Fate/VR (ヴィヴィオ)
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1話

 XXXX年

 

 

 俺の名前は桜坂幸田。バイトが終わって給料を貰った俺は、現在ネットサーフィンで見つけたFateシリーズのアプリゲームをダウンロードした。そのアプリの名前はFate/VRという有り得ない代物だ。ダウンロードは有料で、登録に一万円もかかる。

 彼女も居ない、独り暮らしの俺はクリスマスのバイトで臨時収入を得たので、参加する事にしたのだ。そう、イチャイチャしているむかつくリア充共に貯められた恨みを晴らす為に。あと、何故か人数制限のあるアプリだったので、とりあえずやってみた。どうせ、グランドオーダーで諭吉ちゃんは直に飛んで行くのだから。

 

 ダウンロードが完了し、アプリを機動してみる。どうせ、VRMMOなんて謳っていても、そんな訳なんてないんだ。

 

【新たなマスターよ、我が世界にようこそ。最初に注意事項がある。このゲームは聖杯戦争である。故に参加すれば死ぬ可能性がある。それを了承した者だけ、進むがよい】

 

 画面に映し出された麻婆神父がそんな事を言って来る。どうせ、フリだろうから、同意するのボタンを押す。

 

【そうか。では、これより君のタイプを決めよう。基本的には一度だけだ。しかし、神は寄付をするのならばチャンスを与えてくれるだろう】

 

 課金しろって事ですかい。まあ、そうだよな。

 

【さて、マスターが選べるタイプだが、戦士タイプと魔術師タイプがある。具体例を挙げると戦士は私や衛宮のような者達だ。魔術師は遠坂や間桐の連中だ】

 

 選ぶのは決まっている。魔術師タイプだ。今までのゲームではも基本的に魔術とかを選んでいるし、なによりFateといえば魔術師だろう。

 

【魔術師タイプだな。では、次に戦う手段を教えよう。攻撃魔術と支援魔術。君はどちらを選ぶ?】

 

 支援魔術一択。攻撃魔術も憧れるが、そんな物は英霊たるサーヴァントには効果がないだろうしな。例外は当然、居るだろうが。

 

【ふむ。純粋なマスタータイプか。では、相性の良いクラスを決めよう。クラスにはセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、バーサーカー、アサシン、エクストラがある。君はどのクラスが好きだね?】

「エクストラで」

 

 ジャンヌ・ダルク・オルタが一番好きだ。ジャンヌも好きだな。後はジャックも好きだ。

 

【エクストラクラスだな。では、次に得意な魔術を決めよう。支援魔術を選んだので、与えられる魔術は回復魔術のヒール、強化魔術のブースト、ランダムだ。前にも言った通り、ランダムでは寄付をする事で振り直しも出来る。ランダムの場合は様々なスキルを得られるだろう】

 

 これはランダムだな。選択すると、次の画面が移り出した。攻撃魔術初級だった。これは要らない。だから、寄付を選択する。

 

【寄付をするのだな。寄付は千円、一万、十万とある。それぞれ、最低限のレア度が決まっている。一万は星4で、十万は星5が必ず出る】

 

 取り敢えず、千円は一回。一万は十回。十万は百回だった。取り敢えず、一万だけ突っ込んでみる。

 

【では、ガチャを回すと言い】

「ガチャって言いきりやがった!」

 

 ボタンを押すと、召喚の演出が行われる。星1初級攻撃魔術、星1初級回復魔術、星3ルーの光輪、星3愛の霊薬、星3雷光のトナカイ……などなど。そして、最後の一回は星4確定だ。光り輝く魔法陣から出たのは星5だった。その名は召喚魔術だった。当然、召喚魔術を選択する。愛の霊薬を作るのも気になるが、こっちだろう。

 

【召喚魔術を習得した。残りのカードはこの場において、使えぬのでステータスポイントに変換する。点数は星の数だ。故に汝は21点とする。初期のを合わせ、22点だ。では、次にクラスカードを呼び出して貰う】

「クラスカードって、プリズマイリヤかよ」

 

 クラスカードは各サーヴァントの姿が描かれたカード。きわめて高度な魔術理論で編み上げられたもので、悪用すれば町一つ滅ぼせるほどの力を持つと言われている代物だったはずだ。

 

【基本的な戦闘方法は限定展開(インクルード)で戦ってもらう。インクルードは高位の魔術礼装を媒介とすることで英霊の座にアクセスし、力の一端である宝具を召喚、行使できる】

 

 これは夢幻召喚(インストール)もありそうだな。インストールは英霊と一時的に同化し、英霊の宝具とスキル、身体能力を会得する事ができる。しかし、色々と難点はありそうだ。しかし、インクルードとかいう話なら、まともに英霊を召喚できないという事だろうし召喚魔術は当たりだな。

 

【次に汝のステータスを決める。初期にステータスポイントを5点与える。自由に割り振るがいい。後で振る事も可能だ】

 

 表示されたのは筋力、耐久、敏捷、魔力、幸運だった。まんまサーヴァントの宝具無しのステータスだった。初期値はオール1だった。マスターのステータスはアルファベットではないようだ。それよりも名前が問題だ。

 

 マスター:桜坂幸田

   筋力:1

   耐久:1

   敏捷:1

   魔力:1

   幸運:1

   SP:27

  スキル:召喚魔術(D)

 

 名前が本名という事は、スマホから抜かれているという事だ。今更ながら、怖くなってきた。だが、既に一万も使っているんだから、終わるまでいってみよう。

 

【では、次は戦闘指南だ。場所を移す】

 

 その言葉と同時にスマホが光り、次の瞬間には全く知らない雪が降る森の中にある祭壇のような場所に居た。その祭壇の上には神父服の男性と、四体の人形がある。そんな事よりも、頬に感じる風や虫や鳥の潺など、どう考えても現実のような感じだ。

 

「まじでVRなのかよ……」

「ようこそ、新たなるマスター桜坂幸田よ。君にはこの二体を倒して貰おう。心して聞くがいい。さもなければ、そこに転がる不適合者達のようになってしまうのでな」

 

 麻婆神父こと言峰綺礼の言葉に従って、よくよく見れば、回りには沢山の壊れた人形と()()()()()()()()があった。それらの一部からは、今も赤い物が流れ出ている。それらはアバターの姿などではなく、現実の姿だ。制服を着た者やスーツ姿の者達が居るのだ。

 

「まさか、死んでるのか? ひょっとして現実でも……」

「そうだ。最初に警告したはずだ。ここまで進んだ君達には命を賭けたゲームを行って貰う」

「うっ、嘘だろう……」

「契約書には同意している。もはや、戻る事はできん。何時までも惚けていないで、話を進める。心して聞くが良い」

「っ⁉」

 

 急いで麻婆神父の言葉に集中する。彼の背後では二体の人形が立ち上がっている。それぞれ、剣と槍を持っている。

 

「本来なら、インクルードや攻撃魔術を教えるのだが……汝の場合は召喚魔術だったな。特別にその人形を依代にするがいい」

「あ、ありがとうございます」

「うむ。教えを請うのだから、それ相応の対応をするといい。さて、まずはクラスカードを呼び出す事から始めよう。これもガチャだ。代金も確定レア度も先程と同じ。ただし、十万の方は二枚までここより持ち出す事が出来る。残りは先程と同じだ」

 

 つまり、十万を選んだ方が得という事か。二枚まで召喚できるという事だからな。いや、待てよ。これがフェイトと同じならサーヴァントを呼び出し、顕現を維持する魔力はどうなるんだ?

 

「質問があります」

「なんだ? 戦闘に関係のある事だけは答えてやる」

「サーヴァントを現界させる魔力はどうなりますか?」

「基本的に汝が支払う。呼び出す時のコストは我々が持つ。つまり、購入費は出すので、維持費は自分で支払いたまえ」

 

 これは魔力特化にするしかないな。

 

「サーヴァントの維持に掛かるコストはどれくらいですか?」

「ふむ。一体に付き100だ」

「出鱈目なっ!」

「英霊だからな。能力を下げての限定召喚であるが故に、100から可能だ。基礎の半分で1000は要る」

「つまり、召喚するサーヴァントのステータスで俺の生存確率は変わるという事ですね?」

「うむ」

 

 これは貯金も叩くべきだな。祖父母から生前贈与で100万を貰っている。それを使えば魔力をどうにか出来るだろうし、いいのが引けるだろう。

 

「では、交渉です。10万までしかないので、100万だします。なので、サービスをくれませんか?」

「ふむ。いいだろう。では、一体だけ、私が選んだ特別な者を与えよう。それと持ち出すカードは三枚でいい」

「ありがとうございます」

「では、振り込んでくれたまえ」

「はい」

 

 流石に額が大きいので、振り込みになるがネットからいけるので助かる。100万を振り込むと1000枚のカードを引く事になる。

 

「1000枚は流石に面倒だ。一気にいくぞ」

「そうですね。上位のカードだけでいいです。後はポイントで」

「心得た」

 

 1000枚ものクラスカードを引いた結果。星5が二枚。星4が八九枚星3が三五六枚。星2が二五四枚。星1が二九九枚だった。

 

「なんだこれ! なんだこれ!」

「うむ……気を落とす出ない。これを食べるといい」

「くっ……ありがとうございます」

 

 貰ったパンを涙を流しながら、かぶりつく。その瞬間。口の中に広がる激辛の麻婆。

 

「からぁああああああああああああああぁぁぁぁっ!!」

「残すのは許さん」

 

 忘れていた。麻婆神父が渡す食べ物は全て超激辛麻婆が入っているという事を!

 

「さて、どのクラスカードを選ぶのだ?」

「もちろん、星5二枚からだな……何が出たのか……」

「それは召喚してからのお楽しみとすべきであろう。ではこの人形二体を依代に召喚をするといい」

「そのまえに魔力に振ります」

「うむ。麻婆を完食した褒美に教えてやる。スキルを上げるのにもポイントが必要だ」

 

 要らないカードを全て出して2231ポイントをゲット。27ポイントを合わせて、2258ポイント。全てを魔力に振り分ける。といいたいが、59ポイントを耐久に、500ポイントをスキルに振っておく。これで耐久が60で魔力が1700となった。召喚魔術はDからCへと上昇した。

 

 

 マスター:桜坂幸田

   筋力:1

   耐久:60

   敏捷:1

   魔力:1700

   幸運:1

   SP:0

  スキル:召喚魔術(C)

 

 

「では、いよいよ召喚だ。それだけの魔力があれば問題無く召喚できるだろう。召喚魔術がCなので、二体まで召喚できる」

「あぶねぇ……」

「では、儀式を始める。ふむ……この二枚か。ならばこちらがいいか。ああ、特別なサーヴァントを与えるのであった。この二枚からどちらかを選ぶがいい」

 

 どちらも表示はわからないが、俺は直感に従って右を選んだ。

 

「では、二体にクラスカードを投入して願え」

「フェイトなら、やっぱりこれだろう」

 

 俺は一枚は星5から。もう一枚は貰ったカードにする。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 有名な詠唱を行う。すると、俺の中から膨大な魔力っぽい物が噴き出てくる。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する」

 

 クラスカードが二体の人形に吸い込まれ、光に包まれていく。

 

「―――Anfang(セット)

 

 俺の相棒(パートナー)を呼び出す。否。嫁を呼び出す。男なんて要らん。

 

「―――告げる。

 汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 求めるのはただ一つ。嫁である。ロリっ娘であるならばなおよし。

 

「誓いを此処に。

 我は常世総ての善となる者、

 我は常世総ての悪を敷く者」

 

 沖田さんでも、アルトリアでもいい!

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 詠唱が終わり。二体の人形の姿は光の中で小さくなった。そして、光が収まるとそこには――

 

「アサシン。ジャック・ザ・リッパー。わたしたちをよろしく、おかあさん」

 

 銀髪で黒い外套を着た身長134cmの小さな女の子。属性は混沌・悪。それに特技は解体という殺人鬼の危険な幼女。そして、もう一人も銀髪幼女であり、リボンと鐘をつけた露出過多な幼女。

 

「……私はジャンヌ・ダルク・オルタ・さんたりぃっ……痛いかんだぁ……」

「頑張って」

「じゃんにゅ……あうっ……サンタ・リリィ……聖夜に一人、かわいそうなぼっちのましゅたぁーを虐めるためにぃぃっ……」

 

 諦めた。涙目になっている邪ンヌ・リリィことオルタちゃんと励ましているジャック。俺は二人の頭に手を置いて撫でてみる。

 

「わわっ」

「撫でるりゅなっ! ま、マスターだからって、気安くさわりゅなっ!」

「悪い。ジャックも嫌か?」

「ううん。わたしたちはもっと撫でて欲しい」

「そうかじゃあ……」

 

 ジャックを集中して撫でていると、蹴られた。

 

「ちょっとっ、誰が撫でるのを止めていいっていったのよ……」

「にやにや」

「笑うなっ!」

「その辺でいいかね?」

「あ、ごめんなさい」

「ちょっと、埼礼。なんでアイツじゃないのよ」

「ふむ。彼がロリコンだからであろう。もう片方はアルトリアのオルタだったのだ」

「変態」

「おかーさん、変態なの?」

「違うよ、多分。それとおかーさんじゃなくて、おとーさんで頼む。俺は男だからな」

「なら、切り取っちゃえばいいの?」

「勘弁してくれ」

「どうでもいいけど、そろそろ怒り出すんじゃないかしら?」

 

 神父の方をみると、祭壇から出ていた。

 

「では、戦闘を始める。殺レ」

 

 人形二体が襲い掛かってくる。それに対して、槍を持っているオルタちゃんと短剣を構えるジャック。俺はステータスを見てみる。すると、魔力が残り100になっている。二人はそれぞれ800ずつ消費して呼び出しているようだ。

 

「言峰先生。俺もインクルードって使えますか?」

「使える。それだけの魔力があればインストールも使えるのではないか? 最低100必要だからな」

「なるほど。じゃあ、やるか」

 

 残りの星5のカード。絵柄はアーチャーだ。

 

「―――告げる! 汝の身は我に! 汝の剣は我が手に!」

 

 残りの魔力を使って変身する。

 

「聖杯の寄るベに従い

 この意この理に従うならば応えよ!

 誓いを此処に!

 我は常世総ての善と成る者!

 我は常世総ての悪を敷く者――!」

 

 身体が変化していく。

 

「汝 三大の言霊を

 纏う七天!

 抑止の輪より来たれ 天秤の守り手――!」

 

 最後の言葉を紡ぐ。

 

「夢幻召喚インストール!!!」

 

 次の瞬間。身体は英霊と同化して作り変えられ、髪の毛が伸びて赤く変化し、()()()()()()になっていた。手には弓が握られている。

 

「やっぱりおかーさんだ!」

 

 慌てて股間に手をやる。

 

「なくなってやがるだと!」

「ばかばっか」

 

 襲い掛かる人形を蹴り飛ばしながら答える二人。どうやら、余裕のようだ。だが、俺は余裕じゃない。何せ、性転換してしまっているのだから。なにこれ、魔法少女はじめましたてきな? もしくは、俺、ツインテールになります? いや、同じ赤い髪の毛だけど、こっちは英霊なんだよな。それも、あの可哀想な人だ。こんな事を考えていると、二人に人形が瞬殺された。

 

 

 

 

 

 




ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは愛称、オルタちゃんでいいのかな?
主人公が変化したカードは分かるかな~? ちなみに未実装だよ! ヒントは○○○


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2話

 

 

 二体の人形はオルタちゃんに槍で胴体を貫かれ、ジャックによって短剣で関節を斬られて倒れていた。ジャックは直に俺に抱き着いてきた。

 

「おかーさん、おかーさん。褒めて、褒めて」

「よしよし、よくやった」

 

 口から男の声ではなく、少女の声が出る。そのまま、小さな手でジャックの頭を撫でる。肌ざわりの良い髪の毛の感触が最高だ。それにジャックから漂ってくるいい匂い。

 

「ちょっとっ、何時までしてるの……してるのですか。トナカイさん、さっさと私も撫で……」

「これにて初期説明は果たした」

「……」

 

 オルタちゃんは神父をうらめしそうな目で睨み付ける。

 

「どうしたのだね、幼女よ?」

「幼女じゃないです」

「えてして子供はそう言う者だ。それより、もうすぐ変身が切れるのではないかね?」

「あ」

 

 魔力が切れて俺の姿も男性へと変わった。すると、身体の中からアーチャーのクラスカードが出て来た。

 

「男に戻りましたね」

「おー」

「魔力切れだ。サーヴァントを召喚している間はその分最大値が減っている。まあ、後の詳しい事は自分で調べるがいい。そこまで面倒は見切れん。さて、これにて基本説明は終わりだ」

 

 そう言いながら、神父はリュックサックを取り出してくる。

 

「この中には三日分の食料と方位磁石。救急治療セットが入っている。これを持って、森を出れば街道に到着する。そのどちらかに進むと村がある。先ずはそこを目指すといい」

「え、これで終わり?」

「不親切ですね」

「そ~なの?」

「そうですよ」

「そ~なんだ」

 

 可愛いな。まるで姉妹みたいだ。オルタちゃんがお姉さんで、ジャックが妹かな?

 

「ログアウトは専用の魔術道具による結界の中か、村や街の中でしかできない。スマホを無くせば二度と現世に戻る事は叶わぬと思え」

 

 これはやばい。基本的にログアウトはスマホからか。まてよ?

 

「電池はどうなるんだ?」

「知らん。どうにかしろ」

「っ⁉」

 

 俺は慌てて電源を切る。ステータスを見るのもスマホを使うのに、それすら電池の節約が居るとか不親切にもほどがあるじゃねえか。

 

「例えば、別のプレイヤーのスマホを奪ってログアウトする事は?」

「良い質問だ。それはもちろん可能だ」

 

 プレイヤーによる殺し合いも想定されているのか。まあ、フェイト=聖杯戦争だから、ある意味では当然か。プレイヤーキラー、PKには気を付けないといけないな。いや、ジャックが居る時点で、むしろプレイヤーキラーになるべきか?

 

「質問は以上か?」

「いや、街道に出てからどちらに進めば村は近い?」

「東だ。東は三日で着く。西は一週間かかる」

 

 これは聞いておいて正解だったな。しかし、そうなるとバイトもあるし、時間も聞いておいた方がいいな。

 

「この世界と現実世界での時間の流れは?」

「同一である」

「バイト先に連絡を入れたいんですが……」

「スマホから普通に繋がるはずだ」

「マジで!?」

「うむ。ああ、しかしこのゲームの事をプレイヤー以外に漏らす事は止めておけ」

 

 まあ、誰も信じないだろうけどな。

 

「ペナルティが与えられる事になる。それによく考えるのだ。サーヴァント及びクラスカードはその側面に関しては一体だけだ」

 

 なるほど。オルタちゃんことジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは一人しかいない。だけど、ジャンヌ・ダルク・オルタとジャンヌ・ダルクは手に入れられるという事か。

 

「アルトリアだと、オルタとアルトリアが可能という事でいいんですよね?」

「そうだ。水着も可能だ。FGOのパーティーと同じだ。同一サーヴァントは編成できない。それが全サーバー、全プレイヤーに適応されていると思えばいい」

「なるほど」

 

 これはつまり、これから起こる事として確実なのはクラスカードの取り合いだ。無限にあるのではなく、クラスカードは基本的に一つの側面に対して一つだけという事だ。

 

「もしかして、あんなに星5が出なかったのは……」

「既に回収されているからだろう」

「何人プレイしているかは……」

「秘匿事項だ。さて、私は行かせてもらう。次のプレイヤーが現れたようなのでな」

 

 後ろを振り向くと、光の粒子が集まってきている。

 

「さっさと行け。それとも、早速殺し合いを始めるかね?」

「行かせて頂きます。お世話になりました」

「うむ。期待している」

 

 神父が手を振ると、森が別れて道が出来た。どうやら、ここを下りれば街道に出るようだ。

 

「行こうか、オルタちゃん、ジャック」

 

 リュックサックを背負って、二人に手を差し出す。

 

「うん♪」

 

 ジャックは楽しそうに小さな手で握り返してくれる。

 

「いいでしょう。トナカイさんにエスコートされてあげます」

 

 オルタちゃんはそっぽを向きながら、顔を少し赤らめて手を握ってくる。二人と一緒に新たな旅路へと向かう。

 

「どうでもいいのだが、その状態で襲われたら対応できるのかね?」

「あっ」

「……無理ね。無能じゃない、このトナカイ」

「えっと、わたしたちとオルタちゃんでおかーさんを守るよ」

「助かる。じゃあ、一人はアタッカーで一人は護衛を頼む。基本的にはアサシンのジャックが先行して偵察。その間、オルタちゃんが俺の護衛。戦闘時はオルタちゃんが前に出て、ジャックが護衛。隙があれば遊撃。こんな感じか?」

「基本的にはそれでいいでしょう」

「やだ」

「ジャック?」

「やだやだ! それだったら、わたしたちがおかーさんと一緒にいれないもん!」

 

 涙目でぎゅっと手を握りしめてくるジャック。

 

「じゃあ、二人で護衛してくれ」

「効率悪っ」

「泣く子には勝てない」

「はぁ、仕方ないわね。気配察知くらいはできるでしょ」

「獲物を探して襲うのは得意だよ?」

「なら、それでいいですね」

「そうだな。神父様、ありがとうございました」

「ああ、さっさと行け。そして、無様な姿を晒して来い」

「それは遠慮したいです」

「べ~だ」

「お断りね」

 

 可愛い二人の少女と一緒に森を抜けていく。その途中でバイト先の店長や先輩にメールを出しておく。これでシフトは大丈夫だ。しかし、生死を賭けたデスゲーム。無事に生き残れる事は出来るのかね? 

 どちらにしても、出来るだけ悔いの残らないように過ごさないとな。可愛い娘達と共に。

 

 

 

 

 



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3話

月曜日までのカウントダウン!



 

 

 太陽は既に落ち、回りは暗く月明かりと微かに光る蛍が道を照らしている。左右に沢山の生い茂った木々の中に作られた道を外れると、もう灯りは見えなくなる。空は木々の葉っぱに遮られながらも見れる満天の星空。明らかに都心じゃない。こんな事なら、やる時間を朝にしておけばよかった。だが、そうすると……

 

「わ~蛍さんだ~」

「余り離れるんじゃありませんよ」

「は~い、お姉ちゃん」

「誰がお姉ちゃんでしゅ……ですか」

 

 顔を赤らめながら答えるオルタちゃん。どことなく嬉しそうだ。やはり、今初めて正解だった。確かに朝からなら楽にここを通り抜けられただろう。だけど、そうなると二人と出会えなかった可能性がでかい。オルタちゃんとジャックはどちらかというと夜の側の住人だ。オルタちゃんはサンタだなので、夜に活動する。ジャックはアサシンなので夜の方がいいのかも知れない。予想だけど。つまり、ガチャで出ない可能性もあった。というか、それを考えるとガヴェインを引いたらやばいんだろうな~。

 

「どうしたの、おかーさん?」

「ああ、そろそろ野宿を考えないといけないだろうなと思ってな」

「駄目よ。絶対に駄目よ、トナカイさん。ここで泊まるのだけは許容できないわ」

 

 俺の言葉に全力で否定するオルタちゃん。何か理由があるのだろう。

 

「ジャックはどうだ?」

「わたしたちはおかーさんに従うよ。でも、ここでは止めた方がいいかな~」

「なら、このまま進もう」

 

 俺が判断するより、英霊である彼女達に任せた方がいい。そもそも、素人である俺よりも専門家ではないが、人を殺しているジャックとフランスの聖女の贋作のロリ化したオルタちゃんなら、俺よりも格段に優れている。英霊である彼女達に任せる方が理にかなっている。

 

「それで、理由だけは教えてくれるか? 森なら潜められそうだが……」

「駄目よ、トナカイさん。ここに居たら、降りてきた他のマスター連中に鉢合わせする可能性が高いのよ。現状、私達の能力が落ちている上にトナカイさんというお荷物を抱えているのよ。安全を優先するなら、出来る限り、初期位置から離れた方がいいわ」

 

 毒舌を吐きながらも、俺の事を考えてくれているオルタちゃん、マジ天使。

 

「そうなの?」

「ジャックは違うの?」

「ん~ここ、道から外れたら襲われるよ?」

「それってエネミーか?」

「多分、そうだよ。さっきから、スケルトンがこっちに近寄ってきては離れていってるし」

「それを早く言いなさい!」

「え~だって、聞かれなかったし」

「偵察はアンタの役目でしょうが!」

「ぶ~」

「ジャック。頼む。これからは敵性体が接近してきたら教えてくれ。後、何か見つけたりしてもな」

「は~い。おかーさんがそういうなら」

 

 快く引き受けてくれたジャックの頭を撫でると、猫のように身体を擦りつけてくる。

 

「納得いかない!」

 

 地団駄を踏むオルタちゃんの頭を撫でる。

 

「色々とありがとう。助かってるよ。だから、これからはちゃんと口に出して遣って欲しい事を伝えよう。俺達は言葉にしないと伝わらないからな」

「ふん。仕方ないわね。じゃあ、ジャック。次、敵が来たらちょっと狩って来なさい」

「ふぇ? おかーさんの護衛はど~するの?」

 

 オルタちゃんの言葉に小首を傾げるジャック。

 

「私が護衛するわ。貴女は敵の強さと素材を回収してきなさい。倒したら戻ってくるの。その次は私が行くから、貴女が護衛ね」

「?」

「つまり、現状の身体に成れるという事だろう」

「そっか。流石はおねーちゃん!」

「ふん、それほどでもありゅ……あります」

「だけど、森の中で槍を振り回すのか? ジャックの短剣なら分かるが……」

「あっ」

「おねーちゃん、ドジっ子だね!」

「うるしゃいうるしゃいっ!」

 

 オルタちゃんがジャックを叩こうとぽかぽかと手を振りながら、走っていく。しかし、それをあっさりと回避して俺を盾にして回りを走っていく。二人の幼女がくるくると回っていく。しかし、少ししてジャックは直に森の中へと入っていった。オルタちゃんは涙目になりながらも、しっかりと槍を構えてジャックが入っていった森を警戒している。

 

「出て来たら、刺してやるわ」

「どっちを!?」

「さぁ? それよりも進みますよ、トナカイさん」

「ジャックを置いていくのか?」

「問題ありません。私達はトナカイさんと繋がっています。ラインを通じて場所もわかりますから、追って来るでしょう。それよりも、少しでも森から離れます」

「おい、もしかしてジャックを囮にしてないか?」

「……問題ありません。仮にもアサシンですから。それにいざとなれば令呪を使えば……」

「それな……あればよかったんだけどな」

 

 生憎、サーヴァントに対する絶対命令権である令呪は俺の身体には存在しない。

 

「え? ないの?」

「無い」

「……それもそうね。普通の方法と違って、私達は召喚魔術で呼び出されているし、他のマスターはクラスカードから宝具を呼び出したり、自分の身体に同一化して戦うのよね?」

「そうだな。だからこそ、令呪が無いのかも知れない」

「まあ、手に入れる方法もあるでしょう」

「だろうな。たぶん、イベントとかで手に入るんだろうな」

 

 流石にフェイトのゲームで令呪が無いのは……可能性もありそうだが、ないと願いたい。

 

「どちらにしても、進みましょう」

「ああ、そうだな」

 

 オルタちゃんと一緒に進んでいく。

 

 

 

 

 しばらくして、森の出口に到着した。ジャックはまだ帰って来て居ない。だが、招かれざる客が現れた。

 

「オルタちゃん」

「招かれじゃる客ね……」

「言えてない」

「うるしゃい!」

 

 森の出口には、薙刀を持った男性が黒い影で出来た槍を持った人型と戦闘を行っている。あれの正体は分かる。FGOで何度も出てきた奴だ。

 

「トナカイさん」

「ああ、シャドウサーヴァントだな。アレも出るのか」

「むしろ、アレと戦うのがメインではないですか?」

「そうだろうな。クラスカードを手に入れる手段かも知れない」

「そうですね。それよりも、私はあのシャドウサーヴァントに見覚えがあるのですが……」

「そうだな。ああ、俺もある」

 

 ショートカットのシャドウサーヴァントは槍を巧みに使って戦っている。それどころか、魔法であろう無数の槍を地面から生み出して薙刀を持つ奴に攻撃を仕掛けている。

 

「なあ、あの戦い方は……」

「ええ、ええ、トナカイさんの言いたい事はわかりましっ……わかります。恐らく、彼女はあの似非神父が課した試練なのでしょう。でなければ、あの醜い()()がここに都合よく存在しているはずはありません」

「だろうな。だが、戦っているアイツは……」

「おそらく、私達の試練の相手を掠め取ろうとしているのでしょう。この森に道が出来たという事は、マスターが降りて来る事もわかるでしょうから、森を張っていればいいのですし」

「手間が掛かるが……クラスカードが手に入ると思えば有りか」

「ですね。さあ、トナカイさん。どうしますか?」

 

 オルタちゃんが言ってきているのは、助けに入って一緒に戦うか、このまま逃げるか、それとも――

 

「生憎、俺は正義の味方じゃないんでな。戦闘の準備をして、どちらかが力尽きた所を強襲する」

「合格です、トナカイさん。それでこそ、私達のマスターに相応しいです。正々堂々真正面から? はっ、馬鹿じゃないの。そんな無駄な事をするぐらいなら、横合いから全てをかっさりゃうのです」

「ぶっ」

「笑うなぁぁっ!」

 

 カッコイイ台詞を言っていたのに、最後で噛んで台無しだ。だけど、笑ったのは不味かった。顔を真っ赤にしたオルタちゃんが、殴りかかってきた。取り敢えず、手で頭を押さえて攻撃がこないようにする。

 

「う~~」

 

 涙目になりだしたので、抱き寄せてお姫様抱っこをする。

 

「ちょっ⁉ にゃ、にゃにしてりゅの!」

「それで、準備は何をしたらいい?」

「……す、既に布石は打ってるわ……あっ、あとトナカイさんの魔力、次第です……」

「そうか」

 

 オルタちゃんと見つめ合っていると、後ろから物凄く嫌な気配というか、寒気がして慌てて振り返る。しかし、ただの森が広がっているだけで何も無い。

 

「貴様等っ、ささっとこっちに来て手伝えっ!」

 

 オルタちゃんといちゃらぶしていると、向こうから男性の怒声が届いた。

 

「さてさて、どうするかね?」

「要望に従って、遠くから攻撃してあげたらどうですか? その手段があるでしょう」

「あ~弓か」

「ええ、練習には丁度いいのでは?」

「それもそうだな」

 

 懐からアーチャーのカードを取り出して、インクルードを発動する。すると、両手が赤色と金色で出来たガントレットに包まれ、同時に外装が赤色で、金色文様が施された弓が現れる。弓を握りながら、ステータスを確認する。

 

 

 マスター:桜坂幸田

   筋力:1

   耐久:60

   敏捷:1

   魔力:100(1600)

   幸運:1

   SP:0

  スキル:召喚魔術(C2/2)

 

  クラス:アサシン(限定召喚800/1000)

   真名:ジャック・ザ・リッパー

   筋力:E

   耐久:E

   敏捷:C

   魔力:E

   幸運:E

   宝具:使用不可

  スキル:気配遮断(C+)、情報抹消(D)

 

  クラス:ランサー(限定召喚800/1000)

   真名:ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ

   筋力:D

   耐久:E

   敏捷:E

   魔力:D

   幸運:E

   宝具:使用不可

  スキル:自己改造(EX)、かりちゅま(E)

 

 

 魔力の1600は召喚に使用しているから、上限値が削られている。そして、肝心のサーヴァントの二人だが、実際のデータよりも2ランクはダウンしている。それにスキルも持っていないのが多い。後は宝具が使用不可だ。これはおそらく、召喚用の魔力が足りないので限定召喚の弊害だろう。スキルが足りないのもそういう事だろう。しかし、オルタちゃんのかりちゅまには突っ込まないぞ。

 さて、俺の魔力は上限100だが、インクルードをしたのに減っていない。ステータスでは自分の現在の魔力量がわからないのだろう。不親切だが、成長する為には仕方ない事だろう。

 

「さて、やるか」

「ええ、どちらに当たっても構いませんからね」

「ああ、気兼ねなくやる」

 

 弓を構えて、弦を引くと魔力によって矢が生成される。インクルードをしたおかげか、使い方は頭に入ってきた。なので激しく動く、男性とシャドウサーヴァントへと向けて放つ。矢は予定していた軌道をずれて失速しながら飛んでいく。即座にシャドウサーヴァントが腰に下げていた剣を引き抜いて切り払われる。

 

「どんどん行きましょう」

「そうだな。外れても言い訳だし」

 

 気兼ねなく矢を放っていく。それで分かった事だが、インクルードすると魔力が10分間に1消費される事。矢は魔力1で100本作れるという事だ。もしかしたら、魔力1が魔術回路の数なのか? それだと恐ろしい数になるな。1700本という事になるのだし。あっ、男の腕に当たって、シャドウサーヴァントに吹き飛ばされた。

 

「この下手糞がぁぁぁぁぁぁっ!!」

「オルタちゃん、応援してあげてよ」

「……えー」

「嫌そうな顔しないで」

「ガンバレー、そして死ね」

「あはははは」

「貴様等ぁぁぁぁっ!」

「あ~別に逃げてもいいですよ。俺達が対処しますので」

「ふざけんなっ! これは俺の獲物だ!」

「じゃあ、頑張ってください。よっと」

 

 俺は地面に胡坐をかいて座って、隣のオルタちゃんを引き寄せてすっぽりと収める。弓は消してカードに戻しておく。

 

「何するのですか?」

「魔力の回復。リラックスした方が回復が速そうだし」

「まあ、いいでしょう。トナカイに頭を撫でる権利を差し上げます。光栄に思ってください」

「ありがとうございます、姫様」

「ふん」

 

 そっぽを向きながら、嬉しそうにしているオルタちゃんとまったっりとするときおり、森の方から視線を感じるが、そちらに顔を向けようとするとオルタちゃんが催促してくるので撫でる事に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 




???「いいな、いいな~」
森の中から、指をくわえて羨ましそうにみている少女が居た。


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4話

 

 

 

 

 さて、ゆっくりとオルタちゃんを堪能していると、いよいよやばくなったのか、男性は玉状の物を地面に投げる。すると、その物体が破裂して煙が溢れてくる。 

 

「逃げたか」

「逃げましたね」

 

立ち上がって、戦う準備をする。煙が張れたら、入口に近付いて戦いをしないとな。

 

「トナカイさんっ!」

 

切羽詰まったオルタちゃんの声が聞こえ、俺は弾き飛ばされる。その瞬間、先程まで俺が居た場所に煙の中から槍が飛んでくる。俺を弾き飛ばしたオルタちゃんは体勢が崩れていて、その槍が腕を微かに傷つけた。

 

「ちっ」

 

直ぐにオルタちゃんが槍を構えると、煙の中からシャドウサーヴァントが飛び出してくる。それも煙の中で飛び上がったのか、上からだ。相手は槍を捨てていて、剣を持っている。オルタちゃんは槍を両手で掲げて、シャドウサーヴァントの剣を耐える。

 

「トナカイさん、邪魔よ! 下がって援護!」

「わっ、わかった!」

 

俺が近くに居たら、まともに戦えないだろう。直に下がって弓で援護しないといけない。

 

「馬鹿、後ろを向いて逃げるなっ! 前を向いて下がるのでしゅっ!」

「はいっ!」

 

あぶねえ。シャドウサーヴァントの攻撃が掠めて飛んで行った。確かに後ろを向くのは不味い。やっぱり、色々と教えて貰わないとな。

 

「インストール・アーチャー」

 

ステータスを確認し、魔力が100まで回復している事を確認する。それから、インストールを行ってTS変身を行う。やはり、赤髪ツインテールの少女になってしまう。変身可能時間もでており、それによると100で10分間だけのようだ。しかし、一戦闘に限れば充分だろう。それに弓の扱いから戦い方まで、何から何まで彼女の知識が入ってくる。とある青年への思いもだが、これは叶わない恋だ。

即座に森の中に入り、かなり上がった身体能力で森の中を駆ける。少し離れたら、木々を交互に蹴って木の上に登って弓を構える。視力もかなり上がっていて、二人の動きが良く見える。

 

「ふぅ……」

 

呼吸を落ち着けて、弓を構える。オルタちゃんとシャドウサーヴァントは近距離で戦っている。優勢なのはシャドウサーヴァントで、オルタちゃんは防御に手一杯だ。槍の内側に入り込まれて、剣が有利な場所になっているからだ。だが、これはチャンスだ。木々を蹴って背後に回る。

 

オルタちゃんが、足止めしておいてくれたお蔭で、背後を取れた。後は弓を構えて、矢を作り出す。更に火の矢を作り出して魔力を込めていく。矢は赤色に輝く。更に魔力を込めていくと白くなって陽炎を生み出していく。準備が出来たので、オルタちゃんを見ると、上手いこと誘導してくれる。

 

「貫け」

 

手を放すと、矢が解き放たれて飛来していく。それはインクルードの時の威力や速度など目ではなく、圧倒的な速度と威力を持っていた。シャドウサーヴァントは瞬時に反応して、振り返りながら剣で斬り落とそうとする。しかし、剣と矢が接した瞬間。爆発が起こる。

 

「オルタちゃんっ!?」

 

予想外の威力に声を出す。煙が覆い尽す中、少し待っていると煙が晴れていく。そこで見たのは――

 

 

 

 

 

 

ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ

 

 

 

 

 気安く撫でてくる愚かなトナカイさんを弾き飛ばし、片手を負傷した私は接近されて防戦一方になっています。しかし、相手の動きが単調なので、どうにかなります。振り下ろされる剣に対して、身体をずらすと同時に槍を斜めにして、剣を滑らすと同時に槍の柄でシャドウサーヴァントの頭部を叩き付けます。

シャドウサーヴァントの体勢が崩れたので、即座にバックステップで下がる。でも、相手も接近してくる。でも、視界の先。森の中に光物が見れました。ラインからもわかるトナカイさんの位置。魔力の回復というのは本当だったようです。

それなら、やる事は一つです。この愚か者な紛い物に引導を渡す事です。

 

「来てください」

 

シャドウサーヴァントの位置を調整します。何故か、幻影の槍を使ってこないので、楽に扱えます。しかし、今の私では残念ながら火力が足りません。なので、トナカイさんに任せます。

 

「予定通りですね……」

 

飛来した矢に対して、私はシャドウサーヴァントに肉薄して相手を盾にして防ぎます。私達は爆発の後、即座に背後に回って槍を短く持って傷口を貫きます。同時に首に噛みついて吸い取ってやります。激しく暴れますが、自己改造EXは伊達ではありません。魔力を吸収して

 

「ふぅ……」

 

身体に力が入ってきます。お蔭でスキルが増えました。手に入れるのは選択式になっていたので、取り敢えず対魔力EXを習得しました。相手はルーラーだったようなので、これを選びました。これでタンカーとして強くなりましたね。愚鈍なトナカイさんを守らないといけないですしね。

 

「オルタちゃん、大丈夫か?」

「ええ、問題ありません」

 

さて、次の獲物を狩る準備を行いましょう。狙いは一つです。もっと強くなる為に沢山、狩らないといけません。効率良く、トナカイさんとプレゼントを配っていきましょう。

 

 

 

 

 

 



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5話

2話目


 

 

 

 

 変身を解除してからオルタちゃんを撫でた後、少しして()()の人影が見えた。その中には先程の男性も居る。

 

「オルタちゃん」

「トナカイさん、お願いがあります」

 

 俺はオルタちゃんの口元に耳をやると、囁いてくる。その方法を聞いて、俺は納得したので、直ぐに実行する。

 

「おい、俺の獲物を奪いやがって、ただで済むと思ってねえだろうな?」

「あれは俺達の獲物だ。それに逃げたのだから、放棄したって事だろ」

 

 俺は前に出て、オルタちゃんを背後に隠す。オルタちゃんは、不満そうな顔をしている。

 

「ふざけんなっ!」

「落ち着け。どちらにしろ、渡さないなら奪うまでだ」

「それにそっちの女の子は俺達が貰ってやるから安心しろよ」

 

 相手は4人。これは普通のやり方じゃ勝てないだろう。それと――

 

「却下だ。この子は絶対に渡さん」

「おいおい、彼女としても俺達の方がいいだろう」

「嫌です。汚らわしいです、喋らないでください。空気が汚れます」

「てめぇっ!」

「それに私のトナカイさんはこのトナカイさんだけです。という訳でトナカイさん、行くわよ!」

 

 オルタちゃんが俺の手を引いて森の中へと入っていく。

 

