出る。

 スノーホワイトとハードゴア・アリスが、じっと見つめ合う。妙な緊張感が漂いはじめた。

 そのまま、十秒ほど経った。

「なあ、アリス。俺たちがいると言いにくいってんなら、離れておくけど」

 めずらしく、トップスピードが気遣うように言った。

「いいえ、大丈夫です」

「そ、そうか」

 ハードゴア・アリスが深呼吸した、気がした。あまりアクションが大きくないので、そんな感じがしたというだけだが。

「その、どうしてもあなたにお礼を言いたくて」

「お礼?」

「はい」

 ハードゴア・アリスがスノーホワイトに手を差し出し、掌を開いた。掌には、鍵があった。

 スノーホワイトが、二、三度ほど眼をパチパチとさせたあと、なにかに気づいたような仕草を見せた。

「この鍵、もしかして」

「はい。その節は、ありがとうございました」

 ハードゴア・アリスが、小さく微笑んだ。

 

 なるほどなあ、とトップスピードが言った。

「スノーホワイトに助けて貰って、それでお礼を言いたかったってわけか」

「はい」

「でもよ、なんかそれだけって感じじゃない気がしたんだけど」

「それは」

 ハードゴア・アリスが言いよどんだ。ちょっとだけうつむき、遠慮がちに口を開いた。

「その、スノーホワイトと一緒に、魔法少女として人助けがしたくて」

「え?」

「それで、白と黒で、綺麗かなって」

「ああ、なるほど」

 トップスピードが、納得したように言った。

 ハードゴア・アリスが全身真っ黒の姿なのは、スノーホワイトと並んだ時のことを考えてのものだったのか、とリップルも納得した。

「ねえ、ラ・ピュセル」

「ん、なんだい、スノーホワイト?」

「ハードゴア・アリスも一緒に活動していいかな?」

「三人でチームを組むってことかい?」

「うん」

「もちろん、私は構わないよ。ハードゴア・アリスはどうだい?」

「私は」

 すぐに承諾すると思っていたのだが、ハードゴア・アリスはなぜか口ごもった。思ってもみなかった反応にリップルは首を傾げた。周りもそうなのだろう、みんな首を傾げていたが、スノーホワイトがなにかに気づいたように、ハッとした表情を見せた。

 ハードゴア・アリスが、リップルを見た。なぜこちらを見たのかわからず、リップルは眼をパチパチとさせた。スノーホワイトも、困ったようにリップルの顔を見ている。

 トップスピードが、ああ、と納得したように声を上げた。

 トップスピードが近づいて来てリップルの肩を抱き、向きを変えさせられた。ともに、背中を三人にむけるような恰好となった。

 トップスピードが肩を組み、リップルの耳もとに顔を寄せた。

「ほら、リップル。あんたからも言ってやらねーと」

 トップスピードが、声を(ひそ)めて言ってきた。こちらもなんとなく声を潜めた。

「なにをだ?」

「教育係だろ。あと押ししてやれって」

「あと押しって」

「多分、俺たちに気を遣ってるんだろ。結構遠慮する性格みたいだし。な?」

「――――わかった」

 そう言うと、トップスピードが離れた。ハードゴア・アリスにむき直る。

 しかし、あと押しと言っても、なんと言えばいいのだろうか。

「好きにすればいい」

「おーい、リップルさんよー」

 トップスピードが、頭を抱えていた。ラ・ピュセルとスノーホワイトも同じだった。

 ハードゴア・アリスは、相変わらずの無表情だが、ちょっとだけうつむいているような気がした。罪悪感のようなものが、ちょっとだけ胸に生まれた気がした。

「その、ハードゴア・アリスは、スノーホワイトと一緒に魔法少女として人助けがしたかったから、魔法少女になったんだろ。だったら、私たちに遠慮することなんてない。スノーホワイトたちもこう言ってくれてるし、言葉に甘えていい、と思う」