「待てっ!」

「追うぞっ!」

「逃がすかよ!」

「待て、夜に森に入るのは……くそっ!」

 

 奴等を無視して、一緒にオルタちゃんと虫や鳥の音が響く、森の中を逃走する。走っていると、次第に暗い森に霧みたいな物が出だした。

 

「それで、どうするんだ?」

「わかりませんか?」

「まあ、わかるけどな。この()で」

「でしょうね」

 

 走っていると、木に止まっていた虫達が地面に倒れていく。そんな中をどんどん進んでいくと、スケルトンが現れる。しかし、スケルトンの骨は爛れており、オルタちゃんが槍を振るうと簡単に砕けて倒れた。

 

「待てっ!」

「逃げても無駄だ!」

「そうだぞ!」

 

 声が一つ減っている。オルタちゃんを見ると、にやにやと笑っていた。それだけで何が起こっているか、わかる。ラインからも何が起きているのかはわかる。

 

「待ちやがれ!」

「くそっ、鬱陶しい森だ!」

 

 また一人減った。そして、直ぐにまた一人。俺達はだるくなってきている身体を止めて、背後に振り返る。静まり返り、虫や鳥達の声が聞こえなくなった霧に包まれた森の中。そこには最初に出会った男性が居た。

 

「やっと諦めやがったか。おい、行くぞ……って、他の三人は?」

「気付かなかったようですね。お三方は既に解体されました」

「何を言ってやがる⁉」

 

 取り乱したのか、声を荒げる男性。その背後に滲み出るかのように、血に染まった短剣を持つ銀髪の幼い少女が現れる。

 

「熱っ⁉ 何が……痛っ、痛いぃいいいいぃぃぃぃっ⁉」

 

 幼い少女……ジャックによって素早く、手と足を斬られた男性。痛みに喚きながら倒れる。その傷口に霧が入り込み、腐食していく。そんな男性をジャックは仰向けにして馬乗りになった。

 

「うっ、嘘だろっ……じゃ、ジャック・ザ・リッパー……や、やめろっ、やめろっ!」

「止める事なんてないよ?」

「はぁっ、はぁっ……ほんとうか……?」

「うん♪ 解体するだけだもん♪」

「ひっ!? ぎゃぁあああああああああああぁぁぁぁぁっ⁉」

 

 ジャックが短剣で楽しそうに指を切断した。

 

「助けてくれっ、頼むっ!」

「くすくす、私を汚らわしい視線で視姦してくれた罪は重いのですよ」

「がっ⁉」

 

 オルタちゃんも蹴りを入れて、槍を突き刺してぐりぐりしていく。幼い娘達だからこそ、やっているのかも知れないが……いや、この子達は完全な悪側である、属性混沌・悪だからな。

 

「殺すな。聴きたい事がある」

「は~い、おかーさん!」

「仕方ないですね」

 

 俺は男に近付いて、質問する。

 

「名前と住所は?」

「だ、誰が教え――」

「そうか。ジャック」

「は~い。とりあえず、指からでいいよね? えっと、1,2,3,4……いっぱいあるし!」

 

 両手の指を使って数えていくジャック。

 

「もしかして、数えられないの?」

「ちっ、違うよ? そんな事ないんだからね? 本当だよ?」

「後でお勉強ね」

「うにゃっ⁉ おかーさん!?」

「勉強だな。流石に算数は覚えような」

「勉強嫌い!」

「だ~め。さて、いいから教えてくれよ。後、鍵の隠し場所とかもな」

「わっ、わかった! 喋るから命だけは助けてくれ!」

「ああいいぞ」

 

 それから、男の話を聞く。すると、どうやらさっきの四人はリアルの知り合いみたいで、ここで初心者狩りをしていたようだ。といっても、彼等も初めたばかりのようだが。話を聞きながら、身体検査をした結果。鍵であろう物も見つかったので、貰っておく。後口座の暗証番号とかも聞いておく。それが終れば、俺はクラスカードなどを回収して次の死体へと向かう。

 

「行くぞ」

「は~い。ばいばい、おにーさん」

「では、残りの人生をお楽しみください」

「た、助けてくれるじゃないのか!」

「命は助けた。後はどうなるかは知らん。だいたい、お前達は命乞いをした奴等を助けたのか?」

「も、もちろんだ!」

「そうか、優しかったんだな」

「そ、そうだ! だから……」

「だが、俺達には関係無い。精々、生き残れる事を願うんだな」

「待ってくれっ、待ってくれぇぇぇぇっ!」

 

 彼を無視して、森の死体の場所までジャックに案内して貰う。そこで必要な物を回収し、二人と一緒に森を抜けた。森の中から悲鳴が聞こえてきたが、知った事ではない。

 

「トナカイさん、良かったのですか?」

「何か駄目だった?」

「あいつらは俺を殺そうとした。これは正当防衛だ。それにな、殺していいのは殺される覚悟がある奴だけだって、偉い人もちょっと違うが、言っていたからな。自業自得だ」

 

 それにこっちでの殺人は罪に問われないしな。

 

「ああ、ジャック。情報抹消だけはしておいてくれよ」

「もうやってるよ~だから、後でいっぱい褒めてね」

「ああ、もちろんだ。むろん、オルタちゃんもな」

「ふん。まあ、嬉しくもないですが、どうしてもいうのなら、褒められてあげます」

「どうしてもだ。ありがとう」

「ふんです」

 

 可愛い嫁達と一緒に森を抜けた先で野営地を探していく。しかし、やっぱり800ずつ割り振るんじゃなくて、1000と600にしておいた方が良かったな。宝具が使えるというのはそれだけで大きい。今、ジャックには魔力を1100.オルタちゃんに500渡している。どうやら、500からスキルが使えて、1000から宝具が使えるようだ。そう、今回の作戦はオルタちゃんからの指示でジャックにある程度魔力を集める事だ。これによって、暗黒霧都(ザ・ミスト)によって視界を封じ、確実に暗殺する事が可能になった。弊害はこの森の動物達が死に絶えた事だろう。

 

 

 

 暗黒霧都(ザ・ミスト)

 

 ランク:C

 種別:結界宝具

 レンジ:1~10

 最大捕捉:50人

 ロンドンを襲った膨大な煤煙によって引き起こされた硫酸の霧による大災害を再現する結界宝具。

 魔術師ならばダメージを受け続け、一般人ならば数ターン以内に死亡する。英霊ならばダメージを受けないが、敏捷がワンランク低下する。

 

 

 



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6話

オルタちゃん「本日19時より、開始です。振るって、何においても参加してください、トナカイさん達。一緒にクリスマスプレゼントを配りに行きますよ!」


 

 

 森から抜けた先は身長の高い1メートルくらいの草で出来た草原だった。街道は神父から教えられた通り、東と西へと伸びていたが、俺達はとりあえず、目の前の草原に入って少しした所で、草を刈って人が寝れる程度の場所を作った。その草がベットだ。そこを野営地とした。

 

「さて、こんなもんでいいよな?」

「ええ、大丈夫でしょう。私とジャックで何が来ても対応します」

「任せて~」

「じゃあ、飯にするか」

 

 草で作ったベッドに座り、リュックサックから食料を三人分取り出す。つまり、三分の一だ。三日分の食料は一人用なので、三人で食べたら一日しか持たない。だが、そんな事は言っていられない。

 

「トナカイさん、サーヴァントである私達に食事は要りません」

 

 オルタちゃんとジャックにも渡すと、オルタちゃんが拒否してきた。

 

「えっ、食べちゃ駄目なの?」

「駄目です。これはトナカイさんの為の物です」

 

 オルタちゃんとは反対に、ジャックは悲しそうにする。何度か、食料を見てから、俺の方へと悲しそうにしながら差し出してきた。

 

「いや、皆で食べるぞ」

「良いの⁉」

「トナカイさん、正気ですか?」

「もちろんだ。それにだな……俺の予想が正しければ……」

 

 襲い掛かって来た連中の荷物を漁ると、食料が出てきた。木の実や干し肉などがあった。どうやら、奴等は俺よりもかなり先にこの世界に来ていたようだな。

 

「ほら、これで問題ないだろ?」

「それはそうですが……」

「食べていいの?」

「ああ、いいぞ」

「やった♪ ごはん、ごはんっ!」

 

 ジャックは楽しそうに保存食を開けていく。そこにはハンバーガーが入っていた。しかも湯気が出ている。なんという不思議技術。

 

「やっぱり、取っておいた方が……」

「いいさ。それに二人が食べずに俺だけ食べるなんて事、俺には出来ない。そんな事をしたら周りからなんと見られるか……」

「鬼畜外道ですね」

「うむ。だいたい、嫁であるオルタちゃんとジャックを食わしていくのは夫の役目だからな」

「……この見た目なんですが、正気ですか?」

「うむ!」

「……この変態っ! ロリコンっ!」

「それはつまり、自分がロリだと認めるんだな」

「……訂正するわ。私の本来の姿は別なんだかりゃね!」

「かりゃね?」

「うるしゃいうるしゃい! いいからさっさと寄越しなしゃい!」

「こちらです、お姫様」

 

 オルタちゃんに渡すと、早速開けていく。それはカレーライスだった。ただし、真っ赤だ。

 

「ジャック?」

 

 ジャックの方を見ると、ハンバーガーにかぶりついて、止まっていた。顔が赤くなり、汗が出ている。

 

「かっ」

「か?」

「かりゃいぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

「大げさね……はむ。っ⁉ んんんんんんんんんんっ⁉」

 

 涙目になる二人。

 

「大丈夫か?」

「だゃ、だゃいりょうぶ。辛い~~けど、おかーさんから貰ったから、全部、たべる」

「こ、この程度……らいりょうぶれす……トナカイさんからの、プレゼントれしゅから……」

「無理するなよ」

「おっ、美味しいのは、美味しいれしゅ」

「う、うん……」

 

 二人は一生懸命に食べていく。どうやら、不味くはないようだ。俺のは麻婆拉麺だった。麻婆ハンバーガーに麻婆カレー。そして、麻婆拉麺。どんだけ容赦ないんだ、あの神父。

 

 

 

 食事を取った後、水をしっかりと飲んだ。口の中がヒリヒリする。しかし、これからどうするか。

 

「何かする事はあるか?」

「ありません。水を探すくらいです」

「森の中だね」

「まあ、まだ充分に量はあるので良いでしょう。それよりも、私とジャックで見張りの順番を決めましょうか」

「俺は?」

「トナカイさんは寝てください。明日、足を引っ張られるのは迷惑ですから」

「そう、だよな……」

 

 事実、明日は歩きっぱなしになるだろうから、大変だ。

 

「じゃあ、わたしたちが先に寝るね」

「ええ、構いませんよ」

「じゃあ、おかーさん。一緒に寝よ!」

「え、いやあの」

「えへへ~」

 

 抱き着いて来たジャックに押し倒された。ジャックは俺の上に乗ってそのまま倒れてくる。

 

「あったかい~」

「そう、だな……」

 

 いい匂いと微かに血の匂いが混じっている。ジャックは俺に身体を擦り付けて甘えてくる。そういえば、褒めてなかった。頭を優しく撫でてあげる。

 

「ん~~♪ あっ、おかーさん。一つ忘れてた事があるんだ」

「なんだ?」

「お腹はいっぱいになったけど、魔力はいっぱいじゃないの」

「魔力供給か?」

「ジャックは宝具を使いましたからね」

「だから、おかーさん。ちょうだい?」

「っ⁉」

 

 ジャックはそのまま俺に口付けをしてきて、舌を入れてきた。そのまま口内を舐めまわされて、唾液を啜られていく。小さな舌の気持ち良い感触に俺も積極的に舌を絡めて唾液を飲ませていく。

 

「なっ、なななっ、何をしているのですか!」

「ぷはっ。何って、魔力供給だよ?」

「そ、そうだな……」

「おねーちゃんもやったらいいよ~。気持ち良いし、魔力も増えるし、良い事ずくめだよ」

「お断りです! そんな破廉恥な事なんてできません!」

「そっか。じゃあ、おかーさんはわたしたちが独占だね!」

「なっ⁉」

「おかーさん、もっとちゅーしよ? 早く、早く」

「ああ……」

 

 今度は俺からして、ジャックの身体を抱きしめながら楽しませてもらう。隣を見ると、顔を真っ赤にしながら、じっとこちらを涙目で見ているオルタちゃんが居た。次第に満足したのか、ジャックは俺に抱き着いたまま眠りだした。

 

「む~む~」

「オルタちゃんもするか?」

「結構です! 私に魔力供給は()()必要ありませんから!」

「まだ、ね」

「何かいいましたかっ!」

「なんでもないよ。じゃあ、寝るから後は頼む」

「ええ、任せてください。ああ、どうせだからこうしてあげます」

 

 そう言って、俺の頭上で座ったオルタちゃんは俺の頭を膝の上に乗せてくれた。

 

「勘違いしないでくださいね。明日に疲れを残さない為なんですからね」

「ああ、ありがとう」

 

 顔を赤らめながら、そっぽを向いたオルタちゃんにお礼を言って眼を瞑る。しばらくして、囁きが聞こえてきた。

 

「眠りましたか? 眠りましたよね……」

 

 その後、少しして唇に湿った柔らかい物の感触がした。しかし、ここで目を開けたら、大変な事になりそうなのでこのまま眠る事にした。眠れたらいいなぁ~。

 

 

 

 寝れませんでした。というか、途中でジャックとオルタちゃんの位置が入れ替わったりしたけれど、結局無理だった。

 

 

 

 

 



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7話

とりあえず銀色の引換券をゲットしました。
ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィのレベルも80で聖夜の贈り物以外は10になったよ! 後は交換してから聖杯でレベルを100にするまで。ちなみに我が家の邪ンヌは98です。ジャンヌは92なんだよね~イシュタルは我が家には来てくれませんでした。諭吉さん投入したのに……ORZ
インストールによる性転換は修正すると思います。ただ、男の娘になるぐらいですけどw
いや、でも魔法少女の話だか書かれたクラスカードの性別になるという独自設定も面白そうなんですよね。

とりあえずジャンヌちゃん、無茶苦茶可愛いです。皆、六箱までは絶対にあけるんだぞ! 例え林檎を大量消費しようとも! 


 

 

 

 眠れなかったが、まあなんとかなる。俺自身が戦う訳ではないのだから。周りを見ると、オルタちゃんが俺の右腕を枕にして寝ている。左側ではジャックが同じように寝ていた。

 

「おはようございます。トナカイさん」

「おはよ~おかーさん!」

「おはよう」

 

 挨拶をして、起き上がる。二人は直に離れてくれた。

 

「トナカイさん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「ならいいですけど、辛ければ言ってくださいね」

「わかった。ありがとう」

「えへへ~」

 

 オルタちゃんの頭を撫でると、嬉しそうにする。

 

「あっ、ずるい! わたしたちも撫でて!」

「駄目です。今は私の番ですからね!」

「む~」

「それにずるいというなら、昨日トナカイさんとキスしたジャックの方がずるいです」

「それもそっか……わふっ」

「喧嘩するなよ」

 

 ジャックも撫でてあげる。すると直ぐに機嫌がよくなった。しかし、オルタちゃんの性格が少し変わったな。リリィの成分が強くなっているのか。

 

「オルタちゃん、どうしたんだ? 昨日と違う感じだが……」

「私、決めたんです。頼りないトナカイさんを守る為に成長した私みたいに強くなろうとしましたが……美味しいところを全部ジャックに持っていかれました!」

「ご馳走様~?」

「だから、私もジャックに負けないように攻めます。ひねくれものの性格では勝てませんから」

「オルタはオルタで可愛いんだがな~」

「それに私はリリィですから。後、これからはやっぱりジャンヌと呼んでください」

「わかったよ、ジャンヌちゃん」

「ちゃんは要りません」

「いや、つけないとジャンヌと別けられないからな」

「むぅ……まあ、トナカイさんがロリコンなのはわかっていますから、いいでしょう」

 

 そんな話をしていると、ジャックは暇だったのか、俺の肩に乗って肩車の体勢になった。太ももで挟まれて少し気持ち良い。なにより温かいのだ。

 

「ジャックっ!」

「わたしたがここからちゃんと案内するのに最適なんだよ」

「トナカイさんの邪魔になりますから、降りてください」

「おかーさん……降りなきゃ、駄目?」

 

 悲しそうに言ってくるジャックに勝てるはずもない。

 

「いいよ。ほら、ジャンヌちゃんも行くよ」

「しっ、仕方ありませんね」

 

 リュックサックを背負って、ジャックを肩車しながらジャンヌちゃんと手を繋いで草原から街道に出て歩いていく。ジャンヌちゃんは手を繋いで嬉しそうだ。

 

 

 

 しばらく歩いていると、ジャックが楽しそうに草むらを指さした。

 

「おかーさん、うさぎさんだよ!」

「うさぎ?」

 

 高い草の中から白色の角の生えたうさぎが飛び出してきた。大きさはかなり大きく、一メートルくらいはある。

 

「うさぎさんですっ! もふもふですよ、トナカイさんっ!」

 

 ジャンヌちゃんが嬉しそうに宣言するが、明らかにエネミーだ。その証拠に襲い掛かってこようと唸り声を上げる。

 

「えいっ♪」

 

 しかし、ジャックが肩から器用に飛び降りながら、短剣を投げるとうさぎは頭部の角で弾く。しかし、瞬時に背後を取ってナイフを突き刺したジャック。うさぎは、動かなくなった。

 

「うっ、うさぎさんが……」

「ごはん、確保だよ、おかーさん!」

「そ、そうだな」

「な、なんで殺したんですか!」

「エネミーだから、敵だよ? なんで、おねーちゃんは殺さなかったの? おかーさん、殺されたかも知れないんだよ? 昨日はあんな戦術を取ったのに……あ、もしかして、殺した事ないの?」

「……シャドウサーヴァントは、元の私の影でしたからノーカンですし。生きた動物を殺した事は……ないです」

「じゃあ、殺そう」

「ジャック?」

「そーしないと、おかーさんを守れないし、サーヴァント失格だよ」

「しかしだな……」

「いえ、大丈夫です。確かにこれからは必要な事ですし、躊躇していれにゃ……いられないです」

 

 確かにその通りだ。昨日、殺すのを躊躇したら、俺が殺されていただろう。命を奪う事こそが敵対者に対する安全策といえる。ジャックは殺人鬼だけあって、その辺は容赦ないから助かった。

 

「じゃあ、解体する方法を教えるね」

「はい、お願いします」

「俺も教えてくれ」

「任せて!」

 

 それから、ジャックによるうさぎの解体ショーが始まった。ハッキリ言って、気持ち悪い。昨日のあいつらは暗くて見なくて済んだし、殆どジャックが処理してくれたからな。

 

「解体出来たよ!」

「ありがとう、ジャック」

 

 ご褒美に撫でろと、ジャックが頭を差し出してくるので、撫でる。

 

「わたしたちは解体は出来るけど、料理は出来ないよ」

「ジャンヌちゃんは?」

「わ、私できません……ごめんなさい」

「いや、いいよ。それじゃあ、火を頼めるか?」

「それぐらいならお安い御用です!」

「助かるよ」

 

 大量の草を斬って、集めてそこに火をつけて貰う。その後、槍にうさぎの肉を突き刺して炙っていく。霊体化すれば綺麗な槍になるのでこんな事も出来る。

 

「あ、また追加だ」

 

 しかし、血抜きや肉を焼いて居ればどんどんとエネミーが集まってくる。それをジャックが処理してくれる。俺はジャックが倒したエネミーで解体の練習をする。焼けた肉を食べてからはジャンヌちゃんも一緒に練習する。

 

 

 

 

 解体の練習が終えた俺は骨と毛皮でソリのような荷車を作った。毛皮を裂いて紐にして骨を結んで作った簡単な物だ。その上に荷物と大量の肉を置いて進んでいくのだ。俺とジャックで引っ張って、ジャンヌちゃんが回りを警戒してくれる。

 

「やりましたよ、トナカイさん!」

 

 実際に出てきたエネミーもジャンヌちゃんが魔術と槍を駆使してあっさりと倒してくれる。倒したエネミーを嬉しそうに俺に献上してくれるので、ご褒美に撫でてあげる。

 

「交代っ、交代だよ!」

「そうですね。襲撃三回ごとに交代しましょうか」

「それでいいよ~」

 

 ゆっくりと進んでいく中、そんな取り決めが決められて、二人は楽しそうに倒していく。というか、こんな小さな身体のどこにこんなとんでもない力があるのだろうか?

 やはり、ステータスか。確かに体力はかなりある。ほぼ寝ていないのに、5時間歩き続けても疲れていない。

 

「しかし、全然進んでませんね」

「おかーさんが貧弱だからね!」

「ぐはっ⁉」

「体力はあるようですが、他が全然ですからね。そうですね、ジャックと私で交互に押しましょう。トナカイさんは台車に乗って貰って」

「いいね、それ!」

 

 完全に荷物扱いだ。実際に乗ってみると、後ろでジャックが押し出すと時速40キロくらい出る。それに並走してジャンヌちゃんも走っている。

 

「速いですね。これはいい考えです」

「そうだね。でも、これは疲れるから、後でおかーさんに魔力を貰わないとっ」

「そっ、それは良い考えで……こほん。仕方ない事ですね!」

「うん♪」

 

 揺れが激しい為にしっかりと捕まっていないと転落しそうだ。とても喋っている余裕はない。しかし、彼女達は楽しそうなので良しとしよう。俺が我慢すればいいだけだ。幸い、耐久力はあるのだから。

 

 

 

 そんな風に思っていたら、三時間くらい走り続け、夕方になる頃に急に二人が止まって俺は投げ出された。

 

「っと。大丈夫ですか、トナカイさん?」

「あ、ああ、ありがとう」

 

 ジャンヌちゃんにお姫様抱っこで受け止められた。それから降ろして貰う。後ろを見ると、ジャックが壊れた台車を見ていた。どうやら、骨の強度が足りなかったようで、崩れたのだろう。

 

「作り直すか?」

「それより、おかーさん。アレ、どうする?」

 

 ジャックが指さした先の道には、中学生くらいの女の子が倒れていた。

 

「救助するぞ。敵対したら、ジャック……悪いが頼む」

「任せて、おかーさん!」

「救助します。トナカイさんは余り近付かないでくださいね」

「ああ」

 

 ジャンヌちゃんが近づいて、女の子を抱き起す。抱き起された彼女は青みのかかった綺麗な銀髪をしていた。瞳の色は金色で、とても可愛らしい顔立ちをしている。服装は白色のワンピースに青いジャケット。それに帽子という姿だった。

 

「大丈夫か?」

「……お……」

「お?」

 

 聞き返した瞬間。ぎゅるるるると凄い音が女の子のお腹から響いた。

 

「……お腹……空いた……」

「食料、あるが要るか?」

「……いい……返す物が……ないから……」

「なら、プレゼントならどうですか?」

「……施しは……いらない……」

 

 もういっそ、無理矢理食わせるか。でも、助けた後が大変かも知れないんだよな。

 

「なら、おねーさんの身体で払ったらいいと思うよ?」

「おい、ジャック。いくらなんでもそれは……」

 

 こんな美少女に身体で支払ってもらうとか、なんてエロゲーみたいな事を……うらやまけしからなん。

 

「……わかった……なんでも、言う事、一つだけ……聞く……」

 

 ついには認めてしまった。まあ、確かにこのままではここで飢え死にか、エネミーに襲われて死ぬか、プレイヤーに襲われて死ぬかだろう。下手したら、もっと悲惨な目に合うかも知れない。それにジャックなら、多分拒否したら殺す事も考えているだろう。俺としては助けられれば助けたいが、ここで助けずにいて、後で助かって襲われてもかなわん。出来たら、恩を売るべきだろう。というか、こんな美少女が居なくなるのは世界の損失だから、助かる。

 

「だって、おかーさん」

「むう、サンタとしてはプレゼントをしたいのですが……」

「おねーちゃん。えっとね……」

 

 ジャックがジャンヌちゃんに耳打ちしていく。その間に俺はジャックから借りているナイフを使って、近くにある林から枝を集めておく。

 

「ふむふむ、なるほど。いいでしょう。今回はそうしましょう」

「じゃあ、そういう事で。あっ、おかーさん、手伝うよ」

「ああ、頼む」

「私は火ですね」

「頼むよ」

 

 木を伐り出して、食器などを作る。後は火で肉を炙ってどんどん焼いていく。焼いた肉を女の子の口元にやるともきゅもきゅと食べていく。

 

「どうだ?」

「……もっと、欲しい……」

「いいぞ。好きなだけ食べるといい」

「後で支払って貰うけどね」

「どうぞ、次です」

「ん、ありがとう」

 

 ちょっと食べて回復した彼女は焼いたそばからどんどん食べていく。それはもう、1メートルクラスのうさぎの肉を十匹分以上、食べてしまった。俺の分まで。その姿はまるで……とある王様のような感じだった。

 

 

 



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8話

 

 

 

 さて、目の前の少女も落ち着いたようなので、俺達も食事を取った。

 

「じー」

「欲しいのか?」

「ん」

「ほら、あ~ん」

「あ~ん」

 

 どうやら、まだ足りないようなので、持っていた肉を口元にやると、嬉しそうに食べだした。

 

「おかーさん、わたしたちも!」

「私も、お願いします」

 

 ジャックとジャンヌちゃんまで求めてくるので、頑張って食べさせていく。

 食事が終わったので、これからの事を話しあう事にする。

 

「さて、話をしようか。まずは自己紹介からだ。俺は桜坂幸田。こっちは俺のサーヴァントのジャックとジャンヌちゃん」

「ジャックだよ、よろしくね!」

「ジャンヌです」

「私は立華かなで」

「立華さんか」

「かなででいい。それで、願いは何? 助けたお礼になんでも言う事を聞く」

「エッチな事も?」

「そっ、それ……も、一回なら……」

 

 顔を真っ赤にしながら答えるかなで。どうやら、エロい事もオッケーらしい。

 

「で、でも、クラスカードを渡せというのは出来れば無しでお願い」

「どうしてだ? 理由を聞いてもいいか?」

「私は心臓に病があり、余命宣告を受けているの。ドナーを探しているけれど、見つかっていないから……」

「それは……」

 

 助かる見込みが無いという事か。でも、それがなんでクラスカードと関係あるんだ?

 

「両親も死んで家族も居ないけれど、施設の人達が良くしてくれているから大丈夫。それに余命の分、自由にさせて貰っているの。それで、このゲームを見つけて、どうせ直ぐに無くなる命だから、死んでも構わないと思って参加した。どうせなら、施設の皆に残せる物を欲しいから」

「なるほど。でも、それだと……」

「なんでも言う事を聞くというのが、自暴自棄だとしてもおかしくありませんか?」

「そうだよね。後が無いんだったら、別に構わないと思うよ?」

「それは……」

「クラスカードで希望が出来たんだろう」

 

 おそらく、治療系のスキルか、治癒系のクラスカードが手に入ったんだろう。かなでの言葉から考えて、おそらくクラスカードだろう。それも思い浮かべるのが一つある。

 

「そう。手に入ったのはこれ」

 

 そう言って、かなでが取り出したのは金色に輝く剣士の絵が描かれたクラスカード。

 

「うわぁ、やぱりか……」

 

 見せてくれたクラスカードにはアルトリア・ペンドラゴンの文字がしっかりと刻まれている。

 

「信じられないかも知れないけど、彼女がかのアーサー王みたい」

「そうだな……って、FATEのゲームを知らないのか?」

「? これ以外あるの?」

「知らないのか。ああ、あるんだ」

 

 ゲームの事を話していく。

 

「主人公が召喚したサーヴァント……」

「そうだ。そのカードという事は、もしかしなくても鞘持ちなんだよな?」

「そう。鞘も持ってる」

 

 かなでが鞘を見せてくれる。全て遠き理想郷(アヴァロン)はアルトリア・ペンドラゴンの持つ約束された勝利の剣(エクスカリバー)の鞘だ。持ち主の魔力に呼応し、持ち主に不老不死と無限の治癒能力をもたらす。この治癒力によって、かなでの心臓は回復しているのだろう。

 

「これがあれば生きられるから、絶対に渡せない。渡せというなら……悲しいけど、渡す……約束だから……」

 

 涙目でそんな事を言われたら、返すしかない。

 

「ありがとう」

「さて、どんな願いにするべきか……」

 

 外道な事なら思い付くが、二人の前では教育上よくない。いや、悪い事もするんだけどね。

 

「トナカイさん、トナカイさん」

「なんだ?」

「トナカイさんにお願いがないなら、私達に選ばせてください」

「わたしたちはとっておきのお願いがあるの」

「いいぞ」

「……私にできる事なら……」

 

 二人に任せてしまおう。それよりも食料の心配をしないといけないな。暴食はアルトリア・ペンドラゴンのせいかも知れないし。

 

「えっとね、わたしたちのお願いは……」

「私達のお願いはトナカイさんの……」

「おかーさんの奴隷になって」

「そうそう、お嫁さんに……って、奴隷ってなんですか!」

「え? 黒髭のおじさんが、男の人は可愛い女の子の奴隷が欲しいって……」

「アイツ、なんて事を教えてやがるんだっ!」

 

 黒髭……エドワード・ティーチ。全方位オタクで聖杯への願いもハーレム作りたーい。同時に美少女は辱めてナンボという海賊らしい価値観も持っている。

 

「というか、どこで会ったんだ?」

「森に出て来たよ? 気持ち悪かったらから、解体したけど」

「ジャック……」

「いくらなんでも、気持ち悪いという理由で殺すのはどうかと……」

「裸で飛びかかってきたから……わたしたち、悪い事をしたの?」

「いいや、そんな事はないぞ!」

「ん」

「はい、ギルティです。抹殺して問題ありません!」

「そう、よかった」

 

 ジャックを抱きしめて撫でてあげると、指で涙を拭きながら嬉しそう笑うジャック。

 

「それで……私は奴隷になればいいの? それとも妻になればいいの? でも、これって……」

「永続だよ!」

「一回のお願いではありますが……」

「無茶いうなよ。別の願いで……」

「ううん、別にいい」

「いいのかよ!?」

「ん。だって、奴隷だと衣食住は主人が保障してくれるのよね? お嫁さんでも、夫の稼ぎで食べられるから……孤児の私には助かる。食費、いっぱい掛かるから……」

 

 確かに食費が凄い事になりそうだ。数十人分の食事を一瞬で食べるんだからな。

 

「助けてくれて、養ってくれるなら、大丈夫。それに三人で交代しながらなら、負担は少ない。女の子に生まれたから、結婚して子供も作ってみたいし……夢が叶う」

「ですよね。結婚は女の子の夢です!」

 

 男にとっては人生の墓場らしいけどな。

 

「……というか、結婚できるのか?」

「18歳。問題無い」

「そうか……それで、ジャックとジャンヌちゃんはどういうつもりなんだ?」

「それはジャックに言われました。あちらの世界でもトナカイさんの支えになる味方が必要だと」

「そうだよ。わたしたちはあちらの世界にはまだ、出れないから……もしも、あっちで襲われたら大変な事になっちゃう」

「リアル割れの場合の対策か。でも、向こうでは皆、一般人だろう」

「違うよ?」

「違いますね。この世界のステータスが反映されます。つまり、ステータスによりますが、かなり高くなります」

「じゃあ、俺も?」

「トナカイさんはほぼ魔力極ぶりですからね」

「おかーさん、魔術の知識ある?」

「ないな……」

 

 つまり、俺は宝の持ち腐れという事になる。なるほど、明らかに前衛である彼女を嫁として俺の護衛にするつもりなのか。嫁にする事で常に一緒に居ても問題ないという事だな。護衛して貰う代わりにこちらは食費などを支払うと。男にとってはかなり美味しい話だが、問題は食費だ。食費! 衛宮は化け物なのか。

 

「えっと、出来れば別の願いに……」

「既に受託したから、変更は無理。よろしく、ご主人様」

「しかも奴隷の方かよ!」

「両方?」

 

 小首を可愛らしく傾げるかなで。逃がすつもりはないようだ。

 

「それでいいのかよ……」

「生と死の狭間に居るのに、贅沢は言ってられない。このままだと、現実でも飢え死にするから」

「ごもっとも……って、あちらでも使えるのか?」

「私には同調のスキルがあるから、それでクラスカードを完全に取り込めば大丈夫と言われた」

「まだ取り込んでないんだよな?」

「今は半分だけ。魔力がもっと必要。でも、半分だけでもすごい空腹感に襲われる」

「だったら、トナカイさんから貰えば問題ありませんね。大量に持ってますから。食事はどうしようもないですが……」

「本当?」

「確かにあるが、ほとんどを二人に使っているからな。まあ、それなら魔力を融通しよう。どうせ、あっちで持っていても意味ないしな」

「ありがとう。嬉しい」

 

 無表情だったかなでが、微笑むとかなりの破壊力がある。

 

「とっ、取り敢えず、今日は寝るか。明日、街に着くはずだしな」

「おかーさん、照れてる~」

「そういう悪い子は抱き枕の刑だっ!」

「きゃ~」

 

 ジャックを抱きしめて、そのままゴロリと転がる。

 

「ずるいです!」

「これはお仕置きだからずるくないもんね~」

「むぅ~」

「……なら、私はここ」

「あっ⁉」

 

 俺の隣に寝転んで来たかなでが、抱き着いてくる。

 

「えっと……」

「あったかい」

「まあ、冬だからな」

 

 普通なら野宿したら凍死しそうだが、俺達には強い味方であるジャンヌちゃんが居る。彼女が火を焚いてくれるので問題無い。一応、防寒着もリュックサックには入っていた。というか、昨日は麻婆を食べたお蔭か、身体が暖かかったが……今は冷えてきている。もしかして、アレが寒さから身を守る為のアイテムだったのかも知れないな。流石はマジカル八極拳の麻婆神父がくれた料理なだけあるという事だろう。

 

 

 

 

 翌日。無事に目が覚めた。俺達は少し狩りをして食料を確保した。かなでの食事の為に沢山いる。アヴァロンを常に起動していないといけないみたいなので、大量の魔力を使うようだ。その魔力を補うために大量の食事が必要という事だな。

 

「さて、毎回、こんな量の食事は作れない訳だが……」

「それなら、トナカイさんが魔力を与えれば解決ですね」

「ちゅ~だね!」

「キスすればいいの?」

「俺は構わないが……」

「お願い」

「よし、今度しよう。街についてからだな」

「逃げたね」

「逃げましたね」

「五月蠅い」

 

 ジャックの時は強引にされたので後はなしくずしてきに出来たが、自分からするとなると勇気がいる。ましてや、相手は年下の美少女なのだから。

 

「ほら、進むぞ」

「は~い」

 

 四人で進んでいくと、五時間ほどで丘に到着し、更に登っていく。丘の頂上に到着するとその先にある街が見えた。この世界にやって来て、始めて目にした街は……崩壊した廃墟だった。倒れているビルやガラスが割れ、草木によって覆われている住宅など。そこはまるで数百年の時を超えた現実世界のようだった。

 

「人類は滅亡しました」

「いきなりなんだ?」

「言いたくなった」

 

 かなでがある意味では的確な言葉を告げてくれた。確かにその通りだ。人類は滅亡した! 妖精さんをさがさなければ!

 

「というか、そのアニメを知っているのか」

「病室で見てた」

「なるほど」

「ねぇ、ねぇ、はやくいこ~よ!」

「そうですよ、急ぎましょう!」

 

 既に丘を降りて先に進んでいる二人。

 

「行くか」

「ん」

 

 手を差し出すと握り返してくれた。そのまま俺達も手を繋いで降りていく。次第にプレイヤーの数も増えてくる。中には遠巻きながらこちらを見て来るプレイヤーも居る。そいつらの視線の多くはジャックとジャンヌちゃんに注がれている。

 

「不快です」

「だね。隠れよう!」

「そうしましょう」

 

 二人は俺達の後ろに隠れてしまった。更に視線が集まる。怨嗟の声が聞こえてきたりもしたが、気にせずに進む。

 

 

 

 そして、大きな門のある外壁に到着した。門の前ではドラム缶の機械が立っていた。そう、立っていた。足があるのだ。

 

「ヨウコソ、来訪者ヨ。貴方達ハ、七二人目と七三人目ノオ客様デス。ココハ、始マリノ街、ウィンターウッド。住民登録ヲ御願イシマス」

 

 ドラム缶の腹が開いて、掌のマークが出てきた。手を置くと、スキャンされていった。続いてかなでも行う。

 

「登録完了。桜坂幸田様、立華カナデ様、ヨウコソ」

「わたしたちもするよ」

「そうですね」

「サーヴァントハ必要有リマセン。全テノ責任ハマスターニ取ッテイタダキマスノデ。ソレデハドウゾ、オ進ミクダサイ」

 

 大きな門が開き、中には廃墟を利用して作られた家々があった。

 

「むぅ~」

「したかったです」

「まあ、また今度な。とりあえず、宿の確保が必要だ」

「ログアウトするの?」

「そうだな。準備はしないといけないな」

「ん、わかったわ」

「了解だよ」

「はい。では、あちらですね。まずはお金を作らないといけません」

 

 とりあえずショップでエネミーの素材を売って、お金を貰う。それから、宿屋で部屋を一つ取る。二つ取るつもりが一つになった。お金の関係もあるが、守る為にも一つの部屋だ。

 

「完全に取り込んで同調するわ。魔力を頂戴」

「わかった。でも、どうやるんだ?」

「エッチだよ」

「えっ、えっちです」

「っ⁉」

 

 真っ赤になるかなで。FATEはエロゲーである。そして、大量の魔力を供給する方法は……性行為なのだった。

 

「わくわく、わくわく」

「ジャック、行きますよ。私達にはまだ早いです」

「え~わたしたちもおかーさんとしようと思ったのに!」

「だ・め・で・す!」

「う~」

 

 そして、ジャックがジャンヌちゃんに連れて行かれた。残ったのは妙な雰囲気の俺達だけだ。とりあえず、かなでの肩に手を置いてみる。すると、ビクッと身体を震わせて、不安そうな目でこちらを見上げてくる。

 

「本当にいいのか? 今からならまだ……」

「いいの。このまま死んだら、孤児院の皆に迷惑をかけただけだから……お願い。私を貴方のモノに……」

「わかった」

 

 ゆっくりと顔を近づけ、キスをする。そのまま、最後まで……なんて事はせずに抱き合いながら長時間ディープなキスをして魔力を供給した。まあ、身体を触らせて貰ったりはしたが。婚前交渉はいけません。それに扉の外で聞き耳を立てている二人がいるからな。

 

 

 

 次の日。ジャック達と一緒に眠りから覚めると、現実世界に戻る事を告げると、ジャックとジャンヌちゃんは悲しそうな顔をした。

 

「すまないな」

「大丈夫だよ」

「私達は端末の中にいりゅ……居ますから」

「直ぐに戻る」

「生活の基盤をこちらに移す?」

「そうだな。まあ、どちらにしろ向こうで働かないといけないけどな」

「ん」

「ああ、電話番号とか住所とかも交換しておくか」

「わかったわ」

 

 かなでと交換してから、スマホにあるアプリからログアウトを選択する。直にスマホから光が出てきて、俺の視界はホワイトアウトした。次の瞬間には自宅に居たのだった。

 

 

 

 

 



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9話

 

 

 自宅に戻っていた俺は、背負っていたリュックサックを降ろして時間を確認する。そして、直ぐにバイトに出向いた。バイトが終わり、自宅に戻ってベッドに入る。次のログインは三日後で、それまでは入れない。なので、休ませてもらう。疲れていたのか、直ぐに眠りにつけた。

 

 

 

 

 気が付けばいつの間にか深い深い森の中に居た。周りを見渡せば四人の人影。そいつらの姿には見覚えがあった。それはあちらの世界で襲い掛かって来た四人のプレイヤーだった。しかし、その姿は爛れた顔のゾンビのような姿だ。

 

「よくも、殺してくれたなぁ~~~」

「お前も殺してやる~~」

「くっ、来るなっ!」

 

 急いで逃げる。しかし、何処まで行っても襲い掛かってくる。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 体感で何十分も森の中を走っていると呼吸が荒くなり、木にもたれかかって息を整える。そんな事をしていると、地面から骨の手が出てきて、足を掴んできた。

 

「やっ、やめろっ!」

 

 もたれかかっていた木からゴーストの腕が生えてきて、俺の身体を拘束していく。森の奥からはゾンビやスケルトンがどんどんやってくる。

 

「よくも、よくも殺したなっ」

「お前も死ねぇっ」

「お前達が襲い掛かってきたんだろうがっ! くそっ、離せっ、離せっ! ジャックっ! どこだジャックっ!」

「そいつなら、あそこだ」

 

 指さした先では木に括り付けられて、バラバラに解体されたジャックの身体があった。

 

「嘘だろっ! ジャックをよくもっ! ジャンヌちゃんはっ!?」

「トナカイさんっ、助けっ!」

「っ!?」

 

 声がした方を向くと、そこにはシャドウサーヴァントに取り込まれてていくジャンヌちゃんが居た。そして、その直後にシャドウサーヴァントが影から実態を得て大人のジャンヌちゃんへと変化した。

 

「さぁ、亡者共。生きとし生ける者共に地獄を見せてあげなさい。憎悪をプレゼントしてあげるのよ!」

 

 亡者に身体が埋め尽くされ、生きながらに喰われ地獄の業火に燃やされていく。これで終わりなのか? そんなのは嫌だっ!

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 身体が跳ね起き、慌てて周りを見ると床に倒れていた。どうやら、悪夢に魘されてベッドから床に落ちたようだ。

 

「最悪の夢だな……」

 

 目覚めて、改めて冷静に考えると夢だと分かる。確かにあいつらを殺した。その事が心の負担になっていたのかも知れない。だけど、あそこで殺さなければ俺が殺されていた。それだけじゃなく、ジャックやジャンヌちゃんまで悲惨な目にあわされていただろう。なら、あれが正解だろう。そう、納得させる。

 

「っと」

 

 改めて回りを見ると、いつの間にかクラスカードが床に散らばっていた。ジャック・ザ・リッパーとジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィのカード、アーチャーのカードに加えて、武蔵坊弁慶のカードとエウリュアレのカード。そして、呪腕のハサン、カサエルのカード。それに何故かある黒髭のカードだった。他の四枚のカードはあいつらから奪った物だが……そういえばジャックが森で黒髭に出会って解体したと言っていたな。そのせいかも知れない。

 

「取り敢えず、汗を流すか」

 

 シャワーに入って、汗を流す。シャワーから出て改めて悪夢の事を考える。ジャック達と一緒に居た時は大丈夫だったが、もしかしてこちらじゃ寝れないのか? いや、まだわからない。最悪、薬を飲めばいいが……見なかった時との違いは何かあるか? まあ、まるわかりだ。ジャック達が居るか居ないかだな。

 取り敢えず、アプリを起動する。ログインは現在、できません。という表示とステータス画面があったので、そちらを見る。直ぐに画面が出てきた。項目は強化と売却、変換だった。取り敢えず、強化を選ぶ。

 どうやら、最初と同じでポイントで強化するようだ。売却はクラスカードを売る事によって、ポイントを得られるようだ。変換はポイントを現実の金に変換してくれるようだ。変換レートは1ポイント10万円という破格の値段。むしろ、英霊の力を得られるカードを売って作るんだから、安いのかも知れない。

 取り敢えず、エウリュアレを残してそれ以外はポイントに変換しよう。エウリュアレは売らないのかって? 女神様を売るなんてとんでもない!

 という訳で、ポイントに変換する。黒髭とハサン、武蔵坊弁慶が2、カエサルが3だ。なので、合計9点となる。売れば90万。一気に投資した金額が稼げる。しかし、生死が掛かっているのだから、先ずは自己強化に充てた方がいい。最低でも二人をちゃんと運用するために魔力は2000以上は欲しいしな。9点を全て魔力に突っ込む。変更したステータスを確認する。

 

 

 マスター:桜坂幸田

   筋力:1

   耐久:60

   敏捷:1

   魔力:109(1600)

   幸運:1

   SP:0

  スキル:召喚魔術(C2/2)

 クラスカード:アーチャー2枚(星5、星3)

 

  クラス:アサシン(限定召喚1000/1500)

   真名:ジャック・ザ・リッパー

   筋力:E

   耐久:E

   敏捷:C

   魔力:E

   幸運:E

   宝具:暗黒霧都(ザ・ミスト)

  スキル:気配遮断(C+)、情報抹消(D)

 

  クラス:ランサー(限定召喚600/1000)

   真名:ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ

   筋力:D

   耐久:E

   敏捷:E

   魔力:D

   幸運:E

   宝具:使用不可

  スキル:自己改造(EX)、かりちゅま(E) 、対魔力(EX)

 

 

 

 これでいいだろう。ステータスを確認し終わると、チャイムが鳴った。

 

「はい」

 

 インターホンに出ると、雨音が聞こえてきた。どうやら外は雨のようで、暗い。画面にはびしょ濡れの大きな荷物を持った女の子の姿があった。

 

「なんで、ここに……」

『入れて』

「わかった」

 

 ここはワンルームマンションなので、玄関の前にびしょ濡れの美少女が居たら通報されるかも知れない。急いで玄関の鍵を開けると、そこにはかなでが居た。

 

「取り敢えず、入ってくれ」

「んっ」

「先にシャワーを浴びてくれ」

「助かる」

 

 シャワールームへと案内して、入って貰う。その間に床を拭いて、着替えを用意する。流石に荷物を漁るのは不味い。取り敢えず、趣味と実益を兼ねてワイシャツを用意しておく。

 

「タオルと着替えを置いておくからな」

「ありがとう」

 

 かなでが出てきた後を考えて、お湯を沸かせてレトルトのコーンポタージュを用意する。粉の奴だ。

 少し時間が経つと、シャワールームの扉が開いてかなでが裸Yシャツで髪の毛を拭きながら出て来た。

 

「シャワー、ありがとう」

「気にするな。それより、傘はどうした?」

 

 取り敢えず、床に敷いてある絨毯の上にクッションを置いて座って貰う。

 

「自分自身のは持ってない。孤児院のは戻らないから、使えない」

「待ってくれ。戻らないとは……?」

「? ここに住むから」

 

 小首を傾げながら、そんなとんでもない事を平然と無表情で告げてきたかなで。

 

「住むって……」

「私はご主人様の奴隷で妻になったから、ここで住むのは当然だよ?」

「いや、それはだな……」

「それに護衛だから、近くにもいないと駄目。だから、はい」

 

 キャリーバックからかなでが取り出した紙を渡してきた。それは婚姻届けと書かれている。それにはしっかりとかなでの名前と印鑑もあった。未成年であるかなでの所には孤児院での保護者であろう人の同意に関する事まであった。

 

「これは……」

「婚姻届。後はここに名前と印鑑を押すだけ」

「いや、わかっているが……本当にいいのか?」

「いい。これが無いと私は死ぬから構わない」

 

 かなでが自分の手を胸に入れると、そこからエクスカリバーが鞘ごと出現した。そして、直ぐに身体の中に仕舞った。

 

「不束者だけど、よろしくお願い……その、出来れば、幸せにしてほしい」

 

 頭を下げてくるかなで。完全に嫁入りのようだ。

 

「わかった。頑張るが……よく保護者の人が納得したな」

「それは、生き残れる事を告げてないから。だから、本気だと思われていないかも知れない」

「じゃあ、後で連絡しないとな」

「お願い」

「それと名前で呼んでくれ」

「ご主人様は嫌?」

「来るものはあるが、名前で頼む。社会的に死んでしまう」

「わかった。コウでいい?」

「ああ、それでいい。しかし、色々と買わないと駄目だな」

「ん。制服と着替え、スマホは有る。それ以外は無い」

 

 コンポタージュを飲みながら、必要な物を考える。まず、歯ブラシとかドライヤーとか、様々な物が居る。ここのワンルームマンションは高校の時から貯めた金と親や祖父母からの援助で購入した物で、ワンルームにしては結構広い。といっても、二人で住むぐらいが限界だ。

 

「ベッドも買わないとな」

「? 一緒に寝るから要らないけど」

「……それもそうか」

「でも、シーツとかは変えたい」

「臭うか?」

「ん。まずは掃除」

「わかった」

 

 女の子に任せた方がいいだろう。男の独り暮らしなのだから、散らかっている。適度に掃除はしているのだけどな。

 

「でも、その前にご飯……お腹空いた」

「そうか」

 

 時間を確認すると、既に夕方になっていた。どうやら、思ったよりも寝ていたようだ。

 

「じゃあ、食事がてらに買い物に行くか」

「ええ、それがいいわ」

「いっぱい食べるよな?」

「もちろん」

「じゃあ、食べ放題だな」

「そんな素晴らしいお店があるの?」

「ああ、そうだ。焼き肉かしゃぶしゃぶか串焼きかになるが、どれがいい?」

「お肉ならどれでもいいわ。どれも滅多に食べられなかったから、大歓迎よ」

「なら、焼き肉にするか」

 

 嬉しそうな雰囲気のかなでを着替えさせ、準備してから一緒に出かける。傘が一つしかないので、相合傘で近くのショッピングモールへと歩いていく。

 

 

 

 

 



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10話

 

 

 ショッピングモールに到着した俺とかなでは早速、レストラン街にやって来た。先ずは食事をしてからショッピングという事だ。

 

「さて、どっちがいい?」

 

このショッピングモールにあるレストラン街には、食べ放題の店が三件ある。串カツと焼き肉、60種類の様々な物を食べられるビュッフェだ。

 

「……どれも高いけれど、いいの?」

「ああ、構わない」

 

高いといっても、2000円から4000円までだ。どう考えても、あの食事量から計算すると安くつく。

 

「じゃあ、焼き肉がいいわ。今まで食べた事はないから」

「そうなのか?」

「シチューやスープにお肉が入っているだけで御馳走よ?」

「そうか。じゃあ、今日はたっぷりと堪能するといい」

「ん、ありがとう」

 

入る店が決まったので、お嬢様をエスコートするために手を繋いで進んでいく。回りから視線が集まるが、無視して進む。焼き肉・蔵ノ炎へと入っていく。

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「二人で」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 

幸い、待つ事もなく案内されていく。かなではきょろきょろと興味深々な様子で見ている。

 

「注文はタッチパネルからお願いします」

「わかりました」

「それではコースはどのようになさいますか?」

「安いのでいいわ」

「いや、せっかく今日から一緒に住むんだ。一番高いコースにしようか」

「いいの?」

「ああ。すいません、プレミアコースでお願いします」

 

この店は三段階の種類があり、一番安いので2500円くらいで、次が3000円。最後に4000円だ。4000円のを選んだ。二人で8000円になるが、安い物だろう。

 

「畏まりました。特選プレミアムコースですね。それではごゆっくりどうぞ」

 

店員が戻っていった後、早速パネルで食べる物を注文する。時間は100分しかないのだ。

 

「取り敢えず、何からがいい?」

「なんでもいいわ。適当にお願い」

「わかった」

 

タッチパネルを操作して、タン塩を5人前、豚トロを5人前注文する。その後にビビンバとご飯ものを注文する。

 

「そういえば、辛いのはいけるのか?」

「大好物よ。あの渡された食糧は大好き」

「なるほど。辛さはこのコチジャンで調整できるからな、好きにしてくれ」

「わかったわ」

 

俺はタッチパネルを更に操作して、どんどん注文していく。特に野菜もだ。ある程度、注文してから席を立つ。

 

「?」

「かなで、こっちに飲み物がある。セルフだけどな」

 

かなでを連れて、ドリンクコーナーへと向かう。

 

「ここで好きなだけ飲んでいいんだ。酒は駄目だが」

「天国ね」

「だろうな。で、どれにする?」

「取り敢えず、ジュースを全部」

「わかった」

 

席に戻るとすでに野菜が運び込まれていた。かなではそのまま野菜を食べていく。

 

「ドレッシングやたれにつけてもうまいぞ」

「そうね。孤児院じゃ調味料は贅沢品だから、気にしなくていいのは嬉しいわ」

「なくなれば頼めばいいだけだしな。しかし、普段の食事はどうしていたんだ?」

「敷地内にある畑で作っていたわ」

 

孤児院の事を聞いていると、お肉が運ばれてきた。量が量なので、豚トロを皿から網へと一気に投入する。次にタン塩を焼いていく。

 

「まだ?」

「駄目だ。豚トロは時間がかかる。だが、タン塩はいけるか」

 

豚トロの油で火力が上がっているので、タン塩を片面だけ焼いて、かなでの皿に入れてやる。かなでは嬉しそうに箸でタン塩を掴んで食べる。そして、次の瞬間には次を期待してこちらをみている。

 

「あ~ん」

「はいはい」

 

塩味がついているので、そのまま口に入れてやる。なんというか、俺は焼きに徹した方が良さそうだ。まあ、幸せそうに食べている美少女のかなでを見ていられるのは幸せな気分になるから、よしとしよう。

 

 

 

30分で皿がどんどん運ばれてきては持って帰られていく。店員はほぼ俺達の席と厨房を行ったり来たりしている。かなでの食べる速度は圧倒的で、火力を上げる為に常に油が落ちる豚トロ系を焼いている。周りも俺達を……いや、かなでをみていたりする。

 

「あんな美少女が……信じられねぇ……」

「何処にあんなに入るの?」

「フードファイターの人?」

「応援をっ、応援を呼んでください!」

「もう呼んでいる!」

 

厨房の方からも悲鳴が聞こえてくる。

 

「コウ、カルビとハラミをもっとちょうだい。後、お米も」

「わかった」

 

俺は適度につまみながら、焼いていく。やっぱり、食べ放題じゃないと駄目だな。

 

 

 

 

 

 

「ら、ラストオーダーで、おっ、お願いします……」

「どうする?」

「じゃあ、全部5人前ずつ」

「っ⁉」

「わかった」

 

10分前のラストオーダーでもかなでは止まらなかった。牛、何頭分……何十頭分、食ったんだろうな?

 

 

 

食事が終わり、会計へと移動する。店員は涙目になりながら、代金である8000円と税を告げてくる。支払い終わってから、隣のかなでを見るが、その()()は一切代わっていない。おそらく魔力に変換されたんだろう。そうでも考えないと有り得ない。

 

「どうだった?」

「満足よ」

「それは良かった」

「でも、辛さが足りないわ」

「それはまた今度だな」

 

かなでと手を繋ぎながら、彼女の服や組み立て式のタンスなどを選んでいく。歯ブラシやコップなども買い終えると、かなでが俺を連れてきたのはちょっと、男がいけない所だった。

 

「ごめん、お金を渡すから買ってきてくれ」

「何故? 選んでくれたらいいのに」

「下着とかそっち関係は自分で頼む」

「そっち?」

「月々の物とか」

「わっ、わかったわ……」

 

顔を赤らめるかなでに二万ほど、渡して待ち合わせ場所を決める。俺は明日の食料を買い込んでいく。後はかなでにプレゼントするための指輪もだ。もっとも安物になるが、後でいいのを買おう。なに、サーヴァントを狩ってクラスカードを売ればいいんだからな。っと、ジャックやジャンヌちゃん達へのお土産も買わないといけない。あちらで使えそうなアウトドア用品もだな。貯金がどんどん減っていくが、仕方ない。

 

買い物を終えて、二人で帰宅する。それから、シャワーを浴びて服を洗濯する。ぶかぶかの俺のワイシャツを着るかなでと向かい合って座り、買ってきたケーキを取り出す。

 

「こんなの初めてよ」

「そうなのか?」

「本物のケーキは高いから」

「なるほどな。っと、プレゼントがある。手を出してくれ」

「ん」

 

かなでの左手薬指に指輪を嵌める。

 

「エンゲージリング?」

「そうだな。まあ、安物だから、お金が出来たらちゃんとした物を送るよ」

「要らないわ」

「え?」

「これがいいわ。他のなんていらない。大切な物は一つでいいの。沢山あったら、気持ちが薄れてしまうわ」

「わかった。じゃあ、こっちはかなでが嵌めてくれ」

「ええ」

 

指輪を交換した後、一緒にケーキを食べてから歯磨きをして、一つのベッドで抱き合って眠った。眠るのはまた悪夢を見るかもと、怖かったが……かなでの温もりで眠る事が出来た。

次の日、問題なく爽やかな目覚めが出来た。一人で寝ると悪夢を見るのかも知れないな。

 

「おはよう」

「おはよう」

 

起きたのか、俺を下から見上げてきたかなでは、自分からキスをしてきた。

 

「目覚めの挨拶。こういうものだって、本で読んだけど……違った?」

「いや、全然。問題は俺が我慢できずに襲いそうになる事だ」

「別に襲ってもいいわ。私は貴方のモノだから」

「だっ、駄目だ」

「そう、残念ね。これはヘタレというの?」

「違う」

「それとも、やっぱり私には魅力が無い?」

「断じて違う。婚前交渉が駄目だと思っているだけだ」

「そう。じゃあ、今日は市役所に行きましょう」

「え?」

「魔力が足りないの。もっと、ご主人様のをちょうだい」

「っ⁉」

 

驚いてかなでの顔をみる。無表情でよくわかっていないようだ。だが、彼女をよく見ると、スマホの画面をちらちらと見ていた。

 

「それは?」

「友達に男の人を喜ばせる方法を聞いているの」

「それが原因かっ!」

「でも、魔力が足りないのは事実よ」

「……わかった。今晩、しようか」

「ええ。それで食費もましになると思うわ」

「じゃあ、いくか」

 

市役所に行って婚姻届を提出。これで晴れて夫婦になった。その夜は初夜を迎えて、やる事をやった。なんというか、最高で何度もしてしまった。だけど、かなでも貪欲に求めてきた。それはまるで食事みたいに。そう、たっぷり吸い取られたのだ。色々と。

 

 

 

 

 

 

 



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11話

 

 

 

 味噌汁のいい匂いとトントンという規則正しい包丁の音が聞こえ、目を覚ます。目を開けると、台所で制服姿のかなでがエプロンをつけて料理をしていた。

 

「かなで……」

「……おはよう……ご飯、出来てる」

 

 互いの顔を見ると、昨日の事が思い出されて顔が赤くなる。しかし、今思えばリアル女子高生を妻にして、やってしまったんだよな。むしろ、かなでの身長から中学生といっても過言ではない。

 

「と、ところでその服は?」

「おかしな事を聞くのね。高校の制服よ。今日は学校に住居の変更と名前の変更を申請しないといけないから」

「なるほど」

 

 ベッドから出て、洗面所で顔を洗う。その頃には食卓に美味しそうな食事が並べられていた。

 

「美味しそうだ」

「口に合うかはわからない」

「そうれは……食べてみるか」

「ええ」

 

 二人でちゃぶ台に向かい合って座る。ちゃぶ台の上には大量の料理が置かれている。

 

「いただきます」

「いただきます……」

 

 味噌汁から飲む。薄味だが、美味しい。それに一生懸命に作ってくれたのだから、それ以外は言えない。

 

「薄味だけど美味しい。だけど、調味料をあまり使ってないだろ」

「そうよ。もったいないもの」

「使ってくれていいからな」

「いいの?」

「ああ。入れすぎは駄目だけどな。何事も適量がいい」

「わかったわ」

 

 二人で食事をしていく。しかし、高校の制服もいいな。

 

「今日はログインするつもりだが、どうする?」

「お昼には終わるわ」

「じゃあ、それまでに準備しておこう」

「ええ。それより、お腹が空いたわ」

「今食ってるよなっ!?」

「そっちじゃないわ。魔力よ」

「そっちか」

「ええ。それにコウも朝に立っていたわ。そんなにこの服が好き?」

「それは生理現象だ。それとむろん、好きだ」

「いや?」

「いや、嫌じゃない。むしろ歓迎だが……というか、燃費悪くないか?」

「こちらの世界では魔力が作りにくいわ。常にスキルを使って宝具を顕現していくから、仕方ないのだけれど」

 

 確かに神秘なんてこの時代にほぼ存在しないだろうしな。消費量が多いのは納得だ。

 

「じゃあ、俺は午前中に準備している。休みを取って、向こうでの生活を基本にするつもりだが……大丈夫か?」

「ええ。冬休みだから、私は何時までも大丈夫よ」

「わかった」

 

 食事を終えてから、魔力の供給を行ってから二人で一緒に出掛け、かなでを学校まで送っていった。

 

 

 

 

 

 かなで

 

 

 

 

 ご主人様であるコウと別れて、学校に来た。取り敢えず、職員室に向かって必要な書類を提出する。

 

「これは本当なのか?」

「そう。法律上は問題ない」

「いや、そうなんだが……まあ、わかった。住所と名前の変更をしておこう」

「お願いします」

 

 用事が終わったので、外に出ると友達が居た。

 

「あ、かなでちゃん、どうだった?」

「ばっちりよ、ありがとう。ゆり」

 

 私の友達であるゆり。

 

「メールを貰った時はとっても驚いたわよ。でも、生きていられるかも知れないって、本当なんだよね?」

「ええ、そうよ。生き残れる手段を見つけたわ」

「ドナーが見つかったの?」

「ううん、別の手段。だから、結婚したの」

「そう……まあ、いいか。それで、相手はどうなの?」

「いい人。結婚するまで、手を出して来なかったわ」

「少なくとも見境はあるのね」

 

 ゆりと話しながら校舎の中を歩く。今日は冬休みなのに人が多い。何かあったのかも知れない。

 

「ゆりはなんでいるの?」

「それはね、ライブがあるからよ。かなでちゃんも行く?」

「ガルデモの?」

「ええ」

「ヴォーカルは?」

「雅美よ」

「午前中までなら、行くわ」

 

 ゆりと一緒に歩いていくと、日向君が車椅子のユイを連れてきているのが見えた。

 

「そういえば、どんな事をしたの? お姉さんに教えてくれない?」

「わかった」

「いいの!?」

「うん。ゆりなら、別にいいよ」

 

 教えると、ゆりが顔を真っ赤にして走り去っていった。

 

「なんでかしら?」

 

 取り敢えず、メールで連絡を入れてからライブを見に行く。途中で戻って来たゆりと合流して、聞いた後、ガルデモから音楽データを貰ってゆりから貰った音楽プレイヤーにいれておく。ジャック達にも聞かせてあげよう。

 

「かなでちゃんは冬休み、どうするの?」

「私は……旅行に行く」

「ハネムーンね」

「そう、かも? 取り敢えず、私はあんまり携帯にも出れないかも」

「そっかぁ。私も妹達の世話をして、ゲームでもするかな~皆誘って」

「そう。時間が空いたら、連絡するわ」

「ええ、楽しみにしているわ」

 

 ゆりと別れて、コウに連絡を入れる。待ち合わせ場所が送られてきた。ショッピングモールに居るみたいで、そちらに向かおう。

 

 

 

 横断歩道を歩いて進んでいると、反対側の奥の坂道からトラックが信号が赤なのに猛スピードで走ってきた。運転席を見ると、運転手が倒れている。そのトラックの前にはオレンジ色髪の毛をした男の人と、背負われている女の子が私の反対側の横断歩道を渡っていた。

 

「危ない」

「っ⁉」

 

 普通なら間に合わない。でも、今の私には力がある。

 

「力を貸して、アルトリア……風王鉄槌(ストライク・エア)……」

 

 風を纏って見えない状態にしてあるエクスカリバーを振るって、風を解き放ってトラックを吹き飛ばす。トラックは暴風で横転して進路をそれて電柱にぶつかって止まった。それを確認しながら剣を消す。同時に飢餓感が湧き上がってくる。でも、我慢。今は救助が優先だから。

 

「大丈夫?」

「ああ、急に風が吹いてくれて助かった。初音は大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ……ごほっごほっ」

「この子は……?」

「病気でな」

「そう……」

「こっちは大丈夫だから、運転手の方を頼む」

「わかったわ」

 

 横転したトラックに飛び乗って、運転席側の窓から中を覗く。運転手は気絶しているようで、動かない。取り敢えず、窓を殴って割る。そこから鍵を開けて開いて、ドアを開ける。邪魔なエアバッグを破裂させてから中に潜り込んで、シートベルトを外して運転手を助け出す。

 

「おい、そっちはどうなんだ?」

「不味いわ」

 

 トラックから飛び降りて、運転手を地面に寝かせる。既に心臓が止まっている。もしかして、吹き飛ばしたのはやり過ぎたのかしら?

 

「心臓マッサージをする。誰か、AEDを持って来てくれ! アンタは救急車を頼む」

「ええ、わかったわ」

 

 電話を掛けながら、私は壁にもたれかかっている女の子の横につく。

 

「大丈夫?」

「は、はい」

「そう」

 

 横に座って救急車を呼びながらこっそりと鞘を一時的に彼女の中に入れてあげる。この子はなんとなく、私と同じ感じがするから。

 しばらくして、救急車が来て運転手の人を乗せていく。警察も来ていて、凄く不味い事が判明した。このままだと時間が取られて昼にログインできなくなる。そうなると、ジャック達に怒られる。

 

「私は行くわ。後はよろしくね」

「は、はいっ……って、え?」

 

 立ち上がってさっさとショッピングモールに向かう。殺しちゃったかも知れない訳だし、逃げるわ。今の私はご主人様のモノだから、捕まる訳にはいかないの。逃げる時に一つ良い事を思い付いた私はそれを実行に移す。風を纏って姿を消すのだ。

 

 

 

 待ち合わせ場所に着いたら、姿を戻す。先に待って居たコウに抱き着いて、直ぐにキスをする。

 

「っ!?」

「ちゅるっ、んっ、んんっ」

 

 舌を絡めてたっぷりと魔力を貰う。これでようやく飢餓感がなくなった。回りを見ると、視線がかなり集まっている。

 

「何するんだ」

「お腹が空いたの。少し、人助けをしたから」

「詳しい事は後で聞こう。今は逃げないと不味い」

「ええ、わかったわ」

「待ちなさい」

 

 コウの動きが止まって、横を振り向くとそこには青い制服の大人の人がコウの腕を掴んでいた。

 

「ちょっとあちらで話を聞かせて貰いましょうか」

「ささ、こちらに」

「わ、わかりました」

 

 私とコウは白色と黒色の車に乗せられて、名前と生年月日。住所などを聞かれていく。住所などはコウと同じと答えた。

 

「それで、苗字が同じというのは兄妹ですか?」

「違います。妻です」

「えっと、結婚しているのですか?」

「そうです」

「本当なの?」

「本当」

「市役所に確認して貰えればわかります」

「確認してみます」

 

 一人の人が無線で連絡を入れていく。

 

「どちらにしても、公共の場では控えてくださいね。特にその、妻の方は学生なのですから」

「すいません」

「ごめんなさい」

 

 謝っておく。確かに問題だった。満たされていた時との落差が凄くて飢餓感に抗いがたい。気を付けないと。

 

「確認が取れました。確かに夫婦のようです」

「そうか。ありがとうございました。これからは気を付けてください」

「ご結婚おめでとうございます。でも時と場所を考えてくださいね」

「はい」

「ごめんなさい」

 

 パトカーから出して貰って、手を繋いでショッピングモールに入る。

 

「ごめんね」

「まあ、いいさ。詳しい事は食事をしながら聞こうか」

「ええ。今日はビュッフェがいいわ」

「わかった」

 

 焼き肉屋の近くを通ると、慌てた店員がcloseの看板を取り出していた。そのまま通り過ぎて、ビュッフェの場所に入っていく。

 

「ここは自分で取っていくのね」

「そうだぞ」

「わかったわ」

 

 直ぐに皿ごと席に持ってきて、食べる。同時に怒った内容を伝えていく。

 

「なるほど、わかった。人助けなら仕方ないだろう」

「ありがとう」

 

 食事が終わってから、お土産にケーキを買う。他にも相談して缶詰めなどを沢山買っておく。それから家に戻った。

 

 

 

 自宅に戻った私達は準備をしてから、二人でスマホを取り出す。

 

「さて、準備はいいか?」

「大丈夫」

「では、やるか」

「ええ」

 

 アプリを起動すると、ログイン画面に移動した。生体認証を行って、ログインする。直ぐにスマホが光って身体が光っていく。意識を失い、気がつくとそこは宿屋の中に居た。

 

「ジャック達が居ないな」

「そうだね」

 

 代わりに人形が二体、あった。

 

「そういえば、クラスカードもあったしな」

 

 思い浮かべたのか、コウの前にクラスカードが出て来た。

 

「なるほど。ログアウトすると人形に戻るのか。かなで、ちょっと待っててくれ」

「わかったわ」

 

 私は買って来たケーキをテーブルの上に乗せて、持ってきた魔法瓶を取り出して、紅茶を入れておく。コウの方を見ると、人形が光ってジャックとジャンヌになった。

 

「おかーさんっ!」

「トナカイさんっ!」

 

 二人がコウに抱き着いていく。

 

「寂しかったよ~」

「そうなのか?」

「動けませんでしたから」

「うん。二人の事はずっと見てたけどね」

「カードの中からでも意識はあるのか」

「そーだよ。わたしたちが特殊かも知れないけどね」

「どちらにしろ、私達はまたトナカイさんが戻って来てくれて、嬉しいです」

 

 嬉しそうに笑っている。動けないのは辛いし、その気持ちは分かる。

 

「皆、準備できた。食べよう」

「そうだな」

「これはなにっ!?」

「ケーキですっ、ケーキですね! クリスマスケーキです!」

「ちょっと遅いけどな。取り敢えず、お土産だ」

「やったー!」

「やりましたね!」

 

 楽しそうに二人が席につくので、私はケーキを切ってくばってあげる。ワンホールを四人で別けるので簡単。

 

「ほら、いただきます」

「「いただきます」」

「どうぞ」

 

 楽しい、おやつを食べ終わるとこれからの事を考える事になった。

 

「これからどうするの?」

「金を稼ぐ。まずは……どうぞ」

 

 扉がノックされ、入って来たのはこの宿の人だった。

 

「三日分のお金、払ってくれよ」

「わかりました」

 

 

 

 

 桜坂幸田

 

 

 

 代金はまだエネミーを売って出来た金があるので、なんとかなった。しかし、あちらでの世界での時間もお金がかかるとなると、家を手に入れた方がいいと思う。下手な所だと人形を盗まれるかも知れない。

 

「ありがとうよ」

 

 宿の人は直に出て行った。

 

「さて、これからやるのは拠点を得る為の資金稼ぎだ。その前にこの街も探検しないとな」

「探検っ!」

「楽しみですね!」

「別ける?」

「そうだな。ジャック、街を調べてきてくれ。アサシンのジャックが適しているからな」

「は~い」

 

 お金も稼がないと不味いからな。同時に出来る事はやるべきだ。

 

「一人になるが、大丈夫か?」

「だいじょ~ぶだよ。でも、終わったら、いっぱい褒めてね?」

「もちろんだ」

「私とジャンヌは?」

「俺と一緒にエネミーを狩って資金稼ぎだな。クエストでもあれば助かるんだけどな」

「クエスト?」

「NPCとか頼まれる依頼だな。ゲームなら経験値やお金が貰えるはずだ」

「取り敢えず、探してみよう。情報を集めないとな」

「ええ、わかったわ」

「そうですね。情報収集は大事です」

 

 これから始まるのは普通のゲームなら、クエストだが……ハンティングゲームなら違うんだよなあ。どちらにしろ、食糧確保が大事だな。

 

 

 

 

 



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12話

 

 これからの事を決めたので、取り敢えず地図が無いか、宿の人に聞いてみよう。部屋から出てカウンターへと移動する。そこにはちゃんと店員が居る。

 

「すいません」

「なんだい?」

「この街の地図はありますか?」

「あるよ。ただし、売り物じゃないから映して貰うしかないけどね」

「わかりました。見せて貰っても?」

「いいよ」

 

 地図を借りて、近くで皆と一緒に見ていく。地図には町の名前であるスノーウッドの名前が書かれている。右側に大きな川があり、北側には海がある。南側には草原で、南西には森がある。西には大きなクレーターが出来ている。街の中にも何ヶ所かにクレーターがある。田畑も結構多い。

 

「さて、何処から探すかな」

「森から?」

「なんでだ?」

「冬の森だから」

「え? なんで?」

「名前がスノーウッドだからだよね!」

「そうよ」

 

 確かに町の名前はスノーウッドだが……冬の木。FATEじゃ、それはある街の事だ。冬木市。聖杯戦争が行われた場所であり、FATEシリーズ最初の舞台。こんな符号が合う場所が偶然のはずはない。

 

「これは左半分の場所か」

「どうしたの?」

「いや、探索は全員で行こう。目的地が決まった」

「は~い」

 

 地図を返す為に店員に話しかける。

 

「ありがとうございました。ところで、このクレーターの場所ですが……」

「そこは近付かない方がいいよ。昔は寺だったみたいだけど、怖い怪物が出るらしいからね」

「ありがとうございます。気を付けます」

 

 皆と一緒に行ってみる。向かう場所は聖杯が置かれていた場所だ。

 

 

 

 崩壊した街の中を進む事、二時間。ようやく目的地の近くまでやって来た。三人は楽しそうに歩いている。

 

「エネミーが存在するみたいだから、気を付けるんだぞ」

「「は~い」」

「ええ。それよりも……」

「そうだな」

 

 俺達を、正確にはジャックとジャンヌちゃんを見て驚いている。そして、じろじろとこっちを見て来るのだ。まあジャックは星5だし、ジャンヌちゃんは星4だから、レアなクラスカードを持っている事なんて丸わかりだから仕方ないだろう。それに近付いて来ないのは一重にジャックが居るからだろう。下手に近付いて解体されたら叶わないだろうしな。このゲームは本当に命が掛かっているのだから。だけど、何処にも馬鹿は要るようで、近付いてくる。

 

「なあ、どうやってサーヴァントを連れているんだよ。教えてくれよ」

 

 ジャックは俺の後ろに隠れ、ジャンヌちゃんは俺の前にかなでと一緒に出る。

 

「Fateらしく召喚しただけだ」

「インクルードしか出来ないはずだろ?」

「サーヴァント召喚を行った。ただ、それだけだ。後は自分で調べるんだな。このゲームで情報公開はあり得ない。求められるのならば交換だ」

「だろうな。なぁ、金でジャックかサンタちゃんを譲ってくれないか?」

「捨てられるの?」

「うぅ……トナカイさん……」

「断る」

「そうだよな……わかった。ああ、クラスカードの話と同じだ。違うのはそこに会話できる化け物が居るってだけだ。これが変わりの情報だ。ありがとうよ」

 

 男はそう言って帰っていった。二人は俺に抱き着いて、顔をぐりぐりと押し付けてくる。優しく二人の頭を撫でている。かなでも一緒になって撫でてくれている。

 

「サーヴァントの召喚が可能らしい。後は試行錯誤か、こっちもちゃんとした情報を寄越せってさ。スキルとクラスカードは機密情報だから、それ相応の代価を出さなきゃな」

「それに子供から親を取り上げるとか、ないわね」

「虐待されていたらまだしも、あの様子じゃあなぁ……ちっ、リア充め」

 

 先程の男が野次馬に説明していく。それである程度、人が解散していく。男に目線で礼を言ってから、落ち着いた三人を連れて坂道を上がっていく。

 結構長い道を歩いていくと、ジャックが肩車を要求してきたので、してあげる。開いた手はジャンヌちゃんと手を繋ぐ。ジャンヌちゃんの反対側の手はかなでと繋いでいる。まるで家族みたいな絵図等だ。

 

「ねぇねぇ、おっきな穴があるよ」

「あそこが目的地だ」

「降りるの?」

「そうだ。ジャンヌちゃんとかなでは大丈夫か?」

「平気よ」

「問題ありません」

「じゃあ、行くとしようか」

「でも、その……」

「どうした?」

 

 ジャンヌちゃんが俺の服の裾を掴んで、こちらを見上げてくる。

 

「帰りは、私がそのジャックと……」

「わかった。帰りは肩車をしてあげよう」

「べ、別に肩車をしてほしい訳じゃ……」

「じゃあ、帰りもわたしたちだね」

「駄目です!」

「じゃあ、私?」

「うぅ、意地悪です……」

「帰りはジャンヌちゃんだな。ほら、行くぞ」

「は~い」

「ええ。帰りは一緒にね、ジャック」

「うん!」

「ほっ」

 

 巨大なクレーターの中心部に移動すると、空間が入れ替わった。気が付けば洞窟の中に入っていた。これが男性が言っていたクラスカードの話という事だろう。クラスカード……エインズワースの工房に張られた結界と同じという事だな。

 

「洞窟?」

「そうだね~。でも、とっても嫌な感じだよ」

「ええ、ここは危険です」

 

 ジャックが降りて、ジャンヌちゃんと一緒に警戒する。

 

「ここは危険みたいね」

「ああ、警戒を頼む」

「わかったわ。任せて」

 

 かなでも鎧と聖剣を呼び出して、警戒に入る。そのまま奥へと進んでいくと、多角形の宙に浮かぶ物体があった。それを見た瞬間。視界にノイズが走って、何時の間にか全く別の所に居た。そこはスタジオのような場所だった。中心には紫色の髪の毛をした少女が立っている。

 

「今宵も新たなお客様が、このBBルームへとやって来ましたね。ここに聖杯が有ると思いましたか? 残念でした。ここの聖杯は既にBBちゃんが取り込んでいますよ。ですので、欲しければこのムーン・キャンサーたるBBちゃんを倒しましょう」

 

 目の前に選択肢が現れる。内容はBBと戦うか、否かだ。当然、否を選ぶ。

 

「かなで、戦うんじゃないぞ」

「わかったわ」

 

 かなでも否を選ぶ。彼女の正体はアルターエゴという複合英霊で、女神の力すら持っているのだ。たぶん、現状じゃ絶対に勝てない。なんせ、ラスボス級の力を持っているんだからな。

 

「賢い選択ですね。では、BBルームの説明を致しましょう。ここではスキルやクラスカードの買い物ができます」

 

 スキルやクラスカードを買えるのはありがたいな。これからの強化の為には必須だ。

 

「ガチャ一回、10万円です♪ 1ポイントでも一回できますよ」

「高いわっ!」

「当然ですね。そんな簡単にクラスカードを手に入れられると思ったら間違いです。あの似非神父が安いのは最初だからです」

「稼ぐ手段は?」

「クエスト報酬ですね。私が発行するクエストを達成すれば、報酬として80ポイント差し上げます」

 

 80ポイント。つまり、800万という事だな。

 

「内容は?」

「先輩の捕獲です♪」

「どこに居るの?」

「この街に居ますよ。衛宮邸ですね!」

「……」

「どうしますか?」

「他のクエストは?」

「そうですね~」

 

 流石に簡単には受けられない。後が怖すぎる。

 

「パッションリップかメルトリリスに届け物ですね」

「はい、駄目」

「何故なの?」

「どちらも危険極まりない存在だからだ。序盤で会う奴じゃないよ」

「……もしかして、贈り物は私達、とか?」

「ちっ」

「舌打ちしたよ、このおば……」

「今なんて言おうとしましたか? このロリっ娘殺人鬼(シリアルキラー)。潰しちゃうぞ♪」

「「ひぃっ!?」」

 

 ジャックとジャンヌちゃんはあまりの恐怖に俺の後ろに隠れた。しかし、ジャックならばどうにかなる可能性があるな。取り敢えず、解体聖母を使える状態にして霧を出した夜ならば。逆に言えばそれ以外じゃ相手にすらならないだろう。

 

「今のはジャックが悪い」

「あうっ、ごめんなさい」

「お姉さんですよ。わかりましたね? 返事は?」

「はい、おねーさんっ!」

「でも、おねーさんも悪いような……」

「何か?」

「なんでもない、ですぅぅっ」

 

 二人はすっかりと怖がってしまった。まあ、命が有っただけ儲けモノだろう。

 

「二人への届け物は俺達の安全が確実に保障されているなら頼まれよう」

「無理ですね。叩き潰されるか、貫かれるのがオチでしょう。今日はもう、何人も送ってあげてますからね」

 

 やっぱりか。会えると思って行ったら、絶対に死亡する。間違ってはいけない。これはデスゲームであり、俺達は決して()()()ではないのだ。つまり、白野や衛宮ではないのだ。

 

「クエストは別の所でも受けられるの?」

「ええ、もちろんですよ、アーサー王」

「アーサー王じゃない。かなで」

「かなでさんですね。さて、他に質問は?」

「拠点が欲しいんだが……」

「それでしたら、購入するか、ダンジョンを攻略するかですよ」

「ダンジョンを?」

「ええ。ここだと一番近いのはアインツベルンのダンジョンですね」

 

 アインツベルン……つまり、城か。確か、郊外にあったよな。というか、そこのボスって下手したらギリシャの大英雄様じゃないですかね? 12回くらい殺さないといけない。いや、もしくは……そう考えながらかなでをちらりと見ると、彼女は不思議そうに小首を傾げる。

 