「――――はい」

 ハードゴア・アリスが、お辞儀をした。ちょっとだけ微笑んだ気がした。

 なんだか恥ずかしくなり、背中をむけた。トップスピードが苦笑しているのが見えた。

「その、よろしくお願いします、スノーホワイト、ラ・ピュセル」

「うん。よろしくね、アリス」

「よろしく、アリス」

 背中から三人の声が聞こえた。トップスピードが近づいてきて、再びリップルの肩を抱いた。

「おう。よかったぜ、さっきの言葉」

「チッ」

 トップスピードが苦笑し、リップルの肩にちょっとだけ力を入れた。スノーホワイトたちの方にむき直らされるかたちになった。むき直ると、トップスピードが離れた。

 スノーホワイトとハードゴア・アリスが話をし、ラ・ピュセルが二人を見守るようにしている。そこに、トップスピードが近づいていった。

「ところでよ、ちょっとだけ腹ごしらえしないかい?」

「腹ごしらえ?」

 ラ・ピュセルが首を傾げて言った。スノーホワイトたちも首を傾げている。

 トップスピードがタッパーを取り出し、蓋を開いた。今日は煮物のようだ。タッパーは普段よりも大きめの物で、十六人目の魔法少女と会うからと、大きな物にしたのかもしれない。