「あそこは今、誰も住んでいませんから……攻略すれば貴方達の物に出来ます」

「クエスト発行場所を教えてくれないか?」

「……それは……まあ、いいでしょう。街中で生活している人達なら困っている事があれば、お金などで依頼してくれますよ。つまり、商店街や教会とかですね」

「それはつまり、住民でも構わないという事か」

「そうです」

「わかった。ありがとう」

「では、またのお越しをお待ちしていますね」

「暇なの?」

「ええ、暇ですね。あまり来ませんし、身の程知らずしかおりませんから」

「じゃあ、また会いに来ますね」

「いいのですか?」

「一人は寂しいですから」

「だね~おかーさん、いいよね?」

「そうだな」

 

 二人は優しいな。あっ、そうだ。どうせなら、BBに聞いておくか。

 

「ログアウトすると、二人が人形に戻るみたいなんだが……どうにか出来ないか? 具体的にはここで預かって貰えるとか……」

「魔力切れの問題でしょう。そうですね、話し相手になってくれるようなら、いいでしょう。あまり、おいたをするならお仕置きしますけどね」

「し、しないもん!」

「そ、そうですよ!」

「なら、問題ありませんよ」

「ありがとう。それとこれはお礼だ」

 

 リュックサックから食料を取り出して、缶詰を渡す。

 

「おや、缶詰ですか。なつかしいですね。来訪者は他世界から来ているのでしたね。でしたら、クエストを発行します。甘味類を持って来てください」

「わかった」

「報酬は聞かないのですか?」

「むしろ、二人を預かって貰うのなら要らないさ」

「では、それで行きましょう。っと、次の客が来たようですね。貴方達はもうお帰りください」

「またね~」

「また来ます」

「さようなら」

 

 視界が入れ替わり、次の瞬間には住宅街のとある大きな屋敷の中に居た。

 

「ここは?」

「どうやら、飛ばされたようだな」

「ふえ~凄いね!」

「キャスターさんですからね」

 

 周りを見ていると、屋敷の扉が開いて和服姿の美少女が出て来た。綺麗な長い黒髪に黒い生地に城と紫の花。それに紫の帯をしている。

 

「あの、お客様ですか?」

 

 彼女は衛宮美遊。フェイトのプリズマ☆イリヤのイリヤのライバルキャラにして、その親友だ。

 

「えっとね、飛ばされたの!」

「すいません、BBさんにここに飛ばされました」

「ああ、あの人ですね。貴方達もお兄ちゃんを狙っているのですか?」

「違う」

「依頼は受けてない」

「なら、良かったです」

 

 言葉とは裏腹に、やはり警戒しているようだ。そんな時、彼女の後ろからオレンジ色の髪の毛をした青年が出て来た。

 

「美遊、とりあえず入って貰いなさい。お茶でも飲みながら話そうじゃないか」

「でも……」

「大丈夫さ。それに美遊には同じくらいの友達が居た方がいいからな」

「わかりました……」

「どうぞ」

 

 二人に案内されて、リビングでお茶を御馳走して貰いながら、BBの事やあちらの世界に戻らないといけない時の事などを説明していく。その間、子供達は遊んでいる。かなではこちらに居るが。彼女は子供ではないからな。

 

「桜が世話をすると言ったのなら、大丈夫だろう。だが、美遊とも遊んでやってくれ。代わりと言っては何だが、蔵を貸そう」

「いいのか?」

「女の子達が野宿しないといけないのは可哀想だからな。それにもちろん、無料じゃない。しっかりと働いて貰うさ」

「何をすればいいの?」

「買い物や食料確保だ。何故か、BB関係以外にも来訪者に俺は狙われていてな。俺と美遊はここから出られないんだ。今までは俺が無理して出ていたが、君達が買い物をしてきてくれるのなら助かるんだ」

 

 衛宮士郎は有名だからな。それに80ポイントはかなり多い。

 

「わかった。かなでもいいよな?」

 

 聞いてみると、しっかりと頷いてくれた。

 

「助かるよ。しかし、来訪者とは凄いな」

「何がだ?」

「いや、君の魔術回路の数がだよ。170本もあるじゃないか」

「そうなのか……」

 

 170という事は、魔力10で1本なのだろうな。つまり、俺はシエルに届きうるという事か。他が全然だから、たいした事はないだろうが。逆に言うと、それぐらい魔力を生み出さないとサーヴァントを維持できないって事だよな。召喚コストは払って貰って、維持コストだけ支払っているんだから。とんでもないな、サーヴァント。納得だけど。

 

「私は?」

「君はちょっとわからないな。というか、インストールしているのかな? サーヴァントみたいだ」

「私は同調している」

「デミサーヴァントといった感じだろう」

「デミサーヴァント……聞かないな」

「人間とサーヴァントの両方の存在だ」

「なるほど。インストールした状態と同じか」

 

 確かにデミサーヴァントって、常にインストールしているような存在だな。って、美遊の兄である衛宮士郎が居るんだ。だったら、頼もう。

 

「すまないが、俺とかなでに魔術を教えてくれないか? 俺は召喚魔術くらいしか出来ない」

「私は剣技を教えて欲しい」

「いいぞ。しかし、かなでの場合は中に居る英霊に聞けばいいのではないか?」

「もちろん、聞く。でも、戦闘経験も積まないといけない」

「まあ、模擬戦の相手くらいならいけるか」

「ジャック達も本調子じゃないからな。それに身体も鍛えないといけない」

「カードの力だけに頼るのはよくないからな。だが、厳しくいくから、覚悟しろよ」

「ああ、よろしく」

「お願い」

「任せてくれ」

 

 俺達は握手を交わす。手に入れた力に頼り切るのではなく、使いこなせるようにならないとな。

 

 

 

 

 





魔術回路
シエルさんが三桁。
橙子さんが20ほど
士郎が27
荒耶が30
凛が70(メイン40でサブが30)

一般人のステータスはALL1


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13話

 

 

 

 衛宮士郎に訓練を付けて貰う約束をしたが、時刻が時刻なので今日は無しになった。そういう訳で、俺とかなで、士郎とで料理をする事になった。俺達が教えて貰う側だけどな。子供達は楽しそうにお喋りしている。正確にはジャックとジャンヌちゃんが話し、美遊が話しを聞いている。

 

「さて、二人の技術を見せて貰ったが、多少は出来るようだな。では、ここからが本番だ」

 

 用意された素材を切ったり、下準備をしたのだ。これから、衛宮士郎の技術を教えて貰う。缶詰を利用した簡単レシピも教えて貰い、大量に用意していく。俺達はメモをしつつ、しっかりと教えて貰った。

 

 

 大量の料理がテーブルの上に所狭しと置かれている。どの料理も美味しそうで、心なしかかなでもそわそわしている。俺達は全員、席についていただきますと言ってから食べだす。

 

「どうだ?」

「おいしいよ~」

「美味しいです」

「ん」

 

 ジャック、ジャンヌちゃん、かなでは好評のようだ。確かに美味しい。流石はお母さんと呼ばれるだけある。

 

「口に合ったようでなによりだ。遠慮なく食べてくれ。後でその分だけ働いて貰うからな」

「少なくとも食料調達はさせてくれ。そうじゃないと食費がな……」

「そうだな……」

「?」

 

 二人でかなでを見ると、美味しそうに食べている。俺達の視線を感じて首を傾げている。

 

「ほら、これも美味いぞ」

 

 肉団子を掴んで、かなでに差し出すとぱくっと食べる。

 

「どうだ?」

「……美味しい……」

「あっ、ずる~いっ!」

「ずるいです……いえ、なんでもないです……」

「ほら、二人共あ~ん」

 

 同じように差し出すと、口を開けてきたので肉団子を入れてあげると美味しそうに食べる。ジャンヌちゃんも顔を赤らめながら食べた。

 

「あっ、そうだ。美遊もあ~ん」

「え? えっと……」

「食べないの?」

 

 ジャックが美遊に肉団子を差し出す。美遊はどうしていいのか分からないようだ。ジャックは悲しそうにしている。

 

「美遊」

「う、うん……あっ、あ~ん」

 

 士郎が言うと、美遊は口を開けてジャックのを受け入れた。

 

「美味しいでしょ」

「う、うん」

「ジャンヌもはい!」

「私もですか? あ~ん。美味しいですね。お返しです」

「えへへ」

 

 あちらは仲良く食べさせっこしている。美遊も何度も食べさせて貰っている間に食べさせるようになってきて、仲良く笑いあった。ジャックがいい感じに間を取り持って、距離を詰めているようだ。

 

「やはり、友達は必要だな」

「それはそうだろうな」

 

 食事をしながら、俺も士郎と友好を深めていく。

 

 

 

 

 食事を終えた後、お風呂を借りた。その後、俺達は布団を持って美遊の案内で廊下を歩いていく。月の光が風呂上がりの美遊達を美しく綺麗に見せてくる。

 

「ここがお貸しする蔵です」

「おっきいね!」

「硬くて頑丈そうです」

「おっきくて太い?」

 

 確かに蔵は大きくて太い。エロく聞こえるのは俺が穢れているからだな。

 

「鍵はこれです。内側からは閉められないので、別の錠前で閉めてください」

「わかった。ありがとう」

「いえ、それでは……」

 

 美遊が開けようとするので、俺が扉を掴んで開ける。ジャック達サーヴァントならともかく、普通の小さな女の子にはきついだろうしな。

 

「ありがとうございます」

「こちらこそだな」

「探検だ~!」

 

 ジャックが早速中に入っていく。しかし、回りは暗いままだ。

 

「電気は……?」

「えっと、ここです」

 

 美遊がスイッチを押してくれると、光が灯って蔵の中が照らされる。そこはFateの原作で、衛宮士郎がランサーに襲われる中、セイバーであるアルトリア・ペンドラゴンを召喚した場所だ。ファンにとっては聖地と言える場所。かなでが居るのだから、セイバーごっことかもありかも知れない。まあ、かなでは知らないのだが。

 

「少し埃っぽいわね」

「ごめんなさい。少し前に掃除したからいけるかと思ったんだけど……」

「俺は構わないが、女の子達は今日はそっちで泊まらせてくれないか?」

「うん。じゃあ、私の部屋で……でも、桜坂さんはいいんですか?」

「ああ。流石に美遊ちゃんが居る母屋で寝るのは不味いからな。怖いお兄ちゃんに怒られるだろうからな」

「っ」

 

 美遊の顔が赤くなった。どっちの意味でかはわからない。というか、やっぱり耳年増だな。

 

「それと掃除機とか借りられるか?」

「それなら、こっちです。私も手伝います」

「ありがとう。だけど、もう暗いから明日からでいいぞ。今日は寝床に使えるくらい掃除するだけだしな」

「わかりました」

 

 美遊に掃除機を借りて、軽く掃除をしてから眠りにつく。女の子達は楽しくお喋りしながらパジャマパーティーという事になっているだろう。俺は寂しく一人だ。布団を敷いて、枕を置く。すると隣にもう一つ枕が置かれた。隣を見ると枕を置いてポンポンと叩いているかなでが居た。何故かパジャマではなくブルマの体操服だった。

 

「あの、かなでさん? なんでここに?」

「? 妻だから、夫と一緒に居る。変?」

「いや、そんな事はないが……で、その恰好は?」

「? コウが好きだと思ったから……違った?」

「いや、違わない。でも、皆の所に居なくていいの?」

「平気。だって、一緒がいいから。それに一人は寂しいから」

「わかった。確かにそうだな」

 

 無表情で可愛らしい事を言ってくれるかなでを抱きしめて、一緒にベッドに入る。そのままキスをして、かなでの身体を触っていく。

 

 

 

 

 翌日、目が覚めると何故か一緒に寝ていた人数が増えていた。それは着ぐるみパジャマの三人だ。俺の上で寝ていた。

 

「おい、朝だぞ……それと美遊を知らないか……」

「あっ」

 

 蔵の扉が開けられると、そこには士郎がいた。

 

「……ごゆっくり」

 

 そして、そのまま扉を閉めていく。

 

「待った!?」

「助けないぞ。後が怖いからな」

 

 そう言ってさっさと出て行きやがった。確かに動けないので助けてほしかった。

 

「えへへ、おかーさん~」

「トナカイさん~」

 

 寝ぼけて二人が俺の身体にキスをしてくる。かなでは俺の腕をまくらにして眠っている。その後、しばらくして起きてきた皆と一緒に食事を行う事にした。ちなみに何時入って来たのかはわからないが、美遊は俺を見るなり顔を赤くしてそっぽを向いている。そのくせ、ちらちらと見て来ては頭をふって想像を追い出している。

 

 

 

 



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14話

 

 

 

 朝食を終えて、訓練をして貰う。士郎とかなで、ジャックとジャンヌちゃんが戦っている。俺は既に戦い終わり、戦力外通告を通告された。というのも、碌に魔術が使えないのだ。筋トレをするぐらいしかない。インストールすれば話は別だろうけどな。因みに弓の技術も全然だめだった。

 縁側に座りながら観戦する。隣には美遊が座っている。彼女はやはり、顔を赤らめながら俺をチラチラと見たりしている。そんな彼女を気付かない振りをして戦っている姿を見る。士郎とかなでは士郎が大量の投影した剣を放つのを、かなでが剣で迎撃している。

 

「動きに無駄がなくなってきているな」

「ん、段々と動きが見えてくる」

 

かなでは段々とまるで思い出すかのように、戦う技術を思い出しているような感じだ。士郎も最初は短剣の二刀流で戦っていたが、今では基本的に遠距離攻撃を仕掛けている。

ジャックとジャンヌちゃんの方はジャンヌちゃんが果敢に攻めている。ジャックは離れようとしているが、ジャンヌちゃんがそれをさせずに突っ込んで槍で突いている。

アサシンであるジャックは奇襲や暗殺などが得意だが、正面からの戦闘は苦手だ。武器の都合から、ジャックが勝つにはジャンヌちゃんに突撃するしかない。だけど、それもジャンヌちゃんの槍によって塞がれている。長物である槍の中に飛び込むには速度を生かすしかないが、加速距離が足りずに対応されてしまう。

 

「むきぃっ! ずるいっ!」

「ずるくありません。堅実な戦い方です!」

「こうなったらっ! もう容赦なく解体しちゃうんだから!」

 

ジャックがそう宣言すると、急に辺りに霧が溢れ出してきた。

 

「ちょっ、それは反則ですよっ!」

「へへ~ん、知らないもんね~」

 

ジャックが使ったのは硫酸の霧を発生させる()()だ。模擬戦で使っていい物じゃない。いや、そんな事よりも問題がある。

 

「霧、ですか?」

「悪い」

「えっ!? なっ、何をっ!?」

 

隣に座って居た美遊を抱き寄せて、お姫様抱っこして逃げる。美遊は顔を真っ赤にしてから、青くなり、直ぐに真っ赤になった。 

 

「かなで、士郎っ! ジャックを止めろ! この霧に触れたら一般人は死ぬぞ!」

「しっ、死ぬっ!?」

「わかった! 美遊を頼むぞ!」

「任せて」

 

直ぐに二人は走っていく。ジャックとジャンヌちゃんは見えなくなっている。

 

 

俺は美遊を抱えて逃げた。しばらく離れて、霧が届かない所まで来た。美遊を降ろしてあげる。

 

「大丈夫か?」

「うっ、うん……ありがとう」

「じゃあ、俺は向こうに戻るが……一人で大丈夫か?」

「だ、大丈夫……」

 

そういうが、俺の服の裾を掴んで離さない。

 

「ご、ごめんなさい」

「いや、いいよ。一緒に居ようか」

「いいんですか?」

「あっちは大丈夫だろう」

「んっ」

 

美遊の頭に手を乗せて撫でてあげる。不安そうな美遊は少し安心したようだ。しばらく撫でていると、向こうからジャックを引きずってくるかなでとジャンヌちゃん達が現れた。

 

「むぅ、納得でき~な~い~」

 

ジタバタと暴れるジャック。

 

「納得も何も、やり過ぎなのですよ!」

「ん、そう」

「全くだ。大丈夫か、美遊」

「う、うん……お兄さんが守ってくれたから……」

「助かったよ」

「こっちの不手際だったし、むしろ悪かった」

 

ジャックに拳骨を落とす。

 

「痛い~~~なんで、なんでっ!?」

「アレは美遊を危険にさらしただろ。サーヴァントや魔術師ならばまだなんとかなっただろうがな……友達を殺すんじゃない」

「あっ……ごめん、なさい……」

 

ジャックは美遊を見て、謝る。俺も一緒に謝る。

 

「いいよ。直に別の場所に連れて行ってもらったから。でも、これからは気を付けてね」

「うぅ~ありがとう~」

「全く。何かお仕置きしてあげてもいいですよ。なんなら、手伝いますから」

「ううん、いいよ。その代り、何かあったら助けてね?」

「もちろんだよ!」

「私も手伝いますよ」

 

確かに、これからの事を考えると……もしかすると美遊と士郎には受難が待っているだろう。このお願いはかなりの助けになるかも知れないな。

 

「やれやれ、それにしてもいきなり宝具を使うとは……模擬戦だったんだがな」

「子供だから仕方ないが……これはしゃれにならん。しっかりと教育しておくんだぞ」

「ああ、わかっている。しかし、やっぱりいざとなれば助ける手段が欲しいな」

「インストールじゃ駄目なのか?」

「魔力に余裕は無いからな。それにインストールを強制解除される場合もあるかも知れないからな」

「やっぱり、戦う手段は多い方がいいか」

「ああ。何か手段は無いか?」

「あるぞ」

「あるのか!?」

 

士郎の言葉に驚く。

 

「教えてくれ」

「それは魔術師とかに弟子入りする事だ。桜坂は接近戦の才能が無いからな。魔術師としての才能はあるんだろうけどな。サーヴァント2体の維持を一人で行うとか有り得ないからな」

「魔術師としての才能はあるんだよな……でも、強化も投影も出来なかった」

「魔術回路にも相性があるからな」

「じゃあ、魔術師の弟子になるのは難しいのか?」

「ああ。だが、基本的には使っているクラスカードなどで影響を受けるらしい。だから、基本的に頼んでみるといいだろう」

「わかった」

 

俺の中で候補は衛宮、遠坂、間桐などこの街に居そうな魔術師だ。だが、この中におらず、ある意味では一番最恐の存在が居る。彼女なら、俺は強くなれるだろう。問題は彼女をどうやって落とすかだ。だが、それにはとっておきの手段がある。

 

「士郎、頼みがある」

「なんだ?」

「用意して貰いたい物がある」

「なるほど……いいぞ。しかし、正気か?」

「正気だとも」

「なら、幸運を祈るよ」

 

まるで死地に送り出されるみたいだが、間違いではないだろう。何せ、彼女なのだから。

 

 

 



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15話

 

 

 

「何の用ですか?」

「弟子入りしたいのです」

「メリットがありません」

 

 弟子入りする為にやって来た場所は洞窟だ。そう、相手はあのムーン・キャンサーであるBBだ。

 

「こちらは手付金です」

「? 風呂敷ですか?」

 

 中身を開いてBBに見せる。

 

「わぁ、いい匂いだよ!」

「美味しそう」

「ですね」

「これが何か……」

「気付かないのか?」

「まさか、これは先輩の手作り弁当っ!?」

「その通り」

 

 衛宮士郎はBBの事を桜と呼んでいた。そして、BBは士郎を先輩と呼んでいる。つまり、このBBはこの世界では桜であるという事だ。

 

「弟子にしてくれれば、定期的に持ってきますよ?」

「くっ、先輩の手料理とは卑怯なっ!?」

「さぁ、どうする?」

「食べていい? 食べていい?」

「早くしないと食べられちゃうけど?」

 

 ジャック達がシートを敷いて、重箱を広げていっている。どの料理も美味しそうで、プロのような感じだ。

 

「じょ、条件があります!」

「なんだ?」

「私と先輩がくっつく手伝いをして貰います!」

 

 先輩大好きなBBと桜なら納得な内容だ。

 

「それぐらいならいいぞ」

「では、手始めにあの忌々しい邪魔者である美遊を拉致ってきてください」

「ちょっ!?」

 

 BBから言われた内容はとんでもない事だった。

 

「ら、拉致してどうするつもりなんだ?」

「それはもちろん。徹底的に凌辱して調教してあげるのですよ。私と先輩の邪魔をしないようにね」

 

 黒い笑みを浮かべているBB。かなりやばい内容だ。

 

「何度も何度も、邪魔されているのですから、壁に埋め込んで触手や虫で犯すのもいいかも知れませんね」

「待て待て、それは止めてくれ!」

 

 このままだとかなり不味い事になる。BBは本気のようだしな。

 

「おや、貴方は美遊を気に入ったのですか? まあ、連れている子達を見たらわかりますが」

「それは……」

「だったら、調教してから差し上げましょうか。別に先輩以外は要らないですし」

「ちょっ!?」

「要らないのなら、その辺の有象無象に売りましょうか」

「要りますっ、要りますから止めてくれっ!」

 

 必死に叫ぶ。流石にこれはまずすぎる。

 

「いいでしょう。じゃあ、あげますね。では、連れてきてください」

 

 このままだと不味い。

 

「待ってくれ。俺が二人の仲を取り持つから……」

「仕方ありませんね。ちゃんと落としてくださいね。それと、あまり待てませんからね」

「わかった……」

「では、契約成立ですね。食べましょうか」

「わ~い」

 

 美味しい弁当を食べた後、ここからが大変だ。取り敢えず、今は食事だ。

 

 

 

 

 食事が終わり、俺はBBと一緒に居る。弟子にして貰うからだ。

 

「さて、死ぬかも知れませんが……高確率で死にますが、覚悟はいいですか?」

「死ぬの? 高確率で」

「はい。普通ならですが。でも、まあ……貴方は適正が有りそうですから、大丈夫でしょう。多分」

「多分って……」

「心をしっかりと持ちなさい。飲まれたら終わりです。そして、勝ちなさい」

「え? 何それ?」

「問答無用です」

 

 BBの影から黒い闇みたいな物が、一瞬で俺を包みこんで取り込んでいく。視界が真っ暗になり、何処かもわからない空間に取り込まれた。俺の身体は黒い泥みたいな物が俺の身体を覆っていく。足の先から体温が奪われていくような感じがしてくる。

 

「「「がるるるるる」」」

 

 唸り声がして、そちらを意識すると巨大な獣が口を開けながら、こちらにやってくる。不味い。食べられたら、終わりだ。何か手段を探さないと。

 

「くそっ、くそっ! こんな所で死んでられるかっ!」

 

 意識を強く持つと、どうにか動ける。しかし、逃げたとしても直に追いつかれるだろう。出口があるかすら怪しい。ここはBBの、おそらく聖杯の中なのだから。待てよ? 聖杯の中? それにこれは汚染の泥だよな。俺も汚染されていくのだろうが……いや、待て。これならもしかすればいけるか?

 そんな事を考えると、狼のような化け物が襲ってきて腕が食い千切られる。激痛を感じるよりも熱さの方が激しい。別の化け物が足に噛みついてくる。

 

「頼む、力を貸してくれ……」

 

 懐からアーチャーのクラスカードを取り出して、握りしめて思いっきり魔力を込めて俺の頭を喰らおう大きな口を開ける泥の化け物の目に叩き込む。

 

「来い、アーチャーァアアアアアアアアアアアァァァァァッ‼‼」

 

 叫びながら召喚魔術を行使する。身体が喰われ、溶けていく。頭部しか残って居ないが、意識だけはある恐怖の中、必死にかなでやジャック、ジャンヌちゃん、それに俺が死んだらやばい事になるのが確実な美遊の事を思いながら、消えそうな意識を繋ぎ止める。

 

「ぐらぁ? ぎっ、ぎぃぎゃぅうううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅっ‼‼‼‼」

 

 獣の叫びが響き、内部から赤い炎が溢れて来て獣達を溶かしていく。その赤い炎は周りの獣を溶かし、それらが集まって人型となっていく。真紅の炎のような赤い長い髪の毛を、黒いリボンでツインテールにした140センチくらいの美少女が現れた。服装は黒をメインにしたゴシックドレスのようなシースルーのような感じだ。かなりエロい。

 

「マスターの召喚に応じ、馳せ参じました……多分、アーチャーです……」

「たっ、多分?」

「記憶がありませねから……名前もわかりません」

「そうなのか……大丈夫か?」

 

 服が黒くなっているぐらいで変わりはないように見える。しかし、これも泥を使って呼び出した弊害か? BBは聖杯を取り込んだと言っていたから、聖杯の力を使って呼んだんだが……計画通り、受肉しているのかも知れないな。

 

「名前は後で教える。だが、先ずは……戦えるのか? すまないが、やばい状況なんだ」

 

 俺達の回りには沢山の泥の化け物が現れている。彼女は俺の頭を持って、自分の頭の上に乗せた。

 

「問題ありません。戦い方は不思議とわかりますから」

 

 黒色をメインに赤色をサブにした弓が呼び出され、魔力によって炎の矢が作り出される。放たれた矢は泥の獣達を炎を撒き散らしながら貫き、広範囲を殲滅していく。倒された泥達は直に復活し、襲い掛かってくる。それをひたすら倒していく。

 

 

 

 

 



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16話

 

 

 

 

 視界を覆い尽すかのような、大量の泥の怪物達。それらが一斉に襲い掛かってくる。しかし、可愛らしい小さな女の子が放つ炎の矢が光線のように魔物を纏めて貫いていく。倒れた泥の怪物は溶けていく。

 体感で一時間くらい後、数百匹を殺すと殺し尽したのか現れる事が無くなった。改めて周りを見ると、暗い世界の中に変化が訪れていた。切り立った崖の上にある道に俺達は立っていたのだ。空や周りは相変わらずの闇だが、道には青い炎が灯った灯籠が立っていて、道を示している。

 

『どうやら、生き残ったようですね。まあ、首だけですが、及第点でしょう』

 

 何処からともなく、BBの声が聞こえて来た。周りを見ても、誰の姿もない。しかし、首だけなんだよな。ギリギリ、残っているのだが。しかも、女の子の頭の上に乗せられていて、その女の子は楽しそうにバランスを取っている。

 

『しかし、その姿で戻ると死にますよ。この世界でなら大丈夫ですが』

「まじで?」

『まじです。その世界はBBちゃんの世界ですから意志力だけで生きていけますが、外に出たら身体はありませんからね』

 

 それは不味い。この世界でずっとこの姿とか絶対に嫌なんだが。

 

『まあ、助かる方法を教えますよ。ジャックちゃんが私を解体しようと狙っている事ですしね』

「あ~」

「ジャック?」

「俺のサーヴァントだ」

「そうですか」

『はいはい、お話はそこまでです。取り敢えず、説明を先に聞いてくださいね。いいですか、一度しか言いませんよ。まず、その先にある門を目指してください。そこで試練を受けて頂きます。その試練に成功するとスキルを差し上げます。選ぶスキルは自己改造です。もう、わかりますね? 後は好きにしてください。全てを教えるつもりはありませんから。それにヒントは貴方の近くにあります』

 

 そう言って、BBの声は聞こえなくなった。さて、BBの言葉を考えてみよう。自己改造を取れという事だった。そして、ヒントが俺の近くという事だ。

 

「?」

 

 それはつまり、俺を乗せている少女の事だろう。彼女を受肉させた方法は泥の怪物の身体を使ってだ。それはつまり、俺の身体も泥を使って受肉させないといけないという事だ。

 

「シータ、この道を進んでくれ」

「シータ、それが私の名前なのですか?」

「そうだ。何か思い出したか?」

「何も……ごめんなさい。真名すら忘れた私には宝具は……」

「別に大丈夫だ。真名はこれで思い出しただろうし、宝具は分からいが弓に関する事だろう。それに魔力放出(炎)はあるだろう。それをメインに使えばいい。むしろ、それを極めればインドラの矢を再現する事も出来るだろうしな」

 

 古代インドの民族叙事詩ラーマーヤナの主人公であるラーマの妻。貞淑かつ聡明な女性で、常に夫を想い、その助けになりたいと願っている少女だ。 しかし、この二人が寄り添う光景は現実には決して叶わない。その原因は、生前のラーマが猿同士の抗争に介入した際、味方の猿であるスグリーバを助ける為とはいえ、敵対する猿のバーリを騙し討ちにした事でバーリの妻の怒りを買い、后を取り戻すことができても、共に喜びを分かち合えることはないという呪いを掛けられてしまった事せいだ。

 

「わかりました。それで、このまま道なりに進めばいいのですね?」

「頼む」

「はい。全てはマスターのお望みのままに」

 

 記憶の無いシータにとっては繋がりのある俺が全てなのだろう。むしろ、これはシータ・オルタなのだろうか?

 取り敢えず、シータが弓に矢を番えながら進んでいく。しばらく崖の道を進んでいくと、先に大きな3つの門が見えてきた。

 

「門、ですね」

「ここから試練なのか」

 

 門には女性の姿が描かれている。左から、超巨乳、巨乳、微乳。そう、門に描かれているのはパッションリップ、BB、メルトリリスだった。

 

「どれに入りますか?」

「真ん中だな」

 

 他の二つはまだ無理だろう。というか、BBの弟子になるのだからそれしかないだろう。

 

「では、こちらですね。開けます」

「いや、待て。魔力を込めて破壊しろ」

「わかりました」

 

 しっかりとチャージした白色に輝く矢をシータが放つ。狙い通り、門を破壊してその先に居た大きなゴーレム達を貫いた。門には大きな穴が開いており、地面は溶けて熱気が出ている。よく見ると結晶化までしている。

 

「マスターの言う通りにして正解でしたね。あのまま入った瞬間、襲われたら大変でした」

「確かにそうだな」

 

 入った瞬間、左右から殴りかかってくるんだから質が悪い。中に入ると声が聞こえてきた。

 

『何してくれてるんですか? なんで門を開けずに破壊しているんですか!』

「え、だって入った瞬間襲われるのは基本だし」

『……そうですか。わかりました。えいっ』

「待て、何をした!」

『べっつに~なんでもないですよ~じゃあ、頑張ってくださいね!』

 

 一方的に会話が消えた。

 

「マスター、門を進んだ先ですが……道が全部一緒です」

「……うわぁ、これか!」

 

 ゴーレムが全滅した後、スケルトンやゴーストが現れだしていた。

 

「シータ、突っ込め」

「はい!」

 

 ダッシュで走り抜けていくと、地面から手が出て来てシータの足を掴もうとしてくる。それをシータは飛び越える。しかし、着地予定の場所にはゴースト達がたむろしている。

 

「シータ、粘着性の炎が燃え広がるイメージをするんだ」

「わかりました。撃ちます」

 

 空中で作り出した矢を素早く弓で射ていく。矢が着弾すると同時に炎がゴーストを焼き尽くしていく。しかし、一射では範囲が足りない。

 

「放った矢を拡散させて、いっきに焼き尽くすのもいいかも知れない」

「そうですね」

 

 着地と同時に走ってゴーストの中を抜けていく。シータが更に矢を放って、道の敵を一掃して走り抜ける。前方に巨大なゴーレムが道を防いでいる。ゴーレムが拳を放ってくる。シータは飛び上がって、ゴーレムの腕に着地してそのまま駆け上がっていく。ゴーレムは口を開いてビームみたい物を収束させていく。

 

「させません」

 

 シータはその場所に矢を放った。矢はゴーレムの頭部を貫いて爆発した。その爆発の中を突き進み、道の先へと進んでいく。すると、今度は上から沢山の獣が降って来た。それをステップを踏むように左右に避けながら進んでいく。

 これ、ジャックでも明らかにきつそうだ。ジャンヌちゃんも駄目だろう。かなではわからないが……いや、多分無理だろう。シータが戦えているのは、ここで召喚して受肉したからだろう。それに聖杯のバックアップもここならあるからな。あれ、それだと他の子もなんとかなるかも?

 

「マスター、門です」

「やっとか」

 

 これでスキルが手に入る……って思ったら、やっぱりそうはいかない。

 

「マスター、敵性体を確認しました」

 

 ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ強靭な肉体を持ち、口からは火炎を吐く存在……そう、キマイラだ。

 

「難易度高いな、おい!」

 

 普通はもっと後で、出て来る奴だろう。普通なら、辛いだろうが、俺が今連れているのは神話にも語られている存在だ。だからこそ、どうにかできるだろう。

 

「こちらにはまだ気付いていないだろうか?」

「大丈夫です」

「だったら、狙撃だな」

「わかりました。それが一番安全ですからね。それと、マスター……いったん降ろしますね」

「ああ、わかった」

 

 真剣に弓を構えて、魔力を大量に込めていく。シータは三本の矢を作り出して、ほぼ間もなく放つ。それぞれの矢が三つの頭を貫く。しかし、まだ生きている。キマイラは口から炎と毒の霧を吐こうとしてくる。しかし、その前に真っ黒に染まった第四の矢が内部へと潜り込んで、内部から爆発した。

 

「うわぁっ……」

 

 しかし、頭部だけになってもこちらに突っ込んできた。シータはすかさず矢を放つけれど、突撃が止まらない。

 

「マスターっ」

 

 シータは俺を抱えて、地面を蹴って灯籠の上に飛び乗ってキマイラの先へと飛ぶ。シータは更に俺を上に投げて直に矢をキマイラに放つ。キマイラは矢を受けながら闇の中にそのまま落ちていった。残った身体は崩れていき、後には宝玉みたいな物があった。俺自身は落ちて来た所をシータに受け止められた。

 

『……クリアーです。そのアイテムを拾ってスキルを選んでくださいね。それと帰るには魔法陣を用意しておきますので、そちらに乗ってくださいね』

 

 直ぐにシータが拾って、俺の口元に差し出してくれる。これって口をつけるしかない。取り敢えず、引っ付いてみると宝玉が俺の中に消えていく。すると、スキルを選択する画面に出た。俺は言われた通りに自己改造を選択する。するとランクがBだった。

 

「さて、どうするか……」

「取り敢えず、そこに置いてみますか?」

「そうだな」

 

 シータがキマイラの身体の上に乗せてくれる。直ぐに自己改造を意識して、泥を取り込んでいく。これで身体を作るが……明らかに材料の泥が足りない。それにシータに持ち運んで貰うんだから、小さい方がいいだろう。

 

「シータ、何か希望はあるか? 小さいので」

「猫です。猫のぬいぐるみがいいです」

「わ、わかった」

 

 自分の身体を猫みたいな物にする。すると、嬉しそうにシータが俺を抱き上げて、頬擦りしてくる。更にぷにぷにしたり、撫でてくる。しばらくされるがままになった後、頭の上に乗せてくれる。

 

「じゃあ、狩りをお願い」

「わかりました。任せてください」

 

 ついでなので奥へと進んでいく。すると大量の触手の魔物が居た。海魔と呼ばれる魔物だった。無茶苦茶エロい奴等だ。

 

「汚物は消毒だ」

「汚物は消毒です……?」

 

 大量の泥の怪物を倒し、その泥を集めていく。戻ってゴーレムやゴースト、スケルトンの素材も集めていく。集めた泥を魔力に変換してから、シータに渡す事により効率よく溜まっていく。翌々考えると魔力には質もあるし、強化するほうがいいだろう。

 

 

 

 



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17話

はっちゃけた。
報告します。バビロン、クリアーしました。
我が軍に諭吉一枚を生贄に新しく、アナちゃんとギル*2、フランスの騎士さんが着任いたしました。エルキドゥも出たので、これでバビロンは揃いました。ムーチョさんはちょっとお金ないので長しです。アナちゃんが一番欲しかったのです。
アナちゃん、無茶苦茶可愛いです。マイルームの会話、やばいです。ステンノとエウリュアレが居たら、ですけど。これはもう出すしかない。反語。
という訳で、出します。なお、本日中にもう一話、更新すると思います。


 

 

 

 

 シータの頭に乗せて貰いながら海魔を倒していく。深紫を基調とした体色をしている、蛸とヒトデを融合させたような禍々しい姿をしている。 触手の中心にはタコ同様口があり、鋭い牙が並んでいて食べられたら終わりだろう。こいつは触手を使って地上でも歩行が可能というとんでもない生物だ。そんな生物がシータによって焼却されていく。

大量に居るお蔭で、とても美味しいです。ただ、こいつらが居るという事はとても大変な奴が居る可能性がある。こんな事を考えていると、遠くの方から複数の悲鳴が聞こえてくる。

 

「悲鳴か?」

「マスター、前方にある建物の中から聞こえてきます」

 

現在、登っている坂道の先には建て物みたいな物が見えるので、そこでボス戦なのかも知れない。

 

「行ってみよう」

「わかりました」

 

坂を上っていくと、建物の姿が見えてくる。それはホールのようで、建物の扉の上には血文字でコンサートホールと書かれていた。BBの聖杯の中……イコール、サクラ迷宮。コンサート……うわぁっ、行きたくない。あの娘は好きだ? でも、歌わないでほしい。アレは戦術兵器ジャイアンリサイタルなのだから。

 

「マスター、中が凄い事になっています」

 

俺が考え事をしている間に坂を登り切り、シータが扉を開けて中を覗き込んでいた。俺も中を覗いてみる。まず、見えたのはステージだ。まだ、これはいい。ただし、その奥には無数の少年少女であろう年齢の子供が巨大なパイプオルガンに埋め込まれている。いや、それだけではなく、回りの壁には串刺しにされて血液を取られている大人達が居る。

 

「っ……」

 

かなり気持ち悪い……なんて事はなく、おかしな事にそれが現実で、おかしい事でもないと()()()が受け入れている。その事が気持ち悪い。普通なら、SANチェックが入るはずだ。狂ってもおかしくない状況なのだ。

 

「マスター、大丈夫ですか?」

「ああ……」

 

今は敵を確認する事だ。よくよく見てみると……パイプオルガンの前には予想通りの存在が居た。そいつの名前は蛙顔をした巨漢であるジル・ド・レェ。彼が演奏する度に子供達の悲鳴が響いていく。そして、その悲鳴の中でジル・ド・レェの前に立って歌を歌っている。竜のような角や尻尾を持ち、可憐な容姿にタマモやギルガメッシュも認める美声を持つ。そのくせそれら全てを一瞬で台無しにする無自覚音痴。そう、彼女は拷問大好き、エリザベート・バートリーなのである。

 

「マスター、どうしますか?」

「本来なら助けないといけないのだろうが……勝ち目がない。撤退だ、撤退」

「わかりました」

 

シータが扉を閉めて、坂を戻っていく。

 

「ちょっと待ちなさいよっ!? ここは中に入ってくる所でしょう!」

 

戻っている最中に扉が吹き飛ばされて、中から竜の角を持つ赤髪の美少女、エリちゃんが飛び出してきた。

 

「えーだってねえ?」

「? 私はマスターの言われた通りにするだけです」

「うん。やっぱり帰るわ」

「待ちなさいって! この光景を見たら助けに入るのが人ってものでしょう!」

「いや、他人と自分の命、天秤に賭けたら自分の命でしょうよ。俺、聖人君子でもなんでもないし……というか、今猫だし?」

「いや、そうだけれども!」

「というか、お前は歌いたいだけだろ」

「そうよ! 折角、気合を入れてステージを用意したのよ!」

「音痴を治してからどうぞ。もしくは他人の為に歌ってください」

 

他人の為に歌う時は音痴じゃないんだよ。不思議だ。

 

「嫌よ! だいたい、私は音痴じゃない!」

「だいたい、エリちゃんを出したら視聴率を取れると思っているのか、BB! もう、何度も何度も出てきてるんだよ! FGOに至ってはランサー、キャスター、セイバーで、CCCではバーサーカーもだ。そして、成長したらアサシンだぜ。お前は第二のアルトリアか!」

「五月蠅い五月蠅いっ! アイドルたるものっ、どんな要望も答えないといけないのよ! いいから、私の歌を聞いていきなさい!」

「じゃあ、聞いたら何をくれるんですか? 報酬は?」

「ちょっとっ、私の歌は報酬を貰わないと聞いてくれないの……?」

 

あっ、やり過ぎた。泣き出しやがった。これはもしかして……?

 

「他人の為に歌ってくれるなら、いくらでも聞く。だいたい、アイドルは自分の為に歌うのではなく、他人の為に歌う者だ。その心が前がお前にはない! つまり、プロではなくアマチュアなのだ。アマチュアの歌にお金が貰えると思うなよ!」

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

エリザベート・バートリーは泣きながら逃走した。

 

「ふっ、勝利。これで厄介なランサーは消えたな」

「マスター……流石です」

「……」

 

やっぱり、シータちゃんも汚染されてないですか? 俺も多分汚染されてる。取り敢えず、戻って扉から覗いてみる。

 

「やれやれ、付き合ってあげましたが……よもや、この程度で逃げるとは……」

「ひっ⁉ ちょっ、ちょっとっ、離しなさいよっ! 何すんのよっ!」

「役立たずは苗床にして有効活用するのですよ」

 

中を見ると、エリちゃんが触手に捕まってエロい事をされそうになっていた。

 

「マスター、どうしますか?」

「そうだなぁ~」

 

選択肢1.見なかった事にして帰る。ありきたりだな。選択肢2.見なかった事にして、このままじっくりと観察する。こちらは18パートまっすぐだな。選択肢3.助けに入る。こちらはジルを倒したらエリザベートとも戦闘になるか、彼女がどうするかはわからない。選択肢4.まとめて滅ぼす。

 

「扉を開けた状態で下がろうか。あの灯籠の上に乗れば射線は通るよな?」

「問題ありません。では……」

「思いっきりチャージして、ぶっ放せ」

「マスターのお望みのままに」

 

灯籠に乗ってシータが弓を構えて矢を番える。泥から得た魔力も使ってどんどん溜め込んでいく。白い炎の矢に黒い炎が巻き付き、螺旋を描く。

 

「イメージするのは全てを焼き尽くすインドラの矢だ」

「インドラの矢……」

「インドラの矢は虹の事でもある」

「虹……」

 

繋がっているラインから、シータに核兵器の映像を思い出して見せる。色々と固まって来たのか、矢は大量の魔力を得てガタガタと震えだしている。

 

「マスター、ごめんなさい……ちゃんと狙えません……」

「大丈夫だ。あの扉の中に入れて、爆発させる事だけを考えるんだ。シータなら出来る」

「はい、わかりました。マスターのご期待に応えてみせます」

「ああ、頼むぞ」

「任せてください」

「撃つ前に深呼吸をしようか」

「はい。すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~」

 

シータはゆっくりと深呼吸を繰り返し、改めて真剣に狙いを付ける。そして、手を放した。放たれた矢は高速回転しながら音の壁を突破して目標へと飛来する。しかし、扉に接近した瞬間。扉が閉まって無数の触手が矢を防ごうと形を変える。どうやら、あのホール自体が巨大海魔だったようだ。あのまま入っていたら、皆仲良く食べられただろう。

 

「穿て、インドラの矢」

 

海魔の触手は粉砕し、矢は内部へと入り込んで黒と白の光を円形状に膨れ上がらせる。それはさながら核兵器のようだ。聖杯の中という事で、通常以上の、それこそ使い切れないほど大量の魔力を集めて作った矢だ。その威力はキャスターとてただでは済まないだろう。

 

「マスター、対象の沈黙を確認……いえ、まだのようです」

 

海魔が泥となったので、勝ったかと思ったが……その中からジルが飛び出して来た。

 

「ジャンヌゥゥゥゥッ!! 貴方からジャンヌの香りがしますよぉぉぉっ!」

「キモッ」

「……気持ち悪いです」

 

シータは飛んでくるジルの身体に次々と矢を刺していく。

 

「我が愛しのジャンヌゥゥゥゥはどこですかぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ‼‼」

「ま、マスターっ、駄目ですっ、止まりませんっ!」

 

くっ、こうなれば一か八か、呼んでみるか。

 

「来てくれっ!」

 

大量の魔力を使って召喚魔術を使いながら呼ぶと、空から光の柱が降りてきた。その中から、霧と共にジャンヌちゃんが現れる。

 

「呼ばれて飛び出てメリーゴーランドです、トナカイさん! ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・りぃりゅ……リリィ、参上です。敵は……」

「おおっ、我が愛しのジャンヌよぉぉぉぉぉっ⁉」

「……ひぃぃぃっ!?」

 

ジャンヌちゃんは直にシータの後ろに隠れた。

 

「貴方、誰ですか!」

「お忘れですか、私はジル・ド・レェです!」

「お、思い出しました。でも、私は貴方の愛しのジャンヌではありません!」

「そんなはずはありません! 貴方は確かにジャンヌだ!」

「例えそうだとしても、トナカイさんを虐める貴方なんか、大っ嫌いです!」

「だい、きらい……大っ嫌い……あっ、あぁぁぁぁっ……」

 

ジル・ド・レェはジャンヌちゃんの言葉に致命傷のダメージを受けた。彼のライフはゼロになり、霊基すら壊されたのか……身体が崩れていった。

 

「悪は滅びました。それより、トナカイさんは……」

「マスターはこちらです」

「猫さんです! トナカイさんが猫さんになっています! 抱っこしていいですか!」

「駄目です。マスターは私のです……」

 

二人が猫の身体を両サイドから引っ張る……なんて事は無かった。

 

「私は貴方の先輩です。トナカイさんに仕えたのは私の方が長いですから……が、我慢します……」

「……」

「マスター……」

「シータ」

「ふぅ……どうぞ」

「いいんですか?」

「構いません。私達の争いマスターの不利益にしかなりませんから」

「ありがとうございます!」

 

シータからジャンヌちゃんに渡された俺はもふられる。しかし、今はこんな事をしている場合ではない。

 

「急いでエリザベートを助けるぞ」

「覚えていたんですね」

「もしかして、あの中ですか?」

「そうだ……」

 

ホールがあった所を見ると、なんと驚いた事に……ドラゴンが居た。しかもその上にはエリちゃんが乗っている。

 

「もう怒ったんだから! 初公開! ドラゴンライダー、エリザベート・バートリー! 覚悟なさい! 放て、ドラゴンブレス!」

 

巨大な赤いドラゴンがブレスを放とうとしてくる。

 

「全てを焼き付くしなさい!」

 

ドラゴンのブレスがいよいよ離れる瞬間。何処からともなく、声が聞こえてきた。

 

「此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、力。殺戮をここに……! 解体聖母(マリア・ザ・リッパー)

「え!? 嘘よねっ!?」

 

ドラゴンもろとも、エリちゃんは背後の霧の中から現れたジャックによって、問答無用に解体されてしまった。この世界は基本的に夜だ。そして、霧も出ている。エリザベートは当然女性。ドラゴンも雌のようだ。つまり、問答無用の一撃死が決まってしまった。ましてや、相性の悪いライダーになったのだから、アサシンのジャックは天敵だ。

 

「ばっらばら、ばっらばらだよ! お姉さん達もいっぱいしてたから、解体したけど、いいよね?」

「くぅ~~ここでやられても、第二第三のエリザベート・バートリーが……」

「いや、お前が言うとしゃれにならんから」

「覚えて、なさい」

 

後には竜の死体とエリザベートの死体、大量の泥だけが残されていた。とりあえず、全部美味しく頂きます。これで身体が再構築できる。このままエリちゃんを置いて置いたら、クラスカードになるかも知れないが……ここは使わせて貰おう。自己改造で死体を取り込んで自分の身体を再構築する。まず、心臓は竜の心臓と人の心臓のブレンド。やったね、魔力がいっぱい生み出せるよ。現実でも生きられるように人の心臓もブレンドした。そして、ついでなのでエリちゃんの美声もゲット。身体はもとのを基準にして当然男性として再構築。全体的に中性っぽくなってしまったがよしとしよう。

 

「おかーさん、おかーさん、おとーさんが心配してたよ?」

「おとーさんって、かなでの事か?」

「そ~だよ~」

「そうか。戻りたいが、もう少し経験値稼ぎをしたいな。せっかくジャック達も来たんだから……って、なんで宝具が使えたんだ?」

「それはね、おかーさんから送られて来る魔力の質が上がったからだよ!」

「はい。とっても力強くて美味しくなりました」

「そうか。っと、この子を紹介しよう。彼女はシータ。二人は俺がインストールした姿は見ただろう。新しい家族だ」

「は~い、よろしくね。わたしたちはジャックだよ。真名はジャック・ザ・リッパー」

「私はジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィです。よかった……今度はちゃんといえました」

 

思わず撫でてあげた。

 

「私はシータらしいです。記憶が無いのでよくわかりませんが」

「そうなんですか……大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。私にはマスターが居てくれますから」

「そうだよ。あかーさんに任せていたら大丈夫!」

 

その信頼が辛い。頑張らないといけないな。とりあえず、もうちょっと経験値稼ぎをするか。

 

 

 

 

 

「……出落ちですか。もっと頑張ってくださいよ」

「うるさいわよ! これからって所に解体聖母よ!」

「仕方ありませんね。では、もうちょっと奥にもう一度配置してあげます。今度はアヴェンジャーにでもしますか?」

「ふふ、復讐ね! 今の私にはぴったりかも知れないわ」

「まあ、ジャックが居るので同じ轍を踏みそうですけどね……まあ、それならそれで数を出せばいいですね。エリザベート・バートリー7騎+アヴェンジャー。ルーラーは無理ですしね」

「なんか言ったかしら、BB?」

「なんでもないですよ」

 

 

 

 

 



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18話

 

 

 

 肉体を取り戻した俺はエリちゃんとジルの死体から宝珠を回収して、使用した。使って手に入れたのは黄金律と嗜虐のカリスマのスキルだ。ジル・ド・レェからは黄金律(B)を、エリザベート・バートリーからは嗜虐のカリスマ(A)だ。どうやら、習得できるのは相手の持っていたスキルだけみたいだ。一応、同種のサーヴァントのスキルも回収できるようなので、危険な狂ったジルからではなく、セイバーのジルから黄金律を貰った。これなら現実でも使えるだろう。かなでの食費を稼ぐためにも必要だしな。

 嗜虐のカリスマ(A)は味方全体の攻撃力をアップし、自身以外の女性サーヴァントの攻撃力を更に上昇させる事が出来る。つまり、ジャック達にはかなり効果があるという事だ。戦闘続行も欲しかったが、こちらにした。攻撃こそ最大の防御だ。

 スキルを習得した俺はジャックとシータ、ジャンヌちゃんを連れて先へと進んだ。次の階層は極寒地帯のようで、トナカイや雪だるまのエネミーが沢山居た。そこで、経験値稼ぎの為に狩りまくる事にした。何せ、こいつら……プレゼントを落とすのだ。サンタであるジャンヌちゃんが居るのと黄金律を習得したせいか、高確率で落としてくれるので資金稼ぎにも丁度いい。

 

「ひゃっほ~解体だよ~!」

「違いますよ、ジャック。纏めて引き連れて来てください。雪玉を投げてタゲを取るんです」

「は~い!」

 

 シータがせっせと雪玉を制作して、それをジャックが持って行って泥のエネミーにぶつけて、逃げ回りながら引き寄せてくる。大量のエネミーを引き寄せたら、今度はジャンヌちゃんの出番だ。

 

「連れてきたよ~」

 

 75体くらい引き連れて、ジャックが戻ってくる。ちょっとした津波だ。それに合わせて、嗜虐のカリスマを発動させて攻撃力を上昇させる。

 

「聖なる夜、ステキでムテキな奇跡の一瞬。優雅に歌え、かの聖誕を(ラ・グラスフィーユ・ノエル)

 ……しゃんしゃんしゃん♪ しゃんしゃんしゃん♪ しゃんしゃんしゃん♪ しゃんしゃんしゃん♪ 」

 

 空から大量のプレゼントが降って来て、箱の中に入っていた可愛らしい生物がエネミー達を潰していく。ジャックやシータにはプレゼントを渡してくれる。

 

「残りました。お願いします」

「任せてください」

「行くよ~!」

 

 倒し切れない敵もシータとジャックが上がっている火力で倒していく。後にはドロップアイテムと泥だけだ。その泥を俺が吸収していく。

 

「いっぱい集まったよ~」

「頑張りました」

「マスター、どうぞ」

 

 ドロップアイテムとジャンヌちゃんの宝具で貰ったプレゼントを持って来てくれる。それを受け取って自身の影に入れる。泥を吸収した事で出来るようになった便利魔術だ。さて、仕舞った後は上目遣いでこちらを見ている女の子達の頭を優しく撫でてあげる。

 

「よくやった。次も頼むな」

「えへへ、任せて~」

「はい!」

「マスターのお望みのままに」

 

 嬉しそうにする女の子達を褒めて可愛がった後、もう一回行って貰う。ジャックが行っている間にジャンヌちゃんのテンションを上げる為に可愛がって宝具の準備を行う。これを延々と繰り返して、充分だと思えるぐらいに強くなったので、戻って魔法陣から外に出た。

 

 

 外に出た瞬間。晴れ着姿のかなでが抱きついてきて、ポカポカと俺を殴ってくる。

 

「かなで?」

「心配した。それに一人だけ除け者だった」

「ごめん。でも、流石にかなでを連れていくのは……」

 

 俺はかなでと同じく、晴れ着姿のBBに視線をやる。

 

「精神汚染される可能性もありますが、ちゃんと準備を整えたら大丈夫ですよ。ですが、まさか本当に生き残るとは思っていませんでした」

「おいおい」

「まあ、これで弟子として正式に認めてあげます。取り敢えず、虚数魔術はもう使えるはずですよ」

「もしかして、このアイテムボックスぽいの?」

「そうです。それが虚数魔術です。まあ、まだCランクみたいですが、これから頑張りましょう。ちなみに魔術回路が30本ほどそれ専用になってます」

「ちょ!?」

「ですが、魔力もちゃんと増えているので問題ありません。そうそう、これから出かけるのでステータスを確認していてください。私はジャックちゃん達を着替えさせますので」

 

 確かにBBの言う通り魔力が多くなった感じはしている。ステータスを確認してみるか。

 

 

 マスター:桜坂幸田

   属性:虚数・混沌

   筋力:1→2

   耐久:60→103

   敏捷:1→4

   魔力:109→430(2100)

   幸運:1→10(100)

   SP:0

  スキル:召喚魔術(B:3/5)、虚数魔術(C)、自己改造(B)、精神汚染(C)、竜の心臓(B)、魔力強度(B)、黄金律(B)、嗜虐のカリスマ(A)

 クラスカード:アーチャー1枚(星3)

 

  クラス:アサシン(限定召喚1000+1000/2500)

   真名:ジャック・ザ・リッパー

   属性:混沌・悪

   筋力:E→D

   耐久:E→D

   敏捷:C→B

   魔力:E→D

   幸運:E→D

   宝具:暗黒霧都(ザ・ミスト)解体聖母(マリア・ザ・リッパー)

  スキル:気配遮断(B+)、情報抹消(E)、霧夜の殺人(A)

 

  クラス:ランサー(限定召喚600+1000/2000)

   真名:ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ

   属性:混沌・善

   筋力:D→C

   耐久:E→D

   敏捷:E→D

   魔力:D→C

   幸運:E→D

   宝具:優雅に歌え、かの聖誕を(ラ・グラスフィーユ・ノエル)

  スキル:自己改造(EX)、かりちゅま(E) 、対魔力(EX)、聖者の贈り物(C)

 

  クラス:アーチャー(受肉)

   属性:混沌・善

   真名:シータ

   筋力:B→C

   耐久:B→C

   敏捷:D→E

   魔力:A→B

   幸運:E→E

   宝具:疑似・インドラの矢(アルカンシェル)

  スキル:記憶喪失(B)、神性(C)、魔力放出炎(A)、黒の欠片(C)、対魔力(D)、単独行動(A)

 

 

 なんか、大分スキルが増えて強くなっている。

 虚数魔術は分かる。あの空間に堕ちて、泥を手に入れたのだろう。属性が新たに出て虚数になっている。まあ、これはわかる。精神汚染は泥に触れたり、取り込んだりしたからだろう。

 竜の心臓と魔力強度で魔力補正が500ずつ掛かっている。竜の心臓に至っては回復速度も上がっている。

 黄金律と嗜虐のカリスマはいいだろう。ちょっと前に説明しているし。まあ、嗜虐のカリスマはジャック達の話によると受けると痛気持ちイイらしい。ちなみに魔力強度が上がったからか、召喚魔術もランクアップしている。後、2体まで召喚できる。

 さて、次はジャックだ。竜の心臓とかによる補正で第二の宝具が解放され、スキルも一段階強化されている。そこに加えて霧夜の殺人(A)を習得した。こちらは殺人鬼という特性上、加害者の彼女は被害者の相手に対して常に先手を取れる。ただし、無条件で先手を取れるのは夜のみ。昼の場合は運次第というスキルだ。これがあったから、ジャックはエリザベート・バートリーを問答無用に解体出来たのだ。

 ジャンヌちゃんは宝具と、聖者の贈り物が増えた事だな。これの効果は宝具で貰えるプレゼントが、良い物になるようだ。まだ、空けてないので後で開けて貰おう。

 さて、問題のシータだ。まず、状態が受肉となっている。シータの方を見ると、かなでに着替えさせてもらっている。

 ステータスに戻る。ステータスが下がっているのは、聖杯からのバックアップが無くなったからだろう。これからは俺が供給しないといけない。一応、ラインはあるが魔力の供給にはアチラをしないといけない。現状は単独行動があるから問題ないだろうがな。

 スキルに記憶喪失がある。記憶が無く不安定であり、無垢なる存在であるとの事。そのために生前のデメリットである()()()()()()しているとの事だ。つまり、今ならラーマと出会える。ただし、記憶が戻るとその限りではないのだろう。再開したとしても、相手は記憶を失っており、見る事しかできない。何処までもあの呪いは邪魔をするのだろう。

 神性は詳しくはわからないが、神話だからか? わからん。もしかしたら、泥に交じっていたのかも知れないしな。何かが混じっているのは確実だ。何せ、()()()()が入っている。どう見ても()の欠片ですね、ありがとうございます。魔力放出はそのままで、単独行動はマスターが居なくても二日間なら行動可能というスキルだ。今、シータが少ない魔力で行動出来ているのはこれのお蔭だろう。対魔力は魔術に対する耐性だ。

 

「コウ、愛人の着替えが終わった」

「愛人って」

「違うの?」

「違わないが……」

 

 シータちゃんみたいな美少女が自分から全てを差し出してくれているのに、食べないとか無い。草食系ではない。肉食系だ。もちろん、ラーマの事に関しては思う所があるが……欲望には逆らえない。前なら我慢したのだろうが……今は出来ない。精神汚染を受けて、かつ魔力を供給するためにやる事をやるのだから、我慢できるはずがない。

 

「どう?」

 

 かなでが青い晴れ着で、シータが赤い晴れ着だった。どちらも綺麗な花柄だ。

 

「わたしたちも見て~」

「どうですか?」

 

 ジャックが黒色で、ジャンヌちゃんが白色だった。四人共、かなりの美少女であり、その着物姿はとても可愛かった。

 

「さて、初詣に行きますよ。貴女達の役目は先輩からあの小娘を引き離す事です。いいですね! お小遣い……お年玉をあげますから、しっかりとしてくださいね!」

「は~い」

「わかりました」

 

 ジャック達がBBからお年玉を受け取った。それから、BBは俺に分厚い封筒を渡してきた。

 

「交際費です。失敗したら、お仕置きですから、頑張ってくださいね」

「イエス、マイロード」

「よろしい。では、先輩の所に転移します!」

 

 そう言えば今日から新年だったな。初詣か。毎年、一人か親や祖父母に顔を出すくらいだったが……今年は楽しめそうだ。というか、かなでの事を紹介しないといけないんだよな。やばい、どうしよう。隠す事は無理だ。戸籍を調べられたら一発だしな。いや、頑張るしかないな。でも、そうなるとジャック達を預けるしかないんだよな。

 

 

 

 

 

 




日付計算したら、もう新年だった。仕方ない。なんせ、6日はクリスマスから過ぎているからね!


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19話

 

 

 

 BBによって転移させられると、衛宮邸に到着した。外は雪も降って来ているようだ。俺達が到着すると、待っていたのか、邸宅の扉が開かれて、着物姿の士郎と美遊が出て来た。美遊は紺色で花柄の晴れ着を着ている。髪の毛も結われていて項が出ている。

 

「せんぱ~い♪」

 

 BBが士郎に向かって嬉しそうに走って、だきつこうとする。しかし、その間に美遊が身体を滑り込ませてBBをブロックする。

 

「美遊、どいてくれないかしら?」

「お兄ちゃんに何の用ですか?」

「それはもちろん、先輩と一緒に初詣に行くんですよ。ですよね、先輩」

「そうだな」

 

 BBは美遊と睨み合いながら、後ろ手でこちらにサインを送ってくる。すると、ジャックとジャンヌちゃんが駆けだしていく。

 

「美遊~初詣、行こ~」

「行きましょう~」

「え? え? ちょっとっ、待ってっ!」

 

 ジャックとジャンヌちゃんの二人が、美遊の片手をそれぞれで握りつつ連れていく。

 

「わたしたちと、行くのは嫌なの?」

「その、私達は一緒がいいのですが……」

「でも……」

「こっちはいいから、行っておいで。俺達も後ろから一緒に行くから」

 

 士郎が美遊を後ろから押し出すと、二人と一緒に進みだした。BBは士郎と腕を組んで進んでいく。BBは満面の笑みだ。

 

「コウ」

「マスター」

 

 俺の方もかなでとシータが腕を絡めてくる。そのまま古びた寺院へと向けて移動していく。

 

「わたしたちはお祭りって初めてなんだ~」

「私は祝祭なら経験した事があります。えっへん!」

「おぉ~」

「えっと、元旦はお祭じゃありませんよ。もともとは年籠りといい、家長が祈願のために大晦日の夜から元日の朝にかけて氏神の社に籠る習慣で……」

「お祭じゃないの? 出店は?」

「ありません」

「わたあめは?」

「ありません」

「そんなぁ~」

「リンゴ飴……」

「甘酒はあります。あと、お守りと御神籤じとかもあるので……」

 

 美遊が落ち込んだ二人を一生懸命に励ましている。俺達保護者は先を歩いていく三人を見守りながら、進んでいく。

 

 

 

 寺院には既に何人もの住人やプレイヤーの人達が集まっている。そのプレイヤーの人達の目当ては丸わかりだ。それは可愛らしい巫女さんが居るからだろう。そう、巫女さんがメディアなのだ。当然、隣には神主の服を着た葛木宗一郎先生も居る。二人は幸せそうだ。この二人を引き裂く事は流石にプレイヤー達はやらないだろう、多分。おそらく、プレイヤー達の狙いはもう一人の女の子。娘なのかは知らないが、巫女服を着たメディア・リリィが居るのだ。

 

「わたしたち、甘酒が飲みたい~」

「甘酒……」

「私は破魔矢が気になります」

「絵巻に興味があります」

「先ずはお参りだ。それと逸れたら大変だ。もし、逸れたら入口にある鳥居に集合だぞ」

 

 飛び出していきそうな子達に注意する。シータもアーチャーなだけあって、破魔矢に興味があるようだ。メディア謹製の破魔矢……普通に使えそうだ。

 

「俺が並んでおくから、皆で楽しんでおいで」

「では、私は先輩と並んでいます。いいですよね、先輩?」

「ああ、そうだな。じゃあ、悪いが頼む」

「いや、こっちこそ悪い」

「気にするな」

「そうですよ。さっさと行ってきてください」

「わかった」

 

 幸せそうなBBにせかされて、俺は五人を連れていく。取り敢えず、近場からおみくじを引きに行く。御神籤の売り場は絵巻なども売っているのだから、丁度いいだろう。

 

「わくわく、わくわく」

「何が出るか楽しみですね」

 

 並んでいると、順番が来てメディア・リリィが売り子をしている。というか、何故かリリィがいっぱい居る。おそらく、式神だろう。

 

「何をお求めですか?」

「取り敢えず、御神籤を人数分頼む」

「わかりました。神のご加護がありますように……」

 

 そう言って、差し出されてくる御神籤の入った箱。一回1000円と高い値段だ。だけれど、人数分頼む事にした。

 

「わたしたちから引くね! えいっ!」

 

 ジャックが引いたのは吉だった。

 

「吉だ~。えっと、願いが叶うでしょう? じゃあ、おかーさんとえっふぐっ!?」

「何を言おうとしているんですか、この馬鹿娘さんは」

「ぶ~じゃあ、いっぱい解体できますよ~に?」

「というか、それはあちらですから、違います」

「そっか~。で、ジャンヌと美遊は何がでたの~?」

「私は……小吉です。うぅ……あんまり良くないです。美遊さんは?」

「わ、私は……その、だっ、だ……」

「「だ?」」

「……大凶……でした……」

 

 ずーんという感じで沈んでいる美遊。大凶……原因はわかる。BBだろう。それとも、これからの運命か? かなりやばいようだ。内容も物騒な内容だ。選択肢を間違えると絶望の淵に沈むとか、大切なものを失うとか。悪い事ばかりだ。

 

「大丈夫だ。どうにかなるだろう」

「はい……」

 

 美遊の頭を撫でて落ち着かせる。

 

「俺達が守ってあげるからな」

「そーだよ!」

「守ってみせます!」

「あっ、ありがとうございます……」

 

 俺も引いてみよう。俺も小吉だった。シータとかなでは中吉だった。その後、絵巻を士郎達の分も買って、甘酒を貰ってBB達と合流する。破魔矢は後回しだ。嵩張るからな。

 

「そう言えばプレゼントがあったな。開けてみるといい」

 

 ジャンヌちゃんの宝具で手に入れたプレゼントを配っていく。楽しそうに開ける子供達。入っている物は様々だったが、御神籤の良さに連動しているような感じだった。こんな事をしていると、俺達の順番がやってきた。

 

「先輩と結婚できますように……」

「皆が幸せでありますように……」

「お兄ちゃん達が健やかに過ごせますように……」

「おかーさん達とずっと仲良く過ごせますように……」

「皆さんに祝福がありますように……」

「マスターのお役にたてますように……」

「今年も無事に皆で生きられますように……」

「どうか、皆を幸せにできますように……」

 

 それぞれの願いを神様に祈っていく。何時までも、こんな風にしていられたらいいのだが……そうはいかないだろう。今も、大衆の中から俺達に、俺に向けられる憎悪の籠ったような嫉妬の視線がいっぱいあるからな。

 

「さて、これからどうする? 食事にでも行くか?」

「あ、俺はシータと破魔矢を買って来るんで、先に帰っててくれていいですよ」

「いえ、それなら皆で買い物をしてきてください。私と先輩で破魔矢を買ってきますから。街の案内は美遊にさせれば大丈夫でしょう」

「そうだな。それで、どれだけ買うんだ?」

「お、お兄ちゃん?」

「美遊なら街の事は詳しいしな。護衛も問題ないだろうから、行っておいで」

「はい……」

「で、どれだけ買うんだ?」

「破魔矢の効果次第だけど、不死者とかに特攻があるなら大量に欲しい」

「わかりました。買っておきましょう」

 

 BBがそう言った瞬間、脳内に念話が届いた。

 

『私は先輩とデートしてくるので、美遊の事を任せますよ。代わりにいっぱい買ってあげますから。返事は要りません。頷くだけで結構です。後、これを美遊に飲ませてください。大丈夫です、元気になる物ですから。むしろ、いい感じになりますよ』

 

 BBは直に俺のポケットに何かを入れてきた。取り敢えず、頷いて心配そうにしている美遊を連れて、ジャック達と共に町へと繰り出した。

 

「先輩、せっかくの二人っきりです。楽しみましょうね」

「そうだな……他の連中も……」

「先輩?」

「いや、なんでもない。それで、何処か行きたい所はあるのか?」

「はい、もちろんです♪」

 

 俺は一瞬振り返って、ソレを見た。BBと士郎の回りに隠れるように霊体化した存在により、二人に声をかけようとした奴等が密かに殴り飛ばされたり、蹴り飛ばされたりしているのを。その姿は巨乳にかぎ爪の腕を持った女性と、スレンダーで刺々しい靴を履いている少女だ。最強の布陣でデートを挑んでいやがる。一瞬、BBと目が合うと、目だけで邪魔をしたら殺すと言われた。俺は大人しく、皆と初売りの店へと出かけていく事にした。殺されたらかなわん。

 

 

 

 




士郎君の明日はどっちだ!

BB 
危険度:EX 
ステータス:不明。好きな物を作り出せる。先輩との逢瀬を邪魔する者には地獄の苦しみをプレゼントです。
メルトリリス
危険度:S 
ステータス:カンスト。基本的になんでも溶かして吸収する。でも、下がる男とワカメだけは勘弁ね。
パッションリップ
危険度:S 
ステータス:攻撃力限界突破。基本的になんでも壊せる。キュッとして、バンッ、ですか?



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第20話 二人はおるおる?

 

 

 美遊、ジャック、ジャンヌちゃん、シータ、かなで、俺の五人でスノーウッドの街を歩いていく。新年だからか、ゲームだからかは知らないが、既に空いている店もあった。もっとも、滅びかけている廃墟の街なので、そこまで人はいない。

 

「あっ、タコ焼きだ~」

 

 しかし、プレイヤーは別だ。プレイヤーなら、あちらの世界から食糧も持ってこれる。いや、道具すら持ってこれるのだから、店ごとは無理でも屋台やそれに伴う道具は持ってこれるかも知れない。

 

「おかーさん、買って買って!」

「わかった。三人前……六人前、買っておいで」

「わ~い」

「私達も手伝いましょう」

「うん」

 

 ジャックにお金を渡して勝って来てもらう。六人前にしたのは簡単だ。どうせ、残ったらかなでが全部食べてくれるからだ。

 さて、ジャック達三人は、お金を受け取って屋台のお兄さんの所まで駆けて行った。

 

「おじさん、タコ焼き六個ちょ~だい!」

「あいよ。三千円だよ」

「三千円って、どれかな?」

「これじゃないですか?」

「違います。これです。買い物をした事はないんですか?」

「ないよ~。わたしたちは産まれる事が出来なかったから……」

「え?」

 

 美遊は混乱している。まあ、普通はそうなるよな。彼女達は過去の英雄達だ。現代に生きている訳ではない。

 

「わたしたちは過去に死んだ存在なんだよ。それをおかーさんが呼び出してくれたの!」

「あ……サーヴァントだから……ごめんなさい」

「だいじょーぶ。わたしたちはおかーさんと出会って幸せだから!」

「そうなんだ……よかった」

「二人共、出来たみたいですよ」

 

 話し込んでいる二人をよそに、ジャンヌちゃんがタコ焼きを受け取ったようだ。

 

「美遊、何処か食べる所はあるか?」

「それなら……」

 

 美遊の案内で近くにある公園へと移動した。公園には屋根のある休憩スペースが有った。そこに皆で入る。俺は兎の皮を取り出して、敷物にして女の子達を座らせる。湯気を出すタコ焼き興味津々なご様子なので、さっさと食べさせてあげよう。

 

「熱いから気を付けて食べるんだぞ」

「は~い!」

「あの、どうやって食べるんですか?」

「この爪楊枝で刺してだ。ほら、あ~ん」

 

 食べ方を聞いてきたので、爪楊枝でタコ焼きの一つを刺してジャンヌちゃんに差し出してあげる。

 

「あっ、あ~ん」

 

 ぱくっと齧りついた瞬間、はふはふしながら一生懸命、口を動かして冷やしながら美味しそうに食べていく。

 

「おか~さん、わたしたちも食べさせて~」

「いいぞ。でも、熱いぞ」

「ジャックにはこの暑さは無理ですよ」

「そんな事ないもん!」

 

 ジャックが口を開けてくるので、外側を冷やして食べさせてやる。

 

「っ⁉ あちゅいぃいいいいいいいいいぃぃぃぃっ⁉」

 

 椅子から落ちて、床を転げまわるジャックを慌てて抱き寄せる。

 

「あちゅいっ、あちゅいよぉぉぉっ、たしゅけてっ」

「これ、水です」

「ありがとう。飲めるか?」

「んゅ~!」

 

 ペットボトルをジャックの口元にやるが、暴れて殆ど零してしまう。仕方ないので、水を口に含んで口移しで強制的に飲ませる。

 

「んっ、んんっ! じゅるっ、ごくっ」

 

 タコ焼き味だった。まあ、無理矢理飲ませた。しかし、ジャックは猫舌なんだろうな。何度か飲ませると、ようやく落ち着いてきたようだ。しばらくしてジャックが舌を入れて絡めて来た。魔力を吸われていく。治癒力でもあげているのかも知れない。

 

「っ……」

「むぅ~」

 

 美遊とジャンヌちゃんは真っ赤になって、こちらを見ている。シータは追加の水を取り出していた。かなでは雪を取ってきてくれた。

 

「これ、入れておく」

「ひゃ~い」

 

 雪で舌を冷やして、ジャックはようやくましになったようだ。タコ焼きの中は物凄く熱いからな。それにしても、サーヴァントといえども内部からの攻撃には弱いのかも知れないな。ジャックが猫舌というのもあるのかも知れないが。いや、もしかして……マスターから与えられたから防御力が働かなかったのかも知れない。

 

「ジャック、大丈夫? アヴァロン、要る?」

「うん、大丈夫だよ~アヴァロンは……ちょっと欲しいよ~」

「ん、わかった」

「便利だな、おい」

「ん、優秀」

 

 ジャックに鞘を持たせる。すると、直ぐに治ったようだ。しかし、タコ焼きを前に唸って止まっている。

 

「中を割って、冷やしてから食べたらいいぞ」

「なるほど、そうすればいいんだね!」

 

 ジャックにタコ焼きを割ってから、ふーふーして冷やして食べさせてやる。すると、嬉しそうに食べていく。俺はかなでと一緒にそれを見ながら、俺達も食べる事にする。

 

「ジャンヌ、ジャックもその、あの夜みたいな事をしているの?」

「キスまでですね。でも……興味はあるので、時間の問題かと思います。前も止めるのを苦労しました」

「確かにそうだね……私も、お兄ちゃんとなら……」

「駄目ですからね。兄弟となんて、いけません」

「それは……」

「それに士郎さんは……その、美遊の事を妹としかみてないですよね……」

「うっ……そうなの。何度か、下着姿で迫ったのに……」

 

 ジャンヌちゃんは美遊と話しつつ、BBの依頼を達成するために頑張ってくれている。

 

「マスター、何かが来ます」

「ん?」

 

 シータの声に空を見上げると、空からトナカイに引かれたソリが降りて来ている。その背にはあのお方がいらっしゃった。そのお方はソリから袋を持って飛び降りてきた。

 

「メリークリスマス」

「なっ、なんでここに居るんですか!」

「なに? もう過ぎているだと? 今回はそこな小娘にサンタを譲ったから仕方なく、良い子にお年玉を配りに来たのだ」

 

 ジャンヌちゃんの言葉に堂々と返事をするアルトリア・ペンドラゴン・サンタ・オルタ。サンタ衣装のセイバー・オルタだ。

 

「お年玉っ!? くれるの!」

「ああ、いい子にはあげよう。そちらの小娘もな」

「いいんですか?」

「うむ。しかし、欲しければ力強くで奪うがいい。特にそこのお前は我が力を持つに相応しいか為さねばならん」

 

 そう言いながら、袋と黒い聖剣を構えるサンタオルタ。

 

「ひぃ~怖いです、無理っ、無理ですトナカイさんっ!」

 

 ジャンヌちゃんは俺に抱き着いて、隠れてしまった。

 

「ええい、貴様はそれでも二代目サンタか! どうやらここで鍛え直さねばならぬようだ」

「え!?」

「我が呼び声に答えよ、我が分身よ!」

 

 サンタオルタが聖剣を掲げると、空からもう一人のオルタが降ってきた。こちらは黒い鎧にバイザーという完全装備。

 

「増えました! 増えましたよ!」

「わ~凄い~」

「ふははは、貴様の相手は……」

「かなで、サンタじゃない方を頼む」

 

 サンタオルタが話している最中に、俺の指示でかなでが飛び出してセイバー・オルタと互いの聖剣を激突させる。

 

「この人は引き受ける」

「ほぅ、紛い物風情がこの私とやり合うつもりか。いいだろう、身の程を教えてやる」

「ああ、教えて貰え。かなで、そいつはアルトリア・ペンドラゴンの闇落ちバージョンだ。戦い方を覚えるには持って来いの相手だ」

「うん、教えて貰う。お願いします」

「む? 貴様、私を教材にするつもりか。いいだろう、ついて来い」

「ありがとう」

 

 二人は離れた位置に走って行き、そこで剣戟を交え始める。やはり、かなでの方が押されているが、段々と追いついていく。すると、更にセイバー・オルタが力を入れていく。律儀に引き上げていくつもりのようだ。

 

「さて、我等も始めるとしようか。先ずは前哨戦だ」

 

 サンタオルタが指を鳴らすと、二足歩行の剣を持ったトナカイが多数現れた。

 

「剣とか殺意高いです!」

「この程度……」

「シータ、頼む」

「はい、マスターの御心のままに」

「む」

 

 シータが一瞬で炎を纏った矢を放て、トナカイ達を撃ち滅ぼしていく。

 

「なかなかやるではないか。どれ、私自らが相手をしてやろう」

 

 魔力放出を使って、地面にクレーターを作るような爆発を起こして加速してくる。更に袋も剣も魔力でコーティングして殴り、斬りかかってくる。俺はジャンヌちゃんを守る為に影を操って壁を作る。

 

「温いわ!」

 

 たったひと振りで斬り裂かれ、粉砕される。時間稼ぎにすらならない。

 

「っ⁉」

「まずは一人だ」

 

 袋で思いっきり殴り飛ばされ、吹き飛ばされる。ゲームを始める前の元の身体なら、間違いなく即死だっただろう一撃を受けて意識が飛びかける。

 

「トナカイさんっ!?」

「ほら、戦わねばトドメを刺すぞ。いや、その前にもう二人要るか」

「わたしたちを忘れるな~」

 

 ジャックが飛び込んで、解体しようとするが近付く事も出来ずに剣で捌かれ、袋で弾き飛ばされる。

 

「ジャック!? なんで、ライダーじゃないんですか!」

「貴様はお頭まで悪いのか? アサシンが正面から襲い掛かってきて、騎士王の英霊たるこの私に勝てるとでも、本当に思っているのか? ああ、奇襲しようとしても無駄だ。私の直感は全てを見通す」

 

 にやりと笑うサンタオルタ。つまり、昼間の現状では幸運判定が行われるはずのものを……直感で乗り切るのだろう。ジャックの解体聖母が封じられている。普通のゲームだったら、こうはならないが……これはVR。現実の戦闘と同じだ。弱点は補えるのだろう。そもそも、当たらなければ意味が無いのだから。

 

「うぅ……」

「ジャンヌ……」

「仕方ない」

 

 サンタオルタの瞳が美遊を捕らえる。慌てて走る。しかし、その前にサンタオルタが到着するのが速く、美遊に黒い聖剣が振り下ろされる。

 

「ひっ!?」

 

 虚数魔術を使って、影を操って聖剣を受け止める。直ぐに破壊されるが、微かな時間が稼げた。その間に身体を潜り込ませて、美遊を抱きしめながら押し倒して盾になる。直ぐに背中に熱い感覚がしてきて、激痛に苛まれる。

 

「おっ、お兄さんっ‼‼」

「トナカイさんっ!」

「だい、じょうぶだ……必ず守るから……ジャンヌちゃんも……」

「ほう、我が聖剣を受けて汚染され……既に汚染されているではないか!」

 

 胸から出ている聖剣をしっかりと腕で掴む。

 

「むっ。無駄な抵抗を……」

「無駄じゃ、ないです……」

「そうだ、無駄じゃない。ジャンヌちゃん!」

「はいっ!」

 

 ジャンヌちゃんがサンタオルタに向かって槍を振るう。サンタオルタはがっちりと虚数魔術まで使って抑え込んでいる聖剣を手放し、袋だけで対応する。

 

「トナカイさんを傷つけた貴方は許しませんっ!」

「サンタを満足にできもしない小娘が、吼えるな!」

「私はジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ! 二代目サンタです! だから、初代である貴方を超えてみせます!」

「よろしい、ならば戦争だ!」

「っ!? せっ、戦争っ!? だ、駄目です! 負けません!」

「そうだよ!」

 

 ジャックがサンタオルタの背後から接近する。それに対して、袋を地面に振るって周りを陥没させる事で発生する余波で、二人の攻撃を防ぐ。ジャンヌちゃんとジャックは吹き飛ばされ、サンタオルタが追撃を掛けようとするが、そこに赤と黒の矢が降ってきて、一気に炎を膨張させて周りを灼熱の地獄へと変化させる。内部は一瞬で結晶化するほどの高温となり、生物が住んでいられないようになる。

 

「くっ……マスター……」

 

 視線をシータの方に向けると、シータが地面に倒れていく。弓も消えて、動かなくなった。生きている事はラインから確認できるので、魔力切れのようだ。

 

「だ、大丈夫……?」

「ああ、俺もシータもなんとかな……美遊は苦しくないか?」

「だ、大丈夫……でも、それ……」

「ああ、これだな」

 