「おう。このトップスピードお手製の料理さ。味は保証するぜ。なにせリップルが頬を緩めるぐらいだからな」

「トップスピード」

「ハハハッ」

 余計なこと言うなという意をこめてリップルが(とが)めるようにして言うと、トップスピードが笑い、タッパーと箸を三人に差し出した。

「まっ、とにかく食べてくれ」

「あ、ああ。じゃあ、私から。いただきます」

 まずラ・ピュセルが箸を受け取り、おそるおそるといった様子で煮物に箸を伸ばし、口の中に入れた。ラ・ピュセルが、眼を見張った。

「美味いっ」

「ほんとだ、すごくおいしいっ」

 ラ・ピュセルに続き、スノーホワイトも言った。二人とも顔をほころばせている。ハードゴア・アリスも、わずかに頬を緩めているように見えた。

「ほら、リップルも来いよ」

「私は」

「いいから」

 スノーホワイトにタッパーを渡したトップスピードが、リップルに近づいて来て手を掴んだ。どうにも振り払えず、一緒にスノーホワイトたちのもとに行く。

 リップルも、煮物に箸を伸ばした。いつもながら、出汁(だし)がよく染みていて、美味い。

「美味いだろ?」

「べつ」

「とてもおいしいですっ」

 別に、と言おうとしたリップルの言葉に、笑顔のスノーホワイトの言葉が重なった。なんとなく、自分の内心まで代弁された気がして、ちょっと恥ずかしくなった。

「トップスピードは、いつも料理を持ってきてるんですか?」

「いつもってわけじゃねーけど、だいたいはそうだな」

「それでリップルは、毎回こんなおいしいものを食べさせて貰ってるのか?」

「おう」

 羨ましそうなラ・ピュセルの言葉に、リップルの代わりにトップスピードが頷いた。舌打ちしようとして、なんとなくできなかった。自分のペースが乱されている気がした。

「また機会があったら、食べてみたいな」

「あ、じゃあ今度はわたしがお弁当作ってくるよ。トップスピードほどおいしいのは作れないかもしれないけど、どうかな、ラ・ピュセル、アリス?」

「スノーホワイトの料理か。うん。ぜひ食べてみたいな」

「はい。では、私も作ってきます」

「おー、じゃあ、いっそのこと料理持ち寄って、魔法少女みんなで親睦(しんぼく)会でも開いてみるか?」

「あ、いいですね、それ」

「はい」

「いいけど、カラミティ・メアリやルーラもか?」

「ルーラはあれで結構いいやつだからさ、そう(けむ)たがんなよ。カラミティ・メアリは、まあ一応」

「チッ」

「いや、リップルがカラミティ・メアリのこと気に入らないのはわかるけどさ、伝えなかったら伝えなかったで面倒なことになると思わない?」

「誘われたからって素直に応じるやつじゃないだろ。それどころか、下手(へた)すれば滅茶苦茶にされるぞ」

「まあ、そうかもしれねーけどよ」

 よく喋っているのは、やはりトップスピード、スノーホワイト、ラ・ピュセルの三人だったが、時々リップルやハードゴア・アリスにも話が振られた。

 ハッとラ・ピュセルがなにかに気づいた。

「考えてみると、私の方が追加戦士っぽくないか」

「え?」

「あー、確かに。ひとりだけ剣持って鎧着た魔法少女だもんな。なんかジャンルが違う気がするな」

「や、やっぱり」

 トップスピードが肯定し、ラ・ピュセルが頭を抱えた。

「ですが、スノーホワイトの相棒は、ラ・ピュセルです」

「アリス?」

「ラ・ピュセルがスノーホワイトを抱きかかえて来る姿は、とても綺麗でした」

 ハードゴア・アリスは、そこで言葉を止めた。トップスピードが笑い、ポカンとしたラ・ピュセルの背中を叩いた。

「ほら、後輩に気ぃ(つか)われてんぞ」

 ラ・ピュセルが、再びハッとした表情を浮かべた。うつむいて息をつき、顔を上げた。

 眼に、強い光があった気がした。

「ありがとう、アリス。そうだな。私は、スノーホワイトの騎士で、相棒だ。誰が仲間になろうと、それだけは誰にも譲れない」

「うんっ」

 スノーホワイトが、顔を赤くしながらも嬉しそうに頷いた。ラ・ピュセルも顔を赤くしていたが、力強く頷いていた。ハードゴア・アリスも、不思議とどこか嬉しそうに見えた。

 見ているこっちが恥ずかしくなってきた。ごまかすようにタッパーを見てみると、料理はほとんどなくなっていた。

 頃合いだろう、と思った。

「トップスピード。今日はもう戻ろう」

「っと、そうだな。アリスは、もうちょっと話してくか?」

「はい。皆さんがよろしければ」

「わたしはいいよ」

「私もだ」

「リップルは?」

「わざわざ聞か、――――いや、いいと思う」

「はい」

 なんとなく言い直すと、ハードゴア・アリスが頷いた。気のせいだろうか、かすかに嬉しそうに見えた。

 ちょっとだけ寂しい気がした。きっと、気のせいだ。

 トップスピードが箒に跨り、リップルも跨ったところで、ラ・ピュセルが口を開いた。

「そういえば、この前言ってたチームの話だが」

「ん、ああ。あの話か。あれは忘れてくれてもいいんだぜ?」

「でも、いまこうして三人のチームになったわけだし、いっそのこと五人のチームでもいいんじゃないかと思うんだが。ルーラのところもそうだろう?」

「スノーホワイトは?」

「わたしも、ラ・ピュセルと同意見ですけど」

「そうか。リップルはどうだ?」

「私?」

「おう」

 問いかけられ、眉をひそめた。ちょっとだけ考える。

「わざわざチームを組むことないだろ」

「そりゃまたどうして?」

「トップスピードの箒は、精々三人が限度だろ」

「まあ、スピードは問題なく出せるけど、四人以上になると乗りづれえだろうな。下手すりゃ振り落とされるかもしれねーし」

「スノーホワイトたちは、できれば三人一緒がいいんだろ。チームを組んでもしょうがない、と思う」

「言われてみれば、確かにそうだな」

 ラ・ピュセルが頷いた。

「って、それだと四人でもひとり余ることにならないか。トップスピードはどうするつもりだったんだ?」

「あー、いや、悪い、そこまで考えてなかったわ」

 トップスピードとハードゴア・アリス以外の者が、力が抜けたように首をガクッとさせた。

 リップルは、ため息をついた。

「チームはともかく、なにかあったら助け合う、とかでいいだろ」

 リップルが言うと、トップスピードが(はじ)かれたようにふりむいた。眼を見張り、驚いた表情だった。

 なにを驚いているんだ、と思ったところで、助け合うなどという言葉を言った自分に気づいた。

 トップスピードが、笑顔を浮かべた。

「だな。――――そんな感じでいいかい?」

 トップスピードがスノーホワイトたちに顔をむけて言うと、三人とも頷いた。

 また気恥ずかしさを感じ、リップルは顔を(そむ)けた。

 

 定位置とも言えるようになってしまったラピッドスワローの後部座席で、リップルは風を感じながら月を見上げた。

「いやー、にしてもすげえよな、アリスの根性っつーか執念っつーか」

 トップスピードが、感心するように言った。相槌を打つことはしなかったが、リップルも同じ気持ちだった。

 ふっと思うことがあった。

「トップスピード」

「なんだ、リップル?」

「なんで、私に教育係なんてやらせたんだ」

「ああ、それはその、いや、まあ、ほら、リップルも魔法少女として板についてきたしよ、誰かに教える経験を持ってもいいんじゃないかって思ってさ」

「――――?」

 なんとなく、言葉を濁したように思えた。なにかを話そうとして、しかし決心がつかなかった。なぜか、そんな印象を受けた。

「まあ、とにかく、ちゃんとできてたし、俺も安心したよ」

「余計なことを」

「嫌だったか?」

「っ」

 当たり前だ。鬱陶しいし、面倒くさい。そう言おうとしたが、言葉が出なかった。そういう気持ちは確かにあったが、ハードゴア・アリスと話している時は、意外と悪くない気分だった。