 美遊に手伝って貰って起き上がり、突き刺さったままの聖剣を影の中に取り込む。どうせなら、貰ってしまおう。開いた傷口からは血がドバドバと出ているが、呼び出した泥を使って塞ぐ。同じ属性の物だからか、傷口にもピッタリとあった。これがかなでの持っている聖剣だったら話は違っただろう。かなでの方を見ると黒い聖剣と金色の聖剣が激しくぶつかりあっている。シータの看病もしないといけない。

 

「トナカイさんっ!」

「おかーさん!」

 

 心配そうに駆け寄ってくるジャンヌちゃんとジャック。

 

「こっちは大丈夫だ。それよりも……」

「流石に倒せましたよね? でも、これだとお年玉が……」

「問題ない」

「「「え?」」」

 

 灼熱の地獄から、()()()()()()()のサンタオルタが出てくる。その手には白い袋の代わりに()()()が握られていた。

 

「アヴァロンが無ければ即死だったな」

「流石はアヴァロン、汚い!」

「反則だよ!」

「何を言っている。あっちも持っているではないか」

「まあ、そうなんだけどな」

 

 ジャンヌちゃんとジャックが俺達の前に出て、構える。二人は決意したような表情で、サンタオルタの隙を探している。

 

「だが……ごふっ」

 

 口元に手をやりながら、血を吐くサンタオルタ。

 

「ここまでのようだ。私にアヴァロンを使わせたのだから、此度は貴様等の勝ちとしてやろう」

「本当!?」

「じゃ、じゃあ……」

「うむ。二代目サンタとして赤点は勘弁してやろう」

「よ、よかったです……」

「さて、お年玉をあげようと思ったのだが……全て燃えてしまった」

「あっ……」

「そんなっ!?」

 

 子供達の視線がシータへと向かうが、こればかりは仕方ない。むしろ、ファインプレーだろう。後でご褒美を上げないといけない。

 

「仕方ない。ここは……」

「貴様の聖剣でいいだろう」

「む」

 

 セイバー・オルタがかなでを引き釣りながら戻って来た。そのまま、かなでを片手だけで放り投げてくるので、慌てて抱きとめる。そのままの勢いで尻餅をついてしまった。腕の中に居るかなでは多数の怪我をして気絶しているが、それらは直ぐに治っていっている。

 

「奪われたのは貴様の落ち度だ」

「まあ、よかろう」

「わたしたちには~?」

「……おい、何かもっていないか、セイバー」

「私が渡すのか?」

「後で奢るから、寄越せ」

「仕方あるまい。魔力放出と直感だ。小娘共、どれがいい?」

「私は直感でお願いします」

「わたしたちは魔力放出で~」

 

 二人は嬉しそうに貰ったスキルカードを掲げて走っている。まさに子供だ。そして、サンタオルタが美遊に近付いてくる。

 

「お前は幸薄そうだから、これをやろう」

「え?」

 

 黒い鞘を美遊の身体に突き刺し、そのまま入れてしまった。

 

「これでそう簡単に死ぬ事はなかろう」

「あ、ありがとう……」

「ふん。不甲斐なければ返して貰う」

「かなでと言ったか、その小娘に伝えておけ。次は容赦せぬと」

 

 そう言って、二人のアルトリア・オルタは降りて来たソリに乗っていく。

 

「では、我等は次の良い子の所に向かうとしよう。そうだ、来訪者のマスターよ。商店街で福袋ガチャをやっている。行ってみるがいい」

「さらばだ」

 

 空へと上がって去っていく二人。後にはデコボコの公園だった何かの空間があった。まさに災害である。その後、街中で悲鳴や爆音が木霊した。俺達は治療の為にゆっくりとしてから散策に戻る事になった。シータには魔力をたっぷりと混ぜた唾液を口移しで飲ませて、動けるくらいには魔力を供給しておいた。夜には本格的に補給をしないと不味いだろう。

 

 

 

 

 




サンタオルタとセイバー・オルタでした。二人は来訪者にも公平に高価なお年玉というプレゼントをくれます。 勝つか認められたら ですが。
比較的、簡単な攻略方法……対界宝具か対軍宝具を用意しましょう。単体宝具は駄目です。避けられます。ゲイ・ボルクなどならば可能ですが。



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21話

大掃除で時間がとれなかったです。


 

 

 オルタの襲撃が終わり、俺達はかなでが目覚めるまでゆっくりと過ごす事にした。数分後、かなでが目覚めたので食糧を買いに商店街へと移動した。そこでは新年を祝って色々なお店が出ている。女の子だけあって、服などに興味があるようだ。というか、着替えもろくになかったな。

 

「どうせだから予備の服や私服とかが無かったから、買って行こうか」

「それだったら、良いお店がある。こっち」

 

美遊がお勧めの店を教えてくれるそうなので、そちらに移動した。そこは高級ブティックの店で、どれも質がいい高い物だった。最低でも五桁って、高過ぎる。

 

「新しい服、嬉しいです」

「わたしたちは別になんでもいいけど~」

「はい。服はよくわかりません」

「シータとジャックは絶対だ。普段の格好は露出が多すぎる」

 

二人はほぼ下着みたいな感じだからな。是非とも、ちゃんとした服を着させねば。だいたい、お腹が冷えて大変な事になる。

 

「おかーさんがそう言うなら……」

「そうですね……」

「寒いだろうから、ジャンヌちゃんみたいな……かなでや美遊みたいな服にしような。寒いから」

「なんで言い直したんですか!」

「胸の部分が空きすぎだから……?」

「そうだ。という訳で、普通の服を買おう」

 

幸い、BBから貰った資金があるから問題ないだろう。

 

「美遊も買うんだぞ」

「いいの?」

「ああ、可愛いプレゼントだ」

「あっ、ありがとうございます……」

「大切にしてくれたらいい」

「はい」

「じゃあ、かなで」

「?」

「コーディネートは任せた。俺は外で待ってるから会計の時だけ呼んでくれ。センスに自信はないからな」

「任せて」

 

本当は俺が選んだ方がいいのだろうが、こんな店に入った事は無いし任せるしかない。かなでなら、女子高生なのだから現代風のファッションがわかっているだろうから問題なし。それに少しやる事がある。

 

「ほら、着飾った可愛い姿を俺に見せてくれ」

「は~い!」

「頑張ります」

 

女の子達を店の中に入れて、俺は外で店の壁に持たれつつBBに連絡を入れる為、念話を発動する。

 

『なんですか? 今、デート中なんですが? 殺しますよ?』

 

凄く機嫌の悪そうな声が聞こえてきた。直ぐに要件を告げる。

 

「今日は二人共、帰って来ないんだよな?」

『そのつもりです。まさか、それが本題じゃないでしょうね?』

「サンタオルタに襲われて、胸を貫かれた。まあ、生きてはいるが」

『ああ、あの人ですか。クリスマスが終わったので大人しくしているかと思ったら……美遊は無事なんですよね?』

「もちろんだ。誰も死んでないし、重体でもない。掠り傷くらいだな」

『そうですか。一応、そちらに護衛を一人回しましょう。先輩に伝えますので待ってください』

「はい」

 

向こうで話し合いが持たれているようだ。しかし、護衛か。どっちが来るかな?

 

『すまない、聞こえるか?』

「聞こえる」

 

念話が飛んできた相手がBBから士郎に代わっている。

 

『美遊は無事なんだな?』

「ああ。そっちは命懸けで守ったからな」

『胸に風穴が空いたそうですよ』

『それは無事なのか?』

「まあ、魔術で治したからな」

『そうか。美遊を守ってくれてありがとう。桜坂になら美遊を託せそうだな』

『そうですよ、先輩。何せ、私の弟子なんですから。だから、先輩は私と楽しみましょう。今、護衛も送りましたから大丈夫ですし』

『そうだな。じゃあ、頼むぞ』

「こちらは任せてくれ」

 

念話を終えて、俺は改めて回りを見る。護衛として送られて来るのはパッションリップか、メルトリリスだろう。現状、BBからしたら士郎の心配の種である美遊という障害を攻略するために、最大の戦力を出してくるだろうしな。

 

「しかし、女性の買い物は時間が掛かるか……」

 

取り敢えず、今の間に買い物だけをしておこう。そう思って、八百屋や肉屋を覗いて、必要な食材を購入していく。それから、店の前までくると、信じられない光景が待っていた。そう、それは店の前に出て、俺を待っていたかなで達を囲んでいる連中が居た事だった。()()()()はまだいい。かなで達はそれぐらい起こりうる美少女達なのだから。()()、問題はそいつらの頭部が空から降って来た女性によって斬り飛ばされた事だ。盛大な血のシャワーが降りぎ、回りから悲鳴が上がった。新たなる、トラブルの予感である。

 

 

 

 



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第22話 衛宮士郎

 

 

 

 念話という物を終えて、俺はテーブルに置かれている飲み物に口をつける。ここは桜に連れて来られて乗せられたこの崩壊した時代には不釣り合いな豪華な客船の食堂だ。生きている乗員は俺達だけで、他は人形だろう。

 

「これで良かったのか?」

「はい、完璧です」

「これで美遊の安全は保障してくれるんだな、桜」

「もちろんです。先輩も思う所があると思いますが、弟子に上げれば勝手に守ってくれますよ。ロリコンですし」

「はぁ……」

 

 桜が言う通り、桜坂はロリコンなのだろう。妻であるかなでが居て、サーヴァントであるジャックとジャンヌちゃんが居たのだ。まあ、どちらの趣味かは分からないが。どちらにしろ、あのまま友達が出来なければ美遊はもっと暗い娘になっていただろう。

 本来なら、美遊を託す訳にはいかないのだが、俺には時間が無い。無理矢理、クラスカードを取り込んで英霊の力を使い続けた代償で、俺という存在は長くは持たない。そうなれば残されるのは美遊一人だけになる。俺と置き換わった英霊が美遊を守ってくれればいいが、どうなるかなんてわからない。だが、美遊を狙う奴等は待ってはくれないだろう。その点、桜坂はサーヴァントを二体……いや、今は三体か。それにかなでも強力なクラスカードを持っている。これだけの戦力が有れば、少なくとも美遊を守る事はできなくても、逃がすくらいは出来るだろう。目の前からの奴からだって可能かも知れない。来訪者なのだから、別の世界に逃がす事だってできるだろうしな。

 

「どうしましたか?」

 

 問題は()()()()()()()だ。彼女が生きている事は嬉しい。だが、彼女は俺の知っている桜ではない。それを調べる為にも今まで付き合ってきたが、かなりおかしい。いや、そもそも世界は少し前からおかしくなっている。

 

「桜、お前は誰だ? いや、なんだ? 美遊にとって、お前は敵か?」

「ふふふ、直球ですね。いいですよ、先輩。私は美遊にとって、敵、でしょうね♪」

 

 微笑みを浮かべる桜に俺は、両手に干将・莫耶を投影してテーブルを蹴りあげて、斬りかかる。

 

「あはっ、激しいですね先輩っ!」

 

 桜は避ける事もせずに俺の干将・莫耶を突き刺させた。直に離れようとするが、()()から俺を抱きしめてきた。

 

「先輩ったら、せっかちなんだから。そんな先輩も好きですよ」

「そうですよ。先輩に与えられる痛みなら、それはそれでいいものです」

「もう、私ったらマゾなんですから」

 

 いつの間にか俺の回りには大量の桜が居て、俺を押さえこんで来る。景色も食堂だったはずが、天井や壁が全て消されていて甲板へと変化している。

 

「お前達は……」

「私達は間桐桜、本人ですよ。ありとあらゆる並行世界の間桐桜が、ムーン・キャンサーたるBBを基にして統合されただけです。世界も感じている通り、この世界は壊れて混ざって混沌としています」

 

 並行世界の融合か。だからこそ、あの壊れた世界は助かったのだろう。本来なら、あのまま世界は崩壊するはずだった。それに来訪者なんておかしな連中まで居るのだ。クラスカードの事から考えて、エインズワースも関わっているだろう。

 

「それで、お前達の目的はなんだ?」

「簡単です。今度こそ、今度こそ! 先輩と添い遂げる事です!」

「え?」

「わかりますか、先輩! 私達はどの世界線でも碌な目にあっていません! 例外は一人、二人くらいですよ! ふざけているんですか! なんでこんなに世界があって私達ばかり不幸な目に合うんですか! だいたい、先輩も先輩です! あんなに、こんなに尽しているのに、なんでぽっと出の金髪や傲慢で恵まれている悪魔なんかにぃぃぃっ!」

「あっ、悪い。でも、取り敢えず落ち着け。ほら、俺は逃げないから」

 

 桜の肩を掴んで、抱き寄せて撫でてやると落ち着いたようだ。

 

「こほん。取り乱しました。さて、先輩。私と取引をしましょう」

「取引か?」

「はい。先輩は願いましたよね、何だって良い。誰だって良い。力を貸せ。その代わりに俺の全部を差し出すと」

「ああ、確かにそう言った」

「でしたら、先輩の全部を間桐桜であり、BBである私達にください」

 

 両手を広げて宣言する桜達。なんだか、悪魔の契約に見えてくる。

 

「そうすれば、世界を総べる力を差し上げます。私はおそらく、この世界でも最強の存在です。この船だって私が作りました。私が望めば世界を救う事だって、高確率で出来ます」

 

 そう言いながら、一瞬で甲板にテーブルと数々の料理を作り出した。その席には様々な黒いサーヴァント達が居る。

 

「食料問題? エネルギー問題? 全て、このBBちゃんにお任せです。塵芥からでも生産してみせましょう。敵ですか? 核兵器でもぶち込めば終わります。その後は私が直せばいいんです。ほら、先輩が得られる力はそれほどの物です。()()()、いくら先輩の願いでも今のままの美遊だけは認められません」

「桜……」

「先輩には私だけの先輩になってもらいます。他の女なんて要りません。私達だけで定員一杯です。私と先輩の邪魔をするなら、地獄に叩き落してやります。特に私の邪魔をして、先輩に恋をしている美遊は見逃せません。彼女は有象無象ではないのですから」

「……美遊をどうするつもりだ」

 

 これだけは聞かないといけない。俺が力を求めるのはあくまでも美遊が普通の女の子として幸せに過ごせる事なのだから。

 

「殺しはしません。ただ、私達が経験した事を彼女にも味わってもらって、私達の言う事を聞くお人形さんになって貰います。その後は間桐桜がそうだったように、害虫の苗床とかですか」

「っ!?」

「私はそれでも良かったんですが、弟子が私と先輩の仲を取り持つから、美遊をくれと言ったので彼にあげる事にしました。私の邪魔をしないのならば構いませんし、私が先輩と結婚したら妹になる訳ですしね。家族には優しくしないといけないでしょう?」

 

 少なくとも俺と結婚したら、美遊を家族とは見做すのか。逆に言えば身内ですらなければ排除するという事だな。

 

「それで美遊は幸せになれると思うか?」

「さぁ? それは本人次第ですが、大丈夫じゃないですか? それに、先輩は忘れていますよ」

「なにがだ?」

「彼は私達二人の弟子です。弟子は生かさず殺さず鍛えて、調教するものですよ」

「それは違うだろう……だが、言いたい事はわかった。つまり、美遊を幸せに出来る男に作り変えればいいという事だろう」

「そうです。それに来訪者は自らの肉体データを書き換える事が可能です。実際に彼は私の泥を受け入れて、竜まで使って肉体を再構成してみせました。なら、可能だと思いませんか? それに私には願望機たる黄金の杯があります。不可能を可能にしてみせます。奇跡をただの必然にする事だって可能なのですから」

 

 どの道、俺には選択肢が無い。無茶をしまくったお蔭で、もう残された時間は少ない。心残りは美遊だけだ。その美遊を幸せに出来るのなら、世界を敵にしたって構わない。冥府魔導に堕ちようと大いに結構だ。

 

「いいだろう。契約成立だ」

「では、これから先輩は私の旦那様です」

「なら、旦那として願う。全力で美遊を守ってくれ」

「任せてください。既に私の手持ちの戦力で、最強の子達を送っておきました。例え、核兵器だろうと物理的に守ってくれますよ」

「おい、待て。何を送った」

「ふふふ、それは後のお楽しみです。それよりも、妻になった私とする事がありますよね?」

「はぁ~本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。だって、この世界で勝てるのは私か私の旦那様(マスター)である先輩と微かの一部だけですから」

「一部は要るんだな」

「それは仕方ありません。ミスブルーを初めとした魔法使いはわかりませんからね。ですが、BBちゃんだって負けていませんからね。いざとなったら、私がこの世界を上書きしちゃうんですから♪」

 

 駄目だコイツ。放置したら、絶対に暴走して碌な事をしでかさない。コントロール装置の無い終末装置だ。世界が終ってしまう。いや、俺がコントロール装置か。自分からマスターなんて言っているのだから。つまり、俺が桜を幸せに出来るか、出来ないかに世界が掛かっているのか。

 

「せ~んぱ~い♪」

 

 抱き着いてくる桜を抱きしめ返し、覚悟を決める。やるしかない。美遊の為にも、世界の為にも、お兄ちゃんは頑張ろう。いざとなれば英霊に……

 

「あ、先輩の寿命や置換は治しておきますね。でも、力だけは使えるようにしておきます。そうしたら、美遊の花嫁姿だって見れますよ」

「複雑だが……よろしく頼む」

「はい、任されました。末永く、永遠によろしくお願いしますね、先輩♪」

 

 どうやら、不老不死にされるのかも知れない。だが、まあいいだろう。桜にも幸せになって欲しかったからな。

 

 

 

 

 



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23話

マーリン狙いで4万爆死。☆5ゼロ。もうやってらんねぇです。正月までゆっくりになります。忙しいのもあるので、福袋にかけるよ!



 

 コウと別れて、ジャック達の服を美遊と一緒に選び、貰ったお金で購入した。暖かめな服に身を包んだ彼女達も嬉しそう。でも、どうせなら選んで欲しかった。

 

「あれ、居ませんよ?」

「多分、別の買い物。待ってよう」

「そうですね」

 

 こういう指示を出すのは苦手。言う事を聞く方が性にあっている。でも、年長者として頑張らないと。

 

「ねぇねぇ、アレなに?」

「魚さんの絵がありますから、魚屋さんですか?」

「?」

「あれは……」

「鯛焼きね。買って来るわ」

 

 無難に待つ時間を潰す為にも、丁度いいわ。屋台に並び、少しすると順番が来たので注文する。

 

「お兄さん、鯛焼きをそれぞれ10個ずつ、お願い」

「こしあん、つぶあん、クリーム、宇治金時を10個だね。えっと、間違いないかい?」

「ないわ。お金はこれでいい?」

「ああ、大丈夫だ。はい、おつり」

 

 40個も入った大量の紙袋とおつりを受け取って、皆の所へと戻る。

 

「はい、鯛焼き。四種類、あるから一人一種類ずつよ」

「わ~い! あま~い!」

「あったかいです。魚なのに甘いです!」

「魚の形にしているだけだから、魚じゃないよジャンヌ」

「そうなんですね……」

「食べ物、ですか?」

「そうよ。このまま食べたらいいみたい」

 

 美遊達を見ながら、真似して食べる。鯛焼きなんて、孤児院じゃ食べられない。甘味類は贅沢品だから。それにしても、口の中に広がるサクッとした感触に温かい甘み……とっても美味しいわ。これだけでも、結婚して良かったと思えるわ。甘味類を自由に好きなだけ食べられるのだから。

 難点はエッチな事をしないといけない事ね。まだ、身体の中をかき回されるのは慣れないわ。それに我慢しているけれど、やっぱり痛いわ。コウも最初は優しいけれど、理性が無くなると激しくなるから、痛い。傷はアヴァロンで直に治るけれど、痛みは感じるの。コウも私も始めたばかりだから仕方ないらしい。そうネットに書いてあったわ。もっと回数をかさねないと。それに練習も必要ね。私より身体の小さなジャックや美遊、ジャンヌともするのなら特に。私とシータでしっかりと練習して貰わないと可哀想。

 

「いる?」

「大丈夫よ。ありがとう」

「わぷっ」

 

 ジャックが私にクリームの鯛焼きを差し出してきたので、逆にこしあんの鯛焼きを口に入れてあげた。そろそろ数も無くなってきたので、別の食べ物を買おうとポシャットにある財布を取り出そうとすると、別の袋が指にあたった。そういえば、BBから渡された薬を入れていたんだった。夕食に混ぜるように言われたのよね。内容は知らないけれど、良い薬らしいから悪い物じゃないと思うわ。

 

「君達、可愛いね。どう、俺達とお茶しない?」

「一緒に狩りでもいいからさ。俺達、強いから」

 

 最後の鯛焼きを頬ばりながら考えていると、声をかけられたの上を向く。そこには金色の髪の毛をした男の人や茶髪の人達が居た。

 

「?」

 

 不思議そうに小首を傾げながら回りを見渡す。ここには私達以外に居ない。でも、私達は違うはず。ジャック達も不思議そうにしているから、間違いない。

 

「いや、君達だから」

「なあ、なんでも奢るからさ。俺達と……」

「奢ってくれるの? 良い人ね」

「ちっ、違いますよ」

 

 美遊が私を服を掴んでそう言ってきた。

 

「違うの?」

「いや、良い人だよ」

「そうそう。だから、俺達と一緒にいかないか?」

「らしいわ。そうね。取り敢えず、あのドネルケバブっていうのをあるだけと、あっちのアイスクリームを全部欲しいわ」

「「「え?」」」

 

 奢ってくれるらしい。とっても嬉しいわ。

 

「違うの?」

「そんな量を食べられ……いや、奢るから向こうに行こうぜ」

「そうそう、あっちの路地に……」

「駄目ですよかなでさんっ」

「? ここから動くのは駄目よ。人を待っているから」

「そうです。だから、お引き取りください。ナンパは必要ないです」

「ナンパなの?」

「そうですよ。だから、かなでさん達は絶対についていっちゃ駄目です」

「そう、美遊は詳しいわね」

 

 どちらにしろ、ナンパなら駄目ね。残念だけど、諦めましょう。

 

「いいじゃねえか」

「そうだ、行こうぜ」

 

 男達の一人が、私と美遊の腕を掴んで来る。少し痛い。

 

「駄目よ。私には夫が居るの」

「え? まじで?」

「? 結婚しているわ。だから、ナンパは成功しないの」

「まあ、関係ない。いいから来い」

「やっ、やめてくださいっ!」

 

 美遊と私は無理矢理腕を引っ張られる。回りを見ると、()()()()()()沢山の人で囲まれていた。ジャック達も同じで、武器を構えてどうしようか悩んでいる。

 

「ん、転身」

 

 呟く直ぐに服が分解されて、光の中で直に青いワンピースドレスが現れ、次に鎧と剣を身に纏い、転身が終わる。

 

「えっと、何をしているんですか?」

「? これが変身物のお約束だってゆりが言ってたから」

「かっこいい!」

「凄いです!」

「えっへん」

 

 美遊には好評じゃなかったけど、ジャックとジャンヌは喜んでくれた。だから、胸を張る。

 

「アルトリア・ペンドラゴンだとっ!?」

「なら、あの注文の量も頷けるっ!」

「全て食い尽くす気か!」

「どちらにしろ、鴨が葱を背負って来てるんだ。連れて行ーー」

 

 魔力放出で吹き飛ばそうとすると、嫌な気配がして急いで魔力放出で吹き飛ばし、美遊を掴んでいる人の腕を斬って美遊を抱きながら下がる。

 

「かなでさん?」

「動かないで。皆、隠れて」

 

 直ぐに私の後ろに皆が隠れてくれたので、全て遠き理想郷(アヴァロン)を展開する。この宝具は確実に守れるのは使用者一人だけど、私自身が盾になれば後ろが守れる。そう思っていたら、空から女の人が降って来た。女の人は空中で回転しながら両手の大きな爪で男の人達を一瞬で斬り裂いた。私の方にも攻撃が来たけれど、それはアヴァロンのお蔭でちゃんと防げた。人から血がいっぱい出て、悲鳴が木霊する。

 

「……防がれ、た……?」

 

 その人は、とても、とても大きな胸をしていた。信じられない事に紐で乳首を隠している変態さんだった。

 

「……お母様の命令は、護衛……これ、要らないよね……ごみ箱、ポイしなきゃ……」

「っ⁉」

 

 私は大丈夫でも、回り込まれたらまずい。直感が直ぐに逃げるかアヴァロンに籠れと言っている。でも、どちらも出来ない。

 

「ちょっと待ったっ!」

 

 悩んでいると、コウが戻って来た。それも私と女の人の間に入った。危ない。

 

「……なんですか……?」

「お前、パッションリップだろ」

「……そうですけど……」

「俺はBBの弟子で、この子達は俺の妻とサーヴァント。敵じゃない。どちらかというと護衛対象に近いはずだ。BBに確認してみてくれ」

「……お母様に? 面倒……です……」

「こっちで連絡して、入れるようにいうから、ちょっと待ってくれ」

「仕方ないですね」

 

 コウがなにかすると、相手の人が両手を下げた。

 

「お母様が護衛を任せるとの事です。私とメルトは面倒なので、力だけ貸すから……好きにして」

「え? ちょっ!?」

 

 言う事を言ったのか、女の人は胸の中からクラスカードを取り出して、それを高速で美遊に投げた。そのカードは美遊の中に吸い込まれていく。

 

「死なないか、残念……」

 

 彼女も光ってクラスカードになってしまった。そのカードは一人でに動いて、美遊の中へと入っていく。

 

「コウ?」

「ああ、なんだ。美遊が力を手に入れたと思ったらいいだけだ」

「コウがそういうなら、わかったわ」

 

 良く分からないけれど、別にいいわね。それよりも、この死体。どうするのかしら? でも、おかしいわね。沢山あった死体が殆ど消えているわ。何故?

 

 

 




メルトリリスだと思った? 残念、パッションリップでした。
理由は簡単です。BBが配慮しました。メルトリリスがメインで行くと超危険ですからね!


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24話

 

 

 パッションリップの襲撃(?)から逃れた俺達は福袋を販売している店へと移動した。そこではおなじみになった麻婆神父がいた。それも近くには麻婆を売っているのだ。

 

「う~辛いのだ~」

「美味しいけど、辛い奴ですね」

「うぅ……私は辛いのが苦手です」

「そう? 美味しいのに」

 

 かなで達は襲撃の事を忘れたように楽しそうに話している。まあ、あんなことはどうでもいい。そんなことよりも麻婆神父だ。彼が福袋の販売員のようだ。福袋は見た感じ五段階あるようだ。

 

「あの、福袋が欲しいんですが……」

「なら、星1の福袋が1万だ。星2は10万、星3は100万、星4は1000万。星5は1億だ。それぞれ星のサーヴァントが確定で入っている」

「横暴だよ!」

「高すぎます……」

「コウ、買える?」

「無理だな。諦めるか」

 

 流石にそんな金はない。BBに借金すればいけるかも知れないが、後が怖すぎる。

 

「マスター、こちらに参加すればいけるのではないですか?」

「ん?」

 

 シータが服の裾を引っ張って、教えてくれたのは麻婆料理のメニューだった。難易度は1から5があり、攻略すると難易度と同じ星の福袋が貰えるらしい。

 

「ふ、気付いたか。この福袋を大金を使わずに手に入れるには私が用意した料理を平らげることだ。食べた数によって福袋を手に入れられる数が増える」

 

 どうやら、10皿完食毎に福袋が追加されるようだ。

 

「一度の挑戦でいくらだ?」

「一人1万だ」

「かなで、いけるか?」

「任せて」

 

 両手で握り拳を作り、脇を閉めるかなで。やる気満々である。

 

「では、何に挑戦するかね?」

「当然、ランク5よ」

「ふむ。その心意気やよし。全力を持って相手をしよう」

「おとーさん、私達も食べたい」

「ジャック達は普通のにしておこうな」

「は~い」

「味見とかはありますか?」

「見本をみせよう」

 

 そう言って麻婆神父が5皿を出してくる。最初は赤く、どんどん黒くなっていっている。3方は近づくだけで肌が痛くなってくる。5に至ってはもっとやばい。焼けそうな感じすらする。人間の食べ物じゃない。

 

「マスター、私も挑戦してみていいですか?」

「シータが?」

「はい。やってみたいです。マスターが駄目だというのなら、諦めますが……」

「いや、構わない。じゃあ、二人で残りは普通に食べるか」

「心得た。チャレンジャーは二人だな。期待するとしよう。では、まずは優しい麻婆カレーだ」

 

 店頭に用意された席に座って食べていくことになる。すぐにギャラリーが集まってきた。かなでとシータに出されたランク5の麻婆カレーは唐辛子がしみこまされたであろう赤い米に黒いカレールーがかけられ、その上にまるでトッピングのように唐辛子の粉末がかけられている。その料理がだされた瞬間、ジャンヌちゃんと美遊は泣いて離れた。ジャックは涙目で耐えている。俺もきついが離れる訳にはいかない。野次馬も離れた。

 

「では、制限時間は一時間だ。精々足掻くがいい」

 

 その言葉と同時に巨大な砂時計が回転して開始を知らせてくれる。二人はすぐに食べ出した。

 

「どうだ?」

「辛いわ。でも、美味しい。これならいけるわ」

「……ちょっと、つらいですが……問題ありません……せめて10皿はマスターの為にも食べきってみせます」

「そうか。じゃあ、俺達は応援しよう」

「そ、そうですね!」

「頑張ってください」

「ふれーふれー」

「ん。ありがとう。それとおかわり」

「はやっ!?」

 

 もう一人前を完食したようで、次の料理を出せと麻婆神父に告げるかなで。麻婆神父も笑いながら次は麻婆豆腐をだしてきた。それを一分もかからずに完食してしまう。

 

「すげー」

「あんなの食えないぞ」

「というか、食べ物じゃねえだろ。兵器だぞ兵器」

 

 もきゅもきゅという感じでどんどん消えていく。麻婆春雨や茄子、拉麺などが出されるが何の問題もなく食べている。いや、シータとかなでの汗の量が尋常じゃない。

 

「ほら、水をしっかりと飲めよ」

「ん、ありがとう」

「ありがとうございます」

 

 そこでふと気付くと二人の服が汗で透けてきていた。流石に暑いのか薄着になっていたので見えてきている。男共の視線がどんどん集中してきている。

 

「おい何しやがるんだ!」

「えっちいのはいけません!」

 

 ジャンヌちゃんが槍をもって振り回し、近付こうとしていた連中を追い払った。

 

「おかわりー!」

「ほう。童女もなかなかやるではないか」

「えへへへ、次は星4ね!」

「うむ」

 

 知らない間にジャックも参戦しているようで、既に星3を10皿食べ終えていた。

 

「ふう……面倒ね。鍋ごと持って来て」

「っ!? いいだろう!」

 

 どんと、机の上に置かれるのは巨大な鍋。その中には化学薬品どころかマグマのような麻婆豆腐があった。

 

「これは予想以上。でも、転身」

 

 かなでがセイバーモードになった瞬間、鍋を掴んで一気に飲みだした。野次馬から拍手が起こった。

 

「麻婆豆腐が飲み物だ、と!?」

「流石はセイバー、アルトリア。底なしの胃袋か!」

「むしろ、鉄、いえオリハルコンの胃袋っ!」

「これで何皿分かしら?」

「ぐ……20皿だ。だが、まだ負けん!」

 

 分身を作って料理していく麻婆神父。そんな中、マイペースに食べていくシータとジャックちゃん。

 時間が経ち、一時間を過ぎるころには大量の鍋や皿が積み重なっていた。

 

「えっと、シータが5を12皿で、ジャックちゃんが4を19皿、かなでは……」

「129皿分だな……」

「ぶい!」

 

 可愛らしくブイサインを出してくるかなでを抱きしめて、撫でてやる。

 

「身体は大丈夫か!?」

「平気よ。むしろ幸せなひと時だったわ」

「おとーさん、おかーさん凄いね! 私達は全然だったよ」

「いや、充分だ。よくやった」

「えへへへ~」

 

 ジャックを二人で抱きしめて撫でてあげる。ジャンヌちゃんもとシータもやってきたので撫でてやる。すると男どもの視線がやばい。というか、女もだ。何故かと思ったらシータを見ているようだった。シータ&ラーマ信者かも知れない。

 

「さて、福袋よ。合計で星5が13回。4が1回ね」

「いいだろう。選ぶがいい!」

「おかーさん、おとーさん、引きたい引きたい!」

「いいよ。ジャックは4と5を引くと良い。まずは一人一回だな。美遊ちゃんもな」

「私もいいんですか?」

「構わないわ」

「ありがとうございます」

「たのしみですね!」

 

 誰から選ぶかは悩むが、ここは功労者であるかなでから引いて貰う。

 

「かなで」

「さっさと選ぶがいい」

「そうね……これにするわ」

 

 迷う事なく、星5の中から一つの袋を取ったかなで。

 

「中身はなんですか?」

「なんだろー?」

 

 かなでが中を開くと一枚のクラスカードが入っていた。

 

「アルトリア・ペンドラゴン。ランサーね」

 

 そのカードはかなでの中へと光となって消えていった。

 

「どうやらクラスを選択できるようになったみたいよ。クラス・ランサー」

 

 セイバーモードからランサーモードへと変化すると、白銀の鎧へと変化する。しかし、身長は変わらないようで、本人も胸を押さえてがっかりしていた。

 

「うぅ……成長していないわ……」

「今のかなでが俺は好きだぞ」

「そう……なら、いいわ……」

 

 抱きしめて撫でまわしてあげると、納得したようでジャックの方へと視線をむけた。

 

「えっと、じゃあ私達はこれだよ! あっ、これ私達だ!」

 

 ジャックが選んだ福袋にはジャックのカードが入っていた。

 

「おい、どういうことなんだ? 普通なら有り得ないだろ」

「ふっ、持ち主が引いた場合、そのカードも入っている。強化に使えるのだ」

「なるほど」

 

 これで解体聖母がレベル2になるのか。

 

「星4はこれ! なんか呼んでる気がする!」

 

 現れたのはナーサリーライムのカードだった。確か、イベントでも仲良しだったよな。まあ、人形がないので召喚はできないが。シータみたいに受肉するとどうなるかわからないので危険すぎる。それにナーサリーライムは不安定だった気がするしな。

 

「次は……」

「あ、お先にどうぞ」

「ありがとうございます! じゃあ、私が引きますね。来てください、かっこいい綺麗な未来の私!」

 

 ジャンヌちゃんが引いたのは確かに要望に沿っていた。だが、それは未来の私という意味でだった。

 

『残念。私でした。どうどう、悔しい? ニアピンした惨めな気分はどうかしら? くすくす、ばーかばーか』

「むきぃいいいいいいぃぃぃぃぃっ!」

 

 そう、出たのはジャンヌ・ダルク・オルタのカード。いや、トップレアの一枚なのだが。こら、そんな扱いしちゃいけません。地面に叩き付けようとしたらいけない。慌ててキャッチしようとする。しかし、その前にジャンヌちゃんがカードを食べてしまった。

 

「ふんだ。養分にしてやったのです」

「えっと?」

「スキルは手に入れましたから、問題ありません。使いませんが。ええ、使ってやるもんですか!」

「じゃあ、次は美遊だな」

「はい。これにします」

 

 美遊が引いたのは星5バージョンのアーチャー・衛宮士郎。どれだけお兄ちゃんが好きなのだろうか。

 

「これ、私が貰ってもいいんですよね?」

「ああ、いいよ」

「わかりました。お兄ちゃんにあげてもいいですか?」

「ああ、いいよ」

 

 美遊が嬉しそうに持っているので、これはこれでいいだろう。さて、次は俺だ。シータは最後がいいみたいだからな。

 

「どれがいいだろうか? かなで、選んでくれ」

「私でいいの?」

「ああ。かなでの直感に信じる」

 

 おそらく、かなでだったらいいのを引いてくれるだろう。

 

「わかったわ。じゃあ、これね」

 

 俺が引いたカードは訳の分からないものだった。名前が読めない。文字化けしていやがる。だが、絵柄は金髪碧眼の可愛らしい美少女。ただし、血を舐めている姿だ。手に取って、改めて見ようとすると勝手に動いて身体の中に入っていきやがった。

 

「おい!? インストール解除!」

 

 ステータスを開いて取り出そうとしても一切効果がない。

 

「どういうことだ!」

「ふむ。貴様は彼女に魅入られたようだな。諦めろ。もはや解除はできない。インストールされたままであろう。そこの娘も解除できまい」

「私も、確かにアルトリアを取り出せない。正確には取り出してもすぐに戻る」

「呪いかよ」

「相性がいいとそういうことが起きる。お前達が自分自身のものを引き当てたようにな」

「くっ、まあいいか。戦えるならそれでいい。何がかわったかはわからないが……。シータ、引いてくれ」

「わかりました。では、私はこれにします」

 

 って、これってやばいかも知れない。シータが引いたら、とんでもないものがでてくるか?

 

「これは……っ!? 頭が……」

 

 シータが引いたカードは10の顔と10対の両腕を持つ異形のサーヴァント。クラスは不明。名前はラーヴァナ。

 

「シータに関係のある奴だな。大丈夫か?」

「はい、なんとか……もう一回、いいですか? それで、何かがきそうな感じが……」

「ああ、いいぞ」

 

 一人2回はいけるからな。シータがもう一回引くと、それは猿だった。

 

「あっ、ぁあああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 シータはそれを見た瞬間、握り潰して燃やした。黒いオーラが全身から出ており、オルタと言われても信じられるくらいだ。

 

「大丈夫か?」

「無性にお猿さんは嫌いになりました。全滅させたいです」

「そうか……」

 

 ラーマを引くかと思ったんだが、よりによって猿か。まあ、助かったな。俺はシータを手放すつもりもないし。なんか、破滅しそうだな。このビーストみたいに。

 

「次は美遊だな」

「はい」

 

 美遊が引くと、それは変なカードだった。

 

「これは私? クラスはキャスター……え? 魔法少女? え?」

「魔法少女だって、凄いね! とんで魔砲を撃ってかんきょーはかいをするんだよね!」

「大規模な破壊を撒き散らかすんですね! 殴って説得するんですよね!」

「え? それ、私の知ってるのと違う……」

 

 まあ、イリヤがキャスターの星5だったから、美遊も星5で間違いはないだろう。

 

「ほら、次はジャンヌちゃんだぞ」

「っと、そうでした。今度こそ!」

 

 そして、引いたのはまたしてもジャンヌ・ダルク・オルタだった。

 

「うがぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 うん。貰うだけ貰ってそっとしておこう。でも、ジャンヌオルタも可愛いし、好きなんだよな。今度、実体化させよう。という訳で、一枚は確保した。

 

「じゃあ、次は私達だね! これだよ! うにゃ? ありゅ、ありきゅ? 変なの! まあいいや! 強化に使っちゃえ!」

「ちょ、まっ!」

 

 強化に使ってしまった。ジャックちゃん、やばいのを取り込んだぞ。身体に異状はないみたいだし、もういいか。次は俺だな。

 

「今度こそ、使えるものを……マーリンこい!」

 

 だが、やはりさっきの意味の分からない少女だった。それがまた中に勝手に入った。

 

「もう、かなでがラスト2回、頼む」

「任せて」

 

 二つを選んだかなでは一つをあけると、そこには謎のヒロインX、Xオルタがあった。何、ほぼコンプリートしてくれてるんですか。残ってるのって星4のアルトリアランサーと水着アーチャーだけじゃないか。もう、アルトリアマスターだな。

 

「よーし、帰るぞ」

 

 ジャンヌちゃんをお姫様抱っこして、ジャックを肩車して、左右にかなでとシータを連れて、前を歩く美遊ちゃんの先導に従って移動する。

 

 

 

 

 

 帰宅してからかなで達が食事の準備をしていくので、俺は生活する場所である倉を魔術で綺麗に片付ける。というか、取り込んで要る物と要らない物を分別して終わりだ。埃とかは処理したので、綺麗になった。後は運び込んだ布団を設置するだけだ。

 

「マスター」

「シータ、どうした?」

 

 後ろから抱き着いてきたシータは鏡に写った顔を見る限り真っ赤にしていた。

 

「してください。魔力が欲しいです」

「いきなりだな」

「今、私が私じゃなくなってきています……だから、今の間に刻み込んでください」

 

 シータを引き離して、正面から向き合って視線を合わせると、不安そうに涙目になっている。

 

「話してくれ」

「今日、取り込んだカードはラーヴァナと呪いをかけた猿です。そのせいか、記憶が戻ってきて、私が私じゃなくなるような感じがしてきて不安なんです……私はマスターのものなのに、別の誰かを愛した記憶が……」

 

 おそらく、ラーマの事だろうな。このシータは本来とは別の人格か並行世界の、IFのシータなのかも知れない。イレギュラーな彼女は本来のシータが目覚めることを恐れている。

 

「わかった。シータは俺の女だからな。他の誰にも渡さない。それにラーマを手に入れて俺に使えば問題ないだろう。どちらも一応、俺になるんだから」

「無茶苦茶な理論ですが、ありがとございます……マスター」

 

 そのままシータを布団の上に押し倒して、口付けを交わして魔力を送り込む。前に感じた時よりも容量がかなり増えているようだな。

 

「キス……気持ちいいです……もっと、してください……」

「ああ」

 

 唾液の橋をかけながら、シータの身体を貪っていく。何度も何度もやっていく。

 

 

 

 

「ご飯だよ~」

「なっなななななにしてるんですかぁぁぁぁっ!!」

「あうあう」

 

 

 二時間後、迎えに来た三人娘に見付かってしまった。三人は真っ赤にしていながら、行動が全然違った。

 

「私達も混ぜて!」

 

 ジャックは飛び込んできて、残り二人は顔を逸らして変態だのなんだのいってきたのだ。

 

「というか、ダメですよジャック! 私達には早過ぎます!」

「そ、そうかな?」

「美遊!?」

「じょ、冗談だよ」

「じゃあ、ジャンヌはしなくていいんじゃないかな~? 私達はおとーさんに可愛がってもらうし」

「というか、かなでさんが居るのに浮気ですよ!」

「取り敢えず、ご飯を食べてから話そうか」

 

 俺の言葉を令呪を使ってどうにかいう事をきいてもらう。その後、かなで達の作った料理を食べて話をする。

 

「別にいいわ」

「え?」

「正直、コウの相手は一人じゃ辛いわ。魔力供給の事もあるから、歓迎よ。他の男とするのは私は嫌だけど。コウがいいなら、別に構わないわ。それに他の知らない女ならともかく貴女達なら、いいわ。私が後から入ってきたようなものだし」

「やった!」

「うぅ~」

「そ、そういう事なら私は自分の部屋で寝るので、後は皆さんで……」

「駄目よ。美遊もするのよ」

「い、嫌です!」

「何処にいくの?」

「お風呂です!」

 

 急に立ち上がって逃げるように風呂へといった美遊。

 

「かなで」

「別に事実よ。わかっているでしょう? 私もBBから言われたわ。彼女の為よ」

「そうか……」

「じゃあ、私達も準備しましょう」

「何をだ?」

「決まってるでしょ。魔力供給よ。身体が熱いの」

「あっ、私達もだよ。ポカポカしていい気持ちなの!」

「わ、私もです……変ですよ、こんなの……」

 

 皆は俺の身体に身体を擦りつけてくる。

 

「かなでさん、何かお薬を盛りましたね」

「? BBから渡された薬を料理に入れただけよ」

「それですね。媚薬とかでしょうか……」

「ちょっと待て。そんな状態で風呂に行った美遊は……」

「溺れるかも知れませんね」

「まずい!」

 

 慌てて風呂場に行くと、服着たまま湯船に入った美遊を見つけた。どうやら、倒れたようだ。

 

「なんで服を……」

「誰のせいですか! 身体が変で、すぐにはっきりしたくて……」

「そうか」

 

 取り敢えず、美遊の服を脱がす。抵抗するが、無理矢理脱がして湯船に入れる。

 

「いいか、落ち着いてきけ。美遊にもう選択肢はない」

「ど、どういう事ですか?」

「メルトリリスとパッションリップに聞いてみろ。詳しい事を教えてくれるだろう」

「は、はい……お、教えてください……」

 

 それからしばらく沈黙していたので、俺も服を脱いで湯の中に入る。だんだんと美遊の顔が蒼白になって震えてきた。俺は彼女を抱きしめて温めてやる。

 

「理解したか?」

「はい……」

 

 こくこくと頷く美遊はもう、理解していた。残虐性の塊である二人に色々と聞いて、見せられたのであろう。

 

「美遊が俺の女になってくれるなら、必ず守ってやる。例えBB達と戦うことになってもだ」

「……わかりました。お兄さんやジャックちゃん達は好きですし……お兄ちゃんと一緒に居られるなら……」

「少しはいられるだろう。妹としてならBBも許容すると言っていたしな。だが、女としては駄目だ。俺の女になることで、ギリギリ許せるんだろう。今まで色々と邪魔をしてきたことも水に流してくれるみたいだしな」

「お兄ちゃんを守れるなら構いません。それとちゃんと私のことも愛してくれるならですけど」

「もちろんだ。約束しよう」

「じゃあ、お兄ちゃんに何かあれば桜さんとも戦ってくださいね」

「それは命の危険がかなりあるな」

「私の身体に加えて心もあげるんです。それだけの価値はありませんか?」

「あるな」

「即答ですか。お兄さんは変態のロリコンですね。こんな身体のどこがいいのか……」

「こんな身体じゃないさ。最高の身体だろう」

「はぁ……さっさとでましょう。ここでするのなんて嫌です」

「わかった」

 

 風呂から出ようとしたら、皆が入ってきた。

 

「洗いっこしよ~」

「その、身体を綺麗にしてからが、いいですから」

「大事よ」

「マスター、御背中流しますね」

「……身体を洗ってからですね」

「ああ、そうだな」

 

 エロエロな洗い合いを行ってから、美遊の部屋に敷き詰められたように敷かれた布団の上で皆と愛し合った。

 

 

 

 翌朝、士郎さんに呼び出されて道場に行くとつやつやなBBとげっそりとした士郎さんがいた。もっとも、俺も士郎さんと同じだ。絞り尽された。

 

「昨日はお楽しみでしたね」

「それはもう、楽しみましたとも! やっと先輩と結ばれたんですからね! そちらもよかったようで何よりです」

「美遊の事を頼むぞ」

「もちろんです。いえ、ここはこう言おう。妹さんをください!」

「断る! と、いいたいがいいだろう。条件次第でな」

「条件?」

「俺と戦って勝て。少なくとも美遊を守るに値する力を出して貰う」

「無理げーといいたいんですが……」

「安心してください。私が、この私が徹底的に鍛えてさしあげますよ。先輩との時間を作る為にスパルタでいきます。教師陣は私、桜ことBBと」

「パッションリップ……面倒。ロリコンとか死ねばいいのに……よし、殺そう……」

「駄肉より、私のような肉体美を選ぶのは素質があるわね。このメルトリリス様がしっかりと鍛えてあげるから、風穴を開けながら感謝なさい」

「それと俺自身もお前を鍛えてやる。取り敢えず、最低限はアンリミテッドブレイドワークスの展開状態で俺を倒すぐらいには鍛える」

「無理ゲーすぎんだろ!! 手加減をっ!」

「「「「却下」」」」

 

 美遊達と結ばれた俺を待っていたのは地獄とは生温い、悪鬼羅刹が逃げ出すような修行のようだ。明らかに致死量満載である。

 

「あっ、死んでも蘇生してあげますから、安心してくださいね。安全安心のBBちゃんサポートです。良かったですね、ロリコンさん」

「あ、ありがとうございます……」

 

 やっぱ死ぬ前提なんだな。そりゃそうか。というか、士郎さんですら、ちょっと気の毒そうな視線を飛ばしてくるくらいだしな。だが、妥協はしてくれないだろう。何せ、大事な大事な妹の為なのだから。

 

 

 

 

 

 



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25話

 

 

 

 美遊達と結ばれてから数ヵ月がすぎ、季節は春へと変化した。俺達は色々と変化した。まず、具体的なことをいうとかなでと俺は現実世界にも戻らず、修行漬けの毎日だった。というのも俺達はあの後、すぐにBBによって俺達は監禁されたのだ。朝から夜まで徹底的に扱かれた。夜のご褒美がなければ絶対に耐えられなかっただろう。ご褒美はもちろん、アレであるが。五人の妻に魔力供給するという立派な役割だ。

 ときたま、ノルマをこなせなくて五人にエロイお仕置きをする時もあった。というか、それは基本的に達成させるつもりのない奴なので、BBは俺に彼女達を調教させるつもりだったようだ。お蔭で色々なプレイを楽しめた。両手が鉤爪になって戻らなくなった美遊を俯けにして後ろから圧し掛かったりといったことだ。

 そんなこんなで、俺達の関係は進んでいる。実際に死ぬような経験を一緒に乗り越えてきたのだから当然だ。

 さて、俺もマスターとして変化している。まず、メルトやリップ、BB、士郎に殺されて、死を体験したからか魔力の質が異常なほど高濃度になっている。それのせいか、士郎やBB……桜と同じように髪の毛も変質して金色になっている。何故か身長も少し下がった気がするし、肌の質も上がっている気がする。これは毎日妻達と交わっているせいかもしれないが。瞳も時折碧眼へと変化しているらしいが……本当に意味がわからない。

 

 

 

「さて、最低限私の弟子として恥ずかしくないくらいには成長しましたね」

「これで最低限、なのか?」

 

 BBの言葉に士郎が不思議そうに首を傾げている。

 

「最・低・限、です。本当なら単体でサーヴァントを駆逐するぐらいにはなって貰わないといけませんから」

「それ、もうマスターの領域を超えているからな」

 

 俺達は道場で正座をしながら、BBと士郎の話を聞いている。

 

「でも、マスターを狙われたら終わりですからね。それに美遊の護衛にするんでしょう。これぐらいでも最低限ですよ」

「それもそうか」

「お兄ちゃん……私、もうちゃんと戦えるよ……?」

 

 美遊が嬉しそうにしている。彼女の手は今は普通だが、何時で数秒でリップの両腕になり、足はメルトの剣靴になる。そう、美遊は聖杯少女の特性かは知らないが、メルトとリップ、二体の力をインストールすることができる。もっとも、魔力が馬鹿食いなので効果時間は短い。

 

「私達も強くなりましたから」

「うん。私達も成長したよ!」

 

 ジャンヌちゃんとジャックは回避技術をしっかりと覚えた。士郎のアンリミテッドブレイドワークスの弾幕を回避するという方法で。あと、ジャンヌちゃんはかなで(大人版アルトリア)からしっかりと槍の使い方を習った。もとのジャンヌ・ダルクにしてもしっかりと習った訳ではないしな。ジャックは身体能力が大幅に強化され、ナイフ以外にも爪でも斬り裂けるようになった。なんというか、異形化してきている。

 さて、シータの方を見ると元のシータの服が黒くなっているぐらいで、お腹丸出しなうえ他の部分も露出も多くてエロイ。そんな姿で外に連れていける訳もないので、現在はゴスロリの服を着ている。可愛いゴスロリ赤髪ツインテールというわけだ。さて、彼女の強化だが……単純に爆撃を行うようになった。士郎の投影魔術を礼装として取り込み、ブロークンファンタズムを使うようになったのだ。ただし、炎限定で。そもそも使っているのはインドラの矢である。つまり、神の雷にカラドボルグを合わせるということだ。それはとんでもない破壊力を生み出す。消費魔力? なにそれ美味しいの? 一発でサーヴァント一騎分が吹っ飛ぶ。シータはその矢を何本もストックしている。魔力を出しているのは俺だ。毎日搾り取られている。

 

「話は終わり? お腹が空いて倒れそう」

 

 かなではそう言いながら、倒れてきて俺の膝の上に頭を乗せてくる。そのまま頭を撫でる。かなでの首にはマフラーが装着され、近くには白の聖剣と黒の聖剣が置かれている。

 

「そうですね。では、これで修行はひとまず終わりです。今回から課題形式にします。まずは貴方達の拠点を確保しましょう。お城へと進んでください」

「城……アインツベルンの城か」

「そうです。あそこはダンジョンですから、頑張ってくださいね。ボスは言わずもがなという奴です」

「わかった」

 

 相手は大英雄、ヘラクレスのバーサーカーだろう。というか、この三ヵ月で他の連中も強くなったはずだし、攻略されていないのだろうか? まあ、デスゲームだから慎重にいっているのかもしれないが。そもそもデスゲームなのにリスポーンさせられるBBがおかしいだけだしな。

 

「あっ」

「どうした?」

「学校、忘れていたわ」

「そうだな……大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ。でも、どうなっているか戻った方がいいわね」

「そうだな。家賃とかもあるし、お金を稼がないとまずい」

 

 バイトも首になっているだろうし、これは本格的に不味いかもしれない。

 

「ああ、お金が欲しいんですね。まあ、この三ヵ月の給料としてこれをあげましょう」

 

 そういって、BBが放るように投げてきたのは金のインゴットだった。

 

「純度100%の交じりけなしです。確か、g4千でしたか。それは一キロですから、400万くらいです」

「おお……」

「どうせなら美遊の服も買って来てくれ」

「でしたら、もう三つほど追加しますので、色々と買って来てください」

 

 気付けば1600万相当の品物を渡された。これは正直ありがたい。

 

「ああ、わかった。かなで、身長やスリーサイズを聞いておいてくれ」

「ええ、わかったわ」

 

 その後、食事をして翌朝自宅へとログアウトした。

 

 

 

「……埃だらけね」

「まあ、三ヵ月くらい戻ってないからな」

 

 家賃は自動引き落としだから問題ないとして、やはり、掃除をしないといけない。後は各種連絡か。そんなことを考えていると、携帯が一気に受信していった。着信履歴も多い。家族や祖父母からだ。これはでるしかないだろう。

 

「ちょっと電話してる」

「わかったわ。私は掃除をして寝るところを作ってるから」

「頼む」

 

 電話をすると無事を喜ばれた。

 

『じゃあ、大丈夫なのね?』

「ああ」

『この頃、行方不明者や部屋の中で剣や槍みたいなので殺された人がみつかっているから、心配していたのよ家にも帰っていないみたいだったし』

「悪かった。実は旅行に行ってたんだ」

『そうなの。知らせてほしかったわ。あ、そういえば結婚していることになっていたのだけれど、相手の人、紹介されてないわよね。連れてきなさい』

「それは……」

『連れてこないのなら、こちらから行くわよ』

「わかった。ちょっと待ってくれ。かなで、実家に行くことになりそうだが……大丈夫か?」

「ええ。私はコウの行くところなら、何処にでもついていくわ。私の命はあなたのものだから」

「ありがとう」

 

 実家に帰る予定を決めてから通話を切った。色々と準備をしないといけない。とりあえず、まずは換金か。

 

「ねえ、久しぶりに二人っきりよ」

「ああ、そうだった。何よりするべきことがあったな」

 

 甘えてきたかなでを抱きしめて、そのままベッドへと誘導していく。

 

 

 

 

 

 



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26話

 

 

 

 実家に帰るために新幹線乗って移動する。当然、俺の隣にはかなでがいる。白いワンピースにジャケット。それに帽子といった感じだ。それで俺達は現在、ホームにいる。片方の手には着替えなどが入ったキャリーケース。もう片方の手にはかなでの手がある。

 

「あれ、欲しいわ」

「はいはい」

「いらっしゃい。可愛らしい妹さんですね」

「違うわ。夫よ」

「え!?」

 

 まあ、かなでと俺じゃあ、かなり年齢が離れている。親子とまではいかなくても、年の離れた兄妹くらいにはなる。

 

「で、どれを買うんだ?」

「全種類。二個ずつ」

「いや、いくらなんでも……」

「頼みます。お金はこれで」

「わかりました……」

 

 おばちゃんが驚いているが、気にせずに支払いを終わらせる。このお金はBBから貰ったものを換金した奴なので問題ない。お金を支払って大量の駅弁を購入して新幹線に乗る。

 

「ここね」

「窓側に座るか?」

「いいわ。そっちに座って」

「わかった」

 

 荷物を上の棚に入れて窓側に座る。

 

「よいしょ」

「おい」

 

 かなでは隣のかなでの席に駅弁を置いて、俺の膝の上に座ってきた。

 

「だめ?」

「駄目じゃないが……」

「普段はあの子達がとってるから、今は私」

「そういうことなら仕方ないか」

 

 かなでを膝に乗せていると、周りの視線が色々とやばい。しかし、そんなことを気にせずにかなでは駅弁を食べ出していく。本当に我が家のエンゲル係数はやばくなる。

 新幹線が発進し、俺はかなでの身体を抱きしめて固定しながら、窓の外をみて過ごす。ときたま、かなでがあ~んをしてくるのでそれを食べるくらいだ。

 

「なんだか二人きりだと新婚旅行みたいね」

「あながち間違ってないんだよな」

「そうね」

 

 食事が終れば他愛ない話をしながら進んでいく。携帯からアプリを確認すると、向こうの映像がでてくる。皆のステータスと、今何をしているかだ。

 

「楽しそうに遊んでいるわね」

「ああ、いいことだ」

「あっ」

「どうした?」

「宿題をしておかないと」

「そうか。教えてやろう」

「御願い」

 

 宿題を格闘しながら終わらせるころには目的に到着していた。ここからバスで一時間、かなりの時間の移動となるので、途中でかなでが眠ってしまった。まあ、仕方ないので肩を貸して到着まで暇つぶしをしておく。

 

 

 

 バスターミナルでかなでと一緒に降りる。ここからタクシーで移動になるかな。もう近くだし、問題ないだろう。

 

「ねえ、あれ買ってもいいかしら」

「宝くじか? 構わないが……」

「ありがとう」

 

 かなでが宝くじ売り場へと走っていく。そこで何かを指定して書いていく。覗き見するとビックやロトだった。

 

「まさか……」

「勘よ。食費は稼がないと」

「気にしなくていいんだがな……」

 

 まあ、かなりきついが頑張ればどうにかなる、と思う。立ち入り禁止店は増えていくだろうが。

 

「終った」

「それじゃあ、いこうか」

 

 その後も大量に食材や出来合いを買ってタクシーで乗って実家の前で降りる。料金を支払ってから扉を開けて中に入る。

 

「お帰りなさい。って、なに染めてるのよ! それに縮んだ?」

「ただいま。なんでかわからないんだがな。髪の毛は染めたよ」

 

 玄関に入ると両親が向かえてくれて質問攻めだ。まあ、髪の毛は仕方ないのだ。染めたことにしておく。

 

「そちらは……」

「この子はかなで」

「かなでです」

「その名前……もしかして、あなたが?」

「はい」

「ちょっとちょっとっ、どういうことよ! まさか、犯罪じゃないでしょうね!」

「違う。とりあえず、説明するから中に入れてくれ」

「そうね」

 

 中に入って説明する。といっても、かなでが生き倒れていたところを拾って、飯を食べさせたことから始まり、天涯孤独で余命が残されていないかなでの世話をしたこと。彼女のお願いを叶えていくうちにもう一つ、結婚もしたいということで籍を入れた。その後も一緒に過ごしていて本当に結婚することにした。その後、色々としていたら運よくかなでの病が回復していっていることも伝えた。

 

「つまり、今は相思相愛と?」

「そう、です」

「ということで、犯罪とかじゃないから心配しなくていいから」

「まあ、そういうことなら。不束者な息子ですが、宜しくお願いしますね」

「こちらこそ、世話になりっぱなしで……」

「とりあえず、かなでを案内してくるから母さん達は……」

「お夕飯の用意をしましょう」

「たのむ。相当食べるから気を付けてくれ」

「あらあら」

 

 量を伝えると驚かれたが、用意してくれることとなった。その後はかなでを部屋に案内して、近くの家の人にかなでを紹介していく。旧友にはロリコンとか、色々と言われたがなんの問題もない。

 その後はかなでと散歩したり、観光して、両親と改めて挨拶をしてから一緒の部屋で寝る。やることは当然、やった。ただ、防音の魔術とかを色々とやってだ。

 

「ねえ、ここに住むのもいいかもしれないわね」

「確かにそうだな。田舎なら、人が増えても問題ないかもしれない」

 

 ひょっとしたら、ジャック達は無理でもシータや美遊なら呼べるかもしれないしな。シータは受肉しているし、美遊はもともと身体がある。それに都会だと彼女達の容姿は目立つし、フェイトを知っている奴に見られたら大変だ。

 

「まあ、かなでが学校を卒業してから考えよう。認識阻害をすればどうとでもなるからな」

「魔術師らしい思考ね」

「まったくだ」

 

 翌朝、食事をしていると両親から不思議な話を聞いた。なんでも、山の中にいつの間にか古い城が建っていたらしい。でも、誰もそこには辿り着けないのだとか。そもそも、見える時間が深夜からなので山の中で過ごそうという人は基本的にいない。見た人も狩人の人で迷って偶然にみただけらしい。妖怪の住む城とかも言われているらしく、子供が山に入らないようにも注意している。ましてや熊も結構いるみたいで危険のようだ。

 

「というわけで」

「探検ね」

 

 俺達は当然のように山の中に入り、襲い掛かってくる熊を素手で貫き、心臓を抉って殺す。血で汚れた手を振るって軽く飛ばしてから手をみると……なぜか舐めたくなって舐めてみた。なんというか、微妙な感じだった。

 

「どうしたの?」

「なんでもない」

「そう」

 

 かなでが掻き消えると、奥のほうで何かが倒れる音がする。そちらに向かうと熊の群れがかなでの持つ剣によって切伏せられている。

 

「異常ね」

「ん?」

「異常に繁殖しているわ」

「確かに……」

 

 魔術で死体を調べてみると操られた痕跡がみつかった。それにかなでが剣を振るうと飛来した矢が斬られる。

 

「どうやら、ここは魔術師の工房か。現実世界でなにをやってんだよ」

「どうする?」

「城の全貌を確認する。親は守らないといけないからな」

「そうね。いい人だから、助けるわ。私の両親にもなってくれるし」

 

 かなで服がセイバーのそれになる。手に持っているのは聖剣エクスカリバーとエクスカリバー・モルガン。二人で森の中を駆け抜ける。すると熊だけではなく、ゴーレムまで襲い掛かってきた。そして、城に近付けば近づくほど飛んでくる矢も無数に増える。

 

「これ、きついわ。二人じゃ無理ね。エクス、カリバー」

 

 レーザーのような九本の矢をエクスカリバーの光線で消し飛ばす。

 

「撤退する。城は見えた」

「了解よ」

 

 かなでが風を放ち、俺は影を操って囮を作り出して一斉に逃げる。どうやら、テリトリーからでたら追っては来ないようだ。一先ず安全が確保できただけよしとしよう。

 

 

 

 




いったい誰の攻撃なんだろうか


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27話

 

 

 山から逃げ帰った俺とかなでは田圃道を手を繋いで歩いていく。ここは人気のない場所で蛙の声が聞こえてくる。

 例の山は現状の戦力ではどうしようもない。俺とかなでだけでは足りない。あの九本の矢と山や森の中の城ということで考えられる相手はおそらくギリシャ神話の英雄だろう。

 

「コウ、星が綺麗ね」

「そうだな。都会じゃ見れない」

 

 歩いていると嫌な気配がして振り返る。そこには二メートルを超える巨体な大男と長い黒髪の少女。少女は黒いワンピース姿で大男の腕に座っている。

 場所こそ違うが、これはまるでFate/stay nightであったシロウとアルトリアがイリヤスフィールとヘラクレスがあったシーンではないか。

 隣ではかなでが姿を変えている。手には光り輝く槍が握られていて、服装は白銀の鎧に白いマントへと変化している。そこでふと気づいた。

 俺はあくまでも、サーヴァントを使役して戦う召喚士(マスター)だ。何が言いたいかというと……サーヴァントがいない状態じゃ戦力にならない。

 

「目と目があったので勝負です」

「ポ〇モンかよ」

「いや、まあ侵入者を生きて返すわけにはいかなだいだろう。次は戦力を集めてこられたら面倒だしな」

「……ごもっとも」

 

 相手の大男は少女を降ろすと、巨大な弓を召喚する。相手のクラスはアーチャーのようだが、やはり嫌な予感は当たる。

 

「コウ、やる」

「ああ。前衛は任せる」

 

 さて、少女の方を俺が相手にする訳だが……彼女はクラスカードを取り出した。それはキャスターのカードのようだ。

 

「インストール」

 

 ローブを被った姿となった彼女は杖を持っている。それもフェイトでは特徴的な奴だ。

 

「メディアのクラスカードか」

「正解です」

 

 地面から大量の骸骨の兵士が湧き出てくる。それを虚数魔術で作った刃で斬り裂く。

 隣では無数の矢をかなでが槍で防いで接近し、キャスターを狙う。それをさせないようにアーチャーが盾になる。逆に矢で俺が狙われるのでかなでもあまり距離を開けられない。

 一進一退の攻防が繰り広げられている。しかし、相手の方が有利だ。神話クラスの魔法を乱射してくれば防戦一方になるし、機械人形を沢山放ってくる。

 

「このままじゃジリ貧?」

「そうだな。なら、試してみるか」

 

 現実世界でも相手はここまでの魔術が使え、魔術工房まで作っているのだ。だったら、俺にだってできないはずはない。

 

「時間を稼いでくれ」

「任せて」

 

 かなでに防御を任せ、俺は指を切って取り出したスマホに操作してから血を塗りたくる。

 

「――――――告げる。電子の海に漂いし我が剣よ、汝の身は我が下に、我が命運は汝の下に。BBの寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

「何を……」

「我が親愛なる者よ」

 

 心を込めて適当に唱えると、召喚魔術が発動する。巨大な魔法陣がスマホから現れて、中から言い争うような声が聞こえてくる。

 

「あれ?」

「えっと……」

 

 言い争う声の中、ひょこっと魔法陣から出てきたのは赤い髪の毛をツインテールにし、黒いゴシックドレスを着た少女。

 

「マスターの召喚に従い、サーヴァント、アーチャー。ここに現界しました」

『『あぁああああぁぁぁっ!?』』

『言い争ってるから……』

 

 どうやら、ジャックとジャンヌちゃんで来るのを争っていたようだ。正直言ってジャックが来てくれるとかなり助かったのだがな。

 

「マスター、私は受肉しているのでもう一人呼んでも問題ありません」

「いや、そうか。ジャックを呼べばいいか。シータはかなでの援護を頼む」

「お任せください」

 

 防戦一方で怪我を負って腕などから血を流しいるかなでの援護にシータが入る。シータの矢によって有象無象は焼き払われ、強力な矢はメディアを狙う。

 

「ちっ!」

「信じられません……サーヴァントが増えたの?」

「撤退をしやにいれるか」

 

 かなでに治癒の魔術を使いつつ、すぐに召喚を行う。今度はジャックを指定して呼び出す。ジャンヌちゃんは今回、お留守番だ。

 

「来てくれ、ジャック」

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪ おかーさん、何を解体すればいいの?」

「あれだ。宝具を使っていい」

「わ~い♪」

「もう一人っ! しかもあれって……」

「撤退だっ!」

「逃がさない」

「そうです」

「あは♪」

 

 ジャックの周りから大量の霧が噴出し、周りを覆いつくす。大男が少女を抱えて急いで逃げている。しかし、その後ろを越えるように矢が放たれる。かなでも追いかけているので霧の中で戦闘が続く。迷ってどこにいってしまうかもわからないが、これはジャックが張っている奴だから問題ない。

 

「あっ、逃げられた!」

 

 そう思っていたのだが、霧に何かが混ざると破壊されてしまった。連中の姿が消えていて、残ったのは竜牙兵だけだ。

 

「どういうこと?」

「おそらく、魔術か薬品を使ったんだろう。それでジャックの霧を破壊して転移で逃げたのだろう」

「時間稼ぎに霧を利用されたようですね」

「う~ごめんなさい」

「いや、いいさ」

 

 しかし、こうなると色々と問題がでてくる。戦力で有利になったが、あちらは魔術工房がある。おそらくもっと強くなるだろう。

 

「マスター、提案があります」

「なんだ?」

「宝具の全力発動の許可を頂きたいのです」

「シータ?」

「魔術工房ごと消し飛ばせば憂いはなくなるかと」

 

 インドラの矢を山に叩き込もうというのだ。それはもはや、バンカーバスターどころか衛星兵器みたいなのを放つ感じだろう。

 

「それは駄目だ。改めて交渉するべきだ」

「え~解体しちゃ駄目なの?」

「自然破壊は駄目。美味しい物がなくなる」

「そっかー」

 

 ジャックとシータの頭を撫でながら交渉のことを考える。まあ、こちらの武力をちらつかせながら交渉すればいいだろう。そう考えていると身体から力が抜けてくる。

 

「なんだこれ……」

「あ、わたしたちはもう戻るね。おかーさんの魔力が危ないから!」

「ああ、それか。頼む」

「うん。ばいばい!」

 

 ジャックが消えて、シータとかなでが支えてくれる。シータは受肉しているから、かなでと同じ魔力を与えるのは魔術や宝具の使用の時だけでいい。

 

「返って休みましょう」

「そうです。休みましょう」

「ああ、ところでシータ。霊体化とかできないよな?」

「無理です。申し訳ございません」

「いや、いい。母さん達になんえて説明するべきか……」

「私の妹でいいと思う」

「そうだな。それがいいか。シータもいいか?」

「はい。もとから私達は義理の姉妹ですから」

「それもそうか」

「うん。お姉ちゃん」

 

 かなでがお姉ちゃんなのか、シータがお姉ちゃんなのかはわからないが、そういう方向でいくことにする。

 

 

 

 その後、両親をどうにか説得して俺は寝込むことになった。シータとかなでは常に傍にいて甲斐甲斐しく世話をしてくれる。寝る時は二人に挟まれながらだし、人見知りでもあるのかシータは特に俺にべったりだ。

 その間にかなでは親から料理を習ったりしていたが、どこからどうみても二人とできているということで説教もされた。

 

 

 

 肝心な連中は数日後にやってきて、堂々と家に入り込んできた。というのもあの二人は俺が出ていった後にやってきた人達で警察官の人らしい。そんな二人は会談を申し込んできた。

 こうなったら受けるしかない。なにせこっちは不法侵入した上に器物破損したわけで……逮捕されてもおかしくない。

 というわけで俺の部屋で俺の背後でかなでとシータが警戒していて、相手も男性が背後に立って警戒している。

 

「さて、色々と話しもありますが、まずは昨日のことです。こちらが襲った理由は貴方の禍々しさです」

「え?」

「貴方の魔力はかなり異質なのです。特に虚数魔術と泥を使っていますよね?」

「まあな。確かに襲われても仕方がないか」

 

 ゲームをやっていたら危険なことがわかる。それに俺の魔力は異質らしいからな。

 

「まあ、それと今まで出会った人は問答無用で襲い掛かってきたので貴方達もその手合いと判断しました。私の私有地に入ってきて防衛装置を破壊してきたので」

「それはわかった。こちらは帰郷したら魔術工房ができていて、調査にいっただけだ。で、どうするんだ?」

「街に被害を出すつもりはないのですか?」

「ない。俺の方も両親の安全を守るためにいっただけだ」

「わかりました。では、私達と不可侵条約の魔術契約をしましょう。ただし、一般人に被害がでた場合やでる場合は即座に破棄です」

「わかった。それでいい」

 

 互いにデメリットはない。メリットもとくにないので問題ない。いや、この街のことを任せられるのでこちらのメリットはあるな。

相手側はこの街を守るために工房を作っているらしいので、任せておけばいい。というか、警察側もFATE/VRについて調査を開始しているらしい。色々とはっちゃけてる馬鹿が結構でているので各都道府県で対策として魔術工房を作っているらしい。本当に秘匿すべきことだというのに嘆かわしい。というか、システム的にどうなるのだろうか?

そんなわけで俺達も見送られて無事に元の街へと戻った。

 

 

 しかし、この家は三人で過ごすにはやはり狭い。そもそも一人用のワンルームだ。なので引っ越しをすることにする。魔力がどうにかなればジャック達を召喚するからだ。

 という訳で新しい家を別の街なども手を伸ばして色々と探しに寄ったのだが……おかしいな。

 夜、三人で帰っているとなぜかいきなり堕天使となのる変態老人に襲われたのだ。

 

 

 

 

 

 



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28話

 

 

 

 

 夜の街。いかがわしい感じのする言葉だが、実際にあっている。何せ俺とかなで、シータの三人はそういうホテルから出て夜の街を歩いて帰っているのだ。

 この街に来たのは昼間で、ビュッフェの食べ放題でかなでが大量の食事をした。それから街の不動屋を回って家をみせてもらう。資金はこないだかなでが買った宝くじが一億円当たった。それを株で空買いをして上がった瞬間に売る。もしくは買っておいてから空売りでいっきに増やしまくった。黄金律Bは伊達ではなく三日、張り付いただけで利益が数倍も膨れ上がった。

 というのも、なんとなく上昇する株や下降する株がわかるのだ。その通りにやれば間違いない。

 てな訳で、豪遊というか必要な物を買いつつデートを楽しんでいたのだが、食事をしてからホテルで楽しんだ。

 終わってから終電を目指し、シータとかなでの二人と腕を組みながらゆっくりと帰っていたのだが……空から変な爺さんがやってきた。

 

「結界だな」

「エネミー?」

「狩ります」

「我は堕天使の……っ!?」

「壊れた幻想」

「全て遠き理想郷」

 

 その日、夜が昼間のように明るくなり、膨大な力が解き放たれた。しかし、後にはなにもない。

 

「やりすぎじゃないか?」

「開幕宝具ぶっぱは基本だとBBが言っていました」

「ん。ちゃんとアヴァロンでこちらの被害は防いだ」

 

 まあ、俺達の被害はアヴァロンでゼロだ。他の場所は影を纏わせた泥を使って防いだのだが……ぼろぼろだ。一部にはガラス化した土塊がある。

 

「しかし、変なエネミーだったな」

「どうでもいい」

「確かに。帰ろう」

「はい、マスター」

 

 三人で何事もなかったかのように帰り、荷物を持ってあちらのゲーム世界へと入る。

 

 

 

 

 冬木市にある衛宮家に戻ると、いきなりジャンヌが飛びついてきて鳩尾に一撃をもらってリバースしそうになった。しかし、頑張って耐えながら撫でまわしてやると、今度は膨れながらそっぽを向いてしまった。

 

「トナカイさんの馬鹿っ、トナカイさんの馬鹿っ」

「しかたないだろう。相手を考えるとジャックの力が欲しかったんだから」

「むぅ、わかっているんです。でも、次は私を呼んでくださいね」

「ああ、わかっ……」

「突然ここでBBチャンネルです!」

 

 一瞬で視界が入れ替わり、スタジオのようなところに飛んでしまった。

 

「さてさて、今日も唐突にはじまりした視界ジャックっ! やったのはお馴染み、皆のアイドル幸せいっぱいなBBちゃんです! そして、今日のアシスタントは私の、わ・た・し・の夫である先輩です!」

「唐突になんなんだこれ……まあ、無事に帰ってきてなによりだ」

「さて、要件を告げないといけませんね。BBちゃんはこれから先輩と新婚旅行いってくるので忙しいのです」

 

 と、タキシードとウエディングドレスの姿となり、キャリーケースを持つ二人。

 

「まあ、新婚旅行というのはちょっと逃げるためでもあるんですけどね。実は色々な世界の私達を集めたせいか、世界の壁が色々と不安定になって融合しだしているんですよね。そのせいか、各世界の抑止力が喧嘩を始めました」

 

 それってかなりやばいことじゃないか。抑止力って、確かアルティメットワンとか出してくるんだよな。

 

「流石にそれはないですよ~」

「そんなの出したらやばいって」

「まあ、BBちゃんはどうでもいいのですが、先輩が修復するといっているので私達は新婚旅行がてら旅して直してきます。ああ、かなでから質問がありましたが、この世界もあぶないですから、美遊を連れていったん自分達の世界に避難するようにお願いしますね」

 

 ジャック達はどうなる?