 ハードゴア・アリスは口下手ではあるが、いい子だと思った。複雑ではあるが、ちょっとした親近感もあった。

 それに、彼女に付き合ってスノーホワイトとラ・ピュセルのところに行って、会話して、こういうのも悪くないな、という気持ちが心のどこかにあった。

 自分が、わからなかった。

 群れることが嫌いだった。群れることで、強くなったと勘違いしているやつが嫌いだった。

 母が、嫌いだった。誰かにもたれかかるようにしなければ生きていけない母が、嫌いだった。母のようにだけはなりたくないと思っていた。

 だからなのだろうか、人と関わるのを避けていたのは。

 群れないから自分は強いのだと、そう思いたかったのだろうか。

 ほんとうは弱かったから、誰かと関わるのが怖かったのだろうか。

 なぜかいまは、そんなことばかりが頭に浮かんでくる。

「トップスピード」

「ん?」

「私は、弱いのかな」

「いや、強いだろ。カラミティ・メアリとやり合えるし」

「そういう意味じゃ、ない」

 トップスピードの言葉に(かぶ)せるようにして、言っていた。トップスピードが、前をむいたまま首を傾げた。

 私は、なにを言ってるんだろう。どんな答えが欲しいのだろう。

 私はなんで、こんなことをこいつに喋っているんだろう。そんなことを思った。思考がぐちゃぐちゃになっている気がした。

 不意に、おかしな夢を見たことを思い出した。トップスピードがいなくなる夢だった気がした。それでリップルは、たったひとりだけの大切な友だちを失った、などと思っていた。

 きっと、そのせいだ。今日の自分が、なんとなく自分らしくないのも、きっとそのせいだ。

「リップルがなんて言って欲しいのかはわからねーけどさ、俺はリップルのこと、立派な魔法少女だと思ってるぜ?」

「え?」

「そりゃ、口は悪いし無愛想だし、舌打ちばっかりするけどよ、街のいろんな問題を調べて、どうしたらそれらの問題を解決できるか、とかちゃんと考えてるだろ?」

「それは」

 確かにそうだが、認めるのは抵抗があった。

 キャンディーのために人助けをしているのか、魔法少女として受け持った地区の人たちを助けるためにこんなことをしているのか、自分でもわからないのだ。前者は自分らしいと言えるし、後者は鬱陶しいお節介だと思える。少なくとも二ヶ月前、魔法少女になった直後までの自分なら、間違いなく前者だっただろう。いまは、わからない。

 幼いころに憧れていた魔法少女は、清く正しい良い子な魔法少女だ。スノーホワイトは、リップルから見ると、そんな理想の魔法少女のように思えた。

 とりたてて活躍が派手というわけではなく、散らばった小銭を拾ってくれただの、家に置き忘れた弁当を持ってきてくれただの、そんな小さな問題を解決する話が多かった。ラ・ピュセルと一緒にいることは増えても、そんな小さな問題解決に現れることは変わらなかった。人助けが好きなのだろうと、そんなふうに思った。

 照れもせずに、人助けがしたいと言いきり、実行できる者こそ、正しい魔法少女なのだとリップルは思っている。スノーホワイトがそれで、リップルはそうではない。人助けがしたくないわけではないが、それを言葉にするのは照れくさいという思いがある。

 だから、リップルは正しい魔法少女ではないのだと、そう思っていた。

「リップルは、立派に正しい魔法少女をやってると思うぜ。スノーホワイトとかにも負けないぐらいにな」

「そんなこと」

「あるさ。誰がなんと言っても、俺はそう言ってやるよ。リップルは立派な魔法少女で、俺の自慢の相棒で、友だちだってな」

 トップスピードがふりむいて、ニカッと笑った。快活で、優しい笑顔だった。

 なぜか目頭が熱くなり、トップスピードから顔を(そむ)けた。

 誰が相棒だ。友だちになった憶えはない。そう言おうとして、声が詰まった。声を出したら、なぜか涙が出てしまいそうな気がした。

 リップルは、小さな舌打ちをした。トップスピードが、微笑んだ気がした。

 




 
予定は未定であって決定ではない。
鬼滅の刃の八巻を読んで泣いた作者です。涙腺緩くなったなあと思いつつ、煉獄さんの最期はやっぱり泣いてもしょうがないと思う。

リップル書いてるとなんだか舌打ちが増えて困ります。いや、ほんと困る。
 


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