 

「彼女達は受肉させておいてあげますから、あちらに連れていっても問題ありません。それと何時もの通りBBチャンネルでお願いを伝えるのでこなしてくださいね」

 

 お願いという名の強制ですね、わかります。

 

「っと、先輩。飛行機の時間が近いです。行きましょう」

「悪いが美遊のことをくれぐれも頼んだぞ」

 

 視界にまたノイズが入って変わると俺達は元の家にいた。ただ、そこには俺とかなで、シータだけではなく露出の激しい白いサンタ服のジャンヌダルク・オルタ・サンタ・リリィと同じく露出の激しいジャック・ザ・リッパーが現界していた。

 そして、和服に身を包む美遊も一緒だ。美遊とジャックは大きなキャリーバッグやダンボールを持っていて、まるでその姿は引っ越しのようだ。

 

「あの、お兄さん。この世界も融合されて色々といるみたいです。エインズワースの人達も動いているらしいです。他にも人外の人達も……」

「エインズワースに人外か……」

「どちらにしろ、私達の邪魔をするなら排除するだけよ」

「うん♪ おとーさんとおかーさんの敵はわたしたちが解体するよ♪」

「私はその、守ります」

「……私はマスターの御心のままに」

「私は……どうしよう?」

「美遊は幸せになってくれるだけでいいさ。俺達の要でもあるんだからな」

「はい。そうですよね……吸い取ってから圧縮しちゃえばいいよね?」

 

 美遊の思考がメルトリリスとパッションリップに影響を受けているのかもしれない。だが、俺達の幸せを邪魔をする連中は皆殺しで問題ないだろう。

 

 

 

 



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29話

 

 

 

 

 現実世界でかなで、シータ、ジャック、ジャンヌ、美遊と生活することになった俺は爛れた生活を送っている。というのも、俺と美遊は家からでておらず、身体を重ねて過ごしている。というのも、色々な世界の一部が融合しているみたいで、変な存在やエネミーなどが出現しているからだ。

 一応、学校があるかなでは護衛としてシータとジャックかジャンヌをつけて外にだしている。

 家に残っている俺とジャックかジャンヌは美遊を護衛という訳だ。美遊はこの世界でも聖杯としての力を有している。といっても、BBの力でガチガチに封印してもらっているので、美遊自身にも使えないようにしてある。美遊の意識に関係なく、自己防衛として別人格のAIが設定されている。指揮のもとメルトリリスとパッションリップが行動する。イメージとしたら禁書目録のインデックスに設置された防衛システムだ。といっても、これはあくまでも防衛システムなだけだ。俺は聖杯としての美遊の管理者、マスターとして設定されている。つまり、美遊の聖杯としての力を俺だけは自由に使える。

 さて、爛れた毎日というのもちゃんと理由がある。美遊とのパスを強固にして、聖杯に魔力をためるためだ。正直言ってメルトリリスとパッションリップを組み込んだ防衛システムを維持する燃費が悪すぎて聖杯としての大部分をそちらに取られている。現実世界ではなく、電脳世界でならまだ維持は容易い。

 まあ、それはおいておいて可愛い美遊を楽しめるのだからこれでいい。といっても、三人が帰ってきたら残っていた娘と美遊は勉強などをして、俺は帰ってきた娘とする。かなでとジャンヌが料理や家事をしてくれるのでやることもない。

 

「はぁっ、はぁっ……安全域に到着したよ」

「そうか」

 

 ベッドの上で開けた着物がおかれ、その上に美遊の幼い身体がある。幼いながらも火照った身体からは大粒の汗が鎖骨などから流れ落ちていく。荒い吐息を続ける美遊に口付けをする。

 舌を絡め合ってから唾液を啜ってから離れる。するとジャンヌが水をコップに入れてもってきてくれるので、美遊を起こしてから渡してやると飲んでいく。

 

「やっと喉につっかえてたのが取れました」

「よく頑張ったな」

 

 美遊を抱き寄せて頭を撫でながら声をかける。美遊はBBに調教するようにも言われている上に経過報告をしないといけない。BBはそこまで美遊を警戒していたりする。報告はパッションリップやメルトリリスからあげられているのでどうしようもない。それに美遊自身もBBによって被虐体質を付与されているので、美遊もかなり気持ち良くなっている。

 

「トナカイさん、お風呂に入りましょう! シーツはその間に洗濯しますから!」

「入りたい。駄目、ですか?」

「いや、いいよ」

 

 着物の洗濯も大変なのだが、寝間着としている奴なので問題ない。いや、あるが気にしない。俺の匂いに包まれているのは嬉しいからな。

 息も絶え絶えだった美遊をおいて、ジャンヌとシーツを交換して風呂に移動する。洗濯機を回してから、ジャンヌと美遊と入る。

 三人で洗いっこをしてから湯船に入る。俺が下になって二人を膝の上に乗せる。美遊とジャンヌは身体を預けてくれるので二人の身体を抱きしめて楽しむ。

 

「美遊、身体は大丈夫か?」

「もう治ったよ」

「それはよかった」

「はふっ」

 

 身体は大丈夫のようだが、まだ夢心地のようでぼ~としている。ジャンヌの方をみると、待ってましたとばかりに嬉しそうに声をかけてくる。

 

「トナカイさん、トナカイさん、今日の晩御飯はカレーライスですよ!」

「昨日もだった」

「まあ、いっぱい作ったからな。だが、今日はそこにハンバーグとトンカツをセットする。かなでに買ってくるように頼んだしな」

「それは嬉しいです!」

「私はご飯より、外に出て遊びたい」

「外か。まあ、魔力が溜まったのならいいか」

 

 ずっと家の中に閉じこもっているのも可愛そうだ。外で遊ばせてやるのがいいだろう。本当は学校に通わせるのがいいんだろうけどな。まあ、そっちは護衛の関係で怖い。フェイトを知っている人もいるのだ。そんなところに聖杯少女を通わせるとか、危険すぎる。最低でも強力無比な認識阻害が必要になる。このあたりはBBからもらわないといけないし、俺のレベルアップも必要だ。ただ、普通にでるのならトップサーヴァントのアルトリアシリーズのかなでと情報隠蔽のジャックにサポートのシータとジャンヌがいるから一緒にならいけるだろう。

 

「今日は外食にしよう。かなで達を向かえにいってから映画やショッピングを楽しんで、最後は食事だ」

「やりましたね!」

「うん。嬉しい」

 

 微笑みを浮かべる美遊。本当に彼女達をどうにかして幸せにしないといけない。まあ、まずは楽しく遊ばせてやろう。

 

 

 

 



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30話

 美遊とジャンヌと共にハイエースをレンタルしてかなでと護衛をしているシータとジャックを向かえにいく。二人共、後ろの席で楽しそうにこれからどこへ行くか相談している。

 かなでの高校のに到着したが、まだ時間がある。シータとジャックもこっちにやってきたので合流する。

 

「そうだ。美遊はもちろんのこと、ジャンヌ達も気を付けてくれ。可愛い女の子はハイエースされるという言葉があってだな……」

 

 詳しいことを教えると、皆がかなででやりたがったので遊び半分でやってみることにした。

 流石というか、なんというか、ジャック達サーヴァントの身体能力を持ってして、扉を開けた瞬間にかなでを車に引きずり込んで逃走。かなでも直感とかで普段は抵抗するのだろうが、相手が俺達なので抵抗もなし。そのまま連れ去る。しかし、すぐにかなでが俺達だと理解して、止めるように要請してきたのだ。

 

「止めて。友達がいるわ」

「あ、やばいな」

 

 普通に停止させて扉を開けたかなでが外にでて携帯を構えていた友達のところに向かっていった。その間に皆に攫われたら、これからどうなるかを説明する。後で実際に山に登ってやる予定だ。天体観測をしたいとのことだからだ。

 

「説明してきたわ。まったく、やりすぎよ。コウまで悪乗りしないで」

「わるいわるい」

「「「ごめんなさい」」」

 

 かなでの後ろにはもう一人、女の子がいた。

 

「女の子がいっぱい……本当に大丈夫なの?」

「大丈夫よ、ありがとう。それで、これからどうするの?」

「映画行ってご飯だな。その後は近くの山に登って天体観測をする。予定があるなら別に構わないが……」

「いえ、大丈夫よ。それじゃあ、いってくるわ。また明日」

「またね」

 

 かなでが乗ってから車を発進させる。

 

「あの子達、どこかで見た感じが……」

 

 

 

 

 

 

 遠出して映画を見たので食事を行う。今回のお店は皆大好き、卵の木というオムライス専門店にした。

 

「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」

「メニュー全部よ」

「え?」

「メニュー全部」

「すいません、それでお願いします」

 

 通された席でとんでもないことを平然と言い放つかなでに驚いているが、それで通してもらう。皆は映画で買ったパンフレットやグッツに夢中だ。そんな感じで食事を終えると、俺のスマホに音が聞こえた。近くに居たかなでが確認して見せてくれる。俺達のスマホロックは互いに登録し合っているのでどちらもみれる。

 

「コウ、イベントよ」

「みたいだな」

 

 FATE/VRが起動してイベントのお知らせというのが出ていた。参加条件は召喚魔術を使えることとサーヴァントと契約していること。俺はシータ、ジャック、ジャンヌちゃんがいるので問題ない。

 

「参加するの?」

「そうだな。皆、いいか?」

「いいですよ」

「うん。とっても楽しみだよ」

「マスターのお心のままに」

「私も大丈夫です。外にはでれるんだよね?」

「もちろんだ」

「じゃあ、大丈夫だよ」

「よし、ではイベントに参加しよう」

 

 参加ボタンを押すと、詳しい情報が表示され……なかった。ただ、位置情報とメニューナンバー、合言葉のみだ。

 

 

 

 位置情報にあった場所は閑古鳥が鳴いているさびれた中華料理店。店の名前は泰山。もうこれだけでもわかる。一応、向かうのは俺とかなでだけで、他の三人は車で待機だ。ジャック達だと他の連中にばれるかもしれないしな。

 

「いらっしゃい」

 

 店の中にはイベントに参加するためか、すでに何人かの人がいた。召喚魔術を手に入れた連中か、普通の店かはわらかない。

 

「666番、二人前。じっくりことこと唐辛子ましまし、激辛聖杯麻婆豆腐」

「わかった。席につくがいい」

 

 席に座ってからしばらくすると、大きな杯に注がれた麻婆豆腐が運ばれてくる。みるだけでも痛い。目がひりひりする。

 

「かなで、いけるか?」

「愚問よ。コウも食べてみて。美味しいわ」

「あ、ああ……」

 

 あ~んという感じで一口食べさせてもらったが、吐きかけた。口の中が焼け爛れるような感じで、思わず魔術を発動しようとする。

 

「お客さん、ずるはいけない」

「ぐっ……」

「これは25番目の私が丹精込めて作った麻婆豆腐だ。お残しもずるも許さない」

 

 俺はかなでと一緒に吐きそうになるのを我慢して食べた。しかし、完食してもなにもない。不思議がっていると、かなでが俺の服をひっぱってきた。

 

「どうした?」

「これ」

 

 皿になっていた杯にQRコードが描かれていた。QRコードをスマホに読み込ませると、画面が変わった。そこに移り出た文字は俺達にとっては馴染みのある言葉。

 

 

【第五次聖杯戦争。対象のマスターもしくはサーヴァントを討伐せよ。討伐した場合、関係するサーヴァントや所有物が手に入る。

 注意

 すでに所有者がいるサーヴァントは変更させる。

 現在、アルトリア・ペンドラゴン、エミヤシロウは所持されているため、別の者となっている。参加する場合、下記のURLにアクセスせよ】

 

 こんな風に書かれていて、目標となるセイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、ライダー、アサシン、バーサーカー、???????のURLが乗っている。挑戦者の数も同時に乗っていて、すでに何人かが戦いを挑んでいる。

 

「注意事項だ。当方は例え死んでも一切の責任を取らぬことを了承するように。また、遺書を書くことをお勧めする」

「いくぞ、かなで」

「ええ」

 

 店から出ようとすると、待ったがかかった。

 

「二人前、締めて二万五千円になります」

「わかった。ついでにゴマ団子も欲しい」

「まいどあり」

 

 支払ってから車に戻る。その瞬間、もっとも俺にダメージがきた。

 

「あ、近付かないでください。その、刺激臭が……」

「目が痛いよ!」

「うぅ、今のトナカイさん達には近づきたくないです」

「マスター……私は、大丈夫です」

 

 美遊、ジャック、ジャンヌちゃんが拒否してくる。シータは頑張ってくれているが、涙目だ。

 

「この唐辛子をどうにかしないといけないな」

「ホテルに行きましょう」

「そうだな」

 

 運転してその手のご休憩ホテルに入る。フロントには驚かれたが、近付いたら唐辛子の匂いでわかってもらえた。着替えも売っていたので、購入しておく。もちろん、普通のにみえるが下着とかはエロい奴だ。

 さて、俺とかなでは風呂に入り、他の子達はゴマ団子を食べつつ備え付けのゲームをしているか、映画をみているのだろう。

 風呂に入ってから気付いたが、今なら虚数魔術を使ってもいいかもしれない。そう思ったのだがかなでが止めて来た。

 

「嫌な予感がするわ。やめましょう」

「わかった」

 

 風呂の中で膝の上にかなでを乗せて後ろから抱きしめ、まったりとしつつスマホでFATE/VROの第五次聖杯戦争について調べてみる。そこでチャットがでていた。内容は簡単だ。ランサーが、ランサーが強すぎる件について。???????はもっとやばい。流石はAUO。やっちゃえバーサーカーを生で聞けた。その後、潰されたとか色々とある。

 蘇生薬が10万円で一応販売されている。これを買わないとやってられないレベルらしい。ちなみに相手はガチの英霊様、マスターありなので英霊の力を借りても一人じゃ勝てない。レイドモンスターだと思われることが書かれていた。

 

「さて、狙いはどうするよ」

「旦那様にお任せよ」

「そうだな……第五次聖杯戦争ってかなり強いサーヴァントばっかりなんだよな……」

 

 ランサーはクー・フーリンで一撃死持ち。おそらく、かなでや美遊なら対応できる。かなではアルトリア・ペンドラゴン系統をガチ積みしているし、美遊は聖杯の力でゲイ・ボルクを改変すればいい。勝てるかと言われたら、厳しいだろう。

 セイバーとアーチャーは不明。

 キャスターは多分、全員で挑めば勝てると思う。こっちには対魔力Aでアルトリア・ペンドラゴン複数持ちのかなでがいるからだ。アサシンも勝てる。原作通りなら山門から動かないから、シータで爆撃すればいい。切嗣と同じような感じだ。

 ライダーはあの高機動がやっかいだが、ジャックの霧で封じ込めて解体すればいい。霧で居場所もわかるし、夜な上に女性だから特攻が入る。美遊のメルトリリスの力で一撃入れればどうとでもなるだろう。

 ???????はギルガメッシュだから、勝てるはずもない。

 そして、バーサーカーは勝てるかどうかといえば全員で十二回+一回を殺し切ればいい。それぞれの宝具も使えばたぶん、可能だと思う。いや、そうだ。アレをすればいい。原作で桜がやったように取り込んでやればいい。原作ではできなかったが、今ならまだいける。美遊の聖杯とメルトリリスにサポートさせればいける! そして何より、あの書き方なら家が手に入る。

 

「かなで、城で生活してみたくないか?」

「素敵ね」

「じゃあ、決定だ」

 

 バーサーカーはまだ倒されていない。ライダー、アサシン、キャスター、アーチャー、セイバーに人は集中している。

 

「セイバーの正体は誰なの?」

「そうだな……あ、沖田総司だな。アーチャーは不明のようだ」

「有名な人ね。まあ、いいわ。あがりましょう」

「ああ」

 

 風呂から上がり、水を飲む。備え付けのビールは飲まない。夜の間にやりたいからだ。

 

「何をみているの?」

「FATEの映画。あの、お兄さん。私、イリヤを助けたいです。私の友達になってくれた子だから」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンか。まあ、彼女を狙うのもいいな」

「ロリコンね」

「かなで……」

「私達は賛成だよ。お友達は大切だもん」

「そうですね。それにこの子、死んじゃいますし。魔法少女している方でも結構酷い目にあってますし、助けてあげましょう!」

「かなで、駄目?」

「駄目とはいっていないわ。でも、助ける前に私達が死んだら駄目」

「でしたら、みなさんで研究しましょう。バーサーカーについて」

 

 そこから映画やアニメ、漫画などみまくってバーサーカー、英雄ヘラクレスについて調べる。

 

「これ、私達はあまり役にたたないかも」

「私もです。ランクBを抜け……いえ、アレなら抜けるかも。とっても、と~っても嫌ですけど」

「いや、大丈夫だ。ヘラクレスとはほぼ戦わない。先にマスターをやる。ジャックの力でイリヤの両手両足を切る。そのタイミングで俺が影に取り込むから、他の皆はヘラクレスの足止めに入ってくれ。その中で美遊が治療と黒化を慣行する。イリヤの身体を乗っ取ってしまえばこちらの勝ちだ」

「えげつないわ」

「容赦がありませんが、仕方ないですね。相手はあの英雄ヘラクレスです」

「私は嫌ですが、アイツなら大喜びしそうです」

「私が頑張ればイリヤは助かる……頑張る」

「私達も頑張るよ」

 

 バーサーカーのURLにアクセスすると、彼女達の居場所が判明した。そこはとある町の近くにある森。その中にアインツベルンの城ができていた。つまり、現実世界だ。

 

「あの町ってやっぱあの作品か。これはやばいな」

 

 色々と調べてみると、色んな作品がごちゃ混ぜになっていた。一応、現代物がメインにはなっているが、それ以外も存在しているだろう。だが、レネゲイドウイルスとか、SAOとかあるのはどうなってんだ。まあ、考えても仕方ない。なにしろ、冬木市まである上に第四次聖杯戦争の災害もあったようだしな。つまり、このままいくと普通にやばい状況が起きる。イリヤに俺達プレイヤーが持つサーヴァントの力が過剰に集まるのだ。世界が終わる可能性すらでかい。

 

「向こうの天気はどうだ? 霧はでるか?」

「でるみた」

「情報抹消しながらやればできるか。ジャック、頼むぞ」

「任せて」

 

 こうして俺達はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン捕獲作戦を開始する。特に天気予報を中心に調べていく。

 

 

 URLにはご丁寧に転送用の魔法陣まで用意されていたのでそれを利用する。それはさながらレイシフトのような感じだ。シヴァはないのにそれに似たような物は作られているのかもしれない。なんせ、BBがいるのだから何が会っても不思議じゃない。すくなくともムーンセルはあるのだから。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 アインツベルン城。常冬の城で寒く、基本的に明かりが落とされる事のない不夜城。建造物その物は俯瞰すれば凹字型になっており、中央のへっこみ部分が中庭に当たる。対霊加工は完璧で、半端な幽霊では進入出来ない。出来るとしたらそれは霊格の高い、名のあるモノのみ。

 俺達はそんな城のある森へと侵入し、すぐに作戦を開始する。すでにそこかしこで戦闘音がするので、何人かが侵入してきているのかもしれない。

 

「行くぞ、ジャック、美遊」

「行こう、お父さん!」

「うん、よろしく」

 

 俺と美遊はジャックの影に入って、ジャックは森と城を含めて霧を発生させる。この霧は暗黒霧都(ザ・ミスト)。ロンドンを襲った膨大な煤煙によって引き起こされた硫酸の霧による大災害を再現する結界宝具。

 魔術師ならばダメージを受け続け、一般人ならば数分以内に死亡する。英霊ならばダメージを受けないが、敏捷がワンランク低下する。

 また、結界から脱出するには直感などのスキルの効力か外部からの手引きが必要になる。

 結界の範囲・対象は自由に設定可能であるため、敵味方が入り乱れた状況でも敵だけに効果を発揮できる。

 

「相手がでてくるまではこのままだ」

「大丈夫だよ。任せて」

「ああ。かなで達は派手にいけ」

「ええ、行くわ」

 

 あちらはシータがこの魔術を発動しているようにみせかけ、ジャンヌちゃんとかなでが護衛という感じでおびきだす。俺達三人はジャックの影に隠れて一緒に気配遮断を使って隠れる。

 

 

 しばらく様子を見ていると三人の人がやってきた。女性二人に男性一人。女性と男性はぼろぼだ。女性は黒髪で男性はよく知っている人だ。現に美遊も驚いている。

 

「ああ、もう! なんなのよ、この霧っ!」

「落ち着け、遠坂。今はこの霧を出ないとまずいんだろ。大丈夫か、セイバー」

「ええ、大丈夫……こふっ」

「セイバーっ!」

「この霧は私には答えます、シロウ」

 

 そうやって来たのは原作組だ。つまり、アーチャーはヘラクレスにやられている可能性がある。

 

『お兄ちゃん……?』

『違う。アレは別の世界のシロウだ。あっちのシロウは今頃、新婚旅行の真っ最中だろう』

『そっか。いろんな世界が混ざってるから、テレビでみたFATEの世界も入ってるんだ……』

『大丈夫か?』

『うん。今の私には兄さんや皆がいるから平気だよ』

 

 このまま様子をみる。あくまも狙いはイリヤのみだ。そんなわけだが、囮の三人はそうはいかない。

 

「貴女達ね! いますぐ結界を解除しなさい!」

「待ってください、凛。あちらの彼女二人はサーヴァントです。一人は受肉していますが、そこの人は人間です」

「それってもしかして……」

「たぶん、そうでしょうね」

 

 かなでが魔力で編んだ銀色の鎧と青色のドレスに身を包む。常にインストールしている状態なので、アルトリア・ペンドラゴンとかわらない。

 

「クラスはセイバーね。まったく、なんなのよあの魔術礼装は!」

「あなた達、やる気?」

「アンタのせいでアタシ達は死にかけてるんだけど?」

「いや、待ってくれ。もしかして、お前達の狙いはバーサーカーじゃないのか?」

「そうよ。だから、貴方達とは戦いたくないわ」

「そういうことね。わかったわ。私達はこのまま逃げるから、結界から出してくれないかしら」

「いいわよ」

「本当か?」

「随分とあっさりね」

「狙いはあくまでもアインツベルンだけ。貴女達に興味はないわ」

「……むかつくけど、今は逃がさせてもらうわ!」

 

 三人は大人しく通したが、これで問題ない。何故なら……空からソレが降って来たからだ。

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

「こんなに鼠が入り込んでるなんて思わなかったわ。ましてやこんな結界を張るなんて許せない! バーサーカーに犯させてぐちゃぐちゃにして奴隷にしてやるわ! そして、飽きたら惨たらしく殺して餌にしてやるんだから!」

 

 巨人のような大男に乗った彼女は飛び降りる。相手は大英雄ヘラクレス。

 

「何をそんなに怒っているの?」

「そうですよ!」

「さあ、わかりません」

「うるさいうるさい! 令呪を持って命じるわ。やっちゃえ、バーサーカーっ!」

「■■■■■■■■■■■―――!!!!」

 

 斧剣を凄まじい速度で振り下ろしてくる。それに対してかなでの取る方法は一つである。

 

「全て遠き理想郷(アヴァロン)」

 

 全て遠き理想郷(アヴァロン)はセイバーの魔力に呼応し、持ち主に不老不死と無限の治癒能力をもたらす、約束された勝利の剣(エクスカリバー)」の鞘。

 アーサー王伝説における常春の土地、妖精郷の名を冠した鞘。アヴァロンはギリシャ神話において、”不死の林檎”があるとされる島から連想されたという理想郷。

 持ち主の傷を癒し老化を停滞させるだけでなく、真名を以って開放すれば数百のパーツに分解し、所有者をあらゆる干渉から守りきる。

 魔法の域にある宝具で、あらゆる物理干渉、並行世界からのトランスライナー、多次元からの交信(六次元まで)をシャットアウトする。

 カウンターとして使用することも可能。ただし、守りとしての真価を発揮するのは真名開放時なのでタイミングはきっちり計らなければならず、その性質上、展開したまま攻撃する事は当然出来ない。

 というのだから、とんでもない宝具だ。ただし、逆転の発想からすればこれはある意味、最強の手札になる。

 

「なん、で……バーサーカー?」

 

 バーサーカーはアヴァロンによって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、最強の防御結界に閉じ込めた訳だ。外界からの干渉を一切受け付けない状態だ。

 

「れっ、令呪を持って命じるっ、きなさいバーサーカーっ! きてっ、きてよっ!」

「無駄です」

「大人しくしなさい」

「嫌よっ!」

 

 ジャンヌちゃんが槍で攻撃するが、イリヤは交わして銀色の鳥を放ってくる。それらはシータちゃんが全て止める。

 

「どちらにしろ、詰みよ」

「──此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、力。

 ――殺戮をここに。解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!」

 

 時間帯が夜、対象が女性(または雌)、霧が出ているの三つの条件を満たすと、対象を問答無用で解体された死体にする。

 そうこの宝具は使えば相手を確実に絶命させるため一撃必殺。標的がどれだけ逃げようとも霧の中にいれば確実に命中するため回避不能。

 守りを固め耐えようとしても物理攻撃ではなく極大の呪いであるため防御不能。更に情報抹消によって事前に対策を立てることが出来ないため対処不能。つまり、女性の天敵だ。

 

「え?」

 

 霧の中からイリヤの背後へと現れたジャックは一切の容赦なく、イリヤスフィールを解体する。それはもう、とっても笑顔で。解体された瞬間に影から出て虚数魔術で血の一滴に至るまで確保する。

 

「美遊」

「任せて。インストール、メルトリリス!」

 

 やることは簡単だ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの三分クッキングだ。そう、今回の作戦とはヘラクレスさえどうにかして隔離する。なら、後はマスターなど英霊からしたら雑魚でしかない。アヴァロンが反則すぎるだけではある。

 

 さて、イリヤスフィールを確保したので、彼女を甦らせる。一度殺した理由は簡単だ。それは必要だったから。イリヤスフィールはホムンクルスで、聖杯になるように調整されている。彼女の寿命はかなり少なく、あと一年生きられたらいい方だろう。そして、このままだとギルガメッシュと言峰神父にその身体を利用される。そんなのはごめんだ。

 なので色々と考えた。イリヤを助けつつ、俺達に復讐をさせないようにする。令呪よりも強力な絶対命令権を得る。ステイナイトのイリヤはかなり危険だ。平気で殺しにかかったり、凛をヘラクレスに犯させて殺そうともする。プリズマ時空とは違い、魔術師として冷徹なのだ。そんなわけで、容赦はしません。

 

「さて、先生……お願いします」

「お願い、その……お姉ちゃん……イリヤを助けるの、手伝って」

「ふふふ、任されましょう! お姉ちゃんに任せなさい!」

 

 呼び出したのは簡単だ。メルトリリスをインストールし、イリヤにメルトウイルスと泥を入れて身体を繋ぎつつ、メルトリリスを通してBBに協力を要請する。説得は美遊によるお姉ちゃんよびで士郎の妻として完全に認めていることを示し、かつ別世界とはいえ士郎の姉を助けることで士郎の好感度もアップする。などなどしっかりとお伝えしましたとも。

 

「ふふふ、うふふふふふ、うふふふふふ、うふふふふふ、これが終わったら先輩にたっぷりと褒めてもらえます!」

「師匠、実は彼女狙われていまして……相手は英雄王ギルガメッシュです。それに対抗できる力をあげてください。あと、隔離しているバーサーカーなんですが、狂化を解除できますか?」

「それは無理です。狂化を解除したヘラクレスはすでに持ち主がいますからね」

「そうですか……」

「でも、私の妹なんですから、ハイ・サーヴァントにしちゃいます。えいっ♪」

 

 なんだか窯が現れた。そこにイリヤスフィールが入れられる。彼女の身体は溶けたのか、ぐるぐるの渦の水に消えた。

 

「ここで素材を入れます。素材はアイヌの女神シトナイ、フィンランドの女神ロウヒ、北欧神話のフレイヤの北方の三柱の女神です」

「え? いいのかな?」

「いいんです。それにこのロリコン弟子もそれを願っていますし」

「シトナイ欲しい」

「デスヨネー。というわけで、シトナイちゃんです」

 

 BBが棒でまぜまぜかき混ぜて窯を棒で叩くと、虹色の光となって窯から飛び出したら裸のシトナイになった。まるで錬金術だ。

 

「はい、ここまでは普通のシトナイちゃんになるので面白くありません。ここからさらにエッセンスを加えます。具体的にはこの綺麗な身体にいっぱい落書きをします」

 

 筆でシトナイの身体をなぞると、イリヤが持っていた無数の令呪が現れた。それらは彼女の身体に定着して消えていった。

 

「第二に、美遊の聖杯と繋げて二つの小聖杯をリンク。増幅させます。第三にシトナイちゃんと言えばシロクマちゃんです。というわけでーー」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――!!!!」

 

 怒り狂うヘラクレスがアヴァロンが解除されてこちらに走ってくる。令呪が有効だったようだ。かなではへたり込んでいるが、ジャンヌちゃんとシータがいるので大丈夫だ。

 

「させません。吼え立てよ……」

「あ、大丈夫ですよー」

「わ、わかりました」

「ほい」

 

 やってきたヘラクレスをできたシトナイちゃんを盾にするBB。斧剣の軌道を無理矢理変えてイリヤことシトナイにあたるのを防ぐ。しかし、それは致命的な隙だ。

 

「シロクマさんになっちゃえ~♪」

「■■■■■■■■■■■■■―――!!!!」

 

 なんとういうことでしょう。あの巨人だったヘラクレスがもっふもふの白い熊になってしまいました。

 

「ふ、この子を通してやればBBちゃんには楽勝なのです。えっへん! あ、もちろん、シロクマちゃんは狂化を解除してあります。この子はヘラクレスの力を持ったシロクマちゃんなので、ヘラクレスとは別ですからね。これで彼女も魔法少女シトナイちゃんになれましたね。よかったですね~」

「なにしてくれてんの! 人の身体を玩具にして、バーサーカーまでこんなにしてっ!」

「おや、もう起きたんですか。流石は私、完璧ですね」

 

 シトナイはもう目覚めたようで、泣きながらシロクマ(ヘラクレス)に抱き着いている。

 

「ほらほら、泣いていていいんですか? ご主人様への挨拶がまだですよ? 貴女の生殺与奪権とか、未来永劫存在そのものが全部彼の物ですよ」

「「「え?」」」

「貴女はヘラクレスを呼び続けました。だから、私はその願いを(曲解して)叶えてあげました。あなたは例え二人が、三人が死んでも必ずまた出会って彼に服従し、美遊の友達になります。運命を操る女神フレイヤと聖杯の力で決定しておきました。よかったですね、何時でもご主人様のところに飛んだり、呼べたりしますよ。世界を超えて」

「さ、最低よ!」

「あれ~? おかしいですね~。さっきかなで達を犯して奴隷にして殺させるっていってましたし、似たようなことをされる覚悟は当然ありますよね~」

「あ、あれは……って、そうだ! わかった、わかったから! 奴隷でも友達でも永遠になってあげるから、なんでもするからセラとリズを助けて!」

「どういうことだ?」

「兄さん、多分ジャックのせい」

「わたしたちのせい? そんなまさかー」

「あ、ホムンクルスの二人ならザ・ミストで死にかけてますね」

「ジャック、宝具の解除」

「ん、やったよー」

「急いで助けるぞ」

「私も手伝う」

 

 その後、BBは手伝ってくれなかったが、シトナイに令呪で命じてシロクマに乗って走らせた。俺と美遊も一緒で、二人でサポートしてシトナイの力でセラとリズを治療し、なんとか助けた。どうやら、イリヤが怒りまくってキレていたのは大切な二人が霧で死にそうになっていたからなようだ。ホムンクルスの二人は霧が致命傷だったようだ。

 まあ、互いに謝ってシトナイとなったイリヤは俺のサーヴァントととなった。正確には俺と美遊のサーヴァントだ。おそらくだが、BBの狙いは美遊の護衛兼囮としてイリヤを配置したのだろう。美遊とシトナイとしてのイリヤの聖杯なら、イリヤの方が大きく気配も大きい。このことも話し合ったら、イリヤは溜息をつきながら納得してくれた。

 

「妹を守るのは姉の務めよね。いいわ、異世界だろうと士郎の妹なら私の妹よ」

「ありがとう」

「感謝する」

「別にいいわよ。それとここに住むのよね?」

「そのつもりだ」

「まあ、私のご主人様が家なしってのは駄目ね」

「ご主人様ってのは認めるんだ」

「マスターなのは事実だし」

 

 シロクマを撫でながらイリヤは諦めた表情でいってくる。

 

「駄目よ」

「なんで?」

「奴隷は駄目よ。家族だもの。道具じゃないわ」

「いいの?」

「俺もそっちの方がいい。みんなもそうだろ」

「うんうん」

「家族が一番です。一緒にお嫁さんになりましょう」

「あ~そっか、そっちの方でもいいんだ。どうせ残り微かな命だったわけだし、うん。よーし、切り変えていくね。じゃあ、まずは……アーチャーの処理からしましょうか」

 

 イリヤから聞いた話ではアーチャーには逃げられたようだ。そのアーチャーだが、どんな奴かといえばBBが下僕として使っているあの人だった。確かに彼だったら森があれば逃げられるな。よし、BBに連絡しておこう。

 

 

 

 

 

 

 




シトナイちゃんをお迎えできたので、こちらでもお迎え。シトナイちゃんテラ可愛い。
そんなわけで、イリヤちゃんをシトナイちゃんに改造。十二の試練とナインライブス持ちのシロクマ・ヘラクレスもいるよ。美遊と一緒に聖杯魔法少女アルターエゴです。

アーチャー? 奴はもうわかる人は多いでしょう。緑のあの人です。


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31話

最初はエロいかも


 

 

 

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/シトナイ

 

 

 

 

 聖杯戦争の途中で現れた怪奇現象によって、私達の世界は別世界と融合したみたい。それでも聖杯戦争を継続しようとした私の下に現れたのは無数のサーヴァントの力を持つ魔術師や存在しなかったマスターとサーヴァント。それでも私のバーサーカーの敵じゃなくて、駆逐して聖杯として完成を目指した。

 そんな私を倒しにきたシロウとリン。その二人に召喚されたサーヴァント、セイバーとアーチャーをヘラクレスで撃退し、追撃戦に入ろうとしたら今度はアインツベルンの森が深い霧に覆われて、セラ達が苦しみだした。この霧は酷い酸性で魔術師を殺し、サーヴァントすらもダメージを与える効果を持っていた。私は持ち前の魔力でどうにかしたけれど、リズとセラにはそれができない。

 だから、原因を倒そうとした。そいつらは文字通り、私を狙ってやってきたのもあって、捕まえたらバーサーカーに犯させてぐちゃぐちゃにし、奴隷として飼って飽きたら惨たらしく殺して餌にしてやるつもりだった。

 それが敗北して奴隷になることは免れたけれど、ハイ・サーヴァントとかいうのにされて妻になることになった。妻といっても、逆らうことはできないしただ身体を差し出して従うしかない。なので、処女を奪われた後で猫耳と尻尾、首輪をつけられてにゃーにゃー言って甘えさせられるのも許容するしかない。

 そう、私は自分で言った通り、ぐちゃぐちゃに犯されて飼われるという立場を教え込まれた。まあ、自分で言った言葉だから仕方ないけど、交渉だけはしてセラとリズには手を出さないようにお願いした。その代わり、何時でも何処でも望まれたら身体を開いて喜んで受け入れるということになった。魔術師としてはハイ・サーヴァントになったことで寿命を気にしなくなり、私自身かなり強くなれたし神々が使っていた神秘が手に入った。これらを解析すれば根源へと近づける。それ以外にもご主人様、マスターと一つなることで彼の体内に根源への繋がりがあるのも発見した。嬉しいこともあるし、魔術師としてはプラスなのでよしとする。それにぼそっとバーサーカーみたいな姿になって犯してやろうかと言われたので泣きながら謝った。ハイ・サーヴァントの身体なら身体は死にはしないだろうけど、それ以外は色々と死んじゃう。

 行為自体は魔力供給の意味もあってやったら、気絶させられて気が付けば隣で美遊や他の子達が可愛がられて喘いでいる。そこから美遊も一緒になって私を虐めてくる。身体を貪られて最初は気持ち悪かったけれど、我慢して耐えればそのうち気持ちよくなるだろうし頑張った。そう思っていたら、えげつない手段を行われて虜にされた。魔力を奪われ、枯渇状態からの過剰供給。それを繰り返されるこでサーヴァントの身体は完全に堕ちちゃった。さらに令呪で感度もあげられたらどうしようもない。

 

 次の日、目覚めたら大きなベッドの上で全員で眠っていた。起き上がって背伸びをすると、なんだかとってもスッキリとした目覚めで姿見の前に立つと、肌がきめ細やかになっていて、つやつやになっていた。

 後ろをみてベッドの上の女の子達も同じで、マスターはどこかゲッソリとしている。皆でたっぷりと搾り取ったということみたい。ただ、私と美遊の聖杯から魔力供給が行われているようで魔力自体は回復していっている。それに興味深いことだけれど、マスターの魔力の質はかなり高い。量は多くないけれど、異常といいぐらいには高い。

 

「お嬢様。湯浴みの用意は整っております」

「そう、ありがとう。貴女達もどう?」

「いくー」

「お願いします」

 

 振り返ればジャック・ザ・リッパーとジャンヌ・ダルグ・オルタ・サンタ・リリィ(?)という意味わからない子、シータという受肉したサーヴァントの子が起き上がっていた。前二人は寝ていないのだろうし、サーヴァントらしく周りを警戒している。バーサーカー……じゃない、私のシロクマも雪の中で丸まりながら警戒しているから、ぱっと見はわからない。

 

「他は寝ているのね……」

「おかあさんとおとうさん、美遊は人間だしねー」

「人間……? まあいいわ。こっちよ」

 

 四人でお風呂に入っていく。お城のお風呂はドイツ式だけど、切嗣がいたときに改装したのでおっきなお風呂もある。寝間着のまま移動して、そこでシャワーで汚れを洗い流していく。

 

「洗って~」

「わ、わたしは大丈夫です……」

「……ジャックはイリヤがお願いします……」

「んーわかったわ」

「えへへ~」

 

 ジャックを座らせて髪を洗っていく。この子に手足を斬り落とされて殺されたと思うと、手付きが乱暴になってくる。

 

「わぷっ!? やー!」

「暴れない!」

「うー」

 

 頭が終わったら背中も洗ってあげる。それから今度は交代して洗ってもらう。背中だけだけどね。身体を執拗にしっかりと洗って綺麗になったら、三人で湯船に入ってゆっくりとしていると、ジャックとジャンヌが泳ぎ出した。私とシータはぼーとそれを見ている。すると扉が開いてマスターが美遊とかなでを連れて入ってきた。何も着ていない身体に昨日のことを思いだして顔が真っ赤になっていく。

 

「おはよーおかあさん、おとーさん」

「おはようございます」

「おはよう」

 

 皆が挨拶している中、三人もシャワーを浴びて互いの身体を洗っていく。流石に襲うことはないみたいで、普通に身体を洗ったら湯船に入ってきた。すると遊んでいた二人が抱きついて甘えていく。

 

「今日の予定だが……」

「アーチャーを攻めないの?」

「アーチャーか……」

 

 私が聴くと、なぜか美遊の方をみる。どうしたんだろう?

 

「美遊、どうなった?」

「えっと、BBお姉ちゃんが、捕らえて引き渡したらご褒美をあげるって……」

「BBからのご褒美か……」

「期待できるわ」

「それ、急げって言われてるか?」

「ううん。別にどっちでもいい感じみたい。アレだったら新婚旅行が一区切りついたら自分で遊びに行くって言ってるし……」

 

 BB……私の身体を好き勝手に改造してくれたあの女ね。あいつの力は凄かった。バーサーカーでも勝てないと思う。

 

「イリヤ、マスターとサーヴァントの情報はあるか?」

「ん~アーチャーとセイバーのマスターはわかる?」

「ああ、わかる」

「昨日あった」

「それなら、誰が知りたい?」

「キャスターとアサシンだな」

「そいつらとは会ったことがないわね」

「そうか……なら、今日の夜はキャスターとアサシンのところに向かう。どうせ近くだからな。それまでは引越し作業とかしないとな」

「私はサーヴァントとしての身体に慣れたいから、誰か戦ってくれる?」

「シトナイは弓を使うのでしたね。では、私がお相手しましょう」

「シータ、お願いね」

 

 彼女なら同じ弓使いだから、教えてもらえばいい。それにしても、アサシン、セイバー、ランサー、アーチャー、アルターエゴ二人か。そして、シロクマの皮を被ったバーサーカー。結構な、過剰戦力ね。しかも内容が酷いし。この中でましなのってジャンヌくらい? ジャックは女性に限定したらかなり強いし。

 

 

 

 

 お風呂から出ると、セラとリズが用意してくれていた服に着替えていく。ジャック達は私の服でマスターは同じ服ではなく、執事服。なぜそれかはわからない。それから食堂で皆で食事を取る。

 

「ああ、そうだ。イリヤ」

「なに?」

「マスターは止めてくれお兄ちゃんって呼んでくれ」

「え? 変態? いや、変態だったわね」

「外でマスターと呼ばれるのは困るからな。シータもだ」

 

 スルーされた。でも、確か変に思われるかも。お兄ちゃん、お兄ちゃんかぁ~。シロウは弟だし、間違ってはいないわね。お兄ちゃんも欲しかったし、別にいいか。

 

「わかった。お兄ちゃんって呼ぶね」

「ああ。シータは……」

「マスターでは駄目ですか……?」

「できたら……」

「では、ご主人様で」

「それはもっとやめてくれ。二人や家族だけの時はいいがな」

「……やっぱり、マスターがいいです……」

 

 涙目で見詰めるシータに負けたみたいで、お兄ちゃんは結局は認めてしまった。これでマスター呼びが普通にできる。からかって困らせるためにいいわね。

 

「私はどうしたらいい?」

「美遊はジャンヌ達とここにいてくれ。俺とかなで、ジャックで荷物を取ってくる。ジャックは隠れて傍にいてくれ」

「護衛ね。お願い」

「まかせてー!」

 

 家に残るのは私、セラとリズ、シータ、美遊、ジャンヌね。

 

「お金は多少あるけど、買ってくる物はあるか?」

「服がたりないわ。セラ、お金を渡して」

「はい。こちらになります」

「了解。預かる」

「そのカード、あげるから好きに使ってよ。私の夫だったら、それぐらい持ってていいから」

「わかった」

「お菓子かってきて欲しい、です」

「お菓子……」

「買ってくる。というか、この家は車はあるか?」

「ある。こっち」

 

 リズがお兄ちゃんを連れていくけど、二人にしたらなにをするかわかったもんじゃないからさっさとジャックとかなでにも向かってもらいましょう。

 

「かなで、ジャック。そのまま行ってきて」

「は~い」

「ん、また」

「また」

 

 別れた後は美遊とジャンヌは探検に出掛けて、私はシータと一緒に特訓をする。本職のアーチャーのようにはいかなかったけれど、それなりに命中するようになったし、沢山の魔力が身体から溢れてくる。それを利用して森を更に強化していく。

 サーヴァントとしての知識で、私は道具作成Bと陣地作成Aがあるので工房を上回る神殿レベルの陣地が作成可能なのよね。そんなわけでアインツベルンの森と城を神殿にしちゃう。

 んーどうせだから、皆に協力してもらって雪だるまでも作ろうかな。魔術で氷を生み出し、そこにゴーレムにするための魔術を施していく。

 

「ジャンヌ、美遊、シータ。バーサーカー、雪だるまを作りましょう!」

「わかった」

「は~い」

 

 作っていった沢山の大きさの雪だるま達。ゴーレムにしたそれらに消音、魔力消沈、透明化をもたらす姿隠し、使い魔化の魔術を施して森の中に放つ。他にはスノーフェアリーの能力を使って木を氷らせてそれもゴーレムにしていく。バーサーカーと同じ熊を沢山配置すれば偽装にもなる。

 他には……そうだ。良い事を思いついたわ。凛にも嫌がらせになるし、これから戦うキャスターにも十分な嫌がらせになる。

 

「美遊~」

「イリヤ、どうしたの?」

「すこーしお願いがあるの」

「うん、いいけど……」

「じゃあ、まずはお兄ちゃんに連絡をしましょう」

「わ、わかった……」

 

 念話を送ってみよう。

 

「お兄ちゃん、イリヤ、お願いがあるんだけど……」

『なんだ?』

「お城の防衛と今夜襲撃するキャスターの力を削いだりするいい方法があるんだけど、やっていい? 誓ってお兄ちゃん達にとっても素晴らしいことになるから」

『いいだろう。やってみろ』

「ありがとう。じゃあ、神殿を……神域を作りましょう」

 

 くるりと振り返って笑う。

 

「うわぁー」

 

 何故か引かれちゃった。でも、いいの。魔術師としてとっても楽しい実験だから。

 

「大丈夫。痛くないよ。ちょ~と身体の中にある聖杯を弄らせてもらうだけよ。大丈夫。さっきちょだけ」

「ひっ!?」

 

 壁際まで追い詰めて美遊の胸に手をつき、そのまま入れる。中にある聖杯に触れて繋げ、操作する。溢れ出てくる膨大な魔力を互いに合わせて大地に流し込む。

 

「サモン・メルトリリス」

「何の用かしら?」

「魔力の流れに乗って龍脈に入ってちょうだい。そして、ここに龍脈の中心点を作ってちょうだい。他の拠点には最低限しか流さなくていいわ」

「とっても素晴らしい嫌がらせね! 任せなさい!」

 

 さあ、聖杯よ。私の願いを叶えなさい。そして、凛にぎゃふんと言わせるのよ。

 

 

 

 



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